選択肢を選んで1000レス目でED 3

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1名無しって呼んでいいか?
・リレー形式で話を作れ
・話の最後には選択肢をつけること
・選択肢は1つのみ選ぶこと(複数選択不可)
・次に進める人は選択肢を選んだ後それにあった話を作り、1000レス目でED
・途中にキャラ追加、話まとめなどO.K.
・話を続けるときは名前欄に通し番号を入れること
・今回はトゥルーEDを目指すこと。主要人物の死亡(モブはOK)、誰かとくっつけるのは無し
・450KBを超えたら気づいた人が注意を促すこと
・新規で書き込みする方はwikiを一読すること

▼前スレ
選択肢を選んで1000レス目でED 2
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/ggirl/1179654105/

▼過去スレ
選択肢を選んで1000スレ目でエンディング
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/ggirl/1140272497/

▼まとめwiki 
ttp://www22.atwiki.jp/1000ed/
2名無しって呼んでいいか?:2007/12/12(水) 21:10:22 ID:???
登場キャラクタ−
大堂愛菜:高校二年の主人公 。予知夢を見る(但し起きると内容は忘れている)
        本人に自覚はないが、とても力が強いらしい。3月生まれ。

大堂春樹:愛菜の義理の弟(高1)。好きな人がいるらしい。
愛菜よりしっかりものなので兄にみられがち。旧姓は高村春樹

湯野宮隆:愛菜の幼馴染。ファントム(ミスト)を操る能力がある(事故後能力発祥)。
       モノに宿る八百万の神に働きかける能力もある(先天的能力)。愛菜と同じクラス。

武 :隆の裏人格(クローン)。ファントム(ミスト)を隆とは別に操ることができる。
       存在を組織に知られていないが、組織の命令には逆らえないらしい。

宗像一郎:放送委員の委員長。水野を利用している。「見える力」がある。

宗像修二:一郎の双子の弟でテニス部エース。一郎と同じく「見える力」をもっている。
他人を見下しているところがあり不誠実とおもわれているが、愛菜にはなぜか協力的。711

近藤先生:厳格だが生徒思いの男性教師。春樹の担任。美波とは同級生。

水野先生:隆とキスしていた音楽教師。組織の一員、主流派。

長谷川香織:愛菜の親友。愛菜と同じクラス。

御門冬馬:感情表現に乏しい。言葉遣いは丁寧。愛菜を守る契約をする。
       3年2組に在籍。673

高村周防:高村研究所の反主流に属する。明るいお兄さん的存在の24歳。
       能力は高い。変わった能力らしい(修二談)。

チハル  :愛奈が隆からもらった熊のぬいぐるみ。隆の力で動くようになる。
       力が強くなり、いろいろなものに変身できる。人の強い負の感情に弱い?

大堂志穂:愛菜の実の母。冬馬の名付け親。現在行方不明。
       組織に所属していた。

湯野宮美由紀:隆の姉。大学の寮に入っている。

桐原   :春樹のクラスメイトで許婚?彼氏がいる。
       お菓子作りが得意でプロ級。

大宮美波:地下通路でであった反主流派の人。能力者で力は強いらしい(修二談)。
       周防と同じくらいの年齢、声を聞かなければ女性と間違えそうな容姿。
       能力の一つに高い治癒能力がある。

大宮 綾 :美波の妹。コードNo543。16歳で他界。
(こよみ)  弱い治癒能力を持っていた。

熊谷裕也:春樹の精神世界で会った無骨で気さくそうな男だが、組織の一員で主流派。
     愛菜を器と呼ぶ。535

眼鏡の男:春樹の精神世界で会うが、何もかもが謎。
3636:2007/12/12(水) 21:11:37 ID:???
Aもう少し後にする

なんとなくすぐに行くのも躊躇われて、私はソファに座りテレビをつけた。
丁度明日の天気予報が流れてくる。

(明日は雨が振る確立50%か。そういえば雨って久しぶり?)
ここしばらく曇ることはあっても雨が降った記憶が無い。

(でも、文化祭の準備してるから降らないで欲しいなあ)
大きなものを作るときは一時的にグラウンドを使ったりするし、足りないものを買出しに行くときも雨が降っていたら大変だ。
そんな事を思いながら、テレビを見ているとリビングの戸が開く音がした。
振り向くと、隆が立っている?

(あれ?もう寝たんじゃなかったの?)
不思議に思いながら、紙とペンを取る。

『どうしたの?』
「あなたが僕に会いたいと言っていたので、隆が寝たところで身体を借りました」
『え?じゃあ、武くん?』
「はい」
頷く武くんに私は思う。

(隆の行動って、武君に筒抜けなんじゃないの……。てことは隆が言ってたお礼も知ってるってことよね?)
でも、一応頼まれたことだし、隆がお礼を言っていたことを書いてみせる。
武くんはそれを見て小さく微笑むと、私の向かいのソファーに座った。

「隆が僕の存在を知ってから、感謝されているのは知っていました。
 僕は彼でもあるんですから、感謝されるというのは少し変な感じもしますね」
『そう?でも、隆と武くんは別の人格だし変じゃないと思うな』
「そうですか?でも、僕こそ隆に感謝してるんですよ。
 隆が事故にあってくれたから、僕はあの研究所から出ることが出来た……。
 それで僕に聞きたいことがあるんですよね?」
(あ、そうだった)

えーっと……
@一郎くんと修二くんについて
A鏡のことについて
B熊谷さんのことについて
4637:2007/12/13(木) 00:04:37 ID:???
@一郎くんと修二くんについて

『あの…一郎くんと修二くんって知ってるよね。
その二人の事について知っていることがあれば教えてくれないかな』

私がノートに書くと、武くんは首を横に振った。

「僕が研究所にいた時、見かけた事はありますが……詳しい素性までは知りません」
『何でもいいから、思い出せないかな』
「オリジナルとコピーはそれぞれ違う場所で暮らしていましたので…。本当にすみません」
『オリジナルとコピー?』
「あっ、すみません。説明不足でしたね。僕たちで例えるならオリジナルが隆でコピーが僕です。
本物とクローンの事ですね。研究所はオリジナルを手に入れられない時、僕達のようなコピーで補完していたようでした」
『あれ? 16年前からクローンは作られなくなったんだよね』
私は昨日聞いた、美波さんの言葉を思い出しながらペンを走らせた。
「はい。ですから僕はコピーの中では一番年下でした」

武くんはとても穏やかな口調で教えてくれる。
大雑把で素直じゃない隆と同一人物とは、とても思えない。

(そっか。一郎くんと修二くんについて詳しくは知らないのね)

私がガックリと肩を落としてしまったのを見て、武くんは考え込みながら口を開いた。

「ちょっと待ってください。もしかしたら……」
その言葉に、私は再び武くんを見つめる。

「さっき隆と鏡についてお話されてましたよね。それで少し気になる出来事を思い出しました」
『気になる出来事って? 些細なことでも教えて』
「宗像兄弟を見かけた時なんですが……確か、八年前の事ですね。
あの双子には特別な見る能力があるとの事で、被験者の定期検査の時に幹部達と同行していたんです。
検査の順番待ちをしていた時……幹部たちが「鏡が剣を見つけた」と騒ぎだしたんです。
僕は偶然居合わせただけでしたし、まだ小さな子供で言葉の意味まで理解できませんでしたが、
今思うと、鏡というのは宗像兄弟を指していたのかもしれません」

(そういえば……)

一郎くんが以前、研究所に居た時の話をしてくれた時、
「俺たちは能力を買われ、能力者を大勢見てきた。各個人の力の数値化と適正化が施設の目的だった」
という内容の話していた。武くんが言っている「定期検査の時に幹部達と同行」っていうのは一郎くんが話していた出来事だろう。

(見つけたって……被験者の定期検査の時だよね)

『仮に鏡が一郎くんと修二くんだとして……剣を見つけたって……』
「あいにく、誰だと特定は出来ませんが、被験者の誰かだと思います」

私は…
@考える
A定期検査の時の事をもう少し詳しく聞いてみる
B研究所について詳しく聞いてみる
5638:2007/12/13(木) 18:29:27 ID:???
@考える

(組織は『剣』を探していた?)
もちろん探していたから「見つけた」と言ったのだろう。

(鏡と剣……)
組織はずっと何かを探している。それは確かだ。
剣は8年前に見つかった。
けれど、まだ何かを探している。
私の脳裏に、夕食前に見たテレビの内容が浮かぶ。

(三種の神器、鏡と剣と勾玉……?)
鏡が一郎くんと修二くん。
剣は組織の被験者のだれか。
勾玉は……?
探しているのは『勾玉』なのだろうか?
けれど鏡も剣も勾玉も当然人ではない。
力の質とかそういうものを比喩してそう言っているだけかもしれない。

(あー、もう。わからなくなってきた)
「どうしましたか?」
『あ、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけで……』
私は不意に、脳裏に浮かんだ言葉にペンを止めた。

「愛菜さん?」
『ねえ、器について聞いたことない?』
「器ですか?」
夢の中で会った眼鏡の男と、熊谷さんが私をそう呼んだことを思い出したのだ。
武君はすぐに頷いた。

「器という言葉自体は組織では良く使われます。僕たちも『力の器』と呼ばれていました」
『力の器?』
「はい、組織内では被験者としてナンバーで呼ばれていましたが、対外的には『力の器』として説明をしていたようです。
 『被験者』では人として扱っていることになりますが、『力の器』ならばモノと一緒だということなのでしょう。
 つまり、力を持っている被験者はすべて『力の器』だったといえます」
武君の言葉に、私は再度考え込む。
そういえば……

@眼鏡の男の人は『本来の姿ではないただの器』って言ってた。
A熊谷さんは『大切な器』って言ってた。
Bやっぱり考えても仕方ない、寝よう。
6639:2007/12/14(金) 23:50:50 ID:???
@眼鏡の男の人は『本来の姿ではないただの器』って言ってた。

『本来の姿ではないただの器』ってどういうことだろう。
力を持っている被験者はすべて『力の器』だと武くんは言っているけど……。

『ねえ、武くん。力を持っている被験者、つまり能力者全員が『力の器』なのよね』
「はい。言い換えれば『能力を有する身体を持つモノ』ということです」
『『能力を有する身体を持つモノ』かぁ。力ってそもそも何? 超能力みたいなものなの?』

私の問いに、武くんはゆっくり答えだした。
「超能力が超自然の能力を言うのであれば、僕やあなたが持っている能力は間違いなく超能力ですね。
力とは太極という世の中に満ちる原理を能力に変換したものです。大きく分けると、内なる力と得る力の二種類あります」
『二種類?』
「はい。内なる力とは自身の生命力そのものです。楽に出せる代わりに、無理をすると命を落とすこともあります。
得る力とは世の中に満ちるエナジーやファントムなどで生気を集め、力とするものです。高度な技を必要とし、体力と精神力を消耗します。
両方とも特別な身体……いわゆる器でないと力は発動しません」

(……以前、一郎くんが説明してくれてたことだよね。と言っても、やっぱり理解できないけど……)

『二種類の特徴が違うってこと?』
「そうです。外部から力を得る時は、精神力と体力が続く限りは無限です。
術者の気が乱れていたり、未熟だと、バランスが崩れてエナジーに魂が取り込まれてしまうこともありますから注意が必要ですね。
もう一方は、生命力そのものを削って力にするので有限です」
『……とにかくどっちの力も無闇に使うのは危険そうだね』
「はい。ですからリスクの少ない得る力に長けている者ほど、力が強いとされています。弱い者は薬を用いて矯正したり、生命力のみでしか力の発動ができません。強い力を持つ者はごく一部だけなので、ほとんどの『力の器』は使い捨てにされます」
『使い捨て……』
「『力の器』がモノとして扱われていたのは、それらの理由からでしょう。クローンも完全に打ち切られた現在では、少数の『有能な力の器』しか残っていないと思います」

(『力の器』って酷い扱いだよね)

組織が能力者を人間扱いしてないのが何より許せない。
私がムカついてもしょうがないと分かってはいるけれど、不機嫌に字を書いていく。

『『力の器』って言い方、私は嫌だな』
「そうですか? 僕にはよくわかりませんが……」
『ムカツクよ。武くんも怒るべきだよ。ふざけるなって組織の人達に言ったらよかったのに』

書きなぐった字を見て、武くんは優しい笑みを私に向ける。

「……隆の身体に入って約三年になりますが、隆も…そして、あなたもとても不思議な人です」
『??』
私は首をかしげて、微笑んだままの武くんを見る。
「変な意味ではないんです。隆もあなたも……いつも人のために怒ったり泣いたりしますよね」
『そ、そんなことないよ』
「いいえ。そんなあなた達の考え方が理解できませんでしたが、最近、ようやくその意味が分かってきました。
僕たち被験者に足りない何かを、あなた達は持っているようです」

@『ところで、本来の姿ではないただの器ってどういう意味だと思う?』
A『じゅあ、私の力は内なる力かな得る力かな?』
B『被験者に足りない何か?』
7640:2007/12/16(日) 03:17:29 ID:???
B『被験者に足りない何か?』

「優しさ、思いやり……被験者の僕たちに足りないものをあなた達は沢山持っています」

武君は物腰も柔らかで、私や隆よりもよっぽど優しく見える。

『私なんかより、武君の方が絶対に優しいよ。今も丁寧に説明してくれたし、素敵だと思うよ』
「素敵……ですか?」
『うん。すごく素敵だよ』
「そ、そうでしょうか……」

急に武君の顔が赤くなり、下を向いてしまった。

『どうしたの?』
「あの、その……女性に素敵と言われたことが無かったので、とても恥ずかしくなってしまって……」
『えっ! そんな恥ずかしがられたら、言った私の方がもっと恥ずかしくなるよ』
「すみません」
『べ、べつに謝らなくてもいいよ』
「すみません」

(武君ってもしかして、照れ屋?)
そんなことをボンヤリと考えていると、はにかんだままの武君が私を覗き見るようにして口を開いた。

「あの…愛菜さんに謝らなくてはならない事があるんです」
『何を?』

武君に謝られることなんてあったっけ? と記憶を巡らせても思い当たることがなかった。
「水野先生と隆の事で、あなたを泣かせてしまいました」

夢が現実になってしまった、水野先生と隆の二度目のキスシーン。
あれは隆ではなく、武君が入っていた時に起こった出来事だったのを思い出す。

『そうか。あの時、隆の中に入っていたのは武君だったよね』
「はい。水野先生と接触していたことが気がかりで、あの日の授業中、居眠りの際に入れ替わっておいたんです。
放課後、隆のフリをしたまま音楽室に行くと、水野先生がキスをしてきて、思わず頭が真っ白になってしまいました。
そして、『口裏を合わせなさい』と強く言われて、それにまで従ってしまったんです。
組織が隆を思い通りにしようとしている事も知っていましたが、愛菜さんを泣かせてしまったことで、更に動揺してしまって……。
どうも僕は女性に対して不慣れというか、意識しすぎてしまっていけないのです。
言い訳にしかなりませんが、本当にすみませんでした」

私は…
@許す
A許さない
B女性が苦手な理由があるのか尋ねる
8641:2007/12/16(日) 22:53:27 ID:???
@許す

『いいよ。もう済んだことだもん』

私の書いた文字を見て、武くんは嬉しそうに顔を崩した。

「それじゃ、隆とまた付き合って頂けるんですね。よかった……。僕が破局させてしまったんではないかと、悔やんでいたんです」
『元鞘に戻るわけじゃないよ』
「えっ!? なぜですか」

武くんは納得できないのか、身を乗り出してきた。

『付き合ったときは嬉しかったし、楽しかったけど……。もう少し、真剣に考えてみようかと思ったの。
今回の事で付き合うって、楽しいだけじゃなく、辛い事もあるってわかったから』
「でも……」
『別に嫌になったわけじゃないんだよ。もっと自分自身がしっかりしなきゃいけないと思っただけなんだ』

春樹が出て行ったのも、声が出なくなったのも、私自身の弱さのせいだ。
それが分かっているからこそ、今は誰とも付き合えない。

「そうですか……」
武くんは諦めたように、ドサッとソファーに座り込んだ。
『ごめんね』
「いいえ。……そうですよね、全部分かっているからこそ、隆はあなたの側に居るんでした」
『すごく感謝してるんだ。けど、改めて言う機会も無いしね』
「安心してください。愛菜さんの気持ちは、もう伝わっていますよ」
そう言って、武くんはまた穏やかに笑った。

『あっ、そうだ。せっかく出てきてくれたのに、飲み物も用意してなかったね。ちょっと待ってて』

私は立ち上がると、キッチンでコーヒーを用意する。
リビングに戻って、コーヒーカップをいつものように隆に差し出した。

「ありがとうございます」
武くんが受け取ろうとしたところで、一瞬、私たちの手が触れ合った。
すると、武くんの顔が真っ赤になっていく。

「うわっ。ご、ごめんなさい」
私は首を振って、平気だよと伝える。
だけど、武くんは耳まで赤くさせたまま、何度も謝っていた。
(……本当に女の子が苦手なんだね)

次は何を聞こうかな
@『ところで、本来の姿ではないただの器ってどういう意味だと思う?』
A『そういえば、武くんは私の力が何か知ってるんだったよね?』
B『武くんはどうして女の子が苦手なの?』
9642:2007/12/17(月) 18:36:16 ID:???
@『ところで、本来の姿ではないただの器ってどういう意味だと思う?』

「本来の姿ではない、ですか?」
ノートを覗き込んで武君は首を傾げた。

「どういうことでしょう?力に目覚めていないとか、使いこなせていないとか、そういうことでしょうか?
 すみません、分からないです」
そういいながらも自信がないのか、武君は私に頭を下げた。

『あ、ちょっと気になっただけだし気にしなくて良いよ』
「いえ、お役に立てずすみません」
『だから気にしなくて良いってば』
隆の姿で、律儀に頭を下げる武君に少し調子が狂う。

『武君が知らない言葉っていうことは、組織にはそういう人がいなかったってことなのかな?』
「あなたがそう言われたのですか?」
武君は私をまっすぐに見て尋ねてきた。
私が頷くと、少し考えるような間をおいて口を開いた。

「それでは、もしかして高村の一族の伝承に関係があるのではないでしょうか?」
『伝承?』
「はい。高村には古い言い伝えがあるようだと、能力者の中には結構知られています。
 隆のように精霊や妖精のようなものの声を聞く人もいますから。
 そういう能力者が精霊たちの会話を時々教えてくれました。
 ただ、精霊たちの言葉は人間には意味の分からないことも多々あるようで、話しの内容すべてを把握できず、伝承があるようだということしかわからないのですが……お役に立てず申し訳ありません」
『謝らないでよ、高村の一族になにか言い伝えがあるって分かっただけでも一歩前進かもしれないしさ』
しきりに恐縮する武君に笑って見せると、途端に真っ赤になる。

(なんか、武くんの反応って新鮮だなあ)
女の子が苦手と言っているけれど、単に免疫がないだけな気がする。

『伝承の話ならもしかしたら周防さんに聞けばもう少し詳しく分かるかもしれない。後で聞いてみるよ』
(教えてくれるかは分からないけど……)
「そうですか。それがいいかもしれません」
ノートをみて武君は頷いた。
なんとなく二人の間に沈黙が落ちる。

そうだ、
@冬馬先輩、美波さんに連絡するとか言ってたけど……。
Aあした声でなかったら学校どうしよう……。
B春樹に聞けば、伝承のことが分かるかな?
10643:2007/12/18(火) 01:01:46 ID:???
Aあした声でなかったら学校どうしよう……。

声が出なくなってしまった事を、学校でどう説明していいものか分からない。
嘘をつくにしても、良い案が出てこない。
私がジッと考え込んでいると、沈黙に耐えられなくなったのか武君が呼びかけてきた。

「あの……愛菜さん。どうかされたんですか?」
『うん。明日も学校があるのに、このまま声が治らなかったらどうしようかと考えてたんだ』

武君は「そうですね……」と言って、コーヒーを飲んだ。
そして、コーヒーカップをゆっくり置くと、口を開いた。

「そんなの適当に誤魔化しとけばいいんじゃないか?」
私は驚いて、目の前の武君を見る。
「愛菜は心配症なんだって。マスクでもしてりゃ、クラスの奴らだって風邪だと思うはずだろ」

『隆?』と、声も出ないのに話しかけてしまう。
「ん? どうした、愛菜」
目の前に居るのは、どう見ても隆そのものだ。私は急いでペンの蓋を開ける。
『えっ、あれ、武君だよね? それとも、本当に隆?』
私は混乱したまま、ノートを見せた。

「すみません。僕です、武です。隆が言いそうな事を真似してみました。
こんな風に、案外、人って簡単にだませると思うんです。気にしなくていいと思いますよ」

そう言って、にっこりと笑った。

(うー。本当にビックリした)

私のために演技したのだろうけど、なんとなく面白くない気持ちになる。

(なんだか悔しいなぁ)

@『私を騙すなんて……ひどいよ!』と泣きまねをしてみる
A不意打ちで手を握ってみる
B普通に別の質問をする
11644:2007/12/18(火) 17:19:44 ID:???
A不意打ちで手を握ってみる

(よしちょっとだけ仕返ししちゃおう)
私は、向かいに座る武くんに届くように身を乗り出す。

「どうしたんですか?」
私の行動に首を傾げた武君の手を、伸ばした両手で握る。
途端、ポンと音がするんじゃないかと思うくらい一気に真っ赤になった。

(うわー、面白いかも?)
思いつつ、にっこり笑って見せると不意にふらりと身体が倒れてきた。

(え?)
慌てて手を離して身体を引くと、武君は勢い良くテーブルに頭をぶつけた。

「いっ!?」
とたん、小さな悲鳴を上げて額を押えつつ身体を起こす。

『大丈夫?』
私は慌ててノートに書くと、武君はきょとんとした顔をしてリビングを見回す。

「あれ?俺寝てたはずだよな?なんでここにいるんだ?」
額をさすりながら、不思議そうに私に尋ねてくる。

(え?隆?でもまたお芝居かも……)
『隆?武君?』
「ん?なんだ、武と話をしてたのか?おれは、隆だぞ」
『本当に?』
「なんだよ、嘘ついてどうすんだ?」
どうやら本当に隆のようだ。

(急に隆にかわるなんて、武君一体どうしたんだろう……?)
不思議に思っていると隆が口を開いた。

「で、武とちゃんと話しは出来たのか?」
『うん、でも一郎くんと修二くんのことは良く知らないって』
「そうか、残念だったな。他に何か言ってたか?」

他に……?
@『器について話したよ』
A『隆について話したよ』
B『それより武君はどうしたの?』
12645:2007/12/18(火) 21:55:52 ID:???
A『隆について話したよ』

「ふーん。そうか」
興味なさそうに呟いたつもりだろうけど、その顔には「気になる」と書いてある。
私は隆を覗き込み、二ッと笑う。

『ねぇ、私たちが何を話したか聞きたい?』
「別に」
『本当に聞きたくないの?』
「興味ねぇよ。それより、俺の頼んでおいたこと、ちゃんと言ってくれたのか?」

隆は私から視線を逸らし、不機嫌に言った。
面白がっているのが、よほど気に入らないのだろう。

『言ったよ。だけど、隆の気持ちを知ってたみたい。多分、隆の考えてることが分かるんじゃないかな』
「本当か?」
私は隆の問いに『うん』と、頷いて答えた。

「何だよ。俺は武って奴の考えてることなんて知らないぞ。アイツだけ分かってるなんて不公平だ」
『私に怒ったって知らないよ。もし文句があるなら、今度は自分で言ってよね』
「俺の中に居るんだから無理だ」
『手紙とか、録音とか、伝える方法はいくらでもあるよ』
「面倒だ」

(もう……仕方ないなぁ)

「で、俺のことを何って言ってたんだ? まさか、悪口じゃないだろうな」
やっぱり気になるのか、隆は改めて尋ねてきた。
私は首を振って、否定しながらノートに言葉を書いていく。
『隆のことを褒めてたよ。優しくて思いやりのある人だって。よかったね』

私の言葉を見て、隆の顔が赤くなっていく。
「お、男に褒められても、気持ち悪いだけだ」

(動揺するとすぐに赤面するのは、隆も武くんも一緒だよね)

他に報告することは…
@『器について話したよ』
A『力について教えてもらったよ』
B『剣について気になることを言っていたよ』
13646:2007/12/20(木) 01:39:42 ID:???
A『力について教えてもらったよ』

「一体、何を教えられたんだ?」
気を取り直したのか、隆はいつものように尋ねてきた。

『うーん。難しいことを言ってたから、あんまり良くわからなかったんだ』
「なんだぁ? それじゃ意味ないだろう」
呆れ気味に、隆は声を上げた。
隆の態度など気にせずに、私は話を進める。

『でも、少しは分かったよ。力ってね、自分の生命力を使う方法と、エナジーとか、ミストを使って外から力を貰うん方法があるんだって。知ってた?』
「そんなのとっくに知ってるぜ」
『へ? そうなの?』
せっかく身につけたばかりの知識を披露したのに、隆の言葉に拍子抜けしてしまう。

「お前……。俺が水野から生気を奪ってミストを強化してた事、忘れてないか?」

(あっ、そういえば……)

『水野先生が積極的だからって、流されるままキスしてた事だね』
「うぐっ…」
言葉を詰まらせ、隆は固まってしまった。
その態度に、思わず苦笑が漏れる。これ以上いじめても可哀想なので、私は話題を元に戻す事にした。

『ミストって、生気を奪うだけじゃなくて、貰うことも出来たんだね』
「ま、まぁな。そもそも、ミストも力の一つだからさ。得た生気はミストを介して俺の力にもなるんだよ」

幼馴染でずっと一緒だったのに、隆の方が私よりも力に関しての知識は豊富なのが納得できない。
一体、どうやって手に入れていたのだろうか。

『隆って……組織の関係者じゃないのによく知ってるね。そんな知識、どこから手に入れてるの?』
「チハルみたいな奴らからたまに教えてもらったんだよ。何語だよって言葉も多いけどな」

(へぇ、精霊とか妖精に教えてもらってたんだね……)

後は……
@『器についても教えてもらったたよ』
A『剣について気になることを言っていたよ』
B『伝承について話したよ』
14647:2007/12/20(木) 11:31:25 ID:???
B『剣について気になることを言っていたよ』

「剣?」
隆は首を捻って、思い出したように頷いた。

「そういえば飯のときにお前言ってたな、三種の神器がどうのって」
『うん、8年前組織で「鏡が剣を見つけた」って騒ぎがあったんだって』
「鏡が剣を?」
『うん、小さくて言葉の意味は理解できなかったけど、鏡っていうのは一郎くんと修二くんのことだったかもしれないって言ってたよ。
 三種の神器と関係あるか分からないけれど、なんとなく気になってるんだよね』
「それじゃあ宗像兄弟が、その『剣』ってヤツを見つけたってことか?
 で、お前はそれが気になってるって言うんだな」
私が頷くと、少し俯いて何か考えているようだった。

「それじゃあ、宗像兄弟に聞いてみるのが一番だろうな。あした早速聞いてみようぜ」
『でも、教えてくれるかな?』
「うーん……、宗像兄のほうは難しいかもしれないなあ。
 宗像弟ならお前が頼み込めば教えてくれるんじゃないか?
 いや、まてよ……、アイツに貸しを作ると後々面倒か?」
『何が面倒なの?』
「いろいろだよ」
説明するのが面倒なのか、ひらひらと手を振りながら隆は言葉を続けた。

「そうだ、組織で騒ぎになったなら、美波さんに聞けば分かるんじゃないか?あの人8年前19くらいだろ?宗像兄弟よりは当時のこと覚えてるんじゃないのか?」
『あ、そうかも?』
「そうしようぜ……。
 なぁ、もし組織が三種の神器って呼ばれるものを探してるとすると、宗像兄弟が鏡、そして8年前に剣、二つは揃ってることになる」
『そうなるね』
「じゃあ今組織は最後の一つ勾玉を探してるんじゃないのか?
 そして、組織はお前に目をつけた。お前が勾玉ってことはないのか?」

(私が勾玉……?)

@『そんなのありえないよ』
A『そうなのかな……?』
B『まだ結論を出すには早すぎるよ』
15648:2007/12/20(木) 21:18:19 ID:???
A『そうなのかな……?』

勾玉かもしれないと言われても、全くピンと来ない。
なんとなく私にも力があることは判ったけれど、どんな力なのかも未だにわからないままだ。
私の態度を見て、隆が眉をひそめる。
「随分、心許ない言い方だな。真剣に考えてるのかよ」
『だって……』
「勾玉だろうとそうじゃなかろうと、組織が愛菜に目をつけてるのは間違いないんだ」
『うん』
「この騒動の中心にお前が居るんだ。ちゃんと自覚してんのか?」

隆が覗き込むように問いただしてくるけど、今の私には答え様が無かった。
ペンを握って、しばらく考えてから書き込みだす。

『中心って言われても……一体、どうすればいいのか分かんないよ』
「まぁ、知らないことが多すぎるからな。だが、最後の選択肢はお前に懸かってるかもしれないぜ」
『そうなの?』
「多分」
『多分って…どうしてそう思うの?』
「カンだ」

(カンって……適当だなぁ)

ジト目で隆を見つめると、隆は溜息を漏らしていた。
だが、顔を上げて私を見据えた瞳がいつになく真剣な事に気付く。
隆は声のトーンを低くして、諭すように話し出した。

「……とにかく俺が言いたいのは、もしもの時、愛菜も戦わなくちゃならない覚悟をしろってことだ。お得意の博愛精神が通用しなくなる場合もあるんだぞ」
『博愛精神って……そんなつもりないよ』
「お前は争いや戦いを好まないからな。そのくせ、無謀だから始末に終えない」
『そんな事無いよ』
「実際、声を失ったじゃないか。危機感持てよ。力は無くても、せめて狙われていることを自覚しろ」
『自覚はしてるつもりだよ。だけど、香織ちゃんが倒れていたら放っておけないもん』
「外見は長谷川でも、中身は敵だっただろうが…」
隆は小声で言い捨てると、私を見ようともせず、さっきよりも深く溜息を吐いた。

(何を怒っているの? 意味わかんないよ)

私はペンの蓋を閉め、ノートも閉じる。
コーヒーカップをお盆に載せ、立ち去ろうしたところで、隆に手首を掴まれた。

「待てよ。美波さんに連絡するなら、俺が必要じゃないのか?」
声の出ない私はテーブルにお盆を置き、再びソファーに腰を下ろした。

「真面目に答えてくれ。生身の敵が襲ってきたらどうだ? 人間相手に、血を流し合う覚悟はあるのか?」

@ある
Aない
Bわからない
16649:2007/12/21(金) 17:20:52 ID:???
Aない

『そんなのあるわけ無いじゃない。血を流し合うなんて……』
「敵がお前を殺そうとしてもか?」
『だからって、私が相手を殺していい理由にはならないよ』
「じゃあ、お前はおとなしく敵に殺されるっていうのか!?」
『そんなこと言ってないじゃない!逃げるに決まってるでしょ?
 なんでおとなしく殺されなきゃいけないのよ』
「逃げ切れそうに無かったらどうするんだ?」
『……なんでこんなことするのか聞いて、説得するよ』
「その説得に相手が応じなかったら?」
(応じなかったら……)
ペンを止めた私を隆はまっすぐに見ている。

(もし説得に応じてくれなかったら?どうするんだろう……)
おとなしく殺されるつもりはもちろんない。
けれど、相手を傷つけてまで自分が助かりたいと思うだろうか?
隆から視線を外し、考え込む。
逃げ切れなくて、相手が説得に応じてくれなかったら……。
相手を傷つけなければ私が生きられなかったら?

(分からない)
「はぁ……」
考え込む私に、隆は大きなため息をついた。
顔を上げるとあきれたような顔で隆が見ている。

「悪かった。今の質問忘れていい。
 だけど、約束しろ。お前が襲われたら俺だけじゃなく春樹もチハルもお前を守ろうとするだろうから、そのときは全力で逃げろよ?
 お前が逃げられるように出来る限りのことはするからな。お前が残ってても足手まといなんだからな?」
ひどい言われようだけれど、隆が心配しているのは分かる。

@『わかったよ』
A『私だけ逃げるなんて嫌だよ』
B『そのときになったら考えるよ』
17650:2007/12/21(金) 21:42:44 ID:???
@『わかったよ』

私がノートに書くと、隆は安心したように笑う。

「それでいいんだ。今のお前はなんの能力も無いんだからな」
『うん。そうだね』

(だけど……)

香織ちゃんがケーキ屋の冷たい床に倒れたときの事を思い出す。
ぐったりした香織ちゃんの肩を抱きかかえたとき、体が勝手に動いていた。
もし、隆やチハル、そして春樹が敵に傷つけられていたとして、私は逃げることが出来るのだろうか。

(暴力や争いでは、何の解決にもならないと思う。けど、このモヤモヤは何だろう)

『ねえ、隆』
「ん? なんだよ」

私に向き直った隆は、出来る限り守ってくれると言ってくれた。
守るって……一体、何なのだろう。

『どうして私を守ってくれようとするの?』
「うえぇぇっ!!」
隆はびっくりしたように、目を丸くしている。
そして、その顔がみるみる赤くなっていった。

『隆はどうしてそこまでしてくれるの? 守るって何?』
「おっ、おい……いきなりどうした?」
『香織ちゃんが倒れた時、とにかく助けなきゃって必死だった。それが、守るってことなの?』
「愛菜?」
『私、全然わからない。守るって何? 守られるってどういうこと?』
「ちょっ、少し落ち着けって!」
『もし、私を守るために隆が敵に倒されたら……逃げてしまった自分を許せなくなるよ。敵を憎むよ。守られたくなかったって後悔するよ」
「悪かったから、とにかく落ち着けよ」
『それでも、やっぱり守られなきゃいけないの? 春樹だって、私を守る為に家を出て行ったんだよ。けど、寂しくて辛いばかりで、ちっとも嬉しくなんてなかった』
「……愛菜」
『なのに、隆まで守るって……私はどうすればいいの? ただ、逃げ回るしかできないの?』
「わかったから、な?」
『教えてよ! わからない。全然、わからないんだよ!!』

ペンを持つ手が震えて、書くことが出来なくなる。
胸が痛くて、身体が熱い。
気持ちはどんどん溢れてくるけれど、言葉として吐き出すこともできない。

私は思わず……
@混乱してしまい、涙が溢れてきた
A答えを言わない隆の肩を、強く揺すった
B耐え切れず、リビングを出て行った
18651:2007/12/23(日) 02:33:07 ID:???
@混乱してしまい、涙が溢れてきた

「愛菜! 落ち着けって!!」
その言葉に、私はいやいやと頭を振る。立ち上がって、声にならない気持ちを訴える。
聞きたいのはそんな言葉じゃない。
力が無い私には、何も出来ないのは分かっている。足手まといになるだけだって、理解してる。

守ってくれる人を犠牲にできるのか? 後ろを振り向かず、逃げ切れるのか?
……やっぱり私には無理だと思う。

守られるって――一どうして辛いの?

突然、両腕を力強く掴まれ、我に返る。
さっきまでテーブルを挟んで座っていたはずなのに、目の前には、真剣な隆の顔があった。

「混乱させるようなことを言って、すまなかった。そっか、泣くほど悩んでたんだな。……気がつかなくて、その…悪い」

(私……泣いてるの?)
呆けたまま、私は隆を見つめる。
私の頬を伝う涙を拭うと、隆は言葉を続けた。

「守るって言葉が、重荷だったんだろ?」

(……重荷?)

「その顔、自分でも気付いてないって感じか。突然、力だ、組織だと知らされて。巻き込まれて、恐い思いして。
守るって言葉を背負わされて……そりゃ、重荷に決まってるよな」

そう呟くと、隆は再び私を見つめる。

「じゃあ、こうしよう。敵に襲われてしまったとする。説得も無駄だったとして……俺と一緒だった時は、二人で逃げようぜ。
それでもダメだったら、協力してやっつけるんだ。力なんてなくたって、石でもなげてりゃいいんだしな」

(……いいの?)

「俺の力なんて、他の奴らに比べればたいしたことないだろう。けど、俺はやられるつもりはないぜ。
お前の見てる前で、負けるつもりもない。てか、絶対に勝つ」

言っていることは無茶苦茶だ。
だけど、さっきのでのモヤモヤが晴れていくのがわかる。

「しっかし、昨日は春樹の悩み相談で、今日はお前か。春樹もお前も……世話の焼ける姉弟だよ。ホント、そっくりだ。
同じようなことをウジウジ悩むんだからな」
隆はそう言うと、私の額をピンと弾いた。

(隆……)
この気持ちをノートに書こうとおもったけれど、紙だと残ってしまいそうで照れくさい。
素直じゃないと思いつつ、別の方法を考える。

困ったな、どうやって伝えよう……
@隆の背中に書く
A声がでなくても、話して伝える
B隆の手に書く
19652:2007/12/25(火) 09:16:18 ID:???
B隆の手に書く

額を弾いた隆の手を、私はギュッと掴んだ。
そして、大きな手のひらに、指で文字をなぞっていく。

「なっ……!」
隆は驚いたのか、とっさに手を引っ込ようとする。
けれど、私は構わずに、文字を書いていった。

「……う…って?…今、『う』って書いたのか?」
私は『うん』と頷いて、また言葉の続きを書き進める。

「……れ、……し、……い」
隆は言い終わると、私を見つめる。
私は出ない声で『一緒だって、言ってくれて』と付け足した。

「確認していいか?……俺と一緒が嬉いって、愛菜はそう言いたいんだよな」
その問いに、私は小さく頷いた。

今、ようやく何を望んでいたのか理解できた気がする。
私の願い――それは、どんなに辛いことでも、大切な人達と一緒に分かち合いたいという事だ。
守ると言われるたび、息苦しさ感じていた。なぜか、辛かった。
だけど、隆が一緒に逃げよう、二人でやっつけようと言ってくれて、私はモヤモヤの正体を見つけることが出来た。

この答えに早く気付いて、ちゃんと伝えていれば、春樹とすれ違うこともなかったと思う。
私の考え方は、都合の良いきれい事だとわかっている。けど、自分の気持ちまで、偽りたくない。

「……ああ、うん。そっか、ハハハ…。俺と一緒がいいんだ……」
隆は照れるように顔を赤くして、目を細めて笑っている。
「とにかく前向きに考えていこうぜ。俺、絶対にがんばるから!」
心強い隆の言葉に、私は大きく頷いて応えた。

結局、隆は私が落ち着くまで、私の側にいてくれた。
十一時を廻ったの確認して、隆はソファーから腰を上げた。

「よし!……もう、寝るか。お前の体調も心配だしな。
美波さんに連絡するのも明日でいいだろう。…じゃ、お前も早く休めよ」

隆はそう言って、リビングを出て行った。
私は片づけを済まして、チハルと一緒に自室に戻った。

未だに動かないチハルと一緒にベッドに潜り込む。


これから、どうしようかな……。
@目を瞑って眠りについた
A今日のことを思い返してみる
B冬馬先輩と話してみる
20623:2007/12/28(金) 16:34:29 ID:???
B冬馬先輩と話してみる

(そういえば冬馬先輩、美波さんと連絡とって見るって言ってたっけ……)
ふと思い出して私は、冬馬先輩と話しをしてみることにする。
目を閉じて、冬馬先輩に会えるように祈る。
しばらくして眠りの波が訪れ一瞬意識が途切れた後、いつの間にか学校の前に立っている自分に気付いた。

(そういえば、夢で学校にいることがおおいな、私)
そう思いながら、あたりを見回す。

「愛菜」
声に振り返ると冬馬先輩が立っていた。その後には美波さんもいる。

(冬馬先輩、美波さんと一緒だったんだ)
声を出したつもりだったが、夢でもやはり声は出なかった。
そんな私を見て、美波さんが近づいてくる。

「大丈夫ですか?声が出なくなってしまったと聞きました
失礼します、少し診せてください」
そう言ってt近づいてきた美波さんは私の首筋に手を当て、目を閉じた。
最初はひんやりしていた指先が、ほんのりと熱を帯びてくる。

「これは呪いの一種ですね」
(呪い?)
「つかまれた場所が首だったので、声帯がまず影響を受けたようです」
言いながら、美波さんは私の首から手を離す。

「残念ながらこの手の呪いは私では……。物理的に影響を受けたというのなら、治療することが出来るのですが……」
申し訳なさそうに美波さんが言って、言葉を続けた。

「この呪いはファントムをベースに使ったもので、かなり力の強い人がかけたようです。無理やりファントムを引き離すとどのような影響があるか予想がつきません」
(そんな……それじゃ、このままなの?)
「ですがあなたの力なら、この呪いを解くことが出来ます」
(え?私の?)
「まだうまく力を使いこなせていないようですが、使いこなせるようになれば、あなたなら容易に出来ます」
確信を持って言われると困惑する。そんな私の表情に気付いたのか、美波さんは元気付けるように微笑んだ。

「まずは自分の力を信じることからはじめてください。
 あなたは自分に力があることを信じ切れていないでしょう?それでは力を使いこなすことは出来ませんよ」
(そういうものかな……)
力があることは分かっているけれど、予知夢を見るだけの力だとおもっていた。
それ以外の力があるといわれても、半信半疑だ。

(信じることから……)
私は美波さんに頷いてみせる。
すると美波さんはにっこり笑っていった。

「あなたなら自分の力を自覚すれば、すぐに使えるようになりますよ。さあ、そろそろ起きる時間ですよ」
美波さんの声とともに、美波さんと冬馬先輩の姿が薄くなっていく。
意識が浮上していき、目が覚めた。
身を起こしてチハルを見ると、まだピクリとも動かない。

(まず自分の力を信じて……力を使いこなせるようにならないと)
でも、力をつかいこなすってどうすればいいんだろう?
誰かに聞いてみようか?

だれに?
@隆
A一郎
B冬馬先輩
21624:2007/12/28(金) 22:22:56 ID:???
A一郎

(カードでの訓練を教えてくれたし、力についてかなり詳しそうだよね)

私は学校で一郎くんに聞くことを決めると、さっそく制服に着替えを終え、鞄にチハルを入れる。
一階に降りて、洗面所に向う廊下で「愛ちゃん、おはよう」と声を掛けられた。
お継母さんに条件反射で『おはよう』と挨拶して、ハッと喉を押さえる。

「どうしたの? 愛ちゃん」
私の様子に、お継母さんは心配そうに覗き込んできた。

『風邪』『声出ない』と細い息で説明すると、「風邪で声が出ないの?」と逆に尋ねられる。
私はコクコクとうなずいて肯定する。
「じゃあ、学校はお休みする?」
その問いに今度は、首をブンブン振って否定した。

(うーん。やっぱり、不便だな)

私は『待ってて』と身振りで伝えると、急いで自室に戻り、紙とペンを持って来た。
そして、『熱もないし、平気だよ。それより、春樹のことなんだけど』と書いたところで、今度はお継母さんが首を横に振った。

「知ってるわ……私の携帯にも、昨日、春樹から連絡があったの。愛ちゃん、迷惑かけて本当にごめんなさい」
お継母さんは、春樹の我が侭を代弁するように謝ってくる。
『謝らないで。春樹が単なる我が侭で出て行くような弟じゃないって事、わかってるよ』
「……愛ちゃん」
『必ず戻って来るって約束してくれたし、いつも通り、待っててあげよう?』
「そうね。愛ちゃんの言うとおりだわ」
『じゃ、朝食にしようよ。私、お腹空いたな』
「あっ、急いで用意するわね」
少し元気を取り戻したお継母さんは、いそいそとキッチンへ戻っていった。

(板ばさみで一番辛いのはお継母さんだもん。支えてあげなきゃ)

顔を洗い、ゴシゴシとタオルで拭いて気合を入れる。
なにげなく窓を見ると、強い雨が降っている様だ。

(雨か……。あっ、隆を起こさなきゃ)
客間の扉を開けると、案の定、隆は気持よさそうに寝息を立てていた。
普通に起こしても、寝ぼすけの隆はなかなか起きないだろう。

どうやって起こそうかな…
@布団をひっぺ返す
A口と鼻をつまむ
B耳元で囁く
22625:2007/12/30(日) 15:06:51 ID:???
@布団をひっぺ返す

私は勢いよく、掛け布団をひっぺがす。
隆はTシャツにスウェットパンツの姿で大の字になって寝ていた。

「うーーーん」
隆は布団を剥ぎ取られて寒いのか、眠ったまま顔をしかめている。

(まったくもう。雨だし、少し早く家を出たいのに……)

雨脚がさらに強くなったのか、室内からでもザーっという音が聞こえてくる。
せっかくの文化祭を前に、こんなに雨が降ってしまって大丈夫なのか本気で心配になってきた。
文化祭まで日にちが無いし、グランドの状態も気がかりだ。

(早く起きてよ、隆)

私は隆の身体を大きく揺すってみる。
それでも隆は目を覚まさない。

(困ったな……。って、アレ?)

大の字で寝たままの隆の身体が一部、大きく変化していることに気付いた。
スウェットパンツの股部分の形状が、昨日の寝る前とは明らかに異なっているのだ。

(こ、これは……!)
びっくりして、目を覆いながら、部屋の端まで一時後退する。
けれど、私も一応高校二年生。初めて見るけど、知識だけはそれなりに持ち合わせていた。

(うわっ……。はじめて見たよ…)
見てはいけないと思いつつ、指の間から、しっかり確認してしまう。
健全な男子なら当然の生理現象らしいけれど、春樹は早起きだし、そういった隙は一切見せなかった。
香織ちゃんからも奥手だとからかわれるけど、確かに反論できない。
慣れないものを見て、私は今、ひどく動揺してしまくっている。

(ど、ど、どうしよう。お、起こしちゃっていいのかな……)

私は……
@起こす
A諦める
Bお継母さんに助けを求める
23626:2007/12/30(日) 22:44:40 ID:???
A諦める

(そ、そうよ。私は何も見なかったことにしよう)

なんとか自分に言い聞かせて、また隆のそばへ戻る。
下手に騒げば、気まずい雰囲気になってしまうかもしれない。
何事もなかったかのように、この部分を布団で隠してしまえば良いだけ――。

「……うぅん、愛菜?」
その時、突然、隆が目を覚ました。
私は掛け布団を両手で持ったまま立ち止まる。
(うっ……)
どうしていいのかわからず、私はその場から動けない。
不運なことに、私の視線は相変わらず、特定の部位に注がれたままだった。
そして、私の注目する部位へ誘導されるように、隆の視線が少しずつ移動していく。

「うわわぁぁぁああ!」
隆は飛び起きると、前かがみにしゃがみ込んだ。
敷布団に中腰でかがみ込んだまま、恨めしそうに私を見る。
「見たのか!?見たんだろ!」

私はおおげさに首を振って否定した。
けれど、私がしっかり見ているのを隆はすでに目撃済なのだ。

「えーっと……あの…こ、これは、朝だからいけないんだ!」
苦し紛れに、隆は言い訳ともつかない説明を始める。
「決してエロい夢をみていたわけじゃないんだぞ。俺だけじゃない。春樹だって、宗像兄弟だって男なら全員なるんだからな!」
動揺している私は『はい』と私は大きな相槌で応える。

「こんなの便所に行けば収まるんだ。ということで、俺は便所に行ってくるから!」
わざわざ報告しながら、隆は不自然な格好で立ちあがる。

「もう一度言うが、ホントにエロい夢とかみてたわけじゃないからな!」
そう言って、隆はふらふらと客間から出て行った。

(き、気まずかった……)
私は泣きたい気持ちを抑え、客間の布団を片付けていく。
重い気分のままキッチンへ行き、並んだ朝食の前に座った。

「愛ちゃん。なんだか客間が騒がしかったけど、隆くんと何かあったの?」
ご飯茶碗を私に手渡しながら、お継母さんが尋ねてきた。

どう答えようかな。
@『大丈夫。なんでもない』
A『色々あったけど、平気』
B『へんなもの見ちゃったんだ』
24627:2007/12/31(月) 14:58:36 ID:???
@『大丈夫。なんでもない』

(はぁ……。言えるわけないよ)
心の中で溜息を漏らしながら、お継母さんに書いた言葉を見せた。

「そう?少し言い争っているように聞こえたけど、愛ちゃんがそう言うなら、私の気のせいだったみたいね」
お継母さんは私の書いた言葉に納得したのか、それ以上追及してこなかった。

朝食を食べ終え、食器をシンクに置いたところで、キッチンに制服を着た隆が入ってくる。
私をチラリと横目で確認して、席に着くと朝ごはんを食べ始めた。

(うーん。やっぱり、気まずい……)

元々は寝ぼすけな隆が悪い気もするけど、ここは私が謝っておくのが正しい気がする。
早めに解決しないと、気まずいままで後々まで引きずってしまいそうだ。
黙って食事をしている隆のところに、私はおずおずと近寄っていった。

『さっきはゴメンね。私の配慮が足りなくて、嫌な思いさせちゃって』
食器を洗っているお継母さんに見つからないように、私はそっとダイニングテーブルに紙を置いた。
「まぁ、気にしてねぇよ」
と言った後、隆は制服の胸ポケットに入れたままのシャーペンを抜き取る。
そして、『気持ち悪いもん見せちまったな』と私が置いた紙に書いた。

(隆……)
私も恥ずかしかったけど、隆はその何倍も恥ずかしかったと思う。

『びっくりしたけど、気持ち悪いなんて思わなかったよ』
「そうなのか?」
私の言葉を見て、隆は私に目を向ける。
私は『うん』と頷いて、『男の子も色々大変だなって思っただけ』と書いた。
それを見て苦笑した隆が、小声で話しだす。

「なんか、スゲー恥ずかしくなってきた」
『今頃になって?』
「違う意味でな。お前と一緒だと、なぜか空回りばかりでさ。愛菜のことを子供っぽいままだと思っていたけど、…俺も相当なもんだ」

自分自身に呆れているのか、隆の口調は投げやりだ。
私は隆に元気になってもらいたくて、わざとふざけた顔をしながら言葉を書いていく。

『隆は子供の頃からちっとも変わってないよ?』
「ちぇっ、愛菜に言われたくないっての」
『ははっ、ならお互いさまって事だね』
「同等かよ。少なくとも、お前よりは俺の方が大人になってると思うぜ」
『私は隆よりもマシだと思ってたのになぁ』
「随分みくびられたもんだな。じゃあ、今度、大人になってるか試してみるか?」
『え? 何を試すの?』
「……だからお前は子供なんだ、馬鹿が」
そう言って、隆は顔を真っ赤にしながら、残りのご飯を掻き込んでいた。

「あら、二人とも楽しそうね。何を話してたの?デートの相談?」
洗い物を終えたお継母さんが、いつの間にかニコニコ笑いながら私たちを見ていた。

私は……
@否定する
A曖昧に答える
B照れる
25628:2008/01/03(木) 11:56:00 ID:???
@否定する

『デート!? 違う違う。全然そんなんじゃないよ。ね、隆?』
私は今まで書いていたページをめくり、新しいページに力強く言葉を書いた。
「……全力で否定するなよ」
隆は複雑な表情を浮かべていた。

「それは冗談としてもね」と微笑んだ後、「愛ちゃんのために、タクシーを呼んでおいたわ」とお継母さんは言葉を続けた。
『タクシーって……』
「これから病院に寄ってから学校へ行くのよ」
『えぇ?』
「だって、愛ちゃんは風邪でしょ? ちゃんと病院に行かなきゃダメよ」

(嘘なんだけどなぁ)
そんなことも言えず、困った私は隆に助けを求める。
だけど、隆は気付いていないのか「大丈夫か?」と余計な心配までしてくれている。
(あ、あれ? 風邪って理由で誤魔化すって話じゃ……)
「病院に行くなら、遅刻するって俺から担任に伝えときますよ」
そう言って、鞄を持って立ち上がると玄関に向かってしまった。
「ありがとう。隆くん」
お継母さんは助かるわと言いながら、お礼を言っていた。

結局、流されるまま、私はタクシーに乗って病院へ向う羽目になってしまった。
今思い返すと、声の出ない理由を風邪にしとけばいいと言ったのは、隆ではなく武くんの案だった。
一晩寝たことで、私はすっかり隆が言ったものだと勘違いしてしまっていた。
あの時、武くんは隆のマネが上手くて、私は騙されていたのだ。
本当に紛らわしい。

(にしても、隆も気付いてくれてもいいのに……)
隆と武くんは身体を共有していても、隆は武くんの行動を知らないのだから仕方が無い。
今更、恨み言を呟いてもしょうがないと思いつつ、タクシーの車窓に目を向けると、相変わらずの雨だった。
(そういえば、春樹は何をしてるんだろう。この雨を見ているのかな……)

車の振動が眠気を誘ったのかもしれない。
とりとめなく考えているうちに、だんだん瞼が重くなってくる。
闇に引き込まれるように、私は夢の中へ落ちていった。

私がみた夢とは……
@春樹の夢
A隆の夢
B武くんの夢
26659:2008/01/04(金) 15:36:47 ID:???
@春樹の夢

姉さんに呼ばれた気がして目を覚ますと、あの人の顔があった。
「春樹、目覚めたか」
頭痛を振り払うように頭を振って、上半身だけ身体を起こす。
かるく眩暈を覚えたが、耐えられないほどでもない。
真っ白な病室にはベッドが四床並んでいるが、俺だけしか使っていないせいで、空調は適温を保っているのに酷く寒々しい。
任されている研究室の規模が大幅に縮小され、被験者が減ってしまったせいだと、目の前にいるこの男が教えてくれた。
一部の記憶が混乱しているせいで、その言葉をいつどこで言われたのかまで思い出せなくなっている。

「俺は大丈夫です。もう投与の時間ですか?」
「ああ、そうだ」
男は注射器を用意し、アルコールを含ませた脱脂綿を俺の腕に擦り付けた。
ひんやりとした感覚で、これは幻覚ではないんだとようやく理解する。
「どうしたんですか?」
注射器を持ったまま、なかなか動かない男に声を掛ける。
「春樹。本当にこれでいいのか?」
「何を……ですか」
「このまま薬を投与し続ければ、幻覚や錯乱も多くなるだろう。そして、精神を確実に蝕んでいく。昨日も説明したと思うが、お前の自我が崩壊する可能性もある。いますぐ止めて欲しいと言えば、私から皆に話をしよう」
あれだけ恐れていたはずの人が、心配そう俺を見ていた。
その事がやけに馬鹿馬鹿しくて、なぜか笑いがこみ上げてくる。
「続けてください。あなたも望んでいた事ですよね。力を持つ子供が欲しかったんじゃないんですか?」
母さんを痛めつけてまで望んでいたはずなのに、何を躊躇っているのだろう。
まさか、今更になって、父親面をするつもりなのか。
皮肉を込めて放ったはずの言葉なのに、目の前の男の態度は変わる事は無かった。
「これを投与したからといって、力が手に入るとは限らない。それはお前にも昨日説明したはずだ」
「確かに聞きました。でも、可能性がゼロでは無いとも言ってましたよね。俺は力が欲しい。だから、続けてください」
「……わかった」
腕に針が刺さり、透明な液体が俺の身体に注ぎ込まれていく。
また一時間も経てば、酷い頭痛と眩暈に襲われるだろう。

「あの、少しだけ二人で話をしませんか?」
子供の頃はあれだけ大きくて恐かったはずなのに、目の前にいる男は俺よりも小さくなっていた。
実際には俺が成長したんだろうけど、知れば知るほど平凡な男だったことに拍子抜けしているのかもしれない。
いつも俺を阻みながら大きく立ちはだかっていた壁は、この目の前にいる父親だった……はずだ。
「ああ……いいだろう」
男は白衣の女性に目配せして、人払いをした。
そして、俺に向き直るとベッド脇の椅子に腰を下ろした。

まるで春樹自身になってしまったのように、私は目の前の男性を見た。
春樹の気持ちも胸の痛みも、すべて感じられる。
春樹は今、とても戸惑っている。幼い頃から憎み続けてきた冷酷で非情な父親像と目の前にいる父親が大きく食い違っているからだ。
私自身は、はやくこんな事を止めさせなくちゃと焦っているけれど、存在そのものが希薄なのかそれすら曖昧になっている。

どうしよう……
@恐くなり目を覚ます
Aそのまま様子をみる
B春樹に話しかけてみる
27660:2008/01/05(土) 18:20:53 ID:???
Aそのまま様子をみる

「……かあさんは元気か? 見かけた限りでは良さそうだったが」
最初に話しかけて来たのは、あの人の方だった。
「はい、元気です。いつも忙しそうにしています」
「まだ出版社の方に勤めているのか?」
「ずっと勤め続けていますよ。今は、女性向けの経済誌を手がけてるみたいです」
「そうか」

まさか、この人と他愛ない会話をする日が来るなんて、夢にも思わなかった。
この人と俺の共通の話題なんて、母さんの事しかない。
全く話が通じない相手ではないことは、数日の間でわかっている。
俺は見えない父親の幻想と戦っていただけなのかと、ひどく落胆しているのは間違いない。
だけど、いい加減に冷静にならないと。

俺は深呼吸して、気持を切り替える。
相手を知るいい機会でもあるし、子供の頃から何度も考えていた疑問をこの人に尋ねてみようと思い至った。

「少し質問をしていいですか?」
前置きをして、目の前の男を見る。
「なんだ」
「あの……母さんとは…どういうきっかけで結婚したんですか? どうして別れてしまったんですか?」

物心がついた時には、すでに二人の関係は終わっていた。
この人はいつもイライラと焦っていて、母さんに暴力を振るっていた。

「……そんな事を聞いてどうする?」
「単に興味があるんです。一応、俺にも聞く権利があると思いますし」
「随分、冷めた言い方をするものだな。……まだお前は、十六歳だろう」
「俺の歳、憶えていてくれたんですね」

せっかく家庭を築いたのに、簡単に壊してしまえるものなのか、今の俺にはわからない。
そんなにあっけないものなら、最初から結婚なんてしなければよかったのに、とすら思う。
だから、俺は怯むことなく言葉を続けた。

「あなたにとっては過去の話かもしれない。けど、その結果として生まれてきた俺とっては現在なんです。
今の継父の手前もあって、母さんにはずっと聞けずにいました。
教えてください。別れた理由は子供の俺に能力が無かったから、ただそれだけなんですか?」

言い終えると、部屋に沈黙が落ちた。
そして、雨音に気づいて窓の外を見ると、大粒の雫が遠目からでも見えた。
低い暗雲が空を覆いつくし、遠雷が雲間で光っていた。

(春樹……)
春樹のお父さんにも能力があるはずだけど、私の存在は気づいていないようだ。

どうしよう?
@目を覚ます
A様子をみる
B考える
28661:2008/01/06(日) 01:37:29 ID:???
B考える

それにしても、ほんとにこの人が春樹の本当のお父さんなのだろうか?
春樹が思っているように、過去と現在ではまったく違う人のようだ。

(それに、この人がチハルがあんなに恐れていた人なの?)
チハルの怯え方は普通ではなかった。
いま、目の前にしているこの人のどこにチハルは怯えたのだろう。
巧妙に力を隠しているのか、それとも春樹を前にして父の顔になっているのか。

(春樹はこの人を平凡な男だっておもってるけど……)
ほんとうにそうなのだろうか?
考えれば考えるほど、春樹のお父さんの姿がはっきりとしなくなる。
過去にお義母さんに暴力を振るった人。
高村の有力者でチハルが怯える能力者。
いま目の前で不思議と穏やかな表情で春樹と話している人。
そのすべてが春樹のお父さんという一人の評価だというのが腑に落ちない。

(なんだろう、すごく違和感がある)
その違和感がなにか分からず、落ち着かない。
当然春樹はそんな私の思いに気づくことなく窓から視線を戻す。
それを待っていたのか、春樹のお父さんは口を開きかけた。
なんと言うのだろうと意識を向けたとき、ふと体が引っ張られるような感覚があり、急速にその場から離れていった。

『……あ』
「お客さん、病院に着きましたよ。大丈夫ですか?」
気づくと、気のよさそうな運転手さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

(あ、病院にいく途中だっけ……)
私は慌てて、運転手さんに頷いてお金を払うとタクシーを降りた。
タクシーがそのまま病院を出て行くのを確認して、私は病院に入るべきかどうか悩んだ。
風邪というのは嘘だし、それなのに声がでないとなったらいろいろ検査されるかもしれない。

(どうしようかなぁ)

@一応診察を受ける
Aとりあえず病院に入る
B別の場所へ行く
29662:2008/01/06(日) 10:39:18 ID:???
B別の場所へ行く

検査されても無駄だろうと判断して、私は入り口できびすを返した。
病院に行くのはやめて、街に向って歩き始める。
雨が強くて、傘をさしていても肩が濡れていった。

(わからない。春樹の父親って……本当にあの人なの?)

さっきの夢が気になって仕方がない。
鞄の中を覗いてみても、相変わらずチハルの動く気配はなかった。
周防さんに連絡してみようかと考えたけれど、むやみに動かない方がいいと言われていたのを思い出して携帯を閉じる。

(学校へ行くなら、病院のタクシー乗り場まで戻るのが早いけど……)

そう思いながらも、私の足はどんどん病院から遠ざかっていた。
雨に沈んでしまったような灰色の街並みを、私はゆっくり歩いていく。
そしてふと目に留まったのは、薬局の看板だった。

薬局を出ると、私はビニール袋の中から薬を取り出した。
その箱には『睡眠導入剤』と書いてある。
もう一度、私が眠ることが出来れば、あの続きが見られるかもしれない。
これから家に戻ったら、もう誰も居ないはずだ。
(でも、私に何ができるの? 覗き見をしているだけで何か変わるのかな……)

学校に行けば、近藤先生に三種の神器について隆と聞きに行
30662続き:2008/01/06(日) 10:48:07 ID:???
すみません。切れた続きです。

学校に行けば、近藤先生に三種の神器のことを隆と聞きに行く約束もしている。
それに、一郎くんに力の使い方について尋ねたいと思っていた。

やるべきことは他にも沢山ある。
だけど、さっきの夢も気になってしまっていた。

通りかかった空車のタクシーに手を上げ、車が止めた。
私は乗り込み、行き先を紙に書き込んで運転手さんに見せる。

その行き先とは
@学校
A家
B他の場所
31663:2008/01/07(月) 15:55:02 ID:???
@学校

いろいろ悩んだけれど、結局学校へ行くことにする。
まず力を使えるようになって、声を出せるようにならないと何をするにも不便だ。

(それに力を使えるようになれば、今の何も出来ないという状況が改善されるかもしれない)
私は学校へ着くと、時計を確認する。
ちょうど一時間目が終わる頃だ。
私はまっすぐに一郎くんのクラスへ向かった。
一郎くんのクラスに着くと同時に授業がおわって先生が出てきた。
私はそれを確認して教室を覗き込む。
一郎くんは授業の道具をしまっているところだった。
近くの人に一郎くんを呼んでもらおうと、ノートを取り出して書こうとした時、不意に一郎くんが振り返って私を見た。

「大堂?」
一郎くんの口が私の名前を呼んだのを見て、私は一郎くんに笑ってみせる。
けれど一郎くんは一気に真っ青になると、普段の一郎くんからは想像がつかない慌てぶりで駆け寄ってくる。
クラスの人たちも何事かと一郎くんを見る。

「大堂、これはどうしたんだ?だれがこんなことをした?」
(あ、一郎くんには見えるんだ)
一郎くんが私の首に触れ眉をしかめた。

「兄貴!緊急ってなんだよ突然……っ、愛菜ちゃん!どうしたのこれ!?」
ばたばたと走ってくる足音と声が聞こえたかと思うと、背後から修二くんも私の首に触れて言った。

「なに……あの子?」
「4組の大堂さんだよね、何かあったのかな?」
(あ……目立っちゃってるっ!)
ざわざわとざわめく教室に、私は慌てて一郎くんと修二くんから離れる。

「愛菜ちゃん!」
けれどすぐに修二くんに腕をつかまれて、動けなくなる。

「大堂」
同じく反対側を一郎くんが掴み、完全に逃げられなくなってしまった。

(二人とも、ここじゃ目立つから移動しようよ)
一生懸命訴えるが、声が出ないため伝えられない。
手にはノートとペンを持ってはいるが、二人に両腕をつかまれているため字を書くことも出来ない。
心底困っていると、少し冷静さを取り戻したのか一郎くんがハッと教室を振り返る。

「修二移動するぞ」
「え?あー、OK」
一郎くんの言葉に、修二くんもハッとした様子で教室を見て頷いた。
一郎くんと修二くんの手が離れ、ホッと息をつく。

(よ、よかった)
「雨が降っているから、放送室か、屋上の踊場か……」
「いまならテニス部の部室も人はいないよ」
「大堂はどこがいい?」

@放送室
A屋上の踊場
Bテニス部の部室
32664:2008/01/08(火) 19:39:38 ID:???
Bテニス部の部室

(どうしようかな)
ジッと考え込んでいると、修二くんが私の顔を覗き込む。

「迷ってるなら、テニス部の部室にしなよ。ね?」
そう言うと、修二くんは私の腕を掴んで、スタスタと歩き出した。
一郎くんは慌てて、修二くんの前に出て止めに入る。
「待て、修二。大堂は何も言っていないだろう」
「だって兄貴……愛菜ちゃんの喉……これじゃ、声でないでしょ? 言いたくても言えないよ」
「言うというのは比喩でな……」
「いいじゃん。とにかく、愛菜ちゃん行こうよ」
一郎くんは呆れるという顔で、溜息をついている。
『あの……別に、私はどこでもいいよ?』
おずおずとノートに文字を書いて、二人に見せた。
「じゃあ、決まりだね。早く早く。休み時間終わっちゃうよ」
修二くんは私を引っ張るように早いペースで歩き、一郎くんは仕方なさそうにその後に続いた。

体育館とグラウンドをつなぐ道沿いに、部室棟が並んでいる。
部室棟の中でも、特別に広く、整備されているのが男子硬式テニス部の部室だ。
今までの輝かしい成績のおかげで、他の部室とは違い、優遇されているのは誰が見ても明らかだった。
その中でもエースである修二くんは、高校生屈指の実力らしい。
天真爛漫な修二くんは、実力を鼻にかける態度も平気でとってしまい、以前の私も含めて良く思っていない生徒も多い。
反面、同級生の女子だけに留まらず、先輩や後輩からもかなりの人気があった。

「二名様ご案内。我が部室へようこそ」
修二くんの掛け声で部室のドアを開けると、少し埃っぽい匂いがした。
室内はロッカーと長椅子が並び、ボールや道具が置かれた簡素なものだ。
男子の部室ということで構えていたけど、きちんと片付けられていて清潔感もある。
「綺麗なもんでしょ? 一年にちゃんと掃除をさせてるからね。あ、でも、この辺のロッカーは開けないでね」
私と一郎くんは修二くんの案内で奥に入っていく。
「本当はここ、女子は入れちゃダメだけど、まぁ……うん…色々使っちゃうよね」
修二くんの言葉に、一郎くんは不快の色を露わにしている。

(一郎君、機嫌が悪いのかな?)
少し一郎君の態度が気になるものの、当の修二くんは気にも留めずに自分のロッカーの場所について話している。
一通りの修二くんの説明も終わり、促されるまま私は長椅子に腰を下ろした。
「じゃあ……本題に入ろうよ。ねぇ、愛菜ちゃんのそれって……ナンバー535にやられたものだよね?」
私の隣に座った修二くんは、少し真面目な顔になって尋ねてきた。
一郎くんは長椅子には座らず、立ったまま黙って私の様子を見ている。

なんて答えようかな……
@『うん。ごめん』
A『ナンバー535?』
B一郎くんを見る
33665:2008/01/09(水) 15:39:10 ID:???
A『ナンバー535?』

修二くんに書いた紙をみせてから、そういえば熊谷さんの番号がたしか535だったと思い出す。
私はその下に、『熊谷さんの番号だっけ?』と書き足す。
人を番号で呼ぶなんてない事だし、名前をきちんと聞いていたので熊谷さんの番号が何番だったかちゃんと覚えていない。

「熊谷?」
ノートを見て修二くんが首を傾げた。

「コードナンバー535、熊谷裕也。ファントムを操る術に長ける能力者だ。
それなりに高い能力を持っている」
それを見た一郎くんが、補足するように言う。
「あー、そういう名前だっけ?ヤローの名前なんて覚えてられないよな」
兄貴良く覚えてるなーと修二くんは肩をすくめてみせ、一郎くんに向けていた視線を私に戻して私の答えを促す。

『うん、熊谷さんが香織ちゃんを人質にしてね……』
わたしは昨日あったことを大まかに伝える。

『それでね、声が出るようにするには私が力を使いこなせるようになればいいって、美波さんに教えてもらったの』
そこまで書いてふと目に入った時計に私は驚く。

(あ!もう授業始まってる!)
良く考えれば、授業の合間の休み時間はかなり短い。
けれど、部室にいても聞こえるはずの予鈴にまったく気付かなかった。
突然慌てた私に、一郎くんと修二くんは私の視線をたどり納得したように、まず一郎くんが口を開いた。

「内容が内容だからな、音の洩れない簡単な呪いをしておいた。誰かに聞かれても困るだろう」
「そうそう、ゆっくり誰にもじゃまされないように、人が近づかない呪いもしてるし安心していいよ。
 愛菜ちゃんの話を聞くほうが授業より大事だし!」
続けて修二くんがにこにこと笑いながら言う。
二人の気遣いはうれしいけれど、授業をサボらせてしまっているのは気が引ける……。
それに、一郎君のクラスの人たちは私たちが一緒にいることを知っている。
後で先生に何か言われないだろうか?

どうしよう……
@授業に戻るように伝える
A二人にお礼を言う
B早く用件を終わらせる
34666:2008/01/10(木) 00:21:40 ID:???
@授業に戻るように伝える

『やっぱり授業に戻ろう? 二人に迷惑を掛けるわけにはいかないよ』
書きながら立ち上がろうとすると、修二くんは「平気だって」と言って私の肩を掴んで止めた。
「修二の言う通り、今は大堂の事が優先だ。このままでは、君自身も不便だろう」
『まぁ、確かに不便だけど……』

「正直、この一件に関しては、俺達の手落ちだった。
だから、気を遣う必要は無いんだ。出来るだけ大堂の力になりたいと思っている。
わかってくれるだろうか…。上手く説明できないが……」
なんだか複雑な顔をして、一郎くんは口をつぐんでしまった。

「兄貴はホント堅物だなぁ。愛菜ちゃんが心配だって素直にいえばいいのに……」
修二くんは呆れたように一郎くんを見た。
一郎くんは図星を指されて、大きな咳払いをしている。

「とにかくね。俺も兄貴も、愛菜ちゃんの声が聞けなくて寂しいなーって思ってるんだ。
だから、さっさと取り戻しちゃおうよ、ね?」
(一郎君……修二君……)
『ありがとう。私、がんばって声を取り戻すよ』
私は二人に向かって笑って見せた。

「……まず、声を取り戻すためには、呪いを解く必要がある。その事は分かるな?」
ようやく気を取り直した一郎くんは、いつもの冷静な口調で尋ねてきた
『うん。私が自分の力を信じて、自覚すれば治るって美波さんは言ってたよ』
「でも愛菜ちゃんはどうやっていいのかわかんない…。そうなんだよね?」
修二くんの言葉に私は『うん』と頷いて答えた。

「ESP訓練やミクロPK訓練で地道に能力を上げていく時間も無い……か」
一郎くんは考え込むように呟いている。
(ミクロPKって何? なんだか難しいこと言ってるよ……)
「大堂がよほど強く願えば力の発動もあるだろうが、状況が揃っていない以上、これも厳しいな」
「じゃあ、兄貴。どうすればいいんだよ。愛菜ちゃん、困ってるじゃん」
「焦るな、修二。今、考えている」
さすがの一郎くんもすぐには答えが出ないようだ。
「でもさー、愛菜ちゃんって本来の能力はめちゃくちゃ高いじゃん。本当だったらこんなに困る必要ないはずなんだよね」
『どういうこと?』
修二くんの言葉の意味がわからず、私は首を傾げる。
「俺達もそうだったんだけど……すごく力の強い奴って、大体物心つく前からスキルがあるんだよ」
『そうなの?』
私が修二君に尋ねたところで、一郎君がようやく口を開いた。
「ヒプノセラピーを試してみるか……」
『ヒプノセラピー?』
聞きなれない言葉に、私はおうむ返しで問いかける。
「催眠療法のことだよ。トランス状態にさせて暗示をかけるんだけど……でも、それっていいの?
過去に退行させたりしたら、兄貴だけが憶えてた、愛菜ちゃんのあれがバレちゃうかもよ」
修二くんは妙に意味深な言葉を呟いている。

@『一郎くんだけが憶えてた…私のあれって?何?』
A『過去に退行……』
B『なんだか、怖いな』
35667:2008/01/10(木) 18:54:32 ID:???
@『一郎くんだけが憶えてた…私のあれって?何?』

一郎くんは私の問いに私から視線を逸らせ、考え込むように目を閉じた。
けれどすぐに目を開けていった。

「それならば、思い出す時期だったということだろう。
 それに、俺は別に大堂に思い出してほしくないわけじゃない……。
 ただ、時期が早いんじゃないかと思っていただけだ」
「ふーん?まぁ、催眠療法でそのこと思い出すとも限らないしね」
修二くんは一郎くんの言葉に、意味ありげに言う。
けれど、一郎くんも修二くんも『あれ』については答えてくれる気はないようだ。

(思い出せるなら、今無理に聞くこともないかな……)
私はそれ以上追及することをやめた。

『ところで、そのヒプノセラピー?催眠療法ってどうするの?』
「大堂が特にすることはない。そうだな、楽にしてその長椅子に横になってもらえるか?」
私は頷いて長椅子に横になろうとすると、修二くんが私を止めた。

「あ、ちょっとまって……はい良いよ〜♪」
修二くんは長椅子の端に座り、ぽんぽんと自分の腿を叩く。

(え?それって……)
「……なんのつもりだ修二?」
「なにって、決まってるでしょ?ひ・ざ・ま・く・ら。
 こんな硬い椅子にそのまま横になったら頭痛いでしょ?」
それはそうかもしれないけれど、だからといって膝枕は遠慮したい。

「大堂が困ってるだろう」
ため息混じりに一郎くんが言う。

「それじゃ兄貴がする?膝枕」
「なっ!?」
「愛菜ちゃんはどっちがいい?」
修二くんは、引く気はないようだ。

(ど、どうしよう……)
@あきらめて修二の膝枕
Aどうせなら一郎の膝枕
Bどっちも断固拒否
36668:2008/01/10(木) 22:09:17 ID:???
Bどっちも断固拒否

二人に膝枕をされている自分の姿を考えただけで、心臓がドキドキして、顔が火照っていくのがわかる。
『無理だよ! ひ、膝まくらなんて…』
「えぇ! そんなのつまんないじゃん」
修二君は私の答えに不満を漏らしている。
(私って、男子に対して耐性の無さすぎる……恥ずかしいな……)
そう思っていると、隣の一郎君が口を開いた。

「修二。これから、大堂をリラックスさせなくてはいけないのに、興奮させてどうする」
「まぁ、たしかに……」
一郎君に諭されて、修二君が大人しくなる。
「しかし、この長椅子では少し寝辛そうだな。どうするか」
「ちぇっ、しょうがないなぁ。……これは俺のスポーツタオルだけどさ、貸してあげる。愛菜ちゃん、どーぞ」
自分のロッカーを開けて、修二君は何枚かのタオルを出しくれる。
私はそれを長椅子に敷いていった。

「では、長椅子に仰向けになって寝てもらえるか?」
私は一郎君に頷くと、長椅子に寝そべる。敷いたタオルから、少しだけ石鹸の匂いがした。
「心配することはない、大堂。人は一日に何度も催眠状態に入るものだ。寝起きや、ぼんやりと考え事をしている時などがそうだ」
「じゃあ、愛菜ちゃんは普通の人よりも催眠状態が多いかもね。ぼーっとしてるしね」
修二君が楽しそうに横やりを入れてくる。私は笑ってそれに応えた。
「次は目を瞑って、深呼吸だ。心を落ち着けて……そうだな。そしてそのまま、しばらく雨の音を聴いてもらえるだろうか」

さっきまで無音だった部室内に再び雨の音が聞こえ出した。
音が洩れないようにしていたのを、二人の力でどうにかしたのかもしれない。
サーッという一定のリズムが心を穏やかにしていく。

「肩の力を抜いて……、そう、そうだ。眠る前の自分をイメージすればいい」
一郎君の落ち着いた声が、優しく響く。
「両腕が次第に重くなっていくはずだ。そして、徐々に身体全体が沈みこむような感覚になっていくだろう」
体全体が、ゆっくり穏やかな闇の中へ沈みこんでいく感覚。とても、安らかな気分だ。

「20から順にカウントダウンしていく。すべてカウントが終わった時、君の声は自然と出ているはずだ。いいか?」
私が頷くと、一郎君はカウントダウンを始めた。
19、18、17……一郎君のカウントダウンが続く。闇の中の私の身体は軽く、どこまでも心地いい。
「3、2、1」
「ゼロ」という声と共に、私は「ぁ…」と、か細い声を出していた。
(声が出た……)
「よし。まだ完全ではないが声が出たな。では、このまま君の力への偏見を取り除いていこう。呪いの根は深い。
元から治していくという強い意志が必要だ。だが、君は心にブレーキをかけ、自ら力を封印しているように見える。
解決するには、その心因的な拘束を取り除く必要がある。遠い過去……心に思い浮かぶもの……少しずつ何かが見えてきただろうか」

@「……お母さんが見えるよ」
A「……知らない女性が見えるよ」
B「……知らない男性が見えるよ」
37669:2008/01/11(金) 15:11:02 ID:???
@「……お母さんが見えるよ」

(なんでそんなに悲しそうなの?)
そう思っていると、はらはらとお母さんの頬に涙が伝う。

(なんで泣くの……?)
「ごめんね愛菜」
(なんで謝るの?)
「普通に産んであげられなくてごめんね」
(それって、どういうこと……?)
お母さんは私の問いには答えず、そっと私を抱きしめた。
それで、私がいつの間にか小さな子供になっていることに気づく。

「おかあさん」
自分は話していないのに声がする。

(そうか、これが私の過去?)
「なかないで、おかあさん。だいじょうぶだよ」
子供の頃の自分が手を伸ばしてお母さんを抱きしめる。

「おかあさんがいやなら、もうすてる。いらないから」
「愛菜……あなたは優しい子ね」
「でも、おかあさんいなくなるの」
「愛菜?」
「おかあさん、あいなをおいていっちゃうの。いっちゃやだよ、おかあさん」
「そう……わたしは愛菜を置いていくのね?」
「いやだ、おいていかないで」
泣き出した私をなだめるようにお母さんは私を抱き上げる。

「大丈夫よ、愛菜。おいて行ったりしないわ。……まだね」
「ほんどう?」
「ええ、本当よ。ねぇ愛菜、私はいつあなたをおいていくの?」
お母さんの言葉に、小さな私は首を傾げる。

「わかんない……、たかしにくまさんもらうの。そのあと……」
「そうなの……。ね、愛菜はまだ隆くんにくまさんをもらっていないでしょう?」
「うん」
こっくりと頷いた私に、お母さんは微笑んだ。

「だから、おいていったりしないわよ」
(そうか、お母さんが出て行ったのは私がそういったからなんだ)
いままでなぜお母さんが出て行ったのか分からなかった。けれど、小さな頃の自分は最初から知っていた。
きっとこの会話がある前にも、お母さんと私は先のことについていろいろ話したのだろう。

「それじゃあ、愛菜約束よ。もう、先のことを見ないこと。もし見てしまっても忘れること」
「うん。わかった!」
「愛菜は良い子ね、それじゃあもう忘れてしまいましょう、愛菜」
優しく背中を撫でるお母さんに小さな私はすぐにうとうとと眠り始める。
きっと、この後から私は未来を見ても忘れてしまうようになったのだ。

「そうか、お母さんと約束したんだ。もう先のことを見ないって、見ても忘れるって」
「原因の一つが分かったな。力の枷が緩んだようだ。
 だが、まだ根本に根付いているものがあるみたいだな。もっと別の場所、何か見えないか?」
「別の……」
一郎くんの声に導かれるように、別の何かが見えてくる。

それは……
@「……剣と鏡?」
A「……女の人?」
B「……男の人?」
38670:2008/01/12(土) 00:37:18 ID:???
A「……女の人?」

私は掠れた声を絞り出して、一郎くんに伝える。
意識の向こうから浮かんできたシルエットが女の人のものだった。
(ううん、ちょっと違う。これは女の子だ……。私より少し年下くらいの……)

「それは、どこだか分かるか? 見えたという女性の特徴も教えて欲しい」
一郎君の声が頭上から降り注いだ。

(どこだろう……日本だと思うけど)
まるでピントの合っていない写真のように、すべてがはっきりしない。
だけど、この場所がそんなに遠く離れた場所でないことは、直感で分かった。

「日本、かな。でも、全然わからない。よく見えないよ」
ぼやけた映像がスライドショーのように、途切れ途切れに切り替わっていく。
時にはフィルムの擦り切れた映画のように観えることもあった。
でもやっぱり、どれが映し出されても、かろうじて輪郭がわかる程度のものばかりだった。

「最初から前世退行させたのは、さすがに無理があったようだな。今日はもういいだろう。俺が次に指を鳴らすと同時に……」
「ちょっと待って、何か……聞こえる……」
一郎くんの言葉をさえぎって、私は意識を集中させる。
最初は曖昧だった言葉が、少しずつはっきりと聞こえだした。

「――草薙剣、八咫鏡を賜ひし我が霊代を以って、天に明かり照らし御神に仕え奉らくと申す」

(神様に祈ってる? そっか……これ祝詞だ)

なぜだろう。私はこの祝詞をよく知っていた。
まるで身体に染み付いた言葉のように懐かしくすら感じる。
聞き覚えの無い女の子の声で奉読しているけれど、とても他人とは思えなかった。

(だけど……)

心に小さな引っかかりを覚えた。
大切な何かを忘れているような気がする。
思い出さなきゃいけないのに出てこないような、ザラッとした違和感がある。

それって何だろう……
@八尺瓊勾玉の存在
A敵の存在
B好きな人の存在
39671:2008/01/13(日) 13:39:48 ID:???
@八尺瓊勾玉の存在

なぜか八尺瓊勾玉だけを聞き取ることが出来なかった。
でも、私の知っている祝詞は三種の神器がすべて揃っていたはずだった。

(幼い私が力を捨ててしまった時のように……勾玉も心の枷になってるという事?)

剣と鏡と勾玉はご神体だった。
私は巫女として祝詞を奉読したり、神楽を舞ったりしていたのだ。
そして、神託を帝に……。

「私は……巫女として…神様の声を…神託を告げる役目だったよ」

声に出して認めた瞬間、ぼやけた映像が鮮明に変わっていった。
まばゆい光に包まれて、意識が吸い込まれる感覚に襲われた。

――ずっとずっと昔、人々がまだ八百万の神々だけを信じ、祈りを捧げていた時代。
日本がようやく一つの国として成り立ち始めた頃、私は生まれた。
でも、混乱した時代はまだ続いていた。内乱は収まらず、国の存在もまだ強固なものではなかったのだ。

先代の巫女から選ばれ、帝の元で私は託宣の巫女として生きていくことになった。
豪族の娘だった私は故郷を離れ、神殿に幽閉され、日々を泣いて過ごしていた。
まだ子供で、巫女としても未熟だった私には、味方になってくれる者がだれも居なかったからだ。
そんな時、一人の少年と出会ったのだった。

ガタッという物音を聞き、私は身をすくめた。
「こんな遅くに……だれ?」
怖くなった私は女官を呼ぼうとして闇に目をこらす。すると、一人の少年が立っていた。
「君こそだれ? ここはだれも入っちゃいけないはずだよ」
少年は質問を質問で返してくると、私の傍まで歩いて来た。
「……まだ童だね。この神殿にいるっていうことは、君は巫女かな」
闇の中、ジッと探るような視線で見られている事に、沸々と怒りが湧いてくる。
「あのねぇ……あなたもまだ童でしょ。それに、女性の寝所に入ってくるなんて、失礼よ」
「あっ、ごめんっ」
ようやく気付いたとばかりに驚くと、少年は膝を折り、丁寧に頭を下げてから再び口を開いた。
「数々の非礼をお許しください、姫君」
少年はうやうやしく詫びてきた。
その仕草から、この男の子は下賎の者ではない、と思う。
「じゃあ、ここからすぐに出て頂けるかしら」
私は突き放すように少年に向って言った。
「わかったよ。だけど、一つだけ質問していいかな?」
「いいよ。何?」
「君……泣いてたよね。何か辛い事でもあったの?」

辛い事って
@寂しいのかもしれない
A悔しいのかもしれない
B考える
40672:2008/01/14(月) 13:27:34 ID:???
@寂しいのかもしれない

「辛いというより、少し寂しいのかも。だけど……こんな名誉な事は無いって父様も母様も喜んでくれたのよ。
私のような者でも、お仕えさせて頂くことができるんだもの」

大役を任されたからには、精一杯尽くさなくてはいけない。

「君って偉いね。感心しちゃったな」
「そ、そんな事ないよ」
私は恥ずかしくなって、俯いてしまう。
「あのさ、もう一つだけ質問。君の名前……聞いてもいいかな?」
少年は照れたような笑顔を向け、私に尋ねてきた。
人さらいや賊の類ではなさそうだと安心し、私は口を開く。
「私の名前は壱与。壱与って呼んでくれていいわ。あなたのお名前も教えて?」
「君が…出雲の大豪族からの人質……」
「どうしたの??」
「……あぁ! そういえば、君に出て行くように言われてたよね。ごめん、すっかり忘れてたよ」
そう言って少年は立ち上がろうとする。
私はそれを慌てて止めた。
「ま、待って」
「どうしたの?」
「私ね。もう少しだけ、あなたとお話ししていたい……」
「いいの? 泣き声が聞こえてきて迷い込んだだけだし、僕が居たら迷惑じゃない?」
「とっても故郷が懐かしくなっちゃったんだ。お願いだよ、もう少しだけ……」
「わかったよ、壱与。君の故郷の話、たくさん聞かせて?」
「うん。あのね……」

少年は私の語る故郷の話を楽しそうに、興味深く聞いてくれた。
久しぶりの楽しい会話に、心が弾む。

「でね、手習いも沢山あって。難しくって、すごく苦手だったんだよ」
「僕も手習いは嫌いだな。やっぱり僕たちって、似てるね」
二人とも顔を見合わせて笑い合う。
クスクスと声を抑えて、口うるさい大人に見つからない様にするのがとっても楽しい。

「……僕、そろそろ戻らなきゃ」
「そっか、もう遅いもんね。また来てくれるかな……えっと」
まだ名前を聞いていない事を思い出す。
少年は胸元をゴソゴソと探り、首にかけていた翡翠の勾玉を取り出した。
「これは僕の宝物なんだ。次に会う時まで預かってて」
私の手に、深緑の宝石が握られる。
月光を浴びてキラキラと光って、綺麗で、この勾玉は少年みたいだな、と思った。
「じゃあね、壱与。さよなら」

私は少年の背中を見送り、寝床に戻る。
(いい子だったな。でも、名前は教えてくれなかったよね…)
上手くはぐらかされてしまった気がする。
少し残念だったけど、宝物を預けてくれたということはまた会えるということだ。
私は翡翠の勾玉を握り締め、目を閉じた。

@現在へ戻る
A続きを見る
B考える
41673:2008/01/15(火) 14:40:12 ID:???
壱与ってなんて読むんだろ?いよ?

A続きを見る

(そうだ……でもあの子には結局しばらく会えなくて……)
私の手元には少年が残した勾玉だけがあった。
それだけが、あの夜のことが現実にあったことだと教えてくれる唯一のものだった。
私は少年に預った勾玉をいつも懐に忍ばせていた。
首にかければ大人に見つかって取り上げられるかもしれなかったからだ。
それでもこの地へきて唯一楽しかった記憶は、私に少しの強さをくれた。
次に少年に会ったときに笑顔でいたいという思いが、泣き暮らしていた私から涙を消し去った。

「壱与は最近明るくなったわね、よかったわ」
先代の巫女は優しい人で、私の母のようでも姉のようでもあった。
私と同じように前の巫女に選ばれ、神殿へ入った人だ。
私と違うのは帝の血縁者ということくらい。
先代の巫女の下、いろいろな儀式や占い、舞を覚えていく日々。

「壱与は本当に力が強いわね。私なんか足元にも及ばないわ」
「そんなことは……」
「ふふ、謙遜ししないの。あなたを選んだ私の目に狂いはなかったってことでもあるのだから」
「……はい」
「それに、これなら私もなにも思い残すことなく安心して巫女を降りられるわ」
「え!?」
唐突な言葉に、私は驚く。

「驚くことではないでしょう?代替わりの為に次の巫女を選ぶのだから」
「そう……ですよね」
「これからはあなたが帝の為に、神託をうけるのよ。あなたなら大丈夫」
「はい……」
それから、ほどなくして巫女の代替わりの儀式の日取りが決められた。

そして儀式の前夜、私は眠れずぼんやりと勾玉を見つめていた。

「壱与」
唐突に名前を呼ばれハッと顔を上げると、勾玉をくれた少年がたっていた。
あの日からほぼ一年近い時が流れていたけれど、私が彼を間違えるはずが無かった。
それくらい、少年の印象は色あせることなく私に残っていたのだ。

「あなた……!」
「久しぶりだね壱与。元気にしていた?」
驚く私に少年は微笑んだ。

もう会えないかと思っていた私は…
@うれしくて微笑み返した
Aなぜ今まで会いにこなかったのかと怒った
B感極まって泣いた
42674:2008/01/15(火) 20:54:16 ID:???
「いよ」でOKだと思う 

Aなぜ今まで会いにこなかったのかと怒った

「なぜ今まで会いに来てくれなかったの? ずっと待ってたんだよ!」

何度も思い描いた出会いの光景なのに、想像のように可愛く振舞えなかった。
会ったら笑って迎えようと思っていたのに、不意に出たのが恨み言だなんて子供過ぎる。

「あの……違うの、これは、えっと……」

どうにか取り繕おうとする私の傍らに、少年は微笑んだまま腰を下ろした。
その横顔は記憶していた少年より、幾分大人びている印象だった。
一年の間に、背も伸びて、体つきも男の子らしくなっていた。

「待たせて、ごめん。少し大和から離れていたから、会えなかったんだ」
「離れてたって……」
「これは僕からのお祝いだよ。壱与にとっての宝物になったら嬉しいけど……」
そう言って手渡してくれたのは、メノウの勾玉だった。

(このメノウ……もしかして……)

「出雲のメノウだよ。これで壱与が元気になってくれたらいいな」
「ど、どうして! 出雲だと知って……」
「故郷の話をしてくれた時に、もしかしてと思っていたからね。
壱与が一番喜んでくれる物は何かなって、これでも、随分考えたんだよ」

私は受け取ったメノウの勾玉をギュッと握り締める。
王国だった故郷も、この大和王権に下って十数年。今はただの一豪族に過ぎない。
メノウは王国として栄えていた故郷の誇りと、懐かしい潮の香り、なにより父と母の笑顔を運んでくれた気がした。

「ありがとう……。ずっと、ずっと大切にするから!」
「そう言ってもらえて、僕も嬉しいよ。貸して、つけてあげるから」
手が首元にまわされ、紐が結ばれる。くすぐったくて、思わず肩をすくめた。
「ごめん。嫌だった?」
「ち、違うの。続けて」
つけ終わったのを確認して、私はずっと預かっていた少年の勾玉を返した。
少し寂しいけれど、私には少年から貰った新しい宝物がある。

それから、私たちは自然とお互いの出来事を話し始める。
一年間を埋めるように、夜通し語り合った。

「あっ! 僕、もう行かなきゃ……。もっと壱与と話していたかったな」
「私も。でも、もう私は……」
(託宣の巫女になったら、簡単には会えないよね)
「そんな顔しないで。すぐにまた会えるから。それじゃ」

(あっ、行っちゃった。そういえば、また名前を聞けなかったな)

@すぐに会えると言った意味を考える
A少しでも休む
Bメノウの勾玉を見る
43675:2008/01/21(月) 11:43:44 ID:???
Bメノウの勾玉を見る

メノウにはたくさんの色があるけれど、青メノウは出雲でしか産出しない。だから、青メノウは出雲石ともよばれている。
けれど出雲の民は青メノウのほかに大事にしている色があった。
それは、彼が持ってきた赤いメノウだった。
通常より大きなつくりの勾玉は、昔、玉祖命が出雲のメノウを使って作った八尺瓊勾玉を模したものだろう。

(偶然かもしれないけれど、もしそうならうれしいな)
出雲の民にとって、出雲で産出したメノウが大伸に献上されたことは誇りだ。

(あれ?)
そう思って首にかけられた勾玉をぎゅっと握ると、懐かしい故郷の波動とは違う、けれど不思議と安らぐ波動が感じられた。
巫女としての修行を積んできた私だから感じられる波動。
巫女に選ばれる前の私なら気付かなかっただろう。
どこまでも穏やかで、静かな……そう、月のような。

(本当に八尺瓊勾玉を忠実に再現したのかな……?)
八尺瓊勾玉は陰、つまり月をあらわしているといわれている。
まだ正式な巫女ではない私は本物の八尺瓊勾玉を見たことはないけれど、きっとこの勾玉に近いのではないだろうか?
私はそっと勾玉から手を離し、床につく。

(あしたは大事な儀式だもの、ちゃんとやすまなくちゃ)
目を閉じてしばらくすると、ふと身体が浮き上がるような感覚に襲われる。

(あ、また……?)
(そうだ、私はずっと前から夢を見ることが多かった)
巫女に選ばれる前から、不思議な夢を見続けていた。
巫女に選ばれ、修行をするにつれはっきりとした夢を見るようになった。

(今度はどんな夢だろう……)
(この夢は……だめ、見てはいけない……!)
過去の私と現在の私の意識が交じり合う。

この時私が見た夢は……
@過去の夢
A近い未来の夢
B遠い未来の夢
44676:2008/01/22(火) 04:11:00 ID:???
A近い未来の夢

(この夢は……駄目……!)
それは私が封印しておきたい、最も思い出したくない過去だった。
月の波動に導かれるまま、押し込めていたはずの記憶が再生されていった。

八咫鏡には、変わり果てた故郷の様子が映し出されている。
「な、なんで……こんな事に……出雲が…」
身体が震えて、涙が溢れてくる。
真実を見通す鏡が映し出したのは、大和の兵が出雲の村々を焼き払っているところだった。
収穫間近の稲田も、家もすべて炎に包まれている。
たくさんの人々は戦火に逃げ惑い、無残に殺されていた。

「壱与。とうとう視てしまったんだね」
振り向くと、そこには冷たい表情をした少年が立っていた。
私は立ち上がり、少年に掴みかかると叫ぶ。
「帝……あなたがやったの!!」
少年は観念したように肩をすくめると、溜息を漏らした。
「そうだよ。八尺瓊勾玉を模して作ったものでも、君の力を抑えることはできなかったんだね。
できれば何も知らないまま済ませたかったんだけど……巫女としての才がこれほど秀でているのは誤算だったな」
帝は悲しげな顔をすると、私から視線を逸らすように胸元にある赤い勾玉を見た。
そして、さらに言葉を続ける。
「出雲は元々は根の国だ。民草でさえ怪しげな鬼の力を使いこなす。
とくに王族は君も含め、優秀な鬼道の使い手ばかりだ。
今は大和に支配されていても、その強い力は必ず仇となる。だから、滅ぼすんだ。この国を守るためにね」

(そんな……)
父は争いを避け、無血で王の座を退いた。
託宣の巫女も、名ばかりの人質に過ぎなかった事だと最近の夢見で知った。
それでもここで暮らした日々や、先代の巫女、何より帝を信じていたかった。
すべて無駄だったというなら、いっそ大和国と戦って散った方がマシだったとさえ思う。

「……父様、母様も殺したの? もう私の故郷は無いというの?」
密かに抱いていた恋心や尊敬の念は吹き飛んで、憎悪だけが心を埋め尽くしていく。
どす黒い感情のせいで、ひどく吐き気がした。

「僕に話してくれた沢山の出雲での出来事、兵をさし向けるのにとても役に立ったよ。
残念だけど、君の親や親戚の鬼はすべて殺した。だけど、壱与だけは僕の大切な宝物だ。
この翡翠よりずっと美しい鬼の姫君。伊勢に宮を用意させてあるんだ。そちらで……」

ドンッ

「触らないで!」
抱きしめようとする帝を突き飛ばすと、奉ってある神器の一つ、八咫鏡を地面に思い切り叩きつける。
青銅の鏡は真っ二つに割れて、転がった。
(信じるものすべて、無意味だった……嘘で塗り固められていた……)
そして、草薙剣を手に取る。

@帝を刺す
A自分を刺す
B思いとどまる
45677:2008/01/22(火) 16:36:11 ID:???
B思いとどまる

ずしりとした剣の重さと、柄のひやりとした冷たさに私は我に返る。

(私は、今何を……)
剣先を帝に向けたまま呆然と立ち尽くす。
そんな私を帝は静かに見ていた。
それから再度私にゆっくり近づいてくる。

「壱与、君に人を傷つけることは出来ない……。君は僕とは違う。優しい人だから」
「……父様だって優しい方だったわ」
「……壱与の親なら、優しい人だっただろうね」
「そうよ、争いを好まない優しい人だった……」
「そうだね……だけど、君の父上が亡くなったら?他の王族は反旗を翻さないと言い切れるかい?」
言われて私は言葉に詰まる。

(言い切れない……)
私は父様の弟を思い出す。
父様と違い、大和と徹底的に争う姿勢を示していた。
手から力が抜け、剣が足元に落ちる。

「僕には大和の民を、大地を守る義務がある」
(私はこの地と民を守ることが役目だ)
帝の言葉と父様の言葉が重なる。
私にだって分かっているのだ、国を治めるためには時に非情にならなければならないことを。
胸の内の憎悪が見る見るしぼんでいく。

「壱与、僕とおいで。君だけは僕が守るから」
私は差し出された手をぼんやりとみつめる。


「……っ!」
「大堂!?」
「愛菜ちゃん!?」
二人の声に意識が現実に戻っていることに気付く。
そしてすべてを思い出したわけではないけれど、分かった事もある。

「私が……私が……神器の力を解放してしまった……」
「大堂落ち着くんだ」
「愛菜ちゃん、神器ってなに?」
「修二、今は黙っていろ」
「なんだよ、兄貴は何か知ってるのか……?」

もしかして……
@「一郎くんには記憶が残っているの?」
A「修二くんは何も覚えていないんだね?」
B「私は、償うために生まれてきたの?」
46678:2008/01/22(火) 23:07:25 ID:???
B「私は、償うために生まれてきたの?」

「……償う必要は無い。神器の力の解放は必然だったのだろう。鏡が二つに割れたのも、また必然だ」
「でも……私が神器のバランスを崩したから……」

鏡を壊したせいで、神器の力は開放され、人の魂に取り付いたのだ。
一時の激情に流されて、私は取り返しのつかない事をしてしまった。

「俺は……過去の過ちを責めるつもりで催眠療法をしたのではない。
ただ、始まりを知っておくべきだと判断したからだ。
俺達の能力は神々の呪いだ。決して歓迎すべきものではないと……それを知っていて欲しかったんだ」
「……兄貴」
言葉を選んで話す一郎君の様子に、修二君も黙り込んだ。
雨音を含んだ沈黙が部室に落ちる。
その沈黙を破ったのは意外にも一郎君だった。

「このままでは、君の力の開放は不完全なままだったな。
美波という人物が言っていたように、君自身が望まなければ力は得られない。
過去での出来事、今までの経験から君の意見を今一度問いたい。いいだろうか?」
「うん」
私は頷くと、一郎君を見た。
「声は完全に戻っていると思う。だが、それ以上の能力が欲しいのか尋ねたい。
忌わしい力だが、正しく使えば大堂の助けにもなるだろう。
もちろん誰かを傷つけることもある。時には非常さも必要だ。それでも、君は力を望むのか?」

(力……)

昨夜、隆も言っていた事だ。
使えない予知夢では誰も傷つくことはなかった。
隆は一緒に逃げようと言ってくれていたけれど、その場になったらやっばり身を挺して守ってくれると思う。

冬馬先輩は母との約束を守り、何度も私を助けてくれた。
周防さんには、命を脅かすほどの危険な目に遭わせてしまった。
チハルは今も動かないままだ。
春樹だって、私を守る力を得るために家を出て行った。

もし私が能力を得れば、頼ってばかりじゃなく、一緒に戦える。

(一郎君が言う、正しい使い方が私に出来るのかな)
(修二君はこの力の事、どう思っているんだろう)
(そういえば、幼い冬馬先輩は力を制御できず、たくさん辛い思いをしたんだっけ。私もそうなるのかな)

考えが浮かんでは消える。

@力を望む
A望まない
B修二君に話しかける
47679:2008/01/23(水) 16:57:35 ID:???
@力を望む

もう、守られているだけなのは耐えられない。
「それでも私は、力がほしい。自分で身を守れるようになれば……っ!?」
力がほしいと明確に口に出した瞬間、ぐらりと視界がゆがんだ。

「な、なに……、これっ?」
激しいめまいを感じて、ぎゅっと目を瞑る。
それと同時に身体の中の何かが作り変えられていくような、不思議な感覚に襲われた。
目を瞑っていても視界が回る気がする、それと同時に激しい吐き気が襲ってくる。

「大堂、落ち着け」
「愛菜ちゃん、ゆっくり呼吸をして」
一郎くんと修二くんの声が聞こえるけれど、その言葉の意味を理解する前に今度は身体の内から何かがあふれる感覚が来る。

「大堂!」
「愛菜ちゃん!」
「修二!」
「わかってる」
私の意識の外で、一郎くんと修二くんの声が聞こえる。

(なに?どうなってるの……?これが力?……押えられないっ)
本能がこのまま力を解放してはいけないと警告する。
けれど、押える術が分からない。

(ちがう……知ってる。知ってるはず……)
昔から自然と押えてきたはずなのだ。
何とかその方法を思い出そうとするが、内からあふれてくる力に思考を奪われうまく思い出すことが出来ない。

(?)
懐かしい何かが、私の身体を包む。それと同時にあふれ出て行く力が止まる。

「大丈夫か?」
「大丈夫?」
顔を上げると、私を挟むようにして立った一郎くんと修二くんが私を囲うように両手をつないでいた。
私は二人が作った輪の中にいる。
その輪の内に力が満ちている。

「鏡の力……」
「大堂、力を制御することはできるか?」
「え?あ……、うん、もう大丈夫」
私はさっきどうしても思い出せなかった力の制御方法を、思い出す。
私の言葉を聴いて、二人は手を離した。

「ありがとう」
「力が戻ったみたいだな」
「うん」
「気分は悪くない?」
「もう大丈夫だよ」
私は二人に笑ってみせる。
身体の中の内に、力が満ちているのが分かる。
過去に帝が鬼の力と呼んだ力と、巫女としての力だ。
そして、力がもどってふと疑問に思ったことを聞いてみる。

それは……
@剣の力をもつ人が誰か
A勾玉の力の行方
B二人に前世の記憶があるのかどうか
48680:2008/01/23(水) 19:23:30 ID:???
@剣の力をもつ人が誰か

(そうだ。武君は二人が剣を見つけていたって言ってたよね)

「あの……ちょっと聞いてもいいかな?」
「ん? なに、愛菜ちゃん」
「なんだ、大堂」
二人がほぼ同時に私を見てきた。
その視線を感じながら、言葉を続ける。

「鏡は一郎君と修二君だよね。……剣って誰なの?」
(教えてくれるのかな……) 
不安の入り混じった視線を二人に向ける。
けれど私の事なんて眼中にないように、二人は顔を見合わせていた。

「早っ、もう来てるよ。あーあ、アイツのこと嫌いなんだよなぁ」
「力の解放で俺達の結界が弱まったからな」
「ちょっ……二人とも何を話しているの? 力が戻った私にも判らないこと?」
私の問いかけで、修二君がようやく私に気づいたみたいだ。

「ああ、ゴメン。なんだったっけ」
「剣が誰なのか教えて欲しいんだけど……」
「その剣さん、部室の前まで来てるよ。直接きいてみたら?」

(部室の前? 直接きく?)
「ストーカーみたいに付き纏って……いいかげんにしろっての」
ぶつぶつと文句を言いながら、修二君は部室のドアまで歩いていく。
そして、ドアを勢いよく開けた。

―ゴンッ

大きな鈍い音がして、ドアが途中で止る。
「あのさー。これ外開きだから、そこに居たら危ないよ」
「…………」
「と、冬馬先輩!?」
冬馬先輩がぼんやりと立っていた。
鮮血が額からツーッと伝い落ちているのに、相変わらずの無表情だった。

私は……
@冬馬先輩に駆け寄る
A修二君を怒る
B一郎君を見る
49681:2008/01/24(木) 04:46:47 ID:hY0TUzCa
@冬馬先輩に駆け寄る

「冬馬先輩、血が出てるよ……ちょっと待って」
血が滴っていることを除けばいつもの通りの冬馬先輩の前で、私は慌ててポケットに手を突っ込んでハンカチを取り出す。
冬馬先輩は傷口に当てようとしたハンカチを私の手ごと遮って、言った。

「ハンカチが汚れます、愛菜」
「ハンカチって……そんなことより今は冬馬先輩の怪我の方が大事でしょう!」
思わず声を荒らげた私にも冬馬先輩は顔色ひとつ変えず、空いている方の手の甲で無造作に額の傷を拭った。
「この程度の怪我なら放っておいても何ら問題はありません」
絶句する私の後ろで修二君がこれ見よがしに大きなため息をついた。

「はー、やれやれ。お人形さんに間違って血が通っても、お人形さんはお人形さんだね。所詮まがいものだから、心配されたってわからない」
「……修二」
戒めるようにそう声をかける一郎君に、修二君は「だってホントの事でしょ」と付け加えた。
(修二君、どうして、そんな言い方……)

修二君の悪態にも相変わらず無表情の冬馬先輩の額から、新たな赤い雫が伝い落ちた。見るに見かねて再びハンカチを傷口へ向けようとする私の手はまたしても冬馬先輩に阻まれた。
「お願い冬馬先輩、手をどけて」
「愛菜こそ、手を下ろしてください」
努めて冷静に話し掛けたのに、少しも聞き入れてくれる様子のない冬馬先輩に次第に苛立ちが募る。
「ねえ冬馬先輩、私先輩の怪我が心配なの」
「先ほども言いました。この程度の怪我は僕にとってなんでもありません」
「……」
「ただ、流血が不快なのでしたら謝ります」

「……冬馬先輩の、ばかっ!」
冬馬先輩の言葉に、気がついたらそう叫んでいた。目の前の冬馬先輩の目がいつもよりほんの少し見開かれているような気もしたけれど、血が上った私にはどうでも良いことだった。
「そんな事、言ってないじゃない! 冬馬先輩、怪我して血が出てるんだよ? 問題ないなんて、そんな訳ないじゃない!」
「まあまあ愛菜ちゃん、落ち着きなよ」
私の剣幕に驚きながらも、すかさず修二君が間に割って入るとなだめるように私の手をとった。
「センパイがヘーキって言うんだからヘーキなんでしょ。愛菜ちゃんがそんなに気にすることないって、ね?」
「……711の言うとおりです、愛菜。今ここで流れているのは、あなたの血ではないのですから」

あんまりな物言いの修二君の手を見もしないで振り払って、私は冬馬先輩に詰め寄った。
「どうして、どうしてわからないの? たいしたことないって言ったって血を流したら、怪我をしたら痛いでしょう? 冬馬先輩が私の目の前で痛い思いをしてるのに、なんでもないとか、平気とか……そんな訳、ないよ」
思いつくままに冬馬先輩に言葉をぶつけながら、次第に視界がにじんでゆくのを感じた。ぼんやり見える冬馬先輩はなぜか悲しげに私を見ている。
「愛菜」
「先輩のばか。……どうしてもっと先輩自身のこと、大事にしないの」
「愛菜。……どうか、泣かないで」
「…冬馬せんぱいの……ばか」
「……すみません」
泣きじゃくりながら子供みたいに何度も何度も繰り返し責める私に、冬馬先輩は腹を立てるでもなくその度丁寧に謝った。
そんな意味のない問答を繰り返す私たちの横で、修二君が小さくつぶやくのが聞こえた。
「愛菜ちゃんの言うとおり、ほんとセンパイって馬鹿だよねー。……でもさっきのオレはそんなセンパイよりさらに馬鹿、かな」

(……? 修二君…?)

さて、どうしよう?
@冬馬先輩に自分を大事にするよう約束してもらう
A意味深な修二君の発言が気になる
Bとりあえず一郎君に剣が誰なのか尋ねる
50681です:2008/01/24(木) 04:48:23 ID:???
↑あげちゃった、ごめんなさいー!!!
51682:2008/01/24(木) 11:27:53 ID:???
@冬馬先輩に自分を大事にするよう約束してもらう

「冬馬先輩、約束して? 自分を大切にするって」
「はい。あなたの命令ならば善処します」

(命令って……)

「どうしてわかってくれないの? 命令とかじゃなくて、ただ冬馬先輩が心配なんだよ。
冬馬先輩が傷つけば、私だって痛いんだよ。平気じゃないから、涙が出たんだよ!」
「痛い? なぜ……どこが痛むんですか?」

冬馬先輩は、心配そうな顔で私を覗き込む。
私は涙を拭って、自分の胸元をギッと押さえた。

「ここが痛くなるよ。すごく」

冬馬先輩の指先が導かれるように、私の胸に触れる。
一瞬、身体がビクッと強張ったけれど、私は自分の心臓にその手をおいた。

「なっ、アイツ……」
何か言いかけている修二君の前に、一郎君が割り込んでくる。
そして、修二君に向って黙ったまま首を振った。
「……兄貴、わかってるって」
修二君はそう言うと、諦めたような溜息を吐きながら長椅子に乱暴に座った。

「愛菜の鼓動が伝わってきます……」
冬馬先輩は確認するように、小さく呟く。
「冬馬先輩が自分自身を粗末にするたびに、私の心臓がズキッズキッて痛くなる。まるで自分が傷ついてしまったようにね」
「……今も痛みますか?」
「うん。先輩の額が痛むように、私のここもまだ痛いよ」

裂かれた額の皮膚から赤い血が滲み出ている。
痛々しくて思わず目を逸らしたくなるけれど、私はハンカチで溢れる血を拭っていく。

「大堂。その傷口に直接触れてみろ。今なら出来るだろう」
さっきまで黙ったままの一郎君が、突然話しかけてきた。

「自分自身を信じてみるんだ。君こそ、自分を粗末にするな」

どうしよう……
@「一体、何が出来るの?」
A触れてみる
Bためらう
52683:2008/01/24(木) 16:43:53 ID:???
A触れてみる

私は言われるままに、そっと冬馬先輩の傷口に触れる。

(あ……、そうか)
そして次に何をすればいいのか、悟った。
癒しの力を指先に集めて傷が治るようにと念じる。
すると触れた場所から、みるみるうちに薄皮が再生され傷口がふさがっていく。
同時に流れていた血も止まった。

「よかった……」
「ありがとうございます」
いいながら無表情のまま右手を私の頭の上に乗せると、不器用に撫でる。

「おい、なにやってるんだよ」
途端、修二くんが冬馬先輩につっかかる。

「修二……」
それをあきれたように一郎くんがたしなめている。

「どうして修二くんはそんなに冬馬先輩につっかかるの?」
たしかに修二くんは他人を見下すような所があるし、結構自分勝手に行動することも多い。
けれど、ここまであからさまな行動をするのは冬馬先輩にだけのような気がする。

「どうしてって……、うーん。なんか分からないけど無性にムカつくんだよね」
「理由が分からないの……?」
「そうそう、相性なんじゃない?」
「そういうもの……?それじゃあ一郎くんも?」
「いや、俺は……理由はわかっている」
「?」
「……大堂はすべてを思い出していないようだが、遠からずすべての記憶が戻るだろう。
 今言っても大差は無い」
「う、うん?」
「その剣」
そういいながら、一郎くんは冬馬先輩を見た。

「先輩が剣……」
そういえば、部屋の前まで来ていると言っていた。

「剣は過去、大堂の……いや壱与の一族を滅ぼすために使われた」
「え?」
「神器である剣の力は強大だ。鬼の一族であろうと抵抗することは難しい。
 鏡はすべてを見ていた。剣の力が振るわれるのも、それを悲しむ壱与のことも。
 だから鏡である俺たちは、壱与を泣かせた剣を快くは思っていない」
「なるほどー、兄貴って何か隠してるとおもってたけど……前世の記憶が残ってるのか」
「……」
冬馬先輩は一郎くんの言葉に反論することもなく、立っている。
不意に訪れた沈黙に、耐え切れなくなる。

なにか話さないと……
@「先輩は剣の記憶があるんですか?」
A「でも、私は壱与じゃないですから……」
B「えっと…、鏡と剣は揃ったけど、勾玉は?」
53684:2008/01/24(木) 20:31:57 ID:???
@「先輩は剣の記憶があるんですか?」

冬馬先輩は頷くと、私を見る。
「はい。……はっきりと思い出せるものは少ないですが、他の転生の記憶もあります」
「てか、理由なんて今更どーでもいいよ。この人がムカつくのに変わりは無いしさ。
それよりも……兄貴が俺にまで隠し事をするから、話がややこしくなるんだよ」

一郎君を非難する姿を見て、私はふと疑問になった事を口に出してみた。
「修二君。前世のこと、全然記憶に無いの?」
「全然ないよ。組織の一部が俺たちを鏡、この人を剣だと呼んでるって話は知ってたけどね。
ヘンな通称つけられてんなぁって思ってたけどさ」
「あれっ…だけど、剣だと組織に教えたのは二人じゃないの?」
「よく知っているな、大堂。それは、俺が言った事だ。記憶を持たない修二には知らされていないし、憶えてもいないだろう」
間を置かず、一郎君が答える。
そして、修二君をジロッと睨みながら、言葉を続けた。

「文句を言っているようだが、修二。お前、俺が説明しようとしても逃げていたじゃないか」
「そうだっけ?」
「組織の事だって、俺だけが動いて、ほとんど何もしていなかっただろう」
「でもさぁ」
「だいたい、お前が大堂に力の事を勝手に話してしまったせいで……」
「あぁ。もう、わかったよ」
一郎君と修二君のやり取りがすべてを語っているような気がする。

「じゃあ、修二君は神器のことも知らないんだね」
「神器? そういえば、さっきも愛菜ちゃんが言ってたっけ」
「うん。壱与って私の過去世が奉ってたのが三種の神器、つまり剣と鏡と勾玉なんだ。
それで、壱与が鏡を壊しちゃったから、神器の力が開放されてしまったんだよ。
元を辿れば、この能力は神様の力なんだよね」
「そうだ。俺たちはその力を最も強く受け継いだ魂だということだ」
一郎君は補足するように、言葉を付け加えた。

(壱与がしたことだけど、私のせいみたいで罪悪感あるなぁ)
ふと、冬馬先輩を見ると、黙って話しを聞いていた。

@勾玉のことを一郎君に聞いてみる
A冬馬先輩に他の転生の事について尋ねる
B時計を見る
54685:2008/01/25(金) 11:19:44 ID:???
@勾玉のことを一郎君に聞いてみる

「一郎くん、そういえば勾玉の力は見つかってるの?」
「いや……残念ながら勾玉には会っていない」
「そっか……」
「だが、剣のように力の制御を覚え隠していれば、近くにいたり会っていても気付かない可能性もある」
「あ、そうだよね……」
「勾玉が見つかれば……」
ふと、一郎くんが口を噤む。

「どうしたの?」
「……壱与は三種の神器と最後に契約を交わした者だ」
「そうだね」
鏡が割れその力が失われてしまったため、私の後の巫女は儀式を行っても抜け殻の神器を使った形式的なものだった。
つまり一郎くんが言うように、正式な儀式を行い神器の力を使うことを許されている巫女は壱与ということ。

「だから、壱与……いや大堂との契約は切れていない」
「え……?」
「だが神器の力は強大で、3つ揃わなければ過去の契約は履行されない」
「えっと……、つまり勾玉がみつかれば、私は3種の神器の力を使うことができるっていうこと、だよね?」
「あぁ、そうだ。まだその辺の記憶は戻っていないか?」
「う、うん……」
(あれ?でも……冬馬先輩とまた契約したんだよね……)
私が内心首を傾げると、修二くんが顔を顰めていった。

「てことはセンパイは抜け駆けして、過去の契約とは別に愛菜ちゃんと契約したってことだよね?」
「……」
修二くんの言葉に、冬馬先輩は無言のままだ。

「まただんまりか……」
修二くんは肩をすくめると、私に向き直った。

「じゃあさ、愛菜ちゃん。俺とも契約しない?」
「え!?」
「修二何を言っている」
「あ、兄貴にもしろっていってるわけじゃないよ。俺が個人的にしたいだけ。
 まあ、そこの剣みたいに力を分け与えるっていう契約は出来ないけど……」
すっと手を取られ、距離が近くなる。

「愛菜ちゃんを守る契約だよ。一生ね」
にっこり笑ってさらりと言われたけれど、すごいことを聞いた気がする……。

@「えっと、それって……」
A「遠慮しとくよ」
B「じゃ、お願いしようかな?」
55686:2008/01/26(土) 00:08:18 ID:???
@「えっと、それって……」

「そ。愛菜ちゃんをお嫁さんにして、ずーっと守ってあげる」
腰に手がまわされ、更に修二君の顔が近づく。
身をよじってみても、逃げ出すことが出来なかった。
(じょ、冗談よね……)

「あ、あの……まだ早いよ。お互い高校生だし」
「別に早くてもいいじゃん。俺が一生守ってあげるって言ってるんだから」
「今はそういうの、考えられないっていうか…」
「じゃあ、今から考えてみて」
(困ったな。どうしよう……)

「修二。大堂が嫌がっているだろう」
半ば呆れたように、一郎君が呟く。
その言葉が耳に入らなかったのか、修二君の左腕に力がこもった。

「なんで逃げようとするのさ? 愛菜ちゃんは俺のこと、嫌い?」
「嫌いじゃないけど……」
「けど、何? 俺のことが嫌いなら、はっきり言ってよ。諦めるから」
「修二君のことは、本当に嫌いじゃないよ。でも、冗談もほどほどに……ね」
「俺はいつも本気なんだけどな。最初から付き合いたいって言ってたじゃん」
「そういうの、本当に困るっていうか……」
「困るってどういう事? この剣の方がいいの? それとも兄貴がいいの?」
「どっちがいいとかじゃなくてね」
「神器や過去じゃなく、俺は愛菜ちゃんがいいんだよ? どうしていつもはぐらかすのさ」
「……もう少し修二君も真面目に考えようよ」
「俺はいつでも真面目だよ」
困り果てて、私は修二君から視線を逸らす。
度を越した冗談に、笑えなくなってしまったからだ。
いつもの過剰なスキンシップにしては、強引すぎる。

一郎君もさすがにやり過ぎだろうと判断したのか、修二君の肩に手をかけた。
「おい、修二。いいかげんにしろ!」
「兄貴は黙っててくれよ。俺は今、愛菜ちゃんとしゃべってるんだから。
この前、俺の事を信じてるって言ってくれたよね。なら、逃げないで俺を見てよ」
強引に顎を鷲掴みにされる。
向き合った修二君の眼差しに、思わず息を飲んだ。
「し、修二君っ離して……!」
怖い、と私が感じた瞬間、身体にまわされていた手がパッと離れた。

「ごめん、愛菜ちゃん。どうかしてた、俺……」
修二君は素直に謝ると、ドアまで歩いていった。
「センパイ、そんな怖い顔しないでさ。俺たち仲間らしいし、許してよ。あと兄貴、部室のカギ返しておいて」
一方的に言うと、修二君は部室を出て行ってしまった。

(修二君の目……氷みたいに冷たかった)
力尽きるように、私は長椅子に座った。

@考える
A一郎君を見る
B冬馬先輩を見る
56687:2008/01/26(土) 03:32:30 ID:???
@考える

(修二くん、ほんとうにどうしちゃったんだろう……)
修二くんは冬馬先輩のこととなると、普段の飄々としたところがなくなって不可解なくらいに敵意を剥き出しにしているような気がする。
冬馬先輩に向けられる悪意の塊みたいな言葉の数々は、横で聞いている私も胸が痛くなるほどだ。

ふとあることを思いついて、修二くんが去っていったドアに目をやったままの一郎くんに呼び掛けた。
「…ねえ、一郎くん」
声をかけられた一郎くんもまた何か考え事をしていたのか、弾かれたように私を見た。
「! ああ、大堂。…すまない。修二のやつがまた、君に迷惑をかけた」
「ううん、大丈夫だよ。それに、一郎くんのせいじゃないんだから」
「だが…」
なおも言い募る一郎くんに、なんとか笑顔をむける。もしかしたら、うまく笑えていないかもしれないけれど、少しでも一郎くんの気が楽になればと、そう思った。
「本当に気にしないで、ね? それより一郎くんにちょっと確認したいことがあるんだ。一郎くんと修二くんはもともとは、その、ひとつの鏡……だったんだよね?」
「ああ。それが、どうかしたのか?」
次の言葉を続けようとして、無意識のうちに冬馬先輩に目を向けていた。本人を目の前にして口にするのは少しためらわれる内容だったものの、聞かなければいけないような気がして、思い切って続ける。
「一郎くんは冬馬先輩のこと、快く思ってないって言ってたけど、理由もちゃんと説明してくれたしそれはそういうものなのかなってなんとなくはわかったよ」
「それなら、良かった」
「ただね、修二くんは前世の記憶がないって言ってたでしょう? それなのに冬馬先輩に対するあの対応ってちょっと不自然だと思うんだ。さすがに相性ってこともないだろうし……」
「……それは…」
珍しく言いよどむ一郎くんが何かを言おうとしたその時、冬馬先輩が静かに言った。

「彼の無意識が、そうさせるのでしょう。彼と僕は非常に近い存在ですから」
「修二くんと、冬馬先輩が…近い?」
冬馬先輩の言葉の意味が分からずに反復する私に、先輩は小さく頷いた。
「そうです。彼はよく僕のことをこう呼んでいます、『お人形』と。すなわち、それはそのまま」
「待て」
一郎くんの鋭い声が言いかけた冬馬先輩の声を遮った。
「剣よ、大堂に何を言う気だ。憶測でものをいうのはやめてもらおうか」
「…憶測ではないのは君が一番よく知っているはずだろう、コードno.702。僕の話がただの憶測にすぎないのなら双子のはずの君たちはなぜコード番号が続きの数ではないのか、なぜ片方だけ転生の記憶が一切抜け落ちているのか」
淡々とそう話す冬馬先輩を正面から見据える一郎くんは、何故か顔面が蒼白だ。

どうしよう?
@冬馬先輩にそのまま続きを話してもらう
A一郎くんの様子が心配、話は中断して声をかける
B直接修二くんに聞いてみたい
57688:2008/01/26(土) 14:35:38 ID:???
A一郎くんの様子が心配、話は中断して声をかける

「顔が真っ青だよ。大丈夫?」

私は一郎くんに駆け寄り、声をかけた。
「ああ、心配ない」と私に一言呟き、また冬馬先輩に向き直った。

「剣……いや、冬馬先輩。このことは二度と言わないで欲しい。
もし万一、修二の前で言ったのなら、俺は全力であなたを倒すつもりだ」
「…………わかった」

(何、なんなの……)

「一郎くん、何がどうなって……」
「大堂。言葉にした瞬間、すべてが壊れてしまう事もある。
修二に残酷な真実を背負わせ、苦しめる必要は無い。たとえ、薄々気づいていたとしてもだ。
君にしても、力や組織の事を知ってしまったから、こんなにも辛い思いをしているのだろう。
俺のやり方が逃げだと思うのなら、それでも構わない。
だが頼む……これ以上、何も聞かないでくれ」

(一郎くん……)

一郎君の言いたいことは、正直わからない。
だけど、真剣に、誠実に言っていることだけは伝わる。

「うん。よく分からないけど、この話はおしまいにしよう。冬馬先輩もいいよね」
冬馬先輩は黙って頷く。
一郎くんは私たちの様子を見て、安心したように大きく息を吐いた。
「勝手を言って、すまない」

その時、長椅子に置いてあった私の鞄がモゾモゾと動いて地面に落ちた。
冬馬先輩は無表情のまま鞄を拾い上げ、私に手渡してくれる。
「愛菜の覚醒で、精霊が目覚めたようです」
「精霊って……チハル!」

私は鞄を受け取り、急いで開けた。
すると、ぬいぐるみのチハルがピョンと飛び出してきた。

私は……
@チハルを抱きしめる
Aチハルを撫でる
Bチハルに話しかける
58689:2008/01/28(月) 16:43:36 ID:???
@チハルを抱きしめる

「よかった、チハル。もう動かなくなるかと思ったよ……」
ポンッと音がしたので慌てて手を離すと、大きな姿のチハルが目の間にいた。

「愛菜ちゃん、ごめんなさい」
悲しそうな顔でチハルがぎゅっと私を抱きしめる。

「どうしてチハルが謝るの?」
「ボク愛菜ちゃんをまもれなかった……。
 力がなくて、ずっとうごけなかったけど知ってるよ、愛菜ちゃんの声が出なくなったこと」
「謝るのは私のほうだよ。チハルに無理させちゃったもの、ごめんね」
「愛菜ちゃんはわるくないよ! ボクのちからがたりなかったから……。
 でも、ボクもっと強くなったよ。今度はぜったいにまもってあげる」
「ありがとうチハル。でも無理はしないで。
 私も力を使えるようになったし、チハルがまた動かなくなったら嫌だよ」
首を捻ってチハルを見上げると、黒目がちな瞳がくるりと動いた。

「でも愛菜ちゃんのお願いはなんでもきいてあげたいよ?」
「ありがとう、でも、無理だと思ったらそう言ってね? もし無理なら、別の方法を考えよう?」
「そのほうがいいの?」
「うん、チハルが動かなくなると寂しいよ」
「わかった!」
ぎゅーっと抱きつかれる。

「チ、チハル苦し……」
あまり力の加減がうまく出来ていないチハルの腕を慌てて軽く叩いて、離すように促す。

「あ、ごめんなさい……」
とたん、しゅんとうなだれるチハルの頭を撫でてあげる。

「大堂」
ひと段落着いたところで一郎くんが声をかけてきた。

「今日はもう帰ったほうが良い」
「え? どうして?」
「おそらく徐々に過去世の記憶が戻ってくると思うが、場合によっては放心状態に陥ることがある。
 そんな状態で授業を受けても、まわりが心配するだけだろう」

確かに急にぼーっとしてたら皆心配するかもしれない……
@でも、授業に出る
A家に帰る
Bしばらくここにいる
59690:2008/01/28(月) 22:12:05 ID:???
@でも、授業に出る

「やっぱり授業に出るよ。せっかく学校まで来たしね」

私は鞄を閉めて、一郎君を見た。
みんなに心配されるかもしれないけど、授業についていけなくなるのはもっと困る。
ただ、今は文化祭の準備期間で宿題がないのだけマシなのだけど。

「駄目だ。前世後退でやはり無理をさせすぎたようだな」
「でも……」
「君だけではない。その周りの学友にも迷惑がかかると言っているんだ」
「うーん。それも、わかるんだけど」
「ボクも今日は帰ったほうがいいと思うよ。急に大きくなったもやもやがグニャってなってるもん。
それのせいで胸のところがフラフラだし」

その言葉に、一郎君はチハルをジッと見つめた。
チハルは目をパチパチさせて、首をかしげている。
「君は……大堂の魂が不安定な事まで見えるのか」
「少し見えるし、触ってもわかるよ。けどね、ボクはキミじゃないよ。チハルって名前だもん。愛菜ちゃんにつけてもらったんだ」
「そうか。では精霊よ、頼みがある。大堂を家まで連れてってくれないか。俺は委員会の雑務が残っていて、どうしても抜けることが出来ないんだ」
「いいよ。でもね、ボクは精霊よりも、チハルって名前で呼ばれたいな」
「助かる。頼んだぞ」
「たのんだぞじゃないよー。チハルだよ」
チハルは頬を膨らませながら訴えている。
けれど一郎君は何も言わず、うろたえながら咳払いをしていた。

(結局、強制なのね。それにしても……)
私が考えている間にも、チハルはめげることなく、今度は冬馬先輩の制服を掴んで「ねぇねぇ」と話しかけている。

「ボクはチハルだよ。ボクのことチハルって呼んでみて」
「……チハル」
冬馬先輩はボソッと頼まれるままに呟いた。
「うん。ありがとう」
チハルはお礼を言って、また私のところまで戻ってきた。
「あのね、愛菜ちゃん。なんであの人だけボクの名前を呼んでくれないの?」

なんて答えよう
@「照れてるんじゃないかな」
A「チハルが大人の姿だと、気安く名前が言えないのかも」
B「一郎君に聞いてみたら?」
60691:2008/01/29(火) 20:23:20 ID:???
@「照れてるんじゃないかな」

「そうなんだ……わかった! 僕のカッコがみんなと違うから照れちゃうんだね」
チハルはポンッと音をさせて、男子の制服姿になった。
「この姿なら、みんなと一緒だよ。これならいいかな?」
「きっと言ってくれると思うよ。ねぇ、一郎くん」
そう言いながら、私は一郎くんに目配せをした。
一郎くんも観念したのか、諦めたような溜息を吐いている。

チハルはクルクルとまわりながら、一郎くんの元へ駆け寄っていった。
「変身したよ。だから、チハルって言ってよぉ」
「…………チハル。これで、いいのか?」
「うん。やったー! 愛菜ちゃん、言ってくれたよ」
また私のところに駆け寄って、抱きついてくる。
一方の一郎くんは、どっと疲れたような顔をしていた。

キーンコーン

三時間目の予鈴が鳴った。
私たちは部室を出て、一郎くんがドアのカギをかけている。

「大堂は気をつけて帰るように。君が帰ったことは俺から先生に伝えておこう」
「やっぱり、帰らなきゃ駄目?」
「当たり前だ」
「はぁ……、仕方ないけど、わかったよ。あとね、隆にも言っておいて欲しいんだ」
「ああ、了解した。後は頼んだぞ、精霊」
「精霊じゃなくって、チハルだよ!」
「……チハル。頼んだぞ」
「うん。任せて!」
どこかやりにくそうな顔をしながら、一郎くんは去っていった。

「あれ? 冬馬先輩は授業に戻らなくてもいいの?」
私は残ったままの冬馬先輩に話しかける。
「はい。僕も愛菜を家まで送ります」
「でも……授業があるでしょ?」
「……大丈夫です。さあ、行きましょう」
「本当にいいの?」
「はい。送ります」

冬馬先輩は送るのが当たり前のような口ぶりだ。

どうしようかな?
@授業にでるように言う
A送ってもらう
B理由を聞く
61692:2008/01/30(水) 19:02:48 ID:???
A送ってもらう

「それじゃあ、お願いしようかな……」
私は立ち上がって、部室の戸を開けふと動きを止める。

「先輩傘もってきてますか?」
朝から降っていたのだからもってきていて当然だと思うけれど、相手は冬馬先輩だ。

「……」
冬馬先輩は無言で私を見つめ返した。
どこか不思議そうな顔をしているように見えるのは気のせいだろうか?

「……記憶」
しばらくしてポツリと先輩が呟く。

「記憶……?」
記憶といえばおそらく過去の記憶のことだろう。
それと傘とどう関係があるのか首を傾げる。

「剣の力は龍の力」
静かに先輩が言う。
その言葉に、ふっと記憶がよみがえった。

(あ、そっか……)
草薙の剣、それは蛇の剣。
蛇は龍に通じる。
そして龍とは水神をあらわすことが多い。
剣の力自体はそれだけではないが、水を操る力に長けているのも事実だった。

(ということは……、まさかあの雨の中傘も差さずに学校に来たとか……?)
冬馬先輩ならありえそうだ。
かといって、見る限り制服が湿っているとかそういうわけでもない。

「ねえねえ、愛菜ちゃんかえらないの?」
いつまでたっても動かない私にじれたのか、チハルが軽く私の袖を引っ張る。

「あ、ごめん帰るよ」
とりあえずチハルにはストラップになってもらう。
いくら学校の制服を着ていても、先生に見つかったら生徒ではないことがばれてしまう。

さて、どうしよう?
@徒歩で帰る
Aタクシーを呼ぶ
B雨がやむまで待つ
62693:2008/01/30(水) 22:20:14 ID:???
@徒歩で帰る

(身体はなんともないし、徒歩でいいかな)

「傘が無いなら、私のでよければどうぞ」
校舎を出たところで、私は声をかけた。

「……僕は大丈夫です」
先に雨の中に飛び出した冬馬先輩は、少し歩いて立ち止まった。
普通だったらずぶ濡れなるはずなのに、冬馬先輩の制服は全く濡れていなかった。

(やっぱり、水を操って……)

「冬馬先輩。やっぱり、一緒に傘に入って行こう。それじゃ、目立っちゃうよ」
私は冬馬先輩に傘を差し出した。
だけど冬馬先輩はそれを避けてしまう。
「愛菜が……濡れてしまいます」
「それより、私は冬馬先輩がヘンな目で見られる方が嫌だよ。いくら濡れなくても、傘をさすべきだと思うよ」

この前、香織ちゃんが冬馬先輩に良くない噂が立っていると言っていた。
雨の日に傘をささずに佇む冬馬先輩は、やっぱり変わった人に見えてしまう。
私が知らないだけで、他にもたくさんの奇異の目に晒されてきているのかもしれない。

「お願い。一緒に入ろう?」
私の言葉で、冬馬先輩はようやく傘に納まってくれた。
強い雨の中、私が傘を持ちながら、ゆっくり歩き出す。
校門を出たところで、珍しく冬馬先輩から私に話しかけてきた。

「……昔、周防にも同じ事を言われました。愛菜も周防も……どうして傘をさすべきだと思うんですか?」
「周防さんが言ったの?」
「はい。周防に言われて、仕方なく傘をさすようにしていました。けれど、今日は忘れてしまったのです」

(周防さんも冬馬先輩が心配なんだね……)

「あのね。この前、私が学校は大切な場所って言ったこと、憶えてるかな」
「はい」
「学校って、とっても大切で素敵な場所なんだけど、集団生活だから目立ち過ぎるのは良くないんだよ。
特に力の存在なんてみんなに言えるわけないから、誤解されちゃう事も多いと思うんだ」
「でも愛菜は、分かってくれています」

冬馬先輩にしては即答で、しかも、はっきりとした口調だった。
その言葉は素直に嬉しいけれど、同時に胸が痛くなる。

「私だけが冬馬先輩の事を理解していても駄目なんだよ。それじゃ、寂しすぎるよね。
冬馬先輩の周りには、クラスのみんなや、先生もいるでしょ?」
「はい」
「無理してすべてを合わせる事は無いけど、もう少し能力者じゃない普通の人にも目を向けて欲しいんだ。
そうすれば学校が大切な場所だって事、もっと分かるはずだよ」

私の言葉が理解できないのか、冬馬先輩は何も答えない。
ただ窮屈そうに、私の傘に入って歩いていた。

どうしようか……
@「冬馬先輩は寂しいと感じたことは無いの?」
A「私の親友の香織ちゃんは普通の人だよ」
B「冬馬先輩はもっと自分に関心を持たなきゃ駄目だよ」
63693:2008/01/30(水) 22:22:49 ID:???
×「傘が無いなら、私のでよければどうぞ」
○「傘が無いなら、私のでよければ一緒にどうぞ」
64694:2008/02/01(金) 02:52:12 ID:???
@「冬馬先輩は寂しいと感じたことは無いの?」

少し見上げ、心配に思いながら冬馬先輩の横顔を伺う。
いつも通りの乏しい表情のせいで、何を考えているのかわからない。

「寂しいと感じてはいけないと、そう思っています」
「え…?」

不意に発せられた冬馬先輩の言葉に、思わず私は聞き返してしまった。

「寂しいと感じてはいけない……僕はいつも自分に言い聞かせています」
「寂しいなら我慢する必要なんてないんだよ?」
「我慢ではありません」
「じゃあ、何? 感情を押し殺すなんてよくないよ。嬉しいのなら喜んだ方がいいし、悲しいなら泣いてもいいって……私はそう思うな」
「僕は喜んではいけないし、泣いてもいけないのです」
「さっきの怪我でも感じたけど、先輩は自分を粗末にし過ぎているんじゃないかな」
「僕のような者は、そうなって然るべきです」
「なぜ……どうして、そう思うの?」

頑なな冬馬先輩に、言い知れぬ不安を感じた。
私は立ち止まって、冬馬先輩に向き直る。

冬馬先輩は自分の手のひらをじっと見つめ、やがてそれを握り締めた。
そして、ようやく重い口を開いた。

「日曜日に公園で言ったと思いますが、僕が引き起こした能力の暴走により、多くの犠牲が払われました。
幼いために制御が出来なかったとはいえ、僕はこの両手でかけがえのないものを沢山奪ってしまったのです。
この大罪が消えることは、決してありません。
むしろ、穏やかで明るい世界に居るほど……この罪の意識は強くなっていくのです」

穏やかで明るい世界は、きっと学校での生活も含まれているのだろう。
私は今まで、冬馬先輩は単純に感情の起伏が少ない人だと思っていた。
でも、本当は違う。
深く暗い闇の中で、冬馬先輩は今も苦しんでいるのかもしれない。

「僕は剣です。行く手を阻む草があれば薙いで道を作る、そういう役目を負っています。
愛菜は過去の力を得て、強くなりました。
その力をどうか、破壊する力ではなく、生かす力として使ってください。
僕には出来ない事でも、あなたになら出来るはずです」

冬馬先輩は、契約の時のように私の手を取った。
そして、あの時と同じ言葉を口にする。

「あなたが望む道を切り開くために、僕は戦い続ます。
……この身が朽ち果てるまで」

なんて答えよう……
@「わかったよ。一緒に頑張ろう」
A「『この身が朽ち果てるまで』なんて言わないで?」
B「……同じことを契約でも言っていたね」
65695:2008/02/03(日) 02:12:11 ID:???
B「……同じことを契約でも言っていたね」

あの時には分からなかった言葉の意味も、今なら分かる。
同じ言葉でも、まるで違って聞こえた。

「はい。言いました」
先輩が握る私の手には、今も契約のアザがはっきりと刻まれている。

(そういえば、冬馬先輩を年下だと勘違いしていて御門くんって呼んでたっけ)

「あの時はまだ、冬馬先輩って『心』が欠けているんだと思ってた。
ほとんど自分の意見は口にしないし、人の言葉に従うことが多いし。でも、違ったんだよね。
ちゃんと持ってるのに、どうして気づけなかったんだろう」

そう言って、私は冬馬先輩を見ながら「ちょっと失礼だったかな」と付け加えた。
冬馬先輩はそれに「いいえ」と答えて、首を振っていた。

「最初から、行くべき道を教えてくれていたのにね。ここまで来るのに、時間がかかっちゃった」

言葉が足りなくて、誤解ばかりされてしまう冬馬先輩。
私も冬馬先輩の考えている事が判らなくて、随分もどかしい思いもした。

けど、さっきの告白で先輩の心が見えてきた。
先輩は人形でもないし、化け物でもない。
不器用で、純粋で、頑固で、自分に厳しくて、少しだけ常識を知らない……そんな人だ。

「…………」
冬馬先輩は手を取ったまま、ただ黙って私を見ている。

「正直、どこまで出来るか分からないけど……、先輩の期待に応えられる様にがんばるよ。
だから、今度は自分を大切にする事で、冬馬先輩の勇気を示して欲しいな。
そうすれば、先輩の周りから誤解や偏見が消えて、好転していくと思う。
そして、もうこんな事を終わらせよう。それが私たちの出来る、一番の償いだよ」

「愛菜の望みなら、僕の全霊をかけて叶えます」
「うん。けど。自分を大切にね」
「はい。……誓います」

そう言って、冬馬先輩はもう片方の手で、私の手を包み込んだ。
冷えた私の手に、冬馬先輩の体温が伝わる。
秋雨は相変わらず降り続けているのに、傘を共有している私の肩は濡れていない。
(これも冬馬先輩の力、だよね)

「……体温が下がっています。寒いですか?」
「少し、ね。雨が降ってるし」
「わかりました」
冬馬先輩は制服を脱いで、私の肩にふわりと大きなブレザーを掛けてくれた。

私は……
@「ありがとう」
A「冬馬先輩は寒くない?」
B「優しいね」
66:2008/02/03(日) 18:01:39 ID:jGiRqnKp
179日目 6203円
67名無しって呼んでいいか?:2008/02/03(日) 18:02:30 ID:???
ミスったorz
68696:2008/02/05(火) 00:07:59 ID:???
A「冬馬先輩は寒くない?」

私が訊くと、冬馬先輩は黙ったまま首を横に振った。
「それじゃ、これ借りてるね」
「…………」
「どうしたの? 返した方がよかった?」
「……傘、持ちます」
そう言って、冬馬先輩は私から傘を奪ってしまった。
「あ、ありがと……」
「いいえ。さあ、行きましょう」

私たちは、家に向って再び歩き出した。

(にしても、冬馬先輩に大きな事言っちゃったなぁ)
つい勢いで『期待に応えられる様にがんばる』なんて言ってしまったけど、本当は自信が無い。
だけど、組織のやり方を絶対に許すことは出来ない。
高村の組織のせいでみんな辛い思いをしているし、なにより春樹の身が心配だ。

現時点での組織の狙いは、三種の神器と託宣の巫女の確保だろう。
目的は多分、三種の神器の力を私に宿らせること。
いわゆる、神おろしだ。
神器を使って、何を叶えようとしているのだろうか。

(組織から春樹を助けるなら、神おろしの時がチャンスだろうけど……)

神おろしを私の力で制御できればいいけど、成功する保証は無い。
もし主流の思惑通りになってしまったら、一郎くんたちや周防さんたちが今まで組織に抵抗した事が水の泡になってしまう。

(とにかく、勾玉を見つけなきゃ……)
勾玉が揃っていないために、主流も動く事ができないはずだ。
それを主流より先に探し出すことが最優先なのだろうけど、見える一郎くんと修二くんも見つけられていない。

(うーん。どうしよう……)

「――菜。愛菜」
「はい?」
「家に着きました」

考えているうちに、いつの間にか家についていたようだ。

どうしようかな?
@家に入ってもらう
A礼を言って別れる
B冬馬先輩に尋ねてみる
69697:2008/02/05(火) 15:58:02 ID:???
@家に入ってもらう

「先輩、寄っていきませんか? せめてもう少し雨が弱くなるまで」
雨は先ほどより強くなっている気がする。
水を操れる先輩なら、どんなに雨が降っていようと関係ないのだろうけれど、それはそれ、気持ちの問題だ。
先輩はしばらく思案しているようだったけれど、頷いた。

「…………あなたが望むなら」
先輩の答えに、なんとなくがっかりとかなしさの入り混じった気持ちになる。
けれどそれに対してどう反応すればいいのか分からず、あいまいに微笑んで家の鍵を開けた。

「どうぞ、座っててください。私、先に着替えてきます」
リビングに先輩を通し、冬馬先輩が頷いたのを確認してから、私は部屋で着替えを済ませた。
それからキッチンに寄り、手早くインスタントのコーヒーを入れリビングに戻ると、先輩はぼんやりと外を見ていた。
外は相変わらず激しい雨が降っている。

「先輩、コーヒーですどうぞ」
私の言葉に冬馬先輩の視線が外から私へ移る。

「ありがとうございます」
カップを受け取って、先輩はコーヒーを一口飲んでじっと私を見た。

「先輩?」
「……なにか聞きたいことがあるのではないですか?」
「え?」
「まだあなたの記憶は完全に戻っていません。僕は記憶を戻す呼び水です」
(呼び水……)
そういえば、さっきも『剣の力は龍の力』という言葉を聴いただけで、先輩の力を思い出した。
きっかけがあれば、過去の記憶がスムーズによみがえるのだ。

「僕の知る範囲でお答えします」
先輩はいつに無く口数が多い。

えっと……
@勾玉のこと
A高村一族のこと
B冬馬のこと
70698:2008/02/05(火) 21:28:44 ID:???
A高村一族のこと

(そういえば……高村一族ってどうなんだろう)

私の知っている事は、春樹が昔は高村春樹だったこと。周防さんと春樹が従兄弟だということ。
周防さんは直系ではないけれど才能をがあるために研究所にいて、今は亡くなったことになっている。
高村の一族は能力者で、権力もあるらしいこと――そんな今までの断片的な情報を冬馬先輩に話した。

「もっと高村一族のことを教えてくれる?」
「……高村一族だけでは、お話しするのは難しいです。もっと内容を絞っていただけませんか?」
冬馬先輩はいつも通りの抑揚の無い言い方で、私を見る。

(内容を絞って……か)

「やっぱり春樹の父親について一番知りたい、かな。でもこれじゃ、記憶の呼び水にはならないよね」

(今朝の夢、春樹が話してくれた性格とはかけ離れてて、すごく違和感があったけど……)
冬馬先輩はしばらく黙っていたけれど、ゆっくり口を開いた。

「わかりました。春樹さんの父親、高村博信についてお話します。
周防から聞いた話ですので、知らない事もあると思いますがよろしいですか?」
「うん。構わないよ」
私は姿勢を正して、冬馬先輩に向き直った。

「高村博信……高村研究所の所長をしている男です。
三年前までは、この近くの総合病院で院長を兼任していましたが、研究に専念したいという理由で退いたようです。
現在、妻はいません。子供は二人、秋人とあなたの弟の春樹さんです」
「秋人……?」
「夢の中で一度会っているので、あなたは知っていると思います」

(夢の中……そうだ、あの謎掛けをしてきた人かな)
「春樹の夢の中で会った人?」
「そうです。秋人は妾との間にできた子供ですので、春樹さんとは腹違いですが」
(春樹にお兄さんが居たんだ……でも腹違いって……)

「腹違いって……どういうこと?」

「元々、あなたの継母の前に博信には妻がいたのですが、子供には恵まれなかったようです。
その時に妾との間に出来た子が秋人です。それから前妻と死別し、あなたの継母と再婚したのです」

「でも待って。春樹は力が無かったから、お継母さんは暴力を受けていたのよね。秋人さんが居るなら最初から……」

「秋人は妾との子供ですので、博信にとっては認知していても、気持ちとしては実際の子供と認めたくなかったようです。
あなたの継母との離婚が成立しても、秋人に対する態度は変わらなかったと聞きました。
能力のある秋人ですが、父親から認められることなかったようです。
しかし、三年前に状況が一変しました。施設の移転と同時に、独裁者のように振舞っていた博信が突然……高村研究所の実権を秋人に一任したのです」

「ちょ……ちょっと待って」

え……?
@考える
A三年前に秋人さんに何かあったって事?
B三年前に春樹の父親に何かあったって事?
71699:2008/02/08(金) 14:12:33 ID:???
B三年前に春樹の父親に何かあったって事?

私の問いに冬馬先輩は答えなかった。
ぱっと考えれば、研究に専念したいと病院をやめた人が、せっかく研究に専念できる土台が出来上がった途端、その研究所の実権を別の人に譲るなんておかしい。
実権を別の人に譲るということは、研究が自由に出来なくなる可能性だってあるということだ。
自由に実験をしたいのならば、自分がトップにいて好きにしたほうが都合がいいのではないだろうか?

(そうでもないのかな……?)
上に立つということは研究所を経営(?)するという手間もあるといえばある。

「理由はわかりませんが、博信の性格は急変しました」
「え……? 性格が変わったの?」
ふと今朝の夢を思い出す。
父親の変貌ぶりに困惑する春樹。

「僕も博信には数回しか会ったことがありませんが、覇気がまったくなくなっていました」
「覇気……?」
「人の上にたつのに必要なものだと、周防は言いました」
その言葉にふと、過去の記憶がよみがえる。
自分の父と、自分の国を滅ぼした少年。
すべてを包み込み守る包容力を持つ父と、すべてを引っ張って進んでいく力強さを持っていた少年。
タイプはまったく違うけれど、確かに二人には共通する覇気があった。
それが上に立つものの資質といわれれば確かにそうなのだろう。

「当時、同じく性格が急変したといわれる人物がいます」
「……え?だれ?」
過去を思い出していた私は、冬馬先輩の言葉を理解するのに一瞬の間があく。
冬馬先輩はそんな私をじっと見つめて、言葉を続けた。

「秋人です」
「ええ!?」
「僕は性格が変わった後の秋人しかしりません」
「ということは、その噂が本当か冬馬先輩は分からないってこと?」
「はい」
おなじ時期に性格が急変した二人、関連がまったくないとは考えにくい。

@「秋人さんは元々どんな性格だったか聞いてる?」
A「春樹のお父さんの性格が変わったのは一回だけ?」
B「高村の一族ではよくあることなのかな?」
72700:2008/02/08(金) 22:34:46 ID:???
B「高村の一族ではよくあることなのかな?」

「よく、は無いと思います」
「よくは無いってことは、少しはあるって事?」
「はい」
「そうなんだ。それって、いつあったかわかる?」
「五百年ほど前に、一度だけ同じような状況を見たことがあります」
「五百年前って、冬馬先輩になる前の記憶ってことだよね?」
「はい」
「五百年前の前世で先輩は何を見たの?」

なんとなく胸騒ぎを覚えて、私は冬馬先輩に尋ねた。

「……あなたは十種の神宝を憶えていますか?」
「十種の神宝……」

また冬馬先輩の言葉が呼び水になって、記憶が蘇ってきた。
十種の神宝。それは出雲に伝わる宝具だった。
鏡が二種、剣が一種、玉が四種、比礼が三種からなる宝で、出雲国の王位継承にも使われていた。

大和国の三種の神器に対して、出雲国の十種の神宝。
その力は死者をも甦生させるという、禁忌の秘術に使われていた。
出雲の民は皆、この十種の神宝を信仰していたのだ。

「出雲の宝……」
「そうです。その十種の神宝の一つ、死返玉(まかるがえしのたま) の力を持つ者が五百年ほど前に、
死者を傀儡のように操るのを見たことがあるのです。
僕が見た覇気の無い博信は、まるであの時の傀儡のようでした」
「それって……春樹のお父さんが亡くなっているってこと……?」

夢で見た春樹のお父さんはちゃんと生きていた。
私には、とても死人には見えなかった。
けど、死返玉の力なら……と納得している自分自身もいて、落ち着かない。
死返玉は死者を蘇らせる力を持つけれど、他の神宝がなければ完全な甦生は出来ない。
死者を傀儡として操る事なら、死返玉なら可能だろう。
春樹の父親を見たチハルが言っていた、精霊と反対の力とは死返玉が宿す鬼の力を指しているのだろうか。

「博信が死んでいるかは、僕には判断できません」
「わからないんだったら……」
「ですが、まるで気配が変わってしまう理由が他に見つかりません」
「ファントムで操られてる可能性は無いの?」
「ファントムはあり得ません。博信は優秀な能力者ですから」
「でも……冬馬先輩には判断できないんだよね?」
「五百年前に見たのは、鏡が僕に見える力を付与した為でした。剣の僕に、見る力はありません。
見る力に特化した鏡でないと、真実はわからないのです」

(力の付与……そういえば、一郎くんと修二くんが病院で春樹に力を見せていた事があったような)

@五百年前の話を詳しくきく
Aなぜ秋人さんの性格が豹変したのかきく
A十種の神宝について思い出す
73701:2008/02/11(月) 01:56:09 ID:???
B十種の神宝について思い出す

(十種の神宝か……)

私は十種の神宝について、詳しく思い出してみることにした。

澳津鏡(おきつのかがみ)、辺津鏡(へつのかがみ)、八握剣(やつかのつるぎ)、
生玉(いくたま)、足玉(たるたま)、道返玉(ちがえしのたま)、死返玉(まかるがえしのたま) 、
蛇比礼(おろちのひれ)、蜂比礼(はちのひれ)、品物比礼(くさぐさのもののひれ)
が、十種の神宝と呼ばれていた。
それぞれの神宝にはすべて意味があり、その意味に沿った強い鬼の力を宿していた。

大和の民は出雲の持つ神宝の力を、黄泉の祟りとして恐れを抱いている者も多かった。
出雲は根の国と呼ばれ、死者の世界に通じている恐ろしい場所だと思われていたためだ。
死者甦生という禁忌も行える神宝が、死者の世界に通じているという誤解を生んでいたようだった。
また、出雲もそういった誤解をあえて解こうとはしなかった。
それは鬼の力を持ち、大和の民よりも優れているという慢心があったからだ。

けれど神宝が宿す力は、決して悪い力というわけでは無い。
強い力というのは、使う側で正義にも悪にもなる。それは十種の神宝も三種の神器も変わりは無い。
そういった、民族同士の偏見や誤解から無益な争いを生む結果になってしまった。

(十種の神宝の一つ、死返玉の力を使った者……)

「冬馬先輩。五百年前に見た死返玉の力を持つ者って、高村の一族だったんだよね?」
「はい」
「じゃあ、もしも冬馬先輩の言うように、春樹のお父さんが亡くなったまま操られていたとして……
操っている人も高村の一族の誰かだと思ってる?」
「はい。ですが先ほども言ったように、鏡でないと確認はできません」

もし操っている人がいるのなら、同じ一族だと冬馬先輩は思っている。
(高村一族か……)

強い力を持つ家系で、財力も権力もある。
そういえば、華族だったと美波さんが言っていた。
少なくとも五百年前から姓氏を名乗っているようだし、由緒正しいのは間違いなさそうだ。
もしかしたら、十種の神宝に関係している可能性だってある。
武くんや熊谷さんが言っていた、高村の伝承とも関わっているのだろうか。

どうしようかな?
@操っている人が誰なのか尋ねてみる
A高村一族の歴史を尋ねる
B高村の伝承を尋ねる
74702:2008/02/12(火) 14:54:24 ID:???
A高村一族の歴史を尋ねる

「冬馬先輩は、高村一族の歴史を知っている?」
「いいえ、残念ながら転生していた時代のことしか分かりません」
「そっか……」
高村一族のことを聞けば、何か分かると思ったけれど……。
そのときぽんっと音がした。
振り向くと、鞄から這い出したらしいチハルが制服姿で立っている。

「愛菜ちゃんひどいよー。ボクのコトわすれてたでしょう?」
ぷーっと頬を膨らませてチハルがすねている。

「ご、ごめんね」
事実なので慌ててチハルに謝ると、すぐに機嫌を直したのか跳ねるように私に近づいてくると、首に腕を巻きつけるようにぺったりとくっつく。

「愛菜ちゃん、春樹をつれていった人のケイフをしりたいの?」
「え?けいふ?……あ、系譜ね、うん知りたいけど……」
「それならボクが聞いてあげるよ。神様に聞けばおしえてくれるよ」
「え? 本当?」
「うん、まかせて!」
そういいながら、チハルは軽く目を伏せた。

「石見国そこがはじまり」
「石見国って……出雲の隣……」
ふと、記憶がよみがえる。

「十種の神宝は昔、出雲のものではなかった。大和の平定を助けた一族がもっていたもの」
ふと、チハルの様子が変わっているのに気付く。
 
(チハルの口をかりて別の人が話してる?)
きっとチハルがいうところの神様なのだろう。

「だが一族の力が弱くなり、神宝を守る力が弱くなったため、力ある一族へとその神宝を託した。それが出雲の鬼と呼ばれる人々」
「そっか、神宝はもともと別の一族のものだったんだね」
きっと神宝が託されたのは壱与が生まれるずっと前のことなのだろう。

「いかにも。そして十種の神宝を持っていた一族の傍系が、高村の一族の先祖。十種の神宝の伝承を正しく伝えるのがその一族の勤め」
「え?伝承?」
私の疑問の声を気にする風も無く、声は続ける。

「鬼の一族へ神宝が託された後も、高村の一族の先祖は出雲へは移らず石見国で伝承を伝え続けた。出雲が大和に破れ、神宝の行方が分からなくなってもそれは変わらなかったようだ」
そこまで話して声が沈黙する。

どんどんと新しい事実が語られ、混乱する。
えっと……

@「神宝の行方は神様でも分からないの?」
A「高村の伝承って、十種の神宝のことなの?」
B「行方不明の神宝の一つをなぜ高村一族がもってるの?」
75703:2008/02/13(水) 00:30:07 ID:???
@「神宝の行方は神様でも分からないの?」

「行方は分かっている。神宝は長い年月をかけ、石見国の主の元へ戻った」
「石見国の主って、もしかして高村一族の事ですか?」
「いかにも」

(十種の神宝の持ち主が高村だったなんて……)

「じゃあ、高村は十種の神宝を持っているんですよね?」
「持ってはいない。十種の神宝の力もまた、開放されている」
「十種の神宝の力も開放されたんですか?」
「無論。十種の神宝は三種の神器の対として天照大神から賜った宝具。
三種の神器が陽の気で作られ、十種の神宝は陰の気で作られた。陰陽は表裏一体。
三種の神器が開放されてしまったことで、十種神宝の力も開放されたのだ」

「まさか十種の神宝も開放され、人の魂に取り付いたってことですか?」
「いかにも。高村一族、もしくはそれに連なる血筋の特殊能力は、神宝の力。その力を以って伝承を伝えるのがその者らの勤め」
「伝承……。その高村の伝承って何ですか?」
「そなたらが行う事象そのものが伝承となる」
(……事象そのもの)

チハルの身体をかりた神様は、冬馬先輩の方にゆっくり向き直った。
「剣よ、巫女が進む道を示すがいい」
冬馬先輩はその声に黙って頷いた。

「託宣の巫女よ。三種の神器と十種の神宝を鎮めることができるのは、巫女の力と鬼の力を持つそなただけだ。
八尺瓊勾玉はそなたを支える者。迷わず進むがいい」
「勾玉は一体、誰? 鎮めるってどうすればいいんですか。教えてください!」
私は思わず、チハルの腕を掴んだ。
「………………」
私の問いに、チハルの身体をかりた神様は黙ったままだ。

(あれ……神様?)
心配になってチハルを覗き込むと、突然話し出した。
「愛菜ちゃん。お話しは終わったの?」
話し方がいつものチハルに戻っている。
「あ、うん。終わったよ」
どうやら神様は、言いたい事だけ言うと去ってしまったようだ。

(八尺瓊勾玉が誰なのか聞けなかったよ……)

@考えを整理するために思い返す
A冬馬先輩にどう思ったか尋ねる
Bチハルに今の神様について尋ねる
76704:2008/02/13(水) 14:06:24 ID:???
@考えを整理するために思い返す

(えっと、まず十種の神宝は元々鬼のものではなくて……)
過去の記憶を探っても、このことに関しては初耳だった。
きっと鬼の一族が神宝を守るようになって長い年月が過ぎ、真実が伝わらなかったのだろう。

(それにあの神宝の力は、鬼の力にとても似てたよね)
陰の気の強い鬼の力。そして、陰の性質を持つ十種の神宝。似ていて当然かもしれない。
いつしか神宝が強い鬼の力が宿っているといわれるほどに近い力。
そして、三種の神器。あちらは陽の力で出来ているといった。
陽の力は、私が託宣の巫女として使う力に近い。

(壱与って陰陽どちらの力も使えたんだよね、って今の私もか)
それに三種の神器が陽、十種の神宝が陰と大まかに分けられているけれど、その中で三種の神器は鏡と剣が陽、勾玉が陰とさらに分かれている。
十種の神宝については詳しくは知らないが、おそらく神宝も陰のなかでもさらに陰と陽が分かれているのだろう。

(十種の神宝は王になる人が守ることになってたから、それ以外の人は詳しくわからないんだよね)
いくら王の娘だったからといって神宝に直接触れることはなかったし、ましてやその力を振るうこともなかった。

(思い返してみれば、鬼の一族の物とされていた神宝よりも、大和の宝だった神器のほうが身近だったな)
託宣の巫女として壱与は直接神器に触れ、そしてその力を行使していたから、そう感じるのも当然だけれど。

(それにしても、勾玉は一体誰に?)
思考があちこちに飛ぶ。
神様は私を支える人と言っていた。迷わず進めとも。

(私を支えてくれる人といえば……、冬馬先輩、一郎くん、修二くん、それから隆に、春樹、チハル、それから周防さんに美波さん?)
順番に思い返えす。
冬馬先輩と、一郎くん、修二くんはそれぞれ、剣と鏡だから除外する。
隆と美波さんを思い返すけれど、今思い返しても力を使っているときに勾玉の気配を感じたことはない。
チハルは精霊だから違うだろう。
春樹と周防さんは高村の一族だから、力があるとすれば神器の勾玉ではなく、神宝の力を持っていると考えるほうが妥当だ。

(神宝っていえば周防さんはそれっぽいよね……? 
 春樹は普通の人と変わらないみたいだったけど……あ、でもチハルが以前、春樹にくっついてれば気持ちいいって言ってたな)
考えれば考えるだけ思いつくことが多く、こんがらがっていく。
思考があちこちに飛んで脱線していくのが分かるが、気になるととめられない。

(高村の血を引いていて、能力が高い人といえば……)
すぐに思いつくのは3人。
周防さん、春樹のお父さんの博信、そして春樹の腹違いの兄秋人。
この三人に神宝の力が宿っている可能性は高い。
誰がどんな力を持っているのか気になる。

特に……
@周防
A博信
B秋人
77705:2008/02/13(水) 22:20:37 ID:???
B秋人

(秋人……春樹の異母兄弟)
この人のことはまだ何もわかっていない。
背格好やパッと見た感じは周防さんと似ていたから、歳は二十代だと思う。
会ったのは一度きりだし、夢の中だったせいか現実よりも曖昧だった。

(だけど……)
『君は今、幸せかい?』と尋ねた秋人さんはちっとも幸せそうには見えなかった。
眼鏡の奥の瞳は、暗く沈んでいたように思う。
神経質そうに笑う口許は、不自然そのものだった。

秋人さんの力が神宝だとすると、さっき冬馬先輩が言っていた死返玉の力である可能性も出てくる。
けれど、自分の父親を傀儡のように操ることなんて出来るだろうか。
もし私が同じ立場なら、死んだお父さんを自由に操るなんて、とても出来そうに無い。
それに春樹のお父さんが死んでいるのかすら、まだ確認できていないのだ。

「冬馬先輩。春樹のお父さんの能力も、秋人さんの能力も知らないんだよね」
「はい。僕には見えませんから」

(あっ……そういえば)

「チハル。少し聞いてもいいかな?」
「うん。何?」
「思い出すのが怖いかもしれないけど……春樹が家から出て行ったときの様子を聞きたいんだ。
確か、チハルは春樹のお父さんを見たんだよね?」
チハルは少し怯えた顔になったけれど、「うん。いいよ」と言って話し出した。

「……あの日はずっと春樹の胸ポケットに居たんだ。
夕方になって春樹がお家に帰ると、もうママさんが帰ってきてたんだ。
だから、ボクは変身するのを止めといたんだよ」

(そっか。たしかストラップになって春樹を守ってたんだっけ)

「それでどうしたの?」
「春樹が携帯電話で誰かとお話ししてて……少し経ったら、ピンポンって鳴ったんだ。
玄関に春樹が出て行ったら、ママさんがすごくドロドロしたおじさんとケンカみたいに話してたの。
おじさんが『春樹、行くぞ』って言ったら、ママさんが止めるのも聞かずに、春樹はその人と一緒に外に出ちゃったんだ。だけどね……」
「だけど、どうしたの?」
「家の前に、もう一人怖い男の人が立ってたんだ。その怖い人が春樹に『その精霊は置いていけ』って言ったの。
それで春樹はポケットの中にいたボクを門に置くと、三人は黒い車に乗って行っちゃったんだ」

(春樹を連れて行ったのは……二人)

@お継母さんと話していた男の人についてチハルにきく
A家の前に居た男の人についてチハルにきく
B冬馬先輩を見る
78706:2008/02/16(土) 14:16:12 ID:???
B冬馬先輩を見る

「先輩、先輩には見える力がないって言っていましたけど、まったく見えないんですか?」
「まったく見えないわけではありません。
 ファントム程度は見えますし、人と精霊の違い位はわかります」
「それじゃあ、胸ポケットに入っているストラップが精霊だっていうのも分かるんですか?」
「状況にもよりますが、分かると思います」
「そっか……」
直接見えないものが精霊だと分かるのなら、もしかしたら神宝の鏡なのかもしれないと思ったけれど、状況にもよるというのなら鏡と断定も出来ない。
そもそも『見える力』というのはどういうものだったか……。
過去を振り返る。

(鏡の力は……映す力、見る力、反射する力)
神器と神宝の鏡が同じ力を持つかは不明だが、鏡というからにはこの3つの力はおそらくどちらにも共通にあるものではないだろうか。

映す力は遠くでの出来事を映すのに使うことが多い。過去や未来の出来事を映すこともあった。
見る力は正確には『内を見る力』。心や魂を見る力と言っても良いだろう。内に宿る真実を見る力。自分でも見失いがちな想いを映す。
反射する力は、自分に向かってくるものを、相手にそのまま返す力。呪詛などをそのまま相手に返すこともできた。

(ん……あれ………?)
ふと心に引っかかるものがあった。
初めて会った時の周防さん。

(まるで私の心を読んでいるようだった……よね?)
でもあれは、私の表情が分かりやすいからだといっていた。
たしかにその自覚はある。

(それに……、ショッピングセンターでの事件で一郎くんが言ってたよね、力を消そうとしている男がいたけれど、力の基が見えていないみたいだったって……)
鏡ならば基が見えたはずだ。神宝の力と神器の力が同じならば、という仮定での話しだけれど……。
それに、神器では鏡は一つ、神宝では二つというのも気になる。
なんにせよもっと神宝の情報がほしいところだ。

詳しそうなのは……
@チハルにまた神様と話せるようにお願いしようかな?
A周防さんに直接連絡してみようかな?
B近藤先生なら歴史の先生だし知ってるかも?
79707:2008/02/17(日) 14:08:10 ID:???
A周防さんに直接連絡してみようかな?

(周防さんに聞くのが一番早いよね)
私は携帯を取り出すと、アドレスから周防さんを探し出す。
探しているところで、チハルが携帯の画面を覗き込んできた。

「どうしたの? チハル」
「ねぇ、だれに電話するの? ボク、かけてみたい」
「携帯を使ってみたいの?」
「うん。愛菜ちゃんも隆も春樹もみんな持っているのに、ボクだけ持ってないんだもん」
「そっか。でも、私の携帯でチハルがいきなり話し始めたら、きっと周防さんがビックリしちゃうよ」
「そうなの?」
「ごめんね、チハル。また今度ね」

「……周防に連絡を取りたいのですか?」
私とチハルの会話を黙って聞いていた冬馬先輩が、突然話しかけてきた。

「うん。周防さんに神宝のことを尋ねようと思ったんだ」
「それは周防の能力を知りたいということですか?」
「まあ……そうだね。周防さんって神宝の鏡かもしれないって、フッとそんな気がしたから」

「……………」
「?」
「……………」
「先輩?」
なぜか急に黙り込んでしまった冬馬先輩を、私は促すように尋ねた。
「………だれか、こちらに来ています」
「どうしてわかるの?」
「気配が……この感覚…」
「気配?」

力を手にしても、私には何も感じない。
見えないと言っていた冬馬先輩だけど、何か感じ取っているようだ。
今までもそうだったし、能力者を知覚するカンが特に鋭いのかもしれない。

それにしても、誰だろう……
@周防さんかな?
A熊谷さん?
B隆かな?
80708:2008/02/18(月) 16:52:59 ID:???
@周防さんかな?

周防さんの話をしていたため、真っ先に周防さんが脳裏に浮かぶ。
冬馬先輩は無言で立ち上がると、チハルへ声をかけた。

「愛菜を守っていてください」
「うん!」
冬馬先輩は相変わらず静かな声で言うとそのままリビングから、庭へ出る戸を開け、雨の中へ出て行く。

「せ、先輩!?」
私は慌てて、先輩の後を追おうとしたが、やんわりとチハルにとめられる。

「ダメだよ愛菜ちゃん。あぶないよ、なんかねこわいのが来るよ」
「こわいの……?」
「うん、だから愛菜ちゃんはうごいちゃだめだよ」
そう言ってチハルは私の正面に回ってくると、ぎゅっと私を抱きしめた。

「こうしてればだいじょうぶだよ。ボクがまもるからね」
「でもチハル、先輩が……」
「……そのセンパイとやらは、しばらくここに来られないだろうよ」
「……!」
先輩が出て行った庭先に熊谷さんが立っている。

「センパイは、アイツが相手してるからな」
「熊谷さん……」
冬馬先輩と違い、ずぶぬれの熊谷さんは、楽しそうに笑ってリビングに近づいてくる。

「きちゃだめだよ」
ぎゅっと私を抱きしめて、チハルが冷たい声で言う。
こんなチハルの声は初めてで思わずチハルを見上げてしまった。

「なんだ? オマエ、ケガしたくなけりゃそこをどけよ」
「オマエじゃないよ、チハルだよ! それにクマガイは怖くないよ」
チハルはキッっと熊谷さんをにらんでいる。。
言ってる内容はチハルらしいけど、頼もしいことは確かだ。

「ふーん、やる気か? オレは楽しけりゃどっちでもいいぜ?」
「……そうかそうか、でもねぇ、愛菜ちゃんに手を出すのは許せないなぁ?」
「……! 周防さんっ」
「やっほー、愛菜ちゃん」
聞きなれた声がして、周防さんが庭の死角から歩いてくる。

(あ……周防さんもぜんぜん濡れてない……?)
冬馬先輩と同じく、水を操ることが出来るのだろうか?

いろいろと疑問は尽きない。

@「熊谷さんはどうしてここに?」
A「周防さんぜんぜん濡れてませんけど……?」
B「冬馬先輩が相手しているのは誰?」
81709:2008/02/18(月) 22:28:09 ID:???
@「熊谷さんはどうしてここに?」

私の質問に熊谷さんは「はぁ?」と呆れた顔をする。

「そりゃ、決まってんだろ小娘。オマエを連れ去るためだよ。
器の封印が解かれたのを感じて、ここまで追ってきたのさ」

熊谷さんが一歩近づいてくるたびに、チハルは一歩後退する。

「愛菜ちゃんは、ボクがまもるんだからね」
「チハル…」

リビングに入ってこようとする熊谷さんを、周防さんは肩を掴んで止める。
二人は対峙するように、顔を見合わせていた。

「愛菜ちゃんを奪うのは、まず俺を倒してからにしてもらおうかな?」
「周防……やっぱり生きてやがったのか」

苦々しく顔を歪めた熊谷さんだったけれど、反対に周防さんは至っていつも通りだ。

「あのさ、熊谷。一言いっていいか?」
「なんだぁ?」
「その派手なシャツは無いな。まるでチンピラじゃないか」
「……うるせぇな」
「そのだぼたぼのズボンも下品だ。相変わらず、趣味悪いよなぁ」
「放っとけ」

周防さんは冷ややかな目で熊谷さんを見ている。
言われた熊谷さんは少しムキになりながら、反論していた。

「オレが何を着ようと、テメェにゃ関係ないだろ」
「関係あるさ。一応、親戚なんだし」
「一族の裏切り者がよく言うぜ」

ぶん、と熊谷さんが手を振ると、周防さんの頬に赤い筋がついた。
その筋から、血が滴り落ちる。

「アタタ……かまいたちか。不意打ちとは卑怯だぞ」
「……フン。ショッピングモールで今度こそ殺ったと思ったのによ」
「俺は往生際が悪いんだ。お前と一緒でな」
「チッ、死に損ないが……」
「決着をつけたいなら、ここでは止めろ。愛菜ちゃんが怪我をするといけない」
「オマエに指図されたくねぇな」

(熊谷さんも親戚なんだ……。ていうか周防さん、熊谷さんに対して言いたい放題のような)

「あの……」
私は二人の会話を遮るように、声をかけた。
「はぁ? 邪魔すんな」
「どうしたのかな、愛菜ちゃん」

えっと……
@「熊谷さんも高村の血筋なんですか?」
A「周防さんぜんぜん濡れてませんけど……?」
B「冬馬先輩が相手しているのは誰?」
82710:2008/02/19(火) 14:42:14 ID:???
@「熊谷さんも高村の血筋なんですか?」

「いや、違う違う。俺の母が高村なんだけどさ、コイツはうちの父方の親戚。高村とは関係ないよ。
 能力者を多く出す血筋ではあるけどね。
 それに高村の一族なら、コードナンバーはつかない。
 まあ高村は嫌いだけど、コイツと同じ苗字を名乗るよりはマシだよね」
「オマエいいたい放題だな……」
周防さんがため息をつきつつ言うと、さすがに脱力したのか熊谷さんもがっくりと肩を落とした。

(周防さんって、案外毒舌なんだ……)
「いやいや、だってさこんな趣味悪いのと血縁ってだけで、同類にされたら嫌じゃない?」
そういわれて、つい熊谷さんを上から下まで眺めて頷いた。

「確かに……、でも周防さんは着こなし抜群だと思います。シンプルだけど趣味がいいと思いますよ」
「……お前ら言いたい放題だな、おい」
こめかみに青筋をたて、地を這うような声で熊谷さんがにらむ。

「事実だからね、と、まあそんな話はどうでもいいんだけど、で、俺とやりあうつもり?」
「邪魔する奴は排除していいっていわれてるなぁ」
青筋を立てたまま、熊谷さんが器用に口の端をクイッと持ち上げる。

「ふーん? で、俺に勝てるとおもってる?」
「やってみないとわからないな」
「なるほどね、確かに本気でやりあったことはないかな」
「日曜日に死にそうになってた奴がよく言うぜ」
「あの時は、愛菜ちゃんとの契約があったからね。力の制約があったんだよ」
「……へぇ、それじゃまるで制約がなければ余裕だったとでも?」
「じゃ、聞くけどさ、俺がアンタに勝てなかったことってあったっけ?」
「…………」
沈黙した熊谷さんに周防さんはにっこり笑った。

(す、周防さん笑ってるのに……なんか、笑顔がこわいよ……)
「愛菜ちゃん、愛菜ちゃん」
熊谷さんと周防さんの会話を、内心ひやひやして聞いていると、小声でチハルが私を呼んだ。

「どうしたの?チハル」
「周防がね、今のうちに逃げてって」
「え?」
「今のうちににげなさいっていってるよ」
周防さんは相変わらず熊谷さんと、向き合って立っている。

(テレパシーみたいなもの……?)
どうしよう……

@逃げる
A逃げない
Bもっと詳しくチハルに聞く
83711:2008/02/20(水) 00:09:34 ID:???
A逃げない

一緒に戦うために、力を手に入れた。
だから……

「周防さん。私、逃げたくありません。一緒に戦い――」
「駄目だ!!」

周防さんの大声で、私はビクッと動きを止めた。

「ごめんな、驚かせて。だけど駄目なんだ、愛菜ちゃん」
「どうして……」
「力の解放はさせるべきじゃなかった。だって、愛菜ちゃんが力を使ったら……」

せっかく力を手にしたのに、使っては駄目だってどういう事だろう。
私はただ呆然と立ちすくむことしか出来なかった。

そんな私の姿を見て、熊谷さんが痺れを切らしたように口を開いた。

「しっかし、この前といい興を削ぐのが好きな小娘だな。
力を使ってみたけれりゃ、使ってみるといいぜ。ただ、無事に済みゃいいがな」

(無事では済まないということ?)

「熊谷の言うとおり、俺も今の愛菜ちゃんが力を使ったら無事では済まないと思う」
「なぜ、そう思うんですか?」

私の質問には答えず、諭すように周防さんは私を見る。

「逃げるのも戦略のうちだよ。どうみてもチンピラだが、紳士的なところもある。熊谷なら抵抗さえしなければ、俺を倒すまで手出ししないだろう」
「周防のは一言余計だがな……いいぜ、逃げたきゃ行けよ。オレは周防と戦えりゃいいからな」
「ほら、熊谷の気が変わらない内にその精霊と……」
「待ってください。せっかくの力を使っちゃいけないなんて、どうしてですか!? 教えてください。周防さん!」

たくさん悩んで、決めたことだったのに。
(まだ、私には何か足りないというっていうの?)

「小さな力だったら使ってもいいんだ、気も回復するからね。だけど、無理に大きな力を使ってしまった時は……。
多分、こよみ……綾と同じことになる」

瀕死の重傷だった周防さんを、すべての力を使って救った綾さん。
綾さんは生命力そのものを削って、それを力に変えて命を落とした。

(綾さんと、同じ……)

「伝承どおりなら、今の君は太極でいうところの陰陽両儀だ。均衡がとれ過ぎていて、気を集めて力とする事ができない。
かといって、伝承の壱与のように、巫女としての修行を積んだわけではないんだ。
神器か神宝を完全に得なければ、愛菜ちゃんは生命力を削るしかないんだよ」

周防さんは何を言っているの…
@「それも高村の伝承ですか?」
A「陰陽両儀?」
B「一郎君たちはそんな事、何も言っていなかった」
84711:2008/02/20(水) 00:10:13 ID:???
A逃げない

一緒に戦うために、力を手に入れた。
だから……

「周防さん。私、逃げたくありません。一緒に戦い――」
「駄目だ!!」

周防さんの大声で、私はビクッと動きを止めた。

「ごめんな、驚かせて。だけど駄目なんだ、愛菜ちゃん」
「どうして……」
「力の解放はさせるべきじゃなかった。だって、愛菜ちゃんが力を使ったら……」

せっかく力を手にしたのに、使っては駄目だってどういう事だろう。
私はただ呆然と立ちすくむことしか出来なかった。

そんな私の姿を見て、熊谷さんが痺れを切らしたように口を開いた。

「しっかし、この前といい興を削ぐのが好きな小娘だな。
力を使ってみたけれりゃ、使ってみるといいぜ。ただ、無事に済みゃいいがな」

(無事では済まないということ?)

「熊谷の言うとおり、俺も今の愛菜ちゃんが力を使ったら無事では済まないと思う」
「なぜ、そう思うんですか?」

私の質問には答えず、諭すように周防さんは私を見る。

「逃げるのも戦略のうちだよ。どうみてもチンピラだが、紳士的なところもある。熊谷なら抵抗さえしなければ、俺を倒すまで手出ししないだろう」
「周防のは一言余計だがな……いいぜ、逃げたきゃ行けよ。オレは周防と戦えりゃいいからな」
「ほら、熊谷の気が変わらない内にその精霊と……」
「待ってください。せっかくの力を使っちゃいけないなんて、どうしてですか!? 教えてください。周防さん!」

たくさん悩んで、決めたことだったのに。
(まだ、私には何か足りないというっていうの?)

「小さな力だったら使ってもいいんだ、気も回復するからね。だけど、無理に大きな力を使ってしまった時は……。
多分、こよみ……綾と同じことになる」

瀕死の重傷だった周防さんを、すべての力を使って救った綾さん。
綾さんは生命力そのものを削って、それを力に変えて命を落とした。

(綾さんと、同じ……)

「伝承どおりなら、今の君は太極でいうところの陰陽両儀だ。均衡がとれ過ぎていて、気を集めて力とする事ができない。
かといって、伝承の壱与のように、巫女としての修行を積んだわけではないんだ。
神器か神宝を完全に得なければ、愛菜ちゃんは生命力を削るしかないんだよ」

周防さんは何を言っているの…
@「それも高村の伝承ですか?」
A「陰陽両儀?」
B「一郎君たちはそんな事、何も言っていなかった」
85712:2008/02/20(水) 15:30:00 ID:???
B「一郎君たちはそんな事、何も言っていなかった」

周防さんの言葉を疑うわけではないけれど、そんな大事なことを一郎くん達が言わないはずはない。
それどころか、冬馬先輩の傷を治す方法を思い出す手伝いまでしてくれた。

(周防さんたちしか知らないことがあるの……?)
でも、それだって神器である一郎くんたちが知らないことなんて、無いのではないだろうか?鏡には過去や未来をみる力だってある。

声が出なくなってしまったから力を解放するのが必要だったとしても、その後のことまで総合的に考えるのが一郎くんなのだ。
そして問題がないと判断したからこそ、力の解放を手伝ってくれたと思っている。

(一郎くんがなにも考えないわけないよ)
その点は一郎くんを疑う予知はない。いつでも、先を考えて行動する。

「もし力の解放でまったく力が使えなくなる状況になるって分かってたら、一郎くんは力の解放なんてしなかったと思う。
 もし、そうなっても何か別の方法で力は使えるはずだよ」
「愛菜ちゃんは、その一郎くんを信じてるんだ?」
「……はい」
いつもの周防さんと違う、どこか寂しげな目に私は気おされつつ頷いた。
けれど周防さんはすぐにいつもの表情に戻ると言った。

「愛菜ちゃんが信頼するくらいだから、きっといい奴なんだろうけどそいつがすべてを知ってると思うのは危険だよ」
「確かにそうかもしれませんけど……」
周防さんの言うことも最もだ。

「そいつが全部知っていようがいまいがどうでもいいだろ? いい加減いつまでまたせんだ」
「きゃっ」
イライラとした熊谷さんの声と共に、私の近くで空気が弾けるような音がした。

「だいじょうぶだよ愛菜ちゃん」
「おいおい、女の子をいじめるなんて、男らしくないなあ」
「ふん、なんとでも言え。いつまでもぐだぐだ話してるからだぜ?」
熊谷さんが言葉を続けるたびに、パンパンと私の近くの空気が弾ける。
直接何かするわけではないし、ただの威嚇だと分かっているから怖くは無いけれど、熊谷さんは気が長いほうではないのが伺える。

「さっさと逃げろよ? 話しなんて後でいくらでもきけるだろ」
「そうそう、さくっと熊谷をやっつけちゃうからさ」
「ふん、簡単にいくかな?」
「さあ? まあ、愛菜ちゃんはとりあえず逃げてくれるとお兄さんうれしいな? 
 あ、そうそうそれに、別に殺したりするわけじゃないから安心してね?」
再度周防さんが私を促す。私は、仕方なく頷いてチハルを見上げた。
チハルは私の視線を感じたのか小さく頷く。
抱きしめられていた腕を解かれ、私はリビングを出た。

でも、逃げるっていってもどこへ……?
携帯を取り出して、時間を見る。
丁度学校は休み時間。

@学校に戻る
A電話する
B駅へいく
86713:2008/02/20(水) 21:18:11 ID:???
@学校に戻る

携帯をポケットに入れ、とりあえず傘を持って玄関を飛び出した。
一緒に出てきたチハルに傘を渡して、私も急いで傘をさす。
「どこにいくの?」
「……一郎くん達もいるし、学校へ行こうか」
「うん。行こう愛菜ちゃん」
私とチハルは思いつくまま、学校に向って走りだした。

ハァ、ハァ、ハァ…

私は息を切らせて、走り続ける。
最初は私がチハルを引っ張っていたけれど、いつの間にかチハルに引っ張られるように走っていた。
走っているせいで、足元どころか制服もずぶ濡れになってしまった。

(にしても、周防さんの言っていたことって……本当なのかな)
わからない。けど、せっかく得た力を使ってはいけないなら、きっと一郎くんなら最初から言ってくれるはずだ。

目の前に学校が迫ったところで、私は人影を発見する。
校門前で傘をさし、立っている影には見覚えがあった。
「修二くん!!」
「……愛菜、ちゃん?」
「大変なの。冬馬先輩や周防さんが襲われて!」
「うん。わかってる」
修二くんはこの状況もわかっているのか、驚いた様子も無い。見ることのできる鏡は、さすが心強い。

「一郎くんと一緒に助けてあげて。私が力を使っちゃ駄目だって周防さんがいうの。逃げろって……」
「………」
「一郎くんはどこ? どうすればいいか聞かなきゃ」
「………………」
私の言うことは聞こえているはずなのに、修二くんは何も言わない。
その時、チハルが私の前に庇うように立った。

「この人、よくないかんじがするよ」
「どうしたの? 修二くんとは何度も会っているじゃない」
「なんだか、ドロってする」
「……ハハハッ。やっぱり兄貴に頼るんだね、愛菜ちゃんは」
傘が邪魔して顔までわからなかったけれど、笑っていても口調は暗く沈んでいた。非難するような、棘すら感じる。

「修二くん。どうしたの?」
「鏡だって、偽物より本物の方がいいに決まってるよね……」
「偽物って、なんのこと?」
「愛菜ちゃん、この人にちかづいちゃダメだよ!」
「この精霊……うるさいな。邪魔だから、黙っててよ」

修二くんがチハルの腕に触った瞬間、大きかったチハルが小さなぬいぐるみに戻ってしまった。
「チハル?」
呆然と、地面に落ちた濡れたチハルを抱き上げる。
突然の出来事に、頭が混乱する。

@「修二くん、一体どうしたの?」
A「修二くん! なぜこんなことをするの!?」
B「修二……くん?」
87714:2008/02/21(木) 14:26:02 ID:???
B「修二……くん?」

「ねえ、愛菜ちゃん? 俺はね過去なんてどうでもよかったんだ」
「……?」
チハルが居なくなった分、さらに一歩ちかづいた修二くんがささやくような声で言う。

「兄貴と俺は同じようでまったく違う」
「……当たり前でしょ?」
なぜそんな事をいうのか。双子だって別の人間だ同じわけがない。
修二くんはさしていた傘から手を離す。さらに近づいてほとんど密着状態になった。
修二くんは怒っているような、泣いているような、いらだっているような、複雑な表情で私を見ていた。
傘を捨てた修二くんがあっという間に濡れていく。
私はあわてて、修二くんも入れるように傘をかざした。

「そうじゃない、そういう意味じゃないんだ。 兄貴には過去の記憶がある。俺にはない」
「そう言ってたね」
修二くんの腕が伸びてきて私をそっと抱きしめた。
普通なら逃げるところだけれど、修二くんのただならぬ様子に動けない。

「力も違う。現在を見る力は同じみたいだけど、兄貴には未来を見る力がある。俺には過去を見る力が」
(過去なんてどうでも良いって言ったことと関係あるのかな?)
「二人でいればどういう原理かどちらの力も使えるけど、一人のときは俺は未来を見ることができない」
「…………」
修二くんは未来を見る力がほしかったのだろうか?

「過去なんてどうでもいい、大事なのは先のことだ。だから俺は過去を見る力を使った事がなかったんだ」
「……そう」
「でもね、愛菜ちゃんに会ってから見える世界が変わった。その理由を知りたいと思った」
修二くんは私の肩に頭を預けるようにして言葉を続ける。

「兄貴といるとき愛菜ちゃんの未来を見たんだ、愛菜ちゃんがなにか大変な事に巻き込まれるのを知った。
 でも、未来は確定じゃない、刻々と変わるものだ。見た未来で愛菜ちゃんが巻き込まれる原因を見つけられなかった
 だから、過去になんかあるんだろうって思ったんだ。そのとき自分の力を始めて使おうと思った」
「え……でも………」
「うん、使わなかった。いや、正確には怖くて使えなかった」
「怖い……?」
「何で過去を知るのが怖いのか、もしかして今まで過去はどうでも良いと思っていたのも潜在的に怖がってたからじゃないか……って思うようになったよ。
 そして予感は当たった。俺は自分の過去を知るのが怖かったんだ」
「え……?」
「さっき力を使ったんだ。過去を見る力を……」
修二くんの腕の力が強くなる。私は修二くんが震えているのに気づいた。
そのまま修二くんは沈黙してしまった。

どうしよう……
@「何が見えたの?」
A「無理して言わなくても良いよ」
B修二くんが話し出すまで待つ
88715:2008/02/22(金) 00:43:49 ID:???
@「何が見えたの?」

私は間近にある修二くんの顔を、そっと覗きこむ。

「教えたくない。だって、俺にとって肝心なのは過去じゃなく、未来だから」

震えは治まったけれど、修二くんの様子はやっぱり普通じゃない。
いつもの余裕や軽い態度が、まるで影を潜めてしまっている。

「本当にくだらない事で、面白く無い話なんだ」
「ねぇ、本当にくだらない事なの? なんだか、苦しそうだよ」
「苦しい? まさか」
修二くんは低く笑うと、私の耳元に唇を寄せた。

「……つまらない話題より、もっと楽しいことを教えてあげるよ」
耳元で、吐息ともつかない言葉を囁かれる。
その甘い囁きに身体の力が抜けて、次の言葉が出てこない。
濡れた制服から、修二くんの体温がジワリと伝わってきた。

「や……」
「怖がらないで。髪までこんなに濡れて……可哀想に」
「…やめ……て」
「この前とは違う、ちゃんとしたキスをしてあげるから」
「…じ、冗談はやめて……」

私の声を聞いて、修二くんの腕がフッと解ける。

「……また冗談で済ませるつもり?」
「し、修二くん?」
「愛菜ちゃんは……また、はぐらかすつもりなんだ」

修二くんは頭を起こして、私を見据える。その顔はいつになく苦しそうに、歪んでいた。

「はぐらかすなんて、そんなつもりじゃ……」
「じゃあ、どんなつもりなのか教えてよ。やっぱり、兄貴がいい? それとも俺が嫌いなのかな?」
「違うよ」
「だったら……! なんでいつも逃げるのさ」
「修二くんは、私の中の壱与が気になっているだけなんだよ」
「前世なんて関係ないじゃん。愛菜ちゃんは俺を信じてくれるって言ったのに、どうして否定ばかりするんだ」
「否定なんて……」
「否定してるじゃないか。一体、何を考えているんだよ」
「私、ずっと不思議だった。なぜ修二くんが私にこだわるんだろうって。でも気づいたんだ。修二くんは……鏡として壱与に惹かれているんだよ」
「……どうしてそうなるんだ。愛菜ちゃんだからいいって、ずっと言ってたのに」

修二くんは呻くように呟き、再び私を見る。

「……わかった。しつこいのは嫌だし、もうこれで最後にしよう。
俺の気持ちに応えてくれる? もし駄目でも、素直な愛菜ちゃんの気持ちを教えて」

どうしよう……
@「……やっぱり無理だよ。ごめん」
A「ちょっと待って」
B考える
89716:2008/02/22(金) 17:20:27 ID:???
B考える

(私の気持ち?)
思わず考え込んでしまう。
以前は修二くんの事を軽薄な人だと思っていたけど、ちゃんと優しいところもあることを今は知っている。

(いつも自分の気持ちに正直に生きてるんだよね……え?)
そう考えて、ふと思考がとまる。
自分の気持ちに正直に生きてる、ということは私のことを好きだといったのも冗談でもなんでもなく素直な気持ちなのかもしれない。
そう思ったら急に心臓がドキドキと鳴り出した。

(え? え? もしかして本当に……?)
顔が熱い、きっといま私は真っ赤だ。

「愛菜、ちゃん?」
急に真っ赤になった私に、修二くんが少し驚いたような顔で覗き込んでくる。

「ち、ちがっ……あの……そうじゃなくてっ」
あわてて、修二くんに顔が見えないようにうつむく。
途端、修二君がクスクスと笑いはじめた。

「愛菜ちゃんホントかわいいなぁ。ね、いいの? そんな反応見せられたら期待しちゃうよ?」
「あ、あの、そうじゃなくって……だから……」
あわてればあわてるほど何を言えばいいのか分からなくなる。
けれど、修二くんと付き合うとかそういうことは今考えられない。
それ以上に不安があるから。
とりあえずこれだけは伝えないといけないと思った。

「あの、あのね? 修二くんが嫌いとかそういうのじゃないんだけど……」
修二くんの顔は見れなくて、うつむいたまま話す。

「今は誰かと付き合うとか考えられなくて……、それは修二くんだけじゃなくて、一郎くんも隆も同じなんだよ」
「どうして?」
「だって、高村一族が私を狙ってるし、春樹も行っちゃったし、お母さんは泣くし……それどころじゃないの、だから……」
我ながら支離滅裂な事をいっていると思う。

@「ごめんね」
A「全部終わるまで返事はまって」
B「……わかってくれない?」
90717:2008/02/23(土) 02:15:01 ID:???
B「……わかってくれない?」

「もちろんわかるよ。ちゃんと、すべてが終わるまで待つつもりだし。
けど、愛菜ちゃんの気持ちはどうなのかな? 少しも俺と一緒の未来を想像できない?」

修二くんは私の手を握りながら、問いかけてくる。長くしっかりした指が、私の指に絡みついてきた。
その仕草があまりに自然で、逆に戸惑ってしまう。

(修二くんと付き合う……)

取り巻きに囲まれて、平気で何人もの女の子と同時に付き合うような修二くん。
多分、たくさんの女の子を泣かせているはずだ。
だから私は、そんな修二くんを冷ややかな目で見ていた。
でも同時に、その自由奔放な姿が気になって、目を逸らすことが出来なかった。

「あの……あのね、一つ教えて」
「ん? どうしたの」
「もし私が修二くんの彼女になるって言ったら、今まで修二くんが仲良くしていた女の子達はどうするの?」
「へぇ、妬いてくれてるんだ? 脈アリってことかな」
「そういうつものじゃ……」
「本当? ずいぶん顔が赤いけど」
わざと意地悪に囁いて、修二くんは私を覗き込んできた。
心臓が高鳴って、顔をあげることがてきない。

「愛菜ちゃんは、俺を取り巻くあの娘たちをどうして欲しい?」
「わ、わからないよ」
「俺に特定の恋人ができたとなれば、あの娘たち、きっと泣いちゃうだろうな〜」
「…………」
私は否定も肯定もできず、黙り込むことしかできない。
「愛菜ちゃんから尋ねてきたんだよ。どうして欲しいのか、ちゃんと言ってみて」
「……そんな事言われても」
「俺は愛菜ちゃんが望むようにするよ」

修二くんは俯く私の顔を、そっと指で持ち上げる。
顔をあげた視線の先には、真剣な修二くんの顔があった。

「お願いだから、俺を受け入れてよ。そしたら、すぐにあの娘たちは捨てるから」
「捨てるって……そんな簡単な問題じゃないよ」
「じゃあ、あの娘たちが居てもいいって言うんだ?」
「そ、そういう訳じゃないけど」
「俺はね。愛菜ちゃんさえ居れば、他は要らない。どうせ今までも、ただの戯れだったんだ。もうあの娘達には、何の価値もないよ」
「恋人だった女の子達でしょ。そんな言い方、酷い」
「酷いって、何? 便利だから、利用しただけ。欲しがったから、与えただけ。それだけのことじゃない。泣いてすがってくる女の子もいたけど、ウザいだけたったし。俺は人間じゃないって、罵られたこともあったけど、否定なんてしなかった。本当のことだから」
「修二くん?」
「俺は人形だ。だけど、もう兄貴の横で、道化を演じるのは沢山なんだよ」
「人形って何? 言ってくれなきゃ分からない」
「教えたくないよ。それよりも……優しい愛菜ちゃんでも、俺を道具だと……鏡としての利用価値しかないって思うのかな?」

@思う
A思わない
B考える
91718:2008/02/23(土) 20:14:27 ID:???
A思わない

「なにそれ……なんでそんなこと言うの? 思うわけないじゃない!」
修二くんの言葉に、ふつふつと怒りが湧いてくる。

「修二くんは道具じゃないよっ、修二くんだけじゃない冬馬先輩だってちゃんと人なんだから。
 感情があるから悩むんでしょう? 心が痛くなるんでしょう? だからそんなに辛そうな顔をしてるんでしょ!?
 先輩も先輩だよ……寂しいと感じてはいけない、喜んではいけない、ないてもいけないってっ、なんでそんな事いうのよ。
 そう思ってる段階で、寂しがったり喜んだり泣いたりしてるって、どうしてわからないの!?」
怒りと、言葉にしているうちに湧き上がってきた悔しさに涙が浮かぶ。

「愛菜ちゃん……っぃて」
「はいはい、そこまで、ちょっと愛菜を泣かさないでよ。それから手を放しなさいっ」
パシンっといい再度音がして、修二くんが少し離れる。

「香織ちゃん……?」
「愛菜、大丈夫? まったくコレだから男は!」
「え? なんで香織ちゃんがここに……?」
「もう男どもに愛菜を任せておけないって思ったのよ」
「え? え?」
べりっと、修二くんを引き剥がしてかわりにぎゅーっと抱きしめられる。
呆然とした修二くんが傘の外へでてぬれていく。

「とうとう力を取り戻したんだね、愛菜。 もう封印は解けたから、私のことも思い出すと思うけれど……」
「え……? まさか、香織ちゃんが勾玉?」
「あたり! 本当はあなたに前世のことで苦しんでほしくなかったから私のことを封印していたんだけれど……。
 思い出しちゃったものは仕方ないわよね」
そう言った香織ちゃんは、一転真面目な顔になると修二くんを振り返った。

「まったく、過去はどうでも良いって言いながら、一番こだわってるのはキミでしょ? 
 愛菜が本当に好きなら無理強いなんてしないでよ?」
「……香織ちゃんが勾玉? 本当に?」
「ウソ付いてどうするのよ」
「でも、俺には力が見えないんだけど?」
「そりゃ隠してるもの」
香織ちゃんは肩をすくめる。

(神様は、私を支えてくれる人っていってた。確かに香織ちゃんは親友だし私を支えてくれてる。じゃあ、本当に?)
「私だって鏡と剣と同じ、ずっと前から自分が勾玉って自覚もあったし、力を隠すくらいするわよ。過去の記憶も少しはあるしね」
「俺に過去はない」
「そう思ってるだけよ。ちゃんと振り返りなさいな。
 怖くて振り返れないなら、過去を引きずらないことね。自分で言うとおり、前だけ見据えなさいよ?」
いったいどこから話を聞いていたのか、辛辣に言い放って香織ちゃんは私を振り返る。

「さあ、愛菜。私にして欲しいことを言って?」
「え?」
「何をして欲しい? 勾玉として力を貸して欲しい? それとも親友として励まして欲しい?」
そういって私を見つめる香織ちゃんは、とても優しい目をしている。

私は……
@力を貸して欲しい
A励まして欲しい
B力を確認する
92719:2008/02/25(月) 11:50:01 ID:???
@力を貸して欲しい

「力を貸してほしい……けど……」
「けど?」
「香織ちゃんまで危険な目にあうのは嫌だよ……」
「〜〜〜〜〜あ、い、なっ。本当に可愛い子ねぇ。大丈夫大丈夫」
思い切りぎゅっと抱きしめられ、さらに頭を撫でられ勾玉でも香織ちゃんは香織ちゃんだと、ホッとする。
けれど、ふと昨日のことを思い出して心配になる。

「昨日、熊谷さんにファントムつけられてたけど大丈夫? なんともない?」
「ああ、平気平気。あの時はまだ愛菜の封印が解けてなくて、私の力も封印されたままだったから、相手には私が勾玉だってわからなかっただろうし、今は封印が解けてるから、あの程度干渉なんてなんてことないわよ」
「……つまり、愛菜ちゃんの勾玉に関する封印をしたのは香織ちゃんで、ついでに愛菜ちゃんの封印と一緒に自分の力も封印。
 愛菜ちゃんの封印が解けたら自分の封印も一緒に開放されるってカラクリだったわけだ?」
修二くんが憮然とした表情で、私たちを見ている。

「そうよ。私は愛菜には普通に生きてほしかったし、愛菜が普通に生きる限り私の力は不要なものだったからね」
それに、と香織ちゃんは私から離れると修二くんに向き直って言葉を続けた。

「私が始めて愛菜に会ったとき、すでに愛菜の力は自己暗示で使えないのと同じ状態だったもの。それをちょっと強化しただけよ」
「香織ちゃんに初めて会ったときって……」
「そう、小学の3年に上がったときね」
香織ちゃんは元は転入生で、小学3年から同じクラスになった。

「一目見て分かったわ。私は鏡みたいに見る力は強くないけれどね」
その言葉に、私は不意に不安になる。

「……じゃあ、香織ちゃんは私が壱与だから親友になってくれたの?」
「…………はぁ、おばかさんねぇ。そんなわけないでしょう?」
香織ちゃんは盛大にため息をつくと、軽く私の頭を小突く。

「過去なんてどうでもいいのよ。確かにきっかけは、愛菜が壱与だから引かれたのもあるかもしれない。
 でも、愛菜をしれば知るほど、過去の壱与なんかどうでもよくなったわよ。あんたもそうでしょ?」
最後の言葉は、修二くんへ向けて。
その言葉に修二くんは頷いた。

「俺はずっといってるよ、愛菜ちゃんだから好きなんだって。 信じてもらえてなかったみたいだけど?」
「ご、ごめん……」
「まぁまぁ。さて、と、てゆーかこんなにのんびり話しなんてしててもいいの? 私には見えないけど、なんとなーく嫌なピリピリした空気をあっちから感じるんだけど?」
香織ちゃんが指差したのは、私の家の方向だ。
修二くんに詰め寄られたり、香織ちゃんが勾玉だったりと展開についていけずすっかり忘れていた。

@修二くんに家の状況を聞く
Aとりあえず家に戻る
B神器をそろえるために一郎くんを呼ぶ
93720:2008/03/05(水) 14:11:05 ID:???
@修二くんに家の状況を聞く

「ねえ修二くん、向こうがどうなってるか分かる?」
「ん〜……」

修二くんは家の方向を見て、少し目を細めた。

「とりあえず片方は勝負がついたみたいだな。もう片方は逆に熾烈になってる。
 勝負がついたほうの勝者がもう一方に向かってるな」
「どっちの勝負がついたの……?」
「愛菜ちゃんの家に近いほうの勝負はついてるね。ついてないのは、そこから少し離れた場所のほうだ。
 けどまあ、この力は剣だよね。問題ないんじゃない?」

修二くんはどこか突き放したように言うと、肩をすくめて見せる。

(じゃあ、周防さんの方は決着がついたんだ……)
周防さんは大丈夫って言っていたけれど、熊谷さんに勝ったのだろうか?
それに敵だといっても、熊谷さんがひどい怪我をしていないか心配だ。

「どうする?行ってみる?」

香織ちゃんが私にたずねてくる。

「危険だろ?やめたほうが良いって。愛菜ちゃんがケガしたらどうするのさ」

修二くんは顔を顰める。

「私が居れば大丈夫よ。私の力は護りの力だもの。宗像くんはちゃんと覚えていないみたいだけれど、見えてるでしょ?」
「見えてるよ、でもせっかく安全な場所にいるんだ。わざわざ危険なところに飛び込まなくてもいいよ」
「まぁ、確かにその言い分にも一理あるわね。どうする愛菜? 行くのやめる? 
 なんなら委員長も呼んで皆でいく?そうすれば、古の契約が履行されるから、愛菜にとってはプラスになるかもしれないわよ」

香織ちゃんは私に判断をゆだねてくる。

どうしよう……
@すぐに行く
A一郎くんを呼んで行く
B行かない
94721:2008/03/06(木) 12:44:36 ID:???
A一郎くんを呼んで行く

「修二くん。一郎くんがどこか教えてくれないかな?
香織ちゃんが勾玉だって教えてあげなきゃいけないし、神器が揃っていた方がいいと思うんだ」
「……兄貴はひと足先に愛菜ちゃんの家に向ったよ」
「一郎くんも……。じゃあ、急がなきゃ」
「そうね。行くわよ、愛菜、宗像くん」

香織ちゃんは一足先に私の家に向って走り出した。

「ま、待ってよ。香織ちゃん!」
数歩走ったところで、修二くんが全く動いていない事に気づいて足を止めた。
私は再び修二くんの傍まで駆け寄る。

「早く行こう。みんなが心配だよ」
「……………ど」
修二くんは私から視線を落しながら、小さく何かを言っていた。
「どうしたの? 修二くん」
「さっきの答え、まだ教えてもらってないんだけど」
「さっきの答え?」
「付き合ってもらえるかどうかの返事を、まだちゃんと聞いてないんだけどな」

(そういえば、香織ちゃんが突然現れてきちんと返事してなかったんだっけ。
修二くんは全部終わってからでもいいって言ってくれだけど……。こんな状態じゃ恋愛どころじゃないし、先のことなんてもっと考えられないよ)

「やっぱり無理だよ。その……ごめんなさい」
私は頭を下げて、けじめをつけるためにきっぱりと断った。
すると、修二くんは苦しそうに笑い出だした。

「バカみたいだな、ったく……。最初は兄貴へのあてつけのつもりだったのに、なんでこんなに悲しいんだ……」

「愛菜。宗像くんも何してるの? 急ぐわよ」
香織ちゃんが少し離れたところから、私たちを呼んだ。

「香織ちゃんが呼んでる……。みんなが心配だし、行こう?」

私の言葉が聞こえているはずなのに、修二くんは一歩も動こうとしない。
そして、私を見据えながらゆっくり口を開いた。

「他人の心配ばかりして、愛菜ちゃんは優しいね。でも知ってる? その優しさって時にはすごく残酷なんだって事」
「私が残酷……」
「そうだよ。俺を突き放しておいて一緒に行こうだなんて、愛菜ちゃんは残酷だ。
『道具なんかじゃない』って声高に言うわりに、結局は俺を鏡として利用しようとして……矛盾してるよね。
俺はね、ずっと兄貴に、愛菜ちゃんが納得できるやり方にするべきだって言ってきた。けど、間違いだったみたいだ。
もうどんな手を使ってでも解決していくことに決めたよ。たとえ、愛菜ちゃんや兄貴と敵対することになってもね。
だから……本当にさよならだ、愛菜ちゃん」

修二くんはそう言うと、学校の方へ歩きだした。

私は……
@香織ちゃんの方へ走っていく
A修二くんを追いかける
B立ち尽くす
95722:2008/03/07(金) 14:30:22 ID:???
A修二くんを追いかける

とっさに修二くんを追いかけて、腕を掴む。
修二くんは私の腕を振り払いはしなかったけれど、振り返った顔には何の感情も浮かんでいなかった。

(修二くんじゃないみたい……)
「なに?」
感情を感じさせない声。
無表情の顔と声にふと冬馬先輩の姿が重なる。
けれどどこか優しい冬馬先輩とは違い、今の修二くんはただ無機質な冷たさしかない。

「用がないなら、手を離してくれる?」
豹変した修二くんの態度に硬直していた私に、さらに感情の削げ落ちた声がかけられる。

「あ……」
雨が降っていて乾燥しているわけでもないのに、口の中がからからに乾いていく気がする。

(でも今の私には神器の力が必要なんだよ……)
修二くんの言うとおり、不本意だけれど今は鏡の力を利用することになる。
一郎くんと香織ちゃん、そして冬馬先輩は今までの態度から私に力を貸してくれるだろう。

(けど、修二くんが鏡として扱われるのがいやなら……)
壱与の記憶がよみがえる。
物に宿った力を別のものに移すための儀式。
鏡や勾玉はその性質上この儀式を行うことは無かったけれど、剣は戦でつかわれ、破損や劣化するために古い剣から新しい剣へと力を移す儀式を数十年に一度行っていたらしい。

「修二くんが望むなら、鏡としての役割を終わらせることが出来るよ……」
「……どういうこと?」
無表情だった修二くんの顔に少しだけ疑問が浮かぶ。

「内に宿った力を、別のものに移す儀式があるの。その儀式をすれば、修二くんの中から鏡の力は消える。普通の人になるよ」
(その儀式を今の私がやって無事でいられるかは分からないけど……)
最後の言葉は口には出さない。
巫女としての知識のみある今の私が、巫女として修行をした壱与と同じ事が出来るかといわれれば、難しいだろう。
それに、壱与は知識はあるが実際にこの儀式を行ったことはない。
先代の巫女が剣の力を移したばかりだったことと、鏡は壱与の意思で壊したため新たな鏡に力を移す儀式は行わなかった。
けれど鏡の力があるために修二くんがつらいのなら、鏡を割ってしまった過去の私の責任だ。

「本当に?」
修二くんの言葉に私はただ頷いた。

(移す器が無いから、しばらくは私が力をあずかることになるだろうけど……)
儀式は、古い器から力を一旦自分の中へ取り込み、それから新しい器へと移すものだ。
新しい器となるものが無い以上、修二くんがこの儀式を望むなら私の内に力をとどめておくことになる。
生まれつきこの力を宿して生まれた一郎くんや修二くん、香織ちゃんと冬馬先輩と違う私が、別の力を宿してどうなるかなんて分からない。

(でも、こんな修二くん見たくないよ……)

私は……
@「どうする?」
A「考えておいて」
B修二くんが何か言うのを待つ
96723:2008/03/08(土) 01:15:08 ID:???
A「考えておいて」

今の私には、これだけ言うのが精一杯だった。
思い出した儀式の記憶も説明しようかと思ったけれど、今の修二くんにはどうしても言えなかった。

「わかった。考えておくよ」
相変わらず射抜くような視線だったけど、話し方だけはいつも通りに戻っていた。

(よかった。一応、私の言葉に耳を貸してくれた。あっ、そうだ……)

「あの……あと、もう一ついいかな……」
「なに?」
「余計なお世話かもしれないけど……修二くん、風邪ひかないようにね」

傘をさしているけれど、さっきの告白で修二くんの制服はすっかり濡れてしまっていた。
もう傘をさしている意味がないほど酷い有様になっている。

私の言葉を聞いて、修二くんは冷ややかに視線を上下させた。
そして、呆れたように口を開く。

「……愛菜ちゃんもずぶ濡れじゃない」
「あっ、そういえば……そうだね」
「何? もしかして、気づいてい無かったとか?」
「必死だったからすっかり忘れてたよ。……クシュン」

修二くんに指摘されて、急に寒気を覚えた。

「くしゃみしてる」
「平気。それじゃ、香織ちゃんが待ってるから行くね」

私はきびすを返し、香織ちゃんの方へ走ろうとして――手を掴まれている事に気づいた。
次の瞬間、グイッとその手を引き寄せられた。
すぐ目の前に修二くんの顔が迫っていて、思わず身を強張らせギュッと目を瞑る。

(……あれ?)

また何か怖いことをされるんじゃないかとビクついていたけれど、これといって何もされることはなかった。
むしろ、心なしか身体のだるさが無くなったような気がする。

「……これって、修二くんの気を少し分けてくれたんだよね。あ、ありがとう」

目を開けた私は、修二くんにお礼を言った。
けれど修二くんは不機嫌な顔で押し黙ったまま、私の手を離した。
そして、何事も無かったように校舎の方へ歩いて行ってしまった。

どうしよう…
@香織ちゃんのところへ行く
Aもう一度修二くんにお礼を言う
B黙って背中を見送る
97724:2008/03/10(月) 17:26:22 ID:???
Aもう一度修二くんにお礼を言う

「本当にありがとう、修二くん!」
最後にもう一度お礼を言って修二くんの反応を見ずにきびすを返すと、香織ちゃんの元まで走る。

「ごめん、香織ちゃん」
「宗像くんは来ないんだ?」
「……うん」
「そう。ま、いいわ。いきましょ」
香織ちゃんが私の手を取る。
それに驚いて視線を上げると、優しい香織ちゃんの視線とぶつかった。

「大丈夫よ愛菜」
「香織ちゃん?」
まっすぐに前を向いて歩く香織ちゃんに手を引かれるままに、歩き出す。

「愛菜、覚えてる?」
「?」
「勾玉の力」
「あ、うん……護りの力だよね」
剣が戦うための攻めの力、鏡が相手を見極める補助的な力とすると、勾玉は身を守る護りの力だ。

「そう、だから私は戦うための力は極端に低いの」
「う、うん」
「それに人になって知ったんだけど……」
香織ちゃんはそう言いながら、少しだけ私を振り返る。
振り返った香織ちゃんの目には、強い決意が見える。

「強力な護りに入ったら私は動けなくなる。
 もとは勾玉で護るべき対象が身に付けてたから、動けなくてもぜんぜん問題なかったんだけどさ。
 だからね愛菜、私の側を離れないで? 強い力を使っている間は私は動けないけど、その間は絶対に守るから」
「う、うん……」
「まぁ、軽い護法なら平気だけどね。でも、私が呼んだら私から離れないでよ?
 離れてても、守れるけどやっぱり近くにいたほうが守りやすいもの」
「わかったよ」
「ということで愛菜、私から離れないでね」
「え?」
「ん〜、囲まれてるっぽい?」
「えええ?」
肩をすくめながら、香織ちゃんはゆっくりと確認するように辺りを見回す。

「ん〜、見えないけど……悪意は感じるのよね。あーあ、鏡がいればなぁ」
香織ちゃんはため息を付く。 そのとき軟らかい感触が手を叩いた。

「え?」
手元を見ると、修二くんにぬいぐるみに戻されてピクリとも動かなかったチハルが私の手をぽふぽふとたたいている。

「チハル!」
手のひらにのせるように持ち直すと、ポンいう音と共にチハルが人の姿に代わる。
今回は子供の姿だ。

「愛菜ちゃぁぁぁん」
「ええええ!? うそ、かわいい!」
私にしがみつくチハルの姿を見た香織ちゃんが、歓声を上げる。
さっきまで廻りを囲まれてるかも、と言っていた割には緊張感がない。

えっと……
@チハルを紹介する
A廻りは大丈夫なのか聞く
Bチハルに大丈夫か聞く
98725:2008/03/11(火) 10:57:15 ID:???
Bチハルに大丈夫か聞く

「チハル。身体は大丈夫? なんともない?」
「うん。ビックリしたけどへいきだよ。それより、愛菜ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「くるしい……」

よく見ると、香織ちゃんはしゃがみ込み、チハルを力の限り抱きしめている。
頭を撫でたり頬擦りしたりして、すごい歓迎ぶりだ。

「ホントかわいい! ほっぺもぷにぷに〜」
「愛菜ちゃん。たすけてぇ」

香織ちゃんの過剰な可愛がり方に、さすがの人懐っこいチハルもお手上げのようだ。

「香織ちゃん。チハルが苦しがってるよ」
「あっ! ごめんごめん。つい我を忘れちゃったわ」

(さすが、かわいいものに目が無い香織ちゃんだ……)

ショッピングモールで買い物する時も、まずファンシー雑貨屋に行きたがる香織ちゃん。
ここ数年は『ブーさん』と『ハローキャティ』にはまっている。
辛いカレーも大の苦手だし、大人っぽくみえて、意外と少女のままなのだ。

「ボクは精霊のチハルだよ。おねえさんのことは知ってるんだ。香織ちゃんだよね!」
チハルが元気に挨拶すると、今度は香織ちゃんの瞳がうるうるとしだした。

「私の名前を呼んでくれるのねぇ! もうっ最高!!」
香織ちゃんは感動のあまり、またチハルをひしっと抱きしめて頬擦りしていた。

(私でも止められそうにないな。あっ、でもそういえば……)

「香織ちゃん。そういえば、廻りを囲まれているって言ってたよね」
「あっ、忘れてた」

(だ、大丈夫かな)

香織ちゃんはすくっと立ち上がると、廻りを探るように意識を集中させだした。

なんて言おうかな…
@「香織ちゃん。チハルには少し見える力があるみたいなんだけど」
A「チハル。敵は何人かわかる?」
B「チハル。香織ちゃんを助けてあげて」
99726:2008/03/13(木) 13:09:25 ID:???
A「チハル。敵は何人かわかる?」

「んーとね。三人だよ」
「あら? チハルくん。もしかして、鏡みたいに見える力があるの?」
香織ちゃんが不思議そうに、チハルを覗き込んでいた。

「うん。少しならわかるよ。えーっと、あっ、この人……」
突然、チハルが怯えたように黙り込んだ。
「どうしたの? チハル」
「すごく怖い人がみえる……」
「まずいわね……。あの児童公園で結界を張るわ。私についてきて」

香織ちゃんに手を引かれ、児童公園までやってきた。
私はチハルの手を取っていたけれど、小さく震えているのがわかった。

「チハル。大丈夫?」
「う、うん……」
「嫌な感じ。私にも威圧するような気配が伝わってくるわ。愛菜、チハルくん、少しそこに立ってくれる?」

私とチハルは香織ちゃんに言われるまま、公園の中央にある広場に立った。
地面は雨でぬかるんで、水溜りが出来ている。

「私が良いっていうまで、そのまま立っててよ」

そう言うと、香織ちゃんは小さな声で呪文を唱え、指を組みながら印をきりだした。
ただ、日本語ではない全く聞いた事の無い不思議な言葉が紡がれている。

(香織ちゃん、違う人みたい……。これが勾玉……)

「香織おねえさんは神様の言葉でお願いしているだけだから、心配ないよ」
私が不安な顔をしていたのを見て、チハルが話しかけてくれた。

「さてっと、それじゃ……頼むわよ」
香織ちゃんはぬかるんだ地面を手のひらでグッと押さえつけた。
すると、私とチハルと香織ちゃんを取り囲むように、青い光を帯びた魔方陣が浮き上がった。

「すごいよ! 香織ちゃん」
「まぁねー。これは護りの魔方陣なのよ。でも、よかったわ。成功し……」

香織ちゃんが地面から手を離そうとして、そのまま糸が切れたように崩れ落ちた。
バシャンという音と共に、香織ちゃんの身体が地面に横たわる。
地面に描かれた魔方陣が、跡形も無く消滅してしまった。

「香織…ちゃん……?」
「この程度の干渉に耐え切れなかったとは……八尺瓊勾玉もたいしたことは無い」

顔を上げると、そこには人影があった。

その人は……
@秋人
A春樹の父親
B美波さん
100727:2008/03/14(金) 10:39:20 ID:???
@秋人

「こんにちは。大堂愛菜さん」

黒い傘をさした秋人さんが、ゆっくり私に近づいてくる。
倒れた香織ちゃんの横を通り、私の前で立ち止まった。

「秋人さん……」
「おや? 私の名前を知っているとは。光栄だな」

秋人さんは穏やかな笑みを浮べていたけど、相変わらず眼鏡の奥の瞳は冷え切っていた。

「愛菜ちゃんは……ボクが守るんだからね!」
震えていたチハルは私の前に出て、精一杯の虚勢を張っていた。
「……ダメだよ。チハルじゃこの人には敵わない。うしろに下がってて」
「愛菜ちゃん?」
「ごめんね、チハル。もう私のために誰かが傷つくところは見たくないんだ」

私はチハルを諭すと、目の前の秋人さんを見る。

「秋人さん。一体、何をしたんですか。香織ちゃんは大丈夫なんですか?」
「さあ? 無事かどうかは自分で確認するといい」

秋人さんの言葉を聞き流しながら、私は香織ちゃんの元へ駆け寄って肩を抱いた。
香織ちゃんの顔は青白く、微かな息が口から漏れていた。

(わかる……。このままじゃ香織ちゃんが危ない…)

香織ちゃんが行っていた術が暴走した跡があった。
多分、秋人さんの干渉で香織ちゃんは術を自分の身に受けてしまったのだろう。

私は目を閉じ、私の内にある生命力を香織ちゃんの身体に流し込んでいく。
香織ちゃんを支えていた腕の力が入らなくなり、酷い倦怠感が全身を蝕んでいく。

「自らの命を削るとは……愚かな」

私は秋人さんの言葉には答えず、代わりにチハルを呼んだ。
「チハル。香織ちゃんを連れて、なるべく遠くまで逃げて」
「でも……」
「お願い。今は私の言うことに従って」

チハルが青年に変身し、香織ちゃんを背負う。
それを確認して、私は再び秋人さんに向き直った。

@「投降します。だから、このふたりを見逃してあげて」
A「私は戦う。秋人さんの好きにはさせない」
B「もう止めてください。秋人さんはなぜこんなことをするの?」
101728:2008/03/14(金) 23:52:56 ID:???
B「もう止めてください。秋人さんはなぜこんなことをするの?」

チハルと香織ちゃんを庇うように、私はふらつきながらも両手を広げる。

「そんな抵抗をしても無駄だ。ようやく見つけた勾玉は逃がさない。道具として必要だからね」
「香織ちゃんを道具なんて言わないで」
「壱与、いや大堂愛菜さんも大切な道具として生まれてきたんだ。気高い鬼の姫君の器としてね」
「壱与でも、鬼の姫でもない! 私は、大堂愛菜。あなたの弟、大堂春樹の姉。ただそれだけです!」

言い放つ私をあざけるように、秋人さんは薄笑いを浮かべる。

「……春樹か」
「春樹は……私の弟は無事なんですか?」
「ああ、もちろん。私にとっても大切な弟だからね」
「早く春樹を返して!」
「では、私について来るといい。春樹に会わせてあげよう」

(春樹に会える……でも……)

私が躊躇っていると、秋人さんが哀れむように深い溜息を漏らす。
そして、一歩、また一歩と私に向かって近づいてきた。
私はチハルと香織ちゃんを守りながらも、ジリジリと後退していく。

「怯える必要は無い。君に……渡したいものがあるだけだ」
「私に?」
「いい子だから、手を出してごらん」

(手を……)

私は言われるまま、ゆっくり手を差し出す。手の平には、赤茶色の小さな石が置かれた。

「この赤い石はもしかして……」
「やはり、身に覚えがあるようだな」

(赤い石といえば、夢で見た出雲のメノウだ。秋人さんはもしかして……帝?)

私の知っている帝と秋人さんは、雰囲気が違う。
だけど、壱与と帝だけしか知りえない事を秋人さんは知っている。

「これは君がプレゼントした石だ」
「え?」

(違う。赤い石の勾玉は帝がプレゼントしてくれた物のはず……。じゃあ、これは、一体?)

「何を驚いているんだ。コード673に、君が買い与えたものだろう?」

手の中の石は、降り注ぐ雨に洗われて本来の姿を取り戻していく。
乳白色のムーストーン。
私の手首を、鉄の匂いを帯びた赤い液体が伝い落ちていく。

「その血で汚れた石は、草薙剣がとても大切にしていた物だ。捨てるには忍びなくてね」
「冬馬……先輩の血……」
「そうだ。三種の神器は滅多なことでは死なないために、ついやり過ぎてしまったのだよ。
これでは、草薙剣も八尺瓊勾玉も当分は道具として使い物にならないだろうな」

私は……
@動揺のあまり、気を失った
A怒りにまかせて鬼の力を使う
B手の中の石を握りしめる
102729:2008/03/15(土) 16:18:12 ID:???
B手の中の石を握りしめる

(冬馬先輩……)

「その石を見つけた時も、私に奪われまいと気を失う寸前まで抵抗していたんだ。
健気な剣じゃないか。どう手なずけたのか知らないが、たいした忠誠心だよ」

秋人さんは哀れむように、首を左右に振っていた。

「……冬馬先輩は無事なんですか?」
「コード673は、私たちと違って高い自己回復力を備えている。問題は無いだろう」
「え?」
「彼の出生は特殊だからな。前例がない分、現存していた剣の遺伝子からまた剣が生まれるとは、当時の研究員も半信半疑だったようだが。
ただ、研究員が望んだような力の発現は無く、結果としては失敗だったようだな」

(まさか……冬馬先輩がいつも自分を粗末に扱っていたのは、特別な身体を持っているから……)

「秋人さん。組織は……冬馬先輩のような人を生んでまで、何をしようとしているの?」

私の問いかけに、秋人さんが眉根を寄せた。

「さきほど、説明したばかりだろう」
「三種の神器を使い、壱与を復活させる事……」
「わかっているなら、くだらない質問をしないでくれるか。不愉快だ」
「では、あなたも……十種の神宝だから……壱与にこだわるんですか」

秋人さんを見据えながら、私は問いかけた。

「ほう? そこまで思い出しているとは、伝承に綴られた巫女の中でも、君は壱与に最も近い存在なのかもしれないな。
そうだ。十種の神宝としての魂を授かった高村の者は、出雲の王族、とりわけ鬼の力が強い壱与を求める。
これは仕方のないことだ。それに、壱与は研究材料としての価値も高い。
伝承の中だけに住まう鬼が、君の中に眠っている。それを見たいと思うのは、この分野を研究する学徒としては当然の欲求だよ」

(十種の神宝……。でも、おかしい。神器がこんなにも簡単に倒されるなんて)

道具としての一つ一つの力は、十種の神宝よりも三種の神器の方が上回っていたはずだ。
なのに、秋人さんの力は神器の力を遙かに凌駕している。

(もしかして……)

「もしかして、神宝の圧倒的な力は……」
「待ってよ、愛菜ちゃん。あの人!」

今まで、ずっと黙っていたチハルが話しかけてきた。
私は、チハルが見ている視線の先を追う。
雨の向こう、佇む人影と、足元に倒れた人影が二体あった。

「あれは……。足止めすらできないとはな。全く使えない力の器どもだ」
秋人さんは視線を向けながら、苦々しげに呟いていた。

その人影は、真っ直ぐ私の方へ歩いてくる。
そして、私のすぐ横にまでやってきた。

「神宝の圧倒的な力は、十種の神宝の内、八種類の神宝の力を、すでにこの男が手に入れてしまっているせいだ」

現れた人物とは……
@一郎くん
A周防さん
B春樹
C冬馬先輩
103730:2008/03/16(日) 02:48:56 ID:???
B春樹

「春樹か。やはりお前も神宝だったのか」
「はい。姉の覚醒と同時に発現しました」
「もう一つ見えるのは……神器。いや、違うな」
「兄さん、教えてください。あなたが自分の身体も省みず、八種類もの力を次々と自分のものにした事も、
神器と姉を手に入れようとしている事も、すべて、鬼が治めていた国を再興のため……違いますか?」
「なぜそう思う」
「すべて思い出しました。高村一族もまた、鬼の末裔だったんですね」

目の前には、間違いなく春樹が立っていた。
突然の出来事に、なかなか言葉が出てこない。
それどころか、段々、今が夢なのか現実なのか、よくわからなくなってしまう。

「春樹だぁ。ぶじだったんだね」
「チハル……」
「ボクね、春樹のことすごく心配だったんだ。けど、げんきみたいでよかった!」
「ずっと俺を守ってくれていたのに、置いていって…ごめんな」

(本当に……春樹なの?)

「……春樹?」
「姉さん……」

私の呼びかけで、春樹がようやくこちらに向き直った。
その顔は、嬉しそうにも、辛そうにも見えた。

「ホントに……本当に春樹なの?」
「姉さん。心配掛けてごめん」
「夢じゃなく、本当の春樹なのね」
「うん……」

目の前に居るはずの、春樹の顔が滲んでいく。
胸が熱くなって、次々と涙が溢れ出て、止められない。

「すごく……すごく心配したんだから!!」
「うん。わかってる」

私は力の限り、春樹を抱きしめる。
「春樹……春樹……会いたかったよ……」

春樹は苦しいのか、少しだけ身体を強張らせている。
けれど、静かに息を吐いたあと、私の身体に腕がまわされた。

「……俺も会いたかった」

懐かしい匂いに、顔を埋めて泣く。
たった数日なのに、離れている時間はとても長く感じられた。

(本当に……よかった)

「さあ。感動の再会も済んだようだし、壱与を渡してもらおうか。春樹」
秋人さんの声で、私たちはゆっくりと身体を離す。

「……姉さん、また無茶したんだね。だけど、もう大丈夫だよ。何があっても俺が守るから」

どうしよう……
@春樹のうしろに隠れる
Aチハルたちと逃げる
B様子をみる
104731:2008/03/17(月) 13:15:22 ID:???
B様子をみる

「だけど……秋人さんはとても強いよ。春樹の力では勝てない……」
「力では圧倒的に負けてるのは分かってる。けど、兄さんに持っていないものを俺達は持ってるんだ。
だから、大丈夫だよ」

春樹の目に、失望の色は無い。

(春樹を信じよう)

「もう一度言う。壱与の器を渡してもらおうか」
「できません」
「それは……私に逆らうということだな」

秋人さんの言葉には、静かな怒りが含まれていた。

「兄さんに従うつもりはありません」
「馬鹿な弟を持ったものだ。お前の力で私に勝てると思っているのか」
「多分、勝てないと思います。けど、負けるつもりもありません」

春樹は一歩踏み出し、私の前に立った。

「祖父や父、そして兄さんがしようとしている事も全部知りました。多くの人たちを不幸にさせ、命を弄ぶ……。
こんなやり方、人間の出来ることじゃありません」
「人間か。私を愚劣極まりない者達と一緒にしないで欲しいな」
「兄さんがどれだけ人間を嫌い、否定しても、あなた自身が人間なんだ。もう、本物の鬼は遙か昔に滅んでいるんです」
「この娘と神器を使って、本物の鬼を復活させれば済むことだ」

春樹の背中が、怒りに震えている。

「だから……!科学の力を使って、命を弄ぶ計画が間違っていることに、なぜ気付かないんですか!
伝承に記された高村の祖先も、兄さん達も……高村の人間はみな狂っています」
「伝承……。神宝の力を得たお前も、見たのだな」

秋人さんは腕を組み、春樹を見つめていた。

「はい。高村の祖先は、壱与の魂をもった鬼の化身と交わることで、時代と共に薄まっていく鬼の力を維持し続けていたんですね。
神宝の力は陰の力。高村にとって、力を誇示するためには失ってはならないものだったんだ。
そして兄さんたちは、巫女を守る神器を利用し、より純粋な鬼の化身を得るために画策していた――そういうことですね」
「ああ、その通りだ」
「もうこれ以上、神器と神宝の馬鹿げた小競り合いに、姉さんを巻き込まないでください。
俺も姉さんも……神器のみんなだって、本当に欲しいのは力なんかじゃない。当たり前の日常なんです」

(春樹……)

@春樹に話しかける
A秋人さんに話しかける
B黙っている
105732:2008/03/17(月) 20:56:11 ID:???
@春樹に話しかける

「待って春樹……壱与の魂をもった鬼の化身って…私のこと…なのよね?」
「……うん」
「……鬼の化身って? もしかして…私は人ではなく、鬼なの?」

春樹は何も答えてくれない。
その代わりに、春樹の向こう側にいる秋人さんが口を開いた。

「弟に代わって私が教えてあげよう。その通りだ。君はもう人ではなくなっている。
もし人であったなら、勾玉に生命力を分け与えた時に、君は倒れているはずだからね」
「でも、周防さんが言ったんです。力を使いすぎるとこよみさんのようになるって……。
それは嘘なんですか」

秋人さんは数秒黙り込み、再び話し出した。

「こよみ……? ほう、そうか。コードNo543とは懐かしい。
一時は壱与の器かもしれないと目されていた娘だったな。まあ、周防の言うことが嘘か本当かと問われれば、本当だろうな。
力を使いすぎると、コードNo543のように死んでしまうからな。ただ……」
「ただ?」
「内包する力の容量が違うのだよ。一般の能力者と、覚醒済みの壱与の器である君とではね。
三種の神器と契約するということは、君の身も心も壱与、すなわち鬼に近づくということだ。
君はすでに剣と契約を交わしている。後は…言わなくてもわかるな」

(神器と契約するって……壱与そのものになっていくってことなの……?
じゃあ……私自身はどうなってしまうんだろう……)

「愛菜ちゃん。香織おねえさんが…!」

その言葉でうしろを見ると、チハルにおぶさったままの香織ちゃと目が合った。

「香織ちゃん! 目が覚めたのね」
「な、なんとかね。でもすぐには加勢できそうにないわ」
「無理しないで。そのまま安静にしてて」

私の言葉に、香織ちゃんの顔がいつになく真剣になる。

「愛菜、そんなこと言ってる余裕はないわよ?
春樹くんはこの男と刺し違えてでも、あんたを守るつもりだもの。勝てないけど、負けないってそういう意味だろうからね。
それだけの覚悟を春樹くんは持っていることに気づいてあげるべきよ」
「えっ……」

前を向いて、春樹を見る。
春樹にも聞こえているはずなのに、何も言ってはくれなかった。

「……春樹、教えて。香織ちゃんが言っていることは……本当なの?」

私に注がれていた悲しげな視線は、逸らされる様に、ゆっくり下へ移動していく。
嘘をつくことが苦手な春樹は、言いたくないことや都合の悪い話になると、いつもこんな風に黙り込んでしまう。

私は……
@「春樹、ちゃんと答えて」
A「絶対にそんなこと許さないよ」
B「春樹だけにはさせないよ。私も戦う」
106733:2008/03/18(火) 11:29:03 ID:???
@「春樹、ちゃんと答えて」

(春樹だけが犠牲になるなんて…耐えなれない……)

春樹がゆっくり顔を上げる。
その顔は、胸が苦しくなるくらい綺麗な微笑だった。

「あの日、家族になった時に交わした約束を……守らせて欲しいんだ」
「『母さんだけでなく姉さんも、父さんも守れるくらいに強くなる。ずっと守る』……だっけ」
「よく憶えてるね。恥ずかしいな」

春樹は照れくさそうに笑って、また私を見る。

「姉さん。ひとつ尋ねてもいいかな」
「うん。いいよ」
「家族になってから今日まで……姉さんにとって俺は『良い弟』だった?」
「春樹……?」
「いつも迷ってたんだ。『良い弟』にならなくちゃって……。あの日から、ずっと考えてた。『弟』である俺の姿を。
俺、ヘンじゃなかったよね」

なぜこんな質問を投げかけてくるのか春樹の気持ちが読めなかった。
黙ったままの私に、うしろから香織ちゃんの声がする。

「答えてあげなよ、愛菜」

しっかりもので、口うるさくて、いつも優しい春樹。
真っ直ぐで、素直すぎるせいで、少し損をすることもある。
けど、弟としてだけじゃなく、ひとりの人間としても尊敬できる男の子だ。

「私にとって、勿体ないくらい春樹は『最高の弟』だよ。
でもね、一つだけ不満があるんだ」

私は一度大きく息を吸って、吐いた。
そして、今度は後ろを振り向く。

「香織ちゃん。お願いがあるんだ」
「わかってるわ。私と契約するのね」

私は黙って、香織ちゃんにうなずいた。
その姿を見て、不意に春樹が叫んだ。

「それだけは、絶対に駄目だ!姉さんは契約の意味をわかってないよ! さっきも兄さんが言っていたじゃないか。
契約は、身も心も鬼に近づくことなんだ。
姉さんが姉さんで無くなる……もしかしたら、姉さんの自我が失われるかもしれないんだよ!」

春樹が私を止めようとしたが、秋人さんによって阻まれていた。

「邪魔するな、春樹。さあ、壱与の器よ。八尺瓊勾玉と契約を交わせ」

私は……
@契約する
Aやめる
B考える
107734:2008/03/18(火) 15:31:13 ID:???
@契約する

春樹が言うように、私は身も心も鬼に近くなるのかもしれない。
けれどには一つだけ確信があった。

「香織ちゃん」
「ええ……チハルくん降ろしてくれる?」
「う、うん」
チハルからゆっくりと降りた香織ちゃんは、私の右手を両手で包むように握る。

「姉さん!」
秋人さんに阻まれた春樹の声に私は笑ってみせる。

「大丈夫だよ春樹。私は自我を失わない」
「なんで、そんな事が言えるんだ!」
「だって契約は「壱与」とするんじゃないもの。「愛菜」との契約だよ。ね、香織ちゃん」
私の言葉に、香織ちゃんは少し微笑んだ。

「冬馬先輩との契約も「壱与」とじゃない「愛菜」としたんだよ」
あの時の私は壱与の事なんて知らなかった。私は「愛菜」として先輩と契約したんだ。
あの契約によって、私の本質は人では無くなったかもしれない。
けれど、私の自我が失われることはなかった。たとえ、身も心も鬼になっても、私は私だ。

「香織ちゃん」
香織ちゃんに呼びかけると、香織ちゃんは握った私の手を掲げる。

「私は誓う」
「姉さん!」
香織ちゃんが宣言をはじめる。
悲痛な春樹の声が聞こえたけれど、私は香織ちゃんから視線を話さない。

「我が友と定めし、愛菜。私は愛菜の為に愛菜の望む道を共に進む。愛菜を護り、私の力が向かう先を愛菜へ託す。そして……」
香織ちゃんはそこで一旦言葉をきるといたずらっぽく私を見て、それから挑戦的に秋人を見る。

「古の契約を破棄、これより新たな契約をここに宣言する。この生が終わるまで、愛菜の親友として!」
香織ちゃんが高らかに宣言を終えると、一瞬なんとも言えない喪失感を覚えた。
けれどそれを喪失だと認識する前に、新たに優しくて暖かい感覚が身を支配する。
あの喪失感は壱与との契約が破棄された証、そして新たな契約。
私はその暖かい感覚に促されるように香織ちゃんに微笑む。

「よろしくね、香織ちゃん」
私の言葉に香織ちゃんは微笑むと、私を引き寄せて少し伸び上がると額に唇を寄せた。
香織ちゃんが触れた場所から暖かいものが流れてくる。きっとそこには契約の印が現れているだろう。


「勾玉め……」
その時、秋人さんが毒づくのが聞こえた。
その声に、香織ちゃんが笑うような気配がする。

「あなたの思い通りになるなんて思わないことね?
もし、これから「愛菜」の自我が失われて「壱与」になったら勾玉の力は使えないわ。それから三種の神器の力もね」
そうだ、三種の神器の力は壱与が使うためには3つが揃っていなければいけなかった。
けれどいま勾玉と壱与との契約は破棄され、壱与は3種の神器の力を使うことが出来なくなったのだ。
それに、私もまだ鏡とは契約をしていない。修二くんとの事がある以上鏡との契約は難しいだろう。
結果、今この世界に三種の神器をまとめて扱える人はいなくなった。

@「もう神器をまとめられる人はいなくなったわ」
A「ほらね、春樹、私自我を失っていないよ」
B「香織ちゃん、ありがとう」
108735:2008/03/18(火) 18:28:59 ID:???
A「ほらね、春樹、私自我を失っていないよ」

「よかった……。姉さんはいつも無茶するんだから」
春樹は安堵したように、深い溜息をついた。

「お取り込み中のところ悪いんだけど、愛菜……。私、もう駄目かも……立ってられないわ……」
気丈に立っていた香織ちゃんがフラフラとよたついた。
香織ちゃんの膝が折れ、チハルがそれを支える。

「ごめん。香織ちゃんに無理させちゃったね」
「そんなの、平気よ。だって、友達でしょ?」
「香織ちゃん。本当にありがとう」
「なんのなんの……。だけど、しばらくは……動けそうにも無い……かも」

香織ちゃんは笑うと、静かに目を閉じた。
術を身に受けて消耗しているのに、契約までして力尽きてしまったのだった。
だけど、気を失ってしまった香織ちゃの顔は、どこか満足げに見える。

(ありがとう。香織ちゃん)

香織ちゃんの頑張りで、巫女としての力を得た。
と同時に、私はまた一つ鬼へと近づいていく。

「契約の更新でなく、新たな契約を行ったか。伝承の壱与というものを見てみたかったが、仕方がない。
大堂愛菜。君自身を鬼の姫として迎え入れるしかないな」

秋人さんの望みは潰えたはずなのに、言葉に余裕すら感じる。
眼鏡の奥の瞳が、鈍くギラついていた。

「どういうこと?」
「君が十種の神宝と契約するのだよ。そして、永きに渡る高村の悲願、国の再興を果たす。
私が八種も力を入手している事の、これが……本来の意味だ」

不敵な笑みさえ浮べている秋人さんを、春樹は睨みつけている。

「姉さん、少し離れてて。兄さんの狙いは……俺だから」
「春樹……?」
「馬鹿な娘だな。正直、弟を殺すのは心苦しいが、君の選択が招いた結果だ。
恨むなら、軽率な行動をとった己を恨むがいい」
「えっ……」

秋人さんの姿が消えたと思った刹那、春樹が顔をゆがめた。
いつの間にか春樹を押さえ込んでいて、秋人さんの放つ赤黒い光が春樹を裂いた。

「ぐぁぁああ!!」

春樹は絶叫しながら、ぬかるんだ地面に叩きつけられる。
私はぐったりと横たわる春樹に駆け寄った。

「春樹!」

私は……
@春樹を回復させる
A自分から立ち向かっていく
B秋人さんに話しかける
109736:2008/03/19(水) 10:24:36 ID:???
B秋人さんに話しかける

「契約は成立しないわ。私があなたとの契約を受けないもの」
以前冬馬先輩が言っていた、一方的に契約は出来ない。
拒否しなければ、仮契約と言う事で一応履行はされるようだけれど、その事実を知っている今の私が秋人さんとの契約を承諾するわけがない。

「もしあなたが春樹を、私の大切な人たちをこれ以上傷つけるなら、これから先、絶対にあなたとの契約はしないわ」
私は春樹の上半身を抱き上げる。
もう服も泥だらけになってしまっている。

「春樹、大丈夫?」
私の言葉に、春樹はうっすらと目を開く。

「姉さん、逃げるんだ」
「春樹を置いていけるわけ無いじゃない」
「俺のことは、いいから。姉さんだけでも」
「春樹、さっきわたし一つだけ不満があるって言ったよね」
「……え?」
唐突に話を変えた私に、春樹は一瞬言葉を失う。

「春樹は私には勿体ないくらいの最高の弟だけど、私にぜんぜん頼ってくれないのが不満なの」
「姉、さん……?」
「確かに春樹は約束通り私を守ってくれる。でも、私だって春樹を守りたいよ?
大切な家族だもん。一人で苦しんでいるのを見ると、私だって苦しいよ」
「…………」
「だから、今は私に守られててよ? 私にだって出来ることがあるんだから」
「なにを、する気なのさ」
「秘密。チハル、ごめん春樹も頼めるかな?」
「うん、わかった」
チハルは香織ちゃんを背負い直し片手で支えると、もう片方の手で器用に春樹を支えた。
私はチハルに春樹を託すと、秋人さんに向き直る。

「何をする気かな? 鬼の姫」
秋人さんは笑みを浮かべたまま私を見ている。

「なにも?」
私は緊張で震えそうに鳴る声を何とか押える。
チャンスは一度だけ。失敗したら二度は無いだろう。
けれど香織ちゃんと契約したことで鬼に近くなった私なら、成功率は上がっているはずだ。
とりあえず、秋人さんを油断させなければいけない。

「この先、春樹たちに手を出さないって誓うなら、今あなたについて行ってもいいわ」
「姉さん!」
「ほぅ……?」
「偽りの誓いは許さない」
「だが、それでは神宝との契約はなされないぞ鬼の姫」
「そんな事無いわ。春樹と、もう一つの神宝とも契約をそれぞれ行えばいい」
「春樹が契約をすると思うのか?」
「するわけ無いだろ!?」
「説得するわ」
「姉さん!」
「もう一つの神宝も承諾はしまい」
「なんとかする」
「…………」
私の言葉に、秋人さんが考え込むように沈黙する。

もう一息かもしれない。
@ただ待つ
A更に一言言う
B秋人さんに近づく
110737:2008/03/19(水) 12:57:56 ID:???
@ただ待つ

私は、秋人さんの答えをジッと待ち続ける。すると、呻くような春樹の声が聞こえた。

「……絶対に、行っちゃ駄目だ。姉さん」
「私を信じてくれないの?」
「信じているに決まってるだろ。でも、姉さんはこの人の本性を知らないんだ」
「秋人さんの、本性?」
「そうさ。きっと姉さんの心を壊してでも、契約を果たすよ。今だって俺を殺して、力を奪おうとしているんだから。
兄さんは現代に蘇らなかった神宝を得るために、何千もの高村の遺伝子を持つ胎児を人工的に作り続けていた。
常識は通じないんだ。心を壊すことも、命を奪うのも、笑いながらやってしまう人なんだよ」
「酷いな、春樹。私はそこまで非情ではないぞ」
「どうだか。……くっ」

よく見ると春樹の脇腹に血が滲んで、制服が大きく裂けていた。
私は春樹に近づき、その傷口に触れながら祈る。
裂けてえぐれた皮膚が、ゆっくりと再生していった。

「……姉さん?」
「私って、意外とすごいんだよ? これでも信じてくれないかな」

目を見開いて驚いていた春樹だったけれど、治った傷口に触りながら笑い出した。
そして、観念したように口を開く。

「……わかった、俺の負けだ。だけど、姉さんだけに背負わせたりしない。一緒に家に帰ってもらわなきゃいけないからね」

春樹はチハルから離れ、静かに私の横に立つ。
そして、神の言葉をつむぎながら、空にすばやく印をきっていった。
春樹の周りに小さな赤い光がいくつも現れ、手元に集まっていく。
その発光体は握り拳八個分の長さをもった、光の剣になった。

「八握剣か」
「そのようですね。上手くいったことに、自分でも驚いていますよ」
「お前ごときが足掻いても、私に傷一つ付けることは出来ないぞ」
「神器との戦いで疲弊していて、兄さんの身体はあまり持たないはず。
八種類もの神宝を封じ込んだひずみが必ず現れる。その隙をつけばいい」
「ハハハッ……威勢のいいことだ」

秋人さんは冷たく笑って、私を見る。

「鬼の姫よ。私を油断させて攻撃するつもりだったのだろう?
春樹の機転で命拾いしたと気づいているのか。不用意に近づいた瞬間、目でも潰してやろうかと考えていたんだからな」

(震えが止まらない。怖い。でも、もう香織ちゃんに頼るわけにはいかない…私が……春樹を守らなきゃ)
その時、ふと私の頭の中に、ひとつの声が聞こえてくる。

(愛菜ちゃん……愛菜ちゃん……)
頭の中で、誰かが私を呼んでいる。
(愛菜ちゃん……ボクだよ……)
(チハル?)
(そうだよ。あのね……ボクのそばに……。春樹と愛菜ちゃんの力に……なるよ…)

私はチハルの傍に寄っていく。
(……ボク…がんばるからね……)
チハルは香織ちゃんを近くのベンチに寝かせると、ポンと音を立てて変身した。

変身した姿とは……
@盾
A鉾
B弓
111738:2008/03/19(水) 23:43:31 ID:???
B弓

私の手には、弓と一本の矢が乗っていた。
(弓矢……これ、梓弓だ)

梓弓は神に奉る神具として扱われる、梓の木で作った弓だ。
弓矢は昔から武器だけでなく、破魔矢などの魔物を打ち倒す道具として、呪具の意味合いも持っている。
(これを……私が…)

壱与が神楽弓を練習していたのは知っているけど、私は触ったことも無かった。
壱与の記憶だけは残っているものの、まったく自信がない。

(おまけに、矢が一本だけなんて……ねぇ、チハル……)

私は頭の中でチハルに話しかける。

(愛菜ちゃん。どうしたの?)
(私、弓を扱ったことが無いけど大丈夫かな。矢も一本だけだし)
(矢が一本なのはボクがまだ精霊だからだよ。チカラがたりないんだ、ごめんね)
(ううん。ありがとう、チハル)

弓は弦を引くだけでも技術が必要だと、弓道部の友達が言っていたのを思い出す。
私は試しに、スッと弦を引いてみた。

(わっ、すごい……)

身体が勝手に動く。
やはり壱与が学んだ身体の記憶までも、魂が継承しているのだろう。

「姉さん。なんで弓矢なんて持っているんだよ」
「チハルが変身して……」

「それは梓弓だな。まさか私を射抜こうというのか」
「そ、そうよ」
「震えているぞ。せいぜい春樹を射抜かないよう、気をつけるんだな」

春樹はチラリと私を見て、大きく息を吐いた。
そして、再び秋人さんに対峙しながら、私に声をかけてきた。

「危ないから、後ろに下がってて。弓矢だし、距離を取った方がいい。
それと……姉さんを高村の騒動に巻き込んでしまったこと、悪いと思ってるんだ。
黙って家を出てった事も含めて、家に戻ったら、怒ってくれて構わないから」

(春樹……)

「来い、春樹。お前の望みどおり、相手になってやろう」
「姉さんを守ってみせる! 絶対、一緒に帰るんだ……。いくぞ!!」

赤く光る剣を両手に持ち直すと、春樹は秋人さんの懐へ飛び込んでいった。

どうしよう……
@少し離れて構える
A香織ちゃんを見る
B考える
112739:2008/03/20(木) 11:59:26 ID:???
@少し離れて構える

弓を番え構えるが、春樹が近くて打つことが出来ない。

(それに、本当にこの弓で秋人さんをとめることができるの?)
秋人さんの内にあるものは、魔ではない。
この弓も、そして秋人さんの内にあるものも、どちらも神具だ。
そして神具の格としては、間違いなく秋人さんのほうが上。
チハルの矢は、けん制にしかならないだろう。

(その間に春樹が何とかしてくれる……? だめだめ、いけない春樹だけを頼っちゃ)
春樹だって動いているのがつらいはずなのだ。
いまこうして、弓を放つタイミングを計っている間だって顔をしかめている。

(他に方法はないの? もっと確実な……)
めまぐるしく位置が変わる春樹と秋人さんの戦いに、弓を打つことも出来ずじりじりとした時間が過ぎる。

「大堂! こんなところで何をしている。それに、この力……これは」
そのとき名前を呼ばれ、そちらに顔を向けると一郎君が立っていた。
一郎君は、春樹と秋人さんを見定めるように目を細めている。

「一郎君……春樹が……」
「……言わなくてもいい大体わかった。
 それに、勾玉との契約も行ったようだな……。
 ところで、修二はどうした? まだ学校に気配があるが一緒に来たんじゃないのか」
「修二君は……」
修二君のことを口にしようとして、修二君との会話を思い出す。

(そうだ、力の移行の儀式……。あれを秋人さんに……)
儀式と契約は違う。
契約は双方の同意が必要だが、儀式は手順さえふめば相手の意思は関係ない。
秋人さんの内にある神宝の力を、取り上げてしまえばいい。
そうすれば、少なくとも秋人さんは普通の人になる。
普通の人になった秋人さん相手なら、記憶の消したり、操作したりすることが出来るはずだ。

「うっ……」
「……春樹!」
考え込んでいる間に、春樹は秋人さんの力に弾き飛ばされ地面に叩きつけられていた。
今、隙を作れば、儀式を行うことが出来る。

@矢を放つ
A一郎に協力を求める
B秋人にしがみつく
113740:2008/03/21(金) 02:04:13 ID:???
A一郎に協力を求める

「春樹!」
「平気だ。姉さんが来なくても、大丈夫……」

秋人さんは春樹に攻撃されていても、着衣ひとつ乱していない。
まるで、見えない壁にはばまれているようだ。
春樹は汚れた顔を袖で拭い、口に入った砂を吐き出していた。

(儀式は手順さえふめれば……)

儀式は祝詞を捧げ、神に願わなければならない。
根本から解決するには一番いい方法だと思ったけれど、手順に時間が取られる。
今それを行うほどの時間は……やはり、無い。

秋人さんが纏う見えない壁に阻まれ、春樹がせっかく剣を振るっても全く届いていない。
見えない壁を打った剣から、赤い光が火花のように飛び散り、舞う。
秋人さんの放つ一撃に、またも春樹は身体ごと吹き飛ばされてしまった。

(もう見ていられない。けど、確実な方法も無い……)

「あれは……高村の者だったな。君の弟も……そういうことか。
にしても、あの男。なんて神宝の力だ。あんな力を身体に宿していたら、肉体が持たないだろうに」
「一郎くん、いい方法を教えて!?  儀式は無理だし……このままじゃ、春樹が……!」
「落ち着いてよく見てみろ、大堂。君の弟の連続攻撃に対して、あの男の動きが怠慢になってきている。
力の消耗が激しくて、決定的な反撃ができなくなっているんだ」

たしかに、動きがさっきよりも鈍く感じる。
春樹の無謀とも思えた捨て身の行為も、策があってのことだったのだ。

「大堂。その矢を貸してくれないか」
「えっ。うん……」

私は矢を一郎くんに手渡す。
一郎くんは矢をグッと握り締めると、青白く輝き始めた。

「さあ、この矢を。致命傷を与えるほどではないが、威力は増したはずだ」

私は矢を掴むと、構えをとった。
息を整え、ゆっくり弦を引きわける。
すると、一郎くんがスッと私のすぐ傍らに立った。

(一郎くん?)

「俺に弓道の心得はない。しかし、あの男が纏っている壁の一番脆い場所は見えている。
俺の指が示す方向に矢を放て。君の弟が離れた瞬間がチャンスだ」

私の左手に一郎くんの手が添えられた。
二人の人差し指が、秋人さんという同じ的に向う。
春樹がまた地面に倒れこんだ。体力の限界が近いのか、春樹は膝を立て息を切らしている。

「大堂なら、必ずやり遂げられる。君の弟が与えてくれた機会を無駄にするな。
俺が目になっているんだ。自信を持って思い切り、放て」

私は……
@放つ
A迷う
114741:2008/03/21(金) 09:53:10 ID:???
@放つ

(お願い!)
私はそう願いながら、光り輝くチハルの矢を放った。

光の矢は雨粒を切り裂きながら、真っ直ぐにとんでいく。
そして、秋人さんの肩の付け根ぎりぎりのところでく、見えない壁に阻まれて減速した。

(届いて……)

矢先はより強い光を帯びていく。
そして、秋人さんの肩を見事に射抜き、その光を失った。
「私の矢が……当たった……」
「……ぐっ!」
秋人さんの顔が苦痛で歪む。

「障壁は無くなった。今だ!」
一郎くんの声で、弾かれるように春樹が動く。
両手で剣を握り、春樹は秋人さんの首にめがけて剣を突き立てた。

(春樹……!)
ふたりは揉みあうように、同時に倒れこむ。
春樹は射抜かれた秋人さんの肩を掴むと、馬乗りに押さえ込んだ。
炎にも似た八握剣が、秋人さんの喉もとでピタリと止った。

「終わりです。兄さん」
「残念だが、そのようだな」
「……………」
「どうした、春樹。私を仕留める絶好の機会だぞ」
「………なぜ…昔の兄さんはこんな人じゃ…なかった…のに…」
「私は私だ」
「そんな事わかってる……! でも……」

赤い剣先は震え、まるで定まっていなかった。

「どこまでも甘い奴だ。私を殺せなかったことをあの世で後悔するがいい」
赤黒い光を纏った秋人さんの右手が、春樹の胸を狙う。

「詰めが甘いのはお前だ。高村秋人」

いつの間にか、一郎くんが私の傍らから消えていた。
春樹と秋人さんに向ってゆっくり歩きながら、一郎くんは指をパチンと鳴らす。

「くっ。身体が…この拘束は……」
「逃げられはしない。矢に仕込んだ呪術、これが鏡の力だ。さあ、大堂。力の移行の儀式を」

私は……
@儀式をする
Aしない
B修二くんをみつけた
115742:2008/03/21(金) 13:39:27 ID:???
@儀式をする

私は一郎くんに頷くと、元の姿に戻ったチハルを見る。

「チハルお願い、鈴になってくれるかな」
「すず?」
「そう、巫女神楽で使う鈴」
「わかった!」
チハルが軽い音を立てて、私の手に納まる。

「姉さん……? 一体何を」
私は春樹には答えず、ただ笑ってみせる。
目を閉じ、チハルを胸の前まで持ち上げて、神へ祝詞を捧げる。
祝詞が終わると今度は、奉納の舞。そしてそれは力を私に降ろす舞でもある。
手を動かすたびに、シャンシャンと鈴の澄んだ音が響く。

(懐かしい……)
壱与が何度も何度も練習して来た舞。
そして、流れ込んでくる力。
そのどちらもが、とても懐かしいものだった。

(そっか、神宝は鬼の力に近いから……)
だからこんなに懐かしいのだろう。

「な、なんだこれは……力が……!」
秋人さんの驚愕する声が聞こえる。
けれど、今の私にそれを気にしている余裕は無い。

(なんて、大きな力なの……)
この八種の神宝の力が一人の人間の内にあったなど、にわかには信じられない。
鬼として目覚め、神宝の力に近い私だからこそ自我を保っていられるけれど、普通の人ならば心が歪んでしまうだろう。

(それに……力が大きすぎる……)
どんどん流れ込んでくる力に、息をするのも苦しいくらいだ。
けれどここで舞を止めるわけには行かない。
流れ込んでくる力に、腕を動かすのもつらくなってくる。

一体どれだけの時間が経ったのか、気付くと流れ込んでくる力が止まっていた。

(終わった……?)
朦朧とする頭で、次の行動を思い返す。
通常ならばこの後、別の器に力を移す舞を舞うけれど別の器が無い今は、その舞を踊ることが出来ない。
私は再度最初の姿勢に戻ると、祝詞を唱えた。

(無事全部、おわった……)
自分の内にある強大な力に、どんな動作をするにも尋常ではない精神力を使う。
舞を終え疲労した私には、ただ立っているそれだけが出来なくて、身体が倒れそうになる。
貧血を起こした時のように、視界が一瞬闇に飲まれた。

(あ、倒れる)
思考だけがやけに明瞭で、はっきりした意識で地面にぶつかるのを覚悟する。
もう受身を取るだけの力がない。
けれど地面にぶつかる前に誰かに抱き止められた。まだ暗い視界を凝らして、相手を見る。

抱きとめてくれたのは……
@一郎
A春樹
Bチハル
C秋人
116743:2008/03/21(金) 15:34:31 ID:???
C秋人

(秋人さん……)
私を抱きとめてくれたのは、意外にも秋人さんだった。

「……えっ、あの……」

私はとても驚き、恐ろさも手伝ってか身体を強張らせてしまう。
何も答えず私の顔をジッと見た後、秋人さんはポツリと漏らす。

「こんな平凡な少女が、最も高貴で、最強と恐れられた鬼とは。
私の心に棲まう闇こそが、本物の鬼……だったという訳か」

それだけの言葉を残して、秋人さんは公園を出て行ってしまった。
私も春樹も一郎くんもチハルも、あえてその空しい背中を追おうとする者は無かった。

「大堂。君はこれからずっと、強大な力を留めておくつもりか」
「うん。代わりの器がないからね」
「このままでは、君の身体が持たないだろうな」

そう言うと、一郎くんは私の前に跪く。

「過去の契約を破棄し、大堂愛菜を我が主と定める」

私の右手に自分の額を当てて、言葉を紡ぎだした。

「八咫鏡の半身として、尊き願いの為に、千里を見通す目となろう。
そして、知恵と力を貴女のために振るうことを誓う。主たる君の望みのままに……」

私の手の甲に唇を寄せられ、私は少しだけ気恥ずかしくなった。

「一郎くん……。ありがとう」
「いや。君を危険な目に遭わせてしまった。それに、君と修二の間に何かトラブルがあったようだな。
学校での気配も俺から隠すようにしていたし、気も酷く乱れていた。
俺の言うことを聞くかはわからないが、大堂と契約するように言っておこう」
「うん。お願い」

(修二くんと仲直りできるといいな……)

次は……
@チハルを見る
A春樹を見る
B香織ちゃんを見る
117744:2008/03/21(金) 17:40:41 ID:???
B香織ちゃんを見る

ベンチに横たわったままの香織ちゃんは、まだやまない雨ですっかり濡れて真っ青だ。

(濡れてるのはみんな一緒だけど……)
「チハル」
「なに、愛菜ちゃん?」
私に呼ばれて、子供の姿になったチハルが私を覗きこむ。

「香織ちゃんの所まで運んでくれる?」
「うん、いいよ」
即座に成年の姿になったチハルに抱き上げられて、香織ちゃんのいるベンチまで運ばれる。
腕を動かすのも億劫だけれど、香織ちゃんの負担を少しでも軽くしてあげたかった。
神宝の力を取り込んだ今の私なら、命を削ることなく香織ちゃんへ力を分け与えることが出来る。
取り込んだ神宝の力は陰の力が強い。
そして勾玉である香織ちゃんも陰の力が強い存在だ。
術を返されたダメージを癒すことが出来るだろう。
私は香織ちゃんの手を握り念じた。
ゆっくりと私の中の陰の力が香織ちゃんに流れていく。
力を流し込んでいると、徐々に香織ちゃんの顔色が良くなってくる。

「ん………」
小さく呻いて、香織ちゃんが目を開けた。

「香織ちゃん、大丈夫?」
「あい、な?」
ぼんやりとした目で、香織ちゃんが私を見上てくる。

「もう大丈夫だよ。今はゆっくり休んで、ね?」
「……うん」
私の言葉に、少し微笑んで香織ちゃんは再度目を閉じた。
すっかり元の顔色に戻った香織ちゃんに安心すると、どっと疲れが押し寄せてくる。

「姉さん?」
「大丈夫、ちょっと疲れただけだよ」
「大堂、無理をするな。いくら大堂とはいえ、八つの神宝を身に宿したままではつらいだろう」
心配そうな春樹の声に、こたえると、間髪入れずに一郎くんが私の状態を見極めて反論する。

「姉さん……無理しないでっていってるだろう?」
「ご、ごめん」
「今は大堂と長谷川を休ませるのが先だが……、修二とも契約を交わせば少しは大堂も楽になるだろう」
陰の力の強い神宝と違い、陽の力のつよい神器。
神器との契約が正式になされれば、陽の力で陰の力が多少は中和される。

とりあえず……
@家に帰って休む
A修二くんに会いに行く
B周防さんがどうなったか聞く
118745:2008/03/21(金) 23:22:13 ID:???
@家に帰って休む

「家に帰るよ。ちょっと疲れたしね」
「そうだな。無理は禁物だ」

一郎くんも納得してくれたのか、私の答えに頷いてた。
私はこの中で一番元気そうなチハルに声をかける。

「ねぇ、チハル。香織ちゃんを家まで送ってあげてくれないかな?」
「でもボク、香織おねえさんのお家を知らないよ」
「それならば、俺が道案内をしよう。俺も家に帰って、身体を休めたいと思っていたんだ」

当然のように言った一郎くんに、私は驚いてしまう。

「え? 一郎くん、香織ちゃんの家を知っているの?」
「ああ。長谷川の家は帰路にあるからな」

気を失った香織ちゃんを、チハルが背負う。
私は帰ろうとする一郎くんに、ひと言だけ声をかける。

「今日はありがとう。一郎くんもゆっくり休んでね」
「大堂らしい言葉だな。だがその言葉、そっくりそのまま君に返そう」
「一郎くん……。また私が無理をしてるって言いたいの?」
「自覚があるなら、少しは悔い改めることだ」

そう言うと、一郎くんにしては珍しく、とても穏やかな笑みを浮べた。
緊張の糸が切れ、素の顔が出たのかもしれない。
私は手を振りながら、先に公園を出ていった三人を見送る。

「さてと、俺たちも帰ろうか」

一郎くんと香織ちゃんの背中が見えなくなったところで、春樹が話けてきた。

「そうだね」
「はい。乗って」
「ん? どうしたの春樹」
「姉さんは鈍感だなぁ。おぶってあげるって言ってんだよ」

少しだけ耳を赤くしながら、春樹が背中を差し出してきた。

「でも、春樹だってたくさん怪我してるよ」
「平気だって」
「ほんとに?」
「いいから。はやく」

春樹はぶっきら棒に言いながら、私の身長にあわせて姿勢を低くした。

私は……
@肩車してもらう
A断る
Bタクシーを拾う
119746:2008/03/22(土) 00:15:19 ID:???
肩車なのか?おんぶじゃなく?w
まあいいやw

@肩車してもらう

「わかったわよ……」
私は春樹の背中に体を預ける。

「ちゃんとつかまってなよ」
「わかってるって」
「よっと」
軽く声をかけて立ち上がった春樹は、いつもと変わらない足どりで歩き出す。
いつもより少し高い視界で、景色が違ってみる。
何気なく後ろから春樹の顔を見ると、あちこちに擦り傷が出来ていた。

「あ、傷になってる……」
私は無意識のうちに、春樹の傷に手をかざしていた。
この程度の傷を癒すのは神宝の力と、鬼の力、そして神子の力のほとんどが目覚めた今の自分には息をするのと同じくらいにたやすい。
特に鬼に近い神宝の力は、時間がたつにつれ身になじんでいくようだ。

「姉さん、なにしてるのさ」
「春樹の治療」
「そんなことしなくてもいいよ。どうせすぐ治るんだし」
「でも、怪我してるのを見たらお義母さんが心配するじゃない。見えるとこだけでも治しておかないと……」
「……母さん怒ってるかな」
「怒ってないよ、すごく心配してたけど……。あ……」
「なに?」
「隆が……、春樹がもどってきたらぶんなぐってやるって言ってた」
「はは……、まぁ殴られるだけのことはしたし甘んじてうけておくよ」
「ついでに、私とチハルも便乗することになってるから」
「なんだよそれ……」
眉を顰めた春樹が少しこちらを振り返る。
至近距離から春樹と視線がぶつかった。

「ねえ、さん……?」
「どうしたの?」
一瞬驚いたように呆然とつぶやいた春樹に、私は首をかしげる。

「……なんか違和感が、いや気のせい……だよ」
けれどすぐに、何事も無かったかのように前を向いて歩き出す。

「変な春樹……」
ため息混じりにつぶやいたら、春樹は何かいいたげに再度私を見たが結局何も言わずに私を背負い直す。
一定のリズムで進む春樹の背中は思いのほか心地よくて、疲弊しきった私の意識がゆっくりと薄れていく。

このまま眠ってしまいたい気もするけれど……
@寝てしまう
A春樹に話しかける
B眠らないように何か考える
120747:2008/03/22(土) 02:38:31 ID:???
間違えたwww おんぶに直してくれー

B眠らないように何か考える

(春樹が言ってた違和感って?……ん、ポケットに何か入ってる……)
それは秋人さんから渡された、ムーンストーンだった。

(そうだ。冬馬先輩……!)

『冬馬先輩。冬馬先輩……返事して』
私は心の中で冬馬先輩に何度も呼びかける。
そして、何度目かの呼びかけで、ようやく冬馬先輩の意識と繋がった。

『愛菜……。愛菜ですか』
『無事だったんだね。冬馬先輩、怪我は大丈夫?』

私の問いかけに、冬馬先輩はしばらく黙り込んだ後、ゆっくり答えた。

『……今は動くことが出来ませんが、心配は要りません。美波と周防が治療にあたってくれています』
『動くことが出来ないって……そんなに悪いの?』

石にべっとりと付いた血を思い出し、とても不安になった。
けれど、冬馬先輩は何事もなかったかのような口調で話し出す。

『僕の場合、三日もあればそれなりに動くことが出来るようになるはずです』
『よかった。はやく元気になってね』
『はい。ありがとうございます』

(僕の場合か……やっぱり、秋人さんが言っていた通り冬馬先輩の身体は特別なのかも……)
私は冬馬先輩の身体のことに触れるに躊躇い、別の話題を探す。
なるべく明るい話題をと思い、文化祭の話を振ってみた。

『三日後といえば、ちょうど文化祭ですよ。あっ、でも冬馬先輩はたしか不参加でしたよね?』

再び、しばしの沈黙が続いてから答えが返って来る。

『愛菜が参加するよう薦めてくれたので、今は有志の企画に混じって仕事を手伝っています。
途中参加なので、雑用程度ですが』
『え? 聞いてないよ』
『あなたが尋ねてこなかったので、何も言わなかったのです』
『そ、そうなんだ……。それで、参加してみてどう? 楽しい?』
『楽しいかどうか分かりません。ですが……』

また冬馬先輩は何も言わない。
以前はそのことが無性に不安だったけれど、今はその沈黙も怖くない。

『ですが……、悪くないと思えます』
『悪くないんだ。うん。そう思ってくれることが、素直に嬉しいよ』

急に楽しめと言われても、無理なのかもしれない。
少しずつでも、先輩が学校生活に溶け込んでいければ、それで良いような気がする。

『愛菜。あなたはやはり、お母様によく似ています。
あなたのお母様も僕のために、喜んだり、悲しんだりしてくれました」

私は……
@お母さんについて尋ねる
Aもう少し文化祭について話す
B考える
121748:2008/03/22(土) 09:37:59 ID:???
@お母さんについて尋ねる

『ねえ、私のお母さんって今どうしてるの?』
『………』
『冬馬先輩?』
『……あなたのお母様は5年前になくなりました』
『そっ……か……もしかして組織に……?』
なんとなく覚悟をしていたから、思っていたよりショックを受けていない。

『いいえ、あなたのお母様は車に轢かれそうになった子供をかばって亡くなりました。組織とは関係ありません』
『子供をかばって……』
『当時、新聞にも載ったそうです』
『新聞に……』
それじゃあ、もしかしてお父さんはお母さんが事故で死んだことを知ったのかもしれない。

(だから春樹のお母さんとの再婚を決めた……)
もしお母さんが生きていたら、きっとお父さんは再婚を考えなかっただろう。
いつまでも私のお母さんを待ち続けていたはずだ。
本人に確認したわけではないけれど、きっとそういうことなのだろう。

『すみません』
『え?』
『僕がそばにいながら、あなたのお母様を助けることが出来ませんでした』
『まさか、事故の現場にいたの……?』
『はい』
5年前といえば冬馬先輩は中学に上がったばかりだったはずだ。

『あなたのお母様は最後まで僕を気にかけてくれました。置いていってしまうことを許して欲しいと』
『……そう』
『そして、愛菜をよろしく頼むと』
『………』
「ねえさん? どうしたの!?」
「え?」
春樹の声に、冬馬先輩とつながった意識が途切れる。

「どこか痛いの? 体がつらいとか……」
すごく心配そうに私を見る。
私はいつの間にか泣いていたらしい。

@「お母さん5年前に亡くなってたよ」
A「大丈夫、どこも痛くないよ」
B「そういえば春樹のお父さんどうしたの?」
122749:2008/03/22(土) 11:40:57 ID:???
A「大丈夫、どこも痛くないよ」

私は春樹を心配させまいと、涙を拭って答えた。

「辛かったら言うんだよ。わかった?」
「うん……」

(お母さん。せめて一度だけでも会いたかった……)

『愛菜……愛菜……』
『冬馬先輩、どうしたの?』
『意識が途切れたようですが……』
『春樹が話しかけてきたから、しゃべっていたんだ。急に閉じてごめんね』
『いいえ』

それきり、また冬馬先輩の声が聞こえなくなる。

『冬馬先輩、聞こえてる?』
『今、お母様の言っていたことを思い出していました。
愛菜は……お母様が言霊の研究していたのは知っていますか?』

(そういえば美波さんが言っていたっけ……)

『うん、知ってるよ。それがどうかしたの?』
『名前はその人を表す、最も強い言霊なのです。
あなたの名前の由来について、お母様から教えてもらった事がありました』

そういえば、自分の名前について考えたことが一度もなかった。
もし冬馬先輩が私の名前の意味を知っているなら、ぜひ聞きたい。

(私とお母さんを繋ぐもの……)

『名前に込められた意味……お母さんが私に何を望んでいたのか教えて?』
『はい。あなたの名前の『愛』、これは『かけがえのないもの、いつくしむ心』
そして、『菜』は『自然物やすべての者』という意味が込められているそうです』

(かわいい名前でお気に入りだったけど、愛菜って、すごく立派な名前だったんだ。
名前負けしてるかも……)

『要は、すべてを愛するってことだよね……。立派過ぎて、ちょっと気後れしちゃった。
けど、お母さんが望んでいたことなら、少しでも近づかなきゃね』

(残酷……修二くんは私に向かってはっきりそう言っていた。
今のままでは、お母さんに顔向けできないな……)

『僕は……今の愛菜をお母様が見たら、きっと喜んでくれると思います』
『えっ。そ、そうかな』
『はい』
『本当に、本当にそう思う?』
『……………』
『先輩?』
『すみません。少し褒めすぎました』

(うーん。なんだか悲しくなってきた)

@冬馬先輩の名前についてきく
A話を終える
B別の話をする
123750:2008/03/22(土) 12:50:09 ID:???
A話を終える

気づくともう家の前まで来ている。
『先輩、お母さんのこと教えてくれてありがとう。ゆっくり休んで早く元気になってください』
『はい』
先輩の少し微笑むような気配を感じながら、私は現実へと意識を戻す。

「さ、ついたよ姉さん」
言いながら、春樹が家の戸に手をかける。
急いで出てきたから、カギは開けっ放しだった。
一旦春樹に玄関で下ろされて、私は自分だけではもう立っていることも出来ないことに気づく。

(変だな……もう、体が疲れてるとか……そういう感じは全然ないのに)
精神的にはいろいろ疲労しているけれど、意識のほうは疲れすぎて逆に鮮明になっている気もする。
体の方だって、どちらかというと力が満ちていて不調という感じはしない。
けれど、動かそうとするとうまくいかないのだ。

「ちょっと、姉さん、本当に大丈夫なの?」
立つことも出来ない私を春樹は慌てて支えてくれる。

「うん……どっちかというと、すごく体調はいいと思うんだけど……」
「確かに顔色が悪いわけでもないし、熱があるようにも見えないけど……」
「なんていうか……、いまちょっと体と意識がつながってない感じなんだよね」
「……そう」
春樹はため息をつくと、私を玄関に座らせて、靴を脱がせてくれる。

「どっちにしろ、姉さんはがんばりすぎだよ。早く着替えて今日はおとなしく寝ててよ」
「う、うん……」
確かに今動けないのは、神宝を移す儀式をしたからだ。
まさかこんなふうに、なるなんて思いもしなかった。

(壱与も儀式はしたことなかったもんね)
春樹に抱えられて、部屋までたどり着く。

「……っていうか、姉さん、自分で着替えられる?」
「え……」
言われて思わず顔を顰める。
何とか腕を動かすのはできるから、上は着替えられるだろう。
けれど……

「チ、チハルが戻ってきたら手伝ってもらうよ」
「なんでそこでチハルがでてくるのさ……? って、自分じゃ無理なんだね」
「だって、チハルならぬいぐるみのときから私の部屋にいて、チハルの前で着替えなんて今更だし……」
子供の姿のチハルの前では今までだって普通に着替えていた。

「チハルを待ってたら風邪引くだろ。とりあえずぬれてるからちょっと廊下座ってて、中はいると部屋の絨毯ぬれるから」
そう言って私を廊下にゆっくり座らせると、私の部屋に入っていく。

「はい着替え」
春樹が持ってきたのは、私がいつも来ている部屋衣だ。

「ありがと……自分でやるから……」
「できないんだろ?」
「な、なんとかなるよ」
「本当に……」

春樹の疑いのまなざしが痛い。
@「大丈夫だってば」
A「ごめんなさい、できません」
B「どうしようもなくなったら呼ぶよ」
124751:2008/03/22(土) 15:47:33 ID:???
B「どうしようもなくなったら呼ぶよ」

私は気恥ずかしくて、春樹の顔がまっすぐ見られなかった。
(弟なのに……私、意識してるんだ……)

「わかった。もし何かあったらすぐに呼ぶんだよ」
春樹からバスタオルを受け取り、私はうなずく。

春樹はもう一度念を押すと、廊下から去っていった。
私はゆっくりした動作で、ブレザーを脱ぎ、リボンを解く。

(あっ、下着まで濡れてる。……はぁ、仕方がない)

「春樹……」
「どうしたの? 姉さん」

呼ぶと、着替えを終えている春樹が現れた。
春樹はまだ着替え終わっていない私を見て、驚いている。

「まだ着替え終わってないの? だから、俺がやるって……」
「下着を……持ってきて欲しいの。私の部屋、チェストの二段目……」
「あ、うん。わかった」

下着という言葉で春樹の小言の勢いが無くなり、大人しくなる。
春樹は素直に頷くと、階段を上って行った。

(最悪かも……って、あれ……)

不意に両手まで動かなくなって、瞼が重くなっていく。
意識だけはハッキリしていても、身体全体の自由が利かない。
視覚だけが奪われてあとは恐ろしく冴え渡っている、そんな状態になってしまった。

「姉さん……!」

下着を持ってきたはずの春樹が飛びつくと、私の肩を掴みながら揺する。

「ビックリした。なんだ、寝てるだけか……。もう、何やってんだよ。
あっ、これどうしようか。……でも、俺がやるしか……ないのか…やっぱり…」

春樹の溜息が聞こえ、考え込む様子が伝わってくる。

(ますます最悪に……)

@頑張って身体と意識を繋げてみる
A誰かが帰ってくる音が聞こえた
B諦める
125752:2008/03/22(土) 17:37:52 ID:???
@頑張って身体と意識を繋げてみる

そうだ、以前にも似たようなことがあった。
あの時は修二君が、不調だった私を戻してくれた。
今ならうまくつながっていない心と体をつなげる方法は知っている。
私は意識的に力をコントロールしようと、集中をする。

(あれ……おかしいな)
力は正常に私の内にある。
不調の原因となるようなゆがみはどこにもない。

「仕方ないよな……このままじゃ風邪、ひくし……」
そういう春樹の声の後に、躊躇いがちに服に手がかかるのを感じた。

(きゃぁぁぁ春樹ストップストップ!)
けれどいくら心の中で叫んでも、春樹に聞こえるはずも無い。
慌てていると玄関の戸が開く音がした。

「愛菜ちゃん、香織おねえさんおくってきたよ」
(チハルーーーーー)
私は慌ててチハルに話しかける。

「愛菜ちゃん? どうしたの……?」
「姉さんつかれて寝てしまったみたいなんだ」
「なに言ってるの春樹? 愛菜ちゃん起きてるよ」
「チハルこそなに言ってるんだ、どうみたって寝てるだろう?」
(起きてるわよ……体が動かないだけなんだってば!)
「愛菜ちゃん体が動かないだけだっていってるよ?」
「言ってるって……」
「頭の中に声がするの。春樹には聞こえないの?」
「俺にはぜんぜん……」
(着替えはチハルに手伝ってもらうからって春樹に言って、チハル!)
「着替えは僕に手伝ってもらうっていってるよ」
「そう、っていうか体が動かないって……どういうことさ姉さん!」
(分からないわよ、別に力にゆがみとかあるわけじゃないし……)
「分からないっていってるよ、力にゆがみはないって」
「そんな、それじゃあ姉さんはずっとこのままだって言うのか?」
(まだそうと決まったわけじゃないよ、ただ疲れてるだけかもしれないし、寝たら元通りになってるかもしれないし、ね)
原因はきっと神宝だろうけれど、解決策は分からない。
本当に寝て起きたら明日は元通りの可能性もある。

「疲れてるだけかもしれないって、寝たら元通りになってるかもしれないっていってるよ」
「本当に……? ……まあ、姉さんをこのままにしておくわけにもいかないし、チハル、姉さんの着替え手伝ってやって」
「うん、わかった」
一人分の足音が遠ざかっていく。

「愛菜ちゃん、ここにおいてある服に着替えるの?」
(うん、そうだよ。ごめんね)
「なんで謝るの? えっと……ボタンって結構難しい……」
なんとかチハルに着替えさせてもらって、ほっとする。
体は相変わらず動かないけれど、濡れて冷たい服を着ていたときより、楽になった気がする。

着替えも終わったしどうしようかな……
@部屋に運んでもらう
A春樹のところに運んでもらう
B春樹とも話せないか試してみる
126753:2008/03/22(土) 18:54:02 ID:???
@部屋に運んでもらう

(チハル。私を部屋に運んでくれるかな)
「うん。いいよ」

私はチハルに自室まで運んでもらい、ベッドに寝かせてもらった。
動かない体のまま、私はチハルに話しかける。

(チハル、今日はありがとう。チハルが弓矢になってくれなかったら、私はここにいなかったかもしれないよ)
「ううん。ボクは少しだけお手伝いしただけだもん。愛菜ちゃんとか、春樹とか他の人達がいっしょうけんめいだったからだよ」

少しだけ動いた気配がすると、チハルはポンという音を立てた。
そして、私のベッドに小さな体が潜り込んでくる。

「一緒にねてもいい?」
(もちろん。チハルが居てくれると落ち着く)
「ボクもぉ」

擦り寄ってくるチハルを、今は抱きしめてあげることができない。
そんな私の気持ちを感じたのか、チハルが私にギュッと抱きついてきた。

「あのね。愛菜ちゃんにあたらしく入った、ドロッていうのも好きだよ」
(チハル……?)
「ドロドロもザラザラもほわほわもぬくぬくも、ぜんぶ愛菜ちゃんだもん。だから、だいすき」
(すごく嬉しいよ。ありがと)
「えへへ、よかったぁ」

楽しそうに笑い終えると、チハルは「ふぁ〜」と大きなあくびをした。

(今日は疲れたでしょ? もう休んでいいよ)
「うん。おやすみなさい」

寝息が聞こえ始めてすぐに、チハルはぬいぐるみに戻ってしまった。
きっと、人間の姿を維持できなかったのだろう。

その時、ドアをノックする音が聞こえた。
次に、ゆっくりとドアが開く音がする。

入ってきた気配は多分……
@春樹
A隆
Bお継母さん
127754:2008/03/22(土) 20:50:40 ID:???
@春樹

「姉さん、起きてる?」
(起きてるよ)
「チハル、寝たのか? 困ったな、これじゃあ姉さんが起きてるのか寝てるのか分からないじゃないか……」
そう言いながら春樹がベッドに近づいてくる気配がある。

「姉さん……?」
思いのほか近くで春樹の声が聞こえた。
どうやら私を覗き込んでいるようだ。

「本当に、いつも無茶ばかりするんだから………。
 ねえ、本当に大丈夫なの? ちゃんと起きられるようになる?
 もし、ずっとこのままだったら俺は……」
そっと額にかかった髪を払われる。

「額のしるし、それに、両手のしるし……神器が契約した証……」
(春樹?)
「俺もの中にも力はあった……けど、なぜ誰も気づけなかったんだろう。
 父さんも、兄さんも……同じ神宝だったはずなのに」
春樹は自分の意思で力を隠していたわけではない。
それなのに、誰も気づかなかったというのは確かに不思議だった。
一郎君や修二君でさえ春樹は普通の人だと言っていた。
少しベッドのきしむ音がして、春樹の手が私の頭をなで始める。
どうやら、ベッドの端にすわったらしい。

「俺は過去に何があったのか分からない。自分の過去で思い出した事も無い。
 でも姉さんの封印が解けるのと同時に、俺の力は目覚めた。きっと過去の姉さんと会ったことがあるんだろうね」
(そういえば、公園でそんなこと言ってたね……)
「きっと俺たちは出会うべくして出逢ったんだろうな」
春樹の手が離れ、立ち上がるような気配がした。

「でもきっとそれは俺だけじゃない、姉さんにかかわる力のある人たち全員がそういう運命みたいなものでつながってるんだ」
春樹の手が右の頬をなでる。、

「それはもう終わったのかな? それとも……」
春樹は最後まで言うことは無かったけれど、それは私も思うところだ。
まだすべては終わっていない。そんな気がする。
そのとき、かすかに玄関のあく音がした。
目を閉じている分、音に敏感になっているらしい。その音に春樹は気づかなかったようだ。
しばらくして誰かが階段を上ってくる音がする。

「誰かきた……? 母さんがもどってきたのか?」
春樹もようやく気づいたらしい。トントンとノックの音が聞こえ、それから扉が開く音がした。

入ってきたのは……
@周防さん
A修二君
Bお義母さん
128755:2008/03/22(土) 23:45:42 ID:???
Bお義母さん

「愛ちゃん。具合は……」
「……母さん」
「は、春樹! 春樹が戻って来たわ。愛ちゃん起きて」

私の体をゆさゆさと揺すり、お継母さんはかなり興奮しているようだ。
(お継母さん。私、返事できないんだ)

「母さん、ただいま。心配掛けて、ごめん」
「もう戻ってこないかと……春樹を…取られてしまうかと……」
「あの人は、最期を俺と過ごしたかったんだって。母さんのことも含めて、後悔しているみたいだったよ」
「何を言っているの?」
「姉さんが寝てるし、詳しい話はリビングでしようか」
「そう……そうね」
「先に行ってて。すぐに行くから」
「ええ……。わかったわ」

先にお継母さんが部屋を出て行く気配がする。
ドアが閉まったのを待っていたように、春樹が話し始める。

「俺、母さんに嘘をついてくるよ。嘘は嫌いだけど、割り切らなきゃね。
って……寝てるかもしれない姉さんに愚痴っても仕方ないか」

春樹が乾いた笑いを漏らし、そっと掛け布団を直してくれる。
そして、ドアの閉まる音がした。

私はまた、春樹が言っていた運命の話を思い返す。
私たちは何かを成し遂げるために集まったのだろうか。

(迷わず進めって神様が言ってたけど……迷うよね、普通)

思わず、神様に文句のひとつでも言ってやりたいような気持ちになる。

(そういえば、神器と神宝を鎮めることのできるのは、私だけって言ってたっけ。
鎮めるって……どういうことなんだろう)

そんな事を考えている内に、段々眠くなってくる。
闇に引き込まれるようにして私は夢の中へ落ちていった。

みた夢とは……
@壱与の夢
A高村家の夢
Bお母さんの夢
C一郎と修二の夢
129756:2008/03/23(日) 01:56:23 ID:???
@壱与の夢

「壱与、何か食べないと体が持たない。少しでいいから何か口にしてくれないか?」
人影が私の横に立つ。
私はぼんやりと空を見上げたまま、その言葉を黙殺する。
故郷がなくなった事を知ったあの日の激情のあと、私は抜け殻のように過ごしていた。

今は、何も考えたくない。


三種の神器は解放されたけれど、その力は契約を結んだ私の近くにとどまっている。
考えてしまったら、力を使ってこの悲しみをこの世界へぶつけてしまいそうだった。
そんなことはできない。
この世界には多くの人が住んでいる。
人だけじゃない、他の生き物もたくさん暮らしている。
私の悲しみですべてを終わらせていいものではない。

だから、私は何も考えない。隣に居るのが誰かも知る必要はない。
……もっと冷静になれるまで。

「壱与……、お願いだ僕を見てくれないか?」
声の意味を考えてはいけない。

「……………いて」
「壱与?」
「放っておいて、私は世界を壊したくない。まだ……早いの」
「壱与……」
そっとぬくもりに包まれる。

「すべて僕の責任だ。恨むなら僕を恨んでくれてかまわないから……だから、お願いだ、少しでいい、何か食べてくれ」
懇願する声にふと意識が向く。

だめ、見てはいけない。
本能がそれ以上意識を向けることをとめる。

@声を無視する
A声の主を確かめる
B再度放って置くように言う
130757:2008/03/23(日) 10:43:11 ID:???
@声を無視する

もう何日も食べ物を口にしていない。
飢えと乾きは、とっくに限界を超えていた。
けれど、何も考えない。考えてはいけない。

「このままでは、君が死んでしまう。お願いだから、食べてくれ」

この声に、耳を貸してはいけない。

「こんなに細くなってしまって……」

私を包むぬくもりが強くなる。
この匂いに包まれていると、何もかもが馬鹿らしくなってくる。
……もっと欲しいと願う。

「ほら、口をあけて食べてごらん」

口許に穀物が差し出される。
けれど、こんなもので私は満たされない。

「どうして口を開けてくれない。本当に死ぬつもりなのか」

保っていた理性が沈殿する。
心を埋めていた悲しみが、本能に塗り替えられていく。

「間違ったことをしたとは思わない。けれど……君を失いたくない」

前も感じたことのある、どす黒い何かが心を埋める。

「君の望む事だったらなんでもしよう。だから、お願いだ。食べてくれ……」
「たべる……」

懇願する声が耳に届き、私の中で何かが弾けた。
私は包んでいたぬくもりを、優しく解いていく。
折箸が床に落ちて、乾いた音を立てた。

「とてもおいしそう。あなた」
「なっ!」

抵抗できないように、ゆっくり組み敷いた。
首元に舌を這わせて、味を確かめる。

「……くぅ」
「おいしい。もっとちょうだい」
「何を……まさか……!」
「そう。たべるの……あなたを……」

私は獲物の肩に犬歯を立てた。

だめ、いけない……。
@夢から去る
A食べる
B止めるに入る
131758:2008/03/23(日) 12:33:18 ID:???
B止めるに入る

(だめだよ!壱与!)
私は必死に壱与に呼びかける。

(お願い、やめて! 私の声を聞いて!)
壱与の犬歯が皮膚を少し食い破ったのか、ほんの少し血の香りが辺りに漂う。

(そのまま本物の鬼になったらだめ! 元の壱与にもどって、お願い!)
「……だれ? 懐かしい、あなただれ?」
「壱与……?」
私の呼びかけに壱与が動きを止める。
唐突につぶやいて動きを止めた壱与に帝が心配そうな声をかけた。
自分を食べようとした壱与の変化に帝は戸惑っている。
どうやら壱与が本当の鬼になってしまう事に驚きこそすれ、壱与を畏れているわけではないらしい。

「懐かしい、お父様と同じ力……お父様?」
(同じ力……あ、神宝の力のことかな?)
壱与は私を探して視線をさまよわせる。
部屋の上のあたりから様子を見ていた私に、壱与が気づいた。
不思議そうに私を見る。

「いち、よ?」
帝には私が見えていない、急に宙を見据えて動かなくなった壱与を心配そうに見ている。

「ねえ、だれ? お父様と同じ力を持つあなた、懐かしい……」
壱与はまだ完全に自分を取り戻していないようだ。
たどたどしい言葉遣いでたずねてくる。

(私は……)
@未来のあなただという
A大堂愛菜だという
B答えない
132759:2008/03/23(日) 15:15:16 ID:???
B答えない

壱与が私の存在を父親だと勘違いしているなら、その方がいい。
壱与は失ったものの大きさに負けているだけだ。
私は壱与の父親であった出雲国王の口調を思い出しながら、ゆっくり語りかける。

(壱与……。私だ……壱与)
「お父様。やっぱりお父様なのね!」
(ああ、そうだ。よくお聞き、壱与)
「お父様……壱与もお父様と一緒にそちらへ行きます……。お願いです。黄泉へ連れて行ってください……」

涙を流しながら懇願する壱与が、小さな頃の自分と重なる。
お母さんに捨てられたと、泣き腫らした日々をフッと思い出した。

(来てはならない。お前にはまだやるべき事が残っている)
「やるべき……こと?」
(お前はもう、大和の者だ。すべての民の幸せを祈り、巫女としての役目を果すのだ)
「出雲を滅ぼした国のために、祈ることなんて出来ません」
(憎しみや恨み、復讐からは何も生まれない。お前はそれらの心の闇に打ち勝たなければならないのだ)
「無理です。だから、一緒に連れて行って……」

「壱与……」
心配そうに見つめながら、帝は血に濡れた肩を押さえている。
私はその姿を見ながら、壱与に再び語りかける。

(すべてに感謝する心、愛しむ心を忘れず、生きていきなさい)
「私一人では出来ません。お父様が居ないと、壱与は何もできません。だから、私の前に姿を現してください!」
(お前はもう一人ではない。お前を想い、支える者がすぐ傍らにいる……)

その言葉で、壱与ははじめて帝を見る。
壱与は私自身でもある。だから、憎みきれていない事も、密かに想っている事も知っている。

(壱与。その者と手を携え、役目を果たすのだ。私は…いつでもお前を見守っているよ……)
「待って! お父様、行かないで!」

私は壱与と意識を閉ざすと、溜息をつく。
(はぁ……疲れた。お姫様に向って、説教しちゃったよ……)
お母さんが私につけてくれた「愛菜」という意味を冬馬先輩から聞いておいてよかった。
かなり適当に言ったけれど、壱与は信じてくれているようだ。
これも壱与が父親を尊敬しているからこそ、素直に信じたのだろう。

(私なんかで良かったのかな……。壱与、ちゃんと立ち直ってくれるよね……)

私は……
@続きを見る
A夢からさめる
B考える
133760:2008/03/23(日) 20:26:52 ID:???
@続きを見る

(大丈夫かな……)
私は壱与に入り込むと、壱与自身になりながら傍観し始める――。

目の前には、傷ついた帝の姿があった。
口内に広がる鉄の味が、すべてを物語っている。

「わ、私……あの……」
「壱与……」

帝は肩を押さえながら、私の名前を呼んだ。
そして、一歩、また一歩と近づいて来る。
私は帝から逃れるように、壁を伝いながら後ずさりをしていく。

「壱与。さっき君は父親と話しをしていたんだね? よかったら、内容を僕に教えてくれないか。
すっかり嫌われてしまったけれど、せめて罪を償わせて欲しいんだ」
「来ないで……お願い」
「どうして!? もう、僕を見るのも嫌なのか」
「違う。違う……」

(見られてしまった。一番知られたくない人だったのに……)

私の中の本性、人喰い鬼の姿を帝に知られてしまった。
美しいと賞賛される外見は、人を食べるための罠。
人間を誘惑し、喰らっていた頃の名残に過ぎない。

(お父様は帝と生きていくようにと、遺言を残された。だけど……それも叶わない)

「なぜ、なぜ僕から逃げる!」
「知られてしまった……。もう、一緒に居ることは出来ないの」
「何を怯えているんだ。僕はここに居るだろう」

(とても憎い人。大嫌いだけど、こんなに心が痛いのは、強く強く惹かれているから……)

部屋の端まで追い詰められて、もう逃げ場がなくなってしまった。
帝は私の腕を掴むと、ぐいと引き寄せる。
帝の身体に勢いよくぶつかると、苦しいくらいに抱きしめられる。

「嫌われているとわかっていても、君を求めずにはいられない。
君の国を滅ぼした酷い男だが、必ず君を大切にすることを誓うよ」
「離して……」
「離さない。納得できる理由を教えてくれるまでは」
「私は……。私は……」
「僕を喰らいたいのなら、今、ここで片腕を君に差し出してもいい」
「何を……言って……」
「もし全身を欲しいというのなら、少しだけ待って欲しい。
今は死ねないけど、この国に平穏が訪れた時、この命を必ず君に差し出そう。
それが罪を償うことになるのなら、僕は……喜んでその罰を受けるつもりだ」

(壱与。どうするつもりなの?)

私は……
@さらに続きを見る
A夢からさめる
B考える
134761:2008/03/23(日) 21:02:53 ID:???
@さらに続きを見る

「私は……あなたは……」

壱与は混乱している。
なぜ帝がこんなことを言っているのか分かっていない。
(壱与……帝はあなたを畏れていないのよ。ただあなたを求めてるだけなの)

「私は、あなたに……あの姿を知られたくなかった……知ったらすべてが壊れてしまう」
「なぜ?」
「私は鬼だから……人ではないから……」
「鬼でも人でも魔でも壱与は壱与だ、関係ない。いったい何が壊れるというんだ」
「……私が、怖くないの?」
「壱与が? なぜ僕が壱与を怖がるんだ?」
帝は心底分からないというように、首をかしげ壱与を覗き込む。

「僕が壱与を怖がることはない。こんなに愛しいのに」
そういって帝はさらに強く壱与を抱きしめる。
それを聞いた壱与の頬を新たな涙が伝う。

「本当に?」
「今まで君にはたくさんの嘘をついたけれど、これだけは本当だ。壱与、君が好きだよ」
「…………」
「だから、この国が平和になったら、君にこの命をあげるよ」
「いらない」
「壱与……そこまで僕は嫌われてしまったのか……」
「命はいらない……おねがいずっとそばに居て。もう一人にしないで……」
「壱与……本当に? 僕の都合のいいように解釈してしまうよ?」

(……もうこの二人は大丈夫ね)
私は壱与の体から抜け出す。
最後にふれた壱与の想いは、帝と同じもののはずだ。

さて……
@そろそろ夢から覚める
A別の夢へ行く
B考える
135762:2008/03/23(日) 22:39:38 ID:???
B考える

帝も私の時代で生まれ変わっているのだろうか……。
壱与と帝を目の前にして私はふと思った。

神宝や神器が私のすぐ近くで蘇っている。
だとしたら帝ももしかしたらいるのかもしれない。
そう思うと私はなぜか春樹と秋人さんの顔が脳裏を横切った。

帝の目的の為なら非情になれる所は秋人さんに
帝の壱与の為に献身的に尽くす所は春樹に

一郎君や修二君じゃあるまいし一つのものがそう簡単に二つに分かれるなんてそうそうあるものじゃない。
それに彼らは神宝なのだから帝のはずがない……。
秋人が帝だったら鬼の国を再建なんて考えるはずがないだろうし、
春樹だって帝の壱与に対する恋愛感情と違って私に対するのは家族愛。
頭ではわかってるのに私は帝の中に2人を重ねてみていた。

なんだか2人のこと考えてると彼らのことが気になってきた。

@秋人のことを考える
A春樹のことを考える
B他に候補者を考えてみる
C考えても仕方ないので夢から覚める
136763:2008/03/23(日) 23:26:55 ID:???
@秋人のことを考える

(そういえば、秋人さんあの後どうしたんだろう……)
最後に私を抱きとめてくれた秋人さん。
きっと神宝の力で、心がゆがめられてしまっていたのだ。

(本当はもっと優しい人だったんじゃないかな……?)
最後に見た秋人さんの目は、とても澄んでいて穏やかだった。
そう思ったとき、視界が急激に変わった。

(ここは……)
どうやらどこか部屋の中らしい。
部屋の中は薄暗く、片隅に置かれた電気スタンドがその辺りだけ淡く照らしている。
ふと、人の気配を感じて私は振り返った。

「なぜここへ来た?」
(え?)
私は驚いて、声の主を見る。部屋の隅に置かれたソファに秋人さんが座っている。

「アンタの内から力が消えているのを確認しにね」
私が何か答える前に、部屋の入り口から人影が現れる。

(周防さん……?)
「ふん、悪趣味だな」
「何とでも言えばいいさ。で、気分は?」
「悪くはない」
「自分の内から力がなくなるって言うのはどういう気分なんだろうね?」
「さあ? お前もあの鬼の姫に頼んだらどうだ?」
「それはおいおい頼むとして、今はそれどころじゃないからね」
「まあ、そうだろうな」
秋人さんは意味ありげに笑う。

「お前も気をつけることだ。闇は俺の中から消えた。だが、鬼の姫の内へ移ったわけでもないらしい」
「へぇ?アンタが俺に忠告とはね。明日は雪かな」
「ふん……、まあせいぜい気をつけることだな、従兄殿」
「はいはい、忠告ありがとさん」
周防さんはいつもの調子でヒラヒラとてをふると、部屋を出て行った。

(闇? 闇ってなに……?)
その闇というのが、鬼の国を再建させようとしていたのだろうか。
高村も鬼の一族だったと言っていた。けれど、本来の鬼の力は失って久しい。

(あ……)
考え込んでいると、ふと体が引っ張られるような感じがした。
目が覚める前兆。誰かが呼んでいるようだ。

その声は……
@春樹
A隆
Bチハル
Cお義母さん
137763:2008/03/23(日) 23:48:25 ID:???
C考えても仕方ないので夢から覚める

(きっとその内わかるよね。今までだって不思議とそうなってきたし)

春樹が言っていた運命なら、帝にも出会えるはず。
なぜか確信に近い、予感がする。
焦って考えなくてもいいかな、と思いつつ私は夢から覚めた。

(目が開かない。体が動かない。ということは、まだ駄目なんだ)
がっかりしていると、声が聞こえてくる。

「うーん。こりゃ、チハルが復活するのに、二、三日かかりそうだな」
「そうですか。困ったな」

(隆と春樹の声だ……)

「しかしなぁ、俺が授業を受けてる間に、そんな事があったなんて驚いたぜ」
「無事に帰ってこれて、本当によかったですよ……」

春樹の溜息が聞こえる。
そして、隆が動く気配がして、また話が始まる。

「俺が加勢してたら、もっと楽だったのかもな。呼んでくれりゃよかったのに」
「そんな暇ありませんよ。突然、力が覚醒したと思ったら、高村の伝承が頭の中に入って。
すごく嫌な予感がしたんで、兄さんを追ったら……冬馬先輩が倒されてたんです」
「で、秋人って奴との兄弟喧嘩が始まったわけだな」
「まぁ、そうですね。後はさっき言った通りですよ」

隆が「うーん」と唸っている。
まるで、納得できないという感じだ。

「ていうかお前……ホントに力使えるのか? 何も感じないんだけどな」

(使えてたよ。すごかったんだから)
そんな私の声も届かず、話は進んでいく。

「一応は……。高村家の血筋の者だけが使える、十種の神宝って力なんですけど……」
「で、具体的にどんな力なんだ?」
「八握剣って赤い剣が出るんです」
「そんだけか? あんまり使えないな」
「そうですね。訓練すれば色々使いこなせるみたいですけど……俺は要らないです」
「訓練って面倒そうだしな。ていうかさ、ここでその剣を出してみてくれよ」
「嫌ですよ。物騒じゃないですか」
「もったいぶらずに、いいだろ」

私は……
@(疑われてるなら、剣を出してみたらいいのに)
A(春樹の言うとおり、物騒だよ)
B(隆って、好奇心旺盛よね)
138764:2008/03/24(月) 00:23:40 ID:???
被った。
763の後に投下した方はナシでお願いします

A隆

「おい! 愛菜起きろ!! ホントだなビクともしない」
「じゃあ、チハルはどうですか」
「うーん。こりゃ、チハルが復活するのに、二、三日かかりそうだぞ」
「そうですか。困ったな」

(隆と……もう一人は春樹の声だ)
覚醒したはずなのに、相変わらず目も開かないし体も動かなかった。
(はぁ……まだ駄目なんだ)
がっかりしていると、また隆の声が聞こえる。

「しかしなぁ、俺が授業を受けてる間に、そんな事があったなんて驚いたぜ」
「無事に帰ってこれて、本当によかったですよ……」
「俺が加勢してたら、もっと楽だったのかもな。呼んでくれりゃよかったのに」
「呼ぶ暇なんてありませんよ。突然、力が覚醒したと思ったら、高村の伝承が頭の中に入って。
すごく嫌な予感がしたんで、兄さんを追ったら……冬馬先輩が倒されてたんです」
「で、秋人って奴との兄弟喧嘩が始まったわけだな」
「まぁ、そうですね。後はさっき言った通りですよ」

隆が「うーん」と唸っている。
まるで、納得できないという感じだ。

「ていうかお前……ホントに力使えるのか? 何も感じないんだけどな」

(使えてたよ。すごかったんだから)
そんな私の声も届かず、話は進んでいく。

「一応は……。高村家の血筋の者だけが使える、十種の神宝って力なんですけど……」
「で、具体的にどんな力なんだ?」
「八握剣って赤い剣が出るんです」
「そんだけか? あんまり使えない力だな」
「そうですね。でも、能力者は訓練しだいで別の力も使えるようになるみたいですよ」
「訓練って面倒そうだよな。ていうかさ、ここでその剣を出してみてくれないか」
「嫌ですよ。物騒じゃないですか……」
「もったいぶらずに、いいだろ?」

私は……
@(疑われてるなら、剣を出してみたらいいのに)
A(春樹の言うとおり、物騒だよ)
B(隆って、好奇心旺盛よね)
139名無しって呼んでいいか?:2008/03/24(月) 10:30:48 ID:???
ぶった切りすみません、時々wiki編集している者ですが、wiki管理者様へ

ページ名間違って作成してしまいました、登録メンバー以外修正出来ないようなので修正お願いしますosz
ストーリーを読む 3ページ目 > ストーリーを読む 4ページ目

お手数をおかけいたしますがよろしくお願いします。
140名無しって呼んでいいか?:2008/03/24(月) 12:20:47 ID:???
>>139
wiki編集乙であります
肩車からおんぶに直っててホッとしたw
141765:2008/03/24(月) 13:33:56 ID:???
B(隆って、好奇心旺盛よね)

結構何にでも興味を示して追求するのは子供の頃から変わらない。

(でも、飽きやいんだよね……)
よっぽど気に入ったことでもなければ、隆が飽きるのはやい。
逆に気に入ったことならとことんのめりこむのだ。

「にしても、このままじゃヤバイだろ? おばさんだって心配するし」
「そうなんですよね……でもどうしたらいいのか……」
(そうよね……お義母さんだって心配するよ。もし入院とかさせられたら困るし……)
隆や春樹の様子からして、夕食が終わった後らしい。

「うーん、美波さんに連絡が取れれば……」
「美波さん?」
「あー、お前が出て言った後にいろいろ世話になった人だよ。組織の反主流派で、医者でもある能力者だ」
「組織の……?」
「ああ、でも信用できる人だと思うぜ。 治癒能力が高くて、もしかしたら愛菜を元に戻してくれるかもしれない」
「そうなんですか……?」
「ああ、以前愛菜が電話してたな……リダイヤルで繋がるんじゃないか?
 あ、いや……最初にかけてたのは別の奴にだったかな……たしか、春樹の従兄ってやつだ。
 でも、ま、そいつにかければ美波って奴にも連絡取れるだろ」
(ああ、待ってどこかに不調があるわけじゃないのよ!)
美波さんが来ても何も解決しないだろう。
おそらくこれは神宝を内に宿しているために起こったことだ。

(隆や春樹ともはなせればいいのに……)
周防さんや冬馬先輩、それに秋人さんは、きっと力の使い方を訓練したからお互い念じれば話せるのだろう。
力の使い方の応用もできる一郎くんと修二くんともきっと話せる。。
過去の記憶がある香織ちゃんももしかしたら声が届くかもしれない。
一番いいのはここにいる二人に声が届くことだけれど……

(でも、冬馬先輩と香織ちゃんはケガしたりしてたし、無理させちゃだめだよね)

誰に話しかけよう
@隆か春樹
A一郎か修二
B周防さんか秋人さん
142766:2008/03/24(月) 15:36:35 ID:???
A一郎か修二

(一郎くんとは契約しているし、繋がるかも)

私は一郎くんに念じてみる。
何度も名前を呼んだり、その姿を思い浮かべてみたり、色々試してみた。
けれど、何も返ってこない。

(一郎くんじゃ駄目なのかな。よし、次は修二くん)

修二くんにも繋がらない。今度は周防さんを試してみる。
私が念じている間に、隆と春樹の会話は続いていく。

「愛菜の携帯か。制服の中かな……」

ゴソゴソと物色する音がして、「あった」と声がした。

「あったぞ。さてと……」
「でも、いいんですか? 姉さんの携帯を勝手に触ってしまって」
「緊急事態だよ。うわ、俺の知らない男の名前を発見……。おい、春樹。この名前知ってるか?」
「……知りませんよ」
「お前、保護者だろ。ちゃんと知っとけよ」
「保護者じゃなくて、弟です。ていうか……、なんでアドレス見てるんですか」
「ちょっと気になるじゃないか」
「後から姉さんに怒られても知りませんよ」
「寝てるんだし、平気だって」
「起きてるかもしれないのに……」

(起きてるし! 全部聞こえてるし!)

隆と春樹に叫んでみても、やっぱり声は届かなかった。

結局、一郎くんも修二くんも隆も春樹も周防さんも香織ちゃんや冬馬先輩まで、
知っている能力者に全員に試してみたけど駄目だった。

(困ったな。神宝に問題があるのかな……)

そうしている間に、隆は周防さんを見つけ出して電話を掛けていた。
電話が終わり、春樹が隆に声を掛けている。

「どうでした?」
「ああ。今日は無理だけど、明日の午前中に来てくれるってさ」
「明日……。そうですか」
「まぁ、疲れてるだけかもしれないしさ。今夜は様子をみようぜ」

私は……
@(なぜ誰とも繋がらないのだろう)
A(勝手にアドレス見るなんて。隆、許さないんだから)
B(そういえば、春樹は隆に殴られたのかな)
C諦めてまた夢に入る
143767:2008/03/24(月) 16:37:05 ID:???
A(勝手にアドレス見るなんて。隆、許さないんだから)

いくら緊急事態だと言っても、勝手にアドレスを見るなんて許せない。
周防さんに連絡してくれたのはいいけれど、だからと言って他の人のアドレスまで見る必要なないはずだ。

「にしても、俺も春樹も知らない奴の登録があるなんて思わなかったな」
「……姉さんにだって付き合いくらいあるでしょう」
「そうだけどさ、俺とは同じクラスだし、春樹は家で毎日一緒だろ? それらしい男の影なんてなかったじゃないか」
(ちょっと、いいたい放題言ってくれるじゃないの!)
それらしい男の影というなら、そりゃ無かったかもしれないけど……。
きっと隆も春樹も知らない名前と言うのなら、委員会関係の人か香織ちゃんつながりの人だろう。

「もうちょっと見てみようぜ」
(ちょっと! 隆、いい加減にしなさいっ!!!!)
心の中で、絶叫した時。
パァンと空気のはじける音がした。

「うあっ!?」
「っ!?」
(!?)
突然の音に、一瞬の静寂。

「……な、なんだ?」
「……もしかして姉さんじゃないですか? 勝手に見たから怒ってるんですよ」
「てことは、起きてるのか?」
(起きてるわよっ)
自分がやった自覚は無いけれど、とりあえずこれ以上携帯を見られることはなくなったらしい。

「なんだ、起きてるなら起きてるって言えよな」
「そんな無茶なこと言わないでください。話せたらとっく話してますよ」
ため息をつきながら春樹が近づいてくる気配がする。

「姉さん、とりあえず母さんにはうまくごまかしておきました。明日から土曜日までは仕事で夜も遅くなるそうですから、その点は心配しなくても大丈夫です。明日もこのままなら土曜日までに何とか解決策を見つけます」
(そっか、お義母さん仕事忙しいんだ。 まぁそのおかげで、こうして寝てても余計な心配させなくてすむんだけど)
とりあえず、ホッとしていると隆が話しかけてきた。

「ところで愛菜、おまえチハルと話せるってことは、精霊となら意思疎通が出来るってことか?」
(?)
隆の言葉に首を傾げていると、隆が言葉を続けた。

「ったく、反応が無いってやりにくいな……精霊と話せるなら、お前に好意を持ってそうな道具にお願いして、そいつを通じて会話が出来ないかと思ってな」
「なるほど……でも、チハルと同じ位姉さんと一緒にいて、姉さんに大事にされてるものなんて、あるかな……それにチハルだってすぐに人の姿になれなかったんだ、その精霊が人の姿になれるかなんて分からないよ」
「確かにそうだけどさ、やらないよりはマシだろ?」
「それはそうかもしれませんが……」
私が返事を出来ないために、二人は勝手に話を進めていく。

今の話し私は……
@やってみる価値はある
A気が進まない
B考える
144wiki”管理”人:2008/03/24(月) 17:30:50 ID:???
豚ギリスマソ
>>139
編集乙です。直しておきました。

後、デザイン変えてみましたが使いにくければまた言ってください。
145768:2008/03/24(月) 18:31:52 ID:???
>>144乙です!
B考える

(何か引っかかる……)

私は何かを忘れているような気がする。
チハルと同じ位ものを探すより、もっと手っ取り早い……何か。

『愛菜ちゃんに新しいリボンもらったから、こっちのリボンをあげる』
『ボクがずっと身につけてたから、御守!』
『愛菜ちゃんがいままでだいじにしてくれたぶんもおかえしするよ』
『とりかえっこだね』

そして、夢の中でチハルと指きりした。

(そうだ。チハルの古いリボン……もしかしたら……)

けど、どこに置いたか思い出せない。
チハルに新しいリボンを結んであげた。
そして昔の水色のリボンを……。

(あっ!……思い出した。でも、二人にどうやって……。よし、決めた!)

さっきの要領で怒れば、同じことが起きるはず。

(隆のバカ!乙女のメアドを勝手にみるなんて、絶対に許せない!!!!)
(春樹のアホ!少しは私のこと頼りにしろ!!!!)
(普通の生活を送らせろ!ボケェ!!!)
(冷蔵庫に残しておいた私のプリン食べたの誰よ!!!!)

思いつく限りの腹を立てた出来事を心の中で叫びまくる。

パァンと空気のはじける音がした。
「うあっ!? またかよ!!」
「っ!? 白い羽毛が……たくさん……」
(イタタッ! でも、成功!!)

私の枕が弾け、部屋中に真っ白の羽毛が舞っている……はず。
あとは、古いリボンを見つけてくれれば。

「これ……この水色のリボン」
「ん? なんだ?」
「チハルのリボンですよ。このリボンをまたチハルにつけてみれば……」
「そっか……ナイスだ春樹! チハルが目を覚ますかもしれないぞ」

隆の力の波動が伝わってくる。
明るい隆らしい感じだ。

@隆の願いも聞こえてきた
A様子を見守る
Bチハルに話しかける
146769:2008/03/24(月) 22:11:18 ID:???
>>144 修正ありがとうございます

Bチハルに話しかける

(チハル、チハル? ねえ聞こえる?)
何度か呼びかけると、眠そうなチハルの声が響いた。

(愛菜、ちゃん? どーしたの?)
(疲れてるところごめんね、私の声がチハルにしか聞こえないみたいだから)
(うん、ボクは愛菜ちゃんとずーっと一緒に居たから、愛菜ちゃんの思ってることが分かるんだ。
 愛菜ちゃん、ボクには色々な気持ちを話してくれたし)
(そうなんだ?)
確かに子供のころからチハルには楽しかったことや、悲しかったこと、怖かったことなど色々話していた。
それが、今とても助かることになるとは思いもしなかったけれど。

(それで、何を伝えればいいの?)
(あ、あのね、春樹に伝えて、前にも言ったけど私は体調が悪いわけじゃないって。
 力の乱れから動けなくなったわけじゃないから、美波さんじゃ治せないとおもうって)
(うん、わかったよ)
チハルが頷くのと同時に、耳元でポンという音が聞こえた。
どうやら人の姿になったらしい。

「お、チハル起きたか」
「うん、愛菜ちゃんがね、体調が悪いわけじゃないって、チカラの乱れから動けなくなったわけじゃないから、みなみさんじゃなおせないとおもうって言ってるよ」
「姉さんがそう言ってるの?」
「うん」
(神宝が原因だと思う)
「シンポウが原因だとおもうって」
「神宝って……結局、姉さんがこうなったのは高村の俺達のせいなのか……」
苦しそうな春樹の声が聞こえた。
私は慌てる。

(は、春樹のせいじゃないよ……!)
「ばかだなあ、春樹のせいじゃないだろ? それにお前はもう高村じゃない、大堂春樹だって自分でも言ってたじゃないか」
私が否定するのと同時に、隆が否定する。

「愛菜ちゃんも春樹のせいじゃないって言ってるよ」
「……でも」
「いいからお前、それ以上なにも言うな。 で、愛菜原因は神宝って分かってるんだろ?解決方法に心当たりは無いのか?」
隆は強引に春樹を黙らせると私に話しかけてくる。

(心当たり……)
いわれて考える。

解決方法……
@神器との契約を完成させる
A残りの二つの神宝を取り込む
B内にある力を別のものに移す
Cやっぱりわからない
147770:2008/03/25(火) 09:54:22 ID:???
@神器との契約を完成させる

(神器と契約すれば、この体の不調も収まるはず)

まったく体が動かない理由は、まだ神宝と神器が馴染んでいないからだと思う。
神宝と神器が馴染んで体が動くようになったとしても、神器と契約しないことには不調は続くだろう。
私がもっと鬼に近づかないことには、神宝の力を体に留めておくことは難しい。
儀式ではなく、契約をしなければ鬼には近づけない。
だから、最後の神器と契約する以外に解決方法はないのだ。

私はチハルに頼んで、そのことを二人に伝えた。

「最後の神器が宗像弟かよ。やっかいだな」
「修二先輩は姉さんに対して協力的だったし、大丈夫じゃないですか?」

(でも、修二くんに嫌われちゃったんだよね……)

「あのね。『道具として扱われるのが嫌だ』ってシュウジが言ったんだって。
それでね、『協力しない』って断られたんだって」
「契約は神器と巫女の合意で初めて成立する……そうだったよね、姉さん……」

(うん)

「なんだそりゃ!? 宗像弟以外、愛菜を治せないってことか」
「そうですね」
「それじゃあ、愛菜はずっとこのままだっていうのかよ……」
「そんなこと絶対にさせません」
「春樹。なにか良い手があるのか?」

春樹の気配が黒く変わっていく。

「最後まで協力しないと言い張るのなら……修二先輩の心を壊してでも……」

(駄目ぇ!! 春樹戻ってきて!!)

私はチハルを介して、黒くなりかけていた春樹を急いで止める。

「冗談だって。なに真に受けてんのさ」
(びっくりさせないでよ。もう!)
「けど……修二先輩が協力しないのは本当に困りましたね」
「だな。宗像兄と仲が良いって訳でもなさそうだし、他の誰かの説得も……聞くはず無いよな」

私は……
@私からもう一度頼んでみる
A二人に頼む
B考える
148771:2008/03/25(火) 13:29:54 ID:???
@私からもう一度頼んでみる

(私から修二くんにもう一度頼んで見るよ。だから明日学校が終わってから家に来てくれるように伝えてくれない?)
チハルが私の言葉を春樹たちに伝える。

「分かりました、何が何でも連れてきます」
「任せとけ、ちゃんと連れてきてやるよ」
(二人とも、無理やりはダメだからね……)
二人とも修二くんが嫌がったら、気絶させてでも連れてきそうな勢いだ。

(そういえば、明日は周防さんが来てくれるって言ってたよね?)
「明日スオウがくる?」
「ああ、そうそう。お前の寝てる原因が分からなかったから、とりあえず呼んでおいた。原因が分かったから断っておくか?」
(ううん、聞きたい事があるから)
さっき見た夢が気になる。きっとあれは普通の夢じゃない。

「愛菜ちゃん、スオウに聞きたい事があるって」
「聞きたいこと? なんだ?」
(うん、ちょっと気になることがあって……、ねえ春樹、秋人さんって急に性格が変わったんだよね?)
「ええ、以前はもっと優しい人だったよ。
 そんなに態度には出さないようにしてるようだったけど、気がつくと助けられてたってことも結構あったな」
(やっぱりだいぶ性格が変わったみたいだね)
秋人さんが言っていた「闇」と言う言葉が気になった。
周防さんはそれが何か分かっているような口ぶりだったから、明日来たら聞きたいと思ったのだ。

(それにさっき一瞬春樹の気配が黒く変わった……それも気になる)
いまは全く感じないけれど、あの時確かに今までの春樹なら口にしないことを言った。

(周防さんにそのことも確認したいし、ね)
(愛菜ちゃん……?)
不安そうにチハルが心に話しかけてくる。
チハルにも春樹の異常が分かったのかもしれない。

@チハルを安心させる
Aもっと秋人さんのことを聞く
B今日はもう寝る
149772:2008/03/25(火) 15:34:08 ID:???
B今日はもう寝る

(周防さんに来てから尋ねればいいか……)

神宝と神器を体に馴染ませるためには、少しでも休んだ方が良い。
いくらチハルとの会話でも、少しは力を使っている。

(チハル。ちょっと疲れたらかもう寝るね。春樹と隆にも言っておいて)
(わかったー。おやすみ、愛菜ちゃん)
(おやすみ。チハル)

意識が落ちて、また夢が現れた。

(これは壱与の中。……でも、あれから数年経ってるみたい……)
大堂愛菜の意識は壱与の中で、また静観しはじめる――。

あれから、私たちはお互いの気持ちを封印し、強い信頼関係を築いていった。
けれど、三種の神器はその拠り所を失い、力を弱めていく一方だった。
人間に与えられた祝福だったけれど、私が壊してしまったのが原因だ。
託宣も最近は得られず、巫女としての使命に限界を感じ始めていた。

「壱与!」
「帝……!」

久しぶりに現れた帝は、少しやつれ気味だった。
天災続きで、政にも影響が出ているのだろう。

「今日は面白いものを持ってきた。見てくれないか」

顔色とは裏腹に、帝は子供のようにはしゃぎながら私にある竹簡をみせる。

「これはなんでしょう?」
「大陸から贈られたものだ。しかし、文字というのは難しいな……」
「えーっと……これは経典ですね」
「なぜ分かる? まさか、君は大陸の文字が読めるのか!?」
「ええ。出雲と楽浪郡は貿易が盛んでしたので……」
「すごいぞ! 頼む、僕に文字を教えてくれないか」

(教えてしまってもいいのかしら……)

@教える
A教えない
B考える
150773:2008/03/25(火) 18:50:03 ID:???
@教える

「いいですよ」
「本当か!? ありがたい」

これを期に、私は帝に文字を教えることになった。
大和が大陸と本格的に貿易を始めたのが、最近だという話だった。
帝は要領がいいのか、砂が水を吸うように文字を覚えていく。
そして、数ヶ月もしない内にほとんどの文字が読めるようになっていた。

「この仏教というのは、興味深い教えだな」

帝はしみじみと竹簡を見ながら、呟いている。

「どういった内容なんですか?」
「うーん。色々なことが書いてあるな」
「色々……」
「一言でいうと、心の在り方を説いている……というところだ」
「心の在り方?」
「個である意識の問題かな。たとえば、思うようにならない苦しみがあるだろう?」
「はい」

(災厄に疫病……思うようにならないことばかり)

「なぜ苦しむのか。それは、比べているんだ。思い通りになった自分と。そして嘆く」
「なんとなく……わかります」
「苦しむことも嘆くことも比べる事自体が無意味なんだ。自分自身も原因と結果の一つに過ぎないのだから。
その大きな流れの中で自分は生かされている。けれど、自分の行いもまた原因を作り結果を生む。
だから、身の丈にあった出来ることを精一杯すればいい。要約すればそんな感じだろうな」
「難しいですね」
「まあな。僕は絶対者である神の系譜だ。だが、この教えは絶対神を否定している」
「神であることに、疲れているのですか?」
「そうだな……。きっと、そうなのだろうな」
「でも……」

そう言いながら、私は言葉を続ける。

「でも……すべての中に神はいます。小川のせせらぎの中にも。風の中にも。
たとえ祝福がなくなってしまったとしても、人はその美しい声を聞くことが出来るはずです」

「そうか。やはり君は:…気高く…強いな……」
帝は私を見ながら、穏やかに笑った。

(二人が何を言っているのか全然わからなかった……)

私は……
@夢を終える
A続きを見る
B考える
151774:2008/03/26(水) 11:08:18 ID:???
B考える

二人が何を言っているのかは分からなかったけれど、壱与の言った言葉は私も知っていることだ。

(すべての中には神がいる……)
壱与が言っている神には精霊も含まれているのだろう。
チハルは、精霊は力が強くなると神に昇格すると言っていた。
つまり、すべてのものは神になれる可能性を秘めているのだ。
壱与にとってそれは当たり前で、帝がなぜそんな事を言うのか不思議に思っている。
私はふと、壱与のいるこの時代の風景を見たくなった。
大和に来てから壱与の記憶はほとんどが神殿の室内で、外の景色はその窓から見える範囲に限られていた。

(ちょっと見て見たいな……)
ふとそう思うと、不意に視界が変わった。

(ここは……?)
どうやら森のなからしい。
現代の日本では限られた場所でしか感じることが出来ない濃い緑の香り。
重さを感じてしまうくらい濃密な空気。
そして、そこここに感じる力の気配。

(この力の一つ一つが精霊なのかな? ……あれ?)
澄んだ力の気配とは異質な気配を感じて私はそちらに意識を向けた。

(なんだろう……懐かしい感じもするのに、嫌な感じもする……)
確認したいけれど、かすかに感じる嫌な気配にためらってしまう。

どうしよう……
@行く
A行かない
152775:2008/03/26(水) 12:40:20 ID:???
@行く

(せっかく来たんだしね)

私は湿り気を帯びた空気を吸いながら、深い森をさらに進んでいく。
すると、鏡のように澄んだ池が見えてきた。

「お前は……誰だ」

うしろから声がして私は振り向く。
すると、隆が立っていた。

「隆!!」
「……人間じゃないな。何者だ」
「隆……なんでこんな所に? 迎えに来てくれたの?」
「タカシ? それはどんな食べ物だ。うまいのか?」
「何言ってるの? それに……そんな裸みたいな格好してたらお腹痛くなるよ」
「貴様……よく見ると鬼だな」

隆はそういうと、途端に敵意むき出しにして私を睨む。
(ヘンな隆……)
それに……格好だけじゃなくて、いつもの隆とは決定的に違っているものがあった。

「耳……だ」
「鬼め。ここの精霊たちを喰いにきたのだろううが、そうはいかないからな」
「よく出来てる耳。隆が作ったの?」
「この土地を守護する者として貴様を倒す!」
「何の変装…わかった! お化け屋敷のだ」

私はその良く出来た耳をギュッと触る。
すると生きているみたいに暖かくて、ピクンと動いた。

「わ! 本当に生えてるみたい」
「気安く触るな!」
「狼男のつもり? だけど、香織ちゃんから聞いてるでしょ。うちクラスは和風だよ」
「俺の話も完全に無視とは……大した度胸だ。死んでから後悔するんだな!」

そう言うと、隆は私に掴みかかってきた。
どうする?

コマンド
@たたかう
Aにげる
Bぼうぎょ
153756:2008/03/26(水) 14:46:32 ID:???
Bぼうぎょ

私はとっさにぎゅっと目を瞑り、顔の前で手を交差して頭をかばう。
けれど、衝撃は来なかった。

(あれ?)
不思議に思って、おそるおそる目を開ける。
目の前に隆はいなかった。
あわてて周りを確認すると、私の後で呆然と立っている隆がいた。

「すり抜けた? ……貴様、普通の鬼でもない、のか?」
悔しそうに唇をかみしめる隆に、私はふと疑問を覚える。

(そういえば隆に、私が鬼になったこと言ってないよね……? 何で知ってるの?)
春樹が隆に言ったのだろうか?
いや、春樹がわざわざそういうことを言うとは思えない。
それにあの耳も、温かくて血が通っているようだった。

「何者だ……その強い力……」
敵意をむき出しにしたまま、警戒するように隆は幾分腰を落として私を見ている。
いつでも飛びかかれるような態勢だ。
それに、すり抜けたってどういうことだろう?
私はさっき普通に触ることが出来た。

「ね、ちょっと聞いていい? あなた隆じゃないの?」
「だからそれはなんだ?」
「そっか、違うのか……」
けれど、見れば見るほどそっくりだ。

(耳だけは違うけどね……そういえばさっき……)
ここを守護するものとか、精霊を喰いにきたとか言っていたような?

「ちょ、ちょっと、もしかして私が精霊を食べるとでも思ってるの!?」
「食べないとでも言うのか? 貴様鬼だろう……ちょっと変わってるが」
「食べるわけ無いじゃない!」
そりゃあ、野菜なんかにも精霊がいるのだからそういう意味では食べてると言えるけど……。

「野菜とか果物とかは食べるけど、それにも精霊がいるんだろうけど……むやみに食べたりしないわよ」
私の言葉に、隆のそっくりさんはぴくっと耳を動かした。
けれどそれは私の言葉に反応した分けでは無いらしい、私もすぐに異変に気付く。

「なに、この嫌な感じ……」
さっき感じた嫌な感じがこちらに近づいて来る。

「敵が来る」
「え?」
「お前の仲間だろう」
「……鬼ってこと? でも、鬼の一族は壱与以外……まさか、高村の一族?」
力の弱くなった鬼、それが高村の一族だといっていた。

突然空気が震える。まるで、何かが引き裂かれたかのような感じがした。

「な、なに!?」
「くそっ、鬼めっ」
隆のそっくりさんが、ものすごい勢いで嫌な感じがする方へと走って行く。

私は……
@追いかける
Aこの場にいる
B考える
154777:2008/03/26(水) 15:55:37 ID:???
@追いかける

「隆! 待ってよ!!」
私は急いでその背中を追いかけた。

(足、早すぎ……)

「見つけた……手負いの鬼だ」
隆のそっくりさんが草むらに隠れる。
私もそれにならった。

陰から覗いたその姿は、それなりの地位を持っているであろう男性だった。
小川の脇、大木に座り込んでその身を隠している。
身体から止めどなく血が流れ、酷い怪我をしていた。

(助けなきゃ……)
「おい、お前!ちょっと待てって!!」
そっくりさんの制止を振り切り、草むらから飛び出すと男性の前に立つ。
「大丈夫ですか? すぐに祈祷を……名前を教えてもらっていいですか?」
祈りを捧げるためには対象者の名前が必要だった。
「……守…屋」
「わかりました。それ以上はしゃべらないでください」
私はその男性の身体に触れ、祈り始める。

「見つけたぞ! こっちだ!!」
その時、男性を追ってきた兵のひとりに見つかってしまった。
(どうしよう……このままじゃ、この人死んじゃうよ)

もぞもぞと草むらが動いて、隆のそっくりさんが現れる。
そして男性を背負うと、私に向かって口を開いた。
「こっちこい。見つからないとこまで走れ!」

私は……
@ついていく
Aやめる
B考える
155778:2008/03/26(水) 17:13:20 ID:???
@ついていく

私はあわてて隆のそっくりさんについていく。
人を一人背負っているとは思えない速さで走って行く彼に、付いて行くのが精一杯だ。

「おい、お前たち侵入者だ、かく乱しろ」
そっくりさんは走りながら周りに向かって声をかけている。
その声に反応するように、精霊のものと思われる力が幻影を作り出していく。

「すごい……」
振り返って見ると、幻影に惑わされた兵士が別の方向へ走って行く。
しばらく走り、繁みに囲まれて隠れるのによさそうな木の根元で、そっくりさんは守屋さんを降ろした。

「ここまでくれば平気だろ」
「………っ」
「! すぐに癒します」
私はあわてて傷の上で手をかざす。
守屋さんの名前を唱え、神に祈る。
身の内にある、神宝の力が守屋さんを癒していく。
鬼ということもあるのか、力はすぐに守屋さんの傷を塞ぐ。
流れた血はさすがに戻せないけれど、これで命に危険は無くなったはずだ。
守屋さんはぐったりとしていて、まだ話す元気は無いようだ。

「あんた、その力……巫女? いや、だが間違いなく鬼の気配が……」
隆のそっくりさんがぶつぶつと言っているのに気付いて、私は振り変える。

「私は鬼だけど、巫女でもあるの……昔ね」
「昔?」
「うーん、なんて説明すればいいのかな? 前世?」
「ふーん……?」
そっくりさんは納得したのかしないのか、あいまいに返事をする。
とりあえず、このそっくりさんに名前を聞いてみようと、私は立ち上がってむきあう。

「私、愛菜っていうの。あなたは?」
「アイナ? 変な名前だな……。 俺は……」
そっくりさんはそこで言葉を濁し、視線をさまよわせふと一点で視線を止めた。
そちらをみると、木の枝が風で揺れ葉に光が反射してている。

「俺のことは光輝とでも呼べばいい」
「コウキ?」
「そうだ」
「ていうか、いま思いついたみたいな答えなんだけど?」
「あたりまえだ、良く知りもしない相手に本名を教える精霊がいるわけ無いだろう」
いわれて、記憶がよみがえる。
そういえば、真名とはとても大切なものだった。
現代でこそ普通に名乗りあっているが、この時代では真名を握られると言う事は命を握られるのと同意だった。

(普通に名前教えちゃったよ……ま、いいか)
光輝が私の真名をしって、何かするとは思えない。

とりあえず……
@ここはどこか聞く
A守屋さんの様子を見る
B追っ手が来ないか探って見る
156779:2008/03/26(水) 18:56:18 ID:???
A守屋さんの様子を見る

(守屋さん。大丈夫かな……)

守屋さんの身なりは、ちゃんとしていた。
材料の乏しいこの時代でも、上等なものはすぐにわかる。

(若く見えるけど……この人、身分が高い)

だけど、なぜ追われていたんだろう。
あの兵は、たぶん大和も者だ。

(ということは……出雲の民……?)

大和の兵に追われている鬼ならば、逃げ延びた出雲の民に違いない。
けれど壱与の記憶を遡ってみても、王族で思い出すことは出来なかった。
(身分は高いけど、きっと王族じゃないんだ……)

その時、守屋さんの口から意外に名前が漏れる。

「おやめ……くだ……さ…い…帝…」

「え?」
驚いた私を見て、光輝が振り向く。
「どうした。何を驚いているんだ?」
「この守屋さんが、今、おやめください帝って……。まるで…家臣みたいに…」
それを聞いて、光輝が腕を組んで首を振った。

「あんたの聞き間違いだろ。鬼と大和の帝といえば、いくさで殺しあった国同士だ。
森の中に住んでる俺でも知ってる事だぜ」
「うん。そうだね……」

(でも、たしかにそう聞こえたんだけどな)

「ところで……鬼の女」
私が考え込んでいると、光輝が声をかけてきた。
「あのさー。鬼じゃなくって、愛菜って呼んで欲しいんだけどな」
光輝はキョトンとした顔で私を見て、鼻の頭を掻いている。

「どうしたの?」
「あ、いや……。なんでもない……」

@「何、気になるじゃない」
A「名前が呼び辛いの?」
B「それにしても、隆にそっくりだね」
157780:2008/03/27(木) 10:18:54 ID:???
B「それにしても、隆にそっくりだね」

鼻の頭を掻く仕草もそっくりだ。
もしかしたら、隆と同じで照れてるのかもしれない。

「そのタカシってのはなんだ?」
「私の幼馴染だよ」
「じゃあ鬼なのか」
途端不機嫌そうに、光輝は顔を顰める。

「違うよ。人間。精霊と話をすることが出来るけど、鬼じゃないよ」
「なんで鬼に人間の幼馴染なんているんだよ」
「なんでといわれても……私が鬼になったのだって最近だし……」
「はぁ? 元々はお前も人間だったって言うのかよ」
意味が分からないと言うように、光輝は首をかしげる。

「うん、そうだよ。三種の神器と契約しちゃったから、鬼として目覚めたんだって」
「わけわかんね。大体、神器は大和が管理してるだろ。最近はその力もやけに弱くなってるが……。
 それに、お前の中にあるのは神器じゃないだろう」
「分かるの?」
「あのなあ……俺はこの地を任されてるんだ。 それなりに地位が高いんだよ。
 これくらい分からないでどうする」
「へぇ……光輝ってえらいんだ」
隆と同じ顔だからあまりそういう感じはしないけれど、そういえばさっき周りの精霊に命令していた。

「当たり前だろ? まったく礼儀を知らない奴だな」
「ご、ごめんね」
そうだ、隆とそっくりだけど光輝は隆じゃない。
地位の高い精霊みたいだし、隆と同じ感じで話していたらすごい失礼なことなのかもしれない。

(って、あれ? ……これって夢、だよね?)
これは過去の私の夢ではないのか?
けれどここに壱与はいない。壱与はあの神殿から出られない。
そして壱与の記憶のどこにも光輝のことは無かった。守屋さんのことも。

どういうこと?
@実際に過去に来ている
A他の誰かの夢
B気にしない事にする
158781:2008/03/27(木) 13:48:23 ID:???
@実際に過去に来ている

(壱与から抜け出して、過去に来てるのかな……)

よくわからない。
でも、今までの夢から現実での謎が解けてきている。
だったら、今回もこの夢に意味があるのかもしれない。

「くっ……ここは…」
どうやら守屋さんが目覚めたみたいだ。
私は守屋さんの傍まで、急いで駆け寄る。

「…一体…どこ…なん…だ…」
「ここは……えっと光輝。ここはどこ?」

光輝は「はぁ?」という顔をして、仕方なさそうに口を開く。

「ここは穴虫峠の外れだ」
「……そうか、俺は……君らに助けられたのか……」
「怪我をしていたので、治療しておきました」
「……すま…ない」

そして、守屋さんはまた目を閉じてしまった。
ジッと睨みつけるように見ていた光輝に、私は顔を向ける。

「どうしたの怖い顔して?」
「……鬼の女、この守屋ってヤツの手を見てみろよ」
光輝に言われて、私は守屋さんの手を見る。

二十五歳過ぎくらいに見える年齢のわりにゴツゴツとしていて、無骨な手をしている。
マメやタコの跡らしきものもあって、お世辞にも綺麗とは言えなかった。

「それ、剣ダコだぜ。きっと、かなりの使い手のはずだ」
「剣ダコ?」
「剣の握りのことに出来るタコだよ。んなことも知らないのか?」
「知らないよ……」

「うぅ……」
守屋さんが微かな唸り声を上げている。
傷口は塞いでも、痛みまで取り除くことは出来ない。

(壱与に比べると鬼の力は弱い……けど、さすがに鬼だ…)

普通の人間だったら、私が治療しても間に合わなかっただろう。
特に失血が酷かったのか顔色は青白く、身体が小刻みに震えている。
きっと、体温が下がっているのだろう。

私は……
@もういちど治療する
A身体を温める方法を探す
B光輝に話しかける
159782:2008/03/27(木) 15:24:55 ID:???
A身体を温める方法を探す

(とにかく暖めなくちゃ……)
私はとりあえず自分の着ている服を見下ろす。
今まで気にしていなかったけれど、私は制服を着ていた。

(これじゃあ暖められないよ……)
せめてコートとか来ていれば毛布代わりになったと思うが、無い物はしかたない。
火をおこすことも考えたけれど、追っ手がいる今煙なんて見えたらこちらの場所がばれてしまう。

(どうしよう……こういうとき使えそうな術とかなかったかな……)
私は必死に記憶を探る。
火を操る術ばかりが頭をよぎる。

(だから、火じゃ駄目なんだってば……)
結局何も思い浮かばす、私は原始的な方法を取ることにする。

「?」
不思議そうな顔をする光輝を尻目に守屋さんの手を取る。

「うわ、冷たい……」
血が足りないのだろう。すっかり体温が下がっている。
私はあわてて守屋さんの手をさする。
手の皮が厚くごつごつとしていて、ところどころささくれている為、さすっていると私の手も痛くなってきたが気にしていられない。

「……おい」
「なによ」
「放って置けよ。鬼なんだ、そんな簡単に死にやしない」
「分かってるけど、でも何か出来るならしたいじゃないの」
背後からかけられる光輝の声は、不機嫌そうだったがこの状態の守屋さんをただ見ているだけなんて出来ない。

(どうしよう……ぜんぜん暖かくならないし、なんだかさっきよりつらそう?)
「なんでそんなに必死になるんだ? 同じ鬼だからか?」
光輝が私の横に立つ。

なぜって……
@「そうかも?」
A「ケガ人だもの」
B「理由なんて考えなかったよ」
160783:2008/03/27(木) 17:27:07 ID:???
A「ケガ人だもの」

「手負いの獣は放っておくのが普通だろう。変わってるな」
「そうなの?」
「そうさ。下手に助けたら、今度は自分がやられちまうからな」
「確かに……私も危なかったもんね」

そこでふと思う。
大和の兵に見つかったとき、なぜ光輝は助けてくれたんだろうか。

「じゃあ、光輝は…なぜ私と守屋さんを助けようと思ったの? 普通だったら、助けないんだよね」
「普通だったらな」
「普通じゃなかったってこと??」
「そりゃ……お前を死なせるのが……急に惜しくなったんだよ」

光輝はそう言うと、私の横に静かに座った。

「鬼のくせに……いい匂いだったからさ……」
「えっ…」
「ホワホワするっていうか……」

そして、私の髪の間に指を絡ませる。
裸みたいな隆が、私の髪の匂いを嗅いで目を細めている。

(ななななな、なに!?)

私は混乱して、光輝を思い切り突き飛ばした。
光輝は勢いよく転がり、後ろにあった倒木に頭をぶつけていた。

「いってぇー!!」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫なわけあるか! この暴力鬼!!」
「ごめんね。本当にびっくりしただけなんだ」

(ゴンって、すごい音してたし……)

私が何度も謝ると、光輝はようやく許してくれた。
「ちっ、仕方ねェな。二度とすんなよ」
「ほんと、ごめん……」

その後も、私はしつこいくらいに守屋さんを暖め続けた。
けれど、顔色は一向に良くならない。
「おい……」
「何?」
「そんなに、鬼の男を助けたいのか」
「うん」
「まったく、仕方ねぇな……」
光輝は守屋さんを背負うと、ぶっきら棒に言葉を続ける。

「付いて来い。俺のねぐらはここより暖かいからな」

どうしよう?
@付いて行く
Aやめる
B守屋さんを見る
161784:2008/03/27(木) 19:25:07 ID:???
@付いて行く

「ありがとう、光輝」
守屋さんを背負って前を歩いていく光輝にお礼を言う。

「なんで、お前が礼を言うんだよ?」
「だって、この人を助けてくれたもの」
「だから、なんでお前が礼をいうんだ? こいつはお前とまったく関係ない鬼なんだろう?」
「でも、私が助けたいって言ったから助けてくれるんでしょ?」
「……気が向いただけだ」
そういう光輝の顔が赤い。

(なんか、こういう素直じゃない反応もそっくりだよね、本当に隆を相手にしてるみたい……)
光輝のねぐらという場所はさっきの場所からそれほど離れていなかった。
けれど……

「ちょっと、光輝、これがねぐら、なの?」
「おう」
光輝は短く答える。私は呆然とそれを見た。

(おっきい……)
神社でみるような御神木よりもはるかに大きな木だ。
いったい何百年、いやもしかしたら千年以上生きているのかもしれない。
光輝はその木の枝をひょいひょいとジャンプして上へ上へと登っていく。

「ちょ、ちょっと!」
あっという間に姿の見えなくなった光輝に、私は呆然と立ち尽くす。
けれどすぐに光輝が戻ってきた。守屋さんはもう背負っていない。

「なんだ、登れないのか? 仕方ないな」
光輝は立ち尽くす私を見て肩をすくめると、掬うように私を抱き上げる。
いわゆるお姫様抱っこだ。

「ちょ、ちょっと!?」
「登れないんだろ? おとなしくしてろ」
私よりも重い守屋さんを軽々運んでいただけあって、まるでなんでもないことのように再度ひょいひょいと木を登っていく。
思わず下を見てしまった私は、思わず光輝の首にしがみついて目を閉じた。

「た、高い高いっ!」
「うあ、急に首を締めるな! びっくりするだろ!? ……ほら、ついたぞ」
言われてなるべく下を見ないように恐る恐る目を開く。

「わぁ……」
この木は回りの木よりも大きいため、そこから見える景色は緑色のじゅうたんのようだった。
思わず感嘆の声を上げ、ふと思い出す。

@「守屋さんは?」
A「お、おろして」
B「ここに住んでるの?」
162785:2008/03/27(木) 21:05:08 ID:???
B「ここに住んでるの?」

「さっきから、ねぐらだって言ってるだろ……」

呆れたように言いながら、光輝はゆっくり下ろしてくれた。
喜んでいる私を見つめながら、呆れながらも満足そうに鼻の頭を掻いている。

「柔らかい……踏んでも平気なんだよね」
「ああ」

私は緑色のじゅうたんを踏みしめながら、先に歩いていく。

「ちょっと待て!」
「な、なに……うわぁ!」

緑のじゅうたんの底が抜けて、片足が落ちそうになる。
光輝が咄嗟に私の手を掴んでくれた。

「危ないだろ! よく見て歩けよ」
「あ、ありがとう。気付かなかったよ……」

敷き詰められた緑の中に、ところどころ黄色や、茶色になっている場所がある。
葉が腐って落ちてしまった場所もあるようだった。

「葉っぱ、腐ってたんだね」
「この大木は特に土地の恩恵を受けているんだ。けど、酷い有様だろ」
「どういうこと?」
「最近、ここの土地もすっかり痩せちまってんのさ」

光輝はそれだけ言うと、私を守屋さんのところまで黙って案内してくれた。

(なんのことだろ……)

「ほら、鬼の男だ」
「うわぁ……ここは……」
「ここなら、身体の回復も早いだろう」

(世の中に満ちるエナジー。一郎くんや武くんが言ってたのはこれだったんだ……)

蛍のような光が渦巻く場所に、守屋さんは寝かされていた。
その薄緑色の光は数千、数万という膨大な数だった。
光の塊が渦を巻いたり広がったりしながら、守屋さんの周りを漂っている。

どうしよう……
@光輝に話しかける
A守屋さんに近づく
B考える
163876:2008/03/28(金) 11:14:57 ID:???
A守屋さんに近づく

守屋さんの横に座って、顔を見ると先ほどより少しは顔色が良く見える。
この場所のおかげなのだろう。

「よかった……」
試しにその手を触ってみる。けれど体温は相変わらず低い。
私はさっきと同様その手をさする。
後から光輝が近づいてきて、私の横に胡坐を掻いて座る。

「……なに?」
その手が伸びてきて私の髪を触ってくる。
守屋さんの手をさすりながら、顔だけ光輝に向ける。

「……気にするな」
「気にするなって……気になるに決まってるじゃない」
「そうか、だけど本当に気にしなくていいぞ。
 お前に触ってると力が回復する気がする。ほわほわして気持ちいいし、不思議な奴だな」
言いながら髪に触ってくる。けれどそれ以上近づいてこないのは、さっきのことを警戒しているのかもしれない。

(そういえば、チハルもそんなこと言ってるよね。やっぱり光輝も精霊だから感じるのかな?)
私の中の何がそんなに精霊に心地いい物なのか分からない。

(でも、隆と同じ姿って言うのがちょっとねぇ……そういえば)
「ねえ、光輝。もしかして子供の姿になれたりする?」
「ん? まあな」
どうしてそんなことを聞くのかと、首を傾げる光輝に私は……

@「聞いて見ただけ」
A「変わってみて?」
B「それじゃ、毛布とかにも変われるよね」
ああ、番号間違い786ですorz
165787:2008/03/28(金) 12:18:11 ID:???
B「それじゃ、毛布とかにも変われるよね」

「モウフ? それは美味いのか?」
「違うよ。食べ物じゃなくて、寝てる人に掛けたりする物なんだけど」

私が説明に困っていると、光輝が閃いたようにポンと手を叩く。

「わかった。ムシロの事だな」
「ムシロって言うんだね。光輝お願い、それに変わってもらって守屋さんを……」
「ヤダ」
「どうして? いいじゃない」

はっきりと断る光輝に対して、私は言い募る。
でも、光輝は「嫌だ」の一点張りだ。

「寒そうにしてて、可哀想だよ」
「ムシロに変身してても、男と一緒に寝るなんてごめんだ。諦めるんだな」
「変身してくれないの?」
「当たり前だ」

そう言うと、光輝は不機嫌に立ち上がる。

「助けたのはお前がいい匂だったからだ。鬼の男がどうなろうと俺には関係ない」
「じゃあ、守屋さんが辛そうでもいいって事?」
「手負いの獣が死ぬのは天命だしな」
「そんな……」
「同属同士なんだ。お前がこの男を暖めればいいだろ」
「でも……」
「俺がしてやるのはここまでだ。これ以上はお前でどうにかしろ」
「お願い。今頼れるのは、光輝しか居ないんだよ」
「じゃあ、俺の女になれ」

(……へ?)

「鬼だが、お前は気持ちいい。女になるのならこの男を助けてやる」

な、なんだって―!!
@仕方がないので私が暖める
A光輝の女になる
B考える
166788:2008/03/28(金) 14:49:17 ID:???
B考える

(光輝って以外にプレイボーイ……?)
隆に似た外見のため、つい右手で拳をつくってしまう。

「それ、本気でいってるわけ?」
「な、なんだよ……」
一瞬光輝はひるんだが、すぐにぷいっとそっぽを向く。

「嫌ならいいんだ。さっきも言ったように別に俺はこの鬼がどうなろうと、しったこっちゃないからな」
隆なら私が少し怒った様子を見せれば妥協案を提示してくるけれど、さすがに光輝だとそうはいかない。

「……ちなみに光輝の女になるってどう言う事?」
光輝は精霊だ、女になるっていう意味ももしかしたら人とは違うかもしれない。

「なんだ、その気になったのか? 俺の女になるって言うのはずっとそばに居るってことだ」
「そ、そっか……」
(あいまいすぎて、深い意味があるのかどうかわからないよ……でも……)
今は過去に来ているのかもしれないが、いつ目が覚めるか分からない。
ずっとという約束は出来ないのだ。

「ごめん、ずっと一緒にいる約束はできないや」
「どうしてだ?」
「だって、私ここにずっといられないもの。たぶん急にもとの場所に戻されるだろうし」
「なんだよそれ?」
「うまく説明出来ないけど、元の所に戻らなくちゃいけないの」
「誰かに無理やり、連れて行かれるってことか?」

うーん、なんて説明しよう
@「えっとね、本当の私は眠ってるの」
A「誰かってわけじゃないけど、私の意思じゃどうにもならないよ」
B「違うよ、私は本来ここにいない人だから」
167789:2008/03/28(金) 21:14:48 ID:???
B「違うよ、私は本来ここにいない人だから」

「じゃあ、本来はどこに居るんだ?」

当然の質問だ。
私だって同じことを尋ねるだろう。

「未来……ずっと未来から来たんだよ」

光輝はキョトンと目を丸くした後、段々不機嫌な顔になっていく。

「嘘にしても、もっと上手い嘘つけよ……」
「本当なんだよ」
「俺のこと、バカにしてるんだな」
「バカになんてしてないってば」
「なら、ふざけてんのか? 鬼だからって、精霊の俺を見下してんだろ」
「質問してきたから答えただけなのに、なんで怒られなくちゃいけないの?」
「くだらねぇ。もうお前だけでどうにかしろ。俺は知らないからな」

光輝はプイと私から背けて歩き出す。
そして、この場所から黙って去ってしまった。

(怒らせちゃった……)

残ったのは、私と青白い顔をした守屋さん。
守屋さんの手をさすりながら、自分のブレザーを身体に掛ける。
だけど私のブレザーでは、大きさが全然足りない。

「どうしよう……」
独り言を呟いていても、助言はない。
自分でどうにかしないと、守屋さんが辛そうだ。

私は……
@添い寝をする
A木の葉をむしる
B守屋さんを触る
168790:2008/03/29(土) 01:22:08 ID:???
A木の葉をむしる

(火を使ったら、この木が燃えちゃうよね……)

今、ここには私しか居ない。
傷は治したけど、低体温での命の危険も十分あり得る。
私が諦めてしまったら、守屋さんが死んでしまうかもしれない。

(ごめんね。少し摘ませて)

私は黄色や茶色になった木の葉をしゃがみ込んで千切っていく。
あちこちの別の場所に散らばった枯れ葉を拾い集めるのは大変だ。
水分の少ない葉を出来るだけ沢山にしないと、身体が湿ってしまっては逆に体温が奪われてしまう。

(こ、腰が……)

小山が出来るほど貯める頃には、腰が痛くなってしまった。
私は守屋さんの着ている服をなるべく緩める。
そして、大量の枯れ葉を守屋さんの上に掛けていった。

(よし。これでオッケーかな)

守屋さんの身体は枯れ葉にすっぽり覆われた。
毛布とまではいかないけど、まったく無いよりはいいはずだ。

(やっぱり、するしかない。よしっ、決めた)

私はリボンを解いて、ブラウスを脱ぐ。
キャミソールは……最後の防衛線なのでさすがに脱げなかった。
とりあえずブラウスも枯れ葉の上に乗せてみる。

(変態みたいだけど……失礼します)

枯れ葉のベッドにモゾモゾと潜り込む。
そして、素肌がなるべく触れ合うように身体を密着させた。

(こんな格好で男の人にくっついたことなんて、初めてだよ)

泣きたくなるけど、目の前で守屋さんが亡くなってしまうのは絶対に嫌だ。
私はチハルがするみたいに、しっかりと守屋さんに抱きついた。

私は思う……
@守屋さん。はやく元気になってください
Aお父さんやお継母さんや春樹が見たらなんて言うだろう
Bそういえば、光輝はどこへ行ったんだろう
169782:2008/03/29(土) 10:47:55 ID:???
@守屋さん。はやく元気になってください

祈りながら、少しずつ鬼の力も送る。
すると、熱に反応したのか鬼の力に反応したのか守屋さんは身じろぎすると、私をぎゅっと抱きしめてきた。
守屋さんの冷たい身体に私の体温が奪われ、思わず身震いする。
その目は堅く閉ざされたままだ。

(無意識、なのかな?)
きっと本能がそうさせたんだろう。 
自分で熱を生むことが出来ない身体が、近くにある熱を欲するのは自然のことだ。
私は守屋さんの顔を見る。こころもちさっきより顔色がいいように見えた。

(この場所のおかげでもあるかな?)
さっきまで眉間に刻まれていた皺も、いまは無く呼吸も少し穏やかになっている。
と、守屋さんの瞼がピクリと動いた。
それからゆっくりと目が開いて、守屋さんを見ていた私と視線が合う。
守屋さんは、どこかぼんやりした感じで瞬きをすると少し首をかしげた。

「……ひ、め?」
「え?(ひめ、って姫のことよね……壱与と間違えてる?)」
守屋さんは鬼なのだから、私が知らなくても壱与を知っている可能性はある。
私が鬼の力を分けているから、意識がまだはっきりしていない守屋さんは勘違いしているのかもしれない。

「姫、申し訳、ありません、王をお守り、できず…………生き恥を……さらし……」
やはり私を壱与と間違えているようだ。

「……人間と偽り姫を……お助け……と………鬼の国を………お慕い……」
途切れ途切れにの言葉にが、だんだんと小さくなっていく。
最後の方の言葉はほとんど聞こえず、何を言っているのかわからなかった。
そして開いていた目もまたゆっくりと閉じられる。

(出雲の王様を守っていた人、なのかな?)
光輝の言葉を思い出す。
守屋さんの手は剣を扱う手だと。かなりの使い手であろうとも。
それに、少し気になる言葉を言っていた。

@人間と偽って、って……
A鬼の国を、って……
Bお慕い、って……
↑ああああ、また番号逆行orz
791です
171792:2008/03/29(土) 12:15:17 ID:???
@人間と偽って、って……

人間と偽って、鬼の守屋さんは何をしていたというか。
姫がもし壱与なら、やっぱり出雲の人なのだろう。
壱与の記憶には居ない人だけど、人間と偽って壱与を助けようとしていたのかもしれない。

(でも、出雲国王の側近だったら、わかるはずなんだけどな)

目の前の守屋さんは出雲国の王族でもなければ、側近だという覚えもない。
仮に出雲以外の鬼、例えば石見国出身である高村の血筋だとすると助ける動機がわからなくなる。
動機も素性も謎は深まるばかりだ。

ずっと抱きしめ続けていると、守屋さんの足元にある硬い物体に気づいた。
金属のような冷たさがある。

(何だろ……重い……)

引っ張り出してみると、守屋さんが下げていた剣だった。
きっと守屋さんが扱っている剣なのだろう。

(あれ……この剣に見覚えがある……)

青銅の剣に、赤いメノウがはめ込まれていた。
握り拳八個分の長さをもった――。

(これ……八握剣だ!!)

赤い光こそなかったけれど、これは間違いなく八握剣だった。
大きさも形も、春樹の手にあったものと全く同じだ。
十種の神宝を持っているということは、この人は……。

「命を救ってくれた事に感謝する。だが、その剣には触れないで頂きたい……」

私が顔を上げると、目覚めた守屋さんが私を見ている。
まだ顔色は青白く、唇の色も悪い。

「ごめんなさい。すごく立派な剣だったから」

私は急いで、守屋さんに剣を返した。

(混乱する。何がどうなっているの?)

@守屋さんに素性を尋ねる
A守屋さんに寝ているように言う
B考えを整理する
172793:2008/03/29(土) 14:11:42 ID:???
A守屋さんに寝ているように言う

「まだ無理をしないで寝ていてください」
「いや、私は行かなくては……」
「だめです」
起き上がろうとする守屋さんを、私は抱きつくことで阻止する。

「離していただけませんか」
「嫌です。このまま行かせたら駄目って気がします」
私は守屋さんに返した八握剣を見る。
この剣は確かに八握剣だった。そう、過去形だ。
この剣はすでに抜け殻。力のない、ただの剣だ。
神器が開放されたときに、神宝の力も解放されているのを私は知っている。
八握剣に力が残っているなら、守屋さんに出会ったときに私が気付いていただろう。

「この剣がなにか?」
私の視線が剣に向いていることに気付いた守屋さんが、剣を私の視界から消すように隠す。

「守屋さんはその剣が何か知っていて持っているんですか?」
「なぜそんなことを聞く……」
守屋さんの声が一段低くなる。

「私はその剣を知っています」
「……まさか」
守屋さんはいま始めて気付いたというように、私を見る。

「はい、私も鬼です」
私はとりあえず頷き、止めていた鬼の力を守屋さんへ送る。
基本的に鬼と人を外見で見分ける方法はない。
力を隠し生活していれば、鬼と気付かれることもほとんどない。
鬼はその性質上人間よりも容姿が優れていることが多い。
だが、それだって王族以外の鬼は人より少し整っているという程度だ。
人間に紛れ込むのもそう難しいことではない。

「一族以外にまだ生き残りがいたとは……剣を知っていると言う事は出雲の出身だろうか?」
私はそれにあいまいに頷く。
壱与の生まれ変わりなのだから、出雲の出身の鬼というのは嘘にはならないだろう。

「そうか、ならば私が剣を持っているのを不思議に思うのも道理だ」
守屋さんは置きあがろうとするのをとりあえず止めてくれた。
身体の力を抜いて、私を見る。

(守屋さんは、王以外神宝のことを良く知らないって、知らないんだ……)
「だが、出雲の鬼は姫以外……ああ、すまない」
「いえ……」
「だが、姫以外にも生き残りがいたことは喜ぶべきこと」
守屋さんは素直に喜んでいるようだ。

えっと……
@「あの、どうして剣を持っているんですか?」
A「守屋さんはどこの一族なんですか?」
B「帝と何があったんですか?」
173794:2008/03/30(日) 09:28:07 ID:???
@「あの、どうして剣を持っているんですか?」

「託されたのだ。だから私は……。
しかし、あの方の墓前で勝利を誓ったにもかかわらず、敗走を強いられている。
すべて私が至らなかった結果だ」

守屋さんは私の質問に答えると、辛そうに息を吐く。
その様子から、戦況がかなり不利に動いているのだろうと想像できた。

(あの方って……)

「あの方というのは、出雲国王のことですか?」
「君は出雲の生き残りだったな。そうだ。私は亡き出雲国王に神宝を託された。
いや、託されたというより返還されたと言うべきかもしれない」

(返還ってことはやっぱり……)

「あなたは石見国の出身ですね」
「……君は一体、何者だ」

守屋さんの顔が険しくなった。
私は何も言えず黙っていると、ふと額に手が置かれた。

「済まない。君は命の恩人だったな。無礼を許して欲しい」
「いいえ……」

(そうだ。なぜ守屋さんは戦っているのだろう)

「守屋さんはなぜ戦をしているんですか?」
「表向きは大和における国家祭祀の対立による戦ということになっている」
「表向き?」

私は意味が分からないまま、おうむ返しで尋ねる。

「私のような鬼が人間と偽り、大連にまで上りつめ、謀反を起こそうとしていたのだ。
それが他国に知られては、統一国家への妨げになるだろうからな」

(よく分からないけど、守屋さんは大和の偉い人なのかな)
私が考えていると、守屋さんは言葉を続ける。

「私は……この八握剣で大和に抗うことが、
無念のまま亡くなっていった同属達への弔いとなる考えているのだよ」

守屋さんは剣に触れ、一瞬、苦渋に耐えるような顔をしていた。

(守屋さん……)

私は……
@考えをまとめる
A守屋さんを見る
B声が聞こえた
174795:2008/03/31(月) 11:45:13 ID:???
B声が聞こえた

「……!」
名前を呼ばれた気がして、耳を澄ます。
すると、とんとんと軽い音が下の方からだんだんとこちらに近づいて来る。

(まさか、光輝?)
怒ってどこかへ行ってしまったと思っていたが、戻ってきたらしい。
そうおもって私は我にかえる。
私はあわてて枯れ草の上にかけてあったブラウスを取ると、急いで身に付ける。
最後のボタンをあわてて止めたところに、光輝がひょっこりと顔をのぞかせた。

「おい、愛菜!」
ぶっきらぼうに、名前を呼ばれる。
そういえば、光輝に名前を呼ばれるのはこれが初めてかもしれないと思いつつ私は平静を装って、返事をする。
緊急事態だったとはいえ、男の人と寝ていたことを知られるのは恥ずかしい。

「な、なに?」
「………」
光輝は無言でずかずかと近づいてきた。
その手には、藁のような物を抱えている。

「この声は助けて…………だが……精霊……?」
「あ、あの………」
「なんだ、鬼、目が覚めたのか」
光輝は守屋さん見て、その上に乗せられた枯れ草に一瞬眉をひょいと上げる。
それからふんっと、鼻をならすと無造作に守屋さんの上に持ってきた藁をかけた。
守屋さんはというと、信じられないと言うように光輝を見ている。

「光輝……、わざわざ探してきてくれたの?」
「……なんだよ」
「ありがとう!」
私はうれしくなってお礼を言う。光輝は心持赤くなりながら、少しだけ視線を逸らし言う。

「礼を言われる筋合いは無いな! これは交換条件だ」
「交換条件?」
「そうだ。 今日一日お前は俺の言う事をきけよ」
「え?」
言うや否や私の後にどさりとすわると、背後から私をひょいと抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。
そして後から抱き締める様に手を回すと、仕上げとばかりに私の肩にアゴをのせる。

「え? ちょっ?」
「やっぱりお前は気持ち良いな、今日一日はこうしてるからな」
「精霊が……鬼を……?」
光輝が満足そうに息をつく。光輝の息が顔に当ってくすぐったい。
守屋さんは、半ば起き掛けの姿勢で信じられないものを見たと言う顔で、私たちを見ている。

@「ちょっと光輝!?」
A「守屋さん、どうかしましたか?」
Bあきらめてため息をつく
175796:2008/03/31(月) 14:38:05 ID:???
@「ちょっと光輝!?」

私は光輝の腕から逃れようともがく。
だけど、光輝はがっちりと私に手を回しているのか体が動かない。

「逃げんな」
「で、でも……」
「交換条件だろ。大人しくしてろって」
「交換条件って……そんな約束した憶えはないよ」
「これでも妥協してんだぞ。お前がずっと一緒にはいられないっていうから、
今日一日だけで我慢してやったんだからな」
「ちょっと、光輝……離して」

(チハルだと平気なのに……)

やっぱり、隆に似すぎているというのがいけない。
チハルというより、やっぱり隆に思えてしまう。

「精霊よ。命を助けてくれたことには感謝する。
だが、嫌がっている女性を無理やりというのは良くない。
離してあげるべきだろう」

守屋さんは光輝に向って、はっきりと言った。

「邪魔すんな。死にかけの鬼は黙ってろ」

光輝は私の体を抱いたまま、凄む。
私にまわされた腕の力が、より強くなった。

「怪我をしていても、鬼の私が精霊ごときに討たれはしない。
その娘は我が身を捧げるように私を温めてくれたのだ……」

腕で体を支えながらなんとか中腰になると、守屋さんはただの剣になった八握剣を持つ。
そして、言葉を続けた。

「その可憐に咲く撫子の花を無理に手折るのであれば、黙って見過ごすわけにはいかない」

ちょ、ちょっと……
@守屋さんを止める
A光輝を説得する
Bナデシコの花って……まさか私のこと?
176797:2008/03/31(月) 17:13:50 ID:???
Bナデシコの花って……まさか私のこと?

あまりの言葉に思考が停止する。
自分はごくごく平凡で、花にたとえられるほど美人でも可愛くもない自覚がある。

「なに言ってるんだ、おまえバカだろう? コイツは花なんかじゃない」
心底バカにしたような光輝の言葉に、私は内心一緒に頷づく。

(そ、そうだよ、私がナデシコだなんて……)
「コイツは俺にとっては太陽に等しい」
「え!?」
光輝の爆弾発言に、思わず顔を光輝に向ける。
光輝は驚いて振り向いた私にうれしそうに頬ずりしてくる。

(な、な、なにいってるの? 光輝っ!?)
「本当は誰にも渡したくないけど、こいつは太陽だからな。
 俺だけの物に出来ないんだ。だから今日一日だけで我慢する」
少し前に俺の女になれと言った事を棚に上げて、光輝は言う。

「一日も何も、嫌がっているのだから放せと言っている」
「断る。それに鬼、アンタじゃ俺を倒せないぜ? 俺との力の差を見切れないようじゃまだまだ甘いな」
光輝は、余裕たっぷりに言うと。気持ちよさそうに目を細める。

(光輝って本当に強い精霊なんだ……)
とりあえず、守屋さんや光輝の問題発言は意図的に頭から追い出す。
そうでもしないと恥ずかしすぎていたたまれない。

「それに鬼、お前よりも断然こっちの女の方が力が強いんだぜ? お前分かってないみたいだけどな」
楽しそうに光輝が言うと、守屋さんはまじまじと私を見てそれから悔しそうに顔を顰めた。
私はだんだん守屋さんが可愛そうになってきた。
守屋さんは、石見国では力の強い鬼なのかもしれないが、それでも出雲の鬼の子供よりも弱い力しか持ち合わせていないのが分かる。

(石見国の鬼の力は本当に弱くなっていってるんだ……それにしても)
「光輝、あまりひどいこと言わないで。 怪我人なんだからもっと優しく……」
「あのなあ、お前ほんっっっっっっとうに、変わった奴だな」
「な、何よ、そんなに力いっぱい言わなくても……」
「鬼は精霊の天敵なんだぜ? 鬼は精霊を喰うもんなんだ」
「え?」
私は思わず、守屋さんを見る。 守屋さんは私の視線にその通りだと言うように頷いた。

「だから、精霊が鬼に優しくしてやるなんてありえねーんだよ。 お前の願いだから叶えてやったんじゃないか」
ありがたく思え、と光輝はえらそうに言う。

@「でも、壱与は精霊なんて食べたこと無いよ」
A「私は精霊なんて食べたこと無いよ」
B「……私が光輝を食べるとはおもわないの?」
177798:2008/03/31(月) 19:33:58 ID:???
B「……私が光輝を食べるとはおもわないの?」

「どうだろ。考えて無かったな」
「でも、私は天敵なんでしょ?」
「そうだなー。もしも、愛菜に喰われそうになったら……とりあえず逃げてみるかな。捕まったら、殴るけど」
「私を?」
「そうだ。お前は太陽みたいだけど、俺もまだ死にたくないからな」
「考えただけで痛そうだね……」
「だから、俺を喰おうなんて思うなよ」

鬼の私は天敵のはずなのに、光輝は相変わらずぴったりとくっついてくる。
自分の強さに自信があるのだろうか。

「じゃあ、守屋さんは精霊を食べちゃうんですか?」
「もちろんだ」
「そ、そうなんですか」

(あっさり肯定されちゃった……)

光輝も守屋さんも、ワイルドというか野性的な人達だ。
自分が飼いならされた現代人だと痛感させられる。
よく考えてみたら、電気も通っていないし、水も汲んでこなければ飲めないのだ。

守屋さんは荒く息を吐き、剣を下ろしていた。
少し無理をしたのか、また顔色が悪くなっている。

「守屋さん。すごく顔色が悪いですよ」
「だが、この精霊が君に悪さをしようとしている。放っては置けない」
「そんなに俺は低俗な精霊じゃないぞ」
「信じられん。撫子の君を離せ」
「ヤダ。コイツは今日一日俺のものなんだ」

(よく聞くとおもちゃを取り合う子供の喧嘩みたい……)

私は……
@面倒なので夢から覚める
A光輝の味方をする
B守屋さんの味方をする
178799:2008/04/01(火) 11:50:07 ID:???
@面倒なので夢から覚める

「なんか面倒になってきちゃった……戻ろうかな……?」
ぽつりと呟くと、私にべったりくっついていた光輝が反応した。

「おいダメだぞ、今日一日はお前は俺のもんだからな」
「でも、もう帰らないと、みんな心配してるかも……」
現実に一体どれくらいの時間が過ぎているのか分からないけれど、いつもより夢を見ている時間が長い気がする。

「皆? 皆とは、まさかまだ鬼の生き残りが!?」
光輝に続き、守屋さんも私の言葉に反応して必死の形相で私を見る。

「いいえ……、私以外に鬼の生き残りはいません」
高村の一族も鬼としての力は無く、能力者と呼ばれる人たちもすべて人間だ。

「では、貴女はどちらへ戻られると言うのですか?」
「……私を待ってる人の所へ」
未来といっても、さっきの光輝のように信じてくれないような気がした。

「おまえ……!」
不意に光輝の驚く声が聞こえた。

(あ……)
光輝を振り向こうとして、身体が自由になっていることに気付く。
私の身体は確かにそこに存在しているのに、光輝の腕は私を捉えることが出来ない。
私は立ち上がる。

(そういえば、最初に光輝にあった時も……)
あのときも、光輝は私に触れることが出来なかった。

「撫子の君!」
守屋さんも顔を顰めながら私に手を伸ばすが、やはりその手は私を捕まえることが出来なかった。

「まてよ!」
「お待ちくださいっ!」
二人の声が耳に届く。けれど私の身体は目が覚めるときと同じように何かに引っ張られるように、上昇する。
二人の驚く顔を見ながら、私はふと浮かんだ心配事を口にする。

「あ、そうだ。守屋さん、光輝を食べないでくださいね。
 光輝も、守屋さんの傷が治るまでここに置いてあげて」
引っ張られるごとに視界は靄のようなものに阻まれて、周りが全く見えなくなる。

「愛菜!」
最後に光輝の叫びだけが耳に届き、ふっと身体に感覚が戻ってくる。

(あ、私の布団かな)
相変わらず身体は動かず、目を開けることも出来ないけれど自分を包むこの感触は間違いなく自分のベッドだ。
誰かいるかと気配を探ってみるけれど、近くには誰もいないようだ。
チハルの気配もない。

どうしよう?
@チハルを呼ぶ
Aさっきのことを思い返す
B目を開ける努力をしてみる
179800:2008/04/01(火) 16:42:43 ID:???
Aさっきのことを思い返す

(いつも夢には何か意味があったよね……)

まずは壱与と帝の会話だった。
なんだか大陸だとか宗教だとかの話をしていた。
疫病とか天災とか言っていたし、壱与と帝はとても疲れていたみたいだった。

その後、光輝に出会った。
光輝は精霊で、あの森を守護する者だって言ってた。
あんまり隆に似すぎていて、びっくりしたな。
その後、すぐに怪我をした守屋さんを見つけたんだ。

十種の神宝の所有者で、石見国の鬼の守屋さん。
ということは、やっぱり高村の祖先ってことになるのだと思う。

そういえば守屋さんのうわ言で「人間と偽り姫を……お助け……と………鬼の国を………お慕い……」
と言っていた。

大和の人質になった壱与のために、守屋さんは人間と偽って助けようとしていたのだろうか。
お慕いというのが壱与に向けられたものだったら、余計に救いたかったに違いない。
けど、鬼は滅び、出雲国も無くなってしまった。

「大連にまで上りつめ、謀反を起こそうとしていた」とも教えてくれたっけ。

結局、守屋さんは大和の偉い人になったんだろう。
そして、謀反。帝を亡きものにしようという目的が知られて今は追われる身になったという感じだろうか。

十種の神宝はすでに抜け殻だし、壱与の心は帝のものだ。
壱与を救い出す必要はなくなっているし、鬼の国も無い。
けれど守屋さんは八握剣を持って、大和に抗うと言っていた。

(そういえば……)

最初に会った時、「おやめください…帝…」とも呟いていた。
殺したいほど憎い帝に対して、夢の中であんな言い方をするのだろうか。

(守屋さんの考えが全然分からない)

他には……光輝には太陽、守屋さんにはナデシコとか、むず痒いことを言われたな。
慣れていないし、考えてみるとかなり寒い。
(やめて欲しいな……思い出すだけで背筋が……)

すべてが憶測だし、断片的過ぎてはっきりしない。
とりとめなく考え込んでいると、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

その人は……
@春樹
A隆
B周防
180801:2008/04/01(火) 17:30:23 ID:???
A隆

「愛菜、起きてるか? ……って、わかんねーなこれじゃ」
近づいてくる気配がして、隆の手が頬に触れた。
つんつんとつつく指がむずがゆいが身体は動かない。

「でも、起きてる気はするんだよな」
隆は言いながら頬をつつくのを止めない。

(なにしてんのよ隆?)
「……夢を見たんだ」
ふと、隆が低く呟く。ぎりぎり聞き取れるかどうかの呟きだ。

「お前が消える夢だ。 ただの夢だって分かってるけど……」
言葉と共に頬をつつく指が止まり、しばらくして手が額に当てられる。

「……ふと思ったんだけどさ、お前っていま人形と同じような状況じゃないか?」
(なにいってるの?)
「だから、試しに力をつかって見ることにする。人相手になんて使ったことないけどさ」
(ちょっと、それって危なくないの!?)
「ま、ダメ元ってやつだよな」
そう言って隆が沈黙する。

(隆!?)
額に当てられた隆の手がだんだんと熱くなっていく気がする。

(愛菜、お願いだから、元に戻ってくれよ!)
その熱に比例するように、隆の想いが流れ込んでくる。

(このままなんて許さないからな! 目を覚ませ!)
(隆……)
(お願いだ! 目を、開けてくれっ!)
隆の絶叫が頭に響く。

(愛菜っ!)
ふっと、視界が明るくなる。
私は驚いて瞬きした。

(あれ? 目開いてる?)
確かに自分の部屋の天井が見える。そして隆の腕。
けれど瞼は動くが、眼球を動かすことが出来ない。身体もやはり動かなかった。

「愛菜?」
隆の声が聞こえてそちらを見ようとするが、やはり動かせるのは瞼だけだった。
そんな私に気付いたのか、隆が覗きこんでくる。

「見えてるか?」
(うん)
私は返事をするように瞬きする。

「目だけ……ってか瞼だけかよ……まあ、起きてるのか寝てるのか分からない状況よりはましか?」
隆が苦笑する。
確かに瞼が動くだけで、全く動けないよりはマシだ。意思表示も多少はできるだろう。

@(でも、これじゃチハルを通すのとかわらないよ……)
A(ちょっと、もっと動けるようにならないの!?)
B(隆には感謝しないとね)
181802:2008/04/01(火) 19:20:07 ID:???
B(隆には感謝しないとね)

私は隆にお礼を言うように、瞬きをした。

「喜んでんのかな。まぁ、いいか。
そういえば、喉渇いてないか? 水でも持ってきてやろうか?」

(うん。お願い)

「ちょっと待ってろよ」

そう言って、隆は私の部屋から出て行った。
時計を見ると、七時を少し過ぎていた。
眩しい朝日に、小鳥のさえずりも聞こえる。

(ということは、朝か……)

しばらくして、隆がコップに水を汲んで戻ってきた。
手にはタオルも持っている。

「春樹のやつ、朝飯つくってたぞ。お前も食えるといいのにな」

隆はベッドに座ると、背後から私をひょいと抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。
私は力なく、隆に身を預ける形になった。

「なんだか、さっきの夢の続きみたいだな。
お前の身体が動かないから、暴れる心配はないけどさ」

(隆は……私と同じ夢をみていたの?)

「ほら、飲めるか?」

私は顎をつかまれ、くっと顔を持ち上げられる。
タオルで顔を支えられたまま、口許にグラスが近づく。

「口をあけ……るわけないか。突然、噛んだりするなよ」

顎を支えていた隆の指が、私の歯列をこじ開けた。
そして、口の端から、少しずつ水が注ぎ込まれる。

私は……
@水を飲むことができた
A水を飲むことが出来ない
B隆を睨む
182803:2008/04/02(水) 11:19:58 ID:???
A水を飲むことが出来ない

水は口に入ってくるが、それを飲み込む動作が出来ない。
結局水は口の端から流れ落ちてしまう。

「ダメか……」
隆はタオルで口元をふいてくれる。。
私はだんだん情けなくなってきた。自分では身体一つ動かせず、意思を伝えることもほとんど出来ない。
皆に迷惑をかけてばかりいる……そう思ったら、視界が歪んだ。

(あ、泣くことは出来るんだ……)
「うわ、泣くなよ……」
あわてた隆が、とっさにタオルで涙をぬぐってくれる。
けれど涙はなかなか止まらない。

(ごめん隆、すぐ止めるから)
私はこれ以上涙が流れないように目を瞑る。
ふっとタオルの感触が消えたと思ったら、今度は隆の手が涙をぬぐう。
もう片方の手が、私を支えながらあやすようにぽんぽんとリズムを刻んでいる。

「そうだよな、不安だよな。声も出せなくて自分の意思じゃ身体が動かないんだもんな」
隆の言葉に、私はものすごく不安だったのを自覚する。
そう思ったら余計に涙が止まらなくなった。
修二くんと契約を終えれば、元に戻る。
けれど、その修二くんと契約できるかどうかは分からない。
昨日あんな別れ方をしてしまったから、不安は大きくなるばかりだ。

「大丈夫、元に戻るさ。何があっても宗像弟をつれてくる」
さすが幼馴染といったところか。私と修二くんの間に何があったのか知らないだろうけれど、何かを感じ取ったのかもしれない。

(結構鈍感なのに、変な所で鋭いよね隆って)
そう思うと可笑しくなった。そのおかげか、涙がひいていく。
目を開けると、少し心配そうな隆の顔があった。
私が目を開けたのを見ると、隆は少し真面目な顔になる。

「もしお前がずっとこのままでも……」
隆はまだ少し濡れている私の頬を撫でる。
そして、隆が口を開こうとしたその時、ノックの音と共に部屋の戸が開く音がした。

「っ!」
驚いたように、隆が顔をそちらへ向ける。
その顔がかすかに赤い。

入ってきたのは……
@春樹
Aチハル
B周防
C香織
183804:2008/04/02(水) 13:38:27 ID:???
@春樹

「姉さん……入るよ……」

そう言いながら入ってきた春樹が一瞬、私たちを見て固まった。
ドアを閉めると目を見開いて、口を開く。

「何を……やってるんです…か…」

呆然と立ち尽くす春樹に、隆は何も答えなかった。
ただ、入ってきた春樹をジッと見つめている。

「動くことのできない姉さんに……一体、何を…して…」

春樹は信じられないという顔で、ゆっくり私たちに近づく。

(ちょっと待って、春樹。隆はお水を飲ませてくれていたんだよ)

春樹は何か勘違いをしているみたいだ。
ベッドの上で密着している今の状況を見たら、驚くのも無理はないだろう。
ましてや私が動くことが出来ないのなら、なお更だ。

(お願い、隆。春樹は勘違いをしているんだよ! ちゃんと説明してあげて)
けれど、隆は黙ったまま春樹を見据えているだけだった。

「……教えてください。姉さんに何をしようとしていたんですか…」

春樹は低い声で尋ねながら、隆を睨みつけている。
今にも掴みかかりそうな、張り詰めた緊張感が漂っていた。

「なんでお前に一々説明しなくちゃいけないんだ。出て行けよ…」

隆は私のベッドに座ったまま、春樹を見上げる。
まるで宣戦布告するようも聞こえた。

「まさか姉さんを……」
「春樹。愛菜に対するその執着は何だ。……弟なら、わきまえろよ」
「……なっ」
「愛菜、聞こえているか。俺は決めたぞ。お前がずっとこのままでも一緒に居てやる。
色々あったけど、お前を諦めることなんて出来そうにない。
特に、家族だと言いながら姉貴に依存するような奴だけには……絶対に渡したくないってな」

私は……
@隆を見る
A春樹を見る
B考える
184805:2008/04/02(水) 15:19:12 ID:???
@隆を見る

(え?)
隆を見ると何かをたくらむような顔をしていた。付き合いの長い私にしか分からないような変化だ。
隆との付き合いが5年の春樹は、頭に血が上っている事もあって気付いていない。

「隆さん……それが本心ですか?」
春樹の声が一段低くなる。

「姉さんを泣かせて、傷つけて、悩ませて……それなのに……」
「その怒りは弟としてか?」
(当たり前じゃない、何言ってるの隆……?)
「…………」
当然肯定すると思っていた春樹は、沈黙する。

「確かに俺は愛菜を泣かせたさ、これからも絶対に泣かさないって約束は出来ないな」
「なっ!」
(隆……?)
「当たり前だろ? 俺たちは違う人間なんだ。知らず知らずの内に傷つけてる事だってある。だから、絶対に泣かさないって約束は出来ない」
きっぱりと隆は言って、それから私を見た。

「だけどずっと一緒にいてやる。きっとこの先、泣かせたり怒らせたりいろいろあるだろうけど、俺はおまえと一緒に進みたい」
「なにを、勝手な、ことを……」
途切れ途切れの春樹の声が震えている。

「勝手? そうかもな。だけど俺はちゃんと愛菜に自分の気持ちを伝えたぞ。お前はどうなんだ?」
「なにを……」
「お前は何も言っていないだろう。そのお前が何かを言う権利なんて無いんだよ」
「……!」
(!?)
隆はそう言い切るとそっと私に顔を近づけて来た。そして春樹に見えないようにそっと目配せする。

(なに……一体?)
「隆さん!」
春樹の怒声が聞こえ、ぐいっと身体が引っ張られたと思うと、私は春樹の腕の中にいた。

「俺の姉さんに触らないでください!」
「『お前の』愛菜じゃないだろう?」
「……っ!俺は……っ」
「いい加減素直に言っちまえ。じゃないとこいつは一生気付かない」
「なにを……」
「まだとぼけるつもりか? お前はコイツを信じてないんだな」
「そんなことは……」
「じゃあ、何でそんなにかたくなに隠すんだ? 俺はお前の挑戦も受けて立つぜ?」
なぜ二人がこんな喧嘩を始めるのか分からない。
春樹の腕が震えているのが伝わってくる。

@チハルに助けを求める
Aこのまま見守る
B怒る
185806:2008/04/02(水) 18:24:12 ID:???
Aこのまま見守る

「だけど……俺は……っ」

春樹は次の言葉が出てこないのか、唇をかみ締めている。

「だけど何だよ? このままじゃ、本当に俺が奪っちまうぞ。コイツと俺はずっと一緒に居たんだからな」

隆は不敵に笑うと、春樹を見据える。
ごくたまに見せる、隆の本気の目だ。

「そんな簡単な問題じゃないんだ……。もしも……俺が……」
「怖気づいたか。お前はやっぱりその程度ってことだな」
「認められない……俺だけ満足……周りが……きっと不幸にさせる……」

春樹の言葉は途切れ途切れで、よく聞き取れない。
ただ、私を包む腕が痛いくらいに強くなっていく。

「そうやって一生悩んでればいいさ。姉弟ってつながりに、すがって怯えてろ。
何かを壊さなきゃ、得られないものもあるんだ」
「そんなこと……言われなくても…分かってる」
「壊す勇気も無いんだろ。それなら、分かっていないのと一緒のことだ」

隆が完全に春樹を言い負かしていた。
春樹は隆の言葉に、胸を貫かれ、打ちのめされている。

「春樹。俺はそんなにお人よしでもなければ、善人でもない。
だが、お前が居ない時にコイツに告白するのは公平じゃないと思っただけだ」
「隆、さん……」
「俺の気持ちに嘘は無い。俺は愛菜が好きだ」

(隆……)

「さあ、はっきりさせろ。お前はどうなんだ、春樹」

私の頬に、一つまた一つと雫が落ちる。
春樹は身体を震わせて、涙を流していた。

「やっと手に入れたんだ……。穏やかで……満ち足りた……。
あの日から守ってみせると誓ったんだ……家族を……。
だけど……なんで……こんな気持ち……間違ってる……押し殺すしか無いんです……」

「言いたいことはそれだけか」

隆の言葉に、春樹はようやく顔を上げる。
その目には、涙は消えていた。

「後ろ指を刺されるような幸せは、本当の幸せなんかじゃない。
人格を否定されるほど虐げられた事の無い隆さんには、分からない感情かもしれない。
たとえお互いの気持ちが通じ合ったとしても……きっと周りがそれを許さないと思います。
周りから認められない苦しみで、一番大切な人を壊すわけにはいかないんです。
だから、どれだけ苦しくても……俺は……家族として見守ることを選びます」

私は……
@チハルに助けを求める
Aこのまま見守る
B怒る
186807:2008/04/02(水) 19:52:11 ID:???
Aこのまま見守る

隆は春樹の言葉に一つため息を付いた。

「まったく、お前も強情だな。まあ、一つ教えておいてやるよ。今のお前を見たら確信した。
決定的な打撃を喰らわないためにちゃんと調べられなかったんだろうが……」
隆は、一歩春樹に近づく。

「お前達は本当の姉弟じゃない。戸籍上どうなっていようと、血のつながりが無いのは確かだ。だから…」
そういって、隆は春樹の耳元に何かをささやく。
私には何を言っているか聞こえなかったが、隆のささやきに春樹が大きく動揺したのが分かった。

「ってことでな、後ろ指刺されるようなことにはならないんだよ。
 だいたい、周りってなんだ? お前の両親か? そんなわけ無いよな。 
 なら友達か? お前が知り合った奴らってのは、そんなに信用できない奴らばっかりだったのか?」
隆は春樹をまっすぐに見つめて問う。
けれど、すぐに苦笑した。

「まったく、俺はなにやってるんだろうなぁ? 敵に塩をおくりまくりだぜ」
「隆、さん……」
「さあ、これを聞いてもお前はさっきと同じ言葉を言うのか?」
春樹の腕が一瞬大きく揺れた。

「俺は……」
「ねぇ、春樹、ご飯まだ?」
と、そのとき扉が開く音とともにのんきなチハルの声が乱入してきた。
張り詰めた空気が、一瞬にして瓦解する。

私は……
@春樹の言葉の続きを知りたい
A春樹の言葉の続きを知りたくない
B自分の考えを伝えたい
187808:2008/04/02(水) 23:03:22 ID:???
A春樹の言葉の続きを知りたくない

(春樹は『いい弟』でいたいって言ってたよね)
(本当は、ずっと私の事を異性として見ていたの?)

春樹に対して、私は恋にも近い感情や、恋人に持つような嫉妬も抱いていた。
異性として意識することも多かった。
けど……

けど、それで春樹の恋人になれるのかと問われれば分からなくなる。
頭がすごく混乱する。

ケーキ屋で香織ちゃんも言っていたけど、姉弟だからと言って後ろ指をさされる関係では無いと言っていた。
戸籍上の血縁関係が無いから大丈夫というけれど、実際は単純でもないような気がする。

姉弟である私たちを知っている人は沢山の居る。仮に、どちらかが戸籍から抜けたとしてもそれは付き纏う。
隆や香織ちゃんみたいな考えの人ばかりではない。倫理的に構える人もいるはずだ。

(弟と姉……春樹と私……)

「俺は……」

春樹の声がする。
この答えを聞いてしまった瞬間、私たちが築き上げてきた関係が崩れてしまう気がする。

(怖い……。聞きたくない……)

「俺は、姉さんのことが――」
「こわい。ききたくないって愛菜ちゃんがお話ししてるよ」

気持ちを読んだのか、チハルが私の心を代弁する。

「愛菜。お前まで怖がるのか?」

隆は困ったように、私を見つめる。

(すごく怖いよ。もうこの話は二度としないで……)

「姉さん……」

春樹の腕の中にいるのも怖い。
安心だったはずの場所なのに、今はそんな風に思えない。

(チハル。二人に出て行くように言って)

私たちの関係を見かねて、隆は白黒はっきりつけさせてやりたいと思ったのだろう。
隆なりの優しさだというのも、理解できる。
けど、春樹に対して抱く感情はもっとずっと複雑なのだ。

チハルと二人だけになった部屋で、私はベッドに寝かされる。

どうしよう……
@春樹のことを考える
A隆のことを考える
Bチハルに話しかける
188809:2008/04/03(木) 09:31:18 ID:???
Bチハルに話しかける

(ごめんねチハル)
「なんで謝るの?」
私を運ぶために大きな姿のチハルが、私を覗きこんでくる。
何も疑うことを知らないような綺麗な目が私を見返す。

(……うん、なんとなく、ね)
本当に謝りたい相手はチハルではないと自分でも分かっているけれど、誰かに謝りたかったのだ。

「変な愛菜ちゃん」
チハルは不思議そうな顔をして、それからにっこり笑う。

「あ、そうだ。愛菜ちゃんおなかすいてない?」
(え……まぁ、すいてるけど……)
結局昨日の夜も何も食べていないが、食べることが出来ないのだから仕方がない。

「それじゃあ……」
チハルは私を座らせると、私を支えたまま私の正面に座った。

(チハル?)
「んとね、神様に聞いたんだ」
(なにを?)
「今愛菜ちゃんは、人の食事が出来なくてだんだん弱って来てるって。このままじゃ、ダメなんだって」
確かに、このままだと餓死してしまうかもしれない。
病院へいけば、生命維持に必要な処置は取れるだろうけれど……。

「それでね愛菜ちゃんが弱っちゃうのはイヤだって言ったら、ボクだったら愛菜ちゃんが弱らないように出来るって教えてくれたの」
(え……?)
「んとね、愛菜ちゃんはオニになったから、精霊を食べられるんだよ?」
にっこりとチハルが爆弾発言をする。
そう言えば夢のなかで、守屋さんと光輝がそんなことを言っていた。

(ちょ、ちょっとまって! 食べるって、私がチハルを食べるわけ無いじゃない!)
「でもね、ボクを食べないと愛菜ちゃんが弱っちゃうんだ」
(だからって、食べるなんて出来ないよ。チハルはどうなっちゃうの?)
「ボク? ボクは大丈夫だよ。だって愛菜ちゃんが側にいるもん」
チハルは、そう言って私の顔を不器用に撫でる。
すると、自分の意思では動かすことの出来なかった口がわずかに開く。

(!)
驚く私に、チハルは私を抱き締めるように身を寄せてきた。私の口は丁度チハルの首筋に当る。

(……あ)
一瞬何が起こったのか分からなかった。
口はチハルの首筋に当ったまま、動いてはいない。
けれど確実にチハルから何かを吸い取っていた。それが身体の中を巡っていくと、空腹が満たされるのを感じる。
そしてそれを感じた瞬間、私は思った以上に空腹だったのだと自覚した。
鬼の本能がもっとそれをほしがり、人間としての理性が止めてと叫ぶ。

@(もっとほしいな)
A(チハル離れて!)
189810:2008/04/03(木) 12:07:43 ID:???
A(チハル離れて!)

チハルに向って叫ぶ。けれど、心とは裏腹に空腹が満たされていくのを感じた。
心を読んでいるはずなのに、チハルは更に身を寄せてくる。

(駄目よ! 私から離れて!)

「愛菜ちゃん。ボクね、すごーくうれしかったんだよ。
みんなといっしょにご飯をたべたり、おはなしするのってたのしいんだもん」

無邪気に微笑む様子は、大きな身体でも小さい時と全く変わり無い。
ものまねの上手なチハルは、私と同じ仕草でゆっくり前髪を撫でてくれる。

(早く離れて……)

「隆はボクを起こしてくれたから、おとうさんみたいにおもってたよ。
春樹は愛菜ちゃんとすごく仲良しできらいだったけど、ご飯くれるからすきになったよ。
パパさんもママさんもみんなだいすき……」

チハルの身体が徐々に薄くなっている。
私を撫でる大きな手が、透けて見えた。
これ以上はいけないと心は叫んでいるのに、チハルから離れることが出来ない。

(私……どうすれば……いいの……)

「いつも泣いていた小さな愛菜ちゃんは、もうこんなに大きいよ。だから、大丈夫」

(大丈夫じゃないよ。チハルが支えてくれたから、お母さんが居なくなっても頑張れたのに……)

「ボクはまた「くまちゃん」に戻るだけだもん。
大きな愛菜ちゃんは、もうぬいぐるみのボクに頼らなくても平気だよね」

(だめ……行かないで……)

@自力で離れる
Aチハルを見る
B誰かが入ってきた
190811:2008/04/03(木) 14:39:54 ID:???
B誰かが入ってきた

「愛菜、さっきはわるかったな……チハル?」
入ってきたのは隆だった。
隆は薄くなったチハルを見ると、怒った顔になり私とチハルを引き剥がす。

「チハル、何をしてる?」
「愛菜ちゃんがね、おなかがすいて弱っちゃうから、ボクを食べてもらうの」
どこまでも無邪気に、チハルが笑う。
けれど、その身体が小さな子供の姿に変わってしまった。最初に会ったときより更に幼い、5歳くらいの男の子。

「愛菜がお前を食べるって、食べたいって言ったのか?」
「ちがうよ?」
「お前が勝手にやったんだな?」
「うん」
「ばかやろう!」
隆の怒号が響いた。家全体を震わせるくらいに大きな声だった。

「お前が愛菜を悲しませてどうする! 俺はコイツを悲しませるためにお前を動けるようにしたわけじゃないんだぞ!!」
「隆さん、一体……チハル?」
隆の怒声に、春樹がやってくる。そして小さなチハルをみて目を丸くした。
先ほどまでの雰囲気は全く無く、弟としての春樹だ。

「でもボクを食べないと愛菜ちゃんが弱っちゃうよ?」
「あのな精霊は確かに鬼に喰われるさ。鬼にとって精霊は極上の食事だからな。でも、コイツは鬼を喰わないって言ったんだ!」
(隆……?)
怒りにまかせて怒鳴る隆の言葉に、私は違和感を感じる。

「コイツがお前を喰いたくないって泣いてるのに気付かなかったのか? お前はそれでも精霊なのか?
 やるにしてもやり方ってもんがあるだろうが! 全部喰わせてどうする、自分の身を危険に晒さない程度に分け与えろよ。
 俺ほどでないにしても、お前だってそれなりに力のある精霊だろうが!」
(隆、何を言ってるの……?)
「隆、何をいってるの?って愛菜ちゃんが言ってるよ」
隆がなぜ怒っているか分からないらしいチハルは、私の思いを口にする。

(なんで、鬼が精霊を食べるって知ってるの?)
「何で鬼が精霊を食べるって知ってるの、って」
「え? なんでって……あれ? なんでだ?」
(それに、隆は人間でしょ? なんで『俺ほどでもない』っていうの?)
チハルが言葉を伝えると、隆はふっと、不思議そうな顔をする。
あの会話をしたのは、光輝とのはずだった。 そして、力が強い精霊も光輝だったはずだ。隆にそっくりな光輝の……。

@(隆は、光輝の生まれ変わりなの?)
A(やっぱりあの夢を隆も見たの?)
B(隆が光輝なら、守屋さんはまさか……)
191812:2008/04/04(金) 09:18:11 ID:???
A(やっぱりあの夢を隆も見たの?)

そう問おうとしたところで、隆が壁に掛かった時計を見てるのに気づいた。
急がないと遅刻してしまう時間になっている。

「やべっ。もうこんな時間かよ」
「隆さん……修二先輩のことよろしくお願いします」
「わかってるって。あと、チハル」

隆は自分の髪をガリガリと掻いて、しゃがみ込む。
きちんと同じ目線になってから、チハルに話し出した。

「怒鳴って悪かった。だけどな、お前のやろうとしていたのはいけない事なんだ」
「どうして?」
「お前が居なくなっちまったら、愛菜が悲しむだろ?」
「だって、ボクはサキミタマだから……」
「幸御霊だろうと関係ない。チハルはチハルなんだからな」
「ボクが居なくなったら、みんな悲しいの?」
「そうだ。だから、しちゃいけないことなんだ。わかるな?」
「ウン……。わかった」
「よし。約束だからな」

隆はまたチラリと時計を見て、私の横へやってくる。

「さっきは……その…悪かったな。別に困らせようとか、そういうのじゃないから」
(わかってるよ)
「そっか」

隆は安心したように笑うと、ドアの前に立った。

「力づくでも、宗像弟は連れてくるからな」
(ちゃんとお願いして、普通に来てもらってよ)
「努力はするさ」

そう言って、隆は私の部屋から出て行ってしまった。
部屋に残ったのは、私と春樹とチハル。
どこか息苦しいような、重い空気が部屋を覆っている。

私は……
@春樹を見る
Aチハルを見る
B隆について考える
192813:2008/04/04(金) 11:02:47 ID:???
@春樹を見る

(春樹は学校に行かないの?)
「姉さんを一人にするわけにはいかないからね」
(わたしなら大丈夫だよ)
「そう思ってるのは姉さんだけだよ」
(確かに、うごけないけどさ……)
微妙な空気を振り払うように、春樹は以前と全く変わらない調子で話す。

「それに、今日は午前中に、高村の……周防さんがくるだろう? チハルだけじゃ心もとないしね」
(そう言えば、周防さんがきてくれるんだっけ)
夢の中で周防さんと秋人さんが話していた「闇」について詳しく聞きたかったのだ。

「それに姉さんに協力してくれた人だって聞いたから、お礼も言いたい」
春樹はそう言って、少し微笑んだ。

「あと、俺の従兄らしいからね。 もしかしたら子供の頃に会ってるかも知れないけど、俺は覚えていないし……会って見たいって言うのも理由かな」
(そっか、春樹は周防さんに会うの初めてかもしれないんだ)
そう言われると、春樹と周防さんをあわせてあげたくなる。
春樹は微笑んだまま、時計を見てそれからチハルに視線を移した。
チハルはちょこんと首を傾げる。

「チハルおいで、俺にくっついてれば早く力がもどるかもしれない」
「うん!」
小さなチハルはうれしそうに頷くと、春樹に駆け寄ってその足にぎゅっとしがみついた。
そして、ふと不思議そうな顔をして春樹を見上げる。

「春樹……?」
「ん?」
春樹は返事をしながらチハルを抱き上げる。
チハルは春樹の首に手を回してしがみつきながら、首を捻る。

「……なんか………うーん、なんでもない」
「どうしたんだ?」
「たぶん、きのせい」
「? そうか……? じゃあ姉さん、俺、下に居るからなんかあったらチハルに知らせて」
(わかったよ)
春樹はチハルを抱き上げたまま、部屋を出て行く。
途端静まり返った部屋に、私は内心ため息をついた。

(朝からいろいろありすぎだよね……)
私は目を閉じて……

@夢を見た
Aこれからのことを考えた
Bこれまでのことを考えた
193814:2008/04/09(水) 00:19:46 ID:???
Bこれまでのことを考えた

動かない身体と、大きくなる不安。
みんなに迷惑と心配をかけるだけでなく、チハルさえも犠牲にするところだった。

改めて、隆が私のことを好きと言ってくれた。
春樹が私に対して、家族以上の感情を抱いているかもしれない事を知った。
修二くんも私を想ってくれていた。

(応えることが出来ないから、せめて強くなりたいのに……)

力を得て、迷ってばかりの私のままじゃ駄目だと悟った。
だけど私は私だから、簡単に生き方なんて変えられない。
不器用な性格だから、私でも出来る事をと探し続けてきた。
多少の無茶も承知で、正しいと思ったことをしてきたはずだったのに。

壱与や冬馬先輩や一郎くんに対して、意見したこともあった。
口で言うのは簡単だけど、実行するのはとても難しい。
けど、みんな少しずつ変わっている。
私だけ迷うこと止められない。いつまでも怖がりな弱虫のままだ。

(今は眠ろう……)

出来ることなら、楽しい夢が見たい。
力とか、鬼とか関係ない笑ってみられる素敵な夢がいいな。

そう思いながら夢の中へ落ちていく。

「いくら大連だったあなたでも、現人神に逆えば天罰が下ろうぞ」
「その帝が大陸の教えを信奉し、国神である自らの存在を否定していることに……矛盾を感じないのか」
「現人神の意思ならば従うまで」
「それが最期の言葉か」

目の前には手足に傷を負った大和の兵士と、血に塗れて立つ守屋さんの姿だった。
守屋さんも兵士も会話をしていて、私の存在に気づいていない。
そして、守屋さんの八握剣がゆっくり振り上げられる。

「見るな! 女のお前が見るものじゃない」

視界が閉ざされ、隆そっくりの声が降り注ぐ。

(光輝……)

「離して。あの大和の兵士さんが酷い怪我を……早く行ってあげなくちゃ」
「……駄目だ」
「けど間に合わなくなるよ!」
「行くな。もう遅い」
「どういうこと……?」
「あの鬼は戦いに魅入られちまってるのさ」

光輝は私の目を塞いだまま、吐き捨てるように言った。

@光輝に話しかける
A光輝から逃げる
B守屋さんに話しかける
194815:2008/04/09(水) 18:07:16 ID:???
@光輝に話しかける

「は、離してよ。光輝!」
「もう遅いって。あの兵士は守屋が殺しちまったからな」
「そんな……」
「殺しあうのは当たり前だろ。あいつら、戦してんだから」
「あの兵士さんは負傷していたんだよ。もう戦えなかったのに……」
「確かに死にかけてたな。だからこそアイツは、楽に死なせてやったんだろ」

光輝はまるで守屋さんを庇うような発言をした。

「楽に死なせるって何? 守屋さんは酷いことをしたのに……」
「酷いのは守屋の軍も大和の軍もみんな一緒だ。感じないか、この空気」
「空気?」
「そうだよ。すっげー生臭い死の匂いさ」

目が塞がれていて、何も見えない。
すぐ傍で感じる光輝の呼吸を真似るように、深く息を吸い込んでみた。

(何も見えないけど……わかる)

鬼になってしまって、嗅覚が敏感になったのか沢山の生臭い匂いを感じる。
辺りに充満していたのは、死臭だ。
この場所だけでも、何十という死の匂いがしていた。

(気持ち、悪い……)

「……酷い匂い」
「だろ? 守屋だけじゃない。みんな戦に魅入られてんのさ」

光輝は目を塞いだまま、私を抱き上げると「守屋」と名前を叫んだ。
足音がして、守屋さんが近づいているのがわかる。

「あなたは……撫子の君」
「陽も沈むし、俺は愛菜を連れてねぐらへ戻るぜ」
「待て。私が陣を構える稲城へ連れて行こう。お前も来るか光輝」
「イナギ?」

聞きなれない言葉に、おうむ返しで私は尋ねる。

「稲城っていったら、稲を積み上げて作った城とか、敵の矢や石を防ぐ防壁とかだろ。
お前、本当に未来から来たみたいに何にも知らないんだな」

光輝はそう言って、楽しそうに笑った。
こんな酷い場所でも、光輝も守屋さんも平然と話しをしている。

どうしよう……
@稲城に行く
Aねぐらに行く
B考える
195816:2008/04/10(木) 09:40:24 ID:???
B考える

私は当りに漂う死の匂いに眉を顰めながら迷う。

(それにしても……光輝と守屋さんが一緒に居る理由って何……?)
光輝はあの森を守護する立場に居ると言っていたのに……。
こちらへ来た途端に戦で、周りの風景をきちんと確認していないけれど、ここは森ではない。
守護する場を離れてなぜここに居るのか?
それにこんなに負の感情があふれる場所に居ることは、精霊である光輝にはつらい事のはずだ。

「大丈夫か、愛菜? おい、とりあえずここから離れるぞ。ここは死の匂いがきつすぎる」
「……わかった」
考え込んで返事をしない私を具合が悪くなったと勘違いしたのか、光輝が私を抱えたまま歩き出すのを感じる。
その後を守屋さんの足音がついてくる。
しばらくすると、空気が変わったのを感じた。
耳に入ってくるのは木々の葉が風に揺れる音だけだ。

「ここまで来ればだいぶいいだろ」
その声とともに、視界が明るくなる。夕焼けの赤い光がまぶしくて何度も瞬きして、視界が戻るのを待った。
視界が回復して、私は辺りを見回す。
どうやら、さっきの場所は森のすぐ側だったらしい。
木々がまばらになっていてここが森の外に近い場所なのだと分かる。
そのとき、ふうっと、光輝がため息をついた。
どこかホッとしたようなそのため息は、やはりあの場所は光輝にとってつらい場所だったのだと知るのに充分の重さをもっていた。
そして私はふとまだ光輝に抱き上げられたままなのに気付いてあわてる。

「こ、光輝もう降ろしてくれる?」
「いやだ。少しこうさせろ」
そう言う光輝の顔色は、ものすごく悪い。
思わず光輝の顔に手を当てる。

「大丈夫? すごい具合が悪そう……光輝、精霊なんだからあんな場所に居たらつらいのに……」
「しかたないさ、このバカ共が戦を止めない限りこの森も危険なんだ」
光輝は憎憎しげに守屋さんをにらむ。
守屋さんはその視線をただ受け止める。
光輝は再度ため息をつくと、私の顔をのぞきこんできた。

「とりあえず俺はつかれた。ねぐらにもどる。お前も一緒に行くよな?」

わたしは……
@光輝と行く
A守屋さんと行く
B壱与の元へ行く
196817:2008/04/11(金) 01:23:19 ID:???
A守屋さんと行く

「私、守屋さんと行くよ。戦をする理由を詳しく聞いてみたいんだ」
「一緒に来ないのか。じゃあ勝手にしろ」
「あ……」
「ん? なんだよ」
「な、なんでもないよ」

隆そっくりの光輝は、ぶっきら棒だけど頼れる存在だった。
出来れば一緒に行動して欲しいけど、顔色を見たら無理は言えない。

(仕方ないか……)

「そんな顔するなって。やっぱり、俺についてきて欲しいんだろ?」
「無理くていいよ。ねぐらでゆっくり休んでね」
「お前がどうしてもって言うなら考えてやってもいいぞ」
「辛そうだし、本当にいいよ」
「だからさ。お前がどうしても付いて来て欲しいってんなら、行ってやるって」
「別に無理しなくてもいいって言ってるのに」
「一緒に来て欲しいんだろ。ハッキリ言えよ。可愛くないな」

私と光輝の会話を黙って聞いていた守屋さんが、痺れを切らしたように話し出す。

「では……私の陣まで案内しようか。光輝はどうする?」
「ちぇっ、仕方ない。コイツのために俺も行ってやるかな」
「本当にいいの?」
「平気だ。さっきの所よりはマシだろうからな」

(光輝、ありがと)

「陣まで少し歩いてもらうが構わないだろうか」
「はい、大丈夫です」
「早くいこうぜ」

太陽はほぼ沈んで、薄暗い中を私たちは歩いていた。
時期が夏だというせいもあるのか、ひぐらしが鳴いている。
森を沿うように進むと丘陵があり、稲を高く積んだ防壁の中に陣があった。

「あの樫の木の奥だ」

守屋さんに案内されたのは、思ったよりも立派な陣屋だった。
土間のような室内に入り、藁の座布団に私たちは腰を下ろした。

どうしよう……
@守屋さんに話しかける
A光輝に話しかける
B辺りを見る
197818:2008/04/13(日) 12:27:23 ID:???
A光輝に話しかける

「ところで、光輝。身体は平気?」
「ん……ああ」

私にぺったりとくっつくと、光輝は小さく頷く。
話すことすら億劫なのか、私に抱きついたまま目を閉じてしまった。
未だに抱きつかれるのは慣れないけれど、光輝の体力が少しでも回復するのなら仕方がないと諦める。

「あの……守屋さん」
「わかっている。戦について知りたいからここまで来たのだろう?」
「はい」

守屋さんは黙ったまま、あぐらをかき直して私を見る。
上から下まで、私をじっくり観察でもしているようだった。

「な、なんですか。そんなに見られると恥ずかしいんですけど」
「改めて見ると……君は変わった格好をしているな」
「これは制服っていうんです」
「セイフクか。出雲の生き残りにしても、やはり得体が知れないな。
鬼の力がいくら強くても、音も無く消えたり、深手の傷を一瞬で癒すなんて聞いた事が無い。
命の恩人を悪くいうつもりは無いが、まず君の素性を教えてくれないか」

(どうしよう。未来から来たなんて信じてくれないよね)

私は何も言えなくなってしまった。
未来から来たなんて言ったら、光輝みたいに怒ってしまうかもしれない。

「素性は言えないのか。不躾で申し訳ないが、君は遊行女婦なのか?」
「ウカレメ?」
「旅をしながら歌や舞で宴席に興を添える女だ。不可思議な芸といい、おかしな格好といい……遊行女婦ならば合点がいく」

(よくわからないけど、舞は出来るよね……)

「はぁ……」
私はあいまいに返事をして、守屋さんの様子を伺う。
やっと納得したのか、表情の硬さが和らいだ。

「そうか。では今宵は宴を催そう。君の芸を皆の前でみせてもらうぞ」
「えぇ!?」
「士気も上がるというものだ」
「ちょ、ちょっと……」
「では、楽しみにしているぞ」

そう言って、守屋さんは建物から出て行ってしまった。
いつの間にか、私の背中にくっついる光輝は寝息を立てている。

私は……
@守屋さんを追いかける
A光輝を起こす
B考える
198819:2008/04/13(日) 14:35:47 ID:???
B考える

(なんだか、変なことになっちゃった)

多分、ウカレメっていうのは旅をする芸人みたいなものだろう。
突然現れる私を旅の芸人だと勘違いしたのかもしれない。

(でも……)

光輝に無理をさせてまでここまできたのに、逃げ出すわけにはいかない。
私は眠った光輝を見つめる。

(光輝、しんどそうだったもんね)

今夜の宴は自分でなんとかしないといけない。
確か、守屋さんは舞とか歌とか言っていた。

(歌っていわれても……困った)

ポップスとか、ロックとか、童謡とか歌えばいいんだろうか。
昔だし、和歌とか難しいのを言えっていわれてもわからない。

外からは、兵士が噂する言葉まで聞こえてくる。

「守屋様が遊行女婦を連れてきた。今宵は宴があるらしい」
「ところで、遊行女婦は美人なのか?」
「見たところ、そうでもなかったぞ」
「なんだつまらんな」
「お前では無理だろう。守屋様のお手つきだろうさ」
「しかし、女気のない守屋様が……遊行女婦とは意外なことだな」
「明日は弓が降るかもしれん」
「……それは、冗談にならんぞ」

(なんだか噂されてるし。くじけそうだよ……)

その時、私を呼ぶ声が聞こえた。

@守屋さん
A春樹
B隆
199820:2008/04/13(日) 16:49:40 ID:???
@守屋さん

「済まないな。少しいいだろうか」

守屋さんは私を手まねきして呼び寄せる。

「なんですか?」
「今宵の宴には参加できない怪我人を診てくれないか。勝手な願いとは思ったのだが、やはり君の手を借りたい」
「怪我をした人を祈祷すればいいですか?」
「ああ。協力してもらえるだろうか」
「わかりました」

(今の私の出来ることって、これくらいだしね)

案内された場所は、怪我人ばかりが集まる簡素な藁ぶきの建物だった。
その中に、数十人という傷ついた兵士が横たわっている。

(これは……)

治る見込みのある人は半分といったところだった。
もう半分の人は衛生的とは言いがたいところに居るせいで、私ではどうしようもないほどになっている。
この場所にも、死の匂いが満ちていた。

「あの……」
「言わなくてもいい。治る見込みのある者だけでいいんだ」
「わかりました」
「……ちょっと待ってくれないか」
「何ですか?」
「治らない者も真似だけでいい。せめて安らぎを与えてやって欲しい」
「痛みを取ることは出来ませんけど、どうしますか?」
「では、眠りを……。一時の安らかな眠りを与えることは出来るか」
「……やってみます」

私は守屋さんに言われるまま、一人ずつに力を使っていく。
たった六、七人を治したところで、私もフラフラになってしまった。

「無理をさせて済まなかった」
「……いいえ。もう少し頑張れるかなと思ったんですけど」
「いや、本当にありがとう。宴までの間、少し休んでくれ」
「やっぱり宴に出なきゃ駄目ですか?」
「宴の後、戦をする理由について語ることを約束しよう。
君が……素性の言えない様な遊行女婦だろうと、撫子の花ように美しく可憐な女人に変わりは無いからな」

そう言って、守屋さんは優しく私の手を取る。
(真顔でまた恥ずかしい言葉を……すごく痒いよ……)

守屋さんと一緒に建物に戻る時、今晩の宴の準備の様子を目にした。
この陣も戦場なんだけど、思ったよりも雰囲気は明るくて、少しだけ安心する。

@戻って休む
A陣の様子を見たいという
B守屋さんと話をする
200821:2008/04/14(月) 02:14:42 ID:???
B守屋さんと話をする

宴の準備を黙って見ていた守屋さんの横顔を、そっと覗き込む。
血を浴び、戦場で敵の命を絶っていた人と同一人物とは思えなかった。

「私、守屋さんってもっと怖い人かと思ってました」
「そうなのか?」
「この陣の雰囲気と一緒で、見た目に騙されてたのかもしれません」
「君には、この陣はどう映ったのかな」
「気のせいかもしれませんけど、守屋さんも兵士の人も……少しだけ楽しそうに見えちゃうんですよね」

守屋さんがすごく怖い人なら、この陣の中がもっと殺伐としているはずだ。
顔をあわせる兵士はみんなは守屋さんに敬意を払っている。
怪我人を診ている時にも、強い絆みたいなものを感じていた事だった。

「楽しそうか。確かに、ここの者達は私についてくる変人ばかりだからな」
「変人ですか?」
「ああ。過酷だった東国への征討の時も、この負け戦にも文句ひとつ漏らさない変わり者ばかりだ。何を考えているのか、さっぱり分からない」
「……守屋さんでも分からないんですか?」
「私を含めて全員、戦場でしか己の居場所を見つけられない無頼漢の集団だからな。常識は通じないのさ」

(戦はよくない事のはずなのに……なんだろう)

文化祭と一緒にするのも変だけど、連帯感みたいなのは似ている気がする。
命を懸けるほどの重い戦いだけど、この陣の雰囲気は辛いものだけじゃないのは分かった。

(こんな考え方、きっと光輝に怒られちゃう。あっ、そういえば……)

「あの、守屋さん」
「何だろうか」
「さっき光輝と一緒いた時、兵の人達の噂を聞いてしまったんですけど……私って守屋さんのお手つきらしいんです」
「なっ……なんだ、それは!」
「あの、お手つきってどういう意味ですか?」

(カルタにしては話の前後が合わないし……)

「君は本当に遊行女婦で間違いないのだろう?」
「まぁ……」

(なんで確認するのかな……)

「君も相当変わった女人だな」
「嬉しくないけど、よく言われます」
「私も若くないのだし……実らぬ想いに整理をつける時期なのかもしれないな」
「守屋さんが言っている人って、出雲の姫様のことですね」
「撫子の君は、心まで見透かす力があるのかな?」
「いいえ。守屋さんの隣で寝言を聞いてしまったので」
「これは……参ったな」

真剣に顔を赤くしている守屋さんを見ていると、少し可笑しくて笑ってしまった。

@光輝を見に行く
Aもう少し話をする
B考える
201822:2008/04/15(火) 10:48:39 ID:???
B考える

けれどのんきに笑っている場合でもない。
まだ宴で何をやるか決めていない。

(うーん、守屋さんは歌や舞って言ってたよね……)
となると、その二つのどちらかをやればいいのだと思うけれど、生憎舞は舞えても、この時代の歌がどういうものか分からないので、歌は歌えない。
そうなると、もう舞を舞うしかないのだけれど……。

(壱与の舞って、宴席で舞っていいような舞なのかな……?)
私が舞える舞は、主に儀式に使うもので宴席で舞うようなものではない。
絶対に舞ってはいけないというものでも無いだろうが、宴席に水を差すことになるのは嫌だ。

(あ……そういえば……)
儀式の舞といえば儀式の舞なのだが、どちらかと言うと祈願する意味合いが強い舞もあった。
平和を願う舞、勝利を祈願する舞などがそれだ。
そういう舞ならば、宴席でも問題ないだろう。

「では、私はすこし片付けなければ行けない仕事があるので失礼する」
「あ、はい」
守屋さんは私を光輝が寝ている部屋の前まで送るとそう言ってまたどこかへ行ってしまった。
室内に入ると、光輝はまだ眠っていた。
相変わらず顔色が悪い。

(やっぱり、この場所も光輝にはつらいのかな……)
光輝のすぐ横に座って、青白い顔に手を伸ばす。
すると、気配に気付いたのか光輝がうっすらと目を開いた。

「光輝、大丈夫?」
「……あぁ」
半分寝ぼけたような声で、光輝は返事をするともそもそと動く。

「こ、光輝?」
光輝は座っている私の膝に頭を乗せて、片方の腕を私の腰にまわすと再度寝入ってしまった。
その様子は怪我をした守屋さんと同じような仕草だ。

(こ、これもきっと無意識だよね……)
きっと身体が辛いのだろう。
しばらくそのままで居ると、明らかに光輝の顔色がよくなっていく。
足が痺れてそろそろ辛くなってきた頃、大分顔色のよくなった光輝が目を開けた。

「……ん?」
「おはよう、光輝」
一瞬ここがどこだか分からなかったのか、ぱちぱちと瞬きをした光輝は私の声に顔を上げる。

「あー、おはよう」
小さくあくびをした光輝はのっそりと起き上がる。
けれど、私からはなれる気は無いのか私の背後に回ると、以前のようにべったりと抱きついてくる。
まだ、完全に回復はしていないのだろう。
私の肩にあごを乗せると、光輝が聞いてくる。

「そういや、守屋に頼まれて芸を披露するんだろ? なにやるんだ?」
具合が悪そうにぐったりしていたけれど、話はきちんと聞いていたらしい。

えーっと……
@平和を願う舞
A勝利を祈る舞
Bそれ以外の舞
202823:2008/04/15(火) 22:40:11 ID:???
Bそれ以外の舞

(兵のみんなが喜ぶのがいいけど……平和の舞、勝利の舞か。他の舞は無いのかな)

私は困り果てて、うーんと唸った。
その様子を、光輝が不思議そうに見ていた。

「愛菜。もしかして、困ってるのか?」
「みんなが喜ぶような舞を披露したいけど、よくわからなくって。実は私、すごく人前が苦手なんだよね」
「遊行女婦なのに人前が苦手なのかよ。でもさ、たしか以前の説明では巫女だって言ってなかったか?」

肩にあごを載せたまま、光輝は視線を向けてきた。
私は仕方なく、怒られない程度に本当の事を話す事にした。

「本当はね……私は高校生なんだ」
「コウコウセイ? 聞いたことない言葉だな」
「だからね、私はウカレメって旅芸人じゃないから、喜ばれる芸なんて分からないんだよ。
けど、せっかくの宴会に水を差すような真似はしたくないから困ってるんだよね」

小学校の学年演劇や文化祭では、私はいつも裏方の仕事に逃げてしまっていた。
今にして思えば、少しでも舞台慣れしておけばよかったと思う。

そういえば、春樹は五年生の時にも白雪姫の王子様役をしていたっけ。
演技も他の子より堂に入っていて、あの後に春樹はラブレターとか結構もらっていた。
何をしても地味な私には、舞台の上での春樹が本当に眩しく見えた。
そんな立派な弟を持てた事が誇らしかったと同時に、少しだけ寂しい気持ちになったのを思い出す。

(舞の話から、春樹のことに考えが変わってるし……)

春樹から逃げるようにして眠ったのに、私は何をやっているのだろう。
家族になった五年前から、春樹について考えている事が多かった。
それなのに、春樹が私を異性として好きかもしれないと、そう考えるだけですごく怖くなってしまう。
どこまでも逃げ出したくなる。

(私って、わがままなのかな……)

自分がズルイような、情けない人間に思えて、大きなため息が漏れた。
大体、精霊とはいえ光輝に抱きしめられている今の状態で、春樹のことを考えるなんてどうかしている。
溜息の意味を勘違いしたのか、光輝は私を覗き込んできた。

「お前、守屋より鬼の力が強いんだから、あいつの言うことなんて聞く必要ないだろ。
困ってるのなら、いっそ宴会に出る必要ないんじゃないのか?」

さっきよりも私を抱きしめる力を強くして、甘えの混じった口調で言葉を続けた。

「ここは負の気が多くて気分が悪いしさ。俺と一緒に森へ戻ろうぜ」

どうしよう……
@ここに居る
A森へ行く
B夢から醒める
203824:2008/04/17(木) 00:17:16 ID:???
@ここに居る

「駄目。守屋さんと約束したんだから」

私は光輝の手を振り解いて言った。
だけど、光輝は相変わらず腑に落ちないという顔をしていた。

「宴会のことにしたって、守屋が一方的に決めた事じゃないか」
「たしかにそうなんだけど……」
「俺も守屋のことはそんなに嫌いじゃないが、やっている事は許せないんだ。
それなのに、お前がほいほい言いなりになってるのが余計に腹立つんだよ」
「言いなりになんて……なってないもん」
「さっき言いなりになって、死にそうな兵士の治癒をしていただろうが」

(光輝、寝てると思ってたのに気づいてたんだ)

「この戦で、俺の森は穢されたんだ。そんな奴らの味方なんて止めちまえって」
「でも……怪我をした人を放っておけないよ」

たしかに、光輝にとってここの兵士は森を穢す悪い人達だろう。
けれど私は、苦しんでいる人がいるなら、少しでも何かしてあげたいと思っている。
仲間を一人でも多く助けたいと思って、守屋さんも私を頼ったはずだ。
その結果で、光輝の森がもっと穢されてしまうかもしれない。

(わからない。どうすればいいんだろう……)

「悩むなよ」

光輝はまた私をギュッと抱きしめてきた。

「悩むよ。だって、わからないから……」
「大体、どんな理由があろうと戦なんてくだらない事だろ。お前の鬼の力でこの陣を壊しちまおうぜ」
「本気で言ってるの?」
「もちろんだ。俺は分かってるんだからな。お前は誰よりも強い。本気を出せば、この陣だって壊せるはずだ」
「壊す力は……使わないようにしてきたからよく分からないよ」

『程度を超えた力は災いしか生みません』
『その力をどうか、破壊する力ではなく、生かす力として使ってください』
(以前、冬馬先輩が言っていたこと……)

黙った私を覗き込むと、光輝は真面目な顔をする。
そして、ポツリと告白するように話し出した。

「正直に言うとさ。守屋と一緒にいれば、またお前に会える気がしていたんだ。俺は……お前を待っていたんだよ」
「光輝……」
「今の俺じゃどうする事も出来ない。けど、お前には変える力があるんだ」
「でも……」
「胸に手を当ててよく考えてみろよ。お前自身はどうしたいんだ? 戦なんて終わらせて、俺と森に帰ろうぜ」

(私は……どうしたいのかな)

私は……
@考える
A壊す
B壊さない
204825:2008/04/17(木) 16:37:44 ID:???
B壊さない

「壊さない。」
私の言葉は決まっている。
「なぜだ……。」
光輝に聞き返されようがこれはできない。
未来にいるはずの私が過去の世界を変えるわけにはいかない。
今思えば、ここの人たちを回復させることですら未来が変わっているのかもしれない。
きっとここを潰してしまえば未来は大きく変わる、そんな気がした。
「何を言われてもできないわ……。」

歯がゆそうに光輝の顔が強張る。
「偽善だと思ってる?それは違うよ、光輝に大切な物があるように私にも大切な物があるの。」
「……大切な物。」
「私の世界。ここを潰したら私の世界がなくなっちゃう。
光輝の世界が森であるように私の世界もあるの。」
「俺にはわからない、お前は俺と一緒にいて、俺の世界の住人になればいいじゃないか。」
「ごめんね、それはできない。私は自己中だよね、私の為に光輝の世界を犠牲にしてる。」
私の大事な帰る場所、春樹やお父さん、お義母さんの待つ家、香織ちゃん達と学ぶ学校。

きっと私はあの場所を守る為ならどんな力でも使う。

「私が壊す力を使うとしたら、あの場所を壊そうとするモノ。
きっと私はその為なら躊躇いなく自分の力使えると思う。ほんと、私って自分の為ばっかり……。」
「……。」
光輝の悲しそうな顔を見て私はもう一度ゴメンと頭を下げた。

私はここに関わりすぎてるのかもしれない、
もしかしてこのままだと本当に未来が変わるかも。
でも……彼らの行く末も気になる。

@これまで通り彼らと付き合っていく
A守屋さんとの約束が終わったらもう会わない
B守屋さんとの約束が終わったら遠くから見守る
205826:2008/04/17(木) 22:57:32 ID:???
A守屋さんとの約束が終わったらもう会わない

(未来に影響を及ぼしてしまう可能性……)

私の夢でタイムパラドックスが起きるのか、全くわからない。
まず、ここが本当に過去なのかも曖昧なのままだ。
夢ということ以外、わからないことだらけの過去かもしれない世界。

(でも可能性があるなら、やっぱり出来ない)

私は現実から逃げ出してきた。
それは、春樹や隆、決別したままの修二くんのことから目を背けてきた結果だ。
すべて解決しなければいけないことばかりだ。
そのためにも、早く自分の居場所に帰らなくてはいけない。

「お前の世界か。……たしか未来から来たって言っていたな」
「光輝、私の言うことをやっと信じてくれたんだ?」
「いや、全然信じてない」

(あらら……)

光輝は、頭をカリカリと掻きながら口を開いた。

「陣は壊さないのか。まぁ、お前が嫌なら仕方がないよな」
「ごめん」

私は光輝を覗き込むと、視線がぶつかった。
その視線は、いろんな感情が入り混じっているようだった。

「愛菜の出した答えなら、謝る必要は無いさ。たとえ森が滅びても、天命だったってことだ」
「光輝……」
「守屋も自陣が陥落するのは分かってるんだ。ずっと凌いできたみたいだったけど、大和が新たな軍を送り込んできたらしいしさ」
「どうして光輝がそんなことを知っているの?」
「守屋自身が言っていた事だし、みんな知ってるよ。ただ、簡単にやられてくれりゃいいのに、踏ん張るから森がよけいに穢されてんだ。
兵力の違いは明らかだし、この戦はじきに終わるだろう。お前が手を下してたら、すぐに早く終わっただろうけどな」
「投降は? そうすれば森もこれ以上穢されず、守屋さん達が生き残る可能性だって……」
「それは無いだろうな」

私からゆっくり身体を離すと、光輝はよろけながら立ち上がった。

「俺は森に帰るぜ。これ以上、空気の悪いところに居られない」

私は……
@光輝を送る
A守屋さんに会いに行く
B夢から覚める
206827:2008/04/22(火) 14:10:33 ID:???
@光輝を送る

私は出て行く光輝を陣の入口まで見送ることにする。

「じゃあ、そこまで送るよ」
「……好きにすればいいさ」
光輝は私をチラリと見ると先に立って歩き出した。

(もう光輝には会えない気がする……)
ここで分かれたらきっとこの予感は当る。
光輝は立ち上りこそふらついたものの、思ったよりもしっかりした足取りで陣を横切っていく。

「……じゃあ、な」
「うん……」
光輝は『またな』とは言わない。きっと光輝も何か感じているのかもしれない。
光輝は二、三歩進んで、ふと思い出したように振り返った。

「なぁお前、何の舞を舞うか悩んでるって言ってたよな」
「え……、うん」
「じゃあさ、再生の舞を舞ってくれないか?」
「再生の、舞?」
私は壱与の記憶をたどる。確かにそんな舞はあった。

「ダメ、か?」
「ダメじゃないけど……」
「安心しろ、再生の舞はめでたい舞だ。宴席で舞って嫌がられることはないぞ」
「そうなんだ?」
「ああ、頼んだぜ?」
光輝は私の返事も聞かずにさっさと歩いて行ってしまった。

(再生の舞、か……)
穢れてしまったと言う光輝の森の再生を願ってほしいと言うことが一番なのだろう。

「撫子の君?」
「あ、守屋さん……」
ぼんやりしているといつの間にか守屋さんが背後に立っていた。

「光輝が出て行ったようだな」
「はい、ここは空気が良くないから森に戻るって……」
「……光輝についていかなくて良かったのか?」
「舞を舞う約束をしたから……」
「そうだったな……」
守屋さんは、少し笑うと私を促して歩き出す。

「宴の用意ができたので、呼びに来たのだった。
 皆、あなたの芸を楽しみにしている。ところで何の芸をみせてくれるのだ?」

私は……
@平和の舞
A勝利の舞
B再生の舞
207828:2008/04/25(金) 01:30:57 ID:???
B再生の舞

(光輝のお願いでもあるし、これしかないよね)

「再生の舞にしようかと思います」
「そうか。今から楽しみだ」
「期待しないでください。出来ないかもしれませんし」
「そうなのか?」
「私、まったく舞台慣れしていないんです」
「確認の為にもう一度問いたいが、撫子の君はほんとうに遊行女婦なのか?」
「それは……」

守屋さんはまたしても私に尋ねるように言った。
何度も尋ねられると、嘘が余計に心苦しくなってくる。

「大和の密偵などでは無いと信じたいんだ。君は……私の命の恩人たからね」
「密偵? ち、違いますよ」

私は慌てて否定する。
守屋さんは私を密偵かもしれないと疑っていたようだ。

「では、ただの遊行女婦で間違いないのだな」
「あの……」

(光輝は信じてくれなかったけど……)

「あの、私が出雲の姫様の生まれ変わった姿だと言ったら、信じてくれますか?」
「どういうことだい?」
「壱与が転生して私になったんです。私は未来から来ました」
「生まれ変わり? 輪廻転生のことか……大陸の教えだな」

篝火で明るく照らされた陣の広場に着き、私は守屋さんの隣に腰を下ろす。
もう宴会は始まってていて、酒も入りみんな上機嫌だった。
私は目の前にある葡萄のジュースを一口二口飲む。
横顔の守屋さんを伺い見ると、少し浮かない顔をしていた。

「浮かない顔ですけど、どうかしたんですか?」
「誰から吹き込まれたのかは知らないが、大陸の教えを信じるのは止めなさい」
「大陸の教え?」
「輪廻転生のことだ。人は死ぬと、敵、味方と関係なく黄泉へ行く。そして、祭祀で穢れを浄化しながら、祖霊となる。
別の人間に生まれ変わりはしないのだよ」
「でも……私は不思議な夢を何度もみてきました」

私は今までの予知夢を守屋さんに聞いてもらった。
最初は盃を持ったまま考え込んでいたけれど、ようやく口を開いた。

「黄泉は夜見(ヨミ)、すなわち夢を指すこともある。
夢を見ることは霊魂の放浪と言われているから……黄泉と縁の深い鬼の力をもってすれば過去や未来を覗き見ることも可能かもしれない」

そう言って、守屋さんは濁ったお酒の入った盃を一気に飲み干していた。

(……予知夢も鬼の力だったって事?)

私は……
@もっと尋ねる
A話題を変える
B考える
208829:2008/04/25(金) 14:52:48 ID:???
@もっと尋ねる

「黄泉と縁の深い鬼の力ってどういうことですか?」
「鬼なのに、君は何も知らないのだな」

守屋さんは少しだけ笑うと、話を続けた。

「元々、鬼は地下の世界である黄泉に住んでいる者達だったのだ。
太古に黄泉から逃げ出した神を追ってそのまま中津国、いわゆる人間の住む地上世界に居ついた。
それが我らの祖先だと言われているのだよ」
「じゃあ、私の予知夢は鬼の力の影響かもしれないということですか?」
「出雲の鬼道師には予知に秀でた者もいたという話だからな」

(使えない予知夢は鬼の力だったんだね)

「あの……話を戻しますけど、守屋さんは生まれ変わりを信じていないんですよね?」
「無論だ」
「即答ですか……」
「ここに集う者達が信じるのは国神だけだ。国神に背いて大陸の他神を敬うなど、たとえ帝であっても許せるものではない」
「帝、ですか?」
「そうだ。帝は大陸の政や文化、宗教をこの国に取り入れようとしている」
「それが許せないんですか?」
「もちろんだ。この国そのものが失われてしまうかもしれない大変な事態だ」
「でも未来では、そうでもないですよ?」
「……一体、どういうことかな」
「私たちの世界では、一年の終わりにお寺に行って、一年の始まりに神社に行ったりします」
「な、なんだそれは……」

守屋さんは信じられないという顔で、私を見る。
お酒を飲んでいるせいか、どことなく頬が赤い。

「何かヘンですか?」
「それで神々はお怒りにならないのか」
「多分……」

守屋さんは黙り込むと、焼いた川魚に齧り付いて、またお酒を飲んでいた。
私は空になった盃に、お酒を注いだ。
そして、酒が入って上機嫌の兵士の人達を見ながら小さく呟くように言った。

「君の話が本当だったとしても……。今更、これだけの人々を巻き込んだ戦を止める訳にはいかないだろうな」
「それは、大和と戦い続けるということですか?」
「鬼の血族を根絶やしにし、愚弄した帝は……やはり倒すべき相手なのだ。
たとえ私を慕い、ついてきてくれるこの者達を利用しても果たさなければならない」

決意の言葉とは裏腹に、守屋さんの横顔は暗く沈んでいる。
私はその顔を覗き見ながら、葡萄のジュースをまた一口、二口飲む。
なんだか身体が少し熱くなってきたような気がする。

@話の続きをする
A飲み物について尋ねる
B舞の話を振る
209830:2008/04/26(土) 11:19:11 ID:???
@話の続きをする

(もしかして、守屋さんは……)

「私の勘違いかもしれないんですけど、守屋さんは後悔してませんか?」
「後悔か……」

そう言いながら、守屋さんは私の空になった器にジュースを入れてくれた。
癖のある飲み物だけど、意外と美味しい。
私はお礼を言って、また飲みはじめる。

「撫子の君の言うように、私は後悔しているのかもな」
「やっぱり……戦をしてしまったことですか?」
「私怨を廃仏という大義名分にすり替え、大和国に内乱を起こしたが……そのことに後悔はない。
森を荒らして、光輝には随分嫌われてしまったがな」
「じゃあ、何に後悔しているんですか?」
「何も知らずに付いて来てくれる者達を、騙して利用してしまったことに後悔しているのだろう。
ここに集う人間も含め、大和の民はすべて、同属を滅ぼした悪しき民族のはずなのにな」

(詳しくはわからないけど……)

「鬼を滅ぼした民族でも……守屋さんは後悔しているんですよね。
それって……ここにいる人達が守屋さんにとって大切な仲間だからじゃないですか?」

守屋さんは相変わらず、宴会の様子を眺めている。
広場の中央では誰かが楽しそうに踊っていた。
そして、宴会の喧騒にも聞き入っているようだった。

「ここに集う者達は私の仲間か……」
「そうだと思います」
「尾張、駿河、甲斐、信濃……。確かに東征の時も、長い時間を一緒に戦ってきたな。
共に戦場を駆けている時が、生きている実感を一番得られた気もする。
だが、私は鬼で彼らは人間。相容れない存在だ」
「ずっと一緒だった仲間なのに?」
「ああ。人間はみな鬼を恐れてきたし、鬼は人間を蔑んでいた。
出雲国王も和平を望んだのに、大和がそれを裏切った。やはり相容れなかった証拠だよ」
「でも……」
「鬼だと知ったら、ここに集う者達もきっと私の元から離れてしまうさ。
今は何も知らずに共に戦ってくれているがな」

私は……
@「もう鬼にこだわる必要なんてない気がします」
A「でも、帝と壱与はわかりあっていましたよ」
B「じゃあ、守屋さんも人間になってみますか?」
210831:2008/04/26(土) 22:59:57 ID:???
@「もう鬼にこだわる必要なんてない気がします」

「私はこだわっているのだろうか」
「とてもこだわっている様に見えます」

時々、心がひとつのことに囚われすぎて、周りが見えなくなってしまうことがある。
たとえば、家の中だけで何日も過ごしていると、その箱庭がすべてのように感じてしまう。
けれど私の家も、遠くから見渡せば街明かりの一つに過ぎない。

守屋さんも復讐に囚われすぎていて、光輝のことなんてまるで気にも留めていない。
兵士の人達にだって家族や恋人や友達だっているはずなのに。
複雑な事情がありそうだし同情はするけれど、それ以上に段々腹が立ってきた。

(身勝手ですごくムカツク……)
喉がカラカラに渇いて、私はまた葡萄のジュースを飲み干した。
今日は熱帯夜なのか、身体がすごく熱い。
空になった器を手で弄びながら、守屋さんに視線を向ける。

「守屋さん」
「何かな。撫子の君」
「私を……抱きしめてくれませんか?」
「えっ。今、ここでか?」
「はい」

私を見つめる守屋さんの目は潤んで、顔も赤い。きっと、かなり酔っている。
さっきから饒舌に自分の考え方を語ってくれるのも、お酒の力だろう。

「本気なのか?」
「もちろんです」
「やはりここではまずい。私の衾でいいだろうか」

(フスマ……?)

「どこでもいいです。舞いを披露しなければいけませんし、早くしてください」
「わかった」

足が痺れたのか、ふらついて思わず倒れそうになる。
守屋さんは私の腰に手をまわし、ゆっくり立たせてくれた。

「飲みすぎじゃないのか?」
「ジュースなんて、少々飲みすぎても大丈夫です」
「じゅうす? まぁいい。歩けるのか?」
「平気です。ちゃんと歩けますから」
「そうか。では行こう」

そう言って、守屋さんは私の手を引いて歩き出した。

私は……
@後を付いていく
A手を振りほどいて一人で歩く
Bやっぱりやめる
211832:2008/04/27(日) 17:32:58 ID:???
@後を付いていく

手を引かれるまま、私は黙って後をついていく。
案内されたのは、陣で一番大きなかやぶき屋根の陣屋だった。

「さぁ、入ってくれ」

私は言われるまま、黙ってその中に足を踏み入れる。
そして、たどり着いた場所には麻の布団だけが敷かれていた。

「……これって……」
「衾だが? ここは私の寝所だよ」
「フスマって……布団……?」
「まさか君から、まぐわいに誘ってくるとは思わなかったな」
「なにを……」
「訳あって出雲で育った私には……君の鬼の気配すらも、懐かしく感じていたのだ」

そう言うと、守屋さんの大きな手が私の髪を顔から払うように撫で梳く。
髪から、耳、頬、唇へとその指先が移動していった。
火照った私の顔に、守屋さんの顔が近づいてくる。

「きゃっ、あの……」
「そんなに緊張しなくてもいい」
「ま、待って……」
「やはり君は撫子のように可憐な女人だな」
「ちょっ……えっと……」
「命を助けられた時から、ずっと君のことが忘れられなかった」

大きな守屋さんに組み敷かれ、私は布団に倒れ込んだ。
潤んだ目をした守屋さんと、間近で目が合う。
守屋さんは微笑みながら、私の額に口付けをした。

「うわぁ、待ってください。…守屋さん、少し落ち着いて……」
「怖くない。心配は無用だ」
「あっ、あの……お願いがあるんです」
「どうしたのだ」
「少しの間、私を抱きしめるようにして、目を閉じてくれませんか?」
「……それが君の望みなのか?」
「はい」
「わかった。それで君が落ち着くのなら、言うとおりにしよう」

守屋さんは私を優しく抱きしめると、目を閉じてくれた。
(力の封印、私にできるのかな)

幼い頃、私は力を捨て去るために自らの力を封印した。だから、きっと今回も出来るはずだ。
私は祈りを込めて、守屋さんにしがみ付く。

(お願い……)

どんな複雑な理由があっても、多くの犠牲を払う復讐なんてしちやいけない。
守屋さんが鬼だという事にとらわれているなら、その力を失くしてしまった方が冷静になれる気がする。
本人の了解も無しに勝手な封印することは、いけない事だろう。
けれど、私はどうしても守屋さんの考え方が許せなかったし、納得できなかった。

(成功して……!)

@封印に成功した
A封印に失敗した
Bそのまま気を失った
212833:2008/04/28(月) 00:14:52 ID:???
Bそのまま気を失った

「……さん、……姉さん」

(春…樹の声……?)

「姉さん、姉さん……」
「愛菜ちゃん、はやくおきてよー」

(あれ……守屋さんは? 私戻ってきちゃったの?)

封印が成功したのかどうか分からないままなのに、戻ってきてしまったようだ。
それにしても、ただ私は封印したかっただけなのに、あの時の守屋さんは変だった。
酔っ払ってたのもあるけど、明らかな勘違いしているように見えた。

(私の言い方が悪くて、変な勘違いさせちゃったような)
(いざとなったら全力で抵抗したけど、けっこう守屋さん本気だったのかも……)
(っていうか……宴会で舞を見せてないのに戻ってきちゃったし)

光輝のためにも、再生の舞は宴会で披露しなくちゃいけない。
(一体どうなっちゃうんだろう。また眠れば戻れるのかな)

私は考えを巡らせながら目を開けてみると、やっぱり覗き込む春樹の顔があった。
その横には、ちゃんとチハルもいる。

「愛菜ちゃんがおきたー」
「やっと起きたね」
(おはよう……でもないか)
「そろそろ周防さんが来る時間だから起こそうと思って。と、その前に……」

春樹の手には、おしぼりとヘアブラシが握られている。

「来客なのに、寝起きのままじゃ……姉さんも嫌だろうからさ。一応、準備をしようと思ってね」
(さすが春樹。気が利くなぁ)
「愛菜ちゃんがさすが春樹だっていってるよ」
「チハルだって手伝ってくれただろ? 姉さんの着替えを準備してくれたじゃないか」
「えへへ……はい、愛菜ちゃんのきがえ! ボクがやってあげるからね」
(チハルはえらいね。いつもありがと)
「やったー。ほめられた、ほめられた」

チハルはくるくると楽しそうに回りだした。
春樹もいつも通りの弟の姿に戻っている。

「それじゃあ姉さん。少し体を起こすよ」

春樹の手が伸びて、私の両肩を掴んだ。
考えないようにしているのに、どうしても朝の出来事が頭をかすめてしまう。
その見慣れた世話焼きな手も、いつもとは違って映った。

私は春樹を……
@やっぱり弟としか思えないと再確認した
A今までより強く異性だと意識した
B逃げ出したいほど怖く感じた
213834:2008/04/30(水) 00:30:22 ID:???
B逃げ出したいほど怖く感じた

『俺は、姉さんのことが――』
(その先を聞くのが……やっぱり怖い。いますぐ春樹から逃げ出したい……)

朝のことを思い出して、私はかたく目を閉じる。
今までの春樹だったら、少しは意識することはあっても、安心して体を預けることが出来た。
隆や冬馬先輩や他の人達に触れられても、ドキッとしたり恥ずかしくなったりするけれど、怖くなんてなかった。
修二くんが豹変してまった時だって、こんなに怖いとは思わなかった。
秋人さんに対して感じた恐怖とも違う。
自分の心なのに、なぜ春樹から逃げ出したくなるのか、考えても答えが出てこない。

(どうして怖く感じるの? どうして逃げたくなるの?)

春樹の腕が、私の両肩を支えている。
変に意識が働いて、全神経が肩に集中してしまったように緊張する。

「愛菜ちゃん、大丈夫?」
心を見透かしたのか、チハルが声をかけてきた。

(チハル頼みがあるの。私が怖がっていることを春樹に言わないで)
(どうしていっちゃいけないの?)
(春樹が傷つくと思う。だからお願い)
(ほんとにいいの?)
(心配してくれるのはすごく嬉しいけど、私の言う通りにして欲しいんだ)
(うん……わかった)
(わがまま言って、ごめんね)

「どこか痛かった? 強く掴みすぎたかな」

私の肩を抱いた春樹が、小首をかしげて心配そうに覗き込んできた。

(チハル。春樹に大丈夫って言って)
肩ではなく、胸が締め付けられるように痛いけど、心配させたくなくて嘘をつく。

「愛菜ちゃんがダイジョウブ、だって」
「それならいいけど……。痛かったら我慢しないで言うんだよ」

ベッドを軋ませながら私を抱き上げると、春樹が上半身を使って私を支える。
だらりと垂れる頭を肩で固定しながら、クシャクシャになった髪にそっと触れてきた。
ヘアブラシを上から下へ動かしながら、ゆっくり私の髪をとかしていく。
その手は壊れものでも扱うように、どこまでも丁寧で優しかった。

春樹とは対照的に、されるがままの私は子供のように動揺していた。
さっきまで戦をする守屋さんに対して、すごく腹を立てていた。
自分の事を棚に上げ、守屋さんを怒る資格なんて私には無い。
どれだけ巫女や鬼の能力を手に入れても、自分の気持ちすら理解できないままだ。

朝の事なんてなかったように、春樹はためらい無く手を動かしていく。
隆と言い合っていた出来事の方が夢だったと思えるくらい、いつも通りの様子を崩さない。

私は……
@春樹に話しかける
Aチハルに話しかける
B涙が出てきた
214835:2008/05/01(木) 00:42:56 ID:???
@春樹に話しかける

(だけど……普段とは少し違うかも……)

表面上の春樹は、ちゃんと今までの弟になっていた。
けれど、不自然なほど優しすぎる動作が、割り切れない気持ちを表しているようだった。
やっぱり私と同様に、春樹も途惑いを隠せないのかもしれない。

チハルを介して、私は髪を梳き続ける春樹に話しかけた。

(もう……いいよ。ありがとう)
「そう? じゃあ、ベッドに横になろうか」
(迷惑かけて、本当にごめん)
「……謝らなきゃならないのは俺なのに、何を言っているのさ」
(なんで春樹が謝る必要があるの?)
「姉さんの体が動かなくなったのは、俺にも責任があるから……」
(は、春樹のせいじゃないよ……!)
「……けど」
(昨日、隆も言ってたでしょ? 春樹は大堂春樹なんだから)
「そう…だね……」

掠れるような声でうなずくと、春樹は手を止めてヘアブラシをテーブルの上に置いた。
空いた片手で落ちた髪を払い、脇にあるごみ箱に捨てる。
ベッドに膝を立てると、腕で私を支えたまま、上半身をずらした。

背中と首に春樹の腕を感じながら、私は再びベッドに寝かされた。
鼓動が聞こえるほど間近に、春樹の胸が迫ってくる。
私は息をするのも忘れて、その一挙一動に緊張してしまった。

「苦しくなかった? 寝かせるのって意外と難しいものだね」
(春樹が丁寧にしてくれるから、苦しく無かったよ)
「よかった。疲れてない?」
(全然平気)
「今度は顔を拭くつもりだけど、少し休んでからにする?」
(ううん。続けて欲しいな)

当たり障りの無い会話を選ぶようにして、言葉を交わしていく。
もっと重要な話をしなければいけないのは、十分にわかっていた。
何も知らなかった頃には戻れない。
答えを先延ばしにして、ずっと逃げ続けるほどの器用さも持ち合わせていない。

姉弟という切れない絆を五年間かけて紡いできた。それは私にとってかけがえのないものだ。
だけど同時に、正体の分からない気持ちが次々と溢れてきて、胸を締め付けてくる。
まるで今まで無理やり閉じ込めていたみたいに、押さえが利かない。

(怖い……)

チャーラーラーチャラーラーラー

その時、突然私の携帯が鳴った。

誰からの連絡だろう?
@周防さん
A美波さん
B修二くん
215836:2008/05/01(木) 20:35:21 ID:???
@周防さん

春樹はホルダーから携帯を抜くと、ディスプレイを確認して、私に顔を向ける。

「周防さんからだ。俺が出てもいいよね」
(うん。お願い)

私の言葉に黙って頷くと、春樹は携帯の通話ボタンを押した。
携帯で話している春樹の様子を、ベッドから眺める。

「もしもし……俺は…そうです、春樹です。……はい」
「姉さんは相変わらずです。俺ですか? 俺はなんともないですけど……」

しょんぼりした顔で、チハルが私の元まで近寄ってきた。
私を覗き込みながら、心の中に話しかけてくる。

(愛菜ちゃんは春樹がこわいんだよね。どうしてこわいの?)
(私にもよく分からない。ただ色々なことが整理できなくて、不安なの)
(ボクになにかできることない?)

小さなチハルにまで心配を掛けている。そう思うと、いたたまれない気持ちになった。
思わず泣きたくなったが、涙を見せると余計に心配させてしまいそうだ。

(おてつだい、なんでもがんばってするよ?)
(それじゃ……お願いしようかな)

チハルに何をしてもらうおうかと考えて目を動かしていると、青空が目に入ってきた。

(昨日はずっと雨だったのに、今日は晴れているんだね)
(うん。あさからおてんきだよ)

太陽は時々薄い雲に隠れながら、穏やかな秋の日差しを私の部屋に届けていた。
こんな日は外に出たくなるけど、今は諦めるしかない。

(窓……窓を開けて欲しいな)
(いいよ。まってて)

ぱたぱたと窓まで走っていくと、チハルは勢いよくガラス戸を開ける。
頬をくすぐるような、ひんやりとした風が部屋の中に入ってきた。

チハルはまた私のベッドまで戻ってくる。
そして、私の動かない手を握りながら心の中に直接話しかけてきた。

(愛菜ちゃん、げんきになった?)
(気持ちいい風……。うん、元気になってきたよ)
(えへへ。よかったぁ)
(チハル、ありがとう)

そよ風がレースのカーテンを静かに揺らしていた。
外に出ることは出来ないけれど、沈んでいた気持ちが楽になっていく。

「……わかりました。はい……失礼します」

周防さんとの電話を終えて、春樹は私の携帯を閉じる。

私は……
@春樹に話しかける
Aチハルに話しかける
B考える
216837:2008/05/02(金) 01:22:17 ID:???
@春樹に話しかける

(周防さん、何か言ってた?)
電話の内容が気になった私は、チハルを介して春樹に尋ねた。

「もうすぐ着くってさ」

春樹は携帯を机に置くと、私に向かって歩いてきた。

「着替えもしなきゃいけないか。チハル、大きくになってくれないかな。
姉さんを着替えさせるのに、子供のままじゃ出来ないだろう?」
「ボク、もうおおきくなれないよ」
(えっ……。もしかして、私が食べちゃったから?)
間髪いれず、私はチハルに問いかけた。更に幼い男の子になってしまった時から、嫌な予感はしていた。

「うん。もうヘンシンするだけのチカラがないみたい」
(回復しないの? ずっとこのまま?)
「ずっとこのままだとおもう」
(ごめんね。チハル……)
「ちがうよ。わるいのはボクだって、隆もいってたよ? だから愛菜ちゃんはわるくないよ」

チハルの言葉しか聞こえていないはずなのに、何かを察した春樹はチハルの頭を優しく撫でた。

「チハルは姉さんを救おうとしたんだし、決して悪い事をしたわけじゃないよ。
たぶん隆さんが怒った理由は、チハルが自分を粗末にしたからじゃないかな」
「ソマツって、もともとボクに命はないよ? サキミタマだもん」
納得できないのか、チハルは頬を膨らませた。

「全部差し出してしまったら、チハルの存在は無くなってしまうだろ? ぬいぐるみに戻ったとしても、それもうチハルじゃないんだ」
「だけど……ボクはくまちゃんでもあるんだよ?」
「ぬいぐるみは器だろ。精霊として姉さんにつけてもらった名前はチハルじゃないか。
チハルが居なくなるのは、すごく悲しいことなんだ。それを隆さんは怒ったんだよ」
「ボクが消えちゃうのが、みんなかなしいってこと?」
「そうだよ。みんなチハルの事が大好きだからね」
「そっか……。わかったよ。ごめんなさい」

ようやく理解できたのか、チハルは私と春樹にペコッと頭を下げた。
(私も食べちゃおうとしたんだから、おあいこにしよ?)
(うん。おあいこだね)

(それにしても……春樹って精霊とかに詳しかったっけ?)
私は不思議に思って、心の中で首をかしげた。
よく考えれば、私がチハルを食べようとしていた事実をすんなり受け入れているようだった。

「あのね、愛菜ちゃんがどうして春樹は精霊にくわしいのって聞いてるよ?」
「高村の伝承を手に入れたからね。伝承では、精霊って陽の気だけを持った精神体なんだってさ。
幸御魂だってチハルが言っていたのは、四魂っていう精霊の性質みたいなものだね。
わかりやすく人間に例えると心の部分……特に愛だけ抜き取った存在、みたいなものなんだよ」
(すごいんだね。高村の伝承って)
「全然。マニアックな知識と歪んだ高村の歴史が詰まってるだけさ」

ピンポーン

「周防さんが来たみたいだ。チハル、俺の代わりに姉さんの顔だけでも拭いといて」
それだけ言うと、春樹は階段を下りていく。

私は……
@高村の伝承について考える
Aチハルに精霊についてきく
B大人しく周防さんを待つ
217838:2008/05/03(土) 12:46:28 ID:???
@高村の伝承について考える

チハルにおしぼりで顔を拭かれながら、私は考える。
春樹が言うには伝承とは、「マニアックな知識」と「歪んだ高村の歴史」が詰まってるものらしいけど……。

(マニアックな知識って……?)

たった今、春樹から精霊についての説明を聞いた。
以前、周防さんからも『伝承どおりなら、愛菜ちゃんの力は太極の陰陽両儀だ』と聞いた。

少なくとも、力や精霊に関しての知識が記されている事だけはわかる。
前に放送室で、「力についての知識を得るために組織へ近づいた」と一郎くんが教えてくれた。
もしかしたら、伝承に記された知識が目的だったのかもしれない。

(もう一つ言っていたのは、高村の歴史か……)

昨日、チハルの体に神様が入ってきたことがあった。
あの時、神様がいっていた伝承についての言葉を思い返してみる。

『伝承を正しく伝えるのが一族の勤め』
『一族の先祖は出雲へは移らず石見国で伝承を伝え続けた』
『そなたらが行う事象そのものが伝承となる』

きっと過去の高村家の人々が後世に伝承を伝え、今に至るのだろう。

(ねぇチハル。チハルは高村の伝承って知ってる?)
(名前だけなら知ってるよ)
(名前だけ……そっか)
(デンショウがどうかしたの?)
(あっ! そういえば……)
(なあに?)
(ううん、なんでもない。少し思い出したことがあったんだよ)

昨日の夜、春樹の言葉にも伝承という単語があったのを思い出した。

『突然、神宝力が覚醒したと思ったら、高村の伝承が頭の中に入ってきて……』

伝承は高村家の中でも、神宝の力を手にした者だけが得られるものみたいだ。
祖先から培われてきた知識と系譜が伝承と呼ばれ、ずっと伝えら続けてきたのかもしれない。

(周防さんも伝承を知ってるって事は……神宝なのかな)

そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえ、それから扉が開く音がした。

ます入ってきたのは……
@周防さん
A春樹
B別の誰か
218839:2008/05/04(日) 00:26:37 ID:???
@周防さん

「よっ! 愛菜ちゃん」

片手を挙げながら入ってきたのは、周防さんだった。
基本がマイペースなのか、どこで会っても周防さんの様子は変わらない。
(あ……周防さん。こんにちは)

初めて見る周防さんに少し警戒しているのか、チハルは私から離れようとしなかった。
手を握って、心の中に語りかけてくる。

(この人が愛菜ちゃんがいってたスオウなの?)
(そうだよ。とってもいい人なんだ)
(悪いカンジはしないけど、モヤモヤの気がまじってるね)
(それは陰の気だよ。多分、神宝の影響じゃないかな)
(モヤモヤのカンジが春樹とよくにてる……)
(従兄だから似てるんだよ。それでね、チハル。また私の代わりに会話してもらってもいいかな?)
(愛菜ちゃんのお話を、ボクがスオウに伝えればいい?)
(うん。お願いね、チハル)

「おっ、この小さいのは精霊だな」

周防さんはチハルに近づくと、その頭をくしゃくしゃと撫で始めた。
チハルは逃げるように頭を押さえながら、周防さんを見上げている。

「ちいさいのじゃなくて、ボクはチハルだもん。おじさんはスオウだよね」
「お、おじさん……。せめてお兄さんにならないか?」
「ならないよ。スオウはおじさんだもん」
「なぁ、春樹。ちゃんとこの精霊に教育してるのか?」
「チハルは姉さんのぬいぐるみから出てきた精霊ですから。文句は俺じゃなく、姉さんに言ってください」

コーヒーを持って来た春樹が、苦笑いで答えてる。
周防さんはチハルの頭から手を離し、仕方なさそうに溜息を吐いた。

「そうかー、愛菜ちゃんの精霊ならおじさんでも許すしかないな」
「姉さんだったら許すって……今、すごい贔屓を感じたんですけど」
「そりゃ、従弟よりも女子高生に好かれたいからな」
「やっぱり、スオウはおじさんだ! おじさんだ!」

チハルは歌うように言って、クルクルと楽しそうに踊りだす。

「参ったな……。悔しいが、この小さいのに一本取られたみたいだな」

笑いながら頭を掻くと、周防さんは私のすぐ傍まで近づいてくる。
そして、少しだけ真面目な顔になって私の額にそっと触ってきた。

(愛菜ちゃん、色々大変だったな。大丈夫だったか?)

私の心に直接、周防さんの心配そうな声が聞こえてきた。

@(周防さん……?)
A(チハルが失礼なこと言ってしまって済みません)
B(闇について教えてください)
219840:2008/05/04(日) 13:01:41 ID:???
@(周防さん……?)

なぜ周防さんの声が私の心に直接聞こえてくるのがわからない。
私は、途惑うばかりだ。

(こんな体にさせてしまったのは、神宝の影響だ。本当に済まない)
(周防さんの声が心に……でも……あれ……?)

まるで私の心が読めているように、周防さんは語りかけてくる。
昨日、誰かと交信できないか試して、全員だめだったのに。

(心配しなくていい。これが俺の能力だからさ)

やっぱり周防さんの声が心に直接届いてくる。
私の言葉も周防さんには分かっているみたいだ。

(周防さんの能力?)
(この能力の種明かしはあまり好きじゃないんだが……)

周防さんは私の額から手を離すと、その両手を私に見せる。
そして、また額に触れる。触れた瞬間、また私の心に声が聞こえだす。
また私から周防さんが手を離すと、声が途切れる。
今度は私の手を握ると、また声がした。

(わかったかい?)
(周防さんが私に触れたびに、声が直接聞こえてきます)
(だろうな。俺は触れたものの思念を読み、伝えることができる。神宝の辺津鏡(へつのかがみ)の力なんだ)
(思念を読む……)
(サイコメトリーとテレパシーのあわせ技だよ。俺のは少し変わっていて、精神攻撃も出来るんだ)
(精神攻撃ですか……?)
(テレパシーノックアウトっていうんだけどさ。大嫌いだから、一度しか使ったこと無いけどな)

よく考えてみたら、周防さんにはいつも頭やなんかを触られていた気がする。
そのとき必ず、私の心を見透かすような発言をしていた。
たしか修二くんと初めて会った時にも、周防さんから握手を求めていたのを思い出す。

(うわぁ……。じゃあ、私の心も全部読まれてたってことですか?)
(まあ、触っている時だけな)
(恥ずかしい……私、へんな事考えてませんでしたよね?)
(いいや。愛菜ちゃんの心はいつも優しくて純粋だよ)

それだけ言うと、周防さんはパッと私から手を離して微笑む。
「……さてと。俺に尋ねたいことがあるんだったっけ」
「そうだ、姉さん。周防さんに尋ねたいことがあったんだよね?」
「そこのちっさい精霊が通訳してくれるんだよな」
「うん。ボクが愛菜ちゃんの代わりに答えるよ」

じゃあ何からきこうかな……
@闇についてきく
A秋人さんについてきく
B伝承についてきく
220841:2008/05/08(木) 19:24:27 ID:???
@闇についてきく

(ねぇ、チハル。周防さんに闇について教えてくださいって言ってくれないかな)
(スオウがね、ヤミのはなしはちょっとまってくれっていったよ)
(え……なんで?)
(春樹のココロにヤミがないかしらべるって)
(春樹に闇……? そう周防さんがチハルの心の中に直接言ったの?)
(うん。てれぱしーでおはなししたよ)
(そうなんだ。何かあるのかな……)

私は仕方なく、ベッドの上から二人の様子を見守ることにした。

「なぁ、そういえば……」
「なんでしょうか?」
「春樹は……従兄である俺のことは知ってるよな?」

いきなりの話題を振ってきた周防さんに対して、春樹は首をかしげた。
それでも律儀にちゃんと質問に答える。

「もちろんです。お葬儀に出た記憶がありますから」
「葬式……。一応、昔に会ってるんだけどさ」
「すみません。会った記憶は無いです」
「じゃあ、葬式に出た従兄が生きていたなんて思わなかっただろう?」
「はぁ……」

曖昧に言葉を濁すと、春樹はコーヒーカップを持ち周防さんを改めて見つめていた。
春樹にとって周防さんは、死んだはずの従兄だったのだから当然だろう。
周防さんはそんな春樹に対して、試すような視線を向ける。

「分家から拾われた俺は、十二、三歳の頃には奴らの手伝いもしていたんだ。それも知らないんだよな?」
「はい。組織の存在すらまったく知らされてませんでした」
「ふぅん。まぁお前さんは幼かったし、能力も無かったから知らなくても当然か……」

周防さんが発した言葉に、春樹は一瞬表情を曇らせていた。
きっと小さな頃の記憶が蘇ったのだろう。

「後から知ったんですけど、俺に能力が無いために……父から仕打ちで母は随分苦労したようでした」
「叔父上はそういう人だったしなぁ。じゃあ春樹は、今能力を手に入れた時どう思った?」
「嬉しかったのかな……。とにかくこの力で守れる、そう思いました」
「誰を守れると思ったんだい?」
「………ね、姉さんですよ」
「ふーん、愛菜ちゃんねぇ」

周防さんはチラリと私を見ると、「なるほどねぇ」と言っている。
春樹はコーヒーを急いで飲もうとして、こぼしそうになっていた。

私は……
@複雑な気持ちになる
Aうれしかった
B恥ずかしくなった
221842:2008/05/08(木) 20:25:56 ID:???
B恥ずかしくなった

(なるほどって……どういう意味ですか?!)
私は恥ずかしくなって周防さんに向って叫ぶけれど、まるで届いていないようだ。
今の私では、直接触れなければ周防さんと意思疎通ができないらしい。

それにしても、心の中を覗かれるのがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。
次に会うときは、絶対に触れられないように気をつけなくちゃ。

そんな私の誓いをよそに、周防さんはニヤニヤと私と春樹を交互に見ては笑っている。
春樹は落ち着かないのか、ムキになって声をあげた。

「な、なにか文句がありますか?! 弟が姉を心配してなにが悪いんですか」
「別に。悪いなんて一言もいってないけど?」
「その口……そのにやついた口が嫌なんですよ」
「これは、生まれつきだからなぁ。俺はただ美しい姉弟愛に幸あれと思っただけさ」
「そ、そういうことならいいんですけどね……」

周防さんは「とまぁ……冗談はこのくらいにして」と言って姿勢を正した。
春樹も様子の変わった周防さんを見て、同じように居住まいを直す。

「ずっと能力が無いことに嘆いていたようだがな、春樹。そのお陰でお前は真っ当な生活を送れたんだぞ」
「どういうことでしょう?」
「直系の正統継承者だったお前が高村から抜け出せたのは、能力が無かったからだ。
もし、先天的に能力が覚醒していたら、秋人のようになっていたかもしれない」
「兄さんのよう、ですか?」
「結局、秋人も犠牲者なんだよ」
「………そう…ですよね」
「秋人のように強い力を望んだりするなよ。自分を見失うことになるぞ」
「兄さんと同じ……」

春樹は聞こえないような小声で呟くと、目を伏せた。
すると、周防さんの手が春樹の頭に伸びる。
ぽんぽんと頭を叩かれて、春樹は呆けたように従兄の周防さんを見た。

「なんて顔してんだよ。こっちまで暗くなるじゃないか」
「でも……」
「春樹はまだ十六歳の子供だろ。少しくらい間違えたっていいんだぞ」
「お、俺は……もう子供じゃありません!」
「ムキになって、まぁ。でも、それでいいんだ。それが青少年の正しい姿さ」
「青少年って……」
「とにかく全部背負い込もうとするなよ。本当に愛菜ちゃんを大切に思うなら、笑顔にさせる方法を考えるんだ」
「……はい」
「素直だなぁ。よしよし」

周防さんは大人の笑みを浮べて、春樹の髪をぐしゃぐしゃにした。
春樹はそれを不機嫌な顔だったけど、甘んじてその洗礼を受けているようだった。

私は……
@そのまま見守る
A春樹の心についてきく
B秋人さんのことを尋ねる
222843:2008/05/09(金) 16:53:20 ID:???
@そのまま見守る

(春樹……)

いつも私を大切に思ってくれているのは、ずっと前から気づいていた。
それがどういう形の愛情なのか疑うことも無かった。

私は姉であることに十分満足しているし、今でもそれ以上を想像できない。
だけど、春樹の気持ちはどうなんだろう。そこまで考えて、また怖くなった。
自分自身の臆病さとズルさに胸が痛くなったところで、再び、周防さんの声が耳に入ってきた。

「実はな、春樹。お前と同じ歳の時に、俺は大切な人を失ってしまったんだ」
「……被験者を逃亡させようとした事件ですか?」

春樹の言葉で、周防さんは頭から手をゆっくり離すと息を吐いた。
その溜息には、自嘲とも取れるような笑いが含まれている。

「……そっか。組織で聞いたんだな。あの事件から八年間、俺は反主流派として活動をしてきたんだ。
大切な人を弔うために生きてきた、と言ってもいい」
「八年間も……」
「そうだ。なぜアイツは命を犠牲にしてまで、俺を生かしたのかってそればかり考えて生きてきた。
残された俺はどうすればいいんだって、憤っては何度も叫んだよ」
「……………」
春樹は上手く相槌がうてなくなったのか、うつむいて黙り込んでしまった。
その様子を見ても、周防さんは話を続ける。

「でもな。ようやく最近になって、アイツの本当に望んでいた事がわかってきたんだ」
「本当に望んでいたこと……?」
春樹はようやく顔を上げて、周防さんの顔を見る。

「アイツは、俺を苦しませるために犠牲になったわけじゃないんだ。ただ俺に笑って欲しくて、元気に生きてて欲しくて命を張ったんだよ」
「……その被験者の方も、周防さんが大切だったんですね」
「自惚れでも無く、俺もそう感じ始めたんだよ。そんな感じだから、当たり前の事に気づくのに八年も掛かっちまったんだけどな。
さっき俺が『笑顔にさせる方法を考えるんだ』ってお前さんに言っただろう?」
「はい」
「これが実は一番難しいことなんだって、俺は思うんだ。相手のことをしっかり理解していないと実現しないからな。
なにせこの俺自身、死んだアイツの望みがわかるのに八年も費やしたくらいだしさ」
「確かに、一番難しいですね」
「だろ? 当たり前のことが一番難しいし、一番気づきにくいんだ。正直、こよみのしたことは正しいとは言えない。俺にも多くの間違いがあった。
もう取り返しはつかないし、こよみは戻ってこないんだ。けど、従弟に教えることができるんだから、まぁ無駄ばかりでもなかったのかもな」

周防さんは耳の裏を掻いて、目を泳がせている。
春樹はその姿を黙ってみていた。

「とまぁ……色々言ったけど、お前さんが背伸びをし過ぎて出口を見失ってる、そんな心の内が見えたんだよ。
昔の俺とそっくりでさ。なんか放っておけなくて、柄にも無く説教くさい話をしちまったのさ」
「心の内……ですか?」
「その……なんだ。心を読んだともいうが……」
「まさか……! 神宝の……」
「……鏡の力だよ」

(周防さんバラしちゃったけど、いいのかな)

私は……
@そのまま見守る
A春樹の心についてきく
B秋人さんのことを尋ねる
223844:2008/05/11(日) 00:34:29 ID:???
@そのまま見守る

周防さんに尋ねてみたいけれど、私から言うにはチハルを介さなくてはいけない。
私が会話の腰を折るよりも、今は周防さんと春樹の会話を聞いていた方が良さそうだ。
そう思っている間にも、二人の会話は更に進んでいる。

「神宝の鏡、辺津鏡が俺の力だ。お前さんは八握剣だったんだよな」
「そうですけど……よく分かりましたね」
「秋人から色々聞き出したからな」
「兄さんと話をしたんですか?」
「ああ、昨晩会ったんだ。その時、秋人が少しばかり意味深なことを言っていたんだよ」
「意味深、ですか?」
「珍しく俺に忠告してきた。心の闇に気をつけろってな」
「心の闇……」
「高村である俺たちも今は人間だか、鬼の血が混じっている。その伝承は知ってるよな?」
「はい……。高村家は元々石見国の鬼の一族だった。
そして、時代と共に薄まっていく力を鬼の化身と交わることで維持し続けてきた……ですよね」

春樹は言いにくそうに呟くと、私を見た。
私はその視線をどう受け止っていいのか分からず、目をそらす。
周防さんは冷めかけのコーヒーを一口だけ飲むと、話を続けた。

「その通りだ。鬼の陰の気があったから、一族は強い力を操り、伝承を受け継ぐことが出来た。
だけど鬼の力は諸刃の剣でもある。鬼の陰の気は人間には強すぎるんだ」
「強すぎるって……どういう事ですか?」
「鬼の強力な陰の気は、負の感情を増長させるんだよ」

周防さんはコーヒーカップをゆっくり置きながら言った。
春樹はその言葉の意味を考え込んでいたが、答えを見つけたように話し出した。

「あの……伝承が入ってきた時のすごく嫌な気配は……もしかして……」
「察しがいいな、春樹。伝承は知識と記憶の塊だ。当然、その中には祖先が蓄積してきた負の感情も含まれてるのさ」
「それが心の闇……」
「一度乗っ取られたら剥がすのは困難だ。伝承の中に巣食っている闇に、心まで狂わされることになる」
「俺は……どうすれば……」
「とりあえず、強い負の感情を抱かないのが一番だろうな」

(鬼の力が心を狂わせる……)

私は……
@考える
A周防さんに話しかける
B春樹に話しかける
224845:2008/05/13(火) 23:44:41 ID:???
A周防さんに話しかける

(ちょっと待って……。周防さんが闇に心を奪われなかったのはなぜ?)
鬼の陰の力が人間に良くないのは説明でわかった。
けど、秋人さんは心を狂わされたのに、周防さんだけ無事だったという差を疑問に思う。
高村の血筋だったら、周防さんだって同じなはずなのに。
私はチハルに頼んで、さっそくその疑問を伝えた。

「なるほど。愛菜ちゃんはなぜ俺に闇が取り付かなかったのか知りたいんだよな」
(はい)
「俺の場合、自分の能力で回避できたからなんだ」
「周防さんの能力って……さっきチラッと言っていた覚りの力ですか?」
春樹は頭の中の記憶を探り出すように、口許を押さえながら周防さんに尋ねた。

(覚り?)
「姉さんは聞いた事ない言葉だろうけど、覚りって心を読む力の事なんだ。
伝承では、神器にしろ神宝にしろ鏡の力を持った者は、何かしらの見る力に特化している事が多いらしいんだよ」
「春樹の言うとおり、俺の能力は覚りだ。人の心を覗くだけじゃなく、制御したり、攻撃したりも出来る」
「………じゃあ、俺の心も全部見透かされてたってことですよね」
「悪い、お前の頭を触った時に見せてもらった。ほんの少しだけな」
「そうなんですか。あんまり気持ちのいいものではないですね」

春樹の正直な発言に、周防さんは苦笑いを浮べている。
「俺の能力は春樹にも不評かぁ。だが、覚りだったから俺は闇に取り込まれずに済んでいるんだけどな」
「どういうことですか?」
「俺は自分の精神を制御して、心が乗っ取られるのを防いでいたのさ」
「精神を制御するっててことは、もしかして……負の感情を力で抑えてたって事ですか?」
「どうにもならない時だけな。もし自分以外に誤って精神コントロールなんてやっちまったら、組織の奴らと一緒になるからな」
「組織の精神コントロールって……洗脳……」
「ああ。俺の精神コントロールも一種の洗脳だからな。
だから、すでに薬で洗脳を受けてる奴やファンムに取り付かれた奴の心は読めないし、精神コントロールも出来ないんだ」
「闇に染まってしまった人も、ですか?」
「叔父上にも、秋人にも、まったく効かなかったよ」

そう言って、周防さんはまたコーヒーを手に取ると一口飲んだ。
つられて春樹もカップを持ったけれど、空だったのか飲まずに元へ戻していた。

「コーヒー冷めてませんか? 俺、淹れなおしてきますよ」
「そうだな……じゃあ、お願いするか」

春樹は「少し待っててください」と言うと、コーヒーカップとソーサー、
あとチハルが飲んでいたジュースのコップをお盆に載せて、立ち上がった。

どうしようかな……
@春樹を呼び止める
A周防さんに話しかける
B話を整理してみる
225846:2008/05/17(土) 20:01:25 ID:???
A周防さんに話しかける

春樹が扉を締めるのを確認して、チハルに呼びかけた。

(チハル。周防さんに私に触れるようお願いしてくれないかな)
(またスオウにココロのなかをみられちゃうかもしれないよ)
(構わないんだ。周防さんに頼みたいことがあるから、言うとおりにしてもらっていい?)
(うん。わかった)

チハルは私に向かって頷くと、周防さんの上着の裾をくいくいと引っ張った。
周防さんはチハルに振り向き、チハルに声をかける。

「ん? どうした、小さいの」
「あのね。愛菜ちゃんがさわってほしいんだって」
「俺に? ……愛菜ちゃんの考えていることが見えてしまうんだけどな」
「カマワナイって言ってたよ」
「けどなぁ。愛菜ちゃん、本当にいいのか?」
(はい)

周防さんが私の手を優しく握ると、覗き込むように見つめてくる。
少しだけ困ったような顔をしているのは、気を遣ってくれているからだろう。

(精霊を通してじゃ、言いにくかったのかな?)
(周防さんに聞きたい事があったので、直接の方がいいと思って…)
(ふむふむ…なるほどね。で、愛菜ちゃんは春樹の中に「闇」の存在があったのかどうか知りたいと)

私の心を見透かしたのか、周防さんに尋ねたかったことを先に言われてしまった。
周防さんの力が分かった今では、その事に対して一々驚くことは無い。
ただ、慣れそうにはないけれど。

(……はい。春樹のことを教えてください)
(闇は……誰にでも少しはあるもんだ。今の春樹は問題になるほどの大きさではなかったよ)
(よかった。それが一番心配だったんです)

私は心の中で、ホッと胸を撫で下ろす。
春樹が秋人さんのように性格が豹変してしまうんじゃないかと不安だったのだ。
そんな私の気持ちを読み取ったように、周防さんが口を開いた。

(でも、愛菜ちゃんには注意していて欲しいんだよ)
(注意? どうしてですか?)
(あくまで、今は大丈夫ってだけなのさ。神宝の力が身の内にある限り、豹変する可能性はあるからな)

私の心にそう語りかけてくると、周防さんは少しだけ強く手を握ってきた。

私は……
@(注意ってどうすれば……)
A(闇の存在を消すにはどうすればいいんでしょうか)
B(じゃあ、秋人さんのように私が春樹の力も譲り受けます)
226847:2008/05/17(土) 22:46:53 ID:???
B(じゃあ、秋人さんのように私が春樹の力も譲り受けます)

闇に取り込まれる可能性があるのなら、私が器になって力を譲り受ければいい。
それで春樹を守れるのなら、それが一番良い方法だろう。
春樹に対しては迷うことばかりだけど、大切にしたいと思う気持ちに嘘は無い。
もし私の心を今も見えているのなら、決意にも似た思いをきっと周防さんも感じてくれているはずだ。

(愛菜ちゃん……。春樹が大事なんだね)
(春樹が私を守りたいと思っているように、私も春樹を守りたいんです)
(そうか)

周防さんは私の前髪を静かに払い、ため息のような深呼吸をした。
その手がおでこに触れられ、思いの外暖かい手が置かれる。
周防さんの顔を見ると、憂いを含んだような苦しい顔つきをしていた。

(今、愛菜ちゃんは体の自由が利かないだろう。すべて神宝のせいだ。それは分かっているのか?)
(わかっています)
(もう片方の神器の鏡、修二と契約すればいいと思っているね)
(……はい)
(仮に契約したとして……また今のように体の自由が利かない体になってしまう可能性だってあるんだよ。
儀式が上手くいく保障もない。危険過ぎるだろう)
(それもわかっています。けど、私は出来ることをしたいんです)
(ふぅん。愛菜ちゃんは立派だねぇ。とても立派だ)

周防さんが最後に発した言葉には、子供をからかうような突き放した棘が含まれていた。
こんな時にも飄々としている周防さんに対して、少しムッとしてしまう。

(もっとちゃんと考えてください。私、すごく真剣なんですよ)
(考えてるさ)
(考えているなら、なんでそんな言い方するんですか)
(決まっているじゃないか。愛菜ちゃんがなにも分かっていないからさ)
(私、中途半端な気持ちで言ったわけじゃありません)
(知っているよ。俺には手に取るように、愛菜ちゃんの気持ちが見えてるんだから)

周防さんはすべてを見透かすような、瞳を私に向けていた。
その澄んだ瞳に気圧されそうになったけれど、私は周防さんから目を逸らすことなく訴える。

(なら、なぜそんな突き放すような言い方をするんですか)
(お前さんは……昔の俺が犯した過ちを繰り返そうとしているのに、まったく気づかないんだな)
(周防さんの過ちって、綾さんとの事ですか?)
(そうさ。組織の手先だった俺はこよみの心をボロボロにした。罪を償いたくて、牢獄のような組織から逃がそうとしたんだ。
こよみが抹殺されかけたから、咄嗟に庇った。その時、薄れる意識の中で当然の罰を受けたと思った。経緯は美波から聞いただろう?)
(聞きました。でも、どうしてそれが身勝手なんですか?)
(すべて俺の思い上がりだったのさ)
(周防さん、一体何が言いたいんですか?)
(やっぱり愛菜ちゃんはわかっていない。だから同じ過ちを繰り返そうとするんだよ)

周防さんはそれだけ言うと、私の額から手を離してしまった。
と同時に扉が開いて、お盆を持った春樹が入ってくる。

私は……
@春樹に話しかける
A周防さんに話しかける
B考える
227名無しって呼んでいいか?:2008/05/18(日) 09:41:07 ID:???
×(仮に契約したとして……また今のように体の自由が利かない体になってしまう可能性だってあるんだよ。
儀式が上手くいく保障もない。危険過ぎるだろう)

○(契約して体が元に戻っても……春樹の神宝の力を譲り受けたら、また体の自由が利かなくなるかもしれないよ。
儀式が上手くいく保障もない。危険過ぎるだろう)
228848:2008/05/18(日) 12:17:18 ID:???
B考える

(周防さんの言う過ちって……何?)

周防さんにしては珍しく、ちょっと怒っているみたいだった。
春樹の力を譲り受ける事が過ちだというのだろうか。
もしそうだとしたら、私は悪いことだとは思わない。
体が動かなくなるかもしれないという可能性よりも、確実に春樹を守る方法を優先したい。

「お待たせしました。あの……何かあったんですか?」

春樹は周防さんの様子が少し変わったのを感じ取ったみたいだ。
コーヒーをテーブルに置きながら、言いにくそうに尋ねている。

「いやぁ。愛菜ちゃんがとんでもない事を言い出すからさ」

周防さんは私をチラリと見て、また溜息をついていた。
そんな周防さんの様子に、春樹は不安そうな顔を私に向けてきた。

「姉さん。一体、何を言ったんだよ」
(それは……)

私が答えに窮していると、さっきから黙って様子を見ていたチハルが間に入ってきた。

「あのね。愛菜ちゃんは春樹のチカラもギシキでゆずりうけたいって言ったんだよ。
そしたら、スオウがそれはあやまちだって言ったんだ」
「チハル、それは本当なのか?」

春樹は信じられないという顔をして、チハルに確認している。

「うん。ほんとうだよ」
「その小さいのの言うとおり、愛菜ちゃんはこんな身体になっているのに、まだ自分が器になればいいと思っている。
そして、それが思い上がりだって事にすら気づいていない」

周防さんは相変わらず飄々としていてるけど、どこか責めるような口調を崩さない。
私は非難されるような事を言ったつもりは無いのに。

(どうしてそれが思い上がりなんですか? ちゃんと教えてください)
チハルに頼んで、私は周防さんに改めて問いただす。
「じゃあごーまんな考え方と言い換えれば、愛菜ちゃんにはわかりやすいのかな」
(傲慢って……酷い)
「答えは自分で見つけなきゃ意味が無い。強い力を得て、愛菜ちゃんは大切なことを忘れてしまっている。思い出すんだ」
(思い出すって……何を)
「何の力も無く、ただ守られていた頃の辛さだよ」
(守られていた頃の辛さ……)
「俺がさっき言っていた、一番簡単な事なのに見つけにくい答えを言っただろ?」
(笑顔にさせる方法でしたっけ)
「そうそう。俺が八年もかかって手に入れた答えの本当の意味も、傲慢だって言った理由も、
その辛さを思い出せばすべて理解できるさ」

私は……
@周防さんの言ったことに頷く
Aわからないと言う
B春樹の様子を見る
229849:2008/05/18(日) 16:24:02 ID:???
B春樹の様子を見る

周防さんのいう事は、曖昧すぎてはっきりとした答えが見えてこない。
(守られていた頃の辛さを思い出す……か)
そういえば、守られることが辛いと言って隆の前で泣いてしまったのを思い出す。
あの時、敵が襲ってきた時は俺が守るからお前は逃げろと隆に言われたんだ。
春樹も私を守るために家を出て行ってしまい、声まで失って、すごく動揺していた。
みんなが私のために言ってくれる守るって言葉を重荷に感じて、とにかく辛くて泣けてきたんだ。

(私が器になることは……春樹にとって重荷なのかな……)
(だけど、闇に取り込まれるかもしれない春樹を見過ごすなんて出来ない)

そう思って春樹を見ると、何かを考え込むようにジッと一点を見ていた。
そんな春樹に対して、周防さんは「ふむふむ……」と感心するような声をあげる。

「愛菜ちゃんだけじゃなく自分にも言われてるんだって、春樹も気づいたようだな」
「さすがに分かりますよ……」
「そうそう。悩めば自然と見えてくることがあるのさ」
「俺が持っている神宝の力を譲り受けるって言ってくれた姉さんの気持ちは、よくわかるんです。
でも、少しも嬉しくない。それに何だろう……悲しいっていうか、情けない気持ちになるんです……」
「ふぅん。どうして情けないと思ったんだ?」
「よく分からないです。ただ……」
「ただ?」
「闇に心を奪われない方法が、強い負の感情を抱かない事なら…俺にも出来る、やってやると思っていたんです。
理性で闇を飼いならしてみせると思っていたのに……俺は…姉さんに信用されていないんだなって……」
「で、情けなくなったんだな」
「そう…ですね」

(春樹……)

春樹のためにと器になることを選んだのに、結局、春樹を傷つけてしまった。
私が犠牲になる方法なんて、春樹はちっとも望んでいなかったんだ。
春樹が自分自身でどうにかしてみせると思っているのなら、信じてあげるべきなのに。
なのに私は、春樹の意見も聞かず、勝手に巫女の力が必要だと思い込んでしまっていた。

(力なんて使わなくても、春樹を支えてあげればよかったんだ……)

よく考えれば、春樹が力を求めて家を出て行った時、私も同じ気持ちを抱いていた。
たとえ春樹に力が無くても、近くに居てくれているだけでよかった。
それで十分守られていると感じていたのに、なぜ春樹は気づかないのかって思うとすごく悲しかった。

(力を手に入れた事で、周防さんの言うとおり私は思い上がっていたのかも……)

どうしようかな
@私の気持ちを二人に伝える
A二人の様子をみる
Bチハルを見る
230850:2008/05/18(日) 22:40:55 ID:???
A二人の様子をみる

(けど……今の私に春樹を支える資格があるのかな……)

『俺は、姉さんのことが――』今も耳に残っている言葉の、先を聞くのがやっぱり怖い。
その先の答えが何にしろ、私はどんな顔をして春樹と過ごしていけばいいのか想像すらできない。
いっそ朝の記憶を消してしまいたいとさえ思ってしまう。
複雑な思いで春樹を見ると、これから何かを話そうと口を開いたところだった。

「あの……周防さん」

周防さんを呼びかける春樹の声が、いつもより少しだけ低かった。
声のトーンは小さかったけれど、はっきりとした口調だった。

「ん? どうしたんだ春樹。改まって」
「一つ、聞きたいことがあるんです」
「いいぞ。何が聞きたいんだ?」
「すごく抽象的な質問なのかもしれないんですけど……強さの定義って、周防さんは何だと思いますか?」

春樹は一つ一つの言葉を考えながら発するように言った。
それだけ、真剣に質問しているのかもしれない。

「そりゃまた唐突な質問だな」
「俺にとってはそうでもないです。俺は今までずっと強くありたいと思ってきました。
小さい頃は、実の父から母を守るため。今は……家族を守りたいと思っています。
けど、姉さんに無理をさせるような選択ばかり選ばせてしまうなんて、まだまだ足りない証拠なんです」
「ふーん。それで?」
「最近の色々な出来事や周防さんの言葉で、守ることも、強さも分からなくなりました。だから意見を聞きたくて」
「まずお前さんが考える強さが何なのか、聞かせて欲しいな」
「俺の……考えですか?」
「そうさ。まず春樹の考えを教えてくれよ」

周防さんの言葉で、春樹はしばらく考えを巡られているようだった。
そして、首を少しだけ傾けるとゆっくり顔を上げる。

「それなら……俺の考えじゃなく、こんな風になりたいって思った出来事ですけどいいですか?」
「別に何でもいいぞ」
「今から五年前……俺に継父と姉が出来た時の事です」

そう言うと、春樹は視線を落して私を見つめた。

私は
@そのまま様子を見る
A五年前のことを思い出す
B春樹に話しかける
231851:2008/05/26(月) 23:25:33 ID:???
A五年前のことを思い出す

(今から五年前……)

私は自分の机の上にある、写真立てに目を向ける。
春樹は私の視線を追いかけるように立ち上がると、その写真立てを手に持った。

「この写真、姉さんも飾ってるんだ」
(うん。居間に飾ってあるのと同じなんだけどね)

私と春樹の会話を聞いて、周防さんは春樹の手元を興味深そうに見つめていた。
「家族の写真……か。俺にもよく見せてくれ」
(構いませんよ。春樹、周防さんに渡してあげて)

春樹は「どうぞ」と言って、五年前に撮った写真を手渡した。

「ほうほう。まだ二人とも小学生か? にしても春樹……お前さん、なんて無愛想な顔をしてるんだ。
写真なら、もっとにこやかに笑うものだろう?」
「たしかに酷い顔ですね。でもあの時は……笑えるような心境じゃなかったんです」
「ん? どういうことだ?」

疑問に思った周防さんは、顔を上げて春樹を見る。
春樹は苦笑いを浮べながら、再び座布団に座った。

「五年前、俺は親の再婚に反対していたんです」
(春樹が再婚に反対していたのは、お継母さんがまた暴力を受けないか心配だったからだよね?)
私はチハル伝いに、今までの春樹が言っていた言葉を確認する。
「まぁね。だけど、それだけじゃなかったんだ」

過ぎた話を蒸し返すのも躊躇われて、私たちは今まで詳しい話をほとんどしたことがなかった。
春樹は少しだけ口をつぐむと、心の中の秘密を打ち明けるようにポツリと話し出した。

「この写真を撮る半年前、再婚の話を母からはじめて聞いた時……俺はすごく嫌な気分になったんです。
再婚を望む母さんがまるで違う女の人みたいに見えてしまって。継父さんや姉さんは母さんをそそのかした敵だと思いました」
(私とお父さんが敵……だから私達に全然会ってくれなかったんだね)
「うん。どれだけ母さんに会うように言われても、二人の顔すら見たくなったんだよ」
「このくらいの年頃だったら余計ややこしく考えたりするしな。親の再婚となれば、なおさらだろう」

周防さんは庇うように言うと、写真立てを春樹に返していた。

「ずっと反対していましたけれど、とうとう悩むのに疲れてしまって、俺は自暴自棄を起したんです。
『再婚でも転校でも母さんに従うよ』と、そう伝えました」
(春樹の言葉をお継母さんは……半年間説得して、やっと認めてくれたんだと勘違いしたんだね)
「そうなんだ。本当に再婚が決まった時は、言葉も出なかったよ」
「すれ違い……か。母親といっても間違いはあるしな。
子供の意見を無視せず、ちゃんと認めさせようとしていた伯母上を責めるのも可哀想だよな……」
「今の俺なら、色々な事に対して折り合いをつけることも出来ます。
母が継父を好きになって、一緒に居たいと思った気持ちも痛いくらい理解できる。
だけど俺はまだ子供だったから……姉さんと継父さんを言葉の暴力で酷く傷つけてしまったんです」

春樹は小さくため息を吐くと、指先でそっと写真をなぞっていた。

私は……
@春樹に話しかける
A周防さんに話しかける
Bチハルに話しかける
232852:2008/05/27(火) 02:09:17 ID:???
@春樹に話しかける

春樹に最初に会って言われたのは、『お前らなんか必要ない!』という言葉だった。
そのときはショックで、私は泣いてしまったのだ。
春樹が言っている言葉の暴力はその事を指しているのだろう。

(あの時のことは、もう気にしてないよ。私だって……今まで一杯春樹に酷いことを言ったもん)
「そんな事はわかってるよ。ただ、情けない俺も姉さんに知って欲しいと思うんだ。
今まで気付かれないように隠してきたのに、なぜだろうね……」

そう呟くと、春樹は力なく笑顔を向けてきた。
そんな切ない笑顔をされると、私はどうすればいいのか分からなくなってしまう。

「五年前、家族になることを拒んでいた俺が一週間後に突然『家族を守る』と言っただろう?
最初の話に戻るけど、その時の理由が俺の思い描く強さの正体に近い気がするんだよ」

そうだ。すれ違いは1週間もすれば消えていたのだ。
春樹の心にどんな変化があったのかわからない。それが強さだというのだろうか。
ただ一週間が過ぎた頃、春樹は約束してくれた。
『母さんだけでなく姉さんも、義父さんも守れるくらいに強くなる。ずっと守る』恥ずかしそうに、私にそう言った。
あれから、春樹はちゃんと約束を守り続けてくれている。

「ちょっと待ってくれ。突然『家族を守る』と言ったって何だ?」

周防さんが食い下がるように、問いかける。
春樹は周防さんに、私たち家族のことを尋ねられるまま答えていた。

私はその言葉を聞きながら、連鎖のように五年前の自分の記憶を思い出していった。

新しい家族が増えるかもしれないと父から聞かされたのは、私が小学校六年生になったばかりの時だった。
まだお母さんが生きていると信じていた私は、父から再婚の話を聞かされた時、驚くと同時に、悲しくなった。
お父さんはお母さんをこのまま忘れてしまうの?と、すごく悲しくなったのだ。

だけど、私は再婚に賛成した。
父は幼かった私の世話をするために、疲れて帰ってきてから家事をしてくれていた。
高学年になった私も家事をして助けていたつもりだけど、管理職に就き多忙になった父の負担は増えるばかりだった。
なにより私が寝た後に、晩酌をしながら母の写真を見ていた父の姿を目撃していた。
その寂しそうな背中を私だけでは埋めることが出来ないのは知っていた。
母が失踪して五年間、ずっと待ち続けていた父が新しい女の人に心を移しても責めるなんて出来なかったのだ。

それから約半年間、私はお父さんとお義母さんとで遊園地に行ったりしながら、少しずつ打ち解けていった。
お義母さんは優しくて会えばすごく楽しかったから、この人が新しい母親なら良いかなと思うようになっていた。
いつも疲れていた父も、お義母さんの前では少年のように笑っていた。
けれど、なぜかその場には弟になる子の姿は無かった。
私はその事が気がかりで、何度尋ねても、お義母さんは曖昧な返事しかしてくれなかった。

父と義母の再婚が決まったのは、秋の終りだった。
私は新しい家族を迎えるその日に間に合うよう、家族四人分のマフラーを編むことに決めた。
みんなお揃いの物を身につければ、きっと喜んでくれると思ったからだ。
特に始めて会うことになる一つ年下の弟は、すごく驚くかもしれないな、と心を躍らせていた。
一目一目が慣れない作業だったけど、わくわくしながら編んでいった。

私は……
@続きを思い出す
A二人の話を聞く
Bチハルを見る
233853:2008/05/29(木) 12:06:14 ID:???
@続きを思い出す

十二月に入り、私たちは家族になった。
お母さんの事は忘れられないけど、私の心の中だけに仕舞っておこうと決めた。

会ったらすぐに渡しそうと、私は完成したばかりのマフラーが入った紙袋を抱きかかえた。
この紙袋の中には、真っ白なマフラーが四つ入っている。
白を選んだのは性別を選ばない色で揃えたかったし、何にも染められていないところが相応しい気がした。
不安もあるけれど、せっかく一緒に暮らすのだから仲良くしたい。
私の贈り物を、お義母さんも弟もきっと喜んでくれるはずだ。

父も落ち着かないのか、私たちは家から出て一緒に待つことにした。
寒そうにして待つ父に、まず最初にマフラーを渡した。
父は少し驚いていたけど、二人にも渡すのだと言うと黙って頭を撫でてくれた。

しばらくすると、引越しの大きなトラックと一緒に、お義母さんと春樹がやってきた。
タクシーから出てくる、お義母さんと弟を出迎えた。
それが、春樹との出会いだった。

春樹を見た瞬間、思わず釘付けになってしまったのを今でもよく憶えている。
カッコいいと思ったのもあるけれど、一つ年下なのに雰囲気が他の子とはまるで違っていたからだ。
優しそうな顔立ちなのに、冷たい視線。落ち着いているけれど、やり場のない怒りを抱えているような瞳。
そんなアンバランスな危うさを持った子供を見たことがなくて、私はとても動揺してしまった。

とりあえず頭を振って気を取り直すと、私はお義母さんと春樹にマフラーを渡した。
お義母さんはすごく喜んでくれたけど、春樹は緊張しているのか無表情のままだった。
お父さんの提案で、私たちは家族になった記念に写真を撮った。
四人で同じマフラーをしていると、まるで血の繋がった家族みたいだった。

私は早く弟と仲良くなりたくて、すぐに遊びに行こうと誘った。
お父さんは「疲れているだろうから、ゆっくりさせてあげなさい」と言ったけれど、春樹は「いいよ。行こう」と言ってくれた。

まずは幼馴染の隆を紹介することにした。男の子同士だし、隆だったらすぐに仲良くなってくれるかなと思ったからだ。
けれど、紹介している時にも春樹は黙り込んだままで、終始不機嫌そうだった。
いきなり隆に会わせた事で、きっと弟は怒ってしまったんだ……。
そう思った私は、早々に陽の落ちた薄暗い児童公園に着いたところで春樹に謝った。

春樹は私の横を静かに通り過ぎると、枯れた藤棚の下にあるベンチに座った。
そのすぐ後に返ってきた答えは、私の思っていた言葉とは全く違うものだった。

私は……
@続きを思い出す
A二人の話を聞く
Bチハルを見る
234854:2008/05/30(金) 00:11:26 ID:???
@続きを思い出す

「どうして君が謝るの? 意味がわからないんだけどな」

さっきまで相槌くらいしか話をしてくれなかったから、始めてちゃんと声を聞いた気がした。
私よりもきれいに通る高めの声だったけど、語気は思ったよりも強かった。
暗がりのせいで、ほとんど弟の表情は分からない。
ただ私が作った白いマフラーだけが、はっきりと浮き上がって見えた。

「無理に……私が幼馴染のところに連れて行ったから、怒っているんだよね。
疲れてるのに急に誘って……春樹くん、ごめんね」

私はここで嫌われちゃいけないと思って、もう一度謝った。
すると、春樹はつまらなさそうにクスクスと笑い出した。

「やめて欲しいな。そんなくだらない事で、怒ったりしないよ」
「もしかして……私が嫌なことを言っちゃった?」
「別に言ってないよ」
「それなら、どうして怒っているの?」

怒っていなければ、こんなに不機嫌にはならない。その理由を聞かないことには、直す事もできない。
身を切るような北風のせいで、耳が冷えて痛くなってくる。
沈黙の後、白いマフラーが少しだけ揺れると、弟の声が聞こえてきた。

「君……まわりの友達から、「いい子ちゃん」とか「真面目だね」って何度も言われてきたでしょ?」

馬鹿にするような、からかうような言い方だった。
たしかに何度か言われた事があった。だけど、香織ちゃんや隆がそのたびに庇ってくれた。

「どうしてそんな事を言い出だすの? 怒っている理由を教えて欲しいだけなのに……」
「姉がどんな性格なのか知りたいだけだよ」
「そうなんだ……」
「だから、僕の質問に答えてよ。君は他人の顔色ばかり気にする、つまらない子供なんだよね?」

今まであまり考えたことはなかったけど、言われたらそんな気がしてきた。
すると、自分がどうでもいいような人間に思えてくる。

「そうかも…しれない…よ」
「このマフラーだって、本当は僕や母さんへの点数稼ぎなんだろ?」
「そんなこと……」

そんなこと「ない」と言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
喜んで欲しいと思う気持ちの裏側に、嫌われちゃいけないという打算があった。
春樹の言うとおり、私は他人の顔色ばかり気にする、つまらない子供なのだろう。

春樹はベンチから立ち上がると、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。
首に巻いていたマフラーを解いて、パッと手を離す。
白いマフラーは音も無く、春樹の足元に落ちた。

「君、鈍感そうだよね。僕が怒っている理由を、特別に教えてあげるよ。
よく見ていてね」

そう言うと、春樹は地面に落としたマフラーを思い切り踏みつけた。
突然の出来事に、私は声も出ない。意味が分からず、ただ涙が溢れてくる。

私は……
@続きを思い出す
A二人の話を聞く
Bチハルを見る
235855:2008/05/30(金) 12:12:06 ID:???
@続きを思い出す

「こんなもの、気持ち、悪いんだよ……」
「……やめ…」
「お前ら、なんて、絶対に、認めてやるもんか」
「……やだ……やめて……」

私の願いは届かず、春樹のマフラーがボロボロになっていく。
悪意を込めて、春樹はなじるように踏み続けた。

「そうやって、女は、すぐに、泣くんだ。おい、ちゃんと見てろって言っただろ!」
「どう…して……ひどいよ……」
「泣けばいいと思ったら、大間違いなんだからな。母さんだってそうだ。お願いだから認めて欲しいって泣いて……。
毎回泣かれたら、諦めるしかないじゃないか。だけど、僕は絶対にお前らを認めないからな!」
「……やめて! もう、やめて!」

ようやく我に返って叫ぶと、私は春樹を突き飛ばしながら、マフラーにしがみ付いた。
何度も踏みつけられたマフラーを、私は必死で抱きしめる。真っ白だった色は土色に薄汚れていた。

突き飛ばされた春樹は一瞬よろけたが、息を荒くしながら無言で私を見つめた。
その視線は私を射るように鋭く、怒りに満ちていた。
と同時に、視界の先に父の姿が目に入ってきた。私は縋るような思いで、父に駆け寄っていった。

「お父さん!」
「帰りが遅いから迎えに来てみたんだ」
「お父さん…あのね、春樹くんが……」
「……ん?愛菜、泣いてるのか。一体、どうした?」

父は私の顔を覗きこむと、慌てて尋ねてきた。

「春樹くんが……春樹くんがね……」
「いい子ちゃんは、そうやってすぐに大人にチクるんだ……」

近寄って来た春樹は、私の言葉を遮るように呟いた。非難されたようで、私は何も言えなくなってしまう。
涙に濡れた目を手の甲で擦ってみても、次々とあふれ出てきた。

「春樹くん、一体、どうしたんだ。愛菜に何があったのか教えてくれないか?」

父は泣いてばかりいる私に尋ねるのを諦めたのか、今度は春樹に声を掛けていた。

「なんでもないです」
「泣いているのに、そんなはずないだろう。姉弟喧嘩でもしたのか?」
「姉弟? そんな言い方、やめてください」
「何を言うんだ。春樹くんと愛菜は姉弟になっただろう?」
「……そんなの、大人の勝手な都合じゃないか!」

細い肩を震わせて、春樹は言い放った。
さすがの父も、これには言葉を失ってしまったようだ。

春樹は私と父を交互に見据え、唇をかみ締めていた。
そして、目に涙を浮べながら、怒りを爆発させるように大声で叫んだ。

「お前らなんか必要ない! 家族だなんて、絶対に認めないからな!!」

一人で走り去っていった春樹を、私は呆然と見ることしか出来なかった。

私は……
@続きを思い出す
A二人の話を聞く
Bチハルを見る
236856:2008/06/02(月) 15:59:05 ID:???
@続きを思い出す

私とは違い、父はすぐに行動を起こした。
公園を出て行く春樹を、ものすごい速さで走って追いかけたのだ。
しばらく公園で待っていると、父が春樹を連れて戻ってきた。
とりあえずベンチに座るよう春樹を促しながら、父は努めて穏やかな口調で語りかけていた。

「春樹くん。私と愛菜が必要ないとはどういう事かな。これから皆で暮らしていくのだから、もう少し歩み寄ってみないか」

父の言葉を聞いても、春樹は押し黙ったままだった。
それでも父は諦めることなく、言葉を続けていた。

「すぐに家族として認めてもらおうとは、思っていない。
確かに、春樹くんにも愛菜にも再婚のことで無理をさせてしまっただろう。
だからこそ、互いが認め合えるような家庭を築いていきたいと思っているんだよ」

そう言うと、父は私の持っていたボロボロになったマフラーに触れた。
私は胸に抱いていたマフラーを父に渡す。
父はマフラーをそっと広げながら、誰ともなく問いかける。

「なぜ……こんなに汚れてしまったんだ? 二人の間で何があった?」

私は春樹が怖かったけど、包み隠さずすべて話した。
いい子ちゃんと馬鹿にされても構わない。
悪いことをした訳ではないのだし、隠す必要なんてないと思ったのだ。

父はちゃんと私の話を聞いてくれた。
春樹は否定も肯定もすることなく、鋭い目つきで私たちを見ていた。
そして、馬鹿馬鹿しいという顔で首を振ると、ゆっくり立ち上がった。

「そうですよ、僕がやったんです。この子鈍感そうだから、何をしても無駄だって分かり易く教えてあげたんですよ」
「春樹くん、今すぐ愛菜に謝りなさい」
「嫌です。さっきから綺麗事を並べ立てて、丸め込むつもりだろうけどそうはいかないですから。
現実は……もっとずっと息苦しいんだ。もう父親なんて…要らない……」

そこから春樹の声が聞こえなくなった。
私も父も、お義母さんから春樹が実の父親を憎んでいることを聞いていた。
だから父親を要らないという理由も、私たちを拒む理由も少しだけ理解できた。
とはいえ、どうやって春樹の心を解けばいいのか、見当もつかない。

「わかった。春樹くんが私を認めないというのなら、君に選択権を一任しよう」
「選択権……ですか?」

突然の父の提案に、春樹は面食らっている。自信があるのか、父は構わず言葉を続けた。

「ああ。私達の運命を君に託すんだ。春樹くんの一声で、家族を終える事を約束する。その代わり、条件が二つある」
「二つの条件?」
「そうだ。一つ目は愛菜を姉として認め、守ること。もう一つは、中学卒業までは選択権を使わないで欲しい」
「……四年後、ですね」
「今の春樹くんでは、公平な判断もできないだろうし、視野も狭い。そんな状態で運命を託すことは出来ないからな」
「……大人になるまで待てってことですか」
「中学卒業でもまだ子供だが……五年以上は長過ぎるからな。それに、四年あれば私を父親と呼ばせる自信もある」

春樹は再びベンチに座り直すと、身動きひとつせず考え込んでいた。
私は不安になって、自信たっぷりに言い放った父の腕をギュッと握り締めた。

私は……
@続きを思い出す
A二人の話を聞く
Bチハルを見る
237857:2008/06/03(火) 13:51:29 ID:???
@続きを思い出す

「僕が中学を卒業する時に、まだ父親と認めていなかったら……母さんと離婚するって事ですか?」

やっと口を開いた春樹は、確認するように父に尋ねた。

「春樹くんが望むなら、そうしなくてはならないだろうな」
「そんな簡単に……」
「簡単に決めるのも、よく考えて決めるのも春樹くんだよ」
「僕だけ別の場所で暮らしたいと言ったら、どうしますか?」
「思うとおりにするといい」
「じゃあ、お前だけ出て行けって言ったら、一人で出てってくれますか?」
「ああ、約束だからな」

どうして父がこんな無茶を言い出したのか、理解できなかった。
私達を要らないという春樹に任せてしまったら、未来までボロボロされてしまう気がした。
だけど、きっと父には深い考えがあるのだと信じ、私は見守ることに徹したのだった。

「もう一つの条件は、姉を認めて守ることですよね」
「条件は二つとも満たさなくてはいけないよ」
「わかってます。実際にどうやったら姉を守った事になるんですか?」
「それは春樹くんが自分で考えるのさ」
「僕が考える……」
「どんな方法でもいい。私を拒絶するのは構わないが、愛菜のことは姉として認めるんだ」
「でも……母さんがこんな賭けのような真似、許すはず無いと思いますけど」
「必ず私が説得するさ。愛菜もいいよな?」
「うん。お父さんを信じるよ」
「愛菜もいいと言っている。さぁ、春樹くんはどうするんだ?」

父は相変わらず強気の姿勢を崩さなかった。
こんな約束、父の不利にしかならないはずなのに。

「すぐには決められません。一週間、考えさせてください……」
「わかった。このままでは二人とも風邪をひいてしまう。寒いし、早く家に帰ろう」

父の言葉で、私達は家に向って歩き出した。
頑なに拒んでいた春樹だったけれど、私達の後を黙ってついて来たのだった。

私は……
@続きを思い出す
A二人の話を聞く
B考える
238858:2008/06/05(木) 14:16:13 ID:???
@続きを思い出す

あれから数日が経ったけど、春樹とはほとんど言葉を交わすことなく過ぎていった。
春樹は二学期の終わりまで、今までの小学校に通い続けていたからだ。
三学期の初めに転校してくるまでは、別々の小学校に通うことになっていた。
春樹の学校は電車で三十分以上かかるらしく、朝は私よりも早く出て、帰りも私より遅かった。

いつものように、春樹は何も言わずに玄関の扉を開けて家に入ってきた。
私が出迎え「おかえり」と言うと、そこでやっと「ただいま」と小声で返してくれる。
相変わらずの無愛想で苦手だけど、ちゃんと挨拶をすれば返してくれるし、仲良くなれるかもしれないと私は思い始めていた。

春樹の小学校の制服から、私服に着替えてリビングに下りてきた。
そしてキッチンでゴソゴソと何かを作り始めていた。
いつもだったら自室に閉じこもってしまうのに、何をしているんだろうと不思議に思った。
しばらくすると、今度はコートを着て玄関に向っていた。

「春樹くん。どこかに出かけるの?」

玄関で靴を履いている春樹の背中に向って、私は話しかけた。

「少しね」
「少しってどこ? もう暗くなってきているよ」
「どこでもいいだろ。母さんが帰ってきたら、僕が出て行ったこと言っといてよ」

それだけ言うと、春樹は家を出て行ってしまった。
私は急に不安になっていく。もしかしたら、家出かもしれないと思ったからだ。
慌てて靴をはき、急いで春樹の後を追いかけていった。

走って駅まで追いかけていくと、春樹は定期を使って中に入っていくところだった。
偶然ポケットに入っていた小銭で切符を買うと、私はその後を見つからないように追いかけていく。
知らない駅につくと、春樹は迷うこと無く電車を降りていった。
それに倣って、私もその駅で電車を降りた。

春樹は改札を抜け、早足で知らない町に消えていく。
自動改札で切符を入れて追いかけようとしたところで、突然、行く手を阻まれてしまった。
改札機の扉が閉まって、「ピコン、ピコン」と警報音がけたたましく鳴り響いたのだ。

駅員さんが私のところまでやってきて、「どうしたのかな?」と話しかけてきた。
どうやら私の買った切符ではお金が足りず、『のりこし精算』というのをしなくてはいけないらしい。
私は今まで経験したことの無い事態に遭遇して、どうしていいのか分からなくなった。
知らない町で一人ぼっち。おまけにポケットのお金では、駅員さんの言う金額に足りない。
私はただオドオドとすることしか出来なかった。

私は……
@続きを思い出す
A春樹をみる
B周防さんをみる
239859:2008/06/05(木) 16:51:04 ID:???
@続きを思い出す

「あの……何かあったんですか?」

落ち着いているのによく通る高めの声が聞こえ、私は顔を上げた。
すると見失ってしまったはずの春樹が、駅の構内に立っていた。

「君は?」と尋ねる駅員さんに、春樹は「この人は僕の姉です」と説明していた。
自動改札で動けなくなっている私を見て状況を飲み込んだのか、春樹は駅員さんと何かを話していた。
結局、春樹が足りない金額を支払うことで、私はようやく解放された。

「こんなところまで、何しに来たの?」
冷ややかな視線を向けながら、春樹は私を見ていた。

「……春樹くんが家出をしたのかと思って、追いかけてきたんだよ」
恥ずかしさのあまり、肩をすくめて私は答えた。

「お金も持たずに追いかけてきたの?」
「うん。とにかく見失わないように、必死だったから」
「僕が家出なんて、馬鹿な真似する訳ないだろ」
「そうだよね。私の勘違いだったよ……」
「まぁ、いいけど。ところで君、これからどうするの?」
「どうするって言われても……」
「せっかくだし、僕と一緒に来る?」

早く帰れと言われるのかと覚悟していたのに、正反対の答えが返ってきた。
私は思わず春樹の顔を覗きこむ。

「えっ、いいの?」
「別にいいよ。大した用事でもないしね」
「本当にいいの?」
「で、来るの? 来ないの?」
「行きたい。春樹くんと一緒に行きたいよ」
「じゃあ、行こうか」

そう言って春樹は駅を出てると、夜のとばりが降りた街を歩き出した。
私の知らない街を、春樹は当たり前のような顔をしながら歩いていく。
私にとっては見慣れない不安な道でも、春樹にとっては思わず足取りが軽くなるほど見慣れた場所なのだろう。

住み慣れた土地を離れ、もうすぐ友だちとも引き離されてしまう春樹の心を始めて覗いた気がした。
本当は私や父が憎い訳じゃなくて、多くの事があり過ぎて受け入れられなくなっているだけかもしれない。
そう思うと、春樹の存在が遠いものから近いものへと変わっていく気がした。
なんでも知っているような大人びたクールさの下に、歳相応の悩みを隠している。
今もマフラーの事は謝ってくれないけど、このまま許してあげてもいいかなと思えたのだった。

私は……
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A春樹をみる
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240860:2008/06/07(土) 00:51:52 ID:???
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しばらく歩いていると、街から住宅地へと景色が変化していった。
さらに進むと民家が途切れ、目の前に急坂が現れた。
もしも自転車で来ていたら、とてものぼれそうに無いほどきつい傾斜だった。
機嫌良く歩く春樹の後について、私は黙ってその坂道をあがっていく。

やっと坂道が終わり、視界が広がった。
私達が登ってきた坂道の頂上には、立派な建物の学校があった。

「ここ、春樹くんが通ってる小学校?」
「そうだよ」
「すごく大きいね」
「あっちの山側にある校舎は中学校なんだ。隣接してるから大きく見えるだけだよ」
「こんな遠いところまで毎日通っているんだもんね」
「あと少しでこの坂道ともさよならだ。今度の学校は登校でヘトヘトにならずに済みそうだし、得したのかもね」

そう呟く春樹に、「本当は転校が嫌なの?」と問いかけようとして思いとどまる。
両親も春樹の負担を考え、近い小学校の方がいいと思って決断したに違いない。
初日に比べれば、春樹の様子も確実に変わっていた。

「じゃあ、春樹くんはこの急な坂道が苦手なんだね」
「面倒だけど嫌いじゃないかな。今はこんなだけど、春になったら桜がすごいんだ」

自慢げに話す春樹が言うには、桜の木は坂道から校庭までずっと続いているらしい。
よく見ると、校庭と校舎を繋ぐ道まで公園のように整備されていた。
学校の名称が書かれた校門は私の通っている小学校より大きく、奥の敷地も広そうだった。

「校門が閉まっているね。これじゃ、春樹くんの忘れ物が取れないかも……」
「忘れ物?」
「だって、学校に用事があったんでしょ?」
「違うよ。僕の用事はもっとこっちだよ」

春樹は私の手を取ると、突然、わき道を逸れていった。
街灯も極端に少なくなっていき、木が覆う小道をズンズンと入っていく。
枯れ葉を踏みしめながら暗い道を通り抜けると、小さな神社を見つけた。
朽ち果てた社に、倒れた灯篭。月明かりに照らされたその場所には、当然だが人影はなかった。

薄気味悪くて、私は春樹の影に隠れるように身を縮める。
一方の春樹は持ってきた鞄を探り、中から包みを取り出していた。

「春樹くん。一体なにをするの?」
「ご飯をあげるのさ」

包みを解くと、手の平くらいの容器に大量の鰹節のかかったご飯が入っていた。
これって確か、ねこまんまって言うんだよね……。

「もしかして、ネコにあげるの?」
「うん。ミケって呼んでるんだ。居るかな……」

春樹は這いつくばりながら、お社の床下を覗き込んでいた。
「あれ……居ないみたいだ」
「なら、少し間待ってみようよ。せっかく来たんだもん」

氷のように冷えた石段の上に座ると、私達はミケという名前のネコを待つことにした。

私は……
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A春樹をみる
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241861:2008/06/08(日) 19:08:46 ID:???
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初日とは何かが変わった春樹だったけど、どう変化したと聞かれたら私は困ってしまう。
だけど、父との会話から春樹は私達を頭から否定しなくなったのは確かだ。
春樹に色々聞きたいと頭では思うのだけど、上手く言葉にならなかった。

「……ネコ、来ないね」

自分の吐く息が白い。
寒空の下、薄気味悪い場所で二十分近く待っていたけれど猫が現れる気配は無かった。
春樹はため息をつきながら、持ってきた容器のフタを閉じようとしていた。

「せっかく来たのに、意味無かったみたいだ」
「それ……美味しそうだよね。中身、ちょっと見せて?」

思わず、返事も待たずに春樹の手から容器を奪い取っていた。
実はものすごくお腹がすいていて、いい匂いをさせている中身が気になって仕方なかったのだ。

「わぁ……美味しそうな匂い。かつお節に、ご飯に、この白いのは何?」

かつお節の下に、何か白くて細長いものが入っているのが見えて私は尋ねた。
春樹は手持ち無沙汰になってしまった自分の手を見つめると、苦笑するように答えた。

「裂いた鳥のささみだよ。少しだけ片栗粉をまぶして茹でてあるんだ」
「鳥のささみ…でもどうして片栗粉なの?」
「ささみって茹でるとパサつくんだけど、片栗粉を使うと美味しく仕上がるんだ。
そのご飯の中に混ざってる細かい緑は、よく水気を切った茹でキャベツを入れてみたんだ」
「ミケってネコがうらやましい。私が代わりに食べたいくらい……」
「調味料が入っていないから、人間が食べても美味しくないと思うけど」
「どうして?」
「塩分を入れてないから、味が無いよ」
「そうなんだ……」

お腹と背中がくっついてしまいそうで、このままミケが来なければ私が食べたてしまいたかった。
たとえ味が無くても、春樹の作ったものは見るからに手が込んでいたからだ。

「でも知らなかったな、春樹くんが料理上手だったなんて」
「別に大したこと無いよ」
「そうかな? これだけ作れればすごいと思うけど」
「僕の学校は毎日弁当だから、作っている内に自然と憶えただけだよ。
本当はこれだって、野良猫に気まぐれでお弁当をあげたのが始まりだしね」
「その野良猫がミケ?」
「うん。本当は可哀想だから飼ってあげたかったけど、マンションで無理だったからさ。
せめて、ご飯だけでもちゃんとあげたくて別に作るようになったんだ」

そう言うと春樹は容器のふたを閉めて、立ち上がった。

私は……
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A春樹をみる
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242862:2008/06/10(火) 12:53:54 ID:???
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春樹がネコを可愛がっていて、飼いたがっていたなんて知らなかった。
だったら、飼ってあげればいい。
私は思いついたことを、そのまま口にした。

「お父さんとお義母さんにネコを飼えるようにお願いしてみようよ」
「え?」
「頼めばきっと許してくれるはずだよ。私も協力するから」

猫を飼えば、お父さんに対する不信感も無くなるかもしれない。
生き物は今まで飼ったことないけど、きちんと可愛がってあげたい。
想像していく内に、段々楽しくなっていた。

「ねぇ、すごくいい考えでしょ?
私も動物を飼ってみたいなって思ってたんだ。春樹くんも毎日ネコと遊べるよ」
「でも……」
「きっと上手くいくよ。お父さん、動物が好きだって言ってたもん」

春樹は服についたホコリを払って、黙って片付けを始めた。
そして鞄を締め終えると、意気込む私に向き直る。

「そろそろ行こうか。母さんが戻ってくる前に帰らなきゃ」
「お腹はすいたけど……せっかくだしネコを見つけてから帰りたいよ」
「これだけ待っても現れなかったし、暗くて見つけるのは無理だと思うけどな」
「じゃあ、また一緒に来よう。明日は休みだし手伝うよ?」
「もう飼うことは諦めているから必要ないさ。さぁ、遅くなったし急ごう」
「諦めることないよ。一緒にお願いすればきっと……」

私とは対照的に、春樹はどんどん不機嫌な顔に戻っていった。

「ミケを見たことも無いのに、飼うって何。そういう適当なのが、一番嫌いだな」
「世話もするし、ちゃんと可愛がるよ」 

冷ややかな春樹の態度が気に入らなくて、私は頬を膨らませた。
せっかくの名案なのに、最初から諦めてしまうなんてもったいない。

「もういいんだ。これ以上、君の家に迷惑をかけるつもりはないよ」
「そういう言い方は止めて。私の家は春樹くんの家でもあるんだから」
「じゃあどうすればいいのさ」
「それは……」
「もう、あの公園で言ったような波風をたてるつもりはないよ。
どうせ僕には他に行く場所もないし、母さんも一緒に住むことを望んでいるからね」

初日から比べて、何かが変わったと思っていた。
少しは認めてもらえているつもりだったのに、根本では何も変わっていない。
春樹は拒絶するように言うと、暗い夜道を先に歩き出したのだった。

私は……
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A春樹をみる
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243863:2008/06/11(水) 21:49:09 ID:???
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「ま、待ってよ。怖いのに置いていかないで……」

薄気味悪い場所に取り残されていることに気づき、遠くなっていく影を追いかけた。
春樹はピタリと立ち止まって、無言のまま私を眺めている。
とりあえず待っていてくれたことにホッとしながら、急いで春樹の元に向った。

「はぁ、やっと追いついた」

肩で息をしている私を気使ったのか、春樹はしばらく待っていてくれた。
息が整ったのを確認すると、今度はゆっくり歩き出した。
私もその横を黙ってついていく。
春樹はこちらを一瞥すると、不機嫌な様子を崩すことなく口を開いた。

「ねえ……君ってさ……」
「私? 私がどうかしたの?」
「君ってさ、すごく頭が悪いの?」
「えぇ!?」
「もしかして、鈍感を通り過ぎて馬鹿がつくほどお人よしだとか……」
「ちょっ、馬鹿って。ひどい!」

春樹は真面目な顔で尋ねるものだから、カチンときてしまった。
冗談ではなく、本気で問いかけてくるから余計に悔しい。
だけど私の態度なんてお構い無しに、春樹は言葉を続けた。

「あのマフラー、君の手作りだったんだろ? 僕のした事は最低だよ。
なのに君は、懲りずに付きまとってくる。どうして?」

急にそんなことを聞いてくるなんて予想していなかった。
どう答えていいのか分からず、もじもじしてしまう。

「えっと……」
「嫌われる理由ならいくらでもあるよ。そう仕向けてきたし」
「酷い事をしたと思っているなら……私に謝って」
「嫌だよ。僕はまだ認めたくないんだ」

春樹の声は小さかったけれど、はっきりしていた。
認めたくないのは、きっと私とお父さんが家族になることだろう。

拒絶しながらも、迷っているのかもしれないと私は感じた。
頭でうまく整理がつかないまま、私は自分の思いを一つずつ声にしていった。

「私は……春樹くんのことを少しでも知りたい。
お姉さんとして認めてもらえないからって諦めたら、絶対に後悔すると思う。
お父さんが家族はできるものじゃなくて、つくっていくものだって言ってたもん。
家出と勘違いしてここまで来たけど、学校や料理やネコのこと。
たくさん知ることが出来て、今日はとっても嬉しかったんだよ」

私の言葉を聞いて、春樹がどんな顔をしていたのかは知らない。
なぜなら突然、ガサガサと草むらから音がしたからだ。
私はビックリして、春樹の背中に隠れる。
すると「二ャー」という鳴き声がして、一匹のネコが顔を出した。

私は……
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A春樹をみる
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244864:2008/06/13(金) 21:50:11 ID:???
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「ミケ……。こんなところに居たのか」
「この子がミケなんだ。おいで」

私が手を出すと、警戒するように草むらへと隠れてしまった。
春樹にもネコにも嫌われて、本気で悲しくなってくる。

「あぁ、逃げちゃった」
「ミケは少し神経質な性格なんだ」
「なんだか春樹くんみたい……」
「……僕が神経質で悪かったね」

私のいう事が気に入らなかったのか、春樹がジロリと睨みつけてくる。
人間にも動物にも、こんなに嫌われまくったことが無いだけに、ダメージも大きい。

「まさかミケにまで嫌われちゃうなんて……ショックだよ」
「別に嫌ってる訳じゃない」
「えっ!?」
「多分、ミケは驚いてるだけだと思うんだ」
「そ、そうなんだ」

一瞬、春樹が私のことを認めてくれる発言をしてくれたのかと期待してしまった。
けど、ミケことを言っているだけだと分かって、ちょっとガッカリしてしまう。

「大丈夫。かつお節の匂いを嗅げばすぐに寄ってくるよ」

そう言うと、春樹は鞄を開けてさっきの容器を取り出した。
地面にその容器を置くと、「ミケ」と何度か呼んでいた。

すると、またひょっこりとネコが顔を出した。
白と茶と黒の毛並みをした、綺麗な顔をした三毛猫だった。
子猫にしては大きいけれど、まだどこかあどけなさの残る顔立ちをしていた。

「かわいい。ほら、ミケ。春樹くんがつくったご飯だって」

ミケは見慣れない客である私に警戒していた。
しばらくすると食欲に負けたのか、よたよたと近づいて来る。
そして、春樹の持ってきたご飯を美味しそうに食べ始めた。

「すごい勢いで食べてるよ。お腹空いてたんだね」
「本当だ。取ったりしないんだから、もっと行儀よく食べればいいのに」

春樹はしゃがみ込んで、ミケが食べるところを微笑んで見ていた。
こんなに優しい顔ができるんだったら、私にも愛想よくしてくれてもいいのにと思ってしまう。

眺めているうちに、容器の中身はあっという間に無くなってしまった。
しばらく容器を名残惜しそうに舐めていたけど、そのうち前足で毛づくろいを始めた。

私は……
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A春樹をみる
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245865:2008/06/13(金) 23:04:58 ID:???
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かわいい仕草をみせるミケをどうしても触りたくなってきた。
ご飯を食べ終え満足している今なら、快く触らせてくれるかもしれないと思った。

「ちょっとだけ触ってみたい。春樹くん、いいかな?」
「ミケは僕のネコってわけじゃないよ」
「そっか。ミケおいで……って、あっ逃げないでよ」

私が手を差し出すと、ミケはひょこひょこと不器用に走り出した。
右の後足が悪いのか、そこだけ庇うように浮かせて逃げている。
少しばかり鈍い私でも、ミケをあっさりと捕まえることが出来た。

抱かれることに抵抗がないのか、しばらく撫でてあげると大人しく喉を鳴らし始めた。

「この子、足が悪いんだね」
「僕が見つけた時には、もうこんなだったよ」
「ミケって、やっぱり捨て猫なのかな」
「うん。怖がりだけど人にはよく慣れているからね」
「そうだ、ミケ。ここじゃ寒いだろうし、うちにくる?」

ミケは「二ャー」と鳴いて、私の手をペロペロと舐めて応えてくれる。

「あははっ。舌がザラザラしてる。うちで飼われたいって言ってるよ」
「足が動かないネコだけど、君はいいの?」
「なんで? さっきから飼う気満々だよ」
「…………」
「どうしたの?」
「だってみんなミケを見ると、断ってくるから……」

マンションでネコの飼えなかった春樹は、友達に引き取り手がないか色々聞いてみたらしい。
たたでさえ探すのは大変なのに、足の悪いネコとなると誰も首を縦に振らなかったそうだ。
今までの経緯を話し終えると、春樹は乾いたため息を漏らした。

「捨てられたのも、きっと足がおかしかったからだよ」
「そんなの事で捨てるなんて……」
「さっき君、ミケと僕は似ているって言ってただろ?」
「あっ、あれはつい本当のことを……」
「別に気にしてないよ。僕はね、ミケの中に自分を重ねてる気がするんだ。似てるからこそ放っておけなかったのかもね」

私はこの時、どういった気持ちで春樹が言ったのかよくわからなかった。
よくわからなかったけど、春樹が本音を漏らした事だけはなんとなく感じ取ることが出来た。
だから、暗く沈んでいる春樹に向って明るく声を掛けた。

「よーし。ミケも良いって言ってくれたし、飼うこと決定だね」
「君は飼うつもりみたいだけど、さすがに僕たちだけで決めても仕方ないよ。ちゃんと母さん達にも了解を得ないと」
「理由を言えば、お父さんもお義母さんも許してくれるよ。大丈夫、お姉さんに任せなさい」
「それが一番不安なんだけどな……」

そう言うと、春樹はミケの頭を撫でていた。
憎まれ口だったけど、その顔は何か吹っ切れたように穏やかだった。

私は……
@続きを思い出す
A春樹をみる
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246名無しって呼んでいいか?:2008/06/15(日) 20:52:28 ID:???
豚ギリスマソ。
只今469KBですよ。
247名無しって呼んでいいか?:2008/06/15(日) 23:07:11 ID:???
報告d
次スレはどうしましょうか
ここを使い切ってからの方がいい?
248866:2008/06/16(月) 22:52:53 ID:???
このスレを使い切るぜ

@続きを思い出す

ミケをひとしきり撫で終えると、春樹は顔を上げた。
「急ごうか。どんどん遅くなってしまうよ」
「そ、そうだね。ミケも一緒に行こう」

私はミケを抱いたまま歩き出し、春樹と一緒に山道を帰っていく。
横で歩く春樹に顔を向けると、不意に視線がぶつかった。
あえて視線を外すように、春樹は足元の小石を一つ蹴った。

「こういうのも、悪くないのかな……」
「なにが??」
「信じてみてもいいかなって思ったんだよ」
「春樹くん……?」
「だって、お姉さんに任せておけば大丈夫なんでしょ?」
「も、もちろんだよ! 私にかかれば、お父さんとお義母さんを説得するくらい余裕なんだから!」
「じゃあ……姉さんに任せるよ」

一瞬、自分のことを言われていることに気付かなかった。
だけど、今たしかに「姉さん」って言われた気がする。

「今、私の事……」

にわかには信じられなくて、空耳かと疑ってしまった。
ここで下手に確認すると、また機嫌を悪くされてしまうかもしれない。
出来ればもう一度「姉さん」と言って欲しい。けど、聞きづらい。

悶々と葛藤しながら歩いていくうちに、いつの間にか小学校の前まで出ていた。
私は胸にミケを抱いたまま、再度、横を歩く春樹に向って話しかける。

「あのね春樹くん。確認するのも変だけど、さっき私を姉さんって言ってくれたんだよね?」

上目遣いで春樹の顔を見ると、びっくりしたように目を見開いていた。
息を忘れたように硬直している。

「どうして……」
「ご、ごめん。こんなこと確認することじゃないよね。
さらっと受け入れる方が格好いいって思うんだけど、聞き違いかもって……」
「どうして……あなたがこんな所に……」

春樹は私を見ているわけじゃない。
私は春樹の見ている方向に、首を動かした。

そこに居たのは……
@知らないおじさんがいた。
A知らないお兄さんがいた。
Bお義母さんがいた。
Cお父さんがいた。
249867:2008/06/18(水) 15:27:22 ID:???
A知らないお兄さんがいた。

誰だろう、と私は思った。
詰襟の学生服の上に、紺色のダッフルコートを着ている。
知らないお兄さんは春樹と私に向って、ゆっくり近づいてきた。

「こんな遅くまで遊んでいたら駄目じゃないか、春樹」
「なぜ……こんなところに……」

春樹は相手を見て言葉が出ないようだ。
反対に知らないお兄さんは、落ち着いた様子で春樹に話しかけていた。

「ちょっと初等部の先生に用事があってね。交流会の打ち合わせをしていたんだ」
「な、なんだ……僕はてっきり……」

安心したのか、春樹の肩から力が抜けていった。

「何だい。てっきり家に連れ戻されるんじゃないか……なんて思った?」
「それは……」
「いいよ。お互い隠し事をするような仲でも無いじゃないか」

知らないお兄さんは眼鏡を指であげながら、フフッと笑った。
春樹もそれに合わせるように笑みを浮べる。
私には見せた事の無いような、屈託のない笑みだった。

「そうだ、春樹。今日、わざわざ中等部にまで桐原製薬のお嬢さんがみえたよ」
「ええっ!?」
「ちゃんと説明してあげないと可哀想だよ。
彼女、どうして転校する事を教えてくれなかったのかってすごい剣幕で僕に詰め寄ってきたんだから」

知らないお兄さんは困った顔をしながら、春樹に諭すように言った。
一方の春樹はため息をついて、白状するように口を開く。

「転校するって何度も言ったよ。僕はもうあの家とは関係ないって事も。けど、ちっともわかってくれないんだ」
「桐原のお嬢様は強情そうだしね。散々文句を言った挙句、最後には春樹君がつれないし一緒に浮気しませんかって誘われてしまったよ。
初等部の子が来るのは珍しいし、ひどく悪目立ちしていたな」
「さ、最悪だ……」

春樹は頭を抱えるようにしてうなだれてしまった。
知らないお兄さんは仕方なさそうに微笑んで、今度は私に視線をすべらせた。

「貴女は……? もしかして春樹の……」

なんて答えようかな。
@「私は大堂愛菜。春樹の姉です」
A「先にそちらから名乗るのが礼儀じゃないですか?」
B春樹を見る
250名無しって呼んでいいか?:2008/06/23(月) 03:04:04 ID:???
このまま行くと次スレ終了時くらいには1000いくかな?
文才がないからドキドキ見てるだけだけど、書き手さん達頑張って!!

以上、どうしても言いたかったんだ…スマン
251868:2008/06/23(月) 17:59:53 ID:???
>>250
文才なんて自分もないよー。一緒に1000目指そうぜ

B春樹を見る

私は突然話しかけられて、どうしていいのか分からなくなった。
助け舟を求めるように、春樹の方を見る。

「この人は姉の大堂愛菜。僕の一つ上なんだよ、こう見えてもね」

おどおどしている私を見て、春樹は呆れたように説明していた。
その態度は悔しかったけど、初対面の人に挨拶一つできないかったのだから仕方がない。

「君が……。よく顔を見せて」

そう言うと、知らないお兄さんはコートの胸ポケットから眼鏡を取り出した。
素早く眼鏡を掛けると、私の顔に穴が開きそうなほど眺められた。
自分の容姿に自信が無い私は、ただ俯くしかない。

「あの……私……」
「愛菜さんって言うんだ。素敵な名前だな」
「ど、どうも……」

(こんなに見られているのに、名前しか褒められない私って……)

春樹の知り合いのようだし止めてくださいとも言えず、黙って受け入れるしかなかった。
しばらくして、お兄さんの怪しい視線からようやく開放された。

「そういえば自己紹介がまだだったか。僕は中等部三年の高村と言います。春樹とは……そうだな。
昔からの知り合いなんだ」

そのお兄さんが知り合いだと言った瞬間、春樹の横顔が凍りついた。
私は様子の変わった春樹を慌てて覗き込む。

「春樹くん? 具合でも悪いの?」

けれど春樹は私など眼中に入っていないように、高村と名乗ったお兄さんだけを見ていた。

「にい…さん。今の言葉……本気?」
「もう僕たちは係わりを断ち切るべきなんだ。そうだろう、春樹」
「でも……」
「それは春樹自身のためでもあるんだ。わかるね?」

高村と名乗ったお兄さんは静かに呟くと、春樹の肩をポンと叩いた。

私は……
@「にいさん?」
A「関係を断ち切る?」
B春樹を見る
252869:2008/07/02(水) 11:10:44 ID:???
@「にいさん?」

私は首をかしげて誰とも無く問いかける。
すると、高村と名乗ったお兄さんは私の方に振り向いた。

「春樹はね、僕を兄のように慕ってくれているんだよ」
「そうなんですか」
「親しくしていたのに、この学校からも去ってしまうのは寂しいのだけどね」
「…………」
せっかくお兄さんが寂しいって言っているのに、春樹は表情を固くしたままお兄さんを見ていた。
「春樹くん?」
私は心配になって春樹の顔を覗きこむ。
今の春樹には私の問いかけすら聞こえないようだった。

「……兄さん」
「なんだい、春樹」
「あの家とは縁を切ったけど、僕は兄さんとの関係まで断ち切りたくないよ!」
春樹は懇願するように、お兄さんに向って言った。
春樹の言葉にお兄さんは小さくため息を漏らすと、口を開いた。

「僕は高村家の人間だ。決して逃れることは出来ない。だからもう僕と関わってはいけないんだ」
「あんな扱いを受けて、まだそんな事を言うの?」
「仕方がないんだ。僕には半分卑しい血がながれているのだから」
「卑しいって兄さんの母親の事? 兄さんは兄さんじゃないか!」
「……少し落ち着こう、春樹。愛菜さんがびっくりしている」
お兄さんは苦笑を私に向けてくる。
怒っている春樹に手を焼いているという顔だった。

「ごめんね、愛菜さん。春樹が興奮してしまって驚いただろう?」
「……いいえ」
「兄さん、まだ話は終わって無いよ!」

春樹はまだ話し足りないのか、声をあげている。
それを制すように、お兄さんは強い視線を春樹に向けた。

「春樹。せっかく与えられた未来なんだ。新しい家族と上手くやっていくためにも僕とはこれきりにしなくちゃいけない。
ここに居る愛菜さんの為にもね」

(私のため?)
私の名前が出てきたものの二人の会話が分からなくて、話に加わることができない。

@別の話を振る
A黙って見守る
B春樹に帰ろうと言う
253870:2008/07/02(水) 11:29:37 ID:???
A黙って見守る

きっと大切な話をしているのだろうという事は感じ取れた。
私は黙ったまま、二人の様子に目を向けた。

「……それは僕に大堂春樹として生きていけって事?」
春樹はお兄さんを見据えるように呟いていた。

「そうだよ。春樹は僕のために怒ってくれる真っ直ぐで優しい子だ。
今度はその優しさを新しい家族に向けるべきなんだ」
「…………」

春樹は納得できないように口をつぐんでしまった。
それでもお兄さんは構わず話を続ける。

「春樹、よく聞くんだ。これは僕のお願いなんだ。愛菜さんを大切にしてあげて欲しい」
「この人を……?」

お兄さんと春樹の視線が私に注がれる。
私はどうしていいのか分からず肩をすくめて俯いた。

「もしかしたら、愛菜さんは僕にとって特別な人かもしれないんだ」
「特別な人……!? 二人は知り合いなの?」
春樹に尋ねられて、私は慌てて首を横に振った。

(し、初対面なのに特別って……)

「いや、僕と愛菜さんは初対面だよ。だけどね、分かるんだ。そして、春樹もきっと……。
たとえ仕組まれたものだとしても、作っていくのは君達なんだから……」
「……兄さん? 何をぶつぶつ言っているの?」
春樹は訝しげにお兄さんを見ていた。

「なんでもないよ。ところで愛菜さん。そのネコは?」
お兄さんは話題を変えるように、腕の中のミケに視線を移していた。

「足の悪い捨て猫なんです。春樹くんが世話をしていたんだけど、うちで飼ってあげることにしました」
「ミケって名前を付けて、きまぐれでご飯をあげていただけだよ」

「なるほど、春樹が。ちょっとそのネコを見せて……」

お兄さんは私の腕からひょいとミケを抱き上げた。
そして、悪い足の関節を触っている。

「春樹。このネコ、ちょっと預かっていいかな」
「えっ、だけど兄さん……勝手にそんな事したら……」
「心配することはないよ。あの人は僕のいる別邸までは来ないから」

お兄さんは春樹に向って微笑むと、今度は膝を屈めて私を見た。

「愛菜さん。もしかしたら、このネコの足が治るかもしれないんだ。僕に預からせてくれないかな」

私は……
@預かってもらう
A断る
B春樹を見る
254871:2008/07/03(木) 13:16:14 ID:???
B春樹を見る

私は確認するように春樹を見た。
ようやく私の視線に気付き、呆れたように口を開く。

「兄さんは信用できる人だ。けど嫌ならハッキリ言った方がいいよ」

(それって、私に任せるって事だよね……)
私は迷った。
もし足を治すなら、私の家で飼いながら獣医さんに連れて行けば済む。
あえてこのお兄さんを頼る必要なんかない。
けど……

「あの、少しだけ……いいですか?」
「何だい、大堂愛菜さん」
「えっと、さっきの二人の会話で一つだけ気になる事があったんです……」

私の言葉を聞いて、お兄さんは首を傾げる。
そして、私に向かって優しく問いかけた。

「一体、何が気になったのかな?」
「私の勘違いだったら謝ります。あの……あなたが自分の母親を悪く言っている気がして……」

さっきの会話で、お兄さんが『半分卑しい血』と言った後に春樹が『兄さんの母親の事?』 と尋ねていた。
私はその時に感じた気持ちを、素直に言葉にしていく。

「事情はよく分からないんですけど、もしそうだったらすごく悲しいなって……
そんな考え方の人にはミケは渡したくないって……そう、思ったんです」

自分自身でも何が言いたいのか、上手く整理ができなかった。
随分ひどい言い方になってしまった気がする。
相応しい言葉を選べなかったかったもどかしさに、思わず目を伏せた。

「愛菜さん、顔をあげて?」

言われるまま、私はゆっくり顔をあげる。
すると、お兄さんは怒るどころか顔を歪ませるように笑っていた。

「姿は変わってしまっても、君は君のままなんだね……」
「えっ?」
「済まない、こちらの話だよ。そうだね、愛菜さんの言う通り……僕は寂しい考え方をしていたね」

お兄さんはフッとため息を漏らした。
そしてまた泣きそうな笑みを私に向ける。

「今の言葉で目が醒めたよ。ありがとう」
「そんな、私は……」
「謙遜することはないよ。僕はとても嬉しかったのだから」
「あの、高村さん。ミケを……」
「??」
「ミケを治してあげてください。お願いします――」

そう言って、私はミケを手渡した。

@お兄さんに話しかける
A春樹に話しかける
B帰る
255872:2008/07/03(木) 13:38:59 ID:???
B帰る

私達はお兄さんに別れを告げて、家へと急いだ。
別れ際、お兄さんは私と春樹が見えなくなるまで見送ってくれた。

「よかったの? 兄さんにミケを渡して」

家に着いて、今まで黙り込んでいた春樹に話しかけられた。
ようやくリビングのソファーに座ることが出来て、肩の力が抜けていく。

「うん。春樹くんが信用できるって言ってたしね」
「それは言ったけど……でも決めたのは姉さんだろ?」
「……あっ」
「何?」
「ううん。なんでもないよ」

(また姉さんって言ってくれた)

「なんだよ、気になるじゃないか……」

これ以上詮索されても困るし、私は慌てて話題を変えた。

「そ、それより私、お腹が空いちゃった」
「まだ母さんも帰ってきてないから……しょうがない、僕が作るよ」
「いいの?」
「ミケのご飯を物欲しそうに見ていただろ? すぐ作るからそのまま座っててよ」
「うん!」

三十分ほどして、食卓には立派な夕食が並んでいた。
春樹の手際のよさに、感心してしまった。

「このから揚げ、表面はサクッとしてるのに中はすごく柔らかいよ!」
「鳥もも肉にフォークで穴を開けておくと、下味も入りやすいし火の通りが早くなるから、柔らかくなるんだよ」
「へぇ……すごいね。あっ、このポテトサラダも美味しい」
「聞いてないし……」
「そんなこと無いよ。わっ、この中にチーズが入ってたよ」
「全く、仕方ないなぁ」

一々感動しながら食べている私を春樹は苦笑しながら見ていた。
私もようやくその視線に気付いて、また何か嫌味を言われないかと身構える。

「……また意地悪を言うつもりだったんでしょ」
「ううん、別に。ただミケみたいだなって思っただけだよ」
「むっ、それってミケみたいに焦って食べてるってこと?」
「違うよ。美味しそうに食べるなーってね。やっぱり一人で食べるより何倍も美味しく感じるなと思ったんだ」
「……そうだね」

私も一人で食事をする事が多かったから、その気持ちはよく分かった。
隆のうちでご馳走になったり、父と食べる事もあったけど毎回という訳にはいかなかった。
きっと春樹も同じだったに違いない。

私は……
@春樹に話しかける
A黙々と食べる
B様子を見る
256873:2008/07/03(木) 14:04:46 ID:???
B様子を見る

私は春樹の様子を伺う。
すると、いつものやり場のない怒りは抜けて、とても穏やかな表情をしていた。

「ねぇ、姉さん」
「どうしたの? 春樹くん」
「明日、義父さんと話をしてみるよ」
「ええっ!?」
「……そんなに驚くことないじゃないか。あれからちょうど一週間なんだし」
「そ、そうだよね……」

聞く耳すら持たなかった春樹が、なぜだろうと思った。
ミケを見つける前まで、私や父を拒んでいたのは確かだ。
あの数時間で、春樹にどんな心境の変化があったのかは分からない。
親しいお兄さんに言われたからなのか。
それとも単なる気まぐれなのか。
春樹がどう思っているかなんて、どれだけ考えても私には理解できない。

「でも、よかった。春樹くんがそう思ってくれて」
「春樹でいいよ。一応、姉なんだから」
「えっ、だけど……」
「せめて名前の呼び方くらい姉っぽくしてくれなきゃ。らしくないんだし」
「う……」
(否定できない)

「さぁ、早く食べないと冷めてしまうよ」
「うん!」

意識が浮上していくのが分かる。
ああ、また夢を見ていたんだな、とようやく気付いた。
思い出している内に、寝てしまっていたようだ。

(私、すっかり忘れていたんだ……)

夢は忘れた記憶を呼び覚ますというけれど、今回はそんな感じだった。
五年前に私が経験したことばかりだったからだ。
目の前が白み始め、私はゆっくり目を開けていく。

そこに居たのは……

@春樹
A周防さん
B隆
C修二くん
Dチハル
257名無しって呼んでいいか?
ゲーム製作超初心者ですが、支援も兼ねてアドベンチャーゲームを試作してみました。
恋愛シミュレーションツクール2で作成。
ちょっと不安定な場合あり。こまめにセーブしてください。

OSはMicrosoft(R) Windows(R)95、98、Me、2000日本語版です
XPも一応できます。
vistaは非対応。

立ち絵、BGMは無しでショボイです。
内容は、5日目までで終了します
制作者が一部、前後の辻褄あわせのために勝手な加筆減筆をしてます
原文でないと駄目という方はプレイしないほうがいいかも

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org23175.zip.html

にUPしました。
DLパスはメ欄
35KBもあるので激重ですが、よかったらプレイしてみてね