ごろりと寝返りをうつと、寝る前に読んでいた雑誌の角が当たって痛い。 オレは寝起きで掠れる声で「う」と「あ」の間の音を出す。 にかわでも塗ったように重い目蓋を手で擦って無理やり開ける。 庭先を濡らしただけで終わった雨の匂いが、鼻を掠める。 それでようやく目を覚まして、オレは台所へ向かい、開口一番 「ヘンな夢を視た」 と、告げた。 「へ、へぇ〜、今日は少し肌寒いし、雨も降ってたし、そのせいじゃないですか?」 何のせいだ。 そ知らぬ顔で、カティアはお茶を用意してくれて、オレも笑いを必死で堪えながらそれで唇を湿らせた。 「うん、カティアっぽいヒトが出てきた」 「あははははは、わ、私っぽい、ですか。私じゃないんですね?」 「自己申告じゃ、そうなる。でも、カティア的な声だった」 カティアはどうやらおやつに何か焼き菓子でも作るつもりらしく、小麦粉と卵をかき混ぜている。かちゃかちゃと忙しなく泡だて器がボゥルを叩く。 なんだか、面白くなってきた。 「ん〜、で、何か聞かれたんだが……」 「な、何を聞かれたんですかッ?」 振り返り、ほんの少し期待に瞳を輝かせるカティアに、嗜虐心がそそられた。 「それが、何を聞かれたのか、忘れた」 「……はぅ」 とたんに、大好きなご主人様に遊んでもらえなかった子犬みたいな声で肩を落として、ひどく可愛らしい。 「や、何か尋ねられたのは憶えてるんだ、でもそれが何かが思い出せない」 「…………そうですかそうですか」 ふくれっ面でカティアはツンとそっぽを向いて、胸の奥、一番柔らかい何かを鷲掴みにされた気がした。 もうさすがに悪い気がしてきて、オレは苦笑いを温いお茶で飲み下してから言った。 「ああ、そうだ」 「何ですか?」 華奢な肩が、不機嫌そうに小麦粉をかき混ぜている。その背中に 「プレゼントなら、これからオレとデートしてくれないか?」 と、笑いかけた。
953 :
蛇足 :2009/09/23(水) 06:12:19 ID:I/TPBWaa
「カティアちゃ〜ん、今日おやつにシフォンケーキ焼くって言ってたよねぇ、デコレーションさせてくれないー? っていうか手伝うー」 「もう居ないよ」 「アレ? でもさっきメレンゲ作ってたのに?」 「はいこれ」 「なにこれ? カティアちゃんの書置き?」 「はいこれ」 「ボゥルにメレンゲ……えーっと『後は任せた』……? え?」 「メルア、私、もうお腹の限界」 「えー」
>>951 はや、つかさんだが……
>>950 は……あれは俺の知っている紅い色と同じなんだろうか。
何にせよGJ.
>>954 や、合ってる。多分、それであってる。
>>951 アンタって人はーっ!
なんというものを落とす!
カティアのスカートめくりたいよう…
めくったその先にあるのはいつものパイスーでしたさ
なんでこんなにフランツなんだ、アンタ達(951&954)はー!
春にウリバタケさんに譲ってもらった今時分珍しいフィルムカメラを持って、時折ぶらぶらとその辺りを歩いては撮ったりしている。 半年経ってそこそこ撮影に慣れてきたこともあり、オレは先週末の親類の結婚式にそれを持って出席した。 叔母の娘さん……オレにとっての従姉妹にあたる人で、七つばかり年上のお姉さんだ。 背中まで伸びた天鵞絨のような黒髪と、ヘマタイトのような黒い瞳の、姉さん。 姉さんは地元じゃ評判の美人で、国立大学の経済学部を卒業後、オレでも聞いたことがある大銀行に就職する程の才媛だった。 よほどのことがない限り安定した高収入が約束されていたというのに、姉さんはわずか一年でその職を手放して、とある開店したての洋食店のフロアチーフになった。 勘の良い人ならもうお気づきだろうが、姉さんの旦那はこの店のオーナーシェフだ。 こちらも一応顔見知りだ。姉さんと同い年で、古くからの友人……いわゆる幼馴染の男。 こう言っては難だが、糸目気味でだんご鼻気味で背も低い。女性としても小柄で華奢でむしろそこが儚い感じがして良い姉さんと比べても少ししか変わらない。 間違いなくオレの方が背は高いな。 どこかふざけているような物言いをするくせ、気難しく意地っ張りで面倒な所がある。裏を返せば仕事には誠実な、良くも悪くも職人気質……らしい。姉さんはそう笑っていたが。 間違いなくオレの方が人間性は良いと思うのだが。 洋食屋の息子で、高校食物科卒後にどこかのお店で修行を五年、実家の店舗拡大に伴い帰ってきたらしい。 二人で手に手を取り合い新店舗の経営を二年強、ようやく軌道に乗り始めたこともあり、ついにゴールインという訳だ。 自身の店を使っての華燭の宴は、品の良くまとめられていて、花嫁のセンスの良さが出ていた。 店のシェフ二人が店長夫妻の為に作った料理も華美に走りすぎず、手間の掛かったもので、今日までの姉さんの苦心が透けて見える気がする。 多分、職人気質で面倒くさい店長相手に、姉さんはこのメニュー開発に艱難辛苦の日々だったに違いない。 姉さんがフロアチーフを勤めているだけあり、スタッフも優秀で、気配りも行き届いている。なるほど、この店なら流行るはずだ。これも姉さんの内助の功というヤツだろう。 オレは、手にしたフィルムカメラの物珍しさもあり、何度も撮影を請われ、式の間中ファインダーを覗いていた。 ファインダー越しの結婚式はひどく現実味がなくて、オレはまだ何かの冗談のような気がしていた。
そして、今日。 オレはフィルムを預けていた店からの連絡に、しぶしぶ回収することにしたのだ。 ずっしり重い写真の束を持って帰る道すがら、カティアを見かけた。 珍しく髪を解いていて、背中にまで届く艶は黒絹糸。 振り返る眼差しは、朝露を宿した蜂蜜色。 「統夜、今帰りですか?」 制服のままで、食材のつまったトートバッグを肩にかけたカティアは、楽しそうに近寄って来る。 「ああ、そうだ」 オレは、ほんの少しの後ろめたさと、同時に救われた気分になる。 ようやく、本当にようやく。 「それは?」 目敏くオレの手にある珍しいモノに反応したカティアに 「写真だよ」 とその重い荷物を見せてみる。数冊に分けられた写真の束で、そのほとんどに姉さん夫婦が写っている。 「帰ったら、見てみる?」 「はい、この前の日曜のですね? 結婚式ですか」 「ん、まぁ、疲れたな」 「もう……こほん、いつかはしなきゃいけないんじゃないですか?」 「……縁があったらなぁ」 何となく、目を逸らす。 カティアは何も言わずに苦笑したらしく、小さなため息が聞こえてきた。 秋の少し物憂げな宵闇の中、遠く耳に届く虫の声は潮騒の様。 隣には、すっかり冷たくなった二煎目のお茶と、数冊の写真の束に見入るカティア。 「綺麗、ですね」 全てを見終わったカティアは、開口一番そう言った。 「やっぱり憧れたりするのか?」 オレは冷たい煎茶を舐めながらそう尋ねる。 「はい。なんだか暖かな感じのする式ですね、こういうの……やっぱり憧れちゃいます」 「そうかー、カティアも憧れるかー」 適当にぱらぱらと、写真を眺める。 煌びやかな衣装をまとい、彼女は微笑む。 硝子細工めいたその肢体。 鮮やかな天鵞絨の黒髪。 処女雪の素肌。 水蜜桃の唇。 そしてなによりも印象的なのはその眼差し。 澄み渡る夜明けより、燃え立つ黄昏より、収穫間際の稲穂の群れより……何よりも煌く、黄金の――――いわば、蜂蜜色の。 ふと、思い出す。 重たい写真の束の中、とある一冊の一枚目。 何気なく写した、その一枚を取り出した。 風に乗り、幾重にも撒かれる水の飛沫と、それを彩る夏の強い日差し。 偶然の、一枚だった。本当に上手く撮れたものだ。 七色の煌びやかな光をなびかせた少女。 洗いざらしの白いシャツと、少し泥で汚れたデニムパンツは、お世辞にも憧れられるようなものじゃない。けれど……。 「あ、コレ……」 心底楽しそうに水を撒く彼女の笑顔が、綺麗に撮れた一枚だった。 「今回一番の、だなぁ」 「え?」 きょとんとした顔で振り向くカティアに、オレはゆっくりと答えた。 「ありがとう」
963 :
蛇足 :2009/09/25(金) 23:55:56 ID:wlKHmk6E
「あ、コレこの前の結婚式のですね」 「ああ、メルアも見るか?」 「はい」 「………………どうかしたか?」 「いえ、初めっから、勝ち目がなかったんだなぁ、と思っちゃいました」 「何が?」 「ほら、花嫁さん。挑みかからなきゃみたいな頼りない眼差しとか、雰囲気が……カティアちゃんみたい」 「…………気のせいだろ」 to be continued "triangler (fight on stage)"
数日ぶりに来たらGJなSSで溢れていて驚いたぜ! みんなGJ!!
ダレモイナイ ヤ、ツカスルナライマノウチ…… 先日の式の写真が出来たと叔母に電話した。 どうやらオレが留守の間に姉さんが取りに来たらしく、バイトから帰ったばかりのオレを出迎えてくれたのは、居間に残った紙切れ一枚。 几帳面に整った文字で「従姉妹の方がお見えになり、写真を渡しておきました。何かお話があるそうで、しばらく留守にします カティア」と書かれたチラシの裏を何となく蛍光灯の灯りに透かしてみた。 家には誰も居ない。 三人とも行ったのか、後の二人はまだ帰ってないのか。 いつもなら夕食の時間だ。カティアなら、留守にする時オレの食事くらい用意してくれているのだが、今日はそんな気配もない。 台所を覗いてみるが、何の用意もしていない。 オレは久しぶりに焼肉のタレをオカズにするかなぁ、とぼりぼり頭を掻きながら、ため息をつく。 ふと、居間を見渡す。 かつては親父の小難しい本が並んでいた棚に、テニアが作るなり集めるなりした意味不明の彫刻やオモチャが並んでいる。 その隣の壁には、夏の間にメルアが参加した部活の集合写真が飾られている。 台所のホワイトボードには、カティアの走り書きのメモや磁石で止められた広告が残っている。 やれ「洗剤買う」だの、やれ「水道断水午後二時から二時間」だのの覚え書きに混じり、何かの売り出しの広告がゆっくりと揺れている。 人が生きている、その息遣いがある。 オレ一人で居た頃にはなかったそれを情だというのなら、それに浸れる今はなんと幸せなことか。 オレは何となく浸りたい気分になり、ソファーに腰を下ろすと、そのまま目を閉じて大きく深呼吸してみた。 バターの匂いで目が覚めた。 いつの間にかうたた寝をしたらしい、オレは大きな欠伸をしてから重たい目蓋を開けて 「……おはようございます、統夜」 真っ直ぐにこっちを見つめるカティアと目が合った。 「や、お、おはよう。ドコ行ってたんだ?」 「従姉妹の方と少し。すみません、食事の準備もしないで。これ、お土産です」 「あ、おお。オムライス? 姉さんの店のか……焼肉のタレご飯食べずに待って、正解だったな」 気恥ずかしさを誤魔化したくて、笑ってそのお土産に興味を示してみせた。 どうやらバターの匂いの正体はこれであるらしい。その匂いにつられて、オレのお腹がぐるると自己主張する。 照れくさくて苦笑いをしてみせると、カティアは何かを堪えるように、少しだけ寂しそうに、けれど微笑んで、そうしてから――― ……ゆっくりと、オレを抱きしめた。
966 :
蛇足 :2009/10/01(木) 00:59:45 ID:ADOxjjYg
何度目かの逡巡をする。その家のインターフォンを押そうとして、結局また怖気づいてしまう。 言ってしまえばただの伯母の家。今は従兄弟の少年と、戦災孤児だという三人の少女が住む家。 アタシが最後にこの家を訪れたのは、もう随分前になる。確か、伯母が亡くなる以前だから……十年。それから数年後、父親も亡くしてしまった従兄弟の少年……統夜クンをウチで預かることになった。 理屈っぽくて、けれどどこかユニークな物言いをしていて、遠慮がちで、少し気難しく、割と意地っ張りで、面倒な性格をしていて、そこが年下の男の子らしくて可愛らしくもあった。 七つ年下の統夜クンは、いつだって分かりにくいけれど優しい男の子で、従姉妹のお姉さんとしてはそれを理解してくれる女の子が現れてくれるのか心配もしていた。 そんな日々も、わずか一年半程。 高校をかつての自宅近くの陣代にした辺りから、アタシ達もそんな気がしてはいた。 統夜クンは、結局両親の残してくれた家を気にして、アタシ達から少しだけ早い一人立ちをして行った。 そして、紆余曲折。 統夜クンが、戦争に巻き込まれてその行方すら定かではなくなったあの日々。 こんな風になるのだったら、縄で縛ってでもこの家に留まらせるべきだったとアタシ達は言い合い、様々な場所で統夜クンの行方を捜し求めた。 けれど統夜クンは、無事に帰ってきてくれた。 今度こそウチで預かり、せめて成人までは居てもらおうと決めたアタシ達だったけれど、逆に統夜クンはとんでもないコトを言い出した。 「この三人……ウチで引き取ろうと思ってる」 ネルガルで身柄を保護されていた統夜クンは、面会に訪れたアタシ達にそう切り出した。 統夜クンの眼差しは、父親譲りの不思議な色をしている。 赤味掛かった琥珀色の眼差しは、決して譲らないと雄弁に語っている。 戦争中に知り合い、色々大変な時期を共に潜り抜けたのだという戦災孤児の三人は、可愛い女の子だった。 お父さんもお母さんも始めは反対した。 当たり前といえば、当たり前。 未成年の男女が一つ屋根の下生活を共にするなんて、道義的に賛成できるわけがない。 経済面だってそう。ご両親が遺してくれている資産は確かにそこそこあったけれど、それも統夜クン一人がやっていける程度。 いくら四人に戦争被害での保証金が出ることになるといっても、これから進学を控えて、お金なんていくらあっても足りないくらい。 それから毎日のようにアタシ達は統夜クンの元を訪れた。 けれど結局統夜クンは折れなかった。 戦争中にお世話になったというイギリス人の方が保護者を買って出てくれているのだから、そのマデューカスさんにお預けするのが筋だ。 統夜クン自身、まだ未成年で保護者を必要とする立場なんだから、そんな無理を言わないで。 何度も繰り返したけれど、統夜クンはただただ頭を下げるだけだった。 もう、彼女達を離れ離れにするわけにはいかない。 オレ達はもう、家族みたいなものだ。血は繋がってなくても、その縁トカ、絆みたいなモノを信じている。 何度も繰り返す深い琥珀の瞳は、本当にひたむきで……だから最終的には、アタシ達が折れることになった。 もちろん統夜クンの保護者として、幾つか条件は付けさせてもらった。 さすがにウチに四人も預かるスペースはないし、三人も気を使うだろう。だから紫雲の家を使うことを許可はする。けれど三人の部屋と統夜クンの部屋は離すこと。 時折行う、ウチのお母さんの抜き打ち検査をパスすること。 そして、週に一度は統夜クン自身がウチに報告に来ること。 律儀な統夜クンは、それらをちゃんと真面目に守ってくれている。
ほう、と一度ため息をして。 アタシはインターフォンを、今度こそ押そうとして…… 「あの……ひょっとして、統夜の従姉妹の方じゃないですか」 後ろから声を掛けられた。 振り向けば、以前一度だけ会ったことがある女の子が微笑んでいた。 濡羽色の鮮やかな黒髪と、向日葵のような色をした瞳が印象的な可愛い女の子。確か名前は…… 「カティアちゃん、だったわね。アタシのこと、分かるんだ」 「はい。お久しぶりです」 穏やかな微笑みと、丁寧なお辞儀を一つ。制服姿で小脇に抱えたトートバッグから、長ネギがぴょこんと飛び出しているのはご愛嬌だろう。 「ひょっとして、写真の件でしょうか?」 「ええ。統夜クンから連絡もらって……フィルムカメラの写真なんて珍しいでしょう? もう皆気になって仕方ないみたい」 「綺麗に撮れていましたよ。あ、すみません、私達先に……」 「いいわよ、そんなの」 笑って見せると、カティアちゃんは少し上目使いで申し訳なさそうにしていて、本当に可愛らしい女の子をしていた。 統夜クンはバイト中らしい。 中に通されたアタシは、居間で熱い煎茶を頂いている。 カティアちゃんは猫舌らしく、熱すぎるお茶を何度も息を吹きかけ冷ましている。アタシもやはり猫舌で、何度も吹き冷まさなければ飲めない。 そんなことが何だか可笑しくて、アタシ達は笑いあい、そして他愛のないことを話した。 アタシ達の共通の話題はやはり統夜クンのことで、アタシは小さい頃からの思い出話を、カティアちゃんはここ最近の様子を。 そして、何となく……理解した。 統夜クンの分かりにくいけれど優しいその性格を、カティアちゃんは理解してくれているのだ。 理由はハッキリとは言えないけれど、強いて言えばお姉ちゃんの勘だ。 例えば名前を呼ぶ時、瞳が綺麗な蜂蜜色になることとか。 例えば想いを馳せる時、柔らかそうな唇が優しく微笑むこととか。 例えばアタシの思い出を聞いた時、少しだけ不服そうな、不満そうな拗ねた顔をすることとか。 お姉ちゃんとしては、統夜クンの良い所を分かってくれる女の子が出来たことが、嬉しくて、ほんの少しだけ残念な気もした。
何となく会話が途切れた。 丁度お茶も尽きた。 そろそろ暇乞いをするべきなんだろうけれど、まだ少し心残りもある。そう思ったところでアタシの携帯が鳴った。画面にはつい先日式を挙げたばかりの夫の名前。 ごめんなさい。と頭を下げてから通話ボタンを押すと、前置きもなしに「今店でメニュー開発してる、試食に来てくれ」なんて用件だけを告げる素っ気無い声に苦笑した。 アタシは多めに用意してと頼んでから 「ね、カティアちゃん、料理上手いんでしょ? ウチのメニュー、試食しない?」 目の前の少女に微笑みかけた。 「え? でももうしばらくしたら統夜や他の二人も帰ってくるから……」 「うーん」 白状すれば、今日ここに来た一番の理由は写真の回収じゃない。 統夜クンがウチの家族全員を向こうに回してでも守りたかったもの。それをアタシ自身で見てみたかったからだ。 そして、思いの外それはあっさりと見つかって、同時にアタシはこの女の子ともうしばらく話をしてみたい気持ちになっていた。 「統夜クンのお姉ちゃんはね、あなたともうちょっとお話したいなぁ、と思うんだけど」 「私と、ですか?」 カティアちゃんは少しだけ困った顔をして考え込む。そこに 「行けば良いじゃないですか、カティアちゃん」 と、二人目が帰ってきていた。柔らかそうなブロンドと、早咲きスミレの青い瞳がお人形さんみたいに可愛らしい女の子。 「メルア……」 「夕飯なら大丈夫、適当にやっておきますよ」 穏やかな笑みが愛らしいメルアちゃんは、アタシに向き直ると 「統夜さんの従姉妹の方ですね、お久しぶりです。メルア・メルナ・メイアです。ほら、テニアちゃんも」 と頭を下げてから、直ぐ後ろにいたらしい最後の一人に声を掛けた。 「うん。フェステニア・ミューズです、その、お世話になっています」 赤銅色の髪と、翡翠の瞳を持った勝気そうな女の子は、少しもじもじとしながらぺこりと頭を下げる。 「ね、カティアちゃん、お姉さんのお話ちゃんと聞かなきゃ」 まだ躊躇っているカティアちゃんに、メルアちゃんは微笑みかて 「そうそう」 なにやら思いついたらしいテニアちゃんは、そっとカティアちゃんに耳打ちをする。 「…………テニア、あなたね」 呆れたような顔をするカティアちゃんに、テニアちゃんは自身満面で 「でも、間違いじゃないと思うよ」 と笑った。カティアちゃんはそのままため息一つついて、アタシに向き直った。 「じゃあ、ご一緒させていただきます」
フフフ…支援だ
それから定休日の薄暗い店内で、アタシとカティアちゃんは、少し早めの夕食を摂った。 アレでそれなりに勘の良い夫は、食後に紅茶を淹れてくれた後は奥に引っ込んでくれている。ここから先は、アタシとカティアちゃんの時間。 言ってみれば、ここはアタシのホームであり、カティアちゃんにとってはアウェイだ。 敵陣に踏み込んできたカティアちゃんは、意を決して尋ねてきた。 「……気が付いてましたか?」 「統夜クン?」 「はい」 カティアちゃんは、静かに頷いてから、紅茶を一口。それで声を励ましているかのようだった。 「統夜は、あなたのことが好きだったんですね」 「…………そうね、多分あの子の初恋の人」 アタシにとっては『年下の可愛いオトコノコ』だったけれど、統夜クンにとってはそうじゃなかったことくらい、気が付いている。 「そして、今あの子が好きなのはカティアちゃんだわ」 「…………そう、でしょうか……?」 カティアちゃんはそう言うと、少しだけ寂しそうに微笑む。 「式から帰ってきてからの統夜は、何だか寂しそうでした。そんな統夜に私は何も言ってあげられなくて……」 微かな吐息は、本当に苦しそうで 「結局、統夜は自分でそういったコトに、自分で折り合いをつけたみたいでした。私は……」 私は腹が立った。あの子は何をしているのか、偏屈にもほどがある。 だからこれが、お姉ちゃんの最後の仕事みたいだ。 「ね、カティアちゃん……自信を持って」 「自信、ですか?」 「絶対そう。絶対に統夜はカティアちゃんを大切に思ってるから。そりゃ、あの子は遠慮がちで、少し気難しくって、割と意地っ張りで、面倒な性格をしていて……」 あんまりな言い方に、カティアちゃんはくすりと笑ってくれて、だからアタシは自分の言葉に自信を持ってこう続けた。 「でも、絶対にカティアちゃんのコト、大事に思ってるから」 「でも……」 「知ってるかしら、あなた達を引き取る時の事」 「え? いいえ」 「未成年のあの子が、あなた達三人と同居するなんて簡単に認められる訳ないでしょう? 統夜クンはね、アタシ達に何度も頭を下げてたわ」 「……」 「遠慮がちで、少し気難しくって、割と意地っ張りで、面倒な性格をしていて……でも、本当は、優しい。分かりにくいケド、優しくて誠実で……」 「お姉さん……」 「自慢の子なの、アタシ達家族の。そんな統夜が、アタシ達の言うこと聞いてくれなかったの、初めてだったわ」 見据える。蜂蜜色の瞳の中で、アタシは笑っていた。 「アタシ達よりも、あなた達を大切にした。その意味を、分かってあげて欲しい」 「統夜の、大切な……」 「お姉ちゃんからのお願い。統夜クンを、よろしくね。カティアちゃん」 カティアちゃんは、綺麗な目を見開いて。そうしてから、 「はい」 今日一番の笑顔をしてくれた。
971 :
更に蛇足 :2009/10/01(木) 01:08:04 ID:ADOxjjYg
「ね、どう思う? メルア」 「どう思うって?」 「初恋のお姉さん対カティア」 「カティアちゃんの不戦勝」 「同感」
おお!タイトル通りBGMとしてトライアングラー(fight on stage)かけてたら、ぴったり一曲で読み終わったミラクル! GJ!
ほんとたまに来ると色々投下されるスレだな GJだぜぃ
>>973 爆発力があるんだよな。
ただ、最近は種火がないだけで。
元々持ちネタがある子じゃないからな。 それ故にワンパターンなネタが出にくいのが強みでもあったが。 ってかあっても発売して相当経ってるから種火がある方が異常だな。
さあそろそろ次スレの時期ですよ
進み方はゆっくりだし990位でもいいかもしんないけどね。 しかしここまで来てもまだ職人に愛されているってのは、素晴らしいな。
990でもいい気はするが、確か980超えるとスレは2週間くらいで落ちるんじゃなかったっけ? 立たないまま落ちそうな気がしないでもない
正確には980以上になると最終レスから丸1日レスが無いと落ちる だからどんなに遅くても980で次スレ立てた方が良いと言われる訳だ
980
立てる気は無さそうだな 行ってくる
ご苦労様です。 では、立てようとすると弾かれることが多い俺が行ってきますよっと
ごめんね、やっぱ無理だった
ならばその役目、私に任せていただこうか
無念、駄目だったよ
これがステイシスの威力…
俺が行ってもいいのだろうか
ぐぬぬ 無理だった
フフフ… このスレ立て力こそ…私が求めていた力…フフフ…
カティアー!俺だー!幸せになれよー!
新スレを迎えられるとは重畳の極みでござるな。
>>994 まったくだね
それにしてもこのスレも長寿よなー
お粗末さんをはじめとするネタ師が定期的にネタを投下してくれたのも大きいんじゃないかなと。
それが大きいよねやっぱり 俺もちまちま書いてるけど完成が見えないぜハハハ
どっせーい
カティアー俺だーご近所付き合いしてくれー
カティア「これからは冷凍マグロじゃない道具で個性付けをしようと思うんです」 統夜「ごめんツッコミどころがわかんない」
1001 :
1001 :
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