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スレ立て乙〜
新スレおめで〜
新スレお疲れさまで御座いました。
本スレより参加させて頂きますので、宜しくお願いします。
所で、ご相談が一つ。
月姫陣営(?)なんですが奈須きのこ准将らを政治キャラとして転出させても良い
でしょうか?
現状、何やら正葉との関係に暗雲が立ちこめて来ていそうなので、軍事以外の情勢
にも対処出来るようにと……まぁ月姫の民を統括する組織(国家じゃないですねぇ:笑)
に「TYPE-MOON」って名前を使いたいと思ったので(今度出る月姫のアクションゲームやら、
完全新作への対応もありますが:爆)。
イメージとしては、IRAに於ける政治団体と戦闘部隊的な感じに成ると思います。
如何なものでしょうか?
このスレは書いたもの勝ちなので、いちいち確認を取る必要はないと思うよ。
ただし、今までの流れと矛盾しなければ、ですが。
説得力があればなに書いてもオーケー。
>>7 はい。
気を付けて行きマスです。
っか、過去ログ読んでみて、なんつー所に俺っちは参加表明したんだいと、少々
戦々恐々している面もありますんでビクビクと質問した訳です(爆)
>矛盾しないように
最大限、気を付けるです。
3月27日01時15分
Airシティ中央貨物駅
「……つぅっ!」
包帯越しにそっと頬に触れた途端、鋭い痛みが頭蓋骨に響いた。
「……痛い」
涙目になりながら、なつきは地下壕の廊下をとぼとぼと歩いていた。
降下猟兵大隊のヘリで無事帰還した後、なつきは地下壕内に設置された野戦病院で応急治療を
受けた。敵兵に殴られた傷は幸いにして痕が残るような深刻なものではなく、軍医も
「ひと月もあれば完治するじゃろ」と太鼓判を押してくれた。「もっとも、しばらくは痛みに
悶え苦しむじゃろうがな」とも言っていたが。
その病床で、彼女は観鍵りっ子中佐を相手に任務報告を行った。「よくそれで生き残れたな、
貴様」と呆れ顔で呟いた観鍵りっ子は、報告が終わるとさっさと立ち去ろうとした。その彼の背中に、
思わずなつきは叫ぶように嘆願した。旅団長に直接報告させてください!
観鍵りっ子は一瞥しただけで無言で立ち去ったが、数時間後に再びやってきて、
「旅団長が口頭での報告を求めている」とだけ告げて再び足早に立ち去っていった。
なつきが今こうして深夜の廊下を歩いているのは、そうした事情による。
「気が重い……」
旅団長室に近づくにつれて、なつきの足取りは重く、視線も俯きがちになっていった。
あぁ、なつきの莫迦。なんであのとき、自分はあんなことを口走ってしまったんだろう?
現実逃避するように、なつきの思考は数時間前、州都へ帰還する途中のヘリの中へと遡っていった。
RR装甲軍の対空火器から十分逃れられたと降下猟兵たちが判断した後、彼らは陽動作戦中の
霧島聖中佐相手に作戦成功の暗号電を打った。その作業をキャビンの壁にもたれかかって
ぼんやり眺めていたなつきに、マイクがヌッと突き出される。
「清水少尉、集成旅団司令部へ報告を行われますか?」
なつきと茂美をピックアップしてくれた曹長だった。
「あ……ありがとう。報告させてもらいます」
お辞儀をしてマイクを受け取るなつきに、裏のない笑みを浮かべる曹長。どうやら、
自らの指揮官と生死を共にした彼女のことを『戦友』と認めてくれたようだった。
「出力、指向性共に波を絞っています。ある程度なら長話も出来ますよ」
そう説明してくれる曹長に再びお辞儀して、なつきはマイクのスイッチを入れた。
「降下猟兵大隊派遣、清水なつき少尉」
『EREL集成旅団、JRレギオン少将』
聞き慣れた旅団長の声だった。いきなり彼が出たことに驚きつつも、なつきは気を取り直して
報告を続けた。
「降下猟兵大隊は作戦目標を大筋において達成。自分も確認しました。現在出撃拠点に向け帰還中」
『敵通信傍受により、こちらでも確認した。帰還後詳細な報告を行え。以上』
簡潔な応答だった。いつもどおりの、簡潔なやりとり。
「……」
不意に、なつきは自分の心が冷え込んでいくのを自覚した。
そう、いつもそうだった。彼女の上官は、いつも最低限の言葉で彼女に命令を下し、
そして簡潔明瞭な報告だけを求めた。余計なことは口にせず、ただ黙々と任務を命じていくだけ。
自分の能力を評価してくれている、というのはわかる。仕事をやり遂げるたびに、
与えられる仕事はだんだん高度な内容になっていった。そのレベルアップが、清水なつき少尉
という『軍人』に対する評価を反映しているというのもわかる。
だが、それはなつき『個人』を信頼しての結果なのだろうか? 考えてみれば、
今まで感謝の言葉をかけられたことなど一度としてない。
別に、美辞麗句で褒めて欲しいわけではない。ただ、「ごくろうさん」の一言だけでも
労って欲しい。そして、なにがしかの感情を示して欲しかった。紅茶すらいむ中佐やカーフ少佐、
kagami中尉を相手にするときは、旅団長も軽口を叩くことがある。その程度の感情でいいから、
なつきを『人として』扱って欲しかった。
ハイエキの森でのあの一幕で、なつきの内心の堰が決壊してしまった。ただ感情抜きに
任務を与えられる『駒』の立場に我慢がならなくなっていた。自分が護るべきものの為に、
自分で納得して戦いたかった。そして――自然に思っていたことが、なつきの口からあふれ出てきた。
「旅団長、気楽でいいですね」
あっと思ったときは、もうその言葉が口を衝いて出た後だった。とんでもないことを
言ってしまったと内心青くなる反面、もう我慢できないという鬱憤が徐々に高まっていく。
『気楽?』
怪訝そうな旅団長の声が、逡巡していたなつきの背中を押した。構うものか、
この際言ってしまおう。
「あなたそこに座って、ああしろ、こうしろ、と指示してればいいんだ。それに引き替えこちらは、
何も出来ないでいる。ジタバタするだけなんだ!」
威勢よく啖呵を切ろう、という目論見はしかし、成功しなかった。言っているうちに、
なぜだか涙があふれてくる。半泣きになりつつ、マイクを力一杯握りしめる
――そんな精神状態だったから、旅団長の返答の声を聞き逃してしまった。
『清水少尉……』
もしなつきがもう少し冷静だったなら、それを聞いて愕然としただろう。その声は、
明らかに戸惑っていた。いつもなつきが目にする旅団長は、人を食ったようなおどけた
言動をしているか、さもなくば狂気を湛えた冷酷な物言いしかしていない。心底戸惑っている声など、
ついぞ聞いたことがない。だが、興奮しつつあるなつきはそのことに気づかなかった。
そして更に言い募る。
「畜生……昔の、みずいろ事件の時なら、あなたのいうことなんか聞かないで、勝手に、自分の力で、
何とか出来たのに!」
無線機は、数秒間沈黙した。なつきの耳には、うるさく回転するローターの音しか聞こえない。
周囲の降下猟兵たちも、あまりの成り行きに声を失って、マイクを握りしめるなつきを凝視している。
その沈黙になつき自身が耐えられなくなる寸前――無線機は新たな声を発した。
『そのとおりだ清水少尉』
先ほどの戸惑いを覆い隠すような冷徹な声で、旅団長が返答をたたきつけてくる。
『君の戦っているのは戦術のイロハも知らないねこねこ師団なんかじゃない、RR装甲軍だ。
今、我々の戦術と判断が本物かどうか試されてるんだ。つまらぬ感情に動かされるんじゃない!』
「……了解!」
ほとんど叫ぶように応答して、なつきはマイクのスイッチを切った。どうにもならない
激情が渦巻き、マイクを握る手がブルブルと震える。だがその烈火も、背後からかけられた一声で
急速に鎮まっていった。
「……なつき」
キャビンの床に寝かせられていた茂美の声だった。とっさに振り返り、枕元に跪く。
「川口少佐……あの、すみません。大声で怒鳴ったりして」
「ふふ……構わない。それよりも……」
応急措置で包帯の巻かれた腕を伸ばして、弱々しくなつきの腕をぽんと叩く。
「随分と良い上官を持ったもんじゃない。ん?」
「そんな……!」
思わず反論しようとするなつきを制止して、茂美は言葉を続ける。
「よく考えてごらん。7階級も上の上官、しかも将軍相手に啖呵を切っても、普通は
『うるさい、黙れ』の一喝で終わりじゃない?」
「……あ」
その一言で、なつきの思考に冷静さが戻ってきた。
「それを、言い方はアレだったけど、とにかく吹けば飛ぶような少尉風情に諭して
言ってきかせたんだよ」
傷口が痛んだのか、茂美は少し顔をしかめた。腕をおろして、ゆっくりと言葉を続ける。
「……あの狸親父、何を考えているかわからないけど……少なくともなつきのことを、
ただの少尉だとは思っていないはずだよ……地下壕に戻ったら、一度腹を割って話してみたら
いいじゃない」
疲れたから少し寝るよ、と軽く笑って茂美は目を閉じた。重傷を受けたとは思えないほどの
穏やかな寝顔を見ながらなつきは、茂美が自分のことを『なつき』と呼んでいたことに気づいた。
「――はぁ」
回想にふけっているうちに、旅団長室の前まで来てしまった。ドアを前に大きくため息をつく。
もはや、気が重いなんてレベルではなかった。相手は、必要とあれば1個連隊のバ鍵っ子たちや
暴徒化した市民を顔色一つ変えずに抹殺するような、良識の対極にいる将軍だ。
そんな化け物を相手に「腹を割って話す」なんて芸当が出来るのだろうか?
いや、出来る出来ないじゃない、やるんだ――なつきは内心でそう叫んだ。自分で決めたじゃない、
なつき! もう、ただ待つだけ流されるだけの自分は嫌。自分の手で「まもるべきもの」
「たたかいのさだめ」をつかみ取って、それで前に進んでいくんだ! そのためには、
まずこの部屋の主と対等に渡り合う必要がある。
「――清水少尉、口頭報告に出頭しました」
大きく息を吸い込んで気合いを入れると、なつきはそう言いつつドアをノックした。
一瞬の間の後、『入れ』の返答。うん! と強く頷いてから、なつきはドアノブを回した。
「……」
勢い込んだなつきの気合いはしかし、初っ端で空振りさせられてしまった。
てっきり執務机に座ってこちらを凝視して来るものとばかり思っていた旅団長は、
手前の応接ソファに座って、なにやら妙な機械をいじくっている。
「どうした、清水少尉? そんなところに突っ立てないで、まぁそこに座れ」
身振りで対面のソファを示され、なつきは戸惑いつつもそこに腰を下ろした。目の前の旅団長は、
妙な機械を操作し続けている。
「あの……なんですか、それ?」
「ああ。前にジャンク屋で買ってきたんだ。熱湯無しに市販レトルトを加熱できる機械でな。値段の割にはそこそこ使え……出来たか」
中に入っていたレトルトパックを取り出し、封を切る。傍らの容器にトパトパと中身を注いでいく。
「あ……お汁粉……」
「ああ。『みやび』の汁粉とはいかないが、これもそこそこの味だ」
『みやび』は汁粉が好物のなつき御用達のブランドだった。何でそんなことまでこの人は
知っているんだろう、と疑問に思うなつきの前に、容器と割り箸が差し出される。
「言いたいこと聞きたいことは山ほどあるだろうが、とりあえずこれでも食って
気を落ち着かせてくれ」
「……はい、頂きます」
かつてないほどにフレンドリーな雰囲気に戸惑いつつも、軽く会釈して口を付ける。
口内の傷が染みて痛かったが、確かにそこそこの味だった。あぁ、そう言えばこの人に
食べ物を奢ってもらったのって、これが始めてじゃないかな?
あっという間に中身を空にするなつきを、旅団長は指を組み合わせながらじっと見つめていた。
そして、食べ終わった頃合いを見計らって口を開く。
「さて……清水少尉の言いたいことは大体わかるし、こちらも説明したいことがあるんだが……
どこから手をつけたものかな……」
眉間を揉みつつ思案していた旅団長だったが、小さく頷くと改めてなつきを凝視した。
「最初に、通信で『つまらぬ感情に動かされれるな』と怒鳴ったのはすまなかった。
降下猟兵どもが聞いている中では、ああ言うしかなかった。その点は謝罪する」
「え、いや、あのその……!」
日頃は昂然と胸を張ってバ鍵っ子どもを威圧しているこの男の謝罪に、なつきは思いっきり
うろたえてしまった。まさかこういう展開になるとは思っても見なかったので、
頭の中が一気に真っ白になる。
「それで、だ。まず君の方から話して欲しい」
このとき彼は初めて、なつきのことを『君』と表現した。そのことに気づいて、
追い打ちでショックを受けるなつき。
「君はハイエキの森で、川口少佐と共に戦って、一体何を見て、感じたのだ?」
「何を見て……ですか?」
「そうだ。君はあそこで、何か今までの生き方を変えるような体験をしたはずだ。そのショックが
抜けきっていなかったから、帰りのヘリの中で俺に『気楽でいいですね』と言ったのだろう?」
「……」
どうしてこの人は、ここまで私のことを把握できるんだろう? 心中でため息をつきつつ、
なつきは頷いた。そして――あそこで見て、聞いて、感じたこと、そして考えたことを
包み隠さず話す。
「……何というか」
腕組みをしながら、旅団長は軽く慨嘆する。
「元からそうなるように仕向けたわけだが、まさかここまでピンポイントに成功するとは
思わなかったな」
「……えっ?」
聞き捨てならないセリフを聞いて、なつきは思わず固まった。
「りょ、旅団長! 私が降下猟兵大隊に派遣されたのは、いざというときに作戦を妨害しろと――」
「ああ、ありゃ嘘だ」
即座にあっさりと否定されて、なつきはパクパクと口を動かすだけで声も出なかった。
「よく考えて見ろ。単に作戦を妨害するのなら、kagami督戦隊を同行させるか、
もっと手っ取り早く襲撃情報を柳川のお兄さんに流すだけでよかったんだからな
――わかったからそんな恨みがましい目で見るな」
「あの……! 私、ここで邪魔したら間違いなくみんなに殺されるって、本気で悩んだんですよ!
そ、それを『嘘だ』の一言で片づけるなんて!」
渋面を作って、旅団長は頭を下げた。
「確かに騙したのはすまなかった。だが、正直に『戦うべき理由を自分で見つけるために
死線を彷徨ってこい』と言うわけにもいかなかったじゃないか、あの場面では」
なつきの冷たい視線を全身に浴びつつ、全てを仕組んだ男は言葉を続ける。
「川口少佐の履歴は調べたのだ。そりゃもう色々とね。だから、彼女と君を共に戦わせて、
柳川大将相手に際どい戦闘をさせれば、結構な確率で君の心境に変化が訪れる――それも
自発的にその変化を掴み取るだろうと予測したんだ。まぁ、仮にこちらの目論見が
うまくいかなくても、元勲恩顧組の牙城たる降下猟兵大隊に潜入工作の橋頭堡を作れるだろう
という考えもあったんだがな」
「……ひとつ、質問させてください」
ようやく非難の気持ちが収まったのだろう、なつきは落ち着きを取り戻して反撃を開始した。
「どうして、私にそんな自覚を持たせたんですか? あなたの駒になって動く人間には、
そんなもの不要だと思うのですが」
「何か、君は根本的に誤解しているな」
この『会談』ではじめて、旅団長は微かな笑みを浮かべた。
「俺が欲しいのは、言われたことに疑問を持たずに忠実に動く『駒』ではない。
自分で考え、自分の意志で俺と行動を共にしてくれる『同志』が欲しいのだ。
俺がバ鍵っ子どもを皆殺しにするのも、理性を無くした市民を虐殺したのも、
戸越へ裏切ろうとした傭兵たちを処分したのも、月姫難民を積極的に擁護するのも、
自分が目指すべき目的があるからだ。そして、それをつかみ取るためには、
どうしても『同志』が必要となる」
「『同志』……」
なつきにはわかる。極左活動家出身のこの人にとって、『同志』は一般的な意味よりも
遙かに重い価値を持った言葉だということを。そのことに思い当たって、不意に身震いを覚える。
「そんな……そんなものを求める旅団長の目的って、いったい何なんですか?」
少なくとも、彼自身が言ったようにバ鍵っ子殲滅などと言ったレベルのことではない、
というのはなつきにもわかる。もっと何か――そう、例えば国家レベルでのことを、
この少将閣下は考えている!
「そうだな、それを説明するには、俺自身の『戦うべき理由』を話す必要があるな
――まだ誰にも話したことがないからな、上手く納得させられるかはわからんが」
旅団長はそう言うと立ち上がり、執務机の前へ歩いていった。引き出しを開けつつ、
なつきに語りかける。
「まぁ、その前にだ……」
引き出すの奥からレトルトを取り出し、なつきの方へ振ってみせる。
「おかわり、いるか?」
>>10-17「戦うべき理由」投下完了です。
ちなみに「気楽でいいですね」のくだりの元ネタは
映画『新幹線大爆破』より。
一発目投稿乙。
早速なつき名誉回復闘争に着手したか(w
「結局、この我々の苦境、それは月姫旅団が純軍事的存在でありすぎると言う点に帰結すると
思われます」
旅団補佐−参謀長である武内崇大佐の前で1人の男が、何でも無い事のように月姫旅団が
置かれている状況分析し、一言で言い切っていた。
身を包むのは色が褪め汚れ果てたシャツ。大雑把な作りの顔は常に微笑んでいるように見える。
一見しただけでは、その人間が月姫旅団に属する正規の軍人であるとは理解出来ないでだろう。
だがそれも当然かもしれない。
この男−高田陽一少佐は武内大佐に召還されるまで(主に遠野財団からの要請で)Airシティ
に於ける月姫難民の情報観察と、そして月姫難民への支援を行っていると云う“EREL”集成旅団の
情報を収集していたのだから。
難民の中にあって容易に軍人と判る格好をする訳には行かず、その意味では極めて軍人らしい−
職務に忠実な人物であると言えた。
「我々は正葉の一員として少なからぬ戦いを乗り越えてきました。月姫旅団とVN旅団は戦友であり、
実体験を持って我々は彼等からの信頼を勝ち得ています。そして今後繰り広げられるであろう
下川リーフと戦争を考えれば、この信頼関係は強固に成る事はあっても弱体化してしまう事は
あり得ないと思います」
「だがそれでも民衆はもとより、一般の葉系将兵からも不審の目で見られている……これはどう思う?」
「月姫民族に対する拭いがたい偏見が原因ですね。下川リーフへと侵攻した歌月十夜師団は、
人員構成はもとよりその基幹将校に遠野大佐らの係累が居ますが、所詮それは判断の補強材料で
しかないのですから……しかし此は以前にもご報告した筈ですけど?」
以前にも、高田少佐は正葉内に於ける月姫民族の地位向上を目指すべきとの事を上申していた。
現在の月姫と正統リーフの関係。
それがある意味で「高橋龍也」と言う一個人の信頼感によって成り立っている極めて危うい
ものであり、もし高橋龍也総帥が何らかの事情で倒れた場合、未だ月姫民族に対する差別意識が
強く残る、そして新興国として国民の連帯−国家への帰属意識と言う意味では極めて脆弱である
正統リーフと言う国が、国民を団結させる為により容易に倒し得る敵として月姫旅団を、そして
月姫民族を“贖罪の羊”と選びかねない。
そう上申書は締め括られていた。
「水無月徹大将RR菌疑惑。まぁ問題の起点は違いますが結局、我々の地盤の脆弱さが露呈した。
まぁそう言う事ですね」
「本題は其処だよ高田少佐。以前に君が提唱した正葉領に於ける月姫民族の地位向上、及び葉系市民に
対する啓蒙活動案が実施される事となった。我々とて一旦は手にした月姫民族安住の地を喪う訳には
行かぬし、何よりゲリラ活動はもとより軍事活動全般に置い安全な後背地の有無は死活問題になる
からね」
「それはそれは……宜しいので?」
「凍結したあの頃とは違う。現在、高橋総帥やVN旅団ら正葉軍主要人員との信頼関係の醸成が
進んでいる。今の状況であれば我々が政治的活動に手を着けたとしても彼等に余計な疑惑を抱かせず
に済む。無論、高橋総帥に対しては、この行動の目的は先に報告しておく。そしてその後に新たに
創設する政治団体を通して諸交渉を実施するものとする。詳細はこれからだが、政治団体のTOPには
知名度の問題から奈須きのこ少将が着く事が内定している」
「では旅団長の後任は武内大佐ですか? 更にお忙しくなられますね」
「いや、恐らく私は少将と共に政治に身を投じる事になるだろうね」
「それは更に大変ですで。では旅団は遠野大佐……ああ、遠野志貴大佐ですか??」
「ああ。人望と功績から彼の昇進で当てる事になる………しかし他人事の様に言うな君も」
性分ですので、そう言って高田少佐は武内大佐に喫煙許可を求める。
そんな太々しい態度を咎めるよりも、面白がる様に目を細めて肯く武内大佐。
よれよれになった煙草をくわえると傷つき果て鈍色となったZIPライターで火を付け、紫煙を盛大に
吐き出す。
数本。
一挙にすい散らかして部屋に紫煙が充満しきった頃、漸く武内大佐が口を開いた。
「どうやら疲れている様だな。Airは大変だったかね?」
「ええ。色々と面白い事もありましたよ」
「どの様な?」
「そうですね…………一番驚愕したのがあの月姫難民への差別で知られた鍵っ子義勇軍、その一部部隊に
月姫民族へ対する態度が軟化する兆候が見られました…もっとも、バ鍵っ子の連中は相変わらずですが」
「それは面白いな。Airで防衛線を張っているのは急造の集成旅団だったな、確か名前は“EREL”」
「JRレギオン少将の部隊です。弱兵集団だと思っていたのですが、なかなかどうして、これが粘り強い
戦いを見せていますよ」
「ほう……確かに興味深いねそれは。忙しいだろうが、報告は出来るだけ速く頼むよ。もしかしたら彼等に
対し何らかのアクションを掛けるかもしれないからね」
「了解致しました。Airへの再潜入までには纏めて置きます……ん?」
そう言った瞬間、一つの疑問が高田少佐の脳裏をよぎった。
何故俺は今Airシティに関する報告をしているのだ? と。
潜入は予め撤退の時期/情勢も定められており、今回の召還はその何れにも該当せず、更には任務の持つ
危険性から途中報告も行わなくて良い、そうされていた筈だった。
(いや、そもそも武内大佐は先っき何と言った? 確か、本題は其処だと言った筈だ……それと、Airの
報告がどう関わる? いや、そもそも………)
この執務室に入ってからの会話。その全ての断片を一つの視点で組み直していく。
(おいおい、もしかして俺は……)
そんな気持ちが表情に出たのだろう。
笑みを大きくしながら武内祟大佐はゆっくりと口を開く。
「漸く気付いたね高田少佐。そう、君もその渦中に居るのだよ。第一、提言しておいて言う訳には
いかないだろ“中佐”?」
それが、“月姫民族相互救済機構「TYPE-MOON」”設立の経緯だった。
正葉に於ける政治の季節は、確実に月姫旅団にも影響を与えていた。
>>20-24 「TYPE-MOON」設立への経緯、頑張ってみました。
どんなもんでしょう、違和感は無いでしょうか?(汗
>>24 と言うか、気づきました。
下から4行目、文字が抜けてます……鬱だ…
>君もその渦中に居るのだよ。第一、提言しておいて言う訳には
は、
>君もその渦中に居るのだよ。第一、提言しておいて自分は知らん顔すると言う訳には
と言う事で(汗
いや、お恥ずかしい……
いままで正葉本隊が行った本格的な戦闘は
ロディマスでタソガレ師団および誰彼中隊を敗走させたことぐらいで、
しかもその戦いには月姫旅団は参加していません。
出来れば過去ログは読んで欲しいですね。
28 :
鮫牙:02/09/17 07:33 ID:Dp5h9+O+
いや、良い感じすよ。元正葉書きとしては嬉しい限り。
>>27 >我々は正葉の一員として少なからぬ戦いを乗り越えてきました
もしかして、これのこと言ってる?
だとしたら、あまりに細かいツッコミじゃないか?
これくらい別に問題ないと思うよ。
あと、月姫旅団は「空き地の町」攻防戦にも参加してるはず。
軍事顧問団の暴走に隠れて目立たなかったけどね。
他にも書かれてないところで小競り合いくらいには参加してるんじゃないかな?
31 :
鮫牙:02/09/17 15:36 ID:Pm3M0J50
32 :
鮫牙:02/09/17 15:39 ID:Pm3M0J50
誤り。
前レス→前スレ
乾戦車大隊は戦闘に参加しておりました。
七瀬戦車隊の前進がなければ乾戦車隊が高槻師団を粉砕する手筈でした(汗)
戦果は敗走する前衛のBMP3、T-90を始末し、損害軽微とのことです。
>>27 >出来れば過去ログは読んで欲しいですね。
はい。
もう少し精進するとします。
あと、ご声援を与えて下さった方々有り難う御座いますm(_ _)m
36 :
名無しさんだよもん:02/09/18 01:28 ID:kF9hTuRW
お伺いAGE
37 :
名無しさんだよもん:02/09/18 02:18 ID:kF9hTuRW
38 :
名無しさんだよもん:02/09/18 18:16 ID:uKAu023s
age
ボディパックに襲撃による死者の死体を詰ながら装甲軍兵士の会話。
「第一師団長か…あの美味しそうな体もこうなっちゃおしまいだな」
「ああ、一度お相手して頂きたかったな」
>>35>>37 あー、自分の書いた分がきっかけでしたか。それはスマソ
で打開案ですが、自分の書いたものを押し通すようでアレなんですが、
ものみの丘の位置を「アクアプラスシティ郊外」から変更することを提案します。
理由は以下のとおり。
1
仮に下葉首都であるアクアプラスシティの郊外に鍵軍が集結できる拠点があるのなら、
何故そんな絶好の戦略拠点を生かさずに、集成師団は空き地の町まで長駆出撃したのか?
そこからなら首都中枢やシェンムーズガーデンを楽々攻撃できる位置にいたにもかかわらず。
2
この時点でしぇんむーは、麻枝拉致という非常手段も辞さずに鍵自治州を敵と認定していた。
ならば、何故自国政治中枢に肉薄する位置に敵軍の集結を許したのか?
むしろ三々五々集まってくる鍵軍部隊を各個撃破し、鍵野戦軍主力を殲滅する好機だったはず。
このとき第13RR義勇装甲擲弾兵師団“ヨーク”はまだビッグサイト平原には出撃しておらず、
下葉軍の投入戦力に不足があったとは思われない。
3
鍵軍がものみの丘から直接首都を攻撃できない、もしくは下葉軍がものみの丘を攻撃できない
政治的、宗教的理由は今のところ見あたらない。
4
以上の理由により、ものみの丘がアクアプラスシティ郊外にあったとしたら、
その後の戦況推移が合理性を失ってしまう。
麻枝達鍵首脳部が「ものみの丘」から空軍基地へ移動するという記述があるのでそれも辛い。
>>41 それは、こういう風に考えれば……
・「ものみの丘地区」その周辺一帯の地名。例えれば「東京23特別区」
・「ものみの丘」その中の中心ポイント。例えれば「霞ヶ関(千代田区)」
・「AIR航空隊基地」その中の航空基地。例えれば「羽田空港(大田区)」
だから「ものみの丘から空軍基地へ移動」は、同じ23区の中で霞ヶ関から羽田空港に移動するようなものかと。
うーん、それなら矛盾点も修正点も最低限に抑えられるかな。
仮に、なつきとONE2キャラが出会ったらどういうことになるだろう?
ナオナオや久遠はともかく、綾芽だと「あなたって、まだ幸せな方よ」と言いそうだが。
・・・なんか書いてみたくなった(w
問題はおね2ネタを理解できる人間がどれくらいいるか。
ちなみにおいらは分からない。
正葉本隊のネタがまったくといっていいほど出てこないのは、
最初の編成表で主要キャラが出尽くしてしまって空にまわす
人員がいなくなったという理由もあると思う。
というわけで月姫@名無し参謀殿、正葉の轍を踏まないようにおながいします。
3月26日1743時
――それは、野砲の砲撃にしては小さな爆発だった。
ビルの林立する中の着弾だ、大きく仰角を取れる兵器。おそらくは迫撃砲によるものだろう。
着弾点も、大分ずれている。
小さな爆発が起き、煙の上がったところはこちら――つまり、AF師団より敵、下葉部隊の方に近いほどだ。
一瞬、友軍の砲撃かとすら思って確認までした。
田所軍、歌月十夜師団ともに内部の意思疎通に欠けること甚だしい軍隊だから、時折唐突に友軍の頭上に砲弾の雨を降らすと言う事態は、ままあることだった。
しかしながら、問い合わせの結果は否と返る。
砲兵はもっと敵陣後方、発見したばかりの野砲陣地を叩いている最中だったし、両翼の友軍歩兵部隊は正面の敵にかかりきりで、周辺のことなどまるで視界に入っていない。
つまり、これは敵の砲撃だ。津波のような進撃をおしとどめようと、非力な敵が必死に振り上げ威嚇する蟷螂の斧なのだ。
その非力な砲撃は第二射、三射と続いている。
一向に弾着は修正されない。むしろ、それはより敵陣の側へと移動してさえいる。
未熟な砲撃技量、小口径の迫撃砲による支援しか与えられない貧弱な火力。
正規の警察軍や国境警備旅団の残党部隊は、もう少しマシな火力を有している。快調な進撃の中でも、時折試みられる彼らの逆撃に少なからぬ出血を強いられる場面が幾らかあった。
それに対して、正面の敵はどうか。火力も貧弱、戦術はただ瓦礫の山に篭って銃を撃ちつづけるだけ、その技量とてお世辞にも高いとは言えない。
さては、正面は市民から徴募したばかりの“自治厨”こと郷土防衛隊か。
ついには、防衛側の立て篭もる家屋にまで着弾した砲撃を呆れた目で眺めていた兵達は思わず顔を見合わせ、声を立てて笑った。
勝利を確信する彼らはまだ知らない。
まだ、知らない。
そう、知らないだけだ。
しかし、すぐに思い知ることになる。
この陳腐極まる砲撃が、この前線、この戦場にいる敵味方全てにもたらす破滅的な結果を。
(……なんだろう?)
砲撃の直後、異変はすでに起こっていた。
不意に襲った寒気に違和感を感じ、四条つかさ少佐は指揮車の車内でぶるりと身を震わせた。
ペリスコープから周囲の状況を確認し、異変がない――戦闘が変わりなく続行中であることを確認する。
遮蔽物の陰から陰へ、じりじりと市街中心に向けてにじり寄る友軍。
主に小火器によっての抵抗を続け、時折逆撃を仕掛けながらも次々と防衛線の放棄を余儀なくされる敵軍。
総攻撃発起後、ずっと続いているその構図にはなんらの異常もない。
なんのことはない、何かの気の迷いだろう。きっと、自分は後方のあの異常者の存在にいささか過敏になっているのだ。
それにまだ三月。空気も冷たい。寒気がするのも当然だ。
気にするほどのことは何もない―――深呼吸し、どこかしら漠然とした不安を抱えたままの自分を納得させる。
(うん……大丈夫。心配ない、問題もない。
蒼香は、月姫大佐ああ言ってたけど大丈夫だよね。勝ってるんだから何もない。
勝ってる間は、進んでいる間はいくら遠野大佐だって言いがかりのつけようもないよ)
ぱんっ、と自らの頬をはたいて気合を入れた。
気弱げに垂れ下がった眉をきりりと引き締め、
新たな敵拠点に突きあたり、その勢いが鈍った部隊に叱咤を飛ばそうと、もう一度肺に大きく酸素を引き入れる。
そしてその直後、すぐに異変に気付かされた。
前触れなく唐突に、両の眼に鈍い痛みを覚えた。
流れ出る涙と洟に、何か眼球に異物が入ったのかと思った。ハンカチで涙をふき取り、溢れる洟を啜りあげて堪える。
気がつくと、洟を啜っているのは自分だけではなかった。
車中の将校達は、皆同じようなものだ。ハンカチやら布きれやらで洟や口を、眼を覆い、突然自身を襲った異変に困惑を隠さずにいる。
すぐに、その内幾人かが息苦しげに喘ぎはじめた。
いや、喘ぐだけに止まらない。喉を押さえ掠れた息を漏らす男達が、次々と膝から床に崩れ落ちていく。
おかしい。けして聡明ではない、いや愚鈍の部類に入るであろうつかさもやっと異常を認識した。
周辺で起きている火災の影響かもしれない、そんな希望的観測もすぐに打ち砕かれる。
涙を溢れさせつづける両の眼が針で刺したように痛い。視界が徐々に狭まるのがわかる。
異常は眼球や鼻腔に止まらない。すでにはっきりとした悪寒が全身を走りぬけ、猛烈な嘔吐感が口腔を支配する。
そこからは、まるで堤防が決壊したかのように一気に症状が進んでいった。
胸から競りあがって来る嘔吐感は、彼女の忍耐を容易に突き破った。
横隔膜、呼吸筋が痙攣する。呼吸がままならない。呼吸だけではない、全身の筋肉が弛緩してゆく。
そして大量に吐きだされる汚物。
口からだけではない。股間から漏れでた小水が、彼女の野戦服と力なくもたれ掛かるシートに黒々とした染みを広げてゆく。
(ああ、これは……)
掠れた呼吸を断続的に続け、ずるずると座席からずり落ちながら、つかさはようやく状況を理解した。
いや、その一部は誤解でもあったのだが。
(そうか。ガス攻撃を受けたんだ)
脳への酸素供給量が極端に減少し、急速に薄れゆく意識の片隅で、つかさは座席下方、もはやぴくりとも動かない操縦士を眺めていた。
(私……もう、死ぬんだな。やだな、こんな汚い顔で……)
一足先に絶命した操縦士の死相は、苦痛に歪み自身が分泌した大量の体液に塗れた酷く醜い代物だった。
二目と見れたものではないその容貌をぼんやりと見つめ、つかさは軽く眉を顰めた。
死と言う概念がすぐ側に迫っているのに、それはとても誰か遠く別の人物に振りかかっている、それを外から観察しているかのようなふわついた感覚。
すでに思考能力が低下しているのだ。辛うじて酸欠の影響を受けていない意識のどこかが、自身の状況をそう結論付けていた。
それとて第三者的な視点を抜け出してはいない思考ではあるのだが。
もう死は間近だ。免れない。
飽くまで他人事のように、霞んだ思考はその身に待ち受ける運命を断定する。
ただ一つ、疑問があった。
答えを自ら容易している、ただわずかにそれが否定されることを願う疑問があった。
(私を殺したのは誰なんだろう……)
最後の力を振り絞り、半開きとなったキューポラに腕を掛けた。
ほんの数十センチの高さ、上半身を持ち上げるのにどれほどの労力と時間を掛けたか、すでに判別することすらできない。
すでに通常の半分ほどの狭さまで縮み、自身の意思とは関係なく、感情とすら無縁にただ溢れ出る涙で滲んだ視界。
やっとのことで車外に広がったその視界に、動く者の姿はすでにない。
誰一人として、すでにない。
敵も、味方も、地下や屋内に隠れ潜んでいた民間人も。
視界に入る人の形をしたもの全てが、体液を垂れ流し水面に酸素を求める魚のように大きく口を開いて息絶えていた。
(やっぱり……)
最後にその光景を眼にして、四条少佐の予測は確信に変わった。
(こんなことするの、一人しかいないよね……)
完全に閉ざされた彼女の視界、その暗黒の中にはっきり浮ぶのは一人の白髪の青年の姿。
つかさを憎み、おのれと己の最愛の妹以外の全てを嘲る兵の命など路傍の小石ほどにも重んじないあの狂人。
その確信は、さまざまな意味で間違っていた。
彼、遠野四季は確かにつかさを憎んでいるし、完全に常軌を逸した狂人ではあった。
しかし彼は勝ち軍をふいにするほど愚かではなかったし、ここまでの無益な労力を費やしてまで抹殺を図ろうとするほど、彼女に価値を見出してはいなかった。
そして何より、世に友軍を巻き添えにしても目的を達しようと言う鉄の意思を持った『狂人』は、何も世界に遠野四季一人ではないことを知らなかったのだ―――
<糸冬>
52 :
名無しさんだよもん:02/09/20 21:55 ID:J9yQdYEB
age
53 :
名無しさんだよもん:02/09/22 00:47 ID:zQH3Nw3Z
age
54 :
名無しさんだよもん:02/09/22 03:34 ID:wZq/GzoQ
age
55 :
名無しさんだよもん:02/09/22 16:53 ID:0cYiDntj
age
56 :
名無しさんだよもん:02/09/22 23:00 ID:XeC3g9V0
めんて
めんてー
59 :
オルグ 1:02/09/23 20:25 ID:C+nqzr0Z
3月27日03時55分
Airシティ中央貨物駅
第2RR装甲師団“ダス・リーフ”の州都攻撃は、3月27日0345時をもって
本格的に開始された。
元々“ダス・リーフ”は州都南西方から反時計回りに州都を衝く機動を見せていたのだが、
作戦の大幅見直しに伴い、師団長は戦車連隊を基幹とする装甲戦闘団を州都北方の
タケダタウンに分遣し、南北から州都を挟撃する戦術を選択した。戦力を分散させるのは
好ましいことではなかったが、一方面からの圧力のみで州都に突入することの弊害を考えれば、
致し方なかい。それにRR装甲軍特有の、自らの精強さに恃むところがあったが故の分散でもある。
「電電公社前kagami中尉より報告。戦車中隊を基幹とする敵先鋒と接触しました。現在応戦中」
「南部街区第14監視哨よる通報。敵砲兵、現在制圧射撃を実施中……連絡途絶えました!」
市内各所の部隊から上がる報告に該当するピンが、集中列車制御指令室に設けられた巨大な
州都市街地図の該当箇所に突き刺さっていく。そのピンをざっと見ただけで、“ダス・リーフ”の
攻勢状況が手に取るようにわかった。南北両方向から突き刺さる2本の太い矢に、
主に西方から突き刺さる何本かの細い矢。
「なかなかの統率ぶりじゃないか」
その様子を眺めていた旅団長は、素直に感嘆の声を上げた。
「頭のほとんどを吹き飛ばされた割には、連携に乱れが見られない。こりゃ、ここの師団幕僚だけ
難を逃れたな」
さすがに、“ダス・リーフ”師団長だけが生き残り、さらには観戦武官を参謀にしたなどとは、
想像の埒外だった。
「とはいえ、北方にいた1個師団は攻勢に参加していない。どうやら南方へ待避を始めた
ようだから、まだ助かってるな」
鍵スト参謀長が地図を睨みながら口を挟む。
「しかし、今ひとつ連中の意図が読めん。1個師団だけでは、ここを陥とすのにかなり時間が
かかるぞ。どうにも中途半端だな」
60 :
オルグ 1:02/09/23 20:25 ID:C+nqzr0Z
「あるいは、州都占領以外の目的に切り替えたのかもしれんな、柳川大将は」
思考しながら発言する時の癖で眉間を揉みながら、旅団長が答える。
「ひょっとしたら、州都占領という戦略目的ではなく、なんらかの政治目的に切り替えたのかも
しれんが……もうちょっと情報が欲しい」
「……」
そんな師団上層部のやりとりを遠目に見ながら、なつきは先刻の旅団長との会話を思い返していた。
「俺が独立戦争の時、極左セクトの幹部だった――っていうのは知っているな?」
なんだかんだ言いながらおいしそうに汁粉を平らげたなつきを見つめながら、旅団長は話を切り出した。
「え? ええ。確か、VN極左の――」
「葉鍵革命的VN主義者同盟・革命前衛行動隊、通称『前衛派』。高橋龍也が主導していた
VN主義を急進的に推進し、新大陸全土でVN主義革命を一斉に成し遂げようとしていた。
要は当時でももっとも過激な革命集団だな。俺はその中で爆弾なんかの製造調達と、
非合法闘争の陣頭指揮を担当していた」
手元の湯飲みをゆっくりと回しながら、旅団長は言葉を続ける。
「ロディマス総合庁舎爆破事件やら治安総局次長爆殺事件なんかで派手に暴れていたんだが、
葉鍵国が独立してみりゃ、俺たちは突っ走りすぎた異端者として高橋の手で解散させられた。
粛清されなかっただけでもありがたいのかもしれんがな。
で、しゅんむーやら高橋やらの思惑もあって、俺たちの大半は鍵っ子義勇軍の将校となった。
そこで俺は思ったね。確かにVN主義同時革命は挫折した。だが、VN主義を包括する広義のエロゲ主義は
まだ否定されていない。葉鍵国独立はエロゲ主義革命の第一段階であり、来るべき、
エロゲ国改革派と連携して達成されるエロゲ主義第二革命の前段階武装蜂起なのだ――とね」
「前段階武装蜂起――ですか?」
61 :
オルグ 3:02/09/23 20:27 ID:C+nqzr0Z
「そう。この真の革命が達成されれば、エロゲ主義は新たな段階に突入し、エロゲ諸国再統一は
果たされる――そう思った。その大儀のために、鍵っ子義勇軍で任務に精励したさ。
鍵自治州がエロゲ主義第二革命の先陣を切る、その日のためにな。
ところがどうだ! ものみの丘の連中、特に麻枝と久弥の莫迦はエロゲ主義を根本から否定し、
極右バ鍵っ子どもと元勲恩顧組を煽って鍵自治州を私物化してしまった。特に麻枝は『大気論』
などというたわけた反動ファシズム理論を掲げて、エロゲ主義を真っ向から否定している!」
知らず知らずのうちに、旅団長の口調が激しくなっていく。そんな姿を初めて見るなつきは、
半ば呆れながらこの元活動家の言葉に耳を傾けた。
「しゅんむーはファシストではあるが、エロゲ主義そのものは否定していない。高橋には
切り捨てられた恨みはあるが、それでもまだエロゲ主義に軸足をおいている。鷲見は
同人主義に激しく傾倒しているが、それ故にエロゲ主義には肯定的だ。
そう、葉鍵国――いや、新大陸にいながらエロゲ主義を否定し卑下しているのは、
ものみの丘の莫迦どもだけ、特にファシスト麻枝だ!」
そこまで言ってから、さすがに自分のテンションに気づいたらしく、旅団長は咳払いをして
口調を穏やかなものに戻した。
「その現実に気づくと、俺は我慢がならなくなった。そんな反動体制、とっと潰してしまうべきだと
思った。で、さっそく新しい革命闘争に着手しようとしたんだが、その矢先にものみの丘は
旧前衛派将校の大粛清に乗り出してきた。あの時は極右温存政策が採られていたからな。
元極左の俺たちが邪魔になったんだと思う。俺は何とかそれを乗り切ったが、
WINTERS師団に研修の名目で体よく追い払われた――まぁ、トヨハラでの体験自体は有意義だったがね。
その後の情勢の変化で鍵っ子義勇軍に舞い戻った俺だったが、ものみの丘への憎悪と反感だけは
一時たりとて忘れたことはない。いや、むしろますます強くなっている」
「――っ! 旅団長、まさか、私を同志にしたい理由というのはっ!」
ある可能性に思い当たって、なつきは思わず立ち上がった。青ざめた顔を、
座ったままの旅団長に向ける。
62 :
オルグ 4:02/09/23 20:28 ID:C+nqzr0Z
「そうだ――俺は、鍵自治州に革命を起こす。エロゲ主義に基づく、麻枝反動主義と
ものみの丘特権階級を打倒する革命を。そして、究極的には汎エロゲ主義国家樹立を目指す。
で、だ――革命闘争には同志が必要だ」
ゆっくりと立ち上がった旅団長が、じっとなつきの顔をのぞき込む。
「清水なつき――俺は、君を革命の同志にしたい」
「でも――でも、何故私なんですか!」
なつきが躰が小刻みに震えている。いくら元勲恩顧体制の矛盾に押しつぶされ、
その現実に恨みを抱いているとはいえ、『麻枝とものみの丘を打倒する』という言葉には
本心からの恐怖を感じざるを得ない。鍵自治州に遍く流布する『偉大なる指導者麻枝元帥』の
洗脳教育は、それほどまでに強力なものだった(もっともそれには、
平均的市民階級の生活水準を高レベルに保っているという実績の裏打ちがあったればこそ、なのだが)。
「なつき――君と俺は、同じなんだ。俺はエロゲ主義革命の夢を麻枝の背信行為で奪われた。
君は能力に見合った活躍の場を、元勲恩顧組という反動・反革命階級によって無理矢理奪われた。
同じなんだよ俺たちは――ものみの丘に裏切られたという意味においてね」
「……」
「こちらの勝手な思いこみなんだが、とても他人のような気がしなかった。北部国境地帯で
初めて出会った、あの日からね。まぁ迷惑な話だろうが、同情したんだ。
だから――君をまず同志に加えようと思った」
「旅団長……あの、私は……」
「ものみの丘に復讐したくはないか? いや、少し言葉が悪いな。自らが手にするはずだった
正当且つ当然な権利を、自分の手で取り返してみたくはないか?」
「……」
あまりのことに返答を返せないなつきを前に、ふっと旅団長の顔が緩む。身振りで
なつきに座るよう勧めてから、自らもソファに座り直して話を続ける。
63 :
オルグ 5:02/09/23 20:28 ID:C+nqzr0Z
「ああ。確かにあまりな話に即答なんか出来ないだろう。今ここで答えなくていい。
どうせ今は雌伏の時だ。しのり〜の中央情報局の目をかいくぐって、軍や月姫難民たち、
それに可能ならば下葉や東葉にも細胞を作っていかなければならない準備期間だからな。
だから急がない。自分でしっかり考えて、それで同志となるかものみの丘に俺を売るか、
自分で判断してくれ」
「……ひとつ、質問させてください」
なんとかショックから立ち直ったのか、なつきはかすれた声で尋ねた。
「ここまで話してくださって嬉しいんですが……もしこれで、私が裏切ったらどうするんですか?」
やっぱり『粛清』だろうな――そう思うなつきだったが、当の本人は軽く笑って、
半ば韜晦する口調で答えただけだった。
「そうなったら、所詮その程度の革命ごっこでしかなかったということだな。何、それで
君を恨みはしないよ。それに、その時はまた地下に潜伏するまでのことだしな」
ああは言ってくれたけど――回想から意識を引き戻しつつ、なつきは小さくため息をついた。
はぁ、いくら何でもヘヴィ過ぎるよ。
ものみの丘を革命で打倒する――口で言うのは容易いが、現実は厳しい。
だいたい革命の原動力である『民衆の不満』が、この鍵自治州に存在するのかどうか甚だ疑問だった。
VA財閥からの巨額の財政支援のおかげで、ものみの丘に忠実な市民に限って言えば、
生活レベルは新大陸一の豊かさだ。政治的不満も、月姫難民に対する差別という『娯楽』で
大部分発散されている。『パンとサーカス』は十分に行き渡っているのだ。
確かに戦争が始まって平和な生活は失われつつあるが、それが革命を期待する空気に直結する
わけではない。第一、『偉大なる指導者麻枝元帥』の洗脳教育はあまりに強烈だ。
「やっぱり医務室に行ってろ」
「……!!」
突然かたわらから聞こえてきた小声に、なつきは思わず悲鳴を上げそうになった。
見ると、いつの間にやらやってきた旅団長が、視線を中央の巨大地図に固定させたまま
無表情でたたずんでいた。
64 :
オルグ 6:02/09/23 20:29 ID:C+nqzr0Z
「まだぼんやりしてるじゃないか。君がおらんでも大丈夫だから、大人しく寝てろ」
「あ、いえ、そんなことありません。この程度の傷、何とも……」
慌てて小声で言い訳するなつきの頬に、旅団長の右手の甲がぺちぺちと軽くノックされる。
「……!!!」
激痛に声を押し殺してしゃがみ込むなつき。
「無理しなさんな――今から気張ってたら、この先保たんぞ」
「い、いや……大丈夫です……」
思いっきり恨みの籠もった涙目になりつつも、なつきは申し出を拒否した。
「強情な奴……」
「あ〜、漫才をやってるところ申し訳ないが」
通信文のメモを片手に持った鍵ストが、呆れた顔で近づいてくる。
「参謀長としては、そろそろWINTERSの介入を要請すべき頃合いだと思うんだがな」
「そうか? 予定よりまだ随分早い――いや」
思わず考え込んだ旅団長だったが、小さくため息をつくと二、三度頷いた。
「そうだな。出来ればもう少し粘りたかったが、降下猟兵が頑張ってくれちゃったから、
前倒しせにゃならんか。チャンスを逃すのも莫迦らしいしな」
そして、鍵ストとなつきの方へ向き直り、懐から1枚の紙片を取り出す。
「よし、WINTERS師団航空隊“魔女飛行隊”の行動開始を要請する。清水少尉、この暗号文をトヨハラへ打電しろ!」
鍵って一番どろどろしてる勢力だね。
下葉がいちばん判りやすい組織かもね。
それにしても、正統リーフはいったいどーなってしもたんやろな・・・
め
整備兵 − 今日は通信機器のめんてなんす −
情報伝達はとってもだいじなのです。
念入りに整備するです。
67<各軍事組織は中悪いけど、下川の恐怖政治で一枚板に纏まっているからな。
こう考えると下川の体制って結構合理的だよな。
どーでもいいけどWINTERS師団航空隊って弱そうだね。
いまだにミグ15とか使ってそう。
>>72 ラプターやナイトホークが飛んできたりして(藁
>>73 いや、ヤシらはハウニブで武装していますw
75 :
名無しさんだよもん:02/09/24 23:27 ID:A/a8MQgF
ハウニブ?懐かしいねぇ。だけど、どうせ出すなら
いっそのこと「XP-79フライングラム」の方がいいと
思うが(古いネタだな)。
>>72 冗談はさておき、AFが中国機を使っているのなら、
件のWINTERSは経国あたりを装備していても問題
ないような気がする。
むしろミグの古いのだと北朝鮮みたいで、AFよりも
明らかに弱そうだってのがダメだろ(w
77 :
名無しさんだよもん:02/09/25 01:20 ID:19RxRAoZ
経国はちと優秀すぎるな。
WINTERSのHPみてみたけど、同人と変わらないような超弱小ブランドじゃん。
彼らはそんなDQNじゃないだろ(w
せめてF-5を…(中国のやつじゃないぞ)。
F−86セイバー
3月27日05時08分
ものみの丘地区・AIR航空隊基地
AIR航空隊司令、神尾晴子大佐の神経は、連日の空戦で摩滅寸前だった。確かに通天閣騎兵隊は
まずまずの戦果を挙げ、ハイエキ丘陵への爆撃も恐ろしいくらいうまくいった。だが全体として
みれば下葉防空軍との熾烈な制空権争いは未だ決着しておらず、とてもではないが心安まる状況ではない。
睡眠時間を極限まで切りつめて指揮を執り続けている晴子だが、それでも押し寄せてくる睡魔は
いかんともしがたい。そんなわけで、国崎中佐が帰還したことを確認してから、仮眠を取るために
自室へと引き上げていた彼女だった。
ばったりと倒れるようにベッドに潜り込み、仮眠を全力で取っていた晴子だったが、
それも自室にかかってきた内線で無惨に妨害された。時刻は午前5時過ぎ。まだ1時間しか
寝ていない。
「……誰や! この別嬪な人魚姫の眠りを妨げるドアホウは!」
『誰が人魚姫だ、誰が』
電話の向こうで、当直にあたっていた副司令の橘敬介中佐が、お約束のツッコミを入れる。
『領空侵犯が発生した』
「領空侵犯?」
そう言いつつ、晴子は起きあがった。受話器をモニターにして、手早く着替えていく。
ちなみにこの場合の『領空侵犯』は、エロゲ国北方総督領からの侵犯機を意味する。
「数は?」
あんまり気のない様子で尋ねる。北方総督領の各軍閥、特に位置が近いちぇりー師団や
ライアー師団はしきりに戦術偵察機を飛ばして、この葉鍵内戦の実情を探っている。
この種の侵犯は日常茶飯事だった。
だが、敬介の報告はそんな予測を簡単に吹き飛ばした。
『約20機』
「……なんやて!?」
思わず受話器に向かって怒鳴る晴子。おそらく1個飛行中隊の領空侵犯機。絶対に偵察機
などでは有り得ない。
どこぞの軍閥が戦争ふっかけてきよったんか? ――わずかに血の気を引かせた晴子が
受話器に向かって叫ぶ。
「今、どこら辺や!」
『ついさっき、カレギューシティ上空を通過した。速度460ノット(マッハ約0.8)、高度40,000フィート
(約12,000m)、針路1-9-0』
つまり、自治州中央部を北から南へ突っ切ってるわけやな――晴子は考えた。
ええい畜生、上手い具合に防空網の穴を抜けよって!
「えらい堂々と侵犯してくれるやないか。ええ度胸や。スクランブルは?」
『とりあえず、当番要員を第一陣で出した。第二陣も準備中』
驚異的な速さで制服を着終えた晴子は、パチンと頬を叩いて、、微かに残っていた眠気を
追い出した。
「よし、ウチもそっち行くで!」
国崎往人中佐は乗機であるF-15E“ストライクイーグル”を急角度で上昇させていた。
F100-PW-229双発エンジンが叩き出す推力が心地よい。スクランブル発進という
気の抜けない任務の最中ではありながら、彼はしみじみと“ストライクイーグル”に乗れる幸運を
噛みしめていた。ハイエキ丘陵への爆撃のあと待機に入り、そろそろ仮眠を取ろうとしていた
矢先のスクランブルだったが、先ほどと違って高空を思いっきり飛べるのは矢張り心地よい
――後席に乗っけている「物体」のことは極力考えずに、だが。
『うぐぅ、待ってよ往人くん』
「……」
――そう、ついでに列機の存在も考えずに、を付け加える必要がある。いくらスクランブル要員の
順番だったからといって、なんでこんな問題児が出撃なんだろう、と思う。
「お前は勝手に遅れてろ」
『うぐぅ、ひどいよ……』
月宮あゆ大尉が泣きを入れてきたが、往人は黙殺した。機体だけなら少しは使えるんだが、
と首を巡らして後方を確認しながら、そう思う。
F-20A“タイガーシャーク”――どんな手段を使って調達できたのか激しく謎な機体だが、
とにかくこの「究極の軽戦闘機」があゆの愛機だった。調達にあたって、アビオニクスなど
かなりの部分をF-16をはじめとする各種機体のリサイクル品で賄ったことから、
整備班からは「究極軽戦R」の異称を奉られている。
本来ならいくら適正があるからといって、あゆのような新米をいきなり実戦に投入するのは
無茶がある(それ以前のレベルであゆに問題があるのは敢えて無視するとしても)。
しかし戦力不足で四苦八苦するAIR航空隊には、例え経験適正その他諸々に問題がある
パイロットといえど遊ばせておく余裕などなかった。実際、適性試験とシミュレーター訓練だけ
済ませた新人パイロットの大量投入計画が持ち上がっている。それでも、実戦にはなるべく
出さずに訓練重視でいけるように、シフトをやりくりしていたはずだったのだが……
パートナーの実力に深刻な疑惑を抱く男と脳天気な少女、そして謎の生物を乗せたまま、
2機の戦闘機は東の空に明けの明星が輝くその中を駆け上がっていく。
指揮所に晴子が駆け込んできたとき、敬介は受話器を持って誰かと会話していた。
かなり困惑している様が見て取れる。
「――晴子、君に通信だ」
視線が合うとすぐに、敬介は受話器を突き出してきた。
「誰や?」
「Airシティの御大将」
「あの旅団長が?」
不審に思いつつも、晴子は受話器を受け取った。
「AIR航空隊、神尾晴子大佐」
『EREL集成旅団、JRレギオン少将』
あの、丁寧だが一番肝心な部分で得体の知れないものを感じさせる声が聞こえてくる。
「ああ旅団長、近接航空支援ならすまんが通天閣騎兵隊だけにしてや。こっちは今……」
『北方から国籍不明の領空侵犯機約1個中隊が南下中……と言いたいんだろう?」
「……あんた、なんでそれを?」
表情を険しくしつつ、視線を敬介に向ける。彼が状況を話したのかと思ったのだが、
敬介は首を横に振るだけだった。
『そりゃ知ってるさ。何しろ私が呼んだ援軍だからな、彼らは』
「――なんやてっ!?」
思わず跳ね上がる晴子の声に、指揮所にいた全員の視線が彼女に集中した。
「援軍って、ウチは何にも聞いとらんで! 一体、どこからの援軍や!」
『トヨハラからだ。WINTERS師団航空隊“魔女飛行隊”1個中隊――先ほど、師団長の
平井次郎中将から出撃完了の最終連絡が来たのでね』
「ちょい待ち! あんた、まさかそれを麻枝元帥には――」
『知らせてる訳がなかろう。それとも何か? 慈悲深い元帥閣下ならこれを快諾してくれたとでも?』
「知らんて――あんた、そないな国外からの軍事介入なんて一大事、一指揮官の分際で
決めてええわけないやろ! 麻枝元帥の統帥権をなんやと思うてるんやっ!」
まくし立てる晴子の、受話器を握る手が白くなる。
『しかし、現状ではエロゲ国からの介入がない限り、この膠着状態に陥った内戦を決着させる
手段はないんじゃないか? ならば、元帥に既成事実を作って差し上げるまでだがね?」
「……、ああ、そらアンタの言うとおりや。この内戦、外国の手ぇ借りな決着つかんやろ。
でも、それはアンタやウチみたいなレベルで考えることやない! アンタ、石原完爾を気取る……」
ちらりと大型スクリーンに目をやる彼女の舌が、軽く音を立てた。画面では、
今にもスクランブル2機が領空侵犯機の編隊と接触しそうになっている。
「とにかく、今この話はここまでや――回線、切るんやないで!」
最後にそう怒鳴ると、晴子はかみつかんばかりの口調で命令した。
「居候に連絡! 攻撃は厳禁! とにかく、その編隊と何が何でも意思の疎通や!」
「意思の疎通? 言われなくてもやってるぜ!」
基地からの連絡に、往人は思わず怒鳴り返した。先ほどから何度も、領空からの
退去を求める警告を発しているが、編隊の動きに変化はない。
「……来た」
既に東の方は白み始めている空、その北の彼方に、芥子粒のような点々が現れ始めた。
HUDに、レーダーとリンクした情報が次々と表示される。領空侵犯機に間違いなかった。
「侵犯機に告ぐ! 答えないんなら、その面拝ませてもらうぞ!
――あゆ、お前は反対側から回れ!」
少し考えてから付け加える。
「念のために言っておくが、箸を持つ手の方に行け!」
『うぐぅ、わかってるよ、そのくらい……』
アフターバーナーを思いっきりふかし、往人は編隊に急速に接近していった。途中で右旋回し、
編隊の左後方から接近するコースを取る。逆に、あゆのタイガーシャークは左旋回して
右後方から接近するコースを取る。そうこうするうちに、あっという間に芥子粒が拡大していく。
やがて、編隊の詳細が確認できる位置にまで接近した。
「……こいつは!」
思わず呻く往人。ちぇりー師団の“経国”戦闘機やライアー師団の“ラビ”戦闘機(あるいは
殲撃10型と言うべきか)を何となく予想していた彼の予想は、ものの見事に裏切られた。
胴体中央部から後部にかけて取り付けられてたデルタウィングに、機首部分から
小さくのびるカナード。そして胴体後部には1枚の垂直尾翼。ちょっと見なら、
“ラファール”に似ていなくもない。往人はこのスウェーデン製のSTOL多目的戦闘機のことを、
写真では何度も目にしていた。しかし、実際に見るのははじめてである。そして、尾翼には――
興奮を抑えきれない声で、往人は晴子に向けて怒鳴った。
「領空侵犯機を視認! 機種はJAS39“グリペン”。尾翼に――尾翼に“千島奪還旗”!
間違いない、こいつはWINTERS師団航空隊だ!」
「“グリペン”やて……?」
また微妙な機体を――政治的にとんでもない事態が進行中であることを一瞬忘れて、
晴子は頭痛がしそうなこめかみを押さえた。
確かに“グリペン”は優秀な多目的戦闘機だ。制空戦闘、地上攻撃、偵察等あらゆる任務を
そつなくこなせるし、群を抜いたSTOL性能と劣悪な整備環境でも運用できるタフさも魅力だ。
何より他の第4世代戦闘機に比べて格段の安さを実現しているのが素晴らしい。
だが、“ラファール”や“ユーロファイター”や“ストライクイーグル”を指揮して
Su-27系列と殴り合いを演じている晴子からしてみれば、偏見かもしれないが“グリペン”に
一抹の不安を感じてしまう。どうしても二流田舎空軍の戦闘機という印象が抜けないのだ。
はぁ、いっそJ35“ドラケン”で来てくれた方があきらめもつくんやけど――暢気にそう思うあたりが、
最高級戦闘機を派手に使い倒しているAIR航空隊司令としての贅沢な感想かもしれない。
「……晴子、晴子!」
肩を叩く敬介の声で、はっと我に返る。スクリーンでは『WINTERS』の注釈が付与された
光点の集団が急速に南下している。その先には州都があり、そしてその近辺の空域では、
数こそ多くないものの両軍の戦闘機が制空権を争っていた。そこに1個中隊が殴り込んだらどうなるか
――舌打ちした晴子は、集成旅団とつなぎっぱなしになっている受話器をひっ掴んだ。
「旅団長! 言い訳はあとで聞くさかい、今はとっととこの基地外連中を誘導しぃ!
間違うてこっちを撃墜してみぃ、アンタ目がけてフルスケールで爆撃かましたるからなっ!」
WINTERS師団は師団長の平井中将以下全員が『頭のネジが10本単位で抜けてて、
しかもそれが不必要な場所にはまってる』と称されるような、常識外れの集団だった。
確かに援軍と称してAIR航空隊に攻撃を仕掛けてきそうな雰囲気は多大にある。
『了解。それではデータリンクを要求する。彼らの早期警戒機も後続できているはずだ』
「ちっとは遠慮した口をきけぇ!」
旅団長のしれっとした口調に、晴子の血圧がまたあがる。
――後世に言う州都救援航空戦、『WINTERS師団第81号作戦』がここに始まった。
>>81-86「北から来たグリフォン」投下完了です。
ゴメンなさい・・・期待を裏切って
ではゴールデンイーグルを(w
・・・グリペンかい(^_^;;;
こうなると残っている戦闘機は何があるのやら(笑)
90 :
88:02/09/25 20:19 ID:/dF//ovz
ぬお!?
更新しなかったのが敗因か……まあヨイヨイ
お陰で血管にケロシンが流れる様になったから(爆)
しかしグリペン、確かに微妙だ(w
経国は、ちぇりーそふとが使ってたり。
いっしょに名前の出て来たライアー師団がラビ/殲撃10を使用。
りょだんちょ殿の『始まりの終わり』より。
AF書き手の郵延滞残党としては、ライアーがイスラエル装備なのか、AFと同じく中共装備なのかが気になるw
そいや、仏製軍用機って、ごった煮のAiR空以外どこも手をつけてないのでは?
>>91 そうね。フランス系兵器はF&Cあたりに使わせようか。
名前の出ている大物メーカーはここくらいだろうし。
あと出ていない兵器といえば、イスラエルのがまだだったはず。
月姫以外の板違い勢力はほどほどにした方がよろしいかと。
>>93 設定でエロゲ国という板違い集団と隣接していることになっている以上、
ある程度はやむを得ないかと。そもそも隣の敵国で内戦が勃発したら、
普通は介入するでしょう。何もしなで静観している方が不自然ですよ。
ところで、現時点で話に絡んできている月以外の板違い勢力は、
・メビウス(久弥所属)
・プルトップ(椎原所属)
・エルフ(宇陀児内通?)
・ビジュアルアーツ(VA財団っていう形で)
・WINTERS
・F&C
・田所のところ(名前忘れた)
・千代田連合(地図上のみ)
くらいでしたっけ?
残っているのはインドのLCAくらいかな?
後、韓国のA50はどこかで使うとネタとして面白いかも(w
>>94 上にも出て来てるが、鍵と境を接するらしい(ということは、正葉・エロ同人とも隣接するか?)ライアーとちぇりーが偵察活動を活発化させてる。
アリスは以前名前だけ出てきたけど、これは本当に名前だけしか出てきていないため、新大陸の総督領に存在する軍閥とは考えにくい。
多分、エロゲ国本国の支配勢力かと。
一方で謎なのは、ネクストンが存在の片鱗すらみせないことかw
>>95 韓国ですか。するとパクリ戦車・K1A1も出てきますね。
航空機も含めて意外といい装備になるかも(w
>>96 個人的なイメージだと、エロゲ界の東西の雄・アリスとエルフは、
本領に拠点を置いているのではないかと。まぁエルフは今落ち目
だから、アリスが支配勢力だろうとは思いますけど。
ところで、ライアーとちぇりーって出てきてましたっけ?(w
ちんくおIDFって出てきました?
>>94 >そもそも隣の敵国で内戦が勃発したら、
>普通は介入するでしょう。何もしなで静観している方が不自然ですよ。
これに関してはエロゲ国内での勢力争いが激しいため、中々隣国に手を出せないことで説明がつく。
じっさい、SS中にもそういった記述がある。
ていうか、好きな兵器を出したいのは分かるが、とりあえず落ち着け。
際限なく板違い勢力を参加させてたら物語に収集がつかなくなる。
>>98 上の「北からきたグリフォン」でも名前出て来てるやんw
>>81より
そう言いつつ、晴子は起きあがった。受話器をモニターにして、手早く着替えていく。
ちなみにこの場合の『領空侵犯』は、エロゲ国北方総督領からの侵犯機を意味する。
「数は?」
あんまり気のない様子で尋ねる。北方総督領の各軍閥、特に位置が近いちぇりー師団や
ライアー師団はしきりに戦術偵察機を飛ばして、この葉鍵内戦の実情を探っている。
この種の侵犯は日常茶飯事だった。
このへん、まさに名前だけw
>>100 ある程度同意。
もうそろそろ、飽和状態ではあるな。
登場した板違い勢力にご退場願わんと、捌き切れない懸念はある。
……まぁ、ひとつ早々に消えそうな勢力はあるけどさ(笑
>>100 そうですかねぇ。
田所のように北から南からとちょこちょこ介入しているのもいるからなぁ(w
それと、一応「総督領」なんだから、軍閥が割拠しているとはいえ、ある程度
の力を持った軍閥(総督)がいるんでしょう。そうなると隣国に手を出せない
程国内が荒れているとするには、それなりの理由がいりますよね。
ちなみにF&Cの隣にアージュを置いたのは、その理由をでっち上げるのが
主目的。連中で睨み合って「中々隣国に手を出せない」状態になってもらわ
ないと東葉は簡単には動けない。それは前のSSでも暗に述べられています。
アージュは(信者が)マナーが悪いので、エロゲ国の秩序を無視して動くよう
な真似をさせても、さして問題はないでしょう。実際煙たがられているし(w
あと、余談ですけど、俺はWW2好きで現代兵器は苦手という人なんで、実は
葉陣営がロシア軍装備というのも結構辛いくらいです。他のなんてとても(w
>>101 いや、以前から出てきてたのかなってこと。
問題にされているのは、最近、板違い勢力が乱立気味だってことですよね。
結局あんたはなにが言いたいのだ?
ヴァルキリーが現代の物価でも5兆円だってことだ。
>96
確かに。
Tacticsの組織改変はどう反映されるのか。
BaseSon、SCOREがあるがスタッフは持ち回りみたいになっているし。
このあたりがわからないと書こうにも書けないんだよなぁ・・・
>>94の内、メビウス、プルトップ、VA、エルフ、田所、F&Cは葉鍵との関連性が深いから出てきてもいいと思う。
でも、千代田とWINTERSはどうだろう。
いきなり平井中将とかいわれても全然わからないんだけど。
3月27日05時30分
エロゲ国南方総督領・テイル
「……そうですか、ついにWINTERSまで……ええ、はいわかりました。ご連絡、感謝します」
綺麗な声で電話相手の北方総督に礼を言うと、彼女――エロゲ国南方総督は静かに受話器を置いた。
美人とは言えないがふくよかと表現できなくもない顔に憂いを色濃く浮かべ、
肘をついて組んだ手の中に顔を埋める。
F6C軍閥の本拠地が置かれているテイルはまた、エロゲ国南方総督府が置かれている都市でもある。
その一角に設置されている総督府庁舎に、南方総督は詰めていた。ここ数日、公邸に帰ってもいない。
以前患った自律神経失調症が再発する危険もあったが、それでも彼女は自らの職務を
放り出す気はなかった。そう――これ以上、各軍閥による葉鍵内戦介入を阻止するために。
エロゲ国新大陸領においては、「総督」とはそう強い権限を有してはいない。
各軍閥の発言権が強いエロゲ国では、総督よりも各軍閥の長の方が実質的な権力を握っている。
とはいえ、総督の価値が全くないわけではない。各軍閥間の争いが深刻な段階に到った時には、
大抵はその地区を管轄する総督が調停に乗り出してきて、両者の仲介を行う。
総督が一部戦略物資の配分権を握っているし、また本領の政治中枢とは総督を通してしか
交渉できないので、各軍閥とも自らの権益が過度に侵犯されない限りは総督の権威を認めていた。
総督側も特定軍閥への肩入れを建前上はやっていないので、
群雄割拠状態の割には総督府体制はそれなりに機能している。
ただそれも、葉鍵内戦の勃発で怪しくなり始めていた。元々国境地帯にある各軍閥は
葉鍵領への限定侵攻を繰り返していたが、エロゲ国本領も葉鍵国とは敵対姿勢を取っていたので、
総督としてもこれを止めてはいなかった。そこまですると各軍閥から一斉に『干犯行為だ』と
反発を喰らってしまう。
しかし、軍閥の全力を挙げた侵攻がこうも多発するとなると話は違ってくる。この状態を
放置しておけばいたずらに国力を消耗し、ひいてはこの新大陸領を失うことにもなりかねない
――それが北方および南方の両総督の一致した意見だった。
決して杞憂とは言えなかった。旧くはねこねこ師団の例がある。最近では、東葉に侵攻した
挙げ句に主力が壊滅したメビウス・プルトップ軍閥がいい例だった。この損害を回復するための
同軍の緊急動員計画『SNOW』はまったく機能しておらず、東葉に隣接している軍閥としては戦力が
危険なまでに低下したままだ。仮に『SNOW』がこれから奇跡的に機能したとしても、
本格的な戦力回復はとても望めない。この軍閥を実質的に支配する久弥直樹中将の、
致命的なまでの後方支援に対する無理解に原因があるのだが、彼は南方総督府からの
『総督府独立連隊(総督が直接指揮できる唯一の部隊)を国境警備用に展開させてはどうか?』
との申し出も意固地になって拒み続けている。おそらく『SNOW』さえ機能すれば劣勢を挽回できる、
という現実を無視した願望がそうさせているのだろうが、このため同地方は安全保障上の
危険な空白地帯と成り果てていた。総督府の一部には『すでにあそこは失われたものとして
対策を立てるべきだ』との声すら出始めている。
メビウス・プルトップの愚を繰り返してはならない――そう決意した両総督は、
密かに連絡を取り合い各軍閥の暴走を押さえるべく奔走を始めた。
しかし各軍閥の独立主義に阻まれ、思うように工作が進んでいないのが現状である。そしてついに、
規模だけなら小軍閥に分類されるWINTERS師団までが動いてしまった。もはや悠長に構えてはいられない。
「とにかく、これ以上葉鍵内戦に本格介入する軍閥を出してはいけません。
『とらいあんぐるアロー事件』で統一的軍事行動を封じられている現状では、
いたずらに各個撃破を誘うだけです。それを防ぐためにも今までよりも一歩踏み込んだ対応を、
北方総督と協調して断固行う――当面はこれで行くしかないでしょうね」
総督は顔を上げると、傍らに控えていた副総督にそう語りかけた。
『とらいあんぐるアロー事件』。ちょうど月姫ゲリラが葉鍵国に浸透を始めた頃に発生した
エロゲ国軍部の一大スキャンダルである。当時JANIS軍参謀長の職にあった都築真紀少将が
主導していた「第38次統合作戦研究試案=作戦研究“とらいあんぐるアロー”」がマスコミに
流出したことにより発覚した。
“とらいあんぐるアロー”は、「エロゲ国存立を防衛するため」に葉鍵国に大規模侵攻をかけ、
同国を完全に解体することを目論んでいた。北方・南方の両総督領からの統一的同時侵攻、
葉鍵国内月姫ゲリラを支援しての葉鍵軍動員態勢の妨害、完全解体後の暫定統治体制確立など、
研究は詳細かつ具体的に練られていた。
そこで止めておけば良かったのだが――都築少将は調子の乗ってしまった。侵攻時のエロゲ国の
軍政・軍令をJANIS軍が『超法規的措置』によって掌握し、また両総督府を同軍の監視下に置く
という前提で研究を進めてしまったのだ。報道によりこれを知った各軍閥は『作戦研究に名を借りた
JANIS軍のクーデター計画だ』と一斉に反発、JANIS軍へ非難が集中してしまった。
あまりの騒ぎに両総督府はJANIS軍各部隊の実質的解散を命じざるを得なくなり、
ついにはエロゲ国本国政府が「“とらいあんぐるアロー”はあくまで一軍人の私的な研究であり、
将来において公式のものになることは絶対にあり得ない」と発表、同時に都築少将を罷免する
前代未聞の事態に発展してしまった。
この事件の影響により、「エロゲ国全軍による葉鍵国への統一的軍事行動」は実施も研究も
タブーとされてしまい、以後は各軍閥がバラバラに葉鍵国各軍事勢力へ対抗するようになる。
また、各軍閥間の小競り合いはこれ以降急増、群雄割拠状態に拍車をかけてしまった。
「しかし総督、例え総督命令を出したとしても、彼らがすんなり従うとも思えないのですが」
「――非常の手段ですが、スケープゴートを用意しましょう」
「と言いますと」
疲労の色濃い声とは裏腹の総督の強い眼光に気づいて、副総督は思わず居住まいを正した。
「メビウス・プルトップに犠牲になってもらいます。今後、彼らに対する一切の援助を停止、
物流も制限します。その上で東葉の侵攻および介入を誘い、彼らには退場してもらいます」
「そ……それは!」
「彼らが援助を拒否しているのです。他の軍閥も文句は言えないでしょう。」
「そんな……むざむざ、敵にあの地方を明け渡せと?」
「失われた土地は、いずれ取り返せばいいんです。奪還した土地は自らの領域に組み込んでいいと
許可を出せば、F&Cも千代田連合も率先して軍を出すでしょう。とにかく今は、
『葉鍵内戦に手を出して自滅した軍閥』という実例を作り出すことが先決です。それを見せしめとして示せば、
各軍閥――特にちぇりーやライアーといった中小軍閥は思い止まってくれます」
「久弥中将は、見殺しですか……」
「南方総督領は、久弥中将個人のための組織ではありません。各軍閥のため、
ひいては汎エロゲ主義のための組織です。どちらを優先させるかは、言うまでもないです」
穏やかな顔からは想像もつかない、綺麗だが厳しい声に、副総督も思わず居住まいを正した。
「わかりました」
「現在侵攻中のAF師団、歌月十夜師団、WINTERS師団については、北方総督に対応を一任します。
その代わりこちらはF&Cを始めとする各軍閥に根回しして、メビウス・プルトップ封鎖と侵攻自粛の
両総督共同命令の発令につとめましょう」
「侵攻自粛命令ですが、具体的にはどうのようになさいますか?」
「そうですね――基本的にこちらから介入するのは禁止。ただし、現在既に侵攻している場合、
葉鍵国から新規に侵攻を受けた場合、現地勢力からの正式な介入要請を受けた場合、
日常的な威力偵察を行う場合は例外とします。現在侵攻中の師団に関しては既得権益尊重の点から
強権は発動しませんが、なるべく介入規模を拡大しないように別途『要請』を行う
――これなら、各軍閥の反発を何とか抑えられるでしょう」
「わかりました。さっそく手配にかかります」
「あ、それと吉沢顧問官を呼んでください」
「え? はい、わかりました」
かつてネクストン軍Tactics師団(現在はネクストン軍が任務部隊制に移行したため解隊)の
師団長として現鍵自治州首脳部とともに戦った経験を持ち、後に意見の食い違いからネクストン軍を
放逐された吉沢努退役中将。現在では総督府専属顧問官として南方総督のスタッフとなっていた。
「軍事介入はともかくとして、政治介入で葉鍵国を弱体化させておく必要はありますからね。
それを、できれば総督府主導で行いたいんです」
「そのための吉沢顧問官ですね。わかりました、さっそく」
一礼して総督執務室を出ようとする副総督を、総督が呼び止めた。今までとはうってかわって、
優しい声になる。
「あの、副総督……ごめんなさいね。色々と大変な仕事ばかり押しつけて」
「……いえ」
振り返った副総督は、にっこり笑って答える。
「こんな時期に副総督になったのも、何かの運命でしょうから。あなたの下で働けて、
結構楽しいですよ。だから気にしないでください。それに……この時期に総督でいるよりは、
副総督の方がずいぶんとマシですから」
「ふふ、ずいぶんひどいことをいいますね」
思わず声を挙げて笑うふたり。ひとしきり笑ってから、今度こそ副総督は退室していった。
「……そう、今総督でいるのは自分なんだから、がんばらなくちゃ」
損な役回りばかり押しつけられる総督。名目に実質がなかなか伴わない役職。
しかしこの新大陸のエロゲ国領土を防衛する責を任じられた以上、あらゆる手段を使って
この国を護っていかなければならない。特に、近視眼的にしかものを見ない各軍閥の手綱を引き締め、
新大陸領全体の利益に向けて誘導できるのは、自分たちだけなのだ。
そう決意した彼女――エロゲ国新大陸南方総督・長崎みなみは、北方総督府への直通回線をプッシュした。
「……あ、長崎です……いえ、度々すみません。ええ、北都南総督をお願いします」
>>109-113「ゴッドマザー」投下完了です。
国外勢力の参戦制限は、こんなもんでどうでっしゃろ?
115 :
名無しさんだよもん:02/09/26 20:14 ID:116VsAx3
>とらいあんぐるアロー事件
めちゃわらた。
各勢力のなかで判明している兵器系統とか。
下葉=旧ソ連/ロシア
AIR航空隊=欧州・アメリカ
東葉=旧ソ連/ロシア
歌月十夜師団=主に旧ソ(各勢力のお下がり)
遠野財閥=アメリカかな
電波花畑=アメリカ
超政権=アメリカ(花畑ルートで入手?)
AF=中華
WINTERS師団=スウェーデンかね?ここらへんは中小諸国や旧ソ連等の中古兵器を想像。
大まかでスマソ。間違ってたら指摘よろしくです。
ヴァルキリーとかタイガーシャークとか、こんな面白兵器どこから調達してくるのかね。晴子さんX-29でドッグファイトしそうだなぁ。MTDとか。
117 :
名無しさんだよもん:02/09/27 01:01 ID:iZs1OGQJ
月姫は自衛隊式。
まあ、アメちゃんの兵器もつかってるだろうけど。
>とらいあんぐるアロー事件
もちろん某RSB・・・
PAMPAMPAM
>>116 メビウス・プルトップはマングスタ使ってましたな。
122 :
名無しさんだよもん:02/09/27 16:36 ID:zEdImtHC
>123
年内か〜。
その「年」っていうのは、きっと2003年の事なんだろうな。
保守。うわぁぁいっ!!
実用一点張りのスチール製デスクと合皮のチェア。
比較的広い部屋ではあったが、使えると表現できるのはそれだけだった。
応接セットは無く、部屋中には段ボール箱が転がり、壁にはスチール棚が
組立の途中で掛けられていた。
正しく引っ越しの途中と云う感じの部屋。
尤も、今その部屋を占める空気は引っ越しの何処かしら明るさを持つ
ソレでは無く、緊張感を孕んだ仄暗い何か。
ブラインドが降ろされ、防諜用の鉛入りカーテンだけが理由ではない、
部屋の主が放つ何か。
少なくとも机の前に立つ高田中佐はそう感じていた。
そして机を挟んだ向こう側、がっしりとした作りの合皮チェアに、
何と言うか“ちょこんと”と云う表現が似つかわしい姿勢で腰掛けた女性が、
書類に目を通していた。
外界からの音が遮断された部屋に、軽い、ページを捲る音だけが響いている。
女性の襟元には大佐の階級章。
女性の名は琥珀。
正統リーフ国軍参謀長にして、発足した月姫民族相互救済機構【TYPE-MOON】
軍事部門の総括責任者でもある女性だった。
ページを捲る音が止まり、無意識に背筋を伸ばす高田中佐。
「WINTERS師団からの支援、そして国外勢力である被差別民と言って良い
月姫難民への協力…あはっ、ERELの皆さんもなかなか面白い事に
成ってきてますね」
とても愉しげな口調、だが目元は笑っていなかった。
「WINTERSの情報だけじゃアレだと思っていたんですけど、此処まで
EREL旅団が─いえ指揮官ですね。指揮官であるJRレギオン少将が
此処まで状況を動かそうとしているのですね。WINTERSは留学先
だったのですから」
表紙に「Air市リポート」とだけ素っ気なく書かれた書類には、
高田が潜入して調べ上げたAir市に関する諸情報、その他に駐留する
EREL集成旅団の基幹将兵に関する略歴まで記載されていた。
ゆっくりと指先でスチールデスクを叩く琥珀。
「元々、義勇軍将官でも主流派とは言い難い人でしたけど、まさか
此処まで思いっきりの良い行動を示すとは思いませんでしたねぇ。
あはっ、一歩間違えると売国奴ですけど、良い度胸と誉めてあげるべき、
ですね」
「売国奴……いえ、そもそも彼は果たして現政権に対して忠誠心を
持っているのでしょうか?
JRレギオン少将の思想は鍵主流派とは逆。
エロゲ主義の是非と云う視点では麻枝准元帥ら首脳陣と真っ向から
対立する立場ですから……」
「極左と自称する人間は革命と云う行動が大好きなんですよね。
なら己の目的のために国家、現体制を崩壊させる事を厭う筈が無い。
違いますか?」
「その可能性は高いかと」
「そうなると、EREL旅団がAir市に押し込まれた状況も、実はその事を
理解する麻枝元帥らによって仕組まれた粛清なのかもしれませんね
確か、歩兵部隊も似たようなものでしたよね?」
「はい。ERELの歩兵部隊は、旅団編成当初は懲罰大隊やバ鍵っ子を
基幹としていました」
「エロゲ主義を全肯定する極左と、問題児以外の何者でもないバ鍵っ子
……使い潰すにはコレだけ相応しい部隊も無いですね」
スチールを叩く指先が止まる。
「でもまぁそゆう事は私たち【TYPE-MOON】には直接関係無いのですよね。
問題は、苦境に陥っていたAir市在住の月姫難民に対して、
JRレギオン少将が温情的な対応を見せた、只それだけなのです。
だから、そゆう良い子のJRレギオン少将には魔法使いのお姉さんが
プレゼントをあげましょうね」
微笑。
だがそれは作り物めいて陰を、否。
陰を漂わせていた。
「一応言っておきますけど、鍵自治州は同盟国ですよ?」
悪寒めいたものを感じ、あわてて口を開く高田。
「そうですよね。だから軍事援助─支援もおかしく無い訳ですよ」
「……」
「何が問題ですか?コレは相互救済を掲げている「TYPE-MOON」が、
劣悪な環境に置かれている同胞を支援するだけですから。ええ。
その支援物資の中に少しだけ大きなお友達が喜ぶ玩具が入っていた、
只それだけです。大きなお友達は我々の友人であり、その苦境は、
最終的には正葉にまで波及するでしょう。であるならば私の判断は
高橋総帥も許容するでしょう。間違っていますか?」
「いえ……極めて合理的です」
何を基点にするかで判断の基準は異なってくるものであり、それ故に
物事の理非を問う事は難しい。
だが少なくとも正葉の、【TYPE-MOON】の利益を基点に考えた場合、
Air市防衛に尽力するEREL集成旅団への支援は、利益の多い選択肢で
あった。
「ですが、実施には慎重を期す必要があるのでは無いですかか?」
無意識のうちに、声を潜めた高田。
【TYPE-MOON】が、琥珀が行おうとしている事は、一般民衆向け
では人道援助と云う善行。
軍事的には劣勢な、同盟国に対する友好支援。
だがその内実は、同盟国の内政に対する干渉と言っても差し支え
の無いものであるのだから。
だが琥珀はそんな高田の心配を一笑に付した。
「駄目ですよそんな発想では。こゆう事は逆に堂々とやった方が、
良い結果が出ると言うものです。軍事物資に関しては、相手サンの
要求次第では些か欺瞞工作をする必要が出てくるかもしれませんけど、
一般民衆向けの食料や医療物資は、堂々と正統リーフと【TYPE-MOON】
の名で送りつけるべきなのです。正々堂々とした大義名分があるのです、
その方が相手に付け入る隙を与えないですから。……さて高田中佐、
Air市近在の秘匿補給基地は、現時点でどれだけの物資を備蓄して
いますか?」
嘘は堂々と付け、そう言わんばかりの琥珀の言葉に一瞬、目眩に
近いものを感じた高田。
だがそれも高田の頭脳のほんの片隅、只少しだけ右手の指先が
無意識にこめかみを揉んだ、それだけが反応だった。
参謀としての教育を受けている高田は、殆ど条件反射に近い水準で、
上司−琥珀の望む情報を延べ上げていた。
組み上げられていくEREL集成旅団への支援物資。
主力は戦車。
老朽化したものの、砲塔周りに反応装甲を増設し防御力を強化した
74式改2型戦車が7両である。
極めて半端な数字であるが、そもそもが鍵正葉の同盟成立によって、
正葉領内へと移動する事と成った現鍵自治州地域の月姫ゲリラ部隊が
装備していた戦車を秘匿したものであり、ある意味で当然と言えた。
そもそも、本戦車が正葉領内への移動に手間が掛かる事─潜伏して
いた状況を鍵自治州側に察知されずに移動させる事は極めて難しく、
此が察知された場合に部隊展開と輸送能力と云うゲリラにとって重要な
能力を鍵自治州側が知ってしまう危険性を考慮した結果であった。
正直惜しまぬ訳では無かったが、旧式と言って良い74式改2型は、
其処までする価値の在る戦車ではない─少なくとも90式で全ての
戦車部隊を更新する目処が立っていたのだから、妥当な判断であった。
この他、一個普通化(歩兵)連隊分の装備が供出される事が決定した。
64式自動小銃や62式機関銃、或いは79式対舟艇対戦車誘導弾
などと云った些か旧式化した装備ではあったが、EREL集成旅団が、
月姫難民による義勇隊を受け入れた事で、武器弾薬は幾ら在っても
過剰と云う事は無い、その判断故だった。
支援物資の輸送計画や、自衛隊式装備の使用方法を伝達する為の
人員選抜等、細部の詰めを行った後、各部署への伝達の為に高田が
部屋を辞した後。
「まぁここら辺は受け入れ側の反応次第ですけどね………。でも、
出来れば私の期待を裏切って欲しくはないですねJRレギオンさん。
混沌が嫌いじゃ無いでしょ? 闘争は好きですよね? 此は私からの
メッセージですよ。血と炎をまき散らし派手に踊って下さいな」
琥珀は誰に言う事も無き呟き。
口元は極めて愉しげに綻んでいた。
>>126-130 「薪をくべるもの」UP致しました。
悪意の全くないプレゼントですので、受け取ってくれたら嬉しいですね(笑
>>46 頑張りますm(_ _)m
でも、月姫キャラも既に出尽くしている状態と云う罠……どーしましょう(笑
>>56 此をどうしろと(笑
いやもう、ファンとして酷いものにならない事を祈るだけです……ああ、マップスの
様に成って欲しくないですねぇ(遠い目
「空の境界」がのこってるぞ。
入れるのか?空の境界。
入れて良いのですか、空の境界?
そら入れれば動員人員は拡大しますが、スレの方向性に馴染まない気がするんですけど
大丈夫ですかね?
ご意見、望みます>ALL
う〜む…。特殊な扱いとして慎重に扱えばいいと思いますが(RR
どうなんでしょうねぇ。
時間があったら、VN旅団書こうとおもいまふ
流れる川ように保守。
更に保守。
軍事顧問さんの光臨を待ちつつ保守。
あ、スマソ。137-138だった。
ちょっと意味がよく分からんのだが…。
う〜ん、このスレが終わるくらいに軍事顧問が空き地の町超政権に復帰とか。そゆこと?
>>142
軍事顧問団はご勘弁願いたい。
145 :
乖離:02/10/01 00:55 ID:n6dkDVvG
3月27日1843時
ロイハイトが死と静寂に包まれたその夜、岡田中佐は上機嫌だった。
甚だ不快に感じていたはずの、薄暗く湿った臭気のある空気に満ちた、司令部壕の奥で上機嫌だった。
居並ぶ幕僚の1/3は、彼女と同じく歓喜と興奮を隠さない。
全面的なガス攻撃の結果は、田所軍突入部隊の壊乱と無秩序な敗走だった。
敗走した敵の遺棄死体は、市街全域から敵軍の退去が確認されてからのこの一時間で回収したものだけですでに四桁に迫っている。
他の1/3の表情は、暗く痛ましげに沈んでいた。
この状況を祝福している連中に、粘っこい何かを含んだ視線を投げ掛ける者すらいる。
敵が大損害を出したと予想されるのと同様に、友軍の戦死者もまた極めて多い。
その過半が、岡田中佐が状況開始を指示した18時前後に生まれた損害だった。
このすでに四桁を突破した膨大な損害に関して特筆すべきことは、司令部要員にすら『戦死者』が出ていることだろう。
そう、岡田の座する司令部もまた、『敵ファシスト軍による毒ガス攻撃』を受けたのだ。
戦死した司令部要員の死体には何故か、例外なく下川軍が使用する7.62mm小銃弾の弾痕が残されていたが……長生きしたいのならば、それは気にするべき事柄ではない。
もちろん、その死体が例外なく一足先に人民の英雄となった斉藤大将(二階級特進)幕下の国境警備隊幹部であることも、大した理由ではなかった。
――もう一つ。
前線将兵の戦死者も、多くが斉藤少将の戦死に不信を抱き、岡田中佐の指揮権継承に異議を唱えた国境警備隊部隊であることも、偶然であることを弁えなくてはならない。
彼らの『反抗』に基づく『指揮系統上の事故』により、化学戦の指示が『伝わらなかった』のは本当に不幸なことだ。
そう、不幸な事故なのだ。
それらに何らかの疑念を抱き、その疑念を視線でなく言葉として周辺に表明してしまったが最後、自分の名前もまた戦死者名簿に載ることは疑いのない事実だった。
事実だったから、彼らは決して口には出さなかった。
その胸中にどろどろとした粘着性の熱い何かを滾らせているにしても、それを公然と表明することだけはしなかった。
146 :
乖離:02/10/01 00:56 ID:n6dkDVvG
残る1/3は、先の二者よりも大人であるし、警官であるより軍人としての分を重視してもいる集団だった。
疑念を視線に出す者たちより危険を弁えているし、不幸な死者のことをも含めて祝意を表している連中よりも感受性が豊富であったから、ただ黙々と任務に精励するという態度でこの事態にあたることを選択したのだ。
今回の決断がなければ、火力と兵力量で絶対的に劣るロイハイトは陥落を免れなかっただろう。
どうせ敵軍はジュネーブ条約やハーグ陸戦法規を遵守していないのだし、葉鍵国もそもそもこれらに調印していない。BC兵器の使用自体が違法ではないのだ。
ただ、交戦勢力によるBC兵器の無制限使用という事態に陥る最悪の状況を考えれば、おいそれと使うことが阻まれるだけ。
それとてならず者以外の評価を聞かないAFが相手なら、彼らの先制使用という事態は十分に考えられるのだからそもそも枷は存在しないようなものだった。
この三者三通りの思いを抱く防衛隊の幹部たちに、一つ共通する点がある。
死者、二千七百八十五名。
負傷者、千九百五十二名。
未だ時間とともに拡大を続けるこの数に、大きな関心を払う者は殆どいなかった。
死者。死者、負傷者と言うのか?
死者と言えば、人のことを差すのではないか?
皮肉げにそう笑い飛ばした幹部さえいた。
死んだのは皆、月厨だろう。
AFに協力する裏切りもの連中じゃないか。
月厨の中でも多少は従順な連中は、とっくの昔に後方ラエート地方などの難民キャンプ(内務省が設けたものだった)に脱出しているはずだ。
前線となった地域に隠れ潜んでいるような連中は、どいつもこいつも『歌月十夜』の到来を待ち望んでいた分離主義者ばかりじゃないか。なにを気にする必要がある。
147 :
乖離:02/10/01 00:58 ID:n6dkDVvG
彼らのその主張は、一面において真実である。
市街地での遅滞戦闘、雑多な部隊の寄せ集めである上に火力と兵力に圧倒的な開きがあるとは言え、地の利はこちらにあった。わずかの間を稼ぐのも難しい、と言う訳ではない。
制空権が常時敵にあった訳でもない。日夜繰り広げられる航空撃滅戦は、未だどちらが優勢ともつかぬ。
にもかかわらず。
ほんのわずかも押し止まることもできず、こちらの布陣の弱所を知るかのような攻撃に、防衛隊はずるずるとただ後退を続けた。
明らかに月姫難民に潜む分離主義者、歌月十夜の内通者の存在のためだ。
この苦境の原因を、司令部はそう決め付けた。
現実に、戦闘の全過程を通じて彼ら月姫ゲリラの活動は下川軍の戦闘継続の努力に甚大な影響を及ぼしている。
それは、前線では侵攻部隊への情報提供、重要施設・通信網への破壊工作や防衛隊への背面からの撹乱攻撃として現れ、後方では主に交通網の寸断として補給確保に壊滅的な被害をもたらした。
ロイハイト地方南方に展開したRR親衛隊五個師団、及び一個師団近くにまで増勢されたテネレッツァ軍が、田所軍の腹背を護るSTONEHEADS師団ほかを突破できずにいるのも、それが主な原因だ。
後方のように月厨を人的資源として捉えることができるほど、そうした状況に直接晒される防衛部隊首脳には余裕はない。
余裕がないどころか、その憎悪は頂点に達していたと言って良い。
結局岡田警察中佐率いる司令部は、民族的憎悪に狩られて片面の真実のみに目を奪われたのだ。
彼女たちの目には、身重の主婦や老齢の病人、その付き添いの家族やなど、物理的な理由からこの街を出ることができなかった人々は入っていなかった。
郷土防衛隊に参戦し、自ら銃を執って同胞の『侵略』から祖国を護ろうとする義勇兵は、スパイ容疑者としてしか映らなかった。
そうした『分離主義容疑者』に幾ばくかでも同情や共感を示す兵は、敗北主義者か売国奴以外の何者でもなかった。
その種の兵は、実際には戦友として前線で戦う者の中で多数派を占めてさえいたのだが―――久瀬内務尚書が前線と心理的な距離があったのと同様に、前線の中でも司令部と将兵の間に距離があることに、司令部は気付かない。
148 :
乖離:02/10/01 00:58 ID:n6dkDVvG
気付かないままに、岡田中佐は政治警察のカフタイトルを巻いた士官ににこやかな笑顔を向けた。
「さて、政治警察には本来の仕事に戻ってもらわなくちゃね。。
住民の避難活動なんてやってた馬鹿な連中がいたでしょ? そいつらみんなマークして。
適当な罪状見付けたら、ヤっちゃっていいから」
「……それは、しかし。宜しいのですか? 中佐、彼らの中には……」
政治警察局の男の表情に懸念の色が浮ぶ。
彼が言いよどんだ言葉の先を、岡田は明確に理解していた。
そしてその配慮をせせら笑う。
すでにあたしは禁忌の一線を踏み越えた。次の一線を踏み越えるのに、どれほどの覚悟が必要だと言うんだろう?
何も無い虚空にその一歩を踏み出したら、あとはどれほどあがいても落ちてゆくしかないのだ。
何もあがくことはない。その自由落下に身を任せて、どこまでも落ちていってしまえばいい。
「対象の中に松本がいるっての?
構わないわ、他と同じ処理で構わない。あの娘は、何時だって私の言うことを聞かないんだから。
そろそろ、他人の善意の忠告を聞かなければどうなるか、身をもって味わっても良い頃よ」
大尉もそう思わない?
上機嫌なままに嗤い、問い返す。
その嗤いに乗せられた悪意と狂気に中てられ、背筋を震わせて絶句した大尉の答えはそもそも期待してはいない。
「いい、大尉?
久瀬閣下にはくれぐれも気付かれないように。事態の密告なんて考えるだけ無駄よ?
あんた達も今度のことは看過したんだから、今更何やったって一蓮托生だからね」
言い捨てて、大尉が頷くのも確認せずに身を翻した。
149 :
乖離:02/10/01 01:00 ID:n6dkDVvG
凝然と立ちつくす大尉は捨て置き、そのまま外への通路へと向かう岡田の背中に、無線機とにらみ合っていた兵から声が掛かる。
「中佐、定時連絡の時間ですが……」
アクアプラスシティ、内務省中央作戦管制センターとの間の定時連絡。
作戦開始以降、すでに何度か緊急の呼びかけを無視している。司令部だけでなく、前線部隊にも固く連絡を禁じていた。
政治警察の部隊も、その徹底のために前線の司令部に貼り付けてもいる。
後方と連絡を取るにはまだ早い。そう、まだ早い。
何しろ攻撃を受けたのは『こちら側』なのだ。そう簡単に指揮系統を回復させる訳にはいかない。
何しろ我が守備隊は、指導部の少なからずを失って混乱のまっさなか。冷静沈着に問い合わせに対応できる状況ではない―――という公式設定。
誰もがそれを茶番であると知っているにしても、後のどんでん返しに繋げるには伏線はきちんと張って置かなければならないのだ。
「まだ繋ぐな。無視してりゃいいわ……こっちは『AF師団による』無差別神経ガス攻撃のため混乱してるの。
状況確認したければ、横着せずに自分で見に来なさいってね」
もっとも調査団を組んで見に来ても、生きて帰れるって保証はないけどね。
こればかりは口中のみで呟いて、岡田警察中佐はくつくつと喉の奥で嗤った―――
<糸冬>
おつかれさま。
岡田悪いですねぇ〜。こういう悪役漏れ大好き。
所で、歌月十夜師団&AF師団はほぼ全滅ですか?
>>150 一応、田所軍の被害は二、三個大隊程度に収まる範囲で書いたつもりでつ(故に現時点で戦死者はまだ四桁に達してない)
まぁ、その辺は自己リレーか他者リレーかわからないけど後続をマテ、ってことでw
そして就寝。
152 :
150:02/10/01 06:40 ID:jTqPidhG
>>151 りょーかい…って、文章書けないんでつが漏れ。鬱。
しもた……上は26日の出来事でつ。
27日は間違いですた。
ログ編集時、集成お願いしまつ……
155 :
名無しさんだよもん:02/10/03 00:56 ID:1LZ6A16L
/;;;;;;;ヾヾヾヾミミミミヾi!r'i!ll!l!ll!/ミヾ
./;;;;;;;;;;;;;;;;;;彡三ミミミミミi!〃//,',!l!ノノ)ヽ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヾヾ!゙!゙!ヾ゙ヾ'ゞ 巛川川川;;;ヾ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヾヾ!゙!゙!ゞゞゞ゛゛゛ ''''''""""" ;ヾ
i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i゛:::::::::::::::::::: ;;;ヽ
i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i:::::::::::::::::::::::: ;ヾ
i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i ,,,,,,,,,, ,,,,;;'''''ヽ|
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,,i;;;;;;;;;;;;;;i :::::::: ,,,,,,, :::: ゞツヽヽ
({ ヽ;;;;;;;;i :::::::: =''ヽ゚ノヽ :::: :::: :::|
ヽ ( ヽ;;;;i::::::::::::::: :::: '::::ヽ:: ::::|
ヽ ヽヽリ::::::::::::::::::::::::: /;;;;; ヽ:: ::::|
゛-,;;;,, :::::::::::::::::::::: ヽ、,;;^--^" :::... |
,,,-''‐ ::::::::::::::::::: ,,,,,,,,,,::: |_ _
,‐-―" ::::::ヽ :::::::::::::::::::: ,;;;".==";ゞヽ/::゛-"::::::''''‐--、,,,,
――":::::::::::::::::::::::| ::::::::::::::::::: ヽ--- " ./::::::::::::::::::::::::::::::::::::゛―-
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:::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ ヽ:::::::::::::::::::::::: .,,,ノ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ ::::::;;;,,,,;;‐''"/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
リーフ軍最高司令長官 下川=シェンムー=直哉国家元帥
156 :
工作員:02/10/03 03:42 ID:F+2tLCPG
| \
|Д`) ダレモイナイ・・センニュウスルナラ イマノウチ
|⊂
|
整備兵 − 今日は新しい受信機のめんてなんす −
電波届きました。
ニイタカヤマノボレ
159 :
名無しさんだよもん:02/10/04 22:48 ID:sxxHRd3A
バンディット
高度10、方位110に敵を発見、
距離60マイル、視界外戦闘を許可する
しばらくWINTERS師団へ研修に行って来ます(w
>>161 帽振れw
しかし、これでただでさえ薄い書き手層がますます薄くなる罠。
帰還の目処はいつごろですかの……
>>161 どうせ選択肢1個だけの新作ゲームなので、明日には(w
旅団長!一体何をやっているのでありますか!?私非常に気になるのであります!
保守&保守。
>164
「こんな魔法少女アタシはレミィ」だと思うぞ。
保守&保守&保守。
>>166 そのとおり。
やり終えたけど、ちょっと幻覚症状が出てるから続きはしばらく待ってくれ(w
保守&保守&保守&保守。
hoshu
保守
保守
PX
保守
3月27日05時17分
ものみの丘地区・AIR航空隊基地
指揮所に掲げられた大型スクリーン。そのうち自治州中央部を示す辺りは、
光点が集中して他の部分よりも一段と明るくなっていた。
現在この空域に展開しているのは、AIR航空隊の戦闘機14機(“ラファール”が5機、F-16が5機、
“ユーロファイター”が4機)、下葉防空軍が戦闘機20機(MiG-29が7機、Su-27が4機、Su-35が3機、
機種不明が6機)、そして北から接近中の“魔女飛行隊”が16機(全機が“グリペン”)。
この他にスクランブル発進したF-15EとF-20Aを入れると、総計50機の戦闘機がこの空域に密集していた。
戦力比は、“魔女飛行隊”を信用するならば3:2。
『カラスよりニンギョ。魔女飛行隊はAAMを一斉発射した』
“魔女飛行隊”を監視している国崎中佐からの報告が入ったのは、ちょうど下葉戦闘機側の通信量が
一気に増大した直後のことだった。どうやら向こう側も“魔女飛行隊”の存在に気づいたらしい。
互角の制空戦闘を演じている最中に突然現れた敵性航空機に狼狽しているさまが
手に取るようにわかる。
「ニンギョよりカラス。引き続き連中をしっかり見張り。妙な挙動をしたらすぐ知らせるんや」
晴子はそう指示を出しつつ、手元のモニターに“グリペン”に関する情報を呼び出した。
この距離からということは――ちらりとその情報に目を通して、晴子は大型スクリーンに視線を戻す。
奴らが発射したのは、距離からしてAMRAAM相当のRb99中距離空対空ミサイル。
数はスクリーン上で確認できるもので約30発。はん、奴ら手持ちのRb99を全部発射しよったな
(晴子は“グリペン”の装備を、Rb99×2・Rb74(サイドワインダー相当)×4・増槽×1と推測していた)。
突然敵機が取り始めた回避行動に戸惑ったのだろう、交戦中のパイロットから次々と
疑問の声が届く。皆一様に、事情の説明を求めていた。
「どうする、晴子?」
敬介が振り返り、途方に暮れた顔を向ける。
「今なら、連中の回避行動を妨害できるが?」
「……」
そう、今ならRb99のロックオンから逃れようとする下葉側戦闘機の不意を衝き放題だ。
回避行動を妨害してRb99にロックオンさせることも出来れば、直接相手を撃墜することも出来る。
何しろ彼らは奇襲を受けたのだ。
だがそうすれば、『前線指揮官が勝手に外国軍を介入させた』というJRレギオン少将の暴挙に、
AIR航空隊も乗ってしまうことを意味する。元勲抜きでそんなことを決断していいのだろうか?
ここに元勲の誰かがいれば話は早いのだが、ここには誰もいない。先ほど伝令を出したのだが、
おそらく彼らがここに駆けつけるのはあと数分先のことだ。数分――航空戦にとって、
なんと長い時間だろう!
晴子の視点が、スクリーンの少し上方に動く。数百キロ北方の空域を遊弋しているふたつの光点。
状況からして、WINTERS師団の早期警戒機に間違いない。手元のモニターには
フェーズド・アレイ・レーダー搭載のサーブS100B“アーガス”早期警戒機のデータも
表示されている。先ほど、こちらで把握している敵性航空機の情報はこいつに送った。
「どないする……」
思わず小声が漏れる。今ここで下葉の戦闘機をあらかた墜とせたら、
一気に制空権を握ることが出来る。一度優位に立ってしまえば、自治州上空を聖域化できる。
あとは切れ目無く戦闘機を投入し続ければいい。こんな絶好の機会、この先訪れるかどうか
極めて怪しい。問題はただ一点、WINTERS師団の介入に協力するのかどうか――
「あの狸親父、ここまで見越したからこの時間に介入させたんやな」
吐き捨てるように呟くと、晴子は大きくため息をついた。
「あの旅団長の目論見に乗るんはけったくそ悪いが、しゃあない――全機に伝達。
“魔女飛行隊”に協力し、敵戦闘機撃墜に全力挙げるんや!」
「いいんだな、晴子?」
「かまへん。ウチの仕事は自治州の空の護りを固めることや。
くだらん政治的な理由でそのチャンスをドブに捨てることはできん」
敬介に頷いてから、晴子は改めて視線をスクリーンに固定させた。
「ウチは政治家やない――パイロットや」
同日同時刻
アクアプラスシティ
「こんな莫迦なことがあってたまるかっ!」
下葉防空軍の数ある地下指揮所の一つで、中尾圭佑大佐は思わず声を荒げた。
首都以北および鍵自治州上空の情報を表示するスクリーンは、しかし彼の望まない情報を
はっきりと表示していた。
突如として自治州上空に出現した約20機の国籍不明機。オペレーターがそれに気づいて
警告の叫びを挙げたのと、その編隊からAAM発射を確認できたのとがほぼ同時だった。
昨晩からのロイハイトの混乱の影響で早期警戒機をそちらの方に集中させていたため、
鍵自治州上空の警戒範囲が通常より後退していた。その不意を衝かれてしまったのだ。
「全機、回避機動に入りました!」
オペレーターの絶叫に近い報告も、中尾の焦りを鎮めることは出来ない。これが通常の状態なら、
確かに心配はいるまい。鍵自治州へ出撃させているのは、中尾の手駒の中でも特に
練度の高い連中を集めた精鋭部隊なのだ。機体もMiG-29やSu-27といった最新鋭機で固めてある。
AMRAAMの通常射程でねらわれた程度なら、余裕の回避を期待できる。
だが今は、これも精鋭のAIR航空隊と格闘戦の最中なのだ。いわば、
がっぷり四つに組んでいる最中に後ろから斬りつけられるようなものだ。
スクリーンの光点が激しく点滅を始めた。味方を表す光点が続けざまに3つ消える。
おそらくAIR航空隊に隙を衝かれて撃墜されたのだろう。
「今待機中の機体はっ!」
「現在22機! しかし大半がロイハイト向けのMiG-23です!」
「Su-27はっ!」
「出撃可能な機体は現在4機! あとMiG-29が3機! 残りは整備班でばらしてます!」
「冗談じゃない……」
つまり、ここであの20機を失ってしまったら、こちらは自治州中央部の制空権を喪失してしまう。
現在の動員計画を進めるなら、1ヶ月後には戦力を回復することは出来るが、
それまではAIR航空隊に戦力で圧倒され続けることになる。制空権奪取など夢のまた夢だ。
「どうすればいいんだ」
AIR航空隊に邪魔をされたのだろう、十分に回避機動を取れずにAMRAAMに食いつかれた
Su-27が3機消滅するのを見つめながら、中尾は再び呻いた。
「これじゃ、南方先端部の制空権確保が関の山だ」
画面は、更に接近した国籍不明機の編隊がAAMの第二撃を放った様子を映し出していた。
顔が青ざめているのを自覚しながら、中尾は現状の検討を大急ぎで始める。
南方先端部は、とりあえずは心配いらない。地対空ミサイルの配備は順調に進んでいるから、
これとSu-27を組み合わせれば防空戦闘自体は容易い。問題は、現在侵攻中のRR装甲軍に
エアカバーをさしかけることが出来なくなることだ。戦闘機を派遣すること自体は不可能ではないが、
今あの20機を失ってしまっては持続的に制空権を維持できない。そして、
いかに強力な機甲部隊だろうと、制空権を奪われてはその機動力を生かすことは不可能だ。
つまり――今彼らは、自治州を短期間で屈服させられる可能性を完全に喪失しようとしている。
当然そうなれば、ものみの丘の早期占領は諦めるしかない。
それが中尾個人にとって意味するところは――
「いたるが……いたるが……俺のいたるがぁぁぁぁっ!」
「…………」
オペレーターたちの絶対零度の視線が集中するのにも気づかず、中尾は頭を抱えて絶叫した。
同日同時刻
ものみの丘地区・AIR航空隊基地
麻枝元帥と涼元大将が指揮所に駆け込んできたとき、大型スクリーンで展開されている空戦は
まさに佳境を迎えていた。3種類の光点が激しく点滅し、刻一刻とその状況を変えていく。
「あぁ、挨拶はいい。神尾君、とにかく状況を説明してくれ」
微かに青ざめた麻枝が晴子を促す。
「“魔女飛行隊”に後背を衝かれて、下葉の連中は総崩れや。まぁもっとも、
うちらが回避を妨害したせいもあるけどな。
今は、うちらが主導で残党狩りの最中や。そう苦労もせんで、あらかた奴らを
自治州からたたき出せるで」
「晴子、後続部隊の出撃準備が完了した」
受話器でハンガーと連絡を取っていた敬介が、咄嗟に話に割ってはいる」
「何一々確認取っとんや、敬介! すぐに連中のケツ引っ叩いて出撃さしぃっ!
こんなチャンス、二度と無いんやでっ!」
「後続? 後続とはどういうことだっ!」
レンズを光らせて、涼元がずいっと前へ出てきた。
「まさかとは思うが、この機に乗じて制空権を握るつもりなのか?」
「……何当たり前のこと言っとるんや。この機会を逃せば、
今度いつ制空権を確保できるかわからへんで」
何を言っているのだ、と怪訝な表情をする晴子に、涼元は冷たい視線と声を叩き付ける。
「神尾大佐。君は、自治州防空という神聖な任務をWINTERS師団などという下賤な連中に
引っかき回されて、屈辱を感じないのかね」
「……は?」
冗談ではなくて、涼元が何を言ったのか晴子には理解できなかった。異星人を見るような気持ちで、
涼元の怜悧な顔を見つめる。
「確かにWINTERSの連中のお節介で、下葉航空戦力は大きな打撃を受けた。それは事実だろう。
しかし、今ここで我々がそれに乗じて制空権を握ったとあっては、我が鍵自治州総軍の
鼎の軽重を問われてしまうではないか。鍵自治州の制空権は、我々自身の手で掌握してこそ
意味があるのだよ」
「理解でけへんな。そんな政治向きな話は抜きにして、今現に制空権を握れる千載一遇の
チャンスが目の前にあるやないか。なら、それを一刻も早く掴むのが前線指揮官としての責務や」
「君も鍵自治州総軍の軍人だろうがっ! そのような近視眼的なものの見方は国を滅ぼすぞ。
真の軍人ならば、国家に忠誠を誓う防人としての自覚に目覚めたまえ!」
「そういう知った風な口はな……」
地の底から響くような声で晴子は唸ると、傍らのコンソールに思いっきり手のひらを叩き付けた。
「ちゃんと戦争に勝てるだけの物量を確保してから抜かせ、このドアホウッ!」
「な……っ!」
怒鳴り返されるとは思ってもみなかったのだろう、涼元はあからさまに顔を引きつらせたまま
固まってしまった。口をパクパクさせたまま、言葉も出てこない。
「そりゃ、ウチかてWINTERSみたいな基地外連中に引っかき回されて、おもろいわけ無いわ。
けどな、現に連中のおかげで制空権握れたやないか! 元勲のアンタらが増援投入で
まごついてるうちにな! なら、連中の素性や思惑がどうやろうが、それを最大限利用するのが
軍人としての努めや。それが間違いいうんやったら、今すぐウチを解任しぃっ!」
「神尾大佐……貴様……」
ようやく衝撃から立ち直ったのだろう、涼元は頬をひくつかせて晴子を睨みつけた。
「WINTERSなどという格下の連中に借りを作って、屈辱ではないのか!? 鍵自治州は、
どこよりも強く、どこよりも正しくなければならんのだ! そうでなければ、
我々はエロゲ国や下葉からの圧力に抗しきれずに独立を失ってしまう! そんなこともわからんのか!
恥を知れ、恥を!」
「じゃかわしいっ! アホくさいこと抜かすな、青二才! ええか? 黒かろうが白かろうが、
鼠を捕る猫だけがええ猫なんやっ! 黒い白いで文句付ける暇があるんやったら、
まず鼠を捕る猫をぎょうさん揃えてから言えや、われっ!」
「貴様……」
涼元の神経も、ぶち切れ寸前だった。
もっとも、彼にも言い分はある。彼は戸越と同じく、建国の元勲の中では新参者の扱いを
受けている。そのため、より強く麻枝に対して忠実な態度を示し続けなければ、
ものみの丘で権力維持し続けられない恐れがあったのだ。そのため、内心のどこかでは
晴子の言い分を是としつつも、国外勢力の介入を断固として拒否して見せ、
麻枝の歓心を買う必要があると判断したのだが――まさか、ここまで無遠慮な罵倒を浴びるとは
思ってもみなかった。
貴様、それでも元勲恩顧組かっ!――そう怒鳴ろうとしてしかし、すんでの所で涼元は
その罵倒を呑み込んだ。麻枝は「元勲恩顧組」という言い回しをひどく嫌っている。
客観的に見れば偽善もいいとこだが、とにかくその麻枝の前でそう怒鳴ってしまっては、元も子もない。
そんな激情で煮詰まりそうな涼元をそっと手で制して、麻枝が進み出てきた。
「涼元君、確かに君の言うことにも一理あるが、現にWINTERS師団の介入によって制空権が
転がり込んできたという事実にかわりはない。ならば、今回のことは例外中の例外として処理し、
この好機を最大限活用しようではないか。本件での政治的失点は、また別の面で回復しよう」
「……わかりました」
表情では渋々と、しかし内心ではある意味ほっとして涼元は引き下がった。
あのまま晴子とやり合っていたら、感情の暴走を押さえきれていたかどうか涼元自身でも確信が持てない。
「すまんな、神尾君。それで、WINTERS師団からは新しい要求は出ているのか?」
「……ついさっき連絡があった」
大きくため息をついて感情を落ちつかせてから、晴子は大型スクリーンの一点を指さした。
「あそこを飛んどるS100B“アーガス”早期警戒機から通信があった。要求は2つ。1つは
“グリペン”にものみの丘で補給させること。もうひとつは“アーガス”に同行している
サーブ340旅客機――なんでも司令部専用機とか言っとったが、とにかくそれに搭乗している
WINTERS側指揮官の、ものみの丘飛来を許可すること」
しばらく腕を組んで黙考したいた麻枝だったが、小さくため息をついて頷いた。
「わかった。両方とも許可する。ただし、“グリペン”、“アーガス”そしてサーブ340は
非常用の滑走路と格納庫を使用させる。WINTERS側の人間と、AIR航空隊の要員は絶対に接触させるな」
「ああ、わかった」
「接触するのは、私たちとWINTERS側の指揮官1名だけに限定する――それがこちらの条件と、
向こうに伝えてくれ」
「了解――敬介、聞いてたとおりや。あの“アーガス”伝えたったりぃ」
はぁ、これでウチも麻枝元帥に、介入容認派としっかり記憶されたんやろな
――敬介に指示を飛ばしつつ、晴子は内心で頭を抱えた。そりゃウチの考えが間違うとるなんて
思うてへんし、それで麻枝元帥に悪ぅ思われても、それは別にええ。せやけど、
あのくそ忌々しい旅団長のシンパなんて見なされた日には――ウチの人生最大の屈辱や!
それこそWINTERSに借りを作った以上に!
今やAIR航空隊が主導権を握ったことを反映する大型スクリーンを眺めながら、
晴子は誰にも聞こえないくらいの小声で毒づいた。
「あのクソ狸親父――いつかバルカン砲ぶち込んだる!」
わお、旅団長粛清の危機?
月-空き地-ERELの弱者連合検討すっか。
メンテ!
うわっ、IDがRRだ!
めんて
アーガスって・・・
あの角材型レーダーのっけた早期警戒機かい(^_^;;;
あれ、横しか捜索できんぞ(w
>>189 WINTERS、AWACS揃える金なんて無さそう。
後方でぐるぐるぐるぐる旋回してると推測w
ていうか、アーガスって結構新しい機体じゃないか。
どうして、あんなものを90年代になって造ったのか、スウェーデン空軍。
ビゲンとかドラケンとかグリペンとか素敵な戦闘機あるのにな。
スウェーデンってなんかイロモノ担当な気がしてならないんだが。
193 :
名無しさんだよもん:02/10/13 01:40 ID:xeGsOc+z
Sタンクにしてもそうだけど。
けどスウェーデンの国産兵器には、小国なりに独立を保とうという
気概を感じる。キティガイさも感じる。
ageてしまった、スマソ
う〜ん、連休だねぇ。なんとなく保守。
保守
さらに保守。
流れる川の如く保守。
さらに続けて保守
心でageず手でageず。
闇夜に霜の降る如く保守。
今頃になってようやく月姫を始めたよ。
初めて月姫ゲリラ関係のネタが理解できた(w
保守。
>>旅団長
クリアの暁には歌月十夜もやるべし。
月厨はカエレ! とかいつもの様に言いいつつ実はただのメンテ
そろそろメンテっぽいので★。
207 :
204:02/10/15 20:00 ID:a/piu41x
むぅ、より葉鍵大戦記の登場人物を解して欲しかったのだが…
まあよい。ちょと軽率ダターよ。
208 :
205:02/10/16 00:50 ID:HwwrtvT3
俺も本気で言ってないぜ!
まぁ、挨拶みたいなもんダターよ。
>>207-208 ま、ここは葉鍵板、地獄の一丁目ってヤツだからね。
何の地獄かについては言及しないでおくが。
期待保守。
出かけ保守
お〜い、保守の行方を知らんか〜?
正直言って、WINTERSがそんなに影響力あるように思えないのだが・・・
保守。自分に文才がないのが悔しい…。
ほっしゅ。
えろげ国の侵攻は撃退したけど、下葉北部の被害もデカくなってしまったから
当面は、鍵、正葉とは休戦して、戦力と破壊されたインフラの回復に集中した方が
いいかもね。とりあえず、けろぴ〜シティとその周辺を獲得できただけでも、勝ち
戦と宣伝する事は可能な訳だから。
そやね。久瀬の目論見が成功すれば月姫難民が自治州各地で蜂起するはずだから、
鍵も下葉と殴り合う余裕はなくなるし。
そっち方面の戦線は小康状態にならざるを得ないかと。
問題は、空き地の町とシンキバに挟まれた下葉領と、あとシモカワグラードやね。
正葉としてはその辺くらいを確保しとかないと格好が付かないし、超政権は下葉との緩衝地帯が欲しいだろうし、
しぇんむーはこれ以上領土を無くすのは我慢ならんだろうし。
PLAYM樹立とかうだる倒れるとか、ネタになりそうな現実世界のイベントには事欠かないので、
今後も頑張って欲しいでつ(w
じごぐるもこのスレみてたんか。
みてたよ。
軍事はさっぱりなので乱入はできないが。
狗威氏と鮫牙氏はどこいったのだろう?
224 :
鮫牙:02/10/20 01:03 ID:71KdKm43
218の書きこみは俺です。いや最近再就職したので(でも三ヶ月は契約社員)
新しい仕事を覚えるのに忙しくて。
まあ、暇を見つけたら、まったく登場しない正葉VN旅団の話も書いてみたい
と思っている次第で。
整備兵 − 今日はバルカン砲のめんてなんす −
念入りに整備しておくように上層部より特命がはいってるです。
なんに使う予定なのでしょうか・・・
hosyu
227 :
名無しさんだよもん:02/10/20 13:34 ID:71KdKm43
age
228 :
名無しさんだよもん:02/10/20 13:37 ID:9zKC0j/a
工兵 - 先の戦闘で破壊されたインフラの整備
道路や橋梁、鉄道など通行不可なところは数えたらキリがありません。
民間の土木業者まで借り出して、自治州総出での復旧作業であります。
住井少佐、疲れました〜。休みくださいよぉ…。
>229工兵
住井「お前、月宮大尉がいた頃と比べたら、こんなもん天国だ天国!
まったく、最近入ってきた連中は根性が足りんよなあ……」
工兵「はっ、申し訳ありませんです!
…しかし、戦闘は一時終了したとはいえ主要道路はそこら中穴だらけ。
特に州都はRRの攻撃でどこまでが道路なのか見分けることすら困難なほどです。
こりゃ復旧作業も相当長くなりそうですね。
はぁ、お袋の飯がなつかしい…っと。いけないいけない」
メンテ。
住井「どっこいせ、っと。
さて、今日の住井さんの胃袋を満たしてくれるエネルギー源は何ざましょ」
工兵「あ、住井少佐。お疲れ様です。今日も素晴らしい夕餉を召し上がってらっしゃいますね」
住井「…お前、豆缶とレトルト米のどこが素晴らしいっていうんだよ。
ああ、俺たちにもっとマシな食事を食わせてくださいよ我が親愛なる麻枝元帥閣下ぁ!」
工兵「ココで叫んでもしょうがないでしょうが。あ、隣失礼します」
住井「おう、座れ座れ」
工兵「ところで、破壊された箇所の復旧作業はどのくらい進みました?」
住井「む、この豆缶意外とイケるな。この住井様ともあろう者があなどっていたな。
…ん?呼んだか?」
工兵「呼びましたよ。復旧作業はどの程度進展したのでありますか住井少佐殿?」
住井「そうだな。今ん所は州都の中でも特に戦闘が激しかったブロックを重点的に修復中だ。
何でも都市機能の回復を最優先にって元帥のお達しだそうだ」
工兵「なるほど。では主要都市間の国道や鉄道はどうなってるんですか?」
住井「基本的には民間業者が主導なんだと。餅を作るなら餅屋さんってことなんだろうけどな。
どっちかっつうと俺らの方が向いてない訳でもないが、まーそこらへんの諸事情は俺には解からん。
だいたいな、1個大隊で州都全域なんてカバーできないっつうの。
民間業者をもっと都市部に回してくれよなぁ」
工兵「そうですね…自分もお袋の作ってくれる飯がなつかしいですよ」
住井「誰が故郷の話をしろって言ったんだよ」
工兵「そういえば、ここの所月姫ゲリラの勢いが衰えてきましたね」
住井「こっ、このレトルト…、うまい!うまいぞぉッ!炊飯長おかわりっ!」
工兵「頼むから人の話を聞いてくださいよ。…少佐、少佐!」
住井「…ん、なんだ?呼んだか?」
工兵「2回も同じボケかまさないでくださいよ。月姫ゲリラのことなんですけど」
住井「おお、そういえば最近あまり見なくなったな。
こっちとしては道路工事なんて土木屋ライクな作業しなくてすむし、いいことだな。うん」
工兵「確かにそれはそれで全然構わないですけども」
住井「何だ、気になるのか?
何かとてつもない計画がありそうだとか?」
工兵「いや、そこまでは言いませんけど。
でも、もし今爆破テロの一つでもされたら、こちらとしてはかなり面倒くさいことになるじゃないですか」
住井「確かにそうだな。もしそうなったら、
あと一段で完成の積み木に零戦キックを喰らわされた様な体験をせざるを得ないだろうな。
我々工兵大隊は」
工兵「とてつもなく嫌な体験ですね。それは」
住井「そうだ。とてつもなく嫌な体験だったんだぞ!あれは!」
工兵「昔なにかあったんですか?あ、タバコ吸っても良いですか」
住井「おう、いいぞ。長い話だからな。
忘れもしない。俺がまだ幼かった頃の話だ。今は同期の桜である折原中佐にだな…」
工兵「少佐」
住井「…そして完成を目前とした六段積みの積み木ホワイトハウスに浩平の野郎、
『形あるのもはいつかは崩れ去るものだ』とかぬかしやがってだな…
ってなんだ?これからが話の核だってのに」
工兵「いや、もういいです。長いんで」
住井「……ヤツは『お父様、お母様、浩平は死んで祖国を守ります』と俺のホワイトハウスにバンザイアタックを」
工兵「だからもういいですって。話が逸れますから。またあとでじっくりと聞かせてもらいますよ」
住井「そうか……。んじゃあ明日から住井護列伝(全26巻)をじっくりと聞かせてやろう。んで話ってのはなんだ?」
工兵「いや、大したことじゃないんですけど」
住井「んじゃ俺の話を文字通り最期まで聞かせてあげ」
工兵「それだけは勘弁してください。住井少佐…」
住井「愛の告白は無しだぞ。これでも俺は健康な男子なんだ。他を当たってくれたまえ」
工兵「誰も少佐になんか告白しないから大丈夫ですよ。住井少佐って、一応は元勲恩顧組なんですよね?」
住井「…ツッコミどころが多くて返事に困るが、確かにそうだぞ。
先の独立戦争では先陣を切って地雷原に突入し、見事に」
工兵「撃沈したと」
住井「するか。見事地雷撤去に成功したり、渡河が困難な河川に橋頭堡を確保したり色々活躍したな。
だけど何でそんなこと聞くんだ?俺が元勲だって事くらい誰でも知ってるだろうに」
工兵「率直に言います。少佐から見て、今の鍵自治州はどうお思いですか?」
住井「いきなりとんでもないことを聞くな。話の脈絡が見えんぞ」
工兵「まぁ確かにそうなんですが…」
住井「ま、正直あまり良好な状態とは言えんわな。
そりゃあ確かに民主制度はきっちり守ってるし、下川のクソが治めるような国なんかとは
早く縁切って独立した方がいいに決まってるだろ」
工兵「それじゃ、なぜ?」
住井「…お前、絶対分かってて聞いてるだろ。普通、左官に元勲かどうかなんて聞かないぞ」
工兵「自分は独立戦争後に軍に入りましたから、あまり組織については詳しくないんです」
住井「むちゃくちゃ白々しいなお前。
…一左官の俺から見ても、元勲と非元勲の溝はどうしようもない位開いちゃってるな、恐らく。
レギオン少将と凉元大将が会議のたんびに口ゲンカしてるなんて有名な話だぞ。
今回の魔女飛行隊介入だってレギオン少将の工作だって噂もある。
もし本当なら、あの国粋主義で凝り固まった大将がキレないわけないだろうな」
工兵「『貴様それでも鍵自治州を守る防人か!』とか言いそうですね」
住井「そりゃ面白いな。あの大将の性格だったらそれくらい言いそうだな。
ま、そんな上層部の軋轢からも伺い知る事が出来るように、この国は差別と偏見に病んでるって訳だ。
月姫難民差別にしたってそうだぞ」
工兵「少佐は月姫擁護派なんですか?元勲イコール月姫弾圧みたいな雰囲気で考えてましたが」
住井「擁護もクソもないだろ。だってあいつら、帰るべき故郷すら奪われた難民なんだぞ?
なんでそんな人たちをわざわざ弾圧せにゃならん訳よ」
工兵「しかし、一部とは言え事実テロ活動を行ってるじゃないですか」
住井「一部だろ、一部。それなのにわざわざ過剰に反応して、
まるで『月厨は血すら流れていない生物だ』とも言わんばかりに弾圧してる。
お前らこそ実は選民主義にプログラムされたメイドロボじゃないんかと小一時間問い詰めたいね。
故郷を失ったっつう痛みをまるっきり分かってないよ。上層部は」
工兵「そういえば、住井少佐は空き地の町出身でしたね。違いましたっけ」
住井「……ま、こんなこと言う左官はかなり希少価値の高い存在だろうな。
サイン書いてやろうか?将来高く売れそうだぞ」
工兵「いりませんよ。そんなもん」
住井「そんなもん言うなよ!全く、人の好意を踏みにじるなんて最悪の兵隊さんだな、お前は」
工兵「とにかく、少佐は空き地の町出身な訳ですね」
住井「おう、そうだぞ。俺を始め折原中佐、長森さん…いや大佐か。
あとは『戦乙女』なんてあだ名が付いてる七瀬少佐もあの町で生まれ育ったものだ。
第2旅団の小坂少将もそうだな。ほとんど折原の育ての親みたいな感じだったぞ。
昔から忙しい人でな、ちっちゃい頃からあいつん家にはお世話になってるけど、
顔合わせたのは数えるほどしかなかったな」
工兵「空き地の町出身者って結構いるんですね。そういえば、例の里村少尉…でしたっけ。
電波お花畑の派遣兵にいんぐりもんぐりされてたとか噂されてるのは」
住井「正直信じられないけどな。あの里村さんが慰安婦まがいの行為を強要されて、
挙げ句の果てにあいつ等の国までお持ち帰りだぞ。ふざけんじゃねぇよ。
…ていうか、いんぐりもんぐりって、お前いつの世代なんだよ」
工兵「つまり、現在臨時集成師団に配属されてる左官の半分はあの町の出身者というわけですね」
住井「そこまで多くないけどな。ま、そういうことだ。あと人のツッコミは流すな」
工兵「またいきなりで済みませんが、空き地の町は事実上超先生の支配下ですよね」
住井「…ああ」
工兵「あんまり良くは思ってない」
住井「に決まってるだろ。下川に見切りつけたと思ったら今度は超政権だぞ。クソッたれが。
あんなスカッドミサイル平気でぶっ放すような100円野郎の政府なんて信用できるかよ」
工兵「それで月姫難民に対しても、ある種元勲では希少な考え方を持ってるんですか?」
住井「それが直接の原因って訳じゃないけどな。
でも確かに超政権に故郷を奪われてから、あいつらに対して見方が変わった気がするな」
工兵「…そうですか」
住井「そういうことだ。…んでさっきの話に戻るわけだが」
工兵「なんです?」
住井「そう、俺の自慢だった積み木ホワイトハウスが憎きジャップ折原に」
工兵「それでは、自分は作業が残ってますんでこのへんで失礼します」
住井「あぁっ、お前最後まで俺の話を聞いてけよ…」
『ある工兵部隊の一日』投下完了です。
SS初書きなんで無駄に長くなってしまいました。
軍の下側から見る派鍵国。
後半工兵がインタビュアーになっていくのは気のせい(w
誤字脱字ありましたら指摘ヨロです。
>241
乙カレ〜。工兵隊ネタも久しぶりだなあ。
それはそうと、「左官」じゃなくて「佐官」ね。左官は漆喰塗ったり。
……ある意味間違ってないような気もしたり(w
>>243 指摘どうもです。「佐官」でしたか。
IMEにまんまとやられた気がします(w
保守。
保守
保守。
保守。
保守
250 :
罠 1:02/10/22 22:42 ID:WjbTi8X1
3月27日0645時
州都郊外・“ダス・リーフ”司令部
「――なんと言うことだ」
柳川大将からの緊急連絡を受けた“ダス・リーフ”師団長は、疲れた笑みを浮かべて
ハクオロに語りかけた。
「防空軍から緊急連絡だ――やつら、制空戦闘で惨敗したらしい」
「――っ!! げふっ! ぐはっ! ……なんですって!?」
掻き込んでいたレーションをのどに詰まらせつつ、ハクオロは聞き返した。
昨夜の柳川大将の“要請”を受けて以来、ハクオロと郁美、そして蔕麿は“ダス・リーフ”
司令部に詰めて指揮系統の再編作業に全力を挙げていた。具体的には、各前線部隊からあがってくる
報告を系統だって整理し師団長の前に提出し、師団長の決断をサポートする。そして、
そうやって下された命令を遅滞なく前線部隊へフィードバックさせる
――彼らは、この部分の作業を担当した。直接指揮に口を出して前線部隊の反感を買うのを防ぐ
意味もあったのだが、なにより3人だけではこれが限界でもあったのだ。
こう言うと容易いが、実際は目の回る忙しさだった。本来なら結構な人数と情報端末によって
処理されてきたこれらの作業を、基本的に部外者である3人だけで代替せねばならなかったのだ。
RR装甲軍司令部から提供された端末と、何より3人の卓越した事務処理能力がなければ、
とてもではないが“ダス・リーフ”は攻撃能力を発揮することはできなかったろう。
今、郁美は仮眠の最中、蔕麿は部隊間通信の混乱した市街北部攻撃担当の装甲戦闘団へ
サポートに飛んでいる。師団長の側にいるのはそういうわけでハクオロだけだった。
「そ、それじゃ制空権は?」
「決まっとるだろう。AIR航空隊の手に落ちたそうだ」
「なんだってまた……」
「防空軍のへたれどもの話では、どうやらあちらに新手の航空兵力が出現したそうだ。
そいつらに不意をつかれて総崩れだと――まったく、口ほどにもないな、連中」
251 :
罠 2:02/10/22 22:42 ID:WjbTi8X1
「新手……ですか」
状況から考えて国外の軍閥だろうな、とハクオロは考えた。ものみの丘の傀儡に成り下がった
ねこねこ師団の連中だろうか? 可能性としては一番あり得る。しかし、下葉防空軍は連中の
F-5Eにしてやられるほどに不甲斐なかっただろうか?
「しかし、制空権を失ったとなると……
「ああ。経空脅威がとんでもないことになる。この先、攻撃機に叩かれっぱなしになるのを
覚悟しなければなるまいな」
「柳川大将からは何も? 現状では、28日24時まで粘れるかどうか、非常に怪しいですが」
“ダス・リーフ”の地対空部隊は質が高い上に量も(定数9000の比較的小型な師団としては)
充実している。だからAIR航空隊相手にワンサイドゲームをやられる心配はないが
――それにも限度がある。あまり長く州都近辺に止まるのは危険だった。
「そのことについては、現在検討中だそうだ。おそらく政治的に州都陥落と同程度の効果が
見込める目標を破壊して、予定より早く撤退命令を下す公算が大きいな――ハクオロ大佐、
これは『重要な雑談』なのだが」
と、師団長はハクオロの知恵を借りるときの決まり文句を口にした。
「現状で我が師団が採るべき道はふたつある。ひとつは、このまま守勢を維持し柳川大将からの
撤退命令を待ち続ける道。もうひとつは、ここで積極攻勢に転じて少しでも戦果を稼いでから
撤退命令を受け取る道。どちらが、より効果的な道かな?」
「――これも、私の『重要な独り言』ですが」
と、ハクオロも似たような常套句を口にする。
「積極攻勢に転じた方がよろしいかと。確かにここで守勢を維持すれば損害は局限化できますが、
これから先の、南方先端部を策源地にした戦闘のことも考えると、鍵軍に対して『わかりやすい』
損害を与えておかないと苦しくなるでしょうから」
252 :
罠 3:02/10/22 22:44 ID:WjbTi8X1
ハクオロの言いたいことは、つまりここで州都防衛部隊に目立った損害を与えずに撤退した場合、
南方先端部占領域の住民たち、特にRR月姫義勇兵への参加が見込める月姫難民たちがRR装甲軍に
不信感を抱きかねない――ということだった。久瀬内務尚書が決定した月姫難民扇動策はすでに
柳川経由で知らされている。この策謀を成功させるためには、占領域の月姫難民たちの支持が
不可欠だとハクオロは考えていた。そのためには、目に見えてわかりやすい戦果がどうしても必要になる。
もちろん、柳川が“ヨーク”を用いて派手な戦果を上げれば、ここで“ダス・リーフ”が
消極策に転じても影響はないだろう。しかし柳川が常に成功するとは限らないし、
なにより師団長の立場を悪くしてしまう。
「それに、積極的に鍵軍と混交してしまえば、経空脅威も幾分か減少します。確かに柳川大将は
乱戦を禁じていますが、それはこちらが指揮系統をしっかり掌握していればまず防げます。
それにAIR航空隊も、全部が全部精密爆撃をやらかすわけでもないですし、同士討ちを恐れて
手を出しにくくなります」
「確かに。“ヴァルキリー”なんて金食い虫を持ってるから、誘導爆弾にまで金が回ってないからな、連中」
師団長が笑う。ものみの丘はことあるごとに『百発百中、AIR航空隊の神業爆撃』などと
宣伝しているが、決してそんなことはない。確かに彼らの技量は高いが、主に予算の関係から
誘導爆弾などの命中精度の高い対地攻撃兵器の保有率はそんなに高くない。彼らが持っているのは、
原理的には第二次大戦当時のものとさほど変わらない通常爆弾がほとんどだった
(しかも、誘導爆弾の大半を空き地の町戦役で消費したまま、まだ補充を受けていない)。
「とはいえ、州都防衛部隊はあのバ鍵っ子部隊だからな。AIR航空隊が同士討ちを恐れていないか
どうかは怪しいところだが――」
師団長がそう苦笑しかけたとき、伝令がRR装甲軍司令部からの暗号電文を持ってきた。
ちらりとそれに視線を走らすと、鼻を鳴らしてハクオロにそれを寄越す。
253 :
罠 4:02/10/22 22:45 ID:WjbTi8X1
「どうやら、柳川大将がなにやら企み始めたようだな――」
「しかし、何が目的なんでしょうか? 今になってこんな目標を――確かに、重要施設ではありますが」
「まぁ、何かの罠なんだろうが――とりあえず命令に従おうではないか。いずれ我々にもわかることだ」
3月27日0705時
Airシティ中央貨物駅
「――罠、でしょうか?」
なつきは、遙か大葉鍵嶺の彼方から送られてきた通信文を手に、途方に暮れたような表情を見せていた。
「まぁ、ある意味罠だな、こりゃ」
通信文を受け取りながら、旅団長は苦笑する。
「月姫指導部――ああいや、今はTYPE-MOONか。とにかく連中がなんの下心も無しに物資を
提供してくれるわけもない。月姫難民に同情的な我々にパイプを作って、自治州内部の分裂を
誘おうという魂胆だろう」
ふたりが話しているのは、集中列車制御指令室の一隅だった。付近は鍵スト参謀長腹心の警備兵が
それとなく配置されており、盗聴器捜索などの保安検査も実施された一画だった。周囲も
状況表示盤を兼ねた特殊アクリル板やら通信機器で覆われているから、一種の半隔離空間といって
良かった。もちろん、ものみの丘の“おともだち”への対処である。
ただこれも、つい先ほどまでいた霧島聖中佐のような、公然とした抗議者にはあまり意味はない。
彼女は神尾晴子大佐からの『あのクソ親父の首根っこひっ掴んで、ウチの怒りをぶちまけたり!』
との連絡を忠実に実行していたのだった。だから、あまり露骨な密談はできない。
「しかし、ずいぶんと早くこちらの欲しい反応を寄越してくれたな、連中」
「というと、TYPE-MOONからの接触を待っておられたのですか?」
「当たり前だ」
にやりと笑って、旅団長は片手に持った朝食代わりのコーヒーをすすった。そして、
なつきだけに聞こえるような小声で話し始める。
「今現の俺の立場は、政治的に非常にまずい。ものみの丘が本気になったら、すぐに政治犯で
収監されてしまうだろう。
だがここで高橋総帥と直結しているTYPE-MOONの連中とつるんでおけば、麻枝が正葉との関係を
重視する限り、下手に手出しはできなくなる。よほどのことがない限り、政治的には処断できなくなるよ」
254 :
罠 5:02/10/22 22:45 ID:WjbTi8X1
「はぁ……」
「露骨に嫌そうだな?」
「旅団長の話を聞いてると、世の中全て打算で動いているような気がするんですが……」
「こと政治に関する限りそのとおりさ――ただまぁそれを抜きにしても、74式改2が7両というのは、
正直ありがたい。戦車は多いに越したことはないからな」
そう言ってコーヒーを一気に飲み干すと、旅団長は半隔離エリアから歩み出た。
「鍵スト大佐、連中が知らせてきた物資集積地点はどこだ?」
豆乳パックをすすっていた鍵ストが、傍らのゴミ箱にパックを捨てながら答える。
「州都東方15キロの村落だそうだ――まったく月姫ゲリラの連中、この自治州にどれだけ
秘密アジとを持ってやがるんだ?」
「どこぞのお偉いさんが強圧策一辺倒で臨むからこうなるんだよ」
肩をすくめて暗に治安担当のしのり〜中将を罵ってから、旅団長は携帯地図を取り出した。
「ここか……連中、物資搬入に関して何か要求は出してきたか?」
「いや。ただ、攻撃ヘリの襲撃を受けないように上空をクリアにして欲しいとだけは言ってきた。
それ以外は自分たちで何とかするとさ」
「まぁ、不可能ではないしな」
州都東方は元々“ダス・リーフ”もそれほど戦力を割いて投入していなかったし、数少ない部隊も
通天閣騎兵隊があらかた始末してくれている。特に問題はなさそうだった。市内での受け入れは、
月姫義勇隊に任せれば大丈夫だろう。
「よぉし……清水少尉、TYPE-MOON指導部に援助受諾の通信を送れ。ついでに『我、月姫民族の再興を確信す』
とでも付け加えてくれ」
「そんなにものみの丘の神経を逆なでしたいんですか……」
「いいんだよ――それと、通天閣騎兵隊に上空援護の要請を出せ」
なつきが通信機に向かい、旅団長が新たな命令を出したときだった。
「戦車連隊・紅茶すらいむ中佐から緊急連絡! モニターに回します!」
オペレーターがそう叫ぶと、州都中北部の官庁街で市街戦を演じている紅茶すらいむ中佐の
せっぱ詰まった声が流れるのとか、ほぼ同時だった。
『こちら紅茶すらいむ! 現在、州議会議事堂前広場にいるが……たった今、州政府庁舎に大規模な
集中砲火を確認した!』
「――何?」
255 :
罠 6:02/10/22 22:46 ID:WjbTi8X1
咄嗟に、手元の受話器を取り上げる旅団長。州政府庁舎の州知事執務室への直通回線を押すが
――回線は、なんの反応も返さなかった。試しに副知事室や、庁舎に隣接している警察本部庁舎にも
電話をかけるが、こちらも同じだった。報告が真実なのは、疑いようもない。
州知事も州政府幹部も、彼らなりの義務感に従って避難することもなく庁舎内に止まっていた
はずだった。彼らが戦死したのは、ほぼ間違いない。まぁもっとも、いずれ集成旅団の手で
謀殺するつもりではあったのだが……
「中佐、砲撃規模はどのくらいだった?」
鍵ストがマイクをひっつかんで確かめる。
『詳しくはわからんが――あの高層ビルが一瞬で崩落していったからな。ありったけの砲兵を
投入していたような感じだった』
「わかった。報告感謝する。おそらくそこも危ない。中佐の判断で適宜撤退したまえ」
『了解!』
さっそく、状況表示盤に今の情報が表示される。
「なんだってまた、今になって州政府庁舎なんかを砲撃したんだ? そりゃ、重要施設には違いないが」
「わからん。連中、何を考えてやがる――」
鍵ストの疑問に、旅団長は腕を組んで考え込んだ。おかしい……何か引っかかる……
「旅団長。一応戸越中将には連絡した方がいいんじゃないか? 州知事戦死ともなれば、
いくらなんでも連絡しないわけにはいくまい」
鍵ストも額を抑えて考え込みながら注意を促してきた。確かに、戸越中将からは
『状況に重大な変化が生じた際には必ず連絡せよ』と命じられている。州知事戦死は、
立派に重大な変化と見なされるだろう。
「ああ、そうだな。うざがられるだけだろうが、一報を入れるしか……」
そこまで言って、旅団長の言葉が途切れた。TYPE-MOON指導部への通信を送り終えたなつきが、
不審気に振り返る。
「……そうか」
側にいるなつきだけがようやく聞き取れるだけの小声で、旅団長は呟いていた。
口元を手で覆って考え込んでいるが――その隠れた口元は、微かな笑みを浮かべていた。
「――俺を誘ってるんだな、柳川大将」
>>250-255『罠』投下完了です。
最近他スレの方で色々あるから、なかなか時間が割けないでふ……
F-5E…ねこねこはどこの兵器使ってんだろ?
258 :
贋懲:02/10/23 00:55 ID:CDlMHJl8
3月27日0615時
シェンムーズガーデン地下壕
「遅い」
いらついた声音とともに、硬いブーツのつま先がオーク材の机の脚を蹴り付ける音が室内に響いた。。
びくり、と中尾大佐や松岡中佐が首を竦め、正面左に直立不動の姿勢を保つ中上大将が、ただでさえ苦りきった表情にさらなる苦渋の色を加えた。
先ほどより、机を蹴り付ける物音は確実に大きなものになっている。
数を重ねるごとに、大きさも増す。それはしぇんむ〜の不興のバロメータだ。
葉鍵国『統一政府』国家元首、下川直哉国家元帥は他人に待たされることがお嫌いであった。
彼がこの世で最も嫌うものの一つに数えても良い。
ここ数年は、特にその傾向が顕著になっていた。待たされることが、ある一群の人々を否応なく想起させるからだった。
(あいつらも、よぅわいを待たせよった……)
神経質に安楽椅子の肘掛けを人差し指で叩きつつ、下川は扉の向こうに射るような眼差しを向ける。
その視線の向こう、脳裏に浮ぶのは、今は敵方に回った男たちの顔だった。
後方からさまざまな指示を下す彼に対し、ことあるごとに理屈をつけてはその要求を先送りにしたものだ。
曰く、前方の敵は未だ頑強な抵抗力を保持している。
曰く、燃料弾薬の補給が滞っている。早急に輸送力を増大されたし。
曰く、航空優勢が確保されるまで、積極的な攻勢は不可能。
曰く、戦機はまだ熟していない。反転攻勢にはまだ早い。
259 :
贋懲:02/10/23 00:56 ID:CDlMHJl8
そして口を揃えたように、『後方は前線を知らない』『直哉は後方に下がってからおかしくなったよ』
―――冗談ではない、としぇんむ〜は思う。
自分が前線を知らないなら、連中は後方の苦労を知らないのだ。
連中が自在に兵を動かし、内戦当時の勢力規模からすれば潤沢とも言える物資弾薬を常に確保し、後顧の憂いなく戦えたのは誰のおかげだと思っているのか。
損害に応じて前線に送りこむ補充兵、湯水のように消費される弾薬、それらを手当てするための莫大な戦費、そして葉鍵独立の大義を世に訴える宣伝戦。
それらをお膳立てたのは全て自分ではないか。
高橋や水無月、原田の若造、あの連中が自分の手柄のように振舞う独立戦争の栄光の数々、それらの陰に自分をはじめとする後方の努力があったことを、どれほどの人間が知っていると言うのだ。
待たされれば待たされる程に、過去の怨念へと思考が深みに嵌ってゆく。
(連中―――自分が栄光独占するに飽き足らず、権力求めてエロゲ国に血を流して得た独立まで売り渡そうゆうんか。
おもろい、おもろいわ。そこまでやるんやったらこっちもやりようがあるわ……)
すでに最初にし掛けたのがどちらかなど忘却の彼方。
エロゲ国関係の情報が矢継ぎ早に入ってきた昨日から急速に高まる衝動に、すでにしぇんむ〜はなかば以上身を委ね掛けている。
それを辛うじて制しているのが先日の久瀬の対月姫政策をはじめとする現実的な『勝利への方策』だった。
しかし、それももはや我慢の限界だ。
溜まりかねた様子で、魔王が玉座から立ちあがる。
張り詰めた視線が彼に集中した。
また無理な難題を持ち出すに違いない、皆その内容を想像して身構える。
願わくば、その難題が自分の頭上に降りかかりませんように―――その中で、唯一中上大将が一人決死の表情で下川の前に進み出ようとしたことに誰もが気がつかない。
260 :
贋懲:02/10/23 00:56 ID:CDlMHJl8
その時だ。
まるで下川の忍耐の破弾界を見計らったかのように、重い軋みを立てて扉が外から開かれた。
「久瀬内務尚書!」
安堵とも怒りともつかぬ声音で、一番扉に近い位置にいた中上大佐(弟)が声を上げる。
下川政権の中でも、偉大にして親愛なる指導者国家元帥閣下を平然と待たせるのはこの男ともう一人、柳川大将ぐらいのものだ。
中上大将や一一大将もしばしば彼を待たせることはあるが、それでもこうも堂々と倣然と悪びれもせずに姿を現す事は出来ない。
とは言え、さんざん待たされた上にその種の態度を取られてしぇんむ〜が激怒しないわけもない。
彼が部屋を揺るがすような怒声を放つことがなかったのは、その機先を制するように、やや安堵を浮べた中上大将が切りつけるような問いを久瀬に投げ掛けたからに他ならない。
「ロイハイトの件だ。事態は当然把握しているだろう?」
「無論です。情報は引き続き収拾させております。
新規の情報は、逐次こちらに報告させているはずですが……」
何を今更なこといっとるんだ君は、と言わんばかりに久瀬が眉を寄せる。
そのどこかしら人の神経を逆撫でする仕草に不快感を覚えたのだろう、中上は険悪に久瀬を見遣る眼差しを細めた。
しかしそれ以上に感情を露にすることない。彼は軽く首を横に振ると、表情の全てを消して淡々と久瀬を見据えて語る。
「もう情報収集の時は過ぎたろう。報ふ……いや、贋懲だ。ただちにあの愚かな連中に贋懲を加えなければならない。
昨晩の毒ガスから夜も明けないうちのこの暴挙……許しておけば、本格的な介入を招くぞ」
言って、一呼吸をおいた。
ここに居並ぶ将星たちは、いずれもそれなりの戦歴を重ねて来た猛者ばかりだ。不自然な間に何やら危ういものを感じ取り、周辺の視線が一挙に緊迫を帯びる。
そして続く一言に、一座の誰ももが愕然と、そして凝然と中上の思い定めたような面差しに目を見開いた。
261 :
贋懲:02/10/23 00:57 ID:CDlMHJl8
「戦略ロケット旅団の行動は可能か?」
ほとんど物理的な破壊力を持って、その一言は一座の間を駆け巡った。
内と外のプレッシャーに常時さらされてついに狂したか、それが全てのものの共有した驚きである。
もちろん、参謀総長の言でそれの使用が定まるわけではない。
戦略ロケット旅団は内務省警察軍の所轄、さらに最終的な決定権は国家元首たる下川閣下にある。
だが、それをおいてもしぇんむ〜の腹心たる中上参謀総長が、戦略ロケット旅団の使用を―――ひいては核の使用を決意しているという事実は、周囲の驚愕を呼ぶに十分だった。
そして続く久瀬の応えが周囲に更なる衝撃を呼び起こす。
「ええ、参謀総長。東葉に発つ前に、それもお伝えしようと思ったのですよ。
現在、アル・フセイン五基が通常弾頭にて発射可能状態です。FROG7ならば十四基をすぐにもAIRシティに叩き込めます。
エロゲ国本国への攻撃も睨み、イタミの橋本警察准将にはSS−19への燃料注入も開始させております」
今一人の腹心が、皮肉げな笑みとともに軽く頷いた。
その頷きの軽さとは裏腹に、その言葉の重みは室内の空気にさらなる一撃を加えたのだ―――
<糸冬>
262 :
贋懲:02/10/23 00:58 ID:CDlMHJl8
以上、投稿終りしますた。
以前の防空会議の如く、また前後編でつw
後編はまた後日……あるいは誰か書いてくれることをきぼん(ぇ
保守
264 :
名無しさんだよもん:02/10/23 21:19 ID:YQk0N4Z1
うお、ついに核すか…ところで
第12RR装甲防空騎兵師団シモカワユーゲント
ってどんな師団なの?
危険領域に突入めんて
保守
>>264 本編には出てこない、まだ設定上の師団ですよね。確か。
防空騎兵って…どんなやつなんだよw
>>267 きっと子供の頃からLeafのゲームをやらせつづけた
PAMPAMPAM
269 :
sage:02/10/24 23:10 ID:w82JnqHg
装甲軍所属のジェット作戦機部隊じゃねーの?防空つーことは戦闘機か?
瞬時にペガサスナイトを思い浮かべた自分はFE厨っぽくて吊ってきます。
漏れは長距離対空ミサイルで武装した部隊だと思ったヨ。
↑それが無難そうでつね。鍵自治州戦に投入されていないのは、補給の都合か
駐屯している場所の関係かな。
1RRと12RRは、東葉の増援に振り向けられてるんじゃなかったっけ?
と思いつつ、とっくの昔にその設定は反古になってることに気がつく罠。
>>257 台湾かな…?
まーF-5Eなんて世界中で使われてるしなぁ。
>>271 支援サイトにある編成表を見る限りだと
装備はツングースカとガントレッド(トール)ぽいね。
防空するには射程がかなり足りなさそうだけど。
ガントレットって射程20km無いくらいだっけ。わざわざ師団単位で
そんなもんまとめなくてもなぁ。グランブルとかなら分かるけど。
276 :
274:02/10/27 16:55 ID:bCoVU4S1
>>275 ガントレッドは大体そんなもんです。確か。
ま、前出の編成表にこだわらなくても都合悪ければ付け足しゃいいんだし。
あんまり無茶な設定はまずいけど。そこら辺は書き手皆様におまかせしときましょw
>>268 生まれた時から青紫としぇんむーの手によって管理教育を施された精鋭集団とか。
その時使用されたのがVN。しかも超シナリオw
保守
出かけ前保守
今夜当たり来そうなので保守。
( ゜Д゜)y─┛~~
-hoshu-
今夜も保守。
…超政権でも書いてみようかな。
超先生は辻政信から石原莞爾へと進化しようとしているのか?
空き地の町に、葉鍵月三族協和の王道楽土を現出させる?
『我が胸中には秘すべき秘策あり!』(「交渉団、東へ」より)
多分そこまでは考えていないだろうが…どうすればいいんだw
えー、現状を整理しますと
鍵自治州:
・州都攻防戦の真っ最中。
・レギオン少将、なにやら画策中。柳川と交戦か
・裏葉高等弁務官、超政権と折衝しつつフキフキ港に移動中
下川リーフ:
・自治州都攻略中。制空権奪われる。
・弾道ミサイルを準備。
空き地の町:
・青紫、裏葉高等弁務官と同行して正葉へ。
こんなもんでしょうか。かなり大雑把ですが…。
>>284 かわぐちかいじの石原莞爾より秋月達郎の石原莞爾をキボン。
軍板仮想戦記ヲタの戯言ですた。
>287
佐治芳彦だけはカンベンな。
保守。
保守
保守★
保守。
3月27日 新大陸標準時 11:55
――強襲陸揚艦「空き地の町」はフキフキ港に向かって順調に航行していた。
「――とまあ、何度もお話している通り、我々の目的はあくまでも自治政府の承認にあるわけです。
これは私の独断でもなんでもない、自治政府承認は私の使命だと思っております」
「ええ。私と致しましても、その点に関しては全く同じ考えですわ。貴殿の身の潔白は私自身、今現在も肌で感じております」
裏葉高等弁務官がさきほどから変わらぬ微笑をたたえて言葉を返す。無論、その表情から言葉の真偽はつかめない。
「その点では私も感謝して然るべき事だと思っております。
それでは、くだんの件の条文3-7『政治犯引き渡し協定を締結すること』について、もう一度詳しくお伺いしたいのですが――」
幾度と無く交わされる、当り障りのない言葉。
言葉遊びをしているわけではないが、
しかし超政権とものみの丘とにある決定的な思惑の違いから、会議は休憩を挟みつつ平行線をたどっていた。
原因は語るまでも無く、月姫難民の処遇である。
マンパワーの多くを月姫系住民に依存している空き地の町陣営としては、「政治犯引き渡し協定の締結」は多大な人口の流出を意味する。
問題はそれだけではない。同じく条文3-1『正統リーフの独立自治領となること』。
これを認めれば形式上とは言え完全な独立国家ではなくなるということだ。快く思わない者も多数いるだろう。
しかし、ものみの丘はこれらを条件に暫定政府承認を約束している。ことの真偽がどれほどか分からないが、
一応民主主義の体裁を保っているのなら承認せざるを得ないだろう。
ただ正葉の国内情勢が事をややこしくしている。御堂の身柄引き渡しに素直に応じるかどうかだ。
当然、鍵の意向に準じて空き地の町の正葉編入を要求してくるだろうが、
月姫指導部――今はTYPE-MOONと名を変えたが――がどう出て来るか全く予想がつかない。
現存している中で、唯一と言っても良い月姫系難民保護組織である我々を、好意的に思ってくれているかどうか。
それに、御堂を実際に拘束しているのは原田海兵部隊である。仮に交渉が成立したところで、彼が引き渡しに応じるかは疑問だ――
「ああああ!もーわけわからん!」
米村少将はそこまで考えたところで一旦思考を中断させた。
勢いで頭を抱えつつ叫んでみたりしたが、あまり格好のいいものではない。個室なのであんまり気にはしないが。
自分は政治話が全く苦手だ。よくこんなんであの下川体制の中を俺は生き延びてこられたもんだな、と思う。
濡れ衣着せられてもう少しで銃殺かと思いきや、気が付いたらこんな所に居るんだもんなぁ。人生どう転がるか分からんねぇ…。
それにしても青紫は、一体何を考えているんだろう。米村は青紫の一連の行動について、少し反芻してみた。
はっきりいって、考えれば考えるほど分からない。
同じ下川体制に居た頃から青紫の名前と顔は知っていたが、その能面じみた表情と奇妙な言葉遣いは今でも忘れない。
RR菌を用いた細菌兵器を開発している時の青紫からは底の知れない負の雰囲気を感じた…
と言ったら言い過ぎだろうが、とにかくあの頃の青紫は、どこか近づき難かった。
(もっともそれは、下葉時代から現在までの青紫を観察してみて初めて言えることなのだが、そのことについて米村は深くは考えなかった)
しかし、最近の奴はどうだ。
まるで、水を得た魚のように生き生きとしているではないか。
生き生きという表現は語弊があるかもしれんが、とにかく奴は下川の下で動いていた時に比べて「人間味」が増した気がする。
奇妙な言語は変わらないけどな。
もしかしたら青紫は――
ふとそんな言葉が頭をよぎった。
そんなバカな、と顎に手をあてて苦笑しつつ自らの考えに笑う米村。しかし、さすがにもう100円参謀と侮蔑する気にもなれなかった。
――言動はひどく頼りないにしても、今の青紫は確かに信頼すべき存在だと思う。とても信じがたいことだが。
臨時政府が設立されてからの内政・外交を横からつぶさに見てきたが、中々どうして手際が良い。
米村は驚いてしまった。独裁政権下とはいえさすがは一軍を率いてきた身ではある。
下川リーフ時代の奴は、実は道化を演じていただけなのではないか?と考えてみた。根拠のない発想に自分でも間抜けだと思ったが。
ただ、「里村茜と愉快な狂人達」という存在が多分に影響しているのも事実だ。というか、奴がトップに建てること自体彼らのお陰ではないのか?
あくまでも現在の青紫は「代理人」である。ならばもし彼らが再びこの地を踏む事になった時、青紫はどうするのだろう?
空き地の町首脳陣の中で唯一茜達を知らず、成りゆきから青紫に随伴し現在に至っている米村は考える。
…不安だが、あまり先の事を考えても仕方ない。そう割り切る事にした。
最大の謎は、青紫の持つ巨大な情報網だ。
そのうちの一つが軍事顧問団の所属する電波お花畑の偵察衛星ということくらいは米村でも想像はつく。
だが、エロゲ国全土まではカバーできないだろうし、第一上空写真では原田離反の証拠などつかめるはずもない。
想像を超える人脈があると考えざるを得ないだろう。
「しかし…。結局、そんなことは」
「事の本質に比べれば大した事ではない」
食堂の一角で軽く雑談していた蝉丸は、向かいに座っている岩切にこう言った。
先ほどから青紫の行動について色々話していたが、これという結論は得られぬままであった。
――と、当の本人がひとまず会議を終えて戻ってきた。余裕があるのかさほど疲労の色は見られない。
コップに麦茶を一杯注ぐと、蝉丸達の傍に腰を下ろした。蝉丸と岩切は軽く居住まいを正す。
「さすがに鍵自治州の代表だけあってガードが堅いね。全然話が進まない」
「難民引き渡し条約が条件にある以上、こちらが妥協しない限りは成立しないだろう」
「そこが我々にとってアキレス腱だ。全く、彼らの月姫民族嫌いにも困ったものだね」
先ほどまで行われていた会議をざっと振り返る。双方の記録官が居たとは言え実質一対一での会談であった。
「正直なところ、参謀はどのようにお考えか?これからのことも踏まえて詳しく聞いておきたいのだが」
気になった岩切が訊ねる。ここで意思確認しておかないと、いざ御堂奪還の際に支障が生じてしまう恐れを懸念しての質問だった。
「…少佐。ここの防音設備は大丈夫かな?」
「少々危険だな。士官室を使わせてもらおうか」
「よし。それでは詳しくはそこで…と、一応米村少将も呼んだほうがいいかな」
「…とりあえず、特使との会談は、現在の状態のままでもっていきたい」
部屋が密閉されたのを確認すると、青紫が開口一番述べた。
「なぜだ?」
米村が当然の疑問を投げかける。
「一言でいうと、条文に納得できないところが多い。経済的に見ても、倫理的に見てもね。
特に月姫系難民を放出するのは一番の痛手だ。最低でもこれだけはどうにかしたいんだが」
「しかし、我々には手段がない」
「そう、その通り。まさかこれを認めるわけにもいくまい。かといってそれに代わるだけのカードを持っているわけでも無し。
正に ど う す れ ば い い ん だ」
…部屋に6分半ほど沈黙が流れた。そこに居た四人にとってその時間は永遠に感じられたが、緊急連絡に来た通信兵によって一時中断される。
「失礼します!本土司令部の大佐より参謀宛に入電です!」
勢い良く部屋に突入した通信兵の挙動から、ただ事ではないということが読み取れた。
「ご苦労。下がっていいぞ」
「ハッ!失礼します!」
蝉丸と通信兵が敬礼すると、封筒を青紫に渡した。
「………これは」
一瞬、表情が変化したように見えたがすぐに取り直して、
「みんな、みてくれ。とんでもないものが写ってるぞ」
すぐさま他の面々に写真を渡した。
「…下川直哉国家元帥殿にRR菌発射を命じられた時点で予測はついたがね」
白黒のその写真は、どうやら新大陸の南西部から北西部を何枚かに分けて写している衛星写真のようだった。
よく社会科の教科書の巻末などに載っているものの白黒版と思って差し支えない。ただ、一つ妙なところがある。それは。
「…この穴はなんだ?」
この手の写真を見た事がない米村が聞いた。よく見ると所々地面に四角い穴があいている。さらにその周りをトラックが走っており、
そのうちのいくつかから直径数センチほどのパイプが引かれている。ややあって、左手で目元をもみながら青紫が答えた。
「NATOコード名SS-19 ストレトゥ。射程8000〜10000km。サイロ発射型の戦略多弾頭ミサイル、といえば分かりやすいかな?」
米村は絶句した。最初の数瞬は意味を理解できなかったからだが、そんなことも気にならないほどの衝撃が彼を襲った。
まさか、選択肢として核が出てくるとは思いもしなかった。それよりも、そんなものを持ちだそうとするしぇんむ〜が信じられなかった。
冷静さを取り戻すと同時に冷や汗が出てきた。奴のファシストっぷりは理解していたつもりだったが…。
「参謀、これもじゃないか?対空ミサイルに比べても桁外れに大きすぎる」
「これは恐らくFROG-7だろう。こっちは核は搭載できないし、射程も100km無いから、SS-19よりは危険ではないと思うがね」
送られてきた衛星写真を前に意見交換している青紫と蝉丸。地上兵器は専門外のため、二人の意見を聞くことに専念している岩切。
「…ていうかお前ら、よく平然としてられるよな。核だぞ?」
米村は気が気でならなかった。いつ自分の頭の上に核が落ちてくるか分かったもんじゃない。
だが青紫の発言は不謹慎極まりないものだった。
「出て来たものはしょうがないさ。むしろこちらとしてもカードが増えて素晴らしくないか?
ま、いずれ発覚するだろうから期間限定ではあるが。とにかく、好き嫌いなく残さず食べるのが私の信条でね」
『青紫参謀は何でも残さず食べます』
投下完了です。
例によって誤字脱字がありそうなんでご指摘宜しくお願いします。
いいなぁ、青村参謀閣下。
リアルでもシナリオライター辞めて、
しぇんむに代わって社長やったら意外とイケるんじゃない?w
>>301 あくまでも「参謀」だからこそキャラが生きると思うのだが・・・
本当に石原莞爾なキャラでんな
とりあえず、ここ見てる人ってどれだけいるんだろうと点呼取ってみる。
1。
304 :
鮫牙:02/11/01 20:22 ID:sbzWRARd
2
3月27日1200時
Airシティ中央貨物駅
「柳川大将は誘っているんだ……俺が、まごめに連絡を取るようにな」
軽く昼食を摂るためと称して、旅団長は自室に一旦引き上げていた。なつきもそれに従う。
「何故ですか?」
「州政府庁舎を攻撃すれば、当然州政府幹部は戦死する。州都の文官がごっそりいなくなるんだ、
俺は上級司令部であるOHP師団司令部に連絡せざるを得ない。その際、当然まごめと直接話す必要が出てくる。
お飾りだったとはいえ、州知事は元勲に匹敵するほどのVIPだからな。まごめが直接処理をしなければならん事案だ。」
一応、鍵自治州の政治制度は州知事を頂点とする官僚機構が司ることになっている。
しかし実際には『統帥権の独立』を楯に元勲たちが実質的に自治州を支配していた。
月姫ゲリラ討伐を口実に治安維持特別軍政――実質的な戒厳令を布告し、自治州総軍が三権に
深く食い込んでいる。
ただそれでも、州知事ともなればそれなりの重要人物としての扱いは受ける。
「そこでRR装甲軍が聞き耳を立てていたら、どうなるかな?」
「……あっ!」
「そうだ――柳川大将は、まごめの正確な居場所を掴むことが出来る。つまり、
まごめをピンポイントに抹殺する作戦を実行に移せるわけだ」
レーションの味気ない食事を掻き込みながら、旅団長は話を続ける。
「トヨハラの友人たちのおかげで、我々は制空権を確保できた。これ以降、RR装甲軍は
空から叩かれっぱなしになる。全滅を避けるためには、どうあっても撤退するしか道はない。
しかしここで州都も陥とせずに撤退した場合、柳川大将をはじめとするRR装甲軍司令部の
敗戦責任は免れない。これを避けるためには、手軽に実行できて、なおかつ州都陥落に匹敵する
政治的効果が見込める目標を手早く――少なくとも今日の日没くらいまでには破壊する必要がある」
「それが……戸越中将ですか」
「そうだ。麻枝ほど毛並みは良くないが、それでも歴とした建国の元勲だ。それを戦死させるなり
捕虜にするなりできれば、十分すぎるほど失点を回復できる。しかもまごめは今、
デジフェスタウンにいる。柳川大将がその気になれば、全力で殴りかかれる位置にいるわけだ。
正確な位置さえ掴んでいれば、決して分の悪い賭ではない」
「旅団長……そこまでわかっていながら、何でさっき戸越中将に通信を送ったんですか!」
堪らずになつきは叫んだ。旅団長は先刻、デジフェスタウンの戸越に『州知事戦死せり』
の報告を送っていたのだ。しかもご丁寧に、『緊急事態につき戸越中将に直接報告したい』
と念を押して。
「なつき――我々は今、まごめから『バ鍵っ子殲滅』の密命を帯びて、そのとおりに行動している」
「……はい」
ゲットー門外の虐殺も、OHP歩兵第3連隊や第36師団の殲滅も、みなその密命に基づいての行動と
いうことになっている。
「だが、これはあくまでまごめの『個人的密命』だ。決してものみの丘の正式命令ではない。
まごめがその気になれば、すぐにでも我々を切り捨ててしまう。それを防ぐためには、まごめに
『ご退場』願って、責任を全て奴になすりつけるしかない」
「そんな……戸越中将が、そこまでするでしょうか?」
「するさ、絶対。俺はWINTERSと月姫、ひとつの国外勢力と露骨に手を結んだ。ものみの丘にとって見れば
許し難い背信行為だ。これを放置すれば、俺ばかりでなく上級司令官たるまごめも責任を問われてしまう。
それを避け、ものみの丘での序列を維持したいなら、俺を切り捨てるしか道はないんだ」
スープを一気に飲んで、旅団長は表情を変えずに言葉を続ける。
「そうならないうちに先手を打つ必要がある。実のところ『腹腹時計・改』で
まごめを始末する計画も立てていたんだが……」
「何ですか、それ?」
きょとんとしたなつきに、旅団長は苦笑する。
「ああ……『腹腹時計』と言うのはな、1970年代の日本の反政府ゲリラが使った爆弾だ。
同時にそれの製造マニュアルでもある。それを、前衛派時代の俺が改良してリリースしたのが
『腹腹時計・改』でな」
「そんなことまでしてたんですか……」
「一応、著作者不明の扱いだがな。いや、我ながらよくできたマニュアルでな、おかげでいまだに
各地のゲリラに大好評だ。月姫ゲリラや正葉のVN原理派もこいつを使ってるベストセラー商品だよ。
特許料や印税が入ってこないのが残念だがな」
「お願いですから、嬉しそうに言わないでください……」
各国の治安当局者が聞いたら問答無用で射殺したくなるんじゃないかな……
呆れつつ、なつきはため息をついた。
「どこまで話したかな――ああ、そうそう。とにかく、『まごめ抹殺』はこちらの既定方針だったんだが、
それをRR装甲軍が代行してくれるんならこんなおいしい話はない。こっちの手を汚すことなく
目的が達成できるんだからな」
「……」
「どうしたなつき。嫌になったか?――今なら遅くないぞ、遠慮無く抜けて構わん」
「い……いえ、まだちょっと……考えさせてください」
名状しがたい震えを感じながら、それでもなつきは答えた。確かに旅団長の目論見は恐ろしい。
だが――何か抜け出せないものも同時に感じる。そして、この生粋のテロリストの行く末を
見届けてみたいという欲求も、少しずつ大きくなってきている。
机の上の内線電話が鳴ったのは、その時だった。
「ああ、俺だ……うん、そうか、無事到着したか。それで74式の状態は?……すぐに投入可能か。
さすが月姫ゲリラってところか……ああわかった、月姫義勇隊に編入してくれ」
にこやかに受話器を置くと、旅団長は手元からメモ紙を取りだした。それをなつきに手渡す。
「TYPE-MOONからの援助物資が、無事市内に届いたそうだ。この電文は彼らに対するお礼だな。
なつき、これを最大出力で発信しろ」
「……旅団長」
「何だ?」
「そこまでして、麻枝元帥の神経を逆なでしたいですか?」
「いや、ここまでやる必要はないんだがな……まぁ、俺自身の病気みたいなもんだ。勘弁してくれ」
同時刻
Airシティ東方50キロ・デジフェスタウン南方30キロの森林地帯
「戸越の位置はどうだ?」
指揮通信車の中で、柳川大将は静かに語りかけた。
「……大丈夫だ、補足し続けている。よほどのことがない限りロストする心配はない」
瞑想による精神集中を解いた月島中将は、ふっと表情をゆるめた。
「戸越中将の位置はしっかりマーキングした。あとはこの能力を使わずとも、持続的に補足可能だ」
「ご苦労……飲め」
缶コーヒーを放って寄越す柳川。
「どうも……しかし何だな、州都の連中、いやに簡単にこっちの罠にはまってくれたな」
元々彼らの計画では、デジフェスタウンのOHP師団は『敵対部隊として撃滅する対象』といった位置づけだった。
ところが制空権の喪失とそれに伴う南方先端部への撤退の強要により、事情が変わってきた。
州都をろくに攻撃しないうちに撤退するとあっては、たかが1個師団を野戦で撃滅したところで
政治的責任の釣り合いが取れない。ならば、OHP師団長で建国の元勲たる戸越まごめ中将を
確実に抹殺し、鍵自治州の元勲統治体制に打撃を与えるほうが得策だ――そう柳川は即決したのだ。
この目的を達成するため、柳川は月島の能力を最大限に活用することとした。“ダス・リーフ”に
州政府庁舎を重点的に砲撃させ、州都防衛部隊が戸越へ連絡せざるを得ない状況を設定する。
あとはその連絡を月島が傍受し戸越の正確な位置を特定し、そこへ全ての攻撃力を叩き付ける。
「いや、そうとばかりも言い切れまい」
柳川は苦笑しながら、紅茶を飲み干して空き缶をくず箱に放り投げた。
「というと?」
「君の傍受情報や内務省情報だと、どうやら州都防衛部隊と戸越の仲はかなり険悪なようだ。
政治的に色々と揉めているらしい。で、昨日の戦闘経緯を見ていると、州都にこもっている指揮官は、
目的のためならどんな手段をも厭わないタイプのようだ。俺たちの作戦に便乗して政敵を抹殺する
手伝いをするくらい、平気でしかねないじゃないか」
「そこまでやるかねぇ……そりゃ連中はバ鍵っ子の集団だが」
「とはいえ、奴らのおかげでつかめた戸越の居場所、嘘ではあるまい?」
「ああ。一応デジフェスタウンの電波も集中して拾ってみたが、位置情報に矛盾はなかった。
間違いない。戸越中将はここ――」
と、月島はデジフェスタウンの市街地図の一点を指さした。
「この生命保険会社のビルに陣取っている。それも、地下の防空壕にこもっているな」
「ならばいいではないか――ここはAirシティのおともだちに協力してやろう。それに、
建国の元勲が死んでその反対派の勢力が強くなれば、鍵の戦争指導の混乱も見込める。悪い話じゃないさ」
「そのとおりでは……」
月島の顔色が変わり、こめかみを押さえて軽く呻いたのはその時だった。
「? どうした?」
「――いや、何でもない。急に大出力の電波を感じて、ちょっと頭痛がしただけだ
――ああ、大丈夫、もう治った」
軽く頭を振って大きく深呼吸すると、月島は柳川に向き直った。
「州都の連中、受信相手を特定しない通信文を全方位で送りつけている。何を考えているんだ?」
「ほう……内容は?」
「ああ、待ってくれ――『受信各部隊へ。以下の電を麻枝元帥に御通報方取計を得度』――」
同時刻
空き地の町南方
「少佐! 乾少佐!」
「……あぁ? 何だ?」
90式戦車の一群を眺めながら警戒陣地の点検をしている乾有彦少佐へ向けて、伝令が駆けてくる。
空き地の町戦役終結後、空き地の町南方には月姫旅団のうち乾戦車大隊が展開、警戒陣地を構築していた。
第10RR装甲師団を撃退したとは言っても、シモカワグラードと空き地の町の間には、
RR親衛隊を中核とする防衛部隊がいくつか展開している。がら空きにしていては、
いつ再来襲してくるかわかったものではない。そこで正葉とTYPE-MOONは空き地の町南方の、
大リーフ湾と大葉鍵嶺に挟まれた隘路部分に警戒陣地を構築し、下葉への防衛ラインにしたのである。
乾戦車大隊が防衛部隊に選ばれたのは、戦役終結時に現地にいた最も強力な正葉陣営の部隊であったことと、
空き地の町との関係が良好なものであったことが影響している。
「これです、少佐! 鍵自治州・Airシティから発信された通信文を通信隊が傍受しました」
「Airシティ? またずいぶん遠くだな」
気のない様子で、乾は通信文を受け取った。彼にとって今最も大切なのは、眼前の警戒陣地と
シモカワグラードの敵軍の動向であって、激戦地とはいえ大葉鍵嶺の向こう側のことはどうもピンとこない。
ただ彼も、鍵自治州の月姫弾圧政策にはむかっ腹だったし、州都防衛部隊が月姫難民と
奇跡的な友好関係を築いているという噂に多少の興味を覚えてもいた。
「で、内容は――」
何の気無しに電文に目を通していった乾だが――読み進めるうちに、だんだんと顔つきが変わっていった。
---------------------------------------
受信各部隊へ
以下の電を麻枝元帥に御通報方取計を得度
州都戦闘の実情に関しては州知事より報告せらるべきも、州政府既に玉砕し
市政府又通信の余力なしと認めらるに付、本職州知事の依頼を受けたるに非ざれども
現状を看過するに忍びず、之に代って緊急御通知申上ぐ。
州都近辺に敵攻略を開始以来、防衛各部隊防衛戦闘に専念し、月姫難民に関してはほとんど
顧みる暇なかりき。 然れども本職の知る範囲においては彼ら市内残存の全員を防衛志願に捧げ、
老幼婦女子と謂えども相次ぐ砲爆撃に次々倒れ、わずかに身を以て軍の作戦に挺身し、
砲爆撃下風雨に曝せれつつ乏しき生活に甘んじありたり。
しかも、若き婦人は率先軍に身を捧げ看護婦、炊事婦はもとより砲弾運び挺身斬込み隊すら
参加しあり。
所詮敵来たりなば、老人子供は殺さるべく婦女子は後方に運び去られて毒牙に供せらるべしと
一家揃い自決せるものあり。
挺身隊に至りては戦闘に際し正規兵すでに欠けたる中、率先突撃して一時の感情に駆せられたる
ものと思われず。更に軍に於いて作戦の大転換あるや自給自足、夜中に遥かに遠隔街区の防衛を
指定せられ移動力皆無のもの黙々として移動するあり。之を要するに、我部隊州都にて
戦闘開始以来始終一貫勤労奉仕物質節約を強要せられて、御奉公の想いを胸に抱きつつ
遂に報われることなくして、遂に敵総攻撃開始となりて州都は実情既に街区すべて
瓦礫焦土と化せん。
防衛部隊既に余力なし。月姫難民かく戦へり、彼らに対し後世特別の御高配を賜わらんことを。
---------------------------------------
「こいつは――」
そう言ったまま、乾はしばらく絶句した。電文紙を握りしめ、じっと虚空をにらみつける。
「おいっ! この電文を受信したかどうか奈須少将に確認――いや、それは後だ! 至急、この電文を鍵自治州最高指導部へ転送しろ!」
「えっ!?――いや、この出力だと向こうでも受信しているはずですし、そこまでやると後々問題が」
後で乾少佐の責任が問われかねないと心配した伝令だったが、たちまち当の乾に雷を落とされる。
「眠たいこと言ってるんじゃないっ! 電文にも『麻枝元帥に御通報』とあるだろうがっ!
お前、同胞の窮状を訴える通信を握りつぶせというのか? この乾有彦、そんな薄情なことを
するように生まれついてはいない!」
「は、はいっ!」
思いっきりどやされて、伝令は転がるように今来た道を再び駆けだした――もっとも、
彼も内心では乾に同意見だったが。
この通信が発信されてから3時間に渡って、新大陸各地からものみの丘への通信が殺到したと、
後に史書は語っている。
そして――この騒動の陰で、柳川大将の牙は獲物を求めて静かにうごめきだしていた。
>>305-312『かく戦へり』投下完了です。
最近は別スレのSSにばっかりかまけてて……すまんです。
というわけで点呼、3。
4
う〜ん、この電文だと旅団長玉砕しちゃいそうな感じですが・・・
しっかし、太田少将のこの電文はまさに名文ですな。
あ、そうそう点呼4
317 :
日雇い:02/11/01 21:27 ID:trl6/Ufk
俺まだ生きてるよぅ。6。
生きてます。
明日には会議の続きうぷできるといいなーとか。
8?
一応生きてますけど、最近スランプで全然SS書けまへん。
9。
ペルシャ湾掃海部隊の落合海将は太田少将のご子息だそうな。
>>320 それで兄は高教組の闘士ってんだから、世の中わからんよな……
「征途」に出て来るんだっけ(忘れた)。昔ドキュメンタリーもやってた
らしいね。ま、他人の生き方だからどうこう言わないが、凄いとは
思う。
くわ〜!あたしが
>>323ちゃん様よ!!あんたたち、あたしにひれ伏しなさい!くわ〜!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧_∧
(`□ ´ )
〈 .ノ从ハハ)
/\/\ 从`□´ノフ
/ /\⊂エi=! lフ/ /
())ノ___ ⊂エ ノ/ /
/ /||(二二)-く/_|ん>―几
Y ⌒ /|V||彡Vミニニ//二二ノl0
l| (◎).|l |((||((゚ )|| (⌒ ) |三・) || (´⌒(´
__ ゝ__ノ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ゝ__ノ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(´⌒(´⌒;;
あたしはかわいい! あたしは最高! あたしが最高の絵描きよ!
I am cute! I am great! I can paint the most beautiful picture!
甘
>>2ゆへ あんたは所詮あたしの引き立て役なのよ、くわ〜!
>>4も川へ あんたの指示は受けないよ、くわ〜!
青
>>6らへ ちょっと、キモイから近寄らないでよね、くわ〜!
>>7かむらへ ふん、あたしはもうあんたを超えたのよ、くわ〜!
か
>>8たへ キモイ絵描いてんじゃないわよ、くわ〜!
>>37月へ あんた絵が下手糞になったんじゃないの、くわ〜!
わ
>>43へ 精々あたしのご機嫌を取ってなさい、くわ〜!
高
>>84へ 粋がってブランド作ってんじゃないわよ、くわ〜!
漏れ10?
基本的にはROMダケドナー
11。
12
三日ぶりの巡回中。
めんてなんす以外の書き込みしたこと無し。
3月27日 新大陸標準時 12:15
タラワ級強襲陸揚艦「空き地の町」 士官室
「これはまた…レギオン少将も思い切った事をしてくれたものだ」
通信室から運ばれてきた書類を見て、青紫はしみじみ言った。
さきほど観測された謎の電文は自治州どころか東葉にまで及びそうなほどの高出力・広域通信だったらしく、民間のアマチュア無線でも容易に観測できるほどであった。
当然沖合を航行していた「空き地の町」「里村茜」両艦にもその通信が届けられる事になる。後で通信兵から聞いた話によると、突然の通信にかなり驚いたらしい。
――そりゃそうだ、何の合図も無しにいきなりだもんな。後に米村はそう思ったそうだ。
「なぜやつだと分かる」
蝉丸は、意外な人物の名前に疑問に思った。
「そりゃあ、鍵自治州の将校たちの性格を考えていけば、こんな奇抜な行動を起こす人間が希少であることくらい一目瞭然だ。
私の知る限りではレギオン少将と、彼の他にはAIR航空隊の神尾大佐くらいしか思いつかんよ」
「神尾大佐は元恩だ。もし仮に彼女が発信したとしても動機が分からない。
反対にレギオン少将は、近頃では月姫難民を擁護する事がご趣味だなんて噂が流れてるくらいだ。
そもそも奴は鍵随一のアウトサイダーだし、こんな既知外じみた行動を起こすのは奴意外ありえないだろう。
俺はあの将校がなぜ、よりによって鍵自治州の一個旅団の長に納まってるのか、いつも不思議でならんよ」
珍しく米村が言葉を継いだ。反論しないところを見ると蝉丸も納得した様子だった。彼はほんの少し満足感に浸ってみる。
「…しかし、この通信で今後の交渉や御堂奪還にかなり影響がでそうだぞ。大丈夫なのか?」
岩切の問いには、青紫が答える。
「心配することは無い。むしろ通信を受信したTYPE-MOONが鍵自治州に難癖つけてくれれば、こちらとしてもありがたいね」
「…どういうことだ?」
「こうも公然と、自治州内部の月姫難民に対する現状が広範囲に渡って発信されたんだ。
当然正葉内部の新月姫派は黙っちゃいないだろうし、奈須君や高田君としても何らかの行動を起こさないわけにはいかないだろう。
彼らが文句を言いに行ったら、こっそり『ついでに、条文の犯罪協定についても一つよろしく』とでもお願いするさ。
…もっとも、そう簡単にうまくいくとは思えないがね」
「だめじゃんか」
米村はがっくりうなだれる。
「ま、期待していたまえ」
出っ歯を見せる。青紫は全てを話してない――そう思えたが、どうせ聞いても答えないだろう。話を変えた。
「しかし、原田准将の存在はどうなる? 『下級生計画』がなにものか分からない以上、御堂奪還もおぼつかないと思うが」
「そのことなんだが――もし高橋君が御堂引き渡しを拒否った場合、一つ強攻策に出てみようと思っている。
そうならないよう努力するつもりだが、もしそうなった場合には」
「私の出番、と言うわけだな」
割り込んで岩切が言った。
「そういうことだ、米村少将」
水中での工作活動に特化した彼女達水戦小隊だったが、特に隊長の岩切は別格である。
悪名高い「エルクゥ計画」の一環によって生み出された強化兵。彼女は隊の中で唯一の強化兵、しかも水戦体だ。
彼女の能力の凄まじさは、去年のの総合演習の際、他のフロッグマン達に混ざり潜水具無しで作戦を完遂してしまったという逸話からも伺える。
さらに、さっき話した例のブツ。水に触れることすら容易では無い御堂のために「最後の最終手段として用意した保険」だ。
用意したとは言っても、実際の所は軍事顧問団に手をまわしてもらった中古品にすぎないのだが、
そんなものが出回っている電波お花畑連合国はやっぱりイカれていると言えよう。
「だが、我々はあくまでも最終手段だということを忘れるな、岩切」
「ああ、分かっている」
岩切は蝉丸の忠告に微笑しながら答えた。
「だが、私が動かないよう努力すると言うが、具体的にはどうするつもりだ?参謀」
と、そこへ。
「失礼、青紫参謀閣下はこちらでしょうか?お伝えしたい事があるのですが」
ノックしたのは、裏葉高等弁務官付の記録官の一人だった。脇に艦の庶務兵が立っている。
「そうですが。何か御用ですかな?」
「高等弁務官から連絡を受けまして、大至急参謀閣下に伝えてくれと」
「…なんだ?」
少し考えた後、青紫は部屋を出る。
「どうされました。あ、ここで立ち話も何ですから食堂までご案内いたしましょう」
「いえ、お時間は取らせませんので、こちらで十分です」
「宜しいのですかな。ではこちらで伺いましょうか」
予測はついたが、内容はやはり考えどおりであった。
「では、簡単ではありますが申し上げます。『当方では判断できない予期せぬ事態が起こりました。つきましては、会談を一時延会させて頂きたい』とのことです」
「それはまた急なお話ですな。予期せぬ事態とはどのようなことで」
「私から申し上げる事は何もございません」
確かに、こちらから通信の内容を言及した場合彼女の手には負えないだろうな。そんなことで話をこじらせた所で利は無い。青紫は考えた。
「ふむ…。いや、了解しました。こちらとしては出来得る限り会議を続行したいのですが、それでは仕方ありませんな」
「ええ、私としても心苦しいですが仕方ありません。では参謀閣下、こちらの提案に合意したと伝えますが宜しいですか?」
「宜しいですとも。よろしくお伝えください」
去っていった記録官の方を向きながら、しばし青紫はそこに立っていた。
「…さて。彼らはこれで、いよいよ危うくなってきたわけだ。麻枝元帥殿のお手並み拝見と行こうじゃないか」
「...He planned a plan」
投下完了です。一応Bパートもあるんですがw、長いので続きは後ほど。
332 :
月姫@名無し参謀:02/11/02 21:03 ID:ByhQuL5q
点呼…………13
いや、本業でヘタレてる間に情勢が凄く進んでマスヨォ〜
乾が、乾が…にょ〜
コレがリレーSSの醍醐味デスカ(涙
……またSSを書き直さねばならんな(某副司令風に
――少し時を遡って。
3月26日 新大陸標準時 2:30
空き地の町 ナカザキ東港湾地帯
『空き地の町』と一般に呼ばれているこの地域は、古くはナカザキシティと呼ばれる一地方都市にすぎなかった。
ただ、交通の要所であるが故に占領と略奪を繰り返されてきた町でもあった。
空き地の町――いや、ナカザキシティの歴史は戦火によって彩られてきたのである。
現鍵自治州最高指令官である麻枝とエロゲ南方総督府に下った久弥、現在も空き地の町を治める館山緑。
この三名によってによって命名されたこの『ナカザキシティ』という名前は、下川リーフの支配下に置かれるとすぐさま『空き地の町』と改称されてしまう。
もちろん反対した住民もいたが、主だった運動を起こした者は容赦なく粛清されてしまった。
それ以来、住民は名前を口にすることすら出来なくなってしまい、現在では都市中心からやや離れた一帯に名を残すのみである。
空き地の町戦役後に超政権が(暫定的ながら)発足すると、一部住民が再び改称運動を起こしたが、
不名誉ながら現在の名称で広く知られている事実と増えつづける難民への配慮から自主的に撤回された。
空き地の町中心部から車で1時間ほどの所に、ナカザキ東港湾地帯がある。主に付近に旅客・物資を運搬する船舶が集まる港の集合体だ。
付近には鉄道や道路が引かれており、中心部は都市整備によって碁盤のように区画が分かれている事で有名だ。
港湾地帯とは名ばかりの、ちょっとした商業都市である。
メインストリートを歩くと、倉庫街やそこで働く人達の集う居酒屋、さらには駅ビルなどが目に入るだろう。道路が直角に交差しているため道に迷うことも少ない。
またここは、交通の要所であると同時に、娯楽や商業の中心でもあった。週末ともなれば遠くはシンキバから買い物客が通ってくるほど盛況を見せていた。
――が、それも昔の話。
戦乱が激しくなっていくと同時に交通網は軍事接収され、人々は娯楽と交通手段を失っていく。
自然、港湾地帯にも人が集まらなくなり、近頃ではどの店舗も閑古鳥が鳴いていた。
今では、先の戦役で損傷した建物が嫌でも目に付く。絨毯爆撃や榴弾砲によって所々穴の開いたように瓦解した建築物が所々見受けられた。
現在急ピッチで復旧作業が進められているが、もとの町並みをとりもどすのには多大なる時間がかかりそうだ。
付近には軍艦である「空き地の町」「里村茜」が停泊する大型ドックが存在するのだが、その横につい5日ほどまえに完成した、巨大な体育館のような建物があった。
専門知識をもたない一般人から見れば、それでも軍港として見れば不思議ではないだろう。
しかし、周囲を立ち入り禁止柵で囲まれ薄暗くライトアップされるなど厳戒態勢が布かれているその建物は、奇妙な外観も相まって一種異様な雰囲気が漂っていた。
事実その建物の中ではちょっとしたことが起こっていたのだからその形容は正しいと言える。
「青紫大佐にッ、敬礼!」
直立不動で起立している艦長以下乗員90名の目には微かに涙が浮かんでいるようだった。着ている制服は一様に皺が寄っている。
応答を返すと青紫は一息つく。乗員を見渡した後、おもむろに口を開いた。
「まずは、乗員全員にお礼を言わなくてはならないな。混乱のさなか、下川などに屈することなく、よくやってくれた。今は感謝とお礼の気持ちで胸が一杯だ」
「ありがとうございます。乗員一同、来るべき日のため心を一つにして海中で潜伏していた甲斐がありました。再び大佐のお顔を見る事が出来、夢のようであります」
「うん。まあ、とりあえず落ち着きたまえ艦長。それに私はもう大佐などでは無いよ。今では専ら参謀といった方が通りがいいね」
3日ほど前、付近を哨戒中だった「空き地の町」のアクティブソナーに偶然捕捉されて以来、彼らとその船は機を伺ってちゃっかり入港していたのだった。
人目に触れるわけにもいかないので港側の準備に多少手間取ってしまったが、とにかく彼らは無事にドック入りを果たすことが出来たようだ。
青紫の傍らで一連の光景を眺めていた米村と蝉丸の二人は、話が一段落するとそれを見るためにドック中央に向かって歩き出す。
係留されている船を周囲の目から隠蔽する――急ごしらえで作った割にはよくできた建物だった。素材はプレハブだが、少し離れて見れば完全に周囲と溶け込んでいる。
歩みを進めるたびに、目の前に係留されている巨大な鉄の塊が視界を覆う。水面に顔を出しているのは全体の一部とはいえ、それ自身の巨大さを感じるには十分だ。
「まさか、再度この目で見ることができようとは…な」
「俺が前に見たのはまだ改修中の時だったな、確か。かれこれ何年ぶりになるんだ?」
原子炉の火を落としたそれは、彼らを見つめているように不気味に水中に浮いていた。
改アクラ級原子力攻撃潜水艦アビスボート。
全長129m、水中排水量9300tという、攻撃型原潜にしてはかなり大型な船である。
元々はかつての社会主義国家で設計された原潜であったが、空母「ピース」とその艦隊を海中からサポートするため、空母共々買い取られたという経緯を持つ。
当時影響力を作ろうと必至になっていた青紫はこれに目を付け、
『内部機関を始め諸所に不安があるので至急改良を加えられたし』
と称して積極的に介入しようと試みる。
実際原子炉は危険なほど老朽化が進んでいたので下川はこの申請を了承、「アビスボート」と名づけられたこの船は青紫主導の元で改造を加えまくったのである。
最終的に、攻撃型原潜では世界に例を見ない、核ミサイル発射から座礁艦の救助までこなせる汎用原潜となり、静かなる海の怪物として七つの海を支配下に置くようになる。
――とは言えば聞こえはいいが、実際は超参謀の個人的趣味のお陰で総合的に非常にバランスの悪い原潜となってしまったのだ。
「…いつ見ても変な潜水艦だよな」
米村はアビスボートを見上げながら呟いた。それもそのはず、大型とはいえ元々は攻撃型原潜だったアクラ級に、何を思ったか垂直発射管を6門取り付けてしまったのである。
また、通信傍受というある種潜水艦に最も向かない任務を遂行させるために各種アンテナが追加されている。元のアクラ級に比べても二倍近く増えた計算だ。
さらに垂直発射システムのスペース確保と魚雷搭載量拡張を始めとする各種機器の追加、それに電気系統の近代化のため19mも全長を伸ばした。
結果、全体的に見て妙に歪な形になってしまったが、それでもアクラ級特有の優秀な静粛性を保っているのは奇跡に等しいだろう。
その他細かい所をあげるとキリが無いので、あとは読者のご想像にお任せしたい。by 米村高広少将。
「何さっきからつぶやいてるんだね?米村少将」
「ぬおっ!? あんたいきなり現れるなよ!」
艦長との再会を一段落させた青紫が背中を叩きながら声をかけた。
「確かに今こうしてみれば外見は美しくないがね。まるで初期3Dゲームのキャラクターのようだ」
「あんたが言うなよ…」
「ま、色々付け足したせいで方々から叩かれたが、お陰めでたく今回の作戦にも役立てるようになったわけだ。怪我の巧妙というやつかな?」
どっちかっていうと身から出たサビなんじゃないのか…と反論せずにはいられない米村だったが、話が長くなりそうなのでやめた。
「大佐…いえ、参謀!」
さきほど青紫に敬礼した艦長が声をかけてきた。
「ちょうどいい所に来た。電波お花畑から贈って頂いた例の「プレゼント」は搭載できたかね?」
「ハッ。開発・生産元が違うため若干手間取りましたが、作戦には支障の無いレベルですので問題ありません」
「ご苦労。何しろ急な用件で不安だったんだが、とりあえず海中で展開出来れば大丈夫だろう。短期間でよくやってくれたよ」
「恐縮です」
艦長が興奮しながら答えると、再び点検の任へ復帰しにどこかへと去って行った。
「しかし、参謀の関わった中で最も個人的なオプションを使用する羽目になるとは、分からんものだな」
搭載する機器の点検のために艦内に入っていた岩切がセイルから降りながら言い放った。
「全くだ、岩切大尉。艦内はどうだ?」
「前から演習のたびに使用していたからな。手慣れたものだよ」
「お次は残る二艦の兵装補給に、ああ、「空き地の町」に高等弁務官を載せるんだから少しは掃除しておいたほうがいいかな。
あとこの際だから指揮系統を一応決めないとまずいか」
実の所、彼らは空き地の町戦役以降、ちゃんとした指揮系統を決めていなかった。
事実上のトップは青紫であったが、気が付いたらそこにおさまっていたようなものである。他の者も同様で、彼らはほとんど有志団体といっても過言ではなかった。
そんな状態にも関わらずこれまで目立って問題は無かったことは、実に驚くべきことである。
それは、町の復興と外交の二点に焦点があてられていたからだが、今回のような事態にいつ陥るとも知れない。備えはしておくべきだった。
「今まで気が付かなかったのが致命傷だな」
蝉丸が思案していた青紫に声をかける。彼も全く同意見だった。指揮系統の脆弱な組織は驚くほど脆いと言うことを彼は知っていた。
「やはり、こういうものは決めておいたほうがよいと思うが?参謀」
「そうだな。…では、主だったものを大至急集合させてくれ。時間と場所は…そうだな、本日6:00に空き地の町司令部に。政権擁立の場が相応しいだろう」
『...He planned a plan (in the past day)』
投下完了です。
実はまだ続きます。長くてスマソ…
何気なく使ってる「新大陸標準時」なんですが、あんまり気にしないで下さい。
なにしろデカイ大陸なんで時差がありそうだと思いました。勝手にw
今読み返して見たんですが、
暴走気味です、自分。自制せねば…。
ほっしゅ。
342 :
柏木耕一:02/11/04 17:43 ID:RP1Hh+eK
3月27日10時27分
正統リーフ、VN旅団戦車大隊駐屯基地
「これが、イスラエル軍の傑作戦車か…確かにいかにもってデザインね」
VN旅団、戦車大隊司令官柏木梓少佐は目の前のメルカヴァMK.V改の群れを見ながら呟いた。
数の上で優位に立てない正葉において一定の訓練を要する戦車兵の戦死は禁忌である。
この事が、より生存率の高い戦車を運用する必然性となった。そして、その戦車に似たような事情
を持つ、イスラエル軍の傑作戦車が選ばれた。今現在柏木梓少佐の前に並んでいる戦車は来栖川財団
がそれをライセンス生産したものに対誘導弾拡散システム・シトーラを取りつけたものである。
「これとその他の新型装甲車両はアタシの戦車大隊に先ず優先的に配備されて、他の部隊は後回しか」
柏木梓の率いる戦車大隊は乾戦車大隊同様に通常の大隊よりも大型でメルカヴァMK.V改他に随伴
歩兵部隊に歩兵戦闘車、護衛ヘリまで保有している、まさに騎兵隊である。
「お前の戦車大隊はVN旅団の切り札だからな。それだけ期待がデカイって事だよ」
「耕一」
短髪で長身筋肉質、かといって不必要な程筋肉はついておらず、プロボクサーのような体を持つ男が
梓に声を掛ける。柏木耕一少将。VN旅団の司令官であり、梓にとっては司令官とは別の意味を持つ男。
「VN旅団の装備の大幅更新計画"痕R"はそろそろ公にしてもいいだろう。月の友人達にも不要な不安
を抱かせたからな」
戦争において、数で有利に立てない、正葉が下葉に立ち向かういは装備の質と練度と指揮能力で対抗
するしかない。この装備の大幅更新計画『痕R』も唯闇雲に師団数を増やすより遥かに現実的であった。
「でもさ、耕一。敵になら兎も角、月姫や市民、VN旅団に所属しない一般兵にまで、この計画を隠す
必要があるの?ワザワザ、新編の一個師団を編成計画やら、水無月大将のRR菌感染疑惑まででっち上
げて」
343 :
柏木耕一:02/11/04 17:44 ID:RP1Hh+eK
梓の疑問に耕一は以外な程、そっけなく答えた。
「さあな、そこまでは俺にも解らないな。総帥に何か考えがあるんだろう。まあどうでもいいことだ」
「どうでもいいって、耕一!」
「唯俺達は剣であり盾だ。政治には係わり合いにならない。唯誇りを持って敵を倒すだけだ」「だが梓」
突然抱きしめられ、梓は反論の言葉を出す事が出来なくなる。
「これから、戦いはもっと激しくなる。だが、お前は何百何千殺しても生き残ってくれ」
抱きしめられて、耕一が少し震えている事が梓にも解った。
「例えば、千鶴さん楓ちゃん初音ちゃん」「それにお前が死んだら、多分俺は誇りも何もかも失って唯
狂うと思う。だから身勝手だと思うけど、お前は何があっても生きてくれ」
自分より遥かに大きなこの男の体が酷く心細く感じた。
「耕一、それ私も同じだよ。あんたが死んだら私も多分マトモじゃいられなくなると思う。だからあんた
も死なないで」
そう言った一秒後に腹部に何か硬いモノが当たっているのに気がつき、二秒後に顔が赤くなり三秒後に
は、捻りを加えた拳が耕一の顔面にめり込んだ。
344 :
柏木耕一:02/11/04 17:46 ID:RP1Hh+eK
耕一の体が一回転し、アスファルトに叩きつけられる。
「何すんだ!脳が揺れたぞ今!」
「それはこっちの台詞だこのエロ親父!たまに真面目な事言ったと思ったら、何を大きくしてんのよ!」
耕一が曲がった鼻を指で戻しつつ反論する。
「仕方ないだろ、最近忙しくてお前と大分していなくて、貯まっているのに、胸にお前の乳が当たってい
るんだから、当然の生理現象だろう!」
その反論はあまりも反論になっていない。梓は、あんたはヤリたい盛りの高校生かと内心呆れる。
こんなのが、正葉でも五本の指に入る前線指揮官だという事実に軽い眩暈を覚える。
「ったく。あたしは司令室に戻るからね!」
梓が耕一の目の前から、のしのしという擬音が似合いそうな歩調で歩き去る。
耕一がそんな梓にアスファルトに座りこんだ状態で叫ぶ。
「梓、さっきの話の続きだけどさ」
「俺も生き残るからさ、お前も生き残れよ」
梓振り返り、少し頬を赤くして耕一に告げた。
「今日、あたしの部屋にきて」
「わたしも、あんたとしたくなったから」
この時、未だ耕一は自分も原田、青紫、月姫の三者の政争に高橋総帥の代弁者として参加する羽目にな
るという事をを知らない。
345 :
鮫牙:02/11/04 17:48 ID:RP1Hh+eK
ども、何か物凄く久しぶりにSS書きますた。
――あなたを仮に一人の難民と設定しよう。
どこの国や軍閥でも構わない。
その身の不幸から、不名誉ながら名の知れている月姫難民でもいい。
一人の可哀相な戦争孤児でも結構だ。
自治体単位で集団疎開して来たという状態も考えられるだろう。
要は難民という身分が実感できればそれでよい。
さて、母国の戦乱から命からがら逃れてきたあなたは、
現在身を置いている国・勢力に不満をもっているとする。
原因は何でも良い。
某国難民のように、保護とは名ばかりの不当な差別を受けているのか、
戦闘地域の拡大にともない日常生活が困難なのか。
はたまた集団疎開をするにあたって何らかの致命的な決裂が発生したか。
まあ、詳しくはご想像にお任せするとしようか。
ともかく、あなたはひとり更なる移住を迫られるようになってしまった。
さて、どうしたものか。あなたは様々な可能性を思索するだろう。
どの国が身の安全を確保出来るだろうか。
どの国が人間として最低限の生活を送れるだろうか。
……どの国が一番、まともだろうか。
と、ここで、ある一つの噂が風の便りで流れてくる。
「とある国の政府が難民受け入れを積極的にやっているらしい」
と言った内容だ。
様々な選択肢を考えても今ひとつ決定打を欠き
藁をもすがる思いだったあなたにとって、
『難民受け入れ』という言葉は非常に魅力的な言葉だろう。
今の境遇にあなたが不満を募らせる一方で、
周りの人間は次々と移動を開始する。
ついにあなたは某国へと移民を決断する。
その時。
もし。この『とある国』が、かの空き地の町を指しているとしたら。
そしてその時の国家主席が、過去に悪行の限りを尽くした人間だとしたら。
もしくはそう噂されている者だとしたら。
あなたはそれでも、その国に移民するだろうか――
――「民族の歴史」冒頭より抜粋
3月26日 新大陸標準時 8:45 (「空き地の町」「里村茜」出航約9時間前)
空き地の町司令室
早朝6時からスタートした会議は、青紫司会のもと順調に行われていた。
心配されていた青紫個人への非難も組織の形がまとまるまではひとまず待とう、
という暗黙の了解が出来ていたらしい。
「――さて。とりあえず一通り決定したわけだが。諸君、異存は無いかね?」
静まり返った司令室に青紫の声が響く。その場に居た者は声を上げようとはしない。
「了解した。では引き続き、暫定自治政府防衛隊の大まかな枠決めを行ないたい」
一息ついて米村の方をちらりとみると、
「米村防衛隊総司令官殿。続きをよろしくお願いする」
そう言った。
「…え?」
「なにを驚いている米村少将。司令官が挨拶もしないでどうすればいいんだ」
「……ちょっ、ちょっとまて! 俺まだ何も言ってないぞ!?」
いきなり話を振られたため米村はびっくりしながら言い返す。
「だから私が話を振ったんじゃないか」
「そういう事言ってるわけじゃねぇよ!」
「では、何か不満がおありかね?」
「当たり前だ! 何で俺がそんな大役押し付けられなきゃいけないんだよ!!」
司令室に殆ど絶叫と言ってもいいほどの怒声が響いた。
「…お言葉だが米村少将。貴官を推す理由は先ほど参謀が申した通りだ。
それでもなお疑問をお持ちか?」
「参謀はあんなこと言ってるがな、防衛隊のトップに収まる人材はあんたが最適なんだよ」
軍事顧問団大佐と元民間防衛隊の副官が口々に言い返す。
「…しかし、そんな事言われても、こっちだって心の準備というものがだな…」
勢いを削がれた米村がひとりごちた。
「なに、心配することはない。総指令官という肩書きだが、あくまでも総まとめ役といったところだ。
君は専ら事務処理や軍の規律を正すことに集中してくれればよい。
要は一日署長の無期限版みたいなものだな」
「無期限版て…」
「我々は長い間独裁体制の中に生きてきたから忘れてしまったろうが、
本来組織とは役割を分散させるものだ、米村少将。
我々はなにも、君にしぇんむ〜になってくれと言っているわけではない。もちろん必要とあらば、
私を始め頼もしい面々がここに揃っている。何か心配事があればいつでも問えばいい」
顔を上げて周囲を見渡す。自分らの話をずっと聞いていたせいかやたらと目が合う。
その目は、なんだか青紫と同じことを暗に語っていた……
……ような気がした。勝手な思い込みのせいかも知れない。
しかし、どちらにしても彼にとっては非常に頼もしく見えたのである。
無理やり長く息を吐き、そして一呼吸で言い切った。
「分かったよ。そこまで言われたからには仕方ない。やることはやってやる。ああやってやるさ!」
身体を硬直させつつ不自然な笑みを浮かべながら。
(2行空けて下さい。)
色々話がこじれた所もあったが、こうして空き地の町暫定自治政府の大枠が決定されたわけである。
主な決定事項は、
・空き地の町町長の館山緑が暫定自治政府総理に就任。実質上の首長である。
・行政府の一つとして「暫定自治政府軍務委員会」を発足。委員長に米村高広少将が就任。
・青紫、暫定自治政府軍務委員会参謀長および自治政府総理代行に就任。
情勢が安定するまでの期限付きで国交の全権を委任される。
・空き地の町戦力は統合・再編成され「空き地の町暫定自治政府防衛隊」となった。
・坂神蝉丸少佐および「誰彼中隊」を第一地上連隊所属第三大隊に編入。
・主に月姫民族系志願者で構成される民間防衛隊を、
防衛隊司令部直属の「都市防衛警備隊」として編入。
といった感じだ。これらは暫定自治政府承認と同時に正式に施行される予定だ。
また、残留した軍事顧問団大佐の仲介を経て電波お花畑連合国から装備を供与して頂くという計画も浮上している。
しかし隣接国(特に下川リーフ)を下手に刺激させないため、それ以上に財政が不安定であるために
かなりローペースでの導入という方針で検討中である。
だがなによりも、青紫個人の「文民化」が今回の人事での大きな目玉だろう。彼は戦略立案などには長けていたが、
ご存知の通り一個師団をほとんど自滅させるという実績がある。部隊を指揮させるのはあまりにも危険だ。
むしろ軍の規律にかかるんじゃないのか? と、こうした判断による「文民化」であった。
ちなみに青紫は、この決定によって正式に大佐の位が登録抹消されている。
「では、館山総理。続きをお願いする」
「分かりました。青紫参謀、米村少将、ご苦労様です」
青紫に変わって一人の女性が立ち上がった。
館山緑。もとは小説家出身という異色の政治家である。
もっとも、一地方都市にすぎなかった空き地の町においては、「政治家」というより漠然と「町長」
として住民に認知されている。
彼女には戦火の激しい町を一つにまとめあげ、秩序ある統率をしていたという実績があった。
また麻枝を始めとする鍵首脳陣、メビウスの久弥、さらにはエロゲ国LOZE師団と繋がりがある
ということも多少影響して総理に推薦されたのだ。
もっともLOZE師団は現在ではほぼ壊滅状態にあったし、ものみの丘との繋がりが未知数であったため
この点はあまり考慮されなかったのだが。
「今回、暫定自治政府総理を勤めさせて頂く事になりました、館山緑です。以後お見知り置きを」
と、挨拶した後に軽く会釈する。そして、ゆっくりと語り始めた。
「さて。
これまでの決定事項どおり、我々はこれから他国家と対等な立場に立つことになります。
都市国家と言っても過言では無いでしょう。現在多くの軍勢が割拠しているこの大陸において、
非常に危うい存在と言えます。特に我々は発足して間もない赤子同然の存在。
まだどこからも認められていない、言ってしまえば一つの『有志団体』にすぎません」
机に手を組んで語り手を見ている青紫。
腕を組んでイスに体を預けている米村。
手元のペンをくるくる回しながら館山を凝視する軍事顧問団大佐。
背筋を伸ばし、じっと相手を見据える蝉丸。
格好や仕種は人それぞれだが、その誰もが一語一句漏らさず話を聞いていた。
「軍事的にも政治的にも、また地理的に考えても我々は『捕食すべき』、『利用すべき』存在と認識されているでしょう。
そんな我々空き地の町暫定臨時政府が生き残る道は、残念ながら現在ではあまり開けていません。
しかし、道は開拓することが可能です。苦しい道のりになると思いますが、
私達の行動次第によって可能性は半分にも倍にもなるでしょう。
我々の平和は我々自身で勝ち取るべきです。歩む事を恐れてはいけません」
ここまで一気に話し、一旦言葉を切る。
と、ふと思い出したのか、彼女はとある一節を口にした。
「『この道を行けば どうなるものか 危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし
踏み出せば その一足が道となる 迷わずにゆけよ ゆけばわかる』――かの一休和尚も言いましたしね」
こんなところで「道」を聞くとは思わなかったのだろうう。不意を突かれた面々の口元が緩む。
「具体的には今度の鍵自治州と正葉間で行われる会議が我々の第一歩となりますが、
これになんとか食い込んで、一つでも多くの権利を獲得する事を期待します。
青紫参謀率いる交渉団ならば、必ず成し遂げてくれるでしょう。
そして、彼ら――里村茜さんと軍事顧問団の方々が再びこの地を、武器を持たずに訪れることが出来るように。
我々は努力を惜しんではなりません。私から申し上げる事は以上です」
一礼して着席する。
皆、彼女の言葉を頭の中で反芻させているようだった。誰も声を上げようとしない。
――正直、ひどく理想論ではあったが、彼らを鼓舞するのには十分役に立ったのではないだろうか。
『里村茜と愉快な狂人達』に特に思い入れのない米村は、いたって冷やかに考えていた。
ただ、彼女の熱意は米村でも肌で感じられるほどでもあったが。
ややあって青紫が再び切り出した。
「…さて。特に質問等がなければこれにて会議は終了となるが、何かあるかね?」
特にないらしい。部屋は静まり返ったままだ。
「では本日はこれで解散とする。交渉団の出発は予定通り本日18:00の予定だ。各自準備を怠らないよう気を付けてくれ。
あと、それまでにちゃんと睡眠をとっておくように」
まるで遠足前日の小学校教師のようなノリで青紫が言った。いつもなら米村に素早く言い返されるところだ。
会議が終わり帰宅する途中、米村はこれからのことを考えていた。
すぐには寝付けそうになかった。
そして舞台は27日、大リーフ湾洋上へ――。
――さて。
ここまで物語を読んできたあなたなら、ある疑問が脳裏に浮かぶのではないだろうか。
「何故あれほどまでに悪名高い青紫が、当然の如く一組織に収まっているのか?」
と。
彼は過去、下川直哉国家元帥の独裁体制の下、
拭い難い数々の悪行を繰り返してきた。
「エルクゥ計画」に基づく人体実験、細菌兵器「RR菌」の開発および使用、
第三RR装甲師団デキスギの配慮にかける運用による壊滅―――
詳細まで挙げるときりがない。
これら所業によって彼は「無能」「100円参謀」のレッテルを貼られることになる。
彼を知っている人間ならば、国の生命に関わる外交などに
青紫を押し付けたりはしないだろう。
だが、この司令室に集う者達は、青紫をそうは見ていない。
いや、正確に言うならば、そう見るようにならなくなったといったほうが正しいだろう。
ここにいる彼ら全員が青紫のRR菌に犯されてしまったのだろうか。
それとも気でも狂ってしまったのだろうか。
彼らを知らない者ならば当然そのような疑惑を持たずにはいられない。
事実、超政権発足の報を聞いた人間は皆一様にそう信じ込んでいた。
ほんの5分でも良い。彼らに司令室での会議を傍聴させれば、
彼らは自分達の考えが全くの間違いである事に気づくだろう。
軍を追われた将校、切り捨てられた兵士、難民、そして空き地の町住民。
彼らの挙動からは、気が狂っている人間だとは微塵も感じられない。
青紫を含めて彼らに共通して言える事は「主君に見捨てられた」という過去だ。
連帯感を強化するには格好の材料だろう。
しかし、行動を起こすに当たっては動機付けが今ひとつ弱い。
目の前で起こっている不思議な光景を読み解くには、とある集団が鍵になる。
すなわち、「里村茜と愉快な狂人達」の存在だ。
過去の思い出に囚われた少女と、彼女を守るべく自ら身を呈して敵に立ち向かう兵士達。
彼らは、全くの私情で動いているという。
そこには国家間の利害は存在せず、自らの良心に従い行動している。
そんな彼らが、見捨てられた私達とこの町を必要としてくれ、守ってくれた――。
と、空き地の町住民には映っていた。
住民にとって、彼らはもはや英雄のような存在であったのだ。
住民はやがて、彼らがこの地に戻ってくると考え出すようになる。
――彼らの意思とは裏腹に。
軍事顧問団の目的は里村茜のみであり、
空き地の町の防衛は副次的なものにすぎなかった。
しかしその意志を確認する術はなく、住民は当然彼らを待ちつづける事になる。
このような土壌をうまく利用して政権を築いたのが青紫だ。
住民の「里村茜と愉快な狂人達」に対する感情を巧みに利用し、
また自らも考えを時にオーバーに表す事で情に訴え、
結果うまい具合に受け入れられていった。
また自らは対外的な面を考慮して主席には就かず、
あくまでも裏から手を出していた――
とされている。
私は敢えてここで異論を唱えてみようと思う。
確かに青紫は悪行の限りを尽くしてきた。
しかし、それは下川体制時代の時の話であり、
彼の行動はロディマス地下での戦いを境に変わっていく。
一般には、下川体制に見切りをつけた彼が取った
信頼回復のための策略と教科書に載っている。
が、本当に彼はそのようなことを行ったのか。
私はこう考える。
下葉時代の彼は、体制での保身のため嫌々ながら
命令に従っていただけではないのか…と。
そして主に捨てられた同じ境遇が多く集う空き地の町で、
彼はある決意する。
「ここを私の故郷としよう、ここに私の骨を埋めよう」と。
もちろん、この仮説を裏付けるだけの証拠などない。
言ってしまうと私が考えた全くの空想だ。
それゆえ今この時まで、この空想を表に出すことはなかったのだ。
だが。それでもなお。
私は青紫という人物に、人間のロマンを抱かずにはいられない。
激動の時代を生きた一個の政治家として。また一人の人間として。
彼の本質は、一体どうだったのか。
答えを知るものは、現在ではもう居ない。
――「実録 空き地の町戦役」あとがきより一部抜粋
>>346-356 ...He planned a plan (the government)
投下完了です。無駄に長くてすみません。
投稿してるとき自分でもいやになりました…w
もっと短くまとめるよう努力していきたいです。
あと
>>338で岩切が大尉になってますが、正しくは大佐でした。
おそばせながら
>>345鮫牙さん乙です。
水無月RR疑惑がブラフだったとはw
359 :
287:02/11/04 22:23 ID:gwOMv7B8
>>358 乙です。
個人的には政治向きの話の方が好きなので、いつも楽しく読ませて頂いております。
「秋月チック石原莞爾」な青紫氏、最高です。
360 :
鮫牙:02/11/04 22:31 ID:RP1Hh+eK
後方支援板31氏サンクス。しかし、何故そこまでして更新計画を隠蔽(味方からも!)
をこれから考えなければならんのが、頭痛かったり。
ところで、AF書き氏、俺も有延滞残党だったりする。
361 :
名無しさんだよもん:02/11/05 00:00 ID:hUgThFcY
huzyou
>>362 んげ。そうだったのね…。
こちらこそ確認不足で済みませんです。
同じ轍を踏まないよう気を付けまつ。
>>鮫牙氏
痕R計画(水無月RR菌疑惑のデマという事実も)
を知っていたのは正葉でも、
高橋や水無月本人など最上層部だけということですよね。
原田海兵隊書くに当たって気になったもので…。
365 :
鮫牙:02/11/05 21:09 ID:hUgThFcY
364
そういうつもりで書きました。あとはVN旅団の将校達が知っていますが。
その他の部隊は高級将校クラスにも知らされていません。完全な秘密計画です。
366 :
鮫牙:02/11/05 21:11 ID:hUgThFcY
ああ、後は綾香様も知っています。(あたりまえか)
>>鮫牙氏
了解です。
うっかり綾香様書き忘れるところでした…。あぶねぇあぶねぇw
耳朶を叩く轟音と顔をなぶる強風。
髪とコートの裾とが手荒くなぶられるが、その一切を気にした様子も無く、乾有彦は
只そらを見上げていた。
日頃から穏和的とは評しがたい顔を更に厳しく歪めて、口を真一文字に引き絞って。
場所は空き地の町南方。
乾戦車大隊を中核とする正葉軍駐屯地の一角に設けられたヘリポート。
常にはAH-1やOH-6、極希にOH-1が翼を休めるその場所に、今、最新鋭と言って良い多用途
ヘリコプターUH-60JAが、誘導員の指示に従ってODを基調とした迷彩に身をくるんだ機体を
ふわりとした風情で着地させる。
ホンの少しの時間。
プロペラの回転が少しだけ落ちたとき、キャビンの扉が勢い良く開いて1人の男が飛び出す。
そして少しだけ駆け出した時、UH-60JAは時間を惜しむ様に回転を上げて飛び立つ。
「よう」
腰回りを叩きながら立ち上がった男に、乾は片手を上げて挨拶を送る。
挨拶を送られた男は、少しばかりずれた眼鏡の位置を戻して応じる。
その襟元には准将の階級章が光る。
正確には准将ではなく准将待遇大佐の旅団長。
それが現在の遠野志貴の立場だった。
「ああ」
ゲリラ時代から俺貴様の付き合いをしており、更には周辺に人間が居ない事からも志貴は
極めて軽い態度を示していた。
「お迎えご苦労さん」
「旅団長就任と昇進おめでとよ。しかしだからか? 派手な登場だな。遠野さんは地味好きだと
思っていたが」
「ああ有り難う。航空教導隊の長距離飛行訓練に無理を言って巻き込んで貰ったのさ。出来るだけ
急いでコッチに来る必要が有ったからね」
「ほー旅団長で准将ともなると待遇が違って来ますねえ遠野さん?」
「そう云う訳じゃないさ。基本は移動時間が惜しかったのが一つ。そして本命は琥珀さんからね、
目立たない様に動いて下さいって厳命されてね」
「既に十分に目立っていると思うんだが?」
既に小さな点と成ったUH-60JAを見上げながら小さく呟く。
「ああ、アレね。大丈夫さ。アレのフライトプランに関しては強々度脅威エリアの長距離飛行訓練
仕上げてあってね。その途中、新人パイロットのミスで燃料を消費し過ぎて空き地の町駐屯地に
一旦補給に立ち寄った……まぁそんな筋書きだよ」
「流石は琥珀さん……“メイド服の下に悪魔の尻尾を隠し持つ”の呼ばれ方も伊達じゃ無いな。
微塵の隙も無い屁理屈」
「ああ。時々怖くなる……」
「そうか…で、引き継ぎその他で多忙な筈の新任月姫旅団長殿がこんな前線に出張ってきた理由は何だ?」
単刀直入。
駐屯地に設けられたプレハブ小屋の一つ。壁や窓に対して防諜加工の施された司令用プレハブに
入るや否や、乾は切り込んでいた。
遠野志貴大佐の准将昇進と月姫旅団長就任が発表されたのが昨日の事。
【TYPE-MOON】の設立で奈須少将が月姫旅団々長と【TYPE-MOON】代表者を兼任していた事も在って、
旅団改編の噂は有ったが、此は一般兵にとって寝耳に水の出来事だった。
そしてそれは遠野にとっても同様だと、スタッフも大半が退役−【TYPE-MOON】に移籍した為に、
洒落にならないと冗談混じりの愚痴を本人から聞いていた。
故に、乾は遠野の来訪が軽い用件等では無いと判断し、率直に尋ねたのだった。
「話が早いな。良い内容と面倒な内容。二つあるけどどっちが良い?」
昔から変わらぬ乾の態度に、小さく笑いながら手元のアタッシュケースから一束の書類を取り出す。
機密と赤で打たれたスタンプ。
静かな緊張感。
ゆっくりと目を通していく乾。
その表情が訝しげなものから、驚愕へと変わるまでさしたる時間は掛からなかった。
「おいおい良いのかよ……」
唸るような呆れたような声を漏らす乾。
書類には、先のREAL集成旅団長JRレギオン少将による電文に対する【TYPE-MOON】としての対応、
そして正葉としての対応が書かれていた。
基本は現在実施されているAir市に対する支援の強化、只それだけであった。
国是として月姫難民との融和を掲げている正統リーフ国にとって、かの様な電文の発せられる
状況は、何らかの公的な反応を示さずに置く事は不可能な情勢であった。
鍵自治州に於ける月姫難民差別、迫害行動は正葉国でも知らぬ者は無い事で在り、正直、月姫ゲリラ
出身の人間にとっては不快極まりない事であったが、下川リーフと云う強大な敵が存在するが為に、
それが表だって政治問題化しない限りは正葉側から外交問題化しない。
それが正葉首脳陣の判断だった。
そして、非公式にその旨を伝達されていた鍵自治州首脳陣も又、世間の耳目が集まらぬ様に言論統制を
して来ていたのだ。
だがそれも此処に崩れた。
JRレギオンと云う1少将の発した電文によって。
月姫同胞への支援と保護を存在意義と任ずる【TYPE-MOON】は、かかる月姫難民の苦境を看過する
訳には行かないのだから。
そして、月姫を体制内に取り込んでいる正葉も又、己の体制の安定を維持し続ける為には、月姫の民に
対する故無き差別を無視してはならないのであったから。
【TYPE-MOON】はメディアを使ってAir市に対する正葉市民の、そして世界からの人道支援の必要性を叫び、
正葉政府は月姫難民の置かれている状況に対して「深刻な憂慮の念を持つ」との見解を発表する等の事が
記載されていた。
只それだけであれば乾にとっては関係の無い話ではあった。
だが、対応策一覧の最後に書かれていた一文が、乾に遠野がやって来た理由を悟らせていた。
其処には義勇派遣部隊の創設と、Air市への派遣の文字が在った。
「俺の所に来た理由、此か?」
「まぁそう云う事」
「………此の何処が面倒な話だ? 俺としては同胞の危機に馳せ参じるって事で良い話だぞ」
「有彦ならそう言うと思ったよ。だからもう一つが面倒な話」
眼鏡の奥で小さく笑う遠野に、乾は少し退いていた。
「(何か企んでやがるな…ならば)いや、よく考えたら面倒な話だな。何たって空き地の町からAir市まで
移動するんだ。忙しくなるな。悪いが遠野、さっさと命令書を置いて帰ってくれないか? 良い話は、
又今度で良いからよ。副官、旅団長はお帰りだ!」
付き合いの長さから何某の厄介事の匂いを感じた乾が大声で室外の大隊首席参謀を呼ぼうとした時、
遠野は小さく、だが効果的に乾の注目を引く事を呟いた。
「悪いけど、乾戦車大隊が派遣される訳じゃ無いよ」
「何?」
「どうされました、大隊長殿?」
「いや何でもない。気のせいだ。もう少しの間、気楽で居てくれ」
「はっ? ……判りました」
奇妙な緊張感を孕んだ大隊長室の雰囲気に何かを感じたのか、副官は追求する事無く扉を閉めた。
しばしの睨み合い。
余裕の表情の遠野と、困り果てた表情の乾。
やがて意を決した乾が口を開く。
「ああ畜生! でだ遠野、て事は大隊はこの場に張り付けで新しい部隊を率いるのか? 任務の性格上、
各種の部隊を集成した戦闘団って所か。面倒だが良いさ。良い大隊長を見繕ってやってくれよ。共に
死線を潜った可愛い連中なんだからよ」
「残念。それも外れ。大隊とは離れないよ。それにこの場には琥珀さんの根回しで、VN旅団の第U連隊が
展開する手筈に成っている」
「第U連隊…そうか、連中漸く錬成が終わったのか」
心底から安堵した声を漏らした乾。
だがそれも仕方のない事であった。
元々、ゲリラ部隊として大隊単位で活動していた月姫旅団に比べ、VN旅団は正葉国創立によって、
漸く事で大規模部隊として編成が開始しており、故に、今まで最前線に立つことが無かったのだった。
かつては葉国国防軍の一員として実戦を経験した将兵が基幹と成っているのだ。
その一刻も早い錬成終了は極めて劣勢な前線に立つ月姫旅団将兵にとって希望で在ったのだから。
「ああ。今までご苦労様」
「ちったぁ肩の荷が降りたな、此で。正直、冷や冷やしてたんだぜ。幾ら最新鋭の機材を装備してるとは
云え、俺等は所詮、増強戦車大隊規模だからな」
「んーそう言う意味では凄く安心出来るかもしれないな」
「ほうほう、どんな話なんですか遠野さん?」
「いやいや簡単な話ですよ乾さん。月姫旅団第T連隊乾戦車大隊は部隊改編で装甲連隊に成って貰う
だけですから」
「なっ、何ぃ!?」
「当然君も昇進して貰うからね?」
澄ました顔で中佐だと付け加える遠野に、乾は忌々しさを存分に含んだ舌打ち混じりに言う。
「かースゲェ面倒事じゃねぇか!」
「そだね」
何処かしら愉しげに見える遠野。
乾にはそれが、同じ面倒を自分に背負わせた事に対する嬉しさである様に見えた。
「性格悪くなってません、遠野さん?」
「いえいえ友人の教育の結果だと思いますよ……所で、茶の一つも出しても良いんじゃないか?」
「馬鹿野郎。無理難題を持ち込んで来るような奴に出す茶は無ぇよ。ここら辺は物資不足だしな」
「ん? 補給は部隊所要プラスは回している筈だけど」
「ああ飯なんかに関しちゃ問題はねぇよ。だが嗜好品系は片っ端から空き地の町に流しているからな。
慰撫工作の一環って奴だ。当然、現地判断だがよ」
文句が有るか?
そう言わんばかりの乾の態度に、苦笑を浮かべる遠野。
ゲリラ時代より、人心の掌握が如何に重要であるかを経験則として知悉する遠野としては、その
判断を否定しようも無かった。
全面降伏の意図を見せるように両手を軽く掲げてみせる。
「上が贅沢を独占するよりは遙かにマシだな。【TYPE-MOON】の章が入った物資を善意で融通。確かに
民心の慰撫工作には向いてる」
「だろ? だからこゆうのは自分で買ってくるのさ」
そう言って乾は立ち上がって大隊長デスクの隣りの棚から二本の缶珈琲を取り出した。
「温いのは我慢しろよ。此処には大隊長用の冷蔵庫なんて代物は無ぇからよ」
「ああ乾杯だ」
「何にだ?」
「そうだな。我が月姫旅団のモラルの高さに」
その言葉に小さく笑って缶をぶつける二人。
遠野には温い缶珈琲がとても旨く感じられた。
そして一服。
煙草を吸って人心地つくと、再び乾が口を開く。
「で、話を元に戻すが。じゃあその装甲連隊はどうなるんだ? 戦車って名じゃ無い所から
単純な部隊規模の拡張じゃ無ぇんだろ」
「ああ。元々乾戦車大隊は砲兵隊やら防空隊やらが編入されてただろ? その拡張も一緒にする
からな。具体的には此」
差し出された一枚の紙。
其処には新しい乾の部隊の姿が在った。
【第一独立装甲連隊】
本部管理中隊
第11戦車大隊(2個戦車中隊)
第12戦車大隊(2個戦車中隊)
第11砲兵大隊(2個155o自走榴中隊 1個MLRS中隊)
第11機械化歩兵大隊(3個機械化歩兵中隊)
第11後方支援大隊
第11防空中隊
第11装甲偵察中隊
第11対戦車中隊
第11戦闘工兵中隊
第11通信中隊
「………あのですね遠野さん。此って普通“旅団”とか言いません?」
「そうかな。航空部隊は引き抜く事に成ったし、それに最終的にってだけで、現時点では此処まで
一挙に人員を回せないしね。編入されてくる歩兵大隊以外は当面、今のままだよ」
遠野は惚けた表情で天井を見上げていた。
乾の溜息が大きく響いていた。
「しかし此だと大幅な増員に成るな。人員は3割増しか…」
「いやもう少しだ。新規部隊の基幹人員で幾らか引っこ抜く事に成るからな」
「新規だと? 例の新師団構想用か。しかし、今頃引き抜いて錬成は間に合うのか?」
「いや、どうにもアレはフェイクだったらしい。実態は掴めていないが人員と機材が別の所に流れて
いるらしい」
「はぁ? 何でまた??」
「さあな。俺も参謀本部で琥珀さんに聞かされたばかりだからなそこら辺の経緯はさっぱりだ」
「上の連中、正気か?」
「俺に聞くな。軍人として、そして月姫の民として同胞を護る為に最善を尽くす。只それだけだ」
諦観している訳ではない。
絶望を抱いている訳でもない。
その言葉には現実を前に己が出来る事を精一杯に成そうとする決意だけが在った。
その思いは乾とて一緒。
だたその思いを口に出すには、乾の性格は少しばかりひねていただけだった。
「へーへー宮仕えは辛いやね。で、何時から動けばいい?」
冗談めかしての言葉。
尤も、その事を知らぬ遠野では無く、此方も笑って答えた。
「今直ぐに」
但し、その内容は笑える様なものでは無かったが。
「はい?」
「部隊を纏めて移動準備をしてくれ。トランスポーターの類と歩兵大隊はVN旅団第U連隊と一緒に到着
する予定だ」
「到着は何時?」
「遅くとも明日中には。俺がロディマスを出る時には、既に移動準備が終了していたからな。急がないと
情勢が動きすぎて意味が無くなるからね」
「Air市の陥落か……だが本気で間に合うと思ってるのか上は?」
「さあね。だが重要な事は【TYPE-MOON】は同胞を助けるために動いた。その事だけだ。成功するしないは
考慮外………まぁ琥珀さんの受け売りだけどね」
「そいつは結構! 上がまともな判断力を持ってるってのを知るのは嬉しいな。しかしな遠野、そう言う
事を先に言ってくれ。のんびりと珈琲飲んでいる暇は無いじゃ無ぇか! 副官、参謀を集合させろ!!
大返しだ!!!」
そして、月姫旅団の誇る最精鋭機甲化部隊が動き出す。
「なぁ遠野、所で編入されてくる大隊ってやっぱ先輩の大隊(聖堂騎士大隊)なのか? やっぱ同じ連隊
だから当然だよな!?」
「いや。乾大隊を手放すのに更に重機械化歩兵大隊を手放す訳にはいかないからね。第U連隊第T大隊、
弓塚さんの部隊だよ」
「何故だ!」
「琥珀さんも最初はそのつもりだったらしいけど、シエル先輩が嫌がったらしくてね。やっぱ乾の目つきが
イヤらしかったからかな」
「ノォー!!!」
【月姫の民は同胞を見捨てず】
投下完了です。
余りオチの無い展開と無駄に長い所に能力不足を感じます(溜息
最後の叫びには何か、別のキャラっぽいですし……嗚呼、ダメポ
つか、連中はAir市に到達出来るのか?
いや、抑も鍵自治政府は彼等を受け入れるのか?
其処は謎(お
-RR菌 lactobacillus RealReality-
□発生と歴史
■葉鍵暦XX年、葉鍵国青紫大佐主導により開発された細菌兵器。この細菌は「エルクゥ計画」によって
得られた研究データをベースに開発が進められた人工のウィルスであり、言わば同計画の副産物と言える。
菌名は最初に症例が確認された患者が「リアルリアリティ」という言葉を繰り返し発していたとも、
また開発責任者の青紫自身が名づけたとも言われているが、詳しい語源は不明。
「RR菌」とは俗称であり、正式な菌名はない。
□病原体
■公表されていないため現時点では不明。全くの新種ウイルスと推測される。
□感染経路
■空気感染、血液感染、飛沫感染、飛沫核感染、性的接触など
接触感染を除くあらゆるルートでの感染が考えられる。
空気中及び水中で約12時間生存でき爆発的な感染力を持つ
と言われているが、詳細は不明。
ヒト以外の生体への感染の有無は不明。
□潜伏期
■2日から最大で21日とされているが、詳しくは不明。
□臨床症状
■胃、小腸、肺等から体内に侵入するとされているが原因は不明。
体内で潜伏・増殖した後、堰を切ったように諸症状が現れる。
発病初期の症状として言語能力の著しい低下が見られ、やがて
発熱、脱力、筋肉痛、頭痛、咽頭痛など風邪に似た症状が現れる。
続いて嘔吐、下痢、発疹、腎・肝障害および出血症状が起こり、
発病から8日ほどで死に至る。主な死因は臓器の壊死によるショック死――か」
3月27日 新大陸標準時 15:00
イワンロゴフ級強襲陸揚艦「ホワイトアルバム」艦長室
原田准将は一通り読み終えた書類を机に投げつけた。
医学書をもとに急遽作成されたRR菌に関する報告書だ。
「――不明、不明、不明、これも不明。唯一分かっているのは症状だけだ」
彼は艦長室で悪態をついた。天井に無数のパイプが走り、
お世辞にも広いとは言えない室内に彼の声が響く。
部屋の主である篠塚艦長は席を外しているので、この部屋には原田一人だ。
……ふん。これでは何の役にも立たない、ただの紙切れだ。
せっかく奴がRR菌にかかってくれたかもしれないというのに、
この程度の情報では事の真偽すら分からん。対策の立てようがないではないか。
忌々しげに報告書を睨み付けたかと思うと、
哀れその紙束は原田准将によって灰にされてしまった。
大方燃え尽きたところを見ると、彼は勢いよく上着を羽織り艦長室を後にした。
灰皿で燃えるRR菌の顕微鏡写真は、最後まで炎にまみれていた。
――水無月事務総監、RR菌に感染か。
――RR症状を水無月大将に確認。
――本人は頑なに否定も信憑性に疑問。
二、三週間ほど前、ロディマス市内の各新聞一面はそんな言葉で覆い尽くされた。
市内はちょっとしたパニックとなった。
つい数ヶ月ほど前まで、ロディマス市地下施設を
RR菌開発張本人である100円参謀に占領されており、
またRR菌入り巡航ミサイルの心理的影響も残っていたため
混乱は予想以上に広範囲に及んだ。
謂れのない風評があちこちに出回り、市内のドラッグストアでは
防災用マスクが飛ぶように売れた。
当然瞬く間に売りきれになり、比較的強力な防災用マスクは軒並み在庫薄になる。
すると、市販のガーゼマスクに消毒用の液体を染み込ませると同等の効果が得られるというデマが広まり、
それを実行したある市民が呼吸困難で意識不明の重態に陥るという事故まで起こっていた。
もちろん当の水無月本人は感染疑惑を否定する。
しかし、感染疑惑を晴らすには情報が少なかった。
同様の混乱は軍や政府上層部にまで及んだ。
むしろ感染者に物理的に近い分、こちらの方が混乱が酷かったのではないか。
その影響で、その日予定されていた定例会議は欠席者が続出し、
出席率はほとんどゼロ。
会議室に座っていたのは高橋総帥、水無月大将、琥珀大佐、
それに来栖川綾香中佐くらいである。
……何も状況を知らないまま来てしまった柏木耕一少将と、
さしあたって用もないのに一緒に登庁して来た柏木梓少佐が唯一の例外であったのだが。
「――――あれ? なんでこんなに人がいないんですか?
あ、皆さんおはようございます」
ドアから半分ほど顔を出した柏木少将の一言目はそんな間の抜けた声であったという。
あとで高橋が琥珀に打ち明けた所によると、
そんな少将の姿を見て思わず目の前が真っ暗になってしまったらしい。
もちろん原田准将もこの日は登庁せず、自宅で遅めの朝食を取っていた。
例の朝刊を読みながらベーコントーストを口に入れる。上着はハンガーにかかったままだ。
TVのブラウン管は市内中心にある繁華街を映している。
「――は市内中心部です! あちらに見えるのはコンビニなんですが、
普段この時間帯は比較的穏やかなんですが
すでに多くの人が詰めかけています!とにかくすごい数です!
繰り返します。水無月事務総監RR菌感染疑惑で、
ロディマス中心部は大混乱に陥ってます!繰り返します――」
そこまで聞いた所で、チャンネルを一通り変えてみる。
どこも同じように特番を組んでいた。
朝からアニメを見る気にもなれないので早々にTVは消してしまった。
普通の人間ならこの状況だ。多かれ少なかれ不安になるだろう。
しかし彼はそう思わない。
むしろ好都合だ――黒くなったTV画面を凝視しながら原田は微笑んだ。
他の将校達とは違って、元から彼は欠席するつもりだったのだから。
同日 新大陸標準時 11:25
フキフキ港「ホワイトアルバム」係留ドック
朝食を食べ終わると、彼はすぐさまここフキフキ港へと車を走らせた。
2時間ほどの行程なので、予定していたよりも30分ほど早めに到着出来た。
駐車場を降りて港を10分ほど歩く。
と、彼にとってなじみ深い「ホワイトアルバム」係留ドックが姿を現した。
3月中旬、「ホワイトアルバム」は沖合50マイル付近を哨戒任務中であった。
そのためか、普段は物々しい警備員の姿も今日に限っては見当たらない。
わざわざここまで船で戻ってくるわけにもいかないので、
おととい未明に一人ヘリを使って移動したのだ。
―――広い。
単純にそう思った。
それもそのはず、原田がここに来る時は例外なく「ホワイトアルバム」が入港している。
その光景を見慣れた原田にとって、主のいないこのドックを見るのは初めてだった。
腕時計を見る。長針は文字盤の9を指していた。
まだ15分は余裕がある。このまま待っているのも何だしな。
と、彼は付近を散策し始めた。
……海からの風が頬に当たる。車の暖房を効かせ過ぎていたせいか不思議と心地よかった。
いつもの鼻につく潮の匂いも気にならなかった。
安物のスーツに腕時計。上着を腕に持ち、手はポケットに突っ込んで歩いている。
彼は今そんな格好だ。
原田の数少ない私服の一つで、今日は久々に来たらしく少し皺がよっていた。
――正統リーフ国軍海兵隊の制服を着ていたら、どんなに怪しまれただろう。
ふとそんなことを考えてみる。今、彼は海運会社のサラリーマンだった。
当然彼を呼び止める者はいない。
…はずであった。
「原田准将」
ふと自分を呼ぶ声がする。しかも階級つきで。
「…えと、私ですか?」
わざとオーバーに演技してみる。が、相手の顔を見たところで止めた。
相手は表情も変えず原田に言った。
「ここで話すのも何ですから、近くの公園にでも行きましょう」
「ここらへんでいいだろう」
原田が言いながら歩みを止めたそこは、港が見下ろせる小高い公園だった。
眼下に民間船がいくつも見える。まぶしいので薄めのサングラスをつけた。
「で、要件とはなんだ?」
「原田准将の我々への早期編入です」
サングラスをかけたそいつは言った。中性的な声だ。
おまけにフードまで被っているので性別は分からない。
「…貴様。もしかしてそんなことを言いにわざわざ密航してきたのか?」
「そうですが、何か問題が?」
大アリだ。
フキフキ港はいちおう国際港としては登録されているが、
政権擁立後まもない正統リーフと正式に国交を結んでいる国はない。
寄港した外国船乗員が立ち入る事が出来るのは定められた区域だけだし、
軍艦の入港するドックなどもっての他である。
「…つくづく、貴様らの考えは分からん」
ベンチに腰を下ろした原田が言う。
「一度見つかりでもしてみろ。不法入国で貴様は塀の中だ。
少しは身の危険を顧みたりはしないのか?」
「私一人の生命など大したことではありません。
我々にとってあなたはそれだけの価値があると言うことです」
「そんな誉められ方をしたところで嬉しくなどは無いな」
「別に誉めたわけではありません」
――機械的なやりとりが、しばらく続いた。
「で、原田准将。さきほどの答えは?」
「……」
はたと会話が止まる。原田は港の方を向いたままだ。
「失礼ですが、原田准将。
正直なところ、あなたは現状に満足しておられないように見受けられます。
高橋などという人間の下につき、来る日も来る日も演習ばかり。
一体あなたという存在はどこへいってしまわれたのでしょうね?」
「…!」
一瞬相手を睨む。が、すぐに安い挑発だと気付いて、目を逸らした。
明らかに動揺している。そう見て取れたか相手は言葉を続けた。
「私にはあなたの考えが全くわかりません。
一個海兵大隊を動かす身でありながら、あなたは何もしない。
ただでさえ海軍勢力の貧弱なこの国です。正統リーフの駆逐艦二隻など、
あなたの力を持ってすればお手の物でしょうに」
「お前は何も分かってない。俺が艦砲射撃でロディマスを沈めたところでなんの意味がある。
もし仮にうまくいったとしても――大リーフ湾を出られずに撃沈されるのがオチだ」
原田が即答する。すると相手も間髪入れず言ってきた。
「そうやってあなたは、このまま正統リーフの一軍人として一生を終わるわけですね。可哀相に」
今度は我慢ならなかった。
「…貴様!」
怒りに任せて思いっきり相手を殴る。体重の乗った右ストレートだ。
一発では収まらず気がついたら五、六発入れていた。
それでも相手が倒れなかったのは、原田が相手を掴んでいたからだ。
「……くそっ!」
襟首をつかんだまま原田は俯いてそうつぶやいた。
今こいつを殴ったところで、どうにもならない。現状がどうにかなる訳でも無い。
暗に正葉における彼の立場を代弁しているようで、原田は空しくなった。
「失礼ですが、腕を放してもらえますか?」
言い終わらないうちに無理やり原田の腕を払い、吹っとんだサングラスを拾って掛けなおした。
「これは私個人の考えですが、今のあなたが我々に編入した所で役に立つとは思えません。
ですが、上層部はあなたの戦術的手腕を高く評価しています。人間的な面を除いては」
殴られる前と変わらない表情で相手は述べた。
「どうか、熟慮ある判断をなさるようあなたに期待します。わざわざ私が来た理由をよく考えてくださるよう」
言うか言わないかの間に、相手は公園の出口に向かっていった。少し間があったが、その言葉にはっと気がついて
「…貴様は、誰なんだ!?」
叫んだ。陳腐なセリフだがそんなこと構ってはいられない。
――が、返事はなく、やがて相手の姿は視界から消えた。
変わりに制服姿の男が何人か近づいて来た。
「おい、お前! ここらへんで人を見なかったか?」
「…いや」
「本当か!? サングラスかけた奇妙な人間なんだが…ッ、クソッ!
おい! こっちじゃないみたいだぞ! 港湾近辺をもう一度探せ!」
さっきの相手と同じように彼らは港へと下っていった。
それを原田は、まるで魂を抜き取られたかのように見つめていた。
彼らが去った後も、日が暮れるまで彼はそこにいた。
第1装甲連隊っつーとあれか?120mm砲の61式とM113を装備してる
連中だな(w
>>381-386「eclipse」
投下完了です。
>>378 月姫@名無し参謀氏
投下乙です。文章が長くなるのは漏れも同じなんで…分かりますw
加えて自分のRR感染を本気疑ってしまう罠。鬱。
>>旅団長へ。
編集の際、レスの間にそれぞれ2行ずつ改行を挿入して頂ければ助かります。
どうぞ宜しくお願いします。
※
>>381>>382 番号ずれてました。スマソ。
>>387 そらもうコールサインはお楽しみに、と云う訳で(w
でも個人的には空飛ぶ亀の方がお気に入りだったりシマス(爆
>>388 御同輩、頑張りましょう(笑
でも私はRRには感染してないよなぁとは思いたい(爆
ハイルナオヤー!
という名の保守。
>>390 某海外版の如くガッジィラコマンド! と発音するのもアリではないかと言ってみますが?(笑
ガッディラ保守!ひねりがなくてスマソ!
ロディマスって、空港はありますかね?
イメージ的には花巻空港なんかを漠然と考えてます。
中型の国内線程度は発着出来そうな感じ。
どうでしょうか?
3月27日 新大陸標準時 15:59
正統リーフ VN旅団駐屯基地ヘリポート
大陸の東側は、日没が早い。
中央を世界有数の大山脈が走っているからだ。
標高数千mもの山々が連なる大葉鍵嶺の裾野にあるこの地では、
太陽は地平線ではなく山の向こうに沈むのだ。
3月に入り少しは日がのびたものの、ほんの気休め程度にしかならない。
この地域では当たり前の常識である。
また、早い日没は大葉鍵嶺とセットで近辺の名物の一つでもあった。
西に150kmほど進んだ所にある隣国のエロ同人国では、山々をバックに
沈む夕日が切手に描かれているほどである。
「またしばらくはおあずけなのか…」
その夕日を眺めながら、柏木少将はぼんやりそんな事を考えていた。
夕日も、大葉鍵嶺も、正直どうでもいい。心ここに在らずといった感じだ。
まあ、柏木耕一にとっては無理もないが。
今日は一晩中アツい夜を明かそうと思っていたのに、待っていたのは高橋総帥のステキなお言葉だった。
『鍵自治州との会議に先だって、予備折衝を行うことになった。
理由は君も知ってるだろうがとりあえず言っておく。
例の電文についてだ。とりあえず、自治州側の見解は伺っておきたいからな。
正確にはもう一つあるんだが…、まあ行けば分かるさ。
で、君には本日1600時に沖合を航行中の裏葉高等弁務官のもとへ飛んでもらうことになった。
……いや、そんな露骨に嫌な顔しないでくれ。 とっても恐いから。顔が』
『何しろ急な話だから、水無月の真相を知ってる人間で今すぐ動けるのが君くらいしかいないんだ。
本来なら水無月の役目なんだが、周知の通りあいつはRR感染ということになってるからな。
琥珀大佐は先の通信の件で不在だし、来栖川綾香中佐ではどうも役不足だ。
ましてや俺が自ら赴くわけにはいくまい? そこで君の出番と言うわけだな。
……だからそんな顔するなって。恐いんだから』
『なに、心配するな。要は簡単なおつかいだ。
君は用意した書類を提出して軽く雑談してくれればそれで終わり。楽だろ?
と、いうわけで。よろしくお願いする。柏木少将。
――頼むから彼らの前でそんな顔見せないでくれよ?』
悲しくて涙が出そうだった。こうやって機会を潰されたのは一体何回目になるんだろう。
今すぐここから抜け出して梓の所に掛けこみたい衝動に駆られた。
――なんて魅力的な誘惑なんだろう。
正統リーフ国軍少将の立場など忘れて、愛しき女性と組んずほぐれず組んずほぐれず組んずほぐれず…
って、俺は一体何を考えてるんだ。 頭を振って無理矢理現実に戻った。
まったく、何でよりによって俺が行かなきゃいけないのさ。書類を持ってくくらい他の人間でもいいのに。
仕方ない。とりあえずヘリが準備できるまで歩き回って、気を紛らわそう。
そう思って歩みを進めようとする。すると向こうから声がしてきた。
「……よ、耕一」
ハンガーの横に梓が立っていた。苦々しげな笑みを浮かべている。
いきなりさっきの思考がフラッシュバックしてきた。むぅ、いかんいかん。
「…梓じゃんか。兵舎にいたんじゃなかったのか?」
「ん…と、ちょっとね。何となく気になってさ」
言いながらこっちへと寄って来る。
突然の命令で約束がご破綻になってしまったせいだろうか。
今ひとつこう、いつもの覇気が感じられなかった。
「元気ないな」
「…え? やだな耕一、そんなことないって!」
やたらオーバーなリアクションで否定する。
やっぱりだ。まったく、仕方のないやつめ。
「そんなに俺と居られないのが寂しいのか?」
「そりゃそうだよ。だって、せっかく今夜は久しぶりに耕一と…って、
何言わせるんだこのオヤジっ!」
いつものノリでフックが決まった。完璧なパンチだ。
柏木少将、あえなくKO。耕一大地に伏す。
うつぶせのままピクリとも言わないので心配になったか、
梓はしゃがんで様子を窺った。
「……おーい、耕一? だいじょうぶ?」
「……」
「おーいってば。頭打ってない?」
「…目標捕捉」
「うわっ! ちょ、やめっ、耕一! くすぐったいってば!!」
顔面を峡谷に突入させた。作戦完了。
「…まったく。一晩居られないくらいでそんなにしょげるなって。
なに、心配すんな。うまくいけば今日中に帰って来れるからさ。
そしたら真っ先にお前ん所に寄ってやるよ。だから、いい加減元気出せ」
えらく前振りが長くなったが、結局のところ耕一はこれが言いたかったのだ。
「…耕一」
そのままぎゅっと抱きしめる。梓のぬくもりが伝わってきた。
しばらくそうしていたかったが、こんなところで乳繰り合ってる場合では無い。
「…ふおぁ、なんて圧倒的な圧力なんだあぁ!
高橋総帥、もしこのまま死ぬ事になっても悔いは無いぜえええ」
ゆっくりと、ゆっっっくりと顔を落とす梓。
「…………………こんの、スケベオヤジっ! お前は下葉の高槻かっ!」
容赦なく地面に叩き付けられた。
柏木少将、再びKO。
「もう二度と診てやんないから一生寝てな!」
言い捨てて向こうへ言ってしまった。
基地の正門に向かってのっしのっしと歩いていったが――ふりかえって、言った。
「さっきの約束、絶対だからね! もし来なかったら承知しないからな!!」
「あーい…」
耕一は伏したまま手を上げて答えた。
一部始終を見ていたヘリパイロットは、さっきから動かない耕一の様子を見て、
「柏木少将、宜しいですか!? 離陸準備完了しました!!」
必要以上に大声を出したのは恐らく妬みだったのだろう。多分。
同日 新大陸標準時 17:12
タラワ級強襲陸揚艦「空き地の町」 艦橋
「なんか、少し前に同じようなことした気がするのは気のせいか?」
「そんなことはない。こんなに美しい夕日を見たのは今回が初めてだよ」
「いや、そういうことを言ってるわけじゃないんだが」
フキフキ港沖合30マイル。
すでに日が沈んでいた。さきほどから甲板にはライトが灯っている。
その中、青紫は遥か向こうの水平線を見つめていた。
顔の凹凸がくっきり浮かんでかなり不気味だった。
米村と青紫は、突然の『来客』を出迎える為に30分ほど前から艦橋まで出向いていた。
正確には自分達の客では無いが、場のホストとして迎える義務がある。
「あー、来るなら早く来いよもぉ〜、寒いったらありゃしないぞ〜」
ポケットに手を突っ込んで足踏みする米村。
今いるのは大リーフ湾出口付近だ。3月とはいえど、風が強いのでとんでもなく冷える。
「ところで彼らは何時に到着の予定――」
「17:15だ、米村少将。何回聞けば気が済むのかね?」
――マジですか。あと30分は極寒の艦橋に釘付けか…ステキすぎる。
米村は心底絶望した。
一連の行動を見ていた青紫の意識は、しかし耳元のレシーバーのほうへと向けられていた。
実の所青紫は無線のやり取りから来客がもうすぐ到着することを知っていた。
だが、いかんせん米村の挙動が面白かったので、敢えてそのことは口に出さなかった。
「遅くなりました。申し訳ありません」
後ろから声があがった。
外套を身に付けた、まさに貴婦人と呼ぶに相応しい女性がそこに立っていた。
「これはこれは、裏葉高等弁務官。
わざわざこんな冷えるところまでお越し頂かなくても。出迎えは我々が致しますのに」
「いえ。客人を迎えにあがらない道理はございません。
艦内でのこのこと待つなんて、相手にとっては失礼極まる行為ですわ。
それに青紫参謀お一人に労苦を強いるのも酷と言うもの」
いつもと変わらぬ微笑をたたえて答える。
――女狐だな、まったく。はっきりお前一人には任せられんと言ってしまえばいいのに。
…って、忘れられてないか俺?
「ええ、これは失礼。その通りですな」
一言で返事をすると、青紫は再び沖合の方を見つめた。
太陽はとっくに沈んでしまったが、まだうっすら残光がある。
どんなに鈍感な者でも、その景色の優美さに身を振るわずにはいられないだろう。
「ここから見る大リーフ湾の素晴らしいことといったら…例えようがないですね」
不意に裏葉が切り出した。
――そういえば、この女からこういう『私的な』問いかけをするのを初めて見た。
「そうですな。私も先ほどこちらまで来たのですが、いや全く美しい夕日でした。
裏葉殿にもお見せ出来なかったのが非常に残念です。
時間があれば、帰りにでもお見せいたしましょう」
「お心遣い感謝いたしますわ。機会があれば、是非とも」
不意に北北西からUH-60が表れた。米村はいきなり元気になった。
「来たか?」
「あのヘリは正統リーフのものだな。間違いない」
「では、ようやくご到着のようですね」
着陸許可を求めてホバリングするUH-60を、三人は見つめていた。
「ほう……これはこれは」
青紫は意外な来客にそんな言葉を吐いた。そこにいるのは彼の予想外の人物であった。
「いやいやどうも。ロディマスからの空の旅ご苦労様、柏木耕一殿。
階級章から見るに少将に昇格したのか。おめでとう…と、失礼した。挨拶がまだだったね」
近づきながら笑顔で叫ぶ。まだローターが回っていたので自然と大声になった。
「…どうも。お久しぶりです。柏木耕一正統リーフ国軍少将、高橋総帥の命を受け参りました。
乗艦許可を求めます」
そこには、堅い面持ちの男が居た。
慣れない事に緊張しているせいか、青紫への警戒心か。はっきりとは判らない。
「もちろん許可するよ。『空き地の町』にようこそ、柏木少将。
改めて自己紹介する。空き地の町暫定自治政府総理代理、青紫だ。
一応国交の全権を任されている身ではある。期限付きだがね。どうぞよろしく。で、こちらが」
「鍵自治州より参りました、裏葉です。麻枝元帥より同じく全権を委託されております。
どうぞ宜しくお願いいたします」
「柏木です。こちらこそ宜しくお願いします」
握手を交わす。軍隊に身を置く者にしてはずいぶんと簡素な挨拶だった。同じ組織に居たためだろう。
「さあ、立ち話も何ですから艦内へとご案内いたしましょう」
青紫が先頭にたって歩き出す。裏葉、耕一と続いた。
――やっぱり忘れられていた米村だった。
軍艦は一様に複雑な構造をしている。
その法則はどこの国でも変わらないらしい。耕一はそう感じた。
右へ左へ曲がる青紫と裏葉の背中を見ながら、目の前の男の事を思い出す。
「RR」イデオロギー創始者。RR菌開発主導者。
そして――エルクゥ計画主任。
ネガティブなイメージしか湧かなかった。
ましてや、自分自身やつの手によって「改良」を施されている。
改良と言えば聞こえはいいだろう。が、実質は人体実験も同等であった。
総理代理として国交の全権を任されている。
やつ自身の口からその言葉が出た時、正直自分の耳を疑った。
全権を任す! あの100円参謀に!
ばかげている。冗談にしてはあまりにも笑えない。
空き地の町の人間は皆狂ってしまったのか?
いや。そんなことはない。
なぜなら。先ほどからこの艦の乗員とよくすれ違うが、皆狂人の目などしていない。
あれはまともな人間の瞳だ。意志のある人間の瞳。
なぜ自分でもそう思うのか不思議に感じたが――
――思い出した。
そう、彼らのような瞳をした人間を、俺は過去に見た事がある。
ならば。青紫はどうなのだ。
周りの人間全員を欺いている可能性は?
もちろん、十分考えられる。
昔から政治的な手腕に長けているやつのこと、政治工作の一つなど造作もないだろう。
――だが、妙な違和感がまとわりつく。
それはやつ自身の挙動。
先ほどまで観察したが、俺の知っている青紫とは別人だ。
本当に別人かと疑った。しかし、あの出っ歯は見紛うはずもない。
会話を重ねれば、いずれあのリアルリアリティも聞けるだろう。
考えれば考えるほど分からない。
必要なものは高橋総帥が全て文書に纏めてくれたし、ここに来た目的は達成された。
あとは――言われたとおり雑談でもしてようか。
だが、しかし。
本当に総帥は、俺をそんな目的で派遣したのか?
あの恐ろしく計算高い琥珀大佐も一枚噛んでいる筈だ。
なにか他に目的があるのだろう。
この俺に出来るであろう何か。
俺に出来る事――なんだろう。やつを殴り殺すことか?
んなアホな。それでは死にに行けと言ってるようなものだ。
さすがに軍艦一隻は俺でも無理だよな。多分。
なら、当然武力的なことではないだろう。
俺に出来る事――なんだろう。
俺とやつの接点と言ったら昔因縁があったくらいしか――
いや、まて。ちょっとまて。よーく考えろ俺。
今ここで俺がさんざん悩んでるくらいだ。
当然総帥たちだって、今も考えているのではないか?
やつの意図を。やつの行動の真意を。
――そうか。そういうことだったのか、ああ、高橋総帥。はっきり言ってくれよ。
「着きました。こちらが艦長室です」
「ご先導感謝します。それでは、我々は会議がございますので」
「分かっております。邪魔者はここで退散すると致しましょうか。
何のんきな顔してるんだ米村少将。さ、私達も部屋に戻ろうではないか」
「…ああ、すまんすまん。では、私達はこれで」
――青紫を判別しろってことだよな、総帥。
3月27日 新大陸標準時 17:12
タラワ級強襲陸揚艦「空き地の町」 士官室
ここ士官室では、つい先ほどまで会議が行われていた。
さきほど正統リーフからの通信を受け、青紫と米村は艦橋に出て行ってしまった。
岩切は到着前の最終チェックに忙しく、席を外している。蝉丸は一人部屋に残っていた。
壁に取り付けられたホワイトボードもそのままに、シャープペンはペン先が出っぱなしだ。
…机に一冊、奇妙なメモ帳が置いてある。名前が書いているところから青紫の所有物らしい。
緑地にところどころ白色の混じった表紙をあしらい、真ん中には大きく花の写真がプリントされている。
蝉丸はそれを、小学生が嫌いな給食に憤慨するかの如く見つめていた。
『ジャポニカ学習帳 じゆうちょう
なまえ あおむらさき』
蝉丸の奇怪な行動は、どうやらそれが原因らしい。
――ボイラー音。時計の秒針。部屋の中には生活音しか響いてない。
随分とたった後ようやく彼はそれを手にとった。ものすごく複雑な顔をして表紙を開く。
「『ガスはつでんの しくみ』
ちきゅうの中には たくさんのしげんが あります。
みなさんが ふだん 使っているでんきも
しげんをつかって 作られているのです。」
思わず表紙を閉じてしまった。彼はなんともいえない衝動がこみ上げてくるのを感じた。
一滴の汗が顎を伝って床に落ちる。彼も軍人である以前に一人の人間なのだ。
眩暈に耐えながらページをめくる。数ページほど空白が続いた後、それはやってきた。
彼はさらに顔を歪ませた。
「『米村』 painted by 超画伯」
「『軍事顧問団大佐』 painted by 超画伯」
いたずらがきだ。米村、軍事顧問団大佐……
――似顔絵!?
メモ帳を回転させて様々な角度から見るが、どうみても前衛派の描く抽象画にしか見えない。
この際だから言ってしまうが、一言で表現するならば、ヘタクソだった。
彼は自分が感じている感情を感じながらページをめくってゆく。
「…………分からん」
読み終わって一言、無理矢理そう結論付けてメモ帳を閉じた。
打ちひしがれた精神をひきずりつつ一人蝉丸は散らかった部屋を片付け始めるのだった。
「予備折衝」「その時蝉丸は自分の感じている感情に(略」
投下完了です。毎度ながら長くてスマソ…。
>>344の鮫牙氏の
>未だ耕一は自分も原田、青紫、月姫の三者の政争に高橋総帥の代弁者として参加する羽目に
を受けて耕一くんを参加させてみました。
ていうか、なんか裏葉が冷徹な人間みたいです。
あくまでも超政権側からみたイメージだと言う事で一応言い訳しときますw
>>401 > 「17:15だ、米村少将。何回聞けば気が済むのかね?」
>――マジですか。あと30分は極寒の艦橋に釘付けか…ステキすぎる。
>米村は心底絶望した。
青紫が妙な事言ってます…正しくは17:45でした。
吊って来ますΛ||Λ
耕一×梓ラブラブは決定稿?
3月27日 1000時
TYPE-MOON本部 副総裁室
あまり広いとはいえない部屋には、あちこちに段ボール箱が転がっており、
スチール製のデスクの上には、大量の書類が散乱している。
そしてその部屋の主たる武内TYPE-MOON副総裁は、
眠い目をこすりながらひたすら手と目を書類に走らせていた。
「武内さま、コーヒーをお持ちしました」
「ああ、悪いね翡翠くん」
お気に入りの翡翠大尉からコーヒーを受け取り、一息つく。
彼女はメイド服を着ていた。むろん武内副理事長の趣味である。
「あまり根を詰めないほうがよろしいかと思われます。昨日もまったく寝ていないのでしょう?」
「仕事は待っちゃあくれないのよ。きのこのやつただでさえ忙しいのに、
どうしても青紫と直接会いたいなんて言い出しやがった。どうすればいいんだ?」
「そんなこといわれても…」
「すまんすまん。どうすればいいんだなんて聞かれたらそりゃあ
感感俺俺とかそんなこと言われてもとか答えるしかないよなうん。
俺今ちょっとハイなんだわ、ランナーズハイ。何しろ完徹3日目だから」
確かに彼は疲れている様子だったが、目だけは異様にギラギラしていた。
たとえて言うならば締め切り直前の漫画家、イベント前日の同人作家といったところであろうか。
ちなみに彼が寝られるのは、あと7時間もたった後の話である。(もちろん誰かさんのせいである)
「武内さま…どうかお休みになってください。こんなことを続けていては、いつか体を壊してしまいます」
「書類ひとつで何千何百の人間を殺す男が、自分の体調など気遣ってはいられないさ…。
ああっ、そんな顔しないでよ翡翠たん。わかったよ。もうちょっとしたら寝るよ」
悲しげだった翡翠の顔が、ほっとした表情に変わる。
冷徹に思われがちな翡翠大尉であるが、その表情は意外にも豊かだった。
もっとも、その微妙な表情の変化がわかる人間は数少ないのであるが。
「では、私はこれで失礼します」
「ちょっと待ってくれ。ハイになってるうちにひとつ聞いておきたいことがあるんだ。
翡翠…光岡大尉をどう思う?」
「光岡大尉…ですか?」
光岡悟─元武装RR親衛隊大尉。
ロディマス地下要塞陥落の直後に、琥珀大佐の手引きによって
部下とともに"亡命"してきた事になっている。
だが、その経緯ははなはだ不透明であり、琥珀大佐の強烈な押しによって、
亡命者にしては異例の優遇措置がとられたこともあって、口さがないものの噂の的となっていた。
「申し訳ありません。私は彼に会ったことがないし、姉さんも彼のことはあまり…話してくれないのです」
「そうなのか?」
「はい…。姉さんに聞いても、はぐらかされるばかりで…」
「そうか…。いや別に彼のことを疑っているわけじゃないんだ。
彼には会ったことあるけど、悪い人間には見えなかったしね。
ただ…そう思わない連中もいっぱいいるわけだよ。琥珀大佐が敵のスパイと内通しているとか、
そんな根も葉もない話を騒ぎ立てられるのはイクナイ!わけさ。
巷で言われているような男と女の関係だってんならそうといってくれれば、
こっちだって応援するつもりだよ。
こっちも…彼女には幸せになってほしいと思ってるしね」
そういって、言葉を切る。その表情は心なしか、沈んでいるように見えた。
「武内さま…?」
「翡翠…。私は…遠野槙久の所業を知っていたんだ…」
「………………!」
翡翠は絶句した。遠野槙久─2年ほど前に死んだ、遠野家の先代頭首。
遠野秋葉・四季の父であり、孤児だった翡翠・琥珀を引き取って育てていた男。
彼の忌まわしい行いを知っているのは、関係者以外にはいないはずだった。
「彼の口から直接聴いたよ。『病気』の事も。君たちの事も。
私はそれを知っていながら何もできなかった。
同胞のため、遠野財団からの援助を失うわけには行かなかったんだ…。」
「武内さま…」
「恨んでくれてもかまわない。どのみち許されることではないし、この道を歩むと決めたときから、
世界中の人間に恨まれる覚悟ぐらいはしてきたつもりだ。
だが、それでも…彼女を見ているとつらいんだ。
彼女はもしかしたら一度も…心の底から笑ったことがないのかもしれない。
教えてくれ、翡翠。琥珀大佐は…君たちは今、幸せなのか?」
沈黙─。
永遠とも思える沈黙の果てに、翡翠が口を開く。
「私は…幸せです。秋葉さまや志貴さま、武内さまと共にいられて、この上もなく幸せです。
でも、姉さんは…。」
「そうか…」
「でも、きっと大丈夫です」
いつもの彼女からは考えられない、強い口調で彼女はそう言った。
「光岡大尉が来てから、姉さんはほんの少しですけど変わりました。
前より人間らしくなったというか…私にはわかるんです。
ですから、いつか心の底から笑えるときが来るはずです。
武内さまには落ち込んでいる暇なんてない。だって、
これから姉さんが心の底から笑えるような世界を作らなければならないんですから」
「そうだな…。ありがとう、翡翠。少し気が楽になったよ。
よしっ!!琥珀大佐が心から笑える世界のために、まずはここの書類を片付けるぞ!」
「はいっ!!」
>412-414「或る男の懺悔」
小ネタやつっこみだけでなく、たまには思い切って書いてみますた。
SS書くのは久しぶりなので、指摘ヨロです。
>>むろん武内副理事長の趣味である。
うぐぅ…副総裁です。
いきなり間違えた(泣
>>412-416 投下乙です。
むちゃくちゃテンション高いですな武内副総裁。
ていうかいい趣味なさってるわぁw
>>411 いつのまにか成りゆきでそうなってしまいまして。
個人的には全然アリだったので思わず書いてしまいました…。
hoshu.
もっぱつ保守。
3月27日 新大陸標準時 18:10
タラワ級強襲陸揚艦「空き地の町」
書類を提出すると、耕一は早々に艦長室を後にした。
裏葉高等弁務官が返答を文書にするのに時間が掛かる。
突如暇になってしまった。
仕方ないので何となく艦内を散歩していると、反対側から青紫が歩いて来た。
いきなりラスボスのおでましである。
「耕一君じゃないか。何をしているのかね?」
「いや、別に散歩してるだけですけど」
妙に明るい青紫に素で返事してしまった。
「丁度良い。ちょっと士官室まで来てくれないか?話がある」
「それにしても、君とこうして言葉を交わすのは実に久しぶりだな。
最後に会ったのは――いつだったか」
「2.14事件でしょ。高橋総帥と一緒に危うく粛清されかけましたよ、俺は」
「2.14事件か。もうずいぶんと昔の事のように感じるよ」
まるで旧知の仲のように喋る二人。
だがそれは所詮、虚構にすぎない。
彼らは昔からの知り合いであると同時に――研究者と被験体でもあったから。
「で、話したい事って何です?」
「そう、それなんだが」
言うと青紫は立ち上がって、書類やらなにやらを机の上に置いた。
「まずは、青紫率いるヴラーチRRから悩める水無月くんへプレゼントだ」
「…何だこりゃ」
訝しげに瓶をかざす。
照明に照らされた中の液体は随分とマッドな色をしていた。
「RR菌に対する特効薬だ。いらないのかね?」
耕一は首を上に向けたまま硬直してしまった。
「……これが本物だという証拠は?」
「現時点ではなにも。
ただ、もし毒薬なら水無月事務総監など一撃だな。丁度それっぽい色彩をしてるし」
あっさり言う青紫。当然耕一は思いっきり顔をしかめる。
が、次に青紫が取った行動を見ると唖然としてしまった。
「どうも信じてないみたいだな。
ちょっと貸してくれるか? 私が実際に服用してみよう」
キャップに並々それを注ぐと、一気にあおってしまった。
「…あまりおいしくないな。まあ本当は飲用するものではないから当たり前か。
動脈に注射するのが正しい用法だから良い子のみんなは真似しないでくれたまえ」
「……それ、本当に本物なのか?」
「何を言っているんだね。毒薬だったら私は何者だと言うんだ?」
苦笑しながら答える青紫。
「ただ、症状が進行してしまった場合の責任は取れない。
いくらヴラーチRRとて、破損した脳細胞までは修復できないな。
帰ったら即座に投与する事をオススメするよ。
――尤も、水無月くんがこれを本当に必要とするのであればの話だけどね」
「……」
明らかに動揺する耕一。
まさか、バレてるのか?
「一応念のために言っておくと、RR菌の潜伏期間は正確には1週間から10日ほどだ――とはヴラーチRR主任の弁だが。
しかし、こんなに感染を疑っているとは、心配性だな。水無月くんも」
バレてた。
しかし青紫はあえて言及せず忠告とも取れる発言に留めた。
あの100円参謀が善意を見せているという事に、耕一は状況についていくのがやっとだった。
「とまあ、冗談はほどほどにしてだ。
一応正式に言っておくと、この対RR菌特効薬は本物だ。簡単にワクチンと呼んで差し支えない。
ただ、これが作用するのはあくまでもRR菌本体のみだ。気を付けてくれたまえ。
これをサンプルとして君に預けよう。研究次第では量産も可能らしいから頑張ってくれたまえよ」
「どっちにしろ貰っていくつもりです。琥珀さんに見せれば本物か偽者か分かりますから」
「そこらへんはご自由に。
で、高橋総帥にもいくつかプレゼントを渡してもらいたいんだが、頼まれてくれるかな?」
「何で俺がわざわざココにいるのか分かってないでしょ」
「いやいや、冗談冗談」
再び立ち上がると、今度は別のボール箱から書類をとりだす。
「ここに2種類の書類がある。
見ての通り片方はクリアファイルに挟まれた書類。
もう一つは茶封筒のいかにも重要そうな書類だ」
わざわざ説明した。そんなもん見りゃ分かるって。
「で、これを総帥の所に持っていけばいいんでしょ?」
「そういうことだ。あ、そっちのクリアファイルは帰りに見ても構わないよ。暇つぶしにはもってこいだ」
青紫はそんな事を言った。
中にはロディマス市地下迷宮、通称「ロディマスラビリンス」の詳細図が入っていた。
ずいぶんと詳細まで記載されている。その中に所々点が打たれていた。
「この点…なんだ?」
「ん? もう見てしまうのか。君もずいぶんとせっかちだな。
……そこに私が置いて行ったRR菌が眠っている。なに、ちゃんと密封したから漏れ出す心配は無い。
こういう形になってしまったが、私個人のロディマス市民への謝罪と捉えて頂ければ幸いだ」
これには返す言葉がなかった。
素直に謝罪と捉えて良いのか、はたまた政治の材料として捉えるべきか。
自分では判断のしようもない。
このクリアファイルだけでもこの衝撃だ。こっちの茶封筒には何が入ってるんだろう?
「あ、その書類は開封厳禁だぞ。重要な書類だからね。
もしかしたら蛇足になってしまうかも知れないが、我々暫定自治政府の好意として正統リーフにお渡しする」
耕一はその封筒をじっと見つめた。
これがさっきの詳細図より価値があるであろう書類、か。
「確かにお預かりしました。責任を持って高橋総帥にお渡ししておきます」
「Vector」
投下完了です。
高橋・裏葉の親書の中身はいちおう未定と言う事で、
どうぞご自由にお書きくださいw
3月27日0620時
シェンムーズガーデン地下壕
「うん、流石に手際がいいな。
しかし、本土へのMIRVというのは流石にやり過ぎではないか?」
ひとまず称賛し、しかし予想を上回る手際の良さに、いささかの懸念を面差しに浮べ、中上大将は皮肉めいた笑みを湛えて佇む久瀬内務尚書に問いかけた。
その懸念は単に、久瀬内務尚書の中上自身のそれを上回る急進的な発言に向けられたものではない。
むしろその内容への懸念は添えモノに過ぎず、彼の危惧は久瀬自身の姿に対してのものだった。
久瀬の出で立ちは、葉鍵国国家警察の制服を服装規定を一分違えず着用するような普段の姿と大きく異なる。
黒のスーツの上下を着こみ、襟下には警察バッジの代わりにRR党員章が輝く、彼にしては珍しい官僚風の出で立ちだった。
確かに、彼は今や警察の指導者であるだけでなく、国内行政を一手に掌管する内務省の頂点に立つ政治家なのだから文官じみた装束もおかしくはない。
だが、軍事政権である下川リーフにおいて、制服、階級章、各種徽章は最も重要なステータスだ。
公的な行事において、軍籍を持つにもかかわらず制服を着用しないのは極めて異例なことであると言える。
おそらくそれは、これから赴く東葉軍民への配慮なのだろう。
警察、取り分け政治警察、秘密警察のイメージを色濃く重ねる国家警察中央のイメージは、一般にRR親衛隊のそれよりさらに悪い。
東葉自治領警察の中には、未だ内務尚書としてより秘密警察のボスとして認知されることの多い久瀬の来訪をきっかけに、中央の統制が強まることを怖れる者もいる。
そうした懸念を少しでも和らげるため、引いてはこれからの交渉を円滑に進めるため、久瀬は行政府の一員としての自分をアピールしようというのだ。
もっとも、実際問題として、今の彼が警察将官の制服を煌びやかな勲章で飾り立てたところで様にはなるまい。
機嫌の宜しくない照明の下でもはっきりと見て取れる不健康な久瀬の顔色に、中上は口中幽かに呟いた。
鍵系官僚である彼が、下川国家元帥からその手腕を見込んで内務尚書に任命されて一月近い。
その激務たるや、やはり偉大なる指導者同志の気まぐれなご意向に振りまわされ仕事量が徒に増大している中上大将をして、一抹の同情と健康への懸念を覚えさせるほどのものだ。
下川体制においてはもはや今より上はないほどの地位と、それに付随する膨大なる責務。
投入される労力の証左として、めっきりやつれた様子のその風貌にしかし変わらぬ倣然たる冷笑を湛え、久瀬は無造作に頷いた。
「我々の決意を示すには丁度よいのでは?
通常弾頭で首都ソフリンと近郊の市街地を脅かしてやれば、彼らに重大な警告を与える事が出来ます」
極論だった。暴論と言っていい。
こんなものは、瀬戸際外交の類だ。まともな(下葉がまともかどうかはさておいて)国家が検討すべき選択ではない。
案の定、中上は即座に否定的な―――しかし、どこか妙に落ち付いた―――態度を示す。
直感がある。安心して良いという確信がある。
大丈夫、問題ない。このまま久瀬をこちらに付き合わせても話が本当におかしな方向に進む懸念はない。
彼は傲慢、驕慢、不愉快極まる若造ではあるが、その知性は十分信用に足るものだし、奇手に頼る類の男でもない。
蓄積された疲労が彼の判断を鈍らせている、などということもなかろう。その程度でどうにかなるような神経ならば、この国の上層で今まで生き延びることなど不可能だ。
この手の話題を切り出してくる以上、彼もこちらの真意を理解しているし、おそらくはその目的を共有しているはずだ―――だから、今は道化を演じていれば良い。
測るような思惑は胸中に留まり、決して声や視線に浮ぶことはない。
「それはリスキーに過ぎる。首都への攻撃は必ず劇的な反応を呼び起こすぞ。
敵が同様の攻撃を報復手段に取った場合、我々はそれより一段上の再攻撃を加えざるを得ん」
いずれか一方が非戦的な世論を持つ民主主義国家ならばともかく、この場合互いが互いに軍部独裁をその政体とする国家であるのだ。
その端緒が多分に示威的な、実害を伴わないレベルのものであっても、相手国の心臓部への攻撃は決して妥協を引き出すことには繋がらない。
独裁政権は、ほとんど例外なくその求心力の源泉を強力な祖国というマチズモ的なイメージに求める。
だからその求心力を攻撃された時、国家の威信が大きく揺らいだ時、即ち独裁政権が指導する国家は強大であるというテーゼが否定された時、国民の政権離れは避けられない。
その場合、政権には体制防衛のため二つの選択肢が残されている。
一つは自己より強大な敵を設定し、この敵への敵意を煽りたてて国民の団結を促すパターン。
もう一つが自己が強大であるとのテーゼを再構築するため、威信を傷つけた相手に対し、より強力な反撃を加えるパターンだ。
そしてエロゲ国と葉鍵国の力関係を見比べた場合、純粋な国力ではエロゲ国が圧倒するという事実を鑑みれば前者の選択はありえない。
例え現実には国内分裂の情勢にあるとはいえ、エロゲ国は常備兵力で三軍総計百万を超える軍事力を有する超大国なのだ。
軍部は必ず結束して報復を選択するだろうし、国民もそれ以外の方策を決して認めはしないだろう。
国家の求心力を軍事力に頼るのは、下葉とて同じこと。
そうなればこちらとしても、再報復を選択せざるを得ないから……行き着く先は核戦争、破滅の道へと突き進む危険性は決して座視できない。
中上が眉間に皺を寄せて唸るように、その未来図は誰にとっても好ましくない。
「そんな真似をせずとも、だ」
諭すような中上の物言いに、何事か反論を述べたてかけた若い内務尚書に軽く右手を上げて制し、中上は矢継ぎ早に言葉を繋ぐ。
「内戦介入の直接の当事者であり、なおかつ主流派から遠く外れ支配的大軍閥にとって擁護する価値もない連中、つまりはAF及びWintersの支配地域への戦術核攻撃というのはどうだろう?
ただの戦術核の一撃でも、連中、特にWintersの支配領域は狭い。加えて、両者とも総督領の中心からは遠く、全くの辺境領だ。
継戦能力はたった一発の核で奪えるし、連中が消し飛んだところで核の報復があるとは考えにくい」
エロゲ国において独自に核兵器を保有するような大軍閥は、自身も壊滅的被害を蒙るような核戦争を望んでいる訳ではない。
世論とて動かないだろう。ことAFはソニア師団とならび、並み居る軍閥の中でも特に首都ソフリンの統制を受けつけない勢力だ。現在のエロゲ国内主流とは乖離が著しい。
言わば、厄介者に過ぎないのだ、彼らは。
東葉との遺恨根深いF&Cには若干の危惧があるが、現時点で内戦に介入の意思を見せない大軍閥は、政治的な好機とばかりに絞め付けは強めても、軍事的なオプションは取るまい――
だが、その中上の論とて、所詮はやはり空論なのだ。
実戦において、決して核を先制使用しないこと、それは暗黙の国際的合意であり、それは下葉においても例外ではない。
いかなる事情があると言えども、核を使用した時点でその国家は外交的に孤立してしまうことは避けられない。
例外的に五大国―――合法的に核保有を許された支配階級―――、いやアメリカだけはその掣肘を無視できるかもしれない。
だが、下葉はアメリカのように他者の制止を単独で無視するほどの力は持たない。
国際的な非難、それに伴う経済制裁下において戦争を継続するだけの力もまた、持ちはしない。
「確かに……大軍閥に取っては枝葉に過ぎない連中です。
生贄の羊としては、手ごろかもしれませんね」
それを知らないはずがないのに、久瀬は至極あっさりと中上の論を肯った。
尖った顎に右の手を遣り、吟味するかのごとく視線を大きく正面の中上から外す。
ふわり、留めるべき対象もなく宙をさ迷う視線は一瞬無表情のまま押し黙り安楽椅子の背もたれに身を委ねる指導者を霞めて、ほんのわずか彷徨を止めた。
自分がこの戦略ロケット旅団の状況を報告してから、室内はしんと静まり返っている。
それは下川とて例外ではなく、中上と久瀬の議論を聞いているのかいないのか、ただ凝然と腕を組み、前方のスクリーンへをねめつけている。
いや、この会話(議論と呼ぶに値しない、と久瀬は結論付けていた)を聞いているのは間違いない。
それどころか、耳をそばだたせていることだろう。
この指導者閣下は、部下から起こった批判的な対応を決して見逃さない。人の反感や自身に向けられた侮りに極めて敏なのだ。
批判に正しく対処する能力を有するか否かは、全く別の問題なのだが。
間違いなく、下川直哉国家元帥は二人の会話に重大な関心を寄せている。
その会話の裏にあるモノを、確実にかぎわけ把握している。
そろそろ耐え切れなくなって声を上げるはずだ。
その久瀬の直感は正しかった。
一瞥でそれを確認し、また久瀬が口を開こうとしたその時。
「……茶番はええ加減にしとけ」
室内に、魔王の不機嫌な唸りが低く響いた――
<糸冬>
……おそひ(喀血)
すんません、投稿官僚デス。
前後編のつもりが三つにわかれる結果に。
時系列でも引離され、執筆速度も遅くなる一方どうすればいいんだ。
誤字脱字誤認識等、御指摘宜しくお願いいたします。
3月27日1610時
ものみの丘
「冗談じゃない!」
会議室に、涼元の怒号が響いた。
「ここまで虚仮にされて、我々の顔に泥をぶちまけれれて、なのに何故あの反逆者を――
JRレギオン少将を排除できんのだっ!」
「仕方なかろう」
涼元とは対照的に静かな声で、たしなめるように折戸は口を開いた。
「今の時点では、彼を処断できる理由がない――こともないが、それを出来るような政治的状況じゃない」
ため息をつきつつ、折戸は手元の用紙を取り上げた。先刻Airシティから発信された
『受信各部隊へ』で始まるあの電文。
この電文の反響は凄まじいものがあった。ほとんど新大陸全土で受信できたこの電文を受けて、
組織個人を問わず実に多くの受信者が、電文のとおりに『麻枝元帥へ御通報』に及んだのだ。
このため、ものみの丘の通信機能は輻輳状態に陥ってしまった。
なによりものみの丘にとって屈辱だったのは、『御通報』してきた相手の中に、
エロゲ国北方総督府および南方総督府、アクアプラスシティの内務省、そしてロックブーケの
東部方面総監部が含まれていたことだろう。その行為に含まれていたのは、明確な嘲笑――
鍵自治州の民族浄化政策への痛烈な皮肉だった。
そればかりではない。正葉やTYPE-MOONは外交ルートを通じて色々と言ってくるは、
国外の親月姫系マスコミが一斉に速報を流すはで、ものみの丘の政治的威信は大きく傷ついてしまった。
元勲統治体制に一撃を加えてやろうという発信者の目論見は――おそらく彼自身の予想をも
上回る形で実現してしまった。
「この電文のおかげで、彼の存在は大きく国外に知られてしまった。ここで彼を排除――
はっきり言おうか、謀殺してみろ。国外がどんな反応を返すか目に見えている」
「おそらくマスコミは『州都防衛の英雄の非業の死』と受け取るでしょうね」
しのり〜が苦々しく口を挟む。
「マスコミが騒ぐ程度ならまだしも、正葉とTYPE-MOONが『憂慮』どころではない反応を返すのは
間違いありません。同盟解消とまでは行かないでしょうが、それをちらつかせて我々に
外交上の譲歩を迫ってくるのは確実です。TYPE-MOONの場合、国内に潜伏している不穏分子という
カードも切ってくるでしょう」
「なら、このままあの反逆者を放置しろと言うのか!」
バンッとテーブルを叩いて、涼元は喚いた。
「そうは言っていない」
折戸が、あくまで冷静さを崩さずに言葉を続ける。
「鍵自治州の秩序を維持するためにも、彼にはいつかはご退場願わねばならない。
だが今すぐにそれをやれば、正葉との関係は決定的に悪化してしまう。
そればかりではない、下葉だってそこにつけ込んでくるだろう。現にけろぴーシティ近辺で
月厨どもを募ってなにやら怪しげなことを始めているらしい」
小さくため息をついてから、言葉を続ける。
「今、彼を排除するのはタイミング的に非常にまずい。しばらくほとぼりが冷めるのを待つべきだ。
その間、中央情報局は彼に関する監視・情報収集を強化し、彼を排除するに足る証拠を集めるんだ。
何なら戸越君に協力してもらうという手もある。戸越君なら、彼に関する決定的な証拠を
個人的に握っている可能性が高い」
「――わかりました」
やっと冷静さを取り戻したのか、涼元は大きく肩で息をしてから着席した。
「涼元君の気持ちはわかるよ。私だって非常に腹立たしいんだからな――ただ」
ここで折戸ははじめて表情を崩した。苦笑する形に唇を歪める。
「それ以前に、敵軍に始末してもらうのが一番効率がいいんだがな。州都防衛戦が終わったら、
逢魔ヶ辻あたりに飛ばして、正葉軍と共に同盟軍としてシモカワグラードに突進してもらうか」
「近日中に自治州本土から追い払うというのは、案外いい手かも知れません」
しのり〜が得心したように呟く。
「WINTERS師団も、我々にではなく彼個人に援軍しているようなものです。彼が逢魔ヶ辻に移れば、
連中もそっちに行くでしょう。効率よく厄介払いできます」
「しかし、奴をロディマスに近づけるのは危険ではないか?」
涼元が異論を唱える。
「政治的に危なすぎる気がするが」
「確かに危険です。しかし彼を自治州本土においておけば、不穏分子どもと結託して
何をしでかすか知れたものではありません。それと引き替えに出来るなら、看過すべきリスクです。
それに――」
しのり〜の顔が冷酷に笑う。
「彼がロディマスと決定的に癒着する前に、我々が先手を打てばいい――そうではありませんか?」
「まぁ確かに。それに、やつがパットン将軍のような最期を遂げる可能性も、なきにしもあらずだ」
涼元も納得したように肯いた。
「……」
麻枝は一連の会話に加わらず、じっと瞑目したまま耳を傾けていた。内心がどうなっているのか、
他の出席者からはうかがい知れない。
「報告します!」
その時、会議室に伝令が入ってきた。通信文を麻枝に直接手渡す。それだけで、だいたいの通信の内容は
他の者にも推測できた。麻枝元帥親展の通信――外交電文以外にあり得ない。
「……TYPE-MOONからだ」
大きくため息をついて、麻枝は通信紙を放り出した。
「新編の部隊――第一独立装甲連隊をAirシティ防衛に派遣したいと打診してきた」
「――冗談ではありません!」
自分のものみの丘での役割を『強硬派』だと割り切ったのか、涼元は芝居がかった動作で立ち上がり、
テーブルを叩いた。
「我らが神聖なる自治州本土には、月厨どもの首魁に踏ませる土はただの一坪たりとて存在しない!
連中、つけあがるにもほどがある!」
「もうちょっと穏やかに発言してくれ――仮にも同盟軍なのだから」
麻枝がたしなめる。だが本気かどうかは――これもわからない。
「これで、ますますJRレギオン少将を自治州本土にはおけなくなりましたな」
額を揉みながら、折戸は嘆息した。
「その第一独立装甲連隊の目的は、Airシティ防衛と言うよりも少将個人の援護でしょう。ならば、
彼を逢魔ヶ辻に飛ばしてしまえば、連中も自治州本土へやってくる動機を失います。
たしかに逢魔ヶ辻は政治的に危険な土地ですが、これ以上自治州本土に外国軍を受け入れる屈辱の代償ならば、
我慢するしかありますまい」
涼元が言葉を引き継ぐ。
「しかしその場合、誰かを奴の監視役として派遣する必要があります。裏葉君はロディマスとの交渉に
専念しなければなりませんし、駐留連隊の美坂君では奴を押さえ切れません」
「そうだな、その場合新しく誰かを監視役で派遣するか――」
麻枝の一言に、ほとんどの出席者は露骨に視線を逸らした。あの旅団長の監視に赴くと言うことは、
中期的に――彼を『始末』するまで、ものみの丘を離れるということでもある。
この自治州防衛の重要時期に大葉鍵嶺の向こう側に行くのは、ものみの丘での序列が下がることを意味する。
どうするか、誰かに命令するしかないか――と麻枝が考えたとき、ふとひとりの出席者と目があった。
他の元勲とは違った、やる気に満ちているように見える目。
「みきぽん君――やってくれるだろうか?」
「……麻枝君の頼みなら、断れませんでしゅね」
技術開発本部長・みらくる☆みきぽん中将は、そう苦笑してみせると肩をすくめた。
「レギオンしゃんを監視する手はずと監視部隊を、こっちの希望どおりにしてくれるなら、やりましゅ」
「すまんな、みきぽん君。貧乏くじだろうがやってくれ。君がいない間の本部長代理は涼元君に任せるが、
いいかな?」
「わかったでしゅ」
「了解しました」
涼元はさっと敬礼した。内心で思う。よし、これでみきぽんに差を付けたな。いたると並ぶ、
それこそ麻枝元帥よりも年季の入った元勲最古参のみきぽんを引き離したことの意味は、
決して小さいものではない。
こうして、後に『Airシティ電文事件』と呼ばれる政治事件の影響を最小限にくい止めようとする鍵自治州最高指導部の方針は決定された。
・州都防衛戦が一段落した時点で、JRレギオン少将を州都防衛の任から解く。
・ロディマスに対する言い訳として彼を叙勲したのち、新設する東方派遣軍実戦部隊指揮官として逢魔ヶ辻に派遣とし、自治州本土から追放する。
・東方派遣軍司令官はみらくる☆みきぽん中将とし、彼を監視する。
・中央情報局と戸越中将は集中的に彼の身辺を洗い、反逆の決定的証拠を掴む。
・電文事件のほとぼりが冷めるのを待って、彼を確実に処分する。それが不可能な場合は、正葉の攻勢作戦に彼を投入させ、下葉か東葉の精鋭部隊へ突っ込ませる。
「――ただ、それ以前にRR装甲軍の猛攻に彼が消される可能性も、まだ僅かにあるのだが」
麻枝が何とも言えない表情――下水道をのぞき込むような顔でこの方針を決定したときだった。
しのり〜中将の前にある内線電話が静かな電子音を奏でる。
「あぁ……私です。えぇ…………なんですってっ!!」
顔を真っ青にしつつ、彼女は椅子を蹴って立ち上がった。そのまま、受話器を握りしめた状態で唇を戦慄かせる。
「……? どうしたんだ、しのり〜君」
ただならぬ気配を感じたのだろう、麻枝が急き込んで尋ねた。
「……」
だがしのり〜は答えない。麻枝は彼女の側に歩み寄ると、肩を激しく揺さぶった。
「しのり〜君! 一体どうしたというんだ!?」
「……“ヨーク”が、デジフェスタウンを急襲しました」
「……!!」
その場にいた全員が棒立ちとなった。視線が次々に突き刺さるのを感じつつ、
しのり〜はたった今受けた報告を、呆然となりつつ伝えた。
「戸越君は直前にそれを察知、司令部専用ヘリで脱出したとのことですが……」
ぎりっと奥歯を噛みしめる音が周囲に響く。
「デジフェスタウンの東方でで“ホーカム”の待ち伏せに遭い……戦死しました……」
戦後かなり経ってから
ロックブーケ中央放送局第102スタジオ
「ドキュメント葉鍵内戦・第三回 鍵自治州本土決戦(1)」収録風景
(CGによるデジフェスタウン近辺の戦況図)
(ナレーション)
月島中将の能力により戸越中将の正確な居場所を掴んだ“ヨーク”師団は、まず砲兵部隊の
全力投入でデジフェスタウンへ猛烈な砲撃を加えました。この砲撃は正確なものではありませんでしたが、
相次ぐ部隊引き抜きで弱体化していたOHP師団を混乱させるのには十分な効果をもたらしました。
そして、これと同時に戦車部隊を森林の樹木線付近で目立つように行動させ、
いかにもデジフェスタウンへ突撃するように見せかけたのです。
柳川大将はデジフェスタウンの兵力が弱体化しているのを見抜いた上で、ブラフをかけたわけです。
OHP師団の実力を知っていた戸越中将は、この脅しに浮き足立ってしまいます。
彼はAIR航空隊へ攻撃を要請しますが、ここで配下の第36師団の壊乱に接してしまいます。
この時点で戸越中将が握っていた部隊のうちまともに戦えるのは師団砲兵隊しかありませんでした。
他の部隊はほとんど第36師団に異動していたのです。この時点で戸越中将は光線を断念、
一旦Kanonシティまで退却して体勢を立て直すことを決断します。
そして、自分は司令部専用ヘリでデジフェスタウンを脱出しました。
(映像、“ホーカム”が捉えた司令部専用ヘリに切り替わり)
戸越中将は、自分の位置が月島中将に補足されていることに気づいていませんでした。
そのため、自分の退却路に“ホーカム”攻撃ヘリ部隊が潜んでいることを、全く予測していなかった
と思われます。現に撃墜される直前、彼は「こんな莫迦な!」「奴に嵌められた!」と取り乱して
無線で叫んでいます。
(映像、対空ミサイルと機関砲の餌食となって爆散する専用ヘリ)
こうして鍵自治州は、JRレギオン少将の反逆をもっとも確実に証明できる将軍を失ってしまったのです。
(ナレーション終わり)
(映像、スタジオへ)
「――教授、この戸越中将戦死の歴史的影響というのは、どういったものがあったのでしょうか?」
「まず、JRレギオン少将を掣肘する存在を、鍵自治州は失ってしまいました。戸越中将はOHP師団長として
レギオン少将に長く接しており、彼の危険な思想や反逆の兆候をもっとも深く知る立場にありました。
その戸越中将が戦死したことにより、鍵自治州は少将に対する身辺調査を一からやり直さなければならなくなります。
そしてそのタイムロスが、少将の革命計画を大きく利することとなってしまったのです」
「戸越中将が戦死しなかったら、鍵自治州の歴史は全く違ったものになっていた――そう言われるのは、
これが原因なんですね?」
「そうです。
それと、けろぴーシティでのNa-Ga中将に引き続き、建国の元勲が立て続けに戦死してしまったために、
鍵自治州の元勲統治体制は深刻な打撃を受けてしまいました。当初、鍵自治州にとって
『売られた喧嘩』にすぎなかったこの葉鍵内戦に、彼らが次第にのめり込んでいったのも、
この統治システムの根幹たる元勲を殺された恨みに、ひとつの原因があったとされています」
「もしかしたら、鍵自治州は早期に内戦を離脱した可能性もあったわけですね?」
「一概には言えませんが、その可能性はあったでしょう」
「――さて、この戸越中将戦死は、以後の戦局にどのような戦術的影響を与えたのでしょうか?
ではみなさん、続きをどうぞ」
>>433-439「ご退場」投下完了です。
というわけで、まごめちんには舞台を下りてもらったわけですが……
>>440旅団長乙。
凶兆が表れてたまごめちんご退場。予測できた事とは言え
何かほろにがい物を感じましたよ。
しかし、新規投下を確認した時思わず
「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! 」
と言ってしまうのは漏れだけだろうか。
折越戦死で改善かと思ったらなんだか更に酷くなりそうな予感。
鍵と下川どっちがマシだか解らなくなってきた。
444 :
鮫牙:02/11/11 21:01 ID:OULmc7tV
自浄作用を失った独裁政権と自浄作用を失った民主政権の戦いみたいだね
保守
>444
銀英伝・・・
3月27日 17時32分
正統リーフ国首都ロディマス 国防総省
「はいご苦労様です。其方は確認が取れ次第退いて下さい。無用な疑念を抱かれても面倒ですからねー」
柔らかい中にも確たる何かを含めて言い切り、其処で電話を着る琥珀大佐。
質素と言って良い内装の施された正統リーフ国軍参謀総長室。
其処は今、1人の客を迎え入れていた。
「お電話、察するにVN旅団絡みかしらね?」
上品な仕草で足を組む女性。
衣服は他の正統リーフ国軍女性士官が着込むものとデザイン上の相違は無いが、見る者に何処かしらに、
仕立ての良さを感じさせる品であった。
襟元には大佐の階級章。
名は遠野秋葉。
正統リーフ国軍月姫旅団第U連隊の指揮官にして、月姫−【TYPE-MOON】を支える遠野財団当主の座に
居る女傑であり、琥珀にとっては子供の頃よりの縁を持つ、大切な存在でもあった。
「その通りですよ秋葉様。来栖川重工製の規格外品、メルカバMkVが梓戦車大隊駐屯地に納品された
と云う報告です」
「あら、これで漸く肩の荷が降りるかしらね。部隊再編の終了と新装備の受領、VN旅団も前線に立つ事に
成るのですから。でも痕R計画。私たちにも秘密とされた意味、新規師団の創設では無く従来部隊の強化で
あると云う事の理由は何かしら?素直に公表して行うのでは無く水無月大将にRR菌キャリアの疑惑すらも
抱かせて……我が国の首脳部は一体何を考えているのか、教えて欲しいわね」
「秋葉様それは正統リーフ国軍大佐としての質問ですか? それとも遠野財団当主としてのですか?」
少しだけ緊張感を孕ませた質問。
だが秋葉は意に介した様子もなく小さく微笑んで答える。
「そうね琥珀の友人、秋葉としての質問ね」
琥珀は秋葉の言葉に、敵いませんねと小さく呟くとお代わりをお注ぎしますねと言って、紅茶を用意する
為に立ち上がった。
湯の注がれたポットから沸き上がる芳醇な香りが、無粋な参謀長執務室の一時に彩りを加える。
手慣れた仕草で紅茶を注ぐ琥珀。
「あはー全容を掴んだのはつい最近なんですよ。本当に」
「あらそうなの?」
「はい。どうにもここら辺、幾つか裏がありそう何ですけど」
「派閥争い、或いは主導権争奪戦かしら?」
「VAからの干渉だの原田海兵隊流言の飛び交う百鬼夜行。そゆう風には感じますねー」
「政治の季節かしらね。とかく四季と云いろくな男が居ないわね」
「国難は最大の燃料だったりしますからねー………志貴さんもですか?」
「ええ兄さんもです。全く、泥棒猫共を遠ざけるなりして遠野家の長男に相応しい態度を取って
欲しいものです」
少しだけ力を込められた言葉。
眉が小刻みに動いている。
それが危険な兆候である事を知らぬ琥珀では無かったが、溜まったストレスは小口に吐き出して
貰わねば危険であり、合いの手を入れぬ訳には行かなかった。
意を決して、地雷を踏む心境で口を開く。
「何かあったのですか?」
「そうですね。何時も通りでしたわ。ええ。午前中、兄さんに第一装甲連隊に転籍する第T大隊の相談で
訪れたら、アルクェイド少佐が執務室内で雑談をしていた事など、気にするまでも無い話よね琥珀?」
一語一句切り落として、まるで何かの呪詛を呟く様な秋葉の言葉に、琥珀は室温が少し下がった感じを
受けていた。
あはーと呟きながらこめかみの汗を掻く。
それから愚痴が始まる。
曰く、一所に一緒に落ち着けたのは良いが連隊長としての執務が忙しくて日中は逢う暇が無い。
曰く、お昼にお弁当を手に行けば既にシエルが(既に呼び捨て)がカレー弁当等と云ういかがわしい代物
を持って迫っていた。
曰く、3時のおやつに行ったら何故か司令部付隊の翡翠が給仕をしていた等々。
「あはー」
この分では今日のお昼、乾大隊への秘密の連絡係を頼むついでに昼食を共にした等と知られたら我が身の
危険ですねーと、口の中で呟きながら、だがそれを一切表情に出すことなく、静かに紅茶を啜る琥珀。
そして暫しの時間、秋葉の愚痴を聞き流し、愚痴を漏らし疲れた頃に合いの手を入れる。
付き合いの長さは伊達では無いのだ。
平和と言って良い夕刻の、残業に向けての気分転換と言って良いティータイム。
だがその雑談の俎上に上げられるのは、何も年頃の女性相応のものだけでは無かった。
否、職務相応のものが本題であり、これはその前口上にしか過ぎないのだった。
「久我峰から報告が来ています。5大国、特に米国内に於けるロビー活動にかなりの成果が出てきていると」
「あの国は首脳陣から一般の方々まで、“自由”と云うキーワードに過剰に反応する癖がありますからね。
予想通りですけど、本当に有り難いですねー。やはり世界の工場を背に出来ると云うのは補給面からも
極めて有り難いですから」
「TVCMも好調よ。其処まで力を入れていなかったAir市への義援活動も上手く行っている、いいえ、
行き過ぎて米支部だけでは処理仕切れない規模の物資が送られて来ていると云う事だから、貴方が立てた
【TYPE-MOON】売名計画、どうやら予想以上の成果を上げていると言うべきね」
「あはー。これだけ上手く行くと逆に怖くなりますねー」
「そうね。でも当然かしらね。戦塵に薄汚れた汚れた少女が自分たちの境遇に愚痴を零さず健気に、Air市
への不当な暴力行使を抗議する映像は100万の言葉を上回る効果を発揮するから。でも少しあざとく
無いかしら?」
「あれは一子さんのアイデアですよ。『どうせ意図的だとか色々言われるのだ、ならば徹底的にやる方が
余程スッキリする』って言ってましたからねー」
「乾一子【TYPE-MOON】広報担当ね。似た姉弟ね。心強いわ………そう言えば言ったかしら? 正葉戦債の
売れ行きも最近は好転しているみたいよ」
「うーんアレ、私も確認しているのですがどうも少し怪しいんですよね。どうにも大口購入者の後ろには
VA国系列の企業名が羅列されてたりしますから」
「あら…」
「最初は偶然かとも思ったんですけど、そゆう企業体の過去の動向とかを見ていると、人権擁護とかに其処まで
熱心じゃ無かったりしてますから」
「面白い話ね。では久我峰にその方面の調査も命じて於きましょう」
「お願いします秋葉様」
【TYPE-MOON】に対する指揮権は保有している琥珀であったが、その支持母体である遠野財閥への指揮権は
与えられておらず、又、琥珀が幼少の時代、遠野家の使用人であった事もあって、遠野財団に対する琥珀の
影響力が極々限られた人間に対するものと成っていた。
尤も、その限られた人間と云うのが現遠野財団宗主遠野秋葉や志貴、或いは四季と云った中枢人員である
為に致命的な影響が在る訳では無かったが。
因みに、余談ではあるが前述の久我峰に関しては、琥珀が彼の個人的趣味に協力をしている為、極めて強い
影響力を持っているが、遠野財団宗主としての秋葉を立てる意味から、琥珀は秋葉を通して依頼しているので
あった。
「とにかく、VAに関しては調査待ちね。それと忘れてはいけないわね。アメリカで進めていた航空機の
売却交渉なんだけど、此方の要求を全て受け入れたそうよ。世論の盛り上がりとロビー活動が功を奏したと
云った所ね。後、日本との交渉が進展していた事も好影響を与えたと言って来ているわね。正式な報告は
今夜中に届く筈よ」
「流石は久我峰さんですね。怠りは無いようですね………肝心の機材の方は?」
「予定通り。一個飛行隊分を確保したと云う事よ。但し初期量産型だけどね」
「米軍のアップグレードも受けてますし、それに下手に新品最新とは云えK型みたいなモンキーモデルを
高額で買うよりも賢い選択だとは思いますよ?」
「ええそうね。判ってはいるわ。でも…少し悔しいじゃない!」
「あはー 秋葉様は新品好きですからねー」
「……」
むーと、少しだけすねた様な表情を見せた秋葉に琥珀は柔らかく微笑む。
「それに正葉で改修もしますから我慢して下さいね」
「私が使うわけでは無いし、それに、それに私は使う人たちの事を考えて言っているのよ」
「そうですねー 秋葉様はお優しいですから」
少しだけ柔らかな雰囲気の戻った参謀長執務室。
だがその時であった。
無粋な電話の呼出音が響いたのは。
「はい参謀長執務室……」
雑談気分の延長で、柔らかな表情のまま受話器を取った琥珀。
だがその笑みが曇るまでさして時間は要しなかった。
一言二言言葉を交わすと、肩を竦めながら受話器を降ろす。
断線音が、静まり返った部屋に鳴り響いた。
「どうしたの琥珀?」
「どうにも思った通りにはなりませんでした。はい、義援物資輸送隊に紛れ込ませた特務通信隊が拾った
んですけど、どうやら鍵の戸越師団長が死亡したとの事です」
「戦死? 確か戸越師団長は最前線には居なかったわよね。事実なの?」
「はい。ものみの丘でも盛んに電波を発信してますんで…まぁ傍受情報ですから詳しい経緯は不明ですが、
どうやら第13RRDによる強襲を受けた様です」
「………この時点で?………そうか撤退するつもりね」
「ですね。制空権を喪ってから彼等は滅茶苦茶に叩かれ始めてますから、戦力を維持したまま撤退
する為の大義名分を欲したと云う所でしょうね」
「残念ね。折角部隊派遣の準備を進めたのに」
その言葉にふっと躰から力を抜いた琥珀は、ゆっくりと背もたれに身を預けた。
「まっ、この際ですから乾中佐と部隊には休息でも取って頂きましょう。空き地の町攻防戦から今まで
前線に張り付け続けたのですから。高橋総帥にはその線で話しを進めます」
「では私が【TYPE-MOON】指導陣には連絡しておきましょう」
「お願いします」
「でも広報部はどうするの?」
「そう言えばAir市派遣前にインタビューをと、VN第U連隊と一緒に広報を送りましたねー。正直、
忘れてました」
「疲れすぎよ琥珀。乾さんもそうだけど、貴方も少しは休みなさい」
「そうは仰いますけどね秋葉様、これがななかな難しいのですよ」
「戦争はまだまだ続くわ、いえ、これからが本番よ。疲れ切った頭では良い考えも浮かばないわ」
秋葉の言葉に琥珀は、今自身の手で進めている幾つかの謀略を連想し、そして深々と溜息をついた。
心愉しいはずの謀略。
より派手に、より酸鼻を極める情景を作り出す策謀。
その何時もならば心躍る思索が、今では何とも重苦しいものに感じられたのだ。
(だめですねー。それを愉しいと感じられなければ私など何の意味も意志も持てぬ人形に成ってしまうと
云うのに。自分の存在理由を受け入れないなんてほんと駄目ですね。それ以外に何も無いのに……)
常に意識の深い部分に押し込んでいる意識が少しだけ自己主張をし、その事を自覚した途端に、急に
強い疲労感が襲って来る。
自嘲気味に己を嗤う琥珀。
確かに疲労した頭脳ではまともな考えは浮かぶはずが無いのだから。
「大丈夫琥珀? 顔色がかなり悪いわよ」
「そうですねー。今日はゆっくりと休む事とします」
付き合いの長さから琥珀の持つ、ある意味での頑なさを知っている秋葉は、自分の提案が受け入れられた
事に安堵の溜息をつく。
その時であった。
電話機が再び鳴ったのは。
ゆっくりと手を伸ばす琥珀。
「参謀長執務室…………え!?」
「何、琥珀、どうしたの?」
「………今日はどうやらお泊まりみたいです。秋葉様、ロイハイトにて化学兵器が使用された模様です」
「何ですって!?」
それは、【TYPE-MOON】と歌月十夜師団との関係の歯車を動かす一撃だった。
良きものと成るか悪しきものと化すか。
それは誰にも判らない。
誰もが奔流の如き流れによって、海図無き航海へと押し出されていっていた。
>夕刻の喫茶にて
投下致しました。
なんつーか、他の陣営に比べて【TYPE-MOON】って何かマターリとした連中だなと
思いつつ(笑
やっぱ書いてる奴が悪いからでしょうか(自爆
>後方支援板31殿
投下乙です。
そして、執筆速度が速くてとても羨ましいです(笑
>名無しだよもん殿
投下乙です。
そして、琥珀さんを更に腹黒くさせてすいません(笑
>旅団長 ◆XudNAtsUKI殿
投下乙です。
第一独立装甲連隊が実戦参加出来ずに残念です(笑
すいません、
>>448 夕刻の喫茶にて(2)改定です。
どうにも間違って推敲途中の奴を投下してしまいましたm(_ _)m
以下本文ですので、此方でお願いいたします。
−
少しだけ緊張感を孕ませた質問。
だが秋葉は意に介した様子もなく小さく微笑んで答える。
「そうね琥珀の友人、秋葉としての質問ね」
琥珀は秋葉の言葉に、敵いませんねと小さく呟くとお代わりをお注ぎしますねと言って、紅茶を用意する
為に立ち上がった。
湯の注がれたポットから沸き上がる芳醇な香りが、無粋な参謀長執務室の一時に彩りを加える。
手慣れた仕草で紅茶を注ぐ琥珀。
「あれの全容を掴んだのはつい最近なんですよ。本当に」
「あらそうなの?」
「はい。どうにも幾つか裏がありそう何ですけど……正直、私は部外者扱いでしたから」
「月姫系とVN系の派閥争い意識、或いは主導権争奪戦かしら?」
「さあ。VAからの干渉だの原田海兵隊司令の謀略だのと様々な流言の飛び交う百鬼夜行。そゆう風な
状況ですからねー」
「政治の季節かしらね正葉も。全く、とかく四季と云いろくな男が居ないわね」
「国難は最大の燃料だったりしますから………って、志貴さんもですか?」
「ええ兄さんもです。全く、泥棒猫共を遠ざけるなりして遠野家の長男に相応しい態度を取って
欲しいものです」
少しだけ力を込められた言葉。
眉が小刻みに動いている。
それが危険な兆候である事を知らぬ琥珀では無かったが、溜まったストレスは小口に吐き出して
貰わねば危険であり、合いの手を入れぬ訳には行かなかった。
>>455月姫@名無し参謀氏
投下乙。
そういえば、実在する国家が存在感を醸し出してるのってこれが初めてですな。
執筆速度が速いのはスタートダッシュのせいでしょう。多分。
3月27日 新大陸標準時 18:39
タラワ級強襲陸揚艦「空き地の町」 士官室
「さて…と。お次はTYPE-MOONだな」
耕一が去ってから、青紫はそう呟いた。
「特効薬、ちゃんと役にたった? 竹林君」
「先生、頼むからその呼び方は止めてくれたまえよ」
耕一と入れ替わって、士官室には白衣を着た一人の女性が入室していた。
元RR菌開発研究班主任、石原麗子。青紫は敬意を払って彼女を先生と呼ぶ。
彼女を含む研究班の人間は下川から青紫派と見られていたため、空き地の町戦役以来一気に危うい立場になった。
それを悟った彼女たちは、青紫とは別ルートで脱出していたのだった。
「心配ない。わざわざ彼の目の前で毒味したからね。何とか受け取ってくれたよ」
「なに、わざわざデモンストレーションしたわけ?」
「もうちょっと美味しく作ってほしかったな。思わず吐きそうになってしまった」
「あれを服用する時点で間違ってると思うけど。本来は注射するものだって言ったじゃないの」
「実は、あまり注射したくなかった。苦手なんでね」
「別にいいけどね。 ……ところで、ヴラーチRRってネーミングはどうにかならない?」
「RR菌開発研究班よりはマシだろう?」
彼女達の高い科学力をむざむざ捨てるわけには行かない。
元下川リーフRR菌開発研究班は科学省研究開発機関ヴラーチRRと改称され、暫定自治政府に組み込まれていた。
「ま、この際だから深くは望まないとしますか。それでこれからどうするつもり?」
「とりあえず、正葉にはもう少し安定して貰う必要があるな」
「そのためのRR菌特効薬、そのためのロディマス地下詳細図。そういうわけね」
「そうだ。内部分裂されてはこちらにとばっちりが来るだろうしね」
強制的に水無月事務総監に『回復』して頂く。特効薬譲渡の意図はそれだった。
彼自身への強い不審からすぐには使用して貰えないだろうが、それも時間の問題だろう。
なにせRR菌開発者本人が認めたくらいだから、ダメモトでも使用してみようと考えるのは人間の常である。
それに、渡したのは本当にRR菌を死滅させる『特効薬』なのだから、水無月は否が応でも元気にならねばなるまい。
加えてロディマス地下詳細図。これも住民を不安を取り除くものである。
と同時に青紫個人の信用回復という狙いもあった。
「先生ならどうでるかね? 意見を聞きたい」
「私? 私で良ければいくらでもいいけど。
まず、RR菌感染疑惑まで持ち出した水無月の真意が知りたいわね。
ただでさえ政情が不安定なのに、自らそれを煽るようなマネまでして彼は一体何を得るのか」
家主が倒れたら、鎖に繋がれた番犬達はどうなるのか――
水無月のRR菌感染疑惑に伴なって、彼らは月姫系将官への不信感も募らせていた。
そこへ原田准将ELF軍内応である。このままではいずれ正葉瓦解も考えられる――と暫定自治政府は考えていた。
鍵自治州もほぼ同様の結論を出していたのだが、暫定自治政府は知る由もない。
「不安要素の膿み出し…とは考えられないかな」
「それにしては随分と強烈すぎると思うけど」
「私もそう思う。膿みを出し切る前にショック死してしまうだろうな」
「どっちにしても、情報が不足してるわね。ご自慢の情報網はどうなの?」
「まだ何も。彼らが大々的な行動を起こさない限りは全く分からんね」
彼の情報収集手段の主力は、アビスボートによる通信傍受と偵察衛星である。当然受動的にしか情報を得られない。
多くの諜報員を抱えアグレッシブな活動が出来る鍵自治州中央情報局とは本質が異なるのだ。
反面彼らは大陸全土まではカバーできないという弱点もあるのだが。
「だから、今度はこちらから打って出てみようと思う」
「つまり?」
「正葉において有数の勢力、TYPE-MOONに接触を計る。幸い、つい先ほど彼らから連絡があった。
正確には奈須くん当人からだが」
これには彼女も少々驚いた。
TYPE-MOONは民族相互救済を掲げてはいるが、実質月姫指導部の政治的窓口でもある。
現在は正葉に身を寄せている形を取っているため、正葉と別口でのコンタクトとなると――
「これも、良く分からないわね」
「実際に会って見ればいいさ。で、一つ頼み事があるんだが」
「…ま、だいたい察しはつくけど」
「鍵自治州との交渉も一段落したところだ――といっても単に暗礁に乗り上げただけなんだが。
で、現在手持ち無沙汰な我々は存在をアッピールするためこちらから出向く。
だが、さすがに首脳全員で行くのは気が引けるから米村少将は置いていかざるをえないね。
坂神少佐たちも万が一を考えて連れて行けないし。
そこでだ。先生に護衛をお願いしたい。さすがに素っ裸で上陸するのは私でも恐いからね」
ヴラーチRR主任に要人護衛を頼むと言う行為。
何も知らない者から見れば理解に苦しむだろう。だが。
「わざわざ特効薬届けに私がここまで呼ばれるくらいだからそうだろうと思ったけど――
いいわ。引き受けてあげましょう。ここの所研究三昧で運動不足だったし」
「多分そういうことにはならないと思いたいが。ま、一つ宜しく頼むよ」
「超先生、上陸」
投下完了です。
>>412「或る男の懺悔」で
TYPE-MOON側から接触を考えているという描写から超先生を上陸させてみました。
何かございますればご指摘よろしくです。
上、 /⌒ヽ, ,/⌒丶、 ,エ
`,ヾ / ,;;iiiiiiiiiii;、 \ _ノソ´
iキ / ,;;´ ;lllllllllllllii、 \ iF
iキ' ,;´ ,;;llllllllllllllllllllii、 ナf
!キ、._ ,=ゞiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!! __fサヘ.
/ `ヾ=;三ミミミミヾ仄彡彡ミミヾ=`´ 'i、
i' ,._Ξミミミミミヾ巛彡////iii_ |
| ;if≡|ヾヾヾミミミミヾヾ、//巛iiリ≡キi |
| if! |l lヾヾシヾミミミ川|ii//三iリ `キi |
| ,if ,f=|l l lヾリリリリリ川川|爪ミミiリ=t、キi |
| ;iナ,サ |l l l リリ川川川川|爪ミミiiリ キi キi |
| iナ ;サ |l l リリリリ川川川川l爪ミミilリ キi キi |
| iサ ;サ, |リ リリ川川川川川l爪ミミiリ ,キi キi |
| iサ ;サ, | リ彡彡川川川川|爪ミミiリ ,キi :キ、 |
,i厂 iサ, |彡彡彡彡ノ|川川|爪ミミリ ,キi `ヘ、
,√ ;サ, |彡彡彡彡ノ川川|ゞミミミリ ,キi `ヾ
´ ;サ, |彡彡彡彡川川リゞミミリ ,キi
;サ, |彡彡彡彡リリリミミミシ ,キi
,;#, |彡彡ノリリリリミミミシ ,キi
;メ'´ !彡ノリリリリリゞミミシ `ヘ、
;メ ヾリリリリノ巛ゞシ `ヘ、
;メ ``十≡=十´ `ヘ、
ノ ゞ
>>463 漏れはこれをどう受け止めたらよいのだろうか。
>後方支援版31殿
いや、だってほら、経済の脆弱な正葉としては利用できるものは何でも利用しようと
云うスタンスで(笑
後まぁ日露戦争の日本とかイスラエルの外交とかもネタもとにはありますけどね(笑
>>464 矢張り此は、「どうすればいいんだ」ではないでしょうか(笑
つか、【TYPE-MOON】からの接触、どうなるんでしょうか(ドキドキ
「在る男の懺悔」を書いた人、責任とってね(はぁと
これ下のスレから順に貼り付けてあるよ…
全く気にする必要は無いと思う。
>>465 たしかに、その通りでしたねw
そんな漏れは一体 ど う す れ ば い い ん だ 。
>>466 あれま、そうでしたか。ビビッたYO!
―工兵隊―
京は破壊された鉄橋のメンテ。
469 :
最下層民:02/11/12 23:38 ID:JN4/MNVi
最下層
470 :
名無しさんだよもん:02/11/12 23:39 ID:LqSvMvEu
保守
保守
3月27日 新大陸標準時 16:30
イワンロゴフ級強襲陸揚艦「ホワイトアルバム」 艦橋
「……指令、どうしたんですか?」
「ん? 藤井中佐か。いや、少しな」
「珍しいですね、指令が考え事なんて」
「そうか? 自分ではそうでもないと思ってるんだが」
「あんまり塞ぎこまないで下さいよ。これでも結構頼りにしてるんですから」
「あ、こら…変なこと言うなってマナちゃん」
正直、後ろめたい。
俺は全てを捨ててELFに逃げ込もうとしている。
「だいたい、原田准将は何を悩んでるんですか? うだうだ考えるのは藤井さんの脳内だけで勘弁して欲しいです」
「って、それはどう言う意味だよマナちゃん」
「言葉どおりじゃない。いっつも藤井さんが考え込むんだから、准将にも移っちゃったんじゃない?」
「ははは、それは恐い。藤井中佐、これからはあまり近づかないでくれ」
「酷いですよ准将……」
俺はこいつらを。
ホワイトアルバムというホームを、捨てることが出来るのだろうか?
「高橋は下川を倒す意志があるのか――あなたはそう思いませんか?」
「当たり前だろう。現に空き地の町でRR装甲軍と」
「直接は交戦しましたか? 実際に戦ったのは鍵集成旅団とAIR航空隊、それにあの既知外たちだけではないですか」
「それは結果論だろう」
「事実です。
で、現在下葉は鍵を攻撃中ですが、戦いが何年も長期化すれば既成事実が作れます。
正統リーフという国の存在が。
その間に十分国力を貯める。下葉は鍵との戦闘で疲弊しているでしょうし、そうなれば、
まあ相手はあの下川ですからどうなるかは分かりませんが――
いずれにしろ攻撃しにくくなるのは確かです」
「だからこちらからも攻勢にでない、か? 簡単すぎるな。もし下葉が早期に決着をつけたらどうなる?」
「それはご心配なく。彼らが疲弊して喜ぶのは何も我々だけではないのですよ」
「しかし、国民が黙っちゃいないだろう。国力の差にしても1年や2年では埋まらない。当たり前のことだ」
「世論などどうにでもなります。第一、『偉大なる建国の祖』に疑惑を持つ輩がどこにいるのです?」
それに、もしこのまま正面からぶつかった所で消耗戦になるのは明らかです。
わざわざ好き好んで負けの分かる戦に手を出すほど、高橋総帥は愚かではないでしょう。
まずは国力の充実が最優先事項でしょう。水無月のRR菌感染は彼らにとって唯一の予定外ですがね。
例え枯れゆく樹木であろうと、少しでも延命措置を施したいと思うのが人情というもの」
「……お前、何が言いたい」
「この国は、もう長くありません。あなたの信じるリーフはもう終わったのです。
いい加減夢から醒めてください、原田准将」
彼女は今日のやりとりを思い出していた。最初に港で会ってから3回目の密会になる。
――あともう一息。
あともう一息でヤツはELFの人間になる。
そうすればリーフの名を冠す国を、一つ潰せる。
リーフ。
その単語を思い浮かべた時、腕に力がこもった。彼女はたっぷり30秒ほど我を忘れていた。
――しかし、うまくいった。
これでヤツの心はかなり揺らいでいるだろう。
正葉が鍵とつるもうが下葉と潰しあってくれようが知った事では無い。
もちろん高橋の考えなど知る由も無い。
全ては原田の不信感を持たせるためのブラフである。
ただの海兵大隊司令官とは言え、原田の政治的影響力は大きい。
その彼を失うとなると正葉内の動揺は計り知れないだろう――彼女を含むELF上層部はこう考えていた。
だから原田に、正葉における彼の立場を過剰に煽る。
きっかけは何でもいい。
大事なのは、それをさも重要な問題であるかに見せることだ。
ほんの小さな穴を、拡張し、補強する。
穴は原田の脳内で自己拡大する。そうすればしめたものである。
あとは勝手に向こうからコンタクトを取ってくるだろうし、こちらはそれを助けてやればいい。
正葉崩しの完成だ。
実の所、ELFとしては原田自身よりこちらの方が重要だった。
過去隆盛を誇ったELFも今はエロゲ国の一軍団に過ぎない。
そんな彼らが、安全に敵国を倒す。しかも原田というおまけまで付いて来る。
武力行使主体の下葉や、国粋主義者がのさばる鍵自治州では思いつきもしない計画。
「――こちらエージェントS」
「――ええ、計画は滞り無く進んでおります。そろそろフェイズ3への移行もご検討ください」
「――ありがとうございます」
「――いえ、ご心配なく。全く感づかれておりません。原田は亡命の事で頭がいっぱいでしょうから」
「――ですが、さすがに軍艦一隻は無理でしょう。乗員までは手が回せません」
「――すでに確保しております。基本は潜入時と同様のルートでの脱出です」
「――はい。ありがとうございます」
「――了解しました。引き続き『下級生計画』の任に当たります。それでは」
原田の煩悶をよそに、その計画は着実に進行していた。
「悩むうだるちん」
投下完了です。ご指摘ございますれば宜しくでげす。
>>474 >「高橋は下川を倒す意志があるのか――あなたはそう思いませんか?」
>「当たり前だろう。現に空き地の町でRR装甲軍と」
文章がおかしいです。正しくは
「高橋は下川を倒す意志があるのか――あなたはそう思いませんか?」
「あるに決まっているだろう。現に空き地の町でRR装甲軍と」
でした。すみません。
旅団長、お手数かけますが編集の際には差し替えおねがいします。
>>月姫@名無し参謀氏
ふとご質問を。
>>453-454 AIRシティ派遣部隊の展開は中止とでましたが、
>>377の第U連隊第T大隊の空き地の町南部への展開もお流れでしょうか?
>>479 流れとしては一応、第一独立装甲連隊は鍵との国境までは進出し、そこで入国許可を
鍵政府に求めている予定(元々、今回の派遣は政治的な意味合いが強いですので)。
ここら辺はSSを近日中に投下予定ですので、しばしお待ちを(笑
で、肝心の第U連隊第T大隊の派遣は、改編による第一独立装甲連隊への編入です
からお流れに成る事はありません。
>>375に於いて第11機械化歩兵大隊とかかれている部隊は、第U連隊第T大隊の
改名したものだとご理解下さい。
或いは、「第11」とするのでは無く「第21」としていた方が良かったですかね。
後、VN旅団第U連隊の派遣も当然実施されますので、その方向で宜しくお願い
します。
了解です。
地理的にいって空き地の町近辺を経由の方向で考えてます。
付近の鉄道網に関するSS書いてますんで、一応と聞いてみました。どうもです。
asage
昼保守
夜保守
保☆守!
みらくる☆ほしゅぽん
夕保守
ほしゅ
3月27日 2200時
ロディマス市
「なあ、あれって青紫じゃないか?」
「ああ、違うよ。キムチの臭いがするだろ?あれはハングル国人だ。似てるけど違う」
「本当だ、キムチ臭え。でもなんだってこの国にいるんだ?」
「知らねえよ。それよりあまり近づくな。謝罪と賠償を請求されるぞ」
「オイキムチ、ウリナラコココ〜〜〜〜〜」
「…頼むから、そのわけのわからない歌はやめてちょうだい…」
青紫と石原麗子はロディマス市内にいた。
青紫はマスクで出っ歯を隠している。彼の体からはキムチの臭いが放たれていた。
今の彼はどこからどう見ても、ニダーと呼ばれるハングル国人そのものだった。
奈須総裁から会見の場所として指定されたのはロディマス市内の月姫ゲリラ拠点跡地であったが、
当然ながら彼は表立ってロディマスを歩ける身分ではないし、
普通に変装したところですぐばれるのは、乾少佐の例ではっきりしていた。
そこで、ハングル国人に変装することにしたのだ。
ハングル国人ならばエラが張っているのも当たり前だし、
謝罪と賠償を請求されることを恐れて誰も近づかない。
青紫にしては上出来な策であったが、随伴者にとってはたまったものではない。
「引き受けるんじゃなかったわ…」
麗子は深くため息をつくのだった。
廃ビルの地下1階─
指定された部屋の前には一人の女。
長く伸びた赤い髪、手にはなぜかトランクをさげている。
「ようこそ、青紫参謀。とりあえず…そのキムチの臭いを何とかするように」
「これはこれは失礼した。では少々お時間をいただけるかな?」
青紫はそういうと消臭スプレーを取り出し、大量に体にかけまくった。
しばらくすると、臭いはほとんどなくなっていた。
「これで、よろしいかな?」
「ええ。あと、そこの人はここに残ってもらうわ。二人だけで話したいそうだから」
「了解した」
「きのこ。来たわよ」
女がドアを開ける。
目的の人物は、テーブルの向こうからこちらを見つめていた。
「はじめまして、青紫参謀。奈須きのこと申します」
「はじめまして、奈須総裁。お会いできて光栄です」
軽く握手を交わして着席する。
「今日はようこそお越しくださいました。
お茶とお菓子をご用意しました。どうぞゆっくりしていってください」
「これはこれはご丁寧に。ではありがたくいただきます」
春とはいえ、まだ肌寒い季節である。温かいお茶は実にありがたかった。
「ほう、この桜餅なかなかの逸品ですな。どこでお買い上げになられました?」
「お目が高いですな。これは琥珀大佐の手作りの品です。
…ご安心を。私も食べるものですから、危険な物は入っていないと思います。
…………………………たぶん(汗」
「………………………………………………」
最後の言葉が非常に気になった青紫であった。
「さて、いつまでもお茶菓子を食べているわけにも行きませんな。
お聞きしたい。あなた自身が今の時期に、正葉を通さず単独で私と接触を図る…
その理由は?」
「青紫参謀。あなたのことは少し調べさせてもらいました」
きのこは分厚いファイルをテーブルの上に置いた。
そこには経歴から何から、青紫のデータが山ほど詰まっていた。
…彼がRR菌の研究に関わるきっかけとなった事件まで。
「エロゲ暦××年○月△日、レザム市にあったできすぎ医療研究所で事故が起きた。
生存者はたまたまその日視察に来ていた軍人一人だけ…あなたです。
そしてその日から、そこで行われていた慢性RR症候群…通称『反転病』の研究はすべて軍に移管され、
ほどなくあなたはエルクゥ・プロジェクトを主導することになる」
「…驚いたな。ここまで調べていたとはね」
「そして、あなたは軍内部に着実にシンパを増やしていく。
その悪名の広がりとはうらはらに。
…教えていただきたい。人類の新たなる進化『リアルリアリティ』とは何ですか?
RR菌は、あなたにいったい何を見せたのです!」
「それを知って…どうするつもりだね?」
「私は、あなたが何者か知りたいだけです」
沈黙が部屋を満たす。永遠に続くかのようなこの重苦しい時間を終わらせるため、
青紫はゆっくりと口を開いた。
「おそらくは理解していただけないだろうが…
あの時私が見たものは、私なりの現実感で表現できる。
黒く光るのは慣性力を奪われた光子――。
白く光るのは放射線状に揃えられた光の三原色――。
それはまさに神の領域に思えた。
リアルリアリティとは、その世界に捧げた言葉なのだ」
「なるほど…………さっぱりわかりません」
「そうか…君ならもしかしてわかってくれるかなとか思ったんだが…
まあいい。奈須総裁、私が何者か知りたいと言ったね。
私は人間だよ。それ以上にはなれなかった。
人間は、神にはなれない。その程度のこともわからなかった、ただの大ばか者さ。
でも、そんな大ばか者を拾ってくれるところもある」
「それが、空き地の町…」
「そうだ。私が初めて彼らのためにその力を振るったときに感じた感覚は、
今まで感じたことのないものだったよ。私はそのとき悟ったんだ。
自分の正しさを自分が信じられるとき、自分は驚くほど強くなれることを。
そして私は、今まで自分すら騙せない嘘を自分につき続けていたのだと」
「…わかりました。青紫参謀、あなたの言葉に嘘は無いように見える。
ですが、あなたを判断するにはまだ材料が足りませんし、
聞かねばならないことも、話さねばならないこともまだまだある。。
幸いお茶とお菓子は大量にあります。今日は心行くまで語り合おうではありませんか。
お互い、こむずかしいことをこむずかしく語るのが好きなようですしね」
493 :
412:02/11/16 06:05 ID:btYUM11y
本日十時前後、葉鍵板全域において月厨……もとい月姫ゲリラの大攻勢があった模様w
どうせなら旧正月に(PAMPAM!
ほしゅ
ま、そうなったら福田さんに任せとけ。
ん・・・・・て事は攻め手と守り手が一緒か?(w
自作じえーん!(超極大熱核自爆
hahaha、何を仰います月姫@名無し参謀殿。
漏れなぞ超先生とうだるちんで微妙に自作じえーん可能!(融解
いや、やりませんがw
所で、皆様にご相談があるのですが…。
ハカロワの、いわゆる「アナザー」はアリでしょうか?
ストーリーに関連性は無いのですが、設定てんこもりのSSが出来そうなので。
大体、私には最後だけ見て反射的にレスを打つ悪い癖が在るわけで(笑
>>493 ガンガレー
最後まで責任とれー♪
頑張って下さい(はぁと
>>499 >やりませんがw
いやもう、そゆう時にはこっそりと(笑
>ハカロワ
どうなんですかねー
旅団長殿や名無しだよもんさん殿s'?(笑
要は「ストーリーを補完する」ってヤツなんですが…
いや、やっぱいいです。
後々ややこしくなりそうですし、初期の頃なんてSSかどうかの境界すらあやふやでしたから。
ということで、
>>499の発言は撤回します。
お騒がせしてスマソ。
ハカロワに過剰反応するところだった。自制自制
503 :
退屈会議:02/11/17 21:59 ID:z6/qOSs8
3月27日
空き地の町 仮司令室
『発:正統リーフ月姫旅団 宛:空き地の町』
「…なんだこれは?」
軍事顧問団大佐は訝しげに声を上げる。召集を掛けられたので何事かと思ったら
目の前にはこんなものが置いてあった。
「ご覧の通りですよ。とりあえず最後まで目を通して見て下さい」
机の向こうに座っていた館山総理が答える。
再び視線を落とすと、繊維とインクの集合体が眼前に迫った。
連絡があったのはつい数時間前。
『こちらの部隊を移動させる。地理的にそちらを横切るかも知れないから、
その際にはひとつヨロシク』
書かれている文書を要約するとこんな感じだ。
こちらとしてはありがたい連絡である。ただ、肝心の移動部隊や行き先については
一切触れていなかった。
「…分からんな。月姫の連中は何考えてんだ?」
「親切な方がわざわざ送ってくださったんでしょう。残念ながら送り主は不明ですが」
「いまどきそんなヤツいるのかねぇ」
慣例通りなら知らせる義務のない通達であるためか、どうもその意図が計りかねた。
504 :
退屈会議:02/11/17 21:59 ID:z6/qOSs8
「送り主についてはひとまず置いておきましょう。
――で、当面の問題として我々はどう動けばいいのか。何か意見はありますか?」
「ウソついてない証拠は?」
大佐は質問した。当然の疑問だ。
「南部の駐屯地では既に移動準備を始めているとの情報が入ってきています。
未確認ではありますが」
「じゃ、この『こちらの部隊』ってのは乾戦車大隊の事か? 連中、ロディマスにでも
引き上げるのかね」
「それじゃ空き地の町は下葉にモロに晒されるじゃないか!」
都市防衛警備隊指令が声を上げる。彼としてはそこが気になったのだ。
「いや、代わりが来るかも知れん。正葉だってココを失うようなバカなマネはしないだろう。
みすみす下葉の連中に侵攻ルートを開け渡すようなもんだからな。そういえば、衛星はどうしたんだ?」
「大リーフ湾沖500km上空です。次の通過時間は2時間後ですから、それまでは分からないですね」
「肝心な時にいないから困るな。かと言ってUAV使うのもまずいだろうし」
暫定自治政府はUAV、つまり無人偵察機プレデターを数機所有している。
政権擁立に先立って大佐が私的に注文したものだ。
その恐ろしく高価なラジコンは、何しろ人員喪失の心配なく敵陣に突っ込める
ものだから費用対効果の面でEF-4などより遥かに高い効果をあげている。
だが、さすがに友軍の上空に飛ばすのは気が引けた。自分の上空をそんなものが
飛んでいたら決して良い気分にはなれないだろう。
505 :
退屈会議:02/11/17 21:59 ID:z6/qOSs8
「話が進まないので、とりあえず衛星写真で裏が取れるまで乾戦車大隊が動くものとします。
異論は……特に無いようですね」
大判の地図が机に広げられる。書店などで買える市販のものだった。
「まず。彼らの行き先は二つ考えられます。一つ目は、市街地を通過してロディマスに」
空き地の町から上の方に指を動かす。
「二つ目は逢魔ヶ辻→鍵自治州に」
今度は町の左側を指差した。
「ちょっとまて。ロディマスなら分かるが、鍵自治州とはどういうことだ?」
「今、彼らはどういった態度を示さねばならないのか考えて見て下さい。
自治州における月姫系住民の差別。
州都攻撃による難民の発生。
例の電文事件後、堰を切ったように展開される難民擁護のCM――」
「政治的反応ってやつか。TYPE-MOONの」
「恐らくは。現時点ではまだ何とも言えないのが現状ですけどね」
「ま、そこら辺は総理や参謀に任せる事にしてだ。俺達はどうすればいいんだ?」
花束でも持って彼らを出迎える――そんなことは出来ないだろう。
「鍵自治州を下手に刺激するのは面白くありませんね」
「なんてったって、通過するのは月姫旅団だからな。後々になって変ないちゃもん
付けられたらかなわん」
その言葉を最後に、室内は静寂が訪れる。
506 :
退屈会議:02/11/17 21:59 ID:z6/qOSs8
ペンを走らせていた舘山が切り出した。
「……民間の鉄道を使って貰うというのはどうでしょうか」
「あくまでも黙認の姿勢を取る訳か?」
いち早く反応した大佐が答えた。
「市街地を走行させると交通整理などの諸問題も出てきます。
そこで我々が『協力』すれば、無用な言い掛かりの機会ををものみの丘に与えてしまう恐れがあるかも知れません」
「『貴国は我々の提案を無視するおつもりか?』ってか」
「――しかし、民間の鉄道なら話は別です。鐵道公司の本社はロディマスですから、
『あくまで彼らは地理上の関係でここを通過する。我々は一切関係ない』
という態度を示すことが出来るかもしれません。そうすれば一応の言い訳は立ちます」
「まあ、傍から見れば結構な違いかも知れんが…そんなに念を入れるもんかね?」
「我々は常に最善を尽くさねばなりませんから。ところで長官、路線網の復旧はどれほど進みましたか?」
「ご心配なく。すでに当該区域の85%は修復済みです。あとはATSやらなにやらシステム関連
ですが、これは完全に鐵道公司の管轄ですから何とも言えないですね」
「そうですか。では、参謀にお願いして鐵道公司にも接触してもらいましょうか。後々の事も考えて、
ここで何らかの接点を作っておいて損は無いはずです」
鐵道公司は正統リーフの鉄道会社である。元は葉鍵国有鉄道だったのだが、なにせ正葉は『独立』したのだ。
使えるものは何でも使ってしまえという高橋総帥のお達しによって設立されたのだった。
一応の顧客は民間だが、旅客営業は殆ど困難な状況なので現在は軍事輸送がメインである。
「しかし、それでホントに大丈夫なのかねぇ…。第一ココからロディマスまでムチャクチャ混んでるぞ?」
イマイチ納得しきれない大佐が呟いた。
「あくまでも空き地の町領内だけですから。そのあとどうするかは彼らの自由ですよ」
「ま、確かにそうだわな」
507 :
退屈会議:02/11/17 21:59 ID:z6/qOSs8
「ところで総理、武装供与について報告がある」
「例の件ですか。先方は何か言ってましたか?」
「供給量を抑えるのなら量より質で勝負しろだとさ。で、こちらで色々検討してみたんだが、
こんな結果になった。これを見てくれ」
ホチキスで止められた資料を各人に渡す。検討案の詳細と兵器のデータなどが載っていた。
「地上兵器は現行通りだが、加えてパトリオット防空システムを検討している。ただいかんせん
値が張るから、多くても5〜6基ってところだな」
もちろん下葉が所有している対地ミサイル対策である。湾岸戦争でスカッドを迎撃した実績が
認められての採用となった。尤も、核が飛んできたらどうしようもないが。
「海上兵器はSH-60シーホークを『空き地の町』に追加搭載すれば事足りるだろう。
次に航空機。VTOLと戦闘ヘリだけだと心細いから本格的な戦闘機を揃えたいところだが、
まともな飛行場がなけりゃどうしようもない。
で、車長に相談してみた所――ちょっとした拾いもんがあった」
手元の拡大写真をホワイトボードに貼る。見慣れない戦闘機が大きく写っていた。
一見普通の戦闘機だが、突き出た二本のテイルブームの先端に尾翼と垂直安定版が取り付けられている。
その隙間にエンジンノズルが埋め込まれており、下方を向いている事からVTOL機と言うことが窺えた。
508 :
退屈会議:02/11/17 22:00 ID:z6/qOSs8
「Yak-141フリースタイル。今は亡き世界最後の実験国家の遺物で、世界初の超音速VTOL戦闘機だそうだ。
これならどこからでも離陸できるし、なにより『空き地の町』に搭載できる。簡易空母の完成だな。
実戦経験が無いのとやや機動性に欠けるのがネックだが、格闘戦を挑まないなら特に問題は無い」
「そんなもの使い物になるのか?」
異論を唱える人物がいた。警備隊指令だ。
「我々に金銭的余裕は少ないぞ。いくら安く武装が供給できるとは言え限りがあるんだからな」
「なに、どっちにしろ使い物になるのは15機ほどだけだ。その上中古品だから高くは付くまい。
んで、次は都市警備防衛隊の武装なんだが――」
別の紙を配る。先ほどよりも分厚いそれは内容の多さを物語っていた。
「とりあえず防衛隊には機械化してもらう。M2A2ブラットリー歩兵戦闘車16輌、M3A2が8輌だ。
基本的に市街地の防衛戦を想定しているからMBTは無しだな。歩兵携帯用ミサイルには
FGM-77ドラゴン、およびFIM-92スティンガーを配備する」
これには防衛隊指令も驚いた。普段から装備の大型化を望んでいた彼にとっては嬉しい知らせである。
が、しかし。
「あ、あと歩兵の武装も統一してくれ。ライフル一つにしたってカラシニコフやら
FAMASやらAK74やらAUGやら訳が分からん。こちらとしてはM16A2に一本化してくれるとありがたい」
「……ちょっと待て。確かに武装が多彩化してるのは認める。だがM16は納得いかん」
「何故だ?」
「当たり前だ。M16も優秀な小銃だがカラシニコフの優秀さをまるで分かってない。――あんたホントに
AK47使った事があるのかと小一時間問い詰めたいね。お前ただ単にM16使いたいだけちゃうんかと」
509 :
退屈会議:02/11/17 22:00 ID:z6/qOSs8
この一言がいけなかった。後に指令は激しく後悔する事になる。
「ほう、言ってくれるね指令殿……!? そういうお前こそなんで未だにあんなモックアップ銃使ってんだ! 前世紀の遺物だぞ!?」
「俺の経験から言わせて貰うがな、あんなタフな銃世界中のどこ探したって無い! あれのどこが遺物なんだ!?」
「カラシニコフ装備してM2に乗る奇怪な歩兵が世界中のどこにいるってんだよ!」
「みてくれはどーでもいいだろーが!! 要は使えるかどうかじゃないのか!?」
「あぁ!? AK47のどこが使えるってんだよ!」
「使えるに決まってんだろこのアメリカフェチキティガイ軍団が!!」
「んだとこの旧世界赤旗マンセー月厨ゲリラ!!」
「あーもう、いい加減にしなさい!!」
舘山、ついにキレる。
彼女の怒号が部屋に響いた。机を叩いた勢いで立っている。
「議論は大いに結構ですけど、もっと主観を交えないで話しなさい! 子供じゃないんだから!」
瞬間、司令室の時は止まった。誰も舘山から目を逸らさない。
「…………まあ、あれだ。ここで話し合うのも何だし、あとでじっくりと詰めようじゃないか。指令殿」
「………うむ。確かに君の言う通りだ。このままでは埒が開かないな。大佐」
もはや胸倉をつかむ一歩手前まで詰め寄っていた二人は、ようやく我に返ったようだった。
「分かりましたか? 二人ともとりあえず席についてください。話を続けます」
言葉は穏やかだったが――顔が笑ってなかった。
510 :
退屈会議:02/11/17 22:00 ID:z6/qOSs8
とりあえず会議は無事終了して以下の事項が決定された。
・空き地の町通過の際には、基本的に民間の列車を使用して頂く。
・鐵道公司と接触を図る。理由は、上記に加えて彼らと接点を持つこと自体にある。
・パトリオット防空システム、M2/3歩兵戦闘車、SH-60、Yak-141フリースタイルを新規導入。
・歩兵武装は統一する(機種については未定)。
・軍事顧問団大佐、および都市警備防衛隊指令の両名は舘山総理から説教3時間半の刑に処す。
この会議を境に『舘山総理はキレると恐ろしい』という認識が急速に一般化することになるが、それは後の話である。
「退屈会議」
投下完了です。
少数精鋭ということでいろんな兵器を出してみましたが…
流石にフリースタイルはやりすぎだったか。
avia.russian.ee/air/russia/jak-141.html
↑こんなヤツなんですが
>>502 おちけつおちけつw
何となく思いついたのがハカロワのアナザーだったんで。
決して比較してるわけじゃないですから気にしないでね。
鐵道公司、最初は「PLAYM鉄道」だったんですがあまりに間抜けなネーミングなんで止めました。
512 :
鮫牙:02/11/17 22:29 ID:wbJGxFXS
正葉(VN旅団)もイスラエル製のラジコン偵察機保有してそうだね。(メルカバ持っているぐらいだから)
あと、サテライト・システムもあるから、北部同盟は情報収集能力は高いだろうね。
誤字ハケーン
>>504 >ものだから費用対効果の面でEF-4などより遥かに高い効果をあげている。
『EF-4』→『RF-4』でした。(ファントムの偵察型のヤツです)
毎回スマソ…。
>>512 鮫牙氏
確かに。
サテライト・システムの軍事利用って言ったらGPSかなぁ…。もっと凄いの使えそう。
逆に鍵自治州は人力メインの情報網、
と勝手に想像してますw
サテライトシステム言うたらサテライトキャノ(BOMB
…ごめん、ガソダム厨は逝ってきまつ…
…そうかっ、次期超兵器は
パァン
…ソーラ・レ(消滅
ラホシュテ。
矢張り新兵器といえばレールガンだろうgPAMPAMPAM
いや、ここは敢えて反射衛星砲を(以下検閲
「超」と云う表現がふさわしいのは、矢張り核なのでは・・・・・・何だ貴様ら?
うお!?
zip! zip! zip! zip!
地上からミサイルを打ち上げて、軌道上の隕石(以下略)
さて、元ネタはなんでし(消失
保守ついでに。
大葉鍵嶺中央回廊ですが、確か西側出口(ものみの丘)から途中までは
アプト式鉄道が走っているって設定ですよね。そっから先は勾配が急すぎて鉄道が敷けない、と。
うろおぼえなんでよくわからんです。
>>522 鉄ヲタの方がいたら最適なものを建設してくれると思われ
秘密兵器
525 :
予兆:02/11/19 00:06 ID:Gulq1bog
3月27日0709時
シェンムーズガーデン地下壕
戦線が落ち着かない、治安も落ち着かない、それらが落ち着かないのだからちっとも経済活動が落ち着かない。
瀬氏にとって、それらは何れも彼の責任に帰する事態であったからだった。
それでも今日は、その悪化し続けるばかりの状況にも幾つか目処がついた。
北方戦線の運命を左右するロイハイトの攻防戦は、ハプニングに助けられる形ではあったもののひとまず陥落の危機を脱することが出来たと見ていいだろう。
もちろん田所軍もすぐさま態勢を建て直し、再度の総攻撃なり撤収なりの対応を取るだろうが、こちらも直にテネレッツァ軍を主力とする解囲部隊が攻勢を開始する。
それまでのあとわずかな時間ロイハイトを守り抜けば、その後の反攻作戦全般はまだしもスムーズに進むことはずだ……
明日にはもう一つ、かねてよりの厄介でしかし可及的速やかに解決しなければならない懸案にも目処がつく。
月姫民族自治区設立計画、『月の軛』。
東葉の協力を必須とするこの計画の成就のために、久瀬はこの後すぐにイタミ空軍基地からロックブーケに発つことになっている。
交渉の行方は、楽観していた。問題にもしていなかったと言っても過言ではない。 刻々と変化する情勢が資料の上で活字として踊る、それらに明るい予兆が見えないものだから彼の気が落ち着く瞬間もありはしない。
彼こと、警察中将にして一般RR中将、武装RR中将でもあり、そして内務尚書という要職にある久
526 :
予兆:02/11/19 00:07 ID:Gulq1bog
は人ごとのように達観していた。
人間性に信用がならないだけに、その政治的嗅覚は絶対的なまでに信頼に値する。
その東葉首脳部の政治的嗅覚こそが今の久瀬にとって重要なのであって、その他の因子は全く度外視して良いものだったからである。
いささか乱暴に皮張りの後部シートに身を委ねたのは、取りあえずの山を越えたとの気のゆるみがあったのだろう。
ドアを閉めた車外の兵が同情を表情に浮かべていたのが目に入り、久瀬は咳払いをして居住まいを正す。
多少疲れているとはいえ、それを態度に出してしまうとは情けない。
自戒が舌打ちとなって現れて、その事にまた自身への不快感を募らせる。
人の上に立つ以上、久瀬家の長男である以上、何時いかなる時でも、動揺や気のゆるみなど見せてはならないのだ。
常に確固とした自己を維持し、それを態度に示してこそ下の者からの畏敬を勝ちうるのだ。
一体、誰が気分屋であったり虚弱であったり臆病であったりする上司に、信頼を抱いたりするものか。
だから、僕は常に毅然とした態度を示し、疲れや油断など見せずに傲岸たる態度を表し続けなければならないのだ。。
「……うん、出して」
多少遅れて反対側のドアから乗り込んだ女性中佐が、気ぜわしげに時計に目を落す。
肩越しに指示を待つ視線を向けていた助手席の将校が、一礼して前方へ向き直った。運転兵と何事か二言三言囁き交わし、それから運転兵がギアを握る左の腕を手早く動かす。
そして外部の将兵が敬礼を捧げる中、その厳つい外見からは想像もつかないなめらかさでシェンムーズガーデンの地下車道をロールスロイス・パークウォードが滑り出した。
527 :
予兆:02/11/19 00:08 ID:Gulq1bog
シェンムーズガーデン、下川直哉国家元帥山荘地下。
葉鍵国大本営、というのがその俗称だ。
公式名称ではなく、俗称である。俗称と言うからには、当然真正の大本営ではない。
それどころか、本来ここは軍の公的施設ですらない。
あくまで下川国家元帥の私的ブンカー、というのがその実態。
だが彼の絶対独裁下にあるこの国において、彼の在する所が国家の中枢であるという現実がそこにある。
例え名目上の政権中枢がアクアプラスシティの総統宮殿、軍の司令部機能が国防総省にあるとしても、真実の下葉の総てはこの地下壕に結集しているのだ。
下川国家元帥お気に入りの山荘を頂く山をそのまま掩体と見たて、その地下400メ−トルに構築された重層構造の大本営は、幾本もの隧道連ねてその総延長3500メートルにも及ぶ。
当然の如く各区画は耐爆隔壁を備えた上に入念なNBC防御を施され、戦略核による攻撃にも耐えうるこの地下要塞は、本来エロゲ国との再度の戦争に備え建国以来営々と建造されてきたものだった。
下川の私物とは言えその存在は軍内部に広く知られ、当然政権を離脱した正葉や鍵の首脳陣もその位置や構造をほぼ掌握している。
だが、彼らは同時にこの要塞の防衛力をも熟知していた。
それゆえ彼らは不毛な攻撃でその戦力を消耗させる愚を犯していない。
528 :
予兆:02/11/19 00:09 ID:Gulq1bog
防空軍の一個防空旅団と24機のSu27P、10機のMiG31からなる防空軍特別独立戦闘機連隊(主にイタミ空軍基地に展開していた)、それにRR親衛隊、警察軍、空軍野戦師団混成の一個師団強の野戦部隊。
要塞砲兵一個旅団を加え、総計17000名の将兵と140両のMBT、94両の自走火砲を初めとする巨大な戦力が、この前線から遠く離れた魔王の居城を護っていた。
以前はこれに加え、彼に忠実なろみゅ空軍少将の空軍降下猟兵師団がこれを囲むように展開していたのだが、AFの空隙が近辺に及ぶに至って彼らは東葉領タカダノババまでに退避している。
野戦部隊が各軍組織混成なのは、結局のところ下川がいずれの組織にも完全な信頼をおいていない証左だ。
一つの組織に信頼を置き過ぎれば、そのトップが野心を見せた時に下川には打つ手がない。
だから、下川国家元帥は実戦時の指揮系統に発生するであろう種々の問題を看過しても、安全性の高い分散策を選択したのだった。
それでも、組織の序列は彼の信頼度と実際の能力によってきっちり定められている。
下川の身辺、要塞深部を警護するのは内務省警察軍の警護部隊。要塞の大部分は下川の影響力強い空軍野戦師団が護り、政治的信頼性はともかく軍事的能力に疑問符のつくRR親衛隊は要塞外縁に配備される。
これを統括指揮する司令官は、実の所定まっていない。
正式な軍施設ではない弊害で、何を護るかすら明確には定まっていない、各軍組織の駐屯地の集団に過ぎない建前上、統合された司令部すら存在しないのだ。
一応幹部級の会合は毎週のように開かれ、意思疎通に関しては現在の所問題が出ている様子はないが、いざ有事となった時の不都合は想像するに余りある。
529 :
予兆:02/11/19 00:09 ID:Gulq1bog
おそらくは常時ここに詰めている最上位者である中上大将、あるいは久瀬警察中将(実戦経験がないのがネックだ)になるのだろうが……彼らはそれぞれ組織の頂に立つ人間だ。
その彼らが野戦の指揮をとるとなると、彼らが本来支配する組織の運営に重大な問題が発生することは免れない。
戦時に参謀本部や内務省がトップ不在で機能不全を起こすなど前代未聞、問題外の椿事だろうが、えてして人間不信の独裁体制にはかかる不合理がありがちなものだ。
もっとも、このシェンムーズガーデンが陸戦の部隊になるような時には体制も崩壊目前。
彼らが指導すべき組織も消失しているだろうから、その懸念は杞憂に終るという見方もあるのだが―――
「ちょっとでも間違ったら、核戦争が怒るところだったんじゃないですか?」
問いたいことは幾つもあったが、最初に口を衝いて出た問いは結局のところそれだった。
山腹の掩蔽された複数の車輛進入口、そこに至るまでのわずかな道のり。
暗くところどころ涌き水のあるトンネルの先、外界の光が遠くに見えた時のことだ。
口ぶりが剣呑さを帯びるのも当然というもの。女性将校、吉井ユカリ警察中佐は湿り気を多分に含んだ眼差しを久瀬に向ける。
それもそのはず、この傲慢極まる上官は、内務省のほかのどの高官に諮ることすらなく、それどころか国家元帥閣下の承諾すら得ることなく、核戦争の準備を進めていたと言うのだ。
正直な話、久瀬が発った直後のアクアプラスシティの内務省で、戦略ロケット旅団が独自に行動を開始していると報告を受けた時には腰を抜かしそうになった。
530 :
予兆:02/11/19 00:10 ID:Gulq1bog
慌てて急行させた警察部隊が橋本と接触し、ことの真相を説明された時には、呆れと驚き、そして多分に怒りを感じたものだ。
もっともその怒りの半分は、核戦争の忌避感以外にせめて一言くらい事前に教えてくれても、といういささか子供じみた疎外感に拠るのだが。
「ふ……ん。君は、少しばかり下川閣下を甘く見ているようだな」
いささかむくれた風に怒気の篭もった眼差しを寄越す部下に対し、やつれた久瀬の右の頬が引き攣れたように動いた。
「あの方は、君が思っているよりはるかに聡い人物だよ」
その持ち前の聡明さを、人格面の問題で消し去っている面は否定できないがね。
冷笑混じりの補足は胸中のもので、傍らの部下には伝わらない。
彼の後を受けて政治警察局局長―――そして秘密警察長官のポストに就いたその部下は、十分知的ではあってもその種の洞察力には欠けていた。
それは本来人の心を取り締まる政治警察の幹部にはなくてはならない能力のはずだが、この場合の吉井警察中佐にとっては関係がない。
何故なら国家警察長官たる久瀬警察中将にはその権力の源泉たる思想警察権を手放す意思も道理もなく、吉井中佐はその従順さを買われた彼の代理人に過ぎないからだ。
彼女の主たる任務は内務尚書たる久瀬の意向、そして具体的な指示を受けた治安・諜報活動を手配監督し、その状況を整理して久瀬に報告。またその指示を仰ぐという手順の繰り返し。
あくまで久瀬の手足としての機能でしかなく、彼女自身が何ごとか主体的に行動を起こす、ということはほとんどない。
531 :
予兆:02/11/19 00:11 ID:Gulq1bog
吉井中佐自身、大して野心のある人物でもない。
自分程度の才幹しかもたない人物がここまで昇れたことに十分な満足を感じているし、自分程度の才幹しかもたない人物ではここまでが関の山と諦念を抱いてもいた。
そんな彼女だから分不相応と自覚するポストに実権を求めるわけでもなく、自己の方針を定められない結果として彼女の示す久瀬への忠誠心は、彼の信頼を勝ち得るに十分な代物だった。
いやもう一つ、久瀬が密かに彼女に期待する部分はあるのだが……現在のところ、それが現実の必要となった試しはない。
今まではそうだった。これからもそうだろう。彼が掛けた保険はきっと、将来に渡って不要なはずだ――久瀬が確固とした自我を保ち、自己の流儀を貫きとおすことができる限りは。
「冷静さを取り戻せば、当然期待された対応さ」
そう、大切なのは冷静さだ。
多分に自戒を込めた思いとは裏腹に、やはり彼の表層は分厚い冷笑に覆われたまま。
その奥底をとうてい見とおすことなど出来ない腹心は、いつも通りの彼の態度にいつもと同じ懸念を抱く。
「冷静さを取り戻せば、ですか」
このどんな時どんな場合でも、不遜で尊大な態度を崩さない―――少なくとも、吉井はそれが崩れたところを見たことがない―――上官の底がないかのような自信は、何を源泉とするものなのだろう?
「でも、それは……逆に激昂されて、次の段階に進んでしまうことも考えられたのでは?」
「その時は、その時さ」
吉井の声音に乗せられるのは、彼に仕えはじめてここ数年、ほとんど感じなかった日のないのわずかな苛立ちを少なからぬ懐疑の念。
今日はそこに、わずかに慄くような響きを上乗せされた。
久瀬の無責任極まる応えを受けて、吉井の面差しに差した陰が、その色合いをさらに深いものへと遷す。
532 :
予兆:02/11/19 00:11 ID:Gulq1bog
彼女は良識派だ。
たとえ意思力に見過ごせぬ貧弱さを抱えようと、そのために友人の暴挙を見過ごす傾向があろうとも、彼女が極々平凡な価値観を持った良識的な人物であることを否定するほどのものではない。
実際、今現在も彼女は恐らくは自分の無二の親友が引き起こしたのだろうロイハイトの事件を気に病んでいたし、それに敢えて対応しない久瀬の態度をも憂いている。
そんな多少小心すぎるほどの彼女に、当の久瀬は一切構うつもりはないらしい。
皮肉をはっきりと何者かへの嘲りへと変えて、彼は平然と言い放つ。
「例え実際に核攻撃を敢行したところで、それがそのまま核戦争に繋がるとは限らない。
いや、むしろ逆だな。AFやWintersに標的を絞れば、大軍閥がわざわざ連中の仇討ちのために核を持ち出すようなことはないさ。
経済制裁も、短期的に視点を限ればそれほど怖いわけじゃない。
独立戦争以来、我々は完全孤立下の戦争完遂を前提に燃料弾薬の備蓄、兵器の国産化を進めてきた。
戦争資源も多少は国内で賄えるし、戦争遂行への努力がすぐさまどうこうなるわけではない」
それに、と久瀬はわざとらしく肩を竦めた。
「そもそも葉鍵とエロゲはともに、七大厨房国家の一つだぞ? 多少荒れたところで、いったい誰が本気で目くじらを立てると思うんだ?」
七大厨房国家。
その単語を耳にした吉井の顔から、憂いや懸念が吹き飛んだ。
そこに残るのは純然たる驚き、大昔に生別して以来の旧友に思わぬところで出会ったかのような感慨。
「七大厨房国家……そうですね、そうでした。
この国は、世界からそのように呼ばれる国だってこと、今の今まで忘れていました」
「そう言うことだ。我々自身がその事実を忘れ去ろうと、国際社会はかつて最も若く、最も活力に溢れ、最も愚かしかったころのイメージを忘れない。
ましてや、バ鍵っ子の義勇軍が――あゆ国だったか? 遠く別大陸まで出掛けていってバカ騒ぎをやらかしたのがつい先年のことだ。これではそのイメージも否定しようがないな」
面白くもないことだが、と久瀬は鼻を鳴らし、急に明るくなった車窓の外界へと目を向けた。
533 :
予兆:02/11/19 00:11 ID:Gulq1bog
冷泉で知られる葉鍵国の保養地、シェンムーズガーデン。車はしぇんむ〜山荘のある丘陵の地下から、まだ若い今日の太陽が照らし出す緑の世界へと飛び出していた。
織りなす緑に包まれた山々の稜線と、山間に造成された田園の風景が美しいこの土地のあちこちに、永久陣地化された砲座や防空陣地が存在している。
その無粋さが、久瀬にはいささか気に入らない。迷彩され偽装されているとはいえ、地上の近くから見ればやはり目立つのだ。
いったい軍人と言う連中は、もうちょっと実用性以外に配慮する余裕を見せられないものなのだろうか。
「時節柄、全面核戦争は流石に見逃されないだろうが、仮に残虐行為やBC兵器が海外メディアに騒がれたところで関心はそう長続きはするまい。
なにがしかの経済制裁が行われたところで数ヶ月、その後は皆忘れる。綺麗に忘れ去る。痛みがやってくる前に危難は過ぎ去るさ」
とりとめもない方向へ向かいかけた思考をなんとか踏みとどまらせ、久瀬は吉井へと再び視線を戻す。
「人が変わろうが、社会が変わろうが、辺境、最果てのこの国へ向けられる目は変わりなどしない。
何時までも、この国はひかれ者の土地なのさ」
後半はほとんど唾棄するかのような口調だった。
車内に重苦しい沈黙が降りる、その気配を感じて久瀬は二度目の舌打ちを打った。
どうもいけない、やはり情緒が多少不安定だ。これほど感情的になるなんて、僕らしくもない。
「それより、本題は何かな?
君がわざわざ自分でこちらまで来たからには、何とか重要な報告があるんじゃないのか?」
「え、あ。はい、そうでした」
これまた自分でも場を取り繕うような発言に感じたが、ともかくも自身が生んだ無駄に重い沈黙を、少しでも早く消し去りたかった。
辛うじて表層の焦りだけは押し隠した久瀬の高圧的な問いかけに、吉井は慌てて傍らに置いた書類鞄へと手を伸ばす。
534 :
予兆:02/11/19 00:12 ID:Gulq1bog
「まだ漠然とした情報なんですが……直接御報告した方が宜しいかと思いましたので」
取り出された書類の量を見て、久瀬が眉を少しばかり寄せた。
びっしりと文字が連ねられたA4サイズの用紙が分厚い束を成している。
果たしてこれは、空港に着くまでに読み終えて、それに関する詳細な応答を受けることができる量だろうか?
どう考えても、無理なような気がするのだが。
「とりあえず、これを。以前から追跡していた分離主義者への資金の流れなんですが……」
さすがにそのあたりは、吉井も配慮はしていたらしい。
量が多いようなら、取りあえず受け取って飛行機の中で読む、まずは掻い摘んだ説明を。
そう求めかけた久瀬の先を打って、分厚い資料の束の中からいくらかの束を取り出す――それでも十分分厚いのだが。
受け取ってからざっと目を通すまで、五分ほどの時間が掛かった。
その厚さと情報量を考えれば、よくも五分ほどで済んだ、とも言える。
以前から継続調査させていた正葉への資金流入経路。その調査結果の定期的な報告書だった。
「……一見すると、前後の資料に変化はないようにも見えるな。しかし……」
それならば、こんなものを慌ててご注進に及ぶまでもない。
促すような視線を受けて、吉井は自身の手にある同じ資料を何枚か捲った。
「はい。基本的に、彼らの資金源が来栖川と柏木、遠野の三大財閥を中心にしていることには変わりありません。
ただ、国外出資者の顔ぶれに最近若干の変化がありまして……」
「……随分と、大口の出資だな。しかもノーマークの活動家か、これは。個人の出せる額とも思えないが……」
見たところ、この新顔の活動家は取り立てて資産家である訳でもなく、今まで洗い出したネットワークに名を連ねる人物でもない。
そもそもそのネットワークは、その資金力、政治的影響力において下葉が特段の脅威とするものでもない。
彼らの近辺調査の重点も、資金よりもむしろ彼らに連動する下葉支配地域内の分離主義者の特定に向けられていた。
しかし万が一、これだけ大口の資金を提供できる存在が複数いるとなると、話は全く別のものになる。
535 :
予兆:02/11/19 00:13 ID:Gulq1bog
あるいは、現在判明しているネットワークとは別の、本命とも言うべき支援者の集団があるのかもしれない。
その組織はより高度に組織化され、より強大な資金力と情報力を持ち、より多大なロビー活動を展開して大きな貢献を果たしているのかもしれない。
今自分たちが追っているグループは、その本命を霞に隠すためのただの囮なのかも知れない。
乾きかけた唇を軽く舌で湿し、無意識に小さく噛みしめた。
その可能性が深く濃密な影となり、久瀬の心に広がっていく。
そもそも、正葉の資金源は吉井も告げたように三大財閥が担っている。
正葉の支配地域は小さな―――それこそ最新鋭の一個師団と海兵隊を保持できるのが不思議なほどの経済規模でしかない。
戦時国債の売れ行きは順調だが、これはその三大財閥が率先して買い支えているからこそだ。
支援者の数は多いが、個人の戦時債購入量や献金の額はそう高額ではない。
正葉という勢力は結局財閥が支えている砂上の楼閣に過ぎず、彼らの支援がなければすぐにも雲散霧消するというのが実状だろう。
その財閥とて、一体いつまで正葉を支えられるかわからない。
彼らがいくら金を注ぎ込んだところで、期待できる見返りはそう多くないのだ。
人は大義やイデオロギーだけでは生きていけない。イデオロギーの謡う明日へと生を繋ぐため、まずは今日の生活の糧を得なければならない。
それが企業となればなおさらのこと。
彼らは自己に属する社員に食を、食を確保するための給与を与えなければならない。
生活の安定を社員に約束するためには、企業は常に利益をあげ続ける必要がある。
であれば、企業の行う投資は利益を得るための手段でなくてはならないのだ。
そうでなくては会社は倒れてしまう、多くの社員とその家族を路頭に迷わせてしまう。
正葉が彼らの望むような方向に進まない場合、彼らは果たして正葉と心中する道を選ぶだろうか?
536 :
予兆:02/11/19 00:13 ID:Gulq1bog
社員の大半が月姫民族であり、社是にもその独立を悲願と掲げる遠野の動きはわからない。
彼らはビンラディンに資金を提供するアラブの富豪のようなものだ。イデオロギーのためになら金を惜しまないし、命をも掛ける危険性すらある。
彼らの境遇はそれを是とするだけの悲惨なものだし、それを是としなければならないほど逼迫したものであることも事実だ。
だが、来栖川と柏木はどうだろう?
そうでなくとも両財閥は高橋叛乱以後下葉支配地域内の資産の全てを接収され、海外でも下葉の工作で資産凍結の危機に晒されている。
正葉がその行動を完全に封じ込められ、彼らの大きな商機からただの厄介者に変じたなら、寝返りの可能性がないと誰が言い切れるだろうか?
いずれにしても、正葉は今のままなら資金力的にそれほど長持ちしない。
久瀬がまず鍵を主敵と考え、月を次に警戒し、高橋派を最後に置く理由はそこにあった。
だがここにきて、その予測を根底から覆す危機が見えた。
久瀬の脳裏をいくつもの過去の報告が過ぎり、関連しそうな情報はなかったかと焦りに満ちた思いを走らせる。
そんな彼の視界に、新たに神の束がおずおずと差し出されたのは彼が思索に沈んですぐのことだった。
ちらと問うような一瞥を吉井に向けると、彼女は小さく頷いて資料に幾つか引かれた赤いアンダーラインの一つを指さした。
「それでこちら、金融機関内部のこちらの資産から提供を受けた資料です。
分離主義者周辺の口座情報なんですが……」
「………………」
受け取った資料に目を通した瞬間、意識の隅々まで渡っていた疲労の霧がさっと晴れ渡っていくのが自分でわかった。
何をすべきか。どこまでが許容されるか。
文書の示す事態を把握すると同時にいくつもの方策が浮かんでは消える。
車内にしばしの沈黙が降りた。
久瀬は車外を走り去る風景へと視線を投げて、吉井は主人の命令を待つ飼い犬のようにその後ろ姿へとじっと視線を向けている。
運転兵と助手席の将校はもとより沈黙を保ったまま。
彼らはこの会話に参加する資格を持っておらず、この会話を記憶する資格すらもっていなかった。
二人の部外者は会話を耳に入れるがままに、片端から意識として記憶中枢からそれらを蹴り出していくだけだ。
537 :
予兆:02/11/19 00:14 ID:Gulq1bog
沈黙は、久瀬にとっては短く、他の者にとってはあまりにも長いものだった。
時間にして五分ほど、ようやく内務尚書が視線を外に向けたまま重く閉ざした口を開く。
「中佐」
「は、はいッ」
「徹底的に洗い出せ。どんな兆候も逃すな。
必要であれば第六部を使え。国内外を問わず、最終的な解決法を用いても構わない」
その機関の名称を聴いて、吉井の耳に緊張が走った。
葉鍵国家警察政治警察局第六部。
国家の暗部に関わる者には知らぬ者のない、存在しないはずの部局。
諜報工作機関としての側面も持つ葉鍵國内務省・国家警察の謀略機関だった。
それを国外で、それも最終的解決も含めての活動を認めるという言葉が意味するところを悟り、彼女は我知らず額に浮かんだ冷たい汗を拭っていた。
今ここに、吉井中佐は他国に在住する反動主義者への暗殺命令権を与えられたのだ。
「それとな?」
傍らのつつけば弾け飛びそうなほどの緊張など素知らぬ風。
ようやく振り向いた久瀬の眼差しが吉井の不安に揺れる両眼を射抜く。
そこに浮かんだ冷ややかな光に、吉井の背筋は凍り付くの比喩そのままに凝固した。
「ロイハイトの件は、おって処置する。
吉井中佐、君がこの件についてどのような懸念を抱いているかは知っているつもりだが――」
浮かんだ笑みはその眼差しよりもずっと冷ややかで、人の心を温めるものなどではありはしない。
「くれぐれも、妙な考えは起こさないようにね」
おって下される処置はどのようなものか。
そして妙な考えとはいったい何を意味するのか。
そんな反問を試みる心理的余裕すらなく、吉井にはただがくがくと頷くほかなかった―――
<糸冬>
538 :
予兆:02/11/19 00:17 ID:Gulq1bog
……長っ!
というか、最初の方の投稿が行数少なすぎたのか……正直スマンカッタ。
いじょ、『贋懲』の後編より先にこっちを投稿してしまいました。
あかんやん俺。
>鮫牙氏
おお、失われし郷土の同胞w
軍事板硅緑内戦スレの住民だったりします?w
539 :
撤退 1:02/11/19 19:39 ID:pUEVkM52
3月27日1815時
Airシティ・第2RR装甲師団“ダス・リーフ”司令部
「ハクオロ大佐、撤退命令だ」
どこかほっとしたように、“ダス・リーフ”師団長は通信紙を放り投げた。
慌ててそれを取ろうとするハクオロに、どこか諦観した様子で口を開く。
「柳川閣下が、デジフェスタウンのOHP師団を撃破した。鍵自治州元勲の戸越まごめ中将を討ち取ったらしい」
「なるほど。これでRR装甲軍は、州都攻略に匹敵する戦果を上げた――そう言うわけですね」
「そうだ。これで心おきなく撤退できるよ」
寂しそうに笑うと、師団長はすまなそうな顔でハクオロに頭を下げた。
「すまんな。本当なら大佐にもっと腕を振るって欲しかったのだが――ろくに戦わずに
引いてしまって申し訳ない」
「とんでもありません、閣下」
慌ててハクオロは首を振った。
「天下のRR装甲師団の作戦指揮を、ほんの僅かでもサポートできただけでも望外の幸せです。
これ以上望んだら罰が当たりますよ」
「そう言ってもらえると助かる。しかし……」
「何を弱気になっているんですか。それに……」
仮面越しに苦笑するハクオロ。
「まだ作戦が終わったわけではありません。部隊を秩序だって後退させ、南方先端域へ逃げ込むまでは、
まだまだ気が抜けません」
「そうか……うん、そうだな」
ふっと穏やかな笑みを浮かべると、師団長は大きく肯いた。
「ハクオロ大佐に一本取られたな……そうだ、まだ気落ちするわけにもいかん」
「そうですよ――ここに、州都からの撤退作戦案があります。これでよければ、実行したいと思いますが?」
「用意がいいな、貴様」
段々といつもの調子を取り戻しつつ、師団長は書類を受け取った。
540 :
撤退 2:02/11/19 19:39 ID:pUEVkM52
「――うん……よし、これでいこうか」
「了解です。ではさっそく」
「うん、各部隊への伝達方、よろしく頼む」
そう肯きつつ、師団長は思った。畜生、これで南方先端域まで退いたら、
この男ともこれでお別れか。できれば手元に置いておきたいんだがな。
同時刻
Airシティ北部
「横蔵院少佐! 師団司令部から撤退命令です」
ハクオロが各部隊に伝達した命令は、州都北部で激闘を演じていた装甲戦闘団にも届けられていた。
部隊を率いていた戦車連隊長がほっとしながら、それを蔕麿に渡す。
実際、連隊長は撤退命令に安堵していた。この日の戦闘は、物陰から現れる敵歩兵に悩まされるは、
月姫義勇隊の繰り出す74式改2型と瓦礫を挟んで派手な撃ち合いに及ぶは、ハイエキ丘陵で
先鋒大隊を殲滅したあのイタリア製の怪物戦車の一撃離脱戦法に悩まされるは、
終いには敵航空部隊の攻撃までこれに加わるはで、さんざんな体たらくだった。
大損害こそ受けなかったものの、精強を誇るRR装甲軍の装甲部隊としてはきわめて不本意な
戦いであったことに変わりはない。
それに――と、連隊長は横目で蔕麿をちらっと見つめた。この観戦武官、確かに壊滅した
指令系統を鮮やかにサポートして師団長の命令を遅滞なく伝えてきている。間違いなく有能なのだろうが
――この暑苦しい、不快感爆発な肥満体型は何とかならないのだろうか? はぁ。
様々な感情を込めてため息をついた連隊長の傍らで、蔕麿はじっと通信文を見つめていた。
やがて――ぽつりと呟く。
「れ、連隊長殿。例の、お、OTOMATICの行方、どうなっているのかな?」
「は?――ああ、あの怪物戦車ですか」
面倒くさげな表情を表に出さないよう苦労しつつ、連隊長は答えた。
「先ほど、北区役所付近で1個中隊ほどが遭遇したと報告がありましたな。相変わらず
一撃離脱で逃げられたようで。もう奴とは遭遇できんでしょうな」
541 :
撤退 3:02/11/19 19:40 ID:pUEVkM52
今日の戦闘で、装甲戦闘団は少なく見積もっても13両の戦車と7両の装甲車を、
OTOMATICの76mm速射砲によって仕留められている。忌々しいことこの上ない。彼も何度か撃破しようと試みたが、
遮蔽物を巧みに利用した一撃離脱戦法に翻弄されっぱなしだった。
もう少し時間があれば、歩兵で街区をひとつひとつ占領していって奴の行動範囲を潰して、
一撃離脱ができないようにしたんだがな――そうつらつらと思っていた連隊長は、
蔕麿が小さな声で呟いたことに気づいていなかった。
「ヴィットリオ・カーフ……ま、また逃すのか……」
巨体を微かに震わせ、蔕麿は拳をぎゅっと握りしめた。
普段の、大抵の人間に不快感を感じさせる喋る方からは想像もできない、苦悩に満ちた声を漏らす。
「べ、ベアトリーチェの仇は、ま、まだ討てないんだな……ご、ご、ごめんよ、ベアトリーチェ」
イタリア生まれの東葉軍少佐・横蔵院蔕麿の呟きは、誰に聞かれることもなく騒音にかき消されていった。
同時刻
電電公社前交差点
「おぉい、kagami!」
今日一日の酷使で足回りが限界に近づいているOTOMATIC対空戦車から飛び降りると、
カーフ少佐は土嚢の陰でもたれかかっていたkagami中尉に駆け寄った。硝煙と土埃にまみれて
薄汚れた顔をしたkagamiが、疲れ切った顔をカーフへと向ける。
「お、カーフ少佐――今日はご活躍だったようで」
「――kagami、ずいぶんと余裕かましてるな、貴様」
カーフの顔が呆れたものへと変化したのも無理はない。kagamiの隣にはひとりの少女が――
例の花売り娘がいたのだ。しかも、小銃を抱えたままうとうとと居眠りをして、
頭をkagamiの方へともたれかけている。
「いいじゃないですか。1個大隊の敵と派手にドンパチして、終いには陣地を突破されかけたんだ。
これくらいの役得はあってもいいでしょ?」
「役得、ねぇ」
542 :
撤退 4:02/11/19 19:40 ID:pUEVkM52
呆れ果てた口調で呟いたカーフだったが、そっと跪くとkagamiに耳打ちした。
「“例の話”だ――ふたりきりで話したい」
「……わかった」
途端に真顔になったkagamiが、そっと少女の頭をのかしてから静かに立ち上がった。
そのまま瓦礫と化した電電公社ビルの陰に入っていく。
「で、だ――kagami、そろそろ逃げないか?」
「!――もう、そんな頃合いですかね?」
「ああ、間違いないだろう。何でも旅団長、今日だけでものみの丘相手にずいぶん無茶苦茶やったようだ。
近いうちに必ず、ものみの丘から報復が来る」
「それに巻き込まれるのは、確かに勘弁願いたいですな」
旅団長の配下として活躍してきたふたりだが――別に運命共同体にまでなった覚えはない。
ものみの丘に反感を覚えるという一点で利害を共有しているだけで、旅団長の同志になったわけではない。
特にカーフは反月姫主義者だし、kagamiははじるす教団への帰依をますます強めつつある。
何時までもつるんでいるわけには行かない。かといって、ものみの丘へ忠誠を誓うなど莫迦げている。
そのため、ふたりは密かに鍵っ子義勇軍を抜ける算段を立てていたのだ。本当はもう少し
つきあうつもりだったのだが、カーフの話はそう悠長なことを言っていられないと告げていた。
実のところ旅団長もこの点は承知していて、カーフには「何時抜けてもいい」とは言っていた。
もっともそれを協力の条件としてきたのはカーフの方だったが。とにかくそう言う次第で、
彼らと旅団長の関係は何ともドライなものと言える。
その上カーフは協力の保証として、旅団長からものみの丘に関する機密書類も入手している。
これを手土産にネクストン軍閥へ亡命する手はずを、彼は既に整えていた。
「幸い――と言ってはなんだが、ネクストンの工作員と接触できた。今晩にでもエロゲ国へ
亡命の便宜を図ってくれるそうだ」
「渡りに船ですが、我々の向こうでの処遇は?」
「悪くはないぞ」
にやりと笑って、カーフは更に小さい声で耳打ちする。
543 :
撤退 5:02/11/19 19:41 ID:pUEVkM52
「ネクストン軍SCORE任務部隊の前線指揮官にポストがあるそうだ」
「SCORE任務部隊――“聖カタリナ戦闘団”ですか。確かに悪くはないですな」
kagamiの顔もにやりとする。
「善は急げ――それじゃ、さっそく準備にかかりましょうか、カーフ少佐?」
――その夜、ふたりの部隊指揮官が、部下と部隊をそっくり残していずこへと消え去ったという。
ふたつの部隊はそれこそ大騒ぎになったが――ひとりの少女も同時に行方不明になったことを
気にとめるものは、ほとんどいなかった。
同時刻
Airシティ中央貨物駅
「退いてくれたか……」
ふぅ、と息を吐いて旅団長も、これまたほっとしたように呟いた。確かに、各地からの報告は
RR装甲軍の撤退を告げている。
ギッと、旅団長室のまぁそれなりに豪華な椅子をきしませながら、うんうんと肯く旅団長。
「やはり、戸越中将が戦死したのは間違いないようだな。いや、残念なことだ」
「――よくもまあ、白々しいことが言えるな、あんた!」
薄汚れた軍服のまま司令部に来ていた紅茶すらいむ中佐が、紛うことなき殺気をみなぎらせて叫ぶ。
「なんのことだ、中佐?」
「とぼけるな! あんた、RR装甲軍が戸越中将を狙っているのを知ってて黙殺しただろうが!」
「……証拠がないな?」
「ああ、確かに証拠はない。だが、司令部オペレーターの知り合いと今日俺が見た戦場、
それに今までのあんたの所業、これらを併せれば自ずと結論は一つだろうが!」
怒りに我を忘れて叫ぶ紅茶すらいむを、旅団長は無表情で眺めていたが――やがて、おもむろに口を開いた。
「まぁ、仮に君の推論が正しいとしてだ――それによって我々が救われたことも事実だ」
「それは――そうだがしかし!」
544 :
撤退 6:02/11/19 19:43 ID:pUEVkM52
「しかしもへったくれもない。戸越中将が戦死したことにより、RR装甲軍は撤退の口実を得た。
現にこうして、州都の脅威は著しく減少しつつある。葉鍵中央回廊を帰還中の集成師団も
余裕で間に合うだろうな――我々は、州都を護り通したのだ。今は、その幸運を噛みしめるべきだろう」
「確かにそうだが――しかし、何をしてもいいというわけではないぞ! あんた、
こんな事を続けていたらこの国は滅んじまうぞ!」
実際滅ぼすつもりなんだがな――そう思いつつ、旅団長は相手の顔を見つめた。
この男、使えるんだがいささか理想にこだわりすぎだしな。ねこねことの内通も、
あくまで鍵自治州の体制を思えばこその行動だろう。とてもじゃないが革命になんか協力しないだろうな。
さてさて、どうしたものか――
「――あんたは油断も隙もならん。鍵ストや観鍵りっ子もあんたとグルだ。
いいか、俺は絶対あんたを監視し続けるからな!」
「そんな熱い視線を浴びるなんて嬉しい限りだが――おそらくそれも無理だろうな」
「何?」
「月姫難民の保護、今日の電文――これで俺はものみの丘にずいぶん恨みを持たれたことになる。
君の『憶測』と似たようなことも考えているだろう。この危険人物たる俺に対する処置を
向こうも考えている頃合いだ」
唇の端をつり上げて、旅団長は執務机に両肘を突いて手を組んだ。
「ものみの丘がどう出るかはわからんが――俺を集成旅団指揮官から解任するのは、まず間違いない。
今までの実戦部隊から切り離し、どこかの閑職に回すか別の前線に放り込むか、ってとこだろうな。
この旅団をこれからも率いさせるなんて危険な真似は、絶対にしないさ。つまり――」
「私はあなたの指揮下から離れる――そう言うことですね」
「ご名答。おそらく、この――」
と、視線だけを傍らに立つなつきに向ける。
「清水少尉だけを引き連れて州都を離任することになる。君ともお別れだ。いや残念だ、はっはっはっ」
「だったら……」
頬を引きつらせながら、紅茶すらいむはにらみつける。
「麻枝元帥に直訴してでも、あんたと行動を共にしてやる! 少なくとも今日の一連の件で確信した
――あんたを好き勝手させておいたら、何かとんでもないことをしでかす!
俺は――俺は絶対それを阻止してやるからな!」
545 :
撤退 7:02/11/19 19:43 ID:pUEVkM52
そう言い捨てて、紅茶すらいむいは肩を怒らせつつ旅団長室を出ていった。
もっとも、去り際になつきに申し訳なさそうな顔をしていったのが、いかにも彼らしいが。
「旅団長――なにもあそこまで怒らせることはないと思うんですが」
そんな紅茶すらいむを見送ってから、なつきは呆れたように呟いた。
「いや、ついついからかいたくなってな――しかし、ああいったタイプは嫌いじゃないよ」
「“同志”には、されるんですか?」
「いや、無理だろうな。奴はあくまで体制内改革を目指している。体制を打倒する革命には
賛同しないだろうよ」
「そう――ですよね。ならば、敵ですか?」
「いずれそうなるだろうが――できれば、手元に置いておきたいタイプだ。このまま分かれるのはちと惜しいな」
そう苦笑しつつ、旅団長は背もたれに身を預けた。
「ところで、日雇いSS軍曹が捕らえた沢渡真琴と――たしかヌワンギとか言ったな、
ふたりは今どうしてる?」
「とりあえず、使っていない会議室に軟禁していますが」
「そうか――どうすべぇよ、おい?」
途端に口調を変えて、旅団長は頭を抱えた。
この州都に関連する事項のほとんどを計算尽くで進めてきた旅団長だったが、
妖狐兵団を処分した件については場当たり的な要素が強かった。戸越へ裏切ろうとした連中を
処分した事は間違っていないと思うが(彼は、それが欺瞞情報だったことにその後も長く気づかなかった)、
この件で真琴とヌワンギをお荷物として抱え込んでしまったのは間違いない。
もちろん真琴を生かしたまま捕らえたのは、その後の戸越との駆け引きに使えると思ったからなのだが、
その戸越は既にお星様となっている。結果的に無駄な投資になってしまった。
そして真琴をそんな風に扱ったことを、仲間を虫けらのようにひねり潰したことを、
狗法使いは決して許さないだろう。
いっそのこと狗法使いが戦死してくれたほうがありがたかったのだが――残念ながら、
彼は今病室で治療中だ。重傷だが、命は取り留めるだろう。
「今となっては真琴に使い道はないし――どうすればいいんだ」
「自業自得だと思います」
「――楽しそうだな、おい」
546 :
撤退 8:02/11/19 19:43 ID:pUEVkM52
八つ当たり気味になつきを睨んだ旅団長だったが、ふと何かを思い出したような顔になると、
真顔になってなつきに向き直った。
「話は変わるが、戦闘も一段落したことだし、そろそろ答えを聞かせてくれないか?――
俺の、“同志”になるか? 革命を言い訳にして暴虐の限りを尽くす俺の、“同志”になるか?」
沈黙があたりを支配した。じっと旅団長を見つめ続けて――なつきは一言一言、確認するように反し始める。
「はっきり言って、私には革命というものが今一理解できません。確かにものみの丘には恨みは
ありますが、まだ革命を起こしたと思うほどではないんです。それに、あなたの考え方や行動には
ついて行きかねるところがあります。あと――昨夜は、元勲恩顧の川口少佐に助けられました」
「……」
「でも――」
ふっと表情を和らげて、なつきは微笑んだ。
「どうしてでしょうか――あなたの行動を間近で見て、しっかりこの目に焼き付けてみたいと
強く思うんです。あなたが革命を起こして、そしてどこへ行くのか、最後まで見届けたいと思います。
だから――“同志”になります。“同志”で、いさせてください」
なつきの告白を受けて、旅団長はたっぷり数分、なつきの顔を凝視し続けた。そして――ふっと、唇を歪めて笑う。
「そうか、俺の行く末を見届けたいか。面白いことを言う――わかった、そういう“同志”も
また一興だ。やってみようじゃないか」
くっくっと微かに笑ってから、旅団長はすっと右手をなつきに差し出した。
「俺と一緒に来い、清水なつき――貴様を、歴史の生き証人にさせてやる」
547 :
撤退 8:02/11/19 19:45 ID:pUEVkM52
ああ、名前欄戻し忘れ(w
>>538 投下乙。
長っ! って、あんまり人の事言えませんけども……
>>547 同じく投下乙。
…さて、JRレギオン少将をどう料理してくれようかw
あと
>>547了解です。やはり鉄(略が居ると心強いです。
あ、聞くの忘れてた。
元リーフ背景CGグラフィッカー陣内って未出ですか?
551 :
予兆:02/11/19 23:07 ID:0Q+k/NNn
……ぐは。
ごめんなさい、
>>525の最初の段落いきなりコピペミスってる(汗
過去ログ収録時、
『耐え難いほどに気だるかった。
戦線が落ち着かない、治安も落ち着かない、それらが落ち着かないのだからちっとも経済活動が落ち着かない。
刻々と変化する情勢が資料の上で活字として踊る、それらに明るい予兆が見えないものだから彼の気が落ち着く瞬間もありはしない。
彼こと、警察中将にして一般RR中将、武装RR中将でもあり、そして内務尚書という要職にある久瀬氏にとって、それらは何れも彼の責任に帰する事態であったからだった。』
に差し替えお願いいたします(汗
>>550 未出です。
軍事顧問団団長に当てはめよう、とかいう意見もあったけど立ち消えにw
>>511 Yak141はアフターバーナーふかしたら空中分解しないか心配ですね。
AIM-120つめない、対地攻撃に不向きだと進言・・・そうするとエアカバーどころかヘリも落せない罠。
ハ−ドポイント4箇所というのも致命的。
味方防空圏内でせいぜい機甲部隊の上空援護(対戦車ヘリ掃討)しか使えないのでは?
1000kg (VTOL) 兵器搭載量がハリアーUプラスより劣りすぎていると進言
AV-8Bで8595kg(VTOL)と8分の1の以下の性能・・・下手すると空き地の街の航空部隊は退化すると懸念。
最新のスタッフ情報?
総括・552文書
ttp://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1037277604/74 顧問に最適なのは閂夜明辺りでしょう(w
>>551 未出でしたか。
新規キャラとして登場させようとか企んでますが、果たしてどうなる事やらw
>>552 搭載量1/8…少なっ。そりゃどこの国も買わない罠ですな。
どうすれば(略
この際だからその辺の高速道路にスキージャンプ設置して、F/A-18Eを(以下略)
>>552 ハリアーそんなに武装つめないと思う。
8595kgなんてF-2だって無理です。
ガ-ン・・・搭載兵装、2.5トンですた。自重5939kg
スマソ
AV-8BB ハリアーUプラス
乗員:1名
全幅:9.23m
全長:14.1m
全高:3.53m
自重:5.6t
ハードポイント7箇所、武装搭載量:4.173kg
攻撃システムはF/A18の物
Yak141・・・それでもMIG29のシステムを積んでいる模様。
ちょっぴり保守気味。
いや、ま、次来るの早いね。
561 :
名無しさんだよもん:02/11/21 17:51 ID:uubXWfna
下がりすぎなのでage
保守
(^^)
(^^)
(^^)
保守
保守
「鍵っ子義勇軍特殊部隊、巳間良祐少佐」
『中央情報局長官、しのり〜中将。少し命令系統を飛ばしてるけど…時間が無いわ。諜報活動をお願いしたいの。
詳しい内容や連絡手段は追って書類を届けさせるから、受領次第任務に当たって頂戴』
3月28日 新大陸標準時 0:20
一定間隔で頭上を過ぎ去る街灯の他に、周りを照らす明かりは無い。昼間なら疎らに
民家を見受けることができるだろうが、この時間ではそれも望めないだろう。
目に止まる車両の殆どは大型トラックだ。まるで連結車両のように何台、また何台と通り
過ぎてゆく。たまに乗用車こそ通るものの、光源不足でじっくりとは観察できなかった。
せいぜいライトの位置で車高を判別するくらいである。
道路の脇には林が迫っている。別に林が我々の生活圏に侵食しているのでは無く、むしろ
我々の方から林に侵攻していると言ったほうが正しい。至極当然の光景だ。まあ、何にしろ
彼らにとっては迷惑な話だが。
そんな中、恒星達が生命を主張するように暗闇を照らす中に、ひときわ輝く天体が在る。
ソレはただ一辺のカケラも無く存在していた。
「月、か」
ハンドルを握っている男が呟いた。
男にとって、月から連想させるものは二つある。
一つは月姫の民の伝承。
彼にとっては文献で得た知識でしかないが、その神秘的な話は深く印象に残っている。
自身との奇妙な繋がり――単なる言葉遊びだが――が、その話を思い出させた。
「鍵っ子義勇軍特殊部隊、巳間良祐少佐」
『中央情報局長官、しのり〜中将。少し命令系統を飛ばしてるけど…時間が無いわ。諜報活動をお願いしたいの。
詳しい内容や連絡手段は追って書類を届けさせるから、受領次第任務に当たって頂戴』
3月28日 新大陸標準時 0:20
一定間隔で頭上を過ぎ去る街灯の他に、周りを照らす明かりは無い。昼間なら疎らに
民家を見受けることができるだろうが、この時間ではそれも望めないだろう。
目に止まる車両の殆どは大型トラックだ。まるで連結車両のように何台、また何台と通り
過ぎてゆく。たまに乗用車こそ通るものの、光源不足でじっくりとは観察できなかった。
せいぜいライトの位置で車高を判別するくらいである。
道路の脇には林が迫っている。別に林が我々の生活圏に侵食しているのでは無く、むしろ
我々の方から林に侵攻していると言ったほうが正しい。至極当然の光景だ。まあ、何にしろ
彼らにとっては迷惑な話だが。
そんな中、恒星達が生命を主張するように暗闇を照らす中に、ひときわ輝く天体が在る。
ソレはただ一辺のカケラも無く存在していた。
「月、か」
ハンドルを握っている男が呟いた。
男にとって、月から連想させるものは二つある。
一つは月姫の民の伝承。
彼にとっては文献で得た知識でしかないが、その神秘的な話は深く印象に残っている。
自身との奇妙な繋がり――単なる言葉遊びだが――が、その話を思い出させた。
何百年もの昔、ある人間の手によって捕らわれてしまった姫君。
不老不死を望んだ一人の学者と、運命によってその影響を受けてしまった一人の少女。
東方の島国に伝わる、人外の血筋を持った一つの旧家の話――
あるいはただ単に、平凡な風景にうんざりしていたのかもしれない。
彼は何気なく続きを思い出してみる。そうすることで車の運転という退屈な作業も気にならなくなった。
前方にドライブインが見えた。夜闇の一点に明かりが灯っている。
登山鉄道の終点からノンストップ飛ばしてきたので一息入れるには丁度良い。
「――まだ店が開いてるな」
そこは長距離ドライバーの疲れを癒すP.A.だった。地元の人間が経営している商店を始め
公衆トイレや共同風呂まである。止められていた車両も逢魔ヶ辻に向かうトラックが大半と見て取れた。
その一角の手ごろ駐車スペースに自動車を止める。車内に流れ込む夜風が肌にしみた。
店内の光が眩しい。夜道を走ってきたせいだ。瞬きして目を慣らさせた後、彼は脇の自販機
コーナーに歩みを進めた。
と、入り口のカウンターで店員と揉めている男が目に付いた。
「ホントにないの? アレ」
「だからここじゃ売ってないって何回言えば分かるんだ」
「そんなわけ無いだろ? アレ売ってない店がどこにあるんだよ」
男は角張った麦藁帽子を被っている。季節はずれ感も相まってかなり目だっていた。
「お、そこの兄ちゃん聞いてくれよ。このオヤジ『ハートチップルってなんだ? 食いもんか?』
とか抜かしやがるんだぞ?」
「ハートチップル…?」
「知らないのか? たべるとくさくなるアレだ」
「いや、知らないな」
「…えっ、ホントに?」
「そっちの若いのも知らないって言ってんだ。他のもっと大きな店に行ってくれよ」
しばらく彼らのやりとりを見ていたが、キリが無いから放って置く事にした。
「鍵っ子義勇軍特殊部隊、巳間良祐少佐」
『中央情報局長官、しのり〜中将。少し命令系統を飛ばしてるけど…時間が無いわ。諜報活動をお願いしたいの。
詳しい内容や連絡手段は追って書類を届けさせるから、受領次第任務に当たって頂戴』
3月28日 新大陸標準時 0:20
一定間隔で頭上を過ぎ去る街灯の他に、周りを照らす明かりは無い。昼間なら疎らに
民家を見受けることができるだろうが、この時間ではそれも望めないだろう。
目に止まる車両の殆どは大型トラックだ。まるで連結車両のように何台、また何台と通り
過ぎてゆく。たまに乗用車こそ通るものの、光源不足でじっくりとは観察できなかった。
せいぜいライトの位置で車高を判別するくらいである。
道路の脇には林が迫っている。別に林が我々の生活圏に侵食しているのでは無く、むしろ
我々の方から林に侵攻していると言ったほうが正しい。至極当然の光景だ。まあ、何にしろ
彼らにとっては迷惑な話だが。
そんな中、恒星達が生命を主張するように暗闇を照らす中に、ひときわ輝く天体が在る。
ソレはただ一辺のカケラも無く存在していた。
「月、か」
ハンドルを握っている男が呟いた。
男にとって、月から連想させるものは二つある。
一つは月姫の民の伝承。
彼にとっては文献で得た知識でしかないが、その神秘的な話は深く印象に残っている。
自身との奇妙な繋がり――単なる言葉遊びだが――が、その話を思い出させた。
「なんだ、これは」
陳列されていたのは見た事も聞いた事も無い飲み物だった。
「どろり濃厚シリーズ――店長オススメ。おみやげにも是非どうぞ」
折角だから一つ試してみようか。硬貨を何枚か入れて、ボタンを押した。
……ゴトリ。
そんな表現が正しかった。取り出し口を覗くが、何事も無かったかのように商品が鎮座している。
彼は慎重にそれを取り出す。
――この飲み物、何かおかしい。
彼はそう感じた。特殊部隊の人間としてのカンが働いたのだろう。
「…重いな、これ」
普通の紙パックと比べて異常に重かった。それだけでも妙なのだが――何を思ったか、彼は
それを地面に落としてみた。
・・…べこ。
そんな表現が正しかった。
拾い上げてみる。容器は全く変形していなかった。
――この飲み物、やっぱり何かおかしい。
しかし、買ってしまったものをむざむざ捨てるわけにもいくまい。味を確かめてから判断しても
遅くはないだろう。とりあえず一口飲んでみる事にした。
……ストローが刺さらない。
これでも腕力に多少の自信はあるのだが、そんな彼の努力も空しく無意味な時間が流れた。
「………帰ったら、晴香にでもあげよう」
やはり、特殊部隊の人間としてその飲み物に隙を与える事は出来なかった。
代わりに購入したお茶缶を手に取りつつ、トラックが頻繁に出入りする周りに気をつけながら
車に向かう。
すると向こうに、先ほどの男が居た。どうやら彼の方を見ているらしい。
「…おーい」
男は手を振っている。
「おーいってば」
近づいて来た。
「返事してくれよー」
さらに近づいてくる。
「なあ、兄ちゃんさー」
「……なんだ?」
目の前まで接近されてしまった。彼は仕方なく返事した。
「いやな、兄ちゃんに一生のお願いがあるんだが」
「……これから逢魔ヶ辻まで出張だ。忙しいんだ」
もちろん本当の事を言うわけにはいかない。彼はウソをついた。
「そら偶然だな。俺もそっちまで行きたいところだったんだ」
「それでヒッチハイクか?」「
「よく分かったな。なら話は早い。ちょっくら載せてくれないか?」
随分と軽軽しくモノを言う男だ。彼はそんな第一印象を受けた。
「無理だ。散らかっててとても載せられない」
「頼むよ。トランクでもどこでもいいからさ」
男は言いながら無理矢理車に乗り込もうとした。
散らかっているかは別にしても、車には軍機に関わる物品が満載していた。検問に引っ掛かったら
面倒な事になるだろう。
それに――こんな時間に声をかけてきたこの男。普通に見ても怪しすぎる。
「…おい、勝手に乗るな!」
慌てて男の腕を掴むが、男は軽い身のこなしでボンネットを飛び越え運転席に収まってしまった。
「お? 言ってた割になかなか片付いてるじゃないか」
「だから勝手に乗るなって言ってるだろ!」
普段なら彼はこんな所で大声を張り上げたりはしないのだが、場合が場合だ。
「なあ、別に逢魔ヶ辻までじゃなくてもいいからさ。乗っけてってくれよ。な?」
少しも悪びれずに男は言った。
「……」
――こんな事で揉めている暇はないし、どうせ拒否し続けたところで諦めはしないだろう。
この男、確かに風体は怪しいが、それ以外に問題があるわけでもなさそうだ。それに自分の顔を
知っている人間など限られてるし、むしろ拒む事で必要以上に怪しまれないだろうか?
彼はハンドルをきつく握る男を見てそう思った。
「…次のドライブインまでだ」
彼は渋々了解した。所持品の中でも特に熟慮を要するものはトランクに収まっている。内側から
施錠してあるので、少なくとも覗かれる心配は無いだろう。
――なに、これくらい予想出来た事だ。彼は高をくくった。
「よっしゃっ。ちょっと待ってろ、すぐに荷物を持ってくるから」
レンタカーは走る。出発前と変わった事と言ったら、さっきまで出ていた月が雲に覆われてしまった事と――
「しかし、あれだけ渋ってたのによく載せる気になったな。荷物取りに行った時逃げ出せばよかったのに」
「…一度載せるって言ったからな」
「妙に義理人情に堅いんだな。ま、お陰でありがたくご同行できたんだから良しとしようか」
やたら話し掛けてくる男の存在くらいだった。
と、男は助手席の前に置かれた物体に気付いた。
「――ん? 兄ちゃんが買ったのか? これ」
「…なんだ?」
「これだよ」
男は彼に向けて掲げた。ちょうど対向車のヘッドライトが当たって印字が読み取れた。
「ああ、その妙なやつか」
「おいおいおい、名物どろり濃厚シリーズを知らんとは、不幸にも程があるぞ」
「……飲み物だったのか。それ」
他の清涼飲料水と並んで売られてはいたが、彼は未だに疑っていた。これが本当に飲み物かどうかを。
「何だ、マジで知らないのか。北は鍵のどろり濃厚に南は葉のハートチップル。葉鍵っ子の心のふるさとってか?」
「…好きにしてくれ」
男は一人で笑っていた。手にもったパックをころころもてあそんでいる。
「ちなみに俺は全種類買ったぞ」
聞いてないのに男は足元のデイパックを開けた。例の物体がぎっしりと詰められている。
男はしばらくそれを見つめていたが、やがてピーチ味を飲み始めた。
「そういや、名前聞いてなかったな兄ちゃん。何て言うんだ?」
謎の液体をすすりながら男が聞いて来た。
「…巳間だ」
「みま? 変な名前。俺の名は――さすらいのハートチップルハンターとでもしておこうか。うん」
「そういうお前こそ、ずいぶんと長い名前だな」
「あら。ここは突っ込むべきポイントでしょうが。あんまりノリよくないな、兄ちゃん」
正直、どうでもよかった。
『あ、これだけは言っておくわ。実は今回の任務、他の部隊は全く知らないの。完全な隠密行動よ。
事を知ってるのは私と一部の人間だけ。くれぐれも自治州内を移動する時は、他の部隊との接触は避けて』
無関係な一般人との接触は命令違反だろうか?
車を飛ばしながら彼は思うのだった。
実は、麦藁帽子の男との接触は偶然ではなかったのだが――彼はまだ知らない。
3月27日 22時42分
正統リーフ国首都ロディマス 国防総省
既に夕暮れに沈むロディマスにて、日々此雑務に追われている高橋総帥。
小なりとは云え一国を預かるものとして、そして自国よりも遙かに強大な軍事国家と矛を交えている軍の
最高責任者として、のんびりとしていられる時間など皆無なのだから。
「で、今度はどんな厄介事なのかね?」
眼前に立つ琥珀に、些か疲労の色を滲ませながら問う高橋。
ここ数日、正葉国の優秀な参謀長としてでは無く、【TYPE-MOON】の軍事部門総括責任者として様々な要求を
突きつけき、そして是非もなく呑んで来たのだ。
その声色に訝かしる、或いは怯える様な色が在ったとしても誰も高橋を責めきれないだろう。
尤も、此に関しては高橋の杞憂であったのだが。
総帥執務室に訪れた琥珀は、一部の隙もなく正葉国軍女性士官用の軍服を纏っていたのだから。
「今は正葉国参謀長としての参上ですけど、私はそんなに信用無いですか高橋総帥?」
「いや、そういう訳ではないのだが・・・・・」
些か歯切れの悪い言葉を口を濁した高橋は、誤魔化すように用件を聞く。
対して琥珀の用件は単純だった。
正葉国軍備拡張計画、秘匿名称「プレイム」。
痕R計画が直接的な軍事規模拡大では無く質的な拡張で在った、その事を知らされた参謀団が慌てて構築した
計画であったのだ。
確かに質的な向上は重要であった。
だが、それだけで下葉国と対峙し続けられるものでは無い。
それが正葉国参謀団の出した結論だった。
「まっ、確かに今の状況では駒数の不足は否めない。だが、それだけの装備を用意出来るのかね?」
国家の指導者と云うよりも、軍人としての貌で問いかける高橋。
其処には先ほどまでの疲労、その他は浮かんでいない。
「無理無茶無謀な真似は出来ませんが、痕R計画で余剰と成った梓戦車大隊の装備その他がありますから、1個
機械化連隊の構築は可能。竹中参謀の判断ですね」
「竹中君のか・・・・・」
「それに正直な話、今はどちらかと云えば難民、未就労者対策の面も強いです。月姫難民はもとより、総帥の
名を慕って下葉からも旧国防軍軍人や市民が大量に流入して来ています。今はまだ問題が大規模かしていません
けども、このまま放置していた場合、治安や経済に深刻な影響を与える事が予想されてます」
「・・・・仕事を、目的を与えねばならない。か? 確かにな。人間は暇に成るとろくな事にならない」
「はいそゆう事です。ですから無理の無い範囲で収めます。主力は機械化連隊1個の新編。装備は先ほども報告
した通り梓大隊のお下がりで済ませます。人員に関しては経験者を中心に移住者名簿からの選抜を進めています。
宜しいですか?」
「事後承諾だな。だが何も対策を取らないよりは良い。やりたまえ」
差し出された書類に、総帥としてサインをする高橋。
そのサインを確認し肯く琥珀。
「だがこれだけで足りるのかね?」
「いえ全然足りません。ですから此を補う為の軽装備−そうですね自動化歩兵大隊を4個編成する事とします」
「軽装備か・・・・・」
「人員の訓練と治安維持活動を目的としますから必要十分です、現時点では」
将来への拡張を言外に匂わす琥珀。
要するに、将来構築する部隊の基幹人員を訓練するつもりなのだ。
「だがそれでも全然足りない筈だ。違うかね?」
「いえその通りです。正葉国の命運は護りによって維持されるものではありません。現在の正葉領内の経済規模
では現状の機甲化戦力を維持し続ける事は不可能です。であるならば我々が目指す事は―」
「―攻勢攻撃による下葉の撃破」
琥珀の言葉を継ぎ、そして厳かささえ感じさせる口調で宣言する高橋。
「それ以外に我々が生き残る術は無い」
「はい。一応、正葉領内での産業振興策も色々と考えてはいるんですけど、地下資源の無さや正葉領の狭さと云う
物理的問題は如何ともし難いですから」
物理的な問題。
言い換えるならば経済的問題、其処に帰結するのだ。
兵を養うのも軍備を整備するのにも常に予算が必要であり、それが特に高度化された機械化部隊であった場合、
必要とされる金額は尋常なものでは無くなるのだ。
「だがそれを考えると【TYPE-MOON】の行動、少しばかり軽率では無かったかな?」
居住まいを直し、琥珀を見る高橋。
その目は恐ろしい程に冷静で、そして酷薄な色を帯びていた。
指導者、或いは国家を預かる政治家の目だった。
「鍵が反月姫行動を止めるのは政治的には有り難い。だが、同時に鍵は我が国が生き残る為には在る程度纏まった
戦力である必要が在る。少なくとも今は」
「はい。力の均衡は重要な要素ですから。今、明確に反下川勢力が減衰する事は望ましくありません」
「では何故だ? 何故に鍵を掻き乱す。琥珀大佐。君がJRレギオン少将に肩入れする理由は何なのかね?」
「肩入れをした訳では無いでね。正直に言えば」
「基本的に?」
「はい。確かに【TYPE-MOON】としては親月姫派の出現は有り難いですが、それだけではありません」
一旦、言葉を切った琥珀。
対する高橋は黙って肯き、先を促す。
「総帥。下葉が相対する敵性国家、正葉、鍵、東葉。その中でどれが彼等にとって一番恐ろしいと思われますか?」
「・・・・・正葉、ではないか。鍵だな。国力があり限定的なコントロールも不可能だ」
「現時点での軍事力は義勇軍2個師団だけとは云え、その後方には再編成中の師団が幾つも存在しています。
その全てが実戦投入可能な規模へと成った場合、下葉は容易に鍵へと攻勢を仕掛ける事は不可能となります。云え、
正葉や東葉への牽制に投入する戦力から勘案すれば互角、或いはやや劣る状態へと成ってしまいます。此を
脅威と見ずしてどうしましょうか」
「下葉にとって最優先攻撃目標だな」
「はい。ですから多少の博打は在ったものの後方も含めて6個師団もの戦力を投入しているのです」
「それは私も理解している。だが何故だ? であるならば、鍵の弱体化は我々にとって好ましいものでは無いよ?」
「いえ強力過ぎるのです。同盟国として」
その時、漸く高橋は気付いた。
琥珀の瞳に、何の感情も浮かんでいない事に。
それは酷薄で冷徹な人命すらも全て、計算する参謀と云う者の瞳だった。
「先に挙げた下葉の敵性国家。その中で今叩かねば成らぬのは正葉と鍵です。そして今、彼等の鍵制圧作戦は失敗に
終わりました。その理由はAIR市でのEREL旅団の頑強な抵抗、では無く航空戦力――制空権に在りました」
「ああ、その報告書なら目を通した」
EREL集成旅団が果たした役割は抵抗でしかなく、RR装甲軍の侵攻を止めたものはWINTERS師団の参戦によって
発生した鍵側による制空権掌握と、それによる航空攻撃に依るものであった。
如何に地上戦力が精強であろうとも、航空機に空から好きに叩かれては抵抗の仕様が無い。
それが現代戦の鉄則だった。
であるが故に、高橋は苦しい予算をやりくりして航空部隊創設の費用を捻出させたのだ。
「だがそれがどうした。それは現代では常識以前の問題では無いかね?」
「はい。ですが一つお忘れです。航空戦力が重要で、でもそれを持たない国もありますよね」
「・・・・・・・・・・・我々、か」
「はい。原田司令隷下にハリアーU装備の部隊も在りますが、所詮は小隊規模のV/STOR機ですので、固定翼機に
本気で殴りかかられては抵抗は先ず無理です」
「そして陸上戦力では精々1個師団強・・・・・・・確かに狙わぬ筈が無いな」
其処で一旦口を閉じ、目を瞑る。
無性に煙草を口にしたい気分に成った。
琥珀の狙いが理解出来たのだ。
「鍵の混乱を囮とするつもりなのだね」
「はい。その通りです。現在でも厄介で将来は更に厄介。その鍵が隙を見せたとなれば当然に狙うでしょうね」
「将来への禍根を消し去る為、全力攻撃を仕掛ける・・・・か」
「正直、鍵さえ攻略出来ればRR装甲軍の半分を喪ってもお釣りが来ます。残るは正葉と東葉併せて3個師団
程度の戦力なのですから。抗戦しつつ戦力の回復を狙えば良いのです」
「なる程な了解した。其処まで考えての鍵擾乱であれば反対する理由はない。存分に成したまえ」
「いえ、今はこれ以上干渉しても効果は上がりません。それよりは反対するアプローチがベターな選択です」
「反対?」
「はい。総帥と云う立場として【TYPE-MOON】の暴走を諫め、同盟国との関係を修復を希望する。そんな親書を
麻枝元帥宛に送って頂きたいのです」
「在る程度のバランスを取り、彼等の猜疑を弱める。そう言う事か」
「はい」
「判った。文面は君に任せる。出来次第持ってきてくれ」
「実は此処に」
「用意が良いね」
「あはーっ策士は2手先、3手先まで読んで動くものですよ」
「で、これは策士殿?」
「ああ、東葉内での反下川派支援ですね。主に民衆の煽動と反下川強硬派への政治資金の提供が中心ですね。
それから、親下川派が実は親月姫派だったとかの欺瞞情報を流すのも考えてます」
最後の事は、久瀬率いる内務省には効かないかもしれませんけどもと付け加えていた。
「敵の敵を作らせる訳か」
「今までも黒に近い灰色でしたから、その後押しですね。どうせ下葉にしても東葉指導部の排除を狙っている
のは見え見えですから、ほんの少しだけ背中を押すだけです」
軍事力的には最小であり、現時点では守勢防御以外の手を持たぬ正葉は、それ故に謀略戦に於いては常に
攻撃的であった。
此は、護るべきものが少ないが故の利点であり、小国の生存への努力とすべき事であった。
只一つ問題が在ったとすれば、謀略に投じられる組織が小さく、故に自国へと向けられた謀略工作を察知
し得なかった事。
そう、原田司令に対するELFの接触。
彼等の足下も又、未だ盤石では無かったと云う事を痛感するのは今暫し先の話である。
以上、秘匿名称「Playm」でした(笑
いや全然、プライムな話は無いですが、まぁもうそこら辺は海苔と勢いで(何処に?:笑
>後方支援板31殿
投下、お疲れさまです。
タイミングがほぼ同時だってのには笑いました(笑
投下時にめっちゃ重たいなとは思ったけど、こんな理由だったとは(爆
>>586月姫@名無し参謀氏
何か重たいなと思ってたら(略
ともあれ投下乙です。
そういえば、MOON.キャラって巳間良祐以外は未出でしたよね?>>皆様
保守♪
保守しておく
590 :
名無しさんだよもん:02/11/23 22:00 ID:CknspVUx
間違えてageてしまった…。
スマソ。
保守
保守
保守
保守っておきますか。
俺はスコールよりかっこいい中3なんだけど、
うちの学校にすげーユウナに似てる女子がいるんだ。
うらやましいだろ?
597 :
鮫牙:02/11/25 02:38 ID:miyAOyVn
MOONキャラは、集成師団に何人か混じっていた気が。ぼちぼち書きたいこと
はあるのに時間が…。
538<「鋼鉄」はプレイしてませぬ。次ぎの年の「こうもり城」から「星空」まで
プレイしますた。
598 :
名無しさんだよもん:02/11/25 04:43 ID:JHcJYeHq
はくしゅん…
ageちゃった
kl
ドラゴンボールZ
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602 :
名無しさんだよもん:02/11/25 14:08 ID:YJdirKZX
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3月28日 新大陸標準時 4:30
逢魔ヶ辻南地区
「ここで降りて貰おうか。ここなら次の足も見つけられるだろう?」
車が止まったのは、中央通から少し曲がったバスターミナルだった。
早朝なのでまだ待合室は開いていない。
先程から降り始めた雨のせいでもあってか、全く人の気配がしなかった。
「ああ、世話になったな。そんじゃ兄ちゃんも仕事頑張れよ。俺はハートチップル
ハンティングに全力を注ぐから」
足早に立ち去る麦藁帽子の男の背中を見て、彼は一息ついた。
「さて…と」
時計を見る。4:35。逢魔ヶ辻到着を5:00と想定していたので、特殊部隊MOON.
巳間良祐少佐は余裕をもって到着出来た事にささやかな喜びを感じていた。
「【正統リーフ内における軍事的動向の調査】…随分とまた政治的な内容ですね」
『任務自体は簡単なものよ。アクアプラス潜入後、現地諜報員と接触。情報が収め
られているマイクロチップを受け取った後、逢魔ヶ辻経由で帰還』
「中間連絡員ですか。要は」
『当初はそうだったんだけど、実はそれだけじゃないの。その諜報員がちょっとした
ゴタゴタに巻き込まれちゃって、早急に国外まで脱出させないといけないのよ。
どちらかというとそっちが本題なんだけど…お願いできる?』
敵地に潜入。諜報員と接触。そして脱出、か。
まるで三流スパイ小説じゃないか。美女の代わりに麦藁帽子の男って所がアレだけどな。
彼は独り苦笑した。
本題に入る。
通り際に下葉国境の様子を見てきたが、どうやら簡単には出してくれなさそうだった。
バリケードなどの障害物は特に置かれてなかったが、ほぼ全ての越境道路に検問が
張られている。メインストリートに至っては装甲車両まであり、そもそも遮蔽物など不要だった。
加えて検問作業も厳重だ。見ると、積み荷は全てその場でひっくり返され、金属探知機
を持った兵士が隅々まで検査している。ドライバーにとってはさぞ不快だろう。
一つだけ好都合なのは、それが入国者に対してのみ行われている事だった。つまり警備して
いる殆どが自治州側の人間という事。制服の比率からもそれが窺える。要は去るものは追わず、
という事らしい。
中には下葉の軍服を纏った人間も見て取れたが、あまり仲は良く無さそうだった。
……妙だ。
不意にある感覚に襲われた。
変な違和感を感じる。それも、ごく近くからだ。
慌てて周囲を見渡してみるが、特に変わった所はない。
「…気のせいか?」
車から降りてさらに観察したが、辺りに人影は見当たらなかった。用心して双眼鏡も
使ったが、人影はおろか路駐車すらいない。町は不気味なほどの静寂を保っていた。
念のため後部トランクも――勿論路地裏に移動してから――開けてみた。物品は全て
定位置に収まっている。異常無し。
一連の作業を終えて再び車内へ戻ると、助手席のシートが目に止まった。
背もたれが倒れたままだ。
「…ああ。そういえば、さっきまであの男が乗っていたんだったな」
任務に夢中で男の存在をすっかり忘れていた。良く見れば細かいところにいじった跡があるし、
ダッシュボードに例の飲み物のゴミが乗っていた。ドア脇に挟まっている地図帳も折り目がメチャクチャだ。
それらを認めてようやく彼は安心した。どうやら違和感はあの男が発したものらしい。
彼は大げさにため息をついた。少し余裕を持つことを心掛ける。何にせよ任務は長いのだ。
「……そういえば、結局名前は聞かずじまいだったな」
何度か訊ねたが遂に本名は明かさなかった。
雨はいよいよ激しくなっていく。当分太陽は拝めそうにもなかった。
15分後、彼はとあるマンションの前にいた。来るのも初めてだし、今後の彼の人生で
再び訪れる事もないだろう全く無関係な建物。人通りが少なく、近くに大きな建物がない――
要は屋上から偵察するのに最適な物件である事が彼をここへ連れてきた理由だ。
マンションの様子を見る。朝刊は既にポストに収まっていた。新聞配達員とはちあわせに
なる心配は無い。
彼はレインコートを羽織ってマンションへと歩き出した。屋上へ登る階段の途中に立ち入り
禁止を示す看板が掛けられていたが、気にせずに進む。
屋上に到達すると、彼は金網越しに眺めた。一日の始まりにしては酷く陰鬱な風景がそこに広がる。
逢魔ヶ辻の寂れた町並み、検問、その先に続く丘陵地帯。上空に雲がのしかかっていて、
何ともいえない圧迫感を感じた。
手元の地図と見比べながら方角や位置関係などを頭に叩き込む。このマンションは別にしても
この町には再度立ち寄る事になるだろう。
次いで、首にぶら下げたサーマルゴーグルを手に取り。手早く動作させる。
眼前に持ってくると、一転、目の前の世界が変化した。温かいものは明るく、冷たいものは暗く。
自分の左手を見て正常に動作していることを確認し、先程と同じ要領で前方を眺めてみた。
暗い町並み、街灯、複数の人型が見て取れる検問、その先はただ真っ暗闇――
「…ん?」
逢魔ヶ辻の遥か向こう、地平線ギリギリの所を何かがかすめた。
倍率を上げてみる。視界は狭まり、逆に対象は大きく見えた。
「……何か、いるな」
規則性のあるような無いような。そんなリズムで影は現れる。
「…まただ」
稜線を掠める影は、ある一つの仮説を浮かばせた。
もしそれが事実なら、かなり面倒な事になる。何故なら影は明らかに下葉領土内に存在して
いるからだ。
瞬間、彼の仮説を裏付ける出来事が起きた。地平線の向こうから一機、二機と飛行物体が出現
したのだ。
「あのヘリ……ハインドD、か?」
対戦車ミサイルに加え多数の人員を搭載できるソ連製の大型ヘリMi-24D。下川リーフが所有しない
筈が無いその重厚なヘリのフォルムは、双眼鏡越しからでもはっきりと見てとれた。
――正直、ものみの丘は逢魔ヶ辻付近の前線基地の兵力を過小評価していた。
AIRシティ攻略に全力を注いでいる今なら、国境警備も手薄だ。諜報員一人紛れ込ませる事など
容易だろう、と。
「くそっ…想定外だ」
しかし、彼らのもくろみは見事に外れた。或いはただ単に情報が届いていなかったのかもしれ
ないが、目の前の現実を考えれば些細な事に過ぎない。
――予定変更だな。これで直接潜入することが出来なくなった。
上空から哨戒されてはこっそり侵入する事も検問を強行突破する事も不可能だろう。
彼は判断すると、別の方角へ双眼鏡を向けた。その先にあるのは空き地の町。そして大リーフ湾である。
下葉国境とはうって変わって、検問はかなり簡素な造りだった。それだけではなく検問作業自体も
随分と省略化されている。裏葉中佐という存在が居なくなったせいだろうか。たたずむ兵士達はどこか気の
抜けた感じだ。
…もうすぐすれば更に巨大な存在が現れるのだが、勿論兵士達は知る由も無い。
更に前方へと視線を巡らす。空き地の町に向かうには小高い丘を二、三越えなければならず、その丘の
せいでよく見渡せなかった。
双眼鏡から目を放すと、ペンライトと地図を取り出して今一度整理する。
少し考えた後、彼は思い立ったように屋上を離れた。
雨は留まるところを知らず、容赦なく水滴を地面に打ちつけていた。
で、あの麦藁帽子の男はと言うと――
「…よう。えらく早い到着だな。まだ5時前だぞ?」
「ちょっといい事があってな。どうだ、調子は?」
「…まあまあだ」
「まァた変な被害妄想に浸ってんじゃねぇのか?」
「お前こそ少しは酒を控えろ。臭くてたまらん。――つーか、何だそりゃ?」
「ん? ああ、これか。いやな、大分前にどっかの免税店で見つけたんだが…似合うか?」
「…何ともいえん」
「そうか。結構気に入ってるんだがな。まあいい。で、どうするんだ?」
「どうもこうもない。行くしか無いだろ」
「アテはあるのか?」
「…大リーフ湾だ」
――3時間後。
彼は、空き地の町に程近い港湾地帯の一角に居た。
ココへ来る途中に少し回り道をして、空き地の町−下葉国境地帯の様子を窺おうとしたのだが――それには
及ばなかった。なにしろ国境から15kmまで正葉軍の陣地で埋め尽くされていたのだから。十分予測できたこと
だったのだが、彼はどうしても自分の目で確認しておきたかった。
「ええ…はい。早朝からすみません。何しろ急ぎの用事ですから、安心して預けられる所が見つからなくて」
「この辺りも随分と砲弾やらなにやら飛んで来たからねえ。お兄さんも大変だろうに」
「いえ、これも仕事ですから」
「そうかい。ま、無理しなさんな。それじゃ倉庫の鍵は預けとくから、使い終わったら閉めて持ってきとくれ」
「はい。お世話になります」
そこは、電話帳で見つけた貸し倉庫だった。個人で経営しているらしくこじんまりとした佇まいなのが好都合だ。
先方には駐車場代わりに2,3日使用すると伝えてある。事実なのだから嘘を吐く必要が無かった。
――いくら特殊部隊の人間とて他人を欺くのは苦痛だった。
家主が母屋に帰った事を確認すると、彼はポケットからキーホルダーの束を取り出し、その内の一つを選び
取って車に向けた。
がちゃん。トランクのロックの外れる音が大袈裟に響く。
アウトドア用品、冬季用チェーン、予備タイヤ。ひしめき合う日用品の下に、無骨なデザインのアタッシュケースが
埋もれていた。それを引っ張り出して一旦トランクを閉め、その上にケースを置いて同様の手順で錠を解く。
「……」
経験を積んだ歴戦のプロでも、それらを目の前にしては緊張感を覚えるだろう。
「…SOCOMか」
世界最大の資本主義国家が特殊部隊用に開発した拳銃。
「これは、デザートイーグル?」
リボルバー用の銃弾を射撃するため開発された超大型の銃。
「――マシンピストルまであるぞ」
シークレットサービスなどが携帯出来るように、M92Fをベースに改造された超小型の連射銃。もはや拳銃と区分し
よいのかすら疑問だ。
一つ一つ手にとって感触を確かめる。ケースには数種類の拳銃と、他にも様々な道具が入っていた。状況に合わせて
好きなように使っていいという事らしい。
彼は少し考えてから、必要最低限以外の物はここに置いておく事にした。替わりにノートPCや地図などを詰め込む。
ケースは元々ビジネスマン向けに製造されたので、道具達はぴったり収納した。
一息つく。タバコが欲しいところだったが、あいにくタバコは入隊時にやめている。体力は落ちるし、前から妹にしつこく
言われていたのだ。仕方ないので彼はポケットのガムで済ませた。
――おもむろに立ち上がり、捨ててあった缶を拾う。そして、倉庫の壁際に缶を置いた。
次いで脇のポケットに収まっている拳銃――マカロフアーセナルモデルだ――を取り出し、銃口にサイレンサーを
付けた。
缶に狙いを定める。サイレンサーが邪魔して照準が合わせられなかったが、構わず引き金を引いた。
びすっ。
続けて二、三発叩きこむ。
びずっ。びずっ。
発射音と着弾音が辺りにこだました。
「…うん。いい感じだ」
拳銃の性能と自分の腕前を確認すると、彼はすぐさま分解作業に取り掛かる。例え数発とはいえこまめに手入れを
しておく――特殊部隊MOON.の鉄則だ。
分解作業の完了をもって、ようやく出発準備が整った。時計を見るとすでに8時半を回って入る。
「さて。長居は無用だな」
倉庫の鍵を閉めると、彼は歩き出した。
そこはとあるヨットハーバーだった。彼とは違うホンモノの金持ち達が道楽の為に購入したクルーザー達が
軒を連ねている。
いつもなら活気のあるその場所も、あいにくの空模様でどこか陰のある風に感じられた。すれ違う人々も、折角
の休日がこれでは台無しだ――そんな印象を受ける。今が戦時中だという事をまるで感じさせられない、まるで
場違いな心配をしているように思えた。
そんな不幸な人達を無視して彼は管理棟に入った。その管理会社は貸しボートもやっている。電話帳で確認済みだ。
「すみません」
返事が無い。受付は無人だった。
「…すみません、誰かいませんか?」
やや強い口調で声を掛ける。やっと担当が出てきた。
「はいはい、なんでしょ」
だるそうな声をあげる。
「中型クルーザーを貸してもらいたいんですが」
「一般の方ですか? それとも会員?」
「一般です」
「ああ、残念。今一般の方には貸して無いんですよ…はいはい、そちらのお客さんは?」
いつの間にか、後ろに別の客が居た。
「クルーザー一隻頼むわ。はい、会員証」
「はいはいはい、いつもお世話になっております。ではこちらへどうぞ」
えらく傲慢そうな男と一緒に、受付係はどこかに行ってしまった。
彼はたまらない疎外感を覚えた。
――そして、一つのムチャクチャな妙案が頭に浮かんだ。
……いやあ、久々の上客だな、こりゃ。こいつ、技術は無いくせにやたらと高いのを借りてくれるから
大助かりだよ。この調子でどんどん借りに来てくれればぼろ儲けだぜイエァ。
受付係の男は機嫌がよかった。何と言ってもこの雨だ、今日は商売あがったりだと思ってた所に仕事が
舞い込んで来たのだ。
「あ、こちらになります〜。どうでしょ、先月入ったばかりの最新型。お客様もきっとお気に入りになりますよ〜」
……早く決めやがれよ、のろまが。オメェの腕ならどれ乗ったって大して変わんないんだからよ。
が、その客はどこか不満げな表情を浮かべている。
「…どうかされましたか?」
「この間のは無いのかね?」
「ええ。つい先程他のお客様がご注文されまして、それでその…」
「ふざけるな! アレほど言ったのになぜ分からないんだ! あれは俺専用だって何遍も言っておろうが!」
「は、はいっ! 申し訳ありません!」
……このデブが、金持ってるんだから買い取れよ!
彼はその様子を5mほど離れた所で見つめていた。なにやら揉めているみたいだったが、構わず身辺の最終チェックを行う。
銃…OK。アタッシュケース…OK。行動フローは…頭に入っている。
――よし。準備は整った。作戦開始だ。
「あれ、社長。こんな所で何をなさってるんですか?」
彼はおもむろに声を掛けた。
「ちょ、ちょっと、なんだね君は?」
「…誰だ、貴様」
太った男は訝しげに彼を見つめる。
「やだなぁ、開発部の鈴木ですよ。この間ご一緒させて頂いたじゃないですか」
勿論男に面識など無い。さっき男が手渡した書類をちらっと覗いただけだった。
「あれ、これ社長のですか!? いやー、また奮発しましたね〜。すげぇ〜」
彼は言いながら勝手に乗船した。
「お、おい! 君! 勝手に乗らないでくれ! それにこの船は…って痛ァッ!」
「…はっはっは、そうかね、鈴木君? 君にもこの価値が分かるのか。うん、いい船だろう?」
彼の過剰ともいえる演技(東国にある島国の言葉ではヨイショとも言う)が功を奏して、男はいきなり上機嫌になった。
「ええ。このボディライン。社長もお目が高いなあ」
甲板から乗り出す。普段の彼の様子を見慣れた者にとっては不気味に思えるほどの変貌っぷりだった。
と。桟橋の入り口の方から二人の男が近づいて来た。自然そちらの方に目が行く。
――気のせい、か?
彼は右側の男を見た事があるような気がしたが、構わず続けた。
「…しかし、これだけ大きいと、馬力も凄いでしょうね」
「………おい」
「…ハッ!? あ、はい。搭載エンジンの総出力は200ps。最大船速は35ノット以上でますね」
「それはすごいですねー。さっぱり分かりませんけど」
二人組はこちらに近づいて来る。もう片方はサングラスのようなものを掛けているので表情は読み取れない。
「じゃ、ちょっとエンジンふかしてみましょうか」
いきなりスロットルを全開にした。
「君! 勝手なマネは…」
「ああ、やらせときなさい。どうせ珍しいんだろう」
「…で、これを動かすと係留ロープが切れる、と」
「おい、君ィ…!」
「ああ、大丈夫だ。アイドリング状態だからな…って、おい!! 鈴木君!」
「まずいぞ、離岸した」
「…よし、駆け足始めだッ!」
「すみませーん、ちょっとお借りしますねー。あ、社長、私の名前は鈴木では無いですよ。
あ、ついでにいうとあなたと会うのも初めてですから。それでは失礼させて頂きますよ!」
桟橋から離れるクルーザーの上、彼は満面の笑みを湛えて、唖然として見送る二人に別れを告げた。作戦成功だ――
が、しかし。
「兄ちゃぁん! ちょっと待ってくれぇよー! もう忘れちゃったのかー!?」
「おい、あいつ、お前の知りあいじゃ、なかったのかよ!?」
瞬間。
彼は右側の男の素性を認めた。
「ちょこっとヒッチハイクさせて貰った仲じゃねぇかよぉ…っと、アブねぇぞお前ら! どけ!」
突如走り出したクルーザーを、例の二人組が猛烈な勢いで追いかけてきた。
「なななな何なんだ!!? うわぁ!」
「おいっ…! あれは、俺の船なんだぞうおおお!!?」
二人組に押しのけられた不幸な彼らは、見事着水してしまった。
「ははは、悪ぃ悪ぃ!! でも海水浴も悪かねぇだろ?」
「…おい陣内っ! もう無理そうだぞ!?」
「人間やれば出来る! 行くぞ! はうあー!」
言うと、先行していた男が特大走り幅跳びを決めた。
「無茶しやがって…!」
次いで後続の男も桟橋を離れる。その勢いでサングラスが外れた。
「…な!?」
安心しきっていた操舵室の彼は、目の前の光景に唖然としていた。
「のうわぁ!?」
「痛ぇ!」
桟橋からクルーザーまで、5mはあろう海面を二人組は飛びきってしまった。
信じられないといった顔を浮かべながら彼は後部デッキの方を見た。
「…嗚呼。生きてる。生きてるよ俺ら」
「当たり前だ! ったく、もう少しマシな方法は考えられなかったのか!?」
「何を言うか。あそこで兄ちゃんの後を付ける事で俺達の出番が増すと言うもの」
「……。そこまで云うのなら俺はもう何も言わん」
うつぶせのまま生を実感する男と、あぐらをかいて呆然としている男。それを眺めながら、
彼は麦藁帽子の男と接点を持った事に激しく後悔せずにはいられなかったのだった。
>>606-617 「工作員と帽子の男 その2」
投下完了です。
…長ぇ。
なんかホントに三流スパイ小説のようだw
念のため保守
保守
621 :
情報将校:02/11/26 20:02 ID:8wKUyL4d
エルフ軍閥、ギャルゲ国よりあかほり元帥を招聘。
>>621 かつてアニメ国・ライトノベル国で大なる影響力を持つも今日ではその権力も衰え、大勢に
影響なきものと愚考する。
だが、その潜在的能力は図りかねるものがある故、くれぐれも油断無きよう。
コンシュマー領域(■エニ糞併合とか、ナムコギャルゲ参入とか)もエロゲ領域(SNOW発売日ケテーイとか)も最近はビックニュース続きだね〜(汗
オチは?
…SNOW発売延(以下検閲
保守
保守
スパイ大作戦
整備兵 − 今日はクルーザーのめんてなんす −
誰のクルーザーですか?
>>633 巡洋艦でっか?
・・・軍事板に帰ります
保守
しぇんむ〜軍はイラ・イラ戦争当時のイラク軍と同規模と言ってみるテスト。
対する鍵はもちろんホメイニ・イラン。
革命直後で王政軍隊解体、バ鍵っ子の革命防衛隊が初戦の主力。
時間をかければかけるほど、旧軍の再建が進み根本的な練度と装備の質で勝る鍵=イランが優勢になると。
そしてサダム=しぇんむにはアメリカにあたるバックアップがない(っていうか四面楚歌)
さて、どうなる下葉w
637 :
鮫牙:02/12/01 21:43 ID:2dtOXgRU
RR装甲軍(七個師団二個連隊)
内務省警察軍(総兵力不明)
警察軍航空機動隊
第3国境警備旅団
第5国境旅団
第1031警察連隊等が登場
首都管区軍(総兵力不明)
親衛隊陸軍第一軍(三個師団)
テネレッツァ軍(二個師団一個ヘリコプタ―大隊)
その他RR親衛隊5個師団
黒マルチ艦隊(原子力空母+巡洋艦5隻)
作中に登場したのだけでも東部方面軍を除いてもこれだけの戦力を保有してるんだから
イラク以上だとおもいます。
しかも下川軍には柳川、久瀬、ルミラ、中上等といった名将がまだ健在な訳で…。
3月28日 新大陸標準時 9:18
大リーフ湾 正統リーフ領海沖合15海里
「流石にその年でアクロバットはきつかったかな?」
「…お前、喧嘩売ってんのか」
「ぬははは。ま、ともかく無事だったんだ。良しとしようじゃないか…って、寒いな
オイ!?」
「そりゃそうだろ」
大リーフ湾に浮かぶクルーザーの船上に、奇妙な構図が出来ていた。
雨に打たれながら談笑を交わす、二人の男。
それを操舵室で見つめる、一人の青年。
数分後、二人組の片割れが不意に立ち上がった。
「あー、ま、アレだ。こんな所に居るのも何だし、中に入って何か温かい飲みもん
でも貰おうじゃないの」
男は十数歩ほど歩み寄り、船内へと通じるドアに手を掛けた。ノブを回し、扉を開
こうとしたその時――ドアは勝手に開いた。いや、内側から力を加えたといった方が
正しい。
そしてもちろんその正体は。
「おう、やっぱり兄ちゃんだったか。もし人間違いだったら末代までの恥だった所だ。
よかったよかった。――あ、そういや挨拶がまだだな。どうもお邪魔してます」
男は開口一番そんな事を言った。まるで緊張感が感じられない。
「……」
対称的なのは兄ちゃんと呼ばれた男だ。彼は何を話すわけでもなくそこに立って
いる。表情に変化が無いせいか、その思考は読み取れない。
「しかしあんな事してまでこのクルーザーが欲しかったのか? 謎だな、うん。きっと
どこかに売り飛ばして大金持――」
「降りて貰おうか」
言葉をさえぎり、4時間前と同じ言葉を繰り返す。
「…何だ、またか? 俺はまた降りなければならないのか!? 確かに勝手に乗り込んだの
は謝る。しかし、分かってるだろうが…敢えて言おう。ここは海の上だぞ!?」
謎のポーズをキメながら男が言った。
「……」
青年、ノーリアクション。
「おいおい、思いっきり無視じゃんか。なーにが『俺達は生死を共にした戦友だ!』だ」
「何を言う。ドライビングも命懸けだろ。ほんの些細なミスが命取りになったりならなかったり」
「んじゃお前にとって車の運転は常に死と隣りあわせなのか? 訳分からん」
そんな口論を続ける二人にお構いなく、青年は大きくため息をついてから言った。
「…もう一度言おうか?」
「だーかーらー、この広がる大海原のどこに降りろってんだよ兄ちゃ――」
言葉はそこで中断された。
青年が、拳銃を向けていたからだ。
「悪いが、降りて貰おう」
物分かりの悪い子供を諭すように、彼は言葉を繰り返す。
「……物騒だな、兄ちゃん。銃は人に向けちゃいけませんって銃器屋のおっちゃんにしつこく
言われなかっ」
ズドン。
「本気だが、何か?」
銃声が、雨音を無視して耳に刺さる。
おもむろに撃鉄を起こす。むろん威嚇の為だ。男の後ろの方へ視線を送る。もう一人への
警戒も怠らない。
「――あ、撃った。殺人は犯罪ですじょ」
しかし、相変わらず男は止めようとしない。耳元に一発撃たれたにも関わらずその口調は
変わらなかった。
「…そうか、あくまでも白を切るか。なら、構わないな」
言うや否や、彼は二発目を放った。脇腹の辺りを高速の鉛がかすめた。
「ああっ、俺の大事なコートが…。いくら兄ちゃんでも酷すぎるんじゃな」
三発目。男の足元の数センチ横に着弾した。
「下手な芝居は止めて、いい加減素性を現したらどうなんだ? エロゲ国裸足少女隊、荒川北人大尉」
彼は男を、エロゲ国裸足少女隊の荒川北人大尉と断定した。
――いくら裸足少女が弱小部隊とて、VA財団に軒を連ねている。同じ財団の恩恵を受けて
いる鍵自治州中央情報局がそこに所属する主要人物のプロフィールを知らぬ筈が無い。麻枝誘拐事件
以来妙に政治的な訓練を課されていた彼は、男の顔を覚えていた。尤も最初に見た時は麦藁帽子を被って
いたので解からなかったのだが。
「…へ?」
男の顔面に現れる驚愕の表情がハッキリ見て取れた。
「まあ、今となってはどうでもいい事だがな。どっちにしろお前は不法入国で捕まる。
このまま下船するか、塀の内に納まるか――」
「…はははっ。冗談きついな、兄ちゃん。誰が不法入国したって?」
「・……何を言っている。お前以外に誰が居るというんだ」
とっくに正体が暴かれた筈なのに、男の口調は強まる一方だ。そこに動揺は見られない。
彼は再び銃を向けた。
男は拳銃を見るようにこちらを向いている。全く危機感の無い表情だった。が――
「だから危ないって言ってるだろ。もし弾が当たっちゃったりしたら痛いでしょう……がっ!」
突如、男は彼に近づいて来た。いや、床を蹴って飛び出してきたといった方が正しいだろうか。
「…!!」
慌てて引き金を引こうとしたその瞬間、掌の拳銃が弾けた。それが後ろにいた男に狙撃されたと
理解した時には、もう遅かった。
「…ナイス閂! よしゃあ、覚悟しとけよ兄ちゃんっ!!」
「くっ……ぐはっ!」
左フックがみぞおちに入った。あまりの衝撃に彼は呼吸を忘れた。
――だが、不意撃ちを受けたにも関わらず、脳内には男のセリフがこびり付いていた。
もし、それが事実なら。
彼は苦し紛れにカウンターを返すが、巧みにかわされてしまう。右腕が慣性の法則に従って流れていく。
「甘いぞ兄ちゃん! はうあっ!」
男は見逃さない。引き込むように右腕を引っ張られ、彼はバランスを崩した。合気術の要領だ。
がら空きになった右脇腹に軽く叩きこまれる。そこは臓器の重鎮――肝臓のある場所だ。
「…っ!」
男は右腕を掴みつつ後ろを取る。さらに足を掛けて、彼を前倒しにしようとした。
が、彼も防戦一辺倒に甘んじる訳にはいかない。
「ふっ」
「いでっ!」
余っている左腕でエルボーをかます。男の胸板に肘が命中した。
「むむ、なかなかやるじゃないの兄ちゃん」
彼は右腕を掴んでいる男の手を無理矢理引き剥がし、一旦距離をとった。
男の息つく暇も無い攻撃に、彼は圧倒されていた。しかも相手は一人ではない。もう一人の方を
横目で見る。
しかし男は彼の視線に気付くと――あろうことか銃を投げ捨ててしまった。
「なっ…?」
「ああ、心配するな。何にもしないから好きなだけやってくれ。俺は知らん」
両手を挙げる。随分投げやりな態度だ。
当たり前だが、それで安全だという保障は無い。他の武器を隠し持っている事も十分考え
られたが――あえてその可能性を無視する事にした。
「……さて、よく頑張ったと言いたいところだが、この一撃でおしまいだっ!」
言うなり目の前の男はいきなり迫ってきた。
こいつは突っ込んでくる事しか出来んのか?
「はうあっ!」
謎の奇声と共に右ストレートを繰り出してくる。全体重を載せた一撃だ。
「ふっ!」
もちろん、同じ攻撃を二度喰らうほど彼はマヌケではない。左に重心を移すと、ミドルキックの
体勢をとった。タイミングを合わせ、足を上げる。
恐ろしく正確な蹴り。右足がガードの薄い腹部に吸い込まれる――彼は勝利を確信した。
と。
男は信じられないほどの素早さで、離陸した。
「とうわぁっ!」
縦横に回転しつつ、飛びかかる。回し蹴りのような背面体当たりのような、ともかくそんな格好で
男は襲いかかって来たのだ。
これには彼も面食らった。型もクソも無いムチャクチャな体勢で跳びかかってきたのだから。
「ぐむぁっ」
もはや体のどの部分か分からない箇所が彼の顔面を直撃する。そのまま男がのしかかる形で二人は崩れた。
「…ん」
「お、気が付いた。おーい兄ちゃーん。大丈夫か?」
頭上から声がする。目を開けようと試みるも、照明が邪魔でうまくいかなかった。
「…陣内さんよ、そんなことしたら普通は眩しいと思うぞ?」
「む、夜明ちんもそう思うか。俺もちょうど思ったところだ」
不意に照明が無くなり、次いでテーブルに物を置いた音がした。懐中電灯でも照ら
していたのだろうか。
今度こそまぶたを開くと、そこには天井があった。雨音が静かだという事は、自分は
どうやら室内に運ばれたらしい。
テーブルの目覚し時計で時間を確認する。さっきまでは無かったような気がするが、
多分気のせいだ。
体の調子を確かめる。……内臓や骨に異常はなさそうだった。所々痛みが走るが、
恐らくは打撲だろう。
「――抵抗しないのか、兄ちゃん。自分を吹っ飛ばした相手が目の前にいるんだぞ」
さっきの男――いや、正体は分かっている。そいつが素っ頓狂なことを訊ねてきた。
「どうせ俺を殺そうとは微塵にも思ってないんだろう? 元葉鍵国国防軍中佐、陣内ちから」
「……あれ、さっきは荒川北人って言ってなかったか?」
男――陣内は腕を組みながら、笑った。いつもと変わらぬ表情を浮かべながら。
「…ふっ、ははっ」
彼も男につられて笑みをこぼす。まるで先程のやりとりが嘘のようだった。
「で、そっちに居るのは元『8×8』の閂夜明少佐だろう?」
「…ああ、バレちゃ仕方ないな」
やはり口元を歪ませながら、男――閂は頷く。
「元RR装甲軍少佐、閂夜明だ。勝手に乗り込んですまなかったな」
軽く会釈をすると、握手を求めてきた。少し間を置いたが素直に応じることにした。
どうやら、彼らは自分に対してて敵愾心を持っているわけではないらしい。殺そうとすれば
チャンスはいくらでもあった筈だ。――ここで一旦泳がせておくという可能性も否定できないが、
そうした所で何が困るというわけでもあるまい。
「巳間良祐。鍵自治州鍵っ子義勇軍に所属している。元8×8なら言わなくても解かるだろうがな」
身分を明かした。この男に嘘を吐いたところで、所詮は無意味だ。
「そんなことまで知ってるのか、兄ちゃん」
「現在の葉鍵国公式資料に載っていない、通称8×8大隊。今となっては名前を知るものすらごく少数。
解かっているのはこれくらいだ」
正式名称を第10RR装甲師団第8連隊第8大隊と呼ぶその部隊は、一言で云うと『謎の部隊』という表現が似つかわしい。
しぇんむ〜に能力を認められなかった――ただそれだけ理由で、彼らは反下川派粛清計画の手始めとして選別された。
粛清はあくまでも軍内部で――あくまでもさりげなく――行う予定だった。
ところが、その計画は思わぬ形となって葉鍵国全土へと飛び火してしまう。いわゆる2.14事件である。秘密裏に
あった粛清リストが公にされると、それに名前の載っている将校らはすぐさま地下に潜伏。名簿の最上位にあった
高橋現総帥に至ってはRR菌開発研究施設を破壊するという置き土産まで残している。
リストが明るみに出てしまった原因の一つに8×8、陣内、原田らの名前が浮かんだ時には、彼らはすでに雲散霧消
と化していた(加えて中尾も一枚噛んでいたらしいが、彼は巧妙に立ち回ったので無事だった)。しぇんむ〜は
この『反逆』に怒り狂うと同時に、彼らの手の長さに思わず感心せずにはいられなかったという。
8×8がこの事件にどう絡んでいたのか。そもそも部隊の誰が関わっていたのか。彼らの異常に広い行動半径は
どの程度の規模だったのか。どうやって粛清計画の全貌を掴んだのか。その全てが現在に至るまで解明されていない。
聞きたい事は色々あったが、彼らの表情を見る限り何も教えてくれはしないのだろう。2.14事件はひとまず置いとい
て、もう一つの疑問を尋ねる事にした。
「あんたらは何でココにいるんだ?」
「ハートチップルハント……てのは世を忍ぶ仮の姿だぞ。あーもう、んな目で見るなよ閂。ちゃんと話すからさ。――あぁ
いやな、簡単に言うと下葉にヤボ用があるんだよ。詳しくは言えんが、まー兄ちゃんと似たり寄ったりな目的だろうな」
「俺と…?」
「兄ちゃんも下葉まで行くんだろ? ほれ」
陣内はトランクを取り出した。すでに開錠した後で、衣類やら何やらが無造作に置かれている。
「変装コンセプトは『圧政に苦しみながら奮闘する会社員』ってところか?」
どうやら、さっき気絶している間に見られてしまったらしい。
もう、何が起こっても驚く気になれなかった。
「……ああ、そうだ。俺はこれから任務で下葉に行く。内容は言わなくても予想がつくだろう?」
「麻枝元帥を救ったMOON.が動くくらいだからな。深くは聞かないさ」
「そう言って貰えれば、こちらとしても嬉しい」
閂の言葉を聞いて、ひとまず胸を撫で下ろす。
いくら結果を重視する鍵っ子義勇軍と言えど、これまでの出来事を包み隠さず報告すれば自分はただではすまない
だろう。これ以上軍務規定違反は犯したくなかった。
「で、下葉にはどうやって上陸するんだ? 兄ちゃん」
「ああ、それなんだが」
一枚の海図を取り出す。まるでそれが全能の神から授かった礼状であるかの如く、そっとテーブルに広げた。
「具体的にはこうするつもりだ――」
>>638-645 「工作員と帽子の男 その3」
投下完了です。
>>636 そこへイスラエル空き地の町が…いえ、何でもないですw
>>637鮫牙氏
凄まじいラインナップですな。こりゃ下葉勝っちゃいそう。
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保守
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>646
陣内は閂より原田じゃないか?
でもいいか(藁)これで軍事顧問は永久に復活できなだろうから。
653 :
鮫牙:02/12/02 22:19 ID:Z/Wu49hw
親衛隊陸軍第一軍(ルミラ中将)を書く為にリーフファイト97をやっています。
654 :
412:02/12/03 11:49 ID:Bc6CaAot
すいません。ただいま家のPCがぶっ壊れてて、マンガ喫茶から書き込んでます。
今週中には復旧すると思いますんで、責任取るのは少し待っていただければ幸いです。
>>654 奇遇ですね、私のも逝きました(笑
まぁ私の場合はマザボのネット関係部分だけのようですが、簡単に繋ぐ環境に行け無い
(ネットカフェは予算の都合上激しく不可能:笑)ので、まぁ似たようなものです(笑
近場の図書館などのpcは、FDのスロットルが潰されているので物理的にダメですし(笑
だから、マターリと逝きましょうね(笑
657 :
萌芽 1:02/12/03 21:21 ID:1JjUuAk7
3月28日0830時
ものみの丘
鍵自治州の軍事組織の総体は、一般に『鍵自治州総軍』と呼称される。公称兵員数は18万人を数えるが、
これは完全充足したときの数値で、予備役兵全てが動員完了した時にこの数値となる。
このうち、戦略打撃を主任務とする部隊を『鍵っ子義勇軍』と呼称する。公称兵員数6万。
これらの部隊は定められた作戦担当地域は持たず、敵脅威度の高い地域に遊撃的に投入される。
鍵自治州総軍の精鋭は全てこの鍵っ子義勇軍に集中されていると言っても過言ではない。
空き地の町まで遠征した集成師団やAIR航空隊もここの所属となる。司令官は折戸伸治大将。
またこれとは別に、国土防衛を主任務とする部隊もあり、これを『鍵自治州軍』と呼称する。
公称兵員数12万。これに属する各部隊は各々の作戦担当地域が定められており、
通常はその地域内で外敵から防衛や月姫ゲリラの鎮圧を担当する。
また、徴兵や新兵教育も基本的にはここの担当となる。自治州軍司令官は現在折戸大将が兼任。
そして今日、鍵自治州軍に3つめの『軍』が誕生した。正葉―鍵同盟への兵力提供を名目として創設された
『東方派遣軍』である。司令官は――技術開発本部長から異動したみらくる☆みきぽん中将。
作戦担当区域は葉鍵中央回廊東側及び逢魔ヶ辻といった鍵自治州辺境領――そして、そこに接する外国領全域。
麻枝元帥の執務室で、みきぽん中将は麻枝の事情説明を受けていた。傍らには涼元大将が、
書類を手に控えている。
「一応、東方派遣軍は『正葉との共同作戦用の部隊』を名目にしている。
だから、近く発生するだろう正葉の第二段作戦に、高橋総帥は東方派遣軍の参戦を要請してくる見込みだ」
「それは、確かなのでしゅか?」
「まず間違いないと思っていいです」
涼元が書類に目を落としながら口を挟む。
「正葉はTYPE-MOONの戦力を国家戦略の前提にしています。そしてあなたの下には、
Airシティで月厨どもに媚びを売りまくったあの売国奴がいる。
TYPE-MOONとの関係を大事にしたい高橋総帥にしてみれば、
東方派遣軍を参戦させるだけで奈須や武内の心証を良くできるんです。間違いなく要請してきますよ」
658 :
萌芽 2:02/12/03 21:21 ID:1JjUuAk7
「それに、正葉の実働陸上戦力の少なさも影響するだろう」
麻枝が話を引き取る。
「現状で正葉が攻勢作戦に投入できるのは名目2個旅団と1個大隊。
実質戦力は色々とプラマイがあるが2個師団程度と中央情報局は見積もっている。
これは、国内の治安維持を新設部隊で補い、北部国境の対エロゲ国用戦力を最大限転用するという、
もっとも極端な動員を行った場合の数字だ。
この戦力では、下葉に対する攻勢作戦を維持するのは難しい。リアルリアリティ・ナ・オーヤまでなら何とかなるだろうが、
シモカワグラードまで突進するには心許ない」
リアルリアリティ・ナ・オーヤ――2・14事件以前の旧称はタカハシスク。
空き地の町とシモカワグラードのほぼ中間に位置する、下葉北東部の交通の要衝である。
シモカワグラードから空き地の町(の手前)まで通る下葉国鉄北東縦貫線、
そこから分岐して東葉領シンキバへと到る下葉国鉄大リーフ湾線、
そして東葉領オオサキから延びてくる東部交通営団オオサキ線が集中し、田舎町の割には大きな駅を構えている。
「それをすこしでも補うためにも、東方派遣軍の参戦を要請してくるはずだ」
「その場合、わたしはどうしゅればいいでしゅか?」
「状況にもよりますが、受け入れてください。そしてあの売国奴を前線に送って頂きたい」
涼元が酷薄な笑みを浮かべる。
「我々も奴を排除する心積もりではいますが、実際事に及んだ場合、政治的、外交的に色々と面倒ではあります。
それに比べて奴が勝手に戦死した場合、我々は何の後腐れもなく事後処理を行えます。
可能性は高くないでしょうが、下葉が奴を殺す機会を減らすこともありますまい。
それに、奴が前線にいればそれだけ、後方にいる我々も寝首を掻きやすくなる――
損な話ではありません。要請があれば快諾してください」
「その辺りの交渉は、裏葉君とも協調してやってほしい。一応、政務責任者を裏葉君、
軍務責任者をみきぽん君とするつもりだ」
「わかりました――ところで、レギオンしゃんへの監視部隊の件でしゅが」
「ああ、そうだったな――みきぽん君、どの部隊が欲しい? 出来る限り希望に添う」
659 :
萌芽 3:02/12/03 21:22 ID:1JjUuAk7
にこやかに問いかける麻枝に、みきぽんは少しためらった後にこう告げた。
「晴子しゃんに話を付けて――第1降下猟兵大隊を貸してもらえましぇんか?」
「うぅん……川口君の部隊か」
少し難しい顔になる麻枝。彼は彼で、降下猟兵を南方先端部奪還の中核部隊として使おうとしていたのだ。
だが、そんな彼に涼元が意見する。
「良いではありませんか。川口君なら、奴のやり口も肌身で実感しているし、監視役としては最適でしょう。
南方先端部奪還は今帰還中の集成師団とAIR航空隊があれば実行可能です。
それに、逢魔ヶ辻に実力・忠誠心共に確かな部隊を置くのは決して無駄ではありません」
麻枝はその言葉に迷いながら、涼元が提出した書類を手に取った。
JRレギオン少将の、新設部隊『東方旅団』への転属に関してものみの丘は、
EREL集成旅団からの幹部や部隊の引き抜きをほとんど認めていない。
将校ではこちらからのコントロールが可能と見込まれた紅茶すらいむ中佐と、
特に害にもならないと判断した副官の清水なつき少尉だけ同行を認めている。
旅団長シンパの鍵スト大佐、観鍵りっ子中佐、日雇いSS軍曹といった危険人物はことごとく転属を拒否していた。
部隊も、まったく同行を認めていない。これだけなら、わざわざ降下猟兵を派遣するまでもないようには感じる。
ただ、トヨハラからは“魔女飛行隊”を逢魔ヶ辻へ移動させると通告が届いていた。
何しろ700mの滑走路があれば作戦可能な非常識な部隊である。すでにTYPE-MOONが実効支配している、
逢魔ヶ辻北方のエロ同人国領の廃空港――あの因縁の旧補給基地の施設を押さえているとのことだった。
また、TYPE-MOONが第一独立装甲連隊を東方旅団へ戦力派遣させるのではないか、との未確認情報も届いている。さすがにこれは中央情報局でも半信半疑だったが。
これらの情報を考え合わせるなら――また、逢魔ヶ辻南方で下葉防衛部隊の増強が確認されている現状では、
降下猟兵を派遣しておくに越したことはないように思えた。
「――わかった。神尾君には私から話を付けよう。みきぽん君、他に希望の部隊は?」
660 :
萌芽 4:02/12/03 21:22 ID:1JjUuAk7
「ないでしゅ。私の護衛は、いつもどおりにまなみしゃんにやってもらいましゅから」
まなみしゃん――技術開発本部付実験小隊『同棲部隊』・皆瀬まなみ小隊長の名を挙げて、
みきぽんは答えた。
「同棲部隊か――まぁ彼女たちならいいだろう。わかった。それではさっそく逢魔ヶ辻へ飛ぶ準備をしてくれ。
頼んだぞ」
何の気なしに、麻枝は許可した。同棲部隊はみきぽんの実質的な私兵ではあるが、
それに実戦力はたかだか1個小隊に過ぎない。それに彼女は建国の元勲でも、
いたると並ぶ最古参メンバーであり、その種の警戒を要する人物ではない。
麻枝や涼元としてみれば、何の危惧も呼び起こさない事柄でしかなかった、
――後に、それがとんでもない間違いだったと気づかされるのであるが。
「――いい気なもんでしゅね」
技術開発本部へと戻る公用車に乗り込んで、小声で彼女は呟く。
「麻枝しゃん――大気論や鍵の現状に反感を持つのは、何もレギオンしゃんだけではないんでしゅよ?」
801主義者・みらくる☆みきぽん中将はつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。
>>657-660「萌芽」投下完了です。
なお、東方派遣軍の現時点での編成は以下のとおり。
鍵自治州総軍東方派遣軍 司令官:みらくる☆みきぽん中将
・派遣軍直轄部隊
逢魔ヶ辻独立駐留連隊 連隊長:美坂香里中佐
※大幅に定数割れ
第1降下猟兵大隊 大隊長:川口茂美少佐
※AIR航空隊通天閣騎兵隊より戦力派遣
技術開発本部付実験小隊“同棲部隊”
小隊長 皆瀬まなみ中尉
・東方旅団 旅団長:JRレギオン少将
※司令部機能のみ、隷下部隊を持たず
ただしWINTERS師団航空隊“魔女飛行隊”が同行
801主義者って一体何だー。
しかし、鍵ももうボロボロだな……。
正葉も原田がアレだし、マトモなのは東葉くらいか?
>661
ひろゆきですら恐れているあの板が参戦ですか(藁
>662
山(8)無し、落ち(0)無し、意味(1)無し、
世間で言う所の少年と少年があいs