テイルズオブバトルロワイアル2nd Part12

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1名無しさん@お腹いっぱい。
テイルズシリーズのキャラクターでバトルロワイアルが開催されたら、 というテーマの参加型リレー小説スレッドの2周目です。
参加資格は全員にあります。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上 、破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
これはあくまで二次創作企画であり、バンダイナムコゲームス等とは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。

詳しい説明は>>2以降。

【前スレ】
テイルズオブバトルロワイアル2nd Part11
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1259019852/

【過去スレ】
テイルズオブバトルロワイアル2nd 感想議論用スレ
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1217252638/

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part2
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1220284765/

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part3
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1220805590/

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part4
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1221714713/

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part4(実質5)
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1221714971/

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part6
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1223568942/

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part7
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1224680497/l50

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part8
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1225550753/l50

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part9
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1227941534/

テイルズオブバトルロワイアル2nd Part10
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1236911151/

【避難所】
PC http://jbbs.livedoor.jp/otaku/5639/
携帯 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/otaku/5639/

【2ndまとめサイト】
PC・携帯両用 http://www.symphonic-net.com/tobr2/mobile/index.html


【1周目のスレ(現在アナザールート進行中)】
テイルズ オブ バトルロワイアル Part16
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1231916923/

【1stまとめサイト】
PC http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/
携帯 http://www.geocities.jp/tobr_1/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:32:29 ID:q4TrRhPV0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
 開催場所は異次元世界であり、海上に逃れようと一定以上先は禁止エリアになっている。

----放送について----
 放送は12時間ごとに行われる。放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは3時間ごとに1エリアづつ増えていく。

----スタート時の持ち物----
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ザック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ザック」→他の荷物を運ぶための小さいザック。       
 四次元構造になっており、参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
 「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテムが1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「ランダムアイテム」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」、「マスコットキャラ」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもザックに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 エクスフィアを出す場合は要の紋つきで支給するようお願いします。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。

----マスコットキャラの扱い----
 マスコットは「支給品」一つ分相当とカウント。
 なお、ロワでの戦いにおいて全く役に立たないマスコットキャラは、この限りではなく、「支給品」一つ分とは見なさない。
 ミュウを支給する場合はソーサラーリングを剥奪した状態で支給すること。コーダ、ノイシュ、タルロウXの支給は不可。
 マスコットキャラはプレイヤーではありません。あくまでも主役はプレイヤーという事を念頭に置いて支給しましょう。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:33:47 ID:q4TrRhPV0
----制限について----
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 (ただし敵ボスクラスについては例外的措置がある場合があります)
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法、即死術は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。 (短距離のテレポート程度なら可)
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内(半径100mほど)ということでお願いします。

----ボスキャラの能力制限について----
 ラスボスキャラや、ラスボスキャラ相当の実力を持つキャラは、他の悪役キャラと一線を画す、
 いわゆる「ラスボス特権」の強大な特殊能力は使用禁止。
 これに該当するのは
*ダオスの時間転移能力、
*ミトスのエターナルソード&オリジンとの契約、
*シャーリィのメルネス化、
 など。もちろんいわゆる「第二形態」以降への変身も禁止される。
 ただしこれに該当しない技や魔法は、TPが尽きるまで自由に使える。
 ダオスはダオスレーザーやダオスコレダーなどを自在に操れるし、ミトスは短距離なら瞬間移動も可能。

----武器による特技、奥義について----
 格闘系キャラはほぼ制限なし。通常通り使用可能。ティトレイの樹砲閃などは、武器が必要なので使用不能。
 その他の武器を用いて戦う前衛キャラには制限がかかる。

 虎牙破斬や秋沙雨など、闘気を放射しないタイプの技は使用不能。
 魔神剣や獅子戦吼など、闘気を放射するタイプの技は不慣れなため十分な威力は出ないが使用可能。
 (ただし格闘系キャラの使う魔神拳、獅子戦吼などはこの枠から外れ、通常通り使用可能)
 チェルシーの死天滅殺弓のような、純粋な闘気を射出している(ように見える)技は、威力不十分ながら使用可能。
 P仕様の閃空裂破など、両者の複合型の技の場合、闘気の部分によるダメージのみ有効。
 またチェルシーの弓術のような、闘気をまとわせた物体で射撃を行うタイプの技も使用不能。

 武器は、ロワ会場にあるありあわせの物での代用は可能。
 木の枝を剣として扱えば技は通常通り発動でき、尖った石ころをダーツ(投げ矢)に見立て、投げて弓術を使うことも出来る。
 しかし、ありあわせの代用品の耐久性は低く、本来の技の威力は当然出せない。

----魔法の使用に関して----
 ロワ会場ではマナが特殊な位相をとっており、魔法使用者の記憶によって指向性を持ち、様々な形態となる。
 すなわち魔法の内容が術者の記憶にあるのならば、
 周囲のマナが晶術・フォルス・爪術など各々に最適な位相を勝手にとってくれる、ということである。
 それゆえ術者は元の世界のものと寸分違わぬ魔法を再現できる。
 召喚術や爪術など、厳密に言えばマナをパワーソースとしないタイプの魔法でも、
 会場のマナが変異して精霊や滄我の代役を務めてくれるため、発動に支障はない。
 ただしこの位相をとったマナは回復魔法とは極めて相性が悪く、回復魔法はもとの一割ほどしか効果がない。
 気功術などによる回復さえマナに妨害されるため、会場内では傷の回復は至難。

----晶術、爪術、フォルスなど魔法について----
 使用する前提条件として、「精神集中が可能」「正しい発声が可能」の条件を満たしていること。
 舌を切り取られているなどして、これらの条件を満たせていない場合、使用は不可能。
 仮に使えても、詠唱時間の延長や威力の低下などのペナルティを負う。
 「サイレンス」などで魔法を封じられた場合、無条件で魔法は使えなくなる。
 攻撃系魔法は普通に使える、威力も作中程度。ただし当然、TPを消費。
 回復系魔法は作中の1/10程度の効力しかないが、使えるし効果も有る。
 魔法は丸腰でも発動は可能だが威力はかなり落ちる。
 (魔力を持つ)武器があった方が威力は上がる。
 当然、上質な武器、得意武器ならば効果、威力もアップ。
 術者が目標の位置をきちんと確認できない場合、当てずっぽうでも魔法を撃つことはできるが、命中精度は低い。
 また広範囲攻撃魔法は、範囲内の目標を選別出来ないため、敵味方を無差別に巻き込む。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:34:31 ID:q4TrRhPV0
----時間停止魔法について----
 ミトスのタイムストップ、アワーグラスなどによる時間停止は、通常通り有効。
 効果範囲は普通の全体攻撃魔法と同じく、魔法を用いたキャラの視界内とする。
 本来時間停止魔法に抵抗力を持つボスキャラにも、このロワ中では効果がある。
 ただし、広範囲攻撃魔法と同じく目標の選別は不可であり、発動者自身以外は動くことが出来ない。
 TOLキャラのクライマックスモードも、この裁定に準拠するものとする。

----秘奥義について----
 秘奥義は一度だけ使用可能。その際、発動したキャラが持つ未使用の秘奥義も使用不可となる。
 使用後はTP大幅消費、加えて疲労が伴う。
 また基本的に作中の条件も満たす必要がある(ロイドはマテリアルブレードを装備していないと使用出来ない等)。
 秘奥義に類する強力な術技は秘奥義扱いとする。
 該当するのはシゼルのE・ファイナリティ、レイスの極光、TOLキャラのクライマックスモードなど。
 Iの覚醒はSB・OLと同じ扱い(何度でも使用可)だが、前世の姿に戻ることは秘奥義扱いとする。
 SRの追加秘奥義は2つ合わせて一つの秘奥義とする。TP消費は普通の秘奥義より増える。
 またリヒターのカウンターは秘奥義扱いとする。その前に普通の秘奥義を使っていたならば、当然カウンターは発動不可能である。

----TPの自然回復----
 会場内では、TPは戦闘ではなく時間経過で回復する。
 回復スピードは、1時間の休息につき最大TPの10%程度を目安として描写すること。
 なおここでいう休息とは、一カ所でじっと座っていたり横になっていたりする事を指す。
 睡眠を取れば、回復スピードはさらに2倍になる。
 なお、休息せずに活動している状態でも、TPは微量ながら徐々に回復する。
 回復したTPをすぐさま回復魔法にあてれば、ある程度ダメージの回復は見込める。
 しかし、かなりの集中力を割くためこの作業中は不意打ちに弱くなる。事前に鳴子を張っておくなどの対策は可能。

----状態異常、変化の設定について----
 状態異常並びに変化追加系は発生確率を無視すると有利すぎる効果なので禁止とする。
 Rの潜在能力やフォルスキューブ(マオ)、Dのソーディアンデバイス、D2のスロット、一部のエンチャントが該当する。
 D2のFOEも禁止。ただし術技にデフォルトで付加されている能力は有効とする。例として、
●ヴェイグの絶・霧氷装
●ミトスのイノセント・ゼロ
●ダオスのテトラアサルト
●ジルバのシェイドムーン・リベリオン
 等が挙げられる。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:36:37 ID:q4TrRhPV0
----合体技の再現(SのU・アタック、R仕様秘奥義など)----
 ロワを通して仲良くなったキャラや、同作品から来た仲間同士であれば、協力して合体技を使うことも出来る。
 合体技を編み出せる仲間、ならびに魔法・特技の組み合わせは各原作に準拠するが、
 このロワ中では次の条件を満たしている場合でも合体技の発動が可能。

  例1:異なるキャラ同士で、同名の魔法・特技を組み合わせた場合。
   例えばSの複合特技である「プリズミックスターズ」は、リフィルの「レイ」とジーニアスの「グランドダッシャー」などで発動するが、
   同名の魔法を習得しているので、フィリアの「レイ」とシャーリィの「グランドダッシャー」でも、「プリズミックスターズ」は発動する。

  例2:「それっぽい」魔法・特技を組み合わせた場合。
   例えばSの複合特技である「襲爪雷斬」は、本来ロイドの「虎牙破斬」とジーニアスの「サンダーブレード」などで発動するが、
   ジーニアスの「サンダーブレード」をジェイドの「天雷槍」などで代用することも可能。
   また常識の範囲内で考えて、それなら合体技が成立しそうだと考えられるなら、まったく新規の組み合わせも可能。
   例えばシャーリィの「タイダルウェーブ」で発生させた水を、ルビアの「イラプション」で加熱し、高温の蒸気を発生させて、
   もともとはジーニアスの魔法である、高温の蒸気で敵をあぶる魔法「レイジングミスト」を合体技として編み出すことも出来る。

  補則1:なおクレスなどは単体で「襲爪雷斬」を放つことは出来るが、同名の技でも合体技の方が威力は上である。
  補則2:新規のキャラ同士の新規の魔法・特技の組み合わせは自由に考えて構わないが、
       それにより成立する合体技は必ずシリーズのどこかから「本歌取り」すること。
       世界観の維持の観点から、まったく新規の合体技を編み出すことは禁止する。
  補則3:もちろん合体技を繰り出す当事者達は、ある程度以上気心が知れあっている必要がある。
       小説中で「仲良くする」ような描写を予め挟んでおくこと。
  補則4:合体技は当然大技であるため、発動させるためには上手く隙を作らねばならない。
       同じく小説中で「隙を作る」ような描写を予め挟んでおくこと。
  補則5:AのゲームシステムであるFOFを用いた、術技のFOF変化も上記のルールに準拠するものとする。
       FOFの属性と変化する術技の組み合わせは原作に準拠するが、上記のルールに違反しない限り、
       書き手は全く新規の組み合わせを考案してもよい。下記も参照のこと。

ケースバイケース、流れに合った面白い展開でお願いします。

----ゲームシステムのクロスオーバー----
 ロワ参加者は、デフォルトの状態では原作世界の知識しか持たないものの、
 ロワで他世界のキャラと交流を持ったり、何らかの方法で他の世界の知識や技術を得た場合、
 その世界特有のシステムを使いこなすことが出来るようになる。
 例えばリオンが事前にジェイドから説明を受けていれば、ジェイドの「タービュランス」で発生した風属性FOFで、
 自身の「双牙斬」をFOF変化させ、「襲爪雷斬」を放つことも可能。上項も参照のこと。
 ただしRのフォルスやTの獣人化など、その世界の住人の特異体質によるシステムのクロスオーバーは、
 原則として不可とする。
 ただしSのハイエクスフィアを用いた輝石による憑依などで、
 R世界やT世界の出身者の肉体を奪うなどした場合は、この限りではない。
6名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:38:32 ID:q4TrRhPV0
----シリーズ特有の強化スキルやシステムについて----
シリーズのシステムに関わらず、特技・奥義は単独で発動可能とする。ただし連携の順番は原作に倣うこと。

P・・・なし。
D・・・ソーディアンデバイス、リライズは全面禁止とする。
E・・・潜在晶霊術は禁止とする。
D2・・・スロットは全面禁止とする。エンチャントは追加晶術、連携発動、リカバー(D2にはリカバーを使えるキャラがいないため)、
     特技連携、晶術追撃、秘奥義、追加特技、通常技連携、空中発動のみ有効とする。
S・・・EXスキルの「一定確率で」系、ガードステータス、ゲットウェル、スーパーガード、ライフスティル、メンタルスティル、
   グレイス、ステータスキープ、エンジェルコール、レジストマジック、 メンタルサプライ、コンセントレート、オートメディスン、
   スペルコンデンス、サプレスダッシュ、サプレスロウアー、MCディフェンド、ラッシングラン、パフォーマー、グローリー、
   HPリバース、レストアピール、アーマードブロウ、ガードアウェイは禁止とする。
R・・・フォルスキューブのドレインは禁止。潜在能力も禁止とする。
L・・・我流奥義は使用可。ただし副極意による追加効果の付与は禁止とする。
A・・・ペインリフレクト、アクシデンタル、ライフリバース、エンジェルコール、ピコハンリベンジ、オートメディスン、グローリー、グレイス、
    ADスキルの「一定確率で」系は禁止とする。
T・・・なし。
I・・・武器カスタマイズ、アビリティは全面禁止とする。
   (リジェネ、リラックス、悟り、グミの達人、踏ん張り1〜4、封印防御等を除けば能力アップなどしか残らないため)
SR・・・スキルはアビリティのみ有効。例外としてエミルが支給品のコアを入手した場合、アトリビュートの特技変化系を使える

----TOAの設定について----
 会場の音素量が少ないため、ルークの音素乖離は参戦時期に関わらず行われない。
 ただしルークが無茶をして第七音素を大量に使ったときはその範疇に属さないものとする。
 コンタミネーション現象は禁止とする。これはビッグバンの議論を防ぐためである。
 超振動は秘奥義扱いとするが、会場の音素が少ないため威力は半減される。
 それでも一撃必殺級の上、他の物を巻き込んでしまうのでよく考えてリレーしましょう。
 ティアの譜歌ナイトメアは、声に魔力が宿っている訳ではないため拡声器を使っても効果範囲は変わらない。
 また敵がある程度弱ってないと無効とする。
 カースロットは原則有りとする。ただし同じエリアに居ないと使えない、一人しか操れないといった制限を課す。
 勿論操られた者が憎しみを抱いている対象がいなければ効果は現れない。
 また導師の力のためレプリカのイオン、シンクには相応の疲労が襲うものとする。
 第七音素注入で怪物化はロワのバランスを崩してしまう為禁止とする。譜術式レプリカ製造も同様である。
 アンチフォンスロットは有り。ただし効果は一日。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:40:01 ID:q4TrRhPV0
----その他----
 *作中の進め方によって使える魔法、技が異なるキャラ(E、Sキャラ)は、 初登場時(最初に術技を使うとき)に断定させておくこと。
  断定させた後は、それ以外の魔法、技は使えない。
 *クラースは精霊(の力)を呼び出せるが、精霊自体は召喚できない仕様とする。
  理由はSのオリジンとロイド等との設定の兼ね合いが複雑なため。
 *Pのディストーションやカメレオン、Dエクステンションはあまりにも強力なため使用不可能な設定とする。
 *スタンの空中魔法変化技は下級は特技、中級と上級は奥義の扱いとする。
 *キールにはフリンジ済みのインフェリア晶霊が入ったCケイジを最初から与える。勿論これは支給品枠の一つとして考える。
 *Rの聖獣の力は参戦時期に関わらず有効とする。
 *アニー、ジルバの陣術は厳密に言うと魔術ではない為詠唱を必要としない。地面に方陣を描くことで発動させる事。その方法は問わない。
 *ジルバの月のフォルスは、対象が限りなく弱っていないと使用できない仕様とする。
  また乗り移っている間は一切のダメージを受けないため確かに無敵だが、
  逆に言うと本体は実に隙だらけ(同時に二人操るのは無理があり、こっちは操られている方が入っている)なため制限対象には入らない。
 *エミルはコア化をもって死亡扱いとする。このコアには莫大な量のマナが含まれている(センチュリオンコアも同様)。破壊も可能。
 *リバイブは危険になったら自動でHP回復大の扱いとする。

━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。(CTRL+F、Macならコマンド+F)
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
※投下宣言は「○○分後に投下します」など時間を指定するのではなく、宣言後すぐに投下するよう心がけて下さい。

※基本的なロワスレ用語集
 マーダー:ゲームに乗って『積極的』に殺人を犯す人物。
 ステルスマーダー:ゲームに乗ってない振りをして仲間になり、隙を突く謀略系マーダー。
 扇動マーダー:自らは手を下さず他者の間に不協和音を振りまく。ステルスマーダーの派生系。
 ジョーカー:ゲームの円滑的進行のために主催者側が用意、もしくは参加者の中からスカウトしたマーダー。
 リピーター:前回のロワに参加していたという設定の人。
 配給品:ゲーム開始時に主催者側から参加者に配られる基本的な配給品。地図や食料など。
 支給品:強力な武器から使えない物までその差は大きい。   
      またデフォルトで武器を持っているキャラはまず没収される。
 放送:主催者側から毎日定時に行われるアナウンス。  
     その間に死んだ参加者や禁止エリアの発表など、ゲーム中に参加者が得られる唯一の情報源。
 禁止エリア:立ち入ると首輪が爆発する主催者側が定めた区域。     
         生存者の減少、時間の経過と共に拡大していくケースが多い。
 主催者:文字通りゲームの主催者。二次ロワの場合、強力な力を持つ場合が多い。
 首輪:首輪ではない場合もある。これがあるから皆逆らえない
 恋愛:死亡フラグ。
 見せしめ:お約束。最初のルール説明の時に主催者に反抗して殺される人。
 拡声器:お約束。主に脱出の為に仲間を募るのに使われるが、大抵はマーダーを呼び寄せて失敗する。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:42:11 ID:q4TrRhPV0
【書き手の心得】

1、コテは厳禁。
(自作自演で複数人が参加しているように見せるのも、リレーを続ける上では有効なテク)
2、話が破綻しそうになったら即座に修正。
(無茶な展開でバトンを渡されても、焦らず早め早めの辻褄合わせで収拾を図ろう)
3、自分を通しすぎない。
(考えていた伏線、展開がオジャンにされても、それにあまり拘りすぎないこと)
4、リレー小説は度量と寛容。
(例え文章がアレで、内容がアレだとしても簡単にスルーや批判的な発言をしない。注文が多いスレは間違いなく寂れます)
5、流れを無視しない。
(過去レスに一通り目を通すのは、最低限のマナーです)

〔基本〕バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)

【地図】
通常:ttp://www.symphonic-net.com/tobr2/img/map0.JPG
禁止エリア(既:赤 予定:水色):ttp://www.symphonic-net.com/tobr2/img/map.JPG

【補足】

同一パートの投下は本文(状態表)投下終了後、24時間置きましょう。

修正がある場合には
誤字脱字レベル、ストーリーに変更が無い場合、最初の投下より24時間。
ストーリーに何か変更がある場合一旦取り下げ、修正作投下から24時間空けるのが望ましい。
また修正の場合、書き手が来ない際の猶予期間ですが、修正依頼から五日間以内に何らかのアクションを願います。アクションが無い場合強制破棄になる可能性もあります。
なお、作品を取り下げる場合は書き手の方で一度宣言する事。
宣言から再投下の間に同一パートの被り作品が投下されたら涙を堪えて避難所へ。

荒れる事が予想される場合には捨てトリップ推奨。
9名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:51:32 ID:q4TrRhPV0
【参加者一覧】 
TOP(ファンタジア)  :1/4名→●クレス・アルベイン/○クラース・F・レスター/●藤林すず/●ダオス
TOD(デスティニー)  :5/7名→○スタン・エルロン/●ルーティ・カトレット/○フィリア・フィリス/●ウッドロウ・ケルヴィン/○チェルシー・トーン/○イレーヌ・レンブラント/○ミクトラン
TOE(エターニア)   :5/6名→●リッド・ハーシェル/○キール・ツァイベル/○チャット/○フォッグ/○レイス(レイシス・フォーマルハウト)/○シゼル                  
TOD2(デスティニー2) :5/8名→○カイル・デュナミス/○リアラ/○ロニ・デュナミス/●ジューダス/○ハロルド・ベルセリオス/●ナナリー・フレッチ/●バルバトス・ゲーティア/○エルレイン   
TOS(シンフォニア)  :3/7名→○ロイド・アーヴィング/●クラトス・アウリオン/○リフィル・セイジ/●リーガル・ブライアン/●プレセア・コンバティール/●マグニス/○ミトス・ユグドラシル
TOR(リバース)   :4/8名→○ヴェイグ・リュングベル/●クレア・ベネット/○マオ/●ユージーン・ガラルド/●アニー・バース/●サレ/○ジルバ・マディガン/○アガーテ・リンドブロム
TOL(レジェンディア) :3/6名→○セネル・クーリッジ/○シャーリィ・フェンネス/○クロエ・ヴァレンス/●ノーマ・ビアッティ/●ワルター・デルクェス/●ステラ・テルメス
TOA(アビス)    :4/8名→○ルーク・フォン・ファブレ/○ティア・グランツ/●ジェイド・カーティス/○アッシュ/●イオン/○シンク/●ディスト/●アリエッタ
TOT(テンペスト)   :1/2名→○カイウス・クオールズ/●ルビア・ナトウィック
TOI(イノセンス)   :1/5名→○ルカ・ミルダ/●イリア・アニーミ/●スパーダ・ベルフォルマ/●リカルド・ソルダート/●ハスタ・エクステルミ
TOSR(ラタトスクの騎士):4/5名→○エミル・キャスタニエ/○マルタ・ルアルディ/○リヒター・アーベント/●アリス/○デクス

●=死亡 ○=生存 合計36/66

禁止エリア
03:00:A1
06:00:F3
09:00:A6
12:00:D6

現在までのもの
B1,F5,G7,C3
10名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 15:54:33 ID:q4TrRhPV0
代理投下の続きを投下します。
11レゾン・デートルは檻の中 6@代理:2010/08/31(火) 15:57:01 ID:q4TrRhPV0
必要は無いのだが、降りながら少しだけ息を吐く。
生み出された白い息吹は、段々と風に流されやがて消えていった。
思わず翅を動かすのを止める。興味など疾うに失せていたが、少しだけ呆気に取られたからだ。
そうだった、雪が積っていたから温度は低いのか。元が砂漠だから高いとばかり思っていた。
生命体として破綻する事を選択してから四千年と少し。
そんな単純な事すら忘れていたなんて、全く以て脳が緩みきっている。
地面に降り、辺りを伺う。一面の銀世界は、驚く程孤高に佇んでいた。
地面には足跡が自分を入れて六人分。サイズ的に女が一人。
可能性はほぼ無いだろうがこの足跡の主がティア=グランツの可能性もある。
それどころか男の足跡がカイル=デュナミス、ルカ=ミルダやミクトラン、
或いはスタン=エルロンやロイド=アーヴィングの可能性だって。
しかし、と立てる聞き耳。中から聞こえる戦闘の気配に、少しげんなりした。面倒だ。
無視したいところだが、約束は約束。五人も居れば捜し人の内、誰かしらは居るだろう。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。多少の面倒も仕方無い、か。

「おい、少し協力しろ。お前の為でもある」

ポケットからエクスフィアを取り出し、ふとした思い付きで背の剣に要の紋ごと付ける。
『……これは?』
「この方が都合がいいだろ。
 ポケットの中より気軽に連絡が取れるし、単純に剣の力も上がる」
その行為に何か底知れぬ因縁を感じつつ、鼻で笑う。
武器として利用された事に少女は何かを言い掛けた様だが、直ぐに黙った。
人間の癖に意外と素直で良い。
恐らくプレセア以外の奴なら、願いを聞き入れる事すらなかっただろう。

「安心しろ、何があるか分からないからだ。お前だって僕に死なれたら困るだろ?
 それに今だけだよ。戦闘しないなら直ぐに外すさ。ハナから情報収集目的だし」
一呼吸置いて、様子を見る。文句は無い。プレセアは納得したようだった。
「さて本題だ……劣悪種、お前はアストラル体になって下から行け。
 下は靴音から少なくとも三人以上は戦ってる。
 ざっと状況を見て僕に連絡しろ。全員の名前も出来れば聞いておけ。捜し人が居るかもしれない。
 あと、アストラル体は最初動き難いだろうが直ぐ慣れる。良い機会だ、練習しておくんだね。
 ……僕は、面倒は嫌なんで上から攻める事にするよ」

エクスフィアがぼんやりと光り、少女の像が結ばれる。
12レゾン・デートルは檻の中 7@代理:2010/08/31(火) 15:57:55 ID:q4TrRhPV0
虚ろな瞳には、僅かばかりの期待の色が見て取れた。
『頼み事をしている身、協力はします。
 ですがロイドさん達が居たら、少し遅れるかもしれません。そもそも此所は随分高いです』
その名を聞いて、うんざりした。
此所で会った時のバツの悪そうな顔が簡単に想像出来るからだ。
「……構わない。お前が仲間に会ったら僕とは別れても良いしね。好きにしろ」
劣悪種の話によると、奴は僕を友達だと思っているらしい。
無性に胃がむかむかする。少し覚える吐き気。なんだってんだ。

『ごめんなさい』
「一々謝るな」

しゅんと縮み、表情に影を落とす少女を軽くあしらい、僕は再び塔を見上げる。
太陽は流れ行く雲から顔を出し、天使である自分が昇る階段は何時の間にやら崩れていた。
空気は澄んでいる。今日は雨一滴降らないだろう。おかしな景色だと笑ってみる。
これだけ見ると、まるで平和な一日でも始まるかの様だ。
それでも、矢張り現実は残酷。妄想へ逃げても何も変わりはしない。
悪夢は続いてゆく。死の螺旋は延々と、道化は僕等を嘲笑う。

「無駄話は終わりだ。行こうか」

未だ雲に隠れて見えない目的地は、まるで僕等の辿る未来の様だった。
13レゾン・デートルは檻の中 8@代理 :2010/08/31(火) 15:58:46 ID:q4TrRhPV0
【ミトス・ユグドラシル@ミトス 生存確認】
状態:HP100% TP95% やる気+ 小さな罪悪感 大樹が気になる 天使化
支給品:ジェットブーツ エリクシール スペクタクルズ×10 ロイドの仮面セット(残り3枚)
    レーザーブレード   大量のハロルドの考察メモ イオン・クラトス・プレセアの首輪
    デュランダル プレセアの頭部 エクスフィア@プレセア サック×2(ジューダス・スパーダ)
基本行動方針:死ぬ気は無い。舞台裏を解明する為に少し生きるが、生きる気もあまり無い
第一行動方針:塔の屋上へと飛んで向かう
第二行動方針(A):ルカにデュランダルを渡す
第二行動方針(B):カイル、もしくはディムロスを確保する(スタンを止める?)
第三行動方針:ティア探しにかこつけて、あの巨大なマナの正体を確かめる為、
       現場に行く。ティアは見かけたら回収
第四行動方針:ミクトランとバルバトス、役立ちそうな奴の頭部収集。スタンも最悪対象。
第五行動方針:24時間だけプレセアに協力する。仲間に会えたらどうするかはプレセアに委ねる。
       但し24時間以内に誰にも会えずプレセアがエクスフィアと同化したら破壊する
第六行動方針:ハロルドにいつか「ぎゃふん」と言わせる
現在地:D3



*ミトスがTOS-R世界の知識、パラレルワールドの知識を得ました。
*プレセアが今のミトスのスタンスと目的、参戦時期を知りました。



制限:アストラル体はエクスフィアが在るエリア内しか動けません。
   またアストラル体は物体に物理的干渉をする事が出来ません。
14名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 16:00:59 ID:q4TrRhPV0
代理投下終了。修正してしまった箇所を明記しておきます。

修正箇所

2の10行目
奇跡による一時的な乗っ取り、→輝石による一時的な乗っ取り、

2の11行目
そを思い出しながら→それを思い出しながら

5の11行目
散る七色の翼→散る七色の羽根

6の31行目
面倒は嫌なんで上から責める事にするよ→面倒は嫌なんで上から攻める事にするよ

8の6行目
部隊裏を解明するために少し生きるが→舞台裏を解明するために少し生きるが

以上です。


塔組にミトス追加、ミトスとプレセアの今後の活躍に期待します。
プレセアはアストラル体だけど・・・w
でももしかしたら、ヴェイグの目を覚まさせることができるかもしれない・・・!?
15名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 19:09:28 ID:QJAil7RH0
乙です
塔にどんどん人が集まってきてどきわく
16名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 23:46:03 ID:ZI34XXAH0
投下乙!もう天上王(笑)になるのが目に見えてるよなあwww
17名無しさん@お腹いっぱい。:2010/08/31(火) 23:47:10 ID:WInjFIU20
乙です
最近投下多くて嬉しい
18雪上のオードブル 1@代理:2010/09/03(金) 20:57:04 ID:ExfOpYJv0
「…よし、こんなところか」

アラミス湧水洞―ロニが見る限り最も景色の美しく、清らかな場所に
ジューダスを埋葬したロニはふっと息を吐いた。正直悲しみが無い訳ではない。
だがここで立ち止まっている訳にはいかない。“盾”としての人生は、
自分自身を取り戻す夢は始まったばかりなのだ。

ロニは目を静かに閉じる。真っ暗闇に浮かぶは今は亡き親友、愛する者、敬愛する養母と英雄王の姿。
それらと決別するように、目を開くと、視界に映るは即席の小さな墓石。



「そっちで見ててくれよ。俺の選んだ道を、俺の生き様を――」

口元に微笑を浮かべ、ポンと墓石を叩くとロニはそっと踵を返した。
どこまでもその瞳に深い狂気を漂わせながら―――。






「さっ、てと……どこに向かえばいいかな……」

アラミス湧水洞を出たロニは頭を掻いて呟いた。雪原に残された足跡は二対のみ。
それも外からこちらに向かってきたもので、ここから外に出たものでは無い。
あの後洞窟内でハロルドとあのガキの姿を見かけていないから、ここから出て行った可能性は十分高い筈だが…
ロニは足りない脳をフル回転させて考えるが、すぐに思考は落ち着く。

(足跡を残さないよう山道を歩いた可能性もあるが、キールやサレのように飛行術を使用したか、もしくは空を飛べるアイテムを使用した可能性の方が高いな)

ということは……



<ロニ様の殺害対象おさらいその1>

・アイテムを使う奴は殺す。
・術を使う奴は殺す。



…そうなると、あのガキは勿論、ハロルドも殺さねえといけねえな。
う〜ん!運命は時にキビシイッ!!でも仕方ねえじゃねえか。アイテムは使うし術も使う。
第一あいつさっき俺のこと殺そうとしてたじゃねえか。だったら遠慮する必要は全く無し!
仲間を殺そうとする奴なんて仲間じゃねえ!狂った思考を浮かべながら、ロニは先程踏み砕かれた右足甲を擦る。
痛みが完全に消えた訳ではないが、ヒールのお陰である程度は回復した。出血もほぼ止まり、傷の処置も済み、戦うには不自由は無い。
今度は俺のリベンジマッチ。もう先程のような手を喰らう事も、無様な姿を晒す事など絶対しない。
19雪上のオードブル 2@代理:2010/09/03(金) 21:00:21 ID:ExfOpYJv0
(今度もしハロルドに会ったら…)

ロニは楽しそうに想像を巡らせる。一見すればこれから彼女と会って何をしようか、どこに行こうかを
想像して笑みを浮かべているような光景だが、もし思考の中身を覗けたら大方が戦慄しただろう。


(さっき俺様がやられたみたいに足の甲踏み砕いて悲鳴を上げさせるってのも悪くねえな)
(いや、その前に暴れまわられると不味いから両手両足へし折ってしまうか。指を全部斬り落とせば確実か)
(生意気な視線を突き刺されないよう、目も抉って置く必要があるな。歯も全部へし折って…耳も引き千切る位なら問題ねえか)
(当然あの胸や腹を切り刻んでやる必要があるな。解剖される気持ちを自ら味わえるんだ。あいつも本望――)


脳内でハスタ辺りが喜びそうな愉快な惨殺妄想を展開させていたロニだが、ここでハタと気付く。今自分の手にあるのは斧…ではあるが、
見た目は完全に“さつまいも”騙し討ちには好都合かもしれないが“盾”である俺には余りに不格好。

(もっと強力でカッコイイ武器が欲しいところだな。希望を言えば斧だが、似合いさえすれば剣でもいいか。そこまで俺も贅沢は言わねえ)

そのためにも、まずは人が集まる所に行かねば。勿論そこで殺害対象に出くわせば即殺害決定。
とりあえず地図を広げ、どこに向かうべきか考える。

(ここから近いのは……ハイデルベルグ城と南の塔か)

どっちも人は集まり易いが…ハイデルベルグ城は禁止エリアがあるから迂回しなければならない。
それにハイデルベルグ城は、敬愛するウッドロウの居城であり、亡くなったイオンとリカルドの眠る場所。
この先どうなるかは分からないが、当面あの城を血で汚すような真似はしたくない。

(とりあえず南に見える塔を目指すか。位置的にもそっちの方が集まりそうだしな)

『馬鹿は高い処が好き』と言う位だから、あのサレって奴もカイルもそこにいるかもしれない。
あわよくば、ミクトランのような巨悪に巡り合える可能性もある。仮に出会えなくとも、俺に似合う武器は手に入るだろう。

「よし、行くとするか!」

ロニは高まる期待を胸に雪原に足を踏み入れた。








途中オアシスで水分補給し、ロニは雪原を意気揚々と歩く。
時刻は後少しで9時。今日の天気は快晴、気分も良好。さてさて、お目当ての品や人には巡り合えるかどうか。
その時、ロニの視界が動くものを捉えた。よく見ると2名…だがまだハッキリと視認は出来ない。
雪を力強く蹴り、駆け出し近づいてみると、1名は少年、もう1名は少女のようだ。
こちらの視線や接近に気付いたらしく、少年が僅かに少女を庇う様に構える。
この構図は………間違い無い、俺以外に盾の役目を果たそうとしている。てことは……。



20雪上のオードブル 2ー2@代理:2010/09/03(金) 21:04:43 ID:ExfOpYJv0
<ロニ様の殺害対象おさらいその2>

・誰かを守ろうとする奴は殺す



よっしゃ!殺害決定!ここであの少年を殺せばさらに唯一無二の“盾”に近づける。
運が良ければ武器も調達出来る。さらにあの少女の盾になる事だって出来る。
正に一石二鳥、いや三鳥じゃねえか。うーん、ナイスだ俺!
この殺し合いが始まって以来碌な目に遭ってこなかったが、漸く俺にも運が巡ってきたぜ!
見てろよサイグローグ!てめえの好き勝手にはさせねえぜ!


ロニはさつまいもを構えると口元に笑みを浮かべた。
かつての彼からは想像出来ない程、殺意と狂気によって歪んだ笑みを。









己と真っ向から向き合う事ほど難しい事はない。歪んだ瞳であれば尚更である。


21雪上のオードブル 3@代理:2010/09/03(金) 21:05:44 ID:ExfOpYJv0
【ロニ・デュナミス 生存確認】
状態:HP50% TP15% 脇腹に刺傷(処置済) 胸部刺傷(処置済)  精神崩壊 最高にハイッってヤツ 右腕大裂傷(処置済) 右足甲骨折(処置済)
所持品:さつまいも タフレンズ×1 やや小さくなったシーツ 温石
基本行動方針:“夢”を取り戻す。盾として生きる
第一行動方針:まずは塔を目指し、自分に相応しい武器を見つける。ハイデルベルグ城はなるべく後回しにしたい。
第二行動方針:目の前の少年を殺し、武器を奪い、少女の盾になる。
第三行動方針:マーダーは殺す。火を使う奴は殺す。アイテムを使う奴は殺す。自分から逃げる奴も殺す。術を使う奴も殺す。回復する奴も殺す。誰かを守ろうとする奴も殺す。
第四行動方針:サレ、アリエッタ、チャット、カイル、リアラ、ハロルド、ミトス、ルーティを殺した奴、ナナリーを殺した奴、ジューダスを殺した奴は絶対に殺す。
現在位置:D3

※ジューダスはC6地点に埋葬されています。


22雪上のオードブル 4@代理:2010/09/03(金) 21:06:34 ID:ExfOpYJv0
(何か面倒そうな奴が来たね)

シンクは軽く舌打ちすると、素早くダガーナイフを構える。
これは先程ロイドから聖剣ロストセレスティと引き換えに借りたものだ。
武器の質としては劣るが、接近戦を得意とする自分にとってはこちらの方が扱い易い。

一方、塔まで後少しという所で突然現われた男が手にしているのは……何故か“さつまいも”
何ともシュールな光景だが、身体は血塗れで、その瞳は殺意と狂気が満ち溢れている。
十中八九ゲームに乗った人間。戦いは…この状況だと恐らく不可避。
そして問題なのはこの位置。戦いに気付き塔にいる者達が近づいて来る恐れがある。
出来る事ならこの場での戦いは避けたかったが…。

(…まあいいか。これはこれで面白い事になりそうだしね)

幸い、こいつはエルレインのような化物では無い。この後の遊戯の為のウォーミングアップとしては
丁度良い相手だろう。無論、自分の本性を曝け出さないように気を付ける必要があるが…。
視線を僅かに後方へと移すと、そこには殺し合いに乗ったと見られる男に対しての嫌悪感を浮かべたクロエの姿。
そしてその手に握られるは、先刻貸し与えたソーディアン・アトワイト。
視線をロニに戻したシンクは口元に笑みを浮かべた。聖職者のような慈悲深い笑みでは無い。
かつてルーク達の前に立ちはだかった時のような、悪意に満ちた笑み―――





雪上で対峙するは皆殺し斧槍と、騎士と烈風――
間もなく訪れる黎明の終焉の幕開けの前に、雪上のオードブルを是非ご賞味あれ。
23雪上のオードブル 5@代理:2010/09/03(金) 21:07:24 ID:ExfOpYJv0


【クロエ・ヴァレンス 生存確認】
状態:HP45% TP100% 帽子紛失 打撲 胸に止血済中裂傷 ????
所持品:安全ヘルメット ソーディアン・アトワイト(カースロット発動中。意識無し)
基本行動方針:打倒サイグローグ? 出来ればセネルやシャーリィと合流し、シャーリィだけでも守る?
第一行動方針:目の前の男に対処。場合によっては殺害も辞さず?
現在位置:D3

【シンク 生存確認】
状態:HP85% TP30% 服がボロボロ 右足に噛み痕 ????
支給品:ダガーナイフ 未完のローレライの鍵 ????
基本行動方針:ルーク達を引っ掻き回して楽しむ為に、ロイド一行を利用してルーク達と合流する
第一行動方針:目の前の男に対処。殺害は辞さず。
第二行動方針:塔に行き、ロイド達の到着を待つ。まぁ、レムの塔は諦めるしかないよね……
現在位置:D3

※シンクが聖剣ロストセレスティと引き換えにロイドからダガーナイフを借りました。
それ以外の支給品のやり取りについては現時点では不明です。
※D5→D3までの間にシンクとクロエは何かを話し合いました。
その内容や、ソーディアン・アトワイトを貸し与えた経緯については現時点では不明です。


24雪上のオードブル@代理:2010/09/03(金) 21:13:32 ID:ExfOpYJv0
投下終了です。
改行制限の都合で分割したレスがありますがご了承を。


そして投下乙でした。あちゃーロニも名運尽きたかーww
25名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/10(金) 12:27:19 ID:29V0lM/jO
ほしゅ
26名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/16(木) 03:13:53 ID:4f46sSU60
甜菜。5位とはかなり検討したんじゃないか?

2713:やってられない名無しさん
10/09/15(水) 22:41:11 ID:???0
各ロワ月報 7/16-9/15

ロワ/話数(前期比)/生存者(前期比)/生存率(前期比)

アニ3.   286話(+16) 16/64 (- 7) 25.0 (-10.9)
葱1     306話(+16)  7/40 (- 1) 17.5 (- 2.5)
ホラー     44話(+11) 45/50 (- 2) 90.0 (- 4.0)
動物.    100話(+ 9) 19/47 (- 5) 40.4 (-10.6)
ジョジョ2.  187話(+ 6) 30/89 (- 2) 33.7 (- 1.1) ※死者二名、ダービー参戦
テイルズ2   249話(+ 6) 36/65 (- 1) 55.4 (- 1.5)
剣客.    105話(+ 5) 49/80 (- 3) 61.3 (- 3.8)
東方.    146話(+ 5) 23/54 (- 0) 42.6
自作2.    19話(+ 5) 33/40 (- 1) 82.5 (- 2.5)
なのはR  179話(+ 4) 12/60 (- 2) 20.0 (- 3.3)
新漫画  156話(+ 3) 25/70 (- 2) 35.7 (- 2.9)
ニコβ   240話(+ 3) 14/70 (- 0) 20.0
LS     286話(+ 3) 23/86 (- 3) 26.7 (- 3.5)
ksk.     222話(+ 3) 22/48 (- 0) 45.8
ゲーキャラR.  26話(+ 3) 33/37 (- 1) 89.2 (- 2.7)
戦隊    133話(+ 3) 17/42 (- 1) 40.5 (- 2.4)
ライダーN.  120話(+ 3) 28/52 (- 0) 53.8
RPG    115話(+ 2) 18/54 (- 0) 33.3
文練     30話(+ 2) 68/78 (- 0) 87.2
多ジャンル  93話(+ 2) 47/65 (- 1) 72.3 (- 1.5)
ラノオルタR  161話(+ 2) 35/60 (- 0) 58.3
葉鍵3.  1134話(+ 2) 8+2/120 (- 3) 6.7 (- 2.5) ルートB-10完結!
ジャンプ  426話(+ 2) 25/130 (- 0) 19.2
マルチ   197話(+ 2) 16/65 (- 1)※ 24.6 (- 1.5) ※表記はルートB-1
パワポケ.  96話(+ 2) 33/58 (- 1) 56.9 (- 1.7)
AAA    126話(+ 2) 18/62 (- 2) 29.0 (- 3.2)
波平.    22話(+ 1) 33/39 (- 0) 84.6
コンボ.     5話(+ 1) 38/40 (- 0) 95.0
無名      63話(+ 1) 30/75 (- 0) 40.0
オール.  181話(+ 1) 64/152(- 0) 42.1
サガ.     174話(+ 1) 26/70 (- 1) 37.2 (- 1.4)
SRPG.   113話(+ 1) 34/51 (- 0) 66.7
三次スパ 115話(+ 0) 43/70 (- 0) 61.4
福本.    139話(+ 0) 21/45 (- 0) 46.7
葱?      58話(+ 0) 48/61 (- 0) 78.7
スクロワ2   74話(+ 0) 32/52 (- 0) 61.5
FFDQ3.  634話(+ 0) 31/139(- 0) 22.3
mugen     43話(+ 0) 55/68 (- 0) 80.9
DQ.     144話(+ 0)  7/43 (- 0) 16.3
らき☆.   124話(+ 0) 34/60 (- 0) 56.7

ジャスティス   46話(+46) 53/60 (- 7) 88.3 (-11.7)
F剣       40話(+40) 46/52 (- 6) 88.5 (-11.5)
葉鍵4.     37話(+37) 108/120 (-12) 90.0 (-10.0)
オリ2     18話(+18) 36/40 (- 4) 90.0 (-10.0)
深夜      17話(+17) 57/80 (-23) 71.3 (-28.8)
27名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/24(金) 14:36:02 ID:qBZQjTs2O
ほーしゅ
28名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/28(火) 19:09:30 ID:owqA5tDK0
自分も保守っときます
29名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/04(月) 19:31:07 ID:v+/2Y7QS0
そろそろ保守
30名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/08(金) 09:40:50 ID:GSDviDWt0
保守しますよ
31名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/12(火) 06:38:48 ID:GCh9IFx/0
投下します
32カイル=デュナミスは己が未来を夢に見るか 1:2010/10/12(火) 06:40:58 ID:GCh9IFx/0


「聞きたいのなら……力で答えさせればいい」

短剣を抜きながらのアッシュの問いにヴェイグは幾分か投げやり気味な口調で答える。
赤と銀、互いに髪をわずかに揺らめかせながら、その言葉を合図に二人は距離を縮める。
黒衣の青年と相見えるのはカトラスを抜き放つ長身の剣士だ。
先手を出すのは間違いなくアッシュだとヴェイグが持っている剣であるシャルティエを含めた、その場にいる全員が判断した。
毛先が赤を超えて焔を思わせるアッシュは青年と呼ばれるには少し幼い外見かも知れないが、
彼が放つ気配は年齢という不粋な物差しを超えた域に達しているといってもよかった。
いや、これは純粋な闘志のみからくるものなのかもしれない。
一方、彼と対峙するヴェイグには特に気負った様子もなく、
大柄な身体には幾分か不釣合いな剣を両手で構えている。
彼の対応は的を射ていたと言えるだろう。
何故ならばアッシュからはガムシャラな、それこそ何かに追い立てられるかのような
闘志以外は何も感じられないからだ。
剣を構え、一部も隙もないというのに
そこから繋げようとする気組みが、虚を混ぜながら実をもって相手を討とうという剣術を身につけたものなら
自然と身につける狡猾さが感じられないのは誰から見ても異に見え、
だからこそ彼がただひたすらに力をぶつけようとしているのだと感じさせた。

「アニーから聞いたのとは随分、違うんだな」

自らの行動を正当化させるようなある種の女々しさを漂わせた声音でアッシュは呟いた。
猪のようにならばその通りにしてやろうと飛び掛ってくると予想されていた彼の気から垣間見えた一瞬の間。
それに毒気を抜かれたような表情を見せるのは他でもない当のヴェイグ本人だ。

「アニーと会ったのか?」

そうだと言ったらどうすると答えつつ、いよいよだと万全ではない体を鼓舞させるかのようにアッシュは体中の筋肉に力を篭めた。

「……誰が殺した?」

その言葉に色はなかったが刃はあったのか、アッシュは僅かに怯んだかのような顔を見せた。けれど、それもまた一瞬。

「聞きたいのなら……力で答えさせればいい」

挑発するかのような言葉と共に焔は氷へとその豪火をあびせようかと思わせるほどの激しさを短剣に載せた。
剣士は常に他者の動きを捉えながら次の行動に移る。だからこそ達人と称される者が見れば相手が次に何をするかが時として手に取るようにわかる。
返事はないがヴェイグがその言葉に不満がないことは一目瞭然。
先程までとは違い、彼もまた死した仲間の名を聞いて冷静に対処出来る精神状態から離れていた。
向き合う際、彼がアッシュへと返した言葉は嫌味を供えて返されたということにも気づかない程に。
剣士は猪突へ応えるかのように距離を狭め、出だしの一撃を受け止めるのみならず片手剣には不要なほどの力で豪火をその体ごと吹き飛ばした。
吹き飛ばされた体は壁へと打ちつけられるが、
その衝撃をものともせずにアッシュは追撃を仕掛けようと眼前に迫るヴェイグ…………正確にはその剣へと一撃を与える。
いつものアッシュならば剣を振る速度は一瞬だが、
今の彼の一撃は余分な力が入りすぎ明らかに速度を落としている。
しかし、普段と違うのはヴェイグとて同じ。
平時ならば大剣でも先に届いたであろう攻撃は内から湧き出る過剰なほどの力によりカバのような愚鈍さにまで落ちていた。
けれども失った速度の代わりに込められた力は間違いなく本当のもの。
重なりあう剣同士の摩擦熱で周辺の熱が上昇したかのようにすら思わせた。
雪を溶かすほどの熱さが塔を満たすと錯覚させるほどでもあった。
それはシャルティエに込めた力をさらに増幅させ、足を地面に縫い付けるかのように踏ん張らせることで高まることとなる。
しかし、あえなく先ほどとは逆に短剣で押しのけられ後退する結果となったヴェイグはらしくもなく舌打ちした。
攻め手へと転じた男はそれを好機と畳み掛けるように連撃を繰り出す。しかし、彼の相手は殺気のない攻撃ごときで勝てる相手ではない。


33カイル=デュナミスは己が未来を夢に見るか 2:2010/10/12(火) 06:44:26 ID:GCh9IFx/0

『彼の相手をしちゃダメだ。逃げるんだ、一刻も早く!!』

警告ではなく懇願と言うべきその言葉はヴェイグが持つ剣からだ。
先程は掴めなかった声の出所だが、さすがにここまで近づくと頭のみならず、体中に血が昇っているアッシュにもわかったらしい。

「おい、そこの剣。テメエ、ひょっとしてクレメンテの同類か?」

圧倒的に足りないリーチで掴んだ攻勢を維持できたのは切ないほどに短い間だった。
ヴェイグはすぐに体制を建て直し、アッシュとの力関係を互角にまで追い上げる。
その合間にでも声を発することができたのは驚嘆に値する胆力だと誰もが思ったことであろう。

『クレメンテを知ってるのかい!? なら戻って彼に伝えてくれ。ミクトランが――』

シャルティエの言葉を遮るのは彼の持ち手であるヴェイグの攻撃が擦り合う甲高い音。
全ては伝わらなかったがシャルティエの言葉を聞き入れる気がないのはアッシュも同じようで、そのまま相手との戦いに意識を集中させる。
しかし、これは果たして戦いと呼べるものなのだろうか? 
ヴェイグもこの地で死した仲間の名前を聞いてしまったことが余程衝撃的だったのか、
それとも別の要因からくるものなのか動きは精細を欠き、
振るう剣は筋を読むのが用意なものとさせている。場を響かせるのはただひたすらに愚直な剣と剣がぶつかり合う音。
この音だけでも散々寝坊助と言われ、ビンタされようと耳元で怒鳴られようと起き上がらない少年すら目覚めさせることが出来るであろう。

そう……この場にいるのはヴェイグとアッシュだけではない。
先刻、ヴェイグにお前こそが人質だと告げられ、アッシュの襲撃をただ見ているしか出来ない弱者とも言うべき存在。
愛する人を守ることを己がアイデンティティとしている彼には些か過酷な状態とも言えるかもしれない。
少年、カイル=デュナミスはただ立ち尽くしているしかない。
彼は今、自分が此処でどうすべきか迷っている。
何よりも大切なもののために屍を築き、血で作りし道を歩もうとしている青年を肯定したからだ。
いや、実際のところは選べる道はかなり限られているのかもしれない。
少年の手に握られているのは冷気を撃ち出す銃。
まるで、良く出来た脚本に操られたピエロだとカイルは思う。
氷を氷使いへ撃ったところで一体どれほどの効果を挙げられるのだろうか。
質も量も精度も圧倒的に上である銀髪の氷鬼には豆鉄砲以下の威力しか与えられないだろうとカイルは自答する。
ならば、この銃をアッシュへ向けるしかないのではないか。
ゲームに乗っておらず、ティアの仲間でもある彼をヴェイグが踏みしめる屍道の一つとするしか選ぶ未来はないのではないか。
ははっ、これでは、自分もゲームに乗ってしまっているのと同じだ。
ああ、だからこそミクトランも自分がこの武器を持つことを見過ごしたのだろう。
お前は無力だと、操り人形として生きるしかないのだと、
知略と愚直では絶対的に超えられないものがあるのだと心に刻み付けるかのように。
かつてジューダス……リオン=マグナスを手玉に取り、殺戮を強制したかのように。
カイルはティアと別れる前にこう言い残した。自分はロボットのようにはなりたくないと。
自らの足で歩き、この両手で運命を切り開く一人のヒトとしてありたいと。
だがこれが今の自分の有り様だ。圧倒的な閉塞感。
空気が、運命という名の粘りつく茨の蔓が、血塗れの鎖が体中に巻き付けられる感触。
カイルの思考を余所に二人の男は雪煙を巻き上げながら乱闘を繰り広げている。
窓から差し込み始める朝焼けの光が雪を反射し互いの獲物とそれを通じて睨み合う眼に光を帯させる。
少年はそんな二人を見て羨ましい、それを通り越して妬ましいとすら思った。
彼らはあそこまで力を出しきれる状況にいる。何かを選ぶことが出来る脚本を与えられている。
そして……きっと帰るべき未来がある。
歴史の修正により全てと別れ,この殺し合いに参加させられた自分達と違い、確固たる今が元の世界にはある。
 
剣が巻き起こす風、それとは別にもう一つの風を斬る何かがこちらに向かってくるのを肌で感じる。
それを感じることが出来たのはカイルだけが戦闘とは無関係でいたのと、彼に風属性の晶術適性があるからだろう。
高速でこちらへ飛来してくる何かが到着すれば戦場は更なる乱戦を迎えるのは必至。
 

34カイル=デュナミスは己が未来を夢に見るか 3:2010/10/12(火) 06:46:41 ID:GCh9IFx/0

足を負傷し、最大の武器である機動力を封じられた自分に行動を起こすための猶予として与えられた時間は少ない。
このまま傍観者であり続けるか、どちらかに加勢するか、
それとも新たな来訪者が何者かを見極めてから行動すべきか。
どちらにせよ、自分が生き残れる可能性は殆ど無いと見るべきかもしれない。
 
こと、このゲームに於いてカイルはティアのように合理的思考を持つようには決してなれない。
それは性癖からくるものだけではない。
ティアが軍人として行動するのは彼女に規律を与える何かがいてくれるからであり、
守るべき民や国があるからだ。しかしカイルにはそれがない。
カイルの行動原理は最初から単純であり、そして残酷なもの。
帰るべき場所もなく、
脱出したところで時間の波に飲みこまれるのが恐らく最幸の結末であろう彼には未来への指針というべきものが何もない。
守る世界もない。還る場所もない。ひたすらにリアラとの再会の約束を信じ、進むのみ。
 そんなカイルにも守るべきものがあるとするならそれは彼を英雄と信じてくれる一人の少女。
そして、自分を支え、時には導いてくれた大切な仲間達。
自分にあるのはもうそれしかないのだとカイルは心に強く言い聞かせる。
 ゆっくりと銃の狙いを定める。今というこの瞬間を守るために。
別れ際に友と誓い合った消えない絆を絶やさぬために。
剣を振ることに特化したこの手には銃の重みがまるで異形の怪物を手にしたかのように感じる。
その不快感に耐えながらも精神を槍のように細く尖らせ集中する。
 徐々に近づいてくる風斬り音。互いを打ち負かすことに全霊を注いでいる二人の剛者はその音に気づくことはない。
狙いも取るべき行動も既に決めた。後は――
遂に来訪者が塔へと辿りつき、押し相撲を続けていた者達の注意が一瞬だが確かに逸れる。

          その瞬間を好機と、カイルは引き金を引いた


35カイル=デュナミスは己が未来を夢に見るか 4:2010/10/12(火) 06:47:31 ID:GCh9IFx/0
【ヴェイグ・リュングベル 生存確認】
状態:HP??% TP40% 右手に切り傷、身体中に切り傷(凍結済) 疲労 半洗脳(自覚有り) ゲームに乗る覚悟
   仲間の死とハスタを惨殺したことへのショック ミクトランへの複雑な感情 ティアへの共感と少しの羨望 ???
所持品:ソーディアン・シャルティエ ブルーキャンドル 
基本行動方針:自分で選んだ道を自分の足で歩いて生きる。優勝してクレア達の蘇生を願う
第一行動方針:ミクトランに従う
第二行動方針:???
第三行動方針:アッシュからアニーのことを聞き出したい
第四行動方針:いつまでもミクトランに従っていたくない
現在位置:D3黎明の塔入口

【アッシュ 生存確認】
状態:HP??% TP21% 左腕に大裂傷(縫合済) 背中に大裂傷 全身に切傷と打撲
   後悔、羞恥、焦り 止まることへの恐怖 無力さへの葛藤 ロニへの疑問 ???
支給品:デリスエンブレム エナジーブレッド ジェイドの作戦メモ二枚
    イクストリーム アニーの日記 クリスダガー ソウルイーター ウッドロウのレンズ
基本行動方針:チャットを守り生きる。日記を継ぐ
第一行動方針:ウッドロウの意志に沿い、塔の中のイクティノスとヴェイグを救う  
第二行動方針:???
第三行動方針:事が終わったらチャットを迎えに行く。ルークと合流
第四行動方針:アニーの仲間に会ったら彼女の事を伝える 。ヴェイグのようになってたら……

【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:HP50% TP85% 焦燥感 右腿、左肩(×2)に銃創(凍結による止血済み) ナナリーとルーティの死にショック
   強くあろうとする大きな正義感と現実との差へのジレンマ
所持品:アビスレッドのコスチューム(仮面は外してます) カイルの服(アビスレッドの上から重ね着)
    他アビスマンのコスチューム ブリザードマグ
基本行動方針:殺し合いをやめさせる。絆を守るために戦う
第一行動方針:???
第二行動方針:ティア、イクティノスの安否が心配 ティア達、ミクトランに操られているヴェイグを助けたい
第三行動方針:仲間に会いたい
第四行動方針:殺し合いは止めたいけど、ヴェイグが選んだ道は否定したくない
現在位置:D3黎明の塔入口
36名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/12(火) 06:50:02 ID:GCh9IFx/0
以上で投下終了です


60行まで収まるようになったのには戸惑いました
まさかたったの四レスに収まるとは……驚嘆に値する
37名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/12(火) 09:08:32 ID:Gvmoat0dO
投下乙です!カイル…!
この中の誰が死んでも不思議じゃない状況だ
続きがすごく気になる!
38お詫び:2010/10/12(火) 15:57:52 ID:hA/iR4xO0
このお詫びは私がもう投稿できないと言う物です。

私がこのスレッドに来たのはマオの姿を見かけたからでした。
でもその内人格の壊れてきた彼を助けようとしてこんな変な事になってしまいました。
皆さんには多大なる迷惑をかけていたかと思いますがここは最後に、
「改めて言いますがこの物語はフィクションです。人格の壊れたマオの事はもう忘れて下さい。」
と入れる事で何とかする事にします。
改めて言いますが皆さんには多大なる迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
今後この手のを開催する時は、これ以上マオを傷つけないように参戦を封じてください。
第2回に参戦中のマオに関してはみなさんでどうにかして下さい。
私はもうここには来ません。本当に申し訳ありませんでした。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/12(火) 16:05:35 ID:E+rSkfeBO
マオ信者かよ
40名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/12(火) 18:38:07 ID:Fhs+nUmxO
投下乙!
カイルの行動によっては戦局が大きく動きそうだがどうなるか……
41名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/12(火) 19:29:25 ID:SNAAEv720
投下乙。なんという絶妙なポイントでお切りなさる…ッ!こいつは続きが気になるなあ。
外に来たのはエアリアルボードで来たキール達だったのか、飛んできたミトスなのか。うーむ。
42名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/12(火) 20:22:14 ID:aTNIE6foO
投下乙です。
時間的に乱入者はおそらくキール達だろうが、カイルが銃を向けた相手は一体、誰なのか・・・
続きが気になって仕方がないw
43名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/16(土) 00:50:32 ID:iDYUCdFd0
次はどこが動くのだろうか…。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/17(日) 11:31:02 ID:OTuckU9+O
誰も撃たない、もありかも?誰にも当てないで注意を引くとか…
誰が来たかも気になるけども、そろそろマップ兵器が到着するんじゃないかと怖いです
45名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:29:01 ID:RrMbF8ciO
ほしゅ
46名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 14:43:03 ID:rAScpwRT0
保守
47名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 13:22:48 ID:PhLgyWzt0
テスト
48テスト:2010/10/27(水) 13:28:58 ID:PhLgyWzt0
規制は…無いか
49Beautiful Warrior―Battle Carnival― 1:2010/10/27(水) 13:30:35 ID:PhLgyWzt0
傍から見れば異様な光景だった。砂漠地帯の筈が一面の雪。
そこに身体は血に染まり、狂った笑みと濁った瞳を湛え、斧では無く“さつまいも”を構えた男。
一部の物好きならホラーコメディとして歓迎されたかもしれないが、生憎烈風も騎士も物好きでは無い。
尚、烈風から見た第一印象は『面倒そうな奴』騎士から見た第一印象は『如何わしい輩』と、
残念がら好印象の『こ』の字も存在しない。尤も、今のロニ=デュナミスにとって全く意に介する事では無い。

「…僕達に何か用かな?」
「用?決まってるだろそんなモノ」

何時飛び掛かってきても対処出来るよう、ダガーナイフを構えたままシンクは質問した。
…まあ、恐らくロクでもない返答が返ってきそうな予感はするけど。果たして、

「お前を殺しに来たんだ!」

「「………………」」



ビシっとシンクを指差し放ったロニの一言は、シンクの予想通りロクでもない内容だった。
しかも言葉の内容は大層物騒だが、近所の子供がお菓子、若しくは好きなあの子を賭けて友達に決闘を申し込むようなトーン。
シンクは半ば呆れ、クロエの表情に警戒感と嫌悪感が強まるが、恐怖心は全く湧いて来なかった。

「……聞くだけ無駄かもしれないけど、理由は何かな?」
「それはお前がその子を庇おうとしたからだ!」
「………………は?」

意味不明な意気込んだロニの回答に、シンクは思わず間の抜けた声をあげた。

「俺の夢は“盾”になること!だから俺以外に盾は必要無い!だから殺す!」

「「………………………………」」




胸を張って答えたロニに対して、シンクは完全に呆れ顔となり、
クロエの表情に益々嫌悪感と警戒感が広がる。シンクは今まで色んな馬鹿や狂人を見て来たが、
これは中々のレベルである。恐らく頭のネジが765本位弾け飛んで壊れてしまったに違いない。
…それが元からなのか、この殺し合いのせいで完全に壊れたのかは、現時点では判断に悩む所であるが。
その時、今まで無言を守っていたクロエが嫌悪感を隠さず問い質した。

「…お前はこの殺し合いに乗っているのか?」
「美しいお嬢さん、勘違いされては困ります。俺様はサイグローグの魔の手から皆を守ろうとしているのです」
「だがお前は、今シンクを殺そうと…」
「先程も言ったように、俺以外の盾は必要ありません。だから殺すのです」

クロエが美少女だからか、先程までとは打って変わって紳士的に振る舞うロニ。
下手するとこのまま口説きかねない雰囲気である。シンクは失笑しそうになるのを辛くも堪える。
対照的に、クロエの表情に更なる嫌悪感と警戒感が広がっていく。

「…この男は一体何を言っているんだ?」
「…要するに、自分以外の人間が誰かを庇うのが気に入らないみたいだね」

クロエの疑問にそう応じつつ、別にクロエを庇うつもりは全く無かったんだけどねと、そう心の中でシンクは呟く。
まあ、それを言った所でこの765本位頭のネジが弾け飛んだ馬鹿な狂人に通じる可能性は皆無だろうが。


50Beautiful Warrior―Battle Carnival― 2:2010/10/27(水) 13:31:57 ID:PhLgyWzt0
「ここで殺される訳にはいかないけど…一応教えてくれる?僕を殺したらその後どうするつもりなの?」
「この後か?お前を殺してその子の盾になったら、武器を確保して、その次は殺し合いに乗った連中は殺すだろ、
んで火を使う奴は殺す。アイテムを使う奴も殺す。自分から逃げる奴も殺す。術を使う奴も殺す。回復する奴も殺す。
誰かを守ろうとする奴も…ってこれはさっきも言ったか。あとは………えっと……今のところはそれだけだな!
だから俺は殺し合いには乗っていない!どうだ分かったか!」

「「………………………………………………」」







これで何度めの沈黙だろうか。無論、2人の言語能力が不足しているからではない。
先刻からツッコミ所満載な言動に、言う言葉を失ってしまったからに他ならない。
もしここに、異世界で『クィーンオブツッコミ』の称号を手にしてしまった今は亡きシャボン娘がいたとすれば、
<殆ど全員じゃん!?>とか<それを殺し合いに乗ってるって言うんだよ>
ハリセン片手にそうツッコんだに違いない。尤も、それをこの男に言うだけ馬の耳に音素学、若しくは古刻語であろう。
シンクは盛大に溜息を吐くと、もう付き合いきれないなという雰囲気を全面に出しながら質問した。

「…………一応分かったことにしておくよ。じゃあ最後に聞かせてくれない?………お前の名前は?」
「俺か?俺の名はロニ=デュナミス!盾を目指すクールな2枚目だぜ!」

何かよく分からない決めポーズと決め台詞がシンクの視覚と聴覚が捉えた気がするが、気にしないでおく。
それより重要(さっきまでの妄言狂言よりは)なのは、こいつの名前。嗚呼と、漸くシンクは納得する。
“ロニ=デュナミス”こいつがナナリーやリアラの仲間で、サイグローグに名指しされた哀れな男か。
状況から察するに大方、大切な仲間を殺されて、挙句サイグローグに惑わされて気が触れてしまったってとこか。
まあ見た目からして頭の容量は小さそうだから、壊れるべくして壊れたのだろう。

「美しいお嬢さん、少々お待ち下さい。そのガキを殺したら、すぐロニ=デュナミス様が貴女の盾となりましょう」

高々と処刑宣言と愛の告白(?)をしたロニに対し、やれやれとシンクは肩をすくめた。
遊戯の為のウォーミングアップに丁度良いと最初は思ったが、正直相手にするのが億劫になってきた。
だがここまで来て『逃走』という選択肢は絶対に取れない。それに策の『結果』を見届けておく必要もある。

「……一応アイツの目的は僕みたいだから、クロエは後ろに下がってて」
「だがそれでは……」
「大丈夫、アイツなら僕でも何とか対処出来るから。それに―――」

シンクは小声で何かを呟くと、
ロニを見据え、臨戦態勢に入る。それにしても………

(もしここにあのお人好しがいたら、どう対処したんだろうね)





51Beautiful Warrior―Battle Carnival― 3:2010/10/27(水) 13:32:53 ID:PhLgyWzt0











―――少し時は遡り、ロイド達が橋の落ちた渓谷を渡り終えた直後





「…リアラ!」
「ど、どうしたアーヴィング!?」
「このままだと…リアラが危ない!」
「リアラが……?」

一体何を感知したかは分からないが、それにしてもロイドの焦燥は尋常じゃない。
下手すればエルレインに襲われた時よりも酷いかもしれない。とりあえず今にも
慌てて飛んで行きかねないロイドを抑えて、クロエと共に事情を聞き出す。ロイドの言う事を要約すると、

・先刻まで僕達を追跡していたルカとエルレインって奴が突如として追跡を止めた。
・その直後、後方――といっても僕達では確認不可能な程の距離があるが、凄まじい衝撃音が響いた事。
・そして今あのエリアで僕達以外に生き残った者と言えばルカ、エルレインを除くと恐らくリアラしかいないということ。

以上の事からリアラに危機が迫っているとロイドは判断したらしい。
成程、とシンクは納得しつつも警戒の念を抱かずにはいられなかった。
こう見えてもシンクは神託の騎士団『六神将』が1人。純粋な戦闘能力だけでもトップクラスの実力者である。
そのシンクが五感を研ぎ澄ませていたにも拘らず全く感知出来なかったものを、ロイドの感覚は確実に捉えていた。
これ程の致命傷を負っていても何の妨げも無く行動可能な点も含めて、天使能力は予想以上に危険である。
勿論それは敵に回した時であって、味方である内はこの上なく頼もしい能力であるのだが、
何れロイドを敵に回した時を考えると今のうちに対策は立てて置くべきかもしれない。

「2人は先に塔に行ってくれ。俺はリアラを助けに行く!」
「ま、待ってくれアーヴィング!襲われているといっても、まだそれがリアラであるとハッキリしている訳じゃないんだろ!?」
「そうだよ。それに……こんなことは言いたくないけど…リアラが襲われているのでは無く――」

シンクはそこで言葉を濁し、視線を落とした。それでもニュアンスから予想は簡単に出来た。
リアラが誰かに襲われているのではなく、逆にリアラが誰かを襲っている―――
生き残りは自分達だけとロイドは言ったが、実は他の参加者があの近辺にまだいて、
それをリアラが襲っている可能性だって十二分に考えられることである。
クロエも口にするのは憚っていたが同様であった。リアラの事が心配で無いと言えば嘘になるが、
ルビアを手に掛けた一件から見ても、その危険性は無視出来なかったし、何よりそれがリアラでなく、
同じようにゲームに乗った者達だった場合、最悪3人以上の攻撃を受ける事態にもなりかねない。
クロエとシンクの指摘に、ロイドの表情が僅かに翳る。

「…その可能性もある」

それも否定は出来なかった。そもそもリアラが逃げ出した方角、距離から考えても余りに離れ過ぎている。
ロイドのような人間が全速力で走れば不可能では無いかもしれないが…どう考えてもリアラの脚力では不可能のように思えた。
それでもその可能性を捨て切れずに、こうして後ろ髪を引っ張られるような感覚に囚われるのはきっと――――



52Beautiful Warrior―Battle Carnival― 4:2010/10/27(水) 13:33:56 ID:PhLgyWzt0
「…諦めたくない、そう思ってたのに、俺はきっとどこかで諦めてしまっていたんだと思う」

ロイドの心に浮かぶは、異世界で出会った赤髪の神子と、古代大戦の英雄の姿。
未来を閉ざされた妹の為に敢えて裏切り者の汚名を被ることを選んだ青年と、
苦難の先に世界に裏切られ、愛する者を奪われ未来に絶望した少年―――
どちらも出自も性格も、背負っていた物もまるで違う。だけど意識の奥底で、
2人は救いを求めていた。仲間を裏切った事に対してなのか、生を否定された事に対してなのか、
幾千年も人々に犠牲を強いながら、深い哀しみと孤独の中で生き続けて来た事に対してなのか、
今となってはハッキリと分からない。分かった所で救えたかどうかも分からない。
それでも思うのだ。“本当に救えなかったのか”と。どちらも救いたかった。それは紛れも無い事実。
だけど戦いの中で、斃す事でしか救えない、今の自分では、それ以外の方法では救う事が出来ない。
僅かでもそう思ってしまった。それも事実だった。

「…その為に俺は大切な仲間を失った。元の世界でも、この世界でも………」

幾度となく後悔し、過去を振り返っても現実は変わらないし、変えられない。
救えなかったのだ。ゼロスもミトスも、この世界に一緒に連れて来られたプレセアもリーガルも。
そしてこの世界で出会ったすず、ノーマ、ディスト、ルビア――皆死んでしまった。救えなかった。

「この身体だってそうだ」

ロイドは自分の胸の傷に手をやる。次に浮かぶは、先程剣を交えた銀髪の少年の姿。
最初に出会った時は、彼は大量に涙を零しながら、うわ言を叫びデッキブラシを振り回し襲ってきた。
そして次に出会った時は、彼は明確な殺意と悪意をこちらに向けて襲いかかってきた。
一体彼の身に何が起きたのかは知る由も無い。でも1つ言えるのは、彼もまた
恐怖や絶望に押し潰されそうになるのを必死に堪えながら、救いを求めていたのだ。
だが、救いの手を差し伸べるのが遅過ぎたが故に、彼はついに闇へと堕ちてしまった。
もっと早く彼に出会えていれば、彼を救う事が出来たかもしれない。
少なくとも、このような致命傷を負う事は無かったであろう。

“上手な生き方のコツは―――諦める事さ、ロイドさん”

再び先刻のルカの言葉が脳裏に蘇る。同時にロイドの中身を腐った様な灰色が浸食していく。
彼の言うとおり、自分がやろうとしていること―――“どんなことがあってもこのゲームには乗らない”
それは余りに非現実的なことなのかもしれない。様々な狂気が渦巻き、僅かな時間の間に次々と人が死に、
味方が敵に堕ちる。回復も困難で、エルレインのように強大無比な力を有する敵が存在している。
そんな恐るべき悪夢のような世界で、誰1人殺す事無く済ませようとすること自体無謀の極み。
実際その無茶を貫こうとした結果が、このザマ―――ロイドは僅かに自嘲の笑みを零した。

「…完全に諦めてしまえば、割り切ってしまえば、きっと楽なんだと思う」

“危険因子は素早く対処する”リフィルやクラトスならば恐らく取ったであろう手段。
本当は自分もそうすべきかもしれない。敵対する者、またはその恐れがある者は排除する。
その方が守りたい人達、仲間達、同志達の危険を確実に減らす事が出来るのだ。
今の自分のやり方では、自分は勿論、仲間達まで危険に晒す恐れが高い。、
何より、遅かれ早かれ理想と現実の板挟みに苦しむに違いない。
自分の為にも、仲間の為にも諦める―――その方が楽なのは一目瞭然だった。


53Beautiful Warrior―Battle Carnival― 5:2010/10/27(水) 13:35:32 ID:PhLgyWzt0
「だけど、それをやってしまった時、きっと俺は俺で無くなってしまう」

それはロイド=アーヴィングの精神、若しくは魂の死を意味していた。
元の世界でもロイドは幾度と無く肉体的にも精神的にも死の淵に立たされた事はあった。
それでも彼がこうして切り抜けて来たのは大切な仲間達との絆、愛する者の存在、
さらにロイド=アーヴィングを強固に構成する確固たる信念、理想があったからであった。
万が一それを己が手で放棄した時、それらは瞬時に形骸化してしまい、精神や魂は死に至ってしまう。
仮に生きてここから抜け出せたとしても、もう昔みたいに仲間達と笑い合う事は出来ないだろう。
理想や夢を追い求める事も、愛する人をこの手で抱く事は愚か、傍にいる事さえ出来なくなるに違いない。
…冗談じゃなかった。そんな事、周りが許しても俺自身が絶対認めないし、絶対許せない。
失った物は余りに大きい。でも全てを失った訳ではない。それに俺はまだ生きて此処にいるのだ。

「だから俺は、最期の瞬間まで絶対諦めない」

それは己への宣言、そしてこのバトルロワイヤルに対しての宣戦布告。
揺ぎ無い決意の炎が、身体を浸食する腐った灰色を燃やし尽くす。

「これから救えるものは全部救いたい。いや、必ず救ってみせる。 例えどんなにみっともなくても、
どんなに無様であっても、足掻いて足掻いて、最期まで足掻き切ってみせる」

現実は想像以上に残酷で厳しい。守れる命などもう何処にもないかもしれない。
先刻のように目の前で仲間を失う事も、プレセアやリーガルのように自分の知らぬ所で
リフィル先生もクラトスも命を落としているかもしれない。或いは信じていた仲間に裏切られる事もあるかもしれない。
…それら全て覚悟の上で、ロイドは最も過酷で残酷、絶望と狂気渦巻く戦いへの道に足を踏み入れる。
ふと思い浮かぶはクラトスの姿。クルシスの最高幹部として、ロイド達を表面上裏切り、敵対しながらも
ミトスの凶行を止めるべく、世界を、そしてロイド達を守るべく孤独で過酷な戦いを続けて来た剣の師であり、
そして自慢の実の父親――――そんな父さんの血を俺は引いてるんだ。だから俺にも絶対出来る。

「…だから何があろうと俺はリアラを助けに行く。その結果たとえ―――」

その先は言葉を呑み込んだ。それでも十分その意味は、呑み込んだ言葉は2人に理解出来た。
ロイドの傷は常人ならば確実に致命傷であることは本人が1番自覚していた。
この回復魔法の効果が期待できない環境に置いて、助かる術は限られている。
エリクシール、もしくはそれに準ずるような回復薬、強力な回復触媒を用いた回復術、
もしくは治療が可能な空間まで脱出するか……だが何れの手段であろうと、その望みは薄い。
勿論、どのような状況であろうと生を諦めるつもりはない。帰りを待つ人達が、最愛の人がいる。
成し遂げねばならない使命がある。そして叶えたい夢がある。だが死が避けられないのであれば――――


――――せめて最期の瞬間まで自分を貫き通して、死にたい。


それは余りに悲壮で、だけど揺ぎ無き少年の決意―――。



54Beautiful Warrior―Battle Carnival― 6:2010/10/27(水) 13:38:21 ID:PhLgyWzt0





(全く、このお人好しには困ったものだね)

心配そうな表情を装いつつも、シンクは内心呆れ返っていた。
ともすればあっという間に心を折られそうなこの世界で、ここまで己を保つと言うのは
中々に強靭な精神である。その点は大きく評価出来るし、その思考も決意も判断も
ロイドらしいと言えばロイドらしいが、その判断は余りに非現実的且つ無謀。
自分の世界の仲間ならともかく、赤の他人同然の発狂した馬鹿女を危険を冒してまで助けに行く、
それも相手はエルレインとルカ。ルカはともかくエルレインは先刻ロイドに容易く致命傷を負わす程の化物。
リアラを戦力としてカウントしたとしても、兵力差は歴然。万が一リアラを救えても、その肝心要なリアラに裏切られ、
攻撃を受けないとも限らない。メリットなど皆無に等しい状況。シンクの呆れは至極尤もと言えた。
だからといって、強硬に反対する事は折角の信頼を損なう事にもなりかねない。
それにリアラが死ねば、再びエルレインとルカはこちらの追跡に入るだろう。
3人で挑めば勝てなくもないかもしれないが、犠牲と消耗は限りなく大きい。
ならば取るべき手段は――――――。

「どうしても…行くんだね」
「…………悪い」

悲しそうに言うシンクに、ロイドは罪悪感に心が締めつけられるのを感じた。
リアラを助けに行く、それは同時にシンクとクロエを此処に置いて行くという事を意味していた。
シンクはともかく、クロエは戦闘に影響しかねない傷を負っている。万が一自分が離れた隙に、
2人がゲームに乗った連中に襲われでもしたら―――ロイドもその点に大きな不安があった。
そんな不安を見透かしたかのように、シンクはロイドを後押しするような言葉を口にした。

「謝る必要なんてないよ。ロイドの気持ちは痛い程分かるから…僕達なら大丈夫だよ。
戦う術も逃げる術もちゃんと持ち合わせているから」

そう言い終わると、同意を求めるようにクロエに視線を移す。
その視線に気付いたクロエは、躊躇いがちにコクリと頷く。

「私もシンクと同じ意見だ。リアラを…助けてやって欲しい」

尤も表情から見て、正直な所行かせたく無いのが本音なのだろう。
今にも泣き出しそうな、そして辛そうな表情が滲み出ていた。
ロイドの心の中に益々申し訳無さが積もって行く。

「…本当に悪い。でも必ずリアラを助け出してみせるから、だから――」
「――なら、これを持って行って」

そう言ってシンクは一振りの剣を差し出した。
それは刀身に当たる部分が羽のような形状をした光の剣。
…そして、先刻ノーマを死に至らしめた凶器―――
ロイドはその事に思い当たり、僅かに表情を曇らせたが、
それでも差し出された剣を拒む事無く手にした。

「これは……?」
「…聖剣ロストセレスティ。ディストが持っていた、僕達の世界に伝わる伝説の武具の1つなんだ」

55Beautiful Warrior―Battle Carnival― 7:2010/10/27(水) 13:41:31 ID:PhLgyWzt0
ロイドは聖剣ロストセレスティを鞘から抜き一振りしてみる。
先程は目にしただけだから分からなかったが、思いのほか手に馴染む。そして何より剣を包む神聖な力。
魔剣フランヴェルジュ、ヴォーパルソードに匹敵する、確かに伝説の武具と呼ぶに相応しい剣だった。
想像以上の名剣に、ロイドは驚きを隠せない。

「いいのか…?」
「あんな化物からリアラを救うんだ。これ位あった方がいいだろ?それに……」

シンクはそこで言葉を切ると、右手をすっとロイドの右手に向かって差し出した。

「リアラを救うだけじゃ駄目だよ。ロイドも必ず、一緒に戻って来て…」
「…ああ。ありがとう、シンク」

ロイドは笑顔を見せると、差し出された右手を固く握りしめた。
その屈託の無い笑顔に、シンクも安心したかのような微笑を浮かべた。
…無論シンクのそれは作り笑いであり、内心では冷笑していたのだが。
ロイドには利用価値が十分に残されている。正直ここで切り捨てるのは惜しい所だが、
迫り来る絶対的な危機の前で出し惜しみは愚策。ましてロイドが受けた傷の深さから見ても
そう長くは持つまい。ならばまだロイドが動ける内に、エルレインの足止めをさせる。
少々勿体無くもあったが、聖剣ロストセレスティを渡したのは戦力差を少しでも埋めるため。
凡人ならともかく、ロイド程の実力者ならば上手く時間稼ぎをしてくれるだろう。
出来れば潰し合ってくれる、さらに言えばロイドが生きて戻って来てくれる事が
最も望ましいが、幾ら何でもそれは贅沢というものだろう。

「…あ、でもシンク、俺にこの剣を渡したら、武器は―――」
「大丈夫だよ。僕は素手でも戦えるし…あ、そうだ。ならロイドが持っていたダガーナイフを貸してくれない?
あれがあるだけでも、僕は有利に戦えるからさ」
「分かった。じゃあこれを渡しておく。でも、無理はするなよ?」
「うん、ロイドもね」

そう笑顔を見せつつも、そろそろこの茶番劇からいい加減解放されたい所だね…
心の中でそう溜息を吐くシンクだった。尤も、彼の願いが聞き届けられるのはさらに先の事となるのだが。
シンクにダガーナイフを渡すと、次にロイドはクロエに視線を移し、声を掛けようとした。
だが次の瞬間思いも掛けぬ衝撃がロイドの身体を包み込んだ。クロエが突如ロイドに抱きついたのだ。

「うわっ!?…………く、クロエ?」
「馬鹿……何もかも……1人で背負いこもうとして………」
「………悪い」
56Beautiful Warrior―Battle Carnival― 8@代理:2010/10/27(水) 22:07:26 ID:c2paXzwj0
ロイドは最初驚き焦ったが、クロエの涙声がすぐさま冷静さを回復させた。
同時に、再び申し訳無さが心の奥底から込み上げて来る。ロイドもクロエの身体を優しく抱きしめた。
クロエは怖かった。自分の非力さ故にこれ以上仲間を、大切な者を失うことが。
そして自分もこの狂ったゲームで己を見失い、狂気に囚われてしまうのでは無いかと。
だから本当はロイドを行かせたくなかった。このまま永遠の別離となる危険性の方が高い、
そんな戦場に1人で行かせたくは無かった。だがクロエは同時に知っていた。
ロイドに依存したい、頼りたい思いは遥かに大きい。だがそれでは何時まで経とうと
騎士として、誰かを守る事は出来ないのだ。故に、クロエはすぐにロイドから身体を離す。
その温もりに未練を感じながらも、これ以上己を甘やかさない為に。

「…絶対帰って来い。死んだら…承知しないからな」
「ああ、必ず戻って来る」

ロイドは親指を立てて笑顔を見せると、漸くクロエにも笑顔が戻った。
その笑顔に漸く安堵の念を抱いたロイドは、蒼翼を広げると素早くリアラ達の元へ飛び立って行った。

寸での所でロイドが無事リアラを救出し、レムの塔の転送システムにより
リアラと共に大樹ユグドラシルに転送されるのは、それから十数分後の事である。
57Beautiful Warrior―Battle Carnival― 9@代理:2010/10/27(水) 22:08:41 ID:c2paXzwj0
時は戻り、雪原――




雪上で繰り広げられるは、皆殺しの斧槍と烈風の戦い――
一閃、二閃―――常人ならば一瞬で肉を引き裂き骨を断つような重い一撃を
次々とシンクは空に切らせる。三閃目と同時にシンクに迫るロニの左拳。

(これは回避不可――)

そう判断しシンクは左腕の音素を即座に収束させ、ガードする。
同時に右手に握られたダガーナイフに第三音素を収束。ロニの懐に入り一挙に刺し貫こうとするが、
迫りくるさつまいもを視認し、即座に軌道変更する。第三音素を収束させたダガーナイフにより、
かちあげられたさつまいもが空を切り、逞しい胸部がガラ空きとなる。即座に左掌に音素を収束、
シンクは掌底をその身に叩き込もうとする。通常ならば成立し得たであろう強烈な反撃。
だがロニの追撃の速度の方が速かった。

「ふっ、はっ!」

間髪入れずロニの二連続の蹴り上げが、シンクに襲いかかる。
目の前に迫る蹴りを視認し、即座に左腕を攻撃から防御に切り替える。
ほぼ同時に左腕に走る衝撃――ダメージは極微量、ガード成功。
だが勢いを完全に逃がし切れずに身体が衝撃で浮き上がる。
好機到来とロニはさらに追撃せんとさつまいもをシンク目掛けて振り下ろす。
狙いは完璧。間違い無く致命傷となる強烈な一撃。尤も、それはシンクが防御も回避行為も一切取らなかった事が前提となる。
当然ながらまともに受けてやるような義理も義務も趣味も嗜好もシンクには微塵も無い。
ダガーナイフを繰り出してその一撃を受け流し、雪原に着地する。それとほぼ同時に軸足に力を入れる。
狙いは左拳による鳩尾へのカウンターの一撃。しかし、駆け出す寸前にシンクの目に飛び込んできたのは
目一杯近くまで迫り来るロニの逞しい体躯。

「割破爆走撃!」

身体に走る衝撃――それがタックルによるものと気付いた時には、すでにシンクの身体は宙を舞っていた。
表情に僅かな驚きを浮かべつつ、シンクは空中で受け身を取ると、右足から地面に着地する。
即座に態勢を整え、視界を前方に移すと、こちらに向かってロニが駆け出してくるのが見えた。

(コイツ、思った以上にやるね)

再びシンクの身を喰らい付こうと唸りを上げるさつまいもを回避しつつシンクは舌打ちした。
幸いタックルを受ける前に、僅かだがバックステップしたお陰で、割破爆走撃による痛みは殆ど無いが、
それでも忌々しさを感じずにはいられない。この殺し合いに呼ばれている時点で、
馬鹿は馬鹿なりに戦う術を持っていると考えていたが、想像以上である。
力技は確かに多いが、それでも軍事訓練は一通り受けていたらしく動きに無駄が無い。
頭のネジが飛んでこれだから…いや、寧ろ恐怖心や迷いなど、余計な感情が無い分
却って動きを妨げて無いと言うべきか。いずれにせよ想像以上に手を焼く相手である。

(さて、どうするかな)

この雪では素早い動きは消耗が思ったより大きい。ならば術で動きを――否、その暇は無い。
霧氷翔――空中から放たれた4発の冷気をステップで回避しつつシンクは何度目かの舌打ちする。

「オラオラどうした!逃げてるだけじゃ俺の進化は止められねえぜ!!」

着地と同時に繰り出されるは氷晶力を纏ったロニの渾身の突き―――
常人ならば確実に貫かれてあの世逝きの一撃だが、シンクはダガーナイフで軌道をずらし、
致命的な一撃を回避する。
58Beautiful Warrior―Battle Carnival― 10@代理:2010/10/27(水) 22:10:11 ID:c2paXzwj0

ピシッ



不意にダガーナイフから嫌な音が響いた。見れば刃先に罅が入っている。
シンクの表情が僅かに曇った。

(やっぱり長期戦には耐えられないか)

幾ら第三音素を纏わせて強化しているとはいえ、所詮は一般に普及してるような武器。
相手の武器がさつまいもで無ければとっくの昔に砕け散っていただろう。
一方、ダガーナイフに入った罅に、ロニの表情に歪んだ笑みが浮かぶ。
状況はこちらが有利。このままいけば勝てる、こいつを殺せる――――そう確信した。
ロニは知る由も無い。シンクが元の世界でローレライ教団の『神託の盾騎士団』の幹部『六神将』の1人であり、
その中でも“参謀総長”として数々の戦場で暗躍していた事を。導師イオンのレプリカとしては失敗作ではあったが、
導師の力と、神速の体術により数々の猛者を葬り去り“烈風のシンク”と言う二つ名で恐れられていた事を。
故に気付けなかった。ダガーナイフはあくまで剣や斧、あるいは銃などの殺傷能力が高い武具から
身を守るためと、自分の戦闘スタイルを偽るためだったことを。
ロニが僅かに見せた油断に付け込むかのように、シンクは即座に雪を蹴り上げる。

(雪!?目くらまし!?)

雪粉に視界を奪われたロニは一瞬身体が硬直する。
次に考え得る行動は当然奇襲。だがどうやって攻めて来る?
可能性としては急所を狙った一撃必殺か。武器が破損間近、その可能性は高い。
ならばその一撃を回避、もしくは受け止めその頭蓋をかち割るだけ。
意識を集中すれば難しい話では無い。さあ来……ッ!!!
突如左腕に鋭い痛みが走る。見ればダガーナイフが突き刺さっていた。

(何時の間に!?まさか投げたのか!?自分から武器を捨てた!?いや、まさか奴の本来の戦闘スタイルは…)

ロニは気付かないまでも予想しておくべきだった。長剣と違い、短剣はリーチが短い分
機動力や体術で補うケースが多い。まして、ここまでの一連の動きから、体術も会得してる事は
判断は簡単に出来た筈である。だが自身の優位性がその判断を誤らせてしまった。
左腕に突き刺さったダガーナイフを引き抜こうとした次の瞬間、ロニの右側頭部を衝撃が襲った。
シンクの鮮やかな回し蹴りが直撃したのだ。一瞬視界が歪むが、雪上故に蹴りが甘かったお陰で何とか踏み止まる。
だが態勢を整える前に腹部に重い一撃が走る。見ればシンクの掌底が鳩尾にめり込んでいた。
息が止まる。半瞬の間を置き、激痛が走り、胃液が急速に逆流し、口から溢れ出る。
思わず膝を付きそうになるが、それでも再び踏み止まる。だが今度も態勢を整える事は叶わなかった。
苦痛の中で、ロニは自分の周囲に巻き起こる風と、舞い散る雪粉を肌で感じる。
正体は分からないが、嫌な予感しかしない。回避行動を取ろうとした次の瞬間―――

「臥龍空破!」

第三音素を纏った強烈な拳がロニの顎を激しく撃ち抜いた。
渦巻く第三音素に雪が刎ね飛ばされる中、口から血と胃液を吐き出しながら
ロニの身体が宙を舞い、やがて雪原に派手な雪塵を撒き上げて墜落した。
59Beautiful Warrior―Battle Carnival― 11@代理:2010/10/27(水) 22:12:02 ID:c2paXzwj0
(畜生……やっぱさつまいもじゃ分が悪いぜ……)

大の字になって雪原に倒れ込むロニは心の中で悪態を吐いた。思いのほか重い一撃に、一瞬意識が飛びかけたが、
背丈の高さと、咄嗟に頭を上げたのが幸いした。顎もかなり痛むが罅が入った程度であろう。
追撃を避けるために、起きあがろうとしたロニの視界に、クロエの姿が入る。
そしてロニの視線はある一点で釘付けになってしまった。
それはクロエが手にしている剣。天地戦争時代、地上軍を勝利に導いた究極兵器が1つ、
そしてロニが敬愛して止まないルーティ=カトレットの愛剣『ソーディアン=アトワイト』

………ではない。

クロエ=ヴァレンス、綺麗な黒髪、どことなく美しさに気品さも備わった顔立ち

………そこでもない。

スリーサイズはロニ様の美女・美少女センサーで見る限りB85・W58・H87

………惜しい。

ロニの視線が釘付けになってしまったのはクロエの胸――
厳密に言えば戦いにより破れてしまった着衣から覗く白い肌。

……あと少し、あと少しで見える!
……男の浪漫が……男が愛してやまない美しき薄紅色の突起が!
……だが見えない!運命は時に厳しい!厳し過ぎる!何故だ!?何故見えない!やはりテ●ルズは全年齢向けだからなのか……!
勿論、鉄壁のガードという訳でもないので、少し服を引っ張ればすぐ見えそうなのだが、生憎ロニは“盾”である。
盾の身でそのような破廉恥な真似は出来ない。ならば手段は只一つしかない。ロニはガバッと上半身を起こし、クロエに向き合い、そして―――

「お嬢さん、もう少し胸の辺りをずらしておっぱい見せて貰ってもいいdげぶふぉあっ!?」

某海賊船のセクハラ骸骨剣士のような台詞を言い終わる前に、クロエの鮮やか且つ容赦ない本気の蹴りが
ロニの顔にクリティカルヒットしていた。悲鳴と鼻血と共に再び宙を舞い、雪原に情けなく墜落するロニ=デュナミス。
……マーダーではあるが、やはり馬鹿なフラレマン、そして異世界の熱血馬鹿並みに“大変なケダモノ”である。

だがロニの戦士としての卓越した勘は、たとえケダモノマーダーに堕ちようと健在である。
鼻血を流しながら態勢を整えようとした次の瞬間、ロニの五感が危機の到来を告げる。
咄嗟に地面を転がり、その半瞬後に、ほんのつい先程までいた場所に氷柱が無数に突き上がる。
あと一歩遅ければ確実に氷柱に串刺しにされた挙句、氷漬けになっていただろう。

「…っぶねえ!てめえ、術も使えるのか…!」




<ロニ様の殺害対象おさらいその3>

・術に頼るか雑魚共…じゃ無かった、術を使う奴はr(以下省略)




「死刑確定再審棄却!絶対てめえはここで死んでもらう!」

意味不明な宣言と共にロニは怒りのボルテージを上げるとガバッと起きあがり、
腕に刺さったダガーナイフを引き抜き、シンク目掛けて投げつける。
速度も中々、且つシンクの眉間を狙った実に素晴らしいコントロール。
だがシンクの腕をもってすれば受け止めるなど全く難しい話では無い。
眉間に突き刺さる寸前で軽々とダガーナイフを指で挟み込むように受け止める。
だが、ロニもそこまでは読み通り。本当の狙いは―――――………
ダガーナイフを投げつけると同時に、僅かに後方に下がる。先刻ハロルドにも放った迷惑奥義。
60Beautiful Warrior―Battle Carnival― 12@代理:2010/10/27(水) 22:13:43 ID:c2paXzwj0


「空破特攻弾ッ!」

風車の如くグルグル回転してロニが飛んできた。
速度、威力共に、常人ならば回避する間も無く肉を抉られる厄介な奥義だが、
シンク程の実力者ならば回避は難しくない。寸での所で地面に伏せて回避し、
即座に間合いを詰める。狙いは着地の瞬間。回避も防御も不可能――その筈だった。
だが背後を狙おうとした次の瞬間、シンクの神経が術の感知を告げた。
即座に攻撃を中断し、後方にバックステップする。


「シャドウエッジ!」

突如雪上から突き出た闇の刃が、ほんの一瞬までシンクがいた位置を襲っていた。
僅かでも感知が遅れていれば、確実に串刺しになっていただろう。
辛うじて回避したシンクは、舌打ちしつつ後方に大きく跳び、態勢を整えようとする。
反撃の暇を与えまいと、ロニは即座にシンクに向かって駆け出した。
その時、ロニの目に思わぬ光景が飛び込んできた。反撃に出ようとしたシンクが突如右足を押さえ、膝を付いたのだ。
ロニの表情が狂喜に歪む。先程のシャドウエッジが掠めていたに違いない。好機到来!ここで確実に仕留めてみせる!

「もらったあああああぁぁぁぁ!!!爆灰しょ…―――」

ロニはさつまいもにありったけの力を込め、思いっきり振りかぶる。
この位置なら確実にさつまいもが届く範囲。後はその頭蓋を叩き割るだけ…の筈だった。だが、

「魔神剣!」

大地を震撼させる殺人的な一撃がシンクを襲うよりも早く、
突然の衝撃波がロニを襲った。思いもかけぬ攻撃に、ロニは回避叶わず吹き飛ばされ、地面を転がる。

(なっ!?新たな敵襲!?一体何時の間に!?一体どこのどいつ……が……!?」

地面を転がりながら、ロニは事態を知り愕然とした。予想は出来た筈だった。
だが、壊れた思考が完全にその可能性を破棄させてしまっていた。
攻撃を仕掛けたのは、ロニが盾に為ると誓った美少女、クロエ=ヴァレンスだった。

「…シンクは殺させない」

嫌悪感と怒りを露わにして、アトワイトを構えるクロエに、
シンクは僅かながらの驚きの表情を見せた。

「クロエ…!?」
「気遣いは嬉しいが、それは余りに勝手過ぎるぞ、シンク」

クロエはシンクに視線を移すと、僅かに表情を緩めた。
それでもほんの僅かに怒りの色があったのは、先刻のシンクの言葉。
シンクがロニと向き合う直前に呟いた言葉を、クロエの聴覚はハッキリ捉えていた。

――出来ればクロエの手を血で汚させる真似は避けたいしね

シンクなりの思いやりは嬉しくもある。だが1人で全て背負いこもうとする姿勢は
腹立たしくもあった。それでは自分が非力且つ信頼されていないみたいでは無いかと。
だからこそ、シンクの危機を悟った時、即座に割って入ったのだ。
そう、私は決めたのだ。シンクと共に戦う事を、そして――――

「…言った筈だ。私も覚悟を決めたと。それをお前だけに背負わせる訳にはいかない」


私もアーヴィングやクーリッジ、シャーリィの為に手を汚す事を―――――
61Beautiful Warrior―Battle Carnival― 13@代理:2010/10/27(水) 22:15:37 ID:c2paXzwj0







話は再び少し遡る―――



ロイドがリアラ救出の為飛び立ってから数十分後―――
シンクとクロエは塔を目指し雪原を歩いていた。

(…あれからあの馬鹿はどうなったのかな?)

あれから時間は結構経過しているが、ロイドが戻って来る気配は全く無く、エルレイン達の追跡も今のところ無い。
ロイドが上手く足止めしているのか、若しくは既に殺されてはいるが、橋が無いために奴らが渓谷を渡れずにいるのか。
いずれにせよ、ひとまず目の前の危機を脱した事は確かなようだが……。

(…気に入らないね)

シンクは内心不機嫌であった。その理由の1つが、この雪原である。
無論単なる雪原なら何の感想も抱かなかっただろうが、砂漠の上に雪が降り積もってるとなると話は別である。
色んな意味で異常な世界である以上、気候も異常と言う事は有り得無くはないが、それにしても非常識な光景だろう。
故に最初は呆れの方が強かったのだが、雪に触れた瞬間、シンクの呆れは疑惑と警戒に素早く変わった。
体温では一切溶ける事が無い――にも拘らず何の音素の波動を感じないのである。
シンクは素早く辺りを見渡す。見る限り雪に覆われているのは。ここから塔まで。
…それでも相当な距離がある。塔にいる何者かが十中八九、足を踏み入れた者を感知する為に降らせたものであろう。

(それにしては幾ら何でも広過ぎないかい?)

すでに雪原に足を踏み入れてから数十分が経過しているが、その雪が途切れる気配が全く無い。
前方の視界に映る物は塔を除けば全て雪――その雪に覆われている場所が塔からここまでだけという可能性も無くはないが、
罠として機能させるならば、恐らく塔を中心に円系に雪に降らせている――そう考えるべきだろう。
だとしたらソイツはどれだけ規格外の力を有しているというんだ。

(…しかもその化物の元に、こうしてわざわざ挨拶しに向かっているというんだから……笑えないね)

これが不機嫌な理由の2つ目である。ロイド=アーヴィングも、あのルーク達と同等、
もしくはそれ以上の強者である。にも関わらずそのロイドにいとも容易く致命傷を負わせたエルレイン。
そして砂漠に常識外れの規模の雪を降らせた正体不明の人物。実際に対峙していないためハッキリとは言えないが、
下手をすればヴァンでさえ歯が立たないような化物がこの舞台に揃っている可能性が高い。
無論自分が殺されることに対しての恐怖など微塵も感じない。
問題は――その化物達にルーク達が殺されないかということである。
最高の玩具<ローレライの鍵>がここにあるのに、遊び相手がすでに壊された後ではたまらない。
何としてもルーク達が生きてる間―それも五体満足な状況で出会わなければならないが、それも難しいかもしれない。
いずれにせよ、ルーク達がいる可能性もあり、且つロイドとそこで待ち合わせした以上塔を避ける訳にはいかない。
たとえ罠が用意されていると分かっていてもだ。シンクの不機嫌は当然と言えた。
62Beautiful Warrior―Battle Carnival― 14@代理:2010/10/27(水) 22:17:24 ID:c2paXzwj0


尤も、全てが全て悪い状況と言う訳では無い。今現在ソーディアン・アトワイトはクロエの手にある。
カースロットにより意識を奪った状態であるため、突如喋れなくなった事に対して妙な疑いをかけられる恐れがあったが、
幸いこの雪が格好の理由となった。『この異常な環境が、或いは通信や交信を妨げてるかもしれない』という説明に、
クロエはとりあえず納得したように見えた。だが油断は禁物である。迂闊にアトワイトとの距離を置いてしまうと
カースロットの有効範囲から抜け出してしまう恐れがあるからだ。故に出来ればアトワイトをクロエに渡したくはなかったのだが、
ロイドに聖剣ロストセレスティを渡してしまった以上、現時点で使える武器はアトワイトかローレライの鍵、
そしてダガーナイフだけである。だが後者はクロエのような剣士には不向きな武器である。
ローレライの鍵は論外である。こんな所で切り札を安易に貸し与えるような馬鹿は真似は死んでもお断りだ。
かといって武器を何も渡さないのも不味い。結局シンクにはその選択肢しか無かった。
まあ、余程距離が離れない限りカースロットの有効範囲から逃れられることは無い筈だが…。

塔からの強襲、奇襲の可能性も低いとシンクは見ていた。世界のほぼ中心に聳える塔は、
たしかに拠点には好都合のように思える。接近する者達を探知し、味方もしくは利用出来そうな者は迎え入れ、
敵であれば迎撃態勢を整えて迎え討つ。正に盤石。恐らくこの罠を用意した何者かも絶対的なアドバンテージを
確信しているに違いない。だが、塔を拠点とする事、もしくは目印とする事は敵味方問わず誰もが普通に考え付くこと。
つまり今僕達以外に塔に向かっている連中がいる可能性も高い――いや、すでに塔内で戦いとなっている可能性もある。
これだけ広範囲となると、近づく者達が多ければ多い程、確実に精度は落ちる。戦いになれば最悪、感知不能となる。
仮に塔に向かっているのが自分達だけであっても、塔に陣取る者がわざわざ地の利を捨ててまで近づいて来る可能性は低い。
恐らく自分達にとって有利な場所まで誘い込むまでは、接触や攻撃は控える筈―――。
それらを総合して、塔に着くまでは比較的安心、それがシンクの判断であった。
勿論、塔以外の方面から敵が近付いて来ないとも限らないし、エルレイン達が追いついて来る可能性もまだ否定は出来ないのだが。

シンクは懐からクレーメルケイジを取りだし、掌で弄んだ。
これは元々ロイドの所持品だったが、先刻までの乱戦でつい返し損ねた一品である。
ケイジの中から第一音素、第二音素、第四音素に良く似た力を感じる。
もう少し調べて、術の触媒として利用出来るようにすれば中々の戦力となるかもしれないが……。

(…全く、気に入らないね)

再びシンクは毒づくと、クレーメルケイジをザックの中に仕舞う。
不機嫌さが興味を遥かに上回り、調べる気が全く起きない。前述した事に対しての不機嫌ではない。
シンクの胸中で渦巻く、何とも形容し難い不快感…いや、不安と言うべきか。
それはロイドを見送ってから始まっていた事だった。リアラはあの時点で発狂寸前の態であった。
とてもじゃないが、あの後持ち直せたとは到底思えない。仮に辛うじて持ちこたえたとしても、
エルレイン達と戦い、無事で済むとは到底思えない。仮にロイドの助力があったとしてもだ。
生存確率は極めて0に近い。その筈なのに………何時まで経とうとも嫌な予感が拭えない。
63Beautiful Warrior―Battle Carnival― 15@代理:2010/10/27(水) 22:18:51 ID:c2paXzwj0

まるで、被り続けて来た仮面が、音も無く崩れ始めて行くような、そんな破滅の予感――――


(……最悪のケースを考えておく必要があるね)

無論最悪のケースとは、ルーク達に出会う前にロイドに自分の正体を知られてしまい、
且つ出会ってしまった時である。当然強い姿勢で追求してくるだろう。あの手の馬鹿は、迂闊な言い訳や嘘は
却って己が首を絞める結果になりかねない。そうならないためにも、場合によっては即座に殺す事も考慮せねばならない。
ここにいるクロエも、リアラもディムロスも、他に自分の妨げになる者は全て排除する。
だがそれはあくまで最後の手段。本性を曝け出し過ぎると後々取り返しが付かなくなる恐れもある。
故に、今のうちに対応策を講じておく。対応策とは無論、ロイドの代わりとなる者を用意する事。
そう……自分にとって都合の良い働きをしてくれる“駒”を。そのためにも……――――

「…シンク?」

突然前を歩くシンクの足が止まった事にクロエは訝しんだ。見た所前方には雪原や塔以外
不審な物は一切見当たらなかったからだ。何事かとクロエが問い質そうとした時、
シンクから思いもかけぬ言葉が発せられた。

「…僕を恨むかい?」

余りに予想外の言葉に、クロエは驚きを隠せなかった。
言葉を発しようとしても、声にならない。思考が絡まり合い、
シンクの言葉の意図がどこにあるのかまるで見当がつかない。
混乱の真っ只中にいるクロエを余所に、シンクは言葉を続ける。

「…幾ら会話が出来なくなっても、アトワイトで僕を刺し貫く事は難しくない」

その言葉に、今度はアトワイトを握る掌が汗ばみ、右腕が硬直する。
表情筋も硬直し、今自分がどんな表情をしているのか全く分からない。
呼吸筋すら機能に支障が出てしまったのか、息苦しささえ覚える。

「…寧ろ、その方が僕やクロエにとっていいのかもしれないね」

シンクはそこで振り向くと、静かに微笑んだ。
それは酷く儚く、自嘲と後悔に満ちた微笑。クロエは思わず息を呑んだ。

「…分かってはいるんだ。出来れば僕の命を以って償いたい。でも、それだと結局は逃げる事と変わりない」

死は一見すれば難しい、だけどほんの僅かな意志さえあれば容易く選べてしまう安易な道。
それだけに取り返しがきかないと言える。神の所業に最も近い技術『フォミクリー』でさえ、
身体構造は同じ物を生み出せても、記憶や人格の創造までは叶わなかった。
…まあ、神が実在して、生と死を自在に操れるとは僕には到底思えないけどね。

「だからこそ、生きて僕は犯した罪を償いたい。そう思っている」

…もし、僕が導師イオンの記憶を受け継いで生まれてきたら―――
考えただけでもぞっとしないね。僕は僕自身の存在を呪ってるけど、
だからと言って、記憶や人格まで押し付けられてたまるか。

「けど、クロエにとって…僕の命を奪う事でしか自分を救えないというならば…それも覚悟している」

シンクはゆっくりクロエに近づく。一歩、二歩、三歩……
程無くアトワイトを繰り出せば、容易く命を奪える距離に到達した。
64Beautiful Warrior―Battle Carnival― 16@代理:2010/10/27(水) 22:20:22 ID:c2paXzwj0
(何をしている、これは好機では無いか)
(憎き敵が、目の前で命を差し出そうとしているのだ)
(さあクロエ、その剣をシンクの胸に突き立てるんだ。否、首を刎ねる方が確実か?)
(殺せ、殺せ、今すぐシンクを殺すんだ)

心の奥底から湧き上がって行くドス黒い感情。殺意と憎悪が神経を伝わり、
右腕に次々と収束していく。だが、アトワイトを握る手は全く動かない。
動かせないと言った方が正しいかもしれない。目の前に敵がいるのに、何故だ?
自らに問い質そうとするが、答えは何一つ浮かんでくる気配が無い。
クロエの口が再び何か言葉を発しようと動くが、やはり声に、言葉にならない。
言葉だけでは無い。全身の機能が完全に支配権を奪われたように自由が利かないのだ。
一体私はどうなってしまったのか。シンクに束縛攻撃でも仕掛けられたのだろうか?

2人の間に流れる沈黙――余りに重く淀んだ空気に大気どころか時間さえも囚われたような、
そんな感覚さえ覚える。このまま魂や命さえも囚われ、終焉を迎えてしまうのではないか?
そんな考えがクロエの脳裏に過った時、再びシンクが口を開いた。

「………これはロイドにも何れ話すつもりだったんだけど」

そこで言葉を切ると、シンクの表情に僅かに躊躇いや苦痛の感情が過った。
恐らく可能ならば明かしたく無い事柄なのだろう。それでもシンクは再び話し始めた。

「僕はこれでも元は軍人…神託の騎士団の幹部『六神将』の1人なんだ」
「………………………!?」

シンクの告白にクロエを再び驚愕が包み込んだが、もしこの場にシンクを知る者―――
例えばルークやアッシュ辺りがいたとすれば、クロエ以上に驚愕した事だろう。

「だから戦う術はこの身体に染み込んでいる。暗器、術、格闘術…当然人の命も数多く奪ってきた」

今まで被り通してきた仮面を自ら脱ぐ――それは大きなリスクを伴う。
特にこの場でのその行為は、クロエにある疑惑を呼び起こす結果となった。

「…そ、それならば何故…何故ノーマを殺したんだ!?」

人を殺した事の無い一般人ならば理解出来る話である。
だが軍人が――それも幹部クラスが誤殺などありえるのだろうか?
どう考えても、わざと手に掛けたとしか見えないでは無いか。
―――そう、この疑惑に行き当たってしまうのである。
だがクロエがそう問い詰めて来るのもシンクは予想済みだった。
表情を曇らせ、視線をクロエから反らすと、躊躇いがちに話を続けた。

「…僕は怖かったんだ。仲間をこれ以上失う事が…………」

シンクは慎重に言葉を選ぶ。ここでの言葉が、後々の行動に影響を与える。

「…僕は生まれてすぐ火山の火口に捨てられたんだ。失敗作としてね」
「な!?捨てられ…って……それに火山にって……一体どうして……!?」
「神託の騎士団を統べる導師の後継ぎに相応しくない――たったそれだけの理由でね」

自嘲気味に話しつつも、シンクは思う。別にレプリカであろうが無かろうが、人の命に大した価値は無い。
これまでのオールドラントの――ユリア・ジュエが残した預言<スコア>に支配された歴史がそれを裏付けている。

「生を、存在を否定され、捨てられた僕に待つのは死のみ…事実、僕と一緒に捨てられた他の皆は死んでしまった」

全てを預言<スコア>通りに歴史を刻むために、預言<スコア>の妨げとなる者は、悉く歴史の舞台から永遠に退場させられた。
貴賤など関係無い。ホド、アクゼリュスはその最たる例であろう。一方で導師イオンのように予言<スコア>に読まれていない
死に対しては、わざわざ代用品を用意した。歴史が予言<スコア>から逸脱しないようにする、ただそれだけの為に。
…ふざけるな。そんな下らない物のために僕はこんな愚かしい生を受けたというのか。
65Beautiful Warrior―Battle Carnival― 17-1@代理:2010/10/27(水) 22:25:12 ID:vUz3VBLF0
「唯一僕が助かったのは、ある人が僕を拾ってくれたから…利用価値がある道具として、ね………」

ヴァンにとって、僕はルーク同様使い捨ての駒の1つだった。でもそれで構わなかった。
僕は僕自身に対しての価値を何一つ認めていない。代用品にすらならない、無価値な失敗作。

「…その人はね、世界を滅ぼすつもりだったんだ。自分と妹の人生を狂わせた世界に対する復讐としてね。
その復讐の為に、僕を利用しようとしてたんだ」
「お前は…その人に手を貸したのか…?」
「うん…僕も世界を嫌っていた。だからあの人が世界を滅ぼすことに何も異論は無かったんだ」

僕が神託の騎士団に入ったのはヴァンの為ではない。僕を生み出す結果を作った預言<スコア>、
第七音素、そして全ての元凶とも言えるローレライを跡形無く消滅させる為。只それだけの為。
そのためだけの力を手に入れる為。それ以外の意味や価値など無かった。

「…でも、世界を滅ぼすと言う事は、そこに住む人々皆を殺すと言う事。こんな僕にも優しく接してくれた、
仲間達も誰一人例外無く…そんな当たり前の事なのに、僕は取り返しのつかない所に至るまで気付けなかった」

そこでシンクは言葉に詰まる。身体の震えが止まらなくなり、表情も青ざめる。
…無論徹頭徹尾演技である。世界が、全人類が滅亡しようとシンクの知った事では無い。
万が一にも自分を想う者がいたとしてもだ。まあ、無価値な人間に価値の有無を問わず接するなど
頭のネジが765本以上抜けても有り得ない話であろうが。

「間違いに漸く気付いた時、何もかも遅かった。僕は絶望し…気付けば僕はこの世界にいた」

ルカの時もそうだったが、シンクが語った内容は、傍からみれば一つの真実かもしれない。
シンク以外の誰かがそこに納まって、同じ経験をしたのならば、の話になるが。
当然シンクがそのような感情を抱いたことは皆無。

「最初僕は、自分の命を絶ってしまおうかと考えていた。絶望から立ち直れていなかったしね」

66Beautiful Warrior―Battle Carnival― 17-2@代理:2010/10/27(水) 22:27:00 ID:vUz3VBLF0
預言<スコア>、第七音素、ローレライを元の世界に戻ってまで消滅させようとは思わない。
それを阻んだルーク達を恨み、是が非でも討とうとする気も無いし、優勝を目指すつもりもない。
そもそもこんな化物揃いのゲームで生き残れるとは思えない。自分に待つのは十中十、死のみである。

「ナナリーやロイドは…前の世界の仲間達によく似ているんだ。面倒見が良くて、仲間思いで…―――」

繰り返しになるがシンクに死の恐怖は無い。だからといって易々と殺されてやるつもりは無い。
元の世界でも弄ばれて、この世界で道化の掌の上で踊らされたまま死ぬなど真っ平御免だ。

「ルビアも、ノーマも………―――」

ロイドの言葉では無いが、死が避けられぬのであれば、最期の瞬間まで、僕はこの遊戯に興じさせてもらう。

「前の世界では守れなかったけど、今度こそ守りたい、守りたかった。だけどナナリーをむざむざと失って、僕は怖くなった。
このままだと、あの時の二の舞になるんじゃないかって…だから僕は、無我夢中で剣を奮った…失いたくない、その一心で…」

その為ならば、僕は謀略の限りを尽くす。見聞きに堪えぬ茶番劇にも全て付き合ってやる。
悲痛そうな表情を湛えながらも、心の奥底で黒い決意の炎が燃え盛る。

「………その結果がノーマの誤殺…全く、笑えないよね」

――僕は神託の騎士団六神将、参謀総長“烈風のシンク”

「でもどんな理由があろうとも、罪は罪。さっきも言ったように……覚悟は出来ている。
……躊躇う必要は無い。苦しいなら…僕を殺すんだ。抵抗は一切しない」




愚者共よ、僕の掌で不様に踊り狂え――終焉を迎えるその時まで―――
67Beautiful Warrior―Battle Carnival― 18-1@代理:2010/10/27(水) 22:30:12 ID:vUz3VBLF0
私は…かつて両親の敵であるオルコット殿に復讐の兇刃を突き立てるつもりだった。
だが出来なかった。エルザに、過去の自分の姿が重なってしまったからだ。
自分と同じ苦しみを、憎しみを、絶望を味わせたくない――――その思いと、
オルコット殿が罪を償うべく、己が罪に真正面から向き合ってくれた事、
そして復讐の果てに残る物は何一つ無い事を、クーリッジ達が気付かせてくれたからだ。
私はオルコット殿を許した。その事を後悔した事は無かった。それは一つの事実。

…この世界でノーマはシンクに殺された。私はシンクが憎い。
復讐の果てに残る物は何一つ無い事を理解した上で、それでもシンクを殺し、
ノーマの敵を取りたい。それも一つの事実。だがシンクを殺してもノーマは帰ってこないし、
きっとノーマは復讐を望んでなどいないだろう。何よりシンクは己が罪に真正面から向き合い、
償おうとしている。敢えて己が素性を、触れられたくない過去を晒してまでだ。
シンクの償いの機会を、今ここで私の感情に任せて潰していい筈が無かった。だが……―――

「…お前は、卑怯だ……」

クロエの瞳から、涙が零れ落ちる。アトワイトを握る手が震える。
そう…私の感情は理屈についていく事が出来ない。出来る筈も無かった。
許す事が騎士として、人としての正しい道なのだとしてもだ、
両親、家名、友、仲間――大切な物を次々と奪われ続ける私は一体何なのだ?
何時まで私は奪われ、耐え続けねばならないのだ?

「そんな話を聞いてしまった後で…討てる訳が…ないだろう…」

復讐を果たしても、止めても、結局私に待つのが犠牲や苦難であるなら、
私が生きる意味は何処にあると言うのだ?私が真の意味で救われる日はあるのか?

「私は……私はッッ………―――――――!!!」



―――私は一体如何すれば、幸せになれると言うのだ?




クロエはアトワイトを取り落とすと、その場に崩れ落ちた。
そして程無く、少女の悲哀に満ちた絶叫が雪原を、空を切り裂くように響き渡った。










68Beautiful Warrior―Battle Carnival― 18-2@代理:2010/10/27(水) 22:31:19 ID:vUz3VBLF0
――嘗て道化はある者に告げた。白い道と黒い道 、どちらかを選ばねばならぬとしたらどちらを選ぶかと。
だが、どちらを選んでも行き着く先は、紅と肉で飾られた一本の道―――――詰まる所同じでしかなかった。
私もその者と同じだ。贖罪を受け入れるも、復讐を果たすも、結局同じ【違うわ】
――違う?

突如心の奥底から響き渡った声に、クロエは戸惑いを隠せない。

――何が違うというのだ?
【貴女の道は1つしか無いのではない。貴女が1つにしてしまっただけ】
――1つにしてしまった…だけ?
【簡単な話よ。貴女が単に弱かっただけ。そうでなければ道は他にもあった】

弱い――その2文字はクロエの矜持を傷つけるには十分だった。

――弱いだと?誰かは知らぬが無礼だぞ貴様!
【無礼?私は事実を述べただけよ】
――ふざけるな!確かに私には男性のような腕力は無いかもしれない。だがその非力さを補う為に
私は厳しい剣の鍛練は欠かさず行ってきたのだ!死地も幾度無く切り抜けて――【それが如何したの?】
クロエの言葉を遮るように、冷たく鋭い声が放たれる。
【貴女が何と言い訳しようと、結果が全て。貴女は弱い】
――貴様!まだ…【何故なら…】

【貴女が強ければ、誰も犠牲にならずに済んだから】

69Beautiful Warrior―Battle Carnival― 19@代理:2010/10/27(水) 22:32:19 ID:vUz3VBLF0
――………ッ!?

その言葉は、クロエから怒りや憎悪を瞬時に削ぎ落すには十分過ぎる一言だった。
クロエの頭から爪先まで雷に撃たれたような衝撃が駆け巡り、彼女を支えていた世界に亀裂が走る。

【両親が殺されたのも、復讐に取り憑かれ、クーリッジに一生消えない傷を刻み込んだのも…】
――や、止めろ!止めてくれ!

クロエは思わず叫んでいた。その先は聞いてはいけない、彼女の勘がそう告げていた。
だが声の主はクロエの懇願を無視し、言葉を続ける。罪人に罪状を突き付ける審判官のように。

【ノーマが殺されたのも、アーヴィングが致命傷を負ったのも……】

クロエの悲鳴にも似た静止の声が大きくなる。同時に聞きたくないと両耳を塞ぐ。
だが声はクロエの聴覚では無く、クロエの精神に直接響き渡った。無情且つ無慈悲なまでに。


【―――貴女が強ければ全て防げたこと】


その瞬間、クロエを支えていた世界が音を立てて崩れ落ちた。



――私が…強ければ…防げた……。

堕ちて行く意識の中で、クロエは茫然とした面持ちで呟く。
闇の中から響き渡った声は、そんなクロエに追討ちを駆けるように容赦無く言葉を続ける。

【そう、貴女が弱かったせいで皆は犠牲になった】
――そ、そんな事は……。
【じゃあ聞くけど、貴女は両親が殺された時、何をしていたの?】
――私は……恐怖に震えながら、泣き叫ぶしか……出来無かった……。
【貴女は復讐の刃を、誰に突き立てたの?】
――両親の敵であるオルコット殿に突き立てる筈の剣は……私を止めようとしたクーリッジに突き立てられた……。
【そう、そしてクーリッジだけが一生消えない傷をその身に刻み込まれた。他ならぬ貴女の弱さのせいで】
――私の、せいで…

次々と突き付けられる現実に、クロエの騎士としての誇りや矜持に次々と罅が入り始める。

【そういえば貴女はノーマが殺された時、何をしてたの?】
――私は…狂人に傷を負わされ、只アーヴィング達が帰還するのを待っていた。
【じゃあアーヴィングが戻って来てから、貴女は何をしたの?】
――アーヴィングが戻って来てから、私は………ノーマ達を、埋葬、した……。
【…結局貴女はここに来てから一体、何を成し遂げたの?】
――私が……成し遂げた事は………。
【言えないなら私が教えてあげる。貴女はただ――】

再びクロエの勘が、これ以上聞いてはならないと警告する。
だが最早クロエに、声に抗おうとする気概は残されていなかった。


【――只誰かに甘え縋り、男の包容に心地よさを味わっていただけ】


騎士としての誇りや矜持が、音を立てて砕け散った瞬間だった。
70Beautiful Warrior―Battle Carnival― 20@代理:2010/10/27(水) 22:33:24 ID:vUz3VBLF0
“絶対的な力こそ正義”ある者がそう言った。当時の私には受け入れ難い言葉だった。
力だけでは歪んだ正義を生み出し、守るべき者まで傷つけてしまう、そう考えていたから。
だが現実はどうだ?このバトルロワイヤルでは、文字通り“絶対的な力”が全て。
弱者や戦意無き者から次々と淘汰されていく。否…バトルロワイヤルに限った事では無い。
世界とは本来そういうものなのだ。強きが弱きを貪る。正に弱肉強食の世界。
唯一人間だけが、その血生臭い世界から逃れられ、平穏に暮らしていくことが出来る。
尤も、それは秩序という名の力があればの話であり、その力が無くなれば強者に弱者は淘汰される。
私の両親のように、クルザント王統国に、そして聖ガドリア王国に蹂躙された水の民のように。

…そうだ。私が許してはならぬのはオルコット殿でもシンクでも無い。
このバトルロワイヤルに無理矢理参加させたサイグローグも勿論許せないが、
それ以上に私の非力さ、そして無力さこそ大罪であり、最も許されざる事。
両親がオルコット殿に殺されたのも、クーリッジに一生消えない傷跡をその身に刻み込んだのも、
ノーマが殺されたのも、アーヴィングが致命傷を負ったのも、全て、全て、全て―――
私が……私が全て悪いのでは無いか……―――――

【…漸く理解した?】

絶望に打ち拉がれるクロエの脳内に、蔑みの声が響き渡る。
最早抗う力も残されていない。寧ろここに私がいる事が罪ではないか。
これ以上皆に迷惑を掛ける前に、誰かを犠牲にする前に、いっそ私を殺せ――

【勘違いしないで。私は貴女を責めている訳じゃない】

そんなクロエの絶望を読み取ったのか、
声に先刻までの冷酷さが失われ、寧ろ憐憫の情を帯びていた。

【私は貴女に現実を知って欲しかった。その上で決断して欲しかった】
――決、断…?
【貴女はアーヴィングやクーリッジ、シャーリィを守りたいのでしょう?】
――…そうだ。特にシャーリィはブレス系爪術士。アーヴィングやクーリッジならば、
最悪1人でも戦う事は出来るが、シャーリィには1人で戦う術が無い……。
【そう、彼女は1人では戦えない。クーリッジが何処にいるか分からない以上、貴女が守るしかない】
――…そうだ。アーヴィングやクーリッジの代わりに、私が守らねばならない。だが……。
【そう、貴女は弱い。だけど貴女にも出来る事はある】
――……それは一体?
【それはシャーリィを守る上で――――………】
71Beautiful Warrior―Battle Carnival― 21@代理:2010/10/27(水) 22:34:29 ID:vUz3VBLF0
「………クロエ、大丈夫?」
「………………シンク」

ふと気が付くと、シンクが心配そうな表情で手を差し伸べていた。
クロエはシンクの手を借りて立ち上がると、静かに礼を言った。

「……済まない、醜態を晒してしまった」
「……ううん、気にしないで。クロエの気持ちは…痛い程分かるから…」

そう言いながらも、随分と長く下らない茶番に付き合わされていたからか、
シンクは内心かなり不機嫌であった。溜め込んでいた感情が一頻り出て行ったお陰か、
クロエは先刻よりは落ち着いた様子だったが、この調子では都合の良い駒に仕立て上げるのに
一体何時までかかる事やら。僕も眼鏡が狂ったかなと心の中で溜息を吐きかけたその時だった。

「シンク…お前に聞きたい事がある」

何時に無く真剣な表情のクロエに、シンクの表情に緊張が走った。
次の言葉が、己の命運に、策の成否に関わる――そう直感したからだ。

「少し前に、お前はノーマの分も生きると約束したな?」
「……うん」
「…ならば聞かせて欲しい。お前は、これからどうするつもりだ?」

声は大きくない。だが先刻までとは様子がまるで違う。
半端な事を口にした瞬間、容赦なく斬り捨てられる――そう思わせるような鋭い気迫。
無論この程度の女なら返り討ちに出来るだろうが、自分の策が失敗に終わるばかりか、
ロイドの信用を失う事にもなりかねない(戻って来る可能性は低いだろうけど)
これまで以上に慎重に言葉を選ぶ必要がある、シンクは気を引き締めると、
クロエの鋭い視線を真正面から受け止め、静かに言った。

「…もし僕があと少し生きる事を許されるなら、道は1つだけだよ」
「1つ……?」
「僕はロイドやクロエ…それにこの殺し合いに乗らない人達を無事ここから脱出させる。そのために…」

シンクはそこで1度言葉を切る。そして一瞬の間を置きシンクの口から放たれるは凄烈な宣言。

「その妨げになる者を……この手で殺す」

正直、シンクはこの言葉を言うべきだったかどうか直前まで悩んだ。
この女はノーマを殺された事に対しての殺意と憎悪を少なからず自分に抱いている。
半ば殺し合いに乗ると宣言するに等しい言葉に、クロエを激怒させ、敵に回す恐れが高かった。

「きっと…ロイドは反対するだろうし、凄く怒るだろうね」

シンクが言うまでも無く、それはロイドの決意に反する行為であり宣言だったからだ。
ここにロイドがいれば間違い無く激怒し、袂を分かつ結果になりかねなかっただろう。
それだけに、クロエもここでロイドの為にシンクを討つという決意を固めさせる危険性が高かった。

「…ロイドは僕に、償いをするために死ぬとかこれ以上手を汚すとか考えないで、後悔した分だけ、悔やんだ分だけ、
俺達に力を貸してほしい。協力して欲しい…そう言ってくれた。それはとても嬉しかったけど…でもそれじゃダメなんだ」

それでも敢えてこの言葉を言った理由は2つ。
1つは立ち振る舞いから見て、この女が騎士の家系だということ。
どこの世界も同じとは限らないが、大方の騎士は騎士道を重んじる。忠誠、公正、勇気、武勇、慈愛、寛容、礼節、奉仕―――
事実、ノーマを殺した事実を着き付けられた時、ロイドの助力があったとは言え、私憤を何とか収めようと努め成功している。
72Beautiful Warrior―Battle Carnival― 22@代理:2010/10/27(水) 22:36:57 ID:vUz3VBLF0
「僕がこんな事言える身分じゃないけど…この狂ったゲームでは甘さは中途半端な行為は命取りになりかねない。
この数時間で、僕はそれを嫌というほど痛感した……」

故にクロエの騎士道精神には十二分に付け込む隙はあると見ていた。
自分の正体を粗方曝け出したのもその理由からである。どうせ隠した所で、
ルーク達と出会えば遅かれ早かれバレる事である。為らば先手を打っておく。
とにかくシンクが罪の意識を強く持ち、嘘偽りなくクロエに接している、
そうクロエに信じさせることが出来れば後々のシンクの行動が有利になる。

「僕はこれ以上ロイドやクロエが傷つくのを見たくない…そのためにも、僕は手を汚す。
たとえ何と非難されようと…構わない。守るためにも…そう…決めた」

2つはこの女はロイドを強く意識し、好意を抱いているということである。
先刻の醜態から見てもそれは間違い無いと思った。故に、クロエはロイドを失いたくない為に
シンクの行為を許容する可能性があると見ていた。シンクの罪を許す事と、殺し合いを許容するでは
大きく違ってくるが、シャーリィ=フェンネスを守る為に、ノーマ達を火葬にしようと
とんでもない暴挙を出ようとしていた程だ。シンクに対しての信頼さえあれば、高い確率で成功する筈。
シンクはそう予想していた。

「…それを反対するなら、繰り返しになるけど僕を今ここで殺して構わない。抵抗は……一切しない――――」

とはいえ、予想はあくまでも予想。あとはクロエの出方次第か―――
万が一の事態に備え、シンクは表面上は無抵抗を装いつつも、全身の感覚を研ぎ澄ませた。



…どうすればいい?クロエはシンクに鋭い視線を向けながらも自問する。
シンクがやろうとしている事は、嘗ての私ならば一蹴したであろう許されざる行為。
本来ならばこの場で断罪に処すべきかもしれない。だが仮にシンクを討って、
その後アーヴィングやクーリッジ、そして何よりシャーリィを守れるのだろうか?
…答えは否、である。誰かは知らぬが声もそう言っていたでは無いか――私は弱いと。

【それはシャーリィを守る上で、障害となる者を…全て排除する事よ】

先刻の声が告げた言葉が脳内で繰り返し響き渡る。
それはシンクの決断と奇しくも同じ、半ば殺し合いに乗る事を意味していた。
確かに、参加者が多ければ多い程、命の危機は比例して高くなるだろう。
殺し合いに乗った者は勿論、気持ちの揺れ動いている者、殺し合いに乗らなくとも
脱出の妨げになりかねない者を排除し減らす事が出来れば、その分シャーリィの身が安全となる。
アーヴィングもクーリッジも同様である。

だがそれは同時に、前述したとおりアーヴィングを裏切る行為となる。
アーヴィングの表情が悲しみと怒りに覆われる光景がふと目に浮かび、
クロエの心を締めつける。アーヴィングだけでない。きっとクーリッジもシャーリィも
悲しみ、怒り、軽蔑するに違いなかった。

――だが、今のままで守れぬのであれば……
【そう、今のままでは守れない。だからこそ――】
――例えこの身が如何なろうとも
【如何に蔑まれようと……――】




――私もシンクと共に、この手を、この身を血で汚そう。
73Beautiful Warrior―Battle Carnival― 23@代理:2010/10/27(水) 22:38:33 ID:vUz3VBLF0
騎士の双眸に、鋭く研ぎ澄まされた刃のような光が宿る。
決意、殺意、闘志、敵意、覚悟――それは壮烈且つ凄烈な意志。
白い道と黒い道は、クロエの目の前で1つの道――血塗れの闇の道へと姿を変える。
躊躇う事無く足を踏み入れるクロエに、最早迷いは無かった。


「………私も同じだ。このゲームに乗らない者達がいるなら、その者達を守りたい。何よりアーヴィング、クーリッジ、
そしてシャーリィ…私の知る大切な者達だけでも元の世界に帰還させたい。そのために……―――」

そしてついに、クロエは血塗れの闇の道へと足を踏み入れる。

「――私もこの手を血で汚そう」
「クロエ……!?だけどそれは――――」
「――私も…覚悟を決めた」

シンクの言葉を遮ると、クロエは首を横に振った。シンクは手を汚すのは自分だけで良い、
クロエが手を汚す必要は無いと言いたいのだろう。その気遣いは嬉しくもあるが、最早不要だった。
もう私はこの道に足を踏み入れてしまったのだから。立ち止まるつもりも、引き返すつもりも無かった。

「…だからシンク、私に力を貸して欲しい。共に戦い、そして共にその身を血で汚して欲しい」
「…勿論だよ、クロエ――――」

差し出された手をシンクはがっちり握り、微笑を浮かべた。
それは騎士が、烈風の策に屈した瞬間だった――――。






時は再び雪原――戦場に戻る。



クロエがロニの攻撃から自分を庇った事に、シンクは内心で黒い笑みを浮かべていた。
自分の策は―――クロエを都合の良い手駒化する策は見事成功と確信した。無論、先刻までのやり取りで
殆ど成功していたことは分かっていたが、実戦になった時本当に使えるかどうかが僅かに不安だった。
故に、ロニとの戦闘中にわざと隙を作った。クロエの行動を、真意を確認する為に。
突如右足を押さえ、膝を付いたのは演技。怪我など全く無い。仮にクロエが動かずともロニの攻撃は回避は出来た。
だがクロエは無事動いてくれた。シンクの予想通りに。これで憂いは完全に無くなった。

(本当おめでたい女だよ。僕の掌で踊らされているとも気付かずにね)

実に滑稽、実に不様。周りに誰もいなければ、可笑しさの余り哄笑してたかもしれない。
これで万が一にもリアラがロイドと無事合流出来ても、十二分に対応出来る。
塔でルーク達に出会っても、クロエを利用して弄ぶ事が出来るだろう。準備は既に万全。
ウォーミングアップも済んだ。後はこの男を殺すのみ。用済みになった三流役者には
さっさと舞台から降りてもらうとしよう。シンクはダガーナイフに第三音素を収束させた。
74Beautiful Warrior―Battle Carnival― 24@代理:2010/10/27(水) 22:58:59 ID:6728peoN0

「…運命は時に厳しい」

雪原に大の字になりながらロニは呟く。己に対してなのか、それとも2人に対してなのか、
それともこの世界で殺し合いを強いられる者達全てに対しての言葉か、一聞では分からない。

「お嬢さん、貴女も盾を目指すのであれば…………」

何れであっても良かった。クロエ=ヴァレンスは、
愚かにもシンクの盾となる事を選んでしまった。
となれば、ロニが今為すべき事は必然的に限られてくる。

「残念ですが今この場で………」



<ロニ様の殺害対象おさらいその4>

・誰かを守(○ボタンでスキップ出来ます)



「―――死んでもらう!」

精神力を極限まで高めた、彼らの世界で『スピリットブラスター』と呼ぶ力。
ロニの身体から一挙に立ち上がった闘気が周囲の雪を一気に吹き飛ばす。
その解放された闘気の凄まじさに、シンクもクロエも目を瞠った。

(この力は……しまった、奴も扱えたのか…!)

シンクはロニを過小評価したつもりは無い。頭の中身はともかく、戦闘能力や戦術は中々に評価できる。
こちらの油断があれば、どこかで傷を負っても可笑しくはなかった。尤も言い換えれば、油断さえしなければ
十二分に勝てる相手。単純戦力でも2対1であり、戦闘スタイルにおいても、斧使いと格闘術では間合いを詰めてしまえば
圧倒的に斧使いの方が不利。故に勝敗の帰趨は明らかに見えた。誤算だったのは、ロニの持つ『スピリットブラスター』
シンク達の世界で『オーバーリミッツ』と呼ばれる力を、奴が扱える可能性を軽視してしまったこと。
1度発動させられると中々に厄介な技。奴がそれを解放させる前に即座に潰すべきだったと僅かに後悔するが、
今更どうしようも無い。シンクは即座に戦闘態勢を整え、クロエもそれに倣う。

「…来るよ!」

シンクが叫ぶのと、ロニが雪を掻き分けて駆け出したのはほぼ同時。
先刻までとは桁違いの気迫に、クロエは一瞬呑まれそうになるが、
気持ちを奮い立たせて、再び魔神剣を放つ。ロニに迫り来る強烈な剣圧。
だがロニは回避せず真正面から突撃し、逆に剣圧を四散させる。
そして勢いに乗って思いっきりさつまいもを振り下ろした。
次の瞬間、轟音と共に大地が震撼し、雪粉と共に砂礫が吹き飛んだ。

(なっ!?さつまいもを振り下ろしてこの威力…!?)
75Beautiful Warrior―Battle Carnival― 25@代理:2010/10/27(水) 22:59:56 ID:6728peoN0
あのようなふざけた武器で致命的な破壊力を誇るのであれば、
まともな斧で繰り出していればどうなるのか――クロエは戦慄する。
一方のシンクは、その破壊力に目を瞠りつつも、冷静に事態を把握しようとする。
幾ら馬鹿でも、あの一撃で仕留められるとは思うまい。恐らくこの雪煙と土埃に紛れて
先程僕が行ったように奇襲を仕掛けるつもりか――だがどう仕掛けるつもり…?
その時シンクは大気中の第六音素が急速に上空に収束し、展開するのを感じた。

(第六音素――上空収束――不味い、これは!)

「プリズムフラッシャ!」

事態を察した時には、既に遅かった。光の洗礼を受けた美しく、
だけど無慈悲な七色の剣が容赦無く降り注ぎ、シンクは回避する間も無く光に呑み込まれてしまった。

「シンク!……おのれっ!」

クロエは怒りを露わにして、雪煙と土埃の合間から姿を現したロニに向かって駆け出す。
その姿を視認したロニは口元を歪めると、斬撃に備え防御態勢を整える。

「神風閃!」

間合いを一瞬で詰め、放つ強烈な一閃がロニを襲うが、さつまいもで難なく受け止める。
だがクロエの斬撃は止まる所を知らない。一閃、二閃と目にも止まらぬ剣撃が次々と繰り出される。
常人なら斬られたことも分からぬまま胴体を切断されていただろうが、ロニは巧みにクロエの剣を受け流して行く。
想像以上に腕の立つロニに苛立ちを隠せないクロエは、勝負をつけるべく態勢を僅かに低くし、一挙に仕掛けた。

「霧沙雨!」

それは霧の如く無数の突きを驚異的な神速の放つ、クロエ自慢の奥義の1つ。
鉄壁のガードすら抉じ開け、その懐に兇刃を突き立て、その命を削り取る恐るべき技。
さすがのロニも、これは防ぎ切れずに鮮血を撒き散らし命を散らすかに見えた。

ガキィィィィン!

「なっ……!?」

クロエの神速の突きは、ロニの強烈な一閃により宙に弾かれていた。
驚愕に目を見開くクロエ。その表情には“何故”という言葉が強く出ていた。
ロニがスピリッツブラスター状態だったからではない。クロエの構えを見て、
次に突きを連続で繰り出してくる事をロニが見抜いていたことも要因ではあるが、
それ以上に、シンクがやられた事に対する怒り、そしてたて続けに自慢の剣を受け流された事に対する苛立ちと焦りが、
普段の冷静さを失わせ、突きが単調且つ不充分になっていたこと、それが最大の理由だった。
ほんの僅かな自失。そこから瞬時に立ち直り、クロエは回避や防御行為へと移行しようとする。
だが遅すぎた。次の瞬間、ロニの強烈な上段蹴りがクロエの下腹部を直撃していた。

「がっ…ア…ッ!?」

クロエは下腹部に走る強烈な衝撃と激痛に膝が崩れそうになった。
…俗に言う“金的蹴り”無論クロエは女性。金も玉も全く存在しない。
故に大したダメージは無さそうだが、女性の場合下腹部に存在する恥骨結節が弱点であり、
この場所を強打されると筆舌に尽くし難い激痛に襲われるのである。この場合のクロエも同様であった。
強烈な一撃に恥骨が嫌な音を立てて折れ、クロエの口から苦痛の呻き声が漏れる。
だがロニは苦悶するクロエなどお構いなしにさつまいもを振り上げ、クロエを宙高く吹き飛ばした。

「あの世逝きだぁ!」

クロエの身体が高く打ち上がると同時に、ロニが高く跳躍する。
その光景を、雪煙と土埃の合間からシンクは視認していた。

(チッ、見事に足を引っ張ってくれたね)
76Beautiful Warrior―Battle Carnival― 26@代理:2010/10/27(水) 23:01:18 ID:6728peoN0
不様に宙を舞うクロエに、シンクは思いっきり舌打ちした。
同時に不味いと直感する。雪原がクッションになるとはいえ、あの高さから
奴の一撃を受ければ致命傷になりかねない。手間のかかる奴だと思いながら、
先程プリズムフラッシャから身を守るのに発動したマジックガードを解除し、
即座に詠唱を開始する。正直巻き込んでやっても構わないのだが、今ここでクロエを失う訳にはいかない。
故に、この場で使用する術は―――

「…雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け!」

第三音素の譜陣がシンクの周囲に展開し、上空に雷の刃が具現する。
ロニがさつまいもを振りかぶるのが見える。間に合うか――?

「神空割砕人!」
「サンダーブレード!」

ロニのさつまいもが振り下ろされたのと、形成された雷の刃がロニの身体を直撃したのは、ほぼ同時―――

「なっ……!?」

常人ならば到底視認は不可能だっただろうが、
シンクの優れた動体視力は、極微小の時の中であるものを捉えていた。
故に驚愕がシンクの脳内を電流の如く流れた。さつまいもがクロエの身体を斬り裂く寸前、
サンダーブレードの方が僅かの差でロニの身体を刺し貫いた。確かにその筈だった。
だが現実は雷の刃はロニの身体に直撃はしたもの、刺し貫く事が出来ず拡散してしまった。
振り下ろされたさつまいもが身体を斬り裂き、血飛沫と共に地面へとゆっくり落下するクロエ。

(確かに直撃した筈なのに何故…―――そうか、身体に纏っている闘気――予想できた筈なのに僕とした事が……!)

シンクは術の選択ミスに舌打ちした。落下していくクロエにトドメを刺すべく、
振り下ろしたさつまいもを構え直し、クロエと共に落下していくロニ。
シンクは一瞬迷ったが、即座に駆け出した。ここで死なれては折角の策が水泡に帰す。
冗談じゃない。茶番劇の出演料分は死んでも役に立たせる。
救いだったのは、サンダーブレードの直撃が、ロニの一撃を減殺していたこと。
故にさつまいもはクロエの身体を斬り裂いていたが、致命傷に至らしめる程の深さでは無かった。
だがこのまま追撃を許せば、確実に次こそ命は無い。

シンクは両足に音素を収束させると、一気に駆け出した。
幸い奴の狙いはクロエに絞られている。奴がトドメの一撃を繰り出す前に
背後を取り、確実に仕留める。今度は僅かな詠唱すらも許さない。




その時、シンクの両眼が捉えたのは、ロニの濁った瞳と酷く歪み切った笑み。




(何故こっちを見てる?)

ふいにシンクの背筋に冷たい物が走る。

(それに何故哂っている?)

まるで獲物を捉えたような、飢餓寸前の肉食獣の如く、
罠にかかった哀れな羽虫に狙いを定めた蜘蛛の如く――

(何時態勢がクロエで無くこちらに向いている?)
77Beautiful Warrior―Battle Carnival― 27@代理:2010/10/27(水) 23:04:14 ID:6728peoN0
極小の時間の中で、疑問と事実が次々とジグゾーパズルの如く展開し、
正しい位置に填め込まれて行く。一瞬の間―――ついにシンクは全てを悟る。
同時にしまったという苦い思いが脳内を駆け巡る。ロニにとって、クロエも確かに殺害対象である。
だが、それはシンクという守るべき存在があるから。故にその対象さえ殺せば、クロエは盾の意義を失う。
故に、再びロニが盾となれる。それを全て見透かしての一連の攻撃。
ここまでシンクを誘き寄せ、確実に仕留める為―――

そう、ロニの本当の標的はシンクだけだった。

さつまいもに急速に集中する闘気と晶力が、シンクの脳内に最大級の警鐘を鳴らす。
これは不味い…最早回避は不可。全ての力を防御に回しても致命傷は避けられない。

(相殺しかない)

フォンスロット全開――周囲の音素を収束し、ダガーナイフを最大限に強化。同時に導師の力も開放する。
正直言えばこの手段は取りたくは無かった。理由は明確、消耗がかなり大きいからだ。
だがここで出し惜しみして命を落としては意味は無い。さらに懐からクレーメルケイジを取りだす。
クロエに策を施した後、一通り実験はしてみたが、実戦使用はこれが初めて。
参謀総長としては余りに拙劣ではあるが、四の五の言っている余裕は無い。シンクは覚悟を決めた。



―――続けて喰らえ



震天<天を揺るがす轟雷の咆哮>   <第四音素凝集―慈悲深き氷霊が具現し、轟雷の咆哮の盾となる>

裂空<空を斬り裂く烈風の猛り>  <第二音素凝集―地母たる昴龍が巻き起こす礫破が烈風とぶつかり合う>

斬光<滅びへと誘う煌輝の一閃> <第一音素凝集―深淵の闇が穿つ穴に光が呑み込まれる>

旋風<粉塵へと帰す風神の息吹><第三音素凝集―紫電の剣が風神の息吹を斬り裂く>


一撃々々が必殺、破滅的な破壊力を秘めた、ロニの最強秘奥義が次々と繰り出される。
僅かでもシンクの回避や防御、そして術の展開が遅れていれば、そしてシンクの力が少しでも劣勢に傾けば、
瞬時に骨は砕かれ、肉は引き裂かれ、辺りは鮮血と肉塊の海と化していただろう。
時間にして5秒にも満たない―――その極小の間で、ロニが放つ一撃々々に合わせて
音素を収束、展開し防御相殺するその戦闘技術と能力は、誰もが驚嘆し感嘆したであろう。
だがいかに全音素を凝集し、クレーメルケイジの力を利用し、導師の力を解放しても、
本来攻撃用の術技を防御相殺に適した形に無理矢理変えた、所詮付け焼刃の手段。
致命傷こそ免れてはいるが、シンクの身に次々と痛々しい切り傷や火傷が刻まれていく。そして―――


滅砕<大地を破砕する神の鉄槌>

パキィィィィン!!


ついに一撃に耐えかねて、ダガーナイフが粉々に破砕された。
シンクの苦い表情とは対照的に、ロニの表情が狂気の歓喜に歪む。
今度こそ、今度こそ終わりだ。俺の正義の一撃を大人しくその身に受けて、



――――さっさと死ね
78Beautiful Warrior―Battle Carnival― 28@代理:2010/10/27(水) 23:08:02 ID:6728peoN0


神罰<宙を無様に舞う薩摩芋>










………さつまいも?









肉片でも血飛沫でも無く、さつまいも?
さつまいもって…野菜……あれ?…って言うか……もしかしなくても…―――――





――――俺の、武器?










ポフッ







情けない音と共に、宙を舞ったさつまいもは雪原に落下し、そして雪に埋まった。
79Beautiful Warrior―Battle Carnival― 29@代理:2010/10/27(水) 23:11:14 ID:6728peoN0


「「「………………………………………………………」」」

先刻までの激しい戦闘が嘘のように、雪原に流れる沈黙の時。
ロニは勿論、シンクとクロエも完全に言葉を失い、完全に動きを止めてしまった。唖然として動きを止めてしまっている。
まるで闘神マグナディウエスによって時の流れを支配されたかのように、3者はピクリとも動かない。






…おい

おいおいおい

おいおいおいおいおい

おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいッ!!!



――ここ、こ、こんな事ってアリかよ!?
後少し…後少しで殺せたんだぞ!?それがどうしてこんな結果になるんだよ!?
別に俺はデッキブラシで戦ってた訳じゃねーぞ!?何でさつまいもがすっぽ抜けちまうんだよ!?

完全自失の状態から漸く立ち直ったロニは、精神世界で頭を抱えた。
余りにお粗末且つ無様な光景。ここにカイルがいれば『ダサ〜〜〜』と呆れられたであろう。
…いや、カイルがいようといまいと関係ねえ!嗚呼…きっとあの美しいお嬢さんは呆れてるに違いない……!
仮にこのガキ殺せても、俺これから先どんな顔して盾役務めりゃいいんだよ!?
“笑えばいいと思うよ”ああ成程…って笑えるか!どこの草食系男子だよ!?いや、まあ笑い話には違いねえけど…。
脳内で盛大なノリツッコミを行うロニ。無論この間前方に対しての注意をまるで払っていない。

――と、とりあえず、ここはひとまず………。

元の世界で失敗した時のように、とりあえず拳をシンク目掛けて繰り出そうとしたロニ。
もし自失の時間がもう少し短ければ、せめて脳内で阿呆なノリツッコミを繰り広げ無ければ、
ダメージ殆ど0であっても、その拳はシンクに届いていただろう。
尤も、届いても届かなくても運命は一緒であったろうが。

「…………………攻げkげぶオほぉァッ!?!?!?」

ロニよりも遥かに早く自失から回復したシンクは、即座に右手にありったけの第四音素を収束させた。
そしてロニの拳がシンクに届くより遥かに早く、解き放たれた昴龍礫破が、ロニの顎を容赦なく撃ち抜き、
そして完膚なきまでに顎の骨を破壊した。
80Beautiful Warrior―Battle Carnival―30@代理:2010/10/27(水) 23:13:14 ID:6728peoN0



「…まさか秘奥義の途中で武器を滑らせる大馬鹿がいるとは思わなかったよ」

シンクは痛む身体を擦りながらゆっくりとロニの元に近づく。
…それにしても、とんだウォーミングアップとなったものだ、と内心苦笑せざる得ない。
自分の成果を見届けることが出来、クレーメルケイジによる音素の応用も十分実戦使用可能と
判断出来たのは良かったが、死とすぐ隣り合わせの危険な攻防となってしまった。
特に最後ダガーナイフが砕け散った時は危うかった。あのまま一撃を受けていれば確実に致命傷となっていただろう。
…尤も、あの時仮に奴が武器を滑らせなくとも、最後の切り札――アカシックトーメントがこちらにはあった。
故に迎撃は可能だったであろうが、消耗の度合いは余りに大き過ぎる。故に使用せずに済んだのは幸いだった。
とは言えフォンスロットを全開にし、同時に導師の力も使用した故に疲労感は相当なものだ。
それに秘奥義を完全には回避出来なかったため、裂傷や火傷を多数負う事となってしまった。
…それでも行動に大きな支障が無いのと、クロエも見る限り傷は大きくなかっただけマシだろう。

「まあ、よくやった方だと褒めてあげるよ」

落ちていたさつまいもを拾うと、シンクはロニを冷たい目で見下ろした。
大地すら容易く破砕出来る一撃必殺の奥義であったが、想像以上に頑丈だったらしく、
まだしぶとくロニは生きていた。だが完全に意識を失っており、最早抵抗は不可能だった。

「―――じゃあね」

シンクは拾ったさつまいもに第三音素を収束させると、ゆっくりと振り上げた。
一瞬の間―――シンクはロニの首を目掛けて、思いっきりさつまいもを振り下ろした。











「………地震?」

さつまいもがロニの首を切断する寸前、突如大地が鳴動し、シンクはその手を止めてしまった。
思いの外強い揺れに、シンクは周囲を見渡す。そしてシンクの視線はある一点で固定されてしまった。

(地震じゃない…あれはまさか……譜業砲身から放たれた音素の砲弾?いや、そんな生易しいレベルじゃない…!)

再びシンクの脳内に最大限の警鐘が鳴り響く。急速に接近する強大なエネルギー。
激しさを増す大地の鳴動、大気の断末魔。そして全てを滅びへと誘う、破滅の閃光の到来―――






そして黎明の名を冠する塔は、終焉の時を迎える。
81Beautiful Warrior―Battle Carnival―31@代理:2010/10/27(水) 23:14:29 ID:6728peoN0
【ロニ・デュナミス 生存確認】
状態:HP25% TP5% 脇腹に刺傷(処置済) 胸部刺傷(処置済) 精神崩壊 最高にハイッってヤツ 右腕大裂傷(処置済)右足甲骨折(処置済)
左腕に刺傷 顔面殴打 大変なケダモノ 秘奥義発動(但し失敗) 顎骨粉砕骨折 詠唱不可 気絶中
所持品:タフレンズ×1 やや小さくなったシーツ 温石
基本行動方針:“夢”を取り戻す。盾として生きる
第一行動方針:目の前の少年に対処。出来ればこの場で殺したい
第二行動方針:カッコイイ武器を手に入れ、少女の盾になる。ただし少女があくまで盾の道を選ぶのならば即座に殺す
第三行動方針:塔に向かう。ハイデルベルグ城はなるべく後回しにしたい。
第四行動方針:マーダーは殺す。火を使う奴は殺す。アイテムを使う奴は殺す。自分から逃げる奴も殺す。術を使う奴も殺す。回復する奴も殺す。誰かを守ろうとする奴も殺す
第五行動方針:サレ、アリエッタ、チャット、カイル、リアラ、ハロルド、ミトス、ルーティを殺した奴、ナナリーを殺した奴、ジューダスを殺した奴は絶対に殺す
現在位置:D3

【クロエ・ヴァレンス 生存確認】
状態:HP25% TP90% 帽子紛失 打撲 胸に止血済中裂傷 恥骨骨折 右肩に裂傷
   ロイドとシンクに対する信頼 ロイドやセネル、シャーリィを生かすために手を汚す決意。
所持品:安全ヘルメット ソーディアン・アトワイト(カースロット発動中。意識無し)
基本行動方針:ロイドとセネル、シャーリィをこの世界から脱出させる(可能ならば殺し合いに乗らない者達も脱出させる)
第一行動方針:………!?
第二行動方針:ロイドとセネル、シャーリィと合流する。まずは塔でロイドと合流
第三行動方針:ロイドとセネル、シャーリィを守る為に、その障害となり得る者達を全員殺す。
第四行動方針:殺し合いに乗らない者達も守るつもりだが、ロイド達の脱出の妨げとなるなら容赦なく殺す。
第五行動方針:胸の辺りを何かで隠した方がいいか…?シンクもアーヴィングもクーリッジも男だからな……
現在位置:D3

【シンク 生存確認】
状態:HP65% TP10% 服がボロボロ 右足に噛み痕 裂傷と火傷多数 疲労感中程度
支給品:すず 未完のローレライの鍵 リコーダー さつまいも
    シンクの仮面 クレーメルケイジ(C) ディストの首輪
基本行動方針:ルーク達を引っ掻き回して楽しむ為に、ロイド一行を利用してルーク達と合流する
第一行動方針:即座に状況判断し、状況に応じ緊急回避する。
第二行動方針:ロニを殺す。クロエは利用価値がある限り手放さないようにする。ロイドも同様(万が一にも戻って来ればの話だけど)
第三行動方針:塔でロイド達の到着を待つ。ただし殆ど期待はしていない
第四行動方針:万が一ロイド達に正体がバレたら、クロエを利用して衝突させる
現在位置:D3

※ダガーナイフが壊れました。残骸がD3に放置されています。
82Beautiful Warrior―Battle Carnival―@代理:2010/10/27(水) 23:18:41 ID:6728peoN0
代理投下終了。
改行制限にひっかかったので、少しだけ分割させてもらったとこがあるけどご了承を。



そして投下乙。このパートが来るとは思ってなかったぜ…。ロニのイカれた思考&ギャグが相変わらず何とも言えねえ。
あと、クロエの胸ネタはいいぞもっとやれ
83名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 23:55:19 ID:4kKBwaeG0
代理投下乙!
2ndは1stと比べてギャグセンスがより神がかってる気がするw
84名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 01:48:40 ID:gvolb5Q70
GJ
腹抱えてワロタwww
85名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 11:30:08 ID:2Q3VAOE0O
投下乙
ここで失敗するとは流石ロニ、期待を裏切らないww
ネタ要素で霞むけど、シンクの策略が見事に決まってるな。対主催としては辛い所か
86名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/04(木) 00:15:02 ID:Gwmuoq5+0
保守
87名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/10(水) 09:15:56 ID:Y9k5ZNXU0
投下します。
88廻る舞台 -Il teatrino- 1:2010/11/10(水) 09:16:42 ID:Y9k5ZNXU0
「それで? はた迷惑な個人プレーの結果、僕らを納得させるに足る答えは出たのか?」

薄い光が差し込む魔の森の中、僕は腕を組んだままリフィルを睨む。
リフィルは少しだけ笑って顔を左右に振った。頬は酷くやつれ、化粧は汗と混ざり散々な有様だった。
「言い訳はしたくないわ。ごめんなさい。心配、かけたわね……もう大丈夫よ」
「馬鹿、それが大丈夫って面か?」
思わず溜息と冷笑が傾いた口から零れた。リフィルはばつが悪そうに苦笑する。
その態度に僕は呆れてしまい、それ以上怒る気はすっかり失せてしまった。

「クレメンテさんは……?」
やれやれと肩を竦めた僕の後ろから、チャットが声を上げる。
そう言えばと辺りを見渡すが、成程確かにクレメンテの姿が見えない。
「真逆、オルバース界面に落っことしたとか言わないだろうな?」
冗談めかした口調で僕が言うと、リフィルははっとした様な表情をして、サックの中に手を突っ込んだ。
やがて、岩肌の様なごつい魔金属の刀身が、紫色の光を放ちつつサックから覗く。
大方、リフィルが小五月蠅い剣を無理矢理黙らせたんだろう。聡明過ぎるのも考えものだ。

『ぬぅ、全く困ったマスターじゃて。老体を暗闇に放り込むとは……孤独死させるつもりかのう?』

クレメンテが呆れた様に呟く。老人虐待だな、と言いたかったがやめておいた。

「あらごめんなさい、気が利かなくて。乙女の身体が見られなくて、さぞつまらなかったでしょう?」
『カカカッ。若い者には敵わんのぅ』

コアクリスタルを一際輝かせながら、クレメンテは声の調子を上げた。
存外元気そうなリフィルの様子に少し胸を撫で下ろしたのだろう。
無理矢理黙らされたのだ。気が気ではなかったろうに、それを声色に出さないとは中々出来た剣だ。
尤も、リフィルが無理をしているだろう事はクレメンテも百も承知だとは思うが。

「仲良く漫才してる場合じゃないぞ、全く。こっちはアリエッタ達を埋葬せずに急いで来たってのに。
 エアリアルボードで森の上から探して、この大樹の下を見てみなきゃチャットと一緒に迷ってたところだ。
 一体全体、何なんだこの森は? コンパスも真面に働きゃしない。
 ま、霧や厄介な石像の仕掛けが無いだけいざないの密林よりかは遥かにマシだがそれにしたって……」

まぁまぁ、と背後から声がする。全く、海賊小僧は何もわかっちゃいない。
方向も分からない森に手負いの貧弱術者と餓鬼が二人きり。
殺し合いに乗る人間から見れば、キルスコアを上げる為のボーナスゲームだ。
道中に殺人鬼に襲われて死んでも文句は言えなかっただろう。
リフィルの回復補助能力とクレメンテの頭の重要性がなきゃ、多分僕は動いてなかった。

「此所はガオラキアの森。もし普通に歩いてきてたら、きっと私には出会えなかったわ。……永遠に」

リフィルの少し下がった声の調子に、チャットが短い悲鳴を上げる。
僕は眉を顰めた。貧弱な僕らにとっては、シャドウよりも真っ黒で笑うに笑えないジョークだ。
それにしても、ガオラキアの森という名称を知っていた事から察するに此所はリフィルの世界の樹海なのだろうか。
いざないの密林に似ている森がよくもまぁこんなに都合良く他世界にも……ん?
“都合良く他世界にも”?

「ちょ、ちょちょちょちょっっっと待って下さい!
 つまり最初から一人になるつもりだったんですか貴女って人は!?」
「えぇそうよ? だから……暫く、一人にさせて貰えないかしら? 色々と辛いのよ。分かって頂戴」
「え!? でも……」
89廻る舞台 -Il teatrino- 2:2010/11/10(水) 09:18:12 ID:Y9k5ZNXU0
樹々の葉が突然騒ぎ出す。ざわざわと音を上げる薄暗い森は、まるで僕を嘲笑っているかの様だった。
爪の間に砂粒が入り込んだ時の様な得も言われぬ不快感が身体の芯を刺す。
チャットとリフィルの声は、最早意味の無い単なる音として僕の耳から耳へと抜けていった。
“都合が良過ぎる”。
その一言が脳裏にこびりつき、決して離れようとはしなかった。

「……いいだろう。ただ何時までもは待ってられない」

思考を振り切る様に、僕は深呼吸をして言葉を吐き出す。
大丈夫だ、動揺はしていない。全部想定の範囲内。問題はない。問題は、ないんだ。
「そうだな……だいたい今から三時間後、八時半に迎えに来る。
 それと、クレメンテを少しだけ借りてもいいか? 直ぐ返す。確認したい事があるだけだ」
僕が手を前に出すと、リフィルは数拍おいてクレメンテを差し出した。
良くってよ、と呟くリフィルに僕はありがとうと返す。
妙に事務的だなと少しだけ思った。

「ちょ、キールさん!? リフィルさん!!?」

信じられない、とでも言いたげにチャットが僕のローブをぐいと引く。
僕を咎めるチャットの言い分は、分からないでもなかった。
確かに、手負いの上精神を病んだ女性を、樹海に三時間も放置するのは男として如何なものかとも思う。
常識的に考えれば、しっかりとエスコートすべきなのだろう。
だが先程の戦闘でリフィルが犯してしまった事の大きさは、到底短時間では癒し切れない。
本人に考える時間が必要なのだろう事は、こちらから問うまでもなかった。
肉体的なものでも精神的なものでも、傷を癒すのは時間が掛かる。
ファラや……メルディだって、そうだった。

「ほら、行くぞ。子供扱いされるのが嫌なら少しは気の遣い方を覚えるんだな、チャット」

し、失礼な人ですね、と頬を膨らませて憤慨するチャットを尻目に、僕はリフィルにじゃあと手を泳がせて背を向ける。
純粋な子供の隣で、三時間後にリフィルが此所に居なければ見捨てる算段を立てている自分を、僕は心底軽蔑した。



*************



思えば、クレーメルケイジが支給された時から多少の違和感は感じていたんだ、と少年は儂に零した。
最初は皆がインフェリアの人間だと思っていたから疑問は感じなかったが、
そうではないと気付いた瞬間に、違和感は確信に近い予感に変わったのだ、と。
儂もそれには同意した。確かに他人のとは言えクレーメルケイジ――術の媒体らしい――が支給されるのは都合が良過ぎる。

“幾つかの支給品は、何らかの意思によりあらかじめ決定されたもので、その迷彩にランダムのものもある”。

何処か冷めた眼光を見せる少年のその考察を、儂は黙って聴いた。
リフィルに儂が支給されたのも何らかの意思があっての事なのかとふと思ったが、深くは考えなかった。
その先は、十中八九絶望しか有り得ぬと思ったからだった。
予め決められた役割か、はたまた偶然か。
その二つしか答えがないというならば、偶然を取りたいと思うのは人として当然。
役割だと、それは運命だったのだと呼ぶには、此所での出来事は余りにも残酷過ぎる。
“この島で誰かを斬ってきたという事実が仕組まれているかもしれない”。
そんなもの、考えるだけでも悍ましい事じゃあないか。
90廻る舞台 -Il teatrino- 3:2010/11/10(水) 09:19:11 ID:Y9k5ZNXU0
「クレメンテ。お前の率直な見解を聞きたい。こいつをどう思う?」

少年が険しい声で儂に問うた。
リフィルを同行させずチャットを寝かせたのは、今の彼女達に屍体は酷だと思ったからだろう。
正しい判断だと思ったが、同時に一抹の不安がコアクリスタルを過ぎった。

―――お主はどうなんじゃ?

思っていても、決して言葉には出来ない残酷な疑問だった。

『……死因は爆死、殺害場は此所じゃな。頭部と首輪の損傷具合、肉の飛び散り方から見て間違いないじゃろう』
少年は顎に手を当て、飛び散っている首輪の破片を凝視したまま頷く。
「僕もそう思う。そして、放送前の晶力と放送遅延。
 更に此所は禁止エリアじゃない事と死後硬直の具合から逆算した死亡時刻から考えて……」
『十中八九、あの道化師の仕業じゃな。
 こやつが彼奴に首輪を爆破される様な“何か”をしでかした……そんなとこじゃろ?』
儂を地面に刺しながら、少年は再び頷く。頭はリフィルよりも少し下か、同等か。
天才よりかは、ヘタレでいざという時に全力を出せない典型的な気弱な努力家……シャルティエとは気が合いそうだ。
ジェイドと言いリフィルやこやつと言い、どうやら儂は頭が回る者と縁があるらしい。

「問題はその“何か”が一体何なのか、だ。舞台裏に迫る考察を独り言?
 常識的に考えて有り得ないし、あの馬鹿みたいな晶力の説明がまるでつかない。
 そもそもあの道化師が、たかが考察程度で首輪を爆破するとは到底思えない。
 もしそうなら今頃僕らの首は間違いなく飛んでるからだ。
 舞台裏の解明を恐れるなら、こうやって考察しようと試みてる時点で爆破すべきだからな。
 僕らの頭の良さを知るなら尚更、さ。
 “疑わしきは爆する”。そうしないのは考察や脱出への努力を、奴が寧ろ楽しんでいるから……そうだろ?」

腰を下ろし、爆破された首輪の破片を慎重に拾いながら、少年はそう呟く。
その口調は手元とは違い些かの慎重さすら感じさせない。
自分の命を秤に掛け、軽い口調で主催を試しているかの様にさえ儂には見えた。
『ふぉっふぉ。正解じゃろうが随分回り諄い言い方じゃのぅ。
 じゃがお主の事じゃ。大方、予想はついておる……違うかの?』
コアクリスタルの内側から、儂は少年をじいと見つめる。こやつも、恐らく分かっているだろう。
しばしの沈黙の後、少年は溜息を吐きこちらへと顔を向けた。

「……こいつは僕らの世界の大晶霊、時を司る“ゼクンドゥス”だ。信じたくないけど、余りにも似過ぎてる。でも」

突然何の話かと儂が思ったのと同時に、少年は懐から薄い冊子を地面に投げる。
微風にゆっくりとページは捲られてゆき、そして最後のページがぱらりと開かれた。
その数ページの中には、ゼクンドゥスの文字は当然存在しない。
コアクリスタルの中心がじくじくと痛む。自分の生暖かい脳味噌を掴まれているような不快な感覚だった。
まるで自分が自分でない様な……感情すら作られている様な……そんな嫌な予感がコアを支配する。

「名簿を見ての通りだ。そしてゼクンドゥスは生身じゃないし、ましてや大晶霊の死なんて絶対に有り得ない。
 そもそも例え死んだとして、今この場に時間が存在してるのは晶霊学上明らかに矛盾してる。
 即ち、この死体はゼクンドゥスとは全くの別人と言って良いだろう。だが、別人にしては余りにも似過ぎてる。
 体格だけじゃなく服装ですら瓜二つだ。これが果たして偶然だと断言出来るだろうか?」

……否、出来はしないだろう。
言葉がそう続くであろう事は、疑い様もなかった。
儂はコアクリスタルの中で唸る。恐らく、それはこの舞台の核心に迫る部分だろう。
放送の遅れや支給品の都合の良さ、そしてこのドッペルゲンガー。
全てではないが、ある程度の事象やこの世界の歴史は必然……こやつはそう言いたいのか。
91廻る舞台 -Il teatrino- 4:2010/11/10(水) 09:19:55 ID:Y9k5ZNXU0
『話を逸らすのが下手じゃの。……少し戻すぞキール=ツァイベルや。して、この状況はどう見る?』

朝日が、樹々の隙間から歪んだ白刃となって大地に差し込む。
天地を繋ぐにしては、あまりに頼りない刃だった。
数秒の沈黙は少年が言葉を選んでいるからなのか、ただ言いたくないからなのか。
儂は剣らしく、ただ黙って待つ事しか出来なかった。

「……クレメンテも分かってるだろ? この状況で疑う事が可能なモノなんか、一つしかないじゃないか。
 この場で怪しい物なんて、見付けられない方がどうかしてる」
そう言って少年が見上げた先に空は無い。
太い幹から広がる枝と葉々が、限り無く黒に近い緑を揺らすだけだった。
ずっしりと構え、雄大な自然と世界を繋ぐ楔……しかしその姿は、暗い樹海ではこんなにもグロテスクだ。
ざわざわと不気味に揺れる大樹は、この場で明らかに“異質”だった。
「地図にすら不自然に載っていた……これが大樹カーラーン、か。
 リフィルの世界の晶霊力……いや違ったか。マナを生む神木、だったな。本来この森には存在しない大樹」
『この神木に何かをしようとして、それを主催側に止められた。
 確かにそうとしか思えないじゃろうが、それは同時に矛盾でもあるのう。
 きゃつは儂らの考察や行動を楽しむ。
 にも関わらず放送を遅らせてでもアクションを止めるのはおかしな話にならんか?
 そもそも、この木が怪しいのは地図や現地で見たら分かる事じゃ。
 手を出されて動揺するとは、主催らしからぬ行動と言えんかの?』

儂の言葉に、少年は唸りつつ眉間を揉む。そこまでは少年も考えていたようだった。

「あぁ。だから恐らく別の理由があるんだろうな……この樹はミスリードかもしれない。
 だが、それが主催の目的かもしれない。敢えて矛盾を提示して、真実を誤魔化す為か……畜生、考察材料が少な過ぎる……。
 このドッペルゲンガーは、明らかに大樹を調べろと言っていると僕は思う。
 だが、それが罠かもしれないし、こいつが主催の手駒かもしれない。
 それに首輪を爆破した奴は“本当にサイグローグだったのか”?
 そもそも大樹はマナを生むから迂闊に調べられないし、放送の遅れすら僕らを惑わす罠の可能性だってある。
 ……何がなんだか分からない……」

同じ場所を往復しながら、少年は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて呟く。
苛立ちは尤もじゃろう、と儂は思った。
特にこの手の天才ではなく頭が良い止まりの人間にとって、これはさぞかし琴線に触れる事だろうて。
理由と根拠が無ければ、幾ら頭が良い人間とて結論は出せない。
勘と興味で動き、それが結論になってしまう神に愛された稀代の天才……ハロルドとは、根底が違うのだ。

「この迷いや躊躇こそが主催の楽しみだって分かってるってのに、僕は未だに迷ってやがる! 畜生……畜生ッ!」

どん、と大樹に震える拳を打ち付ける少年を、儂は冷めた視線で見る。
歳を食うと矢張り腰が据わるのだろうか。存外冷静で居られる自分に、儂は嫌気が差した。
何処まで自分が自分なのかも解りかねている現状で、ここまで冷静に居られるだなんて、予想もしなかった。
……この冷静さすらもが主催の提供したものだとしたら。ゲームを円滑に進める為だとしたら―――。

『そこら辺にしといたらどうじゃ? 幾ら騒いだところで、猫も杓子も予想は出来ても答えは出せん。
 この問題は少しくらい後回しにしても良いじゃろ。
 ……ところで、一つ二つお主に言っておきたい事があるんじゃが、いいかのう?』
ゆっくりと深呼吸をすると、少年はこちらへと振り向く。
興奮で僅かに紅潮していたが、冷静さは無事取り戻したようだ。
髪を掻き上げ、少年はこちらへと疲れた笑みを向ける。
「あぁ……取り乱して悪かった。聞くよクレメンテ」
その声と表情に、シャルティエに似ておるなと儂は更に思わざるを得なかった。
それだけに、先が不安でもあるのだが。
本質もシャルティエと似ているならば、正義の矛先が曲がったとして、その先は……。

『一つは、ベルセリオスというソーディアンと、ハロルドという天才科学者の関係。
 もう一つは、先刻儂のコアが反応した原因―――……』
92廻る舞台 -Il teatrino- 5:2010/11/10(水) 09:21:00 ID:Y9k5ZNXU0
最初は、儂は誤作動だと思った。異常な土地故の、誤作動。そう思う他なかった。
都合が良過ぎるからだ。この場にあんなものを設置するのは、主催が馬鹿としか思えない。
だが、きゃつの人間性を考えれば考える程、予感は確信へと変化していった。
全ソーディアン中、自分にしか備わっていない能力。
旧知の友人のコアを捉えるレンズセンサー。……即ち。

『……―――メルクリウス=リトラー総司令、延いてはラディスロウがこの世界に存在する可能性についてじゃ』

この希望の光すら、泉に映る虚ろな月明りなのか。一体何処まで道化師の掌の上なのか。

“このゲームにはハッピーエンドは用意しない“。

足掻けば足掻くほど道化師のその言葉が、嘲笑が聞こえてくる気がして、未来は溝の様に禍々しく濁っていた。



*************



ベルセリオス、ハロルド……ラディスロウ……神の眼。正直、眉唾だったが信じるしかない。
注目すべき情報は多々あった。中でもラディスロウに関する話は興味深い。
クレメンテが言う様に西の海底辺りにあるのだとすれば……どうにかして早い内に確保したい。
スペックを聞くに、籠城してしまえばほぼ無敵の要塞と言える。起動すれば、の話だが。
いや、というかそもそも本当にそんな都合の良いものがあるのか。海底に行く術も無いし、先は長そうだ。

……今、僕はリフィルにクレメンテを渡し、チャットを起こしに行く為に森を歩いている。
首輪に関してあいつの意見を聞いておきたかったからだ。
悔しいが、機械に関しちゃ僕よりあいつの方が遥かに詳しい。
単純に、セレスティアの方が晶霊機械の技術や基礎学力が上だという理由もあるが、それ以上にあいつには天賦の才があった。
餓鬼だからって侮れない。あいつは足算も出来ない癖に宇宙も飛べる巨大戦艦を一人で整備する天才だ。
対して僕の本質は所詮本の虫。努力家なだけでただの凡人。
ベクトルが勉学の方にしかなかっただけで、他は駄目。……そこらの有象無象魑魅魍魎と何が違う?
体力ですらあいつに負ける。勝てるのはせいぜい計算力と口喧嘩くらいだ。
あぁ、認めるさ。僕はあいつ、いやこいつにすら嫉妬している。

「憎たらしい寝顔だな……全く」

涎を垂らしながら、目の前でチャットは寝息を立てていた。実に幸せそうな寝顔だった。
思えば、此所で出会ってから初めてこいつの笑顔を見た気がする。
そう思ってしまったからか、少しばかり起こすのは気が引けた。
せめて、夢の中だけでも楽になってくれれば良いと思う。……僕らしくもない考えだな。

「エアリアルボード」

緑色の風が集うのを確認しながら、僕は自分の掌の中にあるクレーメルケイジに視線を落とす。
輝くオージェの結晶の中には“何も無い”。にも拘らずインフェリアの晶霊術だけは使えるという矛盾。
大晶霊不在のケイジ、フリンジ済みの晶霊術、理に適わない活力低下―――どれもこれも常識的に考えて有り得ない。
晶霊圧そのもののが低くなっていて、大晶霊がギリギリ存在出来ない様に設定されていると考えるのが自然か。
この考えが正しいのならば、矛盾は無くなる。
何故なら晶霊は単体ではなく群……それが僕の考えだからだ。
ファキュラ説を信じる僕にとっては、この世界にはまだ希望があると言っても良い。
何とか大気中の独立属性晶霊力を収束して大晶霊の力を借りられれば、或いは。

そう言えば、この世界の天候はインフェリアに極めて似ている。
雪原は後天的な要素で元々砂漠だったし、湿気も少なく緑も繁り天気も良く、海は澄んでいた。
恐らく割合で言うとセレスティアの晶霊の方が少ないのだろう。
故に大晶霊の力を借りるなら、半ば必然的にそれはマクスウェルかレム、またはゼクンドゥスとなる。

「チャット、起きろ」
93廻る舞台 -Il teatrino- 6:2010/11/10(水) 09:21:52 ID:Y9k5ZNXU0
手頃な木の頂上付近にチャットと自分を運び、僕はチャットの肩を掴んで揺らす。
あと五分、などというベタな寝ぼけ方をするチャットに苛立ちを感じながら、僕は強めに頬を抓った。
「い、いだだだだッ! な、なななな何するんですかこのッ……変態!!!」
すぱあん、と頬に強い衝撃。自分の視界が弧を描く。
女の平手打ちは実に凶悪でおまけに素早く、始末に終えない。
二秒遅れて、頬を襲う熱と脳を刺激する落下への焦躁。僕は慌てて木にしがみつく。
気付けば今にも胸から飛び出してしまいそうなほど、心臓はばくばくと高鳴っていた。

「ッ馬鹿、殺す気か……! 木から落ちたらどうしてくれるんだよ!?」
「寝込みを襲う男は皆等しく女の敵ですッ!」

何処の誰が女だって!? と吐き捨てたくなったがやめておいた。
季節外れの紅葉は一枚だけでいい。
「わかったわかった僕が悪かったよ、全く」
紅潮しながら犬牙を剥くチャットを諸手で宥め、僕はやれやれと思った。
これだから子供と女は苦手なんだ。本当は、リフィルみたいな色っぽい女だって苦手なのに。
「……あぁそうだ、ところでお前に見て貰いたいものがあるんだがいいか? これなんだが」
僕がポケットから出した首輪の破片――無論チャットが怯えない様に血は念入りに拭き取った――を、チャットは食い入る様に見た。
勿論、僕にはこれが首輪だというのは隠す気もなかったが敢えて言う気もなかった。
どうせ何時かはバレる嘘だ。それにチャットには首輪を解析して貰わなければならない。
なら、吐く気も敢えて言う気も起きなくて当然と言えた。

「わわ、何ですかコレ!? かなり珍しい構造ですね。ちょっと貸して貰っても?」

目を輝かせてこちらを上目遣いで窺うチャットに、僕はほんの少しだけ罪悪感を覚えた。
「あぁ」
許可するや否や僕の手から破片を奪うと、チャットは鼻息を荒げて首輪を凝視した。
僕はそれを冷ややかに見届ける。残酷な事をしている自覚はあった。
「この結晶はオージェ、ですね。
 こっちの青い破片は……何でしょう? リヴァヴィウス鉱でもないし……少なくともエターニアには存在しない鉱石だと思われます。
 エターニアの機械に使う鉱物の中で、僕に知らないものはありませんから」
チャットにも分からなかったか、と僕は少しだけ落胆した。
だが、それでもエターニアには存在しない鉱物が首輪に使用されているという事が分かっただけでも収穫だった。
そして、首輪の内部にあったであろう破片の一つがオージェであるという事実。これも収穫だ。
言語の相互理解は恐らくこれによるものが大きいだろう。
それにオージェの中に晶霊石があったなら、晶霊を閉じ込める性質を利用していた可能性がある。
火晶霊を閉じ込め、爆破の援助機関としていたのかもしれない。
だが、前者の言語理解……これは納得いかない部分がない訳じゃない。
オージェのピアスの恩恵は、理解しようとする力に依る特殊能力だ。
そう簡単に、複数の他世界の言語を初対面で理解出来るものだろうか?
……有り得ない。そんなもの、余りにも“都合が良過ぎる”からだ。
首輪に何らかの能力増幅回路があるのか、或いは“そういう設定”なのか。

「こっちの石は……晶石の破片ですね。外面のコーティングはセファイド鉱……に似てるけど少し違うようです。
 後は破片が小さ過ぎます。これだけじゃ何が何やらさっぱりですよ。大きければ、未知であれ大体の機能は予想できると思いますが」
「お前は機械のことなら本当に何でも知ってるんだな」
「何でもは知りませんよ、知ってることだけです」
世界一の戦艦を持っておいて何を言う。知らないことなんて無いだろお前には。
「フン。まあ有り難う。しかし、やはりもう少し大きなサンプルが要るか……後から分解しなきゃならないな」
肩を竦めるチャットから首輪の破片を受け取りながら、僕は思考の海に沈む。
晶霊力を失った晶石の破片……チャットが言うなら、恐らくほぼ間違いない。
そして、その晶霊力の属性は言うまでもないだろう。
隠れ蓑にするにはもってこいで、爆破後に霧散しても不自然ではない属性と言えば―――光。
成程、だから此所はインフェリアの気候に近いのか。光属性の晶霊力が作用しやすい様にする為に。
そして、わざわざ光晶霊の力を借りる理由は一つしかない。
94廻る舞台 -Il teatrino- 7:2010/11/10(水) 09:22:48 ID:Y9k5ZNXU0
「爆破後に破片を残したのは、解かせる為にわざとした事なのか、ミスリードなのか……」

ドカターク効果―――――光晶霊の相互干渉現象。遠隔爆破の為か、別の理由か。
少なくとも、あの道化師は謎を解かせる気だけは充分過ぎるくらいあるらしい。

「面白くなってきたじゃないか。あの道化師、どういう訳か余程僕らの世界が好みらしい」

例え放送で呼ばれようが、喰われてやるつもりは一切ない。
ここまでがお前の予想通りだろうが何だろうが構うものか。
僕は、帰るんだ。メルディ達の元に帰るんだ。リッドに会わなきゃいけないんだ。
その為なら、幾らでも手を汚してやる。



*************



「リッドはまだ生きてる」

セネルさんの事を考えていたら、キールさんが突然そう言った。
さしもの僕でも、この突拍子もない言葉が間違っている事くらいは理解出来る。
僕はキールさんの様子を横目でちらりと伺った。
ぼんやりと空に浮かぶ双月を馬鹿みたく見つめるキールさんの横顔は、凍て付いたペイルティの海の様に青白い。

「そんな事、」

……ある訳ないじゃないですか。
たった、たったそれだけの言葉。
けれど、僕はその“それだけ”を続ける事が出来なかった。
サイグローグに逆らうキールさんとリッドさんに加勢しようともしなかった自分に、そんな無責任な台詞が吐ける訳が無い。
……やるせなかった。僕は首を振り、雷の晶霊力が切れた晶霊傀儡の様に項垂れる。
右隣りに腰を下ろすキールさんの方から、布が擦れる音が聞こえた。
足元からひゅう、と風が吹き、その肌寒さに思わず身震いする。
「そう……ある訳がない。現実味はあまりないが、僕だってそう思うさ。
 あいつは死んだ。僕が止めなかったせいで死んだんだ。僕が……僕が、殺したんだ」

……そんな事、ないですよ。
僕は俯いたままそう言うが、まるでそれが自分の喉から発せられた声じゃない様な違和感を覚える。
世界はまるで死んだ様に沈黙を決め込み、僕の心臓だけがやけにはしゃいでいて、胃は何やらきりきりと痛んだ。

「だが奴は、サイグローグは確かに“リッドはまだ生きてる”、そう言った。確かに、だ」
キールさんはそう言うと、枝から立ち上がる。木の幹が少しだけ撓った。
僕は慌てて身体のバランスを取ると、キールさんの顔を見上げる。
キールさんは僕を一瞥すると、肩を竦めてフンと鼻で笑った。何かを小馬鹿にした様な笑い方だった。
「……そんな戯言を信じるのか、って顔だな」
二度目の風が吹いた。身体の芯まで冷まし尽くしてしまう様な、寂しく虚しい風だった。

「あぁそうさ、バカバカしいだろ。僕だって信じたくないさ。だけど、信じたい気持ちもある……!
 死者を蘇らせる事が出来る奴なら……それにクレメンテが言うフォミクリーなら或いは、って! 畜生!!」

どん、とキールさんは震える拳を木の幹にぶつける。枝と葉がざわざわと不気味に揺れた。
大樹の頂上は随分地上から離れている。バランスを取る為に僕は足元を見て、その高さに軽い眩暈を覚えた。

「だから、それを確かめる為にも、“僕”は死ねない……!
 そしてリッドに会って、“僕”は謝らなきゃいけないんだ。
 ラシュアンに帰ってファラにも謝らなきゃいけないし、メルディにも!
 だって“僕”がそこまで生き残るって事は、リッドに“僕”が会うって事は、」
95廻る舞台 -Il teatrino- 8:2010/11/10(水) 09:24:46 ID:Y9k5ZNXU0
視界の隅で、深緑色の葉がひらひらと落ちてゆく。
気付いた時には、僕は顔を歪めるキールさんの足に惨めにしがみついていた。
目頭が火で炙られたみたく熱くて、どうしようもなく、喋る事なんかできやしなくて。
喉から零れる僕の惨めな嗚咽だけが、森の沈黙の中、世界を揺らしていた。

「悪かった。すまない、チャット。僕が悪かった。僕が全部、悪かったから……」

―――だから、僕を赦してくれ。

消え入りそうな声で、キールさんはそう呟いて僕の身体を両腕で包んだ。
その両腕は、頼りにするには余りにも華奢で弱々しく、心の隙間を満たすには余りにも冷たく汚れていた。
……“僕ら”ではなく、“僕”。
その違いは、到底言葉や優しさ程度では埋められそうになかった。

「行こう、チャット。そろそろリフィルと約束した時間……ん? 何だ、あの赤い……」

【“まだ”生きている】。
その言葉が意味する未来を、キールさんが気付いていない筈がなかった。
僕は小さく頷くと、鼻を啜ってキールさんのローブの隙間から空を仰いだ。
長過ぎた夜が終わって、やがて朝が落ちてくる。燃える様な橙色の光が、酷く息苦しかった。

もう何も傷付けたくない。誰も喪いたくない。
ただただ膝を抱えて、雨も獣も天才も勇者も何もかも、現実に潰されてゆくのを見ているだけではきっと何時か自分が壊れてしまう。
……だけど、せめてこの朝焼けにも似た紅だけは喪いたくないと、僕は首に巻いた勇気の証に顔を埋めて、息を深く深く吐いた。


96廻る舞台 -Il teatrino- 9@代理:2010/11/10(水) 10:18:19 ID:rAXw4k5s0
【リフィル・セイジ 生存確認】
状態:HP80% TP60% 頭部と左足に裂傷・打撲・切傷多数 服に焦げ
   教師/治癒術士としての無力感 後悔 微酔
所持品:リヴァヴィウス鉱 ウイングパック リブガロの角 ソーディアン・クレメンテ
基本行動方針:殺し合いの打破
第一行動方針:この少女は一体?
第二行動方針:現実と治癒術士(教師)としての心、どちらを優先すべきか考えたい
第三行動方針:リーガルを殺した人物が誰か気になる、リーガルを殺した人物、爆発音の発生源を警戒する
第四行動方針:死者に対しては慎重に接する
第五行動方針:先程のマナのようなもの、爆破のマナが気になる
現在位置:D1:大樹ユグドラシル

【ソーディアン・クレメンテ】
状態:健康
基本行動方針:リフィルを中心にチームをサポートしつつ、ラディスロウが本当にあるなら辿り着く
第一行動方針:この少女とディムロスが信用に足るか判断する
第二行動方針:キールのストッパーとなる

【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP50% TP55% 後悔 冷静を努める意思による自律 ヴェイグとイクティノスへの畏怖
   ロニへの同情・不安 主催者の言葉を信じる事への僅かな恐怖 腹、胸部刺傷 ベルセリオスを警戒
所持品:誰かのクレーメルケイジ(I) グランドセプター ヴォーパルソード ジェイドのメモ
    セレスティアルマント リーガル・リカルド・バルバトスの首輪 デュナミス 情報入り名簿
基本行動方針:メルディ達の元に帰り謝る・リッドに会う。マルタ、チャット、アッシュとの『協力』を果たす
第一行動方針:……あの赤い奴は誰だ?
第二行動方針:塔に行き、マルタを保護
第三行動方針:首輪をチャットと解析する為に分解を試みる。
第四行動方針:大晶霊の力を借りる術の模索。出来ればレムが、次点でゼクンドゥスかマクスウェルが好ましい
第五行動方針:襲われた場合は応戦よりも全力で逃げる
現在位置:D1・大樹周辺

【チャット 生存確認】
状態:HPTP100% 首絞め痕 死と殺人への恐怖と罪悪感 守られる事と無力さへの極度葛藤
   自分の甘さへの不安 急性的なストレスによる鬱症状 勇気(小) 首にバンダナ装着
所持品:スタンダードマグ(残り装填4発) 銃弾50 ラジルダの旗 タバサ プラズマカノン 苦無
    パナシーアボトル 袋詰め粉砂糖2kg エナジーブレッド×4 矢×1 スコップ ダーツセット
    クレスのバンダナ ザック×3 聖弓ケルクアトール 絆転生石
基本行動方針:勇気を持つ。アニーやジェイド、アリエッタの死を乗り越えて生きる
第一行動方針:アッシュやキールと共に戦う
第二行動方針:アリエッタとジェイドの埋葬
第三行動方針:先程キールに見せて貰った未知の機械の全容が気になる
第四行動方針:セネルが心配
現在位置:D1・大樹周辺

D2放置アイテム:血塗れのねこねここねこ 冷めた温石 リバースドールの欠片

※このSSはキール達の元をリフィルが立ち去ってから、リフィルとリアラが会う直前までのものです
97名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/10(水) 10:29:00 ID:rAXw4k5s0
代理投下終了、そして新作乙です。
オージェか…他世界の言語理解にそういう手段が有ったか…。
そしてロイド達とキールの邂逅は色んな意味で注目だな。
…1stのような裏切りが無ければ良いが。

後は、これでロイドにヴォーパルソードが戻る訳か。
聖剣ロストセレスティと魔剣ヴォーパルソード…
武器も仲間も充実してきたが、フラグバーストが不安だな。
98名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/10(水) 20:17:10 ID:YD2kSPc2O
投下&代理乙です

キール達はそっちに行ったか
これでしばらくは安全そうだな

そうそう、今オレちょうど化物語読んでるんだw
だからタイムリーなパロディでした
99名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/10(水) 23:59:17 ID:MnAtne+g0
乙です

羽川わろた
100名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/11(木) 07:50:25 ID:TOYa2kGU0
乙であります。ガンスリとイヒか…相変わらずのパロディの引き出しの多さw

それはそうと、今回のフラグ回収&考察はかなり重要だなあ。
クレメンテの何かに気づいたフラグ&マオの海底で見た船フラグ&はラディスロウ、キールのサイグロに言われたフラグはリッドの生死、多言語理解はオージェ、首輪遠隔爆破はドカターク効果、そしてようやく考察されたダオス。
一気によくまとめてきたなー。Il teatrino(おもちゃの劇場、人形芝居)とはよく言ったもんだ。
これからが楽しみ。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/13(土) 00:03:23 ID:Mj69Jrdw0
こんばんは。テイルズロワラジオをやらせて貰っているナッシュです。
本日13日、21時からラジオを放送します。
お時間がありましたら、よろしければどうぞ。

ラジオのアドレス等は放送開始時にまた書き込みに来ます。
102名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/13(土) 15:43:30 ID:OWJyB4MD0
これより、避難所に投下されていたSSの代理投下を行います。
走る。
戦いの結果についての考察どころか致命傷を負わせながらも逃げおおせた敵の行方すら歯牙にもかけずに彼らは崩壊した城の中、
次なる目的のために奔走し続ける。
彼らが割れたガラスを気にすることもせず、
うず高く複雑に積もった瓦礫や粉塵の中に頭を突っ込むことすら厭わぬ程に必死になっているのは
熱病に侵され今にも消えそうなほどか細い一人の少女の命を繋ぐためだ。

「苦無見っけたぞ!! 一個だったよな!?」

「ええ、こっちはアンタの日記を見つけたところよ!!
  内容全部覚えちゃったから大声で暗唱していい!?」

「ルークさん、ハロルドさん。メンタルパングルとマジックミストを見つけましたわ!」

「ああ、もう! こん中から粉状の薬捜すとか超素敵アイテムでも使わねえと無理だろ!
  ミュウ、マルタの様子はどうだ!?」

「ミュウミュウ!!」

「何だか知らぬがとにかくヤバシってとこね。
フィリア、最悪の時はメンタルパングル貸しなさい! 
一人、殺せるあてがあるからそれを応用して回復術で延命処置をするわ」

「クソ! アイツ、俺の精神を生贄にしようとしてやがる!!
  香水まみれの臭え環境で、んなことされたら冗談抜きで死ぬっつーの」

「見つけました、来てくださいミュウさん!
  私では手が届きそうにありません!!!!」

「ホントか!? スゲエラッキーだな! これで俺もマルタも助かるぞ!!」

「はい、これぞ神のお導きですわ」

「ミュウ!」

「『赤い豚にボコられて、
目が覚めてからは骸骨かぶった変なやつに手も足も出なくて――』」

「いや、見つかったって言ってんだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





フィリアの特技、ジャッジメントにより正しい使用法を知っていた彼らは
すぐにソレを横たわる少女に飲ませた。
マルタの意識が覚醒するのは予想以上の速さだったが、
ハロルドが一応のデータサンプルを収集したかったのと
万が一の再発を恐れたフィリアの説得で、ある程度の情報を交換した後、
再び眠りに落ちた。
少女に寄り添い、熱心に観察兼診断を行っている司祭と科学者。
することがないのならばとルークやミュウは見回りを兼ねた他のアイテム探しに城の内外の探索に出た。
イオンの死体を確かめたいというのが正直なところだろう。
そうするように仕向けたわけではなかったが彼が場を離れたことに対し、
フィリアは密かに胸をなでおろした。
これからハロルドと始める話題は少々込み入りすぎており、
場合によってはサイグローグに目をつけられることになる可能性がある。
脱出を目指す以上はここで話されたことはルークに伝えなくてはならないし、
ゲームマスターに注目される未来も避けようがないが遅ければ遅いほど良いというものだ。
「十八年後、二十八年後、千年前、別の十八年後、そして神……ですか」

「信じられる?」

からかうような響きを持たせながら問いかける
ハロルドにフィリアはゆっくりと首を横に振った。

「私は私の知識の存在の矮小さを知っています。神の眼を巡る野望における戦い、
そして大切な仲間達を通じて教わったことです」

「そう。それは感心感心、グフフのフ」

他人にはすこし真似できないような笑い方をするハロルドを見ながら、
フィリアは話を更に奥へと進めようとする。

「神の奇跡、世界の理を変えるというラタトスク。
  それらの力を使えばルークさんは……」

「無理でしょ。死ぬもんはどうやったって死ぬのが世の中のルールだし。
  あいつも“私たち”もほんの少しの猶予をもらってるようなものよ」

すげなく断言するハロルドの言葉に反論しようとするフィリアだったがそれを遮ったのは
他でもないハロルド・ベルセリオスその人。
フィリアの眼鏡のヒビ割れをちょうど爪の先に引っかけるという
制止の仕方としてはエキセントリックに過ぎる方法ではあるが、
二人はそれに言及することなくハロルドが出した書類に目を通す。

「ま、今はこの子の術後経過ってヤツを看ましょうか」

『この世界の力場は特殊っていうのはもう気づいているでしょ?』

書類に口づけができるほどの距離まで目を近づけ、
大まかな情報を頭に叩き込んだフィリアは、別の紙にたった今書き込まれた文章に頷く。

『他世界のエネルギーがそれぞれに互換性を持つようにサイグローグがこの世界を創った。
  これは殺し合いを円滑に進める上では必須ですから』

『けれど、どうしようもないレベルの例外がある』

そう書き込みしながらハロルドは当事者“達”がいるであろう方角に目を向ける。

『ルーク・フォン・ファブレ』

『貴女、中々に優秀な助手になりそうね。
  回復術をかけられて、七歳児は確かに第七音素を感じると言った。
  それも、レンズを介したマルタと私の両方の回復術から』


「もう千年早く産まれていたらディムロスもアトワイトじゃなくて貴方を選んでたかもね」

「あの御二人がそういう仲でしたとは……」

『けれども回復術は制限がかけられています。
  それなのに同じ第七音素で構成されているルークさんに
  何の異常もないというのはどういうことなのでしょう?』

『第七音素は惑星の記憶を保有している記憶粒子から成りたっている。
  そこに鍵があるのかもしれない』

『記憶を持つ音素 回復術 レプリカ』

そこまで書き連ねたフィリア。
自分の死を受け入れ、できることを探そうと懸命にもがく彼の行為を受け入れてはいるが
それと救うことを諦めるのは全くの別問題だ。
奇跡は起こせる……彼自身がそれを教えてくれた。
そう、これほど多くの世界から人が集まっているここならば
打開策はきっと見つかるはずだ。
奇跡……? 他の世界……?
先程までの超局地的台風が一生忘れられないくらいに心身に焼き付いたせいか
まるで時が止まっているかのような空気の流れだ。
それとは対照的にまるで大地震が起こったかのように目を見開くフィリア。

『神の奇跡は癒し。そうでしたわね』

『そしてその力を戦闘のベクトルに向けることも可能だった。
  まったく、反則過ぎるわね〜〜』

『ですが、全ての世界にそれほどの回復術が存在するのでしょうか?』

『無いかもしれないわね。
  ああもう、こういう大正解に辿りつきそうで笑いたいとき文章を用いた会話って不便。
  笑い→わらい→warai→wっていう文章感情表現方法がいつかどこかで流行りそう。
  ま、それは置いとくにしてもあなたの行き着いた考えは
  かなりのところ正しいと思うわ。
  回復術と惑星の記憶に互換性を持たせた以上、かなり無理矢理な均等化が必要だったんでしょ。
  そうでもしないとアレがアレなことになっちゃうし。
逆に言えばここでの奇跡の使用は何らかのバランスを崩す行為になりかねない』

互いの持つ筆が信じられないような速さで動く。
普段のフィリアを知る者がいたのならばその様子に憑き物を見たことだろう。

『サレのような過剰なほどの能力暴走、
  そして先程のエネルギー爆発もそれと繋がるのでしょうか?』

『かもね。まあ、今の参加者や会場からの情報による結論だと
  ルークは――――』




ハロルドの記述を最後に、筆記ディベートは終了を迎えた。
メロメロコウの匂いが未だ色濃く残るその場にフィリアが存外平気な顔で座っているのを見て、
かつてジューダスから彼女に潔癖症の性癖があることを聞いていたハロルドはほんの少し意外に思う。
懐中時計で確認してみると9時になる五分前、
いやはや慌しく行動していたものだと科学者は心中で嘆息する。

「箒を貸してあげるから。ルークが戻ってきて、この娘の目が覚めたら
  A-4を目指しなさい。マルタの王子様……ラタトスクはそこにいると思う。」

「ですがそれではハロルドさんが御一人に」

「私なら大丈夫よ。クレメンテとも当然旧知の仲だし
  途中で色々探検するだろうから、
  マジックミストとミスティシンボルがあれば逃げることくらいできるわ」

冷静にそう告げながらハロルドは次の言葉をどう発するべきかと思案し、
そしてそんな自分に自嘲する。
自分にこんなことは向いていないというのくらい、
アイツとの戦いにもならない茶番劇でわかったことだろうに。

「ジューダス。リオン・マグナス。エミリオ=カトレットがスタン・エルロンに殺されたわ」

選んだ言葉は一直線。カイルの馬鹿がこんな最悪な形で伝染して欲しくはなかったと
フィリアが他者から彼女を彼女だと認識させる外見要素すべてを強ばらせたのを見て思う。

「この僕が手も足も出なかったぜ、馬鹿なっ。
  あの阿呆がこれほどまでに言うくらいなんだし、
  スタンともし遭遇するようなことがあっても早めに“諦める”よう努力しなさい」
  
軽い……いや、彼女自身が最低だと思う冗談を交えながら軍人でもあるハロルドは警告する。
三秒の間を置いた後、震えた声でフィリアが話す。

「容赦はしません。それでも、けれども、どうしても私(わたくし)は信じたいのです」

「んん、つまりは信じる、信じ続けることが」

「私でいられる証ですわ」

彼女の決意を近くで聞き、ルークと、ミュウの話し声を遠くで聞いた。
これほどの崩壊だと彼等が見に行こうとした死体が原型をとどめているかは
かなり怪しいところだろう。
ハロルドは目をつぶりながら空を見上げる。
嫌味なほどに磨きあげられたその青と白が目を開いた彼女の目に突き刺さる。

「そう。それが貴方なのなら止めないわ。
  けれどね、旅の途中、今にも殺されそうになってる、
  スタン、ルーティ、フィリア、ウッドロウを助けたときにあいつは嬉しそうに、
  こう………………言ったわ」

これはある意味で死者に鞭打つ行為なのかもしれない、
あのへそ曲がりの体現者ならなおさらだと彼女は思う。
それでも、生きている目の前の少女にどうしても伝えたいことだった。



    ―生き長らえた意味があって良かった―



顔を手で覆う気配を隣で感じながらゆっくりと続きを謳う。

「誰かの為に生きるのを否定はしない。
 でもほんの少しでいいから我儘になってみなさい。
 エゴイストになってみなさい。
 私は、面白がりながらそれを許すから」

司祭は眼鏡を地に落とし、体を折り曲げ、見えもしない大地に顔を向け続ける。
科学者はまるで何かに祈っているようだなと空を見続けながら思う。
囀るような嗚咽の音が風を呼ぶのと空が異色に染まったのはほぼ同じ瞬間だった。
【ルーク・フォン・ファブレ 生存確認】
状態:HP65% TP90% 強い決意 第2回放送の遅れがひっかかる スタン達への不思議な感情
   全身に傷・打撲・痣
所持品:ソウルブラスト ミュウ ミスティブルーム  ルークの日記 ペイルドラグ
     サレの荷物(ガーネット ダイヤモンド 基本支給品一式三人分)
基本行動方針:今自分に出来る事をする
第一行動方針: 何だ!?
第二行動方針:城を探索したらチャットを探しに南へ? アッシュやジェイド達の手かがりを探す?
        マルタの「願い」を叶えるのを手伝う?
第三行動方針:アリスを探してイオンの仇を取る?
第四行動方針: スパーダ・ジューダスが気になる
現在位置:B2・ハイデルベルグ城

【フィリア・フィリス 生存確認】
状態:HP60% TP55% 巨大な魔力が少し気になる 打撲や裂傷 髪が梳けている 眼鏡が割れている
所持品:レンズ×10
基本行動方針:仲間を探しながら情報収集に徹する。ルークに着いて行く。
第一行動方針: ???
第二行動方針: A-4に向かう。クレメンテのことはハロルドに任せる
第三行動方針スタンを信じるが容赦する気はない
現在位置:B2・ハイデルベルグ城・玉座の間

【マルタ・ルアルディ 生存確認】
状態:HP100% TP90% 右肩に傷跡 右の片袖無し 
   空腹 死への恐怖 センチュリオン・コアの存在への不安
所持品:エミルのマフラー 鬼包丁 レンズ×5 情報入り名簿 石
    蟻地獄人の人形 外套代わりの毛布×2
基本行動方針:死ぬまでにエミルに会いたい。生きていたい。
第一行動方針:エミルにマフラーの件を謝る
現在位置:B2・ハイデルベルグ城・玉座の間

【ハロルド・ベルセリオス 生存確認】
状態:HP75% T60% 仲間達が心配 巨大な魔力(マナ)が気になる エミルを僅かに警戒  びっくり ルークの日記インプット
所持品:天才ハロルドの杖 スペクタクルズ×82 ローレライの宝珠 紫電 苦無×18
    とうもろこし ミスティシンボル  マジックミスト レンズ×14 メンタルバングル
基本行動方針:面白くないのでゲームには乗らない。但し殺しは認める
第一行動方針:G2へ向かいつつ解剖するチャンスを伺う 。チャット、クレメンテをGETする
第二行動方針:スペクタクルズで未知の種族のデータ採取!
第三行動方針:フォルスの特異性について調査、R世界の住民に接触する
第四行動方針:次にロニに会ったら殺す
現在位置:B2・ハイデルベルグ城・玉座の間

B2放置アイテム:メロメロコウ(残量二割)
108名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/13(土) 15:51:00 ID:OWJyB4MD0
以上で代理投下を終了します。執筆お疲れ様でした。
これは……つまりハロルドwww っていう記号ですねそうですね!
フィリアの芯のある控えめさが生きる、良い掘り下げだなぁと思いつつ読んでました。
109名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/13(土) 20:14:38 ID:ZzsWjK/CO
基本乙だけど、リブガロの角以外でデスガロ熱完治は無理があるぞ。
フラグ無視になっちまう。
110名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/13(土) 21:04:32 ID:aOfTle3C0
ただいまからラジオ放送です。
よろしくお願いします。


ラジオのアドレス
http://nash-tobr.ddo.jp:8000/
掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13268/

聞き方はこちらからどうぞ↓
http://www.atamanikita.com/start-shoutcast/shoutcast-14.html
走る。
戦いの結果についての考察どころか致命傷を負わせながらも逃げおおせた敵の行方すら歯牙にもかけずに彼らは崩壊した城の中、
次なる目的のために奔走し続ける。
彼らが割れたガラスを気にすることもせず、
うず高く複雑に積もった瓦礫や粉塵の中に頭を突っ込むことすら厭わぬ程に必死になっているのは
熱病に侵され今にも消えそうなほどか細い一人の少女の命を繋ぐためだ。

「苦無見っけたぞ!! 一個だったよな!?」

「ええ、こっちはアンタの日記を見つけたところよ!!
  内容全部覚えちゃったから大声で暗唱していい!?」

「ルークさん、ハロルドさん。メンタルパングルとマジックミストを見つけましたわ!」

「ああ、もう! こん中から粉状の薬捜すとか超素敵アイテムでも使わねえと無理だろ!
  ミュウ、マルタの様子はどうだ!?」

「ミュウミュウ!!」

「何だか知らぬがとにかくヤバシってとこね。
フィリア、最悪の時はメンタルパングル貸しなさい! 
一人、殺せるあてがあるからそれを応用して回復術で延命処置をするわ」

「クソ! アイツ、俺の精神を生贄にしようとしてやがる!!
  香水まみれの臭え環境で、んなことされたら冗談抜きで死ぬっつーの」

「見つけました、来てくださいミュウさん!
  私では手が届きそうにありません!!!!」

「ホントか!? スゲエラッキーだな! これで俺もマルタも助かるぞ!!」

「はい、これぞ神のお導きですわ」

「ミュウ!」

「『赤い豚にボコられて、
目が覚めてからは骸骨かぶった変なやつに手も足も出なくて――』」

「いや、見つかったって言ってんだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





フィリアの特技、ジャッジメントにより正しい使用法を知っていた彼らは
すぐにソレを横たわる少女に飲ませた。
マルタの意識が覚醒するのは予想以上の速さだったが、
体力、精神力が完全に回復したとは言え、診たところ症状が完全に治まったと断言もできず、
スペクタクルズ、インスペクトアイからの情報もそれを証明していた。
マルタにはハロルドが一応のデータサンプルを収集したかったのと
再発の危険性を危惧したフィリアの説得により、ある程度の情報を交換した後、再び眠りに落ちた。
少女に寄り添い、熱心に観察兼診断を行っている司祭と科学者。
することがないのならばとルークやミュウは見回りを兼ねた他のアイテム探しに城の内外の探索に出た。
イオンの死体を確かめたいというのが正直なところだろう。
そうするように仕向けたわけではなかったが彼が場を離れたことに対し、
フィリアは密かに胸をなでおろした。
これからハロルドと始める話題は少々込み入りすぎており、
場合によってはサイグローグに目をつけられることになる可能性がある。
脱出を目指す以上はここで話されたことはルークに伝えなくてはならないし、
ゲームマスターに注目される未来も避けようがないが遅ければ遅いほど良いというものだ。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/13(土) 22:51:41 ID:RBY4hZ5U0
パングルが気になる
【ルーク・フォン・ファブレ 生存確認】
状態:HP65% TP90% 強い決意 第2回放送の遅れがひっかかる スタン達への不思議な感情
   全身に傷・打撲・痣
所持品:ソウルブラスト ミュウ ミスティブルーム  ルークの日記 ペイルドラグ
     サレの荷物(ガーネット ダイヤモンド 基本支給品一式三人分)
基本行動方針:今自分に出来る事をする
第一行動方針: 何だ!?
第二行動方針:城を探索したらチャットを探しに南へ? アッシュやジェイド達の手かがりを探す?
        マルタの「願い」を叶えるのを手伝う?
第三行動方針:アリスを探してイオンの仇を取る?
第四行動方針: スパーダ・ジューダスが気になる
現在位置:B2・ハイデルベルグ城

【フィリア・フィリス 生存確認】
状態:HP60% TP55% 巨大な魔力が少し気になる 打撲や裂傷 髪が梳けている 眼鏡が割れている
所持品:レンズ×10
基本行動方針:仲間を探しながら情報収集に徹する。ルークに着いて行く。
第一行動方針: ???
第二行動方針: A-4に向かう。クレメンテのことはハロルドに任せる
第三行動方針スタンを信じるが容赦する気はない
現在位置:B2・ハイデルベルグ城・玉座の間

【マルタ・ルアルディ 生存確認】
状態:HP100% TP95% 右肩に傷跡 右の片袖無し 
   空腹 死への恐怖 センチュリオン・コアの存在への不安 デスガロ熱一時沈静化
所持品:エミルのマフラー 鬼包丁 レンズ×5 情報入り名簿 石
    蟻地獄人の人形 外套代わりの毛布×2
基本行動方針:死ぬまでにエミルに会いたい。生きていたい。
第一行動方針:エミルにマフラーの件を謝る
現在位置:B2・ハイデルベルグ城・玉座の間

【ハロルド・ベルセリオス 生存確認】
状態:HP75% T60% 仲間達が心配 巨大な魔力(マナ)が気になる エミルを僅かに警戒  びっくり ルークの日記インプット
所持品:天才ハロルドの杖 スペクタクルズ×82 ローレライの宝珠 紫電 苦無×18
    とうもろこし ミスティシンボル  マジックミスト レンズ×14 メンタルバングル
基本行動方針:面白くないのでゲームには乗らない。但し殺しは認める
第一行動方針:G2へ向かいつつ解剖するチャンスを伺う 。チャット、クレメンテをGETする
第二行動方針:スペクタクルズで未知の種族のデータ採取!
第三行動方針:フォルスの特異性について調査、R世界の住民に接触する
第四行動方針:次にロニに会ったら殺す
現在位置:B2・ハイデルベルグ城・玉座の間

B2放置アイテム:メロメロコウ(残量二割)
114名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/13(土) 22:54:36 ID:GPJtQ4Yt0
修正代理投下終了です。
…確かにメンタルパングルになってますね。
まとめさんアップ時に訂正してくれると助かります。
115腐敗する朝@代理 1:2010/11/14(日) 03:17:29 ID:mWNGt9ff0
布団から飛び起きて、鈍って回転をサボる頭を無理矢理えいやと転がす。
突然自分を起こした声、見覚えの無いこの部屋、何時の間に進んだ時間。
あまりの非現実性に全てが夢だったんじゃと思うが、首筋の冷たさと晴れた関節はこれが紛う無き現実だと身体に教えていた。
咆哮から五秒経過してもなお、エミルは足を動かせなかった。状況がまるで飲み込めなかったからだ。
忘れているとか、寝ぼけているとか、そういった単純な問題ではない。
かと言って、これは記憶の消失でもなかった。
そのページだけ消しゴムで消されたのではなく、“元からそのページが存在しないのに、気付けば追加されていた”のだ。

……何かが、おかしい。
エミルは固唾を飲む。地に足が着いていない様な、不快な浮遊感が全身を舐めていた。
自分の知らない場所で自分が動いている、そんな有り得ない感覚が身体の内側を掴む。
視線を上げると、飴色の窓硝子から朝日が漏れていた。何時もと何ら変わらぬ、ゆったりとした早朝の時間。
世界は平然とすまし顔で動いていて、まるでおかしなのは自分だけ。
額を伝う汗は寝汗か、それとも冷や汗か。来訪者の咆哮の残響が消えた部屋は、吐き気がするほどしんとしていた。

ふと、枕元に落ちていた名簿を一瞥する。
くしゃくしゃになり何かで印刷が滲んだそのページの左端に、赤いマジックで潰された名前があった。
その意味を、名前が誰のものなのかを、この記憶の空白の原因を。
―――全てを理解した瞬間、静寂はたちまち殺される。声にならない声が、つかぬ間の平穏を蜂の巣にしてゆく。



『おはよう。クソ最悪の朝サマ』



喚く人の子を無理矢理見下す様に、精霊は世界の中心で力無くそう零す。
背を抱きながら崩れ落ちる半身は、虫酸が走るほど惨めだった。


116腐敗する朝@代理 2:2010/11/14(日) 03:18:32 ID:mWNGt9ff0
【エミル@エミル・キャスタニエ 生存確認】
状態:HP40% TP100% マフラー無し 右手骨折 軽度火傷 無力感
   マルタと封印の件で焦り気味(現在は非顕在) 西のマナが気になる 仲間の死に衝撃 クラースをやや尊敬
所持品:クィッキー セレスティア晶霊石詰め合わせ(青・黄・紫・黒:各×2)
    強力グミセット BCロッド 鎮魂錠 破魔の弓 ルーティのサック
基本行動方針:マルタ、リヒター、イグニスとともに一刻も早く元の世界へ帰還する
第一行動方針:これからどうするか考える(ラタトスク)
       うわあぁぁぁぁああぁあぁぁ!!!!!!(エミル)
第二行動方針:マルタがとても心配
第三行動方針:イグニスが気になる
現在位置:A4邸・寝室
117腐敗する朝@代理:2010/11/14(日) 03:20:12 ID:mWNGt9ff0
投下終了ですー
118名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/17(水) 22:33:17 ID:7vn+gjrcO
ほっしゅ
119名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/18(木) 12:02:09 ID:j14LwPrk0
投下します。
120晴れた日に絶望が見える 1:2010/11/18(木) 12:05:00 ID:j14LwPrk0
「負けたぁ〜」
「おいルカ!おまえのせいだぞ!」
「突っ立ってるだけでいいって言ったじゃないか…」
「誰も寝てろ、なんて言ってないだろ!」
「罰としてホットドッグを買って来い!家に逃げて帰らないように見張っておくからな!」
「早く行けっ!」


それはまだ僕が『ルカ』だった頃の記憶。
強さに、過去に憧れていた頃の、とても弱かった頃の自分。

…今思えば、あの頃のルカに存在価値ってあったんだろうか?
勿論、両親はルカを愛していただろうし、将来に大いに期待していた。
実際ルカは、学業は優秀だった。父の家業を継ぐ事も、医者を目指す事も難しい話じゃ無かった。
だけど、運動は大の苦手だし、不測の事態は勿論、荒っぽいことも苦手ですぐオドオドして、
すぐ泣きべそかいて…全く頼られる事なんて無かった(良いように利用される事は多々あったけど)

だから、今の僕――前世であり、憧れでもあった魔王アスラになれた時は本当嬉しかった。
勿論、今まで体験した事も無い過酷な旅に苦しみ、音を上げそうになったことは否定しない。
時には殺されかけ、生と死の狭間を彷徨った事もあった。それでもこの力を、強さを必要とされたことに、
前世の絆に現世でも巡り合えたことにルカは喜びを感じていた。

でも現実は残酷だった。

前世の絆に裏切られた事、天上を滅ぼしたのが、皆を不幸にしたのが他ならぬ自分であったこと。
そして今まさに現世を滅亡へと導いているのが、もう1人の『僕』であったこと。
その事実は余りにルカには重いものだった。今まで信じてきた全てが、ルカの手から全て零れ落ちて行く。
ルカは過去に、現在に、そして未来に絶望し、自分自身の存在を否定した。
崩れゆく天上の廃墟―――消えゆく意識の中で、ルカは全てを喪った。その筈だった。





「この魔神アスラに到底得られぬ物を、ルカ…お前は手に入れた」
「それは何?」
「お前の世界での絆だ。ルカよ」
「僕の…絆…」
「そう、俺の結んだ絆ではない…お前自身の…絆…」
「………僕の生きる世界」





そんなルカを絶望から救いあげるキッカケを作ったのは、過去の自分。
ルカの手に残ったモノを気付かせ、『ルカ』を取り戻す一歩となった言葉。


現世で結んだ絆――――スパーダ、コーダ、リカルド、アンジュ、エルマーナ………そして


121晴れた日に絶望が見える 2:2010/11/18(木) 12:07:11 ID:j14LwPrk0

「とにかく、おかえり。おたんこルカ」

先刻蘇った、サニア村での出来事の記憶が、僕の中で映写機の如く展開していく。
イリア…ルカはね、君の言葉が、君の想いが何よりも嬉しかったんだよ。
真の意味で、ルカを絶望から救いあげたのは、前世への憧れや執着を捨てて、
現世の自分に自信を持つことが出来たのは、他でも無い、君のお陰だったんだよ。
だからこそ…何に代えても喪いたくなかった。勿論、誰一人として、現世で結んだ絆を喪いたくはない。
でもそれが叶わないのならば、せめて君だけでも守りたかったんだ。

だけど現実はさらに無情、さらに残酷。その願いは…『ルカ』の現世で結んだ絆は、無情にも全て断ち切られた。
イリア、リカルド、スパーダ…皆死んだ。呆気無く、まるで蝋燭の火をフッと吹き消すかのように。
元の世界にいるコーダもアンジュもエルマーナも、両親や友達もどうなったか分からない。
楽園に招かれた青年が、時の流れに取り残され、故郷を、家族を喪った―――そんなアシハラの童話の如く
ルカの生きていた世界そのものが既に消えてしまっているかもしれない。そうでなかったとしても、
元の世界へ生きて帰る術を持たぬ身では、帰る世界など無に等しい。詰まる処、目の前にあるは黒、闇、陰、負―――絶望のみである。
帰る場所も、現世での絆も全て喪った時、支えを喪ったルカは深淵へと堕ちて行った。
光の差し込む事の無い闇の中へ、どこまでも、どこまでも――――そう、それがルカ=ミルダの結末であり、終末だった。
そしてそれこそが、新たな始まりとなったのだ。黒から白へ、闇から光へ、陰から陽へ、負から正の世界へと。
弱く哀れな人間は、神として生まれ変わり、新たな使命をその身に纏ったのだ。
世界の全てを白から黒へ、光から闇へ、陽から陰へ、正から負へ塗り潰すために、
誰も彼も、この手で蹂躙し、希望を打ち砕き、“死”を身体に、魂に、輪廻の果てに刻み込むために。
かつてその身を鮮血に染め上げ、世界の頂点に君臨していた魔王アスラ――今の僕は再びこの世界に顕現したのだ。







…なのに何だよ、このザマは。







意識を取り戻したルカの目に飛び込んできたのは、
破壊の爪痕が無残に刻み込まれた荒廃した大地。
一体何が起きたのか、仰向けの身体を起こして確認しようとしたが、
全身を蝕む激痛が妨げとなり、再び地面に背を付けてしまう。
苦痛に顔が歪み、呻き声が漏れる。だが痛みのお陰で、
朦朧としていた意識がハッキリとなり、同時に先刻までの記憶が蘇る。
エルレインとリアラとの戦い、ロイドの乱入、そして―――――
122晴れた日に絶望が見える 3:2010/11/18(木) 12:10:00 ID:j14LwPrk0

「な、んで…なんで、だよ………」

ルカの瞳から零れ落ちる涙。湧きだす感情。
突き付けられた現実。決定的な、そして完膚なきまでの敗北。

「なんで……勝てないんだよ……僕は…僕は魔王アスラだぞ……天上を統べる…覇者なんだぞ……なんで……っ!」

精神を、感情を辛うじて支え、抑えて来た矜持、誇りが音を立てて崩れて行く。
急速に勢いを増し、溢れ出す激情。それを必死に抑え込もうとする微かに残された理性。
だがそれもすぐさま限界が訪れる。最後の感情の箍が外れた次の瞬間―――




「う”あ”ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!」


激情に支配された絶望の咆哮が、狂気の世界を引き裂くかの如く激しく轟いた。













…激情の奔流が止むと、漸くルカに落ち着きが戻ってきた。
ルカは静かに身体を起こすと、精神を集中し、大気中の気を体内に取り込む。
体力を回復する数少ない術技『集気法』お陰で幾分苦痛は和らいだ気がするが、
やはり回復量は予想よりも少ない。殺し合いを円滑に行うための処置なのだろうが、
如何に殺し合いに乗る事を決めた後であろうと、嫌悪感は拭いきれるものではない。
次に、ルカは身体の状態を触診する。触れるだけで痛む箇所が何か所もある。
…恐らく右腕の骨にヒビが入っている。骨も恐らく何本か…肋骨は間違い無くやられた。
内臓に突き刺さらなかったのはせめてもの救いだろう。下手をすれば致命傷となっていたかもしれない。
ふと視線を右に転じると、地面に転がっている聖杖ユニコーンホーンが視界に入った。
ルカは痛む身体を庇いながら、ゆっくりと立ち上がり、杖の元までよろけながら歩く。
聖杖ユニコーンホーンを手に取り状態を確認する。幸い杖に罅は入っていないようだ。

123晴れた日に絶望が見える 4:2010/11/18(木) 12:12:44 ID:j14LwPrk0

(…何故、魔王アスラであるこの僕が無様に地面を這いつくばっているんだろう?)

尤も、杖が無事である事も、ルカの絶望感を軽くする役目は果たせなかった。
それほどまでに、先刻の戦いはルカの自信を根こそぎ吹き飛ばしていたと言っても良かった。
エルレイン、リアラ――聖女の名を冠する2人は、世界を蹂躙するような圧倒的な力を奮い、
目の前の世界を焼き尽くし、滅びを大地に深々と刻み込んだ。
罪と血に塗れた大罪人ロイド=アーヴィングは、神の御遣いの如く天空を優雅に舞い、
聖女をその手に抱きながら、神の剣を奮い、ルカを大地へと屈服させた。
まるで蠅でも叩き落とすように、いとも容易く。最早怒りすら覚える事が出来ない。
余りにルカ―――魔王アスラを取り巻く世界は残酷なまでに強大で、黒く塗り潰す所か、
白く染められかねない――否、すでに白く染められつつあった。
“無力”と言う2文字を冠する白に。ルカはその場に力無く座り込んだ。


何故?何故何故何故何故何故何故??何故何故??
僕が弱いの?魔王アスラなのに?それとも魔王アスラが弱いの?
それとも魔王アスラの強さをさらにあいつらは上回ると言うの?

自問、無力、自問、悲嘆、自問、絶望―――
負の悪循環に呑み込まれていく思考。

僕の世界の絆は簡単に壊れ、僕は独りとなった。
だから今度は僕が全てを壊す筈だったのに、現実は真逆。
壊れたのは僕の――魔王アスラとしての自信、尊厳、矜持。
今の僕に残されているのは、敗者という惨めな肩書だけである。

(…魔王アスラの力が通用しないなら、僕はこれからどうすればいいの?)

頼れる仲間はもういない。この世界で出会ったエルレインも何時の間にか姿を消している。
身体も傷だらけで、回復の術は殆ど無し。殺すべき敵はロイドを始め、まだまだ大勢いる。
ゲームに優勝は愚か、次に誰かと出会い、戦いになった時勝てるかどうかさえ疑わしい状態。
だが打つ手がまるで見つからない。武器――デュランダルがあればいいの?
それとも僕の中にあの弱いルカ=ミルダが残っていて、魔王アスラになりきれていない中途半端な状態だから?
もしくは頼れる部下や仲間がいないから?次々と今の自分に足り無い物が思考の海から飛び出してくるが、
どれも答えとは到底思えない。何よりこの状況下では実現不可能な内容ばかりである。ルカの心を益々絶望が浸食していく。

「一体……僕は、どうすれば、いいの…?」

誰かに解を、救いを求めるような絶望に染まった言葉。
無論ルカは誰かが答えをくれるなど微塵も期待はしていなかった。
このような状況下で期待する方が間違っている。
124晴れた日に絶望が見える 5:2010/11/18(木) 12:16:24 ID:j14LwPrk0

だが、実際は違った。思いも寄らぬ所からの返答。
尤も、その答えを実行することは到底不可能であった。
理由は単純明快。その答えを実践すれば―――。










「死ねばいいんだヨ」








――そこでルカの物語は終わるから。










殺意や悪意は愚か、感情の籠らない言葉。
全てを無へと帰すかのような、無邪気で残酷な響き。
ルカの全身を恐怖が突き抜け、咄嗟に横に跳躍し、地面を転がった。
その僅か半瞬――ほんの先程まで自分のいた場所が灼熱の炎に包まれていた。

(敵襲!?一体誰が、どこから………!?)

湧き上がる恐怖を必死に抑え込みながら、ルカは立ち上がり、周囲を見渡す。
そしてある一点で、その視線は固定された。同時に驚きの感情が湧き上がる。
視線の先には、その身に炎を纏い、酷い火傷を負いながらも天使のように微笑む少年。
ルカがこの世界で出会った、かつて自分の目の前で崖から身を投げ出して、死んだ筈の少年。

「マ……オ……?」
「ボクって凄くツイてるなぁ。まさかこんなに早くマオを無くす旅の断罪三人目に出会えるんだから」

その言葉と共に、マオの右腕が激しく燃え上がる。
炎の勢いと比例し、脳内に強く鳴り響く警鐘。迫り来る“死”
不味い不味い不味い――早く、早くここから逃げなきゃ、早く早く早……く?
逃げる…って、何処に?誰から?何故?何の、為に―――?
そもそも相手は神でも天使でも無い、ただのガキの術師じゃないか。それもたった1人。
炎の勢いは驚異的だが、僕も炎を自在に扱える身。何を恐れる必要がある?
そうだ…僕はアスラ、魔王アスラなんだ。恐れる事など何一つ存在しない。
先程はたまたま相手が悪かっただけだ。今度こそ、今度こそ真の力を発揮して――――。
125晴れた日に絶望が見える 6:2010/11/18(木) 12:18:22 ID:j14LwPrk0

脳内を駆け巡る感情と思考の網に、ルカが意識をマオから離した時間は僅か数秒。
普段ならば然したる問題にはならなかっただろう。だがここは狂気渦巻く戦場。
一瞬の気の緩みが取り返しのつかない致命的なミスを招く。ルカも例外では無かった。

「今とっても気分が良いから、さっきの“ヒト”と違って苦しまずに死なせてあげるヨ」

ルカが我に返った時、マオの処刑宣告と共に2発の極炎弾――ブレイジングハーツが
弧を描きながら目前に迫っていた。慌てて右に跳躍したが、次の瞬間――解放された莫大な極炎のエネルギーが炸裂した。
閃光、爆炎、轟音が周囲に轟き、そして――――。






「あ”ア”ああアアアアアアあ”あ”あ”アアぁあああぁぁぁああああっ!!!!!???????」






耳を劈くようなルカの絶叫と共に、ルカの左肘の先からドロリとした紅黒い液状の物体が地面を穢く濡らして行く。
鉄と肉を混ぜて焼いたような胸の悪くなる悪臭がするソレ――極炎で融解したルカの左腕の肉と骨のなれの果てだった。
無論今までのマオの炎の術では到底為し得なかった現象。聖獣の目オルセルグとして覚醒し、そして封魔の石の存在があったが故に
初めて可能となったものだった。“焼く”のでは無く“融解”先刻のサレとは異なり、形骸すら残さぬ、恐るべき威力。
被弾したのが左腕で無く胴体であれば、とっくの昔にルカの命も一緒に融解していただろう。

「あ〜あ…折角苦しまないよう一発で終わらせてあげるつもりだったのに…」

マオは鼓膜を刺激する不快な絶叫に眉を顰めつつ、肩を竦めた。
偽りでは無い。先程とは異なり、慈悲の精神を以って一瞬で殺すつもりだったのに、
目の前で見苦しく悶え苦しむヒトは、自ら地獄の道を選び、その結果に耐えきれずに杖を手放し、
左腕を押さえて激痛に身を捩らせ絶叫している。そんな見苦しい光景と泣き止まぬ絶叫に
マオの中で徐々に苛立ちが募っていく。

126晴れた日に絶望が見える 7:2010/11/18(木) 12:21:13 ID:j14LwPrk0

「…五月蠅いなぁ。少しは静かにしてヨ」

マオは涎と血を垂れ流すルカの口を思いっきり蹴り飛ばし、黙らせようとするが、
折れた前歯が血の糸を引きながら宙を舞っただけで、耳障りな絶叫は止む事は無い。
さらに苛立ちが強まったマオは近くにあった手頃な岩を手にすると、今度はそれを思いっきり
ルカの口に捻じ込んだ。口腔内の肉を引き裂かれ、歯が砕かれ、神経を引き裂かれる。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃいいいッッ!!!!???
誰か助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて誰か誰か誰か誰か誰でも誰でも誰でも誰でも……――――――――――――

顔を涙と鼻水と血で穢く惨めに汚しながら、想像を絶する苦痛から少しでも逃れようとルカは絶叫を上げようとしたが、
ゴボリと血と砂の混じった息と、低い唸り声が漏れ出るだけで殆ど緩和にならない。
身を捩りながら何とか無事な右手を口にもっていき、岩を取り除こうとしたが、それすらも許されなかった。

「往生際が悪いヨ」

マオは地面に落ちていた聖杖ユニコーンホーンを手に取ると精神を僅かに集中し、軽く一振りした。
現われるは残忍なまでに鋭い風の刃で構成された鎌鼬――ゲイルスラッシュ。それがルカの右手指を切り刻み、
親指と薬指を除く右指がバラバラと地面に落ちた。忽ち切断面から綺麗な赤が迸り、ルカの身体を、そして地面を
紅く染め上げていく。右手指の堪え難い灼熱感と激痛に身を捩り、必死にこの冥獄、煉獄を思わせるような絶望から必死に逃れようとした。

その時、ルカの瞳がマオを捉えたのは、憎悪や激情は愚か、一切の感情すら感じさせない、空っぽの存在。
あるのは純粋無垢な狂気―――おぞましい程の“白”だった。急速にルカの世界は、“無力”から“絶望”の白に塗り潰されてゆく。


127晴れた日に絶望が見える 8:2010/11/18(木) 12:23:52 ID:j14LwPrk0


嫌だ


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けてたすけてたすケてタスけテたすけてTaSUketTAすukeてE………―――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――e―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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――――――――――――――――――――す―――――――――――――テ―――――――――――――――――――――――――
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ブツッ


128晴れた日に絶望が見える 9:2010/11/18(木) 12:27:20 ID:j14LwPrk0


辛うじて残されていた理性が、脳髄まで刻み込まれた恐怖によって完全に“絶望”の白に染まり、
ルカの意識が音を立てて途絶えた。同時にルカの目が反転し白目を剥き、下半身から尿と糞便が悪臭と異音を立てて漏れだす。
マオはそんなルカの醜態に蔑みの視線を突き刺しながら顔を顰めた。止め止め、これ以上やってもさらに苛立ちが増すだけだ。
さっさと要件を済まして終了終了。ちんたらやってたらお母さんに怒られちゃう。
…問題はどうやって殺すか。マオは頭に人差し指を当て考え込むが、すぐに答えが出たらしく、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
―――そうだ、さっきは炎で焼き尽くしてやったから、今度はさっきのヒトが得意としてた風の導術で斬り刻んでやるか。
そうすれば耳障りな声も悪臭も何もかも、風が切り刻み、吹き飛ばし、静寂をこの地に取り戻してくれるだろう。うん、決めた。
マオは精神を集中させると、やがてフォルスが右腕を伝わり、杖に嵐の力が収束し始める。
巻き起こるは先程の四星の成れの果てが得意とした導術奥義の1つ―――――フィアフルストーム。

「サヨナラ」

感情の一切籠らぬ送別の言葉と共に、狂乱の竜巻が、ルカの身体を呑み込んだ。











マオは突然の事態に眉を顰めた。どこからかいきなり3つの光弾が飛来し、
竜巻に直撃したのだ。同時にルカの身体が竜巻から解放され、宙に投げ出される。
血潮と共に地面に向かってゆっくり落下し、地面に叩きつけられるかに見えた、次の瞬間――
ルカの身体は1人の女性の手で支えられていた。

「エル、レイン」

マオの口から、嘗てのマオの記憶にある女性の名が紡がれる。
エルレインは視線をマオに僅かに移すが、すぐにルカに戻し、そっとルカの身体を地面に横たえると、
口の中に捻じ込まれた岩を静かに取り除いた。行き所を失っていた大量の血と涎と歯の欠片が
ゴボッとルカの口から溢れ出し、ルカは力無く咳き込んだ。

129晴れた日に絶望が見える(代理投下):2010/11/18(木) 13:50:38 ID:mmilDK1v0
(私の所為だ――――)

余りに無残なルカの姿に、エルレインを激しい後悔の念が襲う。
このような事態はある程度想定出来た筈だった。だが大罪人を野放しに出来ぬとルカを放置し、
結局1人として断罪叶わず、ソーディアンも入手出来ず、挙句ルカは心身共に絶望を刻み込まれてしまった。
あの時大罪人共を追わずにいれば…せめて、先刻の強大な魔力に気を取られなければ、
この事態は防げたかもしれないのに……――――。

(――矢張り私のような力無き聖女では救えないというのか?)

<守れなかったのよ>
先刻のリアラの言葉が、再びエルレインの心を深く穿つ。
憎悪と己が不甲斐無さ、無力さが胸中を渦巻き、心を蝕んでいく。

(――否、私は迷える人々を真の幸福へと導く為に生み出された聖女)

聖女が迷い、運命に屈した瞬間、人々の希望は潰え、絶望が覆う。
それだけは絶対に避けねばならない。例えレンズが無くとも、己が力に限界が近くとも、私は決して諦めはせぬ…!
己が救いを、正しさの証明の為にも―――――。



――私は必ず2人を、この手で救ってみせる。





傷ついた聖女は、己が信じる救済と幸福への導きをその手に抱き、聖獣の目に相対する。
聖と聖の邂逅が齎すものは、果たして希望か絶望か―――――。
130晴れた日に絶望が見える(代理投下):2010/11/18(木) 13:51:19 ID:mmilDK1v0
【ルカ・ミルダ 生存確認】
状態:HP5% TP75% 右手の皮がずる剥け 左肘から先消失(溶解)右腕、肋骨にヒビ 口腔内に重度の傷(詠唱不可)
全身にアザ 肋骨骨折 右手人差し指、中指、小指切断 死への恐怖大 絶望感大 恐怖と激痛による精神崩壊 失禁 気絶 
所持品:子供じゃないモン 旋風
基本行動方針:???
第一行動方針:???
現在位置:E6

【マオ 生存確認】
状態:HP65% TP80% 精神疲労 火傷、炭化 足に裂傷
   リアラが超嫌い アニー以降の放送を聴いてない オルセルグ 封魔の石発動中
所持品:忍刀・東風 聖杖ユニコーンホーン ワルターのサック 封魔の石 黒髭ダガー ワルターの首輪の欠片
基本行動方針:お母さんや聖獣達に愛されるため、『マオ』を完全に殺す
第一行動方針:ルカとエルレインを殺す。
第二行動方針:モリスン邸へ向かい、マオを知る者全員を殺す。
第三行動方針:R世界のヒトを殺す。フォルス探知があるので、モリスン邸に集った人物を優先する
第四行動方針:マオを殺してもリバウンドが治まらなかったら、聖獣に代わりヒトを滅ぼす。
第五行動方針:隠された神殿の扉を開く鍵を入手する? (意味があるのか?)
現在位置:E6

【エルレイン 生存確認】
状態:HP25% TP15% 衣装に焦げ 全身火傷(左手、顔面が特に重度の火傷) 三つ編みが解けている 無力感に苛立ち 天使化に不審
自身の存在価値に対する疑問 リアラとロイドに対する激しい憎悪 体中に裂傷 左手、肋骨骨折 ルカを守れなかったことに対する罪悪感
ルカ、マオをこの手で救う決意
所持品:ルグニカオオ紅テングダケ 少し囓られたルグニカ紅テングダケ バクショウダケ
    クレアの首輪 ピクルスストーン
基本行動方針:カイルとその仲間を抹殺し、罪無き弱きヒトを幸福へと導く。マーダーと主催者は殺す
第一行動方針:マオを止める。その後大至急ルカの治療。
第二行動方針:マオとルカをこの手で救い、自分が選んだ道が正しい事を証明する。
第三行動方針:大罪人であるロイドとリアラを見つけ次第殺す。そしてソーディアンを奪う
第四行動方針:ソーディアンの様なレンズエネルギーを秘めた物を探し、奇跡を起こす
第五行動方針:ルカの監視。ルカの行動が行き過ぎた時はどうにかして止める
第六行動方針:主催者等の情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える
現在位置:E6


※晶霊砲は既に発射されていて、マオとエルレインはそれに気付いていますが、
西の方角で何が起きて、今どうなっているかは把握していません。
※ルカは気絶していたので晶霊砲には全く気付いていません。
131晴れた日に絶望が見える(代理投下):2010/11/18(木) 13:52:17 ID:mmilDK1v0
818 名前:戦え名無しさん[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 12:31:56
一応本投下してきました。
たださるさん食らったので、ここから先どなたか
代理投下宜しくお願いします。

※エルエインの状態ですが、
TP20%→15%に変更お願いします。

----------
以上で代理投下を終了します。
上記の事項も修正ずみです。執筆お疲れ様でした。
132名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/18(木) 14:18:24 ID:bPyuu98mO
投下乙です!
東側はマーダーしかいないなw
ルカが助かってよかった……と思ったが更に精神状態がマズいことに……w
マオもおそろしい……

ええい、救いはないのか救いは!!
133名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/25(木) 18:30:26 ID:Gh8aNhW00
保守
134名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/28(日) 00:28:13 ID:g5TRXFhv0
投下します。支援不要ですー。
葦をざくざくと踏み締める一定のリズム。隣でせせらぐ川の囁き。凛と冷めた空気が世界を走る足音。
それ以外は何も聞こえない。誰も喋らない喋ろうとしない。
月明りがなければ直ぐにでも暗闇に蕩けてしまいそうな程、彼等はこの世界に同化しかかっていた。
男は油断すると落ちそうになる瞼を手で擦り、息を深く吐く。
寒さに白く伸びた水蒸気は、小さく渦を巻いて深い夜に呑まれていった。
夜がこんなにも長いと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。
男は白い息が消えていった夜空を目線だけで見ながら、そう思った。
一面に広がる深い藍色は、その色を薄める素振りすら一向に見せようとしない。
“明けない夜は無い”とは何方の台詞だったか。
存外、信用ならない言葉だなと男は苦笑を浮かべた。
もしかしたら、この夜は一生明けないのかもしれない。

「綺麗ね」
そんな事を男が思っていると、背後の女が溜息混じりにそう零した。
男は何がそんなにも綺麗なのかと、足を止めて無言で振り向く。
男の足音に合わせて自分の足を運び遊んでいた女は、慌てて足を止め遠慮がちに微笑むと、目線を横にずらした。
男は女の目線を追い、川に写る月と星々を見る。
泡や水流に星達の光は歪められ、虚ろではあるが何処か幻想的で美しくもあった。
「……綺麗ですね」
男は女に感心した。昔から桜が好きだと言ったり、この町が好きだと言ったり。
その感性や考え方は、自分には決して無いもので、男は女を尊敬すらしていた。
だが、今は少し怖くもあった。何故こんな世界で“綺麗ね”だなんて、そんな戯言を平然と言えるのか。
何故恐怖しないのか。何故そんなにも笑顔なのか。
何故、こんな場所で手を繋いで来るのか。何故そんなにも優しくしてくれるのか。
何故、何故、何故―――……。

女は髪を耳に掛け、艶めかしい仕草で男の隣に駆け寄る。
男はこんな世界で当たり前の様に過ごす女に違和感を感じざるを得なかったが、
その違和感は右手から伝わるか細い指の感触の前には、形骸にも等しかった。
甘美な悦楽。絡まった指から伝わる肉の感覚と、鼻腔から脳天まで突き抜けるキャラメルの様に甘い香水の匂い。
そして腕から伝わる、理性が蕩けてしまいそうになる様な体温、時々見せる大人の仕草。
……男は嫌に生温い唾を飲み込む。動物的な欲望を抑える様に、深呼吸を一つ。
はぁと吐かれた息は、身体を支配していた官能的な温度ごと宙に消えていった。
ふと、吸い込まれそうな底無しの紫に塗られた女の瞳を見てみると、
このゲームも自分も違和感も記憶も、何もかもを忘れてしまいそうな気がして。
……隅から忍び寄る小さな恐怖に、男は身体を震わせた。

「意外と気が利かないのね」
「へ?」

頬を膨らませ、意地悪そうに女は口を尖らせる。男は不意を突かれ、気の抜けた声を口から零した。
女はそんな男の様子に、肩を揺らしながら口に手を添えて笑う。
「そこは“貴女の方がずっと綺麗ですよ”、とか言うものよ?」
予想外の言葉だったのか、ぼっと顔を赤くする男に、初だなぁと女はにやついた。
これだけ反応されるとからかい甲斐もあるというものだ。
何だかんだで、男はまだ“子供”。
戦闘では守って貰う立場の女だったが、大人の余裕は確かにあった。

「はっ……恥ずかしい台詞、禁止ですっ!」
「あらあら」
しどろもどろになりながら指を刺して憤慨する男を見て、女はくすりと笑った。
男は熱くなった顔を冷ます様に溜息を吐くと、今度は顔ごと空を仰ぐ。
何時しか空はほんのり薄く色付き、朝は直ぐそこまで来ようとしていた事に、男は少しだけ驚いた。
明けない夜はなんとやら。……誰かの台詞は、どうやら正しいらしい。
「少し、休みましょうか」
男は女の方へ身体ごと振り返り、首を傾げながら呟く。
朝は来た。急ぎ過ぎても経つ時間は等しく、何も良い事はない。
急がば回れ。時には立ち止まり、じっくりと休む事も必要だ。
「いいわよ。でも、休むほどの距離歩いてたかしら?」
確かにそれもそうか、と男は頬を人指し指で掻いた。
だが、疲労とは忘れた頃に牙を剥くものだ。男はその事実もまた十分に理解していた。
「あー、じゃあ十五分だけ。
 南まで地道に歩いて橋を渡るか、目の前の浅瀬を渡るか。
 それだけこの時間に決めちゃいましょうか」
どすん、と手頃な岩に腰を下ろしながら男は言った。女は頷くと、同じように手頃な岩にその細い腰を下ろす。
川のせせらぎは何処までも穏やかで、泡が弾ける音は心地良く眠気を誘うようだった。
女は澄んだ空気を吸うと、息をはぁと吐く。夜明けが近くなって気温が上がったのか、もう白くはならなかった。
「南に行くなら、随分歩かなきゃです。西なら直ぐにあっちに渡れますけど、足が濡れますね。
 俺がイレーヌさんをおぶってもいいですけど……どっちに行きたいですか?」
ポケットの中にあるイグニスを親指と人指し指で弄りながら、男は問いを投げる。
女は頬杖を突きつつ唸るが、どちらを言う訳でもなく眉間にぐっと皺を寄せた。
旅の心得も無いであろう女に、その質問は難し過ぎたのだ。

「……分っかりました。じゃあせーの、で指刺して決めません? 西か南か!」
痺れを切らしたのか自分の配慮の無さに気付いたのか、ぱんと両手を鳴らし男はウインクを投げる。
それは妙案ねと女は頷いた。これほど簡単で古典的な選択の仕方は他に類を見ないだろう。

「「せーのっ」」

軽快な掛け声と共に、びっと同時に指先が伸ばされる。すらりと伸びた二人の指先は―――


「「……………………………………………………………………………………………」」



―――完全に別の方向を指していた。
瞬間、男は息を呑み自分の指先と女の指先を見比べる。
……どう見ても南と西。何故この可能性を考えていなかったのやら。
男は寝癖頭をぼりぼりと掻き、はぁと溜息を吐いた。
「……西にしますか」
一対一。意見が対立したならば、年下男が年上女に従わない道理は無い。
世界はつくづく不平等に出来ているものだ、と男は実感した。

「じゃあ、スタン君。背中貸してくれるかしら?」
両手を組みながら頭を傾げ、天使の微笑み。破壊力876倍。
男には首を縦に振り、しゃがむ以外の道は残っていなかった。

空気が暖かくなり息が白くならなくなったとは言え、流れる水の温度が同じように都合良く上がる訳がない。
サイリアの雪解け水までとはいかないが、男は凍える様な水流に歯をがちがちと鳴らしたい気分だった。
だが、背中には守るべき女。鳴らしたくとも、鳴らす訳にはいかなかった。
故に爪先から押し寄せるきんとした鋭い痛みに必死に堪えながら、男は一歩一歩進む。
何とか無事に川を渡り切った後、男は拷問に堪えた自分を称える間すらなく頭を抱える羽目になった。
一面に広がるは黄金の丘とは無縁な白銀の世界。冷えた体を癒す砂漠は何処へやら、地獄の責め苦とはこの事だ。
うんざりする様な光景に、男は匙を投げ出したい気分だった。
真逆、大自然にこうも嫌がらせをされるとは一体誰が予想しただろう?

「……北か、西か。行く方向、またせーので決めます? 」

広げた地図を見る女へと、男は頭を乱暴に掻きながら言う。
女は地図を小さく畳むと、苦笑いを返した。確率は二分の一。流石に今度は一致するだろう。
指先と気紛れで決まる行き先……そういう旅の仕方も、たまには悪くない。
「「せーのっ」」
男は掛け声を上げながら、そう言えばとふと思う。
昔読んだ童話に、尽く意見が会わない双子が出て来た覚えがあったからだ。
何かと対立し、けれど似た者同士の双子。
……あぁ、でも待ってくれよ神様。今この話を思い出したって事は。


「「……………………………………………………………………………………………」」


余りにも運の無い結果に、男と女は大きな溜息を一つ吐いた。いやだが逆にこの確率はすごいな、と男は純粋に思う。
“二度ある事は三度ある”と何時か何処かで、名前も覚えていない守銭奴が言っていた気がする。
やれやれ――――――――――――あと一回は何時訪れるのやら。


【イレーヌ・レンブラント 生存確認】
状態:HP70% TP85% 精神不安定 頬に傷 膝から足首にかけて擦り傷 左足小指骨折
   魔剣の声が聞こえる エクスフィア装備 リアラの言葉にショック ルカに怒り スタンに対する違和感
所持品:魔槍ブラッドペイン スターダストリング 要の紋付きエクスフィア マグニスのサック
    ハリエットの花(瓶に生けられている) ちゅうわざい×3  ロイドの仮面1
基本行動方針:スタンと共に答えを探す。
第一行動方針:???
第二行動方針:スタンへの違和感が気になる
第三行動方針:魔剣の指示を遂行するか考える
現在位置:C5

【スタン・エルロン 生存確認】
状態:HP45% TP85% 右目損失 額から左瞼にかけて裂傷 左腕から手の甲にかけて裂傷
   下半身裂傷多数 絶望 精神不安定 理想崩壊 ルカに怒り ルークに妙な感情
   エクスフィア(亀裂入り)装備 精神へイグニスの影響(中毒症状の兆し)  甲冑に罅
所持品:魔剣ネビリム 要の紋付きエクスフィア ネクロノミコン センチュリオン・イグニス
    アンチフォンスロット ヒールバングル サファイア 苦無×1
基本行動方針:イレーヌを最後まで守る。イレーヌを許容しない世界を許さない。障害は斬る
第一行動方針:???
第二行動方針:ジューダスとスパーダが生きていたら確実に殺す
現在位置:C5
139名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/28(日) 00:36:28 ID:g5TRXFhv0
投下終了ですー。
140名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/29(月) 07:28:03 ID:bD97XYum0
投下乙であります!今度はARIAパロかいw
相変わらずロワっぽくない二人だなあ…最後、イレーヌはどっちを差したんだろう…
141名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/04(土) 22:35:06 ID:LGVKKPEx0
保守
142名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 18:34:05 ID:pygoC8n8O
投下します
143名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 18:35:15 ID:pygoC8n8O
「フフフ…さて次は誰が死ぬのでしょうか」
一人部屋でつぶやく道化、サイグローグ。
「精神に異常をきたす者も…フフフ………!?」
突如感じる違和感。自分の口から生温いものが漏れ出しているのが分かった。
「こ、これは…ゴフッ!己…己…ジュウダズゥゥゥェァァアアアア!!!」
そう、サイグローグはロワ開始前にジューダスの神速の剣技によって既に斬られていたのであった。
「今まで…わ、私に…気付かせぬとは…ジューダス…ジューダスェ…!…敵ながらアッパレな奴です…ゴブォッ…」
その数秒後…部屋に人が倒れる大きな物音がこだました。
こうしてバトルロワイヤルは閉幕した。
生き残った生存者はみなジューダスに感謝しそれぞれの世界へ戻っいく…
勇敢な戦士の犠牲のもとに…



                 テイルズオブバトルロワイヤル2ND 完
144名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 18:36:04 ID:pygoC8n8O
すいません訂正します
145ジューダスの置き土産:2010/12/07(火) 18:37:28 ID:pygoC8n8O
「フフフ…さて次は誰が死ぬのでしょうか」

一人部屋でつぶやく道化、サイグローグ。

「精神に異常をきたす者も…フフフ………!?」

突如感じる違和感。自分の口から生温いものが漏れ出しているのが分かった。

「こ、これは…ゴフッ!己…己…ジュウダズゥゥゥェァァアアアア!!!」

そう、サイグローグはロワ開始前にジューダスの神速の剣技によって既に斬られていたのであった。

「今まで…わ、私に…気付かせぬとは…ジューダス…ジューダスェ…!…敵ながらアッパレな奴です…ゴブォッ…」

その数秒後…部屋に人が倒れる大きな物音がこだました。
こうしてバトルロワイヤルは閉幕。
生き残った生存者はみなジューダスに感謝しそれぞれの世界へ戻っいく…
勇敢な戦士の犠牲のもとにこうして平和は訪れた…



                 テイルズオブバトルロワイヤル2nd 完
146名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 18:39:03 ID:pygoC8n8O
投下終了です^^
長く続いたこのSSの最後を勤めさせていただきありがとうございます^^
みなさんお疲れさまでした^^
3rdでまたお会いしましょう^^
147名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 18:54:23 ID:7uabDVv70
ちょっと期待した自分が悲しい
148名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 19:00:55 ID:pygoC8n8O
乙! ついに終わったな…長かった…HVGがやっと参加できるね
149名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 19:05:32 ID:rnLeKm4v0
これだから携帯は
150名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 20:14:30 ID:xDChlvQJO
つ、釣られないからな!
151名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 21:13:55 ID:hIKZp8YDO
なんかこれもお決まりだな…。

わかったから死者スレ池
152名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/07(火) 21:18:09 ID:5V4cQRqL0
自演するならせめてID変えようぜ。
モロ馬鹿丸出しじゃヌェーかw
153名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/08(水) 10:41:39 ID:rJT6RXII0
ID同じ投下乙発言もすべて含めてネタだから仕方がないw
154名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/08(水) 21:40:57 ID:AjwqQQLd0
むしろ住人がこんなにいて安心した俺w
155名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/08(水) 22:15:02 ID:12EAHgLP0
今の時期はグレイセスやってるだろうからちょっと少ないかもね
156名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/09(木) 07:56:17 ID:sq17gyw/O
ジューダス様 何年振りだよ
157名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/09(木) 08:23:22 ID:MwbR6SmVO
こんなにくだらないのに涙が止まらない……
何だこの感情…
158名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/12(日) 11:07:37 ID:V4RFdVRh0
ほしゅ
159名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/13(月) 20:05:39 ID:T6yhnitzO
実際いつ終わるんだろ こんなENDは絶対ダメだが、ただでさえ人減ってるのに…最初の勢いあっても終わる感じしないね
160名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/13(月) 20:27:49 ID:0LPFWwBq0
いつ終わるんだとかしか思えない人は読むの止めれば良いじゃん
誰も読めとか強制してないし、読ませてもらってるだけのくせしてどんだけ我侭だよ
161名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/14(火) 01:13:36 ID:YIXeVxc50
というか、こんな過疎でも月報はいつも上位なんだぜ?
書き手読み手も他ロワと比べりゃあ多いんだ。贅沢言っちゃいけねえよ。
162名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/14(火) 13:38:13 ID:aPGf1nowO
>>160
なんなのお前
163名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/14(火) 17:34:07 ID:x2UHmemm0
160の言ってる事が分からないくらいゆとりならもうここ来ない方が良いよ
164名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/14(火) 17:47:20 ID:aPGf1nowO
>>163
バーカ2ちゃんの大半がゆとり世代だろ
165名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/14(火) 18:25:42 ID:Q3HJA4ef0
ゆとりの携帯ちゃんはもう寝る時間だぞ
166名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/14(火) 18:59:23 ID:aPGf1nowO
>>165
あなたもゆとりでしょ
携帯とか関係ない部分を指摘するなよ
167名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/14(火) 20:46:24 ID:gAdFbycq0
漢なら背中で語れ!
168名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/15(水) 02:14:49 ID:Lx9NA0G7O
まぁ落ち着くんだ
169名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/15(水) 07:45:55 ID:Hrl28EccO
すいませんでした
170名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/21(火) 10:17:33 ID:T6gJ/7j50
そろそろ保守します
171名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/23(木) 02:42:06 ID:EMRXTS7u0
ほしゅ
172名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/29(水) 21:33:10 ID:0kgANA3h0
保守します
173名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/03(月) 13:56:23 ID:zE3O8z9p0
あけましておめでとう保守
174名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/08(土) 06:42:09 ID:aRGEVrlp0
そろそろ保守
175名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/08(土) 23:47:38 ID:s7B3NdD60
今、2chに書きこむのは色々と支障があるようですのでしたらばに
一時投下しました
事後報告になってしまい申し訳ありません
176名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/09(日) 00:01:51 ID:llrUHHNs0
乙です
177名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/14(金) 15:10:39 ID:DTkao9+j0
乙でした
そして保守
178名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/21(金) 18:23:07 ID:rKTrHUBA0
hosyu
179名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/28(金) 07:17:42 ID:8LqIZVPh0
保守
ここってどのくらい放置してると落ちるんだろ
180名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/30(日) 01:13:42 ID:kWLihXzV0
保守
まとめサイト見れなくなってる?
181名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/30(日) 01:30:19 ID:I2FMxV/2O
オレは見れたよ
182名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/30(日) 12:39:05 ID:LeWXIPLM0
俺も見れた。鯖そのものか管理人さんのメンテだったとかでは?
183名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/30(日) 13:22:01 ID:aCrsGcUcO
マイソロ設定でロワやったら、ロワ原作の
「クラスメイトと殺し合い」な感じが踏襲できそうだな
やらんけどさ、なんとなく思った
184名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/30(日) 16:54:18 ID:LeWXIPLM0
>>183
えぐすぎる設定だな。ただでさええぐいSSが揃ってるのにw
185名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/31(月) 00:00:18 ID:6ygbfFKG0
>>183
見せしめはあたまかなw
所詮名無しキャラだしポジション的に全員に絶望を与えることができるし
・・・カノンノあたりが発狂しそうだ
186名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/01(火) 00:21:25 ID:VojqXd190
何回繰り返してもカノンノはマーダーになるのか
187名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/01(火) 00:39:58 ID:SCtkIYIw0
3カノ全員マーダーか
イアハートって確かバルバトスをハメて殺せるレベルだしすごい事になりそうだ
188名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/01(火) 00:43:27 ID:meYjpzElO
ゲームの中ではな
189名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/01(火) 20:58:29 ID:0vMHhT28O
偉い国の法令的な何かで無作為に選ばれたアビリビトムが現実的に殺し合いさせられるんだろうか
つってもアビリビトムの人材だと他のどんな組織よりも強大な気がするけどw
国の重要人物も多いし
190名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/02(水) 09:14:03 ID:/wwxhXUB0
みんな知り合いだから、マーダーがあまりできそうにないな
191名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/02(水) 09:21:01 ID:dEMZ7jPkO
始まる前に主催者が殺されそうだ
192名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/03(木) 03:52:59 ID:Kz8bHmIiO
それこそ現実の学校みたいに
あんまり話した事ない人とか実はそんなに好きじゃない人とかいるのだろうかw
3が発売したらスキット回数まとめてみよう
193名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/04(金) 03:41:17 ID:G87BE+It0
88人であのメンツだとイイ具合に需要もあるし地獄も見れそうだw
プレイアブルじゃないキャラも参戦で
194名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/04(金) 13:17:25 ID:KofCBtWw0
協力プレイがすごいことになってマーダー涙目だろうな…
195名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/04(金) 17:59:42 ID:liYFQ9NG0
普通にやったら対主催が滅茶苦茶多くなりそうだからな
マーダーや主催がどんだけ揺さぶりかけられるか次第か
196名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/08(火) 14:45:19 ID:GskSTkkFO
前作のゲーテとか出せば、もう少しマーダーは増えるかもね
197名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/12(土) 20:58:04 ID:52c2cpViO
捕手
198名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/13(日) 06:10:58 ID:n57RRKD40
 あ



































199名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/16(水) 10:51:38 ID:sCvuKKwyO
200名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/16(水) 22:35:19 ID:385+i6XdO
マイソロ3やってるやついる?
201名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/16(水) 22:52:53 ID:bmREpNeiO
やってるけど……戦闘がつまらん
マイソロにストーリーと戦闘を求めるのは間違いだと分かってるんだけどねぇ
202名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/16(水) 23:48:48 ID:dsX/hx070
自分もやってる
戦闘はそこまで求めてないけど話が2をなぞってるだけって感じで萎える
キャラ随分増えたから仕方ないけどほぼ全てのキャラが空気化してるのもマイナス
バトロワパーティ組んでニヤニヤするくらい
203名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/17(木) 00:48:53 ID:7sk+l51+O
え、めっちゃ楽しんでるんだけど
最高ではないが優秀なキャラゲーだよ
204名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/17(木) 06:46:22 ID:4Ch/g6k30
キャラゲーとしても話としても1のほうが好きだったな
システムは今やったらものすごく面倒でやってらんないレベルだけど
205名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/17(木) 07:48:08 ID:70gXX+3rO
一番好きなキャラが前作では粕みたいな性能だったのに今作では武器弱体化のおかげでさらに弱くなったからなー
原作とVSでは強キャラなのに…
206名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/18(金) 02:03:15 ID:RnrfXlBTO
やっぱりストーリーとかは期待しちゃ駄目か
207名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/18(金) 12:15:44 ID:yNxYVq/1O
2D作品のキャラの動きとかもっと頑張ってほしいよね
個人的にはユージーンとかコハクとか
まあAとかVとかは流用がきくからかもしれんけど
208名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/22(火) 21:37:32.12 ID:3l5HIsZQ0
別の世界には悪いクレスや やさぐれたセネルがいるかも、みたいなスキットにはワラタ
209名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/22(火) 21:51:07.04 ID:wofP2TtR0
あれ可愛いよなw
クレスは何時でも無難に正統派主人公なので黒いクレスってちょっと見てみたいと思った
210名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/23(水) 11:45:30.93 ID:pfQDLN8wO
アッシュをクリードだと勘違いしたのも笑ったw
211名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/24(木) 09:23:10.90 ID:Xic1jHkVO
なんか今回のマイソロはスキットにちらほらと下ネタまざってるよな
イノセンスとかハーツとかもそうだったけど、テイルズで下ネタ見ると複雑な気分になってしまうw
212名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/24(木) 21:15:28.86 ID:4Q4Sesuy0
ちらほらどころじゃなくかなり多いよ下ネタ
下ネタ嫌いなのに依頼内容まで下品すぎて気持ち悪いわ
213名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/25(金) 00:41:29.73 ID:KF8i5OfV0
依頼内容か……
なりダン2のミントがクレスにねこじゃらし持ってってあげてくださいって頼んできたときは
何をする気なんだと思ったな
214名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/25(金) 05:04:02.82 ID:+I+vPqE7O
フィリアとジューダスのスキットがあってニヤリとした
215名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/25(金) 13:03:10.94 ID:KF8i5OfV0
マルタが自分がもうすぐ死ぬとしたら誰を思い浮かべる? って言うスキットがあってニヤリング
216名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/25(金) 16:26:42.89 ID:X4oW+Snc0
>>214
フィリアはリメ仕様だけどな…まぁ今回の全キャラの影の薄さを思えばあるだけマシか
欲を言えばルークが短髪ならもっと楽しかったが仕方ない
217名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/26(土) 10:23:14.38 ID:Ja5n6OubO
来るスレをまちがえますた

しょうがないよね
218名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/26(土) 15:28:25.54 ID:GFGEH1rg0
イミフ
219名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/04(金) 23:56:42.40 ID:lBoyjB990
ho
220名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/12(土) 01:39:12.37 ID:amnEHVzFO
保守&みんな大丈夫かい?
221名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/12(土) 03:23:17.31 ID:RKvAIEjPO
ロイドとジューダスが仲良くしてて
ちょっとバトロワ思い出してホロッときた
222名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/12(土) 21:37:54.53 ID:CQFa77pPO
セルシウスが可愛いすぎて辛い……


地震半端ないな
223名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/14(月) 22:21:54.38 ID:PBX4W0h70
書き手・読み手の無事を祈りつつ。
投下します。
224Fuor la spada 1:2011/03/14(月) 22:26:18.44 ID:PBX4W0h70
命が、聞こえる。
猛々しい命が、動かぬ心臓の内側から精神を叩いている。
それは自分を応援している歓声のようでもあり、早く自分を此所から出せと叫ぶ囚人の怒声のようでもあった。
少女は胸に手を当てる。暑苦しくも真直ぐなその躍動は、自分のそれとはあまりにもかけ離れていた。
鋭利さと熱さは何もかもを絶つ力を、そして決して折れず何かを守り遂げる固き誓いは力を御す鉄を。
それはまるで剣のよう。
一振りの見知らぬ世界の刃が、天地空を制する力が、心の奥底で燻り精練されているのだ。
夢の中で会った、ような――――嗚呼……命が、聞こえる――――。



嵐の前の静けさとでも言うべきなのだろうか。
天空を貫く黎明の下は、ずっしりとした静けさだけが、しかしやけに五月蠅く在った。
人間が見上げたところで、到底塔の頂上は窺えない。
見てくれだけで言えば救いの塔を彷彿とさせるが、建築物の文明度には大き過ぎる差があった。
外壁は聖焔にて錬成された魔金属ではなく、攻撃すれば崩れ落ちてしまいそうな頼りない赤土煉瓦。
脆いながらも天まで届けと馬鹿正直に構えるその様は、外装から矛盾していて少々滑稽とも言えた。
そんな塔の下に立つ少女、プレセア=コンバティールは静かに前を見る。
嵐の前の静けさと言ったが、肝心の嵐が発生する所が何処だと聞かれたならば目前の塔内部だと答える他無いだろう。
……自ら嵐に飛び込む阿呆が、何処の世界に居るというのか。
さしもの馬も鹿も、あまつさえ低級モンスターでさえもそんな愚行には出ないだろう。
だが、プレセアはそんな愚かな一歩を踏み出す。
彼女は愚行という言葉すら知らないであろう、とびきりの馬鹿を一人だけ知っていたからだ。
生きる道を教えてくれた、一人じゃないと言ってくれた、とんでもない大馬鹿者を。
だから、プレセアは小さな足を動かす。その大馬鹿者と残った仲間の為に。
塔の入口へと、雪が積もった地面へと、大きな大きな一歩を―――

「ひゃんっ!?」

―――ズコー。言葉にするならそんな間抜けな音だった。
この場に小さな天才が招かれていたならば、その普段の振る舞いからは到底伺えぬ可愛らしい姿に半狂乱で感涙した事だろう。
コレット=ブルーネル顔負けのドジっ子っぷりを遺憾無く発揮し、
プレセアは盛大に…… そ れ は も う 盛 大 に ―――――――――ずっこけた。

砂漠に積もった雪の様に白くきめ細やかな肌が、ひらりと揺れたスカートから覗く。
細いふくらはぎから引き締まった太股へ、そしてその先の短い布に隠された未知の領域<別名:漢のロマン>へ。
……少女は『パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』だなんて台詞を言う柄でもないだろうが、
『もぅ……○○くんのえっち///』だとか、生憎と今紳士諸君が臨んでいたであろうそういった反応で恥ずかしがるキャラクターもしていない。
しかしそれでも、プレセアとて立派な淑女の一人。
誠に、あぁ誠に残念ながらプレセアは確りとスカートを片手でブロックし、地面にダイブしたのだった。

「ッ……!」

肉体が在った頃の癖が抜けず、プレセアは地面に衝突する瞬間に思わず目を強く閉じる。
だが悲しいかな。痛みも衝撃もまるでなく、プレセアは間抜けな表情をしていた自分に紅潮する。
それもそのはず。彼女、プレセア=コンバティールは一度死んだ筈の人間。
肉体は疾うに失い、今は精神体、即ちアストラル体として存在しているだけ。
言わば幽霊と同類なのだから。
225Fuor la spada 2:2011/03/14(月) 22:31:08.80 ID:PBX4W0h70
少女は痛みのない身体がどうなっているのかと、恐る恐るその円らな瞳を開く。
「……?」
しかし、次の瞬間一面に広がったのは闇、闇、闇……。
そのあまりの唐突さにプレセアは目を白黒させ、辺りを小動物のような動きできょろきょろと見渡した。
そこには先程まで在った雪に覆われた大地や陽光など欠片も在りはせず、ただどうしようもなく寒い闇だけが広がっている。
僅かな動揺の後、プレセアは夢か現かも分からぬ凍える様な漆黒に小さく身震いした。
一体此所は何処なのだろう?
得も言われぬ恐怖に、プレセアは声を出す事は愚か指先一本動かせはしなかった。
文字通り一寸先は闇。
夜中にでもなったのかと意味不明な事を考え直ぐに否定するが、それにしてもこの暗さは異様としか言い様がなかった。
プレセアは頭を整理して、しばし闇に浮遊しながら思考に更ける。
……そうして“此所が地面の中なのだ”という考えに至るまで、少女は数十秒を要した。

ミトス曰く、“アストラル体というものは慣れない内は碌に感覚が掴めない。最初は満足に歩行する事すら叶わないよ”らしい。
プレセアは試しにうっすらと発光する自らの右手を開閉してみる。
とても樵として戦斧を振るっていたとは思えない覚束無い動き。まるで老婆の様に震える右手。
プレセアはその現実に絶句し、表情を僅かに曇らせる。
明らかに不自然。この身体は自分の身体の様で、最早別物としか言えなかった。
“良く似せて作られた人形”。プレセアはアストラル体にそんな印象を受け、途方に暮れる。
そう……人形なのだ。もう生物ですらない。単純な話のようで、何と複雑な話か。
プレセアの顔に深い影が落ちる。
アストラル体の操作不調は、その都度自分が“既に死んでいるのだ”と主張してくるようで、精神的なダメージは少なくなかった。

「……私は、私の出来る事をするだけ……です」

自分に言い聞かせる様に呟くと、プレセアは顔を上げる。何時までもうじうじしてはいられない。
そもそも死んでもなおこうして動けるだなんて事自体、とんでもない幸運なのだから。

「こんな争い変です。生き残る為に殺し合うなんて……そんなの、とても悲しいこと」

一歩一歩、確かめる様にプレセアは闇を踏み締めて上を見上げる。
大地の深淵で何かが蠢いたが、少女はそれに気付きはしなかった。

ぐっと足に多少力を入れ、軽く一跳躍。たったそれだけで数十メートルの移動だ。
どうやら、アストラル体はやりたい事をしている自分を強くイメージする事で動かせるらしい。
しかしその動きはあまりにも突飛で非現実的。例え輝石を装備しようがこの運動能力は辿り着けない境地だろう。
地上を突き抜け、アストラル体はあっという間に流星の如く空中を駆け抜ける。
流れる様に移り変わる辺りの景色に、プレセアは眉を顰めた。
確かに地上には出るつもりだったが、何も空中に浮かぶつもりはなかったからだ。
どうにもまだ力加減が掴めないらしい。プレセアの想像以上にアストラル体というものは厄介だった。
……しかもそればかりか。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/14(月) 22:33:15.31 ID:caHbGpAIO
リアルタイム遭遇キタ
支援
227Fuor la spada 3:2011/03/14(月) 22:36:21.70 ID:PBX4W0h70
「こ、困りました……」

プレセアは目を中空に泳がせながらもじもじと手足を動かす。
そう。『そんなの、とても悲しいこと』と格好付けて浮いたまでは良かったものの……“降り方がまるで分からない”のだ。
距離にして地面から丁度子供用遊泳プールと同じ二十五メートル。
あまりに間抜けな図だが、プレセアは靡くスカートを一生懸命押さえながら途方に暮れるほかなかった。
プレセアの全身をだらだらと冷や汗が伝いまくる。そもそもからして、空中での移動だなんて人間として有り得ない。
人は空を飛べない。それが『はい今から飛べる様になったよ』とかなんとか無茶苦茶言われたって、直ぐに慣れられるはずがないのだ。
幾らあらゆるエネルギーを無視出来るアストラル体になったとはいえ、故に途方に暮れてしまうのは半ば必然だった。
天使の様に翼があるならばまだしもとプレセアは涙目で背を見るが、そんな都合の良いものが生えているわけもない。
第一、もっと苛める為には救いになってしまうようなそんなもの、一体全体何処の誰が生やしてやるというのか?
甚だ疑問である!

(……ど、どうしよう……助けてアリシア……)
プレセアは祈る様に両手を絡ませて瞳を閉じる。
本人からすれば絶対絶滅のピンチというやつだ。冗談ではない。
このままではマクスウェルに頼んでもいないのに、空中を浮遊し続ける羽目になってしまう。
……なんと馬鹿馬鹿しいアストラル生活よ。制限時間もあると言うのにふざけている場合じゃないぞ。

「お願い、下がって!」

震える声で叫ぶプレセアの悲痛な祈りを聞けて誰かが満足したのか、その華奢な体躯がぼんやりと発光する。
その後はまさに電光石火だった。
リフィルの殺人料理から命からがら逃げるパーティメンバー顔負けの凄まじい勢いで、プレセアの身体がびゅんと下降する。
訳の分からない内に、次の瞬間にはプレセアは黎明の塔の入口に――――――――“めり込んでいた”。
…………………。
……いや、全く意味が分からないだろうとは思うのだが、そうとしか表現しようがないのだ。
何故なら現に、“プレセアの左半分が、黎明の塔にめり込んでいる”のだから。
非常にシュールな絵図ではあるが物体に干渉出来ないアストラル体であるが故に、建造物への侵入はこうも間抜けにならざるを得ないのだ。
そう、例えそれが――――地面に上半身を埋め、逆さになった少女の姿であろうが。

「っ……油断、しました」

顔を真っ赤にし、こほんと一度だけ気恥ずかしそうに咳払い。
プレセアは体勢を整え、気を取り直して黎明の塔の外壁へと“溶けてゆくイメージ”で“埋まって”ゆく。
流石にこう何度も失敗していると、自然に慣れてくるというもの。
犬神家をしようが壁に顔やその無いにも等しい貧相な胸が埋まろうが、羞恥はあれどもう一々驚いたりはしなかった。

プレセアは“顔だけ”を黎明の塔内部にぴょこりと出し、辺りをぐるりと一望する。
そこでプレセアを待っていたのは、想像していた中でも恐らく最悪の類に属するであろう壮絶な景色だった。
期待していた仲間は誰一人居ない。在るのは激しい剣撃と上がる血飛沫、散る火花に舞う粉雪。
悲痛な顔で闘い踊る二人と泣きそうな顔で立ち竦む一人。それだけだ。
それぞれの髪、赤青黄の信号色は純白の背景によく映えてはいたが、それは心底うんざりするような図だった。

「おい、そこの剣。テメエ、ひょっとしてクレメンテの同類か?」

プレセアは男の言葉を聞きながら、不服そうに小さく唸った。
この状況を一通り見て、あまりに“不自然”だと感じたからだ。
戦っているにも関わらず、これが“戦い”ですらないような、そんな違和感。
……だが、とは言え全く以てその実が理解不能だった。一体何がどう拗れてこうなってしまっているのだろうか。
あの黄色い少年――良く見ればミトスが探していたカイル=デュナミスではないか!?――は、何故二人を止めようともせず立ち竦んでいるのか。
そもそも戦っている二人は何故こんなにも辛い表情を浮かべているのか。
何一つプレセアには判らなかったが……それでも、なんとなくこの状況が“良くない”であろう事は想像出来た。
228Fuor la spada 4:2011/03/14(月) 22:39:44.03 ID:PBX4W0h70
取り敢えず、とプレセアは塔内に侵入し柱の影に右半身から埋ま―――隠れる。
ミトスから聞いた情報から判断して、“ツンツン黄色”はハロルド=ベルセリオスなる人物の下僕、カイル=デュナミスに間違いなかった。
ならばとプレセアは眉間に皺を寄せ“エクスフィアから話す自分”をイメージする。

<こ、これで通じてるのでしょうか……あの……>
<チッ……何だよ劣悪。こっちは今馬鹿を殴り飛ばす作業で忙しいんだ>

たどたどしい言葉に舌打ち混じりの少年の返事が帰る。
どうやらこれがエクスフィア同士の交信というやつらしい。
一発で成功した嬉しさに、プレセアは胸を撫で下ろす。
これ以上失敗で恥ずかしい思いをするのは御免だ。

<その、ハロルドさんの下僕であるカイルさんを見つけたのですが>
<! ……アハハ、こりゃあいい! どうやら今日の僕は随分運がいいらしいね>
<……?>

普通の会話と違い瞬間的に頭に直接入ってくる言葉に、プレセアは少しだけ嫌な頭痛を覚えた。
それはまるで魔装が話し掛けてくる時のようで、決して気分が良いものではなかったからだ。

<こっちもティア=グランツを確保してる。
 ティアだけじゃなく敵も居るがまぁ雑魚だ。そのままお前もカイル=デュナミスを確保して上に来い>
<わかりました。ではまた>

通信を終えると、プレセアは物陰からカイルを伺う。
わかりましたと素直に言ってはみたものの、この状況からカイルを連れ出すのは決して容易ではない。
なにせこちらには身体が無いのだ。
身体がありさえすればカイルを力で捩じ伏せられる自信がプレセアにはあったが、今となってはその力にも頼れない。
故に無理矢理連行作戦は不可能。つまるところがカイルを“一緒に上に上がって下さい”と説得するしかないのだ。
だがそれが何より難しい。
第一頼み込んでみたところで、どう見てもこの状況ではどこぞの漫画みたくホイホイついてきちまってくれるとは思えない。
成功すればそれこそ『いいのかい!?』とでも言いたくなる。
カイルを連れ出すには、恐らくこの戦いそのものを解決しなければならないだろう。
カイルがこの二人の戦いに加入しようとも、戦いから逃げようともしていないからだ。
それは即ち、カイルがこの戦いに縛られている“何らかの原因”があるということ。
故にプレセアにとってカイルを説得する事は、その“何らかの原因”を知る為に、刃を交える二人を説得する事に同義だった。
プレセアは拳を強く握り考える。戦いを好まないのは勿論自分も同じ。
欲を言うならこの戦いを止めたいとすら思っている。
それに自分の目的とカイルを連れ出す手段が直結しているなら、そうする他ない……いや、むしろ好都合だ。
だが一体今の自分に何が出来るというのだろう?
背の幻斧を抜いたところで、攻撃してどうなる? 柳に風を送り、暖簾に腕押しをするようなものだ。
無謀にも程がある。虫一匹潰せない無力な身体で、何を止められると言うのか?

プレセアはやるせなさに唇を噛み、顔を上げた。塔の外では何者かの襲来にも似た風がけたたましく吹き荒れている。
ただの風か、それとも誰か来たのか。ミトスにしては早過ぎる。敵か、或いは……仲間か。
プレセアがそう思った時、視線の先の少年カイル=デュナミスは“腕を天に伸ばしていた”。
229Fuor la spada 5:2011/03/14(月) 22:44:04.20 ID:PBX4W0h70
その行動の意味を、我に帰ったプレセアが理解する前に―――ダァン、と乾いた破裂音が一つ。

瞬間、雪の絨毯を敷き詰めた異様な踊り場を緊張が駆け抜けた。
その場に居た全ての人物の身体が見事に硬直する。まるでカイルの手によって時間が止められてしまったかのようだった。

その音は剣を交えていた二人の手を止めるには充分過ぎる存在感を放っていたのだ。
それもそうだった。なにせこの場で最もアクションから無縁の少年の行為。最も長い沈黙を決め込んでいた少年の突然の謀反なのだから。
皆は当然何事かと刮目し、その行動の真意を息を飲み窺っていた。
黎明の塔内部は吹き抜け構造となっているためか、無機質な残響は何時までも四人の鼓膜を揺らす。
発砲音の張本人であるカイル=デュナミスは項垂れており、その表情は見えない。その姿は不気味さすら感じさせた。
アッシュはヴェイグから距離を取ると、天に向かってすらりと伸ばされたカイルの手に握られた氷銃を見る。
昇るはずの硝煙は、しかし銃口からは少しも昇っていない。
放たれたのは所有者の魔力を喰らい形成された魔氷の弾丸。弾倉も火薬も不要だからだ。

「……いいですよね。貴方達は」

カイルは震える声で第一声をそう切り出した。怒りとも悲しみとも取れる、複雑な声色だった。
「意味もないのに勝手に頭に血を昇らせて。勝手に戦って勝手に傷付いて。
 それで帰る場所があるとか、目的があるとか。自分勝手なのに大切な人の為とか言っちゃう。
 いいですよねそうやって無茶苦茶出来て。いいですよね、そうやって感情で動けて」
ヴェイグは眉間に皺を寄せる。カイルが吐き捨てた皮肉は、ヴェイグにとって最も突かれたくない痛い場所だった。
分かっているのだ。勝手過ぎる事くらい、ずっとずっと前から。けれどもいざ刺されるとこんなにも、痛い。
かさぶたが幾ら傷を守ろうとも、麻酔を幾ら刺そうとも、そこが傷である事に変わりはないのだ。抉られれば、心は痛む。
「羨ましいですよ正直言って。追い詰められて何も出来ないオレが馬鹿みたいだ。
 散々迷った挙句、誰にコレを撃とうかとか無駄な事考えちゃうしさ。
 何が正しいとか間違ってるとか。ゲームに乗ってるとか乗ってないとか。
 もうさ、考えちゃう自分に苛々してくる」
天に向けられた銃口をだらりと下ろし、カイルは顔を上げ自嘲気味に笑った。
アッシュとヴェイグは互いを牽制しつつも口を挟まない。いや挟めなかった。

「“こんなの絶対おかしいよ”。貴方達の自分勝手過ぎる戦いを見てそう思った。
 でも、もういいんだ。そんなのどうだっていい。ふっきれたから」

だって、カイルの目は今の今まで怒りに捕らわれていた自分達のものよりも遥かに強く澄んでいて……馬鹿馬鹿しいくらい、真直ぐだったから。

「オレは―――――――――――――――――――――――“貴方達を肯定する”!」

そして清々しい程に澱みのない声で、カイルはそう叫んだ。きっぱりと言い切った。
230Fuor la spada 6:2011/03/14(月) 22:47:56.16 ID:PBX4W0h70
それを聞いた三人はまさに鳩が豆鉄砲を喰らったような、間の抜けた表情を見せる。
三人中三人が、それはひょっとしてギャグで言ってるのか!? とでも言いたげな顔だった。
「……何言ってんだてめェ」
肩を竦めたアッシュが半ば呆れた様に言う。言っている意味が分からなかったからだ。
流れからして、ここは“ちゃんと話し合おうよ!”とか、“そんなの、オレが許さない”とか言うところだ。
だがそんなもんはどうだっていいと、いやそれどころかその勝手さを肯定するのだとこの阿呆はほざく。
皮肉っておいて肯定。“わけがわからないよ”とはまさにこの事だ。
言っている事が支離滅裂。流石に馬鹿にも限度というものがある。

「……自分で決めた事なんだ。幾ら無茶苦茶でもオレにはどっちも撃てっこない。
 それに貴方達の覚悟を止められる様な強い理由もないオレには無理だ。なら、全部“認める”」
「お前は何を言って」
「だったら! ……だったら悩む必要なんか最初っから何もなかった。
 オレにはリアラしかない。それしかないんだ。でもリアラと一緒になったってやっぱり帰る場所はない。それは決まってるんだ」
目の前の少年にとっての大切なヒトの話に、口を挟んだヴェイグは閉口する。
“一緒になったってやっぱり帰る場所はない”。
その言葉だけでは事情は分からないが、それでも未来に絶望したヴェイグが黙るには充分過ぎる呪いだった。

「得るものなんか何もない。よく考えたら始まる前から……オレは終わってた」

そう。カイル=デュナミスはこのゲームが始まった時点で既に終わっていた。
未来なんかありはしない。此所での出会いも記憶も、どうせ脱出をすれば歴史修正の波に呑まれてしまう。
そして何もなかったかの様に、自分はパン屋のロニと一緒に冒険に出るのだろう。全てを忘れてしまうのだろう。
此所で死ぬか、生きて何もかもを喪うか<デッドオアデッド>―――――――ゲームの世界でも有り得ない最悪の二択だった。
バッドエンド一直線。大切な人と出合って脱出しようとも、自分は一人になり相手は消滅する。
出合った喜びの先には、それを越える痛みしかない。そしてそれをリアラが分かっていないはずがないのだ。
奇跡も、魔法も……ありはしない。
この世界で、カイル=デュナミスはどうしようもないほど“詰んでいた”。
此所での幸せと大切な人を喪うという結果が既に分かっている。生きたところで絶望しか有り得ないのだ。

「でもだからって黙って途方に暮れるなんて、そんなのウソだ。
 ムカつくもんはムカつくしさ。嫌なもんは嫌だよ。だからオレも……やりたいようにやる。
 うまくいかなくたってそんなの、知った事か!」

“やりたいようにやる”。
その一言にプレセアは息を飲んだ。何て馬鹿馬鹿しくて、けれど自分が考えもしなかった言葉。
「皆、間違ってない。自分で考えて決めた道なら、やりたいようにやってるなら、オレになんか否定できっこない。
 だけど、“オレは貴方達の戦いを止めたい”と思った。このオレの考えも、貴方達には否定できっこない」
カイルにとってはきっと“自分に何が出切るか”程度の問題は悩むまでもないのだ。
出切るか出来ないかとか、そんなのは関係ない。理屈じゃない。
一度やると決めたら曲げない幼稚園児のように、純粋無垢過ぎる我儘。

「だからオレは貴方達を止める。貴方達の考えを認めた上で、それでもオレが“そうしたい”と思ったから。
 否定してるんじゃない。ただ“嫌”なんだ。それだけさ。……後悔なんて、あるわけない」
231Fuor la spada 7:2011/03/14(月) 22:55:38.28 ID:PBX4W0h70
「ふざけるな……ッ!」
ヴェイグは声を荒げる。何がそうしたいと思ったから、だ。何が嫌、だ。何が後悔なんてあるわけない、だ。
そんな戯けた我儘で自分の道を邪魔されてたまるか。
苦しんで、傷んで、血の涙を流しながら決めた道の前に立ちはだかれて、たまるか。
オレの気持ちを否定されて、たまるか……!

「大真面目だよヴェイグさん。オレって、ホントバカだから。全部本気なんだ」

カイルは、しかしそんなヴェイグの様子に僅かな動揺も躊躇も見せず、そう言った。
ヴェイグはそのあまりにも堂々とした態度に犬歯を剥き出しにして拳を震わせる。
馬鹿だからなんて理由で。そんなくだらない理由で邪魔するのか。
オレの覚悟を殺せると本気で思っているのか。……そんな事、認められるわけがない。
『カイル……』
この子になら、もしかしたら。シャルティエは希望の音を乗せて小さく零す。
アッシュとヴェイグは揺れている。それに比べカイルは恐らく、よっぽどの事がない限りはもう揺らぐ事はないだろう。
どの道カイルにしかこの二人を止められる人間はいない。なら、賭けてみるのも手か。

「ここからはリアラの英雄、カイル=デュナミスが、相手だ! 本気でいくぞッ!!」

ヴェイグの選択した道を否定しない。かと言ってアッシュも否定しない。だが、自分の道も否定しない。
だからヴェイグ達の戦いを止める。矛盾していようが構わない。カイルは皆を認めて――――――それでも、自分を貫こうとしていた。
全部救えるわけがない。カイルがやろうとしているのは、砂糖よりも甘っちょろい餓鬼の囀りだ。
現実相手に我儘が通用するわけがない。叶うわけがない。理屈の前に屁理屈は無力。とんだ大馬鹿。
でもそれがなんだってんだ。道が悪いからって、行き止まりだからって、ガソリンが一滴も無いわけじゃない。
確かにそれは足を止める口実にはなるかもしれない。でも足が止まる理由にはならないんだから。
“気に入らない”。歩く理由は、戦う理由は、それだけできっと充分なんだ。



「我儘で図々しくたって構わない。だって―――――――――それがオレだから!!!」



何処までも真っ直ぐに世界へと放たれた魔氷の弾丸は、天に届かず上空で爆ぜる。
煌めく覚悟の欠片が降り注ぐ中、鞘から抜かれたのは一振りの悲しくも強い剣だった。
未来に壊れる事を分かっていながら曲がる事を知らず、天に届かないと分かっていながら止まる事も知らない。

いのちの様に何処までも愚直で、太陽の様に熱い――――――――――――――――――剣だった。

232Fuor la spada 8:2011/03/14(月) 23:01:35.15 ID:PBX4W0h70
【ヴェイグ・リュングベル 生存確認】
状態:HP65% TP40% 切り傷(凍結済) 疲労 半洗脳(自覚有り) ゲームに乗る覚悟
   仲間の死へのショック ミクトランへの複雑な感情 ティアへの共感と少しの羨望
所持品:ソーディアン・シャルティエ ブルーキャンドル
基本行動方針:自分で選んだ道を自分の足で歩いて生きる。優勝してクレア達の蘇生を願う
第一行動方針:ミクトランに従う
第二行動方針:カイルを黙らせる
第三行動方針:アッシュからアニーのことを聞き出したい
第四行動方針:いつまでもミクトランに従っていたくない
現在位置:D3黎明の塔入口

【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:HP50% TP85% 焦燥感 右腿、左肩(×2)に銃創(凍結済) 仲間の死にショック 正義感+
所持品:アビスレッドのコスチューム(仮面は外してます) カイルの服(アビスレッドの上から重ね着)
    他アビスマンのコスチューム ブリザードマグ
基本行動方針:相手の我儘を認めた上で、最期まで自分も我儘を貫く
第一行動方針:なんとしても二人を止める。殺さずに止める。
第二行動方針:ティア、イクティノスの安否が心配。ティア達、ヴェイグを助けたい
第三行動方針:リアラに会う
現在位置:D3黎明の塔入口

【アッシュ 生存確認】
状態:HP40% TP21% 左腕大裂傷(縫合済) 背部大裂傷 後悔、羞恥、焦り 止まることへの恐怖 ロニへ疑問
支給品:デリスエンブレム エナジーブレッド ジェイドの作戦メモ二枚 イクストリーム アニーの日記 クリスダガー
    ソウルイーター ウッドロウのレンズ
基本行動方針:チャットを守り生きる。日記を継ぐ
第一行動方針:ウッドロウの意志に沿い、塔の中のイクティノスとヴェイグを救う
第二行動方針:???
第三行動方針:事が終わったらチャットを迎えに行く。ルークと合流
第四行動方針:アニーの仲間に会ったら彼女の事を伝える 。ヴェイグのようになってたら……
現在位置:D3黎明の塔入口

【プレセア=コンバティール@アストラル体】
状態:肉体操作− ドジっ娘属性+ 仲間が心配 無力感
基本行動方針:ロイドやその他仲間、アガーテと会い、ゲームを打破する
第一行動方針:ミトスに協力。カイルを確保し屋上へ行く(≒アッシュとヴェイグを止める)
現在位置:D3黎明の塔入口壁内部

【ソーディアン・シャルティエ】
状態:ウッドロウが心配 第一回放送しか聞いていない ベルセリオスを信じたい
基本行動方針:D、D2世界の仲間を探しつつ、舞台を把握する
第一行動方針:なんとか戦いを止める。カイルに協力する。
第二行動方針:随時イクティノスと水面下で連絡しあう

233名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/14(月) 23:06:48.16 ID:PBX4W0h70
投下終了です。
234名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/14(月) 23:09:38.77 ID:e7DWKb9pO
プレセア可愛いのう
235名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/14(月) 23:13:03.49 ID:3+17p6+d0
乙です
カイルがカイルらしくてお馬鹿だなぁと思いつつも安心した
頑張れリアラの英雄
236名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/15(火) 00:31:29.94 ID:3girgvRD0

プレセアかわいいよプレセア
237名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/15(火) 01:21:44.66 ID:8kwdyL6R0
カイルのカイルらしい行動に感想を言うべきなんだろうがプレセアの可愛さにしか目がいかねーw
238名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/15(火) 20:06:27.33 ID:HEV3EwY3O
流石カイルだ、魔法少女ネタが似合うぜ
239名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/16(水) 01:06:31.83 ID:rYQgjYWI0
しかしこの魔法少女だと死人が出るぜ
240名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/16(水) 09:11:47.64 ID:MnXSSowFO
>>239
そんなの、私が許さない


しかしみんなよく考えてくれ。確かにこの話のカイルは格好いいけど、武器がヴェイグに通じない氷の銃しかないんだぜ
241名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/16(水) 17:34:50.79 ID:Cgkb9Dga0
だから余計に次の展開が楽しみになるんじゃないか
242名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/19(土) 12:01:11.84 ID:yWLzWHjXO
>第一、もっと苛める為には救いになってしまうようなそんなもの、一体全体何処の誰が生やしてやるというのか?
>甚だ疑問である!


おいw


…おい
243名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/27(日) 11:30:15.02 ID:C85yINxq0
ほしゅ
244名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:12:53.50 ID:3HCpR7VS0
投下します。支援お願いします
245Яeverse crusadeR 1:2011/04/02(土) 22:13:59.97 ID:3HCpR7VS0
黄は動く訳にはいかなかった。
威勢良く啖呵を切ったはいいものの、二人を止めるには自分の武器は極上に不得手であまりにも頼りなく、
また武器の特性上混戦への割り込みに向いている上、先に動けば魔弾充填の隙が出来ると分かっていたからだ。
何よりこの場を収める方法すら黄は考えていない。そう、少年はどうしようもなく“馬鹿”だった。

赤は動く訳にはいかなかった。
こう見えて赤は殺し合いに乗っている訳ではないため黄や青を殺す理由はなく、故に最初に行動を起こすような真似が出来ないからだ。
ただでさえ最もダメージを受けている上、下手に動いて二人を敵に回せば青を説得なり処分するなりが難しくなる。
それどころか死の可能性もある。チャットの面倒を見ると約束した手前、それだけは避けたかった。

青は動く訳にはいかなかった。
黄の持つ銃の属性は氷、また黄の目的が殺傷ではなく説得と邪魔だと分かっている為、黄はダメージが通らない青へ先ず間違いなく撃つだろうと分かっていたからだ。
黄は赤を撃たない。殺してしまう恐れがあるからだ。故に黄は十中八九青に弾丸を撃つ。
だが青がダメージを受けないからと言って最初に動けば二人が相手となり、それは流石に骨が折れると言えた。

三色とも獲物を出しているくせ、三つ巴にすらならぬ不気味な硬直状態が沈黙と共に続く。
その輪から外れた桃は固唾を呑み三色を見守る。手に汗握る、とはまさにこの事だった。
ところが存外この展開は緊迫していない。盤外から見れば痺れを切らせて動く道化は分かりきっていたからだ。
故にこの硬直と緊迫は滑稽とすら言えた。
この場でリスクを背負ってまで動く理由がある道化とは、疑う余地すらなく―――――



「いい事を教えてやろうか」



―――――ヴェイグ=リュングベルただ一人だけなのだ。
だがこの場にいる人間は不幸にもそれを知り得ない。従ってこの時、虚を突かれた三人に激しい動揺が走るのは必然だった。
剰え、この硬直状態を解くにしてはヴェイグの言葉はあまりにも的外れでその意が全く見えなかったのだから。
先程までとは別の意味で硬直してしまったカイルとアッシュのずっと後ろで、空気を読まない雪がぼふりと落ちる。
三人を隠れ見るプレセアはヴェイグの言葉に聞き耳を立てた。自分が出たところでともプレセアは思ったが、何もしないよりはマシだ。
だが出るタイミングというのも大事。今は恐らく、その時ではないと少女は暫く様子を見る事にしたのだった。

「……あァ?」

アッシュは短剣の切っ先をヴェイグへと翻し、額に一本青筋を浮かべる。
ヴェイグの発言は、敵に囲まれた状態でポチョムさんの頓知話を呟くような愚かで馬鹿馬鹿しいものだ。
下手な挑発や命乞いでももう少し耳を傾けたくなる。舐めているのか、ただの馬鹿か天然か。
いずれにせよアッシュはヴェイグが気に入らなかった。
「逸るな、お前にじゃない……勘違いが得意か? 大層御立派だな」
『ヴェイグ! やめるんだ!』
ヴェイグはシャルティエの言葉を無視すると、肩を竦めながらわざとらしく嘲笑してみせる。明らかな挑発だ。
アッシュの眉が苛立ちにひくひくと動く。ただでさえ沸点が低い上、見え見えの挑発を受け流せるほど今のアッシュは冷静ではなかった。
「テメェもう一回言ってみやがれ」
声のトーンを幾らか落とし、アッシュは顎を上げヴェイグを見下しながら言う。
返答次第ではそれが遺言になるぜ、という脅迫をその言葉から容易く受け取れる覇気を秘めた声色だった。
カイルはごくりと喉を鳴らす。僅かな動きや物音でさえも許されないような絶対零度の緊迫が、場を凍らせていた。
だが当のヴェイグはそんな緊迫どこ吹く風。表情を弛ませ僅かに鼻で笑うと、暇を持て余す餓鬼の様にさぞ退屈そうにゆっくりと口を開く。
246Яeverse crusadeR 2:2011/04/02(土) 22:15:16.06 ID:3HCpR7VS0
「挑発を二度聞きたがるとは随分いい趣味をしているようだが、生憎とオレにはそんな嗜好はない。残念だったな」

一瞬の沈黙。数秒遅れて、何かを必死に押し殺す様な、名状し難い笑い声。
「面白ェ冗談だ」
ヤバい。カイルは徐々に滲み出る殺気に本能で身構える。
カイルはまだ若いが、それでも生死の狭間を彷徨う様な幾つかの修羅場は潜り抜けてきている。
経験は浅くないという自負があったし、これでもいざという時に勘は働く方だと自分でも思っていた。
「生憎と冗談は苦手だ」
その勘が告げている。このパターンはヤバい、と。
“惨劇”。
その二文字が真っ先に脳裏に浮かんだ。このままでは、と隣のアッシュを見る。身震いするような鋭い眼光だった。
「そうかい」
アッシュは肩を暫く震わせていたが、やがて呆れたように溜息を零すと、そう呟いて大きく息を吸う。


「―――――――――――――――――――――――――ッざけてんじゃねえぞ糞餓鬼ああぁあぁアァぁァァッ!!!!!!」


ブチン。何かがキレる音と共に、爆発した殺気と魔力が辺りの雪を出鱈目に吹き飛ばす。
怒声の音圧と魔力圧に城壁はびりびりと震え、まるで魔王の怒りに部下が恐れおののいているかのようだ。
反響する声と音素の破裂音にカイルが呆気に取られていると、舞い散る粉雪はどうと震撼した。
同時に辺りが一面の白亜と化し視界が見事に奪われる。マズいと思った時には既に遅い。

「くたばっちまいな!!」

ぎらりと妖艶に光る短剣が白銀のヴェールを間一文に斬り裂く。
波状にうねるその刃は確かに雪に乗じて死角から襲ったが、しかしヴェイグはそれを焦る事無くシャルティエで受けた。
アッシュの眉がぴくりと動く。半開きの口が動揺の大きさを如実に物語っていた。

「悪いが雪国出身でな。雪上戦闘には慣れている。少なくとも挑発を受け流せない誰かさんよりは」

ヴェイグの言葉にアッシュは舌を打つ。雪のカーテンを了解し即座に背後へ回り、踏み込みからの素早い一閃。
……勿論手加減はしてない。致命傷を避けてはいたが、それでも完璧に背を貫く一撃のはずだった。
それを受け止めたという事は、これがブラフではないという事。
並以上の使い手でも雪に乗じた奇襲を受け止められるもんじゃねェ。それに今の状況では大言壮語を吐く利もねェ。
となれば言葉の通りこいつは雪上戦闘を相当訓練しているのだろう(だがそれにしても何という反応速度か!)。
そしてそれは、この雪を恐らくこいつ……ヴェイグ=リュングベルが作り出したであろう事も示唆しているわけだ。
外と塔内部に積もる溶けない雪、雪国出身の剣士。繋ぎ合わせない方がどうかしてやがる。
即ち、恐らくこいつは氷使い。アニーと同じフォルスとやらと見て間違いない。
アニーが“雨のフォルス”だった事からして、さしずめ“雪のフォルス”か“氷のフォルス”といったところだろう。
それにしても能力の上限がたかが雪を降らせる事だけだとは思えねェ。アニーを見てその応用力は理解したつもりだ。
ならば油断禁物。底が知れないのがフォルスの怖いところなのだから。

「絶氷斬!」

だが、とアッシュはバックステップをしながらヴェイグの剣を避け、考える。
浮かび上がる一つの疑問。“何故ヴェイグは雪を解除しない?”
考えられる理由……“解除したくとも出来ない場合”。だがこれは有り得ねェ。
アニーがフォルスを解除した時、水溜まりそのものが消えたからだ。即ち、フォルスによって具現化された物体は任意で音素乖離可能と言うこと。
つまりヴェイグは、“何らかの理由で雪を解除しない”という事になる。地の利を生かしたいからと考えるのが自然か。
いや、しかしそれにしては範囲制御があまりにも御粗末だった。普通、砂漠全域を自分のフィールドにするか?
否、しねェ。精神力を徒に消費するだけだからだ。ハイリスクローリターン。失策が即、死へと繋がる此処では愚の骨頂。まさに悪手。
ただでさえ回復手段が限られる場。自分の元に敵が来た時に精神力が足りないようじゃ本末転倒!
あまりにも酷い愚策。それにこいつはそんな初歩的なミスをするほど馬鹿じゃねェ。それだけに作為的にしてもしこりが残る。
ならば深読みさせる事自体が目的……いや有り得ねェそれこそリスクが高過ぎる。
アニーと同じようにフォルスを暴走させたとしても、これは不自然。
なら何故だ? 何故こいつはフォルスを解除しない? 考えろ。こいつがフォルスを解除しない事で得られる利は一体何だ?
247Яeverse crusadeR 3:2011/04/02(土) 22:17:13.21 ID:3HCpR7VS0
「雪が得意らしいが、ならこういうのはどうだ―――――――魔王、絶炎煌!」

短剣が目にも止まらぬ速さで中空を駆ける。その速度は空を焦がし、摩擦で劫火を呼び寄せるに十分だった。
「ぐッ!?」
たちまち燃え上がる焔にヴェイグは僅かに怯む。火属性を苦手とするからだ。
百戦錬磨のアッシュはその僅かな隙を見逃すほどお人好しではない。
ヴェイグから見て、アッシュは焔の段幕に隠れていた。アッシュはそれを理解した上で、再び爆発的に音素を放出し辺りの粉雪を撒き上げる。
雪の結晶一つ一つが劫火に焼かれ、瞬間一面は蒸気で包まれた。
「狙いは最初からこれか!」
ヴェイグが舌を打ち叫ぶのを聞きながら、アッシュは素早く雪原を駆ける。幾ら雪上戦闘に慣れていようが、雪でなく蒸気の幕ならば話は別。
ヴェイグの反応からもそれは窺える。ならば先手必勝だとアッシュは素早く距離を詰め短剣を握る力を強める。

「凍っちまいなぁ! 守護、氷そ――――――<パ  ギ  ィ  ン>―――――――ゥ゛ぶっ!?」

……は?
鳩尾に走る衝撃と激痛を感じながら、アッシュは目を見開く。地に足が着いていない。よくよく見れば体は宙に1メートルほど浮いていた。
アッシュは霞む視界の隅で、ヴェイグを確認する。相変わらず隙だらけの背を見せているままだ。
……何だ、何が起きた?
アッシュは地面に無様に倒れながら自問する。何故襲う方向が分かった。こっちは見えていなかったはずだ。
いやそもそもどうやった? 奴は一歩も動いてない。何故体が浮いた? どうやって鳩尾を正確に狙った? つーか今、何をされた?

「あ、り得ねェ……ぞ」

腹から絞り出す様に呟くアッシュへと、ヴェイグはゆっくりと振り返る。
アッシュを見下す冷徹な双眸は、しかしどこか悲しげな表情に浮かんでいた。
“死”。アッシュは明確なその嫌な気配を刹那的にではあるが覚え、頭から血の気が引いてゆくのを感じる。
頭上ではソーディアンが確りと構えられ、刃が白銀に輝いていた。
「ゲームオーバーだ」
死刑執行の合図は静かに呟かれ、愛の為と言うにはあまりにも冷た過ぎる刃は振り下ろ―――


         ....
「そこまでです。二人とも武器を収めて下さい。少しでも動いたら撃ちますよ」



―――される事を、少年カイル=デュナミスが黙って見ているはずがなかった。
ヴェイグの持つシャルティエの切っ先が、倒れるアッシュが密かに投げる準備をしていたクリスナイフの切っ先が、僅かに跳ねる。
空中から二人の間に割り込んだであろう中腰のカイルの両手には、ブリザードマグがそれぞれ握られていた。
ブリザードマグは倒れるアッシュと剣を振り下ろす途中のヴェイグの二方向へ伸び、銃口はそれぞれの額に強く押し付けられている。
冷たく固い魔鉄の感触が素肌から伝わってくる。紛れもない死の温度だった。
ヴェイグは生唾を飲み込むと、アッシュの喉元に向けられたシャルティエを静かに下げる。
視線だけで銃を窺うと撃鉄は上がっていた。その細い指は確かにトリガーに掛けられている。脅しではないという事だ。
次に視線をカイルへとシフトする。陰が落ちた顔から覗く双眸は形容し難い怒りに満ちていた。
ヴェイグの頬を生温い汗が伝う。ここが正念場だ。
248Яeverse crusadeR 4:2011/04/02(土) 22:18:17.39 ID:3HCpR7VS0
……カイルはダメージが皆無であろうオレへは本気であろうとも、殺すわけにはいかない赤髪へは本気になれない。
撃てない。絶対に。そこが穴!
目的がオレ達を止める事である以上、この“動けば撃つ”という脅しは最初から成立し得ない。
ならば当然こちらが首を縦に振り馬鹿正直に従う道理はなく、むしろこのまま二人をねじ伏せるのが得策と言える。
だがそれはカイルとて分かっているはず。オレには銃が通用しない事くらいお見通しのはずだ。
ならばこれは相当リスキーな行為だとカイル自身知っていたという事。下手を打てば自らの命が危険に晒されると。
にもかかわらずアクションを起こした理由は何だ。
それは恐らく“これ以上下手に暴れると何をしでかすか分からない”という別の意味での脅しをオレに伝える為。
何故ならば、銃がオレに効かないと知っているのはこの場で恐らくオレとカイルだけだからだ。
この赤毛はアニーを知っている。故にオレの能力も知っていると思ったが、雪による感知も氷柱の不意打ちも初見のようだった。
だからこれはオレ個人へのメッセージ。“此処で動けばオレの能力を赤髪に伝えた上で共闘をするぞ”という、秘められた警告。
そもそもオレは、カイルが現れなければ赤毛に殺されていたかもしれない。認めたくないが懐のナイフはノーマークだった。
能力を知られた挙句二対一。そうなれば到底通用する相手ではない。ならばこの脅しは素直に呑むのが得策……?
いや、しかし二対一はカイルにとっても不本意であるはず。なにせ赤髪のスタンスと目的をカイルは――無論オレもだが――知らない。
マーダーであれば十中八九交渉決裂。成功するかも分からない不完全な脅し。
運否天賦のギャンブル。そしてそれを容易く行える覚悟。成程口先だけでなく本気という訳だ。
放たれる銃弾は肉ではなく、精神を貫く覚悟の氷。さてどうする。身を守る為に従うか、それともオレも博打を打って出るか。
カイルを懐柔する為の切り札はある。なら、多少の博打も許されるんじゃないか?
「……」
いや駄目だ。ここで下手な策を打って無様に死ぬわけにはいかない。苦渋を舐めようがリスクは必要最小限に抑えるべき……!

「命拾いしたな」

大きな溜息を吐き剣を収め背を向けるヴェイグに、カイルはほっと胸を撫で下ろす。
カイルにとっても一か八かの勝負だった。尤も、勝算の方が大きくなければさしものカイルとてこんな真似はしないのだが。

「くくく……面白くねェ冗談だな。こっちの台詞だ屑が」

二人の間にあった静かな戦いを知ってか知らずか、ゆっくりと立ち上がったアッシュは口元の血を袖で拭いながらそう吐き捨てた。
「かかってこいよ三下ァ。アニーが誰に殺されたか知りてェんだろ?」
畳み掛けるアッシュの口上にヴェイグは足をはたと止め、むっとした表情で振り返る。
ただでさえ博打で負けた屈辱がヴェイグにはある。アッシュの挑発は神経を逆撫でるには十分だった。
アッシュは唾を地面に吐き、立てた中指をヴェイグへと向けた。ヴェイグの額にびきりと青筋が浮かぶ。

「お前も殺されたいか」
「! ……待て、“も”だと? つーことはてめェ他に誰か殺ってんのか」
アッシュの目の色が一瞬にして変わる。どうりで血の臭いがするとは思っていたが、どうやら本当にアニーが心配していた通りになったらしい。
相手は恐らく優勝目的。ならばもう説得の余地など。
「だったらどうした。今更怖じ気付いたか?」
「あァ?」
「だーかーらー! やめろって言ってるだろ!」
249Яeverse crusadeR 5:2011/04/02(土) 22:22:39.03 ID:3HCpR7VS0
一旦腰に差した獲物に再び手をかける二人の間へ、カイルが諸手を振りながら割って入る。
放っておけば直ぐに惨劇一歩手前だ。危なっかしいったらありゃしない。

「ヴェイグさん。この人にじゃないって事は、オレに話があったって事ですよね。一体何ですか!」

ヴェイグははっと我に帰った様な表情を見せると、構えを解きアッシュを睨む。アッシュはその意味を理解したのか、渋々短剣を腰に戻した。
ヴェイグはその様子を確認すると、一呼吸の間を置きカイルに三本の指を立ててみせる。
カイルは怪訝そうにヴェイグの指と顔を交互に見た。
意味がわからない。カイルは素直にそう思い首を傾げる。

「三時間だ」

ヴェイグはそんなカイルへと淡白にそう告げた。え、と中途半端な声がカイルの口から漏れる。
「今から三時間以内、つまり九時までにお前がその赤毛を殺してあの女の元へ行かなければれば、あの女はミクトランに殺される。そういう手筈になっている。
 因みにこの塔は最上階まで登るのに凡そ一時間掛かる。故に、お前に残された時間は実質あと二時間だがな」
「な、ソレってどういう……」
声を震わせるカイルを見て、ヴェイグの胸はちっとも締め付けられなかった。
突然の宣告に動揺を隠せないカイルへと残酷な現実を告げながら、ヴェイグはまるで自分の声が遠い世界の人物の声の様だと思う。
ただミクトランから言われた事を淡々と、感情もなく言う。鬼か畜生しか言わぬような事をよくもここまでぬけぬけと。
ヴェイグは自分の言っている事がどれだけ極悪非道か分かっていた。そしてそれをミクトランに責任転換している自分がどれだけ悪党であるかも。
洗脳を甘んじて受けたのは、逃げ道を作る為だった。ヴェイグはミクトランに利用されていたが、利用してもいたのだ。
利害関係の一致。ヴェイグがミクトランの呪縛から逃れられない<逃れない>最大の理由がそれだった。

「無論逃げて助けを求めてもいい。
 だが、あの男がアンタが尻尾を巻いて逃げ回っている間、あの女を五体満足に置いているとは、まさか思わないだろう?」

顔に黒い笑みを浮かべて、手振りを交えて。演技は折り紙付き。ほら、なんてよく出来た脚本。
まるで悲劇のヒロインを追い詰める悪魔だ。そうさこれでは悪魔と何も変わらない。オレが戦ってきた敵と何一つ、変わらない。
白い道と、黒い道。どちらを選ぼうが結局行き着く先は……。

「理解したら黙ってオレに従って奴を殺せ。あの女が言っていたことは正しい―――――――――“現実はそう甘くない”。
 アンタが迷っている間にあの女が傷めつけられているとしたら、それはカイル……アンタの甘さのせいだ」

絶望の表情を見せるカイルと軽蔑の視線をこちらへ向けるアッシュを見て、ヴェイグは大口を開けて嘲笑する。
己を壊した世界を、ミクトランに踊らされるしかない現実を、それに絶望する自分すらも。
だがこうするしかないのだ。生き残る為には、クレアを取り戻す為にはこうするしか。ミクトランの下で道化になる他の道なんて、ありはしないのだ。

「どうした。早くあいつを殺して助けに行くといい。大切なお仲間なんだろう? ……あぁ、オレを無視して上がるつもりだったか?
 残念だが、それは無理だカイル」

図星だったのか肩をびくんと弾かせたカイルを満足そうに一瞥すると、ヴェイグは瞼を閉じ左手を掲げた。
同時に指がパチン、と鳴る。反射的にアッシュは身構えクリスナイフを抜くが、術が発動する気配はなかった。
だが、その代わりに上空から凄まじい轟音と共に瓦礫がヴェイグの背後に降り注ぎ、アッシュは目を見開く。
「階段……いや、“階段の形をした氷”か」
アッシュがしてやられた、という表情で唸る。透き通った岩氷は地響きを立てながら白銀に呑まれていった。
砕け散る氷の破片は朝日を反射しながら七色に輝き、さながらステンドグラスのようだ。こんな状況でなければ綺麗だと言う事も出来ただろうに。
衝撃による風と粉雪で髪をばさばさと揺らしながら、ヴェイグはにやりと笑ってみせる。
アッシュは暴れるもみあげを手で抑えながら、その鬼畜の諸行に顔を顰めた。……希望の砕き方をよく心得てやがる。
250Яeverse crusadeR 6:2011/04/02(土) 22:26:22.41 ID:3HCpR7VS0
「屋上への唯一の交通手段である階段を砕いた。ティアを助けるには当然オレのフォルスで再び階段を作るしかない。
 これで、アンタは赤毛と戦わざるを得なくなったわけだ。更に……」

ヴェイグはカイル達から視線をずらすと、黎明の塔の入口の方へ顔を向け、右の掌を翳す。
やがて掌がぼんやりと発光すると、入口の扉と塔内部を囲う壁は一瞬にして厚さ二メートルはあるだろう岩氷に閉ざされた。
アッシュは眉間を揉みながら気怠そうにその様子を一瞥すると舌を打つ。
さながら籠の鳥。人質がティアだという事も含め厄介な状況だ、と思った。一番の被害者は恐らく俺。

「これで退路もない。逃げてもいいと言ったが、赤毛の方に逃げられてはあまりにもつまらないからな。
 これでまさに絶体絶命というやつだ。……赤毛を殺すか、ティアを殺すか。白か黒。今度はアンタが選択する番だカイル=デュナミス」

ヴェイグが言い終えると、氷の牢獄には静寂が満ちた。大雪が降る夜のような、どこか寂しげで冷たい静寂だった。
暫くしてカイルはがくりと両膝を折り、雪原に諸手をつく。顔面は蒼白だった。唇はすっかり紫色で、肩は小刻みに揺れている。
ヴェイグはそんなカイルを哀れだとすら思った。絶望とはこういう景色を言うのだろう。自分も恐らくこうだったのだ。

「一分やろう。その間に決断を」

呼吸でもするかの様に、冷酷な言葉は沈黙の湖に落とされる。
その波紋にカイルの鼓動はやたらと大きく跳ね、じわりと浮かんだ脂汗は顎から滴り雪に染み込んでいった。
カイルはからからに乾いた舌を唾で潤すと、鉛の様になってしまったかぶりを左右にぶんと振る。
“こんな時だからこそ冷静にならないといけない”。ジューダスに口を酸っぱくして言われ続けてきた。そんな事は百も承知だ。

だがこの状況で。こんな選択を迫られて冷静になんて……なれるものかよ。

ヴェイグの協力がなければ、搭上層には行けない。つまりどうしてもヴェイグを死なせられないという事だ。
そして上層にいくにはアッシュ――ティアが言っていた特徴から恐らくルークではないとカイルは踏んだ――が死ぬ必要がある。挙句退路は無し。
どれを選んでも誰かの死は必須。絶対零度の牢獄。文字通り八方塞がりだ。
残り四十秒。みるみるうちにカイルの顔から血の気が引いていく。誰がどう見ても詰みだった。
アッシュを取りティアを殺すか、ティアを取りアッシュを殺すか……そんなの選べない……選んでいいはずがない……ッ!

「畜生……畜生! 汚い! 汚いぞ!! そうまでして大切な人を生き返らせたいのかよッ!!!」

震える両拳を雪に叩きつけ、カイルは声を裏返しながら叫んだ。パウダースノウがぎゅむ、と鈍い音を上げて舞い上がる。
ヴェイグはああ、と悪気もなく言うと続けた。
「俺はクレアの為ならどんなに汚い手を使ってでも生き残る。裏切りも脅迫も惨殺も、優勝する為ならば躊躇はない」
カイルは喉まで出かかった罵倒を寸でのところで飲み込む。それが僅かな淀みすらない、あまりにも真っ直ぐな音だったからだ。
だが、とカイルは雪に爪を立てる。なら何故そんなにも無表情なのかと。何故嬉しそうじゃないのかと。
好きな人の為と言うには、愛の為と言うには、ヴェイグのその言葉はあまりにも無機質で機械じみていた。
カイルは知っている。好きな人の為に何かをする事が、どれほど嬉しいのかを。好きな人の為と言って何かを失う事が、どれほど辛いのかを。
残り三十秒のこの究極の状況。だが、だからこそカイルは納得出来なかった。
ヴェイグの言葉は確かに“愛に満ちていたが、愛に満たされていなかった”から。
251Яeverse crusadeR 7:2011/04/02(土) 22:30:16.35 ID:3HCpR7VS0
「外道が。世界より一人を選ぶか」
「何とでも言え。オレはもう人を殺している。今更引き返せるものか」
アッシュの顔が引きつる。単純に甘い、と思った。大方人を殺した事がなかったのだろうが、それだけに自分とは違い過ぎるとアッシュは感じた。
あまりにも甘く、そして悪い意味で優しい。それ故にアッシュは一抹の不安を覚えた。
幾人と自分の為に敵を葬ってきた自分に、果たしてヴェイグを殺す以外の道で救えるのだろうかと。救う資格があるだろうかと。
人の命に対する価値観が違い過ぎるのだ。分かり合えないのは目に見えていた。そんな相手を自分に説き伏せられるのか?
殺ったら殺り返される。そんな事は判っている。だが、殺しを是としてきた自分に憎悪の連鎖を止められるのか?

「ざっけんな……それでいいのかよ、本当に……!」

アッシュは隣で腹の底から声を絞り出す様な叫びに我に返り、カイルを見る。立ち上がったカイルの唇からは真っ赤な血が滴っていた。
「いいさ。だからこうして俺はミクトランの人形としてお前の前に立っている。あと二十秒。時間はないぞ」
ヴェイグは滴った血を一瞥すると、自嘲気味に言う。
汚れなき白へと赤は滲み、やがて底へ沈んでゆく。だがそれらは決して混ざり合う事はないのだ。
「貴方って人は」
そこまで解ってんならなんで、とカイルは感情に任せて怒鳴ろうとするが、はっとして思いとどまる。
“違う”と気付いたからだ。そうじゃない。解っていながら、じゃないんだ。

「……ヴェイグさん、あなたまさか」

多分、ヴェイグさんがこうしているのは“解っているから”なんだ。

「そうだ。俺はミクトランすら利用する。寄らば大樹の陰……優勝する為なら、クレアの為なら洗脳でも何でもされてやる。
 此処には強敵も大勢居る。ならば虎の威は最大限利用すべきだ。そう思わないか?」

残り十秒。カイルはヴェイグの言葉に唇を噛み、拳を振るわせる。口の中にじわりと鉄の匂いが広がった。
ヴェイグは全部分かっていて、それでも止まらないのだ。殺し合いを止めろと言ったところで、はいそうですかと納得するとはカイルには到底思えなかった。
“止められない”。諦観にも似た感情が頭の中で渦巻いては消えてゆく。
「てめェそれでも人間か」
カイルの背後で呟かれたアッシュの声には怒りが満ちていた。ヴェイグの行為は、最早人ではなく外道のそれだ。

「……そうだ。アンタ達と同じ人間だよ。呆れるくらい正直で――――――――――――悲しいくらい人間だ。今も、昔もな」

アッシュはナイフを握る拳に力を込める。ヴェイグの言葉に反論は出来なかった。ぐぅの音も出ない。言う通りだった。
ヴェイグは自分の欲に正直だっただけだ。何処までも我が儘で真っ直ぐで。自分達と同じに、誰も彼も人間なんだ。間違っているわけがない。

「さて、そうこうしているうちにあと五秒だが。カイル、どうする?」
ヴェイグは懐から出した懐中時計を見ながら、カイルに決断を促す。
言われなくても分かってるよ、とカイルは低く唸るように返した。今にも崩れてしまいそうな、不安定な声だった。
懐から二丁の銃を取り出し、カイルはセーフティを外す。自分の手が恐怖と怒りに震えている事に、カイルはその時初めて気付いた。
アッシュは前方に佇むカイルの背を睨む。僅かに丸まった背は酷く惨めで、この場の誰よりも寂しそうだった。
カイルは銃口をゆっくりと上げ、自らの意志で照準を定める。相変わらず手は震えていたが、迷いはなかった。
ヴェイグが驚きに目を見開く。撃鉄が鳴り、氷の弾丸は照準の先にあった人物の頬を掠めた。
息を飲む音。白い肌から上がる真っ赤な飛沫。凶器を握るカイルの両手は、まるでその重さに耐えかねるかの様にがたがたと震えていた。

252名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:33:07.55 ID:ooGehr99O
支援
253名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:33:34.21 ID:UvjC7LjKO
支援
254Яeverse crusadeR 8:2011/04/02(土) 22:36:59.46 ID:3HCpR7VS0
「――――――――――正気か、てめェ」



焼けるように痛む傷口を指でなぞりながら、アッシュが半笑いで訊ねる。カイルの持つ銃は誰がどう見てもアッシュに向けられていた。
カイルはこくりと頷く。ヴェイグはカイルの背後からその様子を見届けると、静かに瞼を閉じた。
何かを見る事を拒んでいるような、そんな表情だった。
「ふざけてる場合じゃねェぞ餓鬼。冗談ならやめとけ。怪我するぞ」
頬の血を拭い、アッシュはどすの利いた声でカイルを威嚇する。だがアッシュにはこれが撃ち間違いやおふざけではない事くらい疾うに分かっていた。
誰がこの状況で冗談じみた真似をするものか。カイルは間違いなく“本気”なのだ。

「こうするしかないんだ……こうするしか……」

今にも崩れてしまいそうな表情でこちらを見るカイルに、アッシュは舌を打つ。気に入らない、いや……らしくないと思った。
まだ出会ってから一時間程度しか経っていないが、それでもアッシュはカイルが良い意味での馬鹿――個人的には一番気に入らないタイプだが――だと分かっているつもりだ。
だからこそらしくないと感じた。カイルなら“三つ目の解”を探しそうなものだ。
こんな選択をするとは自分が人質とされた事で冷静さを欠いているのか、或いは。

「屑が。それがどういう意味か解ってんのか? 俺達を止めるとか言ってやがったじゃねェか。
 勝手に意見ころころ変えやがって。ガラスのハートですってか? 笑わせんな。簡単に折れてんじゃねェよ。てめェの覚悟は豆腐か何かか!?」

ダァン、と先程とは逆のブリザードマグがが唸る。アッシュは咄嗟に飛び退き、辛うじて弾を避けた。
冷や汗が背筋をつうと伝う。避けなければ撃たれていた。どうやら本当に闘る気らしい。
参った、とアッシュは思う。アッシュは別に戦いを望んでいる訳ではないからだ。
ヴェイグと刃を交える理由はあれど、カイルと交える理由はこれっぽっちもなかった。

「五月蝿い! オレだって! オレだって考えて考えて、それで決めたんだ! アッシュさんにどうこう言われたくない!」
「俺の名前……あの女から聞いたのか」
「ティアを助けたいんだ……頼むよ、アッシュさん」

カイルは許しを乞う様な口調で呟き、銃口を上げる。アッシュの額に再び青筋が浮かんだ。
アッシュにはカイルに頼まれる理由もないし、頼まれてやるつもりも毛頭ないのだ。そもそも一体何を頼むと言うのか。
ティアの為に貴方はどうか黙って殺されて下さい、とでも言うつもりなのだろうか。だとすれば随分下手なジョークだ。

「罠に決まってんだろうがこの屑! 話はよく見えねェが、ミクトランとやらは人質交換を提示すらしてねェ! 理不尽で一方的過ぎる要求!
 俺を殺して上がったところで、あの女がてめェの目の前で殺されててめェもゲームオーバーが関の山だろうが!!」

三度放たれる弾丸を掻い潜り、アッシュはカイルへと斬りかかる。幾ら闘う理由が無いとは言え、アッシュとて黙って殺される訳にもいかなかった。
だから身を守らなければならない。アッシュは理解し、認めているのだ。“まだ死にたくない”と叫ぶ惨めで諦めが悪い、この愚直ないのちを。

「それでも! ティアを見殺しには出来ないッ!!」

カイルはそう叫びながらアッシュの斬撃をサイドステップで避けると、すかさず銃を振るい蒼破刃を放った。
アッシュはそれをクリスナイフで受ける。翡翠色の昌力は圧力を維持できなくなり弾け、周囲を舞う粉雪をじゅうと焦がした。

「餓鬼が思い上がるなよ。例えティアを助けたところで、あの女がてめェを赦すと思うか!?」
「思わないよ! 確かにティアならアッシュさんとオレでヴェイグさんを殺して逃げろって言うだろうけど、でも助けない訳にはいかないじゃないか!」
255名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:38:53.80 ID:UvjC7LjKO
しえん
256名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:39:12.50 ID:ooGehr99O
しえん
257Яeverse crusadeR 9:2011/04/02(土) 22:40:01.85 ID:3HCpR7VS0
カイルが叫んだ。ティアの事は二の次かとアッシュは苛立つ。立場は変わっても我が儘だけは変わらないときたか。
面倒臭い奴めだがそれよりも……拙いな。埒があかない。このままでは二対一、そうなればいずれ殺されて仕舞いだ。
ヴェイグとミクトランの思う壺。だがかと言ってどう解決する?
説得出来ないからと言って、カイルを殺す訳にはいかない。そうすれば全てが終わるからだ。
カイルの説得を諦めて殺した手前ヴェイグも殺す他なくなるし、そうすればティアの命も無くなる。
結果的に自分が三人殺す羽目になってしまう。それだけは避けたい。しかしこちらとてみすみす殺されてやるつもりもない。

「馬鹿がッ!」
「あぁ馬鹿だね、他に方法が思い付かないくらいには!」

何て酷い光景だ。シャルティエはそう思った。下手な仲間割れよりも質が悪い。
もし自分の身体がまだあったならば、胃をきりきりと痛めつつ頭を抱えている頃だろうか。
シャルティエは深い溜息を零すと、この状況を作った元凶の一人でもあるヴェイグの表情をちらりと窺う。
顔色は決して良いとは言い難い。作戦が成功したというのに、表情は曇天の様に冴えなかった。
状況報告をと電波を飛ばすが、反応はない。先程から何故かイクティノスへの連絡が届かなくなっていた。
ミクトランは馬鹿ではない。ソーディアンの力の源とも言えるコアクリスタルを破壊するとはシャルティエには到底思えなかった。
だが、だとすればイクティノスからの返事が一向に無いのは何故か。
敢えて返事を送らない可能性も否定できないが、ソーディアン間の通信は盗聴も無意味な固有回線。メリットが無い。
一つ言えるのが、イクティノスの身に想定外の何かが起きているということ。
こちらだけでもなく、あちらでもトラブルがあったとすれば何もかもが良くない方向に進んでいる事になる。
……幾ら考察しようが推論の域を出ない事を考えていても仕方がないか。今はイクティノスよりも目前の障害だ。
シャルティエは再び溜息を吐き、当面の問題<ヴェイグ=リュングベル>を見上げる。
軽い気持ちで口を開こうとして、止めた。最初に言う言葉は慎重に選ばなければならないと思ったからだ。
自分は何を言うべきか、何を問うべきか。きっとそれはどんな試験よりも難しい問題に違いない。
今やシャルティエはこの塔における最後の希望だった。カイルが墜ちイクティノスに頼れない今、惨劇を止められるのはシャルティエを置いて他に居ない。
だが、それを理解しているからこそシャルティエは一歩を踏み出せなかった。
期待されればされるほど、自分がやらねばならないと思えば思うほど、シャルティエは力を発揮出来なくなるからだ。
チャンスをものに出来ない性格。シャルティエの階級が実力よりも大幅に下に留まっているのはその為だ。
千年。口調や性格を変えるには決定的な時間だったが、シャルティエは根本的な部分だけを治す事が出来なかったのだ。
だからそうして漸く吐き出した結論は、己でも呆れるくらい予防線を張りに張ったごくごく普遍的なものだった。

『後悔、してるんだろう? 今ならまだ遅くないよヴェイグ。一緒にミクトランを、』
「黙れ」

……お願いだ、黙ってくれ。
間髪入れずそう続けられたヴェイグの言葉に、シャルティエは従うしかなかった。
ここで引かないほどシャルティエはチャレンジャーにはなれない。
それに、こんなにも辛そうな表情を見せるのだ。誰が掛ける言葉を見付けらるものか。

「期待なんか、してなかったさ」

シャルティエは自らの柄を握る力が僅かに強まるのを感じた。痺れる様な感情が拳から逆流しコアクリスタルの芯を震わせる。
それでもシャルティエは何も言えなかった。全てを分かってしまったからこそ、これ以上何も言えなかった。
強い意志の前に、説得はかくも無力なのだ。
「これで迷う必要も無くなった。オレはもう止まれない」
自嘲気味に呟くと、ヴェイグはシャルティエを翻す。
“ブレーキを壊す役はカイルだった”。選択するのが怖いから相手に先導を任せたのだ。自嘲するのは当然だった。
『いいのかい』
愚問だと分かっていたが、シャルティエは問わずにはいられなかった。ヴェイグは少し間を空けて頷き、雪原を思い切り蹴り上げ駆け出す。
もう、どうする事も出来ない。賽は投げられたのだ。
258名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:40:53.03 ID:UvjC7LjKO
シエン
259名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:45:32.15 ID:ooGehr99O
しえn
260名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:48:13.05 ID:UvjC7LjKO
おっと、さるさんか。俺には手伝えないぜ…すまん
261代理:2011/04/02(土) 22:52:40.26 ID:ooGehr99O
836:Яeverse crusadeR 10 [sage]
11/04/02(土) 22:45:50
「カイル、下がれ」

ナイフを銃で往なすカイルを背後から呼ぶと、ヴェイグはアッシュへと近付きシャルティエを向け足を止めた。
「は、はいッ」
アッシュの銃を力に任せて弾くと、カイルはバックステップで素早く距離を取る。
アッシュはすかさずその間を詰めようと試みたが、二人の間にヴェイグが入り牽制した事で急ブレーキをかけた。
「オイオイ二対一は卑怯だろ」
アッシュが苦笑混じりに言う。
「卑怯に何の問題が?」
ヴェイグはじりじりと後退りしながら、嘲笑混じりに返した。アッシュの頬を汗が伝う。

「カイル。銃を二丁こっちに」
視線はアッシュから動かさず、ヴェイグは左手を後ろへ伸ばした。カイルは小首を僅かに傾げたが、言う通りに銃をヴェイグへと渡す。
するとヴェイグはシャルティエを背後に投げ、二丁の銃のうち片方に淡いアイスブルーの光を纏わせた。

「何を……!?」

カイルが慌ててシャルティエをキャッチするのを尻目に、アッシュは思わず身構えた。
この発光がフォルスによるものだと知ってはいたが、だからこそ得体が知れないからだ。
先程鳩尾をやられた妙な一撃が来るやもしれない、そんな不安が頭を過ぎる。
アッシュはヴェイグのフォルスの全容を把握仕切れていなかった。
ただ体を以て理解したのは、ヴェイグがそんな素振りを見せなくともこちらを攻撃出来るという事だ。

「見たところカイルは大剣を使えない。そして俺は短剣は不得手。ならばカイルがシャルティエを持って俺が大剣を持つのは、至極当然の流れだろう?」
「大剣? てめェが持ってんのは銃……」
「だから“作る”のさ。オレの力で。丁度良い媒介もある」

パギン。
ブリザードマグの内部から、プレス機で金属片を押し潰す様な妙な音が上がった。続けてヴェイグは銃口をゆっくりと天井に向けると、引き金を引く。
アッシュはその光景に開いた口を塞ぐ事が出来なかった。放たれた弾丸はその軌跡を薄い刃状の氷に変化させながら、中空で静止したのだから。
実際に見るまでアッシュは半信半疑だったが、ヴェイグは本当に一瞬で氷の大剣を作ってみせたのだ。フォルスという異能は本当に化物じみている。

「カイル、俺に続け」
氷のグリップを作り両手で握ると、ヴェイグは腰を落としながら呟いた。カイルはヴェイグの背後にじりじりと近付き、頷く。
『カイル、君は本気で!?』
シャルティエがヴェイグに聞こえない程度の声で言った。説得が可能ならする必要があると思ったからだ。
それに何よりシャルティエはカイルの選択を信じたくなかった。だからシャルティエはカイルにそれでいいのかと問う。
だがシャルティエはそれ以上口にするのを止めた。止めざるを得なかった。横目で見たカイルの表情が、あまりにも。



「何の真似だ」



現実に屈したと言うにはあまりにも―――――――――――眩しく、熱く、真っ直ぐだったから。
262代理:2011/04/02(土) 22:55:10.52 ID:ooGehr99O
837:Яeverse crusadeR 11 [sage]
11/04/02(土) 22:49:43
「……説明して貰おうか」
ヴェイグはアッシュに顔を向けたまま、背後のカイルに問う。カイルの持つシャルティエはヴェイグの首元に確りと突きつけられていた。
先程までとは逆に、今度はヴェイグが焦る番だった。
表面上は冷静を装ってはいたが、声に混じった動揺による震えを聞くとアッシュはにやりと笑みを浮かべて、

「なぁに、気が変わっただけだ」

嘲笑混じりに言った。
ヴェイグは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。形勢逆転だ。
だが、とヴェイグは目を細める。アッシュ達は自分を殺せない。この前提は覆らない。その為のカードを何枚か持っているからだ。
階段に牢獄、そしてティアを助ける条件。絶対にヴェイグを殺せない事を、アッシュ達が解ってないないはずがない。
なのに刃向かった理由は何だ。余裕綽々な訳は何だ。

「……解せないな。オレを殺してもアンタらに得はないはずだが」

ヴェイグの疑問は当然だったが、アッシュは思わず吹き出す。当然は当然なのだが、この状況でまだそんな戯言を言ってくるのがあまりにも予想外だったからだ。
暫く腹を抱えて肩を震わせると、アッシュは目に浮かんだ涙を指で掬いながら口を開いた。
「解ってねェのはそっちだ。いいんだよ、これで」
ヴェイグは目を白黒させる。何が可笑しい。大体何も解決していないのに、何がいいものか。

「貴方は前提から間違ってるんですよ、ヴェイグさん」

ヴェイグは背後からの声に開きかけた口を閉じる。カイルの声から拾った一抹の悪い予感が、ヴェイグに文句を零させなかった。
そんな事、とヴェイグは否定したくなるが、カイルはそれすら裏切る様に言葉を続ける。
「オレ達は貴方を殺さない。だって」
嗚呼、そうだった。ヴェイグは項を垂れながら諦めた様に笑う。
こんな単純な事を忘れていただなんて、全く自分はどうかしていた。
早く思い出すべきだったのだ。こいつが、カイル=デュナミスが――――――――――――――――――


「二人で貴方を“説得”する。それだけですから」


――――――――――――――――――呆れるくらい、馬鹿だったという事を。



*******************



時は僅かに遡る。
物語に加わり損ねた少女、プレセアは全てを知っていた。
カイルとアッシュが戦うのをずっと見ていたし、カイルとアッシュが小声で会話していたのも決して見逃さなかった。

「共闘してヴェイグさんを説得すれば、誰も死なずに済みます」

それを聞き、成程とプレセアは頷く。よくよく考えればカイルの提案は自然と言えた。
大前提としてカイルは誰も殺したくない。ヴェイグの条件を馬鹿正直に呑むはずがないのだ。
だが……思い付いたとして普通やるだろうか?
私なら出来ない、とプレセアは思った。この提案はアッシュがマーダーではない事が必須条件になっているからだ。
アッシュもカイルと同じ思考をしていて始めて成立する交渉。そしてアッシュの行動からその可能性は極めて低いと言えた。
あまりにもリスクが高過ぎる手。カイルもそれを理解していたはずだ。
だがその手を臆する事なくカイルは打って出た。アッシュをマーダーでないと考え、博打を打った。
263名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 22:57:49.64 ID:UvjC7LjKO
しえん
264代理:2011/04/02(土) 22:57:55.33 ID:ooGehr99O
838:Яeverse crusadeR 12 [sage]
11/04/02(土) 22:51:12
「利害一致だ。共闘といくか餓鬼」

だからこそアッシュはカイルを信じてそう返したのだろう。
失敗すれば死。そのリスクを背負ってまでの提案。信用に足るには充分だ。

「オレはカイル=デュナミス。よろしく」
「アッシュだ。つもる話は後にして、まず今の状況と奴の能力について聞きたい」

器用にアッシュに当たらない様に弾丸を放つカイルの話にプレセアも耳を傾ける。
聞いてみるにどうも想像以上に厄介な状況だったが、恐らくミクトランの作戦はミトスの乱入によって崩れただろうと考えられる。

「チッ、そういう事か。ならこの雪もミクトランの指示か。十中八九感知能力の類……奇襲が効かねェ訳だ」
「これでオレの情報は全部です。今度はアッシュさんの情報を」
「待った。アイツが来てやがる。取り敢えず続きは後だ」

……なら自分が今から乱入して洗いざらい語ればいいのではとヴェイグの乱入を見ながらプレセアは思ったが、直ぐにそれはないとかぶりを振った。
何処の馬の骨かも分からぬ半透明の少女が、“ミクトランは私の仲間にやられているのでもうヴェイグさんは自由です”と言ったところで誰が信じるだろうか?
幾らそれが真実でも到底信用出来る話ではない。鼻で笑われるのがせいぜいだ。

「……解せないな。オレを殺してもアンタらに得はないはずだが」
「解ってねェのはそっちだ。いいんだよ、これで」

だがそうなると、自分は何時あそこに立つのかとプレセアは悩む。ヴェイグが不利になったとは言え、このままずっと指をくわえて見ている訳にもいかない。
“好きなようにやるだけだ”とカイルは言った。プレセアはその言葉に勇気を貰ったが、言ってしまえば“それだけ”だ。
プレセアにはそれを行動に昇華する勇気が無い。カイルやロイドとの致命的な違いだった。
本人も理解しているが、プレセアは万人を助けるヒーローには向いていないのだ。

「貴方は前提から間違ってるんですよ、ヴェイグさん。オレ達は貴方を殺さない。
 だって……二人で貴方を“説得”する。それだけですから」

ならば何もしないつもりなのかと問われればそうでもない。プレセアは“何か”をしたかった。何もしないのは絶対に嫌なのだ。
ただ―――何も出来ない事が怖いだけだ。
プレセアは無力である事の恐さを知っている。だからこそ父ジークが亡くなった時、ヴァーリを通してロディルのエンジェルス計画に荷担したのだ。
力がなければ今晩の飯にすらありつけない……無力な自分が嘗て生きられなかった様に、此処で朽ちるのを選ぶのか。
それともまた繰り返すというのか。あの悪夢の様な日々を。

「正気か? 俺を説得するとして、時間はあと一時間もないんだぞ」
ヴェイグは刃を首に当てられたまま、震える声で呟いた。プレセアはネガティブな思考を振り払い、様子見に徹する。
ヴェイグの言う事は尤もだった。一時間以内での説得と、殺人。成功確率は比較するまでもない。少なくともカイル達の一手は合理的ではなかった。

「勝算は! 作戦はあるのか!? 本気で説得出来ると思っているのか!? 俺が譲ると思っているのか!!?」
265代理:2011/04/02(土) 23:00:38.52 ID:ooGehr99O
839:Яeverse crusadeR 13 [sage]
11/04/02(土) 22:56:36
声を荒げ怒鳴るヴェイグは、アッシュを睨み……そして怯んだ。見返すは鷹の様な眼光。けれども透き通った純粋な翡翠色の瞳。
無言の圧迫感が一瞬にして足と地面を溶接する。自信と優しさに溢れたその表情は、今のヴェイグには決して出来ない表情だった。
「出来るか、だと? 笑わせやがる」
何故だ、とヴェイグは糸が切れた様に膝から崩れ落ちる。氷の刃ががらあんと情けない音を上げて雪に埋まった。
ヴェイグは背を丸めて呻く。何故堕ちない。何故諦めない。何故絶望しない。
オレはクレアが死んで絶望した。諦めるしかないと思った。同じ様に誰かの命を天秤に掛ければお前もこっちに来ると思った。
そうすれば楽になれると思った。純粋で熱くて、馬鹿なお前がこちらにくれば、“それしかなかったんだ”と納得する事が出来るから。
もう戻れないのだと、諦められるから。

「“そんなの関係無い”んですよヴェイグさん。貴方だってもう分かってるはずだ。出来る出来ないかじゃない」

なのにどうして、こうも簡単に壊すんだ。畜生。此処までやってきといて、それでも問いたくなるじゃないか。
期待したく、なるじゃないか。


「「―――――――――やるんだよ」」


今更戻れるはずがない。誰かを守れるはずがない。笑っていいはずがないんだ。でも、頼む。誰か教えてくれ。
汚れきったこんなオレでも、まだ―――歩いていいのか?

「ふ、ざ ける、な……ふざける、なよ……いいワケない、いいワケが、ないんだ……そんな、簡単な、話じゃ、ない……ッ」

頭を抱えて身体を震わせるヴェイグを、プレセアは哀れだと思った。長身の男が短身の少年に剣を向けられる姿は、憐憫の情を産むに充分だった。
だが哀れだと思ったのはそれだけが原因ではない。ヴェイグの姿が過去の自分と重なったからだ。
アリシアが殺されたと判った時、その犯人が仲間の一人だと分かった時。行動にこそ起こさなかったが、瞬<キシッ>間的に憎悪だけが肥大化していった。
空気を抜いてくれる人が、仲間が、大切な人が居たから今の自分がある。ところがヴェイグはどうだろう。
ヴェイグの想い人はアリシアと同じ様な最期だったのかも知れない。だがヴェイグはこうなった。それは多分、孤独だったからだとプレセアは考える。
孤独は毒にしかならない。膨れ上がった憎悪を優しく抜く人は、果たしてあの放送の時にヴェイグの側に居ただろうか。
憎悪、愛、復讐……複雑に絡む感情。単純な話である訳がないのは分かっているし、ヴェイグは自分とは違う。
しかしプレセアは、これを他人事だとは到底思えなかったのだ。
デリス・カーラーンにて、プレセアは幻影のアリ<ピギ>シアを守る為リーガルに獲物を向け、結果ロイドを傷付けた。
残ったのは後悔と自責。起こったのは悲劇。何かを守る為に誰かを傷付<ピキン>けてしまうという矛盾。
プレセアはヴェイグにそうなって欲しくはなかった。孤独になれば悔やむ事すら出来なくなる。
プレセアは復讐と亡き人に取り憑かれた少年の末路を知っていた。
もう一度姉と会うために人を数百と犠牲にし、姉にすら裏切られたと勘違いし、挙句世界を滅ぼそうとした英雄を知っていた。
266代理:2011/04/02(土) 23:02:24.74 ID:ooGehr99O
840:Яeverse crusadeR 14 [sage]
11/04/02(土) 22:59:55
「お、ぉお……ぉ」

……足が出てしまうのは当然だ。タイミングなんてどうでも良<パキ>かった。
息を切<ミシッ>らし雪原を走りながら、プレセアはただでさえ軽い体がもっと軽くなってゆくのを感じた。
何を怖がっていたんだろう。何に怯えていたのだろう。一度飛び出してしまえば、こん<パギョ>なにも楽なのに。
もう、何も怖くない。

「おいカイル、てめェ何処見てやがッ」
『! 不味い、カイルッ』

何も<バギン>難しい事なんかなくて、ただ今は足が軽くて、胸が<パキ>熱くて。純<ピキ>粋に、“助けたい”と思った。

「おぉぉおお……! ぉ……!」
「簡 単で あっ  て 、た  まる   か 」

動く理由なんて、きっと――――――<キュウゥゥゥン>――――――それだけで、充分だったんだ。



「お化けええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」



何も無い場所で躓き倒れる桃と、半透明な人間に絶叫する黄。核を光らせる銀の刃は黄の名を呼び、赤は狂った様に叫ぶ青から距離を取った。
罅が入り不安定になった氷の牢獄が轟音を立てて砕け落ち、白銀の光渦は雪を巻き上げ吹き荒ぶ。
くるくるからから。廻る廻るくるくる廻る。正六面体をがむしゃらに転がしながら、青は終ぞその異能を暴走させたのだ。
世界を嘲笑うかの様に、役者を震え上がらせるかの様に……凍える風は、高く高く吼えた。
嗚呼何もかもが遅い遅い遅い遅い。
制限時間は二千と少し。
早くしないとぜぇんぶ木っ端微塵にブッ壊れちまうぜ。











――――――――――――――――――――――――――――――――壊れるのは、もう決まってるけど、ね。
267代理:2011/04/02(土) 23:04:42.86 ID:ooGehr99O
841:Яeverse crusadeR 15 [sage]
11/04/02(土) 23:00:44
【ヴェイグ・リュングベル 生存確認】
状態:HP65% TP25% 切傷(凍結済) 疲労 半洗脳(自覚有り) ゲームに乗る覚悟
ミクトランへの複雑な感情 ティアへの共感と少しの羨望 フォルス再暴走
所持品:ブルーキャンドル ブリザードマグ<Ver.アイスサーベル>
基本行動方針:自分で選んだ道を自分の足で歩いて生きる。優勝してクレア達の蘇生を願う
第一行動方針:――――――
第二行動方針:アッシュからアニーのことを聞き出したい
現在位置:D3黎明の塔入口

【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:HP50% TP75% 焦燥感 右腿、左肩(×2)に銃創(凍結済) 正義感+ アビスレッドォ!
所持品:アビスマンコスチューム ソーディアン・シャルティエ
基本行動方針:相手の我儘を認めた上で、最期まで自分も我儘を貫く
第一行動方針:ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!
第二行動方針:ヴェイグを説得する
第三行動方針:ティア、イクティノスの安否が心配。
第四行動方針:リアラに会う
現在位置:D3黎明の塔入口

【アッシュ 生存確認】
状態:HP35% TP15% 左腕大裂傷(縫合済) 背部大裂傷 後悔、羞恥、焦り 止まることへの恐怖 ロニへ疑問
支給品:デリスエンブレム エナジーブレッド ジェイドの作戦メモ二枚 イクストリーム アニーの日記 クリスダガー
    ソウルイーター ウッドロウのレンズ
基本行動方針:チャットを守り生きる。日記を継ぐ
第一行動方針:ウッドロウの意志に沿い、塔の中のイクティノスとヴェイグを救う
第二行動方針:事が終わったらチャットを迎えに行きルークと合流
第四行動方針:アニーの仲間に会ったら彼女の事を伝える。例えそいつがどうなっていようが説得する
現在位置:D3黎明の塔入口

【プレセア・コンバティール@アストラル体】
状態:肉体操作− ドジっ娘属性+ 仲間が心配
基本行動方針:ロイドやその他仲間、アガーテと会い、ゲームを打破する
第一行動方針:ミトスに協力。カイルを確保し屋上へ行く為にヴェイグを説得する
現在位置:D3黎明の塔入口

【ソーディアン・シャルティエ】
状態:ウッドロウが心配 第一回放送しか聞いていない ベルセリオスを信じたい
基本行動方針:D、D2世界の仲間を探しつつ、舞台を把握する
第一行動方針:ヴェイグを説得する
第二行動方針:イクティノスに何があったかを確認する



Notice:アッシュがカイルの持つ情報を全て得ましたが、カイルは馬鹿なので情報が正確でない可能性があります
268代理:2011/04/02(土) 23:05:32.69 ID:ooGehr99O
842:Яeverse crusadeR 15 [sage]
11/04/02(土) 23:02:33
投下終了。途中でサルりました。どなたか代理をお願いします。
269名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 23:05:43.86 ID:UvjC7LjKO
支援
270名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 23:09:09.88 ID:dp2N4Ypni
投下乙!
すげーハラハラしながら読んでた…面白かった
そして「ヴェイグが魔女になったああああああ!!」と思わず叫んだのは俺だけじゃないはずだ
271名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 23:18:51.19 ID:Z+pMkE7W0
272名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 23:26:25.11 ID:UvjC7LjKO
うぉぉ投下乙。二転三転する展開にめっちゃハラハラドキドキさせてもらった。
しかし青の暴走か…これはまさにまどか展開だな。黄に赤に桃に青かー。よくもまぁ色まで一緒になったもんだ。あとは紫だけだなw
273名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/02(土) 23:33:54.92 ID:srONGknO0
>>272
紫と聞いてまず思いついたのがサレでなんかうわぁ……ってなった
274名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/03(日) 00:00:58.56 ID:5YfFXW4I0
>>273
サレの次にデクスが思いついてなんかうへぇ……ってなった
275名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/03(日) 01:44:20.20 ID:QLAgOSsuO
投下乙です
カイルはやっぱりカイルだったw
カイルが墜ちる姿なんて想像できないな

何気にミクトランもヤバい気がする
ヴェイグが死んだり寝返ったりしたら塔から降りられなくなりそうで
276名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/03(日) 02:33:46.52 ID:Xf6Bmb1Si
>>274
デクスの次にバルバトスが出てきて、なんか……考えるのを止めた
277名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/03(日) 12:39:24.55 ID:OMCA0YeGO
お前等イレーヌさん忘れんなよ<紫

それはともかく投下乙!引っ張るねぇwカイルがいつティロフィナるかヒヤヒヤした。
アッシュ攻撃した時は絶望したけど、やっぱりカイルはカイルなんだよな。相変わらずお化け苦手だし。あと状態表の一番下カイルは馬鹿なのでってワロタ
278名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/08(金) 17:29:07.37 ID:/yliqlTb0
紫ならリオンのイメージ

何にせよ投下乙です
カイルがどうなるかマジでヒヤヒヤしたが相変わらずカイルですげー安心した
279名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/13(水) 23:08:55.35 ID:7WXLZm/xO
ほしゅ
280名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/19(火) 17:00:44.11 ID:2fpw17Aj0
ほしゅー
281名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/21(木) 23:29:26.12 ID:ZMn1YEim0
しかしテイルズロワってキャラの悪堕ち(マーダー化)がホントに多いよね。
しかも参加している奴らはラスボス倒してエンディング後から参加した奴らが多いから、余計に目立つよ。
正直言って皮肉ですよね。
原作ではあんなに強い決意を示してたのに、ロワでは仲間が死んだり、状況が変わるとすぐに精神不安定になって……。
ところ変われば人変わる、とは言うけど……。
282名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/22(金) 09:19:26.36 ID:bePocePI0
そりゃ、恋人殺されたりしたら…なあ。復習の一つや二つしたくなるぜ。そいつ生き返らせることが出来ますよとか言われたら、なおさら…
283名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/22(金) 13:12:23.42 ID:9k/hVAHqO
ヴェイグがその一例だわな
クレアや仲間を蘇生させるためにゲームに乗ったし
そもそもフォルスなんて起爆材がある上に精神不安定になりがちだからカオスを生み出すにはもってこいだ
284名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/22(金) 13:20:48.57 ID:SIQpCwRdi
ゲーム本編が終わって成長もするけど新たな関係性(恋人とか親友とか)もできて
そこ突かれると弱いキャラはいるよねぇ
285名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/22(金) 19:36:23.54 ID:ID0ivSxe0
精神不安定になったりキャラによっては狂い出したりヴェイグのようにマーダー化したり、
そうなるだけの経緯も理由も説明されてるから自分はそこまで違和感無いな
仲間だったり恋人だったり、大事な存在を唐突に訳の分からないゲームに巻き込まれた上に
殺されたりしたらそりゃどんな温厚なキャラでも普通にキレるだろ
Pのクレスだってそんな理由で旅に出てるんだし
286名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/22(金) 21:48:17.92 ID:bePocePI0
クレスはモロ復讐が目的だからな。ロイドもコレットを傷つけられたら敵を殺すし、セネルだって復讐のために行動してた。

ヴェイグは特別だよな。唯一テイルズ主人公の中で人殺しをしてない主人公なんだぜ?
287名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/22(金) 22:32:36.20 ID:J6l/PpOP0
クレスの本当の苦悩はP本編終了してからだろうしね
人一倍真面目なぶん割り切ることもできないだろうし
288名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 00:11:06.52 ID:3Ej0kDir0
1stでも2ndでもロイドのメンタルは強いよなあ
前からそう思ってはいたけど具体的にS本編でそういうの示されてたっけ?
ゼロスの裏切りくらいしか思い浮かばなかった
289名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 00:16:10.82 ID:0swQpLmz0
Sの仲間は基本的にロイドの理想を信じて集まったわけだからな
あのメンツに信用されるくらいには強いんじゃなかろうか
あとコレットがみんながみんなロイドみたいに強いわけじゃないとか言ってた
290名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 00:32:51.32 ID:5c/7N/Ta0
ロイドはシリーズ1の理想論者で、いい意味でも悪い意味でも馬鹿。それに加えて意外と冷静だし、話を聞くからじゃね?
ヴェイグは本編ですらああだから弱いし、ルカもメンタルは弱い。セネルは復讐には五月蝿いし一人で妙に突っ走る。…リッドはもはや悟ってるレベルだから絶対精神は折れないと思うが。
カイルはロイドとは違って世界もヒロインも救う道を選ぶほど理想論者ではなくそのくせ独断は多いし、スタンは正義の定義とかに悩んだり、自分が英雄と呼ばれることに違和感を覚えるくらいは繊細。ルークはヘタレだし。
ロイドくんが完璧すぎるんだよ。ゼロスやクラトスやミトスに裏切られてもああだし、どこでもいいさ、だし。

普通なら、救いの塔で仲間がひとりずつ死んでいく(実際生きてたけどロイドは死んだと思ってたし)イベントで精神崩壊してるよ。あのイベントを超えてなおミトスに戦いを挑もうと思える精神は並じゃねーと思う。
291名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 00:35:27.76 ID:0swQpLmz0
まあ、折れないけど揺さぶられやすい嫌いはある
292名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 00:48:59.45 ID:3TXRaQMv0
それでも折れないのはすごいんじゃね?
Sやった事ないからかあんまり完璧すぎる主人公って好きじゃないが
293名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 00:59:41.58 ID:SzlPXR/s0
かなり強いって訳でもないんだけどな、クラトスが父親だって判明したときは動転してたし
けど世界を救うことも一人を死なせないことを選べる時点で凄い
あと一人を選んだミトスのメンタルの脆さと対比されて強く見えるってのもあると思う
ラタだとちょっと辛そうなところもあったしな
294名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 07:43:08.67 ID:xLAgfZGiO
そういう意味ではS本編よりも弱さを垣間見せてくれるラタのロイドのほうが俺は好きかもしれん。もちろんSの強いロイドが好きだからこそ言えることだが。
それはさておき、もしロイドがラタから参戦してたなら2ndではどうなってただろうな?

…と思ったけど、よく考えたらこのロイドってクラトスルートしかもED後だから、ロイド持ち前の強さやカリスマ性と、ラタで初めて見せた後悔や苦悩を持ち合わせてると言える、実は美味しいキャラなんだよな…つまりどちらにせよロイドはロイドだったのだ…。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 07:56:04.25 ID:me0O7fznO
ほんとに美味しい
幼女からおっさんまでホイホイしちゃうからな
296名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 08:34:13.84 ID:xLAgfZGiO
>>295
仲間の8人は言わずもがな、ラタでエミマル、ファンダム2でルーク、マイソロ3でおっさん…公式だけでもロイドはこれだけ落としてるというか一目置かせてるもんな…この先(いろんな意味で)どうなることやら。

とにかく、何だかんだでS本編でもロイドって意外と悩んで凹んでるし、コレットたち仲間に支えられてたから強かった感もない訳ではないが…しかしクラトスも指摘していたロイドの「諦めない」という強さはどこぞの被験者じゃないがまるで鮪のようだな。
297名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 10:49:57.60 ID:8ct/3iCKO
てゆうかロイドが悪墜ちするとこが純粋に想像出来ないんだよなぁ
298名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 12:28:51.44 ID:+kOkrf0U0
自分はカイルやスタンが全く想像つかない
カイルは杞憂に終わったけどスタンは最初からイレーヌさん全開すぎて違和感
299名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 12:50:13.63 ID:77aLeq/UO
初期から参戦なら一番脆いのはダントツでルークだろうな…
(脆いっていうかDQN)
ルークの参戦時期を下手にいじらなかったのは正解だった
300名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 23:41:33.59 ID:3Ej0kDir0
2ndのロイドってクラトス√だっけか
完全に忘れてたわ
プレセアがコレット√でミトスがプレセア√だったのは覚えてるんだが……
どこら辺に記述されてたか教えてくれない?
301名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 23:49:27.79 ID:me0O7fznO
クラトス√が正史らしいからプレセア達はパラレルワールドなんか
302名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/23(土) 23:58:17.59 ID:5c/7N/Ta0
>>300
プレセアがコレット√でミトスがプレセア√…248話「レゾン・デートルは檻の中」で確定

ロイドはクラトス√…209話「命」で確定

因みにリフィルはコレット√…247話「 少女と酔いどれと英雄たるの対価」で確定
303名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/24(日) 00:58:36.07 ID:aJo+eLKW0
>>302
おお、ありがと
リフィルも決まってたか
早速読んでくる
304名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/24(日) 14:49:42.38 ID:8/ZNhebe0
これはあくまで俺の解釈なんで、異論ある人はどぞ。ついでに長文スマソ。

ミトスのメンタルと対比っていうが、俺は実際ミトスと比べてロイドがそこまで強い!って言えるほどには感じないんだけどな。
ロイドが「世界を救うことも一人を死なせないことを選べる時点で凄い」というが、それはあくまでロイドはコレットを失っていないからミトスと同じ道は歩まなかっただけの話。
ミトスとて「世界も姉さまも助けたかった」と言っていたはず。当時ミトスも「世界を救い、大切な一人を死なせない」ための道を歩んだが、人間に裏切られ殺されてしまい果たせなかっただけの話。
ミトスはすでにマーテルが死んでおり、四千年前に苦悩の末、マーテルが大いなる実りを(世界を)護ったからこそ一人を選んだけど、じゃあロイドもコレットを失っていたとしたら?
同じ道を歩まないとは断言できない。だからロイドとミトスは「似ている」、下手をすれば同じ道を選んでしまいかねない危うさをも秘めている。
ただ今の時点ではロイドはコレットが生きており、間違えばやり直せると信じて光の道を歩いている。
たまたま現代ではミトスはマーテルが死んでおり、間違い云々を考えられる精神状態ではない。と勝手に解釈していたが。
最も大切な存在が生きている上で選択肢を選べる者と、最も大切な存在が死している上で選択肢を選ばざるを得なかった者。
支えてくれる者がいる中で支えられながら正しい道を模索できる者と、支えを失って暴走するがまま間違った道を正しいと信じて突き進む者と。
そういった意味でも光と影なわけで、二人はそういった意味でも対極にいる。俺はこういう解釈をしてたから、ロイドが特に強いなんて思ったことはないな。
だからこそ、クラトスルートでのクラトスの台詞には違和感を感じざるを得ない。
「お前とミトスでは決定的に違うところがある」、「お前は間違いは正せると知っている」とクラトスは言ってるが、俺はそこにどうしても違和感が付きまとって仕方がない。
正直、ロイドとミトスの違いといえば、「一番大切な人(一番の支え)を失っていない」ことと、「ロイドを信じてくれて、間違ったら僅かでも同調せずにちゃんと止めてくれる仲間が常に傍にいる」ことくらいしか思い当たらない。
ぶっちゃけミトスの仲間であるクラトスとユアンは(攻略本などからの情報からすると)わずかでも同調したくせに、後から「やりすぎだ」「間違っている」と裏切った挙句、
直接止めずに反発もしくはコソコソ阻止するだのして、最後にはロイドたちに全て任せて隠居(?)といったまぁおおよそ仲間というには相応しくない行動ばかりとってるからな。
ミトスが弱く感じるのは、支えてくれる人を失ったためと、孤独である点、かつての輝きを失ってしまったが為であり、ミトスもシンフォニアでプレイしていて感じるほど、もともとメンタルが弱かったわけではないと思う。
本当にメンタルが弱いなら、攻略本等にあるような「どれだけ虐げられ、裏切られてもいつか分かり合えると信じ続けて、ひたすら前を向いてマーテルと世界のために諦めずに旅をする」のは、特にハーフエルフへの風当たりが強いあの時代では無理だと思う。

だから言うなればロワでも、「ロイドが堕ちる可能性はゼロではない」と考えてる。
だけど、ラタでは「ミトスが選んだような、闇の道が見える。だけど、あいつ(ミトス)が見てる。だから俺はあえて光の道を選ぶ」といっていたから、
そこからすれば、「ロイドは仲間の支えさえあれば、堕ちないんじゃないだろうか?」とも思う。
リーガルもそんなロイドを支えていくと言っていたし、ロイドは支えがあってこそロイドらしさを持てるのだと思う。支えがなくても堕ちないかどうかは正直なところ分からない。
しかし2ndではミトスもED後から来ているわけだから、ミトスが生きているうちは、もしかしたらミトスがしてきたことを思い出して反面教師みたいな形で、ミトスがストッパーになる可能性もあるかもしれない、とも思う。

まぁ何かが原因で堕ちたロイドと、(プレセア曰く)本編から「変わったように感じる」ミトスの対決も、見れるなら面白そうと言えば面白そうだが、それはまた別の話。
305名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/24(日) 16:38:32.48 ID:EtN1mzVn0
>>304
決定的な違いってのが「支えてくれる仲間がいる」ってことじゃね?
事情を考えれば同情もできるけど、それでもミトスがやり過ぎたのは否めないし
間違えてもちゃんと反省して前に進むことができるから、仲間たちもロイドに惹かれるんだろうし…たぶん
ミトスもマーテルが死んでなきゃ、本編で加入したときみたいにロイドたちとも仲良くできるんだろうけどな…

2ndのロイドはゼロス死亡ルート通ってるから、大切な仲間を失う意味も分かってるはずだからな
それでも屈せずに世界統合させてはいるからやっぱ強い気もするけど、どんな行動に出るかは気になるところだ
306名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/24(日) 16:54:29.50 ID:0WYyZsMgO
>>304
仲間の件に関しては俺も同じ考えだな。
しいなやリーガル達が、心を許せる仲間がいない孤独は判断を狂わせ独断と圧政を生み、更なる孤独を生む、だから自分たちの仲間を大切にしようってスキットで言ってたしな。
ファンダム2でもクラトスやユアンが>>304の指摘した部分を自覚していた描写があったし。

ただ俺の場合は>>304と違って、やっぱりミトスと比べてもロイドは根本的に強いと思ってるんだ。(>>304を否定する意図はないので誤解しないでほしい)
ここでこれを出すのはKYというか無粋かもしれないんだが、公式外伝ドラマCDでロイドの目の前で裏切られコレットが殺されて死んだ(と思っている)時、
つまり4000年前のミトスと同じ状況に陥った時でもロイドは絶望に屈しなかったエピソードがあったんだよ。
まあミトスのアイデンティティー=マーテルの存在も同然だったことを思えばミトスがああなるのも仕方ないとは思うが……、
ロイドは最愛(という表現が正しいかどうかわからないが)の人を喪っても諦めなかった。
要するにロイドとミトスは諦めない強さの度合いが違ったんだじゃないかな。
その強さは、いざという時諫めて止めてくれる仲間の存在とその仲間への信頼、
そして自分の欠点や間違いを認めて反省できる(プレセア曰く自分を誤魔化さない)勇気から来るものなんだと俺は解釈してた。
ロイドはS・ラタ問わず悩んで迷った時はほぼ必ずと言っていいほど仲間たちに諭され諌まれ励まされて支えられていた。

だからこそ俺も、ロイドは1stみたく真の意味で孤独になって諦めれば堕ちる可能性は大いにあるような気がしてる。
これからロイドが諦めることなく光の道を歩き続けられるかそれとも諦めて闇の道に堕ちるか、楽しみだよ。

長文チラ裏すまんかった。
307名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 00:29:57.09 ID:y8FeUjnR0
上にもあったけど救いの塔で仲間を失っていきながらも
今できる最善の行動を取り続けるぐらいはメンタル強いんじゃね?
まあ全部終わってやる事が無くなって落ち着いた時には壊れちゃうかもしれないけど
308名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 02:49:26.56 ID:IZnRCVKw0
>>307
同意。ミトスがあの時のロイドの立場なら、多分発狂してると思う。

ロイドは皆も犠牲にせず世界も救う方法を選んだけど、皆を犠牲にしちゃったわけだからな。それでも狂わない精神力は並じゃないよ。
309名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 07:43:30.39 ID:/gqlHP610
流れぶった切って悪いんだがロイドと聞いて思い出したことがあるんでちょいと質問

新作投下を待ちわびて復習がてら過去SSやら追跡表やら読んでたんだが、
ロイドって心臓失ってたのか?>追跡表
人間の心臓の位置がほぼ中央なのを差し引いてもSS内でロイドの貫通箇所は右胸って書いてあったから
てっきり普通にというか文字通り右胸を貫通しただけの傷だと思ってたんだが…。
もし読み込みが足りなくて俺が見逃してただけだったらすまん

あとプレセア以外で原作設定と年齢が違うキャラっていたかな?
310名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 08:10:18.39 ID:5esnV0PgO
今一通り読んだ。心臓喪失はまとめさんのミスだなw
311名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 09:46:01.81 ID:g+r669iX0
Sやった事無いから心臓無いのに動けるってどんな恐いキャラなんだとびっくりした
312名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 10:20:20.43 ID:1IBcAz75O
1stで心臓喪失してたから混じったんだろうね
313名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 10:22:35.62 ID:/gqlHP610
>>310
俺の勘違いじゃなくてよかった、ありがとう

>>311
Sには天使化というロワにお誂え向きの設定があってだな
314名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 12:16:30.46 ID:jOPcgdA8O
>>309
ティアがEDから2年たっての参戦かな
315名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/25(月) 23:12:33.33 ID:/gqlHP610
>>314
おおそういえばそうだったか。ありがとう!
316名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/26(火) 00:43:02.13 ID:EYhYWcv30
>>311
あらゆる生命活動を停止しながら生きれる上身体能力も上がる便利な設定がSにはあったり
317名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/26(火) 01:15:52.92 ID:hQwMW5ZN0
ロイドしかりカイルしかりだけど
馬鹿っていうのはこういう殺伐とした世界だと強みになったりするよな
でもマイソロ3で一緒に3馬鹿にまとめられてたシングだけは悪落ちのイメージw
318名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/26(火) 09:12:13.91 ID:SBJa+Ijt0
ロッドやルークみたいに悟ってるタイプもなかなかだと思う
319名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/26(火) 09:18:52.99 ID:SBJa+Ijt0
ロッドじゃなくリッドだったwロッドてw
320名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/26(火) 12:51:48.60 ID:N/Jo6ClzO
シングってちょうどロイドとカイルの要素を足して2で割ったような感じだよな
原作での成長のしかたとか性格とか旅立ち方とか、部分的に共通点がけっこうある気がする
321名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/27(水) 03:11:37.78 ID:1vbkyb65O
>>290
ロイドがカイルの立場だったら、やっぱり決断せざるおえなかったと思う
ロイドの場合、周りが助言や方法をくれてたから道が見えていたけど、カイルの場合、便利屋ハロルドですらお手上げだったし

でも、ロイドは落ち込みはすれど、カイル程病んだりはしない気がするんだよな
というか、想像がつかないw
322名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/27(水) 09:41:06.26 ID:qsDXfke2O
ハロルドはお手上げではなかったと思ってる。手はあったはず。ただそれがカイルの好みではなかっただけで。

いや、単なる妄想だけどねw
323名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/27(水) 17:33:00.37 ID:2qrPI2uCO
シングはコハクよりじいちゃんが死んだ方がダメージ大きそうだなあw
324名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/27(水) 18:32:12.87 ID:IXPMZgjd0
それ勝手な個人のイメージじゃね
Hやってないから知らんけど
325名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/27(水) 23:50:33.00 ID:BnqoJnYk0
シングはもっと沸点低いと思うが
仲間の誰かが…レベルでキレるだろう
326名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/28(木) 01:09:07.26 ID:nWkt3wrL0
>>325
バーサスのやり取り見てると確かにそう感じる。
というか本気で馬鹿だろって思う。学業出来る出来ないという
意味じゃなくて、人間的な意味で。
327名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/28(木) 01:15:53.92 ID:46TmXg7P0
ロイドは馬鹿っぷりもいい馬鹿なんだよな
328名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/28(木) 08:52:52.23 ID:rxrviEuqO
>>286
いまさらだけど、
ヴェイグが精神不安定でマーダーになりやすいのは本編で人殺してないからだと思う
死や殺人が身近じゃないぶん、A本編序盤ルークみたいな恐怖と葛藤がロワ中で描けるし
人を殺した場合の精神的ダメージも大きい上不安定になればなるほどフォルス暴走という派手なイベントが起こしやすくなるし
というかヴェイグに限らずRキャラは暴走するために存在してる気がするなロワ的にはw
329名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/28(木) 19:38:51.89 ID:3I/tiHk90
アニーは頑張ったよ…
330名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/01(日) 18:20:11.97 ID:6IZLMkND0
>>326
間接的ってかほぼ直接爺ちゃん殺して母ちゃん発狂させた
ラスボスのために涙を流したっていうのは
凄いイイ奴と思うぜシング

ただ悪堕ちは妙に想像できるw
あ、ヒスイはたぶん鉄板主人公ポジに収まると思います
331名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/06(金) 21:58:00.59 ID:e4EhxyPp0
Rは主人公含めストーリーでパーティーキャラ全員と戦う機会があるっていう、
現在においても唯一無二の作品だからな。戦うイメージも湧きやすい。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/06(金) 23:54:58.13 ID:etu1fYRs0
ヴェイグがロワで敵になりやすいのはガチでボスとして立ち塞がるからかw
333名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/07(土) 12:11:46.62 ID:ljqPVtAY0
普段真面目なタイプって一度キレると恐いしヴェイグはクレアというキレさせやすい理由もあるから書きやすいのかもね
334名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/08(日) 14:35:57.05 ID:N9HYcSfQO
ヴェイグは主人公の中で一番思い悩むタイプに見える。
しかもそれによるフォルス暴走があるから無差別攻撃に持っていける。
そこそこ頭も回るし冷静で理論的な面も見せるから策練って罠をしかけることも可能。
バトロワを盛り上げる上で便利な性質してるほうだなぁとは思う。
335名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/08(日) 23:16:36.29 ID:g7WLCZOf0
しかし今回のヴェイグ見てるとティトレイ来てくれと本気で思う
R組が死者とマーダーしかいないから余計にw
336名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/09(月) 01:10:36.19 ID:cFz86mXOO
アガーテはマーダーか?
337名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/09(月) 02:05:39.64 ID:8X8M3j9vO
マーダーじゃないが晶霊砲うっちゃったからなあw
338名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/09(月) 18:52:29.90 ID:Rc9+T9U60
アガーテが一番多く人殺してもおかしくない
339名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/09(月) 21:04:33.46 ID:xgTPMU0Q0
9時までに何人塔に居るかによるな
340名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/10(火) 02:12:38.48 ID:aGPFYTvN0
キャラ別時刻情報で見ると
塔の屋上にいるのがミトス・ミクトラン・ティア(6時過ぎ)
塔の1階付近にいるのがアッシュ・カイル・ヴェイグ(7時20分前後)
塔の近くで戦ってるのがロニ・シンク・クロエ(9時)

ロニシンククロエは直撃しそうだけど他はまだ少し時間があるね
塔に向かってるキャラもいるから
晶霊砲が塔に届く頃には今とメンバー入れ変わってる可能性もあるのか
あと屋敷組も危ないんだっけ
341名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/10(火) 22:16:55.19 ID:YiLufpAEO
確かにバンエルティア号と塔の延長線上に屋敷はあるが流石にあそこまでは届かんだろw

……届かない………よな…?
342名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/11(水) 21:38:22.28 ID:m9Fe64DaO
届くよ。そもそも晶霊砲うつのは会場のループを確認するためだからね。

でも、地上に影響がないように随分上を狙ってた描写があったはずだから屋敷には影響ないと思う。(というかそんなミスをレイスが考慮してないとは思えん)
343名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/11(水) 21:56:34.32 ID:NCMNRIUJO
今ざっと確認したらシゼルを倒すために撃つ、って言ってた
シゼルがどの程度宙に浮いてるかまでは未確認
直接当たらなくても衝撃波くらいはくるかもね
344名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/12(木) 09:12:16.90 ID:u0r78MNF0
流れぶった切って悪いが、今度のラジオはいつなんだろう。
いつも大体3か月くらいだよな?

…まさか…東日本大震災で…
いや、縁起でもない。悪い考えはやめよう…
345名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/12(木) 10:45:49.64 ID:RqC1frN/O
大丈夫だとは思うけどね…
346名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 00:46:27.51 ID:BNW7eqDo0
ラジオをやっている人間です。
ご心配をおかけしたようですみませんでした。
最近ごたごたしておりまして、6月の初め頃にラジオをやりたいと思います。
また改めて連絡しますので、お楽しみに?お待ちください。
347名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 07:34:28.50 ID:ZXg9jB2O0
いつもお疲れ様です
無事でよかったよ
348名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/18(水) 12:43:36.70 ID:dm5KfN6nO
なあ、少し前のレスにあったけど、ミトスってプレセア√なのか?
248話よく読んだら「僕が乗っ取ったのがプレセアではなくコレットだったこと」って記述の前に「あの最期はあまりにも自己満足が〜」
「ゼロスが生きていたこと」ってあるから、クラトス√でもあることになって矛盾してるような気がするんだが。
勘違いなら申し訳ないんだがもしそうでないなら、近いうちに黎明の塔へ行く可能性があるロイド達D1組とのことを考えると早めにプレセア√orクラトス√
どっちかだけに訂正したほうがよくないかな?
349名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/18(水) 21:48:56.93 ID:lf8uOCXX0
あらホントだ
話の展開的にはプレセア√が正しそうだけど……
作者を待つしかないか
350名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/18(水) 22:37:06.72 ID:MXiCmAgk0
個人的にはそこまで深く追求する必要はないんじゃないか、と思うな。

ちょっとメタな話になってしまうが。
ゲームのシステム内部処理的には「ゼロス死亡」=「クラトス√確定」だけど、
現実には「ゼロス死亡」前提のうえでクラトス以外の√に突入する可能性だってあるよな?
だから「ゼロスが死亡したプレセア√」、って考える事もできると思うんだ。

まあ実際の所は作者さんしか分からないわけだし、「こういう意見もあるよ」程度に軽く受け取ってくれ
351名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/18(水) 22:46:35.80 ID:EuXRE2CC0
Sのコミック版だとゼロスルートかつ、クラトス加入っていうIFルートだし
まあ、そういうことでいいんじゃね?
352名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 21:12:50.81 ID:b6Z4oU6y0
ラディスロウがあったりリッドが生きてたりするのってありなの?
353名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 21:16:31.70 ID:HQaybV0IO
正直リッドが生きてるのは「え?」って思った
354名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 00:28:43.69 ID:ua9mfFbk0
>>353
サイグローグの罠の可能性を忘れちゃいけない。というかあの話を見る限り、俺はサイグローグがキールを鬼に変えるための罠としか思えなかったなあ。
355名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 17:40:53.11 ID:kflvjiU60
ラジオのお知らせです。
今回は、6月4日(土)の22:00からラジオを行います。
お時間がある方はどうぞお聞きください。
よろしくお願いします。
356名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 22:16:07.43 ID:VMuSodoHO
保守ヴァーン
357名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/27(金) 20:20:45.62 ID:EugsFZO/0
俺にも文才あったらなぁ…
358汝、大樹に集う者たちよ 1 @代理:2011/05/29(日) 08:34:44.99 ID:XLeSOHN/0
「どわああぁあああっ!?」

死と闇と狂気を色濃く孕む魔の森『ガオラキア』
そんな恐るべき場所には少々似つかわしくない悲鳴が突如響き渡る。
それとほぼ同時に、木々の枝をへし折り、葉々を散らせながら
『赤』――――ロイド=アーヴィングは落下し、そして地面に着陸した。
着陸と表現したのは、地面激突前に空中で受け身を取り、何とか足から着地出来たからである。
ロイドのような運動神経と咄嗟の判断能力が無ければ、間違い無く頭から落ちていただろう。
打ち所が悪ければ、最悪そこでゲームオーバーとなっていても可笑しくなかったであろう。

「ふう…光に包まれたと思ったら、いきなり高い位置だもんなぁ…びっくりしたぜ」

ロイドは軽く文句を言いつつも、安堵の溜息を吐き、周囲を見渡す。
そして「あれ?」と首を傾げた。

「…ここって、もしかしてガオラキアの森…か?」

確かリアラは転送先を大樹ユグドラシルとしていた筈だが、何か手違いでもあったのだろうか?
それとも大樹がこの付近にあるというのだろうか?だが本来大樹はガオラキアの森には無い筈なのだが…。

「!? そういやリアラとディムロスは!?」

そこでロイドはリアラとディムロスの不在に漸く気付いた。
ロイドは慌てて首を振り、さらに注意深く周囲を見回すが、それらしき影も形も見当たらない。
そもそも何故ロイドが空から―――と言っても地面からせいぜい十数メートル程度だが、
かつてのリアラのように落下するハメになったのか。原因はディムロスが考察した通り、
転送直前、エルレインの攻撃からリアラ達を巻き込まないように距離を置いた事による座標のズレ。
その結果としてリアラ達と逸れてしまい、そしてガオラキアの森上空に転送されてしまった。
不運な話ではあるが、それでも着地点が湖で無いだけマシと言えるだろう。

「不味いな…急いで探さないと」

ロイドは目を閉じると、聴覚を最大限に集中させる。
ガオラキアのような鬱蒼とした森では、視界は余り役に立たない。
話声でも、僅かな足音でも何でも良い、とにかく何か手掛かりを…。

「…ん?」

その時、ロイドの感覚があるものを捉える。
漠然とした感じで明瞭では無いが、大きく、だけど温かな力を。

(この感じ…確か前にも…もしかしてこの先に大樹が?)

何れにせよ、ここで立ち止まっていても何も好転はしないのだ。
大樹を見つけられれば、きっとリアラ達も見つけられる筈。
とにかく感覚を信じて行ってみよう。ロイドは重だるい身体に鞭を打ち、
大樹があると思われる場所に向かって駆け出して行った。
359汝、大樹に集う者たちよ 2 @代理:2011/05/29(日) 08:37:00.05 ID:XLeSOHN/0

「…あの赤い奴は誰だ?」

それを十数メートル程離れた場所の、木々の幹から見ていたのは
キール=ツァイベルとチャットだった。もしロイドが後少し感覚を長く研ぎ澄ませていれば
恐らく2人の存在にも気付いただろう。

「あの方角は…不味い、大樹がある場所か」

万が一にも赤い奴がゲームに乗っていれば、リフィルの身が危ない。
だが、今の自分達が加勢して、見た所前衛型のあの男に勝てるとは到底思えない。
とはいえ、今の段階でリフィルを見殺しには出来ない…というかチャットがそれを許すまい。
事実、チャットはリフィルを救うべく既に木から降り始めていた。

「キールさん、何してるんです!早くリフィルさんの所に向かいましょう!」
「お、おい待て!僕はお前ほど身軽に動けは…って、わっ、たたっ…!?」

キールは確かに頭が良いが、不測の事態には弱い。
まして足場の悪い木々の上では尚更である。チャットに言われるまでも無く放置するつもりは無かった。
そう、あいつが急かしたのが全て悪い!僕はお前やメルディよりも運動神経が無いのは分かり切っているだろうが!
脳裏を駆け巡ったチャットへの恨み節――その僅か半瞬後、派手な、そして情けない悲鳴が上がった。







「おーーーーーい!!!! リアラーーーー!!!!!」

大樹の方角に駆けながら、ロイドは大きな声で叫んだ。
リアラに自分の居場所を知らせるためと、万が一リアラが敵に襲われていたら
敵をこちらに引きつけるためだが、今の状況下で再び戦闘ともなれば
かなり厳しい状況となるのは間違いない。それでもリアラだけでも逃がさねば―――。

「ロイド…! ロイドー、ここよーーー!!」
「…………ロイド…………!」

幸い敵に見つかる事無く、ロイドはリアラの声と姿を捉える事が出来た。
そして一瞬の間を置き、ロイドはリアラの傍にいたリフィルの姿を捉えた。

「あれは…ひょっとして先生…!?リアラーーーーー!!!先生ーーーーーー!!!」

ロイドは踏み出す足にさらに力を込め、2人に向かって駆け出す。
リアラとリフィルも、ロイドに向かって走り出す。そして数秒後―――3人はついに再会を果たした。





「本当良かった………」
「俺も本当嬉しいよ。リアラに……そして先生にこうして会えて…」
「ロイド………」

力強く抱き合い、再会を喜ぶ3人に、久しく笑みが零れる。
このバトルロワイアルが始まって以来、悲しみ、怒り、疑惑と言った負の感情ばかりを抱えていた3人にとって
本当に嬉しい出来事だった。正しく地獄に仏、干天の慈雨―――狂気と殺意に満ちた舞台にいる事すら忘れさせてくれた。
だが喜びは長くは続かなかった。ふとリフィルの視界の端にマナが具現視覚化された蒼い翼が入る。天使化特有の淡い光を纏う羽、翼――何故それがロイドから?
湧き上がる疑問と同時に身体に生温かい感触を覚え、視線を移す。そして一気に血の気が引いた。
血―――それも大量の。そしてその血の出処は――――。
360汝、大樹に集う者たちよ 3 @代理:2011/05/29(日) 08:39:10.41 ID:XLeSOHN/0
「ロイド…!そ、その胸の傷……!」
「ん?あ、ああ。これ位大した事―」「大した事無い訳ないでしょ!」「おわっ!?」「きゃあ!?」

リフィルの怒声と形相に、ロイドは思わず後ずさり、リアラも小さく悲鳴を上げた。
無理も無い。余りにロイドが普段と一見変わりない様子だったため、リアラも失念しかけていたが、
ロイドは致命傷と言ってもおかしくない程の大きな傷を負っているのである。見ようによってはホラー映画のワンシーンのような光景。
天使化の詳細を知っていようがいまいが、リフィルの焦りや怒りは至極当然と言えた。

「怪我の手当てをするから早くここに座りなさい!」
「わ、分かった…」

自分の状態は分かってるし、リフィルの態度も分かるが、何もこんな至近距離で怒鳴らなくとも…と正直心の中で思ったが、
それを口に出した日には尻叩きどころか尻蹴りに処されてもおかしくない。その光景を想像して身震いしたロイドは素直に頷いた。
幾ら天使化しててもそんな痛い目は御免被る。何よりそんなの全然クールじゃねえ!
幾ら真の世界再生を成し遂げようと、天使となり天空を舞い、神の剣を振るおうと、
やはり教師には勝てない教え子、そしてどこかズレてるロイドだった。

「命を育む女神の抱擁を…キュア」

力強く、そして温かな光がロイドを包み込む。
先程の言動から、リフィルが腕の立つ治癒術師だとリアラは予想していたが、これは想像以上である。
確かに彼女ほどの腕前ならば、ロイドの治療は容易かったであろう……そう、この『舞台』で無ければ。

「ふう…大分楽になったよ。本当ありがとな」

ロイドの笑顔とは対照的に、リアラとリフィルの表情は暗かった。
確かに、見た所顔色も随分良くなったようだし、胸の傷からの出血も止まったようだ。
だが完治には程遠いのは一目瞭然。このままではロイドは助からない――それがリフィルだけでなくリアラ、ディムロス、そしてクレメンテの認識であった。
そもそもキュアは高位治癒術であり、瀕死の状態から完治させる事も可能なのである。
そう…先刻のクレスも、この舞台で無ければ確実に助けられた筈だったのだ。だが結果は知っての通り――。
とにかく、キュアでさえこの程度の回復しか出来ないのだ。奇跡の力を併用すれば、あるいはともリアラは思ったが、
実行するだけの精神力が足りない。そうなると現状ロイドを救う手段はかなり限られるということになる。

「せめて、治癒術がしっかり効く環境か、エリクシールのような強力な回復薬があれば何とかなるのだけど…」
「ゴメンなさい…私にもう少し力があれば…」
「そんな顔しないでくれよ、先生、リアラ。さっきの治癒術のお陰で大分元気になったから、まだまだ大丈夫さ」

そう言うとロイドは立ち上がり、大樹に向かって歩き出した。単なる虚勢では無い。
ロイド自身も、このままでは助からないであろうことは分かっているが、それを気に病んでいても何も事態は改善しないばかりか、
リアラや先生達に余計な心配を掛けるだけである。今は自分に出来る事を精一杯やろう―――それがロイドの考えだった。

(大樹…ユグドラシル…か)

ロイドは大樹の根元に立つと、幹を見上げ、そして目を細めた。
当初は同名の全く違う大樹の可能性もあったが、大樹を目の前にして、
紛れも無く自分達の世界の大樹――『ユグドラシル』であることをロイドは確信した。
勿論、ロイド達の世界ではまだ小さな木であり、このような堂々たる姿となるまでに数百年から数千年以上かかる筈である。
それでもロイドが何の疑いも抱かなかったのは、嘗て精霊マーテルによって1度だけ未来の大樹の姿を見せられていたことと、
ロイドが精霊マーテルの加護を受けていたことで、多少なりとも大樹の力を感じ取れるようになっていたからであろう。
361汝、大樹に集う者たちよ 4 @代理:2011/05/29(日) 08:42:36.37 ID:XLeSOHN/0
(そういえば…マーテルはここにいないみたいだな。あのサイグローグって奴に捕まっちまったのか?)

精霊が捕まるなんて余り聞いた事の無い話だが、自分が知らないだけで方法はあるかもしれない。
だとしたら一体マーテルはどこに囚われているのだろうか、そう考えを巡らせていた時だった。
ロイドの天使聴覚がリアラや先生とは別の僅かな話声と物音を捉えたのは。
すぐさまロイドは振り向き、剣を抜くと鋭い声で叫んだ。

「誰だ!?」

その声にリアラとリフィルは一瞬驚いたが、すぐさま各々の武器を構え、
ロイドの視線の先を警戒する。急速に高まる緊張―――その時だった。

「ま、待って下さい!ボクは…ボク達は敵ではありません!」

そう言って慌てて飛び出してきたのはチャットだった。
その姿を見て、リフィルは安堵の吐息を吐き、構えを解く。
リアラはまだ完全に警戒を解かずディムロスを構えたままリフィルに問い掛けた。

「…リフィルさんの仲間、ですか?」
「ええ、私がこの世界で会った仲間の………」
チャットの事を紹介しようとしたリフィルだったが、その直後現われたキールの姿に
言葉に詰まってしまった。先刻までのキールは顔に大した傷を負って無かった筈であるが
今のキールは鼻の頭が擦り?け、右目付近が大きく腫れて青痣となり、
顔全体も恐らく鼻血によるものか赤茶色く汚れて、どこか滑稽な有様であった。
リフィルは軽く笑いを堪えながらキールに問い掛けた。

「…この3時間の間に一体何があったのかしら?」
「…ちょっとしくじっただけだ。黙秘させてもらう」

言える訳が無い!足を滑らせて木から落ちて顔を打った不様な事故なんて!
それでも碌に詠唱も出来ない状況にも拘らず、咄嗟に不完全ながらもエアリアルボードを構築し、
辛うじて落下速度を減速させることに成功したのはなかなかのものと言えるであろう。
万が一減速に失敗していれば、戦闘に支障をきたす重傷を負っていたに違いない。

「それよりそいつらは一体誰なんだ!?リフィル、お前の世界の知り合いか何かなのか!?」
「あ、えっと…私はリアr」「人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀じゃないか?」

キールに指差されたリアラは、とりあえず自己紹介しようとしたが
ロイドの言葉に遮られ、途中で止まってしまった。だが言われてみればロイドの指摘は至極まっとうであり、
いきなり初対面の者に指を指され、挙句怒鳴られる筋合いは無い。
一方、ロイドにあっさり返されてしまったキールは苛立ちを隠せなかった。これがファラ、メルディならば謝罪し、
ちゃんと自己紹介したであろうが、残念ながらキールは自分の非をすぐ認められるほど心は広くない。
謝罪や自己紹介では無く、フンと鼻を鳴らし冷たく言った。

「……生憎だが、敵か味方か分からない相手に不用意に情報を与える程、僕は愚かでは―」「ボクはチャットです」

(っておい!何お前は素直に自己紹介をしている!?)
これでは僕が非情に心が狭い&底抜けの間抜けじゃないか!キールは顔を真っ赤にして心の中で怒鳴った。

「私はリアラ。リアラ=デュナミスよ」
『ディムロスだ』
「俺はロイド=アーヴィング。宜しくな、チャット」
「リアラさんにディムロスさん、それにロイドさんですね。こちらこそ宜しくお願いします」
「先生は今までずっとチャットと一緒に行動してたのか?」
「ええ、チャットと出会ってからは一緒に―――」

(しかも僕を完全無視して勝手に話が進んでる!?)
キールが脳内で盛大に怒鳴っている間も、リフィル達は話を続けていた。
しかも腹立たしい事にこちらに全く見向きもしない!こいつら僕を一体何だと思っているんだッッ!!!
362汝、大樹に集う者たちよ 5 @代理:2011/05/29(日) 08:45:25.03 ID:XLeSOHN/0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

余りにも無礼な仕打ちに頭に血が上り、キールは思わず声に出して怒鳴りかけたが、
寸での所で踏み止まった。ここで怒鳴っても自分の評価がどんどん下がって行くだけである。
気持ちは分かるが落ち着けキール=ツァイベル。そう何とか自分に言い聞かせ、
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせるとロイド達にしっかり聞こえるよう少々強めに言った。

「キール!」
「「「「「?」」」」」
「僕の名前はキール=ツァイベルだ!」

一瞬予想外の自己紹介にキョトンとした表情を一同は浮かべたが、
すぐロイドは笑顔を作るとキールに歩み寄り、そして手を差し出した。

「ああ、これから宜しくな、キール」
「………フン」

少々無愛想ながらも、屈託の無いロイドの笑顔に少しは気を許せたのか、
キールは差し出された手を拒む事無く握った。その様子を見ながらリフィル達も微笑を浮かべる。
こうして2組のパーティが無事合流を果たすことに成功した。



「再会早々悪いがそろそろ時間だ。急ぎ塔に向かう必要がある。異論は無いな?」

改めて互いの自己紹介が済むと、単刀直入にキールが切り出した。
アッシュが塔に単身向かい既に3時間。無事に戻って来れば何も問題無かったし、余計な手間も省けたのだが
残念ながら戻って来る気配は欠片も無い。こちらに帰還途中ならばまだ良いが、そうそう都合の良い事態は期待出来まい。
まだ厄介事に巻き込まれているか、あるいは怪我を負ったか何かで身動きが取れない状態か、最悪の場合――――。
いずれにせよチャットの手前放置は出来ない。それに塔にはサレに連れ去られたマルタがいる可能性がある。
…こちらはアッシュ以上に未だ無事である可能性は低いが、同様にこのまま見殺しには出来ない。
無論ロイド、リアラには全く異論は無い。

「ああ、俺達の仲間もきっと塔で待っている筈――」「待って」

同意しようとロイドが口を開いたその時、リフィルが異論を述べた。
周囲の視線がリフィルに集中する。

「申し訳無いけど、あと10分だけ出発の時間を延ばして貰えないかしら?」
「先生!?」
「…何故だ?」

思いもかけぬ言葉にロイドは軽く驚き、キールが不快そうに眉を顰める。
キールの気持ちが分からぬでもないが、リフィルも今回ばかりは引くつもりは無い。

「2人は戦闘に支障をきたすほど精神力を大きく消耗しているわ。今の状態で万が一戦闘ともなれば危険な状況に陥る恐れが高い…。
幸いここは大樹の影響でマナの濃度が濃い。短時間の精神力の回復に向いているわ」

リフィルはロイドの状態を正確に判断していた。
今は天使化により命を繋いでいるが、それが解除された瞬間、出血多量でロイドは間違い無く死ぬ。
つまり、天使化を維持するだけの必要な精神力―――マナが尽きるまでがロイドのタイムリミット。

「今後より厳しい戦いを強いられる事は十分考えられるわ。だからこそ可能な限り態勢は整えておきたいのよ」

それ故に、傷は修復出来なくとも最低限ロイドの精神力をある程度は回復させておく必要があると考えていた。
ロイドの性格ならば、自分の身に危険が迫ろうと、必ず先陣を切って仲間ために両剣を振るうだろう。それを今の自分に止める術は無い。
それならば可能な限り延命処置は施しておきたかった。

「それに…お互いが持つ情報をそろそろ整理しておく必要があるわ」
363汝、大樹に集う者たちよ 6 @代理:2011/05/29(日) 08:47:33.42 ID:XLeSOHN/0
それに後者の情報整理も必要であった。
余りに事が大きくなり、互いの情報交換が済んでいないのだ。
ここから先、生き残っている敵は強者か相応の曲者と見て良い。
シンクの一件もあるように、可能な限り情報は集めて置く必要があった。

『リフィルの意見に賛成だ。今の2人には短時間でも精神力を回復させる時間が、そして我らは今後の戦いを有利に進める為にも
互いの持つ情報を交換しておく必要があるだろう。急ぐ気持ちは分かるが、だからこそこの10分は非情に意味がある』

リフィルの言葉にディムロスも同意する。
幸いエルレインの追跡は振り切ったが、何時また戦闘となるか分からない。
それにシンクの件がある。そろそろロイドには事実を伝えておかねばならない。

キールは少しの間険しい顔で考えていたが、やがて不承々々ながらも頷いた。
これ以上時間の浪費は正直避けたいのが本音だが、塔に万が一サレがいるのであれば間違いなく戦闘となる。
マルタ救出(正直言って厳しいとは思うが)時に余計な荷物を背負い、足を引っ張られる事態は出来るだけ避けたい。

「…分かった。確かに情報は少しでも多く欲しい所だ。だが10分だけだ。それ以上は待てない。いいな?」
「ええ。ありがとう」

リフィルはキールに礼を言うと、ロイド達に視線を移した。正直言えば、先刻のジェイドの死を
まだ整理しきれていない。だが、今後の為にも起こった事をこの場で伝えておかねばならない。

「まずは私から話すわ。これまでに何が起きたか…」

そう言うと、リフィルは要点を掻い摘んで話し始めた。



(有益な情報や興味深い情報も多かったが、決定的な情報とまではいかなかったな)

キール=ツァイベルは各々から齎された情報をまとめながら、僅かながらの失望感を抱いていた。
それでも自分達の世界の仲間が命を落としたり、あるいはマーダーに堕ちたといった情報が無かったお陰で
ロイドやリアラ達と違い余計な精神負担を負う事なく情報整理が出来た点は幸いと言えるだろうが。

(それでも、今後警戒すべき人物をある程度把握出来た事は良しとすべきか)

情報を整理すると殺し合いに確実に乗ったと断言出来て、且つ未だ生存している可能性が高いのはミクトラン、エルレイン、サレ、シンク、デクスの5名。
殺し合いに乗ったと断言は出来ないが、その危険性が高く、警戒すべきと思われるのはシゼル、スタン、イレーヌ、ロニ、ヴェイグ、ルカの6名。

(その中で特に危険視すべきはミクトラン、シンク、エルレイン、シゼルの4名か)

危険人物の内、前者2名は戦闘能力の高さと同時に、権謀術数に長けている点が相当危険であり、厄介と見るべきだろう。
クレメンテ、ディムロス、リアラからの情報と、ロイドとリフィルの仲間であったリーガル=ブライアン殺害(あくまで証言からの判断で確定では無いが)より
ミクトラン相手に交渉の余地は皆無であり、服従か抵抗しか選択肢は無いと見て置くべきだろう。シンクは外見からは騎士団の実力者であり、同時に参謀総長を務める程の謀将であるなど
到底見抜く事は出来まい。幸いこの場で正体や本性を知る事は出来たが、それすらもシンクにとって計算済の可能性が高い。ある意味最も手を焼くタイプと言えるかもしれない。
後者2名はその圧倒的且つ絶対的な力を最大限警戒すべきだろう。シゼルは言うまでも無い。ネレイドの呪縛から解放されていれば心強い味方となってくれる可能性が高いが、
万が一ネレイドの支配下にあればその危険度はミクトランの比ではあるまい。その気になれば世界を消滅させる事も可能とされる闇の極光術を、真の極光術無しで
まともに相手にしてはまず勝ち目は無い。頼みの綱はレイスだが、不完全な極光術で一体どこまで相対する事が出来るか…不安は尽きないな。
エルレインは実際に相対せねばハッキリ分からないが、ロイド達の話と、ロイドが受けた傷を見る限り、少なくともシゼル級の晶霊力の持ち主と考えておいた方が良さそうである。

(あと…動向が気がかりなのがスタン=エルロン、イレーヌ=レンブラント、ロニ=デュナミスの3名だな)
364汝、大樹に集う者たちよ 7 @代理:2011/05/29(日) 08:50:36.08 ID:XLeSOHN/0

元々スタンはディムロスの本来の持ち主だったらしく、その凶行にディムロスはショックを隠せなかった。クレメンテも同様である。
そしてそのスタンの傍にイレーヌという女性がいたという事実。これが2人…と言うより2本と言うべきか、憂患を酷く深いものとしていた。
イレーヌという女性は、それ程スタンにとって影響の大きな存在だったということなのだろうか。だが、それ以上にキールが気がかりなのは
スタンがカイル=デュナミスの実の父であり(といっても18年後の話だが)そのスタンが手に掛けたナナリー=フレッチと言うのが、
リアラとカイルの仲間、そして…ロニ=デュナミスにとって大切な存在だったという事。勿論、キールはロニの傍らであの悪趣味な放送を聞いていたのだ。
ロニの取り乱しようから見て、2人が親密な関係であった事は前から理解は出来てたが、それがスタンの凶行によるものと知った時果たしてどうなってしまうのか。
ただでさえサレとの戦いの段階で、ロニの精神は既に限界に近かった。そこに重なったアリエッタの襲撃、ウッドロウ=ケルヴィンの誤殺。
(ウッドロウの死に関してもディムロスとリアラは衝撃を受けていたが、キリが無いから割愛する)これがついにロニを暴走させてしまった。
今ロニがどこにいるかは分からないが、次に会った時は………そういえばリアラはロニの仲間だったらしく、酷く悲しみ、そして心配していたな。
先刻までウッドロウの誤殺の一件を思い出し、泣いていたチャットを慰めていたが…ロニやカイルの身にもしもの事があった時、
この少女もロニ同様危険な状況に陥ると警戒はしておくべきかもしれない。
キールは一通り自分が纏めたメモを確認し終えるとサックに仕舞った。他にも警戒すべき人物は多いだろうが、
これ以上はキリがないし、要は首輪を解除し、脱出経路さえ見つけ出せばこんな場所に長居する必要は無く、
先程挙げた危険人物と戦う必要も無い。無論出くわしてしまえば最悪戦う必要はあるだろうが…。

(とにかく急ぎ塔へ向かい、アッシュと合流しなければならない。そしてマルタがいれば早く救出、保護する必要がある)

マルタの容体から見て、早めに処置をしなければ命に関わる恐れがある。尤も、あれから3時間…アッシュとマルタが未だ塔にいるのか、
それ以前に無事であるかの保証は全く無いのだが、最悪両者共に死亡していたとしても(アッシュに関してはチャットの精神安定の為にも
まだ死なれては困るが)、少なくとも次の目的地までの距離は大きく縮まるため、全く無駄な行為では無い。

(ここから西の海底に存在する可能性が高いラディスロウ…そしてロイド達が言っていたレムの塔…か)

ラディスロウも興味深いが、前述したように海底に行く術が無いのと、実在するかどうか確証は無い。
だがレムの塔は実在し、現にその塔の転送装置を使用し、ロイド達はF6からD1まで瞬時に移動してきたのだ。
これは非情に興味深い話である。一見一聞には殺し合いの円滑化のために転送装置を用意したようにも見えるが、恐らくそんな単純な話では無い。

(レムの塔―――偶然か否か、僕達の世界インフェリアの高位大晶霊の名を冠する塔)

転送装置の話を聞いた時、キールがふと思い出したのは自分達の世界にあった『光の橋』の存在であった。
ファロース山頂上に備え付けられた光の橋は、セレスティアへの転送装置で、元々起動にレムの力―光晶力を必要としていた。
実際に設備を目の前にせねば判断は出来ぬが、もしレムの塔に設置された転送装置が光の橋と同様の物であれば、
起動に必要な光晶霊さえ確保出来れば塔の設備を完全に起動出来る筈である。さらに言えば、自分達がこの悪趣味な舞台に転送された際に
使用された装置がレムの塔と同様の物であれば…転送座標や記録の解析によって脱出経路を割り出す事も不可能では無い。
僅かではあるが、漸く見出した脱出の可能性―――絶対に見逃す訳にはいかない。

(さて、もう10分は過ぎている。そろそろ出発だが………この期に及んでまだ思い悩んでるのか、あいつは)

キールは湧き上がる不満を抑えながら視線を1点に移した。
その視線の先にいたのは、つい先程仲間となった赤――――ロイド=アーヴイングだった。
365汝、大樹に集う者たちよ 8 @代理:2011/05/29(日) 08:52:58.51 ID:XLeSOHN/0




大樹での僅かな休息によって、ロイドの精神力はある程度回復したが、
その心は酷く重かった。放送で既に知っていたが、リーガルの死を改めて聞かされた事も要因だが、
最大の要因は明白―――そう、シンクが自分達を騙していた事実が相当のショックだった。

(俺は…ずっとシンクに騙されてたんだな……)

シンクが嘘を吐いている、殺し合いに乗っている可能性は確かに0では無かった。
それでもロイドは信じたかった。あの時のシンクの表情には紛れも無く後悔の念と、大きな罪の意識が浮かんでいた。
現にシンクは己の罪を償う為に自殺までしようとしていた。あの時自分が止めなければ、確実にその命は無かった。
リアラを助けに行く時、シンクは自分の身の危険を顧みず、聖剣ロストセレスティを快く貸し与えてくれた。
――それら全てが演技だったとは到底思えない―――否、思いたくなかった。
だが、現実は冷酷、無情。アトワイトの指摘はやはり正しかったのだ。リアラ達から告げられたディスト、ノーマ殺害の真実(ルビアだけはリアラ達でさえ分からなかったが)
そして追い討ちだったのは、先生とクレメンテから告げられたシンクの正体。最早ロイドに抗弁、反論の余地は無かった。

(クロエやアトワイトのためにも、仲間達のためにも、シンクをこのままにしておくことは出来ない。けど………)

最悪の事態を避けるためにも、クロエとアトワイトとも連携し、シンクを追い詰め、後々の禍根を絶たねばならない―――それがディムロスや先生達の判断だった。
確かに、仲間達の身の安全を考えるならばそれが正しいのは明白。だが…――――。

『アトワイトとの交信可能な有効範囲内に入り次第、すぐにシンクの状況を確認し、問題無ければ奴を追い詰め、討ち取る。依存は無いな?』
「………シンクの凶行を止めることには賛成だ。でも討ち取るって話なら俺は反対だ」
「ロイド!?」

ディムロスの提案に対して発せられた思いも掛けぬロイドの言葉に、
一同が驚きや非難の声を上げた。

『ロイド、今自分が何を言ったか分かっているのか?』
「…ああ、分かってる。俺がずっと騙されていた事、シンクの過去やアイツがどれだけ酷い事をやったのか…全て分かっている」
「だったら何故反対する!?シンクがどれだけ危険な奴か、お前もリフィルやクレメンテ達の話で知った筈だ!なら奴を斃して、僕達の身の安全を少しでも図るのが最善の策じゃないか!!」

ディムロスの怒声、キールの非難は尤もだとロイドは思う。繰り返しになるが、シンクの前歴や正体からいけば、キールの言うとおりシンクを斃す事が最も安全なのであろう。
自分だけならともかく、リアラや先生、チャットの身の安全を図るのであれば尚更である。だがロイドにはその気が起きなかった。

「俺は…このゲームに乗らないと決めたんだ。死んだプレセアやリーガル、ノーマ達の為にも」
「だけど………」
「勿論、問答無用で襲ってくる奴や、俺の前で人を殺そうとする奴がいたら全力で立ち向かい、止めて見せる。でも………殺しはしない」

心配そうに言うリアラに対して、ロイドは笑顔で答える。
だがその内容が気に入らなかったか、キールの声が大きく且つ荒くなる。

「じゃあ何だ、お前は殺し合いに乗った連中を…シンクを懲らしめたら後は放ったらかしとでも言うのか!その後シンクが誰かを殺しても良いっていうのか!」
「そんな事させない!その為にも、俺はシンクを説得する。その為にも、アイツから話を聞いて、その真意を知りたい。それがダメなら…俺は力付くでアイツを止めてみせる!」
「この大馬鹿――」『少し落ち着くんじゃ、キール』

キールが再び声を荒げようとした時、クレメンテがそれを制した。
言葉は穏やかだが、剣に似つかぬ迫力を込めた言葉に、キールは思わず押し黙る。
キールが落ち着いたのを見計らって、クレメンテはロイドに対して言葉を発した。

『ロイドや、お主の信念は理解出来るし、評価も出来る。じゃが、現実はお主が考えているより遥かに厳しいぞい』
『老の言うとおりだ。ここは小なれど戦場だ。戦場では僅かな油断や甘い判断が致命的な結果を招くことになる……そう、我のように』
366汝、大樹に集う者たちよ 9 @代理:2011/05/29(日) 08:55:13.54 ID:XLeSOHN/0

クレメンテの言葉に同意するようにディムロスもコアクリスタルを輝かせる。
ディムロス自身、判断を誤ったが為にルビアに重傷を負わせ、最終的に落命させてしまったのだ。
エルレインとの戦いでも、もしあと一歩判断が遅れていればリアラだけでなく、ロイドも命を落とし、自身もエルレインの手に堕ちていた所であろう。

「…大体、真意を知った所で奴をどう説得出来るというんだ?それに説得が上手くいかなかったら力付くで止めると言ったが、
1度止めた所で生きてる内は同じ事を繰り返しかねない。お前はその都度奴を止めるつもりなのか?」
「ああ、何度だって止めてやるさ。何があっても俺の手で、必ず」「―――ふざけないで」

クレメンテのお陰で少々落ち着きを取り戻したキールの問い掛けに力強く答えるロイドに対し、
突如リフィルから非難の声が上がった。静かではあるが、思いの外厳しい声と視線に、ロイドは僅かに戸惑いの表情を見せる。

「先、生………?」
「ロイド、貴方は現実を…この世界の過酷さを、危険さを何も分かっていない………!」

この殺し合いの舞台の異常さは、当初から理解はしていた…否、理解していたつもりだった。
だが、それが何と甘い認識であったことか。かつて苦楽を共にした仲間達は次々と凶刃に斃れ、
この舞台で出会った心優しき少女は、狂気の渦の前に儚く命を散らした。
剣士が命を賭け、守ろうとした少女は復讐の狂気に取り憑かれ、
憎しみの牙と爪を振るい、1人の軍人に突き立て、その命を容易く奪い去った。

「私達の世界とはまるで違う…老やディムロスの言うとおり、ここでは僅かな情や甘さが…取り返しの付かない結果を招く……!」

…否、命を奪ったのは他ならぬ私だ。私は…教え子達と同じ年頃の少女が目の前で命を散らすのを看過出来なかった。
あの場での大佐の判断は間違いでは無かった。アリエッタの凶行を止めるには、それしか術が無かった。
にも拘らず、私は場違いな感情を抱き、軽率な行動を取ってしまった。そしてその代償は余りにも大きかった。

「貴方の考えは、いつか必ず致命的な結果を招く。貴方だけじゃない。貴方の周りにいる者達まで巻き込んで………貴方はそれでも良いと言うの!?」

“周囲を巻き込む恐れ”―――ロイドが恐れるのはリフィルが指摘したまさにその点であった。
己が信念を捨てれば、その時自分は死ぬ。それならば例え命を落とす事となっても、自分をせめて貫き通したい。
――先刻そう決意したとは言え、その決意により周囲を巻き込み、命を奪う事になっては何も意味を為さぬのである。
一体如何すれば、己が信念を貫きながら、仲間を守るか―――そこがロイドが悩み、恐れる所であった。

「………先生の言うとおり、俺のせいで皆を巻き込むような真似だけはしたくない」

その言葉に、リフィルは僅かに安堵の念を抱きかけたが、それはすぐさま次の言葉によって打ち砕かれた。

「…だから俺は、自分の選択を最後まで――この命が尽きる瞬間まで責任を持つ。俺のせいで誰かを犠牲には絶対にしない…この命と引き換えとなっても」
『ロイド、お前は自分を犠牲にするつもりなのか…!?』
「…勿論、俺だって命は惜しいさ。だから自分が犠牲になって皆が助かればそれで良いなんて考えは絶対しない。みっともなくとも足掻いて足掻いて足掻き切ってやるさ。でも…」

ディムロスの怒りにも困惑にも似た問い掛けに、ロイドは僅かに苦笑したが、
すぐさま表情を引き締め、そして言った。

「俺がこの先目指す道が…どう頑張っても大きな犠牲を避けられないというなら、その時は俺が犠牲となる覚悟は出来てる」

余りにも悲痛で悲壮な決意に、さすがのディムロスとクレメンテも言葉を失い、キールは打ちのめされたような表情を湛えながらロイドを見つめた。
チャットも戸惑いを隠せず、リアラは悲しそうに目を伏せた。そしてリフィルは先程よりも遥かに取り乱した表情と声でロイドに詰め寄った。
367汝、大樹に集う者たちよ 10 @代理:2011/05/29(日) 08:57:51.60 ID:XLeSOHN/0

「駄目よ!私はそんなの絶対認める訳にはいかない!」
「悪い、先生…今回ばかりは俺も引けない」

ロイドは悲しみを表情に湛えながらも、目を逸らす事無く真っすぐ、だけど強くリフィルを見つめた。
こう決意した時は、ロイドは絶対に引かない、絶対諦めないであろうことは、彼が小さかった頃からの付き合いであるリフィルはよく知っていた。
だが、今までとは事情がまるで違う。ほぼこの舞台で死ぬ事を宣言したに等しい大切な教え子を、このまま黙認するなどリフィルには到底出来なかった。

「私は……私は……貴方にまで、私と同じ失敗を、苦しみや悲しみを味わわせるわけにはいかないのよ………!」

リフィルの瞳から、涙が次々と零れ落ちる。ロイドの決意は痛い程よく分かる。
出来れば尊重してあげたいと一方では思う。それも紛れも無く本音だった。

「私のせいで……大佐は……」

そう、どうしてもこの結果に行き着いてしまうのである。治癒術師として、教師として―――
理想を、未来を守ろうとした彼女の信念が、人の命を奪ってしまったという事実が、どうしても最悪の未来を描いてしまうのである。
そう、ロイドの理想――すなわち自分達ハーフエルフの理想が、狂気の舞台の中で砕け散ってしまう、そんな未来を。
もしそうなれば、母のように壊れて、そして―――リフィル=セイジという個は死んでしまうであろう。

「……………………」

ロイドは目の前で涙を零し、嗚咽を漏らす先生を前に、胸が締め付けられる思いだった。
先生がどれだけ自分の選択を後悔していたか、どれだけ罪の意識に苦しんでいたかを思い知らされ、
そして自分に同じ轍を踏ませたくない、死なせたくない――そんな切実な願いや思いが痛い程伝わってきた。
だけど一方で、不謹慎ではあるがロイドは安堵の念も抱いていた。それが予想外の言葉となった。

「…こんなこと言うのは本当はダメだと思うけどな、俺は良かったと思ってる」

余りに思いもかけぬロイドの言葉に、リフィルは思わず顔を上げ、驚きの視線をロイドに向けた。

「…先生、時々自分の興味を引いたものに対して研究者のようになるだろ?俺、それで1回だけ嫌だと思う事があった」

それはロイド達がコレットを元に戻すべくテセアラに渡った時の話である。
クルシスの輝石を研究しているサイバックの王立研究所で、コレットが感情を失った原因を告げられた時、
漸く見出した可能性に希望を抱いた一同の中で、唯一リフィルはクルシスの輝石の性質について大きく興味を示し、
コレットに対してまで研究者のような視線を向けたのである。

「コレットが苦しんでるのに、こんなに酷い目に遭ってるのに、どうしてそんな酷い事が言えるのかって…その時は凄く嫌な気持ちだった」

まあ、そういう気持ちになったのは後にも先にもそれだけだったけどとロイドは言ったが、リフィルは湧き上がる罪悪感に思わず俯いた。
ロイドの非難は至極尤もで、事実その時、大切な教え子を救う事より、クルシスの輝石による興味の方が上回っていたのだ。
改めて自分の存在とは、どれだけ理想を掲げようと、他者を傷つけずにはいられないものかもしれない――そう思った時だった。

「…でも、先生がアリエッタって子を必死で助けようとしたって話聞いて、俺、先生が先生であってくれてホッとしたんだ。」

思いも掛けぬロイドの言葉に、再びリフィルは驚きの視線を向けた。
ロイドは知っている。先生は確かに怒るとおっかないし、料理も壊滅的に酷い。何回酷い目に遭ったかも正直覚えていない。
だけどロイドやコレット、ジーニアスは勿論、他の生徒達の事を、その将来を誰よりも真剣に考えて、そして大事に思っていた事を。
疑問や難問にぶつかり自分達が悩んだ時、一緒に考え、答えが分かると一緒に喜んでくれた事を。
そんな先生だったからこそ、大樹暴走の一件で村長に責められた時、ハーフエルフであることを知られた後でも
生徒達の先生に対する好意は変わる事無く、そして躊躇う事無く庇ったのだ。
それはロイドも同じだった。そんな先生が好きだったからこそ、一時はリフィル先生のファンクラブに入りたいとさえ思ったのだ。
(尤も、今は仲間達にコレットを怒らせたく無ければ止めておけと口を揃えて警告されたので断念したが)
368汝、大樹に集う者たちよ 11 @代理:2011/05/29(日) 09:00:18.13 ID:XLeSOHN/0

「結果的にはそれがジェイドって人を死なせちまったかもしれないけど…そのジェイドって人には申し訳ないけど、
俺は先生まで、サイグローグの為に殺し合いに乗る事にならなくて本当良かったと思ってるんだ」

これはロイドにとっての我儘かもしれない。でも、自分の知る大切な仲間達が変わってしまうのを
出来るだけ見たくは無かった。好きであればあるほど、その思いは強かった。勿論、それだけでは無い。

「だってさ、自分達の身の安全の為に誰かを殺してしまったら、結局それってサイグローグの良いように殺し合いに乗るのと変わらないだろ?」

その言葉に、一同はハッとさせられた。ロイドの言葉が核心を付いたからだ。
“貴方は既にゲームに乗っている”それは先刻ロニ=デュナミスに向けて発せられた言葉。
だが一方で、それは参加者の多くに向けて発せられた言葉でもあった。
そう、次々と参加者を殺して行くマーダーも、脱出の為に、その妨げとなる者を手にかける事も、
結局は同じ――サイグローグの思惑に乗る事と一緒なのである。その事にロイドは早くから気付いていた。

「ロイド……でも………大佐は………」
「そのジェイドって人がどんな人か俺はよく分からないけど…俺達がこれから皆の為に頑張れば、そのジェイドって人もきっと許してくれる、俺はそう信じてる」

だから…そう言うと、ロイドはリフィルに向かって頭を深々と下げた。

「無理な願いだって言うのは分かってる。でも先生、どうか俺に力を貸してくれ!これ以上の犠牲や悲しみ、苦しみを生みださない為に…!」

戦う理由は人それぞれであり、幾らそれが結果的にサイグローグの思惑に乗ってしまう事になろうと
その者達にどうしても譲れぬものがあるならば、強制は出来ない。それは先生に対しても同じ事が言える。
でも、1人でも多くの仲間がサイグローグの思惑に乗ることなく戦ってくれれば…出来れば先生や、この場にはいないクラトスだけでも協力してくれれば…
そう心の奥底でロイドは願っていた。仲間を巻き込みたくないという思いとは確かに矛盾してしまう。都合が良過ぎる願いだとも思う。
だが、同志が1人でも多ければ、それだけ犠牲を減らし、より多くの者をここから脱出させることが出来る、サイグローグに立ち向かう事が出来る。
その思いと願い、希望を込めて、ロイドはリフィルの次の言葉を待った。



「……………………」

ロイドの願いに対し、リフィルは暫し無言だった。無理も無いと傍で聞いていたディムロスは思う。
確かにロイドの指摘する通り、今のままでは全てがサイグローグの手の内で踊らされるだけであろう。
だからといってそれを拒否して今後の戦いを切り抜けられるか、脱出の手段を見つけ出すまで
生き残れるか極めて疑問である。それ故にロイドに対する協力を勧める気にはならなかった。
リフィルもその点で大きく悩んでいるに違いない。

『…ロイドよ、確かにお前の言うとおりかもしれぬが。だが―――』
「…そうね。いつも貴方はそうだった」
『リフィル?』

この世界には決して変えられない運命がある。ならばその運命に抗い、傷つくよりは、覚悟して受け入れ、傷を最小限に抑えるべきだ。
それがロイドと旅をする前の…否、今でもリフィルの中でその思いは確かに存在する。

「貴方は何があろうと最後まで諦めなかった。どれだけ辛く、過酷な運命を前にしても、貴方は前を向き続けた。だからこそ、不可能とも思える真の世界再生を成し遂げる事が出来た」

だけど、ほんの僅かな可能性でも信じる事の、諦めない事の意味を、その先に存在する希望を、ロイドはリフィルに気付かせてくれた。
だからこそ、ほんの僅かな可能性に賭けてみたくなった。絶望の先に微かに存在する希望を信じる事が出来た。

「…ロイド、貴方の信じる未来の為に、力を貸すわ」
「先生!」
「…だけど条件があるわ」

無論不安が無い訳ではない。自分達がいた世界よりも遥かに危険なこの舞台で、
タイムリミットを迎える前に首輪の解除と脱出方法の特定するのは困難を極めるであろう。
加えてロイドが己が信念の為に命を差し出すような真似をしないかも大きな不安である。

「…お願いだから絶対に命を粗末にしないで。コレットやジーニアスをはじめ、貴方の帰りを待つ人達が大勢いるのだから…」
369汝、大樹に集う者たちよ 12 @代理:2011/05/29(日) 09:02:38.61 ID:XLeSOHN/0

だからこそ、この点は強調しておかねばならなかった。ロイドの存在は、彼の帰りを待つ者達だけではない、自分にとっても、
そして新しく始まった世界にとっても、大きな希望と言えた。だからこそ、こんな舞台で散らせる訳にいかなかった。

「………ああ、約束する。本当ありがとな、先生!」


勿論、ロイドもここで散るつもりは無い。それどころか、リフィルの協力を得られた事で、ロイドは大きな希望を持つ事が出来た。
無論楽観は禁物であろうが、このような舞台でのリフィルの知識と力はこの上なく頼もしいものである。これでクラトスの力を借りる事が出来れば
全員で脱出する事も決して不可能な事ではないだろう。そんな期待と喜びにロイドから笑顔が溢れ、そんなロイドを見てリフィルも少しではあるが笑顔が戻る。
そんな2人とは逆に戸惑いを隠せないディムロスに、今度は思わぬ所からさらなる追い打ちがかかった。

『考え直せリフィル!ロイドを思う気持ちは分かるが―――』
「ロイド、私も協力するわ」
『リアラ!?お前まで何を…!?』

リアラが賛同した事にディムロスは非難の声を上げたが、
一言ゴメンなさいとディムロスに謝ると、静かに話し始めた。

「確かに、ディムロスの判断は間違ってないと思う…けど、誰もが絶対譲れない物があると思うの。
それを否定してしまったら、私達はサイグローグの思惑通りになってしまうだけじゃない、きっと何か大切なことを見失ってしまうと思うの」

リアラ自身、1度自分を見失いかけ、危うく取り返しのつかない事態を招く所であったが、
そこから大切なことに気付き、彼女は辛うじて堕ちること無く踏みとどまれた。だからこそロイドの信念が、理想が、希望がリアラにはよく分かった。
それらを失った時、きっと人は個を形成するアイデンティティーを維持出来なくなってしまう…そして自分が自分で無くなってしまうだろう。
それはリアラにとって絶対避けねばならない事であった。

「だから私は、ロイドの意志を尊重したい。そして協力したいの。それがきっと、私が目指す夢―未来の実現にも繋がると思うから…」

皆と並び、カイルと対等な立場の、一緒に喜び、笑い合える英雄になりたい。その夢は、未来は決して楽では無いであろう。
そもそも、この恐るべき舞台で生き残れるかどうかすら疑わしい。だけど―――否、だからこそ、後悔するような選択を、生き方は絶対しない。

「…本当ありがとな、リアラ」
「私も…ロイドのお陰で大切な事に気付く事が出来たわ。私の方こそ、ありがとう、ロイド」

カイルに、仲間達に胸を張って自分が選んだ道を、夢を誇れるように、ロイドと共に戦い抜いてみせる。
その決意を胸に、リアラは差し出されたロイドの手をしっかり握った。



『全く……取り返しの付かない事態を招いてからでは遅いと言うのに………』
『カッカッカ。お主の気持ちはよく分かるが、こうなっては仕方あるまいて』
『老は本当にそれでよろしいのですか!?』

思いの外呑気なクレメンテの言葉に、ディムロスのコアが抗議するように強く輝く。

『…まあ、確かに不安が無いと言えば嘘になるがの。じゃが、仮に儂等か反対した所で、最早ロイドは意見を曲げる事はせんじゃろう。
なら、儂等がロイド達を全面的にサポートし、少しでも危険を減らすよう努める事が最善じゃろう』

クレメンテの言うとおりであった。強硬に反対したとしても、最早ロイド達は聞く耳を持つまい。
それにロイドのお陰で戦力だけでなく、戦意も嘗て無い程高まりつつある。これからの厳しい戦いを乗り切る上で、
下手に戦意を下げてしまうのは得策ではあるまい。ならば自分達の持てる知識や経験を生かし、
ロイド達のサポートに回る方しか道は無いだろう。ディムロスは不承々々ながらもクレメンテの指摘を認めた。

『…後はロイド達の強さと、我々次第―――ですか』
『そういうことじゃ。さて、あとはキールとチャットがどうするかじゃが…』

クレメンテが僅かに不安を覗かせて2人に意識を向けたが、
リアラがロイドに協力姿勢を見せた事が良い方向に作用したのか、事態は好転しつつあった。
370汝、大樹に集う者たちよ 13 @代理:2011/05/29(日) 09:05:31.82 ID:XLeSOHN/0

「あ、あの!ボクにも協力させてもらえませんか!?」
「チャット!?お前まで何を…!?」

チャットの言葉にキールは抗議の声を上げたが、
それに構う事無く言葉を続けた。

「…ボクは、理由はどうあれ人を殺し、御先祖様の顔に泥を塗ってしまいました。
もうボクには…偉大なるおじいさんの…アイフリードの名を継ぐ資格なんて無いかもしれない…」

あれだけサニイタウンで、殺し合いに乗らないと胸を張り、固く決意したのに、
アニーの意思を受け継ぎ、戦うつもりだったのに、復讐に駆られたアリエッタを止めるつもりだったのに、結果はどうであったか。
アリエッタを止めるどころか、仲間達の足手纏いとなり、挙句仲間を誤って殺してしまう始末―――。
そして先程知ったことであるが、それにより、リアラの仲間でもあったロニを追い詰める結果を招いてしまった。
一体どうすればこの大きな罪を償えるのか、今の自分に何が出来るのか、落ち着きを取り戻した今でもまだよくは分からない。

「でもこのまま何もしなければ…罪から逃げ続け、戦わなかったら、それこそリッドさん、キールさん、アニーさん、アッシュさん…
そしておじいさんに対する裏切りであり、最大の侮辱です」

―――貴方達が望む様に、生きて下さい。 それが例え惨めでも構わないから。 全てを取り払って、心が望む事を見つめて下さい

それはアニーが遺した日記の一文。漸く立ち上がる事の出来たチャットにとって、
アニーが最期に望んだように、それは大きな道標となった。

―――幾ら挫けても、幾ら暗い闇の中に居ても、光は見える。心が決めた道なら、何度転んでも、歩けるんです

自分に何が出来るかまだ分からなくとも、自分が目指す道は確かに見える。
ここに至るまでに犠牲になった者達の意志を受け継ぎ、アッシュやキール、ロイド達と共に戦い、殺し合いを止めさせるという道が。
ロイドの言う様に、どんなにみっともなくとも、サイグローグが音を上げ降参するまで足掻き切ってみせる。

「だからボクはもう逃げない…前を向いて、皆さんと、そしてアッシュさんと共に戦います!だからお願いします!ボクにも協力させてください!」

それは、最早3時間前までのか弱き少女では無かった。罪を受け入れ、前を向いた、
幼くともアイフリードの血を引く海賊の堂々たる姿がそこにはあった。

「分かった、一緒に戦おうぜチャット。だけど絶対無理はするなよ」
「はい!」
「無理はするな…ね」
「ん?どうした先生?」
「その言葉、チャットよりも寧ろ貴方自身に言った方が良くてよ」
「そうね。何だかんだ言ってロイドが1番無理しそうよね」
「ちょ、先生、リアラまで…おい、ディムロスも笑ってないで何とか言ってくれよ」
『前歴が前歴だ。諦めるんだな』
「ちくしょー、少しは信用してくれよ…」

ガックリ肩を落とすロイドの姿に、リフィル、リアラ、チャットの3人は声を上げて笑った。
そんな和やかな雰囲気に、ディムロスとクレメンテにも笑みが零れる。
だが、そんな一同とは裏腹に、1人鬱々とした思いを抱いている者がいた。
言うまでも無くキール=ツァイベルだった。

(ったく、どいつもこいつも…あいつの下らない理想や信念に感化されて自ら危険を招いてどうするんだ)

こんな悪趣味且つ危険な舞台で、誰も殺さないなどという無理難題が通用する筈が無い。
仮に通用したとしても、あのサイグローグが看過するとは到底思えない。恐らくヴェイグやロニ同様、揺さぶりを掛けて来るに違いない。
その時に、今と同じ決意や信念を抱き続けるなど、到底不可能であろう。

(例え殺し合いに乗る事になろうと、信念を捻じ曲げる事になろうと、死ぬよりはよっぽどマシだ。死んでしまえば…もう取り返しは付かないんだ)

そう、サイグローグに挑み、無残にその命を散らされたリッドのように―――。
だけど、一方でキールは思う。もしこの場にリッドが、ファラが、メルディがいたら…彼らはどのような選択をしただろうか。
371汝、大樹に集う者たちよ 14 @代理:2011/05/29(日) 09:08:41.11 ID:XLeSOHN/0

(問うまでも無い。きっとリッド達も、ロイド達に賛同したに違いない)

もし僕もリッド達のように強ければ…この先に待ちうける危険を理解した上で、迷う事無くロイド達に賛同したのだろうか。
己が為に仲間さえ裏切り、ゲームに乗る―――そんな卑劣で卑小な手段を選ぶ事をハッキリと否定出来たであろうか。
もし今からでも遅くなければ………そんな強さを如何したら身につける事が出来るのだろうか。
凡夫の胸に激しい羨望と、己が卑小さに対する劣等感や罪悪感が去来する。

「あの…キールさんは如何するつもりですか?」
「…如何するも何も、このままお前達を放置しとく訳にはいかないだろう」

チャットの質問に、キールは溜息混じりに応えた。
この状況下で反対意見を述べるのは愚策でも何物でもない。
今はロイド達の意志を尊重しておく方が最も利口であろう。

「…今は協力はしてやる。だけどもしお前達の勝手な判断のせいで僕の身が危うくなるようなら、僕はお前達を絶対許さないぞ!いいな!」
「…ああ、ありがとな、キール」

ロイドの屈託の無い笑顔に、キールの奥底の良心がチクリと痛む。
万が一の時は、ロイドは勿論、ここにいる者達全てを裏切り、自分の身の安全を図る――
そんな薄汚い算段を立てている自分が、この時程醜く思った事は無かった。





「よし、それじゃあ皆行こうぜ!目指すは黎明の塔!」
「ええ!」「はい!」「ああ」

ロイドの掛け声に、一同が力強く頷いた。
同時にキールがエアリアルボードの詠唱に入る。その時だった。

「…ちょっと待って貰える?」
「…今度は何だ?」

再び入ったリフィルの静止に、キールは詠唱を中断するとジロリと睨んだ。
これ以上余計な時間の浪費は許さないと、キールの表情にありありと出てはいたが、
今後の戦いを考えれば、リフィルはどうしても1つ確認してやっておかねばならないことがあった。

「キール、大佐の支給品は今手元に?」
「ああ、敵の手に渡ると不味いと回収してきてはいる」
「それを見せてもらえるかしら?」
「…別に構わないが」

リフィルの意図がどこにあるか分からないまま、キールは言われるままジェイドの支給品が入ったサックをリフィルに手渡した。
少しの間リフィルはサックの中を探していたが、やがて目当ての物が見つかったのか、手を止めるとロイドを呼んだ。

「どうしたんだ、先生?」
「…ロイド、これは貴方が持つべき物よ」

その言葉と共に差し出された物に、ロイドは驚いた。
リフィルが差し出した物―――それは義父ダイクの渾身の一振りの剣だった。

「親父の…剣」

ロイドはリフィルから剣を受け取ると、静かに鞘から抜いた。
手の馴染み具合、淡く輝く刀身、そして剣から伝わる養父ダイクの思い―――。
紛れも無く水の魔剣ヴォーパルソード―――ロイドの愛剣マテリアルブレードの一対であった。
その美しさに、思わずリアラから溜息が洩れた。
372汝、大樹に集う者たちよ 15 @代理:2011/05/29(日) 09:10:51.10 ID:XLeSOHN/0

「綺麗な剣…」
「…それはロイド、本来はお前の剣だったのか?」
「ああ。親父が俺の為に作ってくれた剣だ」

キールの問いにそう答えると、ロイドは剣を軽く一閃させた。
聖剣ロストセレスティも非常に扱い易い剣ではあったが、やはりヴォーパルソードの方がよく手に馴染んだ。
思いも掛けぬ再会に、ロイドは喜びを隠せなかった。

「良かったね、ロイド」
「ああ、これで百人力って奴だ!先生、キール、本当ありがとな!」
「…別に礼を言われる程の事はしていない。それよりリフィル、これでもう用事は済んだな?」
「ええ、時間が無いのに御免なさいね」
「それじゃあ急ぐぞ」

そう言うと、キールは再びエアリアルボードの詠唱に入った。
だが、エアリアルボードが構築されるよりも早く、再び静止の声が上がった。

「あ、あの!ちょっと待って下さい!」
「今度は一体何だ!?」

さすがに連続して出発を妨げられた事にカッとなったか、
チャットの声にキールは思いっきり不快感を露わにした。

「その…先にアリエッタさんとジェイドさん、あとウッドロウさんを埋葬したいのですが…」
「馬鹿!もうそんな時間の余裕は無いと言っただろ!」
「いいじゃないかそれ位。俺も協力するぜ」
「そもそもお前達のせいで時間がこんなに経っているんだぞ!?第一アッシュはどうするつもりなんだ!?」

ぎゃあぎゃあ言い争いを始めるキール達に、ディムロスはやれやれと溜息を吐き、
リアラはしょうがないなと言って仲裁の為にロイド達の会話の中に加わる。リフィルはその様子を見つめながら、
静かに決意を固めていた。

(あの旅を終えて、世界は統一され、世界再生はついに果たされた。だが本当の意味で世界が再生され、
人々に平和が訪れるにはまだまだ時間がかかる)

ふとリフィルは大樹に視線を移した。先刻ロイドへの気遣いや、時間的な余裕も無いことから敢えて話さなかったが、
そこに恐らくクレスとアリエッタが埋葬したのであろう―――リーガルの墓があった。

(かつて私は、貴方に命の優先順位について相談し、ロイドだけは死守しなければならない結論に達した)

それは今も変わらなかった。世界の真なる平和の為―――そしてハーフエルフが決して迫害される事の無い、
誰もが平等に生きられる理想の世界の実現の為には、ロイドの存在は絶対に欠かすことが出来ない。
だからこそ、何があってもあの子をここで死なせる訳にはいかなかった。

(私は何があっても、あの子を…ロイドを守り抜いて見せる)

「分かった!塔に行ったらすぐ戻って埋葬する、それで良いだろう!?さあ、さっさと塔に向かうぞ!」

話し合いの結果、漸くロイド達の方針も無事に纏まったのか、
キールが再びエアリアルボードの詠唱を開始する。

(それが例えあの子に蔑まれる結果となっても、私の命がここで尽きる事になっても……)

やがて風が収束し、彼らの身体が宙に浮き上がる。

(もしあの世と呼ぶ世界があるのならば――願わくば、ロイドの未来を、希望をそこから見守って頂戴―――)
373汝、大樹に集う者たちよ 16 @代理:2011/05/29(日) 09:12:53.70 ID:XLeSOHN/0







各々の思惑と希望を乗せ、希望と絶望が混沌と入り混じる塔に向けて風は駆け抜けていく。
その塔に向けて、間もなく世界を揺るがす破滅の光が放たれようとしている事に、この時一同はまだ知る由も無かった。



【ロイド・アーヴィング 生存確認】
状態:HP80% TP50%(0%でEND) 左肩に浅い切り傷 右足に切り傷 右胸貫通傷(全て処置済み) 常時天使化(解除すれば失血多量で死亡)
シンクに騙された事に対する悲しみと僅かな怒り 強い決意
所持品:木刀セット ソーサラーリング 聖剣ロストセレスティ ヴォーパルソード オブシディアン
基本行動方針:打倒サイグローグ。死んだ仲間の為にも対主催を貫く
第一行動方針:黎明の塔に向かい、クロエとアトワイトと合流する
第二行動方針:シンクと話をする。殺し合いに乗るつもりなら全力で止める(殺しはしない)
第三行動方針:リアラ、リフィル、キール、チャットと協力し合う
第三行動方針:仲間を集める。クラトス等のブレーンであれば尚良し
現在位置:D1:大樹ユグドラシル

【リアラ 生存確認】
状態:HP70% TP55% 聖女だった自分を過去のものとしました  カイルへの依存から完全に脱却 称号『ソーディアンマスター』
不屈の魂 リアラ=デュナミス 全身に裂傷、軽度の火傷(全て処置済み)服が一部焼け焦げている
所持品:南国の蝶 レンタルビューティー ソーディアン・ディムロス 考察メモ 工具箱 ???
    ホイッスル フリーズリング 左腕 ポイズンパウダー アビシオンのフィギュア  ナナリー、ディスト、ノーマ、ルビアのサック
基本行動方針:英雄になる。殺し合いの打破
第一行動方針:黎明の塔に向かい、クロエとアトワイトと合流する
第二行動方針:ロイドの意志を尊重する。
第三行動方針:カイル達を探す。同士を集める。
現在位置:D1:大樹ユグドラシル

※リアラは奇跡の行使により、自分の身体能力を上げる事が可能ですが、
精神力の消費が大きいため、使用時間や回数がある点を超えるとリバウンドを引き起こす恐れがあります。
※ロイドは聖剣ロストセレスティに自分の生命力(マナ)を込めることで攻撃力を向上させる事が可能ですが、
生命力の減少や、精神疲労を引き起こす恐れがあります。
※ロイド、リアラがレムの塔からこの世界の主要エリアに移動出来る事を知りました(一方通行です)。
ただし、現時点ではリアラの奇跡によって起動しただけなので、誰もが起動出来る訳ではありません。

【ソーディアン・ディムロス】
状態:記憶<記録>消失(現在シャルティエ・イクティノスの存在を消失)
基本行動方針:殺し合いの打破。リアラ達と共に戦う
第一行動方針:黎明の塔に向かいながらリアラに放送内容を教える
第二行動方針:シンク攻略の準備を進める
第三行動方針:アトワイトと合流する
第四行動方針:カイル達を探す。同士を集める
第五行動方針:スタンと出会ったら話し合い、何としても凶行を止める
第六行動方針:自身の以上に関しては今のところ誰にも口外しない

*聖女が奇跡を使うたびソーディアン・コアレンズの力を消耗し、源である人格、それを構成する記憶を消耗していきます。
 通常の晶術レベルでは消耗しないようですが、奇跡に匹敵する消耗であればその限りではありません。
 喪われる量は、奇跡の規模に比例するようです。忘れるのではなく「無くなる」為、回復はありません。
374汝、大樹に集う者たちよ 17 @代理:2011/05/29(日) 09:13:41.73 ID:XLeSOHN/0
【リフィル・セイジ 生存確認】
状態:HP90% TP45% 頭部と左足に裂傷・打撲・切傷多数(全て処置済み) 服に焦げ
   教師/治癒術士としての無力感 後悔 新たな決意
所持品:リヴァヴィウス鉱 ウイングパック リブガロの角 ソーディアン・クレメンテ タバサ
基本行動方針:殺し合いの打破 ロイドや仲間達を元の世界に無事帰還させる
第一行動方針:ロイド達と共に黎明の塔に向かう
第二行動方針:ロイドの傷を治療出来る方法を探す
第三行動方針:ロイドの意志を尊重するが、ロイドの身に危険が迫れば意志に反した行動も厭わない
第四行動方針:ミクトランやエルレイン、シンク、デクス、爆発音の発生源を警戒する
第五行動方針:タバサについてもう少し詳しく調べる
第六行動方針:死者に対しては慎重に接する
第七行動方針:先程のマナのようなもの、爆破のマナが気になる
現在位置:D1:大樹ユグドラシル

*適度なアルコールと休息及び睡眠、マナ豊富な土地力によって通常以上の回復を得ました
 酔いの中で何を考えていたのかは、後続の書き手にお任せします。
*3時間の間に、リフィルはリーガルとダオスの墓を見つけていますが、その事をまだロイド達に話していません。
 またクレスが時空剣士であることもロイドには話していません(いずれ話すつもりではあります)
*情報交換の際、チャットからタバサを預かりました。その時の経緯は後の書き手にお任せします。

【ソーディアン・クレメンテ】
状態:健康
基本行動方針:リフィルを中心にチームをサポートしつつ、ラディスロウが本当にあるなら辿り着く
第一行動方針:黎明の塔にいるアトワイトと合流し、情報を整理。同時にシンク攻略を進める
第二行動方針:キールのストッパーとなる

【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP70% TP70% 後悔 冷静を努める意思による自律 ヴェイグとイクティノスへの畏怖 ロニへの同情・不安
主催者の言葉を信じる事への僅かな恐怖 腹、胸部刺傷 顔面殴打、一部擦り?け(全て処置済み) ベルセリオスを警戒
ロイド達への羨望と己の卑小さに対する劣等意識
所持品:誰かのクレーメルケイジ(I) グランドセプター ジェイドのメモ
    セレスティアルマント リーガル・リカルド・バルバトスの首輪 デュナミス 情報入り名簿
基本行動方針:メルディ達の元に帰り謝る・リッドに会う。マルタ、チャット、アッシュとの『協力』を果たす
第一行動方針:黎明の塔に行き、アッシュと合流し、マルタを保護する。その後アリエッタ達を埋葬する。
第二行動方針:レムの塔にて転送装置の解析を行う。可能であればその後ラディスロウの捜索も行いたい
第三行動方針:首輪をチャットと解析する為に分解を試みる
第四行動方針:大晶霊の力を借りる術の模索。出来ればレムが、次点でゼクンドゥスかマクスウェルが好ましい
第五行動方針:襲われた場合は応戦よりも全力で逃げる
現在位置:D1・大樹ユグドラシル

*ダオスの死体を見つけた後、リフィルを気遣い死体を埋葬しましたが、その事はクレメンテ以外誰にも伝えていません。

【チャット 生存確認】
状態:HPTP100% 首絞め痕 死と殺人への恐怖と罪悪感 守られる事と無力さへの極度葛藤
   自分の甘さへの不安 勇気(大) 首にバンダナ装着 新たな決意
所持品:スタンダードマグ(残り装填4発) 銃弾50 ラジルダの旗 プラズマカノン 苦無
    パナシーアボトル 袋詰め粉砂糖2kg エナジーブレッド×4 矢×1 スコップ ダーツセット
    クレスのバンダナ ザック×3 聖弓ケルクアトール 絆転生石
基本行動方針:勇気を持つ。アニーやジェイド、アリエッタの死を乗り越え、殺し合いを打破する
第一行動方針:アッシュやロイド、キール達と共に戦う
第二行動方針:黎明の塔に向かった後、アリエッタとジェイド、ウッドロウの埋葬を行う
第三行動方針:先程キールに見せて貰った未知の機械の全容が気になる
第四行動方針:セネルが心配
現在位置:D1・大樹ユグドラシル

*マナの豊富な土地により、全員が通常以上の回復を得ました。

D2放置アイテム:血塗れのねこねここねこ 冷めた温石 リバースドールの欠片
375名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 09:17:47.92 ID:XLeSOHN/0
代理投下終了。なんか、さるさんにならなかったぞ…なぜだろう?

それはともかく投下乙! 整理回だったな。男女比といい、いいチームだ。期待したいけど…そっちは、晶霊砲がくるんだよなあ…
でも、同時にエタ剣フラグも立ったわけだ。色々今後に期待するとしよう。
376名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 19:01:35.96 ID:M7Idzbj90
おおお乙!
377名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 20:31:17.99 ID:j6aJZ+52O
乙!
これはいい整理回。続きが早く読みたくなるなー
378名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 01:15:55.71 ID:MLinSBTa0
GJ
予想できてたとはいえロイドはキツイ道を選んだな
エタ剣フラグ立ったけど油断はできそうにないなあ
今後に期待

エリアルボード何回も止められたのにはワロタwww

あと聞きたいんだけどwikiにある時刻って何を元に書かれてるの?
晶霊砲に当たったりしないかすごい心配なんだけど……
379名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 07:45:13.45 ID:pFW1LxMR0
まとめの時間はSS内の表記が元だね。今回のキールたちが8:40すぎなのは、前回のSSでリフィルとの約束が8:30だったけれど、今回のSSでリフィルに10分止められて、更に少し遅れたからじゃね?
380名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 22:14:57.22 ID:Tll/mGN+O
投下乙であります。
俺にはキールの裏切りフラグしか見えないのだが…。
あれ、どこかで見たような…。

そういや一番進んでないのはスタイレだったな。
あそこは書きにくいが、一番フリーダムなパートな気もする。
381名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 00:41:33.22 ID:JDcZ3CCE0
>>379
ありがと
本文中に書かれてたのか
すっかり忘れてた

あとwiki落ちてる?
確かめようと思ったら見れないとかついてない
382名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 06:00:27.49 ID:zP3EqtrZ0
2ndまとめなら普通に見られる
383名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 20:50:04.28 ID:X+XOTzEni
こんばんは。ラジオを行っている者です。
本日22時からラジオを行いますので、よろしければお聞きください。
アドレスは開始前に改めて張りに来ます。
384名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 21:39:49.63 ID:evbGw8c00
おつです
385名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 22:06:01.18 ID:I7le6cfD0
ラジオ開始します。宜しくお願いします。

ラジオのアドレス
http://nash-tobr.ddo.jp:8000/
ラジオ掲示板アドレス
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13268/
聞き方はこちらからどうぞ↓
http://www.atamanikita.com/start-shoutcast/shoutcast-14.html
386名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 22:14:44.48 ID:wuc0zzHb0
さて、間に合った。ではこれよりまったりと投下します。 ラジオを聞きながら支援願います。
387黎明 1:2011/06/04(土) 22:18:59.71 ID:wuc0zzHb0
空模様はすこぶる悪く、けれども―――馬鹿みたいに良かった。
清々しい青の下に広がる雲は何処か浅黒く、何かしら良くない事が起きるぞと不安を煽っている。
だが、太陽はその暑苦しい身体を灰がかった乳白色のマントで隠す事もしない。
“曇っているのに、晴れている”。それがどうしようもなく不気味だった。
それは日常生活で感じられる事はごくごく稀な矛盾。
即ち―――此所は紛れもない“非日常”なのだ。

悠久に広がった呆れ果てる様な雲海は、この箱船よりもやや低い。
厚い雲の上の快晴。それはとびきり奇妙な光景。だがこれは何時かも見た景色だ。
浮遊都市の何処かで、同じ様な色を見た。
下界から見れば、薄暗く憂鬱な空。だがこちらからすれば雲一つ無い快晴。
非、日常。常ならざる何か。ならば不気味で上等。王は常ならざる者なのだから。
そうするとこれは実に王に相応しい景色だ、と私は思うのだった。

雲海の上。
人生において、不吉な予感とは尽く当たるものだ。
虫の知らせという言葉がこの世にある様に、古来から人間の第六感<シックスセンス>は信じられている。
無論それは人間がそういうものがあるのだと思い込んでしまっているだけに過ぎない。
生物は、得てして不幸を記憶に刻み込みがちなのだ。

例えば、最近あった良い事と悪い事を思い浮かべて欲しい。
十中八九、悪い事の方が多く、それも良い事よりも先に浮かんだ事だろう。
不幸は記憶に残り易い。故に、悪い予感は良く当たると人は勘違いする。
ほら、アレだってそうだ。“不幸だ”が口癖な何処かの幻想をぶち壊す主人公。
彼だって、実際不幸より幸の方が多い。うらやまけしからんという言葉を捧げたくなるくらいだ。

だが、今回の予感はそんなものとはまた別の類だった。
天上王ミクトランには、この悪い予感は間違なく当たるという確信があったのだ。
予感と言うよりは、むしろ定めと言うべきか。
運命などという陳腐な言葉をミクトランは信じていないが、確かにこれは現実になるのだと直感した。
長年の勘というやつだ。ことこういった切迫した状況でのそれはかなり頼りになると言っていい。
修羅場を幾つも潜り抜けてきた、そういう猛者のみに働く第六感は確かにある。
そしてそれは大体が現実になると相場は決まっているものなのだ。
故に予感ではなくそれは定めと言い換える事が出切る。
“絶対不可避な天命”。
だが今回ばかりはそれを。自分の敗北の予感を、運命を、天上王のプライドが許すはずがなかった。

「……認めんぞ」

無様に転げ回った挙句盛大に煉瓦の柵へと身体を埋めていたミクトランは、鼻血を二本垂らしながらそう呟く。
見るからに高貴そうな服で身を纏った男が、崩れた煉瓦の上に大の字で寝ている。
その様は酷く分不相応で、ミトスは肩をふるふると小刻みに揺らした。
ティアは我先にと騒がしく踊る黄塵の元で動かない王と、突然乱入した天使とを目を白黒させながら見比べる。
しかしそれ以上ティアは何も出来なかった。
ただケテルブルグに建てられたブロンズ像の様に茫然と立ち尽くす事しか、出来なかった。
声を掛けようにも、肝心な言葉は海馬の何処にも落ちていない。
何より今の状況がまるで飲み込めなかったのだ。
そもそもからして此処は雲海の上。
人、それも七色の羽を生やした少年が乱入してくるだなんて、一体何処の誰が想像するだろうか?
万能の者<ローレライ>でもない限り想像しない。完全に埒外、想定外の展開だ。
思考停止しない方がイカレてる。
そしてそれらはティアだけでなくミクトランにも言える事だ。
むしろ肉体的ダメージを負った分だけ、余計にミクトランの精神的ダメージは大きかった……“はずだった”。
388黎明 2:2011/06/04(土) 22:20:23.36 ID:wuc0zzHb0
数拍の静寂の後、ミクトランはゆっくりと瓦礫の山から立ち上がる。
一言も口にせず、浮浪者の様にただ情けなくふらつきながら。
服に付いた砂埃をぽんぽんと手で払い除け、垂れていた鼻血を袖でぐいと拭うと、ミクトランは息を深く吐き、
「……何か言い残す事はあるか?」
低い声で冷静にそう言った。
てっきり我を忘れ怒り狂うとばかり思っていたミトスはしばし呆気に取られていたが、
やがてミクトランを鼻で笑うとやれやれと肩を竦めてみせる。

「驚いたなぁ。お前の世界じゃ死ぬ奴が言い残すんじゃなくて殺す奴が言い残すんだ?」

強いな。余計な事を下に連絡されない様にソーディアンをサックに仕舞いながら、ミクトランは先ずそう思った。
先程の一撃の正確さと重さもあったが、何よりこの肝の据わり方と冷静さがそれを証明している。
血が滲む様な鍛錬を積んでいる証左。この年齢でここまでとは、相当な兵だ。
覇気や脅しにも怯まず、構えの隙も見せない。尚且つ挑発を仕掛ける余裕すら見せている。
そもそも得体の知れない虹色の羽を生やしているのだ。ただの餓鬼とは思わないべきか。

「安い挑発に乗るほど私は馬鹿ではない。
 尤も、王をも畏れぬこの狼藉を見逃すほど日和ってもいないが」

へぇ、とミトスはわざとらしく肩を竦めてみせる。どうやら見掛け倒しではないらしい。
瞬時にこちらの力量を見抜き、容姿に油断せず挑発を流す冷静さを保つくらいには、相手は場数を踏んでいる様だ。
ともすればこちらも油断大敵。
総じて仰々しい容姿の悪人は小物なものだが、その偏見も改めねばならない、か。

「王、ね。多分僕の標的になってる奴だと思うけど念の為訊いておいてやる……名前は?」

微笑を浮かべながら問うミトスを文字通り見下すと、ミクトランは肩を竦めてハン、と溜息を吐く様に笑う。
馬鹿にする笑いが六割、呆れ笑いが四割といったところだった。

「生憎と下賎な地上人に名乗る名前は持ち合わせていなくてな。
 そもそも他人に名前を問う前に自分から名乗ったらどうなのだ?」

肩を竦めながらそう吐くミクトランを見て、不意にやってくる強いデジャヴ。
ミトスは目を皿の様に円くし、そして数拍の後その既視感の正体に気付くと腹を抱えて哄笑した。
……真逆、その台詞が今来るか。キャラクター的に真反対の奴が、同じ台詞を吐くか。
これを笑い種と言わずしてどうしよう、と。

「っく……ふふ、はははッ! これは傑作だなぁ!
 真逆ここでどっかの馬鹿と同じ台詞を聞くとは夢にも思わなかったよ!」

ティアとミクトランは、ミトスの唐突な馬鹿笑いに怪訝そうな表情を向けた。
背を曲げてひぃひぃと嗄れた声を漏らすミトスは、この緊迫した状況から酷く乖離している。
足が竦んでも何らおかしくはない現。
その中心に立つ天使が笑う姿は異形にして異様で、ティアはその白い肌に鳥肌すら浮かべた。
味方と判断するにはあまりに危険だ。

「ここは“奇遇だね。僕も下賎な劣悪種に名乗る名前はないよ”とでも言うべきなんだろうけど。
 ……それはどうも癪だ」
目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭う様な動作をしながら、ミトスは呟く。
人差し指には涙一滴ありはしない。
「いいよ、教えてやる。僕はミトス。ミトス=ユグドラシル。
 ま、天才に年齢は聞いてるしお前よりか年上さ……“天上王ミクトラン”」
389名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 22:21:57.10 ID:nG+Ac31k0
 
390黎明 3:2011/06/04(土) 22:22:19.23 ID:wuc0zzHb0
瞬間、ティアの指先がぴくりと跳ねる。一方流石と言うべきか、ミクトランは毛髪一本動かさない。
だが、体裁とは裏腹にその瞬間心臓は高鳴っていた。
平静を装ってはいるが、内心決して小さくはない動揺が走っていたからだ。
それを見透かすかの様に、ミトスはにたりと粘ったい笑みを浮かべる。
それを見たミクトランは思わず生唾を飲んだ。名前を名乗った覚えはない―――いや、問題はそこじゃない。
名前や容姿、力量を知る方法なぞ幾らでもあるのだ。故にそれはさほど脅威ではない。
ミクトランが危惧したのは“その前”だった。
天才が、ミクトランを死へと追いやりそして“協力”したあの天才が、ミトスに情報を漏らしている。
ミクトランの命を脅かすであろう情報はその一点だけだ。
この会場はタイムパラドックスを許容する。
つまり、“どの時代”のハロルドがミトスに情報提供したのかは分からないのだ。
(ハロルド=ベルセリオス……一体、何処まで喋った?)
そもそもミトスの言う“天才”が、人間のベルセリオスではなくソーディアンのベルセリオスの可能性もある。
引っ掛かる点はもう一つある。
ミトスは先程こう言った。“多分僕の標的になってる奴だと思うけど念の為”と。
私怨による狙いならば、普通こんな言い回しはしない。
そもそもミクトランには、ミトスが狙いかどうかが曖昧なまま標的を殴り飛ばすほど馬鹿だとは到底思えなかった。
それほどどうでもいい標的でもない限り、だが。
……つまり、ミクトランはミトス本人の標的ではなく誰かに頼まれた標的である可能性が高い、という事になる。

ミクトランはミトスの言動を遡る。ミトスは首を欲しがっていた。
標的の首まで刈る様な面倒な真似を誰かに頼まれたところで、ミトスが実行するとは思えない。
第一、いかにもプライドが高そうなミトスが弱みを握られるヘマをするとも思えない。
ミクトランは内心で舌を巻く。
思えないが、それを可能とする――というか有無を言わさずやらせる――人間を約一名知っているからだ。

(……ハロルド=ベルセリオスか)

ミクトランには、彼女がミトスの弱みなり何なりを握り自分の首を刈る様に命令したとしか思えなかった。
嫌な汗がミクトランの首筋を這う。
ミトスの言動があまりにも御粗末だったのは、それを悟らせる為だったのだ。
“自分のバックにはハロルドがいるのだ”という、暗黙のメッセージ。
そしてそれは、それ自体がミクトランにとって大きなプレッシャーになる事を理解していなければ出来ない芸当。
つまりミトスは、ミクトランとハロルドの因縁を少なからず知っている事になる。
剰え相手はあのハロルド=ベルセリオス。常に最悪のケースを想定しなければ容易く壊されるだろう。
ならばミトスのバックに立つハロルドは人間ではなくソーディアンの状態で、
情報は全て漏れていると思った方が良さそうだとミクトランは覚悟を決める。
しかし。

「成程。ならば私の力量を知らぬわけではあるまい。
 貴様がその上で私を殴り挑発しているとしたら、実に大したものだ。
 だが―――――――――」
391黎明 4:2011/06/04(土) 22:24:32.93 ID:wuc0zzHb0
ミクトランは腰に差す炎剣を静かに抜く。
緩やかな曲線を描いたフォルムに、半透明で赤み掛かった薄刃は息を呑むほど美しい。
太陽はその光を魔刃に浮かぶ気泡に閉じ込め、ぎらりと金色に輝かせた。
それを見たミトスの眼光は僅かに鋭くなったが、ミクトランは気付かない……いや、“気付けない”。
半秒と経たずミトスはいつもの表情に戻すが、ミクトランが真に冷静であったならばその刹那の変化にさえ気付けただろう。
いや、たとえ多少冷静さを欠いていたとしても気付けたか。
だが、ミクトランは“気付けなかった”のだ。
それもその筈。ミクトランの五臓六腑は今……ソーディアン研究所を満たす熔岩の様に煮えくり返っていたのだから。
何故ならば、ミトスはミクトランのスペックを知りつつ挑発や攻撃をしていた事になるからだ。
こいつになら勝てると、餓鬼一匹に劣ると思われている。
それはミクトランの琴線に触れるには充分過ぎた。


「―――――――――堪え難い、屈辱だ」


言い終わると同時に、空気がばつんと弾ける。
ミクトランがこの瞬間まで居た場所には円状の衝撃波だけが広がり、その本体は消えていた。
ティアが固唾を飲み込む音を耳で拾いながら、ミトスはにやりと笑みを浮かべる。
じりじりと塔を照らす太陽だけが、天使に向けられた王の本気の一閃を見ていた。

雲海の上。
変化とは遅かれ早かれ起こるものだ。
とは言え“あの時は若かった”なんていう変化はステレオタイプ。
通常は永い年月を掛けて徐々に起こるものだが、全てがそうとは限らない。
想い人を亡くしたり、理想を失くしたり、失恋したり。
本人にとってそれが衝撃的なものであればあるほど、深層心理の色は急激に変わる。
それが“自分の死”であれば尚更だ。それが原因で狂ったとしても何らおかしくはない話。
ミトスは、自分がゆっくりではあるが確実に変化しつつある事を勿論知っていた。
プレセアに指摘された事で気付かされたのだ。
それから時間は僅かしか経っていない。だが、“変化”という言葉は気にかかって仕方がなかった。

変わってしまう事が何よりも怖かった。何度生まれ変わろうが同じ道を選ぶと決めていたからだ。
数千年に渡り貫き通してきた想い。それは姉への愛の固さにも繋がっていた。
想いの強さは、そのまま現実を討つ強さとなる。だからミトスは強かった。
その想いの不変さの原因は半ば意固地になっていたからという事も少しは認めるが、それでも変わる事は最大の裏切りだ。
認めれば全てが無駄になってしまう。四千年の想いも、愛も。
その全てがちり紙以下の薄っぺらいカスになってしまう。
罅割れた土壁の様に、今のミトスのアイデンティティは脆かった。
自分で気付けず他人に気付かされた屈辱のせいもあったが、それ以上に醜く抗う自分が惨めだからだった。
それでもミトスは手を止めない。ミトスが“堕ちた英雄ミトス=ユグドラシル”である為には、変わる事はあってはならないのだ。
開けてはならぬパンドラの箱。存在にはもう気付いてしまったが、触れなければどうという事はない。
故に刃を振るう。両手が開いてしまわぬ様に、箱を開ける暇を作らない様に、ただ戦い続ける。

ミクトランの狂刃が石畳を貫いた。だが肝心なミトスを刺す事は叶わない。
ミトスが居た筈の場所には七色の羽根だけが虚空に舞っていた。
それは超スピードにしても有り得ない移動。故に空間転移の可能性へとミクトランは辿り着く。
それと同時に、ミトスは転移先に居たティアの首根っこをぐいと掴んでいた。
392黎明 5:2011/06/04(土) 22:27:14.34 ID:wuc0zzHb0
「お前を連れて来いとハロルドに頼まれた。ルーク=フォン=ファブレの情報からだ……あとは察せ。
 理解したら協力しろ。どうやら僕は今のところお前の味方らしい」

短く悲鳴を上げるティアの耳元に顔を近付け、ミトスはぶっきらぼうにそう囁く。
ルーク、という名にはっとした表情でこちらを見るティアをこれ以上話してやらんとばかりに足で蹴り飛ばし、ミトスは再び転移した。
半秒経たずその場を飛来したドミネイトフレイムが融解させる。炎上ではない。“融解”だ。
煉瓦をまるでアイスの様に溶かしたのは溜めすら要らぬ斬撃。術ですらない。
荒ぶ熱風と蹴りの衝撃で瓦礫に突っ込みながら、ティアはミトスに深く感謝した。
自分は突き飛ばされたのではなく、守られたのだと気付いたからだ。
もしもあの場に居たならば……考えただけで震えが走る。

「ちょこまかとッ。小僧が!」

転移先、ミクトランの背後から乱れ打たれるファイヤボールを、
避けるまでもなしと拳で弾くと、ミクトランは犬歯を露にして吠える。
ミトスはその強靱なミクトランの肉体に唇を噛み目を細めた。
多少加減しているとは言え、自分の術は生身で防がれるほどヤワではない。即ちそれだけミクトランの肉体が強いという事だ。
下級術では肌に掠り傷程度しか付けられないときた。
だが中級以上の術を詠唱する隙を許すほどミクトランは日和ってもいないだろう。
ならば機動力で肉弾線を仕掛ける他ないとミトスは踏んだ。
輝石による肉体限界突破とジェットブーツの高機動能力。二つを合わせれば速度で右に出る者は恐らく居まい。
さしものミクトランもお手上げだろう。

そうと決まればとミトスは詠唱を破棄して腰を低くし、地を蹴り上げ一気に加速した。
ミクトランは十数メートル離れたミトスの突進を身構えていたが、その刹那驚愕に口をあんぐりと開ける。
何故ならば、“先程まで向こうに居たミトスが目の前に居た”からだ。

(疾……ッ!?)

瞬間的に視界に星が散り、鈍痛が顔面の奥を走る。目の絞りを合わせる暇すら無く、ミクトランは宙を汚く舞った。
血走った双眸の視界の片隅で青空に上がる血飛沫を認め、ミクトランは漸く自分の顔面が殴り飛ばされたのだと理解する。
咄嗟に空中で受け身を取り動揺を隠す様に口元を拭うが、視界に影が落ちている事に気付き空を仰ごうとする。
だがミトスはその暇すら与えない。ミトスは中空で受け身を取ったミクトランの後頭部へと踵を振り落とすと、
石畳に急降下するミクトランの背へと間髪入れず十数の光弾を打ち込んだ。

「今だ! やれッ!」

上がる土埃を確認すらせず、ミトスは声を裏返して叫ぶ。
それを合図に詠唱待機していたティアの周囲に収束していた音素が拡散し、舞う埃の上にじゃきりと光剣が構えられた。

「聖なる槍よ敵を貫けッ!」
上がる黄塵と弾けるマナの狭間で仁王立ちをするミクトランは、その声に血走った目で空を仰ぐ。
朧気に見えるは魔法陣と空間とを縫い付ける、五本の断罪の剣。
それらは愚者を裁くかの様に、王を目掛けて振り降ろされた。
393名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 22:29:04.17 ID:nG+Ac31k0
 
394名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 22:31:56.65 ID:SYkrbYJ90
395黎明 6:2011/06/04(土) 22:33:19.89 ID:wuc0zzHb0
だが―――笑っていた。
肩を揺らしながら、笑っていた。
炎剣を翻しながら、笑っていた。
三日月をその顔にべたりと貼り付け、笑っていた。
双眸を脂ぎった光で怪しくぎらつかせながら、笑っていた。
王は、この逆境を餓鬼の飯事だと小馬鹿にするかの様に……笑っていたのだ。

一本。土埃に風穴を開けて迫る剣を炎剣で焼き砕く。
二本。死角から迫る剣を左手で掴み取る。
三本。脳天目掛けて落ちる剣を先程掴んだ左手の光剣で粉々に斬り殺す。
四本。背中を狙う卑怯な剣を右足のミドルで木っ端微塵に蹴り割る。
五本。ここで漸くミクトランは焦った。顔面を狙う一撃には、如何なる対処も間に合いそうにはなかったからだ。
距離は800ミリ。被弾まで約半秒、手足は動けぬ絶対絶命。
王の余裕を脅かす聖なる一閃。冷や汗が、ミクトランの額から弾け飛んだ。

雲海の上。
例えば、もう一人の王。白銀の髪に褐色の肌をした若き王。
彼は決して油断をして命を落とした訳ではない。
迷い迷って選び抜き、逆境を乗り越え……だが、それでもたかが鉛玉一個に臥した。
それのなんと無様な事よ。散々動き血を流し、気高き想いを貫いたところで結果はそんなものだ。
王の命など、時には餓鬼の手からたまたま投げられた鉛玉一つよりも軽い。
そんな下らぬものに終わらせられるものを、そんな馬鹿みたいな瞬間を目指して、人は生きる。
“いきることはすこしだけぶざまなのだ”。
如何に達人と言えど、くたばる瞬間は何とも呆気ない。
達人も名人も、狂人も常人も、悪人も罪人も聖人も。恋人だってニンゲンだ。何一つ特別ではない。
それを知っているからティア=グランツは安堵する。何故ならば確かに手応えがあったからだ。
これで倒せる相手だとは微塵も思ってはいないが、人である以上は深手を追う筈だ。
刃の形状をした上級術。それをこの環境でまともに食らえば掠り傷程度では済まない。
故に―――土埃から見える人影に、ティアは驚愕した。

「“馬鹿な。上級術を受けて立っていられるはずがない“。
 ……そう、思ったか? 小娘」

王は立っていた。煙の中心に立っていた。
剥き出しの歯を涎でぎらつかせ、にたりと笑い。“聖なる刃をその歯に挟み”、立っていたのだ。
「う、そ……」
その様を見たティアの腰は萎びた草花の様にへたりとだらしなく落ちる。
ミクトランはさぞ鬱陶しそうに煙を炎剣で払うと、咥えていた光刃をばきんと噛み砕いた。
霧散してゆく音素。流麗なその様とは対照的に、砕けゆく音は酷く無機質で冷たかった。
あまりにも無慈悲な現実。定形故に軌道が読みやすいとは言え、上級術ですらミクトランには通じない。
確かにヴァンも上級術にすら怯まず反撃をしてきた。だがそれに勝利出来たのは皆の力があったからだ。
ティアには到底二人でどうにか出切るレベルだとは思えなかった。
絶望の表情に満足したのか、クカカ、とミクトランは笑うと、指先でこめかみをコツコツと叩きながら口を開く。

「あまり私を失望させてくれるな。真逆この程度の術で、私を止められるとでも思ったか。
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 王 を 舐 め る な よ 小 娘」

炎剣の刃を翻し髪を掻き上げると、ミクトランはやれやれと溜息を吐いた。
ティアの背筋を戦慄が駆け抜ける。圧倒的な力は、空気すら震え上がらせて恐怖を伝染させていた。
396黎明 7:2011/06/04(土) 22:40:28.64 ID:wuc0zzHb0
「もういい。お前は消えろ。ドミニネイト――――――――――――――――――――――――――――――
                         「僕を無視するなこの劣悪が」
                         ――――――――――――――――――――――――――――――ブレィゴパぁッ!!?」

一撃。
鳩尾にめり込むミトスの拳の一撃が、ミクトランに白目をひん剥かせる。
瞬時に抜刀しティアの目の前まで距離を詰めたミクトランだったが、“それよりも遥かに疾くミトスがティアの目の前に移動した”のだ。
ミトスは拳を突き出しただけ。王は自信の勢いを攻撃に利用〈スタイリッシュ自滅〉されたのだ。
ミクトランはふらふらと二、三歩後退ると、身体をくの字に曲げて両膝を地に付ける。
嘔吐感に苛まれる中にも関わらず、ミクトランは息を呑んだ。呑まざるを得なかった。
(錯覚では、ない)
“二度目”ですら目で追えなかった。
単純に油断だとか速度の上昇だとかそういったレベルではない。
催眠術だとか奇跡だとか魔法だとかそんなチャチなもんでも断じてない ……“純粋に見えなかった”。

瞬間、項垂れたミクトランの頭が、弾かれた様に空を仰ぐ。ミトスの右足が顎を蹴り飛ばしたからだ。
続けて顔面、胸、腹と三連撃。ミクトランは焦点が合わぬ目で辺りをぐるりと舐める。
だが……“見えない”。
その速度たるや正に光の如し。七色の軌跡は幾重にも連なる線となり、ミクトランの周囲を駆け抜ける。
1、2、3。45、6789。絶え間なく繰り出される連打がミクトランに不気味なダンスを踊らせた。
数十撃目に、ミクトランの胸を掌底が強打する。
漫画の様な吹き飛ばされ方をしたミクトランを認めると、ミトスはふうと深い溜息を吐いた。

「立て」

遠く瓦礫に埋もれたミクトランを見ながら、ミトスはあからさまに苛立った声でそう言った。
ティアはミトスの背を見てごくりと唾を飲む。
ミトスは低く唸りながら舌を打つと、気怠そうに首を後ろに傾けてティアを睨んだ。
「おい、休憩してる場合かティア=グランツ。自殺願望がある訳でもないだろう。
 お前に死なれたら僕が困るんだ。分かったらさっさと立て劣悪種」
ティアはそのぶっきらぼうな言い方に僅かに眉を顰めたが、素直に立ち上がり尻をはたく。
「……助けてくれて有り難う」
「余計な口を叩く暇があったら詠唱しろ。アイツ、かなり強いからね」
瓦礫から立ち上がり、不敵な笑みを浮かべるミクトランを顎で指すと、ミトスはレーザーブレードを抜く。
素手での攻撃は余裕を見せる為の挑発だったが、ミクトランはまるで堪えていない様だった。
むしろ見え見えの挑発は逆効果か。ならば此所からは本気で取りにいくべきだとミトスは考え、表情を険しくした。
ミクトランは全身の青痣を確かめる様に肉を擦ると、大きく息を吸い哄笑する。

「くふふ……くくく、カカッ! ぬふふ! ひゃはははハハははハハはははハハ!
 ――――――――――――――――――効かん! 効かんなぁ地上人ッ! 軽いッ! 軽い軽い軽い軽い軽いぞッ!!
 餓鬼の拳で幾ら足掻こうとッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
397黎明 8:2011/06/04(土) 22:44:23.34 ID:wuc0zzHb0
びりびりと鼓膜を揺らす雑音に表情を曇らせるティアの横で、ミトスはスペクタクルズを取り出す。
レンズ越しに得た情報はさして役立ちそうにもなかったが、弱点が音属性というのはミトスにとって興味深かった。
「……勝てる?」
狂った様に笑うミクトランを睨みながら、ティアが自信なさげに問う。
ミトスは半ば呆れた様に鼻で笑った。
「誰に訊いてる?」
当たり前だろうが、と続けると、ミトスは紫電を抜き再び空間転移する。
転移先はミクトランの背後。一撃で決めるつもり―――――――――――――の、はずだった。


(紫、色)


妙だ。
転移したミトスは、景観の僅かな変化に気付く。
転移からコンマ一秒と経たぬ極限の感覚の中、中空のミトスの視界は“紫”一色に汚染された。
紫雷の放電現象ではない。固定された色彩……これは。

「超速度、空間転移、神速打撃。嗚呼、結構結構。だが――――――――それがどうした?」

紫の空間。上がらない煤。身体をぬるりと搦めとる様に、悪魔の業火が牙を剥く。
骨も遺さんとでも言うかの様に、紫はそこに在った。
風にも揺らがず、重力にも従わず。空間そのものを焼きながら、ただただそこに在った。

「“お前は私に近付く”。それさえ判れば、私には充分なのだよ」

物理法則を無視した魔炎―――シジュアード。
それは王であるミクトランを中心に置き守るかの様に、空間を球状に燃やしていた。
「ミトスッ!! ……今助けるわ! エクレールッ」
ティアの悲痛な叫びに、ミクトランはにたりと笑みを浮かべ、そして―――撃鉄は虚しく空を叩いた。

「貴様等では、幾ら足掻こうが私には勝てない」

上がる硝煙。消える音素。痺れる様な痛みと、肉を抉り刺す様な熱。豊満な胸を、ゆっくりと紅が汚す。
ずるりと、糸が切れたかの様だにティアの身体は崩れ落ちた。
あまりの激痛に悲鳴を上げる事すら出来ない。孔という孔から水分を捻りだしながら、ティアは身体を丸める。

「格が違うのだよ、諸君。クク……くくククくクくクはははハハァッ!」

王に平伏す奴隷の様に無様に堕ちるミトス。
火達磨になったその身体を足蹴にして紫電を奪うと、ミクトランはミトスの頭に唾を吐いた。

「私の計算はァ、絶対にィ。狂ぅゥわぁないぃィッ!」

皮膚を焼かれ動かなくなったミトスの身体から視線を外すと、ミクトランは身を翻し高らかに剣を空に掲げた。
頭を下げた少年少女を、尚も見下す様にミクトランは笑う。
そう。この景色こそが王に相応しい。挑む全てを折り尽くし、無理矢理膝を折らせ頭を下げさせる。
それでこそ万物を統べる覇者。これでこそ、何もかもを支配する、王!
私にだけ許される―――



「へぇ。なら僕が狂わせてやろうか」



―――は?
398黎明 9:2011/06/04(土) 22:51:31.61 ID:wuc0zzHb0
「格。格ね。ハハ……成程確かに今の僕とティアじゃお前には勝てそうにないよ。
 悔しいが認めてやる。お前は……僕が今まで戦ってきた誰よりも、強い」
その声に慌てて振り返るミクトラン。馬鹿な、とわななく口。
全身火傷に重なる全身火傷。皮膚は蕩けるどころか炭化を始めていたはずだった。
息をしているなら声帯が生きているわけがない。
幽霊でも見るかの様に、恐る恐る振り返るミクトラン。余裕に満ちて居た顔が一瞬にして青褪める。
震える口が馬鹿の一つ覚えみたく、馬鹿な、と吐き出した。
「だけど、」
ミトスは確かに居た。
前髪を焦がし、爛れた皮膚の向こう側で、骨に染み付いているかの様な邪悪な笑みを浮かべてそこに居た。
ミクトランは驚愕に口をあんぐりと開く。
ショック死しない訳がない。いや、そもそも万に一つ生きていたとして、こんな風に立っていられる、はずが。
有り得ないのだ。こんな、こんな姿で。
「この姿なら、どうだ?」



こんな―――“青年の姿で”。



「待術解凍――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――プリズムソード」
ミトスの……いや、“ユグドラシル“の指がパチン、と心地良い音を鳴らした。
痛みに絶えるティアは辛うじてその姿を認める。朧気な視界がそれを捉え、そして、思う。
煌めく七色の裁きが降り注ぐ中―――そう、それはまるで王や天使なんてものでもなく。

「……ほう。これでも致命傷すら追わないか。流石だな。
 だが……ソレは返して貰う。お前如き劣悪が持ってて良い業物ではないからな」

ミトスは大の字で地に臥す放心状態のミクトランを馬鹿にした様に笑うと、その手から炎剣を取り上げる。
「貴様は、一体、私は王、だぞ。地上人の、分際で、貴様ァ……」
ふらふらと立ち上がりながらソーディアンを取り出すミクトラン。
取り乱す様を何とか見せまいとする滑稽さに肩を震わせると、ミトスは静かに背の剣を抜く。
そう、それは神の練成せし聖剣。命を糧にし、天地空尽くを制す聖剣。
餓鬼の姿では到底振るえぬ、神の武装……たかが天上のみの王が叶う筈も無し。

「王、王か。フフ。お前が王だって言うなら、そうだな。私は」

ティアは目を見開き息を呑む。そう、それは。それはまるで。




「――――――――――――――――神だ」




雲海の上。
最も天に近い場所で、最も地獄に近い戦いの火蓋が、今切られる。

399名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 22:57:39.46 ID:nG+Ac31k0
 
400名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 22:58:40.63 ID:SYkrbYJ90
401黎明 10@代理:2011/06/04(土) 23:32:57.36 ID:CeDoJpLp0
【ミクトラン 生存確認】
状態:HP75% TP90% 血塗れ 頬に止血済み掠り 鼻骨骨折 不安定要素(=ヴェイグ、カイル)へ不安
   食料や生活難、寒さへの苛立ち 「無知の知」を自覚
所持品:レーザーブレード フランヴェルジュ イリア、ハスタ、ヴェイグのサック ??? ???
    デザートイーグル 銃弾×15 双眼鏡 サードニクス 金のフォーク
    ハスタの首輪 ソーディアン・イクティノス
基本行動方針:ピエロ含め皆殺し
第一行動方針:目の前のガキ(何者だ?)を殺す
第ニ行動方針:ティアが持つ情報を絞りとれるだけ絞りとる
第三行動方針:考察の確度をあげるため、更なる首輪を得て首輪について考察する。
第四行動方針:籠城しウッドロウ達を誘う
第五行動方針:サイグローグとの腹の探り合いを楽しむ
第六行動方針:魔力に拠る首輪爆発の事実を証明したい
現在位置:D3黎明の塔最上階

【ソーディアン・イクティノス】
状態:ウッドロウが心配 第一回放送しか聞いていない ベルセリオスの関与を疑っている
基本行動方針:D、D2世界の仲間を探しつつ、舞台を把握する
第一行動方針:考察に専念する。どうにかしてミクトランからベルセリオスの話やゲームの情報を聞く

【ティア・グランツ 生存確認】
状態:HP80% TP85% 心の内をミクトランに読まれた動揺 強い焦燥感 カイルへの小さな反発心と大きな罪悪感 右胸銃痕
所持品:アビスピンクのコスチューム(仮面は外してます) ティアの服(アビスピンクの上から重ね着) ロリポップ
基本行動方針:ルーク達と殺し合いに乗っていない人を探す
第一行動方針:ミトスと共にミクトランを倒す
第二行動方針:ルークに会いたい
第三行動方針:レムの塔へ出来るだけ早く向かいたい
第四行動方針:「それぞれの世界の理」と「会場の理」に対する疑問、違和感の原因に答えを出したい
現在位置:D3黎明の塔最上階

【ミトス・ユグドラシル@ユグドラシル 生存確認】
状態:HP95% TP90% やる気+ 小さな罪悪感 大樹が気になる 天使化 全身火傷
支給品:ジェットブーツ エリクシール スペクタクルズ×9 ロイドの仮面セット(残り3枚)
    フランヴェルジュ 大量のハロルドの考察メモ イオン・クラトス・プレセアの首輪
    デュランダル プレセアの頭部 エクスフィア@プレセア サック×2(ジューダス・スパーダ)
基本行動方針:死ぬ気は無い。舞台裏を解明する為に少し生きるが、生きる気もあまり無い
第行動方針:情報を引き出したらミクトランの首を回収し、ティアを確保する
第二行動方針(A):ルカにデュランダルを渡す
第二行動方針(B):カイル、もしくはディムロスを確保する(スタンを止める?)
第三行動方針:ティア探しにかこつけて、あの巨大なマナの正体を確かめる為、
       現場に行く。ティアは見かけたら回収
第四行動方針:ミクトランとバルバトス、役立ちそうな奴の頭部収集。スタンも最悪対象。
第五行動方針:24時間だけプレセアに協力する。仲間に会えたらどうするかはプレセアに委ねる。
       但し24時間以内に誰にも会えずプレセアがエクスフィアと同化したら破壊する
第六行動方針:ハロルドにいつか「ぎゃふん」と言わせる
現在地:D3黎明の塔最上階

402名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 23:34:28.84 ID:diS2IQyp0
876 :黎明 11:2011/06/04(土) 22:58:35
投下終了。 さるさんになってしまいました。あとをよろしくお願いします。


877 :黎明 8@修正:2011/06/04(土) 23:02:43
SS「黎明」内の「紫電」部分を「レーザーブレード」で、まとめ掲載の際は修正お願いします。



403名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 23:57:12.55 ID:wIljj1Zt0
何て滾る戦いだ…!
ラスボス同士の対決の行方が激しく気になる…!
404 忍法帖【Lv=6,xxxP】 :2011/06/05(日) 00:00:41.09 ID:A2vtBuir0
ユグドラモードが本気でミトスモードは手抜いてたのかな
405名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 00:05:48.77 ID:K1MXp6VD0
あ、>>403のカキコで『GJ』と入れるの忘れてた(←どうでもいい)
次は全力での戦い…しかも手にしたものはデュランダルとソーディアン。
これは嘗て無い程の激戦が期待出来るな…続きが本当楽しみだ…!
406名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 01:50:47.42 ID:Jbuh6m2H0
投下乙!この対戦カードは滾るでぇ…ミクの技がうまく使われてるのもいいな!
あとスタイリッシュ自滅に吹いたwww


>>404
純粋に挑発のために手を抜いてたのもあるだろうが、多分餓鬼の力じゃミクトランが言うように軽すぎてダメージ皆無なのと、デュランダルをろくすっぽ振れないからでは?
ミトスは詠唱特化の後衛タイプ、ユグドラはパワー特化の前衛タイプだと勝手に思ってる。魔法中心の戦術ではダメとミトスが言ってるから、今回はミトスよりユグ状態の方が断然有利。
407名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 12:34:59.36 ID:RTpIOYPUO
投下乙。
とりあえず一言。二人ともかっけええ!
ホーリーランスを口でキャッチしたりプリズムソード食らってピンピンしてるとかミクトランがバケモノ過ぎワロタ。そしてそのミクトランを速度と手数で手玉に取るミトス。
足手まといのティアェ…

そしてこの戦いでもまだ二人とも手加減してたっていうね。もうね、ラスボスふざけんなと。
408名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 14:12:16.84 ID:1u9Sabvg0
投下乙〜
ノリノリだなあ、ミクトランw
でも言うだけあって強い
ミクトランとミトスのセリフの応酬はわるがきと傲慢王って感じがして、なんか相性いいな
聞いていて楽しい
けれどハロルド云々のところで、二人とも頭いいなーとも思ったり
そして最後のミトスユグドラモードWITHデュランダルかっけえなあ
409名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 21:14:57.35 ID:POS8xaOT0
晶霊砲が来るまで塔もつのかな
ラスボス二人が大暴れしたらやばいことになりそう……
410名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 21:22:12.12 ID:K1MXp6VD0
あ、今読んでて1つ気になったんだが、
ミクトランの所持品にフランベルジュがあったけど、
ミトスに取り返された描写があるから、今はミトスの所持品に
フランベルジュが無いといけないんじゃないかな?
411名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/08(水) 20:48:47.37 ID:8pXmTi240
サクっと投下します。
412デイドリーム・ビリーバー 1:2011/06/08(水) 20:50:48.69 ID:8pXmTi240
自由に闘争ができる世界を作る。それが彼の夢だった。

何かに縛られた世界なんてものは死んでも願い下げだった。権力や法なんて、自由を妨げるだけで下らない。
好きな様に暴れ、好きな様に笑い、そして好きな様に酒が飲める。そんな世界が是が非でも欲しかった。
故に彼はこの世界が気に入らなかった。此所は縛りを体現したかの様な島だったからだ。
彼は面倒だと地図を見ていなかったが、行ける範囲が限られている事は伝え聞いていた。
よく分からない禁止なんたらというヤツもあるらしい。挙句回復や行動にも“法”が付加されているのだと彼は聞いた。
規則、規則、規則。まるで馬鹿の一つ覚えみたく、この世界は復唱をこちらに要求する。

嗚呼、それはなんて……“つまらない”。

彼は純粋にそう思った。誰も彼も何故疑問を上げず馬鹿正直に法に従うのか。
……彼はこのゲームを打破するというより、このゲームを自分のものにしたいと思っていた。
ルールを全て殺し尽くす。あわよくば指揮権を自分のものにしようとすら考えていた。
そうすれば晴れて自由の身となるからだ。新たな争いが起きるかもしれないがそれは仕方のない事。
その後の事はまた別の話だ。だから彼は、好きにしてやろうといきり立った。
道化に反旗を翻し、皆を纏め上げ法で縛られたこの世界そのものをブチ壊そうと企んだ。
行動方針こそ復讐と言ってはいるが、そんなものは彼の柄ではない。弔い合戦に臨むような人物ではないのだ。
体裁上の口実にはなるだろうが、それは決して理由には成り得ない。
故に、友人の死は彼にとって少なからずショッキングな出来事ではあれど、さほど影響にはならなかった。
彼は友人が生きていようが死んでいようが、自分が同じ気持ちで同じ事をしたであろう確信があったのだ。

そもそもの話をすると、実は死というものを彼はよく理解していない。
革命軍故に身近に起きる事こそあれど、それを特別深く意識した試しがないからだ。
危険だからという理由で部下に何かを止めさせる事はあったが、彼の中で危険は死と直結しているわけではなかった。
しかし彼とて生死の狭間を彷徨った事がなかった、というわけではない。
むしろ幾度となくあった。が、しかし彼は今、生きている。
無茶しかしない彼にとって死は常に身近にあるが、こうして確かに生きているのだ。
ヴォルトに殴り掛かり、強力な雷を身体に受けた。シゼルに丸腰で特講し、返り討ちに遭った。それでも生きている。
彼は毎度それを“まぁ今回もラッキーだぜ”程度にしか思っていない。
彼は決して死にたいわけではない……のだが、死が全く怖くなかった。
彼は部下が殉職しても涙を見せない。彼にとって別れは生きてゆく上での重要なイベントではないからだ。
死は誰しもが通る道。生きる上で必ず訪れる一点。普遍的なものでありさほど特別ではない。
生きる事と死ぬ事は、彼にとってほぼ等価値だった。
それ故、彼は誰かの殉職に悲しむ部下の背をがしがしと叩き、“自分が生きてりゃアレだろ”と、にかっと笑う。
そんな暇があったら笑って酒を飲めと。自由に生きようじゃないかと。
だが彼は死を特別視する人間の思考を無視しているわけではなく、確りと理解している。
そこが彼のリーダーたる器だった。
それぞれの想いを理解し、その上で彼は皆を励まして、笑い飛ばして、先陣を切って拳を掲げるのだ。
彼は皆の“ヒーロー”なのだ。
413デイドリーム・ビリーバー 2:2011/06/08(水) 20:55:49.09 ID:8pXmTi240
故に彼は、酒に呑まれた。
酒をすすめる召喚士の辛さを感じ取り、決して叫ばれない“助け”を受け取って、素直に杯を交わした。
酒を飲む危険性は、勿論彼の心の片隅にあっただろう。
軍の首領である彼が、敵地で酒を何の躊躇もなく飲むはずがない。
だが、彼は注意を口にしなかった。友の想いを無下に出来るはずがないからだ。
彼は思う。危険に怠惰、それがどうしたというのかと。それよりも優先すべき“心”があるのではないかと。
だが普通の人間ならそうはしない。惨劇が起きてからでは何もかもが遅いからだ。
仮に行動に移したとしても酌を注ぐに止めるだろう。自分も呑まれては意味が無いからだ。
泥酔状態に敵襲。到底正面には戦えない。

しかし彼は、あえて呑まれた。その方が粋だと思ったからだ。
相手をしてあげているという認識を払拭する為には、自分達が対等だと認識させる為には、御互いが楽しんで呑まれなければならない。
酌を注ぐのみなんて無粋極まりないじゃないか、と彼は考える。
粋であれば全てよし。それが原因で自分が危険に晒されようがどうでもよいと彼は酒を注いだのだ。
その時はその時。今は今なのだ。
今を逃せば、二度と今は訪れない。少し朧気な月夜を肴に酒を楽しめるのは、“今、この瞬間”だけだ。
同情でもなんでもない。漢には、全てを忘れて笑いたい時だってある。それを汲んだだけだった。

簀巻きにされたまま、彼は夢を見ていた。
それはとてもとても幸せな夢で、彼は満面の笑みを浮かべて涎を垂らす。
それが一体どんな内容なのかは私達には解らない。
けれども、一つ言えるのは“夢は覚めるもの”という事だ。何時かは絶対に覚める。それが夢なのだ。
そして一度覚めてしまえば、夢は現実に淘汰され、そして何時しか夢を見ていた張本人でさえその全てを忘れてしまう。

“人の夢は終わらねェ”。

彼はそう言った。しかし、終わらない夢はない。永遠の眠りなど有り得ないのだ。それを証明するかの様に、彼はゆっくりと重い瞼を上げた。
眩しい光に目を細めて、豪快な欠伸を一つ。少し遅れて、気怠そうに伸びを一回。
首をごきりと鳴らし、涎をぐいと拭く。上身体はやや大袈裟なアクションで起き上がった。
キツくしばった縄と布団は、馬鹿力を前にいとも簡単に弾け飛ぶ。
片目で時計を見ると、五時を回っていた。時間が経つのは存外早いものだ。
覚醒してゆく意識の中、彼は寝癖頭をぼりぼりと掻き毟り、隣を見る。
どうやら友はまだ夢の中らしい。ならば起こすのは野望だなと彼は微笑むと、その幸せそうな寝顔から視線を上げる。
清々しい朝だった。木漏れ日が窓から漏れ、薄く透けるカーテンはふわりと揺れる。
朝焼けが輝く空の向こうに、雲は優雅に泳いでいた。
だがしかし、小鳥一匹鳴きはしない。代わりにと聞こえてくるは、不細工な愛の囀り。
全くもって不愉快だった。されど、これが現実。

しかしそれでも彼はにかりと笑い、大砲を担ぐ。その顔には一切の不安の色がない。
酒と吐瀉物が混ざり合った不快な臭いが彼の鼻腔をつんと刺していたが、それもなんのその。
頭の痛みも胸焼けも、立派な漢の勲章だ。
彼こそが皆の憧れる漢の中の漢。器でかき未来の総統主。何があっても砕けぬ鋼鉄の肉に、何度倒れても諦めぬ不屈の精神。
二つを兼ねるその姿はまさに最強。そう、彼の名は―――――――



「おぅ、行くぜ」



―――――――“不死身のフォッグ”。
414デイドリーム・ビリーバー 3:2011/06/08(水) 20:56:55.36 ID:8pXmTi240



【フォッグ 生存確認】
状態:HPTP100% 精神力+
所持品:パナシーアボトル メガグランチャー
基本行動方針:自由を手に居れる為にシルエシカを立ち上げ、法を壊す。
第一行動方針:サイグローグをぶっつぶす(リッドの仇を取る)
第二行動方針:なんか表が五月蠅いから様子を見に行く
第三行動方針:拠点で待機
現在位置:A4邸・台所
415デイドリーム・ビリーバー:2011/06/08(水) 20:58:08.06 ID:8pXmTi240
短いですが、これにて投下終了ですー。
416名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/08(水) 21:31:35.25 ID:wRju4ZTk0
投下乙です!
フォッグが恐ろしく頼もしいな。
さすが一団を纏める長なことはあるぜ。
417名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/08(水) 22:22:19.77 ID:yltf/P7AO
乙!
最近投下多いね
ほんとお疲れ様です
418名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/09(木) 00:37:47.03 ID:pnQB08g50
乙!最近投下ラッシュでうれしいな

一番進んでないパートだからどう展開するか気になるな
419名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/09(木) 01:28:17.66 ID:I66F8cAhO
乙!あの酔いどれの裏にはフォッグなりの優しさがあったんだな。
それにしてもデイドリームビリーバーかあ。タイトルが深いな。フォッグの夢はいつ壊れてしまうのやら…考えたくないけどな。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/11(土) 19:50:54.66 ID:Ok9zz7TW0
これより投下を開始します
421ふたりでお酒を-Anu orta veniya- 1:2011/06/11(土) 19:54:04.78 ID:Ok9zz7TW0
「異なる時間軸・平行世界……ね」
マナの大樹のそばでキール、チャットの二人と別れ、暫くしてからの事。
大樹に背を預けて座っていたリフィルの小さなつぶやきを耳にし、それまで沈黙していたクレメンテは彼女に話しかけた。
『……どうやらクレスが話しておった内容が気掛かりのようじゃな』
「老、…聞こえていたのね」
『気に障ったのならすまんの。しかし一人で抱え込まずに少しでも吐き出した方が、心もその分軽くなるもんじゃて。
 …して、クレスが話しておった"異なる時間軸"についてだったかな?』
「……ええ。それだけではない、というのが本音なのだけれど」
小さく息をついてそう前置きするとリフィルは重たい口を開け、ぽつりぽつりと語りだす。
そんな彼女を優しく支えるかの如く、大樹はただ静かにそびえ立っていた。


話はリフィルが茫然自失として座り込んでいた時まで遡る。




始めは赤髪の青年。
それから暫くして青髪の鬼を5人掛かりで倒した際、その内の一人が犠牲となり。
その少し後で合流した桃色髪の少女に案内され、結果的とはいえ一人の少年を看取る事となる。
膨大な量のマナの爆発を感じとってからは全てが目まぐるしく動いた。
しかしそのような中にあって尚、彼女の両目は血の紅に彩られた白と黒の物言わぬ肉体を映し出し。
そしてつい先程うまれた、彼女の行いにより致命傷を負った男と、男に致命傷を負わされ、また負わせた桃髪の少女、二つの屍。

(私は……)
リフィルは自問せずにはいられなかった。
このような環境で生き延びたいのなら、ジェイドが如く冷酷なまでに私情を切り捨てるべきだという事は分かっている。
極端な話、己以外の全てを切り捨てなければ生きて行けないのだ。
しかし教師として、治癒術師として。一人のヒトとして、せめて自身の目前でだけでも命が失われる事を止めたかった。
だが己の命を捨てる事になる程までは教師・治癒術師としての心を貫けず。
かといって軍人のように振る舞う程までは己の心を捨てきれず。
その結果どうなった?
(守るどころか、奪ってばかりいる)
ジェイドを止める事が出来なかった為にアリエッタは斬られ。己が引き止めた所為でジェイドはアリエッタに串刺しにされ。
分が悪い賭けだったとはいえレイズデッドが発動しなかった為に、片腕を失っている状態で石化を解かれたクレスは亀裂の入った右上半身から赤い生命の水を流し。
己の判断ミスが元でアッシュが窮地に陥り、そんな彼を救ったが為にアニーという名の少女が瓦礫の下敷きとなり。
(…何処までも中途半端なのね、私)
二兎を追って一兎も得られなかった、人間でもなくエルフでもない半端者<ハーフエルフ>。
己の身体に流れる血を連想せずにはいられない現実は、ただでさえ消耗していた彼女の心を打ちのめすには充分過ぎた。
422ふたりでお酒を-Anu orta veniya- 2:2011/06/11(土) 19:58:09.86 ID:Ok9zz7TW0

あまりにも落ち込んでいる時、人は己の身の回りをとりまくもの悉くを疎ましく感じる事がある。
クレメンテによる励ましも、この時のリフィルには不快な雑音としか受け取る事ができなかった。
何より、キールによってある程度拭われたとはいえ未だその刀身に残る赤錆色が、彼女の心を責め苛んでやまなかったのである。
停止しているも同然の思考はそれを視界に収め続ける事を拒み、平時の彼女らしからぬ荒い動作で意志持つ剣を自身のサックに押し込んで脇に置き、視線をそれから遠ざけさせた。
その結果彼女の視界に飛び込んできた、もう二つのサックのうち一つを手慰みにせんと取り寄せる。
暫くの間は何をするでもなく膝元に置いていたが、リフィルはおもむろにサックの口を開けると右手をその中に入れた。
それを取りだそうとした事に理由はない。強いて言うならば球状で掴みやすかったから、といったところだろうか。
子供の握り拳大の石がサックの中から完全に姿を現した次の瞬間、彼女は手にしたそれを放り出すこととなる。


───それじゃあエミル、マルタ、それにテネブちゃん。くれぐれも気を付けてね
──リフィルさん、有り難うございました。ジーニアス、またね
───あ、そうだわ。リーガル、これを貴方に渡しておくわね
──……これは?
───ふふ、そうね。ラブレターみたいな物かしら

──コアをよこせえええええぇぇぇええ!!!!!
──デクス、貴様……ぐふっ!?
──パパ……パパ!?
──マルタ様、孵化を!
──でもパパが! パパが死んじゃう!!
───私に任せなさい! 貴女はコアを!


取り出した石が淡く輝いたかと思うやいなや、リフィルの脳裏にはさまざまなヴィジョンが記憶として焼き付けられた。
(いったい……)
ただの幻覚にしてはあまりにもリアル、しかし現実と呼ぶには経験を伴っていない事が彼女を戸惑わせた。
(エミルにマルタ、テネブラエ、デクスにアリス、ブルート…血の粛清……それにコア)
イズルードの船着き場での一場面も、どこかの室内での一場面──窓から見えた風景からするとアルタミラだろう──も彼女の記憶に存在するものではない。
しかしこれらは確かに己が体験した事象なのだ、という確信がリフィルにはあった。
これらが夢幻だと言うのなら、支給された名簿に載っていたとはいえこれまで全く面識のない人物と共に行動する、などといったものを見るだろうか。
さらに付け加えると、ブルートなる人物およびテネブラエなるヒトならざるものに至っては名簿に載ってすらいないというのに。
423ふたりでお酒を-Anu orta veniya- 3:2011/06/11(土) 20:02:13.06 ID:Ok9zz7TW0




「……ありがとう、老。おかげで幾らか気が楽になったわ」
『なぁに、礼には及ばんよ。…それにしても、己が持ち得ぬ筈の記憶が"蘇った"、とはのう』
「ええ。正直、それ以外の表現は思い浮かばないわ」
加えて言うならば。例のヴィジョンで見たのは、あの世界再生の旅から約二年後の世界であった。
"未来"を"過去"として認識する。これほど奇妙な経験が他にあるだろうか?
とは言え、突然の出来事に驚き思わず手放したものの、あの石のお陰でリーガルが森の中で死んだという話を思い出し、連鎖的に大樹の下に行く事へと思い至ったのだから現実は数奇なものである。
「恐らくだけれど、あの石は触れた者に『異なる時間軸』の自分の記憶や経験を見させるアイテムなのではないかしら」
その根拠は、限られた時間の中でのクレスとの会話。
かの少年の話を元に考えるとこの奇妙な現象にも合点がいく、とリフィルは締めくくり、思慮深い老剣の反応を待った。
『ふむ…確かに、あの少年が話した内容を鑑みるとそう考えた方が自然ではあるのう。しかしそうだとすると…』
そこまで言うと、クレメンテはコアクリスタルを鈍く光らせ言葉尻を濁す。
その声音に躊躇の色を読み取ったリフィルは、彼に言葉を続ける事を躊躇わせているものの正体を理解していた。
「………『異なる時間軸』…パラレルワールドは確かに存在する、という事になるわね」
『やはり、おぬしも気付いておった…いや、気付いて"しまった"か』

ただの幻覚と一笑に付してしまえたら、どれほど楽だった事だろうか。
しかしリフィルは知ってしまった。石によりもたらされた記憶の中で"見て"しまったのだ。
あるべき姿に戻った世界を自分たちと共に旅する、喋ると三枚目な赤毛の男を。
(「彼」は死んだ。確かに死んだのよ……他でもない私たちの手によって)
世界再生の旅の中。救いの塔にて袂を分かち…
(でも…「向こう」では生きていた)

……命を落としたテセアラの神子、ゼロス=ワイルダーの姿を。
424ふたりでお酒を-Anu orta veniya- 4:2011/06/11(土) 20:06:35.77 ID:Ok9zz7TW0


親殺しのパラドックス、という論がある。
Aという人物が何らかの手段で己が生まれる前の過去に飛び(あるいは飛ばされ)、後にAの親となる人物を故意・過失関係なく殺害したとする。
そうするとAは産まれてこない事になるが、そのAが居ないために親が殺される事は無くなる。
さらに、親は殺されないためAは生まれてくる。するとAはやはりタイムトラベルをして親を殺す…というものだ。

この事態を防ぐために考案された論は大まかに分けて二種類ある。
一つは、時間旅行者が過去に遡って行う行為は全て歴史の一部であると仮定し、その中で矛盾を生み出す行為は決して実行できない(≒歴史は変えられない)とする論。
残念な事に、今回のケースではこの論を利用する事はできない。
無理に当てはめた所でこれまでに面識のない人物・存在をはっきりと"記憶している"事への説明がつかないし、何より死んだ筈の人物が生きているという矛盾が生じるからだ。
そこで重要になるのがもう一つの論である。
これは前述の例で言うとタイムトラベルをしたAが己の親を殺した時、その時点で「Aの親が死んだ(=Aが存在しない)世界」が生み出される(時間旅行をしたA本人に影響は全くない)、というものだ。
("ゼロスが生きている世界"は確かに存在している…)
証明する事はできない。しかしリフィルの中でこの仮定は最早一つの"事実"であった。
この"事実"がもたらす意味に気付かぬほど幼い、あるいは浅慮であれば。嗚呼、どれほど幸福だったことだろうか!
(彼が死なずに済む道があったというのなら。それはつまり…)
もしもあの時、ゼロスの抱える闇に気付いていれば。
「可能性の数だけ、世界は存在する…」
『……』
もしも、あの時ジェイドを止めずにいたならば。
もしも、あの時アリエッタの暴走にいち早く気付けていれば。
「……本当、皮肉な話ね」
もしも、あの時クレスの石化を解かずにおけば。
もしも、あの時詠唱を続行せずに中断しておけば。
「本当に……」
もしも、あの時赤毛の青年が道化師を打ち倒していれば。


もしも、この世界<バトルロワイアル>に連れてこられなければ。
425ふたりでお酒を-Anu orta veniya- 4:2011/06/11(土) 20:11:35.57 ID:Ok9zz7TW0


『…リフィル、この事は』
「ええ。…誰にも言うつもりは無いわ。もちろん、あの石が持つ力についても」
こんな情報を聞いて心を乱すくらいならば、いっそのこと何も知らずにいる方がよっぽど幸せというもの。
自ら気付いてしまう分には防ぎようが無いが、要らぬ芽は摘めるだけ摘んでおきたかった。
『…すまんな、お主には辛い思いをさせてしまうのう』
クレメンテの声が重々しく響く。
「いえ、貴方のせいではないわ。この考えには遅かれ早かれ行き着いていたでしょうし」
ただ、と付け加えるとリフィルは少し口を噤む。そしてゆっくり深呼吸をすると、意を決したように口を開いた。
「…ただ、ひとたび意識してしまったらどうしても考え込んでしまうのよ。
 一度知ってしまった以上、それを無いものとする事なんて出来ないもの」
頭の回転が速いというのもこういう時には考え物ね、と秀麗な顔を歪ませ半ば吐き捨てるようにリフィルは言う。
その苦虫を噛み潰したような表情を見たクレメンテは、しばし逡巡するとコアを煌めかせて話し出した。
『…そうじゃ、確かお主の荷物の中にパナシーアボトルがあったじゃろう。あれを飲んだらどうじゃ?
 こういう時に酒の力を借りるのは悪い事ではないぞい』
「……一時の逃避の為に薬物乱用を勧める年配者なんて初めてだわ」
『それも「ヒトではなく剣」というオマケつきじゃな』
悪びれもせずしれっと続ける老剣にリフィルは思わず呆れ顔になる。
『なあに、一度くらいなら何の心配もいらんて。酒がロクに手に入らなかった天地戦争時代なんぞ、代わりに配給のパナシーアボトルを隠れて飲む奴が結構おったわい。
 かくいう儂──と言っても人間<オリジナル>の方じゃが──も何度かお世話になったクチだしの』
担当医だったアトワイトにバレた時はこってり絞られたもんじゃ、などと飄々と言葉を続けるクレメンテに促されるかの如く、リフィルはサックからパナシーアボトルを取り出した。
『まあ、それはともかくとして……リフィルや、今のお主には休息が必要じゃ。それに気付かぬお主ではあるまい?』
「頭では分かっているのだけれど、ね…。手段が手段だもの」
貼られているラベルには、この手の物にはお決まりの常套句。
(【これは医薬品です。用法・容量を守り正しく使用しましょう】、……今はクソくらえ、って所かしら)
今は過活動ぎみな頭の回転を少しでも鈍くさせたかったリフィルは、覚悟を決めてボトルの封を開けると中身を一口ぐいっと呷った。
途端、口内に広がる薬酒特有の甘ったるい苦みに顔を少し顰める。
「…酒として呑むには、お世辞にも美味しいとは言い難いわね」
『味ばかりはどうしようも無いからのう…まぁ、じきに慣れるじゃろ』
そうあればいいけれど、と言いながらリフィルは再び一口呷る。
そしておもむろに立ち上がるとそれまで居た場所とは大樹を挟んでほぼ正反対の位置まで回り込み、少し離れた場所から大樹を眺め始めた。
大地から見上げるだけではその高さを知る事は出来ず、神殿の屋根のように雄大かつ厳かに広がる枝葉を支える幹は大人十人が両腕を広げても足りない程に太く、それらを支える根は力強くも優しい。
この姿になるまで、いったいどれ程の年月を経たのだろうか。悠久の時を刻んできたであろう大樹はただそこに在るだけで美しかった。
(……)
だからこそ、彼女が立つ位置から少し外れた根本に広がる赤が殊更に異彩を放っていた。
426ふたりでお酒を-Anu orta veniya- 6:2011/06/11(土) 20:17:41.81 ID:Ok9zz7TW0

リフィルがこの場に辿り着いた当初、そこには首から上が存在しない死体があった。
大樹の根に抱かれるように倒れ込んでいた肉体には弓矢が幾本も刺さり、鋭利な刃物で突かれたような傷からは氷のマナの名残(クレスを看取った頃に感じ取ったマナの正体はこれだろうとリフィルは直感した)。
そして極めつけ。その死体から放送直前に感じた爆発したマナと全く同じマナの残滓を感知したのだ。
マナの爆発を起こしたのはこの人物だ、と瞬時に判断した己の冷静な部分に恐怖したリフィルはそれが見えない位置まで大樹を回り込むように移動し、その根元に力無く座り込んだ。
キール達が彼女を発見したのはそれから五分と経過していない頃である。

「…貴方やキールには感謝しなくてはならないわね」
今やその死体は消え、おびただしい量の血痕のすぐ側には簡素な墓。その土はまだ柔らかく、この土饅頭が作られてから数時間も経っていない事が伺える。
「私やチャットを気遣っての行動でしょう? …老」
『……気付いておったのか』
「ええ…二人が来る前に見てしまっていたから」
そう言いながら血痕を避けつつ大樹の幹に寄り添うと、普段は髪で隠している耳の片方をその樹皮にそっと押し当て、静かに両目を閉じた。
視覚を閉ざすことで鋭敏になった聴覚はごうごうと流れる大樹の鼓動を聞き取り、触れている肌は樹木特有の温もりを受け取る。
(最後の一人になるまでの殺し合い  ゲームに乗った者、抗う者  死ぬということ、生きるということ)
(発動しなかったレイズデッド  迷いの末に救えなかった命、奪ってしまった命  過去、現在、未来、別の時間軸)
(一瞬で現れ、そして消えた膨大なマナ  遠くで響いた爆発音、それに感じた微量のマナ  可能性の数だけ存在する世界 )
様々なピースが脳内に浮かんでは消え、合わさっては離れていった。

十数分はそうしていただろうか。その間微動だにしなかったリフィルは閉じていた目を開けて身体を大樹から離すと、改めて辺りを見回した。
(…あれは)
大樹から離れた少し目立たない場所に、一抱えほどの石が心持ち盛り上がった土の上にぽつんと置かれている。そこに何者かが弔われている事は明らかだった。
「もう一つの……墓」
『むう、あれには気が付かなんだ…』
薬酒を呷りつつその側に近づいたリフィルは、乗せられている石の表面に付いている土やコケが木の枝か何かで所々削り落とされていることに気が付き、目を見開いた。
「……ッ!!」
知らず、唇が戦慄く。膝をついてボトルを置き、彼女が普段使うそれとは少し違った形の文字を震える指で辿れば、指先が触れた箇所の土がぽろぽろと崩れ落ちていった。


〔 リーガル=ブライアン ここに眠る 〕

427ふたりでお酒を-Anu orta veniya- 7:2011/06/11(土) 20:23:36.95 ID:Ok9zz7TW0
『これは……』
クレメンテのつぶやきを耳にしながら、音を伴わない声で刻まれたと言うには余りにも儚い文字を読む。そうしている中で、リフィルは昨晩のやりとりを思い出していた。
それはガオラキアの魔力に惑わされている事に気付き、そのまま休息を取ることになった時の事。月を見てくると立ち上がったアリエッタを引き止め、リーガルに関する事を改めて聞いたのだ。
曰く、始めは殺害する目的で二人に近づき、クレスを刺した事。リーガルと一戦を交えようとしたまさにその時、青い光を纏った金髪の男の襲撃に遭った事。
その際に気を失い、回復した時リーガルは既に落命していたのだという事。少女の殺意をその身に受けながらも尚『守る』と言ってくれたクレスと行動を共にすると決めた事。
──そのあと、クレスが土を掘ってお墓を作った、です。……アリエッタ、もう、行くね──
──え…ええ、分かったわ。……教えてくれて有り難う──
「まさか、ここにあるなんて……」
(…思いもしなかった)
まして墓碑代わりの石に頼りなげながらも銘が刻まれているなど、いったい誰が想像できよう? 他人への気遣いを嘲笑うようなこの殺し合いの場で、かの少年はここまでやってのけていたのだ。
仲間をここまで手厚く弔ってくれた事に礼を言いたい。しかしそれは叶わぬ夢だという事をリフィルは既に知っていた。
それまでずっと手にしていたクレメンテに断りを入れてゆっくりと地面に横たえらせ、置いていたボトルを手に取る。
そして石に向けて飲み口を静かに傾けた。自然、中の液体は重力に従ってこぼれ落ちる。
石の表面に付いていたコケや土は濡れて重くなり、"書かれて"いた文字は流れ落ちる土と共に消えていった。

「貴方にとっては物足りないでしょうけれど……ちゃんとしたお酒じゃなくて御免なさいね。
 …紅茶があれば、むしろそっちの方が喜ばれたのかしら?」
傾けていたボトルを戻し、自身も一口呷る。その味にはいつの間にか慣れていた。
「そういえば、一度の戦闘中に五種以上の酒類をちゃんぽんで飲まされた後は流石にきつそうだったわね。
 あの時は主犯格のゼロス、実行犯のロイド、共犯のジーニアスと共に、
 貴方にも「年長者として止めるべき立場にありながら」と私は説教をたれたのだっけ」
ちなみに弟とロイドには拳骨、ゼロスには拳骨+とびきりの蹴りを一発、のおまけ付きだ。
当時を振り返り、リフィルは懐かしさにくすりと小さく笑った。
「…私、貴方の事は結構好きだったのよ? 少なくとも"ラブレターみたいな物"を渡そうと考えるくらいには、ね」
もっともそれを実行したのは「私」ではなく、しかも手紙の内容を悟られぬようにする為の方便ではあったのだが。
「……」
己の唇を酒で湿らせるついでに、無言で再び石に注ぐ。空になったボトルの底に残る最後のひとしずくは掬い上げられるかの如くリフィルの口中に吸い込まれた。
悲しい事も、辛い事もあった。でもそれ以上に、かけがえのない大切な記憶たち。あの旅の事は、今でもまるで昨日の事のように思い出す事ができる。
ああ、しかし。

「……もう、貴方の声を聞く事はできないのね」
過去は、過去以外のなにものにも変化することなど出来ないのだ。

「…自己犠牲の気がある貴方の事だから。ひとり、あの子達を守る為に戦ったのでしょう?
 未来を……希望を繋ぐために」
目頭が熱くなるのを抑えきれず、裡から飽和した様々な感情が塩辛い水滴となって彼女の頬を濡らしていく。
「……………ごめんなさい」
そのさまを見守る老剣は黙して語らず。風に吹かれる木々のざわめきだけが辺りを静かに包み込んでいた。
「ごめんなさい……
 …貴方が命を賭して守った希望を、私は……わたし、は…………ッ」
こうしてリフィルは静かに泣き崩れる。恥も外聞もかなぐり捨て、一人のヒトとして暫くの間泣き濡れた。
この閉ざされた空間に連れて来られてから、彼女が感情のままに涙を流したのはこの時が初めてであったことをここに記す。
428ふたりでお酒を-Anu orta veniya- 8:2011/06/11(土) 20:29:58.30 ID:Ok9zz7TW0



泣いているうちにいつの間にか眠っていたらしい。リフィルは目尻に残っていた涙を拭うと一度だけ大きくゆっくりと息を吸い、静かに吐き出す。
答えを出すべき大きな問題がまだ残っていた。
「…私は、私のままであることを諦めない。どっちつかずのままでいる事を諦めない。……諦めたく、ない」
彼女をとりまく現実と教師・治癒術師しての心、どちらを優先するべきか。リフィルの前には二つの道が並んでいた。
しかし、そのどちらかだけを選ぶという事は、自己のある一面を否定する事と同じである。
生き残る為に非情に徹する事も、命を落とすまで守り、癒し、導くことも。どちらとも、どうしても己の本心のどこかと噛み合わなかった。
(居場所がないなら作ればいい……貴方はそう言っていたわね、ロイド)
『人間の道もエルフの道も行くことが許されないハーフエルフは何処に行けばいい』と言うミトス=ユグドラシルに、あろう事か『どこでもいいさ』と己の教え子が宣った時に受けた衝撃をリフィルは忘れられない。
求めるものが無いのなら作ってしまえ。与えられるのを待つのではなく自ら動き出せ。ある種無責任極まりない言葉だが、その裏には今の状況に甘んじることなく立ち向かえ、との励ましが確かにあった。
この言葉があったからこそ、リフィルはこの世界に連れ出される直前までハーフエルフの地位向上のための旅を弟と続けてこられたのだと言っても過言ではない。
(……会いたいわ)
二つの道を提示されたのにそのどちらをも選ばず、しまいには新たな道を造り出してしまった少年は、今の己を見て何と言うのだろうか。
リフィルはまだアルコールが残っている頭でぼんやりと考えるも、なぜか彼女が出した宿題にヒィヒィ言っている姿しか浮かばず、次第にこんな事で悩むのが馬鹿らしくなって考えるのをやめた。
(…キールとチャットには心配をかけてしまったわね)
ちらりと確認した時計の針は8時25分を指していた。そろそろ約束の時間か、と考えながらクレメンテを手に取ったまさにその時。

突如、リフィルの全身が粟立った。底知れぬものを感じ取った肉体の細胞一つ一つがきりきりと悲鳴を上げているような錯覚さえ覚え、冷や汗が流れる。
(なにこれ  マナじゃない、でも同じなにか…)
何事か、とその感覚の発信源から逃れるよう──大樹の陰へ隠れた矢先、彼女がいる反対側の少し開けた空間に向かって上空から眩い光が"墜ちて"きた。
リフィルは反射的に目を閉じて身体を低くする。それとほぼ同時に落雷のような轟音が轟いたのち、辺りは静寂に包まれる。
その静寂の中事態の把握に努めたリフィルは、力場の影響で土埃が舞う空間に立つ少女の姿を大樹の陰越しに垣間見る事に成功したのだった。





【リフィル・セイジ 生存確認】
状態:HP80% TP60% 頭部と左足に裂傷・打撲・切傷多数 服に焦げ
   教師/治癒術士としての無力感 後悔 微酔 
所持品:リヴァヴィウス鉱 ウイングパック リブガロの角 ソーディアン・クレメンテ
基本行動方針:殺し合いの打破
第一行動方針:あの少女は一体?
第二行動方針:現実と治癒術士(教師)としての心、どちらを優先すべきか考えたい
第三行動方針:リーガルを殺した人物が誰か気になる、リーガルを殺した人物を警戒する
第四行動方針:死者に対しては慎重に接する
第五行動方針:爆破のマナと死体の関係が気になる
現在位置:D1大樹ユグドラシル


【ソーディアン・クレメンテ】
状態:健康
基本行動方針:リフィルを中心にチームをサポートしつつ、ラディスロウが本当にあるなら辿り着く
第一行動方針:現状把握及び周囲の警戒
第二行動方針:キールのストッパーとなる

※リフィルとクレメンテが絆転生石の効果に何となく気付きました
※また、それに関連してパラレルワールドの存在をほぼ確信しましたが、誰にも言うつもりはありません
 (絆転生石の効果についても含む)

備考:これはキールとチャットが大樹の側でリフィルと別れ、リアラ達が大樹のもとに転送された直後までの話です
429名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/11(土) 20:35:04.21 ID:Ok9zz7TW0
これにて投下終了です
430名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/11(土) 22:13:40.13 ID:XwgWVuq+0
投下乙です!リフィルの心情がよく伝わってきて
本当良かった…だがこの後の晶霊砲が心配だな。
431名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/12(日) 01:05:44.75 ID:fyWiBRqn0
GJ
432名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/12(日) 17:06:54.02 ID:aO/+OBokO
投下乙!
いいね。リフィルの弱さと強さがいい具合に出てる。面白かったです。

…しかし最近投下多いなぁ。素直に嬉しい。
433名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/18(土) 00:08:31.18 ID:bZ00h2ZdO
保守
434名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/24(金) 09:49:41.57 ID:n8KgUUJxO
保守しときますね。
435名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/01(金) 00:54:49.03 ID:bpzILsUm0
保守
436名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/03(日) 00:42:43.98 ID:L4qKVFAE0
投下します
437名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/03(日) 00:54:57.75 ID:L4qKVFAE0
申し訳ありません。何度か試したのですが
幾ら文字数減らしてもオーバーになって投下が弾かれますので
避難所の方に投下します
善意や悪意を、思惑や疑惑を、そしてそれらを抱く人々を乗せて、風は大地を駆ける。
希望と絶望が混沌と入り混じる<始まり>の名を冠する塔を目指して―――。



その<始まり>が、間もなく終焉を迎える事を、彼らは知る由も無い。




<KIEL SIDE>

「エアリアルボードって凄いな!これなら塔まであっという間だぜ!」
(…この能天気め。今の状況が分かっているのか)

少し後ろで子供のように目を輝かせるロイドに対して、キールは心の中で悪態を吐く。
元々人付き合いが得意とは言えないキールだが、それでもほぼ初対面に等しいロイドに対して
良い印象を持たないのは、自分達が生き残る確率をかなり減らされた事と、傍にいると否応無しに
己が醜さや卑屈さが際立つように感じるからであろう。とはいえ、それを口に出して己が株を下げるつもりは無いし、
それにロイドにはまだ聞かねばならない事がある。キールは軽く深呼吸すると、視線は前に向けたままロイドに声をかけた。

「ロイド」
「ん?どうしたキール?」
「…先刻から気になっていたが、致命傷か、そうでなくとも行動に支障をきたす程の胸の傷を負って、
お前が平然としてられるのは…今お前に生えている天使の様な翼が理由なのか?」
「…まあ、そういうことになるんだろうな」

ロイドはやや躊躇いがちに言った。キールを信じていない訳ではない。
だがエクスフィアを、クルシスの輝石を単純に兵器として見られるかもしれない事を思うと
余り進んで話したくない。そんな微妙な感情を敏感に察したか、キールは視線を僅かにロイドに移して言った。

「…お前が話したくなければ無理に言わなくても良い。ただ、今後敵にも同じように天使の能力を持つ者がいれば、
それがどんなものか把握出来ていれば僕達の危険を減らす事が出来る。それに…」

お前の理想を貫き、相手を殺さずに済ませるなら尚更だ、そうだろ?そう締めくくりながらキールは僅かに自嘲する。
チャットの時といい、何時から僕はここまでの役者となったのであろうか。ロイドに対して善意や気遣いなど皆無なのに、
ここまで演技で表現できるのは我ながら大したものだ。学者でなく、役者としても生きていく事も不可能じゃないかもしれない。
…無論、そんな生き方勧められても御免被るが。

「そう、だな…分かった、俺が知ってる事で良ければ教えるよ」

キールの言葉にロイドは少々迷ったが、やがてコクリと頷くと静かに話し始めた。




(エクスフィア、クルシスの輝石、天使化か…全く、反則級の代物だな)

しかもそれらが人の命から生み出されるという、余りにも非人道的な製造工程。
ロイドの話を聞き終えたキールは、内心悍ましさと嫌悪感を覚えたが、同時に強い魅力も感じていた。
それらが齎す恩恵は、この殺戮の舞台に限って言えば戦況を恐ろしく優位に進める事が可能となるからだ。
まずエクスフィアとクルシスの輝石共通の特徴として、装備者の身体能力を限界以上に向上させるという。
それだけでもモヤs…ゴホン、身体能力が一般人より少々劣るキールにとって魅力的な代物である。
無論代償はある。装着というより寄生させて使用するこれらの人工鉱石は、時間と共に宿主の肉体、精神を浸食していくらしい。
相当恐ろしい内容だが、それらは要の紋さえあれば十分防御可能らしいことから然程気にしなくとも良さそうである。

そしてクルシスの輝石はそれに加え、今のロイドのように<天使化>が可能となるらしい。
(厳密に言えばロイドが身に付けている物はエクスフィアだが、何らかの要因でクルシスの輝石に進化したらしい)
外見上の大きな特徴は、体内のマナを具現可視化させ、特有の淡い光を帯びた翼を装着者に与える。
無論翼は常時出しっ放しでは無く、自分の意志で消す事も可能らしい(今のロイドがそれをするのは自殺行為の何物でもないが)
機能的な大きな特徴は2つ。1つ目は視覚聴覚を飛躍的に向上させるという点。その能力は大樹付近で既に確認済み。
あれだけ距離があったにも拘らず、ロイドは僅かな物音や話し声を確実に捉える事が出来た。
つまり敵の奇襲急襲を事前察知したり、逆に敵に偵知されないよう行動を起こし、裏を掻く事が可能となる。
2つ目は装備者の体内時計を止めるという点。つまり永遠の命を与えると言う事である。まるで馬鹿な科学者が憧れそうな内容。
当初キールは作り話かと思ったが、ロイドの性格から考えてそれはまず無いだろうし、何より今のロイドの状態を説明出来ない。

(天使化能力は想像を遥かに超える力だな…)

安堵感は確かにある。そんな規格外の能力が仲間の中にいるのだから。
これ程戦力として頼もしい相手はいるまい。好き嫌いは別として、ロイドには相当の利用価値があるだろう。
だが、敵に万が一天使化能力を持つ者がいれば…そう考えるだけで背筋が冷たくなる。

(参加者の中で、ロイド以外にクルシスの輝石の所持者はクラトス=アウリオンとミトス=ユグドラシル。
エクスフィアの所持者はここにいるリフィルとプレセア=コンバティール、マグニスか…)

その内クラトス=アウリオンはロイドやリフィルの仲間であるから心配はいらないが、
ミトス=ユグドラシルは生前敵対していたらしく、この舞台での動向も定かでは無い。
自分達に味方してくれるような都合の良い考えは余り持たない方が良いかも知れない。
一方エクスフィア所持者の内、生き残りはリフィルだけという状況。この2人の遺体の場所が分かり、
且つエクスフィアがまだ死体の傍に残っているならば、是非とも回収はしておきたいが…。
既に誰かに回収済みの可能性も否定出来ない所である。

(だが、可能性は低くとも、エクスフィア…可能ならばクルシスの輝石を手に入れ、装備したい所だな)

そうすれば最低限身体能力の向上が見込める。自分は後方支援タイプ及び頭脳担当で、
リッドやファラ、ロイド達の様な強靭な身体能力を生かした前衛タイプではない。
味方の連携が上手く機能しているうちはいいが、最悪1人で前衛タイプを相手にせねばならない時も来るだろう。
その時にある程度応戦出来るだけの、せめて逃走出来るだけの身体能力が欲しい。
勿論、クルシスの輝石の方が遥かに望ましい。さらに感知能力を備え、飛行による移動、逃走手段の大幅な向上、
そして何より不死に限りなく近づくことが出来る―――つまり生き残る確率が大幅に上がる。

(僕はここで死ぬわけにはいかないんだ。メルディに、ファラに、そしてリッドに会う為にも―――)

キールは拳を強く握りながら、遥か遠くに見える塔を見据える。
少年は知っている。それが意味する事を、その為に己が何を為すべきか。

(たとえ他者から何と言われようと、如何な手段を用いようと、僕は必ず…ここから生きて脱出してみせる…!)



少年はまだ知らない。少年が選ぶ道が如何に重く、暗きものか。
知らぬ振りを貫く事など到底叶わぬ物だということを。
彼がそれを思い知った時、果たして己を保つ事が出来るか――――誰も知る由は無い。


<LLOYD SIDE>

キールにエクスフィアや天使化について大まかな説明をした後、
ロイドは先程リフィルから渡されたヴォーパルソードを手にし、その刀身を眺めていた。

(水の魔剣ヴォーパルソード…親父の剣。そして…―――)

全ての精霊の源である精霊王オリジンによって生み出された魔剣エターナルソードの対となる剣。
ロイドは当初からこの悪趣味なゲームから脱出するための1つの手段を考えていた。
それは魔剣エターナルソードの力による時空転移により、この舞台から脱出する事。
元の世界にいた時から、エターナルソードが人知を超えた剣だと言う事は分かっていた。
あれだけ巨大な世界を2つに引き裂く事さえ出来たのだから当然と言えば当然と言えるが、
時を越える――過去や未来にさえ行とうと思えば自在に行き来出来る…そう確信していた。

(あの時…先生は過去を変えたいと願ったんだよな)

エターナルソードを手に入れて間もなくの事、ロイドがエターナルソードの持つ真の力について
直感した事をリフィルに伝えた時の事を、ロイドは今でもハッキリと覚えている。
勿論、ロイドにはリフィルの気持ちがよく分かった。自分自身、変えたいと思う過去は数多くある。
種族間の激しい差別を受けて来たリフィルなら尚更の事であろう。

(でも俺はそれに反対した。それは絶対にやっちゃいけない事だったから…)

どんな辛い過去でもそれは変えてはいけない。やり直しがきかないから
みんな頑張って今を一生懸命生きている。それらの積み重ねが歴史というものなのだ。
だから自分の都合の良いよう過去を、歴史を変える行為は絶対にしてはいけない。
それはリフィルは勿論、自分自身にも向けて言った言葉――――それは今も変わらない。
(だけど…今心のどこかで、俺は過去を変えられないかどうか考えちまってる)

先生にあれだけ反対したにも拘らず、プレセア、リーガル、ノーマやルビア達が死なずに済むよう
過去を変えられないか、ふと気がつけばそんな思考が頭を過るのである。勿論それは自分の都合だけでは無い。
サイグローグが言う報酬とやらに頼らなくとも、全参加者がこの悪趣味なゲームで失った物、奪った物全てを取り戻す事が出来る。
このバトルロワイヤル自体を“無かったこと”にすることも不可能では無いのだ。

(だから過去を変えても大丈夫―――な訳がない)

どんな理屈を並べようと、過去を変える行為は、人々の生き方や積み重ねて来た歴史の全否定に他ならない。
ミトスも最愛の姉を失った時、非道な行為を数多く行ってきてはいるが、それでも歴史を変える行為だけはしなかったのは
きっとそれだけは絶対変えてはいけない、否定してはならない事だと理解していたからだろう。
…事実は歴史を変えても、マーテルが生きてる未来を生み出せるだけで、既に落命しているマーテルを蘇らせる事は
不可能だとミトスは知っていたからその手段を取らなかっただけなのだが、無論ロイドがそれを知る訳が無い。
何にせよ、ロイドは如何に不都合な過去であっても変えたくは無い。だがロイドは別に神でも聖人でも無い。
一部で王と呼ばれてはいるが、彼もまた人である。如何に言い聞かせようと、過去を変えたいと思う感情が
どうしても心の奥底から湧き上がって来てしまう。ロイドは瞼を力強く閉じ、邪な考えを再び奥に追い払った。

(今考えなきゃいけないのはそんな事じゃない。まずはクロエとアトワイトと合流して、何としてでもシンクを―――)

止める。その為にもシンクから話を聞く。だが…キール達が指摘した通り、シンクの説得に失敗した時、
力付くで止めるつもりだが、その後どうする?説得出来なかった時は、その都度止めるとは言ったが、あくまでシンクの傍にいる事が大前提だ。
傍にいなくてはいざという時止められないのは一目瞭然。ならばどうする?考えろ考えろ…何か良い方法がきっと―――――。



(………………………飽きた)

『早ッ!?』もしこの場にツッコミが得意な面子でもいれば、確実にそうツッコんだであろう、余りに早いロイドの思考放棄。
ちなみにこの間僅か30秒である。そこまで速い方では無い。絶好調時には3秒足らずで飽きる事も出来るのだから。
話は逸れたが、元々ロイドは好きで無い事や興味の無い事には長続きしないタイプである。
先刻のように気持ちが沈んでいた時は兎も角、多少は調子が戻ってきたロイドにとって、難しい考え事は好みではないのだ。
それにまだ説得すらしていない段階で、力付くで止めた後の事を考え込んだ所で仕様がないではないか。
まず目の前の事に集中する。その後のことはその後だ―――キール辺りが聞けば『思慮が浅い!』と再び口論になりそうな内容だが
ロイドの場合その方が上手くいく事が多いのは、世界再生の旅で実証済みである(無論全てが全て良い結果となった訳ではないが)

(第一サイグローグって奴は俺達がこうやって悩んだり考えたりするのが好きなんだろ?だったら下手に考え悩まない方がいいに決まってる)

自分達が追い詰められていくのを安全な場所でサイグローグが愉しんで観ているなど、
考えるだけでも腹が立って来る。ふざけるなよサイグローグ。俺達はお前の思い通りには絶対ならない。
シンクを絶対説得して、皆と協力してここから脱出して、そしてお前を必ずぶっ飛ばしてやる!

(その為にも、炎の魔剣フランベルジュ、そしてエターナルリングを見つけ出して、絶対エターナルソードを完成させてみせる)

勿論、何があっても俺はエターナルソードを過去を変える為には使わない。
あの剣は時を越えなくても皆を助ける力を持ってる。だから俺は過去を変える為でも、
未来を見る為でも無い、皆の為に―――明日を、希望を作るためにエターナルソードを振るってみせる。
ロイドはヴォーパルソードを鞘に戻し、瞼を閉じた。ふと浮かぶは共に旅をした仲間達、最愛の人―――。
沢山辛い事や、悲しい事があった。だけどそれを遥かに超える、嬉しかった事、楽しかった事があった。
失ったモノも多かったけど、同時に何にも代える事の出来ない大切なモノも見つけ、手に入れる事が出来た。
―――だからこそ、俺は前を向ける。どんな困難があろうと、最期まで諦めず戦う事が出来る。


過去、思い出を静かに仕舞うと、ロイドはゆっくり瞼を開く。視界に映るは現実―――黎明の塔。
まず目指すべき、そして最初に為すべき事が待ち受ける塔。

(待ってろよクロエ、アトワイト…あと少しで着くからな。シンク、何があろうと俺は絶対お前を止めて見せる!)



少年は知っている。理想と現実の間の大きな隔たりを。
完全なる理想の実現――それは決して不可能な事である。
だけど知っている。努力次第で、理想に限りなく近づけることは出来る事を。
彼の決意、強さがどこまで現実に抗い、理想に近づけるのか――――誰も知る由は無い。




<CHAT SIDE>

キールがロイドからエクスフィアや天使化等について情報を入手していた時、
チャットはサックの中身を確認していた。勿論、今後の戦いに備える為である。

(もう2度とあんな事を繰り返さない為にも…今度こそ皆さんの力になって見せます)

その為にも戦う術が欲しい。残念ながらこの面子の中では自分が最も戦力不足と言えるだろう。
元々チャットの所持していた鞄は晶霊エネルギーを圧縮させる機能が備えられており、
そこからピコハンやポイハンと言ったハンマーを具現させていたのだ。言い換えればその鞄が無くては
チャットは特技を使用出来ない。そこが大きな問題だった。

(サックは確かに鞄に最も近いですが…精々振り回して殴り付ける位しか出来ないですから、何か他の手段を考えた方が良いですね)

とりあえずサックの中を探り、武器になりそうなものを確認してみる。武器になりそうなのは、
プラズマカノン、苦無 、スタンダードマグ、エナジーブレッド、聖弓ケルクアトールの計5つ。
威力としては一部を除き申し分無い。だが悲しいかな、どれもチャットが扱うには不向きと言えた。
プラズマカノンは仲間が嘗て使ってた武器で高威力だが、出力が大き過ぎる。下手すれば引き金を引いた瞬間彼方まで吹き飛ばされかねない。
当然弓も使った事は無いし、苦無もナイフ代わりにはなりそうだが余りに心許ない。スタンダードマグは比較的扱い易いだろうが、
先刻のウッドロウの誤殺がある。心情的にも余り使いたくないし、何よりこれ以上仲間を危険に晒す真似は極力避けたい所である。
…そうなると、あと残されるのはエナジーブレッド位か。チャットはエナジーブレッドの1つを取り出した。
こんな上空で迂闊に作動させでもしたら大惨事になりかねない。故に慎重に手に取り確認する。

(見る限り、この結晶――<レンズ>でしたか、これが電流を生み出すエネルギー源となるみたいですね)

ただ、見る限り相手を殺傷するというより、相手の戦闘力を奪う程度の兵器である。
ロイドと同じよう殺し合いに乗るつもりは無い以上、さっきのスタンダードマグのような致命的な威力は必要無いとはいえ、
もしバルバトスのような敵を相手とするならどうにも力不足は否めない。少しいじれば出力は上げられるだろうが、
工具が無いとさすがのチャットといえども不可能な話。そもそもエナジーブレッドは1回限りの代物である。到底長期戦は向かない。
となると、最もマシなのはサックとなってしまうが、それでは到底皆と戦う事は適わない。
晶霊エネルギーを圧縮出来るものがあれば、それをサックにでも応用して即席の鞄を作れるだろうが……。
ふとチャットはある物を思い出し、空いた手で再びサックの中を探ったが、すぐその手を止めた。
駄目だ…材料があっても最低限必要な工具類が無ければ如何ともし難い。
まあ無い物強請りしても仕方ないのは分かっているが…チャットは思わず溜息を吐いた。

「どうしたの、チャット?」

その声にハッと我に返ったチャットが顔を上げると、リアラが心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。
先刻の一件も有り、どうやら思案顔を不安や深刻事と取られてしまったようだ。

「あ、いえ、何か武器になりそうな物は無いかなって思って探してたんですよ」

心配を掛けてしまってゴメンなさいと謝るチャットに対して、リアラはううん、気にしないでと笑顔で言うと、
チャットの直ぐ傍に近寄り、チャットが眺めていたエナジーブレッドに視線を移した。

「確かにそのエナジーブレッドは普段の護身用としては強力だけど…戦闘となると厳しいかもしれないわね」
「ええ、それに使い切りタイプですから、武器にするには難しいですね」
「そういえばチャットの本来の武器って何なの?」
「元々ボクの武器は鞄です。勿論只の鞄じゃありませんよ。最新のクレーメルコンプレッションデバイスを搭載し、その出力を(以下省略)」

先刻までの落ち込みは何処に行ったのか、意気揚々と自分の鞄の機能を語りだすチャットに
リアラは思わず苦笑した。正直逃げ出したい所だったが、生憎ここはエアリアルボード上。
おまけにロイドはキールと何かを話していて、こちらに気付いておらず、リフィルも先程チャットから借りた人形を丹念に調べている。
リアラは心の中で小さく溜息を吐くと、とりあえずチャットが落ち着くまで待った。

「そ、そうなんだ…じゃあその鞄が早く見つかるといいわね」
「それが理想ですけど…万が一この会場に無いなら、間に合わせの物で作るしかないですね。幸い材料はあるので、後は工具さえあれば…」

チャットは傍にサックの口から銃身を覗かせているプラズマカノンに視線を移した。
セレスティアの晶霊銃には晶霊エネルギーを圧縮する為のクレーメルコンプレッションデバイスを搭載されている。
それを利用出来れば即席の鞄を作るのも不可能では無いとチャットは考えていた。

「工具があれば何とかなりそうなの?」
「まあ、絶対って訳じゃないですけど、工具と材料さえあれば設計図が無くともある程度のものは作れると思います」
「そんな事が出来るなんて…凄いわね、チャット」
「まあ、おじいさまが遺した自慢の戦艦バンエルティア号をボク1人で完璧に整備してきましたからね。それ位は出来て当然ですよ」

リアラに褒められ、何時もの調子が少しずつ戻ってきたチャットであったが、ふと懸案事項が頭を過る。
先程の情報交換でリフィルから伝えられた、その“おじいさまが遺した自慢の戦艦”がG2地点に接岸されてあるという事実。
一体バンエルティア号が今どういう状況にあるのか、チャットにすれば気がかりでならないのであるが、
幾ら機械の偏執狂と言えど、今回ばかりはさすがに優先事項が多過ぎる。それに動力となるものが失われていたという情報から判断して、
急ぎ向かった所で恐らく船を動かせない以上、せめて動力源となるケイジの確保をしてから向かう方が賢明であろう。
…尚、彼女が愛して止まぬバンエルティア号の船内が、釘で文字が刻まれていると知ればどれだけ悲嘆に暮れるか、想像は難くない。
一方チャットの特技に感心していたリアラは、ふと工具の事を思い出した。たしかディストのサックの中に…――――。
リアラはサックの中を探ると、すぐお目当ての物が見つかった。リアラは工具箱を取り出すと、良かったらこれを使ってと言ってチャットに差し出した。

「え………?良いんですか?」
「うん、私が持ってても大した役に立たないから。だったらこれはチャットが持ってた方が良いと思うわ」
「わあ……ありがとうございます!」

チャットは目を輝かせ、リアラにお礼を言うと、早速工具箱を開けて中身を確認し始めた。
その様子を微笑ましそうに見ていたリアラだったが、つい先程のディムロスの言葉を思い出し、その表情から笑みが消えた。
そして僅かに自分の愚かさを罵った。何故今まで、その可能性に気付かなかったのだろうか、と。




<REALA SIDE>

黎明の塔に向かってエアリアルボードを発進させてすぐ、リアラはディムロスより2回目の放送内容の続きを教えてもらった。
1回目の放送で10名、2回目の放送でも10名、そしてそれからノーマ、ルビア、アリス、ウッドロウ、アリエッタ、ジェイドの6名が命を落としている。
生き残っているのは多くても40名…想像以上の犠牲者の多さに、今更ながらリアラはショックを隠せなかった。

『この惨状は我の予想を遥かに超えている…不安に思う気持ちも、夢であればと願いたくなる気持ちもよく分かる。だが…』
「うん…分かってる。今は自分に出来る事を…1人でも多くの犠牲を減らすことに集中しなきゃいけない…そうでしょ?」

その通りだと、ディムロスはリアラの言葉に賛同し、コアクリスタルを淡く輝かせた。
とは言え、やはり湧き上がる不安を完全には抑え込めそうにない。これだけの犠牲者数を見ると、
そして強大な力を持った者達がいとも容易く命を落としている現状を見ると、ロニ、ジューダス、ハロルド…そしてカイルが
今どういう状況に置かれているのか、果たして無事なのか、どうしても不安に駆られるのである。
もし4人の身に…特にカイルの身に万が一の事が起きた時、果たして自分はどうなってしまうだろうか…?
不吉な想像が頭を過り、リアラの心を暗く包む…が、すぐに我に返り、慌てて頭を振ってそれらを追い出す。
…止めよう。これ以上先の見えない不安を抱き続けても、都合の良い夢に逃避していてもディムロスの言う通り何の益もあるまい。
何時戦いになっても大丈夫なように、しっかり現実を見据え気を引き締めなくては―――――。

その時だった。



(現実………夢?)

その言葉は、リアラの脳裏に電流の如く走った。

(………夢)
(…そうよ、何故その可能性に今まで気付かなかった?)

嘗て自身もエルレインがカイル達の願いを具現させた夢の世界に足を踏み入れたではないか。
決して覚める事の無い、永遠の夢の世界――。

(――もしサイグローグがフォルトゥナと同様の<神>であるなら)
(レンズ、若しくはそれに準じた高エネルギー体を媒体と出来れば―――)


(夢を現化させた世界を構築する事も決して不可能ではない……)



この舞台に連れて来られた当初から、リアラは疑問に思っていた事があった。
1つは言語や文字―――これだけの異世界が存在する中、全ての世界が、まさか丁寧に同じ言語、同じ文字ということはあるまい。
そのため、このゲームを余計な障害無く進行させるための言語の通訳や翻訳が必要となる。
当初その為に、脳に細工がされている可能性をディストは指摘していたことを、ディムロスから伝え聞いた。だがこれには矛盾がある。
外科的な処置を施す事のリスクである。ハロルドのような天才科学者でも、一歩間違えると廃人と化し、最悪命を落としかねない危険な行為。
それらを参加者全員に施すのは不可能ではないとはいえ、膨大な手間と時間を要するであろう。そこまでの手間をあのサイグローグがかけるとは
正直思えないのである。無論他に協力者がいればまた話は違うかもしれないが…。

もう1つは術である。当然ながら、世界が異なれば術の媒体エネルギーは変わる。ロイド達の世界ではマナが、
キール達の世界では晶霊力が、そして私達の世界ではレンズ――晶力が媒体となる。それら無くして術の行使は不可能。
だがゲーム進行を滞りなく進める上で、一方が術の大きな制限を受ける事は好ましくない。
それ故にサイグローグは他世界のエネルギーがそれぞれに互換性を持つように仕組み、一方で回復術に対しての制限を加えたのだろうが、
これも疑問である。無論決して不可能ではない事項ではある。だが、幾つ存在するか分からない異世界全てのエネルギーが
互換性を持ち、且つ特定の術のみ制限を加えるなど相当の難問であり、一歩間違えれば深刻な論理破錠<ロジック・エラー>にも繋がりかねない。

他にもソーディアンをマスター以外が扱う事が出来る点、それぞれの異世界の構造物や土地を集めて世界を構築するなど
通常ならば決してありえない事項や疑問点が幾つも存在していた。

だが、この舞台が夢ならば説明が付く。

<この舞台の中では、参加者全員が意思疎通可能>そう設定付ければ、何も難解な外科手術を施す必要は無い。
<この世界のエネルギーが術使用者の記憶によって指向性を持ち、様々な形態となる><回復術のみ制限する>
そのように設定されていれば、回復術のみ制限を加え、それ以外の術の発動に影響を与えずに済むだろう。
何より…サイグローグの性格を考えるのであれば、その方が望ましいと言える。サイグローグはこう言っていた。
『あなたが思う存分、迷い、苦しみ、その果てにあなたが『選択』することを、わたくしは心から願います……』
『脳内の回路を経て……そしてどのような答えを出すか……それこそが……私の楽しみ……』
そう、その言葉から考えられるのは、サイグローグは選択の過程、その人物の心の動きに重きを置いているということ。
その目的が何かはよく分からない。だが、もしこの舞台が夢ならば、そして参加者が実体で参加させられているのでなく、
精神体のみで参加させられているとすれば、そして参加者が錯覚を起こすように、精神体に仮の肉体を…血肉を与えているとすれば…。
万が一参加者の身にどのような結果が待ちうけていようと、やり直しが幾らでも利く。
支給品、スタート地点を変える事で、幾通りも選択の過程を楽しむ事が出来るだろう。
そこまで考えてリアラは戦慄した。確かに夢であるなら、ナナリーもルビアも、ルーティさんもウッドロウさんも全員無事と言う事になるが、
仮に優勝したとしても、ここから無事脱出出来たとしても、サイグローグの手から逃げられないと言う事になる。

(もしそうだとしたら…これ程恐ろしい”悪夢”はないわね…)

全ての行為が無駄で無益―――これ程絶望的な話は早々あるまい。
勿論、これはあくまで予想であり、何一つ立証出来るものはない。夢では無く現実世界に用意された舞台である可能性も高いのだ。
そもそも仮に夢だとして“誰”の夢だろうか?ここまで悪趣味な舞台設定、確かにサイグローグの好みではあろうが、
夢と呼べるかは不明である。ならば………一体ここは誰の夢なのか?それとも―――――――。



「うん…これならいける。リアラさん、本当にありがとうございます!」

ふと我に帰ると、チャットが目を輝かせながらこちらを見ていた。
その邪気の無い笑顔に、リアラにも自然に笑みが零れる。

「役に立ちそうで良かったわ。早速改造を始めるの?」
「いえ、ここで改造を始めて万が一失敗したら危険ですからね。もう少し落ち着いた場所に着いたらにします」

アッシュさんと合流したら、プラズマカノンに取り付けられているケイジとコンプレッションデバイスを利用して…。
1人ハイテンションなチャットに苦笑しつつも、リアラは静かに決意する。

結局あの後何度も考えを巡らせたが、どれも想像の域を出ないものばかりだった。
だがそれで今は構わない。この舞台が果たして現実か夢か―――何れにせよ今からすべき事に変わりは無い。
先ずは黎明の塔に向かい、クロエとアトワイトと合流して、シンクを何としてでも止める。
その後、もしここが現実であるなら、ロイドやカイル、ディムロス達と共に殺し合いを止め、この舞台から脱出する。
そして万が一、ここが夢であるなら………必ずどこかにある筈。夢と現実を繋ぐ“何か”が。それさえ突き止められれば、
後は私の力――奇跡の力を行使出来れば、必ず元の世界に戻る事が出来るだろう。

(元の世界にさえ戻れれば…必ずカイルやロイド達を目覚めさせ、救う事が出来る筈。必ず………成し遂げて見せる)



少女達は知らない。この舞台が夢であれ現実であれ、
この先待ちうける運命が遥かに重く、そして苛烈である事を。
運命に折れ、膝を屈するか、彼女達の信念が打ち勝つか――――誰も知る由は無い。




448名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/03(日) 19:32:12.18 ID:Cc+i/uKMO
容量オーバーだから新スレ立ててくれという依頼があって来たけど、
スマン、こっちも無理だった。だれか替わりに新スレ立ててくれ。
449名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/04(月) 22:46:42.52 ID:paUAsGjn0
何時の間にまとめ様がアップされていたのですね。
ありがとうございました!
450名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/09(土) 02:34:25.10 ID:aT08iupf0
無理ですた
451名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/14(木) 12:16:02.15 ID:qOPT0XNP0
ho
452名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/19(火) 01:08:42.75 ID:ifPVJcAR0
ほしゅる
453名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/24(日) 00:48:50.29 ID:xyOeCw8I0
保守

いちおうスレ立て試したけど駄目でした
454名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/24(日) 22:37:08.14 ID:3qIfrly30
立てられるか分からんがやってみようと思う
でもテンプレとか変更点はどうなってるの?
455名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/24(日) 23:36:18.76 ID:6l3jhBU+0
>>454
死者、禁止エリアはまったく変更なし
1に前スレとか追加すればいいだけかと
と、立てようとして失敗した奴が言ってみる
456名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/24(日) 23:59:24.70 ID:3qIfrly30
専ブラで立てられず
Firefoxで立てようとしたらレベルが足りずに立てられず
力に慣れなくて申し訳ない…
457名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/25(月) 09:43:17.11 ID:qJYCn8UoO
俺も無理だった……レベルってのがよくわからん。忍法帖ってなんだ?
458名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/25(月) 09:51:09.18 ID:Mf3lLGlQO
名前のとこに!ninjaってやるとレベルが出る
最初は1からスタートでスレ立て出来るのに10は必要
レベルは次の日には上がってたはず
知ってたらごめん
459名無しさん@お腹いっぱい。
>>455
もうスタイレ以外の全パートで6時を過ぎてるし、現在までの禁止エリアに3時と6時の
指定エリアA1・F3を追加した方がいいような気がする。スタイレも6時まであと1秒だし。

ちなみに自分もスレ立て無理だった