1 :
それも名無しだ:
名前: それも名無しだ 投稿日: 2005/10/25(火) 18:52:58 ID:NG3AP12Y
【原則】
乗り換えのルールはこれが鉄板です、変更は出来ません。(詳しくは初代議論感想スレを参照の事)
前の人の話やフラグを無視して続きを書くのは止めましょう。
また、現在位置と時間、状況と方針は忘れないで下さい。
投下前に見直しする事を怠らないで下さい、家に帰るまでが遠足です。
投下後のフォローも忘れないようにしましょう。
全体の話を把握してから投下して下さい。
【ルール】
基本的に初期の機体で戦うことになりますが以下は特例として乗り換え可能です。
・機体の持ち主を殺害後、その機体を使う場合
・機体の持ち主が既に別の機体に乗り換えていた場合
・機体の持ち主が既に殺害されていて、機体の損傷が運用に支障無しの場合
弾薬は放送と同時に補給されます、また乗り捨てたor破壊された機体は次の放送時に消滅します。
【備考】
議論感想雑談は専用スレでして下さい。
作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
おやつは三百円までです、バナナは含まれません。
スパロボでしか知らない人も居るので場合によっては説明書きを添えて下さい。
水筒の中身は自由です、がクスハ汁は勘弁してつかぁさい。
これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
初めての方はノリで投下して下さい、結果は後から付いてくる物です。
作品の保存はマメにしておきましょう、イデはいつ発動するかわかりません。
前スレ
スパロボキャラバトルロワイアル2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1130233978/l50 議論、感想はこちらへ
スパロボキャラバトルロワイアル感想・議論スレ3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1132977530/l50
2 :
それも名無しだ:2005/12/29(木) 20:17:42 ID:8AuPV6tm
3 :
それも名無しだ:2005/12/29(木) 20:21:39 ID:VRXJv7LT
コピペミスった・・・orz
そして補完すまん
>>2
「大丈夫。みんな助かるから。みんな、みんな、最後には助かるから。大丈夫、安心して」
「そう……だね。みんな助かるんだよね。そうだよ、だから……だからみんな、許してくれるよね」
殺戮ゲームの二日目、昼。命は羽の様に舞い、心は脆く砕け散る。ここはそんな世界。
市街地の一角にあるオープンカフェ『That Is Me(それも私だ)』。その店の一席でキラ・ヤマトと
ゼオラ・シュヴァイツァーが軽い食事を取っていた。店員などはいるわけもないが、勝手に各店から
集めた食料を広げ、話に花を咲かせていた。
「それはもう大好物でね、アラドったら八杯もおかわりしちゃって」
「へぇ、本当に大好きなんですね」
「やだぁ、キラってば! それからアラドはねぇ………アラドは………ア…ド」
言葉を乱したクマさんマグカップを持つゼオラの手が小刻みに震え始める。
「大丈夫!」
その手をキラはシッカリと両手で包み、大きな声で断言した。
「大丈夫。必ずアラドさんは助かります。ゼオラさんと僕達で助けるんです。大丈夫です!」
涙で潤む瞳を見つめハッキリと断言する。中途半端な言葉は逆効果だと学習していた。
「そう………だよね。大丈夫だよね。きっと助けられるよね」
キラの力強い言葉で、ゼオラに落ち着きと笑顔が戻った。もう『発作』への対応には慣れている。
目覚めてから既に十回以上、主にアラドの話題になると精神不安定に陥った。最初の数回はシロッコが
対処し、キラはそれを真似ているだけだ。しかし効果は十分だった。手を握るのは多分、キラの好み。
数時間前、キラとシロッコは目覚めたゼオラから情報を聞き出した。ゼオラが殺したというタシロと
ラトゥーニ、この二人の首輪と機体を入手すれば状況を好転できると考え、その下準備をしているのだ。
キラはゼオラの面倒を任され、彼女を補給ポイントに案内し、一緒に注文された食料品と解析に使う
工具の確保に回った。その後コッソリ食事を取っている。良く言えばデート、悪く言えば使いパシリ。
その間、シロッコは二人の機体の仕様書を熟読していた。『敵を知り己を知れば』と言っていたが、
本当は自分が機体を奪った時の予習であり、未知の技術に対する知識を増やすためだった。
もちろん二人を一緒に行動させている事にも彼なりの理由がある。ゼオラには『アラド救出の為に
シロッコやキラは絶対必要』と不安定な精神に刷り込む為、キラには『守るべき者』を与え明確な行動
意思を持たせる為。カリスマとは水面下の努力によって保たれているものだ。
「それで……ラトは大事な友達なの。妹みたいなものなの。それなのに……私が……殺し……」
ゼオラは朝の放送を聞いていない。キラの記憶では『ラト』はいう名前は無かった様な気もするが、
やぶ蛇になると面倒だったので聞き返したりはしなかった。
「大丈夫! その子もアラド君と一緒に助ければいい! 大丈夫、絶対に助けるから!」
なんだか『助けられる』と連呼していると本当に助けられる気がしてくるから不思議だった。
死んだ人間は生き返らない。当たり前の事だ。それでもシロッコは主催者を倒せば助けられると言う。
(それまでゼオラは僕が守らなきゃ。そう、守るんだ)
ゼオラの手を握りながらキラは決意していた。それらが仕組まれた事だとは想像もしていない。
B-8地区南端へ飛行してきた副長、リョウト・ヒカワ、ギレン・ザビは互いに顔を見合わせた。
前方に淡い光を放つ障壁があった。方向は真南。下は大地から、上は目の届く限りに広がっている。
―――もちろんだが、逃げ出すのは無駄だ。
放送の内容を考えるとまず思いつくのはバリアの類。試しにグダが軽く砲撃をしてみるが手応えは
無かった。続いて恐竜戦闘機を向かわせると、やはり手応えは無く反応はロストした。
「ロストの際に特殊な反応も見られませんし、相転移系のトラップでしょうか?」
リョウトが以前の大戦で見知ったETOを例に技術屋らしい意見を述べる。
「取り合えず、入っても出られるようですよ」
副長が淡々のした口調で答えた。先程の恐竜戦闘機が戻ってきている。予め一定距離を進んだら引き
返すように命令していたのだ。常に最悪の事態に備えて打てる手は打っておく主義らしい。
「ほう、こちら側はB-1の市街地か。技術の無駄づかいだな」
三人は光る壁を通過していた。ギレンがレーダーを照合し悪態を付く。
「凄い技術ですよ。実用化できれば様々な問題が解決できます」
リョウトは感動しているが、今はそんな場合ではない。
「まず市街地の近くに参加者がいるかを確認しましょう。協力者が身を潜めている可能性があります」
副長の提案の元、周囲を警戒しながら市街地上空を通過して行く。
「ふん。敵対者の待ち伏せの可能性の方が大きいと思うがな」
ギレンが愚痴をこぼしたその時、通信機が鳴った。全周波数での通信のようだ。
『私はSDF艦隊エクセリヲン艦長のタシロ・タツミである。貴官の名前と所属を求む。繰り返す……』
副長の良く知る声が通信機から聞こえていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
市街地に身を潜めながら進むヒュッケバインMK3ガンナーとV2アサルトバスターガンダムは
突然に現れた巨大な恐竜型飛行物体を見つめていた。北の空が不自然に光っている事にも関係があるの
かもしれない。その大きさは戦艦程もあり、無数の異形の兵器を周囲に向けている。
「何ですか、アレ? 見るからにって感じですけど………やり過ごしますか? それとも……」
ラトゥーニ・スゥボータが上空を警戒すると機体に戦闘態勢を取らせる。どこをどう見ても悪役、
百歩譲って異星人の戦艦です、とラトゥーニは断言する。爬虫類が苦手なのだろうか?
「いや待ちたまえ。周囲に別系統の機体が見える。複数で行動しているという事は友好的な可能性が高い。
少なくとも話し合いの余地くらいはあるだろう」
タシロ・タツミは落ち着いて答える。上空に現れた戦艦の周囲に良く知るマシーン兵器とガンダムが
見えたからだ。気が立っているようなラトゥーニを制止して、タシロは全周波数で通信を試みた。
「私はSDF艦隊エクセリヲン艦長のタシロ・タツミである。貴官の名前と所属を求む」
「タシロ艦長、私です」
「おお、その声は副長か!」
ピリピリとした緊張は和やかな歓迎ムードとなった。ギレンはV2アサルトバスターガンダムを
見て『またガンダムか』と舌打ちし、リョウトはヒュッケバインMK3ガンナーを見て驚いている。
「MK3? まだ基礎フレームが完成したばかりなのに、しかもAMガンナーまで……」
「その声はリョウトさん? でも自分の機体を忘れるなんて、どうしちゃったんですか?」
リョウトの声を聞いたラトゥーニがV2ガンダムを上昇させウイングゼロの前へ移動した。
「ラトゥーニ? 良かった、無事だったんだね。でも僕の機体って?」
「なにを言ってるんですか? リョウトさんとリオさんが二人で乗っていた機体じゃないですか」
リョウトはL5戦役後(OG1)、ラトゥーニはシャドウミラー事件後(OG2)召還された為、
時間軸がズレているのだった。その為、リョウト&リオはアラド&ゼオラと面識が無かったである。
四人はグダを中心に再会できた喜びを分かち合った。そしてまだ見つからぬ仲間の安否を気遣う。
和気藹々とするムードの中でただ一人、ギレンだけは寂しく蚊帳の外だったので、冷静に新参2人を
値踏みしつつ周囲の警戒をしていた。
(なんだ、このザラつく感じは…………!!!)
周囲に漂うノイズのような気配が殺気に変わった瞬間、ギレンは叫ぶと同時に機体を動かしていた。
「来るぞ! 散れ!」
次の瞬間、閃光がグダを直撃していた。ギレンの警告が功を成したかリョウトとラトゥーニは素早く
回避し、若干反応の遅れたタシロも辛うじて避け切った。しかし戦艦サイズのグダにまで緊急回避を
しろと言うのは無理というものだ。回避と叫ぶだけで回避できれば苦労はない。
「副長、被害状況は!」
「推進部に被弾。飛行制御系統に問題発生。高度維持不能。なお被弾時の射角から砲撃地点は………」
グダが黒煙を上げて落下してゆく中、危険な状況の割に冷静な副長の声が響いた。
「今の攻撃は!! 私、行きます。副長さんを頼みます」
ラトゥーニは閃光の撃たれた方へ機体を向けた。副長の救助を考えつつも『次を撃たれる前に止めな
きゃいけない』と自分を納得させる。ラトゥーニの身を案じたリョウトも後に続く。
「戻れ! 迂闊に分散するな!」
ギレンの指示を無視し、ガンダム達は砲撃地点へと速度を上げていた。
【副長 搭乗機体:メカザウルス・グダ(ゲッターロボ!)
パイロット状況:良好?
機体状況:飛行制御系統に問題発生中、恐竜戦闘機1/4損失
現在位置:B−1廃墟
第1行動指針:タシロをサポートする
最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還 】
【ギレン・ザビ 搭乗機体:RX−7ナウシカ(フライトユニット装備)(トップをねらえ!)
パイロット状態:良好
機体状況: 無傷
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:手駒として使うため、リオ、アラドの大切な人(ゼオラ)の捜索
第2行動方針:可能な限り手駒を増やす。
最終行動方針:まだ決めてない
備考:副長をやや警戒】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:健康
機体状態:小破(行動には支障なし)
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:リオ、アラドの大切な人(ゼオラ)の捜索の捜索
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出】
【タシロ・タツミ 搭乗機体ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリ)】
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:良好
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:他の参加者との合流
第2行動方針:ゼオラをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還 】
【ラトゥーニ・スゥボータ 搭乗機体V2アサルトバスターガンダム(機動戦士Vガンダム)
パイロット状況:頭部に包帯(傷は大した事はない)
機体状況:盾が大きく破損(おそらく使い物にならない)アサルトパーツ一部破損
現在位置:B−1廃墟
第一行動方針:リュウセイや仲間と合流する。
第二行動方針:精神不安定なゼオラをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還】
備考:各人の砲撃への対応は行動指針から抜いてあります。
タシロがグダを発見した頃、西へと移動を開始していたシロッコ達もグダの姿を確認していた。
しかし接触を躊躇している内に先を越されてしまっていたのだ。そしてタシロ達の通信が全周波で筒抜け
だった為、静観する事にした。そもそもタシロ達の死体から首輪と機体の回収を考えていたのだから、
作戦を考え直さねばならない。
「放送に名前が無いので、もしやとは思っていたが」
シロッコが苦笑する。生きていても3対2。ゼオラ一人で倒せる程度の強さで更に手負い状態ならば
少ないリスクで首輪を回収できると考えていたのだ。他の3人は予想外だ。
「ラトが………助かってたの?」
「良かったじゃないですか! 無事だったんですよラトさん!」
キラにとってもゼオラの友達が生きていた事は嬉しい事だったのか、自分の事の様に喜んでいる。
「良かった。ラトが助かって本当に良かった。シロッコ様、これならアラドも助かりますよね」
「そうだな。アラド君も同じように助けられるさ」
無邪気な二人に対し、シロッコは思案を巡らせながら答える。考えるまでもなく3対5。戦艦と
小型機(ナウシカ)を抜けば同数だが、相手はガンダムタイプだ。その上、二人の志気も低いのでは
勝算は低い。当然の事だが分の悪い賭けは好きではない。
「僕達も合流しませんか? 」
キラが常識的な意見を述べた。シロッコとしても失う物はリーダーとしての立場程度であり、得られ
るものは多数の味方と情報だ。悪い話ではない。
「………ギレン・ザビがいる。奴は肉親でさえ戦争の道具にする非情で危険な男だ。十分に警戒しろ」
「知り合いなんですか?」
「有名人だからね。コロニーを地球に落とした軍の総帥で、戦争を始めた人間の一人だよ」
「コロニーを落として、戦争を始めた? そんな人が………」
合流をしたくない訳ではない。先に相手への不信感を植え付けて置く事で、今後を有利に運ぶ。
ちょっとした心理操作だった。
「あれ………ゼオラさん、どうしたの?」
そんな話をしている内にゼオラが遅れている事に気がついた。遅れているというよりも立ち止まって
いる。キラの背筋に冷たいものが流れ落ちた。
「………あいつがリョウト、リョウト・ヒカワ! あいつが………あいつがぁぁ!!」
「しまった! リョウトって確か!」
ゼオライマーに光が収束してゆく。ゼオラにとってリョウトは『アラドを殺した女の恋人』なのだ。
「勝手な事を……」
閃光がグダに吸い込まれてゆく。シロッコの溜息と同時に爆発と黒煙が上がった。
【ゼオラ・シュバイツァー 搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状況:身体的には良好。精神崩壊(洗脳状態)
機体状況:左腕損傷
現在位置:A−1
第一行動方針:アラドを助ける為にシロッコとキラに従う
第二行動方針:アラドを助ける事を邪魔する者の排除
最終行動方針:主催者を打倒しアラドを助ける
備考1:シロッコに「アラドを助けられる」と吹き込まれ洗脳状態
備考2:ラト・タシロ・リオを殺したと勘違いしている
備考3:リオがアラドを殺したと勘違いしている】
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ゴッドガンダム(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状況:身体的には良好。
機体状況:損傷軽微
現在位置:A−1
第1行動方針:ゼオラと自分の安全確保
第2行動方針:シロッコに従う
最終行動方針:生存】
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:ダンガイオー(破邪大星ダンガイオー)
パイロット状況:良好(良い保護者を熱演中)
機体状況:右腕は肩から損失、全体に多少の損傷あり(運用面で支障なし)
現在位置:A−1
第1行動方針:戦力増強
第2行動方針:首輪の入手
最終行動方針:主催者を打倒し、その力を得る
備考1:コクピットの作りは本物とは全く違います。
備考2:基本的にサイキック能力は使用不能】
【時刻:二日目:11:00】
腹を決めたシロッコはダンガイオーを相手の視界に現し、通信回線を開いた。
「私はティターンズ所属のパプテマス・シロッコ大尉だ。被害は無いか? こちらに敵意は無い。同行する
少女が貴艦に対する恐怖心から先制砲撃を行ってしまった。本人に代わり謝罪申し上げる」
黒煙を上げ降下する戦艦を前に、白々しい台詞がスラスラと口から出る辺りがシロッコである。
ダンガイオーの上空を『眼中にない』とばかりに2機のガンダムが通過して行くのが見えた。
(大型機体だが、武器どころか両腕すら無いか。既に誰かと交戦した後という事か?)
(奇襲かと思えば謝罪だと? 何か企んでいるな。ビグザムの例がある、腕など飾りに過ぎん)
ダンガイオーの形状から瞬時にそう推測し警戒する。砲撃して来た相手など信用する気はない。
「私はSDF艦隊のタシロ・タツミである。詳しい話しは後で聞く。こちらに敵対する意思が無いなら、
ジャジャ馬の手綱を握っていてくれ。こちらの救助の邪魔をしないようにな」
タシロは考える。今、優先すべき事は副長の救助であり、シロッコが何かを企んでいても自分から
姿を現した以上、すぐに仕掛ける事は無いだろうと。その考えは模範的であり、甘かった。
「愚図が! 上だ!」
不意に横殴りの衝撃がMK3ガンナー襲う。ギレンのRX−7ナウシカが蹴り飛ばしたのだ。
「何を突然!」
ギレンへ抗議しようをするタシロの眼前を巨大な腕が高速で落下して行く。その腕は地上近くで
方向を変えるとダンガイオーへ向かい、その左腕となる。
「ちっ、外したか。もう少し慣れが必要だな」
まるで悪戯が失敗したかのようにシロッコが舌打ちをした。サイキック能力を必要とするシステムを
サイコミュの亜種と断定し、腕部を遠隔操作したのだ。もっとも多少方向を変える程度だが。
「所詮、ゲームに乗った殺戮者か! ザビ君、ここは私に任せて副長の救助を」
「任せよ。貴公の無事を祈る」
タシロがギレンを促す。小型のナウシカよりヒュッケバインの方がこの場では有効と考えたのだ。
対峙するヒュッケバインを盾にしてナウシカはグダを目指し飛び去る。
(ふん。戦いは数で決まる。戦うも逃げるも2機で行動する方が勝算があるというに)
ギレンは分散する愚を笑ったが、死んだ弟の言葉を思い出したのか不機嫌になった。
一方、子供達。
「ゼオラ! なんでこんな事を! こんな事したって!」
「ラト! あなたこそ! そんな男達といちゃダメ!」
ラトゥーニが叫び声と共にV2ガンダムがゼオライマーへ迫るが―――
「ダメです! 親友同士で戦うなんて!」
ゼオライマーとの間に、両手を広げたゴッドガンダムが空中で立ち塞がる。
「退いてゼオラに用があるの!」
「退いてラトに用があるの!」
「退きません! ラトゥーニさん落ち着いて! ゼオラさんも! 大丈夫だから、助けられるから!」
予めラトゥーニの事を聞いていたからか、キラは落ち着いてゼオラを静止する。追いついてきた
リョトもラトゥーニを後方からなだめているようだ。
「ゼオラさん、戦ってどうするんだ! せっかく友達が生きていたのに」
「大丈夫よキラ、大丈夫。ダメでもラトは後で助けるから、ね」
「そ、それは………ちょっと」
しばしの口論の後、冷静さを取り戻したゼオラが口を開いた。
「………そいつがリョウト・ヒカワだから殺すのよ」
「なんで僕を? 僕に敵意はありませんよ。それに何処で僕の名を?」
唐突に自分の名を呼ばれたリョウトが聞き返し、そして何かに思い当たる。
「………もしかしてリオに?! 彼女は何処に!」
「へぇ、リオって言うんだ。あの子。恋人?」
「え……あの………その」
言葉に詰まるリョウトにゼオラはクスクスと笑う。
「やっぱりそうなんだ………会ったわよ。ずっと東の廃墟で」
「本当ですか?! ありがとうございます!」
喜ぶリョウトへゼオラは笑いながら続ける。
「私こそ助かったわ。名無しじゃ墓標も刻めないものね。約束したのよ。寂しくないよう、ちゃんと
恋人も一緒に送ってあげるって」
リョウトの沈黙に、クスクス笑いが響く。
「ゼオラ………あなた、まさかリオさんを………」
ラトゥーニの言葉を遮り、後方のウイングゼロのバスターライフルが火を噴いた。しかし攻撃を予測
していたかのようにゼオライマーは素早く回避している。後方でビル郡が紙の様に貫かれていた。
「ボクは、ボクはあなたを………殺す!」
リョウトの意思に答えるかのように『ゼロシステム』が起動していた。
黒煙を上げたグダは大きな公園へ不時着(?)していた。逆さまに突き刺さり、無残に破壊された
下面部をさらけ出さしている。ギレンはグダの被害を観察していた。
(一撃でスクラップか。コイツが見掛け倒しなのか、あの白銀の機体が尋常でないのか)
「こちらギレン・ザビだ。応答せよ」
墜落直後から副長とは通信が取れない。雑音が入るばかりだった。
(墜落の際に気絶したか、死んだか。それとも通信機の故障か。いずれにせよ好都合だ)
ナウシカをグダの竜頭部に進ませるとプラズマビアンキを叩き込み、完膚なまでに破壊した。予め
それとなくグダの操縦室の場所を聞き出しておいたのだ。こうも早くチャンスが来るとは。
(飛べない空中戦艦にう価値は無い。むしろあの男はここで確実に消しておくべきだ)
自分を警戒していた男を目論見どおり、リスク無く消せたのは気分が良い。
(おっと、ちゃんと細工をしておかんとな)
疑われないよう、墜落時の衝撃と内部からの爆発で破壊されたように見せかける為の偽装工作だ。
後で残骸の確認に来る事は簡単に予想できる事だった。
(簡単な工作だが、老人や子供達を騙すには十分だろう。それにタシロが生き残る可能性は低いが、
あの子供達には良い手駒になって貰わねばならないからな)
そしてギレンは戦況を確認する為、状況にあわせて恩を売るようにする為、レーダーに捕捉されぬ
よう低空で戦場へ引き返して行った。
説得を試みたラトゥーニだが状況は既に戦闘へともつれ込んでいた。
「ゼオラ、目を覚まして! でないと機体を破壊してでも!」
「ラト、そんな男の味方しないで。邪魔をするなら貴方でも!!」
ゼオライマーへ突進するV2ガンダムの前に、再びゴッドガンダムが立ちふさがった。
「邪魔しないで! あなたは!」
叫びと共に抜き放たれるビームサーベルを同じくキラはビームサーベルで受け止める。
「友達なんだろ!! なんで!」
「友達だからに決まってるでしょ! あなたこそ無関係なのよ!」
「僕は……僕はゼオラを守るって決めたんだぁー!」
ゴッドガンダムは鍔迫り合いまま力任せにV2ガンダムを蹴り飛ばす。吹き飛びながらもビーム
ライフルで反撃するが、ゴッドガンダムは回避しつつウイングゼロの方へ向かって行く。
「人を殺されるのは嫌なくせに、相手は殺す。身勝手な人………そうやって殺してきたんでしょ!」
ゼオラは自分の事を棚に上げ、次々と衝撃波を放つがウイングゼロのスピードの前に空を切る。
共に一撃必殺、先に捉えた方が勝つ。しかし双方とも横からの援護と牽制が激しく、決定的打を出す
事が出来ない。
「…………目標捕捉!」
「させないっ!」
ウイングゼロがゼオライマーを狙うが、接近するゴッドガンダムに邪魔され発射体勢に入れない。
振り切ろうにもゴッドガンダムは飛行速度自体は速く無いのだが、時折、空中を蹴るかのように爆発的
な加速と不規則な軌道変化を見せるため、隙を作る事が出来ないでいる。
「僕たちだって殺したくない、殺されたくないんだ! なのに!」
「だったら何故! 何故リオを殺した!!」
素早く分離させたバスターライフルで狙うが、ゴッドガンダムは宙を蹴って回避する。
「私の、私のアラドを殺した! だから!」
「!!!………そ、それじゃキミが………まさか……そんな………」
衝撃波が動きの鈍ったウイングゼロの翼を一枚もぎ取る。リョウトは大きく動揺していた。リオの
仇が、探していたアラドの大事な人、ゼオラ。しかしリオにアラドを殺されたからという。そして次は
リオを殺された自分がゼオラを殺すというのか。
「リョウトさん、しっかりして!」
ラトゥーニの声で引き戻されたリョウト眼下で、ゼオライマーが両腕を胸の前に挙げていた。周辺
一帯を破壊し尽くす冥王の力。それを察知したキラとラトゥーニは散るように射程外へ退避していたが、
動揺していたリョウトは遅れた。飛行能力が低下したウイングゼロでは逃げ切れない。
「………来ないで! 間に合わない!」
リョウトの静止を聞かずに、光の翼を背負ったV2ガンダムが射程内へ舞い戻る。放たれる閃光と
ウイングゼロの間に割り込み、射程外に押し出すように加速する。
「もう誰にも死なれたくない! 誰も殺させたくもないの!」
故意か偶然か、光の翼が二機のガンダムを包み閃光から守った。しかし代償としてV2ガンダムの
両脚部と背面は大部分を溶解され、天高く跳ね上げられる。まるで天使が昇天して行くかのようだ。
「ラトゥーニッ!」
「大……丈夫……です」
ラトゥーニの無事を確認したリョウトは地上を睨み付けると、ツインバスターライフルを構える。
「今ならこいつで………この一発で………!!」
フルパワーでの砲撃。距離はあるがメイオウ攻撃の隙が出来た今がチャンスだった。
ゼオラに向けられた銃口。それを見た瞬間、キラの脳裏にかつて守る事の出来なかった幼い少女の
影が浮かんだ。
『いつも守ってくれて、ありがとぉ』
幼い声が聞こえた。あの時、その少女の乗ったシャトルは彼の目の前でザフトのGに撃墜されたのだ。
(あの時、僕は守れなかった。また守れないのか!!)
キラの中で『何か』が弾けた。
『アイツとの約束を守るためにも必ず生き抜いてみせます』
(やめろゼロ。思い出させるな)
僅かなフルパワーチャージ時間が長く感じられ、リョウトの耳にアラドの声が聞こえる。
『えっと、なんて言うかガキのころからの腐れ縁みたいなもんで、ガサツだし、口うるさいし、頭は
固いし、胸ばっか大きくなって色気は無いけど、オレにとっちゃ大切な人なんスよ』
(やめろ。やめてくれ!)
『私の、私のアラドを殺した! だから!』
「やめろぉぉぉぉ!!」
謝罪と後悔と憎悪。様々な感情を振り払うかのようにリョウトは引き金を引き絞った。
子供達の戦場より結構離れたビル街。タシロとシロッコの戦いは続いている。接近戦を仕掛ける
ダンガイオーからヒュッケバインが逃げ回りつつ戦闘を続行している。
「武も才も持ち得ながら無益な殺戮に興じるのか! 今こそ協力すべきであろうが!」
「同感だが、既に憎しみの銃弾は放たれた。温厚な子供も知人を撃たれては黙ってはいないよ」
「だからこそ流血を減らすよう導かねばならないと、何故わからない!」
意外にもタシロはシロッコを相手に持ちこたえていた。正確にはシロッコが手こずっていた。
タシロを明らかな格下と判断し、撃墜ではなく捕獲を考えていたのだ。適度な攻撃で気絶させようなど
と考えているから苦戦する。
(指揮官としては有能そうだが、パイロットとしては三流だな。だがそれが良い。そのガンダムMK3
ガンナーとやら、この私が貰い受ける)
パッと見だとヒュッケバインはガンダムに見える。更にティターンズカラーなのも紛らわしい。
機体を傷つけないよう動きを封じたいと考えるが、そう上手くはいかない。
(やはり機体を操りきれん。このままでは………)
一方タシロも実力差に気がついていた。手加減された攻撃からシロッコの意図を察知するが、打つ
手がない。実力不足に加え、二人乗りの機体を強引に一人で動かしているのだから無理もない。
(子供達や副長の安否が気になる。なんとか離脱せねば!)
随分前からタシロは戦闘離脱を試みている。しかし、シロッコの巧みな攻撃の前に阻止されていた。
その上、徐々に他の戦域から離され孤立させられている。そして―――
「ご老人、その機体は私が有益に使わせていただく!」
「くっ!!!」
いつの間にかタシロは高層ビルに囲まれた場所へ追い込まれていた。逃げ場は抑えられている。
このまま周囲のビルを破壊されれば、瓦礫に動きを封じられることは明白だった。
(一か八か、主砲でビルを撃ち抜くか? しかしその隙を見逃してくれるとは思えん)
万事休すかと思われた時、何処からか強大なビームが近くに撃ち込まれた。
「増援か!!」
一瞬早くビームを察知していたシロッコは飛び退いたが、切り離していた左腕が光に飲み込まれた。
更に爆風と降り注ぐ瓦礫が視界を奪う。その向こうに離れてゆくタシロの気配を感じるが、シロッコは
砲撃手を警戒し迂闊な動きは取れないでいた。
「………逃げられたか!」
視界が回復する頃、タシロは追撃不能な距離まで逃げおおせている。周囲を警戒するが砲撃主らしい
気配は感じられない。先程のビームはビルをいくつか薙ぎ払いクレーターを作っていた。
「あの子達か………まったく遊びすぎだ」
ビームの飛来した方向、遠くの空で交戦している子供達の影を見つめ呟いた。新しい機体どころか
残った片腕までを失った自分の不甲斐なさを自嘲するかのようだった。
ツインバスターライフルの砲撃はゼオライマーを貫き、巨大なクレーターを作る――はずだった。
「で……でたらめ……」
「………」
ラトゥーニが思わず呟く。リョウトは声もない。コロニーですら一撃で破壊する程の砲撃が途中で
止められていた。ゼオライマーとの間に入ったゴッドガンダムが真っ赤に燃える両手で砲撃を受け止め、
あろうことか押し返そうとしている。その背中には日輪が輝いていた。
「殺されたから殺して………殺したから殺されて………その先に何があるって言うんだっ――!!」
遂に砲撃は弾かれ遠方で巨大な爆発を起こした。そしてゴッドガンダムは燃える手を振りかざして
ウイングゼロへと突撃してゆく。その速度は先程までとは比較にならない。
「うおぉぉぉぉぉ!」
ウイングゼロはマシンキャノンで、V2はバルカンで迎え撃つ。しかし全てを灼熱の手で薙ぎ払う
ゴッドガンダムを止める事は出来ない。
「ダメェェェェ!」
ゴッドガンダムの頭上からV2ガンダムがビームサーベルを抜いて襲い掛かる。冥王の攻撃により
主要武装の大半を失っていたとは言え接近戦は無謀といえた。分かってはいるが咄嗟にウイングゼロを
守る為に割って入ったのだ。
「おぉぉぉぉ!」
ビームサーベルを持つ右腕をゴッドフィンガーが砕き進み、そのまま本体までも砕こうとする。
「ラトゥーニ――ッ!」
『ラトは大事な友達なの』
リョウトの叫びで思い出したゼオラの言葉に、キラの眼が見開かれる。絶叫と共に強引に腕を捻って
ゴッドフィンガーの軌道を変えるが、勢いのついた攻撃は止まらない。
「ラトゥーニ! ラトゥーニ――ッ!」
応答無くV2ガンダムは落下してゆく。キラの努力むなしく、何とか胴体を外したというだけで
ゴッドフィンガーは肩から頭部付近を粉砕していた。即死でなくとも、この高さでは命は無いだろう。
「僕は‥……僕は………殺したくないのに……」
「お前はァァァ!」
慟哭するキラをウイングゼロのバスターライフルが襲う。咄嗟に左手で防ごうとするが、その手は
既に炎を発していない。いつの間にか背中の日輪も消えていた。
「僕は………殺すつもりは………」
直撃は避けたが左腕を破壊された。戦意を失ったキラとゴッドガンダムが地上へと落下してゆく。
それを追撃しようとするウイングゼロをゼオライマーの砲撃が邪魔した。
「もうエネルギーが………だけど!」
フルパワーの時にエネルギーの大半を消費している。残りは片方1発分といったところだった。
キラの援護が無いゼオライマーなら近距離射撃する事も可能。そうリョウトは考える。だが―――
「愚図が! さっさと退け!」
怒号と共に現れたRX−7ナウシカが、ウイングゼロの破損した翼を補うかのように肩を貸す。
「でもまだ! このままじゃ、このままじゃラトゥーニが!」
「アレを見て分からんのか、手遅れだ! そうまでしてお前を守った娘を犬死にしたいか!」
ゼオライマーの射程からウイングゼロとナウシカが離れて行く。追撃したかったがゼオライマーの
エネルギーも既に底を着きかけていた。消費の大きい攻撃を連発しすぎである。
「………………そうだ。キラは?」
敵を逃した悔しさを噛み締めた後、ゼオラは思い出したかのようにキラの回収に向かった。
【ゼオラ・シュバイツァー 搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状況:身体的には良好。精神崩壊(洗脳状態)
機体状況:左腕損傷(エネルギー残少。徐々に回復)
現在位置:A−1
第一行動方針:アラドを助ける為にキラとシロッコに従う
第二行動方針:アラドを助ける事を邪魔する者の排除
最終行動方針:主催者を打倒しアラドを助ける
備考1:シロッコに「アラドを助けられる」と吹き込まれ洗脳状態
備考2:ラト・タシロ・リオを殺したと勘違いしている
備考3:リオがアラドを殺したと勘違いしている】
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ゴッドガンダム(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状況:???。
機体状況:損傷軽微。左腕は肩部を残し消失
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:ゼオラと自分の安全確保
第2行動方針:シロッコに従う
最終行動方針:生存】
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:ダンガイオー(破邪大星ダンガイオー)
パイロット状況:良好(良い保護者を熱演中)
機体状況:右腕は肩から損失、左腕は肘から下を損失。
現在位置:B−1
第1行動方針:戦力増強
第2行動方針:首輪の入手
最終行動方針:主催者を打倒し、その力を得る
備考1:コクピットの作りは本物とは全く違います。
備考2:基本的にサイキック能力は使用不能】
【副長 搭乗機体:メカザウルス・グダ(ゲッターロボ!)
パイロット状況:???
機体状況:墜落し横転。竜の首部分大破。推進系故障。他被害甚大
現在位置:B−2廃墟
第1行動指針:タシロをサポートする
最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還 】
【ギレン・ザビ 搭乗機体:RX−7ナウシカ(フライトユニット装備)(トップをねらえ!)
パイロット状態:良好
機体状況: 無傷
現在位置:B−1
第1行動方針:手駒として使うため、リオの捜索
第2行動方針:可能な限り手駒を増やす。
最終行動方針:まだ決めてない】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:健康
機体状態:小破(左翼が一部破損し飛行能力低下)
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:リオの捜索
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考:バスターライフルはエネルギー切れ】
【タシロ・タツミ 搭乗機体ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリ)】
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:良好
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:他の参加者との合流
第2行動方針:ゼオラとシロッコをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還 】
【ラトゥーニ・スゥボータ 搭乗機体V2アサルトバスターガンダム(機動戦士Vガンダム)
パイロット状況:???
機体状況:半壊して墜落
現在位置:B−1廃墟
第一行動方針:リュウセイや仲間と合流する。
第二行動方針:精神不安定なゼオラをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還】
訂正
>>16 ゼオラの備考2が間違っていました
誤:備考2:ラト・タシロ・リオを殺したと勘違いしている
正:備考2:リオを殺したと勘違いしている
「直ぐに駆けつけたのだが手遅れであった」
無残にも破壊されたグダの前。ギレンの言葉に、リョウトは慄いた。あの時、すぐに助けに行けば
副長は助かったかもしれない。あの後、タシロも行方が分からないらしい。
「僕の………僕のせいで!」
「迷いは捨てろ。戦場では迷いを持つ者から死ぬ。そして迷いを持つ者が味方を殺す」
ギレンの言葉がリョウトの胸に突き刺さった。あの時、迷わなければラトゥーニは死ななかったかも
しれない。もっとゼロを活用できれば、もっと非情になれればこんな事にはならなかったかもしれない。
あの時、心の何処かにアラドへの罪悪感があったのは事実だ。昨日ヴァルシオン改を葬った時のような
力を出せていれば、躊躇なく引き金を引いていれば、みんなを助けられたかもしれない。
(みんなを殺したのは………僕だ)
リョウトの頬を一粒の涙が零れ落ちた。『迷いを持つ者が味方を殺す』その言葉が無意識に口を出る。
「まあ希望もある。貴様の探している娘だが、東の廃墟で殺されるには時間が合わない」
あまり打ちのめしてもいけないと思ったのか、ギレンが似合わないフォローを入れた。人は希望を
糧に生きてゆくものだ。エサは適度に与えねばならない、そうギレンは考えていた。
(リオの生きている可能性か。もしそうなら、どんなに……………あれ? あれは一体?)
リョウトは目の前に残骸に奇妙な点を見つけた。悲しみで心が一杯のはずなのに何故か引っ掛かる。
明らかに外部から破壊された痕跡を隠してあるのだ。素人目にはともかく、PT開発部の技術者である
リョウトにはハッキリと認識できた。
(偽装の必要があるのは破壊原因を秘密にしたいから。今その必要があるのは………)
リョウトはギレンを疑っている自分に混乱していた。否定する材料を探すが疑惑は膨らむばかりだ。
確証はない。動機も分からない。だが状況は彼を犯人だと示している。どうして良いか迷っていた。
「とにかく余計な迷いは捨て、非情かつ合理的に行動する事だ! でなくば娘一人も守れんぞ」
再びギレンの言葉がリョウトの胸に突き刺さった。そしてそれはある一つの決意を促す。
「分かりましたギレンさん。僕はもう、迷いません」
一言呟くと、ナウシカの眼前にライフルを突きつけた。
「この機体には破壊痕を誤魔化す工作がされています。そんな事をする必要があるのは……」
「待て、冷静に考え直せ。私は……」
「言いましたよ。僕はもう迷わないって」
銃声。一瞬送れてナウシカの残骸がバラバラとこぼれ落ちる。
「間違っていたらゴメンなさい。許してくれなくても結構です」
冷たく言い放つとリョウトは希望を求め東へと飛び立った。いつの間にかゼロシステムが起動して
いたが気にはならない。邪魔者は迷わず消せばいい。その為の力を与えてくれるようだった。
【ギレン・ザビ 搭乗機体:RX−7ナウシカ(フライトユニット装備)(トップをねらえ!)
パイロット状態:死亡(蒸発したと思われる)
機体状況: 大破(バラバラ)
現在位置:B−1】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:健康
機体状態:小破(左翼が一部破損し飛行能力低下)
現在位置:C−1 補給しつつ東の廃墟を目指す
第1行動方針:リオの捜索
第2行動方針:邪魔者は躊躇せず排除
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考:バスターライフルはエネルギー切れ】
【時刻:二日目 12:00】
同じくグダの墜落地点。既にリョウトがギレンを撃ち、飛び去ってから1時間程が経過していた。
「なんてこったぁぁ!!!」
やっと現場に到着したタシロが無残に大破したグダを見て叫ぶ。シロッコから逃げ延びた後、低空で
移動して来たた為、墜落現場の発見にかなりの時間がかかっていた。
(子供達は無事だろうか? 無事に逃げ果せたと祈る他ないとは………)
あれから通信は誰からも入っていない。ただ雑音が響くばかりだ。タシロはラトゥーニが撃墜された
事もギレンが命を落とした事も知らない。ただ祈るしかなかった。
「くっ、偉そうな事を言って置きながら部下の一人も助けられないとは…………副長、すまぬ」
おそらく船と命を共にしたであろう副長にタシロは心から詫びた。ある程度は分かっていた事だが、
知り合いが志半ばでの戦死ですらなく、理不尽に死んだ事は衝撃が大きい。歴戦の自分ですらそうだ。
おそらく子供達の受ける衝撃は自分の比ではあるまい。そう改めてタシロは思う。
(だからこそ、だからこそ守らねばならぬと言うに!)
無力だった。機体を満足に操ることさえ出来ていなかった。戦線離脱も幸運としか言いようが無い。
しばらくタシロは己の無力さに打ちひしがれていた。そして、妙な事に気がついた。
(この通信に入る雑音………特定のリズムを持っている?)
僅かな望みを賭けグダを特定のリズムで叩いてみる。モールス信号に代表される原始的な打文だ。
しばらくして通信に入る雑音のリズムが変化した。
「いやぁ。死ぬかと思いましたよ」
数十分後、解体されたグダの中から飄々と副長が姿を現した。負傷したのか左足に添木がしてある。
「副長。よく生きていてくれた! まさに奇跡だ」
「いえ奇跡なんてありませんよ」
破壊されたグダの頭部を見て副長は呟く。ギレンが操縦室の場所に興味を持った時に、それとなく
ダミーを教えておいたのだ。常に最悪の事態に備えて打てる手は打っておく主義らしい。こうも早く
役に立つとは思わなかったが。そしてジッとグダを見つめると副長は静かに口を開いた。
「助けていただいて恐縮ですが、ここでお別れのようです」
機体を失って今後生き残れるとは思えない。足を引っ張るだけだと副長はタシロに伝えた。他人の
機体を奪う事の難しさはタシロも良く分かっていた。それでもタシロは諦めつかず考え込んでいる。
「そうだ! この機体は本来、二人乗りだとスゥボータ少尉に聞いたぞ!」
ヒュッケバインMK3ガンナー。本来のパイロットはリョウト・ヒカワとリオ・メイリンの二人。
タシロはAMガンナーのハッチを開けた。確かに空きの操縦席がある。それを見て副長は考えた。
グダにも空きの操縦席(オペレーター等)がいくつもあった。最初から用意されている席なのだから
機体乗り換えとは別物なのだろうか。主催者の胸先ひとつで決まる危険な賭けだった。随分と悩んだ末、
副長は結論を出した。どの道、機体無しでは死んだも同然だ。
「分の悪い賭けです。しかも負けた時は艦長と機体を巻き込んでしまいますが、構いませんか?」
「無論だ。クルーと命を共にする覚悟は最初から出来ている」
即答だった。そして、二人は賭けに勝った。
「アレって、ありでございますですか?」
ヘルモーズのオペレーター席に座るラミアが呆れた様に尋ねた。
「………見た目よりも勇敢な男達だな」
呆れた様にユーゼスも答えた。乗換え規制は存在するが、主操縦席以外はノーマークだった。
コクピットの中で食卓を囲めるくらいだから結構いい加減な規制なのかもしれない。
「やはり二人乗りの新装版(OG2版)ではなく、一人乗りの初期版(α版)をコピーすべきでござい
ましたですね。乗換え規制を強化しますですか?」
正史で戦ったのは龍虎王となっているので、初期版は探すのが面倒だったと思われる。
「途中でルールを変えるのはフェアではないと思わんかね?」
ただ単に己の過ちを認めたくないだけだろうとラミアは推測したが、口には出さない。
「不測の事態が起こる前に、処置を厳しくすべきと提案いたしますです」
「何を言っている。だからこそゲームは面白いのだろう? それに第一………」
ユーゼスは意地悪そうにラミアをジロジロと見ながら続けた。
「乗換え判定を強化した途端、お前の首輪も爆発するが………強行するかね?」
ラミアは自分の席を確認した。伝統的にオペレーター席は戦艦のサブパイロット席である。
「………現行のままで良ろしいかと思いますです」
【タシロ・タツミ 搭乗機体ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリ)】
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:良好
現在位置:B−2廃墟
第1行動方針:他の参加者との合流(ラトなどの捜索)
第2行動方針:ゼオラやシロッコをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考1:AMガンナーに搭乗した副長が管制制御をサポートしている】
【副長 搭乗機体:メカザウルス・グダ(ゲッターロボ!)
パイロット状況:左足骨折(応急手当済み)
機体状況:大破
現在位置:B−2廃墟
第1行動指針:タシロをサポートする
最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考:グダからAMガンナーへ乗換。AMガンナーはサポートのみ、本体操作は出来ません】
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:???
パイロット状況:健康(言語回路が不調)
現在位置:ヘルモーズ
第一行動方針:ユーゼスの命令に従う
備考:ちゃんと他の参加者と同じ首輪を着けているらしい】
【時刻:二日目 13:30】
ゴッドガンダムの落下地点。突っ伏してはいるが激突前に体勢を立て直せたのだろう、落下による
大きな損傷は見当たらない。戦闘による後遺症か、キラは痛み止めを打ってなお全身を襲う激痛で体を
起こす事も困難だった。会話が出来るようになるまで随分時間が経過していた。そんな体でよく戦闘や
着地が出来たものだ、まるで暴走した強化人間だなとシロッコは感心する。
「よくやった上出来だよ」
「やめてください! 人を殺して来て………そんな………よくやっただなんて!」
痛いのか悲しいのか、キラは泣き声だった。こんな無茶なシステム考えたやつの気が知れないとでも
考えていたのかもしれない。
「いや君はよくやったさ。よく生きていてくれた。そしてよくゼオラを守ってくれた。私こそ援護に
来れずすまなかった」
シロッコはガンダムタイプを相手に生き残ることが、どんなに難しい事かを良く理解している。
機体の性能に頼り切っている者を守って戦う困難さもだ。褒める所は褒めてやるのが躾けのコツだ。
「ゼオラさんは………大丈夫でしたか?」
キラは恐れている。ゼオラは大事な友達を失って悲しんでいるのだろうか。奪ってしまった自分を
責めるだろうか。自分が死ぬよりも、知っている人物を殺した事が怖くて仕方がない。涙が止まらない。
「君の無事を確認してから、友人の所へ行ったよ。遺体から首輪を回収するためにね」
キラの回復を待つ間に、アラドを救う為に必要だと吹き込み、回収へ向かわせたのだ。運よく遺体が
残っていれば儲け物だ。工具を持たせて向かわせた。首輪を外せなくとも遺体を確保すれば後は自分が
始末する。本当はキラに任せたかったが、この様子では役に立ちそうにない。爆発力は凄いが脆過ぎる。
機体の反動も大きい。このまま立ち直れないならば『処理』する事も視野に入れねばとシロッコは考える。
「何て事を! 女の子なんですよ! 友達なんですよ!」
首輪を回収する。それが何を意味しているかは明白だった。
「友達だから、だろうな」
『友達だからに決まってるでしょ! あなたこそ無関係なのよ!』
キラはラトゥーニに言われた言葉を思い出し、そして思い悩む。ゼオラから大事な友達を奪った上、
友達の遺体を傷つけさせようとしている。何も出来ない自分が情けなかった。
「行きます。ゼオラさんの所へ行きます」
何も出来ないかもしれない。でも放っては置けなかった。罵倒されたとしても一人で悩むよりマシ
だと思った。ゼオラの為に何かをしたかった。
キラは無理やり体を起こすとヨロヨロと移動を始めた。ダンガイオーは手を貸さずに見守っていた。
V2ガンダムの落下地点。地上に叩きつけられた機体が無残な姿を晒している。
(私………生きてるの………まだ)
驚いた事にラトゥーニは生きていた。だがそれは『まだ完全には死んでいない』というだけだった。
暗闇の中、指一本すら動かせない。ただ流れ出る血が残された時間が僅かである事を教えてくれた。
(本で読んだ通りだ………寒いけど………あんまり痛くない)
痛みというよりも全身の感覚がない。自分がどんな有様なのか、確かめようにも視線を動かすこと
でさえ困難だった。目も見えているかどうか分からない。ただ、やけに息苦しい。
(私………死ぬのかな………これから)
スクールにいた時は死ぬ事が怖くなかった。いつ死んでもいいと思ってた。抜け出してから基地に
配属されても、そうだった。生きる事に希望は無かったし、辛い事の方が多かった。
(こんな事なら………日記帳………片付けて置けば………良かった)
仲間や友人達の姿が浮かぶ。次々と思い出が溢れ出して来る。これを走馬灯というのだろうか。
ガーネット達と出会って楽しい事が沢山あった。自分なりに戦う意味、生きる意味を知る事が出来た。
実りそうにはなかったが恋もした。
(やだ………やだよ………死にたくないよぉ………リュ………セ)
いつの間にか血ではないものがラトゥーニの頬を伝っていた。
「……ヴゥ……ゲ……」
声は出ない。僅かに開いた口からは血とも涎ともつかないものが流れ落ちるだけだった。奥歯が
カチカチと音を立てているが、それも次第に間隔が開いていった。
(……リュ……ウ………)
不意に小さな音がして光が差し込んだ。外に操縦席の装甲を引き剥がした白銀の機体が立っている。
機体からゼオラが飛び降りて来る。しかしラトゥーニの瞳は光を感じる事が精一杯だった。
『ラト! ラト! ラト!』
その叫びは殆ど聞こえない耳へも微かに届き、その抱擁は失いかけていた意識を僅かに引き戻した。
(なんでだろ………ゼオラの声がする………なんでだろ………あたたかい………)
『助けるから、絶対助けるから! アラドと一緒に助けるから! 大丈夫だから………だから!』
既にラトゥーニは言葉を理解できなかった。ただ懐かしい友人の声と温もりに浸っていた。
(ぜお…らぁ……わたし……こわい……ゆめ……みたの……すごく………こわ……い………ゆ…………)
『ごめんね。ごめんね。ごめんね。絶対助けるから! だから………ごめんね!!』
温もりが急に遠ざかった。その直後に喉の詰まりが抜けて楽になり、再び暗闇が舞い降りた。
(ぜ…………ぉ…………………)
ラトゥーニ・スゥボータは絶命した。痛みを感じること無く微笑を残したまま。その喉元は大きく
切り裂かれていた。
時折倒れこむキラに合わせて、シロッコがV2ガンダムの所へ辿り着いたのは随分経過しての事だ。
「流石に頑丈なものだ。『連邦、脅威の技術力』というヤツだな」
シロッコが半壊しつつもコクピット周りの原形を留めているV2ガンダムを見て素直に感心した。
宇宙世紀技術の集大成と呼ばれた機体の凄さは残骸からでも分かるようだ。
「大丈夫ですか、ゼオラさん?!」
ゼオラは転がったV2ガンダムの前、開け放たれた操縦席の前に立っていた。友人の遺体を見て
呆然と立ち竦んでいるろだろうと、キラはゼオラの側へ行く。しかしキラを迎えたのは鮮血に染まった
ゼオラ、そして――――
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴。そしてキラは激しく嘔吐する。何も考えられなかった。何も考えたくなかった。
「どうしたのキラ? 紹介するわ。この子はラト。私の大事なお友達。顔を見るのは初めてよね?」
キラは見た。自分の殺めた少女を。ゼオラの右腕に抱かれた少女の虚ろな瞳と微笑を。
「キラ、首輪の解析をお願い。アラドを助ける為に必要なの。この子を助ける為に必要なの」
差し出したゼオラの左手には少女の首輪が握られていた。
「う、あ、あああ……」
座り込んだキラの目は見開かれ涙が溢れた。目線が少女の瞳と合った。
「あぁぁぅぁああぁぅぁぁぁあぁ!!」
「大丈夫。あなたは悪くないから。みんな助かるから。あなたが助けるんだから。あなたは悪くない」
言葉にならない嗚咽を上げるキラをゼオラは優しく抱きしめる。強い血の匂いが鼻腔を刺激した。
「大丈夫。私たちが助けるの。みんな助かるの。だからあなたは悪くないの。みんな許してくれるわ」
優しい蜜のような言葉がキラの砕けた心に塗り込まれてゆく。先程までキラがゼオラにしていた事。
「みんな………助かる? みんな………許してくれる? みんな………僕を許してくれる?」
「ええ、大丈夫。みんな許してくれるわ。私が許してあげるわ。だから大丈夫よ」
キラは震える手で首輪を受け取った。ベッタリと血が付いている。また少女と目が合った。
(大丈夫、僕が助けてあげる。キミを助けてあげる。他のみんなも助けてあげる。だから僕は大丈夫。
殺しても許して貰える。そう、『僕は許して貰える』。大丈夫、大丈夫だ)
キラに笑顔が浮かんだ。その目は虚ろに見開かれている。いつの間にか身体の震えは止まっていた。
そんな子供達から少し距離を置き保護者シロッコは一人、溜息をつく。遺体から首輪を外す事を
どうやって二人に納得させようかと悩んでいたのに、予想の斜め上を行かれた。
(やれやれ。爆弾が二つになったか。いっそ免罪符でも作って宗教でも開くかな)
冗談を交じえなければやってられなかった。もう少しキラを思考力のある駒に教育したかったが、
イジケて使い物にならないよりはマシ、反抗しないようシッカリ操れば問題ないと思い直す。
(先程の連中が帰ってきても厄介だ。首輪の解析は移動した後だ。補給も必要だ………それに)
シャワーを浴びせて休息させねばいかんな、と血塗れの二人を見てもう一度溜息をついた。
「大丈夫。みんな助かるから。みんな、みんな、最後には助かるから。大丈夫、安心して」
「そう……だね。みんな助かるんだよね。そうだよ、だから……だからみんな、許してくれるよね」
殺戮ゲームの二日目、昼。命は羽の様に舞い、心は脆く砕け散る。ここはそんな世界。
【ゼオラ・シュバイツァー 搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状況:身体的には良好。精神崩壊(洗脳状態)
機体状況:左腕損傷(エネルギー残少。徐々に回復)
現在位置:B−1
第一行動方針:アラドを助ける為にシロッコとキラに従う
第二行動方針:アラドを助ける事を邪魔する者の排除
最終行動方針:主催者を打倒しアラドを助ける
備考1:シロッコに「アラドを助けられる」と吹き込まれ洗脳状態
備考2: 「人を殺しても後で助けられる」と思ってる。
備考3:リオを殺したと勘違いしている
備考4:リオがアラドを殺したと勘違いしている】
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ゴッドガンダム(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状況:激痛と疲労で衰弱(歩くのもやっと)左腕が動かない。精神崩壊気味
機体状況:損傷軽微、左腕は肩部を残し消失
現在位置:B−1
第1行動方針:首輪の解析
第2行動方針:ゼオラと自分の安全確保
第3行動方針:ゼオラとシロッコに従う
最終行動方針:生存
備考1:「人を殺しても後で助けられる」と思い始めている
備考2:ラトゥーニの首輪を所持】
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:ダンガイオー(破邪大星ダンガイオー)
パイロット状況:良好(良い保護者の熱演に疲れ始めた)
機体状況:右腕は肩から損失、左腕は肘から下を損失。全体に多少の損傷あり
現在位置:B−1
第1行動方針:首輪の解析及び解除
第2行動方針:戦力増強(切実に新しい機体が欲しい)
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考1:コクピットの作りは本物とは全く違います。
備考2:基本的にサイキック能力は使用不能だがNT能力等で一部代用できるようだ】
【ラトゥーニ・スゥボータ 搭乗機体V2アサルトバスターガンダム(機動戦士Vガンダム)】
パイロット状況:死亡(首輪はキラが所持、遺体はシロッコが埋葬した)
機体状況:大破(半壊した胴体部と左腕のみ残っている)
現在位置:B−1】
【時刻:二日目 14:30】
27 :
それも名無しだ:2005/12/29(木) 23:17:20 ID:DOhp1D21
訂正
>>17 の
リョウト・ヒカワの状態について誤記
誤:備考:バスターライフルはエネルギー切れ】
正:備考なし
度重なる訂正申し訳ありません
28 :
宿命の鎖(1):2005/12/30(金) 22:26:35 ID:2DeBnHLn
「出来るだけ助けを求める人の力になりたいんです!」
プレシアが鼻息荒く宣言したのは3時間前だ。二回目の放送が流れ、新たな犠牲者の名前が読み上げられるのを聞いたプレシアは、
この忌まわしきゲームに巻き込まれて困っている人間を助けたいと言い出したのだ。ガルドは時間をかけて、丁寧に丁寧に説得をした。
ゲームが始まって一日も経っていないのに既に3分の1ほどの死者が出ている事から、ゲームは予想以上にハイペースだと考えられる。
それは多くの人間が殺し合いに参加しているという証左であり、プレシアが戦いを避けたいならば不用意に動くべきではない。
そもそも、プレシアは戦えないし、チーフも動力の出力が未だ上がらずとても戦闘は出来そうにない。
もしゲームに乗った人間に襲われたらどうするんだ?
しかしプレシアは譲らなかった。曰く誰もが戦いを望むわけではない、戦いは新たな憎しみを生むだけだ・・・確かに正論だ。
それに戦いが憎しみを生む事は、他でもないガルド自身が分かっている事でもある。
プレシアの意見を青臭い理想論だと感じつつも、ガルドはそれを面と向かって指摘できないでいた。
真っ向から戦いを否定するプレシアの眩しさに、一度汚れてしまった自分は引け目を感じているのかもしれない。
ちょっとした巡り合わせで助けたプレシアと過ごすうちに、ガルドは心の澱が澄んでいくようにも思えたのだ。
思いの果てに自ら戦いを選択し決定的な過ちを犯した自らの許しを、無意識のうちにプレシアに求めているのだろうか?
ならば俺は全身全霊を懸けてこの娘を守ろう、そうガルドは決意する。
すまんな、と心の中のイサムに向けてガルドは言う。俺は、俺が出来ることを今度こそ果たさなければならない。
逡巡の末、ガルドは助けを求める人を探す為、移動することに同意した。
(ボス君が、死んだなんて・・・)
陽気だけれども悪を許せない、正義感に満ちていた友人の死の衝撃は、竜馬を物思いの底に沈ませていた。
「おい!我が友よ、木にぶつかるぞ!」
ハッターに言われて現実に引き戻される。二回目の放送を聞いて居ても立ってもいられなくなった竜馬は、
半ば強引にハッターとアスカを連れ移動しているのだった。移動する方向に特に意味は無い。
ただ、今、この瞬間にも鉄也や罪の無い人々が死んでしまうかもしれない、そう思うと立ち止まってなど居られなかったのだ。
そうして2時間程、当て所の無い移動を続けていると、市街地が唐突に途切れ、目の前に光り輝く壁が見えてきた。
「何だこれは?」
左右に目をやると、光の壁は一直線に続いており、切れ目など見当たらない。
「そういえば、逃げても無駄だ、なんてさっきの放送で言ってわね」
アスカが不機嫌そうに言う。
「成る程、こういうことだったか・・・」
これからどうすべきか相談しようと横を見ると、ハッターの姿が忽然と消えていた。
「おい、ハッター!どこ行った!?」
「ハッターならその壁の中に突っ込んで行ったわよ。この壁は通り抜けられるみたいね」
と冷静に答えると、アスカは壁へとトレーラー形態のダイモスを進ませた。慌てて竜馬も後を追う。
予想に反して何の抵抗も無く通り抜けると、周囲は青々とした草原になっていた。後ろを振り返ると光の壁がそびえ立っている。
「これは、凄い技術だな!」
勢い余ったのか転んでいるハッターがそう言うのを見て、竜馬は張り詰めた気持ちが少し楽になるのを感じた。
「逃げられない、んじゃなくて、逃げても無駄だ、と言ったのはこの壁があるからじゃないかしら?
多分この壁は地図の上と下を繋げてるんだわ。現在位置はD-1だと思う」
「意外とやるじゃないか!フロイライン・アスカ!」
冷静に分析するアスカにハッターが大袈裟に驚いている。竜馬は少し考えて方針を決めた。
「よし、このまま南下しよう」
29 :
宿命の鎖(2):2005/12/30(金) 22:28:35 ID:2DeBnHLn
「残り時間は3時間か・・・なかなか厳しくなってきたわね・・・」
若干の焦りを滲ませてセレーナは呟いた。放送を聞いてから既に3時間が経過している。
最も大きい市街地であるA-1、B-1地区に誰か潜んでいると当たりをつけて目的地とし移動しているものの
数時間も誰とも会わないと、少しばかり心配になってしまうのは無理も無い。ECSも目立たせる為切っていた。
「どこか、一箇所に固まってるからかもしれませんね」
エルマが慰めるように言う。
「もし間に合わなかったらアンタ達のせいだからね。エルマもアルもスクラップにしちゃうわよ?」
「そんな、ヒドイですよ!」
<睡眠を取ることを進言したのはエルマです。私は睡眠が足りなかった場合の可能性を提示しただけです>
「ええっ!アルったら何言ってるの!」
エルマとアルの親しい様子にセレーナは目を細めて笑う。
「あらら〜?いつの間に仲良くなっちゃったのかしら。お姉さんの知らない所で内緒話でもしてたの?」
<回答不能>
「そこだけ急に昔に戻らないでよ!」
アルが目をチカチカさせて抗議する。
「にしてもアルの声って渋いわね。この声で呼び捨てにされたら痺れちゃうかも・・・」
一人と二機が漫才を繰り広げつつも、アーバレストは北上を続ける。
剣鉄也に取って、二回目の放送は殺すべき人数が10数人減った、という以外に何の意味も無かった。
戦闘マシーンへと戻ることを選択してからおよそ8時間。鉄也は一睡もせずにガイキングの足を進めていた。
一歩一歩踏みしめる足から伝わる微弱な振動に揺られながら、ただひたすらに敵を求める。
その間、ボスの死に様を自らの永遠の枷とする為に、鉄也は何度も彼の事を思い返していた。
血の滲むような訓練の末に人間らしさを失った鉄也に、甲児やジュン、そしてボスという戦友達が居場所をくれた。
その時、彼の生きるべき場所は、戦場から皆の待つ家へと変わったのだ。
(だが・・・)
鉄也は自嘲めいた笑みを口の端に浮かべる。
(それも幻想に過ぎなかったわけだ・・・皆の優しさに触れても、結局俺の本性は変わってなかった。
あのボスが俺と同じ時間に生きたボスでなくても、あいつは掛け替えのない戦友だったのに・・・)
自分の滑稽さに笑いが止まらない。
(あいつが戦っている時、俺は全てをかなぐり捨てて助けに行く事が出来なかった。下らない考えに囚われて。
俺を信じてくれていたボスを、俺が見殺しにした。あいつは俺が殺したんだ・・・)
鉄也はボスの最期を何度も脳裏に焼き付ける。そして戦いを求める。
ガイキングが踏みしめているものが、土からざらざらとした砂になった頃、鉄也の目の前に三機のロボットが現れていた。
30 :
宿命の鎖(3):2005/12/30(金) 22:31:03 ID:2DeBnHLn
ガルドの目に映ったのは仰々しい恐竜の顔のようなものを腹につけた大きなロボットだった。
右腕は既に無く、身体のそこかしこに傷がある。左手は幅広の剣を持っている。どこからどう見ても、戦闘して来たことが見て取れる。
舞う砂のせいで視界が遮られていたのか、予想以上にお互いは接近していた。
逃げようと背を向ければ、相手の攻撃をまともに食らう事は確実だった。
「私はプレシア・ゼノキサスです!そちらのパイロットさん聞こえますか?」
プレシアが外部スピーカーをONにして声を張り上げる。
「俺は剣鉄也だ。貴様らが、俺の敵か」
ガイキングから低い男の声が聞こえた。まるで地獄の底から這い上がったかの如き声にガルドは畏怖を感じる。
プレシアも男の冷たい声に気勢を削がれながらも、果敢に言葉を続けた。
「違います!私達は戦うつもりはありません!あなたも戦って傷ついたんでしょう?無益な争いはやめて下さい!
私達が出来ることならお手伝いしますから・・・」
「ならば俺と戦え」
再び低い声が返ってくる。
「どうして!何故戦わなければならないんですか!」
「何故戦う?それが、俺の宿命だからだ」
そう言ってガイキングはダイターンザンバーを構える。
「我々には戦う理由が無い」
チーフがそう言うのを聞くと、鉄也は声を荒げた。
「俺は、俺を信じてくれたあいつの為に、貴様ら全員を殺さなければならない!」
有無を言わさぬ口調に、プレシアが怯む。ガルドはブラックサレナをグランゾンの前に進めた。
「見逃してはくれないのか」
「一人残らず、俺は殺す」
一片の曇りすら感じられない鉄也の声を聞き、ガルドは静かに覚悟を決め、チーフとプレシアに通信を開く。
「プレシアは南に、チーフは東に逃げろ。俺がこいつを食い止める。俺があいつに突進するのが合図だ。いいな?」
「ガルドさん、何言ってるの!?ガルドさんだけ置いて逃げるなんてできないよ!」
案の定のプレシアの反論に、チーフが口を挟んだ。
「この距離では3人とも逃げるのは無理だ。しかし一人が食い止める事が出来れば、残り二人は逃げられる。
私は戦えず、君は戦いたくない。ならばそうするしかない」
ガルドも畳み掛けるように言った。
「大丈夫だ、プレシア。必ず生き残る。約束だ」
「本当に、約束してくれる?」
「ああ。俺は約束を破ったことが無いんだ。心配するな」
俺も筋金入りの嘘付きだな・・・とガルドは自嘲する。
「ガルド、助けを連れて戻ってくる。それまで持ち応えてくれ」
チーフがそう言うと、すかさずプレシアも
「私も助けを連れてくるから!」
と叫ぶ。
「了解だ。期待している。では行くぞ。3、2、1、GO!」
カウントダウンと同時に猛然と高機動型ブラックサレナはガイキングへ向けて突進した。
31 :
宿命の鎖(4):2005/12/30(金) 22:33:33 ID:2DeBnHLn
東へ、東へと逃げるチーフは自らを納得させようとひたすら考えていた。
自分の判断は間違ってはいない、その一心でひた走る。
旧式のコンバーターのせいで碌に戦闘もできない自分、戦いを忌避するプレシア、そしてガルド。
戦闘できない二人を逃がす為には、ガルドが残るしかなかった。仮に自分が残っても、ガルドの足手まといになるだけだろう。
ガルドは性格的に仲間のフォローに回る事は間違いないと、出会ってからの数時間でチーフは彼を分析していた。
ならば自分には逃げる以外の選択肢が無い。一時退却して助けを見つけて戻ればいい。それで万事解決だ。
自分の目的はゲームから脱出することであり、その為には手段を選ばない。合理的だし、効率的な選択じゃないか。
しかしチーフは沸きあがる衝動を抑えられない。
合理?何だそれは。何故俺は逃げているんだ?
見た所、あのガルドに対しているパイロットは、揺るぎ無き殺意と自らの腕に対する絶対的な自信を持っていた。
ガルドも相当な手練だが無事で済む保証はどこにもない。それなのに何故自分は逃げているんだ?
既に逃げ出してから20分が経過している。今戻っても戦闘開始から40分。
機動兵器同士の総力戦が、30分以上続く可能性が限りなく低い事は経験則としてチーフは知っている。
そう、もう無駄だ。今仮に戻っても戦況には何の影響も与えられない。ならば彼の死を無駄にせず・・・
死、だと。何を考えている。ガルドが死ぬと決まったわけじゃない。いや、自分は、自分は・・・
合理、合理、合理、合理、合理、合理、合理―――
「おおッ!兄弟!探したぞ!」
聞き覚えのある声と見覚えのある姿。イッシー・ハッターがチーフの前に立っていた。後ろにはトレーラーと大型の機動兵器が控えている。
「ハッター・・・」
「この人がハッターの探してる人?」
「そうだ。マイ・ブラザー、魂の友、チーフだ!・・・ん、どうかしたのか兄弟?」
変わらない陽気なハッターの声に、チーフは考えるよりも早く気持ちを吐露していた。
「助けてくれ・・・」
プレシアはしゃくりあげながら南へと逃げていた。
(困ってる人を助けたい、なんて言っておいて何もできなかった。ガルドさんは確かに言っていたのに。
危ないから今は動くべきではない、と何度も説得していたのに。私のせいだ。私のせいなんだ。
話せば分かる、なんて思ってた。一回黒い悪魔のような機体に襲われたのに、まだ私は分かってなかった。
困ったらガルドさんがヒーローみたいに助けてくれて、一緒にどこまでも行けるなんて思ってたんだ。
でも現実は違う。ガルドさんは今も戦ってるんだ。早く助けを呼ばないとガルドさんが、ガルドさんが・・・)
必死で見回しながら進んでいると、灰色の機体がこちらへと向かってくるのが見える。
プレシアが呼びかけるより早く、通信回線が無理矢理開かれた。
「あなたはゲームに乗ってるの?」
若い女性の声だ。見かけた瞬間に撃ってくるような人間でない事に安堵しながら、プレシアは助けを求める。
「助けて下さい、お願いします。何でもしますから、おねがい・・・」
泣きじゃくりながら助けを求める女の子の声に、セレーナはただならぬ様子を感じる。
「どうしたの?落ち着いて説明なさい」
『ガルドさんが、私達を逃がす為に一人で戦ってるんです!だから早く助けに戻らないと!』
「そのガルドって人が戦っている相手は、無理矢理襲ってきたの?」
『戦いたくないって言ったのに、聞いてくれなかったんです・・・』
その答えを聞き、セレーナは素早く考えを巡らせる。
(この子の言う事が本当なら、その戦ってる相手はゲームに乗ってるのは間違いないわね)
「いいわ、助けてあげる。でも、その前に一つ聞きたいことがあるの」
『なんですか?』
「見た目だけの印象で申し訳ないけど、その機体は充分に戦う力があるように見えるわ。
ガルドさんは大切な人なんでしょう?なのに、どうしてあなたは戦わなかったの?」
プレシアは息を飲んだ。勿論逃げたのはガルドが逃げるよう言ったからだ。
でも、それは戦わなかった理由にはならないと本当は気づいている。グランゾンの強さは、目の前で父を奪われた自分は身に染みて知っている。
この機体の操り方だって分かっている。ただ私は怖かっただけ。戦って、殺したり殺されたりするのが怖かっただけ・・・
『助けてあげるけど、助けるのはあなたじゃないわ』
答えられないプレシアに幾分冷たさを感じる声をかけて、アーバレストは走り出す。プレシアは俯いて後をついていくことしか出来なかった・・・
32 :
宿命の鎖(5):2005/12/30(金) 22:38:21 ID:2DeBnHLn
ブラックサレナとガイキングの戦いは始まって5分になろうとしていた。
ガイキングの攻撃をかわしながら体当たりを繰り返すブラックサレナだが、固い装甲に阻まれる。
しかも突進のタイミングを、段々と読まれて来ている事をガルドは感じていた。反応が良くなってきているのだ。
もし突進を正面で受け止められたら、どんな反撃を食らうか分からない。
熟練した鉄也と戦うには、高機動用パーツを装備した状態では攻め手のバリエーションが少な過ぎた。
「なかなかやるな。しかしそんなものでは俺は倒せん!」
「・・・それは分かっている」
そう呟くとブラックサレナは高機動用パーツをパージし、ハンドカノンを撃つと同時に滑空した。
ガイキングは左腕で防御し、すかさず目からデスパーサイトを放つが、フィールドによって捻じ曲げられる。
「そこだッ!」
フィールドを纏った体当たりが直撃するが、鉄也は自ら機体を後方にジャンプさせ衝撃を受け流す。
そしてヒット&アウェイの要領で上空へ戻るブラックサレナに向けて、腹部からハイドロブレイザーを3発放つ。
青白い火球をガルドが辛うじてかわすと、今度は後方から赤い十字手裏剣、カウンタークロスが唸りを上げて迫る。
それをハンドカノンで弾くと、今度はガイキングの左手がガルドの眼前に迫っていた。避けきれずに腹部に食らってしまう。
バランスを崩したブラックサレナを更に無数のミサイルが襲う。フィールドを張るが、実弾兵器には効果が薄く数発が直撃した。
一時のチャンスを逃さない鬼神の如き鉄也の猛攻に、ガルドは奇妙な満足感を得ていた。
(ここが俺の死に場所なのか・・・)
半ば諦めにも似た感情が心を塗りこめようとした時、不意にプレシアの声が甦った。
『本当に、約束してくれる?』
(そうだ、俺はプレシアとの約束を果たさなければならない!)
空中で態勢を立て直して各部の動作を確認する。バランスを犠牲にして作られた厚い装甲は確実にガルドの身を守っていた。
ガルドは打開策を考える。ガイキングは近距離、遠距離どちらにも対応したスーパーロボットだ。攻撃力が高く装甲も厚い。
最も破壊力のあるフィールドを張った体当たりでさえ普通に当たってはガイキングには決定的なダメージを与えられない。
むしろ体当たりという半ば捨て身の攻撃を見舞う為に生じる隙に、あちらから致命的なダメージを貰ってしまうかもしれないのだ。
見通しは厳しい。しかし、諦めてはいけない。俺は生き延びると約束したのだから・・・
そして再びブラックサレナは急降下する。食らうと同時に衝撃をずらされるなら、ずらせないように当たれば!
ガイキングが撃ったミサイルをを機体を回転させてかわし、地面と垂直になるよう一直線にガイキングへと向かっていく。
かわせないと悟ったガイキングが左手のダイターンザンバーを投擲し、ブラックサレナの左肩に突き刺さるが、
そのスピードは全く衰えないどころか更に上がっていた。急降下の猛烈なGに軋む体を歯を食いしばって抑え付ける。
「おおおおおおおッッ!」
雄叫びと共に、体当たりがガイキングの胸部を抉る。
「ぐッ・・・」
体当たりの衝撃を受け流せず食らい、コクピット内の鉄也もあばら骨が折れる音を聞いた。
ガルドは急激な重力の変化に持って行かれそうな意識を必死で止め、恐竜の如きガイキングの腹部にハンドカノンを突っ込み
遮二無二乱射した。ガイキングの武装の多くは腹部から発射されており、ここを壊せば相手の攻め手は一気に無くなる。
連続する衝撃の中、鉄也は激痛に顔をしかめて操縦桿を握る。
「あいつが、ボスが信じてくれた剣鉄也は、ここで負けたりはしない!」
ハンドカノンの衝撃に耐えながら、左手でブラックサレナの左肩に刺さったザンバーをしっかりと握り、角を押し付ける。
「パラァァイザァァァァッ!」
押し付けられた角からブラックサレナに高圧電流が流される。電流は機体を駆け巡り、機器を焼き、ガルドの体を焦がす。
「がぁぁぁああああっああああ!」
ガルドの口が独りでに絶叫を紡ぎ出し、失禁し、涙がこぼれた。それでもガルドはトリガーを引き続ける。
(約束を・・・プレシアとの約束を・・・)
33 :
宿命の鎖(6):2005/12/30(金) 22:40:55 ID:2DeBnHLn
数十秒間の後、ガルドの声がかすれ、コクピットが人の肉が焼ける匂いで一杯になった時、ガイキングのエネルギーが底を尽いた。
ブラックサレナを自らの上から剥がし、ガイキングは立ち上がる。腹部の竜は無残に潰れ、全ての武器は使えない。
鉄也は朦朧とする意識の中、ブラックサレナの左肩からザンバーを抜いた。敵は微動だにしない。しかし安心はできない・・・
そしてブラックサレナに止めを刺そうと振りかぶったその時、
「ガルドさん!」
という声と共に、ガイキングの頭部に散弾が命中した。よろけた所に、走ってきたアーバレストの蹴りで吹っ飛ばされる。
ブラックサレナは無惨な姿を地に晒していた。左肩は抉れ、機体のそこかしこから煙が立ち上っている。
プレシアは泣きながらガルドに呼びかけるが、一向に答えは返ってこない。
震える手でコクピット部分に手をやりこじ開ける。自分の手のようにグランゾンを操っている自分に気づいてまた涙が溢れる。
コクピットには緑の皮膚が火傷によって黒ずんでいるガルドが横たわっていた。胸が僅かに上下している。
夢中でコクピットから飛び出してガルドの体に触れると、痛みに苦悶の表情をもらし、うっすらと目を開く。
プレシアが慌てて手を話すと、ガルドはゆっくりと首を振って言った。
「約束、守れなかったな・・・すまない・・・」
ガルドの顔はあらぬ方向を向いていた。もう目が見えていないのだ。
「手を握っていてくれないか・・・」
静かに包んでくれるようだった低い声は、かすれてしまって聞き取る事すら難しかった。
肉の焼ける饐えた匂いが、焼け爛れた肌の感触が、リアルな死の足音となってプレシアに襲い掛かる。
嗚咽が喉に絡み付き、声を発することすらプレシアには出来なかった。ただガルドの手を握り、悲嘆に暮れる。
「悪いわね、今度の相手は私よ」
ブラックサレナを守るように、アーバレストはガイキングの前に立ちはだかった。
「そうか、今度の、敵は、貴様か」
調子外れのラジオのように途切れた声。しかし鉄也の目は爛々と光り、力を失ってはいなかった。
右腕、腹部、体中の傷、満身創痍のガイキングであっても。エネルギーは切れ、武装はダイターンザンバー一振りであっても。
何故?彼は戦士だからだ。戦士として生まれ、戦士として育った男、それが剣鉄也だからだ。
「手加減はしないわよ」
「当たり前だッ!」
搭乗者の裂帛の気合が乗り移ったかのように、ガイキングは猛然とアーバレストに迫る。
しかし振り下ろされた剣は紙一重で交わされ、頭部を単分子カッターが切り裂いた。頭が地に落ち転がる。
背後に回ったアーバレストがボクサー散弾銃を至近距離から叩き込み、ガイキングは再び地面に倒れた。
サブカメラは先ほどの戦闘で壊れていたのか切り替わらず、鉄也の眼前には砂嵐が舞っていた。いつの間にかレーダーも死んでいる。
それでもガイキングは起き上がる。ボスの形見である剣を携えて、微かな音を頼りに何度も切り掛かる。
「ボス、お前に見えているか!俺はちゃんと戦えているか!」
既に軋む体の痛みは消え去り、頭の中は澄み渡る。敵を倒す、その為だけに鉄也はガイキングと一体化していく。
しかし彼の剣はわずかに届かない。そして左腕の関節が伸びきった所を裂かれ、左腕が切り落とされる。
「まだだッ!ウォォォォ!」
唸り声と共に体ごとぶつかっていく。
その姿に、セレーナは戦士の執念を感じ取る。
「せめて最後は、苦しまずないよう一瞬で終わらせてあげる・・・!」
闘牛士のようにガイキングの体当たりをかわすと、すれ違い様ガルドの攻撃で出来た背中の隙間に対戦車ダガーを撃ち込んだ。
「アディオス・・・」
轟音。幾多の衝撃を耐え抜いたガイキングの装甲が内部から爆散していく。
周囲を炎が染め行く中、鉄也は操縦桿を離さない。脳裏に焼き付けたボスに必死で問いかける。
――ボス、俺は、お前の信じてくれた剣鉄也でいられたか?
ボスが微笑んでくれたように思えた時、鉄也の意識は途切れた。
「3人目、ですね」
エルマの呟きに答えず、セレーナは目を閉じ、戦士へ黙祷を捧げた。
34 :
宿命の鎖(7):2005/12/30(金) 22:43:03 ID:2DeBnHLn
爆風に乗った小さな瓦礫がプレシアの肌を打つ。ガルドが半ばうわ言のように話し始めた。
「お前が、助けを連れてきてくれたのか・・・?」
「そうだよ。ごめんね、ガルドさん・・・私が戦っていれば、こんなことには!」
ガルドは小さく首を振った。
「お前を守る、そう決めたのは俺の勝手だ・・・。それに無理して、戦うことはない・・・」
「戦うのが、私怖かっただけなの。だから逃げて、ガルドさんに任せて逃げて――」
ガルドが少し強くプレシアの手を握って言った。
「誰だって、戦うのは怖い、ものだ」
掠れた声でガルドは続ける。いつの間にか少し離れた所にセレーナがそっと立っている。
「戦うことは、確かに愚かな事だ。戦わなくて済むなら、それが一番だ。でも、プレシア、お前に本当に、守りたいものが出来た時、
本当に成し遂げたい、ことがある時、戦いを選ばなければいけない時が、きっと来る」
息が荒くなり時折こみ上げる苦痛に苛まれているのか、何度も顔を顰めながらも、ガルドはプレシアへと伝える。
「その時は、戦え。お前だけの、お前にしか出せない答えを、出す為に・・・」
プレシアは頷く。
「プレシア・・・最後にお前に会えて、嬉しかった・・・」
ガルドの手から力が抜けた。プレシアは溢れ出す涙を拭って立ち上がり、ガルドの亡骸を見詰める。
「ガルドさん・・・」
掌を痛いほど握り締め、悲しみを堪える。ガルドの顔、ガルドの声、ガルドの手、絶対に忘れないように胸に刻む。
そしてセレーナの方を向いて言った。
「セレーナさん、私に戦い方を教えて下さい」
その瞳からは怯えが消え、決意が宿っていた。
チーフがハッター達を連れて戻ってきた時、その場にはブラックサレナの残骸と、四散したガイキングの鉄屑が転がっているだけだった。
「酷い有様ね」
アスカがポツリと呟く。戦闘に備えてトレーラーから人型に変形していたが、それも無駄な準備となった。
「間に合わなかった・・・」
チーフは絶望的な無力感に打ちひしがれる。助けてくれた一時の仲間をみすみす見殺しにしておいて何が指導だ。
(指導する資格など自分には無かったのだ・・・!)
「本当に鉄也君だったのか?」
戦友がゲームに乗っていたこと、そしてその戦友が死んだであろうこと、竜馬は信じたくない一心でチーフに問いかける。
「自ら剣鉄也と名乗っていた。それにさっき声は聞いただろう?」
チーフは助けを求める際に、録音していた鉄也の声を竜馬達に聞かせ、それで納得を得たのだった。
「こんなの許せるわけがあるか!」
滅茶苦茶な戦闘の形跡を見て、ハッターはユーゼスへの怒りを燃え上がらせる。
そして、チーフも一つの決断をしていた。
(総帥、申し訳ありません・・・)
「ハッター、話がある」
35 :
宿命の鎖(8):2005/12/30(金) 22:47:29 ID:2DeBnHLn
ガルドの埋葬を終え、セレーナとプレシアは南下していた。
プレシアの申し出を最初は断ろうとしたセレーナであったが、エルマとアルの説得に加え
既にユーゼスから指定された3人のノルマを達成したこともあり、結果的に了承することになった。
「いい?プレシアちゃん。私は厳しいわよ。それでも着いてこれる?」
「大丈夫です。絶対についていきます」
グランゾンから固い声が帰ってきて、セレーナは首を竦める。と、突然コンソールにノイズが走り、ユーゼスの顔が映った。
『久しぶりだね、レシタール君』
「ユーゼス!」
『そう警戒しないでくれたまえ。私は君にご褒美を上げようと思っているのだからね』
汗が頬を伝うのをセレーナは感じる。本当にコイツは仇の情報をくれるのか・・・
『全く、君は素晴らしい殺人者だよ。ちゃんと3人殺してくれて私も非常に嬉しい。
だから交換条件の通り、チーム・ジェルバの仇の情報を教えよう』
息を呑む、やっと、ここまで来たんだ。
『その名前は、ラミア・ラヴレス』
「ラミア、ラヴレス」
生涯忘れぬようにその名前を繰り返す。
『勿論名前だけじゃ探すのも大変だろう。そう思って顔写真を用意した。今からアーバレストに送るから見てくれたまえ』
(顔写真・・・!?)
まさか顔の情報までくれるとは思いもよらず、セレーナは驚きを顔に出してしまう。
コンソールではユーゼスの顔が消え、黄色がかった緑色の髪を肩まで伸ばした女が映っている。冷たい感じのする女だった。
(こいつが、チームのみんなを・・・!)
やっと見つけた喜びか、あるいは沸きあがる怒りか、手が小刻みに震えている。
『余程私は信頼されてなかったようだな。何とも残念だよ、レシタール君。だからもう一つプレゼントを送ろう。
このプレゼントを渡せば、きっと君は私を信用してくれるようになる』
(これ以上何があるっていうの・・・?)
「あら、それは素晴らしいわ。それを貰えば、あなたのトリコになってしまうかもしれませんね」
そう冗談めかして言って、何とか心の平衡を保つ。
『実は、君の仇、ラミア・ラヴレスをこのゲームに参加せようと思うんだが・・・』
「何ですって!」
「そんな!」
セレーナは思わず叫んだ。今まで黙っていたエルマも驚きを隠せない。
『君達をここまで連れて来たのは私だ。ならば造作ない事は理解してくれよう。今から準備するので少し時間がかかるが、
・・・そうだな、次の放送の時、午後6時ぐらいには彼女を連れてきてゲームに参加させる事ができる筈だ』
「それは、私達と同じように機体を支給されるということ?」
体が震えるのを抑えて、やっとのことで言葉を搾り出す。
『そうだ。我々のリサーチでは彼女もパイロットであることが判明している。ゲームにおける扱いは君らと同じだ。
但し君に彼女の現在位置を教えることは出来ない。何といってもこれはゲームだからな。あまり不公平では君も楽しみがいがないだろう?』
「顔と名前が分かっていれば充分よ。・・・あなたには感謝するわ、ユーゼス」
『それは重畳。レシタール君の検討を祈っているよ』
高笑いと共に、ユーゼスの顔はコンソールから消えた。
「セレーナさん・・・」
エルマが不安げな声をかける。ここまでお膳立てするユーゼスの態度はどう考えても親切過ぎる。
「いいのよ、エルマ。相対して声を聞けば顔と名前があるから、本当かどうかは確かめるのは簡単だもの。
それに・・・巡ってきた機会を逃すわけにはいかないでしょう?やっと、やっとここまで辿りついたのよ。
必ずラミア・ラヴレスは私の手で殺す・・・!」
セレーナの固い復讐心を確認し、エルマは苦い気持ちを噛み締める。
<プレシアさんから通信です、マスター>
「あら、すっかりほったらかしにしちゃってたわね。通信開いて」
「セレーナさんっ、急に通信切ったりしないで下さいよ!怒らせちゃったのかと思って気が気じゃなかったんですから!」
ぷりぷり怒るプレシアの声に、セレーナはすっかりいつもの調子になって答える。
「プレシアちゃんがいつまでも緊張してるから、イタズラしてみただけよ。ゆ・る・し・て・ね!」
「もうっ、二度とやらないて下さい!」
そうやって冗談を言うセレーナの目が、ちっとも笑ってない事にエルマは不安を隠せなかった。
36 :
宿命の鎖(9):2005/12/30(金) 22:53:04 ID:2DeBnHLn
通信を終えたユーゼスに、ラミア・ラヴレスは問うた。
「何故私が参加するのが今すぐでなく、8時間後なのでございますですか?」
「セレーナ・レシタールのメンタリティは非常に興味深いものがあるのだよ、W17。人形のお前には分からないかもしれないがな。
今すぐ縊り殺したい仇が参加する事を知っているのに、数時間待たなければならない彼女の心を想像すると、私はゾクゾクするよ・・・」
そう言うと自らに陶酔するように身を震わせた。
「ゆっくりと醸成された彼女の復讐心、最高のデータが取れそうだとは思わないかね?」
ユーゼスは手元のディスプレイに映し出されているデータを指差す。
「ガルゴ・ゴア・ボーマン、剣鉄也、二例とも素晴らしい“特殊性”を発揮してくれた。
きっとセレーナ・レシタールも、同等かそれ以上の“特殊性”を見せてくれる、私はそう期待しているのだよ」
「そういうことでしたか、さすがユーゼス様、素晴らしい洞察力をお持ちでございますね」
「フ、人間とは本当に面白い生き物だよ・・・」
ユーゼスはいくつものモニターに映るゲームの参加者を見詰める。
「W17、あの機体の整備は万全にしておけ」
「了解しましたです、ユーゼス様」
「あれに乗ったお前を見た時、セレーナ・レシタールはどう反応するかな?全く、彼女は素晴らしい玩具だよ!ハハハハハッ!」
ユーゼスの元を離れ、格納庫に向かうラミア。
彼女の目の前には、セレーナ・レシタールの乗機であるASソレアレスの未来の可能性の一つがあった。
その名は――ASアレグリアス。
37 :
それも名無しだ:2005/12/30(金) 22:53:50 ID:2DeBnHLn
【時刻 10:00】
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康 仇の参加を知り興奮状態
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:C-3から南下(森を目指す)
第一行動方針:プレシアに戦い方を教える
最終行動方針:ラミア・ラヴレスの殺害
特機事項:トロニウムエンジンは回収。グレネード残弾5、投げナイフ残弾1】
【プレシア=ゼノキサス 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:健康
機体状況:良好
現在位置:C-3から南下(森を目指す)
第一行動方針:セレーナに戦い方を教わる
最終行動方針:自分にしか出せない答えを探す】
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ASアレグリアス
パイロット状況:健康(言語回路が不調)
機体状況:整備中
現在位置:ヘルモーズ
第一行動方針:ユーゼスの命令に従う
最終行動方針:???】
38 :
それも名無しだ:2005/12/30(金) 22:54:46 ID:2DeBnHLn
【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
パイロット状況:良好
機体状況:Vコンバーター不調『Mドライブ+S32X(レプリカ)』
現在位置:C-2
第一行動方針:Vコンバーターの修復
最終行動方針:ユーゼスの打倒
備考1:チーフは機体内に存在。
備考2:機体不調に合わせ、旧式OSで稼動中。低出力だが機動に問題は無い】
【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
パイロット状態:少なからずショックを受けている
機体状況:良好
現在位置:C-2
第一行動方針:他の参加者との接触
最終行動方針:ゲームより脱出】
【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
パイロット状態:良好 怒りに震えている
機体状況:良好(SSテンガロンハットは使用不可、トンファーなし)
現在位置:C-2
第一行動方針:仲間を集める
最終行動方針:ユーゼスを倒す
備考:ロボット整備用のチェーンブロック、鉄骨(高硬度H鋼)2本を所持】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:良好
機体状況:良好
現在位置:C-2
第一行動方針:碇シンジの捜索
第二行動指針:邪魔するものの排除
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す】
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:高機動型ブラックサレナ(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:死亡
機体状況:回路がほとんど焼き切れ、左肩が壊れている。ハンドガンは相応の技術がある人間なら修復可能】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:死亡
機体状態:四散 ダイターンザンバーは使用可能 】
39 :
それも名無しだ:2005/12/31(土) 09:22:09 ID:4z62Z+wi
遅くなりましたが >4-27 の「咲く花散る花」は
修正書き直しの為、一旦破棄させて頂きます。
多くのご感想ありがとうございました
『それでは、楽しいバトルロワイアルの再開だ。張り切って殺し合いに励んでくれたまえ』
その言葉を最後に、二度目の定時放送が終了する。
一帯に響き渡っていた声が消え、朝が持つ独特な静謐さが戻ってくる。
柔らかな風が木々を揺らし、森を横切る川がせせらぎを耳に運んでくる。
斜めに陽光が差し込み、森の中に佇む影を照らしていた。
影の数は三つある。青い髪をした少女と、黒い髪をした青年と、青紫の髪をした青年だ。
「そんな、馬鹿な……」
呆然とし、わなないたのは青紫の髪をした青年だ。彼は胸に挿した薔薇を手に取り、震える眼でそれを見つめる。
「マシュマーさん……」
彼に向けられた沈痛な声は少女、ミオのものだ。
彼女はこのゲームで初めて出会った人物の悲しむ姿に、いつものような明るさを向けることが出来ないでいた。
静かだった。ひたすらに静かな森の中、カラスが数羽飛び立って木々を揺らす。
それを合図としたかのように、マシュマーはその場から走り出す。
「マシュマーさん!」
マシュマーの背中に向けて叫んだのはもう一人の青年、ブンタだ。
彼は木々の陰へと消えていくマシュマーの背を追おうとして――
「ミオさん……?」
その挙動は、伸ばされたミオの手によって阻まれた。
「今は一人にしてあげようよ。大丈夫。機体はここにあるんだし、戻ってきてくれるよ」
ミオはマシュマーの走り去った方を見ながら、強い口調で言う。
少し迷ってからブンタは頷く。マシュマーの姿は、もう見えなくなっていた。
一本の巨木が目に入ると、マシュマーは足を止める。
ミオとブンタから見えなくなるように、ほんのわずか走っただけだ。
それなのに、激しく息が上がっていた。マシュマーは力なくその場にへたり込む。
もう一度だけ薔薇を見つめる。唇を噛み、右手の親指と中指で両側のこめかみを掴んだ。
「不甲斐無い……! なんと不甲斐無いのだ、私は!!」
自然に指へ力が込められる。強く眼を閉じると、熱い雫が目じりから零れ落ちる。
それはとめどなく溢れ、マシュマーの頬を濡らしていく。
守れなかった。何よりも、誰よりも守りたかった主君を。
必ず守り通し、力となると誓ったというのに。
彼女の剣となり、盾となり戦えるならこの身など惜しくはないというのに!
「ハマーン様……」
何が騎士だ。守るべき人を死なせておいて、何が騎士だ。
守るべき人を亡くし、のうのうと生きている自分の、どこが騎士だと言えるのだ。
「ハマーン様……ッ!」
憎い。
この馬鹿げたゲームの主催者が。
憎い。
ハマーンの命を奪った奴が。
憎い。
何一つ出来なかったこの自分が、何よりも憎い!
「許さんぞ……」
それは、誰に向けての言葉だったのだろう。
「許さんぞぉぉぉぉッ!!」
その答えは分からないまま、マシュマーは吼える。
双眸から涙を流しながら叫ぶ彼の気迫は、周囲を強く振るわせる。
主君を失った今、主君のために出来ること。
仇を、討つ。
だが仇とは誰だ? 主催者か? 参加者か?
それとも。主君を、誓いを守ることの出来なかった自分自身か……?
分からない。分からない。分からない。
それなら、皆殺しにしてやる。参加者も、主催者も。それを果たした上で、自分の命を絶とう。
だが、分かることは一つだけある。
少なくとも、ミオ=サスガとハヤミ=ブンタは殺すべき存在ではないということだ。
マシュマーは少しだけ冷静さを取り戻す。涙を拭うと、ゆっくりと歩き出した。
また、カラスが飛び立っていく。
真っ黒いカラスが、朝の爽やかな空に黒い点を作っていた。
「おかえりー」
マシュマーの姿が見え、ミオは殊更に明るく声をかける。
「朝ごはん食べよー。やっぱり日本の朝って言えばご飯に味噌汁、納豆に漬物だよね。
昨日の夜みたいにボスボロットで」
「――ミオ。ブンタ」
ミオの言葉を遮り、マシュマーが口を開く。
その雰囲気がどことなく今までのマシュマーと違うように見えて、ミオは押し黙ってしまう。
「ここを動くな。それが生き残るために最適な判断だ。
そして万が一、襲撃者がやってきたら下手に戦おうとせずに逃げろ。いいな」
「マシュマーさん? 急に何を言い出すんです?」
怪訝に思ったブンタがそう問うが、マシュマーは背を向けて歩き出す。
お前たち以外を皆殺しにする、とは言えず、マシュマーはすぐに答えを返せない。
「私はもう、お前たちと共にはいられんということだ」
歩きながらマシュマーはそれだけを告げると、ネッサーに飛び乗る。
「待ってよマシュマーさん、どこ行くのっ!?」
ブンタもミオも、ネッサーへと駆け寄る。叫んだのはミオだ。
『――お前たちには世話になった。生き残れよ』
通信機越しに、マシュマーの声が聞こえた。
その声はとても穏やかさに満ちていたように感じられた。
本当に、奇妙なくらいの穏やかさを伴って届いてきた。
そして同時に、何故か不安を呼び起こすような声だった。
なんとか引きとめようと声を張り上げようとしたとき、ネッサーを中心に強烈な風が巻き起こる。
両腕をかざして顔を覆う。砂埃が巻き上がる中、なんとか目を開ける。
だがネッサーの姿はもはや目の前にはなく、轟音を残して空へと飛び立ち、移動を開始していた。
「ミオさん、追いかけましょう!」
轟音に交じり、ブンタの叫び声が聞こえる。それに答えるべく、ミオは声を張り上げる。
「うん、そうだね。急がなきゃ!」
その返答を聞いたブンタがドッゴーラへ乗るために川へ飛び込み、ミオはボスボロットへと走る。
「マシュマーさんこそ、死なないでよ」
ミオの呟きは、焦りを帯びていた。
温かかった。この狂ったゲームの中で、その温かさこそ狂っていると思えるほどに。
だから、マシュマーはこれまで誰一人殺すことなく、死の危険を感じることもなくいられた。
そしてそれは、強化され過ぎた彼の精神を安定させていた。
だが、だからといって、完全に安定を取り戻したというわけではない。
マシュマー=セロが強化人間であるという事に変わりはないのだ。
そう、それが現実。現実とは、そう簡単に曲げることが出来はしない。
ハマーン=カーンの死という現実が、マシュマーを強化人間であるという現実へと引きずり戻したのかもしれない。
「許さん、許さん、許さんぞ……!」
激しい憎悪をまとい、マシュマーはコクピットで呟いている。
ミオやブンタと共にいた頃の面影はそこには全く存在しない。あれはまるで夢であったかのように。
マシュマーは既に、自分の人間らしい感情の全てをミオとブンタの元に置いてきた。
温かな感情は、温かな場所にあるのが相応しい。
今のマシュマーにあるのは憎悪。強い、強い憎悪。
向かう先の分からない、真っ黒い感情だけだ。
だからだろう。
マシュマーは真っ直ぐに北東へと飛んでいた。北東の森、深い森。
その上空で、マシュマーはネッサーを止めた。
呼ばれている。
そう感じたのは、ミオたちを置いて飛び立ってからだ。
誰にかは分からない。声が聞こえたわけでもない。だが、確かにそう感じていた。
それが北東からのものだと直感的に思い、そちらへ向かっていたのだ。
マシュマーはネッサーを地に降ろし、森を歩いていく。
迷うことなくしばらく進む。すると、森の中には異質と呼べるものがそこにはあった。
漆黒の、悪魔のようなシルエットが仰向けに倒れていたのだ。それは邪悪さを周囲に撒き散らしており、
そして、そのコクピットと思しき部分がぽっかりと開いている。人が乗っているとは思えない。
呼ばれている。
その感覚は確信へと変わる。この機体が放つ邪気を、マシュマーは感じ取る。
「貴様が私を呼んでいたのか」
漆黒の機体のアイカメラが輝きを増す。マシュマーの声に応えるように。憎悪に呼応するように。
「――いいだろう。力となってもらうぞ」
マシュマーはネッサーから降りると、漆黒の機体へと乗り移る。
悪魔の瞳が、一際強く輝いた。
空に、巨大なシルエットが浮かんでいる。
龍や蛇のようなシルエット――ドッゴーラは空中で静止し、周囲を窺っていた。
「見失ってしまいましたね……」
ネッサーの向かった方角へとすぐに追ってきたのだが、レーダーが上手く働かずにロストしてしまっていた。
『マシュマーさん、大丈夫かなぁ』
ドッゴーラにしがみついたままのボスボロットから、ミオの声が聞こえてくる。
ボスボロットはキョロキョロと首を動かしているが、そちらでも見つからないらしい。
「すぐに追いつけると思ったんですが、甘かったですね。もうちょっと探してみましょうか」
『……ううん。もう戻ろう。ブンちゃんの機体は目立つから危ないよ。
一度戻って、予定通り川沿いに移動しよう。
一緒に行動できる仲間を探して、そしてまたB-5へ戻ろう。
もしかしたら戻ってきてくれるかもしれないし、ね』
不安は多い。マシュマーがいくら軍人だとはいえ、ネッサーでは戦えるとはとても思えない。
今探さないと、また合流出来る可能性は限りなく低いだろう。だが、このまま探すのはリスクが高いと思えた。
それならば、マシュマーが無事戻ってくることを祈るしかない。
「……では、先ほどの場所まで戻りましょうか」
ドッゴーラは反転し、空を飛んでいく。
落ちまいとしがみつくボスボロットのコクピットの中へと、風の向こう側から、
カラスの鳴き声が聞こえてきた。
妙に耳障りなその声に、ミオは顔をしかめた。
46 :
それも名無しだ:2005/12/31(土) 20:54:14 ID:isumRuBF
【マシュマー・セロ
支給機体:魚竜ネッサー(大空魔竜ガイキング)
↓
ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
機体状況:Z・Oサイズ紛失
パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発
現在位置:C-4
第一行動方針:ハマーンの仇討ちのため、皆殺し(ミオ、ブンタを除く)
最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
機体状況:良好
パイロット状態:やや不安
現在位置:B-4上空
第一行動方針:B-5まで戻り、川沿いへ東へ移動し、仲間を探す
第二行動方針:ある程度仲間を探したら、B-5へ戻ってくる。
最終行動方針:主催者を打倒する】
【ハヤミブンタ 支給機体:ドッゴーラ(Vガンダム)
機体状況:良好
パイロット状態:やや不安
現在位置:B-4上空
第一行動方針:B-5まで戻り、川沿いへ東へ移動し、仲間を探す
第二行動方針:ある程度仲間を探したら、B-5へ戻ってくる。
最終行動方針:ゲームからの脱出】
備考:C-4に無傷の魚竜ネッサーあり
【時刻:二日目 7:05】
この閉じた世界の中、どれだけの命が失われていったのだろう。
どれだけの血が流され、どれだけの涙が零れ落ち、どれだけの別れがあったのだろう。
こんなにも晴れやかな空の下で、起きた悲劇は数知れない。
「……また、新たに十二人もの死者が出てしまったのか」
自らの無力を悔やみながら、フォルカは拳を強く握る。
いくら拳を鍛え上げようと、いくら力を手に入れようと、それだけでは人を救う事が出来ない。そんな事は分かっている。
だが、それでも悔やまずにはいられないのだ。
数多くの人間が死んでいく中、何も出来なかった自分の無力。
『わしに……もっと力があったなら、お前達を迷わす事もなかったろうに……
だが……わしは修羅王!
わしは過ちを認めぬ! 謝罪もせぬ! 許して欲しいとも思わん!
ただ……この身で全てを砕き進むのみ!!
最後まで見届けるがよい! この修羅王アルカイド、最後の戦いを!!』
……かつて自分の修羅界を託し、一人の戦士として散った偉大なる修羅王。
彼は最後まで自分の信念を貫き通し、後ろを振り返る事無く走り続けた。
自らの無力を嘆きながらも、決して立ち止まる事だけはしなかった。
だから、自分も立ち止まらない。
無力を悔やむのであれば、もう二度と悔やむ事が無いようにすればいい。
後悔を繰り返さない為に、力を尽くしていけばいい。
それこそが本当の意味で“戦う”と言う事なのだから。
リュウセイ・ダテの名前が放送で告知されなかった事に、レビ・トーラーは安堵する。
だが、その安堵も一瞬に過ぎない。次の放送で彼の名前が呼ばれない保障など、どこにもありはしないのだ。
いや、それだけではない。まだ息絶えてはいないだけで、重傷を負わされている可能性。それも、無いとは言えないのだ。
「リュウ……」
微かな不安を拭い去ろうとするように、レビは口の中で呟きを洩らす。
きっと、大丈夫。こうして自分が生きているように、きっとリュウも無事なはず。
このゲームから抜け出す方法も、きっと見付けられるはず。
そう。かつてレビ・トーラーを忌まわしき呪縛より解き放ったのは、他の誰でもない……。
「う……」
そこまで考えが及んだ時点で、頭に微かな痛みが走った。
なんだろう……なにか、とても大切な事を忘れてしまっているような……。
「レビ、どうかしたのか?」
「い、いや……なんでもない……大丈夫……」
「それならいいんだが……あまり無理はしない方がいい」
「ああ……わかってる……」
軽く頭を押さえながら、フォルカの言葉にレビは頷く。
……頭の痛みは一瞬で薄れ、それと同時に記憶の混濁も鎮まった。
だが、忘れてはならない。
その痛みは闇に埋もれた過去を掘り起こそうとする、マイ・コバヤシの必死な抵抗。
ユーゼス・ゴッツォの呪縛に逆らうべく、彼女もまた戦いを続けているのだった。
「フォルカ。廃墟を出たはいいけれど、これからどうするつもりなんだ?」
青空の下を駆け抜けて行く、白き飛竜と戦闘機。飛行形態に姿を変えた二機のマシンが、東の方角に向かっていた。
「……二つ、考えがある。わざと人目に付き易い場所を進んで行くか、もしくは人が隠れるのに適した場所を重点的に探ってみるか。
前者の場合はゲームに乗った人間と出会う危険が伴うが、他の参加者と接触出来る可能性は高い。
後者の場合は比較的安全に行動する事が出来る反面、他の参加者と出会える可能性は低くなる。
ただ、戦いを避けようとする人間は安全を求めようとするはずだ。目立つ場所に留まり続けている可能性は低い」
獲物を襲う狩人の視点。かつて戦いに明け暮れていた頃の知識を掘り起こし、フォルカは今後の方針に関して考えを纏める。
本来は敵を倒す為に使われるはずの知識と経験。だが、それが今は戦いを止める為に使われようとしていた。それに、フォルカは奇妙な感覚を覚える。
「リュウは、こんな殺し合いに乗ってなんかいないはずだ。だったら、後者の方が……」
「いや、そうとも言い切れない。たとえ戦いに乗っていなかったとしても、何か目的があった場合……
たとえば探し人が居たり、仲間を集めようとしている場合は、人目に付き易い場所の方が好都合だ。
君の話を聞く限り、そのリュウと言う人物は今の状況を必死で打ち破ろうとしているはず。それなら、きっと……」
「……そう、だな。いつまでもじっとしているなんて、リュウのやり方じゃない」
「決まりだな。それじゃあ、このまま平地を進んで行こう」
「わかった」
周囲に自分達以外の機影が見えない事を確認して、フォルカとレビは東に進む。
当て所無い道行き。だが、不安は無い。
決意と、信頼と、そして希望。
数多の絶望が生まれる中で、それを二人は忘れていなかった。
「……フォルカ、あれは?」
そんな事を考えながら機体を前に進ませ続けていると、光り輝く“何か”が見えてきた。
遠目からでは良く分からなかったが、ある程度まで接近した今なら見る事が出来る。
それは、淡い輝きを放つ光の壁。
「あれは……何だ? ずっと向こうまで続いているようだが……」
「あの辺り……地図を見る限り、エリアの行き止まりみたいだ」
「……そういえば、放送で逃げても無駄だというような事を言っていたが、あの壁が関係しているのか?」
「多分、そうだと思う……」
そうこう話を続けているうちに、やがて障壁に変化が訪れる。
これまで何の変化も見られなかった障壁に一瞬だけ揺らぎが生じ、そして揺らいだ面より巨大な機影が姿を見せる。
それは、ヘルモーズ。これまでレーダーが全く感知出来なかった巨大な反応と共に、ユーゼス・ゴッツォの旗艦が姿を現していた。
「あれは……ヘルモーズ!? だけど、どこから……レーダーに反応なんて無かったのに!」
「……次元を歪めている、という事か?」
「フォルカ……?」
「ヘルモーズ……あの艦は、会場の上空を飛行していたはず。現に今から数時間前、西の方に飛んで行ったのを、この目で俺は確認している。
だが、あの艦は東側の障壁を抜けて来た。わざわざ障壁の外郭を回り道して来る道理は無い。それに、時間の計算も合わない」
「だけど、次元を歪めるなんて……」
「……不可能ではない。それに近い事を行った男を、現に俺は知っている」
そう。誰よりも、良く知っている。
修羅王アルカイド。戦いによって荒廃した修羅界を憂い、地球を第二の修羅界とすべく侵攻を行った男。
全ての修羅達を異世界である地球に送り届ける為、彼は自らの力で次元を超えた。
気合一つで次元の壁を通り超え、修羅界の者達を地球に転移させたのだ。
「修羅王……」
今は亡き、先の修羅王。その名を今は自分が継ぎ、生き残った修羅達の王となっている。
ならば、出来るはずだ。修羅王の名を継いだ以上、決して出来ないとは言わせない。
かつて次元の壁を打ち砕いた“修羅王の拳”――
この自分が、新たなる修羅王が、それを振るえない道理は無い。
……だが、それは容易な事ではない。
あの修羅王も次元転移を行った際には全ての力を使い果たし、長き眠りを余儀無くされた。
恐らく次元の壁を打ち破れるのは、たった一度。
だから、そう易々とは使えない。最大の効果を発揮する場面でなければ、ジョーカーを切る事に意味は無いのだ。
「まだ……時期尚早、か……」
そう。まだ自分には、この世界で為さねばならない事がある。
大空を飛び行く戦艦に視線を向けて、フォルカは決意も新たに呟いた。
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ (天空のエスカフローネ)
パイロット状況:頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
機体状況:剣に相当のダメージ
現在位置:H-2東部
第一行動方針:レビ(マイ)と共にリュウ(リュウセイ)を探す
最終行動方針:殺し合いを止める
備考:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置:H-2東部
パイロット状況:良好
機体状況:G−リボルバー紛失
第一行動方針:リュウセイを探す
最終行動方針:ゲームを脱出する
備考:精神的には現在安定しているが、記憶の混乱は回復せず】
【二日目 8:50】
『張り切って殺し合いを・・・』
嫌味なほどの青空の下。くぐもった、男の声が響き渡る。
その声が参加者にもたらすものは、悲しみと、憎しみと、絶望・・・
そして、ここにもまた、絶望する一人の男がいた・・・
「ふ、はは・・・もう、三分の一も消えたか・・・」
力なくうなだれる男、ヴィンデル・マウザー。
その周囲は、大量のハロが埋め尽くされている・・・
ここは地図で言えばB-3。海の近くの草原である。
『ウ゜ィンテ゜ル、ナニイシ゜ケテル?』
「べ、別にいじけてなど・・・いじけて、など・・・」
言葉に詰まりながら、床に『のの字』を書く。
その背中からは、ただ哀愁のみが感じられた。
(うう・・・わ、私は果て無き闘争の世界を・・・)
そう、そんな世界を望んだはずだ。
ここで、こんな無様な姿を晒していいはずが無いのだ。
「・・・そうだ、私はヴィンデル・マウザーだ!こんな所で、終わる男では・・・」
『ウルサイソ゜、ウ゜ィンテ゜ル!』
「ひぃ!す、すいません!すいません!」
ハロの言葉に、男の体は染み付いた負け犬根性を発揮する。
だが、それでも、その決意は揺らがなかった・・・
今こそ・・・今こそ、主導権をこの手に取り戻すのだ!
「あ、あの・・・どこへ向って、移動しているんでしょうか?」
男は、精一杯の勇気を振り絞り、一番大きいハロに問い掛ける。そして・・・
「・・・で、できれば!その・・・
私の部下の、ラミア・ラヴレスを探してもらえたら、嬉しいかなぁーと・・・」
『・・・・・・・・・』
無言・・・ただの丸い物体から発せられる重圧が、ヴィンデルに襲い掛かる。
このゲームの中でも、稀に見ない無言の戦い。
熾烈にして、過酷を極める男と球の上位争いは、
しかし、始まったときと同じく、唐突に中断された。
『ナニカオチテイルソ゜、ウ゜ィンテ゜ル』
レーダーを担当するハロ、その言葉が両者の間にある空気の重さを緩和させる。
「な、何が落ちているんだ?」
内心、溜息を吐きつつ、ヴィンデルは尋ねる。多少どもったのは、ご愛嬌だろう。
『カマタ゜』
ハロの言葉に、モニターを覗き込む。そこには確かに、漆黒の鎌が映っていた。
「どうやら、他の参加者が落とした物のようだな・・・」
『・・・カイシュウスルソ゜』
ヴィンデルの呟きをかき消すように、リーダー格であろうハロが宣言する。
「ちょ、ちょっと待て・・・待ってください。なぜ、わざわざ・・・」
『ツカエソウタ゜カラタ゜』
「し、しかし、罠の可能性も」
『・・・ミツケルマエニ、テキニオトサレタイノカ?』
「いや、それは困るが・・・・・・ん?」
ヴィンデルが、ハロの言葉に首をかしげている間にも。
漆黒の鎌――Z・Oサイズの回収は、ハロたちの手により着々と進行していた・・・
【ヴィンデル・マウザー ZGMF-X09A・ジャスティスwithハロ軍団
パイロット状況:健康、めっちゃ脱力、ハロの下僕、しかし今回、友情が生まれた?
機体状況:シールドを失う、ファトゥムを失う、ビームライフルを失う
さらにコクピット内がハロで埋め尽くされている
現在位置:B-3
第一行動方針:……ハロを切実になんとかしたい
第二行動方針:ラミア・ラヴレスとの合流
最終行動方針:戦艦を入手する
特記事項:B-3に落ちていた、Z・Oサイズを拾いました】
【時刻:6:10】
朝焼けとともに深海でベターマン・ラミアは目覚めた。
マジンカイザーとの死闘で連続で2回もの変身を行い、体力の殆どを使い果たし、そのまま眠りについていたのだった。
ソムニウムという種族における栄養補給はアニムスの実に他ならない。
実を食べれば、多少体力を回復させ、もっと安全な場所に身を潜めて眠りに就くことができたはずだ。
眠りとは完全な生命体ともいえるソムニウムにとって、唯一の弱点なのである。
しかし、それはできなかった。
残り少ない実をこれ以上消費することはできない。
第一、いつカンケルが現れ、戦いになるかもしれないからだ。
何よりこの地にアニムスの花が咲いているとは到底思えなかった。
その結果、ラミアは危険を承知の上で深海に身を潜め、眠りに就くことにしたのだった。
陸地に上がると、ラミアは身を震わせて全身の水を切る。
そして現状を把握するためにリミピッド・チャンネルを開き――――無表情な彼にしては珍しく眉をひそませた。
ソムニウムとして人間の倍以上生きてきたラミアには、流れ込むそれらの感情は珍しいものではなかった。
乾き。
滅び。
邪念。
望み。
しかし、そんなラミアにとってもこの地に蠢く想いは異質と言う他なかった。
世界の果てというものがあるのなら、それは正にここではないか――――。
そして、
(やはりいるのか。カンケルが)
元凶なりし災い、アルジャーノン。
その向こう側にラミアは間違いなくカンケルの存在を感じとった。
如何なる理由で再びカンケルが産まれたのか、興味はない。知る必要もない。
(再び産まれたというなら、もう一度滅ぼすまで)
それが最後のソムニウム、ベターマン・ラミアの役割。
(カンケル、お前に全ての命を滅ぼさせはしない……!)
そしてラミアは駆け出した。己が使命を果たすために。
同時刻。
光あるところに影がある。
朝日が木々を照らし、木漏れ日と影を作る。
その影から「それ」は現れた。
弱々しくも頼りない女性的なフォルムを持ちながら、その存在は吐き気をもよおすほどに禍々しい。
そして「それ」は何かを感じとったように再び影へと消えていった。
その名はカンケル。向かう先はベターマンを滅ぼすために。
ベターマンとカンケル。
カンケルとベターマン。
相容れぬ二つの影は再び世界の闇の中で巡り会う。
【ベターマン・ラミア 搭乗機体:ボン太君スーツ(大破)
機体状態:なし(ボン太君スーツ大破のため)
現在位置:B-3から移動開始
第1行動方針:アルジャーノンが発症した者を滅ぼす
第2行動方針:オルトスの実を生成する
最終行動方針:カンケルを滅ぼす
備考:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネブラの実 残り2個】
【カンケル
現在位置:???
第1行動方針:ベターマンを滅ぼす
最終行動方針:全ての命を滅ぼす
備考:基本的には人畜無害。ただし下手につつくと襲われる危険性アリ。
ラミアがゲームに生き残っている限り、他のパイロットを襲う危険はあまり無い。
ラミアに協力しようお人好しは一緒に襲われる可能性かなり大】
【2日目 06:00】
×第一、いつカンケルが現れ、戦いになるかもしれないからだ。
○第一、いつカンケルが現れ、戦いになるかわからないからだ。
修正お願いします……。
59 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 01:42:08 ID:+Nqf/LhB
「大丈夫。みんな助かるから。みんな、みんな、最後には助かるから。大丈夫、安心して」
「そう……だね。みんな助かるんだよね。そうだよ、だから……だからみんな、許してくれるよね」
殺戮ゲームの二日目、昼。命は羽の様に舞い、心は脆く砕け散る。ここはそんな世界。
市街地の一角にあるオープンカフェ『That Is Me(それも私だ)』。その店の一席でキラ=ヤマトと
ゼオラ=シュヴァイツァーが軽い食事を取っていた。店員などはいるわけもないが、勝手に各店から
集めた食料を広げ、話に花を咲かせていた。
「それはもう大好物でね、アラドったら八杯もおかわりしちゃって」
「へぇ、本当に大好きなんですね」
「やだぁ、キラってば! それからアラドはねぇ………アラドは………ア…ド……」
言葉を乱したゼオラのクマさんマグカップを持つ手が小刻みに震え始める。
「大丈夫!」
その手をキラはシッカリと両手で包み、大きな声で断言した。
「大丈夫。必ずアラドさんは助かります。ゼオラさんと僕達で助けるんです。大丈夫です!」
涙で潤む瞳を見つめハッキリと断言する。中途半端な言葉は逆効果だと学習していた。
「そう………だね。大丈夫だよね。きっと助けられるよね」
徐々にゼオラの震えは治まり、落ち着きと笑顔が戻る。もうキラはゼオラの『発作』に慣れていた。
彼女が目覚めてから十回以上、主にアラドの話題になると精神不安定に陥っている。最初はシロッコが
対処した。それをキラは真似ているだけだが、効果は十分だった。手を握るのは多分、キラの好み。
数時間前、キラとシロッコは目覚めたゼオラから情報を聞き出した。ゼオラが殺したというタシロと
ラト、この二人の首輪と機体を入手すれば状況を好転できると考え、その下準備をしているのだ。
キラはゼオラの面倒を任され、彼女を補給ポイントに案内し、一緒に注文された食料品と解析に使う
工具の確保に回った。その後コッソリ食事を取っている。良く言えばデート、悪く言えば使いパシリ。
その間、シロッコは二人の機体の仕様書を熟読していた。『敵を知り己を知れば』と言っていたが、
本当は自分が機体を奪った時の予習であり、未知の技術に対する知識を増やすためだった。
もちろん二人を一緒に行動させている事にも彼なりの理由がある。ゼオラには『アラド救出の為に
シロッコやキラは絶対必要』と不安定な精神に刷り込む為、キラには『守るべき者』を与え明確な行動
意思を持たせる為。カリスマとは水面下の努力によって保たれているものだ。
「それで……ラトは大事な友達なの。妹みたいなものなの。それなのに……私が……殺し……」
またゼオラの手が震えだす。朝の放送を聞き逃している。キラは『ラト』という名前が放送で呼ばれて
いない事を知っているが、やぶ蛇になると面倒だったので聞き返したりはしなかった。
「大丈夫! その子もアラド君と一緒に助ければいい! 大丈夫、絶対に助けるから!」
キラが再び断言する。ゼオラの精神安定の為とはいえ、『助けられる』と連呼しているとなんだか
本当に助けられる気がしてくるから不思議だ。もし本当に助けられる事が出来たらどんなに良い事か。
キラは沢山の人が戦争の犠牲になるのを見てきた。守りたかったのに守りきれなかった。
(ゼオラは僕が守らなきゃ)
キラは震えるゼオラの手を握りながら決意していた。全ての人を守る事は出来なくても、せめて身近な
人だけでも守りたいと思う。その意思が仕組まれた事だとは想像もしていない。
60 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 01:45:56 ID:+Nqf/LhB
B-8地区南端へ飛行してきた副長、リョウト=ヒカワ、ギレン=ザビの三名は機体越しに互いの顔を
見合わせた。朝の放送に彼らの捜し人の名はなく、予定通り捜索を開始していたのだが、淡い光を放つ
障壁に前方を阻まれていた。横幅は東西に見える限り、高さは大地から空の彼方へ。遠方からも見えては
いたが実際に近くで見ると迫力が違う。
「わざわざ地図の最端ラインに障壁とは丁寧な事だ。ここは巨大な箱庭(コロニー)か何か?」
呆れた様にギレンが言う。障壁を越えられないならば、彼らは南端に追い詰められた形になる。
―――もちろんだが、逃げ出すのは無駄だ。
三人の脳裏に放送の台詞が思い出された。まず思いつくのはバリアの類。試しにグダが軽く砲撃をして
みたが手応えは無かった。続いて恐竜戦闘機を向かわせると反応はロストした。やはり手応えは無い。
「ロストの際に特殊な反応も見られませんし、空間湾曲を利用したバリアでしょうか?」
リョウトが以前の大戦で見知ったETOを例に意見を述べる。
「分かりません。でも取り合えず、行ったり来たりは出来るようですよ」
副長が淡々とした口調で答えた。先程の恐竜戦闘機が障壁の中から帰ってきている。予め一定距離を
進んだら引き返すように命令していようだ。常に最悪の事態に備え、打てる手は打っておく主義らしい。
何度か恐竜戦闘機を使い安全確認をした後、三機は障壁を通過した。眼下には市街地が広がっている。
「ほう。こちら側はB-1の最北端か。おそらく東西も同じ仕様だろう。選択肢は増えたわけだが」
現在地を照合したギレンが悪態を吐いた。行動範囲は大きく広がるが、まさに逃げ場はない。
「まず近くに参加者がいるかを確認しましょう。協力者が身を潜めている可能性があります」
副長の提案の元、周囲を警戒しながら市街地の上空を通過して行く。まるで廃墟のような市街地だが
補給や食料や物品の確保など、出来る事は多そうに見える。他の参加者がいても不思議ではない。
「ふん。敵対者の待ち伏せの可能性の方が大きいと思うがな」
ギレンが愚痴をこぼしたその時、通信機が鳴った。全周波数での通信のようだ。
『私はSDF艦隊エクセリヲン艦長のタシロ=タツミである。貴官の名前と所属を求む。繰り返す……』
副長の良く知る声が通信機から聞こえた。
市街地に身を潜めながら進むヒュッケバインMK3ガンナーとV2アサルトバスターガンダムは、突然
上空に現れた巨大な恐竜型飛行物体を見つめていた。北の空が不自然に光っている事にも関係があるの
かもしれない。その大きさは戦艦程もあり、無数の異形の兵器を周囲に向けている。
「何ですか、アレ? 見るからにって感じですけど………やり過ごしますか? それとも……」
ラトゥーニ=スゥボータが上空を警戒すると機体に戦闘態勢を取らせる。どこをどう見ても悪役、
百歩譲って異星人の戦艦です、とラトゥーニは断言する。もしかすると爬虫類が苦手なのかもしれない。
「まあ待ちたまえ。周囲に別系統の機体が見える。複数で行動しているという事は友好的な可能性が高い。
少なくとも話し合いの余地くらいはあるだろう」
タシロ=タツミは落ち着いてラトゥーニを制する。独特な形状の戦艦の周囲には彼の良く知るマシーン
兵器とラトゥーニの乗るガンダムに似た機体が見えている。タシロは全周波数で通信を試みた。
「私はSDF艦隊エクセリヲン艦長のタシロ・タツミである。貴官の名前と所属を求む」
61 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 01:48:33 ID:+Nqf/LhB
「タシロ艦長、私です」
「おお、その声は副長か!」
副長とタシロが再会し、お互いのピリピリとした警戒ムードは一転し和やかな歓迎ムードとなった。
もっともギレンはV2ガンダムに対し『またガンダムか』と舌打ちしていたが。
「MK3? まだ基礎フレームが完成したばかりなのに、しかもAMガンナーと合体まで……」
リョウトはMK3ガンナーを見て目を丸くしている。彼とリオはMK3完成前(OG1)の時間軸から
召喚されているのだ。リョウト&リオがアラド&ゼオラと面識がないのはその影響である。
「リョウトさん、自分の機体を忘れるなんて、どうしちゃったんですか?」
首を傾げながらラトゥーニがV2ガンダムを上昇させウイングゼロの前へ移動した。彼女はシャドウ
ミラー撃退後(OG2)に召喚された為、リョウトよりも多少未来を知っている。
「ラトゥーニ、無事だったんだね。でもMK3ガンナーが僕の機体ってどういう事?」
「何を言ってるんですか? それはリョウトさんとリオさんが二人で乗ってた機体じゃないですか」
時間軸の違いで多少混乱は起きたが、四人はグダを中心に再会できた喜びを分かち合った。そしてまだ
見つからぬ仲間の安否を気遣い情報を交換し合う。和気藹々とするムードの中でただ一人、ギレンだけは
寂しく蚊帳の外だったので、冷静に新参2人を値踏みしつつ周囲の警戒をしていた。
(ん、なんだ。このザラつく感じは…………!!!)
周囲に漂うノイズのような気配が殺気に変わった瞬間、ギレンは叫ぶと同時に機体を動かしていた。
「来るぞ! 散れ!」
次の瞬間、閃光がグダを直撃していた。ギレンの警告が功を成したかリョウトとラトゥーニは素早く
回避し、若干反応の遅れたタシロも辛うじて避け切った。しかし戦艦サイズのグダにまで緊急回避を
しろと言うのは無理というものだ。回避と叫ぶだけで回避できれば苦労はない。
「副長、被害状況は!」
「推進部に被弾。飛行制御系統に問題発生。高度維持不能。なお被弾時の射角から砲撃地点は………」
グダが黒煙を上げて落下してゆく危険な状況の中、冷静にタシロの問いに答える副長の声が響いた。
「今の攻撃はゼオラ?!! 私、行きます。タシロさん、副長さんをお願いします」
ラトゥーニは閃光の撃たれた方へ機体を向けた。墜落してゆく副長を気にしつつも『次を撃たれる前に
止めなきゃ』と自分を納得させ飛び立つ。ラトゥーニの身を案じたリョウトも後に続く。
「戻れ! 迂闊に分散するな!」
ギレンの指示を無視し、ガンダム達は砲撃地点へと速度を上げていた。
62 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 01:50:51 ID:+Nqf/LhB
タシロがグダを発見した頃、西へと移動を開始していたシロッコ達もまたグダを確認していた。
しかし接触を躊躇している内に先を越されてしまっていた。そしてタシロ達の通信が全周波数で筒抜け
だった為、静観する事にしたのだ。そもそもタシロ達の死体から首輪と機体の回収を考えていたのだから
作戦を考え直さねばならない。
「朝の放送に名前が無いので、もしやとは思っていたが」
シロッコが苦笑する。彼らが生きていても3対2。ゼオラ1人で倒せる相手(しかも手負い)ならば
少ないリスクで首輪と機体を回収できると考えていたのだ。他の3人は予想外だ。
「ラトが………助かったの?」
「良かったじゃないですか! 無事だったんですよラトさん!」
通信を聞いたゼオラの声が弾む。キラにとっても嬉しい事だったのか、自分の事の様に喜んでいる。
「良かった、ラトが助かって本当に良かった。シロッコ様、これならアラドも助かりますよね」
どうやらゼオラは自分が一度殺したラトゥーニが助かったと思っているらしい。
「そうだな。アラド君も彼女と同じように助けられるさ」
シロッコは答えながら思案を巡らせる。考えるまでもなく3対5。戦艦と小型機(ナウシカ)を抜けば
同数だが、相手はガンダムタイプが3機(MK3含む)。当然の事だが、分の悪い賭けは好きではない。
「僕達も合流しませんか? 」
キラが常識的な意見を述べた。シロッコとしても失う物はリーダーとしての立場程度であり、得られ
るものは多数の味方と情報だ。悪い話ではない。
「向こうにギレン=ザビがいる。十分に警戒しろ。肉親でさえ戦争の道具にする非情な男だ」
「知ってるんですか?」
「有名人だからな。コロニーを地球に落とした軍の総帥で、戦争を始めた人間の一人だよ」
キラの問いに対してシロッコはギレンを批判する事で答えた。先に相手への不信感を植え付ける事で、
合流後を有利に運ぼうとする、ちょっとした心理操作だ。
「コロニーを落として戦争を始めた………」
元々戦争に巻き込まれたキラに嫌悪感を抱かせるには十分だった。シロッコはジオンの非道について
簡単に説明してやった。
キラとシロッコが話ながら進んでいる中、いつの間にゼオラは立ち止まっていた。空を見上げる瞳は
輝き、口元は優しく微笑んでいる。ゼオラは探していた人物、リョウト=ヒカワを見つけたのだ。
(やっと見つけたよ。あなたの恋人)
ゼオラは昨日殺した名も知らぬ少女、リオ=メイリンに胸の中で語りかけた。ゼオラにとってリオは
『アラドを殺した仇』であり、リョウトは『殺した仇の恋人』である。本当は勘違いなのだがゼオラに
とっては真実であった。そして殺したリオと約束したのだ。寂しくない様に恋人も冥府に送ると。
(今、そっちへ送ってあげるから、もう少し待っててね)
ゼオライマーの手に眩い光が収束してゆく。口調は優しいが、本音は『自分の男は死んだのに、お前の
男が生きているなんて許せない』である。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、女の嫉妬は恐ろしい。
グダの近くへと辿り着いたシロッコ達。ゼオラの姿が見えない事に気づいた時、既に手遅れだった。
彼らの上空を閃光が走り抜け、グダへ綺麗に吸い込まれてゆく。そして爆発と共に黒煙が上がった。
「勝手な事を………まったくあの娘は………」
シロッコは思わず頭を抱えたくなった。また最初から作戦を練り直さねばならない。ゼオラの世話は
キラに一任していたが、彼と話し込んでいたのはシロッコ自身なので怒りのやり場がなかった。
63 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 01:54:25 ID:+Nqf/LhB
ビル陰に身を隠すシロッコ達の上空を2機のガンダムが通過して行く。グダを砲撃したゼオライマーを
目指しているのだろう。分散した相手側を見てシロッコは素早く決断を下す。
「ここは私に任せて、キミはゼオラを守ってやれ」
シロッコは自分を囮とし、キラに後方へ行くよう促した。ゼオラを一人で放置するのは様々な意味で
危険だと判断したのだ。少し頼りないキラもゼオラと一緒ならば責任感から戦意も上がるだろう。
腹を決めたシロッコはダンガイオーをタシロ達の視界に現した。その機体に両腕は無い。
「被害は無いか?私はティターンズ所属のパプテマス=シロッコ大尉だ。こちらに敵意は無い。同行する
少女が貴艦に対する恐怖心から先制砲撃を行ってしまった。恐慌状態の本人に代わり謝罪を申し上げる」
通信回線を開くとシロッコは自己紹介と白々しい謝罪を述べながら、キラが離脱するのを確認する。
(シロッコとか言う若者、大型の機体だが武器どころか両腕すら無いか。しかし何の目的でこんな事を?)
(奇襲かと思えば出てきて謝罪だと? 何か企んでいるな。ビグザムの例がある、腕など飾りに過ぎん)
タシロとギレンがダンガイオーの形状から色々と推測する。当然の事だが、砲撃相手の言葉を素直に
信用する気は全くない。だが形だけでも謝罪をされると問答無用で反撃する事には躊躇してしまう。
「私はSDF艦隊のタシロ・タツミである。詳しい話しは後で聞く。こちらに敵対する意思が無いならば、
ジャジャ馬の手綱を握って大人しくしていてくれ。救助の邪魔をしないようにな」
タシロは考える。今、優先すべき事は副長の救助であり、シロッコが何かを企んでいても自分から姿を
現した以上、すぐに仕掛けてくる事は無いだろうと。その考えは模範的であり、甘かった。
「後ろだ! 愚図が!!」
不意に横殴りの衝撃がMK3ガンナー襲う。ギレンのRX−7ナウシカが蹴り飛ばしたのだ。
「何を!」
ギレンに抗議するタシロの眼前を高速で巨大な腕が通過して行った。その腕は地上近くで方向を変えると
ダンガイオーの左腕となった。それはタシロ達に『右腕も隠れているのでは』とも警戒させた。
「ちっ、外したか。もう少し慣れが必要だな」
まるで悪戯に失敗した子供のようにシロッコが舌打ちをする。自分の姿を見せてタシロの注意を引き付け
その間に切り離した左腕をサイコミュの応用で遠隔操作し死角へ移動させていたのだ。
「シロッコ大尉、所詮ゲームに乗った殺戮者か! ザビ君、ここは私に任せて副長の救助を」
「任せよ。貴公の無事を祈る」
タシロがギレンを促す。小型のナウシカよりヒュッケバインの方がこの場では有効と考えたのだ。
ダンガイオーに対峙するヒュッケバインを盾にしてナウシカはグダを目指し飛び去る。
(ふん。戦いは数で決まる。戦うも逃げるも2機で行動する方が勝算があるというに)
ギレンは数の優位を放棄し分散する愚を笑ったが、死んだ弟を思い出し不機嫌になった。
64 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:02:37 ID:+Nqf/LhB
ラトゥーニはゼオラを捜して市街地を翔け抜け、その後にリョウトが続く。同じようなビルばかりが
一定幅で並んでいる。余程シッカリした都市計画の下に建造されたのだろうか、戦闘域には困らないだろ
うが死角になるビル影が多すぎて相手の捕捉は難しい。
(あれから一人で、ずっと泣いてたのかもしれない)
ゼオラが意外なほど近くにいた事からラトゥーニはそう考えてしまう。悲しい時、辛い時、どうして
良いのか、何をして良いのか分からなくなる事がある。不意にスクール時代の事を思い出した。
―――ラト、もう泣かないで。あなたは一人じゃないから、私達が一緒だから、ずっと一緒だから。
度重なる実験と訓練が辛くて苦しくていつも泣いていた。悲しくて寂しくてどうして良いかも分からず
部屋の隅に隠れて泣いていた。いつもオウカとゼオラとアラドの三人が慰めてくれた。抱きしめてくれた。
とてもとても温かかった。そのオウカはもういない。そしてアラドも。
「ラトゥーニ。捜しているゼオラっていう子は知り合いなのかい?」
何気なくリョウトが聞く。ラトゥーニは彼がゼオラを知らない事に首を傾げながらも簡単に説明した。
「そうか……その子がアラド君の……」
黙り込むリョウトを見て、ラトゥーニは『アラドの事は知っているのに』と再び首を傾げた。
閃光の余波で崩れたであろうビルの近くにゼオライマーを発見した。交差点で待ち構えていたように
堂々と立っている。それは眩しく白銀に輝いているというのに禍々しい重圧感さえ感じらた。
「ゼオラ!!」
ラトゥーニの呼び声と共にV2ガンダムが一直線にゼオライマーへと迫る。しかしその間に割って入る
ように両手を広げたゴッドガンダムが空中で立ち塞がった。
「ダメです……友達同士で……戦うなんて!」
キラが大声で二人の少女、主にゼオラを制止した。よほど急いできたのだろう、少し息切れしている。
事前にラトゥーニの事を聞いていたので、友達同士で争うようなら断固止めようと思っていたのか。
アスランと自分の境遇を重ねたのかもしれない。だが―――
「どいて! ゼオラに話があるの!」
「ありがとうキラ。でも私もラトと話がしたいの」
ラトゥーニとゼオラの双方から促されて、キラは不本意ながらも道を譲った。争わずに話し合いで
済めばそれが一番良い。しかしキラが心配しているのはラトゥーニでなく、ゼオラが暴走する事だった。
(ゼオラ、今は凄く落ち着いて見えるけど………長くは持たないんだろうな)
まだ出会って半日も経っていないが、既にキラは何度も大変な目を見ているので推測に自信はあった。
キラはラトゥーニには道を譲ったが、リョウトは通さず警戒心を緩めない。それにリョウトも従った。
どちらかと言えばリョウトはゼオラに何と声をかけて良いか分からなかったが、とりあえず落ち着いた
雰囲気の優しそうな少女である事に安心した。その認識が大きく間違っていたと彼は直ぐに知る事となる。
65 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:04:43 ID:+Nqf/LhB
グダは大きな公園へ不時着(?)し黒煙を上げたていた。逆さまに突き刺さり、無残に破壊された
下面部をさらけ出している。ギレンはグダの被害を観察していた。
(一撃でスクラップか。コイツが見掛け倒しなのか、あの砲撃をした機体が尋常でないのか)
「こちらギレン=ザビだ。応答せよ」
墜落直後から副長とは通信が取れず、雑音が入るばかりだった。
(墜落の際に気絶したか、死んだか。それとも通信機の故障か。いずれにせよ好都合だ)
ギレンはナウシカをグダの竜頭部に進ませるとプラズマビアンキを叩き込んで完膚なまでに破壊した。
予め、それとなくグダの操縦室の場所を聞き出していたのだ。こうも早くチャンスが来るとは。
(飛べない空中戦艦に価値は無い。ならばあの男はここで確実に消してして置くべきだ)
自分を警戒していた男を目論見どおり、しかもリスク無く消せたのは気分が良い。
(おっと、ちゃんと細工をして置かんとな)
自分が手を下したと疑われないよう、墜落時の衝撃と内部からの爆発で破壊された様に見せかける為の
偽装工作を行う。後でグダの残骸を確認に来る事は予想できる事だ。
(簡単な工作だが、老人や素人の子供達を騙すには十分だろう。それにタシロが生き残る可能性は低いが、
あの子供達には良い手駒になって貰わねば)
そしてギレンは戦況を確認する為に、状況にあわせて恩を売る為に、レーダーに捕捉されぬよう低空で
戦場へと引き返して行った。
66 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:08:22 ID:+Nqf/LhB
少年達は少女達の会話に耳を傾けつつも、警戒し合い素早く機体外観から武装と性能を推測している。
(2機のGともに大型火器に高機動。空飛ぶランチャーストライクか………なんかズルイ気がする)
(武器を失ったのか武装は見当たらない。こちらと同系列機だとすれば、後はバルカンにセイバーか。
向こうのゼオライマーってのはヴァルシオン改みたいな特機か。かなり危険な気がする)
二人とも自己の世界観と知識を基準にしているが概ね間違ってはいない。
「ラト、昨日はごめんね。大丈夫だった? 怪我は無い?」
ゼオラが優しくラトゥーニに問いかける。割と予想外の言葉だったが、一晩寝て冷静になれたのだろう
とラトゥーニは好意的に解釈した。いつもより優しい口調なのは反省しているからだろうか。
「私は大丈夫、副長さんも多分無事。だからゼオラ………私と一緒に帰ろう。皆には私が説明するから、
私も一緒に謝るから、帰ろう。ずっと一緒だって約束したじゃない」
ラトゥーニは言葉と共にV2ガンダムの両手を大きく広げた。答えるかのようにゼオライマーも両手を
広げたが、残念ながら抱擁をするにはサイズが違いすぎる。ゼオライマーはガンダムの倍以上もあるのだ。
「えぇ、ずっと一緒よ。おいでラト。あんな男達といてはいけない。一緒に行きましょう」
落ち着いた優しい声。だがゼオラの回答はラトゥーニの求めているものとは若干違う。
「そうじゃないゼオラ。皆のところに戻るの。皆で協力してゲームを抜け出すの」
「それは駄目。おいでラト。そして一緒にアラドを助けるの。あいつ等みんな殺してアラドを助けるの」
ラトゥーニは優しく殺意を見せるゼオラに戦慄と既視感に似たものを感じる。
「おかしいよ、絶対間違ってる! そんな事したってアラドはもう…………ゼオラ、分かってよ!」
「ええ、分かったわラト。純真なあなたを、その男は騙しているのね。でも、もう大丈夫よ。あなたを
惑わすものは私が皆、殺してあげるから。すぐにあなたをその男から助けてあげるわ」
(やっぱりオウカ姉さまの時と同じだ。きっと誰かがゼオラに妙な事を吹き込んでるんだ)
ゼオラはラトゥーニとの口論を自己完結させ、ゆっくりとゼオライマーの両腕を挙げてゆく。
「待ってゼオラ! この人はリョウトさんよ! ゼオラだって知っているでしょ!」
慌てるラトゥーニの言葉にゼオライマーの手が途中で止まった。
「ええ、知ってるわ。リョウト=ヒカワでしょ。そいつを探していた子が言ってたもの」
「それってリオに、リオ=メイリンに会ったって事ですか?!」
ゼオラの台詞にリョウトが食い付いた。物の見事に釣られたという表現が良く似合う。もしもゼオラの
顔が見えたなら、いやらしく笑う口元に気付いただろう。
「リオは何処にいましたか! お願いします教えてください!」
「ふーん、恋人の名前はリオっていうんだ。大事なのねぇ。羨ましい」
問い詰めるリョウトを焦らすようにゼオラがクスクスと笑う。そんなゼオラの支離滅裂な感情起伏に
ラトゥーニは危機感を感じ、キラは直ぐそこに迫っているであろう危険に備えた。肝心のリョウトはと
いえば『恋人を失ったばかりの少女に、自分の恋人の事ばかり聞くなんて』と気不味そうだ。
「昨日、東の小島で出会ったの。今、彼女のいる場所を知っているから案内してあげる」
「本当ですか! ありがとうございます!」
(アラド君の恋人って少し過激な感じだけど、良い人じゃないか)
欲しい情報が得られたリョウトは素直にゼオラへ感謝して、早速地図を調べ始める。東の小島まで
距離にして200km弱。ウイングゼロの全速なら1時間も掛からない。その近くにリオいるのだろうか。
「リョウトさん危ない!!」
ラトゥーニの叫び声と同時にゼオライマーから爆発的な光が放たれていた。
67 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:11:52 ID:+Nqf/LhB
市街地にゼオライマーを中心にしたクレーターが出来ていた。攻撃範囲も広くなく、破壊したビル郡も
瓦礫が残っている。所詮レプリカという事なのだろうか、次元連結システムが本来の性能を発揮していた
ならばこの数倍の範囲を文字通り塵と化していただろう。
「何考えてるんです! ラトさんまで巻き込んじゃってるじゃないですか!」
クレーターの外からキラが抗議の声を上げる。一瞬早くゼオラの行動を見抜き、安全圏まで退避してい
たのだ。危険察知についてはニュータイプ並みであると言えよう。
「大丈夫よキラ。もしラトが死んじゃっても、また助ければいいんだから大丈夫」
平然と笑顔で答えるゼオラ。キラの背中に冷たいものが流れ落ちた。
(言ってる事もやる事も滅茶苦茶だ………でも)
そうしてしまった一因が自分にあるとキラは痛感する。それ故に守らねばいけないとも強く思うのだ。
「それよりあの男………まだ生きてる?! ラトを盾にするなんて許せない!」
上空には回避が遅れたウイングゼロとそれを庇ったV2ガンダムが傷つきながらも支えあっていた。
「何でこんな無茶を。キミだけなら逃げ切れただろうに」
大きく破損したV2ガンダムを見てリョウトが悲痛な声を上げる。反応が遅れたウイングゼロをV2
ガンダムが抱えるように射程範囲外へと押し出したのだ。一度は閃光に飲み込まれたが故意か偶然か、
ビームシールドのように光の翼が2機を包み被害を抑えたのだ。その代償としてV2ガンダムは両脚部、
そして追加武装の大部分を、ウイングゼロは翼の一部を失っていた。
「もう誰にも死なれたくないんです………そして誰も殺させたくないんです」
そんなラトゥーニの悲痛な想いを無視するかの如く、地上からは衝撃波が次々と飛来する。どうやら
ゼオラはどうあってもリョウトを、ラトゥーニを巻き込んだとしても殺す気らしい。
「滅茶苦茶だな、あの子。キミを助けるんじゃないのか?」
「原因は分んないけど、精神不安定な所に強い暗示でも受けたんじゃないかと。以前にも同じケースが」
ラトゥーニのいたスクールでは精神操作が普通に行われていた。ゼオラは再三精神を弄られ、アラドを
敵だと思い込まされ殺し合わされた例があった。ただでさえ騙されやすい性格だというのに。
「それじゃあの機体がゲイム=システムみたいなものかもしれないな」
操縦者の精神を蝕みつつ力を引き出す忌まわしきインターフェイス。昨日遭遇したヴァルシオン改にも
搭載されていた物だ。ラトゥーニの親友であるシャイン王女もそのシステムの犠牲になりかけた。
「あの機体を破壊して、彼女を助け出そう! あのまま放っておいたら大変な事になる!」
「う、うん。そうだね。あの機体を壊せば、きっと優しいゼオラに戻るよ! 絶対!」
リョウトがラトゥーニを励まし戦闘体制を取る。冷静に考えれば、この場は退くのが正解なのだろう。
だがリオの居場所を知りたいという思いがリョウトの、友人の異変を機体のせいにしたいという思いが
ラトゥーニの決断力を鈍らせていた。
「逃げる気なの? 駄目よ、それじゃリオって子のいる所に………冥府に案内できないじゃない!」
攻めて来ないリョウト達を逃げると思ったか、ゼオラが挑発する。そしてそれは大きな効果を挙げた。
「ゼオラ、まさかリオさんを!」
「………許さない……許せない………」
怒りに身を任せたリョウトがツインバスターライフルを放つが、予想通りなのかゼオラもキラも余裕で
回避している。少し冷静になれば、今朝まで生きていた少女を昨日殺せるはずが無い。そんな事にも
気付かせない程にリョウト達の平常心を奪っていた。
68 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:13:36 ID:+Nqf/LhB
「目を覚ましてよゼオラ! でないと機体を破壊してでも!」
ゼオライマーへ向かうラトゥーニの前に、再びゴッドガンダムが立ち塞がる。
「邪魔しないでっ! あなたは!」
叫びと共にラトゥーニがビームサーベルを抜き放つが、キラもビームサーベルで抜き受け止める。
「友達なんだろ!! なんで!!」
「友達だからに決まってるでしょ! あなたこそ無関係なのよ!」
キラへ冷たい言葉が浴びせられる。確かにキラは他の3人との接点は少ない。
「それでも僕は………僕はゼオラを守るって決めたんだ!」
ゴッドガンダムが鍔迫り合いまま力任せに蹴り飛ばす。吹き飛びながらもV2ガンダムがバルカンで
反撃するが、それをゴッドガンダムは回避しつつウイングゼロへ向かって行く。
「人が殺されるのは嫌なくせに、自分は殺す。身勝手な人………そうやってアラドも殺したんでしょ!」
ゼオラは自分の事を棚に上げて次々と衝撃波を放つが、ウイングゼロには当たらない。多少飛行能力が
落ちていてもゼオラの単調な攻撃なら問題は無かった。共に一撃必殺、先に捉えた方が勝つ。しかし双方
とも横からの援護と牽制が激しく、決定的打を出す事が出来ないでいる。
「…………目標捕捉!」
「させないっ!」
ウイングゼロがゼオライマーを狙うが、接近するゴッドガンダムに邪魔され発射体勢に入れない。
振り切ろうにもゴッドガンダムは飛行速度自体は速く無いのだが、時折、空中を蹴るかのように爆発的
な加速と不規則な軌道変化を見せるため、隙を作る事が出来ない。飛行速度の低下が響いている。
リョウトは分離させたバスターライフルで狙うが、ゴッドガンダムは宙を蹴って回避し距離を取る。
「僕たちだって殺したくない、殺されたくないんだ! なのに!」
「だったら何故! 何故リオを殺した!!」
続けてバスターライフルがキラを狙い近づかせない。ゴッドガンダムは接近戦しか出来ないとの判断だ。
「あの女が! 私のアラドを殺した! だから!」
ゼオラがキラの代わりに叫んだ。その言葉にリョウトは大きく動揺した。捜してたアラドの大事な人が
ゼオラ。ゼオラはリオの仇で、そのリオがアラドの仇。リオが目の前の少女の恋人を奪ったというのか。
「リョウトさん、しっかりして!」
キラと争いながら叫ぶラトゥーニの声でリョウトは引き戻された。眼下で、再びゼオライマーが両腕を
挙げようとしていた。周辺一帯を破壊し尽くす冥王の力。あの攻撃を連発できるというのかとリョウトは
戦慄する。ウイングゼロはともかく傷付いたV2ガンダムでは今度こそ逃げ切れない。
「そうはさせない………距離はあるがフルパワーなら!」
ウイングゼロがツインバスターライフルを構える。危険ではあるがゼオラの動きも止まったこの瞬間は
またとない好機とも言えた。
69 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:14:30 ID:+Nqf/LhB
子供達の戦場より離れたビル街。タシロとシロッコの戦いは続いている。切り離した左腕と接近戦を
巧みに仕掛けるダンガイオーを相手にヒュッケバインは防戦一方だった。
「武も才も持ち得ながら無益な殺戮に興じるのか! 今こそ協力すべきであろうが!」
「同感だ。だが、既に憎しみの銃弾は放たれた。温厚な子供も知人を撃たれては黙ってはいまい」
「だからこそ流血を減らすよう導かねばならないと、何故わからない!」
意外にもタシロはシロッコを相手に持ちこたえていた。正確にはシロッコが手こずっていた。
タシロを明らかな格下と判断し、撃墜ではなく捕獲を考えていたのだ。適度な攻撃で気絶させようなどと
考えているから長期戦になる。
(このタシロという男、指揮官としては有能なようだがパイロットとしては二流クラス。だがそれが良い。
そのガンダムMK3ガンナーとやらは、この私が頂く)
シロッコからはヒュッケバインがガンダムに見えるようだ。更にティターンズカラーなのも紛らわしい。
機体を破壊しないようにと考えるが、そう上手くはいかない。
(やはり機体を操りきれん。このままでは………)
明らかに手加減された攻撃からシロッコの意図を察知するが打つ手がない。T-LINKシステムやウラヌス
システムが使用不可なのはともかく、実力不足に加えて本来二人乗りの機体を強引に一人で動かしている
のだから無理もない。むしろ良く動かせている方だ。
(子供達や副長の安否が気になる。なんとか離脱せねば!)
随分前からタシロは戦闘離脱を試みている。しかし、シロッコの巧みな攻撃の前に阻止されていた。
その上、徐々に他の戦域から離され孤立させられている。そして―――
「ご老人、その機体は私が有益に使わせていただく!」
「くっ!」
いつの間にかタシロは高層ビルに囲まれた場所へ追い込まれていた。逃げ場は左腕に抑えられている。
このまま周囲のビルを破壊されれば、瓦礫に動きを封じられることは明白だった。
(一か八か、主砲でビルを撃ち抜くか? しかしその隙を見逃してくれるとは思えん)
万事休すかと思われた時、何処からか強大なビームが近くに撃ち込まれた。
「増援か!!」
一瞬早くビームを察知していたシロッコは飛び退いたが、切り離していた左腕が光に飲み込まれた。
更に爆風と降り注ぐ瓦礫が視界を奪う。その向こうに離れてゆくタシロの気配を感じるが、シロッコは
砲撃手を警戒し迂闊な動きは取れないでいた。
「………逃げられたか!」
視界が回復する頃、タシロは追撃不能な距離まで逃げおおせている。周囲を警戒するが砲撃主らしい
気配は感じられない。先程のビームはビルをいくつか薙ぎ払い大地に亀裂を作っていた。
「あの子達か………どんな玩具で遊んでいることやら」
ビームの飛来した方向、遠くの空で交戦している子供達の影を見つめ呟いた。新しい機体どころか
残った片腕までを失った自分の不甲斐なさを自嘲するかのようだった。
70 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:17:49 ID:+Nqf/LhB
ヴァルシオン改でさえ一撃で撃ち抜くフルパワーを当てれば無事ではすまない。僅かなチャージ時間が
長く感じられる。幻聴なのかリョウトの耳に各人の声が聞こえる。
―――オレにとっちゃ大切な人なんスよ。
(アラド君、すまない。)
―――もう誰にも死なれたくないんです
(ごめん、ラトゥーニ)
―――私のアラドを殺した! だから!
(ごめんよ、ごめんよ)
自分のしようとしている事への後悔と謝罪。その迷いが砲撃を別の者へ向ける事となる。
ゼオラに向けられた銃口。それを見た瞬間、キラの脳裏にかつて守る事の出来なかった幼い少女の
影が浮かんだ。
―――いつも守ってくれて、ありがとぉ。
幼い声が聞こえた。あの時、その少女の乗ったシャトルは彼の目の前でザフトのGに撃墜されたのだ。
「殺されたから殺して………殺したから殺されて………その先に何があるって言うんだっ――!!」
キラの中で『何か』が弾けた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
咆哮とゴッドガンダムが猛然とウイングゼロへと迫る。その速度は先程までとは比べ物にならない。
その胸部は展開し、日輪にも似た輝きを背負い、そして手にしたビームサーベルが数倍に膨れ上がって
いる。爆熱ゴッドフィンガーソード。本来の搭乗者では力が『強すぎた』為に使用不能だった武器だが、
キラの足りない能力が皮肉にもそれを正常に作動させた。
「ダメェェェェ!」
「どけぇぇぇ!!」
迫るゴッドガンダムの前にV2ガンダムがビームサーベルを構え立ち塞がる。反射的にウイングゼロを
守る為に割って入ったのだろうが無謀といえた。真剣に果物ナイフで立ち向かうようなものだ。
「右に避けろラトゥーニ!!」
リョウトの叫びと共に避けたV2ガンダムの左を強大なビームが駆け抜けた。それはゴッドガンダムに
直撃はしなかったが、振り上げたゴッドフィンガーソードを右腕ごと消し飛ばし、遠方のビルを砕いた。
チャージは不完全な上、ラトゥーニを避けた為に中途半端な砲撃であったが、唯一の武器を奪えばもう
キラには何も出来ないとリョウトは自分を納得させた。問題はゼオライマーだ。
(あの攻撃に耐え切れるか。いや、耐えるんだ!)
リョウトはラトゥーニの元へ向かう。次の砲撃は間に合わない。ならば逃げ切れずとも今度は自分を
ラトゥーニの盾としようと考えたのだ。だがキラは止まらなかった。
71 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:20:44 ID:+Nqf/LhB
「うあぁぁぁぁぁ!」
右腕と武器を失ったはずのゴッドガンダムがその勢いを止める事無くV2ガンダム(正確にはその後の
ウイングゼロ)へ迫っている。キラはモビルトレースシステムにより右腕を失った激痛があるはずだが
痛みを感じていないのか、押し殺しているのか咆哮するばかり。
「行かせない、止まって!!」
V2ガンダムのビームサーベルが、武器を失ったゴッドガンダムを切り裂くはずだった。
「うそ………そんな……」
ゴッドガンダムの左手が真っ赤に燃え、ビームサーベルごとV2ガンダムの右腕を砕いてゆく。爆熱
ゴッドフィンガー。ゴッドガンダム最強の武装であるが、おそらくこんな事でもなければキラが使う事は
なかったであろう。普通のMSパイロットなら素手の格闘が最強などとは考えない。ゴッドフィンガーは
腕を砕き進み、そのまま本体までも砕こうとする。
「ラトゥーニ――ッ!」
―――ラトは大事な友達なの。
リョウトの叫び声でキラはゼオラの言葉を思い出して、眼が見開かれる。絶叫と共に強引に腕を捻って
ゴッドフィンガーの軌道を変えるが、勢いのついた攻撃は止まらない。キラの努力むなしく胴体を外した
というだけで肩から右上半身、頭部を粉砕され落下していった。即死でなくとも、この高度では命は無い。
「僕は‥……僕は………殺すつもりは………ぐっ………」
正気に返ったキラの体を耐え難い激痛が襲い、体力も尽きたのかゴッドガンダムも落下していった。
地上までの短い時間、キラは激痛と激しい謝罪の念に捕らわれていた。
「ラトゥーニ! ラトゥーニ――ッ!!!」
リョウトの叫びに応答無くV2ガンダムは落下してゆく。まるで羽根が舞うようにゆっくりに見えた。
機体を掴もうとウイングゼロが翔けるが寸前、ゼオライマーの衝撃波に邪魔され届かない。閃光はどう
したのか、考える余裕はなかった。怒りに任せてツインバスターライフルを構える。しかし―――
「愚図が! さっさと退け!」
怒号と共に現れたRX−7ナウシカが、ウイングゼロの破損した翼を補うかのように肩を貸す。
「でもまだ!! このままじゃ、このままじゃ!!」
「あれを見て分からんのか、手遅れだ! そうまでして貴様を守った娘を犬死にしたいか!」
ゼオライマーの射程からウイングゼロとナウシカが離れて行く。追撃したかったがゼオライマーの
エネルギーも既に底を尽いていた。最初のメイオウ攻撃で大半を消費した為、二発目は不発だったのだ。
「………………………そうだ。キラは?」
リョウトを逃した悔しさとエネルギー切れした迂闊さを腹を立てて、近くのビルを数個破壊した後、
ゼオラは思い出したかのようにキラの回収に向かった。
72 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:23:43 ID:+Nqf/LhB
「墜落後、直ぐに駆けつけたのだが手遅れであった」
無残にも破壊されたグダの前。ギレンの言葉に、リョウトは慄いた。あの時、すぐに助けに行けば
副長は助かったかもしれない。あの後、タシロも行方が分からないらしい。
「僕の………僕のせいで!」
「迷いは捨てろ。戦場では迷いを持つ者から死ぬ。そして迷いを持つ者が味方を殺す」
ギレンの言葉がリョウトの胸に突き刺さった。あの時、迷わなければラトゥーニは死ななかったかも
しれない。もっとゼロを活用できれば、もっと非情になれればこんな事にはならなかったかもしれない。
あの時、心の何処かにアラドへの罪悪感があったのは事実だ。昨日ヴァルシオン改を葬った時のような
力を出せていれば、躊躇なく引き金を引いていれば、みんなを助けられたかもしれない。
(みんなを殺したのは………僕だ)
リョウトの頬を一粒の涙が零れ落ちた。『迷いを持つ者が味方を殺す』その言葉が無意識に口を出る。
「まあ希望もある。貴様の探していた娘だが、昨日出会ったのであれば時間が合わん」
あまり打ちのめしてもいけないと思ったのか、ギレンが似合わないフォローを入れた。人は希望を
糧に生きてゆくものだ。エサは適度に与えねばならない、そうギレンは考えていた。
(リオの生きている可能性か。もしそうなら、どんなに……………あれ? あれは一体?)
リョウトは目の前に残骸に奇妙な点を見つけた。悲しみで心が一杯のはずなのに何故か引っ掛かる。
明らかに外部から破壊された痕跡を隠してあるのだ。素人目にはともかく、PT開発部の技術者である
リョウトにはハッキリと認識できた。
(偽装の必要があるのは破壊原因を秘密にしたいから。今その必要があるのは………)
リョウトはギレンを疑っている自分に混乱していた。否定する材料を探すが疑惑は膨らむばかりだ。
確証はない。動機も分からない。だが状況は彼を犯人だと示している。どうして良いか迷っていた。
「とにかく余計な迷いは捨て、非情かつ合理的に行動する事だ。でなくば娘を見つけても守り抜けんぞ」
再びギレンの言葉がリョウトの胸に突き刺さった。そしてそれはある一つの決意を促す。
「分かりましたギレンさん。僕はもう、迷いません」
一言呟くと、ナウシカの眼前にライフルを突きつけた。残ったエネルギーがチャージされてゆく。
「この機体には破壊痕を誤魔化す工作がされています。そんな事をする必要があるのは……」
「待て、冷静に考え直せ。私は……」
「言いましたよ。僕はもう迷わないって」
銃声。一瞬送れてナウシカの残骸がバラバラとこぼれ落ちる。
「間違っていたらゴメンなさい。許してくれなくても結構です」
冷たく言い放つとリョウトは希望を求め東へと飛び立った。いつの間にかゼロシステムが起動して
いたが気にはならない。邪魔者は迷わず消せばいい。そうすればリオを守る事が出来る。そんな考えが
リョウトの心を支配し始めていた。
73 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:25:14 ID:+Nqf/LhB
【ギレン・ザビ 搭乗機体:RX−7ナウシカ(フライトユニット装備)(トップをねらえ!)
パイロット状態:死亡(蒸発したと思われる)
機体状況: 大破(バラバラ)
現在位置:B−1】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:健康
機体状態:小破(左翼が一部破損し飛行能力低下)
現在位置:C−1 補給しつつ東の小島を目指す
第1行動方針:リオの捜索
第2行動方針:邪魔者は躊躇せず排除
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考:バスターライフルはエネルギー残少】
【時刻:二日目 12:00】
74 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:26:44 ID:+Nqf/LhB
同じくグダの墜落地点。既にリョウトがギレンを撃ち、飛び去ってから1時間程が経過していた。
「なんてこったぁぁ!!!」
やっと現場に到着したタシロが無残に大破したグダを見て叫ぶ。シロッコから逃げ延びた後、低空で
移動して来たた為、墜落現場の発見にかなりの時間がかかっていた。
(子供達は無事だろうか? 無事に逃げ果せたと祈る他ないとは………)
あれから通信は誰からも入っていない。ただ雑音が響くばかりだ。タシロはラトゥーニが撃墜された
事もギレンが命を落とした事も知らない。ただ祈るしかなかった。
「くっ、偉そうな事を言って置きながら部下の一人も助けられないとは…………副長、すまぬ」
おそらく船と命を共にしたであろう副長にタシロは心から詫びた。ある程度は分かっていた事だが、
知り合いが志半ばでの戦死ですらなく、理不尽に死んだ事は衝撃が大きい。歴戦の自分ですらそうだ。
おそらく子供達の受ける衝撃は自分の比ではあるまい。そう改めてタシロは思う。
(だからこそ、だからこそ守らねばならぬと言うに!)
無力だった。機体を満足に操ることさえ出来ていなかった。戦線離脱も幸運としか言いようが無い。
しばらくタシロは己の無力さに打ちひしがれていた。そして、妙な事に気がついた。
(この通信に入る雑音………特定のリズムを持っている?)
僅かな望みを賭けグダを特定のリズムで叩いてみる。モールス信号に代表される原始的な打文だ。
しばらくして通信に入る雑音のリズムが変化した。
「いやぁ。死ぬかと思いましたよ」
数十分後、解体されたグダの中から飄々と副長が姿を現した。負傷したのか左足に添木がしてある。
「副長。よく生きていてくれた! まさに奇跡だ」
「いえ奇跡なんてありませんよ」
破壊されたグダの頭部を見て副長は呟く。ギレンが操縦室の場所に興味を持った時に、それとなく
ダミーを教えておいたのだ。常に最悪の事態に備えて打てる手は打っておく主義らしい。こうも早く
役に立つとは思わなかったが。そしてジッとグダを見つめると副長は静かに口を開いた。
「助けていただいて恐縮ですが、ここでお別れのようです」
機体を失って今後生き残れるとは思えない。足を引っ張るだけだと副長はタシロに伝えた。他人の
機体を奪う事の難しさはタシロも良く分かっていた。それでもタシロは諦めつかず考え込んでいる。
「そうだ! この機体は本来、二人乗りだとラトゥーニ君に聞いたぞ!」
ヒュッケバインMK3ガンナー。本来のパイロットはリョウト・ヒカワとリオ・メイリンの二名。
タシロはAMガンナーのハッチを開けた。確かに空きの操縦席がある。それを見て副長は考えた。
グダにも空きの操縦席(オペレーター席等)がいくつもあった。最初から用意されている席なのだから
機体乗り換えとは別物なのだろうか。主催者の胸先ひとつで決まる危険な賭けだった。随分と悩んだ末、
副長は結論を出した。どの道、機体無しでは死んだも同然だ。
「分の悪い賭けです。しかも負けた時は艦長と機体を巻き込んでしまいますが、構いませんか?」
「無論だ。クルーと命を共にする覚悟は最初から出来ている」
即答だった。そして、二人は賭けに勝った。
75 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:28:01 ID:+Nqf/LhB
「アレって、ありでございますですか?」
ヘルモーズのオペレーター席に座るラミアが呆れた様に尋ねた。
「………見た目よりも勇敢な男達だな」
呆れた様にユーゼスも答えた。乗換え規制は存在するが、主操縦席以外はノーマークだった。
コクピットの中で食卓を囲めるくらいだから割といい加減な規制なのかもしれない。
「やはり二人乗りの新装版(OG2版)ではなく、一人乗りの初期版(α版)をコピーすべきでござい
ましたですね。乗換え規制を強化しますですか?」
α正史で戦ったのは龍虎王となっているので、初期版は探すのが面倒だったと思われる。
「途中でルールを変えるのは主催者としてフェアではないと思わんかね?」
ただ単に己の過ちを認めたくないだけだろうとラミアは推測したが、口には出さない。
「不測の事態が起こる前に、処置を厳しくすべきと提案いたしますです」
「何を言っている。だからこそゲームは面白いのだろう? それに………」
ユーゼスは意地悪そうにラミアをジロジロと見ながら続けた。
「乗換え判定を強化した途端、お前の首輪も爆発するが………強行するかね?」
ラミアは自分の席を確認した。伝統的にオペレーター席は戦艦のサブパイロット席である。
「………現行のままで良ろしいかと思いますです」
【タシロ・タツミ 搭乗機体ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリ)】
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:良好(Gインパクトキャノンは二門破損)
現在位置:B−2廃墟
第1行動方針:他の参加者との合流(ラトやリョウトの捜索)
第2行動方針:ゼオラやシロッコをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考1:AMガンナーに搭乗した副長が管制制御をサポート】
【副長 搭乗機体:メカザウルス・グダ(ゲッターロボ!)
パイロット状況:左足骨折(応急手当済み)
機体状況:大破
現在位置:B−2廃墟
第1行動指針:タシロをサポートする
最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考:AMガンナーへ乗換。AMガンナーはサポートのみ、本体操作は出来ません】
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:???
パイロット状況:健康(言語回路が不調)
現在位置:ヘルモーズ
第1行動方針:ユーゼスの命令に従う
備考:ちゃんと他の参加者と同じ首輪を着けているらしい】
【時刻:二日目 13:30】
76 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:29:40 ID:+Nqf/LhB
ゴッドガンダムの落下地点。突っ伏してはいるが激突前に体勢を立て直せたのだろう、落下による
大きな損傷は見当たらない。戦闘による後遺症か、キラは全身を襲う激痛で体を起こす事も困難だった。
会話が出来るようになるまで随分時間が経過している。そんな体でよく戦闘が出来たものだ。まるで暴走
した強化人間だなとシロッコは感心する。
「よくやった上出来だよ」
「やめてください! 人を殺して来て………そんな………よくやっただなんて!」
痛いのか悲しいのか、キラは泣き声だった。こんな無茶なシステム考えたやつの気が知れないとでも
考えていたのかもしれない。
「いや君はよくやったさ。よく生きていてくれた。そしてよくゼオラを守ってくれた。私こそ援護に
来れずすまなかった」
シロッコはガンダムタイプを相手に生き残ることが、どんなに難しい事かを良く理解している。
機体の性能に頼り切っている者を守って戦う困難さもだ。褒める所は褒めてやるのが躾けのコツだ。
「ゼオラさんは………大丈夫でしたか?」
キラは恐れている。ゼオラは大事な友達を失って悲しんでいるのだろうか。奪ってしまった自分を
責めるだろうか。自分が死ぬよりも、知っている人物を殺した事が怖くて仕方がない。涙が止まらない。
「君の無事を確認してから、友人の所へ行ったよ。遺体を回収するためにね」
キラの回復を待つ間に、アラドを救う為に必要だと吹き込み、回収へ向かわせたのだ。運よく遺体が
残っていれば儲け物だ。工具を持たせて向かわせた。首輪を外せなくとも遺体を確保すれば後は自分が
始末する。本当はキラに任せたかったが、この様子では役に立ちそうにない。爆発力は凄いが脆過ぎる。
機体の反動も大きい。このまま立ち直れないならば『処理』する事も視野に入れねばとシロッコは考える。
「何て事を! 女の子なんですよ! 友達なんですよ!」
遺体を回収する。それが何を意味しているかは明白だった。
「友達だから、だろうな」
―――友達だからに決まってるでしょ! あなたこそ無関係なのよ!
キラはラトゥーニに言われた言葉を思い出し、そして思い悩む。ゼオラから大事な友達を奪った上、
その遺体を傷つけさせようとしている。何も出来ない自分が情けなかった。
「行きます。ゼオラさんの所へ行きます」
何も出来ないかもしれない。でも放っては置けなかった。罵倒されたとしても一人で悩むよりマシ
だと思った。ゼオラの為に何かをしたかった。
キラは無理矢理体を起こすとヨロヨロと移動を始めた。
77 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:33:12 ID:+Nqf/LhB
V2ガンダムの落下地点。半壊で地上に叩きつけられた機体が無残な姿を晒している。
(私………生きてるの………まだ)
驚いた事にラトゥーニは生きていた。だがそれは『即死ではない』というだけだった。暗闇の中、
指一本すら動かせない。ただ流れ出る血が残された時間が僅かである事を教えてくれた。
(本で読んだ通りだ………寒いけど………あんまり痛くない)
痛みというよりも全身の感覚がない。自分がどんな有様なのか、確かめようにも視線を動かすこと
でさえ困難だった。目も見えているかどうか分からない。ただ、やけに息苦しい。
(私………死ぬのかな………これから)
スクールにいた時は死ぬ事が怖くなかった。いつ死んでもいいと思ってた。抜け出してから基地に
配属されても、そうだった。生きる事に希望は無かったし、辛い事の方が多かった。
(こんな事なら………日記帳………片付けて置けば………良かった)
仲間や友人達の姿が浮かぶ。次々と思い出が溢れ出して来る。これを走馬灯というのだろうか。
ガーネット達と出会って楽しい事が沢山あった。自分なりに戦う意味、生きる意味を知る事ができた。
家族ができた。親友もできた。実りそうにはなかったが恋もした。
(やだ………やだよ………死にたくないよぉ………リュ………セ)
いつの間にか血ではないものがラトゥーニの頬を伝っていた。
「……ガ……ヴゥ……ゲ……」
声は出ない。僅かに開いた口からは血とも涎ともつかないものが流れ落ちるだけだった。奥歯が
カチカチと音を立てていたが、それも次第に間隔が開いていった。
(……リュ……ウ………)
不意に小さな音がして光が差し込んだ。外に操縦席の装甲を引き剥がした白銀の機体が立っている。
機体からゼオラが飛び降りて来る。しかしラトゥーニの瞳は光を感じる事が精一杯だった。
『ラト! ラト! ラト!』
その叫びは殆ど聞こえない耳にも微かに届き、その抱擁は失いかけていた意識を僅かに引き戻した。
(なんでだろ………ゼオラの声がする………なんでだろ………あたたかい………)
『ラト、もう泣かないで。あなたは一人じゃないから、私達が一緒だから、ずっと一緒だから』
既にラトゥーニは言葉を理解できなかった。ただ懐かしい友人の声と温もりに浸っていた。
(ぜお…らぁ……わたし……こわい……ゆめ……みたの……すごく………こわ……い………ゆ…………)
『助けるから、絶対助けてあげるから。アラドと一緒に助けるから。だから………ごめんね!』
その直後に喉の詰まりが抜けて楽になり、再び暗闇が舞い降りた。温もりが遠ざかってゆく。
(…………っと………いっ…………しょ…………)
ラトゥーニ・スゥボータは絶命した。痛みを感じること無く微笑を残したまま。その喉元は大きく
切り裂かれていた。
78 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:34:43 ID:+Nqf/LhB
時折倒れこむキラに合わせて、シロッコがV2ガンダムの所へ辿り着いたのは随分経過しての事だ。
「流石に頑丈なものだ。『連邦、脅威の技術力』というヤツだな」
シロッコが半壊しつつもコクピット周りの原形を留めているV2ガンダムを見て素直に感心した。
宇宙世紀技術の集大成と呼ばれた機体の凄さは残骸からでも分かるようだ。
「大丈夫ですか、ゼオラさん?!」
ゼオラは転がったV2ガンダムの前、開け放たれた操縦席の前に立っていた。友人の遺体を見て
呆然と立ち竦んでいるろだろうと、キラはゼオラの側へ行く。しかしキラを迎えたのは鮮血に染まった
ゼオラ、そして――――
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴。そしてキラは激しく嘔吐する。何も考えられなかった。何も考えたくなかった。
「どうしたのキラ? 紹介するわ。この子はラト。私の大事なお友達。顔を見るのは初めてよね?」
キラは見た。自分の殺めた少女を。ゼオラの右手に抱かれた少女の虚ろな瞳と微笑を。
「キラ、首輪の解析をお願い。アラドを助ける為に必要なの。この子を助ける為に必要なの」
差し出したゼオラの左手には少女の首輪が握られていた。
「う、あ、あああ……」
目線が少女の瞳と合った。座り込んだキラの目が見開かれ涙が溢れた。
「あぁぁぅぁああぁぅぁぁぁあぁ」
「大丈夫。あなたは悪くないから。みんな助かるから。あなたが助けるんだから。あなたは悪くない」
言葉にならない嗚咽を上げるキラをゼオラは優しく抱きしめる。強い血の匂いが鼻腔を刺激した。
「大丈夫。私たちが助けるの。みんな助かるの。だからあなたは悪くないの。みんな許してくれるわ」
優しい蜜のような言葉がキラの砕けた心に塗り込まれてゆく。先程までキラがゼオラにしていた事。
「みんな………助かる? みんな………許してくれる? みんな………僕を許してくれる?」
「ええ、大丈夫。みんな許してくれるわ。私が許してあげるわ。だから大丈夫よ」
キラは震える手で首輪を受け取った。ベッタリと血が付いている。また少女と目が合った。
(大丈夫、僕が助けてあげる。キミを助けてあげる。他のみんなも助けてあげる。だから僕は大丈夫。
殺しても許して貰える。そう、『僕は許して貰える』。大丈夫、大丈夫だ)
キラの泣き顔に笑顔が浮かんだ。その目は虚空を見ている。いつの間にか身体の震えは止まっていた。
そんな子供達から少し距離を置き保護者シロッコは一人、溜息をつく。遺体から首輪を外す事を
どうやって二人に納得させようかと悩んでいたのに、予想の斜め上を行かれた。
(やれやれ。爆弾が二つになったか。いっそ免罪符でも作って宗教でも開くかな)
冗談を交じえなければやってられなかった。もう少しキラを思考力のある駒に教育したかったが、
イジケて使い物にならないよりはマシ、反抗しないようシッカリ操れば問題ないと思い直す。
(先程の連中が帰ってきても厄介だ。首輪の解析は移動した後にするか。補給も必要だ………それに)
シャワーも浴びせ休息させねばいかんな、と血塗れの二人を見てもう一度溜息をついた。
「大丈夫。みんな助かるから。みんな、みんな、最後には助かるから。大丈夫、安心して」
「そう……だね。みんな助かるんだよね。そうだよ、だから……だからみんな、許してくれるよね」
殺戮ゲームの二日目、昼。命は羽の様に舞い、心は脆く砕け散る。ここはそんな世界。
79 :
冥府に咲く花:2006/01/04(水) 02:38:05 ID:+Nqf/LhB
【ゼオラ・シュバイツァー 搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状況:身体的には良好。落ち着いてみえるが精神崩壊(洗脳状態)
機体状況:左腕損傷(エネルギー切れ。徐々に回復)
現在位置:B−1
第一行動方針:アラドを助ける為にシロッコとキラに従う
第二行動方針:アラドを助ける事を邪魔する者の排除
最終行動方針:主催者を打倒しアラドを助ける
備考1:シロッコに「アラドを助けられる」と吹き込まれ洗脳状態
備考2:リオを殺したと勘違いしている
備考3:リオがアラドを殺したと勘違いしている】
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ゴッドガンダム(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状況:激痛と疲労で衰弱(歩くのもやっと)。精神は崩壊気味
機体状況:損傷軽微、右腕消失
現在位置:B−1
第1行動方針:首輪の解析
第2行動方針:ゼオラと自分の安全確保
第3行動方針:ゼオラとシロッコに従う
最終行動方針:生存
備考1:「人を殺しても後で助けられる」と思い込もうとしている
備考2:ラトゥーニの首輪を所持】
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:ダンガイオー(破邪大星ダンガイオー)
パイロット状況:良好(保護者を演じる事に少し疲れた)
機体状況:右腕は肩から損失、左腕は肘から下を損失。全体に多少の損傷あり(運用面で支障なし)
現在位置:B−1
第1行動方針:首輪の解析及び解除
第2行動方針:戦力増強(切実に新しい機体が欲しい)
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考1:コクピットの作りは本物とは全く違います。
備考2:基本的にサイキック能力は使用不能だがNT能力等で一部代用できるようだ】
【ラトゥーニ・スゥボータ 搭乗機体V2アサルトバスターガンダム(機動戦士Vガンダム)】
パイロット状況:死亡(首輪はキラが所持、遺体はシロッコが埋葬した)
機体状況:大破(半壊した胴体部と左腕のみ残っている)
現在位置:B−1】
【時刻:二日目 14:00】
80 :
それも名無しだ:2006/01/04(水) 08:31:32 ID:+Nqf/LhB
>59-79
まとめて破却してください
「そう、か。死んだのか……」
定時放送に耳を傾けながら、ヤザン・ゲーブルは呟きを洩らす。
――バラン・ドバン。自分に手痛い一撃を食らわせたあの男が死んでしまった事は、ヤザンにとって予想外の出来事だった。
もう一度戦い、この手で必ず打ち負かす。その願いが叶えられなくなった事に、ヤザンは胸に穴の開いたような感覚を覚える。
だが、それは一瞬の事だった。
「……くっ、くくっ、はっはははははは! 面白くなってきやがったじゃねえか!」
あれほどの男が不意打ちで殺されたとは思えない。
現に奴は自分の強襲を力押しで跳ね除けて、まんまとシッペ返しを食らわせてくれたのだ。
不意打ち程度で仕留められるほど、バラン・ドバンは甘くない。
ならば、それはつまり――バラン・ドバンを実力で打ち破った者が居る事を意味しているのだ。
それは――それは、なんと心踊る事実なのだろうか――!
「面白い……! 誰かは知らんが待っていろ、バラン・ドバンを倒した奴! 貴様を仕留めるのはこの俺、ヤザン・ゲーブルだ!」
傷だらけの機体。休息がてら機体の自己修復を待とうかとも思ったが、この溢れ出る戦意は抑え切れそうにない。
この昂る気持ちを鎮めるには――戦いだけだ!
「さあ行くぞ、龍王機! 次の獲物を探しにな!」
そして手負いの龍は力強く飛び立った。その瞳に闘志を漲らせ、次なる標的を葬り去るべく。
【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:龍王機(スーパーロボット大戦α)
パイロット状況:健康
機体状況:尻尾がない、全身にハンマーの大量のかけらが当たったときのダメージ(中)
現在位置:G-4
第一行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
最終行動方針:ゲームに乗る】
【二日目 6:10】
…ゼンガー・ゾンボルト…
朝の放送の中、その名前が流された時にシンジの肩はわずかに震えた。
が、軽く黙祷するように目を瞑ると、放送を聞き逃すまいとシンジはすぐに目を開いた。
(ふむ…ずいぶん精神的に強くなったものだな。これもゼンガーの影響か?)
ウルベはそれを観察して思う。ゼンガーより扱いやすい上に、前ほど足手まといとは言えなそうだ。
手駒としては最適かもしれない。
ウルベは目を移した。傍らにはもう一人、死亡者にはまったく興味がないと言わんばかりの少年がいる。
宗介は禁止エリアが流されるとそれを地図に書き写し、検討を始めていた。
(こちらはまだまだ手駒とはいえんな…何とか懐柔したいものだが)
とはいえシンジと組ませていれば操れるかも知れん。ウルベはそんなことを思う。
そうして朝の放送は終わり、シンジはそっと安心したように息をついた。
(よかった、アスカはまだ無事みたいだ)
その吐息に何かを感じ取ったか宗介が声をかけてくる。
「どうした、何かあったか?」
その物言いに、なんとなくゼンガーの面影を感じ取りつつ、シンジはアスカについて話しておこうと思い立った。
「じつは、最初の部屋で見かけたんですけど…。アスカ、っていう知り合いの娘がここにいるみたいなんです。
まだ放送で名前は流れていないから、生きていると思うんだけど」
「ふむ。女か?」
「…そうですけど。何か?」
「…女には気をつけろ。俺が以前にアフガンでの特殊作戦に従事していた時のことだ。
部隊に一人、急遽女が編入されてきたのだが。実はそれは敵のスパイだったのだ」
「…はあ」
それは女じゃなくても一緒なんじゃないかな、などと思いつつ。
『アフガンでの特殊作戦』などという映画でしか聞いたことのない単語が気になってシンジは聞いてみた。
「宗介さんは軍人なんですか?」
「いや、傭兵だ。世界各地を転々としていた」
「うわあ、凄いんですね」
いやいや戦わされていた自分と比べ、そう年の変わらない彼がどんな人生を送ってきたのか、シンジはしばし物思いに沈む。
「で、そのアスカさんとやらの話ではなかったのかね?」
さきほどからなにやら考えているようだったウルベが、からかうように話を戻し、シンジは物思いから脱する。
「そ、そうです。だから僕はアスカを探して守りたい。
…そんな事言ったら、アスカには『アンタなんかがえらそーに!』とか言われちゃうかもしれないけど」
「なんだ、その女には頭が上がらないのか?」
「う…。だって、アスカは気が強くて、僕よりも上手くエヴァを扱えて…。
でも、傷つきやすいくせに、いつも意地を張っているような、そんな子なんです。だから、守ってあげないと。
…あはは、何を言ってるんだろう?」
しかし、それには意外な返事が返ってきた。
「いや…わかるぞ。碇。いいだろう、そのアスカという娘を保護したいというなら、手を貸す」
その時宗介の脳裏に、いつも気が強く、ハリセンを振りかざし、しなやかで、土壇場での度胸もあり…
でもやっぱり女の子なだれかが浮かんでいたかどうかは…定かではない。
「本当ですかっ!?」
「ああ、無駄な戦闘は避けたいところだがな」
「うむ、とりあえずの行動方針は決まったようだね。では、まずそのアスカさんの情報を集めるとするか」
「みんながみんなゲームに乗ったわけじゃないでしょう。まず、そういう人たちを探しませんか?」
まさか、当のアスカがゲームに乗っているとは思わず、シンジは無邪気にそんなことを言った。
(ふふふ、やはりこの二人は組ませておいた方がいいようだな。…しかし、アフガンでの特殊作戦とは何のことだ?)
ウルベは何かかみ合わないものを覚えつつ、それをおくびにも出してはいなかった。
【碇シンジ :大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好(おなかいっぱい)。全身に筋肉痛
機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。背面装甲に亀裂あり。
現在位置:H-4
第1行動方針:アスカと合流して、守る
第2行動方針:出来るだけ助け合いたい
最終行動方針:生き抜く
備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持 】
【相良宗介 :ブリッツガンダム(機動戦士ガンダムSEED)
パイロット状況:健康 ちょっと寝不足 シンジにちょっと共感
機体状況:良好
現在位置:H-4
第1行動方針:アスカを保護する
第2行動方針:ウルベには気を許さない
最終行動方針:生き延びる。戦いも辞さない】
【ウルベ・イシカワ 搭乗機体:グルンガスト(バンプレストオリジナル)
パイロット状態:良好 ちょっと寝不足。二人の会話に違和感。
機体状態:レーダーもなにもかもすこぶる良好
現在位置:H-4
第1行動方針:状況を混乱させる(宗介とシンジ、特にシンジを利用する)
最終行動方針:???】
【時刻6:30】
85 :
それも名無しだ:2006/01/06(金) 20:36:20 ID:MYvVp950
>59-79について
>>80の破却を撤回し、下記のように修正いたします。
『
>>72 の最後「いつの間にかゼロシステムが起動していたが気にはならない」の一文を削除』
色々ご迷惑をお掛けしました。
86 :
それも名無しだ:2006/01/08(日) 00:06:23 ID:IpFOpPUO
87 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:41:34 ID:+ddOGm9l
ズプリ…
うまく町の周りを抜け、C-8にたどり着いたマサキは光の壁に突き進んでいく。
レイズナーが光の壁に乗り込まれていく。
しかし、恐怖もとくにはない。先ほど――思い出すのも忌々しいが、黒い大型の気体に会う前、偵察の時にこの壁については調べているからだ。
レイズナーの顔の辺り、つまりコクピットが壁に抜けるのと同時だった。
「前方遠距離ニ機動兵器ノ反応3。戦闘ハ確認デキズ」
「ほう・・・以前の戦闘の可能性はどうだ?」
「周囲ニ熱源発生ノ可能性0。機体の損傷確認デキズ」
「ッ! 一度の壁の向こうに戻るぞ」
「READY」
「ふむ…3機か…しかも、戦闘をしていない、か」
そうこぼした後、後ろをちらりと見る。当然そこにはルリの死体。
「奴らの悪評をまくにも、クズを集めるためにも接触は必要だが…どうしたものか…?」
接触するためには、どうしても死体が足かせになる。さて、どうしたものかと2,3分悩んだマサキだったが、
「そうだな…うまく悪評をまくためにも、ごまかすためにもこれならいけるか…ククク」
顔に邪悪な意思を湛え、ルリの死体を自分の膝に置く。幸い、まだ腐乱などはしていない
「むんっ!」
ベギン。ルリの奥歯を強引にへし折る。そして、その奥歯を取ったところを指で少しかき回す。すると、
死体とは言え、口から血が漏れるようにたれ、頬を染める。
「ククッこれでいい。…あとは通信機を周波数を少しずらせ、レイ。あくまで少しぼやける程度だ… 最大速度で接近するぞ。何か確認されるたびに逐一報告しろ」
「READY」
レイズナーは壁に向けて全力で飛び始めた。
88 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:42:14 ID:+ddOGm9l
「出来るだけ助けを求める人の力になりたいんです!」
プレシアが鼻息荒く宣言したのは3時間前だ。二回目の放送が流れ、新たな犠牲者の名前が読み上げられるのを聞いたプレシアは、
この忌まわしきゲームに巻き込まれて困っている人間を助けたいと言い出したのだ。ガルドは時間をかけて、丁寧に、丁寧に説得をした。
ゲームが始まって一日も経っていないのに既に24名の死者が出ている事から、ゲームは予想以上にハイペースだと考えられる。
それは多くの人間が殺し合いに参加しているという証拠であり、プレシアが戦いを避けたいならば不用意に動くべきではない。
そもそも、プレシアは戦えないし、チーフも動力の出力が未だ上がらずとても戦闘は出来そうにない。
もしゲームに乗った人間に襲われたらどうするんだ?
しかしプレシアは譲らなかった。曰く誰もが戦いを望むわけではない、戦いは新たな憎しみを生むだけだ・・・確かに正論だ。
しかし、それを逆手に取り全てを奪うヤカラもまた存在するということもわかっているだろうに、どこまでも純粋に人を信じようとする 。
確かに、戦いが憎しみを生む事は、他でもないガルド自身が分かっている事でもある。
プレシアの意見を青臭い理想論だと感じつつも、ガルドはそれを面と向かって指摘できないでいた。
真っ向から戦いを否定するプレシアの眩しさに、一度汚れてしまった自分は引け目を感じているのかもしれない。
ちょっとした巡り合わせで助けたプレシアと過ごすうちに、ガルドは心の澱が澄んでいくようにも思えたのだ。
(俺は…イサムを探さねばいかん。しかし、この娘を放り出すわけにもいかん)
すまんな、もう少し待ってくれと心の中でイサムに向けてガルドは言う。
そう、これでいいのだ。もし、この場を離れてイサムを見つけたとしても、イサムは必ずこう言うだろうから。
「なんでその場に残らなかったんだ、バカヤロウ!」、と。
心なしか、そんな気はないのに自分が笑っている気がする
逡巡の末、ガルドは助けを求める人を探す為、移動することに同意した。
89 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:42:52 ID:+ddOGm9l
「レーダー右に反応1。何かが近付いてくる…!」
真っ先にそれに気付いたのはチーフだった。
「少し後ろに下がっていろ!」
今戦えるのは、そうガルドだけなのだ。ガルドが2人の機体よりも一歩前に出てカバーする。
「ええと、通信機はこれだから…通信を試して見ます!」
プレシア既に話し合いをする気満々だ。相手はかなり高速で、そろそろ通信可能エリアに入ってくる。
「私はプレシア・ゼノキサスです!そちらのパイロットさん聞こえますか?」
プレシアが通信機をONにして声を張り上げる。
通信機に写る、返ってきた声と姿は…
「どいてくれ!怪我人が乗っているんだ!」
あせっている青年と、その膝に乗る口から血を流し、グッタリしている1人の少女だった。
「ええっ!?一体どうしたんですか!?」
流石の彼女もこの展開は予想外だったのだろう。声が若干裏返っている。
「信用させるようなことを言ってきて、信頼して降りたら機体を奪うために襲われたんだ!
クォヴレーとトウマ、それにイングラムとかいう三人組だった!」
「と、とリ合えずここからだと…E-1あたりがものがありそうな場所で一番近いですから一緒に行きませんか!?」
咄嗟のことながら、しっかりと人のことを考え、行動を示唆できる。他の2人は若干戸惑っていた。
「い…いいんですか?」
向こうの青年も若干戸惑っている。まさか、一緒に行こうという答えが出るとは思わなかったのだろう。
「…まて、何故そうなったんだ?あとその子の名前をこちらに教えてくれないか?知り合いかもしれん」
チーフが口を開く。
「そんなこと言ってるば…」
「待て」
プレシアが何か言おうとするのをガルドが止める。
「美久です!氷室美久!目の前で殴られたんです!」
青年はどこかテンパった様子ながら間髪入れずに応えた。
「…そうか。スマン勘違いだったようだ」
プレシアもここで質問の意味が理解できた。もし、既に放送で呼ばれている名前や、応えるのに詰まるようなら何かしろの警戒がいる。
通信機では、正確に生きているかどうかまではチェックできない以上、用心のため、そこのあたりをチーフはチェックしたのだろう。
「急ぎましょう!」
青年が急かす。
「最期に、君の名前を教えてくれないか?」
チーフが問いかける。その質問に、青年はイラツキながらも答えた
「木原マサキです!」
90 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:43:31 ID:+ddOGm9l
ガイキングがE−1廃墟の左端にたたずんでいる。
剣鉄也に取って、二回目の放送は殺すべき人数が10数人減った、という以外に何の意味も無かった。
ふと、目を上げる。すると…レーダーに4つ影。こちらに向かって来ている。
先ほどまで、少し虚ろであるとさえいえた目が急にらんらんと輝き始める。
「狙えないこともないな…ハイドロブレイザーをぶちかますか?いや…それだと逃がす恐れがあるな。こうするとするか。」
ガイキングは、目の前の湖に飛び込んだ。水中をガイキングがうごめく。
(よし…ここだな)
鉄也は、水中で大きく壁になる、つまり直上に来るまでレーダーに引っかからない位置に移動した。
(さぁ来い…!)
水中でガイキングの目が光り輝いた
「水上か…」
「急ぎますから、チーフさん機体ごとグランゾンに乗ってください!」
こちらは、何も知らない4人組。
ガルドとチーフはマサキを完全に信用しているわけではないため、距離をとってはいるが行動を起こさないためか今は様子を見るしかない。
「わかった、そちらに乗ろう」
湖を飛び越えるだけの出力がないため、そう言ってグランゾンの背中にブルースライダーの要領で乗る。
4機が中ほどまで言ったとき――
「レーダーに反応!真下だ!」
またもや真っ先に気付いたのはチーフであった。しかし、さっきと決定的に違うことは、
「いたな…!」
鉄也が静かに呟く。狙うは4機のうち、2つの光点が重なっているものだ。
ガイキングはそちらを向きなおし、
「はずしはしない……!」
胸部は多少傷ついてはいるが、発射には問題ない。
「ハイドロ!ブレェェェイザァァァァアア!!!」
50万度の超高温の火球が水を蒸発させ、泡を振りまきながら、グランゾンとチーフに迫る!
「え!?」
プレシアもそれに気付き、歪曲フィールドを形成する。
歪曲フィールドとは…エネルギーの位相を恣意的にずらすことでエネルギーを拡散させ、熱量や衝撃を分散させるフィールドである。
つまり、エネルギーそのものには強いのである。
しかし、それでもハイドロブレイザーの威力は消しきれず、グランゾンに歪曲フィールドを突破した力が襲う!
強い衝撃が機体にかかるが、堅牢な装甲のためか、ほとんど傷がつかない。しかし――
「なっ!?」
グランゾンが直立に近い姿勢になった上に、この衝撃。チーフが見る見るうちに水面に吸い込まれていく…!
「チーフさん!?」
プレシアが叫ぶが、もう遅い。チーフは水中に落ちていく。
91 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:44:54 ID:+ddOGm9l
水中――
「く!?深度250m…まだ活動可能域だ…相手が水中に引きずり込もうとしていたのは明白…急いで脱出せねば…」
チーフが素早く現状を確認。動こうとするが…
ゴボリ…
気泡の音がたち、そちらを振り向く。しかし、何もいない。
ゴボリ…
今度は右から音がする。そちらを向けば…今メインカメラから何か黒い影が逃げるのが見えた。
ゴボリ…
今度はすぐ後ろ…!
振り向く時間もない。無重力に近い状況下だからできるサブミッション。太い左腕でチーフの左腕をはさみ、両足を絡めるように右腕を挟む。次の瞬間…
バギバギバキバキッィ!!
ガイキングは体を伸ばし、テムジンの両腕を千切りとる。
「ぐっ!しかし、まだだ!」
思い切り地面を蹴り、跳躍しようとする。しかし…
「角!?」
テムジンは角に挟まれうまく飛ぶことが出来ない。
「パラァァァァイザァァァアア!!」
「ぐああああああああああああ!!!」
水上――
「チーフさんが…!助けないと!」
プレシアが言う。
「だが…この機体では…水中は無理だ」
ガルドが苦々しげにつぶやく。
「僕のも…この気密性では…それにムチャな操縦は美久が…!」
マサキもそう鎮痛な面持ちでつぶやく。
「私が行きます!」
プレシアが宣言するかのように言う。
「大丈夫なのか?」
ガルドが声をかける。プレシアは戦えないといっていた。しかし、今から行くところは、間違いなく戦場だ。
彼女に行かせていいものなのか…?
「助けてすぐ戻ります!」
「でも…(戦えない!?見ただけもそれなりに性能は高そうだが…チックズが)」
相手の技量によっては、それも難しいかもしれない。完全に理想論だ。しかし、この娘はそれを信じ、今チーフを助けるにはそれしかない…!
「わかった。俺たちはここにいる。……急いで、必ず戻るんだ」
納得したわけではない。しかし、これしかなく、彼女が信じるもののためになら…
「はい!」
そう答え、グランゾンは水中に降りていった。
92 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:45:25 ID:+ddOGm9l
「どこ…?どこなの?」
水中に入ったグランゾンは急いでチーフを探す。そのとき――
「ぐああああああああああああ!!!」
「!」
通信機から、チーフの苦痛の絶叫が響き渡る。
「チーフさん…そんな――お願い、生きてて…!」
まさか――そんな思いが頭によぎる。グランゾンは全速でその場に急行していた。
そして、目の前にあるのは…
「チーフさん!?大丈夫ですか?返事をしてください!」
両腕をもがれ、黒く焼け爛れるように機体がくすんでいるテムジンがいた。
――罠かもしれない――そんな思いが頭によぎるが、気にしてる場合ではない。今は一刻を争うのだ。
「チーフさん!?」
さらに声をかける。すると、
「う、うう…」
呻くような、力のない声が聞こえる。どうやら、気絶してるだけのようだ。
「大丈夫ですか!?今上に…」
「うおおおおおおおおおおっ!!」
グランゾンが戻ろうと浮上する時を狙って、物陰からガイキングがザンバーで襲い掛かるが――
グランゾンはまるで何もなかったかの様に消えてしまった。
グランゾンが使ったのはネオ・ドライブ。空間跳躍を除けば、1日一回しか使用できないものの、超高速で移動できる代物だ。
「だ…大丈夫なんでしょうか?」
「わからん…だが、信じるしかない」
そんなことを話していた二人の前に、突然グランゾンが現れる。
「「!」」
「急いでください!ここから離れます!」
「わ、わかりました!」
しかし、ガイキングはそれを許さなかった。
爆音をたて、水中から悪鬼がせりあがる!
かなり近い位置で静止するガイキング。
逃げようと背を向ければ、相手の攻撃をまともに食らう事は確実だった。
先制攻撃を仕掛けてきている。それに加え、右腕は既に無く、身体のそこかしこに傷がある
。左手は幅広の剣を持っている。どこからどう見ても、戦闘して来たことが見て取れる。
それでも――
「私はプレシア・ゼノキサスです!そちらのパイロットさん聞こえますか?」
プレシアが外部スピーカーをONにして声を張り上げる。
「俺は剣鉄也だ。」
ガイキングから低い男の声が聞こえた。どこまでも暗く、冷たい声にガルドは畏怖を感じる。
プレシアも男の冷たい声に気勢を削がれながらも、果敢に言葉を続けた。
「違います!私達は戦うつもりはありません!あなたも戦って傷ついたんでしょう?無益な争いはやめて下さい!
私達が出来ることならお手伝いしますから・・・」
「ならば死ね」
再び低い声が返ってくる。
「どうして!何故戦わなければならないんですか!」
「何故戦う?誓いのためだ」
そう言ってガイキングはダイターンザンバーを構える。
「待ってください!僕達には戦う理由はありません!」
マサキがそう言うのを聞くと、鉄也は声を荒げた。
「俺は勝ってもとの世界に戻り、ミケーネと戦う!そのためならば誰であろうと殺す!」
有無を言わさぬ口調に、プレシアが怯む。ガルドはブラックサレナをグランゾンの前に進めた。
「見逃してはくれないのか」
「生き残り、勝つためだ。逃がすわけにはいかん」
93 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:45:59 ID:+ddOGm9l
一片の曇りすら感じられない鉄也の声を聞き、ガルドは静かに覚悟を決め、他のみんなに通信を開く。
「お前達は町のほうに戻れ。そこなら処置できる薬か何かがあるはずだ。俺がこいつを食い止める。俺があいつに突進するのが合図だ。いいな?」
「ガルドさん、何言ってるの!?ガルドさんだけ置いて逃げるなんてできないよ!」
案の定のプレシアの反論に、マサキが口を挟んだ。
「この距離じゃ3人とも逃げるのは無理です!でも…一人が食い止める事が出来れば、残り二人は逃げられる。
この子がいる限り、僕は戦えない。君だって、その機体を抱いたまま戦うことは出来ない。これしかないんだ…!」
「でも…!」
「ガルドさんがどんな気持ちでいったかわからないのか!君は急げば、その人、チーフさんを助けられるかもしれない!でも、時間がたてば危険になる!これ以上はないんだ!
(故人の一種として意志を通し、命をネタに使いって揺さぶり、思想を限定させ選択肢を縮める…基本だが、有効だな。こんな状況でなければ新参者の俺では効果が薄かっただろうが…死体も役に立つ…ククク)」
マサキが語尾を強くし、きつく、どこか諭すように言う。
ガルドも畳み掛けるように言った。
「大丈夫だ、プレシア。俺もお前も、まだやらねばならんことがある。必ず生き残る。約束だ」
「本当に、約束してくれる?」
「ああ。俺は約束を破ったことが無いんだ。心配するな」
俺も筋金入りの嘘付きだな・・・とガルドは自嘲する。だが、死ぬ気が無いというのは間違いない。
(俺は、イサムに会うためにも、この娘のためにも、死ぬわけにはいかん…!)
「かならず、戻ります!ですから…!(駄目押しの誘導だ。先んじての他者の同意の上での行動の決定。このガルドとかいうクズはやや疑っていたようだが、この状況ではどうもできまい)」
「私もかならず、かならず戻ります!」
プレシアも叫ぶ。
「了解だ。期待している。では行くぞ。3、2、1、GO!」
カウントダウンと同時に猛然と高機動型ブラックサレナはガイキングへ向けて突進した。
木原マサキの顔には邪悪な笑みが張り付いていた。
94 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:46:31 ID:+ddOGm9l
ブラックサレナとガイキングの戦いは始まって5分になろうとしていた。
ガイキングの攻撃をかわしながら体当たりを繰り返すブラックサレナだが、固い装甲に阻まれる。
しかも突進のタイミングを、段々と読まれて来ている事をガルドは感じていた。反応が良くなってきているのだ。
もし突進を正面で受け止められたら、どんな反撃を食らうか分からない。
この5分間戦いは落ち着いていた。しかし、ついに――23回目の突撃。唐突に勝負の分かれ目が訪れた。
ガイキングがザンバーをほうり捨てる
(スマン…かならずあとで拾うからな…!)
そして、高機動型ブラックサレナの突起をつかみ、
「うおおおおお!!」
そのまま水面に叩き落すかのように下に振るう!
「っぐ!?」
おそらく。先ほど水中に来なかったことから、水中に落とそうとしているのだろう。
「……まだだ!まだやらせん!」
ガルドの声とともにブラックサレナは高機動用パーツをパージする。
ガイキングのつかんだパーツは体を離れ、
(いまだ…!)
最大の危機が最大のチャンスに変わった。
片腕しかない腕を振り切り、落とすためブースターをふかしきった直後…がら空きの胴体が目の前に!
「おおおおおおおッッ!」
雄叫びと共に、体当たりがガイキングの胸部を抉る。踏ん張りが利かないガイキング。
真昼だと言うのに流星が空に流れた。
体当たりの衝撃を受け流せず食らい、空を2機がもつれあいビルに突っ込む。
「っぐ!?そう来るか…ならしっかりつかんでおけよ…!」
鉄也の声とともにガイキングの胸、まさにブラックサレナとせりあう場所にエネルギーが集束する。
気付いてブラックサレナも急制動で離れようとするが、
「食らえ!ハイドロ!ブレイザァァァッ!!」
空気が圧縮され、轟音を撒き散らす!
「直撃だけは避けて見せよう…!」
しかし、ガルドも諦めない。ギリギリで急旋回し、どうにか右肩が持っていかれるだけですんだ。
「バランサーが破損…!着水するしかないか」
そのままブラックサレナは深層に落ちていく。しかし、
(まだだ。まだやってみせる)
もはや肩がかけ、安定したブースターは飛行はこの形態では出来ない。そう思ったガルドは残っていたブラックサレナのパーツをパージ。
ついにエステバリス・Cの姿が現れる。エステバリス・Cは初期ロットでいう0Gフレームを基本としているため、重力下だけでなく、重力の少ない状況水中などでもきちんと行動できる。が、
(このままでは勝ち目はない。なにかないのか…?)
状況そのものは好転しない。武器は今となってはハンドガンのみ同然。かならず相手は水中に入ってくるだろう。ガルドは水中戦など当然やったことがない。周りを見回すエステバリス。そして、
(あれは…)
ガルドはそれを見つけた。
95 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:47:09 ID:+ddOGm9l
「装甲がひしゃげはしたが、内蔵火器については問題なし。まだまだいけるな。」
チェックを終えたガイキングが起き上がる。こちらの思う通り、水中に落とすことには成功した。
あとは、追い詰めて倒す…!
そう思い、ガイキングが水面に出たときだった。
「これを失敗したらあとがない…!いくぞ…!」
水面、ガイキングの目の前に突然腕が現れ、
ドォン!
水中からのハンドガンの連射が腕にあたり、腕がはじける。咄嗟にとまるガイキング。
続いて、ライフルタイプの火器が水面に飛び出し、それもまたハンドガンにより爆発。周りに暴発したエネルギーが撒き散らされる。防除姿勢をとり厚い装甲でガイキングも防ぐ
「く!?」
さらに…黒い、大きな何かが水面にまたも現れ、爆発。今度は回りに煙というか。爆炎を撒き散らす。
ガルドが投げたのは、テムジンの腕、武器、そして、無事だったブラックサレナの左肩。
1発目で動きを止め、
2発目で姿勢を変えさせ、動きを制限、
3発目で目をくらます。
そして、4発目。ガルド自身…!
「おおおおおおっ!」
煙の中からディストーションフィールドを張ったエステバリスが最大出力で姿をあらわす。
(これ以上胴体へのダメージはまずい!)
ガイキングは胴体をひねり、ギリギリでエルテバリスを回避。カウンターや反撃などできようもない。
(俺の、勝ちだ)
ガルドが珍しく笑う。そのままエステバリスは街に全速で突っ込んでいく。
煙が晴れ、ガイキングが姿勢を立て直した頃には、既にエステバリスは廃墟の中に消えていた。
このまま追おうかと思ったが、鉄也はやめた。深追いで奇襲を受けることになる恐れがあったからだ。
(ザンバーを拾いに行こう)
鉄也はそう思って水底に入っていった。
96 :
内と外の悪鬼:2006/01/09(月) 17:54:41 ID:+ddOGm9l
【プレシア=ゼノキサス 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:健康
機体状況:良好
現在位置:C-1
第一行動方針: チーフの救出
第二行動方針:助けられる人は助ける
最終行動方針:まだ決めていない】
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C (劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:E-1の市街地
第一行動方針: プレシア、イサムの障害の排除及び2人との合流(必要なら、主催者、自分自身も含まれる)
最終行動方針:イサムの生還】
【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
パイロット状況:気絶
機体状況:Vコンバーター不調『Mドライブ+S32X(レプリカ)』 両腕断絶、装甲表面に損傷
現在位置:C-1
第一行動方針:ハッターを捜索し、Vコンバーターを修復
第二行動方針:ゲームからの脱出(手段は問わない)
備考1:チーフは機体内に存在。
備考2:機体不調に合わせ、旧式OSで稼動中。低出力だが機動に問題は無い】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部に大きな破損があるが、武器の使用には問題なし 右腕切断 ダイターンザンバー所持
現在位置:E-1 水中
第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ】
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:C-1
第1行動方針:良い自機の回収
第二行動方針:使えるクズを集める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
97 :
北へ。:2006/01/11(水) 14:51:55 ID:vJr3CKiD
「これ、道路って言うより滑走路よね。何を考えて作ったんだか………てゆーか今更だけどココ、何処よ」
アスカが呆れた声を上げた。東西に数キロはありそうな無駄に広い道路が南北に伸び、その先端は地平線へと
吸い込まれている。
「このスケールのデカさはアメリカか? 少なくとも日本じゃなさそうだな」
「ノゥプロブレム! ここが世界の何処であれ、正義の為に、レッツゴーだ!」
竜馬とハッターは相変わらず気の抜けた事を言っている。
話は一時間ほど前、朝の放送が流れたあたりまで遡る。
「くそ! ボスが死んだなんて!」
竜馬は湧き上がる感情を抑えきれず、拳をコクピットの壁へ叩きつけた。対する相手は違えど平和の為に戦うと
誓い合った仲だった。さぞかし無念だったろう、そう思う反面、こんな所でのんびりとしていた自分に対する
憤りが、続けて壁を殴りつけさせた。
「我が友よ! 上官を失った事には、追悼の意を捧げる。しかし、そんな事をしても、事態は好転しない!」
ハッターに言われ、振り上げた腕が止まる。拳がわなわなと怒りに震えている。既に皮は破け血が滲んでいる。
「何故……彼が死ななきゃならないんだ………正義に燃えていた彼が、何故!」
「アンタの上司が弱かったからに決まってんでしょ。殺し合いしてるんだから」
「!!!」
アスカの身も蓋もない台詞に対して、竜馬が機体越しに睨み付ける。アスカも負けずに睨み返す。どうも
アスカもハッターも『ボス』を竜馬の上官という意味で受け取っているようだ。
「訂正しろ! 彼は弱くなんてない!」
「あんたバカ? 強けりゃ殺されないっての! そもそも元凶は、バカ仮面だって最初から分かってんだから、
悲劇のヒーローぶって取り乱さないでよ」
一見、正論のように聞こえるが実際は単なる揚げ足取りだ。何が気にいらないのか食って掛かっている。
「落ち着け、我が友よ! ガールも、そういう言い方は、ノーグッドだ!」
これ以上険悪にならないようハッターが冷静に止めに入る。いつもなら熱くなっている所だが、先に竜馬が熱く
なってるので対照的に冷静になる他ない。一応、どちらの言いたい事も分かる事は分かるからだ。
「我が友よ! ガールの言う通り元凶はユーゼスだ! 悩む必要はない! 我々は、ヤツを倒すんだ!」
友人の死を軽んじるわけではないが、悲しむばかりではいられないと竜馬をなだめる。
98 :
北へ。:2006/01/11(水) 14:52:26 ID:vJr3CKiD
「すまない。少し取り乱したようだ」
「分かればいいんですよ。竜馬さん」
多少の煮え切らなさはあるようだが、竜馬は冷静さを取り戻したようだ。アスカと言えば私が正しかったと
言わんばかりの態度で、ぶりっ子している。今更な感じだが本人はバレていないと思っているのかもしれない。
「ガールも、自分の恋人が無事だからと言って、他人を………」
「誰が誰の恋人だってのよ!! バカシンジはね! 薄情で、臆病で、主体性がなくて、情けなくて………」
ハッターの言葉を遮り怒鳴りつける。余程、頭に来たのかシンジへの罵詈雑言が続いている。あまりの早口に
竜馬やハッターも毒気を抜かれてた。
「相当嫌っているみたいだが、なのに何故バカシンジ君を探すのだろう?」
「友よ! ガールの扱いは、不得意なようだな! ガールは『誰々を好きだろう』と指摘されれば、図星である
ほど『大っ嫌い』と赤面して、答えるのだ! あの罵詈雑言も、いわばバカシンジ君へのラヴ表現の一種!」
「そ、そういうものなのか?」
「そう! 例えるなら、ボーイが『好きなガールに意地悪してしまう』ラヴ表現と同じ!」
「おお、それなら何となく理解できるな」
ビッと親指を立てて答えるハッターの自信たっぷりな解釈に竜馬は納得したようだ。
「ごちゃごちゃ寝言を言ってんじゃないわよ! あたしがバカシンジを好きだなわけないでしょ!
私はバカシンジを自分の手で殺したいのよ!」
言い切ってしまってからアスカは『しまった』という表情になる。慌てて口を塞いだが、当然、操縦席の顔は
二人に見えない。ちょっとした沈黙。
「バカシンジ君を殺すって、どういう事だ………」
「…………」
疑問に思った竜馬の問いかけに、アスカは答えない。
(ちっ、もう少し利用したかったけど、面倒な事になる前に不意打ちでコイツを叩いて……って今から
変形したんじゃバレバレか。どうでも良いけど他人にバカシンジって言われると、なんかムカつく)
つまらない事に多少腹を立てつつ、アスカが攻撃のタイミングを図る。再び沈黙が辺りを包む。
「ガール、そして友よ、すまない! 大きな思い違いをしていたようだ! 恋人同士ではなく、宿命のライバル
だったのだな! つまり『お前を倒すのは私だ、他の奴らには指一本触れさせない!』そういう事だろう!」
またもビッと親指を立てたハッターが自信たっぷりに仲裁に入った。やはり、お笑い担当なのだろうか。
99 :
北へ。:2006/01/11(水) 14:52:59 ID:vJr3CKiD
「惣流君、そうなのか?」
竜馬も流石に今度は簡単には納得できないようだ。疑惑の眼差しで見ている。
「………もう恋人でもライバルでも好きな方でいいです(……こいつら、マジでウザイ)」
気合を空回りさせられたアスカが呆れたように答えた。口調も猫かぶりに戻っている。ハッターの緊迫感の
なさに当初の怒りは消え失せていた。
「なるほど! 恋人同士かつ、ライバルだったのか! 友よ、やはりガールの扱いは難しいな!」
「あ、ああ………難しい………のか?」
どうにも納得のいかない竜馬もオーバーアクションのハッターに押される感じだ。
(チーフも普段、フェイと俺で、こんな苦労をしていたのだろうか?)
ハッターはようやく協調性を取り戻した(ように見える)二人を見つつ、仲裁役は柄じゃないなと思っていた。
「さて、おしゃべりは、ここまででだ! 我が友よ、埒が明かないから、当面の目的地を決めよう! リーダーとして
ビシッと決めてくれ! ビシッと!」
急にキリッとした声でハッターが切り出す。そういえば放送前から今後の進行方向が決まっていなかったのだ。
何処へ行ってもやる事は同じならば、適当に捜索するよりも目的地を決めて移動した方が動きやすい。
「俺が決めていいのか?」
「いいんじゃない? 一応、リーダーなんだからさ。誰か居そうな場所、選んでよね」
竜馬へアスカが一応の部分を強調して答える。こんな森をダラダラ捜索するくらいなら、敵でも何でも遭遇で
きる場所が良い。正直な話、森には飽きていた。
竜馬は地図を見ながら熟考した後、当面の目的地を決めた。
「じゃあ………ここだな。E−1にある小島だ」
ハッターとアスカも自分の地図を見つめる。随分と遠いが目的地としては分かりやすい。
「廃墟のようだが近くまで道路も引かれているようだし、重要な施設だったの可能性もある。水に囲まれ、
守りやすい地形は戦いにも向いているし………」
「要するに、誰かが待ち伏せしていそうってワケね! いいじゃん、そこで。ハイ決定ー!」
竜馬の説明を遮りアスカが早々と決定を下す。怪しそうな場所へ行けば遭遇率も上がるだろう。実際に昨日の
G−6基地にはこの二人が居たのだから。
「ガール、自分一人で、勝手に決める事は、人としてどうかと思う! まあ、賛成なわけだが!」
100 :
北へ。:2006/01/11(水) 14:54:02 ID:vJr3CKiD
かくして西へと向かう事、一時間。長大な道路へと辿り着いたわけである。
「んじゃ、二人ともトランザーに乗ってよ。かっ飛ばせば1時間も掛かんないはずだから」
「……ダイテツジンが乗っても大丈夫なのか?」
「そんなの大丈夫に決まってるじゃない!」
アスカに促されダイテツジンとアファームドがトレーラー部分の上に乗る。ダイテツジンの重さにビクとも
しないで加速を始める姿は流石スーパーロボットといえる。アスカも自分の機体の凄さを自慢できて意気揚々だ。
辺り一面が平地で、謎の粒子(ミノフスキー)で役に立たないレーダーよりも、目視の方が索敵範囲が広いという
状況下だから、高速で移動が可能だ。地上走行の方が飛行するよりも目立ちにくく、何より燃費が良い。
「意外と、ガッシリしてるな! 重戦車みたいで、ガールには、ピッタリだな!」
ダイモスは重機としての性能も半端ではない。元々惑星開発用のロボットであり、その出力や堅牢さも開拓や
資源の牽引などに活用されるはずだったのだから、当然といえる。純粋な戦闘用ではない所はゲッターロボと
同様である。
「………ハッター、振り落とされたいわけ?」
不敵な笑みを浮かべたアスカがトランザーをおもむろに加速させた。激しいGが襲い掛かる。ダイモス本来の
最大速度はマッハ7というデタラメなものであり、二機の重量を考慮しても十分にロケット並の加速を見せている。
実際、トランザー後部(ダイモス脚部)にはロケットブースターがあるわけだが、今は使用していない。
「こ、これは結構………ゲッター並か」
急激なGに竜馬も戸惑いは隠せない。ゲッター1の最大飛行速度がマッハ2である事を考えるとデタラメさが
伺える。もっともアスカ本人にも当然Gが掛かるので、現在の速度はマッハ近くしか出していない。
「ガール! ひとつ重要な、クエスチョンが、浮かんだ!」
「あ〜らなにかしら〜? スリーサイズと〜、年齢は〜、秘密だからね〜」
トランザーにしがみ付くハッターが悲鳴に似た声に、アスカは意地悪く間延びした声で答えた。重戦車呼ばわりを
根に持っているようだ。
「ガール! カーライセンスは、車の免許は、持っているのか?!」
「え〜、あたし〜、まだ13歳だっから〜、わっかんな〜い!」
「ノォォォォォォ!」
三人を乗せたトランザーが、何処までも続く道路を北へと駆け抜けて行った。
101 :
北へ。:2006/01/11(水) 14:54:36 ID:vJr3CKiD
【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
パイロット状態:良好
機体状況:良好
現在位置:E−5(道路上を高速で北上中)
第一行動方針:他の参加者との接触
第二行動方針:剣鉄也の捜索
最終行動方針:ゲームより脱出
備考:アスカに多少の不信感】
【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
パイロット状態:良好
機体状況:良好(SSテンガロンハットは使用不可、トンファーなし)
現在位置:E−5(道路上を高速で北上中)
第一行動方針:仲間を集める
第二行動方針:チーフの捜索
最終行動方針:ユーゼスを倒す
備考:ロボット整備用のチェーンブロック、鉄骨(高硬度H鋼)2本を所持】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:良好
機体状況:良好
現在位置:E−5(道路上を高速で北上中)
第一行動方針:碇シンジの捜索
第二行動指針:邪魔するものの排除
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
備考:竜馬&ハッターを信頼していない、かなりウザがっている】
【時刻:07:30】
102 :
決意:2006/01/11(水) 17:30:29 ID:TzXHChEJ
「まずは死亡者発表だ。果たして諸君の知っている名前は呼ばれるかな?」
…司馬宙
「あっ…あ…あ……」
司馬遷次郎は声にならない声を上げると急に叫び始めた。
「うあぁぁぁぁ!!!そんなバカな…」
「どうしたんですか?司馬先生?」
その叫びに驚いたフォッカーが遷次郎に声を掛ける。
「無敵の鋼鉄ジーグ…いや不死身の宙がなぜこんなことに…」
遷次郎は怒りを拳に込めて地面を叩くがそのホログラフィックの拳は虚しく空を切るだけだった。
「司馬先生落ち着いて下さい!」
「彼は…彼はまだ生きるべき子だったんだ…それなのに私が彼の青春を奪い、そして命までも奪ってしまったんだ…」
このときフォッカーは感じ取った、この人もまたこの戦いで自分と同じように大事な仲間を失ったということを…
しばらく遷次郎はしゃがんで黙りこんだままだった…その状態のまま何時間たっただろうか…
このままでは話が進まないなと思いフォッカーが喋った。
「司馬先生…気持ちはわかります…しかし今は…」
フォッカーが喋り終わる前に遷次郎がまた叫んだ!
「気持ちがわかる…?何も失ってない君が何を言っているんだい?彼は私の息子なん…」
フォッカーの拳がホログラフィックの遷次郎の頬を貫いた!
「ああ!!『今の』先生の気持ちなんて全く分かりませんよ!!腐っていたいならそこで腐ってろ!」
フォッカーは遷次郎のことを尊敬していた…その尊敬していた人が見せた弱さにフォッカーも叫ぶしかなかった。
「仲間の一人が殺されたなら仇討ちをしてやろう…とか思わないんですか?
あなたはそうやって腐っていれば気が済むのかもしれません…だけど私なら仇を討ちます!!
あなたの体がもしホログラフィックでなければ、私はあなたの腐った性根が直るまで拳を振るっただろうな…」
その時アルテリオンのレーダーに反応があった。
フォッカーが操縦席に飛び乗りながら遷次郎に声を掛けた。
「あなたはいくら腐っていても『切り札』を持っている…
もしかしたら首輪の解除の方法を知っているのは、あなただけかもしれません…」
無言で押し黙る遷次郎を見つめながらフォッカーが声を張り上げる。
「あなたは生きなくてはいけない人なんですよ!
私は向こうから来る機体の囮になります…その間に…どうか逃げて下さい…」
そう言うと漆黒の機体の方に飛び立っていった。
103 :
決意:2006/01/11(水) 17:31:23 ID:TzXHChEJ
「貴様かァ!!ハマーン様を殺したのは!!」
漆黒の機体を駆るマシュマー・セロが叫ぶ。
「だったらどうする?」
「貴様を殺す!!」
フォッカーの問い掛けに即答すると共に漆黒の機体ディスアストラナガンが猛進する。
「やる気マンマンってわけか…」
そう言うとアルテリオンはクルクルと回転しながら空を翔け、
一瞬だけ変形し足のスラスターを噴射してディスアストラナガンの背後へ回り込みミサイルを放つ。
それに対しディスアストラナガンは漆黒の翼を広げガンスレイブを射出しながら一気に高度を下げて、
追ってくるミサイルの方を向き地面スレスレの所を飛び、ミサイルに向けライフルを放つ。
「なかなかやるな!その漆黒の機体は伊達じゃないということか…おっと」
遥か上空にいるアルテリオンをガンスレイブが襲う。
アルテリオンはガンスレイブに向かってバルカンを撒き散らしながらディスアストラナガンに追撃しようとするが、
ディスアストラナガンはアルテリオンに向けてライフルを二発撃ちアルテリオンが回転して避けた先めがけてパンチを叩き込もうとする。
それに対して限りなく接近した所でミサイルを放ち爆風の衝撃に乗り離脱するアルテリオン。
それを逃がさんとばかリにディスアストラナガンのライフルとガンスレイブが襲う。
「全く…引き離したと思ったら、すぐについてきやがる…まさに命を賭けた鬼ごっこだな…
それよりも司馬先生はどうなったんだ…」
104 :
決意:2006/01/11(水) 17:31:53 ID:TzXHChEJ
その頃、遷次郎はダイナアンAのコックピットと中で考えていた。
すぐ上の空では戦いが繰り広げられている…
「(宙…私はどうすればいいんだ…お前は私の事を恨んでいるのか…?私は死んだ方がマシな人間なのか?)」
その時、ダイナアンAの横を砂煙をあげながらアルテリオンとディスアストラナガンが駆け抜けた!
「(な…何ぃ…!!まだ司馬先生は逃げてなかったのか!!…マズイ…!!)」
そうフォッカーが考えてる間にディスアストラナガンのメスアッシャーの照準とチャージは既に完了していた。
「まずは一人…」
表情一つ変えずにメスアッシャーを放つマシュマー、そして爆発して粉々になるダイナアンA。
「せェェんせェェェいィィィーーー!!」
フォッカーの叫びは虚しく、地面には本来の形が分からないぐらい粉々のダイナアンAが転がっていた。
「貴様ァァー!!」
ディスアストラナガンに向けてミサイルを出しながら突進しようとしたが、
マシュマー・セロは一人殺すと満足したのか、ディスアストラナガンの姿はそこには既に無かった…
「まずは一人…どうやらこの機体は自己回復の能力を持っているらしい…確実に…そう確実に殺すために回復を待つとしよう…
ああ…待っていてください…ハマーン様…あと少しで貴女の所に参ります…」
マシュマーは冷たい笑みを浮かべながら次の獲物を狩るための休息に入った。
105 :
決意:2006/01/11(水) 17:32:26 ID:TzXHChEJ
「クソッ!!クソォッ!!チクショォォォォ!!」
フォッカーがコックピットの中で拳を振るう。
「まただ…また、目の前にいる仲間を守れなかった…柿崎ィィ…先生……俺は…俺は…」
フォッカーは自分の力の無さを恨んだ、
『仇を討つ』ということに集中しすぎて身近な人すら守れない自分の甘さに叫ぶしかなかった。
遷次郎に「仇を討て」と言ったばかりなのに揺らぎそうになっている自分が許せなかった…
その時、フォッカーに通信が入った。
「フォッカー君…フォッカー君!!」
「えっ!!その声は…」
フォッカーが驚くのも無理は無かった、その声の主はさっき爆発したはずの遷次郎のものだったからだ。
「せ、先生!!なぜ!?」
「それは私の乗っていたダイナアンAは本体とバイク型のコックピットとで分離できたことを、
粉々になる寸前のところで思い出して、寸前の所で分離をしたんだ…心配をかけて…すまない…」
ホログラフィックの遷次郎がペコリと頭を下げる。
「あなたが生きる道を選んだということは…戦う決意をしたんですか?」
フォッカーが問い掛けると遷次郎が答えた。
「ああ!!だが仇討ちでは無い!!」
「???」
首をかしげているフォッカーに遷次郎が答える。
「もちろん息子を殺した奴のことを恨んでないと言ったら嘘になってしまうが、
しかし!!息子のことを殺した者もこのゲームの犠牲者だ…
もしかしたらこのゲームがなければ平和な世界で平和に暮らしていたのかもしれない…
そう…私はその犠牲者達を救うために、あの忌々しい仮面の男と戦う!!」
そう言うと遷次郎はギラギラとした眼で空に浮かぶ戦艦を睨んでいた。
「先生…やっぱりあなたはカッコイイですよ…だけど突然考えが変わったけど、どうしてですか?」
「…君の言葉に心を打たれたからかな…それに何より君の『拳』が効いた…フォッカー君…私と共に来てくれるか…」
遷次郎が空を見上げながら答えるとフォッカーが言った。
「『拳』がですか!?ハッハッハッ…いいですとも!どこまでも着いていきましょう!」
フォッカーが笑いながら答えると恥ずかしそうに遷次郎が答える。
「なにが可笑しいんだい?」
「いえいえ…何も可笑しくありませんよ!
私の『拳』でこの戦いを終わらせるために戦いましょう!!」
握手できるはずの無い手の遷次郎とフォッカーが固く握手をした。
彼らの戦いはたった今…始まったばかりだった…
106 :
決意:2006/01/11(水) 17:33:46 ID:TzXHChEJ
【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:疲れている
機体状況:弾数残りわずか
現在位置:D-4
第一行動方針:遷次郎を護衛しつつG-6基地へ向かう
第二行動方針:ユーゼス打倒のため仲間を集める
最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】
【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:ダイアナンA(マジンガーZ)→スカーレットモビル(マジンガーZ)
パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度)
機体状態:本体は粉々、スカーレットモビルは無事
現在位置:D-4
第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析及び解除を行う
第二行動方針:ユーゼス打倒のために仲間を集める
最終行動方針:ゲームを終わらせる】
備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)。
だが、解析結果は正しいと信じている。
【マシュマー・セロ
支給機体:魚竜ネッサー(大空魔竜ガイキング)
↓
ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
機体状況:Z・Oサイズ紛失 少し損傷
パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発
現在位置:D-4
第一行動方針:ハマーンの仇討ちのため、皆殺し(ミオ、ブンタを除く)
最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】
【二日目 7:00】
>97-101「北へ。」の本文中を一部修正します。
>>99の9行目
修正前:(チーフも普段、フェイと俺で、こんな苦労をしていたのだろうか?)
修正後:(チーフも普段、こんな苦労をしていたのだろうか?)
>>100の25行目
修正前:「え〜、あたし〜、まだ13歳だっから〜、わっかんな〜い!」
修正後:「え〜、あたし〜、まだ14歳だっから〜、わっかんな〜い!」
108 :
冥府の邪神:2006/01/12(木) 17:00:16 ID:rjWKkmjk
「やっぱり僕、ガルドさんのところに戻ります!(さて…時間としては30分。ククク…もういいだろう…)」
町へ向かう途中、唐突にマサキがそんなことを言い出した。
「ええ!?マサキさん一体どうしたんですか!?」
プレシアも驚くが、すぐにそれに正確な指摘を入れる。
「彼は今、命を懸けて戦っている!僕には戦える力があるのに、放っておくなんてできない!(予想通りの回答だ。ここまで単細胞とはな。)」
内心嘲笑うマサキ。ドス黒い心をおくびにも出さず、演技を続ける。
「そうかもしれないですけど、美久さんをどうするんですか!」
「分かっています!でも僕は!どうすればいいんだ!(もう少し、さぁもう一歩踏み込んでこい!)」
「私だってどうにかしたいです!けど…」
プレシアも心にしこりのような思いがあるのか、声をすこし荒げた後、か細い声で「けど」と付け加えた。
「……君にお願いがある(よーし、いいクズだ。そのまま来いよ…)」
「え?な、なんですか?」
どこか重々しい口調で告げるマサキに、どこか恐る恐る答えるプレシア。
「美久をそちらのコクピットに移して欲しい(さぁて、どうでる?)」
「ええ!?」
完全に動揺が口調に現れる。
「方法があるなら、君もそれを選ぶだろう!?僕はガルドさんを助ける。君は美久とチーフさんを救ってくれ!(キーワードは『救う』『助ける』。語感は強く。方法の限定化。完璧だ…!)」
「…わかりました。けど、マサキさんもかならず帰ってきてください。」
どこか懇願する口調でプレシアが告げる。
「ああ、かならず戻るよ。だから、頼む…!(キャラが変わりすぎか?まぁ怪しまれてはいないな。……お前に次などない!)」
右手に乗ったマサキは、左手を風除けの様に右手のそばに添え、グランゾンのコクピットの前に出る。
コクピットを開くため、チーフを下に置いた。
そして、ついにコクピットが開く。
マサキが手の上をゆっくり歩いてくる。それを迎えるようにプレシアも身を乗り出してきて…
109 :
冥府の邪神:2006/01/12(木) 17:00:52 ID:rjWKkmjk
(全身が出たな。終わりだ。)
「レイ、いけ」
マサキがヘルメットでレイに命じた。
『READY』
「え?」
グランゾンのコクピットすぐ前に添えていた左腕がうなり、止まらぬスピードでプレシアを握りこむ。
「あ、ぐっ!?」
苦悶の声を上げるプレシア。10mの巨人からすれば、プレシアなど15cm程度の人形同然。すっぽりと握りこむ。
「マサキさん、これは…?一体何をする気ですか!?」
完全に混乱するプレシア。まったくマサキの行動を予測できなかったのだろう
「レイ、親指の負荷を強くしろ」
『READY』
レイズナーの親指が首の上のほう、首輪のすこし上に負担をかける。
「どうしてこんなことをするんです!?」
「強くしろ」
『READY』
「どうして!?…どうして!?」
「強くしろ」
『READY』
「どう…し……て」
「強くしろ」
『READY』
「お父…さん……お…兄…ちゃ………」
「強くしろ」
『READY』
ポキン。ついに首の折れる音。
110 :
冥府の邪神:2006/01/12(木) 17:01:49 ID:rjWKkmjk
「爆発しなかったようだな。さて」
ルリをレイズナーの手にルリを放り、グランゾンのコクピットに入る。計器などを一切触らないように注意し、
なかを見回すと、道具を入れたものが見つかった。
それをあさり、グランゾンの仕様書を見つけ、目を通していく。
「!…ククク、ハハハ、ハァーハッハッハッハ!!」
高く高く、マサキが笑う。
「ハハハハ、まさかこれほどとはな!」
見た目はゼオライマーのようないわゆる特機タイプ。レイズナーに比べ、どの分野がどの程度の性能かチェックしていき、どちらに乗るか決めようと思っていた。
しかし、そんな必要はもうない。
「空間操作(ワームホール生成)、ベクトル修正による多目的攻撃(ブラックホールクラスター)、広範囲兵器(グラビトロンカノン)、
ピンポイント兵器搭載(ワームスマッシャー)、高速移動可能(ネオドライブ)。防御フィールドあり(歪曲フィールド)近接兵器もしっかりある(グランワームソード)。異常なほどの機動性、堅牢な装甲。」
悩む必要など、一切ない。
「レイ、頭と手をここに寄せろ。」
『READY』
レイズナーが頭を寄せる。バックをとりだし、グランゾンのコクピットへ。
レイズナーの左手には、金髪の少女の死体。
レイズナーの右手には、銀髪の少女の死体。
それらも、やや広いグランゾンのコクピットへ。
「レイ、最後の命令だ。俺がこちらのコクピットに入ったら、あのそばの機体にカーフミサイル。爆発は接触の2秒後。その3時間後はこのグランゾンを除き、全対象攻撃の無差別戦闘モードに移行しろ。」
(AI操作のレイズナーに負ける程度のクズは必要ない)
『READY』
ついに、グランゾンの操縦者が変わる。それと同時に、カーフミサイルをテムジンに。
2発のカーフミサイルが深く突き刺さり、ワンテンポついて爆発する。そのため、無理な姿勢をしていたレイズナーが倒れる。
「さて、E-1、A-1に行くわけにはいかんな。今見つかるのはすこしまずい。G-6に行くしかないか。しかし、壁を抜けると、特機のクズに会うかもしれん。操作に慣れる意味でも、南下してG-6に行くか」
さて、次は首輪をはずさねばな。
メイオウを乗せた邪神は飛び始めた。
111 :
冥府の邪神:2006/01/12(木) 17:03:05 ID:rjWKkmjk
【木原マサキ 搭乗機体: グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:D-2
第1行動方針:使えるクズを集める
第二行動方針: 首輪の解析
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【プレシア=ゼノキサス
パイロット状況: 死亡】
【9時30分】
112 :
冥府の邪神:2006/01/12(木) 17:04:28 ID:rjWKkmjk
3つ、とても幸運なことがあった。
1つ、下が砂漠であったこと。
2つ、機体が予想以上にボロボロだったこと。
3つ、カーフミサイルの爆発を遅らせたこと。
これがなぜ幸運か?答えはシンプルだ。
カーフミサイルは、本来当たると同時に爆発するはずだった。しかし、遅らせたため、機体の中ほどにぶつかり、爆発するはずだった。
機体の中ほどで止まるはずだったが、ボロボロだったことにより、地面に食い込んだ。
下が砂漠であったため、弾頭が地面に食い込み、回りに撒き散らす破壊を抑えた。
テムジンはバラバラになったが、内部そのものに破壊は回らなかった。よって、
「う……?」
チーフは生きていた。
ぼんやりとした意識ではあるが、チーフが目を覚ます。
コクピットが傾いている。幾ら動かそうとしても動かない。
「そうか、あの機体に攻撃を受け…」
そのあとがいまいち不明瞭だ。時間は9時50分。場所は表示によるとC-1。
よく見れば、コクピットに光が漏れている。
「…?」
ハッチをあけ、外に出る。
「な…んだと」
さっき会った、マサキという人物の機体が横になっている。パイロットもいない。あと、自分の機体が、自分が生きていたことも信じられないくらいに破壊されている。
周りは見通しがつくが、人影もない。
「これは…?」
状況を把握しようと、推論を行うが、いくらなんでも情報が不足しすぎている。
もう一度、整理と推論をゆっくり行う。
自分が気絶したときは、約45分前。そこから、ここへの移動時間を引く。
余りは15分から20分。マサキはどこにいったか?ここから20分では特に遮蔽物のない以上、徒歩では見えない範囲に移動は不可。
死体もなく、機体に損傷もない以上、ほかの機体に乗って移動した。
プレシアとガルドはどこにいったか?一切の証拠がなく、把握不可能。また、何故自分がここにいるのか?この機体は何故あるのか?これもまた把握不能。
「何もわからんも同然か。」
いくら考えても埒が明かない。この状況下で、希望的観測は余りに危険だ。プレシアを疑うわけではないが、極力自力で行動を行うべきだ。チーフはこれからを考えることにした。
歩いて、最も近い町に行く。…NO。マーダーに会ったときの危険が多すぎるし、40km以上を遮蔽物も見当たらない地形を歩けば、熱中症になるか、とにかく体調を大きく崩す恐れが強い。
自分の機体での行動は不可能。
この状況を切り抜けるためには…目の前の機体に乗るしかない。しかし、もし自分の推論が外れていた場合、自分は爆死する。
「しかし、やるしかないか」
はっきりとした期待ができない以上、希望的観測は危険。乗るしかない。意を徹して横になったレイズナーのコクピットに乗り込む。
すると、
「『それも私だ』システム起動。不正な方法により、コマンドCOC(チェンジ・オブ・コマンド)実行。新規の搭乗者の名前と声紋を入力してください」
「チーフだ」
「入力完了」
どうやら、爆死することは避けられたらしい。ほっと胸をなでおろす。
「マニュアルなどは落ちてないか。AI、操作方法の提示と、50分前から記録された映像を表示してくれ」
「本機のAIの呼称はレイです。READY」
2つのウィンドウを淡々と開いた。
「!? な、ん、だと!?」
それには、操作方法と、狂気の映像を映し出していた。
113 :
冥府の邪神:2006/01/12(木) 17:05:40 ID:rjWKkmjk
【チーフ 搭乗機体: レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状況:驚愕
機体状況: ほぼ損傷無し
現在位置:C-1
第一行動方針:ハッターを捜索する
第二行動方針:ゲームからの脱出(手段は問わない)
備考1:チーフは機体内に存在。
【10時00分】
>>108-
>>113は議論スレで作者さんの破棄宣言が確認されました。よって無効です。
残る一人を狩るためにセレーナが選んだ進路は北東だった。禁止地区に近い北部の廃墟を軽く捜索した後、
G-1の小島や、A-1の市街地など他者が集まりそうな所へ急行しようと思っていた。
「優雅にモーニングティーを楽しむ時間はないわね」
途中で聞いた放送では更に12人の死亡が告げられた。冷静に考えるなら目的達成が困難になっただけとも
言えるが、ここで知り合った面々の名前が無かった事に、セレーナは少し安堵した。自分でも不思議だと思う。
<前方、廃墟上空、10時15分の方向に機影二つを確認>
「朝から冴えてるわねアル。エルマ、見習わなきゃ駄目よ」
「………僕だって確認できてましたよ……」
アルの報告にセレーナが表情を明るくする。標的となりえるかは分からないが、相手を発見できない事には
話にならないからだ。機影は二つ。一つは着陸したのか廃墟に消え、一つは何処かへと飛び去っっていった。
廃墟に消えたのは白銀のアルテリオン。
そして―――
「セレーナさん、あれは………間違いありません。離脱した方は、昨夜交戦し撃墜した機体です」
エルマの報告にセレーナは耳を疑った。昨夜撃墜したはずの二人目。それが活動しているというのか。
「冗談は聞いていないわよエルマ。アル、あなたの判断は?」
<私の判断もエルマと同様です>
アルの言葉にセレーナは力一杯に拳を叩き付けた。ユーゼスの言葉が脳裏に思い出される。
―――勿論、機体の破壊だけではない。パイロットの生命活動を停止させろ―――
昨夜、間違いなく胴体を撃ち抜いたはずだ。しかし参加者の死亡確認はしていないし、機体が爆発四散した
わけでもない。殺しきれていなかったとも考えられなくもない状況だった。
<既に追尾可能範囲から離脱されています。追跡は不能です>
「後二人に逆戻りだっているの?! この土壇場で!」
ディス・アストラナガンが自己修復した後、新たな主を迎えたなどとは流石に考え付かない。
「セレーナさん、気を落とさないで。まだ時間はあります………」
<現在6時55分、規定時間までは約5時間です。前方廃墟へ片方の機影は着陸した模様です>
タイムリミットまでの時間を再確認し、もう一度、セレーナは拳を叩きつける。何かが遠くへ離れて行く
ような喪失感を感じた。
(セレーナさん………)
「廃墟に降りた機体の方は?」
<降下地点をトレースしてあります。すぐにでも追尾可能です>
「そ、ありがと」
そっけなく答えるセレーナは何とも言えない険しい表情をしていた。
遥か上空を飛ぶヘルモーズ。
「セレーナ・レシタールが、殺害数を勘違いしているそうですが、如何しましょうでごさざいます」
ラミアが優雅にモーニングティーを楽しむユーゼスに問いかけた。
「構わん、カウントは正確に行いたまえ。もっとも彼女が多く殺したいというなら尊重すべきだろう?」
要するに勘違いしているなら、させたままにして置けという事らしい。
「了解しました。引き続き、サポートAIエルマを通して監視を続けます」
「フフフ、彼ら以外、この空間を含めた全ての存在を作り出したもの。それも私だ」
ユーゼスが笑いをかみ殺す。良く知る機体が、良く知る存在が完全な本物とは限らないのだ。
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:D-4
第一行動方針:ゲームに乗っている人間をあと二人殺す
最終行動方針:チーム・ジェルバの仇を討つ
備考1:トロニウムエンジンは回収。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
備考2:既に二人の参加者を殺しているが、クルーゼを殺し損ねたと思っている】
【時刻:6:30】
>>116を一部修正させて頂きます。
5行目
誤:要するに勘違いしているなら、させたままにして置けという事らしい。
正:要するに勘違いしているなら、させたままにして正午まで放っておけという事らしい。
>>116を一部修正させて頂きます
誤:【時刻:6:30】
正:【時刻:二日目:7:00】
度々の修正申し訳ありません
空を飛ぶ蛇のような機体が、森に入ったかと思えばまた出てくる。フラフラと飛ぶ姿はまるで酔っ払いだ。
ずんぐりとしたボスボロットが空飛ぶドッゴーラにしがみ付いている。
「マシュマーさん、意外と近くにいたりしないかなぁ? あ、あれってネッサーの頭じゃない?」
「今度こそ、当たりだと良いんですけどね」
ミオの指摘にブンタが気のない返事をして再びドッゴーラを降下させる。下では何本かの木が倒れていた。
真夜中に見れば水竜と見間違える事が出来ないこともない。
「ただの倒木のようですね。そろそろ道草はやめて、早く先程の場所まで戻りましょう」
彼らはマシュマーを探して北上した後、一度南の河へまで戻るつもりだった。しかし道中、ミオが下の森を
見回しては『あれは!』とやるものだから、あっちへふらふら、こっちへふらふら。気が付けば随分と時間は
経過し、進路も東にずれてしまっていた。
「次いってみよう、じゃなくてブンちゃん良く見て! あれって誰かに折られたんだよ!」
再び上昇しようとするブンタをミオは制止する。じっくり見てみれば確かに、焦げ後や不自然な折れ方など
から自然な倒木には見えない。ブンタはミオの観察力に少し驚いた。今まで引いた大量のハズレがなければ
もっと驚いていただろう。ボスボロットがエッヘンと胸を張る。
「誰かがここで戦ったのでしょうか? もしかして……」
「だ、大丈夫だよ。もしそうだとしても、近くに機体の破片とかは無いし、上手く逃げれたんだよ」
辺りに倒木以外に特に落ちていない事から、ここで交戦はあったが被害は出なかったと推測したのだ。
しかしその推測はネッサーの戦闘を前提にしてしまった為、一部間違っている。昨日、ゲーム開始後まもなく
ここで砕かれた紅いバルキリーは、既に破片一つ残さずに消滅したのだ。それに彼らが気付く事は無かった。
「そうだと良いんですが……念の為、この辺を捜索しながら河まで南下しますか」
「うん。ここからマシュマーさんが逃げたなら、河の方へ行く可能性もあるよね」
ドッゴーラは森の上から周囲を捜索し、ボスボロットは地上を見渡しながら南下して行った。
南下を始めて十数分が過ぎた。ガッション、ガッションと歩くボスボロットに優雅さは無い。
「ブンちゃん、これ見て!」
ミオが感嘆の声を上げ、上空のブンタを呼び寄せる。ボスボロットの指差す先には、タイヤが通ったらしき
痕跡が残されていた。言われないと分からないような僅かな痕跡。
「凄い、こんな僅かな痕跡、よく気付きましたね」
「名探偵ミオちゃんと呼んでくれてもいいよ。推理ドラマの犯人当ても百発百中なんだから」
ブンタは改めてミオの観察力に驚いた。大地精霊(上位)の加護でもあったのだろうか。
「でもタイヤで走るロボットなんてあるんですかね?」
「さあ? 良く分かんないけど、怪しさ大爆発でしょ!」
普通、自動車やバイクが支給されるとは考えない。
「ネッサーがレッカー移動されちゃったとか」
「いくらなんでも、それは………ん? 何ですかね、あの小さいの」
ブンタの視線の先に何か小さな白い物が見えた。
「何か……紙? 本でしょうか?」
「ブンちゃん、森に落ちてる本の定番はエッチな本だよ。伝説の秘伝書とか、裏技の書いてある攻略本とか、
マシュマーさんからの暗号メッセージなら大歓迎なんだけどさ」
ボスボロットが本をヒョイと起用に拾い上げると、コクピットへ放り込む。
「どれどれ……きゃあエッチィ………じゃなくて何かのマニュアルだよ。多分、タイヤの持ち主の」
大きく狼と星のマークが描かれたマニュアルに、あからさまにガッカリした口調でミオが答えた。
「他の機体のマニュアルですか? 一応、読んでおけば何かの役に立つかも知れませんよ」
「そーゆーもんかな?」
「そーゆーもんです」
他人のマニュアルなど今は役に立たない。しかしブンタは思う。マシュマーはドッゴーラのマニュアルを
見て自分に操作方法を教えてくれた。他の機体のマニュアルでも読んでおけば、その機体に遭遇した時に
多少は有利に逃げられるだろうと考えたのだ。相手を殺して機体を奪うなどとは思い付きもしない。
「かなり時間が経過しています。急いで戻りましょう」
「んー、そうだね。このタイヤ沿いに川まで戻ろう。マシュマーさんもこれを辿っているかも」
ドッゴーラはボロットを連れて舞い上がると、タイヤの跡が続いていた方向へ南下を開始した。
ドッゴーラに捕まりながら、マニュアルに軽く目を通したミオが大きな溜息を吐いた。
「えーっとね、このタイヤ跡の主はブライガーっていう巨大ロボットみたい。自動車・飛行機・ロボットに
三段変形だってさ。しかも武器も一杯でどっから見てもヒーローじゃん! なんか………ズルイよね」
読みにくいマニュアルの為、ほとんどイラストと見出ししか見ていないが、変形やソード、カノンといった
格好良い単語を目ざとく見つけたのだ。嫌でもボスボロットやネッサーと比べてしまう。どうせ乗るなら
子供の頃に憧れたヒーロー系ロボットに乗りたいと思うのが人情というものだ。
「マシュマーさんもそういう機体なら、最初からハマーンさんを探しに行けたかもしれませんね」
今更だがブンタは支給機体の当たり外れの落差を実感する。よもや機体の持ち主がマニュアルを読まずに
捨て、変形不能で自分達以上にピンチな状態とは想像すら出来ない。ブンタが物思いに耽っていると不意に
ボスボロットが口に両手を添えてメガホンを作った。
「スゥー………助けてぇー! ブライガァァァァー!!」
突然、ミオが大声で叫んだ。続いて耳に片手を添え集音する。
「いきなり何やってるんですか?」
「大声で助けを呼んだら、ヒーローが飛んで来ないかなって」
「出前じゃないんですから、呼んだからって来るってもんじゃないでしょ」
「万が一って事もあるじゃない。TVアニメとかじゃ『キャー助けてー!』て場面で必ず現れるんだから」
ミオの熱意に押されて一応、三分ほど黙ってみる。カッコ良く高笑いと共に薔薇を咥えたマシュマーが
ブライガーに乗って現れる事を期待したが、やはり来なかった。
「アニメじゃないんですから………TVの見過ぎですよ」
ブンタが苦笑しつつ至極当然な感想を述べた。
「駄目だコリャ。次いってみよう!」
そう言うとミオはポイッとマニュアルをちゃぶ台へ投げ出した。言われなくてもドッゴーラは南下を続けて
いる。
少し進むと森が開け、遂に川が見えた。近くにいくつか建物が立っている。補給ポイントのある場所である。
「あれ………あの建物、少し壊れてない?」
「一旦、近くの森に降下します。他の人がいるかもしれません。十分注意してください」
森に着陸して、森の端から建物を観察し始めた。少なくとも外にネッサーは見当たらない。
「意外に大きな建物ですね。どうしましょう? 一度、元の場所へ戻りましょうか」
「そうだね。誰かいるかもしれないけど戦いになっても困るし、後回しにしよう」
意見が揃ったところでコソコソとドッゴーラを川に沈め、二人は西へと移動し始めた。
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
機体状況:良好
パイロット状態:明るく振舞っているが不安
現在位置:C-5川沿い(補給ポイント近く)
第一行動方針:B-5まで戻り、川沿いへ東へ移動し、仲間を探す
第二行動方針:ある程度仲間を探したら、B-5へ戻ってくる。
最終行動方針:主催者を打倒する
備考:ブライガーのマニュアルを入手(軽く目を通した)】
【ハヤミブンタ 支給機体:ドッゴーラ(Vガンダム)
機体状況:良好
パイロット状態:結構不安
現在位置:C-5川沿い(補給ポイント近く)
第一行動方針:B-5まで戻り、川沿いへ東へ移動し、仲間を探す
第二行動方針:ある程度仲間を探したら、B-5へ戻ってくる。
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【時刻 二日目の9:10】
123 :
決意:2006/01/16(月) 04:29:33 ID:5xKSnFwF
【午前六時間際 エリアF-2】
廃墟に入ってから随分と時間がたつ。
ジョシュア・ラドクリフは依然、イキマとの合流を果たせていない。
「どこに…」
放送の直前ということもあり、焦りが生じる。
嫌な予感というものは、一度現れると振り払うのは困難だ。
何かあったんじゃ?
あのとき一緒に残っていれば。
二人で逃げるべきだった。
脳裏に、次々と疑念がよぎる。
「さあ、お待ちかねの第二回放送だ」
と。
放送が終わりの無い疑念を止めてくれた。
あれだけ毛嫌いしていた主催者に助けられるとは。
自嘲しつつ、放送に耳を傾ける。
「――それでは、楽しいバトルロワイアルの再開だ。張り切って殺し合いに励んでくれたまえ」
イキマの名は無い。
良かった。あいつはまだ生きている。
イキマの探し人が死んだことは気がかりだが、とりあえずはイキマとの合流を。
センサーの範囲は最大に。
正史とは真逆の使命を与えられた機体は、朝日を浴びながら走り去った。
124 :
決意:2006/01/16(月) 04:33:24 ID:5xKSnFwF
【同刻 エリアE-2】
イキマは、ようやく廃墟にたどり着いた。
彼の機体はジョシュアを探すことなく、廃墟の中で静止している。
考えたいことが多すぎた。
鋼鉄ジーグ。
幾度と無く、主の日本奪還を阻止された、自分の宿敵。
正直、イキマは彼との協力すら、考えていた。
元の世界では敵だった。
――それがどうした。
奴と協力するなど無理だ。
――やってみなければわからない。
奴は、ヒミカ様の敵だ。
――あいつが俺と敵対する理由は元の世界にはあったが、ここには存在しない。
アルマナとジョシュア。この二人と出会ってから、徐々にそのような考えが芽生えてきた。
それが、蓋を開けてみればなんだ。
「奴は、俺と会うこともなく、誰とも知らない奴に殺されちまった…」
バラン・ドバン。
顔も声もわからない。
手がかりは、その名前だけ。
あの姫様も無茶な願いをしてくれたものだ。
だが、叶えてやりたかった。
生きながらえることが叶わぬのなら、せめて彼女の願いぐら叶えてやりたかった。
それくらい、叶えてくれたっていいじゃないか。
ゼ・バルマリィとやらの神様は残酷だ。
自分の巫女さんの願いさえ叶えてくれないなんて。
125 :
決意:2006/01/16(月) 04:37:07 ID:5xKSnFwF
――イキマ。
声が、聞こえた気がした。
――童じゃ、イキマ。
「ヒミカ…様?」
確かに聞こえた。
聞き間違えることなどあるはずも無い、自分の生涯を捧げた方。
――そうじゃ。
――イキマ。残念なのも、悔しいのもわかる。じゃがな? お前がそれでどうする。
――お前には、そこで出来た新しい仲間が居る。
――その仲間が、お前を信じて探して居るというのに、そのように腑抜けていてどうする。
――立って歩け。仲間を探せ。
――遅くとも良い。必ず童の下へ帰って来るのだ。
――それでは…な。
声はそれっきりだった。
恐らくは、精神が錯乱していたことが原因の幻聴だろう。
それでも、その声は、彼に力を与えた。
「必ず…必ず戻ります。ヒミカ様。
ジョシュア…今すぐ行く。くれぐれも、死ぬな」
廃墟から、青い天使が飛翔する。
【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:F-2西部
第一行動方針:イキマと合流するため、廃墟内の捜索
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:良好 (ジーグ、バランの死を克服)
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし)
現在位置:E-2中部
第一行動方針:ジョシュアと合流するため、廃墟内の捜索
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【時刻 二日目 六時十分頃】
補足修正
>>120の19行目と20行目の間に下記の文章を追加します。
修正前:
大きく狼と星のマークが描かれたマニュアルに、あからさまにガッカリした口調でミオが答えた。
「他の機体のマニュアルですか? 一応、読んでおけば何かの役に立つかも知れませんよ」
修正後:
大きく狼と星のマークが描かれたマニュアルに、あからさまにガッカリした口調でミオが答えた。
中には細かい文字でビッシリと法律のようなものが書かれていて、急激な眠気を誘う。次の誕生日が
来たら習得しようと思って勉強していた原付免許の教本に似ている。やはりレッカー移動されたのだろうか。
「他の機体のマニュアルですか? 一応、読んでおけば何かの役に立つかも知れませんよ」
127 :
二人の復讐者:2006/01/19(木) 07:40:21 ID:3yZypMVI
“…テンカワ・アキト”
“…ホシノ・ルリ”
「ッ…………!」
午前六時。放送で告知される死亡者の名前を聞きながら、男は激しい怒りの眼差しを見せていた。
馬鹿げている。この狂った殺し合いを主催した仮面野郎も、その殺し合いに乗った奴らも。
そんな馬鹿げた奴等のおかげで、大切な仲間を失った。
……守る事が、出来なかった。
支給された機体が戦闘向けでなかった事など、言い訳にしかなりはしない。
機体の特性を完全に引き出す事が出来ていたならば、怒りに駆られて判断を誤る事がなければ、仲間を守る事は出来ていたはずだ。
それを理解しているからこそ、イサム・ダイソンは怒りを抑える事が出来なかった。
他の誰でもない、自分自身に。
「……マギー、何か異常があればすぐ知らせてくれ」
『おまかせ』
もう二度と、仲間を死なせたりはしない。その決意を胸に抱き、イサムはD−3を進ませる。
駆逐艦級の情報収集能力を持つとまで言われるD−3である。
情報戦に限って言えば、それに匹敵する機体は極めて数が限られる。
確かに火力こそ高くはないが、この機体は決して弱い訳ではない。
機体の特性に合わせた運用を行えさえすれば、非常に強力な機体となりえるのだ。
「闇雲に突っ込むだけじゃ、こいつの力は引き出せねえ……」
アムロ・レイとの戦いは、確かに敗北に終わってしまった。
だが、だからこそ彼は感情に任せた突撃など無意味である事を知らされたのだ。
……皮肉な事だが、仲間の死と無様な敗北は、イサム・ダイソンを精神的に成長させていた。
128 :
二人の復讐者:2006/01/19(木) 07:41:27 ID:3yZypMVI
十二時間毎の死亡告知。それに知った名前が無い事を確認して、ヒイロ・ユイは安堵を覚える。
トウマ・カノウにクォヴレー・ゴードン。
機動兵器を用いた殺し合いが行われている中で、明らかな“はずれ”を掴まされた二人組。
再会を誓い合いはしたが、お互いに生きて再び会える可能性が低い事は理解していた。
二人が戦う力を持たないのであれば、それは尚の事である。
たとえ自分に戦う意思が無かったとしても、敵にとっては関係無い。格好の獲物として、一方的に倒されてしまうだけだ。
それが、戦い。この非情な世界で行われている、狂ったゲームのシステムであった。
……怒りを覚える。
この狂った殺し合いを主催した仮面の男に、ヒイロは憤りを覚えていた。
何故、戦わせる――?
平和に生きたいと願う人間を、どうして殺し合いに巻き込もうとする――?
理解出来なかった。このような殺し合いを始めた連中の目的が、ヒイロには理解出来なかった。
だが、これだけは分かっている。
たとえどのような目的があったとしても、この狂った殺し合いを認める訳にはいかない。
意味無き殺戮に手を染める者を、そのままにしてはおけないのだと。
だからこそ、ヒイロは仇討ちを誓った。
この愚かな殺し合いに巻き込まれてしまった、多くの罪無き命たち。
彼らを守り抜く為にも、戦う事を彼は誓った。
……だが、前途は険しいと言わざるを得ないだろう。
これまで倒れた二十四人を除いて、残る生存者は四十人以上。
その中に、どれだけの殺戮者が潜んでいるかは定かでないのだ。
これまでにも自分以外の参加者を何度か見掛けはした。
だが、それが殺し合いに乗っているかどうかは、機体を見ただけでは分からないのだ。
ならば、どのようにして……。
129 :
二人の復讐者:2006/01/19(木) 07:42:12 ID:3yZypMVI
「そこの機体、動くな!」
「…………!」
やおら響き渡った男の声に、ヒイロ・ユイは驚愕する。
ECSによって不可視化を行い、完璧な隠業を遂げていたはずの自機。
それに銃の照準が合わされているのだと、ヒイロは自分の置かれている状況を理解した。
センサーに視線を移すと、背後に機体の反応が一つ。何らかの手段でレーダーを誤魔化し、接近を果たしていたらしい。
あの機体――電子戦用の機体か――!
レドーム状の頭部から相手の機体特性を悟り、ヒイロは内心で舌打ちする。
ECSによる隠業は確かに優秀ではあるが、完全無欠とは言い難い。
情報収集能力に特化した機体ならば、機体の居場所を特定する事も不可能ではなかった。
「……何が望みだ」
「安心しな。お前に戦う気が無いんだったら、こっちも手出しする気は無い。ただ、聞きたい事があるだけだ」
「聞きたい事だと?」
「一つ目の、赤い機動兵器を捜している。心当たりがあれば教えてほしい」
男の言葉に思い浮かぶ、かつて出会った無差別攻撃を仕掛ける機体。
「赤い……そうか、奴の事か……」
その姿を思い出し、ヒイロは微かに呟きを洩らす。
自分の耳にさえ辛うじて届くような、本当に小さな呟き声。
「知っているのか!?」
だが、それすら相手の機体は拾っていた。
「……ああ。昨日、無差別攻撃を仕掛けてきた。俺は逃げ出す事が出来たが、何人かは奴に殺されたようだ。
場所はE-5、第一回放送後の出来事だ。交渉を行ってくる事も無く、一方的に攻撃を仕掛けてきた」
D−3の情報収集能力に改めて舌を巻きながらも、ヒイロは知り得る情報を話す。
隠す意味の無い情報だ。こちらの知っている事を話した所で、自分にデメリットは生じない。
「くっ……あの野郎、俺達を襲ってくる前にも同じような事を……」
その表情に苦渋を浮かべ、イサムは苦々しげに呟く。
その呟きを聞いて、ヒイロは男の目的を理解する。
自分と同じ、仇討ち。
「……仲間を、やられたのか」
「…………」
沈黙が問いに対する答えだった。
「……俺も、一つ聞きたい事がある」
重い沈黙の空気を破ったのはヒイロだった。
「聞きたい事?」
「アルマナ・ティクヴァーという女を殺した参加者だ。もし心当たりがあれば、教えてくれ」
「……知り合い、だったのか?」
「いや、顔も知らない」
「知らない……?」
「ああ。だが、俺は約束した。仇は、俺が討ってやると」
「……そう、か」
弱々しく、呟きを洩らす。
自分だけではない。
この愚かな殺し合いが行われる中、死者の為に戦おうとしている人間。
それが自分だけではないのだと知って、イサム・ダイソンはヒイロ・ユイに共感を覚えていた。
向こうの詳しい事情は知らない。だが、これだけは分かっている。
この男と殺し合う理由は無い。
「質問の答えだが、俺に心当たりは無い。ただ、あの赤い奴は相当な数の戦いをこなしてたみたいだからな。
その女を殺してたとしても、おかしくはないと思っている」
「…………」
その可能性は、ヒイロも考慮してはいた。
無差別な攻撃を受けた中に、アルマナ・ティクヴァーが含まれていた可能性は低くない。
だが、もしそうだったとするならば――
130 :
二人の復讐者:2006/01/19(木) 07:43:08 ID:3yZypMVI
(今の俺に、奴を倒す事が出来るのか……?)
勝算は低いと言わざるを得ない。
彼本来の機体であるゼロを使う事が出来るならともかく、この機体――M9では分が悪過ぎる。
火力、機動力、射程距離、行動範囲、全ての面で奴は自分の上を行っている。
たった一つだけ勝っていると思われる点を挙げるなら、ECSによるステルス程度のものだろう。
正面からの突破は不可能。奇襲を仕掛けたとしても、こちらの装備で倒し切れる保障は無い。
空に逃げられる事まで考えれば、勝率は更に低くなる。
単独での撃破は困難と言って良いだろう。
……相打ち覚悟の特攻を行う気は無い。自分は、生きなければならないのだ。
生きて、還らなければならないのだ。
だから戦うと言うのならば、必ず生き延びなければならない。
ならば、どうする――?
どうすればいい――?
「悪かったな、引き止めたりして」
……構えた銃を下ろしながら、イサムはヒイロにそう言った。
そして、もう用は済んだとばかりに、その場から機体を移動させ――
「……待て。一つ、話しがある」
ようとしたのだが、それをヒイロは呼び止めた。
「……何だよ。まだ俺に何か用でも……」
「もし、その赤い機体を討つのなら、協力しても構わない」
「なんだと……?」
「お前の言うように、あの赤い機体が仇なら、俺は奴を倒さなければならない。
だが、奴は強い。俺だけの力では、倒し切れる保障は無い。そして、それはお前も同じ事のはずだ」
「くっ……」
ヒイロの言葉に、イサムは敗北の記憶を思い出す。
リフターを装備した状態のD−3でさえ、奴には力が及ばなかったのだ。
次に戦ったとしても、勝てる見込みなどありはしない。
「俺の見た所、お前の機体は情報戦仕様の機体だ。戦闘力は低い。違うか?」
「……いや、違わねえ」
「目的は同じだ。そして、奴相手には荷が重過ぎると思っているのもな。
なら、力を合わせた方が合理的なはずだ」
「それ、は……」
「会ったばかりの人間を信用出来ない事はわかる。だが、それでも奴に単独で戦いを挑むよりはマシなはずだ」
「…………」
……わかって、いる。
悔しいが、この男の言う事は実に正しい。
ならば……。
「……オーケイ、手ぇ組もうじゃねぇか」
他の人間を私怨に巻き込みたくはなかった。だが、あの赤い機体を倒す為に、手段は選んでいられない。
そして、この男にもまた戦わなければならない理由がある。
「話は決まったな。なら行くぞ。こうしている間にも、奴がまた他の参加者を襲っているかもしれない」
「ああ……」
もう、奴に殺させはしない。
その誓いを無言の内に、二人の復讐者は歩き出す。
そう、悲しみの連鎖を止めるために……。
131 :
二人の復讐者:2006/01/19(木) 07:44:49 ID:3yZypMVI
【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:健康(一晩経って冷静さを取り戻した)
機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし)
現在位置:G-4
第一行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
第二行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
第三行動方針:アクセル・アルマー、木原マサキとの合流
最終行動方針:ユーゼス打倒】
【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:M9<ガーンズバック>
パイロット状態:健康
機体状況:装甲表面が一部融解
現在位置:G-4
第一行動方針:トウマの代わりにアルマナの仇打ち
第二行動方針:アムロ・レイの打倒
最終行動方針:トウマ、クォヴレーと合流。及び最後まで生き残る】
【二日目 10:25】
132 :
Zの鼓動:2006/01/23(月) 21:38:15 ID:52mxVude
水辺に面した草原。そこであっちを向いたり、こっちを向いたりしている巨人がいた。
まるで洋服を選ぶ年頃の娘のように優柔不断な男、ヴィンデル・マウザーの乗るジャスティスである。
先刻、思い切ってハロへと部下ラミア・ラヴレスの捜索を直訴したところ―――
『サガシモノハドコデスカ♪』『アシタハドッチダ!』『ジブンデカンガエ、ジブンデキメロ』
と捜索場所選択を任せられ、迷っているのだ。久々に座る操縦席は非常に居心地良く、幸福感すら感じる。
もはや、どっぷりと負け犬根性が染み付いてしまったようだ。
「北の市街地、いや北東の廃墟…やっぱり東の禁止区域付近…あ、でも…大穴で南の工業地域も」
『ヒトツニセンカ、ヒトツニ!』『セッカクダカラ、オレハコノアカノトビラヲエラブゼ!』
「す、少しは静かにしろ…してください」
『モンクヲイウノハドノクチダ』『ハリーハリーハリーハリーハリー』『ソシテナニヨリハヤサガタリナイ』
騒がしいハロの声を必死で頭の隅に追いやり、熟考する。地図中央付近にラミアはいなかった。捜索する
なら北か南だろう。しかし他の連中はともかく、ラミアなら危険な場所へこれ幸いにと潜む可能性もある。
アクセル達と見つかると色々面倒だが、こちらには切り札のマル秘映像(ルリ死亡時)がある。
となれば―――
『イルヨ、クルヨ、アナタノウシロニ』『シムラー、ウシロウシロ!』『アラテノスタンドツカイカ!』
「だから静かにしろと…んがっ!!!」
ヴィンデルの顎がカクンと落ちた。ウロウロしていたジャスティスの後方の水辺から出てきた鉄の巨人、
マジンカイザーと目が合ってしまったのだ。こちらより二回り程大きな巨体、燃えるように赤い翼、鋭い眼光、
黒光りする装甲。どこを見ても満身創痍のジャスティスより強そうだ。例えるなら超合金とプラモデル。
そしてマジンカイザーは、こちらを確認したのか両腕を挙げ大きく咆哮した。
『ソシテトキハウゴキダス』
「ぅひぃぃぃ!」
ヴィンデルは情けない悲鳴と共に一目散に逃げ出した。ハロの影響があるとは言え、先日まで果て無き
闘争の世界を求めていた男の姿とは思えない、情けない姿だった。
『テキゼントウボウハジュウサツダゾ』『ニゲチャダメダニゲチャダメダ』
「そ、そんな事、言われても…」
こちらの武装は先ほど拾った大きな鎌一本、これでどうしろというのだ。勝てるわけがない。弱気に取り
つかれたヴィンデルはそう頭から決めつけ無我夢中で敵と反対方向、東へ逃げ出したのだ。
決めポーズのままポツンと置いて行かれたマジンカイザーは、ワンテンポ遅れて追撃を開始した。
133 :
Zの鼓動:2006/01/23(月) 21:39:45 ID:52mxVude
雄大な台地に広がる草原で、壮絶な鬼ごっこが繰り広げられていた。飛んで来るパンチを、ミサイルを、
熱線を半ベソで回避するヴィンデル。奇跡的にも未だに無傷である。
『ヒラリ、アハァン』『ナントォー!』『オレノマエハナンピトタリトモハシラセネェ!』
しかし昨日の戦いでファトゥムを失っている事が響き、マジンカイザーとの差は徐々に狭まってくる。
周囲に身を隠せそうな場所もなく、東の廃墟までは50q以上はあるだろう。とても逃げ込めない。もしも
逃げ込めても、今度は禁止地区に阻まれ追い詰められるだろう。
「なんとか…なんとかしなれば…ん?」
『ミエミエナンダヨ!』『ヘノツッパリハイランデスヨ!』『ソウソウアタルモノデハナイ!』
ふと気が付けば意外と簡単に攻撃を回避している。冷静になって観察すると、威力はありそうな攻撃だが、
攻撃パターンは至って単調。常にその瞬間の最大火力を発揮しようとしているよう思える。嫌いなタイプでは
ないが、力任せの見切りやすい攻撃だ。
「こ、これなら……勝てるかも……いや、勝つ!」
どうせこのままでは逃げ切れない。それでも逃げていたかったが相手が弱いと思った途端、戦意が沸いて
くる。自分は、本来ならば強敵にこそ戦意が沸きたてられる男だったはずだ。なのに今まで倒したのは
生身(?)の相手を機体で踏み潰しただけ。ハロには下僕扱いされ、他の連中に土下座し、そして敵と見れば
逃げ出す。果て無き闘争を求めた男がそんな事で良いのか、いや良くない。
「そう! 私はヴィンデル・マウザーだ! 闘争こそ我が生きる道なのだ!」
『オレダッテ、オレダッテ!』『ヤッテヤル、ヤッテヤルゾ!』『カクゴカンリョウ!』
「お願いします…少しはシリアスさせてください…」
漆黒の鎌を持ち直すと、タイミングを見計らって急ブレーキ掛けた。飛来する数発のミサイルを一振りで
両断、そして舞い上がる爆炎を煙幕にして天高く跳び上がると、爆炎から出てくるマジンカイザーの頭上から
勢いのついたZ・Oサイズを振り下ろした。腐っても鯛、ヘタレてもラスボスである。
しかし―――
「な、なんだとぉ!」
死角から確実に決まったと思われたZ・Oサイズだが、カイザーは激しく回転する両腕をクロスして受け止め
ていた。力の拮抗に、火花が飛び散る。どうやら『魔』モードは視覚に頼っていないらしい。
「ぬがぁぁぁ!」
『フミコミガアマイ!』『カナシイケドコレセンソウナノヨネ』『ミジュク、ミジュク、ミジュクー!』
腕力勝負で勝てる筈もなく、ジャスティスは派手に吹き飛び、無様に転がった。そこへ先程から回転して
いたターボスマッシャーパンチが容赦なく撃ち込まれた。それを反射的にZ・Oサイズで切り払う。
「まだまだぁ! あ!」
辛うじてパンチは凌げたものの、体勢が悪かったせいかZ・Oサイズを彼方へ弾き飛ばされてしまった。
サーっとヴィンデルの顔から血の気が引く音がする。相手の動きを見切れたというのに、これでは決定打が
無い。駄目なのか、やはり負け犬のままなのかと、目の前が暗くなる。
『モットダ、モットチカヅケ!』『ブノワルイカケハ、キライジャナイ』
「せ、接近しろというのか! しかし奴を倒せる武器は……」
『オマエニハデキナイ、オレニハデキル』『ミンナノイノチ、オレガアズカル』
「何か手があるというのか…くそ!」
こんな玉っころに命を預けるのは尺だが逃げ切れそうに無い以上、勝負を掛けるなら今しかない。猛然と
襲い来るファイアーブラスターやミサイルを必要最低限の動きで回避し、ほんの数瞬でカイザーヘ肉薄する。
本来ヴィンデルの実力を持ってすれば、一度見切った単調な攻撃など物の数ではない。集中さえ出来れば。
『オネエサマアレヲツカウワ!』『オーケーシノブ!』『コンシュウノヤマバー!』
「な、何かやるなら早くして、それか静かにして。ホントお願いします…」
『ヒトツチュウコクシテオク、シヌホドイタイゾ』
「へ?」
『ニンム、リョウカイ!』『ポチットナ』
雄大な草原に爆発音が響いた。
134 :
Zの鼓動:2006/01/23(月) 21:42:09 ID:52mxVude
青い空、白い雲、輝く太陽、広がる草原、そしてジャスティスの自爆で作られた数十mのクレーター。
その中心に何故かポツンと存在する残骸から一人の男が転がり出た。ヴィンデルである。
「なぜ生きている?」
素直な感想だった。確かに死ぬほど痛いし流血も骨折もしているが、我慢すれば立つ事ができる程度だ。
自爆した奴が五体満足で助かるのか? そもそもあれは核動力ではなかったのか? 主催者の細工か?
脚本家の御都合主義か? 疑問は次々と浮ぶが気にしても始まらない。なにせガンダムで自滅した奴は
大勢いても、ガンダムを自爆させて死んだ奴はいないのだから。そんな事よりも問題なのはハロだ。
『ガ…カゲキニファイヤー』『ガガ…フカノウヲカノウニ…』『ガガガ…ガガガ…ガオガイガ…』
自爆の影響なのか半分以上のハロが完全に機能を停止し、残ったハロ達にも異常が生じていた。動きの
鈍い奴、喋れるが動けない奴、動けても喋れない奴、その他諸々。
「ふは、ふはははは、はーはっはっはっはー!」
ヴィンデルは既に機能停止した一番大きなハロを蹴飛ばした。当然反撃はない。数少ない動けるハロ達の
抵抗も、蹴った時に骨折に響いた痛みも、今まで受けた仕打ちに比べれば心地良いものだった。今ここに、
ヴィンデルは主導権を手に入れたのである。次の問題は、操縦席だけになったジャスティスで今後どうするか。
「なぜ倒せていない?」
素直な感想だった。クレーターに埋もれたマジンカイザーを見て心底そう思う。ところどころ装甲は砕けて
いるが、十分に動けそうだった。いや、今にも動かれそうだった。
「武器、武器は?! これでいけるか?!」
必死に辺りを見渡して手頃な石を手にすると、ヴィンデルはカイザーの操縦席へと向かった。動かれれば
間違いなく殺される。ならば動く前に、おそらく気絶しているであろう操縦者を殺そうというのだ
「……ん? 自爆の衝撃で死んだ…のか?」
コソコソとパイルダーの中を覗くと、そこには血糊と肉片が散らばっているだけだった。足元に纏わりつく
ハロを軽く蹴っ飛ばして追い払うとヴィンデルは警戒しつつ操縦席の中へと入る。
「機体は無事だというのに、衝撃に耐え切れなかったとは貧弱な小僧め」
既に肉片と化しているラッセルを見て、ヴィンデルは推測した。既に他の参加者に踏み殺されたとは
流石に想像できないようだ。少し血糊が残っているが、ドカッと操縦席へと座る。
「見せてもらおうか、その力を!」
力一杯レバーを押すと、マジンカイザーは雄雄しく立ち上がり、そして転倒した。
「イタ、イタタタタ!」
『ジャスティストハチガウノダヨ、ジャスティストハ!』
腰を擦るヴィンデルへ、いつの間にやら入り込んだハロが声を掛けた。
「この! 忌々しい!」
ハロを操縦席の外へ投げ捨て、ヴィンデルは操縦の練習を始めた。
135 :
Zの鼓動:2006/01/23(月) 21:43:55 ID:52mxVude
「運命の女神は我を見放さなかった!」
「なるほど、こういう武器か!」
「凄いパワーだな」
「静かだ…」
操縦自体は難しくなく、乗りこなせる様になるにつれヴィンデルの口数は減っていった。そして一通りの
操縦を覚え、移動を開始しようとしたヴィンデルは誰に言うともなく口を開いた
「…アレも連れて行くか。確か録画映像もあることだしな…寂しいわけではない」
本来、ああいう騒がしさからは無縁のハードボイルドな男なのだ。ハロの持つ映像データは必要だし、
解析能力も役に立つかもしれない。繰り返すが、寂しいわけではない。本人はそう言っている。
「…操縦席の掃除もさせたいしな」
さっきまでなら掃除するのは自分だった。だが今は違う、とグッと握り拳を固める。少し情けない。
ジャスティスの残骸に集まっているハロを観察すると、好都合な事に動ける奴は多くなく、しかも比較的
小さめのハロばかりだった。大きい奴が小さい奴を守りでもしたのだろうか。ともかく押し負ける心配はない。
「…主導権は私にある。うん、私にある」
再確認してもう一度、グッと握り拳を固めた。
マジンカイザーはクレーターの中心に穴を掘ると、機能停止したハロ達を埋めていた。
「別に墓を作ってやるつもりはない。他の奴らに利用されたら困るので隠しているのだ」
聞かれもしないのにヴィンデルが言う。ハロ達はマニュピレーターで器用に敬礼をしながらジッと仲間が
埋められてゆく姿を見守っていた。そして最後にヴィンデルは邪魔だからと言いつつジャスティスの残骸を
その上に立てた。墓標のつもりなのだろうか。
「ん、なんだそれは?」
最初にカイザーから投げ捨てられたハロが、ちょこんとヴィンデルの膝の上に乗ると大きな口を開けた。
紙の束がバサリと音を立てて膝の上に落ちる。マジンカイザーのマニュアルだった。
『コレ、ヤル。オマエ、トモダチ』
クシャクシャな上に血塗れであまり読める部分はなかったが、とても強くなったような気がした。
「まずは私の部下のラミア・ラヴレスを捜すぞ。それと操縦席周りの掃除もしておけ!」
『ガンッテンダ、アニキ!』『ゴミメ、スグニカタズケテヤル!』『イツカギャクテンシテヤルカラナー』
遂に下克上を果たし、ハロとの友好関係(?)を築いたヴィンデル・マウザー。人と機械が互いを認め
合った事を称えるかのように、マジンカイザーの『Z』マークが輝いていた。
136 :
Zの鼓動:2006/01/23(月) 21:46:33 ID:52mxVude
【ヴィンデル・マウザー 登場機体:ジャスティス→マジンカイザーwithハロ軍団
パイロット状況:健康、気力回復中、ハロと友情(?)が芽生えた
機体状況:前面装甲全体に亀裂(ただし修復には数時間必要?)、またも翼は破損した。
現在位置:B-3
第一行動方針:ラミア・ラヴレスとの合流
第二行動方針:邪魔するものは倒す
最終行動方針:戦艦を入手する
備考:コクピットのハロの数は一桁になり、ヴィンデルが優位になった】
【時刻:二日目:09:40】
137 :
Zの鼓動:2006/01/23(月) 21:59:05 ID:52mxVude
>>136のパイロット状態を修正します。
修正前:【パイロット状況:健康、気力回復中、ハロと友情(?)が芽生えた
修正後:【パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)
頭部裂傷(大した事はない)、気力回復中、ハロと友情(?)が芽生えた
「さて、そうなると移動が必要になるな」
ウラベがそう話を切り出した。
「肯定だ」
言葉少なく、宗介がそれに賛同する。
(やはり、まだ信用されてはいないか…)
「しかし、いきなり全員がぞろぞろ移動するのは危険だ。ここは一度索敵を行うべきだと思わんかね?」
「肯定だ。奇襲などの危険もある」
「あの…じゃあどうすればいいんですか?」
あまり軍事に詳しくないシンジが口をはさむ。待ってましたとばかりにウルベが饒舌に話し出した。
「一度誰かが調査して、安全を確かめてから移動するのがいいだろうということだ。それは私がやろう。空を飛ぶことができるため、広範囲に索敵でき移動も速い。」
一見、見方のために危険な役を引き受けるよい上官のように聞こえるが、腹の中はこうだ。
(多少信頼を得なければ駒としては使いづらいか。ある程度索敵を行ったあと、隠れて様子を見てから一芝居打つとしよう。
敵に見つかりやすい大型の機体と行動するのは避けたいからな…敵と交戦することがあったら、様子を見るとするか)
「大丈夫なんですか?」
「安心したまえ。これでも正規の軍人だ。できることとできないことはわきまえている。」
しかし、そんなことはおくびにも出さず、すがすがしいくらいの笑顔で答えると、ウィングガストは南の空に向かって飛び立った。
5分後…
残された2人。
「いつもある程度周囲に気を配れ」
「は…はい!」
もともと二人とも積極的に話すタイプではないものの、この状況の中、ある程度協力のために会話が弾んでいた。
「まるで新兵のダンスだな…」
「す、すいません」
大雷凰はパイロットの動きにあわせて動くため、シンジでは正直戦力として計算するのは難しい。それどころか逆に足を引っ張りそうでさえあった。
「もし、戦闘が起こったら、ウルベに連絡に向かえ。戦闘はこちらがある程度引き受ける。離散した場合の集合は離散した地点30km南だ」
一人ならこの機体の特性を考えれば、離脱は容易だ。こちらでかく乱し、シンジを離脱させ、連絡役にするようにすればいい。
「…よし、これで終わりだ。機体に乗ったまま、レーダーから目を離すな」
一通り焼き付け刃ではあるものの、基本的なことは教えた宗介が、そういって言葉を区切った。
「あとはウラベさんを待てば……!?宗介さん!?レーダーに…」
「こちらも確認した。何かが接近している。誰が乗っているか確認のため接触が必要だが、危険を伴う。機体を温めておけ」
「はい!」
ゆっくりとレーダーに映っていた機影がこちらに近づいてくる。蒼い、龍のような機体だ。全身に傷を負っているようにも見える。
宗介が通信を試みようとしたが…
「ッ!?」
突然、龍から光が放たれた。そして、それはついさっきまでブリッツがいたところに炸裂する。
(これがビーム兵器というものか!?)
まさか、あんな日本で同級生たちが見ていた漫画のような機体が現実にあり、特撮などでしかなかったビーム兵器が実用化されているとは…
この状況をどうにかするには、不確定要素(シンジ)を取り除き、援軍の到達か離脱を行うのが正しい。
「さきほど教えたとおりだ。今すぐ連絡にいけ」
シンジにそう告げる。
「え!?」
まだイマイチ行動を起こしきれてないシンジにすばやく命令を出す。
「戦場では一兵卒の行動が全滅か生存かを分けることもある。自分の与えられた任務を遂行しろ!」
「は、はい!」
生存か、全滅か、それを分けると問われれば、答えるべくもない。シンジは急いで南に走り出した。
「さて…」
ヤザンは機体の中で静かに呟く。一機は逃げたが、もう一機はこちらを向いて油断なく構えている。
目の前に獲物がいるのに、無理して逃げる獲物を追う意味はない。しかもガンダムタイプ。先ほどの放送で高ぶった気持ちをぶつけるにはよい相手だ。
「さぁ、楽しませてくれよ…!」
逃げたシンジを追撃する気配はない。どうやら、相手は本格的にゲームに乗っており、戦うつもりのようだ。
おそらく宗介が戦う姿勢を見せているため、まずそちらを叩こうといったところだろう。
(攻撃を加え、隙を見て不可視モードを起動、合流地点へ向かう…)
いきなり逃げ出せば、まず攻撃を受ける。不可視モードもいきなり使用しては意味がないどころか、危険ですらある。手品は仕掛けがわかってしまってはいけない。
そのため、攻撃を加え、その隙に不可視モードを起動、相手が現状を把握しきらないうちに逃げよう、ということだ。
(戦闘の相性、状況としては最悪ではあるが、突破する)
空をブースターもなく泳ぐように進む上に、こちらの「PS装甲」の弱点と思われるビーム兵器とおぼしきものを装備。どれほどの戦闘力、練度かも不明。
情報がなさ過ぎる上に、こちらは空中に高く飛び上がれるが、落ちた瞬間は無防備。地面を這うしかない上、奇襲戦闘と隠密行動用のタイプ。
しかし、それでもやるしかない…!
龍王機が戦いの火蓋を切った。ラスタバンビームが降り注ぐ。
(威力などが不明な以上、回避を念頭に置く!)
カウンターを狙うとは言え、危険を冒して反撃する必要はない。相手の高度から言って届くのは50mm高エネルギービームライフルのみ。
援軍の到達もまた勝利条件の一つなのだ。ひたすらかわし、確実に反撃できる時を狙うべく、ひたすら回避を続ける。
敵もそこを理解しているのであろう、決して高度を下げない。しかし、勝負を決めるとなれば、何か手を打つそのときを宗介は待ち続ける。
「…ふん」
ヤザンが龍のなかでため息をこぼす。彼からすれば、血が燃える命の取り合いがしたいのだ。
わざわざ残ったのだ。面白くしてくれると思えば、こんな不毛なもの。ヤザンは、行動を変えた。
「…?」
突然龍がゆっくりと高度を落とした。落としはするが、特に行動するそぶりがない。
「相手はアマチュアか?それともなにかあるのか…?」
宗介がいぶかしむ。それでも決して隙は見せない。攻撃を行わずまだ様子を見る。
しかし、ヤザンは違った。これでも攻撃を仕掛けないガンダムに対し、龍は突然火炎を撒き散らす!
よこに移動し、宗介はかわすが、そこに狙いすましたラスタバンビームが大量に撒き散らされる!
極力かわし、どうしてもあたるものはシールドで防ぐ。
そうやって視界を奪った隙を突き、ウィングカッターで切り裂こうと迫る!
「回避は不可能…なら」
かわせないものは仕方ない。あっさり宗介は右腕を生贄に差し出した。
腕を使い、受け流すように使う。意外なところでいい結果が出た。「PS装甲」のおかげで、腕が浅く切り裂かれるだけですんでいる。ほぼ同時に、50mm弾を叩き込む。
たまらず龍が回避しようとしたときに、かわされることを覚悟でランサーダートを放つ。
「ちぃ!」
ギリギリでランサーダートをかわしたが……そのころには、もうブリッツの姿がなかった。
「森に隠れたのか…?ならこうしてやる!」
龍が高く舞い、広い範囲に炎を撒き散らす。
森が燃え、木が倒れ、熱に覆われる平面となる。
しかし、ブリッツはいない。
「一体どこに…ん?」
よーく、目を凝らさねばわからないが、妙な形に火が消えている線がある。しかも、それは離れるように伸びていって――、
ヤザンももしや、と思ってその線の進路上にラスタバンビームを放つ。
――ずれた。さらに重点的にそこを攻撃する。
「こんな方法で見つかるとはな…」
宗介が呟く。
そう、いくらミラージュコロイドいえどその実体そのものが消えるわけではない。そのため、移動し踏み消された火が位置をさらしたのだ。
「PS装甲」により、火そのもののダメージは受けないものの、姿がさらされたままなのはまずい。
意味のないミラージュコロイドをとき、森に移動する。
こうなったら、ある程度のダメージを与え、追撃速度を遅くして振り切るしかない。援軍も、不安事項が多い。
つまり…ある程度向き合って戦うということだ。
「火炎でもそうダメージはない、切ってもそう効いていない。ビーム兵器は全弾回避、か」
また龍が高度を落し、ブリッツと向きあう。
「いくぞ!」
ラスタバンビームがブリッツに対し放たれる。
しかし、宗介も先ほどのことで把握している。すばやくかわし、ビームライフルを撃つ。
それを前に出るようにかわし、ウィングカッターを展開、切りつけようとするが、突如地面から現れたアームが胸に迫る!
「ちぃ!」
体をねじり、かわす。からだはそのままブリッツの右を通り過ぎようとする。しかし、宗介をそれを見逃しはしない。姿勢を崩した龍にランサーダートを打ち込む。
体が細長いためか、一発が後ろ足の付け根に当たるだけだった。火炎をまき、視界を奪う龍。
ブリッツは横へ側転、視界をすぐに確保し、周囲に気を配る。メインカメラでは、どの方位も龍の姿はない。
咄嗟に妙な感覚――殺気を感じ、回避運動のステップを一歩踏む。ほぼ同時に、ビームが右肩を貫いた。
真上にいる龍に対し、即ランサーダートを撃つ。急上昇し、それをかわす。
「やはり、ビーム兵器が弱点みたいだな!」
今度は龍の体自身を矢のように使い、一気に降りてくる。ほぼブリッツの武器とかぶる斜線の腕だ。
当てようにも点も同然。対空機銃のようにビームライフルをまく。
龍がビームの雨を潜り抜け、口を開く。また火炎を吹くと思い、一歩下がる。
しかし、龍は火を吹かず、そのままブリッツに突っ込んできて、その顎をブリッツに突きたてた。
その勢いのまま、後ろに吹き飛ぶブリッツ。すばやく受身を取るが、同時にビームが全身に降り注ぐ!
急いでかわすものの、4発を被弾。ダメージは少なくない。このままでは的同然。ランサーダートを龍に向け3セット撃つ。
ダメージを受けている以上一本一本が胴体などに突き刺されば危険になる。強引にかわし――
回りを確認したときには、ブリッツがまた消えていた。
「一体今度はどこへ…」
ヤザンが回りに気を配る。この一瞬。それが宗介の待った一瞬だった。
消えた以上、そこから離れ、どこかにいる。そう意識が流れ、もともといた場所への警戒が揺らぐ。
ついに乾坤一擲の一撃、グレイプニールが龍王機の首に突き刺さる!
「ぐっ!逃がすものかよ!」
しかし、ヤザンもあきらめない。
「何ッ!?」
そのまま腕を回収し、逃亡するつもりだった宗介。しかし、龍王機は首に打ち込まれたグレイプニールを両腕でつかむ。しかし、宗介もすばやくランサーダートを打ち込んだ。
「チィ!」
龍王機は体をひねるようにして直撃を避けるが、右腕の付け根に3発が命中。右腕が吹き飛ぶが、それでも放さない。回収される腕とともに、龍王機が迫る!
(今から腕を切り離しても間に合わない!)
ならば、と衝撃を受け流すようブリッツが構えたとき、慣性に従い竜王機がブリッツに突っ込む。
「「おおおおおッ!!」」
二人の叫びが重なる。
零距離のランサーダートが龍王機をとらえ、龍王機のラスタバンビームがブリッツを貫いた。
(戦いが終わったようだな…)
15分前、ブリッツと龍王機が激突したときから、音沙汰ひとつない。おそらく、どちらかが死んだか、いや、あの最後からお互い動かないところを見ると、両方が死んだか…
(さて、見に行くとするか)
偵察を終え、高みの見物をしていたガストランダーはグルンガストになり、ゆっくりと立ち上がると現場に向かう。
案の定、2機がズタボロになって転がっている。
辺りを見回すが、人影はない。よく見れば、お互いコクピットがあるであろう胸に大きくダメージを受けている。
「ふん、2人とも死んだか…まぁいい、駒はもうひとつある。死体を抱え、一芝居撃つとするか」
死体を見つけた後、それを抱えながらシンジに連絡を取ればよい。
そう思い、期待の姿勢を低くし、コクピットに出た瞬間、
ウルベは吹き飛ばされた。吹き飛ばしたのは、龍王機の腕だ。確かに身をかばったが…
だが、並みの人間相手なら…即死だろう。
「ハハッ、こんな命の掛け合いがあるからやめられない。新しいのがほしいと思っていたところだ。ちょうどよかった」
その声は、龍の胸から聞こえていた。そう、それはヤザン・ゲーブルの声。宗介の一撃は最後、龍の攻撃により微妙にそれたのだ。そのため、コクピットギリギリを通過していた。
充足感に満たされたまま、龍からおり、グルンガストに向かう。コクピットの前でゆっくりとグルンガストを見上げるヤザン。
しかし、それを打ち破るものが現れた。何かの気配が…そう感じたとき、突然視界が揺れ、すこし白くなる。
その視界の隅に…腕。さきほどウルベにやったように、ヤザンもまた、人間の腕ではあるものの、殴られ吹き飛ばされた。
(っぐ…骨は折れていない…応急措置を…)
常人を上回る反射神経でギリギリの地点でオートパイロットに切り替え、コクピットから飛び降りた宗介。
落ちるとき、ぶつけたところは多く、体がきしむが、動くのには問題ない。
通信機の一部もきっちり持ち出している。あとは、隠れて龍の様子を窺えばいい。
そして、まっていれば、はじめてみる機体が現れた。様子を窺っていると…
『ふん、2人とも死んだか…まぁいい、駒はもうひとつある。死体を抱え、一芝居撃つとするか』
「…!!」
やはり、あの男、腹に黒いものが座っていた。人型の姿を見せなかったのもそのためだろう。姿を見せるのはまずい。様子を見なければ…
そう思ったのも一瞬だった。突然姿を現した――おそらく自分の遺体を探すためだろう――ウルベが龍の腕で吹き飛んだ。
(あの速度では…即死だな。機体が大破した以上、大型機の確保を行う。)
そう思い、グルンガストに龍の死角になるように接近する。グルンガストに比較的近いところへ出る。
そこには、おそらく龍のパイロットと思われる人物が…
(まずい!)
敵が大型機の操縦法を知っていた場合…確保された瞬間、勝ち目はなくなる。
(あえてリスクを冒す!)
物影から出て、音もなく全力でヤザンに走る!武器はない以上、素手だ。しかし、その硬く握り締めた拳がヤザンに突き刺さる!
ヤザンがよろめき、ひざを突く。素手で倒すとなると、最悪相打ちの可能性もある。それよりも確保が先だ。
宗介はそのままヤザンを見向きもせずにグルンガストに走る。
体を前のめりにしてコクピットに体を入れ、宗介がグルンガストの操縦桿に触れ――
軽い爆発音がした。首輪が爆発したのだ。
「なっ!?」
体が、ゆっくり、ゆっくりと爆発のためか後ろにそれ、コクピットの外に倒れる。
(まだ…俺は……)
死ぬわけにはいかない。しかし、思いとは裏腹に、体は動かない。青空が視界いっぱいに入る。
すこし、脇に思考がそれる。
死ぬわけにはいかない。
そんなことを考えるようになったのは…いつだ?
仲間たちが写る陰気な写真に自分が入るだけだ。自分の死についてなど、なんとも思ってなかった。
自分が変わったのは…そう、あれは――
(チド……リ…)
そう、彼女とあってからだ。もう一度、彼女に会いたい。心からそう思う。しかし、それは叶わない。
そのまま、彼の意識は白くなっていった。最後に彼が見ていたものは…なんだろうか?
「うっ……」
ヤザンがゆっくりと起き上がる。さきほど受けたダメージがすこし残っているものの、問題なさそうだ。
「なっ!?」
グルンガストのそばに、一人の男が首から血を流し倒れている。よく見ると、それはコクピットのあたりにも及んでいるのが、光の加減からわかる。
状況を整理するヤザン。それらから導き出される答えはひとつ。
先ほど吹き飛ばした男のほうをおそるおそる振り向く。そこには、機動兵器に殴られ、確実に絶命した男が転がっているはずだ。しかし!
肩から血を流し、脂汗をかきながらも起き上がっている!その男が怒りの形相でこちらを睨む。
「まさか…あれに耐えたとでも言うのか!?」
ヤザンが急いで龍王機のコクピットへ走る。あの男との差は50mはある。絶対に追いつかれない。
今度こそ、確実に倒す!
「おおおおおおおおおおっ!!」
男がこちらに走る。機動兵器に乗るよりこちらのほうが早いと判断したのか、怒りに駆られているのか。
腕を押さえ、明らかに消耗しているにもかかわらず、どんどんヤザンとの距離が縮まっていく。
「本当に人間か!?」
ヤザンが戦慄する。あと5mでコクピットしかし、奴はもう4m後ろ!体を投げ出すように飛び込み、コクピットを閉める。
それもまだ終わりではなかった。竜王機の体が揺れ、コクピットの装甲がひしゃげる。
メインカメラで外の様子を確認すると、先ほどの男が外からコクピットを殴っている!
一撃一撃が確実に龍の装甲を壊す。先ほどの戦いで、もうほとんど動くこともできない。
唯一動く左手を振るう。しかし、
「甘いっ!!」
なんと、生身で4m近く飛び、龍の腕をあっさり飛び越えてかわす。
「先ほどのような油断のまぐれ当たりはもうないぞ!終わりだ!」
重力の力も加えた一撃がついに龍の胸に光を差し込ませる。
「これしかないか…!悪くてもお前も道連れだ!」
ヤザンの声とともに、もう一度左手が振るわれる。
「無駄なことを!」
しかし、やはりウラベはそれをものともせず飛び越える。しかし、左腕はそのまま伸びきったまま、ある場所へぶつかる。
ぶつかったのはグルンガストの足。そう、足元へ衝撃を受けたグルンガストはそのまま、ウラベと龍へ倒れてくる!
「な、なんだとぉぉぉぉぉぉ!!??」
かわそうにも、自由落下から逃れるすべもない。そのままグルンガストは全てを押しつぶした。
龍がつぶれ、へしゃぐ。地面に食い込む感覚と強い衝撃。そして――
「う……?」
ヤザンが龍の胸で目を覚ます。どうやら…生きているようだ。
コクピットに大きな穴が開いている。そこから這い出ると、原型をとどめているのも不思議なほど傷ついた竜と、倒れこんでいる大型機があった。
よく見ると、腕が妙なところから出ている。これは…あの超人の腕だろう。
隙間から、開けっ放しのグルンガストのコクピットに入る。袋からマニュアルを取り出し、チェックする。
特に損傷はないようだ。
ヤザンはマニュアルで操作方法を確かめながらグルンガストを起こす。
そして、マニュアルをじっくり読み始めた。
ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:グルンガスト(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:健康
機体状況:装甲表面に若干の傷
現在位置:H-4
第一行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
最終行動方針:ゲームに乗る】
【碇シンジ :大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好(おなかいっぱい)。全身に筋肉痛
機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。背面装甲に亀裂あり。
現在位置:H-5
第1行動方針: ウルベと合流し、宗介を助ける
第2行動方針:アスカと合流して、守る
最終行動方針:生き抜く
備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持 】
【相良宗介 :ブリッツガンダム(機動戦士ガンダムSEED)
パイロット状況:死亡
機体状況:大破、特にコクピットは完全に破壊
ウルベ・イシカワ
パイロット状態:死亡
【時刻8:30】
「さて、そうなると移動が必要になるな」
ウルベがそう話を切り出した。
「肯定だ」
言葉少なく、宗介がそれに賛同する。
(やはり、まだ信用されてはいないか…)
「しかし、いきなり全員がぞろぞろ移動するのは危険だ。ここは一度索敵を行うべきだと思わんかね?」
「肯定だ。奇襲などの危険もある」
「あの…じゃあどうすればいいんですか?」
あまり軍事に詳しくないシンジが口をはさむ。待ってましたとばかりにウルベが饒舌に話し出した。
「一度誰かが調査して、安全を確かめてから移動するのがいいだろうということだ。それは私がやろう。空を飛ぶことができるため、広範囲に索敵でき移動も速い。」
一見、見方のために危険な役を引き受けるよい上官のように聞こえるが、腹の中はこうだ。
(多少信頼を得なければ駒としては使いづらいか。ある程度索敵を行ったあと、隠れて様子を見てから一芝居打つとしよう。
敵に見つかりやすい大型の機体と行動するのは避けたいからな…敵と交戦することがあったら、様子を見るとするか)
「大丈夫なんですか?」
「安心したまえ。これでも正規の軍人だ。できることとできないことはわきまえている。」
しかし、そんなことはおくびにも出さず、すがすがしいくらいの笑顔で答えると、ウィングガストは南の空に向かって飛び立った。
5分後…
残された2人。
「いつもある程度周囲に気を配れ」
「は…はい!」
もともと二人とも積極的に話すタイプではないものの、この状況の中、ある程度協力のために会話が弾んでいた。
「まるで新兵のダンスだな…」
「す、すいません」
大雷凰はパイロットの動きにあわせて動くため、シンジでは正直戦力として計算するのは難しい。それどころか逆に足を引っ張りそうでさえあった。
「もし、戦闘が起こったら、ウルベに連絡に向かえ。戦闘はこちらがある程度引き受ける。離散した場合の集合は離散した地点30km南だ」
一人ならこの機体の特性を考えれば、離脱は容易だ。こちらでかく乱し、シンジを離脱させ、連絡役にするようにすればいい。
「…よし、これで終わりだ。機体に乗ったまま、レーダーから目を離すな」
一通り焼き付け刃ではあるものの、基本的なことは教えた宗介が、そういって言葉を区切った。
「あとはウルベさんを待てば……!?宗介さん!?レーダーに…」
「こちらも確認した。何かが接近している。誰が乗っているか確認のため接触が必要だが、危険を伴う。機体を温めておけ」
「はい!」
ゆっくりとレーダーに映っていた機影がこちらに近づいてくる。蒼い、龍のような機体だ。全身に傷を負っているようにも見える。
宗介が通信を試みようとしたが…
「ッ!?」
突然、龍から光が放たれた。そして、それはついさっきまでブリッツがいたところに炸裂する。
(これがビーム兵器というものか!?)
まさか、あんな日本で同級生たちが見ていた漫画のような機体が現実にあり、特撮などでしかなかったビーム兵器が実用化されているとは…
この状況をどうにかするには、不確定要素(シンジ)を取り除き、援軍の到達か離脱を行うのが正しい。
「さきほど教えたとおりだ。今すぐ連絡にいけ」
シンジにそう告げる。
「え!?」
まだイマイチ行動を起こしきれてないシンジにすばやく命令を出す。
「戦場では一兵卒の行動が全滅か生存かを分けることもある。自分の与えられた任務を遂行しろ!」
「は、はい!」
生存か、全滅か、それを分けると問われれば、答えるべくもない。シンジは急いで南に走り出した。
「さて…」
ヤザンは機体の中で静かに呟く。一機は逃げたが、もう一機はこちらを向いて油断なく構えている。
目の前に獲物がいるのに、無理して逃げる獲物を追う意味はない。しかもガンダムタイプ。先ほどの放送で高ぶった気持ちをぶつけるにはよい相手だ。
「さぁ、楽しませてくれよ…!」
逃げたシンジを追撃する気配はない。どうやら、相手は本格的にゲームに乗っており、戦うつもりのようだ。
おそらく宗介が戦う姿勢を見せているため、まずそちらを叩こうといったところだろう。
(攻撃を加え、隙を見て不可視モードを起動、合流地点へ向かう…)
いきなり逃げ出せば、まず攻撃を受ける。不可視モードもいきなり使用しては意味がないどころか、危険ですらある。手品は仕掛けがわかってしまってはいけない。
そのため、攻撃を加え、その隙に不可視モードを起動、相手が現状を把握しきらないうちに逃げよう、ということだ。
(戦闘の相性、状況としては最悪ではあるが、突破する)
空をブースターもなく泳ぐように進む上に、こちらの「PS装甲」の弱点と思われるビーム兵器とおぼしきものを装備。どれほどの戦闘力、練度かも不明。
情報がなさ過ぎる上に、こちらは空中に高く飛び上がれるが、落ちた瞬間は無防備。地面を這うしかない上、奇襲戦闘と隠密行動用のタイプ。
しかし、それでもやるしかない…!
龍王機が戦いの火蓋を切った。ラスタバンビームが降り注ぐ。
(威力などが不明な以上、回避を念頭に置く!)
カウンターを狙うとは言え、危険を冒して反撃する必要はない。相手の高度から言って届くのは50mm高エネルギービームライフルのみ。
援軍の到達もまた勝利条件の一つなのだ。ひたすらかわし、確実に反撃できる時を狙うべく、ひたすら回避を続ける。
敵もそこを理解しているのであろう、決して高度を下げない。しかし、勝負を決めるとなれば、何か手を打つそのときを宗介は待ち続ける。
「…ふん」
ヤザンが龍のなかでため息をこぼす。彼からすれば、血が燃える命の取り合いがしたいのだ。
わざわざ残ったのだ。面白くしてくれると思えば、こんな不毛なもの。ヤザンは、行動を変えた。
「…?」
突然龍がゆっくりと高度を落とした。落としはするが、特に行動するそぶりがない。
「相手はアマチュアか?それともなにかあるのか…?」
宗介がいぶかしむ。それでも決して隙は見せない。攻撃を行わずまだ様子を見る。
しかし、ヤザンは違った。これでも攻撃を仕掛けないガンダムに対し、龍は突然火炎を撒き散らす!
よこに移動し、宗介はかわすが、そこに狙いすましたラスタバンビームが大量に撒き散らされる!
極力かわし、どうしてもあたるものはシールドで防ぐ。
そうやって視界を奪った隙を突き、ウィングカッターで切り裂こうと迫る!
「回避は不可能…なら」
かわせないものは仕方ない。あっさり宗介は右腕を生贄に差し出した。
腕を使い、受け流すように使う。意外なところでいい結果が出た。「PS装甲」のおかげで、腕が浅く切り裂かれるだけですんでいる。ほぼ同時に、50mm弾を叩き込む。
たまらず龍が回避しようとしたときに、かわされることを覚悟でランサーダートを放つ。
「ちぃ!」
ギリギリでランサーダートをかわしたが……そのころには、もうブリッツの姿がなかった。
「森に隠れたのか…?ならこうしてやる!」
龍が高く舞い、広い範囲に炎を撒き散らす。
森が燃え、木が倒れ、熱に覆われる平面となる。
しかし、ブリッツはいない。
「一体どこに…ん?」
よーく、目を凝らさねばわからないが、妙な形に火が消えている線がある。しかも、それは離れるように伸びていって――、
ヤザンももしや、と思ってその線の進路上にラスタバンビームを放つ。
――ずれた。さらに重点的にそこを攻撃する。
「こんな方法で見つかるとはな…」
宗介が呟く。
そう、いくらミラージュコロイドいえどその実体そのものが消えるわけではない。そのため、移動し踏み消された火が位置をさらしたのだ。
いくら宗介でもこれはどうしようもない。
熱に弱い「PS装甲」でも山火事くらいの火ではつけずともダメージは受けないものの、結局姿がさらされたも同然。
ミラージュコロイドと「PS装甲」は併用できない以上、このままでは通常兵器でもダメージを受けることになる。
意味のないミラージュコロイドをとき、「PS装甲」を起動し、森に移動する。
こうなったら、ある程度のダメージを与え、追撃速度を遅くして振り切るしかない。援軍も、不安事項が多い。
つまり…ある程度向き合って戦うということだ。
「火炎でもそうダメージはない、切ってもそう効いていない。ビーム兵器は全弾回避、か」
また龍が高度を落し、ブリッツと向きあう。
「いくぞ!」
ラスタバンビームがブリッツに対し放たれる。
しかし、宗介も先ほどのことで把握している。すばやくかわし、ビームライフルを撃つ。
それを前に出るようにかわし、ウィングカッターを展開、切りつけようとするが、突如地面から現れたアームが胸に迫る。
「ちぃ!」
体をねじり、かわす。からだはそのままブリッツの右を通り過ぎようとする。しかし、宗介をそれを見逃しはしない。姿勢を崩した龍にランサーダートを打ち込む。
体が細長いためか、一発が後ろ足の付け根に当たるだけだった。火炎をまき、視界を奪う龍。
ブリッツは横へ側転、視界をすぐに確保し、周囲に気を配る。メインカメラでは、どの方位も龍の姿はない。
咄嗟に妙な感覚――殺気を感じ、回避運動のステップを一歩踏む。ほぼ同時に、ビームが右肩を貫いた。
真上にいる龍に対し、即ランサーダートを撃つ。急上昇し、それをかわす。
「やはり、ビーム兵器が弱点みたいだな!」
今度は龍の体自身を矢のように使い、一気に降りてくる。ほぼブリッツの武器とかぶる斜線の腕だ。
当てようにも点も同然。対空機銃のようにビームライフルをまく。
龍がビームの雨を潜り抜け、口を開く。また火炎を吹くと思い、一歩下がる。
しかし、龍は火を吹かず、そのままブリッツに突っ込んできて、その顎をブリッツに突きたてた。
その勢いのまま、後ろに吹き飛ぶブリッツ。すばやく受身を取るが、同時にビームが全身に降り注ぐ!
急いでかわすものの、4発を被弾。ダメージは少なくない。このままでは的同然。ランサーダートを龍に向け3セット撃つ。
ダメージを受けている以上一本一本が胴体などに突き刺されば危険になる。強引にかわし――
回りを確認したときには、ブリッツがまた消えていた。
「一体今度はどこへ…」
ヤザンが回りに気を配る。この一瞬。それが宗介の待った一瞬だった。
消えた以上、そこから離れ、どこかにいる。そう意識が流れ、もともといた場所への警戒が揺らぐ。
ついに乾坤一擲の一撃、グレイプニールが龍王機の首に突き刺さる!
「ぐっ!逃がすものかよ!」
しかし、ヤザンもあきらめない。
「何ッ!?」
そのまま腕を回収し、逃亡するつもりだった宗介。しかし、龍王機は首に打ち込まれたグレイプニールを両腕でつかむ。しかし、宗介もすばやくランサーダートを打ち込んだ。
「チィ!」
龍王機は体をひねるようにして直撃を避けるが、右腕の付け根に3発が命中。右腕が吹き飛ぶが、それでも放さない。回収される腕とともに、龍王機が迫る。
(今から腕を切り離しても間に合わない!)
ならば、と衝撃を受け流すようブリッツが構えたとき、慣性に従い竜王機がブリッツに突っ込む。
「「おおおおおッ!!」」
二人の叫びが重なる。
零距離のランサーダートが龍王機をとらえ、龍王機のラスタバンビームがブリッツを貫いた。
(戦いが終わったようだな…)
15分前、ブリッツと龍王機が激突したときから、音沙汰ひとつない。おそらく、どちらかが死んだか、
いや、あの最後からお互い動かないところを見ると、両方が死んだか…
(さて、見に行くとするか)
偵察を終え、高みの見物をしていたガストランダーはグルンガストになり、ゆっくりと立ち上がると現場に向かう。
案の定、2機がズタボロになって転がっている。
辺りを見回すが、人影はない。よく見れば、お互いコクピットがあるであろう胸に大きくダメージを受けている。
「ふん、2人とも死んだか…まぁいい、駒はもうひとつある。死体を抱え、一芝居撃つとするか」
死体を見つけた後、それを抱えながらシンジに連絡を取ればよい。
そう思い、期待の姿勢を低くし、コクピットに出た瞬間、
ウルベは吹き飛ばされた。吹き飛ばしたのは、龍王機の腕だ。確かに身をかばったが…
龍からすれば軽く殴るような一撃。だが、人間相手なら…確実に即死だろう。
「ハハッ、こんな命の掛け合いがあるからやめられない。新しいのがほしいと思っていたところだ。ちょうどよかった」
その声は、龍の胸から聞こえていた。そう、それはヤザン・ゲーブルの声。宗介の一撃は最後、龍の攻撃により微妙にそれたのだ。
そのため、コクピットギリギリを通過していた。
充足感に満たされたまま、龍からおり、グルンガストに向かう。コクピットの前でゆっくりとグルンガストを見上げるヤザン。
しかし、それを打ち破るものが現れた。何かの気配が…そう感じたとき、突然視界が揺れ、すこし白くなる。
その視界の隅に…腕。さきほどウルベにやったように、ヤザンもまた、人間の腕ではあるものの、殴られ吹き飛ばされた。
(っぐ…骨は折れていない…応急措置を…)
常人を上回る反射神経でギリギリの地点でオートパイロットに切り替え、コクピットから飛び降りた宗介。
落ちるとき、ぶつけたところは多く、体がきしむが、動くのには問題ない。
通信機の一部もきっちり持ち出している。あとは、隠れて龍の様子を窺えばいい。
そして、まっていれば、はじめてみる機体が現れた。様子を窺っていると…
『ふん、2人とも死んだか…まぁいい、駒はもうひとつある。死体を抱え、一芝居撃つとするか』
「…!!」
やはり、あの男、腹に黒いものが座っていた。人型の姿を見せなかったのもそのためだろう。姿を見せるのはまずい。様子を見なければ…
そう思ったのも一瞬だった。突然姿を現した――おそらく自分の遺体を探すためだろう――ウルベが龍の腕で吹き飛んだ。
(あの速度では…確実に即死だな。機体が大破した以上、大型機の確保を行う。)
そう思い、グルンガストに龍の死角になるように接近する。グルンガストに比較的近いところへ出る。
そこには、おそらく龍のパイロットと思われる人物が…
(まずい!)
敵が大型機の操縦法を知っていた場合…確保された瞬間、勝ち目はなくなる。
(あえてリスクを冒す!)
物影から出て、音もなく全力でヤザンに走る。武器はない以上、素手だ。しかし、その硬く握り締めた拳がヤザンに突き刺さる。
ヤザンがよろめき、ひざを突く。素手で倒すとなると、最悪相打ちの可能性もある。それよりも確保が先だ。
宗介はそのままヤザンを見向きもせずにグルンガストに走る。
体を前のめりにしてコクピットに体を入れ、宗介がグルンガストの操縦桿に触れ――
軽い爆発音がした。首輪が爆発したのだ。
「なっ!?」
体が、ゆっくり、ゆっくりと爆発のためか後ろにそれ、コクピットの外に倒れる。
(まだ…俺は……)
死ぬわけにはいかない。しかし、思いとは裏腹に、体は動かない。青空が視界いっぱいに入る。
すこし、脇に思考がそれる。
死ぬわけにはいかない。
そんなことを考えるようになったのは…いつだ?
仲間たちが写る陰気な写真に自分が入るだけだ。自分の死についてなど、なんとも思ってなかった。
自分が変わったのは…そう、あれは――
(チド……リ…)
そう、彼女とあってからだ。もう一度、彼女に会いたい。心からそう思う。しかし、それは叶わない。
そのまま、彼の意識は白くなっていった。最後に彼が見ていたものは…なんだろうか?
「うっ……」
ヤザンがゆっくりと起き上がる。さきほど受けたダメージがすこし残っているものの、問題なさそうだ。
「なっ!?」
グルンガストのそばに、一人の男が首から血を流し倒れている。よく見ると、それはコクピットのあたりにも及んでいるのが、光の加減からわかる。
状況を整理するヤザン。それらから導き出される答えはひとつ。
先ほど吹き飛ばした男のほうをおそるおそる振り向く。間違いなく人間ならば即死のはずだ。そこには、機動兵器に殴られ、確実に絶命した男が転がっているはずだった。しかし、
肩から血が流れ、右腕はダランとさせているが、額から脂汗をかきながらも起き上がっている。その男が怒りの形相でこちらを睨む。
「まさか…あれに耐えたとでも言うのか!?」
あの男との差は50mはある。絶対に追いつかれないはずだ。
今度こそ、確実につぶすとヤザンは思い、ヤザンが急いで龍王機のコクピットへ走る。
「おおおおおおおおおおっ!!」
男がこちらに走る。機動兵器に乗るよりこちらのほうが早いと判断したのか、怒りに駆られているのか。
腕を押さえ、明らかに消耗しているにもかかわらず、どんどんヤザンとの距離が縮まっていく。
「本当に人間か!?」
ヤザンが戦慄する。あと5mでコクピットしかし、奴はもう4m後ろ。体を投げ出すように飛び込み、コクピットを閉める。
それもまだ終わりではなかった。竜王機の体が揺れ、コクピットの装甲がひしゃげる。
メインカメラで外の様子を確認すると、先ほどの男が外からコクピットを殴っている。
左の拳の一撃一撃が確実に龍の装甲を壊す。先ほどの戦いで、もうほとんど動くこともできない。
唯一動く左手を振るう。しかし、
「甘いっ!!」
なんと、生身で4m近く飛び、龍の腕をあっさり飛び越えてかわす。
「先ほどのような油断のまぐれ当たりはもうないぞ!終わりだ!」
重力の力も加えた一撃がついに龍の胸に光を差し込ませる。
「これしかないか…!悪くてもお前も道連れだ!」
ヤザンの声とともに、もう一度左手が振るわれる。
「無駄なことを!」
しかし、やはりウラベはそれをものともせず飛び越える。しかし、左腕はそのまま伸びきったまま、ある場所へぶつかる。
ぶつかったのはグルンガストの足。そう、足元へ衝撃を受けたグルンガストはそのまま、ウラベと龍へ倒れてくる!。
「な、なんだとぉぉぉぉぉぉ!!??」
かわそうにも、自由落下から逃れるすべもない。そのままグルンガストは全てを押しつぶした。
龍がつぶれ、へしゃぐ。地面に食い込む感覚と強い衝撃。そして――
「う……?」
ヤザンが龍の胸で目を覚ます。どうやら…生きているようだ。
コクピットに大きな穴が開いている。そこから這い出ると、原型をとどめているのも不思議なほど傷ついた竜と、倒れこんでいる大型機があった。
よく見ると、腕が妙なところから出ている。これは…あの超人の腕だろう。
隙間から、開けっ放しのグルンガストのコクピットに入る。袋からマニュアルを取り出し、チェックする。
特に損傷はないようだ。
ヤザンはマニュアルで操作方法を確かめながらグルンガストを起こす。
そして、マニュアルをじっくり読み始めた。
ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:グルンガスト(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:健康
機体状況:装甲表面に若干の傷
現在位置:H-4
第一行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
最終行動方針:ゲームに乗る】
【碇シンジ :大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好(おなかいっぱい)。全身に筋肉痛
機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。背面装甲に亀裂あり。
現在位置:H-5
第1行動方針: ウルベと合流し、宗介を助ける
第2行動方針:アスカと合流して、守る
最終行動方針:生き抜く
備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持 】
【相良宗介 :ブリッツガンダム(機動戦士ガンダムSEED)
パイロット状況:死亡
機体状況:大破、特にコクピットは完全に破壊
ウルベ・イシカワ
パイロット状態:死亡
【時刻8:30】
ウラベ→ウルベ
見方→味方に修正します
疾風が吹く。
鱗のようにも見えるその長髪がゆるやかにたなびく。
草原の只中で、ベターマン・ラミアは静かに立っていた。
その双眸は漆黒のサングラスに隠され、その表情を読むことは出来ない。
しかし、彼は静かに思考していた。
<リミピッドチャンネル……やはり弱まっているか>
リミピッドチャンネル。場に存在する意識の波を集める能力。
そこにいるモノ、そこにいたモノの情報を感知する第六感。
その力の有効範囲が狭まっている事にラミアは気付いていた。
リミピッドチャンネルだけではない。ベターマン・ネブラのサイコ・ヴォイスも、
目標の分子振動数を正確に捉えたのにもかかわらず相手を一撃粉砕するには至らなかった。
ラミアは顔を上げる。
蒼穹の彼方に、あたかもあの飛行戦艦を見ているかのように。
その首には、今もなお他の参加者達の行動を制限している首輪は無い。
しかし彼には分かっていた。
ルール違反のペナルティ。彼にとってのそれは首輪の爆発ではなく、恐らく全身の細胞の一斉死。
あの仮面をつけた人間が遺伝子に細工をしたのだろう。
つまり、首輪を外しさえすればゲームから開放される他の参加者とは違い、彼にはユーゼスのルールから逃れる術は無い。
あくまで普通の方法では、だが。
<……オルトスならば、可能か>
三つのフォルテの実をリンカージェルで精製することによって完成する、オルトスの実。
ベターマン・オルトスのあらゆる死を超越する無限再生の能力なら。
あえてルールを破り滅びを受け入れ、そしてその死を超越することで、ラミアは呪縛から開放される。
<この世界にカンケルがいないとしても……オルトスは必要か>
ベターマンは思考する。
弱体化したリミピッドチャンネルでは、このフィールド全体の意識を集める事などどのみち不可能だ。
ならば自ら動く必要がある。
まずは情報を集める事。そしてリンカージェルを探し出し、オルトスの実を精製する事。
確かにルールから逃れても元の世界に帰れるとは限らないし、そもそもこの世界にリンカージェルがある保証は無い。
それでも、一縷の希望があるのならば。
<我らの希望……潰えさせる訳にはいかない>
自ら動くと同時に、他の参加者に接触してリミピッドチャンネルで情報を集める。
そしてこのゲームから脱出し、カンケルと元凶なりし力によって滅びに向かう我らが世界を救わなければ。
彼は走り出す。あたかも一陣の疾風のように。
音も無く、なおかつ人の領域を遥かに凌駕した速さで、ベターマンは駆ける。
「ええい! なぜ上手くいかないのだ」
ヘルモーズのブリッジで、ユーゼスは苛立った声を上げた。
カーペンターズの技術を手に入れるついでに入手した情報を元に開発した、『リミピッドチャンネル受信装置Ver.Yu』――
このフィールド全体の意識の波を受信できたらゲーム運行もよりスムーズに行くかと考えたのだが、
「やはり、失敗作でございますですか?」
「そんな事はない。リミピッドチャンネルで意識の波を収束し、テレパシーとして送信したものならば
全く問題なく受信できるようだからな。これはこれで成功だ」
「……それではただのラミ――ベターマン専用の盗聴器という事ではないですか」
「何か言ったかっ!?」
「なんにも」
「それならいいが」
ユーゼスは忌々しげに受信装置Ver.Yuを空いている座席に放り投げた。
ラミア・ラヴレスは、そこでふとした疑問をぶつけてみる。
「そういえばユーゼス様。あれはよろしかったのでございますですか?」
「あれとはどのあれだ」
「リンカージェル」
「ああ。あれが無ければオルトスのデータを集める事は出来ないのでな」
「しかし、もしベターマンがそれでユーゼス様の遺伝子操作を無効化したら――」
「オルトスのもたらすデータは、そんなリスクなど何ほどのものでもないほど貴重なものなのだよ。
それに仮にベターマンがペナルティから逃れたとして、どのみちこの"光の壁"を突破できる機体など存在しない。
ふふふ、二重三重に策を巡らす、それこそが私だ」
機嫌を直してご満悦のユーゼス。
ラミアは、依然として残るもう一つの疑問を解消すべく、ユーゼスに尋ねた。
「ユーゼス様」
「今度は何だ」
「やっぱりあの装置って失敗作なのでは」
「言うな!」
【ベターマン・ラミア 搭乗機体:無し
パイロット状況:良好
機体状況:無し
現在位置:B-3から移動開始
第1行動方針:他の参加者と接触し、リミピッドチャンネルで心を読んで情報を集める
第2行動方針:リンカージェルを探し、オルトスの実を精製する
最終行動方針:元の世界に戻ってカンケルを滅ぼす
備考:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネブラの実 残り2個】
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:???
パイロット状況:健康(言語回路が不調)
現在位置:ヘルモーズ
第1行動方針:ユーゼスの命令に従う
備考:ちゃんと他の参加者と同じ首輪を着けているらしい】
備考1:フィールド上の何処かにリンカージェル入りのタンクがあります
備考2:ユーゼスはフォルカが光の壁を突破できる事を現時点では知りません
フォルカが能力の事を誰かに話した場合、盗聴器を通じて気付かれる恐れがあります
【時刻:二日目 9:30】
155 :
銃の系譜:2006/01/27(金) 19:17:57 ID:CZaB+iEO
「……クォヴレー・ゴードン、か」
つい数時間前に知り合った男の名前を呟いて、イングラムは目を伏せる。
何故だろうか。あの男と出会ってから、妙に気持ちが落ち着かない。
会った事など無いはずだ。少なくとも、クォヴレーの名前に聞き覚えは無い。
だが、何故なのか。あの男に、自分は既知感を覚えていた。
クォヴレー・ゴードンと言う存在を、自分は確かに知っていた。
それは、何故か?
……分からない。だが、これだけは断言出来る。
この既知感は、決して自分の勘違いや思い込みなどではない。
「ユーゼス……奴は知っているのか? クォヴレー・ゴードンが、俺にとって何者なのか……」
昔のよしみだ、君の為にわざわざ用意した人物もいる――
ユーゼスの言葉を思い出す。
今まで自分は、それをリュウセイの事だと思っていた。だが、それは間違っていたのかもしれない。
いや、リュウセイもまた自分にとって重い存在である事は、疑いようの無い事実であるのだ。
しかし、クォヴレーの存在は、そのリュウセイと肩を並べるほどに……いや、もしかしたらそれ以上に、イングラムの中で大きな物となっていた。
これまで一度も、会った事など無いはずなのに。
「そういえば……奴も、俺には何かを感じているようだったな……」
思い出す。自分の名前を訊ねてきた、あの必死な声と表情を。あの男もまた、自分に何かを感じていたのだ。
――偶然ではない。自分達の間には、何か深い因縁がある。
『さあ、お待ちかねの第二回放送だ……』
「ッ…………!」
そうした事を考えていると、いつのまにか放送の時間が訪れていた。
聞き覚えのある、不快な声。それに嫌悪を覚えながらも、聞き逃すまいと放送に耳を傾ける。
リュウセイ・ダテ、セレーナ・レシタール、そして……クォヴレー・ゴードン。
この殺し合いの中で出会った、生き延びてほしい人間たち。その名前が呼ばれなかった事に、イングラムは安堵する。
だが、忘れてはならない。生き延びた者が居る影で、命を落とした者が居る事を。
そして、その命を奪った元凶は、ユーゼス・ゴッツォだと言う事を。
「……させる、ものか」
激しい怒りを瞳に宿し、イングラムは虚空を睨む。
ユーゼス・ゴッツォが何を企みこの殺し合いを始めたのか、それは自分にも分からない。
だが、奴が何を企んでいようと、それはどうでもいい事だ。
奴が居て、自分が居る。ならば、為すべき事は決まっている。
ユーゼス・ゴッツォの企みを打ち破り、そして今度こそ完全な死を与えてやる。
「貴様を倒すのは、俺の役目だ……」
そう呟いて、イングラムは拳を握った。
156 :
銃の系譜:2006/01/27(金) 19:20:02 ID:CZaB+iEO
【イングラム・プリスケン 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
パイロット状態:健康
機体状態:装甲に無数の傷。左腕装甲を損傷、反応がやや鈍っている。
額から頬にかけて右目を横断する傷。右目からのアーク・ライン発射不可
現在位置:D-8
第1行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
第2行動方針:出来うる限り争いを止める
第3行動方針:クォヴレー・ゴードンと再び会って、自分との因縁を解き明かす
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【二日目 06:15】
ジョシュアと別れたリュウセイは、エリアの境目を移動していた。
「くそっ、もう動きが……」
度重なる戦闘で機体はボロボロだ。このままではイングラムに再会することなく、他の参加者と同じく死を迎えて
「違う!そんなことになって……たまるかよ!」
イングラム教官、戦う事の意味を教えてくれた人。
自身が死ぬことも辛い。だがイングラムを助けてこの不可思議な区域から脱出できるならと考えた。
「…………っつぅ!」
頭痛が走った。
身体のどこかが悪い訳ではないだろう。
「何かが呼んでる………?」
何かが呼ぶ声、念動力の類?探るべきか?
「……」
フェアリオンはもう限界いっぱいだ。
どこかに落ち着けて、放送まで『声』の主を探すのもありかもしれない。
「………」
声がしたような気のするあたり、フェアリオンを設置すると、ガクン、と駆動を停止した。
「………ゴメンな、フェアリオン」
これ以上無理はさせられないだろう。
機動兵器とは、動かすことだけでも相当な無理を強いているのだ。
「………っと」
間接系や、機関部から嫌な臭いがする。
「エンジンも焼き付いてるのか?」
今までのって来た愛機をまじまじと観察。
よく動かせたものだ。
「……待ってろよ。必ず戻ってくる」
リュウセイは、気になる方へと歩き出した。
「なんだよ、こりゃあ……」
巨大な貝のような物体、その前にリュウセイは立った。
周囲に人の気配は無い。この貝のような物体こそが、リュウセイに頭痛を与えているらしかった。
「まさか……この中に何かいるのか?」
感じたままに、口に出す。
しかし……結構な大きさがある。
「ロボットが出てくるんじゃねぇだろうなぁ……」
呟く。しかし巨大謎物体は微動だに……
「!?」
光った。
貝の殻のような部分が光っている。
「まさか!?……いや」
…気のせいか?
(こいつが俺に何か……まさかな)
現実は一刻をも争う。本当なら構ってはいられない。
気になる、気にはなるが…
しかし長い間機体に乗ってないのも不味い。
リュウセイは機体に戻ることにした。
「フェアリオンも………修理しないとな」
念のために謎物体の近くまで移動。
さきほどと変わりはない
「………まさか、ホラーじゃあるまいし」
動きっぱなしなので、機体も自分も、少しだけ休憩を取るべきかもしれない。
「……1時間休憩だな」
フェアリオンのコクピットで、リュウセイは仮眠を取り始めた。
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン(登場作品 スーパーロボット大戦OG2)
パイロット状態:健康 一時間だけ仮眠中
機体状態:ボロボロ。フレームだけで動いているような状態。
現在位置:G−3とG−4の間
第1行動方針:フェアリオンの修理
第2行動方針:イングラムの捜索
第3行動方針:出来る限り争いを止める
最終行動方針:主催者打倒・脱出】
【プレート(登場作品 ブレンパワード)
パイロット状態:
機体状態:無傷
リバイバルしたときブレンパワードになるかグランチャーになるかはわからない。
現在位置:G−4よりのG-3付近
第1行動方針:リバイバルする
第2行動方針:
第3行動方針:
最終行動方針:リバイバルする】
【二日目 03:50】
はぁ・・・はぁ・・・どこにいるんですか・・・ウルベさん・・!」
蒼い龍のような機体に襲われ、宗介の言葉どうり、シンジはウルベを探しながら南下していた。
(今この瞬間にも宗介さんはあの龍の機体と戦ってるんだ・・・)
筋肉痛の痛みよりもまずシンジの心には不安が渦巻いていた。
「宗介さんならきっと大丈夫・・・」
そうは言ってみるものの、不安は薄まるどころか濃く、そして大きくなっていった。
必死に不安を振り払いながら南下していくシンジ。
少ししてシンジはあることに気づいた。
北の空が・・・赤い。
「森が・・・燃えてるの?」
森が燃えるなど戦闘以外に考えられなかった。
胃がキリキリと縮んでいく。
今まで何とか抑えていた不安が急速に巨大化していった。
不安に支配されたシンジの頭に浮かび上がるもの。
それは・・・宗介の死。
ついさっきまでともに行動していた人物の死。
ゼンガーの死を乗り越えたとはいえ、シンジは宗介の死を感じて冷静でいられるほどの心はまだ持っていなかった。
「戻らなきゃ!宗介さんを助けに行かないと!」
シンジはそういうと慌てて大雷鳳を北へ向かわせようとする。
が、
「うわぁ!!」
どういうわけか大雷鳳は無様にしりもちをついた。
周りを見てみるとマフラーが木に引っかかっている。
「何やってるんだよ!宗介さんにも周りを良く見て行動しろって言われ・・・」
そこまで言うとシンジは口をつぐんだ。
宗介の言葉が頭に響いてくる。
『戦場では一兵卒の行動が全滅か生存かを分けることもある。自分の与えられた任務を遂行しろ!』
その言葉で不安が消えたわけではない。
しかし、パニック状態だったシンジに冷静さと、そして今すべきことを思い出させてくれた。
(今しなきゃいけないこと・・・)
それはウルベと連絡をとり、宗介のいった合流地点を目指すこと。
それが宗介の言った「任務」だった。
シンジは唇を噛み締めると、木に引っかかっていたマフラーをほどき大雷鳳は燃えている森に背を向けた。
「宗介さん・・・僕、与えられた事を必ずやり遂げます。だから・・・宗介さんも・・・」
そこまで言うとシンジは、大雷鳳は南へ走り出した。
与えられた「任務」をこなすために。
宗介もまた生きて合流するという「任務」をこなしてくれると信じて。
【碇シンジ :大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好(おなかいっぱい・若干不安に駆られている)。全身に筋肉痛
機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。背面装甲に亀裂あり。
現在位置:H-5
第1行動方針: ウルベと合流し、宗介との合流地点へ向かう
第2行動方針:アスカと合流して、守る
最終行動方針:生き抜く
備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持 】
保守&AGE
ミスった、AGEってない
もう一度保守&age
「……ファンネルの残りは一つだけ、か。これからは後の事を考えていかないと、生き延びるのは難しくなってくるだろうな」
自機の消耗具合をチェックしながら、アムロは重い溜息を吐く。
――先の事を考えずに戦い過ぎた。
これまでにアムロが仕留めた敵機の数は、確かに相当数に及ぶ。
だが、幾多の戦いを経た代償として、機体の消耗も激しくなっていた。
特に補給の効かないファンネルを失った事は、致命的とすら言えるだろう。
このまま戦い続けていったとして、勝ち抜く事は出来るのか……?
アムロの脳裏に甦る、昨夜出会った強烈な威圧感を放つ機体――東方不敗の零影。
もしあの機体と戦う事になったとして、この傷付いた機体で倒す事は出来るのだろうか……。
「くっ……何を弱気になっているんだっ……!」
自らの弱気を叱責し、アムロは闘志を奮い立たせる。
戦う事を決意したのは、他の誰でもない自分自身だ。今更、後戻りなど出来るはずが無い。
殺し合う事を止めてしまうには、あまりにも自分の手は血に汚れ過ぎてしまっている。
もはや、賽は投げられてしまったのだ。
戦う以外の選択肢など、とっくの昔に失われている。
「そうだ……戦わなければ、生き残れないんだ……」
これからは戦闘を終えた後の事まで考えた上で戦っていかなくてはならない。それは事実だ、認めよう。
だが、だからといって戦いを否定する訳ではない。
敵を仕留める機会があるならば、それを決して逃しはしない。
……そう。自分は決して倒れる訳にはいかないのだ。
「ん……? あ、あれは……っ!?」
その存在に気が付いたのは、それから数時間後の事だった。
遙か彼方を進んでいく、規格外な巨体を誇るMA。MSとは明らかに違い過ぎる大きさのそれに、アムロは思わず驚愕の声を上げていた。
「仕掛けるか……? いや、だが……」
この会場内を飛行している以上、あれは倒すべき敵の機体だ。
だが、あまりにもサイズが違い過ぎる。
ファンネルを殆ど失った今の状態で、あれだけの巨体を叩き伏せられる保障は無い。
いや、叩き伏せる事が出来たとしても、あれだけのサイズを誇る機体だ。戦闘不能に追い込むまでには、かなりの時間を要するだろう。
もし、戦っている間に他の機体が来たとすれば……。
そして、それが自分と同じ殺し合いに乗っている人間だとしたら……。
「戦っている相手の隙を付いて、後ろから撃つ事も難しくはない」
卑劣な戦術だ。だが、それだけに効果は大きい。
恐らくは自分も、そのような隙があれば見逃す事無く行うだろう。
……幸いにも、向こうに気付かれた様子は無い。
向こうの機体が巨大過ぎる為に、こちらから向こうを確認する事は容易でも、その反対は困難なのだ。
「そうだな……ここは、様子を見るか……」
あれだけの巨体だ。離れた場所から様子を伺い続ける事は、それほど難しい事ではない。
そう考えて、アムロ・レイは静観を決め込んだ。
【アムロ・レイ 搭乗機体:サザビー(機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)
パイロット状態:良好
機体状態:シールド、ファンネル残数1、装甲表面が一部融解
現在位置:C-5
第一行動方針:慎重に機を窺い、隙のある相手を確実に仕留める
第二行動方針:東方不敗に警戒
最終行動方針:ゲームに乗る。生き残る】
【二日目 9:00】
>160ですが
はじめに「が抜けてます。
後言葉どうりのところは言葉どおりです
167 :
戦う力VS闘う力:2006/02/03(金) 11:20:50 ID:kgETTu57
森に囲まれ東西に流れる大河を、ひっそりと移動する影があった。半身を水中に隠したMAドッゴーラ。
水上に見える部分は数十メートルだが、水中に隠した半身は十倍以上もある。背にボスボロットを
乗せているが、その余りのサイズ差に遠目にはドッゴーラの部品にしか見えなかった。
「…水中戦は危険だ。陸に上がるのを待つ方がいい」
ドッゴーラから距離を置いて、着かず離れず狙うアムロ。過去、水中戦にはあまり良い思い出はない。
相手がMAとなればなおさらだ。危険を冒す必要はない。地上戦、悪くても空中ならば、いくらでも
戦い様があると自分に言い聞かせ、忍耐強く隙を伺い追跡を続けていた。
(二人…いや一人か? 気配が捕らえにくいな。用心の為、二人と考えておいた方が良さそうだな)
アムロはドッゴーラの様子を伺うと同時に、他の参加者の気配に神経を集中させた。狩る者が後ろから
狩られたのでは洒落にならないからだ。後方の安全を確保し、獲物が水中から出た時が勝負だと、アムロは
自分に『焦るな』と言い聞かせた。もう後には引けない、ならば進むだけなのだから。
「ねぇ、ブンちゃん。気のせいかもしれないけど、さっきから誰かに見られている気がする」
ドッゴーラが川中を移動し始めて少し立った頃、それまでジッと黙っていたミオが口を開いた。
「誰かって、マシュマーさんですか? それとも…」
「良く分からないけど、マシュマーさんじゃないと思う」
「気のせいじゃないですか? レーダーには何の反応もありませんよ」
「うん、それならいいんだけど…」
ドッゴーラの背に乗ってする事がないミオは、ジッと周囲の気配を探っていた。かつてラ・ギアスでは
搭乗者のプラーナを感じて敵機の接近を察知できる者がいた。もちろんミオにそんな器用な芸当が
出来るわけもないが、心を静め精霊の声に耳を傾けた結果、ほんの少しノイズのようなものを感じたのだ。
それがこちらを探るアムロの強力なニュータイプの力とまでは気が付かない。
「もしも戦いになったら僕が何とかしますから、打ち合わせどおりミオさんは隠れてやり過ごしてください」
「ブンちゃん…大丈夫?」
突然のブンタの申出にミオが心配そうな顔をする。確かにドッゴーラは強く、武器もないボスボロットは
足手まといでしかない。
「適当に引き付けて逃げるんで安心してください。マシュマーさんに色々教わりましたから」
(そう、女性は守るものだということも)
ブンタは初めてマシュマーに出会った時を思い起こした。彼は小さなネッサーでボスボロットを守る為、
ドッゴーラの前に立ち塞がったのだ。もし戦う術を教えてくれたマシュマーに報いる事が出来るなら、
それは生きる事、そしてミオを守る事だとブンタは思う。自分も地球を守る大空魔竜隊の一員なのだ。
「…分かったよ。でも無理はしないでね」
いつかは戦う時は来る。その時、自分は足手まといでしかないのだろうか。ミオはグッと唇をかんだ。
168 :
戦う力VS闘う力:2006/02/03(金) 11:21:59 ID:kgETTu57
しばらくして二人は昨夜、野営した場所へと辿り着いた。ネッサーの戻って来た気配はない。
「お昼まで待って、戻って来ないようなら、また川沿いに探しに行きましょう」
ドッゴーラは水から上がると蛇のようにトグロを巻く。その姿は巨体に似合わず、意外とコンパクトだ。
「そうだね。戻って来てくれるよ。きっと……!!!」
突如、川の方からビームが飛び、ドッゴーラ近くの木が撃ち抜かれ倒れた。サザビーのファンネルだ。
原始的な陽動だが、それ故に有効である。相手に実戦経験が少なければ尚更だ。
「か、川からの攻撃ですか?!」
「そっちじゃない! 逆だよブンちゃん!」
ブンタが慌てて川の方へ戦闘態勢を取るが、ミオがそれを否定する。攻撃の際にアムロの発した殺気を
捕らえたのだ。ブンタに比べればミオの方が実戦慣れしている。無我夢中で動いたドッゴーラは辛うじて
胴体ユニット数個を犠牲にしてサザビーの第一射を防ぎきった。撃ち抜かれた部分を素早くパージして、
胴を繋ぎ直す。ドッゴーラの大部分はコンテナユニットで形成されているので、本体さえ無事ならば組み
直して無傷状態を保てるのだ。ファンネルが川の方から水中への逃亡を牽制している為、ドッゴーラは
浮き上がり戦闘態勢を取り直す。
「くっ、気付かれたか。だが!」
サザビーが素早く間合いを詰める。その速さはドッゴーラが浮き上るまでに更に数個の胴体ユニットを
撃ち抜いていた。アムロは正確にドッゴーラ本体を狙うが、ブンタも胴体を盾に防ぎきる。そんな胴体の
一部にボスボロットがしがみ付いていた。
「ミオさん! なんで隠れないんですか?!」
「だ、だっていきなりで!」
「くっ、今度は上手く逃げてくださいよ!」
ミオを背後に隠しつつ、ブンタは撃ち抜かれたユニットをサザビー目掛けパージする。質量的に当たれば
タダではすまない。当たればの話だ。
「そんな物に当たってたまるか!」
当然のようにサザビーはパージされたユニットを回避する。反撃は仕掛けない。ドッゴーラが手にした
如意宝珠型ビーム砲を放つが、アムロには余裕を持って避けられている。狙っても当たりそうにない。
169 :
戦う力VS闘う力:2006/02/03(金) 11:23:04 ID:kgETTu57
(あの胴体をいくら撃ってもエネルギーの無駄か。ならば…)
振り回されるドッゴーラの尻尾を掻い潜る。飛んでいると言っても数十m。サザビーなら瞬間的に接近で
きる範囲だ。しかしアムロの視界は突然の大雨に奪われた。回避したはずの尻尾が川を打ち、大量の水を
巻き上げたのだ。
「ドッゴーラにはこういう使い方もあるんですよ!」
水のカーテンに隠れた一瞬に、無傷の胴体ユニットを多数パージしてバラ撒く。狙って当たらないのなら
数撃ちゃ当たると言いたげな攻撃だった。並みのパイロットならば当たっただろうが、相手が悪かった。
「この程度の子供だまし! そう簡単に当たると思っているのか!」
子供だましとはいうが、視界の効かない中、飛来する質量攻撃を回避するのは普通困難だ。
「ミオさん、生き延びてくださいよ」
ブンタは祈る。アムロに気付かれない事を。今の攻撃でバラ巻いたユニットの一部と共にボスボロットを
地上へ打ち出したのだ。地上に多数のユニットが落ちていれば、そこの影に隠れることは容易だろう。
(ブンちゃん……)
破棄されたユニットの影からボスボロットが二機の戦闘を見守っていた。ボスボロットは飛べず、武器も
なく、サザビーと比べて勝っている所といえば単純な腕力くらいだろう。役に立てないのならば、せめて
ブンタの心意気に答えられるように、ミオは隠れる事にした。ふと思いついた、ちょっとした小細工をして。
(マシュマーさん助けて。ブライガーでも良いからブンちゃんを助けて)
現れるはずもないヒーローの登場を願って、狼マークのマニュアルをギュッと握り締めた。
(後は上手くボスボロットから引き離してから、上空へ逃げれれば良いんですが……)
執拗にサザビーは牽制してくる為、ドッゴーラが容易に上空へ逃れる事は出来なかった。胴体を盾にして
逃げ回るのもそろそろ限界だ。牽制にビームを撃ち返すが事前に分かっているかの様に回避されてしまう。
(そろそろ頃合だな。これで決める!)
しばらく攻撃に参加してなかったファンネルが上空から襲い掛かった。それはサザビーの執拗な牽制に
注意を奪われていたブンタの虚を突いた。
「うわぁぁぁぁ!!」
ファンネルに背面から強襲されてパニックを起こしたブンタの眼前を次の瞬間、ビームが捉えた。
「ブンちゃんっ!!」
上空で四散したドッゴーラにミオが思わず声を上げる。爆発は思いのほか小さく、まるで花火のように
散って、跡には何も残らなかった。今にも叫びそうになる心をミオは無理矢理に落ち着かせる。
(マシュマーさん。ブンちゃん。私、守られてばっかりだね。泣いていないで生きなきゃ駄目だよね。
やれる事やらなきゃ、やって生きなきゃ。私、泣かないからね。生きるから、見ててよブンちゃん)
自分に必死で言い聞かせる。一応、有段である合気道の心得が多少は役に立ったのだろうか。それとも
精霊の声を聞く修行の賜物か。数秒の内にミオは心を落ち着かせ、大地と同化するかのように気配を消して
いた。軽薄そうに見えて、芯はドッシリと構える大地の精霊に選ばれし者である。その目は怯える小動物の
ものではなく、確固たる意思を宿していた。
ドッゴーラを撃墜したアムロはパージされた無数のコンテナユニットの残骸の間を捜索していた。
すぐに移動するつもりだったが、何かが引っかかった。油断して背中から撃たれては堪らない。
(変だな…戦闘中もう一つ、気配を感じたような気がしたんだが…)
追跡中に感じた微妙な気配は戦闘中にも感じ取れた。おそらく、あの場には二人の参加者がいたはずだ。
しかし元々小さかった気配は戦闘の途中からフッと消えてしまったのだ。
(二人乗りの機体だったのか? それとももう一機いたのか?)
とりあえず近くに気配は感じられなかった。サザビーのセンサーは戦闘の影響で、何も捉える事が
出来ていない。残骸に残った熱反応などを拾うだけだ。ブンタの残した最後の抵抗だった。
(気配は感じられない。もう一機がいたと仮定して、姿を見られた上で戦線を離脱されたと考えておく方が
良さそうだな。考えすぎだとは思うが…)
ようやくサザビーは構えた銃を降ろし、ファンネルを戻した。大型MAを想定通りに短時間に撃破したと
いうのに釈然としない。東方不敗に出会ってから、どれだけ用心しても安心できないのだ。
(見つからないのなら長居は無用だ。戦闘を嗅ぎつけて別の参加者が来ないとも限らない……ん?)
立ち去ろうとするアムロが感じた違和感。警戒態勢を取ると、センサーを最大にして周囲の音を拾う。
―――…ザ…ザザ…れもわ…ザザ…しだ…ザザ……ザ――
「なんだ。声、いや通信機か?! ……そこだ!!」
飛び退きつつサザビーの放ったビームで残骸の一部が吹き飛ぶ。何も出てこない事を確認しつつ、警戒し
ながら残骸を調べに接近する。そこにはユニットの残骸と壊れたダイヤル式TVが転がっていた。
「……なんだ、さっきのMAの残骸、通信機か何かか。そうだよな、考えすぎだな」
緊張が和らぎ、ホッと一息吐く。自分が気配を感じないのだから敵はいない。ここで信じられるものは
自分の感覚しかないんだと、再度自分へ言い聞かせる。
(とにかく結構エネルギーを消費した。早急に補給して次に備えよう……)
警戒を解いて立ち去ろうとした瞬間、背後の残骸が音もなく動き、サザビーを背後から捕らえた。
このゲームが始まって以来、アムロはニュータイプとしての感覚に頼りすぎたのだろうか。破棄された
ユニットに隠れて残骸のふりをするボスボロットを一度は視界に入れながらも、ミオの気配を捉えられ
なかったからか、通り過ぎてしまったのだ。元々ガラクタから作られたボスボロットを予備知識無しで
残骸の中から見つけろ、というのは例えニュータイプでも少々酷かもしれない。
(なんだ?! 残骸に引っかかった?! いや違う、これは!!)
アムロを襲った突然の混乱。ファンネルを出すが狙いを定めるよりも早く、サザビーの巨体は軽々と宙に
浮き、天地が逆転した。サザビーは綺麗な弧を描き、高速で頭部から背後の残骸へと叩きつけられたのだ。
人呼んで明日へ架ける人間橋、レスリング界の芸術品、ジャーマン・スープレックスである。
ボスボロットはサザビーの半分以下だが、一応殴り合う闘いを想定したスーパー・ロボットの端くれで
あり、パワーだけならばマジンガーZと同等。出力の大半をスラスターや武装に割き、マニュピレーターと
しての腕しか持たないMSとは根本的に造りが違う。
(な、何が起こった…んだ?! まさか…まだMAが生きていたのか)
逆さまに突き刺さったサザビー。頭部は完全に潰されていたが、その下の球形コクピットは健在だった。
しかし一瞬にして上下を返し襲ったかつてない攻撃は、アムロの意識を数秒混濁させるのに十分だった。
(ララァ?! まだ僕はキミの所へは……)
コントロールを失った巨体がドサリと仰向けに倒れこむ。カメラとセンサーを失い、ファンネルを動かそうと
しても意識が定まらない。右手がライフルを求め彷徨うが投げ叩きつけられた衝撃で取り落としたようだ。
「ボロットパンーチ!!!!」
ボスボロットの腰の入った下突きが、サザビーの球形コクピットを一撃の下に叩き潰した。
「スペシャルボロットパンチ! スペシャルDXボロットパンチ! パンチ! パンチ! パンチ!」
感情を抑えきれなくなったのか、ミオはサザビーのコクピットが完全に平たくなるまで殴り続けた。
その隙間から流れ出る赤い液体を目にして、やっと拳を止め、その場にへたり込んだ。
(ブンちゃん、ごめんね。私、隠れてられなかったよ。でも生きるから。絶対、生きる残るから)
しばらく後、涙を堪えて立ち上がるとサザビーのライフルを拾い上げる。使えるかどうかは分からないが、
その大きさから殴打武器としても使えると思ったのだ。それは理不尽な殺戮者に対する徹底抗戦への
意思表示でもあった。
(ブンちゃんとの約束どおり、お昼までマシュマーさんを待とう。それからは………)
ふと足元を見ると主を失ったファンネルが転がっていた。それをボスボロットは無造作に踏み砕いた。
「私、約束破ってばかりだね……」
泣かないと約束したばかりなのに、涙が溢れて止まらなかった。
【アムロ・レイ 搭乗機体:サザビー(機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)
機体状態:頭部完全破損、コクピット粉砕、ファンネル全滅、ヒートホークあり
パイロット状態:死亡 】
【ハヤミブンタ 支給機体:ドッゴーラ(Vガンダム)
機体状況:本体部大破(粉々)、無数のコンテナユニットがB-5に散らばっている。
パイロット状態:死亡】
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:B-5
第一行動方針:正午まで仲間を待つ
第二行動方針:仲間を捜しに移動する
最終行動方針:主催者を打倒する
備考1:ブライガーのマニュアルを所持(軽く目を通した)
備考2:サザビーのビームショットライフルを入手(エネルギー残少)
備考3:居住空間のTVを失った】
【時刻:二日目:11:15】
>171の9行目から11行目について一部修正致します。
修正前:
ボスボロットはサザビーの半分以下だが、一応殴り合う闘いを想定したスーパー・ロボットの端くれで
あり、パワーだけならばマジンガーZと同等。出力の大半をスラスターや武装に割き、マニュピレーターと
しての腕しか持たないMSとは根本的に造りが違う。
修正後:
ボスボロットはサザビーと比べて小さく、半分程の大きさしかない。しかしこれでも直接殴り合う闘いを
想定したスーパーロボットの端くれであり、単純なパワーだけを見ればマジンガーZと同等である。出力の
大半をスラスターや武装に割き、マニュピレーターとしての腕しか持たないMSとは根本的に造りが違う。
174 :
誓い:2006/02/07(火) 22:35:57 ID:5EyVuNqb
「はやく…!町はまだなの?」
「もうすぐ、もうモニターに見えるはず…いや、見えた!」
「急ぎましょう!」
ここはB-1。そして…3機の機動兵器が地に降りる。
グランゾン、レイズナー(強化型)。抱きかかえられたテムジン。
そう、あの三人だ。
「病院はこっちです!」
プレシアが端にある病院を指差した。
「まってください!チーフさんを出そうにもハッチをどうするんですか!?」
「あんまり機体を壊したくはないけど…すいません!」
グランゾンがつかんでいたコクピットハッチを強引に剥ぎ取る。
「二人いっぺんに運ぶのは無理です!僕がまずチーフさんを運びますんでそちらは中で薬を探してください!」
2人とも急いでいるせいか、声は語尾が強くなっているが、行動は迅速だった。
15分後…
「ふう…」
マサキが一息つく。
「すいません、探したんですけど…薬がなくて水で冷やすくらいしか…」
「いや、全身の軽い火傷だけだったみたいだし、多分もう大丈夫だろう。顔色もそんなに悪くなさそうですし」
目の前のベッドでチーフが寝ている。呼吸も荒くないし、ただ寝てるようにすら見える。
「じゃあ僕は美久を下ろして別のベッドに寝かせてきますから。」
「あ、私も手伝います。」
「いや、君はここにいてくれ。もし彼の容態が変わったとき、すぐに見られる人がいないと危ない。今彼を助けられるのは君だけなんだ」
ついていこうとするプレシアに誘導を交え操作するマサキ。そう、彼がこれからしようとすることに人がついてこられると不味いからだ。
「それじゃ、頼むね」
そう言い残し、マサキは病室から出て行った。
(さて、ここにあるものを把握するためにまず管理センターに行って…あとはあの病室が見つかれば…ククク)
そう言って病院内を歩くマサキ。広いとはいえ、大体どこに重要な施設をおくかは簡単だ。今いるのはベッドのある入院棟。おそらくこの階の中心近くにあるはずだ。
プレシアの病室から距離をとったマサキは、探すために、病院を静かに走り始めた。
175 :
誓い:2006/02/07(火) 22:36:36 ID:5EyVuNqb
中心に向け走るマサキ。
「あった…!」
案の定どこの病室からもほぼ同じの距離にある中心に管理センターがあった。その周りを探せば、もうひとつの探し物もすぐに見つかった。
集中治療室。そうプレートの張られたドアに入る。集中管理型の空調設備、機能付のベッド。さまざまな機材…
しかし、それらにひとつも目をくれず、あることを確認したマサキ。
「ここで、よし。あとは」
今度は管理センターに入り、周囲を見回す。
「ちっ…」
明らかに荒らされた形跡がある。おそらくはプレシアが薬を探す際同じ考えにいたっていたからだろう。
戸棚などをあけ、薬を探すが、プレシアの言ったとおり、一切薬がない。ご丁寧なことに薬のビンやパックはあるが、すべて中身が空といった始末。
「わざわざ中身を全て抜いて配置するとはやってくれるじゃないか…!」
忌々しげにマサキが呟く。なんとなく取ったコップで備え付けの台所に行き、水を一杯飲む。
よく冷えた水が心地いい。頭もそれに伴って冷えてゆく。
ないものは仕方がない。考え方の方向を変えるとしよう。
「簡単な薬を調合して処分しようとは思っていたが、薬が無いようではどうしようもないな」
椅子に背をもたれさせ、足を組み考えるマサキ。
「やはり後ろから絞殺するか?いや…あれは心身虚脱で状況把握ができない状態だからできたことだ。
最悪もしもクズが見かけに反してそれなりの鉄火場を経験していたり、武術に強い覚えがあった場合危険だな」
殺されるにいたるとは思えないが、逃げられるのもまずい。確実に殺す方法を考えねば…
手持ちのカードを一枚ずつ吟味するが、やはり思いつかない。
「しばらくはあのクズのお遊びに付き合うしかないか」
そう割り切ることにした。
ヘルメットを被り、
「レイ、こちらに静かに寄せろ」
「READY」
ルリを集中治療室に運ぶため、レイズナーを静かにこちらに寄せる。
チーフがいる部屋からは死角になるはずだ。そう計算して病室を選んだのだから。
ルリを集中治療室に運ぶマサキ。
「口に血がついたまま、というのもまずいか…」
そういって、先ほど水を注いだ場所へ戻り、フキンを濡らす。
「ん?」
そのときあるものに気付いた。それは…塩素系合成洗剤。頭の計算が高速で回転する。
急いで流しの下の戸棚をあける。やはり薬などは空だが、そこには彼の求めるものがあった。
醤油やみりんに隠れ潜むもう一対の凶器。酸性洗剤である。
「ククク・・・・ハハハハッ!! ハァーッハッハッハッハッハ!!!!!」
左手のバケツに酸性洗剤を流し込み、右手には塩素系洗剤を持つ。向かうは集中治療室。
ここは、空調も徹底した管理下のためか、窓がなく、そして一人用のため狭い。
ドアのそばに中身を抜いたロッカーを運び、その後ロッカーの上部に簡単に物を詰める。
あとは2つを混ぜ、ドアを閉めて5分間放置。
「さて…終わらせるか」
「あ、遅かったですね、美久さんはどうでしたか?」
「うん、こっちももう大丈夫。さっき目を覚ましたし。…よし、こっちももう大丈夫そうだね。話してみる?」
チーフの瞳孔や心音をチェックしたマサキ。さり気に好青年を演じて話しかける。
「え?大丈夫なんですか?」
「はい。協力してくれた人にもお礼を言いたいって言ってましたし。管理センター側の集中治療室です。」
「お礼なんて…何もしてないですし…」
「いや、そう言わずに気を紛らわすためにも言ってあげてください」
「分かりました、部屋は集中治療室ですね?」
そういってプレシアは部屋を出て行った。
「さて…次はこっちだな」
とたんに顔つきが変わり、懐からメスを取り出すマサキ。それをチーフの首に突きつけ、
止めた。
176 :
誓い:2006/02/07(火) 22:37:10 ID:5EyVuNqb
(むしろ今はよりよい機体を得るよりも、解析の間などに護衛してくれるクズが必要だな…
このクズはあのガキが死んだあとのアレに乗せて利用しよう。軍人のようだから役に立つだろう)
「ククク…運がよかったな…言い訳はあとから考えるとしよう」
そう言って懐にメスを戻すと、急いでプレシアのあとを追った。
「おーい!」
さわやかに後ろからマサキがプレシアに声をかける。
「あ、マサキさん。ってチーフさん一人にしていいんですか?」
「ああ、すぐに戻るよ。新しい水を汲むついでに、もう一度管理センターで薬を探そうと思ってね。」
さりげない動作でプレシアの後ろにつくマサキ。
「そうですか。あ、集中治療室ってあそこですよね?」
そういってプレシアが指をさす。
「ああ、そうだよ。」
ドアを叩き、呼び掛けるプレシア。しかし、返事がない。
「まさか…何かあったんじゃ!?」
慌ててドアを開けて入ろうとしたとき、
「え?なにこのにお……」
突然プレシアの背中が強く蹴られた。咄嗟に体をねじり、受身を取るが、ドアは閉められた。
外からは何か重いものが倒れる音がする。
「なにするんですか!マサキさん!」
そう呼びかけるが、返事はない。
この空間は…窓がなく、真ん中ではバケツから何かが発生している。そして、奥のベッドには…
ルリに触れる。冷たい。死んですでにかなりの時間がたっている。
プレシアはすべてを知った。そう、これは―――
のどから声が干上がる。
急いでドアを開けようと試みる。しかし、まったく開かない。武術の技も単純な質量の押し合いでは無力だ。
「出して!出してください!マサキさん!」
しかし、返事はまったくなかった。
177 :
誓い:2006/02/07(火) 22:37:41 ID:5EyVuNqb
「…………!」
ドアを叩く音と、なにかよく分からない戯言が聞こえてくるが、マサキは無視した。
プレシアをガス室に放り込み、ロッカーの下部を蹴って倒す。あとは隙間がないようにロッカーをドアに押し、その上に自分が乗る。全て合わせて20秒にも満たなかった。
致死にいたる5分間。マサキは実に平穏だった。
窓をゆっくりとあけ、前掛けをつけ、寝台を用意。料理が煮込むまでゆっくりと…
(これが終わったら、死体を出して、寝台に乗せて首の切断。その後、外に落し、レイで踏ませ処分する…
30分で終わるな)
そんなことを考えていた間に、時間は経った。
ロッカーをずらし、マサキは鍋の蓋をずらすようにドアを開けた……
「う…」
チーフはゆっくりと体を起こす。
「俺は…水中で…」
それからの記憶がない。どうやら気を失っていたようだ。
周りを見回す。おそらく病院の類い。外には、自分の機体と、プレシアの乗っていた機体。
あのあと気絶した自分をプレシアがここまで運んだ、ということなのだろうか?
ベッドからおり、部屋の外に出る。やはりここは病院のようだ。
ど周りをある程度警戒しつつ、病院を回る。
もしものことを考えて声は出さず足音をしのばせ行動する。この警戒力と行動判断こそが彼が戦場で生き残ってきた証だ。
「む……?」
妙なにおいがするような気がする。
ヘルメットを脱いで確認すると、それははっきり感じられた。
「これは刺激臭といったものだな。病院であることを考えればそうおかしくないが、先ほどのところではしなかった。この奥で発生しているのか?」
冷静に判断するチーフ。
「まて、外にはも一機あった。まさかこれだけ探しても見つからないのは、このガスで倒れたためか?」
すでに倒れるほどではないが、発生当時のときは分からない。ましては子供。よく分からず薬を混ぜ合わせた場合このような状態になることは考えられる。
「…まずいな。救助活動を優先する」
そういってヘルメットを被りなおし、チーフはにおいのもとへと走り出した。
「誰かいないのか?返事をしろ!」
そういいながら病院を回るチーフ。当然それは…
「む?予定より早いな…ち、死体を速く処理せねば…」
首を切り落とし、手に入れた2つの首輪をフキンで拭いていたマサキ。
足元にはうつろな目をした2人の少女の首が転がっている。
そうして、死体の首を持ち上げたとき…
「な…」
(馬鹿な、足音はしなかったぞ!?)
マサキが動揺する。チーフは戦場を歩く癖で、足音を立てないようにしていたため、近づくのに気付かなかったのだ。
178 :
誓い:2006/02/07(火) 22:38:14 ID:5EyVuNqb
「貴様…!なんてことを!」
チーフが手を震わせ、怒りの声を上げる。確かに首を見たとき、胃から酸っぱい物が込み上げていた。
しかし、すぐにそれはそれを凌駕する怒りによってかき消された。
「ちぃっ!」
マサキがルリの首を投げた
チーフはそれをかわし、下に落ちていたモップ――先ほど出したロッカーの中身の――を蹴り上げて掴み、かわしざまにマサキに投げつける。
「あの娘が何をしようとしていたかお前は知っていたのか!?」
お互いが物影に走りこむ。
「あぁ、知っていたとも、理想論を振りかざして息巻いていただけだろう!」
突然チーフの頭上が輝いた。落ちてくるメスやフォークといった金属の刃。血がついたのもあればきれいなものもある。
「例えどんな理想論だろうと!それを踏みにじる権利がお前のどこにある!」
モップの一本をつかみ、一気に走る。そしてマサキの潜む寝台に一息で駆け上がり、モップを振り上げた。
「助けたかったんだろう!?なら俺によこした首輪が解析されれば戦うクズを救う分にはなるだろう!」
寝台を両手で押しひっくり返す。足をかけていたチーフが姿勢を崩す。
マサキは管理ホールから出る方向を向き、
「木原マサキ、お前だけは逃がさん!」
持ったモップをマサキ足元に向けて振るう。
バックステップを踏み、それをかわす。結局に行ってしまったマサキは、ロッカーを開けその扉を簡易の盾にする。
「ふん、話がわかると思ったらとんだクズが。もう話すことはない」
「それはこっちの台詞だ…!」
モップを槍の様に構え、ロッカーの扉に突撃する。おそらく衝撃から、マサキも姿勢を崩すはずだったが…
正樹は一歩下がっており、勢いよく扉が閉まるだけだった。そして難を逃れたマサキがメスをチーフに投げつける。
「ぐっ…!おおおおおおお!!」
肩にメスが突き刺さる。しかし、そのまま勢いを変えず、チーフが迫る。
みぞおちにモップの柄が食い込み、マサキが倒れる。そして倒れたマサキにモップを振り落とそうとするも、
ふらつきながらも崩れた低い姿勢のままマサキがチーフの足へとタックルした。
思わずもつれ込む2人。こうなれば上に乗っているほうが姿勢を立て直すには有利だ。
すぐに起き上がり、マサキは管理センターの出口に向かう。
チーフもすぐに起き上がるが、
「そら!あのクズがそれだけ大事なら受け取るんだな!」
マサキがバケツを蹴る。その中に入っていたのは………血
真っ赤な鮮血がチーフのヘルメットの視線を塞ぐ。急いでヘルメットを脱ぐが、もうマサキは管理センターの外へ出ていた。
「言ったはずだ!絶対に逃がさん!」
チーフは管理センターの受付の窓に、何の躊躇もせずに飛び込んだ。
ガラスが飛び散り、いくつかがチーフの体を傷つける。そのおかげでマサキのすぐ後ろに出ることが出来た。
マサキがまたメスを投げる。今度は右足に突き刺さるが、決してチーフは止まらない。
足からメスを抜き、全力でマサキを追う。
しばらくは追いかけっこが続いた。
しかし、突然マサキが止まり、後ろを振り向いた。
流石のチーフも決して最低限の冷静さを失っていなかったためか、振り返った時点で走るのをぴたりとやめた。
「どういうつもりだ?」
「それは……こういうことだ!」
壁が崩れた。そしてそこから巨大な腕が現れる
「いかん!」
咄嗟に後ろに飛んだため、ギリギリ交わすことが出来た。
「残念だがここまでだ!心おとなしく死ね!」
手に乗り、コクピットへ運ばれていくマサキが叫んだ。
チーフもすぐに意味を察し、後ろに全力で走る。
近くの部屋に飛び込み、部屋で厚い敷布団を体に巻きつけた瞬間――
轟音を立て、病院が崩れだした。何階かはわからないが、窓から見たとき、そこそこ高かった。
足元に落ちていく感覚。何度も色々なとこに体をぶつけ、もう視界がどちらが上かもわからない。
(一気に落ちるほうが危険だ…衝撃が分散している以上、まだ…)
179 :
誓い:2006/02/07(火) 22:38:48 ID:5EyVuNqb
衝撃がやむ。巻きつけた布団を払い、周りを見回すと――瓦礫の間からレイズナーが見えた。しかも足からミサイルをこちらに向けており、
「このままではまずい。どこかやり過ごさねば…」
周りを見回すと、よく屋上などに設置されている、蓋が吹き飛んだ浄化水槽が横倒しになっていた。あそこに飛び込むしかない。
飛び込むのとミサイルが爆発するのはほぼ同じだった。
まだ水が半分程度は入っている浄化水槽の中で爆音が反響し、耳がたわみ、荒れ狂う水により息が告げなくなり、感覚が失われていく。
(今意識を失うわけにはいかん、耐えろ、耐えるんだ…!)
「ふん、やっと死んだか」
マサキが苦々しげにつぶやく。
「さっきの音を聞いてクズが集まるのもまずい。幸い首輪は回収した。後は…これを処分して立ち去るとするか。」
2発のカーフミサイルをグランゾンとテムジンに向け、発射。
「一機ノ破壊ヲ確認」
「なに?一機だけだと?」
煙が晴れると、ボロボロだったテムジンは砕けていたが、グランゾンは無傷だった。
「仕方ない、急がねばならん以上これ以上はこれ以上待ってられん。レイ、急いでこの場を離れるんだ。」
「READY」
そうしてレイズナーは離れていった。
「いッたか…」
浄化水槽から重い体を引きずり出すチーフ。15分ほど休むと、感覚が戻り、大分いつも通りに動けるようになった。
どうやら浄化槽は一山高いところにあり、周りが見渡せた。
「テムジン…すまん」
自分の愛機に対し敬礼しながらチーフがつぶやく。
「かならずお前ら仇は取る!」
そう言ってグランゾンまで走り、グランゾンに乗り込んだ。
プレシアのサックから治療キットを取り出し、治療しながら解説書を読む。
グランゾンがテムジンと崩れた病院の方を向く。
これからマサキに追いつけるかはわからない。どうなるかもわからない。会ったとしてもまた裏切られるかもしれない。だが、
「かならず木原マサキを倒し…この機体でできる限りの人命救助を心がけると誓おう」
そうもう一度敬礼しながらチーフは誓った。
グランゾンの瞳に力が宿る。
そして、正義の巨神が立ち上がった。
180 :
誓い:2006/02/07(火) 22:39:23 ID:5EyVuNqb
チーフ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:全身に打撲、やや疲れ
機体状況:良好
現在位置:B-1
第一行動方針:マサキを倒す
第二行動方針:助けられる人は助ける
最終行動方針:ゲームからの脱出】
木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:B-2
第1行動方針: 首輪の解析
第二行動方針:使えるクズを集める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【プレシア=ゼノキサス
パイロット状況:死亡
181 :
誓い:2006/02/08(水) 17:36:36 ID:akQYLhuD
「はやく…!町はまだなの?」
「もうすぐ、もうモニターに見えるはず…いや、見えた!」
「急ぎましょう!」
ここはB-1。そして…3機の機動兵器が地に降りる。
グランゾン、レイズナー(強化型)。抱きかかえられたテムジン。
そう、あの三人だ。
「病院はこっちです!」
プレシアが端にある病院を指差した。
「まってください!チーフさんを出そうにもハッチをどうするんですか!?」
「あんまり機体を壊したくはないけど…すいません!」
グランゾンがつかんでいたコクピットハッチを強引に剥ぎ取る。
「二人いっぺんに運ぶのは無理です!僕がまずチーフさんを運びますんでそちらは中で薬を探してください!」
2人とも急いでいるせいか、声は語尾が強くなっているが、行動は迅速だった。
15分後…
「ふう…」
マサキが一息つく。
「すいません、探したんですけど…薬がなくて水で冷やすくらいしか…」
「いや、全身の軽い火傷だけだったみたいだし、多分もう大丈夫だろう。顔色もそんなに悪くなさそうですし」
目の前のベッドでチーフが寝ている。呼吸も荒くないし、ただ寝てるようにすら見える。
「じゃあ僕は美久を下ろして別のベッドに寝かせてきますから。」
「あ、私も手伝います。」
「いや、君はここにいてくれ。もし彼の容態が変わったとき、すぐに見られる人がいないと危ない。今彼を助けられるのは君だけなんだ」
ついていこうとするプレシアに誘導を交え操作するマサキ。そう、彼がこれからしようとすることに人がついてこられると不味いからだ。
「それじゃ、頼むね」
そう言い残し、マサキは病室から出て行った。
(さて、ここにあるものを把握するためにまず管理センターに行って…あとはあの病室が見つかれば…ククク)
そう言って病院内を歩くマサキ。広いとはいえ、大体どこに重要な施設をおくかは簡単だ。今いるのはベッドのある入院棟。おそらくこの階の中心近くにあるはずだ。
プレシアの病室から距離をとったマサキは、探すために、病院を静かに走り始めた。
中心に向け走るマサキ。
「あった…!」
案の定どこの病室からもほぼ同じの距離にある中心に管理センターがあった。その周りを探せば、もうひとつの探し物もすぐに見つかった。
集中治療室。そうプレートの張られたドアに入る。集中管理型の空調設備、機能付のベッド。さまざまな機材…
しかし、それらにひとつも目をくれず、あることを確認したマサキ。
182 :
誓い:2006/02/08(水) 17:37:33 ID:akQYLhuD
「ここで、よし。あとは」
今度は管理センターに入り、周囲を見回す。
「ちっ…」
明らかに荒らされた形跡がある。おそらくはプレシアが薬を探す際同じ考えにいたっていたからだろう。
戸棚などをあけ、薬を探すが、プレシアの言ったとおり、一切薬がない。ご丁寧なことに薬のビンやパックはあるが、すべて中身が空といった始末。
「わざわざ中身を全て抜いて配置するとはやってくれるじゃないか…!」
忌々しげにマサキが呟く。なんとなく取ったコップで備え付けの台所に行き、水を一杯飲む。
よく冷えた水が心地いい。頭もそれに伴って冷えてゆく。
ないものは仕方がない。考え方の方向を変えるとしよう。
「簡単な薬を調合して処分しようとは思っていたが、薬が無いようではどうしようもないな」
椅子に背をもたれさせ、足を組み考えるマサキ。
「やはり後ろから絞殺するか?いや…あれは心身虚脱で状況把握ができない状態だからできたことだ。
最悪もしもクズが見かけに反してそれなりの鉄火場を経験していたり、武術に強い覚えがあった場合危険だな」
殺されるにいたるとは思えないが、逃げられるのもまずい。確実に殺す方法を考えねば…
手持ちのカードを一枚ずつ吟味するが、やはり思いつかない。
「しばらくはあのクズのお遊びに付き合うしかないか」
そう割り切ることにした。
ヘルメットを被り、
「レイ、こちらに静かに寄せろ」
「READY」
ルリを集中治療室に運ぶため、レイズナーを静かにこちらに寄せる。
チーフがいる部屋からは死角になるはずだ。そう計算して病室を選んだのだから。
ルリを集中治療室に運ぶマサキ。
「口に血がついたまま、というのもまずいか…」
そういって、先ほど水を注いだ場所へ戻り、フキンを濡らす。
「ん?」
そのときあるものに気付いた。それは…塩素系合成洗剤。頭の計算が高速で回転する。
急いで流しの下の戸棚をあける。やはり薬などは空だが、そこには彼の求めるものがあった。
醤油やみりんに隠れ潜むもう一対の凶器。酸性洗剤である。
「ククク・・・・ハハハハッ!! ハァーッハッハッハッハッハ!!!!!」
左手のバケツに酸性洗剤を流し込み、右手には塩素系洗剤を持つ。向かうは集中治療室。
ここは、空調も徹底した管理下のためか、窓がなく、そして一人用のため狭い。
ドアのそばに中身を抜いたロッカーを運び、その後ロッカーの上部に簡単に物を詰める。
あとは2つを混ぜ、ドアを閉めて5分間放置。
「さて…終わらせるか」
「あ、遅かったですね、美久さんはどうでしたか?」
「うん、こっちももう大丈夫。さっき目を覚ましたし。…よし、こっちももう大丈夫そうだね。話してみる?」
チーフの瞳孔や心音をチェックしたマサキ。さり気に好青年を演じて話しかける。
「え?大丈夫なんですか?」
「はい。協力してくれた人にもお礼を言いたいって言ってましたし。管理センター側の集中治療室です。」
「お礼なんて…何もしてないですし…」
「いや、そう言わずに気を紛らわすためにも行ってあげてください」
「分かりました、部屋は集中治療室ですね?」
そういってプレシアは部屋を出て行った。
「さて…次はこっちだな」
とたんに顔つきが変わり、懐からメスを取り出すマサキ。それをチーフの首に突きつけ、
止めた。
(むしろ今はよりよい機体を得るよりも、解析の間などに護衛してくれるクズが必要だな…
このクズはあのガキが死んだあとのアレに乗せて利用しよう。軍人のようだから役に立つだろう)
「ククク…運がよかったな…言い訳はあとから考えるとしよう」
そう言って懐にメスを戻すと、急いでプレシアのあとを追った。
183 :
誓い:2006/02/08(水) 17:38:13 ID:akQYLhuD
「おーい!」
さわやかに後ろからマサキがプレシアに声をかける。
「あ、マサキさん。ってチーフさん一人にしていいんですか?」
「ああ、すぐに戻るよ。新しい水を汲むついでに、もう一度管理センターで薬を探そうと思ってね。」
さりげない動作でプレシアの後ろにつくマサキ。
「そうですか。あ、集中治療室ってあそこですよね?」
そういってプレシアが指をさす。
「ああ、そうだよ。」
ドアを叩き、呼び掛けるプレシア。しかし、返事がない。
「まさか…何かあったんじゃ!?」
慌ててドアを開けて入ろうとしたとき、
「え?なにこのにお……」
突然プレシアの背中が強く蹴られた。咄嗟に体をねじり、受身を取るが、ドアは閉められた。
外からは何か重いものが倒れる音がする。
「なにするんですか!マサキさん!」
そう呼びかけるが、返事はない。
この空間は…窓がなく、真ん中ではバケツから何かが発生している。そして、奥のベッドには…
ルリに触れる。冷たい。死んですでにかなりの時間がたっている。
プレシアはすべてを知った。そう、これは―――
のどから声が干上がる。
急いでドアを開けようと試みる。しかし、まったく開かない。武術の技も単純な質量の押し合いでは無力だ。
「出して!出してください!マサキさん!」
返事はまったくなかった。
「どうしてこんなことするんですか!?答えてください!マサキさん!」
おそらく開けられない。開ける気がない。そうだともう知っていた。あきらめきれない。
強くドアを叩き、呼びかける。それでやはり無反応。ノブは回るが、ドアはびくともしない。
かじりつくようにドアノブをいじり続ける。
次第に涙が出て生きた。これは…裏切られたことに対する悲しみだろうか?それともこの毒のせいだろうか?
嗚咽が漏れる。しかし、その声を出すのどを少しずつ焼けついていく。
……彼女が死に足るまでの5分間。それは彼女からすれば何日にも相当する地獄だった。
目の前がくらみだす。もうドアノブまでの距離感がよく分からない。もう握ることもできない。
それでも彼女は扉を掻く。もう考えることも怪しく、意識が白む。
扉を掻く。ついに、爪がはがれ、血が出た。それでも書き続ける。
ガリガリガリガリガリガリ……
(爪 痛い 生きたい おにいちゃ)
腰、足から力が抜け、立つことができなくなる。
息をすることがつらい。いつまで続くんだろう?
痛みが消えた。意識が白一色になった。爪が痛い。息ができない。体が動かない。
自分もあの子のようにな る の
もうだめかんがえられない
きがとおいめがしろ
184 :
誓い:2006/02/08(水) 17:38:48 ID:akQYLhuD
「…………!……!」
ドアを叩く音と、なにかよく分からない戯言が聞こえてくるが、マサキは無視した。
プレシアをガス室に放り込み、ロッカーの下部を蹴って倒す。あとは隙間がないようにロッカーをドアに押し、その上に自分が乗る。全て合わせて20秒にも満たなかった。
致死にいたる5分間。マサキは実に平穏だった。
窓をゆっくりとあけ、前掛けをつけ、寝台を用意。料理が煮込むまでゆっくりと…
(これが終わったら、死体を出して、寝台に乗せて首の切断。その後、外に落とし、レイで踏ませ処分する…
30分で終わるな)
そんなことを考えていた間に、時間は経った。
ロッカーをずらし、マサキは鍋の蓋をずらすようにドアを開けた……
「う…」
チーフはゆっくりと体を起こす。
「俺は…水中で…」
それからの記憶がない。どうやら気を失っていたようだ。
周りを見回す。おそらく病院の類。外には、自分の機体と、プレシアの乗っていた機体。
あのあと気絶した自分をプレシアがここまで運んだ、ということなのだろうか?
ベッドからおり、部屋の外に出る。やはりここは病院のようだ。
ある程度周りをある程度警戒しつつ、病院を回る。
もしものことを考えて声は出さず足音をしのばせ行動する。この警戒力と行動判断こそが彼が戦場で生き残ってきた証だ。
「む……?」
妙なにおいがするような気がする。
ヘルメットを脱いで確認すると、それははっきり感じられた。
「これは刺激臭といったものだな。病院であることを考えればそうおかしくないが、先ほどのところではしなかった。この奥で発生しているのか?」
冷静に判断するチーフ。
「まて、外にはもう一機あった。まさかこれだけ探しても見つからないのは、このガスで倒れたためか?」
すでに倒れるほどではないが、発生当時のときは分からない。ましては子供。よく分からず薬を混ぜ合わせた場合このような状態になることは考えられる。
「…まずいな。救助活動を優先する」
そういってヘルメットを被りなおし、チーフはにおいのもとへと走り出した。
「誰かいないのか?返事をしろ!」
そういいながら病院を回るチーフ。当然それは…
「む?予定より早いな…ち、死体を速く処理せねば…」
マサキにも聞こえていた。
首を切り落とし、手に入れた2つの首輪をフキンで拭いていたマサキ。
足元にはうつろな目をした2人の少女の首が転がっている。
そうして、死体の首を持ち上げたとき…
「な…」
(馬鹿な、足音はしなかったぞ!?)
マサキが動揺する。チーフは戦場を歩く癖で、足音を立てないようにしていたため、近づくのに気付かなかったのだ。
「貴様…!なんてことを!」
チーフが手を震わせ、怒りの声を上げる。確かに首を見たとき、胃から酸っぱい物が込み上げていた。
しかし、すぐにそれはそれを凌駕する怒りによってかき消された。
「ちぃっ!」
マサキがルリの首を投げた。
チーフはそれをかわし、下に落ちていたモップ――先ほど出したロッカーの中身の――を蹴り上げて掴み、かわしざまにマサキに投げつける。
「あの娘が何をしようとしていたかお前は知っていたのか!?」
お互いが物影に走りこむ。
185 :
誓い:2006/02/08(水) 17:39:28 ID:akQYLhuD
「あぁ、知っていたとも、理想論を振りかざして息巻いていただけだろう!」
突然チーフの頭上が輝いた。落ちてくるメスやフォークといった金属の刃。血がついたのもあればきれいなものもある。
「例えどんな理想論だろうと!それを踏みにじる権利がお前のどこにある!」
モップの一本をつかみ、一気に走る。そしてマサキの潜む寝台に一息で駆け上がり、モップを振り上げた。
「助けたかったんだろう!?なら俺によこした首輪が解析されれば戦うクズを救う分にはなるだろう!」
寝台を両手で押しひっくり返す。足をかけていたチーフが姿勢を崩す。
マサキは管理ホールから出る方向を向き走り出そうとするが、
「木原マサキ、お前だけは逃がさん!」
チーフがすばやく倒れた姿勢のまま、持ったモップをマサキ足元に向けて振るう。
バックステップを踏み、それをかわす。結局奥に行かざるおえなくなったマサキは、ロッカーを開けその扉を簡易の盾にする。
「ふん、話がわかると思ったらとんだクズが。もう話すことはない」
「それはこっちの台詞だ…!」
モップを槍の様に構え、ロッカーの扉に突撃する。おそらく衝撃から、マサキも姿勢を崩すはずだったが…
マサキは一歩下がっており、勢いよく扉が閉まるだけだった。そして難を逃れたマサキがメスをチーフに投げつける。
「ぐっ…!おおおおおおお!!」
肩にメスが突き刺さる。しかし、そのまま勢いを変えず、チーフが迫る。
みぞおちにモップの柄が食い込み、マサキが倒れる。そして倒れたマサキにモップを振り落とそうとするも、
ふらつきながらも崩れた低い姿勢のままマサキがチーフの足へとタックルした。
思わずもつれ込む2人。こうなれば上に乗っているほうが姿勢を立て直すには有利だ。
すぐに起き上がり、マサキは管理センターの出口に向かう。
チーフもすぐに起き上がるが、
「そら!あのクズがそれだけ大事なら受け取るんだな!」
マサキがバケツを蹴る。その中に入っていたのは………血
真っ赤な鮮血がチーフのヘルメットの視線を塞ぐ。急いでヘルメットを脱ぐが、もうマサキは管理センターの外へ出ていた。
「言ったはずだ!絶対に逃がさん!」
チーフは管理センターの受付の窓に、何の躊躇もせずに飛び込んだ。
ガラスが飛び散り、いくつかがチーフの体を傷つける。そのおかげでマサキのすぐ後ろに出ることが出来た。
マサキがまたメスを投げる。今度は右足に突き刺さるが、決してチーフは止まらない。
足からメスを抜き、全力でマサキを追う。
しばらくは追いかけっこが続いた。
しかし、突然マサキが止まり、後ろを振り向いた。
流石のチーフも決して最低限の冷静さを失っていなかったためか、振り返った時点で走るのをぴたりとやめた。
「どういうつもりだ?」
「それは……こういうことだ!」
壁が崩れた。そしてそこから巨大な腕が現れる
「いかん!」
186 :
誓い:2006/02/08(水) 17:40:09 ID:akQYLhuD
咄嗟に後ろに飛んだため、ギリギリかわすことが出来た。
「残念だがここまでだ!おとなしく死ね!」
手に乗り、コクピットへ運ばれていくマサキが叫んだ。
チーフもすぐに意味を察し、後ろに全力で走る。
近くの部屋に飛び込み、部屋で厚い敷布団を体に巻きつけた瞬間――
轟音を立て、病院が崩れだした。何階かはわからないが、窓から見たとき、そこそこ高かった。
足元に落ちていく感覚。何度も色々なとこに体をぶつけ、もう視界がどちらが上かもわからない。
(一気に落ちるほうが危険だ…衝撃が分散している以上、まだ…)
衝撃がやむ。巻きつけた布団を払い、周りを見回すと――瓦礫の間からレイズナーが見えた。しかも足からミサイルをこちらに向けており、
「このままではまずい。どこかやり過ごさねば…」
周りを見回すと、よく屋上などに設置されている、蓋が吹き飛んだ浄化水槽が横倒しになっていた。あそこに飛び込むしかない。
飛び込むのとミサイルが爆発するのはほぼ同じだった。
まだ水が半分程度は入っている浄化水槽の中で爆音が反響し、耳がたわみ、荒れ狂う水により息が告げなくなり、感覚が失われていく。
(今意識を失うわけにはいかん、耐えろ、耐えるんだ…!)
「ふん、やっと死んだか。流石にこれでは生きていまい」
マサキが苦々しげにつぶやく。
「さっきの音を聞いてクズが集まるのもまずい。確認している暇はないな。幸い首輪は回収した。後は…これを処分してさっさと立ち去るとするか。」
2発のカーフミサイルをグランゾンとテムジンに向け、発射。
「一機ノ破壊ヲ確認」
「なに?一機だけだと?」
煙が晴れると、ボロボロだったテムジンは砕けていたが、グランゾンは無傷だった。
「ちっ、仕方ない。急がねばならん以上、これ以上は待てん。レイ、急いでこの場を離れるんだ。」
「READY」
そうしてレイズナーは離れていった。
「いったか…?」
浄化水槽から重い体を引きずり出すチーフ。15分ほど休むと、感覚が戻り、大分いつも通りに動けるようになった。
どうやら浄化槽は一山高いところにあり、周りが見渡せた。
「テムジン…すまん」
自分の愛機に対し敬礼しながらチーフがつぶやく。
「かならずお前らの仇は取る!」
そう言ってグランゾンまで走り、グランゾンに乗り込んだ。
プレシアのサックから治療キットを取り出し、治療しながら解説書を読む。
グランゾンがテムジンと崩れた病院の方を向く。
これからマサキに追いつけるかはわからない。どうなるかもわからない。他の参加者に会ったとしてもまた裏切られるかもしれない。だが、
「かならず木原マサキを倒し…この機体でできる限りの人命救助を心がけると誓おう」
そうもう一度敬礼しながらチーフは誓った。
グランゾンの瞳に力が宿る。
そして、正義の巨神が立ち上がった。
187 :
誓い:2006/02/08(水) 17:41:05 ID:akQYLhuD
【チーフ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:全身に打撲、やや疲れ
機体状況:良好
現在位置:B-1
第一行動方針:マサキを倒す
第二行動方針:助けられる人は助ける
最終行動方針:ゲームからの脱出】
木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:B-2
第1行動方針: 首輪の解析
第二行動方針:使えるクズを集める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【プレシア=ゼノキサス
パイロット状況:死亡
188 :
誓い:2006/02/08(水) 18:28:13 ID:akQYLhuD
【11時30分】
「まさか本当に!振り落とされるとは思わなかった!」
照りつける太陽、焼け付くアスファルト。陽炎の立つ中を駆ける男が一人、いや一機。
アファームド・ザ・ハッターことイッシー・ハッターである。
「災難だったな。着地は成功していた様だったが、怪我(?)はないか?」
「我が友よ!落ちた事に気付いていたなら!もっと早くトレーラーを停めてくれないか?!」
自分を待っていてくれた竜馬へ軽く愚痴をこぼす。落下時、トランザーが音速程度に速度を抑えて
いた事も幸いして着地には成功した。その後、親指を立ててヒッチハイクのサインを出して待っていた
のに迎えに来てきれないので、仕方なく自分の足で走ってきたのだ。軽く数十キロはあっただろう。
「まったく!ダイエットなぞ必要ないというに!」
VRが連続ターボダッシュで軽量化に成功したという話は聞いたことがない。
「迎えに行けなかったのは悪かった。こっちにも色々あってね。あぁ、こちらはメイリン君だ」
ダイテツジンの影に隠れていた小型の機体が頭を下げた。小型と言ってもハッターより少し大きい。
レーダーに反応がなかったのでステルス系の機能を持っているのだろうとハッターは判断した。
何度か戦闘をしたのだろうか、辛うじて五体満足なようだが装甲面には痛々しい傷が残されている。
「OKボーイ!俺はイッシー・ハッター軍曹だ!共に正義の為に戦おう!」
「リオ・メイリン少尉です。これでも一応女の子です。よろしく軍曹さん」
「ソーリー、レディ!」
ハッターがビッっと敬礼をしてみせる。階級には弱いのか、その場のノリなのかは分からない。
そして思い出したかのように視線を動かすと呆れたように言う。
「ところでガールはお昼寝中なのか?車道の真ん中で眠るのはライセンス以前の問題だと思うが!」
視線の先ではダイモスが大の字になって倒れていた。取り合えず竜馬の落ち着き振りから緊急性は
無いと判断した。だが道路には戦闘痕が残っているのにダイモスに損傷は見当たらないので、
何があったのかとハッターは首を捻る。
「まあ、色々とあってな…」
「えぇ、色々とありまして…」
竜馬とリオは苦笑いしながら事の経緯を話し始めた。
ハッターが振り落とされた少し後の事。
「惣流君!ちょっ、ハッターが!」
「ハッターがどうしたってぇっ!」
「だーからー!ハッターがー!」
車道を物凄い速度で北上する巨大トレーラー。その背にはダイテツジンが必死に掴まっている。
一緒にしがみ付いていたハッターの姿はない。どうも振り落とされたらしい。竜馬が止まるよう
必死に訴えているが、音速を超えている為に外部スピーカーの声がまともに届かない。
「?! 惣流君!止まれ!ブレーキ!ブレーキ!」
「えぇー!なに?!聞こえないわよー!」
「前、前を!危なっ…!」
なぜか前方にボロボロのMSが立ち竦んでいる。アスカは目を疑った。レーダーには何も反応して
いなかったはずだ。咄嗟に急ブレーキを掛けるが間に合うはずもなく無常に突っ込んでゆく。
「へ?! きゃぁぁ!!!」
MSを跳ね飛ばすと思われた時、トランザーの右前輪に異常が発生し大きく進行方向が逸れた。
急ブレーキからドリフト、スピンに移行したトランザーはそのまま数百m進んで派手に横転した。
スピンが始まった辺りでダイテツジンは放り出されている。
放り出されたダイテツジン。横転したトランザー。今の出来事に立ち竦むMS。そして漆黒の忍者。
「ふむ、危ないところであったな」
「あ、ありがとうございます」
ガンダムデスサイズHCが自身の数分の一しかない零影に頭を下げた。
「でも…あの…向こうの人、大丈夫かな?」
自称常識人のリオは派手に引っ繰り返った二機を見て罪悪感に捕らわれた。ステルス機能で
レーダーを誤魔化し車道を歩いていた自分達が事故の原因とも思える。
「この程度で死にはすまいて。こちらも黙って轢殺されるわけにもいかんし」
さも当然と東方不敗は答えた。先程、突っ込んでくるトランザーのタイヤにマキビシランンチャーを
撃ち込んで強引に進行方向を変えたはこの人だ。
「さてゲームに乗った愚か者か、それとも話の分かる奴か!」
倒れた二機へ声を掛ける。サイズ的には不利だが流派東方不敗に逃げるという選択肢はないようだ。
東方不敗の問いへ倒れたダイテツジンから返答が響く。
「俺は流竜馬。敵意はない、話をしたい。俺達はユーゼスを倒すために仲間を捜している!」
ゲームが始まって以来三度目になる御馴染みの台詞だ。敵意のある参加者なら戦闘になるだろうし、
敵意のない相手なら仲間になれる。そして裏のある相手にはアッサリ騙される。それが流竜馬という男。
惜しむべきは転倒して突っ伏したままなので格好悪いとこか。
「え、えーとリオ・メイリン…です。私たちも戦う気はありません」
デスサイズが武器を持たぬ両手を広げて戦意のない事をアピールする。度重なる戦闘でボロボロな上に
手持ち武器も失い、戦う気がないと言うよりも戦えそうにないといった方が適切かもしれない。
リオの自己紹介にアスカは無言でダイモスを変形させて、ダイテツジンに歩み寄り引き起こした。
「あ…あっちのトレーラー、可変型特機だったんだ……って、ちょっと?!」
ダイモスは引き起こしたダイテツジンをそのまま持ち上げるとリオ達に目掛けて投げつけたのだ。
轟音を上げ飛来する質量兵器。咄嗟に竜馬が空中制御を掛けるも間に合わず、激突するかに見えた。
「ほれ、しっかり立てよ」
気の抜けるほどアッサリとした声と共に零影が触れた途端、ダイテツジンの巨体は空中で一回転
させられ綺麗に足から着地した。一番驚いたのは竜馬自身であろうか。
「?! い、一体あなたは?!」
「人呼んで東方不敗・マスターアジアとはワシのことよ!」
竜馬の問いに零影が高らかに答えた。いつの間に移動したのか、ダイモスの上から腕組みをして
見下ろしている。零影の全高は僅か4m、ダイテツジンから見ると1/9しかない小型機体である。
しかしその余りの堂々とした風格、先ほどの手際から竜馬は東方不敗をかつてない豪傑と判断した。
「人の頭の上でなにカッコ付けてんのよ!この耄碌ジジイ!」
怒鳴りながらアスカが頭上の零影を手で追い払う。零影は華麗な空中回転を披露して音もなく着地した。
腕を組んだままの威風堂々なポーズを維持したままダイモスを見上げる。
「おっと失敬。しかし娘よ、目上の者に対する礼儀がなっておらんぞ」
「うるさい!そんなチビッこい機体で偉そうにしてんじゃないわよ!踏み潰すわよ!」
「ふん。機体の大きさで強さを判断するとは、まるで幼子じゃな。そんな事ではこの先、生き残れんぞ」
「やろうっての?!そっちこそ一発でやられる雑魚の癖に!」
言うが早いか、アスカはダイモシャフトを引き抜き零影を薙ぎ払った。しかし手応えはない。
「なかなか鋭い攻撃よな。大口を叩くだけの事はある。だがその程度でワシを捉えることは出来んな」
振り抜いたダイモシャフトの先端には零影が立っている。腕を組み前斜め45度のポーズを維持したまま、
人差し指をチッチッチと振った。
「人を馬鹿にして!」
続けて繰り出しす連続打撃を零影は力量の差を見せ付けるかのように腕組みをしたまま回避している。
アスカが格闘戦に秀でているとは言え、相手は東方不敗。パイロットの技量が直に反映されるダイモスの
操縦システムが裏目に出て、手足の動きや重心移動から格闘攻撃は全て見抜かれてしまっているのだ。
「二人とも止めてください!」
「惣流君、落ち着け!」
リオと竜馬が制止を呼びかけるが、アスカは構わず攻撃を繰り出す。制止の声は攻撃が一発も当たらず
苛立つアスカを更に刺激するだけだった。
「言っとくけどね!コイツが先に撃って来たんだから!」
どうやらアスカはトランザーを横転させられた事を根に持っているらしい。確かに通常の大型車両ならば
爆発炎上していただろう。ダイモスの背面にある大型タイヤが幾つもマキビシでズタズタにされている。
いくらトランザーが二十輪とは言え、前輪部を失ったならハンドル(?)操作が出来ず使い物にならない。
加えて人前で無様に転がされた事がプライドを傷つけたようだ。前方不注意&速度違反(?)が悪いのか、
レーダーを誤魔化しながら車道の真ん中を歩いていた方が悪いのかは判断しがたい。
「ワシにも非があることは認めるが、無意味に戦い続けるのには感心せんな」
「その上から見下した態度が気に入らないのよ!アタシが一番強いんだから!」
当たらない格闘戦に業を煮やしファイブシューターを撃ち出す。ダイモスの強力な打撃でなくとも
零影には一発当たれば致命傷だ。爽快に一撃粉砕という考え方は捨てたらしい。だが回避困難な距離での
攻撃を東方不敗は回避するどころが、わざわざ分身して全弾を切り払い圧倒的な技量を見せ付けた。
「娘、いい加減にしておけ。ワシの実力が見ぬけん程、未熟ではあるまい」
「みんなに強さを認めさせるんだから!アンタなんかに負けてらんないのよ!このあたしはー!」
東方不敗が尋常でない実力者だとは分かっている。しかしアスカはそれを認めることは出来ない。
それを認めることは、自分が弱いと認めることだからだ。更なる攻撃の為、ダイモスが跳ぶ。
「食らえぇ!ファイアーブリザード!!」
掛け声と共にダイモスの胸部から高温の豪風が噴出される。本来は相手を空中へ巻き上げるのだが、
アスカは零影を地上へ押し付けるように吹き降ろした。機体のサイズ差もあって正に高温の吹雪だ。
零影は熱風から逃げる事は諦めて、地上に踏ん張ると忍者刀を風車のように回転させて直撃を防いだ。
「今更そんなものがワシに通じると思って……なに?!」
零影への熱風直撃は防いでいる。だが熱で液状化したアスファルトが零影の足を飲み込んだのだ。
最初からこれ狙っていたのかアスファルトが蒸発しない程度に温度を下げていたようだ。
「そんでもって、フリーザーストーム!!」
横薙ぎに放たれた冷凍光線を身を捻り零影は回避した。熱風と違い直撃を受ければ正拳突きを叩き込む
必要もなく致命傷だろう。豪風の止んだ隙を狙って抜け出そうとするが、今度は硬化したアスファルトが
ガッチリと零影の足を掴んでいた。
「砕け散れぇ!!烈風正拳突きぃぃぃ!!!」
上空より急降下で打ち下ろされた拳(どう見てもコークスクリューパンチ)が大地を砕いた。
「やっぱりアタシより強いやつなんて……え?!」
拳を大地から抜くと想像していた粉々になった零影はない。ハッとして振り向くと目の前に零影が
迫っていた。マキビシランチャーで硬化した足元のアスファルトを破壊し、正拳を寸前で回避したのだ。
「娘、お主の実力は認めよう。だが強さのみを拠り所とする考え方は他人だけでなく自分まで不幸とする!
そうなる前に上には上がいる事を認め、考えを改めるが良いわ!」
「何もアタシを知らない奴が偉そうに!!」
激昂したアスカが零影へ再度正拳突きを繰り出すが、当たろうはずもない。逆に懐へと入り込まれる。
「知らんな。だがお主は他人を知ろうとしたか?だから敗北から学ぶが良い!十二王方牌大車輪!!」
無数に分身した零影が繰り出す攻撃がダイモスを大地へと叩き伏せ、アスカの自信を粉々に打ち砕く。
「自分を理解して欲しければ、まず相手を理解せよ。強さを押し付けるだけでは前に進めんぞ」
東方不敗の言葉が、薄れ行くアスカの意識に届いたかどうかは分からない。
「……という出来事があったんだ」
「あったんですよ」
二人の戦いに手はおろか口も挟めなかった竜馬とリオが、簡単に状況をハッターに説明をしていた。
ハッターが確認する限り、ダイモスに目立った損傷はない。話が本当なら相当の凄腕だ。
「しばらくすれば目覚めるそうだ。まったく、あれで手加減してたとはどれだけ底知れない男なんだ」
アスカの攻撃は竜馬が想像していたより遥かに鋭いものだった。だが東方不敗は更に上を行っていた。
「それで、そのニンジャは?!」
「行っってしまった。やるべき事があるそうだ。この子達を頼むと言われたよ」
「よ、よろしくお願いします」
「OK!よろしく、少尉殿!」
周囲を警戒しつつ、三人は今までの情報交換をしながらアスカの回復を待つ事にした。
アスカは膝を抱えてパイプ椅子の上に座っていた。何故かスポットライトが当たっている。
――アタシは選ばれたの…大勢の中からアタシが選ばれたの…アタシは特別なの…だから捨てないで。
母に、誰かに自分を認めて欲しかった。だから強さを求めた。結果を出して周囲に自分を認めさせた。
――だからママ…アタシを…捨てないで…アタシを…殺さないで…
この世界で再度自分を認めさせようとした。しかし東方不敗には手も足も出ずに手加減までされた。
向こうがその気なら何度も自分を殺すチャンスはあっただろう。それでも自分の弱さを認めたくなかった。
認めたら今までの自分が全て消え去ってしまう様な気がした。
「アスカ、大丈夫?怪我はない?」
シンジの声がした。何故こんな所に要るのか、細かい事を考える余裕はアスカにはなかった。
――アンタが! アンタがアタシから全部奪った! アンタがアタシを滅茶苦茶にしたんだ!
自分以上に評価されたシンジが憎かった。それが事実だとしても認めたくなかった。
「人のせいにしないでよ。アスカはそればっかりだな」
――うるさい!アンタの初号機なんか雑魚同然だったんだから!
「乗っていたのは僕じゃないよ。それなのに結局、逃げられて他の人に倒されたじゃない」
――黙れ黙れ黙れ黙れ!アンタさえいなければ!アンタさえいなければアタシは!
「僕がいなくなれば、今度は別の人に同じ事を言うさ。例えば綾波とか」
――!!!
図星を付かれたアスカが激昂しパイプ椅子を投げつける。シンジは作り笑いを残して消えた。
背後に気配を感じてアスカが振り向くと綾波レイが立っていた。
「…………」
――何よファースト。どうせ最初から見てたんでしょ。いいザマだと思ってるんでしょ。
「…………」
――何とか言いなさいよ!人形みたいに無表情で突っ立ってるだけで!
「ごめんなさい。こういう時どんな顔をすればいいかわからないの」
――笑えばいいでしょ!笑いたいんでしょ!笑いなさいよ!無様な私を笑いなさいよ!
「…………」
何も言わずに綾波レイの姿は消えた。少し困った顔をしていたかもしれない。
――馬鹿にして!みんなでアタシを馬鹿にして!アタシは、アタシは……
誰もいない暗闇の中、アスカは泣きながら惨めな自分を笑った。
三人の情報交換の結果、お互いに捜し人の情報はなかった。だが今まで通った場所や遭遇した機体や
人物について、更に危険人物ウルベの情報を得たのは大きな収穫と言えよう。
「おっと、スリーピング・プリンセスのお目覚めだ!グッドアフタヌーン、気分はどうだい?」
「機体に損傷がないようだが、怪我はないか?」
「惣流さん、大丈夫ですか?」
三機が起き上がりかけたダイモスへ駆け寄り声を掛けた。ダイモスは怯えたように僅かに後ずさりする。
「もう東方不敗は行ってしまったよ。今回は運良く助かったが無益な戦いを仕掛けるのは…」
「ガール、相手がニンジャでは仕方がないぞ!」
「ニンジャじゃ仕方ないですよね」
ハッターとリオが頷きあう。日本人以外に対して『ニンジャ』という言葉には、どんな非常識な実力も
納得させてしまう力があるらしい。竜馬でさえ『ニンジャだから強かった』で済まそうと考えるくらいだ。
「ガール、随分と大人しいな。頭でも打ったのか?!」
「なに!怪我をしたのか!」
「大変、すぐ治療しないと!あぁ、でも薬が…」
敗北したアスカが怒鳴り散らすとでも思っていたのか、妙に大人しいアスカに三人が慌てる。
「…シを…うな…」
ダイモスが後ずさりしつつ、落ちていたダイモシャフトを拾い上げた。
「どうしたガール。ニンジャはもういないぞ。武器を構える必要など……」
「アタシを笑うなぁ―――!!」
近づこうとしたハッターへ横薙ぎのダイモシャフトが襲い掛かった。咄嗟に二本の鉄骨を盾にしたが
受け止めきれず、吹き飛ばされた。
「惣流さん、何するんですか!」
「笑うなって行ってんでしょ――!!」
怒鳴り声とファイブシューターが講義したデスサイズ目掛けて放たれる。だがそれに竜馬が割り込んだ。
「テェェェッツジィィィン、ヴァァァリアァァァァ!!!」
ダイテツジンのディストーションフィールドがファイブシューターをダイモスの足元へ跳ね返す。
「惣流君、落ち着け!俺達は仲間だろう!思い出せ、共にユーゼスを倒すと誓った言葉を!」
竜馬がアスカを説得しようとするが効果はない。今のアスカには全ての言葉が嘲笑に聞こえていた。
皆が自分を笑う、口先だけだと笑う、心配の言葉も『無様に負けたのね。助けてあげる』と聞こえる。
今まで影で自分が他人を笑ったように自分が笑われていると、陰口を叩かれていると感じてしまう。
「仲間なんて要らない!アタシはアンタ達とは違うの!アタシが一番だって証明してやるんだから!」
絶叫したアスカは、ダイモスをジャンプさせそのまま高速で飛び去った。まるで逃げ出すかのように。
「竜馬さん、惣流さんを追わないと!」
「分かってる。だが……」
ダイモスの速度には追いつけそうにない。それに倒れたハッターの状態を確認してからだった。
「だ、大丈夫だ!直撃は避けた!」
そう言ってハッターは、くの字に曲がった二本の鉄骨を見せた。直撃なら二つにされていただろう。
だがダメージはあるのかフラついている。
「どうしちまったんだ、ガールは!まるで悪い夢でも見ているようだぜ!」
もうダイモスの見えなくなった空を見上げ、ハッターは鉄骨を地面に叩き付けた。
【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
パイロット状況:良好
機体状況:良好(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
現在位置:E-3より移動した
第一行動方針:ゲームに乗った人間とウルベを倒す
最終行動方針:必ずユーゼスを倒す】
【リオ=メイロン 搭乗機体:ガンダムデスサイズヘルカスタム(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)
パイロット状況:良好。かなり落ち着いた。
機体状況:全体的に破損、武器消失。
現在位置:E-3(道路上)
第一行動方針:アスカの捜索
最終行動方針:リョウトの捜索】
【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
パイロット状態:良好
機体状況:良好(前面全体に転倒時の擦れ傷があるが問題なし)
現在位置:E-3(道路上)
第一行動方針:アスカ・鉄也の捜索
第二行動方針:他の参加者との接触
最終行動方針:ゲームより脱出して帝王ゴールを倒す】
【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
パイロット状態:良好
機体状況:装甲損傷軽微(支障なし)SSテンガロンハットは使用不可、トンファーなし
現在位置:E-3(道路上)
第一行動方針:アスカ・チーフの捜索
第二行動方針:仲間を集める
最終行動方針:ユーゼスを倒す
備考:ロボット整備用のチェーンブロック、高硬度H鋼2本(くの字に曲がった鉄骨)を所持】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:良好
機体状況:装甲損傷軽微、後頭部タイヤ破損
現在位置:E-3(高速離脱中)
第一行動方針:碇シンジの捜索
第二行動指針:邪魔する者の排除
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
備考:全てが自分を嘲笑っているように錯覚している。戦闘に関する判断力は冷静(?)】
【時刻:二日目12時15分】
>189-197 ASUKA TWO STRIKES の誤表記を訂正します。
誤:リオ・メイリン
正:リオ・メイロン
>>193 の24行目誤表記を訂正します。度々すいません
誤:〜だから敗北から学ぶが良い!十二王方牌大車輪!!」
正:〜だから敗北から学ぶが良い!十ニ王方牌大車併!!」
長い話な分、突っ込みどころも満載だな(Gガン自体もそうだけど)。
俺も十ニ王方牌って気で分身を飛ばす技かと思っていた。
DG細胞前提だと流派東方不敗とは言えないと思うし。
この話の文章だけだと分身してのタコ殴りだが、零影って分身攻撃出来るのか?
あとトランザーは一応飛べるので、あまり影響はないと思う。
最近、投下してもツッコミばかりなので感想も。
ハッター達が一層戦わせ辛い編成になってしまったのは残念。
アスカ暴走っぽいのに周囲が無傷だなんて。
201 :
200:2006/02/14(火) 20:10:11 ID:WS8NW/v3
誤爆スマン
太陽は既に西へと傾きかけた頃、赤く染まった雲の波に隠れるかのように巨大な戦艦が浮かんでいた。
巨大戦艦ヘルモーズ、全長27.8km、艦内に都市やプラントを持つ恒星間航行船。
その存在を参加者に誇示しているかのごとくゲーム開始から上空を飛び続けていた。
「ふん、煙と何とかは高い所が好きっていうのは本当だな。正に高みの見物か」
空を見上げた超闘士のパイロットが呟く。この殺し合いゲームが見世物だとしたら人気は出そうだなと
考えて苦笑する。どのみちモルモットか闘犬かの違いしかない。ならば状況を楽しむべきだと思った。
「……なんだ?!」
視界の端に妙な気配が引っ掛かった。遥か遠方の空を注視すれば、何かが爆発していたのだ。
ヘルモーズの一部が爆発を起こしていたが、それは直ぐに広がって全体を覆い尽くした。
何が起こったのか理解は出来ない。だがヘルモーズが爆発しながら禁止エリアの近くに落下した事は
間違いのない事実だった。
「行ってみるか。獲物達も集まるだろうしな」
ニヤリと笑いがこぼれた。移動の為に機体を変形させようとした時、変な音が鳴り、勝手に起動した
モニターには妙な映像が映っていた。
『ピンポンパンポーン! 臨時ニュースを申し上げます』
モニターに映ったのは長机とマイク。そしてスーツを着た妙な女が原稿を片手に何か喋り始めた。
『先程、バルマー帝国所属のユーゼス・ゴッツォ氏が所有する恒星間移民船ヘルモーズが撃墜されました』
軽い説明セリフと共に共にユーゼスの顔写真と高高度で爆発炎上するヘルモーズがモニターに映った。
先程、墜落したものと見て間違いはないだろう。こんな映像、誰が撮ったのかと疑問は残るが。
様々な角度からリプレイ映像を何度か繰り返し、今度は一人の男とロボットの映像に切り替わった。
なかなか壮観な顔つきだ。アナウンスはまだ続く。
『犯人は自称・東方不敗49才。忍者型ロボット・零影に乗り逃走中です。単独犯と見られていますが、
付近の参加者の皆さんは注意してください』
一機で暴れまくっている忍者の映像が映った。出来の良いSFアクション映画のワンシーンのように
派手で現実離れした誇張映像に思わず呆れて溜息が出てしまう。それに戦闘のリアリティーはなかった。
『犯行動機は不明で、関係者からは怨恨ではないかとの証言が出ていますが、その一方で犯行当時、
犯人は「流派東方不敗の名の下に〜」と訳の分からない事を口走っており、ユーゼス親衛隊では宗教団体・
薬物使用の可能性も見て慎重に捜査を進めていく方針です』
もはや見るだけ無駄な内容なのだがメインモニターが占拠されてる関係で大人しくするしかない。
戦闘中でなくて良かったと、心の片隅でそっと思った。
『今回の犯行についてユーゼス氏は「意外性のある行動で非常に喜ばしい」と称えるコメントと共に
自称・東方不敗(49)を暫定王者と定め、明日18時に優勝表彰を行う事を正式に発表しました。
これにより明日18時に優勝者以外の首輪が爆破されますので、参加者の皆様は十分にご注意ください。
なお表彰は雨天決行、暫定王者が死亡した場合は中止となりますので、来場の際は傘をお忘れなきよう』
暫定王者って何だよ、と言いたいのを我慢して情報を整理する。割りとヤバイ状況のはずだ。
(要するに当方不敗とかいう爺さんを明日の18時までに始末しなけりゃ、全員お陀仏ってわけか)
モニターではユーゼスが笑顔(?)でインタビューに答えているが、肩が少し震えているのが分かる。
笑っているが腹の中は煮え繰り返っているんだろう。いい気味だ。
『表彰に備えまして本日18時より補給ポイントにて、暫定王者の現在地情報配信サービスを開始しますので
御気軽にご利用ください。番号はフリーダイヤルXXXX-XX-XXXXまで』
「ハッ、爺さん一人を殺したければ、首輪を爆破すれば良いだろうに随分と回りくどい事をするもんだ」
最初は呆れたが、一人でヘルモーズを沈めた男が相手ならば楽しめそうだ。それに情報を求めて補給
ポイントにも参加者が集まるだろう。探す手間が省けて良い。
『この番組は、宇宙の明日を考えるゴッツォファミリーと御覧のスポンサーの提供でお送りしました』
モニターが正常に戻った事を確認すると、超闘士は飛行形態へと姿を変えた。
「さぁて、一番近い補給ポイントは何処だったかな?」
【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:グルンガスト(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:健康
機体状況:装甲表面に若干の傷
現在位置:E-5
第一行動方針:補給ポイントへ移動・東方不敗の捜索
第一行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
最終行動方針:ゲームに乗る】
【備考:臨時放送は東方不敗を除く全参加者へ(モニターを持たない参加者へは音声のみ)】
206 :
それも名無しだ:2006/02/19(日) 18:14:02 ID:YiyAgitt
age
保守
「イキマ!よく無事で!」
ジョシュアの口から、再会を祝う言葉が発せられる。
あれだけイキマの心配をしていたのだら、当然だろう。
「自分から言い出した約束を破るほど、俺は落ちちゃいないさ」
本心は嬉しくて仕方がないイキマだが、ぶっきらぼうに言葉を返すことしか出来ない。
互いの無事を喜び合った二人は、別れた後のことを語り合った。
それも一段落した後、ジョシュアは聞き辛そうに、
「その…探し人のことだけど…」
と切り出した。
今話さなくては、自分達の結束は無いも同じになってしまう。
そう決心し、イキマは自分の気持ちをありのままに語った。
「心配はいらん。
確かに、姫さんとの約束を果たせなかったのも悔しい。
司馬宙…奴と生き別れてしまったのも残念だ。
だが…俺にはお前という心強い仲間がいる。ヒミカ様の元に戻るという使命もな。
その為にも、このふざけた遊戯の主催者は許しておけん。必ず…必ず奴を倒そう」
言って、改めて思う。
(なんて恥ずかしい台詞だ…)
自分の顔色は復活後一番良くなっていることだろう。
「お前って…」
「どうした?」
「顔と性格が一致離れすぎだ」
不覚にも潤んだ涙腺をせき止めつつ、ジョシュアはどうにか言葉を吐き出した。
「…顔色が良くなっちまうが。馬鹿野郎」
ののしりあう二人の姿は古くからの戦友のようで、とてもできて一日のペアとは思えない。
「それで…これから先、どうする?」
ののしりあいが一段落付くと、ジョシュアはそう切り出した。
「こいつを埋めてやろう。手伝ってくれるよな?」
答えなど最初から決まっている。
「もちろんだ。――相棒」
ガルド・ゴア・ボーマンは北――E-2の補給ポイントを目指していた。
その理由は二つ。
第一に、機体の修理と補給。
第二に、ガイキングとの戦闘を避けること。
確実にプレシアと再会するためにはやむを得ない。自分は死ぬわけにはいかないのだ。
そう自分に言い聞かせ、彼は廃墟を縫うように飛ぶ。
(俺は…絶対にプレシアとの約束を守る!)
剣鉄也は西の町を目指していた。
ああいう場所には多くの参加者が集まるだろうし、先程戦闘した相手はそこで合流すると言っていた。
通信を切り替える余裕が無かったらしく、その事は自分から話してくれた。
「その前に…修理が必要だな」
戦闘に深刻な問題は無いが、機体の損傷は無視できない。
なにが命取りになるかわからない。それが殺し合いというものだ。
(ボス…俺は必ず生き抜いてみせる。
だから…心配しないでくれ。ミケーネは必ず倒してみせるさ)
相棒との約束を守るため、血塗られた勇者は町を目指す。
【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:E-2東部
第一行動方針:アルマナの埋葬
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:良好(ジーグ、バランの死を克服)
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし)
現在位置:E-2東部
第一行動方針:アルマナの埋葬
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:E-1の市街地北部
第一行動方針:E-2での機体の修理と補給
第二行動方針: プレシア、イサムの障害の排除及び2人との合流(必要なら、主催者、自分自身も含まれる)
最終行動方針:イサムの生還】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部に大きな破損があるが、武器の使用には問題なし。右腕切断。ダイターンザンバー所持
現在位置:D-1
第一行動方針:B-1及びA-1の町に移動
第二行動方針:機体の修理と補給
第三行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームに勝ち、元の世界でミケーネを打倒する】
――“ゲーム”の進行は順調だ。
仮面の下、ユーゼス・ゴッツォは笑顔を浮かべる。
ゲームの開始からもうじき丸一日が経過しようとしていたが、参加者たちは予想以上の早さで次々と脱落していっていた。
このバトルロワイアルを開催した当初は、これほど順調に事が進むとは思っていなかった。
参加者として集められた人間の大半は、世界を救う為に戦った“勇者”達である。
殺し合いを始めろと言われても、それを素直に受け入れる人間は少なかろうと思っていた。
だが、どうだ。結果的に、殺し合いは行われている。
ゲームを順調に進める為、ユーゼスも幾つかの仕掛けを施してはいた。それは事実だ、認めよう。
仇敵の情報を餌として、人殺しを強要されたセレーナ・レシタール。
アルジャーノンに感染し、狂った殺人鬼と化したラッセル・バーグマン。
己が忠実な下僕である、ラミア・ラヴレス。
そして……。
(……そういえば、レビに施していた精神操作は無効化されてしまったのだったな)
あらかじめ参加者の中に仕掛けた、幾つか存在する“爆弾”の一つ。
それが無効化された事に、ユーゼスは多少の驚きを感じないでもなかった。
彼女に仕掛けた精神操作が無効化される事には、ある程度の予測が付いてはいた。
ただし、それはリュウセイ・ダテによっての事だ。
彼の存在によって、レビの精神が安定する事は想像に難くはなかった。
だが、まさか見ず知らずの人間の為に命を賭けて、狂気に堕ちかけた彼女の心を救い出す者が居るとは――
(流石の私も予想外ではあったな。だが、それも瑣末な事だ。
ゲームが順調に進行している現在、駒の一つがどうなろうと関係は無い……)
そう、関係無い。自分が妙な小細工をしなくとも、ゲームの進行が遅れる事は無かったのだろうから。
「ただ……少し、気に入らなくはあるがな……」
「どうしましたでございますですか、ユーゼス様?」
ユーゼスの独り言を聞き付けて、ラミアは主に声を掛ける。
ラミア・ラヴレス。
このゲームに於いて参加者の為に用意した機動兵器と同じく、彼が作り出したオリジナルのコピー。
彼女の方に目を向けながら、ユーゼスは落ち着いた声で言った。
「いや、なんでもない。ただ、もうそろそろお前の出番かと思ってな」
「では……」
「うむ。次の放送が終わり次第、お前を会場に転移させる。自分の役目は分かっているな?」
「ゲームを盛り上げる事、でございますですね?」
「その通りだ」
仮面の下で目を細め、ユーゼスは鷹揚に頷いた。
確かに、多くの参加者が命を落としていっている。
だが、まだ足りないのだ。
恐怖と、絶望と、そして狂気――
混沌とした“負の感情”が、まだ充分な量に達してはいない。
「勘違いはするな、ラミア・ラヴレス。お前に課せられた作戦内容は、ゲームに勝利する事ではない。
このゲームを更なる混沌に導く事こそが、お前の為すべき使命なのだ」
「わかっているでございます、ユーゼス様」
「ならば、良い。その働きを期待しているぞ、ラミア」
「は……」
任務の遂行を第一とする忠実な人形は、主の言葉に頷いた。
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:???
パイロット状況:健康(言語回路が不調)
機体状況:???
現在位置:ヘルモーズ
第一行動方針:ユーゼスの命令に従う
最終行動方針:???
備考:次の放送後に行動開始】
【時刻:二日目 10:00】
合流地点に決めていたのは周囲を水に囲まれた小島だった。小島といっても東西に数十キロはあり
更にその大半は廃墟という、全く持ってデートの待ち合わせには不向きな場所であった。
それ故にガンダム試作二号機とノルス・レイが再会したのは予想より随分遅れての事だった。
「見つけてくれて助かったよ。思ったよりレーダーが当てにならなくて」
ジョシュアがイキマへ礼を言う。ミノフスキー粒子の影響下でレーダーの有効範囲が狭い上に
視界も悪い。奇襲を警戒しながらの捜索では時間が掛かり過ぎると思っていた矢先、ノルスの方が
ガンダムを発見したのだ。どうやらノルスのレーダーはミノフスキー粒子の影響を受けないらしい。
「礼には及ばん。よく分からんが精霊の加護とかなんとからしい」
答えながらイキマはノルスの仕様書を横目で見た。『備考:泉の精霊(下位)の加護』と書かれた
項目は今も理解不能だ。ヒミカ様の加護のようなものか、とイキマは勝手に解釈していた。
実際は精霊力を利用した索敵装置がミノフスキー粒子に影響されていないだけに過ぎない。
「無事で何より、って無事じゃないな。その腕・・・どうしたんだ?」
ジョシュアはノルスの失われた片腕を見て首をかしげる。昨夜のゼオライマーにやられた傷だが、
戦闘の損傷にしては綺麗過ぎた。破損箇所が、まるで傷口が塞がるように補修されている。
「ん? これはお前を探す合間に簡単に治療したんだが・・・」
「治療した?! ロボットをか?」
「ああ、人間は機械を治療する事を修理というんだったか。とにかくそういう能力があるようだ」
そう言ってノルスの手を細かく傷ついたガンダムに近づけるが、何も起こらない。
「・・・どうやら生きている機体にしか効果がないようだ」
「ロボットに生きているも死んでいるも・・・つまりそいつは生きているのか?」
正確には『治癒能力』ではなく『自己修復能力を強化する能力』なので、残念ながらMS等には
効果がないようだ。ノルスが自分の装甲を擦って傷付け、手を当てると傷は少しづつ薄くなった。
時間を掛ければ大きな損傷も直せるだろうが、欠損した部位までは取り戻せそうにない。
「ホントに直るとは凄いな。もしかして怪我も治せるんじゃいか?顔色が良くなるかもよ」
「そうだな。試してみるから、適当に顔色を悪くしてみろ。怪我でもいいぞ」
軽口を叩きつつ、主催者の用意したものに過度の期待はしない方が良いと二人は結論を出した
「しかし誤算だったな。出来の悪いSFだと思ってたんだが、ファンタジーも混じってるなんて」
ジョシュアが溜息を吐いて空を見上げた。これ見よがしに上空を飛ぶ巨大戦艦ヘルモーズが見えた。
全長30km弱、もしかしたらこの小島より大きいかもしれない。ユーゼスの旗艦だというのに各地へ
姿を見せるのは絶対的な存在の誇示だと思っていたが、考えを改めねばならない。少なくとも
ユーゼスは通常の物理法則外の力も持っていると考えた方が良さそうだ。
「バーニア無しで飛ぶドラゴンを見た時点で気付くべきだったな」
いやハニワ幻人の時点で既にファンタジーだったかとジョシュアは苦笑する。
「なんだそれは?」
「凶暴な飛龍に襲われた迷子が、勇敢な妖精さんに助けられたって物語さ」
ジョシュアは昨夜分散した後、龍王機に襲われフェアリオンSに助けられた事を簡単に説明した。
「・・・やはり人間は意味もなく他人を殺せる生き物なのか?」
ヤザンの事を聞いたイキマは傍らに眠る冷たくなったアルマナを見た。助かる為でなく楽しむ為に
殺す人間もいるのかと、一人の男を思い出した。この娘を殺した男は、まだ生きているのだろうか。
「襲ったのも人間なら、助けに入ったのも人間なんだ。俺も、その子も」
「よく分からん。だが一括りにした事は謝る。すまなかった」
それが疑問に対する答えじゃないかとジョシュアは思った。
「朝の放送は聞いたよ。どうする?」
「・・・・・・」
ジョシュアが話題を変えた。アルマナの遺体をどうするかという意味だ。バラン・ドバンは一足先に
黄泉路へ旅立ってしまった。ここらで埋葬してやるのが良いのではないかとジョシュアは思う。
「・・・なあ、人間は死者を弔う時はどうやるんだ?人間式の弔いの方が娘も喜ぶだろう」
イキマが重い口を開いた。無情に殺された娘をせめて人間らしく弔ってやりたい。人間相手に
そんな事を考えるなんて邪魔大王国にいた頃は想像もしなかった事だった。
「お前のやり方で良いんじゃないか?弔いってのは、身近な奴が中心になって精一杯、供養するんだ。
その人を大事に思ってする事だから、その方がきっと彼女も喜ぶさ。それが人間式かな」
デタラメだ。人間といっても宗派、国、星が違えば弔い方も違うだろう。それを説明するより
イキマの流儀で精一杯の供養をしてやるのが良いと思うジョシュアの心遣いだった。
小島の北に位置する小高い丘。元は大きな公園だったのだろうか、周囲は廃墟に囲まれているが
ポッカリと空白のように自然が残っていた。そこでイキマはノルスを使って弔いの準備をしている。
それを見ながらジョシュアは見張りをしていた。相変わらずレーダーの有効範囲は狭いが、
周囲に背の高い建物はなく、ロボットが近づけば一目で分かる。
(歴史の授業で聞いた古墳作りってこんな感じだったんだろうな)
着々と進む準備を見て、ちょっと大袈裟じゃいかとジョシュアは思う。それはまさに古墳であった。
土を盛って丘を作り、瓦礫を使って棺室そして祭壇を器用に作ってゆく。
「巫女の墳墓にしては、あまりに粗雑で簡素だが許せよ・・・」
イキマの仕えるヒミカも巫女である。神は違えど同じ巫女であるアルマナを弔うならば、このくらい
の墓は当然だと思っているらしい。こうして人力ならぬハニワ力で2時間も掛からず墳墓が完成した。
ノルスから降りたイキマはアルマナの遺体を祭壇に寝かせた。アルマナの乱れた髪を簡単に整え、
自分の指を切った血で唇に薄く紅を塗ってやる。死に化粧のつもりだろうか。
「ヒミカ様、異国の巫女の為に祈りを捧げる事をお許しください」
イキマはヒミカに許しを請うと、祭壇の前で杖を振りかざし何やら熱心に祈り始めた。
それを聞きながらジョシュアはガンダムの中で黙祷を捧げた。
イキマ達が弔いを始める一時間ほど前、小島の北側。
湖上を走るブライサンダーとワルキューレの姿があった。イングラムやヒイロを捜索してしたはずが、
どこをどう間違えたのか水の上。
「地図の上下が繋がっている事くらい予想すべきだったな。溺死などしたら洒落にもならない」
クォヴレーが現在地を確認して呟く。捜索が捗らないのでE-8の路上からレーダーの届かない南側の
障壁を抜けてみたら、E-1の湖上に出てしまったのだ。一度は水没したが幸いにしてブライサンダーの
気密性は完璧だったので浸水はなく、それどころか水上走行もできる事を発見した。
「ひょっとすると空も飛べるかもしれないな・・・非常識だが」
既に水上走行というより空中走行しているのだが、気付いていない。原理は一切不明だ。
焦って色々と弄繰り回したのが良い方向に出たのだが、ダッシュボードの中にあった意味ありげな
狼マークのボタンは怪し過ぎるので触っていない。トウマの話によると、子供向けのTVアニメでは
目立つ場所にシンボルマーク入りの自爆ボタンが配置されており、何かの拍子に押してしまっては
爆発する事があったという。意地の悪いユーゼスの考えそうな事だとクォヴレーは呆れた。
「大体、仕様書をちゃんと読まないのが悪いんだろうが。人がどれだけ心配したと思ってる!」
トウマが声を荒立てた。トウマはちゃんと仕様書を読んでいたのでワルキューレが水上走行可能な
事を知っており、水上に出た時も慌てなかった。むしろブライサンダーが沈んだ事に心底驚いて
クォヴレーを助けに飛び込もうと決意した時、ブライサンダーが素知らぬ顔で浮かんできたのだ。
「過ぎた事にイラついても仕方ないだろう。そんな事ではいざという時に判断を誤るぞ」
「うるせぇ!俺は冷静だ!」
朝の放送を聞いてからずっとトウマは殺気立っていた。共に戦った武人の死。己の無力さを痛感し、
やり場のない怒りに自分を納得させられないのだ。
「気持ちは分かる。だが俺達は自分に出来る事をするしかない」
「それは俺だって分かってる。分かってるけどよ!」
「大体、誰が仇かも分からないのだから焦っても仕方がないだろう」
誰が仇か分かっても俺達では勝ち目はないだろうな、とクォヴレーは思ったが言わないでいた。
予期せぬ水上ツーリングは一時間足らずで終わりを告げ、廃墟巡りツアーへとシフトした。
かつては高層ビルの立ち並ぶ大都市だったのだろうが、何があったか今は見渡す限り瓦礫の山だ。
二人にとっては中途半端に原形を留めているビル郡は身を隠すのに絶好の場所だ。だが他の機体では
そうは行かない。数十分後、ビルの合間を縫うように走り捜索をしていた二人は、二機のロボットを
数百m先に発見した。ガンダム試作二号機とノルス・レイだ。まだ向こうは気付いていない。
「とりあえず見知った連中じゃないようだな。相手も二人みたいだし、声かけてみるか?」
「迂闊な行動は死につながるぞ。相手が複数だとしても打算で協力している可能性は捨てられない」
「んな事は分かってんよ!だけど疑ってばかりじゃ進まないだろ!」
「焦る気持ちは分かるが、賭ける命は一つきりだ。いつも都合よく助けが入ると思うなよ」
「・・・・・・分かったよ」
二人は今朝のマサキを思い出した。打算的な連中からすれば戦力にならない自分達は攻撃対象と
なるだろう。正面から相対すれば自分達には勝ち目はほぼゼロだ。自分達の機体が唯一、他の機体に
勝っている面があるとしたら、それは機体サイズしかない。相手が予想もしない程に小型である事を
活かしてレーダーを掻い潜り接近するしかない。接近してからどうするかが、次の問題なのだが。
(通信を傍受できると良かったんだがな。このポンコツめ)
ブライサンダーの無線機はカセットテープステレオ付きの骨董品だ。もはやどう操作するかも
分からないほど旧式で全く役に立ちそうにない。その骨董品が星間通信にすら対応しているなどと
誰が想像できるだろうか。
ブライサンダーとワルキューレはビルに隠れ、二機のロボットに約100m程の距離まで近づいた。
まだ相手からは発見されていないようだが、これ以上は視界が開けており接近は難しい。
「あんな所で機体から降りて何をしているんだ?トウマ、何か見えるか?」
「・・・・・・」
クォヴレーは上階から見ているトウマに声をかけた。返事はない。ジッと遠くを見つめている。
二機のロボットは古墳のような所で待機していた。古墳の上には祭壇らしき物があり、遠目だが
人が横たわっているのが見えた。もう一人、杖を持った異形の男が近くで何かしている。見るからに
怪しげな儀式だった。その僅かな情報からクォヴレーは様々な事を推測する。
(死体から首輪を外そうとしているのか。主催者へ対抗するためには首輪の解析は必須だ。いや待て、
あの二人がパイロットだとして片方が死んでいるなら労せず一機は手に入る。仮に死体以外に二人いる
としても降りている方を始末すれば、どちらかが手に入る。残る機体は一人が囮になって引き付けて、
もう一人が奪えばいい。・・・いや、俺は何を馬鹿な事を考えている。機体を奪うために問答無用で
殺し合いなど、それこそ自動車やバイクを支給したユーゼスの思う壺だ)
パイロットが機体から降りているという千載一遇のチャンスを前に心が揺れたが、クォヴレーは
グッと踏み止まった。トウマ程ではないが己の無力を憂いているのは事実だ。しかし手段と目的を
履き違えるわけには行かない。
「トウマ、そこからは何か見えるか?」
「あれは・・・あれはアルマナだ!」
「アルマナだと・・・」
驚いてトウマを見上げたクォヴレーは言葉を詰まらせた。トウマの表情は怒りとも喜びとも付かぬ
形相に歪み、祭壇を睨みつけている。
「おい、落ち着け・・・」
「見つけたぁぁぁぁっ!!!」
言うが早いかトウマはワルキューレで飛び出すとクォヴレーが止める間も無くロケットブースターを
作動させる。再三に渡った友の忠告は、アルマナの遺体の前に消え失せていた。
イキマの厳かな祈りと静寂をワルキューレの爆音が切り裂いた。祭壇に向かって一直線に向かって
いる。イキマはもちろん、奇襲に備えていたジョシュアも戸惑いを隠せない
「ミサイル?違う、バイクだ。そんな馬鹿な!」
レーダーだけでなく肉眼でワルキューレを確認したジョシュアが信じられない物を見たような声を
上げる。あまりに無謀、あまりに無力。生身を剥き出しのワルキューレでは、バルカンでも当たれば
確実に死ぬだろう。だが、それがジョシュアに引き金を引かせる事を躊躇させた。その僅かな時間に
ワルキューレはイキマへと迫る。
「オートバイだと?!まさか・・・まさか?!」
そのあまりの無謀さに、イキマはかつて仇敵を思い出さずにはいられなかった。あの不死身の男も
こうだったのだ。『例え倒れようとも第二第三の・・・』その言葉が脳裏に蘇る。
「うおぉぉぉっ!!!」
雄叫びと共にトウマがワルキューレからイキマの目前で跳ぶ。イキマはミサイルのように高速で
迫る無人のワルキューレをギリギリで避けながらも、空中のトウマから目が離せない。
「まさか鋼鉄ジーグか?!!」
「アルマナの仇だ!死ねぇ!!!」
空中で変身するのかと思ったイキマに対し、トウマは加速を殺さずその力の全てを込めた渾身の
跳び蹴りを叩き込む。イキマは咄嗟に両手で構えた杖で防いだが、まるで枯れ枝の様にへし折られ
そのまま跳び蹴りは正確に鳩尾に叩き込まれた。全ての力を一点に集中させ蹴り砕く、大雷凰の為の
特訓は確実にトウマの力となっていたのだ。
「げはぁっ!」
イキマの体がくの字に曲がり後方へ吹き飛ばされた。しかしイキマは倒れず、己の足で大地を掴む。
トウマは蹴った反動で祭壇の近くへと降り立つ。変わり果てたアルマナの姿を目の当たりにし、
怒りの形相でイキマを睨みつけた。ただでさえ顔色の悪いイキマの顔は痛みと衝撃で醜く歪み、
とても人間とは思えない。
「良い蹴りだ小僧!だがこんなものでは俺は倒せん。俺を倒したければ鋼鉄ジーグを連れて来い!」
険しい表情のイキマが声を絞り出す。片手は腹部を押さえダメージは隠せないが決して膝は着かず、
トウマを睨み返した。鋼鉄ジーグに敗れ去った同胞の為にも、幹部たる自分が生身の人間などに
倒されるわけには行かないのだ。
「そんな奴、知るか!アルマナの仇め!貴様はバラン・ドバンに代わって、この俺が蹴り砕く!」
アルマナの前に立ちトウマが構えを取る。必殺の一撃ですら致命傷にできかった相手にどう戦うか、
策はなかったが蹴り砕くのみとイキマへ突進する。
「待て、俺は・・・」
イキマが口を開きかけた瞬間、無数の銃弾がイキマの言葉とトウマの突進を阻んだ。躊躇していた
ジョシュアが、二人が離れたのを見てバルカンを放ったのだ。
「イキマ、大丈夫か?!」
ジョシュアは生身の相手に攻撃することに抵抗があるのか、バルカンはイキマとトウマの間を
遮るように撃たれていた。突然の砲撃にトウマは大きく飛び退く。
「くそっ、ここまでかよ。悪いなクォヴレー、ヒイロに謝っといてくれ」
ガンダムの存在を忘れていた。流石に生身では勝負にならない。向こうに転がってるワルキューレが
あっても結果は変わらないだろう。こうなる事は分かっていたはずだが、後悔する暇はない。
「こうなりゃ蜂の巣になってでも、もう一撃蹴り込んでやる!」
トウマが覚悟を決めた時、ガンダムの足元に爆音が轟きバルカンの雨が止んだ。振り向けばブライ
サンダーがヘッドライトビームでガンダムを牽制しながら突っ込んでくるのが見えた。
「今度は自動車?!最後は大型トレーラーでも出す気かよっ!」
ジョシュアはバルカンを撃ち帰すが、小型機を相手に躊躇しているのか攻撃に精彩がない。ブライ
サンダーは銃弾を掻い潜り、猛スピードでドリフトする。そのままトウマの盾になるように車体を
滑り込ませ急停止すると右後部ドアを開けた。
「逃げるぞトウマ!早く乗れ、犬死にする気か!」
クォヴレーが珍しく言葉荒く叫んだ。無謀なトウマに腹が立っていたし、まるでどこかのイカレた
タクシーの様に助けに入ってしまった自分にも腹が立っていた。
「すまない!」
トウマはアルマナの遺体を抱え、ブライサンダーへ転がり込む。攻める事は無謀と分かっていたが、
退く事にも抵抗があった。しかし危険を冒してまで助けに来てくれたクォヴレーの好意を無駄にする
訳にはいかない。ドアが閉まると同時にバルカンがブライサンダーを捉えるが、小さな車体だというのに
撃ち抜けない。見た目以上に装甲は厚いようだ。
「防弾仕様にも程があるだろ。スパイ映画じゃあるまいし!」
ジョシュアが驚きの声を上げた。ビームを撃っている時点で普通の自動車という考えは捨てるべき
だったと舌打ちしたが既に遅い。ブライサンダーは激しい銃弾の雨の中、お構いなく急発進すると
廃墟へと逃げ込んで姿を消した。
廃墟の中、背の低いビルの間を縫うようにブライサンダーが走る。悪路をものともせず、まるで
空中を走るかのように駆け抜けてゆく。
「追撃はないようだが、油断は出来ないな」
バックミラーを確認したクォヴレーが呟く。周囲に機影は見えないが、飛行できる機体ならば上空
から強襲する事は用意だ。攻められない以上、今は出来る限り距離を取って身を隠すしかない。
「アルマナ・・・仇は取ってやるからな」
トウマは後部座席でアルマナの遺体を抱えていた。肌に伝わる冷たさが、彼女の無念を訴えている
かのように思えた。トウマはアルマナに、そしてバランに誓う。
「あのイキマと呼ばれていた怪人は必ず俺が蹴り砕く。この命に代えても!」
右足が痛む。杖で防がれた分、跳び蹴りが不完全だったのだろう。だが、この優しい少女を殺した奴を
許す事は絶対にできない。その仇討ちの矛先が根本的に間違っている事には気が付かなかった。
怪人が少女の死体を祭壇の上に乗せ儀式をしていたのだから無理もない。
「・・・」
熱く闘志を燃やし続けるトウマをバックミラーで見ていたクォヴレーは溜息を吐き、ミラーを指差す。
「トウマ、ちょっといいか?」
「なんだよ・・・ッ?!」
ミラーを覗き込んだトウマの顔面にクォヴレーの裏拳が叩き込まれた。予期せぬ一撃は綺麗に入り、
トウマの顔から鼻血を噴出させた。何が起こったのかとトウマは目を白黒させている。
「少しは血の気が抜けたか?本当に仇を取る気があるのなら勇気と無謀を履き違えるな。それと
命を賭けているのが自分一人だと思うなよ」
「・・・サンキュウ、少し頭が冷えた」
顔の痛みは、前しか見えなくなったトウマを少し冷静にさせた。無茶無理無策の三無主義では
仇討ちどころか無駄死にだ。おまけに仲間を危険に晒していたのでは空回りにも程がある。
「なぁ、やっぱり俺、自分でヒイロに謝るわ」
「・・・何の話だ?」
「ハハ、すまねぇ。こっちの話だ」
様々な思いを乗せ、ブライサンダーは廃墟を駆け抜けていった。
ガンダムのレーダーは廃墟へと逃げ込んだブライサンダーを早々にロストしていた。まったく
肝心な時に頼りにならない。
「大丈夫か?!凄く顔色が悪いぞ」
ジョシュアがイキマに駆け寄る。追跡とイキマを天秤に掛けて、迷う事なくイキマを選択した。
「これは地顔だ、ほっとけ!」
怒鳴り返せる元気はあるようだが、イキマの顔色は普段より更に悪くダメージの大きさを物語って
いる。ふらつくイキマをジョシュアが支えようとするが、その手は振り払われた。
「大丈夫だ。生身の人間に倒されたとあっては、鋼鉄ジーグに倒された同胞に地獄で顔向けできん」
「いいから機体に乗って休め、アレで回復できるかもしれない。俺は奴らを追う!」
ノルスの能力の事を言っているのだろう。ジョシュアはイキマへ強引に肩を貸すとノルスへと向かう。
「・・・いや、必要は無い」
「じゃあ普通に休め。その間に俺は彼女を取り戻してくる」
「違う、追う必要は無い」
イキマの言葉にジョシュアが顔を覗き込む。
「なんでだよ?だって・・・」
「あのトウマと呼ばれていた小僧は娘の名を叫んでいた。従者の名も知っていた。捨て身とも思える
蹴りに強い思いが込められていた。あの娘を知る者が、思う者がいたのだ。これは喜ぶべき事だろう?
人間式の弔いは、身近な者が精一杯供養するのだろう?あの娘を大事に思う者がいたのだ。だから
俺よりもあの小僧達が弔った方がきっとあの娘も喜ぶさ」
淡々と言うイキマに、ジョシュアは言葉がない。
「それで・・・本当にいいのか?」
「ああ、これでいいんだ・・・」
優しい心をくれた娘は、仲間の所へ帰っていった。それだけの事だと、イキマは言う。
ジョシュアが思わず見上げた空には、太陽が眩しく輝いていた。
【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(ブライサンダーの左後部座席に乗っています)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
現在位置:E-1より逃走中
第一行動方針:イングラムを捜索する
第ニ行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流。及びイキマ、ユーゼスを倒す
備考1:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷(変形不能)、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:E-1より逃走中
第一行動方針:イングラムを捜索する
第ニ行動方針:トウマと共に仲間を探す
第三行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:左後部座席にトウマ、右後部座席にアルマナの遺体が乗っています
備考2:水上・水中走行が可能と気が付いた。一部空中走行もしているが気が付いていない】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:腹部にダメージあり(無理をすれば歩ける程度)
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし。応急処置程度に自己修復している)
現在位置:E-1
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】
【備考:アルマナの遺体はブライサンダーへ。ワルキューレはE-1の墳墓付近に転がっています】
【時刻:12:20頃】
保守
225 :
三者三様:2006/03/07(火) 01:20:23 ID:FfnuCowH
蒼き流星が草原を駆け抜ける。
流星――レイズナーが目指すのはエリアG-6。
流星の主――木原マサキの悲願、首輪からの開放を達成するためだ。
レイズナーが飛行を続けていると、レーダーに二つの機影が映った。
進行方向から察するに、こちらと同じ場所を目指しているらしい。
「レイ、この二機の詳細を表示しろ」
「レディ」
返答から数秒でモニターに情報が現れる。
無論、これはレーダーに捉えた機影からの推察でしかないのだが。
一機は低空を飛行中の戦闘機。
もう一機は、
「小型で判断が難しいが機動兵器でない事は確実……」
これはいい。
戦力に圧倒的な差があるものが行動を共にしている。
それは、この二機が戦力という壁を乗り越えた信頼関係にあるということだ。好戦的な参加者でないことはほぼ確実だろう。
「こんな馬鹿共を見つけられるとは運がいい。
できるだけ奴らの悪評を振りまいておく必要もある。外の情報も欲しいところだ。レイ! この二機に接近する機動を取れ!」
「レディ」
「おぉっと。こいつは…」
レーダーが未確認機を察知したことに気付き、フォッカーは声をあげた。
「先生、未確認機が近づいています」
指示を仰ぐため、遷次郎に通信を送る。
暫しの沈黙の後、
「私が話してみよう。情報も欲しいし、人手は多いほうがいいからね」
という返事が返ってきた。
フォッカーは相手を警戒しつつ、遷次郎に交渉をゆだねた。
ほどなく、通信が可能な範囲に未確認機が到達した。
226 :
三者三様:2006/03/07(火) 01:22:38 ID:FfnuCowH
通信が可能な範囲に達したとたん、開いておいた回線に通信が入った。
地上を走行する小型の物体(映像を拡大することによりバイクだとわかった)かららしい。
「私達は、司馬遷次郎とロイ・フォッカーという。
もし良ければ、我々との情報交換に応じてくれないだろうか?」
年老いた男の声がコックピットに木霊する。
「僕は…木原…マサキです。かまいま…せん。
でも…余り気分のいい話じゃ…ないですよ?」
声のトーンを落とし途切れ途切れに言葉をつむぐことで、精神が磨耗しているような印象を与える。
年寄りというものは、大抵こういう若者に同情的だ。
「かまないよ。その話を聞くことで、私達にも何かできることがあるかもしれない」
(かかった!)
ここからが腕の見せ所だ。
先程のゲームの内容を、マサキは語り始める。
登場人物、マサキとチーフの設定を捻じ曲げて。
マサキの語った話はあまりにも酷すぎるものだった。
プレシアという少女と行動を共にしていたマサキは、クォヴレー、トウマ、イングラムという三人組と出会い、信用して機体を止めた所を攻撃された。
プレシアの機体が盾になってくれたお陰で、何とか無傷で攻撃を逃れたマサキをさらなる悲劇が襲う。
病院を目指す途中で怪我人を連れていると語ったボロボロの機体の搭乗者(チーフと名乗ったらしい)と合流し、辿りついた病院で惨劇は起こる。
マサキが薬を探していたところ、後ろから突然殴られ気絶してしまった。
その間に、チーフが怪我人の少女とプレシアとを殺害し、首輪を得ようとしたのだ。
不幸中の幸いは、マサキが気絶していた部屋の近くにレイズナーがいたことだ。
刺激臭で目を覚ましたマサキは一瞬の隙を突き、チーフから首輪を奪いレイズナーに乗り込んだ。
そして、ミサイルで病院を爆破し逃げてきたという。
「なんて酷いことを…」
「全くですね。…人のすることじゃない」
フォッカーが遅れて同意する。
「あの…そちらの話を…」
「…すまない」
答え、自分達の出会った機体のことを話す。
「まるで、悪魔のような風貌の機体だった」
そう締め括り、フォッカーと別件の相談を開始する。無論、マサキには聞こえない回線で。
「どうだろうフォッカー君、私は首輪のことを話し彼と協力体制に入ろうと思うのだが?」
「そうですね…いいことだと思います。こういうときこそ、大人が子供を守らなければ」
頷き、遷次郎は説得を開始する。相手が非道の全てを行った人物だなどと思いもせずに。
227 :
三者三様:2006/03/07(火) 01:24:45 ID:FfnuCowH
「マサキ君、私達はこの戦いを終わらせる切り札を持っている」
思いがけない言葉が飛び込んできた。
奴らの悪評を振りまいて退散しようと思っていたが、興味をそそられる。
「それは、どういった?」
「実は、私達は首輪の解析を行っているんだ」
――!
風貌と行き先からもしやと思っていたが、それが当たりなどと想定もしていなかった。
(俺は本当に運がいい…)
「もし良ければ君も私達と行動を共にして、この馬鹿げたゲームからの脱出を目指さないか?」
先程の問答から簡単に予想できる誘い。
答えは、
「…同行します。これ以上あの子のような人を増やさないために。
――でも、僕は貴方達を完全に信用したわけではありませんから」
これで決まりだ。
同行することに同意はするが、先程の嘘の内容から警戒心を抱いている風に装ってさらに年寄りの同情を誘う。
(ユーゼスめ…この冥王を下らん遊戯に参加させたこと…とくと後悔させてやる)
「わかった。…それでかまわないよ」
(本当に可愛そうな子だ)
心からそう思う。
二度も大人に騙され、知り合いも惨殺され、よくも精神が崩壊しなかったものだ。
(見ていてくれ宙。私はもうお前のような不幸を起こさせはしない…!)
もう若い命が失われるのは嫌だ。
何か引っかかる。
見たところ中高校生ぐらいの人間が軍人の隙をつき、あまつさえ首輪を奪ったこと。
わざわざマサキを襲った男がレイズナーの近くにマサキを残したこと。
特に怪我らしい怪我が見つからないこと。
さっきは先生の意思を優先したが、全体的に何かできすぎている感じがする。
(ま…俺が警戒しておけばいい話か)
先生はすっかりマサキに入れ込んでしまっているようだから、自分が警戒しなければ。
(先生は参加者の希望なんだ)
そう。
この人を失うわけにはいかない。
自分が死んでも、この人が生き残ればまだ希望はある。
フォッカーは決意を胸に秘め、二人に言う。
「それでは、先生、マサキ君。はやいとこG-6を目指そう」
「そうだな。…この悪趣味なゲームを終わらせるために」
「はい。…絶対に主催者を倒しましょう」
三者三様の思いを胸に秘め、彼らは行く。再び自由を手にするために。
228 :
三者三様:2006/03/07(火) 01:28:27 ID:FfnuCowH
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:E-6
第1行動方針:G-6へ 遷次郎を護衛しつつ向かう
第二行動方針:遷次郎とともに首輪の解析と解除を行う
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:多少の疲労。マサキに多少の不信感
機体状況:弾数残りわずか
現在位置:E-6
第一行動方針:遷次郎を護衛しつつG-6基地へ向かう
第二行動方針:ユーゼス打倒のた首輪の解析め仲間を集める
最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】
【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:ダイアナンA(マジンガーZ)→スカーレットモビル(マジンガーZ)
パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度) マサキと宙を重ねている節がある。
機体状態:本体は粉々、スカーレットモビルは無事
現在位置:E-6
第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析及び解除を行う
第二行動方針:マサキを守る
第三行動方針:ユーゼス打倒のために仲間を集める
最終行動方針:ゲームを終わらせる】
備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)。
だが、解析結果は正しいと信じている。
【午後16:23】
hosyu
まだだ、まだ終わらんよ
sadasdsafsa
オチロー
233 :
それも名無しだ:2006/03/20(月) 16:58:28 ID:50+48+11
age
綺麗なIDだな
235 :
それも名無しだ:2006/03/22(水) 16:32:26 ID:nUA7PsZW
236 :
???:2006/03/22(水) 16:39:16 ID:JcLSmRWh
待てい!!
238 :
それも名無しだ:2006/03/23(木) 00:49:48 ID:yLq57M5x
釣れちゃった初めてなのに釣れちゃった
保守
あげ
242 :
困惑:2006/03/29(水) 17:22:04 ID:JWzG/iNl
(――俺は、誰だ?)
アクセル・アルマー、それが青年の名前だった。
それ以外は記憶に無い。気付いた時には全ての記憶が失われ、この馬鹿げた殺し合いに参加させられていた。
そして殺し合いの只中で、自分に戦う力がある事を知った。
自分の名前と、身体に染み付いた戦いの経験。それだけが、彼の記憶を探る鍵。
それ以外は何も無い。アクセル・アルマーの記憶と過去は、依然として失われたままだった。
だが、そんな彼でも一つだけ。そう、たった一つだけ確かな過去がある。
それは、記憶を失ってから今までに起きた出来事の全て。
このバトルロワイアルの中で出会った仲間と過ごした時間。それだけは、彼自身の揺るぎ無い“過去”であった。
……そう。もはや、過去なのだ。決して、今の出来事では無い。
失われた命は、もう二度と戻る事は無いのだから……。
「アキト……」
この下らない殺し合いが行われる中、初めて出会い言葉を交わした人間。
それが死を迎えてしまった事に、アクセルは自分で思った以上の衝撃を受けていた。
仲間の、死。
何故だろう。ずっと以前にも、これと同じ喪失感を味わった事があるような気がする。
……そうだ。記憶の最も奥底深くに、うっすらとだが残っている。
それは、敗北の記憶だった。
何か大きな戦いに参加して、そして自分達は敗れ去った。
そう、自分“達”だ。かつての自分には、確か仲間がいたような気がする。
それは……恐らく、ヴィンデル・マウザー。自分の過去を知ると言う、あの男。
あの男と共に戦った記憶が、そして戦いの中で多くの仲間を失った記憶が、ほんの微かに残っている。
いや。正しくは、甦ろうとしていると言うべきか。
だが、記憶を封じる扉は重く、そして手元に鍵は無い。
扉の隙間より微かに洩れ出た、あまりにもちっぽけな記憶の欠片。ただそれだけが、アクセル・アルマーの手元にはあった。
「俺は……」
誰なんだ。
何者なんだ。
アクセル・アルマーとは、何なんだ。
分からない。
何も、何も、分からない。
これから、どうするべきなのか。果たして、何を目的とするべきなのか。
失われた記憶は未だ戻らず、自分の知らない所で仲間には死なれてしまっていた。
絶対の孤独感。無力に打ちひしがれる感覚を、今のアクセルは味わっていた。
だが……だからだとでも、言うのだろうか。
戦え――
失くしてしまったはずの過去が、アクセルの意識下で囁き声を上げ始めていた……。
【アクセル=アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
現在位置:F-6
パイロット状況:混乱状態(肉体的には良好)
機体状況:右腕の肘から下を切断されている
第一行動方針:ヴィンデルに記憶について聞く
最終行動方針:ゲームから脱出 】
【二日目 6:30】
まりすみぜる
あ、あげちゃった
246 :
死力戦場:2006/04/05(水) 23:19:25 ID:cubF8icB
大気を切り裂き高空を飛行するウイングガスト。
そのコクピットの中で、ヤザン・ゲーブルは一人肩を震わせていた。
マニュアルに目を通した時に電撃のように全身を駆け抜けた、形容しがたい衝撃。
強固な装甲。三段階の変形機構。高出力のエネルギー兵器をはじめとした強力な武装。
宇宙世紀の機動兵器群とは比較にすらならない、圧倒的なハイスペック機。
それが自分の力となる。その事実にヤザンは戦慄した。
しばしの仮眠から目覚めた後も、興奮は冷めることはなかった。
そして、その興奮はまた新たなる感情を生む。
試したい。
戦いの中で、命の取り合いの中に身を置くことで、この機体の力がどれほどのものか感じてみたい。
この装甲で敵の攻撃を防ぎ、この拳で敵の機体を叩き潰す。
湧き上がる、到底抑えることなどできない本能的な興奮にヤザンは悶えた。
口元に不敵な笑みを浮かべながらも、その目はモニターに視線を走らせ続けている。
G-5地区に入ってから急にジャミングが強くなって、レーダーはほぼ役に立たない。
頼りになるのは己の目と、戦場に身を置き続けた兵士の勘。
そして。
野獣はモニターの隅に胡麻粒のように映る二つの機影を発見する。
鼓動が加速する。唾液が分泌される。無意識に鳥肌が広がっていく。
「……さあ、貴様等の命で思う存分楽しませてもらうぜ?」
ヤザンは口角を吊り上げ、ニィッ、と笑った。
イサム・ダイソンは疲れていた。
ろくに休息を取らずに移動を続けていることもあるが、それよりも。
「……」
「……」
「なあ」
「なんだ」
「いやな、何の用だというわけでもねぇんだが」
「だったら口を慎め。俺達の機体の戦闘能力はお世辞にも高いとは言えない。
D−3の索敵とジャミングが頼りだ。レーダーから目を離すな」
「……へいへい」
さっきからずっとこの調子である。
共通の敵を討つという目的のため、一緒に行動することを決めるまでは良かったが、
(やれやれ、無口で杓子定規で、なんか妙にガルドに似てやがんだよなこの野郎)
ヒイロ・ユイ。出会ってからまだ一時間にも満たない付き合いだとはいえ、
イサムはこの少年(といっていい歳のはずだ)の性格を未だに掴みかねていた。
とりあえず南に進路をとったはいいものの、それからは殆ど会話らしきものは続かず
沈黙というものがどうにも苦手なイサムには非常に落ち着かない状況になってしまっている。
それでも何とかコミュニケーションを取ろうとして、先の会話に行き着くという訳である。
(まあ、考えてみればこの状況で暢気にお喋り出来てたことが奇跡ってもんかもしれないけどな)
会話が途切れるとどうしても思い出してしまう。
ほんの半日ほど前まで、イサムの周りに確かにあった光景。
アクセルがからかい、アキトがむきになって、そこにマサキが呆れ顔で割って入り、
ルリは何も言わないでいながらその光景を心なしか嬉しそうな表情で見ている。
そして、自分もその輪の中に……
(……やめだ、やめ。そんな事を考えても何にもなりゃしねぇ)
アキトとルリはすでに死亡し、アクセルは知り合いらしき男と交戦してそれっきり。
マサキもどうやら死んではいないらしいが、消息は不明である。
もう、失ったものは返ってはこないのだ。
「こんなとこでナイーブになってるわけには………………何?」
そこでイサムの意識は急激に現実へと引き戻された。
迂闊だった。考え事に没頭していて見落としていた。
レーダーに、点。そしてその進路は――
「ヒイロ、機影だ! 七時の方向、真っ直ぐこっちに突っ込んでくるぞ!」
「何だと!?」
平穏は、いつも唐突に終わりを告げる。
247 :
死力戦場:2006/04/05(水) 23:20:20 ID:cubF8icB
痛いほどの沈黙。
数十秒後に訪れるであろう嵐の、その前の静けさはイサムの神経を容赦無く切り刻む。
レーダーの点は確実に近づいてくる。完全に捕捉されていると見ていいだろう。
D−3のジャミングは完璧に作動していた。目視で発見されたらしい、考えにくいことだが。
「化け物かよ……」
冷や汗が背中を流れ落ちる。舌の根が乾いているのが自分でも分かる。
ヒイロは何も言わない。彼なりにこの状況について考えているのだろうか。
「……なあ、ヒイロ」
「何だ?」
「逃げ切れると思うか?」
「無理だろうな。追撃されるのが関の山だろう」
「やるしかねぇのか……」
敵は肉眼で確認できる距離まで接近している。このままの速度だと接触まで十五秒。
10、9、8、7、6――
突然、敵機のシルエットが変化した。
主翼が変形し、両腕がせり出し、脚部が展開して、頭部が出現する。
そして地響きを立てて降り立ったのは、全高50メートルに届こうかという威容。
その全身から放たれる圧倒的なプレッシャーが皮膚を刺す。
そして。
「さあ、貴様たちの力を俺に見せろ!」
野獣の唸り声が戦闘の始まりを告げた。
「畜生ぉぉぉぉぉっ!」
D−3のハンドレールガンが火を噴く。全弾命中。
しかし全く意に介さず、グルンガストは攻撃動作に入った。
咄嗟にサブノズルを噴射。横っ飛びに逃げたD−3のすぐ傍を、ブーストナックルがかすめる。
地表を暴力的に抉り木々を砕きながら突進する拳に、イサムは自分の常識が通用しないことを悟った。
即座にメインノズルを噴射させ、肘から先を射出してがら空きになった左側面から接近戦を仕掛ける。
脚部アーマーから接近戦用アザルトナイフを抜き放ち一気に肉薄、敵機に突き立てる。
「喰らいやがれーーーっ!」
だが、そこまでだった。ナイフの刃は強固な装甲に阻まれ、一向に通らない。
何度も打ち付けるが結果は同じだ。こちらの攻撃は一切通用しない。
イサムの脳裏に、一瞬よぎる"死"の影。
それを振り払うように、イサムは更なる一撃を加えようとして、
「イサム・ダイソン! 後ろだ!」
「何……!? 戻ってきやがったのか!?」
離脱するのが一瞬遅れた。本体と再連結したグルンガストの拳にD−3の右腕は鷲掴みにされた。
まるで壊れた玩具のように無様にもがきながらそのまま宙吊りにされる。
逃れられない。パワーが違いすぎる。
操縦桿をがむしゃらに動かすのも虚しく、為すがままにされるD−3。
「なんだ、酒のツマミにもなりゃしねえ。死ねよ!」
敵パイロットの声にイサムは得体の知れない戦慄を覚えた。
そして、さっきより確実に近くに感じる死の影を。
(なんだ……死ぬのか俺……こんな所で?)
爆散したνガンダム。炎上するスカイグラスパー。脳裏の映像が自分の未来と重なる。
目の前のグルンガストの胸部にエネルギーが収束し、そのまま放たれ
「イサム・ダイソン!」
一気に跳躍したM9の単分子カッターが掴まれたD−3の右腕を切り落とし、
我に返ったイサムはブーストを全開し、一気に上方へ逃れた。
間一髪。放たれたエネルギーの奔流はD−3の僅か下方を薙ぎ払い、付近一帯を焦土と化した。
248 :
死力戦場:2006/04/05(水) 23:21:13 ID:cubF8icB
追い詰められているのは明白だった。
こちらの攻撃は通用しない。それどころか回避するので精一杯。
残弾も残り少なくなってきた。もっとも、あったところで大して効きはしないが。
逃げ切るのは不可能。撃破するのも絶望的。
(くそ……くそっ……何とか、何とかならねぇのかよ!?)
思考が空回りする。考えが霧散して形にならない。
焦った所で事態が好転しないのは分かりきっている。それでも、
「畜生……何か……何か……」
「……ソン」
「まだだ……まだ俺は死ぬわけには」
「ダイソン。イサム・ダイソン、聞こえるか」
「あぁ!? 何だよ、何だってんだ!」
無意味と知りつつヒイロに当りつけるイサム。
しかし、次にヒイロの口から発せられた言葉は、イサムの空転する思考を覚醒させるには十分だった。
「何を言ってるのか分かってんのかてめぇ!」
「当然だ。お前を囮に俺は離脱すると言っている」
「ふざけんな! 何が囮だ!」
突然目の前の二機が始めた言い争いに、ヤザンは首を傾げた。
(何だ、仲間割れか? ハッ、面白いじゃねぇか)
回線がオープンになっているお陰で、会話が丸聞こえである。
「お前の単細胞な思考にはもううんざりだ。縁を切るいい機会だな」
「あぁ!? 何だとこの冷血野郎が!」
罵り合いはさらに激化し、
「安心しろ、お前の分の仇も俺が取ってやる」
「待てよてめぇ……うおっ!?」
「じゃあな、運が良ければまた会おう」
グレーの小型機がレドーム付きを蹴り倒して、一気に離脱していった。
「…………ふん」
ヤザンは忌々しげに鼻を鳴らした。
「やれやれ、茶番にしては楽しませてもらったが……二人いっぺんにかかってきた方が、
俺としては面白いんだがなぁ?」
「うるっせぇぞ畜生ぉぉぉっ! 俺は、俺は死なねぇ!」
レドーム付きは立ち上がって、レールガンを乱射してきた。
もはや冷静さなどは欠片も残っていない。しかし、それがヤザンを悦ばせた。
「はははっ、その気迫だ! いいぞ貴様!」
「うるせぇって言ってんだろがぁぁぁ!」
すでに照準すら定まっていない。片腕を失ったせいもあるのだろうが、
それ以上にパイロットの精神状態によるものが大きいのだろう。
ヤザンはおもむろにブーストナックルを放った。
敵はそれをぎりぎりで回避し、また性懲りもなくレールガンを乱射する。
相手の底力がそうさせているのか、攻撃がなかなか当たらない。
「少しは楽しませてくれそうか!?」
ヤザンは嗤いながら逃げるD−3目がけて拳打を繰り出す。
飛び上がって回避したD−3にブーストナックルでさらなる追い討ち。
グルンガストは確実に、イサムを追い詰めていった。そして。
「なんだ、もう弾切れか?」
「畜っ生……」
「残念だったな! お仕舞いだ!」
グルンガストが最後の拳を振り上げたその瞬間、
「標的確認……破壊する!」
一発の銃弾がグルンガストの右目に直撃した。
249 :
死力戦場:2006/04/05(水) 23:21:48 ID:cubF8icB
「ちぃっ! さっきの奴か!? 遠距離狙撃とは、味な真似を!」
ヤザンは忌々しげに吼えた。
既にメインカメラの片方はやられ、もう片方も時間の問題。
ついでにセンサーもいかれたのかコクピットのスクリーンはノイズで埋め尽くされ、視界が確保できない。
正攻法では埒が明かないとみて、ピンポイント狙撃によるカメラの破壊に作戦を変更。
いくらグルンガストでも、カメラまで強固な装甲に覆われているわけではない。
完全にしてやられた。いい策だ、とヤザンは歯噛みする。
着弾。
計器が左側のメインカメラの完全な破損を告げる。
サブカメラだけではこれ以上の戦闘は厳しいことを、ヤザンは確信した。
「くそっ、もう少しだったってのに!」
今ウイングガストに変形するのは自殺行為だ。ガストランダーで強行突破するしかない。
忌々しげに変形のスイッチを入れようとしたその時、
「……見つけた……見つけたぞぉ!!」
限りなく悪い視界の中で、確かに映ったグレーの狙撃機。
こちらが気付くとは思ってもいないのだろう、移動する気配もない。
今ならやれる。
「最後に貴様だけは落とさせてもらう!」
グルンガストから放たれたブーストナックルは一直線にM9へと向かっていき、
「頼むぜマギーちゃん!」
『おまかせ』
「よし……乗っ取った! お返しだ、おらぁぁぁぁぁぁぁっ!」
大きく弧を描いて方向転換し、そのままこちらの方へ――――
「……生きてるのか、俺達?」
「そうらしいな。運が良かった」
「一時はこのままお陀仏かと思ったけどな……」
「ものはやり様だということだ。……さすがに俺も勝てるとは思ってなかったが」
「しかし、お前がいきなり『賭けに出るぞ』なんて言ってきた時はさすがに驚いたぜ」
「ハッキング中のD−3は隙だらけだ。敵の動きを封じておく必要があった」
「いや、そうじゃなくて」
「何の事だ?」
「お前がいきなりそんな突拍子もない行動に出るタイプだとは思わなかったんでね」
「……前にも似たような事を言われた事がある。このゲームに参加する前だが」
「そうかい、言った奴もさぞかし気苦労が絶えなかったんだろうな」
「………………」
「あらら、怒った?」
「…………"捕虜"も確保した。色々聞きだす事もある。まずは補給ポイントへ急ぐぞ」
「はいよ、了解!」
250 :
死力戦場:2006/04/05(水) 23:22:20 ID:cubF8icB
目覚めてすぐ、ヤザンは自分が機動兵器のマニュピレーターに握られていることに気付いた。
(負けたのか、俺は)
まだ頭が痛む。機体が歩くたびに激しく揺れて、嫌でも自分の立場を思い知らされる。
敗因はグルンガストの性能に頼り切っていたことだろう。らしくもない。
機体の性能を己の腕で引き出して戦うのが、自分のスタンスだったはずだ。
圧倒的な差をこうも引っくり返されるとは、さすがに思いもしなかったが。
奴らはこのまま自分を締め上げて、情報を吐かせるつもりだろうか。
何はともあれ、その場で止めを刺されなかっただけでも運がいい。
生きてさえいれば、まだいくらでもやりようはある。
(…………)
それに。
(…………ククッ)
なんだろう。
(やはり、戦場の空気というものはこうでなくてはいかんなぁ?)
この、押さえ切れない昂ぶりは。
(まずは時を待つか……ハハッ、いよいよこのゲームも面白くなってきた!)
【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:疲労
機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし) 右腕切断 残弾僅か
現在位置:G-5
第一行動方針:補給を済ませ、ヤザンから情報を引き出す
第二行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
第三行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
第四行動方針:アクセル・アルマー、木原マサキとの合流
最終行動方針:ユーゼス打倒】
【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:M9<ガーンズバック>
パイロット状態:若干疲労
機体状況:装甲表面が一部融解。残弾僅か
現在位置:G-5
第一行動方針:補給を済ませ、ヤザンから情報を引き出す
第二行動方針:トウマの代わりにアルマナの仇打ち
第三行動方針:アムロ・レイの打倒
最終行動方針:トウマ、クォヴレーと合流。及び最後まで生き残る】
【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:無し
パイロット状態:健康。頭痛あり
現在位置:G-5
第一行動方針:隙を見て脱走(可能ならば機体も奪取)
第二行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
最終行動方針:ゲームに乗る】
備考:G-5地区にグルンガストが放棄してあります
機体状況:小破。メインカメラがほぼ完全に破損
【二日目 11:30】
251 :
再開:2006/04/06(木) 06:04:59 ID:ovmmTTJL
彼、チーフと名乗る堅物な男は道路沿い草原地帯に立っていた。
傍らには二つの墓と大きめの一本の木、そしてその木には奇妙な巨大ディスクが立てかけられてあった。
(かなりの時間をロスしてしまったな。追いつけるか?)
そう思いをよぎらせ、数時間前の惨劇を思い出す。
そう、木原マサキと名乗ったその男が年端もいかぬ少女を惨殺したことを――
しかしその時自分は不覚にも気絶していた。
そこまで考えが進むと自然と操縦桿を握る手に力が入る。
彼女を守るため力を尽くした仲間、ガルドにどう顔向けが出来ようか。
(おちつけ、焦るわけにはいかん)
そう彼は自分をなだめた、焦りからむやみに突出することは死に繋がる、それでは元も子もない。
それは彼が軍人として戦場でつちかってきた真理であり、そしてそれが追跡を遅らせる要因となっていた。
マサキが去りしばらくした頃チーフはグランゾンに乗り込みすぐさま追跡を開始しようとした。
しかしその操縦系統はあまりにも自分の愛機であったテムジンと異なりすぎていたのだ。
というよりもVRの操作が簡単すぎたのかもしれない――
チーフは優秀な軍人でありパイロットであったが、すぐには使いこなせそうにはなかった。
追跡しながら徐々に慣れさせていくことも考えられたが、
攻撃的な相手と遭遇する可能性もあり、またよしんば追跡に成功しても現状でマサキを倒すことは難しいと判断したのだ。
焦って返り討ちにあっては洒落にならない、必ず倒すと誓ったからには確実性が欲しかった。
しばらくあまり現地からは離れずに操作練習を行うしかなかった。
また、マサキによって殺された二人にせめて墓ぐらいは作ってやりたかった。
戦場で、しかもこんな何時自分が殺されるかもわからない所でかたくなに殺し合いを拒否した少女、
死んだ後まで利用され弄ばれた名前すらわからない少女。
本来ならば戦場にいるのは似つかない無力な存在。
そんな彼女等にせめて安らげそうな場所を与えてやりたかった。
街から東に外れた草原地帯、そこが彼女達の眠る場所、まるでその木が緑の墓標のような――
252 :
再開:2006/04/06(木) 06:05:36 ID:ovmmTTJL
(とにかく焦って全てを終らせるわけにはいかん。)
全ての操作を習得し彼女達の埋葬を終えたチーフは再度思い、そして状況を推測する。
(おそらく奴は首輪を解析するつもりなのだろう。
そしてそれが出来るのは大掛かりな施設のありそうなG−6に限られる――いやE−1も怪しいか。
ならばこのまま東に進み、その後南へ降りればいい。)
実際のところは東に向かうのは気が重かった、
再び襲われる可能性もあり単にマサキを追うのであれば避けて通るのが確実と思われた。
だがガルドの消息を確認し生きているようならばコトのあらましを説明しなければならなかった。
(ガルド――、自分が生かされていたことと、プレシアにマサキに対する警戒が無かったらしいことからマサキに殺されたということは無さそうだ、
ならばあの水中で待ち伏せていた機体と戦ったのだろう、生きていてくれれば良いが――)
そこまで考えをまとめた所でふと視線を巨大ディスクに向ける。
それはVRの存在そのものといってもよい物であった。
さっき二人の遺体を運ぶため病院へ戻った際、奇跡的に無事であったのをテムジンの残骸から発見、回収した物である。
このディスクの名前はVディスクと呼ばれる。
一般にVRの背についているVコンバーターと呼ばれる出力機に取り付けることによって
リバースコンバートと呼ばれる技術でディスク内に書き込まれたデータ(この場合テムジン)を実体化することが出来るのである。
つまり新たなVコンバーターさえあれば、再びテムジンを復活させることが出来るということになる。
(可能性は低いがな……)
そう思いながら、持ち運ぶにはちょいと不便な物体をわざわざ運び出し丁寧にも傷つかないよう立てかけてある己自身に苦笑するのであった。
(まだまだ甘いな。)
そう思いながらグランゾンに乗り込もうとしたとき、彼はさほど離れていない場所で爆発が起こるのを確認した。
それはややあって立て続けに起こり、こちらに近づいてくる。
「何だと!?」
平安を願って埋葬したはずのその地は、新たな戦場の場へと移り変わろうとしていた。
253 :
再開:2006/04/06(木) 06:07:16 ID:ovmmTTJL
【時刻:二日目:15時05分】
「シロッコさん……前方から何か近づいてきます……」
「うむ、こちらでも確認した。」
そう返答しながらシロッコはキラを、
ゼオライマーに支えられるようにして立っているゴッドガンダムをみた。
声は弱々しいが多少は落ち着いて見える。
しかし――
(たった1時間前のコトだ、どうなるかわからんな……)
そう、先ほどの戦闘後ラトゥーニをシロッコが埋葬してから1時間弱しかたっていなかった。
あの戦いが終わった後シロッコは二人にしばらく休息をとらせ、できるだけ早く移動するつもりでいた。
先ほどの連中、特にリョウト=ヒカワが万が一戻ってきた場合、ゼオラを抑えることが困難になるだろうと思ったからである。
事実あの戦闘後のゼオラはこれまで以上に危険度が増していた。
また、別の相手だったとしても今の状況で接触することは好ましくなかった。
戦うには戦力に不安が残るし、仲間に引き込もうにも他の二人がいては相手に好印象を持たせるのは難しい。
だがしかし、現在シロッコはリョウトが逃げ去った東へと進んでいる。
その理由は今目前のモニターに映し出されているグランゾンの存在であった。
二人を休ませている間に付近の偵察を行った時、シロッコはそれを見つけた。
ミノフスキー濃度が濃かったため相手には気づかれなかったようだが――
その相手は壊れた(おそらく戦闘があったと思われる)病院でなにかをコクピットへと運んでいるようだった。
普通の相手であればおそらくその場をスグに離れたであろう、
だがしかしグランゾンをみた瞬間シロッコはそれが只者ではないことを直感的に確信した。設計者としての先見でもあったが、なによりもニュータイプとしての勘がシロッコにそう告げていた。
(あれを得ることさえ出来れば!!)
そう感じ取ったシロッコはパイロットのみをねらえる隙を探った。
254 :
再開:2006/04/06(木) 06:08:38 ID:ovmmTTJL
だが不運にもその相手はすでに作業を終えたらしく
すぐにコクピットに乗り込むと何か円盤のようなものを手にし飛び立ってしまった。
しかも最悪なことに東に、である。
だが――
たしかにゼオラをつれていくことはかなりのリスクであったが、それでもグランゾンに対する魅力には及ばなかった。
加えて現状の戦力では相手に発見されない位置から攻撃を加えられそうなゼオライマー抜きというのは厳しい物がある。
しかしそれでもなかなか事はうまく運ばなかった。
ミノフスキー粒子が濃いおかげでレーダーはそこまで脅威ではなかったが、
そのパイロットが降り立ったところはほとんど平地であり気づかれないよう接近するのが難しく、また相手がグランゾンからほとんど離れなかったためである。
(あえて、この場所で待機しているというのか…?なかなかのパイロットのようだな……)
シロッコはその相手に対し憎々しげに呟いた。
すでに何度も、攻撃をしようかというゼオラを制している。
じわじわと盆地に身を隠したまま近づいてはいたが、今強襲をかけることでうまくいく可能性は、まだ五分五分といった所だ、下手を打って失敗すればこちらがやられることにもなりえる……
ゼオライマーは大丈夫であろう、先ほどのエネルギー消費もわずか1時間でかなり回復しているようだ、自分も撤退ぐらいはなんとかなるだろう、
だが疲弊したキラはほぼ確実にやられる。それではまずい、まだ首輪を解析している間の護衛も必要だ。
加えて失敗した場合グランゾンが手に入る可能性は限りなく低くなる。
「キラ君、やはり君は町で休んでいたほうがいい、今からでも戻りたまえ。」
シロッコがそう声をかける。
「いえ…僕はまだ…大丈夫です……ゼオラを……守らなきゃ…」
キラがうつろな眼でそう答える。
「だがしかし、今の状態ではかえってゼオラに心配をかけてしまうだろう?これは何も君だけのために言っている事でもないのだよ。」
そうできるだけ諭すように声をかける。
「でも…僕は……」
「大丈夫ですよ、シロッコさん。キラはみんなを助けてくれるんだから…ね?」
かわりにそう答えたゼオラに対してキラはどこか焦点の合わない笑みを浮かべる。
(ゼオラを抑えることが出来るかと思ってつれてきたが……これでは逆だったな……)
そう思ったがもはや後の祭りである。
(早く決めねばならんか。)
再度、目標を見つめた眼にやや焦りの色が浮かぶ。
だが相手はまだ隙を見せる様子はない。
255 :
再開:2006/04/06(木) 06:09:35 ID:ovmmTTJL
そうこうしているうちに別のところに変化があった。目標よりさらに前方で爆発が起こったのだ、それは続けていくつか起こりだんだんと近づいてくる
「シロッコさん……前方から何か近づいてきます……」
「うむ、こちらでも確認した。」
少し間の向けたようなキラの言葉に丁寧に返答を返すとシロッコは食い入るようにモニターを見つめる。
(まずい、奴はコクピットに乗り込むぞ……これでは無理か?ならば一か八か仕掛けるか?)
だがシロッコがその答えを出す前にゼオライマーの右腕からあふれ出た光があたりを包み込んだ。
【時刻:二日目:15時05分】
「あんたも……あんたもあの女のようにアタシを笑うのねぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
アスカは絶叫していた。
「馬鹿な……僕は…そんなことは…………君はリオをしっているのか!?」
対するリョウトはやや困惑気味である。
数分前リョウトは自機へと向かってきた機体と接触した。
危険をはらんではいたが、リオの情報を集めるためであった。
だがその名前を口にした途端このありさまである。
リョウトに理解できるよしはなかったが、アスカにとって彼の落ち着いた態度が気に障ったのであろう、自分をみて去っていくようならば彼女の自尊心を満足させたであろうが――今の彼女には彼の態度は自分を見下しているように感じ取られたのだ。
「あんたなんかにぃぃ……笑われる筋合いはないのよぉぉぉぉぉ!!!」
「アタシが一番なんだからぁぁぁぁぁぁ!」
そう続けざまに言い放つと同時にファイブシューターがWガンダムに襲い掛かる、いやこの場合ファイブというのはおかしいかもしれない。ダイモスは続けざまにそれを投げまくっていた。
「くっ!!」
間一髪、リョウトは自機を羽で覆いガードし、そのまま回避運動に移る。すでにやや破損していた左翼をさらに傷つけることとなったが、とっさの反応としてはなかなかだ、反撃にマシンキャノンで牽制し、距離をとろうとする。しかし――
「そんなもの……きくもんですかぁぁ!!」
装甲にモノを言わせなおダイモスは突っ込んでくる。
バスターライフルを構えようとするが、ダイモスは回り込み、懐へともぐりこんだ、こう接近していてはライフルを思うように使いにくい。
「くぅう!」(おされている……)
かろうじてダイモスの拳をかわす。
256 :
再開:2006/04/06(木) 06:10:17 ID:ovmmTTJL
「うをおおおおおお!!」
今度はバスターライフルを撃つ、狙いはてきとうだ。相手は難なくかわし、それは道路を吹き飛ばした。だがその一瞬の隙に後退を試みる。
だがアスカはそれをやすやすとは許さない。天才と言われた彼女は目の前の機体の特性を見抜いていた。離れて戦わない限りこの相手に遅れをとることはない、と
またWガンダムが左翼を破損していることによる飛行能力の低下もダイモスを引き離せない要因となっていた。
リョウトは懸命に、距離をとろうと後退し続けたが相手は執拗に迫り続ける。
今度はダイモシャフトとビームサーベルが交差していた……
(なんてパワーだ!この機体……特機か!)
彼の脳裏に先ほどのゼオライマーがちらりと浮かぶ。
(だが、こいつはリオを知っている。このままやられるわけにはいかない……)
「君は……君はリオを知っているんだな?」
再度たずねる。
「うるっさいわねぇぇぇ!!」
「あんな女に仲間扱いされる言われはないのよぉぉぉ」
「何!?それはどういう――」
しかし最後まで言い終わらないうちに視界が光に覆われ、破壊音が響く。
次の瞬間リョウトは片腕に損傷をおったダイモスをまのあたりにした。
そしてレーダーにいくつかの反応が出ていたのに気が付いた。そのうち一ついや二つが向かってくる。まさにそれはついさっき自分が思い浮かべたゼオライマー、それそのものであった。
257 :
再開:2006/04/06(木) 06:11:56 ID:ovmmTTJL
【時刻:二日目:15時05分】
「今のを見たか我が友よ!」
ハッターが北西を指差して声を上げる。そこはアスカが去っていった方角である
「爆音のようだな、近いぞ。」
竜馬が言葉を返す――
「もしかしてアスカさんが誰かと戦闘してるんじゃ……」
「それはまずいぞ!急いでくれ友よ!!」
リオの言葉にダイテツジンの右手にぶら下がったハッターが竜馬をせかす。
左手にはこれまたガンダムデスサイズがぶら下がっていた。
「それはわかっているんだが……さすがにこの重量では……」
「気合だ友よ!我等のこのほとばしる正義の心には、不可能はない!!それではその機体のダイテムジンの名が泣くぞ!」
「えっ?……竜馬さんの機体の名前ってダイテツジンじゃなかったんですか?」
・・・・・しばらくの沈黙
「……細かいことだ、気にするなガール!」
(私のほうが階級高いのに……)
都合よく無かったことにしたハッターに対してリオはそう脱力した。
竜馬の顔も自然とほころぶ
(まったく……緊張感もなにもあったものじゃないな…)
そう呟いたとき、あることを閃き――
「わかったぞ友よ!確かに急がねばならない。気合を入れよう!」
そうハッターにつげる、その顔にはどこかイタズラ小僧のようなにやけた笑みが広がっている。
「と、友よ!何かいやな予感がするのだが!?」
そうハッターが返事をした直後――
「ロォケットォォォォゥパァァァァァァァァンチィィィィィィ!!!」
ダイテツジンの腕が切り離され――
「ノォォォォォォォゥ――――」
ハッターは飛んでいった。
「よし、これで速度が上がるぞ、追いかける。」
そういって朗らかに竜馬が続く、どうやら一度言ってみたかったらしい、ご満悦のようだ。
「……私にはやらないでくださいね……あれ…」
リオがそう告げる。
258 :
再開:2006/04/06(木) 06:13:23 ID:ovmmTTJL
【時刻:二日目:15時07分】
チーフは困惑していた。
話は数分前にさかのぼる、爆音に気づいた彼はすぐさまコクピットへと乗り込んだ。
ここでは一瞬の油断が命取りとなる。埋葬中も警戒は怠っていなかったのだ。しかし――
コクピットへと乗り込んだ刹那、西から光が迫ってきていたのである。
コクピットを閉じる暇なく自分の姿をさらしたまま、あわてて機体をずらし攻撃を防いだのだが――
なるほどさすがに頑丈な装甲で守られていただけあって機体は無事であったが、
コクピットブロックまわりがわずかに焼け付きいくつかの回路もショートしてしまったようだ。レーダーも映らなくなっていた。
「ぐぅっ!」
パイロットスーツを身にまとっていなければ一緒に焼き焦げていたことであろう。
「コクピットハッチは……よし良好だ、敵は何処から撃ってきた?」
ハッチをあらためて閉じ敵を探す、さっきまで点けたままにしておいたレーダーは表示されていない。だが推測はできた。
レーダーにかからないほどの距離かつ身を隠せる所は限られていた。さらに攻撃が来たところから方角はわりだせる。
「西方、狙撃方向に盆地を確認……あそこか…さてどうする?」
あらためて自分の位置を確認する。出来ればこの場所では戦いたくない、さらに後方では別の戦闘が行われており、
しかもこちらに近づいてきている、北には障壁が、南には禁止エリアがひかえている、となれば――
「前方だ!」
そう言葉を短く切ると、盆地の後ろに向けて威嚇にワームスマッシャーを放つ、いぶりだすためだ、
そしてその後盆地に向かって進撃するつもりであった。
しかし――
ワームスマッシャーが放たれるか否かの時2つの機体がとびだしていた。
「何だと!?」
ワームスマッシャーを放っている最中は機体が硬直する。
(まずい……制空権を取られる……)
すぐに攻撃を解除し自分も浮かび上がろうとする、しかし動きが鈍い、どうやら先程のショートの影響のようだ、
一瞬動きが遅れる。そうこうしているうちに相手は真上にさしかかろうかと言うところまで来ていた。
(ここで戦うしかないのか……?)
チーフはそう覚悟した、再びゼオライマーの手が輝く。
しかし攻撃は見当はずれのところへとんでいった、そして爆発音。
後ろを振り向くと何時からいたのか後方に別の2機が見えた。
259 :
再開:2006/04/06(木) 06:14:27 ID:ovmmTTJL
(おのれ、なんて娘だ!)
シロッコは呟いた。突如飛び出したゼオラに気をとられた瞬間、突然空間から発射されたビームで足をやられたのだ。
こうなればもはやここで様子を伺うしかない。
(念のためキラから首輪を受け取っておいて正解といったところか)
シロッコはそういって自分をひにくるかのように首輪を指でまわした。
ゼオライマーがグランゾンに攻撃を仕掛けた直後彼女はさらに後方にいるリョウトを見つけたのだ、
レーダーにも映らず目視でもわずかに小さくしか見えないそれを、過敏になり狂気とかした心が感じ取ったのである。
「今度こそ冥府におくってあげる」
そう誰に言うでもなくささやくと飛び出した。後にはキラの乗るGガンダムがつづく。
「二人とも待ちたまえ!」
そのシロッコの言葉にゼオラは反応しない、もはやリョウトしか見えていないようだ
「僕がゼオラを……みんなを助けるんだ……そうすれば僕は………許してもらえる…」
キラもそう呟くのみだ、もはや体はすでに限界のはずなのに、痛みを気にしていないのか感じていないのか――
彼らはさっきまで狙っていたはずの相手をまるっきり無視し、ゼオラはリョウトに向けて再度衝撃波を放った。
ついでにいた『それ』が余計な動きをしたため外れてしまったようだが、問題はない、また邪魔するようなら次はまとめて消し去れば良いだけだ。
(なんでこんなことになってしまったんだ……)
リョウトの背筋に冷たいものが流れた。
ただでさえ、厄介な状況下にあったのにそこに予想外の相手が現れたのである。
これで3対1、正確には1対1対2なのだが自分をねらってくることには変わりは無い。
「何なのよ!!アンタたちは!?」
対してアスカのほうは、まだ状況がいまいちよく飲み込めていない。
最初はこの相手、リョウトの仲間かと警戒したのだが、その後自分には攻撃をしかけてくる様子が無いからだ、
今この新手は地上と空とから挟み込むようにリョウトを取り囲み攻撃していた。
対してリョウトは相手に狙いを定めさせないかのように空中を動き回っている。何かを警戒しているようだ。
260 :
再開:2006/04/06(木) 06:14:57 ID:ovmmTTJL
だが時間がたつにつれて、彼らのあたかも自分はお呼びではないと言わんばかりの態度に再び狂気の火が灯る――
「アタシを馬鹿にしてるって言うの…この……アタシを……?
こんな…やつ…等が……?」
瞬間先程の夢が脳裏によみがえる。
(一人だけの闇の中で惨めな自分を笑っていた、泣きながら。ファーストには相手にされ ず、シンジには哀れまれていた――)
「……殺してやる。」
(殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……こ…ろ…して……やる)
「そうだ、みんないなくなってしまえばいい。」
(シンジは消えろ…邪魔をするやつも消えろ…こいつ等も…みんなみんな消えてしまえ……)
「……消えろ!消えろ!!消えろ!!!」
(キエロ消えろきえろキエロ消えろきえろ)
眼が見開かれる。その瞳は不気味なほど濁って見えた。
「きえてしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ダイモスから赤くまるで鮮血のような竜巻が巻き起こり、それは無差別にあたり一面に吹き荒れる。
「あなた……邪魔をするっていうの!どいてちょうだい……」
「うるさい!邪魔なのはアンタでしょうがぁぁ」
奇しくも二つの狂気はぶつかることとなった。
ゼオライマーの手がまた光り竜巻の中心地を打ち抜く、しかしそこにはダイモスの姿は無い。はっとしたゼオラは体勢を立て直そうとしたが、そこに別の方向から姿を現したダイモスが一気に距離をつめる。胸部はすでに閉じられている。
あわてて距離をとろうとするゼオラだったがアスカはそれを許さない。それは先程までリョウトに対して行っていた戦法である。
(今なら引くことが出来るか?……だが…リオのことを聞き出せないまま逃げることはできない)
そのリョウトは突然訪れた撤退の好機に行動を決めかねていた。
「そこの機体、どうした?……なぜ引かん、このままでは死ぬのを待っているだけだぞ。」
「僕は、リオに会いたいだけなんだ……こんな所で死んでたまるものかぁ!!」
彼は突然聞こえたその声に対して反射的にそう答えた。
261 :
再開:2006/04/06(木) 06:16:24 ID:ovmmTTJL
「馬鹿ね……死なないと会わせてあげられないって言ったでしょ。」
「そんなに会いたいんならぁ、アンタを殺してからすぐに後を追わせてあげるわよ!」
矛盾した――、しかしどちらも悪意に満ちた声がリョウトの耳に響き渡る。
迷いはしないと決めたはずだった、しかし二つの狂気につられてわけがわからなくなってくる。
(リオは無事なのか……?生きているのか……?生きて……会えるのか……?僕は……生き延びることが出来るのか?)
一つのことから湧き出た不安と絶望は瞬く間にリョウトの体を支配する。
いつの間にか狂気にとらわれ動きが止まっていた。
『だから……』
何かいやなものが迫ってくる。
『私が……』
まぶしい……だが闇のように暗い光だ……
『会わせてあげるって言ってるでしょう?』
その隙をついて二機からの攻撃が同時に襲い掛かる。どうやらさっきの言葉が彼女等の癇に障ったらしい。
リョウトは息をのむ、体が思うようにうごかせない。
(そんな……僕は君に会うことは出来ないのか…………リオ……)
「いかん!間に合うか!?」
その様子をチーフは後方から見ていた。
ゼオラとキラが自分の上を通り過ぎリョウトと戦闘を開始した後ずっと様子を伺っていたのだ。
プレシアの死に対して誓ったことがあったからだ、この機体でできる限りの人命救助を心がけるという――
(まだ状況がつかめたわけではないが見捨てるわけにもいかん。)
リョウトの前に空間のひずみが生じていた。
(これで相殺する……ワームスマッシャー!!)
空間をこえ、ビームがリョウトに向かってきたエネルギー波とぶつかる。
結果、エネルギー波はわずかにそれ――、Wガンダムをかすめて地上に落ちていった。だがそこに続けて赤い熱風が吹き荒れた。
風と熱はビームでは防げない。チーフはWガンダムの周りに幾つも空間の穴を開けた、バリアがわりにしようというのだ――。
「うわぁぁぁぁあ!!」
「ぐぅぅ!」
だが完全には防げず、Wガンダムは地上へと弾き飛ばされる、またグランゾンにも空間の穴を通して竜巻が流れ込んでいた。
通常の状態であれば問題にならない程度だったであろうが不意打ちで受けた損傷がコクピットの気密を不完全な物としていため内部に熱がつたわってきている。
「貴君等の戦闘行為は特別指導にあたいする!即座に戦闘を中止し双方引け……拒否すれば破壊も辞さない!」
「何ですってぇ!?ふざけんじゃないわよぉ!!」
地上に何とか着地したWガンダムを確認しチーフは体勢を立て直しつつそう告げる。
どのような状況で戦闘が行われているかわからないため、場を収めるためにはそう告げるしかなかった。だがその言葉はさらにアスカを高ぶらせる結果となった。
さっきまで戦っていた相手を放っておいて今度はグランゾンへと進撃する。
262 :
再開:2006/04/06(木) 06:17:02 ID:ovmmTTJL
(この相手、少女のようだが、この不当な遊戯に乗っているのか。ならば――)
ブラックホールクラスターが発射される、しかしそれは出力を弱めた威嚇射撃である。
ダイモスはそれを軽々とかわしたがそれは少し離れた大地をえぐり、吹き飛ばした。たいていの相手なら、これで戦意を失うことだろう――。それが狙いである。
だがしかしアスカは止まらなかった。
「はっ!?たいした馬鹿力ね!馬鹿にはお似合いだわ。」
そういうとグランゾンの懐に躊躇なく飛び込む。
「こういうふうになったらどうするのかしらぁ?」
さらに死角にすばやく回り込み拳を連続で叩き込む。
グランゾンはバリアの調子も悪くなっているようだ、十分に歪曲フィールドを形成できない。だが、それがなくとも装甲はかなり厚い。
(チッ!見た目どおり馬鹿みたい硬いわね……けどここならどうなのよ?)
(……なかなかの判断だ――、この相手…ただの戦闘凶ではない…狂気に身をまかせていてなお戦闘に関しては冷静……危険な相手のようだな。)
普通に攻撃しても効果が無いと即座に判断し、間接部や、すでに損傷のあるコクピットに拳を向けるダイモスの操縦者を推測し――
(ならば、こいつを野放しにするわけにはいかん。)そう決心した。ダイモスは今やダイモシャフトで切りかかろうというところだ。
「なんですって!?」アスカは驚愕した。完全に死角を突いたと思ったのに自分の攻撃を剣で切り払われている――。いや、今度はさらに相手が切り込んでいる。
なぜ?これはアスカにとって誤算だった。彼女が知るよしは無かったが、VRの戦闘において近距離戦闘で相手の死角に回りこむことは、基本的なことであったのだ。
「回り込む相手に対しては、こちらも逆方向に回りこむことが有効だ、後退するよりは突っ切ったほうが離脱しやすい。」
そういって斬撃を回避したダイモスを飛び越えた――、
後ろを振り向くためにダイモスの動きが一瞬鈍る、その一瞬でチーフは距離をとり、グラビトロンカノンを撃つ、辺りにいるはずのもう一機に警戒しての全方位攻撃だ。
ダイモスは沈黙していた、ややあって地上へ落ちる。パイロットは気絶しているのだろうか?
チーフは辺りを見わたすがゼオライマーはすでにいない。
(撤退したのか?)にわかに安堵する、だが――
「地上だと!?」
そこにはWガンダムとそれに攻撃をしかける二機が見える。いや――、さらに南東から何かが接近してきていた。なんとタイミングが悪いのか、おまけに彼らの向かっている先は墓の近くである。木にVディスクが立てかけられているのが見える。
「……任務、依然継続…」彼は少し疲れたかのように短く言葉を切った。まずは落下しはじめたダイモスを何とかしなければならない――
悪いことはとことん重なるものだ、突如機体にチェーンがまきつくと、鉄骨が飛んできた。カァァァンと子気味のいい音をたてて頭に当たる。
「キィサァマァ!ガールに何をした!残虐無道な悪人め、この俺が相手だ!降りて来い!」
真下でよく知った機体が腕を振り上げていた。
263 :
再開:2006/04/06(木) 06:18:15 ID:ovmmTTJL
【チーフ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:全身に打撲、やや疲れ
機体状況:外傷はなし、内部機器類、(レーダーやバリアなど)に異常、
現在位置:C-1
第一行動方針:ハッターの誤解を解く
第二行動方針:マサキを倒す
第三行動方針:助けられる人は助ける
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
パイロット状態:良好
機体状況:装甲損傷軽微(支障なし)SSテンガロンハットは使用不可、トンファーなし
現在位置:C-1
第一行動方針:アスカ・チーフの捜索
第二行動方針:仲間を集める
最終行動方針:ユーゼスを倒す
備考:ロボット整備用のチェーンブロック、高硬度H鋼2本(くの字に曲がった鉄骨) を所持】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:気絶
機体状況:装甲損傷軽微、後頭部タイヤ破損、左腕損傷
現在位置:C-1
第一行動方針:碇シンジの捜索
第二行動指針:邪魔する者の排除
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
備考:全てが自分を嘲笑っているように錯覚している。戦闘に関する判断力は冷静(?)】
264 :
再開:2006/04/06(木) 06:19:12 ID:ovmmTTJL
話は少し前に戻る。
突如あらわれた機体によって助けられ、リョウトは何とかガンダムを着地させた。バーニアはさらに破損してしまったようだ、
しかし――、まだ困惑したままである。加えて直前に感じた死の感覚でからだはまだ硬 い、リョウトは自分が少し震えているのに気が付いた。少し離れた上空ではまた爆発音が響いている。
「くそっ!僕は…もう迷わないって決めたのに……リオを守るために…」
(だめだ!このままじゃまた――)
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突如、咆哮が聞こえ。そしてバルカンがかすめる、リョウトはそれをうってきた機体を見た。
(こいつは……ラトゥーニを……!!)
震えがとまる、そして手に力が戻ってきた、体が動く。
(そうだ……決めたんだ、もうあんなことを繰り返さないために……。もう迷って仲間を…大切な人を失うわけには……いかない!!)
それはゴッドガンダムであった。ラトゥーニが死ぬことになった直接の要因――
(こいつらを、リオやラトゥーニを殺そうとするようなやつ等を生かしておくわけにはいかない!)
「許さない……絶対にお前等だけは…許すものかぁぁぁ!!」
何かのシステムが発動していた、円形のモニターが淡く光り始める。
「なにを言っているの?……僕は…ゼオラを……ラトって言う子を助けなくちゃならないんだ……」
二つのビームサーベルが交わる。
「僕をまた惑わそうってのか?…ラトは、ラトゥーニは死んだ!…お前が殺したんだ!」
その言葉にキラの眼にわずかに恐怖の色が浮かぶ――
「だから……だからこれから助けるって言ってるんじゃないかぁぁぁぁ!!」
キラはWガンダムのサーベルを弾く。
支離滅裂だ――
(前に戦闘したときには彼はまともに思えたのに……)
265 :
再開:2006/04/06(木) 06:20:52 ID:ovmmTTJL
少しずつまわりがおかしくなってきているのだろうか、いや自分も少しずつ変わってきているのかもしれない。そう思った
「邪魔をしないでよ、君もあとで助けるから。」
「ふざけるな!!」
だがこの言葉には少なからず頭にきた、そんな簡単に人の生き死にを左右できれば自分がこんなに悩む必要は無い。
リョウトはビームサーベルをかわし空中へ後退すると、
バスターライフルを撃つ、相手の動きが鈍い、ゴッドガンダムは手に持っていたビームサーベルをはじき飛ばされながらかろうじてかわした、
よく見ればふらふらのようだ。
機体もパイロットも限界なのだろう、とどめの一発を狙う。
だがそれを撃つことは出来なかった、いきなり巻き起こった衝撃波がWガンダムを襲ったからだ、
見ると上空にゼオライマーの姿がある。そのさらに後ろでは自分を助けてくれた機体とダイモスが戦っているようだ。
続いて閃光がおこりダイモスが落下し始める。
(あいつにはリオのことを聞かなければならないのに……)焦る――。だが今はそれにかまっている暇は無いようだ、
ゼオライマーが迫る。
状況は元に戻ってしまった。再び地上と天空からの挟み撃ちにあい、あわやという事態が続く、
幸いGガンダムは空中にまで突撃してくる余裕は無いらしくバルカンでの援護のみだったが、それでも今の状態のWガンダムには辛い。
相手の行動はなぜか予測できていた。(あのシステムの力なのか?)だがしかし背中のバーニアが悲鳴を上げている。
もう損傷はかなりの物であるにもかかわらず両方の攻撃をかわさなくてはならない、ゼオライマーになんとか攻撃を加えたかったが、
相手はうまく距離をとってくる、またライフルのエネルギーも残り少なくなっていたためうかつに撃てなくなっていた。もはやツインバスターライフルは撃てない。
「くそっ!向こうだってエネルギーは消費しているはずなのに。」悔しそうに声を荒げる。
そしてうめく、自分の撃墜されるイメージが浮かび始めたのだ。冷や汗をながしながらすんでのところで攻撃を回避する。
「うふふ、ほらほら…もっと苦しみなさい。アラドはもっと苦しかったのよ……。」
彼女は無節操に衝撃波を放っていたがその実、すべての攻撃は必要最低限に出力をおとしていたのである。(正確にはシロッコが、であるが。グランゾンを奪う際に誤ってコクピットブロックを丸々つぶしてしまっては元も子もないため威力を落としていたのだ)
だがそれが結果的にエネルギー消費を抑えていた。ただしこのために何度もチャンスを失っていたわけでもあるが――
266 :
再開:2006/04/06(木) 06:22:02 ID:ovmmTTJL
それにリョウトはゼオライマーがエネルギーを回復させることが出来ることを知らなかった。
そうとは知らず防戦一方でにげまわるウイングゼロのバーニアはいよいよもってショートし始める。さすがに限界だ。
地上に降りれば勝ち目はない、こんな隠れるところも何も無いような場所だ、狙い撃ちだろう――
となればもう一か八か突っ込むしかないのか、そう考えた時さっき助けてくれた機体のことが頭に浮かんだ。
レーダーを、あたりを見回す。
「何だって!?いつの間にこんな!」
機影が増えていた――
自分を中心にすぐ近くの敵二体、東にややはなれて三体、そこは先程自分が襲われていたところだ、
レーダーには映らなかったが地上に降りているグランゾンが目視で小さく確認できる。
そして南東のあまりはなれていない位置に二機、
やはり目視で確認でき、同じくこっちに向かっている。あと一瞬西にはなれたところでレーダーに反応があった。
すこしミノフスキー粒子が薄くなったのだろうか。
しかし目視では確認できなかった。そこはわずかに丘になっている
どうする――
だがこのままではやられる可能性が高い。同じ一か八かなら少しでも助かる可能性のあるほうを選ぶほうが良いに決まっていた。回線を開く。それは彼にとってベストな判断となった。
『こちらはリョウト=ヒカワだ!危険な相手に襲われている。頼む!助けてくれ!』
『こちらは流竜馬だ、君がヒカワ君かい?話は聞いているよ。もう少し待ってくれ。』
南東の機体からだ、僕を―知っているだって?――
『リョウト君!!本当に…リョウト君なのね!?良かった、私……私は……』
その後は言葉にならない、泣いているのか?――いやこの声は―もしかして――
『リオ!?リオ=メイロンなのか!?』
『ええ!……そうよ……私、リオよ……』
また少し、ミノフスキー粒子によるジャミングが一瞬弱まる――
モニターに相手の顔がわずかに映る
そこには確かによく知った顔が映っていた、涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。
それを見た彼に、熱いものが込み上げてくる。不思議に操縦桿を握る手に力がこもる。
いつの間にか彼の頬にも涙が伝っていた。さっきまでの嫌な感覚が吹き飛ぶ、生き抜こうと思う気持ちが蘇ってきた。
「今、やられるわけにはいかない!絶対に!!」
ゼオライマーの動きを予測する、最小限の動きで衝撃波を回避し続ける。地上のゴッドガンダムからも警戒をとくことはない、
今リョウトの集中力は最高潮に達していた。
267 :
再開:2006/04/06(木) 06:23:04 ID:ovmmTTJL
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:健康
機体状態:小破(左翼が一部破損し飛行能力低下)
現在位置:C−1
第1行動方針:リオとの合流
第2行動方針:邪魔者は躊躇せず排除
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考:バスターライフルはエネルギー切れ】
【ゼオラ・シュバイツァー 搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状況:身体的には良好。精神崩壊(洗脳状態)
機体状況:左腕損傷(エネルギー残少。半分以上回復)、
武器出力・エネルギー消費低下
現在位置:C−1
第一行動方針:リョウトの抹殺
第二行動方針:アラドを助ける為にシロッコとキラに従う
第三行動方針:アラドを助ける事を邪魔する者の排除
最終行動方針:主催者を打倒しアラドを助ける
備考1:シロッコに「アラドを助けられる」と吹き込まれ洗脳状態
備考2: 「人を殺しても後で助けられる」と思ってる。
備考3:リオを殺したと勘違いしている
備考4:リオがアラドを殺したと勘違いしている】
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ゴッドガンダム(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状況:激痛と疲労で衰弱(歩くのもやっと)左腕が動かない。精神崩壊気味
機体状況:損傷軽微、左腕は肩部を残し消失
現在位置:C−1
第一行動方針:ゼオラと自分の安全確保
第二行動方針:ゼオラとシロッコに従う
第三行動方針:首輪の解析
最終行動方針:生存
備考1:「人を殺しても後で助けられる」と思い始めている
備考2:ラトゥーニの首輪を所持】
268 :
再開:2006/04/06(木) 06:23:35 ID:ovmmTTJL
【リオ=メイロン 搭乗機体:ガンダムデスサイズヘルカスタム(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)
パイロット状況:良好。かなり落ち着いた。
機体状況:全体的に破損、武器消失。
現在位置:D-2
第一行動方針:アスカの捜索
最終行動方針:リョウトの捜索】
【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
パイロット状態:良好
機体状況:良好(前面全体に転倒時の擦れ傷があるが問題なし)
現在位置:D-2
第一行動方針:アスカ・鉄也の捜索
第二行動方針:他の参加者との接触
最終行動方針:ゲームより脱出して帝王ゴールを倒す】
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:ダンガイオー(破邪大星ダンガイオー)
パイロット状況:良好(保護者を演じる事に少し疲れた)
機体状況:右腕は肩から損失、左腕は肘から下を損失。全体に多少の損傷あり(運用面で支障なし)
現在位置:C−1
第1行動方針:首輪の解析及び解除
第2行動方針:戦力増強(切実に新しい機体が欲しい)
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考1:コクピットの作りは本物とは全く違います。
備考2:基本的にサイキック能力は使用不能だがNT能力等で一部代用できるようだ】
269 :
闘う者達:2006/04/06(木) 08:57:28 ID:Th2TgOyX
B-4地点の海岸付近で、翼を休ませる機体があった。飛行形態を解除した、エスカフローネとR−1。
リュウセイ=ダテを始めとする参加者の存在を探し求めながらも、彼等は今まで自分達以外の参加者と接触出来ずにいた。
捜索を開始してから幾許の時間が過ぎ去って、今は正午の少し前。元より多少の精神疲労が見られたレビの事もあり、二人はしばしの小休止を行っていた。
「ふぅ……」
R−1のパイロットシートに身を預けながら、レビは微かな溜息を吐く。
考え込むのは、自分の事だ。
昨日の内から思ってはいたが、どうも思考がはっきりとしない。まるで靄でも掛かったように、記憶が曖昧になっているのだ。
今は安定しているが、特に昨日は酷かった。自分でも理解不可能な恐慌状態に陥って、そして……。
「……殺そうと、した」
思い出す。自分の中から聞こえてきた、あの薄気味悪い囁き声。
殺してしまえと語りかける、自分以外の囁き声。
あれは、いったい何だったのか。
……知らない。何も、分からない。
はっきりと言えるのは、あの声に自分が屈しかけてしまっていた事と、その声に飲み込まれては二度と後戻り出来なくなっていたのだろうという事。この二つだけ。
囁き声に飲み込まれかけ、しかし囁きを脱する事が出来た彼女だからこそ、それを感覚で理解していた。
怖い……。
戦う事が、ではない。
殺されるかもしれない事が、でもない。
あの囁き声に惑わされ、自分を見失ってしまう事。それが、なによりも恐ろしかった。
「リュウ……」
……逢いたい。
彼に逢えさえすれば、この不安な気持ちにもきっと耐えられる。
あの囁きが聞こえても、きっと跳ね除ける事ができる。
R−1。リュウセイ・ダテと共に戦い続け、彼の身を守り続けた機体。それが今は自分の機体となり、彼の元を離れている。
今のリュウセイに、R−1の加護は無い。
だからこそ、強く願わずにはいられないのだ。
彼の無事と、再会を。
270 :
闘う者達:2006/04/06(木) 08:58:57 ID:Th2TgOyX
フォルカは静かに目を閉じて、周囲の気配を探っていた。
翼を休めている時こそ、獲物を狙う絶好の機会。修羅の世界で生まれ育ったフォルカにとって、それは何よりも良く理解出来ている事だった。
レーダーの機能が限定されている事は、フォルカにとっては幸いと言えた。
フォルカほどの手練であれば、周囲の気配を探る事は難しくない。
レーダーで姿を補足される可能性が低い事は、エスカフローネのサイズと相成って大きな利点となっていた。
もっとも、同行者が居る現在、その利点を最大限に活かす事は少々難しい。
エスカフローネ自体の姿は隠せても、同行者の姿が見付かってはどうにもならないからだ。
とはいえ、それを嘆くつもりはない。
フォルカにとって重要なのは、人の死を避ける事だ。自分一人だけが助かる事には、何の意味もありはしない。
かつて何度も経験した、共に戦った仲間の死。
それを再び繰り返す事は、フォルカにとってはなによりも耐えられない事だった。
……思い出す。かつての戦いで、多くの修羅たちが命を落としていった。
兄と慕った男が、無二の親友が、戦いの中で命を落としていったのだ。その悲しみは、今も忘れてはいない。
(……俺は、無力だ)
このバトルロワイアルに巻き込まれ、多くの人々が死んでいった。もし自分に力があれば、彼らを救う頃が出来たのかもしれない。
だが、現実は非常だ。彼らは自分が知らないところで、次々と命を落としていった。
「ユーゼス・ゴッツォ……」
許せない。
許せるわけがない。
戦士として、修羅として、奴を許しておくわけにはいかなかった。この現実を認めるわけにはいかなかった。
271 :
闘う者達:2006/04/06(木) 08:59:43 ID:Th2TgOyX
――フォルカとレビが水辺で休憩を取っている中、彼らが滞在するエリアに近付く機影があった。
海賊を模した独特の姿が特徴的な、ガンダムタイプのMS――アクセル・アルマーのクロスボーンガンダムX1である。
「う……あ、あ…………」
呻き声を上げながら、それでもアクセルは操作を誤る事無く機体を何処かに向かわせ続ける。
だが、その行き先は自分でも理解してはいない。混乱の中に放り込まれたまま、ただ闇雲に機体を動かし続けているだけだった。
「くっ……うあ、あっ…………!」
今のアクセルを支配しているのは、混乱の中で甦ろうとしている断片的な過去の記憶。
即ち――
「闘……争……っ! 永遠の……闘争……を…………っ!」
敵を求め、戦いを求め、アクセルは流離い続けていた。
激しい混乱状態を抜け出す事が出来ないままに、彼は“敵”を探し続けていた。
かつて掲げた大義に引きずられ、アクセル・アルマーは戦いを求める。
そして……。
「……! レビ、気を付けろ! この場所に近付いて来る気配がある!!」
自分達の居る場所に近付いて来る気配を察し、フォルカは警戒の叫び声を上げる。
「! こっちでもレーダーで確認した! フォルカ、早く機体に!」
「ああ、わかっている!」
接近する気配に気を配りながら、フォルカはエスカフローネに搭乗する。
「くっ……好戦的な相手でなければいいんだが……」
フォルカにしろ、レビにしろ、無用な戦いを望んでいる訳ではない。
だが、ここは本来殺し合いの場所だ。それは、二人とも理解している。
「フォルカ……南だ!」
「くっ……!」
レビの叫びに意識を南に向けるフォルカ。
そして――待ち受ける二人の前に、それは姿を現した。
海賊を思わせる特異な形状が印象に残るMS――
南方の森より姿を現したのは、未だ激しい混乱状態から抜け切れないでいる、アクセル・アルマーのクロスボーンガンダムX1だった。
272 :
闘う者達:2006/04/06(木) 09:00:21 ID:Th2TgOyX
「ぐうっ……あっ…………!」
……痛む。
まるで頭蓋骨を万力で締め付けられているような、あまりに激し過ぎる痛み……。
それを誤魔化すように操縦桿を握り締めて、どれだけの時が流れたのだろうか。
鬱蒼と生い茂る木々の間を通り抜けた先には、水辺に佇む二機のマシーン。
まともな判断力を失ったまま、アクセルはその見知らぬ機体が待ち受ける方向に己が機体を向かわせていた。
「待て、お前はっ……!」
「が、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
聞き覚えの無い、男の声。自分に向けられた誰何の声に咆哮で応え、アクセルは一方的に攻撃を仕掛ける。
今の彼を突き動かしているのは、記憶の底で蠢く何か――“戦え”と声を上げ続ける、過去の自分そのものだった。
「くっ……問答無用か……!」
いきなり殴り掛かって来たクロスボーンガンダムの一撃を紙一重の差で回避して、フォルカは苦渋の滲んだ声で呟く。
無用な戦いを強く拒み、修羅の世界を否定したフォルカである。
ユーゼスの仕組んだ無意味な戦いに加わる気は、フォルカは欠片ほども持ち合わせてはいない。
……だが、降り掛かる火の粉を払い除けるには、自ら武器を取るしかない。
この修羅の若者は、それを誰よりも深く理解していた。
「フォルカ……!」
「下がっていろ、レビ! こいつの相手は俺がするっ!」
「しかしっ……!」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
切り落とされた方とは反対側の手にブランド・マーカーを展開し、アクセルのクロスボーンガンダムはエスカフローネに殴り掛かる。
かつて拳での格闘戦を主軸に置いた機体――ソウルゲインを駆っていたアクセルにとって、拳での一撃は得意中の得意と言っても良い技だ。
記憶が抜け落ちている状態であっても、その技の冴えに衰えは無かった。
だが、フォルカとて修羅界の激戦を生き抜いた猛者である。格闘戦に関して言えば、その実力は常人の領域を超越している。
「打ち砕け……エスカフローネッッ!」
轟ッ……!
エスカフローネの拳に闘気を纏い付かせて、フォルカもまた拳を打ち出した。
ビームを纏ったクロスボーンガンダムの左腕と、闘気を纏ったエスカフローネの左腕。それが、互いに打ち合わされる。
「がっ……あぁぁぁぁぁっ!」
猛々しく叫び声を上げながら、アクセルは打ち出す拳に機体の重量を傾ける。
十メートルにも満たないエスカフローネと、その二倍近い巨体を誇るクロスボーンガンダム。力での勝負に持ち込むのならば、後者が有利に決まっている。
故に、このままゴリ押しで攻めていけば、クロスボーンガンダムの勝利は揺るぎない。
そう、この場に居た者は思っていた。
……フォルカ以外は。
「迂闊だぞ……!」
打ち合わされた左の拳を、フォルカは素早く引き戻す。
そうすると、ただでは済まないのがクロスボーンガンダムである。傾けた体重に引きずられ、そのバランスが崩される。
「ぐっ……!」
無論、アクセルとて並大抵の操縦技能者ではない。身体に染み付いた反射神経が、機体のバランスを取り戻しに掛かる。
だが――それでも、一瞬の隙は否めない。
そしてその隙を見逃すほど――フォルカ・アルバークは、甘くなかった。
修羅王の名は――伊達ではない!
「機神拳っ……!」
273 :
闘う者達:2006/04/06(木) 09:01:12 ID:Th2TgOyX
フォルカの放った一撃は、クロスボーンガンダムの胸部を狙い済まして放たれた。
……だが、クロスボーンガンダムの機体に、その拳が突き刺さる事は無い。
コクピットを貫く寸前に、その拳は止められていた。
「……降伏しろ。これ以上、戦うつもりが無いと言うのなら、俺も命まで取ろうとは思わん」
「フォルカ……」
フォルカが見せた卓越した戦闘技術に、レビは思わず呟きを洩らす。
……強い。徒手空拳での格闘戦に限って言えば、これほどの実力者には今まで出会った事が無い。
只者でない事は分かっていたが……まさか、これほどの実力者だったとは。
「あの時……もしフォルカが戦うつもりになっていたら、私は生きていなかったのだろうな……」
そう、きっと、生きてはいなかった。
錯乱状態に陥って、まともな判断力を働かせられなくなっていた自分では、きっと彼に勝利する事は出来なかったのだろう。
仮定の過去になりはするが……そう考えると、ぞっとする。
「……俺達は、この戦いから犠牲者を無くしたいと思っている」
クロスボーンガンダムの胸にその拳を向けたまま、フォルカはアクセルに話し掛ける。
「お前も分かっているはずだ。ユーゼスの言葉に乗せられた先に待っているのは、誰もが傷付き哀しむ世界だと言う事を……。
戦う事でしか生きてはいけない、修羅の世界だと言う事を!」
「っ…………!」
「このまま奴の言いなりになって、永遠の闘争に浸り続ける……そんな事が、あっていいわけがないはずだ!」
「っ……! 永遠の……闘、争っ……!」
「……俺は知っている。そんな世界が、どれだけ不毛で悲しみに満ち溢れているのか。
その世界に住む者たちが……どれだけ苦しみを背負い続けなくてはならないのか……」
「ぐ……う、うっ……!」
「お前もきっと、分かっているはずだ。
……お前の拳には迷いがあった。戦う事に対する、迷いが」
「……………………っ!」
……未だ混乱から抜け切れないでいるアクセルの耳に次々と飛び込んでくる、落ち着いた口調の男の声。
その中に一つだけ……記憶の隅に、引っ掛かる単語があった。
永遠の闘争――
そう……それは自分たちが求め、理想としていたものではなかったか……?
かつて自分が、ヴィンデルが、そして……“彼女”が掲げた……。
「が……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
かつてないほどの記憶の混乱。
激しく昂る感情のままに、アクセルは咆哮を轟かせる。
「フォルカっ……! 気を付けろっ! そいつの腰っ……!」
離れた場所から様子を見守っていたレビが、クロスボーンガンダムの異変を察知する。
シザー・アンカー。腰部に取り付けられた鋏状の武装が、エスカフローネに伸びていた。
「くっ……切り裂け、エスカフローネ!!」
胴体に伸ばされた巨大な鋏を、エスカフローネは剣で切り裂く。
だが、この攻撃が防がれる事は承知の上だ。
シザー・アンカーの対処に追われたフォルカに出来た、ほんの一瞬足らずの隙。今度は、アクセルが攻勢に転じる番だった。
「そこを……どけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
スラスターを全力で吹かせ、アクセルは倒れ込んだクロスボーンガンダムを起き上がらせる。
そうなれば、ただでは済まないのがクロスボーンガンダムの間近に立っていたエスカフローネである。
あたかも風圧で吹き飛ばされるような形で、クロスボーンガンダムとの距離を離されてしまった。
「くっ……あくまでも戦うつもりだと言うのかっ……!?」
「う……おぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
肩部分に取り付けられたビームガンを撃ちまくりながら、アクセルは縦横無尽に機体を駆けさせる。
相手の格闘戦能力は、自分を大きく上回っている。
勝利を掴むとするならば――決して、懐には飛び込ませない事だ!
「くっ……! この男……先程までとは明らかに……違う!?」
永遠の闘争――
そのキーワードがアクセルに与えたのは、激しい混乱ばかりではなかった。かつて誇った戦闘技術の全てもまた、彼の身体に取り戻されつつあったのだ。
「戦えっ……! 俺と……俺と戦えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
ザンバスターを構えながら、アクセルはフォルカに闘志を叩き付ける。
かつて修羅界で何度もぶつけられた、激しく熱い剥き出しの闘志。
だが……フォルカは……。
「……何故だ?」
自らに加えられる苛烈な攻撃を避けながら……思わず、呟きを洩らしていた。
「それだけの闘気を放ちながら……何故、お前の攻撃には迷いがある!?」
274 :
闘う者達:2006/04/06(木) 09:01:58 ID:Th2TgOyX
……楽しかった。
こんな訳の分からない戦いに放り込まれはしたが、それでも楽しいと感じられた。
仲間と出会った。
仲間と共に笑い合った。
こんなふざけた戦いなんて……絶対に、認められるわけがないと思った。
……不思議な感覚だった。
楽しさなんて、ずっとずっと忘れていたのに……。
戦い続ける事こそが、世界の正しい姿だと信じていたはずなのに……。
それなのに……自分は、戦いを嫌っていた。
こんな意味の無い殺し合いなんてゴメンだと、そう思ってしまっていた。
……認められる、ものか。
それを認めてしまっては、自分の今までは……果たして、何だったと言うのだ!?
かつて自分と共に戦い、その命を散らして言った仲間達に……自分は何を言えるのだ!?
……認められない。
認められるわけがない。
それを認めてしまったら……シャドウミラーとして生きてきた自分が、ただの道化だった事になるっ……!
「俺は……! 戦わなければならないんだぁぁぁぁぁぁっ!!」
「う……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
――撃ち放たれたビームの輝線。それを掻い潜る白の機体。クロスボーンガンダムの懐に飛び込むエスカフローネ。
ザンバスターを分離させ、ビームザンバーで斬り掛かるクロスボーン。その一撃を剣で受け止めるエスカフローネ。
エスカフローネの剣は融解し、アクセルは勝利を確信する。
だが、その瞬間――機神の拳は、激しく唸りを上げていた。
「轟覇……機神拳ッッッッッ!」
275 :
闘う者達:2006/04/06(木) 09:02:44 ID:Th2TgOyX
「…………」
倒れ込んだクロスボーンガンダムに、エスカフローネは背中を向ける。
その手には、刀身が溶け切れた剣の柄。もはや役立たずとなったそれを放り捨て、フォルカは静かに目を閉じた。
「……何故、殺さなかった?」
立ち去る彼の背に投げられる、落ち着きを取り戻した男の声。
それに対して……フォルカは、言った。
「……殺したさ」
「だが……俺はこうして……」
「お前の迷いを……な」
「っ…………!」
……そう。自分は、迷っていたのだ。
記憶を失う以前の自分……戦う事が正しいと信じ、人を傷付ける事に容赦の無かった冷徹非常な兵士の自分。
そして記憶を失っていた頃の自分……仲間と共に些細な事で笑い合えていた、記憶をなくした一人の男。
どちらの自分が正しいのか……その境界線上で、自分は迷い続けていたのだ。
「……迷いは晴れたな?」
「ああ……お陰様でな……」
……この男に勝てなかったのは当たり前だ。
あんな迷いのある状態では、この男に勝てる訳がなかった。
「はは……なっさけねえなあ、俺……」
笑う。力無く、それでいて陽気に。
その笑いこそが、アクセルが出した自分への答え。
過去ではなく、今を選んだ事の証明。
「これから、お前はどうするつもりなんだ? もし良かったら、俺達と……」
「……申し出はありがたいけど、俺にはまだやらなくちゃならない事が残ってるんだ。
ヴィンデル・マウザー……奴との決着は、俺がこの手で付けなくちゃならないんだ……」
「……そう、か」
「イサムにマサキって奴らと会ったら、アクセルがよろしく言ってたって伝えといてくれ」
「分かった、伝えておこう」
「その代わりと言っちゃなんだが、あんたらも誰かに伝言あれば言ってくれ。もし運良く出会えたら、あんたらの事を伝えとくよ」
「それじゃあ、リュウ……! リュウセイ・ダテに出会えたら、レビ・トーラーが探していたと伝えてくれ!」
「……オッケー。わかったんだな、これが」
そしてアクセルのクロスボーンガンダムは、二人に背を向け歩き出す。
戦いの世界に生まれたが故に、戦いの無い世界を夢見た男――
戦いの無い世界に生まれたが故に、永遠の闘争を望むようになった男――
交わるはずのない二つの道は、今確実に交錯した。
276 :
闘う者達:2006/04/06(木) 09:03:40 ID:Th2TgOyX
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)
パイロット状況:頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
機体状況:剣破損
全身に無数の傷(戦闘に支障なし)
現在位置:B-4
第一行動方針:レビ(マイ)と共にリュウ(リュウセイ)を探す
最終行動方針:殺し合いを止める
備考:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置:B-4
パイロット状況:良好
機体状況:G−リボルバー紛失
第一行動方針:リュウセイを探す
最終行動方針:ゲームを脱出する
備考:精神的には現在安定しているが、記憶の混乱は回復せず】
【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
現在位置:B-4
パイロット状況:記憶回復
機体状況:右腕の肘から下を切断されている
シザー・アンカー破損
弾薬残り僅か
第一行動方針:ヴィンデル・マウザーをこの手で止める
最終行動方針:ゲームから脱出 】
【二日目 12:40】
つーか、
「ロォケットォォォォゥパァァァァァァァァンチィィィィィィ!!!」
そういって朗らかに竜馬が続く、どうやら一度言ってみたかったらしい、ご満悦のようだ。
マジワロスwwwwおまwww竜馬www
ゴバーク
場は混乱に包まれていた。
闘いを治めるため戦うチーフ。ついにチーフと遭遇したハッター。
狂気にとらわれ戦うゼオラとアスカ。愛する人と会うため死と向き合うリョウト。
そこへ向かう竜馬とリオ。自分を守るため、矛盾の中を走るキラ。
チーフとハッター。
リョウトとリオ。
そしてさまざまな因果…
混乱、という言葉を訂正しよう。そこは…狂気に包まれていた。
そしてまた一人、その狂気の渦に狂気にとらわれた男が放り込まれる…
カラン…
ほの暗い水底に落ちたザンバーをガイキングが拾い上げる。
先ほどの闘いで落としたボスの形見――ダイターンザンバー。
光の届かぬ深き場所でなお、ザンバーが輝く。
それは…闘いを求めているかのようだった。
ガイキングが水面から姿をあらわし、移動を始めた。進むべき方向は先ほど逃した者達が逃げた西。
マッハ3のスピードでガイキングが飛翔を始めた。
マッハのスピードでガイキングが上空を飛ぶ。そして…7機もの「獲物」を見つけた。
彼からすれば、全ては粉砕すべき敵だ。そのものたちの想いなど関係ない。ただ粉砕するのみ。
レーダーに敵影が入る。接触してからが戦闘ではない。ここからもうすでに戦闘は始まっているのだ。
「行くぞ…!ハイドロ!ブレェェェイザァァァァアア!!!」
50万度の火球。まともに当たれば半壊するだろうが狙ってなどいない。
当たれば御の字、最低足止めはできるだろう。
「こんなとこで死ぬわけにはいかない!」
リオ達が追いつくまで、絶対に死ぬもんか…!
飛行能力も低下し、ライフルによる反撃も不可能。しかし、それでもリョウトはかわし続けていた。
「なんで!なんで死なないのよッ!すぐにおんなじところに送ってあげるっていいってるのに!!」
ゼロがよけつづけることに焦燥と怒りをあらわにする。その渦中に運命の矢となる一撃が叩き込まれた。
「ッ!?ゼオラ、よけて!」
キラが叫ぶ。しかし、敵を刈ることに集中、いや熱中して周りがろくに見えていない彼女は
最後まで気付かなかった。接触の瞬間まで。
彼女からすれば訳がわからないかもしれない。先ほどまで目の前の敵と戦っていただけだったのに。
突然右肩がもぎ取られたのだから。
ゼオライマーが肩から紫電を吹き上げ、痙攣するかのように震えながら落下した。
「ゼオラッ!」
ゴッドがゼオライマーに駆け寄る。
「助かった…?」
リョウトはそう思った。無理もない。
先ほど救援が確立され、どこからともなく飛んできたエネルギー球が相手を破壊した。
そのため、その一瞬レーダーの確認を怠った。もし、それがどちらからきたか…救援の方向と違う方向から
降り立ったと分かっていれば違っただろうに…
耳を劈く轟音とともに、3機を割って入るように鬼がそこに現れた。
「一機だけ…?さっきの通信なら2機いるんじゃ…?」
先行してきてくれたのか?リョウトがいぶかしみながら、鬼との交信を試みる。
「助けていただいてあり」
御礼を言い終わるまでも無かった。ひび割れた腹の顔が、
張り詰めた緊張が解き弛緩したゼロの右羽を毟り取った。
左の飛行能力が低下し、右の羽は消滅。落下するゼロに向けて、ザンバーを投げ放つ。
こうなってはどうしようもない。
(そんな、ここまできてやられるのか…?)
リョウトの心中にそんな思いが芽生える。しかし、
「ロォケットォォォォゥパァァァァァァァァンチィィィィィィ!!!」
突如飛んできた腕とザンバーがぶつかり、弾き飛ばされる。
「リョウトくん、大丈夫か!?」
彼にとって、真の仲間が到着した。
「リョウト君!」
ボロボロのデスサイズが地面に落ちたボロボロのゼロに向かう。
「リョウト君、大丈夫!?」
「ああ、僕は大丈夫だよ。それより、リオは…?」
「あたしのほうがよっぽど平気よ…リョウト君、そんなにボロボロになって…」
二人とも涙ぐみながら言葉を交わす。
「何で…?何でよ!アラドは…アラドは死んだのに!何でアラドはッ!!!」
その様子は通信によって回りにもれている。そしてその内容は、ゼオラの心を粉々に打ち砕いた。
「何で!何で!何で!何で何で何で何で何でなんでなのよぉ!!」
痙攣するゼオライマーが起き上がり、2人に向け、エネルギー波を放ちつづける。
「くッ!テェェェッツジィィィン、ヴァァァリアァァァァ!!!」
ダイテツジンがゼオライマー達の間に割って入り、ディストーションフィールドを形成。エネルギー波の盾となる。
もはや言葉にならぬ絶叫を繰り返し、打ち続ける。周りなど見えるわけが無い。
上空で隙を狙っていたガイキングの双眸に火がともる。直後!
マッハ3のガイキングによる突撃がゼオライマーに突き刺さる。そのスピードではゴッドも割り込めない。
そして…
「ハイドロブレイザー」
先ほどとは違う、静かな声が響いた。すでにもう、突撃する前にチャージは済ませてあったのだ。
地面にめり込むゼオライマーの胴体にほぼゼロ距離で50万度の火球3発が叩き込まれ…
言葉を発するまもなく3発の炎獄でゼオライマーの胴体は砕け散った。
「そんなッ!ゼオラッ!ゼオラ――――!!」
キラが爆炎に向けて叫ぶ。しかし、その答えは…
「久しぶりだなキラ・ヤマト!!」
炎と煙の中から現れたガイキングの左手がゴッドガンダムの頭を掴み、締め上げる。
「!あああああああああああああああああああああッ!!」
頭が割れるような、否、本当に頭を押しつぶす圧撃。
「どうして!?どうしてこんなことするんです!?みんな生き返るのにィ!!」
瞳孔を開ききり、涙を浮かべながらキラは自己弁護を叫ぶ。
「どうしてだと!?俺にしたことを忘れたのか!?この右腕は忘れんぞ!
それに…死者が生き返るだと!?ふざけるな!」
グシャリ
ガイキングがゴッドの頭をトマトのように押しつぶす。
倒れたゴッドの胸にガイキングのカウンターパンチが突き刺さった。
ガイキングは腕を戻し、ダイテツジンと向き合う。
すでに両手を失った敵機。さらに後ろの2機もボロボロでつぶすのは容易だろう。
「ボス…見てるか…?俺はかならず戻ってお前の分まで戦って見せる…!」
鉄也の台詞には、先ほどまでの暗さが無かった。友に対する自然な清々しさが合った。
鉄也にすれば独り言同然のこの一言。しかし、これを聞き、
「鉄也君!?鉄也君なのか!?」
竜馬が問い掛ける。
「流竜馬か…」
また暗いトーンに戻って鉄也が答える。
「なぜ君のような勇者がこのゲームに乗ってるんだ!?」
「俺は元の世界に必ず戻ってミケーネと戦わねばならん。それがボスとの誓いだ。
それに…俺は勇者では無かった。」
最後はボソリと付け加えるように答える鉄也。
「そんな…」
「もういいだろう。行くぞ。」
ガイキングはダイテツジンに向け走り出した。
(チィッ!なんてことだ!)
シロッコは舌打ちをした。足をやられ、制御系をどうにかして飛行可能になったものの、
まさかあの2人がやられるとは。
今の状態ではフラフラ飛び出したところであの「鉄也」なるマーダーに殺されるだろう。
かといってあの「流竜馬」達が生き残ったところで、あのガンダムタイプがいる以上、安全とは限らない。
とても首輪をネタにしても食いつくようには見えない。
(結局動力を落とし立ち去るのを待つしかないか…)
動力を落とし、もうパイロットも死亡しているように見せるしかない。幸い、ダンガイオーはかなり傷ついている
まさか、自分がこんなところでこんなことになるとは。シロッコは動力を落とし、忌々しげに2機の闘いを眺めた。
【リオ=メイロン 搭乗機体:ガンダムデスサイズヘルカスタム(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)
パイロット状況:良好。
機体状況:全体的に破損、武器消失。
現在位置:C-1
第一行動方針:アスカの捜索 】
【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
パイロット状態:良好
機体状況:パンチで飛ばした両腕なし
現在位置:C-1
第一行動方針: 鉄也をどうするか悩んでいる
第二行動方針:他の参加者との接触
最終行動方針:ゲームより脱出して帝王ゴールを倒す】
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:ダンガイオー(破邪大星ダンガイオー)
パイロット状況:良好、イラ付き
機体状況:右腕は肩から損失、左腕は肘から下を損失。全体に多少の損傷あり(運用面で支障なし)
現在位置:C−1
第1行動方針:首輪の解析及び解除
第2行動方針:戦力増強(切実に新しい機体が欲しい)
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考1:コクピットの作りは本物とは全く違います。
備考2:基本的にサイキック能力は使用不能だがNT能力等で一部代用できるようだ
備考3:(キラから首輪を受け取っておいて正解といったところか)とあることから首輪を所持している】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:健康
機体状態:左翼小破、右翼消滅
現在位置:C−1
第1行動方針:リオとの合流
第2行動方針:邪魔者は躊躇せず排除
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考:バスターライフルはエネルギー切れ】
【ゼオラ・シュバイツァー 搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状況:死亡
機体状況:右肩消滅 胴体大破】
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ゴッドガンダム(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状況:死亡
機体状況:東部消滅、コクピットブロック破壊】
284 :
遭遇、狂気、破滅。そして…:2006/04/06(木) 19:10:36 ID:uHPbUcbP
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ゴッドガンダム(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状況:死亡
機体状況:頭部消滅、コクピットブロック破壊】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部に大きな破損があるが、武器の使用には問題なし。右腕切断。ダイターンザンバー所持
現在位置:C-1
第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ】
285 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/07(金) 21:18:48 ID:kQxADE6S
∧_∧
( ´Д`) つまんねーんだよ税リーグ!!!!!!
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| l l | ..,. ., .,
| | | _|。.:_::゜。-.;.:゜。:.:;。
ヽ \_ .。'゚/ `。:、`;゜:;.::.。:.:。
/\_ン∩ソ\ ::..゜:: ゚。:.:.::.。.。:.
. / /`ー'ー'\ \ ゜: ::..゜:: ゚。:.:.:,。:.:.
〈 く / / ::..゜:: ゚。:.:.:,.:.:.:。:.:,
. \ L ./ / _::..゜:: ゚。:.:.:,.:.:,.:.:.:,
〉 ) ( .:: , -‐-‐- 、
(_,ノ イ サカ豚.ミ、
ノノ --、,. 、 ;ミ、
ハ'リ `(.゚_,)` 、.;;){iヘ!
|ヾ!ヽ`‐イ_,ドミ_|iン!|
――ノ〃ト、ノ rエョュ`/|川ト、――
_≦彡彳ノ>--イ|ト、ミ二=ニ._
_,/イ/;llト、L_,.ムィ!|!、ヽ二-
「あ……ああ……あっ…………!」
……目の前に広がる、惨酷な現実。
それは危険を共に生き抜いていくはずだった、仲間の死だった。
「そんな……そんなっ……! 宗介さん……ウルベさんッ!!」
首輪の爆弾によって死を迎えた宗介の死体と、何か巨大な重量物によって押し潰されたウルベの死体。
その二つを目の当たりにして、碇シンジは絶望と悲しみに心を打ち砕かれていた。
……一度は宗介の言葉を思い出し、二人を待つ事に決めてはいた。
だが、あまりにも遅過ぎた。
もし何事も無ければ、とっくの昔に二人は合流地点に来ていたはずだ。
しかし、そうでないと言う事は……。
……その不安を否定する為に、シンジは宗介と別れた場所に再び機体を向かわせた。
きっと、宗介さんは大丈夫だ……。
そう自分に言い聞かせて、シンジは危険を承知で宗介の無事を確かめに行ったのだった。
だが、その結果は……。
「う……ううっ……! どうして……どうして、こんなっ……!」
二人の死体を目にしながら、シンジは涙を流し続ける。
「ウルベさん……きっと宗介さんがピンチなのを見て、助けに行ってたんだ……!
僕も……僕も一緒に戦ってれば……僕がもっと強ければっ!
ウルベさんも、宗介さんも助ける事が出来たかもしれないのにっ……!
僕が弱かったから……! だから……ゼンガーさんの時もっ……!」
……憎かった。
このゲームに乗った人間が、ではない。
何も出来ない自分の無力が、今は何よりも憎かった。
「変わらなきゃって……強くならなくちゃって、そう思ったはずなのにっ!
なのに僕はっ! うっ、ああっ、あああああああああああーーーーーーっ!!!」
……それから、どれだけの時が経ったのだろうか。
流す涙も枯れ果てる頃になって、シンジはようやく動き始めた。
墓を掘り、二人の亡骸を埋葬する。その間、シンジは一言も口を開かなかった。
そして……二人の埋葬を終えてから、ようやくシンジは口を開く。
「ゼンガーさん……ウルベさん、宗介さん……。
僕は……生きます。皆さんの分まで……生きて、みせます……」
……言葉も、身体も、震えている。その宣言が強がりである事は、誰の目にも明らかだった。
怖い。
戦うのも、死ぬのも、怖い。
出来るなら、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。
だが……それは、出来ないのだ。
この世界に、逃げ道など無い。
それに……何よりも、シンジ自身が“逃げ出したくない”と思っていた。
「……逃げちゃ、ダメだ」
もう、これ以上……大切な人たちを、失いたくはない。
「逃げちゃ、ダメだ……」
そして……アスカを、死なせてしまいたくはない。
「逃げちゃダメだッ!!」
自分に対して、シンジは叫ぶ。
これまで何事からも逃げ続けてきた少年は、今正に前を向いて歩き始めようとしていた。
【碇シンジ :大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好、全身に筋肉痛
機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。背面装甲に亀裂あり。
現在位置:H-4
第1行動方針:アスカと合流して、守る
最終行動方針:生き抜く
備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持】
【二日目 11:00】
289 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 03:02:54 ID:nfCy2P/I
ミオは腕時計に目をやった。12:08。ブンタの遺体を丁寧に埋葬し、一息ついていた。
これからどうすべきであろうか。もう自分の身は自分で守るしかない。ボロットは運用には問題はないが、
武装は先程拾ったビームライフルのみ。当然火器照準システムなどは搭載していないため、
残弾数は分からない上に目視発射しなければならない。
戦闘をするにはあまりにも心細い。信頼できる仲間(出来ればマシュマー)を見つけたいが、
そう簡単にはいかないだろう。マップを見ながら考える。
ドッゴーラが破壊された今、川の近くにいる必要はない。仲間を探すためにも見晴らしが良く、
かつ自分が隠れられるような場所が好ましい。
「決めた、南に行こう。」
南の方に山と町が隣接している場所がある。そこなら条件を満たすような場所があるかもしれない。
下手に移動するよりは森の中に留まった方が良いかもしれないが、
今は気分を紛らわすためにも明確な目標を持ち行動をしていたかった。
「さようなら・・ブンちゃん」
少女はブン太へ別れを告げ、南へと歩みだした。
一時間後・・・
ブライサンダーは町の中をゆっくりと進んでいた。
「また戻って着ちまったな。」
トウマ達は追走を逃れる為、障壁を利用して境界を飛び越えて北上し、以前マサキに襲われた場所まで戻ってきていた。
どうやら、現在はこの近くで戦闘はないようだ。
「で、どうする?あいつら追ってきてはないようだぜ。」
クォヴレーは後部座席に座るトウマに尋ねた。トウマは白くなり始めたアルマナの顔を見つめている。
「とりあえず、アルマナを埋葬してやりたいんだ。彼女をこれ以上傷つけたくない。」
「そうか・・・、そうだな。ならこのビル郡を抜けた所で埋めるとするか。」
ゲームの脱出の事を考えると首輪を取り外すことも試してみたいと考えていたが、トウマがそれを良しとはしないだろう。
町の商店からスコップを探し出して、町を西へ抜けた丘陵地帯で彼女を埋めることにした。
本当ならきちんと埋葬してやりたいところだが、あまり時間を掛ける訳にも行かない。
「アルマナ姫か・・・」
惜別の念を込めてクォブレーが呟く。彼女のあどけなさの残る顔にトウマはゆっくりと土を被せ始めた
その瞬間、
「そこのお二人さん。話合いに応じて頂けませんか。」
290 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 03:03:40 ID:nfCy2P/I
唐突に人の声がした。トウマとクォブレーは辺りを見渡すがだれもいない。
「どこだ!どこにいる?」
トウマが警戒する。
「ここ、今姿を見せるから。」
少し離れた場所の地中からボスボロットがバスタブから上体を起こす様な姿勢で姿を現した。
あわててブライサンダーに駆け込むクォブレー。それをミオが静止する。
「待って!私は攻撃するつもりないよ。信じて、お願い。」
「なら、降りてきてくれないか。こちらにも戦闘の意思はない。」
「安易に信用はできないよ。そちらの方も車から降りてくれなきゃ。」
トウマはゆっくりとボロットに近づくが、クォブレーはマサキの件もあってかブライサンダーに乗り込んだままだ。
ミオはブライサンダーが強大なロボに変形できることを知っているので、ボロットを降りなかった。
死者を埋葬しているように見受けたのでこのゲームに乗った殺人狂ではないと判断したが、それでも敵でないとは限らない。
「私はミオ=サスガ。協力してくれる仲間を探しています。」
そう言ってミオはビームライフルを地面に置いた。
「分かった。こちらも仲間を探している。話し合いに応じよう。まずは情報交換をしないか?」
クォブレーがブライサンダーから降りた。ミオもそれを見てボロットから降りた。
「ありがとう。」
声からして女性だとは思っていたが、アルマナと同年代の女の子がボロットから顔を出したのをみて二人はやや驚いた。
「俺はトウマ=カノウ。こっちはクォブレーだ。」
3者は軽く挨拶をしお互いの経緯を説明した。
「待ってくれ、本当に君がその機体であの赤いのをやったのか?」
「うん、一人じゃとても適わない相手だっただろうけど、ブンちゃんが助けてくれたから・・・。」
ミオはブン太の事を思い出し、顔を曇らせる。
「にわかには信じがたい話だけど、本当ならやっかいな敵がいなくなってくれたはずだ。
俺達は直接戦った訳じゃないけど、ヒイロってやつの話だとそいつはゲームに乗っている上に、かなりの強敵らしいからな」
「うん、ところでそっちは今、何をしてたの?」
ミオは悲しいことを忘れようと話題を変える。
「さっき知り合いの遺体を取り戻したって言ったろう?埋葬してやろうと思ってさ」
トウマが再度アルマナの顔を見つめる
「クソ!あいつらぜってぇゆるさねぇ!」
「その話なんだけど、そのアルマナって人を殺したのは本当にその二人組なのかな?」
「あいつらに決まってるぜ!でなきゃアルマナの遺体を運んでたりするもんか!」
「いや、それは逆だよ。私もさっき仲間の死体を埋めてて感じたけど、普通交戦した相手の死体なんか運ばないと思うよ?」
「首輪を調べようとして、運んでいたとも考えられると思うが?」
「そうだけど、逃げた時に追ってこなかったんでしょ?なら、少なくとも好戦的な相手だとは思えないよ。
好戦的な相手が戦闘力のないその車を見逃すとは思えないから。死体を運んでた理由は分からないけど、アルマナって人も
好戦的な人じゃないのなら、その二人とアルマナさんが協力してたと考えるのが普通じゃない?」
「た、確かに冷静に考えてみるとそうだな。おまえの言うとおりだ。」
「おまえってのやめてよね。私の名前はミオ、サスガミオ。」
「あぁ、すまないミオ。宜しくな。」
「うん!」
ミオは何時間かぶりの笑顔を見せた。その笑顔がどこかアルマナに似ているようでトウマとクォブレーは不思議と気持ちが和らいだ。
291 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 03:04:24 ID:nfCy2P/I
「なんにせよ、仲間が増えたのは良いことだ。ミオのロボットもこの車よりは戦えそうだし」
「それなんだけどさ・・・」
まだ信用できると決まった訳ではない二人に変形と巨大化の事を話すのには若干抵抗を感じたが、
直感的に二人は悪人ではないと感じていたので、ミオは途中で拾い読みしたマニュアルの事を伝えた。
「なっ!なんでおまえマニュアルをちゃんと読まなかったんだよ!!」
「しかたないだろ!こんな車を渡されたら、誰だって読む気なくすよ!」
トウマがクォブレーをかしづく。
パン!パン!
二人の頭をミオがハリセンでどつく。
「はい、はい、今は言い争ってる場合じゃないでしょ。
知らなかったんなら、その変形と巨大化を試してみようよ。どーせ操縦方法もロクに呼んでないんでしょ?
巨大化には24時間て制限時間があるらしいから気をつけないといけないけど。」
二人は頭を抑えながらお互いの顔を見つめて笑った。
「ハハッ、そうだな。でもミオの話じゃ34Mにもなるんだろ?こんなとこで巨大化したんじゃ、かなり目立っちまうな。
とりあえずアルマナを埋葬してから、ビル郡の中で試すとしようか」
「うん、私にも彼女の冥福を祈らせてね。」
「あぁ、もちろんだ。」
トウマとクォブレーはとても明るく信頼出来る仲間を得られた事を嬉しく思っていた。
【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(ブライサンダーの左後部座席に乗っています)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
現在位置:C-8
第一行動方針:町にもどり、ブライサンダーの変形テストをする。
第ニ行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています
備考2:イキマへの疑いはかなり薄まっており、直情的に行動してしまったことを悔やんでいる】
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:C-8
第一行動方針:町にもどり、ブライサンダーの変形テストをする。
第ニ行動方針:イングラムを探す
第三行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:左後部座席にトウマ搭乗。(ブライガー変形時にはトウマが頭部のブラスター・ピッドに移動し、攻撃を担?)
備考2:ブライガーの変形機構を教えてくれたミオを厚く信頼しており、感謝している。】
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:C-8
第一行動方針:町にもどり、ブライサンダーの変形テストにつきあう。
第二行動方針:マシュマーを探す。
最終行動方針:主催者を打倒する
備考1:ブライガーのマニュアルを所持(軽く目を通した)
備考2:サザビーのビームショットライフルを入手(エネルギー残少、本人は知らない)
備考3:居住空間のTVを失った】
【時刻:二日目:14:20】
292 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 03:10:54 ID:nfCy2P/I
あ、題名は「雨、のち晴れ」でヨロ
293 :
The Second Raid:2006/04/09(日) 12:04:19 ID:nfCy2P/I
「アル、あの機体までの距離は?」
<10時の方向に2000といったところです。まもなく目視可能範囲に入ります。>
「そう、さっさと撃墜しないとまずいわね。」
セレーナが昨日倒したはずの機体を追い始めてから3時間が経過していた。昨日と同一の搭乗者であるかの判断はつかないが、
先ほどの戦闘を見る限り、搭乗者はゲームに乗っている人間のようだ。
正午まで残り1時間。昨日の搭乗者と別人であってもタイムリミットまでの余裕は全くない。
「見えた!」
砂の上をバランスを失わない用に機体をコントロールし、悪魔の形状をした機体へと疾走していく。
「そこの機体、止まりなさい!」
「私に言っているのかね?」
「あなた以外に誰もいないでしょう。あなた、名前は?」
「私の名はマシュマー=セロ!ハマーン様に仕える騎士だ!」
「セレーナさん、下方から熱源反応、2つデス」
「ッ!」
砂の下の死角からガン・スレイブが襲ってきた。既に知っている武装とはいえ、
突然の奇襲にセリーナは背筋に寒いものが走るのを感じる。
「ほう、今の攻撃を交わすとは・・・。ニュータイプか?」
間髪を入れずにラアム・ショットガンを放ってくる。
「エルマ、小さい奴の位置を随時知らせて。アルは地面との設置圧に注意!」
「<ラージャ>」
ボクサーをガン・スレイブに向けて放つ。
「あなた、昨日のパイロットじゃないわね?」
「なるほど・・・。この機体の元のパイロットをやったのは貴様か。
面白い、名は何という」
「セレーナ=レシタールよ!」
これではっきりした。昨日のパイロットは死んでいたのだ。セリーナは一瞬安堵するが
すぐさま、戦闘へと集中を戻す。
「悪いけどこっちにはあまり余裕がなくてね。直ぐ終わらせて貰うわよ。」
昨日の戦闘でこの相手にはラムダ・ドライバ以外に有効な攻撃手段がないのは分かっていた。
(意識を集中させる。直接コックピットを貫く刃物だ。一瞬であの機体のコックピットを貫く!)
<ラムダ・ドライバ、起動>
「終わりよ!」
言い放つと同時に投げナイフをディス・アストラナガンへ放つ。
「ふん、その程度避けるまでも・・」
マシュマーは自機の持つバリアーであの程度の攻撃は防げると考えていた。
しかし、強化された感性が敵機の攻撃の危険性を予知していた。
「なにっ!」
瞬時に上昇するが、ナイフは右足の大腿部ごと粉みじんに吹っ飛ばしていた。
「なんだ、あの攻撃力は!」
(ナイフ自身の破壊力とは到底考えられない。あの機体に何か特殊な機能があるということか)
「私は基本的には女性を大切にする性質なのだがね、貴様には優しくしてあげることは出来ないようだ!
出でよ、ディスレブ!」
ディス・アストラナガンは両翼を大きく羽ばたかせ上昇した。
その瞬間ガン・スレイブ1基がアーバレストがの増したの砂地に潜り込む。
「しまった!」
極力砂に足を取られないように気を配っていたセレーナだが、突如下の砂地が変形し、バランスを崩す。
アストラナガンは自らの両手で胸部をこじあけ、敵機に照準を合わせる。
「敵機胸部にエネルギー収束!」
「消えろ!」
(避けられない!)
294 :
The Second Raid:2006/04/09(日) 12:07:10 ID:nfCy2P/I
「くっ、自らの視界も奪うのかこの技は・・・。」
無限光の光を浴びてマシュマーはしばらく視覚を失っていた。それほどまでに強力な「光」だった。
レーダーが正常化したのを確認して敵機を探す。
(反応はない。当然か)
マシュマーが立ち去ろうとしたその時、
ピピッ!
レーダーがオゾン集を探知した。しかし依然視認は出来ない。
「ど、どこだ、新手か?いやそれには早過ぎ・・・ッ!」
マシュマーは正面の砂地が足跡型に二つ凹んでいるのを確認し、腕を交差してコックピットをガードする。
しかし、衝撃はこない。敵機はカモフラージュを解き、姿を見せる。注視すると頭が欠けているその機体は
正拳突きに似た構えで静止している。拳はなぜかガードの前で寸止めされていた。
「いったい、なん・・!?」
マシュマーがいい終わるまもなく敵機の拳から力場が発生し、ゆっくりと、しかし確実に
ディス・アストラナガンを消滅させていった。消え逝くマシュマーはセレーナの深い絶望と悲しみを感じていた。
(そうか、貴様も同じだったのだな・・・)
「ハマーン様、いまそちらに参りますぞ。」
それがマシュマーの残した最後の言葉だった。
「ふー、かなーり危なかったわね。アル、損害報告宜しく。」
<頭部全壊、メインモニター破損。オートバランサー、火気照準システムに異常発生>
「オートバランサーに異常か。今の騒ぎで敵機が来る前にこの砂地から抜けたほうが良さそうね」
<肯定>
「エルマ、周囲の索敵」
「了解・・・セレーナさん通信をキャッチしました」
「敵機!?」
「いえ、上空の大型戦艦からです。通信を許可しますか?」
セレーナはタイマーに目をやった。AM11:53
「なるほど、時間ぎりぎりってわけね。いいわ、許可して」
「やぁレシタール君。気分はどうだい。」
「あなたに話しかけられる前までは歌でも歌い出したい気分だったわ。」
「そうか、それは申し訳ない。だがね、私は君に賛辞を送りたいのだよ。
君は見事に与えられたノルマをクリアした。その機体の能力をフルに活用し、
自分に与えた条件の範囲内でやり遂げたのだ。本当に楽しませて貰った。
私は君のパイロットとしての資質に感動してすらいるんだ。」
「それは、どうも」
(こいつ、会話が盗聴されているの?)
「もちろん君の働きに私は誠意を持ってお答えしよう。
君がいた部隊、チーム・ジェルバを壊滅させたのはラミア=ラヴレスというものだ。
(ラミア=ラブレス?知った名前ではないが、そいつに復習を果たす為にも
この馬鹿馬鹿しいゲームを生き伸びて帰らなきゃ。)
295 :
The Second Raid:2006/04/09(日) 12:09:23 ID:nfCy2P/I
「だが、名前を教えるだけではエンターテイナーとしては不十分だろう?
最高のショーを見せてくれた君にはチップを弾まないといけないと思うんだ。
じ・つ・は、そのラミアをゲームに参加させているんだよ。」
「なんですって!なにを・・・いや、それならそのラミアとかいう奴が
今までで殺されててもおかしくないわ!何が復習の手伝いよ、このウソツキ!」
復習者の名前を聞いてセレーナは感情が昂ぶっていた。こうなったら誰よりも
早くラミアを見つけ出さなければならない。すでに他の参加者と徒党を組んでいる
可能性だってある。
「まぁ聞きたまえ。そこら辺の配慮は怠りない。事実ラミアの名は放送されていないだろう?
そんな君のやる気を削ぐような真似を私がするわけがない。君には非常に期待しているんだよ、
レシタール君。では、引き続き頑張ってくれたまへ。」
「通信回線、遮断されました」
「アル、このコックピットに紙はない?」
<出力用の紙がシートの下にありマス>
「そ、ありがと・・・アル、エルマこれ宜しくね」
【この機体内の盗聴器や盗撮機の有無、またシステムがハッキングされてないか調べてみて
結果は声に出しちゃダメヨ、プリントアウトして】
セレーナはそう書き込むと移動を始めた。まずこの砂地帯を抜けなければならない。
「ラミアか・・・。」
(ユーゼスの言う事が私に人殺しを継続させる為のウソである可能性もある。
これから会う人間には名前を聞かなきゃいけないわね。もちろんラミアって参加者がいて
その人が復習対象者でない場合もあるから、いちいち隊のこととか聞かないといけないわね。
まぁラミアって名前からして女だとは思うけど。でもラミアって名前を肯定された瞬間、
私が理性を保てるかどうかは定かではないけど)
ラミアは静かに、激しく復讐心を燃やしていた。
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:精神的疲労(ラムダドライバは使うには休息が必要)
機体状況:頭部全壊、メインモニター破損、オートバランサー、火気照準システムに異常発生
現在位置:C-2
第一行動方針:ラミアを探し、復習の対象であった場合殺す
最終行動方針:不明
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾1
備考2:ユーゼスの答えには半信半疑】
【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
機体状況:完全消失。(Z・Oサイズのみ残っている)
パイロット状態:死亡】
296 :
The Second Raid:2006/04/09(日) 12:13:11 ID:nfCy2P/I
【二日目:11:58】
297 :
天帝発つ:2006/04/09(日) 12:45:33 ID:nfCy2P/I
「さて・・・待たせたな。W17」
「いえ、ここは快適でしたから」
「先ほどの話聞いていたろう、君がいなくなるといささか寂しくなってしまうがね」
「ご安心下さい。すぐ戻ってきますですわ。」
「フハハハ。実に頼もしいな。まぁ君とあの機体なら間違いないか。
確実性が高すぎてやや面白みがないとも・・・まぁそれは贅沢か。」
「私はどうすれば?」
「そうだな・・・基本的には自由だ。私の考えたとおりに事が全て運んでしまうのもつまらんしな。
だがゲームを盛り上げるのでだけは忘れないでくれよ」
「かしこまりましたですわ」
「期待しているよ、W17」
数分後ラミアはゲーム会場内へと降り立った。
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:プロビデンスガンダム
パイロット状況:健康(言語回路が不調)
機体状況:良好
現在位置:H-8
第一行動方針:場を混乱させる
最終行動方針:???】
【時刻:12:00】
298 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 22:18:38 ID:nfCy2P/I
>勉強男さん
議論スレのほうに書き込んだほうがいいと思いますけど・・・
わざわざ日付が変わって3分後にW
も少しまてよW
(・∀・)ニヤニヤ
303 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/10(月) 09:01:38 ID:r+gfn1G6
ょゞι″ょ
304 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/10(月) 09:17:52 ID:sw21oFqk
しかしクソコテはどうして骨髄反射するかねw
破棄してる奴は作者じゃん。
ヨクミロwwww
同一!同一!
オマイら言いから新スレを立てるんだ
307 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/10(月) 13:59:03 ID:220R8x2/
まだ306なのになんで新スレとかさわいでんの。
サイズの限界が502KBで、今はもう500KBで、ギリギリなんだ。
数字の問題じゃない。つかまた弾かれた…俺じゃスレ立て無理だ