テイルズ オブ バトルロワイアル Part15

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1名無しさん@お腹いっぱい。
テイルズシリーズのキャラクターでバトルロワイアルが開催されたら、
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。参加資格は全員にあります。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
これはあくまで二次創作企画であり、ナムコとは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。

詳しい説明は>>2以降。

【過去スレ】
テイルズ オブ バトルロワイアル
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1129562230
テイルズ オブ バトルロワイアル Part2
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1132857754/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part3
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1137053297/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part4
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1138107750
テイルズ オブ バトルロワイアル Part5
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1140905943
テイルズ オブ バトルロワイアル Part6
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1147343274
テイルズ オブ バトルロワイアル Part7
ttp://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1152448443/
テイルズオブバトルロワイアル Part8
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1160729276/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part9
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1171859709/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part10
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1188467446/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part11
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1192004197/l50
テイルズ オブ バトルロワイアル Part12
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1197700092/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part13
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1204565246/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part14
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1213507180/

【関連スレ】
テイルズオブバトルロワイアル2nd Part7
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1224680497/l50

【したらば避難所】
〔PC〕http://jbbs.livedoor.jp/otaku/5639/
〔携帯〕http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/otaku/5639/

【まとめサイト】
PC http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/
携帯 http://www.geocities.jp/tobr_1/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:11:52 ID:5MDdTqLJ0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。 
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは3時間ごとに1エリアづつ増えていく。

----スタート時の持ち物----
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ザック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ザック」→他の荷物を運ぶための小さいザック。      
 四次元構造になっており、参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
 「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテムが1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「ランダムアイテム」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもザックに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:12:20 ID:5MDdTqLJ0
----制限について----
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 (ただし敵ボスクラスについては例外的措置がある場合があります)
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

----ボスキャラの能力制限について----
 ラスボスキャラや、ラスボスキャラ相当の実力を持つキャラは、他の悪役キャラと一線を画す、
 いわゆる「ラスボス特権」の強大な特殊能力は使用禁止。
 これに該当するのは
*ダオスの時間転移能力、
*ミトスのエターナルソード&オリジンとの契約、
*シャーリィのメルネス化、
*マウリッツのソウガとの融合、
 など。もちろんいわゆる「第二形態」以降への変身も禁止される。
 ただしこれに該当しない技や魔法は、TPが尽きるまで自由に使える。
 ダオスはダオスレーザーやダオスコレダーなどを自在に操れるし、ミトスは短距離なら瞬間移動も可能。
 シャーリィやマウリッツも爪術は全て使用OK。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:14:45 ID:5MDdTqLJ0
----武器による特技、奥義について----
 格闘系キャラはほぼ制限なし。通常通り使用可能。ティトレイの樹砲閃などは、武器が必要になので使用不能。
 その他の武器を用いて戦う前衛キャラには制限がかかる。

 虎牙破斬や秋沙雨など、闘気を放射しないタイプの技は使用不能。
 魔神剣や獅子戦吼など、闘気を放射するタイプの技は不慣れなため十分な威力は出ないが使用可能。
 (ただし格闘系キャラの使う魔神拳、獅子戦吼などはこの枠から外れ、通常通り使用可能)
 チェスターの屠龍のような、純粋な闘気を射出している(ように見える)技は、威力不十分ながら使用可能。
 P仕様の閃空裂破など、両者の複合型の技の場合、闘気の部分によるダメージのみ有効。
 またチェスターの弓術やモーゼスの爪術のような、闘気をまとわせた物体で射撃を行うタイプの技も使用不能。

 武器は、ロワ会場にあるありあわせの物での代用は可能。
 木の枝を剣として扱えば技は通常通り発動でき、尖った石ころをダーツ(投げ矢)に見立て、投げて弓術を使うことも出来る。
 しかし、ありあわせの代用品の耐久性は低く、本来の技の威力は当然出せない。

----晶術、爪術、フォルスなど魔法について----
 攻撃系魔法は普通に使える、威力も作中程度。ただし当然、TPを消費。
 回復系魔法は作中の1/10程度の効力しかないが、使えるし効果も有る。治癒功なども同じ。
 魔法は丸腰でも発動は可能だが威力はかなり落ちる。治癒功などに関しては制限を受けない格闘系なので問題なく使える。
 (魔力を持つ)武器があった方が威力は上がる。
 当然、上質な武器、得意武器ならば効果、威力もアップ。

----時間停止魔法について----
 ミントのタイムストップ、ミトスのイノセント・ゼロなどの時間停止魔法は通常通り有効。
 効果範囲は普通の全体攻撃魔法と同じく、魔法を用いたキャラの視界内とする。
 本来時間停止魔法に抵抗力を持つボスキャラにも、このロワ中では効果がある。

----TPの自然回復----
 ロワ会場内では、競技の円滑化のために、休息によってTPがかなりの速度で回復する。
 回復スピードは、1時間の休息につき最大TPの10%程度を目安として描写すること。
 なおここでいう休息とは、一カ所でじっと座っていたり横になっていたりする事を指す。
 睡眠を取れば、回復スピードはさらに2倍になる。

----その他----
*秘奥義はよっぽどのピンチのときのみ一度だけ使用可能。使用後はTP大幅消費、加えて疲労が伴う。
 ただし、基本的に作中の条件も満たす必要がある(ロイドはマテリアルブレードを装備していないと使用出来ない等)。

*作中の進め方によって使える魔法、技が異なるキャラ(E、Sキャラ)は、
 初登場時(最初に魔法を使うとき)に断定させておくこと。
 断定させた後は、それ以外の魔法、技は使えない。

*またTOLキャラのクライマックスモードも一人一回の秘奥義扱いとする。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:15:29 ID:5MDdTqLJ0
【参加者一覧】 ※アナザールート版
TOP(ファンタジア)  :2/10名→○クレス・アルベイン/○ミント・アドネード/●チェスター・バークライト/●アーチェ・クライン/●藤林すず
                  ●デミテル/●ダオス/●エドワード・D・モリスン/●ジェストーナ/●アミィ・バークライト
TOD(デスティニー)  :1/8名→●スタン・エルロン/●ルーティ・カトレット/●リオン・マグナス/●マリー・エージェント/●マイティ・コングマン/●ジョニー・シデン
                  ●マリアン・フュステル/○グリッド
TOD2(デスティニー2) :1/6名→○カイル・デュナミス/●リアラ/●ロニ・デュナミス/●ジューダス/●ハロルド・ベルセリオス/●バルバトス・ゲーティア
TOE(エターニア)    :2/6名→●リッド・ハーシェル/●ファラ・エルステッド/○キール・ツァイベル/○メルディ/●ヒアデス/●カトリーヌ
TOS(シンフォニア) :2/11名→●ロイド・アーヴィング/○コレット・ブルーネル/●ジーニアス・セイジ/●クラトス・アウリオン/●藤林しいな/●ゼロス・ワイルダー
             ●ユアン/●マグニス/○ミトス/●マーテル/●パルマコスタの首コキャ男性
TOR(リバース)    :2/5名→○ヴェイグ・リュングベル/○ティトレイ・クロウ/●サレ/●トーマ/●ポプラおばさん
TOL(レジェンディア)  :0/8名→●セネル・クーリッジ/●シャーリィ・フェンネス/●モーゼス・シャンドル/●ジェイ/●ミミー
                  ●マウリッツ/●ソロン/●カッシェル
TOF(ファンダム)   :0/1名→●プリムラ・ロッソ

●=死亡 ○=生存 合計10/55

禁止エリア

現在までのもの
B4 E7 G1 H6 F8 B7 G5 B2 A3 E4 D1 C8 F5 D4 C5

18:00…B3


【地図】
〔PC〕http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/858.jpg
〔携帯〕http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/11769.jpg
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:16:09 ID:5MDdTqLJ0
【書き手の心得】

1、コテは厳禁。
(自作自演で複数人が参加しているように見せるのも、リレーを続ける上では有効なテク)
2、話が破綻しそうになったら即座に修正。
(無茶な展開でバトンを渡されても、焦らず早め早めの辻褄合わせで収拾を図ろう)
3、自分を通しすぎない。
(考えていた伏線、展開がオジャンにされても、それにあまり拘りすぎないこと)
4、リレー小説は度量と寛容。
(例え文章がアレで、内容がアレだとしても簡単にスルーや批判的な発言をしない。注文が多いスレは間違いなく寂れます)
5、流れを無視しない。
(過去レスに一通り目を通すのは、最低限のマナーです)


〔基本〕バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:16:41 ID:5MDdTqLJ0
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。(CTRL+F、Macならコマンド+F)
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。

※基本的なロワスレ用語集
 マーダー:ゲームに乗って『積極的』に殺人を犯す人物。
 ステルスマーダー:ゲームに乗ってない振りをして仲間になり、隙を突く謀略系マーダー。
 扇動マーダー:自らは手を下さず他者の間に不協和音を振りまく。ステルスマーダーの派生系。
 ジョーカー:ゲームの円滑的進行のために主催者側が用意、もしくは参加者の中からスカウトしたマーダー。
 リピーター:前回のロワに参加していたという設定の人。
 配給品:ゲーム開始時に主催者側から参加者に配られる基本的な配給品。地図や食料など。
 支給品:強力な武器から使えない物までその差は大きい。   
      またデフォルトで武器を持っているキャラはまず没収される。
 放送:主催者側から毎日定時に行われるアナウンス。  
     その間に死んだ参加者や禁止エリアの発表など、ゲーム中に参加者が得られる唯一の情報源。
 禁止エリア:立ち入ると首輪が爆発する主催者側が定めた区域。     
         生存者の減少、時間の経過と共に拡大していくケースが多い。
 主催者:文字通りゲームの主催者。二次ロワの場合、強力な力を持つ場合が多い。
 首輪:首輪ではない場合もある。これがあるから皆逆らえない
 恋愛:死亡フラグ。
 見せしめ:お約束。最初のルール説明の時に主催者に反抗して殺される人。
 拡声器:お約束。主に脱出の為に仲間を募るのに使われるが、大抵はマーダーを呼び寄せて失敗する。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:50:32 ID:K6xJW5950
新スレ乙。
スレが立った記念に……という訳ではありませんが、新作が出来ました。

前回と同じパターンで申し訳ありませんが、前後二つに別けて土日で投下したいと思います。
とりあえず今日は8時から投下したいと思いますので、よろしければ支援をお願いします。
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 19:05:08 ID:83Y/oeYs0
スレ立て乙&新作ktkr
支援はできないかもしれないが期待してる
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 19:16:35 ID:b+5CcYpnO
よし来た 支援は出来ないが期待してオギオギしておく
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 19:55:56 ID:K6xJW5950
少し早いですが、量も多いので投下を始めたいと思います。
緩いペースでやるつもりなので、よろしくお願いします。
12ある愛の話 −Ordinary Duo−  1:2008/10/25(土) 19:58:32 ID:K6xJW5950
何人もの語り部がそう吐き捨てたであろう。それほどに鬱屈過ぎる森だった。
犇めくように集まった木々はその厚い葉を寄り添うように重ね、日光を地面まで届かせまいとしている。
その中の僅かな隙間を縫うようにして、木漏れ日が辛うじてそこを暗黒から踏みとどまらせていた。
これが夜だったならば、月明かりなど届くはずもない暗幕の内側になっていただろう。
膝以上に伸びた丈の草叢から幻惑的な匂いが立ち込め、森特有の少し寒くも湿った微風が迷い人の肌に纏う。
東西南北を決定する地磁気は意味を失い、四方より烏哭が湧き、意志をもったような植物と死霊が命に貪り踊る迷いの森。

『魔の森』と呼ばれるガオラキアの森は、そうやってその二つ名に名前負けしない異界を形成していた。

「……ミトスめ、わざと負けたな」

そんな魔境の中で、苦虫を噛み潰した様な顔を作りながらユアンはそう呟いた。
森特有の恐ろしさ陰鬱さなど物ともしない胆力というよりは、気になることがあってそれどころではないという体だった。
「気づいていたのか」
その横で草を踏みしめながら歩きながら、クラトスは僅かな驚きを示しながらそう漏らした。
やはり、天然の魔境程度では彼の常態仏頂面を崩すには至らない。
(誰だ…? ああ、城の………確かあそこで見た死体は黒い服だったはずだが。しかし、微妙なセンスだ)
常の黒紫を基調とした衣服とは異なる、白輝を前面に押し出した儀礼的な騎士の出で立ちだ。
「馬鹿にするな。あれだけわざとらしく後出しされれば、嫌でも分かるだろう」
クラトスの言葉に皮肉を感じたのか、棘を返すようにユアンは軽く怒鳴った。
(……後出し……? ああ、さっきのジャンケン……)
ユアンが苛立つように気にしていた一件は、先ほどのミトスとの遣り取りに他ならなかった。
何のことはない。ある村に蔓延したオゼット風邪を治すため、
ミトス、マーテル、クラトス、そしてユアンは治癒に使うファンダリアの花を捜し求めていた。
その過程で二手に分かれる必要があった為、クラトスが選んだ結果ユアンは彼とツーマンセルを組むことになった。
(ファンダリアの花? あの万年雪国に花なんて咲く訳が……ああ、違うのか)
ここまではいい――といっても、ユアンはぶつくさ言うのだが――問題はその後だ。
片方は山間部でもう一つは魔のガオラキア。当然リスクが高いのは後者である。
チームを分けたのはいいがどちらのチームがガオラキアに向かうのか。
それを決めたのはユアンとミトスのじゃんけんであり、結果はユアンがチョキでミトスがパーだった。
誰の目にも分かるくらい、ユアンが手を出した後のミトスのパーだった。
(後出しなあ……でも実際難しいんだぞ、後出しして負けるのって)
「その割には、嘘につきあってやっていたようだが?」
「私とおまえがこちらに来た方がいいと思っただけだ」
しかし、苛立つといってもそれは険悪とは真逆の属性を有しており、
それが彼らにとって取り上げることではあっても取り立てる程のことではないことを意味していた。
彼らの中でのガオラキアの森の危険性と同程度の問題なのだろう。
それに比べれば、ガオラキアの森にユアンとクラトスが入ることの意味のほうが十分に大きかった。
テセアラとシルヴァラントの戦争は飽きもせず激化し、その煽りを喰らう形で大樹カーラーンは衰退の道を進んでいるが、
そのカーラーンの精霊が未だ君臨するこの世界は魔物の王の庇護下にて強力だった。
いくら彼らがこの戦争の技術の最先端である天使の力を持っているとしても、
村人たちの症状が予断を許さないとしても、戦力の分散という手段を取る危険性は変わらない。
ならばユアンはミトスの思惑は別にしても、それに乗る理由がなかった訳ではない。
「……フ。おまえは昔からひねくれているな。素直なのは怒りの感情だけか」
「お前は昔から理性的だな。いや、暗い」
(なんだそのクライってイントネーション!! つーか声明るッ)
クラトスの皮肉に、諧謔を交えてユアンは返す。
その様は本当に自然で、何も知らぬものから見れば彼らが竹馬の友のように見えるかもしれない。
13ある愛の話 −Ordinary Duo− 2:2008/10/25(土) 19:59:32 ID:K6xJW5950
「お互い、敵国の騎士団に所属していた。当然だろうな」
「そんなことが理由ではない。おまえは私を嫌いですらなかっただろう」
顧みるようなクラトスに、ユアンはそれまでよりも少しだけ倦を強めて云った。
言葉の意味を理解できぬという風な表情を見せるクラトスに対し、ユアンは言葉を続けた。
「戦場で再三まみえていたというのに、おまえは私に興味を抱くことがなかった。そういう、人への無関心ぶりが気に入らん」
クラトスは元テセアラの騎士であり、ユアンとは立場を違え幾度と無く剣を交えていた。
それで因縁の好敵手にでもなれば、様にもなったのだろうがそうでなかったユアンの胸中は複雑怪奇に過ぎた。
(……何? ユアンって実は誘い受け? かまってほしいってのか? これは)
成程、とその言葉を額面通りに受け取るクラトスにユアンは呆れたような態度を作る。
「勘違いするな。非難しているのだ」
「フ……。そうだった。しかし今は、憎まれているように感じないので、ついな」
「……お前も旅を通じて、少しは変わったようだからな」
言い返す言葉に詰まったか、降参するようにユアンが言葉を漏らした。
変わった。確かにそうだった。クラトスも、そしてユアンも。
一つは、ユグドラシル姉弟に出会ったことだろう。
それぞれ導入する動機こそ違えど、迫害されるハーフエルフの只中にあって夢のような理想を掲げ、
それを本気で成し遂げようとする彼らに影響されたことは少なくなかった。そして、もう一つ。
「お互い国を失った。生き方も変わろう……」
クラトスが思い返すように呟くのを、ユアンは横目にて見た。
彼らはミトスの理想を見出し、その結果として失ったものも少なくはなかった。
騎士と王女。彼がそれを蹴るかどうかは別にしても、他者から見ればそれなりに幸福であろう人生が約束されていた。
それをある意味にて蹴って、今の彼はここにいる。
「……我が国が正しい形を保っていれば、千年にも及ぶハーフエルフへの迫害は変わっていたかも知れない。今になって余計にそう思うことがある」
(ユアン…………)
ユアンが思い返すのは、アスカードの望郷。そして彼がその願いを託した王国。
その願いがどういう結果に終わったかは、彼の嘲笑うような声が示していた。
既に戦争は泥沼へと陥り肥大化した魔科学は星すらも貪り始めた。
歴史のベクトルは加速をし続け、もう個人のレベルでどうこう出来る段階を確実に超えている。
どの陣営からも、故郷たるはずのヘイムダールからすらも疎まれる一人のハーフエルフの少年が、
この大戦を止めなければどうしようもないという、そんな無茶無謀を本気で実現しなければどうしようもない位に。
「……我らは生まれてくるのが遅すぎたのかもしれないな」
クラトスの呟きに無言で同意するユアン。
もう少し早く生まれていれば、まだ問題が軽い内に止められたかもしれないと、
せめてユグドラシルの姓を持つハーフエルフに、彼らがもう少し早く出会えていれば――――と。
(…………それで、納得するしかないのか。もう最初から遅かったら、諦めなきゃならんのか?)
14ある愛の話 −Ordinary Duo− 3:2008/10/25(土) 20:00:38 ID:K6xJW5950
過去に顧みる彼らの陰鬱さに後押しされたように暗がりを伸ばすガオラキアの森に、がさりと木の摺れる音が響いた。
「……気付いたか?」
「……無論だ。上だな……」
言葉にて遣り取りをするまでもなく、彼らの目線は上に向けられていた。
幾重にも折り重なるように積まれた葉の天井を見据え、
クラトスは片手剣を、ユアンはダブルセイバーを、彼らはそれぞれの得物を構える。
その葉を掻き分けるように落下・襲来するモンスター達を見据える彼らのスイッチは既に戦闘用のそれに切り替わっていた。
「行くぞ」
「遅れるか!!」
今まで皮肉を言い合っていた二人とは、似て非なるとすら思えるほどの鋭さがその振るう剣に籠められていた。
(す、凄い……ユアンは、ここまで出来たってのか? 俺とは、全然違がうぞ……)
魔術と剣術を巧みに切り替え、常に状況の主導権を握っていくクラトスの戦い方を巧緻と表現するなら、
ユアンのそれは正に苛烈と呼ぶに相応しかった。
常に相手との間合いを詰めに走り、魔物の群を文字通りに両断していく。
疎かになりそうな自分の後方を、ダブルセイバーの特性を上手く生かしてフォローする。
ミトスはユアンの戦い方を『考えなしに突っ込む』と評したが、それは確かに紛れも無く道を切り開いていた。
それはモンスター達の出鼻を挫き、またモンスター達の目を自らに引き付ける。
そしてそれが中衛で魔術を仕込むクラトスの行動に生きてくる。
「ユアン! 私が奴の動きを止める!」
「とどめは私の役目か! よかろう!」
最後の一匹を前にして、クラトスの周囲が天使の光輝に包まれる。
それに合わせるように、ユアンがダブルセイバーに自らのマナを帯電させる。
「聖なる鎖に、抗ってみせろ―――――シャイニングバインド!!」
「喰らえ―――――――天翔雷斬撃!!」
放たれる光と雷に、モンスターは形を世界に残すことすら適わない。
どう考えても仲が良くないと互いが言う二人のコンビネーションは、見事なまでに双方を生かし切っていた。

(…………なんだ、何が最速だ。全然、全然届いてないではないか!!)
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:01:03 ID:e6cqIUHZ0
 
16ある愛の話 −Ordinary Duo− 4:2008/10/25(土) 20:01:33 ID:K6xJW5950
「……驚いたな」
あたり一面を覆い尽くすのは、泡のように白い花の海。風に煽られて浮かぶ花弁は儚くも自らの存在を強く示す。
幻惑というよりは幻想的な、まるで御伽噺のような世界。そこに二人の男が立っていた。
「ファンダリアの花は刈りつくされていたと思っていたが、魔の森の奥にこんな場所が広がっているとは!」
ユアンが素直にこの光景の感想を漏らした。
薬効故の乱獲かはたまたマナの影響か、ファンダリアの花は次第に低地では見つからないようになっていた。
それがこの森の奥であたり一面に咲き誇っていれば誰だって驚かざるを得ない。
「大したものだな……これだけあれば、村で苦しむ人々を治せるだろう」
クラトスもまた驚きを心底に隠しきれない様子で言葉を噤み切れない。
「そうだな。マーテルとミトスなら良い薬を作るだろう。どうする? 少し摘んでいくか?」
その光景に何か思うところがあるのか、目を細めながらこの花を摘むことを提案するユアン。
クラトスはそれに同意し、その中で数本を見繕って花を手折る。
地面と分け隔てられてもその花は生命力を漲らせ、むしろ癒しに使われることすら望んでいるようにすら見える。
「後でミトス達と合流した時に、この花で間違いがないか、確認してもらった方がいいだろう」
無駄に折ることになればそれこそ、其処で生きる花の輝きを裏切ることに等しい。
その花を持つクラトスを見て、ユアンは残念そうな目付きを強めた。
「……しかし……」
「どうした?」
尋ねるクラトスに、さらにその残念を強める様にユアンは言葉を吐いた。
「こういう場所におまえと二人というのがいただけない。美しい女性と二人というならまだしもな」
確かに、男二人でお花畑でお花摘みというのは絵的にいただけないものがある。
もっとも、別方面に視点を変えればいただける人も存在するのかもしれないが。
だが、クラトスの考えはそこよりほんの少しだけ伸びていた。
「おまえは、マーテルと一緒が良かったのだろう?」
その言葉を咽喉に入れて飲み込むまでの僅かな時間の隙間の後、ユアンは赤面してかぶりを振った。
「……だ、誰もそんなことは言っていない!」

(……そういや、ユアンとマーテルは、確か)

白亜の風に、誰かが歩んだその物語はここで途絶える。
誰かが歩んだ歴史の一頁。人と人の、愛がそこにあるのかもしれない。
だがそれは白い花の海に覆われて、何も見えなかった。本当にそんなものがあるのかどうかすら、見えなかった。
17ある愛の話 −Ordinary Duo− 5:2008/10/25(土) 20:02:11 ID:K6xJW5950
(今の、誰が何か―――――――――って、なんだ……?)
漫然とした暗い闇の底で、グリッドは呻く様に唸り、意識を呼び戻した。
何か深い夢を見ていたような倦怠感を携えて、意識だけが不満げに目を覚ます。
グリッドは首を動かし辺りを見回す。しかし一面は暗黒の只中で本当に首を動かしたのかすらも判別できない。
(何が、起きて……そうだ、ロイド!!)
砂の噛んだ歯車を無理に回すようにして、グリッドは現在と記憶とを繋げる。
自らの眼球に刻まれた一番最後の記憶。
ロイドの結末――――――その果ての笑顔を思い出して、グリッドの僅かな意識が波紋を立てる。
寝起きのいい子供のように今すぐにでも動きたいといった調子で衝動的に起き上がろうとするが、意識がそれについてこない。
金縛りにも感じられるような拘束感が、皮肉にも辛うじてグリッドの衝動的な感情を留めさせる。
(出来た、んだよなあ……お前、笑ってたもんな……?)
多分、もう遅い。実際どれだけの時間が経ったのか、時計を見ることも適わない今の有様でもそれだけは何となくグリッドにも理解できた。
最後の光景は、彼の笑顔と赤黒い血液に塗れていた。
恐らく、今この内側から獣のように喚く衝動を取り除く術はない。
だから動けないグリッドは信じる。間に合ったのだと。自分は、約束を守れたのだと。
多少強引にでもそう信じなければ、この“ロイドを助けられなかった”という慙愧の念は収め切れなかった。
いや、あの笑顔があったからこそ、グリッドは未だ踏みとどまれたと言い換えても良かった。
(くそ……身体が、判らん……俺は……未だ寝ているのか?)
夢の中で『ああ、自分は今夢を見ているのだな』と自覚する瞬間のように、グリッドは今の状態を曖昧に理解した。
寝ているが、起きる寸前の妙な浮遊感。体感する自分にしか理解できないあのひと時である。
(というか……俺、死んだんじゃなかったのか)
過去がフィルムを逆巻くように思い起こされる。あの、恐るべき剣士の攻撃。
ロイドがああなった後に、二、三回胸を突き刺されて、その後、奴の大技を―――
(いや、逆だから大技喰らってから胸を……どっちにしたって、俺死んだはず……って、ああ、“そういうこと”かよ)
意識が夢から覚め始めるにつれて自分の状態が解って行く感覚をグリッドは覚え、同時に褪めた。
心臓が動いている気がしない。というよりは、心臓に穴が開いているのを理解を通り越して実感してしまった。
未だ生きているという嬉しさよりも何か枯れてしまったような憔悴の方がグリッドには大きかった。
これが天使になるということなのだと彼は今更ながら悟る。ロイドがそうなっているのをグリッドは見ていた。
大きな翼をはためかせるのを見て、冗談交じりに羨望の瞳をぶつけていたこともある。
(悪い、ロイド…最初に見たとき、正直茶化してた……なんだこれ、こんなの、ヒトが味わっていいものなのか?)
だが、自分が天使となって初めて突きつけられる。
心臓が亡いということ。亡くても生きていられるという矛盾の不快。
グリッドは、否応無く体験せざるを得なかったのだ。自分はもうヒトではないのだと。
(……ああ、ダメだな。この程度でへこたれる程この俺は安くない。俺は俺だ。それだけは忘れん)
しかし、グリッドは踏みとどまる。これは自分が望んで背負った業だ。
成し遂げたいことがあって、こうなることも覚悟して入った道だ。ならば自分で荷を背負い、自分で歩かねばならない。
そう宣言した。他者に、そして自分自身に。
自分さえ、自分さえ見失わなければ絶対に未だ飛べる。そうグリッドは何故か必要以上に強く自分に言い聞かせた。
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:02:49 ID:e6cqIUHZ0
 
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:04:00 ID:HhPnKIThO
支援
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:04:25 ID:a+heRn6+0
支援
21ある愛の話 −Ordinary Duo− 6:2008/10/25(土) 20:06:23 ID:K6xJW5950
ふと、キンと金属音が鳴る音をグリッドの耳が捉えた。視覚よりも聴覚の方が覚めるのが早かったらしい。
(どんだけ時間が経ったかは分からんが、修羅場なのは間違いない。……動けるように、準備だけはせんとな)
ロイドの笑顔を信じて、ロイドが願いを叶えたと前提に置くなら、
コレットという自分が人質に取ったあの少女が元に戻っていると考えるべきだろう。
彼女がどういう状態であったのかは未ださっぱりと理解できないが、
その状態でもグリッド以上に力を有していたとグリッドは思っていた。
自分が人質に取れたのは、タイミングと虚を抑えただけの二言に尽きる。
となればこの重なる剣戟の音は、彼女の持っていた剣とクレスの剣のぶつかり合いだろう。
クレスはあの少女を病的と言えるほどに執着していたのだから、ロイドが失せしまった以上、狙われるのは彼女しかいない。
何よりも、ロイドが斃れ自分が倒れ、ヴェイグとカイルがいない以上消去法で剣戟が鳴る組み合わせがそれしかない。
剣と剣のぶつかり合いにしては少しだけ音が歪だった事だけが気掛かりではあるが、今は自分に出来ることを為すしかない。
(守りきれませんでした、じゃあ60秒守った意味が無い……とりあえず、身体……動かせるようにせんと)
覚めてくるに連れて湧き上がる身体の不具と、それを痛みとして感じないという不快を噛み潰しながらグリッドは自らを省みた。
動かせるようにする、というよりは動かせる箇所を探すという方が正しい。
チリチリと視界に交る単色の砂嵐はまだ続いているが、それより先に像が焦点を結ぶ。
(こりゃあ……穴ァ……空いたか?)
ざまぁねえなあと心に自嘲しながら、彼はノイズ混じりの脳を揺すって意識の砂を整える。
残った左の掌に意識を傾け、指をグッグッと握ろうとするが震えるだけで力が上手く伝達しない。
震えるのならば、少なくとも断線している訳ではないと、グリッドは神経が繋がっていることを主観的に確かめる。
そして、精密に動かない指を諦めて大雑把に腕を動かし、触診にて自分の怪我の状態を模索する。
(あー、死ねる。これは死ねる。文字通り人間だったら死んでたわ)
幾つかの凹凸と血の泥濘がグリッドに傷を教えてくれた。
常識に符合させれば間違いなく死んでいそうな胸に大きく開いた傷。
それでもギリギリ死んでいないことに有難味を、
感覚的にそれを理解できないことにほんの少しだけの虚しみをグリッドはその体に覚えた。
(ケッ。ロイドと御揃いに心臓か。フツーこういうのって、偶々心臓は外してたとかだろーが)
諧謔交じりに感嘆する裏腹に、グリッドは己の置かれた状況をある程度は理解していた。
心臓一つ捧げてようやく立ち会えるかどうか、
クレス=アルベイン相手に生き残るというのはそれほどのことなのだと、改めて自分が相手にした脅威に身震いを覚える。
そして、それを受けて尚意識を繋いでいる自分の身体の淡々さにも身震いを覚えた。
血の匂いも無く、痛みも感じない。ただ、瀕死というだけ。心よりも先に、身体がその異常を受け入れていた。
改めて天使というものの“歪さ”に空恐ろしさを感じながらも、グリッドは自らを理解することに再び注力する。
(めった切りだな……胸周りは……気にしない方向性で。内蔵は後でなんとかしとこう。
 腕……はなんとか動くか、一本だけだけど。脚……くそ、こっちも抜けてやがる。が、何より問題は……)
もうお腹の中のエネルギー袋が何個破けていようと、一々気にしてはいられない。
グリッドは天使化を考慮した上で“それでも今すぐ動くのに支障がある”箇所を探す。
右腕はもう無い。クレスの一閃が、何もかもを両断してしまった。それと一緒に持っていた紫電を吹き飛ばされた事実がなお手痛い。

――――――いいだろう、受けて立ってやる。
22ある愛の話 −Ordinary Duo− 7:2008/10/25(土) 20:07:08 ID:K6xJW5950
左の腿に穴が開いて風が徹っている。骨で止まって両断だけは避けているのが不幸中の幸いか。
ただ、処置も無しに全力で走れそうにはない。エクスフィアによって強化された脚力に耐え切れずに肉が千切れてしまいかねない。

――――――終わりだ。彼女は僕が助け出す。

獅子戦吼に真空破斬、ヘビィボンバーに似た零次元斬とやら、おまけに渾身のスパークウェブすら両断したあの最終奥義。
60秒の間に、一生分のダメージを負った気すらする戦いをグリッドは少しずつ思い出していた。

――――――それを斬るべくして、僕は此処に来たんだ。

(勿体ねえなあ。シャーリィといい、クレスといい、なんでこうなっちまったんだろう。あいつら、俺なんかよりずっとすげえのに)
心底惜しむように、グリッドはクレスの眼を思い出していた。
剣を交えて、その心が理解できたなどとはおこがましくてとても口には出せないが、
その言葉には確かに、クレス=アルベインがあったことはグリッドにも理解できる。
噂の呪いも、バトルロワイアルという蜘蛛の糸も切り裂いて立つ確固とした意志が在った。
呪いのせいでバトルロワイアル自体を認識できないだけかもしれないけど、クレスは確かにそこからもう抜け出している。
故にシャーリィの時と異なり、グリッドはクレスを論破しようとは思わなかった。
欲するものが分からない以上、否定も肯定も出来ないと思っている。いや、してはいけないとすら考えていた。
だから刃を交えた。相手を否定するのではなく、我侭を只管に肯定するために。
故に、ただ惜しいとだけ素直に思った。殺すより手の思い浮かばない自分に悔しさを覚えた。

彼の視界が開けてくる。じきにまどろみは消去され、再び現実という幕が開く。
そうなれば、戦うより無い。ロイドがコレットを取り戻したのであれば、クレスも黙って剣を納めてはいないだろう。
もう使える技は全て出し尽くした以上、グリッドには見切りの極致であるクレスを倒す手段が思いつかない
そもそも脚を潰された以上、唯一のアドバンテージである速さすら無いのだ。立ち会うことすら危険である。
だがそれでも戦わなければならない。強制でも、脅迫でもなく、唯自分の意志の在るがままにそう願うのだから。
薄ぼんやりとした視界でダブルセイバーを手繰り寄せようとする。
金属音はその間隔を短く、その音量を大きく、その音階を高く引き上げていた。
輪郭が曖昧とした世界で誰かが戦っている。大して接近戦も得意ではないだろう影が、生きようとあのクレスを相手に抗っている。
(待ってろ、今すぐ、このグリッド様が……逃げる時間だけでも…………作っ…………て………………?)
立ち上がろうとして右足に力を込めようとしたとき、グリッドはその異常に気づいた。
誰かが戦っている。一合がぶつかり合うたびに、その円形の何かと魔剣が重なる其処に風が吹く。
その風に乗って聞こえてくる叫び声は、男の声だった。クレスの叫びだけだと、今の今まで思い込んでいた。
(……あんな武器、俺が人質に取ってた時、コレット持ってたか? つーか、あそこにいるの)
影二つがぶつかり合う場所から少し離れた所に、もう少し影があったことにグリッドは気づく。
ある種意図的に眼を逸らすようにしてそちらに顔を少しだけ向けて、瞳の焦点を絞る。
(さっきのプライパンだよな、やっぱ……って、いうか、あそこにいるの……コレットとメルディ!?)
殆ど清涼としてきた視界が捕らえるのは、泣き叫ぶような顔の少女と沈痛な面持ちの少女。
ならば闘っているのは、一体誰だというのか。
何故、じゃあ、誰がと問うよりも先に、答えだけがグリッドの耳朶に轟いて来る。

「おおおおおおおぉぉおおおおっっっっっ!!!!」
(まだ夢でも、見てるのかよ、俺はよぉ……なんで、何でお前がそんなボロボロにクレスと戦ってるンだよ!?)
23ある愛の話 −Ordinary Duo− 8:2008/10/25(土) 20:08:03 ID:K6xJW5950
誰かの泣き叫ぶような声が聞こえる。
何時かの自分が吼えていたような、這い寄ってくる絶望を遮二無二振り払おうとしているそんな声を、グリッドは知っている。
だがそれをグリッドは理解出来なかった。『アイツ』がこんな声を出すことなど、今まで無かったから。
『アイツ』がこの地区ににいたこと自体は、グリッドはコレットを人質に取った時その眼にて知っていた。
しかしグリッドは今『アイツ』がここにいる可能性を、正直なところ全く考慮に入れていなかった。
クレスとグリッドが戦っている時は兎も角、ロイドが死んだ以上『アイツ』がここに残るメリットがない。
臆病で狡賢い『アイツ』ならばメルディと共に逃げているとばかり思っていた。真逆の信頼とすら言ってもよかった。
だからグリッドは心のどこかで『アイツ』のことを後回しにしていた。
最後まで『アイツ』は無様に逃げ回るだろうと思っていた。
後で、それを捕まえてざまあみろと一喝してやろうかと、せいぜいそんな甘い展開を微かに期待していたくらいでしかない。
そうで有るべきだとさえ、思っていたのかもしれない。
だが、フライパンが遂にとばかりに飛ばされる様と共にグリッドはハッキリと直視する。
そんなことは無いのだと。その金属の下で、厭な軋みと共にクレスの蹴りを受けている男を見ながら。
「あぶぇッ」
(何で、何でなんだよ!? キールッ!!)
一時のまどろんだ夢の後、脆弱な予想を裏切り尽くす現実にグリッドが帰還したのは、
キール=ツァイベルがクレスに蛸殴りにされる直前のことだった。


既に日も深くなり、夜の気配が強まってきた村の中で陰残な混成合唱が響き渡る。
自分と比較して圧倒的弱者である者を殴りながら、嬉々として笑うクレス。
それを止めたいという思いだけで悲痛に空を震わせるコレット。
そして、それを食い止めようと彼女を止めようとするメルディ。
3人の感情渦巻く三重奏を引き立てるかのように、テンポよくリズムを刻んで撲音が坦々と響く。
先ほどまで戦っていたはずのクレスは、自分が眠っている間に脳を改造されたのだろうか。
そう思えるほどに変わり果てていた。グリッドが唯一認められていたはずの、彼の中の心棒が見事なまでに抜け落ちていた。
そんな男が、虫を弄るように子供のように唯々嗜虐の為だけに、自分よりも明らかに弱い奴を殴っている。
まるで擦り切れたフィルムをいつまでも回しているかのように。今のクレスに彼が好ましいと思うところなど、何処にも無かった。
凄惨でありながらある意味で滑稽な四重奏の後ろで、グリッドは唇を噛んで血を垂らしそれが五重奏になることを懸命に堪えていた。
堪えていたというよりは、言葉にはおろか音にも出来ないほどの感情だったのだろう。
殴られている男に対し複雑な感情をもつグリッドには、この茶番を叫びにすら出来はしない。
出来ない理由すら判らずに、可聴域を超えた叫びを鼓膜に、心に満たす。
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:08:05 ID:e6cqIUHZ0
 
25ある愛の話 −Ordinary Duo− 9:2008/10/25(土) 20:08:44 ID:K6xJW5950
―――――――――――グリッド。お前のそこまでの楽観的思考は、とてもではないが僕には真似できないな。

一番最初に、面と面を向き合って言われた言葉をグリッドは思い出していた。
当たり前の話だが、グリッドはキールのことを好んではいない。
嫌いというよりは好きになれないというのが正しいと思う。相容れないというべきか。
水と油に似ているかもしれない。水は油を嫌っているわけではないし、油もまた同じ。
だが水は水である故に、油は油である故に絶対に交わることはない。
普通ならば一生その人生が交わらないだろう、相容れない人種というものか。
初めて出会ったときは、直ぐに道を分かれたからまだ彼らはその程度で済んだのだろう。
感情論、精神論を徹底的に排他する論法は不平こそあったが、グリッドにも未だ許容できた。
度が過ぎているとはいえ、ユアンにも似たことは散々言われていたからだ。
だが、キールの言葉は常にグリッドを排他していた。彼の打ち立てる計算には常にグリッドという項目が存在しなかった。
情報を絞り出されるだけ絞り出された後に掛けられる言葉は皮肉なのだから、
(実際、否定は出来んがな。今のこの力だって借り物の踏み倒しだ)
良くて無能力の一般人、悪くて蠅程度とすら思っていたかもしれない。
そこまでなら、未だ我慢が出来ただろう。グリッドも、キールも。互いが互いを無視し合えばそれでいい。

―――――――――――何が漆黒の翼だ。そんなものの為にプリムラは死んでしまったんじゃないか!

(嫌いだったよ。しがらみを捨てた今ならハッキリ言えるさ。俺のこと、見下してたもんな)
初めて、グリッドがキールの心根を見たと思えた言葉がそれだった。
キールにとってシャーリィとの戦いで失ったモノが大き過ぎた、それだけで済ませられないほどの憎悪に満たされた言葉の数々。
何もかもがグリッドの心を無遠慮に突き刺して、それでも反論の余地を一切残さない残虐さにグリッドの心は千路に乱された。
無力でありながらも、ありとあらゆる暴力に決して屈しないその心を壊すことは、キールだからこそ出来たことだった。
そんな男が、今、言葉も吐けないほどに壊されようとしている。

―――――――――――お前はリーダーでも正義のヒーローでも何でもない、唯の普通の凡人だ。

(ずっとずっと、許せなかった。でも俺は何も言い返せなくて、やっぱり許せなくて、悔しかった)
グリッドから漆黒の翼を物理的に奪ったのがシャーリィだとするならば、概念的に奪ったのは間違いなく彼だ。
想い出の全てを壊し尽くして尚キールはグリッドを呪った。そんな人間を好むはずなど、それこそ人間として有り得ない。
そうでなくとも心の何処かで、キールを否定しきれなかったあの時の自分ならば、
『どっかで道に蹴躓いて死んでくれないか』とすら思っていたかもしれない。
キールを肯定できず、しかし自力で彼を否定できないあの時のグリッドには、
キールの自滅を待つ以外に間違いを証明する術など無いのだから。
もし答えに辿り着けなければ、恐らくはずっとキールを憎み続けていただろう。
それこそ、殺してしまいたいほどに。
ならば今ここにある光景は、グリッドが心の底で望んでいたものに他ならないのだろうか。

―――――――――――お前の綺麗事は偽善ですらない。なにせその言葉すらお前のものじゃないんだから。
(だけど、だけどよ! 俺は、俺はこんなのが見たかった訳じゃない!!)
26ある愛の話 −Ordinary Duo− 10:2008/10/25(土) 20:09:44 ID:K6xJW5950
眼を瞑ろうとグリッドは心の中で念じるのだが、精神の上辺で『閉じろ閉じろ』といった処でどうなるものでもない。
柔らかいものと硬いものを同時に叩くような音を聞きながら、グリッドは眼端が切れそうになるほど見開いてその光景を見ていた。
動け動けよとその躯に念じるが、体はうんともすんとも言わない。
クレス戦で負ったダメージは確かに看過できないわけではないが、天使の肉体を前にしては行動不能には未だ遠い。
ならば何故か。その理由をグリッドは嫌々ながら承服していた。
(使い過ぎたってのかッ!? 俺の身体の癖に、俺のモンじゃ無いみたいだなあオイ!!)
リバウンドだ。奥義2回に、中級魔術を2種。死に物狂いとはいえ、外から見ればたったの60秒。
そのクレス戦でグリッドはユアンの技術を“開き過ぎた”。その代償をグリッドは今になって痛感する。
ダメージという感覚は無かった。どちらかというと、感覚がないというダメージに近い。
もし肉体が精神の操り人形だとするなら、その手繰る糸が十数本纏めて千切れた様なイメージ。
精神が、肉体をどう立て直すか測りかねている。そんな認識をグリッドは焦れるように体感していた。
体感しなければ。自分は動けないのだと。
だと思わなければ、キールを見殺しにする為に動かないのだと思えてしまいそうだから。

―――――――――――自分の無いお前の正義なんて空っぽだ。そんな物で出来た刃で誰が斬れるんだよ。

(俺の身体なら動いてくれよ! こんな茶番、俺は認められんぞ!!)
この状況に対する衝動めいた拒絶が湧き上がる一方で、何故なのだろうと自分でも疑問に思える。
キールに対する自らの憎悪を否定することなど、出来る出来ない以前の問題だ。
これはグリッドが望んでいたことのはずだからだ。
それでも、グリッドはこの結末を受け入れることが出来なかった。
唯々子供の癇癪のように、感情以外の理由を作れないまま駄々をこねる。
だが、グリッドには泣き喚き暴れることもままならなかった。
その形を実現するべく状況は動く。殴ることに飽いたらしいクレスの持つ剣で、キールの命ごと絶たれようとしていた。
動けないグリッドの視界は半固定で、まるで一枚の動くカンバスだった。
その画に耐えきれず、グリッドは眼を瞑ってしまう。眼を瞑っても状況は変わらないと判っても瞑ってしまった。
どの道、動けた所で出せる手札を全て出し尽くしたグリッドに、クレスを止めることなど出来はしない。
(……頼むから起きろ! 起きて逃げろよ! お前はそういう奴だろ? とっとと逃げやがれ!!)
何も出来ないグリッドは、自らの無力を呪いながら願った。憎々しいはずのキールに。
しかし時間は無情に動く。嘗て何処かでグリッドがその手で行った未来へと。

「随分と嘗められている」
(……え?)
27ある愛の話 −Ordinary Duo− 11:2008/10/25(土) 20:10:35 ID:K6xJW5950
グリッドの耳に声が入る。冷たく、心の籠もってない、擦り切れた声だった。
瞼を潰してしまいそうなほどの力で閉じられた瞳がその声に緩む。
恐る恐る、その眼をゆっくりと開いて彼はその画を観た。
その画は、一体いつの前にカンバスを入れ替えたのだろう。
どんな名画の描き手であろうとも、こんなに早くは書き換えられないだろう変わりようだった。
まるで時を奪われたかのように、その画はグリッドの望まない風景に変わっていた。
死を滴らせて溺れているような剣士は、前の画より少しだけ距離を空けている。
その剣士の睨む先に、一人の男が立っていた。立っていただけだった。
誰だお前。そう思いかける自分をグリッドは自らに覚え、動こうとしていた身体が止まる。
そこに立つ男は、グリッドが見たことのない人物だ。誰かに似てはいるが、明らかに違う。
『アイツ』は、あんな風にクレスの正面には立たない。
『アイツ』は、あれだけ血塗れにはなっては立たない。
『アイツ』は、尋常ならざる速さで自らに迫って来るクレスを前にして立っていられない。
『アイツ』は、それを前にしてこの状況でそんな顔はしない。手元で何かを弄ぶ余裕などない。
だが、グリットは自分の知る男と目の前の男がじわじわと符合していくのが分かっていた。
そのふてぶてしく厭らしい、全てを莫迦にしたような笑みが酷く自分の知る『アイツ』そのものだったから。

「一騎当千の力を持つと、態度がでかくなるのはどこの莫迦も変わらない……なッ!!」
赤空に向かって小瓶を高く高く投げながら、キールは叫ぶのを見てグリッドは既に止まった息を思わず止めた。
毅然を超えて超然とした態度はあまりに自分の知るキールと違っていて、
でも、外側に溢れ出したその自分以外の総てを見下したような内心が、何処までもキールで。
だからその小馬鹿にしたような音調がグリッドには、
それがクレスに向けられた言葉だと分かってはいても、自分への返事のように感じられた。
「人間一人の大脳、その細胞総数凡そ140億」
グリッドには理解が出来なかった。
キールでありながらキールである目の前の男に、切り口の輝くような解釈を見つけられない。
『アイツ』が改心するなどということ自体が有り得ないのだ。ならば何故なのだろう。
そう思うことが、一番解り易いはずなのに、心の奥底がそれを真っ先に否定している。
(でも……本当に、お前なのかよ……キール。なんで、何でそんなに頑張ってるんだよ、何で逃げないんだよ。
 お前、お前も、唯の凡人だって、自分をそう言ってただろ!?)
「例え、お前が一騎当千、否、万夫不当だったとしても」
彼が、キール=ツァイベルが心を言葉にしていたのを、グリッドは思い出していた。
その画には、続きがあった。手前側から吹き荒ぶ様に迫りくる烈風に男が立ち塞がる。
その後ろには二人の少女がいて、酷く寒そうに肩を震わせている。
その少女たちの画は書き換えられていなかった。男が立ち上がる前から、既に男の後ろに守られていた。
この画は、それでやっと全部。“暴威に立ちはだかる男の画”ではなく“暴威から何かを守る男の画”だった。

「この脳<中身>は光の速さでシナプスを連携する140億の群勢――――――――――端から僕の勝ちは決まっているッ!!」
28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:10:55 ID:e6cqIUHZ0
 
29ある愛の話 −Ordinary Duo− 12:2008/10/25(土) 20:11:42 ID:K6xJW5950
そう言い切ってから素手でクレスの剣に追従しようとするキールの姿はもうグリッドには捕えられなかった。
キールの動きそのものは、この世界で恐らく現在最速であろうグリッドにしてみれば緩慢そのものであったが、
目まぐるしく動くキールの姿に焦点を合わせようとすると、勝手に後ろの二人にピントが移る。
そのカンパスの中でのクレスと彼女たちの間には、常にキールが立っていた。
キールの拳はクレスを一切傷つけられていないが、同時に彼女たちもまたクレスの刃に傷ついていなかった。
自身の得意とする魔法という矛を棄ててでも、自らの手を盾としてキールは彼女達を通じて何かを守っていた。
(解らねえよ……全然解らねえよ。それがお前の最善か!? それを守りたかったら、何でもしてもいいのかよ。
 だってお前、その為なら今朝まで一緒に居ただって簡単に見捨てていいのかよ!?)
グリッドはキールの行為を素直に解釈することが出来なかった。
恐らくは自分だけが何度も覗いてきた、キール=ツァイベルの眼。
その眼はグリッドの中で今まで漠然としていた何かを明確な形にしていた。
キールは、その守りたいもののためならば全てを捨てる。犠牲にできる。
クレスだろうがミトスだろうが、ヴェイグだろうがカイルだろうがグリッドだろうが――――ロイドだろうが。

――――――――絶対に、お前よりは落ちぶれていない。

グリッドの中で古傷が呻いたような痛みが走った。グリッドの過去がキールに対する憎悪の正当性を求めたのだ。
(俺だってな、プリムラもカトリーヌもユアンも踏み台にして無様に生き永らえてきた。
 だけどな、だからってそれを新しく踏み台を作る理由にするつもりだけは、二度と無い!!)
自分の在り方にだけは絶対の自信を持ったグリッドは、その痛みを怒りに塗り替える。
バトルロワイアルに於ける効率や最適化という考え方そのものに否定を示す彼にとって、
この翼を手に入れるまでに告げられたキールの言葉は、自分の手を汚さない為の言い訳にしか思えなかった
キールは卑怯だ。今のグリッドならば、そう断言できた。
全体の為と吹聴しながら自分だけ安全な所に引き籠って、死んだ奴らを莫迦の一言で一蹴して、
さも正しいように人の剣を毒に混ぜて使えと唆して、その癖なんだかんだと自分の手は汚さなくて、
結果だけを見てあることないことボロクソに貶して『そら僕の言ったとおりだ』なんて平気な顔をして言い切る奴なのだ。
歩む道の道程にだって意味がある。今はそう心から思えるグリッドには、キールは戦うことを諦めた負け犬でしかない。
(そう、思っていた。ここでこんなお前を見るまでは!)
その認識で正しかったはずの負け犬が、今グリッドの前で血だらけになって戦っている。
かつて自分が心の何処かで見たがっていた姿になりながら、心の何処かで見たくなかった様相で。
グリッドは体を動かそうと懸命に意識を伸ばすが、小刻みに震えるのも難しい有様だった。
動けたところで、出せるものを全て出し切ってしまったグリッドにクレスを止める術など無い。
だが、そんな当然の現実すらも無視してグリッドは動けと願う。
身体だけではなく、キールがグリッドの怒りを受け取ることもなく死んでいくという現実も。
(くそ、動け俺! 逃げろ、キール!! 今お前の命を逃したら、一生お前の勝ち逃げじゃねえかァァァッ!!)
何かに気付くことに遅れた自分と、何かに気付く前に流れ行くシチュエーションに声無き叫びを轟かせるグリッド。
しかし、ロイドの為に全ての力を出し切ってしまったグリッドに、残された手も、その叫びを受け取る人間も居ない。

「グィッ」
たった一人、否、たった一匹を除いて。
30ある愛の話 −Ordinary Duo− 13:2008/10/25(土) 20:16:46 ID:K6xJW5950
思考が記憶の復元に深く沈み込む寸前に、グリッドの敏い聴覚が異音を拾う。
草のカサカサと揺れる音。しかし、それは踏む音にしては軽すぎて、むしろ掻き分けると言った方が正しい調子だった。
やっと魂と身体の糸の解れを理解し始めたグリッドは、首の回らない頭蓋の中の眼球を回す。
その草を掻き分けてくる音は素早く、しかし確実かつ明確にグリッドを目指して近づいていた。
ガサッ、と最後の一房を分け進み、その小さな影は現れた。
土塊の色をその身に汚し、生来の青がくすんでだようになった獣が一匹這うようにして。

(……クィッキー…………ッ!?)
この島に居る唯一のポットラビッチヌス、クィッキーが歯を食い縛ってグリッドの目の前にいた。
見れば大きく痣に黒ずんだ部分があって、疲労云々を超えて痛々しさが全面に表れていた。
(お前、その怪我…………って、それはッ!?)
その痣がクレスによって作られたものだとも知らず、グリッドはクィッキーに声を掛けようとするが押し黙らされる。
クィッキーの小さな目に走る狂気に近い眼威と、そのクィッキーが食い縛った歯に引っ張ってきたソレに。
(クレーメル、ケイジ…………メルディが持ってた奴……じゃねえ! インフェリアのか!?)
グリッドは最初、それをメルディの持っていたクレーメルケイジだと思ってある程度に驚いた。
自分と同じかそれ以上あるだろうケイジを、クィッキーがメルディの所から自分の所まで運ぶには一体どれ程の仕事量が必要か。
その苦労と、苦労を追い込んだクィッキーの不可解さに驚いたのだ。
しかし、遅れてグリッドはそれがメルディのケイジではないことを思い出し、二重に驚かざるを得なかった。
クィッキーが持ってきたのは、グリッドが初期支給品としてミクトランに渡されたインフェリア側のケイジだったから。
それは最終的にキールが所持したはずだ。それに、グリッドはケイジに組み合わされた配列を知っている。
彼が知る限り、メルディの所持していたケイジには「風」が入っていた。
グリッド達が城から村に来るまでのエアリアルボードはメルディが運用していたことからもそれが分かる。
だがそのエアリアルボードは、今現在キールの掌に展開されていた。メルディのケイジを持っているのはキールだ。
(いや、この際なんでもいい! 今キールが持ってるのがメルディのだとしたら、こっちの中身は!!)
動かし方を思い出すかのように腕を動かし、グリッドはクィッキーの傍に置かれたケイジを毟り取る。
その中で胎動する、薄ぼんやりとした晶霊の集合体。
マナという概念の無い世界のグリッドには、それを晶霊はおろか類似可能なマナと実感する為のセンスさえまだまだ乏しかった。
だが、一つだけグリッドにも理解できる属性がある。体験という形でしか記憶できない彼にとってそれしか理解できないと言っても過言では無い属性。
火でも無く、水でも無く、闇でも氷でも無く、宵闇を一瞬で真っ二つにする力、ヴォルト。『雷』の力がグリッドの掌中に有った。
ミトスの雷魔術の余剰エネルギーから組み替えたソーサラーリングや属性要素を内包した武器とは内容量の桁が違う、雷の概念そのもの。
ユアンの能力を引き出した今だからこそ肌で分かるそのマナの密度に、体中のまどろみが吹き飛びそうなほどの恐ろしさを覚えた。
一体どれほどの制限が加えられているのかは分からねども、グリッドにとってみれば前二つの触媒とは比べ物にならないエネルギー量。
マナの流れも理解できないような飛沫が、ノリで遊んでいいようなアイテムでは無い。
31ある愛の話 −Ordinary Duo− 14:2008/10/25(土) 20:17:40 ID:K6xJW5950
(……二日前の俺、全力でカミサマに謝っておけよ。外れどころか超当たり支給品引いてたぞお前)
自分には分からないが、魔術を真っ当に知る人間にとっては他の大晶霊も恐るべき力を持っているのだろう。
その魔術触媒の価値を改めて知り、グリッドは無駄と分かっていても過去の自分に情けなさを覚えた。
最も、それは仕様の無いことではあった。あの時のグリッドには、大技を使う素養も、そも術そのものに縁が無かったのだから。
過去を適度に苛めたグリッドは何かを促すような調子で重く唸るクィッキーとケイジの中の雷晶霊を交互にまんじりと見つめる。
(俺に使えって……ことだよな。それって、つまり……)
アセリア体系の純粋な雷系魔術は全部で4つ。
初級魔術『ライトニング』。広域型中級魔術『サンダーブレード』と集中型中級魔術『スパークウェブ』。
全てをグリッドはクレスに試し、その全てを見切られた。だが雷系魔術にはまだ、サンダーブレードの上に一つがある。
マナその光にて天を満たし黄泉の門を開く神の雷。広域系上級魔術『インディグネイション』。
グリッドはケイジを自分の顔のあたりに置いて、指を左に向けて差した。グリッドの記憶が正しければその先には飛んだ紫電がある。
クィッキーもグリッドの意図を察したらしく、素早く、可能な限り静かにそちらへと走って行った。

クィッキーの不惑な瞳に、グリッドは疑いを持たなかった。
クィッキーはメルディのペットだ。戦いの中で幾つもの術を彼女の傍で見てきたのだろう。
晶霊術と魔術という違いはあれど、グリッドの戦いを見てクィッキーは分かったのだ。
サンダーブレードやスパークウェブがある以上は、その上もあるだろうと。
だがそれを使わなかったグリッドと、紫電を得てからサンダーブレードを使いだした事実からクィッキーは導き出したのだ。
使えないのではなく、使えないのだと。そしてクィッキーは今現状で一番可能性のある手段を、そこに見出したのだ。
(分が悪いにも程があるだろうよ。そんな賭けは……だが、嫌いじゃねえぜ)
畜生程度の脳で、どれだけのことが考えられたのだろう。あまりに特殊なグリッドの魔術事情などクィッキーに理解できるはずなどない。
せいぜいが、キールが落としたケイジを見てこれでインディグネイションを使えと思いついただけの単純な気持ちだけだったのかもしれない。
だが、クィッキーはそれに賭けた。あまりに不確定で可能かどうかという前提すらも分からないものに。
それでもその見るからに手負いの身体で、自分と同じ程の大きさのあるだろうケイジを持ってグリッドの所まで来た。
メルディを救いたい一心で、そのために自分が出来ることを行う為に。
その思いを、唯の愚かしさで片付けられるはずがない。
(だけど、行けるのか? ……相手はクレスだ。避けられたら終わりだ)
恐らくはこの舞台の中でも最強クラスの火力を誇る軍用大魔術・サウザンドブレイバーの中心核にもなった大魔術。
それならば確かに、クレスに一矢報いることが出来るかも知れない。だが、相手はあのクレスだ。一度見た技はもう通用しない。
そもそも未熟なグリッドに残されたエネルギーを考えれば、フルパワーで力を回して一回が限度だろう。
相手としても自分の余力としても、文字通り最後の一撃。しかもそれは、一人の人間を犠牲とする。
(使ったこともねえのに、はっきりと解りやがる。あんだけくっ付いていたら、巻き込まずにクレスだけに当てるのは無理だ)
瀕死の罪人一人を囮にして詠唱を稼ぎ、そのキールごとクレスを打ち倒す。
それが、グリッドに残された正真正銘唯一絶対の手段。
32ある愛の話 −Ordinary Duo− 15:2008/10/25(土) 20:18:39 ID:K6xJW5950
「お゛お゛おぶげえええええええええええええぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
惑うグリッドの鼓膜を響かせる下劣な音が彼を急かすように鳴る。
眼球を向けたその先で、キールの腹に深々と入ったクレスの足刀とそれによって体内のものを残らず出しきっているキール。
驚くべきことではなかった。キールとクレスが武と武で戦えばこうなることは必然でしかない。
嘗てキールの目の前で、苦悶のあまりに全てを排出したグリッドが今度はキールの吐く瞬間を眺めているというのは皮肉でしかない。
だがキールに逃げろとすら言えない。距離に意味を持たないクレスに自分の存在を気取られれば、魔術を撃つことそのものが不可能になる。
そして、もうグリッドが決断に使用できる時間は短い。
抜け落ちたとはいえ、クレスの感覚は尋常ではない。何の隙もない状態で詠唱を始めても確実に勘付かれるだろう。
撃つならば不意打ちが絶対条件。そして、その不意が付けるのは、キールが生きてクレスに狙われているこの瞬間以外に無い。
(それしか、ねえのか。何も知らないまま、ケイジを落としたキールのミスを浚って、俺が撃ち殺す以外に)
生きて残ることが意地を徹すということならば、グリッドとキールどちらの意志が勝者かは間もなく決する。
どんなに長引いても、もう状況は変わらないだろう。そして、キールが死んだあと何が起こるかも想像に難くない。
キールを犠牲にすることを見逃し、見殺し、そうなればもうチャンスは一度しかない。
コレットとメルディをクレスが殺す瞬間にインディグネイションで全てを焼き払うとでも言うのか。
(うぷっ……俺が、メルディとコレットを殺すだってか……笑えねえよ、その芝居は)
キールもメルディもコレットも皆殺す。その余りにも具体的なイメージに、グリッドは吐気を覚えた。
それだけは駄目だ。だが、それならば今クレスを討たなければならない。
キールの死、その捕食と悦楽の瞬間、そのとき発生するだろうクレスの絶大な隙は今のグリッドが付け込める最大にして最後のチャンス。
キールの命を利用する。それかこの場の最善だ。“キールがグリッドにそうしようとしたように”。
(判ってるよ、それが一番いいのは。だけどそれじゃ駄目なんだよ!)
それでは、かつてキールが行ったことを自分の手で再現するだけでしかない。
他人のミスを掬い取って、それを踏み台にしても自分の願いを徹すというならばそれは―――――――
(待て……なんかおかしくないか?)
グリッドが口元に手をあてる。自分の心の中の言葉に、思考よりも先に経験が違和感を覚えた。
(他人の“ミス”を? 誰のミスだ。キールのミスか?)
キールが“ミス”をしたとすれば一体何のミスか。それは虎の子のクレーメルケイジを落としたことだ。
(“あの”キールがミスを? 凡ミスならともかく、自分の切り札を落とすとお前は本気で思うのか?
 俺が逃げてから入れ替えたのか? いや、ありえんだろ。こっちに確か「水」が、回復術がセットされていたはずだ)
メルディが上級晶霊術を撃てないことから、キールは自分の持つケイジを優先して晶霊を配置している。
つまり、キールが先に持っていたケイジこそがキールの一番の武器に他ならない。
それをキールが手放す理由が分からない。メルディのケイジを持っていたのは、途中で貰ったのだとしてもだ。
落したというミスだけならまだ理解ができる。だが、キールが落としたクレーメルケイジに気づいていないというのはあり得ない。
それでは右腕を切り落とされて、それに気付いていないようなものだ。
ダブルセイバーを作ったことにさえ渋っていた男が、そんな非合理の塊のようなミスを犯すだろうか。
(そもそも、いつ落したんだ? クィッキーが、えー―――――――――――あ!!)

――――――――この脳<中身>は光の速さでシナプスを連携する――――――――
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:19:43 ID:Y5cfI0OSO
支援
34ある愛の話 −Ordinary Duo− 16:2008/10/25(土) 20:19:43 ID:K6xJW5950
あの時だ。グリッドは自身の眼に焼き付けた画に映っていたそれを思い出す。
キールが小瓶を投げ捨てたのは右腕。“左腕はその時何をしていた!?”
ただのボトルが何の意味を持っているのかは知らない。グリッドが知る限りあれは唯の水のはずだ。
ならば、それを“キールが”行うなら何かの布石に他ならない。
グリッドと真逆の立場に立つキールが、何の意味もなく歌舞いた真似をする筈がないのだから。
右腕とボトルを印象付けて、左腕でケイジを地面にこっそり落とす。
半身になったその投げる態勢も、頭の悪そうな口上も、全てはクレスに悟らせないためというのか。
(この状況で、あの状態で、未だ捨て鉢になってないのか)
それは余りにも都合が良過ぎる解釈だった。
その仮定が正しければ、キールはクィッキーが起きてこう動くと読んでいたということになる。
グリッドの目の前で行われている何もかもがキールの計画に沿っているなどとは。
だが、今の奴ならばやりかねないと思わせるに足るほどにキールの双眸が狂気と力に満ち溢れていた。
少なくとも、キールはこの状況で未だ何かを諦めていない。その身を塵芥のようにボロボロにしても尚。
どれほど危険であろうと、それが是ならばそこに全てを賭すことも厭わない執念。
その守り抜くという一点に限り、その黒い心に一切の虚飾が無かった。
(なんでだ、そうまでして何にしがみ付くんだ)
世界や正義といったものだとはグリッドには思えなかった。
キールをこうも突き動かす何かは、もっと単純でもっと純粋なものだ。
グリッドはクィッキーは走って行ったほうを向いた。未だ戻ってくる気配はない。
だが、それよりも先にクレスの凶刃が再び天を衝く。クィッキーの到着とキールの頭蓋切断、どちらが先に来るかは明白だった。
(糞ったれ! こうなったら足だけでも!!)
グリッドが手持ちのクレーメルケイジを強く握った。うつ伏せのまま動けなくとも、一度唱えた詠唱だけならば事足りる。
(そのまま勝手に死ぬなんて俺が許さん。お前だけは、俺が!!)
キールかクレスか。殺したいのか止めたいのか。
混交する欲求と状況の狭間でグリッドはライトニングの詠唱を始めようとする。
思考よりも先に、羽根が波を打ち始める。
自分の知っているキールに無く今のキールに有り、そしてその二つを同一たらしめる何か。
今まで考えたことも無かった、キール=ツァイベルの守りたい何かを知りたいと、唯それだけの為に。
グリッドの左腕を電子と陽子が満たし、彼の腕は今再び雷刃へと―――――――

―――――――言葉の通りだよ。それとも何か? 僕はミトス側に付くとでもはっきり言わなきゃ分からないか?
35ある愛の話 −Ordinary Duo− 17:2008/10/25(土) 20:20:36 ID:K6xJW5950
(!!)
変えようとした瞬間、グリッドはその動きを止めた。“止めさせられた”。
千里を見渡せそうな天使の慧眼が、狙うはずのクレスを超えてキールに引き付けられた。
蹴り一発に悶絶して首を垂らしながら、上目遣いで深淵を覗くような眼をグリッドの方に向けている。
今まで視線の外されていたその眼と向き合った瞬間、グリッドは心を縛られた。
『止めろ。潰すぞ』と、人を人と認識すらしていない意識がその眼から放たれている。
あれに似た眼を、何処かで見ていた気がする。瞳に湛える冷淡で鋭利なものがはっきりと存在しない記憶を刻んでいた。

「あばばああ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!!」

キールが余力を振り絞るようにエアリアルボートを展開し、クレスの止めを外す。
誰もが唖然とした表情を作った。コレットもメルディもクレスすらも。
その見えない縛鎖から放たれたグリッドも唖然とする。だがその余りにも奇怪な叫びにではない。
キールは、はっきりと言ったのだ。『まだだ』と。その眼に湛えた意思を、その口で。
「あ゛っ! あう゛ッ!! げほ!! ごぅおっ!!」
唾液を撒き散らしながら噎せるキールの瞳は、グリッドの伏せる位置からはもう分からなかった。
夕陽の深まってきた空を仰いでいるキールに釣られて、首と目をほんの少し上にあげる。
赤く、暗い夕日。キールの抱える闇のように、グリッドは思えた。
なけなしの魔力の尽き果てたような喘ぎはグリッドにキールが初級晶霊術も撃てない程に摩耗していることを伝えていた。
(あいつ、気づいているのか。俺が起きてるって……んな馬鹿な。俺ならともかく、キールの目じゃ分る筈がない)
そこでグリッドは気づいた。キールはグリッドが詠唱に感づいてこちらを見たとは考えにくい。
ならば考えられるのは一つ。グリッドが起きていると仮定して、キールは先に牽制を撃ったのだ。
自分の危機を庇いに割って入るなと。グリッドではなくグリッドが倒れた位置を見て、先んじた。
グリッドが“キールがこちらを向いたのは偶然じゃない”という前提を持って考えたのと同様に。
(俺は、今まで何をやってたんだろうな……ダメじゃねえか、全然まだまだダメ中のダメだ)
「えず、えう゛ッ……メル、おぐっ、……ずむ、あづッ………めずっ、づー」
キールのえづく音が、一呼吸ごとに少しずつになってグリッドに入って行った。
グリッドは、漸く自分の中でキールに対する何かに結論を付けた。
キール=ツァイベルそのものは何も変わっていない。変わったのは、きっと自分自身だ。
かつてのグリッドは、キールの答えを拒絶していた。
肯定でも否定でもなく、拒絶。良し悪しを視る以前に視ることそのものを受け入れなかった。
彼の中にあるドス黒さを覗いてからは、それは強まった。穢れているとすら思った。
自分とあいつは決して相容れない、一本の溝が存在するのだと確信した。
だから拒絶したかった。拒絶しなければならないと、はっきりと理解した。
一度触れてしまえば、キールの色に染まると思ったから。
一度頷いてしまえばもう戻れないと思った。キールの言葉は、その溝を超えさせようとする力があった。
(お前は、言ってたもんな。俺とお前が同じで特別なものなんて何も無い。
 だけど、お前には答があった。それが、何もない俺にとって、どんだけ眩しかったか)
「びど、ぼどい、やづぁ……だばあ゛……ぼげ、な…えう゛っ、あ゛うっ…………」

――――――――酷い奴だとは、思ってる。
36ある愛の話 −Ordinary Duo− 18:2008/10/25(土) 20:21:28 ID:K6xJW5950
彼の胸中でキールに対する複雑な感情が少しだけ解れ、胸のつかえのような澱をグリッドは実感した。
キールを羨む自分に否定は出来ず、キールを蔑む自分に肯定も出来ず。
自分のアイデンティティを維持することもままならないかつてのグリッドには拒絶しか無かった。
だが、失える何かを得た今だからこそグリッドは自己を認めることができる。
グリッドという殻の中身を見つけられなかったならば、キールを否定することも肯定することもできず、
ズルズルと何の自己も確立できないまま、グリッドは彼と同じ手段に堕し粗悪な模造品となっていただろう。
なぜならグリッドはキールを畏れると同時に、羨ましく思っていたから。
例え、それがどれだけ穢れどれほど受け容れ難いものであったとしても、
キール=ツァイベルはグリッドが欲して止まない『凡人としての答』を得ていたのだから。
それを得たキールの言葉は、虚飾に塗れ悪意に彩られてはいたが決して虚言ではなかった。
だからこそ強かったし、だからこそグリッドはそれが毒の類だと解っていても惹かれざるを得なかった。
グリッドはキールの答えの持つ穢れを拒絶しながらもその穢れた答えに羨望していたのだ。
凡人としてグリッドよりも先の地点に到達したキールの在り方は、ただそれだけでグリッドの中身になることができたのだ。
だがそうはならなかった。グリッドは答えを見つけた。本当の意味での、漆黒の翼を取り戻した。
カトリーヌとの、ユアンとの、プリムラとの、ロイドやヴェイグとの、グリッドに関わったもの全てとの絆。
それを手に入れたからこそ彼は一つ見落としていた。彼を構成する最後の一人を。

「ばぼっ、まもっ……る、がら……ぼがぁ、おばぇばっ……ばぼっ、がら…………」
――――――――でも、守るから。僕が、お前を守るから。

(お前のこと、考えたことが無かったな。この翼を手に入れた後でさえ)
グリッドには泣いているようにも聞こえた。恐れも惑いも後悔すらもあった凡人の悲嘆。
そこに有るのはグリッドが最後まで見ようとしていなかった、キール=ツァイベルの心。

「だがら…………だの、む…………もうずごじ……………待っててくれ………今、今なんとかずるから!!」
――――――――僕は絶対に失わない。

(答えさえあれば、俺は俺としてやっていける。もう惑わないし、それでいいと何処かで思ってた)
グリッドは飲めない息を呑んで、彼の言葉のその先を聞くために天を仰ぐその姿を正面より見据える。
この世界で誰よりも哀れな存在に見える彼を、グリッドはもう笑えなかった。
アレになるかも知れなかった自分だからこそ笑うわけにはいかなかった。

「はばっ、はなじ、そ゛うになったけど……ずびれそうになっだけど…………まだ、あきらめないから」
――――――――たった一つ、たった一つ最後に守りたいモノだけは――――――――

キールは、何も変わっていない。正義に目覚めた訳でも悪に落ちた訳でも無い。
ただ、守りたかっただけなのだ。その為だけにありとあらゆるものを捧げた。
グリッドは、今初めてキールを理解した。キール=ツァイベルがそうまでして望んだことを。
どうしようもなく弱いヒトだったから、彼は、誰よりも強い意志でそれを選んだ。
グリッドが一度は逃げ出した場所で、彼はずっと独り闘い続けてきたのだ。

「お前の、未来だけば…………この手でぜっだい、掴んでやず。絶対に、絶対だ。ぞじたらも゛う、二度ど、離ざないッッ!!!」
――――――――――――――――――――――――例え全てを敵に回してでも守ってみせる! 

たった一人の、女の子を守るためだけに。
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:22:47 ID:e6cqIUHZ0
 
38ある愛の話 −Ordinary Duo− 19:2008/10/25(土) 20:26:07 ID:K6xJW5950
(お前……最初から、メルディの為だけに“そう”だったのか?)
舞い散る紙の中、再びキールの体が動く。その遅さはもはや死体のそれだったが、それは確かにキールの出し得る最速だった。
キールの姿に焦点を合わせようとすると、紙目に視界が滲む。
だが、さっきまでの画が構図が変わらないまま、印象だけが一変していた。
紙に覆い隠されたコレットはもうもののついで程度にしか見えない。キールが守っているのは、たった一人の少女だけだ。
その為だけに、自分では敵わない程の相手に非凡の極致に挑んでいる。例えその身に何も無かろうと。
何処かしらで、自分をもう非凡の人間だと驕っていたのだろうかとグリッドは思った。
キールの嘲笑は、人間から解き放たれたグリッドにすらそう思わせるに十分なほど粘っていた。
だからどうした。天使だろうが時空剣士が相手だろうが、知った事かと。
あれだけ人間と非人間の戦力差を嘆いていた男が、今グリッドの目の前で酷く歪んでいる。
その酷薄な笑みをグリッドは識っていた。目の前で、眼と眼を突き付けられて覗かされたその黒い心を。
その邪悪な心の後ろにグリッドの焦点が再び結ばれる。
グリッドはいざ事此処に来て初めて知った。キールの穢れ切った心が、唯々彼女一人の為だけに存在していることを。
(俺は、何にも分かってなかったのか。いや、分かろうとしてなかったのか)
そこで初めてグリッドは、自分を守るためにキールを拒絶したが故に『キール』を理解し切れていないことを理解したのだ。
グリッドは答えを手に入れた。だが、その答えを提示するべき問いそのものを未だ分かっていなかった。
(卑怯で、言い訳がましい、自分の手だけは汚さない最低の奴。俺はお前のことをずっとそう思ってた。それで十分だった)
彼とキールが、初めて顔を合わせたのが今日の朝。その後二手に分かれ、次に出会うのがあのシャーリィとのグラウンドゼロ。
その間グリッドが見ていたキールは、常に策を練り、マーダー撲滅を訴え、甘さを捨てることを説いていただけだった。
机上の空論の五文字を煮詰めて鋳型に嵌め込んだような、そんな青年という印象を受けていた。
有意無意に関わらず、キールはメルディを救うという自分だけの願いをミクトランを打ち倒すという対主催全員の願いに摩り替えて隠してきた。
言葉だけで、覚悟のない奴。かつてのグリッドは自分とキールを逃げるようにそう断定した。
キールの言葉を拒絶しなければ己を定義することも出来なかったグリッドは、キールを一面的にそう断定することで逃げた。
答えを得た今でも、その封印はそのままだった。無意識に、そのままでいいとすら思っていたかもしれない。
(未だ、俺は心の何処かでお前にビビってたんだな。だから、どっかでわざと先送りにしてた)
グリッドは血塗れの愚者を見て、歯を軋らせた。
自分は確かに答えを手に入れた。だけど心の何処かで“それだけで終わらせようと思っていた”。
答えを手に入れるだけで“答え合わせ”を避けていたのだ。
キール=ツァイベルという“問い”と向き合うことから逃げていたのだ。
自分の導きだした答えだけに満足していれば、それが間違いと揶揄されることだけはない。
正解であるという確証を放棄することで、不正解であるという確証を回避できる。
明確な輪郭を持ったその恐怖をその手で握るように、グリッドはそれを肯定した。
生死の狭間で手に入れたこの嘘の翼でさえ、キール=ツァイベルの現実の言葉は打ち砕くことが出来るかもしれない。
グリッドは、キールという男にそう確信的な評価を与えていた。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:27:41 ID:a+heRn6+0
支援
40ある愛の話 −Ordinary Duo− 20 @代理:2008/10/25(土) 20:45:49 ID:e6cqIUHZ0
クィッキーが紫電を口に銜えて、グリッドの下に帰還する。グリッドはそれを手にし一度強く握りしめた。
この動物は、はたしてそのメルディに対する友愛をキールに利用されていることに気付いているのだろうか。
(畜生。そうだよなクィッキー。一応はウチの公式マスコットだ。賢く無い道理がねえか)
気づいているのだろうなとグリッドは思った。今まで踏み込むことをしなかったグリッドよりはキールという人間を知っているだろう。
だがキールがクィッキーの知性を信頼したかどうか、クィッキーがキールの悪性を許容したかどうかなどこの際彼らには問題ではない。
唯、メルディを何とかしたい。その理由だけで二人がある種の密約めいた何かを持つのに十分だったのだ。
故にクィッキーはキールの策略に利用されることを選び、キールはクィッキーを策略に利用することを選んだ。
片腕のないグリッドは紫電を見える場所においてから、左手にクレーメルケイジを持ち静かに意識を輝石に沈みこませた。
(何て野郎だよ、キール。俺の認識が完全に間違ってた訳か。お前は、外道なんかじゃない。本気のド外道だ。
 お前にとっちゃマーダーを殲滅することも、俺達を捨て駒にすることも、そうやってクレスと戦うこともみんなみんな同じなんだな)
グリッドの知るキールは、唯の屑だった。自分とメルディの保身の為なら平気で仲間を傷つける類の。
グリッドのイメージ通りのキールだったなら、何も問題はなかっただろう。
諦めて易い道に墜ちたキールに、ただ自分の答えを見せつけてやればよかった。
だが、一体キールの中で何が狂ったか。グリッドの目の前で足掻くキールは屑の中の屑だった。
他がボロボロに使えなくなったら、躊躇わず自分を屑の様に酷使し始める。
知らないやつも仲間も敵も“自分すらも”犠牲にすることを厭わない。メルディ以外に一切保全を認めていない。
まだマーダーになって優勝する方が気楽過ぎる在り方だ。
(糞。最低だ、最低すぎるぜお前。自分の願いの為なら何しても良いってのか)
グリッドの中で何かが呻く。何故キールという人間の姿にあれだけ心が痛むのか、それを思い出したからだ。
(ああ、そうなんだ。俺には痛いほど分かる。これはもう俺にしか分からない痛みだ)
あの地獄の穴の底で見た、切り取られた空。手を伸ばせど届かない天。
地を這い蹲る彼ら凡人には、遠すぎて眩し過ぎる世界。
現実を越えて其処を目指すには、彼らはあまりに持たざる者だった。

――――――――戦場で手を汚せよグリッド。悩むことなんて何一つ無い。“お前はこっちの住人だ”。
(だってお前は、俺と同じ凡人だ。無能だ。虫螻だ。それを上手く嘘で自分を誤魔化して来たに過ぎないんだ。
 俺が逃げ出したそんな息も詰まりそうな世界で、お前は戦ってきたんだな。たった一人で)
41名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:47:09 ID:sML9KPqT0
しえん
42ある愛の話 −Ordinary Duo− 21 @代理:2008/10/25(土) 20:47:33 ID:e6cqIUHZ0
魔力不足なのか、キールの展開するエアリアルボードは魔剣を一合捌くごとに削れ薄くなっていくように見える。
それと比例して、かすり傷とはとても言えない損耗がキールの体中に刻まれていく。
ロイドやグリッドとは違う、替えの利かない心臓をその魔刃に極限まで曝しながらクレスに立ち向かうその様は、
グリッドが決めつけていたキールのどれとも違っていた。
キールが今まで理屈や正義を弄んで隠していた何かが完全に露出していた。
その在り方を拒絶など出来る筈がないのだ。キールと自分は、その開始点を同じくしているのだから。
仲間も敵も、そして今自分自身の保身すらも捨てて。グリッドとは真逆の手段で彼は現実にに抗っていた。
だがその原点は二人とも同じだ。自分を構成する何か、譲れない何かを唯守りたいというささやかな願い。
それを超える為には、何かを差し出さなければいけなかった。
グリッドはヒトの心を取って人間の体を捨て、人間の体を捨てられないキールはヒトの心を切り捨てた。
どちらが化物だと言われれば、グリッドは間違いなくクレスではなくキールを選ぶだろう。
ロケットのブースターのようにパーツを殺ぎ落とし、届かない目的だけに向けて直進する。
戻り道を憂う過去も、届いた後の未来も切り落とし、たった一人で先の見えない暗黒に邁進する。
ロイドが甘んじて受けなければなかった生き方を能動的に選ぶ人間を、ヒトとはもう呼べないのだ。
(俺、未だ何も知らないんだな……自分のことばかりで、まだ、何も考えてなかった)
この世界全てを呪うかのような慟哭を吐き続けるキールを見て、グリッドは思う。
あれはきっと、本当は俺がなるべきだった化物なのだと。全てを棄てて、漆黒の翼のためだけの人形になるはずだった自分なのだと。
そして、答えを得てこの場に立って初めて知る。自分は一体キール=ツァイベルの何を拒絶していたのだろうと。
キールはさんざん自分のことを聞いてきた。その上で、凡人としての立場から綴られた言葉だからグリッドを殺し切れた。
それは唯自分の情報を増やすためだけだったのだろうけど、なら自分はキールの何を理解しているのだろうとグリッドは思う。
メルディをあんな風にされたのは知っている。親友を殺されたのは知っている。あの拡声器で叫んでいた娘が知り合いだったことも。
だけど、それを喪って来たキールの闇をグリッドは知る由もなかった。
最初に出会ったカッシェルに為す術も無く命を取られかけて、それをあまつさえリッドに救われた彼の無力を。
結果論でしかないとはいえ、リスクマネジメントに固執するあまり目と鼻の先にいたファラを救えなかった彼の煩悶を。
ようやく出会えたメルディに安堵して、話に聞いていながらネレイドに対する処置を誤った彼の懊悩を。
メルディを命を賭けて取り戻そうとしたその果ての果てに、親友を目の前で失い、メルディの心を壊された彼の絶望を。
情報が削ぎ落とす主観的感情は紙が記す客観にはほぼ写らない。キール=ツァイベルの主観が秘された客観しかグリッドは識らなかった。
43ある愛の話 −Ordinary Duo− 22 @代理:2008/10/25(土) 20:48:53 ID:e6cqIUHZ0
歯が割れかねないほどの力を顎に加え、グリッドは呻きを堪える。切れた口の端から血が流れた。
(畜生! ここまで来て俺はアホかよ! 答えを手に入れただけで満足しやがって!!)
決して壊れないものを得たが故の、何処かにあった慢心。できることならばグリッドは声を出して自分を罵りたかった。
答えは得た。だがそれだけでは足りない。答えは、問いと並べてようやく意味のあるものなのだ。
キール=ツァイベルという“問い”との決着を経ずして、グリッドが導き出した答えは完成しない。
グリッドがここまで来れた始まりの始まり。その“問い”を投げかけたのは他ならないキールだから。
だが、その問いをグリッドに投げかけた男は、肉と骨を削りながら血液と狂気に塗れて消えようとしていた。
(俺はまだ何にも始ってねえ!! ロイドに借りは返した。自分の答えも得た。なのに、俺は“俺の始まり”を見事に見逃してた!!)
キールに投げ掛けられた問いより始まった彼の答え。なのに、答えを示す前に問いを発したキールが滅ぼうとしているという滑稽と皮肉。
よちよち歩きの羽で飛べるかどうかのヒヨコが、二段目も切り離そうとしている多段式ロケットに追いつける道理がない。
グリッドが自分の答えを得て成長したと同様に、キールは既にグリッドの手の届かない場所にまで到達してしまった。
(くそ野郎、俺はまだお前に何も応えてないのに。お前は、最後まで俺を見ずに先にいくのかよ)
どうにもならぬ窮状に押されたか、グリッドが今度は素直に感情を吐き出す。
クレスを倒す為のインディグネイションを急いで得ようとするが、
焦りに心と身体の糸を徒に絡まり、キールを巻き添えにするという問題が解決できずに焦れて更に絡まる。
いつもそうなのだ。大抵の物事は失ってからその事実に愕然とする。人も、命も、時間でさえも。
(待て、待ちやがれ。お前はまだ終わられちゃ、困るんだよ)
体が全快だった頃ならば一秒で届きそうな距離が、今のグリッドには遠すぎた。
焦りの絶頂を極めたグリッドが、いたたまれずクィッキーの方を向く。
向いてからグリッドは少し後悔した。キールはクィッキーに自らの力を託し、クィッキーはその全てを賭けてここに来た。
そしてその力を渡されたグリッドはそれに応える術に惑っている。それでどの面を見せればいいというのか。
だがそこにいたクィッキーの瞳は焦燥を滲ませこそすれ、それをその小さな体躯に見事に収納していた。
直ぐに紫電を持ってきた手並みからも分かる。本当ならば、今すぐグリッドに噛みついてでも雷撃を促したいだろうに。

「何でだ……何で戦える!? どうして、未だ!?!?」

珍しい声がグリッドの耳に響いた。奇声と剣撃しか上げていなかったはずのクレスが人の言葉を喋っていた。
クレスの声がグリッドの耳に入る。クレスの意識が緩んだその間隙を、グリッドは見逃さなかった。
「クィッキー……何で、急か、さない?」
クィッキーの方を向きながら、心底辛そうに口を震わせて言葉を吐く。
一体何がその矮躯に人並み以上の覚悟を存在たらしめているのだろうか。
クレスの意識が完全にキールに向いた今、グリッドはそれを素直に聞きたいと思った。
「グィッ」
グリッドの問いに、クィッキーは一度だけ力強く鳴いた。
その言葉の意味は分からなくとも、音に込められた意志だけはハッキリとグリッドに伝わる。
自分からは絶対に急かさないと、お前の判断に従うと、考えうる限りの最高位の従属のような居住まい方だった。
(ありがとうよ……でも、俺が動かなきゃキールは死ぬ。動いても、多分死ぬんだぞ……メルディが助かっても、それじゃあ)
クィッキーに願いを託されようと、キールに力を託されようと。グリッドが手を考えなければこのままではキールは終わってしまうのだ。
44ある愛の話 −Ordinary Duo− 23 @代理:2008/10/25(土) 20:51:24 ID:e6cqIUHZ0
(って、あいつが終わる!?)
果物の瑞々しい音が耳朶を打った時、グリッドはケイジからの電流が自らを巡った錯覚を覚えた。
(待て待て待て。おかしい。命と引き換えに俺に命運を託す? 無え。そんな戦略は戦略として有り得ねえ)
ボロボロになりながらも尚食物を咀嚼しようとしている。
それは生きるためだ。一秒先を、一分先を生きて何かを為そうとする生命にだけ許された行為だ。
「ごぶ、ぞべばま。僕の゛ごぶぢと、おばべの剣ばら、おばえが勝つ゛。だばば」
(託したんじゃ、無い。だったら――――――――確信しているんだ。俺が、最後にはこれを使うことを。あいつは、一切疑っていない)
「クィッキー!」
キールが何か口上をまた述べてクレスを引き付けている。これすらも、この怒りすらも恐らくは布石なのか。
小声で、しかし怒気を孕んだ声でグリッドはクィッキーを呼んだ。
クィッキーは、グリッドを信じている。グリッドが決めるときは決めることを、昨日の夜に十分知っていたから。
その信頼は、グリッドにとって漆黒の翼たちと同様自分を後押しする原動力となる。
クィッキーを自分の顔まで近づけてグリッドはボソボソと何かを言った。キールとクレスが問答をしている今しかこの機会はない。
了解したらしく、クィッキーは鳴き声一つ漏らさずその草むらに再び隠れていった。
(そうか、そういうことか。お優しすぎて涙が出そうだぜ、出ねえけど)
キールもまた、グリッドを疑っていない。クィッキー同様一切を疑わない意思。
だがそれは信頼ではないことをグリッドは理解していた。
(何だかんだ迷っても、俺がインディグ撃つって解ってる訳だ。ああそうですよ、ぶっちゃけそのつもりでしたよ)
だが、グリッドはキールを巻き込むことを恐れていた。それでいいのかと煩悶していた。
(それでそんな平然としてるってことは、そこら辺の対応も最初っから用意している訳だ)
自分以外の何も信じないキールが、グリッドに煩悶の余地など残すはずがない。
グリッドが安心して躊躇いなく撃てるように、何か対策を講じているのは間違いないだろう。
恐らくはこの舞っている紙も、その一つだ。
(何、俺は道具か何かですか。インディグネイション発射装置ですか。駒は僕の言うこと聞いてろと。そ、う、で、す、か)
グリッドの優しさ、恐れ、それら全てを道具が個々に持つ癖のように捉えた判断がキールの意思を完全なものにしている。
それら全てをグリッドという駒の特性として機械的要素に落とし込み、キールはグリッドを『利用』しようとしているのだ。
45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:54:01 ID:sML9KPqT0
 
46ある愛の話 −Ordinary Duo− 24 @代理:2008/10/25(土) 20:54:09 ID:e6cqIUHZ0
主導権は、最初からグリッドに渡っていない。今この戦場を設計しているのはキールに他ならない。
(ああ、畜生が。少しでも可哀想とか思った俺が莫迦だった。この外道のド外道が)
ケイジを首から掛けて、少しでも雷の力を自らに送り込む。
キールの策がおぼろげに見えてくる。グリッドにとってそれは特に難しいことはない。
凡人の視点で、徹底的に卑屈にネガティブに人を利用することを考えればいいだけだ。
(クソ、しかし、あれか、けけけけけ。俺を利用すると来たか)
紫電を持つその手に震えは無い。怒りに限りなく近い感情が、弱気を圧倒している。
後は、タイミングとクィッキーの動き次第。クレスを倒すには、インディグネイションを超えたもう一手が必要になる。
(素敵じゃねえか、自分の為に他人を欺いて利用してゴミのように捨て去る。
 新生漆黒の翼団長としては何一つとして好ましくない所はねえ)
キールは、グリッドを余す所なく利用しようとしている。それを踏まえてなお、グリッドは笑っていた。
クレスとキールの立ち回りを凝視する目尻は幽かに震えている。
(だが、認めねえよ。団長としてではなく、グリッド個人としてお前の生き方は認めない)
グリッドはその感情に振り回されかけていた。重ねて自らに記す。今、キールは間違いなくグリッドを利用しようとしている。
失敗してもよし成功してもよしではなく、成功を前提としてクレス打倒の計画を立てている。

クレスの一撃がキールの防御不可能域に襲いかかり、キールの胸が鈍い出血に彩られる。
反射的に動きそうになる身体を押さえつけ、グリッドは慎重に待った。
キールは必ずタイミングを提示してくるはずだ。キールがグリッドに以心伝心やら阿吽の呼吸を期待する訳がない。
虫の息のキールに繰り出された斬撃に合わせるようにして、障壁が展開される。
内湧く疑念を堪えながらグリッドは未だ待った。今必要なのはあの障壁が一体何かを考えることではない。
キールのことだから、入念に手を伏せていたのだろう。行うべき思索はそれで十分に過ぎた。
47ある愛の話 −Ordinary Duo− 25:2008/10/25(土) 20:55:57 ID:sML9KPqT0
「ヨー……イドゥ、ムィーム………プィティンディ・エティ……ドン」
(ああ、だから今は手伝ってやるよ。お前は俺がブッ潰す。出来る。やってやる)
涙のような汁を垂らしながら、キールが妄言の様に何かを呟く。
カトリーヌやプリムラから聞いていた話から、それがメルニクス語であるという見当を即座につけたグリッドは、
それが合図であると判別した。言語訳などはこの際どうでもいい。
合図以外の意味を受け取るなどとキールは思わないと、グリッドは確信している。
「ティム、スデ、ィ………ディエム、ドートゥ…………」

――――――――殺す価値もないし、ふと殺そうと思ってもいつでも、簡単に殺せる。

(厭とは言わせねえぞ。お前、俺を利用しやがったからな。お前“俺に利用価値を見やがった”からなあ!!)
ゆっくりと、唖然としたようなクレスの意識を刺激せぬように立ち上がる。やっと死体程度には動くようになってくる。
その動力源が、滾るような嬉しさであることをグリッドは否定しなかった。動物的な意識がグリッドの表象を満たす。
「ヨーエンドィ・ヨー・ドー・トゥ………」
キールはその脳裏にある戦略的盤上にグリッドの名前を刻んだ。
どう転んでもいい端役ではなく、利用するに足る歩兵として“歯牙にかけた”。
自らの計画に影響を及ぼす存在として、その敵性を認識したのだ。それが、グリッドにとって喜ばしくない訳がない。
「ヨー・ヤドン、ディエティ……ドン」
(俺は、お前にとって無視できない位置にまでは届いたわけだ。お前と戦えるに足るまでに!)
それはロイドに頼られたのとは、真逆の嬉しさだった。キールは独り、全ての要素と戦うことを覚悟している。
ならばそれは蝿か何か程度にしか自分を見ていなかった男が今、グリッドを一個の駆逐するべき敵として認識しているということ。
今こそグリッドはキール=ツァイベルの敵足りうる資格を得たのだ。

「―――――――ティムスティディ・エムドートゥ!!」
止めを刺そうと走るクレスの狙う先、キールの屍鬼のように濁った眼がグリッドを捉える。
それが今であることを間断無く判断し、グリッドは隠すように進めてきた準備を一気に早めた。
(今なら、言える。もう恐れない。胸を張って、堂々と正面からお前の覚悟を粉砕してやる)

キールが今までの速さとは比べ物にならない速度でクレスの背後に回る。
虚を突かれたクレスがキールの方を向いた今、クレスは完全にグリッドに背後を晒した。
糊口に汚れたキールの低俗な笑みを見て、グリッドは嗤った。

「おう、確り、分かってるぜ」

ダブルセイバーを杖に立ち上がり、傍に突きたてる。
潜伏を解いた紫電とケイジからバチンと火花を散らす。光の走るような音にクレスは虚の虚を二重に突かれた。
空気中に漏れた紙の一部分が焦げるように燃える。
48ある愛の話 −Ordinary Duo− 26:2008/10/25(土) 20:57:14 ID:sML9KPqT0
「長かった……すっげえ長かった。10分も経ってないはずなのに、三ヶ月くらい長く感じたぜ」
(ようやく、俺はお前の前に立てた。後は、そこのクレス吹っ飛ばすだけだ)

紙吹雪が舞い降り、グリッドの黒い羽根を守っていた白き迷彩が解かれる。
コールが宣言された以上、もう退路は無い。後は、クレスの反応速度とグリッドの詠唱速度の勝負だ。

「もう我慢せんぞ。これ以上、俺のゲームを電波ユンユンの世界に漬けておく訳にはいかんのでな」
(腹立たしいことこの上ないが、今だけはお前の策に乗ってやる)

グリッドだけでは、凡人一人ではクレスに届かない。だが、届かせなければいけない。
その程度グリッドにも厭というほど理解できる。だからこそあらゆる手段を使ってでもここで越えなければいけない。

(俺にだって馬鹿じゃない。1+1は、2を超えて超1だ。例え最強の一だろうが、相手じゃねえ!)

例え、その思想が真逆に反目しあう者同士であったとしても。その目的が同じならば。

(勘違いすんなよ。お前に利用されるだけじゃ癪だから、俺もお前を利用してるだけなんだからッ!)

グリッドの中で諧謔が調子を取り戻してくる。
舞い散る黒い羽。見せ札は、エターナルソードとインディグネイション。
更なる一手をここから押し込んだ方が、勝つ。

今展開している魔術式の上―――――――彼に残された最後の魔術のその先。即ち、神雷の裏側。

(兎に角―――――――今回限りのタッグマッチだ。凡人の力、舐めんじゃねえぞ、クレス!)
「捉えたぜ、クレス=アルベイン!! これでお前をチェックメイトだッ!!!」



そういってグリッドは、夕日の赤に逆らうようにその羽を大きくはためかせた。
独り戦場に立つ暴君を今こそ落日にたたき落とすために。耐えがたきを耐えきった平民はついに鍬と鋤を持って立ち上がった。

長々し過ぎる前座の果て、過去より現在に至る初期条件はこれにて全て開帳。
残すはただ一つの未知――――現在より至る未来と結果を算出するのみ。さぁ、今こそ舞台に幕を引きましょう。

49ある愛の話 −Ordinary Duo− 27:2008/10/25(土) 20:58:10 ID:sML9KPqT0
【グリッド 生存確認】
状態:HP5% TP30% プリムラ・ユアンのサック所持 天使化 心臓喪失 インディグネイション習得中
   左脇腹から胸に掛けて中裂傷 右腹部貫通 左太股貫通 右手小指骨折 全身に裂傷及び打撲
   左胸部、右胸部貫通 右腕損失 全身にリバウンドによる痙攣と痺れ、吐血 動ける? 
習得スキル:『通常攻撃三連』『瞬雷剣』『ライトニング』『サンダーブレード』
      『スパークウェブ』『衝破爆雷陣』『天翔雷斬撃』
所持品:リーダー用漆黒の翼のバッジ 漆黒の輝石 C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) クィッキー
    ソーサラーリング@雷属性モード リバヴィウス鉱 マジックミスト 漆黒の翼バッジ×4
基本行動方針:バトルロワイアルを否定する
第一行動方針:作戦開始
クィッキー行動方針:アレを回収する
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
50名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:00:30 ID:sML9KPqT0
今日の投下はこれにて終了です。支援してくれた方はお疲れ様でした。
一時間で済んだのも皆さんのお陰です。どうもありがとうございました。

明日は、夜の10時より投下したいと思います。よろしくお願いします。
51名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:07:04 ID:fTY9MtCaO
投下乙

裏インディグにwktk
後やたらツンデレ率高いなw
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:46:56 ID:3Ow/KVgAO
投下乙
明日も楽しみです
53名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:55:57 ID:bnVqmAAsO
投下乙

続きが楽しみです
54名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 16:22:21 ID:qHyZJHEI0
本日投下予定の作者です。
10時予定……だったのですが、夜にリアルで事情がぶつかってしまったのでその時の投下が難しい状況になってしまいました。
27日の深夜にだらだら落しておこうと思います。
支援に時間を空けようとしてくださった方には申し訳ありませんが、よろしくおねがいします。
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:04:12 ID:t45lYqZOO
>>54
把握しました。
wktkで待ってます。


ところで前スレどうしようか
投票集計で埋まるかな
票少ないから埋ついでにもっと投票してもいいと思うが
まあ遅くても明日までだろうけど
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 23:13:45 ID:FJjmP4Jm0
期待してまってます
面白い
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 21:31:33 ID:L2rHCwG10
遅くなって申し訳ありません。それでは、ゆっくり投下します。
58ある愛の話 −永遠伝説− 1:2008/10/27(月) 21:32:07 ID:L2rHCwG10
頬を打つような突風と共に、舞い散る紙の中に砂煙が混じったクレスの視界からキールの姿が消える。
何度も何度もクレスの斬撃を紙一重で凌いできた風の盾は靴となりて、風のようにクレスの後方へと流れてキールを逃がした。
邪魔極まりない風の盾を打ち破るために、常よりも僅かばかりに上乗せした力の分だけクレスの対応が遅れる。

キール=ツァイベルの計略。クレスとの戦いが始まった段階から仕込みに仕込んだそれは、初動において完全なる成功を納めた。
そもそも彼には最初から足があった。エアリアルボードという回避の選択肢が。
常に一所に留まらず流体を運動させる『風』の属性であるエアリアルボードの使い方は、本来移動にこそある。
これを十全に生かすべきならば、フライパンや拳に纏う補助材料として扱うよりも純粋に回避の技として用いるべきだ。
だが、キールは敢えてエアリアルボードを攻撃と防御に用いた。
火水雷闇の四属が片側のケイジに集まっている以上、シャープネスもバリアーも用いられない彼は他に強化の術が無かったということもある。
だが、それ以上にこれはエアリアルボードの移動という特性を“より有効に”用いる為の方策としての意味合いが大きい。
いくらエアリアルボードで高速移動ができるとはいえ、精々他の術師よりも機敏に動ける程度。ただそれだけだ。
大雑把なネレイドの術ならばともかく、近距離に限り神速であるクレスの斬撃には程遠い。
逃げに使ったところで、あの空間翔転移とやらに捕捉されるのが関の山だ。
タネが割れてしまえばクレスにとってそれはただの少し速い移動でしかなく、なんら脅威に成り得ない。
何より、キール=ツァイベルは消極的な手段を選べる立ち位置にいない。
空間翔転移にて距離と時間の関係を無視して移動出来るクレス相手に逃げることは出来ないし、意味がない。
何処かで積極的に打って出なければ、ジリ貧に陥ってしまうのは明白なのだから。

故にキールは敢えてエアリアルボードを『防』に使うことを選択した。
エアリアルボードの本来の使い方を知らないクレスの前で盾として用いた。
クレスと会う昨日の昼時点で、エターニア世界から来た参加者のうちエアリアルボードを知っている可能性のある5人の存在は確定している。
キールの知る限り、他の攻撃術は他世界とリンクしている可能性があったがこのエアリアルボードにはそれが無い。
クレスがそれを知っている可能性は皆無と判断したキールは、この僅かな無知を突いた。
フライパンやエアリアルボードによる受けを徹底し、クレスの斬撃を全て『防』で対処することによって、
ベタ足でしか動けない魔術師だから避けは諦めて守勢に徹してくるだろうと思い込ませた。
クレスの念頭から回避の選択肢を消滅させた。最後の最後で『避』を120%生かしきる為に。
防御して防御して逃げられないと演出し、最後の最後でエアリアルボード本来の使い方で回避するという奇手。
予め用意しておいた緊急回避用の接近戦仕様の特殊機動。後方に退いた処で活路が無いのならば、敢えて前進する。
それは見事なまでに功を奏し、クレス=アルベインの背後を取ることすら成功させた。
亀のように縮こまっていた相手がいきなり速度を上げれば、攻撃側に生まれる体感速度は跳ね上がる。
決めつけていた未来を、現実の変更に即して修正する僅かな時間。
その『虚』をこそ、キール=ツァイベルが狙ったものだった。
59ある愛の話 −永遠伝説− 2:2008/10/27(月) 21:32:42 ID:L2rHCwG10
しかし、回避しただけでは意味がない。
ただ一度の虚を突いた程度で戦力差を揺さぶれるならば苦労はしないのだ。
逆に言うならば、この如何ともし難い戦力差があったからこそキールはあのクレスから背後を取れたとも言える。
もし、これがロイドやヴェイグだったならばクレスは絶対に背後を取らせることはないだろう。
彼らには、そこからクレスを一撃で打倒し得る手段がある。
一瞬の油断が命取りになる拮抗した戦力がある。背後を取られてはいけない理由に足る。
直接攻撃力を持たないキールにはそれがない。故にクレスにとってこの回避は命取り足り得ないのだ。
文字通り心血を注いでキールが生み出した『虚』など、その程度でしかない。
もっと、もっと優位が必要になる。この絶望的な戦力差を埋める一撃を決めるために。
圧倒的な存在であるクレスを完全に崩しきるためには、もっと大きな虚をつかなければならないのだ。
だからこそ、グリッドの存在はそれを為すに適材と言うより無い。

「カッキーーーーン! ジュバッ、バミュン。 どもっ、自分です!!
 この俺、みんな大好きグリッドさんが八大地獄をフルコンプして四か月ぶりに帰ってきましたよーーーー!!
 何? 前の話が三カ月だったって? いいか少年、逆に考えるんだ。『何、気にすることはない』と考えるんだ」

今の今までナメクジ程度の速さでしか動けなかったはずの男が、いきなり狐の幻のように自分の前から消える。
それに追いすがろうとして狐のほうを向こうとした瞬間、狩り取ったはずの獲物の声が高らかに後ろから現れる。
自らを挟み対面する二つの『虚』によってクレス=アルベインの胸中に浮かぶものの大きさは外側からは到底計り知れない。
弱者を切り捨てるだけで済んだはずの状況が、爆発的に増えた情報によって一変される。
何度斬りつけようが死なない生者、心臓に剣を突き刺してなお蘇る死人。
その全てに整合を付けることなど到底出来る筈もない。だが、クレスは一つだけ、先ず一番に必要な結論を得た。
それは何時の記憶かも曖昧な話。気の置けない誰かと獣を追い回したことがある。
これは戦いではない。狩りだ。但し、狩られるものと狩るものが真逆の。
獲物を刈るはずだった自分が、今まさに狩られようとしているのだと。
60ある愛の話 −永遠伝説− 3:2008/10/27(月) 21:33:47 ID:L2rHCwG10
完全に自分がハメられたことに気付いたクレスを嘲笑う様にグリッドが喚く。
「残念だったなクレス! 前の俺のならこれで寝たままなんだろうが、今は休養&イメトレ十分だからもう少しもつぜ!」
何をどうすれば休養しただけで失った心臓をリカバリー出来るのかなどクレスに理解できるはずもない。
そも今クレスの中で明確にするべきはここに至る過程への気付きではなく、ここに至った結果の認識である。
首だけで振り向いたクレスの目に、はためく黒い羽根とグリッドの左手から迸る雷が映る。
あの虫けらは囮。本命は、クレスにとってのコングマン――――グリッドに他ならない。
クレスが体ごと振り向き、剣をグリッドに定めようとする。
「ざまあねえぜキール! あれだけ俺のことを馬鹿にしておいてそのザマか、いいな実にいいなぁ!!
 結局のとこ俺の力が無きゃこりゃどうしようもないもんなあ!!」
今まで時間を稼いでくれた人間に対する労いにしては余りに酷薄な物言いを吐くグリッドに、クレスはその狂える双眸を更に強めた。
「ほらほら、俺がピンチだぜェ? この場で唯一こいつを打倒できる俺がクレスに狙われるぜぇ?
 小賢しいキール=ツァイベルさんはどうすればいいか、すぐに計算できるよなぁ!?」
クレスの頭蓋の中にある標準器のレティクルがグリッドに定まろうとした瞬間、その言葉にクレスが硬直した。
「分かったらそいつ暫くフン捕まえてろ! それが無理なら殺されろ! 
 どっちにしたってもお前ごとまとめてビリビリビリのドッカ――――ンって寸法だからよ!!」
グチャグチャになって碌にものを考えられないクレスの頭から追い出されかけたキールの存在が、グリッドの言葉によって急浮上する。
この場合、どちらを先に殺すのが正しいのか。理性ではなく本能が優先順位を求めた。
クレスがグリッドを狙えば、キールがそれを止める。キールにそれを可能とする速力があることはすでに示されている。
ならば先に邪魔になるだろうキールを殺すべきか。それによって生まれる時間は確実にグリッドにとって有利を齎す。
どちらを先にしても後に回しても、グリッドが詠唱を行う時間は確保される。
そのゴミのように縮小した脳髄でも獣は理解するよりない。今完全に自らが檻の中に閉じ込められようとしていることを。

既にその視界は、自然界に存在しない黒い紅に覆われて殆ど機能を失っている。
不可視なる『策』が、無数の鎖となって自らを絡め捕る感覚を神経以外の何かで感じながら、何故だとクレスは虚空に問う。
今自分が嵌められたことにではない。虫けらだったはずの男が突如自らを擦り抜けたからでもない。
どうして斃せないのか。これだけ剣を振りあれだけ血を流させ心臓を突いた。それでも何故倒れないのか。
答えはとっくに得たはずだ。もっと速く、もっと強く。万物を斬り伏せる最強の剣になる。
そうすれば守れるはずだった。守れなかったものも倒せなかった敵もそれらによって齎された理不尽で残酷な運命も、偏に自分が弱かったからだ。
あの時マグニスを切断できていれば、バルバトスを破壊できていれば、コングマンを斬殺できていれば“何か”を守れたはずなのだ。
あまりに無力で、どうしようもないほど矮小。これじゃあ君も守れない。
何も守れない僕に“僕は負けない”と彼女は言ってくれた。君すら守れない僕に、そう言ってくれた。
その時だ。もっと遠く、もっと鋭く。たった一つの目指すべき場所が、晴々と見えていた。
天秤をふらつかせて得られるものなど何処にも無い。その願いだけは守ってみせる。
61ある愛の話 −永遠伝説− 3:2008/10/27(月) 21:34:12 ID:L2rHCwG10
求めるべきは絶対に負けない力。欲するのは絶対に勝つ力。望むは運命を殺せるだけの力。
それを得たはずだ。それを得るためだけに出来ることをした。コングマンの力すら奪った。あの剣士の技も超えた。
何があろうと殺して誰が立ちふさがろうと斬って、目に見える全てを打ち砕いた。
自分を刻むように殺し尽くした。いつだったか、そういう風に生きてそういう風に死んだ魔王のように。
剣を振るたびに世界は紅く熟れていったけど、構いはしなかった。今何処に立っているかなどは瑣末以下の問題だ。
走って走って突き進めばいつか辿り着くというと信じていたのだから。
そして、そこに限りなく近づいた。何人も殺して斃して捌いてなお無敗。
立ち塞がる無数の運命を押し潰し、コングマンを倒し最後の障碍も排し、その跡に君と会えた。
だけど未だ足りなかった。まだそこに辿り着いていなかったから、僕は君に否定されたんだ。
こんな運命を僕は享受しない。未だ僕は負けていないのだから、それを追い求めることができる。
だから殺す。もっと殺す。終わりがないと諦めるその心も、始まりに戻ってしまうこの闇も叩き斬る。
望まない世界全てを斬って棄て続ければ、いつか必ず望んだ場所に辿り着けるはずなのだから。

なのに、最後の最後が終わった後で立ち塞がったそれが、どうしても崩せない。
今までで一番脆いはずの壁が、いつまでたっても超えられない。
今までの壁はどれだけ硬くてどれほど強かろうと、斬ることができればそれで終わった。
なのにこいつは何度崩そうとその壁を積み上げる。より脆くより危うくはなっても、壁だけは積み上がる。
絶対に殺せると分かっているのに、そこにいつまでたってもたどり着けない。
どうして立ち上がれる。何故倒れない。
それを問うても、碌な答えは返ってこなかった。もう耳の中の蝸牛も溶けているのか。

間違っているともう僕が言った。
間違っていると言うくせに、僕が聞いた問いには、何が間違っているのかも返してくれない。

62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 21:34:29 ID:hnF1HbxgO
支援
63ある愛の話 −永遠伝説− 5:2008/10/27(月) 21:34:47 ID:L2rHCwG10
クレスの状態をその眼で吟味しながら、グリッドはその左手に力を込めた。
やはりいうべきか、ほっとしたというべきか。キールは退避装置を持っていたことを確認し彼は安堵する。
エアリアルボードの高速移動による緊急回避。
これならばグリッドの攻撃圏からはもちろん、万が一でもキールはクレスの攻撃圏から撤退できる。
本来の使い方を知っているグリッドですら危うく忘れかけていたのだ。クレスには気付ける筈もないだろう。
だが、クレスと直接対峙したグリッドはエアリアルボード単体ではクレスから逃げられるか怪しいと踏んだ。
故に彼はお得意の口八丁で念を押した。効くかどうかは二の次。だが、しないよりはやったほうが成功するのは当然だ。
既に使い物にならないだろうキールを有効に活用すると同時に、有効な存在だと認識させることでクレスに安易な安物殺しの殺戮を逡巡させる。
稼げる時間が存在するという仮定は時空剣技を使われないことが大々前提であるが、
この前提がなければこの計画は最初から画餅だ。ここは発案者であるキールの読みを確信するよりない。
グリッドに出来ることはキールを疑うことではなく、キールの計画をある意味にて信じ、
その上でその発想を上回る手を打ち“キールをさらに利用する”こと。
本人の危険度を敢えて上げることで、同時にキールが自力で逃げられる時間を確保できる。
多少厭味が乗ったが、これくらいが丁度良いとグリッドは思っていた。
ハッタリに信憑性を与えることは重要だ。なにより利用されるだけというのはグリッドにとって癪だった。
俗な言い方をすれば“この程度で死ぬならそれはそれまで”でしかない。
それにどう考えたところでグリッド先に狙う方が正しいのだ。
もうキールにはクレスにしがみ付く力すら残っていないだろうことは斬り合ったクレスが一番分かることなのだから。

グリッドはキールとなんの打ち合わせもしていない。
メモすら渡されていないのだから、本当のところキールが何を考えているかはグリッドには確証がなかった。
(多分、いや絶対に合っているはずだ。俺にケイジを渡して、キールがどうやって切り抜けるつもりだったか)
だから、ここはキールを信用するのではなくこの状況における最善手を突き詰める。
グリッドに到達できる場所ならば、それはキールがすでに通過しているはずなのだから。
(今意識のある奴で、正面から打撃力が一番あるのは俺。その俺がクレスに勝てないんだから、クレスと正面からはぶつかれない)
いくら接近戦でキールが何秒何分と時間を稼ごうが、それでキールがクレスを倒せるはずがない。
それはグリッドも同じだ。もう先ほどの様にはとても戦えないし、既にクレスに全ての手札を見切られている。
この状況で、キールがなにを最善と以て考えるか。

―――――――少しでいい、詠唱する時間を稼げ! 術士に前衛を任す気か!?
64ある愛の話 −永遠伝説− 6:2008/10/27(月) 21:39:49 ID:L2rHCwG10
(散々マーダーを上級術で殲滅する気だったあの火力主義が、直接攻撃に勝ち目を見出す訳がない。本命はやっぱ術だ)
術撃による遠距離からの火力の一点突破。奇策を弄する力がない以上正攻法しかない。戦術ではなく消去法だ。
だが、当然それにはリスクが生じる。エアリアルボードのような定形型ならばともかく、
人一人を殺す為の上級術となれば、確実に詠唱が必要になってくる。なんの守備も無い魔術師など、剣の恰好の的だ。
故にキールは今まで術を使えなかった。実戦で上級術を行使するための最低条件、その時間を稼ぎ得る前衛の壁役が揃うまでは。
そしてグリッドという手札を用いると決めたならば、キールが術を行使する条件は満たされる。
(だけど、普通にやったんじゃ絶対に間に合わん。相手は腐ってもクレスだ。気づかれたら確実に潰しにくる)
弱体化したとはいえ正面に限れば今残った参加者の中で一番強いのはやはりクレスだろう。
(コレット含めて、全員でボッコボコにするって手もあるが……あのコングマンフェチのあいつのことだ。ギアを上げてくる)
クレスと因縁がありそうなコレット、精神的にボロボロの少女、肉体的にボロボロの魔法使い、そしてロクに動けない自分。
4人総出で戦っても勝てるかどうかは分からないし、失うものが大きすぎる。それはグリッドもキールも望むことではない。
(なら、キールの立場ならどう考える? 生半可な前衛を出しても犠牲が出るだけだ)
今のクレスは生きるために喰う殺人鬼ではなく、喰う為にただ生きる獣だ。だが、元がクレスである以上獣でも十分に強い。
それに万が一の万が一、時空を操る力が残っていたならば、物理的な前衛も後衛もほぼ意味を為さない。
助けに割り込んでキールを後方に下げさせれば、キールが術を使うと一発で露見する。だったらいっそ。
(いっそ、自分でこのままクレスを封殺する―――――――本命は俺。前衛と、後衛のスイッチバックで詠唱者すり替え)
キールに釘付けにしておくことで、術の可能性を消しておく。術はないと思い込ませる。
クレスを物差しで測るようにしてみながら、迸る雷を握るように手に力を込めた。
もうその在り方はグリッドが先ほどまで戦ったクレスとは雲泥の差だ。
戦ったグリッドからしてみると、キールが策略で戦力差を埋めているというよりクレスの方が萎んでいるように思える。
今のクレスに限れば、恐らくロイドかあるいはヴェイグなら一対一でも十分に勝算があるとグリッドは見ていた。
だが火力魔力支給品といったシャーリィの定量的な強さと異なり、クレスの強さは自己の剣技に依存するためメンタル的なムラが大きい。
より強い相手や数を送り込むのは、弱った獣に瑞々しい肉を差し出すことと大差ない。土壇場でひっくり返されかねない。
そういう意味では、キールはクレスにとって相性が最悪の相手だろう。
(キールはガリガリの骨付き肉というよりは肉付き骨、食う側も萎えるぜこれは)
強敵と相対すればするほど、見切って更に自分の力を研ぎ澄ませていくクレス。
だが、キールはクレスから見れば格下の格下。本来相手にもならない相手なのだ。
理合いだけで凌いでいるからクレスの糧にすらならない。故に本気の出しようがない。
更に一人でぶつかることで、広域攻撃による被害を減ずる。
四回放送終了後のマーダー対策でロイドに行っていたことを律儀に実行しているのだ。
同質の剣技を持つロイドでぶつかることができないのならば、“ロイドと真逆の性質”でぶつかれば相性が最悪なのは道理だ。
キールにかかるリスクに目を瞑れば、メルディにかかるリスクが全くない妙手とすら言える。
(自分を平気で溝に捨てるような真似は納得はしねえが、ここは従うよりない。後はもう一手が、届くかどうか)
グリッドの想像する限りにおいて、ここまではキールの読み(とグリッドが信じる推論)が成立したといっていいだろう。
インディグネイションは、間違いなく撃てる。問題はその上があるとクレスに悟られないかだった。

一歩誤れば奈落に落ちそうな薄氷の上、舌の根がひり付く程の極度の緊張がグリッドを包む。
グリッドは、溜まらずにそこを見た。クレスでもキールでもなくコレットやメルディでもなく、少しだけかさかさと揺れる草の中を。
その外した視線を、血塗れの凶眼が射抜いていた。

65ある愛の話 −永遠伝説− 7:2008/10/27(月) 21:43:38 ID:L2rHCwG10
コレットは抜けかけた腰を支えるように掌を膝に当てていた。
目の前で血だらけになった男が叫び、そして自分を人質に取ろうとした男が立ち上がり、
脳裏に過った最悪の結末はギリギリの所で回避された。その安堵が彼女の張り裂けそうな気分に僅かばかりのゆとりを与えた。
そこに彼女の服の裾を引っ張る力が掛る。振り向いたその先には、メルディがいた。
彼女の形容しがたい表情を見てコレットは思う。最悪は回避されたが、最悪一歩手前であることに変わりはない。
足腰に神経を通す意識で、彼女はもう一度直立に立ちあがった。
未だ何も解決はしていないのだ。今この場において自分が何が出来るのかを模索しなければならない。
立ち上がったもう一人の男性はまだアトワイトに主格を渡す前に、一度見た顔だった。
あのグリッドと名乗った、自らを人質に取った彼が魔術を狙っているのは間違いない。最低でも上級クラスの魔術だ。
一体目の前の二人が何時作戦を指示し合ったのかは分からない。だが今“何かの作戦”が進行しているのは間違いなかった。
グリッドはキールを罵しっているが、
その不器用さを人質に取られて尚大した事をされなかった視点から知っていた彼女はそれをハッタリだと判断した。
となればこの場で割って入るのは得策ではない。肝心要の場所でコケようものなら最悪どころの話では済まない。
メルディを安全な処へ連れて行く、という手は浮かんだが彼女はそれを直ぐに心中に引っ込めた。
キールの言葉を聞いた後では、彼と彼女を引き離すことが最善とは思えない。
かつての自分のような人間を増やす気には更々なれなかった。
彼女には失ったものを取り戻してほしいと思った。そして、自分自身にも取り戻したいものがある
(私も、まだ諦めたくない)
この“作戦”がどういう種類のものであれ、その結果としてクレスにかかる未来に大きな影響を及ぼすことは疑う余地がない。
キールの覚悟は、間違いなくクレスを殺す意思に固められている。
それは当然のことで、こうなってしまった以上それはクレスに対する最大の救いに他ならない。
だがそれを唯漫然と享受するほど、今の彼女は人形ではなかった。
何か出来ることがあったかも、という後悔は大きく未来を穢す。
今できる何かを全力で為さない限り、人は過去に逃げる手段を覚えてしまうのだ。
たとえ、その結果に彼らの“作戦”が破綻するとしても後悔だけはしたくなかった。
天使術ではこちらにひきつけてしまう可能性がある。メルディを守ることを考えればそれは悪手だ。
コレットはメルディが置いてきた手持ちのサックに着眼した。アトワイトが無い以上手持ちの武器が乏しすぎる。
それを取りに行こうとした瞬間、ぞくりという音をたてて悪寒がした。

コレットがクレスの方を向く。グリッドを射抜くクレスの視線は何を写し取っていたのだろう。
ただ彼女には理解だけがあった。グリッドとキールが未だ諦めていないように、クレスもまだ諦めていない。
そのグリッドの視線が向かう先に、もう一つの視線が別方向から向けられていた。
その主が虚ろな瞳に何かを湛えながら、痺れたような喉と舌で呻いた。彼女の友達の名前を。

66ある愛の話 −永遠伝説− 8:2008/10/27(月) 21:48:19 ID:L2rHCwG10
もうよく分からない。
お前は僕が間違いだったという。でも、だったら何が間違っているというのか。
より強くあろうとする願い。それは、それほどまでに間違っているのだろうか。
失ったものはある。転×蒼破斬も、×元斬も忘れた。
襲爪×斬破、魔神千裂×、魔神××脚も、閃空×破真××斬×牙××燕連×さえも軒並み何処かに置いてきた。
それは僕を形作る上で、とても重要なパーツだったような気がするけれど仕方がない。
変わりに血と技の研鑽でそれを埋める。脆い部分を捨てて玉鋼を鍛える。そうして全てを入れ替える。
僕は『剣』になったのだから、必然に余る『クレス=アルベイン』は不純物でしかない。
お前は僕が間違っているという。確かに『クレス』にとっては間違いだろう。
でも『剣』としては間違ってないはずだ。僕が僕で在り続けるためには絶対でなければならないのだから。
絶対たる力、瑕疵無き剣。その在り方の何が間違っているとお前はいうのか。

見えない鎖が、この四肢を縛り上げようとしている。僕を引きとめようとしている。
邪魔をするな。あと一歩なんだ。あと一歩で僕はそこに辿り着ける。クレス=アルベインでは届かなかった領域に辿り着く。
クレスでは何も覆せなかった。何も出来なかった。それを超えるにはクレスを捨てるしかない。
彼女の為に、彼女を守る為だけに、彼女に会いに行くためだけに。お前はここまで来たんだろう。
ここで終わるなんて出来ない。この壁の向こうにきっと僕の望んだものがある。
斬れ、斬って進め。それ以外の術を持たないのならば斬って道を切り拓け。

エネルギーの尽きかけたクレスの肉体が策の檻に揺蕩う。
その中でクレスは、その壁の脆い一点を捉えた。斬るべき一点を見出した。
それは執念というにはあまりにも淡白なものだった。
67ある愛の話 −永遠伝説− 9:2008/10/27(月) 21:53:22 ID:L2rHCwG10
「―――ちぃっ! クィッキー、急げぇェェェッ!!!!!」
目をクレスに戻したグリッドは、クレスの眼が何を捕らえたかを一瞬で把握した。
当然だ。その場所は先ほどまで自分が見ていたのだから。
影が揺ら揺らと草を倒す。その中から弾かれた様に、小動物が飛び上がった。
「キュィッキー!」
クィッキーが草むらより現れる。その足に何かを引っ掛けるようにして、クィッキーの何倍もの大きさの細長い影が浮かんだ。
それはこの計画の鍵を握る一点。インディグネイションを理の裏側に運ぶための最後のパーツ。
「ケイオスハート!?」
本来の世界でその存在を知るコレットの叫ぶとおり、それは魔杖ケイオスハートだった。
少しずつ転がしてきたのだろう。クィッキーの通った草群は薄く轍を作っていた。
後一手の押しが必要なのはクレスだけではない。自らに魔術素養を持たないグリッドも同様だ。
互いに剣士。クレスの抵抗力<レジスト>とグリッドの魔力<マジック>の値を五分だと見ても、
このままではエターナルソードを持つクレスの総合抵抗値がグリッドに勝る。
それを打ち抜くためにはインディグネイションにも魔力を上乗せする必要がある。
この場にて魔剣たるエターナルソードに対抗できる魔力を秘めたるは、同じ魔を冠するケイオスハート以外にない。
魔杖による増幅を加味したインディグネイション。
デミテルがサウザンドブレイバーの砲弾としたそれであり、キール=ツァイベルが奥の手の奥に伏せていた最後のカード。
それこそがグリッドの想像し得る限り、クレスを殲滅し得る唯一の武器だった。
もう隠密行動は無意味と判断したか、クィッキーが飛び込むように魔杖とともに草叢へと潜り込んだ。
草を大きく動かしながら今までと比べ物にならない速度でグリッドへと向かう。
それを見て焦る気分を露わにしながら、グリッドはその短刀で右の肩口の切断面に腹を添わせ酸化した血を塗りたくる。
その血を撒き散らすように方陣を刻む。
(流石に上級は半端ねえか。未だ全部浮かばねえ。だけど、時間がねえ)
「メルディ! お前のサイン借りるぜえッ!!」
輝石より流れ込むインディグネイションの情報が浮かぶ。
断片的にノイズで虫食うそれを埋めるようにして、グリッドはその虫食いに別の陣を書き加えた。
村に来る際、キールがメルディと何やらせせこましく打ち合わせしていた方陣紋様とメルニクス詠唱。
論外な詠唱を無視し、そのうろ覚えな記憶を虫食いの記憶へとパズルピースのように埋めていく。
(言語形態が全然違うけど、この記述だとやっぱインディグの追加プログラムだ。これを刻めば多分――――って、何でだ?)
都合の好過ぎるお頭の周りに多少怪訝になりながらも、グリッドは陣を我武者羅に綴っていく。
サウザンドブレイバーに添わせるならばこれは言わば砲台。
砲弾たる魔力源であるケイオスハートが届くまでに成立させたほうが無駄が無い。
というよりもそれで届くかどうかの時間差だったが、逆に取れば、グリッドはそれでギリギリ間に合うと判断していた。
先制してグリッドを落とすか後顧を絶つべくキールを討つか、グリッドがそれをクレスに選ばせたのはこの時間を稼ぐために他ならない。
クレスが2択に迷う時間がそっくりそのままクィッキーの移送時間に変換される。
心に芯がなく聞く方が辛くなる呼吸をし、剣技は既に亡い。今の心技体の砕けたクレスならばもうクィッキーを補足する術は無い。
そしてクィッキーを襲うかグリッドを襲うかでクレスを更なる2択を叩きこめば、グリッドの詠唱時間が更に稼げるという二段構え。
万事恙無ければ、裏インディグネイションは成立する。
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 21:54:50 ID:M7kwjJr+O
支援
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 22:10:57 ID:lSgWCPEeO
支援
70ある愛の話 −永遠伝説− 10:2008/10/27(月) 22:11:06 ID:L2rHCwG10
故にグリッドは確信した。この勝負、こちらの勝ちだと。運命を決するというならばあまりにも早すぎるこの段階で。
“クレスの腕が動いていたことに気づかないまま”。

穴は見つけていた。あの走る小動物が敵のアキレス腱であることを、クレスはその直観力でおぼろげに理解する。
あれを超えられれば勝てるという、貪欲とも言える嗅覚が彼にそれを発見させた。だがどうしようも無い。
足も手も、碌に動く気がしない。剣を振る力が湧いてこない。何故だと右手を伸ばして掴んだ虚空に、クレスは漫然と理解した。
剣に剣が振れる筈もないか。なんて酷い話なんだろう。僕があれだけ欲しがった力を手に入れたのに、それを使うことが出来ないなんて。
あいつはこれを間違いだと言いたかったのだろうか。
殺したい。殺したい。殺したい。呪詛のように心をそれで満たそうとするが、満たされない。

『貴方のしてきた事は、“間違っています”』

彼女じゃない彼女に言われた言葉が心に孔を空けてしまった。底の抜けた柄杓でいくら水を掬おうと、渇きが癒える筈はない。
満たされなくなった僕の殻が、今は酷く重い。浴びた血の一滴一滴が、毒となって蝕むように軋みを上げる。
心も体も亡くなっていくのが実感できる。あと数分で剣も握れなくなるだろう。
そうして独り、唯一本の剣として自らを突き立ててそれを墓標とする。
それがこの力を得た対価だ。これは、もう仕方ない。

――――――――自分の抱える願いは全て自分で背負え。そして願いの業は自分に責めを負え。

「おおぉぉ……」

なのに、なんで僕の手は未だ剣を振ろうとしているのだろう。
身体が勝手に構えをとる。目が草の揺れを追う。

「おおおおおおああああああああッッッッ」

厭だと彼は思った。独りでも大丈夫だったはずなのに、空いた孔が今は酷く寒い。満たされないことがとても辛い。
黒紅の世界に白金の一線が浮かぶ。彼女と彼女じゃない彼女に。
何故僕は剣になったんだ。僕は確かに「何か」を為す為にそうなったはずなんだ。
死ぬというならば、それは果たされたということなのだろうか。
否。未だ果たされていない。だったら、終われない。
71ある愛の話 −永遠伝説− 11:2008/10/27(月) 22:11:36 ID:L2rHCwG10
吸い込むような声にグリッドの危機直感が総毛立つ。そこには、魔剣を大きく引き下げたクレスがいた。
目を大きく見開き、気付けなかったことに唖然としかけるグリッド。
万が一時空剣技ならば否でも気づけるはずだった。だが、その力すら感じられない。

言霊に縛られた心も、薬によって歪んだ力も全ては幻想だ。夢から覚めて一度壊れてしまえば現実など、どこにもない。
だけどその間断無く振り続けてきた握りの感触、剣とともに連動する重心の感覚、幾度も潰してきた肉刺の痛み。
誰もかもが彼を間違いだといったけれど、『剣』である彼もまたクレスのそれを否定したけれども。
それでも、クレス=アルベインが十余年歩んできたその無窮の武練だけは絶対に裏切らない。
心は破れた。体は朽ちた。だが技は、アルベイン流は未だその残骸にこびり付いて残っていた。
魔剣が疾さを取り戻す。狙いは精緻にして狡猾。
クレスに剣を振るう余力など無い。だが完成された『技』の前に『力』など不要。
何千何万と振り続けてきたこの特技――――――――――TPなど1で済む。

「魔神、剣ッ!!」

一切の空気抵抗を無視するかのような、流水のような一閃がクレスの目の前に広がる。
クレスの持つ無数の剣技。その中で彼が選んだのはそれだった。
神々の域に到達した時空剣でも技と技を組み合わせた華々しき奥義でも秘奥義ですらもなく、唯の魔神剣。
初歩の初歩の初歩。どの剣士も例外無くここより始まると言われた特技。
だが、グリッドはそれを見て震えた。模造である『魔人剣』のグリッドですらそうなのだ。
剣を少しでも嗜む者がそれを見れば誰もがそうなっただろう。
場所が場所ならば奉納の剣舞とすら錯覚しそうなほどに、その一撃には神髄があった。
誰もが生涯を費やし研鑽を積んで至ろうとしながらも故に存在しない“完全”が、そこに在った。

魔神剣によって本来発生する衝撃波すら発生しない。だから、知らぬ者にはそれが唯の空振りに思えたかもしれない。
だが、グリッドは認識してしまった。『当たる』と。確実に切り飛ばすと。
衝撃波とは空気の壁によって遮られる力の霧散だ。目に見える、それだけでエネルギーを減衰させていることに他ならない。
実際一部の剣士たちは近接での威力を重視するために魔神剣が途中で力を消失させてしまうこともある。

「グギィ」

その剣が振り切られてから一秒立たず、遠くの草群で突然鳴き声と鮮血が飛び散る。
限りなく完全に限りなく近づいたクレスの魔神剣は、誰の目にもその刃を見せることなくクィッキーを切り飛ばした。
72ある愛の話 −永遠伝説− 12:2008/10/27(月) 22:12:16 ID:L2rHCwG10
「お、お前、なんてことしやがったんだ…………」
跳ね跳ぶクィッキーを見ながら、グリッドは息を呑むしかなかった。声が震える。
両断は免れているが、クィッキーは体躯が小さい。人間にとっては掠り傷でもそれが致死傷足りえる。
「グ、グ……」
少なくとも、もう動けないだろう。グリッドの所まで魔杖を届けることは出来ない。
グリッドが直接取りに行くしかない。そしてそれを許すほどクレスは寛容ではない。
グリッドの表情を見たクレスの顔にもう一度狂気が張り付いていく。檻は破った。後は、獣としてグリッドを屠るだけだ。

「これで、これでもう……」「グィ……」

グリッドの震えが最頂点に至る。クレスの神業といえる一撃によって完全に詰んだ―――――クレス本人が。

「お前の負け確定だぜクレェェェェェェェェェェェェス!!」
「クィィィィィィィィッキッ(かかったな、アホがッ)!!」

そんなことにも気付かない哀れな男を嘲笑うくらいには、グリッドもクィッキーも寛容ではなかった。
突然すぎる侮蔑の大爆笑に、クレスは理解が追い付かない。
否、クレスと同じ立場に立てば誰とでも理解できないだろう。
「ありがとよ、クレス。お前ならここまで肉薄すると信じてたぜ」
あの小動物を行動不能に持ち込めば、今嘲笑っているグリッドを殺す時間ができる。
それの何が不味いというのか。お前たちが頼みとしているのは、その動物の持つ―――――
「お前は俺たちの期待通りに動いてくれた。この局面、クィッキーを狙うのが最善だ」
巡りの悪いクレスの脳はそこで漸く異質に気づいた。クィッキーは切り飛ばしたのに、魔杖が飛んでいない。
既にグリッドの手に渡ったとでもいうのかと思ったか、クレスはグリッドの方を向くが彼は変わらず持っていない。
「俺が、インディグを強化しようと思ったらあれが無きゃ無理だしな」
もう一度クィッキーを確認しようと眼球を動かしたクレスが、漸く所望の魔杖を捉えた。
クィッキーが斬られた位置よりも少し離れた場所に、ポツンと。誰とも近くない場所だった。
途中から持っていなかったのっだ。ケイオスハートを持った振りをして、走り回っていただけだった。
幾ら巡りが悪かろうがクレスも気づかざるを得ない。本当の囮はこの杖なのだと。

『ケイオスハート、俺の所まで運べ。できる限り身を隠して、気づかれないように』
73ある愛の話 −永遠伝説− 13:2008/10/27(月) 22:17:22 ID:L2rHCwG10
クィッキーはグリッドにケイオスハートを持ってくるように云われていた。
グリッドがそう言ったことは彼にとって驚きではあったが、意外ではなかった。
自分よりも大きなものを運べというのは確かに無茶ではあるが、無理でもやるよりない。
裏インディグネイションこそがメルディを脅かすこの最悪の敵を打ち倒す唯一の方策であると、クィッキー本人も納得していた。
出来る出来ないは別にしても、それしか無いのだと思っていたからだ。ならば命を賭けるに十分な理由となる。
だが、クィッキーを真に驚かせたのは魔杖に向かおうとしたクィッキーの耳に最後に追加された条件。

『―――――――但し、俺がお前の名前を呼んだら魔杖をクレスに“見せろ”。
 見せたらどっかで適当に落として、俺のとこ来るふりして逃げ回れ。チンピラを装って、無能を晒すんだ』

最初それを聞いた時、クィッキーにはどういう意味なのかさっぱりだった。現在進行形でさっぱりでもある。
術じゃなければクレスは倒せない。グリッドの能力じゃそれだけでも倒せない。
それを覆すための魔杖であり、裏インディグネイションのはずだ。それを捨てて勝ち目などあるはずがない。
だがクィッキーはそれを承諾した。うっすらと浮かんだ笑みとコメカミに筋立った血管が、クィッキーをして託したくなる何かがあった。
何かある。クィッキーには理解できず、グリッドには理解できる『策』が存在するのだと。
それに、ケイオスハートを手放していたからこそギリギリで遺せた命であることを傷に実感した上で、
その命を発した人物に感謝の念を持てないほどクィッキーは薄情ではなかった。無論、それでメルディを守れるならという条件が前提だが。


理解できないという表情を浮かべながら剣を振りぬいた慣性に体を縛られたクレスを見ながら、グリッドは眉を顰めた。
ノーモーションから繰り出される不可視の魔神剣。この期に及んでその剣技いまだ底無しかと心胆が凍りそうになる。
もしクィッキーに下がることを伝えてなければ、恐らくクィッキーは今ので死んでいただろう。
この裏インディグネイション作戦の唯一のアキレス腱を看破し、最低限の力で最大限の効率で斬りにかかるクレスはやはり尋常ではない。
そのクレスの直観をしてもケイオスハートを「囮」と見抜けなかった。否、見抜けなくて当然だった。
(俺は最後の最後までそれしかないと本気で思ってたからな)
グリッドは通常のインディグネイションを精密に編み始める。裏よりも楽とはいえ今までとは比べ物にならない式様はそれだけで手間だ。
グリッドが主導となってこの作戦を考えていたのならばそれしか無いと判断していただろう。
確かに分の悪い賭けだが、それでも諦めるよりは絶対にマシだ。絶望に屈しない意志こそが、足りない確率を補ってくれるとも信じられる。
だからこそクレスは、それを信じクィッキーを半ば反射的に斬った。グリッドにとってはそれで正解なのだ。
(だがなあクレス。生憎とこのシナリオを組んだ奴は勇気とか逆境からの奇跡とか、そういう類の精神論を心の底から信じてないんだよ)
グリッドは正しいと判断したこの作戦。だがこれをもう一人の視点で考えたときに、一つだけこの策には違和感が浮上する。
裏インディグネイションでクレスを倒すとなれば、その作戦の要は畢竟グリッドとなる。
一か八かの運否天賦をよりによってグリッドに託すのだ。賭け馬なら、大穴といえるグリッドに。
74ある愛の話 −永遠伝説− 14:2008/10/27(月) 22:17:56 ID:L2rHCwG10
――――――――――あの悲観の権化が、そんな賭けをする訳がない。
自分以外の誰もを信じず、己の欲望だけを恃んで軍略を編み上げる人間の取る手段ではない。
(畜生め。俺とクィッキーに期待するのはケイジとインディグネイションまで。それより先は期待すらしねえときやがった)
過小評価でも過大評価でもない吐き気を催すほどの正当評価。
クィッキーはケイジをグリッドに運ぶまでが役割であって、魔杖は明らかに積載量オーバー。
グリッドはそのケイジでインディグネイションを放つのが仕事であって、それ以上は計略にも組み込まない。
道具は、その能力を限界まで引き出すことを望まれてもそれ以上を求めてはいけないのだ。

(お前がそれ以上を望まないってなら意地でもそこまでは応えてやる。
 だがそこまでだ。信じない奴にサービスするほど善人じゃねえぞ)

口裏合わせすらない余りに危うい綱渡りを、グリッドは忌々しげに承諾したのには3つの理由がある。
一つはケイオスハートをケイジともグリッドとも離れた別の場所に投げ捨てたこと。
もし本気でグリッドに裏インディグネイションを発動させたいなら、
クィッキーに運ばせるよりもグリッドのそばに投げた方がより成功の可能性は高まる。
それの利を優先してでも、クレスのマーキングからグリッドを徹底的に外すことを『アイツ』は選んだ。
一つは、クィッキー。
恐らくクィッキーが全力を尽くせば、あのクレスの魔神剣を掻い潜ってケイオスハートをグリッドに渡すことも可能だったかもしれない。
だが、その対価にクィッキーが死ぬ可能性は否めなかった。メルディの状態こそを至上とする『アイツ』がそれを選ぶとは考えにくい。

二つは唯の推論に過ぎない。こうかもしれない、ああであったらいいなという夢幻の理。
だが、最後の一つだけは決定的に違っている。

掛けられた言葉の冷気に震えるように、クレスは背後の何かの存在に総毛立った。
クィッキーはデコイ。逸らされたのは『どちらを殺すべきか』という命題そのもの。
グリッドの肩を最後に推したのは、グリッドに映ってクレスには映らないもの。
クレスの背後に敢然と聳え立つ一つの現実が、確かに存在していた。

裏インディグネイションを狙っているのならば“爆心予定地であるクレスの傍に『アイツ』が、キール=ツァイベルが未だノコノコと居る筈がない”。
何者も信じない孤高の晶霊術師は、この最後の最後の局面、必ず自らの手で動かしてくるだろうと。

「あおはあははああああァァィァィィァァァァッ!!!」
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 22:24:56 ID:LgkQvagXO
支援
76ある愛の話 −永遠伝説− 15:2008/10/27(月) 22:25:06 ID:L2rHCwG10
クレスの背後に頓狂な変拍子を浴びせながら、キールは風のように淀みなく軌道を連携させてクレスに接近しようとする。
剣の鬼才、その直観は漸く本命の本命を悟ったか、首や身体の筋肉を後ろに捻じりながら剣をキールに向けようとする。
だがグリッドはある種の優勢を確かに感じ取っていた。僅かながらに、しかし確実に此方の攻勢が半歩早い。
技直後の反動と背面を取られたことにより初動が遅れたクレスと、飛葉翻歩よりスムーズに動作を繋ぐことで既に加速を始めているキールの速さは五分。
そして度重なるひっかけの果てにキールを選んだことで、グリッドとクィッキーはクレスの殺傷範囲から完全に外れた。
クレーメルケイジに奔る魔力と浸す知識の充電率は今ここに100を数えようとしている。
魔神剣でグリッドが再度狙われる可能性がキールの奇声によって潰えた以上、近未来におけるインディグネイションの発動は確定した。
キールか、グリッドか。どちらを殺すべきかという選択肢を抜けた先にあるクィッキーという第三の解答。
それそのものが本当の檻だった。クィッキーという要素を入れることでキールを盤上から一度消してしまうことこそが真の狙い。
魔術の使えない魔術師など『歩』に過ぎないが、敵陣に切り込めれば成金すらできるということなのだろうか。
手の届くギリギリのラインを滑っているこの状況に、グリッドは空恐ろしさを覚えざるを得なかった。
クィッキーを囮に使うことも、挑発も全てはグリッドが行った現場の判断であるはずだ。
なのにこのタイト極まる状況に立たされてみると、これ以外の手段しかなかったようにすら思える。全容すら見えていないのに。
どこまでが奴の掌の上で踊っているのか、どこまでを掌の上で踊らせようとしているのか。
それすらも理解しきれないこの戦場を統制するキール=ツァイベルに、グリッドは初めて驚嘆を覚えた。
腐っても鯛、もとい世界を守った戦士ということか。予定外の状況に陥ったときの脆さは目を覆いたくなる程の酷さである反面、
作戦がツボに入った時のキールの才幹は二倍にも三倍にも膨れ上がる。逆境の中でこそ輝くロイド達とは真逆の性質だ。
そして、たった独りで世界に挑むと決めた今のキールに“予定外”は存在しないのだろう。
誰も信じず誰も恃まず自己の中で完結しているキールの世界は、世界ごと滅ばない限り二度と覆ることはないのだから。

―――――――――――――――天光満つる所我は在り。

グリッドの世界で、世界が一度真昼の夜になったことがあった。外殻と呼ばれる謎の浮遊物が天を覆い尽くし世界から昼を奪ったあの事件。
かつて彼が率いた漆黒の翼は、その外殻に上ろうとしたことがある。世界で一番高い山から一番長い梯子をかければ、それで届くと嘯いて。
その後、王国が世界からかき集めたレンズを用いたレンズ砲にてその殻に一穴を穿ち、飛行竜が天へと昇っていったという話を聞いた。
彼が超えられなかった天は、超えられる奴らにはあっさりと超えられるものなのだ。その手にある翼を持って。
(あんまりにもあんまり過ぎて、逆に感心しちまうよキール。褒める気にもならねえ)
最終段階にまで運んだ詠唱を唱えながらグリッドは思った。
これも一つの答えではある。本当なら翼なんて無い彼ら凡人が天を超えようとするならば、そうやってロケットをこさえるしかない。
雄々しくも哀れな機械と自らを変えて進むしかないのかもしれない。今のグリッドにはそれが理解できる。
(だけどよ、それじゃあ駄目なんだよ。人を捨てることでお前は確かにバトルロワイアルを超えた。
 でもよ、それで本当にいいのかよ。一人で生きて、一人で戦って、一人で死んで。それでお前は満足できんのかよ)
だからこそ、何かが違うと思った。新生を掲げた漆黒の翼の団長としてではなく、グリッドという一凡人として。
77ある愛の話 −永遠伝説− 16:2008/10/27(月) 22:26:28 ID:L2rHCwG10
足りないものを絆で埋める。一枚一枚の羽根を並べることで翼を作るグリッドには、キールを理解できても納得できない。
持っていたはずの絆を捨てる。閉じることで圧力を上げて推進させるというキールの生き方を。
(お前はメルディを助けられればそれで満足かもしれねえけどよ、それで残されたメルディが救われると本気で思ってんのかよ)
メルディの為だけに全てを捧げたキールの覚悟は痛いほどに分かる。だが、その果てに何が残るというのだ。
全てを捨てて怪物に変わってしまった自分をメルディが受け入れてくれると思うのか。
万歩譲ったとしても、それを受け入れるメルディを完全を希求するキール本人がそれを許容するはずがない。
どう転んでも、もう元の関係には戻れないのに、それでもキールは止まらない。
自分以外の全てを悲観し、憎悪し、侮蔑して、黒い炎を燃料として機関を回し止まることを覚えず。
全てを捨ててでも何かを為すということは、為した結果すらその手で捨てなければいけないということなのに。
それは『私』が為したこと以上のことを、キールは人の身で行おうとしているということなのに。
(駄目だ、全然駄目だ。ヒトは独りじゃ生きていけねえんだよ。独りで一人以上のことをしようとしたら心が潰れるんだ。
 だから、ヴィルガイアの天使は心を棄てるしか無かった――――ん?)

―――――――――――――――黄泉の門開、くと、こる……な、ナン、あ?

グリッドはそこで違和感を覚えた。ウィルガイア、何処だそれ。
つーか、待て。天使って心がねーのか? ただ死なない身体になるんじゃないのか?
糸が震える。魂と肉体と精神を繋ぐ複雑な綾に解れが浮かぶ。グリッドの視界が異常を察する。
先ほどまで紅く染まっていた夕の空が夜になっていた。この深夜の如き仄暗さは、いくらなんでも早すぎる。
星々の異常を知る。鈍く輝いているはずの星が何時もよりも鮮烈に、強烈に輝いている。
その理由を、大気に覆わていないことによる不可視を含んだ光線によるものだと内側から識る。
宇宙旅行をしたことのないグリッドが、大気圏外の綺羅星の光を記憶している。
(ま、待てよ。なんだこれ、知らねえぞ私は。俺の記憶? 誰の、って、まさか)
気づけば地上も変わっていた。どれほど腕利きの大道具でも、これほどの速さで舞台を変えられまい。
クレスもキールもいない。メルディもコレットもクィッキーも。その代りに、いろんな人たちがいた。
剣を持つ人、弓を曳く人、魔術を準備している人。
卑しげな笑みを浮かべる生き物。口の端から欲望が駄々漏れている屑。自分の通る未来に一切の疑問を挟まない獣。
ああ――――ゴミが大挙して私達を囲んでいる。奪い、殺し、それでも未だ足りぬと浅ましく。
(アツ熱い、灼けて、心が、焦げる。何だ、これは)
そうやってマーテルは、私の半身はもぎ取られた。ミトスが未だ熱をもった亡骸を抱えている。
「・・・よくも・・・姉さまを・・・!」
オリジンとの契約。再び私たちの星に回帰したデリスのマナを以て漸く世界が復元されるはずだった、その最後の一歩。
その目前で彼女は死んだ。綺麗だからという理由だけ手折られた花のように殺された。目先の利益だけを欲した、愚かな人間のせいで。
(憎い。失うということが死ぬほど辛い。違う、これは、俺の痛みじゃない)
「・・・人間! きさまたちを生かしてはおかない!」
憎悪が身を焦がす。彼らがいったいどれだけの苦痛に苛まれてきたか、その片鱗すらもお前たちは知らない。
彼女たちは、それに耐えた。その報いを得るべきだったはずなのに。神よ、存在するのであれば未だお前はこいつ等を赦すとでも言うのか。
(私か? 俺か? 誰だ、この肉体は誰と繋がればいいんだ)
「・・・外道が。それほどまでにマナを独占したいか」
常に冷静沈着なクラトスが、その重低音に怨差を込める。人の目から見ても醜悪たる同族の咎。
「もう許さない…! 人間なんて…汚い!」
絶望が心を覆う。欠けたものを補填するのは痛みと恨みと怒り。密度の高い感情でなければ詰め物にもなりはしない。
夢破れて半身を欠損するその痛みを抱え、それでも尚進もうとするベクトル。
その変態を恋愛と云うなら、これはあまりにもマニアックだ。

『ユアンの技能全てを継承するには、お前というOSは余りにも虚弱だ』
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 22:33:24 ID:JS6L7tp20
 
79ある愛の話 −永遠伝説− 17:2008/10/27(月) 22:35:44 ID:L2rHCwG10
(リバウンド。ヤバい、今回のは尋常じゃねえ。持ってかれる)
軋みを上げながらグリッドの精神はミトスの言葉を思い出していた。
濃度100%1000mlのオレンジジュースに水をジュースの2割入れる。濃度83%のオレンジジュースが1200。お得。
それに更に2割の水を入れる。69%が1440。まだオレンジジュース。
同じ行為を初回からN回行う。(0.83)^(N−1)*100[%]で表わされる濃度のジュースが、1.2のN−1乗で増加していく。
無限に繰り返せば、無限にオレンジジュースは増える。でも“それをオレンジジュースだと云い張れるだろうか”。

(ユアンの、私の記憶が流れ込んで――――違う? 混線、してんのか?)

俺が知らない顔が、私に何かを呼びかける。誰かを殺したといった。私が命じた、第×××世代の神子の抹殺報告だった。
報告が入る。護衛が幾人付いていましたが、オサ参道で仕留めました。どうやって? 殲滅しました。
500年前に殺した。固有マナをマーテルに近づけるように交配を設定され、ただただ世界を救うことだけの為に産み落とされた道具を壊す。
火の遺跡で殺した。一人逃がしたが問題はない。責めはディザイアンが負う。
(検索している? 輝石が――――俺の記憶を?)
300年前に殺した。ボーダに命令を下す。『了解ですぞ』という言葉を聞いた。5日後にクルシスとして死骸を転生の塔で検分した。
700年前に殺した。まだレネゲードは組織力に乏しい。私が自ら赴き、全滅させた。私の正体を万が一にでもクルシスに悟られるわけにはいかない。
(辞めろ、俺。違う、これは私じゃねえ。なんだこれ、憎いってなんだ、世界ったなんだ、愛ってこんな腐ってんのか)
殺した。平和を願いただただ歩き続ける者たちを殺した。許容もなく慈悲もなく叩き潰した。
それは必要な行為だった。ロディルへの魔導砲の情報のリーク、世界統合に必要なエターナルソードの捜索、
クラトスにオリジンの封印を解かせる方法の模索。それらの前に、万が一にも彼女が蘇るようなことはあってはならない。
全ては、彼女のマーテルの願いを真に叶える為に。
(これは、正義じゃねえ。でも、間違ってもねえ。クソ、なんだこれマジで。これを抱えろってのか)
垣間見るというには大きすぎる、800年前と4000年前の記憶。それは確かにユアンの愛の記憶だった。
何も知らない人間には唯の虐殺にしか見えない。ロイドからミトスが悪人であることは聞いている。
だが、これはこれで十分悪逆非道の限りだった。愛のためなら、万を殺すことも仲間を裏切ることも是とすべき証拠だった。
(オイオイオイ。なんで今これが見えるんだよォ。俺に、キールを糾弾する資格があるのか?)
否、これはそれだけに納まらない。かつてユアンが歩んだ道筋、それは確かにグリッドがこの場所で宣誓した言葉の体現なのだから。
自分で考え自分で責を負い、自分の為に殺し尽くす。かつてのユアンが、今のキールが歩もうとしている道だ。
(糞ッ、私は、また間違えたか!? 俺は、自分の言ったことを貫けるのか?)
もしかすれば、グリッドの言葉によってバトルロワイアルの戒めは解けたかもしれない。
だが、グリッドの言葉によってバトルロワイアルとは無縁の、
グリッドの言葉によって引き起こされた惨劇が発動する可能性は否定できない。
自己を曖昧にしたグリッドは最後の最後に問われなければいけない。
グリッドが歩もうとしている道は、彼らの道と根源を同じにしている。
その言葉を貫くことによって更なる悲劇が巻き起こるとしても、その言葉を貫けるのか。

――――――――――黄泉の門開く処ォ、汝在りィッ!!
80ある愛の話 −永遠伝説− 18:2008/10/27(月) 22:36:18 ID:L2rHCwG10
ザシュという音とともに紫電が右肩に突き刺ささる。それを捻って、グリッドは不快感を改めて再確認し自らにもう一度線を引いた。
(舐めんな。俺は俺だ。力は借りてるがユアンじゃねえし、根が同じだからってキールじゃねえ。
 俺には、俺の生き方が、バトルロワイアルが有る!!)
最後の最後に人間が守るべきものの手前で、グリッドはそれを押し留めた。
自己がふやけて最後には輝石と一つになるという感覚を今度こそ明瞭に理解しながらも、グリッドはそれに耐えた。
自らを支えるものを知っているグリッドに恐れはあっても畏れはない。

糸を完全に繋ぎ直すグリッドの世界が元の色彩を知る。
まだ何も動いていない。どうやら一瞬の出来事だったのだろう。だから、グリッドには分かってしまった。

(―――――ッ! 一歩、間に合わねぇッ!)

その一瞬があれば、クレスにとっては自らに立ちはだかる運命を真っ二つにするのに十分だということを知っていた。
僅かばかりクレスの踏み込みが力強く加速している。剣を持った手が突きの構えにシフトしている。
雁字搦めに絡め捕られたはずのクレスは未だ諦めていなかった。その鎖のほんの少しの緩みすらも特火点として捻じ込みに来た。
傍目には何も変わっていないが、この戦いの当事者でも傍観者でもない位置で関わったグリッドには真逆に変わって見えるのだ。
この光芒の錯綜の中で、グリッドは逃げろという言葉すら紡ぐことは出来なかった。
インディグネイションよりも一瞬速く、その刃はキールに届くだろう。
キール=ツァイベルの計画は、その一瞬よりも早く音も立てることもなく瓦解した。
彼の策はグリッドがグリッドに出来うる最低限の最善を尽くしてこそ完全に機能するものだったのだから。
クレスの背中越しに、キールが近づいてくるように見えた。歯を食いしばるようにして一歩を進めている。
既にいっぱいいっぱいなのだ。キールは未だ気づいていないのだろう。
グリッドが責務を成すだろうということを前提としているがゆえに。
グリッドの足の親指に力が込められる。魔杖が放られた位置を確認する。
もう未知であるキールの手段が潰えた以上、こんどこそ打開手段はケイオスハートしかない。
グリッドとてかつてほど巡りが悪いわけではない。自らクィッキーにケイオスハートを捨てさせたのだ。
今から自分が拾いに行ってももう間に合うまい。万一クレスを倒しメルディ達を救えたとしても、キールは無理だ。
(こん畜生が! くそ、なんで、なんでなんだよ!!)
それでも、グリッドはもう処刑台の二人を直視することも辛かった。
それでも思考にすらならない叫びを内に反響させてグリッドはキールに念ずる。
(俺、やっと分ったんだよ。何と向き合うべきか、何を望んでたのか。
 帰って来れたんだ。ヒトに『死んでない』よりもほんの少しだけ上等な在り方に)
逃げろと、もう崩れたのだと。お前の願いは叶わないのだと。お前の侮蔑に俺は抗いきれなかったのだと。
(でも、それに気付かせてくれたのはお前なんだ!
 答えは最初から俺の中にあったけど、昔のままじゃそれに気付けなかった。
 俺がこうして今俺として立っていられるのは、お前の問いが始まりなんだ!!)
それはグリッドにとって信頼を裏切るよりも重く痛々しいことだったから。
一刻も早く魔杖を手にするため、臨界にまで達しようとしたケイジの火を切り落とし詠唱を止めようとする。
(お前も、俺の中身なんだよ。だから、頼む、頼むからッ)
振り切ろうとした戦場の中心、その画の端で、キール=ツァイベルの口の端が―――――――血塗れに歪んだ。

「キール、生きろォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
81ある愛の話 −永遠伝説− 19:2008/10/27(月) 22:39:37 ID:L2rHCwG10
あまり品の無い音だった。水というよりは油っぽい湿度を含んだ軋みの音。
麦の詰まった革袋に短剣を突き刺すような気軽さで、彼の魔剣は簡単に挿入された。
グリッドからは背中側が見えない。それでもその血を浴びるほど近い柄と腹と胸までの距離の短さが、
キールの背中から突き出るエターナルソードの大きな刃を容易に想像させた。
くの字に折れ曲がるキールの身体の向こうから見えたものは、グリッドの想像が現実と寸分違わないことを丁寧に教えていた。

キールの背より生える脂の乗った一振りの剣、それをメルディは見ていた。
それだけは守ろうとしていたはずのコレットすらも意識より外れて、彼を見ていた。
彼女は動けない。動いたところで何も変わらない。どうしようもないともう分かっている。
その小さな胸がチクリと痛んだ。欠けた何かが今更一人前に欠損を疼く。
今まで何度も見てきたはずの景色が、今の彼女には重苦しかった。
絶望をフィルターとかけて見ていた彼女の風景は、言わば舞台より見る芝居のようなものだった。
自身を観客の位置に置き、悲劇も喜劇も惨劇も等しく舞台劇と見下ろすことで彼女は絶望を緩和していた。
観客と役者では、その景色の鮮烈さは比べ物にならない。この痛みは正にそれだ。
だが彼女は舞台に立った。ボーダーの上で傍観することを良しとせず、役者として戻ってきた。

コレットは言っていた。
いつか来ると信じたい未来を望むなら目を反らしてはいけないのだと。さもなければ、笑えなくなる。
そう言われたメルディの瞳は、朽ち切ったキールを見ている。
何故こうも胸が痛むのだろう。コレットを、ロイドの守りたかったものを守りたかったのだ。
彼女を舞台に戻した強い意志。それは確かに彼女の胸にあった。
そしてコレットの強さを知った。彼女もまた、ロイドと同じくらい強くてでもほんの少しだけ柔らかい人だった。
彼女は守られる人ではない。その旅路に何があったとしても、歩みを止めない強さがある。
コレットは既にその意思に護られている。ならば、彼女は次に何をすればいいのだろうと考えなければならない。
それが彼女が彼女として舞台に残り続けるための必須条件。そうでなければ、やはり彼女は観客のままだ。
82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 22:44:04 ID:iAalgJK5O
支援
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:09:45 ID:T8UuIJ+EO
さるさんにひっかかってしまいました。解けしだい投下に戻りますが、よろしければ代理投下をお願いします。
84ある愛の話 −永遠伝説− 20@代理:2008/10/27(月) 23:11:00 ID:8QXVVjmw0
体液に塗れグチャグチャになったキールのローブを覆うように、剣を中心に赤が沁み渡っていく。
どうして、一人で戦っているのだろう。いや、どうして独りになってしまっているのだろう。
フィルターをかけていた時はあれだけ強靭に見えていた強さが、脆さになっていた。
削りすぎた鉛筆のように、鋭く脆い。あまりに頼りない姿。
なんでこうなってしまったんだろう。どうして私達はこんなにも遠く離れてしまったんだろう。
キールは、そんなのに耐えられるほど強くはないと彼女は知っている。
罪の重さも、良心の呵責も、絶望も、諦観さえも耐えきれない。
なのに、どうして独りで。私なんかの為に。

それはそう。だって、独りだったら寂し過ぎるじゃない?

ドクン、と心臓が弾けるような音を彼女は聞いた。
彼女はとても簡単な言葉の間違いに気づいた。キールは、独りになってしまったのではない。
“メルディがその手を離したから”だ。先に絶望してしまったのはメルディの方だ。
例えそこに至る想いが過ちでもなく光り輝くものであったとしても彼女がキールを独りにした事実は変わらない。
誰だって独りは厭なのだ。他ならないメルディがそうなのだから。
彼女はこの世界に降り立って初めて“自分が”したいことを見つけた。

「キール……」
気づけば彼女は叫んでいた。クレスに倒れかかるように沈もうとしている躯へと。
自分の痛みを、彼に負わせる訳にはいかない。そしてもう一度彼の手を引っ張りにいけるのは彼女しかいない。
「ごめん…………ごめんな…………!」
例えその手法がけして誉められないものだとしても、彼女が殻に閉じこもっている間彼は独り彼女を守っていた。
その分を、彼女は守りたいと思った。キールが誰にも触れず届けないまま悩み苦しんだその時間を今こそ取り戻したいと願った。
現実は非情だ。メルディが自分の意志で守りたいと願った人は、もう命を流し尽してしまった。
その身にネレイドを降ろせば万を一度に滅ぼせる彼女でも、たった一人の命さえ救えない。
虫の良い願いだとは分かっている。今まで閉じこもってその絶望をキールに押し付けてきたのだから。
だが、それでも彼女は願った。破壊と滅びにしかそのフィブリルを使えないとしても、ただ願った。
「…………お願い………目、覚ましてよぅ……!」
都合の良過ぎる奇跡の申請。神は応えない。その祈りは、神には届かない。
だが『彼』には届いた。

「心配するな。もう、起きてるから」
85ある愛の話 −永遠伝説− 21@代理:2008/10/27(月) 23:11:48 ID:8QXVVjmw0
眼尻を切って血を零すほどにクレスの眼球が大きく開かれる。
漸く取り戻したはずの『絶対』が手のひらを返すように引っ繰り返ったクレスの驚きは、もはや計り知れない。
「な、何で……どうして……」
何度斬っても、幾度薙いでも立ちあがってきた男を終ぞ殺したはずだった。
これほど深く突き刺して、生きていられるはずも無し。
悪魔との契約による自らの死霊化? 死を起点とした時間回帰? いや、これはそういう魔術的現象ではない。
ならば、全くの説明が不可能な超常現象――――奇跡だとでも言うというのか。
斬れば死んだ幾人もの踏み台とはまったく異なる論理をクレスは理解できない。
「どうして、立ち上がれる。“僕は出来なかった”僕は、一人で立てなかったのに」
それよりも許せない何かがクレスという回路にノイズを混ぜる。
古い蓄音器のような中途半端な言葉。疑念が混在し、クレスの意識が埋もれる。

「どうして、か。お前には分からないんだろうよ、簒奪者」

血が煙霧を立てるように細かく湧き上がり、クレスの視界を鮮やかな銅に染めた。
そこよりぬうと飛び出るキールの両の掌がプロテクタの無いクレスの胸に添えられた。
深々と突き刺さった剣が、皮肉にも死人とクレスの距離を一定に保っていた。
ダオス、スタン、ヴェイグ、ロイド、グリッド。
幾人が挑み、誰もがその身を預けることのできなかったクレスの懐、零距離に。
幾千の布石と幾万の犠牲を以て、キール=ツァイベルは遂にそこに辿り着いた。
「命を奪うことしか、殺すことしか出来ないお前には理解できない。
 何もかもを捨ててでも守りたいもののないお前には僕の想いは侵せない」
上級術は対象を選べない。仲間との連携という概念を崩し殺し合いを促進させるミクトランの敷いたルール。
だがこのルールには一つ穴がある。それをキール=ツァイベルは昨日の夜に知っていた。
惨劇の起きた城を完膚なきまでに破壊しようとした紫電の一閃、サウザンドブレイバー。
恐るべきあの戦略魔術が2つの明確な事実を示していた。
魔杖ケイオスハートの魔力を込めたインディグネイト・ジャッジメントを砲身と変えたその身に受けても、
ティトレイ本人が致命傷を受けていないことが一つ。この条件に限って、デミテルの魔力はティトレイを殺さなかった。
そして、一度発射した魔術式を途中で爆破させることで強引に組み替えた事実が二つ。手法さえあれば、術を弄れる。
『加工』と『合成』―――――――単一の上級術ならばその身を滅ぼすとしても、その対象者もまた発動に関与すれば抜けられる。
「それに、言っただろう。僕の拳は、ファラの拳だと―――――――――チェックメイトだ、クレス!!」

――――――――――出でよ、神の雷ッ!!

手に持ったケイジを高く掲げ、グリッドは三節目を仕上げる。その眼には潤みが溜まっていた。
グリッドは最後の最後で、ケイオスハートを取りに行かなかった。
これが奇跡なのか、まったく別の何かなのかは分からない。
だが、一つだけ分かっていることがある。こうなってしまう可能性を、キールは多分考えていたのだろう。
この奇跡はきっと最後の保険。グリッドがヘマを一度はするだろうという侮蔑の込められた二段構え。

――――――――――結構、期待しない程度に宛にさせて貰うさ。
だって、最後の最後まであいつはあいつなりの遣り方で笑っていたのだから。
86名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:11:55 ID:L2rHCwG10
支援
87ある愛の話 −永遠伝説− 22@代理:2008/10/27(月) 23:12:42 ID:8QXVVjmw0
「行くぞ。双撞ォ、掌底破ッ!!」
信頼以外の全てを託し合った二人の技が今結実する。
強打にて敵を弾き飛ばすは、キールが「グリッド側」で何度も見てた技。
何度も何度も拳をクレスに近づけて見つけた、一度きりの軌道プログラムを拳に通す。
「遅れんじゃ、ねェぞ……ッ!! インディグ、ネイション!!」
雷撃をキールに送り込むは、本来のサンダーブレードよりも一段上の上級魔術。
遠距離からキールに送電する間に減衰する電量を鑑みれば、これは最低条件だった。
キールにグリッドの魔力を通した雷晶霊が送られる。
荒削りな魔術構成を宥め賺して自分の魔力を乗せて最適化する。
グリッドだけでは足りぬ威力を、自らを杖と成して上乗せする。
体内に満ちた雷を両手に流す。彼女とは天と地も違う、誰から見ても情けないフォルム。
体で覚えているファラだったら多分ただブチ当てるだけで済むのだろうけど、それが出来ない。

「「ユニゾン、アタック!!」」

だから目指す。この弱い力を届かせる為に狙うは唯一点―――――――――心臓までの最短距離を算出する。
クレスが剣を引き抜きにかかる。切れ込みの入っていた骨が幾つか割れる。
クレス。お前は強い。既存の枠を打ち抜いてなお頂点に君臨することに意義を持たないお前は、まさに最強の剣鬼。
その絶対の強さは、伝説と語るに相応しい。誰もお前の伝説を超えることはできないだろうさ。
だけど、知っているか? 伝説は『伝え説かれるもの』なんだ。
無限に近い時を、永遠を刻めばいつかは口に端にも上らなくなる。
だから伝説はここで潰えて貰う。無数の先達が刻んだ傷の上に、僕の永遠が今お前を打ち破るッ!!

「受けろ、僕の雷――――――――――雷閃拳ッ!!!」

無限に思えた時間、無数を尽くした策謀、それら全てが電荷と交わり幻の荷電粒子と化す。
キールの腕を伝い溜めに溜めた力を形に変えるように、加速されてクレスへと流し込まれる。
インディグネイションの総電量をキールの細腕を砲身として打ち出されるその密度は、拙いインディグネイションの威力を補って余りある。
細胞よりも小さいそれが、血管をすり抜け血液をすり抜け心臓をすり抜け胸より背中を導体と化す。
クレスのマントがぶわりと浮き上がったその内側から蒼雷が突き抜けるその姿は、神の槍そのものだった。
88ある愛の話 −永遠伝説− 23@代理:2008/10/27(月) 23:13:49 ID:8QXVVjmw0
クレスを貫く光線が少しずつ細く縮んで、最後は一本の光条となって掻き消えた。
既に魔剣はずるりとキールの胸より抜けて、クレスの腕を介してだらりと垂れている。
イオン臭と肉の焦げたような音が、夕も深まり極まった村を包んだ。
クレスの胸に張り付いていたキールの双掌が、耐えきれないというようにクレスの腹に滑ってから離れた。
直撃だったことは、今まで掌があった場所のクレスの黒衣が焼けて肌が覗いていることからも明瞭だった。
ユニゾンアタックによる雷閃拳―――――高密度収束型零距離インディグネイションの威力が、
通常に繰り出すものよりも何倍も強かったことはその効果を見ていれば明確だった。
だがそれでも、やはりクレスの命にあと一歩届かなかったことは二人を見比べれば明白だった。

キールの身体が今度こそ崩れ、膝が落ちて地面へと突き刺さる。
クレスの腕が、魔剣とともにゆっくりと持ち上がる。その眼はやはり伺えない。
頭をたれて四つに這うキールは、精魂をその両手に置いてきた死骸のようにすら見えた。
逆手に持った魔剣は震えながらも目の前で垂れる頭蓋を容易に狙える位置にあって、それが力無く振り下ろされ――――。
「レイトラスト! レイシレーゼ!!」
クレスの手が痙攣したように止まる。本来なら今そこにあるはずだった手の位置に、一本の苦無が一筋の光となって透った。
ゆっくりと武器が射出された方向に首を回すクレスに、ダーツの更なる二射。
一つは在らぬ方向へと飛び、もう一つはクレスの頬を掠め血の線を引く。
クレスは避けようとしない。ただそちらの方へ血糊の張り付いた髪の簾の奥から、遠くを見るように彼女を覗いた。
彼の中で守るべきものだったはずの彼女は、まるで怒る様に悲しんでいる。
その手には、三射目の三本の苦無が既に走っていた。
「もう、いい加減にして下さい……ッ! 夢から覚めて、なにも喪わない世界を失うのは怖いけど。
 貴方を待ってる人がまだいるんです。だから、幻に逃げないで、私の向こうに別の人を見ないで!!」
自分に言えた義理がないのは彼女も分かっている。だがだからこそ、彼女が言わなければいけなかった。
言の葉を伝える矢文のように、連携してリミュエレイヤーが繰り出される。二本は外れたが、一本は直撃コースへと乗った。
クレスの顔面に埋められた瞳へと通るそのライン、コレットはその瞳に映る自分を見たような気がした。
彼から見えるコレットの姿は、やはり幻想に包まれた別人なのだろうか。
クレスの空いた手が、愚直に己が瞳を庇う。かつてならば指二本でこれ見よがしに止めたであろう唯の苦無がその手を穿つ。
遠く離れたクレスとコレット。抜き取った掌からだくだくと汁が湧く。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:14:09 ID:/j8y6Ekf0
支援
90ある愛の話 −永遠伝説− 24@代理:2008/10/27(月) 23:14:40 ID:8QXVVjmw0
人の知性が介在する余地のないただの狂声がこの一帯を大きく震わせる。
「違う……違うッ! 違う違う違う違う!!!!!!!」
その貫通した手をべっとりと顔に埋め羞恥を隠すように、獣の叫びは主語も目的語も無く否定を啼き続ける。
それはもう全てのタガが外れてしまったようでさえあったが、正気と狂気を別つべき瞳は手とそこから湧く血に覆われて映らない。
「俺が負けッは“違うんだ”! 僕は唯、ああッ! うわああああAaああAAああああッッ!!」
顔を血で覆ったまま、クレスが今度こそ高らかに殺す為に剣を掲げ、コレットのもとに疾った。
状況を理解したのか、グリッドが紫電を投げ捨てた左手でダブルセイバーを掴みクレスに向かって奔るが傷だらけの身体にはあまりに遠い。
目に依らない以上、既に対象の選好みは付いていないだろう。否、矢張り選好みした故なのか。
「だいじょぶ。逃げてもいい、負けてもいい。私はもう、逃げないから。ずっと、ずっと待ってるから」
ダーツも苦無も全弾投擲し、物理的な手段を全て失った彼女はそれでも諦めずに言葉を投げかける。
だが、それでもクレスは止まらない。一番最初にブレーキを壊してしまったのだから自ら止まることなど出来るはずもない。
その刃こそが全てを亡くせるのだと祈るように、魔剣が彼女の元へと。

「だから……お願い。ホントの気持ちまで殺さないで……!!」
―――――――――捩じれよ時間。その律令は、我が手にて記されている。
その一瞬手前、僅かにクレスの剣先が滲んだのをコレットは見た。
「停滞……せよ、傷……痕! ストラグ、ネイションッ!!」

自身を覆うかのような空間の歪曲に、クレスは完全に剣を止めた。
クレスが自分が走ってきた方向へと振り返ると、そこには地面にうつ伏せながらその手にケイジを持つキールがいた。
本来ならばメルディが使うはずだったそれを、もう精根が尽き果てたはずの彼が使う。
「クソッ、つがう、未だ俺が、ああ、もう僕は」
だが、エターナルソードを持つクレスに時魔術は相性が悪過ぎた。
そもストラグネイションが効果を発揮するのは術を仕掛けてからのダメージだ。この後に続く効果が無ければ、意味がない。
「雷閃拳じゃ足りないのは承知の上だ。受けろ、クレス。時間さえも超える、本当の永遠を」
バチン、とクレスの胸に電流が飛ぶ。過去に刻まれたダメージが、回帰するようにして復元する。
「A――――ま――――――ちが――――――――――――」
そこより伸びた雷が縄のようにクレスの腕を足を、雁字搦めに絡め捕る。
クレスの中でけたたましく鳴り響いていた否定の怨呼が、一斉に鳴りやむ。
無音の世界で、唯コマ送りのように断続的な時間だけが停滞する。
希うかのようにエターナルソードを振りかざすが効果は無かった。
キールが止めたのは、時間ではなく心臓。ストラグネイションはそれを引き起こす呼び水にすぎない。
電気的刺激によって収縮する心臓に、別の電流が流し込まれることによってそのリズムは狂う。
心臓がその機能を落とせば、体内の血流は乱れる。ヘモグロビンは滞る。
血液が崩れれば、それによって運ばれるはずの酸素もエネルギーも細胞に供給されず、また老廃物も二酸化炭素も排出されない。
心室細動、その突き詰めた先にあるのは細胞レベルの呼吸・代謝の停止。即ち、人間であることの停止。
キール=ツァイベルは魔術的要素を駆使し尽くして、一切魔術に頼ることなくクレス=アルべインの時間を止めた。
従来のエターナルソードの見地から見た時間操作とは真逆のアプローチに、クレスは対応し切れない。
今のクレスは、時間以外のすべてを止められているのだから。
91ある愛の話 −永遠伝説− 25@代理:2008/10/27(月) 23:15:53 ID:8QXVVjmw0
「チガ、Aa、僕が、君を、俺に」
魔法の介在する余地の無い幾万の鎖の前に、クレスは遂に縛を抱いた。
猿轡をかけられた口から唾液を漏らすように、獣ははうわ言を漏らすばかり。
簾より覗く瞳は未だ胡乱の中で。それを遠くより見て、コレットは言葉にしにくい感情を抱かざるを得なかった。
傷ついているのはクレスの方なのに、涙を流していたのはコレットの方だった。
思うところ少なからずの人に、自分を通して別の人を見られれば涙の一つ出したくもなる。
「守らなくてもいい。いいから、私を、“私”を見て下さい……私はミントさんじゃない! 私は、私は―――――!!」
そんな彼女の心の中など知る由もなく、男は本当に何気なく女の名を呟いた。

「――――――――――コレ……ット?」

コレットは自分の耳を疑った。もう届かないと半ば諦めていた音の響きだった。
その眼は今は隠れてよく見えない。もしかしたら、彼女の名前の聞き間違いかもしれない。
「クレスさん……」
だから、もう一度聞きたいと願った。その名前を彼の口から。
「あ、ああ…………」
多分、それは彼女の名前だったのだと思う。
何故なら、彼女の名前を告げるということは彼の幻想を完全に壊してしまうことを意味するのだから。

嗚呼――――――――――まさに、失恋<ハートブレイク>。

「あ、アアッ……AaああAああAAAああああAAaaaaAAaaaAあああああああッッッッッ!!!!!」

エターナルソードが強く輝く。獣の最後の足掻きとばかりに迸る時の力が、無理矢理に鎖を引き千切っていく。
信じられないという表情を見せるキール。だが、一方で有り得ないことではないという落着きが冷静さを支えた。
キールは時を使わずに時間を止めたのだから、時だけを使って時間を動かすことは理屈では可能だ。
だが肉体も、一瞬だけとはいえ脳も止めたはず。
それでもなお、魔力の運用だけで時空の力を振るうことが出来るというのは驚嘆以外の何物でもない。
クレスの周囲を時流が渦巻く。チェックメイトをかけられたこの場に於いてまだ諦めないその意思はどこから来るというのだろうか。
「強引に転移するつもりかッ! だが残念賞、させねえよッ!!」
だが、それすらも封じるからこそのチェックメイト。
追撃にかかったグリッドが到着しその双刃を陽光に鈍く煌めかせる。この距離ならば確実に間に合うだろう。
「―――ッ! 待って!」
コレットが慌ててそれを制そうとするが、グリッドは止まらない。
犠牲と犠牲と犠牲を編んで編んで編みつくして漸く手に入れたこの好機、グリッドの個人的裁量で逃せるものではなかった。
92ある愛の話 −永遠伝説− 26@代理:2008/10/27(月) 23:16:57 ID:8QXVVjmw0
キール=ツァイベルは考える。
ギリギリのラインではあったが、ここまでの計略は会心の出来といっても良かった。
シャーリィ=フェンネスが墜ちた今、目下最強のマーダーであるクレス=アルべインを殺せる好機がここにある。
ここでクレスを取り逃がせばその全てが無意味と化し、正に画竜点睛を欠くだろう。
逃せば、次は恐らくない。天は自ら運を捨てるものを、二度目の運を与えはしないのだ。
だが――――――――それはバトルロワイアルだったら、の話だ。
キールは口を大いに歪め、グリッドに向けて遮る様に掌を向けた。
それを目にしたグリッドは大いに目をパチクリとさせて不思議がるが、フッと笑った。
(ああ、今回ばかりは采配を、お前にくれてやる。こいつはお前の戦争だ!!)
「おおおおおああああああッッ!!」
クレスの背後よりグリッドの斬撃が繰り出される。時流に翻ったマントを越えたその背中に右肩から斜めに斬撃が痕を作った。
白い時の力に、赤を混ぜながらクレスが姿を消す。そのうわ言は、この位相から完全に消え去るまで止むことはなかった。

グリッドがダブルセイバーの切っ先を振って、余分な血を振り落とす。
その血に濡れた部分は浅く、直撃でこそあれ致命傷には至っていないことを物語っていた。
これで万が一ヴェイグやカイル達の所に向かったとしても、最悪撃退はできるだろう。
グリッドなりに判断して能動的に打った裁量だった。
これで、貸し借りは無し。グリッドは改めて己が『敵』へと振り返る、
そこには、キールが立っていた。その顔からは血の気が無く、発汗さえも薄く、本当に死体のように見えた。
立てる身体でもないはずなのに、リッドに見下ろされることだけは我慢がならないという意地だけで立っているといった風体だった。
死せる天使の身体で生きるグリッドと、生きる人間の体で死を超えるキール。反目しかない二人の目が合う。
言いたいことは山ほどある。許せないことも、譲れないことも、幾らでも。
二人の手が少しだけ持ち上げられる。一人は肉が少し剥げていて、もう一人は片手が無い。
それでも、戦わなければならないものもある。でも、それでも今は。

だから、その前にせめて、せめて今だけはこの勝利を共に分かち合おう。
二人の手が高らかに打ち付けられる。
その音はお世辞にも綺麗ではなかったけど、この夜に進む空に遠く遠く響き渡っていた。

グリッドが、走ってくるコレットとメルディを見た。ロイドはもう居ない。
惨劇は止められなかった。だが、未だ滅び切ってはいない。未だこれからなのだと。
――――――ドサッ。
ズタ袋が棚から落ちたような鈍い音にグリッドがキールの方を向いた。
「…………キール?」
声をかけられたキールは大地に伏してその眼は閉じきられていた。
口からこぽこぽと零れる血の色だけが、何処までも嫌味だった。
93ある愛の話 −永遠伝説− 27@代理:2008/10/27(月) 23:17:45 ID:8QXVVjmw0
『お前の覚悟は見せて貰った、人間よ』
クレーメルケイジの中でゼクンドゥスは呟いた。世界すら侵しむる愛の力。
人間性としては甚だ問題ではあるが、その覚悟だけは認めざるを得ない。
その結果を見て評価を下さないほど、ゼクンドゥスは晶霊としての分別が無いわけではない。
例えそれが核となった亡骸の意に反していたとしても、一度はその願いに応じなければならないだろうと、彼は誓約を重んじていた。
『しかし、クレスが逃げたか。あそこまで極まってしまえば自力では抜け出るも至難のはずだが……その一念の深さゆえか』
恐らくはそうなのだろう、とゼクンドゥスは思う。だが、ほかの可能性を考慮しないほど底が浅くもない。
『或いは、私以外に舞台袖で潜む員数外<イレギュラー>が居るのか? 魔剣の主か、あるいは別の……
 クククク……いやはやどうにも、この舞台は底が知れんな。面白い、実に面白いぞ』
そういってゼクンドゥスは、時間の井戸の奥底で陰鬱な笑みを浮かべた。


「キール、目ェ覚ませコラ!!」
グリッドが倒れ伏したキールに呼びかける。汚物にまみれた外套のローブは脱がされていた。
既に仰向けに寝かされており、口から出ていた血は直ぐに納まっているがその血色の悪さは変わっていない。
コレットは負傷したクィッキーを抱えながらそばに寄っており、その隣ではメルディがクレーメルケイジを使ってヒールを重ねかけしている。
「メルディ、無理しないで」
「……大丈夫」
コレットがやんわりと止めるが、メルディが晶霊術を止める様子は一向に無い。
もどかしい状況であった。コレットが知る限り彼らの持ち得る支給品の中には回復を可能とするものがこのケイジしか無かった。
グリッドは雷魔術しか技能が無く、コレットも元来回復術の素養がある訳ではない。使えてもヒールが関の山だ。
三人ともヒールしか使えないこの状況では、皮肉にも心に傷を負っているメルディが一番このケイジを効率よく運用できるのだ。
アトワイトを手放していなければまだコレットにも手伝えることがあったが、今となっては結果論としか言いようがない。
メルディの額から珠のような汗が零れ落ちる。
ロイドの支給品から回収したフェアリィリングを用いているとはいえ、彼女は未だその能力を十全には使えないのだ。
こうも連続して使用すればその負荷は決して軽視できるものではない。
己の無力さに唇を噛んで、グリッドは拳を地面に叩き付ける。ユアンの記憶によれば他三人の仲間は全員回復術が使えたらしい。
なんとも自分だけこんな尖がったスキル設定なのだと、この時ばかりは恨みたくもなる。
ついぞ魔力よりも体力のほうが尽きて詠唱を途切れさせながらメルディは悔しんだ。
閉じきってしまった心はまだとても硬くて、上手く術が作れない。
その小さな両の手でドロドロになった彼の手を握る。指の先がとても冷たい、人の温もりのない末梢。
この冷たさが孤独なのだとメルディは想う。自分が閉じこもっている間に、こんなにも冷たくなってしまった。
その弱弱しき掌をきゅっと握って少しでも熱を送ろうとしてみるが、お世辞にも自分の温もりもあるとは言えなかった。
「ごめん……ごめんな…………ひどいこと、メルディ言っちゃったよ……キールだって、辛かったもんな」
錆びついた機械を久々に動かした時にでる銅錆のように、メルディの瞼が潤む。
「もう、離さないよ……一人ぼっちにしない……」
その手を握る。肉より乖離する魂を、一寸でも現世に留めようとするかのように。
その手を離せば、今度こそ彼が独りになると思ったから。
「だから……独りにならないで……―――――って、わっ」
94ある愛の話 −永遠伝説− 28@代理:2008/10/27(月) 23:18:49 ID:8QXVVjmw0
その言葉が言い終わるよりも早くグイっとメルディの両手が強く牽引される。
倒れ掛かるその体をもう一本の腕が、脇から頭に手を回すようにして彼女の背中を抱えた。
「グィッ!?」
彼が戦いに赴いた時と同じく、彼女の小さな身体が吸い込まれるようにキールに引き込まれた。
ただ少し違ったのは、今度は顔と顔がくっ付いてどの方向からも見えなかったことくらいか。
クィッキーが飛びかかろうとして、傷に呻いた。コレットが両の手で口を押さえて驚きを噛み殺していた。
グリッドが、それを見てニヤニヤしていた。
「―――――!―――!?――〜〜〜ッッッ、ば、バッカァ!!」
メルディがその両手を懸命に伸ばして、キールの上体が再び地面にぶつかる。
今まで止めていた息を取り戻すように大きく深呼吸をしながら、
キールはほんの少しだけその褐色の頬を赤らめた彼女を見て笑った。
「よかった。怪我が少なくて」
眉根を少しだけ顰めながらも、その彼女の表情が見られただけで十二分と言わんばかりの微笑だった。
それを見返したメルディは言葉に詰まって、その後直ぐにその赤らみは淀んだ瞳と一緒に沈んでしまった。
未だ彼女の中で傷は傷のままだ。キールを一人にしないという目的があったとしても、彼女の孤独の癒しにはならない。
それを了解するかのようにキールは寂しそうな笑みに表情を浮かべた後、前髪を崩して目を隠した。
グリッドが一歩前にでる。キールはグリッドの方を向かずに吐き捨てた。
「驚かないんだな。お前のリアクションを物差しにしてでクレスの反応を想定してたんだ。少しは驚いてもらわないと困る」
「ケッ。誰が引っかかるかよ。お前の持ってたはずのミラクルグミが無かったんだ。どっかで使ったんだろ」
コレットが驚きの眼差しとともにグリッドの方を見る。そんなものがあったと、彼女は知らなかった。
だがそれ以前に、いつ使ったというのだろうか。彼女が見ていた限り、そんなそぶりはなかった。
そもそも腹を貫通していたのだ。グミで回復していたとしてもあの一撃は致命傷だったはずだ。
メルディからフェアリィリングとケイジ、クィッキーから魔杖を受け取ってリザレクションを展開しながらキールは詰らなさそうに言った。
「そこは別段驚くことじゃ無い。使う直前まで、口の中に入れていただけだ」
「口の中? って、あー……あの時か」
グリッドはその記憶を捲り返した。突如食いだしたあの林檎だろう。あそこで紛れて口の中に仕込んでいたというのか。
ミラクルグミを使ったとしても、その後にクレスの一撃でも食らえば貧弱なキールには致命傷だ。
そして、致命傷を貰ってからじゃグミは間に合わない。だからこそ、斬撃と同時に喰らった。
斬られると同時に治癒を始めることでそのダメージと回復量を相殺し、致命傷を大傷にまで軽減させたのだ。
「しかし、何とも蓋を開けてみると――――せこいな。どっかの誰かみたいだ」
「奇跡<ミラクル>なんてそんなもんだよ。6000ガルドで買える程度でしかない。―――――――グリッド」
95ある愛の話 −永遠伝説− 29@代理:2008/10/27(月) 23:19:36 ID:8QXVVjmw0
メルディを自分の懐に引き寄せたまま、キールはグリッドの方を向いた。
その眼は険を強め、グリッドという要素を見極めようとしている風にグリッドには見えた。
「僕は、メルディだ」
応ずるようにグリッドが背筋を伸ばす。揶揄を入れたくなるような意味不明さだったが、続きを促した。
「1番がメルディだ。二番もメルディ。3・4が無い訳が無くメルディ。5番も当然メルディだ」
莫迦にしてしまいそうな言葉だったが、口を挟む者はいない。その瞳が殺意と喜悦に裏打ちされた真実を語っていた。
「6〜10番台だってメルディで、10番台から20番台は言う必要もない。30から50もみつしりメルディだ。
 51から99に至るまで全部が全部メルディで埋まっていて、100番もきっちりメルディだ」
一度だけ溜息を付いてから、キールがクレーメルケイジを弄って歯の欠けて滑舌の悪くなった口の中の空気の振動をもう一度改めて弄る。
最後の確認を経てキールはこの場にいる全員に宣戦布告を返答する王のようにハッキリと告げた。
「僕は、こいつを助けたい。それだけだ。それ以外は、どうだっていい。興味も無い。それが僕の戦い、バトルロワイアルだ。
 それに勝つためなら、僕は悪魔に魂を売っても構わない。悪魔如きに叶えられるとも思わないけど。
 その為に必要なら僕は何を犠牲にすることも厭わないし、こうして喋っている今も、万が一の時を考えてお前たちを殺す算段を組んでいる」
メルディの表情が少しだけ更に深く沈んだ。仰ぐようにしてキールを見上げるが、意図してかは分からないがキールはグリッドの方を向いている。
「だが、101番目くらいになら――――お前たちのことを考えない訳ではない」
「勿体ぶるなよ、莫迦な俺にでも分かるように説明しな」
二人が腹を探り合うかのように眼だけで笑った。少しの時間の後、キールが先に切り出す。
「メルディの絶対生還。そのついででいいなら、お前たちを救うプランがある」
2人と一匹が瞠目した。クレスがエターナルソードを持って遁走した以上、今まで練っていたプランは使えないはずだ。
だがそれを語る瞳には狂えてもなお知性が宿っており、少なくとも決して完全に根も葉もない虚言では無いことを示していた。
「そいつを呑むなら、俺達に協力するって訳か?」
「違うな。主導権は僕にある。お前に有るのは選択権だ。乗るか、乗らないか。どっちにしたって僕はそれを実行するんだから」
両者は互いに譲らない。火花すら散りそうな均衡の中、キールが止めを切り出した。
「どうするグリッド。言ってはなんだが、クレスを逃がした今このプラン以外に手はないと思うぞ。
 少しはマシになったというなら、選んで見せろよ」
若干の静寂が辺りを包む。その中で言葉を叩きつけられたグリッドは顎を少しだけ掻いたあと、不敵に笑った。
「温いぜキール=ツァイベル。それ以外に第三の選択肢があるんじゃねえのか?
 お前の計画を、俺が内側から掠め取って俺の計画に変えてやるって手段がよ?」
指を指してキールの攻撃を切り返すグリッドの妄言に、キールは笑みを取り戻すまで暫く表情を失った。
「成程、それがお前のいう本気の嘘か。疎ましいことこの上ないな」
恐らく本気でグリッドはそれを狙っているのだろう。そこを疑うほど今のキールは許容が狭い訳ではない。
いや、狭過ぎて広くなったというべきか。最後の念を押すようにキールは言った。
「僕と僕のプランは言ってみれば劇薬だ。お前如きに御せるものじゃないぞ」
その返答を聞く前に、キールがグリッドに手を伸ばす。
「上等。それを両手を離してロデオ出来るくらいじゃなければ、団長なんぞ務まらん。
 それに、お前が裏切った時にお前が殺せる位置にいてくれた方が都合がいい。
 人間ブッちぎったそのお前の狂気すら、俺が食らい尽くしてやるから覚悟しやがれ」
グリッドがその手を握り返す。略式も略式だが、入団の儀式としては未だ豪勢な方だろう。

「ようこそ新生した漆黒の翼へ―――――――――敢えてお前を参謀として迎え入れるぜ、獅子身中のキール=ツァイベルよ」
96名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:20:45 ID:/j8y6Ekf0
支援
97ある愛の話 −永遠伝説− 30@代理:2008/10/27(月) 23:21:42 ID:/ko5+Asg0
其処からのキールの采配は尋常ではない速度だった。
キールは集まったアイテムを確認し確認の意見を取り入れ適座配分しながら、今後の方策を語った。
「クレスは暫く動けない。今頃不整脈と心肺停止の間でのた打ち回っているだろうしな。
 だが、時間が立てばいつ僕たちの前に姿を現すか分からない――――――この間隙の間に、戦線を立て直す」
コレットが拠点で見たという村の地図を可能な限り再現した紙面を指さしながらキールは行動を示した。
「グリッドお前にジェットブーツを渡す。メルディを連れてカイルとヴェイグを回収しろ。
 カイルと僕が中央で会い、お前がミトスと南東で会って、ヴェイグが未だカイルと共にこっちに戻ってきていない。
 そしてこの3人が誰もこちらに来ていないとすると……可能性はミント=アドネードが捕らわれた西か、消去法で北のどちらかだな。
 何れにせよ、ここからならどちらも中央の広場を経由することになる。そこまで行けば何らかの手がかりもあるだろう」
キールは輪投げのような気軽さで、4つの首輪をグリッドに手渡す。
「重要なのは……これだ。とにかくヴェイグには確実に接触しろ。もし、無理なく制圧で来ていたならもう一人の方が好ましいが」
グリッドに、フォルスと首輪付いて書かれた項目部分の数枚のメモを渡す。
包帯のように布を腹に巻かれたクィッキーは元からの青毛をさらに青ざめさせていた。怪我した動物にもあの悪魔は容赦がない。
かなりの時間が経過したはずだが、未だ誰も追加して乱入してくる気配がなかったことを考えると、
向こうも向こうで何か諍いが起きている可能性が高く、それは必然、最後のマーダーであるティトレイがそこにいる可能性を高めていた。
もしこちら側で潜んでいたのなら、クレスを助けなかったことに説明がつかない。
何故ヴェイグよりティトレイの方が好ましいのかは分からなかったが、グリッドはそれを奥底でしまいこんだ。
クィッキーが集めたのは空くまでフォルス関連の記述のみで、首輪の膨大な解析の殆どはもう回収ができないような状態になっている。
キールは首輪に固執していないとでも言うのだろうか。
「並行して、ひとつ実験を行う。グリッド、マジカルポーチを持って行け。
 メルディ、お前はこれから飛び出すものを見逃すな。できれば、飛び出すかどうかそのものも」
クィッキーを肩に乗せたメルディがこくりと頷く。フリンジ設定の見直しのためケイジはキールが二つとも所持した。
「合流は中央広場。リミットは放送の五分前、状況の達成不達成に関わらず戻ってこい。
 僕も用事を済ませた後コレットと共に後からそこに向かう。一秒でも遅れた場合はもう一切の保証ができないぞ」
釘を刺すような言葉に、グリッドは肝を冷やした。その条件で敢えてグリッドにメルディを預けるというのは理不尽でしかないが、
それが逆にキールの不気味さを煽った。万が一傷をつけようものなら、七代まで呪い殺されそうなほどの予感を覚える。
「分かった、じゃあ行って―――――」「待て」
追い立てられるようにその足を動かそうとしたグリッドをキールが呼び止める。これ以上何を頼まれるか分かったものではない、
「中央広場といえど広い。集合地点に分かりやすいよう目印に何かを置いておけ。そうだな、椅子がいい。しっかり足の座った椅子が」
「は、ちょ、待て。何で椅子? チェア? 別になんだっていいじゃねえか、ってか、この辺ジャッジメントで民家が粗方吹き飛んで―――」
「用意してなかったらお前が椅子の代りだ。四つん這いになったお前の上に悠然と腰かけて戦略を立ててやるよ」
「は……把握」
そうして、メルディを背負ったグリッドは一目散に駈け出して行った。
98ある愛の話 −永遠伝説− 31@代理:2008/10/27(月) 23:22:33 ID:/ko5+Asg0
走って行ったグリッドの背中と、取り出した刻時器を見比べながらキールは呻く。
「放送まで、あと20分というところか……ざっと、1500秒の勝負だな」
「えと、1200秒の間違いじゃ……?」
コレットの呟きに、キールは特大に厭そうな顔で睨み返した。
少しだけビクッと反応するが、持前の耐性故か、それ以上は怯まない。
無駄と悟ったか、キールはサックの無いコレットに予備のサックを渡した。
「あの、何でメルディと二手に分かれたんですか?」
それを受け取りながらコレットは、気になっていたことを尋ねた。
心底ウザそうな顔をしながらも、折れたのかキールは言葉を選んで吐いた。
「理由は幾つかある。一つは、お前に言っておかなければならないことがあるから。
 もう一つは、お前に聞いておかなけれないけないことがあるから。
 もう一つは――――――――まあ、後で自ずと分かる。どちらからがいい?」
ウイングパック内のメガグランチャーを、コレットに渡しながらキールはコレットに訪ねた。
「えっとじゃあ、私に言っておきたい事から、お願いします」
ウイングパックを自分のサックに戻しながら、キールは少しだけ溜めた後、小さく溜息を付いて言った。
「僕が、ロイドを殺した」
荷物を整理するコレットの手が止まる。振り向いたその先のキールは、俯くようにして座り込んでいた。
「ミント=アドネードがこの村から拡声器を使った時、ロイドはお前を助けるためにE2の城から走り出した。
 仲間も、戦略もかなぐり捨てて。夕食の時間を忘れて走り回る餓鬼のように飛び出した。
 お前達がこの村にいるという情報を知ったとき、僕はロイドがいずれそういう行動に出るだろうことを算出していた。
 恐らくは、僕だけがそれを事前に知っていた。そして、僕は奴を見逃した」
「何で……って、聞くのは、きっと卑怯ですよね」
「そうだな。別段、許しが欲しい訳じゃないことくらいは分かるだろう。
 だけど、誰か一人くらいは真相を知っている奴がいてもいいと、少し思っただけだ」
フライパンをコレットに配分する。その柄を握りしめながら、コレットは唇をかんだ。
そうして、フライパンをサックにしまう。
「―――――――正直、それかメガグランチャーで叩き殺されると、内心焦ってた」
「貴方は、私がそうしないと思ったから私に喋ったんじゃないんですか?」
うん、と味気なくキールは肯定した。多分殺されるとすれば、このふてぶてしさがだろう。
エクストリームとエターナルリングをロイドの遺品より受け取ったころに、コレットが続きを切り出そうとした。
だが、ドスンという音に阻まれる。コレットが見たその先で、キールは生まれたての小鹿のように片足を震わせては直ぐに倒れこんでいた。
「………何です、それ?」
「見ればわかるだろう。立とうとしてるんだよ」
「え、だって」
「見ればわかるだろう。もう足がまともに動かないんだよ」
99ある愛の話 −永遠伝説− 32@代理:2008/10/27(月) 23:23:37 ID:/ko5+Asg0
毟った虫の羽を見て、もう飛べないと指摘するような淡白さでキールは自己の状態をあっさりと曝した。
「クレスと差し違えてなお生きようとしたんだ。何が来てもおかしくはないと思っていたが、何とも不便だな。
 多分―――――足の感覚が、亡いんだとおもう。ほら」
握ったスティレットで、その両股を一回ずつ突き刺す。薄く血が噴き出るが、その痛みはキールの表情の前にかき消えた。
恐らくは、クレスに突き刺された時に椎の類を損傷したのだろう。
僅かな口元の歪みが、まだ感覚が完全になくなっていないことを知らせてくれたが、それもいつまでの話かは分からない。
「別に大した問題じゃない。もう、どの道永くは保たないんだ。足とか手とか、言ってる段階じゃない」
キールはクレスに穿たれた致命傷を軽減したと言ったが、それは半分誤りだった。
いくら斬られると同時に治すといっても、一度欠けたコップが元に戻るわけがない。
彼は流れ出ていくよりも多い量の命を急激に補給しただけだ。結果としてコップの中の水は枯れなかったというだけ。
急激に復元された内臓は元に形を留めず、既にその中身は人間以下だ。だから、今も彼の中から命が砂のように水のように零れ落ちている。
常に回復術をかけねば維持も出来ない欠け過ぎた命―――――それがキールに課せられた、人を超えた代価だった。
そんなものを背負ってまで立ち上がろうとするキールを見て、見かねたのかコレットが彼の腕をむんずとひっぱり上げた。
ここにきて初めて心底驚いたような表情を見せるキールを置いてきぼりにして、コレットはキールを負ぶさる。
「……これは、本当に思ってなかった。せいぜい肩を貸してもらう程度しか考えてなかったんだが」
「多分、私と貴方は分かり合えないと思います。きっと貴方はミトスのように、自分の中の神様を信じないと思うから」
吹けば飛ぶような軽さの青年を抱えながら、コレットは一歩目を踏み出した。
ロイドが彼と反目したというなら、きっとコレットも彼とは同じ道を歩めないだろう。彼もそう思っているのだから。
「だろうな。僕はその神を殺すことで、ここにまだ生き永らえているんだから」
「でも、貴方は私の目の前であの人を殺さないでくれた――――だから、私は貴方を信じたい」
それは彼女の本音だった。全てを穢れと断じて目を閉ざすことは、未来を閉ざすことに他ならない。
「それに、メルディは、貴方が必要だと思うから」
意外そうに鼻を鳴らして、キールは嘲笑した。
「あれは打算が無い訳じゃないんだが……そう思ってくれるならそれで、都合が良い」
「……じゃあ、最後の。私に聞きたいことって、何ですか?」
「ああ、大したことじゃない。聞きたいのは二つ。一つはお前がここに来てからの、見聞きした事実の全て」
少しだけ声を上ずらせてキールはコレットに尋ねた。
既に、ここからの指し手はキールの中で決まっていた。何がどうなろうとも、もうそれ以外の手段はあり得ない。
それで勝てると確信している。故に彼が恐れるのは、それ以上の何か。
だから、暇潰しのように彼は棋譜を集める。欠落したピース、見えない事実。
それをただ好奇心で埋めるためにコレットに尋ねた。

「あと、これはどっちでも好いんだが……ここに来る前の、ロイドのことを教えてくれないか。
 僕は、ここに来てからのあいつしか知らなかったんだ。ロイド以外の人間から見た、こうなる前にいたロイドのことを」

だから彼は暇潰しのように命を潰す。彼が描き切った最終局面―――――――メルディの優勝に至るために。



何処だかも見えぬ黒き海に、彼は溺れていた。
否定を綴る童唄に導かれ、世界で一番無様な勝者は丘を登る。
待つは白き聖鍵。扉を開き、その終点に何を見る。

それは演目の後のささやかなる幕引き。だからこれもきっと、愛の物語。
100ある愛の話 −永遠伝説− 33@代理:2008/10/27(月) 23:25:07 ID:/ko5+Asg0
【グリッド 生存確認】
状態:HP15% TP10% プリムラ・ユアンのサック所持 天使化 心臓喪失 自分が失われることへの不安
   左脇腹から胸に掛けて中裂傷 右腹部貫通 左太股貫通 右手小指骨折 左右胸部貫通 右腕損失
習得スキル:『通常攻撃三連』『瞬雷剣』『ライトニング』『サンダーブレード』
      『スパークウェブ』『衝破爆雷陣』『天翔雷斬撃』『インディグネイション』
所持品:リーダー用漆黒の翼のバッジ 漆黒の輝石 首輪×4 マジカルポーチ ジェットブーツ
    ソーサラーリング@雷属性モード リバヴィウス鉱 マジックミスト 漆黒の翼バッジ×5
基本行動方針:バトルロワイアルを否定する。現状ではキールの方策に従う。
第一行動方針:メルディを連れてヴェイグ達を捜索する
第二行動方針:ヴェイグにフォルスを使わせて首輪の状態を確かめる
第三行動方針:流石に羞恥プレイは厭なので椅子を探す
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前→中央経由で北地区

【メルディ 生存確認】
状態:TP35% 生への失望?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?) 神の罪の意識 キールにサインを教わった 
所持品:スカウトオーブ・少ない トレカ カードキー ウグイスブエ BCロッド 
    双眼鏡 漆黒の翼のバッジ クィッキー(戦闘不可)
基本行動方針:本当の意味で、ロイドが見たものを知る
第一行動方針:グリッドと共に仲間を回収する
第二行動方針:キールを独りにしない
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前→中央経由で北地区


【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP5%/5%(HP減衰が常時発生)TP50% フルボッコ ある意味発狂 頬骨・鼻骨骨折 歯がかなり折れた【QED】カウントダウン
   指数本骨折あるいは切断 肉が一部削げた 胸に大裂傷 中度下半身不随(杖をついて何とか立てる程度)ローブを脱いだ
所持品:ベレット セイファートキー C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) C・ケイジ@C(風・光・元・地・時) 
    分解中のレーダー 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) フェアリィリング
    スティレット ウィングパック(UZISMG入り)魔杖ケイオスハート
基本行動方針:メルディを救う
第一行動方針:コレットの経歴を聞きながら中央地区に向かう
第二行動方針:メルディを優勝させる
ゼクンドゥス行動方針:静観。一度はキールの願いを叶える。
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前→中央

【コレット=ブルーネル 生存確認】
状態:HP70% TP20% 罪を認め生きる決意 全身に痣や傷 深い悲しみ
所持品:ピヨチェック 要の紋@コレット 金のフライパン メガグランチャー
    エターナルリング イクストリーム 
基本行動方針:何時か心の底から笑う
第一行動方針:キールを中央まで運ぶ
第二行動方針:リアラを殺してしまった事をカイルに打ち明ける
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前→中央


【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:HP10% TP20% UNKNOWN(精神系)
   背部大裂傷+ 全身装甲無し 全身に裂傷 背中に複数穴 心肺機能障害(一過性)
所持品:エターナルソード
基本行動方針:UNKNOWN
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前→???
101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:26:19 ID:/ko5+Asg0
以上、代理投下終了です。
とりあえず読んでくる。
102名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:31:26 ID:L2rHCwG10
代理投下ありがとうございました。

約4か月も同じ場所という、パロロワとしてもリレーとしても非常識なことになってしまいましたが、
とりあえず東エリア完結です。いろんな方に、謝罪とそれ以上の感謝を。
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:38:30 ID:hYDEb3am0
乙!
やべぇキールがKOOLすぎる
104名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:55:50 ID:LgkQvagXO
投下乙です
代理の人も乙

キール自重しろwww
まったくうらやまし…ゲフンけしからん男だ!
とりあえず一段落ついたな
クレスはミントに会えるんだろうか
あと揚げ足取っちゃうようだけどここは西地区ですw
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:58:51 ID:vCbLiV7bO
作者様乙
めっちゃ燃えました
キールもグリッドもしぶといなwそこがカッコいいだが。
後コレット復活で大歓喜ですw
106投下終了@修正:2008/10/27(月) 23:59:40 ID:L2rHCwG10
代理投下ありがとうございました。

約4か月も同じ場所という、パロロワとしてもリレーとしても非常識なことになってしまいましたが、
とりあえず【西】エリア完結です。いろんな方に、謝罪とそれ以上の感謝を。


謝罪とそれ以上の感謝をッ!
107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 00:19:51 ID:bAm6rztvO
新作乙。

……一言だけ言わせてくれ。
クレス、お前まだ死なねえのかよwww

普通心室細動が始まったら、AEDでも使わんとどうにもならん気がするが、
アルベイン流の練気術なら、心臓の発作も止められるもんなのか?

今のクレスなら、首を刎ねられた状態になって、首から下が切りかかってきたとしても、
俺なら平気で納得してしまえそうだ。
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 00:25:01 ID:ULk7iaIrO
まさに不死身の二つ名はマウリッツよりもクレスにふさわしい。
109名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 00:34:20 ID:TVHhCiQa0
>>107
首だけで動いて腕を食いちぎっても納得できそうな気がする


今のクレスってドーピングコンソメスープの効果はもう切れて気合いが肉体を
凌駕してる状態だっけか
あのインディグ食らってHP10%も残ってるとかパねぇ
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 00:35:23 ID:KZiahc1IO
投下乙です!
やばいなんでニヤニヤしてるんだ自分。
一段落しましたね。もっかい読み直してきます。
再乙です。
111名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 00:54:02 ID:xJDwJjSa0
大作乙です

多重構えの策すげええ
アレだけやられてHP10%ってクレスもすげえw
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 03:06:00 ID:Rcd02GEkO
すげぇ大作だ…乙。
クレスまだ死なないのか、流石に死んだかと思った。
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 03:15:27 ID:TVHhCiQa0
高密度収束型零距離インディグネイション
コレットの攻撃
グリッドの攻撃
心室細動

これだけ食らって10%減って、クレスの元々のHPがラスボス並だったのか
前にも戦闘シーンでのTPの減り方が話題になったが、HPTPの設定どうなってるんだろう
114名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 03:24:10 ID:X9eOh7wEO
投下乙!!
読んでて本当にゾクゾクした。そしてグリッドの第三行動方針に盛大に噴いたww
コレットが所持品と性別と天使的な意味で最終兵器彼女と化している……それにしてもクレスが凄すぎる。なんという生命力……!
もう一度……投下乙でした!GJ!
115名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 09:49:49 ID:m5xMTICu0
前スレに投票の集計結果を貼ったものですが、こっちにも貼ったほうがいいですかね?
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 11:50:41 ID:012HT0sD0
呼ばれた訳ではないんですが、作者です。

クレスのHP値に関しては適当に数値設定してしまいました。すみません。
修正という形で、状態欄をいじらせてもらいます。

【クレス=アルベイン 生存確認?】
状態:HP??% TP20% UNKNOWN(精神系)
   背部大裂傷+ 全身装甲無し 全身に裂傷 背中に複数穴 心肺機能障害(一過性)
所持品:エターナルソード
基本行動方針:UNKNOWN
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前→???


これだけだと少々野暮ったいので、個人的な見解を少し。

・雷閃拳は魔力依存でダメージ設定なので、
 グリッドのパラの低さ&そもそもこれファラの技が足を引っ張って数値ダメージが低い。
・ダメージが望めないので心臓云々は、むしろ極悪ステータス異常付加として設定。
 ルート分岐的にはダメージで殺しきるならクィッキーを犠牲にして強引にでも裏を使わなければならない。

都合のいい解釈ではあるんですが、個人的にはこんな感じです。
ぜんぜんクレスの耐久力の説明になってなくて申し訳ない。
あとはアナザーの特性とでも。では。
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 12:20:05 ID:RlQAh3/wO
>>115
ぜひお願いしたい
118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 15:36:19 ID:m5xMTICu0
では貼りますね

【好きな話部門】

1位 6票
【258話 翔る】

2位 5票
【357話 Normal End −君に届け−】
【アナザー339話 彼が願ったこと 】

4位 4票
【336話 墓標は静かに泣く】

5位 3票
【118話 堕ちた天使】
【275話 夜明け前の幕はあがり】
【346話 理想の終わり −Hero's Dead−】
【アナザー353話 星屑と人形劇は罪の色】

2票 185話、192話、281話、327話、341話、アナザー346話、348話

1票 52話、89話、107話、125話、183話、188話、218話、220話、238話、245話、264話、265話、274話、279話、280話、
287話、289話、290話、292話、305話、315話、320話、324話、340話、342話、343話、349話、
アナザー341話、342話、349話、357話

統括
全78票。終盤に偏るかと思われたが、序盤・中盤の話も上位にランクインしている。
1位はかっこいいユアンが好評な【翔る】
119名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 15:40:23 ID:m5xMTICu0
【好きなキャラ部門】

1位 10票 
【ヴェイグ・リュングベル】

2位 8票
【グリッド】

3位 7票
【ティトレイ・クロウ】

4位 6票
【カイル・デュナミス】
【ロイド・アーヴィング】

6位 5票
【デミテル】

7位 4票
【キール・ツァイベル】
【トーマ】
【シャーリィ・フェンネス】
【ミミー・ブレッド】

3票 アトワイト、ユアン

2票 クレス、ミント、ダオス、リッド

1票 ファラ、クィッキー、ジューダス、ハロルド、バルバトス、ゼロス、マグニス、ミトス、セネル、ソロン

統括
全82票。票がばらけたのか全シリーズのキャラが10位圏内に。1位はヴェイグ、さすがは本編優勝者か。
今後に期待するコメントが多い様子。

120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 15:46:31 ID:IAc5ZL1LO
今読み終わった
キールとグリッドに燃え、久しぶりに感情を出したメルディに安心したよ
大作乙です!
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 17:40:27 ID:oYCRCo+kO
物理的攻撃力の乏しいキールに魔術的攻撃力の乏しいグリッド
だからクレスを殺せなかった感じですか
大作乙です
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 19:13:05 ID:RlQAh3/wO
感謝。上位3位にRキャラが2人入るとはRキャラの人気すげぇ。あとユアンの人気もすげぇ。

遅ればせながら新作乙です。クレスはミントと会えるか…?
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 21:35:41 ID:bAm6rztvO
まあ、酢飯がグリッドの輝石に吸収され、ミトスが戦意喪失して、ティトレイが改心したこの流れだと、
マーダー四天王の最後の一人であるクレスが、ラスボスマーダーの座に着くのはほぼ必然だしなあ。
ラスボス補正を計算に入れれば、これほどまでのしぶとさも一応納得は……

ってあれ? どうして初代主人公がフツーにラスボスの座に?
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 21:55:07 ID:Y0GwmFdiO
ラスボスマーダーならむしろここで死ななきゃならんのでは?
アナザーは反バトロワ的なところがあるからしぶといのは分かる気がする。

むしろキールがまだ優勝狙ってるのが怖い。
普通なら鼻で笑うが、キールだしなあー。
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 01:45:39 ID:xHwxoOqE0
いや全然いい
すごく面白かったけど
すごすぎて本人以外に続きが書けなさそうだと思うんだがwwwwwwwwww
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 03:12:50 ID:QcHNnWmCO
凄い人は三人いるから大丈夫
127名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 15:30:01 ID:in77el6X0
とにもかくにもようやくこれで西が動いた。
次はグリッドが来るだろう北か、ソーディアンバトルか、ミントか…
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 17:09:41 ID:4EAXwftI0
>>119
トーマとミミーは同着かこれも愛の力?
確かにRキャラ多いな、本編シリーズじゃ一番参加者少ないのに

キールがメルディを優勝させるってのもなぁ
ただ優勝させてもメルディが救われないのはキールもわかってるはずだし
どうするつもりなのか皆目見当がつかん
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 17:44:03 ID:LjTIUqh/O
全身装甲無し≠見て一瞬思った



今のクレス全身黒タイツだけなのか・・・w

・・・・・・ちょいと零次元斬浴びてくる
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 19:30:35 ID:e2TjJDMl0
それだけならまだいい。今はキールの雷閃拳、高圧電流を心臓に当てられたわけだから、
つまりタイツがそこだけ燃えて片方の乳首が(殺劇ぶこーけーん)
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 19:45:55 ID:O+rKcCP+O
甘い、甘いぞぉ!!
全身に裂傷だから所々破けて変態度更にアップ!!
132名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:36:04 ID:e2TjJDMl0
なんてこった……こっちのクレスは中身シリアスなのに、ヴィジュアルがやばすぎる!
どこか服か鎧を調達できる場所は……

G5町(こんがり焼けました)
E2城(ぶっ壊れました)
B2塔(禁止エリア)
G8教会(遠すぎる)
C6城(え、そんなのあったっけ?)

C3村(ジャッジメント)


\(^o^)/
133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 22:36:30 ID:tr6b8ECS0
いっそ死者の服パクれば・・・いやなんでもない
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 22:52:36 ID:Aqw0GSZt0
いっそミントの服を脱がせてパクれば…おや、こんな時間に誰か着たようだ
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 23:25:57 ID:ZvnW6hIrO
目が見れないことがいいことになりそうなヨカーン(゜▽゜)
136名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 23:41:38 ID:khJNVevJ0
下手したら所々破れた全身タイツから素肌が見えてるんじゃなくて
裸に全身タイツだった何かがまとわりついてる状況かもしれないんだな

そんな状況でヴェイグ達の前に出たら問答無用で
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:14:16 ID:4h+THj3LO
ヴェイグ「ウホッ! (ガタイが)いい男!」
クレス「殺らないか」
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:27:25 ID:czkH96/Z0
ちょwwそれ本編じゃねえかwww
139名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 08:09:41 ID:csx/HoztO
仮にだ。もし仮にあの姿で元に戻ったとして……………あの姿で敬語のままダジャレを言うとしたら…………。
……すごく……………変質者です………………。
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 12:30:04 ID:8jTOp1VD0
元に戻ったとしても、この格好見た途端に羞恥で発狂するわw
元に戻るなら、多分その場所にミントもいるだろうし。ほんと逃げ場ねーなクレス。
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:00:47 ID:J+h1M5q00
投下します。
142勇者の落日 −HERO- 1:2008/10/31(金) 00:01:52 ID:czkH96/Z0
どうやら…………西の局面も落ち着いたようですね……。
大なり小なりの駒落ちはしてしまいましたが……総合的にはこの局面、彼女の、紡ぎ手の勝利といってもいいでしょう。
最後の最後で狂戦士を詰み損ねたのは失着ではありますが……
いや、これは……なるほど、ならば已む無し……ですか。未だ決着が付いていないのでは……
ともかくこれで駒が再び散り始めました。接戦を制した彼女の先番、どの局面から崩しにかかるか……んん?
B3ですか……? いや、失敬……ですが、これは悪手でしょう……

死活という言葉がありますように、駒には活きた駒と死んだ駒があります。
これは単純な生死の問題というよりは、影響力という概念で語った方が分かりやすいかも知れません。
ポツン、と取り残された駒。空気のように、いるはいるが、その存在を有難がることのできない駒……
あるいは…………動かさなければならない駒があって……そのため動かす暇も無かった駒……

今、貴方は思い出した……幾つかの、誰の口の端にも上がらない、本当に終わってしまった駒を……
序盤から中盤にかけて、殆ど差されなかった駒を……クククク……

閑話休題ですね……早い話が……盤上の状況に即して機能しているかどうかという話です……
C3というこの盤上の集中点……メーンイベントより出てしまった彼らは死駒。
物語に例えるなら本筋から掃けてしまった役者……そんな役者しか居ないこの局面はいってみれば、サブイベント。
放置しておいても差し支えない……メインを進行させてしまえば掻き消える秋の夕日の如き小さな勝負所。
どっちが勝っても駒を活かすことができないのであれば……彼にも彼女にもそんな勝負に貴重な一手を投ずるメリットはありません。
もっと他に、打つべき重要な場所はいくらでもあるのだから……

それでも彼女は打ちました……敢えて逃げる天使に剣士を向けた。理に背いて、利を捨てて……
なれば、この座興に付き合わなければなりますまい。
143勇者の落日 −HERO- 2:2008/10/31(金) 00:02:24 ID:czkH96/Z0
この物語を構成するは一刀一対の駒が二つ。
明かされている脚本は二枚……炎の過去と、氷炎の現在。
今から語る物語の未来を見るだけならば……この二枚だけで事は足りますが……
まだ見ぬ未来に『行く』ならば、少し、足りません……少し時を遡らなくてはならないでしょう……
もう一つ、理詰めにて知ることのできる棋譜がありますね……
二人の現在と、一人の過去が明らかになっているのであれば畢竟……あるはずなのです……『もう一人の過去』が。

過去も、現在も、未来さえも、この世界では事実以上の意味を持たない……
ですが過去の事実を知ることで……未来の事実は意味を変えることもある……
それは……スコーンにジャムを付けて食べるようなもの……
人によっては、元の方がよかったかもしれない……人によっては、つけておいしかったかもしれない……
いずれにせよその味を、人は真実というのです……つまり、真相真実とはジャム程度の意味しかない……
過去と、現在…………2つの点と点を結ぶ線は既にありますが、これを面にするためには…あと一点が必要……
今から語る物語は、過去。進めなくてもいい物語を知るための、知ってもいても知らなくてもいい物語。

けれども……未知の立場を取れば線は繋がりません。ならば私は……ただ訥々と語るのみ……
過ぎ去ったプロセスは本来知ることはできない……しかし、現在と過去の三角測量から“読み取る”ことは出来る……
時間は不可逆……その一方的な法則に逆らって、この棋譜を読み取りましょう。

これは、世界を結ぶための物語の破片より結ぶ路――――ジャムの如き余興、食べすぎにはご注意を……



144勇者の落日 −HERO- 3:2008/10/31(金) 00:03:07 ID:J+h1M5q00
夕方の、空が赤みを帯びている頃のことである。その赤い夕日を斬るように、青い剣が空を飛んでいた。
既に村からは離れ剣に目があるならば、その眼下には草原が広がっている。
緑は夕日の光を浴びて、少しだけ赤く色づいている。紅葉か、まるで枯れた葉のようだ。
上から地に敷き詰められた哀愁を見下ろしながら、剣ことソーディアン・アトワイトは身体も心も空に任せ切っていた。
剣となった身では空を飛ぶなどロマンチックでも何でもないが、
本来モノとしてはありえない、何者にも触れられることのない感覚は心地がいい。
誰かを斬るために握られるわけでもなく、誰かに放置されて地に刺されているわけでもない。
誰にも干渉されない領域は、今の彼女にとって楽園に近かった。
(大分、遠くに来てしまった――――――無理もないか。手、震えていたものね。私)
彼女は、自分が予測していたよりも大きく外に飛ばされていた。
コレットの身体で剣を思い切り投げた。コレットの腕が出しうる限りの最大の力で自らを投げ飛ばした。
手の震えによって精度は狂い、方向もずれていた。僅かな震えすら、コレットの力に増幅されればここまで歪む。
その震えを引き起こしたものは何か。言うまでもない、ロイドとコレットだ。

彼女は、離れる前の光景を思い出していた。
モノクロームの海。無音の波紋。私と彼女。それだけしかない、それだけで満たされた世界。
浜辺にコレットは顔を伏せて座り込んでいて、彼女はいつも傍にいた。
静かで、波が寄っては引く音しか聞こえない場所だった。
あとは限りなく極限まで引き絞られた静寂しかない。
そこに砂浜を踏み締める音がした。コレットは、僅かに顔を上げて音の方を見た。
瞬間、波は強く打つようになり、波紋が生まれ世界は揺らいだ。飲み込むようなうねりではない。
ピントが合わずぼやけていた光景が、すっと冴えてシャープになる。
曖昧だった境界線が姿を現わしてしまったのだ。
99パーセントの陣地が逆転された。彼女と、コレットと足音の主に分けて。
だから彼女は去った。
コレットの中にアトワイトの居場所はなくなってしまったのである。
だがそれは「追放」ではない。アトワイトはアトワイトなりに、コレットを見送ったのだ。
最初から、勝負にさえなってなった。彼女には――――――まだ支えてくれるものがあったのだから。

そして彼女は空を飛び、放物線の頂点を過ぎて、下に広がる森の中へと落ちていった。





145勇者の落日 −HERO- 3:2008/10/31(金) 00:04:40 ID:J+h1M5q00
時間は少しだけ進み、森の中を歩く少年に視点は移る。
風に戦ぐ少年の金糸は、鬱蒼とした森の中でも色褪せることなく映る。
断続的な荒い息がノイズとなって疾駆を阻害しながらも、むしろその口元には乾いた笑みが浮かんでいる。
息が荒れるなんて、何百年振りだろう――――――天使の“身体”には無縁のはずなのに。
足元の雑草は慈悲もなく踏み潰され、ひれ伏すように小さく縮こまっている。
当然、彼はそんなものを歯牙にもかけない。いや、見えてすらいなかった。
彼の視野はほとんど見えていなくてもおかしくないほど狭窄していたから。
(どうして、どうして、どうして、姉さま)
彼の姉は、彼の行いを否定した。
いや、否定したのは姉ではなく、恨めしいほどに姉の面影が差す女だ。
ろくに動くことも喋ることもできない、ただ生きているだけのモノ。
姉さまに言われたわけじゃない――――――そう自らに言い聞かせれば済むだけのはずだ。
それなのに、彼の心は大きく揺さぶられている。
女の言葉は1パーセントの劣化さえもなく、姉の言葉として彼の中で生きているのだ。
外も内も、彼の居場所だけを消失させた言葉だけが内側で反響する。
『ここでもいい』
彼には、周りを囲む木々の影が自分を蔑む人々の影に見えた。
風に揺れる葉の音が、侮蔑の声に聞こえた。
愛しい姉の髪の色に似た優しい緑たちは、彼を冷たい目で見下ろしていた。

そうだ。いつでもどこでも、僕たちを見ていた目は何も変わらなかった。
僕が最期に決めた場所でさえ、居場所は僕を拒む。
居場所なんて、探したってどこにもないんだ。
146勇者の落日 −HERO- 5:2008/10/31(金) 00:05:59 ID:J+h1M5q00
口元に表れていた弧はなおさら侘しさと滑稽さを増して緩やかなカーブを描く。
本当は声に出して笑いたかった。それを彼は留めていた。
笑い出したらお腹を抱えてしまって、笑いと一緒に一緒に出てきてはいけない何かが出てきてしまいそうだったからだ。
その衝動を疾走へと昇華させるように、彼はなりふり構わず走っていた。
盲目に、自らの意思と目的を混同させて美化する。万歳突撃―――その言葉が実にふさわしい。
そうして彼は気づく。周りの声は、侮蔑の声であるのと同時に歓迎の声であるのだと。
「死ね」「死ね」「ハーフエルフのくせに」「人間でないくせに」「エルフでないくせに」。
子供の度の過ぎた悪口と同等の声が彼の耳に届く。
人間の汚さを見続けてきた彼にはそうとしか聞こえなかった。
悪意の声がハウリングする。彼は更に笑みを強めた。
どこに行っても、どこに逃げても、いつまでもいつまでも終わりがない。
何も変わりなどしないのだ――――どんなに自分から居場所を見つけ求めようとしても。

(―――でも、僕はそんな薄汚い悪意に埋没するつもりはない。したくないんだ)

木々が途切れ、彼の目の前に開けた土地が広がる。
ミトスは急にその足を止めた。もともと身体的なものではない荒息は直ぐに落ち着きを取り戻し始める。
周りを囲む木々が見える程度に視野が開けていく中、彼はすぐに気がついた。

「……何をしてんの? アトワイト」

枝葉に引っ掛かった情けない剣の姿が目に入って、彼は思わず噴き出した。
幸い、微少な唾液以外の何ものも出なかった。

147勇者の落日 −HERO- 6:2008/10/31(金) 00:06:37 ID:J+h1M5q00
『ミトス、何故ここに?』
驚きを含んだ声で、自分が今どれほどの醜態を晒しているかも忘れてアトワイトは呟いた。
木に引っ掛かったまま残りの時間を過ごすというのも切ない話である。
ミトスは飛ぶように木に登り、葉と葉の間に挟まった剣を抜いた。何枚かの葉が落ちる。
「何もすることがなくなったからさ」
そう言うミトスにアトワイトは何を言ってるの、と窘めようとした。
だが彼の顔を見て開きかけた口を閉ざず。
いつも自信に満ち弱さを決して見せなかったはずの彼女のマスターが、憔悴しきった表情を見せている。
隠そうとすらしていない。余程のことがなければこうはならないはずだ。
彼女に悟らせる材料としてはそれで十分だった。彼は、嘘を言っているわけではないのだと。
『子供がそんな顔をしているなんて、似合わないわよ』
「慰めてる気? 生憎こっちはお前より僕の方が長く生きてるよ」
それもそうか、とアトワイトは彼の幼い顔立ちと事実を比較しながら思った。
「それより、お前がどうしてここにいる? まあ……失敗したんだろうけど」
的確に言い当ててみせるミトスに、アトワイトは反駁の言葉を言いかけて、止めた。
失敗したのだから間違いではないし、その失敗を取り繕う気にもなれなかったからだ。
他者に飛ばされたのか自らの意思で飛んだかの違いでしかない。彼女の場合は後者だ。
『南の洞窟に置いてきた要の紋があったでしょう?』
「ああ、あったね。そんなのが」
『あれを、いきなり現れた男が持っていたの。あなたのような羽を持った男が、ね』
それを聞いてミトスの口が更に歪む。直ぐにその意味に思い至ったのだろう。
今だからこそ過去のことを笑い話にできると、そんな笑い方だった。
「……わっざわざ本当に洞窟まで行ってから、その後僕たちの後を追ってきたっての?
 傑作だね。……ま、大方あいつが渡したんだろうけど」
『あいつ?』
彼は何も答えないまま木から飛び降りた。疲れ切った顔でも、跳躍も着地も優雅な振る舞いは消えていない。
多分、元からそういう性格なのだろう。服に付いた土埃を払って、そんなことを考えていたアトワイトをミトスは地に突き立てる。
思いのほか力強い感触に、ミトスは今何がしかの感情を抱いているのだと彼女は考えた。
「白が黒に引っ繰り返らなかった時点で、僕の失敗は始まっていたってことさ」
『そうかしら。私はそうは思わないけれど……少なくとも、あなたに従っている内は』
「どうしてさ?」
『あなたが成功していると思っていたから、私は失敗したと思ったの。あなたが失敗しているなら、私は成功していることになる。
 私は、今の状況が成功によるものだとは到底思えないわ』
少しだけ目をパチクリさせてから、ミトスは思い切り笑った。
「失敗の成功は失敗、成功の失敗も失敗ってこと? 違うよ、アトワイト。
 お前はもっと失敗だ。失敗している奴にのこのこ付いて来たあたり、愚かと言ってもおかしくない」
笑いながらそう答えて終えて、彼は溜息をつく。
「ただ、その理屈なら成功にも成り得るかもしれないね」
アトワイトは息を呑み、何故かと沈黙を通じて尋ねた。
しかし彼が答えることのないまま、森は静けさを保っている。
彼はアトワイトの隣に座り、木に寄り掛かった。
『1つ聞いてもいいかしら。何故、カイルが要の紋を持っていたと思うの?』
「―――簡単だよ。そうでなきゃ僕がつまらないからだ」
実に子供らしい単純な理由だ、と間断無く言い切る彼女は思った。同時に、ミトスは“まだ”子供なのだと理解した。
148勇者の落日 −HERO- 7:2008/10/31(金) 00:07:13 ID:J+h1M5q00
子供、という言葉で次にあのつんつんオールバックを連想した。
傷付いてでも向かってきて、罠が設置されていた落とし穴にも引き止める手を伸ばしてきた。
心臓を失っているのにも関わらず、左手の輝石を差し出した。
そして、コレットに要の紋を返した。
その真っ直ぐな行為にはどれだけの価値があるだろう?
座り込んでいたコレットは震えていた。
彼女の精神を間借りしていた彼女には、心こそ覗けずとも感情そのものは理解できた。
あの時のコレットは嬉しがっていた。そしてそれ以上に悲しんでいた。
途中で去った以上、顛末は分からない。
けれど、けれどきっとロイドはひたむきに、そんなコレットへ近付いたのだろう。
悲しみに暮れる少女など知ったことではない。
その程度で止まるものなら、コレットが誰かに乗っ取られていると気付いた時点で諦めているだろう。
ロイドは、あの男が叫んでいたことを愚直にこなしたのだ。
『信じてみるのも手、だったかもね』
唐突にぽつりと呟いて、隣にいるミトスは彼女に顔を向けた。
信じるものなんて何もないと言わんばかりの、空しい面立ちだった。

アトワイトは思う。
ミトスの下にも誰かが来てくれたら、何か変わるのだろうか?
その仮定は同時に彼女に1つの期待を抱かせている。
もし「彼」がロイドのように追って来てくれたら、どれだけ楽でどれだけ苦しいだろう?
全て吐露してしまうのだろうか。だったら矛盾の果てに澱積したこの気持ちはどうなるのか、全く見当がつかない。
彼女は静かにコレットの幸せをただ祈った。そうすることで自分の心を核の更に奥へとしまい込んだ。
期待したところで「彼」が来るわけないのだから。
深い森の奥では夕の光は微かなばかりしか届かない。そうでなくとも、もう夜が近いのだろう。
地に広がる葉の影は、混ざりに混ざってもはや光の方が少ない。心もとなくもあり、だからこそ映える。
『私ね、もう……諦めているのよ』
「奇遇だね。僕もだよ。じきに僕の首は飛ぶ」
木々のざわめきが罵倒の声へと変わる。余りに煩過ぎて、それすらミトスにはどうでもよくなっていた。
「アトワイト、お前はまだマシだろう。僕は大切な人にすら否定された」
『それは、あなたが子供のくせに諦めたからよ』
そうだね、とだけミトスは呟く。
「そして僕は頭と身体が別々になって、お前は僕のそんな死体を見ながら、ゆっくりと石に蝕まれて壊れる。
 僕の身体が腐るところまで見れるかは、お前の気概次第。どう、笑える?」
楽しそうに、滑稽な喜劇を見ているかのように笑う。
「……元に戻すのも一応可能なんだけど、ね?」
ミトスの意地の悪そうな表情を、アトワイトは軽く流した。もう、重く流せるほどの意思が湧いてこない。
『意地の悪い。隣でずっと死体を見ているなんてごめんだわ』
戦争では、屍などただの打ち捨てられたモノでしかないから、目にもくれない。
それがずっと隣にあるだけでも、意味は大きく違う。
誰も訪れない地で、死体を見ながら永遠に未練を残すなんて。

『自分の代わりになんて言葉、もう2度と吐かせない。結局、もう終わりなのよ』
149勇者の落日 −HERO- 7:2008/10/31(金) 00:07:58 ID:J+h1M5q00
そう言い切ったとき、アトワイトはミトスが筋肉を幽かに痙攣させたのを見逃さなかった。
その意味を解そうと怪訝に思っていると、先にクツクツとミトスが額に指を当てて笑いだした。
忍耐の意味もない。彼女が素直にミトスに訊ねると、馬鹿にしたような返事が返ってくる。
「なんだ、遂にサーキットまで莫迦になったの? お前の方が先に気づいてると思ってたんだけど」
あごを上げて、見下すように南を向くミトスにアトワイトは彼の言わんとするところにようやく気付いた。
いや、ここまで大きければ厭でも分かる。彼女に、ソーディアンしか分からない『波』がうねる様に近づいていることを。
隠す気もない、ここに在るという意志の波動。おそらくミトスもその知覚能力で察したのだろう。
『でも、何……この速さ。走って出る速度じゃない』
「だったら可能性は一つしかない。遅い奴を置いて、一人で来たんだよ。
 この隠そうともしない莫迦正直さ。まあ、十中八九アイツだ」
今夜の天気を見るように淡々と推論を述べるミトスだが、その声にはほんの僅かにノイズが走っていた。
『……嘘』
「どうせあと一分も経たない内に分かるんだ。どうする、アトワイト」
アトワイトが絞り出した言葉を受けて、ミトスが彼女に訊ねた。
彼女がこのエリアに飛ばされたのは不意の事故だ。カイル達が気付ける訳がない。
だが、その虚薄な否定は騒音の如きこの圧倒的な存在の前には意味がない。
「僕は、もう一切がどうでもいい。だから、お前に任せるよ。
 散々僕の我執に付き合わせてきたからね。無理難題じゃなければ、手伝ってあげる。
 降るって言うならお前一人だ。僕は何処か静かなとこに消えさせて貰う」
憑きものが落ちたような無気力さを仮面と纏ったミトスの表情と言葉は、アトワイトでもその真偽を判断できなかった。
目の前の少年はこんなに近くにいるのに、なお独りだ。なのに、その裡に未だ何かを飼っている。
それよりも心を乱すものがある。来ているのだ。全てを諦め何もかもを終える覚悟を決めた今になって、彼が。
エクスフィアとなって切り捨てたはずの弱さが、今目の前に現れようとしている。
出会いたくなかったから、出会ってしまった後のことを考えたくなかったからこうしたのに。

「降るにせよ、戦うにせよ、逃げるにせよ――――――早めに決めてくれ。あと15秒も無いよ、あの暴走族どもは」

私は――――――


―――――――――――――――――

150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:12:39 ID:Ge++H0QmO
支援
151名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:15:57 ID:0D1BhqLJO
支援
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:17:03 ID:7oO/4vd3O
支援
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:23:15 ID:Bi5dXKBD0
代理投下します
154勇者の落日 −HERO- 8:2008/10/31(金) 00:24:41 ID:Bi5dXKBD0
箒を握る左腕がきゅうと引き絞られる。ディムロスの刀身が輝くと連動してブラシの部分が震える。
そこより発せられる空圧が草木樹木を揺らす様は、まるでこの後自身がこれより起こる何かを予見して戦慄いたようにみえた。
熱を纏う浮力を傾け、カイル=デュナミスはその舳先を眼前の敵へと―――――居ない。

「遅い」

水平に保っていたはずの箒がガクンと前に傾く。
つんのめってしまいそうになる身体を反らすことで凌いだカイルが見たものは、既に目の前に肉薄していたミトスだった。
「飛ぶまで待ってやるとでも思ったの?」
『ッカイル!!』
頭の温さを心底嘲笑うミトスの右足の爪先が、箒の舳先を大地と挟み込むように抑えていた。
鳥を狩るのに態々飛んでいる時を狙わなければいけない道理はない。
既にその最大速度の恐るべきを把握していたミトスは迷わず機先を制した。
瞬間移動を用いず、元より持ち合わせた速力にて大きく踏み込む。この間合いならばその方が速かった。
「だったらお前はここに来るべきじゃなかったね。相も変わらず緩い。遊び半分で僕に剣を向けるなら――――――ッ?」
カイルの喉元にアトワイトの切っ先を入れようとしたミトスの前に黒い塊が飛び込む。
(二つ、いや、三つか)
その眼が塊を数として認識する間に、ミトスの体は反応を始めていた。
ソウルイーターで一本を弾き、二本目を首を往なして避ける。
一撃目を防いだ邪剣を持つ手の痺れを感じる。痛みは無いが、重さは感じられた。唯の飛礫ではない。
三を避け切れぬと判断したミトスは已む無くカイルを殺すはずだったアトワイトをその防御に充てた。
三矢を捌いた奥に、箒を手放した手で矢を投げ飛ばしたカイルを捉える。
自らを動かすはずの箒を放し虚空を泳ぐその掌は、
ミトスに箒を抑えられる前から動かなければ間に合わないタイミングだったことを教えていた。
「へえ……最初から僕が踏み込んでくることは分かっていた訳だ。少しは成長した?」
そう言いながら笑みに組み替えようとするミトスの口元が笑み以外の方向に大きく歪んだ。
彼を見据えるカイルの眼には、一切の緩みも甘さも無かった故に。
「したかどうかは、これから確かめろよ」
カイルの持つディムロスが再び輝く。
放たれるエネルギーと唱節規模から逆算してミトスは初級術と断定する。避けるまでもない。
「フレイムドライブ!!」
カイルの周囲から飛び放たれる幾つもの火球を前にして、粋護陣を展開しようとするミトス。
だが、その火球は全て微妙な放物線を描くために、カイルに近接していたミトスを掠めるに留まった。
「――――――――カイル、お前」
『管制誘導コード感あり! 自動追尾―――――ミトス!!』
アトワイトの大声に反応し後ろを振り返るミトス。そこには火球と、未だ放物線を描く黒い塊があった。
暗がりの森の中では黒い何かとしか見えぬそれも、火に照らされれば輪郭が見えてくる。
長方体の金属の籠、黒光りするは拳銃のマガジン。そしてその籠に包まれるは鉛の弾頭とそれを弾くための発射火薬。
火球が3つの弾倉へと直撃する。
本来ならば雷管を叩かれて銃身を滑って指向的に発射されるはずの過程を全て吹き飛ばして引火される。
非常識の体系である術と常識の体系である銃、本来噛み合わないはずの二つを強引に結びつける外法によって、
発射されることの無いはずだっ弾倉は3つの驚異的な散弾式爆弾と化した。

魔的な焔に溶けた籠を突き破って鉛の弾丸が文字通り炸裂する。
位置など知らず、狙うべき敵も覚えず、唯機械的に思い思いの方向へと飛び散った。
本来なら21回に分けられて放たれる銃弾の雨が降り注いだあとに残ったのは火薬特有のツンとくる酸臭と、
幾つもの幹に穿たれた銃痕。そして、ヒビの入った氷の壁。

「やられたね」
155勇者の落日 −HERO- 9:2008/10/31(金) 00:25:45 ID:Bi5dXKBD0
耐え切れずにか、晶力を切ったからか、そのどちらとも区別のつかないまま砕け散った氷壁の奥でミトスが悪態を付いた。
『一応聞くけど、無事? よく間に合ったわね』
「一応答えてやると、掠り傷。どこかの誰かのお節介のおかげ」
頬を掠めた銃創を指でなぞりながらミトスはクスりと笑った。
彼らの目の前には、箒も少年も陽炎のように消え去っている。
『――――逃げられたわね。とっさの判断でよくもここまで』
「真逆。逃げきる所まできっかりあいつらの手の内さ。あいつ等の位置を追ってみるといい』
ミトスに言われ、彼女はディムロスの位置を探ってみる。
エクスフィアによって強化された彼女の感知範囲はディムロスのそれを上回っていた。
『止まってる? 違う、待ってる?』
「誘ってる、かな。もともと森じゃ圧倒的にあいつ等が不利だ。木があれだけ生い茂っていたら最高速度を出す距離が作れない。
 向こうは最初から、広い所で勝負するつもりだったんだよ」
本命は3次元を効率的に使える草原での決戦。戦略も何もない、あまりにストレートすぎる意思表示にミトスは口元に手をあてた。
『まったく……莫迦じゃないの!? 私達が森から出なかったらどうする気……って、考えてないんでしょうね』
相手の浅慮に腹を立てかけて、それが絶頂に達する前に萎え出すアトワイト。
それを器用だと半ば呆れるように感心しながら、ミトスは手を当てたまま意地の悪そうな声で言った。
「でも、行くんだろ?」
『わ、私は別に――――』
その言葉に口を詰まらせるアトワイト。口ほどにものを云う剣の明らかな動揺を堪能したあと、ミトスは続けた。
「向こうだってお前の位置が分かるんだ。徹底的に勝ちを狙うなら森に入ることが最初からおかしい。
 ディムロスがあるなら焼き払うことだって出来る。僕ならそうする」
考え込むような調子でミトスは続けた。抑えた手元から幽かな笑いが漏れだしている。
「それでも、向こうは不利を承知で入ってきた。なんでか分かる?」
アトワイトは無言を貫いた。その態度が、答えを理解して恥じらっていることを露骨に教えていた。

「何処まで莫迦を晒したいのかは知らないが――――――少なくともディムロスはお前を本気で取り戻す気らしいぞ、しかも無傷でだ」
156勇者の落日 −HERO- 10:2008/10/31(金) 00:26:51 ID:Bi5dXKBD0
ミトスはそれを敢えて口にした。
あの撤退劇は、アトワイトがミトスを守る防壁を作らなければ成立しない。
ミトスの向こうにいた自分達にも被弾する可能性があるからだ。
ディムロスは、アトワイトが未だ全てを捨て去っていないことを信じていたのだ。
『私は――――もう、無理よ。傷モノだから』
肺腑より一握りの酸素すら吐き出すようにアトワイトは漏らした。
悔やむことすら痛みになってしまうのだからという心が映っていた。
分かってはいる。ディムロスが本気で彼女に逢いに来ていることを、取り戻そうと願っていることを。
だが、その手を彼女は既に断ち切ってしまった。先ほどのやり取りではない。
この身にエクスフィアを埋めた時点で、あの洞窟で心を凍らせてしまった時点で。
ディムロスに咎など最初からない。全ては彼女の、ソーディアンとなった時に捨ててしまったはずの情念だけだ。
だけど、それでもディムロスは来た。ディムロス=ティンバーでも無い、ソーディアン・ディムロスが。

だったら、私はどうするべきなのか。アトワイト=エックスとしてではなく、ソーディアン・アトワイトとして。

「少し、意地の悪い聴き方だったな。最後の最後を、お前に言わせるってのは」

ミトスの声が彼女を思考の渦から引き揚げる。見上げるような形になった彼女の眼には、未だ口元を押さえ笑っているミトスがいた。
「どうにも、僕が行きたいみたいなんだよ。お前がディムロスと縁を切りたいとしても、今は困る」
アトワイトは気づいた。漏れ出す程度だった笑いが、今はもうそのままの音になっていたことに。
「あいつ、馬鹿正直すぎるよ。“確かめてみろ?”そんなあからさまな挑発なんて、今時だれも引っかからない」
気づくしかなかった。片手ではもう覆いきれないほどに、その口の端が釣り上がっていたことに。

「ああ、解るとも。これをディムロスとアトワイトの痴話喧嘩の『ついで』で済ませられるほど今のお前は安くない。
 そんな安い挑発をしなくたって、ありありと伝わってるさ―――――――どうしようもない、敵意がさあ」
157勇者の落日 −HERO- 11:2008/10/31(金) 00:28:08 ID:Bi5dXKBD0
もう手で隠すこともせずに、ミトスは笑っていた。内に溜っていた滓を全て吐き出すかのような大口を開いて笑っていた。
『貴方……』
「悪いがそういうことだアトワイト。結果はどうなろうと知ったことじゃないが、僕だって過程の選り好みくらいはする。
 あそこまで舐められ切って引籠ってられるほど、僕はヒトが進んでない」
ソウルイーターを拾いその刀身の気色悪いうねりを見て凶悪な面構えをしながら、ミトスは続けた。
「退くなら逃がしても良かったが、もう駄目だ。“TPを削りにきたよあいつ”。
 アトワイトを説得しに来たんじゃない。カイルの狙いは、最初から僕だ」
アトワイトは理解した。ミトスの頬から確かに力らしきものが幽かに逃げている。
より洗練された晶術を使うアトワイトにはもう縁が無いが、TPを削る晶術エンチャントは確かに存在する。
この場より逃げるだけならば必要のない行為。それは、勝利を収めるために尽くす努力そのもの。
本来ならば恐れるべきものを前にして、ミトスはいつものように鼻で笑うことも、目を逸らすこともせずにただ笑った。
「ディムロスの目的に便乗する訳でもなく、結果に対しなんの期待もなく、ただ己が欲望の為に来たか。
 カイル。ただ一個の存在として『僕』を狙う者よ。だったら僕も遠慮は無しだ。お前の挑発に乗ってやる」
自らのジェムを弄りながらミトスは笑う。向こうは出し惜しみをしない。だったらこちらが出し惜しみをする理由はない。
この脳細胞の全てをたった一人を殺すためだけに回転させる。勝とうが得るものもなく、負けようが失うものもないのに。
『ミトス……』
「悪いがそういうことだ。ディムロスを壊すことはなるたけ避けるが、カイルは駄目だ。世界から消す。
 時間があれば僕が村までは送ってやるが、期待はするな」
アトワイトはミトスを駆り立てる何かに思い当たるものがあった。
全てと言える姉を失って、動くはずのないエンジンを回す何かに。
ミトスがその手を止めて、ぼそりと呟く。今から自分が行おうとすることに酷く後ろめたさを覚えている声だった。
「―――――――――ゴメン。お前は部下として使えなかったし、僕はお前の支配者として足りなかった。
 だから、僕はもうお前に命令なんて出来る立場じゃない。だから、もし本気で厭だったら―――――」
『本当に、本当に莫迦ね、貴方は』
ミトスの言葉を彼女の言葉が遮る。慈しむような、呆れるような、そんな優しい音だった。

『そういうところだけ大人の振りをしてもダメなのよ。子供は、そんなことを気にしないものよ。
 好きにしなさい。私は、私達はそのついでで良いから』

ミトスの喉が音につまる。その言葉は外に出ることはなく、彼女はそれを握る手で聞いていた。

―――――――――――――――――
158勇者の落日 −HERO- 12:2008/10/31(金) 00:29:14 ID:Bi5dXKBD0
草原にふわりと浮かぶ影があった。陽光に照らされた彼の頬も、草叢も全てが赤みがかっている。
赤い天と、水平線だけしかないようにさえ錯覚するこの一面はまるで海のようだった。
『なんとか、初動はこちらの思惑通りだったが……これで来てくれるだろうか』
ディムロスは祈るような心地で胆を吐いた。
弾倉を爆弾代わりにするのは、本来氷の属性にて炎を純粋な炎として扱いきれないヴェイグの間で練り合されていた計画だった。
その作戦の全てが上手くいっていても、なお勝利の色の見えない戦もある。
ディムロスが今挑まんとしているのはまさにそういう戦いだった。
「来るよ」
カイルは淡々と装備を整えていた。指にガーネットと手にエメラルドリング。ポケットにクローナシンボル。
マガジンを含めヴェイグとティトレイに“借りた”ものの全てだった。
『随分と自信があるようだな。お前に私ほどアトワイトの気難しさが分かっているとは思えんが』
はははとカイルは苦笑した。目を細めながらも、彼はその海を眺めている。
「うん。正直言うと、アトワイトさんのことはよく分からない。母さんもあんまり話さなかったし。
 会ったことのあるのも、ほんの少しだしね。少なくとも、ディムロスほど分かってるとは思わない」
カイルの眉間に皺が蓄えられる。少しだけ溜めるようにしてから、カイルは言った。
「アイツと剣を合わせたのも、こんな赤い夕陽の中でさ。あの時はミントさんとコレットと……リアラがいて何とか勝てた」
『今度は負ける要因が無いから、向こうは来ると?』
「違うよ。負けるつもりはない。アイツにだけは、負けられない。俺はそのつもりでここに来た。
 多分、アイツもさっきそれは伝わったと思う。だから、来るよ」
要領を得ないが感覚ではなんとなく分かるカイルの言葉に無言で唸りつつ、ディムロスは黙った。
カイルが少ししてから思い立ったように切り出す。
「ディムロス。ごめん、これはホントはディムロスだけの問題で、俺がどうこうする話じゃないはずなのに。
 俺、貴方とアトワイトさんのことを利用してこの戦いにきただけかもしれない」
ディムロスは何も言わない。カイルはそのまま、少しだけ悩んでから言葉を綴った。
「でも、俺、決着を付けなきゃいけないんだ。ミトスとのだけじゃない。
 父さんのこと、リアラのこと、リオンのこと、ロニたちのこと、失うってこと、捨てるってこと……英雄ってことの、本当の意味。
 俺の中でこんがらがってるもの全部一度全部解かないと、前に進めない。ヴェイグさんの言葉を、きっと受け止められない」
それは誰に聞かせるでもないたった一人の宣誓だった。紅き夕陽に告げ、この風に誓う。
159勇者の落日 −HERO- 13:2008/10/31(金) 00:30:21 ID:Bi5dXKBD0
『それがお前の決意ならば、私は何も言わん。私は私の方で何とかする。お前は、心行くまで望むようにするがいい』
ディムロスはそう言い切った。嘗ての彼ならば理を説きミクトランを倒すことを優先したかもしれない。
だが今の彼には彼が望むことと、彼が望めるものがあった。
『だから、カイル。私はお前にただ願う。何物も欠けることなく―――――』
「生還しろ、でしょ。分かってるよ。俺だって――――』

言葉を伝うはずの大気すら掻き消すようにして、彼らを閃光が飲んだ。
森の木々を吹き飛ばすかのように極太の光の束が―――――ユグドラシルレーザーが森より放たれる。
左にアトワイトを、右手にソウルイーターをもって合された両の掌から煙が渦巻いている。
出し惜しみは、無し。その魔王の外套を超えて耀ける虹色の羽が歌うように羽ばたいていた。

「カイル、お前は此処で壊す。僕の霊魂全てを注いで、お前の存在を飛沫に変えてやる」

レーザーの撃たれた場所よりも遥か高い処を滑るように疾りながらカイルは構えた。

「約束したんだ、必ず帰るって!!」

残る全てのウィスを空に放り投げて彼は吼ゆる。

時よ逆巻け、戦いよ再構築しろ、惨劇よ繰り返せ。
彼らが望んで立ったこの黄昏の海を、その円環を破る最後の一戦と信じて。


【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP35% TP25% 両足粉砕骨折(処置済み) 両睾丸破裂(男性機能喪失)
   右腕裂傷 左足甲刺傷(術により処置済み) 背部鈍痛 覚悟
所持品:S・D フォースリング 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 ミスティブルーム
    首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ クローナシンボル ガーネット
    魔玩ビシャスコア アビシオン人形 漆黒の翼のバッジ ペルシャブーツ エメラルドリング
基本行動方針:生きる
第一行動方針:ミトスをとの決着をつける
第二行動方針:守られる側から守る側に成長する
第三行動方針:ヴェイグにルーティのことを話す
SD基本行動方針:アトワイトを取り戻す
現在位置:B3・大草原

【ミトス=ユグドラシル@ミトス 生存確認】
状態:HPUNKOWN TPUNKOWN とてつもなく高揚 左頬に軽度火傷 右頬に小裂傷
所持品(サック未所持):S・A ミスティシンボル ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み) 邪剣ファフニール
基本行動方針:カイルを殺す
SA基本行動方針:ディムロスとの決着をつける
現在位置:B3・大草原
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:31:30 ID:Bi5dXKBD0
代理投下終了です。
勝手にくっつけたり番号弄ったりして(たぶんこっちが正しいんだと思いますが)すみませんでした
同時に投下乙です。後でじっくり読まなければ
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:35:14 ID:J+h1M5q00
代理投下ありがとうございました。番号まで…感謝です。

というわけで、4ヶ月ぶりのB3でした。
ミトスのHPTPはボス臭さの演出ってことで、ひらに。

あと、マガジン爆弾はファミ通攻略本のテイルズ用語集くらい嘘くさいのですが、これもひらに。
162名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:40:08 ID:J+h1M5q00
あ、連レスすみません。一つ修正を…

11番目、17行目。

誤「悪いがそういうことだ。ディムロスを壊すことはなるたけ避けるが、カイルは駄目だ。世界から消す。
  時間があれば僕が村までは送ってやるが、期待はするな」

正「お前には申し訳ないがもうどうしようもない。ディムロスを壊すことはなるたけ避ける。
  が、カイルは駄目だ。世界から消す。 時間があれば僕が村までは送ってやるが、期待はするな」

大事なことでもないのに二回言ってますね。もうしわけないです。
163名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 00:53:25 ID:I0LgrBoo0
期待
164名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 07:26:46 ID:ykl/sPmzO
投下乙です

殺る気満々なミトスをカイルは倒せるのか、続きにwktk
読んでて思ったがアトワイトってお姉さんぽいな
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 08:17:26 ID:M4Btx3cLO
投下乙。でもソウルイーターじゃなくてファフニールだよー。
166名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 00:54:05 ID:vHuPu35t0
投下乙。しばらくは来ないと思ってたら油断した。
長文もいいけどこの位の分量もいいな。

時代はミトアトですね、分かります。
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 02:08:21 ID:ZCMNvjlO0
遅ればせながら新作乙!
ついにB3が来たか…ミトスとカイルの一騎打ちにwktk
アトワイトは確かにお姉さんだな
168名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 07:40:37 ID:D2474G+D0
マガジンをこう使ってきたか。さすがディムロスのちょっと変わった使い方の発見に定評のあるウェイグ。
でも渡したの宝石と火薬って…ホーリィシンボル渡しておけよw
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 11:17:25 ID:t95YEViZO
ヴェイグ:ガーネット、マガジン弾
ティトレイ:エメラルドリング、クローナシンボル

こう並べてみると…
170名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 12:16:42 ID:dM/mLbPa0
あれだな、親戚の子供に上げるお年玉の額が家の裕福さにリアルで反映されたかんじだ。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 17:08:15 ID:jbAX5sfl0
ティトレイは町の製鉄工場の工員、ヴェイグは田舎の酪農家(?)…地味に経済的な開きがあるな。
172名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 17:39:25 ID:i371kXXX0
俺なら農家の青年にねだるより鉄工所職員にねだるな、たしかに
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 19:21:56 ID:YJTGz/6G0
カイルも家が貧乏だからそこら辺にシンパシーを感じてねだれなかったんだろう。
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 22:31:28 ID:56VmOIEb0
いや、ヴェイグはヴェイグなりにマガジンを着火するための火としてガーネットを…
……カイルはディムロス持ってるもんなあ
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 03:12:59 ID:8UgKtK+q0
いいか、世の中には「火(フランベルジュ)と火(ガーネット)をあわせると炎(獅吼爆炎陣)となる」
というありがたいお言葉があってだな……
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 12:02:15 ID:smCl/otbO
まぁヴェイグのアイテムに実用的な物が少なかったのもあるんだろうな
ホーリィ系の効果なんて雀の涙程度だし


ヴェイグは貧乏というかクレアを氷漬けにした後1年間引きこもってたからいわゆるニーtうわなにするやめ
177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 12:54:38 ID:cWbtcb4w0
オーバーフリーズですね、分かります>ニーt

! 待て、分かった。このロワはアイテムによる回復量に制約がない。
ってことはヴェイグにホーチィ装備して樹装壁した防御ティトレイと組み手をすれば、
カイルに渡して雀の涙の回復させるよりかなりの回復量が見込めるきがする。
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 15:07:33 ID:vMxNoOMN0
クレアァァァ!!!と人の心は言葉、それが分かればインブレイスエンド。

でもま、ようやくC3戦も終わりが見えてきたな。
放送終わってからみんなで制御装置のある山にでもいくんだろうか。
179名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 16:58:49 ID:VWHXH/bkO
いや、まだ問題は残されてるはずだ。
その内容は言うまでもないが、詳しくは展開予想スレにでも。
180名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 03:31:20 ID:Nx+yLQnI0
そうだな、問題はまだ残されてる
破れた全身タイツから素肌を見せまくってるクレスとか
181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 10:43:55 ID:cyfmdZsB0
もういっそ全部脱いでもいい気がしてきた。
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 11:45:32 ID:Ta8KIDU1O
股間のエターナルソードでアルベイン流剣術をですね
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 13:16:23 ID:h0dc4HYjO
>>182
そのビジュアルでの秋沙雨は激ヤバだとおもうんだ
184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 13:36:20 ID:+d9iuZvRO
>>183
PS版以降の次元斬も大変なことに…
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 19:33:55 ID:TagnYIvq0
>>182-184なるほど、クレスは発狂してミントをそんな風に攻撃するんですね。わかりま・・・あれ、こんな時間に誰か来たようだ。
186阿部高和:2008/11/05(水) 02:44:29 ID:U46enZCrO
俺と突き合いたい男がいると聞いて飛んできたけど、
このスレでいいのかい?
187名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 06:58:25 ID:JZ/Y1Fw9O
>>186
ニコロワにお帰りください
188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 07:31:04 ID:9SiTK0WtO
おまえらそろそろ自重しやがれー!
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 14:43:15 ID:z/ZARpi/0
そうだぞおまいら、ということでそんなことよりうちの弟の話しようぜ。つまりミトスとかティトレイとか。

ミトス&アトワイトとカイル&ディムロスどっちが勝つかね。総合戦力的にはミトスがやや上?
どっちかが勝って帰還するか相討ちor時間切れでドローか、
ヴェイグとティトレイの前例もあるから和解して二人とも帰還って手も捨てがたい。

どっちが生き残ってもどっちも死んだり生きたりしてもおいしいから困る。
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 17:03:20 ID:w+nMXys0O
二人とも理想を追っかけるあまり周りが見えないガキって感じだ
ただ冷静か熱血かの違いで
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 17:09:31 ID:9SiTK0WtO
もしカイルが死ねばヴェイグは……
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 17:19:36 ID:BCwUYc2a0
どうだろう、ミトスは完全に殺る気だからな
ヴェイグとティトレイが戦ってたのは、ヴェイグがティトレイをマーダーだと思い込んでたのが主要因で
基本的にはどっちも戦うつもりはなかった。だから和解もできた。
カイルとミトスはリアラのこととかがある分一筋縄じゃいかないだろうな

でも新生ソーディアンコンビとかシスコンバーローコンビとかも見てみたいなぁ
193名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 17:51:48 ID:lhBAPktF0
>>190を見て思い出した。
ガキというのはあながち間違ってない。
カイルは15歳で、ミトスは14(+4000)歳だったはず。
もしかするとこの二人TODのマスターよりも年齢低いから最年少マスターになるんじゃないだろうか。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 23:13:12 ID:JZ/Y1Fw9O
年齢の話が出たので生存キャラの年とついでに身長も調べてみた
クレス:17歳 170cm
ミント:18歳 162cm
グリッド:10代後半? 170cm辺り?(資料が無かった)
キール:17歳 174cm
メルディ:16歳 157cm
カイル:15歳 160cm
コレット:16歳 158cm
ミトス:14歳(+4000) 153cm
ヴェイグ:18歳 183cm
ティトレイ:17歳 178cm
全員10代だと…?
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 00:23:33 ID:Wj5mVC5n0
グリッドは原作の駄目ッぷりを考えると、大人になれなかった20台の可能性も棄てきれない。
グリッドが最高年齢、ミトスが最低年齢……だと……?
なんかソーディアン連中が高校の先生か何かに見えてきた。
しかし設定的なことを知っていても、メルディがカイルより年上なのはやっぱ違和感だなw
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 08:32:43 ID:RKyrC4U5O
まあテイルズって作品自体、メイン客層が中高生なんだから、
キャラの年齢が10代半ば〜後半に集中するのは当然っちゃあ当然だしなあ。
ロワ終盤でキャラが絞り込まれれば、なおさらってとこか。

そういや、「ソーディアンが高校の先生」のくだりで、
某所で見たテイルズキャラを使った学園もののパロディSSを思い出した。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 14:49:40 ID:j7Uzm7t/0
まず参戦した大人の絶対数が少なかったからね。いても大体敵役。
たぶん一番長生きして対主催牽引してたのはトーマだろう。実働時間短いけど。
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 17:34:20 ID:IoUgKUqF0
グリッドを20歳にして平均出したら16.8歳だった。
実際数値にしてみると少し微妙な気分になるな、まあバトロワ原作は中学生だったりするけど

それにしてもミトス小さいな、クレスも170の半ばはあると思ってた
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 00:14:30 ID:fneWYZIP0
大体平均17歳か。遅い奴ならまだ成長期残ってるか?
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 05:26:20 ID:5MiaBEBL0
ルークさん曰くまだ成長期だそうです
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 16:42:42 ID:C1pSStGxO
俺、グリッドは20代後半ぐらいのオジs…オニイサンかと思ってたww
あとわかってるとは思うが、古代勇者組の実年齢は外見年齢+4000じゃないぜ。あの設定はあくまでも『およそ』の話だろ?
しかしカイルとミトスが和解する未来図は想像できんな…戦いの行方の如何はアトワイトが肝かな…続きが気になるなぁwktk
202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/08(土) 01:36:44 ID:+Jn7LN6f0
アトワイトはなんのかんのとデレフラグ立ててるからなんとかなりそうな気もするんだけどねえ。
ロイドのラブアタック間近で見て乙女センサーがキュンキュンしてるし。エクスフィアをどうするか、って問題はあるけど。

戦力的にはどうなんだろう。
クローナシンボルがあるからイノセントゼロ対策はばっちりなんだけど…
本編で一度ヴェイグがそれで潰してるから、2度やってくれる気がしない。
しかも本編のスキルありなら、アトワイトいるからテトラスペルもありか?
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/08(土) 02:43:39 ID:vicekMHIO
とは言え、ミトスは今回もクローナシンボルの存在は知らないはず。

ミトスはガチでカイルを殺しにかかっている以上、
決まればほぼ勝ちは確定のイノセントゼロを撃ってこない理由はないだろう。

……まあ、堕ちたとは言え腐っても英雄のミトスなら、
英雄の第六感でイノセントゼロは危険だ、と察知するかも知れんが。
204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/08(土) 22:28:50 ID:QnnWzZPH0
地味にR組の動向も気になる。グリッドたちが呼びに来るけどカイルどうするんだろうか。
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/09(日) 01:06:15 ID:UUUBagMyO
R組はもう放送直前だからグリッドは間に合わないのが確定してね?
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/11(火) 17:34:15 ID:DK3FwSXs0
放送か……次はミクトランどうするんだろうね。
禁止エリア3つで村囲ってから最後にC3か、南と北をぶった切ってくるか。
207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/11(火) 17:38:32 ID:CDCRm5t+0
そうなるとR組が動くのは放送直後か、カイルがどうなるにせよロイドが死んだ以上
動かないままってのはないだろうし
首輪的にも戦力的にも早めに合流しときたいなぁ
208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/12(水) 08:35:14 ID:K0xLCS/EO
そういやミクトランはなにしてるんだろうな
ベルセリオスはハロルドに取られるし、ゼクンドゥスは見逃すし
ちゃんと仕事しろよ
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/12(水) 08:53:30 ID:gdO44joz0
見逃したのか見逃してやってるのかは判別できないけどな。描写ないし
もっとも、ミクトランにしてみればまだ湖トラップがあるわけだから油断はともかく慢心は仕方ないかも
ベルセリオスに関してはもうどうしようもない
ミクはハロルドを殺したかゾンビにしたと思ってるんだし、その上何もしてないんだから気づこうにも手がかりが

…なんにせよ、一人でロワ切り盛りしてるんだから更に仕事しろってのは酷かも
どっかの誰かみたいに過労死しかねない
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/12(水) 17:21:12 ID:jV325//R0
慢心しないミクトランなんて……!

まあでも、何だかんだで対主催のキャラが
「ウオオやっとこさここまで来たぜー!」
って扉開けたら耳血出して死んでたら斬新かもしれない
211名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/12(水) 21:31:42 ID:Sg2RK/km0
それさえ「ないない」と言い切れないのがテイルズロワクオリティ
尻血くらいまでは想定しとく
212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/12(水) 22:13:50 ID:MCpN5KzA0
まあ一代でオベロン社をあそこまででかくして
ついでにあんだけスペックの高い息子を育てたんだから
シリーズ中トップクラスに有能だと思うんだが
人気も印象も息子とイレーヌさんに全部吸い取られちまったのがなあ
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/13(木) 20:10:34 ID:FwbZQMR7O
まぁ確かに初期3作品だと,ダオスは利用されてる感多少あり,シゼルは使い魔状態。比べると確かに万能な気がしてきた
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/13(木) 21:13:02 ID:qALTixUcO
ミクトランは典型的な悪役キャラなんだよな
慢心してスタン達にとどめ刺さないし、悪趣味なゾンビリオンその上選民主義ときた
他のラスボスはここまで露骨じゃないのに
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/13(木) 21:24:03 ID:cvF+VM3QO
テイルズのボス自体根っからの悪が少ないからな
他はユリスくらいか?
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/13(木) 21:28:31 ID:NVphvam90
テンペストのこくおうとか選民主義だし私欲のためだけに大量虐殺するしで
ミクトラン以上の悪役キャラだと思うが…知名度がな
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/14(金) 00:24:41 ID:HuE2F7BH0
名前がな
218名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/14(金) 02:13:46 ID:6xyvthEU0
ネレイドはどうだ?
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/14(金) 03:04:59 ID:dRIHLXUB0
ネレイドは単なる自分の世界大好き神だな
「先に作ってたの自分なんだから戻せよー!」ってだけ
物質世界と相容れないから敵対するけど悪役とも違うかんじ
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/14(金) 10:31:43 ID:SajOkvyO0
目的はD2メンバーとあまり変わらないんだよね
俺らが苦労して創ってきた世界を勝手にどうこうすんじゃねえよって話だし。
ジューダスやハロルドだったらネレイド位の事はしてたかもな
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/14(金) 12:31:07 ID:8JMT4G190
Lだってシュヴァルツは一応救いの神だしね。
ただ救済の方法が滅びと破壊であって、負けたら負けたで相方が救済するんだし。

リメDの話だけどミクトランだって一応天上世界のビジョンはあったしさ。
まったく同情の余地の無いボスはいないんじゃないか?(ユリスは弁護する必要性が無いから除外で)
このロワのミクだって一応フォルトゥナにかなえて欲しい願いがあったみたいだし。
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/15(土) 00:49:49 ID:XxXxtPLf0
ミクの願い・・・やっぱりもっと目立ちたいのかな・・・。特典DVDではカイルにすら忘れられてたし・・・。
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/15(土) 01:14:34 ID:y4v/2sTD0
今更だがフォルトゥナってfortuneのローマ字読みだったのな
224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/15(土) 05:53:55 ID:ZKLKVYpJO
ローマ神話の運命の女神が語源だっけ
ついでにミクトランは違う神話で冥府の名前だったりする
探せばもっとあるんじゃないか?
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/15(土) 09:02:35 ID:GHttKB/00
>>222
カイルは仕方ない気が。D2じゃ1シーンしか出てないし
……やっぱ目立ちたいのかね。

ラスボスには2パターンある。
序盤中盤から出てくる因縁の敵がそのままラスボスになるパターン(ダオス・ヴァン師匠など)
実は後から操ってましたなどの理由で最後の最後に現れるパターン(ユリス・シュヴァルツなど)

ミクトランはどっちかっていうと後者なんだよね。
後者のパターンのラスボスは登場時間が短い分印象薄くなりがち。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/15(土) 20:03:49 ID:tjo0BIi00
まあダオスとの対比だろうねミクトランの立ち位置は
部下が悪人っぽいのが多かったけど本人は訳ありだったダオスと
部下が訳ありばかりだったからボスもそうかと思ったら只の選民主義者だったミクトラン
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/16(日) 23:36:56 ID:re9sAEr30
ミクトランがいないとあのオベロン連中を倒して終わりになるからなー。
マリアン人質に取られて戦ったリオン、
社会に対して明確な不満や絶望を抱いていたバルックやイレーヌ、
んでもって止めにヒロインの父親がラスボスという話になる。
勧善懲悪的な視点からだと確実に後味悪い。旧Dは特にオベロン支部長が知性的だし。

……今書いてて思ったが、ラタトスクも構造的には似てるのかな。
マルタの父親が当座のボスで、裏で糸引いてるのがリヒターというあたりが。
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 10:30:39 ID:f6SjB3PUO
そう思うと、昔のテイルズはどちらかと言えば勧善懲悪なストーリーが多かったんだな。

最近のテイルズは主人公サイドの掲げる正義VS悪役サイドの掲げる正義、ってふいん(ryの作品が多数派みたいだが。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 11:56:06 ID:lECMq4BA0
ダオスに正義がないと申したか。
というより、黒幕がいると序〜中盤の敵の正義を傷つけないように出来て便利なんだろうな。
悪いのは黒幕で、そいつを倒すためにかつての敵同士が協力するとかそういうの。

ここまで書いてベルセリオスを倒すために対主催とミクトランが協力する電波を受信した。
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 13:45:09 ID:f6SjB3PUO
>>229
まあ下手にどちらかの掲げる正義を否定しちゃうと、
それはそれでドラマが薄っぺらになるからなあ……。

個人的にはこのロワの酢飯なんかは理想の悪役。
原作のやや残念なシナリオから来たアンチ感情やE2の悲劇が原因で、
酢飯はあんなイカレたマー%
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 13:52:01 ID:f6SjB3PUO
>>230

>>229
まあ下手にどちらかの掲げる正義を否定しちゃうと、
それはそれでドラマが薄っぺらになるからなあ……。

個人的にはこのロワの酢飯なんかは理想の悪役。
原作のやや残念なシナリオから来たアンチ感情やE2の悲劇が原因で、
酢飯はあんなイカレたマーダーになったんだろうが、
原作でもこのロワばりのゲロカス野郎っぷりを発揮して本編ラスボスの座に着いていたら、
さぞやラスボス戦は爽快だっただろうにw

……逆にこのロワのキールみたいなキャラが悪役に回ったら、
ゲス野郎タイプも悪の華タイプもどちらもいけそうか?
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 18:12:39 ID:pmSz7bze0
そういう奴の正義はやっちゃった後に分かることが多いので後味が悪い
ダオスとかダオスとかダオスとか
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 20:03:24 ID:Quuyh2YZ0
>>231
それまさに本編とアナザーじゃね?>下衆or悪の花

キャラとしての良さと悪役としての良さ(性能)ってのは比例しないからねえ。
サレトーマジルバとかその例だ。公式設定がなさ過ぎてキャラとしては比較的に薄っぺらい。
だけどだからこそ見事な悪役として成立する。このロワのデミテルのように。
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 20:37:30 ID:iUn7vonAO
初めまして。
ハロルドについて質問が一つ
ハロルドってブルーアース使えないよね?
なのにブルーアース放とうとして死亡ってなってるのはなぜ?
優しい解答待ってます
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 21:03:57 ID:T0+8Tau30
>>234
本編は読んだか?まずはそれからだ。
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 21:42:41 ID:c0NtIgJ50
PCのまとめが更新されず携帯ばっか更新されてるのは何故?
かなり読み難いからPCで読みたいよ
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 23:24:25 ID:WaQXGLirO
PCまとめさんは前に体調崩してたみたいなこと言ってたんだが
その後さっぱり音沙汰がないなぁ
なんかリアルに問題でもあったのかな
238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 23:32:35 ID:iUn7vonAO
読んできました。
トーマに教えてもらってたんですね、ブルーアース
でも最後のブルーアースという名のPOMがよく分からないんですけど、普通にブルーアース発動しようとしたのかクレコメ追加でPOMまで発動なのか
どっちなんでしょうか?
何度もすいません
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 23:41:17 ID:mbU3k9iH0
そこらへんはぼかされてる感じだね。結局最後まで発動してないから断定できん。
コンボ形式で連鎖させることで最後のPOMにプルーアースのパワーを上乗せした、と個人的には解釈してるが。
240名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/18(火) 23:47:27 ID:YjzoyN040
>>238確かに気になるな。最後までいかなかった訳だし判断できない。自己解釈でいいと思う。まぁ、ハロルドはまだ活躍できそうだし、いつか最後までだすかもな。
241名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/19(水) 00:09:33 ID:nel47opgO
>>239-240返答ありがとうございます
個人的にハロルドはすごい好きなキャラなので気になってました
自分はブルーアース発動途中で死亡
ってことで解釈してみます
242名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/20(木) 16:22:29 ID:lfQSLG390
活躍か……結局このロワの謎って、参加者個人のものを除けば
・ロワの脱出方法(エタ剣による脱出はミクトランに押さえられている)
・ミクトランの動機とロワの成り立ち(フォルトゥナ作って何がしたいの?)
・ベルセリオスの存在(こいつは結局なんなのか、何をしてるのか)
の3つなんだよな……この3つのどこにハロルドが絡んでくるのかで大きく変わってきそうだ
243名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/21(金) 14:55:29 ID:1a5vls9D0
フォルトゥナならバトロワをなかったことにできるよな。説得自体は不可能ではないし、希望はあるかも。
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/21(金) 17:27:55 ID:NlNSNWdE0
フォルトゥナ=バトロワだったら難しいかもな。あいつ自分を否定する奴は許さない系だから。
もっとも、リアラをバトロワ内で殺してるところをみる限りD2のフォルトゥナと同一かも分からないけど。
245名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/21(金) 20:19:50 ID:WJ9f9dyFO
どうだろう。フォルトゥナの存在意義は人を幸福にすることだからな
バトロワの開催は矛盾しそうだ
ただ本編の鬱グロの殺し合いみたら今の人間滅ぼして新しく作り直すとかはやりそう
246名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/22(土) 00:34:18 ID:g9jF4rZPO
>>245
案外分からんぞ。

人間「幸せを手に入れたいなあ」
フォルトゥナ「なら死という生物にとって最悪の不幸を、
日常的に体感できるバトロワってシステムに放り込んだら、
不幸がいい感じにアクセントになって、幸せを存分に味わえんじゃね?
ちょうどクッキーにちょっとだけ入れた塩が、クッキーの甘味を引き立てんのと同じノリで」

なんていう風に、
「幸せ」の内容を本編よろしく曲解(……っつうかこの場合勘違い?)される可能性もあるだろうし。

もしこれを極限まで推し進めれば、
「人間は殺し合いをするのが幸せへの一番の道。
なら世界そのものをロワの会場にしちまおう。
地獄こそ人間の天国なのだ」

みたいな超ド級の電波悪役の一丁上がり、になるな。
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/22(土) 01:27:17 ID:P7QzoDrr0
面白いけど、ネックなのは本編のEDかな。
リバースの世界は少なくとも一ヵ月後に平和だし。
参加者は行方不明だけど、ピーチパイ食ってる。
248名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/22(土) 07:26:59 ID:Di8mT6Az0
正直フォルトナやエルレインって明確な未来への展望が欠けてるんだよな
世界中の人々を幸福にするといっても
それを達成したら自分達が要らない子になっちゃうし
かといってある意味慈愛の化身である奴等が苦しんでいる人々を放っておくとも思えない。
それこそエルレインみたいに人々への洗脳上等の箱庭空間を創るしか無いわけで
249名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/22(土) 08:29:43 ID:/IKriA3H0
いや、展望が無いのはフォルトゥナ達のせいじゃないんじゃないか?
まずこいつらを生み出した「全人類の幸福」っていう願いそのものがガキと言うか抽象的というか。
だからフォルトゥナはその無理難題を解くために聖女二人を作ったし、
そんな無理難題を解かされる羽目になった二人の答えは現実論か、夢想論の両極端しかないわけで。
250名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/22(土) 14:44:56 ID:bainevdU0
つか、みんなの幸せになりたいという願いが集まってレンズから神様が出来ましたって、普通に考えるとやばいな。
どんだけの願いが集まったんだよw カイルの時代から10年の間に人類に何があったんだw
251名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/22(土) 16:50:04 ID:g9jF4rZPO
第二次天地戦争(つまりDのエピソード)からの復興……は、もうカイルの時代にはあらかた済んでるみたいだし……。

それこそRPGのお約束である、宗教団体=悪役の法則にのっとって、
アタモニ教団の過激派がヤバい教義をD世界に広めるとか、
テロ行為で世界情勢を不穏にさせたとか、それこそパンピーの洗脳でもやったとか?
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/22(土) 20:48:11 ID:Di8mT6Az0
確かアタモニ神団とフォルトナ教って宗教としては別口なはず
弾圧されずにすんだのはエルレインが実績出しているのと
アタモニ教自体がその土地によって教えを受け入れられやすいよう変えているからだな
253名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/23(日) 00:23:14 ID:rO5ECAID0
宗教として別口。なるほど、そういうのもあるのか。

カイルの時代→アタモ二神団
リアラの時代→エルレインが頑張って改宗してフォルトゥナ教…ってことか?

でも、ダンダリオンとかガープとかのエルレインの私兵ってフォルトゥナ教に属するんだろうか。
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/23(日) 01:57:04 ID:1kgVjGbxO
>>253
そんな時のために、ファンタジー世界には便利な役職がいくつかあるぞ。

つ神殿騎士
つ異端審問官
つ悪魔祓い師(エクソシスト)

実体は私兵だろうが、この手の名前を借りれば武力行使は神の名の下に正当化できる。
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/23(日) 05:59:11 ID:flZeWgyN0
十年後の世界に四英雄がいないのはやっぱりそいつらに断罪されたからだろうな
第二次天地戦争の十数年後に活動を始めたのは人々の英雄への依存心が無くなり始めたからとか
これを突き詰めていけばフォルトナのロワの目的も英雄達を殺し楽に布教活動をする為と解釈できるな
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/23(日) 12:28:28 ID:uzYJyuO90
?ミクトランはフォルトゥナを作るためにロワしてるんじゃなかったか
まだ出来てないもんに目的も何も無い気が
257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/23(日) 14:01:46 ID:1kgVjGbxO
なら、ミクトランは天上人国家をまとめ上げるための象徴兼武力として、
フォルトゥナ復活を目論んでいるとか?

要するにミクトランは、フォルトゥナ教を天上人国家の国教とした、宗教国家を作り上げるつもりでいるとかかな。

フォルトゥナ教の教義で国を一枚岩にまとめ上げ、
傘下に下るのをよしとしない相手は実際にフォルトゥナを顕現させて「神罰」をプレゼント。
フォルトゥナ教の布教先=天上人国家の植民地は、D世界のみに留まらない全テイルズ世界。

そのために邪魔になる各世界の英雄や他の悪役勢力の首領etcの不安要素はロワ会場でまとめて始末して、
ついでにフォルトゥナ降臨の儀式のための生け贄になってもらい、一挙両得で万々歳。


……なんて悪役のテンプレートじみた、ヒネりも何もあったもんじゃない真相は、
多分このロワに限っちゃ有り得ないだろうけど。
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/23(日) 20:27:11 ID:xUrKTkWO0
曰く無限のエネルギーと万能の変換機である神の眼製のフォルトゥナが欲しいみたいだから
宗教国家にするかは別にして全並行世界の征服はありうるだろ。
ただのフォルトゥナでさえあそこまでのことができるんだし。
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 20:11:17 ID:Dom9dtd30
D2のフォルトゥナって神の目じゃないのか? EDですごく大きいレンズだったと記憶してるが
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 21:07:26 ID:qUhSe9MB0
投下します。
ちょっと長めなので、お時間がある方は支援よろしくお願いします。
261おわりのげんおん/phantasm scape 1:2008/11/24(月) 21:09:26 ID:qUhSe9MB0
もうずっと歩いてきた。ある1つの目的のためにずっと彼は戦ってきた。
けれども大切だった少女に彼は否定されて、彼もそれを思い出して、旅は終わってしまった。
ぼろぼろになった彼を休める安息の場所は、足元にある冷たい地面だけ。

演目を終えた彼に拍手を。そして今一度のアンコールを。ささやかに幕を開けるこれは、もう1つの愛の物語。





何も見えない。光の射さない無明の世界が広がっている。
頬を撫でる冷気を孕んだ爽やかな風。まるで全身の熱を奪っていこうかとするような無慈悲な風に、私の身体は震えました。
――それでも私は歩いて行きます。例え目の前が真っ暗な世界だとしても、臆せずに私は歩いて行きます。
頼りにすべきものはこの杖だけ。モノを掴むという感触がとても心強い。
それもこの内側から悲鳴を上げる身体の前では、心もとない存在かもしれません。
杖を前に出すたびに地面に散らばった何かに引っ掛かり、それに手をかけ、力を振り絞って越えていくのですから。
息を吐くたびに、黒い視界が白くぼやけていく感覚に襲われます。
途切れ途切れにこぼれる息に紛れた声は、もはや言葉を成していませんでした。
「……あぅっ!」
何かの残骸の先にも同じようなものは広がっていて、そのままつまづいてしまうことも多くありました。
体勢を崩し、がらがらと盛大な音を立てて私はその中に埋もれてしまいました。
けれども、私は手離しません。
まっすぐに伸びた棒切れも、必ず会ってみせるという希望も。
そして膝をつき、手で何とか礫を払い、杖に力を込めて立ち上がるのです。
ぐっと地面を押さえつける感触が杖から手へと伝わり、踏み締めるような確固とした手触りは私に活力を与えてくれました。
まだ大地の上に立つことを私は許されているのです。
ならば、許されている限り歩みを止めてはいけないのが道理でしょう。
正直に言ってしまえば、心の中で澱む不安は私の心を切り裂き、引き千切ろうとし、
いつも止めてしまえ、諦めてしまえと囁きかけています。
それでも、前へ進みました。
耳は塞ぎません。片方の手は杖を握るために、もう片方の手はあの人を見つけたときに彼の手を握るため在るのです。
あの人を、クレスさんを止めなければいけない。
その思いだけが、私を前へ前へと進ませていきます。
ティトレイさんは今頃、あの場にいた2人を止めていることでしょう。
とても救われたのと同時に、嬉しかった。
分かっていたからこそティトレイさんは私を1人で行かせてくれたのです。
もしあのまま着いてきてしまったら、どちらもクレスさんに殺されてしまっていたかもしれない。
私が言うのも何だか不思議ですけども、クレスさんはとても強い方ですから。
勇猛果敢に前線で戦い、私達を守り、それでも優しさを失わない人。

『そんな、残念だな』
どこかにいる彼が呟きました。
『僕はもっともっと人を殺したくてたまらない。満たされない気持ちを癒す血が欲しくてたまらない』
闇の中に紛れているその人の声は、どこか嬉々として上擦っていて、寒気を催させるようなものでした。
あの人の姿が私の目に結ばれます。
裂けてしまいそうなほどの笑みが、あの人の顔面の皮膚の上に張り付いていました。
身体が赤くて赤くて、バンダナもマントも区別が付かないくらいに真っ赤で、
左手に握る剣も同じように真紅に塗られて、何もかもその色に染まっていて――――
私の知っている優しさなんて、どこにも見当たらない。

……止める? 殺される?
私は、クレスさんを心のどこかで殺人鬼と認めている?
なんて嘆かわしい女でしょうか。クレスさんはそんな人ではないと、散々口に出していたのに。

ここは閉ざされた世界。崩壊した村。空は恐ろしいほどに暗い。
緑も生命も息絶えたこの地に、私の求める優しさなど、どこにあるというのですか?


262おわりのげんおん/phantasm scape 2:2008/11/24(月) 21:12:16 ID:qUhSe9MB0
僕は歩く。よろよろと群青の空を駆り心臓の高鳴りすら聞こえないほどに激走するも時速は10キロメートル。
近寄ってくる亡骸を斬って斬って血しぶきを上げながら瞼を開けたまま夢を見る。
壁にめり込んだ頭を引きずり出して、しかし元々そこには何もないようで石だけがある。
そのまま壁ごと叩きつけて家を崩壊させ、てらてらと歯茎をぎらつかせる。
思うがままに剣を振り回した。空を輪切りにし、体液や粘液が飛び散り相手を轢殺する。
3歩進んで3歩下がるも3歩進んでいる。1歩踏み出せば足の肉が一気にそげ落ちる前に骨が粉屑になる。
灰のように散っていく血は深紅に呑まれ、色のない視界が隅々にまで澄み渡った。
聞こえてくる子供の輪唱と斉唱、
『間違っている』
『間違っている』
『間違っている』
頭を抱え耳を塞ぐも当てられる手は血に塗れ、その微かな液体に声はハウリングし何度も何度も響き渡る。
立ちながらも膝をつき、堂々と立つように跪いて懺悔を請う。
そこには血の海が目一杯広がり、じくじくと伝わる凪の中で荒々しく波打つ。
心臓の音が聞こえる。無音の静寂。
ごめんなさい。
どうして?
僕は負けていない。俺は負けられない。
どうして?
違う。違う違う違う違う。
……どうして?
握られた剣を振るうと空気が盛大な音を立てて崩れる。
そしてまた肉は断たれ血の飛沫は舞い土煙が立つ。
僕の視界は明瞭だ、真っ赤に染まっている。不透明な単色の赤で世界は実に見晴らしがいい。
目の前に門がそびえ立ち悪魔達が耳元で囁き、……ああ、誰かの泣き声が聞こえる。
ぞわぞわと小さな声が耳の表面に張り付き、這い続けている。
とても甘美な心地。それでいて、寒気を催すほどの不快感。
俺はまた剣を振るい目の前の人間を開きにした。
血の花弁が散る。それを更に僕は断つ。
断って断って断って、広がる光景は血の雨と微塵になった肉。
僕の身体が熱く火照る。

あは、よく見たら、この人ただの壁。


263おわりのげんおん/phantasm scape 3:2008/11/24(月) 21:15:51 ID:qUhSe9MB0
『僕は同じだよ』
彼は優しい音色でそう言います。
『君に接してきた僕も、人を殺してきた僕も同じ。会話をするのも人を殺すのも同じこと』
違う、という私の声は呂律が回らず言葉になりませんでした。
代わりに首を振って私は形だけの否定を示します。
真っ赤なクレスさんは寂しそうな顔をして、暗闇の中へ溶け込んでいきました。
再び真っ黒な視界へと戻って、私はまた歩き始めました。
けれども、両足は重石でも乗せられたようにひどく重いものとなっていて、ろくに進むこともできませんでした。
どちらの足にも意思を運ぶ生きた血が通っていない。
足の感覚が泥の中に沈み込んだように消え失せ、膝が何度もがくりと折れ曲がります。
そのたび私は前にのめり込んでしまいましたが、ついに私は膝をついて倒れ込んでしまいました。
頬に触れる土の感触は固く冷たく、乾いた臭いが鼻腔に流れてきました。
そしてどこか鉄の臭いすらも奥から溢れてきます。
手に力を込めて立ち上がろうとしても、全身が重く少しも持ち上がりません。
ふるふると腕が震えるばかりで、とても情けない気持ちが湧いてきます。
『君は認めたくないだけだよね?』
耳元で囁く声。
私が思わず顔を向けると、そこにはしゃがみ込んだクレスさんがいました。
前髪は血で固まり、顔面にはたくさんの返り血が付き、それでもクレスさんは優しく笑っていました。
彼の手が私の顔を撫で、さらりと髪をときます。とてもひんやりとした手。
『僕は人を斬ったよ。それだけだよ?』
それでもグローブの皮革ごしの柔らかな指の感触は、確かに人間のもので、彼のもので、
触れて握りたくなってしまう心を私は必死に抑えていました。
触れてはいけないと、どこかで私は叫んでいました。
『僕は僕だ。でも、君は僕を僕として認めてくれないのかい?』
そんなの言葉遊びです。クレスさんは簡単に人を斬るような方じゃありません。
どんな事実があろうと、何か理由があるはずです。
私は必死にそう思い込んでいました。
目の前のクレスさんは、やはり悲しそうな表情をしていました。
子犬がしょんぼりとしたときのような幼さを見せて、私の中の母性を惑わすのです。
きゅう、と胸元の奥の青い何かが苦しくなる。
どうしてあなたはそんなに悲しそうな顔をするのですか。
誰かを殺したことが悲しいのでしょうか。それとも、私が認めないから?
264おわりのげんおん/phantasm scape 4:2008/11/24(月) 21:17:20 ID:qUhSe9MB0

『君が悲しんでほしいと思ってるから、僕はこんな表情をしているんだよ。ひどいよ』
胸が締め付けられました。
クレスさんの表情はただの、皮膚で作られた仮面なのです。
そのまま彼は消えてしまいました。
残された暗闇の中、私はすすり泣いていました。
何て浅ましい女。私に否定されて悲しむ姿を見たかっただけだなんて。
それでまだクレスさんは正常だと、どこかで繋がりを求めようとするなんて。
私は――ただ、美化された理想の幻を押し付けているだけだった。

そして、けれど、私の中に構築された夢と幻は儚く砕け散るのです。
私はクレスさんが悲しむ姿なんて見たくないのですから。

闇の中に、そこだけ切り取ったかのような白い蝶が現れ、ふわりふわりと空を飛びます。
ぼんやりと白い燐光の軌跡が、涙で滲んだ目を通して映りました。
こんなに暗いのに、一体何を探しているのでしょう。
どんな花、あるかも分からない花に魅かれ、羽をはばたかせているのでしょう。
もうここには羽を休める場所すらないのに。
私はそっと蝶に手を差し出し、1本だけ指を出しました。
飛んでいた白い蝶はふらふらと指に止まり、羽をたたみ静かになった後、すうっと消えていきました。
私は驚き、蝶がいた場所に指を這わせるも空を掴むばかりで、
そこに何か光があったと、残像が目に焼きつくだけです。
ですが、不思議と悲しみはありませんでした。蝶は最後に私を明るくしていったのです。
きっと探していた花はとても甘い香りがして、たとえ荒れた地であろうと綺麗に立派に咲いているのだと、そう思いました。
突き出た指をそっとさすり、杖を握り締めます。
私は動かなくなった足を奮い立たせ、もう1度だけ歩き始めました。


265おわりのげんおん/phantasm scape 5:2008/11/24(月) 21:19:22 ID:qUhSe9MB0
それはよくあるおとぎ話。
魔王にさらわれたお姫様を助け出すために、騎士は魔王の城へと向かう。
だけど魔王の力は大きい。今の騎士の力では敵わない。
だから騎士は、魔王を倒すための力を求める。
たとえば伝説の剣だったり、封印の魔法だったり。
何であろうと、まずは力を手に入れなければ物語は先には進めないんだ。それが必然だから。
だから僕は、魔王を倒すための力を求めた。

取った方法は――――僕も魔王になること。
僕はいつしか、お姫様を助け出す騎士から魔王になっていた。

助けられる訳がない。だって、それじゃあお姫様はまた魔王にさらわれちゃうじゃないか。
嫌がるのも当然か。そして心の清らかなお姫様はさらった魔王を哀れむんだ。
そして、魔王を倒しに、また新しい騎士が。
騎士の、剣は、僕を斬って、斬って、死なない。
斬っても血は出なくてそれでも致命傷。見えない傷の中に僕の体があって包まれる。
僕の肉に僕は包まれ、俺の血で血塗れになって、ああ気持ちいい。
心臓は停止しているけど今も血潮は僕を駆け巡る。
目の前に広がるのは光源のない剣の墓標。
僕はそこに刺されたそれらを1つずつ抜いていって透明な敵を斬っていく。
魔王の城には雑魚がいっぱいいるものだから。すとんと剣はまた空振る。僕は助けに行くんだ。
緑の髪を毟って赤髪の女の蛆虫を潰して魔術師の身体にまた剣を突き刺して!
でも、でも、先に広がる無明の地平線はいつまでも果てしないんだ!
だって、俺は騎士じゃないんだから!!

(うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァッッ!!!)




僕が今まで見ていたミントはミントじゃなかった。
必死に魔王から助け出そうとしていたミントはいなかった。
あの子はコレット。似てはいるけど全くの別人だ。
僕の眼は幻想しか映してなかった。救うべき姫も滅するべき魔王も、助け出す存在であるはずの騎士さえも。
――違う。僕はこれからもこの光景を映し続けていくんだろう。
僕が本当に探している人を、ミントを見つけられない間は。
ミント、ミント。コレットと似ている人。でも――――どんな人だったっけ?
僕の中からぽっかりと抜け落ちてしまっている。輪郭さえも浮かばない。
僕が狂おしく求めている人であることは分かる。でも、誰なんだろう。

どこかにいるだろう、僕が知らない本当のミント。君は今どこにいるの?
僕が目を離していた内に、君はどこに行ってしまったの?
手が届くところにいるのか。それとも、僕が手が届かないところまで落ちてしまったのだろうか。
少なくとも僕の目が幻の霧に包まれている間は、現実にいる君の姿は見えないんだろう。

なら、ならせめて。
現実の中にも僕の形骸はあるだろうから、どうか僕を見つけ出してくれ。
歪み、止まり切ってしまった心を動かしてくれ。
僕はひたすらに力を求めたけれど、結局、君を見つけ出すための力はどこにもない。



266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 21:20:24 ID:NNOc7pXRO
支援
267そのひとがうたうとき/The Saver 6:2008/11/24(月) 21:21:23 ID:qUhSe9MB0

2人は視界を持っていなかった。
片方はその視界を塗りつぶされ、もう片方は視覚を血に塗りつぶされていた。
例えこの静かで荒れた村で人影を見つけたとしても、彼も彼女も視認する方法がないのだ。
故に、互いが前方に現れたとしても、2人は気づかなかった。
片や頭と胸を押さえながらふらふらとした足取りで歩き、片や杖を使って前方を探りながらよろよろと歩く。
その様子は、街角で知らない人々が横をすり抜けていくような無感傷さと同義だった。
互いを繋げ合う要素が、距離がないのだ。
よって2人はそれぞれが独立した個人として前に進んでいく。
ふらふらと歩き、疲労の果てで彼女がやっと僅かな音に気づいたときには、2人はぶつかっていた。

そして、盲目の2人は出会った。

僅かな光源が、残り少ない命の灯を懸命に点し続けるようにして2人を照らす。
足りないがゆえの光の淡さで、辺りの輪郭は曖昧になっている。
すべてが光と影で構成されていた。
そして、とても透き通っている。風が青い羽を煌めかせる鳥のように、村を泳いでいく。
物質としての形を喪失しかけているこの村は、すべてが形のない光と影の明暗で作られていた。

どさり、と力も入らない2人は呆気なく地面に倒れ、座り込んだ。
2人が顔を合わせた時、辺りを覆っていた破壊的な音色は一気に沈んでいった。
時間がぴたりと止まったかのような錯覚さえ感じる、澄み切った静寂だった。
暴れ狂うような熱を持っていた空気が一気に沈み込み、水の中のような涼しさに戻る。
音を構成する要素が分子1つ1つにまで分かれ、音を作れなくなったのかもしれない。
そうでなければ何故誰も声を出そうとはしないのか。
彼は目の前に現れたロングヘアーの少女を見つめたまま身動きしない。
この女の子の姿は、記憶の中には欠片も残っていなかった。
だけど、どうしてか目が離せない。目から視覚的ではない何かが僕に訴えかけているんだ。
頭ががんがんと痛む。まるでせめて少しでも残っていないかと脳の中を探し回っているかのように。
「……ぁ、……あ、ぁ」
エターナルソードを持ったまま、彼は側頭部を両手で抱え込み、呻くように呟く。
声を出すというよりは、息づかいがそのまま音になったようなものだった。
か細い声も、この静けさと視力を失ったことで聴力が鋭敏化したミントの前には普通に聞こえた。
「うえう……あん」
一体誰なのかと考えつつ、ごめんなさいと謝ろうと思っていたミントは、僅かな呟きだけで相手は誰なのか分かってしまった。
また幻なのだろうかとも考えたが、あの衝突の感触は嘘ではない。
姿が見えないなど理由にもならず、確信すらあった。
呂律の回らない口で、必死に彼の名を紡ごうとする。
杖を地に立てかろうじて立ち続けていた私に、大した活力は残されていません。
前線で戦わない法術士です。本来ならそのまま倒れていてもおかしくはないのかもしれません。
それでも私の意識を繋がせているのは、例え私を忘れてしまったような言葉でも、
この声が紛れもなく懐かしいあの人のものだという事実です。
だが、出会えた安息に埋もれる余裕もまたない。彼女は、彼を癒さねばならないのだから。
呻き声をなお上げ続けるクレスに、ミントは小さく1歩を踏み出す。
「うえう、あん!」
名は届かぬとも、せめて思いは届けとミントは声を出す。
全身傷だらけで血で薄汚れてしまった姿も、これまでの彼女の一途な経緯を思い返せば純白の証となる。
268そのひとがうたうとき/The Saver 7:2008/11/24(月) 21:24:00 ID:qUhSe9MB0
しかし、クレスにとっては違う。
この声もまた何かを訴えるものだった。
耳から這うように入り込んでは、僕の全ての神経を侵していく。
ノイズの奥に閉ざされているのに、そのノイズ自体が騒音を起こし阻害する。
そして蝕んでいく。絶え間ない音は僕を追い立て、どこまでも付いてくる。
誰だ、お前は誰だ、誰だ誰だ誰だ誰だ誰だあアァァァァァァァァッ!!
「……ッ、ああぁぁぁッ……!!」
目前で剣を振り回し、周囲を再び喧騒と破壊の渦に飲み込もうとするクレスに、ミントは思わず見えない目をつむった。
彼の振り絞るような痛々しい叫びと、突然の轟音に、耳からの情報にほぼ頼らざるを得ない彼女が
そんな行動を取ったのは何らおかしくない。
舞い上がった土の匂いが鼻をくすぐり、けれども悲痛に襲われた彼女の心を治すことはなかった。
喉が焼きつき貼りついてしまいそうな悲痛。
本当に、本当に目の前にいるのはクレスさんなのでしょうか?
確かにミトスからこの島でのクレスさんの行いは聞いています。ティトレイさんにもクレスさんのことを頼まれました。
それでも、私は目前で暴れ狂っているだろう人が、見知った剣士だとは到底思えません。
クレスさんの戦い方は流派に沿った、もっとスマートな戦い方。
あんな箍の外れた声はどんな戦闘でも、ダオスと戦った時でさえ聞いたことがありません。
クレスさんはもっと心優しい人です。ときどき笑えないダジャレを言ったりする、そんな人です。
ただクレスさんとよく似た声質で、違う誰かなのではないでしょうか?
それなら私を知らないのも納得できます。今、目の前にいるのはクレスさんの偽者――――

――逃避すれば、逃げられるとでも思ったのか。
一体どうしてここまで身体を引きずらせて歩いてきたのか。
仮に目の前の男が別人だとしても、クレスでなければ見捨てることが出来るのか。
答えは否です。
私はどこまでも、どうしようもなく癒し手なのでしょう。
向き合ってしまった以上、目を背けることは私の心そのものが許しません。
私の目に結ばれるのは負の幻。打ち払わねばならないもの。
そして何も見えぬ闇に正しき幻を刻みつけるのです。
クレスさんは、たった1人しかいないのですから。
269そのひとがうたうとき/The Saver 8:2008/11/24(月) 21:27:00 ID:qUhSe9MB0
落陽の村で、光を追い出して生まれ始めた影が辺りを侵食する。
すう、と手を伸ばすかのように、影法師は長くなっていく。
星さえも現れ始めた空の下、2人の逢瀬はあまりに静かだった。
例えば夜中に誰にも悟られぬようにして出会う恋人達……そんなものとは比べ物にならない。
ボディランゲージでの愛情表現など何もなく、ただ向き合うのみで交わす言葉もない。
元々、2人は言葉を持ち合わせていないのだ。
クレスは剣を振り回し、ミントはただそこに佇む。
全く交わりあうことのない独立した行為に、2人の関連性は露も見えなかった。
相も変わらず、クレスは終わらぬ悪夢に苛まれ続けている。
肌に浮かんだ汗は止まる気配がなく、髪が首筋に張り付いている。
毛先や前髪にべっとりと固まった血はもはや黒く変色し闇の一部として同化していた。
髪に混じった砂がじゃりじゃりと不快な音を立てる。
立てられた指先は頭皮を抉り、その血液量からして爪も剥げているのだろう。
けれど、痛みは感じない。
肉体的な痛みなんて、どうしようもなく不足している何かに比べたら些細な感覚でしかない。
目の前の人は、そのおぼろげな外見を以って僕に訴えかけてくる。
どれだけ武器を振るおうと、この人だけは斬ることはできないと僕の腕が叫ぶ。
魔剣の柄が異様に固くなっていくのを感じ、ただの楕円の柱になって握る心地が失われていく。
剣を動かす手が鈍る。指先が震え、柄に絡まる指がほどけていく。
からん、とクレスの手からエターナルソードがこぼれ落ちた。
目で見て取れるほどに痙攣した手の先は所在なさげに宙に浮かんだままだ。
手からエターナルソードが消えた理由が、実際に見ても分からなかった。
どうして俺の手から落ちた? 空を掴むこの手は何?
指先に力が入らず、自分のあずかり知らぬところで先端が震えている。
ただ僕は真っ赤に染まった視界で自分の手を見つめ、それが現実であるかを分からないでいる。
背の音楽には誰かの狼狽した呻き声、困惑、動悸――ああ、僕のじゃないか。
つまり、俺はもう剣を、力を握る資格はないと。
そう。分かってるんだ。剣が剣を持てるはずがないんだって。
彼に求める理由などとうに崩壊しているのだ。
彼がここに立っているのは、ただ心臓が早鐘を打ち、時に二拍ほど遅れて鼓動しているだけだからなのだ。
どく、どく、どくどくり――どくっどく――――どくん。
身体中に血液と酸素を送り、なんとも無駄な時間を過ごしている。
鼓動の速さは生き物で決められている。もはやこれはただの浪費。
この島で悔やみながら死を迎えた者もいるというのに、生を無意味に費やすとは――なんという驕り。
さようならクレス。彼が存在する場所など世界のどこにも心の片隅にも、どこにもない。
270名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 21:28:21 ID:Dom9dtd30
271そのひとがうたうとき/The Saver 9:2008/11/24(月) 21:29:13 ID:qUhSe9MB0
迸る絶叫。
痙攣していた僕の足は膝を畳み、地へと落ちる。
ぞわぞわと頭の中で何かが忙しなく蠢く。
瓶の中に閉じ込められた羽虫が行き場を求めて、ガラスにぶつかりながらも飛ぶように。
頭皮の裏側を走る寒気と痺れが僕の正常さを奪っていった。
上げられている奇声は掠れていき、どこかもう1枚壁を隔てた先にあるようなものとしか思えない。
頭を押さえ必死に痛みにこらえている姿すらもはや滑稽にしか見えない。
それほど僕は僕から遠くなってしまった。
「……あぁ、ぁ……」
ろくな言葉も発せられず、剣も落としたクレス。
普通ではない状況にミントは、自分の心が不安に覆われるのを感じた。
すぐ目の前にクレスがいるのに、とても心もとない。
彼がいつの間にか目の前からいなくなってしまっていても別におかしくないくらいだ。
自分の知るクレスが忽然と消えてしまう。そのことにミントは恐怖を覚えた。
どこかで彼を繋ぎ止めていなければ、あらゆることが終わるとさえ思った。
何も映さない目に宿る闇をかき消して、何もない真っ白な世界が目の前に現れるだろう。
終わりが来るのだ。
――心を包んでいる冷気を振り払い、彼女は目前の儚い少年がいるだろう位置を見据えた。
彼の存在を確かめたい。彼の体温を感じたい。
彼女もまた、クレスに繋ぎ止められていた。

ミントは闇雲に手を動かして彼の手を探した。
そして頭を抱えた手を探し当てると、そっと手を添えた。
手の存在に気付いたクレスは前方を向く。
そこには、ぼんやりと霞がかった視界に存在する女の子の姿。
とても線の細い、儚くもどこか強さを持つ姿。
人。人だ。肉の塊だ。
僕はもう力を持てない。力を持つ理由がない。
魔王になった騎士にお姫様を救えるわけなどないんだから。
壊して征服しきった何もない地平線を眺めるだけの、可哀想な魔王に存在意義はないんだ。
何をしていいのか分からない。何をすればいいのか分からない。だから、とりあえず――殺そう。
もう剣を握る資格なんてないけれど、こんな俺は殺すことしかできないのだから。
僕は足りない酸素を吸い込もうとするかのように首元に手を伸ばした。
そのまま組み敷き、手を思い切り下方へと押しつける。
ばさりと綺麗なブロンドヘアーが波を打って広がった。
目を細め、口を半開きにし、彼女はとても苦しそうな表情で喘いでいる。
白い手袋の嵌められた手を僕の手へと伸ばし、手をほどこうとしている。
光のない彼女の瞳に、にやりと笑っている僕の姿が映っていた。
(ころしてやる。ころしてやる……!!)
指の関節が曲がり、それが皮膚と骨に食い込む感触が心地いい。
ぎりぎりと肌が軋む。開けっ放しになった彼女の口から唾液が伝う。
ひゅうひゅうと掠れた息づかいが唯一の音で僕の耳を満たした。
彼女は手を添えるだけで、暴れもしなかった。
静かに、僕は彼女に死を与えようとしていた。まるで見たくないかのように。
それを見る俺を、ここで終わらせるかのように。
272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 21:34:08 ID:Dom9dtd30
273そのひとがうたうとき/The Saver 10@代理:2008/11/24(月) 21:40:35 ID:Dom9dtd30
暗闇が更に塗り替えられていくと、私は思いました。
真っ暗な部屋で瞼を落としたときのような、そんな感覚です。
何もない景色は遠く離れていき、細く細く絞られていく。
私は死ぬのだ、と理解しました。
頭がぼんやりします。意識が遠くなっていく。
何の思考も滑り込む余地がなくなり、頭が重苦しい灰色の空気でいっぱいになっていきます。
洞窟で体験した息苦しさがもう1度だけ蘇ってくる。
私はクレスさんに殺される。
それはとても恐怖を覚えるのと同時に、昨晩にはなかった不思議な安堵感がありました。
刃でも何でもなく、その人の2つの手で命を奪われる。
愛する人の手に、私の首を絞めた感触が残る。
肌と肌を触れ合わせて、私は死ぬ。
きっと恐ろしい考えでもあるのでしょう。それでも、私は安心することができました。
クレスさんの存在を感じたまま死ぬことができるのですから。
喉元で強烈に感じる手の感触が消えていきます。
そして私の意識も、同じように――――それで、いいの?

きらり、と何かが見えました。
それは1本の波打つ緑の線でした。やがて線は2本、3本と増えていきました。
あらゆるところから伸ばされ、あらゆるところに繋がる緑の稜線は、私を――いえ、世界を包んでいました。
私はこの感覚を知っています。
ティトレイさんを助けたいと願ったとき、あの種子から感じた流れ。とても優しく、暖かさに満ち溢れたもの。
そう、これはマナの――世界を漂う元素の流れ。
そして、流動する世界を繋ぐものであり、世界そのものの流れ。
世界の鼓動と呼吸が聞こえる。
織り合わされたさまざまな流れがメロディーラインを作り出して、それがまた重なり合って美しいアンサンブルを奏でる。
響きと調和が世界の形を作っているのです。
『ミント……』
声をかけられ、そちらの方を向くと、確かに1人の女性が立っていました。
何も映すことのない私の目にしっかりと像は結ばれています。
鮮やかな若葉色のロングヘアーの女性――私は、その方がすぐにマーテル様だと気付きました。
私の目に見える緑の稜線は、すべて彼女に集い、同時に分岐しているのですから。
マーテル様はすぐ目の前にまで来て、私の顔をじっと見つめました。
花のような、とてもいい香りがします。
274そのひとがうたうとき/The Saver 11@代理:2008/11/24(月) 21:41:27 ID:Dom9dtd30
『あなたにはたくさんの迷惑をかけてしまいましたね。私も、ミトスも』
私は首を横に振りました。こうして在れるのもきっと2人のおかげ。
辛いことを乗り越えられてきたからこそ、今の私がいるのです。
『……とても強い子。そうやってあなたは他人のために尽くしてきたのでしょう』
そんな、と身を縮み込ませて私は否定しました。
身体にせよ、心にせよ、人の傷を少しでも軽くしようとするのが私たち法術士の役目。
その力は微々たるものかもしれません。けれど、もし誰かが私の力を必要としてくれているのなら、これ以上の喜びはありません。
お褒めを頂くことでも何でもないのです。それが当たり前なのですから。
『そう……そうなのでしょうね。きっと他人のために動くことがあなたにとっての幸せ。
 でも、それによってあなたは自身の本当の幸せを蔑ろにしてもきたはず』
――そうなのかもしれません。
私はいつしか口を縛らせ、下に俯いていました。
『今は、あなたがあなた自身の願いを唱えた。あなたは自分の幸せを求めた』
……やはり、私は自分の幸せを求めてはいけないのでしょうか。
他の人を助ける以外の、ただ大切な人と共にいたいというだけの幸せを。
『いいえ。むしろそれを願えたことを、私はとても喜ばしく思います』
マーテル様はにっこりと微笑んで私の顔を見つめていました。
とても無垢で、何の間違いもないと言いたいかのように。
『あなたの溢れんばかりの慈愛は、きっと多くの人を救ってきたでしょう。他ならぬ私の弟でさえ。
 きっと、優しいあなたの言葉ならミトスに届いているはず』
ちくり、と胸が痛むのを覚えました。私は、彼が悲痛な声を上げていたのを覚えています。
私はただあの少年を傷付けてしまっただけではないかと、今も思い続けています。
それでもマーテル様は笑っていました。
ただ私を慰めようとするためではなくて、本当に心からそう願っているように、屈託もなく。
『だから……今度は、あなたが幸せになる番です。人に力を与えてきたあなたに、今度は私が力を与えましょう。
 いいえ、私だけではありません。もっとたくさんの人が、過去から続く多くの誰かたちが、あなたに力を貸してくれる。
 あなたが見たことのある人たちも、見たこともない人たちも、みんな』
私の頭に腕が伸び、髪がそっと撫でられました。
275そのひとがうたうとき/The Saver 12@代理:2008/11/24(月) 21:42:11 ID:Dom9dtd30
『あなたは、クレスを癒したいと、今も思っていますか?』
少しの間を置いて、はい、と私は思い大きく頷きました。マーテル様は手を添えたまま優しげな表情を浮かべていました。
彼女の力が手を通じて私の中に流れ込んでくる気がしました。
ですが何故でしょうか。そこには、悲しい感情のかけらもありました。
――いいえ、理由は分かっています。今の私には、クレスさんを癒すほどの源はありません。
それこそ精神を、命を……いえ、もしかしたらそれ以上のものさえ犠牲にしなければいけない。
それでもいいんです。もう覚悟はできています。
私はクレスさんに殺されることを喜びもしたけれど、
クレスさんをあのままにしておくことの方が、私にはよっぽど辛いんです。
……でも、マーテル様。あなたはそれでいいのですか?
私が多くのものを犠牲にしなければいけないということは、それは「あなた」さえも含まれているのでしょうから。
『いいのですよ。私という存在が欠けてしまうかもしれないあなたを埋められるのであれば、それは私はあなたと1つとなるということ。
 怖がるものなど、どこにあるのですか?』
その言葉に私の心は大きく震え、目元に熱いものがこみ上げてきて潤んでしまいました。
これで私は恐れることもなく決断を下すことができる。
私はここでマーテル様と出会えたことを本当に嬉しく思いました。
『永劫を生きる勇気が、あなたの中にはありますか?』
私は手を組み、目を閉じました。
『一線を越え、すべてを超越する勇気が、あなたの中にはありますか?』
そして祈りを捧げます。どうか力をお貸し下さい、と。
世界を包むメロディーが私の呼吸と重なっていきます。それは世界との契約。

「私は信じます。クレスさんと共に見る未来があるということを」
276そのひとがうたうとき/The Saver 13@代理:2008/11/24(月) 21:43:11 ID:Dom9dtd30
目を伏せた私を包み込むのは、優しく暖かな春の陽射し。
痛みのない温もりが肌に触れて、皮膚を通して内に溶けて澄んでいく。
それは人の抱擁にも似ていました。
雨が大地に染み込んでいくようにゆっくりと、草花が根を張るようにしっかりと、
暖かみは私の中で交わり重なり合っていき、やがて私そのもの――世界そのものとなっていきました。

世界を形作る稜線が揺らめき、波紋を作り出しました。
そしてその次に目の前に広がったのは――――普通の梢より一回りも二回りも太い幹と、屋根のように大きく広がる鮮やかな緑の葉たち。
僅かに差し込む木漏れ日の中で見るそれは、まさに大樹と呼ぶにふさわしいものでした。

法術は神や大地の加護によって許される術。
それなら、この力強い感触はまさにその加護だったのかもしれません。
私の力の一部として、いいえ、力そのものが私となって。
人としての境界線がだんだんと薄らいでいって――――……









青白い喉元がさらに白く燃え上がる。
クレスの手に触れていたミントの手が淡い光を発する。
光に溶け込んでいくように、白い手袋のはめられた手が指先から消えていく。
生物のいない夕闇の村は、世界は思いのほか静かで、寂しい。
しかしその光は世界に満ちる孤独さえ取り払っていくように明るく、暖かい。
首を絞めるクレスの力が少しだけ緩む。
ミントは微かに笑い、囁くように小さく口を動かす。
光が一層強く満ちた。
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 21:43:51 ID:NNOc7pXRO
278そのひとがうたうとき/The Saver 14@代理:2008/11/24(月) 21:44:16 ID:Dom9dtd30
なくなってしまえ。よろこびも、かなしみも、なにもかも。


何も存在しない暗闇の中を、僕は真っ逆さまに落ちていく。
空気を裂くような落下の感触は感じない。それでも僕は落ちているのだと分かった。
投げ出された腕は上空に伸ばされていたし、背のマントは身体に張り付いている。
髪がばさばさとはためいて、海の中にいるかのように1本1本が揺らめいている。
ここの感触は、心地よかった。
柔らかいものに包まれているような、たとえば胎児を優しく包み込む羊水のような感覚。
そして暖かな母胎の中にいるような感覚だった。
もしかしたら僕は目を閉じ、赤子として眠っているのかもしれない――――そんなことすら考えてしまう。
僕はこの静かな闇の中にこのまま埋葬されてしまうのだろう。
何もないここに帰趨し、誰の目にも見つかることなく溶けて消えてしまう。
いつか心地よい倦怠感に呑まれて意識をふっと消せば、それが僕の最後だ。
この底なしの暗闇の泥に沈んでいくように同化して、そのままだ。
だって、僕は――もう、僕じゃないから。

(クレスさん!)

ふわり、と僕の顔に何かが触れる。
ひんやりと柔らかかったそれは、すぐにじんわりと溶けて水になった。
頬を伝う一筋のそれは涙のようだと僕は思った。
ああ、僕はこれを知っている。
肌を刺すような寒さの中、彼女と外で座って見上げた――――

頬からこぼれた滴が落ちていって、闇の中で白い小さな波紋が生まれる。

身体が一気に熱を覚える。
重くなっていた瞼がぱちりと開く。
柔らかな感触の中で感じる、突然の風。
髪とマントが強くはためき、僕は持っている2つの目で闇を見る。
間欠泉のような、劇的な運動だった。
突如現れた、白さの中に色に溢れた数多の連続的な光景が下から上へとせり上がって行く。
強い風を纏って、急速に駆け上っていく。
その鮮やかさに僕は目を瞠り、首を左右に振りながらそれらを見つめた。
戦闘。会話。仲間。風景。笑顔。悲痛。憎悪。恐怖。絶望。希望。あれも、これも。
そのどれもが見覚えのある景色だった。今まで僕が見てきたすべてのものだった。
暗闇は一気に、水に浸した布のように光と色に満ち溢れていく。
はるか上空の消失点まで光景の弾幕は上り、なおも止まることなく流れ続ける。
楽しかった思い出も、辛かった思い出も、今まで閉じ込められていた箱から解放されたかのように。
その中にはたくさんの人がいる。
父さんや母さん、チェスターやアミィ、クラースさん、アーチェ、すずちゃん、……ダオス、そして――

白い世界にいる僕の中でどす黒い何かが目を覚ます。
279そのひとがうたうとき/The Saver 15@代理:2008/11/24(月) 21:49:32 ID:Dom9dtd30
どこかぼんやりとしていた頭が、すっと透き通っていく。再び明瞭になる視界。
その中で僕はけたたましいほどの叫び声を上げていた。
そうか。なんて大事なことを忘れていたんだろう。
僕はこんなにも出会いに恵まれていた。僕を形成する大切なものの1つだった。
今まで通せんぼされていたけれど、もう僕には分かる。これがどんなに尊く愛おしいものかって。
だから同時に、その輝きの下に浮かぶ黒い影が僕を掴む。
大事な思い出を忘れ去って僕は何人もの罪なき人を殺した。
命を奪う瞬間に何物にも代えがたい悦びに浸っていた。
いもしない魔王と幻の少女を作り出して、大切な人たちの思いを無碍にしていた。
一体僕は何をしていたんだ。どうして、こんなことを。
内側から溢れだす業が怨磋の声を上げながら全身を侵していく。
止めどない悔恨と罪悪感が背に乗しかかり、圧死してしまいそうなほどに押しつけてくる。
頭の中がぐるぐると回転し、自身への憎しみが僕の脳ごと奪っていこうとする。
謝罪の言葉はどこにも届かない。そして誰も帰ってこない。
駄目だ。僕は喜びに浸っていい人間なんかじゃない。
僕はこの無に還るべき罪人なんだ。
上っていく光景に触れることはできないけど、発せられている熱を感じることはできる。
その熱が僕の中で凍えた何かを浮き彫りにさせる。

(クレスさん!)

聞き覚えのある声がする。必死に、けれど感情を込めて呼んでいる。
そういえば昼間近くにも同じことがなかったっけ。
何回も何回も僕の名前を呼んでいた。だけど僕は忘れていた。
ずっと僕を呼んでいたのに、僕は気づいてあげられなかった。
ごめんね。きっと君は思い出の中にいる人で、僕は君をすごく待たせてしまったんだろう。
でも僕は君には会えない。君に会う資格がない。
こんな血まみれの僕に会ったって、君は僕をクレスだと思うだろうか?
そんな訳がない。僕だって思わない。だから僕は君を抱き止めることなんてできないんだ。

はるか先にある焦点から人影が1つ現れる。
落ちる僕に追いつこうとするかのように、影もまた落ちてくる。
ひらひらとローブがはためき、長い髪が風にあおられている。
だんだん影は大きくなり僕に近づいてくる。
その光景に、僕は――――剣の柄を握ろうとした。
280そのひとがうたうとき/The Saver 16@代理:2008/11/24(月) 21:50:17 ID:Dom9dtd30
僕は僕を待っている人のために力を求め力を得るために剣として人を殺す。
空に剣を振るい返り血を浴びて、僕の剣は更に輝きを増し錆で研ぎ澄まされる。
光のない丘にさくりさくりと剣を刺しながらずっとずーっと笑う。
飽くなき力を求め飽和した杯にいつまでも力への欲と、末に湧き出た赤い液体を注ぐ。
それが「剣」としての僕。
君が望むクレスはここにはいないんだ――――


「――――クレスさん!!」


それでも彼女は、僕の名前を呼んでくれる。

僕は剣を振るっていた。一筋の太刀は見事に空を斬り裂いていた。
裂かれた空の向こうから金髪の少女が現れる。
腰まで届く髪、白い法衣、法術師の証である帽子、優しい青い瞳。
輪郭が一気に鮮明になり、欠けていたピースが繋がっていく感覚を覚える。
今なら、今なら確かに思い出せる。
この島で出会ったあの少女に重ねていた大切な、僕が待っている――待っていた人。
その彼女に、1本の赤い線が走っている。白の衣に際立つ、鮮烈な真紅の色が。
軌跡を繋ぐように赤い線は飛沫となって道を作り、それは――僕が握る剣の先に続いている。

狂おしく僕は罪を繰り返す。僕の剣はもはや人を殺すことしか知らない。

叫び声は上がらなかった。自分でも何をしたのか分からなくて、呆然としていた。
ただただ嗚咽にも似た呻き声が口から洩れるだけで、僕は何もしようとしなかった。
僕が、彼女を斬った。大切な人を、ただ自分を否定したいだけの理由で斬った。
僕の名前を呼ぶ彼女を消せなければ何もかも終わりにできないからと、僕は、彼女を斬ったんだ。
――――なんて、馬鹿らしくて愚かしくて、取り返しのつかないことを。

降りてくる彼女は僕へと片手を差し伸べる。僕は手を伸ばすことが怖くて、動けなかった。
そんな僕の震える手を彼女は優しく包みこんでくれた。
指先が触れあう。僕はやっと届いていなかった場所に来ることができたんだ。
瞬時にそう理解するとだんだん呼吸のリズムが早まっていった。彼女とはひどく長く会っていなかった気がした。
僕は迫りくる罪の意識と、彼女を抱き止めたい欲求との中で葛藤していた。
確かに僕に彼女を抱き締める資格なんてない。
多くの人を傷付け殺し、挙句の果てに彼女の命まで奪おうとしてしまった僕に、どうしてそんなことが許されるだろうか。
けれど痛いほどに分かるんだ。この時を逃してしまったら、もう2度と抱くことなどできないということが。
僕が恐る恐る手を出すと、その手も彼女は握ってくれた。
そうだ、彼女はこんなにも優しい人だった。優しすぎて、時に人を傷付けてしまいかねないほどだった。
今この時だけは、どうか彼女の熱を感じさせてください。
包まれていた手を彼女の背へと回し、思い切り抱き締める。
剣で斬ったときとは違う柔らかい肉の感触が僕の胸を満たし、心地よい熱が余計な思考すべてを消していく。
幻じゃない。確かに彼女は、ミント・アドネードは僕の目の前にいる。
こんな僕が彼女を抱き止めていいのだろうか、という考えが今一度脳裏をよぎったが、今はただ喜びに埋もれていたかった。
281そのひとがうたうとき/The Saver 17@代理:2008/11/24(月) 21:50:50 ID:Dom9dtd30
「ミント、ごめん、ごめんね。僕は君のことを記憶の中から消してしまってた。
 違う女の子に君の姿を重ねて、本当の君のことを見向きもしなかった。
 僕のことを忘れたのかなんて聞いておきながら、本当に忘れてたのは僕の方だったんだ」
ひどく長い時間そうしていたと思う。
懐抱したまま、頭を彼女の肩に置いて僕は謝罪の言葉を吐いた。ごめんね、ごめんねと何回も繰り返した。
それでもミントは首を横に振って、言葉は唱えずにぎゅっと抱き返してくれる。
「僕は……僕は取り返しのつかないことをたくさんしてしまった。君が思っている以上に。今も、君のことを。
 それでも、君は僕の傍にいてくれるの?」
ミントは抱擁を解いてまっすぐに僕の顔を見つめた。
いつも通りの変わらない微笑みと、優しくも真摯な表情が顔に浮かんでいた。
「人は過ちを犯すものです。大切なのはそれを正せるかどうか。私は、クレスさんを信じています」
そう言って彼女は甲が傷ついた僕の手を取り、両手で包みこむ。
瞬時に痛みに引いていくのが分かった。肉が繋がり、傷口が塞がっていった。
彼女が術を唱えたのかどうかは分からない。分からないほど、そんな様子を見せなかった。
もしこれが法術だとしたら、彼女は瞬時に、言葉も紡がずに発動させたのだろうか。
ミントはユニコーンに認められたほどの優秀な法術士だ。
それでも、こんな芸当を旅では見せたことはない。
明らかに常識を超える――異常。

僕の胸に一抹の予感が過ぎる。底の見えない沼から足を掴まれたような予感が。
それをかき消すように僕はミントを求める。
ミントの手を解いて僕の腕がミントの身体まで回る前に、僕が抱き締める前に、
彼女はもう1度だけ2人の手を重ね合わさせて、唇をそっと触れ合わせた。
それが、彼女にとっての僕への赦しだったのだろう。

永久に消えてしまう体温を感じるためなのか、自分の体温を相手に伝えるためなのか。
もしかしたら相手が目を覚ましてくれるかもしれないという期待のスイッチかもしれないし、単に哀惜のメッセージなのかもしれない。
彼女の意図が本当は何であるのかは、もはや僕には分からない。
ただそんなことを考えたのは、彼女の表情がどこか永訣を思わせる寂寞に満ちていたからだ。
282そのひとがうたうとき/The Saver 18:2008/11/24(月) 21:52:44 ID:ghP+NjTq0

『さあ、もう1度問うよ。君は、誰だい?』

「剣」としての彼は僕であり、僕は彼だ。
殺意が薬の作用さえ上回って表れたんだ。それは間違いじゃない。
だけど、僕も彼ももう分かっている。こうなった以上もう満たされることはない、と。
どんなに杯に注いでも胸の空洞からぼろぼろ落ちていって、満たされない心は更に渇いていく。
そして僕が空洞を満たす何かを求めるのと等しく、僕の記憶の中にいる人たちは僕に何かを求めている。
このままではすれ違うばかりだ。
今この目に映っているのは終わりのない無の地平線。幻の向こう側には意味のない空しさしか存在していなかった。
彼では、支えるもののないこの抜け殻は重すぎる。無が空洞を満たすことなんて到底ありえないのだから。
このままでは彼女を本当に見つけ出すことなんてできない。捉えられるのは影や輪郭や一筋の記憶だけ。
幻に捕らわれていた僕には現実を見出すことはできない。
現実に存在している彼女を見つけ出すことはできない。
けれど――幻が取り払われて現れた、現実を覆う無さえもまた、幻想だ。
あるべきものの本来の姿を捉えられないというのなら、それは本物じゃない。
だから幻想を見続けている彼は、間違いだ。
そこに僕を待っている人はいない。僕を待ってくれている人は「ここ」にいる。

僕は存在を宣言する。
僕は、クレス・アルベイン。
トーティス村の生まれで、ダジャレが大好きで、チェスター・バークライトとアミィ・バークライトと仲がよくて、
後に知り合ったクラース・F・レスター、アーチェ・クライン、藤林すずらと共にダオスを倒した張本人で、
剣士で、寒いダジャレが好きで、僕が待っている人と僕を待っている人がいる。

だから僕は、幻より旅立って痛みを伴う現実の大地に立とう。
罪も業も消せないし到底償えるものではないけれど、それでも、僕は僕として立ち上がろう。





「彼の者を死の淵より呼び戻せ――――レイズデッド」





283名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 21:54:15 ID:NNOc7pXRO
284そのひとがうたうとき/The Saver 19:2008/11/24(月) 21:54:21 ID:ghP+NjTq0
彼は急に身体が前のめりになる感覚を覚えて、はっと目を覚ました。
境をなくした手が勢いよく地へと着き、手首は体重を支えきれずそのまま倒れ込んだ。
陽は完全に沈む少し前にまで落ちており、存在を大きくした夜と影が村の地面を覆っている。
地面に、人影は1人分しかない。
呆然とするしかなかった。
彼は身を起こし、けれども地に手を付け四つん這いの体勢で地面を見つめた。
今まで自分の下にいただろう少女はどこにもおらず、荒れ果てた大地だけが、透き通ったように彼の眼に結ばれている。
地に何度も手をこすりつける。土に爪を立てグローブが破けるほどに削ってみてもただめくり返るばかりで、痕跡だけが刻まれていく。
汚れのない白などどこにもない。あるのは爪に挟まった土と、静かな闇だけだ。
それが紛れもない現実であることを悟って、彼は自分の思考が整然としていることに気付く。
目が何の間違いもなく世界を捉え、耳が物音の少ない静寂にそばだてている。
身体が痛みを正確に把握し、舌が口の中に広がる鉄の味を吟味する。
そして、はっきりと昔のことを――この島でのことも思い出せる。
吐き気さえ催すような、背筋の凍る過ち。
同時に覚える、背徳的でありながらどうしようもない愉悦の感情。
一体どんな表情で行っていたのだろうか、と考えるだけで罪悪感が身体を縛める。
今更すぎる感情だった。到底許される行為ではない。
かと言って嘆いても嘆いても限りがない。それほど彼が他人に行った仕打ちは重いものだった。
背面の冷たさで止まない後悔を感じ、抑え込まなければ叫び声を上げてしまうほどの情動に駆られる。
それでいて正面の胸の奥の何かは沸点に至っていない。

彼がこのままでいられる時間は少ないだろう。
今の彼は曲がった金属を無理やり元の形に戻しただけのもので、やがて弾性によって再び曲がった形に落ち着いていく。
何の加工もされていない姿が正しい形になるのではないのだ。
一度曲がってしまった剣が元の強度になるはずがない。
再びノイズが耳の中でざわついて、瞳孔が散大し、手足の先が震え、その果てに身体が血を求める。
理性もかき消えて、剣とか、騎士とかそんなものも関係なく、ひたすら壊して奪っていく。
確かにそれは彼の性でもある。
飽くなき力を求め、ひたすらアルベインの剣技を練磨していく。
強くあることはアルベイン流後継者としての自負であり、剣士としての誉れと誇りである。
だがその力は守りたいものを守るという、剣を振るう思いがあって初めて行使されたのだ。
285そのひとがうたうとき/The Saver 20:2008/11/24(月) 21:55:47 ID:ghP+NjTq0
確かに剣はモノだ。死にもしないし、殺されもしない。
屈強な剣なら刃もこぼれないし、折れることもないだろう。
しかし、結局はモノだ。者より下の、使われる側に成り下がる。
ましてや力を求めるだけの野蛮なものなら、それは他人を傷付けるだけが能の血を吸う魔剣。
それがどうして誰かを助く刃となる?
剣は誰かを傷付けるためのものではなく、誰かを守り抜くためのものだ。
そして力を持つ者は、力に対しての責任を負わねばならない。
責任が、理由があることを思い出せないのなら、いつまでも剣は剣のままで、奪うだけの存在でしかない。
与えることなど出来やしない。

この島に呼ばれて間もない頃、自身が考えていた願いを思い出す。
「最後の1人となり、その上で全員の蘇生を願う」。
結局自分の答えは揺らいでしまいそれを決めることはなかったが、今ならその選択を選ぶことも出来るだろう。
意識する前に剣が動き人体を斬り裂く。
返しで後方の人間の腹を貫き、抜いた反動で別の人間の首を刎ねる。
きっと、染みついてしまった殺すための剣は、アルベインの剣技と同じように、自分の中で混ざりに混ざって抜けることはない。
まさに意志が握っている剣に移ってしまったかのように。
現に身体がわなないているのだ。
肉を裂く感触が、骨まで届く手応えが欲しい。内側を満たす昂ぶりが欲しい。
恨み言にさえ聞こえてしまうような自分の後悔が嘘である訳では決してない。
けれども、自分でもどうしようもない感情が僅かな理性と共に同居しているのである。
たとえミントの力で癒されようと、脳まで及んだ薬物も、犯してきた業も、湧き上がる後悔も抜け切る訳がない。
ねじれていた時間を元に戻しても、元よりねじれていた時間だ、更に複雑に絡み合ってしまう。
異常こそ正常――――この理性、「クレス」でさえ一時の幻だ。

そんな彼をミントは道の上へと立たせた。紛れもなく、彼女の手で。

ミントはどこへ行ってしまった――――そもそも、彼女自体が幻ではなかったのか?
彼は現実を捉えきれていなかった。そして捉えられる今、ミントの気配も痕跡も失せている。
だがそんなはずがない。今も彼の手には首を絞めていたときの感触が残っている。
けれども、力を抜いてしまえば手の強張りも消えていき、彼女の体温も冷たい夜風にさらわれてどこかへ行ってしまう。
彼女がいた証拠など、簡単になくなる。
286そのひとがうたうとき/The Saver 21:2008/11/24(月) 21:56:42 ID:ghP+NjTq0
彼は、せめて温もりだけは逃さないようにと手を組んだ。
手に負った傷は跡もなく消え失せており、甲はつるりとした肌を見せている。
彼女は確かにここにいた。そして彼を正気に戻した。
だが同時に、確かに彼女は「どこかに行ってしまった」のだ。
傍らに杖もサックも投げ出して、彼が見ることのできない幻になってしまったのだ。
彼女を助け出し守ろうとさんざん戦ってきたのに、結局彼の願いは叶わなかった。
それどころか逆に助けられて、いつの間にか消えてしまった。
見つけ出すための力は得ても、きっともう彼女はどこにもはいない。神々の剣技を得てなお、認知できる世界にいない。
「痛い……痛い、ミント……ミント……」
正常に戻った身体が数々の傷跡によって激痛を発する。
黒い羽の生えた男に刺された傷も、切れた目尻の傷も痛い。
だがそれ以上に心が痛い。
先程までの空しさとは違って、空洞が埋まったかわりに鋭利な刃ごと一緒に埋め立てられたようだった。
この痛みこそ現実に存在している証。
心臓が正しく鼓動するたびに刃も連動して動き、中身を傷つける。
耐えきれない痛みを与え続けながら、いつかこの刃は心臓に届き穿つのだろう。
だって、ここまで彼女を求めたのに、彼女のいない世界に何の意味がある?

――――クレスさん。

どくり、と止まりかけの心臓が脈を打った。
鼓膜が微かな空気の流れを感じた。
彼は頭を上げて周りを見るも、どこにも人影はない。
結局自分は幻に悩まされながら求めるのか、と彼は顔を歪める。

――――ふわり、と何かが後ろから彼の身体を包みこんだ。
冷えた夜の風とは違う、春先の陽で暖められたような風。
懐かしい香りが鼻腔に流れ込む。
頬の皮膚が、まるで1本1本の糸の流れを感じているようにくすぐったい。
すっと痛みが引いていき、一気に意識が風へと奪われた。
心臓が高鳴る。速く、それでいて規則的に、人間として正しき鼓動を刻んでいる。
彼は後ろに振り返ることはせずに、自身の首の前で交差する腕に手を這わせた。
生きた涙を一筋流して、彼は静かに目を伏せる。
そして彼は小さく名前を呟いた。
これは幻ではない。これだけは現実だ。
たとえ一抹の夢であろうと、現実を理解できる今だからこそ彼はそう確信した。
287そのひとがうたうとき/The Saver 22:2008/11/24(月) 21:57:42 ID:ghP+NjTq0
真に理由も目的も失くした。
それでも、クレスはクレスが何者であるかは思い出せた。自己の核を思い出せた。
もう元の形に帰結することはない。だからこそ、この僅かな時間を彼はクレスとして生きることにした。
理由も目的もないが、意味はある。力を振るう意味がある。
その意味で力を行使することがミントの願いであり、思い出の中の人々の願いであり、何より自身の願いなのだと彼は思った。
クレス・アルベインは確かにここにいたのだと、存在していたのだと。
犯してきた業は浄化できるものではない。それでも、彼は彼で在りたいと思った。
身体は奪うための剣を覚えている。いつか自我もそれに呑まれ、後悔すら覚えなくなるのだろう。
ならば自分がクレスで在る内に、本来の意味で――今まで通りに剣を握りたいのだ。
奪うための力ではなく、守るための力として。

彼は纏っていた風をほどき、落としてしまったエターナルソードを拾い上げる。
剣の重さや握り心地を再確認し、立ちあがって1度だけ真一文字に振るう。
乱れのない剣筋は、水面に走る波紋のように静かで流麗だった。
自分はまだ剣を握る資格がある。自分の思いに任せて、剣を使うことができる。
大切な人は見えないけれど、大切な人のために剣を振るえるのだ。

地に転がったままのミントの荷物を拾い、彼は東の方へと顔を向ける。
そうして彼は自分にとっての為すべきことをすべく、歩をまっすぐと進める。
既に日は落ち始め、辺りを夕闇が包みこんでいる。
それでも今度は黒い海に飲み込まれることなく、僅かばかりの時間を彼は生きていく。
288そのひとがうたうとき/The Saver 23:2008/11/24(月) 21:58:39 ID:ghP+NjTq0
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:HP10% TP20% 放送を聞いていない 重度疲労
   善意及び判断能力の喪失 薬物中毒 戦闘狂 殺人狂
  (※上記4つは現在ミントの法術により一時的に沈静化。どの状態も客観的な自覚あり。時間経過によって再発する可能性があります)
   背部大裂傷+ 全身装甲無し 全身に裂傷 背中に複数穴
所持品:エターナルソード ミントの荷物(ホーリィスタッフ サンダーマント ジェイのメモ 大いなる実り)
基本行動方針:「クレス」として剣を振るう
第一行動方針:???
現在位置:C3村西地区→???









サックの中では世界樹の種子がやさしく眠りについている。
目覚めはなくとも、すやすやと穏やかに眠っている。

つまり、どういうことかって? 彼女はいつでも彼と共に在るってことさ。



【残り9人】
289名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 22:01:34 ID:ghP+NjTq0
以上です。支援、代理投下ありがとうございました。
質問などありましたらお気軽にどうぞ。
290名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 22:04:27 ID:Dom9dtd30
投下乙! 今からしっかり読んでくるけどとりあえずひとつだけ。

おかえりなさいクレス。
291名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 22:19:05 ID:NNOc7pXRO
投下乙です。


まさかのきれいなクレス…!
でもミントはマーテルと同化?しちゃうし、クレスもこれからどうするのかもわからんな
あとミントの身体はSのタバサみたいな扱いなんだろうか
292名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 23:25:00 ID:eGeSMbsaO
投下乙です。
おかえり、クレス…!

これからのクレスの動向が激しく気になるなあ…
293名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 23:36:37 ID:Dom9dtd30
読み終わった。改めて投下乙!
ミントいるし、あるかな…でも、こんなベタベタな展開やってくれるのかな…と半信半疑だったけど、まさかのストレート。
でも、さすがにマーテルとの融合は読めなかったw 消えたのか、それとも実りの中か……
騎士としての本分を思い出したクレスが人として生きられる僅かな時間をどう使うのかwktk。GJでした!
294名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/24(月) 23:58:19 ID:yNTwWqGt0
投下乙です。
クレスおかえり…!
本編での答と比較して泣けそうになった
これからどう動いてくれるのかwktk
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 02:15:57 ID:NFLTrTzNO
まさかの本家クレス…!
続きが楽しみだ
296名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 06:56:11 ID:V4yJSH9qO
クレス、まさかの復活か。

だがこの展開が、後の鬱展開への布石にしか思えない俺は間違いなくパロロワ脳。

そしてミント、そこで撃つべきはリカバーだろ……と思ったが、
レイズデッドとリカバーどちらかしか撃てない状況だったんだろうか?
297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 08:22:40 ID:jwgbiwX/0
死んでいた本家クレスを甦らせたんじゃない?
もう麻薬だけ直してもどうしようもないレベルだったとか。
298名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 12:31:32 ID:8eVDRLBlO
薬物の禁断症状より殺人衝動の方が勝ってたみたいだしね。
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 14:53:39 ID:HW/BD5oM0
リカバー→麻薬ステータスのみ解除。ダメージは変わらず。
レイズデッド→戦闘不能で全バッドステータスを上書き。そのあと蘇生するから異常を消しつつ回復できる。

強引に解釈してみた。反論はうけつける。
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 16:43:24 ID:JpAHp3ykO
一つ良いか?
ルールにレイズデッドは発動すらしないってあるよな?
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 17:17:27 ID:MymcLj0v0
・制限を超えた威力のレイズデッド
・会場内のマナの異常
・ミクトランのうっかり
なんにしてもルールが無効化される何かが成立したわけだ

でもま、確かになにがしかの説明が文中に欲しかったな
ルールをあえて無視したのか気づいてなかったのか分からないし
302名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 17:41:54 ID:61PHQZ+DO
自己解釈としてはゼクの時止めと同様に、マーテルと融合したミントっていう参加者外の介入と解釈。
実りの中のマーテルは首輪制限がないから、マーテルと融合しちまえば、実りの中のマーテルが本体になるんだから、問題なく術が発動。
303名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 19:37:12 ID:2vnu+KROO
マナの制限はロワ世界の性質が原因であって首輪は関係なくね?
治療魔法や蘇生魔法が制限されてるのも同じ理由だと思ってたが…
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 19:48:57 ID:61PHQZ+DO
>>303
Pの法術ってマナとは関係ない。
大樹が枯れてても使えてた。
このSS内では神や大地の加護によるって書いてあるし、首輪を外してたらいけると思う。
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/25(火) 23:02:59 ID:ldP6nj700
遅くなってしまい申し訳ありません。今回の書き手です。
質問があった2点についての回答を。

1:レイズデッドについて
ルール中にあるレイズデッド禁止ルール自体は把握しております。その上であえてレイズデッドにした訳ですが。
レイズデッドが発動した理由として、「威力が制限を上回ったから」という考えで書かせて頂きました。
まず、少し前のレスにもあるように、今回のSSでミントは実りの中にいるマーテルと同化してしまってます。
そこでマーテルから力を借りて法術を発動したわけです。
精霊になりつつあるマーテルから力を借りたのならば、回復術の効果が薄れる制限も超えられる……という理由です。
とはいえ、あくまで発動まで漕ぎ付ける程度で、完全な形として発動していないのも確かです。
完全に発動したなら、それこそクレスは完全に治るとも思いますので。

また、第6クールでアトワイトがフィギュア化したグリッドを元に戻すのに
普通にレイズデッドを使っていたので、この例から考えても使えるかなあ、と思ったのもあります。
仮に制限があって通常使えないとしても、エクスフィア強化されたアトワイトが使えたのだから、
何らかの強化があれば発動・行使できるのではないか、というのも理由の1つです。


2:なぜリカバーではなくレイズデッドか
上記を踏まえて、なぜレイズデッドかといいますと。
答えは単純で、リカバーでは今のクレスは治しきれないからです。
リカバー=状態異常解除と考えると、これで治るのは実際に表れる薬物中毒だけであって、
戦闘狂・殺人狂といった、禁断症状を超えて感情に根ざした部分を抑え込むことはできない。
それこそ死にかけの元のクレスを目覚めさせなければ、それらを一時的にでも抑えることはできない…ということです。

リレー中で死人と例えられたクレスだからこそレイズデッド…というのもあるんですが、
まあ、ここは詳しく書いても無粋になるだけなので、触れないでおきます。
306名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/26(水) 00:03:03 ID:Wj3kV70T0
GJ!!まさかクレスが戻るとは・・・。そしてミントもお疲れ様です。
307名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/26(水) 00:39:58 ID:2O64x64s0
作者さん乙です。
そうか、第六でも使ってたんだよなレイズデッド。忘れてた。
308名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/28(金) 09:47:49 ID:LYGScB740
クレス関連も一山越えたし、残すはカイルとミトスのデスマッチか?
放送までの意味でも、キャラクター関連の意味でも。
309名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/28(金) 12:43:53 ID:uIyEa5yf0
キール、コレット組
メルディ、グリッド組
ヴェイグ、緑の人組
カイル、ミトス組
クレス+ミントin種組

さてこれからどうなるか
310名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/28(金) 14:45:42 ID:22zfs4TdO
放送直前までの動きが確定してるのはR組だけ、
それ以外は何かしらの動きがあってもおかしくないなぁ、とは言ってもあと20分前後だが


そういやクレスの持ち物にマーテルの輝石がないけど
ミントと一緒に実りに同化したってことでいいのかな。
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/28(金) 21:41:32 ID:OyiJZK/X0
なんじゃないかな。クレスはエクスフィアと実りの関係知らんし、気づいてない可能性はあるが。

とりあえず>>309の上3つは遠からず合流するだろうから、
あとはB3がどういう結果になるかと、クレスが対主催にどういう形で接触してくるかだな。
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/28(金) 22:38:09 ID:0yX+sTYDQ
>>309
ちょっ、緑の人って彼だけ名前じゃない。
せめてトイレと言ってくれ。
313名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 07:16:10 ID:vdyRY1/tO
>>312
激しく同意
314名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 08:29:48 ID:9t+qfjFn0
青の人、金の人組
紫の人、黒の人組
銀の人、緑の人組
金の人、金の人組
茶の人+金の人in種組

これでさみしくない
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 09:51:41 ID:vdyRY1/tO
金髪二人いるwww
316名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 09:53:07 ID:vdyRY1/tO
三人だった…
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 10:26:08 ID:6MCXaqeUO
落ち着けw
しかもミント含めたら4人だw

しかし金髪多いな。クレスも金髪扱いされる時あるし
318名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 10:40:13 ID:vdyRY1/tO
アッー!…自分の目の節穴っぷりに脱帽
319名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 13:06:17 ID:i4sJWCeXO
そういえばクレスの髪の色って結局何色なんだ
金髪っぽくも見えるし茶髪っぽくも見えるし…

瞳の色も何気に茶色だったり灰色だったり青色だったりと安定してないな
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 13:11:25 ID:Vu4MdMWu0
トーティスレッド色
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/30(日) 20:13:19 ID:SUPloJYaO
>>320
トーティスファイヴかよw
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/30(日) 23:00:26 ID:mHoxF16Q0
むしろあれだろ、
コレットがピンチになるとどこからともなく現われて敵を惨殺していくトーティス黒仮面として対主催チームを見守るっていう……

……似たようなやつが一人もういたような……(本編優勝者を見ながら)
323名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/01(月) 11:03:37 ID:x/vHANIp0
>>322
避難所のこれ思い出した。

130 :暑い夏で脳が湧いたんだ:2007/06/09(土) 22:36:51
俺、カイル=デュナミス15歳!どこにでもいる極普通の英雄……になるつもりだったんだけど
両親がダブルで死んで本当に孤児になっちゃった!!あとタマが潰れて女の子になった!

失意のどん底にいた俺の前に現れたクラトス老子は親バカ全開のノロケを
三日三晩ぶっ続け(お茶とトイレは一回だけ)た後魔法ステッキを置いて消えやがった。このマダオが!
マダオに対する怒りが上手い具合に両親の仇への復讐心に摩り替った俺は
魔法ステッキ「S・ディムロス」と一緒に空飛ぶ箒で敵討ちに行くことになった。

現れるライバル魔法天使、「S・アトワイト」を駆るマジカルバーロー!
「股間を潰されたのがお前だけだと思ったら大間違いだ…魔法元少年としての格の違いを見せてやる」

カイルのピンチに二回に一回は颯爽と現れて助太刀する謎の氷使い、責務王ヴェイグ!(主に人殺しの罪)
「クレアもヒューマもガジュマも連呼しなくていい役は久しぶりだ…」

そしてダジャレも言わなくなった空気を読まないインフレラスボスが
究極ステッキ「エターナルソード」を片手にカイルを待ち受けない!
「いや、足が折れた奴なんて相手にする気もないっすよ」

新番組「魔法元少年 マジカル☆マジカイル 〜反逆のデュナミス〜」!
テイルズオブバトルロワイヤル終了後後悔未定!

カイル「カイル=デュミナスが命じる。貴様ら全力でこれを視聴…」
リアラ「カイル、私の出番は?」
カイル「え、リアラの?えーっと、その、ほらえっと、いやあるんだよ出番、本当に!」
リアラ「どんな?」カイル「こう…中の人を生かしてお色気とか、ヨゴレビッチとか…」
リアラ「ねえカイル?」カイル「は、はい…」

リアラ「ぶちまけろ」ブツ、ツーツーザザザザザ(以下砂嵐)
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/01(月) 12:26:26 ID:AfPo/TFg0
アリエッタ「セリフ奪われた…です」
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/02(火) 07:53:03 ID:oucqZ9DfO
というか支給品の話は今さらだよな。それもかなり。
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/02(火) 07:54:09 ID:oucqZ9DfO
サーセン、誤爆
327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/02(火) 10:17:20 ID:vP1625/QO
次来るとしたらやっぱ残った目玉であるカイルとミトスの所かな
あとグリッドとキールは合流するくらいだし・・・
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/02(火) 12:46:40 ID:ItvpoaoYO
ん? グリッド隊はRチームに会いに行ったんだよな。それで北の放送直前があれってことはグリッドらとんぼ返りしたのか。
329名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/02(火) 15:43:31 ID:Tjt4bbM6O
R組の話を読む限りグリッド達は会ってないんだろうな
まぁ片手でメルディを背負いながら走ってるみたいだから遅くなってもしょうがないのか…
330名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/02(火) 15:44:26 ID:TJURNvXjO
>>319
金茶でいいんじゃね?
331名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/03(水) 16:25:14 ID:nzJfwtbr0
ちょこちょこと首を突っ込んできたサイグロも気になるね。
首突っ込んできたというか観戦してるっていうか。
真の主催とかじゃいくらなんでも被るから黒幕とは思わんが、
傍観者っぽいから外部介入の味方とも違うし。さりとて無関係とも言いにくい。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/03(水) 17:37:11 ID:0LE1CR9b0
サイグロはメタ視点的なものだと思ってた。神の視点みたいな
でも彼と彼女が誰なのかは気になるな
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/03(水) 20:46:32 ID:TYnadsM+0
2ndのOPから考えて面白いことをやってるから今後の為にも観戦ってとこかなあ。
1stでは他者の死亡のせいで未来がアレなことになっちゃった奴がいたから
それを教訓に2ndではパラレルワールドからの参加者を多めにしたとか
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/03(水) 21:20:59 ID:9SL0WIz40
1stのサイグロ=2ndのサイグロとは一概に言い切れないよ
厳密にはスレチになるが、そうなると2ndのゼクンドゥスとサイグロがおかしくなる可能性がある
セカンドゥスは1stダオスの死に様を知っているようなそぶりだけどアナザーゼク(ダオス)のこと知らないっぽいとか、
1stにおいて本編アナザー両方のメタ視点を持ってるっぽいサイグロが2ndでセカンドゥスの介入を読めてないとか

セカンドゥスの見てきたダオスの死に様≠1stダオスの死に様
1stサイグロ≠2ndサイグロで解決できるけど
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/03(水) 23:25:16 ID:7TWc0+PYO
ゼクンドゥス2ndでも介入してんのか…
他の精霊とか聖獣の冷遇っぷりは異常
特にオリジン以外の精霊はロワ設定上基本的に出れないし
違う世界の精霊同士の会話とか面白そうなんだが、まぁまず無理だろうなぁ
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/03(水) 23:37:36 ID:CIiOAoZj0
登場キャラとして晶霊って出せないのかな
能力は普通の人並みの術しか使えない設定で
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/04(木) 00:55:51 ID:eNcjY2yJO
>>336
晶霊をロワにか?
その発言を「晶霊をロワの参加者にしたい」って意図でしたものと解釈して話をするが……。

E世界だと晶霊は一定以上の晶霊力の集合体が人格を持ったものって設定で、
ある人格を持った晶霊力の集合体が霧散しても晶霊力そのものは滅びないって設定らしいから、
こいつらはどの時点で死亡と見なすかの判断が難しすぎる。
肉体だって非実体させるのは簡単だろうし、だから首輪もあっさり外される。

仮に殺されたって形を持たない晶霊力に霧散するだけだから、
キールやメルディ級の晶霊術師が手助けすれば、最悪蘇生できる可能性すらある。

かっちり制限をかけなきゃロワのルールを破壊しかねないし、
メタ視点レベルから提案された制限を、物語上の設定に上手いこと落とし込むのも一苦労じゃね?
338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/04(木) 01:13:56 ID:PUNf+UKV0
ジョーカー兼ボーナスキャラとして登場させるなら面白いかもな
倒すのは困難だが倒した奴は首輪制限を一時解除して秘奥義、晶霊、回復魔法使い放題とか
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/04(木) 02:48:51 ID:+lwOcL9l0
要はセルシウスを出したいというわけだな
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/04(木) 04:57:29 ID:t/TNBX460
真面目な流れをぶった切ってスマン

637 名前: 名無しじゃなきゃダメなのぉ! [sage] 投稿日: 2008/12/03(水) 08:38:57 ID:I+6Xyzzt
昨日テイルズオブモバイルでマイソロ情報が更新されたが、カイルの性別が「女性」になってた

マイソロスレで見かけて噴いたww
341名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/04(木) 07:53:40 ID:LbPWtejp0
もし精霊がロワに参加者として出たら

ウンディーネ…対主催リーダー役&お風呂担当
シルフ(E)…序盤お荷物、生き残れたら覚醒
イフリート…対セルシウス奉仕マーダー
ヴォルト…他参加者とコミュニケーションができず無差別マーダー扱い
ノーム…ギャグ専門、ただし土=金属の支配者だから首輪解除要員にも
セルシウス…序盤暴走しててマーダー。断髪イベントのち対主催に

あとはだれかまかせた
342名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/04(木) 13:05:13 ID:vZYWrt4b0
シルフは結構有効なんじゃないか?
風を発生させて砂巻き上げるだけでも敵の目潰しになるし
343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/04(木) 13:29:37 ID:X3sYEQro0
回復攪乱攻撃と小技に便利なんだけど、決定打に欠ける感じなんだよなあ、風属性。サレとか見てるとそう思う。
敵の周囲の気圧弄って「真空状態(笑)」とかしない限りは。

シャドウは夜限定でダンディーなマーダーになってくれそう。
昼は小シャドウに分裂してマスコットにw
344名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/04(木) 17:34:23 ID:FSQXOLlH0
レム…正統派対主催、マーダーを殺すべきか苦悩する
ルナ…ステルスマーダーに騙されたり、争いを止めるために拡声器使用
マクスウェル…対主催に脱出や首輪解除の知恵を貸す、ダジャレ担当(おじいちゃん的に)

アスカのキャラ忘れた

345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/05(金) 00:45:36 ID:CqCJ4yFP0
アスカは「ステラァアアアアアアアアアアアアア」
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/05(金) 01:04:58 ID:1Y4kEDeK0
>>345って人はァァァァァァ!!!!
今やったら凄い主役になるんですね、わかります。

同名の精霊同士の絡みとか面白そう。
紳士オリジン(P)とマッチョオリジン(S)が己のアイデンティティを賭けて対決とか。
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/05(金) 04:08:50 ID:jXEEtYu7O
>>341のセルシウスの設定が秀逸すぎるww
348名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/05(金) 08:50:39 ID:Z2gRgO0CO
>>346
OVAファンタジアのオリジンなんて紳士どころかロリジンだしなw
マッチョオリジンが未来のロリジンだと考えるとなかなかに恐ろしいものがあるな…w
349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/05(金) 23:19:19 ID:Qh1amExV0
>>340つまり公式でマジカル☆マジカイルが制作されるんですね、わかります。おや、こんな時間にだれかきたようだ。
350名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/08(月) 18:11:12 ID:cBS7fO+y0
聖獣で思い出したけどシャオルーンってヴェイグがプリムラに刺されたときに
出てきてたよな。それ以来さっぱり出てこないし、第六も放置だったけど
…それでいいのか聖獣
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/08(月) 18:32:52 ID:xeOGel+A0
そのあとティトレイの暴走うんぬんでRの参戦時期の問題がその後表面化したからねー
352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/08(月) 18:40:37 ID:xeOGel+A0
ageすまん
353名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/09(火) 18:35:07 ID:J02OjEbrO
もし精霊や聖獣がミクトランとガチで戦ったらどっちが勝つんだろうな
隠し精霊辺りなら単独でも勝てるかな?
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/09(火) 19:48:36 ID:WOq6ycz+0
それは原作の強さで、ってことか?
D世界には精霊とかはあんま大きな存在じゃないくさいから、精霊複数でなら十分勝ち目はあると思う。

ただ、ここのミクがガチで聖獣とかと勝負する姿が想像できん。
エタ剣を無駄撃ちとか酢飯暴れさせてさせてオリジンや滄我の弱体化を狙うような卑怯さだから。
隠し精霊の筆頭のゼクンドゥスがダオスの残骸つかってまでこっそりしなきゃいけない現状だし
355名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/09(火) 23:47:11 ID:0TD4JbQ+O
まあ、悪役が卑怯な振る舞いをするのはテイルズだけにとどまらない、アニメやゲームでのテンプレ行動の一つだしなあ。

けれども同じ卑怯な振る舞いでも、デミテルならカッコいい悪らしさの演出になるのに、
ミクトランあたりがやらかすと小物臭や臆病さが漂ってくるのはどうしてなんだろう?
どちらも同じく、「勝つためならば手段を選ばない」って信念から発した行動のはずなのに……。
356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/10(水) 01:12:08 ID:dwn5x4160
原作からして狡い手ばかり使っておまけに糞弱いからじゃないか?
後、仮にディシディア的なものが出る際
カオス側は間違いなくリオンに取られるだろうなあと思わせるだけの貫禄の無さ
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/10(水) 15:24:23 ID:6wZZbXW90
デミテルは外道を尽くして負けたが故に、その悪逆が肯定的な印象を受ける。
ミクトランは卑怯を尽くして勝ったが故に、その悪行が否定的な印象に見える。
あとは「手段を選ばない」って言葉の受け取り方かな。
デミテルの「手段は選ばない」=「一貫して外道な手段を選ぶ」という意味だけど、
ミクトランの「手段は選ばない」=「本気で手段を選ばない」(ワープハメ、悪夢ハメとか)だし。

でも、全然描写されてないミクトランとさんざん活躍したデミテルを並べて比べるのもどうかと。
それに、勝てば官軍ってことばもある。
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/10(水) 18:58:15 ID:YaTydmHIO
あとはミクトランは、ろくなフラグや伏線もなしにゴールドエクスペリエンスを使ったってのも、
卑怯さを上げるのに貢献したかも知れん。

そもそもゴールドエクスペリエンスは原作にもなかったような異能力だし、
あれはロワ最終回で、かつミクトランが主催者だから通ったようなもんだろうしなあ。

あれをやらかしたのが本編だったなら、フラグ無視のキバヤシ理論であるところを叩かれまくって、
まず通らなかっただろう。
359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/10(水) 20:02:07 ID:oT/NcqOzO
そうか?なんで原作でやらなかったのかってことに疑問が無い訳でもないが
ヴェイグ一人だけだし、近いことはD2のエルレインもしてるから
そこまで唐突とは思わなかったな
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/10(水) 20:21:15 ID:8xKJiE970
伏線もフラグもなかったけど、予感だけはみんなあったしね。
「絶対にロクなことにならない」って。
361名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/11(木) 22:09:14 ID:4gVX3iHKO
投稿しようと思って半分くらい書いたんですが失禁表現って大丈夫ですかね?(女キャラが)駄目なら書き直します。
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/11(木) 22:19:34 ID:cRrkCn870
んー? セカンドの誤爆か?
こっちのアナザーは外部で連絡取りながら書いてるって話だから、投稿は遠慮してもらえれば吉かと。
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/11(木) 23:25:28 ID:4gVX3iHKO
すみません誤爆でした
364名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/11(木) 23:30:29 ID:JpaJ1lJpO
>>361
少なくとも1stでは、酢飯がダオスにブン投げられて木の枝の串刺しになった際、
失禁するような描写が通ったって前例はあるぞ。

リアリティの観点から言うと、銃で腹部を撃たれた拍子に脱糞とか、
絞首刑に処された死刑囚が、首を吊られて頸椎骨折を起こした拍子に大小便を垂れ流すとか、
その手の話はけっこう聞くし、
エロ目的じゃなくてそういう生々しさや極限の恐怖をリアルに描写するための失禁なら、
ふつうに通るんじゃね?
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/12(金) 01:19:58 ID:0pI6aiyP0
こっちでも、没になったがキールVSシャーリー戦でキールが大小垂れ流しあったな
アナザーでもVSクレス時にキールが漏らしてたような気がするがそれは没だっけか
366名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/12(金) 10:29:58 ID:WnXb2N5I0
というかこのロワじゃ尿でさえ中級レベルって頻度だしな
アナザーのキールは尿どころか穴という穴から体液垂れ流してるからわからん。

コレットはそんな体液塗れのやつをおぶったのか……新手のプレイ?
367名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/12(金) 13:08:23 ID:1E2RMbVd0
もう汚いとかそんな感覚無くなってるんだろ
ロワ中に風呂とか入ってないし
368名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/12(金) 17:57:49 ID:a49wys420
服着替えたのシャーリィくらいか。
それもフィギュア化でほぼ裸になっちゃったからっていう、全年齢制限ゆえ仕方なしの緊急措置的な。

年がら年中野宿してる連中でいっぱいだから、それなりに耐性はあると思うけど。
369名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/12(金) 20:24:22 ID:HrilQBtHO
>>366
そういやリアルでも、事故で下半身不随になった人間は大小便をそのまま垂れ流しになるから、
オムツが手放せなくなるらしいって話を聞いたことがある。

仮に今のキールがエターニアに帰れても、下手すりゃ一生車椅子で、
メルディあたりからの介護を受けながら生きる羽目になるんだろうか……?
エターニアの医学レベルいかんでは、晶霊術による再生医療もひょっとしたら可能かも知れんが。
370名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/12(金) 23:40:21 ID:1E2RMbVd0
>>369
セレスティアならあるかも?
だがその場合どの晶霊を使うんだろう。シルフとかウンディーネ?
371名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/13(土) 23:59:54 ID:Z2F+47+pO
シルフとウンディーネはインフェリアの精霊だから基本的にはセレスティアじゃ使えなくね
セレスティアの精霊だけで使える回復術ってあったっけ?
372名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 00:33:27 ID:WnzNM/j20
無いと思う
セレスティア側の晶霊はヴォルト、セルシウス、ノーム、シャドウだし

ヴォルトとノームを使ってセレスティアは科学とか機械を発達させたわけだが
医療はどうしてるんだろうな、そういや
373名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 04:43:15 ID:ZGS8fUvhO
グミとか医療品方面が発達してるんじゃない?
でも、ネレイドの属性は滅びとか死とかだから、いろんな要素を考えても平均寿命はインフェリアより低そう。
374名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 13:37:26 ID:Yq35293eO
セルシウスの力でコールドスリープだな
わかるぞ
375名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 13:42:13 ID:qfKQH/VV0
ヴォルトの力で心臓マッサージだな
376名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 18:35:24 ID:OcsG6Qk3O
それでも駄目ならシャドウの力で患者を苦しませないよう安楽死
377名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 18:50:47 ID:bN4RYTqXO
ノーム…… ゴーレム化?
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 19:50:17 ID:OlJwblLTO
土葬だな
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 20:54:56 ID:0mnuwl1B0
セレスティアの味付けがあんまりにアレなのは作物が育たなくて野菜なりなんなりが素材のままじゃ不味いからとみた。
統治だって今時下剋上上等の戦国乱世みたいなシステムだし……ネレイドは自分の世界をもっと大切にしたほうがいいと思う。
380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 20:58:19 ID:XLvxJrsu0
ネレイドはバテンカイトスに戻したいだけだからどうでもいいんじゃね
381名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 22:26:16 ID:qfKQH/VV0
しかし、ソディの味付けがどうとか言ってたがインフェリアにもソディに相当する調味料はあると思うんだがなぁ
その調味料の量が半端じゃないんだろうが
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/15(月) 20:14:25 ID:RK8KzJ0YO
寒い土地だと味付けが濃くなるのと同じなんじゃないか?多分


そういやティトレイいるから料理できるな、…そんな暇ないか
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/15(月) 21:32:09 ID:C7YlPYd00
ソディって料理を極端に甘くしたり辛くしたりするんだよな。
物凄く添加物が入ってそうだ
それこそアメリカ人が好むくらいの
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/16(火) 00:46:53 ID:1NFS1Cz10
食材と言えば、セレスティアではノームが食材とか司ってるのかな
ノームの所の食材店でセレスティアの食材ほぼ全て手に入った気がする
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/17(水) 17:02:46 ID:Xvblib3N0
つまりセレスティアで作物が育ちづらいのはノームがサボってるからか
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/19(金) 21:38:19 ID:hrtuQ9PX0
ノームならしかたない
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/20(土) 12:00:09 ID:N5mVtSNk0
ノームならしかたないな
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/20(土) 12:31:18 ID:BJamZirFO
ノームですもんね
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/20(土) 20:56:11 ID:cV3DeA0zO
ノームだもんな
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/20(土) 22:13:29 ID:O7t2tnmkO
ノームだしね
391名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/20(土) 23:14:29 ID:itnidRif0
ノームだからね
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 00:01:29 ID:N9tL9ZG70
ノームならそうだろうな
393名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 06:58:02 ID:+JOGP8ctO
ノームだったらなっとくだな
394名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 12:18:41 ID:xtix4oIuO
ノームノームノームノーム…馬鹿みたい
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 13:10:17 ID:x1Nh5/5uO
ふ…ざけるなぁ!
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 14:14:55 ID:pDVf5OQEO
フフッ…楽しいねぇ
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 15:18:16 ID:86k97/IoO
六時より投下します。お暇でしたら、支援をよろしくお願いします。
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 15:50:54 ID:+JOGP8ctO
投下投下投下投下……馬鹿みた……………………………………………………………………なん………………だと………?
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 15:54:34 ID:PAwzD3qs0
>>398
吹いたwww

投下楽しみにしておりますー
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:01:20 ID:86k97/IoO
投下します
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:02:26 ID:xtix4oIuO
支援
402Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 1:2008/12/21(日) 18:02:32 ID:lLG7vtZX0
『セット。大気中の水分確保。アイスニードル・氷針凝縮』
彼の手に握られた短剣が蒼く輝き、彼の周りに青白い何かが収束した。
氷とも水ともつかぬ、強いて言うならば液状化した氷の玉がミトスの肩辺りに浮かぶ。
『陣容設定。第一節・アイスニードル、二節・アイスニードル、三節・アイスニードル、四節・アイスニードル』
追加される呪文とともに、更に3つの同体が現出する。先の一と合わせ、その数“4”。
いずれ復讐するはずだったダオスを破るために彼が着想した連続魔術。
その骨子は、複数の属性を一の術に纏めて唱えるダオスのそれとは異なる。
『晶魔混淆<ユニゾン>』
彼と彼女のそれは、異なる言語式を異なる周波数帯域にて同列平行で唱えることによる高速四連詠唱。
それは一つの術というよりはソーディアンと一級の魔術師による変則ユニゾンアタックに他ならない。
『解凍―――――テトラスペル・アイスニードル“×4”!!』
氷球が刺激されたハリネズミのようにその身より針を尖らせて吐き出す。
一つの球より射出される針は5本。その4倍である20の氷針が、鳥を狙った。

『掴まっていろ、舌を噛むなよ!』
彼の右手の大剣が紅く輝き、狙われた鳥はその翼を大きく広げて煽ぐ。
左手で彼が握りしめる箒を中心として、周囲の空気が赤みがかかったように濁る。
『断熱圧縮良し! 等圧吸熱良し! 断熱膨張・等圧放熱・再生機その他含めて内燃サイクル掌握!!』
その尾翼代わりなブラシの後ろの大気が特に酷く歪んでいる。飴の様にとろとろとうねるそれは数秒先の熱の具現だ。
今やこの箒は持ち手からブラシの毛先に至るまでこの大剣、ソーディアン・ディムロスの手であり足であった。
その箒を浮かせているのは純粋な箒としての機能であるが、推進力は今までのそれと異なる。
『燃焼開始!』
司る火属を熱に換え、風を取り込み燃やしてブラシに高密度に集めたそれを噴射する。
心の限りを燃やしつくすように、今彼の身体は最小の戦闘機と化していた。
『来るがいい。追い縋ってこれるものならばな――――――――噴射ッ!!』
引き絞られた矢が戒めを解かれるように、火鳥はその速度を最大近くまで跳ね上げて飛翔した。
403Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 1:2008/12/21(日) 18:03:26 ID:lLG7vtZX0
『……速い、でも』
『ホーミングかッ、味な真似を!!』
本来ならば射出するだけで済ませるアイスニードルに神経を注ぎながらアトワイトは唸った。
火を熱と見立てた即席のジェットエンジン。この世界で無力を経て次の段階を欲したのは彼女だけではないのだろう。
だがそれでも易々と享受はできない。もう4、5本を潰してでも更なる速度を得ようと力を込める。
襲いかかる驚異に怯むことなく燃え盛る鳥の軌道を沿うようにして、ウェーキが空に稜線を描いた。
その線を啄ばむかのように後方より氷針が追い縋ってくる。
5本が操作に対する応答を誤り見当違いのほうへ飛び、4本が寄り過ぎたために互いに衝突して粉砕した。
だが残り11本は完全にディムロスの後方に食いついていた。
幾ら逃げ回られても、時間さえあれば確実に食らいつけるだろうという確信が彼女にはある。そしてそれはディムロス側も同意見だった。
速度では僅かに上回っているためこのままなら当たりはしないが、曲がるなり止まるなりすれば即座に穿たれかねない。
「ディムロス、行く!」
次の一手に悩むより早く彼から放たれた言葉に、ディムロスは少しばかり面を食らった。
何処へなどと聞くまでもなく了解しているディムロスは、若干の性急さを感じつつも彼の要望に応ずる。
正攻法に持ち込まれれば地力の差が如実に表れてしまう。その前にこの高さの利を生かし先制するのもなくはない。
“敵”へ、ただその場所へと方向を定めて彼らは降下に入る。
「倒すんだ――――倒して、生きて……俺は、約束をッ!!」
赤と緑溢れる地面の中に目立つ黄金を見据えた彼の握りは、初霜のような硬さが僅かにあった。
「来るよ、アトワイト」
アトワイトが敵の一辺倒な攻撃に意表を突かれるよりも前に、その刀身が持ち上げられる。
彼女は驚いたように自らを持つ彼を見た。釘付けにされかれない緊張が和らぐ。
それは僅かな緩和であったが、速度に惑わされかけた思考を維持するには十分だった。
何も驚くに値はしない。自分たちが知りて識る彼者は、いつまでも逃げに回れるほど器用ではない。
空中と地上、遥か遠きに在って目まぐるしく位置を絶えずかえながらも、互いが一点を只管に捉えている。
404Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 3:2008/12/21(日) 18:04:17 ID:lLG7vtZX0
互いが互いに狙いを定める。その金糸の夜叉に、若き金色の鬣に。
「ミトスァァァァァァァァッ!!」
宿敵の名を叫ぶその牙が大地ごと抉るかのように獲物を、ミトス=ユグドラシルを穿つ。
ミトスの斬り上げたアトワイトと彼が振り下ろしたディムロスが火花を散らして一瞬の内に交錯した。
光よりも速い時間の狭間で互いは互いに互いを認識する。
剋目せよ。眼前に在るこの敵は、最早昨日のそれとは別人なのだと。
その光に二人の顔が照らされて浮かぶ。喜悦と、狂気と、怒りと、憤慨が混然と刃重なる一点に収束する。
邪剣ファフニールとアトワイトの十字の交点に、ディムロスの一太刀が狂いなくぶつかる。
二刀の基本は守備の後の二の太刀による攻撃だ。だが、ミトスは一の太刀に反撃用のファフニールも重ねた。
剣二本で防がなければ、防ぎきるに届かないとまで思わしめたのだ。
そしてミトスは見誤った。“剣二本でさえも”今の彼は止められないということを。
「ぬゴッ!?」
がく、と膝が落ちてミトスの目は血の気が引いたかのように彼の蒼眼が引き絞られた。
膝だけではない、地面に足が僅かに減り込んでいる。剣を壊さぬように体全てを徹して大地に威力を逃がそうとした結果だった。
剣の守備さえも纏めて叩き切れそうなカイルの一撃を前に、重ねた双剣の守りが震えながら少しずつ崩れていく。
完全に流しに切り替えようにも、守りを解けばたちどころにそのまま斬られかねない。
引くも進むもままならない、鍔迫り合い以下の単純な圧し合い。
速度を乗せるだけ乗せて振り下ろされる彼の斬撃はもはやミトスに受けることさえ赦さなかった。守りごと潰されなけないほどに。
まるで、今から殺す相手の顔を見たくないかのような焦りと思えるほどに。
『ミトス!!』『させん!!』
交錯する十字剣の一つから声が張り上げられると6に減った、否、精度速度の為に減らされた氷針がミトスを脅かす彼の背後を狙う。
思い通りにはさせぬと、ディムロスが炊き上げた熱をブラシ部分から更に噴射する。
見る間もなく鋭利な氷の針は滴を垂らし、その雫さえも白き蒸発とともに無色透明の水蒸気へ爆発的に変化する。
大気が爆破したかのような大音とともに、箒が草に触れるかという程の低空を滑りながらディムロス達は現われた。
新しい血は未だ付いていないディムロスはいぶかしむ様に唸った。
『逃げただと? 一体何処に――――――――上ッ!?』
ディムロスと彼が空を見上げた先には紅い空。そして、その中で否応にも目を引く輝きがあった。
燦然と羽ばたく七虹の輝翅を携えて、天使がこの紅い空に躍っている。
「端から殺す気か! いいね、実にいいッ! この期に及んで僕を“許しに”来たらどうしようかと思った!!」
「――――――ッ!!」
ミトスが苦悶交じりに浮かべた嘲りに、彼の目が僅かに怯んだ。先ほどまでとは見降ろす側と見上げる側が一転している。
『馬鹿な、単独飛行だと!?』
「……ハッ、見下されっぱなしにしておくわけないだろ」
何か盛り上がる寸前で水を差されたような、寸止め特有の不快を浮かべながらミトスは吐き捨てた。
だが、一転して優位を得たはずのミトスが何故そのような面構えを見せるのかを判別する余裕はディムロスには無い。
序盤においてソロンの非常識な移動速度にも付き合っていたディムロスでさえ、唯目の前の光景に驚きを覚えるよりなかった。
舌打ちする彼がアトワイトを振りかざすと、再び形成された十数本の針が中空に戦列を並べる。
「蠅は蠅らしく標本台に這い蹲ってろよ――――――――――カイルァァァァァァァッ!!」
振り下ろされた彼女の号令にて射出される氷の飛沫が、彼らを大地に磔にせんとほぼ垂直に近い形で急襲する。
『っつ―――――カイル!!』
ディムロスの怒号からワンテンポ遅れてカイルの震える手ががくいと箒の“機首”を上げる。
それと同時にディムロスが後ろの浮力を緩めると、僅か一秒弱で箒は舳先を50度ほど上に曲げたような格好になり、
その瞬間にディムロスは再び熱空を焚いて後部より緊急加速した。
初速が僅かに間に合わず飛来した一番槍の害意がカイルの頬を掠めるが、残りが総出で襲い来る前に射線を外す。
低空を滑り抜けながらそれを間髪の境地、割れる氷の音が聞こえるほどの距離で彼らは舞う。
回避の中で懸命に上空へと昇るラインを作るディムロスはカイル=デュナミスが放つ荒く浅い呼吸音に交るその音を聞いた。
(カイル…………如何した!?)
405Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 4:2008/12/21(日) 18:08:31 ID:lLG7vtZX0
氷の音は水の音。その手に握るは父の記憶なら、眼前の氷は母の残滓。
氷の鏡は罪の鏡。その手に握るが断罪の焔なら、母を殺めた氷をどう溶かす。
彼の、カイル=デュナミスの眼は何を捉えているのか。
晴らさなければいけない情念であり、超えなければいけない何か。
それは亜音速の世界でさえ損なうことのない金糸の光輝か、それとも、氷のように冷たい白銀か。


箒はその尾より熱を噴出し続け、歪んだ大気と白煙にて赤く染まった天蓋に軌跡が刻まれる。
そしてそれを追うのは、氷の針が10本。
『カイル、フレイムドライブ一斉射!』
ディムロスの号令でカイルが上半身を捻り、後ろに向って火球を放つ。
だが、ニードルは接触するよりも早くバラバラに散って火球を回避し、また集合・再編される。
一糸乱れぬ編成で飛翔するそれはもう弾丸というより鳥のようだった。
『翳めもせんか!』
もともと、敵陣に入り込んでからの白兵戦が天職であり射撃戦はあまり得手としていないディムロスだ。
先のマガジンを狙った時のように予め設定でもしなければ百発百中とはいかない。
しかも相手は動体であり、敵の射撃に一発でも当たれば御の字のつもりで撒いた火炎だった。
とはいえ、真逆一つも食い下がれないとなればディムロスも焦る。
否、とディムロスは素早く自らを否定した。自らを過大評価する訳ではないが、全く当たらないというのもおかしい。
『カイル、無事か!?』
ディムロスがカイルを見た。張り詰めた表情は戦闘中の戦士が持つ当り前のもののように見える。
無言のままディムロスをきつく握り締めて、カイルは彼の剣に戦意を示す。
だが、そこに浮かぶ脂汗と浅い呼吸はとても万全とはいい難いことを雄弁に物語っていた。
無理もない。いくら箒とディムロスに移動の全てを委ねているとはいえ、
下半身だけに限定すればカイルは全参加者の中でも特筆して重傷なのだ。
一時は粉と言っていいほどに破壊しつくされた両の肢は、可能な限りの処置を施しても立っていることも難しい。
幾ら足を使っていないとはいえ、移動に伴う苦痛はどれほどの配慮をした処でそう避けられるものではない。
粉砕された股間でサドルに座るだけでも相当な激痛を伴っているはずだ。
だが、ディムロスは見逃さない。その頬を流れるのは脂汗だけではなく冷や汗もあることを。
406Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 5:2008/12/21(日) 18:09:41 ID:lLG7vtZX0
(当然と言えば当然か。カイルのダメージは無視できん。先ずは一度距離を開けて――――――)
一度退いて間合いを取る必要がある。だが、問題は。
『逃がさない。アイスニードル×3―――雹弾乱射!!』
中空を泳ぐミトスの手に握られたアトワイトの声と共に、
更に十と五の氷の針がさながら珠となってカイルの、否、ディムロスの下へ一直線に飛来する。
『っつ!!』
ディムロスの舌打とともにカイルが緊急加速した。
今までよりも一回り小粒の氷は、まさに霰か雹と呼ぶべきものであったが、避けにくさは一等だ。
『ちいッ! 2発3発で止められるのか!!』
逃げの軌道を描きながらディムロスは苛立ちを打った。
あれは連続射撃<コンボ>にして連携射撃<チェイン>。あくまで最大で4連携の連撃。
コストの安いアイスニードルなら、連射にも耐えられるという寸法。なんとも計画的な消費といえる。
そしてなによりも、今まで彼が歩んできた中での知識では説明の付かないミトスの飛行が彼を焦りに追い込む。
心身を負傷したカイルが唯一全参加者に対して持てるはずだった大空を舞える、というアドバンテージが瓦解したことで、
この空さえもカイルの逃げ場として機能を失ってしまっては、彼女らの攻撃圏からももう逃げ切ることは事実上不可能となった。
だが、それよりも彼の心に小波を立たせているのは、やはりカイルの初動の遅さに他ならない。
(弾を避けるごとに反応が落ちている。やはり戦闘可能な状態では―――――いや、肉よりも心か?)
とディムロスは頭を振るように己を否定した。剣の“握り”が若干硬すぎることに気づいたのだ。
自らと箒を握るその手が、肉体的なものを差し引いても僅かばかり緊張し過ぎていることに。
柔軟性を削ぐほどに入れ込んだ過度の緊張は焦りと怒りと逸りの証であり、その感情は大体の戦場にて『怖れ』を端に発するものだと経験則が断じた。
何かに脅えているのは分かっている。だが、ディムロスにはカイルが何に脅えているのかが分からなかった。

407Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 6:2008/12/21(日) 18:10:29 ID:lLG7vtZX0
『余所見してる余裕があるのかしら?』
侮蔑するような声と共に降り注ぐ氷雨か弾雨か判別しようもない嵐にディムロスは現実へと引っ張られた。
掠めているのか当たっているのか分からないほどの霰を凌ぎながらディムロスは軋るように唸った。
分かっていたことだが、状況が不利に過ぎる。
とても一、二日程度しか組んでいないとは思えないほど晶術の扱いを巧みに行うミトスに、
あのエクスフィアとやらの力か、支援特化型のソーディアンとは思えぬほどに攻撃的な性能を発揮するアトワイト。
最大火力や最大速度こそシャーリィやクレスに劣りこそすれ、総合力と安定性で見ればおそらく全参加者の中でもトップクラスのコンビだろう。
マーテルの蘇生という縛りを自らに課していなければ、恐らくはこの島で一番勝利に近かった組み合わせだ。
傷を負ってただでさえ不安定なこちらにそんな2人を相手取って余力などある筈もない。一瞬の油断が致死に繋がってしまう。
相手に中空の舞台のまで上がられてしまった以上は、魔力の枯渇まで待つこともできない。
迷いを抱きながら勝てる相手では無い。むしろ、最初の森の中で不意を打って一撃で決めてしまうべき相手だった。
一切の利を失ってしまった以上、ここは退いてしまうのが妥当だ。
ミトスたちは追撃しないだろう。彼らは此処に死にに来たのだから。
そして、自分たちには生きなければならない理由がある。
カイルは、その命を生かしてくれた全ての命のために。ディムロスは、ミクトランの野望を食い止めるために。
『カイル、ここは――――――――』
転ずるべきか、その混濁する胸中に指針を与えようとディムロスはカイルを一瞥し、そして気づいた。
グローブ越しにもわかる自らを握る汗ばんだカイルの手が、手中にあるディムロスがやっとわかる程度に震えていること。
押し固めた握りの硬直はそれを揉み消すためのもの。隠すということは否定すべきものということ。
彼の惑いに迷いきったその瞳は、滲みこそすれその意志でその恐怖と戦っているということを教えていた。
カイルとて無知ではあるが莫迦ではない。自分の抱える“何か”が、枷となっていることを分かっているのだろう。
戦略的に考えるならば退くべき戦い。だが退けないのだ。
この戦いに最初から戦略的な意味が全くないということも理解しているのだ。
不利有利の話ではない。この戦いは、身も蓋もなく言ってしまえば無意味に尽きるものなのだから。
散発的な射撃を限界速度の8割で回避しながらディムロスはそれを納得した。
“だからこそ”この戦いは彼らにとって絶対に必要なのだ。カイルにも―――――――――――そしてディムロスにも。
408名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:12:53 ID:z2ILfXOyO
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:13:51 ID:v4fjoTHlO
支援
410名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:14:24 ID:PAwzD3qs0
支援
411名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:15:14 ID:xtix4oIuO

支援
412名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:15:52 ID:t3k2Blmg0
 
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:16:18 ID:xtix4oIuO
支援
414Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 7:2008/12/21(日) 18:18:04 ID:lLG7vtZX0
『ここは――――――――――加速する!!』
箒より噴出する熱量が倍増し、カイルの頬を凹ませるほどにディムロスは加速した。ミトスたちを振り切れるほどの速度だった。
『ッ―――――――――そう、よね……やっぱり、逃げるわよね……でも、逃がさない!! トーネード、環状収束!!』
明らかな失意を露悪的な怒りに変えて、アトワイトはさらに飛び道具を生成、射出する。
凍結して構築された4つのチャクラムがカーブを描きながらディムロス達を狙い、直線軌道で進むニードルをカバーする。
上下左右の逃げ道を塞がれたディムロスは、ニードルが推進力を失うまで走り続けるか根負けして刺されるしかない。
(カイルとて何かに抗っているのに、先に私が逃げるなど、出来る訳がない)
ディムロスは撤退を選ぶ一歩手前で思い止まった。
ここに来ることを選んだのはカイルだが、その彼ををここに運んだのはディムロスだ。
カイルがこの滑稽な戦いに挑む理由があるように、ディムロスにもそれがある。
真剣に惑う。言葉にすればなんとも滑稽なことか。だが、今のディムロスにはそれが何よりも尊いものだと思った。
人は理によって囚われている。条件も時間制限もあるこの世界で、惑えるということはそれだけで価値のあることなのだ。
余裕のほとんどないこの状況下において失われた仲間を探すこと、ましてや敵に寝返った者に尽くす手など無い。
デメリットを考慮して理屈理合に照らし合わせれば、ここはアトワイトを切り捨てるのが最善手だろう。
そして、ディムロスが司令官であったのならば苦悶こそすれ迷わずそれを選択する。
ミクトランを討つために、より多くを救うために。それが人の上に立つ者に課せられた代償だ。
『だが、私も負ける訳にはいかん。今度こそ!!』
ディムロスの指示に従うように、カイルは左腕で箒を思いっきり引いた。同時に排熱が止み、それまでの慣性だけで小さく180度回頭する。
あまりに急な停止に追随しようと加速していたチャクラムが対応を誤り、カイルに掠りもせずに通り過ぎる。
『止まった!? 逃げるんじゃ――――――』
アトワイトの疑問が戦闘にさし挟まる余地もなく、ニードルが急停止した格好になった彼らを狙い穿ち着弾する。
彼女に去来する複雑な感情信号が着弾音に掻き消える。粉雪のように儚く崩れ去った白銀が、ほんのりと斜陽に赤み掛った。
光が乱反射して煙のように広がる空間を見ながら、アトワイトが呟く。
『ディムロス……』
『誰が逃げると言った。アトワイト』
(カイルがどうにもならん以上は、私が保たせるよりない!)
それに応ずるかのように、ディムロスの声が白煙の向こうの影から響いた。
彼女らの見る先には、煙がもうもうと立ち込めていた。しかしそれを構成するのは氷片でも雪でもない。
じゅうじゅうと音を立てて笠を増していくのは外気に冷えてできた水の粒の集合たる雲。
その中心を囲むのは水蒸気。水を煮沸して至るものであり、“高熱を与えて”氷より昇華する三態の一。
全てが吹き飛んで完全に水蒸気と化して快晴となった空にあるは剣士と、灼熱を斬る剣。
ファイアウォールを前面に展開してニードルを防ぎ切ったディムロスは、猛るように言い放った。
『時間がないのは私とて同じ。先に私の決着をつけさせてもらう!!』
415Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 8:2008/12/21(日) 18:18:54 ID:lLG7vtZX0
再び灼熱が大気を歪ませる。それを目の当たりにしてミトスは呆れるように言った。
「なんともお熱いことで。灼けるね」
『ミトス……』
どうしたものかというような鈍さを声色に顕しているアトワイトを見ながら、ミトスはわざとらしい調子で言った。
「まあ、都合は悪くない。本命が焔というには火付きがよくないしね。
 少し手を変える。僕が完全に“読み”切るまではお前に任せるよ。やれる?」
試すような物言い。アトワイトは、その意味を後半部分だけ了解しながら―――――ええ、と肯いた。
『往くぞ。妥協は一切無しだ!!』
ディムロスは箒を走らせた。進行方向である柄の半延長線はミトスと、いや、アトワイトへと真っ直ぐに結ばれている。
まるで視線のようなその軸線を外してやるかの様にミトスはその羽根を少しだけ揺らして己が身を横へと流し、アトワイトを振った。
魔女の指先より現れる兵隊のように、再び葬列を為す氷針の群れ。
この世界の根幹を成す要素の一つである水が命と切り離せないものである以上、ミトスの魔力が尽きぬ限り彼女の武装は無限に等しい。
『コレットの身体を借りてた時と同じと思わないことね。逃げるなら、今のうちよ。ニードル、一斉射!!』
彼女の輝きに同調するかのように、凝結が完了したアイスニードルが彼らを目掛けて飛翔する。
彼女の言うとおり、身体を動かすことと晶術を構成することを両方行っていたコレットの時とは異なり、
その能力はミトスの命じた通り、その能力の全てが攻撃に運用されていた。
確かに、ターゲッティングの出来ない上級術では不可能な戦法ではあるが、それでもこの精度は尋常なものではない。
回数を重ねることで誤差を修正してきたか、今やその射撃は互いの間隔さえ揃った完璧に近いものになっている。
ディムロスにそれを望むべくなどできない。あと一歩のところで何かに引っ掛かっているカイルに無理をさせることもできない。
攻撃と移動を両方とも自らの統制下で行わなければならない現状、真っ向からの射撃戦に応ずることなどできはしない。
『二度も言わせるなアトワイト! 私はもう逃げんし、退きもせん!!』
だが、今のディムロスにとって“攻撃”と“移動”が同義たる“進撃”だった。
距離をとって術を打ち合うなどという気など微塵も無いと言わんばかりに、ブラシより更なる熱気が噴出する。
カイルはディムロスを持った右腕を後方に流し、残った左手で箒の柄をきつく握り締めてその胸を柄に沿わせるよう身体を屈めた。
彼の所作はほとんど無意識だった。
ただ、そうしなけば―――上体を未だ其処に残していては―――自分の胴体が吹き飛んでしまうと身体が先に理解した。
機首より止め処なくあふれるような空気抵抗をなんとか減じようとする所作。
戦闘機とは異なり風防もなにもない唯の箒にのった半死の少年。それを乗せていると承知でディムロスは今、それほどの速度を出して飛んでいた。
416Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 9:2008/12/21(日) 18:19:36 ID:lLG7vtZX0
加速に伴い相対速度を増す針の群れを前にしても怯みもせず、唯突き撃つのみとばかりに直進するディムロスを見て、アトワイトは唖然とした。
『ばっ……正気!? やめな――――』
自分が何を口走ろうとしたのかも考えるまもなくニードルが彼らに着弾しようとしたその瞬間、アトワイトはその目に捉えた。
ディムロス達が僅かに赤く染まっている。否、“赤く染まっているのは前方の空間”だ。
その前方の“何か”に彼女の氷が着弾しようとした瞬間、それはハッキリとした現象として彼女にも視認できた。
針が、飴のように溶けたかと思うよりも早く蒸気と化し“たか”と思うよりも早く、水から水蒸気に至る過程の白んだ霧が押し潰された。
その後も幾つもの氷針が彼らを穿とうとするが、見えない壁を叩き付けられたかのような現象は彼らを守る盾となってそれを阻み掻き消す。
全てが雲のように霧散し円錐状に弾かれて消滅する様は、まるで槍のようだった。
『っ! ―――――――――アイスウォール、二重……三重防壁!!』
彼女が考えるよりも早く、彼女の回路が走っていた。質など二の次で量を出しての障壁の展開とはいえ、3枚は破格である。
それだけの必要があると、彼女は本能的に理解していたのだ。その程度では防ぎきれないだろうことも。
針など効くものかといわんばかりに無視し、雲と散らせ、進軍してくるそれはまるで炎の槍。
1枚を消し飛ばし、1枚を蒸発させ、最後の1枚も退かしたその突撃は、そうとしか表現のしようがなかった。
2枚打ち抜いて1枚を弾き飛ばし、ミトスたちが居た場所から5mほど突き進んだとこでディムロスたちはその速度を落として踵を返した。
荒れた風の吹くその先にミトスとアトワイトが浮かび、牽制射撃が再び繰り出される。
急激な運動をした後のような彼女の動悸の吐息と、ミトスの羽根がその風の上に僅かに散っていた。
『空間転移か』
驚きこそすれ丁寧に旋回しながらカイル達は射撃を避ける。手応えがないことはぶつかったあたりでディムロスには承知の上だった。
あの不細工なシールドは、防ぐためでなく避けるまでの時間稼ぎの壁だ。
『ファイアウォールをピンポイントに展開して、音速域でのアサルト……アタック…………』
「成程ね。近似的に衝撃波を燃やしてバリアの形成と同時に突撃か。お前に聞いていたよりはキレるらしいじゃないか。イカれてるとも』
途切れるような言葉を紡ぎながら、彼女らは相手の手法を見切っていた。
大気中を高速で移動すれば、当然空気抵抗が発生する。
それを切り裂こうとする機首には、空気の壁とも呼びたくなる圧力――――衝撃が生まれる。
空気の粘性が水のそれのようになる速度の世界で、攻撃のための加速によって発生する空気の盾。
その一点だけに自らの焔を纏わせることで、ディムロスは攻防一体の突撃形態を成立させた。
厳密な衝撃波ともなればそれこそ超音速域にまで行く必要はあるだろうが、
空気圧縮層を燃焼させて炎を重ねるならこれで十二分だろう。
その槍の前では細い針如きは蝿のようなものだ。その身体に触れる前に焼け千切れるしかない。
417名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:22:13 ID:pDVf5OQEO
支援
418名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:22:54 ID:+JOGP8ctO
支援
419Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 10:2008/12/21(日) 18:24:20 ID:lLG7vtZX0
「品性の欠片もないね――――――どうする?」
ディムロスを無視しながら気だるそうに顔を歪めたミトスに尋ねられたアトワイトは押し黙る。
箒で空を飛ぶしかも戦闘機動をというのは非常識極まりないが、現実を否定する訳にもいかない。
あの箒がディムロスが完全に掌握しているとするならば、そのエネルギーは恐らく自身のコアを使っているのだろう。
人一人に曲芸飛行をさせる程度のエネルギーならコアクリスタルでも十分捻出できる。
“こちらと違い”飛んでいるとはいえ、余程のことでもなければガス欠は考えにくい。
相性的には五分五分。ここはミトスに任せるべきか―――――――

(だから、僕はもうお前に命令なんて出来る立場じゃない。だから、もし本気で厭だったら―――――)

アトワイトはミトスの“傷”を思い出して否定した。
『まさか。“貴方の出番”は、来ない。回さない』
最初の一撃の後から妙に精彩がないのは、傷のせいだというのか。
理由は分からないが、確実にカイル=デュナミスは不調の兆しがある。コレットの身体を使っていた時比べれば瞭然だ。
そして、それが今のミトスを冷ましていることは確定と見ていいだろう。
(……それならそれで、挑発の一つも仕掛けないのは変だけど……好機とみるしかない、か)
あれだけ膨らませたカイルへの殺意を萎えさせている今なら、未だ“回避”できるかもしれない。
どう足掻こうが避けられないとしてもやってみる価値がない訳ではない。
終わり方を選り好みしたいのは、ミトスだけではない。
予想外だったのか、アトワイトの返事ににミトスは力なく笑みを作った。
「言うね。まあ、別にいいけどさ、あれはお前の手持ちの札じゃ破れないだろ。火力ないからなお前は」
撥ね退けるような彼女の拒絶の後、カイルの目を覗き込むように一瞥して羽根の戦慄かせる。
『だったら、貴方から貰うまでよ。槍は、一本だけ持つものとは限らない』
彼女の言葉に少しだけ傾げてから、ああと納得してミトスは羽ばたきを止めて落下を始めた。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:27:34 ID:pDVf5OQEO
支援。
421Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 11:2008/12/21(日) 18:28:40 ID:lLG7vtZX0
吹き荒ぶ風の中に支えを失ったように落下しようとするミトスの鼻先をディムロスが掠めて皮膚一枚が焦げる。
『ぢぃッ! 外したか!!』
そのまま減速することなくディムロスはその身を縦に回転させて自由落下体制に入ったミトスを追撃しようとする。
『逃がさ――――――ッ!?』
鉛直重力方向。上側より下側のミトス達を見据えようとしたディムロス達の前にあったのは、極太のアイスピックが4本。
ミトスの浮かべる軽薄な笑みが、砲火線上に誘い込む為の罠であることを教えていた。
「気をつけたほうがいい。突貫仕様<ストライク>なのは、そっちだけじゃあない」
『アイシクル・変則凍結。“フリーズランサー”・槍を放て!!』
限界まで酷使される紋章の悲鳴か、アトワイトの号令の下轟く爆音とともに射出される氷の槍。その勢いは針遊びの比ではない。
大気との摩擦熱によって表面が蒸発し後部に見ゆる白煙の尾を引いて飛ぶ槍は、もはやミサイルのそれだ。
『晶術による他系統術の再構築! しかも長距離空対空だとッ!?』
危険を察した即座、ディムロスは僅かにブラシのラダー部分を僅かに右にずらして水平軸で微かに回転する。
炎壁と衝突する2本の槍が一瞬で大量の水蒸気と化すが、3分の1が健在。
圧縮大気の二層目をその弾頭で抜き穿ち、発射時にの25%ほどしかない刃がカイルの眼尻を切った。
ディムロスの機転で間一髪で納める。だが心までは如何程のものか。氷が肉よりも少しだけ柔らかい彼の傷を抉る。
「あ、ああ」
傷口から膿が漏れ出るように、カイルの声は湿りきった感情を含んでいた。
ディムロスはそこで漸く気付く。ここまでの氷撃に、カイルは反応していたことに。
(アトワイトの属性、マスター…………真逆)
『食い縛ってろ! 泣き叫ぶための舌さえ落ちるぞ!!』
だがディムロスにその予感を推論にまで高めている余裕など与えられなかった。
フレイムウォールを解除し突撃形態を解いてディムロスはそのまま回避行動に移る。
両側にまで熱気流を生成し自分達ををロールさせると同時に箒の仰角を上げる。
螺旋を描くようにして機動する彼らの背面を槍が掠った。風圧は尻を守ってはくれない。
『随分と豪勢なことだな! あの娘ならばともかく、その小僧の力はそこまで残っておるまい!』
『ッ―――――そう思うなら、大人しく堕ちなさい!』
自らが置かれた劣勢を億尾にも出さず叫ぶディムロスに、アトワイトは苛立ったように応えた。
そんなことは言われずとも分かっているのだと。“言われず”とも。
422Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 12:2008/12/21(日) 18:30:53 ID:lLG7vtZX0
ディムロスは回避に専心しながらもその一方で思考する。
目まぐるしく飛ぶ中、この大空より僅かに見えるあの村に落とされた神の光・ジャッジメント。
あの規模の術は上級中級云々というより、もはや兵器だ。サウザンドブレイバーと同様の対軍魔術。
それまでにどれだけ休息をとっていたとしても、それを単独で放ったであろうミトスの術力はかなり目減りしているはずだ。
ロイドの世界の最強の一角である以上、自らに蓄える魔力量は相当であるだろうことは予測できる。
だが、いくら初級中級術しか使っていないとはいえここまで消費できるというのは理に合っていない。
(こちらはTP枯渇を狙っていたというのに……それすら承知で追尾機能の追加オプションまで仕掛けるとなると、これは)
やはり、何らかの手段で術力を回復したとしか考えられない。
だがどうやって。よしんばその手段があったとして、それなら態々あの局面でミントを諦める必要はなかったはずだ。
一体――――――――「うぐッ!!」
ぶしゅと小さな袋が破けるような音とともにカイルから吹き出した鮮血が後方へと流れていく。
カイル、と叫ぶ間もなくディムロスはさらに圧を増して加速する。
向こうは自壊も厭う必要のない無人遠隔操作、こちらはマニュアルで人を乗せている。
スペック以前の出せる最大速度に差がある以上、氷の槍先から絶えず点をずらす線をとらなければ5秒と置かず撃墜される。
なんとかその距離を確保してから、ディムロスはカイルの安否を確認した。
傷は浅いが、その肌から零れ落ちる汗は冷え切っている。
『カイル、お前はミトスとの決着を付けにきた。お前のいう決着とは、リアラとスタンの仇を取ることではなかったのか』
吹き抜けるような景色の入れ替わりと『未だ』という言葉の割には急かす音調は微塵も感じられない声でディムロスは尋ねた。
カイルは何かを言おうとして肺に空気を入れたが、喉の奥で詰まったそれは霧散してただの頷きになった。
ディムロスは、恐れずとも慎重にその予感を形に変えた。
『奴は罪を悔いている。それこそ命を惜しまないほどに。お前よりもほんの少しだけ多く私はそれを見てきた。
 奴は、罪を背負って余りある罰を受けてきた。恐らくこの世界で誰よりも罰を、裁きを求めている』
滔々と綴るディムロスの言葉にカイルは彼の言葉、その意味を悟った。
『私は、奴はもう許されるべきだと思っている。そして、奴を許せる者がいるとすれば、それは』
言葉を遮るように右サイドから飛来するニードル。ディムロスはそれを単体のファイアウォールで凌ぐ。
爆発的に広がる水蒸気が冷えて雲煙となる。白亜の雲粒の中に潜り込みながらディムロスは言葉を続けた。
『それはお前しかいない。それが死であろうとそうでなかろうとヴェイグを解き放てるのはお前だけだ』
風速と飽和水蒸気量を超えた湿度の中でで息もしにくかろう中で、カイルの生唾を飲み込む音がハッキリと聞こえた。
僅かな間断の後、カイルは気の抜けた炭酸のような笑みを浮かべた。
知っていたのかという無言の追及に、攻撃が止んだことを訝しみながらも減速しながらディムロスが無言を以て肯定する。

「赦そうと、思ってたんだ」
423Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 13:2008/12/21(日) 18:35:09 ID:lLG7vtZX0
白雲の中で完全に停止したディムロスは、向こうの出方を考えながらその言葉をただ押し黙って聞いていた。
やはり、カイルは気づいていた。ルーティを誰が殺したかを。
この世界でこそミトスがその力を余すことなく使用しているソーディアン・アトワイトだが、その本当のマスターは別にいる。
ルーティ=カトレット。彼の朋友たるスタンのパートナーにして、それが真実であるとするならば、カイルをその身に宿した女性。
スタン同様この島に落され、儚くも早々に生者の世界から切り落とされてしまった人。
幾多の死人の存在に麻痺して本来なら埋没するべき名前だ。こうまで骸が転がってしまえば、下手人など探すのも莫迦らしい。
だがディムロスは知っている。
彼女を殺した人物が、未だこの世界に残っているということを。しかもその人物が“その罪を生傷のまま抱えていることを”。
カイルの血統を知ってしまった彼はカサブタとなっていてもいい傷を、後生大事にそのままにしてしまったのだ。
誰よりも命の意味を知るが故に、人を殺すというその罪を滅ぼせぬと知りながら、
誰よりも命の意味を悟るが故に、自らの死を以て贖うことも善しと出来ない。
償い切れぬ自己満足と解りながらもただ罪を雪ぐよりない永遠の罪人。
ヴェイグ=リュングベルがそういう生き方をしているということを、彼と少なからず共にあったディムロスは知っていた。
「あの人がどれだけ俺を守ろうとしてくれたかも、どれだけそれに命を賭けてたかも知ってる。
 だから、あの人が選ぶ道を選んだらその時こそ俺はそれを受け入れて、あの人を赦そうと思ってた」
霞を吸うような静かな呼吸。心音さえ響きそうな白い世界で、子供特有の甲高い声が響かずに湿って溶ける。
「でも、あの人は答えを見つけた。罪を受け止めて生きることを選んだんだ。
 俺がこっちに来ることを切り出さなかったら、あの人は俺に本当のことをいうつもりだったんだと思う」
確証を得たのは、恐らくは先ほどのヴェイグ達のやり取りだろうとディムロスは思った。
ティトレイの言葉は、ヴェイグの言葉だ。互いの問いかけは互いの答えであり反響して増幅する。
その中でヴェイグは叫んでいた。己の罪を、その身を引裂かんばかりの悔悟を、そしてそれでも生きるということを。
解き放たれることさえ許されないという業。それはきっと死よりも酷い。
そして、赤の他人を守るだけなら誰だってそんなものを背負う訳がないのだ。
この世界におけるカイルの縁故はカイルの仲間と、両親くらいしかいない。
ハロルドをシャーリィに、ロニとジューダスをリオンに殺されているカイルは、図らずとも“仇を取ってしまっている”。
そして、今ここにいるミトスを愛する者の、クレスを父親の仇だとするならば、ヴェイグがカイルに贖うものはもう一つしか残ってない。
「そんなあの人に俺は、どうしてあげればいいんだ?」
カイルがディムロスに与えられるものなど一つしかない。だが、それを選べない。
ヴェイグの覚悟をその身に刻んだ今、カイルは惑っている―――――――怖れているとさえ言っていい。
そのヴェイグに、自分がどう向かうべきかを。
この世界でカイルは多くのものを失い、そのどれもが等しくカイルにとって大切だったのだ。罪科の量に優劣などつくはずもない。
例えその手に掛けた人物が“その行為をどれだけ悔やんでいたと知っていても”それは変わらない。
その欠落を埋める絆などもう亡く、彼の心の欠損は外側を覆う霧の白には似つかわしくない穢れた黒で充たされている。
「はは……笑えるだろ……? あの人は罪を選んだ。ディムロスのいうとおり、俺は罰を選ばなきゃいけない。
 でも、あれだけ偉そうな口を叩いておいて…………選べないんだよ。
 俺はきっと、それを選ぶことは無いと心のどこかで思ってたんだ。決着を一番怖がってたのは、俺なんだ」
漫然とヴェイグがカイルに罪の意識を感じ、それを言い出せないまま唯それを黙っていればいい。
母殺しと母を殺された子として対峙することなく、どちらかが先に滅ぶ。なんて楽な選択なことか。
だが、ヴェイグはそれを善しとしなかった。ティトレイとの戦いを経て、時の針を動かすことを決意した。
ヴェイグは全てを受け入れて、それでも生きていく道を選んだ。ならばカイルもまた選ばなければならない。
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:35:53 ID:v4fjoTHlO
支援
425Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 14:2008/12/21(日) 18:38:27 ID:lLG7vtZX0
「立ち向かうって、受け止めるってあの人の顔を見たら、分からなくなった……
 あの人の罪を全て赦して……その生を見届けて、俺は、それでいいのか?
 俺は、後悔したくない。もう、あんなリオンの時のようなことだけは厭なんだ」

誰かが許さなければならない。殺した奴にだって理由がある。反省だってこんなにしている。だから赦してやれ。
そんなものは須く茶番だ。
そんなお題目を盲目的に唱えるだけでは、燃え盛る黒い炎は決して消えないとカイルはその身で経験しているのだ。
彼はその手で、誰かのために生きたかったリオン=マグナスを焼き尽くしているのだから。
カイルはその手にしっかりと覚えていたし、ディムロスもそれを柄刃を通して知っていた。
どうしようもない怒りの衝動に駆られて、見定めるべき真実ごと両断してしまったあの感覚を。
リオンが持っていたかもしれない何かを知ろうという発想さえ持たず、ただ殺してしまった後に残った虚無感を。
だったら全てを受け入れれば良いのか。許したかったはずなのに、彼をどうすれば赦せるのかが分からない。
何の真実も見定めることなくリオンをその手で殺した自分に、その資格が有るのかさえ分からない。
『だからお前はここに来たのか。もう一つの仇を前に、答えが得られると』
怒りにてリオンに罰を下した自分を恐れ、今ミトスに罰を下そうとする自分を恐れ、この先にヴェイグへと罰を下すのだろう自分を恐れ、
“だからこそ”カイルは見極めようとしている。命の意味を、死の価値を、罪と罰の理を。
憎しみに駆られて死を以て罰を下すことのなんと簡単で浅慮なことか。それをカイルがどれだけ悔んだかも彼は知っている。
このミトスに下す裁定は、必ずヴェイグと相対するときに影響を及ぼす。
「それでも、分からないんだ。あの人は許そうって思っても、ミトスを見たら腹の奥から許せなくなって、
 そしたら、あの人も許していいのかって思えて。でも、許したくて。
 父さんも、母さんも、リアラも、ロニ達も、みんな、みんな、俺にとって大切な人だったのに」
だから今、カイルがミトスに対しその衝動を再び燃やし始め、それが燃えきらぬようにと抑えていることをディムロスは悟った。
同時に、その衝動がヴェイグにまで向けてしまうかもしれないという怖れを抱いていることも。
過去と現在の半延長線上に未来は存在する。未来を意識すれば現在はその様相を変える。
否、逆なのかとさえディムロスは思う。カイルはヴェイグをとっくに許しているのだろう。
“だからこそ、先にミトスなのか”。母を殺したヴェイグを許すのであれば、ミトスを赦せぬ道理が立たぬと。
カイルは恐れているのだ。ミトスに対する選択が―――――――――――――きっと未来の選択を侵してしまうことを。
死にたいとは思わない。
だけど、このまま悩んで悩んで悩みまくったその先で答えの出ないまま終わるのなら、それはきっと楽なんだろう。
選べぬのであれば、いっそ杯<殻だ>を砕くか。
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:41:19 ID:v4fjoTHlO
支援
427Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 15:2008/12/21(日) 18:42:22 ID:lLG7vtZX0
雲が風に流れて晴れて、彼らの周りを赤い空が燦然と輝きを満たす。
斜陽を乱反射してこの輝きを空間に満たす氷槍が彼らの前に屹立していた。
『フリーズランサー×4――――LAAM』
ディムロス達が隠れた間に、隠密に、そして精密に配置された彼女の十六の兵隊が隊伍を組んで戦列を敷く。
彼女の号令一つでたちまちに彼らの穴という孔全てを拡張できる状況で、アトワイトは勧告した。
『チェッく。完全に捕らえたわ。大ナシく、退きなサイ』
ノイズが混じりはじめた彼女の声に、少なくともディムロスはその表面に感情を表さなかった。
中級術の四連詠唱。どこまで無茶をすれば彼女の気が済むのかは、最早問う意味もない。
憎々しい仇は死罪で、反省している仇なら無罪。それで片が収まるならば刑罰に意味はない。
全てを赦すには『死』は大きすぎるし『命』は重すぎる。
例え四十余人が3日足らずに死んだとしても、その重さは決して軽んじてはいけないのだ。
自らの罪を知り、罪の在り方を知りてなお許すことは本当に正しいことなのだろうか。
だが、ならば厳罰をもって処すことは本当に正しいのか。
許すべきか、殺すべきか。ミトスに対するカイルの恐れはその選択に集約されている。
『……ソう。だッたら、直接終わらセてあゲる! 槍よ、四肢ヲ穿て!!』
断罪の槍撃に弾隔は殆ど無く、4発ずつ順次発射されているはずのそれはほぼ斉射に等しかった。
夕日に照らされる蒼白の飛槍の全てがディムロス達を狙っている。
それは戦いの中に惑いを持ち出したカイルの罪を裁くかのようだった。
抒情酌量など蚊帳の外で当事者達を傍観する第三者が持つ幻想に過ぎない。罪と罰は絶対でなければならない。
刑罰は、絶対であるが故に司法の座に在ることを許される。罪に下す罰の量に揺らぎはあってはならないのだ。
それでも、カイルは死に物狂いで躊躇している。一度それを失敗し、得られるはずだった何かを失ったから。
故に、カイルは迷う。生きなければならないとわかっている命を死の淵にさらしててでも。
掛け替えのない人だからこそ、今度こそその罪の清算を見誤ってはいけないのだと。

『莫迦め』
428Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 16:2008/12/21(日) 18:42:56 ID:lLG7vtZX0
ディムロスはそんなカイルを、そして嘗ての自分を―――――――――“嘲笑った”。
着弾の寸前にディムロスのコアが輝く。それまでで一番力強い光だった。
何事か、と頭で判断する前にカイルの両の腕が持ち上がる。
ただ何となく、ディムロスがそうして欲しいような気がしたが故に。カイルは自然に呪文を唱えていた。
『「ファイアウォール!!」』
カイルの手の平を起点としてと紅壁が楯と燃え上がる。それはディムロスが箒を介して単体で放つそれよりも厚く、熱かった。
着弾する氷槍がその壁に刺さり止まる。炎が消えず氷が融けぬのは構成する力が五分である証左。
対処が間に合わなかった五番から八番が左に持ったディムロスから発せられる壁によって防がれた時点で、
アトワイトが残り八本を急停止して待機、速やか再編へとシフトさせる。
両の手が塞がっているはずなのに彼女の中の人間だった頃の記録が確信する。この壁は穿てないと。
『カイル。お前は莫迦だ、大莫迦だ。少しばかり知恵が付いたかと思えばこれか』
「ッ……さ、三度も言うことないだろ!」
燃え猛る壁に挟まれたようにも見える格好で、呆れたような声を出すディムロスにカイルは反発を上げた。
ディムロスは少しだけ怒気を増して返す。
『三度で済めば重畳と思え。……まったく、下らんとこだけ似通りおって』
え、と言いかけるカイルの疑問を遮る様にディムロスは大声を上げた。
『言うに事欠いて“許して良いのか?”だ? カイル、いつからお前は裁判官になった?それとも、神にでもなったつもりなのか?』
その問いに臓腑を握りしめられたような錯覚を覚えながらカイルは言葉を咽喉に詰まらせる。
ヴェイグの言葉をカイルは思い出した。人は罪を償うことはできない。
それは、本当の意味で人が人を許すことが出来ないからだ。
429Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 17:2008/12/21(日) 18:43:43 ID:lLG7vtZX0
『射線再確保。往ッて!』
再配置されたランサーに再び彼女からの狙撃指令が下される。シールドされた左右側面を全て捨てて、
上下前後に各2発用意されたそれが火線を合わせて一直線目指して飛翔した。
それに気づいていないのかと思いかねないほど平静に、ディムロスはカイルに言った。
『カイル、悩むべき所を見誤るな。“人は、過つことから逃れることは出来ない”のだ』
「え……?」
カイルがディムロスの言葉の真意を問おうとする前に、剣を伝って何かを感ずる。
それは錯覚なのかもしれなかった。だが、その言葉に込められたものが悔悟であると思うくらいには察せられる。
箒がホバリングしたまま一気にロールし、カイルの体が大きく傾いた。
先ほどのファイアウォールと同様、ディムロスが何をしたいのかがカイルには何となく――――否、そうだろうと分かる。
「――――――ヴォルテックヒートッ!!」
『ッ!?』
カイルを基点として湧き上がる赤色のつむじ風が、解除された双璧に引っ掛かっていた槍ごと飛槍を一瞬だけ引き留める。
燃える風の全周防御。当然その密度は楯よりも薄く、楯さえ貫きかねない槍の前ではせいぜい一瞬金縛る程度にしかならない。
だがその一瞬があれば、焔は一気に燃え広がる。
『空いたか、ブースト!!』
カイルの晶術によって間隙が生まれ、完全に術の補助を行わずに目を更にしたディムロスが陣形の穴を見つける。
即座にそこから機動コースを見出したディムロスが一気に箒を唸らせ、アトワイトの構築した火力密集領域から自分達を弾き出した。
アトワイトは自身の動揺を最小限に留めて、半壊した氷を再編しようと自身を回そうとする。
『逃ガさない! 凝固再……』
「待った」
しかし、それにミトスが水を差した。
『止メナいで、もウ時間が――――――ッ!?』
ミトスの静止を振り払おうとしたアトワイトは、ミトスを見てその罵倒を呑まざるを得なかった。
「ああ、時間。“そういうこと”。この期に及んでお前はそれを狙ってるのか」
ミトスの“状態”からアトワイトはディムロスの方へと視線をずらす。距離を離して旋回移動中。
ここからだと死角か。おそらくは見られてないだろう。
「勘違いするなよ。別に今更咎める気もないからさ。むしろ、有難うっていいたい位だから」
それを行いながら、ミトスは素直な言葉をアトワイトに投げかけていた。
素直すぎて間違った吹き替えなのではないかと思えるくらいこの光景から乖離していた。
「“だけど”、とりあえず少し待って。今補給するからさ。これでお前の持分、全部だ」
『みトス、もウソれは。セめて―――――――』
彼女の口を塞ぐように、ミトスはその柄をほんの少しだけキツく握った。
「お前だって似たようなもんだろ。人のことをとやかく言える立場じゃない。
エクスフィアのついたアトワイトのコアに赤い飛沫が飛び散る。
「なんにせよ、やるなら早くした方がいいよ。僕が萎えてる間に。虎の子が熾きる前に、ね」
血の付いていない部分に反射したミトスの口元が笑う。諦観だけでできたようなその笑顔には、僅かに恍惚が混じっていた。
430名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 18:46:27 ID:v4fjoTHlO
支援
431Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 18:2008/12/21(日) 18:50:41 ID:lLG7vtZX0
状態バランスをとりながら、ディムロスは先ほどの言葉に続けた。
『……人が人を裁くなどそれそのものが傲慢だ。だが、割り切れぬものとて割り切って選ばねば人は前にも進めん。
 だから人は人を裁く。線を引いて、物事の輪郭を明瞭にするために。
 神にしかできないそれを人の手で行うのだ。傲慢以外の何物でもない。だが、神がやらぬ以上誰かがやらねばならない』
「だからって、選べっていうのか……ディムロス、あんたみたいに」
ささくれ立った棘を生やすような怒気を語気に渦巻かせてカイルが何かを口の端から吐露した。
全体の決定。大局的な物の見方。戦略眼。情では切り落とせぬものを、理にて裂く。
それをかつてディムロスは、ディムロス=ティンバーは息を吸うように行ってきた。
それは戦争であり、それはその循環の中で当然の一つだった。
『必要ならばな。それが人の上に立つ者の責務だ。
 例えそれによって私が何かを失うとしても。私の下で戦う私が守りたい者に、何かを失わせぬために』
「…………失って、守る」
胃の中まで入れた言葉を、カイルは喉にまで引き出して口に戻す。
心に鍼を一本通されたかのような冷たさがカイルを襲った。それは霧の冷たさではなく昨日の夜の寒さだった。
かけがえのないものを守り通す生き物で、自身の望みを一切を捨てる生き物。
失った母の存在を失いたくはない。だが、その仇ももう失いたくはない。
どちらかは守れる。だけど、両方を守りたいという本当の願いは捨てなければならない。
人の上に立つ神のいない世界で人の上に立つ生き物で、世界を変えうる力を持つ生き物。
そんな生き物にでも――――――英雄と呼ばれる生き物でもならない限り、人を許すことも裁くことはできはしない。
何かを守ることと全てを失うこと。この二つは、きっと矛盾しないのだ。
あの夜の意味が、今初めて理解できたような錯覚をカイルは覚えた。
それは詭弁だとカイルは知っていた。錯覚ではなく経験だ。何故なら、カイルは既に―――――――

『だがな、カイル。“君”は私のような唯の腰抜けとは違うのだろう?』

揉みくちゃになりそうな意識を引っ張り出したのはディムロスの声だった。
諧謔と皮肉が多分に混じり合った苦笑が、張り裂けるカイルを空に留める。
ソーディアンとしてではない、千年前に出会った人間の言葉のようだった。
『……だから莫迦だと言ったのだ。お前は理合などに収まる枠ではないと思っていたのだがな。
 今のお前では考えに考えを尽くしたところで、答えも出ん。そもそも、それは考えているとは言わん』
失意のような意気を溜息と吐いて、ディムロスはカイルを嘲った。
「そ、そんなことない! 俺は!!」
半ば反射的にカイルが抗じた。が、ディムロスはその刀身を用いることなくカイルの心に切り込んだ。

『ならば聞くがな。お前は、何故ルーティが死んだかを知っているのか?』
432Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 19:2008/12/21(日) 18:51:22 ID:lLG7vtZX0
「それは……」
言いよどむカイル。絶対的な事実であるはずなのに、ヴェイグが殺したからだとは何故か言えなかった。
今のヴェイグしか知らないカイルには彼が母を殺す姿を想起できなかった。
『口にできんのも当たり前だ。お前は、ヴェイグのことをどれだけ知っている。
 奴がどういう思いで戦ってきたのか、その道程の触りさえも知るまい』
カイルは閉口するしかなかった。彼が何の理由もなく母を殺すなど、それこそ信じられない。
なのにその理由にさえ考えが至らなかったことに今更ながら気づかされたのだから。
『お前があの時の、リオンのことを悔いているのは分かる。同じ過ちを二度と冒したくないというのも、理解できる。
 だがな、間違えたくないからといって、選ぶことを放棄するのであればそれこそ本末転倒ではないのか』
「え……?」
『あの時お前を突き動かしていたものが誤りであったと何故断ずる。どうして断じてしまえるのだ
 お前は確かに短慮だった。話を続けて、全てを知ることが出来たのならばお前の選択も変わったかも知れん』
あそこで剣を誰かが振らねばどうしようもなかったとしても、あそこで終わりにしなければもっと違う結果が得られたかもしれない。
だが、とディムロスはその可能性を切り捨てた。
『それの選択が最善だったかなど誰にも言えんのだ。だが今のお前は、ただ結果だけを見て考えている。
 お前の代わりに敢えて言ってやる。それは腰抜けの考え方だ。
 それともあの時選んだ答え、振った剣に込めたものまでも過ちだと否定できるというのか』
ディムロスを握るその拳を見据えて、カイルはその感触に思い出す。
(ロニ…………ジューダス…………)
あの洞窟の中で膨れ上がった殺意。氷さえも溶かしつくす黒い焔。
あれはおぞましいものであったし、叶うなら二度と見たくはない。だが、否定はできない。
火のない所に煙は立たない。あれは―――――あれを燃やした想いは、失われてしまった掛け替えのないものの絆だから。
『カイル、お前は見誤るな。人は過つ可能性から逃れることは絶対にできない。
 未来を、歴史を知らぬ我らは、何が正しいかさえ知ることのできない生き物だ』
カイルの中でちくりと記憶の棘が痛む。未来を知り、時空を超えた彼にしか知りえない痛みだった。
あの時の軽薄な自分の存在が疎ましく思えるほどに痛む。未来が保障されてなければ、動けないのか。

ディムロスの言葉にカイルは少しだけ齟齬を覚えた。彼の知るディムロスはほんの少しだけ、臆病だったと思う。
だが、カイルはその齟齬を素直に受け止めることができた。それは決して好ましくないものではなかった故に。
『私とてそうだ。自ら選ぶことに耐えきれず理に流され、最後の最後で自らを尽くして決めることを放棄した。
 その私の弱さの結果が、今私の目の前で結実している』
カイルは前を向く。飛ぶことに疲れたのか、遠くに小さく立つ少年は大地にてこちらを向いている。
そして、その手にはディムロスが目指すべき欠損が迎撃態勢を整えていた。
その動機は分からなくてもカイルにはその感情は刃を通して理解できる気がしていた。
命に等しき力を削ってまで刃を向けてくるの彼女を一度諦めたのは他ならないディムロスだからだ。
一度は彼女を捨てた。あの時自分に考えうるもっとも正しい判断に基づいて。
『あそこでリアラ達を見捨てた。その是非は結果論として、あの局面ではあれが最適だった。
 情報もなく戦略の立てられない状況で無闇に血を流すより、来るべきときの戦略に使える戦力を出来る限り温存すべきだった。
 それは正しかったと今でも思うし、その結果として今彼女に刃を向けられるのは当然のことだと受け止めよう。
 足りなかったのは、私の覚悟だ。その選択を今更悔やんでしまう程度にしか考えを尽くさなかった私の底の浅さが、
 彼女に要らぬ傷を負わせてしまった。それはヒトとして許されないことだ。いや、私が許せぬ』
だからこそ、ディムロスは思う。正しいと思うなら徹底的に見捨てて切り捨てるべきだった。
何かを選ぶということは、選ばれなかった何かから恨まれると言うことに繋がる。千年前にさんざん知り尽くしたことだった。
情だけで選ぶことも、理だけでも選ぶことのできない中途半端だから私は腰抜けなのだろう。
そんな情けない男に、女がそっぽを向くのは全く以て道理以外の何物でもない。
『カイル。過つことを避けられるよう努めるのはいい。
 だが過つことを怖れるな。私のような罪人になるな。人は唯その選択が未来にてどのような結果になろうと、
 考えて考えて考え尽すことしか出来ぬ。決してその選択を過去の後悔とせぬ様、現在を尽くすしかないのだ』
433Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 20:2008/12/21(日) 18:54:20 ID:lLG7vtZX0
ディムロスの声は、悔悟と女々しさに満ち溢れていた。体内の膿という膿を全て斬り絞るかのように自身を押し潰そうとしている。
「貴方は、どうするんですか……?」
カイルは足りない酸素を取り込むかのように反射的に問うた。俺、お前ではなく自然と嘗て出会った人への話し方になっていた。
自分が持っていない何かを、ディムロスは既に得ている。そういう確信がカイルにはあった。
『私は、ただアトワイトに一言謝れればそれでよかった。
 ミクトランを打ち倒すこと、お前を生きて帰らせること、私たちには為さねばならんことが山ほどある。
 故にそれより先を望むつもりは無かったし、私には資格がない…………そう、思っていたのだがな』
瞬間、カイルは寒気のする熱を覚えた。涼しげな蒼い焔が、実は赤い炎よりも熱いように。
『だがアレを見て気が変わった。あんな痛ましい姿は見ているこちら側が堪えん』
ソーディアンとしてのディムロスでもなく、カイルが千年前にて出会ったディムロス中将でもない、
どす黒い、生臭い、ディムロス=ティンバーという一個の“何か”だった。
『私は奴を、アトワイトを救いたい。例え私のものに帰らなくとも、それが許されようが許されまいとも、だ』
それはカイルが見たことのないディムロスだった。
アトワイトとディムロスが恋人で会ったことはハロルドから聞いて知っている。だからこそディムロスに腰抜けと言ったことがある。
だが、それさえも恥じ入ってしまいたくなる“本性”としか呼べぬそれがディムロスから露出していた。
(ディムロス、貴方はそれが出来ると、思っているんですか。貴方は、貴方は、剣なのに)
『剣が夢を見て何が悪い。資格など無いことなど血の通わぬこの身が一番分かっている。
 だから、私は唯願うよりない―――――――――――カイル、お前にだ』
びくんと、カイルは手だけではなく全身で震えた。
その震えは、剣を通じてディムロスに心を読まれたような気がしたからであり、自分を名指しで指名されたからでもあった。
『手はある。懐まで逝く手も、向こうの戦列を突き崩す手も勘案した。
 それには、私が全力を出さなければ届かん。そして私は、自分で自分の力を引き出す事が出来ん。
 私は、どこまで夢を見ようが願おうがソーディアン、唯の道具でしかないのだ』
それは懇願とも依頼でも無かった。一番近い単語を探せば、その付近に恫喝や恐喝といったものが目立つものだった。
そしてカイルはそれを自身が信じられないほど素直に嚥下した。
ディムロスが、自分を気遣って最大戦速を出していないことを体で理解していたからだ。
『口惜しいが、今までの手合いで明瞭した。私一人では一歩届かぬ。だからお前が私を運んでくれ、彼女の下まで。
 お前が今戦う理由を選べぬならそれでも構わん。唯“私の理由”の為に力を貸してくれ……ッ』
それはディムロスがこの島に降り立ってから初めて口にした“私”だった。
ソロン、リオン、してヴェイグ。たとえ剣がどんな崇高な理想を掲げようと剣として持主は選べない。
武器であるがゆえの達観を抱えたディムロスが、今、初めて全ての戦略的なものを投げうって希った。
カイルにはディムロスの剣についた返り血の全てなど知るはずもない。
だが、それでも、カイルはその願いに、自分にはないものを感じざるを得なかった。
434Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 21:2008/12/21(日) 18:55:02 ID:lLG7vtZX0
カイルの手の震えが止まる。僅かな漣は残っているが、それでも十分余韻と呼べるものだった。
『カイル…………すまん』
箒が敵へと向けて微速に前進し始めた時、ディムロスが最後の謝罪を吐いた。
これが今生の別れとなるかは別にしても、恐らく会話は出来ぬと知っていたが故に。
ディムロスが行おうとしていることはそれほどのリスクを孕んでおり、カイルを気持半分で引き込んでよい場所ではない。
カイルの心のしこりは、恐らくは時間をかけてゆっくりと解すべきものだ。
だが、ディムロスにはその時間がない。アトワイトがあとどれだけ保つかも分からない現状、
明け透けに言い切ってしまえば“カイルの趣味に付き合ってる暇がない”。
『なにも考えなくていい。お前はただ剣を持ち箒を握りしめて、私の呼吸を合わせることに専心しろ』
「……それだけで、いいの?」
『そうだ、それだけだ。それだけに、耐えてくれ』
ディムロスの言葉は遠回しに、それだけのことでさえ命を失いかねない場所に今から向うことを暗に伝えていた。
持ち主を死に至らしめかねない境地に誘おうとする剣など妖刀魔剣の類いだ。
だが、カイルはそれを受け止めた。肉体にかかる負荷など、この心の痛みほどに増すとはとても思えなかったから。

『来タわね。ミトす、テは出さナイで』
アトワイトが遥か遠くの敵機の運動を感知し、気体として待機させていた兵たちを叩き起す。
「僕の好きにしていいんじゃなかったっけ?」
意地悪く笑みを浮かべるミトスにアトワイトは少しだけバツの悪そうな気配を放った。
「ま、いいよ。お前に任せたのは僕だ。ここで死ぬなら良し。お前の水でかき消える程度の炎だというなら、それまでだしね」
『…………ソウあることを、願ってるわ。前列SAM八発、斉射!!』
見る見るうちに槍兵が並べられていく中で、アトワイトはミトスの意思を確認した。
ミトスは“まだ”絶頂にまで行っていない。あの一合目を経てから、その殺意を押し込めている。
それはきっと自らを試金石と考えているからであると、彼女は考えていた。
逆に言えば“まだ”この戦いを彼女のものと出来る可能性があることを意味している。
(ミトス、貴方には悪いけど、彼らには私の力で帰ってもらう。貴方はそれを嫌がるでしょうけど、その方がきっと貴方のためになる)
ミトスの“補給”を二度見た彼女はそう考えていた。彼に好きにやってしまえばいいとはいったが、
それがアトワイトにとって許容できるかどうかは別問題だ。
最後の最後には恐らくミトスの思い通りになるよりないだろうが、それを最後の最後の最後まで回避しようと願うのも彼女の意志だった。
(軌道計算は終了した。どんなコースで攻めてきても、確実に撃ち落とせる。
 ディムロス、“諦めなさい”。もう、貴方の刃は私には一太刀たりとも届かない)
彼ら彼女らに残された時間の総量から考えればかなり“とっくり”と費やした時間によって彼女の守備は盤石と化していた。
彼らのトップスピードや旋回能力を含めた航行能力はほぼ割れている。
今しがた放った地対空射撃に対しディムロスがいかな回避行動をとろうが、
中距離より繰り出されるAAM交差射撃8発が待ち構える。次のクロスで、98%撃ち落とせると彼女は判断していた。
なのに、彼女の刃に僅かながらの震えがあるのは何故か。
震える心などもう無いはずなのに震えるのはその2%を恐れているからか、それとも。
435Ace Combat −Hearts on the shattered sky− 22:2008/12/21(日) 18:55:49 ID:lLG7vtZX0
『自分で考え、自分の意思で、自分の判断で、か。軍人にはそれはあり得ん。規律と法なくば群れは軍と機能せん』
(私はお前を見捨てるべきなのだろうな。お前はそれを望んでいるのだから)
見る間に近づいてくる氷槍を見ながら“暖気”をするディムロスはそう漏らした。
アトワイトの行動を遡れば、それ以外の解釈は無かった。したくはなかった。
一度は、理と情の狭間に彼女を取りこぼしてしまった。ソーディアンとして、ディムロスという人格として。
それを罪と思い彼女に報いようとするならば、ディムロスはカイルなど無視して舳先を村へと向けるべきだった。
それが地上軍前線司令官たるディムロス=ティンバー中将としての考え方であり、それは必要だった。
『だが、今ならば理解もできよう。お前にそういう柵を説いたところで無駄なのだったな』
(だがな、アトワイト。私は守りに来たのではないのだ)
だが、“もう配役は変わってしまった”。参謀からさえも弾き飛ばされた今のディムロスは唯の一兵卒に過ぎない。
(だから私も勝ち取りにきたのだ。アトワイト、お前を取り戻す為に)
熱が熱を揺らす。箒に蓄えられた熱エネルギーが、内部から震動する。
最早この身は唯の突撃兵。而してその役割は―――――――――障害を焼き尽くし、灰と散らし、突撃あるのみ。

『ああ、いい風だ。前線で暴れるにはもってこいの風だ』

刹那、世界が“あつきちから”に爆ぜた。

436名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 19:00:19 ID:z2ILfXOyO
支援
437名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 19:00:29 ID:pDVf5OQEO
支 援
438Ace Combat −蒼紅連刃− 1@代理投下:2008/12/21(日) 19:05:57 ID:PAwzD3qs0
箒の後方先端より吹き出るものは今までの熱量の比ではない。
もはや火だと呼ぶしかない箒の中で焚かれた爆炎が周囲の大気を貪って旋風大嵐を巻き起こし、ディムロスたちを押し飛ばす。
その航行速度は先ほどまでとは桁が違う。彼女の放った地対空フリーズランサーの速さを僅かに上回っている。
空気抵抗も、機体重量も、そもそもの有人無人の有意差を含めて、その上で僅かに最高速度を上回った。
その意味に気づかぬアトワイトではなかったが、気付くよりも一歩ディムロスの加速が速い。
より巨大に、より先鋭となったファイアウォールは衝撃波とともに、
交差した八本のうちディムロスの眼前に立った運の悪い二本を消滅させた。
理想的密度以上に過凝縮された氷が気体と化してが爆発的な風を引き起こす。
彼らの背後を赤々と染める炎熱を目の当たりにしたアトワイトは唖然とすることを初手とするより無かった。
ディムロスが行った加速そのものには驚くべき要素はない。
他の変換装置を経由しての晶力の行使。今までと桁の違う出力は、より高位の術を燃料代りにしているからか。
ファイアストーム……だけとは考えられない。エクスプロードまではいかないくても、フレアトーネードはまず出している。
“速度が出ないなら、もっと燃料を炊けばいい”という至極シンプルな発想だ。
確かに高温になればより大きなエネルギーが生まれるのだから速度だって速まろう。
が、現実には物理の壁が立ちはだかる。風防の無い露天、魔的にあろうとも所詮は樹として朽ちる龍骨。
そして、アトワイトになくてディムロスにはある、例え音速の壁を越えられたとしても本当に危うい更なる壁――――人体への危険が。
『ッ、命令変更! 9番カラ12番集束射撃ッ!!』
驚愕を懸命に理性から押し放して、追撃に使うはずだった後詰のうちの半分を自分の前面に集めて発射する。
戦力は固めて使うのが当然であり、彼女の対応は決して正しいものとは言えなかったが、
ディムロス達の背後が夕空よりも紅くなっているのを見てしまってからの判断と加味すれば上出来というよりない。
“なんとしてでもあの殺人速度を殺さなければならないのだから”。
散発的な一撃ならばともかく4発分纏めて食らえば唯では済まぬと判断したか、ディムロスがアトワイトまでの直進コースを外す。
それを一目確認したアトワイトは速やかに乱れた前半8本を再編、ディムロスの後方より追撃させる。
あれだけの加速を行えば、当然回頭には負荷がかかる。カーブが頂点に達する一瞬今までよりも減速せざるを得ないはずだ。
だが、ディムロスはその思惑を否定した。
ディムロスの指示か、カイルが機首を大きく曲げ、ディムロス自身も炎嵐の噴射方向を変えて一気に90度近く右に曲がる。
強引に力を加えられたその軌道変更は、今までの旋回よりも半径を小さく鋭く、彼らに飛槍は一歩届かない。
1本が余熱にやられ砕けて溶けるほどの熱を纏って、ディムロス達が辛うじて飛び上った彼女たちの右斜めを横切っていく。
まだ決して距離がないわけではないのに、彼らの通った道をなぞる様にして渡る風がミトスの髪を煽いでいた。


439Ace Combat −蒼紅連刃− 2@代理投下:2008/12/21(日) 19:06:56 ID:PAwzD3qs0
吹き荒ぶ爆風の中、ミトスがトンと足を大地から蹴りあげてな飛翔し始める横で、
第一波を辛うじて凌いだアトワイトは残存する13本を並べながら、今の彼女からは想像もつかぬ叫びを上げた。
『止まりなさイっ! カイルを殺す気!?』
ディムロスは軌道を直して再突撃コースを選別しており、彼女の声にどう反応したかは分からなかった。
が、ミトスの眉根がぴくりと動き、苦虫を噛み潰したような面を見せる。
『貴方モ私もニン間じゃない。ダけど、その子は、カイるは違うデしょう!?』
アトワイトの視点はカイルに合わせられていた。
箒にしがみ付く様な格好になっている彼のその唯でさえボサボサの金髪も輪をかけたものになっており、
直撃してもいないのに、襤褸切れのような体を見せている。
『ソレだけの加速、空気テヰ抗や機体損耗モウを度外視でキてもその子ガ耐えラレない。重圧で圧シスるわ!!』
ディムロスが箒を加速させれば当然、それに乗っているカイルも加速することになる。
人体に重力を、加速度Gをかければどうなるか。当然目が回る、頭痛がする。平衡器官の不調と血流量の異常が身体を乱す。
その程度で済めばいいが、この速さはもうその段階を二段ほど吹き飛ばしている。
下手を打てば骨を折りかねない、人体に致命的な影響を与えかねないこの速度はカイルが搭乗したことのあるイクシフォスラーの比ではない。
少なくとも、この速度で撃ち落とされるか墜落すれば、確実にカイル=デュナミスというミートソースが出来上がるレヴェル。
アトワイトがそれに近い速度を維持できるのは、エクスフィア云々というよりも動かしているものが命なき氷だからだ。
ディムロスが出せば、剣である当人は耐えられても生身のカイルはそうはいかない。
ブラックホール。グラビティ。重力変動系の魔術による短時間の高Gならば慣れがあっても、長時間のそれは未知の領域だ。
なんの訓練も施されていない、なんの肉体的強化もされていない、ましてや怪我を負っている人間を乗せた箒の取る速度では絶対に有り得ない。
『百も千も承知……こうでもせねば、届くまい……お前にはァ!! 』
突撃コースに乗った彼らの第二波が再び彼女らに襲い掛かる。
ギシと悲鳴を上げる箒、煌々と燃える熱機関。その慟哭こそが必要だとでもいうように、ディムロスは猛った。


440Ace Combat −蒼紅連刃− 3@代理投下:2008/12/21(日) 19:08:19 ID:PAwzD3qs0
『ッ……馬鹿!!』
アトワイトが怒りに似た荒れた輝きを放ち、欠損した3本を拡充して再び16連槍を展開する。
『私のことを考えている暇があるなら、生きている人のことを考えなさい!!
 私と違って、貴方は、未だ守れるでしょう!! その子と生きて帰るのが、貴方の役目でしょう!!』
怒れる彼女は第一波の最高速度、旋回半径、推力データ算出し、次弾の軌道を計算する。
『ミトスの計画は墜ちた。ひょっとしたら、それは私が貴方に大いなる実りの存在を伝えたからなのかもしれない。
 貴方や、あのグリッドという男が洞窟に来て抗ったとしても助からなかったかもしれない。
 そんなことは、貴方に言われなくても解ってるのよ! でも彼女は、リアラはもう死んでしまったの!!』
幾ら速度は増そうが、数値化してしまえば唯のスペックだ。それに合わせてホーミング精度を弄ればいい。
あれ以上はカイルが即死する。幾ら危険にさらすといっても、それ以上は物理的に出せない。
『可能性なんて意味がない。未来なんて仕方ない。有るのは現実と事実だけ。
 善悪でも是非でも無く“私の行動が、彼女たちを追い詰めしまったってこと”だけなのよ』
足を殺す。12本を犠牲にして、先ず徹底的に速度を殺す。その後、残る4本で四肢を落とす。
出来れば左手が好い。大剣の重量を支えるべき左手が落ちれば、もう武器としてはふるえまい。
『耳がイカれてるかもしれないけど、カイル、貴方は言ったわね。
 “自分だってまだ生きてる。だから、終わりなんて何処にもない”って。
 コレットとあの子を見て、あの時少しだけ揺らぎそうになった理由が分かったわ。
 生きてるだけで機会はあるかもって、その実践例を見せて貰ったから』
メモリに記録された命。少女の心と少年の末路。ただの情報であるが故に、褪せることなく彼女に残っている。
『だけど、もし貴方があの時私を見逃したのがこの為だったというなら―――――貴方の方が終ってるわ!!』
射出される魔弾。一本一本が魔槍神槍の類と錯覚しそうなほどに磨き抜かれたそれが、惜しげもなく発動する。
『こんな場所にきて、その理由がミトスと決着? 馬鹿も休み休みいいなさい!
 そんなもの着けなくたって、生きていれば幾らでもなんとでもなるわよ。ウダウダと未練を引っ張ってるのは貴方だって同じ。
 ……私はもう終わってる。けど、貴方は続いてるわ。なのに、貴方はここに終わりに来た。
 そうして、ディムロスに振り回されて、命を危険に曝してる。甘さを通り越して滑稽よ!』
今までの射撃に比べ頭一つ抜きんでた弾速で飛来する敵意に、灼熱の防壁は精々日傘程度の役割しか機能していない。
『どうして自分を大切にしないの? 未来を危険に曝してまで何をしたいの?
 他人に口を出すことだけが一人前で、自ら死地に足を踏み入れて。そんな貴方に私達は指弾できない。
 ディムロスに振り回されてる今の貴方に、見つめ直す資格も、見つめ直す“自分”さえも無いッ!!』
紙“八”重ほどの距離で辛うじてディムロス達が凶器を避ける。
それなりの間隙を開けても、カイルの体が寒さにか大きく震えた。一重では、凍傷になってしまうからだ。
それほどの威力を彼女はそれに込めており、それは命を業火に晒し続けている彼らへの叱責だった。
『ディムロスもディムロスよ! 私達はそもそも人でもない唯の剣。
 解ってるんでしょ、この子は生き残るべきよ。貴方のエゴと私の未練で弄んでいい命じゃない!!』
だが、それでもディムロスは止まらない。迂回し、回避し、それでもその矛先だけは彼女の元を向いていた。
何かを締め付けられるような疼きを抱えながら、彼女は心を軋らせる。
『…………それでも、退かないなら。私が力ずくで帰してアゲる。四シの一つがもゲテも、“続き”はあるんでショう!?』
いまや彼女の願いは、唯平穏なる終息。終わってしまったその身にはそれでさえも過ぎた願いだ。
ミトスの望むそれは殺し合いの果てに終わるものであろうが、彼女にはそれは好しとできない。
願うものを失ったミトス。ミトスの願いを叶えられなかったアトワイト。
結果が同じであるのならば、カイルを巻き込むことはどうしても彼女には耐えがたかった。
リアラに続き、カイルまでその手に掛けてしまいそうな気がしたから。


441Ace Combat −蒼紅連刃− 4@代理投下:2008/12/21(日) 19:09:54 ID:PAwzD3qs0
四方八方併せて十二方の槍衾を彼らは避けるが、
それは避けるというより速度を差し出すことで見逃してもらっているというほうが正しい有様だった。
紙一重スレスレで処理できない彼らは僅かに大回りのカーブを描かざるを得ず、
必然、その度に速度が落ちていく。傍から見る限りでは大差ないようにみえても、
それは空にて戦うものにとって見逃せないものだった。
速度を出したくても、断続的に襲い来る氷槍は直線距離を彼らに与えない。

じわじわと彼らの戦略の生命線である速度を殺されていく中、カイルはそれどころではなかった。
(生きるんだ、何処までも)
骨や内蔵こそ軋むだけで済んでいるが、既に身体を把握するほどの認識力さえ無い。
(クラトスさんが、父さんが、ヴェイグさんが)
視界が歪む。耳鳴りが酷い。頭が眩む。天と地が逆巻いて空間が蕩ける。
(皆が守ってくれた、この命を生きるんだ)
体内血液がめまぐるしく方向を失った重力に引き寄せられる。
(守るんだ、今度こそ)
見るもの全てが灰と血赤と黒を混ぜ込んでいる。
(ディムロスを、ミントさんを、ヴェイグさんを)
息も満足に出来ない流体の中、眼に集まる血は鮮やかさの欠片も無い。
(俺を守ってくれた人たちのように、皆の未来を守るんだ)
脳から引いていったり集まったりと忙しなさに翻弄されて意識は白濁と化している。
(もう過ちたくない。間違えたくないんだ)
何もかもが濁り行く加速度の世界で、カイルは漫然と考えていた。
(俺が間違えたせいで、誰かの未来が閉ざされるなんて、もう耐えられない)
それは思考と呼べるような上等なものではない。
(守るために、生きるんだ。誰かにとって掛け替えのないものを、今度こそ守れるように)
平衡器官の失調にて細切れになった、鉋屑のような電気信号の残滓。
(もし、それで俺が傷ついても構わないよ。だって)
平生ならば決して表面に出ることは無かったであろう諦観と矛盾が、酸欠と貧血の狭間から浮かぶ。
(ディムロスも、アトワイトも、ヴェイグさんだって、皆にはまだ続きがあるから――――――俺と違って)
アトワイトの問い掛けにカイルは何の反応も見せられなかった。
(終わってる……そうかもしれない。俺はここで終わってしまいたかったのかもしれない)
生返事することさえも辛い空域であったこともあるが、今のカイルにはその言葉が素直に受け止められた。
(ヴェイグさんが傷つかない選択肢が、選べない。ただ一言、許すというだけでいいのに、それが言えない)
血も酸素も欠けて血が砕けた足を圧迫して、黒く濁って弱り切った脳髄故にその欺瞞を吸い込んだ。
(あの人たちを見て俺の中の欠損が嫉妬している。欠落が欲情している。俺には、もう何も残ってないのにと)
玉のように瑕疵のない魂の奥底の絶対たる矛盾を、ブラックアウト寸前の世界で彼は朧に掴む。
(この黒い焔に、もう耐えられそうにないんだ。
 どれだけ守ったって、オレの守りたかったモノは、もう――――――――――――
 どれだけ生きたって、オレが生きたかったワケは、もう――――――――――――『喧しいッ!!!!!!』ッ……!)
だが、カイルはそこに至る思考を纏めなかった。纏められなかった。
酩酊する脳だからこそ開きかけたその扉は、蝶番まで壊れて覗けこそすれ内側のもの引き出せなった。
精神の6割近くが天に吹っ飛んだ彼を守っているのはその懐に入れた紋章と、そして彼の持つ剣の言った言葉だ。
(考えるな……握ってるだけ……息を、合わせて……)
ただ、本当に箒と剣を力一杯に握り締めて、息の仕方を教えてもらうかのようにただ念ずる。
鉄砲のような風圧を頭の旋毛で受けて、眼さえも瞑って。カイルはただその瞼の裏に移る、あつい背中を見つめいていた。



442Ace Combat −蒼紅連刃− 5@代理投下:2008/12/21(日) 19:10:57 ID:PAwzD3qs0
『余所見する余裕があると思ったか! カイルに気を取る間をやるほど、今の俺は心広くは無いぞ!!』
直進を封じられて尚、尾を引くような炎熱が更に猛る。真横から襲い来る槍を横方向に発動したイラプションで凌ぎ、
同時に横方向の推力を強引に与えることで無理矢理曲がる。
旋回と同時に急激に曲がる熱軌跡は不死鳥の尾のよう棚引き、に後方より急襲を目論む数本の槍を少しずつ溶かし崩す。
進路上に置かれた正面からの攻撃が、伏せるカイルの頭髪を掠め十四、五本ほど切り裂く。
前方を守るはずのファイアウォールは既に最低限よりも薄皮一枚削がれ、速度に回されている。
本来旋回とは減速し慣性にて曲がるものであり、速度を上げて旋回行動に入れば空転等の危険が増す。
急激な方向転換はそれだけで加速度の変化を生み、人体を脅かしかねない。
『ヤメっ、やめなサい! 私は絶対に貴女の下には戻ラナい。貴なタガ何をしようと無駄よ!!』
『無駄かどうかは俺が決める。お前の位置まで届いた後で!!』
『その為にカイルを犠牲にスるとでもいうの? 唯の剣であルアなタが!? 唯の剣であルワたしを? 莫迦モイい加減にしなさいッ!!』
融解した表面の水分だけ軽くなった弾頭は更にその速力を増して、水を飛沫と散らせる。
より鋭利さを増す刃を、ディムロスは悉く被弾と回避の狭間で処理していく。
カイルの背中や箒の毛に少しずつ刻まれる痕は、彼らが水際を彷徨っていることを明確に物語っていた。
愚劣極まりない、戦術とも呼べぬただの突撃一択。一度推力がカイルと箒の重心を外せば地面に衝突するまでも無く飛散できる機動。
後先など考えているかも曖昧な気狂いの攻撃に箒もカイルも何の不平も言わない。
数え上げればキリの無い無茶と無謀の雨霰。その矢面に立っているのが、他でもないディムロスであることを理解しているが故に。
カイルは唯この戦場にて息をするだけで精一杯であり、箒に人格も自律回路も搭載されていない以上、移動攻撃防御全てを行なっているのはディムロスだ。
しかも、カイルが自らに精神的な疲労をさほど感じていない―――肉体的に感じすぎてそれ所ではないとも―――のだから、
その消費の殆どをディムロスが請け負っている。純粋な晶術はともかく、運動に関してはほぼ間違いない。
アトワイトのような“処置”も無く、これだけのことを一手に引き受けてその回路が無事であると考える方が無理な話なのだ。
ディムロスは、カイルに死に至る無茶をさせている。だが、生かすための最大限の処置を講じた上でだ。
噎せ返る程に茹だった死が充満する場所で戦い続けた男は細やかな気遣いを失ってはいない。
『其処までカイルの心配をするとはな。何処まで自分を蔑ろにするか!!』
『――――――ドノ口ガッ!!』
ディムロスの猛りに、アトワイトは初物を花と散らされた生娘のような声を上げた。
猛火の如き進撃への恐れではない。彼女が鉄面皮、と唾棄したディムロスの中の何かが炙られた蝋のように解けて、何かが出てこようとしている。
遠い記録の中にしかない、しかし先日の記憶ような“それ”を、彼女は畏れていた。


443Ace Combat −蒼紅連刃− 6@代理投下:2008/12/21(日) 19:11:52 ID:PAwzD3qs0
ディムロスは箒とカイルに幾らかの、そしてなによりもまず自らにかなりの無理をさせることによって、
限りなく最高速度を維持したままでの運動を可能としていた。
それは人には想像の出来ない労力なのではないか、とカイルは思った。
ディムロスはそれを一切口にしなかったが、カイルは確信めいたものをその剣に抱く。
あの時代で、ディムロスが戦場で戦う様を見たことは無かったが、きっとこういう風にして戦ってきたのだろうと思える。
先ず自分が最前線に立つ。道を造る。そこを兵が通る。自らに危険を集めることで、相対的に結果的に彼の後ろの者たちを守る。
安全を与えられた兵は否応無しに士気を盛り立てる。誰もがこのどうしようもない戦狂いを死なせぬように機能し始める。
自分の限界を、他者の為に引き出すことを厭わなくなる。
後方で口だけを動かす三両一分の指揮官では勝ち取ることの出来ない信頼が、唯の人間の集まりを軍隊へと昇華させる。
殺すことと守ることと攻めることが、一体となり、その狂熱にて軍が一つの大炎と化す。
だが、ディムロスはそんな洗練された人物でもないのかもしれない。
真下から箒の“腹”を狙ってきた一槍をハエか油虫のように邪険に見て吐き捨てる。
情人との逢瀬を間男に邪魔された雄の嫉妬に近かった。
『うろちょろと鬱陶しい……燃え尽きろ!!』
言うや否や、機首を真上に上げて、ブラシから豪炎を撒き散らす。まるで己の剣のように鮮やかに炎が薙ぎ払われた。
余りにも広範囲に撒き散らされた炎は槍の回避範囲を強引にすっぽりと収めてしまい、為すすべなく溶けてしまう。
『ッ……今更遅いのよ。私はマスターと、ミトすト終わる。ここが封鎖されルヨりも、それはきっと早い』
軋みさえ聞こえてきそうな程に、エクスフィアを輝かせてアトワイトが自らを振るう。
発生したブリザードが、残るフリーズランサーにまとわり付いて更に凝固して巨大化する。
『バカだと思うでしょう? こんな力を得ルタめに、私は私を捨テテモ良いとさえ思ったのよ。
 そんなバカな剣なンて、忘れなさい――――――――――忘れてッ!!』

『……先にカトンボを落とさんことにはどうにもならんか』
アトワイトの悲痛な声を聴こえなかったとばかりに無視しきって、ディムロスは吐き捨てた。
余りにも無体な態度に一見すれば冷酷とさえ見て取れるだろう。だが、カイルはそれを見ていない。
瞼を閉じて映るのは、一人の男だ。肩を優に越える青い長髪と真白い戦装束に相応しい冷静さ。
だが、嘗て超えた過去の世界で出会ったディムロス中将の色とは思えないほどに、その背中から迸るものがある。
その奥底で、もしあるのであればその腸を割いてしまいたいほどの怒りの熱を孕んでいる。
カイルは共感できる。自分が許せないと、万言を尽くしても解体できないほどに絡みきった情念を。
心身とも千路に乱れたカイルは知りたいと願った。傷を舐め合いたいなどという高尚なものではない。
唯、自分があまりにも物を知らないが故に、乾いた砂が水を吸うような受動さで、その背中に自らを預けた。
瞼の裏の男が剣を構えて、何かの技を撃とうとしている。
魔神剣だ、ロイドが使っていた、彼の父親も使える技。自分には無い技。
思考を文節にまで変換できないカイルは、ただその背中を真似た。
自分に出来るイメージで形だけ模倣する。それが今のカイルの限界だった。
既に身体に蓄えられていた十分な加速力を伝達させて、カイルは腕だけを振りぬく。
蒼破刃。剣先より飛び出る風の刃。吹けば掻き消えてしまうような小さな風。
だが、それで十分だった。呼吸を、意識を、剣に合わせる――――――――人刃一対、ソーディアンはそれで発露する。

『「魔神炎!!」』


444Ace Combat −蒼紅連刃− 7:2008/12/21(日) 19:13:26 ID:lLG7vtZX0
ディムロスのレンズが輝くと同時に火が点されたかのように蒼い刃が紅く燃えた。
ソーディアン・ディムロスの最大特性。それは自らの晶力を用い、担い手の剣技を強化すること。
集った風に煽られた焔がその刃を鋭く大きくさせて飛び抜く。
(忘れてって、言ってるのに……それを、使うの? 貴方は……ッ)
それを見たアトワイトが回顧に大きく戦慄くが苛立ちでそれを食い縛り、事象を現実的な戦術問題へと落とし込んだ。
『……そンナ大昔の術剣で、私のヘン隊を止められルとでも!?』
アトワイトの一括にて残る氷槍が散らばり、紅刃を通り抜ける。
本来ならば地を這うべき衝撃波がどういう理屈か空を渡っているのかは驚くべき点だが、今はさほど重要ではない。
焔に幻惑されてはならない。所詮は唯の魔神剣だ。直撃は避けるべきだが、気を入れすぎるべきではない。
(再度、誘導切り替え――――――――ッ!?)
回避を終えて、再び攻撃に移ろうかとアトワイトが思った時に彼女はその異変に気づいた。
槍の穂先が鈍く震えている。当然彼女はそんな機微のある命令を出していない。
(センサーに異常…………違う! これって!!)
アトワイトがその主原因、及びそこから類推できるディムロスの仕掛けに気づいた時には既に遅かった。
過去へと眼を向けて現実へと振り返る一瞬の間隙が、彼女の応対を半歩遅らせる。
彼女が静止を命ずる前に氷槍達は“目標”へと向かった。
その弾頭を180度真逆に戻す。急激な回頭に耐え切れずに圧し折れた数本以外が全て、抜いたはずの魔神炎に向かう。
彼らは全く命令を違えていなかった。最速を以って目標に向かい、撃墜することだけが仕事であった。
だから、ごく当然に目標に殺到し、ごく自然に衝突し、ごく普通に粉砕した。
魔神の炎を消し潰して任務を達成し必然と滅んだ。

『フレあ、ディすぺンサ……』
自分の兵隊が砕け溶けていく様をある種呆然と眺めながらアトワイトはそう漏らした。
『あれだけの数、その全てに速度を維持して且つホーミングするとなれば誘導装置はシンプルに赤外線で行くしかない。俺とてそうする』
赤外線誘導。熱源を持つ目標への誘導方式の一種。
物体は須らく熱を持ち、赤外線を発し、高熱を持つ物体ほど赤外線を強く放つ。
エンジン等の高熱部の赤外線を検知して追尾するのがこの方式であり、弾頭自体が熱源を追尾するため母機が常時誘導する必要はない。
本来生成と同時に対象を目掛けて単純に襲い来るはずの魔術が長時間顕在し、尚且つホーミングを行う為には必要な自律追尾。
自らもよく知る波長の熱源であるからこその芸当。ディムロスの力を利用して飛行する箒は正にうってつけの追尾対象であった。
『晶術では反応しなかった所を見るに追尾方式の切り替えは出来るとみたが、剣にて俺の焔を振るえばそれも間に合うまい』
魔神炎。カイルの技でもスタンの技でもない、ディムロス=ティンバーの術剣技。
魔神剣と違い、地面を飛ばぬ蒼破刃を用いてその剣をディムロスが再築したのは攻撃が目的ではなかった。
即時発火によってディムロスとは別の、ディムロスと同種の炎を飛ばすことにる撹乱の一手はアトワイトの思惑を越える。
術ならば、アトワイトにもその事前動作を感知することよって看破できた。
素早くパッシブからアクティブへと切り替えるなり、プログラムを追加するなりの方法で対処が可能だ。
だが、ディムロスはカイルの剣を自らの焔へと変えた。連発は出来ずとも術と違い発動までのタイムラグは無い。
技を確認してから誘導方式を切り換えるのでは間に合わないのでは常時手動で操作するよりなく、
そして今のディムロスの速力に自らの処理能力では届かないと、砕けた氷槍を眺める彼女は分かっていた。
本来の目的を達成せずに無様に朽ちていくそれらを悪し様に非難することなど彼女にはできなかった。
彼らは命令を達したのだ。自分たちに与えられた機能を果たそうと尽くし、殉じた。
ただ、彼らよりも引いた視点ではそれは無様にしか映らない。彼らは真実に騙されていたが故に。
否、彼らにとってはそれは最後まで真実だったのだ。道具は真贋を見定める為に存在しているのではない。
445Ace Combat −蒼紅連刃− 8:2008/12/21(日) 19:14:15 ID:lLG7vtZX0
『結局の処、我らもあの蠅も何も変わらん。何が真実であったかは結果論でしかない。
 俺も、お前も、あの時に取り得る最善と信じた手を打って、その結果がこの様だ。
 それによって真実が変わり、自分が行ったことを過ちと知り、悔やみ、先を見ることを厭うのも当然だろう』
追撃するべき絶好の機会をディムロスは逃がさない。再び突撃形態を採りアトワイトに向けて進撃する。
アトワイトは舌を打つ暇もなく後方に下がりながらニードルを散発的に射撃するが、炎壁牙楯の前には牽制にさえならない。
あれを突き破るにはフリーズランサー以上の威力が必要だ。だが、魔神炎という対抗策を切られたことで狙って落とす手段は消えて失せた。
『今頃になって開き直り!? 私ノコれはなんかじゃない。私にはもう何も残ってないといウタだの事実。
 もう、どうしようもなイノよ……あのコノように、夢を信じられルホど若くなヰ…………』
ディムロスの言葉に石のように固まった彼女の心が固まり過ぎて中で罅割れ、亀裂から染み出すような感情が水滴のように流れ落ちた。
過去を誤った自分の現在などとっくに穢れ切っている。穢れた手で掴めるのは、穢れた未来と黒い運命だけ。
だからこそ彼女はミトスに委ねた。せめて自分が選んだという後悔だけでも避けられないかと。
それさえも失った彼女が望むのは静寂な終焉。可もなく不可もない、痛みのない甘い死。
『“だが、それは現在を諦観する理由にはならん”のだ!! 現在と直結しない未来など、目を背ける口実にしかならん!
 可能性に甘えられるほど、お前も俺ももう子供ではないのだから!!』
雑多な弾列を一文字に切り裂きながら、ディムロスは叫んだ。
あったかも知れない最善手を考えたところで、それはもう打てない。
過去はどこまで振り返ろうと過去でしかなく、未来はどこまで行こうと未来でしかない。
戦うべきは現在。過去の過ちを繰り返さぬように尽くすのは現在。未来を善くするために尽くすのも現在だ。
「無理だね。過去は断ち切れない」
ディムロスが針の筵を抜け切って衝突しそうになった瞬間、嘲るような調子でミトスが今まで開けていなかった口を開いた。
氷壁を一枚貼り出した風に流れる様な流麗さで彼らを往なして転移し、距離を開ける。
「過去と現在と未来は元々連続性を持ってる、上流から下流に流れる川のようなものだ。切り取って語る時点で足りてない証拠だよ。
 例え間違いだと分かっていても、変えられないものがある。過去についた大きな傷は、どれだけ時が経とうが未来に至る痕となる」
アトワイトが僅かに怪訝な態度を顕す。このタイミングでミトスが割って入るという可能性を考慮していなかったからだ。
訝しむ彼女を尻目に半目に細めて彼女に何かを言ったあと、ミトスはディムロスの意思を嘲笑った。
それが出来れば苦労はしないのだろうと。自らを省みて笑うかのように。
ディムロスはそれを無視して、再び彼らに狙いを定めようとコースを決めようとする。
それに嘆息を付いたミトスは、カイルの方を一瞥して少しだけ考えてから再び口を開いた。

「始まった時点で付いた傷は、あるがままの流れは、変えられない。
 それを運命というんだろ? ―――――――――お前らの歪んだ過去のように」
446Ace Combat −蒼紅連刃− 9:2008/12/21(日) 19:14:54 ID:lLG7vtZX0
さしものディムロスも、動きが止まる。減速と小旋回の後に浮遊した彼らとミトス達には十数メートルの距離が隔てられていた。
ディムロスが沈黙する中、やっと息が出来るとばかりに過呼吸ぎみに口を開きながら、カイルが口を開いた。
ディムロスの代わりに聞かなければならないと、思った気がした。
「どう…………いう…………意味だ…………」
「……その調子じゃ、気づいてないね。お前が一番先に気づける位置にいたろうに。いや……部外者じゃなかったら気付かないか」
口元を歪めたミトスがカイルの無能を論った。儀礼的な露悪が匂う振る舞いで彼は二本の指を立てて絡み合うようにくねらせた。
「あの女の話、アトワイトの話。そしてお前とスタンの関係を見るに、大方お前らは他の参加者と違って一つの世界から分岐をしているんだろ?
 昔取った杵で、僕もその手合いの話にはそこそこ造詣がある。僕が聞いた限りで言わせるなら――――――ソーディアンは“黒”だ」
絡みあった二指をカイルらに突き刺して、ミトスは吐き捨てた。
『みとス……そレは……』
アトワイトは何かを言わんとしたが、ミトスの吟味するような目付きを見て考え込んだように俯いた。
ディムロスはただ黙し、カイルは混濁する眼球でぼうとミトスとアトワイトを交互に見つめる。
「こいつはお前と出会った歴史、そしてミクトランと戦った歴史を持っている。この時点で、単純におかしい。
 両方が並び立つはずの無い二つの歴史を抱えるなんてこと、そうそう無い」
絡めた二本指を彼らに突き立てて、ミトスは稚児へ小水の仕方を教えるような丁寧さで当たり前のことを語る。
歴史は一人につき一つ。時間旅行者とて、観測する歴史の数は複数あれど保持する自分の歴史の数は変わらない。
「だけど、こいつは二つの歴史を持ってる。カイルの歴史とスタンの歴史とでも便宜的に別けるべき歴史を両方持っている。
 そしてその二つがなんの優劣も持たずに並び立っている。……物理的に有り得ないんだよ、お前らの記憶は、歴史は、過去は」
カイルはディムロスの方を反射的に向いた。沈黙が、アトワイトだけではなくディムロスにもミトスの推論が有効であることを物語っていた。
天地戦争時代、第二次天地戦争……カイルにとって18年前の時代……少なくとも、この歴史は2種類あり、そして絶対に混ざり合うことが無い。
だが、ディムロスもアトワイトもそれを知っていた。何一つ不思議なく、思い出すかのように覚えていた。
まるで“誰かの都合に合わせるように”。セリフを機械的に覚えこまされた新米役者のように。
「どっちかの記憶が偽者で、後から書き込まれたか―――――或いは、両方が等価であることを考えたら、どっちも偽者か」
あまりにも当たり前すぎて、逆に気づけなかった現象にカイルは息を呑んだ。
そう、“カイルは知っている”。二つの歴史は同時に並び立たない。全てが終わった後に、歴史は可塑的に在るべき形へと戻る。
だが、ソーディアンはそのイレギュラーの最先端にあったのだ。
ソーディアンは所詮は剣に過ぎない。その記憶は、記憶ではなく記録。
カイルたちの知るソーディアンがスタンたちの歴史を上書きされたか、
スタンたちの持っていたソーディアンが、カイルたちの歴史を上書きされたか、
それとも、全く別のソーディアンが、二つの歴史を後付されたか。
いずれにしてもシャルティエがリオン=マグナスの手にあった以上、全ては一つの悪意に収束する。
ソーディアンという存在自体が、天上王ミクトランの掌の上にあることを疑わない理由にはなりはしない。
447Ace Combat −蒼紅連刃− 10:2008/12/21(日) 19:15:26 ID:lLG7vtZX0
「だから……なんですか……終わってるっていうのは」
カイルは自然にアトワイトに言葉を投げかけていた。目隠しで小物を探すように選んでから、アトワイトはカイルに返した。
『…………理由ノ一つでは、あるワ。私たチハあまリにも存在が歪過ぎる。
 外側のミトスニ言われなかったら気ヅカなかったくらい微小で、気づいてしまエバ大きすギる齟齬……
 私たちの運命は最初から歪ンデる。ソンな事にさえ気づかナカった私は、もう壊れテるのよ』
それに、もうそんなことはどうだっていいんだしねと付け加えて彼女は言葉を切った。
彼女はこの村でミトスのそれを初めて聞いた時に、ある種平然と受け止めた。そんなことを論じる前からとっくに彼女は諦めていたから。
それを今になってミトスが切り出したのは、つまるところ戦術的な必然性でしかない。
ソーディアンにとって恐るべき推論。準備を進めながら彼女は、万が一にでもディムロスがこれで諦めてくれることを願った。
彼女の推論に従っているのかは判別つかないが、ミトスは鑑定するように眼を皿とし悪意を結ぼうとして、
「ま、そういう訳だ。お前らを取り巻く世界は最初から間違ってる。
 この三文芝居の小道具に過ぎないお前らにしてみれば夢も現実も大差ない。アトワイトのように誰かの道具に徹するのが幸せって――――」

『黙れ』

ぼぅ――――――――と、耳の奥で松明の弾ける音がした。
ミトスは口を一気に堅く結んで、流されるかのように後方へ一気に数メートル下がる。
ディムロス達と彼らは、最初から互いに一足飛びでは剣が届かないかなりの距離を空けていた。
術で遠距離戦を仕掛けるのであればその兆候は一発で判別できる。だが発汗しない天使の身体が、焦げる様な熱さを幻覚した。
殺意を飛ばしたなどという生易しいものではない。“あの距離から一撃一瞬で殺す気だった”と、ミトスの経験則が全身の総毛を立たせる。
「…………何をした?」
『二度は言わんぞ。今すぐその乳臭い口を閉じろ。俺は今、アトワイトと喋っているのだ。
 次にその口を開いたらカイルを待つまでもなくその顔を焼いて、笑うことも泣くこともできん面にしてやろう』
明瞭極まりない返答にミトスはおろか、アトワイトとカイルまで三者三様に驚き口を噤んだ。
その一言だけで幾万幾千の兵士を支配できるような恐怖と怒りが込められている。
『夢だろうが嘘だろうが正しかろうが間違っていようが、今俺にできることは一つしかない。
 戦うだけだ。少しでも過去が正しかったと思えるように、少しでも未来が開けたと信じられるように』
再び彼女に向けたディムロスの言葉は、後悔に満ち溢れていた。間近で聞いていたカイルにはそう聞こえてならなかった。
『ソレでも、戦うってイうの……? 何の為ニ…………』
まさか、ミクトランだとは言わないだろうか。そう幽かに思った彼女の期待に応えるように、ディムロスはそれを裏切った。
『私なら、それを最善としようがな。生憎ともう俺はその役から落ちている。
 お前もアレを聞いたのだろう? “既に玉は奴の掌”だ。指揮官としての私の出番はもうあるまい。ならば』
西より聞こえた慟哭。ディムロスが唱えたものも含む数多の辛酸を嘗め尽くしたその上で、己が理想を希求することを選んだ男の言の葉。
殺す者も殺される者も、一切を自らの配下とする裸の王様が今やこの舞台の中心なのだ。
自分にはもう二度とないと思っていたものを感じる。戦い抜く中で、磨かれてきたが故に失われて雑な石片のような粒子。
それを若さというのかもしれないと、この二日半に渡って駆け抜けてきたディムロスは自身の老けぶりとあの黒羽を振り返って思う。
柄にもなく、若い奴に負けられないなどと少しだけ思ってしまったがゆえに。
ならば今だけは昔に立ち返ろう。主役が科白筋を誤れば演目も止まるだろうが、端役のアドリブならばそうそう崩れはしない。
『だから、俺は心置きなくこの現在に全てを賭けよう。私が諦めたものを、今一度この手に取り戻すために。
その結果がどうなるかは神でもない自分には分からない。だが、その結果に対して全てを負う覚悟だけは据わっている。
戦略図を眺めて大局を見据えるよりは、その間近で暴れるほうが彼の性にあっていた。
降りることも出来ぬのこの舞台を徹底的に“楽しむ”よりないのだ。
それが人であろうが道具であろうが、駒で終わることを厭うなら。

『例えその結果がどうなろうとも、俺は、絶対に後悔はせん! 二度と、二度とだ!!』
448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 19:15:43 ID:pDVf5OQEO
支 援 。
449Ace Combat −蒼紅連刃− 11:2008/12/21(日) 19:16:12 ID:lLG7vtZX0
現在に相対する覚悟を決めたディムロスの、裂帛と呼ぶよりない気迫を間近に受けながらカイルは心身を震わせた。
これが自らの知ることの無かった、ディムロス=ティンバーの側面なのだろうか。
だが、それは恐らく最初は意識的なものではなかったのだろうとカイルは曖昧に思った。
カイルに心配をかけさえまいという気遣いというよりは、苦痛を上回る高揚がレンズ越しに伝わる気がする。
信頼も結束もあの理知的な立ち振る舞いも、それは本物であっても原点でなかったのだろうとこのムラのある炎の熱に感じる。
向こう見ずな熱血、死と隣り合わせの最前線に愉悦を見出せる狂気、仲間の為に命を賭けられる勇気。
“突撃兵”やら”核弾頭”などという二つ名を授かってしまうような人物だったのだ。
カイルは分解しそうな精神の中で思う。きっと、自分の知る誰かと同じくらい本当はどうしようもない人だったんじゃないかと。
だからこそ、ディムロスは突撃兵にして核弾頭という二つ名を持って尚、人の上に立つ存在に成り得たのだろうか。
カイルは火傷してしまいそうなほどの熱を覚えるその柄を、力いっぱいに握った。火傷するならしてしまえとさえ思った。
ディムロスと繋がれたという錯覚に過ぎないが、カイルには今こそディムロスの苦悩が出来た気がする。
澄み渡る紅炎は何処までも自由に空を焼きにかかる。
一切の柵から解き放たれなんの束縛も無く猛る焔が、逆にディムロスが今まで背負っていたものの重さをカイルに明瞭化させた。
万を超える兵士、そしてその家族、それが住まう場所、それがある世界。
地上軍というものを背負い、世界の命運を賭して戦うということが如何に重いものか。そしてディムロスはそれを背負っていた。
自分の選択の一つで、何もかもが消し飛んでしまうかもしれない綱渡りを幾度となく繰り返してきたのだろう。
それをかつての自分は腰抜けと言ってきたのだ。臆病だと、人一人救えずに英雄であれるものかと。
今なら、カイルはその重さを“実体験”をもって理解できた。
ディムロスが自分の背負ったものを降ろすのに、どれだけの煩悶があったのだろうかなどカイルには到底及びもつかない。
だが、一つだけはっきりとしていることがある。これが選択するということの重さなのだ。
自分で、自分の意志で、自分の欲望を本気で通すにはそれだけの覚悟が要るということを。

『ディム、ロス……』
男の名を嘯く。エクスフィアの侵食か、酷く滲んでいる視界は万物の輪郭を曖昧にしていたが、彼女は明瞭にその位置を掴むことができた。
例えその記憶が意味の無い脚本だったとしても、その刃が覚える焔の熱さは千年前より変わらず彼女の中にあった真実だ。
少なくともそう信じてしまえるに値する熱さだった。

―――――――――けどさ、あんたの中にも何か引っかかるものがあるなら、その気持ちを信じてみるのも手だと思う。
450Ace Combat −蒼紅連刃− 12:2008/12/21(日) 19:17:34 ID:lLG7vtZX0
あの少年の言葉を思い出すのは何故だろうか。
血を撒き散らして、心臓を失って、それでもあの娘の下にたどり着いた彼のことを。
考えるまでもないそれを疑問形でしか表せないのは、彼女なりの最後の抵抗だった。
何を信じろというのか。冷え切った私は、あの娘ほど未来がある訳でもないのに。
「―――――――いうじゃあないか。天文をもう少し待ちたかったけど、已む無しだ」
諧謔に溢れたミトスの言葉が空に響き、彼は右の二指で刀身の両側を滑らせる。
刃を走る指のきめ細かさと冷たさは惑いかけた彼女の心を現実に戻すのに十分に機能した。
自分が彼の下に走れば、ミトスはひとりぼっちだという当たり前のことを今更ながらに思い出したのだ。
それを容喙できるほど、彼女は子供ではいられなかった。
『……ミトス、レイヲ待機。鏡を使ウわ』
未練を絞りきるかのような言葉をアトワイトは吐いて、ミトスは濁したような顔をしてそれに応ずる。
炎と音の障壁、超高速機動。どの道、彼女単独で今のディムロスに当てられる手段は限られている。
カイルと“ミトスの”死を待たずして決着とするならば、もう次で最後にするしかなかった。
『アトワイト!!』
ディムロスの叫びを意識的に遠ざけ、アトワイトは四連術式を起動させる。
もう全ては遅いととっくに理解している彼女は冷たく言い放つ。
『ディムロス……私は、貴方ほど真っ直ぐにハナれない。貴方と同ジミちは、もう、歩めナいのよ……』
声が上擦るのは石の軋みか、それとも未練がましさか。
でも、それでも、最後のチャンスがあるのなら。一体私は何を願っただろうか。

(……向こうが呼吸を整えた。来るぞ、休めたか?)
ディムロスの気遣いにカイルは頷きさえできず、心で応じた。それが幻聴幻覚の類であるなどという可能性は既に彼の中に無い。
信じるべきもの。信ずるべき自分。真贋など信頼の前には無意味。
だけど俺には、本当にそんなものがあるのだろうか。ディムロスは、一体彼女をどうするつもりなのか。
その懐疑さえ、今は呼吸の中に溶かし込む。今は唯、その呼吸を通じてディムロスの背中を見つめるよりない。
451Ace Combat −蒼紅連刃− 13:2008/12/21(日) 19:18:06 ID:lLG7vtZX0
『セット。アイスウォール×4、四重水キョう』
アトワイトの張り詰めた号令によって、4枚の氷壁が凝結する。傾きを強めた夕陽の赤が、今までよりも強く反射していた。
『これで……終わらせる。私ノ一切を、貴方の合切ヲ―――――――――イケ!!』
ディムロスが疑問を形にする前に、丸みを帯びた4つ板が手裏剣のように回転をかけて曲線軌道を取った。
半ば反射的にディムロスは加速機動を取るよりも早く魔神炎を明後日の方角へと放つが、壁はなんの意にも介さずに自らの軌道を進むことに専心する。
セミホーミングでさえない完全手動によるマニュアル操作では、フレアは何の意味も為さない。
ディムロスは初撃による不意打ちではないことを確認したあたりでようやく疑念を言語レベルまで固めた。
無意味すぎると。
飛行力学の観点から見れば、ディムロスたちや先ほどの槍のように空気抵抗を受けにくい形の方が速く進めるのは道理だ。
いくら回転をかけた所で、その重量も加味した速度は先ほどの槍ほども無い。
重ねて自陣を守ることに使うならば兎も角、攻撃に使うのは一利も無かった。ならば――――
(ディムロス――――――あいつが……動く……)
『直接火力支援!? 否、全方位多角射撃ッ!!』
カイルの声とアイスウォールらがディムロスを素通りするのはほぼ同時だった。
その瞬間、ディムロスの中に蓄積された経験の幻想が全ての論理仮定を省いて結論を勘と導き出す。
答えを確かめるより先に、炉に火を灯すほうが先立った。相手の射撃速度は秒速にして約3×10の8乗メートル――――光速だ。
「アレは7割だったからな……特別だ。完全版を見せてやるよ。レイ!!」
ミトスの掌に光が集い、形成した光球から4本の分厚い光線が放たれる。
3本は見当違いの方向に向かうが、最後の一本が彼らにかっきりと狙いを定めて放たれる。
それを光の波と粒を肌で感じられるほどの距離で捌けたのは、カイルの反応がディムロスに通じたからといっても差し支えなかった。
だが、ディムロスにはカイルに労いの一言もかけられなかった。残りの3波が、彼らに狙いを定めているはずだから。
カイルを狙わなかった光線が予定通りにアイスウォールへと直撃し、理屈通りに内部へと侵入し、論理通りに媒質内で屈折し、当然の如く反射する。
軌道を120度ほど変えられた光線は現在ディムロス達がいる場所を図ったかのように襲い掛かった。
『鏡面―――――だけではないな。全反射もか!? リフレクターとは、やってくれる!!」
尋常ならざる軌跡を描きながら、ディムロスは何とも形容しがたい笑みを造った。賞賛といっても差し支えなかった。
歴史に伝わる最古の鏡は、水だったという。霜一つ見当たらぬほど魔的に磨き抜かれたその壁は完全なる鏡のそれに等しかった。
ディムロスが避けたころには既に壁は移動しており、次の反射を実行に移す。
光はただ己が己である為に輝き続けるのみ。追尾などという、魚の糞を追うような醜い真似は行なわない。
思惟の全く介在しない単純な物理現象による全方位攻撃がディムロスらを包囲する。
ミトスの属性とアトワイトの属性、光と水の骨頂が今、この戦場を文字通り輝かせていた。
(これ――――さっきの)
『対人用だ! 運では避けられん。喰らえば消し飛ぶぞ!!』
カイルの気づきに、ディムロスが訂正した。
ジャッジメントと村の鏡にて作られたものと、原理は同じ。だが、その精度は比べ物にならない。
光が拡散することで全体を漫然と破壊することを目的としたそれとは異なり、これは収束することで単体を確実に焼殺することを目的としている。
その基点となる魔術は確かにジャッジメントに比べれば格落ちしているが、ディムロスには余裕は一切無い。
間隙とも呼べぬほどの隙間を掻い潜ってディムロスが中空に停滞する彼女らを目掛けて魔神炎を打つが、
うち二枚が即座に重なって本来の職務たる防壁と化す。仕損じたことに舌を打つ暇さえなく、ディムロスは回避に戻る。
攻防一体のこの戦術に於いて真に瞠目するべきは、レイそのものではく絶えず反射角を合わせるように位置を変える氷壁の方だ。
光の拡散をゼロにまで限りなく近づけながら、それでいて全てが機能的な射撃を取れるにはどれほどの計算が必要になるか。
反射角、屈折率、表面の曲率……最悪、氷中の結晶構造・結晶を通る光路差まで弄っている可能性さえも考えなければならない。
何とも見事な役回りだ、とディムロスは今避けた一波から五波目を考慮しながら口の中で罵った。
完全なる支援。自らを立てることなく、他者を立てる。そこに自己は無く、唯尽くすことを誉れとする―――――天晴れな程の道具振りだ。
452Ace Combat −蒼紅連刃− 14:2008/12/21(日) 19:18:57 ID:lLG7vtZX0
剣戟一合は万の言葉を尽くすより上回る。事情を把握していないディムロスにさえ理解できた。
彼女がどれほどにミトスと共に在ろうとしているのかを。
そして、どれほど乞われようと、如何ほど壊れようと、この場を離れられないのかを。
ディムロスの撓みを見透かすように炎熱を透過して、波光がブラシの毛先を掠める。
回数を重ねるごとに精度を増していくそれは最早三次元の迷宮。一歩正しい道を誤れば、袋小路にて光とともに掻き消えかねない。
計算速度と体力の差が徐々に自分達を圧迫している現実に即して戦を組み立てながら、ディムロスは内心で唸った。
もうあと10手も進めば、読み切れなくなる。読めても絶えず軌道を変えたことによる減速から動きが追いつかなくなる。
その前に手を打たなければならないが、攻と防をゼロタイムで切り替えられる向こうに攻め入るには手数が足りない。
足りぬのは火力か、速力か。否と、ディムロスの直感がそれを否定した。
そういう小手先の部分ではない。自分と彼女を隔てる決定的な何かこそを埋めなければ届かぬ。
『これで、最後よ。諦メて』
ディムロスと同じ結論を見透かしたかのようにアトワイトが最後の勧告を放った。
心中を知り尽くしたようなタイミングに、曲芸に近い回避行動を以てレーザーを捌いて応ずる。
『こコガ分水嶺よ。何を狙っテルかは分からないけど、“それ以上は”確実ニソの子を殺すワよ』
舌を巻くような思いをディムロスは覚えた。そう、ディムロスは既に策を用意している。
アトワイトは、ディムロスの何たるかを知り尽くしている。
ディムロスは、決して無意味な万歳突撃を好まない。
座して死を迎えるくらいならばせめて暴れて散ろうなどと考えるような男に、万の兵を束ねることなど出来ない。
そのディムロスがこの攻囲の中に未だに留まっているということは、そこに勝ち目を見出しているからに他ならないのだ。
そして、一秒ごとに目で分かるほどに追い詰められていくこの状況でその札を切らないということは、
“それが自分一人の被害では済まないから”以外に、考えられる余地は無い。
『夢からサめなさい。幾らくチデは何と言えても、私の知ッテいる人は守ルベきもノヲ見誤らナかったわ』
眉根をきつく細める彼女の姿を幻視できるくらいに、その一言は雑音に掠れて尚ディムロスに男としての何かを思い起こさせるものがあった。
もし肉体があったならば股下に疼きを覚えかねないほどの艶やかな声は、同時に彼に立ち返るべきものを考えさせる。
彼女の決意は本物だ。今のアトワイトに譲るべからざるものがある以上、彼女は絶対にこの場を離れないだろう。
つまり、ディムロスには如何な手段を講じようが彼女を救うことは出来ない。この戦に於ける戦果の最大値が決定した。
だから彼女はディムロスの熱を冷ますように諭しているのだ。
気持ちは届いた、十分だ、“だから退け”と。これ以上の攻勢は自体をただ泥沼に落とし込み戦果を減衰させる。カイルを意味無く死なせることになると。
ここは速やかに戦端を畳み、守勢に切り替えるべき時なのだ。守るべきもののために、引き際を見定めなければならないのであれば――――

(違う……!)
453Ace Combat −蒼紅連刃− 15:2008/12/21(日) 19:19:30 ID:lLG7vtZX0
『っ!!』
「ディムロスが、どれくらいの覚悟決めて、ここまで来たのか……本当に、分かってんのかよ…………」
うつ伏せる様な態勢のまま、息を漏らすようにして大気の中にカイルの言葉が流れた。
肌は風速による冷却で青白くなっているが、その瞳には充血の赤以外の紅が混じっている。
「考えて、考えて、張り裂けそうになるくらい考えて、そんで、ここまで来たんだ……それを、帰れって、あるかよ……!!」
真上を見るかのように、カイルは眼球を吊り上げてアトワイトの方を見上げた。
「俺なんかとは比べ物にならないくらい、考えて此処に居るんだ。貴女だって……分かってんだろ……
 それを、今更、俺を理由にして、逃げるなよ……終わらせるなよ……
 こんだけ考えてくれる人がいるんだぞ、ちゃんと、返事してやれよ!! あんた未だ生きてんだろ!?」
“俺とは違って”。最後に続くべき言葉を、カイルは言わなかった。
だが、その抹消された文末は言葉にせずともアトワイトを押し黙らせるだけの力を持っていた。
『カイル……』
ディムロスは目の前の子供に思わず声を漏らした。鬱屈したものが発奮した、などというには複雑すぎる何かを表す言葉を持ち合わせていなかった。
「ディムロスも、ここで止めるなんていうなよ。貴方には、貴方のやりたいことがある。俺には、未だ分からないけど、貴方にはある」
恐らく、それは憧れと呼ぶべきものだったのかもしれない。自分の無くしてしまったものを、他者に見出したときにもつもの。
「それでも俺を大切に想ってくれるっていうなら、頼む。それを見せてくれ。俺が、きっと、叶えて見せるから……!!」
それを、守ってみたいと思った。自分に欠けてしまった何かが、その先にあるという確信だけがある。
『どうしテ、ナンでそこまでするの!? ディムろスと私の問ダイなのよ、貴方がイノチヲ賭ける場シょじゃない!!』
アトワイトがかぶりを振るようにして叫んだ。これは、余りにも下らない私戦だ。係わり合いになるべきではないのだ。

「一々何かするのにそんなに理由が要るのかよ……だったら、決まってんだろ…………」
カイルが、頭を上げながら唸った。ぼさぼさの金髪が後ろに流れていく。
アトワイトに聞かれるまで、自分でも何故ここまでするのかということを考えていなかったことに気づく。
だが、なんとなくそれに対する答えは直ぐに浮かび、尚且つしっくり来た。
最早痛いという段階を越している風圧を前にして、彼は目を背けなかった。
その背中を見る。そして、その背中を推す。そこに、理由などは要らなかった。
欠損だらけの中でも、彼をあの城で手にしたことだけは一度たりとも後悔していないことに気づいたから。

「今は、俺が……ディムロスの――――――――――マスターだからだッ!!!!」

少なくとも、カイルにとってそれはこの戦いに関わるに後悔しないだけの理由足りえた。
454Ace Combat −蒼紅連刃− 16:2008/12/21(日) 19:20:11 ID:lLG7vtZX0
『ば、今顔を上げたら!』
カイル、とディムロスが言いかけた言葉はアトワイトの叫びにかき消された。
面を上げたことによって紙一重で避けられるはずの攻撃は、死へと距離を狭めた。
間接的にしか光を操作できないアトワイトにはその攻撃を止める手段が無い。反射的に飛び出た彼女の警告はその真実を現していた。
だが、過失致死に至るこの光の束を前にしてもカイルは毅然と前を向いている。
頬が風圧で凹み様になっていないの横顔の滑稽さとは裏腹に、眼球さえ一瞬で乾ききってしまいそうな大気の中でもその瞳は真っ直ぐにあった。
ざっと全体を空間的に認識し、4枚の位置を確認し終わったディムロスはそれに素直に可笑しみを覚え、“箒の火を切った”。
『ディムロス!?』
目の前で繰り広げられる状況に高性能化したはずのアトワイトの論理回路が追いつかない。
カイルを死なせぬ為に少しでも加速しなければならないはずの今、ディムロスはエンジンの駆動を落とした。
壮絶な光が雨霰と飛び交う中、傘から顔をだし、帰路へ急ぐ足さえも止まってしまえば自らの血にずぶ濡れになるしかない。
兵理では絶対に在りえない、そしてディムロスという男の人間性からみても考えられない現実が進行する。
その後ろでクスと笑ったミトスに気づかぬまま、アトワイトの思考が非現実な現実に一瞬止まった。
『―――――9時34度、4時218度、7時129度、2時3度!!』
「デルタ、レイッ!!」
ディムロスが数の羅列を叫んだが早いか、カイルの空いた左手に光が収束し三つに分かれて飛散する。
剣が認識した敵の攻撃方向へと一筋の光が走り、レイとぶつかる。
初級晶術と上級魔術だ。当然出力は比べ物になるはずも無く、相殺など出来る道理が無い。
だが、それで十分だった。十分な効果観測を経たアトワイトの射撃は正確に正確を期し狙いを精密なものにしている。
生と死の狭間を縫うような狙撃。だからこそ、“僅かにでも軌跡を狂わせられれば、それで命は凌げる”。
三つの火線が1度か2度ほど外側に弾け、カイルの頬と膝と背を掠めた。
自らの肉が焦げる匂いすら嗅げるほどの至近距離を通る光線を前にしてカイルの視線は微動だにしない。
絶えず揺蕩う心を眼前右側より迫る第四波へと絞り込んで、カイルは握り締めたディムロスを一気に切り上げる。
「閃光衝!」
光輝く太刀筋と光満たす鎚がぶつかり、赤い空が一瞬真白く包まれた。

昼夜の狭間、刹那の白夜に画像処理が追いつかないアトワイトの目が一瞬眩む。
全ては一瞬のことだった。
カイルが弾いたレーザーは一瞬だけ反れ、一瞬だけ彼らを生き延ばし、アトワイトの思考は一瞬後に戻り、一瞬後には彼らを捉えきるだろう。
だが、アトワイトはその一瞬に最大の警戒を持った。一瞬、そう、人間にして一瞬きの時間。
“それだけの時間があれば、爆発できる”と彼女は知っている。
『良くやった。後は、俺に任せろ』
光が思い思いの場所に散乱して空に赤い夜が戻ってきたとき、ディムロスはそう言った。
落下気味に停滞するその箒の、ブラシの先に太陽のような紅玉を携えながら。
今、ディムロスとカイルの間にそれ以上の言葉は要らなかった。
ソーディアンマスターであればそれは無用のものであり、何より、この一瞬は無駄に出来ない。
『ディムロス、貴方、何を言ってるのか分かってるの!?』
アトワイトがディムロスに言葉を尽くす。だが、極限まで高められたその火は既に臨界点に達している。
『どうやら俺もお前も読み違えていたようだ。
 ここに居るのは一廉の戦士だ。後ろに置いて守るべき弱者ではなく、肩を並べ共に血を流すべき戦友。
 守るべきものがあれば、振り返ったかも知れんが―――――――――どうにも、俺が憂うべきはお前だけで良いらしい』

最早ディムロスには彼女しか見えていなかった。その背中は、信じらるものに守られているが故に。

『アフターバーナー、点火――――――――エクスプロード!!』
455名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 19:22:37 ID:pDVf5OQEO
支援
456Ace Combat −蒼紅連刃− 17@代理投下:2008/12/21(日) 19:23:07 ID:PAwzD3qs0
空中戦において貴重たる数秒、蓄えに蓄えたそれをディムロスは解き放った。
尾翼より放たれる白色にまで高められた大炎は取り込んだ酸素の量が極限にまで高められた証だ。
燃焼させる気体の中の不燃だった酸素を更に取り込んで発生した、爆発と呼ぶに相応しい推進力がディムロスらを超音速の世界に誘う。
『こっちに向かってこない……墜ちる!?』
その極限まで高められた戦速にて真正面に向かってくると考えていたアトワイトの思考を、現実が斜め上に飛翔する。
それは少し考えれば誰にでも分かる当然の結果だった。あのレイの雨の中、緊急脱出的に発生した間隙の中で方向など定められるわけが無い。
ディムロス達は最大速度を以て、地面に激突するコースを描いていた。
(制御失敗―――――――違う! もっと狂った何か!!)
焔は時として感情を表す。術者の悦さえ熟れて漂ってきそうな爛火が、アトワイトに理解を促した。
正気と狂気を渡るこの神火は、解き放たれたディムロスそのものだ。狂と同等の“理”が存在する以上、暴発は在りえない。
彼女の読みに応えるようにして、ディムロスは箒の前後を軸としてカイル100度ほど回し、一気に機首を持ち上げて降下と同時に右旋回する。
衝撃波から減速した音が轟き地上の草を上空からも分かるほどに揺らす程の速度。
減速行程を一切省いたその旋回はどれほどの技巧を尽くしても旋回半径は大きく、また、人間の限界を超えていた。
カイルはその中でも姿勢を変えなかった。箒の突端が削れるほどの鋭角的な衝撃波が、カイルの正面に限って別の圧力と相殺されることで歪んでいる。
『風系ショウ術を合わせてる!? ム茶よ、今すぐ止メナさい……って、あの紋しょウ……』
音よりも早く動く彼らに音で伝える言葉など掻き消されるだけという当たり前の事実を忘却するほどにアトワイトは乱れた。
風で衝撃を相殺したとしても、加速度の毒が残っている。倍加された速度が人体に齎すのは、死以外に在りえない。
だが、カイルの眼は旋回の中心方向、下半身へ集められこそすれ、その意志を未だ滾らせていた。
いぶかしむべき現象、その答えをアトワイトは急激な速度によってついに彼の首から飛び出して揺れていたそれより見出す。
『くローナシんぼルッ!! 耐Gセイ御に使ッテるの!?』
アトワイトは全てに整合性を見出した。いかなディムロスとて、蛮勇と無謀と果敢の区別は付いている。
本来成層圏の彼方まで吹き飛ぶべきカイルの精神を紙一重でこの空に留めている鎖なのだと彼女は悟った。
狂っているとしか思えない有人での超加速機動は、これを支柱としているのだと。
ディムロスは確かにカイルを捨石とするのではなく、共に往くべきモノと捉えている。
彼は何処まで行こうとも、自分の知るディムロスでしかないのだということに彼女は気づかざるを得なかった。

頭半分。もとからさして満ち足りているとは言いがたいカイルの脳は、血と酸素を減らして磨耗している。
いかな紋章があらゆる悪性状態へ有効だとしても、病としての相と“航空現象としての”相が混じったそれを完全に抑えることは出来ない。
自分の視界の右から地面が縦に迫ってくるという得がたい体験にすら驚けないほどに衰弱しかけた彼は、
重ね合わせたディムロスの自我を核として追うことで自己を繋ぎ合わせることで、その意志を纏め上げていた。
剣先より伝わる、アトワイトへの感情。リオンのこと、ソロンと共にいたときのこと、ヴェイグに出会ったこと、父と再び出会ったこと。
ありとあらゆる情報が絡み合い、複雑怪奇に成り果てた理の糸。蜘蛛の網の如きそれを焼き払った彼の焔に、カイルは自らの欠損が埋まるのを感じた。
もうそろそろ地面が迫ってくるという頃合で旋回の頂点に達したカイルの身体が更に傾き、彼の天地が完全に入れ替わる。
それが合図だと確信するカイルの両の手が、瀬戸際に立って最後の覚悟を決めるディムロスを握り締めた。
逆さの視界を見下ろせば、そこには逆さに写る彼女らの姿。カイルは、それに自分までも名状できない気分を覚えた。
それは幻覚だとはカイルにも分かっている。これはディムロスをディムロスたらしめる核であり、カイルのそれではない。
だが、カイルはディムロスのそれにある一つの真実を見出した。

「岩斬、滅砕陣!!」
“俺には、俺が欠けている”


457Ace Combat −蒼紅連刃− 17@代理投下:2008/12/21(日) 19:24:01 ID:PAwzD3qs0
その真実がディムロスの我と、カイルの欠けた我を結びつけた。
常と全く逆と化し、カイルの剣が逆しまの頭上にある大地に斬り込まれる。
それでも箒は止まらない。剣を大地に突き刺したまま、驀進するその様は星を両断しかねない勢いだ。

『構えろアトワイト―――――――――他でもないこの“俺”が今、お前に会いに突撃<ゆ>く!!』

ディムロスの刀身が紅く燃ゆる。大地に突き立てて蓄えられたその熱に、ぼろぼろと毀れる岩石がとろりと溶けて地表に在りながらマグマと化す。
アトワイトが全てを察し、光線を反射させるべき鏡壁を残らず自らの下へ引き戻し、さらなる重ね掛けで強化する。
だが、それは無駄に等しい。絶対零度の壁を超えられぬ氷の女神の兵に、臨界を越えた火神の覇道を止められる道理が無い。
暖気完了。汝、其の心臓にプロメテウスの神火を灯せ。
一木一草悉くを焼き滅ぼして封じ込め、汝が覇道を此処に打ち建てよ。

『「覇道、滅封!!」』

振りぬかれる剣。傷口から血が吹き出るように、轟炎が大地を割った。
逆風より放たれて大地を走破すべき斬撃が、カイルの剣技特性、そして異様極まりないスプリットSからの唐竹真一文字によって反転する。
焔が礫と化した大地を溶かした道を通って空を渡り、彼女の下へと一直線に突き進む。
愚直に、故に最速に斬火は彼女の守備へと打ち当たる。しかし、それは衝突にさえなっていなかった。
(どうして、どうしてなんだろう)一枚目が水となる前に蒸発し、
(要らないと捨てたのに、欲しいとも思っていなかったのに)それと同時に二枚目が融け、
(心も、自分さえも切り捨てたはずなのに)三枚目が溶岩に解かされ、
(それでも来てくれた貴方を嬉しいと思ってしまうのは―――――――)
四枚目が岩石に砕かれたその狭間を貫通させて、箒の突端が彼女の前に広がる。
それでも彼の炎は止まらない。水さえも蒸気さえも燃やし、固体液体気体の三態の理さえも滅ぼし尽くす。
一瞬にて距離を詰め切ったその速度にさしものミトスも対応し切れなかったか、咄嗟に胸の前に出したアトワイトが弾かれて彼の手から飛ぶ。
自らの支配者の手より零れ落ちた自らの身体を中空に晒し、彼女は思った。
甘い夢を見るのは子供の特権だ。それは生きる希望になり、前へと突き進む原動力になる。輝かしき未来に手を曳かれて道を歩む。
大人だって夢を見る。ああであったとか、こうすればよかったという可能性という名の夢を。輝かない今を諦めるために。
夢など信じるほど若くは無い。可能性に縋れるほど子供でもいられない。

『アトワイトォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!』
だけど―――――――――現実に現れた彼女の王子様を否定できるほど、年老いてもいなかった。

カイルの右手がディムロスを握ったまま空を舞うアトワイトの柄を握り取る。
全てをプラズマにまで昇華するその彼の道の前には何人も立てはしない。
その作り上げた道を突き進むディムロスらの前には、全ての不浄を消し飛ばした爽快なる大気しか無かった。


458Ace Combat −蒼紅連刃− 19@代理投下:2008/12/21(日) 19:24:45 ID:PAwzD3qs0
『……私はお前に謝る術を持たん』
僅かばかりの静寂が今までの苛烈さが嘘のようにさえ思えるほどの長さを持った。
『一度口でそれを吐いてしまえば、あの時の私がお前を本当に裏切ったことになってしまう』
選ぶようにしてディムロスはゆっくりと言葉を紡いだ。アトワイトは、黙ってそれを待つ。
『償おうにもこの有様だ。下げる頭も、慰めてやる身体も如何ともし難い』
歯痒そうにディムロスは言った。慎重というよりはしどろもどろな言い回しが自分のこととはいえなんともじれったい。
意図的な遠回りが心底苦手なのだと自覚をしたディムロスは、意を決したように口を開いた。
『だから、その、なんだ。先のことはどうなるか約束もできんし、前のこともどうにも出来ん。
 だから……現在に誓う。俺は――――――お前と共に在ろう。もう、二度と離さん』
『でも……私は、もう……』
差しのべられたその手を、彼女は掴めなかった。
既に彼岸の淵の存在である自分はディムロスの進む道にはもう戻れない。
『なら、俺がお前の傍に在ろう。お前が滅ぶその時まで……いや、お前が滅んだ後もだ。
 お前が俺の道を進めないなら、それでもいい。俺に、お前の道を歩ませてくれ』
だが、ディムロスはそれを撥ね退けた。アトワイトの純粋な驚きが、触れる刃を通じて伝わる気がした。
『もう我等に出番は無い。後はあいつらが上手くやるだろう。少なくとも、そう信じられるだけの物はあった。だから……』
そこでディムロスは言葉を濁した。口中に留めたそれを舌先で弄んで、喉に戻す。
この言い方は卑怯に過ぎる。グリッドも言っていたではないか。理由は、自分の中にこそ持てと。

『俺が、お前と居たいんだ……駄目か?』

あまりに無骨、情けなく不細工、どうしようもなく単純。
千年生きたはずの洗練の欠片もない言葉。だけど、

『そんなの――――――――断れる訳、ないじゃない…………』

その言葉をこそ、彼女は欲しかった。
来るはずのない未来でもなく、失われてしまった過去でもなく、誰かとともに在れる現在こそが。
459Ace Combat −No Hero in Starry Heavens− 1:2008/12/21(日) 19:26:53 ID:PAwzD3qs0
咽び泣くような啜る彼女の声に、あるはずのない肉感的な疼きをディムロスは覚えた。
本来ならソーディアンである自分たちには有り得ない、しかし決して不快ではないそれを掬いとって眺めるように楽しむ。
壊れているのは、自分も彼女も同じなのかもしれないなと思った―――――“奴”の言うとおり。
(!! しまっ―――――――)
ディムロスの意識が戦闘用に組み替えられていくが、アトワイトの方に完全に注力していたそれが戻るのに数瞬のラグが生じる。
彼女の方だけを見つめていたからこそ、ディムロスは彼女の手を取ることが出来た。

『…………ミトス!?』
「アブソリュート――――――――絶対零度」

だからこそ――――――――ミトスがこのタイミングで動くのは至極当然のことと言えた。
アトワイトの声につられて真上を見上げるディムロス。そこには、転移の光の粒子を撒き散らしながら、両の手を添えるようにして抱えられた氷塊があった。
八割組み上げられた意識でディムロスは理解する。あの時ミトスはアトワイトを落したのではなく“手放した”のだ。
ディムロスの意識が戦闘から完全に乖離するこの一点の為の布石としてか。
その真意は別にしても、その推測は現実に符合していた。アトワイトの驚きがそれを裏付けている。
カイルの後頭部を目掛けて完全に分子運動を止めた氷塊が落ちるように飛ぶが、彼らの応対は一歩間に合わない。
『カイ―――――――』

「落ちろ、浄化の炎ッ!」
そう、たった一人を除いて。


460Ace Combat −No Hero in Starry Heavens− 2@代理投下:2008/12/21(日) 19:28:34 ID:PAwzD3qs0
無意味な警告が言い終わるよりも早く、ディムロスの身体が引っ張られた。
捩じるように振り向かされて、ミトスの方へと刀身が向けられる。
彼の核たるレンズが一層に輝くが、ディムロスの自覚的なものではなかった。
何事か、と理解するよりも早くディムロスは体感する。間に合ったのかと。
「『エンシェント、ノヴァ!!』」
剣二本を右手に収めて空いているカイルの左手に赤白い炎熱が集い放たれる。
自分の非力を剣の借力にて補って放たれるは、彼女の炎。
古代の焔と銘打たれていながらもディムロスのそれに比べて稚拙で、研鑽は無く、足りないものが多かった。
だが、それを補って余りある若さと熱気が風を巻き込んで爆ぜる。
アトワイト無きミトスの氷とディムロスを持つカイルの焔は互角の様相を見せ、一気に水蒸気が巻き上がった。
冷気と熱気が怨嗟の如く渦を巻いて、風を促す。
『この風、そうか、これがミトスの単独飛行……いや、単独遊泳の仕掛けか!?』
白い雲粒の流動をその眼に写しながら、ディムロスは現象の意味を掴んだ。
氷と炎―――――冷気と熱気。真逆の属性が、急激な温度差を生み、その温度差は気圧差を生む。
そして気圧の落差は気流を――――――――即ち、風を生む。
アトワイトとディムロス程の能力が条件を揃えてぶつかれば、台風と呼べるレベルにまで到達するであろう。
ミトスは空を飛んでいたのではない。人さえも吹き飛ばせるほどの風をその羽根に受けて、流れていただけなのだ。
『気象操作? だが、イクティノス無しでか? 間接制御だけでそこまでやれるのか!?』
『それが、出来るのよ…………ミトスは、唯の魔法剣士じゃない……』
ディムロスの驚きに、アトワイトが苦悶するように応じた。
この風の中でも聞こえるのか、耳聡いミトスの声が雲煙の向こうから響く。
周波数の微細な増加が、接敵していることを伝えていた。
「技術的にしかマナを捉えられないソーディアンには、理解が出来ないだろうけどね。
 シルフ無しで制御なんて何百年ぶりかも忘れるくらい久し振りだったから、ここまで調伏するのに時間がかかった、よ!!」
風が威を弱め、雲が晴れた先からファフニールを持って迫りくるミトスの姿が映る。
それは魔術と剣技を操る魔法剣士でもなく、時間と空間を操る時空剣士としてでもなく、
自然現象の概念集合たる精霊との対話を為し得た、万世を統べる召喚士として風に乗っていた。
退くべきだと、太陽の傾斜を確認したディムロスの理性が当然の意見を口にする。
アトワイトは彼らの掌中にあり、厳しいとはいえ全力を出せる今なら“未だ”間に合う。
だが、ディムロスはそれを言わなかった。

「ァァァァぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」


461名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 19:31:06 ID:dPGvDvrp0
しえん
462名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 19:32:52 ID:pDVf5OQEO
支 援 。
463Ace Combat −No Hero in Starry Heavens− 3@代理投下:2008/12/21(日) 19:33:45 ID:PAwzD3qs0
左手にアトワイトを移したカイルの剣が、ミトスの剣とぶつかる。互いの顔のブレが目に判るほどに痺れ合った。
両者の威力が反転し、二人が後方に弾き飛ばされる。
数メートル飛ばされたあたりで、カイルはブレーキをしたように急激に止まり、ミトスは微細な旋回で勢いを殺すように止まった。
前を向こうとしたミトスの眼前に何かが飛来し、それをミトスは危なげなく睫毛がそれに触る位置で掴んだ。
「…………何の真似だ?」
険悪そうに眉を顰めるミトスの目の前には、その手に握られたアトワイトがあった。
「真逆、騎士道を気取ってる訳じゃないんだろうな?」
「そんなんじゃない。返せるうちに、借りを返したかっただけだ」
指をアトワイトの刃に滑らせながら威圧を効かせて放たれるミトスの言葉を、カイルは真っ向から受けた。
「借り? 奪いこそすれ、貸したものは無かったと思うけど」
「アトワイトさんのことを、待っててくれた」
カイルの言葉に、諧謔的に綴ろうとしたミトスの唇が少しだけ硬く窄めて歪んだ。
その言が正鵠を射て驚いたというよりは、それを口にしたのがカイルであるということに不快を示すような態度だった。

『ミとス…………貴方…………』
動揺を顕わにしてアトワイトはミトスの方を向いた。彼女自身、考えてもいなかった発想だった。
アトワイトの方を一瞥することもなく、努めて賤しそうにミトスは彼女へと言葉を返す。
「勘違いするなよ。僕が待っていたのはあっちの生煮えの方だ。
 ……熱が通るまで待ってみたけど、火が回っても不味そうとなると、本当に始末に負えないな」
意図的な背伸びが目につくその振る舞いに、アトワイトは見逃さなかった。
目尻が完全に泳いで、口がどうしようもなく釣り上ったその顔は、求めていたものがそこにあると云わんばかりの子供のそれであることを。
『…………だっタら、捨てるしかなインじゃない? フリーずドライにして粉ゴナあタりに』
嘆息を小さくついたアトワイトの言い返しに、ミトスは少しだけ驚きを浮かべた。
無言ではあるが、それでいいのかという疑問が目に映している。
『もウ私は何も言わないわ。本当にスきにしテイいわよ。……それでも、あノ人は一緒にいてクレるって、知ってルカら』
アトワイトもディムロスと同じことに気づいていた。それでも彼らはこうすることを選んだのだ。
ならば、もう自分が韜晦すべきことはない。彼らは一切の柵もなくこの場所に立っているのだと理解できた。
それが彼らに必要だというのならば、これほど上等な命の使い道も無い。



464Ace Combat −No Hero in Starry Heavens− 4@代理投下:2008/12/21(日) 19:34:59 ID:PAwzD3qs0
『……でも、アレは……出来れバ止めた方がいいと思うんダケど……無理、ヨね……』
「人の術力あれだけ使っておいて言うセリフじゃないよ。なあに、慣れれば結構楽にいける」
一種の清々しささえあったアトワイトの声が萎むように小さくなる。
そんなアトワイトの声を無視するようにして、ミトスは首に巻いて風に煽られているスカーフに手をかけた。
顎の辺りからぐいとに引っ張ったかつての魔王の外套、その下より現れたのは赤く染まった無数の生傷だった。
出血が薄い分目を凝らせば皮膚から肉に至る断面が鑢で念入りに濾されたようにぐずぐずになった処までがくっきり見えそうな傷。
自分の首にそんなものが付いているということなど意を解することなく、ミトスは右手に持ったファフニールを首筋に宛がった。
「魔界の眷属が一、強欲たる竜よ。汝が牙にて我が黄金の血を啜り慾渇を満たせしば、其の陽気を供物と我に捧げろ―――“メンタルサプライ”」
儀式めいた狂言が終わるや否や、ミトスの首に邪剣ファフニールが穿たれた。
飢えに餓えたと云わんばかりに、ミトスの皮膚の内側でその短い刀身がのた打ち回る。
まるで剣自らが意志をもっているかのように、いや、事実として存在するであろう本能が自らの歪んだ刃に少しでも血を塗りたくろうと蠢く。
この島に存在してから誰一人とし命を啜れていなかったその剣は例えそれが歪んだ命であろうと嬉しそうに心底嬉しそうに舐めた。
砂漠を彷徨う人間がオアシスに対して想うような感情が、魔力となってその剣に――――――――“蓄えられなかった”。
剣先から伝う命の通貨が、鍔を通り魔力となって、柄を握るミトスへと循環する。
外部に流出するはずの命を心の力と化して体内に回帰させるEXスキル・メンタルサプライ。
吸精の魔具を媒介として循環効率を高められたミトスの中で発動していた。
『…………せめて、治療は……無理なんデシょうね…………』
生理的な嫌悪感を隠すこともなく、アトワイトは諦めきれずに呟いた。
術力が不足しているから、代わりに生命力を削ってそれを充填するなど正気の沙汰ではない。
人間に比べて生体という概念から超越している無機生命体であり、魂喰いに食わせた命を逆に奪い取ることで変換率を増幅させているとは言え、
十分の一というこの世界の回復効率とは比べ物にならない。考え付いても誰もしなくて当たり前の、子供の発想だ。

だが、それをミトスは行った。それはつまり生きる力より戦う力が欲しかったからに、
死の淵に向かおうが為さなければならないことがあったからに他なからなかった。
やっぱり子供の考えることは、特に男の子の考えることはよく分からないと、向こう側の剣を見ながらアトワイトはそう思った。


465Ace Combat −No Hero in Starry Heavens− 5@代理投下:2008/12/21(日) 19:35:57 ID:PAwzD3qs0
ミトスの異常な行動を見て、ディムロスもまた気づく。
生呼精吸。信じたくない話ではあるが、それ以外にミトスの術力回復を説明する術がなかった。
体力を失ったこと、それをミトスが不利になったとは考えない。
ソーディアン・ディムロスの特性上、体力を後生大事に抱えて回復に徹してくれた方が読みが楽だからだ。
だが、ミトスは打って出ることをその体で示した。となればこの後に待つ戦いの形は決まっている。
遂に空中での自由を確保したミトスとの遠中近全ての距離で繰り広げられる、一〇〇〇〇発の砲弾を十数分で射耗し尽くすような最悪の総力戦だ。
カイルが以前ミトスと戦った時は痛み分けだったと聞いたが、今回はそれでは済まされない。
下手を打てば痕跡さえ残るまい。両陣に自分たちが居るが故に。
『カイル。俺は果報者だ。人ならざる選択を強いてきた剣には過分に過ぎるほどの、人としてのものを得た。
 最早一切に後悔はない。俺にも、アトワイトにも』
そう云いながら、ディムロスは箒の状態を確認する。目には見えぬ、しかし全体として隠しきれない疲弊が蓄積されていた。
ソーディアンの全力を受けてこの箒を運用できるのは、もうあと数分もないだろう。
『だからカイル。後はお前だけだ。お前が選べ。自分の意志で、何を為すかを。俺は、その全てに力を貸そう』
答えを聞きたかったわけでは無かった。もし此処でカイルが退くつもりだったのなら、アトワイトを手放さなかっただろう。
ディムロスが彼女と交わした約束を無碍にするはずがないと知るからこそ、故に彼は自らが認めた3代目に忠義を示した。

「俺、少しだけ分ったんだ。ううん。思い出した」

ごそごそとポシェットより何かをとりだしてカイルはそれを握りしめる。
「俺は、未だ全然なんだって。未熟で、半人前で、ガキで。何にも分かってないんだって」
輝くそのエクスフィアは、カイルに生きることの意味を教えてくれた人の記憶だ。
「あの人が俺に生きろって言ってくれたから、今俺はこうして生きてる。
 あの人や、父さんのように誰かを守れるような、誰かのために生きられるような、そんな人に」
自分の命を此岸に繋いでくれたその絆を、カイルは強く握りしめた。
軋らせた奥歯と同じように、ともすれば割れてしまいかねないほどに。
「俺は、生きるんだ。だから――――――生きるためにはまず“俺”が必要だったんだ」
カイルがディムロスを背負う。その小さな背中には不似合いなほどの剣だった。少なくとも今はまだ。
少年の氷は未だ解けていない。あの洞窟から、最後の最後の針が動いていない。

「俺は、ここに逃げに来たんじゃない。誰かを守りに来た訳じゃない。
 何が正しいかを見つけに来たんでもない――――――――――――俺は、俺を勝ち取りに来たんだ」

カイルの双眼がミトスを射抜く。目指すべき一点、越えるべき壁がそこに屹立している。
「付き合ってくれる? ディムロス」
ディムロスは分かっていた。此処で退かなければ、もうあの村には帰れない。
箒の全スペックか、時間のどちらか。それがここからあの村に戻るための最低条件だ。
そして、今からカイルがやろうとしていることはその両方を使わなければ為せないことだった。
だが、それはディムロスにとって今更すぎる話だった。使う奴が軒並み碌でもないのだから仕方がない。
『反対する理由ならば山ほどあるが、マスターの頼みとあっては是非もないな。付き合うさ』
「ありがとう、俺、お前に会えて良かった」
肩を竦めるようなディムロスの返事に、カイルはありったけの気持ちを詰めた笑顔で応じた。



466Ace Combat −No Hero in Starry Heavens− 6@代理投下:2008/12/21(日) 19:37:11 ID:PAwzD3qs0
燃えた草木の灰が巻き上がった風に煽られて乱れる。
少しずつ夕の赤が夜の黒に滲み始めた空に浮かぶそれは雪か桜の舞い散るように世界を幻惑している。

その空に立つ二つの影。一人は堕ちた勇者で、一人は英雄を辞めた男。
世界は遂に閉ざされた。勝利は無く、名誉も無く、敗北さえも無い。唯、浮かび始めた星々だけが在った。

「戦う理由は見つかったか?」

全ての意味が死に封鎖された輝ける星空の下、
英雄<Hero>になれなかった英雄<Ace>達の、語られない最後の戦いが今その火蓋を切った。




「お前をぶっ倒す理由くらいは、ある。そこから先はその間に見つけるよ」





【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP25% TP20% 両足粉砕骨折(処置済み) 両睾丸破裂(男性機能喪失)
   右腕裂傷 左足甲刺傷(術により処置済み)背部鈍痛 覚悟+
所持品:S・ディムロス フォースリング 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 ミスティブルーム
    首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ クローナシンボル ガーネット
    魔玩ビシャスコア アビシオン人形 漆黒の翼のバッジ ペルシャブーツ エメラルドリング
基本行動方針:それを決めろ
第一行動方針:ミトスをとの決着をつける
第二行動方針:ヴェイグのことはその後
SD基本行動方針:(結果がどうであれ)デアトワイトと共に在る
現在位置:B3・大草原

【ミトス=ユグドラシル@ミトス 生存確認】
状態:HP15% TP60% とてつもなく高揚 左頬に軽度火傷 右頬に小裂傷 首に傷多数
所持品(サック未所持):S・アトワイト ミスティシンボル ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み)邪剣ファフニール
基本行動方針:???
第一行動方針:カイルを殺す
SA基本行動方針:(結果がどうであれ)ディムロスと共に在る
現在位置:B3・大草原



467投下終了@代理投下:2008/12/21(日) 19:43:59 ID:PAwzD3qs0
そして、読み手の方。申し訳ありません。
今回は今までの中で最高に頭が悪い作品です。しかも終わってない。

自分で把握している部分だけでも突っ込みどころが数えきれないほどです。
それで意見、指摘などあれば……などというのも問題な気がしますが、
それらがあれば、細心を払って対処いたしますのでよろしくお願いします。

一応、次でアホ二人は決着をつけるつもりですので、お待ちいただけたらなと思います。それでは。

468名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 20:38:07 ID:z2ILfXOyO
投下乙

ディムロスがいろんな意味で熱すぎるwww
続きにもwktk
とりあえずもう一回読み直してこよう
469名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 21:18:41 ID:PAwzD3qs0
投下乙です
ディムロス告白!?しかもアトワイトがそれに応えちゃうとか...やっぱノーマルルートとは違うんだなぁと改めて実感。
あとあんだけあったミトスのHPをここまで削ったカイル&ディムロスに脱帽 メンタルサプライ用自爆の分もあるだろうけどそれでもすごい

あと色々とミスりまくりな代理投下ですいませんでした orz
470名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 22:24:36 ID:ClHZ5SXh0
投下乙!
やべえぇぇぇぇ俺ディムロス格好良すぎるよ…そしてアトワイト乙女だなあ
でもカイル、お前…時間なくね…?
471名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 22:39:01 ID:4hRzz1QpO
投下乙
カイルの今後が気になる
472名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/21(日) 22:46:26 ID:ZgY3bHotO
投下乙です。
その意味がアレなのかアレではないのか次回が待ちきれない話ですね、これはまた。
473名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 00:59:12 ID:ug/9rpMa0
乙乙
エクスフィア出したって事は、おう、アレか
474名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 01:02:56 ID:Fdolgdq0O
読み直して幾つか気になるところが
・カイルのTPが5%しか減ってない
・ソーディアンって誰かを乗っ取ってる時以外に自律で晶術使えたっけ?・ソーディアンとマスターのTPは別物扱い?
・箒すげぇ

この辺りの解釈はどうなるんだろうか
最後にもう一度乙です
475名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 10:02:44 ID:MDgkz0neO
新作乙なんだぜ。
これは何というリリカルなのは+ストライクウィッチーズな同社ネタの空中戦。

俺もちょっと気になる点がいくつかあったな。
クローナシンボルで高加速による意識のブラックアウトを防ぐってアイディアは、
確かに面白いけどキバヤシ理論くさくないか?

これが原作ゲーム上ではなくロワ上の話なんだから、
そもそも何をもってステータス異常と定義するか白黒はっきりさせるのは難しいけど、
高Gによる疑似的な貧血状態はステータス異常じゃなくて、
ピヨり効果の複合した、一定時間ごとに食らう防御力無視の固定ダメージ、って解釈する方がしっくり来る気がする。
言ってみれば高Gはモンスターに踏み潰されたときのダメージとか、それこそ劇中で言及されてる通り、
地属性術技によるダメージの方に性質は近いだろうし。

このタイミングでクローナシンボルを使った理由は、メタ視点から見ればだいたい推察はできるが、
高Gによる負荷を重力≒地属性のダメージと拡大解釈して、
セレスティマントでダメージ軽減を行った方が説得力があるんじゃないか?
476名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 12:16:04 ID:LLR86peG0
作者です。
とりあえず致命的なミスが(いまのところ)ないようで胸を撫で下ろしてます。

指摘された部分で、なるたけ後に障りのないように返答をば。

・カイルのTP減少の少なさ&ソーディアン個別のTP設定

カイル、ミトスのステータスとは別枠でディムロス、アトワイトに個別にTPステータスを配置。
高純度コアクリスタル(6本あれば時を越えられるエネルギー)を使ってるので、TPは∞/∞で判定。
ただし、攻撃・回復等の「キャラが使うべき」技能に関してはこのエネルギーは使用できない。

今回の戦闘で言うなら、
ディムロスは箒とリンクすることで燃料無制限でエンジンを回せる=移動に関してはカイルのTP消費無しです。
デルタレイなり蒼破刃なりの攻撃手段に関してはカイル持ちということになります。
エクスプロード・イラプション等の単語が出てきますが、あれは全部推力扱い(ディムロス持ち)で考えてます。
エメラルドリング付きでもカイルのTPが少ないので、ディムロスは体ごとぶつかる突撃手段しか取れる手が無かったのです。
気遣いに定評がある(原作じゃあんまないけど)のディムロスさんでした。

接近能力がないミトス側は攻撃に山ほど魔法使ってる(遠隔操作関連はアトワイト持ち)ので、TP消費に差が出ます。

無論、これが最後までまかり通ったらブラシ部分からの排気熱で無制限の超火炎放射器! 汚物消毒、これで勝った!
とかできかねないので、地味に応手が打たれてますね。そこら辺は箒のあたりで後述します。


・ソーディアンの自律行動

アトワイトに関しては、普通にミトスがアトワイトの指示通りに動かしてるだけです。その過程が端折られてます。
ディムロスのほうは……
厳密には、ディムロスがカイルに指示→カイルがそれを箒とディムロスに命令として流す→ディムロスと箒が動く、という形になってます。
が、後半に行くにしたがって中継がどんどん短くなっていってます。ディムロス≒カイルになって経由時間が短縮されてる。
これは、ディムロスとカイルの呼吸の合い具合(誤解を恐れずいうなら、同調と言ったほうが分かりやすいかも)が上がってるんでしょうね。

もう終盤に至ってはカイルそっちのけ、乗っ取りと言われても確かに否定できない。本編のコレットじゃないんだから。
ですがカイルが作中で言っているようにカイルに欠損があるとすれば、それがこの人形かくやの同調具合を出しているのでしょう。
本編にて綺麗に終わったはずのカイルから今更何を掘り起こすのか。それはVSミトス戦で書けたらなと思っています。

477名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 12:17:06 ID:LLR86peG0
・箒すごい

今回のやり過ぎで賞受賞者は間違いなくこいつ。いくら言葉を重ねてもキリがないくらい滅茶苦茶です。
原作でヴォルトパワー持ったあとは星を回れる&PS版OPアニメで結構むちゃくちゃな機動してたしね、
というあたりを原点として考え始めましたが…………確実に何かが間違ってますね。
とりあえず、「現実世界とテイルズ世界の物理法則が全く同じものとは限らない」、
「テイルズ世界には魔法的な概念が存在している」という緩衝材を噛ませた上で、
・ディムロスがもの凄く頑張って消耗を抑えながら、レンズパワーを受けた箒が物凄く頑張った
という説明で〆るより他に手がありません。

これでは最低限の説明にはなっていますが、それを納得できるかという問題になると別問題ですよね。
しかし、この強引な手に対してカウンターが作中にて打たれています。
箒の耐久力がそろそろ限界であるということ、ひいてはカイルが脱出する時間への影響ですね。
これはこのほうき無双が前提となった仕掛けになっています。
今の不利を覚悟の上で、後の有利を確保するという。誰の有利で誰の不利かは、同じように別問題ですが。

あえて反則スレスレのラフプレーを見逃して、さらにカイルを誘引して罠に仕掛けようとする意思……罠と承知しても進まなければならない状況……
昔のテイルズロワにあったそういうヒリヒリした悪辣な心地よさを感じていただけたらな、と思う次第です。

無論、これは問題点をうやむやにして誤魔化したいとかそういう話ではないので、反論や意見は真面目に受け付けます。


・クローナシンボルとブラックアウト

…………ええ、無茶ですね。高加速度による疾病は病というよりは走った後に息が切れるとかそういうカテゴリに近いでしょうし。
クローナシンボルを使ったのは、たまさかそこに丁度いいものがあって、丁度使える状況だったので使っちゃいました。
(初期構想では、普通に気合で耐えるつもりだった)
しかし、単体だけでは説得力的にも凌ぎきれないのは事実ですね。
ここは>>475さんの「重力魔術=地・闇属性」という意見をお借りして、セレスティアマント&ペルシャブーツによる属性ダメージ減少を追加。
その上でもう少しHPを削る(ダメージ判定を用意)ことで、処置としたいと思います。
ここに関しては修正を近々避難所に上げようと思います。


今のところはなしには出ていないけど、二度手間もあれなので、もうひとつ

・ディムロスの技

一応このロワにおいてリメ要素は「直接は」出さないつもりで書いてます。
今回のは、まあ……カイルと同調したことで性質がD2ディムロス=リメ側に引っ張られたとでも思っていただければ。


とりあえずはこんなところです。引き続き、意見は受け付けますのでお気軽に。
478名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/23(火) 00:24:16 ID:lPZyytnyO
投下乙。
このディムロスならウ゛ェイグミクトランに勝てたなw
ディムロスをアトワイトが受け容れたのもロイドの生き様見たからなんだろうなとか考えさせられるものがあるね。
479名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/23(火) 16:59:54 ID:yKmp/v0WO
そう考えるとロイドも救われた気がするな
ノーマルルートでの終わりが鬱すぎたせいかもしれんが
480名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/23(火) 22:28:51 ID:s3UZ8dP50
逆に言えば、ノーマルでコレットのことよりクレス優先してしまったからアトワイトが完全に諦めたとも考えられる。
良くも悪くも、影響力がでかいんだよなロイド。
481名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/23(火) 23:40:49 ID:KZkgiWq4O
もうすぐノーマルendから一年経つのか
はやいもんだなぁ
当時はアナザーの提案をチャットで聴いたときどうなるかと思ったけど
なんとかなるもんだなぁ
ラタトスク発売までセカンド待とうなんていろいろ話したっけ
482名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 00:09:46 ID:YpNkhLKWO
>>480
そういう意味では、第6クールでロイドが取るべきだった最適解は、
仲間達にコレット救出を要請して、隠密行動を徹底してコレットやミントをC3で救出したのち、
体勢を立て直すまで逃げの一手を打ち続けること、だよな。
実を言うと、ロイドがあの状況でクレスと戦うのは、戦術的にはかなり疑問のある判断だった。

まあ、空間転移や剣士の第六感に、生身で天使とステゴロができる身体能力まで持ち合わせていたヤク中クレスが相手じゃ、
かくれんぼや鬼ごっこでも負けていた可能性は高かったが、
ガチの正面対決よりはマシだっただろう。

そう思うと、隠密行動も出来てキール以上に作戦参謀として適性のあったジェイが、
ヴェイグに誤殺されたのが実に惜しまれる。
483名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 00:46:39 ID:NjaviDZR0
>>481
セカンドとスレ分けしてからこころなし少しゆっくりになったな。
やっぱラタトスクまでに急いでたんかね

>>482
その最適解、ロイド以外の要素考慮してないような気がするぞ。
484名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 00:54:12 ID:NjaviDZR0
連レススマソ
読み間違えた。ロイドの最適解だから、ロイド以外の要素を除くのは当たり前だった。
485名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 10:15:24 ID:/DU/rZSIO
今年ももう終いか…
486名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 11:15:40 ID:uALDchSVO
来年は参加者たちにとって勝利の年になるか、それと……
487名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:34:43 ID:c2SYkYZmO
そういやクレス復活したからミトス次第では、時間巻き戻して
ミクトラン倒して全員生還も有り得るのか
まぁかなり厳しいだろうけど、エタ剣封じられてるし、ダイクロフトに行く方法もわからん
しかもテイルズロワだからなぁ
488名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:34:25 ID:sJsh0cFIO
>>487
つーかそもそも、テイルズの世界観では、たとえ過去に干渉して歴史を変えても世界が分岐するだけで、
ロワがあったって事実を変えることは出来ないらしい。
(ソースはなりダン1とのこと)

まあこの設定自体、穿った見方をすれば、
「クレスがエターナルソードで時間転移できるなら、そもそもP世界にダオスが来た時代まで遡って、
悪さをする前に予めダオスを殺しとけば犠牲者0で収まんねーか?」
だとか
「ミトスが時空剣士なら、そもそも過去に遡ってマーテルを救っとけば良かったじゃん」
みたいな、物語の基軸そのものを揺るがしかねないツッコミを避けるために、
テイルズのスタッフが後付けした予防線なんだろうが、
とにかく今のままじゃ歴史改変は不可能らしい。

エターナルソードに神の目やフォルトゥナの力を併用すれば、
ひょっとしたら可能かも知れない、ってレベルだろうな。

時間操作能力や歴史改変能力は、それくらい縛りがキツい厨能力……
もとい、神の力にも匹敵する万能の能力だし。
489名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 02:18:20 ID:cDCKM5faO
D系歴史改変、要するにフォルトゥナが起こした改変は修復が入ったぞ。改変の規模によるんじゃないだろうか。
490名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 08:20:56 ID:PdZ8NRVM0
あれはD世界がPとは時間の因果律が違う世界
それか神特有の能力のおかげじゃないか?
作り出したパラレルワールドを全ての時間軸に適合させるみたいな
ハロルドもパラレルワールドについて言及してたし
491名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/29(月) 18:44:51 ID:QU3oXqkDO
D2の世界はパラレルワールドが存在しないとカイル達が歴史改変された時点で消えちゃうしな
492名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/31(水) 23:46:50 ID:jchPN5noO
さて来年はどうなるか…
アナザーが始まってからさっぱり出ないミクトランもどうなるんだろうな
493名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/31(水) 23:49:44 ID:6/VEAWiiO
今年は年越し投下はないものか
494名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/01(木) 01:40:30 ID:tCe3btJSO
なかったな まぁあけおめことよろ
495名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/01(木) 02:10:57 ID:vYCCUNcpO
あけおめことよろ。今年中には完結だろうな。
496名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/01(木) 22:17:35 ID:a6hHqk9ZO
あけおめことよろ。そういえば容量は大丈夫なんだろうか?
497名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/02(金) 09:15:33 ID:fCwbLmBRO
うぁ、まじだ。レス数少ないから油断してたがあと30kしかないな。
498名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/03(土) 01:54:24 ID:K75+jeSs0
新年の暇潰しに昨年のアナザーの動きをまとめてたけど、
その前に本編をまとめた方が比較できそうだったので、先に書いてみた。

・本編の大まかな流れ

導入

ロイド入村。ミトスが燃やした拠点の煙を目印にクレス・ティトレイとミトスと出会い、交戦開始。

遅れてカイル、ヴェイグ入村。ピンチのロイドを救援。
西地区でロイドVSクレス、北地区でヴェイグ&カイルVSティトレイへと分離。

状況を確認したミトスが行動開始。
ミントは放棄。西にアトワイト@コレットを送り、南に移動。

さらに遅れてキール・グリッド・メルディ入村。
待ちかまえていたミトスと一戦交えるかに見えたが、ミトスを時空剣士として使うことを決めていたキールが離反。
自身の情報から作られた脱出プランを全て捧げてミトスへと帰順する。
グリッドを瀕死に追い込んでメルディと共にミトスと合流、西地区へ。グリッド、憎悪の念からフィギュア化開始。

西地区ルート

ロイドがクレスに敗北。ロイドに興味を失ったクレスが標的をアトワイトに変更。

コレットの面影に隙ができたか、アトワイトが離脱成功。

再戦の決意と準備を進めていたロイドがコレットの戦闘を視認、追撃にかかる。

ロイドとクレスが再戦。ロイドが優勢をとるも、クレスの新技(改良技?)で逆転。
死にかけるが、コレットが乱入。魂を引き替えのリヴァヴィウサーによってロイド蘇生。
コレットの死に影響を受けた二人がぶつかり、ロイド勝利。クレスが転移で東に撤退。

そこにキール達が登場。瀕死のロイドをさらに追いつめ、完全にコレットを支配したアトワイトの手で心を折る。
エターナルソードを持ったクレスを追いかけるミトス陣営。遅れてきたエクスフィギュアによって、ロイド死亡。
499名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/03(土) 01:54:58 ID:K75+jeSs0
北地区ルート

ヴェイグとカイルを誘引しながら移動するティトレイ。
カイルの晶術やリバウンドの影響を受けながらも鐘楼までの移動成功。

鐘楼屋上にてヴェイグVSティトレイ。ヴェイグが勝つも殺すことができず、
その隙をつかれミントを狙撃される。ミントを庇ってカイル死亡。

カイルの末期の言葉を受けて弔うが、自責の念から絶望しティトレイを殺す。
間違った世界を終わらせるという考えから参加者の殺害を決意する。

ロイドに敗退したクレスを発見し、ヴェイグが撃破。自分自身に殺されるという幻覚の中でクレス死亡。
ミトスの落とし穴に落ちたクレスからヴェイグがエターナルソード回収。

鐘楼の中からヴェイグがミントを発見。殺すことも生かすとも選べず見過ごすが、
クレスを追い求めるミントがそのまま二階から転落死する。

最終決戦

村中央にてヴェイグとミトス陣営が接触。
ヴェイグのスタンスの変化を知らないキールがミトスをミントのいる(はずの)東へ向かわせる。

そこにシャーリィ@グリッドが襲撃。気づかないキールを庇い、メルディ死亡。
その状況に耐えきれず、心身共々ぐちゃぐちゃにされてキール死亡。

ヴェイグのフォルスにて中央地区雪原化。アトワイトとヴェイグがシャーリィから離れ、
東より戻ってきたミトスとシャーリィが交戦。漁夫の利を狙うヴェイグ静観。

クィッキーの玉砕と引き替えにアトワイトとミトスのコンビが勝利。
そのままマーテルの復活儀式発動。マーテルがコレットに憑依する。

原作通りの口論になるが、シャーリィを潰すためのレイズデッドでグリッドが復活。
キールの計画の続きをなぞりマーテルを人質に取るが、自分の無いグリッドにはその先が無く、手詰まりに。
グリッドを殺そうとミトスが動くが、マーテルがそれを庇いコレット死亡。
強襲したヴェイグがグリッドをシャーリィと勘違いしたまま攻撃、グリッド死亡。アトワイトもその過程にて終了。

ミトスVSヴェイグ開戦。魔術とフォルスの壮絶な撃ち合いの中ヴェイグが優勢を取るが、
ミトスの言葉に心を揺さぶられ、ジャッジメントの直撃にて左腕を失う。
そのままヴェイグを殺せるかに見えたが、姉の死に全てを無価値だと悟ったミトスはエターナルソードによる脱出を決行する。

ミトス、最初のホールへと転移を成功させるも、ミクトランの口からそこが会場内であることを知らされる。
最後に実りの中にチャネリングがあることに気付くも首輪爆破により死亡。

ヴェイグ以外の全員死亡によって優勝者決定。本当のホールへと転移する。
首輪を奇策によって抑えたヴェイグは全てを終わらせるためにミクトランの殺害を決める。
インブレスエンドによってミクトランに勝ったかのように見えたが、
それは優勝したヴェイグに与えられた全てを終わらせるという願い=生と死の永久ループの夢だった。
ソーディアンの人格への疑問を呈されたままミクトランに破壊されディムロス終了。

優勝者はヴェイグ=リュングベル。ミクトランと神の眼を残し、その行方は誰も知らない。
500名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/03(土) 01:55:51 ID:K75+jeSs0
で、ここからアナザー。

大まかなアナザーの流れ

導入

ロイドが入村するが、落とし穴などに引っかかりタイムロス。
その間に入村したヴェイグ・カイルがファラの家の方に来ていたクレス・ティトレイに先に接触する。
リバウンドに苦しんでティトレイがクレスを残し撤退。追撃はせず、カイルを待機させてロイド&ヴェイグVSクレス戦開始。

予定外のティトレイの動きに戸惑うミトスが、作戦を変更。ミントは保険として残すことに。
アトワイトを西に向かわせて、ジャッジメントによる広域攻撃のために南東へと移動。

中央で張っていたカイルとコレットが接触するも、見逃すことに。

キール、グリッド、メルディ入村。
ミトスが来ないことを訝しむキールと南東から嫌な予感を感じたグリッドが口論の末分かれ、
キール・メルディは西へ移動することに。

西地区ルート

二人がかりでも物ともしないクレスに、ミトスからの援護射撃が来ないアトワイトが仕方なしに乱入攻撃。
ヴェイグ、ロイド、クレス、アトワイトの四人が入り交じる乱戦状態に陥る。
キール達は状況を整理後、ミトスと接触するために東へ移動。

キール、中央で待機していたカイルと接触。会話中にグリッドを確認してそちらへと戻る。

ジャッジメントを伴った更なる混戦状態にグリッドが乱入。コレットを人質にとって事態を納め、バトルロワイアルからの解放を演説。
その後、コレットを助けることを決めたロイドの支援に周り、ロイドVSコレット、グリッドVSクレス開始。
残されたヴェイグはそこに現れたキールの勧めにてカイルとの合流に動く。

グリッドVSクレス。ユアンの能力を解放しながら時間を稼ぐも、最終的に冥空斬翔剣にて敗退。

ロイドがアトワイトに勝利。アトワイト本体は残りの力で北の方(B3)に離脱する。
コレットの説得に成功?するも、クレスの一撃によってロイド死亡。

コレット(ミント)の為に人を殺してきたクレスをコレットが否定し、クレス錯乱。
コレットが危機に陥るが、ロイドの行動に心を動かされたメルディがそれを庇う。
メルディを守るため、キールがクレスと戦うことに。

当然のように瀕死に陥るが、その中でキールが自分の目的を再確認しバトルロワイアルと戦うことを決意。
ケイジの中に潜んでいたゼクンドゥスの参戦、クィッキー、コレット、グリッドなどの
さまざまな援護を受けて作った策で心身限界のクレスを撃破する。

クレスを敢えて逃がしたキールとグリッドが改めて合流。
中央で合流することを約束してグリッドとメルディがカイル・ヴェイグを探しにいくことに。

クレス、ぼろぼろになりながらミントと邂逅。
ミント、クレスを救うためマーテルと融合、精霊化してレイズデッドを行い、
幻の入り交じるなかでミントの手助けを得てクレスが自分を取り戻す。
501名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/03(土) 02:00:44 ID:K75+jeSs0
北地区ルート

戦場から抜けたティトレイがマーテルの呼び声に導かれ、手薄になった鐘楼へ。
そこでミントを見つけ、実りの中にいたマーテルとの会話からリバウンドの根源を発見し、自身を正常化する。
ミントの願いを叶えるため、彼女を抱えて北迂回ルートへと向かうことに。

南東地区にてグリッドが詠唱中のミトスを発見する。
一蹴されて落とし穴の中に落とされるが、輝石の中のユアンと再開する。

自身の答えを見つけたグリッドがエクスフィア内のシャーリィを舌戦で撃破。
ネルフェスエクスフィアとユアンの輝石を融合させることで天使化を成功させ、復活。
ミトスを翻弄してジャッジメントを未完成に留めることに成功し、そのまま撤退。ミトスは鐘楼に退却。

もぬけの殻になった鐘楼に気づき、ミトスが北に追撃開始。
北地区にてティトレイ達を捕捉し、ミントを抱えて上手く戦えないティトレイを追いつめる。
ティトレイを庇うミントに激し、殺そうとするが救援に来たカイルの手によって阻まれる。

ティトレイとカイルのコンビでミトスを抑える中、マーテルとミントがミトスを説得。
その影響か、ディムロスを持ってやってきたヴェイグの参入からか、ミトスが北へと逃走。
ミントもクレスを追うためその場から逃走。追わせないために残ったティトレイとヴェイグが戦うことに。

言葉とフォルスを交えながら、互いの感情をぶつけ合うヴェイグとティトレイ。
その中でヴェイグも自身の罪のあり方に答えを見つけ、それをティトレイに示し、二人は和解することに。

二人のやりとりを見たカイルが、ディムロスと共にミトスとアトワイトの下へ向かうことを決める。
カイルの帰還を待つと決めたヴェイグ達は今後のことに思いを馳せる。

B3。アトワイトと合流したミトスにカイルが接触。アトワイトはミトスと共に終わることを望み、
結果としてミトスwithアトワイトVSカイルwithディムロス開始。
ヴェイグの決意に揺さぶられたカイルが心を乱すが、ディムロスのアトワイトへの想いに引っ張られて立ち直る。
しがらみを越えたディムロスの告白をアトワイトが受け入れ、ソーディアンに決着。

最後の決着をつけるため、カイルVSミトスの決戦開始。


北と西で二本のルートに分けられるのは同じだけど、
印象として、本編は両方終わらせてから生き残りが集合して〜というのに対して、
アナザーは場所に対して参加するキャラクターがコロコロ変わってる感じがする。
502名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/03(土) 18:57:46 ID:jG0tC5Kf0
まとめ乙!
こうやって端的に比べてみるとおもろいなw
503名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/03(土) 21:17:33 ID:BwdaTAUpO
事件のキーパーソンは誰なんだろうな。一時は本編で最大勢力を誇ったミトスはアナザーじゃ完全にサブイベントキャラだし。

とりあえず500間近になるか投下予告があったら次スレでいいかと。
504名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/03(土) 22:23:20 ID:voWlIjz5O
居る地区が大きく変わってるのはミント、グリッド、カイル、ミトス辺り
最初に行動が大きく変わったのはティトレイ辺りか
このせいでミトスの行動も変わっちゃったからな

そういやティトレイって意外と謎多いな、本編でマーテルと話した内容とか
アナザー序盤の謎声とか
505名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 09:32:14 ID:cKqN+XWDO
ティトレイの気まぐれとロイドの連続落とし穴がアナザーの始まりだから、やっぱこの二人か
506名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 11:55:04 ID:lpT0Uo0w0
>>504
本編はマーテルと会話してないと思ってた。
距離が遠すぎて声っていうか音だったんじゃない?
507名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 15:31:01 ID:M0+Mf7XDO
本編はアナザーよりリバウンドが進んでたから遠くでも会話できた。…ってのはちょっと苦しいか
ただそうなると本編の鐘楼で話してたのは誰?ってことになるんだよなぁ
508名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 18:07:20 ID:cKqN+XWDO
ティトレイがひぃとれいで(1人で)喋っていました。
509名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 18:09:08 ID:kXR7yI7RO
本編でティトレイはマーテルと話してたと思うな。たぶんだけど。内容からしてミントではないだろうし。
両方ともティトレイが北に行ったのはマーテルに呼ばれたからなのでは?
問題は前後の状況だろうな…
510名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 01:20:42 ID:jz7cBJ5dO
>>508
正気に戻った時空剣士乙

マーテルはチャネリング絡みがあるからややこしいな
呼んだのは第五だから問題はその後か
511名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 14:13:15 ID:tyxNpLEi0
ミントの叫びを実り在住のマーテルが拾ってコレットを使って拡声器を使ったんだったか。
改めて字面にするとめちゃくちゃだなw

マーテル→ティトレイ
ミント→クレス
コレット→ロイド

で呼んでるやつもバラバラだw
512名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 16:37:13 ID:hzmbqLmnO
>>511
まあ、色々と交錯していた状況を解きほぐそうとしたら、
結果としてそういう奇怪な事態になったんだろうな。
というか、当時ミトスが記憶の中の時系列さえ混乱するほど取り乱していなけりゃ、
ミトスという観察者を介して、もうちょい秩序だった真相を描写できてたはず。

ミントにマーテルの面影を見ちまった時点でミトスの負け、って気もせんではないがw
513名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 18:04:01 ID:uvjR2voz0
改めて読んでも本編のキール死亡話はどれだけキールに恨みがあるんだろう?
この作者、大丈夫なんだろうか?だった
あれ、最初に投下された時はもっとひどかったんだっけか?
514名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 18:47:24 ID:/ZCt9X4S0
俺の場合は描写が想像力を超えてたせいでどこがグロいのか分からなかった。
ここでは過激な描写とだけ言われたが、誤爆んとこでよくやったと言われまくってたのだけは覚えてる。
515名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 19:50:29 ID:nN7fkzXz0
もう一年半前の話だが、当時はキールに対する感情が吹き荒れてたからね。
カイルが死んでヴェイグが墜ちて、脱出エンド最後の砦のロイドを完膚なきまでに破壊しつくした張本人だから。
そこらへんの当時の温度ってのを考えないと>>513のような気持ちもあるかもしれんね
516名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 23:46:47 ID:MGqhC3DL0
まあ行動方針は原作リオンとそう変わらないんだが
キールは屁理屈こねまくって自分を正当化して相手を屈服させてきたからなあ
リオンとは違った意味で女々しい奴だった
アナザーじゃ開き直って良い味出してるが
517名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/06(火) 14:33:51 ID:QFhUUA/MO
メルディと自分の保全を打倒ミクトランとかで脚色してたからな。あれはいい意味でうざかった。
518名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/06(火) 17:39:19 ID:gTRtkEFk0
>>515
カイルが死んだのもヴェイグが墜ちたのもキールの所為じゃないし
そもそもロイドが普通に死ぬ気で行っちゃったんだし
脱出エンド最後の砦、あの時点ではロイドだけじゃなくなってたし
温度ったって、当時のキールにしてみりゃ他に選択肢がなくね?
アナザー並の補正が掛からなくちゃただの玉砕への道にしかならないんだから
何故かそれまで脱出手段については筆談で通してたキールが
全部口頭でぶっちゃけたりとか
何故か目前の脅威よりも生死不明の法術士に対して
最大戦力のはずのミトスと向かわせたりとか
ねーよwな突っ込みどころは結構あるけどね

まあ、今更な話でしかないけどね
本編ロワは実にBAD ENDしかなかった欝ロワでした
519名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/06(火) 19:01:32 ID:i2DcPHCm0
「勧善懲悪的な」脱出エンドって意味だろうな、この場合は。
キールはロイドの時空剣士フラグをミトスに移すことで、フラグそのものを守ろうとした。
そういう意味でキールの行動は理に適っている。少なくとも理解は出来る程度に。

でも、情がまったく付いてこなかった。理解はできても納得できる人は少なかったはず。
当時はまだパロロワの中で優勝エンド全滅エンドが少なかったからかな。
でも「それでも、ロイドならなんとかしてくれるかも……」的なかりそめの希望も粉々にして、
残ったのは血も涙も無い脱出フラグだけ。理屈で押さえつけられた情が、毒吐きとかに出たんだと思う。

理屈だけじゃ人はついてこない、ってことかな。
実際、キールはヴェイグの複雑な心情を理解できずに脱出を餌に説得しようとして状況の危機を読み間違え、
グリッドとシャーリィの執念を甘く見てた(これは予測しようがないけど)ことで死んでるし。
520名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 23:16:04 ID:Vbq9fVTWO
当時はキールをkillしたいと思ってた人がたくさんいたってことさ
521名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 23:29:42 ID:E2gkXUKqO
キールの首を斬ーる、ってか?
522名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/08(木) 05:19:21 ID:ZrxfJ/ZiO
やっぱり感情論を甘く見たのは、キールの最大の失策だよな。

このロワのキールを見てから原作のキールを見ると、
キールがミンツ大学から弾かれたのは提唱した学説が異端だったからってだけじゃなく、
何でも理詰めで考える性格や、リッドやファラに対して抱いていたコンプレックスが祟って、
学内で本人が無自覚のうちにやらかした言動で、人間関係に問題を起こしていたからではないか、
って考察をしたくなるな。

邪推するなら、むしろ異端の学説を唱えていることを口実に、
大学側から実質上の左遷人事を食らって外様に追いやられた、とも考えられる。
いくら優秀な人間でも、周りとしょっちゅうトラブルを起こすようなら、
やがては切られる羽目になるしな。

パロロワで言うなら、描写力や執筆速度がプロ級でも、
フラグを片っ端からへし折り周りの書き手に無茶振りばっかりするはた迷惑な書き手は、
遅かれ早かれ叩かれてスレから追い出されるのと同じことだ。
523名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/08(木) 06:25:04 ID:WPwuTXqp0
自分は普通にそう解釈してたが
奴がハロルドやジェイドの様に圧倒的業績を残してるならともかく
未だぽっと出の若造が世界消滅の異端説を唱えてそれを頑として譲らないと来たら…ねえ?
ハロルドですらあそこまで認められるのに結構な苦労を必要としたんだし
おまけにその説間違ってるし、結局は追放ってのはそんな重いものじゃなく反省する時間をやるってことじゃないかと
524名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/08(木) 07:37:31 ID:JOhc+M6FO
つまり大学の人等は後のデレのためにツンしてただけなのに、そのツンに疑心暗鬼を抱いてL5発症してたわけか。
これはリッドらが来てなかったらいずれ大学で1人学生運動して逮捕決定だな。
525名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/08(木) 11:39:29 ID:BMGK5I/b0
本編キールが特大の失策を犯したことは否定しようがないが、その失策を選んだことそのものは仕方ない面もあるぞ。

ロイドがシャーリィに同情した結果心臓を失い、
ヴェイグを気遣ってティトレイを殺そうとしたジェイがヴェイグのティトレイに対する友情から殺され、
自分が死ぬつもりだったキールがリッドの命を引き換えに生き延びたりと、

感情が引き起こした悲劇は数え切れん。
その背景を考えると仲間を駒と、マーダーをモンスターと見立てたり、
ゲームから感情を徹底的に排除すれば最短距離で悲劇を回避できると考えるのは妥当じゃないだろうか。
526名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/08(木) 23:13:51 ID:dWutAnx8O
個人的な解釈だが上でも誰かが言ってたようにキールはコンプレックスが強かったからな
周りを見返したいでも自分じゃ駄目なんじゃないかって気持ちがあった
ただロワでも中盤辺りまではみんなで脱出してミクトランを倒すプランをだった
けどシャーリィ戦後だと味方はボロボロ、マーダーは厄介な奴ばかりで期待できない
そして自分にはもっと期待できない、だから全員裏切って踏み台にするような保身に走ったんだろう
それでも本編のロイドへの怒りはやつ当たりな上に身勝手が過ぎるがな
アナザーでやっとコンプレックスを克服したんじゃないかと勝手に思ってる


それにしてもキールの人気に嫉妬
527名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/09(金) 01:24:43 ID:oPXpuOCjO
>>526
×→人気
○→憎まれっぷり


しかし今思い出してみると、ロイドが例のクレスコールを聞いたとき、
即決でC3への単騎特攻を行ったのも、ロイドが薄々キールの翻身の兆候に気付いていたからなのかも知れないな。
キールが酢飯の死体を弄んでいたあたりで異変を察して。

ロイドは確かに感情が先行するタイプのキャラだが、
慢心して自分の実力を見誤るほどのアホじゃないはず。
実際劇中でも、まともにやり合えば自分はクレスにまず勝てないってことはしっかり認識してたし。
普段のロイドならクレスコールを聞いたのち、仲間に「コレットを助けるために力を貸してくれ!」くらい、
ふつうに言えてた気もするし、それが一番救出に成功する可能性が高い選択だと分かってたはず。

それでも単騎駆けを選んだのは、翻身したキールに「コレットは見捨てるべきだ」って断じられ、
しかも他の仲間がその意見に説得されるかも知れない、
最悪の場合他の仲間に無理やり引き止められて、結果的にコレットを見殺しにする羽目になるかも知れない、
って恐怖を無意識下で感じていたから、なのかもな。
528名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/09(金) 03:55:33 ID:MHt+j12o0
>>527
翻意というか、割と当たり前の判断じゃね?それ
実際問題、補正なしじゃよってたかっても勝てないし
そこでさらに「罠がありますよー」な所に突っ込んでいく意見にOK出してもらえるほど
ロイドってたいしたことしてないし

自分の実力を見誤ったかどうかは知らんけど
TOS本編では感情論で後先考えずにかなり突っ走った印象があるけど?
たまたま敵がロイドに思惑持ちだったりちょうどいい所に誰かが来たりで
フォローされていたお蔭で破綻しなかっただけで
そもそも劇中の行動がどうのうなんて言い出せば
ほとんどのキャラはそんなことするような奴じゃない罠
529名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/09(金) 07:32:25 ID:EA2Xd8m+O
>>527
ロイドを過大評価し過ぎじゃね?
530名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/09(金) 10:26:25 ID:06EHD6uF0
あの時のロイドの行動は慢心じゃなくて心臓失った諦観か自棄だろう。キールにそれを慢心と言われただけで。

仮に仲間と協力して潜入行動を行うとしても、結果は変わらん気がする。
ロイドが生きてそれを成功させるにはクレスとロイドがぶつかるまで動く気のないミトス陣と、
ヴェイグをクレスに殺させたいティトレイ陣がロイド陣を放置してぶつかるのが絶対条件。
両チームともセンサー持ち&ミトスが陣地化した場所である以上この前提がかなり厳しい。

それができたとしても、犠牲は確実に出るだろうな。下手したら救いの塔の再現になるかも。
ヴェイグ「ティトレイは俺に任せろ!」(相討ち)
カイル「父さんの仇は俺が!」(親と同じ死に方)
キール&(メルディ)「ミトスは僕が何とかする」(どうみても裏切り前提)

で、最後にロイドはコレットを見つけるがもうアトワイトでした、まる
531名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/09(金) 21:42:16 ID:PDgIBUTO0
ロイドもキールも人間でした、ってことかな。手探りに近い状況で何が最善なのかなんて分かるわけないんだし。
ロイドが生き延びてもロイドだけじゃ湖行きだしな。
532名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/12(月) 00:42:29 ID:NYW8kcRaO
本編はその人間らしさが悪い方向に出まくったからなぁ
優勝者のヴェイグに至っては言うまでもないし
533名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/12(月) 01:34:43 ID:Ll3AOWpk0
ヴェイグは運がなかったとしかいいようがない
カイルが死んだのはカイルの選択だし、ティトレイも死ぬ気満々だった。それで何をどうしろと
534名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/12(月) 22:27:03 ID:pTKocx3d0
何を選んでも間違いになるから全部を終わらせるってそりゃ一番間違った選択ですよヴェイグさん
535名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/13(火) 10:06:17 ID:w/l/QegSO
ミトスが最後にヴェイグに言ってるが、もう後の祭りってやつだね。
あの状況じゃあ、引き返せないさ。
536名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/13(火) 16:09:37 ID:tcmCgWgtO
にしてもなあ。夢落ちが優勝者に与えられる結果だとすると、米具じゃなくても優勝して参加者がミクトランに勝つのはどうやっても不可能ってことになるのか。
中途半端に約束守ってる分質が悪い。
537名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/13(火) 18:24:57 ID:RhfuMftPO
でもこれって人によっては幸せな夢見れるよね。
例えばダオスだったらデリスカーラーンが平和になってる夢を見るだろうし
538名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/13(火) 18:36:18 ID:3T0Nfb+zO
>>536
よくよく考えれば、そりゃまあ当たり前っちゃ当たり前だけどな。

ミクトランは何もテレビゲームの制作者じゃないんだから、
ロワをクリア可能なものにしておかなきゃいけない義務なんて微塵もない。
むしろありとあらゆるチートを駆使して、参加者に一切反逆を許さない状況へ追い込むくらい、ふつうにやるだろ。

エターナルソードによる脱出なんか、時空剣士の3人同時呼び出しによる契約矛盾に、
島自体を通常のテイルズ世界から切り離すっていう二重封殺で禁じられてたし。
この調子だと、極光術やフォルス以下脱出フラグ全てに、一つ残らず対策が施されているんじゃないか?


実も蓋もないことを言えば、そもそも島に誘拐されて首輪をはめられた時点で、
参加者は全員詰んでいる。
539名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/13(火) 19:07:43 ID:+6624kWq0
でも、主催者はあのミクトランですよ?
540名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/13(火) 20:12:44 ID:2RvLrrEy0
まあ、どっかに抜け道は有るんだろう
原作でもリオンの使い方は生かしておいたら
裏切られることを危険視したことからくるものだろうし
その時点で帝王学まで叩き込んだ子育て失敗しているし
グラバムに出し抜かれてるし
ハロルドの頭脳を手に入れ千年、最低でも二十年間ずっと練ってきたであろう計画でさえこの様なんだ
ロワではどんなヘマをやらかしていることやら
541名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/13(火) 23:51:57 ID:3E9kdqA50
でも、ミクトランが勝ったという展開があったというのは事実な訳で、
ここのミクトランはそれなりに優秀だと思う。後でどのくらい糸引いてるかって問題はあるが。
542名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/14(水) 00:09:48 ID:ftooZ1GCO
勝ったとは言っても、なぜか生き延びてたハロルドに気付いてなかったみたいだし
本編の最後も失敗したともとれる表現なんだよなぁ
主催陣の情報が少な過ぎてどれも断言できないし
543名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/14(水) 03:12:37 ID:t5NBYbbCO
>>539-541
その辺考えると、ティトレイがデミテルに入れ知恵されたみたいに、
ミクトランも誰かに入れ知恵されてる可能性は高そうだな。おそらくは「黒幕」さんあたりから。
544名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/14(水) 08:37:05 ID:C0tDLSHa0
分かってる限りの情報で考えると、
ミクトランがハロルド逃がす(第6冒頭)→ハロルドが逃げた先でベルセリオス入手(アナザー冒頭。乗っ取られた?)はどっちのルートでも鉄板ぽいから、
本編は最後の最後でベルセリオスがミクトランをniceboat.してロワの成果を乗っ取ったってのが妥当か?
545名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/14(水) 16:01:27 ID:2xke6+wE0
惨劇を回避するためのルールX、Y、Zを三行で教えてくれ
546名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/14(水) 16:06:53 ID:04ITW3qn0
そろそろやばそうなのでスレ立て挑戦してくる
547名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/14(水) 16:21:43 ID:04ITW3qn0
548名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/14(水) 17:12:35 ID:r5hVXx2M0
フォルス能力者の対主催モードキープ
グリッド覚醒
裏の働きに気づく、またはコンタクトを試みる?
後は知らん
549名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/14(水) 17:28:06 ID:wqRZbKB50
XYZかは分からんが、とりあえずルールっぽいものは…

クレスはコレットに弱く、ミトスはミントに弱い
マーテルはティトレイ、ゼクンドゥスはキール、ユアンはグリッドが諦めなければ登場
クレス・ミトス共々のアキレス腱であるコレットを救えるのはロイド。ただし失敗時は最悪コース。
550名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/15(木) 02:07:52 ID:Gf5dT5yA0
X:自棄にならない
Y:徒に戦力を減らさない
Z:脱出フラグを回収する
551名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/15(木) 03:10:30 ID:QumVqWmg0
身も蓋も無えな
そのルール
552名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/15(木) 05:08:42 ID:ir6+UI+j0
>>550
それはどのロワの脱出でも同じだろw
いや、ここはその難易度UNKNOWN級だけどさ。

ロイド、グリッド、ティトレイが錠前の鍵に対応してる気がする。
具体的なルールは頭悪くて説明できんが。
553名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/15(木) 06:30:55 ID:qsCOIyOLO
Xがグリッドやキールやロイドやヴェイグが信念を貫きながらもファーストのヴェイグみたいに自棄になる事象

Yがミクトランの罠やミトスの策略やロイドの単独先攻など避けられない?事象
Zはロワの環境に依る剣や使い手の奪い合いという裏切りの起こりやすい環境
554名無しさん@お腹いっぱい。
>>548-553

X:状況に流されてキャラクター個々に主導権が無い状況→グリッドが演説で打破(覚醒が必要)
Y:ミクトランやチャネリング支配下?のミトスによって構築された避けられない戦況→ティトレイが自由に動いて打破(フォルスも確保)
Z:キャラクター全員に漂う諦めの漂う空気or裏切りが発生しやすい環境→ロイドが理想を捨てることで打破(みんな自棄にならないので戦力が残る)

合わせるとこんな感じか。あとは各キャラが耐え凌げばヘルプキャラが出るし、キャラが自分を顧みる余裕が出る