----基本ルール----
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
開催場所は異次元世界であり、海上に逃れようと一定以上先は禁止エリアになっている。
----放送について----
放送は12時間ごとに行われる。放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。
----「首輪」と禁止エリアについて----
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
禁止エリアは3時間ごとに1エリアづつ増えていく。
----スタート時の持ち物----
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ザック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
「ザック」→他の荷物を運ぶための小さいザック。
四次元構造になっており、参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「支給品」 → 何かのアイテムが1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「ランダムアイテム」は作者が「作品中のアイテム」と
「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
必ずしもザックに入るサイズである必要はありません。
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。
4 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/12(木) 17:10:44 ID:4JfTeEzn
----制限について----
身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
(ただし敵ボスクラスについては例外的措置がある場合があります)
治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
しかしステータス異常回復は普通に行えます。
その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。
MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。
----ボスキャラの能力制限について----
ラスボスキャラや、ラスボスキャラ相当の実力を持つキャラは、他の悪役キャラと一線を画す、
いわゆる「ラスボス特権」の強大な特殊能力は使用禁止。
これに該当するのは
*ダオスの時間転移能力、
*ミトスのエターナルソード&オリジンとの契約、
*シャーリィのメルネス化、
*マウリッツのソウガとの融合、
など。もちろんいわゆる「第二形態」以降への変身も禁止される。
ただしこれに該当しない技や魔法は、TPが尽きるまで自由に使える。
ダオスはダオスレーザーやダオスコレダーなどを自在に操れるし、ミトスは短距離なら瞬間移動も可能。
シャーリィやマウリッツも爪術は全て使用OK。
----武器による特技、奥義について----
格闘系キャラはほぼ制限なし。通常通り使用可能。ティトレイの樹砲閃などは、武器が必要になので使用不能。
その他の武器を用いて戦う前衛キャラには制限がかかる。
虎牙破斬や秋沙雨など、闘気を放射しないタイプの技は使用不能。
魔神剣や獅子戦吼など、闘気を放射するタイプの技は不慣れなため十分な威力は出ないが使用可能。
(ただし格闘系キャラの使う魔神拳、獅子戦吼などはこの枠から外れ、通常通り使用可能)
チェスターの屠龍のような、純粋な闘気を射出している(ように見える)技は、威力不十分ながら使用可能。
P仕様の閃空裂破など、両者の複合型の技の場合、闘気の部分によるダメージのみ有効。
またチェスターの弓術やモーゼスの爪術のような、闘気をまとわせた物体で射撃を行うタイプの技も使用不能。
武器は、ロワ会場にあるありあわせの物での代用は可能。
木の枝を剣として扱えば技は通常通り発動でき、尖った石ころをダーツ(投げ矢)に見立て、投げて弓術を使うことも出来る。
しかし、ありあわせの代用品の耐久性は低く、本来の技の威力は当然出せない。
----晶術、爪術、フォルスなど魔法について----
攻撃系魔法は普通に使える、威力も作中程度。ただし当然、TPを消費。
回復系魔法は作中の1/10程度の効力しかないが、使えるし効果も有る。治癒功なども同じ。
魔法は丸腰でも発動は可能だが威力はかなり落ちる。治癒功などに関しては制限を受けない格闘系なので問題なく使える。
(魔力を持つ)武器があった方が威力は上がる。
当然、上質な武器、得意武器ならば効果、威力もアップ。
----時間停止魔法について----
ミントのタイムストップ、ミトスのイノセント・ゼロなどの時間停止魔法は通常通り有効。
効果範囲は普通の全体攻撃魔法と同じく、魔法を用いたキャラの視界内とする。
本来時間停止魔法に抵抗力を持つボスキャラにも、このロワ中では効果がある。
----TPの自然回復----
ロワ会場内では、競技の円滑化のために、休息によってTPがかなりの速度で回復する。
回復スピードは、1時間の休息につき最大TPの10%程度を目安として描写すること。
なおここでいう休息とは、一カ所でじっと座っていたり横になっていたりする事を指す。
睡眠を取れば、回復スピードはさらに2倍になる。
----その他----
*秘奥義はよっぽどのピンチのときのみ一度だけ使用可能。使用後はTP大幅消費、加えて疲労が伴う。
ただし、基本的に作中の条件も満たす必要がある(ロイドはマテリアルブレードを装備していないと使用出来ない等)。
*作中の進め方によって使える魔法、技が異なるキャラ(E、Sキャラ)は、
初登場時(最初に魔法を使うとき)に断定させておくこと。
断定させた後は、それ以外の魔法、技は使えない。
6 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/12(木) 17:12:31 ID:4JfTeEzn
【参加者一覧】
TOP(ファンタジア) :6/10名→○クレス・アルベイン/○ミント・アドネード/●チェスター・バークライト/○アーチェ・クライン/●藤林すず
○デミテル/○ダオス/○エドワード・D・モリスン/●ジェストーナ/●アミィ・バークライト
TOD(デスティニー) :6/8名→○スタン・エルロン/●ルーティ・カトレット/○リオン・マグナス/●マリー・エージェント/○マイティ・コングマン/○ジョニー・シデン
○マリアン・フュステル/○グリッド
TOD2(デスティニー2) :5/6名→○カイル・デュナミス/○リアラ/●ロニ・デュナミス/○ジューダス/○ハロルド・ベルセリオス/○バルバトス・ゲーティア
TOE(エターニア) :5/6名→○リッド・ハーシェル/○ファラ・エルステッド/○キール・ツァイベル/○メルディ/●ヒアデス/○カトリーヌ
TOS(シンフォニア) :8/11名→○ロイド・アーヴィング/○コレット・ブルーネル/○ジーニアス・セイジ/○クラトス・アウリオン/●藤林しいな/●ゼロス・ワイルダー
○ユアン/○マグニス/○ミトス/○マーテル/●パルマコスタの首コキャ男性
TOR(リバース) :4/5名→○ヴェイグ・リュングベル/○ティトレイ・クロウ/○サレ/○トーマ/●ポプラおばさん
TOL(レジェンディア) :3/8名→●セネル・クーリッジ/○シャーリィ・フェンネス/●モーゼス・シャンドル/○ジェイ/○ミミー
●マウリッツ/●ソロン/●カッシェル
TOF(ファンダム) :1/1名→○プリムラ・ロッソ
●=死亡 ○=生存
合計38/55
【これからの禁止エリア】
午後九時:H6
午前零時:B4
午前三時:G1
午前六時:E7
【地図】
〔PC〕
http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/858.jpg 〔携帯〕
http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/11769.jpg
乙
乙です。
10 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/12(木) 18:53:00 ID:k5UexTRY
なんだこれ?
以下に投下するのは前スレで10番まで投下したDestroyの続きです
しばらく倒れる少年を見つめていたスタンは、静かに震えだした。
「なんで・・・どうして・・・こんな・・・」
そして馬鹿笑いを続ける男と、冷酷な目でこちらを睨む男を見やった。
「う・・・うおおおおおお!!!」
スタンは吼えた。そして男二人に一気に走り寄った。
「スタン!駄目!戻って!」
ハロルドの懇願も、怒りに染まった彼には届かなかった。
「へっ、やる気かよ、だが・・・」
斧を構えようとするマグニスの前に、バルバトスがずいと歩み出た。
「・・・何のつもりだ、てめぇ?」
「奴は俺がもらう」
「・・・へっ、まぁいい。今の俺さまは気分がいいからな」
そう言い、一歩下がるマグニス。
バルバトスは銃剣を構え、目の前に迫る男と対峙した。
「はああああああ!!」
「会いたかったぞ、スタン・エルロン!」
バルバトスはそれまでとは違う狂気の笑みを浮かべ、銃剣を振り回した。
剣と剣がぶつかり合い、金属音が響く。
しかし巨大な榴弾砲に接着された獲物を振り回すバルバトスより、
小回りの聞くスタンが先に攻撃を当てた。
しかしそれは榴弾砲本体にあたり、男自身の体を傷つけるわけにはいかなかった。
そのままバルバトスのボディブローがスタンの腹を穿った。
スタンの反撃の左回し蹴りが男の脇の下を打った。
バルバトスの右肘が彼の頭を強烈に叩きつけた。
そして大きく腕を後方に引きつけ、榴弾砲で直接スタンの体を叩き、吹き飛ばした。
スタンはそのまま猛烈な勢いで背後の壁面に激突した。
がらがらと、瓦礫が小さく崩れ落ちた。
「スタン!」
ハロルドが側により、しゃがみこんで話しかける。
「ぐっ・・・くそ、くそ・・・」
「落ち着きなさい、スタン!今あいつらとやりあっても、何も得することはないわよ!」
「でも!!あいつらは、あの子を!!」
「割り切りなさい!あんた、最初の放送で分からなかったの!?」
スタンは言葉を詰まらせ、下にうつむいた。
この異常な状況では、いつ誰がどうなるか分からないということは分かったつもりだった。
分かってはいる、しかし、それでも・・・
「逃げるの、早く!」
立ち上がるハロルドに従い、こちらも立ち上がる。
「走って、速く!もう小細工無しよ!!」
そうして二人は再び走り出した。
その途中でスタンは傍らに横たわるジーニアスを見やり、顔を悲痛に歪めた。
「おいおい、なーにボケーっと突っ立ってんだよ!逃げられちまうだろうが!」
いつの間にかマグニスが隣に立っていた。
「・・・逃げるのか!!スタン・エルロン!!俺の求める英雄の一人!!」
「おい、聞いてんのかてめぇ!」
「だが・・・男に後退の二文字は無ぇ!!!!」
それまで冷静を装っていたバルバトスの顔は、完全に凶戦士のものになっていた。
カッと目を見開き、榴弾砲の銃口を二人が消えた穴に向ける。
「お、てめぇ・・・」
マグニスは薄ら笑いを浮かべながら、バルバトスの動作を見ていた。
バルバトスは銃口に魔力を集中させた。
次第にそれは紫のオーラを纏い、獄炎のエネルギーと化した。
「微塵に砕けろ!!!!」
猛る闇の魔力を纏った弾丸──ジェノサイドブレイバーと一体化したそれ──は、
一直線に撃ち出され、スタン達が消えた辺りに着弾した。
途端に凄まじい爆破音が響き、暗黒の爆炎が渦となってその周辺一帯を焦がし、灰にした。
がらがらと岩盤が崩れだした。
マグニス達がいる場所とスタン達が消えた場所は、
大量の土砂によってその道が途絶えていた。
完全に正面の入り口側からの移動ルートは絶たれてしまったことになる。
「はっ!これで奴等は焼き豚だぜ!!」
嬉々として笑う赤髪の男。対して青髪の男は、やはり静かだった。
「・・・」
「あ?なんか言ったか?さっさと次いくぞ。もうここには誰もいねぇだろうからな」
マグニスは歩き出した。
対するバルバトスは、黙って落盤の跡を見つめていた。
・・・これでさらばだ、スタン・エルロン。彼はそう思っていた。
しかし、もしあの男が真に英雄たる男なら、きっと生き延びているだろうとも考えた。
一緒に居たあのハロルド・ベルセリオスのこともある。
いつかまた対峙するときが来る、そう思った。
その時は邪魔いらずの一対一なら申し分無いのだが。
「おいコラてめぇ!何やってやがる!」
マグニスの怒声が向こう側で響いた。
「あまり張り切りすぎるなよ。そろそろ休憩も必要だ」
そう言いながら歩を進める。
と、その時彼の足元に何かが当たった。それは最初石ころだと思った。
しかしなぜかそれはバルバトスの注意を引き付けた。
何の気なしに彼はそれを拾った。不気味に輝く石。
・・・かつてマウリッツが装備し、スタンが蹴飛ばしたそれは、岩場の隙間に挟まっていた。
・・・そしてこの戦闘によって岩が壊れ、それは再び表に出ることになった。
・・・エクスフィアが、バルバトスの手の中で不気味に輝いていた。
【スタン 生存確認】
状態:不明
所持品:ディフェンサー ガーネット 釣り糸
第一行動方針:ハロルド、ミントと合流
第二行動方針:仲間と合流
現在地:G3の洞窟内部 中央
【ハロルド 生存確認】
状態:不明
所持品:ピーチグミ 短剣 実験サンプル(詳細不明)
第一行動方針:スタン、ミントと合流
第二行動方針:スタン、ミントと共に行動
第三行動方針:不明
現在地:G3の洞窟内部 中央
【バルバトス 生存確認】
状態:TP中消費
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(弾丸残り2発。一射ごとに要再装填) クローナシンボル エクスフィア
第一行動方針:マグニスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する。特に「英雄」の抹殺を最優先
第二行動方針:マグニスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
現在位置:G3の洞窟内部 中央
【マグニス 生存確認】
状態:首筋に痛み 風の導術による裂傷 顔に切り傷(共に出血は停止。処置済み) 上半身に軽い火傷
所持品:オーガアクス ピヨチェック
第一行動方針:バルバトスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する
第二行動方針:バルバトスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
第三行動方針:バルバトスが興味深い
現在位置:G3の洞窟内部 中央
【ジーニアス・セイジ 死亡】
【残り37人】
訂正・ミントはこの話に登場していないので生存確認を消しました。
18 :
時空戦士:2006/01/12(木) 20:59:00 ID:O5NZIUQF
「がはっ!!」
巨漢の男、コングマンに敗れて数十分後、クレス・アルベインは意識を取り戻した。
口に残る血の味に顔をしかめながらも辺りを見回すと、あの巨漢の男も、コレットの姿も見当たらない。
…一体どうなったんだ?
激突の瞬間を思い出すと、たしかに一撃を喰らってしまったことを思い出した。
そうか、僕は負けて・・・!
地面に突き立てられた小刀が目に入った。なにやら文字も書いてある。
果たし状
やっと起きたか!
くたばり損ないの負け犬野郎!
おまえの仲間の小娘はいただいていく
返して欲しけりゃ、北西のイーツ城まで一人で来やがれ
追伸
怖じ気づいたんなら、シッポ巻いて逃げたって・・・
そこまで読んで、クレスは座り込んでしまった。
生死はわからないが、コレットは連れて行かれ、自分は見逃されたのだろう。
わかっている。コレットを助けに行かなければ。
しかし体が、どうしても動かなかった。
湧き上がる怒りも、勝負に負けた悔しさも、あまり感じられなかった。
立ち上がろうとしても、どんどん今までの鬱屈した気持ちがクレスをそこから離さなかった。
・・・もうこれ以上、何も考えたくなかった。
19 :
時空戦士2:2006/01/12(木) 21:00:03 ID:O5NZIUQF
どれくらいの時間が経ったのだろう。
それは数分だったのかもしれないし、数時間だったのかもしれない。
クレスはただ、ぼんやりと目の前の景色を見つめていた。
心に広がるのは虚無感ばかりだったが、それがかえって彼の心を落ち着かせた。
はは、ははは・・・
目の前に横たわる剣を手に取り、クレスは一人で笑い出した。
そうだ・・・そうだよな。
どうすればいいかなんて、考えたって仕方のないこと。
それなら・・・・・・
それなら!
今までどおりにやるだけだ。
――少し強くなったからって、ちょっと思い上がっていたかもしれない
クレスはゆっくりと立ち上がると、剣を構え低い体制を取り、気を集中させた。
アルベイン流剣術のひとつ、集気法。
緑色のオーラがクレスを包み、体の隅々にまで活力を取り戻す。
僕には答えは見つからない。
でも、仲間がいれば、答えを見つけられるかもしれない。
まだ、ミントもアーチェも、・・・モリスンさんもいたような気がする。
きっと他にも協力してくれる人がいるはずだ。
まだ僕は、こんなところで斃れるわけにはいかない。
そうだろ?チェスター。
20 :
時空戦士3:2006/01/12(木) 21:00:39 ID:O5NZIUQF
クレスは音速のような剣閃でダマスクスソードを振り、再び腰につがえた。
そして、改めて果たし状の続きを読む。
かまわねえぞ
こいつは俺様が、たっぷり可愛がっておいてやるからな
あ ば よ ! ! !
チャンピオン、マイティ・コングマン
あまり続きはなかったようだが、どうやら次の目的は北西に見える城のようだ。
サレのことも気になったが、このまま待っていても合流は難しいだろう。
それより、一刻も早くコレットを助けに行かないといけない。
そう考え、クレスは北西へと歩き出した。
彼の顔に、もう迷いはなかった。
【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:左手に銃創(止血)、TP消費(小) 冷静、静かな闘志
所持品:ダマスクスソード、バクショウダケ 、忍刀血桜
基本行動方針:仲間と最後まで生き残る
第一行動方針:コレットを救い出す
第二行動方針:ミント、アーチェ、モリスンと合流
第三行動方針:サレと合流
現在位置:F3森から移動
「何か申し開きはあるか、サレ?」
クラトスの厳格な声が聞こえた。
サレはマテリアルブレードを背中に向けられながら、渋い表情で目の前の光景を見つめていた。
彼の帰りを待っているはずのコレットとクレスは、いつの間にかその場から消えていた。
自分が場所を間違えるはずは無い。確かにここは、かつて自分達三人が居た場所なのだ。
ならば、何故二人は消えたのか?それも荷物ごと、すっかりと。
放送までにはまだ僅かに時間がある。痺れを切らして行ってしまうような二人ではない。
自分の思惑に気付き、逃げたのか?
少なくともそんな素振りは・・・クレスはどうだかしらないが・・・
決定的に離反される様な事態では無いはずだった。
サレは当然自分が居ない間に二人が別の何者かに襲われることを思案していた。
死んだなら死んだでよし、生き延びているなら襲撃者の始末や適当な情報を掴むことも出来る。
まあしかしこんな夜にじっとしていて襲われるとは、二人は相当運が無かったのだろう。
いや、それは分かりきったことだった。
・・・この僕に出会った時点で、絶望的に不運なんだからね。
当然、目の前に居る、新たに出会った二人も。
ふと、サレの視線が何かを捕らえる。
地面に、まだ新しい血が溜まっていた。
「何とか言ったらどうなんだ。返答次第では、こちらも容赦しないぞ」
剣先をサレに向けたまま、赤髪の剣士は言う。
「クラトスさん、そんな言い方・・・」
寄り添うように立っている黒髪の少女が、不安そうな声でなだめる。
「気をつけろ、リアラ。私達は既に、この男の罠にかかったのかもしれん」
険しい表情のままクラトスは喋った。
「おや?これは血じゃないかな?」
そんな会話を尻目に、サレはおどけた様な口調で口を開く。
「え?」
リアラがサレに近付こうとするのを、クラトスが腕を横に伸ばして制した。
そして彼自身が慎重にサレに近付く。
確かに、血だった。まだ落ちて間もない様に見える、血痕。
「クラトスさん、もしかしたらコレットちゃん達は誰かに襲われたのかもしれないよ」
サレは顔をクラトスに向けて口元を緩ませながら言う。
クラトスは未だ厳しい表情をしている。
「・・・」
「そうか、なるほど、襲われて逃げたのか。それなら納得できるね」
サレは独り言の様につぶやいた。
赤髪の剣士はまだ黙っている。
「クラトスさん、これ・・・!」
突然リアラが声を上げた。
二人は少女の方を向き、彼女が手にする紙切れを見た。
「リアラちゃん、ちょっとそれを見せてくれないかな?」
「あ・・・はい」
サレがリアラに近付こうとして、クラトスが前に出てそれを遮り、
一旦彼が少女から紙を手にしてからサレに渡した。
「・・・・・・!」
それはコングマンが書き残した紙だった。
クレスはそれを読んだ後、この場に放棄してしまったらしい。
そこに書かれている文章を読み、サレの表情はみるみると険しくなっていき、そして次に微笑が浮かんだ。
「・・・何が書いてあるのだ」
クラトスが冷めた口調で訪ねる。
サレはそれを読もうとして、数行声に出して止めた。
「こんな下品な文章、声に出して読むなんて出来ないね。ほら、自分で読んでくれ」
そう言って紙をクラトスに渡す。
リアラが背伸びして覗き込み、二人してそれを黙って読む。
果たし状
やっと起きたか!
くたばり損ないの負け犬野郎!
おまえの仲間の小娘はいただいていく
返して欲しけりゃ・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・
「ねぇ?」
読み終わったのを確認して、サレが上がり口調で言う。
剣士と少女は黙っていた。静かに紙と、サレを交互に見るばかりである。
やがて、クラトスが口を開いた。
「こんな子ども騙しが通じるとでも思ったのか?」
手にした紙から手を放す。はらりと宙を舞い、地面に落ちた。
驚く少女と、黙り込むサレ。
「やだなぁ、クラトスさん。こんな回りくどい仕掛け、誰が好んでするっていうんだい?
それに、その紙、僕が書いたものじゃないよ?なんなら今から証明してやってもいい」
「なれなれしく私の名を呼ぶな。神子がここに居たという証拠は何も無い。
誰かがここで襲われたのは確かなようだが、それがどこへ行き、どうなっているかは知る術が無い」
「この紙に書いてあるじゃないか」
「こんな馬鹿げた内容、誰が信じるものか。
いいか、私達はお前の仲間が怪我をしたというからここまで付いてきた。
しかし肝心のその誰かがどこにも居ないのでは、話にならん」
「僕だってどうなっているのかさっぱりなんだけど」
「ふざけるのも大概にしろ。もう貴様に付き合う義理は無い」
そう言い放ち、サレから離れようとする。
「コレットちゃんがどうなってもいいのかい?」
そんな男の様子を見ながら、サレは真剣な口調で言った。
クラトスの体がぴたりと止まる。
その男に、僅かに迷いがあることを、サレは感じた。
沈黙が場を包んだ。
そしてその沈黙を破ったのは、またしてもリアラだった。
拾った紙を慎重に読んでいた彼女は、何かに気付いていた。
「クラトスさん、ここにある名前・・・」
「どうした?」
リアラが紙の一点を指差しながらクラトスに見せる。
「これ、マイティ・コングマンって書いてあるんですけど、私の世界の人だと思うんです・・・」
その言葉に、クラトスとサレは同時に驚いた。
「本当か?」
「本当かい?」
殆ど同時に喋っていた。
サレは密かに心を弾ませた。
どうやらまだまだ運はこちらにあるらしい。
「はい、コングマンさんは、かつて私達の世界を救った英雄と一緒に戦った人で、
闘技場でチャンピオンだった人なんです・・・」
そして、カイルが尊敬する英雄の仲間の一人、と付け加えた。しかしリアラの口ぶりは重い。
もしここに居たはずのコレットという少女を襲い、さらってこの紙を書いたのだとしたら、
コングマンという人間に対する印象は随分と変わったものになる。
まるで汚らわしいものを拒絶するように、少女は紙から手を放した。
「コングマンさんって、そういう人だったんだ・・・」
少女はその場から一歩引き、汚物を罵るような口調でそうつぶやいた。
「さて、どうする、クラトス?」
再びサレが口を開く。クラトスは黙って前を見つめている。
「クラトスさん、私、助けに行くべきだと思います。
女の子がさらわれて、危ないんでしょう?早く、行ってあげないと・・・」
赤髪の剣士は静かに目を瞑り、そして目を開けサレを見つめた。
「・・・やはり駄目だ」
その言葉に、リアラは大きく驚いた。
「そんな!」
「・・・情報が、信じるに足らん」
「おやおや、その子も言ってたじゃないか、それを書いたのは・・・」
「・・・しかしだからといって神子が実際にさらわれ、城に居るとも限らない。途中で誰かに遭遇した可能性もある」
「あんたは薄情な人間なんだね」
「こんな状況で、誰とも知らぬ者の戯れ言に、これ以上黙って従うほど私は馬鹿ではない」
クラトスはそう言って言葉を切った。
サレは大きくため息をついた。
・・・やれやれ、こいつは本物だ。邪魔者以外の何者でもない。
「そして何より・・・」
クラトスが言葉を続ける。サレは微笑を携えながら聞いていた。
「お前の、その笑い顔が気にくわん」
サレは目をちょっと見開き、眉を大きく上に上げて奇妙な表情をした。
「行くぞ、リアラ」
身を翻して森に消えようとするクラトスに、リアラは戸惑いながら、一瞬視線をサレに向ける。
サレは独り取り残され、わなわなと震えていた。
・・・なんだあいつは?警戒するにも程がある。この状況で動かないなんて、どうかしてるとしか思えない。
コレットは人を簡単に信用しすぎだが、あの男は真逆だ。
例えば今、奴は背中を向けているが、頭から足先まで隙が感じられない。
かなりの熟練した剣士だと、雰囲気が語っている。
やはり邪魔だ。どう考えても邪魔だ。いずれ近いうちに障害となる時が来る。
ならば、今、ここで始末するしかない。
殺すしか。
遠ざかる赤髪の男の背中を見ながら、ブロードソードを抜き出そうと手を動かしかけた。
が、しかしその時少女が近くに走り寄ってきたので一旦停止した。
「先に・・・先に行ってください!私、なんとか説得してみます」
「・・・」
サレは黙ってその言葉を聞いていた。
あの紙を残したものの正体を知っている分、少女はサレの方を信じた様だった。
・・・僕はとことんついているようだ。
「ごめんね、リアラちゃん。頼んだよ。僕は先に城に行ってくる」
頷き、急ぎクラトスの元へ駆けてゆく少女の背中を見ながら、サレはフフフ、と笑った。
・・・さて、それじゃあ僕は行くとしよう。
囚われのお姫様を助けるために、野蛮な愚物を退治しに。
お姫様を守るナイトというものは、華麗に参上するものなのさ。
マントを翻し、サレは再び森の中に消えていった。
そしてその頭は、今回の事態がどう結末すれば自分にとって都合のいいことになるのか、考えていた。
・・・とりあえず、コレットちゃんをさらったコングマンという野蛮で卑猥な愚物。奴は真っ先に処刑確定だ。
あの子は僕が先に見つけたんだ。
あの少女の真っ白な心にナイフを突き刺して絶望に陥れることは、それはそれは愉快なことだろう。
そしてそれこそ僕が一番愉しみにしていることの一つなのに、それを横から取ろうなんて、許せないことなんだよ。
コレットを汚すのは僕だ。邪魔はさせない。
サレは笑った。そしてそれは次第に止まらなくなり、声を押し殺しながら天を仰いだ。
・・・そしてあの赤髪の男、クラトス。奴も死んでもらった方がこちらのためだ。
奴とコレットが合流するのは非常に不味いことだった。
それはなんとしても阻止しよう。どんな手を使っても。
クレスやリアラも、状況次第ではやむを得ないことになるかな?
押し殺した笑い声が止まり、サレは黙って前を見つめた。
そしてイーツ城に向けて歩き出した。
【サレ 生存確認】
状態:TP消費(微小)
所持品:ブロードソード 出刃包丁
第一行動方針:コレット、クレス、クラトス、リアラ、コングマンを利用する
第二行動方針:コングマンの始末
第三行動方針:ティトレイの始末
第四行動方針:クラトスの始末
第五行動方針:コレットの救出、治療
第六行動方針:コレット、クレスと合流
現在位置:F3の森林地帯からE2の城へ移動中
【リアラ 生存確認】
状態:無傷
所持品:ロリポップ ???? ????
第一行動方針:クラトスにコレットを救出する様に説得する
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:避けられない戦いは戦う
現在位置:F3の森林地帯
【クラトス 生存確認】
状態:迷い 全身、特に足元に中程度の火傷 TP消費(微小)
所持品:マテリアルブレード(フランベルジュ使用)
第一行動方針:リアラと行動
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:コレットが気になる
第四行動方針:ロイドが気になる
現在位置:F3の森林地帯
31 :
ラヴィ!!:2006/01/13(金) 03:00:01 ID:Qz3duJJv
明日へのhopping
詞・曲・歌:R's
大丈夫 此処まで上手く切り抜けて来た
俺には分かる お前は一人ぽっちでも平気さ
何故かって?
止せよ 口にするのも照れくさい
分からない? なら仕方ない
とびきりに鈍感なお前に特別に教えてやるよ
そばに誰もいなくても お前は独りじゃあない
仲間がいる 家族がいる
そして俺が お前のこころの中に
いつも見守ってる
近くて遠い場所 この大地の何処かで
だから
涙拭いて 顔上げて
お前は前を目指せ
永遠に……永遠に………──
拝啓
カイル、聴いたか。俺の魂(ソウル)を込めた歌を。
さぁ、立ち上がれ。お前の旅は、まだ始まったばかりだ。
この先どんな試練がお前を待ち受けているかはわからない。
だが、これだけは約束だ。
けして後ろを振り返るな。
栄光への果てない旅路は、お前をズタズタに引き裂くかもしれない。
それでも、負けちゃいけない。
前に進むしか道は無いんだ。
お前を待つ、すべての人達のために。
負けるなカイル。
明日を掴むために。
そして……グッバイ
永遠に………
敬具
……なんだこれ。夢……なのか?
よくわかんないし、早く覚めよう………
32 :
ラヴィ!!:2006/01/13(金) 03:01:00 ID:Qz3duJJv
ガバッ
何の前触れも無く、カイルは唐突に上半身を起こした。
頭を左右に振り、ぼやけた意識を回復する。
全身がピリピリと抓る様に痛む。
思い出した。
確か、出会った相手に術を仕掛けられ、感電したのだ。
「つっ……あててて」
痺れる両手で身体を支え、ゆっくりと立ち上がる。
ズボンの汚れを払い、今度は手に付いた砂埃を更に払い落とした。
それにしても、雷の直撃を受けてよく無事だったものだ。
もしかしたら、自分は幸運の星の下に生まれたのでは無いか、とさえ思えてくる。
彼ははっと不安を抱く……荷物は無事だろうか。
鞄を荒く掻き回し、中身を確認する。
食糧、水は確かにそこにあった。
そしてさらに、思わぬ発見をする。
尤も、気付いた途端に顔を赤らめる様な情けないものだが。
携帯式の照明器具である。
見慣れた物では無いが、着火器具も同梱されていた。
近くに人の気配は無い。
安易なネーミングをされた器具・チャッカマンを用い、ランタンに灯を点けた。
辺りを支配する陰湿な闇に抗い、温かな光が侵食していく。
精神に、僅か安息が戻るのを感じた。
普段は見向きもしなかった灯りがこれほど人の心を癒やす事に、
彼は感動すら覚えた。
そして気付く。
ランタンに照らされたオレンジの岩肌に、うっすら浮かぶ影。
それに、何かが焦げた臭いがしている。これは煙だ。
割に風通しの良い造りになっているこの洞窟、一酸化炭素中毒死の心配は不要。
だがこの煙、何か不可思議な異臭を持っていた。
……嫌な予感が走る。
しかし彼の冒険心は、この異変の正体を暴かなければ気が済まないと
主張して止まなかった。
死への怖れ、喪失の悲しみには、暫く暇を出すことにする。
好奇心に突き動かされ、カイルは闇を切って歩き出した。
33 :
ラヴィ!!:2006/01/13(金) 03:03:40 ID:Qz3duJJv
少しばかり進んだところで、彼はもう一つの発見をする。
「……あれ、どうなってんだこれ」
首に提げていた兎の脚を模した御守──ラビットシンボルが、
肉球から毛先、爪に至るまですべて黒に染まっていた。
「確か、さっきまでは真っ白だったはずなのに……」
訝しげに御守を凝視する。
先程の雷によって、焦げてしまったのだろうか。
「使い物になるのか? これ」
御守を調べてみるが、結局実態はよく分からない。
しかし、彼が出した結論は「まぁいっか」の一言に片付けられた。
しかしこの安易な判断が、後の彼に大きな災厄を齎すこととなる。
表情を変えた装飾品は、ただ不気味に黒光りを繰り返していた。
【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:全身に打撲、擦り傷
所持品:鍋の蓋、フォースリング、ラビッドシンボル
第一行動方針:洞窟内を探索
第二行動方針:父との再会
第三行動方針:リアラとの再会
第四行動方針:仲間との合流
現在位置:G3ジースリ洞窟内
34 :
闇に迷う 1:2006/01/13(金) 19:07:16 ID:D+vhvKdF
――お前の目には、純粋に人殺しをして生き残ろうという鋭く、狡猾な光が感じられない。
――まるで誰かに操られているように、暗く沈んでいる。
闇の中を風の如く移動するジェイの脳裏には、先ほど戦った少年剣士のそんな言葉が焼きついていた。
育ての親であるソロンの言葉に逆らえずに、ただ言われるがままに行動してきた自分。
そんな日々も、遺跡船でモフモフ族の皆、そしてセネル達仲間と出会い同じ時を過ごす事によって変わった。
そして、遂には周囲の手助けもあってソロンと永遠の決別を果たしたはず――だった。
しかし現在――
確かに決別したはずのソロンは三度自分のもとに現れた。
しかも、仲間であったセネルやモーゼスはもうこの世にいないという。
頼れる仲間が消えてゆく中で、甘い言葉をかけてくるソロン。
ジェイはその言葉にただ従うことしか出来なかった…………。
今も、そのソロンの命令に従って、ある人を殺す為に移動している。
僅かな時間であったが、確かに自分と行動を共にした清楚な感じの少女。
自分が裏切る最後の瞬間まで、自分を信じていたその少女を確実に仕留めるのが命令だった。
しかし、あんな人を殺す事など微塵にも考えていないような少女を自分は本当に殺せるのだろうか?
だが、殺さなければソロンの命令に背く事になる……。
ジェイがそんな葛藤をしながら走っていると、彼は不運にも歩く人影を見つけてしまう。
出会った者は殺す――その命令に逆らえないジェイは、葛藤の中でその人影へ音も無く近づいていった…………。
35 :
闇に迷う 2:2006/01/13(金) 19:08:04 ID:D+vhvKdF
モリスンは、黙々と歩いていた。
デミテルから受けたダメージはまだ完治していないが、彼の打倒ダオスの念が彼を突き動かしていた。
しかし、彼は悩んでいた。
先ほどのデミテルとの戦いで割り込んできた緑色の青年。彼は、明らかにデミテルを庇うべくモリスンに攻撃していた。
そして彼は言った、――デミテルが島から出る方法を知っている――と。
無論、それはデミテルが彼を騙す為の狂言だろう。
しかし、青年にとってはそれは真実で、デミテルを倒そうとしている自分が敵であったのだ。
ダオス軍団のみの討伐を目指している彼にとって、騙されている青年を倒すということは出来れば避けたかった。
しかし、倒さなければダオス討伐の目的が果たせなくなる。
では、やはりあの青年を躊躇い無く倒すべきだったのか?
モリスンもまた、殺人の葛藤をしていたのであった。
しかし、葛藤する彼の歩みは、突如足元の地面に刀が刺さった事によって止められた。
――どこから飛んできた!?
彼は周囲を見渡していると、刺さった刀へと稲妻が落ちてきた。
「何っ!?」
紙一重で、その雷撃を避けられたモリスンであったが、避けた所で今度は背中に鋭い痛みが走る。
「ぐぁっ!?」
何事かと思い、背中に手を回すとクナイが二つ刺さっていた。
そして、背中に注意を向けていると今度は左上腕にクナイが刺さってきた。
「くっ……。どこだ、何処にいる!? 出て来い!」
モリスンが、ランタンを周囲に向けながら辺りを見るが、相手は一向に出てこない。
すると、何を思ったのかモリスンは、いきなりランタンを消してしまった。
急に明かりが消えたことにより、周囲は真っ暗な暗闇になってしまう…………。
36 :
闇に迷う 3:2006/01/13(金) 19:09:01 ID:D+vhvKdF
ジェイは突然明かりが消えた事に僅かながらにも体が止まった。
「…………明かりを消して、姿を消したつもり……というところですかね?」
明かりが自分の居場所を示していると早々に気付いたとしたら、向こうもそこそこ戦闘慣れはしているはずだ。
しかし、こちらは闇討ちのプロだ。暗闇の中から人を探す事など容易い。
そして、案の定ジェイは、男をすぐに見つけることが出来た。……が、ジェイは男の様子がおかしい事に気付く。
彼は逃げるでもなく、ただその場に立ち尽くしていた――否、彼は杖を手にとって、何かを呟いていたのだ。
(……これは……ブレス系爪術? いや爪は光っていない……。だけど……)
直感で、ジェイはすぐさま後ろへ飛び退いた。
そして、次の瞬間!
「サイクロン!!」
男の声と同時に、男の周囲を風が勢いを増しながら渦巻き、巨大な竜巻に成長し、大気を切り裂いていった。
暗闇を作り出すことで僅かの間襲撃者の目をくらませ、その隙に範囲系の魔術を詠唱して周囲の敵を威嚇、攻撃する――これが、男――モリスンの作戦だった。
その作戦に不覚にもはまってしまったジェイは、早めに魔術に気付いていた為、竜巻の直撃こそ受けなかったが、それでも飛び退くのが多少遅れたせいで右腕右足を切り裂かれた。
そして足に怪我をしたため、着地するときに転倒してしまった。
「そこか!?」
その転倒音に気付き、モリスンはランタンを付けてジェイの方を照らした。
すると彼の方が、ジェイの姿を見て驚いた。
「子供だと!? ……お前が私を襲ったのか?」
モリスンが自分の腕に刺さっていたクナイを引き抜き、見せる。
するとジェイは黙って頷いた。
「……これは驚いたな……。まさか子供だったとは……」
「子供で悪かったですね」
ジェイは皮肉を込めてそう言うと、立ち上がりクナイを構える。
足を怪我している為、先ほどのような軽快なステップを使えない状況下、彼はクナイを投げるタイミングを見計らっていた。
するとモリスンも杖を構えなおし、術発動がすぐにでも出来るようにした状態にする。
忍と魔術師の戦いは第二ラウンドを迎えようとしていた……。
37 :
闇に迷う 4:2006/01/13(金) 19:09:58 ID:D+vhvKdF
「何故、私を襲う? 君と私は面識すらないと思ったが?」
「面白い事を言いますね。殺さなければ殺される、それがバトル・ロワイアルの鉄則だと思いましたが?」
そう言って、クナイを投げつけるジェイ。
しかし、クナイの飛ぶ軌道を先読みしてモリスンはこれをあっさり避ける。
「君はこのゲームとやらに乗っているのか!?」
モリスンが短い詠唱で火球を生み出し、ジェイへ向かって飛ばす。
一方のジェイも、足をかばいながらそれを避ける。
「僕を殺そうとしているのだから、あなただって乗っているんじゃないですか!?」
火球を避けた足で、地面に刺したままの刀を回収し、それを構え直した。
すると、今度はモリスンが雷撃を加える。
「私だって出来れば殺したくない!」
「綺麗事ですか!? 聞きたくも無い!」
素早くモリスンの懐に入り、刀を突きつけるジェイ。
しかし、刀はモリスンの杖によって防がれる。
刀と杖による息もつかせぬ攻防が繰り広げられる。
「君だって本当は殺したくないのだろう!?」
「だから言ってるでしょう! ここではそんな綺麗事が通じる訳が――」
「だが、君の目からは、人を殺す覚悟が見受けられない。そうだな……まるで誰かに操られているような――」
「あなたに僕の何が分かると言うんです!?」
その瞬間、動揺したのかジェイが少し押され気味となる。
そのチャンスをモリスンは見逃さなかった。
「分かるわけがなかろう! だが…………」
一気に押してゆくモリスン。
杖はミシミシと悲鳴を上げるが、それでも押し続ける。
「私にはやるべきことがあるのだよ! だから、ここで殺されるわけにはいかない!」
モリスンの杖の渾身の一撃がジェイの刀を吹き飛ばした。
得物を失ったジェイは咄嗟にクナイを取ろうとするが、その手をモリスンが掴む。
そしてそのまま、モリスンはジェイの手をひねり上げた。
「……だから私を、いや他の参加者達も出来れば襲ってほしくはないのだがね」
「それは出来ない相談ですね。僕が生きている限りは……。どうしても止めたいのならいっそ僕のことを殺してくださいよ」
ここで死ねば、呪縛から解放される。そして、あの少女を殺さなくても済む。
それならば死んでもいいか……。それがジェイの心の内だった。
しかし、モリスンは困惑の表情をする。
「だが……しかし……」
いまだにモリスンは殺す事について迷っていた。
ましてや相手は、まだ年端もいっていない少年だ。なおさら躊躇いはある。
そして、そんなモリスンの煮え切らない態度を見ると、渾身の力を込めてひねり上げられた手を振りほどき、モリスンと向かい合うように立つ。
「あなた、そんな風に迷っていると、その“やるべきこと”とやらをする前に死にますよ。あなたが殺さないなら、僕があなたを殺します!」
クナイを再び構えるジェイ。
「…………やはり、戦うしかないのか」
二人は、目に迷いを浮かべながらも対峙した。
時まさに、第二回放送の始まる直前の事であった…………。
38 :
闇に迷う 5:2006/01/13(金) 19:11:58 ID:D+vhvKdF
【ジェイ 生存確認】
状態:迷い 頸部に切傷 全身にあざ、生傷 右腕右足に深めの裂傷(出血多)
所持品:ダーツセット 辞書 クナイ(残り三枚)
※忍刀・紫電は地面に落ちた状態
基本行動方針:ソロンに従う
第一行動方針:モリスンを殺す
第二行動方針:ソロンに従い、ミントを殺す
第三行動方針:ソロンに従い、遭遇した参加者を殺す
第四行動方針:シャーリィを探す
【エドワード・D・モリスン 生存確認】
状態:迷い 全身に裂傷とアザ 背中と左上腕に刺し傷
所持品:魔杖ケイオスハート 割れたリバースドール クナイ(一枚) ????
基本行動方針:ダオス討伐
第一行動方針:ジェイと戦う
第二行動方針:出来れば無関係の人々は殺したくない
現在位置:E3平原
「キール、見張りの交代だ。」
「ああ。悪いが5時に起こしてくれ。放送前までに区切りをつけたい。」
リッドに見張り交代を告げられたキールはホーリィリングを受け取り、ソファの上で横になり眠り始めた。
キールが眠るのを見届けたリッドは、さっきまでキールが座っていた椅子に座り、これまでの事を思い返し始めた。
ミクトランと名乗る男に謎の首輪を身につけられ、武器を奪われた上で殺し合いの場に放り出されたのが全ての始まりだ。
支給品にムメイブレードが入っていたおかげで身を守る力は得たが、
その直後、彼は希望を粉々に打ち砕かれるような光景を目撃してしまった。
それは、彼が危険視していた三人の男の内の二人、マグニスとバルバトスが徒党を組み、南東の方角へ歩いていく姿だった。
出合い頭に殺し合い、どちらかが死んでくれればありがたい。
ついでに生き残ったほうも重傷を負ってくれていれば御の字だと思っていたくらいに危険な雰囲気を漂わせている二人が徒党を組む……最悪だ……
連中を倒すためにはファラ、メルディと合流し、首の骨を折られた男のように連中の素性を知り、
なおかつ連中を快く思っていない人物を味方につけなければ勝ち目は限りなく薄い。
とりあえず、戦力が整うまでは逃げを優先するのが一番だろう。
あの場はエルヴンマントのおかげで二人をやり過ごすことはできた。
だが、その直後、今度はエルヴンマントの隠れ身が通じない相手に襲われた。
幽玄のカッシェルと名乗る不気味な男だ。
実力はほぼ互角。しかし、地の利を活かした戦い方にはカッシェルに軍配が上がった。
正直、悔しかった。
子供の頃から森の獣を狩り続けて生きてきたため、森の中での戦いには自信があった。
その自信をいとも簡単に打ち砕かれたのだ。悔しくないと言えばウソになる。
(幽玄の……カッシェル……)
リッドは机に置かれた名簿の中から自分の背中に傷を刻みつけた男の名簿を取り出し、眺めた。
そして、彼が去り際に残した捨てゼリフを思い返した。
『このゲームに殺し合い以外の選択肢は無い……』
カッシェルの言っている事は正しい。わかっている、わかってはいるが、それを認めるワケにはいかない。
わずかでも可能性がある限り、仲間を連れてこの島から脱出する手段を見つけ出す。
その過程が、愚者をあざ笑うためにミクトランが用意した筋書きならば、その筋書きを超えてでも成し遂げてみせる。
もし、ゲームに乗るとすれば、それは全ての望みが絶たれてからだ。
リッドは改めて決意を固めると、部屋にある小さな窓から外の様子を確認した。
「もう……夜明けか……」
夜明けが近く、うっすらと明るくなり始めた外では、時折夜の静寂に似つかわしくない連続した銃声が鳴り響き、
誰かが殺し合いをしているのがうかがい知れる。
聞こえる音の大きさから、音の発生源は近くではないようだ。方角は……正確にはわからないが、東の方だろうか?
時計に目をやると針は今が5時5分前であることを示している。そろそろソファの上で寝ている相棒を起こしてやらなければならない。
リッドはキールを起こすためにソファの方へ向かった。
バトルロワイアルといういつまで続くのかわからない暗く長い夜。しかし、二人は望みを捨てずに進み続ける。
どんな夜も必ず明けるという思いを胸に秘めて…
【リッド・ハーシェル 生存確認】
状態:背中に刀傷(8割回復)、頬に擦り傷(完治)
所持品:ムメイブレード、エルヴンマント
基本行動方針:キールと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:次の放送まで塔の中で体力を回復する。(現在見張り番)
第二行動方針:できれば危険人物を排除する。(ただし、戦力が整うまでは逃げを優先する)
現在位置:B2の塔 一階の部屋
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:額に切創(完治)、全身打撲(回復中 現在9割回復)
所持品:ベレット、ホーリィリング
基本行動方針:リッドと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:次の放送まで塔の中で体力を回復する。(現在仮眠中)
現在位置:B2の塔 一階の部屋
時間軸を考えてみると、外が暗闇なんてありえないと気付いてしまったので、改正版を再投下します(タイトルも改めます)。
よって、「闇に迷う」は無効としてください。
誠に申し訳ありませんでした。
二度とこのような失態はないようにしたいと思います。
46 :
迷いの朝 1:2006/01/13(金) 20:03:35 ID:D+vhvKdF
――お前の目には、純粋に人殺しをして生き残ろうという鋭く、狡猾な光が感じられない。
――まるで誰かに操られているように、暗く沈んでいる。
朝焼けで輝く平原を風の如く移動するジェイの脳裏には、先ほど戦った少年剣士のそんな言葉が焼きついていた。
育ての親であるソロンの言葉に逆らえずに、ただ言われるがままに行動してきた自分。
そんな日々も、遺跡船でモフモフ族の皆、そしてセネル達仲間と出会い同じ時を過ごす事によって変わった。
そして、遂には周囲の手助けもあってソロンと永遠の決別を果たしたはず――だった。
しかし現在――
確かに決別したはずのソロンは三度自分のもとに現れた。
しかも、仲間であったセネルやモーゼスはもうこの世にいないという。
頼れる仲間が消えてゆく中で、甘い言葉をかけてくるソロン。
ジェイはその言葉にただ従うことしか出来なかった…………。
今も、そのソロンの命令に従って、ある人を殺す為に移動している。
僅かな時間であったが、確かに自分と行動を共にした清楚な感じの少女。
自分が裏切る最後の瞬間まで、自分を信じていたその少女を確実に仕留めるのが命令だった。
しかし、あんな人を殺す事など微塵にも考えていないような少女を自分は本当に殺せるのだろうか?
だが、殺さなければソロンの命令に背く事になる……。
ジェイがそんな葛藤をしながら走っていると、彼は不運にも歩く人影を見つけてしまう。
出会った者は殺す――その命令に逆らえないジェイは、葛藤の中でその人影へ音も無く近づいていった…………。
47 :
迷いの朝 2:2006/01/13(金) 20:04:38 ID:D+vhvKdF
モリスンは、黙々と歩いていた。
デミテルから受けたダメージはまだ完治していないが、彼の打倒ダオスの念が彼を突き動かしていた。
しかし、彼は悩んでいた。
先ほどのデミテルとの戦いで割り込んできた緑色の青年。彼は、明らかにデミテルを庇うべくモリスンに攻撃していた。
そして彼は言った、――デミテルが島から出る方法を知っている――と。
無論、それはデミテルが彼を騙す為の狂言だろう。
しかし、青年にとってはそれは真実で、デミテルを倒そうとしている自分が敵であったのだ。
ダオス軍団のみの討伐を目指している彼にとって、騙されている青年を倒すということは出来れば避けたかった。
しかし、倒さなければダオス討伐の目的が果たせなくなる。
では、やはりあの青年を躊躇い無く倒すべきだったのか?
モリスンもまた、殺人の葛藤をしていたのであった。
しかし、葛藤する彼の歩みは、突如足元の地面に刀が刺さった事によって止められた。
――どこから飛んできた!?
彼は周囲を見渡していると、刺さった刀へと稲妻が落ちてきた。
「何っ!?」
紙一重で、その雷撃を避けられたモリスンであったが、避けた所で今度は背中に鋭い痛みが走る。
「ぐぁっ!?」
何事かと思い、背中に手を回すとクナイが二つ刺さっていた。
そして、背中に注意を向けていると今度は左上腕にクナイが刺さってきた。
「くっ……。どこだ、何処にいる!? 出て来い!」
モリスンが、辺りを見渡すが、相手は一向に出てこない。
すると、何を思ったかモリスンはザックから何かを取り出し、それを地面に叩きつけた。
そして叩きつけたそれは、勢い良く煙を出しはじめたのだった……。
48 :
迷いの朝 3:2006/01/13(金) 20:05:27 ID:D+vhvKdF
ジェイは突然煙が吹き出た事に僅かながらにも体が止まった。
「…………煙玉とは、随分面白いものを持っていますね」
煙を出す玉――煙玉。それは忍の者であるジェイが知らないわけがなく、その煙の中で人を見つけることにも慣れていた。
そして、案の定ジェイは、男をすぐに見つけることが出来た。……が、ジェイは男の様子がおかしい事に気付く。
彼は逃げるでもなく、ただその場に立ち尽くしていた――否、彼は杖を手にとって、何かを呟いていたのだ。
(……これは……ブレス系爪術? いや爪は光っていない……。だけど……)
直感で、ジェイはすぐさま後ろへ飛び退いた。
そして、次の瞬間!
「サイクロン!!」
男の声と同時に、男の周囲を風が煙を巻き込み、勢いを増しながら渦巻き、巨大な竜巻に成長し、大気を切り裂いていった。
暗闇を作り出すことで僅かの間襲撃者の目をくらませ、その隙に範囲系の魔術を詠唱して周囲の敵を威嚇、攻撃する――これが、男――モリスンの作戦だった。
その作戦に不覚にもはまってしまったジェイは、早めに魔術に気付いていた為、竜巻の直撃こそ受けなかったが、それでも飛び退くのが多少遅れたせいで右腕右足を切り裂かれた。
そして足に怪我をしたため、着地するときに転倒してしまった。
「そこか!?」
その転倒音に気付き、モリスンはそちらの方を向いた。
すると彼の方が、ジェイの姿を見て驚いた。
「子供だと!? ……お前が私を襲ったのか?」
モリスンが自分の腕に刺さっていたクナイを引き抜き、見せる。
するとジェイは黙って頷いた。
「……これは驚いたな……。まさか子供だったとは……」
「子供で悪かったですね」
ジェイは皮肉を込めてそう言うと、立ち上がりクナイを構える。
足を怪我している為、先ほどのような軽快なステップを使えない状況下、彼はクナイを投げるタイミングを見計らっていた。
するとモリスンも杖を構えなおし、術発動がすぐにでも出来るようにした状態にする。
忍と魔術師の戦いは第二ラウンドを迎えようとしていた……。
49 :
迷いの朝 3:2006/01/13(金) 20:06:01 ID:D+vhvKdF
「何故、私を襲う? 君と私は面識すらないと思ったが?」
「面白い事を言いますね。殺さなければ殺される、それがバトル・ロワイアルの鉄則だと思いましたが?」
そう言って、クナイを投げつけるジェイ。
しかし、クナイの飛ぶ軌道を先読みしてモリスンはこれをあっさり避ける。
「君はこのゲームとやらに乗っているのか!?」
モリスンが短い詠唱で火球を生み出し、ジェイへ向かって飛ばす。
一方のジェイも、足をかばいながらそれを避ける。
「僕を殺そうとしているのだから、あなただって乗っているんじゃないですか!?」
火球を避けた足で、地面に刺したままの刀を回収し、それを構え直した。
すると、今度はモリスンが雷撃を加える。
「私だって出来れば殺したくない!」
「綺麗事ですか!? 聞きたくも無い!」
素早くモリスンの懐に入り、刀を突きつけるジェイ。
しかし、刀はモリスンの杖によって防がれる。
刀と杖による息もつかせぬ攻防が繰り広げられる。
「君だって本当は殺したくないのだろう!?」
「だから言ってるでしょう! ここではそんな綺麗事が通じる訳が――」
「だが、君の目からは、人を殺す覚悟が見受けられない。そうだな……まるで誰かに操られているような――」
「あなたに僕の何が分かると言うんです!?」
その瞬間、動揺したのかジェイが少し押され気味となる。
そのチャンスをモリスンは見逃さなかった。
「分かるわけがなかろう! だが…………」
一気に押してゆくモリスン。
杖はミシミシと悲鳴を上げるが、それでも押し続ける。
「私にはやるべきことがあるのだよ! だから、ここで殺されるわけにはいかない!」
モリスンの杖の渾身の一撃がジェイの刀を吹き飛ばした。
得物を失ったジェイは咄嗟にクナイを取ろうとするが、その手をモリスンが掴む。
そしてそのまま、モリスンはジェイの手をひねり上げた。
「……だから私を、いや他の参加者達も出来れば襲ってほしくはないのだがね」
「それは出来ない相談ですね。僕が生きている限りは……。どうしても止めたいのならいっそ僕のことを殺してくださいよ」
ここで死ねば、呪縛から解放される。そして、あの少女を殺さなくても済む。
それならば死んでもいいか……。それがジェイの心の内だった。
しかし、モリスンは困惑の表情をする。
「だが……しかし……」
いまだにモリスンは殺す事について迷っていた。
ましてや相手は、まだ年端もいっていない少年だ。なおさら躊躇いはある。
そして、そんなモリスンの煮え切らない態度を見ると、渾身の力を込めてひねり上げられた手を振りほどき、モリスンと向かい合うように立つ。
「あなた、そんな風に迷っていると、その“やるべきこと”とやらをする前に死にますよ。あなたが殺さないなら、僕があなたを殺します!」
クナイを再び構えるジェイ。
「…………やはり、戦うしかないのか」
二人は、目に迷いを浮かべながらも対峙した。
時まさに、第二回放送の始まる直前の事であった…………。
50 :
迷いの朝 5:2006/01/13(金) 20:06:37 ID:D+vhvKdF
【ジェイ 生存確認】
状態:迷い 頸部に切傷 全身にあざ、生傷 右腕右足に深めの裂傷(出血多)
所持品:ダーツセット 辞書 クナイ(残り三枚)
※忍刀・紫電は地面に落ちた状態
基本行動方針:ソロンに従う
第一行動方針:モリスンを殺す
第二行動方針:ソロンに従い、ミントを殺す
第三行動方針:ソロンに従い、遭遇した参加者を殺す
第四行動方針:シャーリィを探す
【エドワード・D・モリスン 生存確認】
状態:迷い 全身に裂傷とアザ 背中と左上腕に刺し傷
所持品:魔杖ケイオスハート 割れたリバースドール 煙玉(残り二つ) クナイ(一枚)
基本行動方針:ダオス討伐
第一行動方針:ジェイと戦う
第二行動方針:出来れば無関係の人々は殺したくない
現在位置:E3平原
51 :
第二回放送:2006/01/14(土) 05:39:31 ID:XPQxw5Ic
「おはよう、諸君。昨夜は良く眠れたかな?」
島全体に響き渡る皮肉の混じった声が、参加者たちに朝を告げた。
「未だ夢の中にいる者も居るかもしれないが、これから第二回放送を行う。
寝過ごし等で聞き逃した者は、各自ほかの参加者から情報を奪うなり対処したまえ。」
しかしこの『バトルロワイアル』に参加している限り、彼らには本当の朝を迎える事
はない。来るのは更なる悪夢だけである。
「まずは、禁止エリアだ。早く脱落者を知りたい者もいるだろうが、
こちらも重要な内容なのでよく聞くように。」
なにやら含みのある言葉に、参加者の間で不穏な空気が流れる。
「では発表する、今から三時間後の午前九時よりF8、午後十二時よりB7
午後三時よりA2、第三回の放送がある午後六時よりG5だ。」
禁止エリアの指定場所を参加者に告げた途端、数人の声が首輪に設置されている盗聴器を通して
ミクトランの耳に入った。モニターには禁止エリアに指定したB7とG5には数個の光点が表示されていた。
「そろそろ自分の隠れ家が禁止エリアに指定された者もいるだろう。禁止エリアに踏み込んだ者は
例外なく首輪を爆破される。死にたくなければ設置時間までに動く事だ。無論敵に遭遇する確率は
上がるだろうがな。」
禁止エリアがゲームの流れに影響を与え始めた事が余程嬉しいらしい。
ミクトランは笑いを堪えるように放送を続ける。
「それでは脱落者の発表だ。もう一度言うが、今から発表する者たちの名前の順序は
こちらが勝手に決めたものなので余計な詮索をせぬように。第一回放送から今までに死亡したのは・・・」
禁止エリアの事で騒いでいた連中も含め、参加者の全員が無言になりミクトランの次の言葉を待った。
「マリー・エージェント、ロニ・デュナミス、ゼロス・ワイルダー、藤林しいな
ジーニアス・セイジ、ポプラおばさん、カッシェル、ソロン、ヴェイグ・・・
おっと、彼はまだ『死者』ではなかったなw以上の八名だ。」
ミクトランがわざとらしく訂正をするが、他の参加者の中には『ヴェイグ』という名の誰かが
死者と大して変わらない状態であること悟っている者も居るだろう。
もっとも、脱落者の名を聞いて取り乱してる者がほとんどだろう。
その証拠に盗聴器からの反応は、先ほどの禁止エリアの発表とは比べ物にならないものであった。
「残りは38人、夜だった為か前回より少しペースが落ちているようだ。だが確実に脱落者は増えている。
諸君も彼らの仲間になりたくなければ、率先してゲーム乗ることだ。・・・放送を終わる。」
放送を終えたミクトランは、今後の事を想像した。
今回の放送でゲームの流れが変わるのは明白だった。
隠れ家が禁止エリアとなってしまう者は当然、新たなる隠れ家を求めて動く。
その道中に他の参加者と遭遇し戦闘が始まる。
新たなる隠れ家にたどり着いたとしても、既に他の参加者が潜伏してた為に戦闘が始まる。
その事を予想して、事前に隠れ家となりそうな場所で待ち伏せをする者も出てくるだろう。
同じ事を考えて、別の待ち伏せを狙う者と戦闘が始まる事もある。
あえて設置時間前の禁止エリアへ進む者もいるだろう。
そこでやはり同じ事を考えた者と遭遇し戦闘が始まる事もあるだろう。
そのまま双方の決着がつかないまま禁止エリアの設置時間が来て・・・・。
これからの展開を考えるだけでも、ミクトランは楽しくて仕様がなかった。
52 :
第二回放送:2006/01/14(土) 06:22:50 ID:7cfHuK/W
先走り等により、上の「第二回放送」は無効としてください。
状況が安定し皆さんの許可が出た場合、改訂版を再投下させていただきます。
m(__)m
コレットの気が付いた時、そこは既に屋外ではなかった。
暗くよどんだ空気。
記憶が混乱して、話が前後する。
本能的に警戒信号が発令され、痛む頭を巡らせた。
「ここは…?」
「お?起きたか」
小さな呟きを捉え、体駆の大きな男憶のフィルムが繋がる。
反射的に逃げようとして、自らの異変に気付く。
「……?」
動けない。
今更、自分が倒れてすらいなかった事に思い至った。
慌てて自分と、周りを見渡す。
両手は拘束。
どこかで見たような手枷が己の両手首を戒め、壁に突き出た金具にひっかけられている。
要するに、床に座り込み両手を上げた状態。
何故こんなに都合良く金具なんて有るのか。
答えは意外とすぐに見付かった。
視界に入る壁々は、一定の間隔毎に金具がついていた。
そして、それらには重々しい武器やら鎖に連なる鉄球、金具がそのまま拘束具となっていたり。
「ここがどこだか解るか?」
コングマンが、ひどく楽し気に言った。
コレッととて馬鹿ではない。
予感は、確信に変わる。
──拷問部屋。
「私を…どうするつもりですか!」
怯んではいけない。
クレスを守りたい一心に抗いこそはしなかったが、素直に殺されるわけにはいかない。
まだ、ロイドにだって会えていないのだ。
語気を強め、キッと睨みつける。
それが、ますます彼の嗜虐心を扇るなどと、コレットは知らない。
「さぁ…どうしてやろうか」
彼の目が獣、いや、モンスターのようにギラリと光る。
「…うぁッ!?」
いきなり、屈強な手に首を掴まれ、気道が塞がれた。
「っ…く、…ぁ…っ」
コレットの細い首は、折れるのではないかと危惧するほどに締め付けられる。
目を見開いて、口をぱくぱくさせて酸素を求める姿。
それを見て、男は恍惚と目を細める。
──…まだ、殺さねぇ。
玩具をすぐに手放す気はない。
もっともっと、いたぶってからで良い。
少女の目が生理的涙で潤み出す頃、ようやくコングマンは手を離した。
「…っ、げほっ…!」
喉を解放され、咳き込み、喘ぐように息をする。
口端から粘性のある雫が滴り、肩が激しく上下している。
白い肌は上気し、美しい金髪は乱れた。
それでも、濡れた瞳は決して命乞いをしない。
「…面白ぇ」
微かな呟きに、ビクリと肩が震える。
コレットはそれでも声を荒げた。
「私…はっ、まだ死ぬわけにはいかないんです!」
──皆のためにも。
ぐっ、とこみあげてきた涙を堪える。
その台詞に益々邪悪にコングマンが笑み、舐めるように彼女を観察する。
そして、その首元に光る輝石に気付く。
「おい、これは何だ?」
「…っ!?触らないで下さ…っ!」
「やめろ!!」
怒声と、騒音。
不協和音が重装な扉を開く。
突然のそれに、二人の時が止まる。
先にその流れを取り戻したのはコレットだった。
コングマンの肩越しに、乱入者の姿を捉えた。
目をいっぱいに見開き、一筋涙が伝う。
「クレスさん…っ!」
よかった。
生きていた。
本当によかった。
その声に重なるように、コングマンが怒気露に振り向く。
「邪魔…」
クレスは静かに剣を構える。
「すんじゃねぇぇぇえっ!」
「やめてぇっ!」
コレットの悲痛な声とほぼ同時に、凄まじい勢いで巨体が牙を剥く。
クレスはすっと身を屈めると、突進してくる相手に向かって走る。
振り上げられた拳のすぐ下を抜け、コレットをかばうように立つ。
振り上げられた大きな拳は、重力に従って落ち、壁、床を破壊する。
ゆらり、と。
こちらを振り向いたコングマンは、怒りに震える。
「テメェ…っ」
狂鬼。
まさに、今の彼はそれそのものだ。
クレスは思う。
こんな時、仲間が…ミントがいてくれたら。
目は相変わらず相手を睨みつけたまま、コレットにだけ聞こえるようにそっと囁いた。
「…補助魔法は…使えるかい?」
「え…?あ、はい」
コレットは一瞬きょとんとし、すぐに頷く。
「お願いしていいかな?」
「え、でも―…」
攻撃の方でなくて良いのか、と口を開きかけ、
「そっちの方が、疲れないと思うから。
それに…」
「いつまで余裕こいてんだぁっ!」
雄叫びにも近い声に、会話は遮断され。
「君は、出来たら人を傷付けたくないだろ?」
そして、ようやく彼女は僅かに表情を和らげて頷いた。
「……御許に…」
闘いの気迫に掻き消される、小さな声。
クレスは剣を構え。
途端コングマンが再び向かってくる。
とっさに横に飛ぶと、振り下ろす拳は不意に止まってよろけた。
どうやらコレットに当てる気は無いらしい。
よろけたその筋肉に、ダマスクスソードを鋭く突き出す。
「秋沙雨!!」
「…っ!」
何も着ていない上半身に、致命傷にはならない裂傷がいくつも出来る。
「利くかぁっ!!」
痛みを無視するように、太い腕で薙払うように一閃。
弾かれた剣が、それを持つ手が、ビリビリと震える。
コングマンが肉薄し、間合いに入り込み、
コレットは慌てていた。
早く呪文を唱えねばと。
早く力にならねばと。
迷惑をかけたくないからだ。
そして彼女は忘れていた。
自分が、とてつもないドジっ娘だという事を。
結果。
「ホーリージャッジメント!!」
詠唱を間違えていた事に、発動してから気付く。
唇が勝手に、慣れない呪文を形づくり。
「ぐわあぁッ!!」
数多の光が殺傷力を持ち、聖なる光線となってコングマンの右肩、太股、手の甲を貫いた。
クレスは目を瞬く。
これが補助魔法だというのか?
恐る恐るコレットを見、一番驚いているのがどうやら彼女だと気付く。
コレットはぎこちなく笑って、
「間違えちゃった…?」
繕うように、舌を出した。
コングマンの殺気が、ゆらりと空気を震わせた。
【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:左手に銃創(止血)、TP消費(小) 冷静、静かな闘志
所持品:ダマスクスソード、バクショウダケ 、忍刀血桜
基本行動方針:仲間と最後まで生き残る
第一行動方針:コレットを救い出す
第二行動方針:ミント、アーチェ、モリスンと合流
第三行動方針:サレと合流
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
【マイティ・コングマン 生存確認】
状態:HP1/4、右肩貫通、左大腿裂傷、左手の甲貫通、全身に小さな切傷、サディスティック、激情
所持品:レアガントレット、セレスティマント、手枷の鍵
基本行動方針:闘志のある者と闘い、倒す(強弱不問)
第一行動方針:コレットを虐めて愉しむ
第二行動方針:クレスを倒す
第三行動方針:出会った相手は倒す
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
【コレット・ブルーネル 生存確認】
状態:TP半分、右肩に銃創(止血)、発熱、座り込み両手上げて手枷で拘束、気付いていないが大疲労
所持品:なし(コングマンにより鞄ごと没収)
基本行動方針:取り敢えず生き残る
第一行動方針:クレスを守る
第二行動方針:仲間(Sキャラ及びクレスとサレ)との合流
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
そういえば誰かの叫び声を聞いた気がする。
孤児院のみんなと似たような声だったな。じゃあ俺より年下か。
きっと怖くて術を使ったんだろうな。声が凄く張り詰めてたような記憶がある。
まだあどけなさを持つ金髪の少年、カイルは先程の出来事を思い出していた。
この洞窟、今は普通の洞窟とはいえ、何となく湿っぽい。
気持ちまで湿っぽくなるような気がしたが、今はそんな時じゃないと自分に言い聞かせた。
そして無理矢理にでも別の考えに持っていく。
後ろは自分が歩いてきた道だから、崖下に繋がっている筈だ。
潮風が流れ込んでくるからかな、と思ったが、海に繋がる出口は自分が開けたばかり。
なら最初からか、という到って平凡かつ短絡的な答えに落ち着いた。
彼はランタンを片手に歩き続けた。
どうやら自分が倒れていた場所は別れ道のすぐ近くだったようで、歩いてすぐ道が二手に分かれていた。
しかしカイルはそのまま真っ直ぐ進んでいた。
今いる場所は、また更に二手に道が別れている場所…スタン達が拠点に使っていた部屋から、少し奥にある小部屋近くの通路だ。
途中、何かが燃えたような跡と僅かな臭いがあったが、別段気にかけなかった。
更にカイルは部屋に入り南下していく。
そして中央部の部屋に入った途端──
轟音が響いた。
地は震え、衝撃の大きさを物語っている。
天井にぶらさがっている鍾乳洞特有の岩は小さくピシピシと音を立てていた。
他に誰かいる…自分を襲った子か、それとも他の誰かか。
揺れが収まるのと引き換えに、カイルの身に一気に警戒が走る。
慎重に歩いていき、中央部を越えて少ししたとき、彼は思わず壁に身を寄せ、息を潜めた。
(…人がいるっ!?)
人の声がしたのだ。
念のためランタンの明かりを消し、声が聞こえる耳を澄ませる。
男…それも二人。
しかし何故だろう、どことなく聞き覚えがあるのは。
カイルはゆっくりと、音を立てぬように身を乗り出し顔を覗かせる。
見えてきた光景は、まさしく驚愕と予想外だった。
ドレッドの赤い髪に、がっちりとした体格によく似合っている斧。
長く青い髪に、柱を思わせるような太く巨大で刃のついた兵器。
彼の脳裏に音速の勢いで男達の名が浮かぶ。
(バルバトスに…最初に人を殺してた、確かマグニス! しかも凄い武器持ってる…)
まさかこんな所にいるなんて。
バルバトスとあの男が組んでるなんて…!
今まで幸運に恵まれてきた自分の運を、初めて呪った。
この先はどうやら行き止まりのようで、今は止まっている相手も、いずれこちらに向かって歩いて来るだろう。
このまま行けば鉢合わせになることは確実だ。
正直言って、今の状態で勝てる自信はない。武器という武器もなく、せめてなりそうなのは、この鍋のフタのみ。
それに比べて、相手は斧に兵器。得意な武器かは分からないが、あのバルバトスのこと、
きっと使いこなしてくる筈だ。
逃げるか、どうする…どうする!?
その時、カイルの視界に何かが入った。
それは地に横になり、ぴくりとも動かず倒れている少年の姿だった。
ぴくりとも動かず…
倒れている少年の姿…
た
おれ
て
いるしょ
う
ねん
の
すが
た。
「お前らーーーーーッ!!!」
気付けば、走り出していた。
武器も何もないのに、死んでいる少年の姿を見た途端、自分の中で何かが切れた。
立ち向かうための武器があるかないかなんて関係なかった。
「ん…っ!?」
いきなり前方から叫び突撃してくる少年の姿を見て、マグニスが声を挙げる。
また新たな獲物が来た、と邪悪な笑みを浮かべながら。
「貴様…カイル・デュナミス! これは面白い」バルバトスも同様に声を挙げる。
自らの渇きを潤してくれる戦士が現れた、と心沸き上がる笑みを浮かべながら。
カイルは盾を前に二人の男に突撃した。難なく二人は避ける。
体勢を崩すことなくブレーキをかけ、カイルは少年の前に立つ。
ちらりと一瞥する。少年の額からは血が流れ、血の気は失せていた。
前方の男をキッと睨みつける。
「お前らが…お前らがこの子を殺したのかッ!!?」
激昂するカイルとは対照的に、二人とも静かだった。
そしてマグニスは言う。
「だからどうした?」
カイルは後ろにあった手頃で鋭利な石柱を取り、再び向かっていく。
所々に赤いものが付着していたが、気にしなかった。
立ちはだかるのは、やはりバルバトス。
手に持つ大きな兵器を難なく振るい、一降りでカイルの持つ石を簡単に砕く。
そしてそのまま刃の装着された銃剣をカイルへと突き出す。
カイルは体を反らし避けるが、腹部の出る服が微かに裂け、更に突き飛ばされる。
壁に叩きつけられ全身が痛む。露出している腹部に傷を負わなかったのがせめてもの幸いか。
素早く立ち上がり、余裕釈々なバルバトスを見つめる。
マグニスは相手をバルバトスに任せたのか、後方で笑みを殺しつつ高みの見物を決め込んでいる。
その前に立っているのがバルバトスである。
「ロクな武器も持たず丸腰で来るとはな。武器もなくこの俺に勝てると思うか?」
「くっ…!」
憎き敵の言葉は真実だった。
状況は圧倒的にこちらが不利。相手は二人、備える実力も高い。
状況を覆すようなアイテムもない。
じりじりと後退りをすれば、バルバトスもじりじりと前へ進む。
後ろに存在するのは銀髪の少年の亡骸と壁。逃げ場は、ない。
その時、自分の足に何かがぶつかった。カイルは首を捻りそれを見る。
当然その隙をバルバトスを見逃さない!
「ぶるあぁぁぁぁあッ!!!」
榴弾砲を振るうバルバトスの存在に気付いたカイルは、咄嗟に「何か」を拾い、通路側に避ける。
縦に振られた榴弾砲はカイルという存在を捉らえることが出来ず、その代わり少年の死体という存在を捉らえる。
バキッという音と、グチャッという音が聞こえた。
カイルは思わず顔を沈痛に染める。しかしそれも一瞬、彼は直ぐ自分が手にした「何か」を確認する。
それは妙に軽い支給品袋(多分少年の物だろう)と、禍々しい形状のケンダマだった。
とことん運に見放されたらしい。
今更、敵に向かっていった勇気に、誇りと後悔を抱いた。
だが、今後ろの通路に逃げ込んだらどうなる?
バルバトスは晶術も使える。背を見せて逃げるなんて危険過ぎる。
カイルは眼光を強くし、袋を首から肩にかけ、右手に鍋のフタを、左手にケンダマ…魔玩ビシャスコアを構えた。
「ケンダマに鍋蓋だと…? 笑わせてくれる!」
バルバトスやマグニスは笑っているが、カイル本人は至って真剣だった。
この武器なら、油断を突くことだって出来る。上手くいけば逃げるチャンスも作れる。
失敗すればこいつらのこと、待っているのは確実に死だ。
生か死か、まさしく紙一重の攻防。
カイルは走った。狙いはかつて父の命を奪った、バルバトス・ゲーティアただ一人。
相手も武器を構え、戦おうとする少年に向かって走り出す。
両者は激突──する筈だった。
なぜなら、元々カイルは一発で終わらせるつもりだったからである。
バルバトスが得意とするのは斧。
今はその斧はなく兵器を手にしているが、何の遜色もなく使いこなしている。
だが、考えてみれば基本斧は大振りする…つまりは威力が高い分、一発の隙が大きいのだ。
それは武器が変わったとしても、今の大柄な榴弾砲では変わらない。
それに比べればケンダマは軽く小回りが利く。技術も必要だが、それは玉を使った攻撃の場合。
カイルが手にするビシャスコアは、玉が本来ある場所には嵌められてなかった。
バルバトスの横薙ぎを飛躍し避けると、カイルは逆手にケンダマを持ち変え、バルバトスへと迫る!
「これでも…喰らえぇッ!!」
ビシャスコアの、本来玉が嵌められている先を向ける。
ビシャスコアの先は元々鋭い。おまけに命中能力を鈍らせる力があるとはいえ、至近距離なら上げるも下げるもない。
まさか本当にケンダマで攻撃してくると思わなかったのか、バルバトスは瞬時の判断が遅れ、視界に剣先が迫る。
そして──
「ぐあぁッ!!!」
バルバトスの右目にビシャスコアが突き刺さる!
流石の彼も痛みの叫びを挙げ、吠える。
カイルはすぐにビシャスコアを抜き、バルバトスの動きが止まっている隙に後ろの通路へと逃げ込む。
──逃げるなら今しかない!
彼の野性のカンがそう告げていた。
彼は全速力で駆ける。
もうどこに進んでいるかなんて気にしていなかった。
しかし、彼の逃走は突如遮られた。
何もない地からマグマが噴き上げてきたのだ。
(この技…いや術は…ッ!?)
体が空中に放り出される。
その先にあるのは、天井の鍾乳石だ。
(このままじゃ…串刺しになる!!)
何とかカイルは直撃を免れようと体を捻らせる。
しかしここは空中、地に立っている時よりも遥かに難しい。
それでも何とか動かす。右腕に鍾乳石が突き刺さった。
「うあぁぁぁぁあッ!!!」
激しい痛みに叫びを挙げる。声量がバルバトスより大きく聞こえたのは、強く痛みからか、通路で反響するからか。
ずぷっという音と共に腕は鍾乳石から離れ、体はやっと落ちていく。
右腕が使えないため、受身も取れずもろに打ち付けられた。
しかし胴に突き刺さっていたら、間違いなく致命傷だっただろう。
死ななかっただけまだ幸運かもしれない。
足もマグマによる火傷で動かすだけで痛んだ。
「…つぅッ!!」
あらゆる所からの痛みに思わず声を挙げる。
後方から聞こえるは重なった足音。
逃げなきゃ、逃げるんだ。追い着かれたら…!
痛む体を起こし、奥へと行こうとする。
──だが、
「弱い…弱いぞ。誰も俺を満足させる奴はいないのか!?」
声がすぐ近くから聞こえた。もう追い着かれているのだ。
先程の術、それは見兼ねたマグニスが発動した炎系中級魔術・イラプションだった。
術はある程度、目標が認識できる位の距離にいなくてはならない。
いくらカイルが脱兎の如く走り去ったとはいえ、二人もすぐ追い掛けていたのである。
カイルは振り返った。
そこには、右目から血が流れているのにも関わらず、不敵に笑っているバルバトスがいた。
後方からはマグニスも歩いてきていた。
カイルの澄んだ碧眼は微かな絶望に染まる。
「英雄スタン・エルロンも俺の前から消えた…親子二代、俺から逃げ敗れるとはな!」
押さえる右腕から垂れる血のポタポタという音が、やけに静かな洞窟内に行き渡っていた中、
それを破るバルバトスの言葉はカイルを更に追い詰めた。
ここに父がいたという事実。
「敗れた」という信じられない話。
自然とカイルを焦らせ、口調を早口にしていた。
「父さん…父さんと戦ったのか!? 父さんはどこに!」
バルバトスは手を肩へと持っていく。
親指を立て、マグニスしかいない後方に向ける。
口元に笑みを浮かべて。
どういう意味だ、とカイルは小さく呟く。
バルバトスの指す後ろ…ここからは一本道だったから、さっきまで戦っていた場所を示しているのだろうか、
そこは確かに行き止まりだった。
しかし自分やバルバトス達、倒れていた少年以外には誰もいなかった。
そういえば、あの部屋には不自然に崩れた場所があったような気がする──…
少年に1つの仮説が生まれる。
それは彼のある記憶が証拠となって、確かなものとなっていく。
途中で聞こえた轟音。
もし、あの音がバルバトスの持つ兵器によるもので、あれで壁が崩されて、あの下に父がいるとしたら…?
出来過ぎた仮説だった。出来過ぎた故に、真実味を持っていた。
「嘘だ…嘘だ。嘘だッ!!」
カイルは狼狽した。
それを見てバルバトスは楽しむように笑った。
「貴様の目は節穴か? 真実から目を背けるなどは、弱者のすること」
そう言うと銃剣をカイルへと向ける。
元々これは榴弾砲に両断したグラディウスを装着したもの。
威力の高さは先刻彼も目にしている、今は亡き少年ジーニアス・セイジの仲間…藤林しいなの体を吹き飛ばしたことと、
洞窟の岩壁を砕き崩したことで証明されている。
それがカイルに向けられている。
絶望に染まった彼の瞳には、それは写っていなかった。
──父さんは死んだ。死んだ、死んだ…
「…誰が…」
…嘘だッ!!
父さんがそんな簡単に死ぬもんか!!
「誰がお前の言うことなんか信じるもんか!」
カイルの瞳に光が戻る。
彼の、父の生存を信じる心は決して挫かれなかった。
カイルは動く左手で鍋のフタを持ち、フリスビーのように投げつける。
行き先は、先程の鍾乳石。
地が揺れた時と今さっき刺さった時に、鍾乳石の根本が脆くなっていると気付いたのだ。
鍋のフタが根本に命中すると、予想通り鍾乳石は落下してきた。
少しでも目くらましになれ、と願いながらカイルは再び逃走を始めた。
薄暗いため、カイルが何を狙いに投げたか分からなかった二人は、突然天井から降ってきた鍾乳石に驚いた。
狙いが分かったとしても時既に遅し。
「ぐっ…小細工をォオ!!」
一降りで砕いた石の先には、既にカイルの姿はなかった。
バルバトスは叫んだ。
英雄というのも所詮は自称、例え英雄の息子であっても、親が腑抜けなら子も腑抜けか!
名声に溺れる愚かな奴らめが!
行き場のない怒りに、思わず壁に武器を叩きつけようとする…が、
「…い、あ…い…ぉ!」
声が聞こえたのだ。
くぐもってはいたが、それはきっと遠いからだろう。
よく見れば、自分が今いる場所は二手に分かれている。
声が聞こえてきたのはそのまま正面からだ。
「逃がさねぇ!!」
バルバトスは直ぐに走り出した。マグニスもそれを追い掛ける。
途中、支給品袋が落ちていた。やはりこちらに逃げたのか、とバルバトスは更に速度を上げる。
途中で道は水路となり、水を弾く音を立てて走り続けた。
そして行き着いた先は──
「海…だと!?」
そう、海だった。暗く果てしない海が、二人の目の前に広がっていた。
「はっ、ヤケになって飛び込んだのか?」
マグニスの言葉通り、ここにカイルはいない。
海に飛び込んだとしか考えられなかった。
海は暗い。見つけるのは困難だろう。
「……」
しかし、バルバトスはどこか腑に落ちなかった。
違和感があるのだ。
しかし霧に包まれたようなそれは見つかる筈もなく、胸に秘められたままだった。
仕方なく来た道を戻る。
冷えた水の通う水路を歩いている途中、唐突にバルバトスは違和感の正体に気付いた。
無言で駆け出す。訳の分からぬマグニスが追い掛け見たのは、支給品袋を漁るバルバトスの姿だった。
「やられた…ッ!!」
手に握れているのは人形…何かのフィギュアのようだった。
マグニスもそれを見てはっとする。
「おい、それは!」
「ああ…。この荷物は奴のじゃない。あの殺したガキのものだ」
二人はこのフィギュアに見覚えがあったのだ。
それはカイルが現れる前のこと。
スタン達にジェノサイドブレイバーを撃ち込んだ後、二人は死んだジーニアスの遺留品を確認したのだ。
しかし中に入っていた支給品は男の人形…アビシオンのフィギュアしか入ってなかった。
使い物にならない、と二人は食料品と水だけを抜き取り、残りは袋に入れたまま放置していたのである。
そこにカイルが現れ、袋を持ち逃走した。
その結果がこれである。
バルバトスはフィギュアの後ろにスイッチがあることに気付くと、押してみた。
『甘い、甘いぞぉ!』
先程聞こえた声の主だった。
声を聞いたのは初めてだったため、これに気付かなかった。
そしてバルバトスが抱いた違和感。
それは水の音だった。
自分達は海に行く途中、水路を通ってきた。
しかし水路に入る前に水を弾く音は聞こえてこなかったのである。
カイルが前方を走っているのなら、間違いなく水の音は聞こえた筈だ。
つまり──カイルは、この道を通っていない。
「カイル…逃げるだと? 親子揃ってこんなにも腑抜けだとはな…!」
フィギュアを握る手に力を込めると、バキッという音と共に、フィギュアは壊れた。
「はぁっ、はぁっ…」
カイルは痛みを堪え走り続け、ようやく外に出ることが出来た。
逃げる途中、少しでも行方をごまかそうとあの子の支給品袋を投げたが、上手くいっただろうか。
まさか投げた衝撃でフィギュアのスイッチが入ったなどと考えもせず、カイルはこう思った。
久し振りに外に出てきたが、気付けばもう真っ暗だ。
もう少し経てば逆に明るくなるのも近いんじゃないか、という時間帯だろう。
漆黒の空はカイルの心に再び不安を落とした。
「嘘だ…嘘だよね、父さん?」
バルバトスは父さんが…スタンがあの瓦礫の下にいると言っていた。
あんなのに潰されたら一たまりもない。
バルバトスの言葉が真実だとしたら…母さんだけじゃなく、父さんまで失うのか。
そんなの嫌だ。
せっかく会えると思ってたのに、一度も会えないで居なくなるなんて。
父さんと母さんが居なくなるなんて、俺は…。
──ふと、ある言葉を思い出した。
『ここであんたの両親が死ぬと、この後生まれてくるはずだったあんたも生まれない。つまり、消滅するってこと』
18年前のダイクロフトで聞いた、ハロルドの言葉だ。
あの時は父さん達が本来いないバルバトスに襲われていて、もし負けて歴史が変わるようなことがあったら…って。
…ちょっと待て。
俺がここに居るってことは、父さんは生きてるってことじゃないか!
カイルに一筋の希望が生まれる。
自分が生きていること。単純ではあるが、それが父が生存する何よりの証拠。
そうだ、父さんは生きてる。生きてるんだ!
──ひょっとしたら彼の父、スタンは今にも息絶えそうな状態なのかもしれないし、
そもそもこの理不尽かつ不合理な『バトル・ロワイアル』の中ではそのような存在の因果など無いのかもしれない。
しかしカイルにはそんな考えまでには至らなかった。
さて、これからどうしようか。
一気に希望に満ちた、いつもの心で考えた。
真っ先に考えたのは、父の安否。
今すぐにでも確認したいけど、近くにはバルバトスとマグニスがいる。
みすみす敵の近くに行く訳にはいかない…悔やまれるが、今は諦めることにした。
次に考えたのは、リアラとの再会。
崖から落ちる前、確かにリアラの姿を見た。
リアラは無事かな、俺を襲った奴と戦ってなきゃいいんだけど…。
カイルは大きく頷く。行き先は決まった。
リアラがいた崖に向かおう。
まだそこに居るとは思わないけど、何か痕跡があるかもしれない。
それにここにいても、いずれバルバトス達が追い着いてくる。
早く離れないと。そう思うとカイルの行動は早かった。
左手に握るケンダマを見る。
これはあの子の形見だ。大事にしないと。
自らの命を救ってくれた玩具を強く握り締めた。
ふらつき、痛む体でカイルは前に歩き出した。
凶の星のように暗い光をたたえる玉が繋がる、魔玩ビシャスコアをその手に握って…。
【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:全身に打撲、擦り傷、足に火傷、右腕に刺し傷
所持品:魔玩ビシャスコア、フォースリング、ラビッドシンボル
第一行動方針:リアラとの再会
第二行動方針:父との再会
第三行動方針:仲間との合流
現在位置:G3 北西の平原からG2へ移動
【バルバトス 生存確認】
状態:TP中消費、右目負傷(視力に影響あり)
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(弾丸残り2発。一射ごとに要再装填) クローナシンボル エクスフィア
第一行動方針:マグニスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する。特に「英雄」の抹殺を最優先
第二行動方針:マグニスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
現在位置:G3の洞窟内部 崖下に繋がる通路
【マグニス 生存確認】
状態:首筋に痛み 風の導術による裂傷 顔に切り傷(共に出血は停止。処置済み) 上半身に軽い火傷 TP消費(小)
所持品:オーガアクス ピヨチェック
第一行動方針:バルバトスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する。
第二行動方針:バルバトスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
第三行動方針:バルバトスが興味深い
現在位置:G3の洞窟内部 崖下に繋がる通路
すみませんが訂正させて頂きますorz
「一歩先の未来 1」の最後の
途中、何かが燃えたような跡と僅かな臭いがあったが、別段気にかけなかった。
↓
途中、何かが燃えたような跡を見つけた。
先程のような煙い臭いも強く感じられ、これが発生源だと理解した。
ここに誰かがいた。もしかしたらまだ奥にいるかもしれない。
に修正お願いします。
以後気をつけます…。
連続で申し訳ありません。
「一歩先の未来」ですがかなりの矛盾が見つかったので、修正も投下しましたが無効でお願いします。
私の不注意から大量に容量を消費してしまい、本当に申し訳ありませんでした。
78 :
壊れた天才1:2006/01/14(土) 23:18:38 ID:QDoBHNcY
倒れたランプの灯りがもともとは空洞の中を照らしていた。
もともとひとつに繋がっていた洞窟は爆撃によって崩れ、完全に二つに分断されていた。
そんな中に、金髪の男が気を失って横たわっていた。
男の名前はスタン。
襲撃者のマグニスとバルバトスを相手に圧倒的な力の差を見せ付けられた挙句、無残に敗れ去ってしまったのだった。
そんな彼の傍で、立ち尽くしているひとつの影があった…。
それから数時間がたって、スタンは意識を取り戻した。
勢いよく起き上がると身体のところどころに鋭い痛みや、焼け付くような痛みを感じた。
自分の身体を改めてみてみると、大きな火傷や無数の擦り傷ができていた。
痛みに顔をしかめながらも起き上がって辺りを見回してみると、土砂の中から腕が伸びていた。
それを見た彼ははっきりと血の気が引いていくことがわかった。
その腕は、気を失うまであの二人と共に戦っていたハロルド=ベルセリオスのものだった。
もう相当な時間が経っているのは分かっている。だが、もしかしたらまだ彼女は生きているかもしれない。
身体の痛みを忘れて、無我夢中で駆け寄る。
そのときだった。
いきなりスタンの目の前の土砂が弾けとんだ。
彼の目に飛び込んできたのは、砂だらけになったハロルドだった。
「やっほー、やっと起きた〜!?」
なぜか、妙にハイテンションになっている。
あまりのことにスタンの頭の中が真っ白になる。
一瞬、辺りを完全に静寂が包んだ。
79 :
壊れた天才2:2006/01/14(土) 23:19:29 ID:QDoBHNcY
ハロルドが不思議そうにしていると、スタンは、ようやく口を開いた。
「お前、一体何してるんだ…?」
「何って、悪ふざけよ☆ あんた、まだ寝ぼけてるの?」
悪ふざけ? 全く、本当にふざけてる…。
何でこいつはこんなことができるんだ?
スタンは彼女のあまりにも場違いな行動に、ひどい不快感を覚えた。
そして、彼は彼女のことが良くわからなくなっていった。
「一体どういうつもりだ?」
スタンはさっきよりも強い口調で尋ねた。
「どういうつもりって言われてもねぇ。こんな状況になっちゃったし、この場でも和ませようかと…」
ハロルドが言い終わる前に、スタンは動いていた。
胸ぐらをつかんで、彼女の身体を乱暴に持ち上げる。
「ふざけるな! 目の前で人が、それもあんな小さい子が殺されたんだぞ!?
何でそんなマネができるんだよ!!」
スタンはそういってすぐに気付いた。
ハロルドがあまりにもだるそうにしていることに…。
「あんた、何熱くなってるのよ?」
この言葉を聞いた瞬間、スタンの中で何かが弾けた。
「お前はなんとも思わないのか!?
それとも、お前は最初っからそんなやつだったのかよ!?」
怒りに任せて叫ぶスタン。
胸ぐらをつかんでいる手はより一層硬く握られる。
80 :
壊れた天才3:2006/01/14(土) 23:20:11 ID:QDoBHNcY
しかし、ハロルドはそんな彼に向けてひどく冷静な口調で言った。
「あんた、このゲームを何だと思ってるの?
これははじめからこうなることを意図して開催されたリアルなサバイバルゲームなのよ。
いまさら目の前で人一人殺されたからって、何がどうなるってのよ?」
あまりにも冷たい言い方をするハロルドに、スタンは言葉を失ってしまった。
傍から見れば彼の勢いは納まったように見えるが、彼の心中では怒りが膨れ上がっていた。
「それに、今回のことはあの子が、確かジーニアスとかいったかしら。
そいつが勝手にあたしの罠に引っかかったのがそもそもの原因で、あたしは悪くないわ。
罠に引っかかったやつのせいで罠を仕掛けた人が咎められるのって、ありえないでしょ」
ハロルドはそういうと声を上げて笑い始めた。
それがスタンの昂ぶった心を逆撫でする。
信じられない…。
初めて会ったときはもっとまともなやつだと思っていたのに…。
いや、こいつはもともとこういうやつだったのだ。
あのときもそうだったじゃないか。
こいつは、ジーニアスみたいな小さな子供が罠にかかってはしゃいでいた。
おまけに今も…こんなことを…!
こんな最低なやつを仲間だと思っていた自分を恥ずかしく思った。
もう、こんなやつとは一緒にいたくないし、いられない!!
スタンは笑い続ける彼女を突き飛ばした。
そして近くに転がっていたディフェンサーを手に取り、鞘に収めた。
「何するのよ?」
耳障りな声が聞こえる。だが、こんなやつに答える気はもうさらさらない。
ザックを拾い上げると、彼は無言で洞窟の出口を目指して歩き始めた。
「一人で行くつもり? ま、せいぜいのたれ死なないようにがんばりなさい」
スタンが立ち止まる。
まだこいつはこんなふざけたことをぬかすのか…。
無言で立ち去るつもりだったが、どうにも腹の虫が収まらない。
振り向いて、ハロルドを見下すように睨む。
「お前みたいな最低なやつこそ、とっととどっかでのたれ死んじまえ!!」
罵声を吐き出して、それから再び前を向いて歩を進めていった。
しばらくして、ランプの光と共に彼の姿は完全に闇に消えていった。
スタンの姿が完全に見えなくなってから、ハロルドはうつむいた。
先ほどまでの彼女からは想像も付かないような、真剣な表情になっていた。
81 :
壊れた天才4:2006/01/14(土) 23:20:52 ID:QDoBHNcY
あれは数時間前。
ハロルドは目覚めたとき、ここは地獄だと、真面目にそう思った。
光のない、完全な闇の世界は彼女が本当に死んだものだと錯覚させるほどに深く、静かだったからだ。
「罰が当たったのね。あたしが、あたしさえしっかりしていれば、みんなを危険にも巻き込まなかったし、
それに、あの子は…ジーニアスはあの二人に殺されることなんてなかっただろうし…」
そこまで言って、彼女は自分の頬を伝うものがあることに気付いた。
まさか、地獄でも普通に涙なんか流れるとは…。これは興味深いデータだ…。
そんなことでも考えないとやりきれない気持ちになる。
そんな時、近くから呻き声が聞こえた。
その声は、彼女がこの島にやってきてからもっとも長く聞いていたものであった。
もしかして、まだあたしって生きている?
それに気付いたとき、急に身体中に痛みが走った。
「痛っ! これだけ痛けりゃ本当に生きてるみたいね…」
灯りをともそうとするが、近くにザックがないことに気付いた。
あの爆撃で崩れた土砂の下に埋もれてしまったかもしれないと、焦って周りを探そうと立ち上がろうとするが、
想像以上にダメージが大きかったらしい。
身体中に言いようのない痛みが走る。
「よくさっきまでこんな痛みを感じなかったわね…」
そう言いながら、まず最初に自分自身に回復術のキュアをかけることにした。
82 :
壊れた天才5:2006/01/14(土) 23:21:28 ID:QDoBHNcY
2,3回ほど術を重ねると、先ほどまでの激痛がそれなりに治まってきた。
とりあえず動けるようにはなったので、手探りでザックを探す。
しばらくして、ひとつのザックに手がぶつかった。
すぐさまそのザックを掴み取ると、中身をごそごそと探った。
植物やらなにやらが手に当たることから、どうやらこれは自分のザックのようだ。
彼女は中からランプを引っ張り出したが、ひとつ重要なことに気付いた。
着火装置がないのだ。罠を仕掛けたときに自分のとミントのを使っていたことを思い出す。
共に行動する機会が多かったスタンのザックに着火器具を残しておいて、正解だったと思った。
改めて手探りでザックを探す。
再び土砂とは違うものが手に当たった。
ザックの中をごそごそと探すと、ハロルドのザックよりも入っているものがないのですぐに目的のものが見つかった。
それを利用して、ランプに灯りをつけるとようやく今の状況が把握できた。
辺りの壁や天井は砕け散り、先ほどまで通路であったはずのところは完全に土砂で埋もれていたのだ。
ふと自分の方を見てみると、服は焼け焦げ、あちらこちらから肌が見えていた。
こういえば大胆な服装をしているにも聞こえるが、そこから除く肌の色は白ではなく、妙な褐色をしていた。
どうやら、かなりの火傷を負っていたようだ。
それから、スタンの姿を捜すとすぐに見つかった。
彼に駆け寄ると自分よりもひどい状態にあることが一目で分かった。
そんな姿を見て、彼女の心は痛んだ。
あたしが、あたしが彼らを…。
再びこみ上げてくるものがある。目頭が熱くなるのを抑えて、彼女はスタンに術をかけ始めた。
83 :
壊れた天才6:2006/01/14(土) 23:22:31 ID:QDoBHNcY
はじめに目立っていた火傷を大体治し、それからあの二人に打撃をもらっていた部分に術をかけ始めた。
相当な衝撃だったのだろう、殴られていたところの骨は綺麗に折られていた。
何回か、術を重ねて折れていた骨を完全に治した。
まだ、火傷などが治りきってはいないがこれ以上の術の使用は行動に支障をきたすと思い、
彼女は持っていたグミ彼に与えた。
それでも、彼の身体は完全には治らなかった。
腕にはまだ火傷が残っており、全身には多くの擦り傷がある。
それだけ彼の傷が酷かったということだろう。
目の前の事実を思い知らされてハロルドは、またあたしのせいだ…と思った。
「もうあなたたちを巻き込みたくない。あたしのせいで誰かが殺されるなんてもうごめんよ」
思っていたことが口からこぼれてしまった。
そして、
「あたしは、あなたたちとはもう一緒にいられない」
彼女は静かに呟いた。
そしてこの言葉と共に、彼女はもうひとつ、あることを決意したのであった。
84 :
壊れた天才7:2006/01/14(土) 23:23:08 ID:QDoBHNcY
そして、今に至る。
先ほどの彼女のふざけた行動は、全てスタンが自分から離れるように仕向けるためのものだった。
(もちろん、ずっと土の中に埋まっていたわけではないが)
「最低なやつ、か。全くその通りね」
自嘲気味に呟く。
今でもなお頭の中ではずっとあたしが…、あたしが…と終わることなく響き続けていた。
「あたしがあの子を殺した…」
目を閉じると、勝手にあのときの光景が浮かんできた。
闇に包まれたあの子、ズタズタになったその頭部を貫く石柱、マグニスの挙げた歓喜の声…。
そこまで来ると、また最初から繰り返される。
頭が痛い。割れるように…。
しかし、こんな頭痛に苦しんでいるばかりではいけない。
あたしにはやるべきことがあるから…。
「あいつはあの子を笑いながら殺した。
まさか、あたしがこんなことを考えるなんて、想像すらしていなかったわ…」
そういうと彼女は頭を抑えた。口元には自嘲の笑みが浮かんでいた。
「あいつらは、もう絶対に許さない…」
無論、今からあたしがしようとしている事は主催者のあいつの思う壺にはまることである。
だが、このままあいつらを野放しにするわけにはいかない。
「あいつら…、特にマグニス。絶対にあたしが仕留める!
それからのことは全てを終わらせてからでも間に合うから…」
もう二度と、あんな思いをしないためにもあいつらには死んでもらう。
今のハロルドからは、自分でも信じられないほどの憎悪と殺気を放っていた。
「スタン、あんたには悪いけど勝手にこれをもらっていくわよ…」
そう言った彼女の手に握られていたものは、釣り糸だった。
これで再び罠を作り出してあいつらを誘い出し、確実に仕留める。
もちろん、こんな風に単純にことが進むとは分かっている。
だからこそ、幾重にも策と罠をめぐらせて、確率を少しでも上げていく。
ソーディアンを作り出した天才は、確実にこのバトルロワイアルに毒されていた…。
85 :
壊れた天才8:2006/01/14(土) 23:23:46 ID:QDoBHNcY
【スタン 生存確認】
状態:腕に火傷(中程度) 全身に擦り傷 動くと痛み ハロルドに対して憎しみに似た怒り
所持品:ディフェンサー ガーネット
現在位置:G3のジースリ洞窟内部を移動中
第一行動方針:ミントの無事を確認しに行く
第二行動方針:仲間との合流
【ハロルド 生存確認】
状態:全身に軽い火傷 擦り傷 痛み 強い復讐心
所持品:短剣 実験サンプル(燃える植物はほとんど無い その他の詳細不明) 釣り糸
現在位置:G3のジースリ洞窟崩壊した位置
第一行動方針:マグニス、バルバトスを確実に殺す
第二行動方針:目標以外とは極力接しない。仮に仲間と出会ってもマーダーの振りをして追い返す
第三行動方針:不明
コングマンの表情はまさに鬼の形相だった。
眉はこれ異常ないくらい吊り上り、眼球は四方八方に血走っている。
鼻息荒く、大きく上下する肩からは彼の発する闘気が視認できると思えるほどだ。
「この、小娘が・・・!」
狂鬼の眼がコレットを捕らえる。少女はその視線のプレッシャーに圧され、ちょっと身を縮めた。
そしてクレスが二人の間にずいと割り込む。
剣を構え、目の前の巨漢と対峙する。
だが、その時唐突にコングマンの顔が崩れた。
何かに気付いたように、ふふふと笑う。
なんだ、忘れてた。俺様の本当の目的は・・・
ゆっくりと、敵意が無い様に少女に近付いていった。
「いいか。よく聞け、小娘。二度と手を出すんじゃねぇぞ」
怒気は薄くなっているものの、威圧感はまだ残っていた。
「どういうつもりだ?」
クレスが声を出す。
「まあ今回はお前の怪我もあるし、今のは痛みわけということで済ませてやろう。
だがこれから先は俺様とこいつの一騎打ちだ。余計な手出しは無用なんだよ、分かるか?」
コレットはどうしていいか分からないといった風に、どっちつかずに顔を傾けた。
「コレット、そうした方がいい。今ので君は力を結構使ってしまったようだし」
クレスは油断無くコングマンを見つめ、そう言った。
「は、はい。そうします。もし今度クレスさんに当たったら困るし・・・」
コレットは照れ隠しに苦笑する。
「まあ、そういうわけで・・・」
そこまで言って、コングマンは突然座り込むコレットの眼前に移動した。
クレスが何か言う前に、素早く彼は少女の口を押し開き、その口内に布切れを突っ込んだ。
舌で押し返されないように、しっかりと奥まで詰めた。
「!? んー!!」
「お、おい貴様!!!」
殺気立ったクレスが男に詰め寄ったが、男は軽く手で制すと、
「これぐらい大目に見てくれよ。またさっきみたいなことになったらかなわねぇからな」
クレスは激しい敵意を露にしてコングマンを睨みつけた。
今すぐコレットから布を外してやりたいが、その隙にこの男は何をするか分からない。
今は、目の前の男を倒すことを優先すべきか。
クレスは苦々しく思いながらも、そう結論付けた。
「じゃ、本気でやりあうとするか、なぁ小僧」
血が流れる左手も気にせず間接をゴキゴキ言わせながら、コングマンは不敵に笑った。
「ああ、ついでにその小娘の手枷の鍵は俺様が持ってるからな」
クレスは集中して眼前の敵を見やる。
痛み分けとはいったが、確かにクレスの体もボロボロだった。
しかもここに至るまでに一度コングマンに倒され、無理をしてここまで移動したのだ。
集気法で回復しているとはいえ、いつ体にガタがきてもおかしくない。
二人はコレットから充分に距離を取り、一定の距離を取りつつ円を描くように回っていた。
コロシアムに投げ込まれた、常勝無敗のチャンピオンと雪辱を誓う挑戦者は、互いに機会を見計らっていた。
先に痺れを切らしたのはコングマンだった。
踊りかかり、クレスに右正拳を突き出す。
クレスは冷静に避け、返しの拳もかわす。
テンポよく距離を稼ぎ、またにらみ合う。
そうして幾度か攻めと守りのせめぎあいが続いた。
「まあ、そういうわけで・・・」
そこまで言って、コングマンは突然座り込むコレットの眼前に移動した。
クレスが何か言う前に、素早く彼は少女の口を押し開き、その口内に布切れを突っ込んだ。
舌で押し返されないように、しっかりと奥まで詰めた。
「!? んー!!」
「お、おい貴様!!!」
殺気立ったクレスが男に詰め寄ったが、男は軽く手で制すと、
「これぐらい大目に見てくれよ。またさっきみたいなことになったらかなわねぇからな」
クレスは激しい敵意を露にしてコングマンを睨みつけた。
今すぐコレットから布を外してやりたいが、その隙にこの男は何をするか分からない。
今は、目の前の男を倒すことを優先すべきか。
クレスは苦々しく思いながらも、そう結論付けた。
「じゃ、本気でやりあうとするか、なぁ小僧」
血が流れる左手も気にせず間接をゴキゴキ言わせながら、コングマンは不敵に笑った。
クレスも集中して眼前の敵を見やる。
痛み分けとはいったが、確かにクレスの体もボロボロだった。
しかもここに至るまでに一度コングマンに倒され、無理をしてここまで移動したのだ。
集気法で回復しているとはいえ、いつ体にガタがきてもおかしくない。
二人はコレットから充分に距離を取り、一定の距離を取りつつ円を描くように回っていた。
コロシアムに投げ込まれた、常勝無敗のチャンピオンと雪辱を誓う挑戦者は、互いに機会を見計らっていた。
先に痺れを切らしたのはコングマンだった。
踊りかかり、クレスに右正拳を突き出す。
クレスは冷静に避け、返しの拳もかわす。
テンポよく距離を稼ぎ、またにらみ合う。
そうして幾度か攻めと守りのせめぎあいが続いた。
──落ち着け。基本を思い出すんだ。
クレスは汗を掻きつつ、冷静に回避を続けた。
あの男の拳の威力は身に染みている。
一撃ですら、致命傷になりかねないのだ。
「こんの・・・ちょこまかと!」
痺れを切らしたコングマンは右の拳に力を込め、雷を帯電させた。
「ボルトスラストォ!」
大きく振りかぶり、強烈に前へ突き出す。電撃の拳が高速にクレスに迫った。
ここだ──!
その一瞬、クレスの目に鋭い光が宿った。
身を屈めてのダッキングでそれをやり過ごし、一気に至近距離へと入った。
見上げた時、目が合った。戦うことを生涯の楽しみとでもしているような、強い眼光。
クレスは素早く剣を右に振った。
だが男の筋肉の壁の前に威力は軽減され、細い切り傷が出来ただけだった。
無論この程度でこの男が怯むわけは無い。
クレスの予想通り、コングマンは左肘を折り曲げての打ち下ろしを放っていた。
体が密着している為、回避はより困難になる。
紙一重で男の拳が右頬を掠めた。口の中が少し切れた。
そしてもう一度剣を、今度は左に振る。男の豪腕から血がわずかに噴いた。
しかしコングマンはそのまま両足を前に進め、派手な頭突きをクレスにぶつけた。
体が揺れ、一瞬視界がぼやける。ぼんやりと、男が次の行動に移っているのが見える。
「おぉらぁっ!!」
コングマンは右の拳を腰の辺りに構え大きく踏み込み、一気に振り上げた。
急ぎ体勢を立て直し、さっと飛びのいて避ける。
空を切る音が耳元ではっきりと聞こえた。
そして隙だらけの脇腹へ、連続して突きを放つ。
血が飛沫となって舞い、硬質な床に跳ねた。
「ふんっ!」
男の両腕を広げての回転攻撃からバックステップで充分に距離を取り、クレスは大きく息を付いた。
今の攻防で、こっちは頭突き一発、無効は腕と腹に計七つの斬撃。
いける。このままいけば、勝てる。
クレスの表情が微かに緩み、ダマスクスソードから手を放し、汗を拭う。
左手の汗を拭いた時に血が滲んでいた。しかし気にしてはいられない。
「ったく、ちまちました戦いしやがって・・・」
そう言って余裕ぶり悪態を突くコングマンも、既に体力は危険域のはずだった。
何事も無かったかのように動いて見せたが、
実際コレットに焼かれた肩、腿、手の甲はかなり痛むはずだ。
しかしそんな素振りは微塵も見せないところ、
流石は闘技場の覇者と自称するだけのことはある。
「まあいい。今からてめぇに、チャンピオンの戦いってものを見せてやる」
バシーンと片方の拳でもう片方の掌を打つ。
まさかこの男、本当に痛みを感じていないのか?
クレスがそんな間の抜けたことを考えたその時、コングマンが一気に突進してきた。
急ぎ剣を構え、そのスピードに避け切れないと判断すると、反撃を撃つことにした。
自身に迫る巨躯の、どこから攻撃がくるかを集中して予測しながら、クレスはその時を待った。
飛び出したのは左腕。愚直な正拳突き。身を反らし、男の体の外側へ出て紙一重で避ける。
そして交差の際に斬りつけようとした時・・・コングマンの体がピタっと止まった。
勢いよく放たれたはずの拳は、クレスの真横で静止している。
フェイント──!
そう思った時にはコングマンの肘鉄がクレスの手首を打ち、剣を取り落としてしまった。
そして男は大きく身を回し、クレスを抱き込むような体勢で体当たりしてきた。
抗うすべなく、クレスは壁に派手にぶつけられた。
壁に付いている、コレットを拘束しているのと同じ種類の金具が後頭部を打ち、意識が飛びかける。
それには既に鎖が付いていた。長いそれは、クレスの頭から足元ぐらいまで垂れていた。
両手を強く掴まれ、壁に押し付けられる。
かつて撃たれた左手からまた血が噴き出し始めた。
「ぐっ・・・!」
苦痛に顔を歪める。
そうして気付いた時にはコングマンのつるりとした頭が目の前にあった。
瞬間的に危険を感じ、膝を曲げて上半身を落とす。何かが砕ける音。
コングマンの頭突きが、壁にぽっかりと穴を開けていた。
破片が頭に落ちてくるのを感じながら、
クレスは両手を握られたまま、下に思い切り引っ張った。
右手は抜け落ちたが、負傷した左手に力が入らない。
このままコングマンに拘束されたままではまずい。早く逃れなければ。
座っているのに片手だけ上に持ち上げられている奇妙な体勢のまま、
クレスは新たに眼前に迫る膝蹴りから身を反らした。やはり壁が砕けた。
もう一度立ち上がる。自分と同じ、自由になったコングマンの左手が、
こちらの顔面目掛けて掌底を叩き込もうとしていた。
その時咄嗟にクレスは右手を自身の腰に回した。
そして何かを掴み、目の前に突き出した。
刹那、男の掌底が衝突する。
コングマンは左手をクレスの右手に被せながら、苦悶の表情を浮かべた。
ポタポタと、血が重なり合った手から流れ出て、床を濡らしていた。
男の右手は、鋭利な刃物で貫かれていた。
クレスの握る、それ。
忍刀血桜が、コングマンの拳を刺し貫いていた。
「君の忘れ物だ。いや、元々はコレットのものだったな」
眉一つ動かさずに、クレスはそう言った。
間髪いれずにさっと左手を男の拘束から引き抜き、向こう側へ駆け出した。
狙いは勿論落ちたダマスクスソードである。
それを拾い、改めて男に向き直す。
コングマンは左手に刺さった刀を思い切り引き抜くと、その辺に放り投げた。
既に二度も貫かれてしまった左手は、最早使い物にならないと思えるほどズタズタで、出血していた。
対するクレスも、血が流れ出る彼の左手の感覚は徐々に麻痺していた。
「さて・・・決着といこうか」
ぶるぶると震える自身の左手を眺めながら、コングマンは言った。
クレスは黙って剣を構え、目の前の男と、何度目だろう、対峙する。
「んー・・・!」
心配そうなコレットの声が聞こえた。
「心配しないで、コレット。僕は勝つ。勝って君を助ける。言っただろ?君は僕が守るって」
クレスはちょっと笑んで、努めて気丈な声出した。
「二の舞にならなきゃいいがな」
コングマンが戒めるような口調でつぶやいた。
もう一度精神を統一する。ゆっくりと、息を吐く。
そして。
爆発した様に突進をかますコングマン。
冷静に、落ち着いて右にかわすクレス。
一瞬、すれ違う二人。
背後を取り、剣を上段に構えるクレス。
足を止めるコングマン。
剣を振り下ろすクレス。
裏拳を放つコングマン。
ぶつかりあう剣と拳。
弾かれるクレス。
向き直るコングマン。
体勢を立て直すクレス。
両腕を突き出すコングマン。
突き飛ばされるクレス。
両腕に力を込めるコングマン。
集束する光。
目を見張るクレス。
笑うコングマン。
剣を垂直に構えるクレス。
叫ぶコングマン。
「ヘビィボンバー!!」
巨大な光の弾が二人の眼前に発生し、回りの壁や床ごと破壊していった。
数秒後、まるで超巨大な鉄球でも落っこちたように、その場は奇妙に潰れていた。
「はぁ、はぁっ、ふぅ・・・」
コングマンは息も荒く、眼前の光景を見て違和感を覚えた。
何かが違う。何か大事なものを見落としているような・・・
その正体はすぐに分かった。
天より振ってくる、一人の剣士・・・
クレス・アルベインが空中よりコングマンに襲い掛かっていた。
あの一瞬、クレスは時空剣技と呼ばれる技により、空間を転移し、上空に翔んでいた。
そして丁度光弾が消えた時に、彼は舞い降りていた。
「はぁっ!!」
上空からの強烈な振り下ろし。男の背中を抉る。
続いて連続して斬りつけた。血が飛び、男の体が揺れた。
「この野郎ぉぉぉ!」
コングマンは一心不乱に拳を振り回した。
しかしそれはクレスの頭上を掠め、逆にクレスの斬撃が男を襲った。
絶対に回避は不可能と思われた。
しかし、コングマンは信じられないぐらいの底力で、右腕を振り上げていた。
再度ぶつかり合う剣と拳。
ガントレットの強度は高く、それ以上推し進めるのは困難だった。
「甘いんだよてめぇは!さっきよりはマシになったようだが、そんなんでこの先、生き残れると思ってンのか!?」
「それでも僕は、戦う!仲間と一緒に、最後まで生き残ってみせる!」
「だから・・・」
クレスの剣に、いつの間にか雷が帯電していた。凄まじい閃光の奔流が、二人を照らした。
「だから僕は、負けられない!!」
そう言い放ち、あらん限りの力を込めて一気に押し切った。
すれ違い様に、男の全身に電流が走るのを確認した。
「ぐおおおおおおおおお!!!」
コングマンは体を仰ぎ、絶叫した。
クレスは膝を突き、そんな男の様子を背中で感じ取りながら、勝負が決したのを感じた。
これで、勝っ───
気が付いた時にはクレスは宙を舞っていた。
全身の感覚が麻痺したように思えた。
上下が反転した世界で、コレットの表情が引きつって、恐怖の色が浮かべているのが見えた。
そうして彼は地面に墜落した。
仰向けに倒れ、不気味な器具の類が多々吊るされているのが見えた。
ふと、彼に歩み寄るものが居た。
マイティ・コングマンだった。全身雷に焼かれて黒ずんで、あらゆる箇所から血を流している。
その表情は、不気味に笑っていた。
「は、ふはは、は・・・まさか、この、俺様をここまで追い詰めるなんてな。
このマントが無ければ、こんなもんじゃ、済まなかっただろうぜ・・・」
つい先程クレスを殴り飛ばし、荒い息を交えて語るコングマンは、既にまともに立ってすらいられないはずの状態だった。
男の装備するセレスティマントは、雷攻撃を軽減する力があり、男の命を僅かに残したのだった。
彼を今奮い立たせている感情、それはチャンピオンとしての誇り、思わぬ苦戦を強いられた挑戦者への怒り。
「だが、これで俺様の勝ちだ!!」
そう叫んでクレスの上に馬乗りになり、彼の顔面を思い切り殴った。
ぐしゃっ。
コングマンの拳が確かな手ごたえを感じると同時に、クレスの頭が跳ねた。鼻から血が流れ出た。
続けて殴る。殴る。殴り続ける。
クレスは抵抗することもできずにただされるがままだった。
次第に彼の意識は薄れて行き、彼の見る世界は紅く染まっていった。
鼻から口から鮮血が飛び散り、コングマンの顔に付着する。
血まみれの狂気の笑みを浮かべる男は、既に常人のそれでは無かった。
「んっ、んぐー!んん、んー!!!」
拘束から逃れようともがきながら、コレットは涙を浮かべて必死に哀願しようとした。
しかしそうした彼女の言葉はまるで聞こえていないとでも言う様に、コングマンは馬乗りのまま己の行為を続けた。
術を唱えようとしても、口と両手を塞がれた状態で、
眼前に繰り広げられる恐ろしい光景を前に、まともな言葉を紡ぐことはできなかった。。
コレットは震えた。震えて、自分でも何を言ってるいるのか理解できずに、ただ呻いた。
いつの間にかクレスはピクリとも動かなくなっていた。
ただ、ぐしゃっと嫌な音が響くばかりであった。
「・・・死んだか」
変わり果てたクレスの姿を見下ろしながら、コングマンはゆっくりと立ち上がった。
クレスの顔は、流れ出る血と腫れた肌で、端整な顔は今やまともでなく紅かった。
コングマンは立ち上がり、しかし足取りがふらついていた。流れる血が床に落ちた。
やがて彼は狂気の笑みを浮かべて笑い出した。
「・・・は、はは、はっはっはっは!!俺様が、最強よぉ!!!」
薄暗い拷問部屋で、ただコングマンは笑い、コレットは泣き、クレスは動かなかった。
【コングマン 生存確認】
状態:HP1/10、右肩貫通 左大腿裂傷 左手の甲貫通、刺し傷(出血) 左腕に切傷 脇腹に刺し傷 背中に切傷 全身に小さな切傷 全身に痺れ
サディスティック 狂気
所持品:レアガントレット セレスティマント 手枷の鍵
第一行動方針:闘志のある者と闘い、倒す(強弱不問)
第二行動方針:コレットを虐めて愉しむ
第三行動方針:出会った相手は倒す
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
【コレット 生存確認】
状態:TP半分、右肩に銃創(止血)、発熱、座り込み両手上げて手枷で拘束 口に布の詰め物 大疲労 深い悲しみと絶望
所持品:なし(コングマンにより鞄ごと没収)
第一行動方針:取り敢えず生き残る
第二行動方針:クレスを守る
第三行動方針:仲間(Sキャラ及びクレスとサレ)との合流
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
【クレス 生存確認】
状態:瀕死 意識不明 顔面殴打 顔の腫れ 鼻から出血 口から出血 左手に銃創(出血)、TP消費(中)
所持品:ダマスクスソード バクショウダケ 忍刀血桜
第一行動方針:コレットを救い出す
第二行動方針:ミント、アーチェ、モリスンと合流
第三行動方針:サレと合流
第四行動方針:仲間と最後まで生き残る
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
97 :
嘆く真実1:2006/01/15(日) 05:36:14 ID:lcJjjLlR
バトロワ始まって二つめの陽が地平線に近づいてきた。重い紺碧の空にが日の光で菫色に徐々に染まってゆき、雲がじわじわと形をとられていく。やがて地平線に太陽が覗けば、その菫は眩しい白へと姿を変えるのだろう。
もうすぐ朝が訪れるのだ。
デミテルは傍らに立っている青年、ティトレイを見た。
そのティトレイの目は空に滲んでゆく光すら映ってはいないように見えた。
彼はデミテルの駒だった。自我は殆どなく、下手な部下よりも確実に忠実に動き、先程のモリスンとの戦いの様に何でもする。おまけに格闘の技術も一流だ。
彼はこれ以上ないマリオネットだった。
デミテル。
彼は元々はベネツィアに住む、魔術の研究者だった。
そもそも何故魔術の研究をしていたかというと、私利私欲や力の誇示に用いる為ではなく、あくまで町の為のものだった。
彼は本来ならば、人々の為に尽くす、熱心な福祉家だったのだ。
その彼が何故ダオスの配下となり村を滅ぼし、人を躊躇いもなく殺したり操る様な人物になってしまったのか。
それは彼がベネツィアで研究や福祉に勤しんでいた頃へと遡る。
その頃、スカーレットに師事しており、毎日の様に魔術の研究に追われていた。
しかしデミテルはそれは苦ともせずに、町の人々の役に立てるならとむしろ精力的に取り組んでいた。
怪我や病の人を癒し、社会の繁栄に役に立てるのならばと己の能力を国の研究に役立てたりもした。
デミテルはハーフエルフである。
その事に負い目を感じていたのもあった。しかしアルヴァニスタにはルーングロムという国の参謀とも言える程の重臣もいた。彼もまたハーフエルフである。
いかなる生い立ちであろうとも、人々になすべき事をすれば、自分の身の上など取るに足りない。むしろエルフの血を引いているからこそ操る事ができる魔術がハーフエルフにはある。
何より、何千年も前にはハーフエルフは生きるのも難しいものだったと古い文献に記してあった。ハーフエルフは人間のいる環境に住めば尖った耳を隠して静かに暮らさねばいけなかったし、居ることが知られれば壮絶な迫害が待っている。
かといって純血のエルフは更に酷い。
ハーフエルフには行き場がなかった。
一説にはとても人間とは住めないので、隔離された場所に隠れて集落を作ったとさえ聞いている。
98 :
嘆く真実2:2006/01/15(日) 05:39:55 ID:lcJjjLlR
しかし今―――
自分は人間と同じ場所に住んでいる。
双方は確実に歩み寄りを続けているのだ。
こちらも人間というものを理解し、ある時は助け合い、手を差し伸べれば融和するものだ。
そう思っていた。
しかし彼は知ってしまう。
人間がどういう目でハーフエルフを見ていたのかを。
そう。一見は両者の溝は殆ど無くなったかに見えたが、本質ではそうではなかった。
どんなに自分が尽くそうとも、人間は本当は心からハーフエルフの事を良く思っていなかった。
エルフと体を交わらせた者は奇異の目に耐えれず隠れ住む事も多かった。
病人を救えば、陰ではハーフエルフに助けられた事を嘆く者まで居る。
ある者はハーフであることをあざ笑い、ある者は魔力を妬む。
ハーフエルフはエルフの親とは引き離され、彼も例外ではなかった。
彼はそもそも疑問に思っていたのだ。何故ハーフエルフはかなりの者が魔力を国の研究に使うのかを。彼らもまた同じだったのだ。差別による負い目を感じていた。
だからこそ皆、躍起になって働く。
ただただ人間に認めて貰う為に。
ハーフエルフそのものを人間が受け入れていた訳ではなかったのだ。自分も、気付かないふりをして必死で生きてきたのだ。
むしろ人間はハーフエルフの魔力を利用する事しか考えていなかったのだ。
自分は一体、何のために。
人々に尽くす為だ。
しかし、その人々は自分を利用する事しか頭になかった。
中には自分を本当に評価してくれた者もいるかもしれない。それでも。
一度その真実に目を向けてしまうとデミテルの中で疑心ばかりが膨れ上がってきた。
数千年かけて両者は理解しあえたかに見えた。しかしそれはあくまで自分の夢想に過ぎなかったのだ。
自分の努力は実はとんでもなく空回りしていたのではなかったのか。
そもそも人間に認めて貰うとは何なのだろう。その時点で我々が劣っていると認めたも当然ではないか。
必死で今まで福祉に生きていたのは、解ける事のない人間の心に無理矢理自分の居場所を作る為なのだと気づいてしまった。
本当は元からそんなものなどなかったのだ。
デミテルの中で何かが音を立てて崩れていった。
それは今までの人々の為だけに生きてきた彼の人生―――デミテルの全てだった。
99 :
嘆く真実3:2006/01/15(日) 05:43:38 ID:lcJjjLlR
そこからの転落は早かった。
彼は人間に絶望し、全ての研究を捨てて、西の孤島に移り住んだ。
止める者もいた。
しかし彼らが欲していたのはハーフエルフの自分などではなく、研究の結果だけだった。
剥き出しの脆くなった心に付け込んできたのはダオスだった。デミテルはあっさりと操られ、彼の師のいるハーメルの町を滅ぼした。
ペンダントを狙ってトーティスを襲ったマルスも同じだが、ダオスに全てを乗っ取られて操られた訳ではない。
元々心の奥深くに確かにあった、野心や憎悪などを揺さぶり起こされたのだ。
人間を憎む心に忠実になった彼はダオスの配下となるのには全く躊躇がなかった。
自分が今まで大事だと思っていた人々は魔法を撃てばあっけなく死んだ。
村の炎に巻き込まれて絶望に悲鳴を上げながら火にその存在を炭にされてゆく。
人間は恐ろしく脆弱だった。
こんなものに自分は全てを掛けて死にもの狂いでしがみ付いてきたのだ。
それを見てデミテルが感じたのは安堵だった。
これでようやく、本当は憎んでいた人間と決別する事が出来る。
それがデミテルの真実だった。
しかし決別の代償はあった。
この村の炎と同時に人生の全てを焼き払ったのだ。自分の徒労の人生に、果てしない虚しさが襲う。
全てが馬鹿馬鹿しくなり、自身の生への執着すらも論外ではなかった。
100 :
嘆く真実4:2006/01/15(日) 05:49:18 ID:lcJjjLlR
そして今、彼はミクトランの気まぐれな遊戯により、このゲームに召喚された。
絶対の殺し合いのルール。
一回目の放送の時に、自分が殺害した者以外に何名かが死んでいる。
誰かが、どこかで殺し合いをしている。
その放送を聴いた時にデミテルには微笑が浮かんだ。そして思うのだ。
どんな美しい体面や理想に囚われて今まで生きていようが、絶対的なルールを張り巡らされた一つの箱に入れれば人なんてこんなものだ。
奇麗事で着飾ろうが、それが人の絶対的な本質だ。
私自らもそれを証明してやろう。
そしてティトレイを見た。相変わらずその瞳は何も映してはいないが、命じれば完全服従のマーダーとなる。
彼には同情こそはしなかったが、かつては彼も己の信じる正義とやらにその拳を使ったのだろう。だが現在、彼はゲームに振り回された結果腑抜けとなった。
不本意だが少しだけ、自身と重なった気がした。
もうすぐ第二回目の放送だ。次の死者は何人なのだろう。
「全く…下らぬ事だ」
東の空の光彩のトーンが徐々に上がってゆく。
デミテルは目を閉じた。眼の奥に映った、彼のかつて尽くしていた街の人々が笑う事はなかった。
そしてその顔を脳裏で一つづつ黒く塗り潰していった。
【デミテル 生存確認】
状態:TP2/3消費
所持品:フィートシンボル ストロー ミスティーシンボル 金属バット
第一行動方針:ティトレイを操る
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
第三行動方針:ダオスを倒せそうなキャラをダオスに仕向ける
現在地:F2の平原
【ティトレイ・クロウ 生存確認】
状態:感情喪失 全身の痛み、軽いやけど(回復中) TP中消費
所持品:メンタルバングル バトルブック
第一行動方針:かえりたい
第二行動方針:デミテルに従う
現在地:F2の平原
「ん? もう起きたのか? 眠っていていいと言った筈だが」
先ほどの会合から一時間程度後のこと。
ユアンが窓の外を向いたまま声をかける。相手はカトリーヌ。
「放送は6時ですから。聞けるときに聞いていたほうがいいと思いまして。
仕事の関係上、徹夜することもよくありますので、大丈夫です」
「覚悟はできたか? 一日でこの現実を受け入れろというのも酷なことだとは思うが」
「正直なところ、まだできていませんが、するしかありません」
「そうだな」
次に目をこすりながら入ってきたのはプリムラ。寝癖なのか、地なのか、頭のてっぺんが爆発している。
「ふぁぁあれれ…? みんな寝てると思ったのに。
グリッドはグリッドだし、カトリーヌはあからさまにこんな状況に慣れてなさそうだし
ユアンは大食らいでおまけに昨日あんなに寝てたし」
(プリムラさん、あなたは慣れているんですか…?)
(大食らい…。称号というのは恐ろしいものだな…)
「みんなの代わりに放送聞こうと思ってたけど、もうちょっと寝ててもよかったな。ま、もう起きたし、いいか」
「やあ、みんな朝が早いな!」
最後に現れたのはグリッド。朝とは思えないほどの大声とテンションの高さである。
もしこの町に人がいれば、間違いなく怒鳴り込んできたことだろう。
結局、全員起きたのだ。
「本来リーダーであり勇者たるこの俺が真っ先に起きるべきなのだが、いやはや、みな早起きで頼もしい限りだ!」
「グリッドさん、いいから早くズボン履いてください。向こうにクローゼットがありますから」
しぶしぶズボンと履き、ついでにパンツを回収しにいくグリッド。
深夜の失禁事件のことも、悪の道からユアンを連れ戻すうんぬんとアレンジして、すべて話してあるのだ。
まだパンツは乾いてなかった。
「さて、まだ放送の時刻まで十数分ある! この時間を使って、作戦会議を行う!」
(珍しくまともだな)
いつにもまして、真剣な表情をするグリッド。
場の雰囲気もそれなりに真剣なものとなる。
「作戦は昨日伝えたが…様々な状況に応じた対応策、作戦をいくつか練っておくのも悪くはあるまい」
「対応策…。主催者サイドなりきり作戦とか?」
「いやいやいやいや、待ちたまえ! 確かにそれらの対応策も重要だが、
より重要な、漆黒の翼の根本にかかわることが残っているんだ! 本日の議題、それは…」
「「「それは?」」」
全員がグリッドに注目する。グリッドはもったいぶる。3秒。5秒。10秒。本日のお題は?
「プリムラの称号が決まっていない!!!!」
「「「……」」」
数秒時が止まった。グリッドは、ストップフロウを使えるのだ!
「で、どうします?」
「適当に付き合ってやればいいだろう」
「でも、適当に決めるのはよしてよね。あ、その菓子パンとこのパン交換してくれない?」
「適当に決めたとして、私の称号以上に不似合いなものは出まい。すまん、もう齧った。他を当たってくれ」
「それにしても、音速の貴公子以外は、称号というよりもむしろ二つ名ですよね。あ、このパンと交換します?」
場のムードは会議ムードから一転、朝食ムードに入る。
放送後では、喉を通らないかもしれないから、先に食べておこうということでもある。
各自がパンや水を取り出す。ちなみに、パンの賞味期限は6日後だったり7日後だったりする。
グリッドだけは真面目に会議を続ける。
「さあ、みんなもどんどん意見を出してくれ!」
「恥ずかしくない称号…。疾風とか烈風とか烈斬とか、実力に合わないものを付けられても恥ずかしいだけですよね。
私はもう慣れましたし、いいんですが…」
「お、さすが大学公認馬鹿ップル片割れ。私も早く…って、今はそんな話をしている場合じゃあないか。
グリッド、無理しなくていいよ。私は称号無しでいいから」
「あの男にそれが通じないのは知っているだろう。おかしな称号が付く前に、さっさと決めてしまうに限る」
結局、賛成派一名、妥協派一名、中立派一名、反対派一名と分かれた。
だが、食事は進む、されど会議は進まず。意見は出ない。
「なんだなんだ、意見が何も出ないじゃないか!」
結局、グリッド自身が提案することになった。
以下、会議における会話の流れである。
「なら、俺の案を出そう! 昨日一日を費やして考えた称号のひとつだ!」
(一日を費やして…?)
「先決のプリムラなんてどうだ!?」
「筋肉男に殴られたとき、頭のねじでも飛んで行ったのか? そんな物騒な呼び方では、余計な警戒を招きかねんぞ」
「その前に、この私のどこを見て、鮮血なんて物騒な単語が出てくるのよ。却下!」
(先決…あながち間違っていないのでは?)
「ならば、激躍のプリムラというのはどうだ!?」
「劇薬って、なんか陰気臭そうよね。石鹸水のことを言ってるなら、刻んで混ぜるだけよ。ソーサラーリングは使ったけど
ほら、もっと華やかなのはない?」
「大体、なぜそう物騒な単語しか出てこないのだ?」
(劇薬? 激薬? …激躍?)
「仕方あるまい。候補を挙げるから、気に入ったものを選んでもらおう。
なお、以後の二人目の女性メンバーの称号となるので、慎重かつ大胆に頼むぞ。
ではいくぞ。先駆! 強運! 才華! 踊柔! 魔断! 兎等女! 討虐! 苦路慈示!」
「却下! 却下! 却下! 却下! 却下! 却下! 却下! 却下!」
(プリムラさん、どんな勘違いをしてるのかしら…? 最後のほうは私にもわからないけれど。このパン美味しい♪)
「はい」
「おや、大食らいのユアン。いい称号を思いついたか?」
「この際、大食らいという称号の変更も提案する」
「ナンバーツーは大食らいと決まっているのだ。悪いがそれはできない」
「そうか、いや、実に残念だ。では失禁のグリッドという称号を提案する」
「疾緊? なかなか引き締まった単語だが、残念ながらリーダーは代々音速の貴公子と決まっているのだ」
(引き締まったって、どういう解釈をしたんですか…?)
「私には、嫌味を言う才能は無いようだな…」
「では仕方ない、誤解されそうで、多少自信がないが、メイタンテイというのはどうだ?」
「それよ!!! 名探偵! ピッタリよ!」
「最初に戻っただけじゃないんですか…?」
「よし、以後、二人目の女性は迷探偵で決定だな!」
迷探偵:迷える探偵。最善を尽くすために今日も行動に、思考に、感情に迷い続ける。
結局、会議で決まったことは、メイタンテイを正式に認めるということであった。
ちなみに、適当に付き合うと言っておきながら、割合みんなノリノリだったのは言うまでもない。
一方、こちら主催者。
「センケツ ゲキヤク センク キョウウン サイカ ヨウジュウ マダン ウラメ ウツギャク クロジシ メイタンテイ…
まさか暗号ではあるまいが…。考えていても埒が明かんな」
【グリッド 生存確認】
所持品:無し
状態:ほぼ健康。
基本行動方針:生き延びる。
行動方針:漆黒の翼のリーダーとして行動。
【ユアン 生存確認】
所持品:占いの本、エナジーブレット、フェアリィリング、ミスティブルーム
状態:健康、TPにまだ回復の余地あり
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを信用していない。
第一行動方針:漆黒の翼を生き残らせる
第二行動方針:漆黒の翼の一員として行動。仲間捜し。
【プリムラ 生存確認】
状態:健康
所持品:セイファートキー、ソーサラーリング、チャームボトルの瓶、ナイトメアブーツ、エナジーブレット
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを石板に縛り付けて海に沈める。
【カトリーヌ 生存確認】
所持品:マジックミスト、ジェットブーツ、エナジーブレット×2、ロープ数本、C・ケイジ
状態:健康
基本行動方針:帰りたい。生き延びる。
現在地:G5の町
105 :
夜明け前 1:2006/01/15(日) 06:49:35 ID:qJ2ZYgCj
先刻、何者かによる襲撃にロイドの『粋護陣』なる特殊な気を纏った防御壁で
妨げた後、ジューダスは自らに判断を課す。
ここで撃退するか、いや、怪我人がこちらにいる以上下手な戦闘は避けるべきだ。どうする・・・
そう思考をめぐらせているうちに当の襲撃者は分が悪いと判断したのか、すぐさま
撤退していった。
「どうする」
木刀を構えたままロイドはジューダスの返答を待つ。
「いや、放っておこう。今は敵の撃退より自身の安全だ」
言われたロイドは構えた手を緩める。深くため息が漏れた。
あちらが退避してくれたの正直運が良かった。銃器のようなものを持っている相手では
分が悪すぎる。確かに応戦は出来たが、確実に死人が出ていたに違いないだろう。
「ジューダスのおかげでやり過ごせたな」
「こっちも、先ほどの防御技には感謝している。・・・それより」
一つの厭な感覚がジューダスを襲った。
(さっきの襲撃者のオーラ・・・あれに気付いて事は早く対処できたが・・・)
一言・・・あれは狂気とも歓喜ともとれる禍々しい何か。
しかしその背後に見え隠れする強大な力。
まるで神の意志ともとれるような何か・・・
「ジューダス」
「な、何だ」
ロイドに越えを掛けられ、我にかえる。どうやらかなり深く考え込んでいたらしい。
「二人とも寝たほうがいい。長い時間歩いてたから疲れてるだろ?」
ロイドの気遣いに少しばかり嬉しいモノを感じる。が、すぐさまその案を却下する。
「いや、僕はいい。それよりメルディは寝ておいた方がいいだろう。傷も完全に治ったわけではあるまい」
言われて、先ほどの襲撃によって無理やり叩き起こされる形になったことを思い出し、
メルディはねむねむとした目をこすって「そうさせてもらうな」と言ってすぐさま
眠りにつこうとする。
横になってメルディは気付く。
「二人は寝ないか?」
マントを翻して遠くまで離れないようにジューダスは歩き出す。
「僕はいいと言っただろう。こういうときは必ず見張りが必要になる。
いつ敵が来るかもわからないからな」
するとロイドは横になっているメルディの隣に腰を落とす。
「あいつがああ言ってんだし、お言葉に甘えさせてもらおうぜ」
「そだな・・・でもホントに大丈夫か?」
心配するメルディ。しかしソレとは逆にロイドは笑ってみせた。
「大丈夫だって、なんせ・・・」
言葉を区切り、見回りらしき行動をしているジューダスに一度目を向け、
そしてまた笑う。
「ジューダスだからな!」
106 :
夜明け前 2:2006/01/15(日) 06:51:22 ID:qJ2ZYgCj
幾分経っただろう・・・辺りは次第に夜の気配を消していき、
逆に淡く青い色が空を侵食している。
確実に夜明けは近くまで来ている。見計らったかのようにジューダスは二人を起こす。
「ロイド、メルディ、時間だ。起きろ」
先に起きたのはメルディだったが、起きざまにその寝ぼけた脳に一つの疑問が浮かぶ。
「時間なんて決めてたか・・・?」
ジューダスは出していた荷物をサックにかたしながら答えた。
「状況が変わった。あまり長い長居は得策ではないだろう」
言うと次にロイドが起きだす。その寝ぼけ眼はまだ完全に覚醒してはいない。
が、今は関係のないことにある。
「さっさと行くぞ。早く起きろ」
「行くって・・・どこに」
寝ぼけながらもそれだけはちゃんと聞いておかなければならない。
しかしジューダスは踵を返すと橋のあるほうへと歩き出した。
「事情はあとで話す。今はここを離れるのが最優先だ」
途端に歩を進める。ロイドとメルディもそれに習って歩き始めた。
107 :
夜明け前 3:2006/01/15(日) 06:52:38 ID:qJ2ZYgCj
「状況が変わったって?」
歩きながら、当然頭に浮かぶ疑問をロイドはぶつけた。
「あぁ・・・お前たちが寝てしばらくした後、東のほうで激しい閃光と轟音が起こった」
「「ええ!・」」
二人同時に驚愕。その起こった先の事件も気になるが、一番驚いたのは・・・
「そう、騒ぎにお前たちが起きなかったことだ」
そんなに疲れていたのか・・・思ったロイドは肩を落とす。これからは即座に周囲の異変に気がつかなければ・・・
守れるモノも守れやしない。
「そう気落ちするな。疲れていたものはしょうがない」
必死のフォローにもあわす顔がなかった。
「それより」とジューダスが続く
「こっちには怪我人がいるから探索はしなかった。東の方で何が起こったかは
判りかねる、があの場にいてはおそらく危険になるだろうと判断した」
「どうしてか?」
「そう遠くはない・・・いや、むしろ近いほうで事は起こったようだ。
あの場から早く去りたかったんだ」
言ってジューダスは地図を頭上に掲げる。次の目的地を口で伝える。
「東の橋を渡れば村がある。まだ朝と言うには早すぎる時間帯だから行動はしやすい」
「ついでに食料も調達したいな」
ロイドが言う。確かに食料はそろそろ底を尽きるころだ。
地図をしまってさらに一行は歩を進める。
東で起こった閃光と轟音の正体は、ダオスとミトスのものであったのだが、本人たちは知る由もない。
それよりジューダスにはもう一つ気がかりなことがあった。
―――もうすぐ二回目の放送だ
【ロイド・アーヴィング 生存確認】
状態:健康
所持品:ウッドブレード、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆で生きて帰る
第一行動方針:メルディを回復できる人またはアイテムを探す
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ジューダス、メルディと行動
【ジューダス 生存確認】
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、エリクシール、???
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:メルディを回復できる人またはアイテムを探す
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ロイド、メルディと行動
【メルディ 生存確認】
状態:TP7割回復、全身打撲、背中に刀傷、
左腕に銃創、ネレイドの干渉を抑えつつある
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:ロイドとジューダスを信じる
第二行動方針:仲間と合流
現在地:B5(シースリ村に移動中)
ゴゴゴゴゥッ!
二人の激闘で揺れる城には、新たなる来訪者が既に居た。
「――っ!? これは……」
来訪者の一人、長身の男は城の土台からの揺れに思わず足を止めた。
「地下、でしょうか?」
「そのようだな、急ごう。神子の身に何か起きたのかもしれない」
色白の少女と話し、すぐに向かう場所を決める男。
そんな彼を忌々しげに見ている一人の紫髪の男が居た。サレである。
結局リアラというあの少女の説得のお陰でついてきたが、あの男はまるでサレをいないように扱っている。
それがサレにとってたまらなく腹立たしかった。
しかし、その程度で怒りを前面に出しては何にもならない。
努めて平静を装うサレ。だが、その怒りは確実に腹の底に溜まり始めていた。
地下拷問部屋で、高笑いを臆すことなく響かせる大男。
涙を流す神子。そして………傷つき血に塗れた剣士。
勝者は、敗者を自由にする権利がある。
それが大男、コングマンの戦いのルールであった。
神子のほうに歩を進め、口を塞いでいた布切れを取っ払う。
泣きじゃくるコレットの顎を、ボロボロの左手でちょいと上げる。
絶望に染まった顔。その顔に、コングマンの嗜虐心も揺さぶられる。
「どうだァ………頼みの綱だった戦士サマがズタボロになっていく光景をみた気分は?」
下卑た笑いを浮かべて、コングマンは囚われの少女に尋ねた。
だが、少女は泣くばかりで、男の言葉など聞こえていないふうであった。
それがコングマンの癪に障った。
「テメェ、俺様の言ってることをチャンと聞いてンのか! アアッ!?」
怒号のようなコングマンの言葉が、神子を驚かせた。泣き止み始める神子。
「いいか、もう一度聞くぞ。テメエを助ける筈だったナイトがブッ殺された気分はドウだ!?」
はっきりと、そしてゆっくりと、しかし大声でコングマンは間近の少女に質問する。
「……………………ません」
絞るような声で、少女は答えた。
「アアン! ちっちゃ過ぎて聞こえねエぞ! もっとはっきり言いやがれ」
「…………負けてません」
「――アアッ?」
「………クレスさんは、まだ負けてませんッ!!」
コングマンは、そんな少女の気丈さに喜びさえ抱いていた。
既に勝負は決しているというのに、それを認めようとしない憐れな少女。
そんな彼女に、残酷極まりない『現実』を見せ付ける。
コングマンはサディスティックな想像をし、身震いした。
「ヘッ、まだ理解しやがらねェのかァ?」
彼が考える悪党のような物言いで、神子の後ろ手の拘束具を壁から取り外す。
一瞬だけコレットは自由の身になったが、間髪居れずに後頭部を片手に掴まれる。
下手な真似をしたら、このままスイカのように脳天を握りつぶすと言わんばかりに。
抵抗しなくなった神子の姿を見て、コングは支配者…勝者の感覚を全身に感じていた。
そしていよいよ、少女にシッカリと現実を見せ付けるのだ。
コレットの顔を地に臥す剣士のほうに向け、言い放った。
「あのガキは俺様の拳で永久にオネンネ………ッッッ――――!!!」
途中で言葉に詰まるコング。それもそのはずである。
眼前の光景は、コングマンの考える理想の現実とは違っていたのだ。
敗者だと思われた剣士が……立ち上がっていた。
殴られた顔は腫れ上がり、視界なんてものはなかった。
だが、クレスはそれでもコングマンが自分の目の前に居るのだとわかった。
かの男が発する、強者のオーラ。それを肌で感じ取っていた。
全身の感覚も、消えかけていた。だがそれでも、まだ、剣は振れる。
いや、或いは既に意識が飛んでいたのかもしれない。
それでも、戦士としての闘争心だけで立ち上がり、コングマンに剣を向けているのか。
それは誰にも、クレス自身にも判らなかった。
自分が自分でない奇妙な高揚感。そして、湧き上がり抑え切れない闘争の本能。
全てを内包している感覚を抱くと同時に、何も無い空っぽであるかのような感覚も帯びていた。
しばし呆然とするコングマンであったが、しかし直ぐに戦いのスイッチを入れる。
右手で抑えていた神子を、邪魔とばかりに脇に乱暴に投げて、ファイティングポーズを取る。
コングマン自身も、既に満身創痍の状態ではあった。
だが、久しく忘れていた、戦いの喜びを、コングマンは完全に思い出していた。
無敵のチャンピオンとして奉り上げられた飽食と栄光の日々。
その暮らしの中で、彼もまた慢心と虚栄の奴隷となっていたのかもしれない。
しかし今なら、その暮らしを全て捨ててでも、飽くなき闘争の道を選ぶことが出来る。
コングマンは、心の中でミクトランに感謝した。
残りの人生すべてよりも今、この戦いの一瞬のほうが遥かに価値がある。そうコングマンは思えたのだ。
クレスが、駆ける。迎え撃つ体勢に入るコング。
コングマンは、全ての闘志を練り上げるように、眼前に光の弾を生み出した。
雷を帯びたそれを二度、同じ相手に使ったことは無かった。
だが、それを行うに足りる相手だとコングマンには思えた。
あの剣士は、本物だ。そう思ったから、コングは迷わず最大の大技をぶつけることにしたのだ。
光の弾は、出来上がった。それと時を同じくして、クレスはソードラインに入る。
最上級の雄叫びと共に、コングはヘビィボンバーを打ち出す。
それは、クレスの肉体さえ消失させる、超高電の塊。
クレスは跳躍と共に、剣を縦に振りあげた。
光弾が、縦に裂けた。
アルベイン流の剣技を人界の剣術とするならば、時空の剣技は神々の世界の剣術である。
光に限りなく近い光速の剣閃が次元さえ断ち切る、次元斬。
闘志を螺旋に練り上げ、増幅して一気に放射する、虚空蒼破斬。
そして空間さえ跳躍し、敵の頭上を捉える、空間翔転移。
どれもが、人間の一生では会得するに短すぎる至高の剣技である。
そのうちの一つ、空間翔転移は既にコングに使った。
そして、今まさにコングの必殺の光弾を断ち切ったのは、次元斬。
迷い無く放たれたその剣に、裂けぬものは人界には無かった。
超高電の塊であろうと、そして……鍛え抜かれて岩となった、人間の筋肉であろうと。
返しの剣が、コングマンの胸を一刀に裂いた。
だが、アルベインの剣士であるクレスの剣は、それだけでは終わらなかった。
アルベイン流剣術の真骨頂は、ふたつの異なる技を間断なく繋げることにある。
それは、神と人間の剣技の融合であった。
最後の時空剣技、虚空蒼破斬。
神々の剣術が二つ、コングマンを襲った。
蒼い闘気が、大海の大波の如き勢いでコングマンを包み込み、彼の五体を隈なく砕いた。
コレットは、その死闘を前に動けなかった。
だが、蒼い闘気がコングマンを包んだ後、倒れこむクレスを前にようやく体が言うことを聞いた。
しかし後ろ手が拘束されており、コレットは自分の身体をクッションにするくらいしか出来なかった。
ふみゅ、という声を洩らして、前に倒れるコレットの背をクッションにして、クレスは倒れた。
倒れたクレスを、拘束されたまま不自由な動きで仰向けに寝かせるコレット。
そして、ふと向き直って、コングマンのほうを向く。
コングマンは、立ったままであった。倒れていなかった。
だが、コレットはもうこの漢に、恐怖心を抱くことは無かった。
マイティ・コングマンは、仁王立ちのまま既に息絶えていた。
【クレス 生存確認】
状態:瀕死 意識不明 顔面殴打 顔の腫れ 鼻から出血 口から出血 左手に銃創(出血)、TP消費(大)
所持品:ダマスクスソード バクショウダケ 忍刀血桜
第一行動方針:コレットを救い出す
第二行動方針:ミント、アーチェ、モリスンと合流
第三行動方針:サレと合流
第四行動方針:仲間と最後まで生き残る
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
【コレット 生存確認】
状態:TP半分 右肩に銃創(止血) 発熱 両手を後ろ手に拘束 大疲労
所持品:なし(コングマンにより鞄ごと没収)
第一行動方針:取り敢えず生き残る
第二行動方針:クレスを守る
第三行動方針:仲間(Sキャラ及びクレスとサレ)との合流
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
【サレ 生存確認】
状態:無傷
所持品:ブロードソード 出刃包丁
第一行動方針:コレット、クレス、クラトス、リアラ、コングマンを利用する
第二行動方針:コングマンの始末
第三行動方針:ティトレイの始末
第四行動方針:クラトスの始末
第五行動方針:コレットの救出、治療
第六行動方針:コレット、クレスと合流
現在位置:E2の城の内部
【リアラ 生存確認】
状態:無傷
所持品:ロリポップ ???? ????
第一行動方針:コレットという少女を助ける
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:避けられない戦いは戦う
現在位置:E2の城内部
【クラトス 生存確認】
状態:全身、特に足元に中程度の火傷
所持品:マテリアルブレード(フランベルジュ使用)
第一行動方針:リアラと行動
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:コレットが気になる
第四行動方針:ロイドが気になる
現在位置:E2の城内部
【マイティ・コングマン 死亡】
【残り36人】
116 :
長い戦い1:2006/01/15(日) 14:08:47 ID:gI5tnSHK
策略・騙しあい・殺戮・疑念・友情・哀情…
様々な感情が渦巻くこの島では、常にどこかで殺し合いが行われている。
殺し合いを望む者、それを望まず別の手段を持って解決の道を求める者
人それぞれではあるが、多くの場合は常に何かの犠牲を払う結果になっている。
…大切な者の死に精神の異常をきたす者
…狩る側でいたつもりが、逆に命を落としてしまった者
…大切な人を守るために人を殺めたが、それ故に相手を傷つけてしまった者
全部を上げていたらキリが無いが、このゲームはそれだけ過酷なものなのだ…
そんな中、一見、清閑としており、耳を澄ませば小鳥の囀りが聞こえてきそうなこの森でも
二人の男女によって激しい争いが行われていた。
かなり長い間争い続けているのだろうか…二人とも行き絶え絶えで、疲労しきっている
それでも二人は拳を握り締め、互いに次の相手の手を読み取ろうと頭をフル回転させている。
「…行くパン、牛さん。これで決めるパン!」
そう言い放ったのはコック帽がトレードマークのワンダーパン職人のミミー。
どうやら自分の出す手を決め、勝負に出るつもりのようだ。
それに対する、「牛さん」と呼ばれた男トーマは…
「おぉ!いつでもきやがれ!!…だが勝つのはこの俺様だぁ!!!」
互いの言いたいことを言い放つと二人は一呼吸を置いた。
その様子を心配そうにティファニーブルーの動物が見つめている…クィッキーだ。
「ククク…クィッキー!」
クィッキーの声を合図に、二人は互いの拳を突き出した。
…そして、刹那の静寂が訪れたと思うと、一方が地面へと膝をつき、跪いた。
どうやら勝利したのはミミーのようである。
「…畜生」
トーマがそう呟きながら地面を殴り続けている…よほど悲しかったのだろう。
何故このような事態に陥ったのかを説明するには、クィッキーが二人と出合った少し後まで
時間をさかのぼる必要がある。
117 :
長い戦い2:2006/01/15(日) 14:09:45 ID:gI5tnSHK
「なぁ…ミミー?」
「どうしたパン?牛さん」
トーマの質問に、ミミーが自家製のパンをクィッキーに食べさせながら応える。
「これからの事だが…どうする?ゲームに乗るにしても、脱出する手段を探すにしても
ずっとこの調子で逃げ回るわけにも行かないだろう」
真剣な問いかけにミミーは逆にトーマへと質問を投げかけた。
「…牛さんはこのゲームについてどうしたいと思ってるパン?
ルールに則った行動を取りたいパン?…それとも別の解決方法を探したいパン?」
こちらも何時に無く真剣な返事を返すミミー。それに対してトーマは再び質問で返した。
「…お前はどっちがいい?」
「…質問を質問で返すのは感心しないパン!」
ミミーは少しむくれてそう言い返すが、少し考えた後に悲しそうな面持ちでこう応えた。
「小生は…誰かを傷つけなくてもいい解決法を探したいパン。
…ゲームに乗るということは、牛さんとも……そんな事絶対にしたくないパン!!
だから……」
それを聞いたトーマは、まるでその答えを待っていたかのように…
「なら、その方法を探すとするか。…俺もお前に付き合ってやるからよ?」
と応えた。その応えにミミーは少しの驚きをもって聞き返した。
「…いいパンか?」
「あぁ、だからもうそんな悲しそうな顔をしないでくれ…」
−悲しそうにしているミミーの姿は見たくはない−
そう言いたいかのようにトーマはミミーの頭を撫でながら優しく応えた。
「…それじゃあ、取り合えずどこに向かって進むか決めるパン!
ここにとどまっていても進展は望めないパン!!」
「ああ、そうだな!」
「クィッキー(頑張ろうぜ、お嬢さん!旦那!!)!」
意気高々と今後のことを考え始めた二人と一匹(むしろ、一人と二匹か?)
しかし…これが悲劇の始まりだった。
118 :
長い戦い3:2006/01/15(日) 14:10:44 ID:gI5tnSHK
「それで、牛さんは取り合えずどこへ行きたいパン?」
地図を広げながら満面の笑顔でトーマに尋ねるミミー。それにトーマは…
「俺は、取り合えずここから北を目指してぇ…西の方から逃げてきたからな。
そっちには戻るわけにもいかねえだろ」
−ミミーも納得してくれるだろう…−
トーマはそう思っていたが、ミミーからは望んだ返事は返ってこなかった。
「確かにそうかもしれないパン…でも、小生はこの教会に行って見たいパン」
「…なんでだ?」
建物のある場所など、いかにも人が集いそうで、襲ってくれと言っているようなものだ
何故そのような場所にミミーは行きたいのか知りたかった。
きっとよっぽどの理由が…と思ったが、それは見事に裏切られた。
「教会でのウェディングは女の子みんなの憧れパン!」
「…」
トーマは言葉が出てこなかった。…そして数秒後に出てきた言葉が
「…馬鹿」
だった。
その言葉に過剰に反応したミミーは。
「馬鹿とは何パン!馬鹿とはだパン!!」
ミミーは顔を真っ赤にして怒っている。
−まずい、怒らせちまったか?−
そんなトーマに追い討ちをかけるように、さらに衝撃的な言葉がミミーの口から吐き出された
「こうなったら牛さん…勝負パン!勝負してどっちに行くか決めるパン!!」
"勝負"その言葉にトーマは少なからずうろたえた。
−ミミーと戦う?…冗談じゃねぇ!−
ミミーとの血生臭い戦いを避けたいトーマはミミーを落ち着かせようと話しかけた
「なっなぁミミー…ここはちょっと落ち着いて。」
しかしその言葉はミミーに届かず、ついに勝負の方法が決定した。
「勝負方法が決定したパン…その方法は!」
「……方法は?」
トーマが鸚鵡返しに聞きなおし、唾を飲み込むミミーの言葉を待つ…
そしてついに、その勝負方法がミミーの言葉から発せられた!
「勝負の方法は…じゃんけんパン!」
119 :
長い戦い4:2006/01/15(日) 14:11:39 ID:gI5tnSHK
…
…
…
そんな訳で、二人はじゃんけんの勝負を行い。その勝者の意向を聞くこととなった。
ちなみにクィッキーは、遅出し等の不正を防ぐための掛け声役である。
そんな、はた迷惑な勝負の勝者のミミーは…
「やったパン!また勝ったパ〜ン♪……牛さん、じゃんけん弱すぎパン!」
体全体で喜びを表現しながら喜んでいる。
…クィッキーがそれに巻き込まれて振り回されているが、それは置いておこう。
ミミーの「また」と言う言葉から分かるように、実はこの勝負かなりの回数行われている。
というのも、このトーマはじゃんけんがとても弱く、負けるたびに言う
「クソ!もう一回だもう一回…頼む!!」
泣きの一回をミミーが何度も認めているためだ。
トーマがどれだけ弱いのかと言うと…
「とにかく!これで小生の299戦299勝0敗パン。もう文句は言わせないパン!」
…とまぁ、こんな感じだ。
この発言にトーマ大人気なく、再度泣きの一回を求めた。
「…ミミー、頼む。後一回だけ、後一回だけ頼む!」
「牛さん、さっきからそればっかりパン。さすがにもう小生ももううんざりパン」
どうしても勝ちたいトーマ…そこでこのような提案をした。
−何処と無く最初の目的からズレているような気がするが…多分気のせいだろう−
「次を本当に最後の一回にするからよ…条件付で呑んじゃくれねぇか?」
「条件て何パン?」
「『次の勝負で勝ったほうが、負けたほうになんでも一つ願い事を叶えて貰える』
て条件だ…どうだ?」
ミミーは少し考えた後、返答した。
「分かったパン!牛さんの要求を呑むパン!!」
「ありがてぇ!」
「ただし…だパン!!」
「…ただし?」
「次のが本当の最後の一回パン!…もしそれを破ったら……」
「破ったら…」
何処と無く迫力を持つミミーの発言にトーマが恐る恐る聞き返す。
120 :
長い戦い5:2006/01/15(日) 14:12:28 ID:gI5tnSHK
「牛さんの鼻に、フランスパン10本突っ込むパン!!」
−ズギャーン!−
そんな効果音が聞こえたかどうかは定かではないが、その光景を思い浮かべ
トーマはガクガクと震えだした。
「…わ、分かった。次が最後だ約束する!!」
そして、再び二人の戦いに火蓋が切って落とされた。
…これが本当に最後の勝負。二人の間に緊張が走る。
相手の裏を読み、自分の力と直感を信じる…そんな勝負に今決着がつく。
少しの間の後、クィッキーが合図となる泣き声を上げた。
「ククク…クィッキー!」
そして、二人がお互いの信じた手を前に突き出す。
しばしの静寂が流れ…そして、この長き戦いの勝者が決定した。
「勝ったパ〜ン!これで小生の300戦300勝0敗…完全勝利パーン!」
勝者はミミー。よほど嬉しいのか、クィッキーを高い高いをしながら喜びを表現している。
その喜びようは尋常ではなく。…もし、何かの拍子でクィッキーからミミーの手が離れたら、
イクストリームを装備しているミミーの力ゆえにクィッキーが本当に"他界"
してしまうのではないかと言うくらい思いっきりぷりだ。
その反面、廃車のトーマ。…その情景を説明するのも不憫なほどの落ち込みっぷりだ。
負け続けていた反動か、トーマは衝動的に…
「クソ、もう一回…」
言いかけたが、先ほどのミミーの『鼻の穴にフランスパン10本突っ込む』発言を思い出し
真っ青になりながらその場にうなだれた…。
そんなトーマなど露知らず、上機嫌のミミーは元気良く歩き出しながら。
「さぁ、牛さん。教会を目指すパン!」
「……あぁ」
「返事が小さいパン!もっと大きな声で表示するパン!!」
「おぉ!ぉぉぉぉぉ…」
そんな可哀想なトーマの姿に見かねたか、クィッキーはトーマの首に巻きつき
「クィ、クィッキー(元気だしておくれよ旦那。そんなんじゃお嬢さんも悲しむぜ)」
と励ました。その言葉が通じたのか、はたまた偶然かトーマは…
「そうだな…何時までも落ち込んでてもしょうが無いな…よし、ミミー!行くぞ」
そう言いながら少し先に進んでいたミミーに追いつき、隣り合って歩き出した。
「はーいだパーーン!」
「クィッキー(目指せ教会!)」
この時、東の空には太陽が姿を見せ始めていた。
こうして二人と一匹は、教会を目指して歩み始めた。
その光景は、この先日まで共に寝食を共にしてきた者たちが互いの命を奪い合う
このゲームには限りなく不釣合いなものである。
…しかし願わくば二人と一匹の行く先に、この日の出の太陽のように光がさし伸べられらんことを望む
121 :
長い戦い6:2006/01/15(日) 14:13:00 ID:gI5tnSHK
【ミミー・ブレッド 生存確認】
状態:健康
所持品:ウィングパック×2 イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ クィッキー
第一行動方針:争わずにすむ解決法を探す
第二行動方針:G7の教会を目指す
第三行動方針:教会でのウェディングは女の子みんなの憧れパン!
【トーマ 生存確認】
状態:健康
所持品:メガグランチャー ライフボトル
第一行動方針:ミミーを守りぬく
第二行動方針:争わずにすむ解決法を探す
第三行動方針:G7の教会を目指す
現在地:G6森からG7の教会へ移動中
122 :
覚醒変異 1:2006/01/15(日) 15:32:58 ID:qJ2ZYgCj
時はまだ辺りが暗い頃―――
二つの閃光が交じり合った白い波動の中
少女は・・・シャーリィの意識が飛ぶ
どこかにいった思考は今やもう帰ってこない
否―それはすでに当の前に失くしてしまったモノ
ポツンと目の前に一つの小さな輝きを見つける
手を触れると・・・
「お姉ちゃん・・・」
ヴァーツラフ軍によって捕われ、漕我方の研究の為にひどい仕打ちを受けていたステラの姿があった。
その傍らには・・・
「お兄ちゃん・・・」
二人は微笑んでいる。楽しいとか嬉しいとかそういうものじゃなくて、
胸に、温かいものを感じる。暖かいものを感じる。
・・・そっか、やっぱり。
二人は見ていてくれている。見守っていてくれる。
そっか、ここにいたんだ。大丈夫、もう負けない。
だから二人とも、安心して見ていてね。
私は私のやるべきことをするから・・・
そして、お兄ちゃんとお姉ちゃんに会いに行くから―――
123 :
覚醒変異 2:2006/01/15(日) 15:34:41 ID:qJ2ZYgCj
辺りは静寂、ダオスとミトスは同じ方向を向いている。
ダブル・カーラーン・ビームを用いてシャーリィという小娘を迎撃した、正にその後。
「ふむ、どうやら出力、マナ、共に同位質のようだったな」
「じゃなければあそこまで同調(シンクロ)出来ないよ・・・どうして一緒なのかは判らないけれど」
「今は置いておこう、それに・・・」
もう一度シャーリィのいた方向を見つめる。その形は確認できない。
「あれでは助からん。左右同時による光線交差・・・免れるわけがない」
ミトスも一瞥する。一時とはいえダオスと協力してしまったのが少し気に食わなかったようだ。
だがそれも姉のため・・・ミトスは割り切り、姉の下へと戻ろうと促す。
「姉さんの所へ戻ろう、心配して―――」
その続きが言えない。どうやら続きを言うにはまだ早計だったようだ。
先ほどの方向からオーラを感じる。流石のダオスも驚愕の色を隠しきれない。
「まだ・・・生きているというのか・・・」
殺気。狂気。歓気。怒気。いずれにも当てはまらない、ただ大きな何かの力。
無心であり意志をもつモノ。二人には到底それが何によるものなのか検討がつかない。
ゆっくりと、その姿を、現す。
その髪は、綺麗な、見とれてしまうほどの、蒼色。
少女は、ゆっくりと、その上体を浮かす。
瞳は閉じている。意識があるのかないのは定かではない・・・が。
おもむろに右手をかざし出す。
その行為が何を示すのか、二人は一瞬判断を鈍らせた。
その一瞬、禍々しいマナの流動を二人は感じた。
特にダオスはいち早くその流れを感じる。遥か上空から、それは飛来する。
二人は左右に散開して体を転がす。刹那、さっきまでいた場所に雷光が降り注ぐ。
『インディグネイション』
124 :
覚醒変異 3:2006/01/15(日) 15:37:17 ID:qJ2ZYgCj
ドーーーンッ!!!!
厭な響きだ。間一髪回避した体の態勢をすぐさま整え、ダオスはそう思った。
そして同時に、身の危険をも感じ始める。
「ミトスよ!急いでマーテルを連れてここから離れろ!」
まだ煙幕が立ち上っている。姿は見えないが、煙幕を挟んで向こう側から声が返ってくる。
「アンタは!?」
「軽い足止めだけをしてすぐに向かう!マ―テルを頼んだぞ!」
「・・・判った!」
言うのと同時に足音が遠ざかるのが聞こえた。無事に抜けてくれたようだ。
煙幕により、少女の姿も見えない。技を使ってくればその流れを感知して回避、
一気に詰め寄ることも可能なのだが。
「その気はないらしいな・・・」
ただ、静寂が広がる。互いは一向に動く気配はない。
「ミトスよ・・・必ず守りぬけよ」
ダオスの表情は深刻なモノへと変わっていった。
125 :
覚醒変異 4:2006/01/15(日) 15:56:09 ID:qJ2ZYgCj
「アイツ、もしかして・・・」
ミトスに一つの推測が生まれる。さっきの攻撃によるダオスの反応速度は異常なまでに早かった。
何か理由があるのか。そしてあの少女の底知れぬ力は何だったのか。
理解は難を余儀なくする。
「それより・・・」
ミトスは見慣れた姿を見つけるとすぐさま走り寄る。
「あの娘が!?」
マーテルはやはり動揺を隠し切れなかったのか越えをあげる。
リオンは両手に件を携えたままマーテルの横で花再を聞いていた。
「早くここを離れよう。もしかしたら、この辺り一帯が火の海になるかもしれない」
我ながら大袈裟かとも思ったが、おそらくあながちはずれてはいないどろう。
あのオーラはそれを感じさせた。
「僕もその意見に賛成だ。不用意に近づくわけにもいくまい。早くここから離脱するのが・・・」
「あの人は・・・?」
リオンの発言が終わる前に、マーテルは一つの不安をぶつける。
「ダオスさんは・・・どうするんですか?」
「今は足止めしている。あいつのことだ、そう簡単にやられはしないよ」
この安心の根拠は何なのか、少なくともミトスには判りたくないものでもあった。
「さぁ、早く!」
言って、ミトスは手を差し出す。マーテルも渋々その手を握る。
「お前はその子を守れ。面倒見切れないからな」
ミトスは残りの二人に目をくれる。
「言われなくともそのつもりだ。行こう、マリアン」
「え、ええ」
戸惑いながらも、こちらも手を握る。
南へと向かう。とりあえず教会まで行けば難を逃れられるだろう。
「姉さんを悲しませるようなことだけはするなよ・・・」
自分でも聞こえるか聞こえないかの声でミトスは呟いた。
「死ぬなよ・・・」
126 :
覚醒変異 5:2006/01/15(日) 16:00:31 ID:qJ2ZYgCj
【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
現在位置:B7の森林地帯
状態:TPを中程度消費 シャーリィと交戦中
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:敵は殺す
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード ????
現在位置:B7の森林地帯
状態:擦り傷、足に軽裂傷、 TPをある程度消費 逃走中
行動方針:マーテルを守る
第一行動方針:マーテルと行動
第二行動方針:打開策を考える
第三行動方針:クラトスとの合流
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 邪剣ファフニール アクアマント
現在位置:B7の森林地帯
状態:驚愕
第一行動方針:マリアンを落ち着かせる
第二行動方針:ダオス達と行動
第二行動方針:ユアン、クラトスとの合流
【マリアン 生存確認】
所持品:ソーディアン・アトワイト スペクタクルズ×13
状態:驚愕 疲労 TP微消耗
第一行動方針:眠って頭を整理する
第二行動方針:アトワイトの提案した作戦を実行する
現在位置:B7の森林地帯
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ????
状態:覚醒
第一行動方針:海の意志に従う
第二行動方針:兄との再会
現在地:B7の森
【リオン・マグナス 生存確認】
状態:極度の疲労により気絶寸前 全身に軽い火傷 上半身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 肩に刺し傷
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー
第一行動方針:マリアンを守る
第二行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:B7の森
キールを揺り起こすと、リッドは先ほどまで座っていた椅子へと戻った。
「リッド、眠らないのか?」
「あぁ、どうせあと一時間もすれば放送があるしな。」
振り返らずに答えると、リッドは薄明るい窓の外を一瞥した。
そうか、とつぶやき、キールも同じように窓の外を見やる。
時計はちょうど5時を指したところだ。
二人ともホーリィリングのおかげで体の傷はほとんど回復している。
キールは小さく息を吐くと、まだ目を通していなかった書物に手を伸ばした。
これにも特に有益な情報はないだろう、そんな気はしていたがページを繰る手は止めない。
脱出の方法とまではいかなくとも、自分たちの居るこの島がどのような世界に属しているのか、それ
だけでも知りたかった。
しばらくして、キールは書物から目を離した。
深呼吸をしながら、ゆっくりと薄汚れた天井を見上げる。
メルディやファラと合流してここから脱出する、言葉にすると簡単だが、それは困難を極める。
自分とリッドが出会えたのもほとんど偶然と言っていいほどだ。
それに脱出の具体的な方法はまだ見当もついていない。
だが、もし何らかの方法で運良く脱出できたとして…。
そっと首元に手をやる。ひやりとした感触が指先から伝わった。
コウモリを模した金属の首輪は、静かにその存在を主張していた。
自分たちの命はこの首輪―ミクトランに握られている。
脱出できたとしても首輪を外すことができなければ意味が無い。
くそ、僕たちはあいつから逃げられないっていうのか?
脳裏にミクトランの、あの悪魔のような笑みが蘇り、気分が悪くなった。
ふと、ある疑問がキールの中に生まれる。
ミクトランは一体どうやって参加者の情報を手に入れているのだろうか。
―死亡した順に言ってしまうと、余計な詮索をする輩が出て困る。
第一回の放送で、ミクトランは確かにそう言った。
この口ぶりからすると、彼は参加者の死亡した順を知っている。
つまり、少なくとも生死の情報は正確に把握していることになる。
キールは胸中で舌打ちをした。脱出方法を探すことに囚われすぎていたようだ。
何故今までこのことを考えなかったのだろう。
キールは静かに頭をめぐらせる。
そういえば、島全体には拡声器が設置されていた。
これはリッドと合流するまでにいくつか位置を確認してある。
もしかするとあれはただの拡声器ではないのかもしれない。
…いや、違うな。
55人全員の正確な情報を取得するには数が少なすぎる。
それにあれは屋外にしか設置されていないようだ。
地図を見る限り、この島には建物や洞窟がいくつも存在する。
自分たちのように屋内に逃げ込んだ参加者の情報まで拾うことはできないだろう。
ではこの島の特殊なマナの位相を利用して?
違う、もっと単純な方法があるはずだ。
例えば参加者全員に共通する何か…。
「それ」に思い当たった瞬間、背筋が凍った。
「キール?何か分かったのか?」
首元に細く絡みつくコウモリが、自分達をあざ笑っているかのようだった。
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:額に切創(完治)、全身打撲(9割回復)
所持品:ベレット、ホーリィリング
基本行動方針:リッドと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:次の放送まで塔の中で体力を回復する。
現在位置:B2の塔 一階の部屋
【リッド・ハーシェル 生存確認】
状態:背中に刀傷(8割回復)、頬に擦り傷(完治)
所持品:ムメイブレード、エルヴンマント
基本行動方針:キールと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:次の放送まで塔の中で体力を回復する。
第二行動方針:できれば危険人物を排除する。(ただし、戦力が整うまでは逃げを優先する)
現在位置:B2の塔 一階の部屋
129 :
「覚醒変異」:2006/01/16(月) 21:38:38 ID:iUoldgT1
矛盾点、ルール無視など数々の非行があったため、このエピソードは無効とさせていただきます。
後ほど修正版や別の展開があると思われますのでそちらの方を参照にしてください。
G3洞窟―――スタンとバルバトスが戦っているその頃・・・
黒くこげ、その原型もなんとか留まっているラビットシンボルを握り締め、カイルは一つの選択肢に会う。
目の前で気を失っている自分より少し年上の女性。
向こう側の(暗くてよく見えないが)聞こえてくる喧々層々とした激しい音。
(あっちで戦闘が起こっているのかな・・・この人危ないんじゃないか?)
結論は出た。とりあえずカイルはその女性を背負い、戦闘が行われているであろう方向とは逆を進みだす。
「あれ・・・背は俺より高いのに、軽いな」
本人が目覚めていたらどんな反応をしただろうか。兎に角カイルは少し早足でその場から離れた。
段々喧騒とした音が遠ざかり、カイルは安堵の息を漏らした。
「ここまで来れば、もう大丈夫かな」
まだ洞窟は続いているが、歩く速度を落とす。
「こう長時間だと流石に疲れるな・・・」
本人が目覚めていたらどんな反応をしただろうか。兎に角カイルはその足を着々と進める。
すると急に正面から風が吹いてきた。
「あ・・・もしかして出口が近いのかな」
確か以前、洞窟内では風の有無で進路を決めるとかなんとかジューダスが言ってた(気がする)
その言葉を思い出し、少し緊張の糸が緩んだ。
と、その時・・・
ガガーーーッン!!!
唐突な後方からの凄まじい音。
岩やら何やらがぶつかり合って騒々しい音を書きたてた。
少し長い時間をかけたあと、ようやく音が止んだ。
「あんなとこで戦うから・・・崩れちゃったのかな」
他人事のように受け流し、更に歩を進める。
「着いた!出口だ!」
背負い者がいたので少し手間を取ったが、なんとか涼しい風に合間見えた。
さっきの音にも気付かない女性はまだ気を失っている。
「こんなとこに置いて行くわけにも行かないし・・・」
ふと、地図を見た記憶をたどる。確かここから東に待ちがあったハズだ。
「おぉ・・・俺なんて記憶力があるんだ!」
おかしなところに自画自賛し、そうと決まればと後に背負った女性―――ミントとともにカイルはジファイブの町へと足を向けた。
「この調子なら朝頃につくだろうな」
さっきまで寝ていたためだろうか、カイルは思いの他元気だった。
【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:全身に打撲、擦り傷
所持品:鍋の蓋、フォースリング、ラビッドシンボル (黒)
第一行動方針:ミントを背負い町へ
第二行動方針:父との再会
第三行動方針:リアラとの再会
第四行動方針:仲間との合流
現在位置:G3平原
【ミント 生存確認】
状態:睡眠中 TP微小
所持品:ホーリースタッフ サンダーマント
第一行動方針:不明
第二行動方針:仲間と合流
現在位置:G3平原
死闘の末、暴徒と化した闘士マイティ・コングマンを紙一重破った時空剣士クレス・アルベイン。
熾烈を極めたその闘いを決着へと導いたのは、神々により彼へと授けられた奥義・時空蒼破斬であった。
全てを裁く光の剣は空間をすら切り裂き、その爪痕には瓦礫の山そして大男の仁王立ちを遺した。
生命力を使い果たしたクレスは、奥義を放ったまま倒れたきり動かない。
決闘の主要因にしてただ一人の目撃者コレットは、野獣を討ち取りその使命を全うした騎士を見つめた。
尤も、彼の武勇は御伽物語に伝え聞くそれとは剰りに懸け離れた、血生臭い勝利であったが。
瞳に映る剣士は顔面をはじめ各所から脈々と血を流し、呼吸をするのがやっとの状態であった。
肩で息吐き、何度となく呼び掛け続けるコレット。
その声は彼に届く事無く、ただ彼女の度重なる疲労に拍車を懸けた。
諸手を拘束され、治療はおろか流れ出る血を止めてやる事すら叶わない。
時間だけが、無情に過ぎ去った。
クレスの顔は蒼白に沈み、その生命は風前の灯火である。
陽の当たらない荒く強張った床一面に広がった朱の池は、剥き出しの岩肌に徐々に呑まれていく。
その夥しい流血に、体内の血液がすべて失われてしまったのでは無いかとすら思えてくる。
力の限り叫ぶ度に、肩の傷が痺れるように痛んだ。
身体を包む熱が、体力を容赦無く蝕んだ。
それでも、彼女は悲痛な呼び掛けを止めなかった。
不意に、コレットは凍り付いたように静かになった。
彼女は気付いたのだ。
──彼は息をしていない
視界が、一気に暗転した。
無我夢中で彼の身体を揺するコレット。
立て膝に附いた足は小刻みに震え、ざらついた床との摩擦に堪え兼ね血を滴らせた。
熱と疲労とに侵食され尽くし、いよいよ意識が飛びそうになる。
彼女の意識を繋ぎ留めているのは、もはや彼を想う気力だけであった。
彼の顔色は蒼白から土気を帯びて黒ずんでくる。
彼が呼吸を止めてから、既に数分の時が過ぎていた。
その時だった。
突然に、頭の中が全くの無に帰した。
思考回路が冴え渡り、雑念が掻き消えていく。
そして彼女は気付く。
自分には、まだ出来る事があるではないか、と。
不自由な身体でクレスの首を擡げ、天を仰がせる。
口内の血を吐き出させると同時に、自らの呼吸を整えた。
鮮度の低い地下室の空気を目一杯胸に詰め、彼の胸中へと一気に吹き込む。
勢い良く侵入した空気はクレスの胸部を押し上げ、身体中を駆け巡った。
続けて、片膝を彼の胸に乗せると、一定の間隔で数回圧迫する。
まだ彼が息を吹き返す気配は無い。
再度息を吹き込み、また圧迫し……
何度も、何度も同様の動作を繰り返すコレット。
動悸は激しさを増し、視界は渦を巻く。
それでもなお、彼女は懸命に応急処置を続けた。
──フュゥゥゥゥ
クレスの口から僅か息が漏れた。
決死の処置の甲斐あり、彼は自己呼吸を再開したのだ。
コレットは顔を上げ、やり遂げた満足感を示すように笑みを浮かべる。
安堵の溜め息を吐いたその時、胸部を締め付けるような痛みが襲った。
腰を折り喘ぐも、体力の限界を超えた彼女がそれに堪え得るべくも無かった。
意識が、ゆっくりと遠退いていく。
だが不思議と不安は無かった。
彼が傍に居るから、と彼女が想ったかは定かでは無い。
力無く倒れ込み、コレットはクレスに折り重なるようにして無の世界に墜ちていった。
【コレット・ブルーネル 生存確認】
状態:TP半減、右肩に銃創、発熱
両手を後ろ手に拘束、大疲労、昏睡
所持品:なし
基本行動方針:取り敢えず生き残る
第一行動方針:クレスを助ける
第二行動方針:仲間との合流
現在位置:E2イーツ城地下拷問部屋
【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:瀕死、意識不明、顔の腫れ
左手に銃創(出血)、TP大消費
所持品:ダマスクスソード、バクショウダケ、忍刀血桜
第一行動方針:コレットを救い出す
第二行動方針:ミント、アーチェ、モリスンと合流
第三行動方針:サレと合流
現在位置:E2イーツ城地下拷問部屋
「ふむ、コングマンが倒れたか。奴は積極的な参加者だったため惜しい気もするが・・・
まぁ良いだろう。代わりに面白い物を聞かせてもらった。」
ミクトランはモニター室の椅子に座りながら、イーツ城にて繰り広げられていた戦闘の一部始終を
参加者の首輪に設置されている盗聴器を通して鑑賞していた。
現在時刻は午前六時直前、もうすぐ第二回放送の時間だ。
しかしミクトランは椅子から立ち上がろうとはしない。
彼にはいくつか、気がかりな事があった。
(この十二時間で、多くの積極的な参加者が脱落するとは予想外だ。
今はまだバルバトスと赤髪の男の二人やマシンガンの小娘、青髪の魔術師のような参加者も居るが、
このまま彼らの潰しあいが続いてしまう可能性もある。
その展開もまた捨て難いが、早い段階でそれが始まると後半は隠れるだけの穏健派ばかりが残ってしまう。
だがここで『24時間死者が出ない場合は全員の首輪を爆破』というルールが効力を発揮する。
流石の穏健派も・・・いや、穏健派だからこそ「仲間」を守るの為に「仲間」を殺すという
大きな矛盾を行わなくてはならなくなる。
結局参加者は首輪がある限り、殺し合いからは避ける事は出来ない。そう・・・首輪がある限りは・・。)
と、そこでミクトランは横に置いてあった参加者リストを手に取る。
(だが彼らの中に頭のキレる者が何人か居るのを確認している。体調や現在位置をモニターしている事に、
あるいは盗聴に気づいている者も居るかもしれん。これ以上首輪について詮索させないように
対策をとっておいた方が良さそうだな。)
などと考えている間に時刻は午前六時を迎えた。
盗聴器からは大人と子供が争う声が聞こえる、どうやら今も交戦中の者たちがいるようだ。
殺し合いを止めるようなマネをする気はないが、今は参加者の反応と今後の展開の方が気になっていた。
ミクトランは席を立ち、またも何処からともなくマイクを取り出して放送を始めた。
「おはよう、諸君。昨夜は良く眠れたかな?」
島全体に響き渡る皮肉の混じった声が、参加者たちに朝を告げた。
「未だ夢の中にいる者も居るかもしれないが、これから第二回放送を行う。
聞き逃した者は、各自ほかの参加者から情報を奪うなり対処したまえ。
もっとも、寝過ごしてしまった者にはこの忠告すら聞こえないだろうがな。」
しかしこの『バトルロワイアル』に参加している限り、彼らには本当の朝を迎える事
はない。来るのは更なる悪夢だけである。
「まずは、禁止エリアだ。早く脱落者を知りたい者もいるだろうが、
こちらも重要な内容なのでよく聞くように。」
なにやら含みのある言葉に、参加者の間で不穏な空気が流れる。
「では発表する、今から三時間後の午前九時よりF8、午後十二時よりB7
午後三時よりG5、第三回の放送がある午後六時よりB2だ。」
禁止エリアの指定場所を参加者に告げた途端、複数の声が盗聴器を通してミクトランの耳に入った。
その中には先程、奇妙な暗号めいた言葉を羅列していた連中の声も混じっている。
スクリーンを見ると禁止エリアに指定したB2とB7、G5には数個の光点が表示されていた。
「そろそろ自分の隠れ家が禁止エリアに指定された者もいるだろう。禁止エリアに踏み込んだ者は
例外なく首輪を爆破される。死にたくなければ設置時間までに動く事だ。」
前回の放送では聞けなかった禁止エリアへの反応が余程嬉しいらしい。
ミクトランは笑いを堪えるように放送を続ける。
「それでは脱落者の発表だ。第一回放送から今までに死亡したのは・・・」
禁止エリアの事で騒いでいた連中も含め、ほとんどの参加者が無言になりミクトランの次の言葉を待った。
「マリー・エージェント、マイティ・コングマン、ロニ・デュナミス、ゼロス・ワイルダー、藤林しいな
ジーニアス・セイジ、ポプラ、カッシェル、ソロン、ヴェイグ・・・おっと、彼はまだ『死者』ではなかったなw
以上の九名だ。」
ミクトランがわざとらしく訂正をするが、他の参加者の中には『ヴェイグ』という名の誰かが
死者と大して変わらない状態であること悟っている者も居るだろう。
しかし、大半の参加者は脱落者の発表に動揺しているようだ。
その証拠に盗聴器からの反応は、先ほどの禁止エリアの発表とは比べ物にならないものであった。
「残りは36人、夜ということもあり前回放送時より脱落者が減少すると私は予想していたのだが、杞憂だったな。
どうやらこの『バトルロワイアル』の主旨を理解してくれている参加者が少なからずいるようだ。
彼らのような良き理解者の存在は、主催者である私としても嬉しい限りである。今後も存分に楽しんでくれたまえ。
そして未だ仲間との合流・脱出などという無粋な目的で行動している者にも当然、このゲームを楽しむ権利がある。
今からでも遅くはない、他の参加者と殺し合い早くゲームの醍醐味を味わってくれ。・・・それでは放送を終わる。」
放送を終えたミクトランは、今後の事を想像した。
隠れ家が禁止エリアとなってしまう者は当然、新たなる隠れ家を求めて動く。
その道中に他の参加者と遭遇し戦闘が始まる。
新たな隠れ家にたどり着いたとしても、既に他の参加者が潜伏してた為に戦闘が始まる。
その事を予想して、事前に隠れ家となりそうな場所で待ち伏せをする者も出てくるだろう。
同じ事を考えて、別の待ち伏せを狙う者と戦闘が始まる事もある。
あえて設置時間前の禁止エリアへ進む者もいるだろう。
そこでやはり同じ事を考えた者と遭遇し戦闘が始まる事もあるだろう。
そのまま双方の決着がつかないまま禁止エリアの設置時間が来て・・・・。
今回の放送でゲームの流れが変わるのは明白だった。
「…え?」
洞窟内で放送を聞き、名簿の死者に×印をつけていたハロルドの手が止まった
―――ロニ・デュナミス
彼女のよく知る者の名前が呼ばれた
「あーあ、あいつアホね…」
口ではそう言いながらも、悲しみが込み上げてきた
この気持ちは、彼女の兄、カーレルが死んだときに似てる
カーレルは天地戦争の最終決戦の中、天上王ミクトランと相打ちになり(なぜか、ミクトランは復活してこのゲームを開催しているわけだが…)、命を失った
ロニが誰に殺られたかはわからないが、あのマグニスとバルバトスを倒さなければ、また仲間に危機が及ぶかもしれない
幸いカイルも、リアラも、興味深い骨仮面(ジューダス)も、まだ生きているようだ
そうよ!私は天才なのよ!私の頭脳が神をも越えることを証明してやろうじゃないの!
「兄さんもロニもあの世で見てなさいよ〜♪」
そして彼女は名簿のロニの部分に花丸を描き、鼻歌を歌いながら罠(今回はジーニアスの二の舞にならないように、目標を傷つけずに捕縛するタイプにする)を仕掛け始めた
「ふんふふんふふ〜ん♪」
【ハロルド 生存確認】
状態:全身に軽い火傷 擦り傷 痛み 強い復讐心
所持品:短剣 実験サンプル(燃える植物はほとんど無い その他の詳細不明) 釣り糸
現在位置:G3のジースリ洞窟崩壊した位置
第一行動方針:マグニス、バルバトスを確実に殺す
第二行動方針:目標以外とは極力接しない。仮に仲間に出会ってもマーダーの振りをして追い返す
第三行動方針:不明
上の「第二回放送」にて時間表記についての誤字が発見されました。
禁止エリアの設置時間「午後十二時」というのは誤りで正しくは「正午」
という事になります。本当に申し訳ありませんでした。
141 :
焦燥 1:2006/01/18(水) 13:34:19 ID:iChHenog
聞いたか」
「・・・あぁ」
大きな岩に腰掛けながらロイドは両手に握る木刀を見つめていた。
放送を聞いた途端に湧いてきたこの心の黒いもや。
辛くて暗い、ある意味人である証の感情。
―――ジーニアス…しいな…ゼロス
あの、楽しかった日々は何だったのだろう。
ジーニアスに宿題を見せてもらおうと家に行って、結局先生に怒られたっけ。
しいなが珍しく失敗した料理は、それはもう先生に匹敵するくらいの味だった。
ゼロスがナンパの極意を伝授してやるといって、結局俺はそっちのけで自分ばかり楽しんでた。
・・・あれ、おかしいな。つい最近のことじゃないか。
どこにでも転がっている、何気ない日の1コマじゃないか。
なのに、今俺がいるのはどこだ?
これが現実だっけ・・・よくわからなくなってきた。
どうすればこの苦しみから救われるのだろう・・・。
この、内から出てくる黒い霧みたいなモノ・・・
これに全てを委ねれば楽になるのかな・・・
不意に、一人の少女に、呼ばれた気がした―――。
(ロイド)
「コレット・・・」
呟くと、一層木刀を握る手が強くなる。自分で口にしてびっくりだった。
彼女の名前を言うだけで、こんなに楽になれる。
俺はまだ終わっちゃいない。まだあいつにも会ってないじゃないか。
今するべきことは、あいつらの・・・ジーニアスたちの影を追うことじゃない。
「よし」
言って、すっと執政をただし木刀を鞘に収める。
その様子を見てジューダスは少し笑みを漏らした。
「なんだよ・・・何かおかしいか〜?」
「いや、すまない。ただ・・・」
ジューダスはこちらを見ずに言う。
「お前らしかっただけだ」
「なんだそりゃ・・・俺はいつだって俺だよ」
「そうだったな」
またもジューダスは失笑する。ロイドももうつっかかるのを諦めたのか、頭をポリポリ掻くだけでそれ以上何も言わなかった。
142 :
焦燥 2:2006/01/18(水) 13:35:16 ID:iChHenog
だが、別の意見をロイドは質す。
「二人は・・・どうだった」
こんなこと、安易に聞くもんじゃないとわかってはいるが、どうしても自分の周りにいる人の近況は知っておきたかった。
メルディは落ち込んだ様子もなく、両手を挙げて言う。
「はいな。私の仲間は無事だったよぅ」
そっか、と頷き、ジューダスの方を見やる。ジューダスはスッと近くの木にもたれ掛かり、腕を組んで目を瞑る。
「一人・・・」
そう言ったきりその場の言葉は全てが封じられた気がした。
ロイドは掛ける言葉が見つからず、メルディはただ立ち尽くすしかなかった。
それを見てジューダスは皮肉な言い方でその場の言葉を取り戻した。
「どうした二人とも、腹が減ったのか」
「ちげぇ〜よ!・・・お前は強いんだな」
意外な言葉に少し戸惑うジューダスだったが、すぐさま平静を装う。
「別に強くなどない・・・ただ」
(慣れているだけだ)
言いかけて口を紡ぐ。これを言ってしまえば昔の自分が見えてきそうで少し怖かった。
「いや、悲しいといえば悲しいがな」
自分でいって目を見開く。心がポッカリとあいた気がした。
素直に言葉で表現しただけなのに、ひどくそれがとても大きいものに感じられた。
そうか 悲しんでいるんだ 僕は
「過保護がいなくなると淋しくなるな」
「え・・・」
それだけ言って、自分の心にけじめをつける。これで自分は自分でいれただろうか。そんなことを考える。
「なんでもないさ」
背を木から離し、ジューダスは地図を広げた。
「目的地を決めよう。そろそろ動き出さないと、仲間に会えないからな」
それぞれが互いの顔を見合う。
「おぅ!」
「はいな!」
今するべきことは死を嘆くことじゃない。生き延びることだ。
皆の気持ちを背負って、皆の分まで生きてやる。
進路は決まった。ここから東南にある城へと行くことになった。
「では出発だ」
早々に歩き出すロイドたち。それぞれ朝食がわりにパンを口にほおばった。
―――あいつの、カイルのことは僕に任せろ
だからお前は安心して眠っていろ―――
歩きながら天を見上げる。今日も雲ひとつ無い快晴だった。
143 :
焦燥 3:2006/01/18(水) 13:35:47 ID:iChHenog
【ジューダス:生存確認】
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール、???(武器ではない)
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:シシックス城へ向かう
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ロイド、メルディと行動
【ロイド:生存確認】
状態:健康
所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る
第一行動方針:シシックス城へ向かう
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ジューダス、メルディと行動
【メルディ 生存確認】
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
状態:TP8割回復 全身に打撲(小) 背中に刀傷 左腕に銃創
ネレイドの干渉を抑えつつある
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:ロイド、ジューダスを信じる
第二行動方針:仲間と合流
現在地:B5の森→東に進んで南下(シシックス城へ)
144 :
乱れる三巴1:2006/01/18(水) 14:37:20 ID:jS7j72l1
ダオスがマーテル達の居た場所へと戻ると、そこには目の下を赤く腫らした見慣れぬ女性が樹の根元にうずくまっていた。
その両腕には赤い装飾に細い刀身の剣を抱えている。
「戻られたのですね」
彼女の脇にはマーテルが宥める様に座り込み、ミトスが立っていた。
「お前、何処に行っていたんだ?」
ミトスが訝しげにダオスに訊くが、ダオスは、「いや」と軽く返事をするだけで先程の事態を話す事は無かった。
しかしダオスの外套はヴェイグの氷刃により少々痛んでおり、それはダオスが何かしらの攻撃を受けてきた事をミトスに窺わせる。
「まあいいけどさ」
ダオスもマーテルに気を遣われたくないのだろう、そう察してそれはミトスも同じだったので話を流した。
「それより放送を聞いたか」
「うん…知っている人いたよ…。
ゼロスって人」
吐き出す様にミトスは言った。
「そうか…」
ゼロスという名前を聞くと、うずくまる女性――マリアンが目を見開いた。
「そんな……」
体はがくがくと震え、顔を両手で覆った。
その女性は下女の様な格好をしており、とても戦いの場にそぐわない様相だった。
マーテルはまだ興奮から冷めぬマリアンの頭を優しく撫で、大丈夫よと声を掛ける。
「この女性は?」
ダオスが女性に視線を落とす。
そこで何者かが喋りだした。
『今…、彼女は混乱しているみたいだから私から状況を話すわ』
「誰!?」
145 :
乱れる三巴2:2006/01/18(水) 14:40:25 ID:jS7j72l1
ミトスは驚き、周囲を見渡して体を構える。
『私よ、彼女の持っている剣。大丈夫よ、驚かないで』
その剣、アトワイトは冷静に周りに語り掛けた。
「嘘…剣がお話するなんて…」
「意志を持つ剣か…。よかろう、話して欲しい」
ダオスはアトワイトにそう促した。
それは長い長い話だった。
先程の放送で死亡が確認されたゼロスという男との出会い、その男が襲われた事、襲った主はマリアンと親しい少年だった事、そして白蛇の髪の男―――
彼女が必死でここまで逃げてきた事も。
半刻程掛けてアトワイトは事を詳細に語った。
「…本当に…そんな戦いが……」
マーテルは悲しげに口を噛みしめる。
震えるマリアンを抱きしめ、背中を撫でた。
「よく…本当に良く頑張ったわね」
するとマリアンはマーテルの胸に体を預け、嗚咽を上げながらぼろぼろと泣いた。
そこには現実に打ちひしがれたひたすらにえづく弱々しい女性の姿があった。
「信じるに足る様だな」
「凄く可哀想だよ、この人…。どうかな、僕達と一緒に行こうよ。多分、力になれると思うから」
ミトスはマリアンに話掛ける。
マーテルは優しくマリアンに言う。
「…ゼロスさんというお方が命をかけてあなたを守ってくれたのね。
辛いけれど…頑張って生きましょう、ね」
一通り泣き通し、マリアンはようやく落ち着いたのか三人に頭を下げる。
「……ありがとうございます…」
146 :
乱れる三巴3:2006/01/18(水) 14:45:34 ID:jS7j72l1
しかし眼はまだ虚ろで、どこか気の抜けた様な表情だった。
「ミトス…、少しよいか」
マーテルとマリアンが何とか浅く寝付いた頃、ダオスはミトスに静かにミトスに語り掛けた。
「何?」
ミトスも静かに返す。
「少々、気になる事がある。あの女性を襲った者の事だ。お前には話しておきたい」
「…お前もそう思う?」
「やはり気付いているか」
彼女の話によるとマリアンは三人の男と出会った。
ソロンという男はあの白蛇の髪の男の事だろう。以前、ダオスは彼と接触した。それについてはもう安心だ。
しかし二人は死亡が確認されたが――
そのうちゼロスという赤髪を襲ったエミリオという少年は、まだ生きている。それにマリアンに対しては殺意があったかどうかも不明瞭だ。
何よりいくら全速力とはいえ、戦いを知らない女の脚だ。まだ近くに彼がいるかもしれない。
最悪、マリアンを殺す為に。
「…今は極めて危険な状況だ」
「そうだね」
ミトスはそれでもきっ、とダオスを睨んだ。
「マリアンさんを見捨てようだなんて考えないでよ」
「…随分と冷たく見られたものだな」
ミトスが少しむくれてふん、と顔を伏せた。しかしゆっくりとまた顔を上げて、遠くを見た。
「正直、あんたに嫉妬してたよ。僕より強いし、…姉さんといるし。姉さんを守れるのは僕だけって思っていたから」
はあ、と溜め息を吐いてダオスを見る。
「先程…あんた本当は誰かと戦っていたんでしょ?
黙っていてくれてありがとう。きっと姉さん知ったら悲しむから」
ダオスはふん、と視線を逸らした。
「この程度で嫉妬か。子供だな」
「なっ…!」
しかしダオスは少しだけ、口角を上げた。
今までに見ることのなかった彼の僅かな微笑みにミトスは一瞬目を丸くする。
「お前が姉を守ろうとする気持ちは本物だ。
私はお前の腕も確かだと思っている。これからも協力して欲しい」
ミトスはダオスの意外な発言に暫し黙ってしまったが、うん、と素直に頷いた。
そしてその直後、二人の眼は厳しいものになった。
その眼が睨む先は―――――
四人の居る場所を、遠くから見ていた者が居た。
凄まじい殺気を押し殺して。
147 :
乱れる三巴4:2006/01/18(水) 14:49:32 ID:jS7j72l1
その者の目には、マーテルとマリアンが映っていた
「なんで…?」
その少女―――シャーリィはわなわなと震えている。
マリアンとマーテルを映していた視界が、やがてマーテルに寄り添うマリアンに絞られる。
「やっぱり…私、見捨てられちゃうんだあ…」
マーテル。それはこの少女を最初に助けてくれた女性。
そのマーテルの横で体を預けて眠るマリアンにふつふつと嫉妬の炎が燃え上がってきた。
「ひどいよひどいよ。やっぱり私にはお兄ちゃんしかいないんだ、お兄ちゃん…」
尤も、シャーリィ自身がマーテルに刃を向けて三人の元から去ったというのに、シャーリィにはそんな事は関係なかった。
ただ、自分に初めて優しくしてくれた女性を自分の知らない女性に取られたようで悔しくて仕方なかった。
見れば見るほど、苛々する。
「私の…私のものを取るなんて…許せない…あの女…!!
お兄ちゃん、そんな人殺しちゃってもいいよね」
「どうせみんな殺しちゃうんだし」
「だけどあの女は今すぐに始末してあげるんだから」
ぶつぶつと独り言を繰り返し、シャーリィは握り締めていたマシンガンのトリガーを引く。
ばらら、と黒い音が森に響いた。
「なんだ…?」
その音を聞いて一人の少年が起きる。
近い。
眠っていたと言っても一刻ほどしか経ってはいないが。まだ体中が痛む。
それでもその痛みよりも胸を覆ってゆく得体の知れない不安の方が恐ろしかった。
嫌な予感がする。
「マ…リ…アン?」
直感的にその予感の意味を理解し、少年は起き上がった。
そして走り出す。
その銃声を追って。
148 :
乱れる三巴5:2006/01/18(水) 14:51:18 ID:jS7j72l1
【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
現在位置:B7の森林地帯
状態:多少TP消費 精神の緊張
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:敵は殺す
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード ????
現在位置:B7の森林地帯
状態:擦り傷、足に軽裂傷、緊張
行動方針:マーテルを守る
第一行動方針:マーテルと行動
第二行動方針:打開策を考える
第三行動方針:クラトスとの合流
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 邪剣ファフフニール アクアマント
現在位置:B7の森林地帯
状態:緊張、僅かな怯え
行動方針:ダオス達と行動
:ユアン、クラトスとの合流
【マリアン 生存確認】
所持品:ソーディアン・アトワイト スペクタクルズ×13
状態:混乱 疲労 TP微消耗
第一行動方針:気持ちを収める
第二行動方針:アトワイトの提案した作戦を実行する
現在位置:B7の森林地帯
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】 所持品:UZI SMG(30連マシンガン残り二つ)???
状態:狂気、TP半減、頬に切り傷、左腕刀傷(共に回復中)
第一行動方針:マリアンの殺害
第二行動方針:セネルとの再会(手段は選ばない)
現在地:B7の森林地帯
【リオン 生存確認】
状態:極度の疲労 睡眠 全身に軽い火傷 上半身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 肩に刺し傷
所持品:シャルティエ 手榴弾×1 簡易レーダー
第一行動方針:物音を追う
第二行動方針:マリアンとの再会(ただし再会を恐れてもいる)
現在地:C7の森からB7の森へ移動
「オイオイ。ここにいたらマズいんじゃねェのか? キール」
放送を聞いて、リッドは動揺を隠せなかった。思わず横のキールに問いかける。
彼らがいま居るB2の塔は、先ほどの放送によって禁止エリアの指定を受けてしまった。
慌てふためくリッドだったが、しかしキールは至って冷静な面持ちで言い放つ。
「禁止といっても、実効されるのは午後六時だ。僕らにとっては、なに一つ問題はない」
それだけ言って、再び配布された地図と名簿に印をつける作業に戻った。
キールのその姿に居ても立ってもいられないといった風な顔で、リッドは再度質問した。
「なんでそんなに落ち着いてられるんだよ。早くここから逃げねえと――」
「落ち着けリッド、少し話をしよう。……僕はある仮説を立て、そしてそれは実証された」
「へ?」
脱出方法を思案していたときに、そのヒラメキは天啓のようにキールの脳細胞に訪れた。
「………主催者ミクトランに僕たち参加者の位置は、完全に筒抜けになっている」
それが、キールの立てた仮説であった。
「一体どうやって!? 近くに誰か居るような気配は、まるでしないぜ?」
「…やれやれ。リッド、君はミクトランが参加者を直接監視していると思っていないか?」
リッドのボケにキールの突っ込みが冴える。
「残念ながら、位置を把握する方法においては、まだ僕の想像の域を出ていない」
そういって、フウとため息をついて明かり窓を見る。そしてすぐに向き直ってキールは続けた。
「だが、主催者が僕らの位置を把握していることは、ほぼ確定と見ていいだろう」
「話を続けよう。主催者にとって、今回の禁止エリアの選定によるメリットは何だ?」
キールに聞かれて、リッドがしばらく悩んだが、答えは出なかった。
「森を迂闊に歩くのがどれほど危険か、リッドも昨日の戦いで実感したことだろう。そういう森に不慣れな人間を動かすために、
このような一見隠れるのに最適と思える施設は必要不可欠だ。その狙いがないなら、初めから施設を用意しないことだろう。
それでも、今回の放送で一気に二つも施設を内包するエリアが禁止指定された。これでは本末転倒も甚だしい」
リッドは、キールのその話を聞いていたが、どうも苦手な分野のものだと思った。
「ミクトランは選定を幾らでもやり直せる。だがそれでも禁止エリアに指定した。そこから、僕らのようにいつまでも一つのエリアに
居座り続けることを、主催者が快く思わなかったのだろうと想像することは、難くない。主催者は殺し合いを望んでいるのだから。
そしてそれを可能にするには、僕らの位置を主催者が完全に把握していることが必要だということは、君でもわかるな」
ちょっと曖昧な仕草で頷くリッド。一瞬不安そうになったが、キールは構わず続けた。
「つまりだ。今後は主催者に目をつけられないために、多人数での行動などの通常では起こり得ない行動は慎む必要がある」
キールの最後の結論だけ、リッドはしっかりと理解した。それがリッドのいつものやり方だった。
そんなリッドのことを判っているから、キールも途中の説明にあまり時間をかけなかった。
「ってことは、あんまり大っぴらにミクトランをぶちのめす仲間を集めるわけにもいかねえってことか」
「いまはそういうことだ。次に今後の行動についてだが………」
手早く時刻と×印が書かれている地図を取り出し、テーブルに置いた。
「右回りと左回りのふたつの道が選べるが、こちらの橋を通るルートは人目に付きやすく――――」
話を切り出すキール。そしてそれを聞き意見をするリッド。性格こそ正反対であるが、この会議もそれほど長くはならなかった。
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:全身打撲(回復済み)
所持品:ベレット、ホーリィリング
基本行動方針:リッドと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:今後(次回放送まで)の大筋の行動を決める。
第二行動方針:主催者を刺激しないよう内密に脱出方法を思案する。
現在位置:B2の塔 一階の部屋
【リッド・ハーシェル 生存確認】
状態:背中に刀傷(9割回復)
所持品:ムメイブレード、エルヴンマント
基本行動方針:キールと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:今後(次回放送まで)の大筋の行動を決める。
第二行動方針:できれば危険人物を排除する。(ただし、戦力が整うまでは逃げを優先する)
現在位置:B2の塔 一階の部屋
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇっ!!!」
口元から散るよだれを拭おうともせず、シャーリィ・フェンネスはただ、自身の真紅の殺意に命じるまま、人差し指でトリガーを叩いた。
曙光抜けやらぬ空の下、鉛色の死が、マーテルとマリアンに容赦なく降り注いだ。
ウージーサブマシンガンから放たれる弾丸は、たとえ戦士でさえ捉えることは困難なほど高速で飛来する。
ましてや、それを受けようとしているのは、戦う力を持たないマリアンと、そして戦士としての訓練を受けていないマーテル。
すなわちウージーの掃射は、彼女らに下る死刑宣告。これを浴びれば全身の肉は引き裂かれ、骨も砕け散る。ただそこに残るのは、惨めな死だけだ。
しかしながら、彼女らには騎士が傍らに控えていた。強大な力を備えた、2人の騎士が。
「ッ粋護陣っ!!!」
ミトスは即座に身をかがめながら、得物を地面に突き刺し、闘気を瞬時に練り上げる。
緑色の闘気の障壁が球と化してミトスを包み、ウージーの射線を断つ。ミトスもまた、かつてクラトスにこの技を教わった者の1人なのだ。
くしくも、クラトス直伝の秘技は、ロイドとミトス…二人の手により繰り出され、二度もシャーリィのもたらす死を阻んだのだ。
ぎいん、ぎいん、と連続で鳴り響く銃弾の潰れる音。周囲に無数の鉛弾が跳弾を起こす。
鉛弾の威力を殺し切ることは出来なかったが、ダオスもマーテルもマリアンも、みなミトスの後方に控えていたため、流れ弾を食う心配はなかった。
シャーリィが標的の殺害に失敗したと気付いた頃には、シャーリィの視界は青一色に染まっていた。
「受けるがいい! タイダルウェーブ!!」
ダオスが後方で詠唱していた呪文に、自らの身を絡め取られたシャーリィは、たちまち地に着いた足を払われ、もんどりうって転倒した。
激流が、彼女の身に襲い掛かっていた。
「…お見事、ダオス!」
ミトスは珍しく、子供らしい物言いでダオスの協力に快哉を上げる。
「…あの妙な武器…確か『銃』と言ったか…の弾ごと、タイダルウェーブでなぎ払ってやろうと考えたが、お前のお陰で弾を払う手間が省けたな」
ダオスはかつて読んだ、デリス・カーラーンの古文書にあった記述から、シャーリィの武器の知識を引き出していた。
ダオスは多少の打撃なら、詠唱のための集中を乱さずに耐えられる自信がある。
タイダルウェーブを発動させるまでの間は、自らを「銃」の盾にしようと考案していたが、ミトスのお陰でその危険も省かれたようだ。
「それにしてもあの子…」
粋護陣を解いたミトスの眉間には、子供らしからぬしわが浮いている。そのしわはかすかな困惑と、そして明白な怒りに彩られていた。
「…昨日はマーテルとともにいたと思ったら、今度はこの返礼か!」
それはまた、ダオスと同じこと。ダオスの周囲で再び濃密なマナが渦を巻き、彼の外套と金髪を舞わせる。
「この落とし前は、きっちりつけてもらわないとね…姉さま?」
「…分かっているわ。剣が必要なのでしょう?」
マーテルは祈るように二言三言呟きながら瞳を閉じ、そしておのが皮袋に手を差し入れた。
引き出したのは、ねじくれた刀身と禍々しい光を帯びた剣…邪剣ファフニール。
「…使うのね、二刀流を」
「うん…」
ミトスは、強い決意を胸に秘めて、か細いながらもはっきりと、その意志を示した。
かつてミトスがシルヴァラントとテセアラの英雄と祭り上げられていた時代、彼が得意としていたのは二刀流。両の手に握り締めた剣と共に、彼は戦乱の大地を駆け抜けてきたのだ。
彼が二刀を欲している、ということは、つまり今がそれほどの事態である、ということに他ならない。
マーテルとてむやみに人の傷を増すような行為に手を貸すのは不本意だが、ミトスの真剣な目は、そのマーテルをして剣を渡さしめるほどに輝いていた。
邪剣ファフニールを握り締め、もとあったロングソードと共に構えるミトス。瞳をつぶって振り向き、マーテルに背を向ける。
「姉さま…行って来る」
ミトスの背に、制止の声をかけることなど、もはやマーテルには出来なかった。
「ダオス…僕は『先に』行く。後からついてくるんだ」
その言葉を最後に、ミトスは忽然とその姿を消した。
全身ずぶ濡れになり、吹き飛ばされ、地面に寝かせられる形となったシャーリィは、不気味に独り言を呟き続けていた。
殺したと思った。殺していたと思っていた。
期待してたのに。あの女の顔面が、焼くのを失敗してしまったイチゴのパイみたいに、ぐちゃぐちゃのバラバラになっていたはずなのに。
むかつく。むかつく。むかつくむかつくむかつく…殺す!
シャーリィは、自身の狂気と憤怒の命じるままに、再びマシンガンを掲げた。
殺す。うざったい邪魔者もろとも、ぶち殺す。豚より惨めな死を、あいつらにプレゼントしてやる。
死ね。みんな死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇっ!!!
ウージーのトリガーにかかった人差し指に、力を込めようとした、その瞬間だった。
「その辺にしておくんだね」
!? 背後を取られ…!!
その次の瞬間には、シャーリィの両の手首は、紙一重ほどのぶれもない、二筋の剣閃に切り裂かれていた。
「いやあぁぁっ!!?」
シャーリィはたまらずに、そのまま膝を屈し、地面にくず折れる。鮮血があふれ、彼女の衣服を汚していく。
「切り落とせるほど深くは入っていないけれど、手首の血管をやられたみたいだね」
ミトスは、今や膝を屈したシャーリィを背に、悠然とたたずんでいた。
ミトスがたった今行った術は、瞬間移動。彼を除けば、マナの楔たる精霊など、ごく一部の者のみが扱える行為の術の1つだ。
最も、この術を使ったところで、あまり長い距離を移動することは出来ない。せいぜい、歩いて数十歩程度の範囲が、ミトスの跳べる距離だ。
それでも、この一撃はシャーリィにとってはかなりの不意打ちになったはず。深くは切れていないが、もはやこれで銃を握ることは…
「!!」
だがそれは、シャーリィの抵抗の終わりを示す、チェックメイトにはなりえなかった。
手首を切り裂いた思っていたシャーリィの衣服が舞い、ミトスに強烈な後ろ蹴りを見舞っていた。シャーリィのかかとは、紛れもなくミトスの股間に突き刺さっていた。
「ぬああぁぁっ!!」
あろうことか、シャーリィが繰り出したのは金的蹴り。男性の暴漢に襲われた際、効果的とされている護身術の1つだ。
今は亡きセネル・クーリッジが、妹であるシャーリィに教えた簡単な護身術。暴漢に取り押さえられた時の脱出の技を、シャーリィはかけていたのだ。
彼の兄は、このゲームで最初に脱落したとはいえ、こうして今でもシャーリィの身を守っている。
シャーリィは兄に…兄の教えに感謝しながら、今の標的を改めて見定めていた。
「くそぉっ!!」
金的を強打された激痛で、たまらず意識が混濁するミトス。今度膝を屈していたのはミトスの方であった。
「さっさと死ねよ…うぜーんだよ、ばーか」
続けざまにミトスの繰り出されたのは、痛烈なトーキック。股間の激痛に身もだえするミトスに、この一撃をかわすことは出来ない!
(万事休すか!?)
だがミトスがそう思った次の瞬間、シャーリィの体はミトスから向かって、垂直に吹き飛ばされていた。
「ごげばぁっ!!?」
血と共に悲鳴を吐き出すシャーリィ。赤い尾を引きながら宙を舞い、後方の木の幹に背を思い切り叩きつけられた。
「…私を忘れるな、ミトス」
刹那、ミトスの目の前で舞ったのは、金色の外套だった。
シャーリィがどいたがために開けた視界の前に立つは、金髪の偉人ダオス。回し蹴りをシャーリィのどてっ腹に叩き込み、シャーリィを吹き飛ばしていたのだ。
「ダオス…済まない」
「これで私もお前を助けたから、貸し借りはなしだな」
ダオスはそう言いながら外套を翻し、意識のあるなしも定かではないシャーリィの方へ向き直った。
「さて、貴様がマーテルに牙を剥いた罪、どのようにして裁いてくれようか」
大股でシャーリィに歩み寄ったダオスは、シャーリィの頭をつかみ上げて、無理やり地面から立ち上がらせる。
「私に何をす…!!」
次の瞬間、シャーリィの体は、ダオスの渾身の一振りで宙を舞っていた。
そしてまた次の瞬間には、シャーリィの腹部から太い木の枝が、肉を突き破って生えていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
ダオスはシャーリィの体を放り投げ、手近な木の枝に、シャーリィ突き刺していたのだ。
一言で言えば、今やシャーリィはモズのはやにえ。木の枝に腹部を貫かれ、無理やりにぶら下げられているのだ。
恐怖と激痛のあまり、涙と血をとめどなく流すシャーリィ。失禁して垂れ流れてきた尿が、シャーリィの下半身を新たに濡らしていく。
「…貴様だけは例え謝っても、決して許さん。そこならば、何があろうと逃れることは出来まい。救いのない確実な死を、貴様に見舞ってくれる」
刹那、ダオスは胸の前に両の手のひらを掲げ、そこに魔力を集中させる。白く輝く球体が、鼓動を打ち始める。
「…ダオス、ボクも手伝うよ」
そこにいつの間にか並んでいたのは、ミトス。ミトスもまた、胸の前に白い球体を掲げ、木の枝に刺さったシャーリィを眺めている。
「ミトス…」
「多分あんたも、ボクと似た技を使えるはずだろう? あんたがボクらの所から離れていたときのマナの乱れ方…ボクの技にそっくりだったからね」
「…ふん、知っているなら、まあいいだろう」
ミトスの胸の前の球体は、すでにまばゆい輝きを放っていた。ダオスはもうそれ以上何も言わずに、ミトスに倣った。
デリス・カーラーンの過去と…そして未来の王。
くしくも運命がめぐり合わせたこの二人には、似通った力が与えられていた。
純粋な魔力を両の手のひらに込め、それを光の柱に変えて撃ち出し、全てを焼き払う、その力が。
もはやまともに目を開けていることすら困難な、光の洪水がその場には起きていた。
「お前をこの世から…塵一つ残さず消滅させてやる!」
「貴様の魂ごと、この一撃で打ち砕いてくれるわ!」
次の瞬間、魔力の鼓動は、臨界点を突破していた。デリス・カーラーンの赫怒が、ここに炸裂した。
「受けろ! ユグドラシルレーザー!!」
「これで終わりだ! ダオスレーザー!!」
ミトスとダオス。二人の両手から放たれた極太の光線は、射線上の木々を、草を、葉を、全てを呑み込みながら、泣き叫ぶシャーリィへ迫る。
「「滅び去るがいい!! ダブルカーラーン・レーザァァァァァァッ!!!」」
放たれた二本のレーザーは、ちょうどシャーリィがぶら下がった辺りで交差し、周囲を白一色に染め上げた。
この島の北東部の空は、朝焼けの赤ではなく、白い光に染まる。
デリス・カーラーンの裁きが、この地に下ったのだ。
膨れ上がる爆光は、呑み込んだもの全てを塵に返しながら、なおも貪欲に辺りの木々を焼き払い、大地を、そして天を揺るがす。
しかしながら、ダオスとミトスは気付くことが出来なかった。
断罪の爆光がシャーリィを呑み込む直前、シャーリィの皮袋から偶然落ちた、青い宝石の存在に。
まるで、真相を知るものならば、かの者の激しい怨念が、そうさせたかのように思えるだろう。
同じく「それ」を肉体に埋め込まれ、そして無残な死を遂げた滄我の長老、マウリッツ・ウェルエスの怨念が。
とにもかくにも、シャーリィの左手には、今や確かにその青い宝石は零れ落ちていた。皮肉か、はたまた僥倖か、彼女にもまた、マウリッツと同じ運命が訪れようとしている。
左手に埋まった、要の紋を持たないエクスフィア。エクスフィアは白い光の中、全てを知ったかのように光り輝いていた。
【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
現在位置:B7の森林地帯
状態:TPを中程度消費 シャーリィに激怒
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:敵は殺す
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード 邪剣ファフニール(マーテルから借用)????
現在位置:B7の森林地帯
状態:擦り傷、足に軽裂傷、金的に打撃 TPをある程度消費 シャーリィに激怒
行動方針:マーテルを守る
第一行動方針:マーテルと行動
第二行動方針:打開策を考える
第三行動方針:クラトスとの合流
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 アクアマント
現在位置:B7の森林地帯
状態:驚愕
第一行動方針:マリアンを落ち着かせる
第二行動方針:ダオス達と行動
第二行動方針:ユアン、クラトスとの合流
【マリアン 生存確認】
所持品:ソーディアン・アトワイト スペクタクルズ×13
状態:驚愕 疲労 TP微消耗
第一行動方針:眠って頭を整理する
第二行動方針:アトワイトの提案した作戦を実行する
現在位置:B7の森林地帯
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) 要の紋なしエクスフィア
状態:両手首に裂傷 腹部に大ダメージ
第一行動方針:マリアンら4名の殺害
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:B7の森
赤色の髪をした男――−クラトスはその光景にしばし呆然とする。
手前には誰だか知らない剛感な男が立っている。すでに息はないようだ。
「コングマン・・・さん」
隣の少女――−リアラが呟く。そうか、この男がコングマンという奴か。
そしてその奥にいる二人、見知らぬ男性の上を覆い被るようにして倒れている少女を目にする。
視認すると、すぐさまコングマンの横を通り過ぎ、少女の下へと駆け寄る。リアラもその後に続く。
だがもう一人後ろにいた男、サレだけはこの拷問部屋と思わしき部屋の唯一無二の出入り口から動こうとはしなかった。
「神子よ、大事は無いか」
上半身を起こし、呼びかけるが意識はない。どうやら深い眠りについているだけで、傷らしい傷と言えば肩に見える銃による損傷だけだ。
だが、クラトスもリアラもつい目はもう一人の青年の方へと向いてしまう。その顔は赤や紫に腫れ上がっており、とてもじゃないがまともに見られる状態ではなかった。
だがかろうじて息はある。それだけが唯一の救いか。
「リアラよ、治癒魔法は使えるか」
「あ、ハイ。晶術でよければすこしだけなら・・・」
「ではその青年の手当てを頼む」
言うなりクラトスはコレットを支えている腕とは逆の腕をかざし、コレットの治癒を始めた。
『ファーストエイド』
リアラも両手をかざし、青年へと癒しの力を注ぎこむ。
『ヒール』
緑の癒しの光を発する中、サレだけは不気味な笑みを浮かべていた。
「さて」
言ってサレはそこらじゅうにある壁に入ったヒビを見る。どうやら今さっき出来たものだということは理解した。
かなりの衝撃があったのだろう。もうこの城を支えているのが不思議なくらいの破損率だった。
これじゃ壊してくださいと言っているようなものじゃないか・・・。
サレは一人クスクス笑い、必死になって回復に専念している二人を見やる。
―――するべきことは決まった。当初の目的とは違うが、ここで葬り去っておくのが得策だろう。
二人に背を向け出口を目指す。外に出て、嵐のフォルスでこの城ごと・・・
「無駄なことはやめておくのだな」
後ろから、重低な声が降り注ぐ。サレはその足を止めた。
「何のことかな」
サレはとぼける。とっさの計画までもおじゃんにされたら元も子もない。
振り向いてクラトスを見る。だがクラトスはコレットの治癒に専念し、背だけでサレと会話する。
「崩落させたいのならあとにしてくれ。それとも、私たち共々じゃないと満足せぬのか」
その態度に、サレの怒りが沸々と湧き上がってくる。
・・・だがここでキレるような奴はただの三流のやりかただ。
ふっと笑いを零し、気分を落ち着かせる。
「何言ってるのさ。そんなこと僕がするわけ無いだろう?」
「ふん。ならいい」
それからクラトスは一言も話さない。だが治癒魔法を施しているその背中にも、隙という隙はまるで無かった。
なんだこいつは・・・後ろに目でもついているのか。
サレはその腰に携えている剣に手を置き、それ以来動けなかった。
「がはっ!!」
「きゃっ!」
急な呼吸を再開した青年に驚いたリアラだったが、それが確実な生命維持の行為だと判ると安堵の息を漏らす。
今の今までヒューヒューとしか息をしていなかった青年はここにきてやっとまともな呼吸を開始する。
だが逆にリアラの息は乱れ、疲労が蓄積する。加えて、先ほどの放送による精神的ダメージもその比ではなかった。
―――ロニの名前が耳に入った
この拷問部屋にたどり着く少し前にその放送を聞いた。
それによって今が朝の6時だということも確認した。
そしてその後の死亡者発表、それを聞いて足が崩れそうになった。
だけど、隣にクラトスさんとサレさんがいてくれたおかげで、リアラは自分を見失わずに済んだのだ。
今は一刻もカイルに会うために。その信念がリアラの背中を後押ししていた。
だから、ここで倒れるわけにはいかない・・・ここで息絶えようとしている人を見過ごしてはならない。
もう、このゲームの歯車は動き出して後戻りできないのかもしれない。
けど、今生きているのだから今を信じないでどうする。
自分に言い聞かし、再度治癒魔法を青年にかける。充分酸素を取り込んだのだろう。青年の顔色は徐々に血の気を帯び始めていた。
「良かった・・・」
そういい残し、リアラは横にうな垂れる。
一度のヒールでは青年の体力は回復しきれなかったので連続晶術を施したのだが、流石に精神、身体ともに疲労のピークに達したようだった。
「すいません・・・クラトスさん・・・」
コレットの回復が終わったのか、リアラの額に手を置いて優しい声で気分を宥める。
「いや、よくやった。今はゆっくり休むといい」
「ハイ・・・」
そう言ってリアラの瞼は閉じ、しばしの休息を得た。
コレットの傷自体は治ったものの、その体はやけに熱い。
この発熱のしかたは天使化によってほぼ抑えられているようなもの。もしこのまま大きな怪我でもしたらそれこそ天使特有の暴走をするところだっただろう。
発熱自体は時間経過とともに薄れていく。そのことはクラトス自身がよく知っていた。
リアラが回復させた青年も今は穏やかな呼吸の下に眠っている。コレットも熱を発しているので苦しそうではあるがしばらくは安全だろう。
さて、残るは・・・
「どうやら皆眠ったみたいだねぇ」
もう一人の男、サレがその口を開く。やれやれと言った感じで両手を肩の上まで挙げている。
その言葉を聞くと、クラトスは振り向き立ち上がりサレの下まで歩き出す。
「おや、何の用かな」
「貴様に聞きたいことが山ほどある。着いて来い」
サレの横を通り過ぎ、1階へと足を向ける。
「・・・ちっ」
舌打ちをしてサレは渋々その後ろをついていく。
まぁいい。今はこの男をどうするかだな。
そう思ったサレは剣に手を置いたままクラトスと共に地上へと向かった。
【クレス 生存確認】
状態:瀕死 意識不明 顔の腫れ TP消費(中)
所持品:ダマスクスソード バクショウダケ 忍刀血桜
第一行動方針:不明
第二行動方針:ミント、アーチェ、モリスンと合流
第三行動方針:サレと合流
第四行動方針:仲間と最後まで生き残る
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
【コレット 生存確認】
状態:TP半分 発熱 大疲労
所持品:なし(コングマンにより鞄ごと没収)
第一行動方針:取り敢えず生き残る
第二行動方針:クレスを守る
第三行動方針:仲間(Sキャラ及びクレスとサレ)との合流
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋
【サレ 生存確認】
状態:無傷
所持品:ブロードソード 出刃包丁
第一行動方針:クラトスの始末
第二行動方針:コレット、クレス、クラトス、リアラを利用する
第三行動方針:ティトレイの始末
現在位置:E2の城地下
【リアラ 生存確認】
状態:休眠状態
所持品:ロリポップ ???? ????
第一行動方針:不明
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:避けられない戦いは戦う
現在位置:E2の城地下拷問部屋
【クラトス 生存確認】
状態:足元の火傷(小)
所持品:マテリアルブレード(フランベルジュ使用)
第一行動方針:サレへの対処
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:コレットが気になる
第四行動方針:ロイドが気になる
現在位置:E2の城内部
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名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/18(水) 22:35:36 ID:YxTGroKf
テイルズシリーズはどれからやったらいいのか?
エロい人教えて!
日が昇りきった朝の大地。
モリスンとジェイは尚も戦っていた。
状況としては、モリスンの繰り出す魔術をジェイが避け続けている、といったところ。
ジェイは、モリスンが魔術を多用する事によって精神的に疲労するのを狙っていた。
事実、モリスンは少しずつ息切れを起こすようになり、魔術の間隔も僅かずつだが長くなっている。
そうやって稼いだ時間に移動して、彼は遂に地面に刺さったままだった忍刀・紫電をようやくその手に戻した。
そしてそんな時だった、ミクトランによる放送の音が聞えてきたのは。
『おはよう、諸君。昨夜は良く眠れたかな?』
戦闘に夢中で気付かなかったが、もうそんな時間だったらしい。
二人揃って一瞬動きを止める。
「放送か……。こんな時に限って――」
「油断大敵って言葉、知ってます?」
先に動いたのはジェイで、彼はクナイを投げてきた。
咄嗟のことだったが、クナイの軌道を見切ったモリスンは一歩後ろに下がり、それを避ける。
すると、予想通りクナイはモリスンの元いた場所の地面に刺さった。しかし、そこからは彼の全くの想定外だった。
クナイは刺さったまま、炎を吹き出したのだ!
「なっ!? 先ほどの刀での技と同じか!?」
まさかクナイでも似た技が出せるとは……。
技自体は最初に類似したものを見ていたモリスンだったが、クナイは投げて刺す為だけに今まで投げられていたので、そういった用途があることを想定していなかった。
一方のジェイも、普段刀で出すべき技をクナイという勝手の違う武器で出した為、普段より集中力と精神力を使っていた。
しかし、その甲斐もあり、モリスンは驚きの余り隙が出来ている。
――今ならやれる!
そう思い、刀を持って飛び掛るジェイ。
モリスンはジェイが攻撃の態勢に入ってから、ようやく気付くが、杖で防戦する暇ももう無い。
ジェイは勝利を、モリスンは死を覚悟した……が。
しかし、次の瞬間ジェイの耳に信じられない言葉が飛び込んできた。
『――ッシェル、ソロン、ヴェイグ――』
その名詞が出てきた瞬間にジェイは放送が聞えたとき以上に硬直した。
以前の戦った事のある『幽玄のカッシェル』の名前が聞えたがそれはこの際、どうでも良かった。
問題はその次に呼ばれた『ソロン』という名前。
ここで名前が呼ばれるということはその人物が死んだということ。
つまり――“ソロン”トイウ男ハ死ンダ?
ジェイは、モリスンを目の前に刀を構えたまま硬直してしまう。
彼にとって、ソロンは絶対の存在。一度はその呪縛から解放されたものの、この島に来てから再び絶対の存在となった。
しかし、その“絶対”が死んだ、という。
つまりは呪縛からの再度の解放。命令に従わなくて良い、ということ。
突き詰めていくと、“命令”とは人を殺す、ということ……。
それを認識したジェイは、途端に先ほどまでモリスンの命を奪おうとしていたその刀を落としてしまう。
そして、急に力が抜け、両膝を突く。
「僕は……もう殺さなくてもういいの……?」
少年はその呪縛から解放されたことに未だにはっきりと理解しておらず、自問自答を繰り返す。
その顔は、まるで魂か何かがぬけたような表情だった。
「僕は……ぼくは……」
言葉をつぶやき続けるジェイの頭に不意に大きな掌が乗った。
「もう、この辺でいいんじゃないのか?」
モリスンはジェイの頭に手を乗せたまま、穏やかに話しかける。
「……一体、何があったのか、話を聞かせてくれるか?」
もう、モリスンにはこの放心する少年と戦う意志は無かった。
そして、ジェイにも…………。
日が昇りきり、空が鮮やかな蒼に染まった頃の休戦だった…………。
ジェイは、今までのことについて、自分とソロンの事情を絡めて、モリスンにかいつまんで話した。
ソロンが、自分の育ての親だった事。自分を操り人形としか見ていなかったこと、そして、この島でも少女を裏切り、傷つけてしまった事を。
そして、話が終わるとモリスンは、再び手をジェイの頭に乗せてやった。
「君を縛るものはもう、消えたんだろう? だったらもう不安がる事なんてないじゃないか」
「………………」
「私にも君くらいの年の息子がいるのだが……そのソロンとか言う男は、いくら血が繋がってないとはいえ、育ててきた君をそんな風に利用するとはとても許せない男だな……」
モリスンの言葉には確かに、ソロンという存在への怒りが込められていた。
「そして、君のような年の子をこのような殺し合いに参加させるなどというミクトランという男も……やはり許されるべき存在ではなさそうだな」
今までモリスンは、ミクトランに対しては、殺し合いなどというふざけたゲームを勝手に開催した事への不快感は持っていたが、それ以上にダオスと自分を同じ島に送ったという点で感謝の念を持っていたのも事実だった。
だが、今回のジェイとの戦いで改めて、見ず知らずの者達との殺し合いの異常さを認識させられた。
そして、ダオス打倒とともに、ミクトラン打倒による殺し合いの早期終了をすべきであると考えるようになった。
「……僕は……これからどうしたらいいんでしょう?」
そんな決意を新たにするモリスンとは裏腹に、ジェイは弱弱しくそうつぶやいた。
呪縛から解放されたジェイであったが、それは同時に行動方針を変えなくてはならない、ということだった。
今までは生きる為に自分という人形を操る人形遣いであるソロンに従っていた。
しかし、その人形遣いが退場した今、舞台に残るのは糸を操る指が消え、動けなくなった人形のみ。
残された人形は、どうしたらいいのだろうか?
操る指無き人形に、生きる道、やるべき事などあるのだろうか?
ジェイは、不安にかられていた。
そして、そんなジェイへモリスンは穏やかに声を掛けた。
「君を縛るものはもう何もない。だから何をやっても君の自由だ……いや、もう君は何をすべきか心の内では分かっているのかも知れないな」
何をすべきか心の内では分かっている――本当にそうだろうか?
自分は所詮、愚かな操り人形。誰かの命令が無ければ何一つ出来ない哀れな操り人形……。
――いや、違う!
僕は、遺跡船での様々な出会いで変わったはずだ。
意志を持って行動し、遺跡船を侵略するヴァーツラフ軍を撃退し、世界を無に帰そうとした神すら退けたはずだ!
僕は…………人形じゃない!!
ジェイは、心の中で何かがふっきれた。
そして、それと同時にこれからやるべきことを見つけた。
一つは、まだ生きているはずのシャーリィとの合流。
非力な彼女を、彼女の兄であり、今は亡きセネルの代わりに守ってやりたかった。
そしてもう一つは、ミントという少女への謝罪。
命令であったとはいえ、傷つけた事は事実であるし、きちんと面と向かって謝りたかった。
そして欲を言えば、この島から脱出する方法を見つけたい。
その時は、シャーリィは勿論、ミントも一緒に脱出できる方法を見つけたいのだが…………。
「…………僕、見つけました。これからするべきことを」
「そうか…………」
三度、モリスンはジェイの頭を撫でてやる。
しかし、ジェイは恥ずかしくなったのかその手をどけようとする。
「やめてくださいよ、子供じゃないんですから」
「ははは! 私から見たら君なんてまだまだ子供だよ!」
「じゃあ、あなたはオヤジですね」
「む……。否定は出来ないがオヤジといわれると流石に……」
ジェイは、そんなモリスンの姿を見て、かつて共に戦った灯台の街の保安官を思い出し、笑ってしまう。
それが、ジェイがこの島で初めて見せた、本当の笑みだった…………。
少しして、モリスンが立ち上がった。
「それじゃあ、私はそろそろ出発するよ。君はどうする?」
モリスンの言葉は、『一緒に行かないか?』というニュアンスにもとれた。
しかし、彼が進もうとしているのは自分が向かうべきG3の洞窟とは正反対の方向。
ジェイは、一緒には行けなかった。
「僕は……あっちへ行かなくちゃいけないんです」
「それが、君の“するべきこと”なのかな?」
「はい……」
すると、モリスンは納得しつつも、少し残念そうな表情になった気がした。
「そうか……。なら、ここで別れのようだな」
「えぇ。……あ、そうだ! あなたにこれを……」
ジェイはふと思い出したかのようにザックの中から支給品であった辞書を取り出した。
モリスンはそれを受け取ると、不思議そうに表紙を見る。
「……これは?」
「恐らく呪文か何かの辞書だと思います。僕はブレス系じゃないし、爪術とは仕組みが違うみたいだったら持っていても意味がないので、呪文を使うあなたに渡しておこうかと……」
「ふむ……呪文か……」
ぱらぱらと、辞書をめくると、確かにそこには何やら呪文のようなものが色々と書き込まれていた。
……が、それはモリスンの知るアセリア世界での魔術とも違うようだった。
しかし、ジェイの好意を無駄にはできない為、モリスンは笑顔で礼を言う。
「あぁ、ありがとう。参考にするよ」
「では、僕は行きますね。それでは!」
ジェイは、足を怪我していたにもかかわらず、常人の数倍のスピードで駆けていった。
モリスンは、そんなジェイの姿を見やると、再び辞書へと目を落とした。
(確かに魔術に似ているような呪文形式なのだが……でもどこか違うように見受けられる……。これは一体…………)
その呪文をモリスンが知る由はなかった。
なぜならば、それは彼が死亡後のアセリア世界で成立した新しい術、“法術”の呪文だったのだから…………。
【ジェイ 生存確認】
状態:頸部に切傷 全身にあざ、生傷 右腕右足に深めの裂傷(傷は全体的に回復の傾向)
所持品:忍刀・雷電 ダーツセット クナイ(五枚)←一部回収
第一行動方針:ミントへの謝罪
第二行動方針:シャーリィと合流
現在位置:E3平原からG3洞窟へ移動
【エドワード・D・モリスン 生存確認】
状態:全身に裂傷とアザ 背中と左上腕に刺し傷(傷は全体的に回復傾向) TP中消費
所持品:魔杖ケイオスハート 割れたリバースドール 煙玉(残り二つ) クナイ(一枚) 法術に関する辞書
第一行動方針:ダオス討伐
第二行動方針:ミクトラン討伐
第三行動方針:辞書の呪文を理解する
現在位置:E3平原から更にD3方面へ北上
それにしても一体自分はどのくらい岩に埋れていたのだろうか。
洞窟の中なので環境的判断は出来ない。外は真っ暗なのか明るいのかすらか判らない。
そこで、とハロルドと訣別したスタンは洞窟を歩きながらザックに入っている時計を取り出し時刻を確認する。
「朝の5時半!?そんなに生き埋めになってたのか・・・」
我ながらタフだなと思い、時計をしまう。
ハロルドと行動を別としたスタンは出口へと向かった。
未だに少年への無念やハロルドへの怒りは収まっていない。だが、いつまでもここにいては仕方が無い。
そう判断したスタンはミントを連れて洞窟を後にする。
・・・つもりだったのだが。
「ミントがいない・・・」
確かに通路横に寝かせておいたハズなのに今は忽然とその姿を消していた。
「目が覚めて一人でどこかへ行ったとか・・・いや、あの子の性格からしてたぶんそれはない・・・じゃあどこに・・・」
一人ごちてその場でうろうろするスタン。
と、その足を急に止め、「まさか・・・」と声を縮める。
「誰かに連れ去られた・・・とか」
独り言に一人頷くスタン。だがそうとなればこんなことをしている場合ではない。
「うわヤバイ!もしかしたらもうすでに・・・」
バルバトス、マグニスと交戦してから結構な時間は経過している。ミントがいつ連れ去られたかは判らないが、もう充分遠くへ行ってしまってはいるだろう。
だがしかし、こんなことでスタンはめげなかった。
「待ってろミント!今助けに行ってやる!」
そう叫ぶやいなや高速で出口に向けて走り出す。交戦はしたがそうたいした傷もないので支障はなかったようだ。
そうして出口に着いた途端にその放送は始まった。
息が乱れてはいたが一先ず出口付近にある木に腰をおろし、その放送を聞く。
一人の聞きいたことのある男の名前が耳に入った。
「コングマン!?あいつ・・・」
死亡者の中にコングマンの名前があったことに、大変驚いたスタンだったが・・・
「いたのか・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少なくともこのバトロワ内では結構な戦跡と活躍を見せたコングマンだったが、スタンの耳にも目にもはいっていないので今は亡きコングマンの勇姿はスタンにとって
「けど、いくら俺につっかかってきた奴といえ、やっぱ見知った人が亡くなるのは・・・」
と、ネガティブに思えるほどでしかなかった。
「ふぅ、よし。もし誘拐犯が次に行くとするなら、多分・・・」
と、もう思考を転換してしまうほどの存在であった。
徐に地図を広げるスタンはこの近くにある一つの町へと目にとまる。
だが、さっきの放送でここは禁止区域に指定されていたハズだと思い出し、さすがに犯人もそこまでバカではないだろうと考え行路を変える。
「この城が一番近いかな・・・」
言って地図をしまう。行き先は決まったようだ。
「待ってろよミント・・・今助けに行ってやるからな」
一人でのものすごい杞憂に振り回され、スタンは北へと進んだ。
【スタン 生存確認】
状態:軽い損傷
所持品:ディフェンサー ガーネット 釣り糸
第一行動方針:ミントの救出
第二行動方針:仲間と合流
現在地:G3平原→E2城へ
170 :
業務連絡:2006/01/19(木) 11:33:56 ID:boCS8dNC
上記のエピソード「かつて英雄と呼ばれた男」の内容が少しおかしい点が見られたため、下記に修正版を投下します。
ご迷惑をおかけしました。
それにしても一体自分はどのくらい岩に埋れていたのだろうか。
洞窟の中なので環境的判断は出来ない。外は真っ暗なのか明るいのかすらか判らない。
そこで、とハロルドと訣別したスタンは洞窟を歩きながらザックに入っている時計を取り出し時刻を確認する。
「朝の5時半!?そんなに生き埋めになってたのか・・・」
我ながらタフだなと思い、時計をしまう。
ハロルドと行動を別としたスタンは出口へと向かった。
未だに少年への無念やハロルドへの怒りは収まっていない。だが、いつまでもここにいては仕方が無い。
そう判断したスタンはミントを連れて洞窟を後にする。
・・・つもりだったのだが。
「ミントがいない・・・」
確かに通路横に寝かせておいたハズなのに今は忽然とその姿を消していた。
「目が覚めて一人でどこかへ行ったとか・・・いや、あの子の性格からしてたぶんそれはない・・・じゃあどこに・・・」
一人ごちてその場でうろうろするスタン。
と、その足を急に止め、「まさか・・・」と声を縮める。
「誰かに連れ去られた・・・とか」
独り言に一人頷くスタン。だがそうとなればこんなことをしている場合ではない。
「うわヤバイ!もしかしたらもうすでに・・・」
バルバトス、マグニスと交戦してから結構な時間は経過している。ミントがいつ連れ去られたかは判らないが、もう充分遠くへ行ってしまってはいるだろう。
だがしかし、こんなことでスタンはめげなかった。
「待ってろミント!今助けに行ってやる!」
そう叫ぶやいなや高速で出口に向けて走り出す。交戦はしたがそうたいした傷もないので支障はなかったようだ。
そうして出口に着いた途端にその放送は始まった。
息が乱れてはいたが一先ず出口付近にある木に腰をおろし、その放送を聞く。
そして、また一人、スタンの知る人物がこのゲームの犠牲者となっていることを知った。
「マリー・・・さん」
うつ伏せる。あまりの驚愕に立つことが出来ない。
また一人大切な仲間を死なせてしまった。その精神に与えられたダメージは底測れない。
「何が世界を救った英雄だ・・・結局俺は、助けてやれてないじゃないか・・・」
洞窟での出来事を思い出す。あの少年もみすみす見殺しにしてしまったのだ。こんな自分が偉大であるはずが無い。
全てを諦めかけた。その時―――
―――ったく情けないわね!こっちにきたら容赦しないわよ!
「うわっ!」
咄嗟に体を跳ね上げる。夢か幻か、今確かにあいつの声が聞こえたような・・・。
だとしたらなんてリアルな夢なんだ。はは、とつい笑みを零してしまった。
さっきの声の主の隣にマリーさんもいた気がする・・・そうか、なんだかんだ言ってあの二人は結局はパートナーなんだ。
「こんな姿を見せたら、きっと二人にどやされるな」
うん。きっと怒涛の怒声が破竹の勢いで降りそそってくるだろう。そんなところに顔を出すほどスタンは無謀ではない。
「よいしょ」
と親父のような掛け声とともに腰を上げ、サックに入った地図を取り出す。
まだ助けることのできる人がいる限り、動かないといけない。
別に英雄になろうとは思わなかった自分に英雄と言う称号を世界がくれたんだ。
だったらそれに報わなければ世界に申し訳ない。
「ミントを助けないと・・・」
徐に地図を広げるスタンはこの近くにある一つの町へと目にとまる。
だが、さっきの放送でここは禁止区域に指定されていたハズだと思い出し、さすがに犯人もそこまでバカではないだろうと考え行路を変える。
「この城が一番近いかな・・・」
言って地図をしまう。行き先は決まったようだ。
「待ってろよミント・・・今助けに行ってやるからな」
地図をしまい足を動かす。そして心の中で想う。
ありがとう、ルーティ。マリーさん。俺もうちょっと頑張ってみるよ。
その顔はこの晴天の空に似つかわしいほどさわやかなものだった。
「そういえば・・・」
マリーの名前に気を取られすぎて一人の聞き覚えのある男の名前を聞き逃していたスタンは、やはりその男の名前を思い出せないでいた。
「なんだろう、何か変なひっかかりが」
頭にひっかかる男の存在。必死になって記憶を絞り込もうとする。
少なくともこのバトロワ内では結構な戦跡と活躍を見せたその男の存在―――コングマンだったが、スタンの耳にも目にもはいっていないので今は亡きコングマンの勇姿はスタンにとって
「ま、いっか」
との言葉と一緒に片付けられるモノでしかなかった。
スタンに変わってコングマンよ、永遠に。
「さ〜て!そんじゃ行きますか!」
一人でのものすごい杞憂に振り回され、ミントをさらった誘拐犯を追うためスタンは北へと進んだ。
【スタン 生存確認】
状態:軽い損傷
所持品:ディフェンサー ガーネット 釣り糸(残り少ない)
第一行動方針:ミントの救出
第二行動方針:仲間と合流
現在地:G3平原→E2城へ
174 :
隠し味 1:2006/01/19(木) 16:50:22 ID:m8K4ckvA
ぼんやりとする意識の中で、放送が聞こえた。
知っている名は呼ばれなかった。
そして禁止エリア、あたしが今いる場所ははっきりと分からないけど・・・
とにかく、状況を掴んでおきたかった。
何故あたしはベッドで寝かされているのか、服も着替えさせられているのか。
自分はあのまま気を失って、建物内に連れ込まれたようだった。
乱暴された形跡は無いけど、自分を運んだ者の意図が読め無かった。
確かにあたしはあの人を殺そうとして、相手も本気で攻撃してきたはずだった。
そうだ、荷物。自分の武器。
目を開ける。カーテンのかかった窓から、爽やかな朝日が差し込んでいた。
ほんの一瞬、これまで起こったことが全て夢で、嘘だったんじゃないかという気さえした。
上半身を起こして、周囲に視線を走らす。
しかし、目当てのものはどこにも無い。
ぐっと身を起こそうとして、打たれた腹部が微かに疼いた。
早く。早く荷物を取り返して、ここから離れなければ。
と、その時、不意に部屋の扉が開いた。
175 :
隠し味 2:2006/01/19(木) 16:51:29 ID:m8K4ckvA
「起きた?」
外に跳ねた緑髪のショートカットの少女、ファラが顔を出した。
「・・・」
どう言っていいかわからず、ピンク髪の少女、アーチェは閉口して顔を俯けた。
そんな彼女の様子を見て、ファラは落ち込んだ表情を見せかけるも、すぐに取り直して、近くの椅子に腰掛ける。
少女と目線が揃い、和やかに笑むと、続けて話しかけた。
「あのね、あなたのこと、放って置けなくて、ここで寝かせることにしたの」
アーチェは黙って、緑髪の少女を見つめていた。
「あの、私、ファラ。ファラ・エルステッド。あなたは?」
アーチェはしばらく黙っていたが、やがて魂が抜けたような声を出した。
「・・・アーチェ・・・。アーチェ、クライン」
「そう、アーチェっていうんだ」
ファラはゆっくりとうなずき、そしてもう一度少女の顔をしっかりと見つめる。
「あなたが、どう思って私に襲ってきたのかは知らないけど、
私と、少なくてもここにいるもう一人は殺し合いをする気なんか無いんだ」
優しく、包み込むような口調で、ファラは慎重に少女に語りかける。
武器は没収してしまったとはいえ、思いつめた少女が何をするか、警戒していないわけでもなかった。
対するアーチェは、感情を失ったかのように、ぽかんとファラの顔を見つめている。
「ここに居る間は、誰も、あなたを襲ったりなんかしないから。
みんながみんな殺し合いをしようなんて思ってないんだよ」
「・・・」
「とにかくさ、ここでゆっくり休んで、それから、これからどうするか考えよう」
そう言い、ファラは立ち上がり扉を抜けていった。
アーチェは一人ぼんやりとベッドに腰掛け、窓の外を見やった。
自分がどうありたいか?
何がしたかったのか?
その疑問が彼女の心に反響し、複雑に絡み合った。
「あたしは・・・」
部屋に差し込む光の輝きを身に受けながら、誰に言うでもなく、彼女はそう呟いた。
176 :
隠し味 3:2006/01/19(木) 16:52:33 ID:m8K4ckvA
部屋を出てしばらく歩くと、すっかり慣れた血の匂いとは全く場違いな、いい匂いがしてきた。
そういえば自分の服は血で塗れていた。
服を着替えさせられたのは、もしかしたらそういうことだったのかもしれない。
「あ、もう大丈夫?って、殴った私が言うのも変だけど・・・」
見ると、先程の少女が調理場に立ち、なにやら料理を作っている。
テーブルを見れば、既に出来上がり、並べられているスープが三つ。
透明で、暖かな湯気が立ち上っている。具は見慣れない山菜が少し。
「卵がここの家にたくさんあってね、私もがんばっちゃった」
そう言いつつ、こなれた手つきで皿を三つ同時に持ちながら、テーブルに向けて歩き出す。
大きなオムレツが、それぞれの更に一つずつ乗っていた。
見事な焼き具合で、鮮やかな黄色が食欲をそそった。
とりあえず、自分の作る料理とは雲泥の差があると、アーチェは思った。
ファラが作る料理はそれはそれは絶品で、さる料理大会では優勝を収めたこともある。
対する彼女が作る料理はそれはそれは××なもので、魅惑の称号をもらったこともある。
「よーし、完成」
ファラが言った。そうしてエプロンを(これもこの家から拝借したのだろう)脱ぎ、周囲を見回す。
「あれ、ジョニーが居ない。まだ見張りしてるのかな?」
玄関を見ながら、そう呟く。
そうして、アーチェの方をちらと見て、
「あ、先に食べてて。ごはん食べて、落ち着いたら、もう一回ゆっくり話そう」
最後に笑顔を見せ、ファラは扉を開けて外に出た。
ファラの姿が消え、室内に一人取り残されたと思った瞬間、彼女の頭の中に悪魔が囁いた。
その一瞬後、アーチェの目の奥底に、冷たい光が宿った。
177 :
隠し味 4:2006/01/19(木) 16:55:27 ID:m8K4ckvA
ファラが消えたのを確認してから、アーチェは弾かれたように動き出した。
足早に歩き出し、急ぎ周囲を探り出す。
割とすぐに見つかった。ファラの支給品袋と、自分のそれ。
彼女等が帰ってくる前に、大急ぎで中を漁った。
しかし、予想外のことがおこっていた。
杖と、ナイフが消えている。
他のもの、弓やスペクタクルズといったものはあるのに、一番重要なそれらが無かった。
まさか。嫌な予感が彼女の頭を掠める。
あの時杖とナイフは、あの場に放置してしまった。
まだあの場に、或いは緑髪の少女の仲間に回収されてしまったのか?
アーチェは顔を苦渋に満たせた。
この状況なら、たとえ自分が抵抗しようとしても、
まともな武器さえなければ昨夜と同じ結果になってしまうだろう。
杖も無く、ナイフも無い状態でまともに戦ってなんとかなる相手では無かった。
けど、まだなんとかなる。
少女の仲間が帰ってくれば、当然荷物も一緒のはずだ。
そこに自分の目当てのものがある可能性は高い。
ならばどうやって自分の荷物を取り戻すか?
ぐずぐずしてはいられない。もうじき、二人が帰ってくる。
アーチェはもう一度袋に手を突っ込み、探った。
そして取り出した。空になったペットボトル。
その中身は一見空の様に見えた。
しかしよくよく目を凝らせば、その底に透明な液体が溜まっている。
一見すればただの水に見えるだろう。
だがそこに入っているのは、既に二人の命を奪った毒だった。
彼女はチェスターが遺した毒を、使用済みのボトルの中身を乾かして、その中に移し変えていた。
彼女がそうした理由は、こういった事態に備えてか、それとも、
何も知らずにそれを奪った者をやがて死に至らせる罠であったかは定かではないが、とにかく毒は元通りにあった。
あの少女は、まさかこれに毒が入っているとは考えもしなかっただろうと思った。
急ぎそれを手に、テーブルへ向かうアーチェ。
そしてフタを開け、食卓に並んだ三つの皿の内、二つの皿の中にボトルの液体を数滴垂らした。
液体はスープに落ち、小さな波紋を生んだ。
そして残った「ただの」スープを自分の元に寄せ、急ぎボトルを袋に戻す。
心臓が激しく鼓動していた。
あまりの動悸に、外に聞こえるのではないかと思われたほどだった。
・・・ねぇ、チェスター、これで、いいんだよね?
・・・あたし、間違ってないよね?
目の前に広がる波紋を見ながら、アーチェは強く瞼を閉じ、息を吐いた。
178 :
隠し味 5:2006/01/19(木) 16:56:23 ID:m8K4ckvA
【アーチェ 生存確認】
所持品:身に着けていたレジストリング
状態:激しい動悸 足に靴擦れ
第一行動方針:荷物(特に杖とナイフ)を取り返し、この場から去る
第一行動方針:ゲームに乗る
現在地:C3の村
【ファラ 生存確認】
所持品:ブラックオニキス ガイアグリーヴァ アーチェの支給品袋(ダークボトル×2 スペクタクルズ×1 木の弓 毒(液体))
状態:普通
第一行動方針:みんなで朝食
第二行動方針:アーチェの世話
第二行動方針:殺し合いをやめさせる
第三行動方針:仲間との合流
第四行動方針:ゲームからの脱出
現在位置:C3の村
【ジョニー 生存確認】
所持品:メンタルリング 稲刈り鎌 アイフリードの旗 BCロッド サバイバルナイフ
状態:普通
第一行動方針:見張り
第二行動方針:仲間との合流
第三行動方針:ゲームからの脱出
現在位置:C3の村
「あぁ・・・なんてこと」
その輝きは偏にして鮮やか。
だがそれに込められた思いは、無常にも一人の少女に向けられたもの。
ミトスとダオスが向かった森林地帯の少し奥のところから発せられる二つの閃光。
茂みが多く木々が邪魔をし、その姿は確認できないではいたが、白い輝きはまさしくミトスの輝き。
マーテルはただ涙を零す。一人の少女を救えなかったことを。
あの子は独りになってしまい、自分を見失っていただけ。誰かが手を差し伸べられば、あの子の閉じた心を開くことが出来たのかもしれない。
だが今となってはその願いも無祐。あの輝く閃光の威力はいやでも知ってしまっている。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
ただただ涙を流し、独りの少女へと謝る。たとえ自分を傷つけた相手でも、マーテルはその子を助けたかったのだ。
「マーテルさん・・・」
隣でマリアンはその光景を見る。
この人は何て優しく、何て慈悲深き方なのだろう。自分を危機に追い遣った相手の為に、こんなに涙を流せられるだろうか。
マリアンもただその顔は驚くしかない。閃光の煌きはこうごうと増し、やがてその余韻を残して少しずつ収まっていく。
すると後ろの叢からガサガサと音がした。誰かいるようだ。
二人は一瞬固まり、ゆっくりとその方向を見やる。
音が大きくなっていく。段々近づいてくる。
「―――っ!」
無意識にマリアンはマーテルの前に立つ。
「マリアン・・・さん」
相当疲れているはずなのに、マリアンは立ちはだかる。
この人を死なせてはいけない。この人はおそらく、この世界に必要な存在なんだ。
その一心で彼女は叢を向く。もうそこまで来ている。
私には力がないけど、誰かを守りたい。
そう思った瞬間、
『待って!』
アトワイトが叫ぶ。少し驚くマリアンだが、その言葉の意味はすぐわかった。
マーテルを睨むリオン。だがその質問にもアトワイトが制止する。
『この人は恩人よ。そう睨みつけるのは無礼というものだわ』
『アトワイト。無事で何よりだ』
別の剣が声を発する。炎の素を与えられし剣、ディムロスのものだった。
アトワイトは返事はしなかったが、それだけでディムロスには何らかの意志が通じたようだ。
『坊ちゃん』
「判っている」
残りのソーディアン、シャルティエが声をかけるのと同時にリオンの視線はマリアンへと戻る。
しかし、マリアンの眼に映るはその血によって真っ赤に染まったリオンの服。
「その血は・・・」
驚いて失神しそうになるマリアンだったが、
「コレは僕の血じゃない。返り血・・・」
言って、目が見開く。マリアンは口に手をやり今にも泣きそうになっている。
そうだ・・・僕は彼女の前で・・・
リオンはそのときの光景を思い出す。自分が自分ではなかったとき。いや、もしかしたらアレが本当の自分だったのではないか。
頭が真っ白になる。見られたんだ。彼女に・・・僕は・・・。
マリアンがリオンの手の上に手を重ねる。
それだけで、リオンの心は満たされた。
決して許されるべきではないと、業を背負うべきなのだと、判ってはいた。
だが、この重なる彼女の手が、その思考を止める。
マリアンはリオンの顔を見つめると、ふるふると顔を振る。
もう、泣かないでいいから―――。
マリアンは泣きながらその言葉をリオンに捧げた。
「マリアン・・・」
リオンは一度、顔を下げる。すぐに顔を上げたその瞳は、何かを決めた、そんな光をもっていた。
彼女は僕が守る。絶対に・・・。
隣でマーテルは目に涙を溜めながら、手をあわせて二人に祈りを捧げた。
『ソロンの名前が出ていたわ。あなたがあの子と一緒にいるということは・・・』
『ああ。あの殺人者はリオンがやった』
『それはそれはとても華麗だったよ』
『それにしても、マリーが・・・』
アトワイトは落胆する。共に歩んできた相棒を二人も失ってしまった。
だがここでめげていては軍人の名がすたる。アトワイトの輝きが一層増したような気がした。
ディムロスも黙認でそれを確認した。
地面に置かれたソーディアン達が話し合っている間、こちらも行動を決めなければならない。
「お願い、あの人を守ってあげて」
マリアンの願いは強いものだとリオンは察した。マリアンの頼みとあらば仕方がない。
「私はここであの二人を待たなければなりません」
そのマーテルの願いがそうなのだから必然的にここでその二人とやらを待たなければならない。
「さっきの光は何だ。尋常なものではなかった」
リオンの問いには誰も口が開かない。
リオンはその返答を放棄し、訝しげに光が放たれていた方向を見つめた。
森林地帯はやけに静かだった。
それはまるで、嵐の前の静けさと言わんばかりの―――。
【リオン 生存確認】
状態:極度の疲労 睡眠 全身に軽い火傷 上半身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 肩に刺し傷
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー
第一行動方針:マリアンを守り抜く
第二行動方針:マーテルを守る
現在地:B7の森
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 アクアマント
状態:悲哀
第一行動方針:ダオス、ミトスの期間を待つ
第二行動方針:ダオス達と行動
第二行動方針:ユアン、クラトスとの合流
現在位置:B7の森
【マリアン 生存確認】
所持品:アトワイト スペクタクルズ×13
状態: 疲労 TP微消耗
第一行動方針:眠って頭を整理する
第二行動方針:アトワイトの提案した作戦を実行する
現在位置:B7の森
「うわっ!何だ!?」
ロイドが驚愕の声を漏らす。その選考を目にすれば当然の反応だった。
「マズイな、かなり近い。ここにいては巻き込まれる可能性が高いな」
ジューダスは一人推測を立てる。メルディはなにやらあらぬ方向を向いていた。
「どうしたメルディ」
ロイドが不思議に想って声をかける。だがメルディは閃光とは少しずれた木々の奥をみつめていて返事はしない。
どうしたんだろうとロイドが思ったとき、ジューダスの結論は出た。
「よし、ここからを離脱しよう。城への行路は変更だ」
「もと来た道に戻るのか」
ジューダスはマントを翻して言う。
「あぁ。ここは危険すぎる。東のほうに村があったハズだ。一先ずそこに・・・」
「バイバ!ちょっと待ってよ!」
メルディが徐に叫ぶ。だがその視線はまだあらぬ法を向いたままだ。
「さっきからどうしたんだよメルディ。ここは危険だってジューダスが言ってたろ」
ロイドが半ば呆れてメルディを諭す。だがメルディはそのあらぬ方へと走り出す。
「メルディ!?」
「メルディ!勝手な行動は慎め!置いていくぞ!」
ジューダスが叫ぶが、メルディの口からは意外な言葉が返ってきた。
「あっちに人が倒れてるよ!助けなきゃ!」
「「何だって!?」」
二人は同時に叫び、顔を見合す。
「メルディ!俺も行くぜ!」
ロイドも駆け出す。ジューダスはその場で「好きにしろ」と言って、急いで後を追った。
そこには、完全に石化した青年が倒れていた。
「バイバ!ひどいよぅ」
「こりゃ完全に行動不能だな・・・」
二人はその姿を見るなり感想を漏らした。
後ろからジューダスが追いつき、その光景を一通り見てから口を開く。
「どうやら、こいつがヴェイグとかいう男のようだな」
「え!?」「バイバ!」
二人は驚きの色を隠せない。そしてようやっと先ほどの放送でヴェイグという名をどのように扱っていたかを思い出した。
「そうか、完全に死んでないっていうのはこのことだったのか」
「その通りだ・・・が、メルディ」
ジューダスは一度メルディへと視線を向け、再び石化した青年を見下ろす。
「本当にこいつを助けるのか」
メルディはムっとなってジューダスに言い返す。
「助けられる人を放っておくなんて、そんなのメルディはイヤ」
「こいつが起きた時に襲い掛かってきたらどうする」
間髪入れずにジューダスが紡ぐ。流石にメルディは後ずさりしたが、「でも・・・」と続く。
しかし、
「こいつが良人だなんて証拠がどこにある。僕達に何かメリットはあるのか。そもそも・・・」
「ジューダス!」
ロイドが口を挟む。何とかそれでジューダスの怒涛の質問攻めは息をいれてくれた。
ロイドが続けて言う。
「俺も助けてやりたいんだ。だから頼む、ここは見逃してやってくれ」
パンと両手を合わせてお願いする。もう諦めたのか、ジューダスは「ふん」とだけ漏らし、その場でたたずむ。
「好きにしろ。ただし、己の責任は己で負うんだぞ。判ったな」
ロイドとメルディは顔をあわせ、二人同時にジューダスにお礼を言った。
僕も丸くなったな・・・そう思い、先ほどの選考が放たれていた空を見る。
知らずして閃光は止んでいた。戦闘が終わったのかとジューダスは思考を巡らせる。
そしてメルディは青年と向き合う、が、ここで重大なことを思い出してしまう。
「大変!リカバー使えないよ!」
「え!?本当かよ!?」
「はいな・・・補助系の晶霊術はクレーメルケイジがないよ使えない・・・」
二人して慌てる。そして行き着く先は決まっている。二人は同時にジューダスのほうを向いた。
「エリクシールはやらないぞ。これはもしもの時だけだ」
の言葉に一蹴された。
「ケチケチすんなよせこい奴だな」
「あのな、こればっかりは譲れん。自分たちで何とかしろ」
「くっそ〜(人でなし)」
「何か言ったか」
「いやべっつに〜」
二人のやりとりをメルディはオロオロしながら見つめていた。
ふと、ジューダスの脳に一つの単語が引っかかっていた。
「メルディ、クレーメルケイジとはなんだ」
聞かれたメルディはおずおずと説明を始める。
「えっと、コレぐらいの形しててここに持つところがあって。そこに大晶霊を入れるよ」
メルディはジェスチャーで説明したが、とても判断できるような出来ではなかった。
が、ジューダスは”これぐらいの形”という動作で何かわかったのか、ザックの中をあさりだした。
「これのことか」
ジューダスの手には先ほどのメルディの説明が具現化したモノがあった。
「ワイール!それだよぅ!」
「え!?これかよ!?」
ロイドも驚く。まさかこんな形で巡りあうとはメルディは思いもしなかっただろう。
ジューダスからクレーメルケイジを手渡されたメルディは、今度こそ術を施す。
『リカバー』
幸いなことに中に入っていた晶霊達はみなセレスティア属性のものばかりだった。
故に、ノームとヴォルトの力でリカバーが使えたのだ。
青年の体は土色から徐々に本来の色を取り戻し始める。
頭から回復がはじまり、今ではすっかりその色がもどっていた。
「まだ寝てるよ・・・生きてるか」
「メルディ、助けておいてそれは不謹慎だぞ。さて・・・」
ロイドは辺りを見回す。これから村に行くと言っていたが、今は静かになっている。
「どうするんだ?村に行くのか?」
ジューダスに質問を投げかけ、ゆっくりと応えを返す。
「確かに閃光は止んだが、戦闘が終わったと決めるのはまだ早い。ここはさっきもいった通り村に向かおう」
二人は返事をする。そして、当然の如くその疑問は浮かぶ。
「こいつ、どうするんだ・・・」
今は眠っている青年に指差し、疑問をぶつける。
ジューダスとメルディは不敵な笑みをしてロイドを見つめて口を開く。
「己の責任は己で・・・な」
「メルディ重いのだめよ。ロイドよろしくな!」
がっくりと方を落とすロイド。
「また俺が背負うのか・・・」
一目見るだけで自分より大きいであろうその青年を背負い、ロイドはもう歩き出している二人の後を追った。
「でも、何でジューダスはクレーメルケイジ持ってること、言わなかったか」
「お前たちが聞かなかったからだ」
「そっか〜」
【ジューダス:生存確認】
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:シースリ村に向かう
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ロイド、メルディと行動
【ロイド:生存確認】
状態:健康
所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る
第一行動方針:シースリ村に向かう
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ジューダス、メルディと行動
【メルディ 生存確認】
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
状態:TP消費(小) 背中に刀傷 左腕に銃創 (小)
ネレイドの干渉はほぼ皆無
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:シースリ村に向かう
第二行動方針:ロイド、ジューダスとともに行動する
第三行動方針:仲間と合流する
【ヴェイグ 生存確認】
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル)
状態:右肩に裂傷 意識不明
基本行動方針:不明
第一行動方針:不明
現在位置:B7森林地帯
185 :
業務連絡:2006/01/19(木) 22:13:59 ID:boCS8dNC
「閃光のもたらすもの【side one】2」に一部抜けている部分がありました
お詫びして再度投下させていただきます
「マリアン!!」
叢から出てきたのは、全身が土まみれで血まみれになっていたリオンだった。
「・・・エミリオっ」
瞬間、マリアンはその場に崩れる。緊張の糸が切れて腰を抜かした。
「怪我は無いかマリアン」
駆け寄ってマリアンに声をかける。「大丈夫」の返答にリオンは安堵の息を漏らす。
そして眼を濡らしたマーテルのほうを向く。
「さっきの銃の音は貴様か」
マーテルを睨むリオン。だがその質問にもアトワイトが制止する。
『この人は恩人よ。そう睨みつけるのは無礼というものだわ』
『アトワイト。無事で何よりだ』
別の剣が声を発する。炎の素を与えられし剣、ディムロスのものだった。
アトワイトは返事はしなかったが、それだけでディムロスには何らかの意志が通じたようだ。
『坊ちゃん』
「判っている」
残りのソーディアン、シャルティエが声をかけるのと同時にリオンの視線はマリアンへと戻る。
しかし、マリアンの眼に映るはその血によって真っ赤に染まったリオンの服。
「その血は・・・」
驚いて失神しそうになるマリアンだったが、
「コレは僕の血じゃない。返り血・・・」
言って、目が見開く。マリアンは口に手をやり今にも泣きそうになっている。
そうだ・・・僕は彼女の前で・・・
リオンはそのときの光景を思い出す。自分が自分ではなかったとき。いや、もしかしたらアレが本当の自分だったのではないか。
頭が真っ白になる。見られたんだ。彼女に・・・僕は・・・。
マリアンがリオンの手の上に手を重ねる。
それだけで、リオンの心は満たされた。
決して許されるべきではないと、業を背負うべきなのだと、判ってはいた。
だが、この重なる彼女の手が、その思考を止める。
マリアンはリオンの顔を見つめると、ふるふると顔を振る。
もう、泣かないでいいから―――。
マリアンは泣きながらその言葉をリオンに捧げた。
「マリアン・・・」
リオンは一度、顔を下げる。すぐに顔を上げたその瞳は、何かを決めた、そんな光をもっていた。
彼女は僕が守る。絶対に・・・。
隣でマーテルは目に涙を溜めながら、手をあわせて二人に祈りを捧げた。
うんこでも食ってろ
放送が流れるのを、青と赤の髪を持つ男と緑一色の男は、佇んで聞いていた。
空が光を増していくのと同時に声が空に行き渡っていく。
「ポプラ…おばさん」
その内の緑の男は、放送されたある者の名をぽつりと呟いた。
「…ヴェイグ」
続けて呼ばれた名も呟いた。
表情は無機そのもので、口周りだけが不自然に動いている。
だが、それだけで終わった。
怒りも悲しみもあらわにせず、ぼんやりと空を見上げて声を聞いていた。
もしも彼に感情があったとしたら、呼んだ名の人を思い涙を流しただろうか。
殺した人物に、主催者に、或はちっぽけな自分に激怒しただろうか。
このゲームに絶望しただろうか。
だがそれは叶わぬ望み。例え心の深い奥底ではそうだとしても、実際の彼にはその欠片も、兆しもない。
淡い色彩の空を見上げたまま、彼は「空を見上げている人形」に戻った。
「行くぞ、ティトレイ・クロウ」
放送が終わり、流暢に禁止エリアをメモし終えた赤と青の髪を持つ男、デミテルは
緑に包まれている男、ティトレイにそう告げる。
ティトレイはその言葉を聞き、緩慢な動きで視線をデミテルに移す。
怖いくらいの無表情だ。
どうやらこの先は崖で、北から南にかけて続いているようだ。
南の崖には既にデミテルも行っている。
地図に印しておいた禁止エリアは、G1も該当していた。
みすみす禁止エリアに近い所に行く奴がいるだろうか?
しかも大半は海。投げ出されでもしたら一貫の終わりだ。
もっとも、殺したつもりでいた金髪の少年──カイル・デュナミスといったか、奴の名が呼ばれなかったのには驚いたが。
つまりはどんな方法を使ったか分からないが、あの土砂から脱出し生き延びている。
もし海に落ちても、あの崖下に辿り着ければ助かるだろう。
…まぁ、存在を知っていればの話だが。
つまり南には行く理由もメリットもない。以前戦った、飴を持った少女と乱入してきた剣士も、半日も経てば立ち去っているだろう。
デミテルは北の方を向き、そしてそのまま歩き始た。
ティトレイも後を追い掛けるようにして歩き始めた。
俺の周りはまだ暗い。
朝日が顔を覗かせたって分かってるのに、辺りは明るいって分かってるのに、俺の周りはまだ暗い。
ここは何処なんだろう?
俺は何でここに居るんだろう?
こんな所に居たくない。早くみんなの居る所へ帰りたい。
──でも、それは本当の気持ちなのか?
本当はどうでもいいんじゃないのか?
だって、何も感じないんだから。
みんなと離れて不安だとか、悲しいとかが無いんだから。
──不安? 悲しい? それって何だっけか?
分からない。どこか遠くに置いてきた思い出のようだ。
1番近くにあるような気がするのに、1番遠くにあって、曖昧。それでいて空白。
──俺みたいだ。
俺は、真っ白な部屋に居るみたいに、この闇みたいに、空白だ。
でも、そこに現れた二色の中間、灰色。
真っ黒な部屋にある、唯一の「存在」。
俺にはそれが、俺を出口に導いてくれる、この部屋から出してくれる鍵だとしか思えなかった。
だから俺は付いていく。外に出れるような気がするから。
ここは暗くて何も見えないから、ぶつかるかもしれないし、転ぶかもしれない。
でも見失わないようにしよう。
扉は鍵がなきゃ開けられないんだからさ。
【デミテル 生存確認】
状態:TP2/3消費
所持品:フィートシンボル ストロー ミスティシンボル 金属バット
第一行動方針:ティトレイを操る
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
第三行動方針:ダオスを倒せそうなキャラをダオスに仕向ける
【ティトレイ・クロウ 生存確認】
状態:感情喪失 全身の痛み、軽いやけど(回復中) TP中消費
所持品:メンタルバングル バトルブック
第一行動方針:かえりたい
第二行動方針:デミテルに従う
現在地:F2平原から北上
ジースリ洞窟内では、なにやら軽快な鼻歌が響いていた。
鼻歌の歌い手は、ピンク髪の癖っ毛でかなり小柄の女性であった。
彼女の名はソーディアンを創り出し、圧倒的劣勢であった地上人軍を勝利に導いた天才、
ハロルド=ベルセリオスであった。
しかし、今の彼女はほんの少し前までの彼女とはあまりにも違いすぎていた。
軽快に響く鼻歌とは異なり、その顔はわずかな笑みさえも浮かんでいない。
彼女が今行っていることは、罠を仕掛けるための準備。
ただ、罠を仕掛ける目的は彼女の身を守るための受身的なものではなく、
ある二人組みの息の根を止めるためのものである。
その二人組みのうち一人は彼女も散々苦しめられてきて、ようやく倒したはずであった男、
バルバトス=ゲーティア。
そしてもう一人は…。
「目の前であの子を殺した…。あんたは必ず、私が殺してやるわ。マグニス…!」
そう言った彼女の目には、どす黒い復讐の炎が灯っていた。
そしてまた、再び鼻歌を歌いながらことを進める。
しばらくすると彼女の鼻歌が不意に止まった。
「痛っ…! さっきからずっと頭痛が続いていたけど、より一層痛みが激しく…」
いい終わらないうちに更なる激痛が彼女を襲う。
あまりの苦痛に顔が歪み、悶える。
脳裏に浮かぶのはあの時の光景。
経過している時間は数秒のはずなのに、その数秒が永遠のように感じられる。
ようやくその痛みが治まると、彼女はあることに気付いた。
それはよくよく考えれば分かることであった。
もう誰もいないと判断したようなところに、再び同一のマーダーがやって来るはずが無いではないか。
さらに、この洞窟は隠れることのできるような場所が全く無い。
さすがのやつらもこの洞窟に誘ったのが私と分かったのでは罠には十分に警戒するだろうし、
私もまともな戦闘が行えたものじゃない。
おまけに、やつらに捕縛用の罠が通用するとも思えない。
あの馬鹿力に物を言わせて、大抵の罠なら抜け出してしまうのがおちであろう。
仮にこの場所で戦ったとしたら、私の行き着く運命は…死…。
「私って馬鹿ね。頭痛を紛らわすためにいつも通りにしようとしたことが、思考力を鈍らせたのかしら…」
自嘲気味に呟き、彼女は準備していたものをあっという間にばらして再びザックの中にしまった。
そして次にするべきことを考える。
やはり最初に大体の目的地を決定しておく必要があるだろう。
地図を広げて改めて島の全体像を確認する。
罠を仕掛けるならやはり森林部が適するはずだ。
釣り糸と周りの環境をうまく利用すれば、やつらの墓場に仕立て上げることもできる。
とりあえず、この洞窟の近くのエリアの森ではもう使い物にならない可能性が高い。
そう考えた彼女が目をつけたエリアは…F7だった。
ある程度広めの森林である上に、禁止エリア予定地と隣接している。
そんなところを利用しない手は無い。
ここからかなり離れた位置にあるために他の参加者に遭遇しないように移動するのは至難の業だろうが、
私はやらなくてはならない。
次は仕掛ける罠だが…、やはり何重にも張り巡らしておく必要がある。
ただし、威力はそこまで高いものでなくても良い。
一瞬でもやつらの隙を作り出せればそれで十分だが、罠を使ってうまくやつらを逆上させて、
禁止エリアに誘導することにも使えるだろう。
あとはやつらをおびき出す方法だが…。
これに関してはまた移動中にでも考えればよいだろう。
とりあえず目的地に向かわなくては始まらない。
現地に行って状況と構造を把握しなくては、罠を仕掛けるわけにも行かないからだ。
そして彼女は、洞窟からF7の森林地帯へと移動を始めた。
先ほどからずっと悩まされていた頭痛が、いつの間にか消え去ってしまっていたことに彼女は気付かなかった。
ハロルドが移動を始めて数分。
彼女は放送のことを思い出していた。
馴染みの者の名前があったこともかなり残念なことではあったが、それよりも気になったことがあった。
彼女は、ミクトランは迂闊にしゃべり過ぎだと思っていた。
それは、ヴェイグなる男の今の状態を言ってしまったこと。
おそらく、この首輪で参加者の状態が分かるようにでもしてあるのだろう。
となると、大体の参加者の位置も把握できるようにしてあるかもしれない。
後者のほうはまだまだ推測の域を超えないが、前者は確実である。ほぼ100%といっても良いはずだ。
この首輪の発する信号をうまく操作できれば、自分の状態を誤魔化して伝えることができるだろう。
それを考えると、これは是非利用したいものだ。
全てを終えてから、調査しよう。
彼女はこのようなことを考えると同時に、迂闊に口を滑らせるものではないということを再認識したのだった
【ハロルド 生存確認】
状態:全身に軽い火傷 擦り傷 強い復讐心(特にマグニスへ)
所持品:短剣 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 釣り糸
現在位置:G3のジースリ洞窟内部を移動中
基本行動方針:迂闊なことは言わない 単独行動(たとえ仲間に出会ってもマーダーの振りをして追い払う)
第一行動方針:F7の森林地帯に移動して状況を把握、その後罠を仕掛ける
第二行動方針:マグニスとバルバトスを殺す
第三行動方針:首輪のことを調べる
第四行動方針:不明
東の町を目指し、ミントを背負い歩く少年―――カイル・デュナミス
一度足を止め、放送を聞いていたカイルは自分の耳を疑った
「ロニ…?」
ウソだ…ウソだウソだウソだ!
‘ロニ’
いつも一緒だった
傷口もなめてくれた時もあった
いつだって隣にはロニがいた
俺を…守ってくれていた
「ぅにひかぃかはなぁー!」
カイルは言葉にもなっていないような叫び声をあげた
「ブッ潰してやる…こんなゲーム!俺がブッ潰してやる!俺は…英雄なんだ!」
カイルは再びミントを背負い、とてつもないスピードで走りだした
体力がもったいないとか、具体的にどうやってゲームをブッ潰すのか、などは一切考えていないが、カイルはただがむしゃらに走り続けた
向かう先はG5の町
この町が先ほどの放送で禁止エリアに指定されたことも、カイルの頭からはキレイさっぱり消えていた
【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:全身に打撲、擦り傷、爆走
所持品:鍋の蓋、フォースリング、ラビッドシンボル (黒)
第一行動方針:こんなゲームブッ潰す
第二行動方針:ミントを背負い町へ
第三行動方針:父との再会
第四行動方針:リアラとの再会
第五行動方針:仲間との合流
現在位置:G4平原
【ミント 生存確認】
状態:睡眠中 TP微小
所持品:ホーリースタッフ サンダーマント
第一行動方針:不明
第二行動方針:仲間と合流
現在位置:G4平原
「ユアンさん、もう放送なのにどこへ行っていたんですか?」
戻ってくるやいなや、ザックから様々な容器を取り出す。
「調味料の調達だ。
単独行動をしている者ならともかく、
一度に4人分の食料を奪うことは難しいだろうから、我々にとって、食料調達は死活問題となる。
だが、調味料があればたいていのものはなんとか食べられる。これだけあれば少なくとも最後までは持つだろう」
塩に胡椒に砂糖にタバスコなど、様々な調味料を持ってきている。一応食べる以外にも使えないことはない。
もちろん、水も補給している。残念ながら、肉や果物といったものは見当たらなかったようだ。
一人で会議をしていていまだ朝食を食べ終わっていないのはグリッド。
ケチャップやジャムを物色している。
ユアンが釘を刺しておく。
「まさかないとは思うが、全部使うなよ」
「……大丈夫だ。」
「今の間は…?」
間もなく放送が始まった。
グリッドは急いでパンを口に押し込み、ほか3人はメモの用意をし、一言も聞き逃すまいとしている。
【まずは、禁止エリアだ。早く脱落者を知りたい者もいるだろうが、
こちらも重要な内容なのでよく聞くように】
「できれば街道とか川辺は封鎖してほしくないんですけれど…」
最も禁止エリアに引っかかる可能性の高いカトリーヌ。ペンを持つ手にも緊張が走る。
【では発表する、今から三時間後の午前九時よりF8、午後十二時よりB7
午後三時よりG5、第三回の放送がある午後六時よりB2…】
「ここが禁止エリアになるのか!!?!」
慌てるグリッド。
【マリー・エージェント、マイティ・コングマン、ロニ・デュナミス…】
さらにコングマンの名前が呼ばれたことで騒ぐ三人。それとは別に、静かに死亡者の発表を聞くユアン。
他に知っている名前も呼ばれる。
フゥ、とため息をつく。わざわざ口に出すことではない。
あのドタバタした空気はある意味救いになっているのも確かだ。
多少不謹慎なところもあるが、ネガティブな思考に陥いるような暇を与えないだから。
放送終了後、緊急会議を始める4人。
「それにしても、まさかここが禁止エリアに選ばれるとはな。拠点としても、戦場としても有効な場所だと思ったのだが」
半分要塞化しているこの町なら、戦闘にも休息にも使えるだけに、
読みがはずれ、いささか残念そうな顔をする。
「それで、どうするんだ? もうここを出るのか?」
「いや、今しばらくとどまる。まさか禁止エリアにわざわざ入ってくるようなバカはいないだろう。
もちろん、裏をかいてくるような参加者もいるにはいるだろうが、それを言うとキリが無い。
ここで十分に休んだあとは…そうだな。F5の森で様子を見よう」
「建物には行かないのか?」
てっきりまた建物に隠れると考えていたグリッド。疑問を呈する。
マップを開き、ユアンが説明を始める。
「西側へ行くためには橋を渡る必要があるが、危険だ。逃げ場が限られる。
G7の教会は、F6が禁止されて分断される可能性がある。よって、不可。分かるな?」
席を立ち、窓のほうへ向かう。
「C6には、危険な参加者がいるようだ。得体の知れない大爆発があった。E2の方もそうだがな」
C6の方を眺めるユアン。
そのとき、一瞬向こうの空の色が薄れたかと思うと、今度は白く染まり、
次の瞬間には極太の光線(遠くから視認できる、という意味で大きさは把握できる)が発射されていた。
(ミトス? いや、それにしてはあまりに強大すぎる。なんなんだあれは…?)
「…と、とにかく見てのとおりだ。C6の方には近づかないほうがいい」
全員が頷く。さすがにアレを見ては、近づきたくないのは当然である。
「では、12時までここで休息を取る。
眠りたいなら眠っておけ。時間になったら起こす」
「はい、質問」
「なんだ?」
「枕元にある盥は何?」
「緊急事態が発生したら、中の水をかけて起こしてやる。そのためのものだ」
「ああ、そう…」
会議が一応終了し、プリムラとカトリーヌは愚痴を言い始める。
「それにしても、見られてるんじゃないってくらい、ピンポイントに突いてきましたね」
「実は監視装置でも付いていたりしてね」
「仕掛けを作るときにあちこち調べましたけれど、監視するような装置はどこにも無かったですけどね」
プリムラと一緒に仕掛けを作っていたカトリーヌ。監視装置が無かったことは覚えているし、断言できる。
「そうだ、監視装置がないなら、誰かが報告しない限り、詳しい場所は知られるはずがない」
グリッドは二人の言葉を踏襲したつもりだったが、そこでふと浮かんできた言葉。
スパイ。密偵。主催者の犬。裏切り者。共犯者。盗撮。
「ちょっと、スパイなんているはずない!…よね?」
「多分いないはず…ですよね?」
慌てる女性陣。
ユアンは少し思案し、落ち着いた様子で話し出す。
「スパイか。ならば、ある意味全員がスパイなのだろうな」
「どういうこと?」
全員がスパイ、という意味不明な言葉に困惑する三人。
「やつ…ミクトランが、我々の状態を把握していたのは分かっているな?」
「「「?」」」
三人の反応の薄さに戸惑う。
「…放送を最後まで聴いていたか? まあいい、とにかく、やつは我々の状態を把握していたんだ。つまり、…」
「首輪…ですか?」
「そうか、なるほど。クジで決めていたのではなかっt」
「そういうことだ」
省られるグリッド。彼は最初から禁止エリアはランダムだ、心配ないと言いたかったらしい。
「首輪を通して監視することで、誰が死んだかということ、
そして死と変わらない状態にある参加者がいるということが分かったのだろう」
「でも、いくらなんでも、わざとらしすぎるんじゃありませんか?」
「罠にしろ、馬鹿にしろ、我々の状態がミクトランに筒抜けになっているのは明らかだ」
わざと、ならば参加者は罠にかけられていることになる。
そうでないなら、この程度で首輪を外させない絶対の自信があるか、だ。
単にミクトランが馬鹿だった、という選択肢があるにはある。
今は結論は出せない。
「ちょっと待って!」
バン、とプリムラが机を叩いて立ち上がる。
胡椒の瓶が揺れる。グリッドが手で支える。
「筒抜けってことは、あんなことやこんなことやそんなことも全部見られてるってワケ?」
「そうなるな」
あんなこと=洗 こんなこと=花、雉 そんなこと=眠 こう解釈していい。
別に体重計とかではないだろう。
「ミクトランがド変態なのは分かってたけどここまでだとは思わなかったわ!」
「まだ式は挙げていないのに…」
「やつはドSなのだろうな!」
調子に乗るグリッド。だが、別に間違ってはいないのではないか。
「きっと今も女の子が水浴びしてないかニヤニヤしながら監視しているな。許せん!」
「最低ですね」
「磔にして島流し決定!」
勝手にミクトラン像を作り上げる四人。グリッドの場合、羨ましさが見え隠れしているのは気のせいだろう。
「ミクトランにはスケベ大魔王の称号がピッタリだな!」
グリッドの称号癖。珍しく、反論が無い。
「そのスケベ大魔王とやらのモラルについては後回しだ。
まあ、こんなイベントを開く時点でそのようなことはたかが知れている。
それよりも、どうやって監視を防ぐか、だが…」
「チョーカーを首輪に被せれば見えませんよね?」
チョーカーをずらすカトリーヌ。本当にすっぽりと隠れた。
「それもそうね」
プリムラもチョーカーをずらす。
「では、私たちも首に何か巻いておくことにしよう。こうすれば、向こうからこちらは見えまい」
「スケベ大魔王敗れたりだな!」
男二人は布を巻きつけて首輪を隠した。
傍から見ると、首輪をしているようには見えないかもしれない。
さて、彼らの間違いが一つ。
ミクトランのしているのは盗聴。別に首輪にカメラは付いていないということだ。
そのことに気付くのがいつになるか、はたまた気付かないまま退場するのかは不明である。
最後に、グリッドがもう一度確認をする。
「12時までここに留まり、その後F5で様子見。
教会のほうへは行かない。
首輪で監視されてるから気をつける。
ミクトランはスケベ大魔王。
依存は無いな?」
「「「異存なし」」」
CHECK
ミクトランはスケベ大魔王の称号を得ました。
【グリッド 生存確認】
所持品:無し
状態:ほぼ健康。
基本行動方針:生き延びる。
行動方針:漆黒の翼のリーダーとして行動。
【ユアン 生存確認】
所持品:占いの本、エナジーブレット、フェアリィリング、ミスティブルーム
状態:健康、TPにまだ回復の余地あり
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを信用していない。
第一行動方針:漆黒の翼を生き残らせる
第二行動方針:漆黒の翼の一員として行動。仲間捜し。
【プリムラ 生存確認】
状態:健康
所持品:セイファートキー、ソーサラーリング、チャームボトルの瓶、ナイトメアブーツ、エナジーブレット
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを磔にして島流し決定。
【カトリーヌ 生存確認】
所持品:マジックミスト、ジェットブーツ、エナジーブレット×2、ロープ数本、C・ケイジ
状態:健康
基本行動方針:帰りたい。生き延びる。
現在地:G5の町
>>195-198の話は無効にすることにしました。みなさんに迷惑をかけてしまい、すいませんでした
204 :
安息の終わり:2006/01/20(金) 23:14:18 ID:COZOHhDQ
僅かな余韻を残し、放送が終わる。
雲ひとつ無い朝焼けを見つめ、胸中で溜息をついた。
とりあえず、此処は禁止エリアには含まれなかった。
それはひとまず安心だ。あくまで『ひとまず』に過ぎないが。
そして、死亡した人達。どんどん増えていく死体に、今更ながら恐怖感がこみ上げる。
見知った名前が2つあった、という事も彼の恐怖感を強くする要因だった。
不意に知った気配を感じ振り返る。
想像したとおりの顔に少なからず安心感を覚え、にこりと笑顔を作った。
少女は笑顔を浮かべ近づいてくる。どうやら彼女の仲間は無事だったようだ。
「見張りご苦労様!ご飯できたよ?」
「ありがとう。ところであの子はどうしてる?」
「うん。さっき目が覚めたんだけど、元気そうだったよ。先にご飯食べてもらってる」
「目が覚めたのかい?」
「え?うん、そうだよ?」
のん気というか、なんというか。ジョニーは思わず苦笑を漏らした。
彼女が自分を殺そうとしたことなど頭から抜けてしまっているのだろうか?
ファラらしいと言えばファラらしい。短い付き合いだが、彼女の性格は分かりつつある。
お人よしの少女に代わって用心する事に越した事は無いだろうが、とりあえず武器はこちらの手にある。
ファラは格闘家なのに対し、向こうは武器がないとどうしようもないだろう。
「ジョニー?早く行かないと冷めちゃうよ?私、先に行ってるね」
慌しく駆ける彼女に遅れてジョニーも歩く。
この時彼は理解していなかった。バトルロワイヤルの恐ろしさ。そして自分の甘さを。
「あれ?待っててくれたの?ありがとう」
椅子に腰掛けながら笑顔で言うファラにアーチェは思わず目をそらした。
悟られてはいけない。普通にしなくちゃ。
頭では分かっていてもどうしても顔がこわばってしまう。
自分の鼓動が無駄に大きく聞こえる。
聞こえてしまうかも。バレたらどうしよう?
そんな気持ちを誤魔化す様に自分の前におかれた水を一気に流し込んだ。
丁度その時、ジョニーが戻ってきた。
小さな音を立てて扉が開き、アーチェは過敏に反応してしまった自分が憎く思った。
「今日の献立はファラの特性オムレツとスープだよ。とりあえず、ジョニーも座って座って」
どこか優雅な身のこなしで椅子に腰掛けるジョニーを横目で見ながら、アーチェは先程から大きくなる一方の自身の心臓に焦る。
明らかに挙動不審なアーチェのその態度をジョニーは不振気に見やる。
それが不安からきているのか、はたまたもう一度自分達を殺す手立てを考えているのか。ジョニーには判断できなかった。
「あ、そうだ!私、考えたことがあるんだ!」
オムレツを一口口に運び、ファラは突如顔をあげて言った。
そのファラの言葉に、スープに手をつけようとしていたジョニーの手が止まる。
アーチェは舌打ちしたいような、ほっとしたような複雑な気持ちを心に抱えつつも、同じく顔を上げた。
「昨日村を調査してる時に拡声器?っていうのかな?声を大きくする機械をみつけたんだけど・・・。
それを使って島中の皆に知らせたいと思うの。私たちに戦う意思が無い事」
突然のファラの提案にジョニーは僅かに眉を寄せた。
「危険じゃないか?こちらの居場所を相手に知らせることになる」
「そりゃ、あのマグニスって奴みたいなのは聞かないかも知れないけど。それでも、やる価値はあると思う」
真っ直ぐ、前だけを見るファラの瞳には強い意志がやどっている。
お手上げだ、というように両手を挙げ、ジョニーは困ったように笑った。
アーチェの瞳に困惑の色が浮かぶ。
「じゃあ、ご飯食べたら早速準備を始めよう!アーチェの事も色々聞きたいしね。うん、イケるイケる!」
にっこりと微笑み、ファラがスープをすくう。
――!!
「駄目!」
叫ぶつもりは無かった。だが、体が勝手に動いた。ファラの手からスプーンを取ろうと腕を出す。
だが、その手がファラに触れる前に。
「ごふっ・・!!」
オレンジ色の美しいラシュアン染めの服に真っ赤な血がこびりついた。
ジョニーは目を見開き、とっさに持っていたナイフをアーチェに向かい投げる。
「っ!!!」
距離が近い所為もあり、避ける事も出来ずナイフをアーチェの右肩を貫いた。
ジョニーは慌てて後退し、倒れるファラを見る。
まだ死んではいない。だが時間の問題だろう。半端じゃない苦しみ方をするファラから思わず目を背ける。
「っぁあああ!!」
刺さったナイフを気力で抜き、それを左手でしっかりと握り締め、アーチェはジョニーに向かって突進した。
冷静になれ、と頭の中で自分に呼びかける。
相手は少女だ。ナイフを奪いさえすれば負けはしない。
無理やり言い聞かせ、突進してくる少女に向かい側にあった椅子を蹴り倒した。
頭に血が上り、対処できなかったのか。アーチェの足に横倒しになった椅子が派手にぶつかる。
今だ!
ジョニーは大きく前のめりになる少女の顔を蹴り上げ、左手に握られるナイフを奪い取る。
「っうぁああぁあぁぁあぁぁぁぁあああぁぁああぁあぁぁああぁああ!!!!!!!!!!!!」
耳を劈くような叫び声が部屋に響く。
ジョニーの握ったナイフがアーチェの左肩から背中を通り右わき腹まで深々とした切り込んでいた。
夥しい量の血が天井まで派手に色づける。
しばらくは呻き続けていた声もやがて消える。
それは彼女の命の灯火が消えたことも意味していた。
ジョニーは横で倒れた緑髪の少女に目を向けた。
僅かに息をしているが、ほとんど虫の息だ。もう助からないかも知れない。
少女に手を伸ばそうとして、自身の手が真っ赤に染まっていることに気づいた。
明らかに震える手を握り締め、そのまま壁を殴りつけた。
怒りなのか、悲しみなのか、絶望なのか、自分でも分からない感情を晴らすかのように、ジョニーは何度も壁を殴りつけた。
先程まで笑っていた少女が死んでいく恐怖。人を殺した恐怖。
果たして今の自分の精神は正常なのか、異常なのか。それすら彼には分からなかった。
ファラを救う手段を探す、これが今の彼に出来る唯一のことだった。
【ジョニー 生存確認】
所持品:メンタルリング 稲刈り鎌 アイフリードの旗 BCロッド サバイバルナイフ
状態:極度の疲労 絶望
第一行動方針:ファラを救える何かを探す
第二行動方針:仲間との合流
第三行動方針:ゲームからの脱出
現在位置:C3の村
【ファラ 生存確認】
所持品:ブラックオニキス ガイアグリーヴァ アーチェの支給品袋(ダークボトル×2 スペクタクルズ×1 木の弓)
状態:瀕死 毒が体中に回っている 意識不明
第一行動方針:生きる
第二行動方針:殺し合いをやめさせる
第三行動方針:仲間との合流
第四行動方針:ゲームからの脱出
現在位置:C3の村
【アーチェ・クライン 死亡】
すいません。↑の一番下に
【残り35人】
と入れてください。失礼しました。
カイル・デュナミスが放送を聞いたのは、丁度G4の川に差し掛かった頃のことであった。
父親であるスタン・エルロンが18年前に倒したはずの、天上王ミクトランの声。
時おり声を洩らし始めたミントを、樹の側で寝かせてカイルは放送を聴いた。
その放送は、カイルにとって衝撃の連続であった。
まず、禁止エリアに一応の目的地であるG5が指定されたこと。
これだけでも、カイルには大事である。
別の場所に向かうことを考えていたが、そんな考えを巡らせるうちに死亡者の発表が行われた。
先に言われた禁止エリアは、カイルにとってほんの挨拶代わりでさえなかったのだ。
マリー・エージェント
母親であるルーティの相棒としてレンズハンターをしていた腕利きの戦士。
カイルはほんの小さいときに会ったぐらいだが、今でも母と連絡を取っていたことは知っていた。
若いころの、命知らずだった母さんのピンチを何度も救ってきた頼れる仲間だった。その彼女が、死んだ。
マイティ・コングマン
フィッツガルドの闘技場でチャンピオンをしていた、ある意味では英雄と呼ばれた男。
拳一つで凶暴なモンスターを倒し、若いころの父さんとも戦ったことのある無頼の拳闘家。
もう何度も聞いたことのある若いころの父さんの武勇伝に名を連ねる好敵手。その彼も、死んだ。
そして………
カイルにとって家族よりも強い絆で結ばれた、血の繋がらない兄、ロニ・デュナミス。
最も身近なカイルの目標であり、ライバルでもあり、教師でもあった彼でさえ………死んだ。
自分でも驚くほどの大きな声であった。
ひどい、泣き声とも叫び声ともつかない絶叫が辺りに響いた。
そしてカイルは、打ちひしがれるように力なく崩れ落ちた。
地面を叩く。素手で、何度も。血が滲もうとも叩くのは止まらない。
何度も何度も周囲に叫び声が響き渡った。惜しむような、責めるような、カイルの叫び。
カイルは泣いていた。
父さんのような英雄になる。それがカイルの口癖だった。
でも、今の自分は一体なんだ?
ひとり、またひとりと死んでいくこの状況を、なにひとつ変えることが出来ない。
叫びは悲しみから、いつしか自責の色を帯び始めていた。
自分が、こんな馬鹿げたゲームを止めるだけの力を持っていたら。
それは少年期にはよくある、あまりに儚い理想の偶像。
だが、カイルは真剣にそんな力を持つ『英雄』という存在に憧れていた。
オレはこんなにも、英雄とは程遠い存在だったのか。
カイルの、自分の無力への嘆きは止まらなかった。
誰よりも純粋であったがために、嘆きを留める術もなかった。
だがそんな悲痛な叫び声を、受け取ってくれる人がそこに確かに居た。
「いけません、そんなにしては腕が――!!」
カイルを抱きかかえるように包み込んで、ミントは打ち続けられるカイルの手を止めた。
驚きの表情を見せるカイル。
ミントは、そんなカイルの手を優しく癒した。
暖かな光が、カイルの手を優しく包み込み、光が消えるころにはカイルの手は元に戻っていた。
「落ち着きましたか?」
問いかけるミント。カイルは黙って頷く。
「……いったい何があったのですか? 良かったら、話して頂けますか?」
ミントの言葉に絆されるように、カイルは少しずつ喋り始めた。
G3洞窟でのこと。ミントを背負って逃げ出したこと。そして、放送のこと。
「………そうですか。ありがとうございます、カイルさん」
話し終えたカイルに、ミントは頭を下げて感謝した。
「どうしてオレに……オレはあなたを無理やりに連れてきたってのに」
俯き、暗い口調で話すカイルだったが、ミントは微笑んでみせた。
「そんなことは…カイルさんは、私の恩人です。あの後、洞窟が崩れていたかもしれませんから」
「でも! オレは――」
「カイルさん、あまり自分を責めないでください」
「でも………でも…………」
再び俯くカイル。彼が今まで持っていた自信はいま、かつてなく揺らいでいた。
消えるように儚いカイルに、ミントは優しく声をかける。
「誰しも、どうすることの出来ないこともあります。ヒトである限り、万事上手くいくことはありません。
カイルさんも、人間である以上はどうにもならないこともあるのです。そう、それは………私にも。
それでも、私は今まで自分に出来ることをし続けてきたと思います。カイルさんは、どうですか?」
ミントの問いかけに、カイルはしばらくの間考え込んだ。
沈黙が包んだが、ミントはそのまま何もすることなく、カイルが答えるのを待っていた。
やがて、カイルは吐露した。まるで全ての膿みを吐き出すように。
「オレは………オレは、わからない。わからないんだ!」
「もっと良い道があったのかもしれない。今よりもっと素晴らしい方法があったのかもしれない。
オレ、馬鹿だから……その道に気づくことが出来なかっただけじゃないかって、それが怖いんだ!!」
カイルの怒気を孕んだ言葉は、全てミントにぶつけられた。
それを、ミントは受け止めた。そして、ゆっくりと、諭すようにカイルに語り掛けた。
「カイルさん。それなら、あなたが選んだ道は……間違っていましたか?」
「――――ッ!?」
「間違った現在なんて、ないんです。いまこの瞬間というものは………ひとつきりしかないんです。
自信を持ってください。少なくとも、あなたの先ほどの行動で助けられた人がここに居るのですから。
大丈夫です、カイルさん。だから………もう少し落ち着いたら、次はどうするか考えましょう」
言い終わる前に、カイルは再び泣いていた。
そんな彼を、ミントは静かに見守るだけであった。
パシャパシャと、流れる川の水でカイルは顔を洗った。
「もう、いいのですか?」
ミントの問いに、泣きはらした顔のカイルは、まだぎこちない笑顔で答えた。
「ああ、大分落ち着いてきたから。ありがとう、ミントさん」
カイルの感謝の言葉に、ミントは「これも勤めですから」と軽く答えた。
「それで、どうしますか? 話ではG5も禁止エリアになってしまうと………」
「しょうがないから、別の道を行く。父さんも禁止エリアに近寄るとは思えないし」
カイルの父さんという言葉に、ミントは瑣末ながらも興味を抱いた。
「ロニさん以外にも、家族の方が参加していらしたんですか? でも名簿には――」
「オレは姓が違うんだ。父さんはエルロンで母さんは……カトレット、そしてオレはデュナミス」
エルロン。その名前に、ミントは聞き覚えがあった。
「もしかして……父親というのはスタンさんのことですか?」
その質問に、まるで知っているかのような言い方に、カイルは驚きを隠せなかった。
「そんなぁ、あの洞窟の奥に父さんがいたなんて」
「すみません、もっと早くに私が目覚めていれば……」
謝るミントだったが、カイルは気にせずに答えた。
「いいさ、また戻ればいいことなんだから」
いつものカイルの、馬鹿みたいに能天気な口調だった。
カイルは、無力である。この状況をなにひとつ変えるだけの力は持たない。
でも、それでも、カイルにはまだ未来が残っている。
彼の歴史は、まだ終わってはいない。
諦めることをどこかに置き忘れてきた少年の旅は、いま再び動き始めた。
【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:全身に軽い打撲
所持品:鍋の蓋、フォースリング、ラビッドシンボル (黒)
第一行動方針:ひとまずG3方面へ戻る
第ニ行動方針:父との再会
第三行動方針:リアラとの再会
第四行動方針:仲間との合流
現在位置:G4西川岸
【ミント 生存確認】
状態:健康 TP半分程度
所持品:ホーリースタッフ サンダーマント
第一行動方針:カイルを助ける
第二行動方針:仲間と合流
現在位置:G4西川岸
白と白が交差し、大規模な爆発を起こした。
何もかも焼き尽くしたと思われる、壮絶な破壊力。
草木も花も、土も空気すらも消滅させられた。
二つの光線が通った跡には、長い堀が出来ていた。
焼け焦げた大地と木々から煙が立ちこめ、視界を濁した。
「…やったか?」
ダオスが視線を目標点に向けたまま、呟いた。
「直撃を受けたんだ。塵一つ残さずに消えたに決まってるさ」
ミトスが応えて言った。
両手を降ろし、僅かに微笑を携えて、そのまま立ち去ろうとした。
が、その時ダオスは序々に晴れゆく煙の中に、確かに見た。
大地に倒れこむ、少女の姿を。
シャーリィ・フェンネスは、全身を焼かれながらも、肉体の消滅を免れて地面に伏していた。
「…驚いたね。まだ生きてるなんて」
「どうやら咄嗟に防御技を発動させたらしいな」
そう言うダオスは、どこか自信がなさげだった。
確かに光線が衝突する一瞬、あの少女はミトスが使ったのと似た緑色の球体に包まれて身を護ったようだった。
しかし、それだけではいくらか説明が付かないところもある。
あのレーザーの威力は自負している。
それを二つ同時に喰らい、果たして肉体の原型を維持できる程度の負傷で済むだろうか。
「…」
何か嫌な予感がする。そう思った次の瞬間だった。
地面に横になったまま、不意にシャーリィの体がビクンと跳ねた。
「!」
「何だ?」
驚き、戸惑い、二人は黙って少女の様子を見つめていた。
電気に痺れたかのようにビクンビクンと跳ね続け、それは奇妙な踊りに見えた。
気付けば、ほとんど破れた衣服から覗く少女の肌が、少しずつ青緑色に変色していた。
そして不意にシャーリィの顔面が溶け出した。
どろりと青緑の皮膚が流れ出し、人間の頭蓋の形状が鮮明に現れる。
少女の肉体は全身どろどろに溶け、地面に広がっていく。
その量も、気のせいだろうか、徐々に増えていくようだった。
やがて溶け尽くした青緑の液体は、それ自体が意思を持って
いるかのように少女の骨格に纏わりはじめ、その姿を形成していった。
ゆっくりと、少女…いや、既に少女でも人間ですらなくなったそれは、夢遊病にかかったかの様に立ち上がった。
正に魔物、怪物、化け物といった表現がふさわしい姿だった。
体格は既にシャーリィが元の姿だったころの二倍ほどになっていた。
背の高さも、長身のダオスを超すほどの存在と化していた。
胴体の太さは、かつてマウリッツがなったものほど膨張してはいないものの、
大の男と充分張り合えるほどの大きさだった。
全身が節くれ、両腕は地面に付くほどに伸び、肥大化していた。
足先は鋭い爪がそれぞれ三本ずつ、生えていた。
既にボロ布と貸した衣服は、窮屈そうに胴体に巻きついている。
首から上は、青緑色の半液状の皮膚に覆われたのっぺりした顔があり、
まるで粗末な仮面を付けられているようだった。
マウリッツのそれと違い、二つの橙色の鋭い眼光が残り、ぎらぎらと光っていた。
そして唯一少女の面影を残す、美しい金髪は、煌めきを失い、灰褐色に染まり、
ゆらゆらと頭から背中にかけて揺れていた。
全体のシルエットとしては本来エクスフィアが存在した世界のエクスフィギュア、
或いはマウリッツがなったものよりもスリムな印象を受ける。
しかしそこからにじみ出る負の感情、深く暗く哀しい殺意は、彼女の存在感を二倍にも三倍にもしていた。
「……!!」
変貌が始まってからシャーリィが立ち上がるまで、時間にすればほんの僅かなことだったであろう。
しかしその変貌のあまりの壮絶さに、ダオスとミトスは息を呑み、硬直するばかりであった。
が、それもすぐのことで、即座に眼前の敵を撃つべきだと、二人は即座に構えた。
「あんな、あんな化け物と一緒に行動していたなんてね!」
ミトスが吐き捨てるように言い、二刀剣を構えて走り出す。
だが、その姿をシャーリィが認識するや否や、信じがたい速度で右腕を前方に向けた。
そしてその先、拳と思われる場所から、突如肉が裂け、中から黒光りする金属の筒がずるりと出てきた。
それはシャーリィが使っていたマシンガン。
そしてその銃口から、青白い光弾が連続的に飛び出し、ミトスを襲った。
彼女は変貌の際に、近くに落ちていたマシンガンを体内に取り込み、同化してしまっていた。
吐き出される光弾は、彼女が創り、圧縮されたテルクェス。
シャーリィはテルクェスをペンを使い描き出すが、彼女の故郷に居る人々、
水の民の中には別の方法でテルクェスを生み出し、攻撃に用いたり飛行に使ったりしている。
シャーリィは今その力を純粋に攻撃に使うことのみに集中し、
テルクェスを弾丸の形状に圧縮し、直接体内に連結したマシンガンを媒体として撃ち出していた。
そうすることで、もはやシャーリィが使える弾丸は、無尽蔵と化していた。
ミトスは目を見張り、咄嗟に横飛びに回避する。目標点を反れた光弾は、彼の背後の樹木を撃ち砕いた。
ミトスがよけた先に照準を合わせなおし、再度弾が発射される。
「くそっ!」
ミトスは瞬間移動し、木々の陰に隠れた。
先程までとはまるで違うシャーリィの様子に、多少の警戒が起こっていた。
更に狙いを付けようとするシャーリィに、灼熱の火玉が連続して当たった。
ぎろりと、その方向を見る。
そして発射。十数発の弾丸が、ダオス目掛け飛んでいった。
しかしダオスは動じることなく、両手を前に突き出して魔力を開放した。
青白の弾は白い魔力の衝撃に圧され、消滅していった。
ちょっと驚くミトスに、ダオスはちらりと視線をやり、
「所詮は魔力の塊だ。威力も実弾ほどでは無い。これぐらい、どうという──」
刹那、彼の肩を何かがかすり、抉った。
「!」
微かに出血した。が、とても致命傷とはいえない。
肩を押さえ、こちらも樹木の陰に隠れる。
同じ軌道を描いて飛んできたそれは、間違いなくマシンガンから放たれた弾丸だった。
そう、本来の弾丸。実弾。
「実弾と魔力弾の打ち分けまで出来るのか…」
ダオスはそう呟いた。
突然シャーリィが天に向かって吼えた。
大地を震撼させるような、強烈な響き。
そして再び右腕を上げ、マシンガンを撃とうとする。
しかしその瞬間、彼女の胸部が、背中から刺されていた。
「ここまでだね」
いつの間にかシャーリィの背後に接近していたミトスが、ロングソードを突き刺していた。
「ぅぐぉぉぉ!」
既に人間のですら無い、悲鳴とも怒号とも判別の付かない声を上げ、
シャーリィは剣が突き刺さったまま振り向き、ミトスを至近距離で睨み付けた。
ミトスは素早く右手に持った邪剣ファフニールで斬りかかった。
しかしそれはシャーリィの左手によって受け止められた。
ミトスは驚き、目を見張る。
見れば、シャーリィの左手から、右手と同じように異物が飛び出している。
銀色に輝くそれは、鋭い刃だった。
彼女がカッシェルから奪った、ショートソードだった。
支給品袋ごとそれを体内に取り込んだ彼女は、その剣もまた肉体から飛び出させて武器として使用した。
驚くミトスの一瞬の隙を突き、マシンガンを体内に戻して右手で彼の頭を掴んだ。
軽く持ち上げ、宙吊りにしたまま、ぎりぎりと、握る手に力を込めて圧迫する。
ミトスの顔が、苦痛に歪んだ。ばたばたと、足をせわしなく動かしている。
そしてそのまま、ミトスを掴んだまま、大きく振りかぶり、近くの木の幹に後頭部を叩き付けた。
木片が砕け、血がいくらか飛んだ。
ミトスは脳震盪を起こし、気を失った。
だがそんなことはお構い無しというように、シャーリィは更に力を込めて握りつぶそうとする。
一瞬の後、シャーリィの体が白い光線によって貫かれた。
その勢いでミトスを落としてしまい、ふらりと足取りが危うくなる。
刺さった剣も、支えを失い地面に落ちた。
腹部と胸部の境目あたりを中心に、大きな穴が開いた。
だらだらと、血と緑色の液体が流れ出た。
「ミトス!大丈夫か!」
ダオスはすぐにレーザーをもう一発放とうと、両手を構えた。
シャーリィはしばらく呆然と立ちすくむと、やがてぶるぶると痙攣しだし、天を仰いだ。
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!」
シャーリィの絶叫が、森にこだました。
腹に開いた穴が、緑色の液体によって覆われていき、元通りにしようと働いていた。
元来エクスフィアの存在しない世界の住人であるシャーリィやマウリッツに、
エクスフィギュア化がどれだけの影響を及ぼすかは皆目検討もつかないことだった。
更に、彼女は水の民の中でも特別な体質を持つ者である。
そして彼女自身が持つ底なしの負の感情、
それらが複雑に絡み合い彼女をあってはならない畏怖の存在に変えてしまった。
彼女の身体能力は、全く以って常識の域を超えていた。
怪訝な顔をするダオスと、地面に伏せるミトスには目もくれずに、シャーリィは走り出した。
不恰好な体格とは裏腹に、結構な速さで走って、森の奥に消えていった。
背後目掛けて追い討ちのレーザーを撃つも、命中はしなかった。
ダオスは中途半端に佇み、やがてミトスの様子を見に行った。
彼は気絶しており、しばらく目を覚ましそうに無かった。
ふと、今戦った相手のことが頭をよぎった。
目の前の相手は、既に完全に別の存在と化していた。
もう元の少女の姿には戻れないだろう。
誰彼構わず襲いかかる、狂気のモンスターと化してしまったのだ。
そう思うと僅かに少女に憐みの情が浮かんだ。
しかしそれはダオス自信の持つ信念の元、たちまちにかき消された。
【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
状態:TP4分の3消費
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:敵は殺す
現在位置:B7の森林地帯
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード 邪剣ファフニール ????
状態:気絶 後頭部に打撲 擦り傷、足に軽裂傷、金的に打撃 TPを微消費
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:クラトスとの合流
現在位置:B7の森林地帯
【シャーリィ 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ショートソード(体内に取り込んでいる)
状態:エクスフィギュア化 腹部に穴(修復中)
第一行動方針:本能の赴くまま
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:B7の森
224 :
伸展乱幕:2006/01/21(土) 01:02:15 ID:ccWvLGuz
「お前、さっきから何でそんなに不機嫌なんだよ」
赤髪のドレッドをした男、マグニスは歩きながら傍らにいる青髪の男に声をかける。
だが男は返事もせずただ前を見据えて歩くことのみに集中していた。
「ははーんわかったぞ。仕留めたと思ったやつの名前が無かったからだろ」
男の、バルバトスの眉が少し動く。だが結局はそれだけでやはりただ歩き続けるだけ。
マグニスの言うことは図星だった。あの洞窟の一部崩壊により岩の下敷きになったと思っていた、あの男。
その男の名が先の放送では呼ばれてはいなかったのだ。
その男―――憎き英雄、スタンの名が出てはいなかった。
つまり、スタンはまだ生きている。奴はまだこの世界に存在している。
そのことを考えるだけで自分の中の怒りの沸点が湧き上がってくるのが分かる。
だが実際にその怒りは奴の死体を見て奴の「死」をその目で見なかった自分に向けているのかもしれない。
何たる無様なことだ。最も奴の「死」を見たがっていた自分が、それを疎かにして今の怒りと向き合うはめになろうとは。
本当は今すぐにでも戻って息の根を止めたいところだった。
だがあれから数時間は経っている。今戻ったところで、奴の姿を確認できないなどと言う状況だとしたら、それこそ自分の怒りがどうなるか分かったものではない。
それに・・・
奴の力量は分かった。剣を交えてみて確信した。正気はこちらにある。
鬼に金棒の戦力があるのだ、加えて、マグニスから教えてもらった例の切り札もある。負けるようなどどこにあろうか。
次だ・・・次は見届ける。奴がこの世から退散する様をじっくりと。
225 :
伸展乱幕 2:2006/01/21(土) 01:34:29 ID:ccWvLGuz
青鬼と赤鬼は洞窟崩壊後、一足先に北上していた。
正面から出たため、洞窟を回り込む形となったが、次なる獲物を探すための目的地などどこでもよかった。
殺すべき相手を見つけたときが、二人の目的地到着だ。あとはそこで殺戮と言う名の宴を楽しむのみ。
そうして、一つの城が見えたとき、マグニスは二つの影を目撃した。
「獲物・・・はっけ〜ん!」
右手にその巨大な斧を掲げ、一目散に走り出す。
バルバトスはその後姿を見つめ、この怒りを紛らわすため、ゆっくりと詠唱を開始した。
「で、話ってなんなのかな?」
地上に出たクラトスとサレは、ちょうど城の前で向き合う形となっっている。
クラトスは腕を組み、じっとサレを睨みつけていた。
「そんな顔しないでよ。僕が何をしたって言うのさ」
クラトスは眼光を鋭くさせたまま口を開いた。
「今から何かしようとしている者を、見過ごすわけにはいかんのでな」
サレの表情は変わらない。だがその内心は、ひどく荒れたものだった。
(・・・この男には何を言っても無駄、か)
サレは判断した。この男をつぶす、と。
治癒魔法を使ってすぐ。この男に戦う力はほとんど残っていない。サレはそう踏んでいた。
実際、クラトスは精神的にもかなり疲れていた。いくら天使といえども、今のこの状態ではサレに勝てる見込みは無かった。
だがいざとなれば全ての力を振り絞ってでもこの男を倒す。この男の頭は人を陥れることに関しては長けている。少ない行動時間のなかで、クラトスはそれだけを感じ取っていた。
残虐を快感と感じる部類。イヤでも感じる、この禍々しい感じ。一番厄介なことは、その感情を決して表には出さないこと。そしてその優れた隠蔽能力にあった。
常に気を張っていないと感じ取れない。なるほど、コレットもリアラも信用するわけだ。人の中に更に人を作り、その感情を巧みに隠している。
だが・・・
「貴様の目論みもこれで終わりだ・・・」
言ってクラトスは件を抜く。すでに説得などと言う選択はクラトスにありはしない。
しかしサレとしてもそれは幸いだった。自分には嵐のフォルスがあるしいざとなればその場から退散することもたやすいだろう。その疲労ではどうせ追ってこれないのだから。
そう確信して剣を握ろうとした。
226 :
伸展乱幕 3:2006/01/21(土) 01:35:24 ID:ccWvLGuz
―――そのとき
二人の間で急速にマナの収束を感じる。二人は驚き、咄嗟に後方へとバックステップした。
瞬間、その場に紫の球状が出来、一瞬にしてその場のモノを吸い込もうとする。
「ぐ・・・」
「これは・・・」
更にバックステップ重ねたおかげか、その球状に飲み込まれることなくそれは消滅した。
そしてすぐに、サレの元へと一人の男が姿を現す。先ほどの出来事に一瞬判断が遅れた。
「おらよ!」
すぐさま体を横に投げ出す。ザンという音と共に男が振り下ろした武器、斧が地面に突き刺さる。
間一髪されはその攻撃をよけた。と同時に、その斧に足を乗せ、振り下ろしてきた男の顔面を強く蹴る。
「ぐあ!・・・この・・・」
すぐさまサレは嵐のフォルスを発動させ、術とまではいかないが小さい竜巻を大男の腹部に作り、それを爆発させた。
「ぬあ!」
声を漏らして巨体は後方に飛ぶ。咄嗟の出来事にサレは戸惑ったが、これで分析する暇を作られた。
クラトスはやはり精神的にも疲れていたのか、足が思うように動かなかった。
だが、その赤い髪には見覚えがあった。かつてクルシスの元、五聖刃としてその名を轟かせていた男。
「マグニス・・・」
クラトスは思わず声を漏らす。今のままでは恐らくマグニスでさえ勝つことは難しいだろう。いや、そもそも体が戦闘に準じて動いてくれないのだからそれ以前の問題か。
だが幸いなことにマグニスはサレを攻撃してくれた。これでもう咄嗟の出来事はないだろう。考える時間が出来た。
マグニスはゆっくりと立ち上がる。サレはその光景を眺めていた。
「この男がいるってことは・・・多分」
マグニスの少し後ろを見る。そこには一歩一歩確実に近づいてくる青髪の男がいた。
「おやおや・・・まずいことになったね。あいつらと戦うなんて真っ平ごめんだったのに」
言ってサレは肩をすくめる。どこかその表情は余裕の色が感じられた。
クラトスもその男の姿を確認する。二人も相手では生き残るのはほぼ皆無だろう。
マグニスが立ち上がる。大きな斧を担ぎ、サレを睨む。
「お前ぇ、今何をしたぁ・・・」
「ちょっとばかり台風を作ったんだよ。それにしてもよく飛んだね君」
その挑発的な態度にマグニスは筋肉を膨れ上がらせる。しかしサレのこの余裕はどこからくるものなのか。
「潰す!!」
叫び、走り近寄ってくるマグニス。
「君みたいな奴は毎日見てるから、もううんざりなんだよね」
言って剣を抜くサレ。そしてマグニスとの交戦が始まる。
227 :
伸展乱幕 4:2006/01/21(土) 01:36:14 ID:ccWvLGuz
クラトスはこの状況を利用するしかなかった。
「不本意だが、ここはこの男と協力するしかないようだな」
クラトスは剣を抜き、マグニスの下へと向かう。
「貴様の相手はこの俺だ」
不意に言葉がかかる。右を振り向くと、大層な武器を持った青髪の男がそこに立っていた。
一対一・・・この状況下でどうにかなるか。だがそんなこと考えている暇は無い。青髪の男はもうそこまで迫っている。
「く、やるしかないか」
クラトスはその方向を向き、剣を構える。
男はその銃剣を大きく縦に降る。だが動作が大きすぎたか、クラトスは難なく回避する。
すぐさま後ろに回りこみ、剣を振る。だが男は銃剣でそれを凌ぐが、すこしよろける。
その隙をクラトスは見逃さなかった。
『剛・魔神剣!!』
剣が地面にたたきつけられ、そこから大きな衝撃がうまれた。だが、
「温いわ!!」
男は足を大きく叩き、その衝撃を消す。
「うぉら!」
と同時に反対側の足でクラトスを蹴り飛ばした。
「ぐぁ!」
クラトスは後方に飛ばされ、剣が手から離れる。
男がゆっくり近づく。その銃剣は確かにクラトスへと向けられていた。
「さぁ、これで終わりだ」
男は喚起の情を抑え、その言葉を放った。
「く・・・」
クラトスには成す術が無かった。
228 :
伸展乱幕 5:2006/01/21(土) 01:37:03 ID:ccWvLGuz
「うぉらぁ!!」
マグニスが叫びと共に斧を振る。
「バカの一つ覚えだね」
言ってサレは難なくかわし、横から斬檄を繰り出す。
マグニスは体を逸らしそれを回避する、が、サレの攻撃は終わってはいなかった。
逆袈裟でマグニスの腹部に浅い傷を負わせた。
「ぐ、のやろ!」
怯むことなくマグニスは肩をサレに当て、闘気を纏わせる。
「獅子戦吼!!」
ドンという大きな衝撃。いうまでもなくサレは大きくその身を浮かせて遠くへと飛ばされた。
「がはっ!」
地面に背中を打ち付けられ、血を吐くサレ。
だがまだ生きている。マグニスはサレへと近づきとどめをさしにかかる。
その間、サレはゆっくりと立ち上がり手を頭の上まで持って来る。
「何する気だ!」
斧を持って近寄るマグニス。だがサレの茶番は全て整った。
「バイバイ筋肉バカちゃん」
言うと同時に、マグニスの周囲に真空の爪が広がる。
やがてそれは全てマグニスへと牙をむき・・・
「ぐあぁぁぁぁぁっっ!!」
その爪あとを残した。
「・・・『ガスティーネイル』・・・」
マントを翻し、マグニスに近寄る。まだ息はあるみたいだ。
「さて、それじゃあ死んで貰うよ」
サレの刃はマグニスの顔を目標にした。
229 :
伸展乱幕 6:2006/01/21(土) 01:38:41 ID:ccWvLGuz
「何!?」
青髪の男は驚愕する。マグニスがあのやさ男にやられている。
「バカな!?なぜ晶術が使える!?」
詠唱開始と同時に詠唱カウンターを叩き込むはずの自分が反応出来なかった。
「晶術ではない・・・特別な何かか!?」
男は驚いている。クラトスは今しか隙がないと感じた・・・
否、感じただけ。この男に隙などない。もう二度と獲物を逃がさないと決めたその男の瞳は、確実にクラトスの命を見据えていた。
「奴の相手をするのは・・・この男を殺してからだ」
銃剣を振るう。クラトスは両手をかざし、最後の技を放とうとする。
が、男の体が止まっている。いや、止められているのか。
「ぐ・・・何だ・・・体が・・・動かん・・・」
何が起こったのかクラトスには判らなかったが、よく見ると男の影に一本の苦無が刺さっていた。
「やれやれ、大きな音がしたと思って来てみれば、厄介なことになってますねぇ」
クラトスの前に、煙と共に一人の少年が現れる。その姿は正しく生きる陰、ジェイだった。
「君は・・・」
「なにぶん、もう自分の意志で動くと決めちゃいましたからね。助けちゃったものは仕方ない。僕がお相手いたします。」
ジェイは何か吹っ切れた顔をして男を見据えた。
230 :
伸展乱幕 7:2006/01/21(土) 01:39:52 ID:ccWvLGuz
【サレ 生存確認】
状態:あばら一本損傷
所持品:ブロードソード 出刃包丁
第一行動方針:マグニスの始末
第二行動方針:コレット、クレス、リアラを利用する
第三行動方針:ティトレイの始末
現在位置:E2の城地下
【クラトス 生存確認】
状態:足元の火傷(小)
所持品:マテリアルブレード(フランベルジュ使用)
第一行動方針:青髪の男への対処
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:コレットが気になる
第四行動方針:ロイドが気になる
現在位置:E2平原
【ジェイ 生存確認】
状態:頸部に切傷 全身にあざ、
所持品:忍刀・雷電 ダーツセット クナイ(五枚)←一部回収
第一行動方針:ミントへの謝罪
第二行動方針:シャーリィと合流
現在位置:E2平原
【バルバトス 生存確認】
状態:TP中消費
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(弾丸残り2発。一射ごとに要再装填) クローナシンボル エクスフィア
第一行動方針:マグニスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する。特に「英雄」の抹殺を最優先
第二行動方針:マグニスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
現在位置:え2平原
【マグニス 生存確認】
状態:首筋に痛み 風の導術による裂傷 顔に切り傷(共に出血は停止。処置済み) 上半身に軽い火傷
所持品:オーガアクス ピヨチェック
第一行動方針:バルバトスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する
第二行動方針:バルバトスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
第三行動方針:バルバトスが興味深い
現在位置:E2平原
朝日も完全に上り、無機物で出来た部屋に窓から白い光が射し込む。
顔を直接照らす日を手を翳して遮りながら、キールは言った。
「先程言ったように、多人数で行動するのはまずい。
南にある村があるが、普通に考えて村にいる奴は戦意のあまりない奴だろう。好戦的な奴なら村に入ろうなんて思わないからね。仲間を増やせるかもしれないが、先程言った理由でここもパスだ」
地図上に記された村の表記にペンでバツを付けた。
「…て事はそのまま南下しても森があるから…」
「そうだな。それを避けるためには西の海岸沿いを迂回するか東の湖を迂回するかだ。お前、東の方角のあの凄まじいエネルギーを見ただろう?」
「ああ」
無論、それはダオスとミトスによるダブルカーランレーザーだった。それはこの二人の居る場所からも確認出来たのだ。
「爆心地…とでも言おうかな。それはは東の橋を越えたあたりからだった。つまりあのエネルギーを持った奴は橋を越えれば簡単にこちらに来れる。よって湖のルートもパスだ。あんなのが相手じゃ、太刀打ちできないからね」
リッドはキールのこんな台詞に本来ならば逃げ腰なのを軽くからかう所だが、それはしなかった。
リッド自身、そんなものを相手にする自信は無かった。
極光術ならばなんとか太刀打ち出来るかもしれないが、まだ先は長い。力は温存しておきたかった。
「ということでわかったかな。進路は西の海岸線を辿って行こう。
そしてそちらから東に小高い丘がある。そこを目指したい」
「また、何でだ?」
丘を登るなんて、体力を消耗するのを嫌うキールにしては珍しい案にリッドは質問を投げかけた。
「…僕だって丘を登る事自体は本位じゃないさ。
だけど僕らはこの地図だけではなく、更にこの会場について知っておく必要がある。ここなら全てとは言わないがかなりの範囲の土地を見渡せるからね」
ふう、とキールはひとまず溜め息を付き、ペンを置いた。
「じゃあ俺もう少し休んでいるよ」
「ちょっと待ってくれ」
立ち上がろうとしたリッドをキールは制止した。
「…少し、気になっている事があるんだ」
「…なんだ?」
するとキールは紙を取り出し、何かを書き始めた。
それは文章だ。
こう書いてある。
『この話しは主催者に聞かれるとまずい。筆談でいいか?』
リッドは目を大きく開いてキールを見るが、キールの考え深そうな表情がそこには映った。『OK』とリッドも筆で答えた。
「じゃあリッド、僕は少し寝るから」
へ?といった顔をするリッド。キールはすぐさま紙に字を書く。
『馬鹿だな。下手したら僕らは主催者に盗聴されているんだ。急に二人とも黙ったら怪しまれるだろう。こうやって言っておけば静かになっても怪しまれない』
『バカは余形だ』
『…「余計」だよ。
取り敢えず疑問点を書く』
カツカツとキールは素早く言おうとすることを紙に写してゆく。
『お前は僕らがどうやって此処に運ばれたか分かるか?』
『え?まほうじんに乗っただろ』
『違う、その前だ。あの時主催者の部屋にどうやって集められたかだ』
リッドはムッとした顔をしてペンを動かした。
『↑とりあえずもったいぶらずに言えよ』
『いいか。
僕らの世界でどうやって2つの世界を行き来したか思い出して欲しい。』
『あのチャットのひいじいさんのい産だろ』
『そうだ。アイフリードの遺産。そして僕が見る限り、その技術力は半端なかった』
『考えられない程の技術力。
だけれどあれだけの技術でも出来たのは、逆さに向き合う世界に船をワープさせるだけで精一杯だ。僕の言いたいこと分かるな?』
『わからん。』
ハア、とがっくりとキールは肩を落とした。
『僕らがあの部屋に集められた時分かったんだ。
この参加者はあらゆる世界から招かれている。何故分かるか?見たこともない服装、金髪の男の術、そして耳の尖った者まで居る。僕らの世界にはそれらは存在しない』
更にキールは続ける。
『つまりだ。僕らは考えれないような技術でここに招かれている。更に思い出して欲しい』
キールは紙面が文字で一杯になったので、紙を裏返した。
『あの部屋からここに来るとき、僕らは魔法陣に乗せられた。僕達を一気に世界から隔離する力があるにも関わらず。
そこで僕は考えたんだ。
もし、僕ら全員を送る力が主催者自身にあるのならば、それをその場で用いていた筈だ』
『…つまり?』
『彼はその力を僕らに見せなかった。
見せれなかったんだ』
『これが意味する事は、それが主催者自身の力によって引き起こされた事ではないということ。
だって主催者自身の力なら使ってもデメリットはないからね。
従って、僕らをあの部屋に連れてきたのは何らかの道具か装置であるといえる。
しかしあの部屋にはなかったし、主催者が持っている様子もなかった。
つまりそれが僕らの手の届く範囲にあったから使いたくなかった。
何でやったかバレたら、すぐ脱出されちゃうからね。
つまり下手をしたら、その道具はこの会場にある可能性さえある』
『!マジで!』
『あくまで推論だ。だけれどどう考えてもそういう事になるんだ。
力もない、道具もないでは不可能だからね。
そしてあの部屋で道具のあった場所
それは支給品袋の中しかない』
リッドとキールは暫く見つめ合った。
『話しを元に戻そう。
それで僕らの世界でもそうだったように、世界を往来するのは半端な技術じゃない。
ここで使われたのはまさに未知の力だ。しかも遺産など目じゃない位に強力な。
それで一つ心当たりがある』
キールは少し筆を迷わせて、そして紙にペン先を滑らせた。
三つの文字。
『レンズ』
リッドは、ハタッと動きが止まり、その三文字を凝視する。
『レンズ?望遠鏡とかに付いてるアレ?』
『そんなわけないだろう。
僕が大学に居たときに見た、古い文献に記されていた。
異世界に存在する伝説上の不思議な力を宿したものらしい。ただのお伽話と思っていたけどね。
だけれどこの会場はあらゆる世界のサラダボールだ。あっても不思議じゃない。
尤も、主催者自身の世界のものだという線が濃厚だが』
『尤も→なんて読むんだ?』
『もっとも…』
顔を伏せているために顔にかかる髪を払いながらキールは書く。
『一説によると、それには時空を移動したり、使い方によっては世界をも滅ぼす。
転移能力の上に爆発的な力
…これだけの人数の移動も可能かもしれない』
『で、そのレンズとやらを見つければ…』
『だからここにあるというのはあくまでも仮説だ。
レンズの形状も分からないしね。
だけれど…
人は案外大事なものを近くに隠すものだよ』
『キールのへそくりみたいなものか』
『なんで知ってるんだよ!!!』
一瞬キールは口を開きかけたが、書き殴って反論した。
キールの推論は外れてはいなかった。
だがそれには誤算もあった。
ディムロス、アトワイト、シャルティエ。
レンズは一つではないということを。
【リッド・ハーシェル 生存確認】
状態:背中に刀傷(9割回復)
所持品:ムメイブレード、エルヴンマント
基本行動方針:キールと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:ミクトランに見つからない様に脱出方法を模索
レンズが気になる
第二行動方針:できれば危険人物を排除する。(ただし逃げを優先する)
現在位置:B2の塔 一階の部屋
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:全身打撲(回復中 現在9割回復)
所持品:ベレット、ホーリィリング
基本行動方針:リッドと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:レンズの存在を特定する
現在位置:B2の塔 一階の部屋
一通り自分の考えをリッドに伝えたあと、今度は本当に寝ようとキールはソファへ向かった。
しかしそれは難しい顔をしたリッドによって阻まれた。
首をかしげる仕草だけで、どうかしたのかと問う。
それを見たリッドはもう一度先ほどの紙へ何やら書き始めた。
とても読みやすいとは言えない文字をキールは目で追う。
『俺たちが盗聴されてるってさっき言ったよな。どうしてわかるんだ?
まさかこの塔に何か仕掛けられてるってのか?』
読み終えて顔を上げると、澄んだ青色の瞳がこちらを見ていた。
そうか、それも説明しておかなければならないな。
『この塔にはおかしな仕掛けなんて見当たらなかった』
ペンを握る細い手が、リッドよりは幾分整った文字を紙の上に連ねていく。
『リッド、先の放送でミクトランが言ったことを覚えているか?』
思い出すような仕草をしながらリッドは頷く。
『ヴェイヴという人物は「まだ」死んでいない。
つまり、ほとんど死に近い状態であると言ったんだ。これは分かるな?』
ふんふんとリッドは素直にキールの言葉を飲み込む。
『ということは、ミクトランは何らかの方法で参加者の状態を知ることができるはずだ。
参加者一人ひとりの正確な情報を、な』
『そんなことできるのか?』
『最初の放送で気づくべきだった。
どうやってミクトランは参加者の生死を判断しているのか…。
島全体に情報を取得するための装置を仕掛けるという手も考えられるが、
それでは装置が壊れてしまう可能性もある。激しい戦闘でな』
島では幾度と無く戦闘が起こっている。この塔から見えた凄まじいエネルギーもそうだ。
あのような力に耐えられる程の装置を島全体に仕掛けるのは難しいだろう。
『それよりも、もっと簡単で確実な方法がある』
キールは体を起こすと、ペンを持ったままの手でそれを示した。
彼が示すそれはリッドの身体にも存在している。
ぎくりとして、リッドは両手を首元へやった。まさか…。
『そうだ。ミクトランは僕たちを脅すためだけに首輪をつけたわけじゃない』
苦々しく息を吐き、その続きを綴る。
『この首輪は僕たちの行動を常に監視している。
参加者の位置が筒に抜けになっているのもそのせいだ』
リッドの息を呑む音が聞こえた。首輪の存在が二人に重くのしかかる。
『でも、分かるのは身体の状態と位置だけかもしれないだろ?』
『そうかもしれないが、逆に盗聴されている可能性を考えたって何もおかしくない。
むしろその可能性のほうが高いと思う。
ミクトランはこのゲームを楽しんでいるからな。
僕たちのやり取りを聞いてほくそ笑んでいることだろう。
それにゲームを阻害したり、脱出しようとたりする参加者を特定することもできる』
『なんとかしてこいつを外せないのかよ!』
『構造が分からない以上、危険な真似はしたくない。
無理やり外そうして爆発しましたじゃ元も子もないしな』
『くそ、俺たちは完全にあいつの掌の上だってのか!』
リッドは拳を机に叩きつけようとして、なんとかそれを抑えつけた。
ミクトランには自分たちが今休んでいることになっているのだ。
『僕たちはなんとかしてミクトランの目を誤魔化さなければならない。
僕たちの目的はここからの脱出なんだからな。
この塔を出てからは慎重に行動してくれ』
最後にそう書くとキールは静かに席を立った。
これから何が起こるかわからないのだ。少しでも体力を温存しておきたい。
ソファへと向かう後姿をリッドはぼんやりと眺めていた。
ふいにこの島のどこかに居るであろうファラのことが気にかかった。
幸い、その名はまだ呼ばれていない。
無事で居てくれているだろうか…。
【リッド・ハーシェル 生存確認】
状態:背中に刀傷(9割回復)
所持品:ムメイブレード、エルヴンマント
基本行動方針:キールと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:ミクトランに見つからない様に脱出方法を模索
レンズが気になる
第二行動方針:できれば危険人物を排除する。(ただし逃げを優先する)
現在位置:B2の塔 一階の部屋
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:全身打撲(回復中 現在9割回復)
所持品:ベレット、ホーリィリング
基本行動方針:リッドと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す。
第一行動方針:レンズの存在を特定する
現在位置:B2の塔 一階の部屋
238 :
僕の肉1:2006/01/21(土) 15:05:46 ID:L9Uru/oY
あいするひとが、今ちかくにいる。
「エミリオ…、本当に良かった…無事で…」
ちによごれた僕に、こんな僕なのに、やさしく呼びかけてくれている。
リオンはミクトランの命により、参加者全員を殺さなければいけなかった。
そうすれば、何でも願いを叶えてくれる。
僕は―――
僕は自分一人で一歩一歩と歩ける人生が欲しい。
ヒューゴにも、ミクトランにも操られない。
握られていない心臓であらゆる気持ちを素直に受け止め、そして想いを何かに注ぐ。
糸の絡まっていない手足は自由で奔放に動かせる足は愛する人の元に向かい、そして全てを抱くことが出来るようになった腕でその愛する人を抱きしめるのだ。
そして、閉ざすこともなくなった口で、幸せそうに笑ってみたい――――
「エミリオ…傷がとてもひどいわ。
あの女の子ならばダオスさん達が防いでくれている。どうか…休んで」
僕にとっての全てがここにいる。
誰よりも、愛しい人。
「マリ…アン」
リオンにはその姿が眼に映っただけで、全ての世界の色が変わるようだった。
僕をこの暗い世界から導き出す、唯一の光―――
もう、嫌なのだ。
ミクトランに操られるのも。
操られる人生の苦しさは充分に知っているのに、僕はまた同じ事をしている。
まだバトルロワイヤルが始まったばかりなのに僕は沢山の人を傷つけた。
白蛇の髪の男はともかく、快活そうな褐色の肌の男、何も知らないであろう優しそうな表情をたたえた獣人の女性、忍者の少年、マリアンと共にいた赤髪の男。
取り返しの付かないことをしてしまった。マリアンは僕を赦しはしないだろう。
向き合いたい女性にどうして血塗れの自分を晒すことができよう。
すると奥で金髪の男達と戦っていた少女は化け物に姿を変えた。
驚くマリアンを見て、思う。
化け物か。
僕もそれとは何も変わらないのに。
マリアンの恐怖に歪む顔を見て、それは自分が赤髪の男を襲撃した時の顔と同じだと思った。
239 :
僕の肉2:2006/01/21(土) 15:08:23 ID:L9Uru/oY
なのに、今彼女は僕の体の心配までしてくれている。
「大丈夫だ、マリアン。僕はこれ以上君を傷つけさせやしない」
それが僕に出来る罪滅ぼしであり、本当の気持ち。
例え、マリアンに赦されなくとも、だからこそ僕はマリアンを守りたい。
化け物――シャーリィの放った魔力を帯びた弾丸が、流れ弾となってこちらにまで襲いかかってくる。
マリアンは悲鳴を上げてその場で硬直する。とっさに僕はマリアンの前に飛び出す。
「マリアン!
粋護陣!!」
シャルティエを地面に突き刺しすと魔力の壁が辺りを包み、弾丸はその壁に弾かれた。
「僕は今はあの二人の様に戦うのは難しい。だけれど、絶対に君は守ってみせる」
「エミリオ…あなたは…本当にエミリオなのね」
マリアンの真っ直ぐな眼。
どこまでも純粋で、僕の心配をしてくれている眼。
まだ、彼女はそんな眼を僕に向けている。目の下はひどく赤く腫れている。相当泣きはらしたのだろう。僕のせいでとても辛い思いをさせたのに、なのに。
「…うん」
固い決心が宿った。
そう、これでいいんだ。
もう泣かせたりはしないんだ。
僕が流させた涙は僕が拭ってみせる。
『……だ、マリアン。僕はこれ以上君を傷つけさせやしない』
その会話を暗い部屋で聴いている者がいた。
大きく、複雑に模様が彫り込まれた机にはこれまた大きなチェスの卓の様なものが置いてあり、そこなはゲームの人数分の駒が置いてある。
よく見るとそのチェスの台は会場の地図を模したものであり、駒は胴から上の参加者の姿が象られている。
それぞれの駒は独りでに移動をしたりもしておりそれは不気味な光景だった。
そして机の椅子に腰掛けている男―――ミクトランはそのチェス台の右上の所、リオンとマリアンを模した駒を見る
「ふん、馬鹿な男だ。
所詮は十と六の少年か。
人の情などつまらぬものだな」
しかしミクトランの顔は冷ややかに笑っていた。
「主人に逆らうか、リオン=マグナス。
お前は私がこのゲームで楽しむ為の大事なマーダーだ。」
フフフ、と笑いをこぼす。
残忍な眼光がその暗い眼に宿った。
「こちらが手を出すのは避けたいが…
貴様が生ぬるい感情に流されるような言うことも訊けない悪い子ならば仕方ないな。
私に逆らえばどうなるか教えてやろう。
ははははは!!!」
ミクトランのまがまがしい笑い声が薄暗い部屋に響いた。
240 :
僕の肉3:2006/01/21(土) 15:13:39 ID:L9Uru/oY
ダオスが地面を踏みしめてエネルギーの塊を化け物にぶつける。
化け物はそれに怯んでゆく。
彼はとても強い。
そしてその傍らの僕と同じ位の歳かそれ以下の少年も。
僕は彼らの眼を知っている。
かつて共に行動したうるさい奴ら
スタン達。
何かを、必死で守る者の眼だ。
いつもは怪訝な顔をして奴らを見ていたけれど、本当は羨ましかった。
どこまでも真っ直ぐに、自分の道を突き進む姿。
それが眩しくて仕方がなかった。
僕も僕の行動には後悔はしていなかった。だけれど。一つそれがあるとしたら自分の弱さを認めることが出来なかった心。
力は…僕の握りしめるシャルティエの力は、きっと大切な者を守る為に振るわねばならないのだ。
僕は自分の心の弱さも受け入れなければならない。
そして今はそれを受け止めてくれる人もいる。
そう、そして僕も彼らの様に―――
「エミリオ…よかった…あなたを見たとき…私…私……」
「マリアン…すまなかった…今まで…」
二人はお互いに近づき合い、リオンは腰を下ろした。
マリアンは座ったまま、腕をリオンに広げる。
リオンはそのマリアンの姿に目をわずかに潤ませ、口がほんの少し震える。
「…ありがとう、ありがとう…」
自分でも驚く程の素直な言葉が出た。
このゲームでこんな言葉を口にするなんて。
どんどん心が暖かくなっていった。
241 :
僕の肉4:2006/01/21(土) 15:15:07 ID:L9Uru/oY
愛しい人。
もう、苦しませたりはしない。
リオンも腕を広げ、マリアンに向ける。
少しずつ重なろうとする体。
二人は抱き合う
筈だった。
ピ、とマリアンの首から聞こえた電子音。
「エ、ミ゛………」
「え…?」
ボン、という鈍い音がした。
視界が、赤く、染まる。
マリアンの体が、自分の胸に不自然にもたれ掛かる。
顔に何かがかかった。
生暖かい。
なのにどんどん心が冷たくなってゆくのを感じる。
何が起きた?
何が?
何が…?
マリアン…マリアンは…
マリアンの顔に視線を落とす。
どういうことだ?ここも真っ赤じゃないか。
マリアンの顔が赤いのか?
手でマリアンの顔に触れようとする。
「あ………?」
なかった。
マリアンにはもう頭がなかった。
マリアンには、顔がない。
まるで、首のないマネキン人形の様に自分にもたれ掛かっていて。
「あ、あ…?」
ただ視線に入るのは、真っ赤になって潰れていろんな血管や管が飛び出した、破損した首元。
この、赤いのは。
僕の顔やマリアンを濡らしている生暖かくてどろりとした赤いのは、血?
僕の肩の上でだらりと垂れた腕。
動かなかった。
「あ、あ、あ…!」
242 :
僕の肉5:2006/01/21(土) 15:23:02 ID:L9Uru/oY
リオンの顔が悲劇にひどく歪む。
眼は大きく見開かれ、開けた口が次第にこれ以上ない位に震える。
マリアンを強く抱いた自分の腕や手の体温が、どっと下がる。
どうなっているんだ?
マリアンは…マリアンは?
「あああああああああああ!!!!!!」
リオンは、マリアンだったものを強く抱いて叫び狂った。
ダオスとミトスはシャーリィを撃退し、マーテルのいる所へ戻った。
しかしそこで待っていたのは壮絶な光景だった。
「何が…あったというのだ…」
さすがのダオスもその光景に我を疑う。
放心したように震えるマーテル。
その側には見知らぬ黒髪の少年。
首の無い女性。
「な…なんなんだよあれは…」
ミトスも眼を見開くばかりだった。
「いやだ!いやだ!いやだ!マリアン!!マリアン!!マリアンー!!」
少年は首の無い女性、マリアンの元で四つん這いになり、必死で何かをかき集めていた。
それは粉々にふきとんでしまったマリアンの顔の一部や、崩れた脳味噌。
必死に必死に泣き叫びながらそれを一つにかき集める。
まるで、元の形に戻したがっている様に。
リオンは顔をくしゃくしゃにして、涙や鼻水、涎を止めどなくこぼしながらそれを続ける。
ちらばる血管や肉片がぐしゃぐしゃとリオンの元にかき集められてゆく。
当然、元の形に戻るはずもない。
「マリアン!どうして!どうして!
答えてよ!マリアン…!」
元から他者の返り血に染まっていたリオンの服を、マリアンのまだ鮮やかな血が汚してゆく。
そして一つ転がっているものを見つける。
マリアンの眼球。
「う…う…!!」
その瞳はこちらを向いて、確かに転がっているのにそれは決してリオンを映しはしない。
血と、脂肪に汚れて、あの澄んだ瞳は、もう、ない。
「ああああああっ!!!!!」
「お前は…何者だ…?」
ダオスはなんとか言葉を紡ぎ出す。
しかしその言葉は全くリオンには届いていなかった。
叫びながら無我夢中で手を動かす。
すると
リオンの頭の中に声が聞こえた。
『リオン=マグナス…私のプレゼントは気に入って貰えたかな?』
静かに涙や血で顔を濡らした頭を上げてリオンは呟いた。
「ミク…トラン…?」
ダオスはそのリオンの言葉を聴き逃さなかった。
243 :
僕の肉6:2006/01/21(土) 15:27:27 ID:L9Uru/oY
「(独り言か…?ミクトラン…?奴はミクトランと通信でも取れるのか?)」
呆然とするリオンにミクトランはリオンの頭の中で続ける。
『私に逆らった罰だ。つまらん女にほだされるとは。
喜んで貰えて何よりだ。なかなか面白い見せ物だよ』
リオンの中にミクトランの笑い声が聞こえる中、マリアンの肉片などを握りしめ、がくがくと震える。
「なんで…なんで…貴様……」
しかしその言葉に力は無く、今にも消え入りそうだった。
『ははははは!!
そうだな、この件はもう赦してやっても良い。
そうだな。お前がこれからも従順に私の言うことを聞くのならば、その女を生き返らせてやらんでもない。
どうだ。私にしては寛大な提案だろう。
では嬉しい行動を期待している』
そこでミクトランの声は途絶えた。
「………」
リオンは無言でマリアンの頭の一部を抱きながら顔を伏せた。
固く口を結び、涙がその破片に落ちてゆく。
「ちょっと!なんなんだよお前!マリアンさんが…!」
ミトスは声を上げるとダオスは腕を出して制止した。
リオンはやがてゆっくりと立ち上がる。ダオス達を、少しも見ることなく。
マーテルもその姿に声を掛けることが出来なかった。
そして緩慢に、東に向けて歩き出す。
マリアンだったものを胸に抱きながら、まるで死人の様に。
「ま、待て!!」
しかしダオスは再びミトスを止めた。
「放っておけ」
「なんで!!」
「……今の彼を止めても何もならないだろう…」
ふらふらと、うつむいてただ歩いてゆく黒髪の少年。
前髪に隠れてその顔は見えなかったが―――
「…とりあえず、マリアンを弔ってやろう」
「そう…だね…」
ミトスも頷いた。
あまりにもむごいマリアンの姿をその眼に映して。
ダオスは東に消えてゆく少年を一瞥すると、首の無いマリアンの遺骸を抱く。
皮肉な程に眩しい朝日が木々を照らしていた。
244 :
僕の肉7:2006/01/21(土) 15:28:28 ID:L9Uru/oY
【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
状態:TP4分の3消費 混乱
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:敵は殺す
現在位置:B7の森林地帯
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード 邪剣ファフニール ????
状態:気絶 後頭部に打撲 擦り傷、足に軽裂傷、金的に打撃 TPを微消費 混乱
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:クラトスとの合流
現在位置:B7の森林地帯
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 アクアマント
状態:悲哀 混乱
第一行動方針:
第二行動方針:ダオス達と行動
第三行動方針:ユアン、クラトスとの合流
現在位置:B7の森林地帯
【リオン 生存確認】
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片
状態:全身に軽い火傷 全身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 酷い混乱
第一行動方針:マリアンを生き返らせる
現在位置:B7の森林地帯
【マリアン死亡】
【残り34人】
245 :
【業務連絡】:2006/01/21(土) 16:03:34 ID:L9Uru/oY
僕の肉のリオンの粋護陣がヤバいということで、修正版を避難所の投下用SS一時置き場に投下しました
問題の記述は2の一部だけなのでそれだけを修正しました。話の筋には問題ありません
お手数おかけします
「なあ、ジューダス?」
「どうした?」
ロイドがジューダスを呼びかける。
「重たいんだよな、代わってくれな「断る」…言い切る前に断わりやがったこいつ…」
さすがに自分より体が大きいヴェイグを運び続けるのは当然の如く肉体的にも精神的にも辛かった。
「ロイド頑張れな、メルディ応援してるよ」
メルディが隣で笑いながら歩き続ける。
「応援してるなら手伝ってくれよー…」
ロイドは頭を少し下げてだらだらと歩き始めた。
「なあ、お前達に聞きたいことがあるんだが?」
ジューダスが2人に呼びかけた。
「ん?」「どうしたな?」
2人の声が重なる。
「ここから脱出する方法は考えついているのか?」
ロイドは「あ」と無意識に出した。
忘れていた。例え仲間と合流しても脱出する方法が無ければ意味がないと、
だけど一体どうやって?
ロイドはヴェイグを背負いながらも少し考えたが
「さっぱりだわ」
と少し苦笑交じりで言った。
メルディもロイドと同時に考え始めたが結局は首を横に振ったのであった。
「ジューダスは何か浮かんだのか?」
メルディがジューダスに聞き返した。
「ざっと…2通りの方法があるな」
「ホントな!?」「ホントかよ!?」
また2人の声が重なる。
「どんな方法なの?」「どういう方法なんだ!?」
三度2人の声が重なる。
「…今は話せない。」
「なんでな!?」「どうしてさ!?」
四度重なる。
「あまりにも確立が低すぎる、2つともな。しかも1つ目なんて100%不可能だ。
それでも聞きたいか?」
ジューダスが冷たく放った言葉に2人は何も返せなかった。
「せめてもう少し確立が上がったら話してあげるさ」
ジューダスは再度前を向き2人に気づかれないように考え始めた。
一つ目の方法は道具を使って解除するという方法だけど
これはハロルドがいてもしかしたら出来るかもしれない程度だ。
実質不可能であることに違いない。
問題はもう一つの方法…
せめて、この首輪が何で出来てるかで確立は多少上がる。
それでも多分30%弱ぐらいか、下手をすれば確実に死ぬ。
だが…普通に考えて首輪を解除するような行為をミクトランが気づくだろうか?
ただ居場所を特定するだけでは気づかれるはずはないのだが…
つまり、この首輪は居場所特定の他にも効果があるという事だな。
予想であるが、多分盗聴、あるいは盗撮、下手をすれば両方だな。
盗撮をされてるとなると首輪解除は無理だな…となると別の方法を考えなければな
だが別の方法が存在するのだろうか?
…まだ浮かばないな
となるとやはり首輪を解除、だな
どっちかのはずなんだ、電気かマナあるいは魔力系のたぐい、
どっちかさえ判断できれば解除できる可能性が上がるのだが…
どうやって判断すればいいんだ…
落ち着け、何かあるはずだ。判断できる方法が必ず…
「うわっ!?ジュ、ジューダス!」
…今は脱出よりもこっちを考えないとな
ジューダスが振り返ると、そこにはロイド達と対峙しているヴェイグの姿があった。
【ジューダス:生存確認】
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:現状理解
第二行動方針:シースリ村に向かう
第三行動方針:協力してくれる仲間を探す
第四行動方針:ロイド、メルディと行動
【ロイド:生存確認】
状態:健康 多少の困惑
所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る
第一行動方針:状況把握
第二行動方針:シースリ村に向かう
第三行動方針:協力してくれる仲間を探す
第四行動方針:ジューダス、メルディと行動
【メルディ 生存確認】
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
状態:TP消費(小) 背中に刀傷(小)左腕に銃創(小)
ネレイドの干渉はほぼ皆無 多少の困惑
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:状況把握
第二行動方針:シースリ村に向かう
第三行動方針:ロイド、ジューダスとともに行動する
第四行動方針:仲間と合流する
【ヴェイグ 生存確認】
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル)
状態:右肩に裂傷
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:状況を把握する
現在位置:B6森林地帯
ジョニーはあの後、村中を駆けずり回り、棚や倉庫などありとあらゆる場所を漁って、解毒に使えそうなものを探した。
(パナシーアボトルやリキュールボトルがあればいいのだが…………)
彼は今、ファラを救う方法を探すのに精一杯だった。
だが、そんな努力の甲斐なく、結局解毒できるような薬どころか薬草の類すら見つからなかった。
恐らくミクトランの意図的な操作だろう。
ジョニーは気落ちしながらも、ファラのいる家へと戻る。
あの後、ファラはジョニーによって、ベッドに横にされていた。
毒を飲んだ当初よりも呼吸は安定しているが、依然として虫の息なのは変わらない。
家に戻り、ベッドの横に腰掛けるジョニーの表情は暗い。
自分がこういった時に無力なのが悔しかった。
かつて、スタンらと旅をした時も自分は周囲の仲間達と違い、剣術に長けていたわけでもないし、晶術が使えるわけでもなかった。
自分に出来る事は、歌を歌う事のみ。
歌によって、仲間の士気を高めたり、敵の攻撃のリズムを崩したり、時には歌声自体を武器にしたり……。
「歌、か…………」
ジョニーはふと思い出したかのように、リュートを弾く仕草をする。
せめて、歌が彼女を癒してくれないか? そんな想いを胸にジョニーは穏やかな声で歌い始めた。
答えが見つからないもどかしさで
いつからか空回りしていた
違う誰かの所に行く君を責められるはずもない
なんとなく気付いていた君の迷い……
「迷い、ねぇ……」
迷っているのは彼女ではない。自分だ。
相手がファラを殺そうとしていた奴だったとはいえ、自分は既にこのゲームで人を一人殺している。
名簿の写真で見れば、自分が殺したピンク髪の娘――アーチェというらしい――は、見るからに明るそうな娘だった。
そんな子を手にかけた自分は果たして正しかったのか?
自衛の為、と言えば話は早いだろうが、襲ってきた彼女もある種の自衛で自分達を襲ってきたのかもしれない。
そう考えると、この島には絶対の正義なんてものは存在しないのかもしれない。
誰もが生き残る為に殺している。それを悪だと言い切っていいのだろうか? そしてそれを殺してもいいのだろうか?
そんなことを思いながら、ファラの顔を覗く。
「…………今のジョニーさんの歌?」
すると、どういうことか突然、彼女は意識を取り戻し、口を開いた!
ジョニーは当然ながら驚く。
一時的に毒の効果が抑えられているのか、それとも歌が生気を与えたとでも言うのか?
何はともあれ、ジョニーは安堵した表情を浮かべた。
「ま、まさか…………大丈夫なのかい?」
「うん、イケるイケる…………って言いたいのは山々なんだけどね……」
ファラは弱弱しく微笑んだ。
横になったまま、彼女の手がジョニーに触れようと持ち上がるが、その手は小刻みに震えている。
しかも持ち上がった腕は、すぐに落ちてしまう。
神経性の毒が回ってきている証拠だ。
言葉がきちんと紡がれているのが不思議なくらいの状況だ。
ジョニーは安堵するのはまだ早い、と痛いくらいに認識する。
「無理は止めた方がいい。俺が解毒方法を探してくるから、それまで安静に――」
「待って! …………頼みたいことがあるの」
ファラの目は毒で弱っているとは思えないほどの強い意志を持っていた…………。
ファラが頼んだのは拡声器を持ってきてほしいということ。
ジョニーには彼女が何をしようとしているかが手に取るように分かる。
よって、大きく反対する。
「駄目だ。前にも言ったが、危険すぎる!」
「だ、だけど私達が出来るこ、けほっ! 出来る事っていったらやっぱり……げほっ、けほっ!」
咳き込む度にファラの口から鮮血がシーツへと飛散する。
それでも必死に起き上がろうとしては失敗する彼女の姿はとても痛々しい。
「それに何より、君の今の容態では…………。とにかく今は安静に……」
「だ、大丈夫だよ。少しくらいなら…………」
すると、彼女は目を閉じ、精神集中をはじめた。
体が弱っているにも関わらず、それが出来るのは武道を極めたファラだからこそかもしれない。
それを十分にすると目を見開き、両手を上へと持ち上げる。
「解毒功――!!」
彼女の言葉に連動して一瞬彼女の体は緑の光に覆われる。
そして、光が消えると同時に彼女は体をゆっくりを起こし始めた。
「ほら……イケるでしょ?」
そう言って微笑むそれは、確かに先程よりは色艶がいいかもしれない。
だが、それは相対的な問題だ。
普通に見たら、まだまだ危険な域を脱していない事は明白である。
それに加えて、起き上がったその体も、今にも倒れそうな程弱弱しく見える。
――ファラの解毒功は、毒の回りが早かったせいもあって、かなり効果が薄くなっていたのだ。
「やっぱり止めておいた方がいい。そんな体で声を張り上げようものなら……」
「駄目! 今……今じゃないと手遅れになるかもしれないから…………だからお願い!」
その顔には不安や恐怖の表情はなく、何かを決意したものの表情があった。
かつて自分もこんな表情をした頃があった――ジョニーはそんなことを思っていた。
あれは、最愛の人を殺したティベリウス大王への復讐を誓い、吟遊詩人になろうと決めた時か……。
家族や兄弟は、何度も家から出て行くのを引き止めた。
それに相手は剣豪ティベリウス。貴族出身の吟遊詩人ごときがかなう相手ではないことも分かっている。
だが、それでも決意は揺らがなかった。
つまりは決意とは、そんなものではないだろうか?
誰になんと言われようと、物理的に無理であろうと、本人が意を決した時、それは誰にも崩せない強さを持つもの。それが決意なのだろう。
今のファラからも、その決意への思いが感じられる。
ジョニーに彼女の決意を無理矢理壊す真似など出来るわけがなかった……。
「…………本当に仕方がないレディだよ、君は」
「じゃ、じゃあ……」
ファラが顔を明るくするが、ジョニーは釘を刺す。
「ただし! それが終わったら絶対に安静にしてもらう。いいね?」
「うん、分かった。ありがとうジョニー……」
ファラが今迄で一番輝かしい笑顔をジョニーに向けた。
「…………ここでいいのかい?」
「うん、ありがとう」
ファラとジョニーがいるのは、村で一番高い建物である鐘楼、その最上部。
ここならば、声が良く届くだろうというファラの提案だった。
ファラは最初こそ一人で歩ける、と手助け無しに歩いて見せたが、やはり限界が来たらしく、途中からはジョニーにおぶってもらい、ここまでたどり着いた。
その彼女は今、鐘楼の手すりに寄りかかり、拡声器を片手に目を閉じ、気を落ち着かせている。
ここまで連れて来ておいて言うのもおかしな話かもしれないが、ジョニーにはやはりファラの容態が心配だった。
こんなものを持って大声を張り上げたら、どうなるか? ジョニーにもそれは予想がつく。
「何なら俺が喋ってもいいんだよ」
しかし、ファラは首を横に振る。
「ううん、これは私がやろうって決めたことだから……。だから私に喋らせて……」
体の方は不安定だったが、声に限って言えば先程から咳き込みを全くしていないファラ。
声帯だけが元に戻ったかのような様子だった。
「それで……何を喋るつもりなんだい? 『自分に戦う意志が無い』ってことだけを伝える為だったら、それこそ俺が……」
「ん〜、私が元気だったらそれでも良かったんだけどね……。だけど、あれから色々考えて思ったことがあるから、それを伝えようかな〜って」
「色々?」
ジョニーが問うと、ファラはいつになく真剣な表情に変わった。
「うん、色々……。だけど、一番言いたいのは、皆で結束してもらいたいってことかな?」
「結束……か」
今までに十数名の命が奪われ、皆が疑心暗鬼になっているだろうこの現状でも、結束は成立するのか? それは現実的に考えて疑問だった。
それでも結束をして欲しいと考えているファラは、理想主義者なのかそれとも……。
「よし! じゃあ、そろそろ大演説を始めちゃおう!」
気合を入れて、寄りかかっていた手すりから離れ、立ち上がるファラ。
それをジョニーが支える。
「ありがと……」
「いやいや、レディを支えてあげるのもジェントルマンの仕事ですから」
「うん。それじゃあ……いくよ!」
ファラには分かっていた。自分がもう長くない事が。
即死しなかったのが不思議なくらいの猛毒だったはずだ。
解毒功をかけてみたものの、弱っている体でかけているし、精神集中も不十分だったから、不完全な解毒しか出来ていない。
何とか体が動かせ、声を日常のそれと変わらないくらいちゃんと出せる程度の解毒。しかも一時的な解毒。
毒が再び体を侵食すれば、精神的に疲労した自分にはもう解毒功すら放てなくなるだろう。
つまり、毒が自分を完全に食い尽くすのをただ待つだけ。
だからこそ、解毒状態が続いているうちに、やるべき事があった。
それが、拡声器の使用。
最早、身を守る事すらも満足に出来ない自分にとって、出来る事といえばこの島にいる皆に呼びかけをする事。
この呼びかけに皆が応じてくれれば、自分の願いは達成された事になる。
……いや、欲を言えばリッドやキール、メルディに会っておきたいという願いもある。
放送を聴いて駆けつけてくれる仲間達。それはまるで物語のようによく出来た筋書き。
だけど、現実がそんなに都合よくないことは知っている。
だから思うのだ。
――せめて、自分の声がリッド達に届きますように……――
「うん、イケる、イケる!」
彼女はそんな願いを胸に、拡声器のスイッチを入れ、息を大きく吸い込んだ…………。
『皆聞える!? 私はファラ、ファラ・エルステッド!――』
演説は始まった。
耳をつんざくような大音量。それに重ねて、拡声器の音割れがキンキンと響く。
しかし、そんな大音量の演説を、ジョニーは嫌な顔一つせずに、目を閉じて聞いていた。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの! 聞える? リッド、キール、メルディ!』
リッド、キール、メルディ……ファラとの会話中に彼女の口から何度も出てくる名前、彼女が最も信頼している仲間達。
そして、この演説を一番聴いて欲しいと思っている人達……。
『この島にいる皆は、このバトルロワイヤルについてどう思う!? 私は反対! どう考えたって、こんなのおかしいよ! 人の命をこんな風に使うなんて許せない!
確かに殺さなくちゃ殺されるのかもしれない。誰かが誰かを殺さないと全員死んじゃうのかもしれない! だけど、げほっ、それで本当に、げほっ、本当にいいの!? もう一度、げほっ、よく考えて!』
突如再発した吐血。
白かった拡声器が紅く染まり出す。
「おい、やっぱりもう止めないと……」
「大丈夫、大丈夫だから、お願い…………」
「だが、君の命がっ!」
「お願い! これが私の……最期の仕事になるかもしれ――あ」
拡声器のスイッチが入ったままであることにファラはそこで気付いた。
そして、彼女は拡声器を持ち直して、再び演説を続けた。
『…………私も誰か知らない女の子に殺されそうになった! だけど、げほっ! 私もその女の子を傷つけてしまった! こんなのって、ごほっ、あんまりだよ!
別の場所であっていたら、絶対友達になれたはずなのに、だよ! それなのにけほっ、このゲームは、そんな友達になれそうな子とも殺し合いをさせるの!
私は、私達にそんなことをさせるミクトランとかいう人を絶対に許さない! げほっ! 絶対に許さない!!』
ファラは血を吐きながらも、その目には固い意志がこめられていた。
『も、もし、私と同じ、ごほっ、同じ考えの人たちがいるのなら、絶対協力して!! 私はそんなに頭がよくないから分からないけど、げほっ、絶対にこんなゲームをやめさせる方法があるはずだから! 協力し合えば、けほ、きっとその方法だって見つけられるよ!!
殺し合いなんて絶対だめ!! げほっ! もう私みたいに苦しむ人が出て欲しくないよ!! ごほっ、だから……皆、協力し合って、お願い!!』
ファラの言う事は、実に単純明快なことだった。
だが、その単純さゆえに、ジョニーの心にもその意志は伝わる。
恐らく、この演説を聞いた人たちの中にも伝わった人はいるだろう。
『最後に……リッド、キール、それにメルディ!! 私、げほっ、リッド達をごほっ、信じてるんだからね!! げほっ、リッド達ならイケる、イケるよね!?』
ファラは、そう演説を締め、拡声器のスイッチを切った。
言いたい事を言い切ったファラは、急に体の力が抜けたように崩れた。
「はぁ……はぁ……。よかった、言い切れたよジョニー……」
「あぁ、良くやった。だから、早くベッドへ……」
ジョニーがファラを抱えると、彼女は弱弱しくジョニーの服の袖を引っ張った。
「歌……ジョニーの歌を聞かせて……」
「あぁ、ベッドに横にしたらいくらでも――」
「今、がいいな。だめかな?」
弱弱しく微笑むファラを見て、ジョニーが断れるわけが無かった。
「仕方がないレディだよ、君は……」
彼は苦笑しつつその場に座ると、彼女を膝枕したままで歌い始めた。
夢であるように 瞳を閉じてあの日を思う
風に抱かれて笑っていた二人
いつか描いてた未来(あした)へ もう一度歩きだそう
たとえすべてを失っても 何かが生まれると信じて
きっとふたりの出逢いも 遠い日の奇跡だったから
今のこの状況……いや、バトルロワイアル自体が夢であって欲しい。
だが、夢で無い事は百も承知だ。
しかし、こんな夢であってほしい状況下で自分にとって幸運だったのはファラと出逢ったことかもしれない。
本当に短い間だったが、彼女と一緒に会話をしたりして時を過ごしたおかげで、こんなバトルロワイアルというゲームを少しでも忘れる事が出来た。
それに加え、彼女の明るさが迷いを秘めていた自分の心のそれを少しずつ照らしてくれた。
まさにファラとの出逢いはこんな血なまぐさい島での“奇跡”だったのかもしれない……。
ジョニーが歌い終えると、ファラは拍手をしてくれた。
「ジョニー……やっぱり歌上手だね」
「一応、吟遊詩人だからね」
ジョニーは精一杯の笑みをファラに見せる。
するとファラも弱弱しいが笑みの表情を崩さずにいた。
「……あのさジョニー、またお願いなんだけど……」
「今度はなんだい?」
「リッド……リッド達とも出来れば会ってあげて……。そしてジョニーの仲間と一緒に協力し合って……」
彼女のリッドという少年達への信頼。
それは、十分に分かっていた。
「あぁ。分かっているさ」
「うん、ありがと………………」
急に言葉尻が小さくなったファラ。
続けてゆっくりと目を閉じ、体から力が抜けていった。
その様子を見て、まさかとジョニーは彼女の顔を見る。
「……ファラ?」
「……………………」
彼女は目を閉じたまま開こうとしない。
だが、その表情は穏やかなままだ。
首筋を触り、脈を確認する。そして、それを終えると……
「………………そうか」
ジョニーはただそう言って、彼女の髪を撫でる事しか出来なかった。
彼の頬から、水が滴り落ち、それが彼女の顔に当たる。
その水の流れはしばらく止まりそうに無かった…………。
【ジョニー・シデン 生存確認】
所持品:メンタルリング 稲刈り鎌 アイフリードの旗 BCロッド サバイバルナイフ 拡声器
※ファラの荷物(アーチェの荷物含む)をどうするかは次の人に任せます
状態:深い悲しみ 新たな決意
基本行動方針:ファラの遺志を継ぐ ゲームからの脱出
第二行動方針:仲間との合流
第三行動方針:リッド達との合流
現在位置:C3の村
【ファラ・エルステッド 死亡】
【残り34人】
残り参加者数は
【残り33人】
の間違いでした。
どうも申し訳ありませんでした。
(何だこれは、俺様はどうなってる?)
目の前にあるのは歪んだ唇、愉悦の瞳
(俺様はどうなる?)数寸先の刃、数秒先の絶対的な死。
元々彼は考えるのは得意ではない。しかし戦士としての嗅覚が全肯定する。
(俺様は死ぬのか…)血を大分失ったせいか彼は一瞬昔を思い出す、所謂走馬灯だ。
(そういや俺様も結構負けたことがあったか)思い出したのは他の五聖刃との模擬戦。
千年を軽くに生きるハーフエルフにとってこの手合いの暇潰しは珍しい話ではない。
人間牧場の管理の合間を縫って実力を確認したことがあった。
結果は五聖刃の内四位。しかし五位は戦闘能力が皆無に等しいロディル。
実質の最下位。彼は戦術にあまりに疎く、思考で戦うフォシテスやプロネーマたちに
分が悪すぎたのだ。彼の戦闘スタイルは後衛がいてこそ生きる物だった。
「茶番とはいえそれなりに傷ついちゃったよ」
一瞬の走馬灯が終わる。彼は目の前の優男を見据える。
成程、風の術といいきっちり戦闘を組み立てる戦い方といい
考え方は兎も角戦い方がフォシテスそっくりだ。勝てないのも仕方ない。(違う)
「殺す前に君の名を聞いておこう。あとで確認するのが楽になるからねぇ」
心底嬉しそうな目をしている。最初にパフォーマンスをした彼を知らないはずは無いのに。
よく知っている、刈る寸前の家畜を見る目。(違う)
「五聖刃・マグニス様だ。」
はき捨てるように言う。優男はさらに嬉しそうに
「ほう、肩書きなら僕も持ってるよ。」
と口を歪ませ、剣を微かに引く。剣を走らせる為に、殺す速さを得る為に。
「四聖のサレだ、さようなら、豚のマグニス。」
剣は彼を切った、彼は死ななかった。彼は皮膚を切られただけだった。
剣はそこで止まっている。明らかな異変に優男、サレは驚愕をもらしかけた。
「中々面白い手品じゃないか。でも見苦しいだけだよッ」
表面を取り繕い、剣を構え、放つ。神速の突き、「散沙雨!!」
剣は彼を突き、彼は死なず、彼の皮膚を切り、最後の突きは彼の手につかまった。
サレの目が見開く。剣を掴まれたことに、掴んだ男の眼光に。
「………だ、…が。」
深遠より這い寄るような声。ようやく分かった、何故今になってあんな走馬灯を見たのか。
これはあの時と同じではない。あいつはフォシテスではない、あいつはニンゲンだ。
あいつは劣悪種だ。家畜だ。エクスフィアの養分だ。ゴミだ。屑だ。
(俺様はハーフエルフの中では最強じゃねぇ)戦士の血が全肯定する。
(だが、劣悪種なんぞに負けるなんて許されねえ!!)ハーフエルフの血が全否定する。
そしてなにより彼、マグニスが己を豚と罵るこの劣悪種の存在を完全否定した。
「マグニス様だッ!!!この劣悪種があァ!!!」鬼によって剣は粉々に握りつぶされた。
鬼は今黒い闘気を纏っている。空間すら歪める絶対の領域。
彼らの世界では「OVER LIMITS」と呼ばれていた。
サレはそれを知らない。知らないが故考えてしまった、アレは何かと。
その一拍、たった一拍で鬼を家に、懐に入れてしまった。鬼はサレ肩を当て再度同じ技を繰り出す。
「獅子戦吼ォォォォ!!」
トン、と音がなった気がした。とても微か、本来なら音と一緒に霧散するはずのエネルギー
すら相手に叩き付けたその技は最早先ほどの比ではなかった。
風によって皮膚をなます切りにされたその体は(すでに興奮時の凝結作用で止血していたが)
血に濡れて、紛うこと無き赤鬼と化していた。接近戦ならば鬼は五聖刃最強だったのだ。
弾丸のように吹き飛ぶサレの体、城の壁に頭があわや激突、という所で姿勢を制御、
城壁に足から激突し受身を取る。そんなことさえ出来るサレには外傷は特に無い様に見える。
しかし無事というようには見えない。力を収束された獅子戦吼はサレの鳩尾を貫いていた。
これが意味するのは限定的な肺の機能不全、すなわち呼吸ができなくなるということ。
精悍な顔つきからは想像も付かないような苦悶の表情。まるで丘に打ち上げられた魚のよう。
これにて形勢は大局的に見て振り出しに。しかし数分前とは確実に違う。
サレをして「崩落させてくれと言わんばかり」と言わしめた城壁は、城は皮肉にもサレの
足によって静かに、しかし確実に滅びへの道を刻み始めた。三人の少年少女を残して。
【サレ 生存確認】
状態:あばら一本損傷 呼吸不全(一時的)
所持品:出刃包丁
第一行動方針:呼吸を整える
第一行動方針:マグニスの始末
第二行動方針:コレット、クレス、リアラを利用する
第三行動方針:ティトレイの始末
現在位置:E2の城の前
【マグニス 生存確認】
状態:首筋に痛み 風の導術による裂傷 バルバトスが興味深い
顔に切り傷(共に出血は停止。処置済み) 上半身に軽い火傷 オーバーリミット
所持品:オーガアクス ピヨチェック
第一行動方針:サレの抹殺
第二行動方針:バルバトスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する
第三行動方針:バルバトスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
現在位置:E2平原(城の前)
*城崩落まではまだ幾分余裕があります
261 :
血のオブジェ:2006/01/21(土) 21:00:52 ID:J9b3EtN2
海水に上着を浸し血を落とす。
元が青い布地だったことを微塵も感じさせないほど血で真っ赤に染まった上着は
洗えば洗うほど海水を赤く染め上げていく。
やがていくらか血を落としたところで水を絞り身に纏った。
乾いていない服を身に纏うのは気色悪い上に傷口に海水が染み気分が悪い事この上なかったが
代えの服が無いので贅沢は言っていられない。
これで少しは血の匂いも収まっただろうか。
いや・・・まだ足りない。
まだ生臭い血の匂いは体中に纏わりついて離れようとはしない。
大体上着を洗ったところで血は下地に浸透するほどに根深く染み付いているのだから。
これでは熟練した戦士なら血生臭いこの匂いに気付きかねない。
自分が不利になるあらゆる可能性は徹底的に排除されるべきなのだ。
そしてその為の努力を怠る事なく常に冷静にならなければならないのだ。
そうでなければ時間の経過と共に強者が残っていく中、己が生き残ることは出来ない。
そうならなければ、マリアンを生き返らせる事など出来ないのだから。
海水で血やら何やらがこびり付いた顔を洗い落とすと
そこからは冴えきったリオンの表情が現れた。
262 :
血のオブジェ:2006/01/21(土) 21:01:45 ID:J9b3EtN2
・・・出来る事なら着替えをしたい。贅沢だがもっと言うなら湯浴みを。
兎に角血を何とかしたい。
返り血を大量に浴びているというだけだが、それだけでも自分の生き残る可能性を
下げる要因になりかねないのだ。
なんとしても生き残らなければならない。
全てはマリアンを生き返らせるために!
リオンは海岸から上がると見張りに砂浜に突き立てておいたシャルティエとディムロスを抜く。
そして。
「・・・マリアン・・・ 君だけは絶対に・・・」
ボコリ。
支給された水を入れていた透明な水入れの中が赤く泡立つ。
それは弾けとんだマリアンの頭部を形作っていたもの。
血と 肉と 脳と 髪の付いた頭皮と 崩れかけた眼球がペットボトルに入れられ、
グロテスクなオブジェとして赤く煌いていた。
リオンは大事そうにそれを抱きしめていたが、名残惜しそうにザックの中へとしまいこんだ。
すると、
『皆聞える!? 私はファラ、ファラ・エルステッド!――』
「―――ッ!!」
波の音に紛れて聞こえてきたのは少女の声。
遠くから響いてきたらしいそれは、しかし話の内容を聞き取ることが出来る。
わんわんと響くその声はかなりの広範囲まで聞こえる事だろう。
現にこのファラとかいう少女はC3からこの放送を行っているらしい。
現在の位置はC7・・・ならば単純に考えれば半径4マスまでにいる人間には聞こえるわけだ。
「・・・馬鹿」
お人好しにも程がある。
これではゲームに乗った連中に殺されてしまうではないか。
それを承知での行動なのか?本当にどこの世界にもお人良しというのは存在するらしい。
そう、まるでスタンみたいな・・・
リオンはその演説を何処か遠い世界の言葉のように感じながら聴いていた。
実際そうだろうが・・・と思い当たると可笑しくて口角が釣り上がった。
そうだ。もう自分には遠い世界の言葉だ。
ファラの演説を聞いているうちにリオンは違和感を覚えた。
何か様子が変だ・・・まるで喉に何かを詰まらせているような、無理な発声。
これはまさか既に危険な状況に陥っているのではないか!?
だとするとあの声を聞いた誰かが襲撃したか・・・いや、そんな様子はなかったはず。
ならば最初から・・・少なくとも発声が困難な状況である中での行動ということか。
例えば重傷を負っている・・・とか。
「本当に・・・どこの世界にもお人好しはいるようだな・・・」
遠く離れた場所にいる少女の声は、話すたびに生命力を奪うかのように弱弱しくなっていく。
苦しそうに吐き出された声に混じって少女とは違う、別の男の声が聞こえた。
『おい、やっぱりもう止めないと……』
『大丈夫、大丈夫だから、お願い…………』
『だが、君の命がっ!』
やはりファラとかいう少女は何らかの傷を負っている。
しかもそれは死の瀬戸際まで追い込む程のもの・・・
『お願い! これが私の……最期の仕事になるかもしれ――あ』
リオンは持ち物を全部背負い込むと地図を広げた。
現在の位置はC7・・・先ほどいたB7はいずれ禁止区域になる。
今自分は疲労で戦いにおいてベストを尽くせそうにない。
ましてや回復晶術を使うことも出来ないのだ。
ならば休息・・・まとまった時間での睡眠が出来なければ体調に万全を期すことは出来ないだろう。
『…………私も誰か知らない女の子に殺されそうになった! だけど、げほっ! 私もその女の子を傷つけてしまった! こんなのって、ごほっ、あんまりだよ!』
幸いにも自分は一人での行動というわけではない。
シャルとディムロスがいる・・・見張りをしてもらえれば睡眠をとることは容易だ。
兎に角いざ戦闘になった時、疲労でその動きに支障が出ては困る。
そう、生き残るために考えられる不利な状況は全てクリアしなければならない。
『私は、私達にそんなことをさせるミクトランとかいう人を絶対に許さない! げほっ! 絶対に許さない!!』
ここから一番近い建物はC6の城・・・しかしさっきの連中に鉢合わせする可能性が高い。
マリアンを守っていてくれたのだ。出来ることなら殺したくは無い。
もちろん最後の最後で彼らが残ったのだとしたら容赦無く剣を取るのであろうが。
第一今の疲労しきった体で勝てるとは思っていない。無駄死にするだけだ!
そして自分が死ぬことはマリアンが生き返らないという事!
『殺し合いなんて絶対だめ!! げほっ! もう私みたいに苦しむ人が出て欲しくないよ!! ごほっ、だから……皆、協力し合って、お願い!!』
それだけは絶対に避けなければならない!
彼女はこんなところで死ぬべき人じゃない、
普通に暮らして大多数の人間が与えられる当たり前の幸福の中で生きていく人だ!
あのミクトランが本当に約束を守るのかなんて保証は無いが仕方が無い、
もうそれに縋るしかない・・・だってそれ以外にどうしろというのだ!
『最後に……リッド、キール、それにメルディ!! 私、げほっ、リッド達をごほっ、信じてるんだからね!! げほっ、リッド達ならイケる、イケるよね!?』
その言葉を最後に少女の声は途絶えた。
彼女がどうなったのか・・・それは次の放送で判る事だ。
今の演説で少なからず他の参加者達の動きはあることだろう。
止めようと村に向かうお人好しもいるだろうし、そこに獲物がいるとわかってやってくる者もいる。
特に仲間だった人間ならばきっと行く。
リオンは地図上の右下の建物・・・教会に目をつけた。
休息はもちろんだが物資の補給もしなければならない。
G5にも村があるがそこは危険地帯になる。
ならばそこを拠点としていた者が、次の拠点としてこの教会を選ぶ可能性もあったが
そういう人間は所謂、穏便派・・・戦いに乗りたくないが為の建物に篭るという自衛。
ゲームに乗っている人間と戦うよりは遥かに危険が少ない。
もちろん慎重に越したことは無いが・・・
行動方針を決めるとリオンは南に向かって歩き出した。
少女の最後の訴えは、「マリアンを生き返らせる」それだけが信念に変わってしまった少年の心に届くことは無かった。
歩きながらリオンは今の状況では唯一の、けして自分を裏切らない相棒に声をかけた。
「シャル・・・僕はマリアンを生き返らせる。絶対に
その為ならなんとしても生き延びる。そうしなきゃならない・・・
頼む、力を貸してくれ。
それからディムロス、だから・・・お前のマスターも最後には殺さなきゃいけなくなる。
それがお前の本心にそぐわないものだとしても、僕の本心にそぐわなくてもだ。
お前達は首輪を付けられてはいないが・・・参加者だ。しかも剣であるがゆえに、恐らく確実に生き残れる唯一の存在だ。
だから・・・辛いだろうが最後まで見届けてくれ。」
リオンはそう言うと少し悲しそうに笑った。
そしてそれが最後だった。
マリアンが殺されて間もないというのに恐ろしいほどに冷静なのが判る。
生き残るためのあらゆる戦略が頭の中を駆け巡り、16年と人としてはまだ短い時間の中だったがその中で培った
ありとあらゆる知識を総動員してそれが網目のように張り巡らされていくのが判る。
こんなに自分は機械人形のように、このような状況下で知識を捻り出す事が出来るのだろうかと不思議に思った。
もはやリオンの表情はピクリとも変化することなく、仮面のようにそれは無表情だった。
そんなリオンにシャルティエとディムロスは掛ける言葉を見失ってしまっていた。
それは、狂気だった。
【リオン 生存確認】
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:全身に軽い火傷 全身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 疲労 極めて冷静
第一行動方針:マリアンを生き返らせる
第二行動方針:G7の教会に向かう
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:C7の海岸地帯
マグニスとサレ。どちらも傷ついてはいたが、今の状態は傍目には、明らかに大勢は決していた。
醜悪な笑い顔のマグニスが、城壁を背にして立ち上がるサレを見下している。
加えて、マグニスの持つ戦斧に比べてサレのそれは明らかに弱弱しい出刃包丁。
恐らく両者の得物がぶつかり合えば、サレの首が包丁と共に吹き飛ぶだろう。
それほど、マグニスが優勢に見えた。心なしか彼の赤髪の男から、オーラが立ち上っているようにも見える。
俺様の渾身の獅子戦吼を、あの優男に完璧に当てた。
奴が再び立ち上がったのは予想外だったが、まあいい。
顔色はクソみてえな茄子の青色で、ロクに呼吸もままならない状態。
散々アイツの妙な風の術には煮え湯を飲まされたが、それもここまでだ。
あんな口じゃあ、術の詠唱も出来やしねえだろう。
後は俺様のこの斧で、アイツの脳天をカチ割るだけだ。
マグニスは、オーガアクスを握る両手に一層の力を込めた。
もはや、サレはそのマグニスの闘気だけで吹き飛びそうなほど、儚げな状態であった。
マグニスが、差を一気に詰めてきた。
そして、全ての力を込めるように、斧を振るう。
それを間一髪でかわすサレ。しかし、その足取りは普段よりもひどく重い。
続けざまに、マグニスは斧を振るう。
何度も、何度も斧を振るい続ける。
今が絶好の勝機。
完全に戦いのモードに切り替わり戦意が湧き上がるマグニスは、疲れ知らずに斧を振るい続けた。
「うおおおおおっっっッッッ!!!」
マグニスは唸り声を上げ、斧をサレにブチかます。
あまりの猛攻を避けきれず、サレは出刃包丁での受けを試みた。
ガッキィン! と金属の激しい衝突音と共に、包丁は砕けた。
サレもその衝撃をマトモに受けたのか、後方に吹き飛ぶ。
首ごと持っていかれることはサレの剣技によって防いだが、状況は更に悪くなった。
マグニスは、いよいよ鬼人のような恐ろしい笑みを殺しきれなくなった。
いよいよ、あのクソ憎らしい劣悪種の野郎をブッ殺せる。
そう思うと、マグニスの笑みは止まらなかった。
スカーフェイスが歪み、斧を持つ手に力が留まることなく流れ込む。
戦いの終結を予感して、マグニスの背筋に奇妙な高揚感が這い上がる。
それが、マグニスにとって何より……心地よかった。
斧が、炎を纏い始める。
彼の最も得意とする火属性の魔術。
その力を斧に集め、炎と共に斧をなぎ払うのが、マグニスの最も得意とする戦い方であった。
優良種たるハーフエルフのみ行える、斧技と魔術の複合特技。
それがマグニスの自信の源泉であり、また誇りであった。
そしてこの技でもって、風の魔術の紛い物を放つあの劣悪種を仕留める。
これでいい。これこそが優良種と劣悪種の関係に相応しい。
マグニスは迷い無く、炎を纏わせた戦斧を振りかざして突進した。
マグニスの斧は、サレの先ほどまで逃げていた速度よりも遥かに早かった。
呼吸の整わぬサレでは、あれほど鈍重なマグニスの攻撃でさえかわしきれない。
然るに、このマグニスの一撃は誰の眼を見てもサレの脳天を二つに割ると、そう思えた。
だが、サレはそれをかわした。
サレの左手が、ホンの小さな竜巻を起こしたかに見えた。
しかしそれは瞬時に膨れ上がり、結果サレは自分の風に乗ってマグニスの渾身の一撃をかわした。
何もない地面に、斧の炎が弾け飛ぶ。
サレは、一気に右手をかざした。
そして未だ声を紡げない唇が、動いた。
『シュタイフェ・ブリーゼ』
そう言ってるような動きの唇。しかし、声は出ない。
だが、サレの風の術は確かに発生した。
狂うように吹き荒れる風の宴。
それが、一瞬の無防備になったマグニスを包み込んだ。
「グおおおおおオオオッッッ!!!!!!」
風に包まれたマグニスは、おぞましいほどの絶叫を上げて風に呑み込まれた。
突然の風が通り過ぎたあと、マグニスは仰向けに倒れていた。
手に持っていたはずのオーガアクスも、あの奔流にさらわれたのか遥か彼方の地面に刺さっている。
「ううっ」と呻くマグニスは、突然に首筋を何かに押さえつけられた。
サレの靴である。
「――ああっ、うん、ゴホン。……よくもまあ、僕をここまで追い詰めたもんだ」
調子を確かめるように咳をして、サレはようやく通るようになった喉で、勝者の言葉を紡ぐ。
「苦しいかい? そうか、僕はもっともっと苦しかったんだよねえ、この……クソがぁッ!!!」
マグニスの喉を容赦なく踏みつけにするサレ。
「どうだい、どうだい!? キミに僕の苦しみが分かってもらえたかなあ!!!」
ますますマグニスの気道を圧迫するサレ。
「まだ気絶したり、死なないでくれよ。キミに味わってもらう苦しみはこの程度じゃないんだから!!」
サレもまた、狂気を孕んだ醜悪な笑い顔であった。
「――――――ふう。キミは僕についていくつか勘違いしていたみたいだね」
ひとしきり踏むことに飽きたのか、サレは落ち着いた口調に変わった。
「まずひとつ。僕はキミみたいな脳みそも筋肉の馬鹿とは違う。剣がなくても、キミぐらい問題ないのさ」
風の導術こそ、サレの本分であった。
前衛に立って戦うトーマとよく組んでいたのは、前衛と後衛のバランスもあってである。
それを、マグニスは剣を腰にさすサレの姿を見て、勝手に剣さえなければロクに戦えないと決めていた。
「そしてもうひとつ。キミは僕の術を警戒しなくなったけど、口さえ封じれば撃てないと思ったのかい?」
ギュッと、一瞬の緩みをついて抜け出そうとしたマグニスを再び踏みつけて、サレは言った。
「喋れなくても、僕は導術を使える。自分のフォルスを操るのに、聖獣やらの許可を問う必要はないからね」
他の世界の術士は詠唱をする。それは精霊や晶霊といった外側の力を借りて術を使うためだ。
だが、導術というのはそれとはそもそもの原理からして違う。
自分の体内のフォルスを練り上げて、術や能力として扱う。
溜めこそ必要であれ、言葉を口にする必要はまるでない。
但し、そのほうがイメージを形作りやすいなどの理由から、詠唱を行うこともあるのだが。
だが、サレほどのレベルの導術使い。
シュタイフェ・ブリーゼのように定型の術技と違うオリジナルの導術を生み出すほどのフォルス使いなら、
わざわざ言葉を使わなくても、術を行使することは容易い。
「わかったかい。じゃあ、おさらいだ。いまはこうやってお話しているけど、僕はこのまま術を使うことも出来る」
そういって、サレはマグニスの喉から足を離して、サッとバックステップをとった。
「こんなふうにね!!」
そのまま、さきほどから話している間に溜めていたフォルスを一気に導術に変える。
サレのフォルスの名。それは風でなく『嵐』
その名を拝領する謂れとなった、サレの最強の導術。
フィアフルストーム
それは先ほどから使っていた風とは、まるで違う。
まさに、嵐という言い方が最もよく似合う円柱状の嵐の牢獄。
それにマグニスは完全に閉じ込められ、五体を隈なく切り刻まれた。
「やれやれ、ちょっとフォルスを使いすぎたみたいだよ」
そう言って、サレは己の怒りに任せるままに力を使いすぎたことを省みた。
「これから、クラトスとかいう奴も始末しなきゃいけなくなるかもしれないのにね」
サレは笑った。共闘をしたはずの彼の無事を祈るようなつもりは、サレにはまるでなかった。
「ふう。どうせなら、相打ちにでもなってくれれば随分楽なんだけどねえ」
そのまま、適当にマグニスの荷物袋の中身から使えそうなものを見繕って、自分の袋に放る。
「あの筋肉の仲間との戦いの場所から、随分離れちゃったなあ」
マグニスが振るう斧をいなしているうちに、いつの間にか離れてしまっていた。
「ま、いいや。……ちょっと休んでから、見に行くとしよう」
助けるべきであるクラトスも、もとよりサレにとって邪魔者に過ぎない。
側の崩れた外壁の岩に腰掛け、休みはじめた彼は、参加者の中で誰よりもしたたかな男であった。
【サレ 生存確認】
状態:あばら一本損傷 TP(フォルス)中程度消費
所持品:なし(支給品ぶくろと荷物はあり)
第一行動方針:呼吸を整える
第二行動方針:クラトスを利用し、出来るなら始末する
第三行動方針:コレット、クレス、リアラを利用する
第四行動方針:ティトレイの始末
現在位置:E2の城の前
【マグニス 死亡】
【残り 32人】
マリアンさんを弔ってから、しばらく経った。
ボクの手も、服も、ダオスの手も、服も、濡れた土に汚れた。
土の上には、染み込んだり潰れすぎて集めきれなかった肉片が光を反射してぬらりと光っていた。
姉さまは目を見開いたまま、カタカタと震える。
まるでそうするしか出来ないように、そうするためだけに存在するように、ただ涙を地に降らす。
「…姉さま…、」
そっと近付くけれど、かける言葉が見付からない。
「ミトス…、ミトス…!
……どうして?どうしてこんな事…、あの人は何も悪くないわ!何も…」
姉さまは立ちすくむボクに抱きついて、泣き崩れた。
…皆がいる所から少し離れた、森の中のそれなりに拓けた場所。
そこに埋葬をした。
穴自体は、適当な簡易魔法ですぐに空いた。
横たわらせ、祈りを捧げ、埋めるのは、自分達の手で行った。
首のない彼女に、『安らかに』なんて言えなかった。
だからただ、祈った。
何をともなく。
そして、いなくなってしまった彼の目を思い出して、ぞっとした。
肉片を持って、虚ろに立ち去った彼。
最初は彼が彼女を殺したと思った。
でも、ダオスはそれを反論した。
『あれは首輪だ。』
だから、首から上が無くなったのだと。
慣れ始めたはずの首の違和感が急に強まり、緩く締め付ける不快感に吐気さえした。
そして、姉さまの首に絡む死の象徴に、不安を通り越して恐怖した。
それは多分、あの怪物と闘ったそれとは比にならない程の。
「姉さま…、泣かないで…?お願い…」
ボクまで泣きたくなってくるけれど、それを必死に堪えて微笑う。
泣いたら、姉さまはまた哀しくなる。
服に皺が寄るほど、その肩を握り。
腕が赤くなるほど、この腕は握られ。
「…ごめんなさいね、ミトスだって…ダオスさんだって…辛いのに…」
震える声で、姉さまが嗚咽混じりに呟く。
その時。
『―――――っ!』
甲高い音割れ。
このゲーム本来の放送では決してないだろう、何かの音…いや、声。
びくりとボクと姉さまの肩が跳ね、全員がその音源の方角を向く。
よく聞けば、それは言葉。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの! 聞える? リッド、キール、メルディ!』
知らない名。
でも、現在地を言ったら危険だと思った。
けれど姉さまの涙は驚きに止まり、少しだけこの放送に感謝。
『この島にいる皆は、このバトルロワイヤルについてどう思う!?
私は反対!
どう考えたって、こんなのおかしいよ!
人の命をこんな風に使うなんて許せない!』
あぁ、他にもいた。
ボクや、姉さまと同じ考えの人が。
こんなゲームを、おかしいと感じてくれる人が。
「………ぁ」
姉さまの手の力が緩くなる。
さっきより幾分和らいだ頬に、雫が伝う。
でもそれは、さっきとはまるで違うものだと、ボクは知っている。
『それで本当に、げほっ、本当にいいの!?
もう一度、げほっ、よく考えて!』
『おい、やっぱりもう止めないと……』
…様子がおかしい。
まさか。
『大丈夫、大丈夫だから、お願い…………』
『だが、君の命がっ!』
『お願い! これが私の……最期の仕事になるかもしれ――あ』
「……そんな…」
「なんという事だ…」
「………っ」
やっぱり、この人は…。
堪えていたのに、ボクの眼下は白っぽく滲みだして、耐えきれなくなって目を閉じた。
姉さまの肩が、再び小刻に震え出す。
『も、もし、私と同じ、ごほっ、同じ考えの人たちがいるのなら、絶対協力して!!
私はそんなに頭がよくないから分からないけど、げほっ、絶対にこんなゲームをやめさせる方法があるはずだから!
協力し合えば、けほ、きっとその方法だって見つけられるよ!! 』
「――っ!」
姉さまが、何かを振りきるように立ち上がった。
放送の続きは、もう聞かずともよい。
しばらく空を睨んで、そしてボクと、ダオスを見つめる。
その瞳は、まだ濡れてはいたものの、もう揺らいではいなかった。
「行きましょう。彼女の所へ。」
「しかし、これで危険も高まっただろう。
貴女を危険な目には…」
「皆で協力する以外に、ここから逃げ出せる方法は…いいえ、皆で元の世界に帰らなくちゃ。
もう誰も哀しい目に会って欲しくはないの。
それに、私たちも色々ありすぎて考えていられなかったわ。
いつまでもこのままじゃ、時間がなくなっちゃう。」
「……遠いぞ?敵に見付かる危険だって」
「お願いします、ダオスさん。
それに…もしかしたらあの人に対して、私たちに出来ることがあるかも知れないでしょう?」
ダオスが心配そうにやんわりと止めるのを、姉さまはきっぱりと切り捨てた。
こうなった姉さまは、意外と意思が強い事はボクも承知だから。
強く言いながらも懇願するように様子を窺う姉さまに、ダオスも何を言っても聞かないと理解したようだった。
皆で荷物をまとめて、すこしだけ土を盛っただけの墓標に三人で祈り、敵に見付からないように慎重に、けれど急いでそこから離れる。
最後にちらりと振り向いた簡素なそれを見て、ボクはふと。
また、あの目を思い出してしまった。
もし、姉さまがいなくなってしまったら、
ボクもああなってしまうのだろうか。
死人のような、空っぽの瞳。
もし、もしも……
繰り返される不穏な予感に強く首を振り、自分を誤魔化すように少しだけ先を歩む二人を小走りで追った。
そんな下らない事は、ボクらがいる限り起こさせない、と。
ひとり、強く双剣を胸に抱き。
【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
状態:TP4分の3消費
第一行動方針:マーテルを守る(ファラの所へ行く)
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:敵は殺す
現在位置:C3へ移動中
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード 邪剣ファフニール ????
状態:後頭部に打撲 擦り傷、足に軽裂傷、金的に打撃(かなり回復) TPを微消費
第一行動方針:マーテルを守る(ファラの所へ行く)
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:クラトスとの合流
現在位置:C3へ移動中
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 アクアマント
状態:少し悲哀 決意
第一行動方針:ファラの所へ行き、可能なら何とか助けたい
第二行動方針:ダオス達と行動
第三行動方針:ユアン、クラトスとの合流
現在位置:C3へ移動中
【マーテル 生存確認】
×→所持品:双眼鏡 アクアマント
○→所持品:双眼鏡 アクアマント ソーディアンアトワイト
訂正よろしくお願いします。
280 :
一触即発:2006/01/22(日) 01:29:03 ID:ihjZcGQx
「ぬ・・・うおおぉおぉ!!!」
叫び、体を大きく捻るバルバトス。彼の陰に刺さっていた一本の苦無が弾け飛んだ。
「ぐぅ、妙な奇術を使うガキが・・・覚悟は出来ているだろうな・・・」
バルバトスは、先程煙と共に現れた一人の少年を見下す。
「へぇ、僕の『影縫い』を気力で飛ばすなんて、ただ雑魚ではなさそうですね」
その少年、ジェイは素直な感想を述べ、バルバトスを見上げる。
その体格差はかなりのもの、偏に見ればそれは完全なる大人と子供であろう。
「その男は後回しだ。貴様から葬ってやろう」
その男とはジェイの後ろで体勢を崩しているクラトスだったが、完璧に標的が変わったようだ。
バルバトスはその銃剣をジェイに向ける。だがジェイは全く怯まない。
「どうした、逃げないのか?それとも足が動かんのか」
ジェイは皮肉にも反応せず、腰に携えた一本の苦無を取り出し、逆手に持って姿勢を低くする。
「あいにく今まで散々逃げ回ってしまいましたから・・・もう逃げるわけにはいかないんですよ」
それは、完璧な忍者の構え。
人を殺すための、完璧なる姿。
だが、ジェイは人を殺すためにその形を使うのではなく、守るために使うと決心した。
自分のしたことに・・・
「謝らなければいけない人がいましてね。それまでは死ねません」
だがバルバトスは笑う。自分の立場が判っていない小物に向けての、同情の笑い。
「残念だったな。貴様の望みは叶いそうにない」
言って、バルバトスはその銃剣を大きく振った。
「ここで死ぬのだからな!」
281 :
一触即発 2:2006/01/22(日) 01:30:05 ID:ihjZcGQx
ザァン!
大きな音が響く。だがそこに少年の姿が無い。素早く銃剣を整え
「甘いわ!!」
後ろに振る。高速移動を施し後ろに回るも、その気配を察したようだ。
斬激をジェイはしゃがんでやり過ごし、咄嗟に後方へと遠くに飛ぶ。
「僕の気配を辿られるとは・・・ますます只者ではないようですね」
バルバトスは銃剣を担ぎ、ゆっくりとジェイに近づく。
「これでも英雄殺しなのでな・・・殺しには長けている。気配を察すなどどうさもない」
「へぇ、そうですか。じゃあ長期戦は不利ですね」
体格の違いでスタミナの底も恐らく違うだろう。確かに長時間の戦闘はこちらにとっては喜ばしいものではない。
「そうだな。大人しく俺に殺されることだ」
「だから死ねないッて言ってるじゃないですか・・・貴方も相当バカですね」
皮肉でジェイははき捨てたが、バルバトスに挑発は通じない。幾度もの戦場を駆け抜けてきた男に、そんなものなど通用するハズも無かった。
「・・・お喋りは終わりだ。殺す」
「そうですね、さっさと終わらせましょう」
互いの間は5メートルほど、一つの風が吹く。
そこには確かな静寂。そしてすぐさま起こる戦闘への確かな兆候。
―――どこかで、大きな嵐が起こった。
ジェイは苦無を一本投げる。バルバトスは銃剣で容易く交わす。
刹那、眼前にジェイの姿があった。
「何!?」
通り過ぎ、そして突然の爆発。腹部にもろに喰らった。
「ぐあぁ!」
「『闇走焔』」
だが傷は浅い。バルバトスはすぐさま銃剣を振り下ろす。
ジェイは両手に苦無を逆手に構え、二つで受け止める。
凄まじい衝撃。何とか持ちこたえたが、周囲の地面がへこんでいる。
少し傾けて軌道をずらし、すぐさま懐に飛び込む。
体勢を逆さまにしてありったけの力を足に込め、敵に放った。
「ぬぅ!温いわ!!」
腹に強く当てたものの、やはり重量の相手にはあまり通じない。間を開けることなく苦無を投げる。
「『鈴鳴苦無』!!」
だがその攻撃も銃剣により弾かれる。
バルバトスの武器は正に一撃必殺。一度でもその攻撃を受ければ、絶命は確実に免れないだろう。
故にあちらの攻撃を受けるわけにはいかない。全ての攻撃を回避し、微弱でもこちらの攻撃を確実に当てていかなければならない。
こっちは小柄な分小回りが利く。全体魔法でもない限り、ジェイは回避に絶対の自信を持っていた。
282 :
一触即発 3:2006/01/22(日) 01:30:53 ID:ihjZcGQx
バルバトスが蹴りを繰り出す。バック転でそれを避け、苦無をバルバトスの足元に投げつける。
バルバトスは後ろに飛ぶが、まだそれは術の範囲内だった。
突き刺さった苦無は急激に冷気を纏い、その周辺を凍結させた。
「『氷樹』!」
「ぬぁ!?」
バルバトスの足が凍る。一瞬その動きを止める。
その一瞬でバルバトスの正面まで近づく。
が、その間にバルバトスは銃剣に闘気を纏わせ、ジェイに向ける。接近が仇となったか、銃口が目の前にあった。
「『ジェノサイドブレイバー』!!!」
大きな閃光と光線。完全にジェイへとクリーンヒットした。
―――かに見えた。
閃光が止んだとき、目の前には焦げた丸太のみが転がっていた。
「何だと!?」
紛れも無く変わり身、ジェイは遥か向こう側にその姿を現した。
「今のは間一髪でしたね・・・しかしこのままではマズイ」
次第にバルバトスの足元の氷が溶ける。ゆっくりとその歩を進めてくる。
「あの男との一対一は戦局的に・・・」
「危ない!!」
不意に、遠くから声が飛ぶ。その声は精神の消耗で参戦できないでいたクラトスのもの。
だがその言葉の意味がわかる前にその「突然」は迫ってきた。
傍の急速なマナの流れを察し、ジェイは咄嗟に横転する。
さっきまでいた場所に火の海が表れる。すんでのところで灼熱の炎を回避した。
「これはイラプション!?けど、あの男が詠唱した素振りは無かった・・・」
詠唱の類ではない何かか・・・そう思考を巡らせていたとき、「突然」はまた迫ってきた。
後ろ振り向く。が、もうすでに攻撃は始まっていた。
「『翔連脚』・・・」
バルバトスとは違う別の男に、足技による連打を喰らってしまった。
「うわぁ!!」
空中に飛ばされるがすぐさま身を返して着地。その男を見据える。
ジェイにはそれが誰だか判らなかったが、
「おやおや・・・状況はかなり不利ですね・・・」
それだけはかろうじて判った。
283 :
一触即発 3:2006/01/22(日) 01:31:30 ID:ihjZcGQx
F2平原から北上していたデミテルとティトレイはE2城を見つけ、そこにいる人影を見つけた。
状況を把握するには簡単だった。
一人の男は膝をついて疲れている。恐らくあれ以上の戦闘は無理だろう。
少年が青髪の大男と交戦している。傍から見れば少年のほうが優勢か。だが、
「私たちには関係の無いことだな」
言ってティトレイを先行させ、後ろから詠唱を開始。
イラプションは避けられたがティトレイの攻撃は当たったようだ。
「よしよし。とりあえずはあの少年か」
デミテルもその戦場へと足を進めた。
ジェイが後ろにバルバトス、前にティトレイの構図を背にしている。
「く・・・このままでは・・・」
そう安危していた時、遠方からその声は響いた。
『皆聞える!? 私はファラ、ファラ・エルステッド!――』
「「「「!?」」」」
その場にいる全員が、あのティトレイまでもがその声に反応する。
ファラの思いは、ここにも確実に影響を与えていた。
284 :
一触即発 5:2006/01/22(日) 01:32:49 ID:ihjZcGQx
【クラトス 生存確認】
状態:足元の火傷(小) 精神的疲労(戦闘困難)
所持品:マテリアルブレード(フランベルジュ使用)
第一行動方針:青髪の男への対処
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:コレットが気になる
第四行動方針:ロイドが気になる
現在位置:E2平原
【ジェイ 生存確認】
状態:頸部に切傷 全身にあざ
所持品:忍刀・雷電 ダーツセット クナイ(三枚)
第一行動方針:不利な戦局への対処
第二行動方針:ミントへの謝罪
第三行動方針:シャーリィと合流
現在位置:E2平原
【バルバトス 生存確認】
状態:TP中消費
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(弾丸残り2発。一射ごとに要再装填) クローナシンボル エクスフィア
第一行動方針:ジェイの抹殺
第二行動方針:マグニスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する。特に「英雄」の抹殺を最優先
第三行動方針:マグニスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
現在位置:E2平原
【デミテル 生存確認】
状態:TP2/3消費
所持品:フィートシンボル ストロー ミスティシンボル 金属バット
第一行動方針:少年の抹殺
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
第三行動方針:ダオスを倒せそうなキャラをダオスに仕向ける
現在位置:E2平原
【ティトレイ・クロウ 生存確認】
状態:感情喪失 全身の痛み、軽いやけど(回復小) TP中消費
所持品:メンタルバングル バトルブック
第一行動方針:かえりたい
第二行動方針:デミテルに従う
現在位置:E2平原
一触即発3が二つありますが、後の方は4です
すいません訂正させていただきます
286 :
罪と償い1:2006/01/22(日) 03:29:43 ID:iZz6nGfC
ヴェイグが目を覚ましたとき、彼は幻覚でも見ているのかと自分の眼を疑った。
見知らぬ少年が自分を背負い、その横を幼げな少女が歩いていたのだ。
しかも、目覚めたということは、自分が石化を解除されているということ。
いくらなんでもこのバトルロワイアルにおいて人を助けるやつがいるのだろうか?
あまりのことに彼は背負われていることから逃れようと思わず暴れてしまった。
当然ロイドはその勢いでズッこけてしまったわけで…。
ズッこけたロイドから離れてヴェイグはチンクエデアを構える。
しかし、僅かに頬が赤くなっている。
多少無様なところを見られてしまったが…、仕方が無い、か?などと思ってしまった。
しかし、ロイドは彼そんなことを思っているなど露知らず。
剣を構えたのを見てジューダスを呼んだわけだ。
駆け寄ろうとするジューダスを見て、ヴェイグは氷のフォルスを発動させる。
ジューダスはロイドと自分の間にいきなり現われた氷柱を後ろに跳んでかわす。
「貴様、一体何のつもりだ?」
ジューダスはヴェイグに届く程度の大きさの声で尋ねる。
「それはこちらのセリフだ。なぜお前たちは俺を助けた?
マーダーである可能性の高い者を助けることに意味はないはずだ…」
できる限り冷静に言おうとしたが、微妙に声が上ずる。
ヴェイグはしまったと思った。
…無論、それは声が上ずってしまったことではない(はずだ)。
こんなことを言っては自分がマーダーとして動いていたことを相手に伝えてしまうようなものだ。
もっとも、石化している最中にもう殺さないと心に決め、そして自分が殺してしまった者への償いは
到底足りないではないであろうが、自分が石化してそのまま死を迎えることとするつもりであったのだが。
「何でって言われてもなぁ。助けたかったから助けたんだし」
「はいな。助けられる人、メルディ助けたかったよ」
ヴェイグの問いにロイドとメルディが答えた。
ヴェイグはこの返答に呆気をとられてしまった。
いくらなんでも、こいつらはお人よし過ぎるぞ…。
「お前たち、バカか?」
素直な感想が口からこぼれてしまった。
「バカとは何だ、バカとは!全く、人にバカバカ言うもんじゃねえよ」
「バカであることには間違い無いだろう。
ただし、そいつらはバカと認識してもらって構わないが、僕は違うからな」
「それはひどいよ。メルディたちバカ違うよー」
しばらく目の前で行われていた口論に呆気に取られていた。
見知らぬ男がいる目の前で、おまけにバトルロワイアルの最中に平然と背を向けている二人。
そして氷柱によって攻撃したはずの男でさえ完全に警戒を解いている…。
思わず目を回してしまいそうだ…。
ヴェイグは頭を抱えたくなった。
「くっくっくっくっくっく…」
「?」
「?」
そのときだった。バルバトスの口元から、不気味な嗤い声が聞こえ始めたのは。
「…これは面白いことになった…」
バルバトスはきっ、と目を上げ、凄まじい殺気を放射した。物理的な圧力さえ感じるほどの、底冷えのするような殺気。
その殺気の凄まじさに、覚悟を決めたはずのジェイでさえ、思わず刀を引いてしまう。
ずしん。この城に響き渡るような足音を立て、バルバトスはゆらり、と直立不動の姿勢をとる。
「こうなれば、このバルバトス・ゲーティア! 目に物を見せてくれるわ!!」
ファラの決死の演説でさえ、軽々とさえぎるほどの雄たけび。榴弾砲を掲げるバルバトスの背には、仁王立ちの鬼が立っていた。
幻覚さえ起こるほどの、殺意の洪水。近くにいたクラトスやジェイ達はもちろんのこと、遠巻きに眺めていたサレやデミテルらでさえ、その鬼の金縛りを受けたように、動けない。
「…そう言えば、この城はもう、随分とガタが来ているようだなァ?」
もはや狂気という言葉ですら生ぬるい、バルバトスの眼光。彼はすかさず、手にした榴弾砲を天に掲げ、宣誓するような厳粛さでもって、言葉を叩きつける。
「ここでこんなことをしようものなら、なかなかに面白いことになろうなぁ!!? ああ!? こうまでここに、役者が揃おうものならなァ!!?」
榴弾砲の砲口に、悪しきオーラが輝いていた。クラトスは、ジェイは、サレは、顔面を蒼白にしてバルバトスの意図を汲み取る。
「まさか貴様…!?」
(…何だって!?)
(あの男…!?)
「くそ! 間に合え!!」
ジェイは抜き打ちで、懐のクナイを投げつけた。爪術の力を込めたこのクナイが刺されば、さしものバルバトスでさえ…
だが、抜き打ちで投げられたクナイは、バルバトスの握る榴弾砲の砲身に、あえなく弾かれる。あともう一呼吸、狙いをつけていられれば…!
「くくくく…ふあぁっはっはっはっはっはっはあぁ!!!」
288 :
罪と償い2:2006/01/22(日) 03:30:37 ID:iZz6nGfC
口論がある程度のところで終息を迎えたようなので、ヴェイグは改めて尋ねることにした。
…いつの間にか来るな、と制していた少年もこちら側に来ていることが気になったが。
「お前たち、なぜ目の前に見知らぬ男が立っているにもかかわらずにそんなに無防備にしていられるんだ?」
すると目の前の不思議仮面(少なくとも彼はそう思った)の少年が口を開いた。
「答える前に、お前の名前を聞かせてもらおう。話はそれからだ」
それを聞いて隣にいた不思議な服装のツンツン少年(しつこいようだが、少なくとも彼はそう思った)が注意をする。
「ジューダス、名前を聞くときは自分からだろ?俺はロイド、ロイド=アーヴィングって言うんだ」
「メルディはメルディ言うよー。よろしくな」
すぐさま目の前の少女も名乗る。しばらくして仮面少年が呟いた。
「僕はジューダスと名乗っている」
ジューダスと名乗った少年は、やれやれっと言った感じだった。
どうやら、ロイドと名乗る少年は偉く律儀なのだろう。
その律儀さに彼は振り回されているのだろうな…。
そんなことを考えながらヴェイグは名乗った。
そして改めて、先ほどの問いをするとジューダスが答えた。
「それはお前がマーダーではないと判断できたからだ」
当たり前すぎる返答だが、ヴェイグの聞きたいこととは少しずれていた。
彼は改めて、今度はもう少し言葉を選んで尋ねる。
「改めて訊こう。お前は俺のことを警戒していたはずだが、なぜ俺がマーダーでないと判断したんだ?」
「理由はいくつかある。一つ目はお前がすぐさまロイドを殺さなかったこと。
二つ目にお前が僕たちになぜ助けたのかと尋ねてきたこと。
それから三つ目にこいつらの返答にバカかと答えたこと」
「ちょっと待て、それってどういう意味だよ!」
ジューダスに対してロイドが間髪いれずに反論する。
そんな彼をジューダスは制した。
「まあ、少し黙っていろ。とりあえず、そういうことだ。少しは納得してもらえたか?」
最後にかなりキワドイ理由があった気がするのだが、それはこの際放置しておこう。
彼は彼なりに考えているのだろうから。
「そうか…」
「それより、お前からも話を聞きたい。今まであったことを教えてくれ。
少しでも多くの情報が欲しい」
それからヴェイグは今まであったことを話そうとした。
バルバトスの凶行を止められる者は、誰もいなかった。ジェノサイドブレイバーの悪しきオーラをまとった砲弾が、城の天井向け放たれた。
城の吹き抜けの中ほどで、砲弾は四分五裂し、まるで流星のように城の天井に降り注ぐ。
榴弾砲の砲口付近に空けられた穴…威力を適度に絞ったマグニスのフレイムランスで溶融して作った穴。それにはまったエクスフィア。
それがこの、流星のように拡散するジェノサイドブレイバーの発射を、可能としていたのだ。
悪しき輝きを帯びた流星は、城の壁を、テラスを、手すりを、シャンデリアを全て破壊しながら天へと駆け上っていった。
悪しき流星の穿った穴からは亀裂が延び、他の亀裂と繋がり、次々と崩落してゆく。もうここは、何者の手を借りずとも、崩壊する運命に定められたのだ。
その場に残る三者は、この城の運命をすかさずに悟った。瓦礫が天井から、無数に降ってくる。遅滞あらば、すかさず黄泉の国への顎に呑み込まれる。
「く…地下にいる神子達を、避難させねば!」
「成り行きですしね…僕も手伝います!」
クラトスは、ジェイは、あえてそこで城の内部へ潜る道をたどった。コレットらの控える部屋は、崩壊の起点からは若干離れた位置にある。
あと数分なら、崩落の津波に呑まれずに、地下室は持ちこたえてくれるはず。その数分で、残る三名を救出、そして合流する。
手短な作戦会議を、最低限の言葉で行いながら、二人は粉塵の中へと消えてゆく。疲労困憊のクラトスは、自らの体に鞭打って走り出す。
ティトレイは、今何が起きているのかもわからずに、ただ呆けていた。
そして残る2人、デミテルとサレは迷うことなく、城の出口へ向かっていた。
比較的城の出口から近かったデミテルらは、簡単にこの城を抜け出すことに成功した。そしてサレ。サレもまた、物思いながらも、その足は出口に向かっていた。
どうせあんなお人好しの馬鹿どもは、この崩落に巻き込まれて死ぬだろう。よしんば生きていたとしても虫の息。
地面からはいずり出たところを導術でまとめて切り刻んでやるのもいい。ありがたいことに、最も目障りなあの男…クラトスはかなり息が上がっている。
先ほど自分が葬ってやったあの筋肉馬鹿の片割れも、土壇場で無茶苦茶をやってくれたものだ。まあ、結果オーライってやつかな。
サレはひとまず、機嫌を戻していた。忌々しい筋肉馬鹿も1人、葬れたことだし…。
サレは念のため、風の導術で結界を形成する。
たかが風とは言え、四星に名を連ねる「嵐」のサレの力ならば、ちょっとやそっとの瓦礫なら防いでくれる。保険のつもりで、サレは結界を張ったつもりだった。
だがその「保険」には高い代償がつくなどと、このときのサレは思いもよらなかった。
崩れる城の吹く粉塵のベールの向こうから、その声を聞くまでは。
「術なんぞに頼ってんじゃねえ!!」
サレは自身の進行方向に発生した、暗黒の球体を前に、とっさにバックステップを踏んだ。
魔空間が周囲に降り注ぐ瓦礫を吸い込み、暗黒のエネルギーでそれらを粉々に砕く。
あと一歩サレが踏み込んでいたなら、サレも瓦礫と同じ運命をたどっていたはず。サレは驚愕と同時に、怒りを再び感じ始めていた。
「くそっ! いい加減にしつこ…!!」
サレが振り向きざまに、それは起こった。
サレの目前の左側の床がえぐれ、大爆発を起こした。
高速で飛来する床の破片が、サレの全身を抉る。特にひどかったのは、左足と…そして…
「うわあああぁぁっ!!」
サレの左目が、激痛と共に赤一色に染まる。床の破片の1つはサレの左目に飛び込み、眼球を破裂させていたのだ。
左目を押さえるサレの右手の指の隙間から、赤い血と共に透明などろりとして液体がはみ出る。眼球内の液が、滴り落ちている。
破片が眼窩の中で止まってくれたのが、不幸中の幸いだった。もし破片が眼窩をも貫通していたら、サレの脳は破壊され、即座に死の闇に沈んでいただろう。
だが、これでもサレの身に降りかかる災難は終わらなかった。
更にサレは、次の瞬間床に倒れ込んでいた。
残る右目で視界の下方を見やると、どうやら自分の首っ玉が、太い腕に抱え込まれているらしいことに、サレは気付いた。
「な…何だって…!?」
「貴様は…俺と共に……ここで死ぬ」
サレの頭上から、あの青髪の男の声が降って来た。刹那、サレは自らの身に起きたことを、全て理解していた。理解してしまった。
眼球が破裂する激痛に悶絶している隙に、バルバトスはサレの背後を取っていた。
バルバトスは即座に首からサレを押さえ込み、サレもろとも地面に倒れ込んでいたのだ。
「貴様の操る妙な術…一度見れば反撃(カウンター)を仕掛けるタイミング、簡単に把握出来たからな」
そう。それこそが、バルバトスがサレの導術に即座に切り返す鍵だったのだ。
もともとバルバトスのいた世界にあった術は、「晶術」と呼ばれる術であった。ゆえに、本来ならば魔術や導術に反撃を放つことは出来ない。
だがしかし。この島での戦いは、バルバトスに新たな知識をもたらしてくれていた。
本来ならば反撃を撃つことの出来ない、ジーニアスの魔術を始めて見た際にも、バルバトスは即座に反撃を放てていた。
その原因は、マグニスにある。バルバトスの榴弾砲にグラディウスを溶接する際の作業で、マグニスはバルバトスの目の前で、魔術「イラプション」を放っていた。
そのときの知識が、バルバトスに反撃のタイミングを教え込んでいたのだ。
今回も先ほど、サレが導術を行使するところを目撃できた。バルバトスは一度きりで、導術に切り返すタイミングを見極めていたのだ。
「貴様は仮にも、この俺が相棒と認めた男を殺した奴だ。油断して、礼を失するわけにも行くまい。
榴弾砲の最後の一発も、貴様にくれてやったしなあ?」
「ええい! くそ! 離せ!!」
サレはバルバトスの腕の中、暴れ回る。だがしかし、バルバトスの膂力はサレのそれを数段も上回っている。
がっちりとサレの首を押さえ込むバルバトスの腕は、外れる様子を微塵も見せなかった。
「邪魔だ! この野ろ…ぶべっ!!」
サレの暴れ方に憤激したかのように、バルバトスはもう片方の手で、サレの顔面を殴りつけていた。
「男に後退の二文字はねえっ!!!」
サレの口元から、歯が数本混じった血反吐が吐き出される。更にもう一撃。
バルバトスの太い親指が、ずぷ、という音と共に、サレの残る右目に突き込まれた。
「あああああっ! 痛いっ! 痛いぃぃぃぃっ!! 暗い! 助けてくれえぇぇぇぇっ!!」
ごりゅっ。バルバトスのもう片方の手は、今や眼窩から引きちぎられたサレの目玉を握っている。
目玉からは赤い糸が何本かぶら下がり、血の雫がこぼれている。バルバトスは、表情1つ変えないまま、その目玉をぷぎゅっ、と握りつぶした。
(マグニス…)
ただ幽霊に怯える子供のように、じたばたと暴れ狂うサレ。
もはやフォルスを操れないほどに精神が混乱を来たしあがく中、バルバトスはその傍らの、すでに物言わなくなったマグニスの亡骸を見つめていた。
この男と自分が出会ったのは、たったの1日前、ほぼちょうどだった。
自分と同じで、周囲に認めてもらえない怒りでもって動いていた男。ケダモノのように暴れ狂うしか、自らを表現する術を持たなかった男。
そのマグニスの亡骸を見るバルバトスの目元が、突然に熱くなった。
にわかに起きたことなので、バルバトスは自身でも何が起きたのか、一瞬分からなかった。
けれどもそれは…今まで生きてきた人生のどこかで無くしてしまった…置いて来てしまったはずの感情。
「哀しみ」。
哀しみという感情を思い出したバルバトスは、刹那、表情を変えずして、目元からその雫を流した。
涙。泪。なみだ。ナミダ…人が哀しみを覚えたときに流す、熱い雫。
マグニスを失ってしまったことが、哀しかった。ひょっとすれば、今までに唯一だったかも知れない、自分に出来た「友人」。
その友人を失ったことが哀しくて、自分は今、ナミダを流しているのだ。
考えてみれば、このバトル・ロワイアルに生き残るためならば、こんなことをわざわざする必要はない。
ジェノサイドブレイバーを放った時点で、どさくさに紛れて即座に逃走していればよかったはずなのだ。
この崩れゆく城の中で、まず事を構えようとする奴はいない。深追いはされないはずだったから、逃げてよかったのだ。
それでも自分は、この男を捕まえ、この崩落する城の中で、この男を道連れに死のうとしている。
何故か? どうしてか?
答えは分かりきったこと。この男が憎い。マグニスを殺したこの男が憎い。友を殺した、この男が!!
マグニスが命を散らすその光景は、あの白皙の小僧と戦いながらも、視界の端に確認していた。
戦士としての精神の自律を解かれた今、バルバトスの心には、サレへの憎悪、友人(マグニス)を失った哀しみが、とめどなく流れ出てくる。
マグニスも所詮は、利用する相手とだけしか考えていなかった。けれども、この島で過ごしたたった一日。その一日が、自分をこうまで変えてしまったのだ。
喜ぶべきか、悲しむべきか。バルバトスは、今更のように「友情」という感情を思い出していた。否。「友情」という感情が、胸の内に生まれていた。
唯一確たる事実は、「友情」という気持ちが、バルバトスに更なる力をもたらしたこと。力が、バルバトスの体内に燃え上がっている。
ふと、バルバトスは自分のいる位置の天井を見やった。
この位置の天井が崩れ去るのは、まだ時間がかかりそうだ。
ならば。
バルバトスは敢然と立ち上がり、燃え上がる力を両の手に込める。もがくサレは片足で踏みつけ、逃げられないように地面に縫い止める。
燃えているのはマグニスを殺されたがゆえの憎しみだけではない。自身の命もまた、燃えているのだ。
(ふん…英雄など、もはやどうでも良くなったな。
マグニス、お前に教えてもらったあの技…俺の命と引き換えに繰り出して見せよう。こいつに奪われたお前の命、盛大に葬ってくれる)
そう。バルバトスは、マグニスに教わったあの技を…「ユニゾン・アタック」を繰り出そうと構えたのだ。
あの技を使うには、マグニスの「フレイムランス」が必要だった。だが、別の晶術で代用できなくもあるまい。
右手には闇を、左手には炎を、宿らせる。命を燃やし宿らせたきらめきは、普段のバルバトスの術と比較しても大差ない威力…むしろ、普段のそれをも、超越している。
最初に繰り出したのは、右手の闇。
「殺戮のイービルスフィア!!」
バルバトスの頭上に、魔空間が発生した。
続けて繰り出すは、左手の炎。
「灼熱のバーンストライク!!」
バルバトスの左手より放たれた炎の流星。炎の流星は、けれども普段とは異なり、一点に収束せんと迫る。
その収束点はすなわち、「イービルスフィア」の魔空間内!
魔空間の中で収束し、1つの巨大な火球を形成する炎の流星。その形状は、マグニスの「フレイムランス」に酷似していた。
魔空間を脱した炎の槍。その炎は魔空間の洗礼を受け、赤ではなく黒に染まった、邪悪な炎と化していた。
「これが全てを貫く…轟爆の魔槍だッ!!!」
煉獄の業火をまとった槍は、天井向け真っ直ぐに飛来する。
「焼き尽くせッ!! インフェルノッ!!! ドラァァァァァァァァイブ!!!!」
業火の槍は天井を貫き、更に周囲を瘴気で冒し、崩し去る。巨大な岩盤が、バルバトスとサレ目掛け、降り注ぐ。
バルバトスは何が起きたのかもよく理解していないサレを見下ろしながら、自らに死をもたらす岩盤を眺める。
これでよかったのか。これで正しかったのか。今となっては、誰も判断を下せない。
だが、バルバトスは誇りにさえ感じていた。
英雄に返り咲くことのみに執着し、周りを見ることのなかった自分が、初めて…そして最後に自分以外を眺める機会を得ていたことに。
その結果として、「友情」という気持ちを理解できていたことに。
もちろん、「友情」なんて事を堂々と語るような、破廉恥な真似はしない。
けれども、今なら何故人々が、友情や愛情を求めるのか、バルバトスには理解できた気がした。
この温もり…本当は自分は、温もりに飢えて暴れ狂っていたのかもしれない。
なんだかんだと言いながら、マグニスと喧嘩して、そのまま殺し合いにもつれ込むようなことは、一度もなかった。
それはマグニスがバルバトスに、バルバトスがマグニスに、暴力以上に心地よい、温もりを与え合っていたからかもしれない。
(マグニス…俺も今、お前のところへ逝くぞ。盛大な手土産を持ってな)
バルバトスは、サレを逃がしていないことを確認しながら、頭上を眺めた。
もはや岩盤は、バルバトスの視界全体を、すっぽり覆っていた。もはや虫の息のファラの演説も、遠くで静かに聞こえていた。
【クラトス 生存確認】
状態:足元の火傷(小) 精神的疲労(戦闘困難)
所持品:マテリアルブレード(フランベルジュ使用)
第一行動方針:城の崩落への対処
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:コレットが気になる
第四行動方針:ロイドが気になる
現在位置:E2平原
【ジェイ 生存確認】
状態:頸部に切傷 全身にあざ
所持品:忍刀・雷電 ダーツセット クナイ(三枚)
第一行動方針:クラトスに従う
第二行動方針:ミントへの謝罪
第三行動方針:シャーリィと合流
現在位置:E2平原
【デミテル 生存確認】
状態:TP2/3消費
所持品:フィートシンボル ストロー ミスティシンボル 金属バット
第一行動方針:城からの避難
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
第三行動方針:ダオスを倒せそうなキャラをダオスに仕向ける
現在位置:E2平原
【ティトレイ・クロウ 生存確認】
状態:感情喪失 全身の痛み、軽いやけど(回復小) TP中消費 城の中で呆けている
所持品:メンタルバングル バトルブック
第一行動方針:かえりたい
第二行動方針:デミテルに従う
現在位置:E2平原
【バルバトス・ゲーティア 死亡】
【「嵐」のサレ 死亡】
【残り 30名】
追記 罪と償いの作者さん、カブってしまってすいません
295 :
罪と償い3:2006/01/22(日) 03:47:39 ID:iZz6nGfC
しかし、彼は詰まってしまった。
やはりもともとはマーダーで、人を一人殺した、などといえるものではない。
「どうかしたか?」
先ほどメルディと名乗っていた少女が心配そうに声をかけてくる。
ヴェイグがかなり考えて黙り込んでいるのを見て、ジューダスが言った。
「やはり、な。
お前は今でこそマーダーではないが、マーダーとして行動していたのだろう?」
いきなり、核心を突くジューダスの言葉に驚きを隠せない様子のヴェイグ。
なんとか誤魔化そうとも思ったが、こんな反応をしてしまったのに隠そうとすればかえって疑われることになる。
仕方なく、彼はその事実を告げた。
彼がしてきたこと全てを話し終えたとき、ロイドとメルディは悲痛な面持ちをしていた。
「いつ俺がマーダーだったということに気付いた?」
「どうして、と訊かないあたり、お前にも思い当たる節があるのだろう」
「そうか、それならやはり…」
「ああ。お前がさっき言っていた言葉だ。自分のことをマーダーの可能性が高いなどといっているということは、
少し前までマーダーだったということに負い目を感じているということだ。違うか?」
あまりにも的を射ている彼の言葉に返す言葉も無いヴェイグ。
しばらく沈黙が流れる。
沈黙を破ったのはメルディだった。
「これからヴェイグはどうするか…?」
あまりにも場違いな言葉といえばそうなのだろう。
だが、それは非常に重要なことに感じる。
石化が解除されるなんて想像もしていなかったために、これからどうするかなんて微塵も考えていなかった。
俺は、一体どうすればいいのだろう…。
どうすればルーティという女性に償えるのだろうか…。
どうすれば良い?クレア…。
だが、心の中でいくら問うても帰ってくる答えなどあるはずが無い。
再び沈黙が場を支配した。
空しく時間が過ぎていく。
296 :
罪と償い4:2006/01/22(日) 03:48:22 ID:iZz6nGfC
思考を続けているヴェイグに、ロイドが言った。
「あのさ、俺思うんだけど…。
やってしまったことはどうしようもないけど、これからのことならなんとかなるんじゃないか?
だから、お前も償いをするために死ぬ、とか考えるんじゃなくて、
これ以上の犠牲者を出さないようにがんばれば良いんじゃないのかな?」
ヴェイグははっとした。
だが、本当にそれでいいのだろうか?
それで彼女が生き返ると言うわけでもないが…。
「僕は…」
不意にジューダスが口を開く。
「僕もロイドの意見に同意だ。お前が罪を背負ったままただ死んでも何も残りはしないが、
お前が生きて他の者を助けることでできる何かはあるはずだ」
最後に小さく彼が何かを呟いたが、それはなんだったのか分からなかった。
だが、妙に彼の言葉には納得させられた。
ロイドと同じことを言っているはずなのだが、その重さが明らかに重く感じられる…。
俺は…。
「俺は、ロイドとジューダスの意見に従おうと思う」
その言葉にロイド、メルディは喜び、ジューダスは静かにうなずいていた。
だが、その彼の表情は冴えない。
「それなら、一緒についてくるがいいよ!メルディ、ヴェイグと一緒がいいよー!」
「それ、名案だぜ!な、良いだろジューダス!」
ロイドが快く返事をし、メルディが続く。
だが、ジューダスだけは違った。
「無理だな」
「…やはり、そうか。もともとマーダーである俺を受け入れるなどできるはずが無い」
ヴェイグはどこかあきらめた様子で、立ち上がろうとした。
「何でだよ、ジューダス!?」
「ひどいよ!?メルディ、ヴェイグと一緒が良い!」
そんな二人に対して、ジューダスは静かに答えた。
「お前たちがそういうことは既に予想済みだ。
それから、ヴェイグ。人の話は最後まで聞いておくものだぞ?」
その言葉にヴェイグは立ち上がるのをやめた。
「どういうことだ?」
「お前が僕たちについてくるのを反対しても、このお人よしどもがうるさいからな。
だから、お前には条件付きでだが僕たちと行動してもらうことにする」
条件つきで?一体、どんな条件を…。
それを彼が尋ねようとしたとき、ロイドが訊いた。
「で、その条件って何なんだ?」
「そうだな。それを教えてやらなければことは進まないだろう。
僕の条件は、二度と人を殺さないと今ここで誓え。まあ、例外は多少あるがな…」
ジューダスは微笑んだ。そして、先ほどヴェイグが聞き取れないほど微かに呟いたことを再び呟く。
これで、良いんだよな。ルーティ…。
この男を憎むのではなく、罪を償う機会を与えてやれば、それで…。
しばらくして、彼らは同じ方向へと歩を進め始めた。
心なしか、ヴェイグの表情が和らいでいるように見えたのであった。
297 :
罪と償い5:2006/01/22(日) 03:51:33 ID:iZz6nGfC
【ジューダス:生存確認】
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:シースリ村に向かう
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ロイド、メルディ、ヴェイグと行動
【ロイド:生存確認】
状態:健康 喜び
所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る
第一行動方針:シースリ村に向かう
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ジューダス、メルディ、ヴェイグと行動
【メルディ 生存確認】
状態:喜び TP消費(微小) 背中に刀傷(小)左腕に銃創(小) ネレイドの干渉はほぼ皆無
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:シースリ村に向かう
第二行動方針:ジューダス、ロイド、ヴェイグとともに行動する
第三行動方針:仲間と合流する
【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷 僅かに安らぎ
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル)
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ルーティのための償いをする。
第二行動方針:ジューダス、ロイド、メルディたちと行動
現在位置:B6森林地帯
追伸
今回のことは私にせいで、 終わる運命、終わらない友情の作者の方に非常にご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。
また、感想スレのほうにも不要なものを残すこととなってしまって本当に申し訳ございませんでした。
298 :
崩れた前提1:2006/01/22(日) 03:53:59 ID:0t5i8umo
朝が訪れても満足な光は射し込まないだろう塔の一室で、赤い髪の青年はムメイブレードを傾けた。
刃の状態を確認して、鞘に納める。
差し迫る危険はこの塔には無い。しかし、不測の事態とは常に起こりうるものであり、それに対する準備を
怠ってはならないことを、理論詰めの友人とは異なる観点から、リッド・ハーシェルは肌身に染みて感じていた。
ふと部屋の片隅に目をやった。暗がりに一匹の鼠がいた。
殺そうと思えば容易い。が、リッドは頬杖をついたまま、か弱い生物を見るともなしに見ていた。
鼠もしばし、つぶらな瞳をリッドに向けていた。
が、突如何かを察知したのかのように物陰に逃げ込んだ、次の瞬間――
大気が震えた。
耳障りな雑音とともに、嵐のごとき少女の声が響き渡った。
『皆聞える!? 私はファラ、ファラ・エルステッド!――』
ファラ、だった。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの! 聞える? リッド、キール、メルディ!』
「なっ―――これは……!?」
ソファから跳ね起きるキールを視線の端で捉えながら、リッドは立ち上がる。
耳慣れた少女の声。しかし直感的にリッドの脳裏をよぎったのは、安堵よりも暗い不安だった。
何か、何かがおかしい。
すぐに幼馴染の異変を看破したリッドは、無意識に剣の柄に手をかけていた。
299 :
崩れた前提2:2006/01/22(日) 03:56:42 ID:0t5i8umo
キール・ツァイベルは表情を強張らせてファラの悲壮な叫びを聞いた。
『最後に……リッド、キール、それにメルディ!! 私、げほっ、リッド達をごほっ、信じてるんだからね!! げほっ、リッド達ならイケる、イケるよね!?』
その言葉が最後だった。
重苦しい沈黙が場を支配した。
C3の村。そこにファラがいる。
ところどころ、知らない男性の声が混じっていたが――この際、些細なことだ。
咳き込むファラの声。そこに見え隠れする死の色。
(くっ……)
与えられた情報をまとめようと試みる。
しかし、激昂した仲間を前に、混乱する思考を噛み砕く猶予はキールになかった。
「待て、リッド!」
「!!何言ってんだ!!?」
既に出口に向かいかけていたリッドが振り返る。彼の顔面は蒼白だった。
「今の、あの放送、聞いただろ!」
「……拡声器を使ったようだな」
「んなことはどうでもいい!早く、早く行かねえと――ファラが!!」
「僕だって判っているっ!」
思わずキールも声を荒げた。
拡声器を使ったファラの願い。まったくファラらしいとしか言いようが無いその行動。
しかし、ここはそんな彼女らしさを微笑ましく思える場所ではない。
殺し合いの役者が揃えられた、殺し合いの舞台なのだ。
「ファラの呼びかけは、マグニスやバルバトス…他にもいるかもしれない殺人者の、格好の、的だ」
苦渋に満ちたキールの呟きに、リッドは耳を疑った。
300 :
崩れた前提3:2006/01/22(日) 03:59:13 ID:0t5i8umo
「まさか――ファラを見捨てろってのか!!」
「馬鹿を言うな!ただ、迂闊に動くのは危険だと――」
「迂闊も何もあるか!ファラが……苦しんでるってときに……!!」
「…………」
絶句するキールに、リッドは吐き捨てた。
「だいたい、もっと早く動くべきだったんだ!ここからならファラのいる場所はそう遠くねえ!
夜通し探せば合流できたかもしれねえ!ファラが襲われたとき……守ってやれたかもしれねえっ!!
ミクトランのことも、脱出法も、後回しで良かったんだ!!」
それがとどめだった。
結果論でしかなかった。しかし事実には違いなかった。
キールの顔から血の気が引いた。
そのキールに冷たい一瞥を向け、風と化したリッドが地を蹴った。
「くそ……!」
残されたキールも、もはや躊躇することはできなかった。
リッドの後を追って走り出す。
生来、体力のない彼が、エルヴンマントに身を包んだ全速力のリッドに追いつける筈がない。
だがキールとてファラを放置するつもりはなかった。それに……。
(メルディ……)
彼もまた、言い知れない不安に突き動かされていた。
うっすらと霞む森の影で鳥が一声鳴いた。
協力を促すはずのファラの行動が、彼女の仲間にもたらした皮肉を嘲笑うようだった。
しかしリッドは気付かない。
見下ろす木々の間を、ただ、駆ける。
少女の無事、それだけを祈りながら―――
301 :
崩れた前提4:2006/01/22(日) 04:00:47 ID:0t5i8umo
【リッド・ハーシェル 生存確認】
状態:背中に刀傷(9割回復)
所持品:ムメイブレード、エルヴンマント
基本行動方針:仲間と合流
第一行動方針:C3へ向かう
現在位置:B2の森
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:全身打撲(回復中 現在9割回復)
所持品:ベレット、ホーリィリング
基本行動方針:リッドと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す
第一行動方針:C3へ向かう
現在位置:B2の塔付近
『皆聞こえるー!? 私はファラ、ファラ・エルステッド!――』
E2城に向かう青年、スタン・エルロンにも、ファラの声は届いていた
立ち止まり、その声に耳を傾ける
「よかった…ゲームに乗らずに反対してる人はまだいるんだな…!」
少しホッとするスタン
しかし、その声は大きいが、どこか弱々しい感じがした
「おい、やっぱりもう止めないと……」
「大丈夫…大丈夫だから、お願い…………」
「だが、君の命がっ!」
「お願い! これが私の……最期の仕事になるかもしれ――あ」
やはり、声の主はかなり弱っているらしい
「あれ?今の声って…まさか…」
演説をする少女の他にも、側に誰かいるようだった
さらに、その声はスタンには聞き覚えがあった
もしかして…ジョニーじゃないか?
こんな演説をしたら、当然人が集まる。だとしたら、ジョニーが危険だ
と、その時!
ドゴオアァァーン!
「うわわっ!こんどはなんだなんだ!」
スタンが目的地にしていたE2の城から、天に向かって巨大な光が飛び出していった
「………うっわー………」
スタンはその光景を見て、ポカーンとしていた
「ダメだダメだ!何やってんだ俺は!」
スタンは自分の顔を叩き、気合いを入れた
『最後に……リッド、キール、それにメルディ!! 私、げほっ、リッド達をごほっ、信じてるんだからね!! げほっ、リッド達ならイケる、イケるよね!?』
その言葉を最後に、演説は途絶えた
それとともに、E2の城も、少しずつ崩壊し始めていた
「あの城に行こうと思ったけど…あれじゃ行く前に崩れるな…」
スタンは演説が聞こえた北の方角に移動することにした。もちろん、ミントも探しながら行くつもりだが
「待ってろよジョニー…今行くからな!」
【スタン 生存確認】
状態:軽い損傷
所持品:ディフェンサー ガーネット
第一行動方針:演説が行われた場所へ移動
第一行動方針:ミントの救出
第二行動方針:仲間との合流
現在地:F2の平原
306 :
罪と償い作者:2006/01/22(日) 10:43:26 ID:iZz6nGfC
罪と償いというタイトルの作品がふたつあるとのことなので、
こちらのタイトルを
「罪と償い」 から 「償いのために」 へと変更させていただきます。
307 :
カルマ:2006/01/22(日) 11:05:04 ID:SUPnlqFK
四千年を生きる。それは人間にとって常識の域を超えた話である。
それを体験したただ一人の男、クラトス。クルシス四大天使唯一の人間。
人間には到底留めきれない四千年分の記憶。絶え間なく襲う記憶の忘却。
彼はそれに抗って見せた。ハーフエルフならばまだ理解が出来る。
しかし人間の彼はそれに耐えて見せた。天使化によって得た超感覚を
精神力で制御した。その先にあったのは高速処理能力、頭の回転が速くなったのだ。
その頭脳がこの状況を分析する。いや、もう終わっていた。
「少年、名はなんと言う。」
辛うじて原形をとどめる地下拷問部屋にに声が響く。
「何ですかこんな時に。人は不可視のジェイといいます。そういう貴方は?」
平常心を保ったフリをして少年は声を返す。
彼は少し俊巡して、自重しながら名乗る。
「私はクラトス、傭兵だ。」
はじめてロイドに会ったときも彼はこう名乗った。
少しだけデジャヴ。地下に届く山鳴りの音は、まだ微か。しかし確実に大きくなる。
「この状況、どう思う?」
彼は少年に聞き返す。彼の意見を求めているわけではない。
「もう無理でしょうね。時間が足りない。」
少年は忍者の資質があった。師匠に鍛えられたその非常の聴覚は、城の状態を正確に
捕らえていた。しかしそれより早くより正確に彼はその超感覚で城の寿命を掌握していた。
あの時点からさらにバルバトスが損害を加速させることを計算に入れなければならなかったのだ。
床に並ぶは聖女、天使、そして剣士。後ろ2人はともかく、聖女は眠っただけなのだが
その眠りは深く、自力で起きた頃には眼前に天井が落ちるだろう。
小柄な少年と手負いの剣士が3人を運ぶ。物理的に無理だ。
加えて彼はあの男、サレの悲鳴を聞いている。崩落の音、断末魔、命を賭した声明、
様々な音を拾い、理解し、処理する。そして一つの回答を用意した。
「頼みがある。」
彼は少年に二刀を投げつける。
「何ですかこれは。」
受け取る少年。
「お前だけならばその俊足でここから離脱できる。生き延びてそれを二刀の剣士に渡して欲しい。」
「僕に一人情けなく生きろ、ですか?馬鹿馬鹿しい。第一」「おまえは、」
感情で反発する少年を彼は抑止する。
「罪を受け止め、真っ向から罰と相対する覚悟を持っている。信じる理由はそれだけだ。
ここは私が何とかする。お前は行け。」
彼は少年の事情など何も知らない。知ったのは罪人としてのほんの少しのシンパシー。
「…信じましたよ。最後に一つ、その人は貴方のなんですか?」
少年は彼の目を見据える。深い、とても深い瞳。およそ10年そこらでは到底至れないその瞳に
少年は彼の罪を感じ、そして信じた。もう許されない罪。何より彼が許さない罪。
ほんの一瞬、考えて彼は言う。
「情に弱く、理屈に疎く、どうしようもない奴だが。私の―――
308 :
カルマ:2006/01/22(日) 11:06:19 ID:SUPnlqFK
少年は行った。あの速さなら十分間に合うだろう。
彼は未だ深い闇にいる3人を見据える。唯一の気がかりはこの3人。
特にこの聖女、リアラに彼は申し訳なさを感じていた。私と出会わなければ、
私がサレの誘いをもっと強く断っていれば、少なくとも此処で彼女は死ななかった。
ふと、彼女のデイバックからこぼれている物を見やる。「料理大全」
…うまティーからミソおでんまであらゆる世界のあらゆる料理のレシピを収めた一冊。
なるほど、こんな物では私に見せる気も無いか。
もう一つのモノを見やる。どうやら支給品ではない、ただのボトル。しかし中に入っていたのは水ではない
「まさか…フルーツポンチか?」
この世界に基本的に用意された食料はない。手持ちの食料の奪い合いによってゲームを円滑化させるためだ。
しかし、主催者ミクトランは一つ誤った。徹底してそれを行うなら調味料から木々の果実まで
一つ残らず消し去るべきだったのだ。彼はあずかり知らぬことではあるが
彼の仲間、四大天使のユアンと先ほどの少年、ジェイの知り合い(本人が聞いたら
否定するだろうが)ミミーがこのゲームの穴を突いている。
そして彼の同行者であったリアラもまた、その一人であった。
彼女が落ちている果物を見つけたのは唯の偶然。しかしフルーツポンチを、料理を作ろうと
思ったのは彼女の意思。再び彼と、彼女の英雄と出逢う為の勝手な約束。
出逢ったら、出逢えたら、2人で食べようという、少女らしいささやかな願い。
彼はそのあずかり知らぬ事実をほぼ正確に推測した。頭が冴えるからではない。
愛した人がいたからだ。既に失った、罪の核。そして決意する。
「神子がいなくては、ロイドには貰い手が居なくなってしまうな。
……リアラ、お前の想い、半分だけ貰うぞ。」
309 :
カルマ:2006/01/22(日) 11:07:39 ID:SUPnlqFK
フルーツポンチを半分口内に流し込む。それはただの果物の寄せ集めに近い。
追加食材なぞあろうはずもない、しかも半分。しかしフルーツポンチ。
底をつきかけていた魔力に灯がともる。弱弱しいが確かな火。
残りをリアラのデイバックに入れて、彼は剣士の剣、ダマスクスソードを取る。
地下の天井は既に砂礫を落としていた。彼は世界を、見る人間には至れないマナの
流れを見る。この城に亀裂をもたらした力の流れを、剣士が放った力の余韻を。
彼は剣を構え、天使の羽を散らす。迷いはない、足りない出力はその余韻で、
まだ足りないなら命すら使おう。
「お前は生きろ、ロイド。私の自慢の息子よ。」
天井が、落ちた。
「聖なる鎖に、抗って見せろ!!!シャイニング・バインド!!!!」
発生した障壁に落ちた瓦礫が塵と化す。一波だけならこれを使う必要もない。
しかし崩落するのは天井ではなく、城そのもの。続く第二波、三波、四波……
全ての砂礫が地に伏せた時。地図からこの城は姿を消した。
一人の天使と共に。借り物の剣を残して。
【クレス 生存確認】
状態:状態不明 瀕死 意識不明 顔の腫れ TP消費(中)
所持品:バクショウダケ 忍刀血桜
第一行動方針:不明
第二行動方針:ミント、アーチェ、モリスンと合流
第三行動方針:サレと合流
第四行動方針:仲間と最後まで生き残る
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋 跡
【コレット 生存確認】
状態:状態不明 TP半分 発熱 大疲労
所持品:なし(コングマンにより鞄ごと没収)
第一行動方針:取り敢えず生き残る
第二行動方針:クレスを守る
第三行動方針:仲間(Sキャラ及びクレスとサレ)との合流
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋 跡
【リアラ 生存確認】
状態:状態不明 休眠状態
所持品:ロリポップ 料理大全 フルールポンチ1/2人分 ????
第一行動方針:不明
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:避けられない戦いは戦う
現在位置:E2の城地下拷問部屋 跡
【ジェイ 生存確認】
状態:頸部に切傷 全身にあざ
所持品:忍刀・雷電 ダーツセット クナイ(三枚) マテリアルブレード
第一行動方針:城からの脱出
第二行動方針:クラトスの息子に剣を渡す
第二行動方針:ミントへの謝罪
第三行動方針:シャーリィと合流
現在位置:E2
【クラトス 死亡確認】残り29名
*ダマスクスソードはE2の城地下拷問部屋跡に置いてあります
昨夜からの投下分一気に読んだ。作者さん達GJ!2日目朝にして序盤から中盤への佳境ですかね?って期間ルールはないんですね。原作では7日間でしたっけ?
↑感想スレと間違えたすいませんでした
「…ふう、間一髪と言ったところか」
城はバルバトスの攻撃により、大部分が崩落し、デミテルはなんとか脱出する事ができた。
そして背後を確認するとティトレイもそこにいた。
相変わらず、あんな大規模な崩落が起きたのも関わらず、腑抜けの顔は変わることはなかった。下手をしたらそのショックで自我を取り戻してしまうかもしれないとさえ思ったが―――
「…貴重な駒も失わずに済んだか」
しかし他に何人かの人間がいたのを確認していたが、その者達の姿は見えない。
「…この様子だと巻き込まれて死んだか……」
すると――背後の城一帯を凄まじいエネルギーが覆い尽くした。
膨れ上がるエネルギーは、城を粉塵へと変え、やがては城の存在すらもかき消した。
まるで、夢の中の様な光景。
信じられない。
しかし、その光は攻撃的というより、神々しさまで感じる―――
例えるならば、それは彼の主人、ダオスの放つエネルギーに似ていた。しかし彼はいない。
「(…となるとデリスの末裔か…?あるいは…)」
そうデミテルが考えているうちにその光の中を一人の少年が俊足の脚で掛け出してゆく。
彼では大きすぎる二つの剣を胸に抱えて。
この少年に因るものだろうか…いや、彼にはどうしてもあれだけの魔術のような技を使うようには見えない。
「何が…起きたんだ…?」
彼は本来ならば魔術の研究者である。未知のものに対しての探究心が彼を揺さぶり、デミテルはそのエネルギーに興味を示した。
「…ついてこい、ティトレイ=クロウ」
指をくいっとティトレイに対してこちらに招くように曲げ、デミテルは先程脱出した城に向かった。
「…どういうことだ…」
そこには、先程見かけた沢山の人々が倒れる姿。
舞い散る粉塵。
異様に埃臭い。
青鬼の様な大柄の男、黒髪の細身の青年、そして少し離れた所――かつては城の地下だったのだろう、地下の天井が吹っ飛んだがために地面が四角く掘られたように存在する数メートル下の部屋の中にいた、赤髪の長身の男はどうやら既に息が絶えていた。
「(この三人が戦い、その末に城が崩れたのか?いや…不自然過ぎる)」
もう少し視点を奥に絞るとどうやら息のありそうな者も居る。
地下の部屋に少女二人、そして――――
「クレス=アルベイン…!」
デミテルはクレスを知っていた。自分がハーメルの町を滅ぼしたことに対して怒りを覚え、刃を向けてきたのだ。
そして―――
「………ふふふ」
デミテルは笑った。
本来ならば憎い事この上ない筈なのに関わらず。
いや、笑わずにいれるだろうか。
かつては自分を殺した者が今、目の前にこんなにも無防備に存在するのだ。
デミテルはそこから三人がいる地下室だった場所に飛び降りる。
そしてクレスに近づいた。
確かに死んだ様にも見えるが、確かに息がある。
しかしクレスの顔は腫れ上がっており、おまけにどうやら全身にも決して軽いとはいえないダメージを負っており、しかも気絶までしているのだ。
デミテルは己の幸運に感謝した。
すぐさま殺そうかとも思ったが―――
「いや…」
デミテルは魔法を放とうとして翳した手を下ろした。
こいつは、ダオスにも因縁がある。
使い方によってはいい駒になるのだ。
激情に流されて無闇に殺してしまうのは勿体無い。
しかしゲームの参加人数が減ってきた今、こいつは私への仇を取るために再び刃を向ける日は近いだろう。回復をしたら厄介だ。
そうしてデミテルの脳裏にある考えがよぎった。
―――こいつも操る事はできないか。
しかし元から人形同然となっているティトレイの様にはいかない。どうすれば―――
まず始めにデミテルの頭に浮かんだのはクレスの頭の一部を破壊するということだった。
脳の下部の中心部には海馬という記憶を司る器官が存在する。
それに向けて頭の外側から放射状に弱い魔力を当てる。
そうすれば、弱い魔力自体は他の脳に損壊を与えない。
だが放射状に海馬に当てる事で、あらゆる角度で放たれた魔力が海馬の上で折り重なって収束し、殺傷力を持ち海馬のみを破壊することができるのだ。
記憶を消せばあとは白痴同様となったクレスに上手く都合のよいことを吹き込めば操るのは容易い。
しかし、これにはデメリットもある。
現在重症を負っているクレスがこの荒療治に耐えるだけの体力があるか怪しいのだ。
「他になにか方法はないのか…」
ふとデミテルはクレスの支給品袋に眼が行った。何となくその袋を漁ってみる。
「これは…」
デミテルが手にしたのは―――
バクショウダケ。
本来ならば摂取したものを爆笑の渦に飲み込む非常に馬鹿馬鹿しいキノコだが…
デミテルの口に笑みが宿った。
「ふふ、天は何処までも私に味方するようだ」
バクショウダケ。それはすなわち神経系に作用する毒。
デミテルの研究者としての本領発揮だった。
デミテルはバクショウダケに魔力を注いだ。
みるみるうちにそれは溶けて色を変えてゆく。なんとデミテルはバクショウダケの毒の成分に振動と衝撃を与えることで、成分の配列を繋ぎ変えてバクショウダケの毒の性質を変えているのだ。
こんなことをできるのは、このゲームではおそらく天才のハロルド位だろう。
「…これなら……」
デミテルの手にはどろりとした緑のバクショウダケだったものがあった。
そう、デミテルはこれが神経系の毒なのを利用し、彼の脳の神経回路を変えてしまうものへと変化させたのだ。
彼の、脳の一部を麻痺させる。
彼の下らない正義感やら美学などを完全に排除させるのだ。
ティトレイと同じように。
これを口にすれば…
「彼が私の言うことを聞くようになるのは簡単だ」
デミテルは気絶するクレスの口を無理矢理にこじ開け、毒を流し込む。
そして顎を持ち上げて嚥下させた。
ごくり。
クレスの喉が反射的にそれを飲み込む。
その反射が身の破滅に招くとも知らず…
「ティトレイ=クロウ」
デミテルは背後にいたティトレイに呼びかけた。
「この男を運んでいけ。
…お前の新しい仲間だ」
ティトレイは表情を変えずにクレスを肩に背負う。
デミテルは邪悪な笑みを浮かべる。
かつての敵を自分の手で転がす日が来ようとは。少しだけ気分が高揚した。
「…とりあえず今はここを一刻も早く去るか」
少女達に止めを刺そうかとも思ったが、逆にここは生かせておいて、目を覚ましたかつての仲間だったクレスに刃を向けるのも一興と思い、それはしなかった。
デミテルとティトレイは廃墟を後にする。
後に、またデミテルの忠実な部下にあるであろうかつての勇者を抱えて。
【デミテル 生存確認】
状態:TP1/4消費
所持品:フィートシンボル ストロー ミスティシンボル 金属バット
第一行動方針:ティトレイ、クレスを操る
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
第三行動方針:ダオスを倒せそうなキャラをダオスに仕向ける
【ティトレイ・クロウ 生存確認】
状態:感情喪失 全身の痛み、軽いやけど(回復中) TP中消費
所持品:メンタルバングル バトルブック
第一行動方針:かえりたい
第二行動方針:デミテルに従う
【クレス 生存確認】
状態:瀕死 意識不明 顔の腫れ TP消費(中)
所持品:ダマスクスソード 忍刀血桜
第一行動方針:不明
現在地:E2の城から北上
四千年を生きる。それは人間にとって常識の域を超えた話である。
それを体験したただ一人の男、クラトス。クルシス四大天使唯一の人間。
人間には到底留めきれない四千年分の記憶。絶え間なく襲う記憶の忘却。
彼はそれに抗って見せた。ハーフエルフならばまだ理解が出来る。
しかし人間の彼はそれに耐えて見せた。天使化によって得た超感覚を
精神力で制御した。その先にあったのは高速処理能力、頭の回転が速くなったのだ。
その頭脳がこの状況を分析する。いや、もう終わっていた。
「少年、名はなんと言う。」
辛うじて原形をとどめる地下拷問部屋にに声が響く。
「何ですかこんな時に。人は不可視のジェイといいます。そういう貴方は?」
平常心を保ったフリをして少年は声を返す。
彼は少し俊巡して、自重しながら名乗る。
「私はクラトス、傭兵だ。」
はじめてロイドに会ったときも彼はこう名乗った。
少しだけデジャヴ。地下に届く山鳴りの音は、まだ微か。しかし確実に大きくなる。
「この状況、どう思う?」
彼は少年に聞き返す。彼の意見を求めているわけではない。
「もう無理でしょうね。時間が足りない。」
少年は忍者の資質があった。師匠に鍛えられたその非常の聴覚は、城の状態を正確に
捕らえていた。しかしそれより早くより正確に彼はその超感覚で城の寿命を掌握していた。
あの時点からさらにバルバトスが損害を加速させることを計算に入れなければならなかったのだ。
床に並ぶは聖女、天使、そして剣士。後ろ2人はともかく、聖女は眠っただけなのだが
その眠りは深く、自力で起きた頃には眼前に天井が落ちるだろう。
小柄な少年と手負いの剣士が3人を運ぶ。物理的に無理だ。
加えて彼はあの男、サレの悲鳴を聞いている。崩落の音、断末魔、命を賭した声明、
様々な音を拾い、理解し、処理する。そして一つの回答を用意した。
「頼みがある。」
彼は少年に二刀の一つ・ヴォーパルソードを投げつける。
「何ですかこれは。」
受け取る少年。
「お前だけならばその俊足でここから離脱できる。生き延びてそれを二刀の剣士に渡して欲しい。」
「僕に一人情けなく生きろ、ですか?馬鹿馬鹿しい。第一」「おまえは、」
感情で反発する少年を彼は抑止する。
「罪を受け止め、真っ向から罰と相対する覚悟を持っている。信じる理由はそれだけだ。
ここは私が何とかする。お前は行け。」
彼は少年の事情など何も知らない。知ったのは罪人としてのほんの少しのシンパシー。
「僕が途中で力尽きたら?分が悪すぎますよ。」
少年は脅す。彼はもう一刀、フランヴェルジュを見せる。
「案ずるな、例えお前が力尽きても必ずこの二刀は再び集う。」
彼はエゴイストだった。最愛の人を失った世界ならば歪んでてもかまわない、そんな人間だった。
ロイドに確実にそれを渡すなら二刀とも渡すべきなのだ。彼が縋ったのは不確かなモノ。
もしかしたらこの剣と共にロイドと会えるのではという妄想に近い約束。
妻を失った彼にはロイドとこの剣しか残っていないのだ。
「…信じましたよ。最後に一つ、その人は貴方のなんですか?」
少年は彼の目を見据える。深い、とても深い瞳。およそ10年そこらでは到底至れないその瞳に
少年は彼の罪を感じ、そして信じた。もう許されない罪。何より彼が許さない罪。
ほんの一瞬、考えて彼は言う。
「情に弱く、理屈に疎く、どうしようもない奴だが。私の―――
少年は行った。あの速さなら十分間に合うだろう。
彼は未だ深い闇にいる3人を見据える。
自身の覚悟は当に出来ている。唯一の気がかりはこの3人。
特にこの聖女、リアラに彼は申し訳なさを感じていた。私と出会わなければ、
私がサレの誘いをもっと強く断っていれば、少なくとも此処で彼女は死ななかった。
ふと、彼女のデイバックからこぼれている物を見やる。「料理大全」
…うまティーからミソおでんまであらゆる世界のあらゆる料理のレシピを収めた一冊。
なるほど、こんな物では私に見せる気も無いか。
もう一つのモノを見やる。どうやら支給品ではない、ただのボトル。しかし中に入っていたのは水ではない
「まさか…フルーツポンチか?」
この世界に基本的に用意された食料はない。手持ちの食料の奪い合いによってゲームを円滑化させるためだ。
しかし、主催者ミクトランは一つ誤った。徹底してそれを行うなら調味料から木々の果実まで
一つ残らず消し去るべきだったのだ。彼はあずかり知らぬことではあるが
彼の仲間、四大天使のユアンと先ほどの少年、ジェイの知り合い(本人が聞いたら
否定するだろうが)ミミーがこのゲームの穴を突いている。
そして彼の同行者であったリアラもまた、その一人であった。
彼女が落ちている果物を見つけたのは唯の偶然。しかしフルーツポンチを、料理を作ろうと
思ったのは彼女の意思。再び彼と、彼女の英雄と出逢う為の勝手な約束。
出逢ったら、出逢えたら、2人で食べようという、少女らしいささやかな願い。
彼はそのあずかり知らぬ事実をほぼ正確に推測した。頭が冴えるからではない。
愛した人がいたからだ。既に失った、罪の核。そして決意する。
愛するもの無くして世界に意味はないのだ。コレット無くしてロイドの世界は在り得ない。
「神子がいなくては、ロイドには貰い手が居なくなってしまうな。
……リアラ、お前の想い、半分だけ貰うぞ。」
フルーツポンチを半分口内に流し込む。それはただの果物の寄せ集めに近い。
追加食材なぞあろうはずもない、しかも半分。しかしフルーツポンチ。
底をつきかけていた魔力に灯がともる。弱弱しいが確かな火。
残りをリアラのデイバックに入れて、彼は剣士の剣、ダマスクスソードを取る。
彼本来の型ではない二刀流。彼は左手でダマスクスソードを構える。
地下の天井は既に砂礫を落としていた。彼は世界を見る。人間には至れないマナの
流れを見る。この城に亀裂をもたらした力の流れを、
この剣から滲む剣士が放った力の余韻の全てを支配する。
彼は初代デリス・カーラーンの守護者、ユグドラシル姉弟に次いで最高のマナの支配者。
ダマスクスソードを地面に突き立てる。準備は整った。
彼はフランヴェルジュを構え、天使の羽を散らす。迷いはない、足りない出力はその余韻で、
まだ足りないなら命すら使おう。 輝くは紅蓮の光。
「お前は生きろ、ロイド。私の自慢の息子よ。」
天井が、落ちた。
「聖なる鎖に抗って見せろッ!!シャイニング・バインド!!!!」
発生した障壁に落ちた瓦礫が塵と化す。一波だけなら他に手はあった。
しかし崩落するのは天井ではなく、城そのもの。続く第二波、三波、四波……
全ての砂礫が地に伏せた時。地図からこの城は姿を消した。一人の天使と共に。
借り物の剣と彼の魔剣の十字架を残して。
遂に二刀の魔剣は道を違えた。
しかし、魔剣はは必ず出会うだろう。オリジンの鼓動を目印に。十字架は立てられた。
約束は果たされる。
魔剣は 一つになる。
【クレス 生存確認】
状態:状態不明 瀕死 意識不明 顔の腫れ TP消費(中)
所持品:バクショウダケ 忍刀血桜
第一行動方針:不明
第二行動方針:ミント、アーチェ、モリスンと合流
第三行動方針:サレと合流
第四行動方針:仲間と最後まで生き残る
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋 跡
【コレット 生存確認】
状態:状態不明 TP半分 発熱 大疲労
所持品:なし(コングマンにより鞄ごと没収)
第一行動方針:取り敢えず生き残る
第二行動方針:クレスを守る
第三行動方針:仲間(Sキャラ及びクレスとサレ)との合流
現在位置:E2のイーツ城地下拷問部屋 跡
【リアラ 生存確認】
状態:状態不明 休眠状態
所持品:ロリポップ 料理大全 フルールポンチ1/2人分 ????
第一行動方針:不明
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:避けられない戦いは戦う
現在位置:E2の城地下拷問部屋 跡
【ジェイ 生存確認】
状態:頸部に切傷 全身にあざ
所持品:忍刀・雷電 ダーツセット クナイ(三枚) ヴォーパルソード
第一行動方針:城からの脱出
第二行動方針:クラトスの息子に剣を渡す
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィと合流
現在位置:E2
【クラトス 死亡確認】残り29名
*フランヴェルジュ・ダマスクスソードはE2の城地下拷問部屋跡に置いてあります
「う〜ん・・・よく寝たパン・・・」
寝ぼけ眼でミミーは起き上がる。大きく毛伸びをしして立ち上がる。
ついた足の感触はふわっとしたもの。赤い絨毯の上。
ミミー一行は夜遅くにこの教会へと辿り着き、今の今まで眠っていた。
傍にはクィッキーが丸まってすやすやと心地よさそうに眠っている。
だが近くにトーマの姿が無い。一緒になって眠ったと思っていたのだが・・・。
「牛さん?どこにいるパ〜ン」
少し教会内を歩いて回る。だがあの巨体が一部も見えない。外にいるのか。
ミミーはその少し重い扉を片方だけ開け、外をひょいっと見る。
そこにはもう片方の扉にもたれかかっていびきをかきながらぐっすりと眠っているトーマの姿があった。
「こんなところにいたパンか〜」
それはそれは気持ちよさそうに眠っているトーマ。そんな姿を見て起こすことに気が引けるが、時間を確認するとそうもいってられなくなった。
「もう九時パンか!?放送から三時間も経ってるパン〜!」
いそいでトーマを起こす。が、起きる気配はまったくない。
「こうなったら・・・」
急いで自分のザックから金のフライパンを取り出し、トーマの前に立つ。
でも・・・
「あれ・・・銀のおたまが無いパン」
その場で立ちつくす。ミミーはしばし考える。
「・・・ん?何で銀のおたまが必要パン?別にこれだけで十分パン」
言って、金のフライパンを大きく振りかぶり、
「起きるパ〜ン!!」
ゴーンという何とも気持ちいい音が教会周囲に響き渡った。
フライパンはトーマの頭にクリーンヒット。これには流石にトーマも起きたようだ。
「痛ぇ!!何すんだ!!」
ばっ、と立ち上がるトーマ。その目には気のせいか涙が滲んでいる。
「全然起きなかったのだから仕方ないパン」
仁王立ちするミミー。その態度にはトーマも反論のしようが無かった。
「くっそ〜、それにしてももっとマシな起こし方があっただろ」
ぼやき、教会の中に入っていく。ミミーも追って教会に入る。
「秘義を使わなかっただけまだマシなほうパン」
「秘義〜?なんだそりゃ」
「ん・・・?秘義って何だパン」
「いや、俺が知るわけね〜だろ」
なぜそんな言葉が出てきたのかミミーにはさっぱりだった。それはフライパンを持ちし者のデスティニー。
クィッキーのいるところまで進み、トーマは腰をおろす。すでにクィッキーは起きていたようだ。
「クィッキー!(腹がへったぜお嬢さん!)」
「あぁ、俺もへった。何か作ってくれねぇか」
クィッキーに同意するトーマ。言葉が通じているのかどうかは定かではないが、ガジュマにも通じる何かがあるのだろうか。
「了解パン!すぐに支度するから少し待っててほしいパン」
言うなりてきぱきとパン作りの為に火を起こし、その作業を開始する。
その間、トーマは考え事をしてうねっていた。
「う〜む、しかし真剣に考えてみると放送を聞き逃したってのはかなりヤバイんじゃね〜か」
それもそうだ。まさかこの状況下で寝過ごして放送を聞き逃すなどという愚鈍者が存在するなど、ミクトランに予想できただろうか。
「九時ってことは、もうすでにどっかが禁止区域になってるってこと・・・だよな」
少し不安げに呟く。自分のおつむが高くないことは自覚しているようだ。
「どこが禁止になってるかわからないってのは、やっぱちょっとこえぇな・・・」
「誰かに聞けばいいパン。それで万事解決パン!」
作業をしながらトーマに言う。トーマは「そうか!」と手を叩いて納得する。
「お前冴えてるな!」
「ふふふ、少し考えればわかることだパン」
いや、ここにはバカしかいなかった。
「さぁ出来たパン!一緒に手を合わせていただくパン!」
目の前に広がるはピザやアップルパイやらドーナッツ。見事に小麦粉料理一色だった。
「うおおお!すげぇ!いただきま〜ス!!」
がつがつと食べ始めるトーマ。ちまちまとかじるクィッキー。
その光景をミミーは嬉しそうに眺めていた。
朝食を終えてミミーは名残惜しそうに教会を後にする。
「一夜だけでも夢に浸れたパ〜ン。また来るパ〜ン」
ミミー一行は来た道を逆に辿り、G5の村へと向かうことになった。
「人に聞くには人のいそうなところに行かねぇとな」
「クィッキ・・・(やれやれ、大丈夫かよこんなんで)」
ただ一人(一匹)はその二人の身を案じた。
午後三時から禁止エリアに該当されることも知らずに。
【ミミー・ブレッド 生存確認】
状態:健康
所持品:ウィングパック×2 イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ クィッキー
第一行動方針:G5村に行く
第二行動方針:今後の事を考える
【トーマ 生存確認】
状態:健康
所持品:メガグランチャー ライフボトル
第一行動方針:G5村に向かう
第一行動方針:ミミーを守りぬく
第二行動方針:今後の事を考える
現在地:H7教会前
327 :
【業務連絡】:2006/01/22(日) 14:34:15 ID:dhxPH0wa
【笑う魔術師修正】
第一話目
彼では大きすぎる二つの剣を胸に抱えて。
↓
彼では大きすぎる一本の剣を胸に抱えて。
これで宜しくお願いします
お手数おかけ致します
信じがたい事態が起こった。
ジューダス達が向かうシースリの村から、突如として大音量の放送があった。
ミクトランのそれとは明らかに違う、少女の、必死な声。
希望を訴え、呼びかけを行う彼女の言葉は、はっきりとジューダス等四人に聴こえた。
その呼びかけに強く反応したのはロイドで、
慌ただしく村の方向と仲間を交互に見ながら、動揺を隠しきれずにいた。
一緒に行動することになったヴェイグは、表情一つ変える事無く、黙って少女の言葉を聞いていた。
ジューダス自身は、表面上は静かにしながら、内心は黒い影が覆っていた。
それは呼びかけを行った少女等に対する不安よりも、
一緒に居る仲間達への不安の方が大きかったかもしれない。
事実、少女の呼び掛けにロイド以上に取り乱したのは、他ならぬ少女の仲間、メルディだった。
「ファラ・・・ファラがあそこいるよ!早く、早く行こうな!」
村の方向を指差して、オーバーアクション気味に騒ぎ立てる。
放送をした少女の声は不自然に途切れ途切れで、
彼女の状態が危険域であることを示していた。
「そ、そうだぜジューダス。まさか俺達が行こうとしてた場所にもう人が居たなんてな、早く助けに行ってやろうぜ!」
ロイドも便乗して声を上げる。
対する二人は、じっと黙っていた。
「・・・引き返すぞ」
仮面の男が口を開いた。その声はいつもより暗く、沈んでいた。
「え?」
きょとんとした目で仮面の男を見つめるロイドとメルディ。
「さっきの呼びかけを聴いただろう。あそこにはまず間違いなくやる気のある奴が集まってくる。行くのは自殺行為だ」
メルディはその言葉が理解できないといった風に、不安定に立っている。
やがてロイドが啖呵を切ったように喋りだした。
「な、なに言ってんだよジューダス!聴いただろ、あの人、協力しようって!
俺達と協力できる人じゃないか!それに、あの人、すごく苦しそうだった、早く助けに・・・」
「無駄だ、もう遅い。確かに僕達は協力者を求めていたが、こんな形で合流するのは危険すぎる」
「でもよ、でも、それに、あの人、メルディの仲間らしいじゃないか!助けてやらないと可哀想だろ!」
ジューダスは静かに頭を振った。仮面に付いたひも状の飾りが、大きく揺れた。
「行けば、死ぬ。間違いなくあそこは戦場になる。僕は、のこのこと出て行って死ぬつもりは無い」
その声ははっきりと、冷たい響きがあった。
ある意味でジューダスの言葉はとても現実的なものだった。
ジューダスはロイドとメルディを死なせたくは無かった。
しかし仲間との再会を強く望み、その死を怖れるメルディと、
希望、或いは優しい理想を捨てきれないロイドに、その言葉は届かなかった。
別れの時が近付いていた。
「メルディはいや、ファラが死ぬの、いや!あっち行くよ!」
紫髪の少女は子どものように駄々をこねた。
その意思はとても強固なもので、誰にも止められないものだった。
仲間と再会できないこと、仲間の死を怖れているのだった。
微かに、メルディの体から黒い光が見えた気がした。
「ジューダス、俺は行くぞ。仲間になれる人達が居るのに、それを黙って見過ごすことなんて、出来はしない。
その人たちが危険な状況にいるってんなら、尚更見捨てれるもんか」
仮面の男がロイドを正面から見つめた。
その仮面の奥に垣間見える、沈んだ瞳。
「・・・死ぬぞ」
「そんなこと、俺がさせない。希望を捨てないで、力を合わせようとする人たちを、絶対に死なせやしない」
ロイドの言葉は強い響きを持っていた。
既にかなりの数の死者が出ている中で、彼の言葉は甘すぎた。
それでも、目の前のこの状況で、何もしていないでいられる彼でもなかった。
そしてそんな彼の性質を、ジューダスは多少なりとも理解していた。
もう何を言っても無駄だと、望みを捨てないロイドを止める術など無いと。
いや、そもそも希望にすがることの何が悪い?
或いは最初から分かっていたのかもしれない。
放送が聴こえた時点で、こうなることは必然だったかもしれない。
別れの時が訪れた。
「・・・そうか。なら勝手にするがいい。僕は僕で行動する。お前達はお前達で好きにするが言い」
ジューダスが言い放った。
それまで黙りこくっていたヴェイグは、ちょっと驚いて仮面の男を見た。
メルディはほとんど泣きそうな顔で、男達の顔を順々に見比べた。
ロイドは唇をぎゅっとかみ締めると、ジューダス等に背を向けた。
「行こう、メルディ。お前の仲間を、助けに行こう」
「あ・・・うん・・・」
二人は静かに駆け出した。
やがて、その姿が森の中に消えた。
ジューダスは瞼を閉じ、顔をうつむけて、悔やむように小さく呟いた。
馬鹿、と聞こえた気がした。
「いいのか?」
ヴェイグが仮面の男に語りかけた。
仮面の男は顔を上げ、青髪の男を見つめた。
「お前も行きたいのであれば、止めはしないぞ」
「いや・・・俺としても、迷っているのが本音だ」
彼の胸の中で、かつて先程の少女と同じように、皆に演説を行った女性の姿が思い出されていた。
色んな状況の違いはあれ、あの時はなんとか大切な人を助けることが出来た。
しかし、今この状況において、果たして万事が上手くいくであろうか?
「これから身を隠す。今のに釣られた奴等が、あの村へ移動しようとして鉢合わせるかもしれないからな」
無感情にジューダスがそう言い、ロイド達が消えたのとは別の方角へ歩き出した。
ヴェイグはしばらく迷い、とりあえず仮面の男に付いていった。
【ジューダス:生存確認】
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:身を隠す
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ヴェイグと行動
第四行動方針:ロイド達が気になる
現在位置:B5森林地帯
【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル)
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:身を隠す
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
第三行動方針:ジューダスと行動
第四行動方針:呼び掛けが気になる
現在位置:B5森林地帯
【ロイド:生存確認】
状態:健康
所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る
第一行動方針:シースリ村に向かい、協力者と合流
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:メルディと行動
現在位置:B5森林地帯からC3村へ移動中
【メルディ 生存確認】
状態:TP消費(微小) 背中に刀傷(小)左腕に銃創(小) 僅かにネレイドの干渉
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:シースリ村に向かい、ファラと合流
第二行動方針:ロイドと行動
第三行動方針:仲間と合流する
現在位置:B5森林地帯からC3村へ移動中
333 :
業務連絡:2006/01/22(日) 15:35:15 ID:ihjZcGQx
「秘義完成せず」でG5の村に〜と表記されたますが
ただしくはG5の町です
お手数かけます
「う〜む、どうしたことか…………」
モリスンは、例の法術書の目の前にして腕組みをしていた。
発端は、ひと時の休息を取っていた際にふと目に入ったそれを再び読み始めたことだった。
元々、研究者でもあるモリスンは、自分の知らない術式の書かれたそれに次第に興味を持ち始め、いつしか没頭してしまっていた。
だが、読めはするものの理論が完全には理解できなかったのだ。
元々モリスンのいた時代にあった魔術で消費していたエネルギーはマナ。
それに対し、法術はマナに代わって、神の加護、大地の力など称される漠然としたエネルギーかも分からないものを使うらしい。
流石のモリスンでも自分の死後に生まれ、研究された分野を数十分で理解できるわけがない。
だが、そんなモリスンでも分かったことが一つあった。
それは、魔術が地水火風といった自然現象に局部的に変異を与えるのに対し、この法術という術は人体組織に直接何らかの影響を及ぼすことが主である術だということ。
具体的には、体の再生機構の活性化や毒浄化の促進、敵に対しては逆に体を脆くしたり、詠唱する口を塞いだり……。
つまりは、法術が味方の支援に向いているということだった。
「……この“法術”とやらが使えるようになれば、自分で自分を治療できるようにもなるのか……」
それは、ダオス討伐を掲げるモリスンにとっては、是非とも修得したいものだった。
いくらモリスンとはいえ、ダオスを無傷で倒せる自信などない。
だからこそ、互いに体力を消費する長期戦を有利に進める為にも支援系の術は充実させておきたかった。
「とりあえずは、この“ふぁーすとえいど”なる基本術の修得を目指すとするか…………」
いつしかモリスンは、休息地点にどっかりと腰を据えており、書物の冒頭にあった法術の基本となる回復術の修得が第一優先事項となっていた…………。
そして、そんな修得に励むモリスンの耳にも、演説をする少女の声は聞えてきた。
モリスンは、書物から目を離し、その演説を傾聴する事とする。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの!――』
自分の居場所を言ってしまうとは……殺されるかもしれないというのに、とモリスンは呆れる。
が、その後も演説を聞いている内に、演説をしている少女が真にこのゲームを憎んでいるということが汲み取れた。
自分も、ゲーム自体には嫌悪感を抱いていたが、少しでも「ダオスを倒すまでは続いてほしい」と思っている自分とは大違いだ。
しかも、所々咳き込むような声が聞える。それと同時に何かが吐き出される音も…………。
「血を吐いている……のか?」
苦しそうな咳き込みと、その間から聞える必死の主張。
そこからは、なにか追い詰められているのでは、と感じられた。
では、何に追い詰められているのか? それは言うまでもない……自らの死であろう。
そして、苦しそうなまま声のまま、少女の演説は終わった。
「……………………」
モリスンは考えた。
自分にはダオスを倒すという使命がある。
それを放って、ここから脱出に協力していていいのだろうか?
しかし、脱出云々の以前にあの少女は苦しんでいた。死にも至りかねない苦しみ方で。
現在地は地点D3の平原。少女がいると言っていたC3地点の村はすぐそこだ。
それを分かっていて見殺しに出来るのか?
見殺し? ……いや、行ったところで自分に何ができるだろうか?
何も出来ないなら、わざわざゲームに乗った参加者も集まりかねない地点になど向かわない方が得策だ。
自分はダオスを倒すまで、無駄に戦って体力は消費したくはない。
致し方がないのだ。ダオスを討つのが我が使命なのだから……。
モリスンは、苦渋の決断で村へ向かわずに逆に正反対の南方に折り返そうと、出発の準備を始めた。
しかし、そんな彼の手が、“それ”に触れた。
法術書。それは、回復術から解毒術まで様々な治癒術が載っている書物。
まだ、修得はしていないが、もしかしたらもしかするかもしれない……。
そうすれば、あの苦しんでいた少女も…………。
彼の脳裏では、学者らしからぬ確実性のない可能性が浮かんでいた。
そしてモリスンは立ち上がり……
「よし……出発するか……」
彼は歩みだした。
――北方へ。
――C3村のある北方へ。
この時の彼は知らない。
この選択こそが、彼の宿命との邂逅となることを…………。
【エドワード・D・モリスン 生存確認】
状態:TP中消費 全身に裂傷とアザ 背中と左上腕に刺し傷(五割は回復)
所持品:魔杖ケイオスハート 割れたリバースドール 煙玉(残り二つ) クナイ(一枚) 法術に関する辞書
基本行動方針:ダオス討伐
第一行動方針:演説少女を救う
第二行動方針:法術取得(まずはファーストエイドから?)
第三行動方針:ミクトラン討伐
現在位置:D3平原→C3村へ
(メルネスをぉぉっぉぉぉ!! 死なせるわけにはいかぬぅぅぅっぅっぅぅ!!!)
シャーリィは、ミトスとダオスの放った滅びの光に呑み込まれる寸前、どこからかマウリッツの声を聞いた気がした。
滄我の長老である男、マウリッツ・ウェルネス。かつて遺跡船を舞台に戦われた、クルザンドとの戦役の直後、シャーリィは彼には色々と世話になったものである。
マウリッツも、もうすでにこの世にはない。シャーリィは少しばかり、残念な気分ではあった。
(シャーリィ! お前はここで死んでいい人間じゃない!! 生きろ…生きるんだ!!!)
今度聞こえてきたのは、銀髪の青年の声。血は繋がらずとも、兄と慕う陸の民の青年、セネル・クーリッジの声。
シャーリィは、その声に思わず涙腺が緩みそうになった。兄はまだ、こうして自分の側にいる。生きている。いつでも共にいる。絆で繋がっている。
「わたし…生きるよ、お兄ちゃん。絶対、生きるから…見ててね!」
シャーリィは瞳を閉じ、胸の前で両の手を組み、祈るようにして沈黙した。防魔の障壁を練り上げ、体の周囲に張り巡らせる。
「わたしを護って…お兄ちゃん…それから、マウリッツさん…!!」
滅びの光は、シャーリィの五体を残さず包み込んだ。純粋なマナのエネルギーがシャーリィの着衣を焼き、肌を焦がし、骨肉を砕く。
それでも、シャーリィは信じていた。兄とマウリッツの加護を。自らにはまだ、死神が訪れていないことを。この狂気の戦場を生き抜き、兄との再会を果たすことを。
世界は、白一色に包まれた。シャーリィの想いもまた、白一色に塗りつぶされていった。
(お腹が空いたなぁ…)
シャーリィは、空腹を持て余していた。
空腹になるのも無理はない。シャーリィの腹部は先ほど、ミトスの剣に刺し貫かれていた。文字通り、「腹」に穴が「空」いていたのだ。
すでに傷口は緑色の体液に覆われ、ぶくぶくと泡立ち、すえた臭いの煙を吹いている。あと少しすれば、完全に塞がってくれるだろう。
ダオスとミトスの追撃を逃れたシャーリィは、あれから森林地帯を真西に進んでいた。そこまで森の木々の密度は高くはなく、比較的進みやすい道ではあった。
そのときである。シャーリィの瞳に、それが映っていた。
この周囲の森の木々の中で、特に大きな一本の木。察するに、樹齢は数百年といったところだろうか。
周りの木々とは一線を画す気風をたたえたそれは、まさしくこの森の主の名を冠するにふさわしいだろう。
シャーリィの瞳が揺れた。食欲、性欲、その手の原始的な欲望に駆られた物欲しげな光が、その奥に宿る。
(…これを朝ごはんにしようかしら)
そう決めた一体のエクスフィギュアは、木をなめるようにして眺める。その後は、なかなかに迅速であった。
体格のいい男のそれをも、はるかに越えた巨躯をまだぎこちなく動かしながら、しかしそれでも上手いこと森の主に迫る。
まるでこの巨木を抱きしめるかのようにして、長く伸びた手を幹に回し、しっかりと体を固定する。シャーリィはそこで、ぶるっと身震いをした。
ぷち。ぷちぷち。ぷちぷちぷちぷち。
シャーリィの肉体から、奇妙な音が鳴り始めた。
ぷちぷちぷちぷち。ぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷち。ぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷち…
ぞりゅっ!!
シャーリィの胸部から飛び出たのは、彼女の肋骨だった。
肋骨は今や獣の牙のように彼女の体内から飛び出し、行進する百足の足を思わせる不気味なうねり方をしている。
肋骨を飛び出させた胸部は今や真っ二つに裂け、その中央では赤黒い内臓がグロテスクな蠕動を起こしていた。
しかしながら、これで全てが終わったわけではない。
牙のように飛び出た肋骨を巨木の幹に突き刺し、しっかり固定する。もはや、巨木の運命は決したようなものだ。
この巨木にもし口が付いていたならば、恐怖と激痛の余り、身も凍るような絶叫を上げていたに違いない。
しかしながら、これでもまだ悪夢は終わらなかった。
ぐりょ。ぐりょぐりょぐりょ。ぐりゅぐちゅぐりょりょりょ。
鳥肌が立ちそうな湿っぽい音が、シャーリィの体内から再び響き渡る。
あらわになったシャーリィの内臓の蠕動が、一瞬ぴたりと止んだ。一瞬だけ。
次の瞬間、あろうことか、シャーリィの内臓は、体外に飛び出ていた。飛び出し、巨木に張り付き、あっという間に幹を覆う。
魔物との戦いに慣れた者なら、この光景を目撃してすぐさま、スライムの捕食を思い出すだろう。
シャーリィの内臓は、まさにスライムのように巨木の幹を包み、食しているのだ。
(あっ…ああ…あふぅ…ふひゃ……んんんぅっ!)
シャーリィは自らの原始的欲望が満たされていく歓喜に、打ち震えていた。
数日もの間絶食していた胃に手当たり次第に食べ物を詰め込むような、堪えに堪えた後にたっぷりと自慰をするような、そんな歓喜にこれは似ている。
薄く薄く伸びたシャーリィの臓物は、周囲に不快な異臭を漂わせながら、ものの数分もかければ、巨木全てを覆っていた。
木の形をした臓物の、奇怪なオブジェ。木の下にシャーリィが立っていなければ、見た者全てが間違いなく、そう評していただろう。
だが、これは前衛的な芸術作品でもなければ、無論ただの悪夢の産物でもない。現実に起きている、シャーリィの「朝食」の一風景なのだ。
そしてその奇怪なオブジェは、見る見るうちに縮んでいく。肋骨の牙がうねるたびに、包み込まれた巨木はシャーリィの体内に運び込まれてゆく。
捕食。消化。融合。シャーリィはこの「食事」の最中、三つの作業を同時に行っていたのだ。
臓物のオブジェが、全てシャーリィの体内に消えた。
そのときそこに残っていたのは、赤と青と緑が、子供が絵の具で落書きしたまだらのキャンバスのように、これ以上ないほど混沌と混じり合った、巨大な肉塊だった。
肉塊は、人間の筋肉と木の枝をミキサーにかけ、出来上がったミックスジュースをそのままゼリーにしたような、吐き気を催しそうな代物。
その肉塊は、びくびくと震えながらも、再び動こうとしている。形を作ろうと、蠢いていた。
肉塊の下部からは、硬質の三本の突起が二組生えながら、足の形を整える。
肉塊の中ほどからは、爬虫類か両生類を思わせるような二本の肉の棒が、肉塊を突き破り生えてくる。辛うじて、それが両手であることがうかがえた。
足は伸び、手は太くなる。先ほどのエクスフィギュアの形態に徐々に近付いてはいるが、若干肉体が横幅を帯び、身長は優に4mを超えている。
生えてきた手のちょうど中間からは、震えながら頭部が飛び出る。
卵から孵る雛を連想する者もいるかも知れないが、そんな連想をした者は、すぐさま自身の愚かさを後悔する羽目になるだろう。
何せその頭部は、醜悪なこのエクスフィギュアの肉体の中でも、醜悪さの粋を結集したと言い切ってもいいほどの嫌悪感を引き起こすからだ。
エクスフィギュアの頭部の、その顔面。その顔面を見たならば、悪魔でさえここまで出来るのか、疑問に思うものさえいるだろう。
「ふう…お腹いっぱいだわ、わたし」
その顔面は、紛れもなくシャーリィ・フェンネス。シャーリィがまともな人間であった頃の面影を、唯一残す箇所であった。
先ほどまでは顔を失っていたけれども、この「朝食」がシャーリィに力をくれた。顔が再生したのだ。
「あ…んん!!」
そのシャーリィの顔面が、少しばかりゆがむ。彼女の胸部が、背中が、むずむずと動き出したのだ。
ぼずりょっ、という音を立てて、それらが体内から顔を覗かせる。
背中から飛び出たのは、未消化のままの巨木の一部。
胸部から飛び出たのは、どう見ても魔獣の口を思わせる、黄色い牙の林。言うなれば、胸部にもう1つ口が出来たようなものである。
正気を保っていた頃のシャーリィであれば、見た瞬間即座に卒倒していたであろう、自らの姿。けれども、今のシャーリィにとっては、この姿こそがありのままの自分。
朝日を浴びながらたたずむ一体の怪物は、こうして自らの肉体の構成を終えた。空を見上げながら、シャーリィは焦点の合わない目で空を見た。
「次はおやつが食べたいわね…」
巨木を呑み込んだはいいが、これだけでは今1つ。何か足りない感じがする。もっと食べ応えのあるものがいい。例えば…
人間とか。死体でもいいけれど、出来れば生きてる人間を踊り食いにしたい。
自分のお腹の中でじたばたともがき苦しむ人間が、どろどろに溶けて自分の一部になるなんて、想像するだによだれが垂れそうになる。
食べて、食べて、食べて、食べて食べて食べて食べて喰べて喰べて喰べて喰べて喰べて喰べて…
全身の至るところから、赤褐色の汚液を垂れ流し、シャーリィは湧き上がる欲望に耐えた。
その汚液は、あたかもよだれのようにさえ思える。草木を腐らせ、土を冒すよだれなどというものが、この世にあるとしたならば、の話だが。
みんなみんな喰べちゃえば、またお兄ちゃんに会える。
そうしたら、お兄ちゃんに抱きしめてもらおう。口づけをしてもらおう。優しく髪を撫でてもらおう。そうしたら…
本能の奴隷に成り下がったシャーリィは、原始的な渇望に悶えた。欲しい。全部欲しい。全部…
そのときだった。
シャーリィは、その方向に向き直り、棒立ちになる。
ニンゲンのニオイ。おいしそうな、ニンゲンのニオイ。向こうから風に乗って、流れてくる。
ちょうど、あの嫌な奴らのいる方向じゃない。あの嫌な奴らは、もっとたくさん喰べてからのデザートにしよう。
シャーリィはその方向に向き直り、一声吼えた。
「WWWWWWWWRRRRRRRRRRYYYYYYYYY!!!!!!!」
まあ、今は何でもいいや。向こうのニンゲンを喰べてから、色々と考えよう。
シャーリィの、唯一残された人間の部分…シャーリィの白い顔は、周囲の肉にうずもれて消えた。巨大な節くれだった醜怪な四肢を操り、歩き出す。
この島に誕生(うま)れた、禁忌の生物。この瞬間から、彼女の新たな生は、始まろうとしている。
シャーリィの顔面にまだ乗っかっていた、桃色の花のカチューシャ。彼女の兄、セネル・クーリッジが贈ったカチューシャもまた、シャーリィは取り込んでいた。
そのカチューシャからは、今や黄泉の国の住人であるセネルの悲哀が、漏れ聞こえるような気にさえ思える。
しかし今のシャーリィには、兄の悲哀を聞き取る耳など、恐らくは失っているはずであった。
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ショートソード(体内に取り込んでいる)
状態:エクスフィギュア化 傷口再生完了
第一行動方針:本能の赴くまま
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:B6の森
※この下は、現在のシャーリィの能力のまとめです。以降の書き手さん達の参考などにご参照下さい。
シャーリィの現在の容貌
・身長4m強
・太めのエクスフィギュア
・胸部中央に捕食用の巨大な口(周囲は牙で覆われている。肋骨の顎から進化)
・背中からは、未消化の木の幹が生えている
・頭部からは人間時の顔面の出し入れ自在
シャーリィの現在の能力
・捕食したものとの融合(人間・支給品などを問わず。捕食物の能力も使用可。一例はテルクェスマシンガンなど)
・テルクェスマシンガン、ショートソード
・内臓を敵にぶちまけ、直接消化する
・胸部の口を用いた獲物の捕食
・人間の臭いを嗅ぎつける嗅覚(大体の方角が分かるのみ。人数やその生死、距離は判別不能)
・桁外れの再生能力(獲物の捕食で再生する速度を加速できる)
シャーリィの弱点
・不明
(そういや、この戦いが始まって間もない頃から、ずっとジューダスと行動してたんだよな、俺。)
僅か半日前の出来事が随分と昔のことに思えて、ロイドは知らずため息をついた。
「ごめんな…」
「んっ?」
振り返るとメルディが瞳を潤ませている。
「メルディがせいで、仲間バラバラになって、ロイドに迷惑かけて……」
(おいおい〜、こーんな可愛い女の子の前でため息つくなんて、もっての外だぜぇ、ロイド。)
聞き覚えのある声が生々しく再生された。
声の主はもういない。だが、ロイドは自分でも意外なほど冷静に、その事実を受け止めた。
身近に守るべき対象がいるためだろうか。
それとも死に慣れてしまっただけなのだろうか。
ともかく、メルディを安心させるため、ロイドは笑みすら浮かべることができた。
「なーに謝ってんだ」
「でも……」
「一人でいたって、あの呼びかけを聞いたら、俺はそっちに向かってただろーし。気にすんなよ」
「…………」
「それより急ごうぜ!一刻も早くシースリの村に向かわないとな」
「うん……。ありがとな、ロイド……」
二人が少し歩みを速めようとした、そのときだった。
ロイドの耳はミシミシバキバキという音を捉えた。
木々が一気に倒壊している。轟音が背後から接近している。
状況を並べると、そうなる。
だが、肝心の、『何が起こっているのか』がわからない。
ロイドは剣を構え、体勢を低くした。
反射的にメルディは両腕を抱え、そこに彼女の友人がいないことを思い出し、眉根を寄せた。
(クィッキーがいないと、心細いよ……)
既に、轟音は間近に迫っている。
ロイドは獣の気配を感じ取った。空気にはしびれるような邪気が混じっている。
対峙するか、逃げるか。ロイドは手元の木刀とメルディを見比べた。
「……ひとまず隠れるか」
「メルディ、依存ないよー」
幸い、隠れる場所には困らなかった。岩陰で二人は息を潜め――やがて現れた光景に目を見開いた。
優にロイドを超える巨体。ぬらぬらした表皮と、そこに脈打つ異色の血管。
腕とも足とも判別できない肉塊から突き出す鋭利な爪。
自然の摂理に抗うかのように不自然に体内に埋め込まれた、黒光りする鉄の塊。
ときどき立ち止まっては何かを求めるように辺りをまさぐり、悲鳴にも聞こえるが到底知性は伺えない声を上げる。
単純に動作だけを追えば赤ん坊のように見えなくもないそれの頭部には、不釣合いに可愛らしい少女の顔が張り付いている。
その顔に見覚えがあった。一度、ロイドたちを襲ってきたことがある少女の顔だ。
おそらく他の世界から来た人々ならば、誰もが『モンスター』とみなしたであろう異形の姿。
しかしロイドの反応は違った。彼は、彼の世界で、よく似たものを目にしたことがあった。
(――エクスフィギュア――!!?)
今、目前にあるものは、要の紋のついていないエクスフィアを埋め込んだ人間の末路に酷似している。
ああなってしまった以上、元の人間に戻す方法はない。
実際、ロイドはエクスフィギュアと化した人々を、手にかけたことがあった。
止むをえなかった。だが本当は殺したくはなかった。彼らは人間だった。父さんだって、母さんを――
(って、そんなこと考えてる場合か!!)
途切れぬ思考の渦を無理やり遮断して、ロイドは『彼女』の動向に一切の注意を向ける。
通常、エクスフィギュアは人間の顔は持たない。
しかし敵には顔がある。理由はわからない。だが、一層事態をおぞましくしているように思えた。
ロイドは再び木刀を見た。
これで立ち向かうのは心もとない。しかしロイドは『彼女』を放置する気にもなれなかった。
他ならぬ『彼女』のために。
……こうしてシャーリィに気をとられていたロイドは、メルディの異変には気付かなかった。
彼は知らなかった。ロイドたちと出会う前にも一度、シャーリィがメルディと合間見えていたことを。
そしてそのとき、メルディの中のネレイドは、最も強く発現の兆しを見せたということを。
ふいに『彼女』が顔をあげた。
「いる……人の……におい……」
バキバキと人の胴体ほどもある太さの木々を玩具でも扱うかのごとくなぎ倒す。
ロイドは戦慄した。さすがに常軌を逸している。
(ひょっとして、エクスフィギュアじゃない、のか?)
己の直感に自信を失いかけた、次の瞬間、
パラララララララ
という軽い音と、岩が固いものを弾き返す音が同時に響いた。
ロイドとメルディの眼前を、地響きを立てながら樹木が倒れていった。
少しばかり位置がずれていれば、メルディは潰されていたかもしれない。
『彼女』の哄笑がこだました。じわり、じわりと重々しい気配が徐々に背後に迫る。
(やるしかねーか――!)
ロイドが決意を固めたときだった。
急に『彼女』は立ち止まると、踵を返しロイドたちから離れていった。
理由はわからない。ロイドたちの存在に気付いていたのかすら、不確かだった。
しばらく呆然としたロイドだったが、ふと我に返ると傍らの少女の安否を確認した。
「……!おい、大丈夫か!」
メルディは俯いていた。表情は確認できなかったが、それよりも気になることがあった。
――少女の周囲をうっすらと闇が取り巻いている――
「メルディ!?しっかりしろ!!」
ロイドが強く肩を揺さぶるも、メルディは顔を上げない。
消え入りそうな声で「ヤだ……あの音怖い……メルディ、そんなの、ヤだよ……」と繰り返すだけだった。
ちぢこまった小柄な体は、何かに抗っているようだった。
少女の限界を感じ取ったロイドは、ためらいなくメルディを背負って歩き出した。
打開策すら浮かばない。ならば、あの村へ向かうしかない。
単純思考なロイドならではの即決だった。
【ロイド:生存確認】
状態:僅かに疲労
所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る
第一行動方針:シースリ村に向かい、協力者と合流
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:メルディと行動
現在位置:B5森林地帯出口 C3村へ移動中
【メルディ 生存確認】
状態:TP消費(微小) 背中に刀傷(小)左腕に銃創(小) ネレイドの干渉大
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:ネレイドを押さえ込む
現在位置:B5森林地帯出口 C3村へ移動中
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ショートソード(体内に取り込んでいる)
状態:エクスフィギュア化 傷口再生完了
第一行動方針:本能の赴くまま
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:B5森
古びた教会の扉を、もたつきながらもリオンは開いた。
ずいぶんと長い間使われていない、埃のたった廊下を、彼は一人で歩いた。
ごぽん、とザックの中から音がした。
マリアン、と彼は聞こえないような声で呟く。
この声に答えてくれる人は、もういない。
廊下にある白っぽいドアの近くに、二、三人がけのソファーがあるのを彼は見つけた。
埃はきっと、払えば問題ないだろう。
彼はソファーの下にザックを置くと、真っ赤に染まっているボトルを中から取り出した。
「……マリアン」
そう呟くと、彼は傍らにソレを置いてまたザックを開き、中から参加者名簿を取り出す。
『ゲーム参加者を殺す』――これが、ミクトランからの命令だった。
けれども、自分は生き延びなければ行けない。
要するに、生き延びてゲーム参加者を殺し、マリアンを生き返らせるのが彼のすることだ。
そう、彼女は蘇り、元の世界に戻り、幸せに生きなければいけないのだ。
実際、どこに誰がいるのかはわからないが、結局全員殺さなければいけないのは事実だ。
ここに来る際にも遠くから様々な戦いの音が聞こえたが、教会につくということで
自分は頭がいっぱいだった。
参加者名簿をぺらぺらとめくると、リオンは其処に――仮面をかぶった少年――が
いるのに気がついた。
黒い髪。紫色の瞳。伏せられた目。
どう見ても自分だ、と彼は思った。いや、もしくはヒューゴの隠し子かもしれない。
けれど、仮面をかぶっているのにはなぜか事情があるのだと彼は察した。
会ってみる価値はあるのかもしれない。
――いや。
彼は瞳を伏せ、こめかみを押さえた。
もしかしたら彼はマーダーになっているかもしれない。
さらにこれは可能性だが、全く関係のない他人なのかもしれない――
『リオン=マグナス……言い忘れていたことがある』
「……っ」
突然の声に、リオンは一瞬体をびくりとふるわせた。
けれどもすぐに冷静な表情になる。
彼女を殺したのが、この男だとしても。
『参加者のなかで……仮面をかぶった、ジューダスと言う男がいるだろう?
丁度今、お前もそのページをめくっていて、なにか考え事をしていたはずだ』
「……」
彼は無意識に名簿を閉じる。
俯いて、眉間に皺を寄せる。
何かに、苦悶する。
『その男は……十と六の年だ。そして、容姿もお前にそっくりだ。
……この言葉が何を指しているのか、わかるな?』
「!」
頭のいいお前のことだ、とまた、心の中で声がした。
『その男に会ってみろ。戦うも自由、組むも自由、殺すも自由。
――そして、殺されるも自由だ。お前が楽しませてくれるのを待っている』
声は其処で途切れた。
傍らのボトルの中から、また
ぼこん
と音がした。
彼は名簿をもう一度開く。
ミクトランは仮面の男がどこに居るのかは説明していなかった。
けれど、先ほど自分の思った通り、会う分には価値がある。
ぼこり。
また、音がした。
「マリアン……嘆いているのか? 僕がこうなったことを?」
音のようなそれは、声にも聞こえて。
「嘆かなくてもいいさ。……きっとまた、平和に暮らせるのだから」
信じている。
また平和な日々が始まり、彼女が笑顔で暮らせることを。
信じている。
彼女が過去の人になってしまわないことを。
――だから、ミクトランの言っていた『ジューダス』に会おう。
ふとリオンは、以前ダリルシェイドの町で聞いたミュージシャンの歌を
思い出した。
「うざい」
あのときはそう思ったが、聞いていれば印象的なフレーズが残っている。
彼は心に刻まれたリズムを、思い起こした。
今の自分と、彼女にふさわしい歌なのだと思いながら。
――あのね、君がすごく嬉しい顔をしたら微笑んであげたい――
――君にいつも大きなぬくもりと優しさを全部あげたい――
――今の僕の手には誇れるものないけど ずっとそばにいたい――
――そして僕に出来る何よりも大切な言葉は『あいしてる』――
独り言なのか幻聴の所為なのか、彼は言葉を呟く。
彼女の言葉に、答えるかのように。
「……yes my lady」
【リオン 生存確認】
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:全身に軽い火傷 全身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 疲労 極めて冷静 眠りかけ
第一行動方針:マリアンを生き返らせる
第二行動方針:ジューダスと言う男に会う
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:G7の教会・廊下のソファー
ファラの演説。それは、シースリ村から遠方に位置するジファイブ町でも風に乗り、微かに聞えてきた。
町にとどまっていた漆黒の翼の面々もそれに静かに聞き入っている。
「自分から居場所を告白してしまうとは、とんだ間抜けだな……」
とは冷静なユアン談。
「まったくだ! きっとリスクも考えられないような猪突猛進な女なんだろうな!」
ユアンの言葉に賛成の意を表するのは、リーダーのグリッド。
しかし、女性陣の反応は少し違った。
「ファラ……さん……」
ミンツを発ち、王都へ向かう最中に幾度となく出逢い、そしてその度に方向音痴の自分に王都の方向を教えてくれたファラ。
彼女がいてくれたお陰で、自分は王立天文台で最愛の人と共に働けるようになった。
カトリーヌは、そんなおせっかい焼きだった彼女の言葉を一字一句聞き漏らさないようにしていた。
「彼女がファラ……なのね」
一方のプリムラは、実際に彼女とは会った事はない。
だが、大学においてキールと昔の話をしていて必ず出てくるのが、リッドという青年と彼女の名前だった。
伝聞によるプリムラの中でのファラ像は、少し強引だが、正義感が強く真っ直ぐな人というもの。
そして、まさにその想像通りの演説ぶりだった。
演説が終わりを迎えた後、漆黒の翼第二緊急会議は始まった。
議論は――
「ファラに協力する為に、C3村に行こうよ!!」
というプリムラの提案から始まった。
だが、当然ながら冷静で慎重なユアンは反対する。
「死にに行くようなものだ。わざわざマーダーが集まる場所へ行ってどうする?」
「そうだぞ! 我等漆黒の翼、一人も欠くわけにはいかないからな!」
グリッドのユアン同調の裏には、自身の死を回避したいという思いが大分込められている。
「で、ですけど、このゲームに反対する人があそこにいるというのなら、少しでも多く集まった方が……」
カトリーヌが遠慮がちに発言するとプリムラも勢いづく。
「そうよそうよ! それにファラって子、なんか体調ヤバ気味だったし、助ける為にも……」
「無駄だ。あそこに集まろうとするお人よしは、揃って殺されるはずだからな」
その発言に場は一瞬凍りつく。
プリムラやカトリーヌは勿論、ユアンに同調していたグリッドですら、息を飲んだ。
「あんなお人よしの演説を聞いて集まるのは、やっぱりお人よし――つまりはマーダーが現れ、戦ったとしても止めまでは刺せないような甘い連中だ。マーダーがそんな甘さの隙を突かないわけがない。
更に言えば、演説に同調したと見せかけて、集まった連中を皆殺しにしようとする狡猾な奴だって出てくるはずだ。お人よし達は、そんな奴が混じっている事を信じるはずもないだろうからな。恐らく、一網打尽になるだろうな。
それと…………ファラとかいう少女はもう手遅れだろう」
ユアンの言う事は正論に近いだろう。
それだけに、プリムラも言葉が続かない。
だが、彼女は言葉だけで反対意見をどうにかするような女性ではなかった。
彼女はテーブルを両手でバンッと鳴らし、立ち上がると入り口のドアを開ける。
「何処へ行く?」
ユアンが無駄だと分かりつつもプリムラに尋ねる。
すると、プリムラは振り返る。
「私だけでもC3の村に行く! あんた達が、そんなに冷血漢だとは思ってなかったわ!」
「ま、待て! 漆黒の翼を分裂させる気か!? そんなことはリーダーの俺がゆる――」
「さようなら!!」
グリッドが最後まで喋る前にドアが強く閉められた。
「どどど、どうする!? 漆黒の翼からメンバーが一人消えてしまったぞ!」
グリッドは妙に慌てていた。
彼は組織や仲間を絶対の存在と思う性格だ。
それだけに、グループ内での分裂など信じられないのだろう。
一方のユアンも、レネゲードという組織に所属していたが、彼の場合組織内での裏切りや派閥分裂などはあって当然のものと思っている。
それだけに今に際しても冷静だ。
「落ち着け。……お前がリーダーなのだろう?」
例え、その威厳が皆無に等しくても……とは言えない。
グリッドは自分に話を振られて、さらに慌てる。
「お、俺が連れ戻すのか!? しかしメンバーの気持ちを無理矢理変えさせるなど……」
「わ、私、追いかけます!」
グリッドが慌てている間に、意外なことにカトリーヌが外へと出て行った。
残されたのは男二人。
「……で、お前はどうするんだ、リーダー?」
「お、俺は…………」
グリッドは考える。
漆黒の翼のリーダーとして、自分はどうするべきか。
……いや、何を迷う。俺はリーダーなのだ! 偶には部下にビシッと決めなくてはいけないのだ!
答えは十秒で出た。
「俺は! リーダーとして彼女達を連れ戻してくる!! たとえメンバーの考えが違おうとも、我々は常に一つなのだからな! まずはとことん話し合いだ!!」
どこまでも、グループを一つにしたいと考えるグリッドに、ユアンは感心の念すらも覚え始める
「ほう。なら、早く行ったほうがいいのでは?」
「うむ! では留守を頼んだぞ、大食らいのユア――へぶっ!!」
格好よく、ドアの前で決めようとしたグリッドは、突如勢い良く開いたドアにしたたかに後頭部を強打し、そのまま倒れた。
ドアから入ってきたのは、出て行ったはずのプリムラとカトリーヌ。
そして、倒れるグリッドを気にすることなく、プリムラは目に渦を描きながら、外を指差して、ユアンに叫んだ。
「でででで、出たのぉ〜〜!! うううう牛みたいな大男が、たたたた大砲を持ってぇぇぇ〜〜〜!!」
勢い良く出て行ったはずのプリムラが、勢い良く戻ってきたのを見て、ユアンが呆れたように尋ねる。
「…………お前、私とは意見が合わなくて出て行ったのではないのか?」
「そ、それどころじゃないっての! 牛よ、牛!! あんた、何とかしなさいよ!!」
どうやら、その牛とやらのお陰で漆黒の翼は再終結したようだ。
しかし、その再集結を最も喜ぶべきリーダーは今も後頭部強打により倒れている。
ユアンは、グリッドに代わって本題に入る。
「……で、具体的には何があった?」
「だから牛よ、牛!! しかも大砲!」
カトリーヌがパニックのプリムラに代わり、状況を報告する。
「ま、街の出口でプリムラさんに追いついたのですが、説得をしていたら、いきなりこちらに誰かが向かってくる姿が見えて…………」
「なんか、いかにも悪人です〜って怖い顔していたんだから! しかも、私が捨てたっぽい変な金属製の大砲を持ってたし!」
ユアンは考える。
悪人面の大男、武器は大砲らしき兵器、そして進路はこの街。
加えて、ここがじきに禁止エリアになることを考慮すると、導き出される答えは一つ。
――街にまだ臆病者達が留まっていると考え、それを狩りにきたマーダー。
「やはり、裏をかく奴もいたか……」
ユアンは、気を引き締め覚悟した。
そして、プリムラ達に指示を出す。
「お前達! 今すぐ、その大男とやらに見つからないように街を出ろ!」
「出ろ……って、もしかして!?」
「あぁ……。昨晩話していた“あれ”をやる時のようだ……」
緊張する面々。
そこで、ようやくグリッドが復活した。
「……よし! 気を改めて彼女達を連れ戻しに……って、おぉ! 戻ってきてくれたか君達! さすが漆黒の翼の結束は最強だ! わはは!!」
状況を理解していないグリッドには緊張感を感じるわけもなかった…………。
ユアンは勿論、プリムラやカトリーヌまで溜息をつく……。
所変わって、街入り口。
ようやく、街にたどり着いたミミー一行だったが、急にミミーが立ち止まり、ぶるるっと身震いをした。
「おい、どうした? 風邪でもひいたか?」
「クィ〜〜」
トーマとクィッキーも立ち止まり、心配そうにミミーを見ると、ミミーはふるふると首を横に振った。
「大丈夫パン! 生まれてこの方、小生は風邪をひいたことがないパン!」
「そうか? なら、いいんだがよぉ…………」
「クィ、クィッキ!」
トーマはメガグランチャーを担ぎなおし、再び街の中へと歩き出した。
そして、そんなトーマの後ろをミミーは歩いていた。
ミミーがトーマの後ろを歩くのは、ミミーの身の安全を考えるトーマからの提案だった。ミミーの更に後ろには妙に索敵能力に優れるクィッキーも控えており、ミミー防衛用隊列は万全だった。
だが、この隊列は、同時にプリムラ達、向かい合って正面の位置からは完全にミミーやクィッキーの存在を隠し、大男が単独で街へと襲撃に来ているようにも見えてしまった隊列でもあった。
――これが、彼等の一つ目の失敗。
「街には何か食料があるといいパン〜」
「あぁ、そうだな」
トーマたちは和やかに会話する。
しかし、彼等はまだ知らない。ここが禁止エリア予定地であり、普通なら近寄らない場所である事を。
――これが、二つ目の失敗。
そして、何より、ここに先客がおり、彼等の作戦は侵入者ならマーダーか穏健派か如何に構わず誰にでも仕掛ける作戦であった。
――これが、三つ目の失敗。
だが、今の彼等にはそんな失敗に気付く由はなかった。
ただ、ミミーの身震いだけがそれを知らせていたのかもしれない。
「……だけど、なんか嫌な予感がするパン……」
それは、トーマにもクィッキーにも聞えないほどの小さい声。
だが、その予感は流石、女の勘というべきか少なからず的中するのであった…………。
悲劇が幕を開けようとしている。
【グリッド 生存確認】
状態:ほぼ健康 後頭部に打撲痕
所持品:無し
基本行動方針:生き延びる。
行動方針:漆黒の翼のリーダーとして行動。
第一行動方針:状況を把握する
【ユアン 生存確認】
状態:健康 TPにまだ回復の余地あり
所持品:占いの本、エナジーブレット、フェアリィリング、ミスティブルーム
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを信用していない。
第一行動方針:作戦発動の準備
第二行動方針:漆黒の翼を生き残らせる
第三行動方針:漆黒の翼の一員として行動。仲間捜し。
【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:健康 軽いパニック状態
所持品:セイファートキー、ソーサラーリング、チャームボトルの瓶、ナイトメアブーツ、エナジーブレット
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを磔にして島流し決定。
第一行動方針:街から脱出
第二行動方針:出来ればC3行きを提案
【カトリーヌ 生存確認】
状態:健康 動揺
所持品:マジックミスト、ジェットブーツ、エナジーブレット×2、ロープ数本、C・ケイジ
基本行動方針:帰りたい。生き延びる。
第一行動方針:街から脱出
【ミミー・ブレッド 生存確認】
状態:健康 嫌な予感
所持品:ウィングパック×2 イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ クィッキー
第一行動方針:街で食料調達
第二行動方針:今後の事を考える
【トーマ 生存確認】
状態:健康
所持品:メガグランチャー ライフボトル
基本行動方針:ミミーを守りぬく
第一行動方針:今後の事を考える
現在位置:G5の町
G5の町までまであの演説が聞こえている―――。
それはつまり、ファラの演説は島のほぼ全域にまで届いていることを意味する。
最も、教会まで届いているかは定かではないが・・・。
必然的に、ファラの声はカイルとミントの耳にも入っていた。
二人は橋から少し東に向かい、自体を把握するためにファラの声を聞いて草原に腰をおろしていた。
「ミントさん聴きましたか!?」
カイルは驚きの表情を隠しきれずに隣にいるミントへと振り向く。
「・・・ハイ」
その顔色は嬉しさを持ち、その中に悲しみを帯びた微妙な表情。
カイルはもしかしたら協力してくれるかもしれないと、そんな期待を込めてミントに顔を向けたのだが、その表情に戸惑ってしまった。
「ど、どうしたのミントさん・・・何かあった?」
「いえ、実は・・・」
ミントはゆっくりと息を吸って吐き、カイルに現実を伝える。
「確かにあの方の声には真剣な想いが感じられました。ですが・・・」
カイルはじっとミントの話しを聞く。
「カイルさんも気付いていらっしゃるとは思いますが、あの方はおそらくもうそう長くはないでしょう」
ミントの顔は至って真剣。その真剣な眼差しゆえ、カイルは思わず俯いてしまう。
確かにカイルは気付いていた。彼女の声に途切れ途切れ異様な咳き込みが混ざっていたこと。
そして『これが最期の仕事になるかもしれない』と言っていたこと。
そこからはみなまで言わずともイヤでも察してしまう。あの声の主は、極めて健康ではないということが。
そこまでカイルにも気付いていて、じゃあこれからどうすればいい?
やっぱり、あの声の下まで行くべきじゃないのか?
そんな衝動に駆られる。僅かな自尊心を持つものなら誰にでも訪れるモノだ。
だがミントはその考えを躊躇いがちに制止する。
「・・・あの方の下に向かえば、おそらく他の人たちも集まってくるでしょう。それは善悪問わずにです」
ミントの意見は的を射ていた。確かにそれが今の現状、それが事実。
つまりそれは、言葉にせずともあの声の下―シースリ村―は遅かれ早かれ色んな人たちが集まり、この異常な状況下の中互いに剣を交じ合わせてしまう混沌の戦場へと化してしまう。
ミントの冷静な判断がカイルにはひしひしと伝わってきた。
判っている。ミントさんは自分たちの身を案じて言ってくれているんだ。
そんな危険な場所に行けば死んでしまいますよと、残酷なことを彼女は頑張って諭して言ってくれているんだ。
それだけで今の自分の状態が判る。判ってしまう。
自分は誰かの隣にいて、誰かの隣に自分がいる。
だから言葉を交わし合って、的確に状況を判断できる。
本来はそんな危険な場所に行くべきではないと、臆病な自分が囁いてくる。
だけど・・・
「だけど・・・」
カイルはゆっくり口を開く。
自分の本当の意見を。
自分の素直な気持ちを。
「それでも俺は、あの声の人を助けたい」
知らずに右手が握り拳になっていた。それだけカイルは必死だった。
「英雄なんて肩書きじゃなくて、ただ純粋にあの声の人の気持ちに応えたいんだ」
今度は小さく声を絞る。
「そりゃ、俺の考えは後先なくて、理想主義なのかもしれない。でも」
ミントは黙って聞く。何を考えるわけでもなく、ただカイルの声を聞く。
「それが俺だからね。誰が何て言おうと、これだけは譲れない」
その瞳は確かにカイル自身の強い色が輝いていた。
「そうですか」
言って、ミントは
「では参りましょうかw」
なんてニコッとした天使のような微笑みをカイルに向けた。
「え・・・いや、あの」
あまりの呆気なさに困惑するカイル。
恐る恐るミントに声をかける。
「反対してたんじゃ・・・」
だがミントは「いえ」と言って、
「ただ私はシースリ村というところが人でいっぱいになってしまいます。と言いたかっただけです」
間の抜けた声で出発の準備をする。
カイルは開いた口が塞がらない。
(もしかして・・・俺の思い込み!?)
カイルはがっくりと肩を落とす。あまりに自分が真剣すぎたせいで彼女の雰囲気がものすごいぽわんとしていて・・・。
「ダメだ・・・気を持ち直さないと」
パンと頬を両手で叩き、気合いを入れなおす。思いのほか痛かった。
「それに・・・」
ミントが呟く。とても小さな声で。
「え?何か言った?ミントさん」
あまりの小ささに聞き取れなかったのでカイルは問いただすが、
「いいえ、何でもありませんよ」
と茶を濁して歩き出す。
「早くしないと置いていってしまいますよ〜」
カイルを急かす。後ろからは「待ってよ〜」という嘆きが聞こえてくる。
それに・・・
「カイル君ならそう言うと思ってましたから」
今度も本当に小さな声でミントはそう呟いた。
晴れてカイルは英雄なんて称号にこだわらず
自分の意志を貫く決意を手に入れた
だが完全に英雄を捨てたわけではない
彼は一人の少女の英雄であることに変わりはないのだ
【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:全身に軽い打撲 (ほぼ完治)
所持品:鍋の蓋、フォースリング、ラビッドシンボル (黒)
第一行動方針: 声の主の所に行く
第ニ行動方針:リアラとの再会
第三行動方針:父との再会
第四行動方針:仲間との合流
現在位置:F3草原
【ミント 生存確認】
状態:健康 TP2/3
所持品:ホーリースタッフ サンダーマント
第一行動方針:シースリ村に向かう
第二行動方針:仲間と合流
現在位置:F3草原
※訂正箇所
二人は橋から少し東に向かい ×
二人は橋から少し西に向かい ○
方向が痴ってました。すいませんでした
彼女たちが目を覚ましたのはここが魔女の釜の底と化し
その釜が塵と失せてからしばらく後でのことである。
2人は目を見張った。最後に見た景色と真逆だったからである。
金髪の少女、コレットはふと上を見上げる。空は高く、何処までも青い。
ここは確か部屋だったはずだ。コレットは記憶を辿る。
襲われた夜、堕とされかけた体、助けに来てくれた剣士、傷付いていく剣士、
守り通してくれた剣士、死の淵の剣士、そして―――
ふと最後の記憶に顔を赤らめる。あの時は彼を助けるため無我夢中だったが
流石に彼女は少女、今思えば気恥ずかしいものだったのだろう。
嫌悪感とかそう言った類のものではなかろうが。
普通なら両の手を頬に当てるのだろうが、後ろに回った手枷の為にそれは叶わない。
そうだ、あの剣士は―――そう思ったところ思考は中断された。
自分の横にいた少女が信じられないものを見ているかのような目をしていたからだ。
彼女は誰なのかを考える前に釣られてそちらを見てしまった。
彼女も目はいい、異常な程に。視界の先で倒れている彼と同様に。
「「クラトスさん!!」」2人が彼の名を呼んだのはほぼ同時だった。
2人は駆け寄る。すでに息絶えた骸の前に。泣きながら声をかけるが返事などあろうはずもない。
耐えられなくなって地下(今はもう地下ではないが)を出た、誰かいないのか、誰か、そうだ
サレさんは?あの人はきっと―――
サレはいた、かろうじてサレと判別できる程度だったが。
2人は恐慌した、特ににリアラの恐れはコレットの比ではない。
彼女の世界の最強の敵、バルバトス・ゲーティアを同時に見つけたからだ。
リアラは自身の理解の限界に達したのか、顔面蒼白になりその場に座り込んでしまった。
一度その姿を見ていたコレットも精神的に限界寸前になっていた。
辺りを見回した。あの時も自分を守ってくれた剣士、クレス・アルベインの姿を見つけようと。
その視力でコレットは見つけた、クレスではない。
このゲームの中でも襲ってきた最凶の敵、五聖刃のマグニスの遺体を見つけたのだ。
コレットは少し遅れてリアラの感情を共有し、脱力、座り込む2人。
もしここに誰か一人でも来たら2人はあっという間に命を失っていただろう。
それ以前に彼女たちが休息の直後でなかったら
心身衰弱した彼女たちにはこの惨状に耐えられなかっただろう。
心を病まなかっただけ救いだったといえるかもしれない。
しばらくした後、リアラはコレットに話しかけた。名前を、クラトスと行動していたことを、
サレにコレットの話を聞いて助けに来たことを。コレットも話をした。サレと出会ったこと、
、クレスに出会ったこと、暴走した男性、仲間のシルエット、現れる最強の2人、
死んだ仲間、悪漢に襲われこの城に来たこと、命がけでクレスが守ってくれたこと。
恐怖を共有したことがほぼ初対面の2人の距離を縮めた。年端が近いことも一役買っていた。
まるで互いの恐怖を慰めようと夢中で話す、自分の世界のことまでも。
知らない人から見れば2人は十分に友達に見えるだろう。
精神の均衡を取り戻した2人は瓦礫の中を探索する。
手枷つけたコレットはうまく物を持てないため実質リアラが運ぶ。
正確には手伝ったのだが、リアラに遠まわしに遠慮された。無論コレットは気づかない。
(リーガルさんもこんなに不便だったのかな…)
コレットは少し思い出す、ここにはいない仲間を、旅をしたあの頃を。
(でも、もうしいなは、クラトスさんは!!!)
もう帰ってこないあの頃。コレットは嫌悪する。無力で何もできない自分に。
更なる事実を彼女はまだ知らない。聞いていない。
見つけたものは5つ。
ダマスクスソード、フランヴェルジュ、オーガアクス、ピヨチェック。
そしてすでに弾切れとなった銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲の前にそれらを集めた。
その他のものは食料含めて破損がひどく、とても使用ができるとは思えなかった。
もっとも無事なものも彼女たちの細腕ではどれも使えたものではない、はずだった。
「やっぱり、サレさんも、クラトスさんも、クレスさんも…」
「うん…」
一通り調べて2人がたどり着いた結論。
リアラが眠りについた後マグニスとバルバトスがここを襲撃。
彼女たちを守るためにクラトス、サレが応戦、先に目が覚めたクレスも
戦いに身を投じ、戦闘の果てにクラトスを残して相討ちになり
その後起こった何かから私たちを守るためにクラトスが天使の力を解放した。
というものだった。
クレスの遺体がない事や破損したクナイがあったのだが
クレスは一人逃げ出すような人間ではないというコレットの証言と
クナイはマグニスかバルバトスが隠して持っていたのだろうという推測からこの結論となった。
クラトスはサレを疑っていたのだが、やはりいい人だったのだ。
「いい人も、悪い人も何で亡くなっちゃうんだろう?」
「コレット…」
リアラにかける言葉は見つからなかった。事実だからだ。善人、悪人、強者、弱者
みな等しく、確実にいなくなっている。もはや弱肉強食の形すら成り立ってない。
リアラは目を閉じる。自分の仲間たちを、既に1人は居なくなってしまった。
しかし、まだ心を折るわけにはいかない。ハロルドに、ジューダスに、そして、
カイルに会うのだ。なんとしても生きて、生きて帰るのだと、強く思う。
「あなたにもまだ仲間はいるんでしょう?大丈夫、きっと会えるよ。」
「リアラ…そうだよね、まだ終わりじゃないよ、絶対。
ジーニアスにも、ゼロスにも、ロイドにも会ってないもん。まだ、大丈夫。」
リアラの言葉にコレットは心を奮い立たせる。そうだ、まだ終わりじゃない。
まだ諦めるには早すぎる。まだ、頑張れる。
「リアラ、励ましてくれてあり「どういうこと?もしかして生き返らせる方法があるの?」
「え?」
リアラはここまで言って自分の失言を恥じた。コレットも知っていると考えていた自分を恥じた。
コレットは聞いていないのだ。放送を、禁止エリアを、この六時間の間の結果を、知らなかった。
しかし、こで口を噤んだ所でその意味を推し量れないほどコレットは鈍感ではない。
「どういうこと…生き返らせるって…」
「…クラトスさんがあなたの治療をしている間に放送が流れたの。」
コレットの気迫にリアラは観念した。なるだけ主観を交えぬよう事実を伝える。
既にいない、彼らの結果。それを聞いた後、コレットは何とも言えない状態になった。
喜怒哀楽、言葉ではいえないようなその顔を見て、言葉に窮したリアラは目を伏せた。
目を伏せたその先に、きれいな石を見つける。吸い込まれそうなその輝きに導かれ
石を拾い、手にかざし、見つめる。榴弾砲から外れた、エクスフィアを。
なんで?なんで?なんで?彼女の頭に疑問が浮かんでは消える。
議題は「なんで彼らが死んで私は生きているのか」
自己犠牲や自虐は彼女の性格ではあるのだが。今回の場合は度合いが違った。
もう仲間残った仲間はロイドしかいないという事実。
(しいなの方が、ジーニアスの方が、ゼロスの方が、クラトスさんの方が、私なんかより)
コレットの思考が、自虐から自害に変わるのは時間の問題だったが、先に状況が動いた。
リアラの悲鳴にコレットが目を向けた。リアラの左手には寄生を終えたエクスフィア。
「何…これ…嫌…」
動転しながらリアラの右手は石を排除しようとしている。
「ダメ!!」慌ててコレットはリアラを制する。
単純な性格が功を奏したのか、人一倍他人の死を拒絶する彼女は目の前の危機に集中した。
コレットはロイドに聞いた記憶を総動員しエクスフィアを見る。
見た限り普通のエクスフィア、しかし要の紋が無い。
(エクスフィアっつーのは直接つけても体に毒なんだよ、でも体に直接付けないと
効果が無い。だから要の紋、抑制鉱石にドワーフの呪いをかけたもので土台ににして毒を抑制するんだ。
要の紋無しで付けちまったら?取り外すだけでも危険だからなー、要の紋埋め込んだ
アクセサリを一緒に付けて土台代わりにするしかないんじゃね?)
エクスフィアは外していないから今のところエクスフィギュアになる危険は無い。
しかし要の紋が無い以上時間がたてば何が起こるか分からない。
最悪、エクスフィギュアになるかもしれない。要の紋を作れるロイドは何処にいるか分からない。
そもそも抑制鉱石がこの世界にあるか分からない。分からないことだらけで八方塞がりになった。
(ロイド…!!)
彼女は強く彼を思い、そして見つけた。ロイドからの誕生日プレゼント。
心を失った彼女を助けるためにロイドがくれた、要の紋のネックレスを。
「リアラ、聞いて。あなたは私が護る。絶対に約束する。」
(ごめんロイド、私のせいでいろんな人が傷ついちゃったよ。)
コレットは諭すようにリアラに語りかける。
「代わりに…って言ったら怒るかな?お願いがあるの。」
(しいなも、ジーニアスも、ゼロスも、クラトスさんも護れなかった。)
少し落ち着いたのか、リアラの呼吸は緩くなった。
「あなたは、あなたのままでいて。あなたの思うように生きて。」
(私を護ってくれた人も、みんな護れなかった。)
コレットが何を考えているのかは不明瞭だったが、
リアラは彼女の真摯な顔つきにこくりと頷いた。
「ありがと。じゃあ、このネックレス…取ってくれるかな?」
(力が無いのって、こんなに辛かったんだね。)
リアラは静かに、ゆっくりと、目を瞑るコレットの後ろ首に手を回す。
日常生活ではありえない接近。そっと、ネックレスを取る。
「それを、身に着けていて。多分、それで、だいじょぶだから。」
(でも、この子だけは、絶対護ってみせる。どんなことをしても)
リアラは言われたとおりに身に着ける。
「もういっこ、お願い聞いてくれるかな?初めて同い年位の人に会えて、嬉しかったんだ。
だから…」
(だから、許してくれるかな?でも、信じてるよ―――)
天使の羽が本人の意思を無視して現れる。終わりの時間が近づく。人としての時間。
「―――嫌いに、ならないで。」
(ロイド。)
辺りが、一瞬光に包まれる。終わったとき、光の中心には少女が頭を垂れていた。
「コレット、大丈――」
リアラが慌ててコレットに寄ろうとした時。コレットに異常が起きた。
背中から聞こえる びき という音。手枷を外そうと、否、壊そうとしていた。
彼女は大の男を片手で軽々と持ち上げるほどの力持ちである。その彼女が壊せなかった
手枷を今更壊そうとしている。彼女に手枷は壊せない、今までの彼女には。
続いて みし、とかプチ、とかの音が断続的に聞こえる。自身の筋繊維を破壊しながら
手枷に亀裂を走らせる。リアラには成り行きを見守るしかなかった。バキンと
音がして手枷の接合部は壊された。コレットの手首は骨に損傷は無いものの
内外の出血で真っ赤になっている。しかし彼女はそんなこと蚊ほどにも思っていないかの様に
武器に目を向ける、剣ではない、斧でもない、銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲に目をつけ、
持ち上げる。持ち上げるだけならまだしも、それを縦横無尽に振ってみせる。どうやら
手枷を壊すよりこちらの方が簡単な様で、これを武器と決めたらしい。
ふと、コレットは東を見据える。
天使としての鋭敏な感覚が何かを突いたのか。しかしその瞳は赤黒く淀んでいる。
彼女の仲間が見ればどうなったか一目で分かるだろう。
世界の為に己の全てを犠牲にした少女の成れの果て、
マーテルの器、無機生命体・コレットである。
【リアラ 生存確認】
状態: TP半分まで回復 エクスフィア強化 困惑
所持品:ロリポップ 料理大全 フルールポンチ1/2人分 ????
ダマスクスソード、フランヴェルジュ、オーガアクス、ピヨチェック
第一行動方針:状況の整理・方針の再設定
第二行動方針:カイルを探す
第三行動方針:避けられない戦いは戦う
現在位置:E2の城跡
【コレット 生存確認】
状態: TP3/4 無機生命体化 (疲労感無視)
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(残弾0)
第一行動方針:防衛本能(攻撃意思に対する完全抹殺)
第二行動方針:非戦闘状態ではリアラに同行する。
第三行動方針:???
現在位置:E2の城跡
無機生命体の解説
・五感のうちの触覚(痛覚含む)、味覚の欠落
・発声不可能。
・感情の欠落
・新陳代謝の停止により睡眠、食事が不要
・必要ならば身体の損傷を無視して限界以上の力(AT、体力)を発揮可能。
・術技は問題なく使用可能(詠唱時間は要るが詠唱は必要ない)
・損傷・回復は通常通りに行われる(HP自動回復やDFが強化されているわけではない)
・ドジっ娘ではない(=秘奥義発動不可)
369 :
業務連絡:2006/01/24(火) 08:01:36 ID:3bWvbirO
感想議論スレでの話し合いの結果、拙作「OutBreak」は無効となりましたので、その旨をここに宣言します。
要領の無駄遣いをご容赦下さい。申し訳ありませんでした。
「決戦の時は来た」
ユアンが冷静に言った。静まり返る室内。グリッドは前方から迫り来る牛の様な異形を監視している。
プリムラとカトリーヌは荷物をまとめ、真剣そのものの目でユアンを見る。
「いいか、今回はこちらにも半端ではない危険が伴う。逃げ遅れてこちらが煙に巻き込まれたら元も子もない。
急いで町をでたら北上しよう。
幸い、先ほどの放送でC3村に向かう者は多いだろう。運が良ければきっと敵にも会わない。
しかし、とくにカトリーヌ」
「…は、はい!」
名指しで呼ばれ、はカトリーヌ急いで返事をする。
「お前は極度の方向音痴だ。必ず先頭を走るなんて思わず、プリムラやグリッドに続け。
そしてみんなは決して後ろを振り向くな。とにかく逃げ切る事に専心するんだ。
仮に何かあるとすれば……私がなんとか足止めをする」
しかしそれに反発したのはグリッドだった。
「しかしお前一人では!!」
「大丈夫だ。私もただの怪物相手ならば生き延びる自信がある」
どこまでも冷静なユアン。
しかし一言一言に己の実力と頭脳に確かな自負があり、それは恐らく戦闘レベルでは最低であろう三人を勇気付けた。
「とりあえず手短に確認を行う。
ブーツなどは装備したな?逃げる時の要となる。
忘れ物もないか?
あと、火を直ぐに広めるための油もまいてあるな?」
するとグリッドが叫ぶ。
「あいつが町の広場まで入ったぞ!!」
ユアンの眼が一層厳しくなった。
「放火作戦、開始する」
そんな事はつゆ知らず、トーマとミミーはずんずんと町の中を歩いて行った。
「おい」
「なんだパン?」
「この町にいいものがあるといいな」
トーマが笑顔で背後のミミーに訪ねる。
「そうパン!こんな大きな町ならきっと大きな釜があるパン!もっと美味しいパンも焼けるパン!牛さんは何を食べたいパン?」
「そうだな…ミートパイ…とかは肉がねえから駄目か。任せるぜ。お前の料理は何でも最高に旨いからな!」
ミミーがこの上ない笑顔でトーマに答える。
「じゃあミミー特製のキッシュを焼くパン!きっと牛さんも驚くパン!」
「キッシュ…?何かよくわからんが、期待しているぜ!」
トーマもさらに笑顔で答えた。
この二人にはこの町がとても素晴らしいものに見えた。
早く、宿屋などに入って一緒にお茶をしよう。そしていろんな話をするのだ。
ここがバトルロワイアルの会場なんて事は二人には関係なかった。
例え、喧嘩をしてもフライパンで叩かれようとも、二人でいるのは楽しかった。
特にトーマに至っては今までで初めての、ヒューマの友達だった。今までヒューマに蔑まれていた思い出が遠い昔の記憶だったのではないかと思ってしまうくらいだった。
この少女は(彼は当然ミミーが二十歳を越えているなんて事は知らない)無償の友情をガジュマの自分に注いでくれるのだ。
しかし現実の闇色の刃は確実に彼らに向いていった。
歩いていたトーマの足が止まった。町の異変に気付いたのだ。
ガジュマの発達した耳がぴくっと動く。
「(逃げる足音…?二、三人か…?)
ちょっとミミー、下がっていろ」
トーマは彼女に注意を促した。
「誰かいるパンか?ミミーにはわからないパン」
「いや…数人いる…間違いねえ…」
警戒してトーマがじり、と構える。
目つきが一気に険しくなった。
―――その時だった。
ドッと剛烈な音が町中に一気に響く。
「なっ…!!」
「牛さん!炎が…!」
目の前に炎の柱が立ち上がる。
どんどん町を覆ってゆく。
通常では考えられない程の火の回りだった。
ユアンがいたのは宿屋の屋上の死角だった。
容赦なく建物を焼き払ってゆく。
トーマからはその姿が見えなかったため、まるで独りでに町が炎に包まれたかのような光景だった。
「ど、どうなっているんだ!!能力者か!?」
トーマが迫り来る炎を磁のフォルスでこちらに来ない様に炎の軌道を歪めながら叫ぶ。
「牛さん!!左!!」
「何!?」
猛る炎が一気に家屋に回り、崩れた壁がトーマをめがけて倒れてきた―――。
【グリッド 生存確認】
状態:ほぼ健康 後頭部に打撲痕
所持品:無し
基本行動方針:生き延びる。
行動方針:漆黒の翼のリーダーとして行動。
第一行動方針:町から脱出
【ユアン 生存確認】
状態:健康 TP1/3消費
所持品:占いの本、エナジーブレット、フェアリィリング、ミスティブルーム
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを信用していない。
第一行動方針:作戦の遂行
第二行動方針:漆黒の翼を生き残らせる
第三行動方針:漆黒の翼の一員として行動。仲間捜し。
【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:健康 軽いパニック状態
所持品:セイファートキー、ソーサラーリング、チャームボトルの瓶、ナイトメアブーツ、エナジーブレット
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを磔にして島流し決定。
第一行動方針:街から脱出
第二行動方針:出来ればC3行きを提案
【カトリーヌ 生存確認】
状態:健康 動揺
所持品:マジックミスト、ジェットブーツ、エナジーブレット×2、ロープ数本、C・ケイジ
基本行動方針:帰りたい。生き延びる。
第一行動方針:町から脱出
【ミミー・ブレッド 生存確認】
状態:健康 混乱
所持品:ウィングパック×2 イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ クィッキー
第一行動方針:炎の対処
第二行動方針:街で食料調達
第三行動方針:トーマにキッシュをつくる
【トーマ 生存確認】
状態:健康 混乱
所持品:メガグランチャー ライフボトル
基本行動方針:ミミーを守りぬく
第一行動方針:炎の対処
第二行動方針:ミミーのキッシュを食べる
現在位置:G5の町
374 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/27(金) 01:17:23 ID:gtuMn5JX
テイルズはこの板ではとりあつかわないことになりました
今後一切2ちゃんねるでテイルズに関係するスレッドを立てないでください
RPG板自治スレ委員会
375 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/30(月) 10:22:34 ID:tL1BUrCz
335:名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/01/16(月) 20:20:36 ID:yMJqli/F
Dで感動して泣きまくり、更にキャラ萌えした腐女子が通りますよ。
D2…ジューダスに対するキャラ萌えとロニの発言中心にはびこるホモ要素、語られなかったスタンとリオン(のホモ臭いシーン)そして声優陣のフルボイス仕様(主にソーディアン)にウハウハwktkするしかなかったよ。
…と、さんざんガイシュツかもだがこのゲームは99%腐女子向けかとw
これが言いたかっただけ。豚キリすまそ
376 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/30(月) 10:36:38 ID:tL1BUrCz
335:名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/01/16(月) 20:20:36 ID:yMJqli/F
Dで感動して泣きまくり、更にキャラ萌えした腐女子が通りますよ。
D2…ジューダスに対するキャラ萌えとロニの発言中心にはびこるホモ要素、語られなかったスタンとリオン(のホモ臭いシーン)そして声優陣のフルボイス仕様(主にソーディアン)にウハウハwktkするしかなかったよ。
…と、さんざんガイシュツかもだがこのゲームは99%腐女子向けかとw
これが言いたかっただけ。豚キリすまそ