c:餌縷々『アクア=エリアス』† 63Ria

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>>808
そんな二人の様子を扉の外から伺う影ひとつ……
……影は口の端をつり上げて邪悪な笑みを形づくると、静かに去っていった。


「ふぅ……。」
 そんなある日のこと、仕事を終えて自室に戻った不意ー巣は疲労感からため息をもらした。
(……あの方のやる事はいつも突然ね……)
 屋敷中のカーテンとテーブルクロスを洗ってすっかり冷たくなった手にはぁーっと息を吹きかけ、胸元に触れて暖める。
「不意ー素……いいかい? 」
 ノックの音と共に春賀様の声が響く。
「春賀様? 」
「ああ……いいワインが入ったんで一緒に飲もうと思ってね……。」
 不意ー素が扉を開けると、一本のワインを手にした春賀が立っていた。
「よろしいんですか? 」
「ああ……きょうは疲れたろう? 」
「いえ……春賀様の為でしたら……。」
「……それが本心ならね……。」
 春賀は誰にも聞こえないような声で呟くと、ベッドに腰掛けワインのコルクを抜いた。


「不意ー巣……不意ー巣? 」
 春賀の声に不意ー巣の意識が深い微睡みからやんわりと呼び戻される……
(あれ? 二人でワインを飲んで……それから春賀様に抱かれて……それから……)
 だんだん感覚が戻るにしたがって、ひんやりとした床の感触と、自分を見下ろす春賀様の姿がだんだんと鮮明になってくる。
「春……賀さま? 」
 不意ー巣はのろのろと起きあがり、周囲を見回す……どうやら春賀様の……元は不意ー巣の両親の館の地下室らしい……
 元はワイン倉庫だったのだが、最近ではもっぱら春賀の他の−愉しみ−の為の部屋になっている。
 身体に痛む箇所が無いところから、これから春賀様の−愉しみ−が始まるのだろう……恐怖と期待の入り交じった気持ちで春賀様を見上げる不意ー巣……
 春賀は大型犬サイズの首輪を不意ー巣の首につけると、かちゃりと鍵をかけ手枷に鎖で繋いだ……。
「これと同じ鍵と、各部屋の鍵をこの屋敷のどこかに隠した……」
「春賀様?」
 突然語り始めた春賀を不意ー巣が潤んだ瞳で見上げる……。
「俺はこれからちょっと隣の町まで出かけてくる……その間に鍵を捜し出し、手と首の戒めを解けたらお前の勝ち……」
「春……か様!?」
 春賀が不意ー巣の唇を無理矢理に奪う……
「安心しろ……朝まではもう幾らも無い……朝になればきるひーが起きてきて助けてくれるさ……風邪をひく事も無いだろう……」
「!!? 」
 邪悪な笑みを浮かべる春賀……その表情を見て不意ー巣は全てを悟った……首輪に手枷の他はソックスとワイシャツだけ……それもご丁寧にボタンは全て引き千切られている……
 手頃な布を巻き付けようにも、おそらくは昼間の洗濯はこれが目的だったのだろう……カーテンやテーブルクロスは洗い桶の中だし、シーツを巻こうにも、部屋は全て施錠されているのだろう……。
 しかも、昨夜の情事のせいで髪は乱れ、内股には春賀様の残滓……こんな姿をきるひー将軍に見られたら……
 怯えて縮こまる不意ー巣の表情にサディスティックな笑みを浮かべながら、春賀様は不意ー巣の下腹部に指を這わせる。
「んんっ……違うんです……違うんです……。」
「ん? いったい何が違うんだい? 」
「ゆ……許してください……。」
 涙をぽろぽろと零しながら、不意ー巣は春賀の肩に抱きつく……
「許す? 俺は何も怒ってなんかいないさ……。」
 不意ー巣の滴に塗れた手で、春賀は不意ー巣を押しのけた……