保守
早朝、まだ日が昇ったばかりの廃墟をヒュッケバインガンナーとV2ガンダムが慎重に進んでいた。
「本当に大丈夫かね?」
タシロ・タツミは共に行動するラトゥーニ・スゥボータ少尉に声をかける。
「大丈夫です。体調に支障はありません」
気丈に答える。その声は出合った頃の明るさを失っていた。友人から攻撃された心の傷は大きいのだろう。
怪我はたいした事ないと言っていたが、大事を取って夜間は身を隠していたのだ。
「そうではない。再び彼女を前にした時、キミは………」
タシロが懸念するのはゼオラの事。ラトゥーニの親しい友人だったらしいが、恋人に死なれ錯乱状態に陥っていたのだ。
このような状況では無理もないとタシロは思う。しかし放っておくわけにも行かなかった。
「以前にも同じ様な事がありました。みんなに凄く迷惑かけたけれど、ちゃんと立ち直ってくれました。大事な友達なんです。
ちょっと思い込みが激しくて、アラドを大好きなだけなんです。ゼオラは必ず立ち直りますから」
シッカリとはしているが、悲壮な声だった。相手の事を理解している分、尚更辛いのだろう。
「しかし、もし万が一………」
「その時は………私が止めます」
「………そうか。では何も言うまい」
(想像以上に強い意思と責任感を持つ子だ。それが裏目に出なければ良いが)
シッカリした人間ほど自分を追い詰める。そして重圧に押しつぶされた若者をタシロは数多く知っていた。
(こんな状況だからこそ、我々大人が正しく振舞わねばならない。殺人ゲームなどもってのほかだ)
タシロは改めて主催者に怒りを燃やすと共に、他の子供達は無事なのだろうかと思う。
そんな心中を嘲笑うかのように朝の放送が新たな死者を読み上げていった。
【タシロ・タツミ 搭乗機体ヒュッケバインmk-3ガンナー(パンプレオリ)
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:Gインパクトキャノン二門使用不可、前面の装甲がかなりはがれる
位置:B-1廃墟
第一行動方針:精神不安定なゼオラをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
(いざというときは、自分が犠牲になる覚悟がある)】
【ラトゥーニ・スゥボータ 搭乗機体V2アサルトバスターガンダム(機動戦士Vガンダム)
パイロット状況:頭部に包帯(傷は大した事はない)
機体状況:盾が大きく破損(おそらく使い物にならない) アサルトパーツ一部破損
位置:B-1廃墟
第一行動方針:リュウセイや仲間と合流する。
第二行動方針:精神不安定なゼオラをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還】
【2日目 06:00】
◆ラヴレス先生の現状簡単レポートver2.0
「生存者近況・初日」
●イングラム(初日18:30/G-2)
・イングラム・プリスケン(メガデウス・BIG-O)自衛独力型
セレーナと接触しリュウセイを埋めた後、単独行動を開始。
●セレーナ(初日21時前後/C-4からC-5へ移動中)
・セレーナ・レシタール★★(アーバレスト)対マーダー型
クルーゼと戦闘し撃破。ラムダドライバの発動に成功した。補給のため移動中
●フォッカー&司馬遷次郎(初日21:40/D-4)
・ロイ・フォッカー(アルテリオン)自衛協力型
・司馬遷次郎(ダイアナンA)自衛協力型
死亡したB・Dの首輪を発見し解析作業を開始した
●イキマ(初日23:20/E-3廃墟)
・イキマ(ノルス・レイ)自衛協力型
ゼオラの攻撃を受けジョシュアと分断された。ジョシュアと合流する為、北へ向かう
●アクセル(初日23:30/F-5)
・アクセル・アルマー(クロスボーンガンダムX1)自衛協力型
裏切ったヴィンデルを追うが見失う。その間に仲間を失っている事を知らない。
●マサキ(初日23:30/E-5からD-8市街地付近へ移動中)
・木原マサキ★★(強化型レイズナー)策士&猫被り型
戦闘の隙を突き、ルリ絞殺に成功。首輪を外す為に遺体を持って移動中。
●ヴィンデル&ハロ(初日23:30/E-5から西へ)
・ヴィンデル・マウザー★(ジャスティスガンダム)
アムロ強襲の隙を突くが失敗。マサキのルリ殺害の一部始終を録画に成功。
●竜馬&ハッター&アスカ(初日23:55/F-5森)
・流竜馬(ダイテツジン)自衛協力型
・イッシー・ハッター(アファームド・ザ・ハッター)自衛協力型
・惣流・アスカ・ラングレー(ダイモス)猫被り型
ハッターの見張りで休息中。朝まで動く予定なし?
●ベターマン・ラミア(初日23:55/B-3海面)
・ベターマン・ラミア★(機体なし)無関心型
マジンカイザーに襲われるも撃退に成功し、海面でプカプカ休息中。
◆ラヴレス先生の現状簡単レポートver2.0
「生存者近況・二日目その1」
●プレシア&ガルド&チーフ(二日目0:00/B-1)
・プレシア・ゼノサキス(グランゾン)平和解決型
・ガルド・ゴア・ボーマン(ブラックサレナ)自衛戦闘型
・チーフ(テムジン747J)対マーダー型
プレシアの救助活動でチーフ参入。市街地へ到着。二人ともプレシアに頭が上がらないようだ。
●鉄也(二日目01:10/E-1)
・剣鉄也(ガイキング後期型)無差別型
ヤザンと戦闘し、ボスが死亡。鉄也は戦闘マシーンと化した。
●ヒイロ(二日目01:15/C-7から移動中)
・ヒイロ(M9ガーンズバック)自衛戦闘型
トウマ&クォヴレーと会話し、アルマナの仇討ちと再会を約束した。
●トウマ&クォヴレー(二日目/01:15)
・トウマ・カノウ(ワルキューレ)自衛協力型
・クォヴレー・ゴードン(ブライサンダー)自衛戦闘型
ヒイロと出会い、アルマナの仇討ちと再会を約束をした
●アムロ(二日目02:30/E-1より逃走)
・アムロ・レイ★★★★(サザビー)無差別型
気絶したリオを狙うが東方不敗に阻まれる。交戦はせず、冷静に撤退を選択。
●東方不敗&リオ(二日目02:00/E-1廃墟)
・東方不敗マスターアジア★★(零影)対マーダー型
・リオ・メイロン★(デスサイズヘルカスタム)自衛協力型(?)
気絶したリオを襲ったアムロを東方不敗が追い払った。まだリオは気絶中。
●ジョシュア(二日目2:50/G-2とG-3の境目)
・ジョシュア・ラドクリフ(ガンダム試作2号機)自衛協力型
リュウセイの助け受け、ヤザンを撃退。イキマと合流するため北へ向かう。
●リュウセイ(二日目2:50/G-3とG-4の境目)
・リュウセイ・ダテ(フェアリオン)自衛協力型
ジョシュアと共闘しヤザンを撃退するも同行はせず。イングラムを探しを再開。
●ヤザン(二日目02:50/G-2とG-3境目 )
・ヤザン・ケーブル★★★(竜王機)無差別
ジョシュアを襲うもリュウセイに邪魔された挙句、核で脅され逃走する。
●イサム(二日目03:30/E-5)
・イサム・ダイソン(ドラグナー3型)自衛戦闘型
意識を取り戻し仲間と合流を図るが、大破した仲間の機体が転がっていた。
◆ラヴレス先生の現状簡単レポートver2.0
「生存者近況・二日目その2」
●シロッコ&キラ&ゼオラ(二日目04:00/A-1市街地)
・パプテマス・シロッコ(ダンガイオー(一人乗り))策士型
・キラ・ヤマト(ゴッドガンダム)協力暴走型
・ゼオラ・シュバイツァー★(ゼオライマー)猫被り型
シロッコがキラの掌握とゼオラの説得(洗脳)に成功し、味方(配下)に加える。
●フォルカ&マイ(二日目05:10/E-1廃墟内)
・フォルカ・アルバーグ(エスカフローネ)自衛協力型
・マイ・コバヤシ(R-1)自衛協力型
フォルカはマイの信用を得たと思われる。恋愛フラグは立つだろうか?
●マシュマー&ミオ&ブンタ(二日目05:30/B-5)
・マシュマー・セロ(ネッサー)自衛戦闘型
・ミオ・サスガ(ボスボロット)自衛協力型
・ハヤミブンタ(ドッゴーラ)自衛協力型
早朝、マシュマーの回想と独白。ハマーンへの熱い思いが語られている。
●副長&リョウト&ギレン(二日目05:40:30/B-8)
・副長(メカザウルス・グダ)自衛協力型
・リョウト・ヒカワ★(ウイングゼロカスタム)協力暴走型
・ギレン・ザビ(RX-7ナウシカFユニット装備)策士型
合流、協力体制を取った。副長とギレンは互いに警戒しあっている。
●宗助&ウルベ&ウルベ(二日目06:00/H-4森)
・相良宗助(ブリッツガンダム)自衛戦闘型
・ウルベ・イシカワ★(グルンガスト)策士&猫被り型
・碇シンジ★(大雷凰)協力暴走型
シンジと合流。宗助はウルベを信用していないが、シンジには多少優しい。
●タシロ&ラトゥーニ(二日目06:00/B-1廃墟)
・タシロ・タツミ(ヒュッケバインmk-3ガンナー)自衛協力型
・ラトゥーニ・スゥボータ(V2アサルトバスターガンダム)自衛協力型
昨夜は休息を取った模様。決意新たに行動再開。
●ラミア・ラヴレス(今の所ずっと/ヘルモーズ内)
・ラミア・ラヴレス(??????)待機中
ユーゼスに対する質問役、又はツッコミ役。ジョーカー的な存在だが、今だゲームには参加せず。
●<マジンカイザー>(初日23:55/A-3海底)
『魔』モードで独立行動状態に入った。参加者を無差別に襲うらしいが、カイザースクランダーを
破壊されている為、修復まで飛べない。操縦者が乗れば『Z』モードで操れるようだ。
●<ディス・アストラナガン>(初日21時前後/C-4森の中)
セレーナに破壊されたが現在修復中。装甲、コクピット、武器(除くZ・Oサイズ)修復中。
新たな操縦者を迎えたなら脅威になること間違いなし。
以上、生存者43名+2機
242 :
廃墟の夜明け:2005/12/21(水) 17:06:18 ID:5WzTQdkZ
広がる廃墟の向こう、東の空が明るみを増していく。
昇り始めた朝日は妙に輝いていて、殺し合いが繰り広げられているこの場所には
全く似つかわしくなかった。
暗闇が減っていく廃墟の上空、銀色のシルエットが少しずつ世界を満たしていく光を受けている。
その中、ロイ=フォッカーは周囲を警戒しながらも考え事をしていた。
“戦場”と呼ばれる世界を、フォッカーは幾度も抜けてきた。
それも人間との戦いではなく、戦闘種族と呼ばれるゼントラーディとの激戦を潜り抜けてきたのだ。
そんな戦場を共に抜けた部下の一人は、いとも呆気なく命を奪われた。
軍人、それも前線で戦う兵士である以上、死がすぐ隣に存在することは理解している。
だが、それは戦場での話だ。こんな理不尽なことに巻き込まれ、
訳の分からないまま命を落とすなど余りにも馬鹿げている。性質の悪い悪夢とも思いたくなる。
しかし、これは現実だ。紛れもなく、確かに存在する現実だ。
そう。現実に部下、柿崎は死んだ。
柿崎速雄は、目の前で首を吹っ飛ばされたのだ。
何も出来なかった。そんなフォッカーを責め立てる者は、あの状況を知る者なら誰もいないだろう。
だからといって納得出来るはずも、諦められるはずもない。仲間だったのだから。
それなら、この手で仇を討つ。それがただ一つ、柿崎のためにフォッカーが出来ることだった。
改めてそう思ったのは、柿崎と同じように首が吹き飛んだ――その原因は違ったが――
死体を目にしたからだろうか。
名も知らない誰かが死んでいたおかげで、自分たちは助かるかもしれない。
非常に気分の悪い話だが、やはりそれは朗報なのだろう。
何度かそうしたように、フォッカーはその人物の冥福を祈ったとき、通信ウィンドウが開いた。
ウィンドウに映っているのは中年の男性、司馬遷次郎だ。
彼は映像の中、口を開いて言葉を送ってくる。
「どうかね、フォッカー君。そちらの方は何もないかね?」
その音声とは別に、文字を示したウィンドウが開く。
フォッカーは言葉を聞きながら文字に目を走らせる。
『出来る限りの解析は終了した。とはいえ、このボディに搭載された解析装置では
六割ほどの解析しか不可能だったがね。
どうやらかなり複雑なシステムのようでな。見たことのない技術も使われている。
これ以上の解析や解除には相応の機器が必要だ』
フォッカーはそれに頷いて答えると、会話を合わせるために口を開く。
「ええ。かなり前に北東から戦闘のような音が聞こえてきましたが、それ以外は何も。
もうすぐ放送がされる時間でしょうし、そちらに向かいます」
「ああ、そうしよう」
フォッカーはアルテリオンを廃墟地帯へ降り立たせ、そのうちの一つへと向かう。
ダイアナンAの側で停止すると、声が聞こえてきた。
「ご苦労だったな、フォッカー君」
「司馬先生の方もですよ」
声の主、司馬遷次郎へとカメラを向け、フォッカーは返事を返す。
最初見たときは面食らったが、無骨なメタリックボディにもいい加減慣れてきたと思う。
そのモニター部分には遷次郎自身の顔が映っており、下半分にはウィンドウが開かれて文字が並んでいる。
『予測通り、この首輪には盗聴機能が備わっているようだ。これまで通り会話には注意を払ってくれ』
それを読んだフォッカーは首を縦に振る。続いて、慎重に言葉を選んで口を開く。
「これからどうします? 移動でもしますか?」
「うむ。放送後に移動しよう。南東の基地へ行きたい。このボディの調子が今ひとつ悪くてな」
『機器が充実した所へ行きたい。南東の基地が一番いいだろう。禁止エリアにならなければ、だが』
ボディの調子とか言うのが嘘だというのは、下に表示されている文字を見れば分かった。
フォッカーは遷次郎の意見に眉を持ち上げる。
「遠いですが……仕方ないですね。襲撃者に出会わないことを祈りましょう」
「そうだな。万が一のときは頼むぞ」
「了解です」
やがて放送の時間だ。おそらく、死者は増えているだろう。
それは全て、この馬鹿げたゲームの被害者だ。
だが、首輪の解析が終わって解除出来ればそれも終わらせることが出来る。
フォッカーは視線を空へと向ける。明るくなり始めた空高く、
悠々と浮かぶヘルモーズを射抜くように睨みつける。
そんな彼を嘲笑うかのように、ヘルモーズは宙を泳いでいた。
244 :
廃墟の夜明け:2005/12/21(水) 17:08:45 ID:5WzTQdkZ
【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好
機体状況:良好
現在位置:D-4
第一行動方針:放送後、遷次郎を護衛しつつG-6基地へ向かう
第二行動方針:ユーゼス打倒のため仲間を集める
最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】
【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:ダイアナンA(マジンガーZ)
パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度)
機体状態:良好
現在位置:D-4
第一行動方針:放送後G-6基地へ向かい、首輪の解析及び解除を行う
第二行動方針:信用できる仲間を集める
最終行動方針:ゲームを終わらせる】
備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)。
だが、解析結果は正しいと信じている。
【二日目 5:40】
すみません、
>>243で会話の流れがおかしいところがあるので修正お願いします
「ああ、そうしよう」ではなく「ああ、了解した」としてください
地図のC5地点にあるという補給ポイントに向かう為、セレーナ・レシタールの駆るアーバレストは森を進む。
「・・・ねぇ、エルマ、おかしいと思わない?」
唐突に発せられたセレーナからの質問にエルマは訝る。
「何がですか?」
「この森よ。地球の森で、こんな風に木が生えている森ってあったかしら?」
「ここの木は大体30から50メートルで、地球でも確認されているとデータにありますが・・・」
そうエルマが返すと、セレーナはエルマの頭(?)をぴしっと叩いて諭すように言う。
「木の種類の話をしてるんじゃないわよ。これが地球にある木かどうかは私は専門家じゃないから分からないけど、
まるで“戦闘ロボット同士の戦いに邪魔にならないように”間隔を取って木が並んでいる森ってあるの?と聞きたいの」
そう言われてエルマは、周囲の景色をデータと照合してみる。
「確かにおかしいですね。この種類の木は一般的に3から5メートルおきに生えるものとデータにはあります」
「やっぱりね・・・この森に入ってから、視覚的にはほとんど一定に木が生えてる。間隔は四方の木と大体40メートルほどで、
まるで升目を作るように綺麗に並んでるわ。多分この森林の中で戦闘行動を取っても、それが特機でなくてPTレベルなら
何の問題もなく戦えるでしょうね。勿論木が邪魔にはなるだろうけど、戦略的に選ぶ価値は充分にある“戦場”に仕立て上げられてる」
歩みを止めて改めて周囲を見回すと、確かに目眩がするかのように整然と木が並んでいる。
「一体ここはどこにあるのかしらね・・・」
そう呟いてセレーナは嘆息する。と、黙っていたアルが口を開いた。
<マスター、先ほどの会話で出てきた『PT』とは何の略称ですか?>
「へ?パーソナルトルーパーの略称だけど・・・何であんた知らないのよ?じゃあこのアーバレストって何?特機だったの?」
<ARX-7。通称「アーバレスト」はAS、つまりアームスレイブですが・・・>
アルの返答に首を捻るセレーナ。
「そういえば、アームスレイブってトリセツにも書いてたわね。そん時は読み流してたけど・・・
ねぇ、エルマ。データベースに「アームスレイブ」って単語はある?」
「・・・。ありません、セレーナさん」
「あれれ、どういうことかしら・・・ねぇアル、アームスレイブって何?」
<一般的にアームスレイブとは、主に全高8メートル前後の、人体を模した機械に、武装・装甲した攻撃用兵器です。
この略称は操縦システム、『アーマード・モービル・マスター・スレイブ・システム』が語源となっています。
八十年代末期に開発・・・>
「ちょ、ちょっと待ってよアル、八十年代っていつの話よ?」
アルの説明を遮って、驚いたセレーナが問う。
<西暦1980年代の話ですが・・・>
「西暦1980年代って人類が宇宙に出る前の話じゃないですか!」
エルマも驚いて目を(本当に)白黒させる。
<宇宙に出る、とはロケット打ち上げの事を指しているのですか?>
「何言っちゃってるのよ、アル。人類は山ほど宇宙にコロニー作ってるじゃないの」
<それは宇宙ステーションの事ですか?国際宇宙ステーションの開発はあまり捗々しく無いようですが・・・>
両者の会話が全くかみ合っていない事に、セレーナは気づく。少し考えてからエルマに確かめる。
「エルマ、“私達の歴史”では西暦1980年代に既に人型兵器は開発されている?」
「・・・。そんな記録はありません。その頃の戦争で使われていた兵器は戦闘機や戦車が主ですよ」
今度はアルに話を向けて
「アル、“あんたの歴史”でアームスレイブは一般的な兵器なの?」
<ほとんどの国の正規軍はアームスレイブを配備しています。加えて、上等なテロリストも>
セレーナは腕組みして首を捻る。
「どうも私達は全然違う世界から来ているみたいね。さっきの『ラムダ・ドライバ』も聞いたこともない兵器だと思ったけど
そう考えたなら納得が行くわ・・・」
「そういえば、ゲーム開始前に集められた部屋には見慣れない服装の人もいましたね」
<今までに戦った5機はどれもデータベースに無い機体でした>
セレーナの言葉を受けてエルマとアルが答える。
「どういうことなんでしょうか?」
「うーん・・・これは通常の認識で測れる話ではないわね。SF小説を参考にした方が早いかも。パラレルワールドってヤツかもね」
<平行世界という事ですか?>
「そう。“在り得る筈の未来”、その枝分かれの結果よ。
もしそう仮定するなら、このゲームの主催者は平行世界に干渉できる事になるわね・・・」
「平行世界に干渉するなんて・・・!ボク達の時代じゃ全く辿り着いていない技術ですよ!」
「ま、あくまで仮定の話だけどね。でも私達とアルの歴史が全く違うのも事実。これは次誰かに会った時、確かめた方がいいかもしれないわね。」
そう言ったセレーナは、ふっと今までに出会った人々を思い出す。
(・・・そういえば、リオちゃんやリュウセイ君は元気かしら?次の放送で彼らの名前が流れなければいいけど・・・)
ふと物思いに沈んでいると、アルが声を掛けて来た。
<マスター、そろそろ指定のポイントに着きます>
そう言うや否や整然とした森が開け、月明かりに照らされる広場のような空間に出た。
周囲はぐるりと森に囲まれ、家のような建造物がいくつか見える。メインカメラの望遠機能で遠くを見ると、先には川が流れている。
そんな広場のど真ん中に、四角い箱がポツンと置いてある。近寄ってみると箱の隣に天辺にボタンのついた台が設置されていた。
「これを押せってことかしら?」
「そうじゃないですか?回りには熱源反応もありませんし、罠ってことはないと思われます」
「こういう所不親切よねぇ。あのユーゼスってヤツ、レディーにはモテなさそうね」
セレーナがボヤきながらボタンを押すと、四角い箱から小さいロボットがミサイルのように撃ち出され、わらわらとアーバレストにまとわりついた。
電池やネジに頭と手足がついたような外観をしている。それぞれが役割分担をし、素早く補給作業をしているようだ。
<ENの完全回復を確認。銃器・火器の弾薬も全て補充されました>
アルが報告すると同時に、ロボット達は続々と四角い箱へ戻っていく。
「これはまためちゃくちゃ早いわね。こんなの見たこと無いけど、データベースにはある?」
「ありません」<ありません>
「やっぱり。こんな優秀な補給装置があったら戦況は劇的に変わりそうなものだもの・・・。ま、いいわ。行きましょうか」
アーバレストは川の方へ進路を向ける。
「セレーナさん、これからどうするんですか?」
「そうね、獲物を探さなきゃならないわ。今日は休みなしで行くわよ」
その答えにエルマは異議を唱える。
「ボクは休んだ方がいいと思います。もう13時間動き通しですよ?さすがに休まないと・・・」
「何を言ってるの。時間が無いのよ?」
撥ね付けるセレーナに、今度はアルが忠告する。
<お言葉ですがマスター、『ラムダ・ドライバ』は高度な集中力が要求される装置です。疲れによる集中力低下で
満足に装置が使えない場合、マスターがお困りになるのではないでしょうか?>
「アルも言う様になったわね。まぁそうまで二人に言われちゃ仕方ないか。この先の森の中で4時間だけ仮眠を取ることにする」
セレーナが寝息を立て始めたのを確認すると、エルマはアルに接続して直接話しかけた。アーバレストはECSを稼動させ姿を消している。
(アルさん、さっきはありがとう)
<アル、と及びください、エルマさん。私もマスターは張り詰めておられるよう感じたので、差し出がましいようですが
エルマさんのお口添えをさせて頂きました>
(セレーナさん、ここに来てからずっとピリピリしてるから・・・それから、ボクのこともエルマって呼んでね)
<ラージャ。それでエルマ、一つ聞きたい事があります>
(何でも聞いて)
<マスターの復讐の事です。マスターは復讐に並々ならぬ執着があるように思うのですが、それは何故ですか?>
(・・・。これはセレーナさんには言っちゃダメだよ)
そう前置きしてエルマは説明をした。チーム・ジェルバの事、彼らが全滅したミッション・ドールの事、
一人生き残ったセレーナが過ごしてきた日々の事・・・
(本当はセレーナさんに仇討ちなんてして欲しくない。ボクだってジェルバのみんなが殺されていくのを見たし、
みんなの事はとても好きだったから本当に悔しい。でも・・・復讐を誓ってからのセレーナさんを見てると痛々しいんだ。
セレーナさんは今でも結構笑うけど、どこか茶化すような笑いでさ。ジェルバに居た時はもっと素直に、心から笑ってた)
半ば独白するように、思いの丈をぶつけるエルマ。
<そういう背景があったのですか。確かに、マスターを見ているとどこか余裕の無さを感じます>
(リオさんや、リュウセイさんにここで出会って、ちょっとずつセレーナさんも影響を受けてる気がする。
昔のセレーナさんなら、多分リオさんを見逃したりはしなかった。だからこのまま、変わって行って欲しい)
<しかしエルマ、『ラムダ・ドライバ』が発動したのは、やはり復讐の情念が並外れたものだったからです。
もしマスターが復讐を諦めたら、もう『ラムダ・ドライバ』は使えないかもしれません>
(そう、だよね。互いに殺しあうなんてゲームに、何でセレーナさんは選ばれてしまったんだろう・・・
セレーナさんはあんなに苦しんで、今も苦しんでいるのに、どうして・・・)
エルマは険しい表情で休息を取っているセレーナの顔を見詰めた。物音でもすれば、一瞬で目覚め戦闘態勢に移れるだろう。
それが特殊部隊として鍛え上げられ、また孤独な戦いを数年間続けてきて身についたセレーナの睡眠法である。
(セレーナさん・・・)
例え眠りが浅くても、せめてこの時だけはゆっくりと休ませてあげたい。
エルマとアルは彼女の眠りを守る為、周囲に警戒を張り巡らせ続けた。
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康(睡眠中。起床予定5時)
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:C-5(補給ポイント)近くの森
第一行動方針:ゲームに乗っている人間をあと一人殺す
最終行動方針:チーム・ジェルバの仇を討つ
特機事項:トロニウムエンジンは回収。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2】
【時刻:二日目AM01:00】
252 :
それも名無しだ:2005/12/25(日) 00:56:43 ID:EMH89Vk9
hoshu
253 :
戦友:2005/12/25(日) 10:44:32 ID:d/YBEc0h
暗闇の中、北に向かって走り続ける機体があった。
独特の女性的なフォルムが印象に残るその機体は、魔装機ノルス・レイである。
「ジョシュア・ラドクリフ……無事でいるといいのだが……」
仲間の無事を願いながら、イキマは合流を誓い合った地点目指して機体を走らせる。
目指すは北に存在する廃墟。お互い無事であったのならば、そこで再び出会う手筈となっている。
幸いにも、これまで機体を走らせる最中、イキマが他の参加者に出会う事はなかった。
このノルス・レイ、サポーターとしては優秀な能力を持っているが、お世辞にも前線向けの機体ではない。
自分以外の参加者全てを殺さなければならないバトルロワイアルのルールにおいては、不利な感を否めない機体である。
だが、それは別に構わない。
自分の目的は、あくまでも仲間と共に主催者を打ち倒す事だ。たった一人で戦い続けなければならない理由は無い。
そう。今の自分には、仲間がいる。
……奇妙なものだ。
ほんのつい数日前までは、人間に仲間意識を持つ事になるなど夢にも思っていなかった。
だが、今はどうだ。人間の安否を本気で案じている自分に、何の疑問も感じてはいない。
「今の俺を奴が見たら、どんな顔をされる事やら……」
苦笑と共に、見知った顔を思い出す。
鋼鉄ジーグ。かつて自分の居た世界で、何度も死闘を演じた相手。
自分が人間と手を組んでいる事を彼が知ったならば、どんな反応を返される事か。
どうせ、後で裏切るつもりに決まっている――
そう、決め付けられる気もしないではない。
そんな事を考えながら、イキマは機体を北上させる。
仲間との合流を目的に、彼方に見える廃墟を目指して。
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:良好
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし)
現在位置:E-3北部
第一行動方針:ジョシュアと合流するため、北の廃墟へ向う
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:バラン、ジーグを探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【二日目 0:00】
254 :
歪む世界:2005/12/25(日) 18:35:28 ID:d/YBEc0h
「リュウセイ……生きていろよ……」
リュウセイ・ダテの無事を祈りながら、イングラム・プリスケンは荒野を歩き続けていた。
その瞳に宿る感情は、この戦いを終わらせるという強い決意。
――ユーゼス・ゴッツォが何を企んでいるのかは知らないが、奴の目的は必ず打ち砕いてみせる。
そう心の中で呟きながら、イングラムは四角く区切られたエリアの端を目指し、その機体を前に進ませ続けていた。
このゲームを正規の手段である“皆殺し”以外で終わらせるにあたって、その障害となる事柄は二つある。
一つは参加者各員に取り付けられた首輪の存在。
ユーゼスの胸先一つで爆破装置が働くこの首輪を取り除かない事には、ユーゼスに逆らう事が不可能となる。
首輪の解除方法を見付け出す事は、ユーゼスに反逆する上で大前提と言える事だった。
……だが、もう一つ。恐らくは首輪の解除以上に困難な障害が、ユーゼス打倒の前には立ち塞がっている。
それが、これ。イングラムの前に存在する、光り輝く障壁である。
「…………」
H-2エリアの東端で、イングラムは言葉無く佇んでいた。
彼の前には、薄い輝きを放つ光の壁。歪んだ次元を繋ぎ合わせ、別の空間に繋げる超技術である。
メガデウスの腕を輝く壁に触れさせる。腕は何の抵抗も無く壁を通り抜け、そして別の空間へと繋がった。
A-2エリア。現地点とは遠く離れた場所に位置するはずの地域。
歪んだ空間を通り抜け、メガデウスは遠く離れた場所に一瞬で転移を遂げていた。
この世界に自分達参加者を引き入れたのは、この空間操作とでも言うべき技術を使っての事なのだろう。
それはつまり自分達が首輪の解除方法を見付け出した所で、それだけでは反攻に移れない事を意味している。
もし、この空間操作を、ヘルモーズを対象に行われたとすれば――
「こちらの攻撃は届かない……いや、それどころかヘルモーズに辿り着く事さえ不可能だろうな……」
それだけではない。
ユーゼスはゲームを始めるにあたって自分を含めた数多くの参加者を意識無い内に拘束し、自爆装置付きの首輪を装着させた。
一旦首輪を解除した所で、それと同じ事が再び行われない保障など無いのだ。
首輪の再装着。考えたくも無い事だが、それが行われる可能性は決して低くない。
……だが、空間操作の技術を無効化してしまえば、恐らく首輪の再装着を防ぐ事は出来るはず。
自分の考えが正しければ、首輪を取り付けたカラクリはこうだ。
空間を捻じ曲げて参加者をヘルモーズに召集する際、ユーゼスは自分達の意識を奪っていた。
意識の無い人間に首輪を嵌める事など簡単だ。この首輪を嵌めた方法は、あくまでも手作業であるに違いない。
となれば、話は簡単だ。首輪を解除した上で空間操作を無効化すれば、ユーゼスと戦う事が出来るようになる。
しかし、どうやれば。どのような手段を用いれば、この空間操作を無効化する事が出来るのだろうか。
255 :
歪む世界:2005/12/25(日) 18:36:12 ID:d/YBEc0h
……確証は無いが、推測は出来なくもない。
この空間を歪める大掛かりな技術を常時展開させるには、とてつもないエネルギーと“基点”のようなものが必要となるはず。
そして、それはヘルモーズではない。このゲームの会場となった世界のどこかに、空間を歪めている装置が存在しているはずだ。
その根拠は、ヘルモーズ自体が空間の壁を飛び越えて別地点に転移する様子が見られた事である。
空間を歪めている基点自体が、その歪んだ空間に飛び込んで行くとは考え難いのだ。
もし空間操作を司っているのがヘルモーズであるならば、その動作を不安定にさせるような真似はすまい。
となれば、このゲームが行われている会場のどこか。なるべく人目に付かない場所に、空間を歪めている装置が存在するはず。
そして、その候補は幾つか既に掴んでいる。
「……E-7、D-3。特に怪しいのは、この二つか」
ユーゼスが真っ先に進入禁止区域とした、この二つのエリア。
大規模な戦闘に巻き込まれて装置が破壊される事を危惧するならば、まずは装置の護りを固めるはず。
となれば、怪しい場所は現在禁止エリアに指定されている二つの区域。
この地点に空間操作を打ち破る鍵が存在すると考えるのは、決して的外れな憶測ではないはずだ。
……だが、現状では打つ手が無い。このエリアに侵入した途端、首輪の爆破装置が機能してしまう。
と、なれば……。
「…………禁止エリアが増える前に、いくつか調べ上げておかなければならないエリアがあるな」
首輪の解除方法を探り出すにしても、サンプルと施設の無い現状では打つ手が無い。
かくして、イングラムは動き出した。ユーゼス打倒を志す他の参加者とはまた違った方法で、この悪趣味なゲームを終わらせるべく。
256 :
歪む世界:2005/12/25(日) 18:36:55 ID:d/YBEc0h
【イングラム・プリスケン 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
パイロット状態:健康
機体状態:装甲に無数の傷。だが、活動に支障はなし
現在位置:A-2
第1行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
第2行動方針:出来うる限り争いを止める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【初日 22:00】
気が付けば惣流=アスカ=ラングレーは台所に立っていた。目の前には食材と調理具が並んでいる。
しかし今まで家事を全て人任せにしていた彼女に料理が出来るはずもなく、その手は全く動いていない。
それなら素材のまま口に入れれば良いと思うのだが、彼女の高いプライドがそれを許さなかった。
「二、三日くらい食事を抜いたってどうって事ないわよ」
料理が出来ない事わけじゃない、必要ないから作らないだけだとアスカは自分に言い聞かせる。だが
その言葉に反論するかのように胃袋が控えめな声を上げた。口では強がれても身体は正直なものである。
(誰にも聞かれなかったでしょうね?)
僅かに顔を赤めたアスカが周囲を見渡すと、すぐ真後ろのテーブルで碇シンジが食事をしていた。
まるで背中合わせのように直ぐ後ろの椅子に座っている。
「あんた一体、ここで何してるのよ!」
アスカが顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる。なぜシンジがいるのかを疑問に思うより、先程からの
失態を誤魔化す事の方に意識が向いていた。シンジは大声に驚きもせず、落ち着いた様子で振り向くと
アスカの顔を見つめ、静かに溜め息をついた。
「見て分からないの?」
そう答えると興味無さそうに背を向け食事を再開した。もう一度怒鳴りたい欲求に駆られながらも
アスカは深呼吸して自分を落ち着かせる。少なくとも台所という戦場においてはシンジの方が有能なの
は承知していた。背に腹は代えられないと判断し、猫なで声をシンジにかける。
「美味しそうじゃない。アタシの分も作ってくれない?」
「自分で作れば?」
シンジは振り向きもせずに即答する。下手に出たつもりが冷たく返され、アスカは自分が小馬鹿に
されたように感じた。
「こういう時くらい役に立ちなさいよ! アンタ、家事以外は何の取柄もない愚図なんだから!」
「うるさいな。だったらアスカは何にも出来ない役立たずじゃないか」
次の瞬間、アスカは逆手に持った包丁を振り上げていた。
朝の光を浴びて惣流=アスカ=ラングレーは目を覚ました。薄く目を瞑って休憩するだけのつもりが
熟睡してしまったらしく、少し自己嫌悪に駆られる。夢を見たような気もするが覚えていない。
「あいつ等は………」
外部モニターに目をやる。流竜馬の乗るダイテツジンは索敵されにくいよう巨体を伏せている。動き
のない所を見ると眠っているのだろうか? 一方、見張りをかって出たイッシー=ハッターは少し離れ
た所でラジオ体操をしていた。ここでラジオなど受信できるのだろうか? それらの疑問を深く考える
事もなく、アスカは時計に目を移した。針は朝の放送まで後一時間程を示していた。
「………今なら平気かも」
アスカは寝汗でベタ付く服を気にしつつ席を立った。放送前のこの時間なら他の参加者も行動を自粛
しているだろうと判断し、近くにある河で汗を流そうというのだ。そっとダイモスの搭乗口を開ける。
他の二人に伝える気はない。同行しているだけで信用したわけではない。わざわざ『水浴びに行きます』
と伝えるのは、『覗きに来てね』と言っているのと同じ馬鹿げた行為だ。少なくともアスカ本人は男性
全般を全く信用していなかった。静かにタラップを降り始める。しかし―――
「グッドモーニングだ!ガール!」
突然ハッターに声をかけられた。よく扉が開くのに気が付いたものだ。体操などして遊んでいるよう
に見えたが、真面目に周囲を警戒していたのだろう。
「グ、グーテン………モーゲン………」
物凄く驚いたが何とか無様な姿を晒さず笑顔を返す事に成功した。その笑顔は少し引きつっている。
「朝の散歩かい? 確かに早朝の散歩は気分が良い。しかし今の状況下では感心しないな」
竜馬の声も聞こえた。どうやら起きていたようだ。アスカは熟睡していたのは自分だけだと思って
少しプライドが傷ついた。
「放送まで、後少しだ! 食事でも取りながら、今後の方針を、熱く話し合おうじゃないか!」
ハッターは細かい事を気にせずに続ける。食事と聞いてアスカはゲッソリとした。賞味期限を大きく
過ぎた(と思っている)ものなど、食べれたものではない。だが、名案を思いたのか笑顔が戻る。
「竜馬さん。ソーセージが沢山あるんだけど、流石に飽きちゃったから何かと交換しませんか?」
アスカは猫なで声で食料交換を竜馬に持ちかけた。
「そうだな。こっちも同じものばかりでは飽きるから交換しようか」
交渉は成立し、アスカはパック入りカレーライスの入手に成功した。子供向けのイラストが書いて
あるが気にはしない。手順にそって作ると、どういう原理かホカホカのカレーライスが出来上がった。
「うむ、やはりソーセージは魚肉に限るな。シール付きというのもナカナカだ」
「ゲキガンカレーとかいう名前の割には甘口ね。そういえばハッターは食べなくて平気なわけ?」
のん気に食事を取りつつも、ハッターの事を多少は疑問に思ったらしい。
「必要ない。というか、そういうのは食べられないから、気にしないで食べてくれ」
「ふーん。便利なんだか不便なんだか」
その程度の説明であっさり納得してしまった。人間、自分達に有利な事は深く追求しないものだ。
「ユーゼス打倒には、もっと仲間がいる!信頼できる参加者に、心当たりはあるか?」
再びハッターが話題を出す。気にしないで食べろとは言ったが、黙々と食べられると間が持たない。
「信頼できる参加者か。そうだな、彼らなら………きっと頼もしい仲間になってくれるはず」
竜馬は集められたメンバーの中に、見覚えのある人物がいた事を思い出した。一人は偉大な勇者、
剣鉄也。一人は陽気なムードメーカー、ボス。かつて強敵・宇宙怪獣ギルギルガンとの戦いで協力し、
平和の為に力を合わせると誓った仲間だ。こんな殺戮ゲームに乗るわけがないと、竜馬は信じている。
「………アイツは戦力にはならないし、直ぐ逃げ出すから信用も出来ないし」
アスカがそっぽを向いて答える。流石に殺す為にシンジを探しているとは言わない。
「指導指導と口うるさいが、頼りになる頑固者に、心当たりがある!結構、協力者は、いそうだな!」
たった三人でもこれだけ心当たりがいるなら、他にも協力的な者は多いだろうと結論付けた。
「で、放送後に取るルートについてだが、このまま河沿いに………」
「いや河沿いは危ない。水中戦に持ち込まれると不味い」
ハッターの意見に竜馬が異議を唱えた。水中戦の重要性と恐ろしさを竜馬は良く知っている。
「水中にいるなら河ごと凍らせれば良いじゃない。楽勝よ、楽勝」
「なるほど瞬間的に絶対零度まで下げるフリーザーストームなら、色々使い道がありそうだな」
竜馬がソーセージのオマケシール裏面の解説を何枚か読み上げながら、ダイモスの武装の豊富さに
感心する。アスカは教えていない武装ついて知られた事に頭を抱えたかったが、それでも自分の優位は
崩れないと判断し笑顔を取り繕った。結果的にアスカは説明書には記載されていない必殺技をいくつか
知る事となる。もっともアスカにとっては「長い名前のただのパンチ」程度の認識であったが。
「話を戻すが、ルートについては、このまま河沿いに、西へ向かうという事で………」
竜馬の必殺技ネーミング講座を強引に打ち切り、ハッターが話題を戻そうとする。
「ちょっと待ってよ!さっきから疑問だったんだけど、なんでハッターが仕切ってるわけ?」
今度はアスカが異議を唱えた。どうにも話が進まない。
「なんで、って言われても………なぁ」
思わずハッターは竜馬と顔を見合わせる。
「だから、なんでハッターが勝手に『リーダー』してるのかって聞いてるの。リーダーって言ったら
正義の色、レッド。つまり赤い機体のアタシに決まっているでしょ!」
強引かつ適当なリーダー宣言だった。
「うーむ。赤い機体だからリーダーというのは一理ある………のか?」
竜馬が困惑気味に呟く。流石に想定外の理由だったらしい。
「友よ!冷静に考えろ!色で決めるなど、言語道断!リーダーは、熱血漢と決まっているだろう!」
ハッターの反論も少しピントがズレている気がする。
「熱血漢なんて流行らないわよ。ハッターはお笑い担当、色で言えば黄色がお似合いよ」
「ノォ! さっきカレーを食べていた、ガールこそが、お笑い担当に相応しい!」
もはや子供の口喧嘩である。だがどんな些細な事が原因であれ、仲違いしたチームが危険である事を
竜馬は身をもって知っていた。何とか仲裁せねばならない。
「まあまあ、ここは公平にだな………」
「それではリーダーとして、今後の方針についての意見を述べる。まず………」
竜馬が今後について再度説明と意見を述べ始める。それを聞きながらアスカはギュッと握った拳を
見つめている。ハッターも拳を握り締めていた。
「なんで、アタシがリーダーじゃないのよ………」
「そりゃあ、我が友がパーを出したからさ」
ヒョイと肩をすくめる。そもそもハッターは誰がリーダーであっても気にはしない。どうせやる事は
同じだからだ。正義の色が赤と言われ、少し熱くなっただけだ。こんな事で喧嘩する気は無い。
(絶対、実力で誰が一番だか教えてやるんだから)
一方、アスカは納得していなかった。どいつもこいつも自分の邪魔をする。そんな風に考えていた。
明確な方針は定まらないまま、朝の放送が流れ始めた。
【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
パイロット状態:良好
機体状況:良好
現在位置:F-5の森で休憩中(放送後鼓動開始予定)
第一行動方針:他の参加者との接触
第二行動方針:剣鉄也の捜索
最終行動方針:ゲームより脱出】
【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
パイロット状態:良好
機体状況:良好(SSテンガロンハットは使用不可、トンファーなし)
現在位置:F-5の森で休憩中(放送後鼓動開始予定)
第一行動方針:仲間を集める
第二行動方針:チーフの捜索
最終行動方針:ユーゼスを倒す
備考:ロボット整備用のチェーンブロック、鉄骨(高硬度H鋼)2本を所持】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:良好
機体状況:良好
現在位置:F-5の森で休息中(放送後鼓動開始予定)
第一行動方針:碇シンジの捜索
第二行動指針:邪魔するものの排除
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
備考:竜馬&ハッターを信頼していない】
【二日目 06:00】
闇を切り裂き、流星が空を翔る。
眼下に広がる街並みに、ほとんど明かりはない。
道路沿いの街灯だけが照らす街並みを見下しながら、流星の中に座す男、木原マサキは呟いた。
「レイ、付近に反応はあるか」
『索敵範囲内ニ、反応ハミツケラレズ』
自身の駆る蒼き流星―――レイズナーを司るコンピュータ、レイからの返答に、マサキは表情一つ変えることなく、新たな指示を送る。
「引き続き索敵を続行しろ。何かあれば、逐一報告するんだ」
『レディ』
レイの短い返答を確かめると、マサキは肩越しに後ろを見遣った。
マサキの視界に、窮屈そうに身体を包ませた体勢でコクピットに押し込まれたルリの死体が映る。
赤い一つ目の機体に襲撃を受け、イサム達が散り散りになってから既におよそ三時間。
ルリの首輪を取り外すために、マサキはD-8付近の市街地に訪れていた。
道中、他の参加者に遭遇するようなこともなく、さしたる障害もないまま目的地に到着したのが一時間前。
今はC-8とC-7の境界付近を飛行している。
既に首輪を外せそうな場所も、ある程度の解析が出来そうな場所も目星をつけてあるが、マサキはまず周囲の偵察を行っていた。
首輪を取り外すにしても、取り外した首輪を解析をするにしても、機体から降りなくては始まらない。
もしも、近隣に参加者が潜んでいて、その隙に襲撃をかけられでもしたらたまったものではない。
事を成すのは周囲の安全を確認してからだ。それに、出来れば今のうちに補給も済ませておきたい。
『10時方向ニ、補給ポイントヲ発見』
不意に発せられたレイの機械音声に、マサキは視線をルリの死体から外しコンソールに目を移す。
すぐに新たな指示を飛ばそうとして、続けて告げられたレイからの報告に遮られた。
『並ビニ、ソノ近隣ニ二機ノ機影ヲ確認。戦闘ノ形跡、オヨビ機体ノ損傷確認デキズ』
「ふん…」
報告を耳にしたマサキはそうやって鼻を鳴らすと、口元に手をやって思考を開始する。
戦闘の形跡がないのなら、その二人の参加者は手を組んでいるとみて間違いない。
重要なのはそいつらが果たして使えるクズかどうかだ。
丁度手駒となるクズを失った現状では、早急に使えるクズを集める必要がある。
まぁ、たとえ使えないクズだったとしても、最低限首輪を解析する間の護衛にでもなればそれでいい。
こちらには首輪のサンプルと、俺の頭脳というカードがある。
仮に下らん正義感を振りかざしている偽善者が相手だったらとしたら多少厄介だが、
それでも言い包めようと思えばいくらでも言い包められる。
その辺りの言い分は、相手と接触してタイプを見極めてから使い分ければいい。
「進路変更だ、レイ。そいつらに接触するぞ。」
『レディ』
レイの返事と同時に、冥王を乗せた蒼き流星は方向を変え加速を開始した。
「…ん」
背後から聞こえた微かな唸りに、クォヴレーはシートの後ろを覗き込んだ。
見ると、後部座席で横になっていたトウマが身を起こし、首や背中の間接を鳴らしている。
「…目覚ましもないのに、よく時間ぴったりに起きられるものだな」
視線を前に戻して時計を確認しながら、クォヴレーが言う。
時刻は午前三時。二人が決めた、見張りの交代の時間だ。
「フリーター生活長いんでね。寝坊で遅刻でもしたら、クビになっちまう」
手櫛でざっと髪を整えながら、トウマはクォヴレーにそう返した。言いながらドアを開け、外に出る。
トウマがワルキューレに跨ったのを見届けて、クォヴレーも休息を取るべくシートに身を預けた。
一つ息を吐いて何気なく窓の外へと視線を向け、そしてシートに預けたばかりの身体を跳ね起こす。
月をバックに、一つの影が見えた。青い光を纏った、まるで流星と見紛うようなそれは高速でこちらへと接近してくる。
「何か近づいてくる、気をつけろ!」
「何!?どっちだよ!?」
すぐさま開けっ放しにしてあった窓からトウマに向かって叫ぶ。言われて辺りを見回すトウマに、月を指差し方向を示した。
「あっちだ!とにかくエンジンをかけろ、すぐ動けるようにしておくんだ!」
「わ、わかった!」
二人が迫る機影に備え、慌ててエンジンをかける。
しかし、相手の速度は彼らの予想を越えていた。エンジンが掛かった頃には、すでにその機体は彼らの目前へと着地する寸前だった。
着地の衝撃を和らげる為のバーニアが巻き起こす熱風を腕をかざして遮りながら、
トウマが敵意が無いことを伝えるために声を張り上げようとする。
だが、それは着地した青い機体からの通信機越しの声に遮られた。
「待ってください!こちらに攻撃の意思はありません!話を聞いてください!」
降りかかってきた声は、トウマが叫ぼうとした言葉そのままだった。
「…そうか、あんたもあいつに襲われたのか」
「はい…」
トウマの言葉に、マサキは言葉少なく頷いた。
マサキは機体から降り敵意が無いことを示した上で、イサム達にそうしたように本性を隠したまま今まで起こったことを話していた。
どうも最初に戦ったあの赤い可変機は、自分と遭遇する前にこのトウマと名乗った青年を襲撃していたようだ。
思わぬところであの時の戦闘が功を奏した。同じ相手に襲われたということで、知らず自分の境遇と重ねて信用を得ることが出来る。
その後イサムと合流し、アキト、アクセルとも合流したが、赤い一つ目の機体に襲われバラバラになってしまったことを続けて伝える。
だが、ルリのことだけは伏せておいた。
幸い、彼らの視点からではレイズナーのコクピットは死角になる。こちらから見せようとしない限り、死体に気付かれることは無い。
ルリのことを打ち明けるのは、彼らに利用価値があるかどうか確かめてからでも遅くはないだろう。
「ところで、お二人の機体ですが…さっき、ただの車とバイクだって言ってましたけど…」
「言葉の通りだ。それとも、こいつがロボットに変形するようにでも見えるか?馬鹿馬鹿しい。アニメじゃあるまいに」
二人の戦力を測るべくそう切り出したマサキに、ブライサンダーの座席からクォヴレーがハンドルを叩きながら吐き捨てた。
「それじゃぁ、本当にただの車とバイク…?」
「あぁ」
腕を組み、苦虫を噛み潰したようなしかめ面で心底忌々しそうにクォヴレーが肯定する。嘘を付いてるようには見受けられない。
「ま、こんなんじゃ頼り無いって思われても仕方ないけどさ。
それでも、頭数が揃ってるってのは心強いだろ?そっちさえ良かったら、一緒に行動しないか?」
ワルキューレに跨ったトウマの言葉に、マサキはそちらへ顔を向ける。
「はい、僕で良ければ、一緒に行かせてください」
笑顔を浮かべ、口ではそう言いながら、内心でマサキは舌打ちをした。
使えないクズと遭遇する可能性も考慮してはいたが、
まさかただの自動車とバイクを支給されているクズがいるとは流石に思ってはいなかった。
もしかすると何か使える機能でもあるのかと思って話を聞いてはみたが、
話し振りから察するに本当にただの車とバイクらしい。全く、あの主催者もいい性格をしている。
これでは使う使えない以前の問題だ。
トウマとかいう男はともかく、クォヴレーとやらはパイロットとしては多少有能そうだが、機体がこれでは話にならない。
わざわざこいつらでも戦える機体を探すより、
最初からまともな機体を支給されているクズを手駒にする方が戦力増強として手っ取り早いのは明白だろう。
こんな奴らと遭遇するとわかっていれば、解析に役立ちそうなルリを殺すこともなかったと言うのに。
(…まぁ、いい)
結果的に多少裏目にはなったが、そもそもルリを殺していなければこいつらと遭遇することも無かった。
過ぎたことをいつまでも引きずったとして、今の状況が好転するわけでもない。
それに、クズはクズなりの使い道がある。
なにせあの主催者のことだ。首輪に何か仕掛けを施してある可能性も充分考えられる。予備の一つがあってもいいだろう。
邪魔をされないようにどちらかを殺し、残った方の首輪を奪うとしよう。
方針は決まった。ならば後は行動を起こすのみだ。
「そうだ。この辺りに、補給ポイントはありませんか?出来れば補給を済ましておきたいんですが…」
殺意を内に潜ませたまま、マサキは二人にそう切り出した。この辺りに補給ポイントがあるのは確認してある。
場所を示されれば補給をしに行く、と言って機体に戻ればいい。
仮に場所を知らなかったとしても、もう少し辺りを見回してくるとでも言えば済むことだ。
「ああ、それならすぐそこだ」
マサキの目論見どおり、トウマが顎をしゃくって少し離れた場所を示す。
「わかりました。それじゃぁ、今のうちに補給をしてきます」
本性を隠した口調の裏でほくそえみながら、マサキはレイズナーへと駆け出した。
その後ろ姿を見送って、トウマは改めてレイズナーを見上げる。
初めにこんなバイクを支給されてどうなることかと嘆いたが、クォヴレーに続いてまた一人仲間を得ることが出来た。
しかも、今度は俺達と違ってまともな機体を支給されている。
楽観視するわけではないが、この調子で行けばアルマナの仇を討つことも、あの主催者を打倒する事も出来るかもしれない。
マサキが乗り込み、レイズナーの双眸に光が灯る。
その光を、トウマは期待と希望を込めて見つめ―――。
「…え?」
―――次の瞬間、その想いは自らに向けられたレーザード・ライフルの銃口に打ち砕かれた。
銃口の奥に、光が集まっていくのがひどくゆっくりと見える。
まさにその光が放たれんとした刹那、後方からニ条の光線がレイズナーに襲い掛かった。
咄嗟に宙へと逃れ、レイズナーはその光線をかわす。
射撃の直前に姿勢を乱されたレイズナーのライフルは、トウマのすぐ脇へと着弾した。
「逃げるぞ、トウマ!!」
その声と共に、先ほどの光線―――ヘッドライトビームを放ったブライサンダーが、トウマの脇をすり抜けて行った。
「あ、ああ!」
遅れて、トウマもワルキューレを発進させる。次の瞬間、それまでトウマのいた位置へとレーザーが撃ち込まれた。
「くそ…猫被ってやがったのか、外道め!」
駐車場を飛び出し、道路を併走しながらトウマが吐き捨てる。
ぎり、と音が鳴るほどに奥歯を噛み締め、苛立ちをぶつけるかのようにワルキューレをさらに加速させた。
「おそらく、俺達を利用しようとしたんだろう。機体が使えないとわかって、手の平を返したんだろうさ」
「けど、お前よくあいつが俺達を騙してるって気付いたな?」
隣を疾駆するクォヴレーに、ふとトウマが問いかけた。
「確信があったわけじゃない、最初から信用などしていなかっただけさ。
信頼できる相手だとわかるまでは、警戒を続けるつもりだった。気付かなかったか?お前の時もそうしてたぞ」
「何!?そうなのか!?」
その言葉にトウマが声を荒げる。
「そのおかげで助かったんだ、文句は言うなよ!来るぞ!」
バックミラーには、既に追いすがるレイズナーの姿が映っている。
咎めるようなトウマの口調にそう切り返し、クォヴレーはハンドルを切った。
「ええい、くそ…!」
トウマも同様にハンドルを切って、放たれたレーザーをかわしていく。
「ふん、ただの車ではなかったと言うわけか」
レイズナーのコクピットで、射撃を掻い潜り逃走する二人を見下ろしながらマサキがごちる。
先ほどのビームもそうだが、この動き。ただの車と言うには運動性が高すぎる。
尤も、その程度でこちらの優位は揺らぎもしない。
言ってしまえば、これは狩りだ。
大きすぎる戦力の差は、何が起ころうと覆りはしない。その戦力差の中で行われる行為は、戦闘ではなく狩りでしかない。
「…くく」
唇を吊り上げ、冥王が笑みを浮かべる。
ならば楽しもうではないか。無様に這いずり回って、精々俺を喜ばせるがいい。
「ふははははは!さぁ、逃げろ逃げろ、逃げ惑え!
けっして抜け出せぬ泥の中で足掻くだけ足掻き、俺の足にすがって惨めに命乞いをして見せろ!!」
冥王の凄惨な叫びが夜の闇にこだまする。
それに呼応するかのように、レーザーが逃げる二人に向かい撒き散らされた。
「ちぃ…!奴め、こっちが手を出せないと思っていたぶるつもりか!」
車体を掠めて着弾するレーザーを、クォヴレーは巧みなハンドル操作でどうにか切り抜けていく。
だが、それも長くは続きそうもない。このまま逃げても、いつかはやられる。
「こっちだ、クォヴレー!」
降り注ぐレーザーの雨の中を掻い潜り、トウマはビルとビルの間の狭い路地へと逃げ込んだ。
それを追って、ブライサンダーも路地へと入っていく。
壁にぶつかり、サイドミラーが吹き飛んだ。だが、今はそんなことに構ってなどいられない。
「遅いぞ!もっとスピード出せよ!!」
「無茶を言うなッ!」
車体を壁にこすり付けながらも、アクセルを限界まで踏み込んで前方を走るワルキューレに叫び返す。
あの機体も相当な小型機だが、人間でさえ狭く感じるこの路地までは追ってこれないだろう。
追いかけるには、ビルを越えてくるしかない。僅かだが、時間が稼げるはずだ。
「通りに出たら、またすぐ同じような路地を見つけてそこに逃げ込むぞ!!それを続けて撒くしかない!」
「わかった!」
咄嗟に立てた逃げる算段をトウマに伝えると同時に、路地を抜けた。
二人はすぐさま、ブライサンダーが通れる幅の裏路地を探すため目を光らせる。
「よし、あそこだ!」
クォヴレーが次に逃げ込む路地に目星をつける。
そして二人がその路地へ向かって進もうとした次の瞬間、左手のビルの壁が吹き飛んだ。道路一面に瓦礫が撒き散らされる。
「何!?」
何が起きたか判断する前に、瓦礫を避けるためクォヴレーは咄嗟にブレーキをかけた。
ほぼ最高速に近い状態からの急ブレーキに、自然と身体がつんのめる。
半ばハンドルに頭を押し付けるような格好でどうにか堪え、車は停止した。
「く…一体何が…!?」
そう言って顔を上げたクォヴレーの視界に移ったのは、崩れ落ちるビルをバックに宙に佇む、冥府の王を乗せたレイズナーの姿だった。
「野郎…ビルの壁をぶち抜いて、追ってきたのか…!」
悠然と浮遊するレイズナーを睨みつけ、トウマが呟く。
「ふん。所詮はクズか、もう終わりとはな。茶番はここまでだ」
先程までの気弱な態度から一変したマサキの声と共に、レイズナーの腕がゆっくりと上げられ、
手にしたレーザード・ライフルの銃口がブライサンダーへと向けられる。
そして、トウマが何かに気付く。だが、それは僅かな違和感。そして、今の状況は余計な事に関心を払うことを許さなかった。
その異変に、まだ誰も気付かない。
(まずい…)
ハンドルを握り締め、自らに向けられた銃口を睨みながらクォヴレーはこの状況を打破するための考えをめぐらせた。
反転するにも、時間が掛かりすぎる。こんな状況ではいい的だ。
だからと言ってこのまま突っ込んでも、倒壊したビルの瓦礫が邪魔でこれ以上進むことが出来ない。
(くそ…どうする。どうすればいい…!)
なんとか出来ないか。何か手は無いのか。
この状況をひっくり返す何かを探し、クォヴレーは辺りを見回して、その異変に気付く。
僅かだが、地面が揺れていた。そしてその揺れは、段々と大きくなっていく。
(なんだ…?何が起こっている!?)
そしてその異変に、空中のマサキもまた気が付く。
『近隣一帯ニ振動ヲ感知。並ビニ、新タナ機影ヲ確認』
「何!?場所は何処だ、方角は?」
『距離ハオヨソ30M。方角ハ―――』
レイからの報告に、マサキは目を見開く。そして、続けて語られた報告に言葉を失った。
『―――私達ノ真下デス』
「な―――!?」
レイの言葉が終わると同時。レイズナーの真下にあったマンホールが、突如として吹き上がった。
「ッ!?レイ、後方に下がれ!避けろ!」
『レディ』
マサキの咄嗟の指示に、レイズナーはとんぼ返りをして後方に下がる。
そのレイズナーを掠めるようにマンホールは天高く舞い上がり、そして甲高い音を立て地面へと落下した。
次の瞬間、それは轟音と共にマンホールの落ちた地点の道路を突き破って出現した。
灯の落ちた街中にあって、煌々と輝く二つの眼光が照らす、鉄の貌。
瓦礫を纏うその身は、鈍く彩られた鋼の肉体。
鉛色の拳を握り締め現れたそれは、正に鋼鉄の巨人。
呆然とこちらを見上げる車とバイク、そしてこちらへと銃を向け宙に佇む青い機体を交互に見比べ、巨人の中に座す男は呟いた。
「―――ビッグオー、ショータイム」
たまたま地下道の入り口を見つけ、その中を探索していた折に地上の騒動に気付いたのは僥倖だった。
見れば、青い機体の背後に倒壊したビルがある。地下にまで聞こえてきたのは、あのビルの倒壊する音だろう。
「ま、待ってください!僕は戦うつもりはありません!話を聞いてください!」
青い機体から通信が入る。頭部のキャノピー越しに、気弱そうな少年が見えた。
「騙されるな!そいつはそう言っといて、いきなり襲い掛かってきたんだ!」
その声を聞き、今度はバイクに乗った青年が叫んだ。敵意を剥き出しにして、青い機体を睨みつけている。
「騙そうとしているのはそっちだろう!僕を仲間に誘って油断させておいて、いきなり攻撃してきたくせに!!」
「何だと外道!出鱈目を言うな!」
メガデウスを挟んだまま言い合いを始めた二人に頓着せず、イングラムは青い機体に向け通信を開く。
「戦うつもりが無い、と言ったな。それは、ゲームに乗っていない、ということか」
「はい!僕はこんな馬鹿げたゲームなんて…」
マサキが全てを言い終えぬうち、イングラムは通信機の声を遮って言い放った。
「ならば、その少女の死体はなんだ」
「…っち!」
途端、それまでの大人しい印象を受ける表情をかなぐり捨て、
邪悪そうに両目を吊り上げるとマサキはメガデウス目掛けてレーザーを撃ち放った。
キャノピーに遮られただけのコクピットが仇になった。
咄嗟に状況を混乱させようとしたが、この相手は予想以上に周りをよく見ている。これ以上何を言ったとて無駄だろう。
ならば、仕方ない。邪魔をするというなら、あのクズ二人諸共殺してやる。
しかし、放たれたレーザーはメガデウスの掲げた右腕に易々と弾かれた。
続けて飛来するレーザーを全て受け止めながら、イングラムは背後のクォヴレー達に通信を開く。
「行け!こいつは俺が引き受ける!」
「く…すまん!」
その声を受けて、トウマはそう言うとワルキューレを反転させ逃げようとする。
だが、その声を受けてもクォヴレーは額に手を押し当て俯いたまま、微動だにしなかった。
「おい、どうしたクォヴレー!」
「早くしろ!巻き込まれるぞ!」
動かないクォヴレーに業を煮やしたイングラムとトウマが叫ぶ。
それにクォヴレーは漸く顔を上げ、一瞬だけ何か躊躇するような素振りを見せた後、メガデウスに向かって声を張り上げた。
「あんたの名前は!?」
「クォヴレー!?こんな時に何言ってんだ、早く逃げるぞ!」
しかし、そのトウマの言葉を無視して、クォヴレーは続けて叫ぶ。
「名前だ!答えてくれ!」
「イングラム・プリスケンだ!早く行け!」
逃げようとしないクォヴレーに半ば苛立ちをこめて、イングラムが答える。
「イングラム・プリスケン…。俺は…俺はクォヴレー・ゴードン!死ぬなよ、イングラム・プリスケンッ!!」
その名を反芻するようにもう一度呟き、次いで自分の名を名乗るとクォヴレーはようやく車を反転させ、逃走を開始した。
「ち、クズ共が…!」
メガデウスの目から発射されたビームを避けながら、マサキは遠ざかっていくワルキューレとブライサンダーを睨みつけた。
再び飛来したビームをまたも避けると、今度はイングラムと名乗った鉄の巨人を操る男に向かって叫ぶ。
「あんなクズを助けるということは、犠牲者を出さずにこのゲームを止めるつもりか!?
甘いな!そんな事では生き残れんぞ!そんな理想論が、本当に実現できるとでも思っているのか!!」
叩きつけた言葉とともに、手にしたレーザード・ライフルからも幾条ものレーザーを発射する。
だが、それもまた両腕を構えて防御の体制を取ったメガデウスの重圧な装甲の前に虚しく弾かれた。
眼前に翳していた両腕を下ろし、イングラムはモニターに映る青い機体を見据えて通信機に向けて口を開く。
「…手の掛かる部下がいてな。お前のいう理想論を本気で振りかざして、このゲームを止めようとしている」
言いながら、イングラムは脇のコンソールを拳で叩く。その衝撃でカバーが開き、その下から規則正しく並んだいくつものボタンが現れる。
手の平全てを使ってそれを押すように、開いた手をボタンに叩きつけながらイングラムもまた叫んだ。
「ならば、部下のために手本を示してやるのが、教官としての勤めというものだろう!」
メガデウスの胸が展開する。次いで、無数のミサイルがレイズナーへと向かって発射された。
「…クズがッ!」
吐き捨てると、マサキは飛来するミサイルの雨に突っ込んでいく。
速度を落とすどころか、更に加速してミサイルの雨を潜り抜け、レイズナーはメガデウスに肉薄する。
接近してくるレイズナーを迎撃するべく、メガデウスが拳を振りかぶった。
しかし、その迫り来る腕をもすり抜けるように回避してナックルカバーを展開させると、レイズナーはメガデウスの顔面を殴りつけた。
額から頬にかけて、右目を横断するように傷が走る。
(損傷はあれだけか…武装を一つ奪ったのはいいが、これでは接近するリスクに釣り合わん!)
追撃の拳を避けて距離を離しながら、マサキは歯噛みした。
相手はかなりの重装甲。レイズナーの武装では、倒すことはおろかまともな傷をつけることさえ難しい。
たった一つ。切り札を除いては。
なるべくならば温存しておきたい切り札だったが、背に腹は変えられない。それしか通用する武装が無いというのなら、躊躇いはしない。
「レイ!!V−MAX発動だ!!」
『レディ!』
両腕を掲げるメガデウスを睨みつけ、マサキはレイに叫ぶ。
その言葉に呼応して、レイズナーが青い光を放ち輝き出す。そして、眩いばかりの光を纏い、レイズナーは蒼き流星と化した。
大きくバク転をするように宙を旋回し、輝く粒子を撒き散らしながらメガデウスへと向かっていく。
(―――速い!?)
その速度は、ただでさえ素早かった今までの比ではない。
離れたはずの距離を一瞬にして詰めてきたその光景に、イングラムは目を見開いた。
クロム・バスターを放つべく掲げていた左腕を咄嗟に防御へと回す。
蒼き流星と、鉄の巨人が激突した。
その衝撃に、巨人の足が後ろへと下がる。流星を受け止めた左腕の装甲が、メキメキと音を立て抉られていった。
(バカな…これだけのサイズ差がありながら、押し負けている!?)
三分の一程度のサイズでしかないレイズナーに、メガデウスが押し戻されている。信じられない光景だった。
だが、たとえ信じられない光景だったとしても、それは目の前で起きている紛れも無い事実だ。
このままでは左腕がもっていかれる。いや、それどころか、左腕をぶち抜いて胴体にまで風穴を開けられてしまう。
「く…やらせるかッ!」
惚けている時間など無い。叫ぶと同時、左腕を右腕で押し退けるようにして、力任せにレイズナーの体当たりを受け流した。
金属の抉れる耳障りな音と共に、レイズナーがメガデウスの脇を擦れ違う。
いなされたレイズナーは、体勢を立て直すこともせず勢いそのままにいくつものビルをまるで無いも同然のようにぶち抜くと、
大きく旋回し再びメガデウスへと突っ込んできた。
(何らかのエネルギーフィールドを張った体当たりか!?しかしあの速度と破壊力…並じゃない!)
凄まじい速度で迫る蒼き流星に戦慄を覚えながらも、イングラムは足元のペダルを蹴りつけた。
すぐさま、シートの後ろから別なペダルの載った新たな床がコクピットに展開される。
確かにあの破壊力は危険だ。だが、この武装ならば、あれにも対抗することが出来るはず。
問題は、その速度。あれだけの速度であれば、下手に放ったところでかわされるのがおちだろう。
だからといって引き付け過ぎては、こちらの切り札が発動するより早く体当たりの直撃を食らうことになる。
全ては一瞬、刹那のタイミングで決まる。その瞬間を、逃すわけにはいかない。
メガデウスの腕と肩が展開した。
そして、メガデウスを中心として赤い球状の光が広がっていく。
『警告、目標ニ高エネルギー反応』
赤い光を纏ったメガデウスに、レイが警告を発する。
「この期に及んで何をするつもりかは知らんが、もう遅い!そんなものでV-MAXは止められん!」
だが、マサキはその警告を無視し、巨人へと向かっていく。
(―――今だ!)
その動きに合わせ、イングラムは新たに出現したペダルを踏み込んだ。
メガデウスがレイズナーへと両の拳を向け、その展開された腕から紅の光が溢れ出す。
「何―――ッ!?」
その不敵な表情を驚愕に歪めたマサキを嘲笑うように、メガデウスを包んでいた光が膨れ上がった。
自らの立つ道路も、規則正しく並ぶ街路樹も、周りを取り囲むビルをも飲み込んで、光は膨張を続けていく。
迫り来る流星を飲み込まんとするために。
「レイ!全速で右へ旋回しろ!」
『レディ!』
危険を察知したマサキが、すぐさまレイへと指示を飛ばす。光の壁を避けるため、青き流星はその進路を右へとずらした。
だが、更に膨れ上がる光の壁がそれを許さない。
青い光を纏った流星と、巨人を中心とした赤い光の壁が接触した。
二つのエネルギーフィールドが相反し、バチバチと音を立て火花を散らす。
それでも、光の膨張は止まらない。
(いかん…!このままでは飲み込まれる!)
V-MAXの光がどうにか赤い光を抑えているが、それも今に破られる。
「レイ!左足のカーフミサイルを放て!反論は許さん、やれッ!!」
マサキの叫びの後、すぐさま左足からカーフミサイルが放たれた。
放たれたカーフミサイルはすぐに光の壁と接触し、レイズナーのすぐ脇で爆発を起す。
その爆風の助けを借り、レイズナーは赤い光の檻から辛くも脱出した。
「この空域を離脱するぞ、レイ!最大速度だ!」
『レディ』
揺れるコクピットの中、マサキはレイに撤退を指示した。
こちらの武装はこれで出し尽くした。通用するのは、V-MAXのみ。
だが、それも向こうにあのような武装があるのでは勝つことは難しい。悔しいが、ここは退くべきだ。
素早く現状を判断し、マサキはその結論へと到達した。
そして流星は、最初の突進を受け流されたときと同じように、
体勢を立て直すことも無くそのまま夜の闇を切り裂いて飛び去っていった。
「…あのタイミングで、避けるとはな」
メガデウスのコクピットで、イングラムは緊張を解き、息をつく。
既に豆粒ほどの大きさになったレイズナーの後ろ姿を見送った後、メガデウスの左腕に視線を向けた。
無残にも装甲を抉られ、ボロボロになった左腕が見えた。これでは防御に使うのは厳しいだろう。
試しに操縦桿のスイッチを押してみると、ギギ、と金属の擦れる音を立てたものの、ストライク・パイルはきちんとせり上がってくれた。
サドン・インパクトを使う分には、問題はなさそうだ。
反応もやや鈍くなったように感じるが、幸い駆動系自体にも損傷はないらしい。
(あと少し押し退けるのが遅れていたら、腕ごと持っていかれたな)
もしメガデウスにプラズマ・ギミックが搭載されていなければ、やられていたのはこちらだっただろう。
今回は機体の性能に助けられた。
撤退した方こそあの青い機体だが、殆どの武装を無効化出来、
かつこちらを打倒し得る切り札にも明確な対応策を持っていながらもこれだけの損害を受けた。
これでは痛み分けというにも程遠い。こちらの敗北と判断してもいいくらいだ。
恐るべきは、あのパイロット。
持てる武装の殆どが通じないと判断するや否や、躊躇無くジョーカーを切り、
かつ、必殺のタイミングで放ったはずの反撃を、自らはなったミサイルの爆風を利用して回避する。
そして、自分の戦力では勝つことは難しいと見切ってからの即時撤退。
その全てが素早く、そして的確な判断だ。
あの参加者を放置すれば、おそらくは更なる被害者が出る事になるだろう。
だが、メガデウスでは奴の機体について行くことは出来ない。
ゲームに乗った人間を放置するのは気がかりだが、初めから追いつけないとわかっている相手を追うよりも、今は他にやるべきことがある。
ここですべき事は終わった。そう言わんばかりに、イングラムはメガデウスの踵を返す。
そして、重奏な足音を奏でながらメガデウスは夜の街へと消えていった。
「…ちっ」
V-MAX発動後の放熱を行うレイズナーのコクピットの中で、マサキは幾度目になるかもわからない舌打ちを漏らした。
腕を組み、先程の戦闘を振り返る。
あのまま突っ込んでいれば、やられていた。それをミサイルの爆風を浴びただけに抑えられたのは幸いだろう。
その爆風も、直撃したわけではない。V-MAXも発動していたし、損傷らしき損傷はないと言っていい。
全く、厄介な機体を支給された参加者もいたものだ。先程の車とバイクとは雲泥の差ではないか。
だが、それでも恐れるには足りえない。
確かに厚い装甲と強力な火力を有した機体ではあったが、反面機動性はかなり低い。
もし次に出会ったとしても、レイズナーの機動力なら逃げることは簡単だ。
撤退を余儀なくされたことは癪ではあるが、その程度の事で命を危険に晒すつもりはさらさら無い。
何も、俺自身が手を下す必要は何処にも無いのだ。
極端に言ってしまえば、周りの参加者全てが敵となり得るこのゲームで、相性の悪い相手に執着するなど愚の骨頂。
自分の手で倒すことが難しいのであれば、他のクズにやらせればいい。
幸い奴の名は知ることが出来た。これから出会う奴らに適当なデマでも吹き込んでやれば、後々効果をあげてくれるだろう。
それに、クォヴレーとトウマと言ったか。
奴らがもしイサムやアクセルと接触すれば、少々面倒なことになるおそれがある。
だが、機体があれではどうしようもあるまい。放っておいてもそう遠くないうちに野垂れ死ぬだろう。
念の為、イングラムと同様にこれから会う連中にデマを吹き込んでおけばいい。
そんなことよりも、今成すべき事は決まっている。
腕を組んだままマサキは背後を振り返り、ルリの死体を確かめた。
そう。まずは、ルリの死体から首輪を外すことが先決だ。
解析を終わらせ首輪を外すことが出来れば、それを餌にクズを釣る事も出来る。
考え事をしている間に、どうやら機体の放熱も済んだようだ。地図を広げ、この市街地以外で首輪の解析が可能そうな場所を探す。
(近いのはE-1の廃墟だが…首輪を取り外すことならともかく、解析できるかどうかとなると疑問が残るな。
だが、先に首輪を外すだけ外しておくというのも手か。他には、A-1の市街地とG-6の…これは、基地か?
この二箇所か。さて、どこに向かうか…)
明確な目的地を定めぬまま、冥府の王を乗せた流星は空を駆け抜けていく。
「ここまでくれば、大丈夫だろ」
そういってトウマはワルキューレのエンジンを切り、コンクリート剥き出しの天井を仰ぐ。
突如として現れた鋼の巨人に助けられ、マサキの手から逃げ出したトウマとクォヴレーは、
途中で発見した身を隠すことの出来そうな地下駐車場にいた。
「なぁ、クォヴレー。さっきは一体どうしたんだ?らしくなかったぜ」
それにならってブライサンダーのエンジンを切ったところで、トウマがそう問いかけてきた。
あの時、逃げようともせず無理に名前を聞き出したことを言っているのだろう。
「…名前を知っていれば、放送で生死がわかる」
ハンドルに身を預け、額に手を押し当ててクォヴレーはそれだけ言った。
「そりゃぁそうだが…何も、あんな状況で無理に聞きだそうとしなくたって…」
「あの男の声を、どこかで聞いたような気がするんだ」
呆れたようにトウマが言うのを聞かず、半ば独り言のように呟く。
「それって…」
「…確信は無いがな」
あの時、イングラムと名乗った男の声を聞いたときのことを思い出す。
酷く懐かしいような、まるで、他人とは思えないような声だった。
「あの男なら、俺の記憶の手がかりを持っているかもしれない」
ハンドルから身を起し、クォヴレーは駐車場の奥―――今、二人で逃げてきた方向を見据える。
「声に聞き覚えがあるんだろ?記憶を失くす前の知り合いとかかもしれないじゃないか」
「…どうだろうな」
希望の込められたトウマの言葉に、しかしクォヴレーはかぶりを振った。
「知り合いだったと言うなら、俺が名乗ったときに何かしら反応があってもよかったはずだ。
だが、あの男は俺の名を聞いても何のリアクションも示さなかった。知り合いだった、という線は薄いだろうな」
「そうか…。でも、知り合いじゃないんなら、一体…」
「俺が一方的に知っていただけ、と言う可能性もある。どの道、もう一度ヤツと会わねばなるまい」
「そうだな。なら、とりあえずこれからの方針はあのイングラムって奴を探す、って事か」
「あぁ。だが…」
「だが?」
途中で言葉を切ったクォヴレーをいぶかしんで、トウマがその続きを促す。
「もう一度彼に会うために行動すると言うことは、必然的にゲームに乗った相手と遭遇する危険が高まると言うことだ。
もし、またそういった相手に遭遇すれば、逃げ切れる保証など無い」
真面目な顔でトウマを見つめ、クォヴレーはそう切り出した。
「だから、ここから先は俺一人で―――」
「バカ言うなよ」
クォヴレーの言葉を遮り、トウマはそう言って笑い飛ばした。
「ここまで首を突っ込んじまったんだ。今更引けるわけが無いだろ。
それに、あんたの記憶には、あの主催者を倒す鍵があるかもしれないんだろ?
あんたの記憶を取り戻すって事は、引いては主催者打倒に繋がるかも知れないんだ。多少の危険くらい、覚悟の上さ」
そして、信頼の篭った眼差しで、クォヴレーに笑顔を見せる。
「…すまない。恩に着る」
「気にするなよ、仲間だろ?俺達」
それにつられ、クォヴレーもまた微笑を浮かべ頭を垂れた。
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷(変形不能)
現在位置:C-8地下駐車場
第一行動方針:放送を聞いた後、イングラムを捜索する
第ニ行動方針:トウマと共に仲間を探す
第三行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す】
【トウマ・カノウ 搭乗機体:ワルキューレ(GEAR戦士 電童)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷
機体状況:良好
現在位置:C-8地下駐車場
第一行動方針:放送を聞いた後、イングラムを捜索する
第ニ行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:やや苛立ち
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:D-7草原上空
第一行動方針:ルリから首輪を外す
第二行動方針:はずした首輪を解析する
第三行動方針:使えるクズを集める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
備考:これから接触する相手にはイングラム、クォヴレー、トウマを貶める嘘を吐く
コクピットにはルリの死体を乗せてある
【イングラム・プリスケン 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
パイロット状態:健康
機体状態:装甲に無数の傷。左腕装甲を損傷、反応がやや鈍っている。
額から頬にかけて右目を横断する傷。右目からのアーク・ライン発射不可
現在位置:C-7ビル街
第1行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
第2行動方針:出来うる限り争いを止める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【時刻:二日目04:30】
シ゛ャカシ゛ャカシ゛ャンシ゛ャン!シ゛ャシ゛ャン!
戦場に再び、奇妙なほど軽快な音が鳴り響く。
それはさらなるゲームの進行を告げる音。
参加者達が主催者の掌の上で踊らされている事を改めて認識させられる、忌々しい音。
「さあ、お待ちかねの第二回放送だ。諸君も次の放送を聞きたくて居ても立ってもいられなかっただろうが、
焦る事はない。ひとつひとつ順を追って発表していくから、興奮しすぎて聞き逃す事など無いようにしてくれたまえよ」
「まずは死亡者発表だ。果たして諸君の知っている名前は呼ばれるかな?」
…司馬宙
…ゼンガー・ゾンボルト
…テンカワ・アキト
…バグ・ニューマン
…ハチロー
…ハマーン・カーン
…バラン・ドバン
…プリンス・ハイネル
…ホシノ・ルリ
…ボス
…ラウ・ル・クルーゼ
…ラッセル・バーグマン
「以上12名だ。実に順調な展開と言って良いだろう。
諸君もようやくこのゲームの趣旨を理解してくれたようだな、喜ばしい限りだ」
「次は禁止エリアの発表だ。D-3とE-7に加え、新たにH-8とC-2が二時間後に禁止エリアに追加される。
十分気をつけてくれたまえ、頭が吹き飛んだ後では後悔する事すら出来ないだろうからな」
「それから、諸君の支給品――この場合は機動兵器のことだが、どうやらイレギュラーが発生したものがあるようだ。
もちろんゲームの続行に支障はないし、諸君等は何が起こったか知る必要は無い。
万が一出くわしたときには、せいぜい注意することだな」
「忠告しておくが、このゲームは最後の一人を除いた全ての参加者が死亡するまで続行される。
徒党を組むのは勝手だが、情を移しすぎていざという時に殺せない、などということは無いようにしてくれたまえよ
もちろんだが、逃げ出すのは無駄だ。あがくのもかまわんがほどほどにしておきたまえ」
「それでは、楽しいバトルロワイアルの再開だ。張り切って殺し合いに励んでくれたまえ」
悪意に満ちた笑い声と共に、第二回放送は終わりを告げた。
【二日目 06:00】
「ふむ……」
もうこの時間では禁止エリア周辺には人はいないだろう
人間とは危機から無意識的、潜在的に離れようとするという習性を知っているマサキは、
ほぼクルーズのスピードでは全速でG-6へと向かう事が出来た。
言うとすれば、レイのセンサーにただ一度もひっかかることもなくすんだのは、予想外の成功であった。
しかし、今回死んだ12名…その中には、トウマ、イングラム、クヴォレー、イサム、アクセルといった名前はない。そこがまぁ不満ではあった。
カチン
目の前のスイッチを踏み込む。
小さい工具の外見のマシンが飛び出し、レイズナーを補給する。
もともと無傷に近かったようなものだ。ほぼスタートのときに戻ったと言ってもいいだろう。
「レイ、自己診断モード。弾薬も含め、チェック」
「READY……ALL OK 装甲表面ヲ除キスベテ最高ノ状態」
「よし……」
先ほど高高度より基地周辺の偵察は行っている。
降りて物を探す。あたりに武器などが転がってはいるが、それは後回し。解析のための道具探しが最優先事項だからだ。
基地内を探せば、意外にそれらは簡単に見つかった。工場だけあって、MSやSPTなどの間接を覆うためのビニール。ノコギリを含めた一般工具から絶縁カッターなど特殊工具まで。装甲のゆがみを直すための修理道具。軍手。間接に使うチューブゴム等…
そして――なかなかに性能がよさそうなPCマシン。整備用だろうが、さすがは工業用、自己診断を含めた分析機能もついている。それを少しばかりいじってからマサキはレイズナーに戻る。
死体を持ち出した彼は、返り血を避けるため死体にビニールをかける。それからそのビニールの下から軍手をし、ノコギリを持った腕を差し込む。
ゴォリ…ゴォリ…
肉と骨を刻み折る異音が無人の工場に響く。
ゴトン…
すこし、何かが転がる音。首が完全に離れた証だ。すこし時間を置いてからビニールをゆっくりとはがす。
血はもう勢いよく噴出すことはなく、子供のおもちゃのようにもれるだけだった。
それを何の感慨もないかのように首を拾い、首輪をはずす。
見つめる視線は、どこまでも冷ややかだった。
軍手をはずし、手を浄化水槽で洗ったあと濡れた布で首の血をとる。そして、ゆっくり、ゆっくりと修理道具で削っていく。ついに表面の薄い膜がはがれ、機械の中が現れる。それをゆっくり広げていく。
30分もしたころには、全てはがれ、完全に機械の輪となっていた。それを専門的な出力機械につなげようとするが、
「ちっ、端子が合わんか。」
しぶしぶマサキは端子を引きちぎり、紐状にしたものを首輪に差し込んでいく。顔に似合わず器用な奴である。
カチカチと機械を操作していくマサキ。
「やはりこれは集音マイクか。盗聴とはやってくれるな」
外を剥いた時点で何か集音マイクかと思ったが、解析してみれば案の定集音マイクであった。しかし、この小型の装置に爆発物も含みこれだけの仕掛けを打ってあるせいか、精度は低い。
マサキは首輪の上に見つけたゴムを切ったものとフィルムを置き、テープでそれを固定した。
「まだ時間がかかるな…レイズナーを奥に誘導させておこう。」
レイズナーを奥から解析装置の近くまで持ってくる途中、何時間か落ちていたものに目を通すが、どれも機体に直結するタイプの武装ばかり。レイズナーでは役に立たないものしかない。
仕方がないので奥の解析装置のすぐそばまでレイズナーを移動させて下りる。
「レイ、何か接近が確認されたら外部マイクで伝えろ」
「READY」
ゆっくりとレイズナーを下り、ディスプレイに目を通す。解析率は46、6%と記されていた。それに目を通したマサキは、
「ふん、マシンなどは異世界から引っ張ってはいるが、爆弾などはそう変わらんか。」
まだまだ解析してないところが多いが、必要だった爆弾回りはできている。もっとも、解析とはいっても不明瞭なところは多かったが…バーストンなどで培った自分の知識を組み合わせれば、そう難しくない
首輪でやるべきことは、爆発の無力化。この一点。これさえ出来れば、首輪を引きちぎることも出来るからだ。
それ以外は、そう重要ではない。この首輪がなんであろうと関係ないし、知らなくても問題ない。
全てを知る必要などないからだ。
信管式。爆薬を凍結した上で、物質が振動する周波数を首輪に伝えて爆発させる。これなら爆破に使われる周波数が読まれる心配もなく、無理に引きちぎれば爆発する…。
マサキの頭で情報が疾走する。
それをまとめ、ルリの首輪で実験する。安全装置などない。もし、解析と推論が間違っていたら…もし手順を失敗したら…
マサキの首に汗がまとわりつく。
様々な工具を使い、ゆっくりと、静かに指が動く。
カシャ…カシャ…
「よし、外れたようだな…」
一息つき、汗をぬぐうマサキ。彼は――賭けに勝ったのだ。
そのまま自分の首輪もはずしていく。
「……しかし、解せんな」
解析し、はずすところまでたどり着いた。あとひとつの手順で自分の首輪も外れる。
なのに、緊張が緩んだ隙を襲う急激な違和感。
なぜさまざまな世界の技術を使い、絶対に解けないようにしない?
このサイズでも、ダミー線は入れられるのに、なぜいれない?
「首輪が無くなってもかまわないとでも言うのか?」
答えはNO、のはずだ。情報の収集と脅し、という圧倒的なアドバンテージが失われるというのは、並みのことではない。
「まさか…」
誰かが首輪がはずすことさえ、考えの及ぶ範囲であり、全ては奴の掌の上とでも言うのか?
「・・・・・・・・・だからどうした」
ガチャン
ゴムをはさまれ、信管を失い、動きを止めた首輪が崩れ、大地に落ちる。軽い爆発。
かまわない。今はまだ奴の掌でも。だが、かならず奴を殺す。俺が掌で踊っていると笑うなら、その笑いをかき消すような…奴の首を吹き飛ばすようなショーを見せてやろうじゃないか。
マサキは薄く笑い、レイズナーに乗り込む。
さぁてクズ集めだ。もう禁止エリアに俺は入ることが出来る。もしものとき、そこに逃げればいい。
暗い工場からでて、顔に当たる日の光がまぶしいが、気持ちいい。
「レイ!行くぞ!」
「READY」
顔は確かに邪悪だったが…どこか晴れ渡った顔でマサキはつげた。
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:G-6
第一行動方針:D-3
第二行動方針:使えるクズを集める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
備考:これから接触する相手にはイングラム、クォヴレー、トウマを貶める嘘を吐く
首輪から開放された
【10時20分】
「大丈夫。みんな助かるから。みんな、みんな、最後には助かるから。大丈夫、安心して」
「そう……だね。みんな助かるんだよね。そうだよ、だから……だからみんな、許してくれるよね」
殺戮ゲームの二日目、昼。命は羽の様に舞い、心は脆く砕け散る。ここはそんな世界。
市街地の一角にあるオープンカフェ『That Is Me(それも私だ)』。その店の一席でキラ・ヤマトと
ゼオラ・シュヴァイツァーが軽い食事を取っていた。店員などはいるわけもないが、勝手に各店から
集めた食料を広げ、話に花を咲かせていた。
「それはもう大好物でね、アラドったら八杯もおかわりしちゃって」
「へぇ、本当に大好きなんですね」
「やだぁ、キラってば! それからアラドはねぇ………アラドは………ア…ド」
言葉を乱したクマさんマグカップを持つゼオラの手が小刻みに震え始める。
「大丈夫!」
その手をキラはシッカリと両手で包み、大きな声で断言した。
「大丈夫。必ずアラドさんは助かります。ゼオラさんと僕達で助けるんです。大丈夫です!」
涙で潤む瞳を見つめハッキリと断言する。中途半端な言葉は逆効果だと学習していた。
「そう………だよね。大丈夫だよね。きっと助けられるよね」
キラの力強い言葉で、ゼオラに落ち着きと笑顔が戻った。もう『発作』への対応には慣れている。
目覚めてから既に十回以上、主にアラドの話題になると精神不安定に陥った。最初の数回はシロッコが
対処し、キラはそれを真似ているだけだ。しかし効果は十分だった。手を握るのは多分、キラの好み。
数時間前、キラとシロッコは目覚めたゼオラから情報を聞き出した。ゼオラが殺したというタシロと
ラトゥーニ、この二人の首輪と機体を入手すれば状況を好転できると考え、その下準備をしているのだ。
キラはゼオラの面倒を任され、彼女を補給ポイントに案内し、一緒に注文された食料品と解析に使う
工具の確保に回った。その後コッソリ食事を取っている。良く言えばデート、悪く言えば使いパシリ。
その間、シロッコは二人の機体の仕様書を熟読していた。『敵を知り己を知れば』と言っていたが、
本当は自分が機体を奪った時の予習であり、未知の技術に対する知識を増やすためだった。
もちろん二人を一緒に行動させている事にも彼なりの理由がある。ゼオラには『アラド救出の為に
シロッコやキラは絶対必要』と不安定な精神に刷り込む為、キラには『守るべき者』を与え明確な行動
意思を持たせる為。カリスマとは水面下の努力によって保たれているものだ。
「それで……ラトは大事な友達なの。妹みたいなものなの。それなのに……私が……殺し……」
ゼオラは朝の放送を聞いていない。キラの記憶では『ラト』はいう名前は無かった様な気もするが、
やぶ蛇になると面倒だったので聞き返したりはしなかった。
「大丈夫! その子もアラド君と一緒に助ければいい! 大丈夫、絶対に助けるから!」
なんだか『助けられる』と連呼していると本当に助けられる気がしてくるから不思議だった。
死んだ人間は生き返らない。当たり前の事だ。それでもシロッコは主催者を倒せば助けられると言う。
(それまでゼオラは僕が守らなきゃ。そう、守るんだ)
ゼオラの手を握りながらキラは決意していた。それらが仕組まれた事だとは想像もしていない。
B-8地区南端へ飛行してきた副長、リョウト・ヒカワ、ギレン・ザビは互いに顔を見合わせた。
前方に淡い光を放つ障壁があった。方向は真南。下は大地から、上は目の届く限りに広がっている。
―――もちろんだが、逃げ出すのは無駄だ。
放送の内容を考えるとまず思いつくのはバリアの類。試しにグダが軽く砲撃をしてみるが手応えは
無かった。続いて恐竜戦闘機を向かわせると、やはり手応えは無く反応はロストした。
「ロストの際に特殊な反応も見られませんし、相転移系のトラップでしょうか?」
リョウトが以前の大戦で見知ったETOを例に技術屋らしい意見を述べる。
「取り合えず、入っても出られるようですよ」
副長が淡々のした口調で答えた。先程の恐竜戦闘機が戻ってきている。予め一定距離を進んだら引き
返すように命令していたのだ。常に最悪の事態に備えて打てる手は打っておく主義らしい。
「ほう、こちら側はB-2の市街地か。技術の無駄づかいだな」
三人は光る壁を通過していた。ギレンがレーダーを照合し悪態を付く。
「凄い技術ですよ。実用化できれば様々な問題が解決できます」
リョウトは感動しているが、今はそんな場合ではない。
「まず市街地の近くに参加者がいるかを確認しましょう。協力者が身を潜めている可能性があります」
副長の提案の元、周囲を警戒しながら市街地上空を通過して行く。
「ふん。敵対者の待ち伏せの可能性の方が大きいと思うがな」
ギレンが愚痴をこぼしたその時、通信機が鳴った。全周波数での通信のようだ。
『私はSDF艦隊エクセリヲン艦長のタシロ・タツミである。貴官の名前と所属を求む。繰り返す……』
副長の良く知る声が通信機から聞こえていた。
市街地に身を潜めながら進むヒュッケバインMK3ガンナーとV2アサルトバスターガンダムは
突然に現れた巨大な恐竜型飛行物体を見つめていた。北の空が不自然に光っている事にも関係があるの
かもしれない。その大きさは戦艦程もあり、無数の異形の兵器を周囲に向けている。
「何ですか、アレ? 見るからにって感じですけど………やり過ごしますか? それとも……」
ラトゥーニ・スゥボータが上空を警戒すると機体に戦闘態勢を取らせる。どこをどう見ても悪役、
百歩譲って異星人の戦艦です、とラトゥーニは断言する。爬虫類が苦手なのだろうか?
「いや待ちたまえ。周囲に別系統の機体が見える。複数で行動しているという事は友好的な可能性が高い。
少なくとも話し合いの余地くらいはあるだろう」
タシロ・タツミは落ち着いて答える。上空に現れた戦艦の周囲に良く知るマシーン兵器とガンダムが
見えたからだ。気が立っているようなラトゥーニを制止して、タシロは全周波数で通信を試みた。
「私はSDF艦隊エクセリヲン艦長のタシロ・タツミである。貴官の名前と所属を求む」
「タシロ艦長、私です」
「おお、その声は副長か!」
ピリピリとした緊張は和やかな歓迎ムードとなった。ギレンはV2アサルトバスターガンダムを
見て『またガンダムか』と舌打ちし、リョウトはヒュッケバインMK3ガンナーを見て驚いている。
「MK3? まだ基礎フレームが完成したばかりなのに、しかもAMガンナーまで……」
「その声はリョウトさん? でも自分の機体を忘れるなんて、どうしちゃったんですか?」
リョウトの声を聞いたラトゥーニがV2ガンダムを上昇させウイングゼロの前へ移動した。
「ラトゥーニ? 良かった、無事だったんだね。でも僕の機体って?」
「なにを言ってるんですか? リョウトさんとリオさんが二人で乗っていた機体じゃないですか」
リョウトはL5戦役後(OG1)、ラトゥーニはシャドウミラー事件後(OG2)召還された為、
時間軸がズレているのだった。その為、リョウト&リオはアラド&ゼオラと面識が無かったである。
四人はグダを中心に再会できた喜びを分かち合った。そしてまだ見つからぬ仲間の安否を気遣う。
和気藹々とするムードの中でただ一人、ギレンだけは寂しく蚊帳の外だったので、冷静に新参2人を
値踏みしつつ周囲の警戒をしていた。
(なんだ、このザラつく感じは…………!!!)
周囲に漂うノイズのような気配が殺気に変わった瞬間、ギレンは叫ぶと同時に機体を動かしていた。
「来るぞ! 散れ!」
次の瞬間、閃光がグダを直撃していた。ギレンの警告が功を成したかリョウトとラトゥーニは素早く
回避し、若干反応の遅れたタシロも辛うじて避け切った。しかし戦艦サイズのグダにまで緊急回避を
しろと言うのは無理というものだ。回避と叫ぶだけで回避できれば苦労はない。
「副長、被害状況は!」
「推進部に被弾。飛行制御系統に問題発生。高度維持不能。なお被弾時の射角から砲撃地点は………」
グダが黒煙を上げて落下してゆく中、危険な状況の割に冷静な副長の声が響いた。
「今の攻撃は!! 私、行きます。副長さんを頼みます」
ラトゥーニは閃光の撃たれた方へ機体を向けた。副長の救助を考えつつも『次を撃たれる前に止めな
きゃいけない』と自分を納得させる。ラトゥーニの身を案じたリョウトも後に続く。
「戻れ! 迂闊に分散するな!」
ギレンの指示を無視し、ガンダム達は砲撃地点へと速度を上げていた。
【副長 搭乗機体:メカザウルス・グダ(ゲッターロボ!)
パイロット状況:???
機体状況:飛行制御系統に問題発生、墜落中、恐竜戦闘機1/4損失
現在位置:B−1廃墟
第1行動指針:タシロをサポートする
最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還 】
【ギレン・ザビ 搭乗機体:RX−7ナウシカ(フライトユニット装備)(トップをねらえ!)
パイロット状態:良好
機体状況: 無傷
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:手駒として使うため、リオ、アラドの大切な人(ゼオラ)の捜索
第2行動方針:可能な限り手駒を増やす。
最終行動方針:まだ決めてない
備考:副長をやや警戒】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:健康
機体状態:小破(行動には支障なし)
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:リオ、アラドの大切な人(ゼオラ)の捜索の捜索
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出】
【タシロ・タツミ 搭乗機体ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリ)】
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:良好
現在位置:B−1廃墟
第1行動方針:他の参加者との合流
第2行動方針:ゼオラをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還 】
【ラトゥーニ・スゥボータ 搭乗機体V2アサルトバスターガンダム(機動戦士Vガンダム)
パイロット状況:頭部に包帯(傷は大した事はない)
機体状況:盾が大きく破損(おそらく使い物にならない)アサルトパーツ一部破損
現在位置:B−1廃墟
第一行動方針:リュウセイや仲間と合流する。
第二行動方針:精神不安定なゼオラをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還】
備考:各人の砲撃への対応は行動指針から抜いてあります。
タシロがグダを発見した頃、西へと移動を開始していたシロッコ達もグダの姿を確認していた。
しかし接触を躊躇している内に先を越されてしまっていたのだ。そしてタシロ達の通信が全周波で筒抜け
だった為、静観する事にした。そもそもタシロ達の死体から首輪と機体の回収を考えていたのだから、
作戦を考え直さねばならない。
「放送に名前が無いので、もしやとは思っていたが」
シロッコが苦笑する。生きていても3対2。ゼオラ一人で倒せる程度の強さで更に手負い状態ならば
少ないリスクで首輪を回収できると考えていたのだ。他の3人は予想外だ。
「ラトが………助かってたの?」
「良かったじゃないですか! 無事だったんですよラトさん!」
キラにとってもゼオラの友達が生きていた事は嬉しい事だったのか、自分の事の様に喜んでいる。
「良かった。ラトが助かって本当に良かった。シロッコ様、これならアラドも助かりますよね」
「そうだな。アラド君も同じように助けられるさ」
無邪気な二人に対し、シロッコは思案を巡らせながら答える。考えるまでもなく3対5。戦艦と
小型機(ナウシカ)を抜けば同数だが、相手はガンダムタイプだ。その上、二人の志気も低いのでは
勝算は低い。当然の事だが分の悪い賭けは好きではない。
「僕達も合流しませんか? 」
キラが常識的な意見を述べた。シロッコとしても失う物はリーダーとしての立場程度であり、得られ
るものは多数の味方と情報だ。悪い話ではない。
「………ギレン・ザビがいる。奴は肉親でさえ戦争の道具にする非情で危険な男だ。十分に警戒しろ」
「知り合いなんですか?」
「有名人だからね。コロニーを地球に落とした軍の総帥で、戦争を始めた人間の一人だよ」
「コロニーを落として、戦争を始めた? そんな人が………」
合流をしたくない訳ではない。先に相手への不信感を植え付けて置く事で、今後を有利に運ぶ。
ちょっとした心理操作だった。
「あれ………ゼオラさん、どうしたの?」
そんな話をしている内にゼオラが遅れている事に気がついた。遅れているというよりも立ち止まって
いる。キラの背筋に冷たいものが流れ落ちた。
「………あいつがリョウト、リョウト・ヒカワ! あいつが………あいつがぁぁ!!」
「しまった! リョウトって確か!」
ゼオライマーに光が収束してゆく。ゼオラにとってリョウトは『アラドを殺した女の恋人』なのだ。
「勝手な事を……」
閃光がグダに吸い込まれてゆく。シロッコの溜息と同時に爆発と黒煙が上がった。
【ゼオラ・シュバイツァー 搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状況:身体的には良好。精神崩壊(洗脳状態)
機体状況:左腕損傷
現在位置:A−1
第一行動方針:アラドを助ける為にシロッコとキラに従う
第二行動方針:アラドを助ける事を邪魔する者の排除
最終行動方針:主催者を打倒しアラドを助ける
備考1:シロッコに「アラドを助けられる」と吹き込まれ洗脳状態
備考2:ラト・タシロ・リオを殺したと勘違いしている
備考3:リオがアラドを殺したと勘違いしている】
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ゴッドガンダム(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状況:身体的には良好。
機体状況:損傷軽微
現在位置:A−1
第1行動方針:ゼオラと自分の安全確保
第2行動方針:シロッコに従う
最終行動方針:生存】
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:ダンガイオー(破邪大星ダンガイオー)
パイロット状況:良好(良い保護者を熱演中)
機体状況:右腕は肩から損失、全体に多少の損傷あり(運用面で支障なし)
現在位置:A−1
第1行動方針:戦力増強
第2行動方針:首輪の入手
最終行動方針:主催者を打倒し、その力を得る
備考1:コクピットの作りは本物とは全く違います。
備考2:基本的にサイキック能力は使用不能】
【時刻:二日目:11:00】
>>278 278の11行目のギレンの台詞に間違いがありました。訂正します
誤:「ほう、こちら側はB-2の市街地か。技術の無駄づかいだな」
修正:「ほう、こちら側はB-1の市街地か。技術の無駄づかいだな」
285 :
それも名無しだ:
あら