【誰彼】超先生キモイ【以下】

このエントリーをはてなブックマークに追加
459リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:07 ID:mrGG1GAt
 リアナはAIに特殊コードを伝え、モニターに馴染みの配列のキーボード
を表示させた。手慣れた動作で画面に触れ、キーを叩く。同時に複雑なプロ
グラムが画面を埋め尽くし始める。
 それはTH-32のOSのコントロールコードとBIOSを把握し、更にウォ
リスの脳波イメージから該当する武器を使用させるためのプログラムだった。
「ウォリス」
 二分ほど画面上のキーボードを叩き、リアナが呼んだ。
「なんだ?」
「メモリが足りないからシステムの火器管制OSを削除するわ。しばらく武
器が使えなくなるわよ!」
「オーライ」
 ウォリスは機体を急上昇させた。瞬時に音速を超え、衝撃波の輪を描きつ
つ雲海に消えた。


「α-1、作戦空域から離脱しましたァ!」
「なにィ!?」アルシアの驚きの声に、もっと驚きを隠せない様子のヒックス
が答える。
「エスケープか? ハイスクールの授業と勘違いしているのかっ!」
 怒りに震える拳を手近のコンソールに叩き付けるつもりで振りかぶったヒッ
クスだったが、鈍く光るコンソールパネルがひどく頑丈に思え、踏み留まっ
た。


 その頃、TH-32は宇宙空間で浮遊していた。
「いいねえ、ここだとバーニアの冷却にもなる」
 頭の後ろで手を組み、足をメインモニターの上に投げ出した格好のウォリ
スが言った。後席では慣れた手つきでキーボード代わりのモニターに触れる
リアナの姿がある。
460リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:08 ID:mrGG1GAt
                      ルーチン
 彼女の操作でAIは次々に専用の処理系を組み立ててゆく……。機体のO
Sから全武装を把握、パイロットの記憶から各武装の能力と効果を収得、パ
イロットの抽象的攻撃イメージを現実的攻撃に変換して実行する──。AI
火器管制システムはもう一人の自分として攻撃を担当するのだ。
 それ程複雑なプログラム作成をわずか数分で成し遂げる事も、人間以上の
合理性と柔軟性とを持つAIならではの所業と言えよう。
 やがてリアナは最後の指令を送り、息をついた。
「できたわ、ウォリス。これ念じるだけで武器が操作できる筈よ」
「おっしゃあ!」
 すぐさま姿勢を正し彼はスロットルを開く、次の瞬間TH-32は急降下を開
始した。大気との摩擦で機体は紅蓮の炎に包まれる。
 都市の上空には十数秒で到達した。
 建物の屋上に設置された無数の砲台が迎撃を開始する。だが、あまりにT
H-32の降下速度が速すぎ、火線はその過去の位置を貫く。
「行っくぜえ!」
 ウォリスは攻撃イメージを浮かべた。
 視野一杯に広がる砲台の群れは次々にロックオンされる。TH-32のウエポ
ンベイがそれぞれに口を開け、マイクロミサイルを吐き出した。
 白銀とオレンジの怪鳥を中心に蜘蛛の巣を広げるようにミサイルが水蒸気
の尾を引いて広がった。怪鳥はミサイルより早く地上に到達し、先程と同じ
通りを駆け抜ける。
 その後には模擬弾命中の血潮を浴びた陸戦兵器のみが残された。
461リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:08 ID:mrGG1GAt
「α-1、復帰しました。陸戦部隊の被害がウナギ登りです!」
 唖然とした表情でアルシアが振り返った。
「う、うむ……」
 表情はアルシアを越える驚きの色に染まり、ヒックスは理由もわからず、
ただうなずいた。
 ──奴め、どんな魔法を使った? あのまま終わらせるような男ではない
と熟知していたつもりのヒックスであったが、想像を越える結果に内心不安
を覚えていた。
 大型のモニターに並べられたα-1、Ω-1の戦績を示すグラフが見る間に
変化を遂げる。低迷していたウォリス機のグラフは誰の眼にも異常ともとれ
る速さでグラウ機のそれに近付きつつあった。
「どういうことだ!」
「信じられん……」
 スタッフの驚きの声を皮切りに、管制室は新たなざわめきを生んだ。
「パイロット一名で……、これはα-1の限界性能を引き出しているっ!」
 TH-32設計主任、バンーズは自身の眼を疑った。ウォリス機を捉えたモニ
ターに映るその有様は、自らが生み与えた攻撃能力を想像通り発揮していた。
がしかし、彼の知る限り、この能力を発揮できるのはまだ先の話であった。
「見ろっ! じきにΩ-1の数値を越えるぞ!」
 スタッフの男が一人、自分の眼の前のモニターに同僚を引き寄せた。
 だが、次に起こった出来事は、居合わせた者達に更なる驚きを呼んだ。
 一級警戒警報である。
 おどろおどろしいサイレンは基地職員にとって馴染み深いものであったが、
この警報を鳴らさせた者の実力を知っていれば、聞く者の背筋を寒くさせる
には十分の迫力があった。
 不意に全てのモニターがカーマイン基地統括主任を映し出した。
「一級警戒態勢発令である。敵機動部隊が惑星シーラ軌道上にリープアウト
した。防衛艦隊より戦闘要員の招集があった。テストを中止し、要員は直ち
に艦隊と合流せよ、オーバー」
 カーマインは一息にそれだけを告げモニターから姿を消した。入れ代わり
462リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:09 ID:mrGG1GAt
に元の映像が復帰する。
 先程までとは別の慌ただしさを取り戻した指令室で、テスト結果を気にす
る者は皆無であった。──無論、TH-32がAF02のそれをわずかに上回っ
ていたことも……。


 一方、同じ指令をウォリスも受け取っていた。
「やっべーな。おれたちも戦闘要員だぜ」
「わたしは違うでしょ」
 ウォリスの言葉に自分も含まれていると気付き、リアナは精一杯否定した。
「おれは実戦初めてだぜ?」
「わたしに言わないでよ。しっかり人類を守ってよ!」
「よっしゃあ!」
 ウォリスは操縦桿を引き、上昇に入った。


「α-1の動きが変です。宇宙圏に向かっています!」
「何だとぉ?」ヒックスはマイクを取り、
「ウォリス。何をしているっ?」
『──えー、ただいまより防衛艦隊に合流しまぁす』
 ヒックスの問いかけにひと呼吸置いてウォリスの声が応じる。マイクを握
るヒックスの手が怒りで震えた。
「貴様! 貴様が今乗っているのは唯一飛行可能な原機だぞ。
 ……戻って自分の機体で行けっ!」
 彼の怒りはもっともである。TH-32に万が一のことがあれば、プロジェク
トの勝者はAF02となる。理由が部下の機体無断使用とあれば彼の首の保
証はない。人類の未来を差し置いて、自らの食いぶちの危機が怒りの原因だっ
た。
463リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:09 ID:mrGG1GAt
『自分の機体は修理中であります』
「一般兵のフェリーで上がればよかろうが!」
『何に乗って行っても結果は同じです、オーバー!』
「回線が切断されました」
 そう言ったアルシアの眼の前には怒りで顔を血袋に変えたヒックスの姿が
あった。それを見た彼女は彼の血圧の心配をしたが、気にしないことにした。
「α-1には誰が乗っているっ?」
 スタッフの一人が顔を上げた。
「ウォリス・クレファルトだ!」
 誰かが答えた。
「なにぃ!? またあいつか!」
 ヒックスは耐えかねた様にマイクを持ち上げて、
「Ω-1、奴を止めろ!」
『ラジャー』即座にグラウの返答が返る。その指示を待っていたかの様だ。
 AF02は身を翻し、遥か虚空に消える。
 それを確認したヒックスは、アルシアに防衛艦隊に向けて回線を繋ぐよう
促した。

「えーっと、艦隊の現在位置は……」
 惑星クロノス衛星軌道上を漂うTH-32で、ウォリスはキーを叩き艦隊の位
置を算出していた。
「ちょっとウォリス。あんた自分で何をやってるのかわかってるのっ?」
 前席に身を乗り出した格好で、できの悪い息子を叱る母親の声音でリアナ
が訊いた。
「何を?」
 できの悪い息子そのままでウォリスが聞き返す。
「何をって、たった一機しかない大事なテスト機を私用で使ってるのよ!」
464リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:09 ID:mrGG1GAt
「あのなあ、おれの愛機は修理中。どうせTH-32はエプロンにしまっとくだ
けだろ? だったら使って返せばいいだろ? 艦隊まで往復しても減るもん
なんて何もないしな」
「あのねぇ、減るとか減らないとかの問題じゃないでしょ?」
 呆れ顔でリアナが返す。
「じゃあ何だよ?」
「ココにはわたしも居るのよ。民間人を戦場に連れて行くつもり?」
「心配するな。ムーンクレスタに連れてってやるよ。防衛艦隊旗艦だぜ? 
連邦最大の戦艦だ、そう簡単に沈まねえよ。──大体沈んだらクロノスは壊
滅される。なあに、死ぬまでがちょっぴり短くなるだけさ」
 軽い口調でそれだけ言い、ウォリスはリアナのヘルメットの頬を軽く叩い
た。
「……好きにして。あなたには何を言っても無駄ってことがよぉ〜くわかり
ました」
 リアナはシートに凭れ、腕を組んでそっぽを向いた。無重量だけに身体は
フワついていたが、シートに触れると吸い付けられたように安定する。
「はいはい、それでは艦隊に向けてしゅっぱあ〜つ!」
 ウォリスは大袈裟に宣言するや、オートパイロットに切り替えた。機体は
あちこちからバーニアを吹き出して姿勢を変え、無数の星達が広がる暗闇へ
向け移動を開始した。
465リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:10 ID:mrGG1GAt
          2


 白銀の翼にオレンジのストライプも鮮やかなTH-32は、惑星クロノスの衛
星軌道を離れ一路防衛艦隊へと向けてその機首を巡らせていた。その後方に
は赤い砂惑星クロノスと、赤い想い人に静かに寄り添うブロンズ色の衛星ラ
ムダの姿が見て取れる。その遥か彼方には、小さいが力強く輝く太陽の姿も
見える。
「艦隊の位置は太陽から一億九千七二八キロ。ここから十三万二千キロちょ
い。
 お客さん、急ぎかい?」
「別に……」
 ウォリスのわざとらしい問いに、仏頂面でリアナが答えた。
 こうなったウォリスを止めることはできない。幼い頃からウォリスのこと
は知っている。ハイスクールまでは毎日のように顔を合わせていた。あの日
までは……。──あれ以来何一つ変わっていない彼のことは自分が誰よりよ
く知っている。こうなってしまっては全てを彼に委ねるしかない、リアナは
そう思い、意を決していた。……事実、それは正しかった。
 ──その刹那。
 青い閃光が彼方の闇より秒速三〇万キロで白銀の機体を貫いた。
 警報が鳴り渡り、跳ね起きたウォリスが見たものは、HARD HITの赤い文字、
被弾箇所を表示する機体の立体映像だった。
「レーザーの直撃を受けたっ!」ウォリスの操作でオートパイロットは解除
され、機体はロールしてその場を緊急離脱。やや遅れ、多数のミサイルが白
い糸を引いて回避運動を取るTH-32に迫る。
チャフ
 ウォリス機は金属片とフレア弾を放出して大きく身を翻すが、猛追するミ
オトリ
サイル群の半分はその囮に眼もくれずなおも追いすがった。
466リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:10 ID:mrGG1GAt
「くそっ!」
 ウォリスが生き残ったミサイルの迎撃をイメージすると、機体後方に位置
した各ハッチが開き、対ミサイル弾が射出された。
 示し合わせたように互いのミサイル同士が激突し、空間に赤い珠が弾けた。
イミテーション
「模擬弾か!?」
 ウォリスが混迷の意を漏らす。実弾の反応燃料とは趣を異にする爆発は、
彼自身テストで見慣れた模擬弾同士の爆発だった。
『よくかわしたな、ウォリス』
「グラウッ!」
 映し出されたグラウの姿を見るや、ウォリスの混迷は色を失った。
『まあ初めのレーザーといい、全ては模擬弾だ。せいぜい機体を汚す程度の
ものだ』
 嘲るようなグラウの声が届いた。
「何のつもりだ、おれと一緒に行きたくなったのか?」
『ふざけるな……。お前が無断でテスト機を持ち出したおかげで、おれはそ
の阻止を依頼された』
 通信だけは入るが、AF02の姿は見えない。アクティブステルスのため
だ。ウォリスもA・Sは使用しているが、どこから見られているのかわから
ない以上ほとんど無意味である。
「阻止? やれるもんならやってみろ!」ウォリスの台詞が終わらない内に、
前方の空間から無数のミサイルが吐き出された。
「前か!」
 ミサイルの出現地点からグラウ機の位置のあたりを付け、重力磁場の位置
を調節しながらウォリスは回避運動を取った。
 大半はその時に射出されたチャフ/フレア弾に引き寄せられて自爆し、残
りのレーザー式誘導指示のミサイルはウォリスを見失い、あらぬ方向へ消え
た。
「模擬弾を何発撃っても意味ねえぜ! こっちは食らっても痛くもかゆくも
ない」
467リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:10 ID:mrGG1GAt
『それならおとなしく攻撃を受けろ!』
「……」
 ──グラウ……何を企んでる? 非武装で自分の足留めを請け負ったグラ
ウの意図を読み取ろうと、ウォリスは思考を巡らす。
 互いに位置を見失った両機はA・Sの死角をいち早く見つけようと闇雲に
その位置を変える。偶然が時折不可視の機体の姿を映し出すが、それも一瞬。
死角を捉えれば、その位置を維持して接近し、ロックオン、そして撃墜──
が新世代の格闘戦闘機によるドッグファイトである。
 しかし、両機は実弾を装備していない。攻撃は無意味である筈である。


 ──ウォリスめ、気付いたか? 複雑な機動を描きながら、グラウは舌打
エアダクト
ちした。彼の狙いはTH-32のエンジンの空気取入口であった。量子ラムジェッ
トエンジンは、必ず外部空間との接点を必要とする。大気圏内では外気を取
り込んで加熱し、高圧で排気するジェットエンジン的性質を持ち合わせてい
るので、その取入口は前方を向いているのが普通である。
TH-32も例外ではない。
 彼の狙いはそのダクトにミサイルを撃ち込む、そこにあったのだ。模擬弾
である以上爆発力はないが、その外形はアルミ等から成っている。その破片
と命中を示すペイントマーカーがエンジン内に入り込めば、エンジン停止は
確実。
 エンジンを緊急停止させたいのであれば、何もダクトを狙う必要もない。
メインノズル
噴射孔に命中させるだけで、ダクトほどではないがある程度の効果は得られ
る。
 それが彼の狙いであるが、対するウォリスは素直に従おうとしない。初め
の一撃で仕留められなかったのが失敗であった。
 そんなグラウの眼の前に、よほど注意しなければ見ることのできない流線
型の小さな物体が横切った。
468リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:10 ID:mrGG1GAt
「あれは……!」
 ──ウォリスのサテライトだ。しめたぞ! グラウの表情は満面の笑みを
湛えた。
 サテライトとは、A・Sの使用で自身も盲目となる事態を防ぐため周囲に
展開する、戦闘機の『眼』である。普段機内に映し出されている外部の映像
は、サテライトからもたらされるもである。その姿は一メートル未満で、ス
テルス性が施されているためにレーダーや肉眼で捉えられることはまずない
が、偶然がそれを可能にしたのである。
 AF02のモニターセンサーがグラウの見つめる物体を捉え、記憶する。
そして見えにくいサテライトは派手な色に着色され、表示される。
 猛スピードで追跡すると、すぐに追い付いた。
「思い知れっ!」
 グラウが叫び、追い越しざま主翼を接触させた。
 接触のショックで精密機械であるサテライトは身からスパークをほとばし
り、統制を失って暗黒の彼方に消えた。


「サテライトが一個やられたっ!」
 ウォリス機のコックピットでは、サテライトを失った影響で右側上面の映
像が激しく乱れた。すぐに別の持ち場に付くサテライトがカバーに回るが、
失われた仲間の欠員の全て補うのは不可能であった。カバーしきれない範囲
の映像が消え、キャノピー越しの本物の宇宙に変わった。
「何なの!?」
 無理矢理戦場へ連れ出されたかと思い気や、自分にプロポーズした男と幼
馴染みの男が空中戦を開始、そこで血相欠いたウォリスの声、である。彼女
の問いはサテライト欠損の事態より、この状況全てに対してと言えた。
「『眼』が一つ潰された。……グラウめ、やりやがったなぁ!」ウォリスは
彼女の問いにそう答えるや、スロットルを全開に送った。
「邪魔はさせねえっ!」
469リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:11 ID:mrGG1GAt
 彼はこれ以上の闘いを時間の無駄と悟り、一気に逃走に転じた。艦隊に到
達すればグラウの任務は失敗である。彼にできる最大の反撃はそれであった。
「ばかめ……。エンジン出力ではこちらに利がある」
 ウォリス機と大きく軸をずらし、結果A・Sの死角を取って追跡に移った
グラウは、今度こそ慎重にウォリス機のエンジンノズルに照準を合わせ始め
た。
 モニターに斜め下方から捉えたTH-32の姿が揺れる。それにターゲット
マーカーがぴったり重なった時、グラウの望みは叶う。
「そのままで行け……」
 揺れが少なくなり、ロックオン成立まであと数秒。
「お得意の回避もできないほどの至近距離で食らわせてやるよ、ウォリス……」
 グラウ機は速度を上げて一気にウォリス機の背後に迫った。
 PIIIIII……
「よし!」
 至近距離でロックオンが成立した。グラウの右手親指が発射スイッチを押
す。それだけで良かった。
 刹那、未確認機接近の警報が響き、グラウとウォリスの間を裂くようにミ
サイルが横切り、爆発した。
 AF02の前方に発生したプラズマシールドがその爆炎と破片を防ぐため、
閃いた。グラウとウォリスは同時に回避運動を取り、謎の敵機の攻撃に備え
た。
『貴様等ぁ! 貴重な新型機を持ち出して空中戦ゴッコたあ何事だぁ?』
 グラウとウォリス、二人のモニター上に、パイロットスーツ姿が映し出さ
れた。
「味方……?」
 グラウは相手の確認に気を取られ、ウォリスのその後の行動を察する事が
できなかった。
 一方、ウォリスはその声から相手の正体に気付いる。
「先輩だ!」
470リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:12 ID:mrGG1GAt
 モニターには四機のTH-11Cを従えた真紅のTH-22Aの姿が映し出され
ている。それだけでも声の主を知るには十分であった。
 ウォリスは重力磁場を真紅の機体に向け、一気に接近した。
 鮮やかなターンで先輩と呼んだ紅の機体に並び掛け、事もあろうに相手の
翼に自分の翼を接触させた。
タッチライン
『何だ貴様? このおれに接触回線を仕掛けるたぁ、いー度胸じゃねえか』
 タッチラインとは通信困難な状況において、機体の通電部分同士を接触さ
せて行う通信法である。だが、それを航空機で行うとはまったく無謀である
と言えよう。
 謎の男はそれを見て驚きもせず、むしろ自分の専売特許を奪われたかの様
な口調で毒づいた。
『先輩、おれです。ウォリス・クレファルトです!』
「ウォリス?……おおっ、ウォリスか。どこぞのバカが新型機を無断使用し
ていると聞いて更正しに来て見たら……お前の仕業か」
 ひどく納得した口調で男は豪快にうなずいた。
 男は連邦の赤い稲妻、レトラー・J・アライズ大佐であった。
 ウォリスはレトラーに事の次第を話して聞かせた。密談にはもってこいの
タッチラインであった。
「ほう……愛機を壊してそれで新型機か……」
『そうなんですよ。旗艦に着いたら乗って見てもいいですよ』
「いいねえ。……よし、わかった、おれが許可する。ムーンクレスタに着艦
許可を申請してやろう。そっちの若いのも来い」
「しかし……大佐」
 突如指名され、グラウは困惑の表情で返した。
「はっはっは。もう遅い、艦隊が見えているぞぉ」
 レトラーに言われ視線を移すと、彼方に明らかに人工のものと思われる光
点が見える。グラウは肩を落とした。
「……了解。従います」
 グラウの諦めを含むその言葉を聞いたウォリスは、内心舌を出した。
471リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:13 ID:mrGG1GAt
「OK、若い内は遠慮なんぞするな」
 レトラーは満足そうな笑みを返した。
 都合七機の戦闘機は、大きく身を翻し、一路防衛艦隊に向けてノズルから
それぞれの炎を吐き出した。
472リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:13 ID:mrGG1GAt
          3


 クロノスラムダ防衛艦隊。ファルサ本星防衛艦隊に次ぐ規模を持つ、α星
系第二の艦隊である。駆逐艦、戦闘艦、空母など大小九二隻から成るこの艦
隊は、二年半におよぶ争いでその規模を削ぎ、現在は残存する三五隻で構成
されている。
 その中で一際大きな体躯を横たえているが、旗艦ムーンクレスタである。
全長七六五メートルにもわたる巨大戦闘艦で、星系連邦軍の切り札的存在だ。
先のフォース一斉攻撃で同型艦テラクレスタが轟沈され、敗戦色濃厚の連邦
において唯一の守護神とも呼べる存在である。
 ムーンクレスタ内の格納庫に降り立ったグラウは、同じく降り立ったTH-32
の乗員を認め、驚愕した。
「リアナ……!」
「グラウ……」
 グラウの驚きの声を、申し訳なさそうにこうべを垂れたリアナが迎えた。
「よお、偶然だよ、ぐーぜん」
 悪びれる様子もなくウォリスが言う。
「貴様……」
 静かな面持ちでグラウはウォリスに歩み寄り、右手を振り上げた。
 バキッ!
 グラウの拳がウォリスの顔面を強打した。
「ってーな! 何しやがんだっ!!」
「やめてっ!」
 ウォリスがグラウの胸倉を掴み、右拳を振り上げた途端、間にリアナが割っ
て入った。
「リアナ……」
 二人の口から同じ言葉が漏れた。
「あなた達、どうしてそうなの? 何故そんなに……いがみ合うの?」その
言葉を聞き、二人の男は一歩退いた。
473リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:13 ID:mrGG1GAt
「あなた達はわたしとって掛け替えのないものなのっ!……もう……もうわ
たしを一人にしないでっ!」
 悲鳴に近い声でそれだけ言い、リアナはその場に崩れ落ちた。
 彼女の悲痛ともとれる叫びに何を感じたか、無言でグラウは彼女を抱き止
めた。
「くだらねえ……くだらねえよ! 人間いざとなったらいつだって一人なん
だよ。一生弟が付いてないとお前は生きて行けねえのかよ!」
 二人を見下ろし、ウォリスは言い放つ。その言葉に、大粒の涙がリアナの
頬を伝った。
「ウォリス! 貴様ぁ……」
「お前なんかリアナじゃねえっ! 死んだ弟の亡霊に取り憑かれた抜け殻だ
ぜっ!」
 立ち上がりかけたグラウをそんな言葉で制し、ウォリスは出入り口で待つ
レトラーの元に駆け寄った。
「いいのか? ウォリス」
 不満そうな顔で問うレトラーに、
「いいんです!」
 半ばやけくそに言い放ち、彼は大佐を促して格納庫を後にした。
474リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:13 ID:mrGG1GAt
「──である。……フォース軍の行動は不可解な点が多く、予断を許さない
状況である。各自、二級戦闘配備のまま待機。今後の指示を待て、オーバー!」
 大型のホログラフモニターの前に立つ士官の言葉で、対策会議は終了した。
 薄暗かった部屋に照明の灯が戻り、パイロット達は一斉に席を立ち会議室
を後にする。
「で、結局、敵は近くにいるものの、いつ攻めて来るのか見当もつかない。
って事だろ?」
「……だな」
 ウォリスの言葉にケイスがうなずいた。その隣にはグースの姿もある。彼
等はウォリスに遅れる事三時間あまりで旗艦に到着し、クロノスからの予備
要員が揃ったところで対策会議が催されたのであった。
 自分達より奥のパイロット達が一通り引き上げ始めたのを見、ウォリス達
も立ち上がる。彼等の眼の前を数人のパイロット達が横切った。ウォリスは
その一団に見慣れた顔を認め、
「よお、ファル。元気でやってかぁ?」
 と声を掛けた。一団は立ち止まり、
「何だ貴様? 少佐に失礼だぞ!」
 パイロットの一団の一人が、敵意剥き出しの口調で応じる。
「待て、マードック」
 もう一人、ウォリスとそう変りない年頃の青年が男を制した。
「しかし、少佐……」
「いいんだ、彼は私の友人だ。……ウォリス、久しぶりだな」
 青年がそう言うと、二人は互いの腕を交差させ、がっちりと組んだ。
「紹介しよう。彼はウォリス・クレファルト、私のパイロット訓練学校時代
の同期生だ。現在はテストパイロットをやっている……だよな?」
「ああ」
 ウォリスはうなずいた。
「君たちは戻って待機していてくれ。二時間後の偵察の準備を頼む」
「ラジャー!」
 青年の言葉に、パイロット達は最敬礼で答え会議室を後にした。
475リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:14 ID:mrGG1GAt
「彼等はおれの隊のものだ」
 パイロット達の後ろ姿を指差し、青年は合図を送った。
「おお」ウォリスはうなずき、
「こいつはファル、ファル・アルベルト。おれのダチ公で、サンダーボルト
隊の隊長をやってる。……で、こいつがケイスで、こっちがグース。同じ会
社のテストパイロットだ」
「よろしく」
 ウォリスの紹介で二人はファルと握手を交わす。
「ほんと久々だよな。逢うのは二年振りくらいか?」
「そうだな」
 ファルがうなずき、四人は揃って会議室を出た。
「大佐から聞いたよ。お前、新型機を無断でこの艦に持ち込んで、しかも女
連れだそうだな?」
「そんなところだ」そう言って親指を立て、
「お前こそ彼女とどうなんだ?」
「どういう意味だ?」
「進展はあったのかと訊いてんだ」
「バカ言え、ここは戦場だぞ」
 一瞬唖然とし、ウォリスを肘で小突いた。
「おっ、噂をすれば……」通路の先から、プレートパソコンを胸元に抱えた
女性士官が歩いて来る。
「フィーリアちゃん」
「あら、ウォリス」フィーリアと呼ばれた長い栗色の髪の女性が微笑み、
「新型機を持ち込んだ男って、あなたね」
 変に納得した表情でそう言った。
「おお、いっぱしの有名人だな、こりゃ」ポーズを付けながらのウォリス。
「今回のプロジェクトに加わってから、懐かしい顔に色々出逢うな」
「そうなの?」
「訓練生時代に戻った気分だ」
476リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:16 ID:mrGG1GAt
 フィーリア・アーシアムはムーンクレスタの艦橋オペレーターの任務に着
いている。パイロット訓練校時代のウォリスのナンパが彼女との出逢いであ
る。ナンパは成功したかに見えたが、彼女はウォリスではなく居合わせたファ
ルと意気投合しそれから二人の交際が始まった──というエピソードもある。
 ひとしきりの会話のあと、彼女はファルに呼び掛けた。
「ターリフィッシャー隊が帰還したら、偵察はあなたの隊の番よ」
「ああ」
 フィーリアの言葉にファルが首肯する。
「気を付けてね」
「ああ」
「何だよ、新婚さんみてえだな。ちゃっかり進んでんなあ、君たち」
 二人のやり取りを見ていたウォリスは、身悶えしながらそう言った。
「からかわないでよ、もお!」
 頬を赤らめウォリスの視線から逃れるようにフィーリアはファル達の前を
通り過ぎ、小さく手を振って通路の角に姿を消した。


 ウォリスとレトラーがパイロットスーツ姿で格納庫に姿を現したとき、既
に二機のAOF候補機の回りには黒山の人だかりができていた。
 新型機は戦闘機乗りの憧れである。皆穴の開くほど機体の隅々を見回して
いる。
「どいたどいたぁ、デモンストレーションの始まりだよぉ!」
 人ごみをかき分け、ウォリスが道を開き、レトラーが続く。
「大佐、二級戦闘配備中ですよ。よろしいのですかぁ?」
 レトラーが前席、ウォリスが後席に乗り込んだとき、誰かが叫んだ。
「おれの仕事は出撃して敵を落とす事だ。待機ではない」
 声の主にそう告げ、レトラーはシートに腰を降ろす。キャノピーがゆっく
りとその後を追う。ギャラリーはぞろぞろとエアロックへ引き上げ始めた。
「ゲートを開けてくれ」
 AGLが満たされたコックピットでレトラーが言う。
477リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:16 ID:mrGG1GAt
『了解!』
 引き上げたギャラリーの一人であろう男の通信が入り、赤いパトランプの
点灯と共に、格納庫の扉がゆっくりと開いた。
 やがて、ギャラリーの詰めている管制室に艦橋からの通信が入った。
『四番格納庫のゲートが開いているが、どういうことだ?』
 威厳たっぷりの男の姿がモニターに浮かび、訊いた。
「か、艦長!」
 ゲートを開けた男は咄嗟に敬礼で答えた。


「ゲートオープンの理由を聞いている」
 艦長と呼ばれた男が訊いた。
「はっ、アライズ大佐がAOF候補機でデモフライトします」
『二級戦闘配備中だぞ。即刻中止だ』
「手遅れでありますっ!」
フォトン
 男の視界の片隅で、ノズルから光子を吹き出して発進するTH-32の姿が見
えた。
「レトラーめっ、やりおった!」
 回線を切り、ムーンクレスタ艦長ボスコース提督は頭を抱え込んだ。


 異常な速度で遠ざかる艦隊を背に、ウォリスが口を開いた。
デブリ
「先輩、スピード気を付けて下さいよ。宇宙ゴミにぶつかったら木っ端微塵
ですよ」
478リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:17 ID:mrGG1GAt
 高速で移動する物体から見れば、静止している物体は自身と同じ速度で移
動していると言える。宇宙に散らばる小さなゴミも同じである。秒速二五〇
メートルで移動中の物体が、静止するスペースデブリ──仮にボルト一本──
に激突したとすると、その影響は拳銃の弾丸を受けたものと等しくなる。光
速に等しい速度でボルトと接触した場合、その威力は戦闘機の装甲すらたや
すく貫くであろう。
「心配するな、クリーンな航路を選んでいる」
 操縦桿を操りながらレトラーが答えた。
 その間も機体は加速を続け、最高速に達するのは時間の問題と言えた。
「ウォリス、今からファルサ見物だ」
「りょーかい!」
 レトラーが速度計に眼を移すと、機体速度は〇・九九一C(光速度の約九
九%)の表示で停止していた。
「見ろウォリス。前方の星がドップラー効果で青く見えるぞ」
レッドシフト
「後ろは赤方偏移を起こしてますよ」
 ドップラー効果で前方に見える星達は青に、後方の星達は皆赤に染まるコッ
クピットで、男達はそれぞれの収穫を告げる。戦闘機で光のドップラー効果
を体験し、興奮醒めやらぬ様子の二人であった。
 光速に近付いた二人に見える宇宙の景色は、異世界のそれに等しかった。
アインシュタインの相対性理論の世界のただなかである。
「この速度ならファルサまで外部時間三分程度だな……」
 レトラーがそう呟いてから丁度三分──機内時間で約一五秒後、二人はファ
ルサに到着した。
「よし、ファルサの重力圏に沿って減速する」
 その言葉通り六〇〇〇万キロの旅を終えたTH-32は、相対論の予言通り幅
が二割程度につぶれて見えるファルサを右手に大気圏すれすれを飛び、瞬く
間にUターンを済ませた。
 重力干渉と逆噴射で秒速八キロに減速したTH-32は、ファルサを周回する
軌道に入った。
479リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:17 ID:mrGG1GAt
「アクティブステルスは正常に作動中。探知された形跡なし」
 あちらこちらに展開したファルサの警戒システムが未作動である事をモニ
ターで確認したウォリスが告げた。
「三本目のオービタルリングは完成間近だな。おれが最後に見たときは、ま
だ五分の一ほどの長さだったがな。おれが生きている間に、何本になる事や
ら……」
 ファルサを取り巻く三本の金属の輪を眺め、レトラーは感慨深く語った。
 あたかも土星のリングの如くファルサを取り巻く、その建造物は、オービ
タルリングと呼ばれている。リングは互いに一八〇度離れた位置に一対の軌
道エレベータをぶら下げており、エレベータは人員や資材を低コストで静止
衛星軌道上に引き上げる役割を担っている。また、リングには鉄道が併設さ
れ、銀河列車は十数分でファルサを周回している。
「ウォリスよぉ」
 単なる周回飛行を止め、アクロバッティブな機動を繰り返しながらレトラー
が呼ぶ。
「はい?」
「こいつは思った以上にいい機体だ。これなら今すぐにでもフォースを叩け
そうだ」
「おれもそう思います。……プロジェクトは絶対ウチが取ります。川重なん
かに渡しませんよ」
 拳を打ち合わせてウォリスが答えた。
「その意気で頑張れや」
「ハイッ!」
「──もう帰るぞ」
 前方に群れなす防空システムの隙間を鮮やかにすり抜け、レトラーは宣言
した。
「もうですか?」
「こうしてる間に敵が攻めて来たらおれの楽しみが減る」
「……りょーかい」
480リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:19 ID:mrGG1GAt
 苦笑混じりウォリスは答えた。レトラーにとっての戦闘は仕事でもあり、
一番の休息でもあるらしかった。
481リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:19 ID:mrGG1GAt
          4


 帰還した二人を待っていたのは激怒した提督の呼び出しであった。
「やってくれたな、アライズ大佐」壁と天井が全て外の映像を映し出す艦長
室で、快適そうな椅子に腰を降ろしたボスコース提督が、表情とは裏腹に静
かな口調で言う。
「それに、……ウォリス・クレファルト。君はカーマイン大佐より、アライ
ズ大佐に次ぐ要注意人物であるとの報告を受けている。──まったくそのと
おりだな」
「カーマイン……あいつ元気ですか? 奴とは七年ほど前、同じ部隊に所属
しておりましてね……」懐かしい名を聞き、レトラーは身の上話を始めた。
「ばぁかもおおおんっ!!」
 提督の大音声は、周囲を優雅に泳ぐ巡洋艦達をも揺るがすのではと思われ
勢いであった。怒鳴られるのには慣れているウォリスが思わずのけぞった
程である。
「レトラー、君は連邦のエースパイロットであり、同時に他の兵の模範でも
あるべき人間だ。君のお陰で我が艦隊のモラルは低下する一方だぞっ」
モラール
「モラルは下がっても、士気は上がってるように見えますがね」
「つべこべ言うなっ!」
 モラルとモラールを掛けた洒落に笑いさえ含んで口答えするレトラーに、
怒髪天を突く勢いのボスコース。隣で内心拍手喝采をレトラーに浴びせるウォ
リスとはひどく対象的だ。
 そこでデスクが鳴り、回線呼び出しを告げた。
「なんだ?」
『艦長、敵機動部隊が短距離リープに入りました!』
 女性オペレーターの切迫した声がそう告げる。
「なに!?」デスクモニターを見つめる提督の表情が変わる。
482リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:20 ID:mrGG1GAt
「……よし、出現地点を予測し、機動部隊を展開せよ。全艦一級戦闘配備!」
『了解!』
 すぐさま警報が鳴り渡り、一級戦闘配備突入を告げる。
 ボストークはちらりと眼を上げ、
「アライズ大佐、サンダーボルト隊全機スクランブルだ」
「ラジャーッ!」
 連邦の要注意人物二名は艦長室を足早に後にした。
 ──頼むぞ、人類の希望。ボストークは黙って二人を見送った。
 この五時間後、軍議会はAOFフォース撃退作戦の第一パイロットに、レ
トラー・J・ライズの名を挙げ、議会の決定とした。


 指示された格納庫に到着したウォリスだったが、自分の乗るべき機体が無
い事に気がついた。
「ウォリス。君の機体はさっき届いたぞ」
 既に耐Gスーツを装着したケイスが声をかけた。
「随分と早いな。TH-32はどうした?」
「フェリーで曳航されたよ。TH-11も引っ張って来たそうだ。パーツの交換
のみで大事に至らなかったが、君の機体は操作系の遊びが少なすぎて誰も乗
れないそうだ」
 出撃の順番が迫り、ケイスは足早に控え室を出ていった。
「リアナもそのフェリーで帰ったよ」
 そう言ってグースが肩を叩き、ケイスの後に続く。
 やがて耐Gスーツを着込んだウォリスの眼に、モニターに浮かぶGETREADY!
W・CLEFALTの文字が映り、ウォリスはそそくさと控え室を後にした。
 コンベアで次々と運ばれるTH-11の列に自分の機体を認め、ウォリスは乗
り込んだ。既に始動チェックは完了しており、いつでも発進OKであった。
 ハーネスを閉め、キャノピーを閉じる。コックピットは密閉され、気圧が
調整される。
483リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:21 ID:mrGG1GAt
 もう何百回も繰り返した発進であったが、実戦を前にしたスクランブルは
初体験であった。ウォリスの胸になにかしら言い様のない不安が花弁を広げ
始めた。
 ドラマではない、これは実戦である。人の死もまた現実だ。雑誌などで見
た敵機動兵器の詳細や行動パターンが目まぐるしく脳裡を駆け抜ける。どれ
も役に立つ気はしなかった。
 そもそも自分は生き残れるだろうか? ここで死ぬという事は今までの自
分の人生は何であったのか? 初めて浮かぶ疑問に、いつになく動揺するウォ
リスであった。
『ウォリス』
 自分の名を呼ばれ、見覚えのある女性の姿がモニターに浮かび上がってい
ることに気付いた。
「おお、フィーリア……」
『あなたの任務はサンダーボルト隊ブルーランサーズに合流して後方支援よ。
……識別コードはE-238AL』
「ああ……」
 気のない返事を返すウォリス。
『ウォリス、……恐い?』
「恐い? 死ぬのは恐くない。だがわからねえ、こんな気分は初めてだ……」
 コンベアによる横移動は終わり、エレベータによる縦移動が始まる。やが
て彼の機体はカタパルトに乗せられるであろう。
『ファルはもっと前線で戦うのよ。……そしていつも帰って来た。今日もきっ
と同じ……』
「おれだって帰って来るさ。おれの事なんかより、ファルの無事を祈ってろ」
 ウォリスの機体がトンネル内に設置されたカタパルトにセットされた。
 三〇メートル前方の出口には、宇宙が広がっている。その奥には戦場が暗
い影を落として待っている。
 ──フィーリアの奴、おれなんかに世話焼くなよな。
 シグナルがカウントダウンを始めた。レッドシグナルが三つ続き、グリー
ンシグナルが灯ったとき射出される。
484リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:21 ID:mrGG1GAt
『がんばって、ウォリス』
「おおっ!」
 そう答えたウォリスの表情に先程までの不安は微塵もなかった。
 グリーンシグナルが点灯し、猛烈な勢いで加速してムーンクレスタ船首よ
り吐き出される。強烈なGである筈だが、耐Gスーツの恩恵でそれほど苦痛
は感じない。
 後方にて静止するムーンクレスタは秒速五キロで遠ざかって行った。
 指示通りに飛行を続けると、ブルーランサーズと名付けられた小隊に遭遇
した。
 一〇機のTH-11とKF-4一機。グースとケイスの識別信号も含まれてい
る。KF-4は恐らくグラウ個人の機体であろう。
『よく来た。君のコールネームはB12だ。当チームの任務は、前線を突破
した敵機及びミサイルの迎撃である。敵機一機につき三機以上、追跡迎撃の
二班に別れて攻撃にあたれ、オーバー』
 隊長機からウォリス宛に指示があった。
「りょーかい」
『前線部隊、約三〇秒後に敵機動部隊と遭遇』
 ムーンクレスタからフィーリアの声で状況が報告される。
 やがて八万キロ彼方に小さな爆炎の閃光が閃き、戦闘開始を告げた。
 小さな輝きはミサイル等のものであろうが、時折混ざる大きな閃光はどち
らかの機体の爆発であろう。
『これより赤外線照明弾を使用して警戒にあたる』
 それより約二分後、隊長機から通達があった。前線を突破した敵機がいれ
ば、探知網に掛かる頃である。
 基本的形状からレーダーに捉えにくく、黒く塗られているため視認も困難
な敵機動兵器を探知するには、照明を当てアイレーダーによって警戒するの
が普通である。可視光を使った照明ではパイロットの視界の妨げになる場合
があるため、眼に見えない赤外線で照らし出すのが常であり、赤外線照明弾
使用の理由であった。
485リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:22 ID:mrGG1GAt
 その赤外線照明弾が、味方ではない存在を浮かび上がらせた。
『我々の領空に敵機動兵器三機侵入。B1からB8は二機づつのフォーメー
ションを組み、奇数番号機が指揮を取れ。B9以降は若い順に一機づつフォー
メーションに加われ、オーバー』
 隊長機の指示でブルーランサーズは四つに分散した。
 敵機動兵器はブルーランサーズを捕捉するや、それぞれが独立機動に入る。
 その一機と、B1B2そしてグラウのB9の編隊が高速で交差した。
ETF-2
 先頭のB1の発射したミサイルは全て撃ち落とされ、敵機動兵器はTH-11
を上回る鋭い機動を描いて編隊の背後を取った。
 狙われたのはグラウの機体である。
 振り返ったグラウの眼にCGで赤く縁取られた黒い物体が映っている。
「こちらB9、背後を取られた。援護を頼む!」
『任せろっ』
 B1とB2はそれぞれ散開し、グラウの援護にまわる。
 一方グラウは敵を十分に引き付けた後、回避行動を取った。時を同じくし
て敵からオレンジの火線が迸り、グラウの存在していた空間を貫く。
「見事なロールシザーズだ。さすがはテストパイロット」
 援護に向かいつつグラウの回避を眼にしたB1──イワン少尉が呟く。事
実、グラウの操縦技術は現役軍人も舌を巻く程であった。
 やがてB2機に背後を取られ、ETF-2は回避するが、B1に逃げ道をふ
さがれた挙げ句にB2のミサイルの餌食となった。
『こちらB1、こちらは片付いた』
『こちらB5、こちらも二機撃墜した』
 ウォリスとグースの班もうまく敵を撃墜する事ができた。
 ──確かに敵の機動性はTH-11の比じゃねえ。だが集団でかかればまだや
れそうだ。
 一度もトリガーに指を触れる事はなかったが、二機との交戦でウォリスは
そう判断した。
486リアルFC ◆RFCRRcho :02/06/16 16:22 ID:mrGG1GAt
 彼の見つめるその先には、前線での夏の花火を思わせる激しい爆発がきら
めいて見える。
 その光景は彼に何と映ったか、口元に笑みがこぼれる。
「後方でゴミ掃除ってのはらしくねえぜっ!」
 ウォリスは隊列を離れ前線に向けて加速を開始した。
『待てっ! B12、どこへ行くんだ!』
 彼を追うのは制止の声のみであった。

   《つづく》
487名無しさんだよもん:02/06/17 12:45 ID:J8LIsPSP
スーパーティーチャーいる?
488名無しさんだよもん:02/06/17 13:13 ID:U0MuTdpI
おながい☆スーパーティーチャー
489名無しさんだよもん:02/06/17 15:04 ID:n9qHS1KZ
>「負けねえよ……。<お前のいる前>で、あいつに負けられるか」
  気にしたふうもなく答えた。
      
RR見っけ〜
490名無しさんだよもん:02/06/17 15:09 ID:cetArbWq
>>489

何言ってんだお前…
491名無しさんだよもん:02/06/17 15:14 ID:7RRsD5NO
PS3=俺+あいつの・・・
492名無しさんだよもん:02/06/17 17:38 ID:R0s8+Jfn
超先生が素でキモく感じているのが今の俺の感情なわけだが〜〜。。




誰か俺の精神疾患治療してくれる人いる?
493名無しさんだよもん:02/06/17 18:30 ID:lSeqHV8I
そろそろ、容量が気になりだした。

どうする、次スレ建てるか!?(w
494名無しさんだよもん:02/06/17 18:31 ID:kYbA4wYA
このスレに来るたびにRRの偉大さを感じる。
495名無しさんだよもん:02/06/17 18:37 ID:bn8YB9pK
―――――――――――――ここまで読んだ―――――――――――――
496名無しさんだよもん:02/06/17 19:37 ID:6UrxV5fP
>>493
さびれている超先生関連スレでやってほしいぞ。
できればスレ内容が結果的に本スレ向け内容になったので
本スレでやってほしい。
497竹紫:02/06/17 19:38 ID:l8buoXdw
>>493
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1024113313/l50
このスレを再利用しよう
スレタイもそんなに悪くはないしな
少なくとも今の葉鍵板でスレ立てたら何言われるか分からん
498名無しさんだよもん:02/06/17 20:22 ID:6UrxV5fP
>>497
乗っ取ってきてくれ(w
499竹紫:02/06/18 01:14 ID:LnOu7bcU
乗っ取ったぞ
500 :02/06/18 04:24 ID:WkYMmag1


           -‐-      ,、
      へ〃      ヽ lv !
        \\..ノノ人ソ リ ヽ'  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     _ 口リ<┃┃‖| /  < ――500のゲットに成功しました。
   /\ 丿リ 、" - / リ/ \  \___________
  /  ./l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|ヽ
  \/l  |―――――――! ヽ          (´
      l  | ☆ セリオ様用 |       (´´
      l  l―――――――|       (´⌒(´
.      \l_______|≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡=☆
                 (´⌒(´⌒;;  ズザザーーーーーーーーッ
501名無しさんだよもん:02/06/18 12:32 ID:TG95VSRi
『よし、捉えたぞ。……ファイヤー!
……外されたっ』
私的にはコレがワラタ。

しかし、竹紫氏、マジで乗っ取るとは。
502名無しさんだよもん:02/06/18 18:30 ID:WaO26uTf
覇王学園よんだが

『超人(超地球人)』、『帝王拳』、『スカウター』 、ゾリーザ、
人造人間、パワーウェーブ、波動拳

パクリまくり。超ワラタ
503名無しさんだよもん:02/06/19 19:27 ID:XSxZgOKn
それが超先生のカラーなんだよ(w
504名無しさんだよもん:02/06/23 02:26 ID:l0EDnn/t
少年漫画板にリンク貼られたけど。
誰か読んでくれたかな?
505名無しさんだよもん:02/06/23 10:50 ID:Std8ql8m
    
506名無しさんだよもん:02/06/23 12:21 ID:F6Whscxa
>>504
誰だよ、貼ったの(w
507名無しさんだよもん:02/06/23 13:33 ID:t+SYD/uy
>>506
マラソンの時だよ。
508名無しさんだよもん
正直DBスレに貼ってみたい…。