4u0mZKUcO受験男の恋物語 part2

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1大学への名無しさん
前スレ http://etc4.2ch.net/test/read.cgi/kouri/1137925658/l100

停止になってしまったので建てました。また停止になったら次は大学受験サロン板
でやりましょう。
2停止:2006/03/07(火) 00:16:13 ID:Ku60k9sD0
真スレッドs(ry
3大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:16:30 ID:N1M4Wq/n0
2なら東大合格
2じゃなかったら2浪突入!
4大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:16:53 ID:R+WOd62C0
>>3
オメ
5大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:16:54 ID:qbUmm//4O
>>3
6大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:16:55 ID:Ku60k9sD0
>>3
おめ
7大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:17:42 ID:1+W7kCOd0
8大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:17:43 ID:R+WOd62C0
>>3
おめ
9大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:19:03 ID:qbUmm//4O
>>3
オメ
10大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:23:40 ID:R+WOd62C0
>>3
おめ
11大学への名無しさん:2006/03/07(火) 00:25:42 ID:iRSJwVoSO
>>3
おめ
12大学への名無しさん:2006/03/07(火) 01:04:33 ID:h63ntXgV0
わたなべはここ気づくのか?
13大学への名無しさん:2006/03/07(火) 01:10:29 ID:PzhGDn6G0
気づくことを願いましょう。
14大学への名無しさん:2006/03/07(火) 01:35:30 ID:PzhGDn6G0
とりあえず・・・、前スレが消えたので今までのワタナベさんのを
ここに載せておきましょうかね。受験が終わって、これから読む人
もいるでしょう。
あ、あとワタナベさん以外の人、つまり4u0mZKUcO受験男(板違男)
さんや169さんや“続きは3月10日〜25日に掲載予定”の方等のその後
の報告も私は個人的に期待してるのですが・・・。
15前スレから1:2006/03/07(火) 01:35:59 ID:PzhGDn6G0
出会いは予備校だった。
去年の春、浪人覚悟の国立1本勝負で見事玉砕した僕は予備校選びで迷っていた。
田舎に住んでいたので最寄の予備校までは電車で2時間以上かかったのだ。
親とよく相談した結果、隣県の都市部にある予備校の寮に入ることにした。
1年間余計なことを全く考えずに勉強漬けの生活を送るはずだった・・・
その子は高校生で、休日も毎日予備校の自習室で熱心に勉強していた。
寮の門限があるから夜まで自習室に残れないためわからなかったが、
恐らく平日も学校が終わるとその足で(平日見かける時はいつも制服だった)
予備校に来て講義を受け、講義のない日や早く終わった日は自習室が
閉まるまで勉強しているんだろうな、と僕は考えていた。
寮には自習室があったので僕はたまにしか予備校の自習室を使わなかった。
浪人生と高校生じゃ授業も別だし、その子を見かけるのは週に1度くらいだった。
もともと目立つ子じゃないし、他にも数え切れないほどの女子高生が予備校に
通っていたのだから、なぜその子だけが目に付くのか自分でもわからなかった。
クラスが一緒だった浪人生の中にも可愛い子はいたし、女子高生にだってもっと
派手な子やきれいな子が何人かいた。しかしそのうちに夕方授業が終わって
友達と食堂に行ったり、早く目が覚めた休日に予備校の自習室に行ったりすると
無意識にその子の姿を探すようになっていた。
高校が夏休みに入る頃になると休日は毎日予備校で自習するようになっていた。
その子は休日は10時頃に来るので、それから30分くらい遅れて予備校に行き、
その子のいる自習室を探して後ろの方の席を取った。そしてその子のうしろ姿を
時々眺めながら勉強をした。驚くことに、そうすることで勉強はかなりはかどった。
使っているテキストや参考書から文系で国公立志望であることはすぐわかった。
もちろん具体的にどこの大学を目指しているかはわからなかったが、どうやら少し
レベルの高い所のようだった。一橋の法、と僕は予想した。あるいは予想というか
むしろ希望に近いものだった。それは僕の志望大学だったのだ。
16前スレから2:2006/03/07(火) 02:04:09 ID:PzhGDn6G0
夏休みに入ってからはほぼ毎日自習室で顔をあわせることになった。もちろん僕は
怪しまれたりしないように3日か4日に1回は違う教室を使うように心掛けたが、
そんな気遣いは無用のようだった。彼女はいつも一心不乱に机に向かっていた。
僕は2つだけしか夏期講習を取らなかったし、それらは8月の中盤にあったので
夏休みに入って1ヶ月ほどそんな日が続いた。その子もほぼ毎日姿を見せた。
そして奇跡は夏期講習で起こった。
夏期講習で取った2講座は同じクールに行われて、1時限目と3時限目にあった。
僕はここ最近10時半に予備校に来る生活に慣れていたので初日の1時限目に
遅れてしまった。開始の5分後くらいに教室に入るともうほとんどの席が埋まって
しまっていた。僕は生まれつき軽い弱視で、遠くの席からだと板書がよく見えない
ため、授業ではいつも早めに来て前の方の席を取るようにしていた。眼鏡も持って
いたけど、重いし、目が疲れるのであまり使わないようにしていた。でも仕方ない
ので後ろの方に空いた席を見つけて座り、ふと隣の席に座っている人を見て僕は
文字通り固まった。呼吸もできなかった。心臓が普段の何倍も大きな音で血を
体内の各所に送り出していた。そう、そこにはその子が座っていたのだ。
数秒後、なんとか我に返って講義を受ける用意を始めたものの、僕の頭はひどく
混乱していた。何がなんだかわからない。落ち着け、いいかい?簡単なことだ。
隣に彼女がいる。ただそれだけ。オーケー、なんでもない。隣が違う人であっても
何も変わらない。僕は夏期講習を受けに来た。ここにいる皆がそうだ。彼女だって
そうだ。それだけなんだよ。たまたま同じ講座を取っていて、たまたま隣の席に
なっただけじゃないか。汗を拭け。前を見ろ。彼女の横でこんなにうろたえて、
変な人に思われたらどうするんだ。
17前スレから3:2006/03/07(火) 02:05:14 ID:PzhGDn6G0
なんとか体裁だけ講義を受けるよう整えたものの、手足のかすかな震えや汗が
止まるまでには数分の時間が必要だった。横目でちらちらと彼女を見たけど
その子は全く気に留めていないようだった。まるで誰かがが横に座ったことに
気付いてもいないといった風に。そう感じると幾分気持ちが落ち着いてきた。
走ってきたためにかなり汗が出ていたけど、僕は(多分)あまり汗が臭わない
方だし、着替えるときに無臭のデオドラントスプレーもかけてきたので多分
大丈夫だろう。僕は小さくため息をひとつついて顔を上げた。
講師はちょうどこれから5日間講習をどう進めるだのという話を終えたところで、
では早速最初のページから行きましょう、と黒板にむかって何か書き始めた。
眼鏡をかけなきゃ、と思った瞬間、絶望がまるで雷のように僕の体を痺れさせた。
僕の眼鏡は太い黒ぶちの枠が丸く大きくなっていて、それをかけるとくたびれた
フクロウのように見えた。お世辞にもセンスがいいとは言えない。僕は迷った。
結局眼鏡をかけるのはやめた。そしてこの眼鏡をつくった眼科医を呪った。
彼は将来僕が予備校で気になる女の子の横に座って眼鏡をかけなきゃいけなく
なることぐらい想像しなかったんだろうか?世界中の眼科医はそういう状況で
かけても恥ずかしくないと思える眼鏡しか作るべきじゃないと僕は思った。
そして身を乗り出して懸命に目を凝らしながら講師の話に耳を傾け、板書の
内容を把握することに神経を集中していった。
講義が始まって40分ぐらいたった頃、内容の半分が終わって区切りがついたため
講師は休憩ついでに、といって雑談を始めた。この講師はいつもそうするのだ。
僕は普段の10倍ぐらい疲れて、ふぅーっと大きく息を吐いた。授業に集中していて
隣にその子が座っていることを忘れてしまっていた。目をつぶって指でマッサージ
しながら眼筋の疲れをやわらげようとした。その時、肩をとんとん、と叩かれ
僕をちょっと驚いて目を開けた。その子が僕に用があるようだった。僕の頭は
再び真っ白になり、鼓動が急に早くなった。
18前スレから4:2006/03/07(火) 02:07:06 ID:PzhGDn6G0
「目が悪いんですか?」とその子は小さな声で聞いてきた。講師は雑談に夢中だし、
周りの生徒も肩を回したり、伸びをしたり、友達と小声で話をしたりしていて特に
目を引くような心配はなかった。「すごく目を凝らしてたから・・・」悪いことを
注意されて言い訳をするように、その子は弱々しくそう付け加えた。「ちょっとね、
眼鏡を忘れちゃって」と僕は嘘をついた。眼鏡はいつだってかばんに入れてある。
「あの、私のでよかったら、ノート見ていいですよ。板書はそのまま写す方だから」
といってその子は僕から見やすい位置にノートをずらしてくれた。
「あ、ありがとう。いいの?」と一瞬間をおいて僕は言った。その時講師がまた講義に
戻ったのでその子は微笑を浮かべて軽くうなずいた。笑顔を見たのは初めてだった。
その笑顔は、春の温かいそよ風のように軽く、自然で、優しかった。僕の中で何かが
溢れ、体の中を満たしていった。温かい何かが。それから講義が終わるまで、僕は
その子の横顔と手とノートをずっと眺めていた。講師の声は遠くから聞こえる車の
音のようによそよそしく、僕の意識にとどまることなくどこかへ抜けていった。
講義が終わると、僕はお礼を言った。「気にしないで下さい。それより字が下手で
読みにくかったんじゃないですか?」と彼女は言った。とんでもない、読みやすく、
綺麗な字だった、と言うと「いや、そんな」と言って少し赤くなって首を振った。
そして「それじゃ、また明日」と言いながら手を振って行ってしまった。僕は手を
振りながらもう一度お礼を言い、その子が消えた後もそのままぼーっとしていた。
3時限目の講義の間も気がつくとぼーっと朝のことを考えていた。その子の横顔を
鮮明に思い出すことができた。小さな鼻、少し上向きの唇、長くて細いまつげ、
そして額にかかるきれいな髪の毛。さらに僕はあの微笑を思い出す。温かい春の
そよ風のような、あの微笑を。僕は彼女に恋をしたんだ、とふと気がついた。
会いたい、会ってもっと話がしたい。僕は講義が終わった後、お礼に食事でも、
と言えばよかったと後悔した。
19前スレから5:2006/03/07(火) 02:09:55 ID:PzhGDn6G0
次の日の朝、僕はシャワーを浴びながら今日の講義が終わったら昨日のお礼と言って
食事に誘おうか迷っていた。昨日のお礼で今日食事に誘うなんてどう考えても変だ、
でももっと話がしたい。正直に言うと、前日の夜からずっとそのことを考えていた。
勉強の邪魔にならないようにするには食事の時間に話す以外におそらく方法はない。
よし、お礼とかどうでもいいからとにかく食事に誘おう、と最後には決心した。
いつも朝はシャワーなんて浴びないから、その日もまた遅刻しそうだった。
しかし僕は走らなかった。汗をかくわけにはいかない。結局5分遅れそうだった。
予備校についてエレベーターを待っていると、なんとあの子が走ってくるのが
見えた。僕は扉を開けたまま彼女を待ち、なるべく感じのいい笑顔を作って
おはよう、といった。その子は息を切らせながらありがとうございます、と言った。
汗が額を伝っていて(その日もとても暑かった)彼女はそれを恥ずかしがってか
うつむいて黙ってしまった。顔には走ったことで頬にほてりがまだ残っていた。
僕は食事のことを言おうと思ったが、言い出せずに教室についてしまった。
やっぱり席はほとんど埋まっていたけど、前の方にもひとつだけ空いてる席があり、
扉の所で二人で席を探しているとその子が見つけて教えてくれた。僕は二人で
座れる席を探したけどなかったし、しょうがなくそこに座ることにした。でも
講義には全然集中できなかった。その子がどこにいて何をしているのか気になる。
もちろん黒板を見ているんだろうが、僕のことを見ている可能性はないだろうか。
もしかすると僕が自習室でそうしたように、後姿を見ていたくて前の方の席を
僕に勧めたんじゃないだろうか。ふう、まったく。そんなわけはないじゃないか。
恋をすると人はこんな馬鹿な考え方をするようになるのか、と僕は思った。
講義が終わるとすぐ、僕は後ろを見回した。その子は僕と目が合うとちょっと
微笑んで手を振った。僕もそれに合わせて手を振った。そしてその子は教室を
出て行ってしまった。次の日も言えなかった。考えてみればしょうがないことだ。
20前スレから6:2006/03/07(火) 02:11:32 ID:PzhGDn6G0
僕はそれまで女の子と付き合ったことはおろか、まともに話をしたこともなかった。
小中と1学年に1クラスしかないような田舎の学校だったし、高校は私立の男子校
に通った。小学校から一緒の女の子には一度、「外見も性格も悪くないけど、別に
良くもないのよね」と言われたことがある。まあそうなんだろう、と思っていた。
女の子と付き合う機会がなかったとかそういうんじゃなくて、なんというか、
そういった考え方自体が起きなかった。それは自分とは別の世界の事、といった
感じだ。僕の世界は村上春樹の小説や紅茶のアールグレイ、そしてパソコンが
あれば用は済んだ。もちろんオナニーはしたけど特別セックスがしたいとは
思わなかった。大学に入れば彼女だってできる、と思っていたのかもしれない。
でもその時はこれまでになく強く、一人の女を僕は求めていた。なんとしても
彼女を食事に誘わなくてはいけない、と僕は感じた。失敗してもいい、誘うこと
自体が僕を、それまでの僕から進化させてくれるような気がした。進化というか、
僕がそれまで「自分の世界」としてみなしていなかったものに光をあてることが
できる、つまり「自分」という領域を広げれるような、そんな気がしていた。
次の日の講義が終わったあと、僕は彼女の方へ歩いていき、不思議そうな顔を
する彼女に、もし今日の昼食を誰かと食べる予定がなかったら一緒にどうか、
と聞いた。彼女は最初少し驚いた顔をし、そしてとても申し訳なさそうな顔に
変わった。顔の表情だけでよくこんなに感情を伝えられるな、と僕は思った。
「お昼は友達と約束してるんですけど・・・」と彼女は言った。
21前スレから7:2006/03/07(火) 02:13:50 ID:PzhGDn6G0
僕はもちろんショックだったけど、予想はしていたし、もう混乱することも
なかった。緊張で足が震えたし、変な汗が首筋を伝ってシャツの中に入っていた。
心臓は機関銃のように爆音でかなり速いビートを刻んでいたし、知らずに手に
すごく力を入れて握っていた。僕は小さく息を吐いてこぶしを崩し、体勢を立て
直して「じゃあ明日はだめ?」と聞いてみた。彼女の表情を見ているだけでその
返事はわかった。彼女はさらに申し訳なさそうな顔になり、小さく首を振った。
「いつも一緒に食べてるんです。同じ高校の子で、同じ大学目指してるんです。
そんなこと関係ないか。うーん、あの、すみません。いや、もしかしたら、
というかもしよかったら、えーっと、あの、毎日自習室来てましたよね?」
僕はかなり驚いて言葉が出なかった。「あ、すみません。私なんか覚えてません
よね。よく自習室同じだったんですよ。」「や、それはもちろん、もちろん?
知ってるけど・・・え、え?知ってたの?」
「私のこと、覚えててくれたんですか?よかった、だってまさか同じ講習
だなんて思ってなかったから、本当に最初はすごいびっくりしましたよ。」
「ねぇ、ちょっと待って、君はよく僕と同じ教室で自習していることに
気付いていたの?僕が毎日わざわざ君のいる教室を選んでいたことを?」
「え?」と言って彼女が言葉につまり、僕の言ったことを理解しようと
考えるような表情をするのを見て、僕は自分の犯した決定的な過ちに気付いた。
やれやれ、これでストーカーと思われるの決定だ。
たぶん1分かそこらだと思う、彼女は僕の言ったことについて考えていた。
そして確かめるような表情で、「私のいる教室を選んでたんですか?」と
これまた自分の言っていることを確かめるようにゆっくりとしゃべりながら
僕の言ったことを確かめた。僕はもう取り返しはつかないし、と開き直る
しかないようだった。どうやらもうごまかすことはできそうにないし、
もともと諦めはいい方だった。
22前スレから8:2006/03/07(火) 02:17:04 ID:PzhGDn6G0
小さなため息をついてから僕は言った。「そうだよ。偶然一緒の教室だった
んじゃない。僕が選んだんだ。そうじゃなきゃあんなに毎日一緒になるわけ
ないだろう?」彼女は納得するように、感心するように何度かうなずいた。
不思議とその表情には僕に対する嫌悪感のようなものは見られなかった。
彼女が僕に嫌悪感を抱いていたら、恐らく今までのようにすぐにそれとわかる
だろう。ということは、僕は嫌われていないのか。なぜ?
彼女はひとしきり何か考えるように目を閉じていた後、口早に言った。
「私は偶然っていうか運命みたいなものだと思ってたんです。でもそれなら
この講習終わっても私が自習室来るんならあなたも来てくれますね?そしたら
友達は来週から家族で旅行行くらしいんで、その時お昼一緒に食べませんか?
もし来週はだめならいいんですけど、また明日講習終わったらいいかどうか
教えてくれますか?・・・うん、それじゃ」彼女は手を振りながら行って
しまった。僕はしばらく動けなかった。運命?
わけがわからなかった。今までこれほどまでに頭が混乱したことはなかった。
僕は講習どころじゃないと思ってそのまま寮に帰った。寮の友達は顔色が悪い
みたいだから医者に行ってきたらどうだと言って心配してくれたが、僕はただの
寝不足だから今から寝ると言って部屋にこもった。夕飯の時間を過ぎた頃に
寮長から電話がかかってきたが、数十秒鳴って止まると、それ以来電話は鳴ら
なかった。どうやらさっきの友達が具合が悪くて寝ているらしいと言ってくれた
ようだった。僕は心底その友達に感謝した。
23前スレから9:2006/03/07(火) 02:19:19 ID:PzhGDn6G0
あたりは静寂に包まれているように感じられた。もちろん本当は他の部屋から
しゃべり声が聞こえたりするし、蝉たちはまるで一番大きな鳴き声を出した
ものにはハワイ旅行があたる大会の参加者たちのように競い合って泣いていた。
しかし僕の耳には沈黙しか聞こえなかった。僕はベッドに寝転んで混乱した
頭を軽く叩きながらさっきの会話を思い出しながら彼女の口にした言葉の
正確な解釈を探った。大切で、簡単で、明確なことから順番に、正確に。
まず第一に、彼女は来週昼飯を一緒に食べようと誘ってくれた。いや、
誘ったのは僕の方だから、来週ならいいのだけれど、と取るべきなのだろう。
とにかく大切なことは彼女は僕と一緒に食事をすることを、まあ少なくとも
嫌がってはいない、ということだ。しかもわざわざ友達のいない日を提示した
わけだから、二人で食事をすることに積極的なのだ。これはかなり風向きが
いいんではないだろうか。
次に、彼女は僕とよく自習室で一緒になったことに気付いていた。それを、
「運命」と思っていた。それは「運命の恋人・・・」というように続く類の
「運命」なのだろうか。そうだとしたらかなり喜んでいいのではないか?
それとも、何か彼女なりに別のニュアンスを表現したかったのだが、たまたま
出てきてしまった言葉が「運命」なのだろうか。そうだとしたら、本当に
言いたかった言葉は?
表情は決して怒っていたり引いていたりはしないようだった。それとも彼女の
顔に浮かんでいるわかりやすい表情は意思によって制御されたもので、さっきは
そんな負の感情を表に出さないようにしていたとも考えられそうだ。でもなぜ?
そんなことをしなきゃいけない理由は見当たらないし、むしろストーカーに
対して嫌な顔をしなければそいつは勘違いするんじゃないか?自分は拒否されて
いないんだと。
24前スレから10:2006/03/07(火) 02:21:17 ID:PzhGDn6G0
僕はその時とても切実に彼女の本当の気持ちを知りたいと思っていた。誰か
他人に対してそんな感情を抱いたのは初めてのことだった。僕は懸命に彼女の
言葉や動作ひとつひとつから示唆を読み取ろうとした。いくつもの仮説を
たて、それらの反証を探した。いくつかは明確な根拠を持って否定できたが、
ほとんどはあり得ることのように思えた。でもとにかく明日はもちろん
来週でもオーケーだと言おう。それ以外のことはまた考えればいい。
なんだかいろいろと見逃していることがあるような気がしたけど、まだ9時
前だというのにひどく眠くなって僕はそのまま寝てしまった。そして次に
目が覚めた時には時計は10時過ぎを指していた。パジャマに着替えなきゃ、
と思って起き上がると妙なことに気がついた。明るすぎる。僕は状況を理解
するのに何秒かかかった。
突然何かひらめいて携帯を見ると、日付は1日進んでいた。全身の血がまるで
大きな栓を抜いたみたいにどこかへ吸い込まれて消えていく気がした。たしか
彼女は今日の講習が終わったら返事をしてくれと言っていた。それなのに僕が
こなかったら最上級に失礼なやり方で断られたと解釈してしまうかも知れない。
顔を洗って歯を磨き、着替えて髪を直すと荷物も持たずに予備校へ走った。
予備校に着いたのは1時限目の終わる少し前、10時45分ぐらいだった。
教室のドアを開けると(思ったより勢いよく開いてしまい、何人か振り返った
ので少し恥ずかしかった)講師は一瞬あきれたような顔で僕を見て、また最後の
雑談に戻っていった。その子は手をひざに置いてノートも開かず、うつむいて
机の上の一点を見つめているようだった。まるでそこにとても重要な予言が
書かれているかのように。
隣の席が空いていたので僕はそこに座った。そこに行く途中にも何人かが僕の
顔を覗き込んだ。僕はその目には気付かない、という顔をして席に着いた。
そして終業のベルが鳴るまでとにかく座っていた。座る以外にやったことと
いえば呼吸くらいだった。何を言えばいいのか、何をすればいいのか、全く
もって思いつかなかった。顔を上げて何か言ってくれるのを待つしかなかった。
しかしなぜこの子はうつむいたまま動かないんだろう、と僕は考えていた。
25前スレから11:2006/03/07(火) 02:22:35 ID:PzhGDn6G0
僕がいなかったから、それはわかる。それ以外の理由だったらそれは僕の
守備範囲外で僕には関係のない話だ。その可能性ついて考える必要はない。
問題は、僕がこなかったせいで、なんで彼女がこんな風にうちのめされなきゃ
いけないか、ということだった。(僕にはそのときの彼女の様子をこれ以外の
言葉で表現できないし、後で聞いた所その表現はまあ的を得ていた)
ベルが鳴って講義が終わり、生徒があらかた出て行って教室がしんとすると、
彼女はその姿勢のままとても小さな声でしゃべり始めた。「どうしてこんな
遅かったんですか?」「寝ていたんだ。昨日ふっと寝ちゃって、目覚ましとか
かけたりするの忘れてたんだよ。」と僕はなぜか彼女に合わせて小さな声で
答えた。「昨日私が言ったこと覚えてますか?」「もちろん、覚えてる。昨日は
そのことしか考えてなかった。」「・・・そのことを考えていて、ふっと
寝ちゃったんですね?」僕は返事に困った。なぜそんな意地悪な質問をするんだ?
意味もないし、何も前に進まない。後退さえしない。「ねえ、遅れたことは
本当に悪かったよ。けどさ、僕は君と食事をしてゆっくり話がしたいって言う
ためだけに来たんだ。その話をしようよ。」
また彼女は黙ってしまった。後になってだんだんわかっていくことだけど、
この子は心に負担のかかることがあるとこんな風になる。この日も僕の返事が、
というか前日自分が言ったことについて僕がどんな風に考えてるのか気になって
しょうがなくて、それが僕が全然来ないもんだから、どんどん悪い方へ考えて
塞ぎこんでしまったらしかった。彼女は消え入るような小さい声でゆっくりと
待っている間自分がどんな気持ちだったのかを僕に話した。彼女が語り終える
までには30分以上かかった。言いたいことを全部言ったのか彼女は顔を上げて
向こうの窓の方を向いた。窓に反射してぼんやりと顔が見えたが、そこには
いつものような表現力豊かな表情はなかった。僕は悲しくなった。彼女の気持ちに
同情するとかじゃなくて、単純に悲しかった。そして彼女の表情を奪った僕の
くだらない失敗を憎んだ。僕は彼女を抱きしめた。
26前スレから12:2006/03/07(火) 02:26:41 ID:PzhGDn6G0
彼女は一瞬驚いたようだが、何も言わずに自分の胸の上にまわされた僕の
腕に触れた。彼女の体はとても細く、繊細なガラス細工のように壊れやすい
ように思えた。胸には薄手のシャツを通して下着の感触が感じられ、それは
想像してたより少し硬くゴワゴワしていた。そして心臓の動きにあわせて
彼女自身が伸縮してるんじゃないかと思えるくらい体全体からはっきりと
鼓動が感じられた。教室にはもう人がいなかったし、僕は何分かそのまま
抱きしめていた。次第に体の触れている部分は熱を持ったよう熱く蒸れ、
脇の下から汗が伝い落ちるのが感じられた。僕は首筋にそっと鼻を近づけ、
静かに深く息を吸い込んだ。すこし湿った温かい空気が肺を満たし、その
ほのかな甘い香りが僕の頭をぼおっとさせた。何も考えることができなかった。
とても自然に耳元で「君のことが好きなんだ」と囁いた。
僕は言いながら自分でも信じられなかった。こんなに自然にこんな言葉が
言えるなんて。だいたいが外は35℃以上ある真夏の昼前に、予備校の
教室で女の子を抱きしめているなんてこと自体ありえないことだった。
電車や車の走る音、蝉の声、エアコンの音などが響く中で、物音ひとつ
たてずにじっと抱き合っている僕らはまるで間違った場所にいる間違った
存在のようにひどく非現実的だった。やがて彼女は僕の体にあずけていた
重心を起こし、それにあわせて僕は腕をほどいた。こちらを向いて座り
なおした顔にはかすかにあの微笑が戻ってるようだった。僕はほっとして
体中の力が抜けた。あちこちの筋肉が痺れ、僕はとても緊張していたことに
気がついた。「お昼食べに行きませんか?」と彼女は言った。汗を含んだ
シャツの上にかかるエアコンの風が妙にひんやりと感じられた。
27前スレから13:2006/03/07(火) 02:27:51 ID:PzhGDn6G0
昨日友達に僕のことを話したら私のことはいいから二人で食べに行って
きなよ、と言ってくれたんだと説明してくれた。そこで僕は予備校から
歩いて10分くらいで行ける駅の裏のイタリア料理店に連れて行った。
安くはないけどうまくて量の多いパスタを出す店としてサラリーマン
とかに評判の店だった。僕は同じクラスで少し仲良くなった地元の子と
何度か来たことがあって気に入っていた。勤め人の昼休みにはまだ少し
時間があったので店はあまり混雑してなかった。女の子とふたりでどんな
ところに食事に行けばいいのか全然わからなかったけど、まあイタリアンなら
間違いはないだろうと思ってそこにした。それにそこなら予備校生は来ない。
予備校生は普通、駅前の500円で昼を済ませられる店に行くのだ。
食事中僕らはあまり会話をしなかった。僕は何を話せばいいのか
わからなかったし、彼女は自分の顔より大きな皿に山盛りになって
出てきたパスタをなんとかたいらげようと必死になっているよう
だった。結局彼女はパスタを半分くらい残した。女の子には量が
多すぎたんだ、と僕はその店を選んだことを後悔した。勘定は初め僕が全部
支払ったが、(2800円くらいだった。安くはない)いいと言うのに彼女は
半分支払うと言って聞かなかった。しかたなく僕は1000円だけもらう
ことにした。彼女はこれから自習室に行くと言ったので一緒に自習することにした。
3時限目に講習があることはまったく頭になかった。教室についてから僕は自分が
何も持っていないことに気がついた。そこで席を取っておいてもらってひとりで
寮へと勉強道具を取りに帰った。
自習室に戻ると彼女はもう熱心に勉強を始めていた。僕が席につくとちょっと
顔を上げて微笑み、またノートへと視線を戻してしまった。僕も勉強しようと
問題集とノートを広げたが、まったくやる気がおきなかった。がんばってる
彼女の横でぼーっとしているのは悪い気がしたので一応問題を解いてるふりを
していたはずだが、ノートには全くやった形跡が残ってなかったし、7時頃に
夕飯の時間で寮に帰らなきゃと思い出すまでの記憶はほとんど残っていなかった。
僕がそう言って席を立つと彼女はちょっと待って、とあわてて荷物を片付けた。
28前スレから14:2006/03/07(火) 02:28:44 ID:PzhGDn6G0
僕は駅まで彼女を送っていった。やっぱりあまり話はしなかった。駅につくと
彼女はすこし迷ったような顔をして一瞬立ち止まったが、「今日はありがとう
ございました。それじゃ、えっと、また」と言って手を振って言ってしまった。
僕は何か言わなきゃいけない気がしたけど、結局何も言えずに手を振って送った。
寮に帰って夕飯の席についたが、全然食欲もなくてほとんど食べずに部屋に
帰った。そんな僕の様子を気にかけて、同じ階の友達が二人で部屋に遊びに
来てくれた。僕は彼らにあわせて楽しそうに振る舞い、馬鹿な話に手を叩き、
声を上げて笑った。自分の笑い声じゃないような気がした。しばらく馬鹿な
話(ほとんどが寮長の悪口だった)をしていると、友達のひとりが突然、
「そういえばお前、毎日塾の自習室でやってんだってのな、なんで?」
と聞いてきた。もうひとりも「そうそう、なんで?」と口をそろえる。
僕はドキッとしたが「や、なんか塾の方が集中できるんだよ。」と言うと
「ふーんそんなもん?俺も塾行ってやろっかな。」「お前はどこ行っても
どーせやんねーから一緒だって。」と深入りされずにすんだのでホッとした。
1時間ほどして彼らが帰ると、ベッドに横になってその日のことを考えた。
彼女はどんな風に思っているんだ、という疑問がずっと頭の中で繰り返された。
昼間僕は彼女を抱きしめ、好きだとまで言ったのにそのことについて彼女は
何も言わなかった。特に何も感じていないんだろうか。いやそんなことはない
はずだ。僕が講習に遅れただけであんなにも精神的に追い込まれてしまうような
子が何も感じていないはずがない。そもそも僕が来なかったことで彼女は何を
そう辛い思いをしなきゃいけなかったんだ?・・・僕が彼女のことを想う様に
彼女も僕のことを好きでいてくれているんじゃないだろうか。そう考えると
急に鼓動が速くなった。可能性。彼女が僕のことを好きだという可能性について
考えてみると、いろいろな疑問が解けるような気がした。しかし僕はそれを
強く信じることができなかった。だいたい僕のことを好きになってくれる子が
この世に存在すること自体が疑わしい。もしいたとしてもそれがたまたま好きに
なったあの子だなんてどうして信じられただろうか。
29前スレから15:2006/03/07(火) 02:30:27 ID:PzhGDn6G0
同じようなことをぐるぐると考えているうちにそのままだんだん頭が回らなく
なってきたように感じたので寝ることにした。次の日起きたのは9時過ぎだった。
一瞬僕は焦ったが、荷物を用意しているうちに講習がもうないんだと気がついた。
そこでゆっくりと朝ごはんを食べ、講習の始まる前と同じように10時半頃に
予備校へ行った。しかし彼女の姿はどこにも見当たらなかった。講習があるのかも
知れないと思って全部の教室を覗いてみたが、影も形もなかった。僕は不安に
なった。しかしいつまでも教室を覗きまわっているわけにも行かないので適当に
自習室選んで入ったが、勉強には全く手につかなかった。彼女は僕に会いたくない
から来ないんだろうか。そんな考えが胸をよぎるたびにきりきりと胸が締め付けられた。
しまいには吐き気がしてきたので、昼過ぎに寮に帰った。帰る前にも全部の教室を
見て回ったが、未だかつてそこには彼女が存在したことがないかのように彼女の
姿はなかった。実は彼女の存在なんてはじめからなくて、僕の妄想が作り上げた
幻想なんじゃないかとすら感じた。
寮の部屋についてもどうしようもなかった。予備校のテキストを開いてみても、
びっしりと並んだ字を眺めているだけで目が回ったように気持ちの悪さが増した。
しょうがなくテキストを放り投げてベッドに寝転ぶと、自分が致命的なミスを
犯していたことに気がついた。僕は彼女に携帯の番号かアドレスを尋ねるべき
だったのだ。そうすれば彼女がどうして予備校に来ないのか聞けるし、そもそも
好きな子にアプローチする方法としては、まず携帯の番号を聞くというのが王道
のような気がした。いきなり食事に誘うなんて乱暴すぎたんじゃないだろうか。
僕はそれまでそんなことを思ったことはなかったけど、女の子と仲良くなる方法
を自分が全く知らないことをとても悔しく思った。知らない男に話しかけられて
携帯の番号を教えてくださいと言われるならまだわかるけど、食事に誘われたら
女の子は引いてしまうんじゃないだろうか。いや待てよ、彼女は断らなかった。
ということは?
30前スレから16:2006/03/07(火) 02:31:35 ID:PzhGDn6G0
可能性。またあの可能性が頭に浮かんできた。それに僕は彼女にとって、少なく
とも「知らない男」ではない。彼女は僕が毎日同じ自習室にいたことを知っていた。
また鼓動が速くなる。自習室でよく目にする男と偶然夏期講習で一緒になり、突然
食事に誘われる。それを受けた彼女はその時どう考えたんだろう。突然また別の
可能性が頭に浮かぶ。それとともに背筋に悪寒が走る。彼女が気の小さい性格で、
僕の突然の誘いを断ることができずに嫌々受けたという可能性。すると彼女が
食事中にほとんどしゃべらなかったことや、予備校に来ていないことにも簡単に
説明がつくんじゃないだろうか。僕は深い不安の中に突き落とされた。呼吸すら
困難に感じた。やはり最初から食事になんか誘うべきではなかったんだ。もし
それまで僕のことを悪く思っていなかったとする。あるいは好意と言っていい
感情を持っていた可能性もある。しかし突然食事に誘ったことで全ては終わって
しまったんだ。僕は悔しさと絶望で涙を流した。泣いたのは久しぶりだった。
ひとしきり泣いた後、ベッドの上に座りなおしてしばらくぼーっとしていた。
心の中にあったものが涙と一緒に全部流れ落ちてしまったように感じられた。
窓から差し込むまぶしい西日が背中を温め、壁に長い影を作っていた。しかし
それは自分の影じゃないように思えた。自分の体も自分のものじゃないように
感覚がひどくよそよそしかった。いっそこのまま心だけ肉体を離れ、ふわふわと
空を舞ってあの子のもとへと飛んでいきたいな、と思った。僕は庭に植えてある
木の枝に腰掛け、窓から部屋にいる彼女を眺めるのだ。彼女が本を読み、食事を
して風呂に入り、ベッドで横になって寝付くまでの間じっと息を殺して見守る。
そして彼女が完全に眠ったことを確認すると、そっと窓を通り抜けて眠っている
彼女の横に立ち、月明かりが青白く照らす横顔を見る。僕は彼女のほほに優しく
手を触れる。それからつやのある細い髪に触れる。彼女はくすぐったそうに
少し体を動かすが、また規則正しい静かな寝息をたてる。
31前スレから17:2006/03/07(火) 02:32:37 ID:PzhGDn6G0
突然僕は彼女の目を覚まさせたく思う。彼女を起こして今自分がここにいることを
教えたい。僕は彼女の肩をつかんで揺さぶる。起きて、と音にならない声で言う。
彼女は眠たそうに目を開ける。何事かと部屋を見渡す。しかし彼女の目に僕の姿は
映らない。こんなにもすぐ目の前にいるのに、彼女は僕のことを見ていないんだ、
と僕は思う。とても寂しくなる。僕はここにいるよ、と力の限りに叫ぶ。しかし
僕の言葉は空気を震わせることができずに彼女の耳に届かない。やがて彼女は少し
不思議そうな顔をして、また安らかな眠りに入る。その寝顔はかすかに、しかし
とても幸福そうな微笑みに包まれている。彼女は僕のことが見えなくてもこんなに
幸せそうな笑顔をしているんだ、と僕は思う。また涙が流れる。涙はほほを伝って
あごまで行くと、そこで少し迷ったように止まってから意を決して床に降り立つ。
涙はとても大きな音を立てて床に落ちた。僕はその音に驚いて顔を上げる。しかし
そこは自分の寮の部屋だった。太陽はすでにそのかすかな残照を遠く見える山の
端に置いて姿を隠し、辺りはすっかり暗くなっていた。
自分が気付かないうちに眠ってしまったんだとわかるまでに数秒かかった。あれは
夢だったんだ、と気付くと少しほっとしたが、夢の中で見た彼女の不気味なまでに
美しい寝顔はいつまでも頭の中に残っていた。廊下から話し声が聞こえ、それと
ともにおいしそうな匂いがやってきた。僕はひどくお腹がすいていた。トイレで
顔を洗って食堂に降りていくと、もう数人が食事を始めていた。僕は猛烈な勢いで
ご飯をかきこみ、3杯もおかわりした。お腹がいっぱいになると部屋に戻って机に
向かった。何故か気持ちがすっきりしていた。それから夜中まで集中して勉強した
ので、2日間まったく勉強が手につかなかったせいで遅れていた計画を半分以上
取り戻すことができた。前期の古文の復習を終え、充実した気持ちでベッドに
入った。昼間寝たせいで頭がひどく冴えていたが、目を閉じて眠ることに集中して
いると、そのうちに深い深い眠りがやってきた。今度は夢をみることもなかった。
翌朝は10時ごろまで寝ていた。起きて窓の外を見ると、空は暗い灰色の雲に覆われ、
目に見えないほどの雨も降っている様だった。
32前スレから18:2006/03/07(火) 02:33:36 ID:PzhGDn6G0
僕は少し迷ったけどやっぱり予備校へ行くことにした。傘はいいような気もしたが、
一応差していった。着いたのは11時前で、また自習室を全部見て回ったけど彼女は
いなかった。今度は全部の教室を見て回ったりはしなかった。売店でペットボトルの
お茶を買ってから一番空いていた自習室に行こうとエレベーターを待っていると、
後から肩を叩かれた。振り返ってみるとそこには彼女がいた。僕は一瞬また夢なんじゃ
ないかとさえ思ったが、どう考えも夢であるはずがなかった。「おはようございます」
と彼女は笑顔で言った。髪や服は少しだけ濡れていた。僕は「お、おはよう」と言った
ものの、その声はなんだか録音した声を聞いているみたいに不自然な響き方をした。
エレベーターに入ってボタンを押した後、僕は彼女にどこの階へ行くのか尋ねようかと
思ったが、彼女はそんなこと全く気にならないようにハンカチで服やかばんを拭いて
いたのでやめた。6階について僕が降りると彼女も当然のように一緒に降り、一緒に
自習室に入ったので僕はなんだか嬉しくなった。
しかしいざ隣に座るとドキドキして少し居心地が悪かった。いつもは後から眺めるだけ
だったあの子が隣に座っていると考えるとなんだか不思議な気がした。僕らは無言で
ひたすらに勉強した。僕は時々横目で彼女を覗き込むこまなければいけなかったことを
除くけばそこそこ集中して勉強できたし、彼女はいつものように脇目も振らず問題集に
没頭していた。彼女は勉強に熱中すると少し目を近づけすぎる嫌いがあった。首を前に
曲げるため前髪が時々耳から落ちて目にかかり、それをいちいち手で掻き上げるのだが、
そのたびに僕はドキッとしてしまう。それだけじゃないのだが、彼女の仕草はなにか
不思議な力をもって人を惹きつけるものがあるようだった。少なくとも僕は月が地球の
重力から逃れることができずにただ周りを回っているようにその力から逃れることが
できないのだった。いや、逃れる気なんてさらさらなかったのかもしれない。まさに
僕は月のようだった。常に彼女のそばにいたいのだけれど、そうはいかない。離れた
ところで距離を保って彼女を見つめることしかできない臆病な月。
33前スレから19:2006/03/07(火) 02:34:13 ID:PzhGDn6G0
1時過ぎに彼女は昼ごはんを食べに行こうと誘ってくれた。どこか行くかと訪ねると
弁当を持ってきたと言ったので僕もコンビニでサンドイッチとサラダを買って近くの
公園に行き、屋根のついているベンチに座って二人で食べた。今度は前より少し会話が
弾むようになった。そこで僕は初めて彼女の名前を知った。驚くことに僕はそれまで
彼女の名前を知らなかったどころか、知らないことに気付きもしなかったのだ。彼女の
名前はユキといった。市内にある私立の女子高に電車で通っていて、自宅から高校まで
通う乗換駅がちょうど予備校のある駅だと教えてくれた。高校の駅も教えてくれたが
それは僕の知らない駅だった。(そもそも僕は予備校のある駅と模試で行ったことの
ある駅にしか知らなかった。)それから彼女は僕のことを聞いてきた。僕は自分の話を
したが、話をしていて自分はなんとつまらない人生を送ってきたんだろうと思った。
僕の人生は悲劇でもなければ喜劇でもなかった。驚くところも、感動するところも、
悲しむところもなく、笑えるところさえなかった。
何分か話したと思うが、結局ユキが僕について知ったことと言えば僕が平凡な環境で
育った平凡な少年だということだけだったろう。親は田舎の小さな町で小さな書店を
開いていて、特別金持ちでも貧乏でもなく、僕と3つ下の弟は地元にある小学校と
中学校を卒業したら隣町にある県下では上の下といったレベルの私立男子校に通い、
僕は一応特別進学クラスという名のついている国公立大学進学を目指すクラスに入り、
3年間クラスのトップ3にはいたものの浪人し、今に至る。うまくまとめれば1分も
かからずにすむ身の上話だった。しかしユキは熱心に耳を傾け、時々質問しながら
僕の話を聞いてくれた。「スポーツとかやってなかったんですか?」とユキは聞いた。
「中学校のときは部活みたいな感じでいくつかやったけど、何しろ全校で100人
ほどしかいないような学校だからね。全然弱いし、夏は野球で冬はサッカーみたいに
なってて、まあ遊びみたいなもんだよ。」と僕が言うとよく理解できないような顔を
していた。それはそうだ。都会の人間には1学年に1クラスしかないような田舎の
中学のことなんて想像すらできないものなのだ。
34前スレから20:2006/03/07(火) 02:35:16 ID:PzhGDn6G0
雨は上がっていたものの、まだ空はどんよりとした雲に覆われていた。ベンチには
屋根がついていたから濡れてはいなかったけど、空気は水分を含んで、肌寒くすら
感じた。「今日は涼しくて気持ちいいですね。もう夏は終わっちゃったのかな。」
と小さな弁当箱を片付けながらユキは言った。「夏が好きなの?」と僕が聞くと、
「うーん、夏っていうか、夏休みが終わっちゃうのが寂しいなって思って。」と
言った。そういえば8月が終わるまであと1週間ほどだし、9月になるとユキは
学校があるので毎日自習室で会うこともできなくなるな、と僕は思った。ユキは
何か考え事でもしているように無言で中を見つめていた。ユキはそのことについて
どんな風に思っているのか聞きたくてしょうがなかったが、あいにく僕にはそんな
勇気はなかった。離れることも近づくこともできずに同じ距離を保ってぐるぐると
地球の周りを回る月。それが僕なんだ、とまた思った。ふと気がついたように
「そろそろ戻りましょうか」とユキが言って、僕らはまた予備校に戻った。ふたりで
歩いていても僕らの間には微妙な距離があった。
戻ってからはまた勉強に集中した。7時頃僕が帰らなきゃいけなくなるまで一言も
しゃべらずにシャープペンシルを走らせた。ユキは3時頃1度トイレに立った以外は
ほとんど姿勢も変えずにやっていたので、僕も休憩したりすることもできずただ
ひたすらテキストをこなしていた。おかげで世界史の復習が1日で半分ほど終わった。
エレベーターで1階に下りると、外はもう真っ暗でまた雨が降っていた。ユキは傘を
持っていなかった。「けっこう強いですね」と手を雨に当てながらユキはつぶやいた。
僕は自分の傘を握り締めながらなんと言えばいいのか迷っていた。一緒に傘に入って
いかないか、と誘ったらユキはなんと思うだろう。僕が迷っている間ずっとユキは何も
言わずに手を前に突き出したまま手が雨に濡れるのにまかせていた。僕はよし、と心の
中で一声かけてから思い切って「入っていきなよ」と言った。それだけ言うのが精一杯
だった。ユキはうれしそうな顔で僕の方を見た。僕は照れくさくてとても顔をあわせる
ことなんてできなかった。
35前スレから21:2006/03/07(火) 02:36:02 ID:PzhGDn6G0
僕が傘を広げると「ありがとうございます」と言ってユキが横に並んだ。僕は純粋に
彼女のことを思ってだが、「そんなに離れてちゃ向こうの肩が濡れちゃうよ。もっと
こっちの方へおいで。」と言った。言ってから自分がなんと言ったのか理解できた。
恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。ユキは少しの間躊躇していたが、僕の方へ
近寄ってきた。二人は寄り添って歩いた。僕はユキが濡れないように彼女の背中で
傘を差したので、体に腕を回すような格好になった。おかげで彼女から遠いほうの
腕に雨が当たったが、全然気にならなかった。僕は喜びと緊張と恥ずかしさが複雑に
絡み合うとらえどころのない感情に酔っていた。周りから見たら仲の良い恋人同士に
見えるかも知れないな、と思って辺りを見回してみても、通りを行く人々は僕らの
ことなんてまるで気にならないようだった。僕はほっとしたような少し残念なような
よくわからない気持ちになった。ユキは駅に着くまで下を向いたまま何も言わずに
ただ歩いていた。
改札の前まで来ると僕らは立ち止まり、並んで立ったまましばらくそのままでいた。
ユキはあいかわらず下を向いて一言もしゃべらなかったし、僕は周りの早足で歩く
人々を見るともなしに見ていた。歩いている間、僕はあることを彼女に尋ねなければ
いけないと決めていた。携帯の番号だ。でもどうやって聞けば良いのか全く見当も
つかなかった。やがて彼女はふと気付いたように顔を上げ、僕の方を見た。そして
「あの、ありがとうございました。えーっと、・・・それじゃ、また」と言って頭を
下げると行ってしまいそうになった。僕はまだ考えがまとまっていなかったけど、
「待って!」と呼び止めた。とっさの事だったのでかなり大声を出してしまった。
何人かの通行人が振り返ったが、また早足で歩き出した。ユキは驚いたのか目を丸く
して僕を見つめていた。心臓が高鳴り、胸が苦しかった。全身の血が集まったように
顔が熱く火照り、きーんという耳鳴りが脳を刺した。地面が突然安定感をなくし、
固い蜂蜜の上にいるように体がふらふらとしているように感じた。僕はありったけの
力を振り絞って足の震えを殺し、手を握り締めて声を出した。
36前スレから22:2006/03/07(火) 02:36:51 ID:PzhGDn6G0
「あ、あのさ、もしよかったら、その、け、携帯の番号を教えてくれないかな?」
ユキは「えっ?」と言ったきりまた下を向いて黙ってしまった。彼女がそんな風に
感じ何を考えているのか、その表情からは全く判断できなかった。というより僕は
そのとき何も考えることができなかった。「あ、もちろんだめならいいんだけど」
と僕は付け加えた。彼女は驚いたように顔を上げ、首を振って「や、そんなこと、
だめなんかじゃ全然ありません。なんていうか、その嬉しいです。どうぞ。」と
携帯を渡してくれた。僕は一瞬呆然としたが、慌てて自分の携帯を取り出そうと
ポケットに手を突っ込んだけど指にうまく力が入らなくて携帯を落としてしまった。
拾って開いてみたものの、操作がうまくできなかった。二人ともドコモだったので
赤外線で番号を交換できたのだが、それだけのことをするのに何回も失敗して結局
5分くらいかかってしまった。ありがとう、と言って携帯を返すとユキはちょっと
微笑んですぐ走って行ってしまった。僕は何も考えられずにしばらく彼女の消えて
いった空間を見つめていた。
全身から力が抜けていった。そのまま体が宙に浮いてしまうんじゃないかとすら
思えた。心臓は相変わらず暴力的なまでに激しい鼓動を繰り返していたが、思考は
徐々にもどってきた。それとともに嬉しさが全身に膨らんできた。大声を出しながら
跳びあがって喜びたかった。ふわふわとする体の感覚をどうすることもできないまま
寮に帰った。雨に濡れた右腕に当たる風が冷たくて気持ちよかった。部屋に戻って
体を拭いてから着替えると、また新しい困難にぶち当たったことに気がついた。
番号を交換したんだから、電話かメールをするべきじゃないだろうか。電話だと
うまくしゃべる自信がなかったので当然メールを送ることになるのだが、それまで
女の子にメールを送ったことなんかなかったのでなんと打って送ればいいのか想像も
つかなかった。食事中もずっと考えていたのだが全く思い浮かばなかった。そうこう
しているうちにあれから1時間以上たっていた。あんまり遅くなるとよくない気が
したが、といってなんと言えばよいのだろうか。
37前スレから23:2006/03/07(火) 02:37:33 ID:PzhGDn6G0
さんざん迷った挙句、ある名案が浮かんだ。高校の時仲の良かった友達のひとりに
女友達の多い、いわゆる「モテる」タイプがいた。男子校の生徒はだいたい2種類に
大分される。片方は「モテる」タイプでもう一方が「モテない」タイプだ。中間と
いうのはほとんどいない。モテるタイプは見た目も派手で女友達も多く、常に彼女と
呼べる女の子がいる。モテないタイプはその逆で、見た目も地味で女友達はひとりも
いない。ましてや彼女なんているわけがない。女の子とまともに話したこともない、
早い話が僕のような人間だった。そして学校でもだいたい同じタイプでかたまって
行動していた。しかしその友達(ノボル君といった)は僕のいた特進クラスで唯一の
モテるタイプで、何故か僕と仲良くした。クラスの他の人とは全くと言っていいほど
話さなかったのに、僕はよく遊びに誘われた。そのほとんどはカラオケや合コンとか
いったもので明らかに僕が行ったら場違いなのに、僕がそう言うとノボル君は笑って
お前は変なやつだな、と言っていた。彼が笑うと綺麗に並んだ白い歯が見えた。
僕はトオル君に電話した。彼は4月から東京の私立大学(いわゆるマーチのひとつ)
に通っていた。何回か呼び出し音が聞こえた後「もしもーし」と懐かしい彼の声が
聞こえた。それから30分ほど話した。僕はそれまでのいきさつなどをなるべく
細かく話し、なんてメールを送ればいいか尋ねた。すると彼は「お前、これから
何回もメールするのにいちいちそんなに考えてらんねーだろ?別になんか特別な
こと言う必要ないって。普段一緒にいるときに話すみたいにただその時思ったことを
送ればいいんだよ。」と言ってくれた。なんだか当たり前のことのようだけど、
彼が言うとすごく大切なアドバイスのように聞こえた。「そーかー、お前もやっと
女に目覚めたか。しっかしなんつーか純情だよな。聞いてるこっちが恥ずかしく
なってくるよ。」僕は電話のこちらで赤くなる。「や、でもいいと思うよ。うん。
なんかお前らしくっていいじゃん。がんばれよ。またなんか聞きたいことあったら
電話なりしてくれよな。あとヤったら教えてくれよ。」僕は一瞬何を言っているのか
理解できなかった。
38前スレから24:2006/03/07(火) 02:40:04 ID:PzhGDn6G0
やっとそれが理解できても返事ができない。「ははは、黙るなって。冗談だよ。や、
冗談ではないかな。本当に教えてくれよ。」「そんな、そんなことまだ考えてないよ。」
「考えてするようなことじゃないだろ。でもちゃんとゴムはつけるんだぞ。今のうちに
買っておけよ。」「でもまだ付き合ってもいないし・・・」まだ?これから付き合う
予定なんてあるのか?と僕は考える。「もう付き合ってるようなもんじゃん。その子も
絶対お前のこと好きだって。まーチャンスがあったら付き合ってくれって言ってみろよ。
それじゃ、俺そろそろバイト行くから。また電話してくれよ。」と言って彼は電話を
切った。僕は混乱した。どうやら彼の言っていたことのほとんどは僕には容量オーバー
のようだった。考えても仕方ない、それより早くメールを送らなきゃ。と思い直して
携帯を見ると、メールが1通来ていた。誰だろうと思って見てみると、それはユキから
だった。僕は慌てた。何か失敗したような気持ちになった。彼女のメールはそれまで
僕に送られてきたどのメールよりも絵文字がたくさん使ってあってカラフルだった。
『帰りは傘入れてくれてありがとうございました□□あと□アドレスも教えて
くれてありがとうございました□□ずっと聞こうと思ってたけど恥ずかしくて
できなかったからさっき聞かれたときは本当にうれしかったデス□□明日も
一緒に自習できますか?□』(□は絵文字)僕は何度も読み返してみた。体が
温かい液体で満たされていくような幸せな感覚だった。時間がたっても消えて
しまわないように保護をかけておいた。そうすればまたいつでも読み返せる。
たった1通のメールでこんなにも幸せになれる自分が不思議だった。しばらく
してからはっと気がつき、僕は慌てて返事を送った。こちらこそアドレス教えて
くれてありがとう。もちろん明日も塾に行く。また一緒に昼を食べたい。という
ような内容だった。送ってから自分のメールを見直してみるとなんだか彼女の
メールに比べてすごく素っ気ない気がした。絵文字を使えばよかったかな、とも
思ったがよく考えたら絵文字の使い方なんて知らなかった。
39前スレから25:2006/03/07(火) 02:41:24 ID:PzhGDn6G0
返事を待っている間は他の事が何も手につかなかった。何度も問い合わせをし、
何度もユキから送られてきたメールを見返した。マナーモードのバイブを手に
感じると一瞬体がこわばった。早く読みたいはずなのに何故かそろそろと携帯を
開き、一息ついてからメールを読んだ。1度読み、もう1度ゆっくり読んだ。
やっぱり絵文字がたくさん使ってあった。僕の見たこともない絵文字もあった。
『お昼はいつも買って食べるんですか??□もしそうなら明日ワタナベ君の分も
お弁当作ってきちゃっていいですか?□□迷惑ならいいんですけど□□□今日の
お昼は前よりいっぱいお話ができて楽しかったデス□□』言うまでもないけど、
僕は母親以外の誰かに弁当を作ってもらったことなんてなかった。ユキがなんと
言っているのか理解するまでに数秒かかった。いや、日本語としてはもちろん
ひとつひとつの言葉、文章の意味は理解できた。単にそれが信じられなかった。
ユキが僕に弁当を作ってくれる?
だんだんとまた喜びが膨らんできた。僕はユキの作った弁当を食べるところを
想像してみた。それがどんな事でどんな意味を持つのかよくわからなかったが、
とにかく素敵なことなんだろうということはすぐにわかった。彼女の持っていた
弁当は女の子らしいキャラクターの絵がついている小さなもので一応上下2段に
なってはいたものの、僕が高校の時に使っていた弁当箱と比べれば少なくとも
3倍は小さかった。ユキはそれぐらいの量を僕の分として作ってきてくれるかも
知れないな、と考えると到底腹いっぱいとはいかないように思えたが、不思議と
ま、それでもいいや、となった。それからいろいろとまた想像をしていたが、
メールを返していないことに気付くと慌てて返事を送った。そしてまたメールを
読み返し、保護をかけておいた。やれやれ、僕は全部のメールを保護するつもり
なのか?この調子じゃ受信ボックスはそのうちユキのメールでいっぱいになって
しまうじゃないか、と思って保護を外そうと思ったけどやっぱりそのままにして
おいた。まあ最初だからしかたないよ、と僕は自分に言い訳をした。
40前スレから26:2006/03/07(火) 02:42:30 ID:PzhGDn6G0
12時を過ぎてユキが寝ると言うまでそれから10回ほどメールをした。最後に
おやすみ、と送ると携帯をおいて僕もベッドに寝転んだ。気が張りつめていて
全く眠くなかった。ふと思い付いて目覚ましのスイッチを入れ、歯磨きをした後
部屋の電気を消してまたベッドに潜り込んだがやはり寝れなさそうだった。僕は
考えるともなくその日の事を朝から思い出していた。いろいろな事があった。
エレベーター待ちで偶然出会った。同じ自習室で隣に座って勉強をした。昼には
公園で一緒に食事をし、話をした。彼女の名前もそこで初めて聞いた。そして
帰る前には駅で携帯の番号も聞いた。帰ってからノボル君に電話をしている間に
ユキからメールがきていた。僕はユキの言葉や仕草、横顔、綺麗な長い髪が風に
揺れている光景なんかを鮮明に思い出すことができた。すべてが不自然なくらい
はっきりとしていて実際に起こったことのように思えなかった。寝て起きたら
全部夢でした、なんてことになってもおかしくないような気がした。
あまりにもうまくいきすぎている、と僕は思った。ユキが僕に好意を持っている
ことはその時にはもうかなり信じられたが、それが逆に不安を煽った。どうして
ユキは僕なんかに興味を持ったのかがわからなかった。どう見ても僕は冴えない
浪人生だったし、実際の中身も冴えない浪人生だった。少なくとも自分では人に
勝っている、または人に訴えかけるようなものを持っているとは思えなかった。
僕が女だったら僕なんて見向きもしないだろう。もっと輝いている、そう例えば
ノボル君のような、話していて楽しく魅力的な笑顔を持った男の人がいい。僕は
いつもおどおどして女の子とうまくしゃべれないし、ユキの前で笑顔を見せた
ことはほとんどないような気がした。彼女は僕に、また僕と一緒にいる時間に、
いったい何を求めているんだろうか。僕はしばらくそのことについて考えていた
けど結局わからなかった。考えても仕方がないと思い寝ることにすると、自分が
かなり疲れていることに気付いた。僕は深い眠りについた。
41前スレから27:2006/03/07(火) 02:43:28 ID:PzhGDn6G0
翌日目覚めると空はすっかり晴れ上がり、また蝉が猛烈に鳴き狂っていた。また
気温は思い直したように昇りつめ、じっとりと体にまとわりつくような熱気が
あたりを覆いつくしていた。まだ夏は終わりそうもないね、と僕はそこにいない
ユキに向かって言った。朝食を食べた後に歯を磨いていると、ユキからメールが
届いた。もう塾についたとあったので、僕はあと15分くらいで行く、と返すと
急いで支度を整えて塾へと急いだ。着いて携帯を開くと○○教室にいます、と
いうメールがきていた。僕がその教室のドアを開けるとユキは後ろの方の席で
もう勉強を始めていて、僕に気がつくと笑顔で手を振ってくれた。それからまた
二人は並んでひたすら勉強をした。昼になると彼女が指で肩をつつき、食事に
行こうと目で合図した。僕はうなずいてから立ち上がり、二人でまた公園へと
歩いていった。ユキが持ってきた弁当はちょうどいい大きさだったので僕は少し
ほっとした。お父さんが前使ってたやつなんです、とユキは説明してくれた。
僕が食べるのをユキは恥ずかしそうにちらちらと見ていた。他人に食べる所を
ちらちら見られるというのは変な気分だったが、僕は「すごくおいしいよ」と
言ってあげた。実際にそれはこれまで食べたどんな弁当よりもおいしかった。
ユキはさらに恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいてしまった。どうすればいい
のかわからなかったので「これ全部ユキちゃんが作ったの?」と聞いてみたが
彼女は小さくうなずいただけでもじもじと膝に置かれた自分の弁当を見つめて
いた。どうしようもないので僕はまた食事に戻ったが、恥ずかしがってる彼女は
とてもかわいかった。それから食べ終わるまではしばらく二人とも無言だった。
一気に食べ終えて「ごちそうさま、本当にありがとうね。」と僕が言うとユキは
「多すぎなかったですか?お父さん大食いだったから。最近はすこし減ってきて
それで弁当箱も小さいのに変えたんですけど」と言った。「多すぎじゃないよ、
全然。こんなにおいしい弁当ならこの倍は食べれる」と言うと「そんな・・・」
と言ったきりまたうつむいて黙ってしまった。
42前スレから28:2006/03/07(火) 02:44:59 ID:PzhGDn6G0
僕はこの時から彼女を恥ずかしがらせるのにやみつきになってしまい、ことある
ごとに照れさせるようなことを言った。おかげで怒らせてしまったこともある。
彼女は僕よりずっと時間をかけて小さな弁当を食べ終え、その間ずっと僕はお茶
を飲みながらユキがこれまた小さな箸を使ってご飯を食べるのを眺めていた。
うだるような暑さと蝉の声がひっきりなしに鳴り響く中で、僕とユキの小さな
世界は穏やかな喜びと居心地のよい平和に満ちていた。僕は何も考えずに彼女の
手や口もとが動く様を見ていた。その白く透きとおったなめらかそうな肌は、
まるで何かの象徴のように微妙な陰影を変化させながらまぶしい夏の陽差しを
受けて輝いていた。昼食が済むとさすがに暑くて汗が出てきたので日陰を求めて
前と同じ屋根のあるベンチに座り、また話をした。ユキはやっぱり僕のことを
いろいろと知りたがったが、残念なことに自分自身のことについて僕はあまり
多くの語るべきことを持っていなかった。そこで二人は途切れがちにとりとめの
ない会話をした。僕は自分が自然と微笑んでいることに気付いた。
塾に戻るとまた僕らは勉強に集中した。7時を過ぎると彼女を駅まで見送り、
寮に帰って夕飯を食べながらメールを送った。今度は待っている間も勉強した。
(返事が気になってあまり集中できなかったけど)12時頃におやすみと送って
寝た。次の日も同じような感じだった。ユキはまた弁当を作ってきてくれて、
僕においしいと言われると恥ずかしそうにうつむいていた。自習室では並んで
座り、一言もしゃべらずに勉強をした。駅まで見送り、寮に帰ると寝るまでの間
10回くらいメールを交換した。そんな風にして1週間ほどが過ぎた。その間
毎日彼女は弁当を作ってきてくれた。食事の後と駅まで送る間は時々沈黙の入る
僕ら独特のリズムの会話を楽しんだ。会話とメールを積み重ねて僕らはお互いを
徐々に知っていき、それにつれて少しずつ二人の間の距離は短くなっていった。
いつまでもこんな日が続けばいいと思うほど幸せだった。しかしもちろんそんな
ことはない。時は僕らの気持ちを考慮せずに流れ、季節は移ろってゆく。夏は
その猛烈な暑さの記憶だけ残して終わろうとしていた。
43前スレから29:2006/03/07(火) 02:45:57 ID:PzhGDn6G0
8月31日、よく晴れた暑い日だった。その日ユキは朝からあまり元気がない
ようだった。会ったときに挨拶を交わしたきり食事中も一言もしゃべらなかった
し、いつものような豊かな表情はどこかへ隠れてしまったように寂しそうな顔で
ずっといた。遠くを見るような目でどこかをじっと見つめているようだったが、
彼女が何も見ていないことは僕にもわかっていた。あるいはそれまでの1週間の
僕ら二人をじっと見つめていたのかも知れない。その幸せな時間はこれ以上続く
ことはないということを彼女も僕もよく知っていた。翌日からユキはまた学校が
始まり、それまでのように毎日一緒に自習して昼を食べたりと1日を共に過ごす
ことはもうできなくなる。僕は朝からあることを心に決めていた。ユキにもう
1度ちゃんと好きだと言い、付き合ってくれと言うのだ。もちろんそんなことを
言ったからといってもう毎日ずっと一緒にいることはできなくなる、という事が
変わるわけじゃないのはわかっていた。しかし言わずにはいられなかった。
僕はいつものようにユキより早く食事を終え、なんと言って切り出そうか悩んで
いた。隣ではユキが膝の上に置かれた弁当に視線を落としたまま普段よりさらに
ゆっくりと食べていた。僕はあれこれと言葉を探しながら何気なく目の前にある
鉄棒を眺めていた。ふと気がつくとユキは弁当を脇にのけ、下を向いたまま手で
顔を覆ってかすかに肩を震わせていた。彼女が泣いているとわかるまでに時間が
かかった。僕はどうしたらいいのか全くわからなかった。適当な言葉は何ひとつ
思い浮かばなかった。とりあえず彼女の肩に優しく手を載せた。不規則に震える
彼女の肩はほとんど肉がついていないようで、手を触れると骨の存在を感じた。
不思議な感触だった。ユキはそのうちにだんだん落ち着いてきて、やがて小さな
声で「ごめんなさい」と言った。その一言は僕の胸をとても強く締めつけた。
目の奥すぐそこまで熱いものがこみあげてくるのを感じた。僕はそっと彼女を
抱き寄せた。
44前スレから30:2006/03/07(火) 02:47:24 ID:PzhGDn6G0
ユキは僕に体を預け、心臓の音を聞くような格好でまた少しの間泣いていた。
僕はどんな言葉をかけていいかわからずに、ただ頭を撫でていた。まっすぐで
綺麗な髪は僕の手の動きにあわせてさらさらと波うった。前にもこんなことが
あったな、と僕は思い出した。彼女は僕が遅れたことでひどく落ち込んでいた。
その時は何が彼女をそうさせたのかよくわからずに、ただ抱きしめていた。でも
今はわかる。彼女の不安が、悲しみが、孤独が、恐怖が、そして絶望がこうして
触れ合っているお互いの肌と肌を通して僕にも伝わってくる。彼女は僕に心を
開きそれらを伝えようとし、僕もまた心を開いてそれらをつかもうとしていた。
彼女は深い、とても深い海の底にいた。そこには光も届かず、空気もない。ただ
重く冷たい水が体を押しつぶそうとしていた。声を出して助けを呼ぼうとしても
水の中ではただ泡となって浮かんでいってしまうだけだし、周りには誰ひとり
としていない。深い海の底では何も見えず、何も言えず、呼吸すらできない。
そして彼女をそこへ突き落としたのは僕であり、彼女を見つけそこから助け出す
ことができるのも僕ひとりだった。僕はユキのほほを伝う涙を一粒指に取り、
その温度や感触を確かめるように親指とひとさし指をこすり合わせた。その涙は
温かく、同時に冷たかった。「君のことが好きなんだ」と僕はまた言った。前に
僕は自分のためにその言葉を言った。しかし今度は彼女のためにそれを言った。
ユキは僕の胸でうなずいた。何か言いたそうだったが、言葉は出てこなかった。
「ずっと一緒にいよう。離れていても、ずっと一緒に。」と僕は言った。それは
二人のための言葉だった。「僕と付き合ってくれる?」と僕が訊ねると、ユキは
大きく何度もうなずいた。「ありがとう」と僕は言って彼女の小さな頭に僕も
頭を預けた。しばらくして彼女も「ありがとう」と言った。かすかに震えている
その声を、僕はたまらない程いとおしく感じた。微妙な力の加減ですぐにでも
壊れてしまいそうなもろく美しいガラス細工のような彼女の心を、いつまでも
この手で守っていきたいと思った。
45前スレから31:2006/03/07(火) 02:48:52 ID:PzhGDn6G0
僕はさらに少しだけ強くユキの体を抱き寄せた。ユキも僕の胸に顔を押し付け、
腰の辺りに腕を回した。彼女はもう泣いていなかった。目を閉じたまま夢で見た
寝顔のように安らかで優しい微笑を顔に浮かべていた。しばらく僕らはそのまま
黙って抱き合っていた。僕はほほに触れる彼女の細い髪の感触と、そのほのかな
(恐らくシャンプーか何かの)香りを楽しみ、脇に感じる彼女の体重を楽しみ、
胸に感じる彼女の吐息の温もりを楽しんだ。すべては幸せに満ち、うるさい蝉の
声さえも僕らを祝福しているように思えた。「知ってましたか?」と少しして
ユキが言った。「何を?」と僕が聞くと、「私が、その、ワタナベ君のこと好き
なんだってこと」とゆっくり言った。だんだんと恥ずかしさからか声が小さく
なっていった。「不安ではあったけど」と僕は答えた。「知っていたというか、
そうであって欲しいってずっと思ってたよ」「迷惑じゃないですか?」とユキは
また聞いてきた。「迷惑って、え、何が?」と僕は驚いて聞き返した。
僕は少し驚きすぎたようで、彼女を慌てさせてしまった。「いや、その、なんて
言うかその・・・私と・・・本当に付き合ってもいいと思っているんですか?」
「付き合って」と言うときに声が一段と小さくなってしまうところがかわいいと
思った。「本当にって、そりゃ本当に付き合って欲しいと思ってるよ。とても」
「でも私なんかにかまってると勉強できなくなったりしないですか?」「そんな
ことないよ。というか、もう気にしないでいることなんてできないんだから例え
勉強できなくなったとしてもそれは付き合ってなくても変わらないんじゃない?
もしかしてユキちゃんは勉強できなくなったりして迷惑なの?」と言って僕は
少し不安になった。彼女は顔を上げて何度も首を振り、必死に否定してくれた。
「全然、全然そんなことないです。すごくうれしいです。本当に。ただ私のこと
迷惑だとか邪魔だとか思って嫌いになったりしないかなって思って・・・」と
最後は泣きそうな声になってきた。僕は笑って彼女の頭を撫でた。
46前スレから32:2006/03/07(火) 02:51:08 ID:PzhGDn6G0
「なんて言うのかな、そりゃユキちゃんのこと気になって勉強できなかった時も
あるよ。でもそれは迷惑とか邪魔とかじゃないんだ。僕もこんな気持ちになった
のは初めてだからよくわかんないんだけど、なんて言うか、うーん・・・なんか
うれしいんだ。変かも知れないけど、ユキちゃんのことで頭がいっぱいになって
いる自分がうれしいっていうか・・・わかるかな?うまく説明できなくて悪い
んだけど、ごめん」と僕が言うと、ユキはまた恥ずかしそうにもじもじしながら
「なんとなく・・・わかる気がします。私もそうだから」と答えた。そして照れ
隠しににっこりと笑った。僕も笑って「なんだか僕たちは似てるみたいだね」と
言った。ユキはうれしそうにうなずいて、「でもワタナベ君はちゃんと思ってる
こと言ってくれるけど、私は恥ずかしくて全然だめだから、全部ワタナベ君に
言ってもらってるような気がします。ごめんなさい。本当は心でずっと言ってた
んですよ」と言った。「何て?」と僕が聞くと、彼女はまたうつむいてしまった
けど、消え入るような小さな声で「その、好きですって」と言った。
47前スレから33:2006/03/07(火) 02:52:08 ID:PzhGDn6G0
それからちょっとして僕らはまた塾に戻り、夜まで勉強した。いつものように
ずっと何もしゃべらなかったけど、時々僕が顔をのぞき見ると彼女も僕の方を
見てにっこり笑ってくれた。僕もうれしくなって笑い返した。7時になって駅へ
向かう間に、僕は学校にいる間もメールを送っていいか訊ねた。授業中はあまり
すぐ返せないかも知れないけど、と言ってくれた。「実は私も今そう言おうかと
思ってたんですよ」とくすくす笑っていた。そして「あ、でもそっか。明日は
始業式だけだし、火曜日まではテストで午前中だけなんだ。だからお昼からまた
塾に来れますよ。」と言った。予備校の授業は5日の月曜からで、1日は朝から
ホームルームのようなものがあったものの、どうやら日曜まではそれまでどおり
一緒に昼ごはんを食べれるようだった。その事実はユキをとても喜ばせた。僕も
彼女の笑顔を見ているとすごくうれしく思えた。「それじゃ、明日は始業式が
終わったらダッシュで塾に来ますね。」と言って彼女は改札を通っていった。
そして僕らは付き合いだした。それまではどんなものなのか想像もつかなかった
けど、付き合っている女の子がいるということは決して悪いものではなかった。
いや、正直に言ってかなり素晴しいことだった。生活が一変するわけではない。
ただユキが僕の彼女だという事実に僕は満足し、安心し、喜んだ。試験が終ると
彼女は毎日6時間か7時間の授業の後そのまま塾に来て、塾の授業を受けたり
自習室で勉強したりした。僕も夕方に授業が終ると自習室で勉強し、ユキが来る
のを待った。彼女は塾の授業が夜遅くまである日もあったので毎日とはいかない
けど、可能な限り僕たちは会い、並んで勉強し、寮の門限が迫ってくると駅まで
一緒に歩いた。彼女が学校で、僕も予備校で授業を受けている間はメールを送り
あった。二人ともまじめに授業を受ける方だったのであまり回数は多くないけど
重要なのはそんなことじゃなかった。話題も別にこれといったものはなかった。
僕たちはメールをすることによって離れていてもお互いに「つながっている」と
感じていたかっただけなのだ、恐らく。
48前スレから34:2006/03/07(火) 02:53:38 ID:PzhGDn6G0
休日には朝から同じ自習室で勉強し、昼にはユキの作ってきた弁当を二人で食べ
ながら話をし、また夜まで勉強して駅まで送って別れる、という夏休み後半の
1週間と同じような過ごし方をした。夜はメールでおやすみを言って眠りにつき
朝はメールでおはようと言って目を覚ました。そんな具合に一緒にいない間は
常にメールをしていたので僕は9月に初めて1月分の無料通話を使い切った。
それまでは前月の繰り越し分がさらに翌月繰り越しに、といったようにどんどん
無料通話が増えていたのだ。それでも僕らは電話はほとんどしずにいつもメール
だったので無料通話を越えることはなかったのだけれど。とにかく毎日ユキと
メールをしていたおかげで僕はかなりメールを打つのが速くなったし、絵文字の
使い方も覚えていった。彼女はありとあらゆる絵文字を使った。僕にはなぜその
絵文字を使うのかわからない場合もあった。だいたいペンギンの絵文字なんて
メールに使わなきゃいけない人がいるんだろうか。でも彼女が使えば不思議と
違和感はなかったし、ペンギンも心なしか使われて喜んでいるように見えた。
9月の半ばにノボル君から電話がかかってきた。この前の子とはどうなった、と
彼が訊いてきたので僕は付き合ってくれと言った、と答えた。「おっマジで!?
でどうだった?オッケーだったろ?」「うん」「やーるねーワタナベ君、どう?
どんな感じなん?てか彼女の写メ送ってくれよ」写真なんてないよ、と言うと
彼は驚いて言葉も出ないようだった。やがて気を取り直したように「まあ、今度
撮ったら送ってくれ。てか明日にでも撮れ。あ、そうだそういえばゴム買った?
ゼロゼロスリーってやつがいいぞ、薄くて。ちょっと高いけどな」「まだそんな
こと気が早すぎるよ」「ははは、冗談だって。でも買っておいて損はないぞ。
いざって時になきゃ困るからな。それよりお前らいつから付き合い始めたの?」
「えっ?えっと今日でちょうど2週間くらいかな、8月31日に言ったんだよ」
「おっそりゃいーな、覚えやすくて」覚えやすいと何がいいのかと僕が訊くと、
彼はあきれたように「お前マジでそんなこと言ってんの?」と言った。
49前スレから35:2006/03/07(火) 02:54:30 ID:PzhGDn6G0
彼によると付き合い始めた日は毎月「○ヶ月記念日」といって何かするもんだ、
とのことだった。僕は何故毎月そんな風に記念しなきゃいけないのか、何かする
といっても何をすればいいのか、31日は毎月ないから30日や翌月の1日でも
いいのか、などを質問した。僕にはとにかくわからないことばかりの様だった。
「何でって、お前何でもだよ。女の子はそーゆーの覚えててもらうと喜ぶんだ。
逆に覚えてないと怒ったりするけどね。だからそれを覚えててお祝いしようって
お前が思ってると伝わるんなら何したっていいし、日にちなんかちょっとぐらい
ずれても別にいいんだよ」「なんかプレゼントしたり?」「それもありだな。
でも浪人生で毎月プレゼント用意すんのも大変だろ?だからまープレゼントは
クリスマスと誕生日とそこまでいけばだけど1年記念ぐらいでいいんじゃね?
あとは毎月記念日にどこか連れて行ったりしてやりゃいいと思うよ」僕はどこに
連れて行けばいいかも何をプレゼントすればいいかも全然わからなかった。
またその時になったらいろいろ訊くよ、と言って僕は電話を切った。最後に彼は
また「コンドーム買っとけよ、あとヤったら教えてくれよ」とだけ言った。僕は
ユキとそんなことをするなんて想像もできなかったし、その時に自分がちゃんと
していられるか自信がなかった。もちろんそういったことに興味がなかったとか
そういうことじゃない。僕だって他人と(たぶん)同じように興味があったし、
写真やビデオでそれなりの知識は持っていた。しかしストーリー性のあるビデオ
でもその筋書きなんてとても現実には起こりえない、あるいは僕には起こすのが
不可能そうな言動に満ちていたので参考になりそうもなかった。どんな状況で
何を言えばそんな状況にもっていくことができるのか、と電話の後しばらく僕は
考えていたが、ユキからメールがくるとなんだか悪いことをしたような気持ちに
なってやめた。なんとなくそんな想像をしていたなんてユキに知られたら嫌われ
てしまうような気がした。
50前スレから36:2006/03/07(火) 02:58:08 ID:PzhGDn6G0
勉強の方はユキと付き合い始めてからもかなり順調だった。むしろ夏までよりも
順調なくらいだった。時々あった全くやる気が起きないような日もなくなって、
何もすることがないと自然に机に向かうようになった。二人で勉強している間は
相変わらず一言もしゃべらずに集中していた。二人はいつも一緒にいたので当然
友達からもお前高校生と付き合ってるらしいじゃん、と言われ僕は認めた。もう
隠す必要も感じられなかったし、むしろそう言われるのはいい気分だった。でも
あまり詳しい話はしなかった。なんとなく二人の世界に他人を入れるような事は
したくなかった。その世界ではお互いがお互いだけで満足し、その内にも外にも
それ以上は何も望まなかった。しかしその時の僕には全くそんな気はしなかった
けど、おそらく僕らが望み夢見ていたことはこの世の中で手に入れることが最も
難しい種類のことのひとつだったのだ。僕らはそれに気付かずただ目の前の幸せ
だけを考えて身を寄せ合っていた。
9月が終わりに近づき、僕はノボル君が言っていたことを気にしていた。僕らは
1度もどこかへ出かけたりしなかったし、はたして彼女が勉強もせずに1日遊ぶ
なんてことを望んでいるのかどうかわからなかった。24日の土曜日に公園で
弁当を食べながら僕はそれとなくどこか行きたいところはないかと訊いてみた。
ちょうど1週間後の10月1日は二人とも模試や何やらが何もない日だったので
どこか行くならその日だろうと僕は見当をつけていたからだ。でもそのことには
触れずに、毎日塾で勉強しているけどたまにはどこか遊びに行ったりしたいって
思わないの?と言った。彼女はちょっと考えてから「うーん別に思わないかなぁ
・・・塾に来ればワタナベ君に会えるし」と言って恥ずかしそうに笑った。僕は
ちょっと出鼻をくじかれたような気がしたが、それでも気を取り直して「いや、
ふたりでどこか行きたくないかなって思って。ほら、その、デートとか・・・」
と言ってみた。言いながら僕も顔が赤くなってしまったようだった。
51前スレから37:2006/03/07(火) 02:58:45 ID:PzhGDn6G0
ユキはやっぱり恥ずかしそうにしながら「え、あの、それは・・・行きたいです
けど・・・でも、ワタナベ君はいいんですか?勉強できなくても?」「やっぱり
勉強したいよね。や、いいんだ。ちょっと思っただけだから」「やっ私は・・・
その、どこか行きたいなぁって思ってたんですよ、ずっと。でもワタナベ君に
うざいって思われるような気がして言えなかったんです」それだけ言うとユキは
うつむいて黙ってしまった。僕もちょっと黙っていた。どうやら僕らは同じ事を
考えていて同じ理由で言い出せなかったんだなと思うとなんだかおかしくなって
きた。ユキを見ると彼女も少し笑っていた。僕は声を出して笑った。「どこか
行こうよ、来週の土曜にでも。ちょうど付き合い始めてから1ヶ月になるし。」
と僕が言うと「覚えててくれたんですか?」と言ってユキは喜んだ。ノボル君に
感謝しなきゃな、と僕は思った。彼に言われなきゃ僕はたぶんそんなこと気にも
しなかっただろうし、それで彼女を喜ばせることもできなかっただろう。そして
つくづくノボル君のすごさに感心した。
「どこか行きたいところある?」と僕が訊くとユキはしばらくうーん、と言って
考えていた。ベンチに足を乗せ、ひざを折り曲げて両手で抱え、ひざのあいだに
あごを載せて考え込んでいるユキの姿を僕は眺めていた。ユキのちょっとした
仕草や声、しゃべり方なんかのひとつひとつが僕にはとても可愛く思えた。でも
僕はそれまで一度も彼女に「可愛い」と言った事はなかった。たぶんそう言うと
彼女はとても恥ずかしがってまたさらに可愛く見えるだろうと思ったが、そんな
ことを言ったら自分まで恥ずかしさでまいってしまいそうだった。僕はしばらく
ぼーっとそんな事を考えながら彼女のことを見つめていた。彼女はその視線に
気付いて恥ずかしそうに笑い、「ワタナベ君が行きたいところに行きたいです」
と言った。「まいったな」と言って僕は笑い、「じゃあ僕が行きたいところは
君の行きたいところだ」と返した。「ずるい」と言ってユキは口を尖らせながら
ほほをふくらませて僕をにらんだが、僕はそんな可愛らしいにらみを見たことが
ないと思った。「わかったよ。考えとく」と僕は降参した。
52前スレから38:2006/03/07(火) 02:59:16 ID:PzhGDn6G0
その日の夜に僕はノボル君に電話した。忙しいから明日にしてくれないかと彼が
言ったので次の日にまたかけた。ホストの真似ごとみたいなバイトしててな、と
彼は言って前日のことを謝った。今日は良かったのかと僕が訊くと「給料はいい
けどきつくってさ、そんな毎日はやってらんねーよ。朝まで酒飲んで女と話して
馬鹿みたいに騒いでるんだぜ?」と言った。でもまあ楽しいし俺にあってる気が
するんだこの仕事、と彼が言ったので僕も心から同意した。「で、なんだっけ?
どっか行くんだって?」「うん、どこ行けばいいかな」それから長い時間電話で
話し合った。彼はいろいろと遊ぶ所を教えてくれたが、そのどれも僕が行った
ことのない場所だった。「でもなんとなくお前らはそーゆー風な遊ぶとこよりも
いわゆる『デートスポット』って感じのとこのがいい気がするな」と少ししたら
彼は言った。僕にはそれらの違いがよくわからなかったが、なんとなく彼の言う
通りのような気がした。「車もないもんなー。電車で行ける所かぁ・・・うーん
難しいな」どうやらノボル君にとっては逆にそっちの方が悩ましいようだった。
結局3ヵ所候補を挙げ、その中からユキに選んでもらうことにした。ずいぶんと
考えたが3つしか(どれもノボル君が考えたのだけれど)出なかった。何度も
お礼を言い、本当に助かったと言うと、「いやそんなのはいいんだけどさ、お前
写メ送ってくれるっての忘れてねー?ずっと待ってたんだけど」僕は忘れたわけ
ではなかったのだが、ユキに写真撮っていいかと言うのに気が引けたのでずっと
言えずにいた。「じゃあ今度遊びに行ったらその時撮って送るよ」「けっこう先
じゃん。まーいいや、それじゃーな」ありがとう、と最後にもう1度言って僕は
電話を切った。そしてベッドに寝転んでユキへのメールを打った。ふと電池の
残量が残り少なくなっているのに気付き充電器につなげた。そういえば最近よく
充電するようになったな、と僕は思った。ユキと付き合うまではずっとほかって
いて1週間に1回くらい電池が切れているのに気付くと充電していたのだけど、
その頃には2日に1回は充電して常に電池が切れないようにしていた。
53前スレから39:2006/03/07(火) 02:59:48 ID:PzhGDn6G0
二人で話し合った結果、水族館へ行くことになった。僕は小学生の時に1度だけ
水族館へ行ったことがあったが、その時の記憶はほとんどなかった。ほとんど
人生初と言っていいようなもので、それがユキと行くのだから、僕はその日が
近づくに連れて緊張してきた。だいたいデートだなんて何を話してどんな風に
振舞えばいいのか全然わからなかった。着ていく服も問題だった。寮へは自分の
持っているほぼ全ての服を持ってきていたのだが、それでもスーツケース一杯に
ならないほどだった。塾へも毎日同じような服装で行っていた。そういえば僕の
服装についてユキはどんな風に思っているんだろう、とその時初めて思った。
正直なところ服の良し悪しなんて全くわからなかったけど、どう好意的に見ても
僕の服装はオシャレだとは言えなかった。大型スーパーで3000円くらいで
売ってそうなズボンを2本と、これまた1000円くらいで買えそうなTシャツ
7枚をローテーションして夏を過ごした。
結局1枚シャツを買うことにした。木曜日はユキが塾の授業で会えない日だった
ので夕方から繁華街へ買い物に行った。親から毎月仕送りとして2万円もらって
いたのだが、昼飯しか使い道がなかったし、夏からは昼飯もユキに作ってきて
もらっていたのでその頃には2月分以上貯まっていた。僕は1万円だけ下ろして
財布に入れ、デパートの紳士服売り場へ行った。まったくどんなものにするのか
考えてなかったけど、店員に進められるままにちょっと品の良さそうな半袖の
シャツを買った。9000円くらいしてびっくりした。でも寮に帰って鏡の前で
そのいかにも清潔そうな薄いグリーンのシャツを着てみるとなんだか育ちのいい
青年のように見えて気分が良かった。似合っているかはよくわからなかったけど
いつも着ている服よりは100倍見栄えがした。とにかく僕は9000円出して
ポール・スミスというなんとなく聞いたことがあるような気のするブランドの服
と共にこれを着れば恥ずかしくはないだろう、という自信を買ったのだ。
54前スレから40:2006/03/07(火) 03:00:45 ID:PzhGDn6G0
デートの日は朝から良く晴れて、10月にしては暑過ぎるくらいに天気のいい日
だった。僕らは予備校のある駅で待ち合わせ、そこから電車に揺られて水族館へ
向かった。待っている間は早く会いたくて仕方がなかったのに、いざ顔を見ると
なんだか照れて妙に居心地が悪かった。ユキはもちろん僕以上に照れていて、朝
おはようと言ったきりずっと口を閉ざしていた。そんなユキの様子を見ていると
次第に僕は落ち着きを取り戻してきて、それにつれて体の奥深くからこみ上げて
くるような高揚感が心を満たした。水族館へ入る前に港の公園で弁当を食べ、
ちょっと海を見ながら散歩をした。あまり話はしなかったけど、僕らは並んで
歩きながら目が合っては微笑みあった。磯の香りを含んだ海風が時折強く吹いて
ユキのやわらかい髪をなびかせ、その細い一筋ひとすじに初秋の暖かな陽射しが
あたって輝いていた。その光景ははっとするほど美しく、僕はそのまま時間を
止めてずっと眺めていたいと思った。本当に夢のような1日だった。
ユキは小さい頃水族館が好きでよく連れて来てもらったけど最近はずっと来て
いなかった、と言ってはしゃいでいた。ひとつの水槽を何分もかけてじっくりと
覗いては僕に何か気付いたことを報告し、それについてふたりで少し話し合って
から次の水槽へと小走りに移っていった。彼女は水族館にいる生物ならほとんど
全てに興味があるようだった。イルカや熱帯魚だけでなく、カニやクラゲ、亀、
深海魚やどんな種類のものかよくわからない生物までとにかく全てを漏らさずに
回って観察した。僕は魚を見るフリをしながらそんな彼女の姿をずっと眺めて
いた。薄暗い館内で水槽の中からこぼれる青白い光に染まったユキの横顔を見て
いると、なんだか幻想の世界にいるように感じられた。そしてそんな幻影の中で
きらきらとした無邪気な輝きを湛えた彼女の瞳がひときわ眩しく見え、まるで
深海魚が餌をおびき寄せるためにちょうちんを灯すように、その輝きに僕は強く
惹きつけられた。ユキはそんな僕にかまうことなく水槽の住人たちとの会話を
楽しんでいた。
55前スレから41:2006/03/07(火) 03:03:07 ID:PzhGDn6G0
秋は幸せな季節だった。相変わらず僕は毎日予備校で授業を受け、それ以外の
時間はほとんどその予習復習に追われていたけど、ユキが隣にいるだけで勉強を
している時でさえ幸せを感じられた。単調な日々の1分1秒を、かけがえのない
ものとして大切に感じることができるというのは素晴しいことだった。僕が言う
言葉で笑ったり驚いたり照れたりする彼女の姿をいつまでも見ていたかった。
怒ったり悲しんだりする表情すら(僕はたまに勘違いや配慮の足りなさでユキを
怒らせたり悲しませたりもしてしまった)印象的な映画の1シーンのように僕の
心にその記憶を深く刻み込んでいる。僕らは自習室で一緒に勉強し、並んで歩き
ながらとりとめのない会話をし、休日の昼には彼女の作ってきたおいしい弁当を
食べた。月に1度はどこかへ出掛け、お互いに少し照れながらもいろいろな話を
した。ユキは僕が好きな小説を読みたがったので、持ってきていた何冊かの本を
貸してあげた。そしてそれについて感じたことを教えてくれ、僕も自分の意見を
言い、二人の「感じ方」を少しずつ共有していった。
56前スレから42:2006/03/07(火) 03:04:54 ID:PzhGDn6G0
それは素敵な作業だった。ユキの感じ方は僕にとってとても新鮮で興味深いもの
だった。言葉で表すのはとても難しいけど、繊細で、優しく、感傷的で、しかし
どこかに強くしっかりとした生命を感じた。それは彼女の個性なのか、それとも
男と女の差なのかはわからないけど、僕は自分と全く異なったものをそこに感じ
たし、その違いに驚いた。その違いは決定的でありながらそこには敵意のような
ものは感じられなかったし、居心地の良いぬくもりを感じた。ユキはそんな心を
恥ずかしがりながら小さな声で言葉を選ぶようにゆっくりと僕に話してくれた。
そして僕を、僕という存在をその世界に受け入れてくれた。もちろん僕も同様に
彼女に心を開き、彼女を受け入れた。二人で小さな世界を共有するという行為は
とても自然で特別なことだった。そして僕はあまり一般的ではないかも知れない
けど、それを愛だと思った。ユキに対して愛を感じているとはっきり認識した。
愛とは素敵なものだと僕は思った。そんな素敵な感情を抱くことができたことに
心から感謝した。
57前スレから43:2006/03/07(火) 03:05:27 ID:PzhGDn6G0
話を現実的なことに戻そうと思う。僕がいろいろな初めての体験をした2回目の
「記念日デート」について。10月30日の日曜日、僕はやはりどこへ出掛ける
か迷いノボル君と相談した末に街へ行くことにした。ぶらぶらと色々な店を見て
歩き、たまにユキが気になった店に入って女の子らしい細々としたアクセサリー
や服や靴なんかを見た。日曜日の街にはたくさんの人とたくさんの商品が溢れ、
人々は(あるいはアクセサリーや靴なんかが)それぞれの目的や関心に向かって
のみ存在し、そこには僕がいる意味や価値などは全くないように思えた。ユキは
それでもウインドウショッピングを楽しんでいるようだったので少しは気が楽に
思えたが、昼過ぎになるとさすがに疲れてきたように見えた。そこで2時ごろに
適当な店を選んで入り、遅めの昼食をとった。疲れた?と僕が訊くと「少し」と
ユキはちょっと笑って答えた。ユキも僕も特に買いたいものがあったわけでは
なかったので、街を歩くのはやめることにした。だからといって他に行くあても
なく、歩いているときに街頭で配っているのをもらったクーポンがあったので
カラオケに行くことにした。人生で初めてのカラオケだった。
58前スレから44:2006/03/07(火) 03:06:08 ID:PzhGDn6G0
カウンターでクーポンを見せると3時間から割引が利くということだったので
とりあえず3時間部屋を取った。混雑していると延長できない場合もありますが
よろしいですか?と訊かれたがそれ以上いると寮の夕飯の時間に遅れそうだった
のでそれでいい、と言った。案内された部屋はこぢんまりとしていて窓もなく、
照明が落とされているなかでテレビ画面の放つ光が異様な明るさを撒き散らして
いた。空気はどんよりとしてタバコの嫌な臭いがたちこめ、壁には様々な種類の
ジャンクフードの広告が一面に貼り付けられていた。10分前になったら電話で
お知らせします、と言って愛想の悪い店員が部屋を出て行くと、僕らはしばらく
何も言わずにぼーっとあたりを見回していた。目があって僕が「カオスだね」と
つぶやくとユキはばつが悪そうにくすっと笑った。そして「せっかく来たんだし
何か歌ってください」と僕に言った。そこで初めて僕はカラオケが歌を歌う為の
場所であったことに気付いた。
どうしてかはわからないけど、僕はカラオケが歌を歌う場所だという認識をして
いなかった。何か若者たち(という言葉を19の僕が使うのも変な話だけれど)
の文化の象徴のようなものとして捉えていて、街に出て遊ぶならカラオケだろう
というような単純な思考でそこを選んだ。つまりカラオケに来て実際に自分が
歌うんだということを全く想定していなかったのだ。だから歌うといっても何を
歌えばいいのかわからなかった。僕はラジオも聞かないしテレビだって寮に来て
からは全然見てなかったので、その時に流行っている曲や歌手なんて何ひとつ
知らなかった。だいたい高校生の時だってテレビで見るのはニュースやスポーツ
番組ぐらいだったし、歌を歌うのだっておそらく中学の音楽の授業で合唱をした
以来のことで、音楽の成績は3年間ずっと2か3だった。僕は困った。カラオケ
なんて初めてで何を歌えばいいのかわからない、と僕が言うとユキは驚いた。
「どんなの歌えばいいのかな」と僕が訊くと「そんなこと私に聞かれても・・・
普段どんな歌聞いてるんですか?」
59前スレから45:2006/03/07(火) 03:07:05 ID:PzhGDn6G0
ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリクス、ジェフ・ベック、
など古いロックしか僕は聞かなかった。中学生の頃に家で見つけた父親のCDを
聞いて好きになったものばかりだった。ユキはビートルズしか知らなかった。
先に歌って、と言うとユキは恥ずかしいからと嫌がった。しばらく気まずい沈黙
が僕らを包んだ。壁を通して違う部屋で歌っている声が聞こえた。どんな歌かは
わからなかったけど、とにかく大声で叫ぶように歌っているらしかった。ユキは
黙ってひざに置いた自分の手を見つめていた。僕はしかたなく「ビートルズで
いい?」と言った。ユキはうれしそうな顔をしてうなずいた。僕はほっとして
どうやって曲を選ぶのか教えてもらい、ユキも知ってそうな「イエスタデイ」を
リモコンで入力した。テレビ画面が切り替わり、よく意味のわからない映像と
共に大音量でイントロが流れ出した。僕は思わず耳を覆った。見るとユキも耳を
覆いながら「うるさいですね」と笑いながら言っているようだったけど、声は
聞こえなかった。
僕はユキが音量を調節してくれ、なんとか耳が慣れてくると僕は歌った。ユキの横で
歌うのはなんだかとても恥ずかしかった。ユキはテレビ画面を見つめながら僕の
歌を聴いていた。声が震えるせいで時々音を外しながらもなんとか歌いきると、
顔が熱く火照ってどくどくと体全体が脈打っているように感じた。「知ってた?
この曲」と僕が訊くと「うん。中学の時英語の授業で聞いた気がする」と笑顔で
言ってくれた。ユキの笑顔はいつだって僕を安心させてくれた。僕が照れ隠しに
「下手だった?」と言うと「そんなことないです」と慌てて否定してくれた。
「じゃあ次はユキちゃんの番だね」と僕が言うと「えっそんな・・・私聴いてる
だけでいいです」と言って恥ずかしそうに笑った。「だめだよそんなの。順番に
歌わなきゃ、僕はちゃんと歌ったんだからね」と僕が少し意地悪に言ってみると
「え順番なんですか?ずるい、そんなこと初め言ってなかったじゃないですか」
と言いながらほほを膨らませてしまった。
60前スレから46:2006/03/07(火) 03:13:36 ID:PzhGDn6G0
歌い緊張が解けたせいか気分がハイになっていたので「そんな顔したって今日は
ゆずらないからね」と言った。ユキが一生懸命恐い(と本人が思っている)顔を
しながらにらんできたので僕もにらみかえし、そのまましばらくにらみあった。
先に折れたのはユキの方で、ぷっと吹き出して笑い出した。僕も笑って「はい、
ユキちゃんの負け。ちゃんと歌ってよ」と言うと、ユキは本を取って開きながら
ELTとかでいいですか?と言った。僕はELTが何かわからなかったのでそう
言うと、おかしそうにくすくす笑いながら番号を入力し、「じゃあ歌いますから
あまりよく聴いてないでくださいね」と言ってマイクを取った。「全神経を集中
して聴くよ」と僕が言ったとき音楽が始まったのでユキは軽く僕の左腕を叩くと
歌い始めた。彼女の声は優しくてとても心地よく響いた。恥ずかしがってか少し
声は小さかったけど、丁寧に音階をなぞり、正確な速さで音楽に歌詞を乗せた。
僕は画面に現れる歌詞を目で追うのに疲れると目を閉じ、変な硬さのソファーに
身をゆだねてその気持ちのいい歌に浸った。
61前スレから47:2006/03/07(火) 03:16:46 ID:PzhGDn6G0
終えるとユキは静かにマイクを置き、「寝ちゃったんですか?」と小さな
声で言った。「寝てないよ、すごくうまかった」と目を閉じたまま僕は答えた。
「気持ちよかったよ、聴いてて」彼女は照れているようだった。「何て曲?」と
僕が訊くと「フラジール」と教えてくれた。確か「壊れやすい」だったっけ?
前に単語帳で見たことがあったな、と僕は思った。形容詞、フレイル「もろい」
と同じ語源だとターゲットに載っていた。「割れもの注意」と僕はつぶやいた。
「え?」「ターゲットで見たんだ。フラジールの意味。壊れやすいって形容詞。
割れもの注意って荷物にシール貼るでしょ?たしかそれが英語だとフラジールだ
って書いてあって、面白かったから覚えてたんだ」知らなかったと言ってユキは
僕に体をもたれかけてきた。僕が少し驚いて顔を起こそうとすると、彼女は手を
僕の目にかぶせて「もう少しこのまま寝てて」と静かに言った。「何でも知って
いるんですね」「そんなことないよ、ターゲットだってまだ完璧じゃないしさ」
ユキはしばらく黙っていた。「寝てるの?」と僕が訊くと僕の胸でゆっくりと
首を振った。「何か考えてるの?」と訊いても返事がなかったので、あきらめて
それからは僕も黙っていた。ユキは本当に寝てしまったんではないかと思うほど
静かにじっとしていた。僕は少し不安になったので目を開けて彼女の顔を見た。
ユキは僕の顔をじっと見つめていた。少しの間見つめあった後「目開けちゃだめ
じゃないですか」とユキは笑った。「どうして僕の顔を見ていたの?」と訊くと
ユキはその質問には答えず、「ワタナベ君ってどこ狙ってるんですか?」と逆に
訊いてきた。「どこって・・・あっ大学?一橋だけど、一応」ユキはふーん、と
言ったきり下を向いて黙ってしまった。彼女が何を考えているのかよくわからず
僕は少し混乱した。「どうしたの?」「なんでもないです。そいえば聞いたこと
なかったなぁって思って。一橋かぁ・・・やっぱり頭いいですね」そう言って
僕に向けた笑顔はどこか寂しそうだった。僕は何かに気付いたような気がした。
62大学への名無しさん:2006/03/07(火) 03:23:49 ID:PzhGDn6G0
以上、47までが前スレに載っていました。
もうこんな時間なので睡魔によって転載ミスがあるかもしれません。
その場合はご了承くださいまし。それと、ワタルと書いてあった箇所
をノボルに変更し、改行ミスがあったところは直させて頂きました。
他は一切、手を加えていません。また1〜47までの区切りは私が
勝手にしたことです。では、あとはワタナベさんが来てくれるのを
待ちましょう。明日の昼ごろ、このスレが上がってなかったら上げ
ようと思います。
63大学への名無しさん:2006/03/07(火) 04:46:21 ID:bzf3DTQDO
板違いのクソスレだから削除されたんだろ。
サロンイケよ板違いなんだよ
64大学への名無しさん:2006/03/07(火) 05:03:39 ID:eeJh+9nP0
長いにもほどがあるだろ・・・読む気せんわ・・・・・
65大学への名無しさん:2006/03/07(火) 11:15:50 ID:z8eMEF7HO
今までちょっとずつ読んでたから、
気にならなかったけど、
こうやって見ると確かに長いなw
66大学への名無しさん:2006/03/07(火) 11:26:28 ID:PzhGDn6G0
ワタナベさんは来てくれるかな〜。
67大学への名無しさん:2006/03/07(火) 11:28:01 ID:H5DO90yc0
ここは>>3を称えるスレです

>>3おめ
68大学への名無しさん:2006/03/07(火) 11:30:07 ID:R+WOd62C0
そんなの可哀想だよ。
>>3
おめ
69大学への名無しさん:2006/03/07(火) 11:44:15 ID:+Yc9rdy20
>>3
おめ
70大学への名無しさん:2006/03/07(火) 12:43:02 ID:h63ntXgV0
PzhGDn6G0お疲れ。 来てくれることを願うしかない…
71大学への名無しさん:2006/03/07(火) 12:48:51 ID:NST2Z6maO
来てくれるのをひたすら待つしかないね(´-ω-`)
ワタナベさーん!カムバック♪
72大学への名無しさん:2006/03/07(火) 13:27:36 ID:x9+2gQxp0
ワタナベさんきてくれないかな〜
73大学への名無しさん:2006/03/07(火) 13:48:18 ID:Kc0gYQdW0
早く気づいて欲しいね
74大学への名無しさん:2006/03/07(火) 18:48:10 ID:enyGpTYwO
削除依頼してきますた
75大学への名無しさん:2006/03/07(火) 19:21:35 ID:Z2/6j6HmO
>74
ふざけるな!俺達の楽しみを奪うな!!
76大学への名無しさん:2006/03/07(火) 19:41:36 ID:5+bn0nqb0
とりあえずワタナベさん来たらサロンにいくなりなんなり相談しますので
少しの間勘弁してくださいお願いします

このままじゃ難民化だよー
ワタナベ来てくれ頼む
77大学への名無しさん:2006/03/07(火) 21:06:30 ID:QG0yCXu60
ちゃんとサロンに移動させるから今は見逃してほしいよなー
結構これ楽しみだったりするんだなorz
78大学への名無しさん:2006/03/07(火) 23:02:03 ID:QbIvKIDWO
ぜひワタナベさんに戻ってきてほしい!ってことであげ
79大学への名無しさん:2006/03/07(火) 23:06:49 ID:Bxtku38PO
俺もあっこの板にかいてた色々な人の話しきになる(ノд´)
あのスレ最近知ってまだ全部読んでなかったのにorz
80大学への名無しさん:2006/03/08(水) 01:20:54 ID:38yIQkHU0
続き気になる!
81大学への名無しさん:2006/03/08(水) 02:02:43 ID:kAyO66eQ0
今日(3月7日)は来てくれませんでしたね。
今となっては前スレが削除されてすぐに建てておけば良かったと後悔しています。
>>79 他の方の話が気になりますか。
そろそろ受験が終わって報告してくれる可能性がありますし、他の方のもまとめて
おきましょうかね。
82ワタナベ ◆ak1txl.bKk :2006/03/08(水) 11:25:29 ID:91ziAh+J0
前スレが停止になってしまい、とても残念に思います。
僕の書き込みが停止になった原因だとしたら、心ならずも皆さんには
多大な迷惑をおかけしたことになりお詫びのしようもありません。
続きを待っていてくださる方もいるようでとても嬉しく思いますが
僕としてはこれ以上このスレで続けることはできないように思います。
僕の話はあくまでもザクさんを始めとするこのスレの主役の方々が
帰ってきてくれるまでの保守代わりであると考えているためです。
ですからスレを移転するのもそんな方々が帰ってこれなくなる恐れが
あるように思い、あまり賛成できません。
とりあえずまた夜にでも来ます。
83大学への名無しさん:2006/03/08(水) 12:20:21 ID:ltG6tFUzO
晒しあげ
84大学への名無しさん:2006/03/08(水) 12:44:25 ID:kAyO66eQ0
私としてはワタナベさんの続きを読めればそれでいいと思います。
確かに主役の方々が帰ってきてくれるのを待つための保守代わりと
いうことは分かりますが、もう今はそれを待っている人よりもワ
タナベさんの話の続きを読みたい人の方が多いでしょう。また、
今の時期になっても主役の方々は来てくれていない現状を見ると
恐らく前スレが存続していたとしても帰ってきてくれる可能性は限
りなく低いものだと考えざるを得ませんが、帰ってきてくれる可能
性は皆無ではあません。しかし、このままワタナベさんが続きを書
いて頂けない様なのなら、このスレもすぐに消えてしまうでしょう
し、それこそ主役の方々が帰ってきてくれる可能性は皆無になって
しまうと思います。このスレでこのまま続けるのも、もしそれがで
きないと感じるようなのでしたらスレのタイトルを同じにして大学
受験サロン板に移動して続けるのもそれは保守代わりにはなりませ
んか?私としてはどんな形であれ、ワタナベさんの話の続きを読み
たいと切に願います。
85大学への名無しさん:2006/03/08(水) 14:20:34 ID:LfZOJqyt0
どの道サロンに行かなくちゃいけないんだから

誰か誘導してよ・俺立てられないんだ。

んでワタナベさんには続き書いて欲しいね。
86大学への名無しさん:2006/03/08(水) 14:49:00 ID:mzwhqvqK0
てかこれはこのまま保守で、ワタナベさんのはサロンで続き書いてもらえば?
この話の続きを見れないのは…
87大学への名無しさん:2006/03/08(水) 15:39:14 ID:yLys2+/yO
俺達はどんな形であれ、ワタナベとユキちゃんの続きが読めればいい!
もし読みたいと思ってるやつがいなかったら、この恋物語PART2のスレも立っていないハズだ!
88大学への名無しさん:2006/03/08(水) 18:39:45 ID:YsovHywU0
てか、ワタナベはここまで書いたんだから書く義務があると思う。俺はこうして毎日ワタナベがここにいつ現れるか気になって仕方なかった、
お前はそうゆう奴の事も考えて書いていっていくのは義務だよ。
除去依頼出してる奴もいるけど俺みたいに気になってる奴もいるってことを忘れんなよな。
89大学への名無しさん:2006/03/08(水) 18:51:31 ID:mzwhqvqK0
で…サロンに新スレ立てる? このままここに書いてもらう? (仕切ってごめん
90大学への名無しさん:2006/03/08(水) 18:52:24 ID:ED7XLFVy0
>>88
なんか偉そうですね ^^;
91大学への名無しさん:2006/03/08(水) 19:02:22 ID:ltG6tFUzO
〜いままでの話のあらすじ〜
目立たない浪人生が予備校で女子高生を捕まえ、デート、キスして終わり。
以上。あとはサロンでやってね。
92大学への名無しさん:2006/03/08(水) 19:20:39 ID:XHgfmKpp0
サロン行こうぜサロン
93大学への名無しさん:2006/03/08(水) 23:01:57 ID:LfZOJqyt0
ワタナベまだ〜?
94大学への名無しさん:2006/03/08(水) 23:09:10 ID:mzwhqvqK0
夜に来るって言ってたが…
95大学への名無しさん:2006/03/09(木) 00:05:45 ID:mzwhqvqK0
ageときます…
96大学への名無しさん:2006/03/09(木) 01:04:04 ID:HAlMCJkOO
はやくこーい
97ワタナベ ◆ak1txl.bKk :2006/03/09(木) 03:01:25 ID:YHqcK4nX0
すみません、つい夕方に寝てしまって夜中になってしまいました。
続きはもちろん僕としても書きたいし、読みたいと思ってくれる人が
いるのは本当にうれしいです。サロンでなら書けるとしたらその方が
いいのかも知れません。昼にも書きましたが、僕が気にかかっている
のはこの板でこのスレを存続させなきゃ僕以外の方々の話の続きを
知ることができないのではないか、ということです。だからまたこの
スレが停止になるようなら自分の話を続ける意味はないと思っています。
自分勝手かも知れませんがわかっていただけるとうれしく思います。
98大学への名無しさん:2006/03/09(木) 12:19:43 ID:m7J5ns+EO
>97
このスレの主役はもはやザクではなくワタナベだよ。前スレで最初の頃に登場してた人たちはもう書き込むつもりはないんじゃないかな?
99大学への名無しさん:2006/03/09(木) 12:30:06 ID:oFdfl/910
>>97
98の言うとおり主役はワタナベさんだろ。気にしないで書き込みしていいんじゃないか?
それでもやっぱり気にしちゃうって言うならサロンに行くしかないが…
100大学への名無しさん:2006/03/09(木) 13:15:41 ID:oG+fM8OKO
>>99言うとおり主役はワタナベだし、続きを知りたい人がいるんだから普通にサロンでやれば問題ないと思う。
つか、気になるから続きを頼むよ(´・ω・`)
101大学への名無しさん:2006/03/09(木) 13:42:16 ID:llom9Djs0
つか書き込まなきゃ流れてアボーンなんだが。

そもそも戻ってきたとしても停止は免れないだろ
102大学への名無しさん:2006/03/09(木) 15:41:16 ID:0BVgZ8aHO
続きが気になる割に誰もサロンにスレをたてようとしない件
103やっと見付けた:2006/03/09(木) 16:08:11 ID:q/2qlDL2O
このスレは保守
ワタナベの話はサロン
でFAじゃね?
続き読ませてもらう代わりに皆でこのスレ断固保守すりゃワタナベも文句ないだろ
ってことで誰かサロンに建ててきて誘導よろ
携帯だとスレ探すの大変なんだよな
10499:2006/03/09(木) 16:13:51 ID:oFdfl/910
じゃあスレ立てるよ。タイトルはどうする?
105大学への名無しさん:2006/03/09(木) 16:15:39 ID:FQPSAVSY0
Part2からの新参者で良ければ立ててくるけど
スレタイどうすればいい?
106大学への名無しさん:2006/03/09(木) 16:16:46 ID:FQPSAVSY0
ごめんちゃんと更新してなかったorz
99お願いします。。。
10799:2006/03/09(木) 16:17:20 ID:oFdfl/910
>>105
かぶったwwww
10899:2006/03/09(木) 16:18:41 ID:oFdfl/910
んじゃスレタイは105に任せる。今決めてくれ
109大学への名無しさん:2006/03/09(木) 16:23:30 ID:FQPSAVSY0
はぐれ予備校生の恋物語・純情派
11099:2006/03/09(木) 16:29:06 ID:oFdfl/910
【ワタナベ】はぐれ予備校生の恋物語・純情派 【ゆき】ってしたら

「サブジェクトが長すぎます」だと…ワタナベとゆきの名前は入れたいんだよな…
111大学への名無しさん:2006/03/09(木) 16:34:26 ID:FQPSAVSY0
ヒント:半角
11299:2006/03/09(木) 16:38:47 ID:oFdfl/910
http://school5.2ch.net/test/read.cgi/jsaloon/1141889876/

なんか俺はスレを立てられる人じゃないなorz
113大学への名無しさん:2006/03/09(木) 16:40:31 ID:oFdfl/910
【ワタナベ】はぐれ浪人生の恋物語・純情派【ゆき】
http://school5.2ch.net/test/read.cgi/jsaloon/1141889876/

ワタナベさん。ここに思う存分書いてくれ。
114大学への名無しさん:2006/03/09(木) 16:42:12 ID:FQPSAVSY0
>>112
115大学への名無しさん:2006/03/09(木) 17:29:38 ID:FQPSAVSY0
>>15-61を貼っておきました。

ツカレタ…
116大学への名無しさん:2006/03/09(木) 18:08:55 ID:iCCdRkTVO
セックスはしてないのか
真・スレッドストッパー。。。( ̄ー ̄)ニヤリッ