信じがたい事態が起こった。
ジューダス達が向かうシースリの村から、突如として大音量の放送があった。
ミクトランのそれとは明らかに違う、少女の、必死な声。
希望を訴え、呼びかけを行う彼女の言葉は、はっきりとジューダス等四人に聴こえた。
その呼びかけに強く反応したのはロイドで、
慌ただしく村の方向と仲間を交互に見ながら、動揺を隠しきれずにいた。
一緒に行動することになったヴェイグは、表情一つ変える事無く、黙って少女の言葉を聞いていた。
ジューダス自身は、表面上は静かにしながら、内心は黒い影が覆っていた。
それは呼びかけを行った少女等に対する不安よりも、
一緒に居る仲間達への不安の方が大きかったかもしれない。
事実、少女の呼び掛けにロイド以上に取り乱したのは、他ならぬ少女の仲間、メルディだった。
「ファラ・・・ファラがあそこいるよ!早く、早く行こうな!」
村の方向を指差して、オーバーアクション気味に騒ぎ立てる。
放送をした少女の声は不自然に途切れ途切れで、
彼女の状態が危険域であることを示していた。
「そ、そうだぜジューダス。まさか俺達が行こうとしてた場所にもう人が居たなんてな、早く助けに行ってやろうぜ!」
ロイドも便乗して声を上げる。
対する二人は、じっと黙っていた。
「・・・引き返すぞ」
仮面の男が口を開いた。その声はいつもより暗く、沈んでいた。
「え?」
きょとんとした目で仮面の男を見つめるロイドとメルディ。
「さっきの呼びかけを聴いただろう。あそこにはまず間違いなくやる気のある奴が集まってくる。行くのは自殺行為だ」
メルディはその言葉が理解できないといった風に、不安定に立っている。
やがてロイドが啖呵を切ったように喋りだした。
「な、なに言ってんだよジューダス!聴いただろ、あの人、協力しようって!
俺達と協力できる人じゃないか!それに、あの人、すごく苦しそうだった、早く助けに・・・」
「無駄だ、もう遅い。確かに僕達は協力者を求めていたが、こんな形で合流するのは危険すぎる」
「でもよ、でも、それに、あの人、メルディの仲間らしいじゃないか!助けてやらないと可哀想だろ!」
ジューダスは静かに頭を振った。仮面に付いたひも状の飾りが、大きく揺れた。
「行けば、死ぬ。間違いなくあそこは戦場になる。僕は、のこのこと出て行って死ぬつもりは無い」
その声ははっきりと、冷たい響きがあった。
ある意味でジューダスの言葉はとても現実的なものだった。
ジューダスはロイドとメルディを死なせたくは無かった。
しかし仲間との再会を強く望み、その死を怖れるメルディと、
希望、或いは優しい理想を捨てきれないロイドに、その言葉は届かなかった。
別れの時が近付いていた。
「メルディはいや、ファラが死ぬの、いや!あっち行くよ!」
紫髪の少女は子どものように駄々をこねた。
その意思はとても強固なもので、誰にも止められないものだった。
仲間と再会できないこと、仲間の死を怖れているのだった。
微かに、メルディの体から黒い光が見えた気がした。
「ジューダス、俺は行くぞ。仲間になれる人達が居るのに、それを黙って見過ごすことなんて、出来はしない。
その人たちが危険な状況にいるってんなら、尚更見捨てれるもんか」
仮面の男がロイドを正面から見つめた。
その仮面の奥に垣間見える、沈んだ瞳。
「・・・死ぬぞ」
「そんなこと、俺がさせない。希望を捨てないで、力を合わせようとする人たちを、絶対に死なせやしない」
ロイドの言葉は強い響きを持っていた。
既にかなりの数の死者が出ている中で、彼の言葉は甘すぎた。
それでも、目の前のこの状況で、何もしていないでいられる彼でもなかった。
そしてそんな彼の性質を、ジューダスは多少なりとも理解していた。
もう何を言っても無駄だと、望みを捨てないロイドを止める術など無いと。
いや、そもそも希望にすがることの何が悪い?
或いは最初から分かっていたのかもしれない。
放送が聴こえた時点で、こうなることは必然だったかもしれない。
別れの時が訪れた。
「・・・そうか。なら勝手にするがいい。僕は僕で行動する。お前達はお前達で好きにするが言い」
ジューダスが言い放った。
それまで黙りこくっていたヴェイグは、ちょっと驚いて仮面の男を見た。
メルディはほとんど泣きそうな顔で、男達の顔を順々に見比べた。
ロイドは唇をぎゅっとかみ締めると、ジューダス等に背を向けた。
「行こう、メルディ。お前の仲間を、助けに行こう」
「あ・・・うん・・・」
二人は静かに駆け出した。
やがて、その姿が森の中に消えた。
ジューダスは瞼を閉じ、顔をうつむけて、悔やむように小さく呟いた。
馬鹿、と聞こえた気がした。
「いいのか?」
ヴェイグが仮面の男に語りかけた。
仮面の男は顔を上げ、青髪の男を見つめた。
「お前も行きたいのであれば、止めはしないぞ」
「いや・・・俺としても、迷っているのが本音だ」
彼の胸の中で、かつて先程の少女と同じように、皆に演説を行った女性の姿が思い出されていた。
色んな状況の違いはあれ、あの時はなんとか大切な人を助けることが出来た。
しかし、今この状況において、果たして万事が上手くいくであろうか?
「これから身を隠す。今のに釣られた奴等が、あの村へ移動しようとして鉢合わせるかもしれないからな」
無感情にジューダスがそう言い、ロイド達が消えたのとは別の方角へ歩き出した。
ヴェイグはしばらく迷い、とりあえず仮面の男に付いていった。
【ジューダス:生存確認】
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:身を隠す
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ヴェイグと行動
第四行動方針:ロイド達が気になる
現在位置:B5森林地帯
【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル)
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:身を隠す
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
第三行動方針:ジューダスと行動
第四行動方針:呼び掛けが気になる
現在位置:B5森林地帯
【ロイド:生存確認】
状態:健康
所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る
第一行動方針:シースリ村に向かい、協力者と合流
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:メルディと行動
現在位置:B5森林地帯からC3村へ移動中
【メルディ 生存確認】
状態:TP消費(微小) 背中に刀傷(小)左腕に銃創(小) 僅かにネレイドの干渉
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:シースリ村に向かい、ファラと合流
第二行動方針:ロイドと行動
第三行動方針:仲間と合流する
現在位置:B5森林地帯からC3村へ移動中
333 :
業務連絡:2006/01/22(日) 15:35:15 ID:ihjZcGQx
「秘義完成せず」でG5の村に〜と表記されたますが
ただしくはG5の町です
お手数かけます
「う〜む、どうしたことか…………」
モリスンは、例の法術書の目の前にして腕組みをしていた。
発端は、ひと時の休息を取っていた際にふと目に入ったそれを再び読み始めたことだった。
元々、研究者でもあるモリスンは、自分の知らない術式の書かれたそれに次第に興味を持ち始め、いつしか没頭してしまっていた。
だが、読めはするものの理論が完全には理解できなかったのだ。
元々モリスンのいた時代にあった魔術で消費していたエネルギーはマナ。
それに対し、法術はマナに代わって、神の加護、大地の力など称される漠然としたエネルギーかも分からないものを使うらしい。
流石のモリスンでも自分の死後に生まれ、研究された分野を数十分で理解できるわけがない。
だが、そんなモリスンでも分かったことが一つあった。
それは、魔術が地水火風といった自然現象に局部的に変異を与えるのに対し、この法術という術は人体組織に直接何らかの影響を及ぼすことが主である術だということ。
具体的には、体の再生機構の活性化や毒浄化の促進、敵に対しては逆に体を脆くしたり、詠唱する口を塞いだり……。
つまりは、法術が味方の支援に向いているということだった。
「……この“法術”とやらが使えるようになれば、自分で自分を治療できるようにもなるのか……」
それは、ダオス討伐を掲げるモリスンにとっては、是非とも修得したいものだった。
いくらモリスンとはいえ、ダオスを無傷で倒せる自信などない。
だからこそ、互いに体力を消費する長期戦を有利に進める為にも支援系の術は充実させておきたかった。
「とりあえずは、この“ふぁーすとえいど”なる基本術の修得を目指すとするか…………」
いつしかモリスンは、休息地点にどっかりと腰を据えており、書物の冒頭にあった法術の基本となる回復術の修得が第一優先事項となっていた…………。
そして、そんな修得に励むモリスンの耳にも、演説をする少女の声は聞えてきた。
モリスンは、書物から目を離し、その演説を傾聴する事とする。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの!――』
自分の居場所を言ってしまうとは……殺されるかもしれないというのに、とモリスンは呆れる。
が、その後も演説を聞いている内に、演説をしている少女が真にこのゲームを憎んでいるということが汲み取れた。
自分も、ゲーム自体には嫌悪感を抱いていたが、少しでも「ダオスを倒すまでは続いてほしい」と思っている自分とは大違いだ。
しかも、所々咳き込むような声が聞える。それと同時に何かが吐き出される音も…………。
「血を吐いている……のか?」
苦しそうな咳き込みと、その間から聞える必死の主張。
そこからは、なにか追い詰められているのでは、と感じられた。
では、何に追い詰められているのか? それは言うまでもない……自らの死であろう。
そして、苦しそうなまま声のまま、少女の演説は終わった。
「……………………」
モリスンは考えた。
自分にはダオスを倒すという使命がある。
それを放って、ここから脱出に協力していていいのだろうか?
しかし、脱出云々の以前にあの少女は苦しんでいた。死にも至りかねない苦しみ方で。
現在地は地点D3の平原。少女がいると言っていたC3地点の村はすぐそこだ。
それを分かっていて見殺しに出来るのか?
見殺し? ……いや、行ったところで自分に何ができるだろうか?
何も出来ないなら、わざわざゲームに乗った参加者も集まりかねない地点になど向かわない方が得策だ。
自分はダオスを倒すまで、無駄に戦って体力は消費したくはない。
致し方がないのだ。ダオスを討つのが我が使命なのだから……。
モリスンは、苦渋の決断で村へ向かわずに逆に正反対の南方に折り返そうと、出発の準備を始めた。
しかし、そんな彼の手が、“それ”に触れた。
法術書。それは、回復術から解毒術まで様々な治癒術が載っている書物。
まだ、修得はしていないが、もしかしたらもしかするかもしれない……。
そうすれば、あの苦しんでいた少女も…………。
彼の脳裏では、学者らしからぬ確実性のない可能性が浮かんでいた。
そしてモリスンは立ち上がり……
「よし……出発するか……」
彼は歩みだした。
――北方へ。
――C3村のある北方へ。
この時の彼は知らない。
この選択こそが、彼の宿命との邂逅となることを…………。
【エドワード・D・モリスン 生存確認】
状態:TP中消費 全身に裂傷とアザ 背中と左上腕に刺し傷(五割は回復)
所持品:魔杖ケイオスハート 割れたリバースドール 煙玉(残り二つ) クナイ(一枚) 法術に関する辞書
基本行動方針:ダオス討伐
第一行動方針:演説少女を救う
第二行動方針:法術取得(まずはファーストエイドから?)
第三行動方針:ミクトラン討伐
現在位置:D3平原→C3村へ
(メルネスをぉぉっぉぉぉ!! 死なせるわけにはいかぬぅぅぅっぅっぅぅ!!!)
シャーリィは、ミトスとダオスの放った滅びの光に呑み込まれる寸前、どこからかマウリッツの声を聞いた気がした。
滄我の長老である男、マウリッツ・ウェルネス。かつて遺跡船を舞台に戦われた、クルザンドとの戦役の直後、シャーリィは彼には色々と世話になったものである。
マウリッツも、もうすでにこの世にはない。シャーリィは少しばかり、残念な気分ではあった。
(シャーリィ! お前はここで死んでいい人間じゃない!! 生きろ…生きるんだ!!!)
今度聞こえてきたのは、銀髪の青年の声。血は繋がらずとも、兄と慕う陸の民の青年、セネル・クーリッジの声。
シャーリィは、その声に思わず涙腺が緩みそうになった。兄はまだ、こうして自分の側にいる。生きている。いつでも共にいる。絆で繋がっている。
「わたし…生きるよ、お兄ちゃん。絶対、生きるから…見ててね!」
シャーリィは瞳を閉じ、胸の前で両の手を組み、祈るようにして沈黙した。防魔の障壁を練り上げ、体の周囲に張り巡らせる。
「わたしを護って…お兄ちゃん…それから、マウリッツさん…!!」
滅びの光は、シャーリィの五体を残さず包み込んだ。純粋なマナのエネルギーがシャーリィの着衣を焼き、肌を焦がし、骨肉を砕く。
それでも、シャーリィは信じていた。兄とマウリッツの加護を。自らにはまだ、死神が訪れていないことを。この狂気の戦場を生き抜き、兄との再会を果たすことを。
世界は、白一色に包まれた。シャーリィの想いもまた、白一色に塗りつぶされていった。
(お腹が空いたなぁ…)
シャーリィは、空腹を持て余していた。
空腹になるのも無理はない。シャーリィの腹部は先ほど、ミトスの剣に刺し貫かれていた。文字通り、「腹」に穴が「空」いていたのだ。
すでに傷口は緑色の体液に覆われ、ぶくぶくと泡立ち、すえた臭いの煙を吹いている。あと少しすれば、完全に塞がってくれるだろう。
ダオスとミトスの追撃を逃れたシャーリィは、あれから森林地帯を真西に進んでいた。そこまで森の木々の密度は高くはなく、比較的進みやすい道ではあった。
そのときである。シャーリィの瞳に、それが映っていた。
この周囲の森の木々の中で、特に大きな一本の木。察するに、樹齢は数百年といったところだろうか。
周りの木々とは一線を画す気風をたたえたそれは、まさしくこの森の主の名を冠するにふさわしいだろう。
シャーリィの瞳が揺れた。食欲、性欲、その手の原始的な欲望に駆られた物欲しげな光が、その奥に宿る。
(…これを朝ごはんにしようかしら)
そう決めた一体のエクスフィギュアは、木をなめるようにして眺める。その後は、なかなかに迅速であった。
体格のいい男のそれをも、はるかに越えた巨躯をまだぎこちなく動かしながら、しかしそれでも上手いこと森の主に迫る。
まるでこの巨木を抱きしめるかのようにして、長く伸びた手を幹に回し、しっかりと体を固定する。シャーリィはそこで、ぶるっと身震いをした。
ぷち。ぷちぷち。ぷちぷちぷちぷち。
シャーリィの肉体から、奇妙な音が鳴り始めた。
ぷちぷちぷちぷち。ぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷち。ぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷち…
ぞりゅっ!!
シャーリィの胸部から飛び出たのは、彼女の肋骨だった。
肋骨は今や獣の牙のように彼女の体内から飛び出し、行進する百足の足を思わせる不気味なうねり方をしている。
肋骨を飛び出させた胸部は今や真っ二つに裂け、その中央では赤黒い内臓がグロテスクな蠕動を起こしていた。
しかしながら、これで全てが終わったわけではない。
牙のように飛び出た肋骨を巨木の幹に突き刺し、しっかり固定する。もはや、巨木の運命は決したようなものだ。
この巨木にもし口が付いていたならば、恐怖と激痛の余り、身も凍るような絶叫を上げていたに違いない。
しかしながら、これでもまだ悪夢は終わらなかった。
ぐりょ。ぐりょぐりょぐりょ。ぐりゅぐちゅぐりょりょりょ。
鳥肌が立ちそうな湿っぽい音が、シャーリィの体内から再び響き渡る。
あらわになったシャーリィの内臓の蠕動が、一瞬ぴたりと止んだ。一瞬だけ。
次の瞬間、あろうことか、シャーリィの内臓は、体外に飛び出ていた。飛び出し、巨木に張り付き、あっという間に幹を覆う。
魔物との戦いに慣れた者なら、この光景を目撃してすぐさま、スライムの捕食を思い出すだろう。
シャーリィの内臓は、まさにスライムのように巨木の幹を包み、食しているのだ。
(あっ…ああ…あふぅ…ふひゃ……んんんぅっ!)
シャーリィは自らの原始的欲望が満たされていく歓喜に、打ち震えていた。
数日もの間絶食していた胃に手当たり次第に食べ物を詰め込むような、堪えに堪えた後にたっぷりと自慰をするような、そんな歓喜にこれは似ている。
薄く薄く伸びたシャーリィの臓物は、周囲に不快な異臭を漂わせながら、ものの数分もかければ、巨木全てを覆っていた。
木の形をした臓物の、奇怪なオブジェ。木の下にシャーリィが立っていなければ、見た者全てが間違いなく、そう評していただろう。
だが、これは前衛的な芸術作品でもなければ、無論ただの悪夢の産物でもない。現実に起きている、シャーリィの「朝食」の一風景なのだ。
そしてその奇怪なオブジェは、見る見るうちに縮んでいく。肋骨の牙がうねるたびに、包み込まれた巨木はシャーリィの体内に運び込まれてゆく。
捕食。消化。融合。シャーリィはこの「食事」の最中、三つの作業を同時に行っていたのだ。
臓物のオブジェが、全てシャーリィの体内に消えた。
そのときそこに残っていたのは、赤と青と緑が、子供が絵の具で落書きしたまだらのキャンバスのように、これ以上ないほど混沌と混じり合った、巨大な肉塊だった。
肉塊は、人間の筋肉と木の枝をミキサーにかけ、出来上がったミックスジュースをそのままゼリーにしたような、吐き気を催しそうな代物。
その肉塊は、びくびくと震えながらも、再び動こうとしている。形を作ろうと、蠢いていた。
肉塊の下部からは、硬質の三本の突起が二組生えながら、足の形を整える。
肉塊の中ほどからは、爬虫類か両生類を思わせるような二本の肉の棒が、肉塊を突き破り生えてくる。辛うじて、それが両手であることがうかがえた。
足は伸び、手は太くなる。先ほどのエクスフィギュアの形態に徐々に近付いてはいるが、若干肉体が横幅を帯び、身長は優に4mを超えている。
生えてきた手のちょうど中間からは、震えながら頭部が飛び出る。
卵から孵る雛を連想する者もいるかも知れないが、そんな連想をした者は、すぐさま自身の愚かさを後悔する羽目になるだろう。
何せその頭部は、醜悪なこのエクスフィギュアの肉体の中でも、醜悪さの粋を結集したと言い切ってもいいほどの嫌悪感を引き起こすからだ。
エクスフィギュアの頭部の、その顔面。その顔面を見たならば、悪魔でさえここまで出来るのか、疑問に思うものさえいるだろう。
「ふう…お腹いっぱいだわ、わたし」
その顔面は、紛れもなくシャーリィ・フェンネス。シャーリィがまともな人間であった頃の面影を、唯一残す箇所であった。
先ほどまでは顔を失っていたけれども、この「朝食」がシャーリィに力をくれた。顔が再生したのだ。
「あ…んん!!」
そのシャーリィの顔面が、少しばかりゆがむ。彼女の胸部が、背中が、むずむずと動き出したのだ。
ぼずりょっ、という音を立てて、それらが体内から顔を覗かせる。
背中から飛び出たのは、未消化のままの巨木の一部。
胸部から飛び出たのは、どう見ても魔獣の口を思わせる、黄色い牙の林。言うなれば、胸部にもう1つ口が出来たようなものである。
正気を保っていた頃のシャーリィであれば、見た瞬間即座に卒倒していたであろう、自らの姿。けれども、今のシャーリィにとっては、この姿こそがありのままの自分。
朝日を浴びながらたたずむ一体の怪物は、こうして自らの肉体の構成を終えた。空を見上げながら、シャーリィは焦点の合わない目で空を見た。
「次はおやつが食べたいわね…」
巨木を呑み込んだはいいが、これだけでは今1つ。何か足りない感じがする。もっと食べ応えのあるものがいい。例えば…
人間とか。死体でもいいけれど、出来れば生きてる人間を踊り食いにしたい。
自分のお腹の中でじたばたともがき苦しむ人間が、どろどろに溶けて自分の一部になるなんて、想像するだによだれが垂れそうになる。
食べて、食べて、食べて、食べて食べて食べて食べて喰べて喰べて喰べて喰べて喰べて喰べて…
全身の至るところから、赤褐色の汚液を垂れ流し、シャーリィは湧き上がる欲望に耐えた。
その汚液は、あたかもよだれのようにさえ思える。草木を腐らせ、土を冒すよだれなどというものが、この世にあるとしたならば、の話だが。
みんなみんな喰べちゃえば、またお兄ちゃんに会える。
そうしたら、お兄ちゃんに抱きしめてもらおう。口づけをしてもらおう。優しく髪を撫でてもらおう。そうしたら…
本能の奴隷に成り下がったシャーリィは、原始的な渇望に悶えた。欲しい。全部欲しい。全部…
そのときだった。
シャーリィは、その方向に向き直り、棒立ちになる。
ニンゲンのニオイ。おいしそうな、ニンゲンのニオイ。向こうから風に乗って、流れてくる。
ちょうど、あの嫌な奴らのいる方向じゃない。あの嫌な奴らは、もっとたくさん喰べてからのデザートにしよう。
シャーリィはその方向に向き直り、一声吼えた。
「WWWWWWWWRRRRRRRRRRYYYYYYYYY!!!!!!!」
まあ、今は何でもいいや。向こうのニンゲンを喰べてから、色々と考えよう。
シャーリィの、唯一残された人間の部分…シャーリィの白い顔は、周囲の肉にうずもれて消えた。巨大な節くれだった醜怪な四肢を操り、歩き出す。
この島に誕生(うま)れた、禁忌の生物。この瞬間から、彼女の新たな生は、始まろうとしている。
シャーリィの顔面にまだ乗っかっていた、桃色の花のカチューシャ。彼女の兄、セネル・クーリッジが贈ったカチューシャもまた、シャーリィは取り込んでいた。
そのカチューシャからは、今や黄泉の国の住人であるセネルの悲哀が、漏れ聞こえるような気にさえ思える。
しかし今のシャーリィには、兄の悲哀を聞き取る耳など、恐らくは失っているはずであった。
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ショートソード(体内に取り込んでいる)
状態:エクスフィギュア化 傷口再生完了
第一行動方針:本能の赴くまま
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:B6の森
※この下は、現在のシャーリィの能力のまとめです。以降の書き手さん達の参考などにご参照下さい。
シャーリィの現在の容貌
・身長4m強
・太めのエクスフィギュア
・胸部中央に捕食用の巨大な口(周囲は牙で覆われている。肋骨の顎から進化)
・背中からは、未消化の木の幹が生えている
・頭部からは人間時の顔面の出し入れ自在
シャーリィの現在の能力
・捕食したものとの融合(人間・支給品などを問わず。捕食物の能力も使用可。一例はテルクェスマシンガンなど)
・テルクェスマシンガン、ショートソード
・内臓を敵にぶちまけ、直接消化する
・胸部の口を用いた獲物の捕食
・人間の臭いを嗅ぎつける嗅覚(大体の方角が分かるのみ。人数やその生死、距離は判別不能)
・桁外れの再生能力(獲物の捕食で再生する速度を加速できる)
シャーリィの弱点
・不明
(そういや、この戦いが始まって間もない頃から、ずっとジューダスと行動してたんだよな、俺。)
僅か半日前の出来事が随分と昔のことに思えて、ロイドは知らずため息をついた。
「ごめんな…」
「んっ?」
振り返るとメルディが瞳を潤ませている。
「メルディがせいで、仲間バラバラになって、ロイドに迷惑かけて……」
(おいおい〜、こーんな可愛い女の子の前でため息つくなんて、もっての外だぜぇ、ロイド。)
聞き覚えのある声が生々しく再生された。
声の主はもういない。だが、ロイドは自分でも意外なほど冷静に、その事実を受け止めた。
身近に守るべき対象がいるためだろうか。
それとも死に慣れてしまっただけなのだろうか。
ともかく、メルディを安心させるため、ロイドは笑みすら浮かべることができた。
「なーに謝ってんだ」
「でも……」
「一人でいたって、あの呼びかけを聞いたら、俺はそっちに向かってただろーし。気にすんなよ」
「…………」
「それより急ごうぜ!一刻も早くシースリの村に向かわないとな」
「うん……。ありがとな、ロイド……」
二人が少し歩みを速めようとした、そのときだった。
ロイドの耳はミシミシバキバキという音を捉えた。
木々が一気に倒壊している。轟音が背後から接近している。
状況を並べると、そうなる。
だが、肝心の、『何が起こっているのか』がわからない。
ロイドは剣を構え、体勢を低くした。
反射的にメルディは両腕を抱え、そこに彼女の友人がいないことを思い出し、眉根を寄せた。
(クィッキーがいないと、心細いよ……)
既に、轟音は間近に迫っている。
ロイドは獣の気配を感じ取った。空気にはしびれるような邪気が混じっている。
対峙するか、逃げるか。ロイドは手元の木刀とメルディを見比べた。
「……ひとまず隠れるか」
「メルディ、依存ないよー」
幸い、隠れる場所には困らなかった。岩陰で二人は息を潜め――やがて現れた光景に目を見開いた。
優にロイドを超える巨体。ぬらぬらした表皮と、そこに脈打つ異色の血管。
腕とも足とも判別できない肉塊から突き出す鋭利な爪。
自然の摂理に抗うかのように不自然に体内に埋め込まれた、黒光りする鉄の塊。
ときどき立ち止まっては何かを求めるように辺りをまさぐり、悲鳴にも聞こえるが到底知性は伺えない声を上げる。
単純に動作だけを追えば赤ん坊のように見えなくもないそれの頭部には、不釣合いに可愛らしい少女の顔が張り付いている。
その顔に見覚えがあった。一度、ロイドたちを襲ってきたことがある少女の顔だ。
おそらく他の世界から来た人々ならば、誰もが『モンスター』とみなしたであろう異形の姿。
しかしロイドの反応は違った。彼は、彼の世界で、よく似たものを目にしたことがあった。
(――エクスフィギュア――!!?)
今、目前にあるものは、要の紋のついていないエクスフィアを埋め込んだ人間の末路に酷似している。
ああなってしまった以上、元の人間に戻す方法はない。
実際、ロイドはエクスフィギュアと化した人々を、手にかけたことがあった。
止むをえなかった。だが本当は殺したくはなかった。彼らは人間だった。父さんだって、母さんを――
(って、そんなこと考えてる場合か!!)
途切れぬ思考の渦を無理やり遮断して、ロイドは『彼女』の動向に一切の注意を向ける。
通常、エクスフィギュアは人間の顔は持たない。
しかし敵には顔がある。理由はわからない。だが、一層事態をおぞましくしているように思えた。
ロイドは再び木刀を見た。
これで立ち向かうのは心もとない。しかしロイドは『彼女』を放置する気にもなれなかった。
他ならぬ『彼女』のために。
……こうしてシャーリィに気をとられていたロイドは、メルディの異変には気付かなかった。
彼は知らなかった。ロイドたちと出会う前にも一度、シャーリィがメルディと合間見えていたことを。
そしてそのとき、メルディの中のネレイドは、最も強く発現の兆しを見せたということを。
ふいに『彼女』が顔をあげた。
「いる……人の……におい……」
バキバキと人の胴体ほどもある太さの木々を玩具でも扱うかのごとくなぎ倒す。
ロイドは戦慄した。さすがに常軌を逸している。
(ひょっとして、エクスフィギュアじゃない、のか?)
己の直感に自信を失いかけた、次の瞬間、
パラララララララ
という軽い音と、岩が固いものを弾き返す音が同時に響いた。
ロイドとメルディの眼前を、地響きを立てながら樹木が倒れていった。
少しばかり位置がずれていれば、メルディは潰されていたかもしれない。
『彼女』の哄笑がこだました。じわり、じわりと重々しい気配が徐々に背後に迫る。
(やるしかねーか――!)
ロイドが決意を固めたときだった。
急に『彼女』は立ち止まると、踵を返しロイドたちから離れていった。
理由はわからない。ロイドたちの存在に気付いていたのかすら、不確かだった。
しばらく呆然としたロイドだったが、ふと我に返ると傍らの少女の安否を確認した。
「……!おい、大丈夫か!」
メルディは俯いていた。表情は確認できなかったが、それよりも気になることがあった。
――少女の周囲をうっすらと闇が取り巻いている――
「メルディ!?しっかりしろ!!」
ロイドが強く肩を揺さぶるも、メルディは顔を上げない。
消え入りそうな声で「ヤだ……あの音怖い……メルディ、そんなの、ヤだよ……」と繰り返すだけだった。
ちぢこまった小柄な体は、何かに抗っているようだった。
少女の限界を感じ取ったロイドは、ためらいなくメルディを背負って歩き出した。
打開策すら浮かばない。ならば、あの村へ向かうしかない。
単純思考なロイドならではの即決だった。
【ロイド:生存確認】
状態:僅かに疲労
所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る
第一行動方針:シースリ村に向かい、協力者と合流
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:メルディと行動
現在位置:B5森林地帯出口 C3村へ移動中
【メルディ 生存確認】
状態:TP消費(微小) 背中に刀傷(小)左腕に銃創(小) ネレイドの干渉大
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:ネレイドを押さえ込む
現在位置:B5森林地帯出口 C3村へ移動中
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ショートソード(体内に取り込んでいる)
状態:エクスフィギュア化 傷口再生完了
第一行動方針:本能の赴くまま
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:B5森
古びた教会の扉を、もたつきながらもリオンは開いた。
ずいぶんと長い間使われていない、埃のたった廊下を、彼は一人で歩いた。
ごぽん、とザックの中から音がした。
マリアン、と彼は聞こえないような声で呟く。
この声に答えてくれる人は、もういない。
廊下にある白っぽいドアの近くに、二、三人がけのソファーがあるのを彼は見つけた。
埃はきっと、払えば問題ないだろう。
彼はソファーの下にザックを置くと、真っ赤に染まっているボトルを中から取り出した。
「……マリアン」
そう呟くと、彼は傍らにソレを置いてまたザックを開き、中から参加者名簿を取り出す。
『ゲーム参加者を殺す』――これが、ミクトランからの命令だった。
けれども、自分は生き延びなければ行けない。
要するに、生き延びてゲーム参加者を殺し、マリアンを生き返らせるのが彼のすることだ。
そう、彼女は蘇り、元の世界に戻り、幸せに生きなければいけないのだ。
実際、どこに誰がいるのかはわからないが、結局全員殺さなければいけないのは事実だ。
ここに来る際にも遠くから様々な戦いの音が聞こえたが、教会につくということで
自分は頭がいっぱいだった。
参加者名簿をぺらぺらとめくると、リオンは其処に――仮面をかぶった少年――が
いるのに気がついた。
黒い髪。紫色の瞳。伏せられた目。
どう見ても自分だ、と彼は思った。いや、もしくはヒューゴの隠し子かもしれない。
けれど、仮面をかぶっているのにはなぜか事情があるのだと彼は察した。
会ってみる価値はあるのかもしれない。
――いや。
彼は瞳を伏せ、こめかみを押さえた。
もしかしたら彼はマーダーになっているかもしれない。
さらにこれは可能性だが、全く関係のない他人なのかもしれない――
『リオン=マグナス……言い忘れていたことがある』
「……っ」
突然の声に、リオンは一瞬体をびくりとふるわせた。
けれどもすぐに冷静な表情になる。
彼女を殺したのが、この男だとしても。
『参加者のなかで……仮面をかぶった、ジューダスと言う男がいるだろう?
丁度今、お前もそのページをめくっていて、なにか考え事をしていたはずだ』
「……」
彼は無意識に名簿を閉じる。
俯いて、眉間に皺を寄せる。
何かに、苦悶する。
『その男は……十と六の年だ。そして、容姿もお前にそっくりだ。
……この言葉が何を指しているのか、わかるな?』
「!」
頭のいいお前のことだ、とまた、心の中で声がした。
『その男に会ってみろ。戦うも自由、組むも自由、殺すも自由。
――そして、殺されるも自由だ。お前が楽しませてくれるのを待っている』
声は其処で途切れた。
傍らのボトルの中から、また
ぼこん
と音がした。
彼は名簿をもう一度開く。
ミクトランは仮面の男がどこに居るのかは説明していなかった。
けれど、先ほど自分の思った通り、会う分には価値がある。
ぼこり。
また、音がした。
「マリアン……嘆いているのか? 僕がこうなったことを?」
音のようなそれは、声にも聞こえて。
「嘆かなくてもいいさ。……きっとまた、平和に暮らせるのだから」
信じている。
また平和な日々が始まり、彼女が笑顔で暮らせることを。
信じている。
彼女が過去の人になってしまわないことを。
――だから、ミクトランの言っていた『ジューダス』に会おう。
ふとリオンは、以前ダリルシェイドの町で聞いたミュージシャンの歌を
思い出した。
「うざい」
あのときはそう思ったが、聞いていれば印象的なフレーズが残っている。
彼は心に刻まれたリズムを、思い起こした。
今の自分と、彼女にふさわしい歌なのだと思いながら。
――あのね、君がすごく嬉しい顔をしたら微笑んであげたい――
――君にいつも大きなぬくもりと優しさを全部あげたい――
――今の僕の手には誇れるものないけど ずっとそばにいたい――
――そして僕に出来る何よりも大切な言葉は『あいしてる』――
独り言なのか幻聴の所為なのか、彼は言葉を呟く。
彼女の言葉に、答えるかのように。
「……yes my lady」
【リオン 生存確認】
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:全身に軽い火傷 全身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 疲労 極めて冷静 眠りかけ
第一行動方針:マリアンを生き返らせる
第二行動方針:ジューダスと言う男に会う
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:G7の教会・廊下のソファー
ファラの演説。それは、シースリ村から遠方に位置するジファイブ町でも風に乗り、微かに聞えてきた。
町にとどまっていた漆黒の翼の面々もそれに静かに聞き入っている。
「自分から居場所を告白してしまうとは、とんだ間抜けだな……」
とは冷静なユアン談。
「まったくだ! きっとリスクも考えられないような猪突猛進な女なんだろうな!」
ユアンの言葉に賛成の意を表するのは、リーダーのグリッド。
しかし、女性陣の反応は少し違った。
「ファラ……さん……」
ミンツを発ち、王都へ向かう最中に幾度となく出逢い、そしてその度に方向音痴の自分に王都の方向を教えてくれたファラ。
彼女がいてくれたお陰で、自分は王立天文台で最愛の人と共に働けるようになった。
カトリーヌは、そんなおせっかい焼きだった彼女の言葉を一字一句聞き漏らさないようにしていた。
「彼女がファラ……なのね」
一方のプリムラは、実際に彼女とは会った事はない。
だが、大学においてキールと昔の話をしていて必ず出てくるのが、リッドという青年と彼女の名前だった。
伝聞によるプリムラの中でのファラ像は、少し強引だが、正義感が強く真っ直ぐな人というもの。
そして、まさにその想像通りの演説ぶりだった。
演説が終わりを迎えた後、漆黒の翼第二緊急会議は始まった。
議論は――
「ファラに協力する為に、C3村に行こうよ!!」
というプリムラの提案から始まった。
だが、当然ながら冷静で慎重なユアンは反対する。
「死にに行くようなものだ。わざわざマーダーが集まる場所へ行ってどうする?」
「そうだぞ! 我等漆黒の翼、一人も欠くわけにはいかないからな!」
グリッドのユアン同調の裏には、自身の死を回避したいという思いが大分込められている。
「で、ですけど、このゲームに反対する人があそこにいるというのなら、少しでも多く集まった方が……」
カトリーヌが遠慮がちに発言するとプリムラも勢いづく。
「そうよそうよ! それにファラって子、なんか体調ヤバ気味だったし、助ける為にも……」
「無駄だ。あそこに集まろうとするお人よしは、揃って殺されるはずだからな」
その発言に場は一瞬凍りつく。
プリムラやカトリーヌは勿論、ユアンに同調していたグリッドですら、息を飲んだ。
「あんなお人よしの演説を聞いて集まるのは、やっぱりお人よし――つまりはマーダーが現れ、戦ったとしても止めまでは刺せないような甘い連中だ。マーダーがそんな甘さの隙を突かないわけがない。
更に言えば、演説に同調したと見せかけて、集まった連中を皆殺しにしようとする狡猾な奴だって出てくるはずだ。お人よし達は、そんな奴が混じっている事を信じるはずもないだろうからな。恐らく、一網打尽になるだろうな。
それと…………ファラとかいう少女はもう手遅れだろう」
ユアンの言う事は正論に近いだろう。
それだけに、プリムラも言葉が続かない。
だが、彼女は言葉だけで反対意見をどうにかするような女性ではなかった。
彼女はテーブルを両手でバンッと鳴らし、立ち上がると入り口のドアを開ける。
「何処へ行く?」
ユアンが無駄だと分かりつつもプリムラに尋ねる。
すると、プリムラは振り返る。
「私だけでもC3の村に行く! あんた達が、そんなに冷血漢だとは思ってなかったわ!」
「ま、待て! 漆黒の翼を分裂させる気か!? そんなことはリーダーの俺がゆる――」
「さようなら!!」
グリッドが最後まで喋る前にドアが強く閉められた。
「どどど、どうする!? 漆黒の翼からメンバーが一人消えてしまったぞ!」
グリッドは妙に慌てていた。
彼は組織や仲間を絶対の存在と思う性格だ。
それだけに、グループ内での分裂など信じられないのだろう。
一方のユアンも、レネゲードという組織に所属していたが、彼の場合組織内での裏切りや派閥分裂などはあって当然のものと思っている。
それだけに今に際しても冷静だ。
「落ち着け。……お前がリーダーなのだろう?」
例え、その威厳が皆無に等しくても……とは言えない。
グリッドは自分に話を振られて、さらに慌てる。
「お、俺が連れ戻すのか!? しかしメンバーの気持ちを無理矢理変えさせるなど……」
「わ、私、追いかけます!」
グリッドが慌てている間に、意外なことにカトリーヌが外へと出て行った。
残されたのは男二人。
「……で、お前はどうするんだ、リーダー?」
「お、俺は…………」
グリッドは考える。
漆黒の翼のリーダーとして、自分はどうするべきか。
……いや、何を迷う。俺はリーダーなのだ! 偶には部下にビシッと決めなくてはいけないのだ!
答えは十秒で出た。
「俺は! リーダーとして彼女達を連れ戻してくる!! たとえメンバーの考えが違おうとも、我々は常に一つなのだからな! まずはとことん話し合いだ!!」
どこまでも、グループを一つにしたいと考えるグリッドに、ユアンは感心の念すらも覚え始める
「ほう。なら、早く行ったほうがいいのでは?」
「うむ! では留守を頼んだぞ、大食らいのユア――へぶっ!!」
格好よく、ドアの前で決めようとしたグリッドは、突如勢い良く開いたドアにしたたかに後頭部を強打し、そのまま倒れた。
ドアから入ってきたのは、出て行ったはずのプリムラとカトリーヌ。
そして、倒れるグリッドを気にすることなく、プリムラは目に渦を描きながら、外を指差して、ユアンに叫んだ。
「でででで、出たのぉ〜〜!! うううう牛みたいな大男が、たたたた大砲を持ってぇぇぇ〜〜〜!!」
勢い良く出て行ったはずのプリムラが、勢い良く戻ってきたのを見て、ユアンが呆れたように尋ねる。
「…………お前、私とは意見が合わなくて出て行ったのではないのか?」
「そ、それどころじゃないっての! 牛よ、牛!! あんた、何とかしなさいよ!!」
どうやら、その牛とやらのお陰で漆黒の翼は再終結したようだ。
しかし、その再集結を最も喜ぶべきリーダーは今も後頭部強打により倒れている。
ユアンは、グリッドに代わって本題に入る。
「……で、具体的には何があった?」
「だから牛よ、牛!! しかも大砲!」
カトリーヌがパニックのプリムラに代わり、状況を報告する。
「ま、街の出口でプリムラさんに追いついたのですが、説得をしていたら、いきなりこちらに誰かが向かってくる姿が見えて…………」
「なんか、いかにも悪人です〜って怖い顔していたんだから! しかも、私が捨てたっぽい変な金属製の大砲を持ってたし!」
ユアンは考える。
悪人面の大男、武器は大砲らしき兵器、そして進路はこの街。
加えて、ここがじきに禁止エリアになることを考慮すると、導き出される答えは一つ。
――街にまだ臆病者達が留まっていると考え、それを狩りにきたマーダー。
「やはり、裏をかく奴もいたか……」
ユアンは、気を引き締め覚悟した。
そして、プリムラ達に指示を出す。
「お前達! 今すぐ、その大男とやらに見つからないように街を出ろ!」
「出ろ……って、もしかして!?」
「あぁ……。昨晩話していた“あれ”をやる時のようだ……」
緊張する面々。
そこで、ようやくグリッドが復活した。
「……よし! 気を改めて彼女達を連れ戻しに……って、おぉ! 戻ってきてくれたか君達! さすが漆黒の翼の結束は最強だ! わはは!!」
状況を理解していないグリッドには緊張感を感じるわけもなかった…………。
ユアンは勿論、プリムラやカトリーヌまで溜息をつく……。
所変わって、街入り口。
ようやく、街にたどり着いたミミー一行だったが、急にミミーが立ち止まり、ぶるるっと身震いをした。
「おい、どうした? 風邪でもひいたか?」
「クィ〜〜」
トーマとクィッキーも立ち止まり、心配そうにミミーを見ると、ミミーはふるふると首を横に振った。
「大丈夫パン! 生まれてこの方、小生は風邪をひいたことがないパン!」
「そうか? なら、いいんだがよぉ…………」
「クィ、クィッキ!」
トーマはメガグランチャーを担ぎなおし、再び街の中へと歩き出した。
そして、そんなトーマの後ろをミミーは歩いていた。
ミミーがトーマの後ろを歩くのは、ミミーの身の安全を考えるトーマからの提案だった。ミミーの更に後ろには妙に索敵能力に優れるクィッキーも控えており、ミミー防衛用隊列は万全だった。
だが、この隊列は、同時にプリムラ達、向かい合って正面の位置からは完全にミミーやクィッキーの存在を隠し、大男が単独で街へと襲撃に来ているようにも見えてしまった隊列でもあった。
――これが、彼等の一つ目の失敗。
「街には何か食料があるといいパン〜」
「あぁ、そうだな」
トーマたちは和やかに会話する。
しかし、彼等はまだ知らない。ここが禁止エリア予定地であり、普通なら近寄らない場所である事を。
――これが、二つ目の失敗。
そして、何より、ここに先客がおり、彼等の作戦は侵入者ならマーダーか穏健派か如何に構わず誰にでも仕掛ける作戦であった。
――これが、三つ目の失敗。
だが、今の彼等にはそんな失敗に気付く由はなかった。
ただ、ミミーの身震いだけがそれを知らせていたのかもしれない。
「……だけど、なんか嫌な予感がするパン……」
それは、トーマにもクィッキーにも聞えないほどの小さい声。
だが、その予感は流石、女の勘というべきか少なからず的中するのであった…………。
悲劇が幕を開けようとしている。
【グリッド 生存確認】
状態:ほぼ健康 後頭部に打撲痕
所持品:無し
基本行動方針:生き延びる。
行動方針:漆黒の翼のリーダーとして行動。
第一行動方針:状況を把握する
【ユアン 生存確認】
状態:健康 TPにまだ回復の余地あり
所持品:占いの本、エナジーブレット、フェアリィリング、ミスティブルーム
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを信用していない。
第一行動方針:作戦発動の準備
第二行動方針:漆黒の翼を生き残らせる
第三行動方針:漆黒の翼の一員として行動。仲間捜し。
【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:健康 軽いパニック状態
所持品:セイファートキー、ソーサラーリング、チャームボトルの瓶、ナイトメアブーツ、エナジーブレット
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを磔にして島流し決定。
第一行動方針:街から脱出
第二行動方針:出来ればC3行きを提案
【カトリーヌ 生存確認】
状態:健康 動揺
所持品:マジックミスト、ジェットブーツ、エナジーブレット×2、ロープ数本、C・ケイジ
基本行動方針:帰りたい。生き延びる。
第一行動方針:街から脱出
【ミミー・ブレッド 生存確認】
状態:健康 嫌な予感
所持品:ウィングパック×2 イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ クィッキー
第一行動方針:街で食料調達
第二行動方針:今後の事を考える
【トーマ 生存確認】
状態:健康
所持品:メガグランチャー ライフボトル
基本行動方針:ミミーを守りぬく
第一行動方針:今後の事を考える
現在位置:G5の町
G5の町までまであの演説が聞こえている―――。
それはつまり、ファラの演説は島のほぼ全域にまで届いていることを意味する。
最も、教会まで届いているかは定かではないが・・・。
必然的に、ファラの声はカイルとミントの耳にも入っていた。
二人は橋から少し東に向かい、自体を把握するためにファラの声を聞いて草原に腰をおろしていた。
「ミントさん聴きましたか!?」
カイルは驚きの表情を隠しきれずに隣にいるミントへと振り向く。
「・・・ハイ」
その顔色は嬉しさを持ち、その中に悲しみを帯びた微妙な表情。
カイルはもしかしたら協力してくれるかもしれないと、そんな期待を込めてミントに顔を向けたのだが、その表情に戸惑ってしまった。
「ど、どうしたのミントさん・・・何かあった?」
「いえ、実は・・・」
ミントはゆっくりと息を吸って吐き、カイルに現実を伝える。
「確かにあの方の声には真剣な想いが感じられました。ですが・・・」
カイルはじっとミントの話しを聞く。
「カイルさんも気付いていらっしゃるとは思いますが、あの方はおそらくもうそう長くはないでしょう」
ミントの顔は至って真剣。その真剣な眼差しゆえ、カイルは思わず俯いてしまう。
確かにカイルは気付いていた。彼女の声に途切れ途切れ異様な咳き込みが混ざっていたこと。
そして『これが最期の仕事になるかもしれない』と言っていたこと。
そこからはみなまで言わずともイヤでも察してしまう。あの声の主は、極めて健康ではないということが。
そこまでカイルにも気付いていて、じゃあこれからどうすればいい?
やっぱり、あの声の下まで行くべきじゃないのか?
そんな衝動に駆られる。僅かな自尊心を持つものなら誰にでも訪れるモノだ。
だがミントはその考えを躊躇いがちに制止する。
「・・・あの方の下に向かえば、おそらく他の人たちも集まってくるでしょう。それは善悪問わずにです」
ミントの意見は的を射ていた。確かにそれが今の現状、それが事実。
つまりそれは、言葉にせずともあの声の下―シースリ村―は遅かれ早かれ色んな人たちが集まり、この異常な状況下の中互いに剣を交じ合わせてしまう混沌の戦場へと化してしまう。
ミントの冷静な判断がカイルにはひしひしと伝わってきた。
判っている。ミントさんは自分たちの身を案じて言ってくれているんだ。
そんな危険な場所に行けば死んでしまいますよと、残酷なことを彼女は頑張って諭して言ってくれているんだ。
それだけで今の自分の状態が判る。判ってしまう。
自分は誰かの隣にいて、誰かの隣に自分がいる。
だから言葉を交わし合って、的確に状況を判断できる。
本来はそんな危険な場所に行くべきではないと、臆病な自分が囁いてくる。
だけど・・・
「だけど・・・」
カイルはゆっくり口を開く。
自分の本当の意見を。
自分の素直な気持ちを。
「それでも俺は、あの声の人を助けたい」
知らずに右手が握り拳になっていた。それだけカイルは必死だった。
「英雄なんて肩書きじゃなくて、ただ純粋にあの声の人の気持ちに応えたいんだ」
今度は小さく声を絞る。
「そりゃ、俺の考えは後先なくて、理想主義なのかもしれない。でも」
ミントは黙って聞く。何を考えるわけでもなく、ただカイルの声を聞く。
「それが俺だからね。誰が何て言おうと、これだけは譲れない」
その瞳は確かにカイル自身の強い色が輝いていた。
「そうですか」
言って、ミントは
「では参りましょうかw」
なんてニコッとした天使のような微笑みをカイルに向けた。
「え・・・いや、あの」
あまりの呆気なさに困惑するカイル。
恐る恐るミントに声をかける。
「反対してたんじゃ・・・」
だがミントは「いえ」と言って、
「ただ私はシースリ村というところが人でいっぱいになってしまいます。と言いたかっただけです」
間の抜けた声で出発の準備をする。
カイルは開いた口が塞がらない。
(もしかして・・・俺の思い込み!?)
カイルはがっくりと肩を落とす。あまりに自分が真剣すぎたせいで彼女の雰囲気がものすごいぽわんとしていて・・・。
「ダメだ・・・気を持ち直さないと」
パンと頬を両手で叩き、気合いを入れなおす。思いのほか痛かった。
「それに・・・」
ミントが呟く。とても小さな声で。
「え?何か言った?ミントさん」
あまりの小ささに聞き取れなかったのでカイルは問いただすが、
「いいえ、何でもありませんよ」
と茶を濁して歩き出す。
「早くしないと置いていってしまいますよ〜」
カイルを急かす。後ろからは「待ってよ〜」という嘆きが聞こえてくる。
それに・・・
「カイル君ならそう言うと思ってましたから」
今度も本当に小さな声でミントはそう呟いた。
晴れてカイルは英雄なんて称号にこだわらず
自分の意志を貫く決意を手に入れた
だが完全に英雄を捨てたわけではない
彼は一人の少女の英雄であることに変わりはないのだ
【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:全身に軽い打撲 (ほぼ完治)
所持品:鍋の蓋、フォースリング、ラビッドシンボル (黒)
第一行動方針: 声の主の所に行く
第ニ行動方針:リアラとの再会
第三行動方針:父との再会
第四行動方針:仲間との合流
現在位置:F3草原
【ミント 生存確認】
状態:健康 TP2/3
所持品:ホーリースタッフ サンダーマント
第一行動方針:シースリ村に向かう
第二行動方針:仲間と合流
現在位置:F3草原
※訂正箇所
二人は橋から少し東に向かい ×
二人は橋から少し西に向かい ○
方向が痴ってました。すいませんでした
彼女たちが目を覚ましたのはここが魔女の釜の底と化し
その釜が塵と失せてからしばらく後でのことである。
2人は目を見張った。最後に見た景色と真逆だったからである。
金髪の少女、コレットはふと上を見上げる。空は高く、何処までも青い。
ここは確か部屋だったはずだ。コレットは記憶を辿る。
襲われた夜、堕とされかけた体、助けに来てくれた剣士、傷付いていく剣士、
守り通してくれた剣士、死の淵の剣士、そして―――
ふと最後の記憶に顔を赤らめる。あの時は彼を助けるため無我夢中だったが
流石に彼女は少女、今思えば気恥ずかしいものだったのだろう。
嫌悪感とかそう言った類のものではなかろうが。
普通なら両の手を頬に当てるのだろうが、後ろに回った手枷の為にそれは叶わない。
そうだ、あの剣士は―――そう思ったところ思考は中断された。
自分の横にいた少女が信じられないものを見ているかのような目をしていたからだ。
彼女は誰なのかを考える前に釣られてそちらを見てしまった。
彼女も目はいい、異常な程に。視界の先で倒れている彼と同様に。
「「クラトスさん!!」」2人が彼の名を呼んだのはほぼ同時だった。
2人は駆け寄る。すでに息絶えた骸の前に。泣きながら声をかけるが返事などあろうはずもない。
耐えられなくなって地下(今はもう地下ではないが)を出た、誰かいないのか、誰か、そうだ
サレさんは?あの人はきっと―――
サレはいた、かろうじてサレと判別できる程度だったが。
2人は恐慌した、特ににリアラの恐れはコレットの比ではない。
彼女の世界の最強の敵、バルバトス・ゲーティアを同時に見つけたからだ。
リアラは自身の理解の限界に達したのか、顔面蒼白になりその場に座り込んでしまった。
一度その姿を見ていたコレットも精神的に限界寸前になっていた。
辺りを見回した。あの時も自分を守ってくれた剣士、クレス・アルベインの姿を見つけようと。
その視力でコレットは見つけた、クレスではない。
このゲームの中でも襲ってきた最凶の敵、五聖刃のマグニスの遺体を見つけたのだ。
コレットは少し遅れてリアラの感情を共有し、脱力、座り込む2人。
もしここに誰か一人でも来たら2人はあっという間に命を失っていただろう。
それ以前に彼女たちが休息の直後でなかったら
心身衰弱した彼女たちにはこの惨状に耐えられなかっただろう。
心を病まなかっただけ救いだったといえるかもしれない。
しばらくした後、リアラはコレットに話しかけた。名前を、クラトスと行動していたことを、
サレにコレットの話を聞いて助けに来たことを。コレットも話をした。サレと出会ったこと、
、クレスに出会ったこと、暴走した男性、仲間のシルエット、現れる最強の2人、
死んだ仲間、悪漢に襲われこの城に来たこと、命がけでクレスが守ってくれたこと。
恐怖を共有したことがほぼ初対面の2人の距離を縮めた。年端が近いことも一役買っていた。
まるで互いの恐怖を慰めようと夢中で話す、自分の世界のことまでも。
知らない人から見れば2人は十分に友達に見えるだろう。
精神の均衡を取り戻した2人は瓦礫の中を探索する。
手枷つけたコレットはうまく物を持てないため実質リアラが運ぶ。
正確には手伝ったのだが、リアラに遠まわしに遠慮された。無論コレットは気づかない。
(リーガルさんもこんなに不便だったのかな…)
コレットは少し思い出す、ここにはいない仲間を、旅をしたあの頃を。
(でも、もうしいなは、クラトスさんは!!!)
もう帰ってこないあの頃。コレットは嫌悪する。無力で何もできない自分に。
更なる事実を彼女はまだ知らない。聞いていない。
見つけたものは5つ。
ダマスクスソード、フランヴェルジュ、オーガアクス、ピヨチェック。
そしてすでに弾切れとなった銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲の前にそれらを集めた。
その他のものは食料含めて破損がひどく、とても使用ができるとは思えなかった。
もっとも無事なものも彼女たちの細腕ではどれも使えたものではない、はずだった。
「やっぱり、サレさんも、クラトスさんも、クレスさんも…」
「うん…」
一通り調べて2人がたどり着いた結論。
リアラが眠りについた後マグニスとバルバトスがここを襲撃。
彼女たちを守るためにクラトス、サレが応戦、先に目が覚めたクレスも
戦いに身を投じ、戦闘の果てにクラトスを残して相討ちになり
その後起こった何かから私たちを守るためにクラトスが天使の力を解放した。
というものだった。
クレスの遺体がない事や破損したクナイがあったのだが
クレスは一人逃げ出すような人間ではないというコレットの証言と
クナイはマグニスかバルバトスが隠して持っていたのだろうという推測からこの結論となった。
クラトスはサレを疑っていたのだが、やはりいい人だったのだ。
「いい人も、悪い人も何で亡くなっちゃうんだろう?」
「コレット…」
リアラにかける言葉は見つからなかった。事実だからだ。善人、悪人、強者、弱者
みな等しく、確実にいなくなっている。もはや弱肉強食の形すら成り立ってない。
リアラは目を閉じる。自分の仲間たちを、既に1人は居なくなってしまった。
しかし、まだ心を折るわけにはいかない。ハロルドに、ジューダスに、そして、
カイルに会うのだ。なんとしても生きて、生きて帰るのだと、強く思う。
「あなたにもまだ仲間はいるんでしょう?大丈夫、きっと会えるよ。」
「リアラ…そうだよね、まだ終わりじゃないよ、絶対。
ジーニアスにも、ゼロスにも、ロイドにも会ってないもん。まだ、大丈夫。」
リアラの言葉にコレットは心を奮い立たせる。そうだ、まだ終わりじゃない。
まだ諦めるには早すぎる。まだ、頑張れる。
「リアラ、励ましてくれてあり「どういうこと?もしかして生き返らせる方法があるの?」
「え?」
リアラはここまで言って自分の失言を恥じた。コレットも知っていると考えていた自分を恥じた。
コレットは聞いていないのだ。放送を、禁止エリアを、この六時間の間の結果を、知らなかった。
しかし、こで口を噤んだ所でその意味を推し量れないほどコレットは鈍感ではない。
「どういうこと…生き返らせるって…」
「…クラトスさんがあなたの治療をしている間に放送が流れたの。」
コレットの気迫にリアラは観念した。なるだけ主観を交えぬよう事実を伝える。
既にいない、彼らの結果。それを聞いた後、コレットは何とも言えない状態になった。
喜怒哀楽、言葉ではいえないようなその顔を見て、言葉に窮したリアラは目を伏せた。
目を伏せたその先に、きれいな石を見つける。吸い込まれそうなその輝きに導かれ
石を拾い、手にかざし、見つめる。榴弾砲から外れた、エクスフィアを。
なんで?なんで?なんで?彼女の頭に疑問が浮かんでは消える。
議題は「なんで彼らが死んで私は生きているのか」
自己犠牲や自虐は彼女の性格ではあるのだが。今回の場合は度合いが違った。
もう仲間残った仲間はロイドしかいないという事実。
(しいなの方が、ジーニアスの方が、ゼロスの方が、クラトスさんの方が、私なんかより)
コレットの思考が、自虐から自害に変わるのは時間の問題だったが、先に状況が動いた。
リアラの悲鳴にコレットが目を向けた。リアラの左手には寄生を終えたエクスフィア。
「何…これ…嫌…」
動転しながらリアラの右手は石を排除しようとしている。
「ダメ!!」慌ててコレットはリアラを制する。
単純な性格が功を奏したのか、人一倍他人の死を拒絶する彼女は目の前の危機に集中した。
コレットはロイドに聞いた記憶を総動員しエクスフィアを見る。
見た限り普通のエクスフィア、しかし要の紋が無い。
(エクスフィアっつーのは直接つけても体に毒なんだよ、でも体に直接付けないと
効果が無い。だから要の紋、抑制鉱石にドワーフの呪いをかけたもので土台ににして毒を抑制するんだ。
要の紋無しで付けちまったら?取り外すだけでも危険だからなー、要の紋埋め込んだ
アクセサリを一緒に付けて土台代わりにするしかないんじゃね?)
エクスフィアは外していないから今のところエクスフィギュアになる危険は無い。
しかし要の紋が無い以上時間がたてば何が起こるか分からない。
最悪、エクスフィギュアになるかもしれない。要の紋を作れるロイドは何処にいるか分からない。
そもそも抑制鉱石がこの世界にあるか分からない。分からないことだらけで八方塞がりになった。
(ロイド…!!)
彼女は強く彼を思い、そして見つけた。ロイドからの誕生日プレゼント。
心を失った彼女を助けるためにロイドがくれた、要の紋のネックレスを。
「リアラ、聞いて。あなたは私が護る。絶対に約束する。」
(ごめんロイド、私のせいでいろんな人が傷ついちゃったよ。)
コレットは諭すようにリアラに語りかける。
「代わりに…って言ったら怒るかな?お願いがあるの。」
(しいなも、ジーニアスも、ゼロスも、クラトスさんも護れなかった。)
少し落ち着いたのか、リアラの呼吸は緩くなった。
「あなたは、あなたのままでいて。あなたの思うように生きて。」
(私を護ってくれた人も、みんな護れなかった。)
コレットが何を考えているのかは不明瞭だったが、
リアラは彼女の真摯な顔つきにこくりと頷いた。
「ありがと。じゃあ、このネックレス…取ってくれるかな?」
(力が無いのって、こんなに辛かったんだね。)
リアラは静かに、ゆっくりと、目を瞑るコレットの後ろ首に手を回す。
日常生活ではありえない接近。そっと、ネックレスを取る。
「それを、身に着けていて。多分、それで、だいじょぶだから。」
(でも、この子だけは、絶対護ってみせる。どんなことをしても)
リアラは言われたとおりに身に着ける。
「もういっこ、お願い聞いてくれるかな?初めて同い年位の人に会えて、嬉しかったんだ。
だから…」
(だから、許してくれるかな?でも、信じてるよ―――)
天使の羽が本人の意思を無視して現れる。終わりの時間が近づく。人としての時間。
「―――嫌いに、ならないで。」
(ロイド。)
辺りが、一瞬光に包まれる。終わったとき、光の中心には少女が頭を垂れていた。
「コレット、大丈――」
リアラが慌ててコレットに寄ろうとした時。コレットに異常が起きた。
背中から聞こえる びき という音。手枷を外そうと、否、壊そうとしていた。
彼女は大の男を片手で軽々と持ち上げるほどの力持ちである。その彼女が壊せなかった
手枷を今更壊そうとしている。彼女に手枷は壊せない、今までの彼女には。
続いて みし、とかプチ、とかの音が断続的に聞こえる。自身の筋繊維を破壊しながら
手枷に亀裂を走らせる。リアラには成り行きを見守るしかなかった。バキンと
音がして手枷の接合部は壊された。コレットの手首は骨に損傷は無いものの
内外の出血で真っ赤になっている。しかし彼女はそんなこと蚊ほどにも思っていないかの様に
武器に目を向ける、剣ではない、斧でもない、銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲に目をつけ、
持ち上げる。持ち上げるだけならまだしも、それを縦横無尽に振ってみせる。どうやら
手枷を壊すよりこちらの方が簡単な様で、これを武器と決めたらしい。
ふと、コレットは東を見据える。
天使としての鋭敏な感覚が何かを突いたのか。しかしその瞳は赤黒く淀んでいる。
彼女の仲間が見ればどうなったか一目で分かるだろう。
世界の為に己の全てを犠牲にした少女の成れの果て、
マーテルの器、無機生命体・コレットである。
【リアラ 生存確認】
状態: TP半分まで回復 エクスフィア強化 困惑
所持品:ロリポップ 料理大全 フルールポンチ1/2人分 ????
ダマスクスソード、フランヴェルジュ、オーガアクス、ピヨチェック
第一行動方針:状況の整理・方針の再設定
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:避けられない戦いは戦う
現在位置:E2の城跡
【コレット 生存確認】
状態: TP3/4 無機生命体化 (疲労感無視)
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(残弾0)
第一行動方針:防衛本能(攻撃意思に対する完全抹殺)
第二行動方針:非戦闘状態ではリアラに同行する。
第三行動方針:???
現在位置:E2の城跡
無機生命体の解説
・五感のうちの触覚(痛覚含む)、味覚の欠落
・発声不可能。
・感情の欠落
・新陳代謝の停止により睡眠、食事が不要
・必要ならば身体の損傷を無視して限界以上の力(AT、体力)を発揮可能。
・術技は問題なく使用可能(詠唱時間は要るが詠唱は必要ない)
・損傷・回復は通常通りに行われる(HP自動回復やDFが強化されているわけではない)
・ドジっ娘ではない(=秘奥義発動不可)
369 :
業務連絡:2006/01/24(火) 08:01:36 ID:3bWvbirO
感想議論スレでの話し合いの結果、拙作「OutBreak」は無効となりましたので、その旨をここに宣言します。
要領の無駄遣いをご容赦下さい。申し訳ありませんでした。
「決戦の時は来た」
ユアンが冷静に言った。静まり返る室内。グリッドは前方から迫り来る牛の様な異形を監視している。
プリムラとカトリーヌは荷物をまとめ、真剣そのものの目でユアンを見る。
「いいか、今回はこちらにも半端ではない危険が伴う。逃げ遅れてこちらが煙に巻き込まれたら元も子もない。
急いで町をでたら北上しよう。
幸い、先ほどの放送でC3村に向かう者は多いだろう。運が良ければきっと敵にも会わない。
しかし、とくにカトリーヌ」
「…は、はい!」
名指しで呼ばれ、はカトリーヌ急いで返事をする。
「お前は極度の方向音痴だ。必ず先頭を走るなんて思わず、プリムラやグリッドに続け。
そしてみんなは決して後ろを振り向くな。とにかく逃げ切る事に専心するんだ。
仮に何かあるとすれば……私がなんとか足止めをする」
しかしそれに反発したのはグリッドだった。
「しかしお前一人では!!」
「大丈夫だ。私もただの怪物相手ならば生き延びる自信がある」
どこまでも冷静なユアン。
しかし一言一言に己の実力と頭脳に確かな自負があり、それは恐らく戦闘レベルでは最低であろう三人を勇気付けた。
「とりあえず手短に確認を行う。
ブーツなどは装備したな?逃げる時の要となる。
忘れ物もないか?
あと、火を直ぐに広めるための油もまいてあるな?」
するとグリッドが叫ぶ。
「あいつが町の広場まで入ったぞ!!」
ユアンの眼が一層厳しくなった。
「放火作戦、開始する」
そんな事はつゆ知らず、トーマとミミーはずんずんと町の中を歩いて行った。
「おい」
「なんだパン?」
「この町にいいものがあるといいな」
トーマが笑顔で背後のミミーに訪ねる。
「そうパン!こんな大きな町ならきっと大きな釜があるパン!もっと美味しいパンも焼けるパン!牛さんは何を食べたいパン?」
「そうだな…ミートパイ…とかは肉がねえから駄目か。任せるぜ。お前の料理は何でも最高に旨いからな!」
ミミーがこの上ない笑顔でトーマに答える。
「じゃあミミー特製のキッシュを焼くパン!きっと牛さんも驚くパン!」
「キッシュ…?何かよくわからんが、期待しているぜ!」
トーマもさらに笑顔で答えた。
この二人にはこの町がとても素晴らしいものに見えた。
早く、宿屋などに入って一緒にお茶をしよう。そしていろんな話をするのだ。
ここがバトルロワイアルの会場なんて事は二人には関係なかった。
例え、喧嘩をしてもフライパンで叩かれようとも、二人でいるのは楽しかった。
特にトーマに至っては今までで初めての、ヒューマの友達だった。今までヒューマに蔑まれていた思い出が遠い昔の記憶だったのではないかと思ってしまうくらいだった。
この少女は(彼は当然ミミーが二十歳を越えているなんて事は知らない)無償の友情をガジュマの自分に注いでくれるのだ。
しかし現実の闇色の刃は確実に彼らに向いていった。
歩いていたトーマの足が止まった。町の異変に気付いたのだ。
ガジュマの発達した耳がぴくっと動く。
「(逃げる足音…?二、三人か…?)
ちょっとミミー、下がっていろ」
トーマは彼女に注意を促した。
「誰かいるパンか?ミミーにはわからないパン」
「いや…数人いる…間違いねえ…」
警戒してトーマがじり、と構える。
目つきが一気に険しくなった。
―――その時だった。
ドッと剛烈な音が町中に一気に響く。
「なっ…!!」
「牛さん!炎が…!」
目の前に炎の柱が立ち上がる。
どんどん町を覆ってゆく。
通常では考えられない程の火の回りだった。
ユアンがいたのは宿屋の屋上の死角だった。
容赦なく建物を焼き払ってゆく。
トーマからはその姿が見えなかったため、まるで独りでに町が炎に包まれたかのような光景だった。
「ど、どうなっているんだ!!能力者か!?」
トーマが迫り来る炎を磁のフォルスでこちらに来ない様に炎の軌道を歪めながら叫ぶ。
「牛さん!!左!!」
「何!?」
猛る炎が一気に家屋に回り、崩れた壁がトーマをめがけて倒れてきた―――。
【グリッド 生存確認】
状態:ほぼ健康 後頭部に打撲痕
所持品:無し
基本行動方針:生き延びる。
行動方針:漆黒の翼のリーダーとして行動。
第一行動方針:町から脱出
【ユアン 生存確認】
状態:健康 TP1/3消費
所持品:占いの本、エナジーブレット、フェアリィリング、ミスティブルーム
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを信用していない。
第一行動方針:作戦の遂行
第二行動方針:漆黒の翼を生き残らせる
第三行動方針:漆黒の翼の一員として行動。仲間捜し。
【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:健康 軽いパニック状態
所持品:セイファートキー、ソーサラーリング、チャームボトルの瓶、ナイトメアブーツ、エナジーブレット
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを磔にして島流し決定。
第一行動方針:街から脱出
第二行動方針:出来ればC3行きを提案
【カトリーヌ 生存確認】
状態:健康 動揺
所持品:マジックミスト、ジェットブーツ、エナジーブレット×2、ロープ数本、C・ケイジ
基本行動方針:帰りたい。生き延びる。
第一行動方針:町から脱出
【ミミー・ブレッド 生存確認】
状態:健康 混乱
所持品:ウィングパック×2 イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ クィッキー
第一行動方針:炎の対処
第二行動方針:街で食料調達
第三行動方針:トーマにキッシュをつくる
【トーマ 生存確認】
状態:健康 混乱
所持品:メガグランチャー ライフボトル
基本行動方針:ミミーを守りぬく
第一行動方針:炎の対処
第二行動方針:ミミーのキッシュを食べる
現在位置:G5の町
374 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/27(金) 01:17:23 ID:gtuMn5JX
テイルズはこの板ではとりあつかわないことになりました
今後一切2ちゃんねるでテイルズに関係するスレッドを立てないでください
RPG板自治スレ委員会
375 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/30(月) 10:22:34 ID:tL1BUrCz
335:名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/01/16(月) 20:20:36 ID:yMJqli/F
Dで感動して泣きまくり、更にキャラ萌えした腐女子が通りますよ。
D2…ジューダスに対するキャラ萌えとロニの発言中心にはびこるホモ要素、語られなかったスタンとリオン(のホモ臭いシーン)そして声優陣のフルボイス仕様(主にソーディアン)にウハウハwktkするしかなかったよ。
…と、さんざんガイシュツかもだがこのゲームは99%腐女子向けかとw
これが言いたかっただけ。豚キリすまそ
376 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/30(月) 10:36:38 ID:tL1BUrCz
335:名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/01/16(月) 20:20:36 ID:yMJqli/F
Dで感動して泣きまくり、更にキャラ萌えした腐女子が通りますよ。
D2…ジューダスに対するキャラ萌えとロニの発言中心にはびこるホモ要素、語られなかったスタンとリオン(のホモ臭いシーン)そして声優陣のフルボイス仕様(主にソーディアン)にウハウハwktkするしかなかったよ。
…と、さんざんガイシュツかもだがこのゲームは99%腐女子向けかとw
これが言いたかっただけ。豚キリすまそ