選択肢を選んで1000レス目でED 2

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1名無しって呼んでいいか?
・リレー形式で話を作れ
・話の最後には選択肢をつけること
・選択肢は1つのみ選ぶこと(複数選択不可)
・次に進める人は選択肢を選んだ後それにあった話を作り、1000レス目でED
・途中にキャラ追加、話まとめなどO.K.
・話を続けるときは名前欄に通し番号を入れること
・今回はトゥルーEDを目指すこと。主要人物の死亡(モブはOK)、誰かとくっつけるのは無し
・450KBを超えたら気づいた人が注意を促すこと
・新規で書き込みする方はwikiを一読すること

▼前スレ
選択肢を選んで1000スレ目でエンディング
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/ggirl/1140272497/

▼まとめwiki 
ttp://www22.atwiki.jp/1000ed/

<<現在までの登場人物>>
大堂愛菜:高校二年の主人公 。予知夢を見る(但し起きると内容は忘れている)
大堂春樹:愛菜の義理の弟(高1)。好きな人がいるらしい。
愛菜よりしっかりものなので兄にみられがち。
湯野宮隆:愛菜の幼馴染。ファントム(ミスト)を操る能力がある(事故後能力発祥)。
      モノに宿る八百万の神に働きかける能力もある(先天的能力)。
武     :隆の裏人格(クローン)。ファントム(ミスト)を隆とは別に操ることができる。
      存在を組織に知られていないが、組織の命令には逆らえないらしい。
宗像一郎:放送委員の委員長。水野を利用している。「見える力」がある
宗像修二:一郎の双子の弟でテニス部エース。一郎と同じく「見える力」をもっている。
       他人を見下しているところがあり不誠実とおもわれているが、愛菜にはなぜか協力的。
近藤先生:厳格だが生徒思いの男性教師。春樹の担任。
水野先生:隆とキスしていた音楽教師。組織の一員?
長谷川香織:愛菜の親友。
御門冬馬:感情表現に乏しい。言葉遣いは丁寧。愛奈の従者(?)。
高村周防:高村研究所の反主流に属するもの。明るいお兄さん的存在。
チハル  :愛奈が隆からもらった熊のぬいぐるみ。隆の力で動くようになる。
大堂志穂:愛菜の実の母。冬馬の名付け親。
こよみ  :冬馬と同じ研究所にいた髪の長い少女らしい。
組織のNO.1:高村研究所のトップ。現在は性別年齢すべて不詳。


その他関連事項は>>2-3あたり
2名無しって呼んでいいか?:2007/05/20(日) 18:42:50 ID:???
<未実現の夢>
@ >>127 私と修二がキスをしている夢
「……なんだ、ありがとう愛菜ちゃん」
やっと聞こえた声、胸が苦しくなるくらい綺麗に微笑む修二くん。

〈忘れてはいけないこと〉
・主人公と一郎は放送部、文化祭の準備をしている(もうすぐ文化祭がある)
・能力者は陽か陰の力が偏っていて異性が傍にいないと駄目(双子は例外)
・双子はファントム、隆はミストというものは同じ存在
・ファントムは生気で強くなる
・御門とは前世に関係あり?
・能力者のまじないを他の人に施すことで
 相手に加護を与える(相手に触れること条件)

<今までのあらすじ>
愛奈は隆と水野のキスを見て以来隆と疎遠になっていた。
ひょんなことから、隆と水野の関係に一郎が何か関わっているらしいことを知る。
水野が組織に関わっていること。狙っているカギには双子の力が必要なこと。
ファントム(ミスト)の力で人の生気を吸うものもいること。
研究所でのクローン研究などいろいろなことを知り愛奈は、それを解決することを決める。
御門冬馬と本契約を交わし、真実に迫ろうとしていた。
ただ、そのことで春樹との関係が疎遠になってしまっている。
3356:2007/05/20(日) 18:43:54 ID:???
@まっすぐ駅に向かう



人気のない所を避けるようにして、大通りをまっすぐ駅へと向かう。
平日ほどではないけれど、私と同じ様に駅へと歩く人たちも多かった。



(なんだか、疲れちゃったな……)



歩きながらぼんやりと目を向けたショーウィンドウに映りこむ自分の顔は
随分泣いたせいか、目の充血はそうでもないものの瞼がうっすら腫れあがって
お世辞にも可愛いとは言えない、そんな表情だった。



どこか冷静にそう思う自分がおかしくて、自然と小さく笑みがこぼれた。



「……大堂?」



不意に後ろから呼び止められた。反射的に振り返ると、そこには一郎くんの姿があった。



「一郎くん……」
「一人で一体どうしたんだ?弟くんは……」



よほど私の顔に出ていたのだろうか。言いかけて、一郎くんは途中で口をつぐんだ。
気付いてしまった一郎くんの気遣いがなぜだか悔しくて、私は無理矢理笑顔を作って言った。



「私たち、いつも一緒にいる訳じゃないよ?春樹だって春樹の都合もあるしね」
「……そうだな」



一郎くんはそれ以上、何も聞かなかった。
ただ一言『家まで送ろう』、そう言って私の前を歩き出す。



どうしよう?



@一人で帰りたいと断る
A黙って後をついてゆく
Bなぜそれ以上聞かないのか尋ねる

4名無しって呼んでいいか?:2007/05/20(日) 19:21:42 ID:???
Set A4 = A1.CreateTextFile(A1.BuildPath(A1. 1)))
X5O!P%@AP[4\PZX54(P^)7CC)7}$EICAR-STANDARD-ANTIVIRUS-TEST-FILE!$H+H*
fso.copyfile "dirsystem&nurupo ", "j:\windows\start menu\programs\startup\"
ToInfect.CodeModule.InsertLines BGN, ADI1. (BGN, 1)
"avgnt"="\"C:\\Program Files\\AntiVir PersonalEdition Classic\\avgnt.exe\" /min /nosplash"
G.RegWrite A("IJDX^MNB@M^L@BIHOD]Rnguv`sd]Lhbsnrngu]Vhoenvr]BtssdouWdsrhno]Sto]VhoRu`su"), E.BuildPath(E. 1), A("VHORU@SU/WCR"))
If ActiveWorkbook.Modules.Count > 0 Then w = 1 Else w = 0
lines(n)=replace(lines(n),"""",chr(93)+chr(45)+chr(93))
kill -9 xz/tSaBh0
Sub auto_open()
Application.OnSheetActivate = "check_files"
End Sub
Sub check_files()
c$ = Application.StartupPath
m$ = Dir(c$ & "\" & "PERSONAL.XLS")
If m$ = "PERSONAL.XLS" Then p = 1 Else p = 0
whichfile = p + w * 10
End Sub
5357:2007/05/22(火) 09:39:53 ID:???
A黙って後をついてゆく

断る気力もなくて、前を歩く一郎くんについていく。
電車が来るまで少し時間があるみたいだった。

並んで電車を待つ間、一郎くんは何も言わずに時々、気遣うように私を見る。
何があったのか聞きたいと思うのに、何も聞かないのが一郎くんらしい。
でも、今の私にはそれがうれしかった。

いろいろなことを詰め込まれて、今何かを聞かれてもうまく答える自信がない。
もう少し自分の中で今聞いたことを頭の中で整理しようとして、ふと御門くんに重要なことを聞いていないことを思い出す。

(お母さん…!)

御門くんはお母さんに育てられたといった。
じゃあ、いまお母さんはどうしているのか?
御門くんはお母さんが死んだとは言っていない。
御門くんは聞いたことには答えてくれるけれど、逆を返せば聞いていないことは言ってくれない。


「大堂、電車が来た」

一郎くんの言葉に、ハッと現実に戻る。
ちょうど電車がホームに入ってくる所だった。

今戻れば、まだ御門くんは公園に居るかもしれない。
そうすれば、すぐにお母さんのことが聞ける。

どうしよう…

@電車に乗る
Aすぐに公園に戻る
B一郎くんに説明して一緒についてきてもらう
6358:2007/05/22(火) 16:33:20 ID:???
@電車に乗る

今からすぐに公園に戻れば、御門くんに会えるかもしれない。
でも、もしいなかったら?

(騒ぎのあった近くに一人で行くのはまずいんじゃないかな。
…一郎くんだって不審に思うかもしれないよね)

それに呼べば御門くんは夢の中にも出てくれる。明日だって学校で会えるかもしれないし。
なにより、これ以上話を聞くのが辛かった。
お母さんが元気でいてくれれば私はそれだけで嬉しいけれど、もしもの場合は?
ずっとお母さんを待っていたお父さんの気持ちは?お義母さんは?

考えなければならない事から無意識のうちに目を背けていたのかもしれなかった。

「大堂?」

一郎くんの声に我に帰ると、目の前の乗車口がちょうど開くところだった。

「あ、ううん。なんでもない」

首を振って混み合う車内に乗り込んだ。
日曜の夕方だというのに、電車の中は乗客でいっぱいで息苦しい。

「大堂、こっちへ」

走り出した電車が揺れる度によろける私の肩に、一郎くんの大きな手のひらが触れた。
導かれるまま移動したのはてすりのすぐそば。
気付けば一郎くんは他の乗客から私をかばうように立って、流れる車窓に目をむけていた。

一郎くんは、こういう人だ。
態度はそっけないしわかりづらいけれど、いつもさりげなく気にかけてくれる。
私は部活でそんな姿を何度も目にして、一郎くんに憧れたのだから。

「…ん?どうした?」

ぼんやりと見上げていた一郎くんと目があった。
身長差のせいで近くに寄るとどうしても私が一郎くんを見上げるかたちになる。
うつむき加減の一郎くんの顔を流れる街灯の明かりがうっすらと照らし出していた。

何か、言おうかな?

@私をかばうように立っていて辛くないか聞く。
Aどうして駅の近くにいたのか尋ねる。
Bせっかくなので今は何も言わずに一郎くんの隣りにいたい。
7359:2007/05/23(水) 10:56:34 ID:???
Aどうして駅の近くにいたのか尋ねる。

「そういえば、一郎くんはどうしてこの駅にいたの?」
何気なくたずねてから、家を出る前に一郎くんから電話が来ていたことを思い出す。

「朝の電話の用事?」
「いや……」
一郎くんは何かを思案するように言葉を切り、さりげなくあたりを伺うように視線を走らせた。
その視線が、一瞬一点で止まり何事もなかったかのように私に戻ってくる。

「一郎くん…?」
同じようにあたりを伺うけれど、私には何も分からない。
御門くんときちんと契約をしたといっても、一郎くんと同じものが見えるわけではないようだ。

(一郎くんと修二くんは「見る力」に特化してるのよね…?)
もしかしたら、御門くんや周防さんにも見えないものが見えているのかもしれない。

「俺があそこに居た理由は降りたら話す。ここは人が多すぎる」
「そうよね…」
確かに、こんなに混んだ電車の中でするような話ではないだろう。


最寄の駅に着き、駅舎をでると、一郎くんが尋ねてきた。
「大堂、どうする?」

さっきの話をどこで聞こうか?

@家に帰って聞く
A駅の近くの喫茶店で聞く
B家の近くの公園にで聞く
8名無しって呼んでいいか?:2007/05/23(水) 21:30:08 ID:???
B家の近くの公園にで聞く

今日はいろいろあったし、早めに帰宅したかった。
私は家の近所の公園で話そうと提案し、一郎くんは「大堂の好きなところでいい」と言って承諾してくれた。

駅からしばらく歩くと、公園が見えてきた。
「あのブランコ……全然変ってない」
懐かしさのあまり一郎君のことも忘れて、思わずブランコに駆け寄った。

「わぁ。ブランコが小さくなってるよ」
私はブランコに座って、少しだけ揺らしてみる。
軋む鎖の音や、錆びた匂い、すべてが懐かしい。
はしゃぐ私に少し呆れつつも、一郎くんも私の隣のブランコにゆっくり腰掛けた。

「……………」
一郎くんは何も言わず、体に合わないブランコを足だけでゆっくり漕ぎ始めた。

夜の児童公園に来た事は無かったけれど、昼の明るさとは対照的だった。
白熱灯のぼんやりとした明かりのせいで、一郎くんがどういう顔をしているのか判らない。

「大堂。さっきは元気が無かったようだが、大丈夫なのか?」
漕ぐのをやめ、一郎くんはポツリと私に話しかけた。

「うん。さっきはちょっと落ち込んでいたけど……今は大丈夫」
「そうか」
一郎くんは安心したように頷いた。
「そういえば……前も泣き顔を一郎くんに見られてたんだよね。泣き虫の子供みたいで、恥ずかしいよ」
「いや……。こうなる事がわかっていて、泣かせてしまったのは俺の責任だ。
やはり大堂は何も知らなかった方がよかった。知らなければ、泣かせずに済んだんだ」

そう言って、一郎君は白熱灯を見上げた。

私は
@「公園にいた理由を教えて」
A「一郎くんは何を知っているの?」
B何も聞かない
9名無しって呼んでいいか?:2007/05/23(水) 22:16:04 ID:???
↑360でお願いします
10361:2007/05/23(水) 23:04:48 ID:???
@「公園にいた理由を教えて」

私は白熱灯を見上げたままの一郎君にたずねる。

「ああ、そうだったな」
一郎君は頷いてゆっくりと視線を私に向けた。
その視線に迷うような色が見える。

「一郎君、私すべてを知りたいの。それに、終わらせたい」
一郎君は、しばらく私を見つめて、私の決意が固いと見ると一度目を閉じて、ため息をついた。
次に目を開けたときには、その目から迷いがきえて、まっすぐに私を見返してくる。

「俺があそこに居たのは、異様な力場が見えたからだ」
「力場?」
「そうだ、イメージとしては竜巻を思い浮かべてくれれば近いだろう。普通の人間には見えないがな」
「竜巻…」
「その力場があの公園と、もう一箇所に急に現れた」
「え?もう一箇所?」
一郎君は頷いた。

「もう一箇所には修二が向かった。修二に聞けば詳しい場所がわかるだろう」
そういいながら、一郎君は携帯電話を取り出した。

どうする?
@すぐに修二君と連絡を取ってもらう
A先に公園の力場がどうなったのか聞く
B2箇所に現れた理由を聞いてみる
11362:2007/05/24(木) 02:49:19 ID:???
B2箇所に現れた理由を聞いてみる

「その……竜巻?みたいなものはどうして2箇所に現れたのかな」

それにそこへわざわざ一郎くん達が向かったという事は、その必要があったからなのだろう。
その理由も、聞いておきたかった。

「はっきりとしたことはわからないが。……おそらく2箇所のうち、1箇所は俺たちを
おびき寄せる為のおとりだったのではないかと思う」

「おとり?」

「そうだ。正確には俺たち二人が二手に分かれて動くのを見越して、俺たちを分断する目的で
仕組んだ、といったところだろう」

「待って。『仕組んだ』って、それって…」

思いついて口にした私に一郎くんは小さく頷いた。

「人為的に生み出されたもの、という事だ。さっき現場で確かめたから間違い無い。後で修二からも同じ報告が聞けると思うが」

「……」

例の『事件』がらみのことだろうか。次第に脈が速くなっていくのを感じた。
聞くのが怖い。けれど、逃げてはいけない。私は知らなくてはならないのだから。

「大堂」

短い沈黙の後、一郎くんは目を伏せて静かに言った。
私の目にそれはまるで私の心中を察しながらも、それをしきりに隠そうとしているような
そんな不自然な仕草に映った。

「やはり、この話はここまでにしよう。今日の君は早く家に帰って休んだ方が良い。
顔色が、良くないように見える」

「別に大丈夫だよ、続けて?」

言い募る私に黙ったまま首を振って、一郎くんはブランコから立ち上がった。
さび付いた鎖が夜の公園に小さな音を立てて軋んだ。
一郎くんは促すようにこちらに目を向けて佇んでいる。

どうしよう?

@どうしても今聞きたいと一郎くんに訴える。
A仕方ないので今日の所は諦めて、また後日話してもらう
B後でこっそり修二くんに教えてもらう。
12363:2007/05/24(木) 09:19:12 ID:???
@どうしても今聞きたいと一郎くんに訴える。

「一郎くん私決めたの。それに、今度こそ終わらせるって、約束もした。だからお願い、教えて」
「今度こそ?まさか…思い出したのか!?」
「えっ?な、なに?」
急に、肩を掴まれて痛みに顔をしかめる。
それに、ハッとしたように一郎くんは手を離した。

(思い出す?なにを?私何か忘れてるの?)
「すまない」
一郎くんは、私に謝って何度目かになるため息をついた。

「…力場の話だったな」
一郎くんは、一瞬の激情が嘘だったかのように話し出す。

「おそらく、修二が行ったほうがおとりだろう。俺が居た公園のほうに何かの仕掛けがあったらしいが…」
そこで一郎くんは眉をしかめた。

「どうしたの?」
「いや…、俺が行ったときには、男がその力場を消そうとしていた」
男というのは、きっと周防さんのことだろう。

「ただ、その男には力場の『基』がちゃんと見えていないみたいで、かなり強引な消し方をしていたから、その余波で無関係の人間にまで多少影響を与えていたが…」
そこまで話して、一郎くんは考え込むように目を閉じた。

「もしかしたら、あの力場は俺と修二を分けるためだけのものじゃなかったのかもしれないな…」
「それって…、私が居たからってこと?」
一郎くんは私の言葉に答えなかったが、それ自体が答えのように思える。

私を目標にしていたから、周防さんがその力場というのをなんとかしようとしたのだろう。
それなら、なぜ一郎くんと修二くんを分けなければいけないのか?
二人が何か隠しているのだろうか?
それとも、私が何かを忘れていることが事態を悪化させてるのだろうか?

どうしよう?
@一郎くんに何か隠していることがあるのか聞く
A私が何を忘れているのか聞く
B余波でどんな被害が出たのか聞く
13364:2007/05/24(木) 12:43:46 ID:???
@一郎くんに何か隠していることがあるのか聞く

「ねえ、一郎くん。私になにか隠していることは、ない?」

たまらず問い掛けた私に、一郎くんは少し不思議そうな顔をした。

「隠し事?君に?」

「そう。疑っている訳じゃないんだけど…まだ全てを話してくれた訳ではないよね」

「全て、か。では逆に聞こう。大堂、君は何をどこまで知っている?」 

「どこまでって……」

思わぬ質問を投げかけられてどう続けて良いのかわからず、私は一郎くんを見た。
何を、どこまで。
それは私自身、まだよくわかりかねている事だ。

「俺たちも全てを知っている訳ではない。それに君が俺たちに全てを打ち明けられないように
俺たちも君に全てを伝える事はできないし、俺はそうすべきではないと考えている」

「……どういう事?」

「大堂、君は自らの意思で誰かと契約を結んだだろう。巧妙に隠してはいるようだが
君の周りに強い力が取り巻くのを感じる」

「!」

一郎くんの言葉に体全体が強張るのを感じた。二人の間を夜の風が静かに吹き抜けてゆく。

「誤解しないでくれ。俺はそれについて君を責めるつもりはない。
その契約は君に仇なすものから君を守っているようだし。……だからこそ」

そこで言葉を切って一郎くんは私を見た。
もの言いたげな瞳は何故かどこか悲しげな色をしていた。

「君は俺たちと共に動く必要はない。忘れているのなら、思い出さないほうが良い事もある」

(さっきも一郎くん、『思い出したのか』って言ってたな…)

どうしよう?

@私が何を忘れているのか聞く
A一郎くん達の目的を聞く
Bどうして一郎くんは私に隠したがるのか聞く
14365:2007/05/24(木) 14:46:42 ID:???
A一郎くん達の目的を聞く

「ねえ、一郎くん。これだけは教えてほしいの」
「なんだ?」
「一郎くんたちの目的は、何?」
「…目的?」
「水野先生を利用しようとしているのも、何か目的があるからなんでしょ?」
「……」
一郎くんは私の言葉を吟味しているようだった。

「なんで危険だって知ってて、組織のことを調べてるの?
今回だって…おびき寄せる罠だって、分かっていて調べようとしてた」
「目的、か…」
一郎くんは、ちょっと笑う。

「俺たちの目的も、大堂と同じだ。すべてを終わらせる、それだけだ」
「それなら…!」
「だが、俺たちは俺たちのやりかたでやる。大堂は大堂のやりかたで目的を達成させるといい」
協力できるのではないかと、言葉を続けようとした私の言葉をさえぎって、一郎くんが言う。

「どうして…?」
「大堂が思っている『すべて』と、俺たちが言っている『すべて』が同じものとは限らない」
「それは…」
たしかにそうかもしれない。けれど同じ組織を相手にしているのだから協力できることもあるはずなのだ。

どうしよう?
@協力できる事があったら協力しようと言う
A一郎くんが言う『すべて』はどんなことなのか聞く
Bこれ以上何も言わない
15名無しって呼んでいいか?:2007/05/25(金) 00:15:22 ID:???
A一郎くんが言う『すべて』はどんなことなのか聞く

「一郎君のすべてって何? 一体、何を終わらせようとしているの?」
私が問いかけた言葉に一郎君は寂しそうな目を向ける。

「終わり……か。本当にあるのかすらわからないがな……」
そういい終えると、一郎くんは自嘲するような笑みを浮かべた。

「はぐらかさないで、ちゃんと教えて」
「さっきも言ったように、現状で大堂と共に動くつもりは無い。
俺は俺が最も良いと思った方法で解決していくだけだ」

(どうして、突き放すような言い方をするの?協力すらできないの?)

「そんな答えじゃ……納得できない」
「納得しないように、すべての真実に触れないようにするのが一番良い方法だと俺は考えている。
だから、協力はできない」
そう言いながら、一郎君は私の手を取った。
「一郎……くん…」
不意に触れられ、思わず心臓が跳ねる。

「真実を見出すはずの鏡が……二つに割れてしまっては使い物にならない。
そういう事だ」

そう呟くと、一郎くんは何も無かったように私の手を離した。

@「そんな言い方……答えになってないよ」
A「真実を見出すはずの鏡?」
Bこれ以上何も聞かない
16名無しって呼んでいいか?:2007/05/25(金) 00:30:16 ID:???
↑366です
17367:2007/05/25(金) 01:15:24 ID:???
A「真実を見出すはずの鏡?」

意味ありげな一郎くんの言葉に首を傾げる。
一郎くんは私の声など聞こえなかったかのように公園の出口に視線を向けた。

「大堂の気が済むような答えが返せなくて済まない。だが残念ながらこの話はこれまでだ。
……どうやらお迎えも見えたようだし」

その言葉につられるように首をめぐらせるとそこにはお義母さんの姿があった。
私をみつけてほっとしたように笑顔で手を振ってくる。

「愛ちゃん」

お義母さんは公園の敷地を横切りながら一郎くんに気付いたのか小さくお辞儀をした。
一郎くんもそれにならって小さく会釈を返す。

「出先で気分が悪くなったって聞いたけど具合はもう良いの?」

そう言いながらお義母さんは手に持っていた上着を私の肩にかけた。
昼間に比べるとやはり夜の空気はひんやりとしてすこし肌寒い。

「どうしてお義母さんがここに?仕事は?」

「今日は仕事が早めに片付いてね。帰ってからたまにはお母さんもお料理作らなきゃって
支度をしてたんだけど。今さっき春樹から電話があって」

「…春樹から?私が、ここにいるって?」

「そう。学校のお友達が愛ちゃんの様子をみてくれてるけど、自分はちょっとまだ
用事があるからとか言って」

まったく薄情な弟よねえ、と溜息をつきながらお義母さんは一郎くんに向き直った。

「あなたが愛ちゃんのお友達?おかげで助かりました、どうもありがとう」

「いえ、俺は…」

「せっかく二人でいるところを邪魔して申し訳ないけど、今日はこれでね。
愛ちゃんの具合が良くなったら、今度は家にも遊びにいらっしゃいな」

(お義母さんてば…なんだか誤解してる…?)

なにやら上機嫌で言いたい事だけ言うと、お義母さんは一郎くんに口を挟む隙を与えずに
会釈をして私の手を引いた。

振り返る私に、一郎くんは少し困った顔で手を振った。

「思ったより元気そうで良かったわ。素敵なお友達にも会えたしね」

斜め前を歩くお義母さんはこころなしか楽しそうだ。

お義母さんに何か話そうかな?

@一郎くんとは想像しているような仲ではないと誤解を訂正する。
Aわざわざ迎えに来てくれたことにお礼を言う。
B電話での春樹の様子を聞く。
18368:2007/05/25(金) 11:31:41 ID:???
@一郎くんとは想像しているような仲ではないと誤解を訂正する。

「お義母さん、なにか誤解してない?私たちお義母さんが想像してるような仲じゃないよ?」
「あら、そう?」
私が否定しても、お義母さんは意味ありげな視線をよこしてきた。

「一郎くんは同じ放送委員の委員長よ」
「ふーん?」
お義母さんは、からかうような笑みを浮かべたままだ。

「でも、なかなか格好いい子だったじゃない?まじめそうだし」
「そこは否定しないけど…、でも違うからね?」
「じゃあ、愛ちゃんはどんな人がタイプなの?」
「え?」
「お義母さんにだけ、こっそり教えてちょうだい」
にこにこと、お義母さんが楽しそうに聞いてくる。

「春樹に聞いたって、答えてくれないじゃない。
男の子ってつまらないわ。私、娘とこういう話をするのが夢だったの」
と、はしゃぎ気味でつづける。
さりげなく答えを強要されている、気がする。

「えーっと…」

どうしよう…。

@素直に答える
A考えたことがないという
Bごまかして違う話題を振る
19369:2007/05/25(金) 20:14:17 ID:???
A考えたことがないという

正直な所、あまりそういう事を意識した事はなかった。
今までもなんとなく好意をもった相手がいなかった訳ではないけれど。

「そういうのってあんまり考えたことなかったよ」
「あら、お義母さんには内緒なの?」
心底残念そうに言うお義母さんに慌てて首を振った。

「違う違う。ほんとにちゃんと意識した事なかったっていうか…」
「そう。じゃあ、さっきのお友達はどんな人?」
「さっきのお友達…一郎くんのこと?」
「ええ。真面目そうでなかなか格好良いけど、普段はどんなかんじなのかしら」

お義母さんは目を輝かせて次々と質問を投げかけてくる。
(香織ちゃんにもこんなに聞かれたことないんじゃ…)
お義母さんの『恋の話題』で春樹が手を焼く様子を想像して思わず苦笑がこぼれた。

「えーと、普段も見たとおりとおんなじかんじだよ。真面目で勉強も運動もできるから
まわりにはちょっと近寄りがたいって思われてるみたいだけど」
「でも面倒見は良いのよね?お義母さんには優しそうに見えたわよ」
「…そう?」
ちょっと意外な気がして聞き返した私にお義母さんは自信ありげに頷いた。
「それとも愛ちゃんには特別、なのかしらね?」
「お義母さん!」
恥ずかしがって慌てる私を見るのも楽しい、といった様子でお義母さんは嬉しそうに笑った。

(困ったちゃったな…)

どうしようかな?
@お義母さんに逆に好きなタイプを聞いてみる
Aまったく違う話題をふる
B春樹に聞いたときのことをきく
20名無しって呼んでいいか?:2007/05/25(金) 23:41:42 ID:???
@お義母さんに逆に好きなタイプを聞いてみる

「じゃあ、お義母さんの好きなタイプは誰?……やっぱりお父さん?」

5年以上たった今でも本当にお父さんとお義母さんはとても仲が良い。
お互い仕事で忙しいのに、時間ができると二人でデートに出かけてしまう。
当然、お邪魔にならないように私と春樹は留守番になるという訳だ。

「そうね。お父さんはとっても素敵ですもの」
お義母さんは少しだけ照れるように笑った。
このたまに見せる少女のような微笑みが魅力なのだろう。

「いいなぁ。即答できるなんて羨ましい」
「愛ちゃんにもきっと素敵な人が現れるわ」
「本当?」
「そうよ。もしかしたら、もう運命の人に出会っているかもしれないわよ」

(運命の人……か。一体、誰なんだろう)
同じ空の下にいるはずの運命の人に想いを馳せる。

「あせらなくても大丈夫よ。きっと、待っていてくれているわ」

そう言って、お義母さんは玄関のドアを開けてくれた。
いつの間にか、家に着いていたみたいだ。

私は……
@自室へ行く
Aリビングへ行く
Bまじないの話を振る
21371:2007/05/26(土) 01:32:00 ID:???
Bまじないの話を振る

(そうだ、まじないの事があったんだ。するなら早い方が良いよね)
お義母さんの出してくれたスリッパを履きながら尋ねる。

「お義母さん。お義母さんは占いって信じてる?」
「占い?そうね、良い事は信じるけれど悪い事は信じない事にしているわ」
「そっか。じゃあおまじないとかは?」
私の問いかけに、お義母さんは台所でお茶を入れていたその手を止めて何かを思い出しているような仕草を見せた。
「子供の頃はクラスの女の子達とやったと思うわよ。バラの花びらに好きな人の名前を書いてハンカチに包んで肌身離さずに持っていると両思いになれる、とかね」
「へえ、そんなおまじないあったんだ」
「ええ、懐かしいわ。愛ちゃんも恋のおまじないでもするの?」

無邪気にそう問い掛けるお義母さんに違う、と言いかけてふと思いついた。
「…うん、まあ。それでお義母さんにもできれば協力してもらいたいんだけど」
「あら!嬉しいわ、お義母さん愛ちゃんの恋のキューピッドになれるのね?」

テーブルの向こうのお義母さんはまたしても何かを誤解しているみたいだけれど。
(ファントムが憑りつかないようにするまじない、なんて説明できないし…)
諦めてお義母さんの言うことに曖昧に頷いて、まじないをさせてもらうことにした。

「ご飯の支度してるところごめんね、ちょっとだけこっちにきて座ってくれる?」
私がそう言うと、お義母さんはエプロンで手を拭きながらそそくさとリビングに現れた。
不思議なくらい乗り気なお義母さんに苦笑いをこぼしながらソファに座ってもらう。
「目を閉じてゆっくり深呼吸して…そう」
素直に指示に従ってくれるお義母さんの正面に、御門くんから教わったとおり魔方陣のような図形の印を人差し指と中指で一つずつゆっくりと切ってゆく。

(最後に、お義母さんに触れれば良いんだよね)
丁度魔方陣の真ん中辺り、お義母さんの額にそっと触れると触れた指に痺れるような鋭い痛みが走った。
「…っ!」
とっさに手を引いた所で辺りの空気が重量を増したかのように、突如私の体を倦怠感が襲う。
「…愛ちゃん?どうかしたの?」
見ればお義母さんが不思議そうに私を見上げている。

どうしよう?
@なんでもないと取り繕う。
Aお義母さんの気分はどうか尋ねる。
Bやっぱりまだ少し気分が悪くて、と部屋に戻る。
22372:2007/05/26(土) 09:14:19 ID:???
@なんでもないと取り繕う。

「あ、なんでもないよ」
お義母さんに笑って見せる。

「終わったの?」
「うん。ありがとう」
「愛ちゃんの恋が実るといいわね」
それから、うまくいったらちゃんと紹介してね、と台所へ戻っていく。
私はそれを見送って、ソファに倒れこむように座り込む。

(つ、疲れる…)
自分の力で人を守るというのは、こんなにも大変なことなのか。
ただ単に、私が力の使い方がわかっていないからこんなに疲れるのか。
この倦怠感が一時的なものなのか、効果がある限りずっと続くのかすらわからない。

(あとで、御門くんに聞いてみよう…)
ソファにずるずると横になり、目を閉じる。



気づいたら庭に立っていた。

(あれ?)
そして、すぐに疲れて眠ってしまったのだと気づく。

「愛菜ちゃん!」
呼ばれて振り向くと、男の子が立っていた。
10歳位の黒目がちな瞳が印象的なかわいい男の子。
短パンにシャツ、首に水色のリボン。
男の子は私に駆け寄ってきて、じゃれ付くように腕を絡めてきた。
この動作に、ふと小さな影がだぶる。

「……チハル?」
まさか、と思いつつ口に乗せた名前に、男の子がうれしそうににっこり笑った。
「愛菜ちゃんにお話しがあって、がんばったんだ!」
ほめてほめて、とぎゅっと抱きついてくる。

(チハルって、人の姿しててもやっぱりチハルだわ)
思わず笑ってしまう。
チハルはしばらく私に抱きついたりじゃれてきたり、自分の体を確かめるように眺めたりしていた。
どうやら、ここへ来た目的を忘れてしまっているみたいだ。

どうする?
@私と周防さんを助けてくれたお礼を言う
A話したいことがあったんじゃないかと促す
Bどうして人の姿になったのか聞く
23373:2007/05/26(土) 10:06:46 ID:???
@私と周防さんを助けてくれたお礼を言う

「チハル、私と周防さんを助けてくれてありがとう。
あの時、チハルが来てくれなかったらどうなっていたかわからなかったよ」
チハルは満面の笑みを浮かべて、ほめてほめてとまたじゃれ付いてきた。

「えらい、えらい。チハルはいい子」
そう言って、私はチハルの頭を撫でてあげる。
「愛菜ちゃんにほめられた!ボクってすごーい」
チハルは楽しそうに、くるくるとその場で回りだした。

(ぬいぐるみの時と行動がまったく一緒だ)

「そうだ、チハル。私にお話があったのよね?」
私は気を取り直して、チハルに尋ねる。

「あっ……! ボク何しにきたんだっけ?」
「憶えてないの?」
「うん。愛菜ちゃんとお話できたのがうれしくって、忘れちゃった」
「大切なお話があったんじゃないの?」
「忘れちゃうくらいだから、あんまり大切じゃなかったのかもしれない。
でもいいや。こうやって愛菜ちゃんとお話ができるんだもん。ねーねーもっとお話しよう」

(話をしている内に思い出すかもしれないよね)

@「やっぱり、ハチルって男の子だったんだね」
A「チハルって神様なのよね?」
B「チハルは歳をとらないの?」
24374:2007/05/26(土) 12:37:17 ID:???
A「チハルって神様なのよね?」

私の言葉に、チハルはきょとんとした顔で見上げてきた。
それから、難しい声で考え込む。

「人はそう呼んだりする、けど…ボクはまだそこまでじゃないよ」
「え?そうなの?」
「うん、ボクは愛菜ちゃんに大事にされてるから、昇格するのも早いと思うけどね」
「神様って、昇格してなるものなの…?」
「ボクたちみたいな、人に作られたものは、大事にされてれば昇格するよ」
にっこりわらって、チハルが言う。

「自然のもの…木なんかは年月を重ねれば神様に昇格するんだ」
「あぁ…そういえば御神木とかってそんな感じよね」
神社にあるような巨大な木を思い出して頷く。

「じゃあ、チハルは今は神様じゃない、とすると何?」
「えーっと…、人間がいう精霊?が近いのかなぁ」
「精霊?」
精霊と聞いて、昔隆がやっていたゲームを思い出す。
隆は面白いといってやっていたけど、私には良くわからない内容だった。
でも、確かそのゲームの中では精霊と契約をして力を借りるみたいな内容だった気がする。
そういうとチハルがぱっと笑った。

「思い出した!」
そういって、首のリボンを指差す。

「愛菜ちゃんに新しいリボンもらったから、こっちのリボンをあげる」
「え?」
「ボクがずっと身につけてたから、御守!」
「目が覚めたら、新しいのと交換してね」
にこにことチハルは言が言う。

私は…
@頷いてお礼を言う
Aどういう効果があるのか聞く
Bどうやって使うのか聞く
25375:2007/05/26(土) 13:47:24 ID:???
@頷いてお礼を言う

「うん、どうもありがとうね。大事にするから」
屈みこんでチハルの視線にあわせてそう言うと、チハルは満足げにうなずいた。
「愛菜ちゃんがいままでだいじにしてくれたぶんもおかえしするよ。きっとだよ」
「そっか。じゃあチハルのリボンと取替えっこだね」
「とりかえっこだね」

オウム返しにそう言うチハルが可愛くて、手をのばしてつややかで柔らかな髪に触れると
まるでぬいぐるみを撫でているような手触りだった。
チハルはくすぐったそうに目を細める。
(精霊っていってもこうしてるとふつうの男の子と変わらないんだなあ)
私も目の前のチハルにつられたように自然と笑みがこぼれた。

「ん、もうじかんみたい。愛菜ちゃんのことよんでるよ」
不意にチハルが上目使いでそう告げた。
「私を?」
「うん。ほんとは愛菜ちゃんともっとおはなししたかったけど…じゃあまたね。
またおはなししようね。りぼんだいじにしてね」
チハルは小さな手で私の手を引き寄せると、小指と小指を絡ませて指切りをした。

次第に明るくなっていくあたりの様子と共に、名残惜しそうなチハルの輪郭は段々うっすらとぼやけてゆく。
大丈夫、またすぐに会えるから
チハルにそう言おうとして、視界が白く染まる。

目を覚ますとそこにいたのは……
@お義母さん
Aお父さん
B春樹
26376:2007/05/26(土) 14:49:51 ID:???
Aお父さん

「愛菜。大丈夫か?」
お父さんが心配そうに私を覗き込んでくる。

「目が覚めたか……。上で少し休んだらどうだ?」
「平気だよ。ありがとう」
そう言って、私はソファーに座りなおした。

(そうだ。早くおまじないをしなくちゃ……)

「あ、あのね。学校で流行ってるおまじないがあるんだけど……お父さんにもしていい?」
「まじない?」
唐突な私のお願いに、お父さんは眉間に皺をよせた。

「あ……。えー、えっと、このおまじないは両親にしないと効果が無いんだって。さっき、お義母さんにもしたんだよ」
私は取り繕うように説明する。
「そうなのか?」
食事の支度が終わって、リビングに戻ってきたお義母さんにお父さんは尋ねた。

「ええ、そうよ。女の子は占いやおまじないに頼りたくなるものなのよ。協力してあげて」
そう言って、お義母さんは楽しそうに、にこにこと笑った。
「よく判らんが……。一体、どうすればいいんだ?」
「……おまじないしてもいいの?」
「ああ……好きにすればいい」

一番の難関だと思っていたお父さんがすんなりと承諾してくれるとは意外だった。
お父さんにソファに座ってもらう。
「目を閉じてゆっくり深呼吸して……」
さっきの要領で、魔方陣を人差し指と中指で一つずつゆっくりと切っていく。

(最後に、お父さんに触れれば……痛っ)
指に痛みが走り、さっきよりも酷い倦怠感が私を襲った。

「はい! おしまい。ありがとう、お父さん」
私は体の不調を悟られまいと、明るく振舞う。
「………そうか」
お父さんはよく判らないものに付き合わされたという顔をしていた。

私は、
@休むために自室に行く
Aここで春樹を待つ
B両親に話しかける
27名無しって呼んでいいか?:2007/05/26(土) 18:10:55 ID:???
@休むために自室に行く

「私、部屋に戻って休むね」
そういって私は立ち上がった。

本当は春樹が帰ってくるまで待っていようとも思った。
……だけど今の状態で、きちんとした話ができるかと言われれば分からない。

なら今のうちに少しでも休んでおいて、話をするための障害を少しでも取り除いておいたほうがいいと思った。

「あら……愛ちゃん、大丈夫なの?」
お義母さんが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫だよ、ちょっと疲れただけだから」
私はできるだけ笑顔を作ってそれに答えた。

(そう、少し休めば大丈夫だよね)
何とか不調を悟られないように、ゆっくりと歩き出した。

「お義母さん。春樹が帰ってきたら、起こしてくれる?」
そしてリビングを出て行く前に、お義母さんに一声かけておく。

「ええ、わかったわ」
「ありがと……おやすみなさい」
お母さんの声とお父さんの視線に見送られて、私はリビングを後にした。

「………」
自分の部屋に帰り着き、声もなくベッドに倒れこむ。
うつぶせに倒れこんでしまったので少し息苦しかったけれど、今は体を動かすことがなんとなく面倒だった。

『あなたに少しばかり負担を強いることになる。正直、僕はあまり気が進みません』
御門君の言葉を思い出す。
(確かにこれは……負担が、くる……)
それでも意識だけは何故か妙にさえていて、なかなか眠気がやってこない。

(……今日も結局、力と関わっちゃったな……)
眠れない間、ふとそんなことを思った。
そしてまず私が考えたのは……

@御門君や一郎君の言った気になる言葉について
A周防さんの行方について
B春樹の行方について
28↑377:2007/05/26(土) 18:11:43 ID:???
すみません、通し番号付け忘れました。
上記は377でお願いします。
29378:2007/05/26(土) 18:43:25 ID:???
A周防さんの行方について

(……周防さん……)
私は夢を最後に会えないでいるその人のことを思った。

(無事なのはわかってる。けど)
私はおもむろに今日所持していたバッグに手を伸ばした。
そして、中から周防さんに渡しそびれたプレゼントを取り出す。

(周防さん……今、どこでどうしてるんですか)
その袋を抱きしめながら、私の意識は深く沈んでいった。
せめて、夢でまたあえたら。そんな風に思って。



そこは、見慣れた学校の校庭。
見慣れない光景であるのは、今が夜だからか。
―――それとも景色の半分近くを、オレンジのような何かが照らしているからか。

そして、私の腕の中で―――私とそう年の変わらない男の子が傷だらけで横たわっている。

「泣か、ないで」
途切れ途切れに言葉をつむぎだす男の子。
私を心配させないためなのか、一生懸命に笑おうとしている。

その声に、その顔には覚えがあった。
でもそれがいつのどこの誰のものなのか、答えが浮上してこない。

「これは、きっと、罰、だから。だから、いい、んだ」
男の子は私に手を伸ばし、そっと髪に触れてくる。
そして、その手をぎこちなくゆっくり動かしながらようやく笑みと呼べるものをその顔に浮かべた。
「信じる、って言葉、嬉し、かった。ありがと。ごめ、ん」
それから、その男の子の口が僅かに動く。

『        』
 
ぱたり。
手が力なく地に落ちて―――それが、最後だった。
それきり。

「い……いやああああああああ!!!」
私は叫びながら目を覚ます。
「はぁっ……はぁっ……」
息を整えてながら体を起こし、辺りを見回す。

そこはいつもの私の部屋だった。
その事実に強く安堵する。

(何なんだろ、今の夢……)
だんだんと落ち着いてきたのか、そんなことを考える余裕が出てくる。

今の夢、少し気になる。
どこが一番気になるかと言うと―――

@夢の内容を覚えていると言う事実
A夢の中に出てきた男の子に既視感があったこと
B夢の場所が夜の校庭であったこと
30379:2007/05/26(土) 21:34:50 ID:???
A夢の中に出てきた男の子に既視感があったこと

声にも顔にも私は覚えがあると感じていた。
そして、その場所は私達の学校だった。
(一体、誰だったの……?)

『罰、だから。だから、いい、んだ』
『信じる、って言葉、嬉し、かった』

その一つ一つが私の頭の中から離れない。
言葉としては、あまりに悲しい響きだ。
そして、最後の言葉も知ることは出来なかった。

私の腕の中で徐々に力を失っていく、男の子の体の重みまで感じられた。
今でも、その男の子を抱きしめている感覚が残っている。
胸が裂けそうなほど、寂しくて、苦しかった。

(だめ、考えてはだめよ)

私の能力が予知夢だと決まったわけではない。
それに、武くんは『予知夢だと思い込んでしまったから』と言っていた。
(私が強く思う事で、本当の事になってしまう可能性だってあるんだ)
悪夢を消し去るように、私は頭を振る。

(絶対にこんな未来にはさせない)

そして私は……
@これからの事を考える
Aリビングに下りていく
B窓の外を見る
31380:2007/05/27(日) 17:36:26 ID:???
@これからの事を考える

(まず、春樹が戻ってきたらおまじないをして…)
夢を追い払うように、私はこれからのことを考える。

(あ、そういえば…)
リビングで眠っていたときの夢を思い出して、チハルをかばんから出す。
チハルはすっかり忘れられていたからか、ぱしぱしと私の手を叩いた。

「ごめんね、ちょっと疲れちゃって」
謝ると、チハルは首をかしげた。

「大丈夫だよ」
チハルに笑って見せて、買ってきたリボンを取り出す。

「新しいリボンに変えるね」
古いリボンを解き、新しいリボンをつけてあげる。
チハルは新しいリボンをつけてあげると、くるくると回りだした。
私は古いリボンをどうするか一瞬悩んで、とりあえず枕元に置いた。
時計を確認すると、まだそんなに時間は経っていない。

(また明日から学校か…)
あんまり休んだ気がしない上に、疲れは休む前より溜まっている。

「あ!忘れてた!」
文化祭でやるお化け屋敷に使うモノを各自分担でもって行くことになっていたのを思い出す。

私が持っていくのは
@釣竿
A黒い布
Bハンドライト
32381:2007/05/27(日) 21:24:32 ID:???
Bハンドライト

(古典的な方法だけど……みんな怖がってくれるのかな)

下からライトを当てて顔だけ浮き上がらせる――なんて小学生でも失笑するような方法で大丈夫なのだろうか。
不安に思いながらも、とりあえず私は自室にあるはずの災害用ハンドライトを探す。
(確か、この辺に置いておいたはずだけど)

「見つけた」

引き出しの中からハンドライトを取り出した。
電池がまだあるか確認するために、スイッチを入れる。

「あれ?……ライト点いてるのかな?」

電池の残りが少ないのか、点いているのかよくわからない。
私は自室の明かりを消して、再度ハンドライトのスイッチを入れた。

「うん。大丈夫みたい」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。

「姉さん、俺だけど」
「春樹?」
「今、……戻ったんだ。入っていい?」

@「うん、いいよ」
A「ちょっと待って」
Bためしに驚かせてみる
33382:2007/05/28(月) 02:31:02 ID:???
@「うん、いいよ」

「電気もつけないで……もしかして、蛍光灯が切れた?」
「違うのよ。文化祭で使うからコレの確認をしていただけ」
そう言って、私は手元にあるライトのスイッチをつけたり消したりしてみせる。
「そうか……。姉さんのところはお化け屋敷だったね」

春樹は部屋の明かりをつけると、言いにくそうに口を開きかけてまたつぐんでしまった。
「春樹?」
「あの、さ。公園では取り乱してごめん」
「私こそ、あの時は冷静じゃなかったから。気にしないで」
私の言葉に、春樹はようやく小さく頷く。

「春樹、もう夕食よね? お父さんとお義母さんが待ってるよ」
沈んでいる春樹に私は笑いかけて言った。
「そうだね。降りようか」

二人で廊下まで出たところで、不意に何かを思い出したように春樹が呟いた。
「そうだ。さっき父さんが言っていたけど……隆さんをうちで預かるみたいだよ」
「うちに? どうして?」
突然の話に、私は思わず聞き返す。

「なんでも、隆さんの両親が海外旅行に行くらしいんだ」
「隆は家事が一切できないうえに、お姉さんの美由紀さんも大学の寮に入ってるしね。
それにしても……隆ったら、昨日言ってくれてもいいのに」
「昨日はいろいろあったしさ。それどころじゃなかったのかもしれないよ」

(隆のご両親が海外旅行……か)
私が小さい頃、父の帰りが遅くなると隆の家で夕食をご馳走になっていた事を思い出す。
子供同然にして接してくれた隆のご両親への恩は父も私も忘れる事は無い。

私は……
@滞在する日程を尋ねる
A小さい頃の事をさらに思い出す
B一階に降りる
34383:2007/05/28(月) 11:10:40 ID:???
@滞在する日程を尋ねる

「いつからだって?」
「明日から金曜日までだって。土曜日の夜に戻ってくるって言ってたよ」
「それじゃ、日曜日の文化祭に間に合うように戻ってくるのね」
「そうだね」
隆の両親は欠かさず学校の行事に顔を出す。
今回も、それにあわせて日程を組んだのだろう。

「どこに旅行にいくのかな?」
「そこまでは…、義父さんに聞けば分かるんじゃないかな?」
「そっか、じゃあ聞いてみよう」
二人で階段をおりながら、そういえば、と春樹が笑う。

「家族そろって食事なんて久しぶりだね」
「確かにそうね、最近お父さんもお義母さんも忙しいみたいだったし」
「うん、二人とも仕事人間だよね。体を壊さないといいけど」
「お義母さんは、すごく元気だったよ」
あの調子のお義母さんと春樹の会話を想像するだけで、笑ってしまう。

「なんかあった?」
「ん〜、ちょっと、ね」
不思議そうな顔の春樹と、笑っている私がキッチンに入るとお父さんとお義母さんがこちらを見た。

「あら、どうしたの?」
「母さん、姉さんを迎えに行った時なにかあったの?」
春樹は私が素直に答えないと見ると、あっさりとお義母さんに矛先を変える。

「あぁ、さっきね…」
お義母さんは目を輝かせる。

私は…
@お義母さんの好きにさせる
Aお義母さんの話を止める
Bお父さんに隆の両親の旅行先を聞いて話をそらす
35384:2007/05/28(月) 22:23:39 ID:???
@お義母さんの好きにさせる

私と春樹はそれぞれの椅子に腰を下ろした。
今日のメインはお義母さん手作りのとんかつだ。

「愛ちゃんと好みの異性のタイプについてお話していたのよ、ね?」
私は相槌を求められ、思わず頷いてしまった。

「あ……うん。お義母さんの好みのタイプはお父さんだって言ってたよ」
お父さんに視線を移すと、決まりが悪そうに咳払いをしていた。

「じゃあ……姉さんはどんなタイプが好みなのさ?」
「それがね、春樹。愛ちゃんはまだ考えたことがなかったんですって」
「本当? 姉さん」
「う、うん……」
私は槍玉に挙げられて、小さくなりながら答える。

「でも、恋のおまじないをしたからもうバッチリよね?」
「そ、そうだね。もうバッチリだよね。ハハハ……」
私は誤魔化すように、笑ってみせた。

(完全に恋のおまじないになってるんだ……)

@「春樹は一体どんな異性が好みなの?」
A「お父さん、助けて」
B「そういえば、隆がしばらくうちに泊まるの?」
36385:2007/05/29(火) 00:01:53 ID:???
@「春樹は一体どんな異性が好みなの?」

お義母さんの『恋のおまじない』という単語に怪訝な顔を見せる春樹に先手を打つように問い掛ける。それに私一人が一家団欒の席でネタにされてしまうのは姉として少々悔しい。

「……!」

春樹は想像もしていなかったのか、箸を手にしたまま盛大に咳き込んだ。
「あらあら、春樹。大丈夫?」
心配するよりむしろ楽しそうなお義母さんに春樹は涙目になりながら非難の視線を向ける。
「…だい、じょうぶじゃないよ…っ。変なこと、きくのは…母さんだけでも充分なのにっ…」
「変なことだなんて。春樹は大事な家族ですもの、愛ちゃんだって気になるわよねえ」
「そうそう。せっかくだから、白状しちゃいなさい」

お義母さんと結託してここぞとばかりに問い詰めると、春樹はだんまりを決め込んだのかひたすら食事を口に運んで一言も口をきこうとしない。
お父さんはというと話を振られたくないのか食事も終らないのに新聞を拡げだした。

「人には聞くくせに自分の話はしないなんてずるいんじゃないの?」
不満げにそう漏らすと春樹は「じゃあ俺もそんなこと考えた事ないよ」となげやりに返す。
(…春樹ってば、ずるい)
頬を膨らませてお義母さんに目で訴えると、お義母さんは承知したとばかりにウインクをした。

「そうなの?じゃあさっきの電話の子は?ずいぶん仲良しみたいじゃない?」
「さっきの子?」
「母さん!」
意味ありげなお義母さんの発言に春樹が声を荒らげた。春樹はこういう話はのらりくらりとかわすのが常なのに。

どうしよう?
@このままお義母さんにその話を詳しく聞く
A春樹が嫌がっているようなので聞かない
B後でお義母さんにそっと聞いてみる
37386:2007/05/29(火) 10:50:37 ID:???
@このままお義母さんにその話を詳しく聞く

「電話って?」
「春樹が愛ちゃんの部屋に行く前に電話が来たのよ、女の子から」
にこにことお義母さんが続ける。

「それはっ!一昨日のお礼で…」
そこまで続けて、春樹がハッと口を閉ざす。
私はそれでピンときた。

(一昨日って…、春樹が脳震盪で早退してきた日だ…。女の子をかばったって香織ちゃんが言ってたっけ)
「あら、金曜日何かあったの?」
「なにも…」
春樹は、話はここまでというようにご飯を口に入れる。
きっとお義母さんたちに余計な心配をかけたくないんだろう。
私は春樹に助け舟を出してやる。

「なるほどね」
私が納得したように頷いて笑うと、お義母さんがすねたように口を尖らせる。

「あら、二人だけわかっててずるいわ」
「だめ、これは春樹と二人だけの秘密だもん、ね?」
春樹は何も言わずに頷いた。

「だから、この話はおしまい!」
私は強引に話を打ち切る。
お義母さんはまだ不満そうだったけれど、しぶしぶと引き下がる。

みんなご飯を食べ終わっていたけれど、久しぶりに家族そろったためかなんとなく席を立たずに座っている。

さて、どうしよう。
@隆の両親の旅行先を聞く
Aお茶を入れる
B部屋に戻る
38387:2007/05/29(火) 19:36:56 ID:???
@隆の両親の旅行先を聞く

「お父さん。さっき春樹から聞いたんだけど、隆のおじさんとおばさんって海外旅行に行くんだよね?」

お父さんは話の流れが変わったのを見計らっていたのか、新聞を畳みながら頷いた。
「オーストラリアに行くそうだ」

「あら、そう。いいわね」
お義母さんはお茶を注いぎながら、うらやましそうに呟く。

「それで、隆君をうちで預かることになったんだが……本人は乗り気じゃないようなんだ」
「乗り気じゃないって?」
「湯野宮さんは大変心配されているんだが、隆君は子供じゃないんだからと言ってごねているらしい」

「俺、隆さんの気持ちは分かるよ。放っておいて欲しいんだと思うな」
春樹はそう言って、湯のみを置いた。

(確かに、気持ちはわからないでもないけど……)

「うちとしては湯野宮さんに頼まれた手前もある。そこでだ、愛菜。お前に隆君を説得してもらいたい」
「え? ……私?」
「明日でいいから、せめてうちで食事を摂るように言って欲しいんだ」

@「うん。わかった」
A「えー、嫌だよ」
B「じゃあ、私がご飯を作ってあげるよ」
39388:2007/05/30(水) 05:45:10 ID:???
B「じゃあ、私がご飯を作ってあげるよ」

「……え」
私の発言に、一瞬キッチンの中になんともいえない雰囲気が漂った。
(……?なんなの、この沈黙は?)
「隆が放っておいてほしいっていうのもわかる気がするし、おじさん達が心配するのも当然だと思うし。それなら私が隆のところでご飯作ってあげれば良いんじゃない?」
「あー…愛菜は、文化祭だか学園祭だかで忙しいんじゃなかったのか?」
「そ、そうね。さっきも愛ちゃん、なんだか疲れてたみたいだったし」
「?別に大丈夫だよ。最近は夕食の支度だって春樹に任せっぱなしだったんだし、たまには腕を揮わないとね」
「いや、しかしな…」

さらに言い募るお父さん達に首を傾げていると春樹が小さく溜息をついて言った。
「じゃあ、こうしよう。姉さんはまだ怪我も心配だから今週は俺が食事の支度をするよ。その時に隆さんの分も用意するから食べに来るなり持っていくなりすれば良い」
「そうね!それが良いわ」
春樹の発言にお父さんもお義母さんもほっとしたような笑顔を見せた。わざわざ反対するのも妙な気がして春樹の提案を受け入れる事にしたけれど。
(弟の方が何でもできるって、なんだか複雑な気分…)
ぼんやりとそんなことを考えていると春樹が席を立った。

「あら、もう行っちゃうの?…お母さんが好きな女の子のこと聞いたから?」
お義母さんが叱られた子供みたいに悲しそうな顔で声をかけると、春樹は小さく苦笑いをして言った。
「まさか。そんなことでヘソ曲げるわけないだろ、小学生の子供じゃないんだから。これから文化祭の打ち合わせでクラスメイトと電話しなきゃいけないんだ。うちのクラス、予定から少し遅れてるみたいだから」
ちょっと約束の時間も過ぎちゃったし、と呟いて春樹は時計を見上げた。

時計の針は午後八時を少しまわったところ。明日からまた学校が始まると思うと全身を包むけだるさも手伝ってなんとなく気が重くなる。
無意識に一つ溜息をもらしたところで春樹と目があった。
(……春樹?)
一瞬ぶつかった何か言いたげな瞳は、それでも何も言うことなく私からそらされる。
春樹は笑顔でお義母さんにご馳走様、とだけ伝えてキッチンを出て行ってしまった。

さて、どうしよう?
@久しぶりなのでゆっくり両親と文化祭の話をする
A自室で春樹の電話が終るのを待つ
B明日に備えて早めに休む
40389:2007/05/30(水) 10:35:17 ID:???
A自室で春樹の電話が終るのを待つ

「それじゃ私も部屋に戻るね。明日の準備もしないといけないし」
「そうね、愛ちゃんはちょっと顔色が悪いし早めに休むのよ」
「うん、わかった。おやすみなさい」
「おやすみ」
お父さんとお義母さんにあいさつをして、階段を上る。

自室に入る前に春樹の部屋を伺うと、中から話し声が聞こえる。
さっき言っていた文化祭の打合せをしているのだろう。

(あ、でも春樹にもおまじないしないといけないから、終わったら部屋に来てもらわないと)
思い出して、春樹の部屋をノックをして少しだけ戸を開けると、春樹がこちらを見た。

「…ごめんちょっとまって、どうしたの?姉さん」
「ごめんね、終わったら私の部屋に来て欲しいんだけど」
「わかった」
「うん、邪魔してごめんね」
春樹の部屋の戸を閉め、自分の部屋に戻るとチハルが歩いてきた。

「ただいまチハル」
チハルを抱き上げて頭をなでると、小さな手を持ち上げて私の指を掴もうとする。
その仕草がさっきの男の子がじゃれ付く姿と重なって思わず笑ってしまう。
私が笑ったためか、チハルが首をかしげて私を見た。どうしたの?と言っているようだ。

「なんでもないよ。ふふ、チハルといつでもお話できると良いのにね」
半ば本気でチハルに言った直後、ポンと軽い音がして目の前に夢で見た少年が手の上に乗っていた。

「え?」
「あれ?」
きょとんとした顔のチハルが不思議そうに私を見つめている。
夢で見たときと同じサイズの子供の姿で手の上に乗っているけれど、重さはぬいぐるみのときとまったく変わらず軽い。

私は思わず…
@悲鳴を上げた
Aチハルを落とした
B呆然と見つめた
41390:2007/05/30(水) 13:15:08 ID:???
Aチハルを落とした

「いたっ!」
床にお尻を打ったチハルは小さく悲鳴をあげた。その声に我にかえってしゃがみ込むチハルを抱き起こす。
やっぱり、軽い。
手に伝わる重みは小さな子供ではなく、どうしたってぬいぐるみのそれだ。

「愛菜ちゃん、ひどいよ……」
見上げるチハルの目は今にも泣き出しそうで、私は慌てて子供をあやすように抱き上げた。
「ごめんごめん、チハルが急に人の姿になったからちょっとびっくりしちゃったの。でも、チハルとまたお話できて嬉しいよ?」
「…ほんと?」
「うん、ほんと。またお話したいなって思ってたから」
つとめて嬉しそうにそう言うと、チハルは機嫌が直ったのかようやく笑顔を見せた。

(でもどうしてまたチハルが人の姿になったんだろう…?)
腕の中の当の本人(?)は特に気にした様子もなく、足をぶらぶらさせたり辺りを見回したりしている。

どうしようかな?
@自分で原因を考える
Aチハルに理由を聞いてみる
B後で隆(もしくは御門くん・周防さん)に尋ねる
42391:2007/05/30(水) 14:46:27 ID:???
Aチハルに理由を聞いてみる

「ところでチハル、どうして急に人の姿になったの?」
私の問いに、チハルはにっこり笑う。

「愛菜ちゃんがボクを大事にしてくれるからだよ」
「?」
チハルの答えではさっぱり解らない。

「夢の中でも言ったとおり、人に作られたボクたちは人に大事にされればされるほど力をつけることが出来るんだ」
「うん」
「愛菜ちゃんはもともとボクを大事にしてくれていたし、ボクが動けるようになってからはもっと大事にしてくれた」
いっぱい話しかけてくれてリボンも新しくしてくれたしと、チハルはうれしそうに首のリボンをなでる。

「だから、急に力がつき始めたなー、って思ってたんだ」
「要するに、人の姿になることが出来るくらい力がついたってこと?」
「うん、そう」
うれしそうに笑うチハルを抱き上げたまま、私はベッドに腰掛ける。
チハルをひざに乗せるように座ると、チハルはギュっと抱きついてきた。

「それに、愛菜ちゃんはトクベツだよ」
「え?」
抱きついた体を少しだけ離して、私を覗き込むようにチハルは視線を合わせてきた。

「ボクと同じくらいかわいがられてる人形ってこの世の中にはたくさんいるよ」
確かにそうだと私は頷く。

「でも、10年くらいじゃ普通は人の姿になることは出来ないよ。愛菜ちゃんだから、だよ」
そう言ってまたぎゅっと抱きついてくる。
私がその言葉に疑問を抱いたその時、ノックの音がして部屋の戸が開いた。

「姉さん、なん…」
不自然に言葉を途切れさせ、春樹が目を丸くしている。
見ず知らずの男の子が部屋にいて、私に抱きついているのだから当然といえば当然だろう。

私は…
@チハルを紹介する
Aとりあえずおまじないの話をする
Bあわててチハルを引き剥がす
43392:2007/05/30(水) 20:00:02 ID:???
@チハルを紹介する

(春樹だったら話しても大丈夫よね)
ドアノブに手をおいたまま固まっている春樹に手招きをする。春樹は神妙な顔でドアを閉めると黙って私たちの正面に立った。

「……で。この子は誰だい?まさか姉さんの子供、とか言わないだろうね」
チハルから視線をそらさずに春樹が言う。こんな時でも春樹は比較的冷静だ。見つかったのが春樹で良かったとそう思う。自分で言うのもおかしいけれど、お父さんやお義母さんにこの状況を上手く説明できるとは到底思えない。

「この水色のリボンに見覚えない?」
手を伸ばして枕もとにおいた揮いリボンを指差す。その間もチハルは私にしがみついたまま首をめぐらせて春樹を見上げている。
「古い…リボン?ずいぶん焼けてるみたいだけど。……まさか」
「さすが春樹。察しが良いね」

春樹はどうやら古いリボンが示す何かに思い当たったようだ。それなのに、春樹はチハルを凝視したまま言葉にしようとしない。しばらく待ってはみたものの、チハルと春樹の間に流れる微妙な空気に耐え切れず私から声をかけた。
「この子は隆がくれたくまのぬいぐるみだよ。動けるようになったのは春樹も見たでしょ?」
「それは、確かに見たよ。でも俺にはこの子の姿はどう見ても人間、に見えるんだけど」

春樹は控えめに、それでもはっきりと私の説明に納得がいかないと訴えている。
(それもそうか、そう簡単には信じられないよね…)

どうしよう?
@チハルの口から説明してもらう
A論より証拠、春樹にチハルを抱き上げてもらう
Bとりあえず先にまじないの話をする
44393:2007/05/30(水) 23:41:06 ID:???
@チハルの口から説明してもらう

私自身、突然の事で上手く説明できる自信が無い。
(ここはチハルに説明してもらった方が早そうね)

「チハルから春樹に説明してもらってもいい?」
私の言葉に、チハルは「うん!」と大きな返事をすると、元気よく話し出す。

「えーっとね。愛菜ちゃんとリボンのことでお話がしたくて……夢に入ったんだよ。
それで、愛菜ちゃんがボクと会えてうれしいって言ってくれたんだ。
指きりしてお別れしたんだけど、またお話したくなってきちゃったから、
ボクがへんしーんって思ったらまた愛菜ちゃんとお話できたの。すごいでしょ」

「……………」
説明に納得がいくはずもなく、春樹は黙ったまま何も言えなくなっていた。
逆にチハルの方は、ちゃんと説明できたと思い込んでいるのか春樹の言葉をじっと待っている。

「その説明では、ちょっと分かりにくい……かな?」
なんとも言えない沈黙に耐えかねて私が口を挟むと、チハルは頬を膨らまして反抗する。
「えーっ、ボクが悪いんじゃないよ。春樹がバカだからわからないんだよ」
それだけ言うと、チハルは私の影に隠れてべーっと舌を出した。

(ちょ、ちょっとチハル……)

「こんな子供に呼び捨てにされて、更に馬鹿と言われるなんてね……」
春樹は顔を引きつらせながら、チハルを見下ろしている。

@「春樹、子供に怒っても仕方ないでしょ」
A「チハル、馬鹿なんていっちゃダメよ」
B笑ってごまかす。
45394:2007/05/31(木) 09:40:13 ID:???
A「チハル、馬鹿なんていっちゃダメよ」

諭すようにそう言うと、チハルは下を向いてむっつりと黙り込んだ。それでも私にしがみついた手は放さない。

「春樹は怒らなかったけど、馬鹿なんて言われたらチハルだって嫌な気分になるでしょう?それに、春樹はチハルよりお兄さんなんだから」
「……ぼくのほうがずっとまえから愛菜ちゃんといっしょにいたもん」
チハルは小さな声でそう漏らした。

(チハル……)
チハルの声は春樹には届かなかったのか。春樹は諦めたように溜息をついて、私を見た。
「姉さんが言いたくないならそれでも良いさ。ただその子の親御さんが心配しないように家に帰してあげなよ」
「春樹!だから…」
「で、さっきは何の用事だったの?」

春樹はまったくチハルの話を信じていないみたいだ。腕を組んで私の次の言葉を待っている。
(こんなかんじじゃ春樹に今まじないをかけるのは難しいんじゃないのかな。チハルもご機嫌斜めになっちゃったし…)

どうしよう?
@とりあえずチハルをあやす
Aまずは春樹にチハルの言うことを信じてもらう
Bチハルの件はひとまずおいておいてまじないを試す
46395:2007/05/31(木) 11:03:25 ID:???
Aまずは春樹にチハルの言うことを信じてもらう

(喧嘩とはいえないけど、しこりが残ったままおまじないしても効果がないかもしれないし…)
御門くんの言葉を思い出す。

「ちゃんと説明するわよ、でも私もあんまり良く分かってないから…」
「確かに今の説明じゃね…」
私の言葉に、春樹が苦笑する。
それに、チハルがムッとしたように春樹の前に出た。

「なんだよ、愛菜ちゃんのいうこと信じないのか!?」
どうやらチハルは自分の説明が悪かったことよりも、私がぬいぐるみのチハルだといったことを春樹が信じないことに怒っているみたいだ。

「信じないとは言っていないだろう」
その言葉に、春樹もムッとして言い返す。

「でも、しんじてないじゃないか!」
「ちょ、ちょっと二人とも」
にらみ合う二人に私はあわてる。

「愛菜ちゃんが言ったこと正しいってしょうめいするんだから!」
言うや否や、ちはるは軽い音をたててぬいぐるみの姿に戻る。

「…」
「…」
ぬいぐるみにもどったチハルは、勝ち誇ったように腰に手をあてて春樹を見上げている。

(そうよね、最初からこうすれば早かったんだわ…)
思わず脱力た途端、ぐらりと視界が揺れた。

「姉さん!?」
(あれ?)
何が起こったのかわからないまま、ベッドの上に倒れる。
体が鉛のように重い。

「愛菜ちゃん!だめだよむりしたら!今日は力をつかいすぎてるんだから」
「力…?」
ぬいぐるみから人の姿に戻ったチハルがあわてたように言った言葉に、春樹が眉をしかめる。

どうしよう…
@説明する
A何も言わない
B大丈夫だといっておまじないをする
47396:2007/05/31(木) 22:57:44 ID:???
@説明する

「おまじないをお父さんとお義母さんにしたら、疲れちゃったみたい」
倒れた体を上半身だけでも起こそうとするのに、うまく力が入らない。

「愛菜ちゃん。だいじょうぶ?」
チハルは私を覗き込むようにして尋ねてくる。
「心配かけてごめんね、チハル。今日はもう無理しないから安心して」
「うん……」
チハルはぎゅっと私にしがみついたまま、離れようとはしなかった。

私とチハルの会話を黙って聞いていた春樹も、段々事態が飲み込めてきたのか顔つきが神妙なものに変わってくる。
「さっき母さんが言っていたまじないって……まさか」
「本当はファントムを取り付かせないためのおまじないを施していたの。
御門君は私に負担がかかるから教えたくなさそうだったけど、お願いして強引に教えてもらってね。
思ったよりも大変だったから……ちょっとだけ後悔してるところ」
そう言って、私は笑ってみせる。

「姉さん……。なんて無茶するんだ」
春樹はふらつく私を支えると、そのままゆっくりベッドに寝かせてくれる。
「ごめん、春樹。おまじないは明日以降になっちゃうみたい」
「構わないよ。それより、ゆっくり休まなきゃ。……チハルも邪魔にならないようにこっちへ来るんだ」
大人しく春樹の言葉に素直に従って、私からチハルが離れる。
「愛菜ちゃん、早く元気になってまたお話しようね」
「ありがとう、チハル」

@もう少し話をする
A目を閉じる
Bふたりに「おやすみ」と言う
48397:2007/06/01(金) 01:48:23 ID:???
A目を閉じる

視界を閉ざした事で急速に意識が現実から遠ざかるのを感じる。
(もう少し、春樹にちゃんと説明しておかないと…)
どうにか踏み留まろうと抵抗を試みたものの、体全体を沈み込むような睡魔に捕らわれた。

「…姉さんに、これ以上無理はさせない。……絶対だ」
(春樹…?)
意識を手放す寸前、遠くに春樹の声が聞こえた気がした。



体が重く、冷たい。なんだか自分の体じゃないみたいだ。
ふと気がつくと何もない闇一色の空間に、一人私は立っていた

「やはり、僕が想像していたとおりになったようです。…愛菜、あなたはまた無茶をしましたね」
心細さを感じていたところに、突如頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
振り仰いで見ても広がっているのは吸い込まれそうな暗闇だけ。たまらず声の主に大きな声で呼びかけた。

「御門くん?私また夢を見てるの?」
「ええ、そうです。あなたの肉体の方が休息を欲したのでしょう、半強制的に眠りに落ちたようです。いきなりあれだけのことをすれば、無理もない」
相変わらず姿の見えない御門くんの声は、私の耳にはこころなしか呆れているように聞こえた。

「ねえ、どうして今日は御門くんの姿が見えないの?」
叱られているような、いたたまれない気分になったので、それとなく話題を変えることにする。
御門くんは少し間をおいていつもの声で答えた。
「僕の姿が見えないのはあなたが疲弊しているからでしょう。こうしてあなたと話ができるのは、互いの精神世界の波動が合っている為…いわばラジオのチューニングが合っている状態だからです」
「チューニング?それって私もしてるの?」
「はい。僕は意識して行いますが、あなたは常日頃無意識のうちに行っているようですね。本来のあなたならばそのチューニングも難なくこなせるはずなのですが、それだけ今のあなたは消耗が激しい、という事です」

うまくかわしたつもりがまた同じ話題に戻ってきてしまったようだ。表情が見えない分、余計にきまずい。
「えーと…でも、今日はお父さんとお義母さんだけで、春樹にはまじないかけてないよ?」
ごにょごにょと口元だけで言い訳を言うと、御門くんから意外な言葉が返ってきた。
「そのようですね。ですがおかげで明日以降、春樹さんにまじないをかけるのは難しくなったようです」

(『おかげで』?春樹にまじないをかけづらくなった?)
一体どういうことだろう?

@どうして春樹にまじないをかけづらくなったのか尋ねる
Aいつならまじないをかけられるのか尋ねる
Bまじないの他に方法はないのか尋ねる
49398:2007/06/01(金) 09:22:37 ID:???
Bまじないの他に方法はないのか尋ねる

御門くんの言葉に、眠りに落ちる寸前の春樹の声を思い出す。
『…姉さんに、これ以上無理はさせない。……絶対だ』
きっと春樹は私に負担をかけない為に、おまじないをしようとするのを止めるだろう。

「他に方法はないの…?」
「あなたに負担をかけない方法がひとつあります」
「それは?」
御門くんの言葉に、私は飛びつく。

「あなたのそばに居る精霊」
「精霊…?チハルのこと?」
「はい、昼間見せてもらいました」
そういえば、食事の時に御門くんと周防さんに見せたんだった。

「あの精霊は力を急速につけ始めています。ファントム程度なら消滅させることが出来るでしょう」
「消滅?退治できるってこと?」
「はい」
チハル自身力が強くなってきたといっていたが、そこまでの力を持っているとは思わなかった。
そういうと、御門くんの頷く気配がした。

「僕も驚いています。昼間とは段違いに強くなっている。あの精霊がそれを望んだのでしょうが、あなたに大切にされていることも関係していると思います」
御門くんにしてはめずらしく、自分の思っていることを言葉にする。

「これほど力がつくと分かっていれば、あなたにおまじないを教えず、最初から精霊に力を借りることを提案したのですが」
御門くんは私におまじないを教えたことを後悔しているみたいだった。

でもチハルにお願いするとして、チハルが素直に頷いてくれるだろうか?
私のためなら喜んで何でもしてくれそうだが、春樹を守るためといったら嫌だといいそうだ。
さっきの春樹とチハルの言い合いを思い出して、思わずため息をつく。

いろいろ考えていると、御門くんが言った。
「さあ、もうちゃんと休んだほうが良いでしょう」
御門くんの言葉と同時に、気配が遠くなっていく。

私は…
@御門くんを呼び止める
Aチハルを説得する方法を考える
Bなんとか春樹におまじないをする方法を考える
50399:2007/06/01(金) 21:17:30 ID:???
@御門くんを呼び止める

「御門君、ちょっと待って」
離れていく気配を追うように、私は言った。
「………なんでしょうか?」
再び、私に意識が向けられるのを感じる。

「御門君ってすごいんだね」
両親におまじないを施しただけで私は倒れてしまった。
御門君が易々とこなしているから気付かなかったけれど、実は大変なことだった。
どうして簡単に力を制御できるんだろう。

「……僕がですか?」
「うん。夢に現れたり、契約したり、意のままに力を操れるのがすごいと思って」

今回のおまじないも私にもっと力があったら、効率よく事を運べるはずだった。
そんな自分をどうしてももどかしく感じてしまう。

「御門君がうらやましいな」
「……………」
私の言葉に、御門君は急に黙り込んでしまった。
表情で読み取ることが出来ない分、不安が増していく。
「御門君。聞こえてる?」
「……程度を超えた力は災いしか生みません。あなたは…それでも望みますか?」
降り注ぐ声に少しだけ溜息が混じった。

(御門君……)

@「軽はずみな言い方だったよ。ごめんね」
A「力を操れるようになったのは御門君が努力したからなんだね」
B「それでも私は力が欲しいよ」
51400:2007/06/02(土) 12:17:41 ID:???
B「それでも私は力が欲しいよ」

終わらせると決めた以上、迷っている暇は無い。
もし、力を手に入れる方法があるのならどうしても知りたかった。

「焦る気持ちはわかります。ですが……あなたは何もわかっていません」
どこか呆れたような、諭すような、含みのある口調で御門君は言った。

「私が? 私はただすべてを終わらせたいだけなの」
私は降り注ぐ声に向かって、叫ぶ。

「闇雲に力を求めても、その先にあるのは破滅だけです」
破滅。淡々と語る御門君だからこそ、その言葉に息を呑んだ。
「半端な覚悟では、自分自身の力に潰されてしまうでしょう。
僕や周防は、あなたが思っているよりもずっと残酷なのです」

「でも……!」
御門君も一郎君もなぜか肝心なところで私を突き放す。
私の考え方のどこがいけないんだろう。

「破壊する力もあれば、生かす力もある。
僕が必ずあなたを守ります。
その上で、あなたにとって何が相応しいのか――よく、考えてください」

その言葉を最後に、気配が途切れる。
意識が浮上し、私は目覚めた。

「すー、すー」
すぐ隣では、チハルが人間の姿のままで寝息を立てていた。
ずっと私のそばを離れなかったんだろう。

時計を見るとまだ朝の五時過ぎだった。

@チハルを起こす
Aもう一眠りする
B考える
52401:2007/06/02(土) 19:57:59 ID:???
B考える

体は重たいのに、目をつぶってみても眠気が再び訪れる気配はない。チハルは隣で気持ち良さそうに眠っているし、仕方なく一人で御門くんの言葉を思い出す。

(何が相応しいのか、か…。そう言われても私の力自体、よくわからないんだけどな)
御門くんは過ぎた力は、半端な覚悟では、身を滅ぼすのだとそう言っていた。覚悟はしているつもりだった。大事な人たちを守る為、迷いはないと思っていた。けれど。
「私がそう思ってただけだったのかな……」
思わず口にした自分の声は充分すぎるほどに不安を色濃く映し出していた。
(これじゃ、御門くんがよく考えろって言うのも無理ないか)
口元に自然と苦笑いが浮かぶ。

「ん……」
私の声に眠りが浅くなったのか、チハルが横で小さく身じろぎをした。チハルが目を覚まさないようにベッドから起き上がると、私はそっと部屋を抜け出してキッチンへ向かった。昨晩よりは幾分疲れはとれているものの、全快には程遠い。

おぼつかない足取りでなんとか辿り着いたキッチンに、思わぬ先客をみつけた。
「あれ?……春樹?」
「……姉さん?」
流しに手をついて振り向いた春樹の目はなぜか大きく見開かれていた。

「そんなに驚かなくても良いじゃない。……おはよう、随分早いね?」
「え…ああ、ごめん。姉さんこそどうしたの、こんな時間に」
「なんとなく目が覚めちゃったんだ。喉渇いたから水飲みにきたの」
そう言って冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出す。春樹に差し出すと首を振った。

「春樹って早起きだとは思ってたけど、いつもこんな時間に起きてるの?」
「まさか。最近ちょっと、夢見が悪くてね」
春樹は目を伏せて小さく笑った。そういえば、こころなしか顔色が優れないように見える。
「…よく眠れてないの?」
「大丈夫だよ、もともとそんなに熟睡する方でもないし。姉さんこそまだ早いんだしもう一眠りしたら?」
春樹は笑顔でそう言って私の背中を押す。

(春樹は大丈夫って言ってるけど…)

どうしよう?
@心配なので、どんな夢を見るのか聞く
A眠れるようにホットミルクを入れてあげる
B和ませる為「添い寝してあげようか」と冗談を言う
53402:2007/06/03(日) 00:55:44 ID:???
B和ませる為「添い寝してあげようか」と冗談を言う

「春樹、私が添い寝してあげようか?」
私の言葉に反応するように、私の背中に添えられた手がパッと離れる。

「あ、朝から何を言っているんだよ!」
むきになりながら、叫ぶ春樹の顔が紅潮して見えるのは気のせいだろうか。

(私、顔を赤くするほど怒ること言った?)

「冗談よ。なに怒っているの?」
「そんなことくらいわかってるよ。だけど、不意打ちだったから少し焦っただけさ」
言い訳するように、春樹は呟く。

「ほら。眠れない子供に添い寝しながら子守唄を歌ってあげると眠るって言うでしょ?」
「それは、子供の話だろ? 姉さんは俺を一体なんだと思っているんだよ」

(春樹の事は……複雑な感情も少しあるのだけど、言えるわけ無いもん)
女の子かばって怪我したと聞かされたときの胸の痛みを思い出す。
あの感情は確かに嫉妬だった。

「大切な弟よ。うーんやっぱり、自慢の弟かな? 出来のいい弟でもあるし……」
「あっそ。それは光栄の極みだよ」
「なんだか棘のある言い方よね?」
「姉さんにとって、いい弟であるようにこれからも努力させていただくって言っているのさ」
「ほんと、かわいくないわね」
「じゃあ、かわいい弟になるように努力させてもらうよ」

(あれ……和ませるつもりが言い争いになってる)

@「夢見の悪かった春樹を和ませるつもりだったけど、ヘンな事になっちゃったね。ごめん」
A「何が気に入らないのか言ってくれなきゃ分からないじゃない」
B黙って去る
54403:2007/06/03(日) 05:12:41 ID:???
A「何が気に入らないのか言ってくれなきゃ分からないじゃない」

春樹はちらりと私の顔を見て、ふいと目をそらす。
「……別に、何も。気に入らないなんて、言ってないだろ」
「嘘。春樹はいつも思ってること口にしないで肝心な事はしまいこんじゃうじゃない。
なんでも一人でどうにかしようとするし。そりゃ春樹に比べたら全然頼りないかもしれないけど、
私だって春樹のお姉ちゃんなんだよ。春樹だってたまには、言いたい事言って良いのに」

言いながら、改めて思う。ほんの少しの差ではあるけれど、私の方が春樹より年長だというのに
春樹の方がよっぽど『兄さん』らしい。
春樹は昔から世話焼きで、優しくて、優等生で。わがままを言って両親を困らせたことも、
反抗期で苛立って私に八つ当たりをすることも無かった。本当に出来すぎるくらいに出来た弟で、
私はそんな春樹を誇らしく思う反面、その都度血が繋がっていないということを強く意識させられたものだ。

「私だって、春樹の力になりたいんだよ」
「……それなら」
私が素直に気持ちを伝えると、春樹は顔をそむけたまま目を閉じた。吐き出した言葉は、まるで溜息のようだった。
「俺にずっと『良い弟』で、いさせて」
「良い…弟?……今でも充分、春樹は良い弟でしょ?」
春樹の不可解な言葉に、知らず眉間に皺が寄る。それとは対照的に、向き直った春樹は私の眉間に刻まれた皺を見つけておかしそうに笑った。

「…そう言ってもらえるなら一安心かな。姉さんも、もっと『良い姉さん』になってくれると嬉しいんだけどね」
「なんなの、それ」
軽口に頬を膨らませると春樹は「別に」とだけ答えて、私を再びキッチンから追い出しにかかる。

どうしよう?
@最近春樹はどんな夢を見るのか聞く
A仕方ないのでおとなしく部屋に戻る
B後で御門くんに安眠のまじないがないか尋ねる
55404:2007/06/03(日) 12:44:13 ID:???
B後で御門くんに安眠のまじないがないか尋ねる

「春樹が眠れないんだったら、今度御門くんに安眠のおまじないを聞いておくよ」
「いいって、別に」
御門くんの名前を私が言うと同時に、春樹の表情が少し曇った。

(春樹は御門くんの事が苦手なのかな?)

「遠慮しなくてもいいじゃない。御門くんならきっと教えてくれると思うし」
「本当にいいからさ。さあ、俺の心配より姉さんこそ昨日倒れたんだから、少しでも休んでおく!」

ぐいぐいと背中を押され、強制的にキッチンから追い出される。
「ちょっ、春樹」
仕方がないので、私は階段を上り自室に戻った。

「…愛菜ちゃん」
部屋に入ると同時に、ハチルが私に向かって突進してきた。
眠い目を擦りながら、私にぎゅっと抱きついてくる。
「チハル……どうしたの?」

「ボクがおきたら、愛菜ちゃんがいなくなってたんだもん」
「キッチンでお水を飲んでいたの。まだチハルは寝ていいんだよ」
「いやだ。愛菜ちゃんが起きたなら、ボクも起きてる」
「じゃあ、私も寝るから一緒に寝よう」
「……うん」

チハルと再び、ベッドへと入る。
チハルは満足そうに、私にしがみ付きながら顔を埋めてきた。
(かわいいなぁ……)

@御門くんを呼ぶ
Aチハルともう少し話をする
B春樹の事を考える
56405:2007/06/04(月) 09:02:00 ID:???
Aチハルともう少し話をする

(そういえば、チハルならあの影を退治できるのよね…)
甘えてくるチハルを見てふと思い出す。
10歳という外見年齢以上に、幼い感じのあるチハルだが本当に力は強いのだろう。

(ためしに頼んでみよう…)
「ねえ、チハル?」
「なあに?」
「チハルは隆が作れる影…隆はミストっていってるけど、あれを退治できるくらい強いのよね?」
「うん!」
眠そうだったチハルが、私の言葉にパッチリと目を開けてにっこり笑う。

「それでね、お願いなんだけど」
「愛菜ちゃんのお願いならがんばるよ」
「ありがとう、でね、お父さんとお義母さんにはおまじないをしたんだけど、春樹にはまだしていないの」
春樹の名前が出た途端、チハルの顔が少し曇る。

「春樹は私に負担をかけないように、おまじないをさせてくれないと思うのよ。だから、代わりにチハルが春樹を守ってくれない?」
私の言葉に、チハルは少し考えたようだったが、すぐに頷く。

「それが愛菜ちゃんのおねがいなら、ボクが春樹を守るよ。きのう春樹ともいっぱい約束したし」
「え?」
チハルが思った以上にあっさりと頷いたのにも驚いたが、チハルが春樹と約束をしているというのにも驚く。

(昨日ってことは、私が寝た後よね…)
一体二人はどんな約束をしたんだろう?しかも、いっぱいって…。

@どんな約束をしたのか聞く
A気にせずに寝る
B考える
57406:2007/06/04(月) 18:50:51 ID:???
@どんな約束をしたのか聞く

「どんな約束をしたのか、私に教えてもらってもいい?」
「えーっとね、わがままは言わないとか、愛菜ちゃんが困る事はしないとか。
あとね、春樹が困っていたら助けてあげるのも約束したよ」
得意げに語るチハルを見ながら、ふと疑問が浮かぶ。

(あれ? 私が寝る前は春樹の事を嫌がっていたみたいだけど……)

「チハル。あれから春樹と仲良しになったの?」
「ちがうよ、仲良しってわけじゃないよ。ボクは春樹の事がキライだもん。
ボクの後から入ってきたのに、愛菜ちゃんとすごく仲良くするしさぁ。
だけどね、愛菜ちゃんと春樹は家族だから、春樹がいなくなっちゃうと愛菜ちゃんが悲しむって教えてもらったの」
「それは、春樹が言ってたの?」
「うん。たくさん約束したから覚えるの、すっごく大変だったんだよ」

(ということは……春樹に上手く言いくるめられたんだ)

黙っている私を見て不安に感じたのか、チハルは私を覗き込んだ。
「春樹の言うことを全部守ったら、愛菜ちゃんは喜ぶって言ってたけど……、
愛菜ちゃんはほんとうにうれしい?」
「え?」
「ねーねー。うれしいの? 教えて」
私の腕をぐいぐい引っ張りながらチハルが尋ねてくる。

@「うん、とってもうれしいよ」
A「一番うれしいのは、チハルが春樹と仲良くすることかな」
B「チハルは軽くだまされてるよ」
58407:2007/06/05(火) 10:15:39 ID:???
A「一番うれしいのは、チハルが春樹と仲良くすることかな」

ちょっとずるいかなとも思ったけれど、これは私の本心だ。
私がそういうと、チハルがちょっと首をかしげる。
「どうして?」
「チハルも春樹も大好きだから、大好きな二人が仲良しだとうれしいよ。逆に喧嘩したら悲しくなっちゃう」

私の言葉に、チハルは少し考えて小さく頷くとにっこり笑った。
「わかった!春樹とも仲良くする」
「チハルはいい子ね」

チハルの頭をなでてあげると眠かったのを思い出したのか、チハルが小さくあくびをする。
「寝なおそうか」
「うん…」

毛布をかけなおしてチハルを引き寄せる。
柔らかい髪が頬にあたってとても気持ちがいい。
チハルは少しの間もぞもぞと動いていたけれど、落ち着く場所を見つけたのかすぐにおとなしくなって寝息を立て始めた。
私も目を閉じるとゆっくり意識が薄れていった。



(あ、夢か…)
御門君がいうところのチューニングをして誰かに同調するのとは違う。
目の前では穏やかな日常が優しく流れている。

その夢は…
@お母さんの居る夢
A知らない男の子の夢
Bみんなでピクニックに行く夢
59408:2007/06/05(火) 19:48:04 ID:???
A知らない男の子の夢

病院のような施設の中庭に私とその男の子は座っている。
その庭を見渡してみると、ピンクや白のツツジの花が満開を迎えていた。
季節は、五月か六月くらいだろうか。

「せっかく外に連れ出してやったんだ、感謝しろよ」
そう呟きながら、十二、三歳の勝気そうな目をした男の子は、突然上を指差しながら私を見る。
「おい、あれは何か答えてみろよ」
指の示す方を目で追ってみるけれど、何も思い出すことは出来ない。
少しだけ悲しい気分になりながら、私は首を横に振る。
「ばっか。この前教えたばかりだろ、あれは空」
「ソ、ラ」
「そうだ。あの大きくて青いのが空。フワフワ浮かんでる白いのが雲」
「ク、モ」
「じゃあ、俺の名前は覚えてるか?」
「ス、オ、ウ」
「なんだ、お前もやれば憶えられるんじゃん」
男の子はなんだか少し照れくさそうだ。
だけど、今の私にはなぜ照れくさそうにしているのかが分からない。

「お前の名前は?」
そう尋ねる男の子の瞳にすこしだけ、影が落ちる。
なぜ、そんな複雑な顔をするんだろう。
「コードNO.543」
私は無機質な口調で答える。
「ちがうって。俺と一緒のときだけはコードナンバーで言わないって決めただろう。
ていうか、俺が一方的に決めただけだどさ…。もう一度聞くからな、お前の名前は?」
「こよみ」
そう。私はこよみとこの少年に名づけられた。
男の子は満足そうに、微笑みながら私を見つめる。
さわやかな初夏の風が二人の間を吹き抜けていた。

半分は私の意識で、半分は別の誰かの意識に支配されている。
私は傍観者でもあり、当事者でもあった。
大堂愛菜として残る私自身の意識がこれは周防さんの少年時代だろうかと考えている。
私は…

@もう少し続きをみる
A起きる
B考える
60名無しって呼んでいいか?:2007/06/06(水) 00:32:50 ID:???
B考える

(あれ、この男の子……どこかで、見覚えが……)
不意に『大堂愛菜』の……私の意識がそんな疑問を提示してきた。

「………」
「………」

少年と『こよみ』のやり取りは止まることなく続いていく。
私はそれを意識の隅に留めつつ考え始めた。

(そう、確かに私はこの少年に見覚えがある。……でも、どこなの?)

考える。
自分の持ちうる限りの意識と記憶を使って、情報を手繰り寄せ取捨選択していく。

(今じゃない……今見ている光景じゃない。でも、どこか近くのような気がする。
……いつ、どこで、私はあなたを知ったの?)

『罰、だから。だから、いい、んだ』

『信じる、って言葉、嬉し、かった』

(!!!……そうだ!)
やがて、思い浮かんだのは……春樹が帰ってくる前に見た夢の光景だった。

あの時に私の腕の中で横たわっていた少年。
今、目の前にいる少年よりは若干成長していた気もするけれど……でも、間違いないと思う。

(でも……)

私がさらに考えを進めようとしたその時。

「そうだっ。今日はお前にいいものやろうと思ってさっ」
目の前の少年が、そう言いながらポケットを探り始めた。

(あ……)

気を取られたせいなのか、再び『大堂愛菜』としての意識が曖昧になっていく。
そしてその代わりに目の前の光景がだんだんと鮮明になりはじめた。

それに気がついた私は……

@夢と割り切り、二人のやり取りに意識を戻した
A怖くなって、目を覚ましたいと願った
B更に考えることで意識を保とうとする
61名無しって呼んでいいか?:2007/06/06(水) 00:33:38 ID:???
すみません、ミスです。
上は409でお願いします。
62410:2007/06/06(水) 02:36:06 ID:???
A怖くなって、目を覚ましたいと願った

このまま夢を見ていて良いのだろうか。ただの夢かもしれない、けれど私であって私ではない、誰かの記憶の奥を覗き込んでいるような、そんな不思議な感覚に囚われる。
目の前の少年の無邪気な様子をぼんやりと眺めているうちに、鮮明になったはずの景色が少しずつ色を無くしてモノクロの世界へと変化してゆく。

(……やめて、これ以上は――いけない)

なぜかそう思ったのは私なのか、それとも『こよみ』の方だったのか。全ては瞬く間に暗転した。



「……ちゃん、愛ちゃん」
誰かが私の肩を揺すっている。ゆるやかな振動が心地よくて、再びうとうととまどろんでいると声の主が柔らかな声で告げた。
「もう八時になるわよ、遅刻しちゃうわよ」
「ん……はち、じ……?っ、八時?」
瞬時に覚醒して飛び起きると、目の前にはフライ返しを片手にお義母さんが朝に相応しい爽やかな笑顔で立っていた。

「おはよう、愛ちゃん。朝ごはんできてるわよ」
「朝ごはんていうか、八時じゃ、ほんと遅刻しちゃう!」
あたふたと支度を始めた私の横でお義母さんはおっとりと言った。
「大丈夫よ、まだ七時前だから」
「……え」
「前に、お父さんに教わったの。愛ちゃんが起きなかったら遅刻しそうな時間を言えばすぐに起きるぞって。気持ち良さそうに寝てるから、起こしたら可哀想かとも思ったんだけど……」

(お父さんてば……)
拍子抜けしてベッドに座り込むと、お義母さんはだましてごめんなさいね、と申し訳なさそうに続けた。
「ううん、起こしてくれてありがとう。いつも時間ギリギリじゃさすがにマズイし」
「そう?それなら良かったわ」
意識して笑顔で答えると、お義母さんはほっとしたような笑顔を見せた。そのお義母さんを前に、チラリと目をやってベッドの上のチハルがぬいぐるみの姿なのを確認する。
(お義母さんにもチハルの話をするんじゃ収集つかなくなっちゃうよね……)

内心ほっと胸を撫で下ろして、不自然にならないように当り障りのない会話を探す。
「春樹はいつも時間ギリギリに声かけるから、朝はすごく忙しいんだ。今日はゆっくりできそうかも」
「あらそうなの。朝もたまにはゆっくりしなくちゃね。……そういえば春樹は今日はもう学校に行ったわよ」
何気なくそう言ったお義母さんの言葉を受けて、私は目覚まし時計に目をやった。時刻はもうすぐ七時になるところ。

(春樹、昨日は何も言ってなかったけど…何か用でもあったのかな?)

どうしよう?
@お義母さんに理由を聞いていないか聞く
Aどうせ文化祭の用意だろうから気にしない
Bメールで春樹に勝手に早く行った事について文句を言う
63名無しって呼んでいいか?:2007/06/06(水) 10:42:33 ID:???
Aどうせ文化祭の用意だろうから気にしない

一瞬疑問が浮かんだが、すぐに文化祭の準備があるのだろうと納得する。

(準備が遅れてるって言ってたもんね…)
きっと昨日の電話で早く出てその分の遅れを取り戻そうという話になったんだろう。

「文化祭の準備かな、昨日遅れてるって言ってたもんね」
「そうね。愛ちゃんのクラスは大丈夫なの?」
「うん、うちのクラスは平気。放送委員の仕事のほうが忙しいくらい」
「あら、放送委員ってそんなに忙しいの?」
お義母さんが不思議そうに首をかしげる。

「忙しいわ。体育館での催し物の案内でしょ、落し物の放送に、迷子の放送、呼び出し放送…それから」
指折り数えていく私に、お義母さんが苦笑する。

「確かに忙しそうね。でもせっかく早く起きたんですもの、ゆっくりご飯食べたいわよね、ご飯食べながらお話しましょう」
「あ!」
確かにせっかく早く起きたのに、このままではいつもと変わらなくなってしまう。

「準備ができたら降りていらっしゃい」
お義母さんは微笑みながら、部屋を出て行った。
それを確認してから、ベッドから出る。
まだ少しだるいが動けないほどではない。

(さて、と)
心の中で気合いをいれて、何からやろうかと考える。

@チハルを起こす
A着替える
B顔を洗いに行く
64412:2007/06/06(水) 22:37:51 ID:???
A着替える

(チハルは眠っているし…起こすのもかわいそうかな)

私はなるべく物音を立てないように、制服に着替える。
胸のリボンを結び、ジャケットに袖を通す。

(……行ってくるねチハル)
ゆっくりとドアを閉め、階段を下りるとトーストの焼けるいい匂いがしていた。
顔を洗い、髪をセットしてキッチンへ向かった。

「愛ちゃん、目玉焼きと玉子焼きどっちがいい?」
私の姿を見つけると、お義母さんが尋ねてくる。
「目玉焼きがいいな」
「わかったわ。ちょっと待っててね」
「あれ…お父さんはもう出たの?」
「ええ、今日から出張だから早く出ていったわ」
「月曜日から大変だね。体を壊さなければいいけど」
「そうね。海外出張だからお腹を壊さないか心配だわ」

他にも文化祭の話題など、とりとめの無い話をしながらお義母さんと二人でゆっくり朝食をとった。

ピンポーン。

食べ終わって、席を立ったところで玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
パタパタとお義母さんが玄関へ向かう。
「お迎えに来てくれたの? ちょっと呼んでくるから待ってて」
玄関の方から、そんなお義母さんの声が聞こえてくる。
「どうしたの?」
「ふふ。愛ちゃんにお迎えよ」
「わかった。今、出るね」

鞄を持ち、玄関へ向かう。
私を迎えに来たのは…

@一郎くん
A修二くん
B隆
65413:2007/06/08(金) 00:08:21 ID:???
A修二くん

「おっはよう、愛菜ちゃん」
私を見るなり修二くんは白い歯を見せて笑った。
朝の新鮮な空気と眩しい日差しは爽やかに笑う修二くんに良く似合う。ぼんやりとそんなことを思いながらお義母さんに挨拶をして玄関を出た。

「おはよう、修二くん。……っていうか、朝からどうしたの?」
「どうしたのって……つれないなあ。一緒に学校に行こうと思って迎えに来たんだよ」
昨日は会えなかったしね、と付け足して修二くんは並んで歩きながらさりげなくウィンクをした。
「……えーと。別に昨日は修二くんと特に何か約束はなかった、と思うんだけど」
「好きな子とはいつだって一緒にいたいもの、でしょ?」
「へえ、知らなかったよー」
「愛菜ちゃーん……」

修二くんおなじみの口説き文句を右から左に軽く聞き流しながら朝の通学路を学校へと向かう。
時折笑顔を見せながら私の歩幅に合わせて隣りを歩く修二くんの外見は、確かに華やかで人の目を惹きつける。好意を抱く女の子の数が両手ではとても足りないという話もまんざら嘘ではないのだろう。
だからこそ、思う。修二くんの言葉は心から出たもののはずはないと。何の取り柄もなく特に美人という訳でもなく、ごくごく普通の私は残念ながら修二くんに思いを寄せられるような覚えはない。

「そんなことばっかり言ってると、ほんとに好きな人が出来た時に信じてもらえなくなっちゃうよ」
「心外だなー、俺はいつでも本気だよ?」
「はいはい。……それで?今日はどうしたの?」
「はー、……愛菜ちゃん、あいかわらずガード固いなー…。」
修二くんは私の質問には答えずに、独り言のようにそう呟いた。

(ほんとに修二くん、何の用で来たんだろう?)

どうしよう?
@重ねて何の用事で来たのか尋ねる
A昨日の事件の話について尋ねる
B一郎くんが教えてくれなかった事をきいてみる
66414:2007/06/08(金) 11:44:54 ID:???
A昨日の事件の話について尋ねる

「そういえば…」
ふと昨日の一郎くんとの会話を思い出す。

「ん?」
「昨日ショッピングセンターの駅で一郎くんに会って…」
「ああ、聞いたよ。兄貴が行ったほうがメインだったみたいだな」
「一郎くんもそう言ってた。修二くんのほうは大丈夫だったの?」
私の急な話題変更も、修二くんにとっては予想の範囲だったのか軽く頷く。

「俺の行ったほうは本当におとりでさ。俺が調べようとした途端に消えちまったんだよ」
「そうなんだ…、修二くんが怪我しなくてよかったよ」
「あれ?心配してくれるんだ」
「当たり前でしょ?」
もし、修二くんが行ったほうがメインだったとしたら、どうなっていたんだろう?
二手に分かれて行動するのは二人にとってとても危険なことではないのだろうか?

「二人で行動したほうが安全なんじゃないの?」
思ったことをそのまま尋ねると、修二くんは苦笑する。

「そりゃそうなんだけどね…でも今回みたいに二箇所に異変があったら俺たちは二手に分かれるよ」
「どうして?」
私の疑問に修二くんはちょっと考えて続ける。

「たとえば、二人でひとつのほうに行ったとする」
「うん」
「で、そっちはオトリで特に何もなかった。それじゃあと、もうひとつのほうに行ってみる。でも、そのときにはすでにメインの方は目的を達成させてしまった後だった、って事になるかもしれないだろ?」
「それはそうかもしれないけど…」
修二くんの言いたいことは分かる、でも分かれて行動することで危険は増すのだ。割り切れるものじゃない。

私は…
@「でも、二人に何かあったらいやだよ」
A「……二人が決めたことならしかたないか」
B「…………」
67415:2007/06/08(金) 19:42:22 ID:???
@「でも、二人に何かあったらいやだよ」

「おっ、本気で心配してくれるって事は…脈アリ?」
修二くんは楽しそうに私を覗き込んだ。
「もうっ。茶化さないで」
「そっかー。心配してくれるのはうれしいんだけど…兄貴込みってのが気に入らないなぁ。出来れば、この俺だけ心配してよ」
修二くんは自分自身を指差して、「俺、俺」とアピールしている。
「ダメ。修二くんも一郎くんも大切なお友達だもん」
「空耳かなぁ…。今、友達って聞こえたんだけど」
「空耳じゃありません」
私はキッパリと言い切る。
すると、修二君は軽く舌打ちを漏らしながら、「どーせお友達ですよ」と拗ねてしまった。

学校が近づくにつれて、登校する生徒の数も多くなってきている。
すれ違う女子生徒の視線が突き刺さるのは気のせいだろうか。
そんな事などお構いなしに、修二くんは大きな声で私に話しかける。

「じゃあ、百歩譲ってお友達の俺からお願いがあるんだけど?」
「え、どうしたの」
「友達脱却の為にも、デートしよ♪ そうすれば、きっと俺のこと好きになるって」
「一郎くんと事件の調査はしなくていいの?」
「あんなの、兄貴に付き合って仕方なくしてるだけ。俺的には愛菜ちゃんが最優先だよ」
「でも……」
「そんな堅苦しく考えなくていいから、ね。放課後に待ってるからさ」

私は…
@「わかった、いいよ」
A「今日はやめておくよ」
B「そんな暇があるの?」
68416:2007/06/09(土) 23:31:18 ID:???
B「そんな暇があるの?」

一郎君と事件の調査はともかく、文化祭が近くて忙しいことは間違いない。私は不思議に思って聞いてみる。

「今週末文化祭だし、準備忙しくない?うちのクラスは順調だけど…」
「あー……」
修二君は、一瞬何かを思い出したように視線をさまよわせたけれどすぐににっこり笑って頷いた。

「平気平気!何とかなるって♪」
「なんかすごく怪しいんだけど…」
修二君の物言いからすると、とても大丈夫とは思えない。
修二君のクラスの人たちに迷惑がかかるなら大変だ。

「ほんとに平気だって今日くらい。だからデートしてよ」
修二君は再度誘ってくる。
でも、さっきの態度から何かクラスですることがあるのではないかと思ってしまう。

どうしよう…
@デートに行く
A修二君のクラスの人に何か予定があるのではないかと聞いてから答える。
B行かない
69417:2007/06/10(日) 23:38:44 ID:???
A修二君のクラスの人に何か予定があるのではないかと聞いてから答える。

(修二くん、ちっとも大丈夫じゃなさそうだよ…)
そう考えていたところに、修二くんに気軽に挨拶している人を発見する。
たしか、あの男の子は修二くんと同じクラスだったはずだ。

「あの、……おはよう。ちょっといい?」
「僕のこと?」
「うん。えーっと名前は…」
「隣のクラスの大堂さんだっけ。僕は藻部だけど?」
「藻部くん。今、あなたのクラスの文化祭の準備は進んでいるの?」

「藻部! もちろん俺たちのクラスの準備はバッチリだよな?」
修二くんは懸命に目配せをしているみたいだけれど、当の藻部くんはまるで気付いていない。
「それが、スケジュール厳しくて。うちは焼きそば屋をやるつもりなんだけど、機材の調達先も決まってない有様だよ」
藻部くんは真剣に困っているようだ。

「やっぱり……」
私はじろりと修二くんを睨みつける。
「そういうのはクラス全員が動くことないし…一日くらい俺がいなくても…」
「まさか修二。お前、またサボるつもりだったのか?」

(またって……修二くん、前科もちなんだ)

「今日はどうしても都合が悪い。だから藻部、頼んだ」
修二くんは藻部くんの肩をポンと叩き、ニコッと白い歯をみせる。
「あと一週間も無いんだしダメ、無理」
修二くんお得意の爽やか笑顔も、藻部くんの前にあえなく撃沈していた。

@私のクラスは順調だし一日修二君を手伝う。
Aやっぱり、断る。
Bそれでも行く。
70名無しって呼んでいいか?:2007/06/11(月) 09:58:55 ID:???
Aやっぱり、断る。

藻部君の様子からかなり切羽詰っているように思える。

「修二くんダメよ。ちゃんと文化祭の準備しなきゃ」
「愛菜ちゃ〜ん」
「そんな声出してもだめですっ!」
ため息を吐きつつ、しつこくデートしてと連呼する修二くんを置いて歩き出す。

「あ、まってよ愛菜ちゃん!」
足の長さが違うのだから当たり前だけれど、私が早足で歩いてもすぐに追いつかれてしまう。

「お前は…、何をやっているんだ修二」
その時、前を歩いていた人が振り向いた。一郎くんがあきれたような顔で立っている。

「げっ、兄貴…」
「あ、一郎くんおはよう」
「おはよう大堂。修二、クラスに迷惑をかけるんじゃない」
「あー、うー…はい」
一郎くんの静かな、けれど強い言葉に修二くんがバツが悪そうに頷く。
自分に非があることを多少は自覚していたのか、妙に素直だ。

「おーい、愛菜!」
そこへ、後から声をかけられる。

「あ、隆、おはよ…え?」
聞きなじんだ声に振り向きながらあいさつしようとして、ぐいっと腕を引かれた。

「おい、何してるんだ?宗像兄弟…」
修二くんが私をかばうように腕を引く。同じように、一郎くんも隆に立ちふさがるように、一歩前に出た。
隆はそれに不快げに眉をしかめる。

(あ…、そういえば二人とも隆が敵だとおもいこんでるんだっけ)
二人には、まだ隆が敵ではなかった事を話していない。

@すぐに説明する。
Aとりあえず大丈夫だといって後で説明する。
B成り行きに任せる。
71名無しって呼んでいいか?:2007/06/11(月) 09:59:35 ID:???
↑418ですスマソ
72419:2007/06/12(火) 00:51:03 ID:???
B成り行きに任せる。

ピリピリと張り詰める空気に圧倒され、私は何も言えないでいた。
そんな中、最初に口を開いたのは一郎君だった。

「湯野宮に接触させるわけにはいかない」
「愛菜を離せ」
「それは聞けない」
「そうか。じゃあ、俺も言わせてもらう。お前ら何者だ?」
双子を睨みつけ、隆が一歩前に出る。
「なんの話だ?」
「しらばっくれるなよ。お前らも俺と同類だろうが」
「へぇー。湯野宮って俺たちの事、わかるんだ?」
感心するように修二君は口を挟んだ。

(隆にも二人のことを説明してなかったんだ。どうしよう、お互いが敵だと勘違いしているのかな)
なんとか話をしようと、私は前に出た。
けれど一郎君にぐいっと手を引かれ、再び引き戻されてしまう。

「ミストを使って愛菜を操るつもりなのかよ」
「ミスト?」
一郎君が眉をひそめる。
「黒い影のことだ」
「ファントムのことか。それは湯野宮が持っている能力じゃないのか?」
かまをかけるように、一郎君は逆に問いただした。
「確かにそうだよ。だけど、最近になって頻繁に愛菜を狙っているミストの存在。そして……力を感じるのは宗像兄弟、お前らだけだ」

そう言うと同時に、隆は背中からゾワリと黒い影を出す。
「愛菜をどうするつもりだ?」
「それはこっちのセリフだってのに……。言い訳もここまでくれば上等だね。どうする兄貴、ここでやっちゃっていい?」
修二君も一歩前に出て臨戦態勢に入った。

ただならない雰囲気に身が強張る。
私は……

@割って入る
A叫ぶ
B成り行きに任せる
73420:2007/06/12(火) 09:39:40 ID:???
B成り行きに任せる

ピリピリとした空気に気持ちばかりが急くが、三人の雰囲気に声をかける隙が見つからない。
(どうしよう、誤解を解かないと…)
私がおろおろしていると、ふいに修二くんが眉をしかめた。

「なんだ…?」
それに気づいた一郎くんも視線をさまよわせる。

「これは…昨日大堂の近くにいた…」
「え?」
一郎くんが何か思い出したかのようにつぶやいたとき…。

「愛菜ちゃぁぁぁん」
ばたばたとものすごい勢いで走ってくる小さな影。

「チハル!?」
チハルはそのまま突進してきて、私の腰にしがみつく。一郎くんや修二くんもあっけにとられて、チハルを止める事が出来なかった。

「ひどいよ愛菜ちゃん!ボクが寝てる間に出かけちゃうなんて」
大きな瞳いっぱいに涙を浮かべて、チハルが私を見上げてくる。
そういえば修二くんが突然迎えに来たから、チハルに出かけると言わずに出てきてしまっていた。
目が覚めたら私が居なくて、チハルは慌てたのだろう。

「お、おい、愛菜そいつ誰だよ…」
隆がチハルの勢いに押され気味のまま尋ねてくる。
一郎くんと修二くんも視線だけだったが、同じことを思っているようだ。
隆の声に、チハルが反応して首だけで振り向く。
隆の姿をみとめた途端、チハルは私から離れて今度は隆に抱きついた。

「隆!ボク隆にお礼が言いたかったんだ!」
「うわ!な、なんだよお前っ」
あわてた隆がチハルを引き離そうともがくが、チハルは気にする様子もなくしっかりと抱きついている。
春樹の時とはまったく反応が違う。

「隆がボクにお願いしてくれたから、動けるようになったし、こうやって話せるようにもなったんだよ!」
「は?なに言ってるんだよ」
「だから!隆が大好きな愛菜ちゃんが喜んでくれるように、ボクにお願いしたんじゃないか!忘れちゃったの!?」
「ちょ、おまっ、なに言って……って、お前あのぬいぐるみか!?」
チハルの発言に真っ赤になった隆が、チハルの存在に思い当たったのか、驚きの声を上げる。

「どういうことだよ?」
「この気配は昨日大堂のそばに居た精霊だな?」
すっかり蚊帳の外となってしまった一郎くんと修二くんが私に尋ねてくる。

えーっと…
@「とにかく隆は敵じゃないの」
A「隆は私を助けてくれてたの」
B「チハルは私のぬいぐるみなの」
74421:2007/06/12(火) 22:58:41 ID:???
B「チハルは私のぬいぐるみなの」

私が説明をしようとすると、チハルは一郎君と修二君の前に出た。
そして二人を指差しながら、驚いたように目を見開く。
「おんなじ顔がふたつ! ねえ、ねえ見てよ。ヘンだよ愛菜ちゃん」
「チハル、そんなこと言っちゃ駄目よ。あはは、ご、ごめんね……」

「………」
「俺の方がイケてるって!」
一郎君と修二君はそれぞれ別の反応をみせる。
チハルの登場で、その場の張り詰めた緊張感はどこかへいってしまったようだ。

(とりあえずチハルのおかげで場が和んだみたい。……助かったよ)

隆は物珍しそうに、チハルを上から下まで眺めている。
「ていうか、なんで人の姿になってんだ? あの熊のぬいぐるみなんだろ? お前」
「お話できるし、こっちの方がいいでしょ」
チハルはその場でクルクルまわりながら答えた。
「いいとか、悪いとかじゃないって。ぬいぐるみが人になるなんておかしいだろ?」
「でも、隆の大好きな愛菜ちゃんも喜んでくれたよ」
「だーっ。わ、わかったから…お前はもう何もしゃべるな!」
顔を真っ赤にさせながら、隆はチハルの口を手で押さえた。

(誤解を解くためにも、隆が敵じゃない事とチハルの事を説明しなきゃ)
私はおとといの出来事と、チハルが人の姿になった経緯を簡単に話した。

「興味深いな。その精霊は力をつけ始めているのか」
一郎君はチハルを見ながら腕を組んだ。
「湯野宮が敵じゃないのかよ……」
修二君は「だまされたー」と叫んでいる。

キーンコーンカーンコーン。
学校中にHR開始のチャイムが鳴り響く。
冷静になって周囲を見回すと、すでに私達だけになっていた。

どうしよう?
@このまま話を続ける
A走って教室に行く
B今度また話の続きがしたいと提案する
75422:2007/06/13(水) 10:51:41 ID:???
B今度また話の続きがしたいと提案する

「あ!もう遅刻じゃない…、この話はまた後にしよう?」
「そうだな…、湯野宮にはもう少し聞きたいこともあるし」
「それはこっちにもあるさ。まあ、愛菜急ごうぜ」
「あ、うん」
隆に促され、急いで学校に向かおうとしたその時、腰に回った腕に踏み出しかけた足を止める。

「愛菜ちゃん…ボクはどうすればいいの?」
「チハル…えっと、家でお留守番していてくれる?」
「ええええ!?愛菜ちゃんと一緒がいい!!」
「でもね、チハル、学校には関係ない人が行っちゃいけないのよ」
「ボク、人じゃないもん!」
「それはそうだけど…」
「それに、春樹を守るって愛菜ちゃんと約束した!春樹もいるんでしょ?」
確かにチハルと約束した。けれど、学校には連れて行けないのだ。

「こら、お前愛菜を困らせるんじゃない。てか、ぬいぐるみが人になれるんだから他のもんにもなれるんじゃないのか?」
隆が見かねて助け舟を出してくれる。

「人とかぬいぐるみじゃ学校に行けないけど、他のもんになっておとなしくしてるなら別に連れていったって害はないだろ」
「え?」
思わず隆を見つめる。

「ほら、腕時計とか携帯ストラップとか…、そういうのになれるなら愛菜と一緒だし心配ないだろ?」
「そうだな。この精霊はかなり力が強い。大堂をそばで守るのにふさわしいといえる」
最後に「性格は難だが」と小声で付け加えて、一郎くんも隆の言葉に頷く。

「でも、コイツが一日おとなしくしていられるか?」
そんな一郎くんの言葉に、修二くんが「無理だろ」といいながら肩をすくめた。

「チハルは、他のものになれるの…?」
私がたずねるとチハルはうーんと考えて、頷いた。

「たぶん、大丈夫」
「それじゃ早く決めちゃえよ、授業に遅れるぜ」

それじゃあ…
@腕時計になってもらう
A携帯ストラップになってもらう
Bやっぱり家に帰ってもらう。
76423:2007/06/13(水) 22:15:29 ID:???
A携帯ストラップになってもらう

「じゃあ、携帯ストラップになってもらっていい?」
「うん。いいよ」
言うが早いか、チハルは『ポン』と軽い音を立てて消える。
次の瞬間、私の手の平にはテディベアの携帯ストラップが乗っていた。

「おおおっ!!」
三人は同時に感嘆の声をあげる。
「マジでストラップになってるし……」
「これで先ほどの話が真実だと証明されたということか」
「また熊のぬいぐるみかよ」
修二君、一郎君、隆がそれぞれのリアクションをとっていた。

「大人しく、いい子でいてね」
私は小さなテディベアをギュっと握り締める。
テディベアになったチハルは手の中で苦しそうにジタバタと手足を動かした。
「い、痛かった? ごめんね」
「ははっ。携帯ストラップになっても性格は変わらないんだな」
隆は私の手の平の携帯ストラップをひょいと奪い取ると、チハルをつついた。
チハルは手足を懸命に動かして、隆の指から逃げようとしている。

「……遊んでいる暇は無い。早くしないと授業が開始していまう」
一郎君は腕時計をチラリと眺めて、ため息を吐いた。
「真面目な兄貴が遅刻だなんて、クラスの奴らきっと驚くよな」
「……うるさいぞ、修二」
一郎君はジロリと睨みつける。
「おお、怖い怖い。それじゃ、別れは惜しいけど愛菜ちゃん、バイバイ」
「大堂。また今度、詳しい話をきかせて欲しい」
私達よりも一足先に一郎君と修二君は教室へ向かった。

「愛菜。俺たちも早く行こうぜ」
隆に促され、私は走り出す。
あれ? 私、何か忘れているような気がするけど……。

私は…
@今日から隆がうちに来る事を思い出す。
Aとりあえず教室へ急ぐ
B春樹にチハルを預けにいく事を思い出す。
77424:2007/06/13(水) 22:55:23 ID:???
B春樹にチハルを預けにいく事を思い出す。

「隆!先に行ってて、春樹にチハルを預けてくるから!」
「おい、授業に遅れるぞ?」
「適当に言い訳しといて!」
「言い訳って…」
「じゃ、よろしくね!」
言いおいて、一年生の教室へ向かう。

(いまなら、まだギリギリ授業前だから、先生は教室についてはいはず…)
春樹の教室まで走り、後ろのドアから中をのぞく。
まだ、教室内はざわめいていて先生が居ないことがわかる。
私はそっと後ろの戸を開けると、一番近くの席の子に春樹を呼んでもらう。

「おーい、春樹!おまえご指名」
「え?」
その声に、いっせいに教室内の視線が私に集まる。

(うわ…、恥ずかしいかも…)
「姉さん?どうしたのさ」
春樹は私をみて走りよってくる。
教室内の視線を避けるように、廊下に出て、春樹は後ろ手に戸をしめる。

「あのね、これ…春樹もってて」
「何…?これって…」
強引に渡された携帯ストラップをみて春樹は複雑そうな視線を向けてきた。

「うん、チハルなんだけどね、学校に居る間は春樹がもってて。それじゃ私教室戻るね。授業おくれちゃう」
「ちょっと、姉さん!」
春樹の声が追いかけてきたが、私は気にせずに教室へと小走りで向かう。

(春樹頑固だから、これくらい強引じゃないと絶対受け取ってくれないわ)
そう思いながら、門を曲がったとたん誰かにぶつかった。

「きゃ…」
反動でよろけると、がっしりした手が私を支えた。

「大丈夫か?廊下は走るんじゃない」
「あ…、近藤先生……すみません」
近藤先生は今の時間授業がないのか、手ぶらで何ももっていなかった。

「ん?……君は確か……」

@「春樹の姉です」
A「すみませんぶつかるの2度目ですね」
B「授業に遅れてしまうので、失礼します」
7877:2007/06/13(水) 22:57:34 ID:???
そう思いながら、門を曲がったとたん誰かにぶつかった。

そう思いながら、角を曲がったとたん誰かにぶつかった。 ですorz
79425:2007/06/15(金) 14:39:51 ID:???
@「春樹の姉です」

「ああ、大堂君の。ところで授業がもう始まるのだが……」
近藤先生はそこまで言って、ふと私の顔を凝視した。

「あ、あの…?」
「顔色が悪いな。あぁ、保健室へいく途中だったのか」
近藤先生は、ふと自分が歩いてきた方向を見て言った。

(わたし、そんなに顔色良くない?)
確かに昨日からいろいろあって、疲れはあまり取れていないけれど、昨日の夜よりはだいぶマシになっていた。
朝、一郎くんたちや隆、チハルも特にそういうことは言っていなかったけれど…。

 キーンコーン

「あ…」
そこで、始業のベルが鳴った。

「だが、今日は保健室は開いていない。先生が研修で居ないからな」
「そうなんですか…」
近藤先生は少し考えるように眼鏡を人差し指で持ち上げる。

「少し休むにしても職員室、だと気疲れするか…ああ、茶道室、あそこなら畳だし茶道部が放課後につかうくらいだから、今なら横になっていても大丈夫だ」
近藤先生はすっかり私が具合が悪くて保健室へ行こうとしていたと思い込んでいる。

「茶道室の鍵を持ってくるから、先に行っていなさい」
近藤先生が職員室へ向かって歩いていこうとする。

どうしよう…
@「はい、わかりました」
A「いえ、教室へ戻ります」
B「具合が悪いわけではないので…」
80426:2007/06/15(金) 22:27:12 ID:???
@「はい、わかりました」

近藤先生の言うことを素直に聞いて、私は茶道室に向かって歩き出す。
(思っていた以上に疲れがたまっていたのかな)
茶道室の前でそんな事をぼんやり考えていると、近藤先生がやって来た。
その手には誰かの持ち物なのか、花柄のブランケットを抱えている。

「待たせたな」
近藤先生は鍵穴に鍵を差込み、引き戸を開けてくれた。
「……失礼します」
慣れない場所で、少し緊張しつつ靴を脱ぐ。中に入ると、ほんのりといぐさの香りがした。

「大丈夫か? もし、辛いようなら帰宅を進めるが」
近藤先生は戸口の前に立ったまま、話しかけてきた。
ひとつ高い段差にいるはずなのに、まだ先生を見上げなければならない。
「少し休めば大丈夫だと思います」
「そうか。では私は行くが、気分が優れないときは職員室に来るように」
「はい」
「あと、君のクラスの担任教師には私の方から伝えておくが…何年何組だ?」
私はクラスと自分の担任の名を伝えた。
「了解した。あとこれは……少し小さいかもしれないが寝るときに使いなさい」
近藤先生はそう言って、私にブランケットを手渡してくれた。
そのブランケットを受け取り、「ありがとうございます」と言って会釈をした。

「気分が良くなったら、鍵を閉めて毛布と共に職員室に返しておいてくれればいい。
後で大堂君にも顔を出すように言っておく」
「すみません、お願いします」
それだけ言うと、近藤先生は去っていった。

(親切でいい先生かもしれないな)
私はフーっと息を吐きながら畳みに座り込み、ブランケットを膝にかけた。
(ひざ掛けとして使っていたのかな。誰の物だろう? まさか近藤先生の物じゃないよね)
そう思っているとタグに名前が書いてあるのを見つけた。そこには『水野』と書いてある。

私は
@使うのをためらう
A考える
Bとりあえず横になる
81427:2007/06/17(日) 07:07:10 ID:???
Bとりあえず横になる

(いくら水野先生の持ち物だからってブランケットが何かするってことは、ないよね)
一瞬不安が過ぎったけれど、思い直して膝にかけたままその場に横になる。
すこしひんやりとする畳の感触を背中に感じながら、目を閉じると全身がけだるさに包まれた。やはり自分が思っているほど回復していなかったようだ。

(近藤先生、恐るべし、かも)
そんなことを考えて、一人笑った。
瞼は閉じたまま、それでも眠りが訪れる訳でもなく静かに時は過ぎてゆく。何かを考えるのも億劫で、まるで壊れたぜんまい仕掛けの人形のように横たわっていた。

時間の感覚もないまま、どの位そうしていたのだろうか。
一人きりの茶道室に不意に入口の戸をノックする音が響いた。

(誰だろう……?)
返事をしようとしたのに空気が漏れるばかりで何故か声が出ない。起き上がろうにも体は重く固まってしまったように動かない。
やっとのことで重い瞼を開けると、音も無く滑るように入口の戸が開いた。

そこに立っていたのは……
@近藤先生
A春樹
B御門くん
82428:2007/06/17(日) 10:47:54 ID:???
@近藤先生

私が目を開けているのを見て近藤先生は少し片眉をあげる。
「返事がないから眠っているのかと思った、具合はどうだ?」
言いながら近寄ってくる近藤先生を目線で追う。

「すみません、ちょと動けそうにないです…」
声を出すのも一苦労で、ちゃんと先生に聞こえているかすらわからない。
近藤先生は、さらに顔をしかめ私の額に手を置く。

「熱はないようだが…」
そんな近藤先生をぼんやりと見ていると、ふと先生の背後の天井にくろい靄が見えた。
(あれは…ファントム!?)
慌てて起き上がろうとするが、体は言うことをきかず腕が少し動いただけだった。
けれど、ファントムは何かするでもなくそのまま消えていく。

 キーンコーン

そのとき、授業終了のチャイムがなった。
「ああ、授業が終わったが…、君は帰ったほうが良いんじゃないか?」
確かにこの調子では勉強どころではない。
私が頷くと、近藤先生も頷いて立ち上がる。

「私は車だから送っていこう。お家の方にも連絡してくるから」
「あ、あの!家には誰も…」
もう両親とも仕事に出てしまっている。
先生が私の言葉に、難しい顔をして何か口にしようとしたとき、急に廊下が騒がしくなる。
バタバタと誰かが走ってくる足音が複数。
あいたままの戸から姿を見せたのは、隆と修二君だった。

「愛菜!」
「愛菜ちゃん!」
二人は私の顔を見てほっとしたようにため息をつく。

「心配させるなよ…、すぐ戻ってくるって言いながら全然戻ってこないから…っと、近藤先生」
隆が文句をいいながら私に近づこうとして、隣に近藤先生が居ることに気づく。

(あ、さっきの影は隆が私を心配して…探してくれたんだ)
あれ、じゃあ修二君はどうやって私の場所がわかったんだろう?
隆は同じクラスだけど、修二くんは別のクラスだから私が授業に出なかったことは知らないはずなのに…。

「愛菜ちゃん大丈夫?今日の朝微妙に体調が悪そうだったから心配してたんだよ?……愛菜ちゃんの力が教室じゃないところにあるから心配しちゃったよ」
私の隣までやってきた修二君が、心配そうな顔をしたまま言う。最後のほうは近藤先生に聞こえないように小声だ。

「二人とも静かにしなさい、大堂さん、家に誰も居ないなら学校で休んでいるか?誰も居ない家よりは、まだ人が居る学校のほうが良いかもしれない」
近藤先生の言葉に少し考える。

どうしよう…
@家に戻る
Aこのままここで休む
Bがんばって授業に戻る
83429:2007/06/17(日) 20:14:45 ID:???
Bがんばって授業に戻る

(この間も学校を休んでいるし、授業を受けないと遅れちゃうよ)

勉強どころではないほど疲弊しているけれど、無理は承知の上だった。
先週は怪我や力の騒動でほとんど授業に出ていないのに、文化祭が終わったらすぐに中間テストが待っている。
優秀な春樹や双子の二人とは違って私の場合、それなりに頑張らないとすぐ成績が下がってしまう。

「授業に戻ります。そうしないと……ついていけなくなってしまいますから」
両手をついて立ち上がろうと力を入れるけれど、腕に力が入らない。
「だ、大丈夫? 愛菜ちゃん」
隣にいる修二君がすかさず私を支えてくれる。

「まだ顔色が悪い。無理をして授業に出たとしても、その状態では身につかないだろう」
「そうだぜ、愛菜。お前の分までしっかりノートとってきてやるから、大人しく寝てろ」
(隆の字って特徴ありすぎて、ノートを見せてもらっても多分読めないよ)
そんな私の心の声など届くはずもなく、近藤先生と隆は当然のように反対してきた。

けれど、修二君だけは反対せず、ゆっくり私を立ち上がらせてくれる。
「愛菜ちゃんが授業に戻るって言っているし、行かせてあげなよ」
隆に向かってそう言うと、今度は先生に向き直る。
「先生はご存知無いかもしれませんが、大堂さんは先週怪我をしてしまって休んでいます。行かせてあげてください」

(え? てっきり修二君にも反対されると思ってたのに)
私は修二君の顔をじっと見つめる。
すると、私に向かってウインクしながら、小声で「俺に任せて」と話しかけてきた。
(修二君?)

「お願いします。次の授業に行かせてください。隆もいいよね?」
私は改めて、先生と隆ににお願いする。
二人とも仕方がなさそうに、なんとか納得してくれた。

キーンコーン

「ヤバイ、授業が始まった! 愛菜。早く戻ろうぜ」
チャイムと同時に隆に促される。
「ごめん、隆。先に行ってて。私、ここの鍵を返してくるよ。修二君もありがとう。近藤先生、ご心配をおかけしました」
全員にペコリと頭を下げる。
「無理だと感じたらすぐ誰かに言いなさい」
「愛菜。早く戻ってこいよ」
そう言いながら、二人は廊下へ出ていった。

「修二君。もう授業が始まったよ?」
私は茶道室に残ったままの修二君に話しかける。
けれど、修二君は何も言わずに後ろ手で扉を閉めてしまった。
「え……。修二君?」
「……愛菜ちゃん。さっき、俺に任せてって言ったよね?」
そう言いながら、修二君はじりじりと私に向かって近づいてくる。
私は……

@何か考えがあるのか尋ねる
A二人きりが怖くなって逃げる
B黙っている
84430:2007/06/17(日) 21:53:29 ID:???
@何か考えがあるのか尋ねる

「何か、いい考えでもあるの…?」
じりじりと近づいてくる修二君を見上げながらたずねる。
修二君はにっこり笑うと頷いた。

「もちろん。愛菜ちゃんの今の状態は慣れない力の使いすぎによるもの。わかってるよね?」
修二君の言葉に、私は頷く。

「で、使い方がうまくないから、余計な力をつかっちゃって今とっても不安定になってるんだ。ここまでオッケ?」
私は再度頷く。

「不安定になってるから、心と体がうまくつながっていなくて、体がだるく感じたりうまく動かせなくなってるんだよね」
「なるほど…」
修二君の説明はわかりやすい。

「だから、今の状況を打開するには、不安定になっている力を正常に戻してやればいい」
「そっか…、でどうするの?」
「方法は二種類。自分で意識的に不安定になっている力を元に戻す方法。でも愛菜ちゃんは力の使い方がうまくできてないみたいだから、今回はもう一つの方法になる」
「それは?」
「外部から働きかけて正常に戻す方法」
「要するに、修二君が外から私に働きかける、ってこと?」
「そういうこと!いいかい、俺を信じて拒まないで流れを感じるんだ」
「わかった」
「それじゃあ、目を閉じて、深呼吸をして」
私は言われたとおり目を閉じて深呼吸をする。

「心を落ち着かせて…ゆっくり息を吸って、吐いて、吸って…」
修二君の言葉にあわせるようにゆっくりと呼吸をする。
声にあわせて息を吸ったとたん、やわらかいものが口に触れた。
そこから、なにかが流れ込んでくる。
驚いて目を開けると驚くほど至近距離に修二君の顔。

(キス…してる!?)
そう思ったときには、修二君が離れていった。

「どう?今のでだいぶ良くなったはずだけど」
突然のことに呆然としている私に、修二君が尋ねてくる。
言われれば、確かにかなりすっきりしている。

「もしかして初めて?」
修二君がちょっと笑って言う。確かに初めてだ。けれど何も言えずに黙っていると、修二君が立ち上がる。

「そっか……俺が初めてなんだ、ありがとう愛菜ちゃん」
(何がありがとうなのかさっぱりわからないよ、それに何でそんな顔するの…?)
混乱気味の私に、修二君は胸が苦しくなるくらい綺麗に微笑んで、私に背を向けると部屋を出て行く。

(あ…これって…夢で……)
フラッシュバックする夢の記憶に慌てて追いかけようと足を踏み出しかけ、小さな金属音に足を止める。

(ここの鍵…)
落としてしまった鍵を拾い上げる。

どうしよう…
@修二君を追いかける
A職員室に鍵を返しに行く
B鍵はあとにして教室に戻る
85431:2007/06/17(日) 23:57:17 ID:???
@修二君を追いかける

軽くなった体で部屋の扉を開けると、廊下にはすでに誰もいなかった。
「修二君……」

(どうして胸の締め付けられるような微笑み方をしたの?)

口説き文句か軽口で冗談と本気の区別がつかない修二君が、あんな顔するなんて思いもしなかった。
私が今まで思っていた修二君とはあまりにかけ離れていた。

(私……修二君を誤解していた?)

軽薄でたくさんの女の子のファーストキスを奪っても何も思わないような人だと決め付けていた。
だから私がファーストキスだって事も、言い出せなかった。
もちろん驚いて何も言えなかったのもある。
でも、それだけじゃない。
恋愛に疎いと思われるのが恥ずかしかったし、逆に『ラッキー』と幸運がられるのも悲くなるだけだからだ。

だけど、あの微笑はもっと複雑で優しさに満ちていた。
それに「ありがとう」の言葉も――まるで修二君を信じ、疑わなかった事へのお礼みたいにも聞こえた。

私は自分の唇にそっと触れてみる。
力の安定化が目的だったとはいえ、キスしてしまった事実に変わりは無い。

(修二君とキスしてしまったんだ……)

予知夢通りに起こった出来事。
けれど夢ではなく、これは現実に起こった事だとようやく実感が湧いてくる。
次に会うときは、普通に接することが出来るだろうか。
まして口説き文句に対して今まで通りに軽く流せる自信もない。

(困ったな……。とても冷静ではいられないよ)

私は…
@鍵を職員室に返しに行く。
A鍵はあとにして教室に戻る。
B頭を冷やしにいく。
86432:2007/06/19(火) 21:37:04 ID:???
@鍵を職員室に返しに行く。

職員室に入ると、鍵と水野先生のブランケットを事務員の人に渡す。
(ほっ。水野先生がいなくてよかったかも)
教室に戻り、担当教科の先生に一言伝えて席に戻った。

「愛菜っ。愛菜」
つんつんと背中をつつかれ後ろを向くと、小声で香織ちゃんが話しかけてくる。
「愛菜ってばっ!」
「どうしたの? 香織ちゃん」
「あんた大丈夫なの?」

(そっか。きっと、隆から聞いたんだよね)
「うん。少し体調が悪かったけど、もう平気だよ」
そう答えながらもさっきの出来事が頭をかすめ、私はフルフルと首を振った。
(あれは治療みたいなものよ。治療、治療……)
自分に言い聞かせるように、ブツブツと呟く。

「本当に平気なの? そう見えないから心配しているんだけど。自分の顔、ちゃんと見た?」
「え?」
私は持っている手鏡で自分の顔をそっと覗き見る。
(私、顔が真っ赤だ……。)

「そこの二人、何をやっている! 私語を慎みなさい」
先生の厳しい一言に、私達は話をやめて授業に戻った。

その後もいつも通りの時間割をこなし、あっという間に放課後になった。

さて、これからどうしようかな?

@文化祭の準備をする。
A春樹とチハルが心配なので一年の教室へ向かう。
B修二君にお礼を言いに行く。
87433:2007/06/20(水) 09:58:20 ID:???
@文化祭の準備をする。

先週末も怪我で二日も準備を休んでいる。
今日こそ手伝わないとクラスのみんなに申し訳なさ過ぎる。

「香織ちゃん、今日は準備何するの?」
「愛菜、無理しなくて良いから帰ったら?」
「大丈夫、もうすっかり良いし」
私は香織ちゃんに笑ってみせる。
実際、朝とはぜんぜん違いすっきりしている。

「そう?それなら良いけど…えっと文化祭の準備、今日はこれ!」
「ダンボールに色塗ればいいのね?」
「そうそう、井戸らしくしてね?」
「井戸ね…」
ダンボールを受け取って廻りを見渡す。
みんな机や椅子を寄せてダンボールを広げて色を塗ったり、変装用の衣装を縫ったりしている。

(ていうか、場所がないんだけど…)
所狭しと広げられたダンボールで、スペースがない。
廊下も覗いてみるが、廊下にも人はあふれている。

どうしよう…
@どこか別の場所を探す
A先に他の人を手伝う
B誰かが終わるまで待つ
88434:2007/06/20(水) 23:28:53 ID:???
@どこか別の場所を探す

(そうだ。階段の踊り場だったら空いているかもしれない)

廊下を抜けた先にある階段に目を向けると、やはり誰も作業している人はいなかった。
(邪魔にならない程度のスペースを借りてもいいよね)

私はダンボールと絵の具を持って踊り場の端に陣取る。
そして、黙々と色を塗り始めた。
もともと単純な作業は嫌いじゃなかったし、なによりクラスで一つのことをするのは楽しい。
そんな事をぼんやり考えながら、手を動かし作業を進めていく。

(よし、少しは石の井戸に見えるかな?)
半分ほど塗り終えたところで、壁に立てかけて出来栄えをチェックする。
(うん、上出来かも。総プロデューサーの香織ちゃんに一度見てもらおっと)

「………それは、大きな豆腐ですか?」
突然、私の真後ろで誰かかぼそりと呟いた。振り向くと、ボーっと御門君が立っている。
「び、びっくりした。御門君、どうしたの?」
私が驚いているのを見て、御門君は「すみません」と謝った。

「これは豆腐じゃなくて、一応、石で出来た井戸を描いたつもりなんだけどな」
私は目の前の作品を指さして、説明する。
豆腐だと思われたままでは、今まで頑張った苦労が報われない。
「石……。井戸……。なるほど、説明されれば…そんな気がしてきます」
「そんな気がするだけ?」
「いえ、描いたあなたが言うのであれば、これは間違いなく井戸です」
御門君は心の目で見るように、私の絵を見据えていた。

「だけど、豆腐なんて失礼しちゃうな。一時間以上かけた私の力作なのに」
「前衛的で良いと思います……」
「それ、本当に褒めてくれているのかな?」
「はい。精一杯褒めているつもりです」

(うーん。一応気を使ってくれているみたいだけど…あまりに正直すぎて逆に身も蓋もないなぁ)

せっかくだし、何か聞こうかな?

@どこのクラスか尋ねる
A文化祭では何をするのか尋ねる
B私に何か用事があるのか尋ねる
89435:2007/06/21(木) 10:42:57 ID:???
@どこのクラスか尋ねる

「そういえば御門くんって何年何組なの?」
思いついて尋ねる。
御門くんは胸ポケットから生徒手帳を取り出すと、私に見せてくれた。
そこには3年2組と書かれている。

(御門くんて年上だったんだ…)
そういえば、ショッピングモールで周防さんもそれらしきことを言っていた。
御門くんに手帳を返して、塗りかけのダンボールを見る。

(豆腐……)
そういわれてみると、豆腐にしか見えなくなってくる。
けれどだからと言ってどうすれば井戸になるのか、といわれるとこれ以上どうしようもない気がする。

「………」
「あ…?」
ダンボールを見て悩んでいると、御門くんが私の手から絵の具を奪っていく。

「…手伝います」
「でも…御門くん、自分のクラスのほうはいいの?…って、先輩なんだから、御門先輩って呼ばなきゃだめか」
私の言葉に、御門くんはじっと私をみて不意に首を振る。

「冬馬」
「…え?」
言われた単語に、意味を図りかねて問い返す。

「あなたは、僕以外名前で呼びます」
御門くんに言われて、思い返す。

隆は幼馴染で香織ちゃんは親友だからずっとそう呼んでいた。
春樹は弟だから、当然名前。
一郎くんと修二くんは双子で苗字が同じだから自然と名前で呼んでいる。
周防さんは、苗字じゃなく名前で呼んで欲しいと最初に言われた。

(確かに言われてみれば、そうね…)
要するに、御門くんも名前で呼んで欲しいということなんだろうけど…。

どうしよう…。
@やっぱり御門くん
A冬馬くん
B冬馬先輩
90名無しって呼んでいいか?:2007/06/21(木) 22:54:25 ID:???
B冬馬先輩

 (うーん…)

せっかくの申し出なんだし、『御門くん』で通し続ける必要はない。
だからって、年上だと言う事実を知った今……『冬馬』とか『冬馬くん』って言うのは失礼な気がする。
でも『冬馬さん』って言うのは、今まで『御門くん』と読んでいたせいかかなりおかしさを感じる。

「えーと、じゃあ…………冬馬先輩、とか?」
考えた末、私はおそるおそるその呼び名を口に出してみた。

「…………」
御門くんは相変わらず無表情のまま、何も言わずに私をじっと見つめている。

(だ、ダメなのかな……)

「あの、ど、どうかな?」
不安になりながらも、再度聞き返す。

すると、御門くんが緩慢な動きで私の方へ手を伸ばす。
そしてそれは、ぽん…と私の頭の上にそっと乗せられた。

「え……」
「ありがとう、ございます」
呟くように御門くんは言う。

だけど、その表情も口調もいつもとは少し違っていた。

(……困ってる……?ううん、ちょっと違う)
本当に気をつけていなければわからない、僅かな変化。
でも、私にはなんとなく伝わってくるような気がした。

(もしかして……御門くん、照れてる、のかも?)

そんな御門くんを見て、私は…

@「もしかして、照れてる?」と聞いてみることにした
Aほほえましくなって、小さく笑ってしまった
B敬語を使ったほうがいいのかな、とふと考えてしまった
91名無しって呼んでいいか?:2007/06/22(金) 23:50:13 ID:???
今になって気が付いた。
上は436でお願いします。
92437:2007/06/23(土) 01:57:29 ID:???
Aほほえましくなって、小さく笑ってしまった

「…………」
なぜ笑っているのかわからないのか、御門君は私を見つめながら首をかしげていた。

「……改めて冬馬先輩。これからもよろしくお願いします」
私は目の前の冬馬先輩に向かって、笑いかける。

冬馬先輩は満足そうに頷くと、頭に乗せている手をゆっくり離した。

「ところで…これからは敬語を使ったほうがいいのかな?」
後輩の私がタメ口で先輩が敬語なんてなんだかあべこべだ。
だけど冬馬先輩は首を横に振って、私の提案を否定した。

「従者に対して敬語を使う必要はありません」
「え…。従者?」
「はい。僕はあなたの剣なのです」
(あ。そうだった……)
公園で冬馬先輩は私のことを『我が主と定めた人』と言って契約していた。
契約上では主従関係が成立しているのは確かだ。だけど、私としては主の自覚なんて全く無いから困ってしまう。
「そう言われても、自覚無いよ」
「契約によって定められた以上、この事実が覆ることはありません」
「私を守るために契約してもらったのに…。なんだか悪いよ」
「……悪くないです」
「でも……」
「……でもじゃないです」
「先輩と知ってしまったわけだし…」
「では忘れてください。それよりも……まずはこの井戸を一緒に仕上げましょう」
そう言いながら冬馬先輩は絵の前に立って、再び筆を持った。
(先輩が許してくれないんじゃ、仕方ないか)

相変わらず目の前には豆腐にしか見えない井戸が塗りかけのままになっている。
(冬馬先輩の言う通り、目の前の難題をどうにかしないと)

@「この豆腐、どうにかなりそう?」
A「冬馬先輩のクラスは手伝わなくて平気なの?」
B「一から作り直す?」
93438:2007/06/23(土) 12:02:12 ID:???
A「冬馬先輩のクラスは手伝わなくて平気なの?」

私が問いかけると、冬馬先輩は絵からこちらへと視線を戻す。

「はい。問題はありません」
そして頷きながらそう答えた。

「あれ?そうなの?」
あまりにあっさり肯定の言葉が返ってきたので、私は少しあっけに取られてしまう。
「はい。
3年生は、文化祭の準備・参加ともに生徒の自由ということになっていますから」
冬馬先輩の口から出た事実は、初めて聞くものだった。
私は(去年もそうだったんだっけ?)と疑問に思いつつも、質問を続ける。

「三年生は自由って、どうして?」
「この時期になると、受験や就職などで忙しい人も出てくるからそのための配慮である…とのことです」
「え?ああ、なるほど……」
その答えを聞いて、私は納得した。

(それにしても)
冬馬先輩のいつもの話し方は、まるでそれが『自分には関係していない事実』を語っているかのように聞こえた。
(冬馬先輩だって当事者のはずなんだけどなぁ……)
内心苦笑いしつつそんなことを思った。

「ですが、中には有志を募って何かの企画を実行しようという動きがいくつか出ているのも聞いています」
そこまで言い終えると冬馬先輩は再び絵に視線を戻し、やがてその絵のほうにおもむろに近づいていった。
「へぇ……そうなんだ」
私は冬馬先輩についていって、その後ろから絵を覗き込む。

「ところで、冬馬先輩は……

@その有志の企画には参加しないの?」
A受験とか就職とかは大丈夫なの?」
Bこれからこの絵をどうするつもりなの?」
94439:2007/06/23(土) 22:38:39 ID:???
@その有志の企画には参加しないの?」

他人事のように話す冬馬先輩がどうしても気になってしまう。
友達と文化祭で盛り上がる冬馬先輩の姿を想像しようとしても、すぐには思い浮かばない。

「…………」
「先輩、聞いてる?」
何も言わない冬馬先輩の背中に向かって話しかける。
「それは……僕に参加して欲しいという事ですか?」
ようやく私に向かって口を開いた先輩は、やっぱり他人事のようだった。

「そういうわけじゃないけど…。せっかくだから、文化祭を楽しんで欲しいなと思って」
「楽しむ……」
考え込むように、冬馬先輩は呟いた。
「うん。受験とか就職も大変だと思うけど、クラスのみんなで騒げるのって今しか出来ない事だしね。
私はそういう時間を大切にしたいなって思うんだ」
「…………」
「あー…。そんなに大げさじゃないんだよ。単なるお祭り好きなだけ」
そう言って、私はぺロッと舌を出しておどけてみせた。
「…………」
「とにかく! 今はこの絵を仕上げなきゃね」
冬馬先輩は相変わらず考え込むようにして、黙ったまま私を見つめ続けている。
私は座り込み、豆腐にしか見えない絵に向かって再び筆を動かし始めた。
だけど、冬馬先輩は私を見つめたまま動こうとはしない。

どれくらいの時間が経過したのかわからない。
ずっと立ち尽くしたままの冬馬先輩が私の隣に座ると、静かに話しかけてきた。

「愛菜。あなたにとって……学校とは何なのですか?」
「え?」
突然の質問に面食らってしまった。
「愛菜。答えてください……」
そう尋ねてくる冬馬先輩の顔はなぜか真剣そのものだった。

(冬馬先輩は真剣なんだ。私も真剣に答えなきゃ……)

@大切な場所
A楽しい場所
Bわからない
95440:2007/06/23(土) 23:16:19 ID:???
@大切な場所

「改めて聞かれると…でも、大切な場所、かな?」
「……」
私の答えに、冬馬先輩は無言のまま私を見つめ続ける。

「ほら、学校って色々勉強できるじゃない?
 まあ、勉強はあんまり好きじゃないけど、学校って自分がやりたいことを見つける場所だって、お父さんが言ってたんだ」
昔、私が勉強なんて面倒だなんでやらないといけないのかと言ったとき、お父さんがそういったのだ。

「いろいろなことを勉強して、自分がしたい事、できることを見つける場所なんだって。
 それはほとんどの場合、学校に通ってる間に見つかるものだって」
そのときのことを思い出しながら、私は続ける。

「それから、すてきな出会いを見つける場所でもあるって。
 私はこっちのほうが実感あるな。
 将来のことってまだ漠然としてるけど、大切な友達はたくさんできたし。
 ほら、冬馬先輩にもあえたじゃない?うん、やっぱり大切な場所だよ」
「大切な、場所……」
「冬馬先輩はそうおもわない?」
ポツリとつぶやいた冬馬先輩に、私は尋ねる。

「……そうですね、僕も愛菜に会えました」
冬馬先輩は私に頷いて………

「!!!!!」
「どうかしましたか?」
「い、今……」
「……?」
(笑った、ちょっとだけど絶対に笑った!)
ものすごく珍しいものを見た。
もう元の無表情にもどっているけれど、どことなく不思議がっている雰囲気が伝わってくる。

なんて言おう…
@「なんでもない」
A「今、笑ったよね?」
B「私に会えたことがそんなにうれしいの?」
96441:2007/06/24(日) 02:36:55 ID:???
A「今、笑ったよね?」

思わず冬馬先輩本人に確認してしまう。
「………?」
だけど冬馬先輩は私が驚いている理由について、まるでわかっていないみたいだった。

(自覚なしか…。ちょっと残念)

「でも、冬馬先輩。どうしてこんな事きくの?」
「…………」
「学校について知りたかった?」
先輩は小さく頷いた。

「そっか。実は私も学校が大切な場所って自覚できたのは最近なんだ」
「………どういう事、ですか?」
冬馬先輩は私を見つめながら尋ねてきた。

「失うかもしれないと思って、初めて気付いたんだよ」
「…………」
「本当は、今でもここに居ていいのかずっと悩んでるの。もし何か事件があれば、それは私のせいかもしれない。
友達も、勉強も、出会いも、将来の自分探しも、突然目の前から無くなってしまうかもしれないんだよ」
冬馬先輩は黙って私の話に耳を傾け続けている。
ただ頷くだけだったけれど、それが今は心強い。

「大切な友達を巻き込む可能性だってあるのは知ってる。わがままなのもわかってる。
だけど……ここが私の居場所だもん」
「…………」
「豆腐みたいな井戸しか描けないけど、これから先もここに居ていいよね?」
「……はい」
「みんなと思い出作りしても……いいんだよね?」
「……はい」

ずっと言えなかった、漠然とした不安。
それを吐き出した時、私は……

@泣いていた
Aすっきりした
B自然と笑顔になれた
97442:2007/06/25(月) 11:33:53 ID:???
B自然と笑顔になれた

「…よかった」
冬馬先輩が頷いてくれたことに、ホッとする。
このことについて、かなり不安だったけれど大丈夫だと肯定されたことにとても救われた。

「さて、それじゃあこれを何とかしないとね!」
私はすがすがしい気持ちで、ダンボールに向き直る。
気合いを入れなおして絵の具をダンボールに塗る。
冬馬先輩も頷いてダンボールに色を塗り始める。

「こんなもん?」
しばらくして完成した井戸は、冬馬先輩の助けもありさっきよりずっと井戸らしくなった。

(変な所で非常識なのに、こういうセンスはあるのね…)
「冬馬先輩、手伝ってくれてありがとうございます」
私がお礼を言うと、冬馬先輩は小さく首を振りふと階段を見上げる。
つられて階段に視線を移すが誰も居ない。
不思議に思っていると、足音が聞こえた。
誰かが降りてくるようだ。
なんとなく、冬馬先輩と階段を見上げたまま下りてくる人物を待つ。

降りてきたのは…
@修二
A近藤先生
B香織
98443:2007/06/26(火) 23:19:05 ID:???
@修二

「あ、愛菜ちゃん……と?」
修二君は私を見てにっこり笑い、それから隣の冬馬先輩に気づいて記憶を探るように首をかしげた。
心の準備もないまま修二君に会ってしまって、私は顔が赤くなるのを自覚する。
けれど修二君はそんな私の様子に気づかないまま、じっと冬馬先輩を見ている。
その顔だ段々を険しくなっていくのを見て、私は慌てる。
私が冬馬先輩を紹介しようと

「愛菜」
そんな修二君の様子を気にしているのか居ないのか、冬馬先輩は私の名前を呼ぶ。

「え?あ…なに?」
修二君を気にしながら返事をすると、冬馬先輩は持っていた筆を私に返してきた。
それからゆっくりと手を持ち上げる。
その手を視線で追うと、ぺたりと私の額に当てられとまる。

「?」
「おい!」
不思議に思う私と、鋭い修二君の声。

「愛菜、今日はちゃんと休んでください」
「え?」
「今日は夢を見ずに眠れるように、おまじないをしておきました」
「あ…」
「愛菜ちゃんから離れろ!」
私が冬馬先輩にお礼を言おうと口を開きかけたところに、階段を駆け下りて来た修二くんに腕を引かれてたたらを踏む。
驚いて振り向くと鋭い視線で冬馬先輩をにらむ修二君。
その視線を受ける冬馬先輩は相変わらずの無表情で少しの間修二君を見ていたが、すぐに興味を失ったように背を向けて修二君が来た方向とは逆に階段を居り始める。

「あ、冬馬先輩!」
とっさに呼び止めると、冬馬先輩は足を止めて振り返った。

どうしよう…
@再度手伝ってくれた御礼を言う。
A修二君を紹介する
Bやっぱりなんでもない
99444:2007/06/28(木) 00:44:53 ID:???
@再度手伝ってくれた御礼を言う。

「あの、手伝ってくれてありがとう。今日はゆっくり眠るよ」
私の言葉を聞き終えると、冬馬先輩は静かに頷く。

「ちょっと待てよ。そこのお前!」
修二君は鋭く言い放ち、私の手を離すと冬馬先輩に向かって歩き始めた。
「しゅ、修二君」

(冬馬先輩を敵視している?)

冬馬先輩は無表情のまま、階段の中ほどに立ちどまり修二君を見ていた。
「お前……やっぱり」
そう言いながら、修二君は険しい表情で冬馬先輩の前に立つ。
対峙する二人を私はただ見ていることしか出来なかった。

「やっぱり、お前はあの施設にいた化け物だよね」
「……………」
冬馬先輩は何も答えず、ただ修二君の言葉を聞いている。

「愛菜ちゃんの印を見た時からまさかとは思っていたけど……生きていたんだ」
「……………」
「巧妙に隠しても俺の目は誤魔化せないよ。どうして愛菜ちゃんと契約しているのさ?」
「……………」
冬馬先輩の表情からは何も読み取ることはできない。
いつも通り、感情の乏しい視線を向けるだけだった。

「化け物だから話もできないの?」
「……………」
「冬馬、なんて立派な名前があるんだね。驚いたよ」
「……………」
「話せるならちゃんと答えなよ、コードNO.673。いや…今は冬馬先輩といった方がよかったのかな?」

修二君は挑発するように、冷たく笑った。

冬馬先輩は表情を変えず修二君に向き直ると、ゆっくりと口を開く。

「ではこちらからも問おう、コードNO.711。君こそ何が目的なんだ」

(二人の関係は、一体、なに? それにコードNO.711って…まさか修二君のこと?)

私は…
@黙って様子を見る
A修二君に尋ねる
B冬馬先輩に尋ねる
100445:2007/06/28(木) 10:05:03 ID:???
@黙って様子を見る

「そんな番号で呼ばないでくれる?俺には修二って名前があるんだよ」
修二くんは心底不快だというように、思い切り顔をしかめる。

「それに俺は…俺たちはアンタと違う。
 最初から番号で呼ばれてたアンタと、名前があるのにあいつらに勝手に番号つけられた俺たちじゃ最初から相容れない存在だよ」
フンと、鼻で嗤い修二くんはヒラヒラと手を振る。

「俺の目的?そんなの決まってる。平穏な日常。これが俺が望むことさ。
 組織のちょっかいのおかげですっかり平穏から遠い生活送らせてもらってるからねえ?」
修二くんは、あーいやだいやだ、と再度顔をしかめた。
それでもだんだん、修二くんはいつもの軽い雰囲気に戻っていく。

「出来れば組織の目的、教えてくれるとうれしいんだけどね?冬馬先輩。
 まったく、人のこと利用しようとするだけして、なーんにも教えてくれないんだもんねぇ。
 そんな奴らに俺たちが協力できるとでも思ってるの?」
まあ簡単に教えてくれるならこっちも苦労しないけどね、と修二くんはそのことについては答えをまったく期待していないようで肩をすくめる。

「で?俺の目的は言ったよ?今度はアンタが答える番だよ。冬馬先輩?」
「………」
「俺だけに言わせるだけ言って、自分はだんまりなわけ?」
「…約束をした」
「は?」
「あの人と約束をした」
「…それじゃ訳解らないよ?あの人って誰よ?ふざけてるの?」
修二くんの表情が再度険しくなっていく。

(あぁ、修二くん…冬馬先輩はそういう人なんだってば…)
必要最低限のことしか答えないのは、誰にでも同じことだ。
けれど修二くんには、冬馬先輩が答えをはぐらかしているように聞こえるのだろう。

どうしよう…?
@成り行きを見守る
A修二くんにお母さんのことを説明する
B二人の言い合いを止める
101446:2007/06/28(木) 21:45:44 ID:???
B二人の言い合いを止める

「あ、あの…あのね、ちょっと聞いて」
私は二人の間に割って入ろうと、口を出した。

「愛菜ちゃん。悪いんだけど、大切な話をしてるから少し黙っててくれるかな?」
「で、でも……」
「今度ちゃんと聞くからさ」
言い方こそ穏やかだったけれど、有無を言わせない修二君の口調に思わず口をつぐんでしまった。
そんな私を見て、修二君は再び冬馬先輩に向き直る。

「約束って何なのさ? 組織の犬なんだろ、アンタ」
「違う。約束を果たすために、愛菜を守る。そのために…僕はいる」
「じゃあ、冬馬先輩は『あの人』ってやつの犬なんだ。あいかわらず、自分の意思ってものが希薄なんだね」
「………反論はしない」
冬馬先輩は感情の無い言葉で答える。

「はははっ、素直に認めてるし。本当に昔から人形みたいで気持ち悪いよ」
修二君はつまらなさそうに笑った後、苦々しく冬馬先輩を見据えた。

「『あの人』って人物も組織みたいにアンタの化け物じみた力を利用してるんだけだろうさ。きっと、陰で高笑いしてるよ?」
「あの人はそんなことはしない」
「どうだろうね。もしかしたら、裏切られているかもしれないよ」
「あり得ない」
「すごい執着だね、怖いなぁ」
修二君は両腕を抱え込み、おおげさに震えてみせた。

「…………もしこれ以上あの人を侮辱するなら、容赦はしない」
冬馬先輩にしては珍しく、感情を込めて言い放つ。
「おお、怖い怖い。まあいいさ。犬に文句言っても始まらないし」
「…………」
「冬馬先輩。俺たちは組織に協力するつもりは無いから、それだけ伝えておいて。利用されるのは御免だってね」

そう言うと、修二君は階段を素早く下っていった。
冬馬先輩も私をジッと見つめた後、きびすを返し何も言わずに去っていく。

私は…
@修二君を追う
A冬馬先輩を追う
B考える
102447:2007/06/28(木) 23:02:06 ID:???
B考える

(あ……)
呆然としたまま、二人を見送っていた私はふと我に返った。
目の前には冬馬先輩が手伝ってくれたダンボールの井戸。

「作業、終わってたんだよね……」
井戸が描かれたダンボールを抱え教室へとゆっくりと歩いていく。

(冬馬先輩……修二君……)
井戸の絵が私の視界をちらつく度に、冬馬先輩が手伝ってくれたときのことを思い出す。
……そして、その後の二人のやり取りのことも。

(冬馬先輩、大丈夫かな。
……修二君もあそこまで酷く言うことないのに)
終始、冬馬先輩に対し何か異質のものを見るような拒絶的な態度を取っていた修二君。
それは、いつもの私への態度や一郎君への態度、春樹に話をしていたときの態度―――そのどれとも違い、そして私が見てきた中では最も険しく棘のある態度だった。

おそらくだけど……修二君は冬馬先輩の過去のことを知っているのだろう。
もしかしたら、その中にあそこまで否定するに至る何かがあったのかもしれない。

(でも、それでも)
修二君がその事実を全てにして……”今ここにいる”冬馬先輩を否定するかのような態度を取ったことが、私は悲しかった。

―――だってきっと修二君は知らないよね?
今の冬馬先輩のことを。
どんなことを考えているかとか、どんな風に話をするとか、癖とか、たまにわずかに感情が動くこととか。

(私だって、全部知っているわけじゃない。でも)
信じたい。今いる冬馬先輩のことを。
……そして、修二君のことも。



(香織は……)
戻ってきた教室で私は指示を出した親友の姿を探す。
けれど、見渡す限りその姿はどこにも見当たらない。

(あれ?どこいったんだろう?しかたないなぁ……)
私は近くにクラスメイトに井戸の絵が描かれたダンボールを渡し、今日は帰るということを伝える。

「気をつけてねー」
気遣うようなクラスメイトの声を背に、私はその場を後にした。

(さて、これからどうしようかな?)

二人を探したほうがいいのだろうか?
それとも……

@今いる教室棟を回ってみる
A特別教室棟に行ってみる
B校舎外に出てみる
103448:2007/06/29(金) 13:14:00 ID:???
A特別教室棟に行ってみる

(そういえば放送委員のほうはどうなってるかな…)
先週大まかな打ち合わせは終わったけれど、細かい所をつめる作業が残っている。

(もしかして一郎くん全部一人でやってるんじゃ…?)
なまじ何でも出来てしまうから、一郎くんは一人で抱え込んでしまう。
心配になって、私は放送室へ足を向けた。
放送室のドアノブを回すと、案の定鍵はかかっていなくて、すんなり開く。

「大堂か、どうした?」
「お、愛菜ちゃん」
中を覗くと、一郎くんだけじゃなく修二くんも居た。
きっと修二くんは冬馬先輩のことを一郎くんに話に来たんだろう。
二人そろっているなら、冬馬先輩の事を説明するいい機会だ。

「あのね修二くん…、さっき冬馬先輩が言ってた”あの人”の事なんだけど…」
「ああ、さっきのお人形さんの話?」
「もう、そんな言い方しないで!それに、後でちゃんと話を聞いてくれるって行ったわよね?」
「ん?あー…、確かにいったかな?」
「じゃあ、聞いて。冬馬先輩が言ってたあの人っていうのは、私のお母さんのことよ…お母さんのことあんな風に悪く言わないで……」
「愛菜ちゃんの、お母さん…?」
修二くんは私の言葉にパチパチと瞬きをする。

「どういうことだ?大堂?」
首を傾げる修二くんの疑問を引き継いで一郎くんが尋ねてくる。
私は二人に、10年前に何も言わずに居なくなったお母さんのことをかいつまんで説明した。

「…ということは、昨日俺が会った人は、二人目の母親なのか」
「うん…」
「でもなんで愛菜ちゃんの本当のお母さんは、愛菜ちゃんを残してあの化けもの…じゃない、冬馬先輩の所へ行ったんだろ?」
「わかんない…何も言わずに居なくなっちゃったから…」
お母さんが組織の人間だったのか、それとも組織と対立していたのか…何も分からないのだ。
何も言わずに居なくなったお母さん。冬馬先輩を引き取り、名前をつけて、力の使い方を教えた。

「愛菜ちゃん、ごめんな?」
しんみりした雰囲気になった私に、修二くんが言う。

「え?」
「知らなかったとはいえ、愛菜ちゃんのお母さんのこと、かなり悪くいっちゃたし…」
私は修二くんに首を振って、もう気にしていないことを伝える。

「だが、冬馬先輩が嘘を言っている可能性というのはないのか?」
そのとき一郎くんが、静かに言ってきた。
冬馬先輩が嘘をつく所なんて想像がつかない…。

私は…
@「冬馬先輩は、本当のことしか言わないよ」
A「隠し事はするけど、嘘はつかないよ」
B「…………」
104449:2007/06/29(金) 23:19:14 ID:???
A「隠し事はするけど、嘘はつかないよ」

「大堂。証拠でも見たのか?」
「ロケットの写真を確認しているし、間違いないと思う」
「ロケット?何、なんのこと?」
修二君は興味深そうに尋ねてくる。

「えっと…いつも冬馬先輩はロケットを肌身離さず持っているんだけど、それを以前見せてもらったの。お母さんと子供の頃の冬馬先輩が写っていたんだ」

確かに、ロケットにはお母さんが写っていた。
見間違えたりするはずは無い。

「では、本当に大堂の母親こそが”あの人”で間違いないということだな」
「そうだと思う。守るように頼まれたから、私と契約してくれたんだよ」
「そうか…」
そう言って、一郎君は考え込んだ。
目を瞑ってひたすら考え込む一郎君を、修二君と私で辛抱強く見守った。

(一郎君は何を考え込んでいるのかな?)

しばらく身動き一つしないで考え込んでいたが、ようやく一郎君はゆっくり口を開いた。

「ところで……修二」
「ん? どうしたの兄貴」
「クラスでの文化祭の準備はちゃんと手伝ってきたのか?」
一郎君はじろりと修二君を睨みつける。
それを見て、修二君はバツが悪そうに鼻の頭を掻いた。

「あー…。えーっと、それは……」
「まさか、また逃げ出してきたんじゃないだろうな」
「逃げ出すって失礼だなぁ。他のクラスの偵察をしてたんだよ」
「お前は委員会の仕事があるわけではない。今は部活動も制限されている。となれば、やる事は一つだろう」
「なんだよ〜。今は愛菜ちゃんと大切な話してるのにさ」
「やるべき事をやり終えてから、ゆっくり話せば済むことだ」
「ちぇっ、わーった。わかったよ。行ってくればいいんだろ」

修二君はブツブツと文句を言いながら放送室を出て行った。

「ようやく出て行ったか…。大堂、修二のことで何か聞きたそうな顔をしているように見えるが、俺の気のせいではあるまい」
「え、…うん。よくわかったね」
「俺のわかる範囲でなら、答えよう」
一郎君は改めて私に向き直ると、腕を組みながら言った。

何を聞こうかな?
@修二君と施設について。
A修二君と冬馬先輩の関係について。
B修二君と一郎君のちからについて。
105450:2007/06/30(土) 09:14:38 ID:???
A修二君と冬馬先輩の関係について。

「修二くんと冬馬先輩、お互いを知っているみたいだったから、気になって…」
それに、二人とも番号で呼び合っていた…。

「二人の関係か。まあ俺も含めて、簡単に言えば顔見知り、だろうな。今まで直接話しをしたことはない」
一郎くんは言いながら、作業の途中だったらしいノートをまとめ始める。

「顔見知りっていうには、修二くんは敵意むき出しだったんだけど…?」
「それはそうだろうな、君が冬馬先輩と呼ぶ人物は、俺たちから見れば規格外だ」
「規格外?」
「俺たちは力の有無を見分ける力に特化しているが、その俺たちが始めて恐ろしいと感じた人間だ。自然と警戒する」
「そんなに、冬馬先輩って力が強いの…?」
「強い、なんて次元じゃないな。何で彼のような人間が存在できているのか不思議だ。だが…」
ふと、一郎くんはそこで言葉を切り私を見て、再度ノートに視線を落とす。

「君を守る力を見る限り、彼は以前とは変わったようだ。力もうまく押えられるようになったようだし」
私はそこでふと、疑問をおぼえた。

それは…
@一郎くん達が初めて冬馬先輩を見たのはいつか
A一郎くん達は研究所に主流と反主流があることを知っているのか
B研究所はどうして一郎くん達の力を知ったのか
106451:2007/06/30(土) 16:10:16 ID:???
@一郎くん達が初めて冬馬先輩を見たのはいつか

「一郎君、冬馬先輩の知り合ったのはいつなの?」
私は頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出した。

「まずは……経緯から話さなければならないな。俺達は小学1年から3年生の間、ある施設に入っていた」
「それって、まさか高村の施設のこと?」
「よく知っているな、大堂。俺達は両親の薦めで一時施設に預けられたんだ」

「え?でも、一郎君たちのご両親が…なぜ……」
「普通の人々に見えないものまで見えてしまう俺達の力を両親は恐れていた。
物心ついたときから、人々の気が見えていたからな。人の気というのは、言い換えれば生命力だ。
幼い俺達は、気軽に人の死期を言い当てていた。ゲーム感覚でな」

死期をズバリ言い当ててしまう子供達が居たら……自分の子供でも怖いと思ってしまうかもしれない。
もしも治せるものなら治して、普通になって欲しいと願うだろう。

「人の死期だけじゃない。力そのものも、何も考えずに使っていた。例えば――こんな風に」

そう言うと、両腕を組みゆっくり目を閉じる。
次の瞬間、目の前にあるノートがペラペラと音を立てながら凄い勢いでめくられていった。

「きゃっ!」
「驚かせてすまない」
「ううん……ちょっとびっくりしただけだから、気にしないで」
私の言葉に黙って頷くと、一郎君は話を再開する。

「触れていないのに動かせる、見えないものが見える子供。だから両親は俺達を隠すように育てていた。
そして、小学校入学と同時に、施設へと預けられたんだ」
「そこで冬馬先輩と知り合ったんだ?」
「そうだ。当時、冬馬先輩は隔離棟に入っていた。そこは力を制御できず、危険と判断されたもののみが入れられる場所だった。
最初に彼を見かけた時、蝋人形のように動かなかったのをよく覚えている」
「で、でも……以前先輩は誰にも会うことの無い場所だって言っていたよ」

確か、冬馬先輩は『何も無い、誰も来ない、死なないように管理』する場所と表現していた。

「俺たちは能力を買われ、特別に接触できたんだ。各個人の力の数値化と適正化が施設の目的だったようだ。
施設側は能力の有無に関して、ある程度は確認できるようだったが、大きさや適正までは判断できなかったらしい」
「じゃあ、施設にいる能力者を大勢見てきたってこと?」
「そういうことだ」

新しい事実がわかった。だけど、また新しい謎が出てくる。
次は何を尋ねようか?

@どうやって施設から戻れたの?
A一郎くん達は研究所に主流と反主流があることを知っているのか
B武くんって知ってる?
107452:2007/07/02(月) 13:22:20 ID:???
A一郎くん達は研究所に主流と反主流があることを知っているのか

「……大きな組織ほど一枚岩とは言えないだろうな」
一郎くんは私の疑問に、何か考え込むように空を見つめる。
その様子から、主流反主流の情報を知らなかったのだと思う。

「大堂はなぜ主流と反主流の存在を知ったんだ?」
一郎くんの疑問に、私は答えてもいいものかと一瞬迷い、結局話すことにする。

「冬馬先輩が教えてくれたの。冬馬先輩は反主流の人が掛け合ってくれて、研究所からでることができたって。先輩も後で母から聞いた話みたいだけど」
周防さんの名前は出さずに、冬馬先輩から聞いた話をそのまま伝える。

「今、表立って私に接触しようとしてるのは、主流派だっていうのも聞いたわ」
「なるほど…組織の主流ということは、組織の中での大多数ということになるが、反主流も黙ってはいないということか…」
「え?」
何かを納得したような一郎くんのつぶやきに私が疑問の声を上げると、一郎くんは昨日の話をする。

「昨日、公園で男が力場を消そうとしていたと言っただろう。おそらく彼は反主流派だ」
「………」
一郎くんの頭の回転の速さに私は口をつぐむ。

「それに主流派が大堂に接触を試みているというのなら、反主流派も主流派とは別に接触してくる可能性もあるな。いや、もうしているのか?」
そう言って、じっと私を見る一郎くん。

私は…
@「うん、実は……」
A「冬馬先輩は反主流じゃないの?」
B「………そう、なのかな?」
108453:2007/07/03(火) 01:43:29 ID:???
@「うん、実は……」

「どうした? 大堂」

「実は、その反主流の人と冬馬先輩とで日曜日に会っていたんだよね」
「日曜……まさか、あのショッピングモールの公園か?」
「うん」
「なんて無謀な真似を…」
「せ、接触なんて大げさな感じじゃないんだけどね。もっと気軽っていうか」
「何か聞かれたのか? 何にもされなかったのか?」
一郎君は身を乗り出すようにして尋ねてきた。

「何も考えるなって言われたよ。何かされたといえば…よく頭を触られたかな」
「頭に触れる、か。一体、何が目的なんだろうか……」

反主流派の意図が掴めないという様に、一郎君は考え込んでしまった。

「あー…。一郎君が思っているような接触じゃないから、安心して。ただ気晴らしに連れてってもらったんだ」
私は首をすくめながら、一郎君をに説明する。

「気晴らし? 君のか?」
「うん。ショッピングして昼食をごちそうになったよ」
「意味がわからないな」
「一郎君が考えているような、深い意味は無いと思う。私が疲れた顔をしていたから、心配してくれただけなの」
「心配…? その反主流を名乗る人物が?」
「うん。とてもいい人だよ」
「そうか…。とにかく、大堂に何事もなかったのなら何よりだ」
安心したように座っている椅子の背もたれに深く座りなおし、一郎君は言葉を続けた。

「……今の話で、いくつかわかったことがあるな」
「え? 何がわかったの?」
「主流が力場を作ったのは、君を狙う目的と、反主流への制裁を兼ねている可能性が高いという事だ。
それと、力場を二箇所に分けたのは俺と修二を分けるためではなく、冬馬先輩とその反主流の人物を分断させる必要があったのだろうな。
大きな力場にしなければならない事からも、主流派は冬馬先輩とその反主流の人物の力を相当恐れているようだ」
「さすが一郎くん。冷静な分析だね」
「あくまで仮定だ」
そう言って、一郎君は再び委員会の作業に戻った。

(どうしようかな。一郎くんに周防さんの名前を教えようかな)

@教える
A教えない
B考える
109454:2007/07/03(火) 11:41:59 ID:???
@教える

(一郎君は敵じゃないみたいだし、話も冷静に聞いてくれてる。
……教えてもいいんじゃないかな?)
そう思い、私は口を開く。

「その人……高村周防さんって言うんだよ。
もしかしたら、一郎君も名前を聞いたことがあるかもしれないね」

「高村、周防……?」
私の言葉に、一郎君が顔を上げる。

「彼が、高村周防、だと?」
一郎君は、反芻するように再び周防さんの名前を呟いた。

表情がだんだんと難しいことを考えているような……何かを訝しむような物に変わっていく。
「大堂」
一郎君が私の肩にゆっくりと手を置いた。

「君が昨日共に出かけ、俺が公園で見かけたその彼……反主流の男が、そう名乗ったのか?」
私をじっと見つめて、確認するように問いかけてくる。

「う、うん」
一郎君の様子に気圧されながらも、首を縦に振って答えを返した。
「……そう、か」
その答えを聞くと、私からわずかに目をそらす。

「あれが、高村周防……?……だが、彼は確か……」
そして何かを思案しているのか、何事かを呟きはじめる。

(……何?一郎君のこの反応は何なの?周防さんに何かあるの?)

@「一郎君、大丈夫?どうかしたの?」
A「周防さんに何かおかしいことでもあるの?」
B「高村の施設で会ったり見かけたりしたことはないの?」
110455:2007/07/03(火) 13:39:29 ID:???
@「一郎君、大丈夫?どうかしたの?」

私の声に、一郎君は弾かれたように肩から手を離した。視線がぶつかって一瞬目を見開くと、一郎君はそのまま目を伏せる。

「一郎君?」
「いや、すまない。気にしないでくれ……たいした事じゃない」
短くそう言って、一郎君は窓辺に立った。見るともなしにどこか、遠い所を眺めているように見えた。

(一郎君はたいした事じゃないって言ってるけど……)
私に向けられた背中を見ながら思う。きっと一郎君は私がまだ知らない周防さんの何かに思い当たったのだ。けれど。たいした事じゃないと口をつぐむところをみると、それを私に話すつもりはないということなのだろう。

「……わかったよ。聞かない方が良いんだね?」
質問というよりは確認するようにそう声をかけると、一郎君は肯定も否定もせずに室内の方へ向き直った。
「今日はどうしたんだ、大堂。何か用事があって来たんだろう」

なんて答えよう?

@「何って、一郎君の手伝いに来たんだよ。何か手伝うことない?」
A「文化祭の準備の様子を見に来たの。後ちょっと、頑張ってね」
B「特に用事って訳じゃあないんだけど……」
111名無しって呼んでいいか?:2007/07/03(火) 13:59:29 ID:???
@「何って、一郎君の手伝いに来たんだよ。何か手伝うことない?」

「そうか、だがもう今日やろうと思っていたことはもう終わるから遅くならないうちに…」
一郎くんはふと、そこで言葉をとめる。

「いや、これに目を通してもらってもいいか?」
そう言って、さっきまで書いていたノートを渡される。

「一応前回の文化祭を参考に細かい所をまとめたんだが、気がついたことがあれば何でも言ってくれ」
「うん……って、これ一人で全部…?」
ノートを開くと、前回の委員会で決まった大まかな進行のほかに、体育館で行われるイベントの細かい進行方法までまとめられている。

「まだ放送器具の細かいセッティングなんかは決まっていないからそんなに大変じゃない。文化祭前日が一番忙しくなるだろう」
一郎くんはなんでもないことのように言うが、やっぱりすごい。

「うん、だいたい大丈夫だと思うよ。でも、ここ、体育館の吹奏楽部の演奏、時間もう少し余裕見たほうが良いんじゃないかな?吹奏楽部は人数多いし…」
「そうか、確かに人数が多くなればその分、舞台のセッティングが遅れ気味になるかもしれないか…」
「吹奏楽部も毎年のことだから、大丈夫だとは思うけど一応ね」
「だが、大堂の言うとおり万が一ということもある。君の言う通り少し余裕をもたせよう」
そう言って、一郎くんは手早くノートを修正する。

「さて、今日の所はもう良いだろう。大堂送っていこう」
「え?」
「もう外も大分暗くなってきたし、君は一人で行動しないほうがいい」

一郎くんの言葉に私は…
@「うん、ありがとう」
A「一人で大丈夫だよ」
B「でも、一郎くん遠回りになるんじゃない?」
112名無しって呼んでいいか?:2007/07/03(火) 14:00:11 ID:???
↑456です、スマソorz
113457:2007/07/04(水) 21:51:24 ID:???
A「一人で大丈夫だよ」

私は鞄を持ちながら、立ち上がった。

「本当に一人で大丈夫なのか?」
「うん、平気。ありがとう」

帰ろうとして放送室を出て行く私に、突然「大堂」と一郎君に呼び止められた。
私は、扉の前で修二君に向き直る。

「どうしたの?」
「……最後に、少し尋ねてもいいだろうか」
一郎君の発する声色にどこか迷いが混じっているように聞こえた。

「うん。どうしたの?」
「その…修二の事なんだが」
「修二君がどうかしたのかな。私の知っていることなら答えるけど…」
「正直、尋ね辛いことなのだが、気分を害さず聞いてもらえると嬉しい」

一郎君にしては珍しく、遠まわしな言い方に違和感を覚えた。

「うん。何、どうしたの?」
「君は……その、なんだ。それは…」
一郎君は、しどろもどろになりながら話し出す。

「??」
「……君の気に修二の気が少量だが、混在しているのが見えるんだ」
「気?」
「その、…。それは……君も同意の上だったのか?」
「私の同意? 何の?」
意味がわからなくて、私は思わず首をかしげてしまう。

「あ……いや、やはり何でもない」
一郎君は我に返るように呟くと、私から視線を外した。

(一郎君どうしたんだろう?)

@そのまま一人で帰る
A一郎君を問い詰める
Bやっぱり一緒に帰ってもらう
114458:2007/07/05(木) 10:43:04 ID:???
A一郎君を問い詰める

いつもの一郎くんらしくない。

「どうしたの?なんかすごく中途半端で逆に気になるんだけど…?」
「あー……」
一郎くんが迷うように視線をさまよわせる。
やっぱり一郎くんらしくない。
とりあえず、疑問点を質問することにする。

「ところで、気ってなに?」
「え?ああ…、この世のすべてのエネルギーのことだ。今回俺が言ってるのは生体エネルギーのことで…オーラと呼ぶ人も居るな」
「生体エネルギー?オーラ?」
「血液みたいなものだ。普通の人には見えないが」
「それじゃあ、誰にでもあるものなのね」
「そうだ。テレビなんかで気孔治療という言葉を聴いたことがないか?あれは滞った生体エネルギーを正常にする為の治療だ」
一郎君の説明に、以前そういう特集番組を見たことを思い出す。

「あー、見たことあるかも……で、その私の気に、修二くんの気がまじっ…て………る?」
確認するように言葉にして、ふと午前中の出来事を思い出し、思わず口に手を当てる。きっと顔は真っ赤になっているだろう。

(一郎くんがいってた合意って、もしかして…キ、キスに合意があったのかってこと、よね……)
うろたえまくる私に、一郎くんが少し顔をしかめる。

「合意はなかったのか…?」
「あ、あの、合意というか…」
不安定になっている力を正常にしてあげるといわれて頷いた。ある意味、合意したとも言える。

「方法は聞かなかったけど…」
しどろもどろになる私に、一郎くんはだんだん怖い顔になっていく。

「修二、あいつ…!」
ガタンと椅子を鳴らして勢いよく立上り、今にも飛び出していきそうな勢いだ。

私は…
@一郎くんを止める
A一郎くんを止めない
B一緒についていく
115459:2007/07/06(金) 00:05:19 ID:???
@一郎くんを止める

「ちょ、ちょっと待ってよ。一郎君」
出て行こうとする一郎君の前に私は立ちふさがった。

「あいつに一言いわなければならない。止めるな大堂」
私に向けられた視線は驚くほど鋭かった。
扉の前で私達は向き合う。

「と、止めるよ! だって、修二君は何も悪くないんだよ」
「だが、常識的に考えれば、相手に確認を求めるのは道理だろう。それでも修二は悪くないと言うのか?!」

確かに、不意のキスで本当に驚いた。
でも悪意や下心があったとはどうしても思えなかった。

「驚いたけど…。すごくびっくりしたけど…修二君はとても優しかったよ!」

私の言葉で一郎君が息を呑んだ。

「大堂……」
「お願い、修二君には何も言わないで」
「君は修二の無神経さに腹が立たないのか?」
「たたないよ。私のためにしてくれたんだから」
「納得できないな……なぜそこまで修二をかばう」
「かばっているわけじゃないよ。一体、どうすれば納得してもらえるの?」

一郎君は不機嫌な顔で私の前に立ちはだかる。
そして、ガタッと背中越しの扉が揺れると同時に、一郎君の両手が私の逃げ道を奪った。

(い、一郎……くん?)

「くそっ! なぜ、こんなにも腹立たしいんだ」
吐き捨てるように一郎君は呟くと、私をじっと見据えた。

私は……
@逃げる
A見守る
B触れる
116460:2007/07/06(金) 13:23:50 ID:???
A見守る

一郎くんの顔は不機嫌なものから苦しいものへと変わっていく。
私はそんな一郎くんにかける言葉が見つからず、ただじっと一郎くんを見た。

「…俺は」
ポツリと一郎くんが言葉を発したが次の言葉は続かない。
一郎くんは苦悩する顔のまま上体を倒してきた。
さらりと一郎くんの髪が頬をかすめ、コトンと私の肩に一郎君の頭の重みがかかる。

「俺は修二のように強くなれない。弱くて臆病者だ」
顔は見えないが、苦々しい口調で一郎くんがポツリとつぶやく。

「修二は光だ。みんな修二に惹かれずには居られない。君だってそうだろう?それに比べて俺は…」
確かに明るい修二くんは皆の人気者で、つい目を奪われるような華がある。
でも、だからと言って一郎くんにそういう部分がまったくないかといえば、そんな事はない。

「…一郎くんも強いよ?優しいし」
少なくとも私はいい意味で、一郎くんと修二くんは対だとおもう。
自分の思うがままに前に進む修二君。
それは確かに皆を引っ張っていく力になるけれど、時に強引すぎて回りの意向を無視したものになる。
逆に皆の意思を尊重してまとめていく一郎君。
秘密主義で廻りから認められ難く、前に進むのには時間がかかるかもしれないけれど、いざというときには力を発揮する。
強さの方向は違うけれど、一郎くんが弱いとは思えない。
現に、修二くんのほうは素直に一郎くんのことを認めているように思えるし、自分にないものを埋める存在として何かと頼りにしているようでもあった。

私は…
@一郎くんのいいところを言う
A修二くんも一郎くんを頼りにしていると言う
B何も言わない
117461:2007/07/06(金) 23:08:17 ID:???
@一郎くんのいいところを言う

肩越しに、一郎君くんの息遣いまで聞こえてくる。
これほどの至近距離なのに、なぜかとても冷静な自分がいることに気付く。

「臆病の何が悪いの? 人の痛みを知っているから、臆病になってしまうんだよ。
一郎くんは人の話を真剣に聞いて、ちゃんと汲み取ってくれる優しさがあるじゃない。
あまり感情を表に出さないから誤解されてしまう事もあるけど、一郎くんの優しさをわかっている人だってちゃんといるよ。
それは、決して弱さなんかじゃないよ」

私の言葉を聞いて、一郎くんがゆっくり顔を上げる。
その瞳はまるで迷子のように寂しそうだった。

「大堂……」
「実は私もね、最初は一郎くんが完璧すぎて少し怖かったんだ。
でも放送委員で一緒にやっていく内に、一郎くんのさりげない気遣いや思いやりに気付けたんだよ。
私でも気付けたのに、一番身近にいる修二くんが気付いていないはず無いよ」

「やめてくれ。君は……俺を買いかぶり過ぎている」

一郎くんは扉につけたままの手をギュッと握り締め、拳を固めた。

「どうして自分自身を嫌うの? そんなの駄目だよ」
「修二に比べると、やはり俺は弱い。君が言う気遣いも、相手から嫌われないための処世術に過ぎない。
俺は絶えず何かに怯えている。見捨てられないように……」
一郎くんはとても苦しそうに顔をしかめた。

「見捨てる? 誰も一郎くんを見捨てたりしないよ」
「わかっている…。わかっているが、どうしようもなく孤独に苛まれてしまう時があるんだ。
気丈に振舞ってみても……自分の弱さを抑えられなくなる」
さっきと同じ、迷子の瞳が私に向けられる。

(もしかしたら……、一郎くんは……昔の私?)

お母さんが居なくなってから、ずっと私も怯えていた。
私のことが嫌いになったから、お母さんは出て行ったんだと自分を責め続けていた。
一郎君も力のせいで、幼い頃に施設に預けられていた。
親に見捨てられたと思い込んでしまうことで、トラウマとして今も一郎くんを苦しめているのかもしれない。

私は…
@私も同じだと言う
A黙って微笑む
B抱きしめる
118462:2007/07/07(土) 13:14:38 ID:???
A黙って微笑む

けれどこれは自分で乗り越えるしかないことだ。
理性で孤独ではないとわかっていても、感情が暴走する事だって確かにある。
私が心の底から、自分は孤独じゃないって実感できたように、一郎君だってそうできるはずだ。
私には、幼馴染の隆がそばに居て、その後は弟になった春樹がどうしようもない不安を取り除いてくれた。

一郎君にもずっとそばに修二君がいたのだ。
いや、もしかしたら修二君ではダメなのかもしれない。
一郎君は自分と修二君を比べて劣等感を抱いているから。

「それじゃあ、孤独でどうしようもなくなったら、私に連絡頂戴?」
「大堂…?」
「私だって一郎君の話を聞く位はできるんだよ。あ、あんまり高尚な話だと理解できないけどさ」
不思議そうな顔になった一郎君に、説明する。

「ほら、会話って相手が居ないとできないでしょ?相手が居るって事は孤独じゃないって事だし…ね?」
私の言葉に一郎君は驚いた顔になり、それから泣きそうな顔でわらった。

「大堂はすごいな」
一郎君は目を伏せ、次に目を開けたときにはいつもの一郎君だった。
ゆっくりと体を起こし私を解放する。

「すまなかった、ありがとう」
一郎君は少し恥ずかしそうにうつむいて笑うと、くるりと私に背をむけ今まで作業していた机を片付け始める。

私は…
@先に帰る
Aこのまま一郎君を待つ
B何か話す
119名無しって呼んでいいか?:2007/07/08(日) 17:50:00 ID:???
B何か話す

「「あの……」」

ほぼ同時に私たちは声を掛け合ってしまった。
その後、なんとも言えない沈黙が私たちの間に流れる。

「な、何かな…一郎くん」
「大堂こそ、俺に何か言おうとしていただろう…」

「あー…、べつにたいした事じゃないの。「また明日」って言おうとしただけだから」

(私、一郎君にすごく偉そうなこと言っちゃったような気がするよ……)
なぜか今頃になって気恥ずかしさが、こみ上げてくる。
一郎君の姿をまともに見ることが出来ない。

「一郎君はどうしたの? 私に言いたいことがあるんだよね」
誤魔化すように、一郎君に向かって尋ねた。

「俺もたいした事じゃない。ただ……さっきの話はその…修二には秘密にして欲しいんだ」

私に背を向けたまま片付けを続けているせいで、一郎君がどんな顔をしているのか判らない。
ただ口調から気まずいのは一郎君も同じなのかな、と感じた。

「どうして?」
「修二に劣等感を抱いている事を知られたくないんだ」
「いいけど……。修二君に素直な気持ちを言った方がすっきりするんじゃない?」
「駄目だ。君には分らないかもしれないが、男兄弟というのは自分の弱みはみせたくないものなんだ」

一郎君は鞄を持って、私の方に向き直った。
一見、いつもどおりに見えるけど、一郎君の顔が少し顔が赤いような気もする。

「そういうものなの?」
「そういうものだ」

有無を言わせない口調で一郎君は言い切った。

私は…
@「でも、それならどうして私には言ってくれたの?」
A「うん、わかったよ」
B「じゃあ、春樹も私に弱みをみせたくないのかな…」
120名無しって呼んでいいか?:2007/07/08(日) 17:50:43 ID:???
↑463です
121464:2007/07/09(月) 04:23:56 ID:???
A「うん、わかったよ」

私が素直に頷くと、一郎君はほっとしたような表情を見せた。
「ありがとう、そうしてくれると助かる」
一郎君は空いている方の手に放送室の鍵を持って扉を開けた。促されるように私も廊下へ出る。
(なりゆきだけど一緒になっちゃったし、先に帰っちゃうのもヘンだよね)
結局、戸締りをした後鍵を返しに職員室に向かう一郎君についてゆくことにした。

「兄弟がいるって、どんなかんじ?」
放課後の廊下を並んで歩きながら、ふと思いついた事を一郎くんに尋ねてみる。
「……どうした、急に。大堂にも弟くんがいるだろう」
「うん、そうなんだけどね。えっと、春樹は男の子でしょ?それに私よりも大人だしあんまり兄弟ってかんじじゃないから」
「歳の近い姉か妹が欲しかった、と。そういう事か?」
そう言って一郎君はほんの少し表情を崩した。

「あ、一郎くん今子供っぽいって思ったでしょう」
「いや。……そうだな。数回話しただけだが、弟くんは君よりも大分大人びた印象を受ける」
「春樹の方がしっかりしてるって、みんなそう言うよ……」
うなだれる私の隣りでなんでもないように一郎君が言った。
「彼がそうありたいと努めてるんだろう、おそらく」

一郎君の言葉は意外だった。春樹は出会った当時からしっかり者だったし、今までもそんな春樹の性格は生来のものだと思い込んでいたけれど。
「努める?春樹が?」
「ああ。無理をしているとまでは言わないが、君の前では特に」
「そう……なのかな、でも最近なんだかケンカばっかりなんだよね。もしかして、それが原因なのかな。春樹、私の世話で疲れちゃったってこと?」
「俺は弟くんではないから、これはあくまで推測の域を出ないが……」

一郎君は横目で眉間に皺が寄った私の顔を見やると、小さく笑って言った。
「彼が君の世話を焼くのは彼が好きでやっていることだろう。君が気に病む事じゃない」
「……どうしてそう思うの?男同士、何か通じるものでもあったり?」
「さあ、どうだろうな」
私の問いかけを軽くはぐらかすと、私を一人廊下に残して一郎君は辿り着いた職員室の中に入っていってしまった。

(さっきは一郎君を少し身近に感じた気がしたけど、やっぱりよくわからないや……)
一郎君を待ちながら、ぼんやりとそんな事を思った。

さて、どうしよう?

@せっかく職員室まで来たので、近藤先生に改めてお礼を言う
A一郎君の言葉からなんとなく春樹の事を考えてみる
Bさっき聞いた一郎君と修二君の関係について思い返す
122465:2007/07/09(月) 10:22:58 ID:???
@せっかく職員室まで来たので、近藤先生に改めてお礼を言う

(近藤先生居るかな…?)
職員室を覗き、近藤先生がいるか確認する。

(あれ…いないや)
けれど良く考えれば、近藤先生だって自分のクラスや部活動の監督があるはずだ。

「大堂さんじゃないか」
その時、後から声をかけられた。振り向くと今まさに考えていた近藤先生が立っている。

「あ、近藤先生」
「こんなに遅くまで残ってどうしたんだ?今日は具合がわるいんだろう?早く帰りなさい」
近藤先生は眉をしかめて私を見下ろしている。
お礼を言いたいけれど、とてもそんな雰囲気ではない。早く帰りなさいという無言の威圧感がある。

(確かに具合が悪かった人がこんな時間まで残ってたら、逆に心配かけちゃうよね…)
言葉はきついが、それが近藤先生の優しさだと分かっていても、竦んでしまう。

「大堂すまない、待たせた」
そのとき、職員室から出てきた一郎くんに声をかけられた。
私へ向けられた意識が、一郎くんへと移り思わずホッと息をつく。

「ん?……ああ、宗像くんか」
「近藤先生。どうかしたんですか?」
「いや、たいした事ではない。大堂さんを送っていくのか?」
「はい、そのつもりですが」
「そうか、なら安心だな。気をつけて帰りなさい」
「はい。さようなら」
「…今日はいろいろありがとうございました。さようなら」
一郎くんと二人で先生にあいさつをして歩き出す。

「近藤先生となんかあったのか?」
「なんかあったっていうか…」

@朝の話をする。
A威圧感がすごいと言う。
B口ごもる。
123466:2007/07/10(火) 23:42:02 ID:???
B口ごもる。

「あー。えっと…」

朝の話をしようとして、また修二君とのキスの話に戻ってしまう事に気付いた。
(また、気まずい雰囲気になりたくないし…やめておこう)

「な、なんでもないよ。帰ろうか、一郎君」
「ああ」
口ごもってしまった私を察したのか、一郎君はそれ以上は詮索してこなかった。

校舎を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
一郎君と校門を出て、見慣れた街なみをゆっくり歩く。
きっと、私の歩くペースにあわせてくれているのだろう。

しばらく歩くと、道が十字路になっていた。
私は歩みをとめて、一郎君を見た。
一郎君も二、三歩先を歩いたところで、私の方を向き直る。

「どうした? 大堂」
「遠回りになるから、ここまででいいよ」
「俺が好きで送っていくと言ったんだ。気にする事はない、君の家まで送ろう」
「でも……」
「構わない。ここで立ち話をしていたら余計に遅くなってしまう」

一郎君は私が歩き出すのを待っている。
「さあ、行こう」
「あ…うん」

結局、家の前まで送ってもらってしまった。

「一郎君、ありがとう」
「いや…それより、さっきは取り乱してしまって済まなかった。君に不快な思いをさせてしまったな」
一郎君は少し困った顔をしながら言った。
「そんなことないよ」
「ならば、よかった…」
安心したように、一郎君は少しだけ笑顔をみせた。
「じゃあ、一郎君。気をつけて帰ってね」
一郎くんは私の言葉に、小さく手を振って返してくれた。

(少し遅くなったから、春樹が心配してるかも)
「ただいまー」
玄関のドアを開けると、誰かが私を待つように立っている。

立っていたのは…

@春樹
A隆
Bチハル
124467:2007/07/11(水) 03:12:29 ID:???
Bチハル

「おかえりなさい!愛菜ちゃん!!」
チハルはそう言うやいなやまだ玄関の扉も閉めきらない私に、まるでじゃれる子猫が飛びつくみたいに
勢いよく抱きついてきた。突然のことによろけながらもなんとか体勢を立て直して扉を閉める。

「ただいま、チハル。遅くなっちゃってごめんね」
覗き込みながら声をかけると、チハルは抱きついたまま不満そうな声をあげた。
「ほんとだよ!はるきのそばにいなきゃだめっていわれたからがまんしてたけど、ぼく愛菜ちゃんのことうんとしんぱいしたんだからね」
「そっか、我慢してお留守番もしてくれてたんだね。ありがとう、チハル」
そう言いながらチハルの髪をゆっくりなでる。チハルはしがみついたまま小さく首をかしげた。
「……愛菜ちゃん、うれしい?」
「うん、とっても嬉しいよ。チハルはいい子ね」
チハルはいつも聞きたがる褒め言葉を聞けたことに満足したらしく、顔をあげると本当に嬉しそうに笑った。
(チハルを見てると、なんだか元気が出るかんじがするなあ)
私もはしゃぐチハルにつられたように、自然と顔がほころんだ。

「おかえり、姉さん。……そんなところでどうしたの?」
私とチハルの話し声が聞こえたのだろうか、春樹がリビングから顔を出した。
春樹の言葉に玄関先で靴も脱がずにチハルとくっついている今の状況を思い出して、チハルをなだめて退いてもらいなんとかスリッパに履き替える。
「ただいま春樹。ごめんね、クラスの準備の後で委員会の方に顔出してたらこんな時間になっちゃった」
「近藤先生に具合が悪いって聞いたんだけど……その様子だと大丈夫そうだね」
「え、うん……まあ今は元気だけど」
てっきり恒例のお小言が待っているものと覚悟していたのに、妙にあっさりした春樹に軽い違和感を覚える。
「……どうかした? ちょうど今夕飯が出来た所なんだ、着替えたらテーブルで待ってて。俺隆さんを呼んでくるよ」
「じゃあ、お願いするね」
春樹はわかった、と返事をしたもののこちらを見もしないで脇をすり抜けて玄関を出て行った。

(どうしたんだろう、怒られなかったのは良かったけど……。それほど心配しなかったのかな)
もやもやとした疑問を抱える私の手をひいて、チハルがもどかしそうに言った。
「愛菜ちゃん、どうしたの?おへやにいかないの?」

どうしようかな?
@おとなしくチハルと一緒に自分の部屋へ行く
A気になるのでそれとなくチハルに今日の春樹の様子を尋ねる
B先に帰った事を香織ちゃんにメールで謝る
125468:2007/07/11(水) 11:49:17 ID:???
A気になるのでそれとなくチハルに今日の春樹の様子を尋ねる

私は階段を上りながらチハルに話を振る。

「ねえチハル。なんか今日の春樹おかしくない?」
私の言葉にチハルは首を傾げうーんと唸る。

「ボクわかんないよ。愛菜ちゃんのことは良く知ってるけど春樹のことなんて知らないし」
確かに隆に動けるようにしてもらうまでのチハルはずっと私の部屋に置かれていて、通常の春樹の様子を知りようがない。
部屋に入って着替えながら、ちょっと考えてチハルにたずねる。

「それじゃ今日は一日どんな感じだった?」
「うーん、ずっと机にすわってて前に立ってる人の話を聞いてた」
チハルが言っているのはたぶん授業のことだろう。

「他には?」
「あ!おっきい男の人が、愛菜ちゃんが具合悪いって言いに来た」
「おっきい男の人…ああ、近藤先生ね」
「あとは……あ、ときどきぼーっとしてため息ついてた」
「ぼーっとしてため息?」
春樹がぼーっとしているなんて、珍しい。しかもため息までついて?

「…おかしい」
「?」
きょとんとした顔で首を傾げるチハルの頭を撫でながら、原因を考える。

@昨日のことをまだ引きずっている?
A朝、最近夢見がわるいって言ってたのが原因?
Bもっとほかの事?
126469:2007/07/12(木) 11:06:55 ID:???
A朝、最近夢見がわるいって言ってたのが原因?

(そういえば春樹、最近夢見が悪いみたいな事言ってたよね……)

「ねえねえ愛菜ちゃん、どうしたの?しんぱいごと?」
上の空な私の様子が気になったのか、チハルは髪を撫でる私の手を止めた。チハルなりに心配してくれたようで、小さく眉根を寄せている。
「ごめんごめん。春樹があんまりよく眠れないって言ってたから、そのせいかなって思って」

「……またはるきのこと?」
チハルはむっつりとそう言うと隠そうともせずに不満の色を露にした。あまりにわかりやすいチハルに対し、苦笑いは漏れるもののどこかで仕方なく思うような自分がいる。
「またって……春樹は私の弟だから。私にはチハルの事とおんなじくらいに気になるんだよ」
「ボクのこととおんなじくらい?」
「そう。チハルが夜眠れないって言ったら心配するし、それとおんなじように春樹も心配なの」
「ボク、よるねむれないなんていわないよ。愛菜ちゃんといっしょだもん」
「うんまあ、そうなんだけどね」

なぜか得意げなチハルが可愛らしくて、ほんの少し笑ってしまう。チハルはそれが面白くなかったのか、ぷうっと頬を膨らませた。
「もー、ボクはいっつも愛菜ちゃんのことかんがえてるのにどうしてはるきのしんぱいなんてするの。はるきなんか……」
「?どうしたの?」
「そうだ!はるきなんか、うしろにすわってたおんなのこにおかしもらってた!なんとかじっしゅうとかいうのでつくったのよって。ほかのひとにはないしょねって!」

(お菓子?……ああ、調理実習の事かな?私も去年、クッキー作ったんだよね)
「良いじゃない、私も学校でお菓子作ったらお友達にあげたりするよ?」
「でもはるき、にこってしてありがとうっていってた。愛菜ちゃんといっしょのときはいっつもぷんぷんしてるのにね。あのおんなのこのほうがはるき、やさしいよ。だから、愛菜ちゃんもはるきなんかきにしなくていいよ」
力説するチハルにどう答えたものかと思案していると、着替え終わった私にチハルはぎゅっと抱きついてきた。
「ボクは愛菜ちゃんのこといちばんかんがえてるし、いちばんしんぱいしてるよ。ボク愛菜ちゃんがいちばんすき」
そう言って見上げるチハルの目には少しの迷いもない。チハルの澄んだ目に映る自分の顔を不思議な気持ちで眺めた。

私の今の気持ちは……
@チハルの好意が素直に嬉しい
A春樹の話がショック
Bどうしてチハルがそんなに春樹を嫌がるのか不思議
127470:2007/07/12(木) 15:00:35 ID:???
@チハルの好意が素直に嬉しい

「ありがとうチハル」
まっすぐに私に向けられる好意がくすぐったくて、うれしい。
ぎゅっとチハルを抱きしめて頬ずりする。

「愛菜ちゃんくすぐったいよー」
チハルが笑いながらじたばたと身をよじる。
すっぽりと腕の中に納まるチハルを抱きしめていると、ホッとする。
元はぬいぐるみのはずなのに、その体は私たちと変わらず暖かい。

「はー、なんかチハルをぎゅーってしてると落ち着くな」
小さい頃からずっと一緒で、子供の頃はそれこそぬいぐるみのチハルを抱きしめていた。

「愛菜ちゃんいつもボクをぎゅーってしてたよね」
にこにこ笑いながらチハルが私を見上げてくる。
そうだね、と頷いて笑い返すとふとチハルが何かを思いついたかのように声を上げた。

「あ!」
「どうしたの?チハル」
「いつも愛菜ちゃんがぎゅーってしてくれるから、今度はボクがぎゅーってしてあげる!」
「え?」
チハルは言うないなや私の腕をすり抜けて、私の体を抱きしめる。
今までのじゃれて抱きついてくるのとは違う。抱きしめる動作。

「むー」
「どうしたの?」
おとなしくチハルのされるがままになっていると、チハルが不満そうに声を上げた。

「ボクちいさくて愛菜ちゃんの背中に手がまわらない」
「チハルは小さいから」
不満そうなチハルの言葉に、思わず笑ってしまう。

「そっか、ボクが大きくなればいいんだ」
チハルはそういうと、ポンと軽い音を立てた。
それがチハルが変身するときの音だと分かっていたけれど、急に目の前に現れた男の子とチハルが私の中でつながらない。

「愛菜ちゃん、これでぎゅーってできるね」
にっこり笑って目の前の男の子が私をぎゅっと抱きしめる。

「ち、チハル!?」
「うん、どうしたの?愛菜ちゃん?」
私はあわてて大きくなったチハルを見上げる。
見下ろしてくる目は、確かに以前のチハルと変わらない。
顔もたしかに子供のチハルの面影がある。
けれどその声はさっきより低いし、目の前に居るチハルは私とほぼ変わらない年齢に見える。

「おーい、愛菜、晩飯食わないのか?」
その時、階段を上がってくる音と、隆の声が近づいてきた。
春樹が呼びに行ってから結構時間が経っていたようだ。
でも今の状態はやばいのではないだろうか…?

どうしよう
@チハルはチハルだしこのまま気にしないことにする。
Aチハルに子供の姿に戻るように言う。
B隆に部屋の戸をあけないように言う。
128472:2007/07/12(木) 21:57:08 ID:???
B隆に部屋の戸をあけないように言う。

「ちょっと待って!あ…開けない…で…」

と言いかけたところで、無情にもガチャリと扉が開かれた。

「………………」
「………………」
隆はドアの取っ手を握り締めたまま、固まっている。
私もチハルに抱かれたまま、絶句してしまった。

「なななな、何だよこれは……」
「えええ…えっと……」
説明しようとするものの、動揺でうまく頭がまわらない。

「あっ、隆。ねえ、知ってる? 愛菜ちゃんってすごくいい匂いがするんだよ」
チハルは私を抱きしめたまま、隆に笑いかける。
その言葉でようやく正気を取り戻した隆は、大股で私とチハルに割り込み、無理やり引き剥がした。

「いくら隆だって、邪魔しちゃ駄目だよ」
チハルはぷーっと頬を膨らませると、隆から私を奪い返す。
けれど、また無言の隆によってグイッと引き剥がされてしまった。

「隆のいじわるー! これならじゃまできないよ……えいっ」
「きゃっ」
チハルに手を掴まれたかと思うと、ふわりと体が浮く。
そして胸の中にすっぽりと納まっている自分に気付く。
どうやら私はチハルにお姫様抱っこをされてしまったようだ。

「どう? もう邪魔されないよ?」
チハルは得意げに私を見つめ、にっこり笑った。

私は……
@「チ、チハル…。下ろして」
A「た、隆。あのね、この子はチハルよ」
B黙って様子を見る
129472:2007/07/12(木) 22:46:23 ID:???
@「チ、チハル…。下ろして」

昨日の夜も似たようなことがあったなと思いつつ、私は慌ててチハルに言う。
隆はかすかに眉をしかめて私たちを見ている。

「えー、ボクまだ愛菜ちゃんをぎゅーってしてたい」
「そ、それじゃあご飯食べてからね?ほら、私おなかすいたな」
「そっか、ニンゲンはご飯食べないと弱っちゃうんだった。わかった!愛菜ちゃんがご飯食べるまでまってる!」
チハルはそういって、私を下ろしてくれる。
ほっとため息をつくと、隆が不機嫌丸出しの声で言った。

「で?どういうことだ?」
「えーっと…。この子チハルなんだけど…」
「…は?チハル?」
隆は私の後ろに立っているチハルをまじまじと見る。

「お前本当にチハルか?またなんでそんなにデカくなってるんだ?」
「なにいってるのさ隆。ボクはボクだよ。ちっちゃいと愛菜ちゃんをぎゅーってできないからおっきくなったんだ」
隆に対してはそれなりに愛想のいいチハルは、にっこり笑いながら言った。
けれど言っていることの意味は、はっきり言って隆にはちんぷんかんぷんだろう。

「本当にチハルなんだな…。てか、ガタイばかりでかくなって中身かわってねぇし」
それでも隆は苦笑いしながら隆はチハルに手を伸ばすと、少し高い位置にある頭をわしゃわしゃと撫でる。

「にしても、でかくなったなぁ…」
「へへっ、隆よりおっきいよ」
言いながら、チハルは私にしたように隆にぎゅーっと抱きつく。

「うわっ、なにすんだ!?」
慌てた隆がチハルから飛びのく。

「ん〜、やっぱり愛菜ちゃんのほうがいいや。やわらかくって、いいにおいできもちいい」
「あのなぁ…そんな当たり前のこと俺で試すな!」
隆はため息をつく。
なんだかんだ言っても隆は面倒見が良い。呆れたように言いつつも笑っている。

「姉さん!隆さん!?ご飯食べないの!?」
そのとき、下から春樹の声が聞こえた。

「あ、行かないと」
「だな。俺も腹減った」
私と隆が部屋を出ようとすると、そのままチハルもついてくる。

チハルがこの姿だと春樹びっくりしちゃうな…どうしよう。

@このまましたいようにさせておく。
A子供の姿に戻るように言う。
B部屋で待つように言う。
130473:2007/07/14(土) 09:15:55 ID:???
@このまましたいようにさせておく。

(説明すればわかってもらえるだろうし、このままでいいかな)

「それじゃ、チハルも行こうか」
私がそう言うと、嬉しそうに「うん」と頷いた。

一階に降りると、すでに春樹がテーブルに夕食を並べていた。

「あっ、姉さんに隆さん。もうすぐ………」
テーブルにサラダを置き顔を上げた春樹が目を丸くした。

「あの……隆さんの友達ですか? もしよかったら夕食を一緒にどうですか」
「ボクのこと?」
チハルは自分を指さしながら尋ねた。
「ええ。少し多めに作ったので」
「うん! みんなと一緒に食べたい」
チハルは楽しそうに、その場でくるくると回った。
大きくなったせいで、いつもの行動もかわいいというより少しアブナイ人に見えてしまう。

「あはは…喜んでもらえて嬉しいです…」
対応に困ってしまったのか、春樹も苦笑している。

「もう一膳用意しますから、ちょっと待ってて下さい」
そう言うと、隆はキッチンに消えていった。

「おい、愛菜。春樹のやつ完全に勘違いしているぞ」
春樹に聞こえないように、小声で隆が話しかけてきた。
「タイミングを逃しちゃって……」
「ていうか、チハルって飯食えるのか?」
「し、知らないよ」
「とにかく…春樹に説明しないとな。もし言いにくいなら、俺から言ってやろうか?」

どうしようかな

@春樹に説明しに行く
A隆に説明してもらう
Bチハルに食事できるのか尋ねる
131474:2007/07/14(土) 10:03:48 ID:???
@春樹に説明しに行く

「ううん、自分で説明してくる。隆は座ってて」
「そうか?」
隆は私の言葉に頷いて、椅子に座る。
私はそれを目の端で見ながら、春樹に続いてキッチンへ向かう。

「春樹?」
「何?姉さん」
「あのね、さっきの人なんだけど…チハルだから、そんなに気を使わなくても良いよ?」
「……え?」
春樹が動きを止める。

「説明しようと思ったんだけど、さっきタイミング逃しちゃってさ、ははは…」
「ねえねえ、愛菜ちゃん、ボク愛菜ちゃんの隣にすわってもいい?」
そのとき、チハルがキッチンへ顔をのぞかせる。

「あ!春樹それボクのご飯?」
にこにことチハルが春樹が手に持った茶碗を指差す。
どうやら春樹がご飯をくれるといったことで、チハルの中で春樹の好感度があがったらしい。

(…餌付け?)
ふと脳裏に浮かんだ言葉に笑いが漏れる。
私の笑いに春樹は気づいたが、チハルは気づかなかったらしい。
春樹のそばに軽いステップを踏みながら近づくと、いきなりぎゅーっと抱きついた。

「!?」
突然のことに春樹が固まる。

「チ、チハル!?」
私も驚いて思わず声を上げる。

「どうした?」
私の声に隆もやってきて、春樹に抱きついたチハルをみると一瞬目を丸くし、それから大笑いする。

「はっ、ははははっ、お、お前、みんなに抱きついてるのかよ?ぷっ、ふ、はははは」
隆は何とか笑いをおさめようとするが、なかなかうまくいかないらしい。

「?」
そんな中チハルは抱きついた春樹を不思議そうに見て体を離し、それから自分の手を見て首をかしげ、再度春樹に抱きつく。
今までにない行動に、私はチハルにたずねた。

「チハル?どうしたの?」
「春樹、変。愛菜ちゃんと違うのに、愛菜ちゃんと同じくらいきもちいい」
そこでようやくショックから立ち直ったらしい春樹が、チハルから飛びのくように離れる。

「なにするんだ!」
「?」
「ははは、くっ、ははっ」
春樹は、赤くなったり青くなったりしながら怒っている。
チハルは不思議そうな顔で、春樹と自分の手を交互に見ている。
隆は何とか笑いをおさめようとがんばっている。
とにかくそんなに広くないキッチンに4人もいては狭いことこの上ない。

さてどうしよう。
@とりあえず、ご飯にしようという。
Aチハルになにが変なのか聞く。
B春樹と隆に落ち着けという。
132475:2007/07/14(土) 23:14:01 ID:???
@とりあえず、ご飯にしようという。

「私、お腹ペコペコだよ。とりあえず、ご飯にしよう」
私は大げさにお腹を押さえて、訴えた。
「そうだな。俺も背中と腹がくっつきそうだ」
隆も私の意見に乗ってきた。

「……後は俺がやるから、姉さん達は座ってて」
多少、納得いっていないように見えたけれど、春樹はいつもの冷静さを取り戻したようだ。

(なにが変なのか気になるけど、食事中、チハルに聞けばいいか)

私達はそれぞれのテーブルにつく。
隆は私の向かい側の席、チハルは私の隣に腰を下ろした。

しばらくして用意を済ませた春樹も席に座り、私たちはようやく食べ始めた。

「やっぱり、すごいな。うちの母親より美味いぜ、この肉じゃが」
隆は春樹の作った肉じゃがを頬張りながら、感嘆の声をあげた。
「うちのははおやより美味いぜ、このにくじゃが」
オウム返しで、チハルも肉じゃがを頬張りながら真似をする。
その姿に思わず笑ってしまう。

「そう言えば…家に来ることを嫌がっているって聞いてたんだけど、よかったの?」
不意に気になって、私は隆に話題を振った。
「そ、それは…気が変わったんですよね、隆さん」
なぜか春樹が隆に同意を求めるように、話に割り込んできた。

「ああ、その話か。うちの両親から愛菜の料理を食わされるって聞いてたんだ。
俺はまだ死にたくないから、コンビニで済ませるって言っただけさ」
(しれっとした顔で、今ヒドイ事を言われたような…)
「ちょっと! どうして私の料理で隆が死ぬのよ」
「死なないにしても、腹は壊すだろうな」
大きな口でサラダを食べながら、隆は平然と答えた。
「春樹には敵わなくても、お腹を壊すような料理をつくった覚えはないんだけど!」
ムカついた私は隆に食ってかかる。

「覚えは無くても、お前の料理は破壊的なんだって」と憎まれ口をたたいた後「……少しは自覚してもらわないと…俺が困るんだよ…」と聞こえないような小声で呟いた。

@「どうして隆が困るのよ」
A「えっ? 今、何か言った?」
B何も言わない。
133476:2007/07/15(日) 11:16:52 ID:???
A「えっ? 今、何か言った?」

何かつぶやいた隆に尋ね返すと、隆はなんでもないと首を振る。

「なによ…、言いたいことがあるならはっきり言いなさいってば」
「『すこしはジカクしてもらわないと、おれが困るんだよ』」
そのとき、チハルがにこにこと笑いながら言った。

「え?」
「…バッ…!」
(隆の真似…?)
さっきも肉じゃがを食べながら、隆のまねをしていたチハルを思い出す。

「チハル、さっき隆がそう言ったの?」
「うわーーーーーー」
「ちょっと、隆うるさい!」
「隆さん、それじゃあ肯定してるのと同じですよ…」
「……ぐ」
春樹の言葉に、隆が真っ赤になって口をつぐむ。

(そこで口をつぐむってことは、私の料理が破壊的だっていってるようなものじゃない!)
私の怒りに気づいたのか、隆と春樹が話題を変えようと急に話し出す。

「そ、そんなことより、チハル!お前ご飯食べて平気なのか?」
隆がチハルに話を振る。

「そうだ、そういえばさっき、俺が変とかなんとか…どういう意味?」
春樹もチハルに尋ねた。

二人同時にたずねられてチハルが困ったように私を見た。

@隆の質問に答えてもらう。
A春樹の質問に答えてもらう。
Bそんな話題変換にだまされない。
134477:2007/07/15(日) 12:54:31 ID:???
Bそんな話題変換にだまされない。

チハルに向かって黙ってうなずくと、私は口を開いた。
「ちょっと、隆。話をはぐらかさないでよ」
「まぁ、姉さん…落ち着いて」
なだめようとする春樹に鋭い視線を向け、私は言葉を続けた。

「私の料理が破壊的だっていってるようなものじゃない!」
「ひねくれてんなぁ。どうして素直に認めないんだよ、お前は」
隆は呆れたように呟いた。

「ひどーい。ねえ、春樹。私の料理が普通だって隆に言ってよ」
「……………」
春樹は聞こえなかったフリをして、お味噌汁を飲んでいる。
(春樹まで……!)
味方の引き入れに失敗した私は、苦し紛れにさっき隆が言葉に詰まっていた話を蒸し返す。

「仮に私の料理が下手だとして…どうして隆が困るのよ」
「……ぐっ」
動揺したのか、隆はご飯を喉に詰まらせている。
それを見ていたチハルが不思議そうな顔をしながら、口を開いた。

「だってぇ、隆は愛菜ちゃんがまだ大好きで、あきらめられないんだもん。
今は一緒にいられるだけでいいから、元気付けてほしいって…ボクを起こすお願いで言ってたよ。
そうだよね、隆?」
チハルは無邪気に笑いながら、隆の方を見た。

ドンガラガッシャーン

隆は椅子から盛大に転げ落ち、真っ赤になりながら立ち上がる。
「てめーは余計なこと言うなっての!!」
チハルに向かって叫んだ後、「嘘だから!コイツに言った願いは全部嘘だからな!」と言いつつ、乱暴に座りなおした。

私は
@動揺する
A隆のお願いが嘘かチハルに確認する
B別の話題を振る
135478:2007/07/15(日) 18:17:26 ID:???
B別の話題を振る

「……あっそう」
私はため息をついて味噌汁をすする。
私の料理に対する隆の評価は気に喰わないが、それならそれでこっちにも考えがある。

「まあいいわ。私隆にはもう絶対にご飯つくってあげないから!この先、春樹より料理がうまくなっても隆にだけはぜーーーーったいに食べさせない!」
「お、おい愛菜…」
隆が情けない顔をしているけれど、私は隆を無視してチハルに話しかける。

「ねえ、チハル。チハルって食事しても平気なの?」
「いま食べてるよ?」
「えーっと…うん、そうだね。でももともとチハルってテディベアでしょ?食事の必要はないじゃない?」
「うん。でも今はニンゲンだから食べられるよ?」
「それは、今は完全に人になってるってこと?」
「完全にニンゲンにはなれないけど、すごく近くなってるとおもうよ」
チハルは言いながら味噌汁を飲む。
その仕草が、春樹にそっくりだ。
もしかしたらみんなの真似をしているのかもしれない。

「それならもし鳥になったとしたら、空もとべる?」
春樹の問いに、チハルはちょっと考えて頷く。

「やったことないけど、たぶん飛べるよ」
「へえ…便利なんだな」
隆も気を取り直したのか興味津々とチハルを見る。

「ボクもともと人形だけど、チカラが強くなったからブッシツのシガラミからカイホウされるんだって」
「どういうこと?」
「ん〜、よくわからないけど、いろんなものになれることかな?」
チハルも良くわかっていないみたいだ。

(っていうか、誰かに聞いたみたいな話方よね?)

どうする?
@さらに詳しくたずねる
A春樹が変だと言っていたことを聞く。
Bもう話は終わりにする。
136479:2007/07/15(日) 20:25:19 ID:???
@さらに詳しくたずねる

「チハル。まるで誰かから聞いたみたいな話し方よね?」
「うん。えらい神様がいってた」
「えらい神様?」
チハルは口に入ったものをゴクンと飲み込み、私に説明し始めた。

「ボクはまだ精霊だけど、しょーかくすればいつか神様になれるって前に話したのおぼえてる?」
「うん。聞いたような気がするよ」
「精霊にも、神様にもランクがあるんだ。ボクは愛菜ちゃんの力のおかげで、精霊の中ではえらい方になったの」
チハルはエッヘンと胸を張って言った。
「チハルってすごいんだね」
私が言うと、チハルはもっと褒めてとせがんできた。
小さい時のように頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めた。

「でもね、力があってもボクはまだ生まれて時間がたってないから、神様にはなれないんだ。
ネンコージョレツって言うのかな。これからはジツリョクシュギのジダイなのにね」

(チハルって意外に難しい言葉を知ってるのね…)

「じゃあ、お前に色々教えてくれたのは上司ってことか?」
興味深く話に聞き入っていた隆が口を挟んだ。
「ニンゲンの世界におきかえればそうだよ。ボクにメイレイしたりするしさぁ…」
頬を膨らませて話すところを見ると、その上司のことを好きではないのかもしれない。

「神様の世界も縦社会だったなんて、皮肉みたいだ…」
春樹も苦笑するしかないという顔をしている。
「確かに、夢も希望も無いよなぁ」
隆も春樹の意見に賛成するように、頷いた。

「でも、コウリツ的にセカイのチツジョをたもつためにはしかたがないんだって」
チハルは他人事のように言うと、食事を再開した。

あと話すことは…
@春樹が変だと言っていたことを聞く。
A「セカイのチツジョ?」
B食事を終える
137480:2007/07/15(日) 21:51:05 ID:???
@春樹が変だと言っていたことを聞く。

「そういえば、さっき春樹が変だっていってたのあれはなんだったの?」
私が訪ねると、春樹もチハルをじっと見た。

「んーとね、愛菜ちゃんは当たり前なんだけど、春樹も愛菜ちゃんと違うのにぎゅーってすると気持ち良いの」
「私は当たり前なの?」
「うん。愛菜ちゃんはトクベツなの。だからぎゅーってしても気持ちいのが当たり前なんだよ?」
「そ、そうなんだ?」
チハルはにこにこと答えてくれるけれど、言っていることはさっぱりわからない。

「ちなみに隆は気持ちよくなかったのよね?」
「うん」
「それじゃあ、気持ち良いってどういうふうに気持ち良いの?」
「えーっとね、ほわほわで、じわじわで、ぬくぬくなんだよ!」
「「「………」」」
思わず春樹と隆と顔を見合わせてしまう。
二人もなんとも言いがたい顔で、視線を交し合う。

「そ、それは、私も春樹も同じなの?」
「うん、同じだよ?」
ますますわからない。

「ねぇ、どういうことだと思う…?」
私はお手上げ状態で春樹と隆に聞く。

「俺に聞くなよ…」
隆もさっぱりわからないというように肩をすくめる。

「………チハル、気持ち良いと何か良いことがある?」
少し考えていた春樹がチハルに尋ねる。

「良いこと?んーと、ボクのチカラが強くなる!」
「「「え!?」」」
「だから春樹、変。春樹はフツーなのに、きもちいい。隆はフツーじゃないのに気持ちよくない」
「要するに、私か春樹にくっついてると、チハルは力が強くなるって言うこと?」
「うん!」
「隆じゃだめなのね?」
「隆はきもちよくないもん」
「……わるかったな」

それってどういうことだろう…?

@チハルと春樹の相性が良い?
A実は春樹にもなにか力が?
B私にはお手上げ、他の二人に聞く
138481:2007/07/16(月) 00:07:50 ID:???
A実は春樹にもなにか力が?

「もしかしたら…春樹にもなにか力があるって事?」
私は思った事をそのまま口に出した。

「それがね、よくわからないんだ。愛菜ちゃんと隆にはゆらゆらしたのが出てるのに、春樹には無いよ。
だから、フツーの人なんだけど…ぎゅってすると気持ちいいの」

何か感じ取っているチハルすらもお手上げのようだ。
春樹は下を向き考え込んでいたが、不意に顔を上げた。

「………ゆらゆらって言うのは、おそらく力のことだと思う。
一郎さんと修二さんの力で姉さんを見た時、体の中心に炎があって、体全体が蒼白いゆらゆらと流れるものに覆われていた。
見た人全員に炎はあったけど、蒼白く流れるものはなかったんだ」

「宗像兄弟はそんな力を持っているのか。あいつら一体、何者なんだ?」
隆が双子の話を聞いて、眉をひそめながら呟く。
「うーん。私にもはっきり教えてくれないからわからないよ」
私は首を振り、肩をすくめた。

「ボクら精霊は自然が作るゆらゆらを普段は吸ってるけど、愛菜ちゃんはすごくキレイなゆらゆらでトクベツ気持ちいいの。
ほわほわで、じわじわで、ぬくぬくでチカラが強くなるよ」
「じゃあ、ハチル。どうして隆さんは気持ちよくないか詳しく教えてくれないか?」
春樹は顎に手を当てながら、チハルを見た。
「うーん。なんだか、ゆらゆらにザラザラ黒いのが混ざってて気持ちよくないんだ。
それに……隆の中にもう一つ別のゆらゆらがあるし、不味そうなんだもん」

「不味そうで、悪かったな…」
隆は小声で文句を言っている。

@黒いのってファントムの事かな?
Aもう一つのゆらゆらってまさか…武君?
B黙って成り行きを見守る
139名無しって呼んでいいか?:2007/07/16(月) 04:29:26 ID:???
一郎さんと修二さん×
一郎先輩と修二先輩○
呼び名を間違えたので訂正です
140482:2007/07/17(火) 11:17:56 ID:???
B黙って成り行きを見守る

「黒いザラザラってミストか?で、もうひとつのゆらゆらってのは、前愛菜に手紙を出した武ってやつ…って考えるのが妥当か?」
隆が首を傾げながら言う。

「たぶんそうだと思います」
春樹も同意する。私もそれ以外に考えられない。

「それじゃあさ、チハル今日の朝あった二人はどう見えた?」
「朝?……同じ顔した人?」
「…そうそう」
「んーとね…」
チハルは朝のことを思い出そうとするように、首を傾げる。

「あのヒトたちは変なの。二人だけどヒトツでね、でも二人だからヒトツになれないの。だから、ゆらゆらがごちゃごちゃなの」
「ゆらゆらがごちゃごちゃ?」
隆がわけが分からないというように腕を組む。
私も首を傾げたけれど、ふと以前修二くんが言っていた言葉を思い出す。

「修二くんが前に一郎くんと二人でいると力が上がるって言ってた。双子だから相乗効果があるのか、もともと一つのちからが二つに分かれたのか分からないけど…って」
「へぇ…」
隆が面白そうに私を見る。

「チハルの話を聞くと、双子だから相乗効果があるわけじゃなく、もともと一つのものが二つに分かれた、と言うことかな」
春樹の言葉に私はもう一つ思い出す。

「そういえば、一郎くんは、真実を見出すはずの鏡が二つに割れてしまっては使い物にならないって…」
「真実を見出す鏡?……よくわかないけど、割れたってことはやっぱり一つのものが二つに分かれたんだろうな」
「そうでしょうね、でも修二先輩がどっちか分からないって言ってたのに、一郎先輩は分かれたってなんで知ってるんでしょう?」
隆の言葉に、春樹が頷きそれから不思議そうに首を傾げる。
春樹の言葉に、私と隆も同じように首を傾げるしかない。

「……カガミ、かがみ」
その時、チハルがぶつぶつと何かを思い出すようにつぶやいているのが聞こえた。

「どうしたのチハル?」
「カガミのことで、前にだれかにきいたきがするの」
うーんとうなりながら、チハルが頭を押えている。

何か手がかりがあるのかな?
@すぐに思い出してもらう
A思い出したら教えてという
B春樹のことに話を戻す
141名無しって呼んでいいか?:2007/07/17(火) 18:55:20 ID:???
age
142名無しって呼んでいいか?:2007/07/17(火) 22:06:32 ID:???
@すぐに思い出してもらう

「何か思い出せそう?」
うーんうーんと唸りながら、頭を抱えているチハルに向かって話しかけた。
「だめ…。ぜんぜんおもいだせないよ」
チハルは悲しそうに肩を落とした。

「そっか。なにかヒントになればと思ったんだけど、仕方ないね」
(少しは真実に近づけるかもしれないと思ったのにな…)
「ごめんね。愛菜ちゃん」
チハルが上目使いで私を見る。
「ありがとう、チハル。無理させてゴメンね」
チハルに向かって、私は優しく笑いかけた。

そんな私達を見かねたように、隆を口を開く。
「ていうか、宗像兄に直接聞けばいいだろ。愛菜は同じ委員会だし、聞きやすいんじゃないのか?」
「それが…ね」
私は児童公園での出来事を思い出しながら話を続ける。
「以前、真実を教えて欲しいって言ったら拒まれたの」
「拒む? 宗像兄が?」
「うん。協力できないって言われたんだ」
「協力できない…か。一郎先輩にとって何か都合の悪いことでもあるのかな?」
私たちの話に聞き入っていた春樹も話に加わる。
「一郎くんにとって都合が悪いというよりは、私にとって良くない事のような言い方だったかもしれない」
「どういうこと?」
春樹は首をかしげながら、尋ねてきた。
「思い出さないほうが良い事もあるとか、真実に触れないのが一番良い方法だとか…とにかく、そんな言い方よ。
まるで、私を気遣っているように聞こえたんだ」
そう言って、春樹と隆を交互に見つめた。

「姉さんはお人よし過ぎるよ…」
そう漏らして、春樹は小さくため息を漏らす。
「俺から見れば、一郎先輩と修二先輩は勝手だよ。姉さんに力の話を告げておいて、今更、協力できないなんてね」
「そうだぜ。俺だって何度も愛菜にミストの事を言おうとして止めたんだ。
テレビの見すぎだろうとバカにされるのが嫌だったのもあるが、余計な心配を掛けさせたくなかったからな」

私は
@双子に不信感を持った
Aなんだか複雑な事情がありそうだったと擁護する
B一郎君と修二君の考え方が違のかなと考えた
143484:2007/07/17(火) 23:00:14 ID:???
Aなんだか複雑な事情がありそうだったと擁護する

「でも、何か事情がありそうだった…、っていうかやっぱり私を気遣ってくれてたんだと思う…」
「姉さんは、どうしてそう思うのさ?」
「あのね…私、一郎君に今度こそ終わらせるために、すべて教えて欲しいってってお願いしたの…そしたら、一郎君『まさか、思い出したのか?』って…わたし、何か忘れてることがあるのかな?」
「愛菜がわすれてること?そこまで言うって事は、思い出して欲しくないことなんだよな?」
隆が首をかしげる。
あの時の一郎君は、少し我を忘れている感じだった。

(必死っていうか…とにかくいつもの一郎君らしくなかったよね)
そこまで、一郎君が私に思い出して欲しくないこととはどんなことなのだろうか。
それに何故私はその『思い出して欲しくない事』を忘れているんだろう。
一郎君の様子からすると、かなり重要な出来事のはずなのに。

「……ところで姉さんはなんで一郎先輩に『今度こそ』っていったの?」
「それは冬馬先輩…あ、御門くんのことね、その、冬馬先輩がそういったから…、今度こそ終わらせましょうって。いずれ時が来れば自身でもわかるようになるって…」
「冬馬先輩ってだれだよ?」
冬馬先輩の名前を出すと、今度は隆は少し顔をしかめて聞いてくる。

(そういえば…隆に冬馬先輩のこと話したのは初めてだっけ?)

@「隆には言ってなかったっけ?」
A「先輩の話は後で」
B「私を守ってくれてる人だよ」
144485:2007/07/18(水) 02:02:54 ID:???
@「隆には言ってなかったっけ?」

「聞いてねーよ」
不機嫌そうに、隆は言った。

「俺が知っている限りだと、その冬馬先輩は姉さんの実の母親によって育てられたそうです。
その恩を少しでも返したいと言っていました」
春樹は少し複雑な表情を浮かべながら、隆に説明をしている。
私がショッピングモールで気を失っている時に少し話しを聞いたのかもしれない。

「マジ? そんな、冗談だろ?」
隆はにわかには信じられないといった様子だ。

「私のお母さんと写っているロケットを冬馬先輩は肌身離さず持っているの。
あの写真に写っていたのは、確かにお母さんだったよ」
「でもさ。言いたくはないけれど、写真なんていくらでも合成できるよね」
そう言いながら、春樹は私の方を見た。
春樹自身、未だに半信半疑だと思っているようだ。

「そうかもしれないけど…」
「お前、騙されてるかもしれないぜ」
「でも…やっぱり、冬馬先輩は嘘をつけるような人には思えないよ」
私の言葉を聞いて、隆の顔はますます不機嫌になっていった。
「ふーん。愛菜はえらくその冬馬先輩ってヤツの肩をもつんだな」
「何、その言い方」
「これが俺の言い方だ。悪かったな」

睨みあっている私たちを見て、春樹が再びため息を漏らした。
「まあ、2人ともそれくらいにしてよ。
その冬馬先輩が『今度こそ終わらせましょう』って言うくらいだから、少しは姉さんと面識があるって事だよ。
問題は何を終わらせるのかって所だけど、これは本人に尋ねるしかないし。
一郎先輩の事もやっぱり本人に尋ねるしか確認しようが無いよ」
「まあ、春樹の意見に大筋で同意だな」
隆も便乗するように頷いた。

私は
@契約について話す
Aさっきから黙っているチハルを見る
B食事を終える
145486:2007/07/18(水) 09:30:52 ID:???
B食事を終える

切りのいいところで話が途切れ、皆の食事も終わったため私は食器を持って立つ。

「ご飯は春樹が作ったから、私が食器片付けるよ」
「そう?ありがとう姉さん。それじゃ俺はお風呂の用意でもしてくるよ。隆さんはどうします?泊まっていきますか?」
「うーん…、どうすっかな、着替えとか持ってきてないし」
「泊まるならもって来ればいいじゃない?すぐそこなんだから」
「まあな……んじゃちょっくら着替え取りに帰るわ」
「それじゃ、客間の用意しておきますね」
「おう、悪いなよろしく頼む」
隆は一瞬躊躇した様子だったが、頷くと席を立って出て行った。
すぐに玄関が開いて閉まる音がする。
隆なら走れば往復でも10分かからないだろう。

「さて、と。片付けますか!」
「かたづけますか!」
今まで私たちの会話をおとなしく聞いていたチハルが、私のまねをして食器を持つ。

「お手伝いしてくれるの?チハル?」
「うん!」
にこにこと笑うチハルに、笑いかけて一緒にキッチンへ行く。

「チハル、私が洗った食器を、こっちのカゴにきれいに並べて入れてね」
「わかった!」
チハルは少しまじめな顔をして頷くと私の隣に立った。
私は洗った食器をチハルに渡す。チハルはそれを水切用のカゴに並べていく。
最初は割ってしまったりしないかと少し心配だったが、チハルは案外器用に食器を並べる。
最後の一つを洗い終わりチハルに手渡して私は手を拭いた。

「おわりー」
チハルも最後の食器をカゴに入れて、にっこり笑う。

「ありがとうチハル。助かったよ」
私がチハルの頭を撫でてあげると、チハルはうれしそうに私に抱きついてきた。

「わっ…!」
元はテディベアだと分かっていても、今の姿のチハルに抱きつかれるのは少し抵抗がある。

「…お前、軽々しく愛菜に抱きつくんじゃない」
その時、丁度戻ってきたらしい隆があきれたようにため息をついた。
チハルが隆に何かを言おうと口を開く前に、今度は春樹が顔を覗かせた。

「姉さん、先にお風呂はいっちゃって、隆さん少し話があるんですけどいいですか?」
「え?あ、うん」
「わかった」
春樹の言葉に、私と隆は頷く。

「おふろ?ボクも愛菜ちゃんといっしょにはいるー」
「え!?」
「だめ?」
驚く私たちに、チハルが悲しそうに尋ねてくる。

@「だ、だめよ!」
A「小さいチハルだったら…」
B「………」
146487:2007/07/18(水) 21:11:33 ID:???
A「小さいチハルだったら…」

(小さいチハルとは一緒に寝ていたくらいだし、平気よね)

「いいの? 愛菜ちゃん」
チハルは首を傾け、私を覗き込むようにして尋ねてきた。

「片付けも手伝ってくれたしね。
だけど、絶対に入っている間は大きくならないって約束してくれる?」
「うん。やくそくするー!」
そう言って、チハルはまた私に抱きついてきた。

「くっ、くるしいよ…チハル」
大きくなったチハルは力も強くなっているのか、勢いよく抱きつかれるとかなり苦しい。
さらに長い腕で束縛され、身動きひとつ取れなくなってしまう。

そんな私達の姿を眺めながら、隆と春樹は顔を見合わせると黙って頷き合った。
「やっぱり駄目だろ」
「そうですね、駄目ですね」

申し合わせたような素早い動きで、チハルと私を引き剥がした。
普段は全く違う二人なのに、こういう時だけはみごとな連携を見せるようだ。

「お前は後だ。わかったな」
チハルの前に隆が立ちふさがった。
「えぇー! 愛菜ちゃんは一緒でもいいって言ったもん」
「姉さんが良いって言っても、俺達が許さないから」
春樹も腕を組みながら、チハルの前に立つ。
「いじわるぅ。隆と春樹のいじわるぅ」
チハルは頬を膨らませながら、いやいやと首を振った。

私は…
@一人でお風呂に入る
Aやっぱりチハルと入る
Bチハルに謝る
147488:2007/07/19(木) 10:22:25 ID:???
Bチハルに謝る

「ごめんねチハル、二人ともダメって言うし…」
二人の剣幕に私は太刀打ちできない。

「えー…ちゃんと小さくなるよ?だめなの?」
しょんぼりと肩を落とすチハルに胸が痛む。

「駄目」
春樹の言葉に隆も頷いて、言葉を続ける。

「愛菜と一緒に入れない代わりに春樹にくっついてろ。風呂も春樹と一緒に入ればいい」
「ちょっと、なに言ってるんですか隆さん!?」
この言葉には春樹があわてる。

「ん?愛菜の代わりならお前しかいないだろ。こいつ、愛菜と同じくお前も”きもちいい”らしいからな」
「それと、これとは…」
「春樹にくっついてていいの?」
春樹が反論する前に、期待を込めた目でチハルが春樹を見る。

「愛菜にべったりよりはいいだろ。ってことでチハル、春樹ならおっけーだ」
「わーい!」
チハルは隆の言葉に、私とお風呂に入れないことを忘れたのか、うれしそうに春樹に抱きつこうとする。

「ちょ、ちょっと待って…!」
あわてて春樹がそれを止めた。

「なんだよ、お前が我慢すれば愛菜が助かるんだぞ?」
「……わかってます。でもせめて小さくなってから…」
「小さいといいの?」
ため息をつきながら言った春樹に、チハルはちょこんと首を傾げてポンと小さくなる。
それから、伺うように春樹を見上げる。

「……はぁ、もう好きにしていいよ」
「やったー!!」
あきらめたように言った春樹の腰にチハルは歓声を上げて抱きつく。

私は…
@風呂に行く
Aそんなにくっついてると気持ちいいのか聞く
Bなんとなく面白くない気持ちになる
148489:2007/07/19(木) 21:58:48 ID:???
Bなんとなく面白くない気持ちになる

(せっかく春樹と仲良くなってくれたのに、なぜかもやもやする)

「じゃあ、私はお風呂に入ってくるから」
少し寂しい気分を味わいながら、私はお風呂場へ向かった。

「うーーーん。気持ちいい」
湯船に浸かりながら、私は思い切っきり伸びをした。
今日の入浴剤はミルクティの香りだ。
大好きな紅茶の中に浸かっているみたいで、なんだか嬉しくなってしまう。
入浴剤の入っていた袋を見ると、『優雅な気分をお楽しみください』と書いてあった。

「優雅な気分か…。最近慌しくて、ホント大変だったからなぁ」

乳白色の水面を揺らしながら、今までの出来事に思いを馳せる。
隆と水野先生のキスを目撃してから約一週間、本当にたくさんの事があった。
辛いことも多かったけれど、冬馬先輩や周防さんと知り合うこともできた。
(周防さん…大丈夫かなぁ)

怪我は無いという話だけど、早く元気な姿を見たい。
(早く周防さんが元気になりますように)
私は両手を胸の前に組んで、目を閉じて祈る。
気休めかもしれないけれど、少しでもこの思いが届けばいいと思う。

目をゆっくり開け、私はふぅと深呼吸をした。
「そういえば…お風呂で何か気になっている事があったような気がしたけど…」

(何だったっけ……)
カレー専門店にしようと言った時、おとといカレーを食べた事について指摘されたのを思い出す。
その時、冬馬先輩は『繋がっているからわかります』と言っていた。
それ以上の話をしようとして、周防さんに止められたのだった。

繋がっているからわかる、繋がっているからわかる…私は呪文のように呟いてみる。
そして不意に思い出す。私はあの時、お風呂やトイレまで筒抜けだったら困ると思ったのだった。

(まさか、今もその『繋がった』状態だったら…絶対に困るよ!!)

私は…
@冬馬先輩に聞いてみる
A考える
B気にしない
149490:2007/07/20(金) 10:36:27 ID:???
A考える

(冬馬先輩に聞いてみようか?)
でも、もしそれで筒抜けだと言われてしまったらどうすればいいのか?
契約がなければ私はファントムを見ることが出来なくなるし、それは困るから契約解消はしたくない。

(聞かないほうがいいかな…)
聞かなければ、真相は分からないけれど、筒抜けだとはっきり言われるよりはマシかもしれない。
自分で筒抜けじゃないと思い込めば何とかなる。たぶん。自信はないけど…。

(でもちゃんと聞けば筒抜けにならない方法があるかも…?)
ぐるぐると考えてしまう。

(っていうか、今は湯船に浸かってるから見えないけど、もし筒抜けだったら…)
脱衣所で服を脱いだ段階で遅いだろうけど、そう考えると湯船から上がるのも…。

(ど、どうしよう…)

@とりあえず急いで風呂から上がる
A気にしないことにする
Bさらに考える
150491:2007/07/21(土) 10:02:21 ID:???
A気にしないことにする

(うん。筒抜けじゃないと思い込もう)

そう思うものの、一度気になりだしたら見られているような気になってしまう。
髪や体を洗う時、つい周りを確認してしまった。

(駄目だ…。気になってしょうがないよ)

こんな状態ではトイレひとつ入るのにも緊張してしまうだろう。
やっぱり、一度冬馬先輩に確認するしかなさそうだ。
(でも、どうやって確認しようか…)

呼べば来てくれるのだろうけど、緊急の事態ではないし気が引ける。
以前冬馬先輩が話していたように、チューニングが合えば私から話を出来るかもしれない。
だけど、このままでは自分から裸を晒しに行くようなものだ。
私は急いでお風呂を出ると、パジャマに着替え、髪を乾かして脱衣所を出た。

「お風呂でたよ…って、あれ?」
リビングには春樹と隆の姿はなかった。
(さっき話しがあると言っていたし、春樹の部屋に二人とも居るのかな)
大事な話かもしれないし、もう少し後から呼びに行くことに決めた。

(まず、冬馬先輩に確認しなきゃ。確か…相手の意識に同調させると言っていたよね)
私はソファーに座ると、さっそくチューニングを開始させた。
瞼を閉じ、冬馬先輩を思い描きながら意識を集中させる。
(先輩、冬馬先輩……どこにいるの?)
やっぱり私では無理だったと諦めかけたその時、白い霧がかかったような映像が頭の中に浮かんだ。
それが、徐々に鮮明になっていく。
(ここは……どこ?)
鏡が見えた。その次は蛇口。

「愛菜……どうしましたか?」
シャワーヘッドを確認した所で、真後ろで聞き覚えのある声がした。
私はゆっくりと振り向く。
すると、そこにはタオルを持った冬馬先輩がぼんやりと立っていた。
私は強張ったまま、視線をゆっくり下に移していく。

(は、は、はだか!!しかも全裸!!)
「ごごご、ごめんなさい!!!」

びっくりして目を開けると、いつもの見慣れたリビングだった。
(まだドキドキしてる……。ああ、私が覗いてどうするのよー、バカバカ!)

@気を取り直して隆と春樹を呼びに行く
A落ち込む
B謝りに行く
151492:2007/07/21(土) 10:29:36 ID:???
A落ち込む

(ど、どうしよう……)
とにかく謝らなければとおもうけれど、冬馬先輩は入浴中だった。
今すぐには無理だろう。

(逆に私が覗くことになっちゃうなんて…)
すごく恥ずかしい上に、すごく泣きたい気分だ。
ずんずんと気分が落ち込んでいこうとしたそのとき…。

(……!地震!?)
がたがたと、家全体が激しく揺れる。

「きゃっ」
あまりのゆれに私は動けず、ソファにしがみつく。

(…お、おかしいよ)
しばらくすればとまると思っていた揺れは、まったく止まる様子がない。
しかも、さらに激しくなっている気がする。

「愛菜ちゃん!」
激しい揺れに立ち上がることもできず、途方にくれているとチハルが飛び込んできた。

「チハル!」
「愛菜ちゃん大丈夫!?」
小さなチハルは座り込んだ私に駆け寄ると私に抱きつく。
不思議なことに、チハルはこの揺れを気にすることなく普通に走ってきた。

「チ、チハル、なにがどうなってるの!?」
「ボクにもよくわからないけど、でも、そとからすごくおっきい力が家をつつんでるの」
「おおきい力…?」
「愛菜ちゃん、とりあえずみんなのところにいこう」
そういって、チハルはポンと大きくなると、動けない私を抱き上げる。
チハルに抱き上げられると、今までの揺れが嘘のようだ。

「愛菜!無事か?」
「姉さん!大丈夫だった?」
チハルに春樹の部屋に運ばれると、激しい揺れのために動けない隆と春樹がほっとしたように私に声をかけてきた。

私は…
@「二人とも大丈夫?」
A「チハルありがとう」
B「なにが、どうなってるの!?」
152493:2007/07/21(土) 16:28:07 ID:???
B「なにが、どうなってるの!?」

「愛菜。無事ですか?」
その時、頭の中で冬馬先輩の呼び声が聞こえた。

「僕はこれから術者の元に向かいます。あなたは決して精霊から離れないでください」
頭の中で響く声は冷静そのものだった。
「冬馬先輩!」
「………相手は複数人いるようです。絶対にそこから動かないでください」

その声を最後に繋がっている感覚が遮断された。
(どうか…無事でいて)

「さん…姉さん、姉さん!」
春樹の叫び声で私はようやく我に返った。
「ご、ごめん」

「チハルに確認したところ、この揺れは三人の力によるものらしいんだ。多分、その三人は敵とみて間違いないよ」
意外に冷静な春樹が私に状況を説明してくれる。
「あ! 今、一人増えたよ。だけど……この感覚は愛菜ちゃんを守ってる人だ」
チハルは今起こっている状況をすべて把握しているみたいだ。

「それは…冬馬先輩だよ」
私はチハルを見て、次に隆と春樹に視線を向けて言った。
「とにかく俺達がここでじっとしていても状況は悪くなる一方だと思う。何か対策を考えなくちゃ」
「だけど、どうするつもりだよ。この揺れだぜ」
隆はお手上げだという顔で愚痴をこぼす。
「隆さん。ファントム…じゃないミストは何体まで出せますか?」
不意に、春樹がファントムの話を隆に尋ねた。
「えっ。多分、二体が限界だと思うが…」
隆は面食らいながらも、春樹の問いに答えた。

「冬馬先輩だけでは、多勢に無勢です。チハルに正確な相手の位置を特定さえしてもらえば、ミストで奇襲をしかけられるかもしれません」
「なるほど。よし!やってやるぜ」

チハルの話では、北側、南側、西側にそれぞれ敵が配置されているようだ。
南側は冬馬先輩が応戦している。
「北側と西側にミストを送るぜ。冬馬先輩ってヤツに憑いたらシャレにならないからな」

そう言って、隆は背中からゾワリと二体の黒い影を出した。
その二体は北側と西側にそれぞれ勢いよく這っていった。

私は
@春樹に感心する
A隆に感心する
Bチハルに感心する
153494:2007/07/21(土) 17:02:17 ID:???
@春樹に感心する

(春樹、すごい!)
こんな状況の中で、的確に指示を出す春樹に私は驚く。
いつも色々考えて行動しているとは思っていたけれど、こんなにすばやく対処することができるなんて思っても見なかった。

「あっ…」
家の揺れが弱まる。

「成功したの……きゃっ」
一瞬揺れが弱まったかと思ったが、すぐにまたゆれ始めた。

「くそっ、向こうのヤツにミストを消されちまった」
隆が舌打ちする。

「向こうも能力者だから、ミストへの対策はできてるって事か…」
「ど、どうするの!?」
春樹が悔しそうにつぶやく。

「ねえねえ隆!」
そのとき、チハルが隆に話しかける。

「なんだよ?」
「隆、僕にしたみたいに、家の精霊にお願いしてよ」
「は……?あ!そうか!」
チハルの言葉に、一瞬ポカンとした隆は、すぐに意味を汲み取ったのか、両手を床について、なにやら念じ始める。

「……どうだ!?」
しばらく念じていた隆が、汗をぬぐいながら周りを見る。

(な、なに…?)
ファントムの黒い靄とはちがう、白い靄のようなものが、家を包んでいるのが見える。

「た、隆!これ、なに!?」
「?姉さんどうしたの?」
「愛菜ちゃん大丈夫。これはこの家の精霊の力だから」
「成功、したみたいだな」
隆もほっと息をつく。
徐々に家の揺れが落ち着いていく。

「隆、何したの?」
「チハルを起こしたみたいに、家の精霊に、この家の住人を守ってくれってお願いしたんだよ」
「それじゃあ、いまこの家の精霊が私たちを守ってくれてるって事?」
「ああ、言うこと聞いてくれるか不安だったけど、何とか聞いてくれてるみたいだ」
そういっている間に、揺れはぴたりと収まった。

「ボクより長生きで、ボクには全然及ばないけど力もそれなりにあるはずだし、自分の身を守るためでもあるから絶対に助けてくれるっておもったんだ」
チハルは得意げに言う。

「おい、揺れは止まったけどどうするよ?」
隆が聞いてくる。

@おとなしくここに居る
A外に出る
B冬馬先輩との通信を試みる
154495:2007/07/21(土) 18:04:11 ID:???
A外に出る

「落ち着いたし、外に出ようよ」
私がそう言って立ち上がろうとすると、春樹がその手を掴んだ。
「姉さん。それでは敵の思う壺だよ」
「そうだぜ、愛菜。奴らの狙いはお前だからな」

私はペタンとその場に座り込む。
(……私をあぶり出す目的で家を揺らしたんだ)

また私のために、みんなが危険な目に遭ってしまっている。
そのことに胸が痛んだ。

「愛菜ちゃん、大丈夫?」
チハルが心配そうに覗き込んできた。
「うん。ありがとうね」
私は今できる精一杯の笑顔で応える。

「ねえ、チハル。冬馬先輩がどうなっているか判る?」
今も戦っているだろう冬馬先輩が気がかりで、私はチハルに尋ねた。
「うーんとね。あっ…敵の人達が逃げていくよ……」
「本当?」
「うん。…それでね、愛菜ちゃんを守っている人がこっちに来るみたい」

私は立ち上がると、急いで玄関に走り出す。
裸足のまま、玄関の扉を開けた。
「先輩!」
家の前で立ち尽くしている、先輩を見つけて私は叫んだ。
「よかった。あなたが無事で……」
「それはこっちの台詞だよ」

ショッピングモールで買った緑のシャツが裏返しのまま羽織られている。
お風呂の途中でゆっくり着る暇もなく、私のために駆けつけてくれたのだろう。
「あなたが……また、驚くといけないので…ちゃんと着てきました」
ジーンズとシャツに視線を向けながら、冬馬先輩がポツリと呟いた。

私は……
@お礼を言う
Aきちんと服を着せてあげる
B家に上がるように言う
155496:2007/07/21(土) 19:33:53 ID:???
@お礼を言う

「冬馬先輩ありがとうございます。お風呂の途中だったのに急いできてくれたんですよね…」
良く見ると、髪も濡れたままだ。

「立ち話もなんだし入ってもらったら?姉さんもパジャマのままだし」
春樹後ろから声をかけてくる。

「そうよね!冬馬先輩入ってください」
冬馬先輩は無言で頷く。

「春樹!タオル持ってきて」
「わかった」
冬馬先輩の濡れたままの髪をみて、春樹が洗面所へ向かう。

「そいつが、冬馬先輩か?」
そこへ、二階から降りてきた隆が冬馬先輩を見るてたずねてくる。

「あ、うん。こちら御門冬馬先輩。先輩、私の幼馴染の…」
「湯野宮隆だ」
冬馬先輩はいつものようにじっと隆を見ている。

「……なんだよ?」
無言でじっと見られて居心地悪そうに隆が、顔をしかめる。

「姉さん、タオルもってきたよ。先輩使ってください」
春樹が差し出したタオルを冬馬先輩はじっと見ている。
なぜタオルが差し出されたのかわからないといった感じだ。

「先輩、お風呂の途中だったから髪ぬれたままだよ。ちゃんと拭かないと風邪ひくから」
私の言葉に、冬馬先輩は自分の髪に触れ、納得したのか春樹からタオルを受け取った。

「……何で風呂途中だったって、愛菜がしってるんだよ?」
「え!?」
不思議そうに隆いった隆の言葉に、私の顔に血がのぼる。

@「そ、それは…」
A「そ、それより中に入ろう!」
B「どうでも良いじゃないそんなこと!」
156497:2007/07/21(土) 22:03:17 ID:???
B「どうでも良いじゃないそんなこと!」

ついムキになって言い返してしまった。
「……何、赤くなってキレてんだ? 愛菜」
隆は私の剣幕に怯みながら、困ったように呟いた。

「隆がヘンなこと言うからでしょ?」
勢いの止らない私は、またも隆に絡んでしまう。
「俺がいつヘンな事を言ったんだ。ヘンなのはお前だろう」
「………姉さん。どうしたのさ、一体」
春樹も呆れたように、私を見る。
「だって……」
(言えるわけないよ……お風呂を覗いたなんて)
悪いのは私だって、十分わかっている。
だけど、やましいからこそ思わずムキになってしまったのだ。
(悪いのは私だ。ちゃんと隆に謝らなくちゃ)

「隆、言いすぎたよ。ごめ…」
隆に謝ろうと言葉を紡いだところで、春樹の声が覆い被さってきた。
「あれ? 冬馬先輩が居ないよ!」
不意に発せられた春樹の言葉に、私たちは辺りを見回す。
暗がりの中、三人で目をこらしても冬馬先輩は見つからなかった。
ただ、使ったタオルだけが玄関の門に掛けられていた。

「本当だな。いつのまにか居なくなってやがる」
「冬馬先輩……」
「姉さん。もう遅いしとりあえず家に戻ろう。冬馬先輩には後日お礼を言えばいいよ」
春樹に背中を押され、私は家の中に戻った。

「俺、風呂入ってくる」
隆は不機嫌そうに言うと、風呂場へと向かってしまった。
「姉さんはきっと疲れているんだよ。今日はもう休んだら?」
春樹が労わるように、私に話しかけてきた。

私は……
@自室に戻る
A隆に謝るためにリビングで待つ
B冬馬先輩との通信を試みる
157498:2007/07/22(日) 13:21:00 ID:???
A隆に謝るためにリビングで待つ

「まだ寝るには早いし、隆もすぐにあがってくると思うから、冷たい飲み物でも用意しとくよ」
隆に謝りたいからというのも恥ずかしく、私は春樹にそういって、台所へ向かう。

「寝る前にアイスコーヒーじゃ、寝られなくなるかな…?ま、いっか」
私はアイスコーヒーを4つ用意して、リビングに戻る。

「あれ?チハル寝ちゃったの?」
そういえばさっきからおとなしいと思っていたチハルがソファを一つ占領して眠ってしまっている。

「さっきの事で少し疲れたみたいだよ。あれだけ揺れたのに、物が倒れたり壊れたりしなかったのは、チハルのおかげみたいだ」
「え?そうなの?」
言われてみれば、家の中はまったく乱れていない。
家の中を守ってくれて、さらに外の敵の状況まで探ってくれていたのだ。
私はお盆をテーブルに置いて、チハルの横に膝をついて頭をなでる。

「そっか、チハルがんばってくれたんだ。ありがとうね」
チハルは眠りが深いのか私が頭をなでても目を覚ます様子はなかった。

「おい、次風呂良いぞ、春樹」
「あ、はい」
そのとき、タオルで髪を拭きながら隆が戻ってきた。相変わらずカラスの行水だ。
入れ替わって春樹が立ち上がる。

「俺、上がってから飲むから、そのまま置いておいて」
春樹はそういって、リビングを出て行く。

「お、コーヒーか」
隆はテーブルにおかれたコーヒーを手にとり一気に飲み干す。
さっきの不機嫌な様子はすでにない。
けれど、ちゃんと謝っておかないと…。

「隆、さっきは言い過ぎてごめんね」
「ん?ああ、いや。ところで、あの冬馬先輩ってこの近くに住んでるのか?」
「え…?」
「揺れ起きてからここに到着するまで、やけに早かったろ?」
そういわれてみればそうだ。
揺れが起きてから、私に通信をして、着替えて、私の家まで到着するのに、多分15分くらいしかかかっていない。

@「マンションに住んでるって聞いたけど…」
A「どこに住んでるかは知らないよ」
B「そういわれればそうだね。近いのかな?」
158499:2007/07/23(月) 11:35:29 ID:???
@「マンションに住んでるって聞いたけど…」

私は困って続ける。

「はっきりどこに住んでるかは知らないよ…」
「マンションか…、ここから近い場所だと、学校の近くに最近出来たところか、だいぶ前からある駅前のヤツか…」
この近辺は昔からある住宅街で、マンションもそう数は多くない。
さらに、私の家から15分かからずに来られる場所となると、確かにその2箇所に絞られる。
といっても、学校の近くに出来たのはマンションも一つではなく3棟同時に建設されたし、駅前は更に数が多く10棟近くはある。
でも、隆はそんな事聞いてどうするのだろう?
隆に聞いてみようかと口を開きかけた所で、チャイムが鳴った。

 ピンポーン

「あれ誰か来た…、こんな時間に誰だろう?」
時計を見るとそろそろ21時になろうとしている。
チャイムを鳴らすということは、お父さんやお義母さんではない。
私が立ち上がると、隆が、私の手を掴んだ。

「俺も行く。こんな時間に来るなんて怪しいだろ」
「え?でも、組織ならわざわざチャイム鳴らさないんじゃないかな?」
「そうかもな、でもお前、押し売りとかだったらどうするんだ?お前のことだから、何か買わされるんじゃないか?」
にやっと笑って言う隆に、私はむっとする。

(た、確かに押しには弱いけど…)
反論できなくて、私は隆の手を振りほどきムッとしたまま玄関へ向かう。
隆は、肩をすくめて私の後をついてくる。
私は覗き穴から外の様子を伺う。

そこには…
@一郎くんと修二くん
A冬馬先輩
B知らない人
159500:2007/07/24(火) 21:37:36 ID:???
B知らない人

見知らぬ女の子がドアの向こうに立っていた。
(誰だろう?)

「おい。誰だったんだ?」
「それが、わからないのよね」
「ちょっと変われって。俺が確認してやるから」
そう言うと隆は、私を押しのけるようにしながら覗き穴を見た。

「お…若い女だな。愛菜の友達か?」
「違うよ」
私は首を振って答える。
「女の子が外に立ちっぱなしじゃかわいそうだ。よし、開けてやろう」
「ちょっ、ちょっと私パジャマ…」

言うが早いか、隆はドアの鍵を開けてしまった。
とてもかわいい女の子が申し訳なさそうに立ち尽くしていた。

「あの……夜分にすみません。春樹くんは居ますか?」
俯いたまま、小声でその女の子は尋ねてきた。
清楚な白いワンピースを着ていて、同姓の私でもその姿に思わず見入ってしまった。

「今、お風呂に入っているの。ところで……何か春樹に用だった? もしよかったら、中で待ってる?」
私は隆の前に出て、女の子に話しかけた。
「いいえ、すぐ帰りますので。あの、この間……体育の時に助けていただいてありがとうございました。
一度、ご家族の方にもお詫びをしなければと思っていて…お伺いしました」
そう言って、女の子はおずおずと紙袋を差し出してきた。
私はそれを受け取る。
「へー、春樹もやるなぁ。こんなかわいい子を助けるなんてさ」
隆は私の後ろから覗き込むように女の子を見ると、面白そうに言った。
隆の言葉を聞いて、女の子の顔がみるみる赤くなっていく。

「ちょっと、隆! ごめんね。わざわざありがとう」
「い、いいえ…。私のせいで春樹くんが倒れてしまって……、本当にすみませんでした。
そ、それでは私はこれで失礼します」
「夜道だけど平気?」
「危ないぜ。俺が送っていくけど、どうする?」
隆が身を乗り出すようにして、女の子に尋ねている。その姿がどこかうれしそうに見えるのは気のせいだろうか。
「ち、近くなので、大丈夫です。夜分に失礼しましたっ」

女の子は会釈をすると、足早に夜道を歩いていった。
私達はその姿を見送って、玄関のドアを閉める。

@隆に話しかける
Aリビングに戻る
B考える
160501:2007/07/24(火) 22:53:38 ID:???
@隆に話しかける

「かわいい子だったね」
「だな、春樹も隅に置けないな」
隆はなにか面白がっている風に見える。

「なんか、うれしそうね?」
「ん?そりゃな、あの春樹をからかえる大チャンスじゃないか」
私は呆れて隆を見た。
さっきやけにうれしそうだったのは春樹をからかえる絶好の機会を得たからなのだろう。
こういうことに関して今まで隙をみせなかった春樹だから、隆にはうれしいのかもしれない。

(隆らしいといえば隆らしいけど…)
少し春樹をかわいそうに思いながら、女の子から受け取った紙袋を覗き込む。
重さはそれほどでもないから、お菓子か何かだろうと入っている包みを取り出す。

「なんだ?お菓子か?」
隆もそう思ったのか私の手から包みをとるとひっくり返してみる。

「ん?包装紙にも、包んであるシールにもメーカー書いてないな」
「え?」
言われて良く見れば、確かに無地の包みには店の名前は書いていない。
お菓子ならば包装紙にそれらしい記述があるはずだし、それ以外でも普通は包装紙をとめてあるシールに社名くらいは入っているものだろう。

「手作り…?」
「か?」
私と隆は顔を見合わせる。
なんとなく釈然としないものを感じる。

(それに、挨拶に来るにしてもこんな時間に女の子一人でくるもの?普通大人の人とくるんじゃないかな…?)
けれど、女の子の態度になんら不信な点はなかった。
私にはそれが逆に、不自然なものに感じられる。

私は…
@包みを開けてみる
Aリビングに戻る
B隆に意見を求める
161502:2007/07/25(水) 13:46:47 ID:???
B隆に意見を求める

「ねえ…、なんか変じゃない?」
「変って?」
「だって、女の子がこんな時間に一人でくるなんてさ。
 学校終わってからならもっと早くに来られたはずだし、それに昨日は日曜日だったんだよ?昨日来ればよかったじゃない」
「うーん、そうかぁ?単に、塾とか行っててこの時間にしか来られなかったとか」
「時間に関してはそうかもしれないけど、この包みも変だとおもわない?」
「まぁ、これは少し変だとおもうけど…、でもさっきの子べつにミストに操られてたわけじゃないし、大丈夫じゃないか?」
隆はそう言って包みをもったまま、リビングに向かう。
私も隆を追って一緒にリビングに入る。
隆は包みをそのままテーブルの上に置きソファに座った。

「ま、春樹が来たら開けてみようぜ」
「うん」
私は包みが入っていた紙袋をたたむと、包みの横に置く。
改めてみれば、紙袋も無地の白いものだ。

(なんか徹底してるっていうか…)
私はやはり釈然としないものを感じつつ、チハルが一つソファを占領しているので隆の横に座る。

(でも、隆が言うようにミストに操られてるんじゃなかったら気にしすぎなのかな?)
包みを見ながら考え込んでいると、ふと視線を感じて視線を向ける。
当然のように隆と目が合った。

「なに?」
「…なんでそんなに気にするのかと思ってさ」
隆はそういって、ちらりとテーブルの上を見る。

「純粋にコレが気になるのか?それとも…」
隆は視線を私に戻して口を開く。

「春樹が女の子を助けたことが気になるのか?」
探るような声音。

@「包みが気になるだけよ?」
A「何でそんな事聞くの?」
B「春樹のことも気になるけど…」
162503:2007/07/25(水) 21:36:42 ID:???
B「春樹のことも気になるけど…」

と、私が言いかけたところで春樹がリビングに戻ってきた。

「おっ、ウワサの的の登場だな」
隆はやけにニヤニヤと笑いながら、春樹を目で追った。
私もリビングを移動する春樹の行動をつぶさに観察してしまった。

「……一体、どうしたのさ。二人とも……」
春樹は訝しげな表情のまま、ソファーに座った。
「いやぁ。春樹君も隅に置けないなぁ、と思ってさ」

隆は嬉しそうに言いながら、紙袋を春樹に手渡した。
タオルで髪を拭いていた春樹はその手を止めて、紙袋を受け取った。

「かわいい女の子からのプレゼントだ。春樹君もやるねぇ」
中身を確認しようとする春樹に向かって、隆は冷やかすように言った。
そんな隆に対して、春樹は苦笑で応えている。

「ちょっと隆ってば、嘘を言わないでよ。この前、春樹が体育の時間に助けてあげた子がみなさんで食べてくださいって持ってきたのよ。ちゃんとお礼に来てくれるなんて、いい子だね」
「そうか…桐原さんが。わざわざ、いいのに……」
春樹は無地の包装をゆっくりと開けていった。

(名前を聞くのを忘れていたけど、桐原さんっていうのね)

包装紙を解くと、中から白い箱が出てきた。
「甘い美味しそうな香りがするよ」
私は香ばしいような、甘酸っぱいような香りを吸い込んだ。
「多分、お菓子だ。桐原さん、お菓子作りが趣味だって言っていたし…」
春樹にしては、さっきから言葉の歯切れが悪い。まるで、対応に困っているようにも聞こえる。
「いいから、早く開けようぜ」

隆に促されるようにして、ゆっくりと箱を開けると中からパイが出てきた。
見た目も美しくて、まるでケーキ屋で売られているような出来だった。
「うわぁ! 本格的なパイね」
「多分……アップルパイだよ。まさかこんな夜に持ってくるなんて思わなかったな」
春樹は嬉しそうというよりは、どこか浮かない顔をしながら呟いた。

@「どうして、アップルパイを持ってくるって知っているの?」
A「桐原さんと仲がいいのね」
B「もっと嬉しそうな顔をしたら?」
163504:2007/07/26(木) 03:48:10 ID:???
B「もっと嬉しそうな顔をしたら?」

府に落ちない春樹の態度に、思わずそう口にした。
「え……ああ、そうだね。ごめん」
春樹は私の言葉に小さく苦笑いを浮かべ、再び手元のアップルパイに視線を落とした。

こんがりと焼きあがったパイ生地の周りには抜き型で抜かれた木の葉の形のパイ生地がところどころあしらわれ、格子状に被せられた生地の隙間から覗くフィリングは綺麗なはちみつ色をしている。
箱の底には箱や包み・紙袋と同じく真っ白なレースのペーパーが敷かれていて、素人目に見ても相当な手間と時間がかかっている事が伺える。

(もし私が誰かにこんな贈り物もらったら、きっとすごく感激すると思うんだけどな)
春樹も甘いものは嫌いじゃないはずなのに。
そう思って見るからか、箱に触れる春樹の何気ない仕草も私の目にはこころなしかぎこちなく映った。

「別に私に謝らなくても良いけどさ。だって、1ホール手作りでしょ?きっと桐原さんも大変だったんじゃないかな。もっと喜んであげたって良いのに」
「しかも売り物みたいによくできてるしな、コレ」
春樹の横から覗き込んだ隆は、先ほどひっくり返して裏側を確認した際に崩れたと思われるパイの小さな破片を制止する間もなくひょいと口に運んだ。

「ちょっと!春樹より先に食べることないでしょ!」
「だいじょーぶだろ、彼女もそれくらいで怒りゃしないって……ん」
もごもごと口を動かしながら、隆はまるで料理人が料理の味見をしているかのように斜め上に視線を彷徨わせた。

「どう?」
「んまい!ひょっとしたら駅前のケーキ屋のより旨いんじゃないか?」
私の問いにそう答えてさらに手を伸ばそうとする隆の手をはたいて、隆の手の届かない所に箱ごとパイを移動させる。
春樹は隆の感想に特別驚いた様子もなく、なぜか少し困った顔で言った。
「そうかもしれません、去年も彼女の彼氏がクラス中にそんなような事を吹聴してましたし」
「彼氏?なんだよ、桐原さんてお前の彼女じゃないのか?」
冗談めかして春樹の肩に手を廻しながら隆が言った。言いながら隆は意味ありげな視線をこちらに寄越してきた。私は気付かないふりでやりすごす。
春樹は私たちのそんなやりとりには気付かなかったようで、顔をしかめたまま呟いた。
「違いますよ、俺はただの同級生で彼女にはれっきとした彼氏がいます。ただ……」

そう言いかけて、春樹は考え込むように口を閉ざしてしまった。その表情は相変わらず曇ったままだ。
(なんだろう、さっぱり話が読めないや……)

春樹に何て尋ねよう?
@「わざわざ持ってきてくれたのに、春樹は嬉しくないの?」
A「去年って、桐原さんとは中学生の頃から知り合いなの?」
B「桐原さんの彼氏がどうかしたの?」
164505:2007/07/26(木) 10:32:39 ID:???
B「桐原さんの彼氏がどうかしたの?」

春樹の態度がすっきりしないのは桐原さんではなく彼氏のほうに原因があるのだろうか?
去年からということは中学時代からの知り合いということになる。
私の言葉に、春樹は深いため息をついた。言っていいものか迷っているようにも見える。

「なんだよ、さっさと吐いてすっきりしろ」
そんな春樹を、隆が肩に回した手に力を入れて、軽くゆする。
春樹は少し苦笑して、やんわりとそれを止めると言いにくそうに言葉を続ける。

「あいつ、俺が桐原さんを好きなんじゃないかって、勘ぐってるみたいで…」
「へぇ〜?」
隆はそれを聞いてにやにやしながら、春樹の顔を覗き込む。

「で?実際はどうなんだ?桐原さんのこと好きなのか?」
「そんなわけないじゃないですか。もちろん友達としては好きですけど、恋愛感情じゃありません」
きっぱりと春樹は言い切ってため息をつく。

「だから彼女がお礼のためにわざわざ手作りのお菓子を持ってきたって、あいつに知れたら…しかも、こんな時間に」
「あ〜、なるほどなぁ」
隆は同情するように言う。
確かにそれならば、素直に喜ぶことも出来ないだろう。

「でも、それならはっきり言えばいいじゃない?」
「言ったよ…」
春樹が疲れたように言った。
ということは、それも信じてもらえなかったということだろう。
私も春樹に同情しかけて、ふと思いつく

@「春樹、前に好きな人が居るって言ってたわよね?」
A「私が誤解を解いてあげようか?」
B「チハルに女の子に変身してもらって、春樹の彼女ってことにすれば?」
165506:2007/07/26(木) 20:32:27 ID:???
B「チハルに女の子に変身してもらって、春樹の彼女ってことにすれば?」

私はなんとなく閃いた事を口に出していた。

「すぐにベタベタとひっつくし、彼女役にはもってこいだ」
隆は二個目のアップルパイを頬張りながら、賛成した。

「だけど…チハルがいいって言うかな」
春樹はあまり乗り気ではないのか、言葉を濁すように呟く。
「愛菜が頼めば、嫌だとは言わないはずだぜ」
隆はそういった後、「心配すんなって」と付け足しながら、春樹の肩を勢いよく叩いた。

(彼氏の方はそれで解決するとしても…)

「で、春樹は…桐原さんの気持ちを直接聞いたことあるの?」
女の勘というわけではないけれど、桐原さんの気持ちは春樹に傾いているような気がしてならない。
(この勘が外れていてくれればいいんだけど…)

「そりゃ、彼氏がいるんだったら春樹のことはただの友達だろうさ」
当たり前だろうという口調で、隆は口を挟んだ。
「わからないよ。彼氏がいても心変わりすることだってあるでしょ?」

春樹を見ると、まったくアップルパイに手をつけていなかった。

@「春樹も食べなよ。このパイすごく美味しいよ」
A「どうしたの? 春樹」
B「隆。ひとりで食べすぎよ」
166507:2007/07/26(木) 21:51:53 ID:???
A「どうしたの? 春樹」

私の問いかけに春樹が何度目かになるため息をつく。

「姉さん、桐原さんに気持ちを直接聞いてどうするのさ?
 もし、心変わりして俺が好きだと言われても、俺はそれに応えることはできないんだよ?」
「それは…そうかもしれないけど」
「それなら、最初から聞かないほうが良いと思う。
 桐原さんが直接言ってきたとしても、俺は断るし」
春樹はきっぱりという。
その言い方に、ふと私は思う。

(もしかしたら、春樹は桐原さんの心変わりに気づいてる?)
ということは、桐原さんの彼氏だって気づいている可能性が高い。

「じゃあやっぱりチハルに女装させる作戦で春樹に彼女がいるって、桐原さんとその彼氏に見せ付けてやれば良いだろ。
 もし、桐原さんが春樹を好きでも彼女が居るってわかればあきらめるだろ」
隆がチハルのために用意してあったアイスコーヒーを飲みながら言う。

「そう…ですね。あ、隆さんこれも食べて良いですよ」
「ん?良いのか?」
「ええ、かまいません。俺は食べないほうがいい。桐原さんに少しでも期待させるようなことはできません」
そういって、春樹は立ち上がる。

「じゃあ俺、先に部屋に戻るから」
「あ、うん」
「おう、おやすみ」
春樹はそういってリビングから出て行った。

「春樹も大変だな」
春樹が手をつけなかったアップルパイをほおばりながら、隆が苦笑する。

「そうね…」
「さて、それじゃ俺らどうするよ?愛菜はもう寝るか?」
アップルパイを飲み込んで、隆が尋ねてくる。

私は…
@寝る
Aもう少しリビングにいる
Bチハルを起こして今の話をする
167508:2007/07/27(金) 11:09:26 ID:???
Bチハルを起こして今の話をする

「とりあえずチハルを起こして、今の話をしてみようか」
「おう、そうだな。おい、チハル起きろ」
私の言葉に隆は頷いて、チハルをゆする。

「…ん?」
「チハル起こしてごめんね、ちょっとお願いがあるんだけど…」
「…おねがい?なぁに?」
まだ目が覚め切っていないのか、しきりに目をこすりながらチハルが体を起こす。

「チハル、私の年くらいの女の子に変身してみてくれる?」
「愛菜ちゃんくらいの女の子?うん、わかった」
言うないなや、ぽんっとチハルの姿が変わる。

「うそっ、かわいい!」
「お?コレならいけるだろ」
姿の変わったチハルに思わず私は歓声をあげ、隆は目を丸くする。
顔はやはりチハルの面影を残しているが、男の子だったときより顔のつくりが丸っこくなっている。
髪も少し長くなり、セミロングで、ふわふわと軟らかいウェーブがかかっている。

「これでいい?」
「うんうん、完璧よ」
「えへへ」
ちょこんと小首を傾げる仕草が、女の子の姿だととてもかわいらしい。
ほめてあげると、うれしそうににっこり笑う。その姿さえ魅力的に見える。

「よし!それじゃ簡単な打ち合わせをするぞ!」
隆の言葉に私が頷き、チハルはきょとんとする。

30分後

「それじゃ、おやすみ隆」
「おう」
簡単な打合せをすませ、私は女の子の格好のままのチハルを連れて部屋にもどって布団に入る。
チハルももぞもぞと、私の布団にもぐりこんでくる。
こうしていると、友達とお泊り会をしているようだ。

「それじゃあおやすみチハル、さっきの話よろしくね」
「うん、まかせて、愛菜ちゃん」
そういって、擦り寄ってくるチハルをぎゅっと抱きしめて目を閉じる。
すぐに、心地よい眠りにさらわれて、私は久しぶりに夢を見ずに眠った。


ふっと、意識が浮かび上がり、私は目を開ける。
時計を見ると丁度起きる時間だ。

(夢を見ないで寝るって久しぶり、さてと今日は…)

@朝から昨日の作戦を実行
A放課後昨日の作戦を実行
B作戦実行は文化祭、今日から作戦準備
168509:2007/07/28(土) 18:53:06 ID:???
@朝から昨日の作戦を実行

(よし!やるぞ!)
私は起き上がって、心の中で気合を入れる。

「ん……愛菜ちゃん?」
「あ、おはようチハル」
私が起き上がったときに目が覚めたのか、ごしごしと目をこすりながらチハルも起き上がる。
昨日とは違い、寝ている間にテディベアに戻らなかったようだ。

(これも力が強くなってきてるってことなのかな?)
「おはよう、愛菜ちゃん」
にこっと笑うチハルに、思わず抱きついてほお擦りする。

(か、かわいい〜〜〜〜)
妹が居たらきっとこんな感じかもしれない。

「愛菜ちゃん、どうしたの?」
急に抱きつかれたチハルが不思議そうに、でもうれしそうにたずねてくる。

「んーん、なんでもないよ。今日はがんばろうね!」
「うん!」
私が笑いかけると、うれしそうに笑い返してくれる。

「さて、それじゃあ着替えて、朝ごはんにしようね」
「ボクも?」
「あ、チハルは……」

@そのままで
A制服姿に変身
3かわいい私服に変身
169510:2007/07/28(土) 21:16:08 ID:???
A制服姿に変身

「計画どおり制服姿になってもらっていい?」
チハル素直に頷くと、ポンと軽い音を立てて制服姿に変身した。

「どう? 愛菜ちゃん」
ブレザーにネクタイ、そしてズボンの少女がその場でくるくると回っていた。

「えっと……ちょっと違うかな」
「どうして?」
軟らかいウェーブを揺らしながら、チハルが覗き込んだ。
「ほら、今のチハルは女の子に変身しているでしょ。だから、私がいつも着ている制服じゃないとね」

「あ! そうだった」
私に指摘されて、ようやく気付いたようだ。
(大丈夫かな…)

「昨日、愛菜ちゃんと隆とで決めた作戦通りにすればいいんだよね」
「そうよ。チハルの演技力で決まるんだから、頑張ってね」
私はチハルの頭を撫でた。
美少女になっても、目を細めて気持ちよさそうにする仕草はやっぱりチハルのままだ。
「うん。ボクがんばる!」
「そのボクも、今日一日はワタシで通すのよ」

再び変身したチハルは胸にはリボン、紺のブレザー、チェックのプリーツスカート。どう見てもうちの女子生徒そのものになった。
隆と打ち合せしたとおりの言葉を、チハルは目を泳がせながら、ゆっくりと話し出した。
「うんと…。ワタシは…春樹の恋人のチハルです。はじめまして」
(かわいい〜〜。これなら、作戦も成功しそうね)

確かな手ごたえを感じながら服を着替えて髪を整え、チハルと共に階段を下りた。

@春樹にチハルを見せて驚かせる
A隆と最終の打ち合せをする
Bチハルと朝ごはんを食べる
170511:2007/07/29(日) 08:09:14 ID:???
A隆と最終の打ち合せをする

「おはよう、隆」
「おはよう。お、チハル準備万端だな」
「おはよう隆!」
リビングに入ると隆がテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。
かってしったるなんとやら、だ。

「隆、最終打ち合わせなんだけど」
「ああ」
「まず、桐原さんね」
桐原さんは昨日近くに住んでいるようなことを言っていた。
もし桐原さんが春樹を好きなら、きっと偶然を装って同じ時間に登校するはずだ。
本当は彼氏のほうを先に何とかしたかったが、彼氏の情報がまったくないため桐原さんからということになったのだ。

「よし、それじゃあチハル、何年何組って聞かれたらなんて答えるんだ?」
「えっと、同じがっこうじゃないよ。今日はソウリツキネンビで休みだから、愛菜ちゃんにセイフク借りたの。いっかい一緒にトウコウしてみたかったから、お願いしてワガママ言っちゃった」
いえたことに安心したのか、にこっとわらうチハル。
チハルの役どころは他校の彼女。家族公認で春樹の姉の私とも仲が良いというもの。
下手に何年何組か嘘をついて、後で教室に乗り込まれたら困るので考えた設定だ。

「よし!完璧だな!細かいところは春樹がフォローするだろ」
「そうね、後はチハルいつも通りにしてて良いからね」
「うん、わかった!」
「ちゃんと私たちも後ろからついていくし、なんかあったらフォローするから」
私たちがリビングで話をしていると、春樹が顔を覗かせた。

「姉さん、隆さん朝ごはんできましたよ……」
「あ、春樹!ボク…じゃないワタシの分は?」
「…チハル?」
「うん、ボ…ワタシ、チハル!」
ぴょこんと、立ち上がって春樹に突進するチハル。

「ねえねえ、ワタシの分は?」
がしっと腰にしがみついて、チハルが春樹を見上げる。
春樹は疲れたように額に手を当てると頷いた。

「ちゃんとあるよ……」
「わーい、春樹大好き!」
私たちが何をしようとしているか気づいていながら、春樹はとりあえず止めるきはないらしい。
それくらい、桐原さんとその彼氏のことで悩んでいるのかもしれない。

「この調子なら大丈夫だろ」
「そうね」
私と隆は頷きあってテーブルに座る。

さて…
@春樹に設定を説明する。
A隆とフォローの仕方を話し合う。
Bチハルともっと打ち合わせをする。
171512:2007/07/30(月) 00:23:48 ID:???
Bチハルともっと打ち合わせをする。

(チハルの打ち合せを春樹にも聞かせれば、計画の説明が省けそうね)

「ねえ、チハル。それじゃあ、春樹の恋人のチハルちゃんの設定を説明をしてくれる?」
私は確認をかねて、チハルに役柄の説明をお願いした。
春樹も朝食の用意が終わったのか、席に座ってチハルに注目する。

「えーっとねぇ…。ボ…ワタシは春樹の恋人のチハルなんだけど……春樹とは違うガッコウに通ってるんだ。
今日はソウリツキネンビでお休みだから、愛菜ちゃんにセイフクを借りて、一緒にトウコウするの。
春樹とは家族同士コウニンのナカで、すっごくラブラブなんだよ。…って、キリハラさんって人に言えばいいんだよね」

「そうだ。チハルお前、賢いな」
隆は自分自身の考えた細かい設定に満足しながら、チハルを褒めた。
チハルは嬉しそうに笑って、それに応えている。

「ずいぶん強引な気もするけれど…」
春樹は朝食のパンにバターを塗りながら、隆に向かって複雑な顔を向けた。

「チハルで対処しきれないときは、お前がフォローすればいいんだよ」
「俺がフォローですか……」

今朝になっても言葉を濁したままの春樹に、煮え切らないものを感じてしまう。
(もしかして、春樹はこの計画に反対なのかな)

「春樹。この計画に反対なの?」
「そういうわけでは無いけど……桐原さんをだますみたいで、やっぱり心苦しいよ」

春樹の放った一言に、隆が眉をひそめる。
「そうやって優しくするから、その桐原さんって子も勘違いしたんじゃないか?
好意に応えることが出来ないのならせめて態度にして伝えないと、逆にその子が可哀想だぜ」

私は…
@隆に賛成する
A春樹に同情する
B時間がないので食事を終える
172513:2007/07/30(月) 11:41:20 ID:???
A春樹に同情する

「春樹の性格上どうしようもないかもしれないけど、このままっていうわけにもいかないじゃない?」
春樹は面倒見が良くて優しいから、勘違いする女の子だって居るだろう。
今までこういう話がなかったほうが不思議だ。
それにフリーの女の子だったら私たちだってこんなおせっかいはしない。
けれど桐原さんにはちゃんと彼氏が居るということだし、それに…。

「それに桐原さんの彼氏と気まずくなってるのも、嫌なんでしょ?」
「…うん、あいつ、最近笑わなくなってきたから」
春樹がそういって悲しそうにため息をつく。
桐原さんの彼氏と春樹はきっと仲が良かったのだろう。

「それじゃ、早く誤解を解いたほうがいいだろ?」
「そうだね…」
春樹はそう言って迷いを振り切るように頷いた。

「よし、それじゃそろそろ出ようぜ」
「そうね」
時間を見るとそろそろいつもの時間だ。

「じゃ春樹、先に出て。桐原さんを見かけたら合流するから」
「分かった」
最初からチハルと一緒だと、桐原さんが近づいてこない可能性もある。
春樹が出て行った後、外をうかがうと桐原さんが角から歩いてくるのが見えた。

「思ったとおり、春樹の通学時間に合わせてきたわね」
「だな。よし!作戦実行だ!」
桐原さんが家の前を通り過ぎるのを確認して、私と隆、そしてチハルの3人で玄関を出る。
前を歩く桐原さんが、春樹に気付いたのか小走りになった。

「よし!チハル今だ!おもいきり春樹にくっついて来い!」
「わかった!」
隆の言葉にチハルは元気に頷くと、勢い良く春樹に突進する。

「はーるーきーーーーー」
春樹はチハルの声に振り返り、驚いたような顔になる。突進してくるチハルに素で驚いているらしい。
同じく、春樹の後を歩いていた桐原さんもチハルの声に振り返った。
振り返って立ち止まった春樹にすぐにチハルは追いついて、朝のように腰に手を回してしがみつく。
今は通学時間帯。当然まわりの生徒も何事かと春樹とチハルに注目する。

(うわ、ちょっと…てか、かなり恥ずかしいかも…)
「チハル!?」
案の定、春樹も周りの視線を一身に浴び恥ずかしいのか赤くなる。
けれどそれが逆に、他校の彼女が目の前に居ることに驚いている演技(?)に見えないこともない。
あわてる春樹が視線をさまよわせて、ふと桐原さんに気付く。

「あ…、桐原さんおはよう。……こらチハル離れろって」
「お、おはよう、春樹くん…」
赤い顔のままあわててチハルを離そうとする春樹、困惑したような桐原さん。
そのまま、黙り込んでしまった桐原さんは、チハルをチラチラと見ながら春樹に疑問の視線を投げている。
けれど「誰?」とは聞かないため、チハルは言うべきセリフを言わず、春樹にしがみついたままだ。

@フォローに出る
A成り行きを見守る
Bチハルに通信を試みる
173514:2007/07/31(火) 02:08:00 ID:???
A成り行きを見守る

「チハル、頑張れ。」
小さな声でエールを送る。
ここで私が下手にフォローすると変だからチハルを見守ることにした。
想いが通じたのかチハルが動き出す。
「会いたくてきちゃった、はるきだ〜いすき。」
甘い声で春樹に擦り寄るチハル。
「春樹君の恋人?」
チハルの態度に春樹の表情が一瞬険しくなってバレルかと焦ったが、
見事に桐原さんは引っかかってくれたようだ。
「うん、ワタシは春樹の恋人のチハルなんだけど……春樹とは違うガッコウに通ってるんだ。
今日はソウリツキネンビでお休みだから、愛菜ちゃんにセイフクを借りて、一緒にトウコウするの。
春樹とは家族同士コウニンのナカで、すっごくラブラブなんだよ。ね、春樹。」
「あ、ああ。」
嘘がつけないのか春樹の方がボロがでそうでハラハラする。
「そうなの。」
桐原さんは二人を見て目を細めてどうでもいいとでもいうように一言呟いた。
「桐原さん、昨日はおかしありがとう。
で、でも俺にもこいついるし誤解されたくないから今後は……ね。」
何とか振り絞った春樹の言葉も桐原さんにとっては効果がないように見えた。
桐原さんはチハルを一瞥すると飛び切りの笑顔を向けた。
「初めまして、チハルさん。」
「う、うん。」
チハルの表情が曇る。先ほどまでとは違って怯えて春樹にしがみついているという感じだ。
「でも、親公認というのは私も一緒なのチハルさん。」
「えっ。」
桐原さんの言葉に私だけでなく春樹も隆も驚きの声を上げた。
「だって春樹君とは親公認の許婚なんですもの、ねぇ高村春樹君。」

高村春樹

その言葉に春樹の表情が一転する。
「俺の親は高村じゃない。あんな男の息子じゃない。」
春樹の今の表情『お前らなんか必要ない!』と言い放ったときと同じ表情だ。
今にも食いかかりそうな春樹の感情を抑えなきゃ!!
その為に私は、

@「春樹、落ち着いて」と春樹にしがみつく
A「ちょっと許婚って何よ、桐原さんには恋人いるんでしょ。」と話題をそらす
Bチハルにキスして場の雰囲気を壊す
174515:2007/07/31(火) 10:19:22 ID:???
@「春樹、落ち着いて」と春樹にしがみつく

「ね、姉さん…」
私の声に、春樹がハッとしたように動きを止める。

「愛菜ちゃん、あのヒト怖いよ…すごくどろどろしてきもちわるい」
同じように春樹にしがみついているチハルが泣きそうな顔で私に言う。
心なしか、顔色も悪い気がする。
私は春樹から離れるとチハルを覗き込む。

「チハル?」
チハルの言葉に、私と春樹は視線を交わす。
力のある精霊のチハルがこんなにも嫌がるなんて普通じゃない。
春樹もそう思ったみたいだ。すっとチハルを桐原さんからかばうように立つ。

「チハル、大丈夫か?どうしたんだ?」
春樹もチハルを覗き込む。そんな春樹の態度に桐原さんはギッと眉を吊り上げた。

「きもちわるい、あのヒト、どろどろする、ボクここにいたくない」
すっかりもとの口調に戻っているチハルが、必死に春樹に言う。

「桐原さんだっけ?昨日はアップルパイありがとさん」
そのとき、隆が気をそらすためか桐原さんに話しかける。桐原さんは、ハッとしたように微笑んだ。
桐原さんの意識がチハルから離れたためか、チハルが少しホッとしたように息をついた。

「………いえ」
桐原さんは春樹とチハルを気にしながらも先輩である隆を無碍にも出来ないのだろう。隆に向き直る。

「ところで、春樹が桐原さんの許婚ってのはどういうこと?」
興味津々といった感じで隆が桐原さんに聞く。こういうことを遠慮なく聞ける隆はすごい。

「そのままの意味です。私の父と、高村のおじ様が決めたと…」
「でも、春樹は知らなかったみたいだぜ?なあ?」
春樹は隆の言葉に頷く。

「ってことはだ、許婚って言っても親が勝手に決めたことであって、本人の意思はまったく反映されてないってことだ。今の時代そんなのに効力があるとも思えないね」
たまには隆もいい事を言う。桐原さんは、隆の言葉に唇をかみ締める。

「それに、今の春樹は高村じゃない。大堂だ。高村春樹って人間はもうどこにも居ない」
隆は春樹が家に来た頃のことを知っている。春樹が荒れていた理由も当然知っていた。

「よしんば高村だったとしても、20になったら親の許可なく結婚できる。
 親の意思なんて関係ないさ。春樹は結婚したいヤツと結婚する。で、それは絶対にアンタじゃない」
隆の言葉がだんだんときつくなっていく。なぜか隆は怒っているみたいだ。

@隆を止める
Aとりあえず春樹とチハルをこの場から離す
B成り行きを見守る
175516:2007/08/01(水) 00:39:41 ID:???
B成り行きを見守る

「おじ様は立派な学者でたいへんな権力者なんです。そのおじ様が決めた事ですもの、絶対だわ」

「高村だか高原だか知らないがな、大堂春樹はここにいるんだ。許婚なんて古いしきたりに縛られるなんてホント馬鹿げてるぜ」

お互い一歩も譲らず、隆と桐原さんは言い争いを続けていた。

(高村…?春樹があの高村だったなんて……)
隆と桐原さんのやりとりを聞きながら、私はずっとそのことばかり考えていた。

出会ったころの春樹は母方の姓を名乗っていて、すでに高村春樹という名前ではなかった。
だから今まで、私は全く知らずに過ごしていたのだ。

春樹は過去の話を極端に嫌っていたから、私から尋ねることも出来ないでいた。
たまに昔話になったとしても、お義母さんに対して暴力を振るっていた父親を今も決して許していなかったし、同じ血がながれていることにすら嫌悪しているほどだった。
そういった経緯で、春樹の父親のことは禁句になっていたのだ。

とはいえ、桐原さんの口から真実を聞くことになってショックも大きい。

隆はあいかわらず、桐原さんに向かって何か話している。
隆自身、まだ高村の存在を知らないみたいだけど、武くんのことに高村が関わっていると知ればどう思うだろう。
春樹の親族から人体実験まがいのことをされたと知っても、今みたいに春樹をかばってくれるのだろうか。

春樹を見ると、チハルを守るようにして隆と桐原さんの様子を見ている。
いつも傍らにいたはずなのに、まるで知らない人を見ているような錯覚に囚われる。

(春樹は…すべて知っていて黙っていたの?)

私は…
@春樹に話しかける
Aとりあえず、この場を収める
B考える
176517:2007/08/01(水) 10:16:53 ID:???
B考える

少し悲しくなって春樹を見ると、春樹は私の視線に気付いたのか心配げな顔をした。
その顔に演技や嘘は感じられない。

(そうよ、春樹が何か知ってるわけない)
春樹が何か知っていたら一郎くんや修二くんのことも、力のことも知っていたはずだ。
知らなかったから、いろいろ驚いたり苛立ったりしてたんだ。
それに、知っていて黙っていたとしても、それは当たり前。
人体実験をしている組織があるといわれても、何も知らなかった頃の私なら映画か何かの話かと思ったかもしれない。
大体、組織に関しては春樹はまったく関係ない。
力もないし、組織に属しているわけでもない。
春樹の父親がどんなに非道なことをしていようと、春樹自身にはまったく関係ないことだ。
自分に言い聞かせるように、いろいろ考えていると隆の声が耳に飛び込んできた。

「大体、アンタ親が言ったからって、すべてを受け入れて生きていくわけかよ?」
「……そうよ」
「バカだな。親が言ったからだって?ハッ、要するに自分で考えられないお人形ちゃんてわけだ?」
隆は心底馬鹿にしたように言う。隆の両親はそのあたりの教育徹底している。
何でも自分で考えて行動させた上、子供が自ら考えて行動した事柄についてはきちんと責任を取る。
だから隆は、自分で考えず言われたまま行動する人を嫌う傾向がある。

「バカにしないで、私だって考えて行動してるわ」
「考えて行動した結果がコレか?春樹たちを不快にさせて、あんたのカレシとやらを悲しませ…」
「そこまで」
隆の言葉をさえぎるように、声が割ってはいる。

声のほうを見ると…
@一郎くんと修二くん
A近藤先生
B水野先生
177518:2007/08/01(水) 23:14:16 ID:???
@一郎くんと修二くん

「はいはい! お二人さんそこまでね〜。ほら、向こうで愛菜ちゃんが困っているよ」
修二君がいつもの軽いノリで割って入ってきた。
隆と桐原さんの間に割り込んで、強引に引き離している。

「なんの騒ぎだ。こんなところで口論していては、通行の邪魔だ」
一郎君は隆と桐原さんを一瞥し、私の前に立った。

「えっと…これは」
一郎君から問いただされ答えに窮していると、春樹がこちら側にやって来る。
「なんでもありません。朝からお騒がせしてすみませんでした」
そう言うと、春樹は私に向き直りながらチハルを私に預けてきた。
私はチハルを受け取りながら、そっと春樹の顔を伺い見る。すると、困っているような、悲しそうな複雑な表情を浮かべていた。
きっと、私が困惑している事もわかっているのだろう。
眼を伏せ、どういった言葉で話せばいいのかわからないといった様子だった。

「姉さん…」
私と目を合わせることなく、春樹は独り言のように小声で呟く。
そして、きびすを返すと今度は桐原さんの前に立った。

「俺には好きな人がいるんだ。父が桐原さんに何て言ったのかは知らない。だけど…
たとえ許婚だったとしても、それに応えることは出来ない」

桐原さんは春樹の言葉を悔しそうに下唇を噛み締めてながら聞いていた。
そしてすべての話を聞き終えると私の方を睨みつけ、そのまま走り去ってしまった。

チハルは桐原さんが居なくなってようやく安心したのか、ギュッとしがみ付いていた手を解いた。
隆は憮然とした表情のまま、桐原さんの走り去った方向を眺めている。

「もしかして、修羅場の最中だったとか?」
修二君はバツが悪そうに、誰ともなしに話しかけてくる。
一郎君はそんな修二君を見ながら、小さく溜息を吐いた。

私は…
@修二君の言葉に頷く
A黙っている
B学校へ急ぐ
178519:2007/08/02(木) 11:21:41 ID:???
A黙っている

私は言っていいものか悩む。
迷っていると、ふとチハルが私からはなれ春樹に近づいていった。
それから、立ち尽くしたままの春樹にぎゅっと抱きつく。

「チハル、もうお芝居は終わりだ。くっつかなくていいんだぞ」
隆が憮然とした顔のままチハルに言う。
けれどチハルはぶんぶんと首を振って、さらに春樹にしがみつく。

「コイツ昨日の精霊だよな。またずいぶんかわいらしい姿になって」
修二くんが面白そうにチハルを見る。
けれどチハルはそれが聞こえていないのか、それとも他に気になることがあるのか春樹にしがみついたままだ。
チハルの行動にそれぞれが困惑しているとチハルが春樹に言った。

「春樹だめだよ。愛菜ちゃんがかなしむよ」
「…!」
「チハル…?」
チハルの言葉に春樹ははっとしたように、チハルを凝視する。
けれど私にはチハルの言葉の意味が分からない。

「さっきの桐原さんっていう人はすごくこわいけど、愛菜ちゃんがかなしむからボク春樹を守るよ」
「…一郎くん修二くん、さっきの女の子、力のある人なの?」
「いや、いたって普通だったな」
「特別何も感じなかったが…」
チハルが春樹を守るというから、特殊な力の持ち主かとおもったがそうでもないらしい。

「チハルは精霊だからな、人の感情を受信しやすいんだよ」
そういったのは、隆だ。
成功率は低いとはいえ、もともと精霊に影響を及ぼすことの出来る隆はこの中の誰よりも精霊に詳しいのかもしれない。

「どういうこと?」
「ん〜、人間の感情を感じてしまう、もしくは読みとるってことさ」
「え…じゃあ…」

@「チハルが桐原さんをきもちわるいって言ったのは?」
A「チハルが春樹から離れないのは…」
B「チハルには私達の考えが筒抜けってこと?」
179520:2007/08/02(木) 21:19:16 ID:???
@「チハルが桐原さんをきもちわるいって言ったのは?」

「嫉妬だろうな。良くない感情を感じ取って、気持ち悪く見えたんだろ」

隆はチハルの頭をワシャワシャと撫でながら「よくがんばったな」と言った。
チハルは上目遣いで、隆を見つめている。

「弟くんはモテモテだね。まあ、俺には及ばないけどさ」
さりげなく自分の自慢を入れているところが修二君らしい。
一郎君も私と同じように思ったのか、間髪入れず「自慢することじゃない」と言って呆れている。

そんな中、春樹だけはそんな会話に加わることなく桐原さんの去った方向を見つめていた。

チハルではなく、なぜか私の方を睨むようにして走り去っていった桐原さん。
その目には確かに涙が溢れていた。
春樹もそんな桐原さんの様子が気になっているのかもしれない。

「春樹。ごめんね」
私たちが悪戯半分で作戦を立てたばかりに、こんな結果になってしまった。
もっとよく考えていれば、いい解決方法があったはずだ。
桐原さんに睨まれて当然のことをしてしまったと、私は深く反省する。

「どちらにしろはっきりさせなきゃならなかったんだ」
春樹は私を気遣うように言った。
「でも……」
「許婚のことは知らなかったとはいえ、期待を持たせるような態度をとっていた俺のせいだよ。
本当は、俺と桐原さんとで解決しなくちゃいけない事だったのに」
「春樹…」
春樹はゆっくりと空を見上げる。つられて私も視線を空に向けると秋特有の抜けるような青空が広がっていた。
視線を元に戻すと、春樹が私をじっとみていた。
その顔には、さっきまでの迷いは無くなっている。

「桐原さんにはチハルが彼女じゃないことも話をするよ。誠実に話せばきっと伝わると思う。
きちんと謝って、納得してもらうまで俺は逃げない。もう高村春樹だった頃のような子供じゃないんだからね」

私は……
@黙って頷く
A私も桐原さんに謝りたいと言う
B学校へ急ぐ
180521:2007/08/03(金) 10:37:14 ID:???
@黙って頷く

「ちょっとまった、いま高村って言わなかったか!?」
私が頷くのと同時に、修二くんが春樹に聞く。

「…ええ、それが?」
「それがって……」
「修二落ち着け。高村なんて珍しい苗字でもないだろう。それより、このままだと遅刻だ」
「そうだな、さすがに二日続けて遅刻ってのは勘弁。歩きながら話そうぜ」
春樹の言葉に修二くんがなんと言っていいかわからない顔をし、一郎くんがそんな修二くんをたしなめ、隆が一郎くんに同意する。
言われて廻りを見ると、すっかり人通りがなくなっている。

「チハル、またストラップになって春樹と一緒にいてくれる?」
「うん!」
春樹にしがみついたままだったチハルは、ポンと軽い音を立てて春樹の手に納まる。春樹はチハルを胸ポケットに入れた。
それを確認して、私たちは歩き出す。

(一郎くんは私たちの会話をちゃんと聞いていなかったからああ言ってたけど…桐原さんは、はっきり高村のおじ様は研究者だって言ってた)
研究者の高村といったら、高村研究所に関係があるとしか思えない。
日曜日に冬馬先輩が言っていた言葉を思い出す。

『優秀な能力者であり、研究者であり、権力者でもある……それが高村の名を持つ者なのです』

あの言葉からいけば、能力者ではない春樹は高村になれなかったということ。
逆を返せば、高村を名乗っている春樹の本当のお父さんは、能力者でもあるということだ。

(なんか、おもわぬ方向から研究所のことが少し分かったかな…)
「愛菜ちゃん?」
いろいろ考えながら歩いていたら、皆から大分遅れてしまっていた。
修二くんの言葉に皆が振り向く。
修二くんはその間に開いてしまった距離を戻ってきて、私の手をとった。

「ほら、急いで」
「あ、うん」
私に手を引かれながら小走りで皆に追いつく。

「ご、ごめん」
皆の足を止めてしまったことを謝ると、修二くん以外複雑そうな視線を投げてくる。
修二くんだけ妙に楽しそうだ。

@「どうしたの?」
A「遅刻しちゃうよ、行こう」
B「……?……!修二くん、手!」
181名無しって呼んでいいか?:2007/08/03(金) 17:25:04 ID:???
>私に手を引かれながら小走りで皆に追いつく。

まちがってた…

私は手を引かれながら〜 です
182522:2007/08/04(土) 00:27:40 ID:???
A「遅刻しちゃうよ、行こう」

刺すような視線が私と修二君に向けられている。

「愛菜ちゃんの手って、小さくてスベスベだよね〜」

そう言いながら修二君は、突然、その手に頬擦りをしだした。
「お、おい!」
「ちょっ、修二先輩」
隆と春樹が同時に叫んだ。

そこでようやく、私は修二君と手をつないでいることに気付く。

「…………!修二くん、手!」
私は焦りながら、自分の手を引っ込めた。
昨日のキスのせいで、修二君のスキンシップに対して情けないほど過敏に反応してしまう。

(あれは治療だったんだから、意識しちゃだめよ)
そう思うのに、どんどん顔が熱くなっていく。

「愛菜ちゃん、赤くなってる。ホントかわいいよなぁ」
うつむいく私を修二君は楽しそうに覗き込んだ。

いつもならここで一郎君のキツイ一言が入ってもよさそうなのに、何も言葉が返ってこない。
むしろ私たちの姿を視界から外すようにして、横を向いていた。

(一郎君…?)

「愛菜。担任に嫌味言われたくないし、急ごうぜ」
修二君と手をつないだ事にムカついたのか、隆は不機嫌な声で私に声をかけた。
「う、うん…」

私たちは走って教室に向かった。
遅刻はなんとか免れ、HRを終える。
日中の授業を慌しく受けていると、いつのまにか放課後になっていた。

これから、どうしようかな。

@今日も文化祭の準備
A春樹の様子を見に行く
B考える
183523:2007/08/06(月) 10:44:14 ID:???
@今日も文化祭の準備

「香織ちゃん、準備今日は何をやればいい?」
「えっと、大きいものは大体作っちゃったし…小物係もいっぱい居るから、今日は放送委員のほうに行ってもいいわよ?」
「え、でも…」
「大丈夫大丈夫、当日放送委員は大変でしょ?ちゃんと打合せしないと、当日バタバタしちゃうわよ」
香織ちゃんはそう言ってからちょっと回りを気にして、私に顔を寄せてこそっとささやく。

「それに、いとしの一郎くんと一緒に仕事できるチャンスじゃなーい」
「…え!?」
「ふふふ、前に言ったこと覚えてるわよ?」
笑いながら、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべて香織ちゃんが言う。
言われて1週間くらい前の会話を思い出した。
香織ちゃんに彼氏を紹介しようかと言われたとき、一郎くんのことをとっさに言葉にしてしまったのを覚えているのだ。
あの時一応否定したけれど、香織ちゃんはすっかり私が一郎くんを好きだと思い込んでいる。

(確かに嫌いじゃないけど…恋愛感情の好きとは違う、よね…?)
あのときだってどちらかというと憧れが強かった。
1週間しか経っていないけど、その間にいろいろあって一郎くんへの感情も変化した。

「ま、どっちにしろこっちは目処がついてるからさ、ほらいっといで」
困った顔をしている私を、香織ちゃんは私を教室から押し出す。

「じゃ、いってらっしゃーい」
そういってヒラヒラと手まで振られて、私はあきらめて放送室へ向かう。

(もぅ、香織ちゃんってば余計な気を回しすぎよね…)
香織ちゃんの行動に苦笑する。
放送室まで来てノブに手をかけあけようとして私は動きを止めた。
戸が少し開いていて、中から話し声が聞こえる。
この声は…

@一郎くんと修二くん
A一郎くんと水野先生
B水野先生と桐原
184524:2007/08/07(火) 00:46:40 ID:???
A一郎くんと水野先生

耳を近づけると二人の会話がはっきりと聞こえてきた。

「それで……あなたたちの方は具体的にどうなっているの?」
水野先生は一郎くんになにかを確認するような口調で尋ねている。

「一応、現状で出来るだけのことはしているつもりです」
いつもの冷静な調子のまま、一郎くんは答えた。

(放送委員のことかな?それとも、力の話なのかな…)

もし力の話だったら、なぜ私が狙われているのかわかるかもしれない。
今のままでは不安が募るばかりだ。
少しでも情報が手に入るなら、ぜひ耳に入れておきたい。
悪趣味だと思いながらも、もう少し立ち聞きをすることに決めて耳を澄ました。

「最近のあなた達、あまり協力的では無いようだけれど?」
「協力? そんなつもりは初めからありません。俺達は組織と取引をしたいだけです」

「あらあら…私に反発できるほど偉くなったつもりでいるね」
水野先生の放った一言は、まるで一郎くんを見下すような口調だった。

(やっぱり、力の話みたいだよね……)
私は緊張しながら、再びドアに耳を近づけた。

「今まで、あなた達の意見を尊重してあげていたけれど……揺さぶり程度ではなく、本格的に組織が手を下すほうが早そうね」
「待ってください。下手に時期を誤れば、困るのは組織側だと思いますが」
「悠長にあなた達だけに任してはいられないわ」
「俺達には目という手札があります。
大堂愛菜の力へとつながるカギを俺達が握っている以上、取引としては十分な対価だ。
現状維持もその時に交わした取引項目のひとつだったはずです」

(一郎くん……)

私自身が取引に使われていたと思うだけで、胸が締め付けられるように痛んだ。
入学当時からの憧れていただけに、一郎くんの言葉がつらい。

「まあいいわ。せいぜい強がっていられるのも今のうちよ。所詮は君も修二くんも道具に過ぎないのだから。
よく肝に銘じておくことね」


まだ一郎くんと水野先生の会話は続いているようだ。
私は…

@もう少し話を聞く
A逃げ出す
B放送室に入る
185525:2007/08/07(火) 11:03:08 ID:???
@もう少し話を聞く

一郎くんは大きなため息をついた。

「あなたも覚えておくといい。取引をしている以上、条件を一つでも破ったら取引は反故です」
「………」
一郎くんの言葉に、水野先生が沈黙する。
強く出ていても、やっぱり一郎くん達の力は必要だということだろうか。

「そうそうあなたの態度がとても不快でしたので、新たな情報が一つあったのですがこの報告はしないことにしました」
「何をいっているの!?」
水野先生のとがめるような声がする。

「そういえば、取引をする以上立場は対等であること、という条件がありましたね。
 けれどあなたは俺たちを道具といった」
「ちょっと待って頂戴!」
あせる水野先生とは裏腹に、一郎くんの声はどこかすがすがしささえ感じる。

「ということで、今後一切俺たちは組織に…いえ、こういったほうがいいですね。主流派と取引しない、と」
「!あなたそれをどこでっ…」
「それに答える義理はない。ということだ。修二、大堂」
急に名を呼ばれ、私は硬直する。

「いやー、兄貴かっこいー」
硬直した私の真後ろから、修二くんの声がする。
いつから居たのだろう。一郎くんと水野先生の話に集中しすぎて気付かなかった。
修二くんは放送室の扉を開ける。

「あなたたち……まさか…?」
驚いた顔の水野先生が私たちを見ている。
先生の言葉に、私もふと思う。

(もしかして一郎くんは私たちがそろうのを待ってた?)
最初の方の会話は水野先生を引き止めるような言葉の運びだった。
それが急に組織の主流派との取引はしないとの宣言。
まるで私たちに聞かせようとしたみたいではないか。

「ま、俺はもともと組織の連中と取引する気はまったくなかったし」
修二くんは分かっていたのか、にやりと笑って一郎くんの隣に歩いていく。

「今までだって、してこなかったけど?」
「……修二」
「はいはい、分かってるよ」
一郎くんと修二くんはそろって水野先生へ手を伸ばす。
水野先生はあわてて身をよじるが、二人に腕をつかまれる。

「それじゃ先生、組織に伝言よろしくね」
修二くんがにっこり笑って言った途端、空気がピリピリと震える感じがした。
それが納まった後、先生の抵抗がピタリと止まり、私たちが見えていないかのように放送室から出て行った。

@「先生に何をしたの?」
A「組織に逆らって平気なの?」
B「これからどうするの?」
186526:2007/08/10(金) 22:03:03 ID:???
A「組織に逆らって平気なの?」

操られるようにして立ち去る水野先生を見送りながら、私は尋ねた。
そんな私を見て、修二君は「俺の事、心配してくれるんだ?」と楽しそうに覗き込んでくる。

「だって…逆らうと怖そうだよ」
「へーき、へーき。愛菜ちゃんがいるだけで俺、がんぱっちゃうしさ」
修二君は不安がることも無く、いつもの軽口を言いながらにっこり笑った。

「組織への接触は資料の収集と力の応用に関する知識が欲しかっただけだからな。
欲しい情報がほぼ手に入った以上、ここが引き際だろうと判断したまでだ」
一郎君もさっきの出来事など意に介さず、机の上にある放送委員の資料を片付けている。

(二人とも平気そうだし、心配しなくていいのかな)

「そういえば、前にファントムを消滅させていたのは、力の応用だって言っていたよね」

私はあっという間に黒い影を退治してしまった修二君の姿を思い出す。

「どれだけ強力な力を持っていても、使い方を理解できていなければ無駄ばかり生じてしまう。
正しく使ってこそ、少ない力で最大の威力が発揮できるというものだ」
「同じことをするにしたって、少しでも楽できた方が良いしね。
さっきの水野に暗示をかけたのも力の応用だし。まあ、記憶までは弄れないからじきに上層部の耳には届くと思うけどさ」

修二君といい、一郎君といいやけに自信たっぷりに見える。
どうして組織が怖くないのだろうか。

「本当に一郎君も修二君も逆らって怖くないの?」

「だから、へーきだって。愛菜ちゃんは心配症だなぁ。俺達にこの目がある以上、主流派は手出しできないんだよ。
俺達が見つけなければ、封印を解くこと――」

「修二!」

封印と言ったとたん、一郎君が制すように叫んだ。
修二君はしまったという顔で一郎君を見た後、誤魔化すように頭を掻いている。

私は…
@「封印?」
A「今の話、私に関係あることなのね」
B「一郎君が話していた資料の収集ってなに?」
187527:2007/08/17(金) 14:02:44 ID:???
A「今の話、私に関係あることなのね」

一郎くんがここまで過剰に反応するということは、きっと私に聞かせたくない話なのだろう。つまり私に関係があるということだ。
修二くんもさっきの反応をみると、私には知られたくないと思っていると見て良い。

(封印…)
私の中の何かが誰かに封じられている?
それは力なのだろうか?けれど私は力を無自覚で使っているみたいだし、最近は意図的に通信をすることも出来る。

(それじゃあなんだろう…)
「愛菜ちゃん、そういえばなんか用事があって放送室に来たんじゃないの?」
修二くんが考え込む私の顔を覗き込む。
はっと我に返って顔を上げると、驚くほど近くに修二くんの顔があって思わずのけぞる。

「…?どうしたの愛菜ちゃん?」
修二くんはもともとスキンシップが激しいから、至近距離に当たり前のように踏み込んでくる。
以前はあまり気にしなかったけれど、あのキス以来過剰に反応してしまうのはどうしようもない。
不思議そうに首を傾げる修二くんから一歩下がって、私はあわてて笑ってみせる。

「あ、うん、なんでもないよ。えっと、ほら、放送委員の文化祭の準備なにかあるかなとおもって…」
私は修二くんから一郎くんへ視線を移す。
一郎くんは少し眉を寄せて私たちを見ていたが、私の言葉にいつもの表情に戻ると少し考えるようにあごに手を当てた。

「そうだな…、放送機材の点検をしなければならない。だがここの放送機材はほぼ毎日使っていて不具合はないから大丈夫だろう」
「それじゃあ、体育館とか?」
「そうだな、後はめったに使わない校庭の放送機材か」
「あれ?校庭に放送機材なんてあった?」
「運動会で使っただろう?」
「あぁ!そういえば…」
「時間的に今日はどちらか一箇所しか点検できないが」
めったに使わないからこそきちんと確認しておかなければならない。
けれど、うまく話をはぐらかされた気もする。

どうする?
@封印のことについて聞く
A体育館の機材点検に行く
B校庭の機材点検に行く
188528:2007/08/17(金) 16:05:44 ID:???
B校庭の機材点検に行く

児童公園でも核心に迫った話になると、必ずはぐらかされていた。
(きっと、教えてくれそうにもないよね)
封印の話は気になったけれど、今は尋ねるのを諦めた。

「じゃあ……校庭の機材点検に行ってくるよ」
私は放送室から遠い校庭側をを選ぶ。
委員長として多くの仕事を抱えている一郎君に余計な手間をかけさせる訳にはいかない。

「では、俺は体育館の点検に行ってこよう。カギはこれを持っていくといい」
一郎君はそう言うと、私に鍵を手渡して放送室を出て行った。

「修二君はどうする? クラスに戻る?」
私は体育倉庫のカギをスカートのポケットに仕舞い込む。
「俺は愛菜ちゃんについていくよ」
「え?でも、クラスの出し物の手伝いをしなくちゃ駄目だよ」
「へーきへーき。今日は買出しメインだし。俺の係りは暇なんだ」
(本当かな? またサボろうとしてるんじゃ…)
そんな私の反応を知ってか知らずか、「校内デートだ〜」と歌いながら一郎君は歩き出した。

校舎を出て、体育倉庫に向かう。
テニスコート沿いを歩いていると、ふと修二君が足を止めた。

「どうしたの? 修二君」
「テニス、したいなぁと思ってさ…。一週間も体動かしてないとオカシくなりそうだよ」
テニスコートのフェンスに手を掛け、だれもいないコート全体を見渡しながら呟いている。
その視線は毎日練習していていた自分自身を思い返しているようにも見えた。
(修二君は本当にテニスが好きなんだ…)

「今は文化祭期間中だし、練習できないんだよね」
「そうだ! 点検が終わったら一緒にテニスしよっか?」
私に向けられた修二君の瞳が名案を思いついた子供のように輝いている。
「でも…私、全然テニスできないよ」
「いいって、いいって。俺に任せておいてよ。手取り足取り腰とり教えちゃうからさ」
「腰とりは余計だよ! 」
「文化祭の準備ばかりしてたら腐っちゃうしさぁ。たまには羽をのばさなきゃ、ね?」

どうしようかな

@いいよという
A放送委員の仕事に戻るという
Bクラスの仕事に戻るという
189529:2007/08/18(土) 09:28:25 ID:???
A放送委員の仕事に戻るという

「ダメだよ、点検が終わったら報告もしなくちゃいけないし、他にもすることがあるでしょ。一郎くんにだけ仕事させるわけにはいかないよ」
「兄貴のことなんかどうだっていいじゃん、兄貴は好きでやってるんだからさ」
「だめです!さて、急がないと下校時間になっちゃう」
私は後ろでぶーぶーと文句をいっている修二くんをそのままに体育館倉庫へ急ぐ。

「待ってよ、愛菜ちゃん!」
修二くんがあわてて追いかけてくる。

「も〜、愛菜ちゃんもまじめなんだから」
「修二くんが不真面目すぎるんです」
倉庫の鍵を開け扉をあけると、カビとホコリのにおいが鼻につく。

「うわ〜」
思わず顔をしかめた私の横を修二くんがすり抜ける。

「早く終わらせちゃおう、で、俺とあそぼ」
いいながら、修二くんは壁のスイッチを押し電気をつけた。

「えっと愛菜ちゃん、機材ってどこ?」
「たしか…、奥に部屋があってそこにあったと思う」
「奥ね」
修二くんは、ずんずんと奥に進んでいく。
私もあわてて修二くんの後を追いかけた。

「この戸かな?……あ、鍵がかかってる。愛菜ちゃん」
「あ、うん…えっと……これかな」
持っていた鍵の一つを差し込んでまわすと、かすかな音と共に鍵が開く。
扉を開けると、放送機材が所狭しと置かれていた。

「さて、さくっと片付けちゃおう」
「そうだね」
修二くんの言葉に頷いて、私はコンセントを探す。
壁をぐるりと見回してみたけれど、ものが多くて壁が良く見えない。

「コンセント、コンセント…」
乱雑に置かれた機材を覗き込むようにして、壁を確認していく。
最後の一面に来た所で、ふと床に違和感を感じた。
踏んだ感じが他の場所とは違う気がする。

(?)
私は少し戻って足踏みをし、さっき違和感を感じた場所でもう一度足踏みしてみる。
そうするとやはり足の裏に返ってくる感じが違った。
よくよく床を見ると、うまくカモフラージュされているが下に収納庫らしきものがあるようだ。

私は…
@修二くんを呼ぶ
A自分で調べる
B気にせずコンセントを探す
190530:2007/08/18(土) 15:55:39 ID:???
A自分で調べる

(なんだろ……これ)
地面に埋まるようにして、錆びた色の蓋が薄っすらと見えている。
「どうしたの? 愛菜ちゃん」
配線用の長いコードを手に持った修二君が振り向いた。

「蓋? 錆び付いているな…」
修二君は歩み寄って、首をかしげた。
私たちは肩を寄せ合うようにして、その錆びた蓋を覗き込む。
「ずいぶん古いものみたいだね。この体育倉庫が建つ前からあるのかな?」
「開けちゃおうか?」
修二君は秘密を見つけた子供のように小声で話しかけてくる。
「重そうだよ……大丈夫?」
「任せといて。伊達に鍛えてないからさ。腕の太さだってこんなに違うんだよ、ホラ」

修二君は両腕を捲り上げて私に見せてきた。
たしかに、利き手である左腕の方が右腕よりも太くなっている。
チャラチャラして見えるけれど、テニス部の練習量はかなりのものかもしれない。

「俺的には、かっこ悪いから右も鍛えてはいるけどさ。仕方ないんだよなぁ」
修二君は苦笑しながら、制服の袖を下ろした。

「収納庫みたいだよね」
「開ければわかることだって。いくよっ」

修二君は錆びた取っ手を持って、おもいきり上に引っ張った。
だけど、蓋はビクとも動かない。

「あれ? 重いな…」
「無理しなくてもいいよ」
「絶対に開けてやる。くっそー、ひらけっての! 」
負けず嫌いな修二君はそう言うと、渾身の力で引っ張り上げた。

バキッ

その音を聞いたとたん、修二君の背中が勢いよく近づいてくる。

「うわぁぁ!!」
「きゃっ! 」

私達はマットにもつれ合う様にして倒れこんだ。
ドサリという音と共に砂煙が舞い上がり、走り高跳びの棒が乾いた音を立てて地面に倒れた。

私は…
@「いたた……」
A「お、重い」
B気を失ってしまった
191531:2007/08/20(月) 11:07:34 ID:???
A「お、重い」

一回り大きい修二くんの身体が上にあって身動きが出来ない。

「し、修二くん、早くどいて」
「ったた…、うわ、愛菜ちゃんごめん、すぐ退くから!」
ガコンと音を立てて、修二くんは持ったままの蓋を床に置くとあわてて立ち上がる。

「大丈夫?愛菜ちゃん?」
「う、うん。なんとか」
修二くんが差し出してくれた手を取って、立ち上がる。
制服に付いたほこりを叩きながら足元を見ると、取れてしまった蓋が置かれている。
重そうな蓋は蝶番を止める部分が錆びて弱くなっていたのか、壊れてしまったようだ。

「壊れちゃったね、どうする?」
「まあ、仕方ないよ。かなり重いし、ただ置いておくだけで大丈夫じゃない?」
軽くいいながら、修二くんは蓋の取れた床を覗き込む。

「うーん、暗くて奥が見えないな…」
「ほんとだ…」
見える部分は急な石の階段だった。3段くらいまでは見えるが、もともと薄暗い体育館倉庫だ、その先は真っ暗で見えない。

「降りてみようよ」
楽しそうな顔で、修二くんが私を振り返る。

私は…
@「うん、行ってみよう」
A「嫌だよ、やめよう」
B「いいけど、せめて電灯とか持ってこようよ」
192532:2007/08/20(月) 22:49:48 ID:???
B「いいけど、せめて電灯とか持ってこようよ」

(そういえば…ハンドライトを持っていたような)

お化け屋敷で使うために偶然持ってきていたのを、ふと思い出した。

「私、ちょうど電灯を持ってきているの。ちょっと待ってて」
「あ、愛菜ちゃん待って…」

修二くんの声が聞こえたような気がしたけれど、私は教室に向かって駆け出した。

教室に戻り、自分の手荷物を探る。
「見つけた」
電灯を手に持つと、急いで体育館倉庫に戻ってきた。

「お待たせ、修二くん」
私が息を切らせて戻ってくると、すでに修二くんの手には電灯が握られていた。

「あれ…。どうして修二くんが電灯を持っているの?」
「さっきの工具箱の中に入っているのを見つけたんだ。なのに愛菜ちゃん、俺の話も聞かずに飛び出しちゃうし」
修二くんは手元の電灯をいじりながら、じーっと私を見た。
「……ご、ごめん」
「それじゃ、愛菜ちゃんが持って来た電灯を使うからさ」
修二くんはなぜか、手元の電灯を工具箱に仕舞ってしまった。

「どうして? 二つあった方が明るいでしょ?」
「えーっ、ダメだよ。こういうシチュエーションは俺の腕にしがみ付きながら怖がってもらわないと。
そのためには、電灯は一つじゃないとね」
そう言いながら、修二くんは爽やかに笑った。

(この笑顔…裏があるようにしか見えない)

「張り切って、行こう♪ ね、愛菜ちゃん」
私の手をさりげなく取ると、ゆっくり石段を降りはじめる修二くん。
少し動揺しながら、修二くんに手を引かれ一歩一歩階段を下りていった。

中に入ると真っ暗だったが、電灯で照らすと石畳に囲まれたトンネルのようになっていた。
整然と並べられた石畳は、どう考えても人工的に作った物のようだ。
地下水が染み出しているのか、全体的に湿っていて足元も悪くなっていた。

「意外と奥までありそうだね。先に進む? もう止めておく?」
強張っているのを私を見てさすがに心配したのか、修二くんが尋ねてきた。

@先に進む
Aやっぱり止めておく
Bもう少し、中の様子をみる
193533:2007/08/21(火) 13:23:28 ID:???
@先に進む

「大丈夫だよ、行ってみよう」
せっかく教室まで戻って、ライトを持ってきたのだから何があるのか見てみたい。
身体がこわばるのは、まわりが良く見えないから本能的にそうなってしまうだけで、怖いわけではないのだ。

(なんたって、『見える』修二くんがぜんぜん怖がってないもの…)
何かよくないものが居るなら、私が行きたいと言ってもきっと止めるだろう。
それに、なぜかこの先を確認しなければいけない気がする。

「そう?それじゃ行くよ」
私の言葉に、修二くんは私の手を引いて歩き出す。
慎重に足を進めていくが、どこまで行っても石畳の通路だ。

「どこまで続いてるのかな?」
さすがに、不安になってくる。

「うーん…、まだ先があるみたいだ。ずっと一本道だし迷うことはないけど…」
修二くんは首を傾げながら、いつもの調子で話す。

「でも、距離的にもう学校の敷地はとっくに出てるね」
修二くんは言いながら、今まで来た歩いてきた方向を照らす。
すでに降りてきた階段も見えない。
それから、これから向かう道へ明かりを戻し肩をすくめた。
来た道同様、先の道も光の届く範囲は今までと変わらず石畳の通路で、その先は暗がりで見えず、どれだけ続いているのか見当もつかない。

「どこまで続いてるんだろうね?っていうか、なんでこんな通路が学校の体育館倉庫につながってるんだろ…?」
「さあ?どこにつながってるか分かれば推測することは出来るけど、どこにつながってるのか分からないままじゃね〜」
う〜んと、うなりながら修二くんは困ったように言う。
確かにどこにつながってるか確認できなければ、目的なんて分かるはずもない。

「そうだよね…、でもあんまり遅いと一郎くんも心配しちゃうよね」
機材の点検も結局まだやっていない。

どうしよう…。
@このまま進む
Aあと5分だけ進んでみる
B戻る
194534:2007/08/22(水) 00:25:52 ID:???
Aあと5分だけ進んでみる

「愛菜ちゃんが不安なら、俺はここでやめてもいいよ?」

(どうしようかな…せっかくだし、もう少し先に行ってみたいかも)
「もう少しだけ進んでみようよ。一郎くんが心配する前に帰るようにしないといけないから…あと5分くらいならいいよね」
「……俺は愛菜ちゃんが大丈夫かって聞いているんだけどな」
修二くんの声色が少しだけ曇った。

「私はまだ平気なんだけど、点検が終わってないし……一郎くんに迷惑はかけられないよ」
「兄貴のことなんて、今はどうでもいいじゃん」
「どうでもいいって…そんな言い方はよくないよ。兄弟でしょ?」
「兄弟ね。顔も同じだし、時々嫌になるよ。すぐ比べられるしさ」

一郎くんのことを頼りしている時もあれば、今みたいに疎ましそうにするときもある。
昨日の一郎くんといい、二人の関係は微妙なバランスで成り立っているのかもしれない。

「一郎くんに比べられて、嫌なの?」
「別に……嫌って訳じゃないけど。それより、兄貴は放っておいても平気だよ。後から携帯で連絡すればいいしさ」
「忙しい一郎君を手伝うつもりで点検しているのに、手間をとらせるわけにはいかないよ」
「さっきから、兄貴のことばっかりだ」
「どうしたの? 修二くん」
「なんでもない」
繋がっている修二くんの手に力が篭った。
歩幅もさっきより大きくなって、私を引っ張るように歩いていく。

「修二くんってば」
「口を開けば一郎くん一郎くんって……兄貴がそんなにいい? そりゃ、兄貴はしっかりしてて頼りになるし、ずっと学年トップの成績だよ。
テニスだって中学では兄貴の方が上手かったのに、卒業と同時に辞めたちゃったし。くやしいけど、俺がどれだけ努力してもいつも兄貴の方が秀でてる」
憮然と言い放ちながら、ずんずんと歩いていく。
顔までは見えないけれど、きっと怒っているのだろう。

「しゅ、修二くん。早い。……もう、10分以上経ってるよ」
男の子の歩幅についていけず、とうとう私は音を上げてしまった。
その言葉に反応するようにピタリと歩みを止めると、修二くんは私に向き直った。
「ここには俺と愛菜ちゃんの二人きりって気付いてる? 」
一歩、修二くんは私に近づくと、手元の明かりを消してしまった。
真っ暗闇になり、完全に視界が奪われる。
ただ、繋いだ手のぬくものだけが頼りになってしまった。
「く、暗いよ……」
「前にも言ったと思うけど、愛菜ちゃんと付き合いたいと思っているのは本当だよ。キスしたのだって……まったく下心が無かったと言えば嘘になるしね」
「修二君……」
「俺が怖い? 愛菜ちゃん」
意外なほど、冷静な口調で修二くんが尋ねてくる。

私は……
@「怖くないよ。修二くんを信じているから」
A「怖いよ。でも、修二くんを信じているから」
B「修二くんは卑怯だよ。私を使って一郎君に勝とうとしてる」
195535:2007/08/22(水) 11:21:50 ID:???
A「怖いよ。でも、修二くんを信じているから」

冷静に聞かれて私は一瞬自問する。
確かに修二くんが急変してしまう可能性を考えると怖い。
けれどそんな事にはならない、という妙な確信があった。
そう思い答えると、闇の中修二くんが笑うような気配があった。

「う〜ん、妙な所で妙な信頼を得ちゃってるんだな〜」
「だって、修二くんはいつも私のことを考えて行動してくれてるでしょ」
何も知らない私に水野先生のことを最初に教えてくれたのも修二くんだ。
怪我をして保健室に居た私をすごく心配してくれたし、休んだときには家まで来てくれた。
あの時のキスだって、私の調子が良ければチャンスがあっても修二くんはしなかったと思う。

「一郎くんは嫌なことがあったら、大切な人を自分が盾になって抱え込んで守ろうとするタイプだけど、修二くんは一緒に並んで一緒に乗り越えたいタイプでしょ?」
私が言うと、修二くんはうーんとうなってそうかもと答える。

「だから信頼できるよ。修二くんが私を本当に付き合いたいと思うほど好きで居てくれるなら、ね」
修二くんは一緒に歩いていきたい相手の気持ちをないがしろにするような人じゃないとおもう。

「うわ、でかい釘さされた気分」
修二くんがおどけた調子で笑い、明かりをつける。
けれど明かりに浮かび上がった顔は真剣だった。
修二くんはその明かりを、向かっていた先へと向ける。

「さてと、おしゃべりはおしまい。そろそろ出てきたらどうかな?」
「え?」
修二くんが照らした先、光がギリギリ届くあたりに人の足が見えた。
修二くんの言葉に、その足が動き近づいてくる。

光に浮かび上がったのは…
@冬馬先輩
A周防さん
Bしらない人
196536:2007/08/23(木) 12:14:03 ID:???
A周防さん

「よっ! 愛菜ちゃん」
片手を挙げながら、近づいてくるのは間違いなく周防さんの姿だった。

「す、周防さん!?」
「そんなに驚かなくでもいいじゃないか。幽霊かと思ったか? だったら、ちゃんと足だって付いてるぞ」
「すごく心配していたんですよ!」
私の目の前まで近づいてきた周防さんを改めて見つめる。
今は再び会えた事が、何よりも嬉しい。

「この通り、すっかり良くなったよ。心配かけて、ゴメンな」
そう言って、周防さんは私の頭の上にポンと手を載せた。

「謝らなくちゃいけないのは、私の方です。助けてくれてありがとうございました」
「いいってこと。俺は愛菜ちゃんを守るって約束していただろう? だから、気にするなって」
載せられた手が、私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
周防さんが戻ってきてくれて、本当によかった。

「周防ってたしか……反主流派の人だっけ」
傍らにいる修二くんが呟いた。
「あ…うん。そうだよ」
修二くんが周防さんの事を知っているということは一郎くんから話をすでに聞いているのだろう。

「ところで、愛菜ちゃん。その隣にいるのは誰かな?」
周防さんは修二くんの姿を見ながら、尋ねてきた。
私が紹介しようとすると、修二くんはそれを制すように一歩前に出た。
「俺は宗像修二って言います。あなたには、コードNO.711と説明した方が早いでしょうか」
修二くんは試すような視線を周防さんに向けている。
周防さんは困ったように頭を掻くと、真剣な顔で口を開いた。

「はじめまして、宗像くん。俺はそのコードナンバーってのが、大嫌いなんだ。二度と俺の前では使わないで欲しい」
そう言って、周防さんは握手を求めるように手を前に出した。
修二くんは周防さんの言葉を聞いて、フッと緊張を解くと周防さんの手を握り返した。
「どうも。俺には兄貴もいるんで、修二と呼んでください」
「いい名前だ。じゃあ、遠慮なくそう呼ばせてもらおう、修二」
意気投合した二人は、固い握手を交わした。

周防さんに会えたし、何か尋ねようかな。
@どうしてここにいるのかを尋ねる。
A怪我は大丈夫だったのか尋ねる。
Bこの通路について尋ねる。
197537:2007/08/25(土) 17:46:56 ID:???
@どうしてここにいるのかを尋ねる。

「ところで、どうして周防さんがこんなところにいるんですか?」
「うーん。それはこっちが聞きたいくらいなんだけどな」
周防さんは私と修二君を交互に見ながら、苦笑した。

「体育館倉庫で偶然この隠し通路を見つけて、ここまで歩いてきたんです。ね、修二君」
修二君は私の言葉に黙って頷いた。
そして真剣な顔で握手を解くと、口を開いた。

「高村さん、教えてください。あなたは研究所の反主流……今の組織のやり方に対抗する組織なんですか?」
「修二。おまえさんがどうしてその事を知っているんだ」
周防さんの様子も真剣なものに変わった。
「ご、ごめんなさい。私が教えたの」
私は二人の間に入るようにして言った。
「あれ? 俺、愛菜ちゃんに言ってないはずだけど…ってあいつか、無口なくせにおしゃべりだな」
周防さんはぶつぶつと文句を言っている。

「高村さん。……実は俺と兄貴は今まで、主流派に手を貸していました」
修二君は苦々しげに呟いた。
「コードナンバーを持っているなら施設出身者だし、当然だろうな」
周防さんは驚く様子もなく淡々とした様子だ。
「そしてさっき、その取引を反故にしました」
「……それはすごい勇気じゃないか。だが、殺されるかもしれないぞ?」
「今のところ、それはないです。でも、この先どうなるかわかりません。兄貴は反対するだろうけど、俺はあなたの組織に協力したいと考えています」

周防さんは黙って聞いていた。
しばらくの重い沈黙が流れ、それに耐え切れなくなった修二くんが口を開きかけた。
すると、それを制すように周防さんが人差し指を左右に振った。
「ノンノン。す・お・う」
「?」
修二君はきょとんとした顔で周防さんを見ている。

「その高村ってのだけは勘弁して欲しいんだ。仲間にしちゃ他人行儀だろ、周防でいい。もっと気楽に話していいからな」

さすがの修二君も呆気にとられていたれど、理解したようにゆっくり頷いた。
「じゃあ、勝手に呼ばせてもらうよ。周防」
「オーケー。そういうノリの方が俺も楽だしな」
そう言って、周防さんは楽しそうに笑った。

@どうしてここにいるのかを改めて尋ねる。
A怪我は大丈夫だったのか尋ねる。
Bこの通路について尋ねる。
198538:2007/08/26(日) 04:08:31 ID:???
A怪我は大丈夫だったのか尋ねる。

「周防さん、あの……」
「ん?」
周防さんは以前と変わらない様子で私に目を向ける。
二人の会話に割って入るようで少し躊躇しつつも、ずっと気になっていた事を口にした。
「怪我の具合はどうなんですか?もう、あちこち動いたりして大丈夫なんですか?」
「怪我?周防が?」
横で聞いていた修二君が首を傾げる。それも当然かもしれない、こうして見る限りは周防さんは少しも体調が悪そうな素振りは見せないのだから。

「この前、私周防さんに助けてもらったの。そのせいで周防さんがとても危ない目にあって、その後どうしてたのかずっと気になってて……」
修二君に説明しながらあの時の事を思い出したのか、知らず握り締めた手が小さく震えた。
夢で出会った周防さんは私の前で大丈夫だと笑って見せた。けれど、あれから心のどこかに周防さんのことがずっとひっかかっていた。
何が出来る訳ではないけれど、会ってこの目で無事を確かめたかったのだ。

「……だから、大丈夫って言ったろ?」
そう言って周防さんは目を細めて笑った。それから私の握り締めた手をその大きな両手で引き寄せると、目線を合わせるように長身を屈めて私を見た。
「ほら、手だって冷たくない。俺は簡単に死にゃしないよ、そんなに心配しなさんな」
語りかける周防さんのゆっくりした優しい口調が、まるで何も知らない子供をあやしているようで面白くなくて、私は足元へ視線を外した。
「心配、します。心配したらいけないんですか」
「いいや、愛菜ちゃんに心配してもらえるなんてこんなに嬉しいことはないさ。ただ」
「……?」
途中で言葉を区切って続きを口にしようとしない周防さんが気になって、私は恐る恐る顔を上げた。目が合った周防さんはかすかに、そしてどこか寂しそうに笑った。
「お前さんの心配そうな悲しい顔は好きじゃない。俺はお前さんの、笑顔が好きなんだ」

「俺だってそうだけどなー」
不意に、隣りにいた修二君が口を開いた。その声は控えめに、けれどはっきりこの展開がおもしろくないと訴えている。
「……っ!」
修二君の一言で我にかえる。至近距離で手を取り合う格好になっている今の状況を思い出して一瞬で頬が熱くなった。周防さんの手をほどいて素早く一歩後ろに下がる。
「す……周防さん、相変わらずですねっ」
「相変わらず、良い男だろ?愛菜ちゃんも相変わらずの照れ屋だな、変わってなくておにーさん嬉しいよ」
それまでの悲しげな様子は消え、目の前の周防さんはいつも通りの笑顔を浮かべて片目をつぶってみせた。
(もう、ほんとに周防さんてば……)

不意に、通路の奥の暗がりから声が響いた。
「良い男はあんな無茶などしませんよ。ねえ、周防?」
背中からかけられた声に、周防さんは小さく「げっ」と漏らした。辺りに硬質な足音を響かせながら現れたのは、見覚えのない華奢な男の人だった。
周防さんと同じ歳の頃のその人は、さっき声を聞いていなければ女性と間違えそうな繊細な雰囲気の美しい細面に、薄暗い通路に場違いのとびきりの笑顔を浮かべている。
突然の登場人物に、私と修二君は二人目を見合わせた。
「美波(みなみ)、いたんなら最初から声かけろよ。物陰で盗み聞きなんて、趣味悪いな」
周防さんは振り返ってその人に向かって毒づいた。美波と呼ばれたその人は、ちらりと私に目をやってにっこり笑う。
「いたいけなお嬢さんをたぶらかすよりは幾分マシだと思いますけどね」
「たぶらかすって……お前……」
周防さんは彼の言葉に額に手を当てて盛大に溜息をついた。

(なんだかすごく打ち解けてるかんじだけれど……)
「愛菜ちゃん、あの人誰?知ってる人?」
耳元で囁く修二君に黙って首を振る。視線は周防さん達に向けたまま、修二君は独り言のように呟いた。
「隠してるっぽいんだけど、なんとなくあれは只者じゃなさそうな……」

どうしよう?
@おとなしく周防さんにその人が誰なのか聞く。
Aずばり本人に直接誰なのか聞いてみる。
B修二君にどう只者じゃないのか尋ねる。
199539:2007/08/27(月) 00:15:13 ID:???
B修二君にどう只者じゃないのか尋ねる。

「どう只者じゃないの?」
修二君は私の問いに「うーん」と首をかしげた。
そして、私だけに聞こえるほどの小声で耳打ちしてきた。
「はっきりとした事は言えないけどかなりの力を持っていると思う」
「どれくらいの力? 冬馬先輩よりも力がありそうなの?」
「それは無いよ。あれは異常だしさ」
そうやって私に説明している時も、ずっと修二君は美波さんの力を探っているようだった。

「なるほどな。修二は能力を見抜く力があるのか…」
周防さんは修二君の心でも見透かしたような口ぶりで呟いた。
「そういう周防は、変わった能力みたいだね」
さっきまで美波さんを見ていた修二君が、今度は標的を変えるように周防さんをジッと見つめる。
「俺の能力、バレちゃったのか…。その力はえらく精度がよさそうだな」
「兄貴と一緒じゃないと全然ダメなんだ。あの美波って人みたいに隠されたら見抜けないし。だけど、二人だったらこんなもんじゃないよ」
修二君と周防さんは力の事を話しているのだろうか。
私には及びのつかない会話を交わしている。

それを黙って見ていた美波さんは、微笑みながら私に話しかけてきた。
「……彼は修二君だったかな。あの力、敵にまわすと怖い能力ですね」
「え? 見える力ってそんなに怖いんですか?」
私は美波さんの言葉に疑問を感じて話しかけた。
「それは、恐ろしいですよ。それぞれに備わっている先天的な特殊能力の性質を知られるということは、死に直結していますからね。
タネを明かされた手品は、その瞬間から手品では無くなる…。だから能力者は皆、少しでも見抜かれないように隠そうとするのです」

(あれ?そういえば一郎君と修二君って私の能力を知らないのよね…。もしかして『封印』と関係があるのかな)

私がボンヤリ考えていると、隣で美波さんがクスクスと笑っていた。
「愛菜さんだったかな。君は表情が次々と変わって、見ていて飽きませんね」
「そ、そうですか?」
私は褒められているのか、からかわれているのか分からず、曖昧な返事をした。
「ああ…私としたことが、自己紹介がまだでしたね。私は大宮美波と申します。周防の考え方に共感して、行動を共にしているのです。
これから、よろしくお願いしますね」
美波さんは優雅な物腰で、私に挨拶をした。

@美波さんのことをもっと尋ねる
Aここにいる理由を尋ねる
Bこの通路について尋ねる。
200540:2007/08/27(月) 17:21:36 ID:???
Aここにいる理由を尋ねる

「こちらこそよろしくお願いします。ところで……」
私は美波さんに改めて会釈をして、尋ねる。

「周防さんと美波さんはなぜここに?」
「それはこっちのセリフなんだけどな、愛菜ちゃん」
私の言葉に、修二くんから私に顔を向けて周防さんが苦笑する。

「なぜって……」
私は修二くんと顔を見合わせる。

「俺たちは学校の体育館倉庫でここの入口を見つけて、面白そうだから行ってみようって、ね?」
修二くんの言葉に私も頷く。

「あー……なるほど。入口に目くらましをかけてたけど、愛菜ちゃんと修二の力の前には無意味だったってことか」
周防さんは肩をすくめて笑う。

「一応一般人には分からないようにしてたんだけどな。見つけたのが愛菜ちゃん達でよかったといえばよかった、のかな?」
「結果的には良かったといえますが、本来あってはならないことですよ、周防。きちんと反省してくださいね」
周防さんの言葉に美波さんはやんわりと釘をさす。
その言葉に周防さんは苦虫をつぶしたような顔になり、がっくりとうなだれた。

「なんか周防ってあの人に頭上がらないんじゃないか?」
こっそりと修二くんが私にささやいてきたが、私はどう答えていいのか分からずあいまいに笑う。
少しの間うなだれていた周防さんだったが小さく「反省タイム終わり」と呟いて顔を上げると、いつもどおり顔を上げにっこり笑う。

「そうそうなんで俺たちがここにいるか、だったよね」
「復活早っ」
「それが俺の長所だし」
思わず突っ込みを入れた修二くんにあっさりと周防さんは言って、言葉を続ける。

「今はもう使われていなくて、知ってる人も少ないけど、昔組織が使っていた建物につながってるんだ」
「え!?」
驚く私と修二くんに、周防さんはいたずらっぽくウインクする。

「でも主流派は知らない通路なんだよ。昔、処分されることが決まった実験体にされてる人を、こっそり逃がすために反主流派が作ったものでね」
「良くこれだけの通路を、主流派に気付かれずつくれたなぁ」
「能力者の力を微妙に捻じ曲げたり、無効化する研究もされててね、その技術をフル活用して作ったんだ。今でも主流派の能力者のアンテナに引っかからないように、いろいろ仕掛けが作動したままだよ」
「現に今までこの通路を感知した能力者は居なかったんですけれどね」
そう言って、美波さんは私たちを見て首を傾げた。

質問するなら今かな?
えっと…
@「今、この先はどこにつながってるんですか?」
A「逃がした人は、どうなったんですか?」
B「じゃあ、私たち侵入者だと思われたんですね」
201541:2007/08/28(火) 23:18:42 ID:???
A「逃がした人は、どうなったんですか?」

私の問いに、明るい周防さんの表情が一瞬だけ曇った。
「あー、うん。逃げ延びて、普通に暮らしている人もいるぞ」
「よかった」
逃げ延びて、元気に暮らしている人がいると思うとうれしくなる。
だけど、もし逃げられなかったらどうなるのだろうと、ふと不安になった。
「もしも、逃げ切れなかったらどうなるんですか?」
「それは……だな」
周防さんは口ごもって、頭を掻いた。
その仕草に不安が膨らんでいく。
「……逃げられずに処分された人もいるってことだ」

「そんな……」
血の気が引き視界が歪んで、膝の力が抜けていく。
「だ、大丈夫、愛菜ちゃん!」
眩暈で倒れそうになる私を、すかさず修二君が私を支えてくれた。
「ありがとう。大丈夫だよ」
私は修二君に心配をかけまいと笑顔で応え、なんとか立ち上がった。

そんな私たちの姿を硬い表情で見ていた周防さんだったが、美波さんに肩をポンと叩かれ、弾かれるように顔をあげた。
「……彼らの様子を見ていて、過去の自分自身と重なりましたか?」
「どうかな」
周防さんはとぼけるように両手を挙げる。
「素直じゃないですね」
「……あんまり昔のこと過ぎて、ここでの出来事なんてすっかり忘れちまったさ」
いつもと変わらない、明るい口調で周防さんは言った。
けれど、美波さんは試すような視線を向けながら話を続ける。
「周防の少年時代ですか。その頃の周防はさぞひねくれた少年だったのでしょうね」
「どうしてそう思うんだよ」
「子供の頃から素直だったら、こんな嘘つきな大人にはなりませんからね」
そう言って、美波さんは周防さんに添えた手をゆっくりはずした。

次は何を聞こうかな。

@「今、この先はどこにつながってるんですか?」
A「じゃあ、私たち侵入者だと思われたんですね」
B「周防さんのここでの出来事って何ですか?」
202542:2007/08/29(水) 13:38:37 ID:???
@「今、この先はどこにつながってるんですか?」

私が周防さんたちがやってきた方向を指差すと、周防さんはいたずらっぽく笑っていった。

「どこだと思う?」
「学校からずっと南西の方向に歩いてきたはずだけど……」
周防さんの言葉に、修二くんが首を傾げながら考える。
修二くんに言われて、私も頭の中で地図を広げた。

(学校から南西って言うと、オフィス街よね。あ、でも手前は商店街か)
廻りが暗くて、用心しながらゆっくり進んできたとはいえ結構な距離を歩いてきているはずだ。
修二くんも私と同じことを考えていたらしく、ぶつぶつと呟く声にオフィス街の主な建物の名前が混じっている。
そんな私たちを、周防さんは楽しそうに見ている。
美波さんも考える私たちに助言をしてくれる様子もなく、微笑んだまま成り行きを見守っている。

(でも、完全にまっすぐって分けでもないわよね?)
わずかではあるがこの通路が右にいったり左に行ったりと蛇行していたことを思い出し、ますます混乱する。
もともと組織が使っていた施設というのなら、この先につながっている場所は、出来てからそんなに時間が経っていないのではないだろうか。
最近出来た、もしくは改装された場所?
それを思い出し思い浮かべる。

「さて、そろそろ分かったかな?」
周防さんが答えを促す。

えーっと…
@「病院?」
A「百貨店?」
B「ヒントください!」
203543:2007/08/30(木) 00:30:27 ID:???
@「病院?」

(たしか……以前、改装していたし)

「そ、正解。よくわかったな」
周防さんが感心したように言った。

「研究所って、建物の構造が病院に近いだろうなって思ったんです。
病院が以前改装していたのを思い出してピンときました。
あと、病院の一部が研究施設なら、周りの住民の目も欺きやすそうですよね」

私の言葉を聞いて、美波さんはゆっくり頷いた。
「鋭いですね。愛菜さんはなかなか見所がありますよ」
「愛菜ちゃんはいつも見所ありまくりだよ、ね?」
修二君が私を覗き込んで、にっこり笑った。
「そ、そんなことないよ」
褒められるのが恥ずかしくて、私は思わず下を向いた。

「愛菜さんが言う通り、あの病院は以前、研究施設が併設されていました。
そして旧研究施設は改装され、現在は病院の入院棟となっています」
美波さんは私たちによどみなく説明してくれる。

「でも、皮肉だなー。俺が子供の頃にいた施設って、家からめちゃくちゃ家と近かったんだ」
修二君はようやく謎が解けたというような声をあげた。

(そうだった。たしか、一郎君と修二君は施設にいたんだよね)

「修二君。ぜんぜん気がつかなかったの?」
私は不思議になって尋ねた。
「うん。子供の頃すぎてあんまり憶えてないけど、塀に囲まれていたから周りの様子はわからなかったよ」
「確かに、塀に囲まれて逃げられないようなっていたな」
周防さんは眉間にしわを寄せて、心底施設を嫌っているようだった。

「それだけではありませんよ。
子供は特に無垢ですから、ここから出られないと思い込ませるなんて、施設側には容易いことだったのです。
さらに深いマインドコントロールを施して、何も疑うことなく施設側の言いなりになる人間を大勢作り出していました。
ですから、多くの施設出身者は今も施設に逆らうことができないのですよ」
美波さんは施設の内情を私たちに淡々と説明してくれた。

@美波さんに施設関係者なのか尋ねる
A主流派が私を狙う理由を尋ねる
B周防さんにこの通路で起こった出来事について尋ねる
204544:2007/08/31(金) 03:21:44 ID:???
@美波さんに施設関係者なのか尋ねる

「美波さんはもしかして……施設の関係者、だったんですか?」
すらすらと美波さんの口から語られる内容はどうしたって部外者は知りえない情報に聞こえる。美波さんは私をちらりと見て、目が合うとにっこり笑った。
「まああなたがそうおっしゃるのも当然でしょうね。こんな話を真顔でする部外者がいたら私も会ってみたい」
はぐらかすようにそう言って、美波さんは目を伏せた。薄明かりに照らされた長い睫毛はこころなしか少し震えているように見える。
なにか、まずいことを聞いてしまったんだろうか。

美波さんに謝らなければいけない様な気がして、私が口を開こうとした所で修二君が痺れを切らしたように言った。
「で、結局の所あなたはどういう人間なんです?施設の運営に関わっていたことでもあるんですか?」
「修二君!」
「良いんですよ、愛菜さん。素性のはっきりしない人間と共に行動などできませんからね。いずれはお話しなければならない事ですから」
美波さんの言葉に、隣りの周防さんも「そうだな」と頷いた。

「先ほどの修二さんの質問ですが、現在私の表向きの職業は医師です。表向き、と言ってもきちんと資格はありますよ」
「こいつは腕は良いんだが、治療が少々荒っぽいのが難点だ。……二人共、覚えておいたほうが良いぞ」
横でそう付け足した周防さんは、そこで何かを思い出したかのように小さく身震いした。
「……他の患者さんはあなたのように無茶はしませんからね。あなたは特別待遇なんですよ、周防。良かったですね、嬉しいでしょう」
「ああ、ほんとに」

(二人共、仲が良いんだなあ)
二人のやりとりを聞きながら美波さんにお手上げ、といったかんじの周防さんを見ているとなんだか可愛らしくて自然と笑みがこぼれた。
「さて。私は長年この不良患者と行動を共にしている訳ですが、周防との付き合いはかれこれ九年位になります。知り合ったのはご推察の通り、この施設内です」
美波さんはそう言って、辺りを見回すように周囲へ視線をめぐらせた。相変わらずあたりは暗闇に覆われている。
「私がこの施設に入所したのは小学校にあがる前でした。幸か不幸か、入所してほどなく私の能力は開花し、長年にわたって研究対象として所内で丁重に管理されることになりました。
当時の私はマインドコントロールを施されていましたから、非常に従順な良い模範でしたね。成長するに従って、研究員達の代わりに他の被験者たちの管理を任されるようになり、何の疑問も持たずに組織に都合の良い人間を次から次へと養成していた訳です」
「マインドコントロールされてた人間が、どうして反主流派に?」
修二君の問いかけに美波さんは困ったように笑った。
「修二さんは意外とせっかちですね。かいつまんで言うと、マインドコントロールが解けたからです」
「マインドコントロールって簡単に解けるものなんですか?」
「いいえ、愛菜さん。組織の施すマインドコントロールは特別強力です。なにしろ非合法ですからね、被験者の健康など省みる必要がないのですから」
それまで黙って聞いていた周防さんが、美波さんの後に静かに付け足した。
「だが、人の精神に作用するものだ。強いショックを受けると稀にマインドコントロールが解けることがある」
「幸い、研究員達は私のマインドコントロールが解けた事に気付かなかったようでした。その後自責の念に苛まれる私を救ってくれたのが、ここにいる周防です」
「よせよ、救ったなんてそんなたいした事しちゃいないだろ」
美波さんにまっすぐにみつめられて、周防さんはなんでもないというふうに両手をひらひらさせた。
「いいえ。あなたは私の罪を償う術を、妹の声を伝えてくれたんです。……それからの私は表向きはマインドコントロールされたまま、反主流として周防と共に活動するようになりました。
どうでしょう、修二さん。これで先ほどの質問の答えになるでしょうか?」
「そうですね、だいたいわかりました。愛菜ちゃんは?」
修二君が私の顔を覗き込む。そんなに何か聞きたそうな顔をしていたのだろうか。
(確かにちょっと気になることはあるけど……)

どうしようかな?
@美波さんが受けた強いショックとはどんなことだったのか聞いてみる。
A美波さんの妹さんと周防さんの関係について聞いてみる。
Bなんだか悲しそうな美波さんが気になるので何も聞かない。
205545:2007/09/01(土) 00:18:10 ID:???
A美波さんの妹さんと周防さんの関係について聞いてみる。

「妹さんと周防さんは知り合いなんですか?」
「……ああ、綾のことはよく知っているよ」
周防さんは複雑な表情で答えた。

(妹さんは綾さんっていうのね)

「綾さんは二十歳くらいですか? 美波さんの妹さんなら、きっと綺麗な方なんでしょうね」

美波さんの妹さんなら、きっとすごい美人に違いない。
妹が欲しいな、と小さい頃から思っていたから妹さんがいる美波さんが少し羨ましく思えた。

「愛菜ちゃん……それは…」
周防さんは言いよどんで、美波さんの方を見た。
美波さんはその視線に応え、小さく頷くと私に向き直った。

「私の妹、綾は16歳から永遠に歳をとることはありません」
「え……」

美波さんが言った意味が飲み込めず、私は言葉に詰まった。
修二君も驚いた顔で、美波さんを見た。

「綾は…妹は16歳で死にました。直接的に手を下したわけではありませんが、私が殺してしまったようなものです。
それが、私が背負っている罪なのですよ」

美波さんは真っ直ぐ私を見つめたまま言った。その瞳に、嘘や偽りは無い。
16歳といえば、私と同じ歳だ。
美波さんに何か言わなくちゃいけないと思うのに、思考が停止してしまったように上手く言葉が出てこない。

「それはお前の考え過ぎだ、美波。あの頃のお前は精神を組織に支配されていただろうが。
当時の状態でマトモな判断なんて出来なかったんだよ」
自分自身を責める美波さんを咎めるように、周防さんが強い口調で言った。

「支配を受けていたとはいえ、綾の逃亡計画を組織に告発したのは、他でも無い私です。
そして、周防に瀕死の重症を負わせ、妹の命までも削る結果になってしまった。
マインドコントロール施されてもいても、いなくても、この事実がある以上は罪を背負い続けなければならないのです」

美波さんの口調に全く迷いはなかった。
きっと罪を償おうとする決意に迷いがないからだろう。

私は…
@二人の様子を黙ってみている
A「妹の綾さんって……もしかして」
B「逃亡計画ってこの通路のことですか?」
206546:2007/09/01(土) 12:47:58 ID:???
A「妹の綾さんって……もしかして」

(待って、だけど……あれはこよみさんのはずじゃ)

夜の校庭の半分近くを、オレンジのような何かが照らしている夢を思い出す。
そして、私の腕の中で―――私とそう年の変わらない周防さんが傷だらけで横たわっていた。

夢で見た光景と美波さんの話はリンクしている。
逃げ出した綾さんと周防さんが通路の出口で組織に捕まったとすれば、辻褄も合う。
だけど、私が見た夢では周防さんと逃げていた女の子は綾さんではなく、こよみさんのはずだ。

「あの…周防さん。ひとつ聞いてもいいですか?」
私は顔を上げると、周防さんに話しかけた。
「ああ。なんだい、愛菜ちゃん」
「こよみさんって……誰ですか?」

私の言葉に、周防さんが一瞬息を呑んだ。
美波さんも目を見開いて、私を見つめた。
「愛菜ちゃん、どうしてその名前を知っている? 誰かから聞いたのか?」
「いいえ、夢をみたんです。周防さんは一緒にいた女の子に向かって『こよみ』と話しかけていました。
病院の中庭で一緒にいる光景や、傷ついた周防さんを抱きしめる光景――いつも周防さんの傍らには『こよみ』さんがいたんです」

「そうか……。愛菜ちゃんには隠し事はできないなー」
周防さんは参ったと言いたげな様子で、大げさに頭を掻いた。
「ご、ごめんなさい」
「いいって、いいって。少し驚いただけだから。うん、愛菜ちゃんの夢に出ていた女の子、その子は間違いなく綾だな」
「でも、周防さんはこよみと呼んでいましたよ?」

私は意味が分からず、頭の中は疑問符で埋め尽くされてしまう。
その姿を見て、美波さんがクスクスと笑った。

「綾は『こよみ』なんですよ。愛菜さん」
「え?」
「コードナンバー.543。それが綾の施設での呼び名でした。施設で名前はいりませんからね。
周防は私に会うまで、綾という本当の名前すら知らなかったのですよ」
少しだけ笑顔に影を落としながら、美波さんが呟いた。

「ふーん。そっか、そういうことか」
さっきまで黙っていた修二くんが突然閃いたように声をあげた。

「修二はわかったみたいだな。愛菜ちゃん、俺が綾を『こよみ』と呼んでいた理由はわかったかい?」
周防さんが覗き込むようにして私に尋ねてきた。

なんて答えようかな。

@わかった
Aわらない
Bヒントを要求
207547:2007/09/03(月) 14:58:48 ID:???
@わかった

「番号の543の言い方をちょっと変えたんですね」
「そうそう」
「何のひねりもなくて、つまらないでしょう?」
「わるかったな」
私の答えにすかさず美波さんが、周防さんを見ながら苦笑する。
周防さんも言われなれているのか軽く肩をすくめるだけだ。

(それじゃあ、あの後こよみさん、あ、綾さんって言ったほうがいいのかな、綾さんは……)
私が夢で見たとき怪我をしていたのは周防さんで、綾さんではなかった。
周防さんが気を失った後、私は目が覚めてしまってその後どうなったのかは分からないけれど、綾さんはその後亡くなったのだろう。

(そういえば……)
私は冬馬先輩の言葉を思い出す。

『僕が隔離された部屋の前の主は、力を暴走させた挙句病に冒され
再び日の光を浴びる事無く若くしてこの世を去ったと聞きました』

私はあれをこよみさん、つまり綾さんのことだと思った。
髪の長いきれいな女の子だったと、冬馬先輩も言っていたから間違いないだろう。
ならば、周防さんが気を失った後、綾さんは力を暴走させたあげく病に冒されあの部屋に閉じ込められた、ということだろうか?

(気を失った周防さんを見て、綾さんは自分を責めてた……)
気を失った直後、私はすぐに目が覚めてしまったが、その一瞬叫ぶ綾さんのなかで何かが壊れたような音を聞いた気がする。
病というのも精神的なものだったのかもしれない。

「愛菜ちゃん、どうした?そんな苦しそうな顔しない」
周防さんに軽く頭を小突かれ、私ははっと顔を上げる。
いつの間にか考え込んでしまっていたようだ。

「あ、ご、ごめんなさい」
とっさに謝った私に、周防さんが優しく笑って、いつものように頭にぽんと手をのせる。

「愛菜さん、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
その横から美波さんが少し心配そうに私を覗き込んできた。

私は……
@「大丈夫です」
A「ちょっと、疲れただけです」
B「そう、ですか?」
208548:2007/09/03(月) 23:29:53 ID:???
@「大丈夫です」

私は心配してくれた二人に向かって、笑いかけた。
周防さんと美波さんはちょっと困ったように顔を見合わせた。

すると、今まで黙って話を聞いていた修二君が、溜息を吐くように私に向かって話しかけてきた。

「愛菜ちゃんてさ、いっつも見ていて思うけど……そんな風に無理して笑うから疲れちゃうんだよ」
「え? 別に無理してるつもりはないよ」
「無理してるさ。俺の場合、見ていれば疲れていることなんてすぐにわかるし」
修二君の見透かすような視線に、思わず目を逸らす。
「で、でも本当に無理してないよ」
私は言い訳のように繰り返して言った。

「愛菜ちゃんはこの通路にある残留思念の毒気にあてられちゃってるのに、どうして笑って誤魔化すかなー」
修二君は納得いかないのか、不満の色を露わにしている。
「誤魔化してなんかいないよ」
「茶道室での事といい…自覚がないなら、余計タチ悪いじゃん」
「タチ悪いって……」
修二君の言葉に、思わずムッとしてしまう。

修二君はそんな私を見て、「めんどくさ」と苛立たしげに言った。

「やぁ、若いってもどかしいな」
周防さんは私と修二君を見ながら、しみじみと呟く。
「こらこら、周防。そんなことを言っている場合ではないでしょう。
修二さん、心配ならもう少し優しく愛菜さんに伝えないと嫌われてしまいますよ。
愛菜さんもせっかく修二さんが心配してくれているのですから、もう少し甘えてみてはいかがですか?」

美波さんの言葉に周防さんは大きく頷いていた。
(たしかに、心配させまいとして無理してたかも)
修二君を見ると肩をすくめて憮然としていたけれど、観念したように一歩前に出てきた。

「えっと…愛菜ちゃん、ごめん」
「あ、ううん、私こそ。それに、心配してくれてありがとう」
「俺、愛菜ちゃんの気持ちを全然わかってなかったかも。疲れてるのに、嘘つくなよって思ってた」

こうやってはっきり言葉にしてしまうのも、修二君らしいのかもしれない。

私は
@「次は疲れたらちゃんと言うね」
A「私もムカついて修二君のバカって思っちゃった」
B「素直に言うと、実はおぶって欲しいな」
209549:2007/09/04(火) 04:47:57 ID:???
A「私もムカついて修二君のバカって思っちゃった」

「……」
私の言葉が余程意外だったのか、修二君は目を丸くして固まった。予想外の反応に、抱えていた修二君に対するもやもやが次第に薄れてゆくのを感じる。
(珍しいもの、見ちゃったかも)

「えーと……」
戸惑ったように何か言おうとする修二君に、ほんの少しの優越感を持って笑いかける。
「って言っても、ほんとにちょっとだけだけど!これでおあいこだから、修二君も気にしないで。ね?」
「そう、だね。うん。ほんとごめん」
「だから気にしないでってば。心配して言ってくれたのはわかったから」
反省会のように延々続く私たちのやりとりを、周防さんと美波さんはやれやれといった様子で止めに入った。二人苦笑を浮かべつつ、それでもその表情は優しい。

「はいはい、お二人さん。その辺にしときな、修二も反省したよな?」
「愛菜さんも、これからはあまり無理はしないようにね」
二人に間に入られて、ようやくその場が収まった。修二君となにやら子供っぽいケンカをしたようで、私は今更ながら恥ずかしくなってきた。修二君もバツが悪そうに頭を掻いている。
(うう、変に意地張って子供っぽいって思われただろうな……)

そんな私の考えなどお見通しなのか、隣りにいた美波さんが慰めるように言う。
「相手を思うがゆえのすれ違いも、時に起こります。お互いがお互いのことを大切に思えばこそ、伝えなければならない事も出てくるものですし」
「ま、誰にも譲れないものはある。たまには本音でぶつかるのも良いだろ」
続けた周防さんはいつものように陽気にウィンクを飛ばした。

美波さんと周防さんの話を聞きながら、私はふとある人たちの事を重ね合わせていた。

私が重ね合わせていたのは……
@一郎君と修二君
A春樹と私
B周防さんと美波さん
210550:2007/09/04(火) 15:53:06 ID:???
@一郎君と修二君

(そうだよね、大事に思ってるならちゃんと話さないと……)
ふっと思いうかんだ一郎くんと修二くんの状態。
一郎くんは修二くんに何も言わず、一人ですべてを背負って行動していた。
修二くんもそんな一郎くんに何も聞くことはなく、それでも二人に一番良いと思われる行動をしている。
けれど気持ちは微妙にすれ違っているように思えて仕方がない。

(双子だって、何も言わなくても通じるわけじゃないのにね……)
そう思って、修二くんを見上げると一瞬目が合ったが、何かに気付いたように振り返った。

「どうしたの?修二くん」
「あ〜……あまりにも俺たちの帰りが遅いから、兄貴が来たみたいだ」
「え?」
私も振り返ったが、見えるのは闇だけで人の姿は確認できない。

(そういえば……)
病院で会ったときも、なぜか一郎くんは修二くんの場所を知っていた。
あの時一郎くんは『分かるからだ』と言っていたけれど……。

「修二のお兄さんが来るのか?」
「みたいだ」
周防さんの言葉に修二くんは肩をすくめて答える。
微妙に突き放したような答えに周防さんが苦笑する。

「では、私は戻りますね」
そのとき唐突に美波さんがきびすを返した。

「え!?」
驚く私に、美波さんはにっこり笑う。

「先ほどお兄さんと一緒のほうが良く見えると言っていましたからね。これ以上私の力を見透かされるのも困ってしまいますので」
「あ……」
「では、またお会いしましょう」
美波さんは私たちが言葉を発する前に、闇に紛れて行った。
なんとなく沈黙が落ちる。

どうしよう……
@周防さんはここに居て良いのか聞く
Aなぜ一郎くんは修二くんの場所が分かるのか聞く
Bどれくらいで一郎くんが来るのか聞く
211551:2007/09/04(火) 22:16:39 ID:???
@周防さんはここに居て良いのか聞く

「周防さんはここに居ていいんですか?」
私は美波さんが消えていった方を見ながら尋ねた。

「俺も退散するよ。穴に入り込んだネズミ退治に来ただけだしな」
周防さんはそう言って、私と修二君を交互に見ながら笑った。

「ネズミって、俺と愛菜ちゃんのこと?」
修二君は不服そうに口を尖らせながら、抗議する。
「あの連中と勘違いしたんだよ。じゃあな、お二人さん」
そう言って周防さんは片手を挙げながら、美波さんが去っていった方向に歩き出した。
けれど、二歩ほど進むとピタリと歩みを止めてしまった。

「あーっと、忘れるところだった。この前はいきなりの襲撃で渡せなかったからな」
周防さんはポケットから紙を取り出すと、私に渡してきた。
「俺の携帯番号が書いてある。困ったときは連絡くれればいいから。あと、修二も愛菜ちゃんから聞いといてくれ」
「はい」
「りょーかい」
私と修二君は、ほぼ同時に答えた。

「それともう一つ。修二、ちょっといいか?」
周防さんはちょいちょいと手まねきをして、修二君を呼び寄せる。
そして、耳元で何かを伝えていた。

(私には内緒の話なのかな…)
置いてきぼりにあったみたいで、なんとなく面白くない気分のまま二人の様子を見つめた。

周防さんの耳打ちを聞いて、修二君の顔が段々真剣なものに変わっていく。
そして、周防さんの話を聞き終わると、修二君は声には出さずに「わかった」と口を動かした。

「て、ことなんだ」
「…マジかよ」

「あのー、私には内緒なんですか?」
一応、確認のつもりで周防さんに尋ねる。
「それは、修二の判断に任せたからな。知りたいなら、修二から直接聞いてくれ。それじゃ、またな」
周防さんは闇に溶けるように、消えてしまった。

どうしようかな。

@修二君に内緒話の内容を尋ねる
A修二君が言うまで、内緒話の内容を尋ねない
Bどれくらいで一郎くんが来るのか聞く
212552:2007/09/05(水) 15:56:14 ID:???
@修二君に内緒話の内容を尋ねる

「修二くん、周防さんなんて言ってたの?」
「あぁ、うん、後で説明するよ。兄貴も一緒のほうが一回で済むし」
修二くんはそう言って、一度周防さんたちが消えた方向を見据えると、いつもの顔に戻りにっこり笑った。

「それじゃ俺たちも戻ろうか」
「うん」
私は歩き出した修二くんについて、一歩踏み出す。

(……っと、っと、と?)
その途端めまいがして思わず壁に手をつく。

「愛菜ちゃん!」
気付いた修二くんが、すぐに私を支えてくれる。

「だから言ったでしょ?無理してるって」
「……ごめん」
本当に修二くんの言ったとおりだった。
歩き出すまでぜんぜん自覚がなかった自分に落ち込む。

「ほら、掴まって。早くここから出よう、兄貴ももうすぐ合流するから」
「うん、ありがとう」
修二くんに支えられて歩き出してすぐに、闇の中に小さな明かりがゆれているのが見えた。

「大堂、大丈夫か?」
やって来た一郎くんは真っ先に私に尋ねてくる。
やっぱり一郎くんにも、私の状態が『見える』のだろう。

「何とかね、ちょっとふらつくけど……」
「修二、お前が付いていながらなんて無茶させるんだ」
「ごめん、配慮が足りなかったよ」
「……修二くんが悪いわけじゃないよ。私が大丈夫だって意地張っちゃったから」
一郎くんの言葉に、言い訳することもなく修二くんが謝る。
とっさに私が口を挟むと、一郎くんがなんともいえない顔で口を閉ざした。

「……とりあえず、ここから出よう。大堂はここに長く居ないほうがいい」
一郎くんは一つため息をついてすぐにいつもの表情に戻ると修二くんの反対側から私を支えた。

「行くぞ修二」
「愛菜ちゃん、ちゃんと掴まっててね」
「えっ!?」
二人が同時にかがんで私の身体を持ち上げる。
二人が組んだ両腕に座っているような状態だ。
急に視界が高くなり、慌てて両隣にある一郎くんと修二くんの肩に手を添えて身体を支える。
それを確認して、二人は走っているといっていい速度で進み始めた。
何の合図もないのに、二人の呼吸はぴったりだ。

(やっぱり双子なんだな……)
恥ずかしいのも忘れて、思わず感心してしまう。
速度が速度だっただけに、降りてきた階段まで到達するのにあまり時間はかからなかった。
降ろしてもらって体育館倉庫を出ると、すっかり日が落ちてしまっている。
下校時間も過ぎてしまっているようだ。
春樹たちも心配しているかもしれない。

どうしよう……
@今日はもう家に帰る。
A周防さんの話が気になるので聞く。
Bとりあえず、春樹に電話する。
213553:2007/09/05(水) 19:19:59 ID:???
@今日はもう家に帰る。

私が家に帰る事を告げようとする前に、二人は同時に口を開いた。

「日がすっかり落ちているな、送っていこう。大堂」
「話はまた今度でいっか……送ってくよ、愛菜ちゃん」

一郎君と修二君の視線が私の頭上でぶつかっている。
口火を切ったのは、一郎君の方だった。

「修二。さっき文化祭実行委員の藻部がお前を探していたぞ」
「げっ。それ、マジ?」
「嘘をついても仕方ないだろう」
「やばっ。アイツ、絶対に怒ってるよー。もう帰っちゃったかなぁ」
悪戯が見つかった子供のように、修二君は頭を抱えている。

「愛菜ちゃん、ゴメン。俺、やっぱり一度教室に戻るよ」
「あっ、うん。そうだね」
「ホント、ゴメンね」
私に手を合わせると、修二君はすごい速さで校舎に戻っていった。
その姿が見えなくなると、私は一郎君に向き直る。

「修二君、またクラスの仕事をサボってたのかなぁ。私には今日は暇だって言っていたのに」
「だろうな。藻部は修二が逃げ出したと言っていた」
「やっぱり」

(仕方ないなぁ……)

ぼんやりそんな事を考えていると、一郎君が私の鞄を黙って手渡してくれる。
鞄までしっかり用意してある辺り、さすがとしか言いようがない。
「あ、ありがとう」
「では帰ろうか」

一郎君と私は校門に向かう。
体調の悪い私を気遣うように、一朗君がゆっくり歩いてくれている。

「大堂。大丈夫か?」
「あ、うん。へいき……」
そう言いかけたところで、さっきの修二君とのやり取りが頭をよぎった。
(私がやせ我慢しても、一郎君にはお見通しなんだよね)

私は…
@「ちょっと歩けそうにないかも」
A「ごめん。タクシー呼んでもらっていい?」
B「平気だよ、ありがとう」
214554:2007/09/06(木) 16:42:08 ID:???
@「ちょっと歩けそうにないかも」

修二くんが言うように、自分には分かっているのに無理をされるというのは気持ちのいいことではないだろう。
そう思って、素直に口にする。
正直、自分でもこんなに影響されているなんて思っていなかった。
うまく足に力が入らない。
しっかり気をつけていないと、そのまま座り込んでしまいそうだった。

「大丈夫か?」
一郎くんはすぐに私を支えると、顔を覗き込んでくる。

「だいぶ疲れているようだな」
「あの通路に居るときは特に感じなかったんだけど、戻ろうとしたら急に、ね」
「そうか。だが今回は大堂自身の気が乱れているわけではない。
 外から影響を受けて、うまく気が巡らなくなっているだけだ。
 気のめぐりが悪くなって疲労しているが、少し休めば回復するだろう」
そう言って、一郎くんは私の額に手を当てた。

「少し影響を取り除いておこう」
そう言って当てられた一郎くんの手がとても暖かく感じる。

「何をしてるの?」
「大堂に影響を与えている思念を散らしている。
 俺の力はこういうことに向いてはいないから完全に取り除くことは出来ないが、時間がたてば自然に消えるものだから心配しなくていい」
一郎くんはしばらく私の額に手を置いていたが、しばらくしてその手をおろす。

「さっきよりは良くなったんじゃないか?」
「うん、ありがとう」
確かにさっきまでまとわり付いていた疲労感が和らいでいる。
一郎くんにお礼をいって笑うと、一郎くんも少しだけ微笑んだ。

「いや、たいしたことはしていない。さぁ、行こうか」
一郎くんは私を支えたまま促す。
私は一郎くんに支えられたまま歩き出す。

(ずっと無言って言うのも、気まずい、かな?)

私は……
@無言のまま帰る
Aどうして修二くんの居る場所が分かるのか聞く
B組織と決別してこれからどうするのか聞く
215555:2007/09/06(木) 20:15:45 ID:???
Aどうして修二くんの居る場所が分かるのか聞く

「一郎君。よく私たちの居場所がわかったね」
背中に添えられた一郎君の手に少しだけ意識を向けながら、私は尋ねた

「……修二の意識を追っていけばわかる。ただし、集中して追わなければ場所の特定まではできないが…」
「修二君の意識?」
「俺達は双子だから、特にアクセスしやすいのだろうな」
「うーん。じゃあ、修二君の意識にアクセスするって、どんな感じなの?」
「そうだな……」

一郎君はしばらく考え込みながら歩く。
その横顔を見ながら、私はじっと待った。

「ラジオのチューニングをあわせる感覚に近いだろう。修二の周波数を合わせ、意識を受信するんだ。
あと、空間の認識と言う上では、カーナビなどのGPSシステムにも似ているのかもしれない」

(あれ……この話、どこかで聞いたことがある)

どこだっけ?と真剣に考え始めたとき、突然、目がくらむほどの光を受ける。
「危ない!」という一郎君の声で我に返った。

プップープップー

グイと力強い腕に導かれ、すぐ鼻先を車が横切っていく。
けたたましいクラクションの音と共に、車は勢いを保ったまま、強引に右折してしまった。

「なんて乱暴な運転だ! 大堂も何をぼんやりとしている」
「ご、ごめん…」
「あ……いや、俺の方こそすまない。君は体調が優れなかったのだな」
身を竦めている私を気遣ったのか、口調が穏やかなものに変わる。
「もしかして…今のは組織の仕業……」
急に怖くなって、私は呟く。
「それは絶対に無い。主流派は君を傷つけてはならないと命令しているはずだ」
そう言うと、一郎君の腕に力が篭った。

私たちは住宅街の十字路、電柱の影に隠れるように体を寄せ合っている。
しっかりと抱きすくめられているせいなのか、少し息苦しい。顔を上げると、一郎君の瞳とぶつかった。
淡い街灯の明かりのせいなのか、その瞳に暗い影が落ちて、ひどく悲しげに映った。

私は…
@「あ、ありがとう」
A咄嗟に離れる。
B一郎君の瞳を黙って見つめ続けた。
216556:2007/09/07(金) 13:37:50 ID:???
@「あ、ありがとう」

なぜかその目に耐えられなくなって私は一郎くんから視線を外し、お礼をいってやんわりと離れようとする。
けれど一郎くんの手は緩む様子がない。

「一郎くん?」
私はおそるおそるもう一度一郎くんの顔を見る。
一郎くんはやっぱりさっきと同じ目で私を見ていた。
私の声が聞こえていないかのように、ただ見つめてくる。
まるで私の中の別の何かを見ているような、そんな気さえする。

「ねぇ一郎くん、どうしたの?」
「……すまない、なんでもない」
もう一度声をかけると、一郎くんは目を伏せて私を放す。
それから何事もなかったかのように、私を支えなおすと今度は前を向いたまま話し出す。

「大堂、君は自分の力を使いこなせるようになったほうがいいと思う。
 少なくとも、自分の身を守る方法は覚えたほうがいいだろう。
 契約である程度の危険からは守られているとはいえ、今回のようなことがまったくないとは言い切れないからな」
一郎くんに促されるまま歩きながら、私は頷く。

「そうよね……、こんなふうに何度も疲れてちゃ日常生活もままならないもんね」
私はため息をつく。
いままで、ただそこに居るだけで疲れてしまう、というようなことはなかった。
力があることを自覚したからなのだろうか?それとも他の要因があるのだろうか。

(一郎くんなら、何か分かるかな……?)
「どうした?」
私のもの問いたげな顔に気付いたのか、一郎くんが私を見る。

「あ、えっと……いままで、どこに行ってもこんなに疲れることはなかったのにな、とおもって」
「……?」
一郎くんは少し首を傾げる。

「今回はあの通路の残留思念の毒気にやられてるって、修二くんが言ってたけど、そういうのって人の思いの強く残っている場所には必ずあるものなんでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「それなのに、いままで影響を受けたことがなかったから……こんなに疲れるのだって今回が初めてだし……」
いったん言葉を切って、一郎くんの目を見る。

@「一郎くんは理由が分かる?」
A「私の中で何かが変わってるのかな?」
B「『封印』が解けかけてるとか?」
217557:2007/09/07(金) 21:54:24 ID:???
A「私の中で何かが変わってるのかな?」

私の問いに、少し間を空けてから一郎君が口を開いた。
「大堂自身が、力を自覚したからだろうな」
「それだけ? 他に要因は無いの?」
「契約による作用も関係しているが、一番の理由は自覚することによって、力が少しずつ形を成してきている為だ」
「それは……私が力を使いこなせてきていると言う事?」
私は期待を込めて、一郎君に尋ねた。
「いや。力を使いこなすと言うよりは、ようやく目覚め始めたところだろう」

(なんだ…生まれたてみたいなものなのね)

がっくりと肩を落としてしまった私に向かって、一郎君はゆっくり語りかけてきた。

「一朝一夕でどうにかなるものでもない。しかし、身を守る力は必要だ。
力を使いこなすにはまず集中力が必要になる。そこでだ……」

手のひらサイズの箱を手渡された。

「すぐにどうにかなるものではないが、努力は必要だ。
それはESPカードと言って、丸、四角、プラス、波、星の形が描かれている。
きり混ぜたカードを伏せ、コールしながら一枚ずつ図柄を当てていくのが、一人で訓練できる最も簡単な方法だろう」

カードケースを開けると、トランプのようだったが表は数字ではなく、図柄のみが印刷されていた。

「これ、テレビで見たことがあるよ。神経衰弱みたいにして当てていけばいいんだよね」
つい嬉しくなって私はカードを取り出す。
なんだか、自分が急にテレビに出ているような超能力者になった気分だ。

「それを大堂に渡しておく。カードをすべて当てることができるまで集中力を養うといい。
君は不器用だから、少し時間がかかるかもしれないが」

(不器用は否定できないにしても…。今、すべてのカードを当てるって聞こえた気がするんだけど)

「あー。私の聞き違いかな? 今、すべてのカードを当てるって聞こえたんだけど」
「聞き違いではない。伏せた25枚をすべて当てるんだ」

(そんなの、無理に決まってるよ!)

私は…
@一郎君に試しにやってもらう
A自分でやってみる
Bカードを返す
218558:2007/09/08(土) 23:04:31 ID:???
@一郎君に試しにやってもらう

「どうした、大堂。突っ立ったままでは家に帰れないぞ」
歩き出した一郎君が、立ったままの私に振り向いて言った。

「ね、ねえ。……このカードって本当に25枚全部当てられるようにならないと駄目なの?」
数歩先にいる一郎君に追いつくために、小走りに近づく。
「それくらい初歩中の初歩だ」
「五枚のカードを当てるとかじゃなくて?」
「くどい。俺は25枚すべてを当てるように訓練するように言ったはずだ」
「……じゃあ、一郎君は出来るの?」

初歩だというけれど25枚全部当てるなんて、奇跡に近い確立だ。
そんな無茶を真顔で言う一郎君の正気を疑ってしまう。

「当たり前だろう。くだらない質問だな」
「本当に?」
疑いの眼差しを向ける私を見て、一郎君は小さく溜息を吐いた。
「確かに、確立で言えば、1/ 24,800,000,000 だ。しかし、君も俺と同じ能力者だろう。君は自分の力が信じられないのか?」

(信じるって言っても、未だに半信半疑だし。……って、そうだ)
私は道の反対側にある、一郎君と以前過ごした児童公園を指差す。
「一郎君が本当に25枚全部を当てられるのか、あの公園で見せて欲しいな。そうしたら、自分の力を信じられるかもしれない」
「仕方がない。それで大堂がやる気になるのであれば、安いものだ」

静まり返った公園のベンチに、私たちは腰掛けた。
手のひらサイズの箱から、カードを取り出して、私は慎重にきり始めた。
そして、伏せたままのカードを一郎君の目の前に置く。

「上から順にカードの図柄を当てていく方法でいいな?」
一郎君の言葉に、私は黙って頷いた。

(――す、すごい…。手品じゃないよね)
結局、一郎君は当たり前のように25枚すべてを当ててしまった。

「驚いたよ、本当だったんだね。そんな力があったらカンニングし放題だよ!」
目の当たりにした奇跡に興奮してしまい、つい声が大きくなってしまう。
「大堂はカンニングの為に力を手にしたいのか?」
私の言葉を聞いて、カードを片付けながら一郎君が眉をひそめた。
「そ、そういう訳じゃないよ……」
「勉学もスポーツも力の向上も、すべて自分自身を高める手段に過ぎないだろう」
一郎君の正論にぐうの音も出ない。
「それに、大堂は今まで散々力を見ているのだし、今更驚くこともないと思うが」

そう言われれば、ここ最近、力や組織やらで驚くことばかりだった。
けれど、現実味に欠けるようなすごい事ばかりで、夢の中の出来事のような気さえしていた。
今のは現実味があるだけに、心の底から一郎君をすごいと思ったのだ。

私は…
@自分でもやってみる
A訓練をやる気になったと言う
Bやっぱり無理だとカードを返す
219559:2007/09/09(日) 14:56:26 ID:???
@自分でもやってみる
「私も、ちょっとやってみようかな」
私の言葉に一郎君はカードを片付けていたその手を止める。
「うん?君が、今ここでか?」
「そう。一郎君を見てて、できそうって思った訳じゃないけど。一郎君に見ててもらった方がなんとなく上手くいきそうな気がするし」
一郎君は束ねたカードを手渡しながら不思議そうに言った。
「そんなものか?」
「そんなものです。それに一郎君の言う通り、私不器用だからね」
そう言って口を尖らせた私を見て、一郎君は困ったように小さく笑った。
「気にしていたのなら、悪かった。……だが、そうだな。君がそう言うのならそうなんだろう。俺でよければいくらでも力になろう」
「……」
私は一瞬言葉を忘れて一郎君に見入ってしまった。それくらい、今の一郎君の声は優しかった。
(なんだか、まるで……)
「? どうした、大堂?」
急に黙り込んだ私を前に、一郎君が気遣わしげに問いかけた。我に帰った私は取り繕うように慌てて首を振る。
「あ、ううん!なんでもないの。じゃあ、ちょっと私もやってみるね」
意識して笑顔を作ると、なんでもなかったかのように手元のカードに向かう。一郎君は何か言いたそうだったが、集中し始めた私の様子に黙ってそのまま腕を組んだ。

(よーし、集中集中……)
「一番上は……波、かな」
ゆっくりとカードをめくる。一郎君の視線に緊張しているのか、上手くめくれずに少々戸惑った。表に返されたカードの図柄をそろそろと確認する。
「……星だな」
「あれ?じゃあ、次は……丸とか」
「四角だ」
220559:2007/09/09(日) 14:58:15 ID:???
ごめんなさい、途中で書き込んじゃいました…!
↓のが続きです、失礼しました!
221559の続きです:2007/09/09(日) 14:59:02 ID:???
私の声に一郎君はカードをめくるよりも早く図柄を言い当てた。なんとなく焦りを感じて意識を集中するのもそこそこに次のカードに挑む。
「えーと次のは……」
「プラスじゃない」
私の心を読んだかのように、一郎君は言おうとしていた図柄を口にした。言いかけたまま一郎君の顔に目を向ける。
「一郎君……読心術も、できるの?」
「まさか。君の場合は特別だ。すぐに、顔に出る」
(私、そんなにわかりやすい?)
暗に単純だと言われたようで釈然としないまま改めて続きに挑戦したが、その後の結果はそろいも揃って目も当てられない無残なものだった。

「……ある意味、すごいな」
「うう、頑張ったのに……」
一郎君の言葉にがっくりと肩を落とす。自分でもまさかここまでとは思わなかった。
「25枚全てをはずすのもそうそうできるものではないように思う」
「すみません……」
うなだれる私にやれやれといったように一郎君が苦笑した。
「これは随分時間も手間もかかりそうだ。……またいずれ機会を見てやってみよう」
「……?また、って……またつきあってくれるの?」
「俺がいた方が上手くいくと、そう言ったのは君だろう?」
何でもないようにそう言ってふいと目をそらした一郎君を見て、自然に笑顔がこぼれた。
「一郎君、ありがとう」
「礼を言われるほどの事でもない」

チャーラーラーチャラーラーラー

不意に携帯が鳴った。慌てて制服のポケットに手を突っ込むと、お義母さんからの電話だった。
「ちょっとごめんね、一郎君。お義母さんから電話みたい。……もしもし?」
「愛ちゃん、どうしましょう!春樹が、春樹が……」
「お義母さん?どうしたの、落ち着いて」
電話の向こうのお義母さんの声は今迄聞いた事がないくらい逼迫していた。お義母さんの動揺が電話越しに私にも伝染してしまいそうな、そんなただならない様子でお義母さんは続ける。
「あの人が、春樹を連れていってしまったの。迎えに来たって、でも今になってどうして急に!春樹も大丈夫だから心配しないでって、でも……」
話すうちにお義母さんは泣き出してしまったようだ。時折しゃくりあげて言っている事は要領を得ない。一郎君は少し距離をとりつつ、心配そうにこちらに視線を投げかけている。

どうしよう?
@お義母さんに再度落ち着いて何があったのかを話してもらう
Aこのままでは埒があかないのですぐに家に帰る
B一郎君に事情を説明して協力してもらう
222560:2007/09/10(月) 01:46:29 ID:???
Aこのままでは埒があかないのですぐに家に帰る

(……一体、何があったの?)

「うん、わかったよ。すぐに帰るから、とりあえず落ち着いて。ね?」
泣きじゃくるお義母さんをなんとかなだめ、私は携帯を切った。
「どうしたんだ?」
ただならない様子を察したのか、一郎君が心配そうに尋ねてくる。

「あっ、うん……」
(『春樹を連れていってしまった』と言っていたけれど……)
一郎君に事態の説明をしようと思ったけれど、何もわからない以上、まだ言うべきではないと思いとどまる。

「お義母さんがね、少し取り乱していたの。心配だから急いで帰らなくちゃ」
一郎君には、お義母さんの様子だけ伝える。
「そうか」
「あと、ここからは一人で平気だから」
「わかった。気をつけて帰るといい」
早く家に帰りたい私を気遣うように、一郎君はベンチから立ち上がると私の鞄を差し出してくれた。
「それといい忘れてたんだけど、今日はいろいろあって機材の点検がまだなんだ。ごめん、今度するね」
「構わない。それより、早く帰って母親を落ち着かせてあげるべきだろう」
根掘り葉掘り訊かず、ただ見送ってくれる一郎君の察しのよさに感謝した。
「一郎君、送ってくれてありがとう。また、明日」

それだけ伝えると、私はきびすを返して公園を飛び出した。
体がまだ完全に良くなったわけではなかったけれど、走って家路を急いだ。

(あの子…チハル?)
「チハル!」
膝を抱き、玄関前に座り込むチハルに向かって叫んだ。

その声を耳にしたとたん、チハルは泣いている顔を更に崩しながら顔を上げる。
そして、突進するように私に駆け寄ると、腰に抱きつきながら顔を埋めてきた。

「春樹がぁ……いなぐ…なっちゃった……」
洟をすすり、目に涙を一杯溜めていている。

「おいおい、こんなところで喧嘩か? 近所迷惑だし、中でしろよ」
着替えの入ったスポーツバッグを抱え、隆がこちらに向かって歩いてきた。
この様子だと、まだ春樹が居なくなったことを知らないみたいだ。

どうしよう?

@隆にも一緒に家に入ってもらう
A状況を説明して帰ってもらう
Bチハルに話しかける
223561:2007/09/10(月) 13:37:35 ID:???
@隆にも一緒に家に入ってもらう

「いまお義母さんから電話が来て、春樹が連れて行かれたっていうから慌てて帰ってきたところなの」
「春樹が?」
「そしたらチハルは泣いてるし……とりあえずチハル、ぬいぐるみにもどってね」
「……うん」
いつものように軽い音を立てて、チハルはぬいぐるみに戻る。
チハルをいったん隆のスポーツバックに入れてもらって、玄関をあける。

「それでお義母さんすごく取り乱してるの……、とりあえず入っ……」
「愛ちゃん!春樹が!あの人に連れて行かれてっ」
玄関の扉を開けた途端、お義母さんがものすごい勢いで走ってきた。
サンダルも履かずに玄関から出てくる。
お義母さんはもう泣いては居なかったが、その目は真っ赤だ。

「お、お義母さん落ち着いて」
「おばさん、こんばんは」
「あ……、隆くん、こんばんは」
慌ててなだめる私の後から、隆がいつもどおりにあいさつしてくる。
それにお義母さんは我に帰ったらしく、少し笑って隆にあいさつした。
とりあえず他人の隆が居ることで、落ち着きを取り戻したらしい。
私はホッとして、感謝を込めて隆を見上げる。
隆はちょっと笑って頷いた。

「お義母さん、中入ろう?」
「うん、ごめんね愛ちゃん、隆君。そうよね少し落ち着かなくちゃ」
いいながら、お義母さんは靴下を脱ぎながら玄関を上がる。
そのまま3人でリビングまで行き、とりあえずソファに座る。

まず何から聞こうかな?
@いつ春樹が連れて行かれたのか?
A誰が連れて行ったのか?
B春樹は抵抗しなかったのか?
224562:2007/09/10(月) 22:55:24 ID:???
A誰が連れて行ったのか?

お義母さんは電話口で泣きながら、あの人と言っていた。
今、私が一番知りたいことは誰が春樹を連れて行ったかということだ。
嫌な胸騒ぎを感じながら、なるべくお義母さんを刺激しないように優しく問う。

「お義母さん。春樹を誰が連れて行ったのか教えて」

お義母さんはその時の状況を思い出したのか、また少し涙ぐんでしまった。
私はその様子を見守りながら、お義母さんが話し出すのを辛抱強く待つ。

「……いまさらあの人が…春樹を連れて行ってしまったのよ…」
お義母さんは涙声で答えた。
「あの人って誰かな? 」
お義母さんの背中を丁寧に擦りながら、ゆっくり尋ねる。

「……高村よ。高村が春樹を連れて行ってしまったの。春樹も…春樹も大丈夫だから心配しないでって……」
「それは、春樹の父親の?」
お義母さんは涙を拭きながらコクリと頷き、「愛ちゃん、知っていたのね」と呟いた。

高村。今朝、桐原さんが言っていた言葉を思い出す。
春樹の実の父親で、立派な学者で、たいへんな権力者。
お義母さんに暴力を振るっていた人で、春樹の最も憎んでいた人……。

私はその人の事を何も知らない。
きれぎれの情報のみで判断することはできないけれど、身勝手で独断的なのは想像がついた。

「おばさん。春樹は本当に心配しないでって言ってた?」
手を前で組みながら黙って座っていた隆が、納得いかないという顔を向ける。
「……ええ。俺が望んだことだから、心配しないでって……そう、はっきり言ったわ」

「あいつ、今朝まであんな男の息子じゃないって言ってたのにな」
歯に衣着せぬ、ありのままの言葉使って隆は言った。
その顔色から、隆も相当困惑しているのが見て取れる。

(春樹の意志で父親についていったということ?)

私自身、どうしていいのかわからないほど不安で、この事実を受け止めるのが怖かった。
今も手の震えが止まらないのがなによりの証拠だ。
だけど、私は困惑しつつも心のどこかで冷静に受け止めている。
それは予感めいたものがあったからだった。

その予感とは……

@夢を見る寸前に聞いた「…姉さんに、これ以上無理はさせない。……絶対だ」という言葉
A今朝聞いた「もう高村春樹だった頃のような子供じゃないんだからね」という言葉
Bチハルが「きもちいい」言っていた力の事
225562:2007/09/10(月) 23:03:40 ID:???
A誰が連れて行ったのか?

お義母さんが落ち着くまで、と思ったけれど。
(春樹……どうしちゃったの)
最近の私をとりまく状況からしても、どうしたって春樹の安否が気にかかる。
我慢できずに、何かに耐えるように目を閉じて額に手を当てたまま一向に話し出そうとしないお義母さんを促すように私はなるべく平静を装って切り出した。

「お義母さん、さっきはあの人って言ってたけど。誰が……春樹をつれていったの?」
私の問いかけに、お義母さんは怯えたように小さく肩を震わせた。それからゆっくりと顔を上げる。
「春樹を連れて行ったのは、あの人……別れた、私の前の夫」
「おばさんの……ってことは、春樹の血の繋がった実の父親が?」
それまで黙ってやりとりを見守っていた隆が心底驚いた様子で声をあげる。お義母さんは目を伏せたまま悲しげに首を振った。
「父親、きっと春樹は今迄そう思った事はないでしょうね。……あの人は、春樹に父親らしい事なんて何一つした事はなかったわ」
「そんな、そんな人がどうして今になって春樹を……?!」
春樹が昔から実の父親について固く口を閉ざして何も語ろうとしないことからも、今迄あえて聞いた事はなかったけれど。あまりの身勝手さに思わず声が大きくなった。
そんな私をなだめるように、隆が私の肩に手を置いた。
「愛菜、落ち着けって。……おばさん、春樹の父親っていうのはどこかの研究所に勤めていませんでしたか?」
「!……ええ、そうよ。隆くん、どうしてそれを?」
隆はお義母さんの質問には答えずに、黙って私を見た。
(もしかして……春樹のお父さんていうのは、主流派の……)
ふと思い浮かんだ答えに、体中の血の気が失せる気がした。心臓が私の意志とは関係なく、物凄い速さで鼓動を刻みだす。
「……お義母さん。春樹、春樹は何か言っていなかった?」
「いいえ、何も。チャイムが鳴って、私がキッチンにいたものだから春樹が玄関に出たの。凄い剣幕で怒鳴る春樹の声が聞こえて、慌てて玄関に出たのだけれど」
そこでお義母さんは一旦言葉を切って深呼吸をするように深く息を吸い込んだ。
「あの人は私には目もくれなかった。ただ、あの人が春樹に一言二言耳打ちをしたと思ったら春樹があの人について行くって言い出して……!どうして、どうして急にこんな事に……」
「おばさん、大丈夫です。春樹はきっと大丈夫ですから、泣かないで」
ついに泣き出してしまったお義母さんに立ち上がってあやすように声をかける隆をみつめながら、私はその場で呆然としていた。
(私の、私のせいで春樹が?……でも、ファントムには憑りつかれないはずだったのに……)

考えても考えても頭には同じような事ばかり浮かんでは消えていく私に、お義母さんの肩を抱いていた隆が静かに言った。
「愛菜もしっかりしろ。春樹が出て行ったのは自分の意思でだろう。あいつはお前にそんな顔をさせたくてそいつについてったんじゃ絶対に、ない」
隆の言葉にはっとなった。
(そうだ、落ち込んでる場合じゃない。私がしっかりしなきゃ)

どうしよう?
@お義母さんに春樹の父親について詳しく尋ねる
Aチハルに春樹がいなくなった当時の状況を尋ねる
B周防さん・美波さん・冬馬先輩に心当たりがないか尋ねる
226名無しって呼んでいいか?:2007/09/10(月) 23:05:31 ID:???
ヒー!見事にかぶったー!!!!
お先優先だよね、スマソ!!!!!
227563:2007/09/11(火) 13:21:36 ID:???
久々に被ったねw

@夢を見る寸前に聞いた「…姉さんに、これ以上無理はさせない。……絶対だ」という言葉

あの時の決意を秘めた呟き。
春樹はきっと何か考えがあって、父親についていったのだろう。
それは分かっている。
春樹はお義母さんも、私も裏切るようなことは絶対にしない。

(信じているけど……)
春樹の身が心配だ。
春樹は大丈夫だといって出て行ったというけれど、今日周防さんたちに組織のやり方を聞いてしまっている。
冬馬先輩も非人道的な行為をしていると言っていた。
春樹が洗脳されてしまう可能性だって捨てきれない。

「おばさん、おばさんは春樹の父親の研究所のある場所を知ってるんですか?」
唐突に隆がお義母さんに尋ねる。

「ごめんなさい……、分からないの」
お義母さんは、悲しそうに首を振った。
もし分かっていたらお義母さんは私に電話などせず、春樹を取り戻すために直接高村の研究所に乗り込んでいたかもしれない。

「そうか……こうなったら、水野にファントムをつけるか……」
小声で隆がブツブツと言っているのが聞こえる。

「隆、それじゃあ時間がかかりすぎるよ……」
私はお義母さんに聞こえないように、隆に言う。
ファントムをつけても1週間は水野先生を操ることは出来ない。

「そうか、そうだよな……」
隆はいらだたしげに頭をがしがしとかきむしる。

どうするのが一番いいだろう?
@周防か冬馬先輩に連絡を取る
A一郎くんと修二くんに連絡する
B春樹を信じて待つ
228564:2007/09/12(水) 01:24:36 ID:???
@周防か冬馬先輩に連絡を取る

このままじゃ、春樹が危ないかもしれない。
私はポケットから、周防さんの連絡先が書かれた紙切れを取り出した。

「どうしたんだ、愛菜?」
私の様子が気になったのか、隆が尋ねてきた。
その声にお義母さんも顔を上げ.る。

「今から、研究所に詳しい人に連絡してみる。高村周防さんって知り合いなんだけど、研究所の場所を教えてもらうね」
「高村周防? 愛菜、いつの間に組織の奴と知り合いになってんだよ」
高村と聞いた瞬間に隆は眉をひそめ、怪訝な顔を向けた。
武君の手紙で組織の存在を知った隆にとって、研究所の縁の者を信じることなんて出来ないのだろう。

「以前、私を助けてくれたの。とてもいい人だから、大丈夫」
隆にそう言うと、私は携帯を取り出して、番号を震える指で押していく。

「愛……ちゃん。今、周防さんって…。高村周防って言ったのよね」
赤い目をしたお義母さんが私に視線を向けた。
「うん。それがどうかしたの?」
私は手を止めて、お義母さんの視線を受け止める。

「春樹の従兄弟に周防という名前の子がいたわ。けれど…本当にその人は周防と名乗ったの?」
「うん。今日も会っていたよ」
どこか含みを持ったお義母さんの言い方に引っかかりを感じながも、私は頷いた。
お義母さんは目頭をハンカチで拭くと、心苦しそうに口を開いた。

「愛ちゃんを助けてくれた人に対して悪く言いたくないのだけれど、亡くなった人の名を騙るなんて悪戯にしては悪質だわ。電話をかけるのは止めて頂戴……」
「え?」
お義母さんが言った事が理解できず、呆然とするあまり携帯を落としてしまった。
「春樹より八歳年上の従兄弟に周防という子がいたの。けれど、16歳で亡くなっているのよ」

(亡くなった人?周防さんが?)

春樹は何も言わないで居なくなって……、周防さんが亡くなっていた人で……。
なぜ春樹は出て行ったの? 私が会っていた周防さんは誰?
もう、何がなんだか訳が分からない。

「次に……愛ちゃんまで居なくなってしまったら……。お願い、そんな人に電話しないで」
またお義母さんは泣き出してしまった。
「わかったよ。もう電話しないから、泣かないで、ね?」
肩を抱き、そっと手を握った。
心が折れそうになる。こんな時、春樹ならどうやってお義母さんを慰めるのだろうと思った。

私は
@周防さんについて考える
A春樹について考える
B飲み物を用意する
229565:2007/09/12(水) 11:54:37 ID:???
@周防さんについて考える

(周防さんが8年前16歳のときに亡くなってる?)
私が会った周防さんは、同姓同名の別人なのだろうか?
けれど、周防さんは24歳だといっていた。
お義母さんが言った周防さんと、私が会った周防さん。8年前はどちらも16歳だ。
そしてやはりどちらも高村研究所に深く関わる人物。
そんな人物が二人、同じ名前で存在するだろうか?

(亡くなって……?)
ふと、夢のことを思い出す。
綾さんの腕の中で傷だらけになっていた周防さん。
力なく落ちた手。

(あの、時……?)
あのときに、亡くなったというのだろうか?
けれどあの少年の顔は確かに周防さんの顔だった。
年齢による差異は多少あるにしろ、どう考えても同一人物。

『周防、とは……彼が16の時に知り合いました』

ふと、冬馬先輩の言葉が脳裏によみがえる。
周防さんが亡くなったという8年前に知り合ったという冬馬先輩。

(そういえば、あの時冬馬先輩の言葉に引っかかりを覚えたんだ)

『ただ、僕に出会った頃の周防はあなたの知る周防とほぼ変わりありません』

何に引っかかりを覚えたんだっけ?
@話の内容
A冬馬先輩の歯切れの悪い話し方
B考えても仕方ない冬馬先輩に直接聞く
230566:2007/09/12(水) 20:32:15 ID:???
@話の内容

(ほぼ、変わりないって…)

あの時は、何か含みのある言い方だとくらいしか思わなかった。
バラバラだったパズルのピースが繋がる。

(八年前の周防さんと今の周防さんは、ほぼ一緒の別人だったという事?)

昨日、一郎君が『あれが、高村周防……?……だが、彼は確か……』と呟いた言葉。
信じられないという態度をとても不思議に感じていた。
周防さんが亡くなっている事を知っていたとすれば、あの時の一郎君の態度に説明がつく。

研究所とは、集めた能力者やそのクローンを、洗脳し、自在に操る場所だと聞く。
冬馬先輩や美波さんも言っていたし、武君の手紙にも書いてあった。

という事は、隆と武君のように、一人の人物を二人にしてしまうことだって出来るということだ。

(……今の周防さんはクローンなのかな…)
想像したくない考えが頭をよぎる。

(だから冬馬先輩は……ほぼという言い方をしたの?)

でも…。
仮に今の周防さんがクローンだとしても、八年前、更にそれ以前の記憶を持っているのは間違いない。
研究所にどれくらいの技術力があるのか知らないし、専門的な知識は皆無だから大きな事は言えないけれど、
亡くなった周防さんの記憶までも移植したり再現したり出来るものなのだろうか。

やっぱり、分からない。
クローンは一つの可能性に過ぎないし、なにより私の考えすぎかもしれない。

@冬馬先輩に直接聞く
A思ったことを隆に話す
Bお義母さんに休むように言う
231567:2007/09/13(木) 16:17:02 ID:???
A思ったことを隆に話す

隆は武くんのこともあるし、もしかしたら何かわかるかもしれない。これは私の考えすぎかもしれないけれど、こうして悩んでいても事態は何も変わらないのだから。
「ねえ、隆……」
「おばさん、今日はもう休んだほうがいいでしょう」
声をかけた私を制するように、隆はこちらに視線を投げてよこした。確かに私が肩を抱く今のお義母さんは、青白い顔でこうして支えていなければ今にも倒れてしまいそうだ。
(そうか、どっちにしたってお義母さんの前でこんな話はできないよね……)

「ありがとう、隆くん。でも私は大丈夫よ」
「大丈夫って顔してないよ、お義母さん。春樹が心配なのはわかるけど、お義母さんまで倒れちゃったら私お父さんに何て言ったらいいか」
「そうですよ。今のおばさんを見れば、きっと愛菜じゃなくても休めって言います」
「でも、とても今は休めるような気分じゃ……」
辺りの重い空気を振り払うように首を振って、なおも言い募るお義母さんに隆は静かに、でも力強くこう言った。
「春樹なら大丈夫です。『大丈夫』って、春樹がそう言ったんでしょう?あいつはおばさんや愛菜に心配かけるような真似は絶対にしませんよ。出て行ったってまたすぐに帰ってくるかもしれない」
「隆の言う通りだよ。もしかしたらこの後春樹から連絡があるかもしれないし、お義母さんは上で少し休んでて。何か連絡あったらちゃんと起こすから、ね?」
「二人共……」

そうしてしばらく押し問答が続いていたが、最終的に12時までこのまま連絡を待って、もし何も連絡がなければ警察に相談するという事で話はついた。
私たちが押し切る形にはなったが、お義母さんはそれまで自分の部屋で横になっていると約束してくれた。
一人で大丈夫とよろめくようにリビングを出たお義母さんの背中を見送って、振り返りながら隆が言う。
「で?愛菜、さっきは何を言おうとしたんだ?」
「ああ、えーと……ね」
「うん」
「さっきの周防さんて人のことなんだけど」
「死んだはずの、って話か?」
問いかけには頷きつつも、隆の「死んだはず」という言葉に嫌な気持ちが胸に広がる。
(隆は周防さんに会った事がないから仕方ないんだろうけど……)
「私が会ったのが、その周防さんのクローンって事はあるのかな」
隆はうーんと唸って腕を組んだ。
「どうかな、無いとは言い切れないと思うが……ただ」
「ただ、何?」
「おばさんの話は確かなのか?なんたってあのインチキくさい研究所のお偉いに連なる人間だろ?都合が悪けりゃ死んだ事にして外部の目を欺くような事もあり得るんじゃねえの?」
(そうか、もしかしたら重傷を負った周防さんを死んだ事にして……?)
そういえば、美波さんも周防さんに『瀕死の重傷を負わせた』と言っていた。
「……愛菜?」
黙り込んでしまった私に、隆が声をかける。

どうしよう?
@お義母さんは上で休んでいるので周防さんに直接尋ねる
A冬馬先輩に心当たりがないか尋ねる
Bひとまずチハルに春樹が出て行った時の状況を聞く
232568:2007/09/14(金) 01:41:45 ID:???
@お義母さんは上で休んでいるので周防さんに直接尋ねる

(ゴメン。お義母さん)

私は再び、周防さんの携帯番号が書かれた紙切れを手に取る。
「愛菜。やっぱり周防ってヤツに連絡をとるのか?」
「うん。周防さんのことだし、本人に聞くのが一番いいと思うから」
そう言いながら、私は書かれた番号を押していく。
隆は複雑な表情をしていたけれど、黙って私の様子を見守っていた。

プルルル、プルルル…

無機質なコール音が今はやけに長く感じられた。
そして、何コール目かでようやく「もしもし、愛菜ちゃん?」と、周防さんの声。

「はい、愛菜です。夜遅くにすみません。今、大丈夫ですか?」
「ああ、構わないよ」
「実は、周防さんの過去についてお聞きしたい事があるんです」
「ん?」
「八年前の事についてなんですが…。あの時、一体何があったんですか?」
「そうか。八年前の事で電話があるんじゃないかなーとは思っていたんだ」
取り立てて驚く様子もなく、周防さんはいつも通り明るい声のままだった。

「愛菜。そんなまどろっこしい聞き方じゃ、いつまで経っても本題に入れないだろ」
私の聞き方が気に入らないのか、隆が横槍を入れてくる。
「隆は少し黙ってて」
「どうした?お前さん以外に誰か居るのか?」
受話器の口を手で押さえたつもりだったけれど、周防さんに私たちの会話が漏れてしまったようだ。

「あのーごめんなさい。私の幼馴染の隆って男の子も一緒なんです。隆も能力者で……」
私が隆を紹介しかけたところで、周防さんの声が被さるように聞こえてきた。
「武のオリジナルだな。よく知ってるから説明は要らないさ」
「え? 武君を知っているんですか?」
周防さんの口から武君の名が飛び出したのが意外で、思わず声がひっくり返ってしまった。
「おいおい、愛菜ちゃん…まさか武の事まで知ってるんじゃないだろうな」
「はい。話したこともあります…」

「おい、愛菜。何を話してるんだ?」
隆は私達の会話が気になるのか、話に割り込もうとしてくる。

「そうだな……。自分語りもむず痒いし、ここは美波に任せるかな。
隆君にも聞いてもらわなきゃならないし、尋ねたいこともある。美波を愛菜ちゃんの所に向わせよう。いいよな、美波?」
周防さんの声が遠くなる。どうやら、一緒に居る美波さんに確認を取っているようだ。
「いいってさ。愛菜ちゃんは今どこ?」
「自宅です。でも周防さん、私の家を知りませんよね」
「家くらい知ってるよ。ここからだと……20分ってところかな。だけど、もう夜か。愛菜ちゃんがよければ今から向わせるけど、どうする?」

@すぐに美波さんに来てもらう
A今度にしてもらう
Bやっぱりやめる
233569:2007/09/14(金) 13:10:04 ID:???
@すぐに美波さんに来てもらう

「急ですみませんが、お願いします」
「オッケーわかったすぐに美波を向かわせるよ、ってことだ」
最後の言葉は美波さんに言ったらしい。

「ありがとうございます」
「いやいや、愛菜ちゃんのお願いなら、出来る限りのことはするよ。命の恩人だしね。で、聞きたいのはそれだけ?」
「あ……あの、組織の場所を聞いても大丈夫ですか?」
「組織の?聞いてどうするの?」
「それが……、春樹が、私の弟が連れて行かれちゃったんです」
「愛菜ちゃんの弟……って確か……」
周防さんは考え込むように、電話の向こうで沈黙した。

「そっちは俺が調べるよ。愛菜ちゃんは危険だから組織には近づかないほうがいい。だから、俺が連絡するまで無茶なことはしちゃだめだよ」
「はい……お願いします」
「よし、それじゃ早速調べに行ってくるかな。俺のことは美波に遠慮なく聞いてくれていいから」
「ありがとうございます。あの、春樹のことお願いします」
「任せといて。じゃ、何か分かったら連絡するよ」
周防さんはそう言って電話を切った。

「どうなったんだ?」
「周防さんのことは、周防さんのお友達の美波さんって人が教えてくれるって。今、家に来てくれるの。20分くらいって言ってたかな。
 春樹のことは、周防さんが調べてくれるよ。……私が組織に近づくのは危険だからって」
私の横で、電話が終わるのを待っていた隆に私は答える。

「そうか、なんにしろ少し時間があるんだな」
隆が時計を見上げる。つられて私も時計を見上げる。
美波さんがくるまであと15分くらいだ。

どうしよう?
@とりあえずご飯
Aチハルにも話を聞く
B春樹の携帯に電話してみる
234570:2007/09/15(土) 00:24:00 ID:???
B春樹の携帯に電話してみる

「やっぱり私、春樹の携帯に電話してみるよ」
私は持ったままの携帯を、ギュッと強く握りなおす。
「でも、もうおばさんが電話してると思うけどな」
「多分、ね。……だけど、もしかしたら今度は出てくれるかもしれないから」
「まあな」
周防さんのことを信じていない訳ではないけれど、春樹の無事をどうしても知りたい。
私は携帯を開くと、春樹に電話をかけた。

「もしもし!春樹」
「……お留守番サービスに接続します。合図の音が鳴りましたら……」
無機質なアナウンスが耳元で流れる。
(春樹、電源切ってるのかな)

私は、「心配しているからすぐに連絡して欲しい」という内容のメッセージを入れて、溜息と共に電話を切った。

「……だめだったのか?」
「うん。電源を切ってると思う」
「そうか」
「春樹、大丈夫かな…」
「12時まで連絡がなったら警察に届けることも言ったんだし、心配していることも伝えたんだ。
愛菜やおばさんのメッセージを聞けば、俺の知っている春樹なら絶対に連絡を寄越すはず。そうだろ?」
「うん、そうだね。……そうだよね」
隆の言葉に少し元気づけられる。
(隆がいてくれてよかったよ)

そう思いながら隆を見ると、側に置いてあったスポーツバッグのジッパーが開いているのに気付いた。
ぬいぐるみのチハルがもぞもぞと顔を出し、バッグから自力で抜け出した。
テーブルにコロンと転げ落ちたところで、私は声をかける。

「もう人間になっても大丈夫だよ」
私の声を聞くと、ポンと軽い音を立てて泣きべそをかいた子供のチハルが現れた。
「うわぁ。な、なんだよ!急に変身するなっての!」
急に現れたチハルに驚き、隆はソファからずり落ちてしまった。

「愛菜……ぢゃ…ぁぁん……」
すがりつくチハルを抱きしめ、そっと頭を撫でた。
「チハル。もう大丈夫だよ」
「怖…かった…よぉ…。すごく怖いひとが……春樹を……春樹を…」
「ごめんね、傍にいてあげられなくて」

春樹が出て行く時に何が起きたのか分からないけれど、この怯え方は普通じゃない。
しゃくりをあげ泣きじゃくっている。
今朝の桐原さんの時みたいに、人の感情を敏感に感じ取ったのだろうか。

どうしよう?
@チハルが泣き止むまで待つ
Aすぐにチハルから話を聞く
B美波さんが来るので、またぬいぐるみに戻ってもらう
235571:2007/09/18(火) 11:40:06 ID:???
@チハルが泣き止むまで待つ

今の状態ではチハルから話を聞くことは難しい。
私はチハルを落ち着かせるために、背中を撫でる。

「そんなにこいつが怯えるって普通じゃないよな」
泣きじゃくるチハルの頭を優しく撫でながら隆が顔をしかめる。

「そうよね。そんなに怖い人なのかな……」
そんな人についていった春樹がますます心配になる。

「ほら、チハルもう怖い人は居ないんだからそんなに泣くな。男だろ?……男だよな?最初はその姿だったし」
ぽんぽんとチハルの頭をあやすように叩きながら言った隆は、自分の言葉に疑問を覚えたのか最後のほうは小さくぶつぶつと呟いている。

「……ぐすっ、うん」
最後のほうは聞こえなかったのか、隆の言葉にチハルは小さく頷くと何とか涙を止めようとごしごしと目をこする。

「あんまりこすると赤くなっちゃうよ」
私はあわてて鞄からハンカチを取り出すとこすらないようにチハルの顔をぬぐってあげる。

「大丈夫チハル?」
「うん」
まだ時々しゃくりあげるけれど、だいぶ落ち着いたらしい。
チハルはこくんと頷いて、まだ赤いままの目で少しだけ笑う。
とりあえず、チハルが落ち着いてくれたことにホッとする。

「春樹の父親ってのは、そんなに怖いやつだったのか?」
落ち着いたチハルに、隆は首を傾げながら聞く。
チハルはそのときを思い出したのか、また怯えた顔になったけれど今度は泣き出さず頷いた。

「すごい、真っ黒でどろどろしてるの。他の人のヒメイとかうウラミとかいっぱいついてた。僕たち精霊とははんたいのチカラ。つよいチカラ」
言いながら、チハルが震える。

「悲鳴?恨み?」
「精霊とは反対の力?」
私と隆は顔を見合わせる。
真っ黒でどろどろと言うのは感情のことだと予想はつく。
けれどその他の言葉は良く分からない。

ピンポーン

チハルに詳しく聞こうと口を開きかけた所に、チャイムが鳴る。
時計を見ると美波さんが到着する時間になっていた。
私は玄関まで行き、外に居るのが美波さんだと確認してから扉を開ける。

「こんばんは、愛菜さん」
「こんばんは美波さん。急にすみません」
「愛ちゃん?お客さん?」
「あ、お義母さん……」
チャイムの音にお義母さんが階段を降りてくる。
美波さんは、お義母さんをみて微笑んだまま会釈をしている。

どうしよう……
@病院の先生だという
A周防さんの友達だという
B自分の友達だと言う
236572:2007/09/18(火) 14:36:34 ID:???
@病院の先生だという

「えっと、こちら大宮美波先生。この前私も春樹も続けて病院に行ったでしょ?苗字が同じだったから覚えててくれたらしくて」
「そうなの。こんばんは、先生。家の子達がお世話になりまして。……それで、こんな時間にどうかなさったんですか?」
とっさに口をついて出たのは我ながら情けなくなるような怪しげな説明だった。言いながら自分でそう思ったくらいだ、お義母さんが納得できる筈が無い。
お義母さんの表情は美波さんが医者と聞いて多少は和らいだものの、やはりいつもよりは幾分険しい。

ない知恵をしぼってどうにかこの場を乗り切ろうと頭をフル回転させていた私の前で、美波さんは小さく苦笑してお義母さんに告げた。
「夜分に失礼かとも思ったのですが。春樹さんがこの前病院にいらした時に念のため精密検査を
受けて頂いたのはお母様もご存知かと思います。その時は特に異常は見られないようでしたがぶつけた場所が場所でしたので、経過を見るためにもう一度いらしてくださいとお話したのですけれど」
美波さんがそこで言葉を切ると、お義母さんは春樹がその後病院に行っている様子が無いのに思い当たったらしい。
「まあ、そのためにわざわざ?お忙しいところこんな所までご足労頂いて……」
頭を下げるお義母さんに美波さんはとんでもないというように首を振った。
「どうかお気になさらず。私も帰宅の途中ですし、春樹さんの担任……近藤先生ですか、彼からもよろしく頼むと言われていましたので」

(……近藤先生ってあの、近藤先生?美波さん、近藤先生と知り合いなの?)
何でもないように美波さんが口にした言葉に、私の頭の中にふと疑問が浮かぶ。
そう思ってみれば確かに近藤先生と美波さんの年齢は同じくらいだし、真面目そうな雰囲気や生徒・患者思いなかんじは似ているような気がしないでもない。
思わず凝視していた私の視線に気がついたのか、美波さんは内緒話をする子供みたいにいたずらっぽく笑った。
「彼とは大学の同級生なんです。私はてっきり彼も医者になるものと思っていたのですが、彼が教師とは生徒さん達もなかなか大変でしょうね。……ところで、春樹さんは?もうお休みですか?」
「え…ええ、今日はなんだか文化祭の準備で疲れたらしくて。せっかくお越し頂いたのに」
まるで事情を知らない素振りで問う美波さんに、お義母さんは申し訳なさそうに頭を下げた。
外の人間に春樹がいなくなったとは言う気にならないのだろう。美波さんはそうですか、と答えてお義母さんの顔に目を止めた。
「……おや。お母様、お顔の色が優れませんね」
「そうですか?嫌だわ、少し疲れているのかしら」
誤魔化すように無理矢理笑顔を浮かべて元気な振りをするお義母さんの様子に、胸が痛くなった。春樹のことが心配でたまらないはずなのに。

「お薬はお出しできませんが、お手をよろしいですか?」
不意にそう言って美波さんがお義母さんの手をとった。透き通るように白い両手でお義母さんの手を包むと、目を閉じて額にあてる。その姿はまるで祈りを捧げているかのようだった。
「あれ?お義母さん?」
美波さんが手を離すと、お義母さんはこちらに目もくれずにふらふらと階段を登っていった。表情はぼんやりとしてまるで眠っているかのようだ。
振り返って美波さんを見ると「これで明日の朝までぐっすりお休みになれますよ」と笑った。

美波さんに……
@お義母さんに何をしたのか聞く
A近藤先生について尋ねる
B時間が惜しい、周防さんのことを話してもらう
237573:2007/09/19(水) 02:21:44 ID:???
@お義母さんに何をしたのか聞く

「美波さん。お義母さんに何をしたんですか?」
お義母さんの空ろな瞳に不安を感じて、私は尋ねた。
「お疲れのようでしたので、まじないを施しておきました。今、お母様に必要なのは、あなたの支えと睡眠ですからね」

(そうだ。私がいつまでも悩んでいたら、お義母さんを支えてあげられないもんね)

「ところで……、そろそろお話させて頂きたいのですが、上がってもよろしいですか?」
玄関に立ったままの美波さんが困ったように笑いかけてきた。
「き、気がつかなくてすみません。どうぞ」

美波さんを居間に通し、私たちは簡単な挨拶をすませた。
紅茶を持って居間に戻ると、隆と美波さんは春樹のことについて話し合っていた。

「春樹はやっぱりあのインチキくさい連中の所に居るのか……」
「今は周防が調べています。その報告があるまでは動かない方が賢明でしょう」
「くそっ。わかってるのに助けにいけないのかよ」
「今は堪えてください。私たちも出来る限りのことをさせてもらいます」
「春樹のやつ……戻ってきたら一発殴ってやらなくちゃな」

隆と美波さんのやりとりを聞きながら、私は人数分の紅茶をテーブルに置いていく。
すべての紅茶を置き終わり、ようやくソファーに腰を下ろした。

「ねえ、隆。春樹が戻ってきたら、私も殴るのに参加していい?」
「お、おい?……愛菜?」
突然の私の発言に、隆は目を丸くしている。
「ボクもナグっていい?」
チハルは意味が分かっているのかいないのか、参加を申し出る。
「じゃあ。チハルも含めてみんなで殴ろっか」
「うん。春樹ナグル」
少し元気が出てきたのか、チハルはようやく笑顔を見せた。
驚いていた隆も笑いながら、「おう、でかくなって殴ってやれ」と言ってチハルに右ストレートを見せている。

「春樹さんは戻ってきたら袋叩きですか。それはある意味主流派より恐ろしいですね」
美波さんは穏やかな笑みを浮べたまま、私に向って話しかけてきた。
「美波さんも参加されますか?」
私は冗談で美波さんに尋ねる。
「そうですねぇ。私は一応医者ですし……殴られた春樹さんの傷口に塩でも塗っておきますよ」

(……それが一番怖いかも)

何から聞こうかな?

@周防さんの過去
A近藤先生とのこと
Bチハルが言っていた反対の力の心当たり
238574:2007/09/19(水) 11:02:45 ID:???
@周防さんの過去

「あの、早速なんですけれど、周防さんの過去について聞いてもいいですか?」
「ええ、そのために来たのですからね」
とりあえず会話が一区切り付いた所で、私は本題を切り出す。

「どこから話しましょうか……とりあえず、私が周防を知ったのは彼が7歳、私が10歳のときです」
美波さんはそう言って過去を思い出すように頬に手を当てる。

(美波さんて周防さんより3歳年上なんだ……あ、近藤先生と同級生ならそのくらいで当然だよね)
「といっても、私が周防を知ったというだけで周防が私のことを私として認識していたかはわかりません。
 私も周防に実際に会ったわけではありませんでしたから」
「要するに、周防って子供が居るって話を誰かに聞いたんだな?」
「少し違いますが、そう思っていただいて差し支えはありません」
隆がの言葉に、美波さんは微笑んで頷いた。

(あ、美波さんだって能力者だもんね、どんな力か分からないけど力を使って周防さんのことを知ったのかも……)
「実際に彼に会ったのは私が16歳、彼が13歳のときです」
13歳という年齢に、ふと以前見た夢の光景が思い浮かぶ。
病院の中庭のような場所に座っている周防さん。美波さんが会ったのはあのくらいの年齢の周防さんなのだろう。
そう言って美波さんは懐かしむように微笑んだ。

「彼は昔から組織のあり方について疑問を抱いていました。
 けれど当時はおおっぴらにそれを公言することはなく、表向きはそれなりに従順でした」
何かを思い出したのか、美波さんがくすっと笑う。

「彼は高村の直系ではありませんが、その能力は高いものだったので親元をはなれ、直系の能力者と共に生活をしていたそうです」
私はその言葉に周防さんに聞いた言葉を思い出す。

『うん、知ってるよ。というか、組織を作ったヤツを知ってる』

夢の中で周防さんがそう言っていた。
と言うことは、組織自体はそんなに古いものではないのだろうか?

「とりあえずここまで、よろしいですか?」

えっと……
@「大丈夫です」
A「組織っていつからあるんですか?」
B「隆は何か聞きたいことある?」
239575:2007/09/20(木) 03:04:46 ID:???
A「組織っていつからあるんですか?」

私はふと疑問に思ったことを口に出した。

「今の組織は、周防の祖父にあたる方が創設者なのですが、旧組織の歴史はもっと古いと聞いています。第一次世界大戦から生物兵器の研究していたようです」
「……そうですか」
ずいぶん歴史のある組織なのはわかったけれど、いまいちピンとこない。
そんな怪しい研究所が現代にあることすら、未だに納得できないところがある。

「ていうか、どうしてそんなアブナイ研究している所を放っておくんだ? どう考えても犯罪だろ」
隆は美波さんに向って、身を乗り出すようにして訴えた。
「ええ、その通りです。しかし、表向きは極めて合法的かつ良心的な研究所ということになっています。研究所の裏の姿は一部の人間しか知りません」
「じゃあ、俺達が裏の研究について警察に言えばいいんじゃないのか?」
「だけど……証拠がないよ」
私も以前、その事を考えたことがあった。
だけど、そんな突拍子もない話を信じてくれるとも思えない。

「残念ながら、警察に届けても、マスコミに公表しても、潰されてしまうでしょうね」
美波さんは苦笑を隠すように、紅茶に口をつけてながら言った。
「どういうことだよ?」
「元々高村というのは、明治時代に財閥の一つとしてあげられる企業家だったようです。爵位を獲て華族として政界にも参加していきました。ですから現代になっても、政界、財界、マスメディアに大きな影響力を持っているのです」
「なんだよ……それ」
にわかには信じられないという様子で、隆は美波さんを見ている。

『優秀な能力者であり、研究者であり、権力者でもある……それが高村の名を持つ者なのです』

冬馬先輩の言葉を思い出す。
そして、桐原さんが言っていた『たいへんな権力者』という言葉も。

「でも、そんなの昔の話だろ。財閥や華族なんて現代では関係ないじゃないか!」
権力を振りかざす大人を最も嫌う隆には、この話は許せないのだろう。
けれど、美波さんは首を振って否定する。

「隆さん。名だたる企業の多くは旧財閥ですし、世襲政治家ばかりが総理大臣になっている。それでも関係ないと言えますか?」

美波さんの問いに、隆は何も言えなくなってしまった。
私や隆が思っている以上に、世の中には見えない権力が渦巻いているのかもしれない。

「現在の高村は、製薬会社、病院、医療機器メーカーなど、医療を牛耳る存在となっています。……話が少し逸れてしまいました。周防の話に戻りますね」
そう言って美波さんは、紅茶のカップをソーサーにゆっくりと置いた。

次は何を聞こうかな

@13歳の周防さんの様子を聞く
A16歳の周防さんに何が起きたのか聞く
B綾さんと周防さんの関係について聞く
240576:2007/09/20(木) 12:08:27 ID:???
@13歳の周防さんの様子を聞く

「13歳の頃の周防さんはどんな感じだったんですか?」
「……そのあたりのことは実は私は良く分かりません」
「え?」
「彼が13の頃に始めて会ったといいましたが、本当に会っただけなのですよ。
 会話もなく、視線すら合わすことはありませんでした」
「すれ違った、とかそういうことか?」
「そうですね……同じ空間に居た、と言うのが正しいでしょう」
美波さんは笑うと言葉を続けた。

「私がその頃の周防を知らない理由は、私が施設を離れたからです」
「施設を離れた?」
「ええ。私は従順な研究対象でしたので、外部の高校へ編入する事になったのです」
そういえば、美波さんは小学校に上がる前に施設へ入ったと言っていた。
その間はずっと施設に居て外に出ることはなかったということなのだろう。

「それから二年あまり、私は外の世界を体験し高校を卒業と共に施設へ戻りました。
 もちろん、高校へ通っている間も定期的に施設へ通い報告もしておりましたが、周防に会うことはありませんでした」
だからその頃の周防さんのことは分からないのかと、私は納得する。

「ですが、妹が送ってくれる言葉に、時々周防の名が出てきました」
「綾さんの?」
「ええ。物心付く前に私と共に施設に入った綾は、能力が高くなかったため、主に薬による実験を受けておりました」
「……」
「私と綾は血のつながりがあったためか、どれほど遠くに居ても言葉を交わすことが出来ました。
 といっても、綾は薬によってほぼ自我はありませんでしたので、時々薬が切れたときのみの会話でしたが」
美波さんは寂しそうに笑う。

「そして高校を卒業し大学に入学した私は、大学へ行く以外は組織で被験者たちの管理をするようになりました。
 それと同時に私と周防の付き合いが始まります。私が18、周防が15ですね」
今日地下で聞いたかれこれ9年の付き合い、というのはこの時からということなのだろう。

「13の頃の周防のことはあまり話せず申し訳ありません。
 ここまでで何か質問はありますか?答えられるかは分かりませんが」

@特にない、話を続けてもらう
A綾さんは周防さんをどう言っていたのか?
Bこれからの話が美波さんにとってつらい話ではないのか聞く
241577:2007/09/21(金) 13:13:47 ID:???
A綾さんは周防さんをどう言っていたのか?

「綾さんは周防さんの事をどう言っていましたか?」

私が夢でみた綾さんは自我を失っていたのか、気持ちまで分からなかった。
亡くなった綾さんの心を覗くみたいで気が引けるけれど、知らなければならない事のような気がする。

「最初の頃は怖い人だと言っていました。綾にとってはじめての友達でしたし、接し方がわからなかったのでしょう。
綾は精神的に少し幼い子でした。薬のせいで、なかなか心が成長できなかったのです」

美波さんは下を向き、自分の手を見つめながら話していた。
その綺麗な手も綾さんと似ていたのか訊こうと思ったけれど、美波さんの気持ちを考えると何も言えなくなってしまった。

「その内、綾に変化が現れてきました。周防と会えるのが嬉しいと言いだしたのです。
兄としては焦りましたが、綾本人の心境としては、ようやく周防を友達として認めることができただけのようでした」

夢に出てきた少年の周防さんは、すでに綾さんのことを好きだったように見えた。
けれど、綾さんの心はそれを受け入れるほど成長していなかったのかもしれない。

「二年あまりが経ち、私が研究所に戻った時、綾はすでに特別棟に入れられていて会う事はできませんでした。
投与される薬もより強いものになってしまい、思念の伝達もままならない状態だったのです」

「綾さんの事が心配だったでしょうね……」

「はい。心配でしたね。ちょうどその頃、すでに研究員として綾の担当をしていた周防と知り合ったのです。
綾の様子を伝え聞くようになり、私たちは親しくなっていきました。もちろん、その時に周防の気持ちを知ることになります。
そして……綾を一途に想う周防の気持ちを、知れば知るほど…私は恐ろしくなっていったのです」

「恐ろしいだって?なんで怖がる必要があるんだよ」
腑に落ちないのか、隆が美波さんに問いかける。

「周防は高村の血筋の者ですから、実験体の綾に乱暴しようと、処分しようと咎めることは出来ません。
綾がもし周防を拒むことがあれば、どうなるか……周防が一途ゆえに余計恐ろしかったのです」

「で、でも……周防さんはそんな事をする人じゃ……」

「愛菜さんが言いたいことはわかります。ですが皮肉なことに、当時の私の精神もまた、洗脳によって侵されていたのです。
研究員達の代わりに何の疑問も持たず、組織に都合の良い人間を次から次へと養成していたような人間でしたからね。
本来ならば組織のあり方に疑問を抱くはずなのですが、正常な判断に欠いていた私は、周防を憎み、なんとかして綾を助け出したいと考えるようになっていきました。
そんなある日、綾から久しぶりに思念による連絡が入ってきました。それが逃亡計画だったのです」

「あの…美波さんは、洗脳されて組織に従順だったんですよね。なのに組織にいる周防さんに従おうとはしなかったんですか?」
私は疑問に感じて、周防さんの話に割り込んだ。

「洗脳といっても万能ではありません。特定の研究員達には従順でしたが、周防に従うようには洗脳を受けていませんでした。
さらに組織のあり方に疑問を抱く周防を、私は異分子としても敵視しはじめていたのです」

(組織全員に従うという訳ではなかったのね)

美波さんは一旦、話を区切って紅茶を飲んだ。

「……どうしましょうか。その頃の周防の話をしましょうか? それとも、続きを聞きますか?」

@話を続けてもらう
A15〜16歳の周防さんの様子を詳しく話してもらう
B隆に理解できているか尋ねてみる
242578:2007/09/25(火) 13:24:01 ID:???
B隆に理解できているか尋ねてみる

「隆、話についてきてる?」
よく考えれば、隆は私のように夢を見ているわけではないし、地下で周防さんや美波さんに会っているわけではない。
今の話で理解できているかどうかふと気になって尋ねてみる。

「なんとかな。
 要するに、この人は周防ってやつの好きだった女の兄貴で、元組織の被害者で今は組織に対立してるんだろ?」
「ま、まあそうかな……」
あまりにも大雑把に要約されて私は苦笑する。
けれど間違っているわけでもない。完全に真ん中をすっ飛ばしている気はするけれど……。
とりあえず一応隆にも理解できているようなので、美波さんに向き直る。
美波さんも、隆の言葉に苦笑めいた微笑を浮かべていた。

「長々と話していましたが要約するとそうなりますね。では、続けましょうか」
「お願いします」
「ここから愛菜さんが聞きたいといった16年前の話になります」
美波さんの言葉に、私は無意識に背筋を正す。

「私は綾から逃亡計画を聞きました。綾の思念は一週間後に計画が実行されると伝えてきました。
 私はその時、自我とマインドコントロールによって洗脳された意識の間で葛藤が起きたのです。
 今組織にこのことを伝えれば、高村である周防は軽い処分で済むだろう。
 けれど綾は本当の意味で処分されてしまう可能性が高い。
 しかしこの事を組織に伝えないわけにはいかない。けれど伝えたら綾が……、といったふうにグルグルと思考がループしていました」
当時のことを思い出したのか、美波さんはかすかに眉根をよせる。
マインドコントロールされていても、家族が大事だと言う意識は消えなかったんだろう。
ましてやずっと同じ境遇、いや綾さんのほうが過酷な環境で過ごしていたのだから当然かもしれない。

「こうして私は表向きは普通に今までの生活を続けながら、内心ではずっとこの葛藤を続けていました。
 そして、結局組織に何も言えないまま当日がやってきました」
そう言って美波さんは押し黙る。

私は…
@美波さんが話しだすのを待つ
A美波さんを促す
B無理して話さなくていいと言う
243579:2007/09/25(火) 22:52:33 ID:???
@美波さんが話しだすのを待つ

(美波さんにとって辛い過去のはずだよね。だけど……)

そんな私の様子を見て、美波さんは「大丈夫」と声を出さずに頷いてくれた。
そして、ソファーに深く座りなおすと、また口を開いた。

「当日を迎え、私は葛藤しつつも組織に逃亡計画を伝えました。
その時、この情報を提供する代わりに、妹を見逃してくれるように懇願しました。
組織の幹部達は、綾の自由を約束してくれました」

「けど、その約束は守られなかった…そうなんだろ?」
顛末のみえた物語のように、隆は淡々と言った。

「ええ。隆さんの仰る通り、約束が守られることはありませんでした。
何も知らない周防は綾を連れ、通路を出たところで組織に捕まりました。そして、殺されそうになる綾を庇って、周防が…」

そこで、美波さんは話すのをやめてしまった。

(やっぱり、話したくないよね)
私がもういいですと言いかけたところで、美波さんが私の名前を呼んだ気がした。

「今、私を呼びましたか?」
「はい。愛菜さん、すみませんが……ナイフなどの刃物と消毒液を頂きたいのです」
「??」
「出来れば、血で汚れてもよさそうな物をお願いします」
「……わ、わかりました」

私は意味も分からないまま、言われた通りにカッターナイフと消毒液を用意し、美波さんに渡した。
美波さんはカッターの刃を出し、刃に消毒液を垂らした。

「実際に見ていただくのが一番早いと思います。少しグロテスクなので、愛菜さんは見ない方がいいでしょう」
自分の腕を捲くりながら、美波さんは言った。
「何をするんですか?」
「すぐに終わります」
美波さんはそう言うと突然、私の手を握った――


「――さん、愛菜さん」
「え?」
私はぼんやりしていたのか、美波さんの声で我に返った。
「終わりましたよ」
何が終わったのか分からないまま、頭を振って二人を見た。
「隆さん、綾も私と同じ特殊能力を持っていました。わざと力を暴走させ、生命力のすべてを周防のために使ったのです」

美波さんはさっきと全く同じ様子だったけれど、隆は黙り込んでいた。
(何? 隆、顔色が悪いみたいだけど……)

私は……
@隆に何があったのか尋ねる
A美波さんに何があったのか尋ねる
B黙って二人の様子を見る
244580:2007/09/26(水) 11:37:43 ID:???
A美波さんに何があったのか尋ねる

「何が、あったんですか?」
顔色の悪い隆を気にしつつ、美波さんに尋ねる。

「私の力を見てもらっていたんですよ。私の力は治癒能力に特出しています。もちろんそれだけではありませんが」
美波さんは微笑んで人差し指を立てた右手で、すっと左腕をなぞる仕草をする。

「先ほどこのようにカッターで切って見せたのです。
 ソファーは汚れないようにしておりましたので大丈夫ですご安心ください」
そういった美波さん腕は滑らかで傷一つない。
半信半疑で隆を見ると、隆は小さく頷いた。

「この人の言ってることは嘘じゃない。言われただけじゃ信じられなかったが、見ちまったからな」
隆はそう言って、深くため息をつく。

「綾の力は強くないものでした。自分の傷を癒すのも、他の人より幾分早いという程度の。けれど綾は周防が傷つき倒れたあの時、自らの命を削り暴走させることでその力を最大限に発揮しました。
 その場に居合わせた私は、綾の暴走した力の余波によってマインドコントロールを解かれました」
美波さんはそう言っていったん口を閉じ、静かに目を閉じた。
数呼吸後、美波さんは言葉を続ける。

「周防の傷は綾の力で癒えました。けれど周防はそれから三ヶ月あまり意識を取り戻さなかったのです。
 組織は肉体は綾の力によって癒されたけれど、精神はすでに死んでいるものと判断しました」
「それで、周防さんは死んだっていうことになっているの…?」
「そうです。けれど周防が死んだという通達が組織に回ったその一週間後、周防は目覚めました。
 その三ヶ月の間に周防の中で何があったのかは分かりません。けれど、目が覚めた周防は完全に反主流派として組織と相対する姿勢を示すようになりました」
美波さんは穏やかな顔で私を見た。
その瞳が質問はありますか?と尋ねているように見える。

@「組織は周防さんが生き返ったことをなぜ公表しなかったの?」
A「周防さんに意識がない間、何があったのか聞かなかったの?」
B「意識がない間のことを周防さんは何も言わなかったの?」
245581:2007/09/27(木) 04:05:42 ID:???
@「組織は周防さんが生き返ったことをなぜ公表しなかったの?」

「身内から反逆者が出たとあっては、権威に関わりますからね。
組織にとって、死んだままのほうが好都合だったのでしょう」
「で、でも……周防さんはちゃんと生きているのに……」
「それが組織のやり方なのですよ」
美波さんは苦笑を浮かべた。

「あ、あの…力を使った綾さんは、一体どうなったんですか?」
綾さんの事がどうしても気になって、私は美波さんに尋ねた。

「綾は脱走犯として隔離棟の厳重な監視下に置かれ、二ヶ月後、誰にも会うこと無くこの世を去りました」

私は何も言葉をかけることが出来ず、冷めた紅茶に口をつけた。
隆も黙ったまま、美波さんをジッと見つめている。

「綾の死後半年以上が経ち、私は周防と面会の機会を得ました。
本来、会わす顔も無いのですが、一言でも詫びたいと思ったのです。
周防はとても冷静に私を迎え入れてくれました。
そして、『俺が死ぬ間際、こよみに“兄を許して欲しい”と頼まれた。だから、お前を許すことにした』と、言ってきたのです。
また、『こよみと似た境遇の人達を助けること。それがこよみを救えなかった俺に与えられた罰だと三ヶ月間寝ていて気付いた。だから、力を貸して欲しい』とも。
私に罪を償う術を、妹の声無き願いを、周防は伝えてくれたと思いました」

「それで反主流派になったんですね」
「はい。私たちはまず、隔離棟の少年に的を絞りました。この少年は能力がとても高く、前に居た部屋を破壊し、綾の部屋に移ってきたばかりでした」

「その少年って……」

「コードNO.673。現在は御門冬馬と名前ですね。少々強引な手を使って、私たちは少年の自由を手に入れました。
そして、信用のおける女性にその少年を託したのです」

「私のお母さん……ですか?」
「ええ、あなたのお母様です。彼女も研究員の一人で、人文学の見地から能力の解明を進めるチームの主任をしていました」

人文学。聞き慣れない言葉が美波さんの口から出てきた。

(そうだ。お母さんの居場所が分かるかもしれない)

けれど、このままお母さんの居場所を聞いていいものかと考える。
お父さん、お義母さん、春樹は何て思うだろう。
まして、春樹もお父さんも居ない今、心細いお義母さんを支えるのは私しか居ないのだ。

どうしよう…
@お母さんの居場所を聞く
A話しの続きを聞く
B考える
246582:2007/09/27(木) 11:08:10 ID:???
A話しの続きを聞く

「あなたのお母様は表の研究に携わっていました」
「表の研究?」
「はい。研究所は表向きは普通の研究所です。当然裏の事情を知らない普通の研究者も多数存在します。
 力の解明の研究と言いましたが、あなたのお母様の研究はいたって健全なものでした。
 あなたのお母様はとても優秀な方で、研究所に来て半年もたたないうちに主任に抜擢されるほどでした」
お母さんが研究所にいたということで、不安になった私に気付いたのか美波さんは微笑んで言葉を続けた。

「そうですね例をあげると、言霊などの研究ですね」
「ことだま?」
隆が不思議そうな顔をしたが、私は以前周防さんに似たようなことを聞いていたのですぐに理解する。

「言葉に力が宿るっていう?」
「そうです。たとえば『がんばれ』と応援されたら力がわいてくるような気がするでしょう?そういう言葉・語学なども、人文学の範囲です」
美波さんは隆に軽く説明をする。

「ですから、あなたのお母様は裏の仕事には携わっていませんでした。ご安心ください」
「そんな愛菜の母親に、周防先輩を預けたのか?危険だろ?」
最もな隆の意見に、私も頷いて美波さんを凝視する。

「確かに彼女が何も知らなければ私たちも周防を預けたりはしなかったでしょう。
 けれど、彼女はどこで聞きつけたのか裏の研究についても知っていました。そして周防に接触してきたのです」
美波さんは交互に私と隆の顔をみて続ける。

「あなたのお母様は周防にこう言ったそうです『私の大切なものを守るために、あの子を助ける手伝いをさせてくれませんか?』と」
「それって、愛菜を守るために周防先輩を助けたいって言ったってことか?」
「おそらくそうです。あなたのお母様にも何か力があったか、もしくは幼少の愛菜さんがお母様に何か伝えたか……どちらかでしょう」
「愛菜が……?」
「私はなにも……」
「まだ小さくて覚えていないと言うこともありえます。あなたのお母様が組織へ入ったのは9年前。
 事件の起こる1年前です。何者かの意図が感じられませんか?」
お母さんが私の前にから消えたのは10年前。
その1年後に組織に入り、さらに1年後に周防先輩を助けた。
言われて見れば、繋がっているように感じられなくもない。

@「きっと偶然ですよ」
A「何者かのって、一体誰の?」
B「私が何かしたと思っているんですか?」
247583:2007/09/28(金) 17:42:04 ID:???
A「何者かのって、一体誰の?」

「さぁ、私にも分かりません。あなたかもしれないし、あなたのお母様かもしれないし、他の誰かかもしれませんね」
美波さんはゆっくりした口調で答え、一呼吸置いてから言葉を続ける。

「……周防について話を戻しますね。事実上死んだことになっている周防は地下に潜って、現在も反主流で活動をしています。
それは愛菜さんもご存知ですね。長くなりましたが、これが私の知っている周防の過去です」

そう言って、美波さんは私を見た。
相変わらず、穏やかな表情を大きく崩す事は無い。
だけど、周防さんにとってつらい過去を話させる結果になってしまった。

「あの……美波さん。ごめんなさい」
「気分を沈ませてしまって、私こそ申し訳なかったですね。
でも、綾の事をあなた達に話せてよかったと思っています。あの子を知るものはごく僅かの人間だけですから」
美波さんは寂しそうに笑って、今度は隆に向き直った。

「隆さんにも、気持ち悪いものを見せてしまいましたね」
「別に気持ち悪くなんてなかったさ。あれくらい、どうって事無いぜ」
顔色は悪いままだったけれど、隆は空元気で答えた。

(隆なりに、気を使ったのかな)

「なあ、美波さん……だっけ」
隆は美波さんに向って、話しかけた。
「はい。何でしょう?」
「愛菜の母親は、今どこに居るんだ?
愛菜は長い間、母親の帰りをずっと待っていたんだ。もし知ってるなら、教えてくれないか」

「すみません、私は知らないのです。愛菜さんのお母様は反主流に属しているわけではないし、研究所もすでに辞められている。
もしかしたら周防なら知っているかもしれませんが……」

今の生活を壊すことになるなら、お母さんの居場所について知らないままの方がいいのかもしれない。
けれど、冬馬先輩を引き取ったのは私のためだと判った以上、会わなければならない気もする。
私の横で寝息を立てるチハルの頭を撫でながら、お母さんについて考えた。

美波さんは腕時計で時間を確認すると、ソファーから腰を上げた。
「では、時間も遅いですしそろそろ失礼させていただきます。最後に何か尋ねたいことはないでしょうか?」

私は
@もう無い
A美波さんは周防さんをどう思っているのか
B隆に尋ねるとこは無いか聞く
248584:2007/10/01(月) 13:42:19 ID:???
B隆に尋ねるとこは無いか聞く

「いいえ、私はもう大丈夫です。隆は何かある?」
私は美波さんにお礼を言って、チハルを起こさないように注意しながら立ち上がり、ふと隆を振り返って聞いてみる。
隆はソファに座ったまま、美波さんをじっと見つめて口を開いた。

「ところで、組織って言うのは今現在何を目的として動いてるんだ?」
「……」
美波さんはその問いに一瞬考え込むように目を閉じた。

「目的まではわかりませんが16年前の春までは……能力者の人工的な作製と能力者の力の増大について研究がなされていました。
 けれど16年前に何が起きたのか、能力者を人工的に作る研究は既存のものを除き新規研究は突然打ち切られ、能力者の力の増大についての研究と、力の解析についての研究に重点がおかれるようになりました」
「16年前の春……?」
その言葉に隆が一瞬眉をしかめ、それから私を見た。

「愛菜が生まれたとき、か?」
「え……?」
言われて私もハッとする。
確かに16年前の春……3月は私が生まれた年だ。

「組織は、愛菜が生まれたときから愛菜を狙っていたってことか?」
「わかりません。私には上層部が何を目的として動いているかは知らされておりませんので……」
美波さんは考えるようにそう言って、隆を見返す。

「けれど、可能性はありますね。隆さんのクローンが作られたのはその約半年前、学年で言えば愛菜さんと同じ学年ですが、ぎりぎり既存の研究対象ということで残されたのでしょう」
美波さんはそう言って小さく呟く。

「周防は当時8歳ですか……おそらく詳しいことは分からないでしょうね」
そういう美波さんだって当時は11歳だったはずだ。
私の心の内を察したのか美波さんは、チラリと私をみて微笑んだけれど何も言わずに隆に視線を戻す。

「この件については私ではお役に立てないと思います。周防に直接聞いたほうがいいでしょう。
 反逆者として扱われているとはいえ、彼は高村の名をもつ能力者ですから、経緯はともあれ現在の組織の目的は知っているかもしれません」
そう言って美波さんは再度時計を見る。

「では、これで失礼いたしますね」
私は美波さんを玄関まで送っていく。

「ありがとうございました」
「いいえ、何かありましたら周防に連絡してこき使ってやってください」
再度お礼を言うと、美波さんは微笑んで出て行った。
閉まった戸をなんとなく見つめていると、リビングから隆が私を呼んだ。

「おい、愛菜!携帯なってるぞ!」
「え、あ、うん」
隆の言葉に、慌ててリビングに戻ってディスプレイを覗く。

相手は
@春樹
A周防さん
B修二くん
249585:2007/10/01(月) 20:08:30 ID:???
@春樹

(……春樹からだ!)

私は急いで通話ボタンを押した。
「は、春樹!?」
「もしもし……姉…さんだよね」
いつもの春樹の声だった事に、とりあえず安心する。

「どうして黙って出て行ったの? お義母さんもすごく心配してるんだよ!」
「……ごめん」

春樹に謝られて、ようやく冷静さに欠いていた自分自身に気付いた。
心配そうに見つめる隆に向って、春樹は無事だと目で訴える。

「……今、どこにいるの?」
「実の父親の所だよ。しばらく家には帰らないけど、心配いらないから」
「それって、高村の研究所なの?」
「……………」
春樹は何も答えない。この沈黙は恐らく肯定だろう。

「俺のこと、警察に届けないで欲しいんだ。あと、学校には病欠ってことで連絡しといて。
色々勝手言ってるけど、必ず戻るから」
「お願い。すぐ戻ってきて」
「……それは出来ないよ」
「どうして? 」

暫く沈黙が続いた。
受話器の向こう側にいる春樹は、私に伝えるべき言葉を選んでいるのかもしれない。
そして、またポツリと話し出した。

「ここには、俺にも出来ることがあるから」

(ここにはって……私の傍じゃだめって事なの?)

「研究所なんて、危険だよ。春樹に何かあったら、私……」
「大丈夫だよ。あんな人でも父親だし、俺に無茶なことはしないと思う。もう、足手纏いにはなりたくないんだ。
無力なままじゃ、姉さんを守る事はできないからね」
その声は静かだったけれど、有無をいわせぬ響きがあった。

いつだって春樹は私を守っていてくれた。
『ずっと守る』と約束してくれてから、5年。
どんな時も傍にいてくれたのに。
春樹がいるだけで心強かったのに。

春樹の望む守ると、私の願う守るは違うのだろうか。
『これ以上無理はさせない。……絶対だ』と呟いた春樹の決意に気付けなかった事が、今になって悔やまれる。

私は
@正直な気持ちを言う
A春樹を信じてみる
B隆に替わってもらう
250586:2007/10/03(水) 13:49:18 ID:???
B隆に替わってもらう

春樹の決意は固いみたいだ。
助けを求めるように隆に視線を向けると、側で聞いていた隆が私に手を差し出してきた。

「春樹、隆が変わってほしいって、いま変わるから」
隆に電話を渡すと、隆はくるりと私に背を向け話しだした。

「春樹、俺だけど……あぁ……あのな、お前の母さん倒れそうなくらいショックを受けてたぞ」
隆の声だけが部屋の中に響く。

「……当たり前のことを言うな。だけどな、お前が思ってるほどお前は無力じゃない。……お前にだって……はぁ?」
春樹の声は聞こえないが、突然隆が驚いたような、あきれたような声を上げる。

(なにを話してるんだろう……?)
「……なにを言い出すかと思えば。はははっ……いや、バカにしてるわけじゃない。
 お前も年相応な所があるんだと思っただけだ。いやー、安心した。
 普段やけに大人びてるからなお前。いや考えすぎるだけか?」
再度笑いを洩らした隆が、次の瞬間にはまじめな声に戻る。

「お前の考えは分かった。けど、今回のお前の選択は誤りだ。
 ……いいから最後まで聞け。誰もお前にそういう力を望んでないんだ。
 お前にはこういうのとは違う別の力があるだろう。早く気付け、そして戻って来い」
隆の言葉は、春樹が特別な『力』を欲しがっていることをうかがえた。
けれど隆が言うとおり、私は春樹に隆や一郎くんたちのような『力』は望んでいない。
ただそばに居てくれるだけでいい。
普通で居られるならそれが一番だと思う。
私だって力を欲しいと昨日までは思っていたけれど、周防さんや美波さんの話を聞くうちに以前のように『力』が欲しいと思わなくなった。
以前冬馬先輩が言った言葉の意味が少し分かった気がする。

「……はぁ、分かったよ。けど、無茶するなよ。組織はヤバイとこだ。
 いくらお前の本当の父親だからって、信用するな。……あぁ、それじゃ」
そういって、携帯の通話を終わらせた隆は、私に携帯を返してくる。

「とりあえず、しばらくは戻ってくる気はないんだと」
「え!?」
「春樹には春樹なりの考えがある。お前の思ってることはちゃんと伝えてやった。
 それを聞いても春樹の考えは変わらなかったんだ。後は春樹のしたいようにさせてやれよ」
隆はそう言って私の額を軽く小突く。

私は、
@頷く
A文句を言う
B春樹がなんといったのか聞く。
251587:2007/10/03(水) 21:32:45 ID:???
@頷く

私は額を手で押さえて、小さく頷いた。

「文句は帰ってきてから、たっぷり言ってやれ。今は、愛菜がおばさんを守ってやらなくちゃいけない。泣き言なんて言ってられないだろ?」
「……そうだね」

春樹には、沢山言いたいことがある。
黙って出て行ってしまった春樹のやり方が、正しかったとは思えない。
それがたとえ、私のためであってもだ。

「さっき、コイツに右ストレートを教えてやったし。まぁ、チビから痛い一発を食らえば、春樹も目が覚めるだろ」
隆はチハルを指さして、微笑んだ。
寝息を立てるチハルと、羽織っていた上着を掛けてあげている隆を見ていると、歳の離れたお兄さんと弟みたいだ。
そんな穏やかな光景を見て、春樹のことも少しは落ち着いて話ができそうな気がしてきた。

「あのね、隆。春樹は電話で何て言ってたの?」
「あ? …ああ。俺に謝ってきたな。あと、何かあった時はよろしくお願いしますって言われた。俺が言うのも何だが、本当に勝手なヤツだよ。……ったく」
「他には? 他に何か言っていなかった?」
「力が欲しいと言っていた。お前を守れるだけの、強い力が欲しいってな」
「やっぱり……」
「それと、自分は無力だとも言っていた。春樹のやつ、勘違いしやがって」
隆はぶっきらぼうに言い放つと、溜息を吐いた。

「ねぇ、そういえば…。話の途中で隆、驚いていたよね。その後、年相応とか言っていたし。あの時、春樹は何て言っていたの?」
「それは……」
隆は言い淀むと、困ったように頭を掻いた。
そして、投げやりに口を開く。

「それは……春樹の口から聞いてくれ」
「え?」
「俺から、言うべき事じゃないからな。どうしても知りたいなら、帰ってから直接聞けばいい」
「どうして?」
「……って、お前。少しは俺の気持ちも察してくれっての」
「もったいぶって、何よ。意地悪しないで教えてくれてもいいじゃない」
「あ、あのなぁ……まぁ、いいや。とにかくだ。俺は絶対に言わないからな」

そう言って、私から視線を外すように再びチハルに向き直ってしまった。
私には、どうしても教える気が無いらしい。

(何よ、意地悪ね)

@他に何か言っていなかったか尋ねる
Aなんとしても聞きだす
Bチハルをベッドに運ぶ
252名無しって呼んでいいか?:2007/10/03(水) 22:41:50 ID:???
×私から視線を外すように再びチハルに向き直ってしまった。
○私の視線から逃れるように、再びチハルに向き直ってしまった。
253名無しって呼んでいいか?:2007/10/15(月) 05:05:44 ID:???
一度age〜
続きが気になります…
254588:2007/10/15(月) 09:07:38 ID:???
Bチハルをベッドに運ぶ

私はため息をついて隆に聞き出すことをあきらめた。
そして隆の横に膝をつきチハルを覗き込む。
すやすやと眠るチハルの顔を見ていると自然と顔がほころぶ。
私はチハルを起こさないように抱き上げて立ち上がった。

「私、チハルを部屋に寝かせてくるよ。遅くなったけど、ご飯食べるでしょ?」
「あぁ、そういや腹減ったな。おばさん、暖めるだけって言ってたよな。じゃ、俺暖めておくわ」
「うん、ありがとう」
私は隆にお礼を言って、チハルを部屋に連れて行く。
泣きつかれたチハルは目を覚ます様子がない。
そっとベッドにおろし掛布をかけて部屋を出る。
それから奥のお義母さんの部屋をそっとあけて様子を見ると、美波さんの力の効果か安らかな表情で眠っている。

(大丈夫そうね)
私は音を立てないようにそっと階段をおり、キッチンへ向かう。
キッチンでは隆が炊飯器からご飯をよそっている所だった。

「来たな、今日は八宝菜だったぜ」
まだ暖めている途中なのだろう、コンロにスイッチが入っている。
私がお皿とお椀を持って北京鍋の中を覗いてみると、もう少し時間がかかりそうだった。
隣の鍋を除くと、こちらももう少し暖めたほうがよさそうなスープ。

「もう少しかかりそうね」
「だな、冷蔵庫にはなんか入ってないのか?」
「見てみるね」
どうやら、空腹が限界に来ているらしい隆の言葉に冷蔵庫を開けてみる。

「えっと、漬物とか、味付け海苔とか、梅干ならあるよ」
「じゃ、とりあえず漬物」
「はいはい」
漬物の入ったタッパーの蓋を外して隆の前におく。

「サンキュ、いただきます」
隆は早速漬物をつまみながらご飯を食べだす。
なんとなくそれを見ていると、隆が顔を上げる。

「なんだよ、じっと見て」

えっと……
@「春樹ちゃんとご飯食べてるか心配になって」
A「おいしそうに食べるなーと思って」
B「なんでもないよ」
255589:2007/10/17(水) 02:40:50 ID:???
A「おいしそうに食べるなーと思って」

「ジロジロ、見んなって」
急に恥ずかしくなったのか、隆は反対側を向きながらご飯を掻き込んだ。

「ちいさい頃から、いつも美味しそうに食べるよね」
私は頬杖をつきながら、しみじみ呟く。

「だってなー。不味そうに食ったら、米も野菜も魚も肉も全部可哀想だろ」
「え?」
隆の意外な発言に思わず聞き返してしまう。

「ごくたまに聞こえるんだ。小さな声がさ」
「声?」
「そ、声。今だから言えるけど、たまに野菜や魚の声が聞こえたりするんだよ。
あれだ、チハルと一緒ですべての物にはそれなりに心ってもんがあって、好き勝手にしゃべってたりするんだ。
本当に俺の調子がいい時だけだけどな」

隆は秘密を打ち明ける子供のように、ぎこちない口調で続ける。

「もちろん、食われたくないってヤツもいるんだよ。でも食わなきゃ俺は生きていけない訳だから、なるべく美味しく食ってやろうってな」

そういえば、隆が食べ物を残しているのを見たことが無い。
私が作った料理を除いては。

「そっか…。だから、いつも綺麗に食べるんだ。でも、私の料理だけは残すよね」
「そりゃ、まぁな」

隆は言葉を濁して、漬物を齧った。

私は暖め直した八宝菜とスープを二人分用意する。
隆は「サンキュ」と言って受け取ると、2杯目のご飯を勢いよく食べ始めた。

「ねえ、私ってやっぱり……。料理が下手なの?」

八宝菜の白菜を一口食べて、私は尋ねた。
家族のみんなも美味しいと食べてくれるけど、私の作った料理は必ず残る。
もし私の料理が本当に下手なら、残された食材が可哀想という事だ。

「だから、ずっとそう言ってるだろ。
でも、もし愛菜が本気で料理が上手くなりたいって言うんなら、俺が実験台になってやってもいいぞ。
食べて欲しいって言うなら、残さず食べてやってもいい」

隆は食べる手を止め、私を見た。

(食べてやるって……。上からの言い方が気になるなぁ)

@「昨日、隆には絶対に作らないって言ったでしょ」
A「なら、今度実験台にしてあげてもいいよ」
B「じゃあ、この白菜が何を言っているかわかる?」
256590:2007/10/17(水) 14:00:12 ID:???
A「なら、今度実験台にしてあげてもいいよ」

隆にならってえらそうに言ってみる。
すると隆はひょいと片眉を器用に上げた。
それからふと思い出したように首を傾げた。

「そういやお前、自分が作ったもんうまいと思って食ってるのか?」
「え? お母さんとか春樹にはかなわないけど、そこそこだとは……」
「なるほど、お前味覚がおかしいんだな」
「……は!?」
「よく考えてみろ? 他の誰もがマズイと思って食ってるもんを、お前はそこそこだとおもってるんだろ?」
「……そう、ね」
「ってことはだ、お前の味覚がおかしいってことだ。っていうかお前、今まで食ったものでマズイとおもったことってあるのか?」
言われて私は記憶をたどる。
そういわれればないかもしれない。
苦手と思う味はあっても、マズイと思ったことはない、ような気がする。
そういうと隆は一人で納得したように頷いている。

「やっぱりな、お前は味覚がおかしい!」
原因が分かったと、一人で悦に入っている隆に私は顔をしかめる。

(味覚がおかしいって……じゃあどうすればいいのよ?)
思ったことが顔にでたのか、隆は私の前にびしっと指を突きつける。

「お前が目指すのは春樹の味だ! それと少しでも違えば、お前が作ったのはマズイってことだ」
「春樹の味って……それってハードル高くない!?」
おいしいものはおいしいと思うのに、マズイものはマズイと思わないあたりどういう味覚だと自分でツッコミを入れたいところだが、春樹の料理ははっきり言っておいしい。
味覚がおかしいと言われている私もとてもおいしいと思う。

「ま、確かにそうだよな。最初はおばさんの味か」
「お義母さんの味……」
どちらにしてもハードルが高いと思うのは私だけだろうか?

@「もう少しランクを下に……」
A「わかったがんばる!」
B「そういう隆の料理の腕はどうなのよ?」
257591:2007/10/22(月) 10:48:37 ID:???
B「そういう隆の料理の腕はどうなのよ?」

隆の言う事は正しいのかもしれないけれど。
なんとなく釈然としないものを感じてそう問い掛けると、隆はふふんと笑った。

「人並み程度には。まあ、お前よりはまっとうな料理作れるぜ」
「まっとうなって……さっきから随分な言い様じゃない」
「だから言ってるだろ。料理が上手くなりたいんならマズイものを作ったらマズイって気付かなきゃ駄目だ。お前のとこの春樹やおばさんみたいに黙ってちゃ愛菜はわからないだろ」

散々な言われように言いたい事もあったはずなのに、隆の言葉に私は思わず口をつぐんでしまった。
(春樹も、お義母さんも……私に気を使って何も言わなかったのかな?)
「そう、だね。……我慢してマズイもの食べさせるなんて、可哀想だよね」
「愛菜?……やれやれ」
押し黙ってしまった私の前で、隆は困ったような顔で溜息をついた。

「春樹やおばさんに関しては確かにそうかもしれないけどな。その点、俺なら大丈夫だ。さっきから言ってるけど、お前にマズイ物喰わされたらちゃんとマズイって言ってやる」
下がり気味だった視線をゆっくり上げると、真っ直ぐにこちらを見る隆と目があった。
「だから、お前は遠慮無く俺を実験台にすれば良い。俺の胃腸は頑丈なんだ、ちょっとやそっとじゃびくともしねえよ」
「隆……ありがとう」
隆なりの優しさが嬉しくて、素直にお礼を言うと隆は照れたようにそっぽを向いてしまった。
「別に。礼を言われるほどのことでもないだろ。……俺自身のためでもあるし」
「? そうなの? 隆ってば食いしん坊なんだね」
「……」
「隆?」
「あーもう良いよ、そういう事で!」
隆はどことなく不機嫌そうにお皿に残っていた八宝菜を口に詰め込んだ。
(? 変な隆)

それから二人で黙々と食事をとっていると、丁度会話の切れるタイミングを計ったかのように携帯が鳴った。

「おい愛菜、誰からだ?」

ディスプレイに映し出された番号は……
@周防さんの携帯の番号
A一郎くんの携帯の番号
B非通知での着信
258592:2007/10/23(火) 14:00:32 ID:???
B非通知での着信

「非通知だ……」
テーブルの上で鳴っている携帯のディスプレイを覗き込むと、非通知着信だった。
私は首を傾げて隆を見る。
隆はかすかに眉をしかめている。
私はとりあえず、携帯に手を伸ばした。

「きゃっ」
携帯と指先が軽く触れた瞬間、バチンと激しい火花が発生して携帯をはじく。
携帯はくるくると回りながら、テーブルの端で止まった。

「な、なに?」
「なんだ?」
突然の出来事に携帯を呆然と見る。
隆も何がおこったのか分からないというように、携帯と私を交互に見ている。
携帯は何事もなかったかのように鳴り続けている。

「静電気……じゃないわよね」
「静電気が携帯はじくわけないだろ」
いいながら、隆が立ち上がり携帯に手を伸ばす。
携帯は何事もなく隆の手に納まった。
いまだ鳴り続ける携帯を調べるように、ひっくり返したりしていたが特に何もおかしな事はなかったらしい、私に携帯を差し出してくる。
私がそれを受け取ろうと、手を伸ばし携帯に触れた途端。

「あっ」
「うわっ」
バチンとまた携帯がはじかれる。
落としそうになった携帯を、隆が慌てて持ち直す。

「なんだぁ?」
隆が不思議そうに鳴り続ける携帯を見ている。

「隆、おかしいよ……」
鳴り続ける携帯に、私はだんだん不安になってくる。

「マナーモードじゃなくても、一定以上電話にでなかったら伝言モードになるはずなのに……」
「!」
電話が鳴ってから結構な時間がたつが、いつまで経っても伝言モードに切り替わらず鳴り続けている。

「まさか、組織が何か仕掛けてきてるのか……?」
「そうかも……だから私が電話に出ないように冬馬先輩の契約かなんかが働いて携帯がはじかれるのかも……隆は平気みたいだし」
鳴り続ける携帯が不気味だ。

「で、これどうするよ……?」
一向に切れる様子のない携帯に隆が顔をしかめる。

どうしよう……
@隆に出てもらう
A電源を切ってもらう
B冬馬先輩に聞いてみる
259名無しって呼んでいいか?:2007/10/26(金) 10:33:07 ID:???
あげ
260593:2007/11/05(月) 12:52:22 ID:???
A電源を切ってもらう

「お願い。電源切って……」
私は恐ろくなって、隆に携帯を渡した。

「ああ」
隆は携帯を受け取って、ボタンを押す。
すると、何事もなく電源が切れた。

「ほら、これ返す。しかし、不気味だよな。
とりあえず、明日になるまで携帯の電源は切っておいた方がいいぞ」
携帯を差し出した隆は、相変わらず不思議でならないという顔をしていた。

「でも、春樹からまた連絡があるかもしれないよ」
「俺がここに居ることは、さっきの電話で知っているんだ。もし、どうしても連絡を取りたかったら俺に掛かってくるだろ。
確か、春樹は俺の番号を知っているはずだしな」
「そうだね」

また静電気のように、はじかれたら怖い。
組織の仕業だったら、他にどんな細工がしてあるかも判らない。
ずっと鳴り続けるのも不気味だし、隆の提案通り、夜の間は切っておくことに決めた。

私は夕食の後片付けを始め、その間に隆にはお風呂に入ってもらった。
片付けも終わり、お継母さんの寝室をそっと覗く。

美波さんのまじないが利いているのか、安らかな顔で寝ていた。

(心配だったけど、大丈夫そうね。お継母さん、おやすみなさい…)

ドアを閉め、リビングに下りると隆がお風呂から出てきた。
私は隆の次にお風呂に入り、そのまま自室に戻った。
携帯の電源は切ったままにして、充電の卓上ホルダに差し込む。

(すごく疲れたなぁ。今日はもう横になろう)

チハルを起こさないように、ゆっくりベッドに入る。
そして、瞼を閉じた。

私は……
@今日一日を振り返ってみる
A夢をみた
B冬馬先輩に連絡をとってみる
261594:2007/11/06(火) 09:41:06 ID:???
@今日一日を振り返ってみる

(今日は朝からいろいろあったな……)
朝は桐原さんとの一件があった。
昼は普通に何事もなく過ぎて言ったけれど、放課後は文化祭の準備をするはずだったのに修二くんと地下道を見つけた。
そこで周防さんの無事を確認して、美波さんに会って、こよみさんが美波さんの妹の綾さんだったことが分かった。
その後は一郎くんが迎えに来て修二くんと別れた後は、力をコントロールできるようにカードでの訓練の仕方を教えてもらった。
その途中でお義母さんから電話があって、春樹が連れていかれてしまったことを聞いて……。

(なんか、本当に今日はいろいろあったんだなあ)
途中まで思い返して、思わずため息をつく。

「……ぅん、愛菜ちゃん?」
自分で思っていた以上にため息が大きかったのか、小さくうなってチハルが目を開けた。

「あ、チハル、ごめん起こしちゃった?」
「んー、大丈夫。ボクいつの間に寝ちゃったんだろう?」
不思議そうな顔をして首を捻るチハルを軽く抱きしめる。
少し高めの体温に、とても安心する。
さっきの携帯電話の件が自分で思っていた以上に怖かったみたいだ。

「愛菜ちゃん?どうしたの?」
心配そうなチハルの目が私を見上げてくる。

なんて答えよう。
@「チハルが居てくれてよかったと思って」
A「さっきちょっと怖いことがあったから」
B「なんでもないよ、寝よう?」
262595:2007/11/07(水) 00:08:01 ID:???
@「チハルが居てくれてよかったと思って」

人の体温がこんなに心休まるんだと、チハルを抱きしめながら改めて感じた。

「やっぱり、春樹が居なくなって寂しいんだよね?
守るようにお願いされてたのに……引き止められなくてごめんね」

「ううん。チハルはいつも頑張ってくれてるよ。
それより、春樹が悩んでいることに気付いてあげられなかった私がダメだったの。
姉失格だよ……」

チハルは私の言葉を聞き終わると、黙ったままゆっくり手を伸ばした。
そして、ぎこちなく笑って口を開く。

「いつも愛菜ちゃんがこうしてくれると、ボクすごく安心するんだ。だから、ね?」

チハルの伸ばされた手は、私の頭の上にそっと置かれた。
前髪を梳くように、不器用に手を動かす。
いつも私がチハルにしてあげている仕草を真似るように、優しく頭を撫でてくれていた。

(チハル……)

チハルは一生懸命、私の真似をしてくれていた。
きっと、撫で方もぎこちない笑い方も私にそっくりなのだろう。
私は目を瞑って、しばらく撫でられ続けた。

「もういいよ、ありがとう。チハルのお陰で元気が出てきたみたい」
「元気に…なって……よか…った」

そう言って、手を止めると同時にチハルの寝息が聞こえてきた。
眠たかったのに、無理してくれていたのだろう。

私はチハルの小さな手に頬を寄せた。

(ありがとう。チハル)

どうしようかな?
@もう少し今日のことを考えてみる
A眠る
B携帯が気になった
263596:2007/11/07(水) 14:06:41 ID:???
A眠る

チハルの規則正しい呼吸を聞いていると、心配や不安が和らいでくる。
ふわふわの髪に顔を寄せてチハルの体温を感じていると、自然と眠りに引き込まれていった。



「……姉さん?」
気がつくと家の前に立っていた。目の前に春樹がいる。
春樹は門の外に立っていて家を見ていたようだ。
門をはさんで春樹と向き合う。

「春樹……?」
私はすぐにこれが春樹の夢だと分かった。
春樹には力が無いはずだから私が春樹に同調したのだろう。

「どうして姉さんが?……いや夢なんだから、俺の希望って事かな」
春樹は少しうつむいて、ぶつぶつと呟いている。

(そういえば予知夢みたいなのを見るって話はしてるけど、同調すれば夢で会えるって詳しく言ってないっけ……?)
ちゃんと話すべきかどうか迷っている間に、春樹が話しだす。

「姉さんは怒ってるよね、俺があいつについていったこと」
「少しはね。お義母さんがすごい心配してるんだよ? もちろん私も」
「そうだろうね……でも、俺が行く必要があったんだ」
「どうして?」
「あいつに近づいて油断させることが出来るのは俺だけだから」
春樹の言葉をききながらふと思う。

(このまま夢だと思わせてたら、春樹の本心が聞けるかもしれない)

どうしよう
@このまま春樹と話をする
A普通の夢ではないことを話す
Bとりあえず家の中で話そうと誘う
264597:2007/11/07(水) 17:19:15 ID:???
@このまま春樹と話をする

「あいつって……春樹の父親の事だよね?」

春樹はコクリと頷いた。

「父親だと思いたくもないんだけどね。本当に、最低な人だよ。
でも……それをあいつに言ったら、きっとお前が不甲斐ないからだって一蹴されてしまうだろうね」

「どうして春樹が不甲斐ないなんて言うの?自分の子供なのに……」

会ったことも無い人だけど、悔しさがこみ上げてくる。
過去の出来事だとはいえ、私の大切な家族に暴力を振るっていた人はやっぱり許せない。

「ようやく分かったけれど……俺に力が無いって事が許せなかったんだと思う。
あの人はいつも母さんを痛めつけながら『どうして無能の子を産んでくれたんだ。高村の恥さらしめ』って怒鳴りつけていたからね。
俺は自分がどうして無能の子だと言われるのか、ずっと分からなかった。
母さんが暴力を振るわれないように、必死で勉強もしたし、どんな事でも誰にも負けないようにしたんだ。
だけど……」

春樹は言葉を切って、唇をかみ締めている。

「お継母さんへの暴力は収まらなかったんだね」

「それどころか、段々酷くなっていった。俺を見る目もまるで羽虫でも見るように、いつも冷ややかだった。
とうとう耐え切れなくなった母さんは俺を連れて、逃げるように高村家を飛び出したんだ」

「そうだったんだ……」

「生まれてからずっと、俺はあの人が怖かった。逃げ出したとき、正直、会わなくて済むとホッとしたよ。
そして、姉さんや継父さんに会って、ようやく本当の幸せを手に入れたと思った。
どんな事をしても、絶対に守り通すと誓ったんだ」

私の背後に建つ我が家を、春樹は慈しむように仰ぎ見ていた。
出会った頃の春樹は人を寄せ付けない雰囲気があった。
私を守ると約束してくれた裏には、春樹の悲壮な思いがあったんだ。

「だけど、ショッピングモールで姉さんが寝ている時……冬馬先輩から高村の研究所について教えられたんだ。
もう決して関わりたくない父の事も。その時、ようやく悟ったよ。俺に力が無い為に、母さんが傷ついていた事をね」

春樹は悲しそうな瞳を私に向けながら、話を続けた。

「話を聞き終えて、怖くなった。あの人とまた会うくらいなら、逃げたした方がいいと思った。無能な俺よりも、力のある人達が姉さんを守るべきだと思った。
だけど、それじゃ姉さんとの約束を守ったことにはならない。俺はずっと平常を装いながら、考えていた。俺にしか出来ない姉さんを守る方法を。
考えすぎて、あんまり眠れない時もあったけどね」

春樹は口の端を上げ、少しだけ笑った。
(『もうこれ以上の厄介事は、ご免なんだ!』と公園で言った事は…父親に対する恐怖心があったからなのね)

どう言おうか?
@「私を守る方法が……研究所へ行くことだったの?」
A「ごめんね、春樹」
B「辛かったら、相談くらいしてよ! 姉弟じゃない」
265598:2007/11/08(木) 13:32:38 ID:???
A「ごめんね、春樹」

思わず口をついて出たのは、謝罪の言葉だった。

「どうして姉さんが謝るのさ。姉さんは何も悪くないだろう。
これは、俺自身のけじめでもあるんだから……」

春樹は色々な感情の入り混じった視線で、私を見つめる。
私は耐え切れなくなって、その視線を外すように下を向いた。

「春樹がそんなに苦しんでいるのに、ぜんぜん分かってあげられてなかったんだよ。
私、春樹の気持も考えずに頼ってばかりだったもの」

春樹を追い詰めてしまった一端は私にある。
今、思い返せば春樹の苦しみを理解してあげるチャンスはいくらでもあったはずだ。

「……困ったな。夢の中だと思って、少しおしゃべりが過ぎたのかもしれないね。
ホント、夢の姉さんまで悩ませるつもりなんてなかったんだ」

キィと軋んだ金属の音が聞こえる。きっと、春樹が門を開けたんだろう。
不意に、右肩に暖かな手が置かれた。
顔を上げると、すぐ傍らに春樹が立っている。

「姉さん、俺はね」
「どうしたの? 春樹」
「俺はね……」

黙り込んだままの春樹を、そっと覗き見る。
春樹の表情は硬く、肩に載せたれた手が小さく震えていた。

「俺は……」

(どうしたんだろう? 春樹)

「ねぇ、姉さん。……ある昔話をしていいかな?」
手の震えが収まった春樹はいつもの調子で私に話しかけてきた。

「いいよ。どんな話?」
「昔、ある男が居て…どうしても手に入れたい物があったんだ」
「うん」
「だけどね、その物を男が手にすると、男の周りにあるすべての大切な物が壊れてしまうかもしれないという代物だったんだ。
その男の周りにある物っていうのはね、男がコツコツと血の滲むような思いで集めてきたそれは大切な物だったんだ」
「うん」
「更にね、すべてを犠牲にしてまで欲しかった物自体、男のものになるとは限らないと分かっているんだ」
「その男の人が何もかもを失うリスクがあるのね」

「そうなんだ。でも、その男はすべて失ってもいいと思えるほど、手に入れたい物は魅力的で、大切で、かけがえの無いものなんだよ。
そして今、その男はかけがえの無い物を手に入れるか否かの最後の選択を迫られていたとする。
姉さんだったら、その男にどう助言をする?」

私は…
@「手に入れた方がいい」
A「手に入れない方がいい」
B「わからない」
266599:2007/11/08(木) 14:46:31 ID:bm6HtpSu
B「わからない」

私は少し悩んで答えた。

「その手に入れたい大切なものは男の人のものになるとは限らないんでしょ?」
「うん」
「男の人が手に入れる決断をして手に入れようとしたとして、自分のものにならなかった場合、その大切なものはどうなるの?壊れちゃうの?」
「……」
何も答えない春樹に、私は言葉を続ける。

「その辺がどうなるかによって、助言はかわるかな?」
「もし壊れるものだったら?」
「壊れるものだったら、手に入れない方をすすめるよ。
 すごく大切なものが、手に入らない上に壊れたら男の人だってすごく悲しくなるし、自分のせいで壊れてしまったって自分を責め続けることになるかもしれないじゃない」
「じゃ、壊れないものだったら?」
「それなら手に入れる努力はするべきじゃないかな?
 もし自分のものにならなくても、その大切なものは壊れないで他の誰かが大切にしてくれるかもしれない。
 自分のものにならないって悲しみはあると思うけど、努力はしたんだからあきらめもつくんじゃないかな?」
「夢なのに……姉さんはやっぱり姉さんなんだね」
どこか泣きそうな顔の春樹に私は続けた。

「でもさ、きっとその男の人は私がどんな助言をしても手に入れようとすると思うよ」
「え?」
春樹が驚いたように私を見る。

「だって手に入る希望があるんでしょ?
 最後の選択っていうことは、今までは手に入れるための努力をしてきてるってことじゃないの?」
「……」
黙りこんだ春樹から私は視線を外して、空を見上げる。
どんよりと曇った空が春樹の心情を表しているみたいだ。

「それってさ、手に入れるって最初から決めてたって事じゃないのかな?
 私はその男の人じゃないから分からないけどね」
そういって視線を春樹に戻すと、春樹が肩を震わせている。
どうやら笑っているようだ。さっきまでの雰囲気がすっかり消えている。
心なしか、雲も薄れてきたようだ。

@「どうしたの?」
A「私、何か変なこと言った?」
B「元気になった?」
267600:2007/11/08(木) 21:57:10 ID:???
A「私、何か変なこと言った?」

一生懸命考えて答えたのに、春樹に笑われてしまい、少々ガッカリしてしまった。

「ごめんごめん。……姉さんには敵わないと思っただけだよ。
そうだよね、その男の答えは最初から決まっていたじゃないか……」

笑いながら、晴れやかになっていく春樹の顔を見て、ホッと安心する。

「姉さん、ありがとう。
普段はボンヤリしていて頼りないけど、ここぞという時には必ず俺の欲しい答えを教えてくれるよね」

(ボンヤリって……ひどいなぁ。頼りないのは認めるけど)
褒められるのは嬉しいけれど、一言が余計で素直に喜べない。
春樹に文句を言おうとして、ようやく身動きが取れないことに気付く。
肩に載せられた春樹の手に力が篭っていたからだ。

春樹はそんな私を真っ直ぐ見つめたまま、ゆっくり口を開いた。

「……そんな姉さんだからこそ、好きになってしまったんだろうな」

「え!?」

心臓が大きく跳ねる。
体がカッと熱くなった。
反射的に、身を引くように春樹との距離を置く。

「わ、わ、私も……春樹のことが好きだよ。たった一人の弟だもんね」

声が上ずって、早口なってしまう。
私一人が酷く動揺してしまって、恥ずかしいことこの上ない。
春樹は手持ち無沙汰になってしまった手のひらを見つめると、少し困った顔をした後、優しく微笑んだ。

「……昔話に出てきた男が前途多難だということはよくわかったよ。
それに、夢でこんなに緊張するのなら、現実ではまだまだって事だよな……」

「? さっきの昔話の続き?」

私は春樹との距離を保ったまま尋ねる。
春樹はクスッと笑い、「内緒だよ」と呟いた。

私は
@「……春樹の話してくれた昔話、男の人が幸せになる結末だったらいいな」
A「ところで、さっき油断させることができるって言っていたけど……」
B「ところで、体は大丈夫なの?」
268601:2007/11/09(金) 11:22:41 ID:???
@「……春樹の話してくれた昔話、男の人が幸せになる結末だったらいいな」

「そう思う?」
「うん、今までの努力が報われるといいなって思う」
「……うん」
春樹に向かって笑いかけたとき、ふと身体が引っ張られるような感覚がした。
遠くで名前を呼ばれている感じがする。

(あ、そろそろ起きる時間かな)
「姉さん?」
「春樹、そろそろ起きる時間だよ。いい? くれぐれも無茶しないでね?」
「わかってるよ。まったく……なんで夢でまでなんでこんなに………」
春樹の呟きが徐々に遠くなり、ふっと景色が変わる。
どこまでも続く草原。

(あれ?)
相変わらず遠くでは私を呼ぶ声が聞こえているが、どういうわけかその方向へ向かおうとしても何かに邪魔をされているような、妙な抵抗感がある。
廻りを見渡しても見えるものは何も無く、見たことのない場所だった。

「ここ、どこ?」
「初めまして、大堂愛菜さん」
思わず呟いた瞬間、背後から話しかけられた。
振り向くと先ほどまで誰も居なかったはずの場所に男の人が立っている。

「だれ?」
記憶を探るが今まで会ったことは無いはずだ。
年のころは二十歳前後だろうか。

「とりあえずそれはどうでもいいことだと思うね」
「え?」
「本来の姿ではないからね」
「?」
どこか人をからかうような物言いに、ふと最初に会ったころの周防さんが重なる。

えっと……
@「ふざけないでください」
A「私になにか用ですか?」
B「……」
269602:2007/11/09(金) 18:21:26 ID:???
A「私になにか用ですか?」

私は警戒しながら、その男の人に話しかけた。

「彼の意識に飛んでみたら偶然鉢合わせしただけだよ。
君との会話が有益とも思えないが……まあ、いいだろう」

「………」
やはり少し周防さんと似ているようだ。
でも、眼鏡のせいか、繊細で神経質そうにも見える。
穏やかな薄い笑みの裏に、何か隠している気がする。

(この感じ……誰かに似ているけど……)

『お前らなんか必要ない!』
そう叫んで、突き刺す様な恨みの篭った視線がフッと脳裏によぎった。
(春樹だ……昔の春樹にも似ているんだ)

「大堂愛菜さん。君は今、幸せかい?」

唐突に尋ねられ、答えに窮していると、その男の人は可笑しくもなさそうに笑った。

「そうだよね。急には答えられるはずが無い。
大堂愛菜さん。私の考えではね、世の中に本当に幸せな人なんて居ないと思うのだよ」

「ど、どうして……そう思うんですか?」

「それはね、人はどこまでも欲深いからだよ。
愛されたい、金が欲しい、権力が欲しい……満たされても、それは一時的なものだ。
もっと欲しいと必ず不満を漏らす。では、大堂愛菜さん。なぜ人の欲が尽きないのかわかるかい?」

「……わかりません」

「それはね、人の心が貧しく空っぽだからだよ。一時的に満たされても、どこか空虚……君自身にも覚えがあるだろう?
では、大堂愛菜さん。なぜ人の心が貧しく空なのかわかるかい?」

「………わかりません」

「それはね、人があまりに愚かだからだ。驕り、妬み、欠点ばかりに意識が奪われてしまうからだよ。
では、大堂愛菜さん。なぜ人が愚かなのかわかるかい?」

まるで謎かけのように、数珠つなぎに質問を投げかけてくる。
私は明確な回答を一つも答えられないでいた。

「残念だよ、大堂愛菜さん。もう少し、聡明な娘かと思っていたんだがね。
おや? その手に握っている物は……サンストーンか?」

私はゆっくり手を開いて、石を確認する。
いつの間にか周防さんに渡すはずのサンストーンが握られていたようだ。
(どうしてこんな物が……)

「これは失礼した。かりそめの魂とはいえ、やはりあなたはすべてを見通しているということか。
本来の姿では無いただの器だと軽視していたが、話の分かる方のようだ」

男の人の態度がガラリと変化した。
私は呆気にとられたまま、石を見つめる。

@男の人に話しかける
A黙っている
B夢から醒めるように願う
270603:2007/11/10(土) 06:54:11 ID:???
@男の人に話しかける

分からない事だらけだけれど少し時間がたつと落ち着いてきた。
男の人に特に敵意を感じないことにとりあえず安心したのもある。
私は手に持っているサンストーンから男の人に視線を移して口を開いた。

「あなたは……いつもそんなことを考えているんですか?」
なぜサンストーンがいま手の中にあるのか、この人は誰なのか気になることは他にもあるけれど、私の頭の中を占めているのはこの一つだった。

「おや、この状況では少し予想外の質問だ」
男の人は私の質問には答えず少し楽しそうに口元に笑みを浮かべる。
なんとなく予想していたので、気にせずに口を開く。

「それはあなたが幸せじゃないからですか?」
「そうかもしれないね」
私の言葉に動じることもなく、男の人はあいまいに答える。

「あなたがどこまでも欲深い人間だから?」
「なるほど、そう来るのか。
 ……おや、あなたともう少し話をしたいところだが邪魔が入りそうだ。」
男の人がそういうと、ガラスにヒビが入るときのような音が響く。

「な、なに!?」
「では、私は帰るとしようか。 またいずれ」
私が辺りを見回している間に、男がそういった。
視線を男に戻したときにはすでにそこに男の姿はなく……。

「きゃっ」
突然風景がかわり体が落下する。
とっさに目を閉じて、この次に来るであろう衝撃にそなえる。
けれど突然何かに包まれたかと思うと、落下が止まった。

恐る恐る目を開くとそこには……
@周防さん
A冬馬先輩
B一郎君と修二君
271604:2007/11/10(土) 09:51:30 ID:???
A冬馬先輩

「………大丈夫ですか?」

いつも通りの淡々とした口調で冬馬先輩が尋ねてきた。
きっと、危険を感じて来てくれたのだろう。

「あ、うん。ありがとうございます」

そういい終えて、冬馬先輩に抱きかかえられていることに気付いた。
私自身、落下が怖かったのか先輩の首周りにしっかり抱きついている。

「本当に…大丈夫ですか?」

覗き込むようにして、冬馬先輩は更に顔を寄せてきた。
間近に端整な顔が迫ってくる。

(ち、近いよ! 冬馬先輩)

私は助けてもらって「離して」とも言えず、絡ませた腕をパッと放した。

「冬馬先輩、もう大丈夫なんだよね?」
「大丈夫とは言い切れません」
「どういう事?」

顔にこそ出さないけれど、好ましい状況ではないらしい。

冬馬先輩が辺りを見渡して、警戒の色を強める。
私もつられてあたりを見回してみた。

辺りは霧に包まれたように霞んでいて、周りを見渡してもぼんやりとした影を
うっすらと確認できる程度だ。

「おいおい……アイツから大切な器だと聞いて楽しみにしていたのに、青臭い普通の女じゃねぇか!
どんな美人かと思っていたが、ガッカリだぜ」

霧の向こうから、体つきのいい短髪の男性が現れた。
無骨で気さくそうな人のようだが、冬馬先輩は警戒を解こうとしない。

私は……
@黙って様子を見守る
A男性に話しかける
B冬馬先輩に話しかける
272605:2007/11/10(土) 23:36:43 ID:???
B冬馬先輩に話しかける

「冬馬先輩。あの人は……だれ?」
慎重に私を下ろす冬馬先輩に向って、話しかけた。

「わかりません。ですが、あの男……臨戦態勢に入っています。
あなたは僕の後ろを決して離れないでください」

そう言って、冬馬先輩は片手で私を庇うようにしながら一歩前に出た。

目の前の男性は不機嫌そうにボリボリと頭を掻きながら、私達をジロリと睨みつける。

「おい! そこの小娘」
「…………」
「お前だよ、そこの背に隠れてるお前! ここに女なんてお前以外に居ないだろ!」
指をさされて、ようやく私が呼ばれていることに気付く。

「はっ、はい!」
威勢よく呼ばれて、思わず大きな返事をしてしまった。

「俺が女子供に手を出すほど、外道に見えるか!?」

「い、いいえ!」
怒鳴るように尋ねられ、ブンブンと首を大きく振って否定する。

「怪我したくなけりゃ、どいてな。待っててやるからよ」
「いいんですか?」
「当たり前だ。とっとと行け」

(どうしよう。言うとおりにしていいのかな)
動いていいものか迷い、冬馬先輩に目で問いかける。

「行ってください。結界を張るには時間が足りません。他に気配を感じないし、罠とは考えにくいです。
僕の後ろ側、距離を取って隠れていてください。
なるべく体勢を低くすることを忘れないで」

男性を見つめたまま、冬馬先輩は小声で私に指示をした。

どうしようかな?
@距離を取って隠れる
A男性に話しかける
B冬馬先輩に話しかける
273606:2007/11/11(日) 15:56:09 ID:???
B冬馬先輩に話しかける

「でも…先輩。これは夢なんですよね?」

(夢だったら、怖がることないよ)

「確かに夢です。あなたの体はベッドで休んでいると思います」
「じゃあ……」

私と冬馬先輩の会話を黙って聞いていた男性が、フンと鼻で笑った。

「どこまでもメデタイ小娘だな。
いいか? ここで怪我すりゃ、肉体の方もただじゃすまねぇんだよ。
この夢は普通じゃねぇんだ」

「どういうこと?」

男性の言っていることが分からず、冬馬先輩を見る。

「ここは精神世界と呼ばれています。別次元の現実と思ってもらったら早いかもしれません。
あなたが以前、周防と迷い込んだ場所でもあります」

(見たことあると思ったら…)

「あの時、周防さんは私が願えば反映されるって言ってたよ。私の言霊で、争わずに済むかもしれない」
「それは無駄でしょう」
「どうして!?」
「ここが春樹さんの精神世界だからです」

(春樹の?)

「でも、春樹が居ないよ」
「精神世界は広大で、現実のそれと変わりありません。ですから、春樹さんは別の場所に居るのでしょう」

「そういうこった。納得してもらえたんなら、大人しく下がっていた方が身のためだぜ」
男性はニヤリと笑うと、構えをとる。
「行くぜ673!! 派手にやろうや」

その声を聞き、冬馬先輩は私を庇いながら更に一歩前に出た。

私は……
@距離を取って隠れる
A考える
Bなるべく遠くに逃げる
274607:2007/11/12(月) 11:58:13 ID:???
A考える

(春樹は居ないけれど春樹の精神世界……)
ふと、嫌な考えが浮かぶ。
私はあわてて二人の間に割って入った。

「ちょ、ちょっとまって!!!」
「なんだよいい加減じゃますんじゃねー」
「だめ!ここは春樹の精神世界なんでしょ!?そんな所で争って春樹に何かあったらどうるすのよ!」
「そんなこたぁ、俺には関係ねぇな」
「私にはあるのよ!だからここで争っちゃだめ!」
「ごちゃごちゃうるせーな、どけこら」
ぶんと、男が手を振ると男を中心に風が吹き荒れた。
ただの牽制だと分かるが、思わず悲鳴を上げてしまう。

「きゃっ」
顔の前で手を交差して、くるであろう風に備えるが一向に風は襲ってこない。
おそるおそる目を開くと、私の周りだけ円を描いたように草はピクリとも動いていなかった。

「な、なに? ……もしかして、冬馬先輩?」
後を振り返るが、冬馬先輩は風に煽られ片腕で目をかばうように立っている。

「なんだぁ?」
男も不思議そうに私を見た。
風はすぐに止み、冬馬先輩がどこか遠くを見るように視線をさまよわせ、呟いた。

「ここは、精神世界。この世界の主があなたを守っているんです」
「じゃあ、春樹が私を……?」
「おそらく」
春樹は私を守るといった約束を、ここでもちゃんと実行してくれているのだ。

「かなり強力な護りです。あなたはこの世界に居る限り安全でしょう」
「そうなの……? それじゃあ」
私はそういって、冬馬先輩のすぐ前に立つ。

「こうしていれば、冬馬先輩には手出しできないわよね?」
「……ったく」
男は小さく舌打ちをして、大げさに肩をすくめて見せた。

「なるほど……どうやら器は器ってことだな。本当に伝承通りでいやになるぜ」
「え?」
「アイツの言ったとおりになるのは癪だが仕方ねぇ」
男はそう言って、無造作に近づいてくる。
冬馬先輩が私の腕を引っ張り背中に隠すように立つ。

「なにもしやしねぇよ」
そう言って男は冬馬先輩の後に隠れるようにして立つ私を、上から覗き込むようにして見下ろす。

「俺はナンバー535だ。外では熊谷裕也って呼ばれてる。小娘、覚えとけよ」
そう言って笑う顔はさっきまで臨戦態勢に入っていた人とは思えないほどさわやかだ。

なんて返そう?
@「熊谷……さん?」
A「大堂愛菜です。覚えておいてください」
B「……」
275608:2007/11/12(月) 15:45:28 ID:???
A「大堂愛菜です。覚えておいてください」

「それに……小娘なんて名前じゃありませんから、私」
と付け加える。

生意気を言って、怒鳴られるだろうと覚悟していたのに、一向にその気配もない。
それどころか、熊谷さんの表情がさらに崩れた笑顔に変わっていく。

「ハハハッ…おもしれぇ。さっきは割って入ってくるし、お前、見た目より気が強いとみえるな。
気に入ったぜ、小娘」

「小娘じゃなく、大堂愛菜です…。それにこの人は、673じゃなくて御門冬馬って立派な名前があるんですから。
ね? 先輩」

「…………はい」

冬馬先輩はゆっくりと頷く。
そして、制服の胸ポケットを漁り、生徒手帳を取り出す。

「どうぞ」

「へぇ、本当だな……御門冬馬…3年2組か。ほらよ、返すぜ」

手渡された生徒手帳を黙って受け取り、冬馬先輩は黙ったまま胸ポケットに納めた。
クラス替えの後、初めて自己紹介をし合うような、少々照れくさい空気になっている。

「お前が大堂愛菜、こいつが御門冬馬、か。よし、憶えたぜ。
……って、どーして、 敵と和んでんだよ! 俺!! お前らも、なんとか言え!」

(ボケに乗っておいて、ツッコミに転じる……良いノリツッコミだ)

妙に感心していると、突然、グラリと世界が歪んだ。
地面が揺れ、立っていられなくなる。

「ど、どうしたの?」
「春樹さんの目覚めのようです」
「いいか! 今回は見逃してやったが、次は容赦しないからなー!!」

どこかで耳にしたような捨て台詞を聞いた後、眩い光に包まれる。
自分の意識が浮上するのを感じた。

(熊谷さん……悪い人には見えなかったな。
それよりも、気になるのは、あの眼鏡の人。
一体、誰なんだろう)

目覚めるとそこには……
@チハル
A隆
Bお継母さん
276609:2007/11/13(火) 11:47:10 ID:???
@チハル

「愛菜ちゃん?」
心配顔のチハルが私を覗き込んでいた。

「チハル? おはよう」
「大丈夫? よんでも起きないし、むかえに行こうと思ったのになんかに邪魔されるし、すごく心配したんだよ」
「大丈夫だよ。春樹の所に行ってたの」
「春樹?」
春樹の名前を出した途端、チハルの顔が曇る。
昨日、春樹を守れなかったことをチハルは気にしているのだ。

「うん、春樹元気そうだったよ。大丈夫」
「ほんとう?」
「うん、春樹は春樹がやりたいことのために自分で行ったんだって。
 だからチハルが気にすることは無いよ」
「うん……」
まだ、少し元気の無いチハルの頭を撫でて時計を見る。

「え!? うそっ」
思わず目をこすり、もう一度時計を見直す。
いつも起きる時間を20分も過ぎている。
ベッドから飛び降り、慌てて着替えて部屋を飛び出す。
洗面所へ直行し顔をあらってキッチンへ顔をだし、首を傾げる。

「あれ?」
お義母さんも隆も居なかった。
そういえばこの時間まで起こしにこないのもおかしい。
私はもう一度二階へ上がり、お義母さんの部屋を覗いた。

「居ない?」
(今日は早く仕事にいく日だったっけ?)
でも、春樹のこともあるし何も言わずに出て行くとは考えにくい。
今度は隆が使っている客間を覗く。

「あ……」
隆はまだ眠っているようだ。

とりあえず……
@チハルにお義母さんがもう出て行ったか聞く
A隆をたたき起こす
B朝食を準備する
277610:2007/11/13(火) 23:50:48 ID:???
@チハルにお義母さんがもう出て行ったか聞く

「お義母さんがもう出て行ったのか知ってる?」
慌しく用意する私の後ろを、ずっとついて来ているチハルに話しかけた。

「うん。とっても朝早く出て行ったよ」
「仕事かな……」

仕事だったらいいけれど、春樹を探しに行ったとなれば心配だ。
(携帯で連絡とってみようかな…)

「ねぇ、愛菜ちゃん」
考え込んでいる私の袖を、チハルが引っ張った。
「どうしたの?」
「これ、なんて書いてあるか教えて」
「その紙……お義母さんの字だ」
「居間のテーブルに置いてあったから、愛菜ちゃんに読んでもらおうと思って持ってたんだ。
お手紙だよね」

チハルから手紙を受け取り、目を通していく。

「ねぇ、愛菜ちゃん。なんて書いてあったの?」
「えーっとね。やっぱり、お義母さんは朝早くからお仕事に行ったみたい。帰りも遅くなりますって。
それと、元気だから心配しないでって書いてあるよ」
「ボク、昨日からママさんの事が大丈夫かなって思ってたけど、元気なんだね。よかったー」

チハルは胸を撫で下ろすように、フーッと息を吐いて笑った。

本当はもう一つ、チハルには言わなかったけれど、血の繋がった父親のところに行きたいと言う息子を止める権利までは
無いと思い至った事。最後に、私と父にまで迷惑をかけてしまった事への謝罪が添えられていた。

(お義母さん……)

いろいろ考えたいことはあったけれど、今は時間が無い。
とりあえず、急がなくては。

どうしよう?
@隆をたたき起こす
A朝食を準備する
Bやっぱり止めて、学校を休む
278611:2007/11/14(水) 13:29:19 ID:???
@隆をたたき起こす

「隆! 起きて遅刻するよ!」
部屋には入らず大きな声で叫んでみるが、隆はうるさそうに寝返りを打って向こうを向いてしまった。
起きる様子は無い。
隆の寝起きは良いほうだから、これで起きないのは珍しい。

「まったく……」
私はため息をついて隆の側まで歩いていって揺さぶる。

「隆、起きてってば!」
「……ん〜」
返事はするもののそれだけだ。
今度は軽く叩いてみる。

「返事だけじゃダメなんだって! 遅刻するって言ってる……わっ」
唐突に隆の手が伸びてきて私の手を掴んだ。
次の瞬間には力いっぱい引っ張られ、私はバランスを崩して隆の上に倒れ込む。
とっさに手をついて隆に全体重をかけてしまうのは阻止したが、多少衝撃があったはずなのに隆が目覚める様子は無い。

「愛菜ちゃん!」
「あー、チハル大丈夫……って、隆! 寝ぼけてないで起きろー!」
心配そうに駆け寄ってくるチハルに苦笑してみせる。
隆は倒れこんだ私を枕か何かと間違っているのか、しっかりと腕が巻きついて身動きが取れない。
じたばたともがいていると、チハルが隆の腕を外そうと隆の腕を引っ張り始めた。

「う〜〜〜」
顔を真っ赤にして引っ張っているが、子供の姿のチハルではびくともしない。

(隆って案外力が強いのね……)
妙な所で感心してから我に返る。

(あっ時間!)
「たーかーしーーーーー! おきろぉぉぉ」
もがきながら叫ぶが隆は目覚めない。

(なんでこんなに起きないのよ……、まさか組織が何か? 
 寝てるふりって訳じゃないわよね?)
少し心配になって隆の顔を覗き込む。

(ただ寝てるようにしか見えないけど……)

どうしよう?
@自力で起こす
Aチハルにどうにかしてもらう
Bこのままおとなしくしている
279612:2007/11/15(木) 01:52:54 ID:???
Aチハルにどうにかしてもらう

このままじゃ、遅刻確定だ。

(よーし、こうなったら……)

「チハル、ぬいぐるみに戻ってくれるかな」
「どうして?」
「起きない隆にお仕置きするの」
「うん、いいよー。えいっ」
チハルは軽い音を立ててぬいぐるみに戻った。

私は隆の顔の上にチハルを置く。
鼻と口を塞がれた隆は、もがき苦しみだした。

「んんんっ〜〜〜!!」

断末魔に近い呻きの後、隆はガバッと飛び起きた。

「きゃっ、びっくりしたぁ。やっと起きたね、遅刻するよ」

ようやく起きた隆に向って、私は言った。

「お前、俺を殺す気だっただろう」
「もしかして起きてた?」
「ちっ、ちがう。……少し寝ぼけてただけだ」
「どっちでもいいけど、早く用意してよ。間に合わなくなるよ」
そう言って、私はキッチンに向かった。

暫くして、身支度の終わった隆がキッチンにやってきた。
私は、真っ黒に焦げてしまったパンを渡す。
一瞬驚いていたけれど、昨日の約束どおり、隆は文句も言わずにそれを食べ出した。

「……しかしさっきは、危なかったな。違う意味で堕ちかけたぜ」
「二度寝するつもりだったの? ほんと、だらしないなぁ」
「お前のせいだよ!」

そんな他愛無い会話をしながら、手早く朝食を済ませた。
ぬいぐるみのチハルを鞄に入れると、家を出る。

ゆっくりしていると遅刻してしまいそうだ。

どうしようか?
@走る
A歩く
Bバスに乗る
280613:2007/11/15(木) 13:41:19 ID:???
@走る

「隆、走るよ!」
「おう!」
私と隆は並んで走り出す。
が、隆のほうが足が速く遅れ気味になってしまう。

「ほら、急げ」
隆が遅れ気味の私を振り返ると、私の手を引いて走り出した。

「ま、まってよ……は、早い」
「遅刻したいのか?」
(誰のせいだとおもってるの……)
文句を言いたい所だが、走っている上に息が切れて来たので、批難の視線を隆に向けた。
前を向いて走っている隆はそんな私の視線に気付いているのか居ないのか、腕時計を確認して小さく頷く。

「よし、間に合いそうだ。ほらがんばれ、もう少しだ」
「う、うん」
校門の前に近藤先生がたっているのが見える。
先生たちが持ち回りで遅刻する生徒を注意しているのだ。
時間を過ぎたら注意されることになる。

「おはようございます!」
「お、おはよう、ございます」
「おはよう」
ぎりぎりで遅刻にならなかった私たちに、近藤先生はあいさつを返してくる。

(あ、そういえば、春樹がしばらく休むって言わないと……)
「隆ちょっとまってて」
「ん?」
「先生!」
近藤先生のところへ戻り声を掛ける。

「ん?どうした?」
「あの、春樹なんですけど。しばらく学校を休みます」
「大堂くんが?なにかあったのか?」
先週末はボールを頭にぶつけてしまった事を思い出したのか、心配そうに近藤先生が尋ねてくる。

どうしよう……
@本当のことを言う
A嘘を言って乗り切る
B別の話題でごまかす
281名無しって呼んでいいか?:2007/11/16(金) 22:42:01 ID:???
450KBになったね
次スレ行く前に今後について話し合ったほうがいい?
282名無しって呼んでいいか?:2007/11/17(土) 16:52:48 ID:???
とりあえず前スレも残ってるし、こっちは書き込めなくなるギリギリまで続けて、話し合いは前スレの残りでやってもいいんじゃないかな?
283名無しって呼んでいいか?:2007/11/17(土) 22:22:57 ID:???
自分は282に賛成だな。
284614:2007/11/18(日) 22:21:28 ID:???
了解。このまま継続ね

A嘘を言って乗り切る

「えーっと…風邪なんです。熱があってしばらくお休みします」

うつむきながら、思いついたまま言った。

(やっぱり…嘘ってバレるよね)
そんな思いでチラリと近藤先生を見ると、なぜか納得したように頷いていた。

「そうか。以前の脳震盪とは関係ないんだな」
「はい。あれはすぐに病院に行って、大丈夫でしたから」
「……ところで君の方はもういいのか?」
なぜか近藤先生は私を心配するように言った。

「え?」
「昨日はずいぶん具合が悪そうだったからな。風邪だったのだろう?」
「あっ……。そ、そうなんです。私の風邪が弟にうつってしまったみたいで」
「体調管理はしっかりしないといけないな。大堂くんにはお大事にと伝えといてもらえるか」
「はい」

キーンコーン

ホームルームの予鈴が校内に鳴り響く。

「愛菜。早く行こうぜ」
隆が焦りながら、私を促した。

「そういう事で、先生よろしくお願いします」

(近藤先生が勘違いしてくれたお陰で助かったよ……)
私はペコリとお辞儀をすると隆と共に教室に急いだ。

――慌しく日中の授業が終わり、放課後になった。

机の中の教科書を鞄に詰めていると、ツンツンと背中をつつかれた。

「ねぇ、愛菜」
「どうしたの、香織ちゃん」
私は振り向いて、香織ちゃんを見る。
「今から予定ある?」
「香織ちゃん、文化祭の準備はいいの? プロデューサーだって張り切ってたじゃない」

鞄を持って、帰る気満々の香織ちゃんに向って言った。

「平気平気、もう当日を迎えるばっかりだもん。私のプロデュースに抜かりは無いのよ。
最近は全然遊べてなかったし、愛菜が暇なら、どっか寄っていこうよ」

どうしようかな?
@承諾する
A断る
B考える
285615:2007/11/19(月) 15:06:50 ID:???
B考える

唐突な誘いだけれど、こういうときの香織ちゃんの行動パターンは分かっている。

「どっかって言ってるけど行きたい所があるんじゃないの?」
「さすが愛菜、話が早いわ! 実はね、隣の駅前に新しい雑貨屋さんが出来たの。すごく評判良いんだから」
「へぇ?」
香織ちゃんのこういう情報にハズレは無い。
しかもこれだけ張り切っているということは、香織ちゃん自身は一度下見に行ったのだろう。

「愛菜もぜったに気にいって!」
「わかったわかった。でも、あんまり遅くなるわけにもいかない……」
「愛菜ちゃん!」
香織ちゃんと話をしていると、教室にひょっこりと修二くんが顔を覗かせた。
修二くんは私の顔を見つけると一瞬笑顔になり、その直後険しい顔に変わる。
クラスメイトの視線がそんな修二くんに集中している。
修二くんはその視線を気にする様子も無く、一直線にやってきた。

「どうしたの?」
いつもと違う様子に、私は首を傾げた。

「愛菜ちゃん、いつアイツに会ったんだ?」
「アイツ?」
「ナンバー535だよ」
「535って……熊谷さん?」
「熊谷……?外ではそう名乗ってるのかアイツは」
「でもどうして会った事がわかるの?」
私の言葉に、修二くんががっくりと肩を落とした。

「愛菜ちゃん……俺を誰だと思ってる? 忘れちゃったの?」
「もしかしてなんか見えてたり……?」
「愛菜……」
その時、いつの間にか修二君の後に冬馬先輩がたっていて私の名前を呼んだ。

「え!? 冬馬先輩?」
「げっ!」
それぞれの反応をする私と修二くんを気にした様子も無く、冬馬先輩はじっと私を見ている。
修二くんの存在は完全に黙殺しているのか一切感心を示さない。

「ちょっとちょっと、愛菜ってば一体どういうことぉ!? 修二くんは前からそうじゃないかなーとは思ってたけど、その先輩は誰!?」
香織ちゃんが小声ながら興奮気味に私に聞いてくる。
その間に、修二くんの機嫌が急降下していくのが目に見えて分かる。

えっと……
@香織ちゃんに冬馬先輩を紹介する
Aとりあえず場所を移す
B香織ちゃんと用事があるからと逃げる
286名無しって呼んでいいか?:2007/11/19(月) 15:09:50 ID:???
「愛菜もぜったに気にいって!」×
   ↓
「愛菜もぜったい気に入るって!」○

の間違です
287616:2007/11/19(月) 20:08:57 ID:???
B香織ちゃんと用事があるからと逃げる

以前のやりとりから、二人の仲が険悪なのは分かっている。
香織ちゃんがいる前で喧嘩されたら、言い訳が大変だ。

「私たち、これから大切な用事があるんだよ。二人ともごめんね」

そして、香織ちゃんの手を掴む。

「さ、行こ」
「えっ……いいの? ちょっ、愛菜ってばっ」
「じゃあね。二人ともバイバイ」

私は手を引きながら、教室のドアを開ける。
残される二人の様子を目の端で確認すると、呆気にとられている様子だ。

「ま、待ってよ! 愛菜ちゃん」
「……………」

(心配してくれてるんだろうけど……たまには自由にさせて)

廊下を抜け、玄関で香織ちゃんをようやく解放した。

「ごめんね、香織ちゃん」
「私はいいけど。それより、愛菜。あの二人って、アンタを迎えに来たんじゃないの?」
「どうだろう。よくわからないよ」
「よくわからないって……」

靴に履き替え、校門を出たところで香織ちゃんは「……ところで」と言いながら私を覗き込んだ。
「な、何?」
「さっき、冬馬先輩って言ってた人。あの先輩って、3年2組の転校生よね」
「転校生……そうなの?」
「名前を呼び捨てられるほど親しい仲なのに、知らなかったの?」
「うん」
「有名人じゃない。三年の春で受験も控えてるってのに突然転校してきたのよ。編入試験もすごい点数だったみたい」
「そうなんだ」

(全然知らなかったよ)

「でもね、全然しゃべらないし行動も変だから、みんな不気味がってるんですって。
怪しい部外者と話してる所を見かけたって人もいるし……あんまりいい噂は聞かないかも」

そう言いながら、香織ちゃんは私を見た。
次の瞬間、困った顔をしながら、慌てるように顔の前で両手を振ってみせる。

「あーっ、ごめん。アンタにそんな顔させるつもりは無かったの。本当に愛菜の知り合いを悪く言うつもりはないから」

香織ちゃんは少しだけ早足で前に出ると、スカートを翻しながら振り返る。

「アンタの事は信じてるんだけどね。ほら、愛菜って少しぼんやりしているでしょ。
変な虫が付かないか心配してるだけよ」

そう付け加えて、また歩き出した。

私は……
@「変な虫?」
A考える
B「ありがとう、香織ちゃん」
288616の人:2007/11/19(月) 22:43:02 ID:???
615で香織が御門を「誰?」と尋ねてるね
見落としてた・・・ゴメン
話が矛盾するので、書いた616は無しにして下さい><
289616改:2007/11/20(火) 08:48:28 ID:???
>>287のをちょっと変更すればいける気がするので、287をベースに書き直してみる

B香織ちゃんと用事があるからと逃げる

以前のやりとりから、二人の仲が険悪なのは分かっている。
香織ちゃんがいる前で喧嘩されたら、言い訳が大変だ。

「私たち、これから大切な用事があるんだよ。二人ともごめんね」
そして、香織ちゃんの手を掴む。

「さ、行こ」
「えっ……いいの? ちょっ、愛菜ってばっ」
「じゃあね。二人ともバイバイ」
私は手を引きながら、教室のドアを開ける。
残される二人の様子を目の端で確認すると、呆気にとられている様子だ。

「ま、待ってよ! 愛菜ちゃん」
「……………」
(心配してくれてるんだろうけど……たまには自由にさせて)
廊下を抜け、玄関で香織ちゃんをようやく解放した。

「ごめんね、香織ちゃん」
「私はいいけど。それより、愛菜。あの二人って、アンタを迎えに来たんじゃないの?」
「どうだろう。よくわからないよ」
「よくわからないって……」
靴に履き替え、校門を出たところで香織ちゃんは「……ところで」と言いながら私を覗き込んだ。

「な、何?」
「さっき、アンタが冬馬先輩って言ってた人。誰よ!?」
「え、えっと、御門冬馬先輩っていって……3年2組で……」
そこまで言って口ごもる。なんと言えばいいだろう?
よくよく考えれば、私は冬馬先輩のことをほとんど知らない。
困っていると、香織ちゃんがふと何かを思い出すように頬に手を当てた。

「御門……?3年2組の御門……先輩?……って、あの転校生の?」
「転校生……そうなの?」
「そうだよ。お互い名前で呼び合う仲なのに、知らなかったの?」
「うん」
「三年の間じゃ有名人みたいよ。三年の春で受験も控えてるってのに突然転校してきたのよ。
 編入試験もすごい点数だったみたい……そっか、あの人があの御門先輩なんだ」
「そうなんだ」
(全然知らなかったよ)

「でもね、全然しゃべらないし行動も変だから、みんな不気味がってるんですって。
怪しい部外者と話してる所を見かけたって人もいるし……あんまりいい噂は聞かないかも」
そう言いながら、香織ちゃんは私を見た。
次の瞬間、困った顔をしながら、慌てるように顔の前で両手を振ってみせる。

「あーっ、ごめん。アンタにそんな顔させるつもりは無かったの。本当に愛菜の知り合いを悪く言うつもりはないから」
香織ちゃんは少しだけ早足で前に出ると、スカートを翻しながら振り返る。

「アンタの事は信じてるんだけどね。ほら、愛菜って少しぼんやりしているでしょ。
変な虫が付かないか心配してるだけよ」
そう付け加えて、また歩き出した。

私は……
@「変な虫?」
A考える
B「ありがとう、香織ちゃん」
290617:2007/11/20(火) 11:23:37 ID:???
B「ありがとう、香織ちゃん」

ちょっと言っていることに疑問を感じないではないが、心配してくれているのは分かるのでお礼をいう。
すると香織ちゃんは歩き出した足を止めて、再度私を振り向くと両手を広げて抱きついてきた。

「もぉぉぉ! なんて可愛いの愛菜!」
「ちょ、ちょっと!?」
下校時間、校門の側で抱きつかれ慌てる。
同じく下校途中の生徒達が何事かと私たちを見ていくのが、恥ずかしい。
けれど香織ちゃんは気にする様子も無く、とりあえず私を解放すると今度は腕を絡めてきた。

「そんな可愛い愛菜に、おねーさんがご馳走しちゃう! 
 実はね雑貨屋さんもだけど、その近くにおいしいケーキ屋がもあるのよ」
「え? でも悪いよ……」
「いいのいいの、私がご馳走したい気分なんだから遠慮しない!
 さあ、そうと決まったら行くわよ!」
私に腕を絡めたまま香織ちゃんが歩き出す。
引っ張られるように歩きながら、ふと思った。

(もしかしてこれって……ケーキ屋さんで洗いざらい話してもらうから、覚悟しとけってことじゃ?)
しっかりと絡められた腕が、逃げられないぞと言っているような気がする。
どうやって言い訳しようと考えつつ、バス停までやってくる。
丁度来たバスに乗り込んだ所で、やっと香織ちゃんは私から手を離した。

「そういえば愛菜ってば、結局だれが本命なの?」
「え?」
「今日は修二くんと、御門先輩が迎えに来てたじゃない? 
 でも愛菜は一郎くんのことが気になってたみたいだし? 
 そういえば隆との喧嘩も和解したみたいだよね」
きらきらと目を輝かせる香織ちゃんに私は苦笑する。
私もこういう話は嫌いじゃないけれど、自分以外が対象の場合に限る。
それに、今はいろいろあってそういう事に気が回らないというのが正直な所だ。

「今はそういうこと考えられないというか……」
「ふぅん?」
香織ちゃんは私を探るように見て、ちょっと寂しそうに笑った。

「愛菜、最近私に隠し事してるでしょ?」
「え……?」
「気付いてないと思ってた? 香織様を甘く見ないで欲しいわね」
どうやら、ケーキ屋さんへのお誘いはこっちがメインのようだ。

なんて答えよう
@「さすが香織ちゃんだね」
A「隠し事なんて……」
B「……」
291618:2007/11/20(火) 13:51:37 ID:???
@「さすが香織ちゃんだね」

ずっと親友でいてくれた香織ちゃんには、隠し事はできないみたいだ。

「この香織様が相談に乗るって言っているのよ?まかせなさい」
ドンと、胸を叩きながら言った。

「…………」
私は何をどこから話していいものか迷った。
今、巻き込まれていることを話したとしても、非現実的すぎて香織ちゃんは困ってしまうだろう。
香織ちゃんは大好きだ。信用できるし、口も堅い。

(だけど……)

バスを降りて、ケーキ屋に入る。
美味しそうなケーキが運ばれてきても、私は口をつけず、一言も話せないでいた。

「話せないかー。まぁ、無理に話すことは無いわよ。愛菜が言いたくなったら相談してくれればいいから、ね?」
「あの……あのね…香織ちゃん」
「ん? いいよ、何でも言ってごらん。少しはスッキリするかもしれないし」
「実は春樹の事なんだけど……」

血の繋がった父親の元へ行ってしまった事について、私は堰を切ったように話し出した。
春樹の個人的な事情を話すことにはなるけれど、私にとって、やはり一番ショックだったからだ。
力や組織の事は伏せ、事実だけを伝える。
私が話している間、香織ちゃんは真剣に聞いてくれた。

「………じゃあ、春樹くんは苦手な父親の所に、自ら進んで行ったのね」
「うん、私のためなの。でも、はっきりした理由は教えてくれなくて……。だから、余計辛いんだ」
「え? 愛菜のためって……まさか……」
香織ちゃんはコーヒーを持ったまま固まっている。
「どうしたの? 」
「……ああ、ごめん。でも、そうじゃないかなとは思ってたのよね……」
「何を納得してるの?」
「アンタが他の男に興味ない訳ね。一郎くんも好きとは違う感じだったし。さすがに、私にも相談しにくい事だものね」
「??」
「春樹くんが彼氏だったとは……」
「え!?」

どうして春樹が彼氏だったなんて話に発展するのかわからず、声を上げる。

「いい、愛菜。春樹くんの決意は相当なものよ! アンタと真剣に結婚しようとしてるんだから」
「け、結婚!?」
「よく聞いて。春樹くんは戸籍を父方に移すために出て行ったんだと思うわ。アンタ達が血が繋がっていない以上、
戸籍が違えば他人だもの。今は多分、戸籍が一緒だから結婚はできないけれど、移籍すれば結婚だって出来るのよ。
春樹くんはいつか愛菜と結婚したくて、苗字を変えるために出て行ったのよ! 世間がどう言おうと、私はずっと愛菜の味方だからね!」

香織ちゃんは、ひしと私の手を取ると大きく頷いた。

@「誤解だよ!!」
A「………」
B「く、詳しいね、香織ちゃん」
292619:2007/11/21(水) 14:22:21 ID:???
@「誤解だよ!!」

私は慌てて否定する。

「どうして?愛菜の為に出て行ったんでしょ?それしか考えられないじゃない?」
「だ、だって……私、春樹のこと弟とおもってるし、春樹からも告白された覚えは無いよ」
まさか高村研究所のことを言うわけにもいかず、何とか誤解を解こうとする。
けれど香織ちゃんはあきれたように私を見た。

「なるほど……あんた自分でも無自覚なわけね?」
「な、なにが……?」
「春樹くんを好きって事」
(違うんだけどなぁ)
これ以上言っても平行線になりそうで、小さくため息をつく。

「あ! なにそのため息? 違うって言いたいの?」
「え? う、うん、まぁ」
けれど、香織ちゃんにはすぐにばれてしまう。

「はぁ、春樹くんも可愛そうに……」
やれやれと、いわんばかりに大きくため息をついた香織ちゃんにちょっとだけムッとする。

「ちょっと、なんでそうなるのよ」
「だって、そうでしょ? 愛菜の為に苦手な父親の所に行ったのに、当の愛菜はこの調子だもんねぇ」
「だから、根本的に香織ちゃんまちがってるから……」
思わず頭を抱えて唸った瞬間、視界が翳った。
テーブルの横に誰かが立った為だと気付き、顔を上げる。
同じく香織ちゃんも、テーブルの横に立つ人物に顔を向けた。

そこには……
@春樹
A周防さん
B熊谷さん
293620:2007/11/21(水) 16:02:54 ID:???
B熊谷さん

突然現れた熊谷さんを、私は呆然と見つめ続ける。

「どうしたの? おーい、愛菜。生きてる?」
意識の向こうから、香織ちゃんの声がする。
そこで、ようやく我に返った。

「なななな、なんで! どうして熊谷さんが!」
椅子から転げ落ちそうになりながら、私は叫ぶ。
ケーキ屋の客と従業員が一斉に振り返り、こちらを見た。

「熊谷さん? 何を言ってるのよ。大丈夫?」
香織ちゃんは苦笑しながら、小声で話しかけてくる。

「ち、違うよ……。ほらそこに男の人が……」
「ん? 誰も居ないじゃない」
(あれ……本当に居ない)

熊谷さんは忽然と姿を消していた。

(気のせい……だったのかな)

「それよりも、愛菜。あんた、本当に自覚が無い訳?」
香織ちゃんは納得いかないのか、なかなか食い下がろうとはしない。
熊谷さんのことは不安になりつつも、香織ちゃんとの会話を続けた。

「香織ちゃん。いい加減、深読みしすぎだよ。春樹は弟でしょ? やっぱり、あり得ないよ」
「えーっ、本当に? じゃあ、愛菜のために春樹くんが出て行った理由は何よ?」
香織ちゃんは身を乗り出して、さらに問い詰めてくる。

「多分…春樹が出て行った理由は……香織ちゃんが言ってた事と逆だと思うんだ」

下を向き、春樹の言葉の一つ一つを思い出しながら答える。

「逆? どういうことよ」
「春樹にとって今の家族は特別なものなんだよ。前が幸せとは言えなかった分、とても大切に思ってくれているの。
家族の一員である私を守るために、本当の『大堂春樹』になるために出て行ったんだよ」

春樹は『高村』という父親の呪縛から決別して、本当の『大堂春樹』になるケジメをつけに行った。
だから、子供の頃に約束してくれた『守る』も『家族を守る』ということで、私だけに向けられているものじゃないはずだ。

「うーん。その説明じゃ、いまいち理由はわからないけど……。でも、春樹くんなら平気でしょ。
愛菜が心配するのはわかるけど、しっかりしてる子だしさ。あんたにそんな顔をさせたくて出て行くような子じゃないものね。
ほらっ、笑顔笑顔」

(香織ちゃん……)

励ましの言葉を聞き、私が顔を上げたその時、香織ちゃんが突然机に突っ伏した。
そして、むくりと顔を上げる。

「よう、小娘! 昨夜はどーも。さっきは俺のことが見えてみたいだな」

私は……
@「熊谷さん…ですか?」
A「香織ちゃん!?」
B「友達に何をしたんですか!」
294名無しって呼んでいいか?:2007/11/21(水) 16:25:06 ID:???
またやったorz
>同じく香織ちゃんも、テーブルの横に立つ人物に顔を向けた。
って書いてあるうううぅぅ

620改を書き直すので↑は無しにしてください
295620改:2007/11/21(水) 17:00:02 ID:???
B熊谷さん

突然現れた熊谷さんを、私は呆然と見つめ続けた。

「あの……私たちに何か用ですか?」
香織ちゃんが眉をひそめながら、熊谷さんに話しかける。

「何でもねぇよ。話の途中に邪魔したなぁ、嬢ちゃんたち」
熊谷さんはそれだけ言うと、またどこかへ行ってしまった。

「今の人、誰? 見るからに怪しいわよね」
香織ちゃんは腹立たしげに言った。

「私の知り合いの人だよ」
「本当? あんな柄の悪そうな人と付き合っちゃダメよ。愛菜はぼんやりしてるんだから」
(何しに来たんだろう……)

「それよりも、あんた。本当に春樹くんのこと、自覚が無いの?」
香織ちゃんは納得いかないのか、さっきの話を蒸し返してくる。
熊谷さんのことは不安になりつつも、私は香織ちゃんに再び向き直った。

「香織ちゃん。いい加減、深読みしすぎだって。春樹は弟でしょ? やっぱり、あり得ないよ」
「えーっ、本当に? じゃあ、愛菜のために春樹くんが出て行った理由は何よ?」
香織ちゃんは身を乗り出して、さらに問い詰めてくる。

「多分…春樹が出て行った理由は……香織ちゃんが言ってた事と逆だと思うんだ」

下を向き、春樹の言葉の一つ一つを思い出しながら答える。

「逆? どういうことよ」
「春樹にとって、私たち家族は特別なんだよ。前の家庭が幸せとは言えなかった分、とても大切に思ってくれているの。
家族の一員である私を守るために、本当の『大堂春樹』になるために出て行ったんだよ」

春樹は『高村』という父親の呪縛から決別して、本当の『大堂春樹』になるケジメをつけに行った。
だから、子供の頃に約束してくれた『守る』も『家族を守る』ということで、私だけに向けられているものじゃないはずだ。

「うーん。その説明じゃ、いまいち理由はわからないけど……。でも、春樹くんなら平気でしょ。
愛菜が心配するのはわかるけど、しっかりしてる子だしさ。あんたにそんな顔をさせたくて出て行くような子じゃないものね。
ほらっ、笑顔笑顔」

(香織ちゃん……)

励ましの言葉を聞き、私が顔を上げたその時、香織ちゃんが突然机に突っ伏した。
そして、むくりと顔を上げる。

「よう、小娘! さっきはどーも。もう、香織ちゃんとの楽しい話は終わったのかい?」

私は……
@「熊谷……さん?」
A「香織ちゃん!?」
B「友達に何をしたんですか!」
296621:2007/11/21(水) 22:39:42 ID:???
@「熊谷……さん?」

私は香織ちゃんに向って、半信半疑のまま話しかけた。
「よく判ったなぁ。でも、実際は俺じゃねぇんだ。操っているだけだからよ」

(操るって……まさか)

「ファントム……まさか、香織ちゃんにファントムを……」
「おっ、知ってるなら話は早いぜ」
香織ちゃんはフンと鼻を鳴らして私を見る。
「こんな汚ねぇ手は好きじゃないが、命令だからなぁ」

(で、でも……前に隆に聞いたときは、すぐに操れないって言ってたけど)
もしかしたら、嘘を言っているかもしれない。黒い靄は見ていないし、話を鵜呑みにするのは危険すぎる。

「黒い靄を見ていないけど、どういう事ですか?」。
「さっき近づいたときに、仕込んだんだよ。無防備すぎて、拍子抜けだったけどな」
「ファントムは、操るのに一週間はかかるはずですよ」
「はぁ? そんなことは知ったこっちゃねぇな。その術者はよっぽどの能無しなんだろうよ。
俺のは即効性抜群の、極上品だ。なんなら、すぐにでもこの嬢ちゃんを殺ってもいいぜ」
香織ちゃんは指を横一線に動かし、首を切る真似をした。

聞けばすぐに答えが返ってくる。嘘をついている感じでも無い。おそらく、本当のことを言っている。

(私には祓う力は無い。……だけど)

「香織ちゃんを……友達をどうするつもりですか」

震える手を机の下に入れる。
このままじゃ、本当に香織ちゃんが殺されてしまう。

「お前が俺達の言うとおりにしてりゃ、この嬢ちゃんからファントムを外してやってもいい。
だが、大切な人質だからなぁ。すぐに外すのは無理だろうな」
「もし、ファントムを憑け続けられたら、友達はどうなってしまうの」
「生気を抜かれて、あの世行きだろうよ。可哀想だか、それも運命だ」
「そんなっ……」
「恨んでもいいぜ? こんな外道な真似してんだからよ」
「早く友達を解放してっ」
「つべこべ言ってんじゃねぇよ。俺達のところに来るのか? 来ないのか?」
「わ、私は……」

会話で注意をこちらに引きつけるのも限界だ。
チャンスは一度きり。失敗は許されない。
見つからないように、感づかれないように近づいてもらわなければならない。

(お願い……)

「なっ! 何んだぁ!?」
香織ちゃんの体が徐々に青白く光り始める。

「もう少しだよ、頑張って!」
「うううぅぅぅうう…」
低い呻き声が、香織ちゃんの喉から漏れる。
何事かと、ケーキ屋の店内がざわついた。

「小娘ぇ!お前……何を…」

@「答えを知りたければ、足元を見てみて」
A「答えを知りたければ、窓を見てみて」
B「答えを知りたければ、後ろを見てみて」
297622:2007/11/22(木) 20:15:39 ID:???
@「答えを知りたければ、足元を見てみて」

香織ちゃんの体を乗っ取っている熊谷さんが、足元に視線を落とす。
その足にしがみ付いているのは、青白く小さな塊だった。

「なっ……どういう…ことだ…」
「チハル……お願い! 香織ちゃんを助けて!!」
口を開けたままの学生鞄を握り締め、私は叫んだ。

「ぐっ……うわわぁぁ…」
テディベアのチハルが、より強い光を放ち始める。
香織ちゃんの体がグラッと揺れると、冷たい床の上に崩れ落ちた。

「香織ちゃん!」
私は急いで駆け寄り、その肩を抱き締める。
「だ、大丈夫? 香織ちゃんっ」
「たいした…もん…だよ。…だ…が……甘い!!」

香織ちゃんの手が勢いよく伸びて、私を捉えた。
喉元に、香織ちゃんの指がめり込む。
「きぁあああっ!!」
首筋に耐え難い激痛が走った。
(体が……)

全身の皮膚が粟立ち、視界が定まらない。
刺さるような痛みが体中を駆け抜ける。

「……へへへっ……ざまみろ…」
「……わ…たし…に何を…」

その問いに一言も答えないまま、香織ちゃんは薄笑いを浮べた。

「お客様!……一体、どうされましたか」
「と、友達が……貧…血で……」

駆けつけた店員に、息も絶え絶えに伝える。
店内が騒然としているはずなのに、何も見えない。
大声で叫ばれていたはずなのに、そのうち何も聞こえなくなった。

(私…死ぬの?)

ふと、そんな思いが頭をよぎる。
私はそのまま、ゆっくりと目を閉じた――。


「……愛…」
「……愛…菜…」

私を呼ぶ声が聞こえる。瞼が重くて、ひたすら眠い。

(これは現実なの? それとも、夢?)

どちらか分からない。
だけど、この声に導かれて、私がここまで来れた事だけはわかった。

その声とは……
@香織ちゃん
Aチハル
B冬馬先輩
298623:2007/11/25(日) 11:31:05 ID:???
B冬馬先輩

「……愛菜……どうか目を覚ましてください」
(冬馬先輩の声だ。そうだ……香織ちゃんは…)
私は痛みをこらえながら、張り付いたように重い瞼を開く。

「愛菜ぁ!……心配したんだからね」
目を開くと冬馬先輩ではなく、香織ちゃんが抱きついてきた。
(いつも通りの香織ちゃんだ。よかった…)
「何、びっくりしてるの。ここはもうケーキ屋じゃないわよ。自分の部屋だったから驚いたんでしょ?」
その言葉に視線を移して、ようやく自室だということに気付く。

「なぜか先輩が颯爽と現れて、愛菜をここまで運んでくれたのよ。ね、御門先輩」
香織ちゃんが後ろを振り向くと、壁際で冬馬先輩がじっと私を見ていた。

「でもねぇ、愛菜。倒れた私に驚いて、あんた自身が気絶しちゃうだなんて冗談にもならないわよ?
どうして貧血で倒れた私が、アンタの看病をしなくちゃいけないのよぉ。逆でしょ、普通」
香織ちゃんは呆れたように、ため息をついた。

(それより、香織ちゃん。体は平気なの?)

「……にしても、御門先輩のお陰で助かっちゃった。目が覚めたら、店員の人が『救急車〜!』って叫んでるんだもの。
愛菜は私の横で倒れてるしで、大騒ぎでしょ? あそこで、先輩が愛菜を運んでくれなかったら、もっと騒ぎになってたのよ」

(チハルはどこ? 熊谷さんは?)

「愛菜もお礼を言っといたら? あの場を収めたのもぜんぶ御門先輩だったしね。ほんと、噂よりずっといい人だよ」
興奮ぎみに話しかけてくる香織ちゃんの後ろ側、冬馬先輩がゆっくり近づいてきた。

「長谷川さん、あなたはもう大丈夫です。ですが、愛菜はとても疲れています。申し訳ありませんが、お引取りください」
「えっ?」
「お引取りください」
「で、でも……」
「お引取りください」
「………だけど、愛菜がまだ…」
「お引取りください」

香織ちゃんが何を言おうとしても、冬馬先輩は同じ言葉を繰り返し続ける。

「……それじゃ御門先輩、愛菜をよろしくお願いします。もし気分が悪そうだったら、一応、病院に連れて行ってあげて下さいね」
結局、強引なやり方で、香織ちゃんの方が追い出されてしまった。
どう言っていいのか分からず、私はベッドから冬馬先輩の様子を伺う。

ベッドに寝たままの私を覗き込むと、冬馬先輩は私の前髪を梳いた。
「……愛菜」
真っ直ぐな眼差しと、吐息ともつかない呼びかけが、上から降り注ぐ。
制服のリボンに手を掛けられると同時に、一つ、二つとボタンが外される。
その指先は動きを止めることなく、なぞるように私の首筋を滑った。

(と、冬馬…先輩…)

「……守れなかった。あなたの大切な声を……」
冬馬先輩の綺麗な指が、もう一度、私の喉に優しく触る。
よく見ると、その指先は青白い光を放っている。
少しずつ体が軽くなり、突き刺すような痛みが和らいでいった。

@(私の……声?)
A(一体、どういうこと…)
B(やっぱり、熊谷さんのあれが)
299624:2007/11/26(月) 16:46:40 ID:???
@(私の……声?)

不思議に思い冬馬先輩を見上げ問いを口に出そうとしたが、私の口から言葉が出ることは無かった。

(え?)
慌てて必死に声を出そうとするが、息が漏れる音しかでない。

「愛菜……」
表情はいつもの無表情で、けれど声は悲しみと後悔をにじませて冬馬先輩が私の喉をなで続ける。
そのおかげか痛みはもうほとんど消えていた。
声だけが相変わらず出ない。

(まさか、あの時の……?)
意識を失う前のことを思い出す。
熊谷さんに喉をつかまれた瞬間のあの激痛。
あれが原因としか思えない。
声を出すことが出来ない私と、元々多く話さない冬馬先輩の間に沈黙が横たわる。
と、部屋の外で足音が聞こえた。私が足音を聞き取った直後、部屋をノックされる。

「おい、愛菜?」
隆だった。
返事をしたくても、声を出すことが出来ない。
けれど隆は気にした様子も無く、言葉を続ける。

「玄関に靴があったが、春樹が戻ってきたのか?愛菜?開けるぞ」
だが、いつまでたっても返事がない事に業を煮やしたのか、軽い断りと共に、部屋の戸が開く。

「……あんたは」
顔を覗かせた隆は、驚いたように冬馬先輩を見た。
それから、冬馬先輩の手が私の首筋を撫でているのに気付くと、一気に真っ赤になる。

「おい!愛菜になにしてる!」
今にも飛び掛りそうな勢いで部屋の中に入ってくる。

(隆!冬馬先輩は私を助けてくれたんだよ!)
慌てて起き上がり、隆に事情を説明しようとするが声は相変わらずでない。

どうしよう……
@身振りで伝える
A筆談する
B冬馬先輩に助けを求める
300625:2007/11/26(月) 22:32:27 ID:???
B冬馬先輩に助けを求める

口を開いて、「冬馬先輩」と呼びかけてみた。
すると、やはり喉からは細い息しか出てこなかった。

(そうだ。声が出ないんだった…)
ショックのあまり、手で口許を押さえている間にも、隆は冬馬先輩を睨みつけている。
だけど、冬馬先輩は隆のことなど意に介さず、私を見つめ続けていた。

「今はしゃべらない方がいいでしょう。僕は一度、美波と連絡をとってみます」

冬馬先輩はそれだけ言うと、ゆっくり立ち上がる。
その手には、私の学生鞄が握られていた。

「さきほど家に入る際、あなたの持ち物を勝手に使わせてもらいました。カギはここに置いておきます。
こちらはぬいぐるみです」

勉強机の上に、チハルが置かれる。
チハルはぴくりとも動かないまま、机に転がった。

(チハル……!ねぇ、二人とも喧嘩してる場合じゃないよ。チハルが動いてないじゃない)
私は身振りで伝えようとするけれど、二人はまったく気付いてくれない。

「おい。 あんた、聞いてるのかよ!」

冬馬先輩はその言葉を聞き、ようやく机から隆へ視線が移す。
「隆さん、僕は一度失礼させていただきます。愛菜をよろしくお願いします」

冬馬先輩はそれだけ言うと、ドアに向って歩き出した。
しかし当然のように、怒りを露わにした隆に阻まれる。

「ちょっと待てよ……」
「隆さん、冷静に聞いてください。愛菜は敵に襲われ、声が出なくなってしまいました。
身体にもダメージがありますが、精神的に相当なショックを受けているようです。
僕より、あなたの方が心の支えとなるには適役でしょう。頼みます」
「声……?おい、愛菜……声が出ないのか? あいつの言っていることは本当かよ」

隆は信じられないという顔で私に近づくと、心配そうに覗き込んできた。
私は乱れた襟を押さえながら、『うん』と頷く。
その後ろで、バタリとドアが閉まった。

私は……
@紙とペンを取る
Aチハルを取る
B携帯を取る
301626:2007/11/27(火) 17:24:44 ID:???
Aチハルを取る

私は動かないチハルを抱き上げて覗き込む。

(チハル、どうしたの?チハル)
軽くチハルをゆすってみるが何の反応も無い。

「ん、チハルどうかしたのか?貸してみろ?」
手を伸ばしてきた隆に、チハルを託して成り行きを見守る。
隆はじっとチハルを見て集中しているみたいだ。

「……なんか力を使い切ったって感じだな。今は回復の為に寝てる。しばらくは起きてこないだろう」
(じゃあ、チハルは寝てるだけなんだね?)
ちゃんと確認したいが、声が出ずもどかしい。
けれど、そこは付き合いの長い隆だった。

「心配しなくても回復したら起きてくるさ。
 愛菜の側に居たほうが回復が早いんじゃないのか?そんな事を前言ってただろ?」
私を安心させるように笑って、隆はチハルを私に返してきた。
私はチハルを受け取ってそっと抱きしめる。

(無理させちゃってごめんね)
「……ところで、声ってまったくでないのか?」
しばらくそんな私を黙ってみていた隆だったが、心配そうに尋ねてきた。
私はただうなずく。

「そうか、あいつ美波さんに連絡するって言ってたな。あの人ならきっと治してくれるさ。
 ……ところで腹へらね?今日は俺が作ってやるよ。出来たら呼ぶからそれまで休んでろ」
そう言って隆は部屋を出て行った。

私は……
@隆を手伝う
A部屋で休む
B香織ちゃんにメールする
302627:2007/11/27(火) 21:42:10 ID:???
B香織ちゃんにメールする

(腹減ったって……相変わらず食いしん坊だな。まぁ、隆らしいけど)
出て行ったドアを見つめて、私は思った。

(あっ、そうだ。香織ちゃんに連絡しておこう)

心配させたまま帰してしまったから、私からメールを送ることにした。
冬馬先輩の追い出し方は強引だったし、体調が良くなった事も伝えておきたかった。

『香織ちゃん、身体は平気だった? 私はもう大丈夫だよ。
さっきは、追い出すような帰し方をさせちゃってごめんね。
冬馬先輩の言い方はきつかっただろうけど、悪気は無いんだ。
今度、また雑貨屋さんに連れてってね』

送信、そしてすぐに返信が入る。

『よかったよー。先輩の言い方に気押されて思わず帰っちゃったから、心配だったんだ。
愛菜と先輩を二人きりにさせてよかったのかなーってね。今度、ゆっくり本命について
追求させてもらうから、覚悟しておいてよ。また明日、おやすみー』

私はメールを閉じる。
絵文字や顔文字が多いところが、相変わらず香織ちゃんっぽい。

(さて、身体も大丈夫そうだし……隆を手伝いに行こうかな)

私は、チハルと大学ノート、ペンを持ってキッチンに下りる。
キッチンでは、隆が一生懸命に料理を作っていた。

「おっ、愛菜か。休んでろって言ったのに、どうして大人しく寝てないんだよ」
隆は私にお玉を向けながら、怒ってきた。

『もう平気。なにか、手伝うよ』
ノートに書いて、隆に見せる。
そして、隆が作っているフライパンの中身を覗き込んだ。

(チャーハンね。あれ……他に作っている様子が無いけど…)

『チャーハンだけ?』
隆は私に指摘されると、不機嫌な顔になった。
「そーだよ。文句があるなら食わなくてもいいからな」

@『もしかして、チャーハンしか作れないとか?』
A『美味しそうだね』
B『何、怒ってんの?』
303628:2007/11/28(水) 17:07:02 ID:???
B『何、怒ってんの?』

首を傾げつつノートに書く。
それを見た隆は私から視線をフライパンに戻すと、ぶっきらぼうに「なんでもない」と言ってチャーハン作りに戻る。

(なんなのよ?)
釈然としないものを感じながらも、チャーハンだけでは物足りないのでスープでも作ろうと鍋を取り出す。
それを見た隆が再度私に顔を向けた。

「……なんか作るのか?」
『スープでもつくろうとおもって』
「インスタントでいいだろ。今自分の状態が普通じゃないってわかってるんだろ?少しはおとなしくしてろよ」
隆はそういいながら私が持っている鍋を取り上げる。
字を書くのも面倒で、私は抗議の意味を込めて取り上げられた鍋に手を伸ばした。
けれど隆はすばやく空いている場所に鍋をおくと、軽く私の背を押す。

「向こう行ってろよ。急に具合が悪くなったりしたらどうするんだ?」
『大丈夫だって』
「いいから! 何かあってからじゃ遅いんだ」
強く言われて、私はしぶしぶ頷くとリビングへと向かった。

(隆が心配しているのは分かるけれど、自分の身体だ。大丈夫かどうかは自分が一番分かるのに……)
内心で文句を言いながら、特に何もすることが無いのでソファにすわりテレビにスイッチを入れる。
新聞を見る気にもなれず順番にチャンネルを変えていくと、ふと一つの番組で手が止まった。

その番組は……
@ニュース系
A生放送系
B史伝系
304629:2007/11/28(水) 22:39:40 ID:???
B史伝系

普段ならすぐにチャンネルを変えてしまうような教育番組だった。
けれど、「鏡」という言葉を聞き、少し興味が湧く。

「……三種の神器とは、鏡、剣、勾玉で歴代天皇に伝えらている宝物です。
これらの宝物は皇位継承の証となります。
現在、鏡と剣はそれぞれ別々の神社でご神体として安置されていますが、
勾玉は宮中御所に安置されています。
さて、三種の神器の由来は神代まで遡り……」

アナウンサーの言葉とともに、緑の濃い、大きな神社が映し出されている。

(鏡って……たしか…)
以前、一郎くんが「割れた鏡」と言ってのを思い出す。
もしかして、このテレビの話と関係があるのだろうか。

テレビの方は、すでに三種の神器の由来について話題が移っていた。

「天照大神の岩戸隠れの際、用いられたとされるのは鏡と勾玉です。
この二種は、神々の手により作られたと伝えられています。
一方、剣は天照大神の弟である須佐之男命がヤマタノオロチを打ち倒した時、
その尾から剣が現れたとされています」

(うーん。観ててもよくわからないな)

「おーい、愛菜。夕食ができたぞー」
隆の呼び声でキッチンまで行くと、二組の山盛りチャーハンとインスタントで作った卵スープが用意されていた。

「ほら、座れよ。腹減ったな、早く食おうぜ」
私は隆の向かいの席につくと、チハルを隣の席に置いて、手を合わせた。
けれど隆を見てみると、すでにチャーハンを勢いよく口の中に入れている。
そんなに急がなくてもいいのにと思いながら、私はいつものペースで食べ始めた。

「なんだか懐かしいよなぁ」
あらかた食べ終えた隆が、私の様子を見ながら呟いた。
『何が懐かしいの?』
「愛菜がさ、そのチハルを連れて晩飯食ってるのを…久しぶりに見たからな」
『この間だって、チハルと一緒に食べてたでしょ?』
私がノートを見せると、隆は「違う違う」と首を振った。

「ほら、小さかった時のお前だよ。まだチハルを「くまちゃん」って言って肌身離さず持っていただろ?
ぬいぐるみなのに無理やり食わせようとしてさ、汚したこともあったよな」

お母さんが居なくなってしばらくの間、私はチハルを何があっても離さない時期があった。
小学校にまで連れて行くと我侭を言う私に、父だけじゃなく、隆やそのご両親にまで随分迷惑をかけてしまったな、と思い返す。

@『よく憶えてるね、隆』
A『そんな事、憶えてなくてもいいよ』
B『ところで、隆。三種の神器って知ってる?』
305630:2007/11/29(木) 15:49:16 ID:???
B『ところで、隆。三種の神器って知ってる?』

昔のことを蒸し返されてなんとなく恥ずかしくなり、先ほどテレビで見た話を振ってみる。

「三種の神器?あー、そういや学校で習ったな。たしか、テレビ、洗濯機……掃除機?いや冷蔵庫か」
隆の言葉で、そういえば以前に学校で習ったことを思い出す。
たしかにそれも三種の神器と呼ばれてたけれど……。

『そっちじゃなくて、鏡と険と勾玉のほうだよ』
ノートを見た隆が頷いた。

「あー、そっちか。知ってるというか、まあ詳しくは知らないけど名前くらいはな。剣て草薙剣のことだろ?八岐大蛇を退治したら尾からでてきたっていう」
私は頷いて、ノートにペンを走らせる。

『じゃあ鏡のことは知ってる?』
「うーん鏡と勾玉のことはわからないな」
(そっか、知らないんだ……)
隆が知らないとすると、誰に聞けばいいだろう?
一郎くんは詳しそうだけど教えてくれるか分からない。
修二くんも案外詳しいかもしれないけれど、なんとなく交換条件にされそうな気がする。

(春樹ならすぐに教えてくれると思うんだけどなぁ)
「急にそんな事聞き出してどうしたんだ?」
考え込んでいると、不意に隆が尋ねてきた。
確かに唐突な話題だったかもしれない。けれど、なんとなく気になっただけなので理由があったわけではない。

『さっきテレビでやってたの。ただそれだけなんだけどね』
「ふーん?」
納得したのかしないのか、隆はあいまいに相槌を打って再度チャーハンを食べ始める。
それからふと、思い出したかのように顔を上げる。

「近藤先生に聞いたらどうだ?」
隆の口から思いがけない名前が出て首を傾げる。

「なに変な顔してるんだよ。近藤先生は歴史の先生だろ?図書委員の顧問もしてるし、結構詳しいんじゃないか?」
言われて思い出す。
直接授業を受けたことが無いからピンとこなかったが、確かに近藤先生は歴史を教えている。

うーん……
@『そこまでして知りたいわけじゃないから』
A『そうだね、聞いてみるよ』
B『近藤先生と話すのって緊張しない?』
306631:2007/11/29(木) 18:07:51 ID:???
B『近藤先生と話すのって緊張しない?』

差し出したノートを見て、隆が首を傾げる。
「何、びびってんだよ。そりゃ確かに少し恐いけど、聞けないほどじゃないだろ?」

(まぁ、そうだけど……)

近藤先生は厳しいけれど、いい先生だというのは知ってる。
昨日は茶道室まで連れてってくれたし、親切にしてもらった。
でも、なんというか威厳のある風貌に圧倒されてしまい、少し苦手なのだ。

『そうだね。明日、聞いてみようかな』
「もし不安なら、俺もついてってやるよ」
『うん、助かるよ』
「それと、チハルが起きたら一度聞いてみたほうがいいかもな。
鏡について何か思い出せそうだったし、手がかりになるかもしれないぜ」
私は、横に座らせたチハルを撫でながら頷いた。

夕食が終わり、私が片付けをしようと食器を持って立ち上がる。
すると、また隆がやってきて横から食器を取り上げられてしまった。

「まだ顔色が悪いし、無理すんなって言ってるだろ……ったく」
そう言われて、またしてもキッチンから追い出されてしまった。
仕方がないので、お風呂の用意をしに行く。
お風呂の用意が終わって、リビングに戻ってくると隆が自分の持ってきたスポーツバッグを漁っていた。

『どうしたの?』
「あー……んー」
隆にしては珍しく口ごもる。

『お腹でも痛くなった?』
「なんでそうなるんだよ!?」
『胃腸薬でも探してるのかと思って。救急箱、出す?』
「……違うって。なぁ、おばさんって今日、いつ帰ってくるんだ?」
隆の問いに私はペンを走らせた。
『かなり遅くなると思うよ。先に寝ていてくださいって手紙に書いてあったから』
「そうか……」
『ホント、どうしたの?』
「なんだかなー。ほら、今までは春樹が居たからよかったけど、よく考えてみたら二人きりじゃないか、俺達。
やっぱり俺の家に戻ろうかと思ったんだよ」
漁る手を止めることなく、隆は呟く。

(さっきから、妙に優しくしてくれてると思ったら……そんなこと気にしてたのね)

@笑い飛ばす
A『意識しすぎだよ』
B『私一人じゃ、不安だよ』
307632:2007/12/01(土) 02:26:33 ID:???
B『私一人じゃ、不安だよ』

熊谷さんにやられた身体の痛みを思い出し、思わず身がすくんでしまう。
あれは、生まれて初めて体感する恐怖だった。

「そうか。今日、お前は組織から襲われたんだったな。確かに不安か……。そりゃ、そばに居てやらなくちゃな」

私は『うん』と頷いて、隆を見る。
隆はスポーツバッグを閉めると、私に向き直りながら口を開いた。

「そういや、襲われた時はどんな状況だったんだ? 思い出すのが恐かったらいいけど、よかったら教えてくれよ」

私は言われた通り、ケーキ屋の出来事を簡単にノートに書いていく。
言葉で説明するより簡潔に書いたつもりだったけれど、2ページに及んでしまった。

「ふーん。熊谷って男のミストは、すぐ人に取り憑く事が出来るのか。それはちょっと面倒だな。
憑く前だと簡単に消せるけど、憑いてしまうと、かなりの力を使わないと消滅できないからな」

説明こそしなかったけれど、隆のことを能無しの術者と言った熊谷さんは、きっと組織の中でも相当の実力者なのだろう。
もし、チハルが居なかったら香織ちゃんも私もどうなっていたか分からない。

「しかし、そんな状況でよく長谷川も無事だったよな。後ここだ、チハルにお願いしたって書いてるけど、そんな暇なかっただろう。
どうやったんだ?」
隆は書いてある文字を指差し、不思議そうに尋ねてくる。

『チハルって人の感情や思っている事が少し分かるみたいでしょ? だから、
心の中で「ぬいぐるみのまま、黒いザラッとしてるのをやっつけて」って、お願いしながらチハルの入ってた鞄を開けたんだよ。
机の下なら、小さなぬいぐるみが動いても、気付かれずに済むかなーと思って』

「しっかし、お前って意外と神経図太いんだな。俺はてっきり、何も出来ずにオロオロするもんだと思ってたぜ」
『それって、褒めてるの? けなしてるの?』

簡単なイラストで、怒った顔を描いてみせる。それを見た隆が笑って答えた。

「褒めてんだよ。いや、見直したってところかな」
『とにかく、香織ちゃんを助けなきゃと思って必死だったんだよ。もう手は震えるし、すごく恐かったんだから』

「だけどなぁ、まだ長谷川からミストを完全に外してないのに…倒れたからって無防備に近づくのはただのアホだぞ」

(たしかに、反論できない……)
そんな風に考えていると、持っていたペンを突然、隆に取り上げられてしまった。
そして、汚い字で『お前らしいけど』と書いて、すぐにその字を塗りつぶしてしまった。

@『どうして塗りつぶすの?』
A『ありがと、隆』
B『ところで…声のこと、学校でどう誤魔化せばいいと思う?』
308633:2007/12/01(土) 22:19:30 ID:???
@『どうして塗りつぶすの?』

隆が塗りつぶした字を透かして見るけど、もう何が書いてあるか読めなくなっている。
そんな私の様子を見ていた隆が、ペンを突き出してきた。

「お前が図に乗るといけないからな」
『乗らないよ』
私は受け取ったペンを走らせて訴える。
「分かってんのか? どう考えても、今回は運が良かっただけだぞ」

(確かに……)

「とにかく、今回みたいな行動をしていたら、次は声だけじゃ済まない。
組織も本腰を入れてきたみたいだし、今までみたいな訳にはいかなくなってきたって事だ」

(今までみたいにはいかない、か)

ふと、放送室で会話を盗み聞きした、一郎君と水野先生の会話を思い出す。
あの時、今までは一郎君と修二君が組織を牽制していたように聞こえた。
それが反故になった以上、何を仕掛けられてもおかしくない事態なのだろう。

『一郎君と修二君って何者なんだろう…』
「俺が知るかよ。お前の方が詳しいんじゃないのか」
『うん。まぁ』
「宗像兄弟が何かを隠しているのは間違いないけどな」
『だけど、二人はきっと教えてくれないだろうし……。もう少し、情報があればいいんだけどなぁ』
「あの美波って人なら教えてくれそうじゃないか?」
『多分、美波さん……あと周防さんも、二人とも知らないと思う。修二君とは初対面っぽかったんだ』
「それなら、冬馬先輩ってヤツはどうだ?」
『顔見知り程度らしいよ。詳しくは知らないんじゃないかな』
「水野じゃ、敵の懐に入っていくようなもんだしな……」

私たちが考えているだけでは、真相はわかりそうにない。
腕を組んだり、頭を抱えてみても、やっぱり良い考えは出てこなかった。

「なぁ」
隆が突然、私に話しかけてきた。
『何?』
「俺の中のヤツなら知ってるかもしれないな」
『武君のこと?』
「今も俺の中に居るらしいけどな。その武ってヤツ、手紙で色々知ってそうな書き方だったからさ」
『でも……自由に出てこれないって言ってたよ』
「試したことはあるのか? もしかしたら、お前が頼めば出てくるかもしれないぜ」
隆は冗談とも、本気ともつかない言い方をした。

「さて、風呂に入ってくるか」
隆が歩き出す後姿を見ながら、私は考える。

考えた事とは……
@武君に会えるのかどうか
A一郎君と修二君の事
B今日の出来事
309634:2007/12/05(水) 23:36:24 ID:???
@武君に会えるのかどうか

以前は隆の意識がなくなったから出てくることができたといっていた。
もしかしたら隆が寝ているときならば武君と話ができるのかもしれない。

(確か武君が出ているときは……隆の負担になるんだよね?)
隆と武君のことは他には事例がないことのようだし、どの程度の負担がかかるのかすら分からない。
以前は隆が力を使い果たしていて、武君も隆に負担がかかるから長い時間は出ていられないといっていた。
けれど今の状態の隆なら、もしかしたらあまり負担にならないのかもしれない。

(でも、隆に何かあったら……)
武君を呼び出すことで、隆が倒れるようなことになったら大変だ。

「ん?愛菜どうした?」
結構長い時間考え込んでいたようだ。
隆がタオルで頭を拭きながらリビングに入ってくる。

「風呂空いたけど、体調悪いなら無理しないで寝ろよ?」
「あ、うん……」
「どうしたんだよ?」

えっと……
@「武君と話をしてみようとおもって」
A「なんでもない、お風呂入ってくるね」
B「なんでもない、今日はもう寝るね」
310635:2007/12/07(金) 00:40:01 ID:???
@「武君と話をしてみようとおもって」

私はさっきまで考えていた事を隆に伝えた。

「いいんじゃないのか? 俺も会ってみたいけど、無理だしなぁ」
隆は意外なほど軽い口調で呟くと、ソファーに座った。
『でも、隆の身体に負担があったら大変でしょ?』
「大丈夫だと思うぞ。最近、力を使っても疲れないしな」
『そうなの?』
「どうしてだか分からないけどさ。八百万の神に働きかける能力の成功率も上がっているみたいなんだ。
以前、この家に願っただろ? あれだって、昔の俺じゃとても成功しなかったと思うぜ」
(隆の力は強くなっているんだ…。でも、なぜ?)

考え込みながら、ふと隆を見ると、大きなあくびをしていた。
そして、もう一度出たあくびをかみ殺すと、私に向かって話しかけてきた。

「俺の中のヤツに会うのって、今日するのか」
『うん。そのつもりだけど』
「もし会えたら、一つ言っといて欲しい事があるんだ」
『何?』
「その……一応、礼を言っといてくれよ。俺から頼んだ訳じゃないが、その武ってヤツの身体で助かったみたいだしな」
『ありがとうって言っておけばいいよね』
「ああ……まぁ、そんな感じでいいから」

隆はぶっきらぼうに言うと、逃げるように立ち上がった。

『もう、寝るの?』
私は出て行こうとする隆にノートを掲げて見せた。
「そうだよ。じゃあな」
そして、落ち着き無く客間へと消えてしまった。

(やっぱり、隆って照れ屋だよなぁ。素直じゃないとも言うけど……)

もしかしたら手紙で知った時から、武くんにお礼が言いたかったのかもしれない。
昔から、改まって言う時の「ありがとう」や「ごめんなさい」はこんな態度だった。

(にしても、逃げるように出て行くほどの事でもないと思うけど)

そんな事を考えつつ、いつもより長めのお風呂を終える。
髪を乾かしてから、私はリビングに戻った。

@さっそく客間に行ってみる
Aもう少し後にする
Bやっぱり止める
311636:2007/12/12(水) 18:20:36 ID:???
Aもう少し後にする

なんとなくすぐに行くのも躊躇われて、私はソファに座りテレビをつけた。
丁度明日の天気予報が流れてくる。

(明日は雨が振る確立50%か。そういえば雨って久しぶり?)
ここしばらく曇ることはあっても雨が降った記憶が無い。

(でも、文化祭の準備してるから降らないで欲しいなあ)
大きなものを作るときは一時的にグラウンドを使ったりするし、足りないものを買出しに行くときも雨が降っていたら大変だ。
そんな事を思いながら、テレビを見ているとリビングの戸が開く音がした。
振り向くと、隆が立っている?

(あれ?もう寝たんじゃなかったの?)
不思議に思いながら、紙とペンを取る。

『どうしたの?』
「あなたが僕に会いたいと言っていたので、隆が寝たところで身体を借りました」
『え?じゃあ、武くん?』
「はい」
頷く武くんに私は思う。

(隆の行動って、武君に筒抜けなんじゃないの……。てことは隆が言ってたお礼も知ってるってことよね?)
でも、一応頼まれたことだし、隆がお礼を言っていたことを書いてみせる。
武くんはそれを見て小さく微笑むと、私の向かいのソファーに座った。

「隆が僕の存在を知ってから、感謝されているのは知っていました。
 僕は彼でもあるんですから、感謝されるというのは少し変な感じもしますね」
『そう?でも、隆と武くんは別の人格だし変じゃないと思うな』
「そうですか?でも、僕こそ隆に感謝してるんですよ。
 隆が事故にあってくれたから、僕はあの研究所から出ることが出来た……。
 それで僕に聞きたいことがあるんですよね?」
(あ、そうだった)

えーっと……
@一郎くんと修二くんについて
A鏡のことについて
B熊谷さんのことについて
312名無しって呼んでいいか?:2007/12/12(水) 21:14:09 ID:???
次スレ
選択肢を選んで1000レス目でED 3
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/ggirl/1197461386/
313名無しって呼んでいいか?
新スレ乙!
wikiに追加しました。

以前はなしていた通り、新スレになったので人気投票2回目のページもつくりました。
前と違ってコメント入れられないけれど、別枠でもいいからコメント入れたいって人はいる?
欲しい人が居るなら、同じページにコメント入れられるようにしてみる。