SS統合スレ#6

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90Prologue
「いってきます」
 そう言って玄関のドアに手をかける。
 開け放ったれたドアの向こうからは、温かな春の陽射しがさしこみ、新たな季節の訪れ
を肌で実感することができた。
 久しぶりに袖を通した制服は、なんだかわたしの物じゃないみたいで、なかなか体に馴
染まない。まるで長い間使われなかったことに、制服が怒ってるみたいだった。

 わたしは、ずっと学校をお休みしていた。別に学校が嫌いなわけではない。むしろ大好
きなくらいだった。

 小高い丘の上にある校舎、教室の窓から見える風景、校門までまっすぐにのびる坂道。
 わたしは、それらすべてが大好きだった。
 でも、わたしは長く学校を休んでいた。それにはちょっとした理由があった。

 制服を着て、久しぶりに歩く通学路。学校に近づくにつれ、わたしと同じ制服を着た生徒
たちが目立つようになる。
 真新しい制服に身を包んだ数人の生徒がわたしの横を通り過ぎた。
 この春から、わたしと同じ学校に通う新入生。その表情はとても輝いていて、これからの
学校生活に大きな期待を抱いているようだった。

 そんな生徒達の中に混じって歩く通学路の途中、わたしはふと、足を止めた。
 わたしの目の前にあるのは、まっすぐにのびる長い坂道。少し見上げれば、そこには、
わたしの通う学校の校門が見える。
91Prologue:01/10/11 21:26 ID:MGOUz8G.
 道の両脇には、満開の花を咲かせたさくらの木々が立ち並び、まるでアーチのように学
校までの道のりを覆っていた。

「はぁ……」

 と、わたしは小さなため息をもらした。
 そよ風が吹き、さくらの木々がわずかにそよいだ。

「この学校は、好きですか?」

 だれに対するでもなく、そうひとり言をつぶやく。
 さくらの花びらが風に吹かれ、ひらひらと舞い落ちた。

「わたしはとってもとっても好きです。でも、なにもかも…変わらずにはいられないです。楽
しいこととか、うれしいこととか、ぜんぶ。……ぜんぶ、変わらずにはいられないです」

 だれに対するでもない言葉。
 舞い散るさくらの花びらにのせるようにして、ただつぶやく。

「それでも、この場所が好きでいられますか?」

 風にのったわたしの言葉は、ひらひらと宙をただよい、そして地面に落ちた。

「わたしは……」
92Prologue:01/10/11 21:27 ID:MGOUz8G.

「見つければいいだけだろ」

「えっ……?」

 突然かけられた言葉に、わたしはおどろいて声の方向に頭をむける。
 そこには、わたしと同じ学校の、同じ学年の制服を着た、見知らぬ顔の男の人が立って
いた。

「次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。あんたの楽しいことや、
うれしいことはひとつだけなのか? 違うだろ」

 そう言って、その人は面倒臭さそうに坂道を登り始めた。
 次の楽しいこと、次のうれしいこと、わたしにとってのうれしいこと……。

「ほら、いこうぜ」

 ――なんとなく、わたしもその人のあとに続いて坂道を登った。

 まっすぐにのびる、長い、長い坂道。
 さくらの花びらは、ひらひらと舞い落ち、長い坂道を絨毯のように彩っていた。


 FIN
93狗威 ◆inui/iEQ :01/10/11 21:30 ID:MGOUz8G.
>>90-92 『Prologue』
クラナドSS一番乗りを目指して急造したSS(というかネタ)です。
しかし、残念ながらその栄誉は、母乳スレの職人さんにとられてしましました。南無〜。