支援
掴まれた足首。振り返る私。ルビアは私を見ていた。
謗りが四割、狂喜が三割、狂気が二割、同情が九厘、諦観が一厘。
降りる紅黒いカーテン。色彩が変わり行く景色。私を支配する混沌とした感情。
「殺し合いを止めたかっただけなのに。死にたくなかっただけだったのに……!」
少し遅れて、変化する彼女の双眸。止まらない腕。彼女の顔に差す影。
私は剣を構えている。あの時の彼女の視線は詳しく思い出せない。
“助けて”が四割、“痛い”が一割、“如何なったの”が三割。
後の二割は、思い出せない。でも、とても大切なメッセージだった気がする。
「責められたくなかっただけなのに! 生きたかっただけだったのにッ!!」
怒声と共に私を貫く双眸が二組。一つは憤怒と憎悪に満ちた双眸。
信じていたのに、と私に言う瞳。抉られる私の胸。私は何も悪く無い。
左隣に無感情な双眸。打算と驚嘆と狂気、僅かな喜びに満ちた瞳。
如何して私をそんな風に見るの? まるで私の居場所が、無くなったみたいな目で。
違う。違う、そうでしょ? 如何して私なの? 忌まれるのが何故私なの?
私は、違う。そんな目で見ないで。私は悪くない。私は全然悪くないのにッ!
「私、私は! 私は……唯、皆をッ!」
必死に死守して来たのに、喉のバリケードは嗚咽の軍に突破される。
がんがんと私の頭の中で鉄球が跳ね回っている様な気がした。吐き気が私の胸の奥を襲う。
私は肩で呪いの言葉を吐きつつ、氷の様に冷えた床に崩れ落ちた。
「……皆を」
二の腕で顔の両側を押さえ付ける。私は伸ばされた腕の先、掌でぎゅうと結んだ。
零れ落ちる大粒の涙が神経を逆撫でる。肉が白くなるまで強く噛んだ下唇から歯を離し、
私は床に額を押さえ付けた。強く噛まれた歯の隙間から、震えた吐息がひゅうと漏れる。
「信じていたかった、だけだったのに」
全身から絞り出す様にそう零すと、私は手を支えにし、ゆっくりと身体を上げた。
床に横たわるディムロスのコアクリスタルが僅かに光る。
『……リアラ』
同情も、今は胸が痛くなるだけだと理解している。だけれど話さずには居られない矛盾。
震える手でディムロスの柄を掴み、私は立ち上がる。
「ねぇ、ディムロス。私、何処に行けばいいの?」
ふらつく身体を壁に預け、私は自嘲を零した。
何時の間にか、この世界には私の居場所は無くなってしまった。
幾ら私は悪くないと叫ぼうと、それもこれも全部私の所為なんだ。
支援
私は口元を僅かに歪めたまま、目前の円柱状の硝子に右手の指をゆっくりと這わせた。
ぼんやりとした意識の中を、指先から感じる温度と、摩擦による僅かな衝撃が走る。
こつり、と鮮血の様に紅いローファーが音を上げた。……実際鮮血が付着していると思う。
私はゆっくりと指先を硝子に絡める。波線を描き少しずつ上昇し、そして私は指の動きを止めた。
指先を負っていた私の眼球が、硝子に映った私の顔を捉えたからだ。
浴びた大量の返り血は擦れ、筋の様になって固まっている。
桃色のワンピースには、所々に嫌な染みが付いていた。
そうして私の罪を把握した後、少し遅れて気付く。私の目は真っ黒だ。
私は今、一体何処を見つめているのだろう。嗚呼、と私は目線を少しだけ落とした。
あれ? おかしいな。此所は屋内の筈なのに、三日月が一つ浮かんでる。
硝子に映る私は、吸い込まれそうな目線で私に訴え掛ける。
ナナリーが死んだのは誰の所為?
―――私。
ディストさんを見捨てたのは誰?
―――私。
ルビアを平然と殺したのは誰?
―――私。
ディムロスの気持ちも考えず連れ回しているのは誰?
―――私。
ロイドやクロエ達の気持ちを裏切ったのは誰?
―――私。
なぁんだ。全部私の所為なんだ。私が居なければ、良かったんだ。
―――ううん、違う。そうじゃない。如何しようも無い私だけれど、
私の居場所は、きっとまだ一つだけ在る。
『……アラ…………リアラ!』
現実にすうと引き戻される様な感覚が私を襲った。ディムロスが私を呼んでいる。
真夏に冷水を浴びたような清々しさが私を包んでいた。私にはまだやる事がある。
「……は」
思考が段々と研ぎ澄まされて行く様な幻想。私はゆっくりと頭を後ろに下げた。
こんなに簡単な事を私は見落としていたなんて。
「あは、ははは。そっかぁ。あは。私、馬鹿だなぁ」
『リアラ、お前……?』
言わばこれは、そう……覚醒。そう冠するのが或いは相応しいのかも知れない。
「知ってるじゃない、私が居て良い場所」
忘れていた当たり前の事を思い出した様な、得も言われぬ感覚が私を抱く。
肩を揺らし、私はディムロスを引き摺りながら出口へと首を動かした。
「簡単な事でしょ。だって貴方は私の英雄だもの」
貴方なら、私を迎えてくれる。色々考えるのはそれからでも、きっと遅くない。
私は重いディムロスをサックに入れ、暗い天井を仰ぎながらどびきりのスマイルを浮かべる。
支援
「ね、カイル」
私の居場所は、何時だって貴方の隣だけ。
【一体、何になると思う?】
「……ごめんネ、怖がらせちゃったかな」
彼の容色に私は息を呑んだ。唯でさえいきなりで驚いたのだ。
私が漸く地上への扉を開けた時、目の前に広がった物は温かい焔だった。
緋色の髪と目を携えた少年の全身から立ち上ぼる焔は、とても幻想的だった。
喩えようのない煌めきの色は生命そのもののようでもあり。
けれど振り向いた彼の顔の左半分は、目を覆いたくなる程に痛々しくて。
炭化した醜い顔に、浄土を彷彿とさせる様な聖なる焔。
そのギャップは、私に形容しようの無い恐怖を擦り付けてゆく。
けれでも、私にはある確信が有った。―――“この”彼は、敵じゃない。
我ながらおかしな話だと思う。だけれども、私は本能的に彼が無害だと確信し、安心していた。
恐怖と安心の狭間の不思議な感覚。それは実に奇妙であり、気持ちが悪かった。
私には、不思議な雰囲気を漂わせる彼が、どうにも参加者の“人間”には見えなかったのだ。
彼はこの現実<人間達の命のゲーム>から酷く乖離して見えた。
「あ、い、いえ……貴方は?」
ごくりと生唾を飲み込み、私は彼に訊く。彼は身体に纏っていた焔の羽衣を消し、
オルセルグ、とだけ呟いた。酷く悲しそうな表情だった。
キミは? と訊かれたので、私は慌てて名乗る。
彼はぺこりと頭を下げた私に少しだけ微笑んだ。
彼の双眸はもの悲しさを秘めている様に私には思えて仕方が無かった。
宝石の様な緋色も、私には少しだけ色褪せて見える。彼はとても疲れた顔をしていた。
「……ちょっと訊きたい事があるんだけど、良いかな」
不意に、目前の彼がサックを漁りつつ口を開いた。彼はサックから名簿を取り出す。
訊かれた内容はこの人に会った事があるかと云う内容で、残念ながら私は力には成れなかった。
彼はそれを知ると、そか、と悲しそうに呟き、サックに名簿を入れる。
重い空気の沈黙に私は居た堪れなくなり、間一文に閉じていた口を開いた。
「あ、あの、オルセルグ。その……カイルって人、知らない?」
彼は腕を組み、目線を少しだけ宙に泳がせる。彼なりの考える素振りなのだろう。
僅かに低く唸った後、彼は首を左右に振りつつ申し訳無さそうに口を開く。
「ごめんネ、リアラ。力になれそうにないヨ。
あ。ところでさ、第二回放送の事なんだけど……。
僕、あまり覚えてないんだ。教えてくれないかな?」
支援
支援
支援
「ね、カイル」
私の居場所は、何時だって貴方の隣だけ。
【一体、何になると思う?】
「……ごめんネ、怖がらせちゃったかな」
彼の容色に私は息を呑んだ。唯でさえいきなりで驚いたのだ。
私が漸く地上への扉を開けた時、目の前に広がった物は温かい焔だった。
緋色の髪と目を携えた少年の全身から立ち上ぼる焔は、とても幻想的だった。
喩えようのない煌めきの色は生命そのもののようでもあり。
けれど振り向いた彼の顔の左半分は、目を覆いたくなる程に痛々しくて。
炭化した醜い顔に、浄土を彷彿とさせる様な聖なる焔。
そのギャップは、私に形容しようの無い恐怖を擦り付けてゆく。
けれでも、私にはある確信が有った。―――“この”彼は、敵じゃない。
我ながらおかしな話だと思う。だけれども、私は本能的に彼が無害だと確信し、安心していた。
恐怖と安心の狭間の不思議な感覚。それは実に奇妙であり、気持ちが悪かった。
私には、不思議な雰囲気を漂わせる彼が、どうにも参加者の“人間”には見えなかったのだ。
彼はこの現実<人間達の命のゲーム>から酷く乖離して見えた。
「あ、い、いえ……貴方は?」
ごくりと生唾を飲み込み、私は彼に訊く。彼は身体に纏っていた焔の羽衣を消し、
オルセルグ、とだけ呟いた。酷く悲しそうな表情だった。
キミは? と訊かれたので、私は慌てて名乗る。
彼はぺこりと頭を下げた私に少しだけ微笑んだ。
彼の双眸はもの悲しさを秘めている様に私には思えて仕方が無かった。
宝石の様な緋色も、私には少しだけ色褪せて見える。彼はとても疲れた顔をしていた。
「……ちょっと訊きたい事があるんだけど、良いかな」
不意に、目前の彼がサックを漁りつつ口を開いた。彼はサックから名簿を取り出す。
訊かれた内容はこの人に会った事があるかと云う内容で、残念ながら私は力には成れなかった。
唯、エルレインの事は知っていたので、私は彼女の危険性を簡単に説いておいた。
彼はそれを素直に聴くと、そか、と悲しそうに呟き、サックに名簿を入れる。
重い空気の沈黙に私は居た堪れなくなり、間一文に閉じていた口を開いた。
「あ、あの、オルセルグ。その……カイルって人、知らない?」
彼は腕を組み、目線を少しだけ宙に泳がせる。彼なりの考える素振りなのだろう。
僅かに低く唸った後、彼は首を左右に振りつつ申し訳無さそうに口を開く。
「ごめんネ、リアラ。力になれそうにないヨ。
エルレインからちょっと話を訊いた位かな。少なくとも会っては無い。
あ、ところでさ、放送なんだけど……僕、あまり覚えてないんだ。教えてくれないかな」
ほうそう、と私は口内で鸚鵡返しする。放送と言えば、私も聴いていないのだ。
厳密にはディストさん以降の放送を。……危ない処だった。
私は少しだけ彼に感謝しつつ、言葉を紡いだ。
「あ、えぇと、実は私も途中から聞いて無くて。
でもディムロスなら聞いてると思う。ちょっと待って」
私はサックを肩から降ろし、中からディムロスを取り出す。
私の視界の端で、ざわりと葦が戦いだ気がした。
私は底知れぬ悪寒を感じ、半ば反射的に彼の方へと首を回す。
「オルセルグ……?」
本の僅かな時間だが、彼の目の色が変わった。
しかし直ぐに嫌な目は彼方に失せ、何事も無かったかの様に彼は微笑む。
けれど、と私は掌に覚えた汗を意識する。あの一瞬、確かに見えた鋭い目は間違いでは無い。
「あ、えと。ごめんネ、リアラ。何でも無いヨ」
彼はそう言って、静かに私へと微笑んで見せた。ディムロスのコアが僅かに輝く。
「……ねぇ、その剣ちょっと見せてくれないかな? 友達が持ってた剣に似てるんだ」
彼の澱んだ緋色の瞳が、僅かだが更に澱んだ気がした。
【答えは、教えてあげない】
支援
神は人々の前に姿を表した。人々は神らしい事をしろと非難した。
神はあらゆる病気を治してみせた。人々は神に群がり早くしろと非難した。
神は人々を同一にした。人々は個性がまるでないと非難した。
神は争いに溢れた世界を滅ぼすと言った。人々は勝手過ぎると非難した。
神は理想の世界を造ると言った。人々は出来るものかと非難した。
神は幸福を人々に授けた。人々はそれは支配だと非難した。
神は滅亡を人々に授けた。人々はあんまりだと神を非難した。
神は遂に何もしなかった。人々は怠け者の神だと非難した。
神は人々の前から姿を消した。人々は神が逃げたと非難した。
神は神を止めてみた。人々が呼ぶ神は何処にもいません。
人々は何時しか神を忘れた。元神は何も言わずに人々を見ていた。
人々は神と云う存在があればと呟いた。ある人は都合が良い事をと非難した。
人々の間に病が流行した。神に治して貰おうとある人は神に祈り始めた。
人々は差別に苦しんだ。ある人は全てが平等になればと神に祈った。
人々は戦争を起こした。ある人はこんな世界滅びてしまえと神に祈った。
人々は理想の世界を造ると言った。ある人は神じゃあるまいし出来るものかと言った。
人々は幸福を自身に授けた。ある人は誰かの幸福の為に不幸に陥り神に祈った。
人々は滅亡を望んだ。ある人はまだ生きていたいと神に祈った。
人々は遂に何もしなかった。世の中は荒れ、ある人は神に統治を祈った。
人々の中から神が消えた。ある人は神が見捨てたと非難した。
人々は人々を止めてみた。もう誰も世界にはいません。
支援
支援
【マオ 生存確認】
状態:HP65% TP90% 精神疲労 エルレインを信頼、けれども依存したくない 精神不安定
リバウンドへの強い恐怖 激しい迷い 間違った方向への強い自立心 リバウンド進行中
左顔面全体及び右腕、左足首、胸、腹、背中に火傷(一部は炭化済み) 足に裂傷(フィアフルストームに因る)
アニー以降の放送を聴いていない 聖獣の化身・オルセルグとしての意識 封魔の石により炎に包まれている
所持品:忍刀・東風 ワルターのサック 封魔の石 黒髭ダガー ワルターの首輪の欠片
基本行動方針:お母さんや聖獣達に愛されるため、『マオ』を完全に殺す
第一行動方針:ディムロスを奪う。リアラはお母さんに愛されなくなると困るから殺さない?
第二行動方針:マオの辿った道程を戻り、マオを知る者を全員殺す。モリスン邸へ向かう。
第三行動方針:マオを知っているヴェイグ、アガーテ、サレ、ジルバを殺す。 フォルスはある程度近づけば探知できるので後回しにして、モリスン邸に集った人物を優先する
第四行動方針:マオを殺してもリバウンドが治まらなかったら、聖獣に代わりヒトを滅ぼす
第五行動方針:隠された神殿の扉を開く鍵を入手する
現在位置:E7・ナーオス基地前
【リアラ 生存確認】
状態:HP100% TP30% 様々な出来事にショック 錯乱 自虐思考 自虐思考に対する反発心 ディスト以降の放送を聴いていない
所持品:南国の蝶 レンタルビューティー ソーディアン・ディムロス 考察メモ 工具箱
ホイッスル ??? 旋風 ポイズンパウダー フリーズリング
アビシオンのフィギュア 左腕 ナナリー、ディスト、ノーマ、ルビアのサック
基本行動方針:責められたくない。カイルに会って安心したい
第一行動方針:???
現在位置:E7・ナーオス基地前
【ソーディアン・ディムロス】
基本行動方針:殺し合いの打破
第一行動方針:アトワイトと連絡をとり、シンクに対処
第二行動方針:リアラの今後が心配。何とかリアラの精神を安定させたい
元神は神に戻りました。退屈なので世界を造ります。
世界は神を笑います。神は世界を笑いました。
人々は神に縋ります。神は腹を抱えて人々を笑いました。
投下終了。
投下乙
後半の神のくだりがとても好きだ…
ディムロスは今のところ説得失敗、かな? ディムロスがんがれ
投下乙
リアラがそこはかとなくヤンデレ風味だな…
ディムロスは相変わらず苦労人だw
投下乙です
リアラ…もうこうなったらカイルに早くなぐさめてもらえ
ディムロスは振り回されてカワイソスだなホントに
オルセルグ様にディムロスとか、炎の強化がヤバイw
投下乙です。この出会いは予想外。
最後の神と人の寓話はすごいというか素直に読み惚れました。
で、不作法ですがQを。
・マオの炎は彼の意思で消えた風に読んだのですが、リバウンドとの兼ね合いだとどうでしたっけ?
・ディムロスの形にマオは反応した……んでしょうか。(エルレインからとはちょっと考えにくいし)
作者です。
先ず前者ですが、マオのフォルスによる炎を消した、で無く、封魔の石の炎を消した、ですね。
リバウンド開始話で症状は火傷だけだったので、リバウンドの進行はあくまで火傷のみ、皮膚から炎が常に出ている訳じゃないと認識しています。
次に後者ですが、純粋にSDの形に反応しただけですね。
乙
しかしリアラ、エルレインの事信頼してるマオにエルレインの危険性を言うとか
マオの状態によっちゃ消し炭になってたな
スタイレの話は破棄?
修正待ちとしても破棄扱いでいいのでは?
自分は問題になってるアイテムを全く知らないが、どうやら総ツッコミのようだし修正としては時間も経ちすぎていると思う
形としては無断破棄になるから難しいですな。
作者が鬼の首とったみたいに叩きだしたりでもしたら目も当てられなくないか?
そろそろスレ立ての時期ですが、規制されたのでどなたかお願いします。
蛇足ですが、テンプレのURLからl50や地図への直リンクは削った方がいいかもなんで、
併せてよろしくです。
>>763 返答の義務も果たしてないのに権利を主張する事は出来ない。
荒れるのを楽しんでる節があるし、さっさと破棄して元の流れに戻す方がいい。
もし叩きに来ても去るまでシカトすればいいんじゃないかな。
ネチケットだのマナーだのルールは守らない主義だってチャットで言ってたしな
それどころか皆さんちゃんとルール読んでるんですねーとか言い出す始末
昨日の定期チャットで提案が出たんですが、投下ペースも落ち着いてきたんで
定期チャットは月2から月1に変更したいと思うのですがよろしいでしょうか?
何かあった際には臨時にチャットを開く、というのはもちろんアリで。
月一で大丈夫だと思います。
臨時チャットの名前が見えたんで一言。
今回のスタイレについては、同様のこともまたあるかもしれない(無いに越したことはないですが)し、
チャットで叩き台作ってスレに提案した方がいいと思うんですが、どうでしょう。
遅くなりました。修正を投下します。
―彼こそ、私の騎士《Knight》なのだろうか?
滝壷の水は鮮明で、綺麗だった。
水を両手で掬って中を覗き込むと自分の顔がはっきりと映し出される。
その水を口に含んで、喉に流し込む。支給された水より、ずっとずっと美味しい。
その滝壷から緩やかに流れる川にそっと足をつける。膝と足首の擦り傷が冷たい水にさらされ、痛みで思わず顔を顰める。
左足の小指も痛かったが、しばらくすると痛みを感じることもなくなり、水の中で自由に足を動かすことができるようになった。
傷ついた両足が、ようやく水の招待を受け入れる。透き通った液体の接待がとても気持ち良い。
そのまま岩場に腰をかけ、改めて滝壷を見上げる。
激しい音と共に水が落下し、その下まで続いていく。
噴きあがる水飛沫。轟々と響く濁流。
まだ日の昇らない空に見下ろされるそれは、暗い世界に立つ自分にとって・・・美しくて。眩しくて。
イレーヌはスッ・・・と、そのエメラルドのような瞳を細める。
彼女は耳を傾けていた。何時までも流れ行く涙の音。彼女は感じていた。この美しくも眩しい水面を。
次第に聞こえるのは笑い声。(誰の笑い声だろうか?)、それはとても懐かしい記憶。
イレーヌは瞳を閉じる。笑い声は段々とはっきりするようになって。暖かくて、優しい笑い声。
いつからだろう?その笑い声が、次第に辛くなっていったのは。
いつからだろう?その笑い声を、聞かなくなったのは。
その声に向かって足を一歩踏み出す。
待っている様な気がした。そこに大切な人達が、自分の愛したすべてが。
だけど。ぴたりと、笑い声が止む。暖かな笑いが、空虚な沈黙に変わる。
・・・・えっ・・?
ぬらりとしたものが、イレーヌの両手に付いていた。答えはそこにあった。何時でもそこに書いてあった。
簡単だよ 誰かがそう耳元で囁く。試験なんかよりも、ずっとずっと簡単で。全然難しくなんかない。
ただ自分が、知っている答えなのに答案用紙に書こうとしないだけで。いや、
その答案用紙すら、問題用紙さえ、見ることを拒絶しているだけ。
・・・見たくない。(どうして?)見たくない。<どうして?>見たくない。{どうして?}見たくない。〔どうして?〕見たくない。「どうして?」見たくない。どうして?
見 た く な い
『 ど う し て ? 』
【答えがあるからだろう?】
再び声が聞こえる。ああ、いつも、この声は私を惑わす―
頭の中で一斉に警告音が鳴り響く。きっとそれは、自分自身が危険信号<サイレン>を鳴らしているから。
でも。
頑なに閉じていた瞼が無理矢理こじ開けられる。鍵でちゃんとロックしているのに。やめてっていってるのに。
瞼が開けられ、瞳が放り出される。放り出されたそれが明かりをつけるために手探りで電球のスイッチを探す。
まって、でも瞳にその声は聞こえない。耳も、口もない瞳は己の真に映るものしか分からない。
ゆっくりと (転びそうになりながら) ゆっくりと (何かにぶつかりながら) ゆっくりと (暗闇を手で触りながら)
そしてようやく、スイッチの様なモノに手が触れる。よかった、これで不自由な闇から開放される。
やめて
パチン、とスイッチを入れる。今度は光が闇を支配して、辺りが包まれていく。
闇は『逃避』。光は『現実』。悪魔は「天使」。天使は「悪魔」。逃避していた自分を、現実≠ェ引き戻す。
現実が映し出すものは (見たくなかったのに。)
いつも残酷で 冷たくて (見たくなかったのに。)
逃げていたかったのに (見たくなかったのに。)
だって、だってそれは。 (見たくなかったのに。)
真っ白な服も。スカートも。顔も。髪も。右手も。左手も。右足も。左足も。踵から爪先まで。
真っ赤に染まった自分の姿が、そこに‘拭い切れない罪人の咎’が刻み込まれているから。
「イレ−ヌさん。」
ふいに声を掛けられて、イレーヌは顔をあげる。
見上げる先には。蒼色のラピスラズリの瞳(片方は泥棒に盗られてしまったけど。)
その体は蒼とは正反対の、深紅のルビーに彩られて。滑らかな金の髪が風に揺られ、日の出ない空の下で一際目立っていた。
自分が羨望した、優しい騎士。
「・・・スタン君。」
―彼女こそ、俺の姫君《Eris》なのだろうか?
彼女はそこにいた。とてもとても、寂しそうな瞳をして。哀しそうに目を伏せて。苦しそうに呟いて。
そこで俺は再認識する。彼女は、守らなければならない。誰でもなくこの俺が。守ってみせる。
未だ寂しそうな顔をする彼女を。何一つ救えなかった『スタン・エルロン』とは違う。
「・・・イレーヌさん。」
もう一度、俺が名前を呼ぶと彼女はにっこりと微笑む。(俺が好きな優しい微笑み)
岩場に腰掛ける彼女の上目遣いに、俺はキュンと胸が小さく疼くのを感じる。
「そろそろ、この辺りで水浴びしましょう。」
そうね、と彼女は言った。
でもその時、俺は失態をしてしまった事に気づいていればよかった。否、ラッキーだったと思えばいいのかな?
立ち上がった彼女は。軽く服を払うと、上質な生地で出来た上着を脱いだ。
滑らかな肌が露出され、思わず俺はポカンとしてしまう。・・・正直、見惚れていた。
上着を脱ぐ時のスルッ、と言う音が頭の中でリピート再生される。自動的に。何度も何度も何度も何度も何度も(ry
次に彼女はスリットの入った赤紫のスカートのホックを外し、ストンとそれが地面に落ちる。
ホックを外し、スカートを外す時の・・それがストンと地面に落ちるまでが脳内で録音されていた。意志的に。
彼女の太股に、直感で眼がいく。キメ細やかなその股の間が、
そして彼女がブラウスに手を掛けた所で。彼女がじぃっと俺の目を見つめる。
俺もまた彼女の目を見て・・・・あ。
「す、すすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすみません!!!」
空中でハイジャンプ一回転。そのまま着地土下座。見事なターン。突き刺さるのは歓声とは程遠い白い目。
つい見惚れてしまったのだ。ほんの出来心で。頭の中が言い訳で埋め尽くされていく。
でもその裏側で先程までの映像がリピート再生。録音&録画はしてある。
しばらく俺が突っ伏していると、彼女はクス、と笑った。
「スタン君。ほら、もう顔を上げて?ね。怒ってなんかないから。」
彼女の手が、俺の頭を優しく撫でる。それがあまりにも心地がいい物だから、つい顔を上げてしまった。
ぱしゃん、と言う音がした。え、と呆気に取られた俺の顔に冷たい水の射撃が来る。
見事に顔面に直撃。一瞬何が起きたか訳が分からず、俺は目をぱちくりさせる。
その俺の前で、彼女はさも可笑しそうにお腹を抱えて笑い出す。・・・あ、そういうことか!
「やったなぁ・・・・それっ!」
いたずらっ子の様な笑みを浮かべて、俺は両手で掬った水を彼女に撒く。
きゃっ、と可愛らしい声をあげて彼女は手で顔を覆った。
彼女のブラウスや髪が水に濡れ、自分とほぼ同じような状態になった。
彼女は少しその綺麗な眉を上へ上げる。あ、やばい・・怒ってる。
「・・・スタン君・・・・。」
そのままパシャン、パシャンと俺に近づいてくる。
「すみません、ちょっとふざけ過ぎて・・・」
イレーヌさんが俺の目の前に来て、顔を覗き込む。あの、イレーヌさん?と俺が言うと彼女は意地悪っぽく笑った。
『タイダルウェーブ』
・・・え?
「ちょ、ちょっとイレーヌさん!それはマズ・・」
反射的に目を閉じた俺の頭に、顔に水がかかる。でもそれは大津波とは言えなくて。
再び目を開けると、イレーヌさんが俺の鼻先に指を突き立てて、そしてこう言った。
「お姉さんに勝とうなんて、10年早いわよ。分かったか?」
ああ、もう。俺の完敗です。イレーヌさん。って言うか反則です。
その台詞を言われたら俺、どうすることもできないじゃないですか。
ふふ、と彼女が笑った。
「びしょ濡れね、私たち。」
その笑みに釣られて、俺も笑った。
「ホント、ですね。」
ノイシュタットのあのデートの時のような楽しい雰囲気。
そして彼女の笑顔だけが、俺の今の幸せだった。
近くにあった木の枝を二本、頂戴する。
岩場に腰掛ける彼女の右足の小指を枝でしっかり固定し、草を巻きつける。
この草が簡単に切れてしまうような物でなかったのが幸いだった。これで包帯代わりになるはずだ。
「はい、できましたよ。」
彼女は左足を振ってみせ、「ありがとう、スタン君。」と言って靴を履いた。
彼女の左足を、体を、皮膚を傷つけたアイツに殺意が沸いたが。すぐに引っ込める。
今は彼女との時間を大切にしたかったから。殺意なんかで少しでも削るのが惜しい。
「スタン君。これなんだけど・・・・・」
そう言うと、彼女はサックを取り出した。
それはあのイレーヌさんに罵倒を浴びせた男のサックだった。
少し苦虫を潰した様な顔をしたが、どうしたんですか?と聞いた。
彼女は頷くと、サックの中から何やら綺麗な物を取り出す。
薄い水色の女性が、金色に輝く玉を抱えた装飾品のような物だった。
「・・・何なんでしょうね、これ。」
素直に口に出す。全く何に使うのか分からない。
ただの飾り物か、それとも実は物凄い高値の品物か・・・。
「もしかしたら、何かのお守りかも知れないわ。」
「恋愛成就、とか?」
「もう、スタン君・・・。」
「あ、冗談です。」
彼女はその装飾品を手に取って、「綺麗」と言って眺めていた。
「あ、もしかして・・・」
どうしたの、と彼女は尋ねた。
「俺たちの世界で、これに似たようなの、見たことがあるんです。」
そう、あれは確か・・・。カルバレイスのチェリクと言う町に滞在していた時。
その町の子供たちと、俺と××××が鬼ごっこで勝負したんだっけ。
俺はあんまり乗り気じゃなかったんだけど、××××はやる気まんまんで・・。
結局俺はすぐ捕まっちゃったんだけど、××××は最後まで逃げ延びて。
その時に貰ったのがこれとはまた違ったものだが、淡い赤色のリングのような物だった。
・・・・・や○○○○○は分からない、って言ってたけど、△△△△△は知ってたんだっけ?
これは天地戦争よりも前に作られた、古の古代兵器だって。
「古代兵器?」
彼女はそう俺に尋ねた。
この古代兵器の中に、「魔人」が眠ってる・・・みたいな事を言っていた気がする。
「でも、結局使わなかったんです。」
確か、そう。××××がもったいない!とか言い出して他の古代兵器もまとめて見つけて売ったら高く値が張る、とかなんとか。
あの時の××××の表情はすごい形相で・・・。・・・あれ?××××って誰だっけ?
って言うか・・・・・って?○○○○○って?△△△△△って?何のこといってるんだ、俺。
何故だろう、すごく虚ろになっていて・・。分からない。
「スタン君?」
愛しい女性に呼ばれて、俺は思考を引き戻す。
何でもありません、って言って。俺は彼女に手を差し出した。
「そろそろ移動しましょう。この辺りは危ないですし。」
そう言って俺は洞窟の方角に視線をやる。
それは僅かな危険性だった。
ジューダスと、もう一人の男。
洞窟は塞がれていて、しばらくは出られないはず。でも、万が一・・・あの二人の仲間が助けに来たら?
そして洞窟を開けるような武器かアイテムを持っているとすれば?
そんな可能性。危険性。もしそうなら長いは無用。早くここから出なければ―
差し伸べられた手を、私は掴もうとする。
今日は久しぶりに笑った気がする。
子供みたいにはしゃぐ彼の笑顔をみて、とても安心していた。
いつもの、スタン君の笑顔。純粋で、優しくて。
不謹慎だけど、あの瞬間、楽しかった。
・・・でも、どうして?何故『違う』の?
何かが、違う。私の中で、何か引っかかっていた。
そして、また声が聞こえる。
【騎士は何者だ?】
―やめて。これ以上私を惑わさないで・・・。
【お前ももう気づいているのだろう?自分自身に。】
―分からない、分からないの・・・分からない。
「イレーヌさん?」
不思議そうに、騎士は彼女の顔色を窺おうとした時、彼女は騎士の胸に飛び込んだ。
「イ、イレーヌさん!?」
突然の出来事に、しばし動けなくなる。まるで石像のように、ぴくりとも動けない。
「スタン君・・。私、分からないの。貴方が・・・分からないの。」「え・・・?」
「いつもの、優しい貴方のはずなのに。スタン君なのに。時々分からなくなるの。どうしてなのかな・・。」
「イレーヌさん・・・。俺も、同じ事、言おうと思ってたんです。」「・・・?」
「俺、時々自分が分からなくなるんです。なんて言ったら、良いのかな。自分が自分じゃない様な、そんな感じです。」
「スタン君・・。」「だから、不安になるんです。もしかして、いつかイレーヌさんの事、忘れちゃうんじゃないかって。」
「・・・・ッ・・」「でも、大丈夫です。俺、イレーヌさんの事。絶対守ります。絶対絶対救ってみせる。」
「・・・。」「それでも、もしも俺が俺じゃなくなったら。俺が貴女を忘れてしまうなら。」
『貴女が、俺を救ってください』
【イレーヌ・レンブラント 生存確認】
状態:HP72% TP50% 精神不安定? 頬に傷 膝から足首にかけて擦り傷 左足小指骨折(応急処置済)
魔剣の声が聞こえる エクスフィア装備 リアラの言葉にショック ルカに怒り スタンに対する違和感
所持品:魔槍ブラッドペイン スターダストリング 要の紋付きエクスフィア ハリエットの花(瓶に生けられている)
木の枝と草(左足の小指に巻いている) 『月』の古代兵器
基本行動方針:スタンと共に答えを探す
第一行動方針:どこか休める場所へ向かう
第二行動方針:スタンとの誓い
第三行動方針:魔剣の指示を遂行するか考える
現在位置:C6滝壷 →移動
【スタン・エルロン 生存確認】
状態:HP50% TP85% 右目損失 額から左瞼にかけて裂傷 左腕から手の甲にかけて裂傷(エクスフィア露出)
全身に打ち身 下半身に裂傷多数(ズボンが血みどろ)
現実への絶望 精神不安定 理想崩壊 エクスフィア(亀裂入り)装備
精神へイグニスの影響(中毒症状の兆し有) ルカに怒り ルークに妙な感情
所持品:魔剣ネビリム 要の紋付きエクスフィア ネクロノミコン センチュリオン・イグニス 『炎』の装飾品?
アンチフォンスロット ヒールバングル サファイア
基本行動方針:イレーヌを最後まで守る。イレーヌを許容しない世界を許さない
第一行動方針:イレーヌと共に休める場所を探す。
第二行動方針:ジューダスとスパーダが生きていたら確実に殺す
第三行動方針:障害は斬る
第四行動方針:右目喪失を補う戦闘の修行をする
第五行動方針:イレーヌとの誓い
現在位置:C6滝壷 →移動
―彼こそ、私の騎士《Knight》なのだろうか?
―彼女こそ、俺の姫君《Eris》なのだろうか?
二人は互いを抱きしめ、唇を寄せ合うと。そのまま静かに去っていった。
罪深き佳人と、罰を背負う英雄は。一体何処へ向かうのだろう?
彼らの後ろにはただ、厭らしい笑みを浮かべるピエロだけが。何時までも何時までも・・・・
修正投下終了します。
777 :
まとめ:2008/11/29(土) 14:13:06 ID:TjkVH+vr0
さて、どうするの
ルールも質問もまるっと無視の、チャットも途中で逃げ出してるわけだが
先ずは、投下乙です。
……さて、皆さん募る話も沢山あるでしょう。
容量無いですし、チャットを提案します。
どうせ書き手=アプリコットは来ないんじゃネーノ?
まあ、それでも住民の意見をまとめる、提案をするには丁度いいですからね。
チャット賛成です
チャットログ面白すぎるな
書き手一同がイラつきつつも冷静を心がけてるのが凄く伝わる
って全部読んだけど完璧に逃亡してるじゃねえかwww
ログ読んだ。本当だ逃亡してるww
あとどうでもいいけど「あたし」→「僕」の一人称変更が
地味に気になる
>>786 それ、自分も疑問に思った
女性の書き手だと腐女子認定受けて叩かれそうだから
慌てて一人称を僕に変更したのか、単に「watasi」と打とうとして
間違えて「atasi」ってw抜きで打ち込んだかのどちらかじゃない?