ギャルゲ・ロワイヤル 作品投下スレ12

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1名無しくん、、、好きです。。。
ここは、「ギャルゲーキャラでバトルロワイヤルをしよう」というテーマの下、
リレー形式で書かれた作品を投下するための専用スレです。

前スレ
ギャルゲ・ロワイヤル 作品投下スレ11
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gal/1193674123

投下前の予約はしたらば掲示板の予約スレで行なってください。
ギャルゲロワ専用したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/8775/

作品に対する批評感想、投下宣言は雑談感想スレで行なってください。
ギャルゲ・ロワイアル感想雑談スレ6
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gal/1194516182

基本ルールその他は>>2以降を参照してください。
sage進行でお願いします。
2名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/15(木) 23:19:27 ID:IgVSF8Fc
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から2時間後、4時間後に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
3名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/15(木) 23:20:01 ID:IgVSF8Fc
【舞台】
http://www29.atwiki.jp/galgerowa?cmd=upload&act=open&pageid=68&file=MAP.png

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
4名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/15(木) 23:20:39 ID:IgVSF8Fc
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。

【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。

【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。

【予約】
したらばの予約専用スレにて予約後(ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8775/1173505670/l50)、三日間以内に投下すること。
但し3作以上採用された書き手は、2日間の延長を申請出来る。

また、5作以上採用された書き手は、予約時に予め5日間と申請すろことが出来る。
この場合、申請すれば更に1日の延長が可能となる。
(予め5日間と申請した場合のみ。3日+2日+1日というのは不可)
5名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/15(木) 23:21:10 ID:IgVSF8Fc
1/6【うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
  ○ハクオロ/●エルルゥ/●アルルゥ/●オボロ/●トウカ/●カルラ
1/3【AIR】
  ●国崎往人/●神尾観鈴/○遠野美凪
1/3【永遠のアセリア −この大地の果てで−】
  ●高嶺悠人/○アセリア/●エスペリア
1/2【Ever17 -the out of infinity-】
  ○倉成武/●小町つぐみ
1/2【乙女はお姉さまに恋してる】
  ○宮小路瑞穂/●厳島貴子
2/6【Kanon】
  ●相沢祐一/○月宮あゆ/●水瀬名雪/○川澄舞/●倉田佐祐理/●北川潤
1/4【君が望む永遠】
  ●鳴海孝之/●涼宮遙/●涼宮茜/○大空寺あゆ
0/2【キミキス】
  ●水澤摩央/●二見瑛理子
2/6【CLANNAD】
  ●岡崎朋也/○一ノ瀬ことみ/○坂上智代/●伊吹風子/●藤林杏/●春原陽平
0/4【Sister Princess】
  ●衛/●咲耶/●千影/●四葉
0/4【SHUFFLE! ON THE STAGE】
  ●土見稟/●ネリネ/●芙蓉楓/●時雨亜沙 
0/5【D.C.P.S.】
  ●朝倉純一/●朝倉音夢/●芳乃さくら/●白河ことり/●杉並
1/7【つよきす -Mighty Heart-】
  ●対馬レオ/●鉄乙女/○蟹沢きぬ/●霧夜エリカ/●佐藤良美/●伊達スバル/●土永さん
1/6【ひぐらしのなく頃に 祭】
  ●前原圭一/●竜宮レナ/○古手梨花/●園崎詩音/●大石蔵人/●赤坂衛
1/3【フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
  ●双葉恋太郎/○白鐘沙羅/●白鐘双樹
【残り13/63名】 (○=生存 ●=死亡)
6彼女の見解 ◆guAWf4RW62 :2007/11/15(木) 23:46:26 ID:IgVSF8Fc
「――――っ」

燦々と降り注ぐ日光の下、広大な草原に一陣の疾風が吹き荒れる。
月宮あゆは永遠神剣で身体能力を強化して、恐るべき速度で駆けていた。
向かうべき場所は只一つ、島の最北西に位置する工場だ。
工場まではまだまだ距離があるが、今の自分ならば然程時間を掛けずとも辿り着ける筈だった。

永遠神剣による強化は脚力のみに留まらず、基礎体力にまで及ぶ。
一息の休憩すらも必要とせずに、流れてゆく景色の中を一心不乱に走り続ける。
だがある事に気付いたあゆは足を止めて、周囲をゆっくりと眺め見た。

「此処は……ボクが最初に飛ばされた場所……?」

大草原の中にポツリと存在する、乱暴に踏み荒らされた藪。
見間違う筈も無い。
今あゆが立っているのは、初めてこの島に降り立った時の場所だった。
あゆは静かに目を閉じて、今まで自分が辿ってきた道程を思い返した。

「――あれから一日半、ホントに色んな事があったなあ……。ボク、一杯悪い事しちゃった」

――六人。
これまで自分が奪った命の数。
あの国崎往人すらも上回る程、沢山の人間を殺した。
ある時は邪魔者を排除する為に、ある時は鬱憤を晴らす為に、容赦無く武器を振るって来た。
故意では無かったものの、こんな自分に良くしてくれた鉄乙女と大石蔵人も殺してしまった。
もし死後の世界という物があるのなら、自分は間違い無く地獄に堕ちるだろう。

「うぐぅ……でもそんなの関係無いもん」
7名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/15(木) 23:46:37 ID:n4THi3nW
8彼女の見解 ◆guAWf4RW62 :2007/11/15(木) 23:47:44 ID:IgVSF8Fc

死後の世界など、現実から目を背ける為の空想に過ぎない。
死んだら終わり――残るのは、完全なる無だけだ。
それが、天地開闢以来続いてきた永久不変の原理。
どれだけ高潔な理想を抱いていようとも、どれだけ立派な行いを積み重ねようとも、死ねば全てが水泡と帰す。

「ボクは未だ死にたくない……だから、変わらなきゃいけなかった。奪う側に回る為に、ボクは強い自分に生まれ変わった」

所詮この世は弱肉強食。
弱き者は死に、環境に適応出来た強き者のみが生き残る。
自分は強くなったからこそ、数度に渡る死地を乗り越えられたのだ。
脳裏に去来するは、嘗て自分に向けて放たれた二つの言葉。


――仲間を守るという鳥風情でも理解できる感情が人間の貴様に解らんとはな
――『生きたい』っていう理想だけ掲げて、ただ流されているだけの弱者だよ


「仲間を守る? ボクが弱者? 下らない……所詮は負け犬の遠吠えだよ。
 甘い戯言を吐いていた鳥は死んだ。『力』が足りなかった佐藤さんも死んだ。
 何としてでも生き延びるという強い『意志』と、全てを凌駕する『力』こそが、この島で生き延びる為に必要な物……!」

殺人遊戯という過酷な生存競争を勝ち残る為には、良心など溝に投げ捨て、誰よりも強い『力』を得なければならない。
名も知らぬ鳥は、愚かな義侠心の所為で死んだ。
佐藤良美は、『力』が足りなかった所為で死んだ。
両者の命を奪った自分と、物言わぬ躯と化した良美達、どちらが勝者であるかなど考えるまでも無い。

だが自分もまた、油断出来るような状況ではない。
永遠神剣は確かに強力だが、この島で生き延びるに十分足り得る程かは、些か疑問が残る。
未だこの島で生き残っている人間達は、その殆どが数多くの激戦を潜り抜けているだろう。
今の自分すらも上回る強者が存在しても、決して可笑しくは無いのだ。
9名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/15(木) 23:48:45 ID:n4THi3nW
10彼女の見解 ◆guAWf4RW62 :2007/11/15(木) 23:49:26 ID:IgVSF8Fc

特に脅威なのは、廃線を越えて北へと進んでいた際に目撃した光景。
E-5とE-6の境界線辺りで、周囲一帯の木々が軒並み薙ぎ倒されていた。
空襲でも受けたとしか思えぬ程の惨状は、あの地で行われた戦闘がどれだけ激しかったのかを物語っている。
自分が全力で永遠神剣を用いたとしても、あれ程の破壊を引き起こせる者に勝てるとは思えない。

「だから……ボクにはもっと強い『力』が要るんだ。その為には、あそこに行かなくちゃ」

北西にある工場。
そこまで行けば、ディーが準備したと云う『力』を手に入れられる筈だった。
具体的にどんな物が置いてあるのかは分からないが、ディーはこの殺人遊戯を取り仕切る絶対者。
そのディーが準備したのだから、きっと工場には永遠神剣すらも凌駕する代物が隠されているだろう。

「殺し合いを開催した張本人の力すらも借りる、か……。祐一くんや乙女さんが知ったら、きっと凄い怒るだろうね……。
 でも、ボクは迷わないよ。こんな所で殺されるなんて、絶対にやだもん。
 もっと生きて、お腹一杯鯛焼きを食べたいもん。ボクさえ生き残れれば、それで良いんだよ」

少しでも甘い感情を残せば、後々必ず命取りになってしまう。
故にあゆは、自身の内に残っていた良心全てを否定する。

相沢祐一との想い出も、
水瀬名雪への罪悪感も、
この島で出会った様々な人々との触れ合いも、
他人を思い遣れた嘗ての自分自身すらも、
二度と思い出せぬように意識から削り取って握り潰した。

「ボクは死なない……。どれだけ罪を犯してでも、絶対に生き延びてやるッ……!!」

生への執着に取り憑かれた少女は、工場を目指して再び走り出す。
返り血に染まったその顔には、最早嘗ての面影は残されていない。
11彼女の見解 ◆guAWf4RW62 :2007/11/15(木) 23:49:57 ID:IgVSF8Fc

【D-2左/二日目 昼(放送直前)】
【月宮あゆ@Kanon】
【装備:永遠神剣第七位"献身"、背中と腕がボロボロで血まみれの服】
【所持品:支給品一式x3、コルトM1917の予備弾25、コルトM1917(残り2/6発)、情報を纏めた紙×2、トカレフTT33 0/8+1、ライター】
【状態:服と槍に返り血、魔力消費大、肉体的疲労大、ディーと契約、満腹、首に痣、背中に浅い切り傷、明確な殺意、生への異常な渇望、眠気は皆無】
【思考・行動】
行動方針:全ての参加者を皆殺しにして生き残る
0:死にたくない
1:工場に行って、『力』を手に入れる
2:生き残るため皆殺し

【備考】
※契約によって傷は完治。 契約内容はディーの下にたどり着くこと。
※契約によって、あゆが工場にたどり着いた場合、何らかの力が手に入る。
(アブ・カムゥと考えていますが、変えていただいてかまいません)
※ディーとの契約について
 契約した人間は、内容を話す、内容に背くことは出来ない、またディーについて話すことも禁止されている。(破ると死)
※あゆの付けていた時計(自動巻き、十時を刻んだまま停止中)はトロッコの側に落ちています。
12名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/15(木) 23:50:19 ID:n4THi3nW
13 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:04:46 ID:4B9WHu3v
「海の家へようコソ。認識コード照会…………ナンバー11、アセリア、ナンバー15宮小路瑞穂、ナンバー30一ノ瀬ことみと確認。
 ご要望をドウゾ」
「ん、久しぶりだな。私を……覚えているか?」
「二回目……デスネ。お久しぶりデス」

そこには銀色の人形が、いやロボットがいた。
アセリアさんがそれに対して"メカリンリン一号"と親しげに話し掛ける様子を私とことみさんは驚愕の眼差しで見つめていた。

「本当……だったんですね」
「完全な自立型ロボット……? 凄い、技術なの」

私達はアセリアさんに案内されるまま、海の家にやって来ていた。
それは彼女が体験した『トロッコによる長距離移動』の機能を活用するという目的のためだ。
武さんはつぐみさんと一度合流するために、別ルートを取っている。
つまり西進。私達とは正反対の進路を選んでいる事になる。

そして最も大きな海の家に足を踏み入れた時、私達は確かな異常の影を認識せざるを得なくなった。
(もちろん、既に一度この場所を訪れているアセリアさんは平然とした顔をしていたが)
寂れた店には情報通り、客人を出迎える店主の如き様相で鎮座する妙なロボットの影が見受けられた。

太い土管のような身体に鱈子唇。
一応女性型なのだろうか、頭部と思しき箇所には茶色いカツラが乗っている。
総括すると、まるで……小学生が図工の時間に書いた落書きのようなデザインと言えなくもない。


「私が嘘を言う訳がないだろう。ミズホは……疑っていたのか?」
「ああ、いえ……その、ゴメンなさい。ただ……俄かには信じられなくて」

14名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:04:59 ID:iaFjVge1
 
15名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:05:01 ID:zAhGMuvG
 
16 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:05:39 ID:4B9WHu3v
アセリアさんがぷくーっと頬を軽く膨らませて反論する。
私は慌ててすぐさま弁解。身体に絡み付く蔦のようなジト眼で見られると、さすがに苦笑いは隠せない。
別に信じていなかった訳じゃないんだけどな。
ただ少しだけ、ぶっ飛んだ話だと思っていただけで。
だってロボットやワープ?みたいな話題をすんなり信じろ、という方が難しいような気もするし。うん。

一方で、ことみさんは自立稼動する機械人形に興味津々の様子だった。
確かに私の記憶の中でも当たり前のように会話をし、ここまで自由に行動するロボットの知識はない。
ア○ボのような人型のそれも動き自体はカクカクしていて、人の劣化コピーという印象は拭い切れない。
単純な動作をする機械はニュースなどでも見かけるが、ここまで人間に近い動作が可能なものとなるとSF小説や洋画の世界のキャラクターの方が近いくらいだ。

「とにかくっ! ひとまず……これであと大切なのは『本当に指定した目的地に行けるのか』という事だけですね」
「…………まぁ、そうだな」

少しだけ恨みがましい視線を私に向けつつも、アセリアさんは店の奥で私達の反応を待ち続けているメカリンリン一号を一瞥した。
彼女のこの反応にも、もちろん理由がある。

本当に言った通りの場所に移動出来るのならば何も問題はない。
しかも参加者の名前、おそらく曖昧な条件を指定したとしても移動は可能だ。
アセリアさんが私達と出会った時に願ったのは『強い人間』という、あまりにも単純な言葉。
しかし当時の私達、つまり私と蟹沢さん、そしてアルルゥちゃんというパーティに戦力があったかどうかは甚だ疑問である。

だからと言って一概に『弱い人間』が居る場所に飛ばされた、と断言するのも不可能。
なぜなら、あの近くには川澄舞の姿もあった。
彼女を強者だと判断し、誤差の範囲で私達と先に接触したとも考えられる。
――安易に天邪鬼な要望を伝える訳にはいかない。
そこまで考えを纏めた後、ことみさんがおずおずと片手を小さく挙げた。

17 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:06:10 ID:4B9WHu3v
「その……移動する前に、一つやっておきたい作業があるの」
「それは?」
「……荷物の整理なの。いい加減要らない道具と要る道具を区分けする必要があるの」


私はその言葉を少しだけ、頭の中で転がすと小さく頷いた。アセリアさんも首を縦に振る。
ことみさんが投げ掛けた提案は非常に有用なものだった。
様々な参加者の持ち物の出入りが行われ、私ですら二人が何を持っているのか詳しくは知らない。
情報の共有は集団行動を行う際絶対に欠かせない。
先を急ぐあまり、ソレが疎かになってしまうのはあってはならない事。

これから先、どのような自体が待ち受けているのかは分からない。
出来るだけ時間が空いた時にこういう仕事は済ませてしまうべきなのだ。



 ■


結論から言ってしまえば、この持ち物の整理は私達に多大なる利益をもたらした。

まず一つがアセリアさんが病院でつぐみさんから、この島に関する様々な情報を入手していた事実が判明したためだ。
私は「何でそういう大切な事をもっと早く言わなかったんだ」という趣旨の可愛らしい問答を彼女と数分間繰り広げた後、小さく溜息を漏らした。
このまま何も考えずにトロッコで移動してしまわなくて本当に良かった……。

アセリアさんは叱られた仔犬のように、しょんぼりしてしまった。少し元気がないし、顔色も暗い。
この光景にはさすがに若干罪悪感が湧いた。
多分、私も苛立っていたのだと思う。だから、少しだけ強い言葉を彼女に掛けてしまった。
後で……謝っておかなければならないな、そう思った。

18名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:06:11 ID:iaFjVge1
 
19名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:06:15 ID:zAhGMuvG
 
20 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:06:41 ID:4B9WHu3v
【塔……広域の首輪を管理する電波塔、ということ?】
【ここからはさすがに霞んで見えないですね】
【でも、暗示とは恐れ入ったの。確実に参加者の意識に介入する手段があれば、ゲームの統括が非常にやりやすくなるの】

ことみさんがうんうん、と納得した様子で軽く呻く。
私達は既に恒例となった筆談による会話を進行中。考察自体は二人で足りるため、アセリアさんには荷物の整理をお願いしてある。

【それにこの暗号文に書かれている事も気になるの】
【確かに。凄く思わせぶりな文章ですよね】

もう一つ慧眼だったのが、謎の暗号文の写しの存在だ。
勇者っぽい人が二人の仲間と共に神を倒した――適当に意訳すると、そう読み取れる。
それに加えて『神の使い』という場所が黒丸で囲まれ、矢印で「天使?」と書き込まれている。
支給品をごそごそと漁り、弄繰り回しているアセリアさんに尋ねた所、

「それは……ヒント、だ」

という回答が声付きで帰って来た。
あまり黙りこくったままだと怪しまれると思った彼女の配慮なのかもしれない。


「難しい質問なの……」
「ですね。出会った人の中にそういう格好の――」

確かに、出来る限り声に出して会話をした方が監視の面では安全か。
二人ともそう感じたのだろう。私もそれに従い、あえて口にして相槌を打った。
待て……というか、いるではないか。
これ以上無いほど、この質問にマッチする人物がすぐ側に。

「――瑞穂さん」
「……ええ。私も同じ事を思いました」
21名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:06:53 ID:iaFjVge1
 
22 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:07:13 ID:4B9WHu3v
どうやら考えた事は一緒だったらしい。ことみさんの表情は私と同じく、明らかな確信の色に染まっている。
私達は隣で未だに荷物の整頓に掛かり切りのアセリアさんの横顔を見つめた。

『ウイング・ハイロゥ』

それは彼女が永遠神剣の力を引き出した際に背中に出現する純白の翼を差す、らしい。
まぁ今はそんな専門用語はどうだっていい。
とにかく彼女は羽根を持っている。空だって飛ぶ。物凄い力も持っている。

この島において、アセリアさんほど『天使』の二つ名が相応しい人物は存在しないのではないだろうか。


【でも、アセリアさんって神の使い……だったんですか?】
【ううん、多分……これは単なる比喩なの。でもアセリアさんが鍵になっている可能性は非常に高いの】


確かに『持って行く』という表現からして、文章が指し示しているのは何かの道具であるようにも読み取れる。
支給品の中に天使の彫像や絵画などがあれば、そのような結論に至ったかもしれない。
しかし存在するかどうかも分からない物体を想定するよりも、身近な"本物"に眼が行くのはある意味道理。
なにしろ彼女は完全に条件と一致するのだから。


【他のキーワードはどうなんでしょう?】
【抽象的なの……さすがにコレだけで対象を断定するのは――】

ことみさんがそこまで書きかけた時だった。
私達のすぐ近くから、もう耳慣れすらして来た例の音が聞こえて来たのは。
つまり、

23名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:07:24 ID:iaFjVge1
 
24名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:07:48 ID:zAhGMuvG
 
25 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:07:51 ID:4B9WHu3v
         ┏┓                ┏┓                          ┏┓      ┏┓
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 ┃┃┗━━━━┛┃┣━━┛┃┗┛┃┃┏┛ ━ ┣┛┏┓┃┃┃┃┏━━┓┃┃┣╋┫
 ┃┗━━━━━━┛┃      ┗━┳┛┃┗━━┓┣━┛┃┗┫┃┃┗━━┛┃┃┃┃┃
 ┗━━━━━━━━┛          ┗━┛      ┗┛    ┗━┻┛┗━━━━┛┗┻┻┛


という叫び声についてである。


バッと背後を振り返る。予感は的中した。
そもそも、こういう張り詰めた空気をぶち壊す行動を取る人物はこの場には一人しかいない。
もちろん犯人はアセリアさんだ。

図書館以降、自重されていた筈の<<ボタン押したい症候群>>が再発したのだ。
ちなみにこの不可解な支給品は彼女の大のお気に入りであり、デイパックではなく常に懐に入れて持ち歩いている。
その封印がついに解き放たれたのだ――

26名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:08:05 ID:iaFjVge1
 
27名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:08:38 ID:zAhGMuvG
 
28 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:08:51 ID:4B9WHu3v
"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"

――ん?

"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"

――待て。

"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"

このどこの誰かも分からない妙にエコーの掛かった男の叫び声。これは誰を賛辞するものだ?

"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"

それは既にこの世に居ない彼、人形使い・国崎往人に対する熱いメッセージ。
しかし特定の参加者を褒め称えるだけ。そんな特殊な支給品があってもいいのだろうか?
そもそも国崎さん自身が「こんな道具を作られる覚えはない」と言っていた。つまり、この妙なボタンの製作者は完全に主催者側、という事になる。

"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"

何故、こんなものを作ったのか?
単なる気まぐれだったのか?
単純にランダムに国崎往人が選ばれ、このボタンが作られた。そういう事なのか?
少しだけ運命に別要素が混じっていれば"イヤッホォォォオゥ宮小路最高!!"という台詞だったりしたのか?

全てが偶然の出来事だった。本当にそうなのか?


"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"


――違う。ここまで来ると偶然ではない……もはや必然!!
29名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:09:05 ID:iaFjVge1
 
30名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:09:08 ID:zAhGMuvG
 
31 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:09:22 ID:4B9WHu3v


「くに……さき? 国……裂きっ!? 最高っ!?」
「瑞穂さんっ!!」


"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"


再度、私とことみさんの視線がぶつかり合う。
アセリアさんは図書館の時と同じく、何かに憑り付かれたようにボタンを連打している。
ああ。またしても、私達は全く同じ事を考えていたようだ。

国を裂く事ができる最高の至宝。国崎という漢字の『崎』という部分を『裂き』に変換する。
そして唐突に続けられた『最高』という言葉を足す。
結果、導き出される解は――国崎最高ボタン。

つまり、国を裂く事ができる最高の至宝とは国崎最高ボタンの事だったのだ!!



「…………ないですね」
「うん、ないの」

"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"

「まさかアレの答えがオヤジギャグなんて結末は……」
「いくら何でもある訳がないの。小学生向けのナゾナゾよりレベルが低い解答なの」

ことみさんが「へっ」と鼻で笑うような仕草で両方の掌を天に向けた。私も大きく頷いて「ですよね」と応える。
ここまで真剣な文面でその指し示す対象がまさかまさかのダジャレ。
そんな結末はいくら何でも在り得ない。
32 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:09:52 ID:4B9WHu3v

しかし、これで結局『神の使いの羽』以外のアテは無しという事になる。
他の人達が何か関係する道具を持っていたりするのだろうか。

"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!"

……とその前に、


「アセリアさんっ!」
「……ん?」
「いい加減にしてくださいっ!!」
「――ッ!!!!」


未だに連打を続けるアセリアさんからボタンを取り上げようと手を伸ばすも、彼女は持ち前の反射神経を十二分に発揮し私の奇襲は見事に回避する。
振り下ろされる右手、ではなくボタンを支える左手を狙った私の手は空を斬る。
アセリアさんはすぐさま立ち上がると、一歩バックステップで移動。私の腕がギリギリ届かない場所へと退避する。
彼女はしっかりとボタンを胸に抱き、抗議の眼をこちらに向けた。


「――待て、ミズホ」
「聞きません! アセリアさん、遊んでちゃダメじゃないですか!」
「ん……違うんだ。私はただ……ずっと持ってはいたが、使い方が分からなかった道具について聞きたかっただけなんだ」
「使い方が分からない道具……?」


アセリアさんの台詞で頭を支配していた怒りの感情が少しだけ和らぐ。
そういえば彼女とは大分長い事一緒にいるが、まともに荷物の確認をし合った経験はない。
相当貧相な武器で戦闘を繰り広げた経験があるので、役に立つ道具はないと踏んでいたのだ。
もしや、暗号文に関係する道具が……?
33名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:10:03 ID:iaFjVge1
 
34名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:10:19 ID:zAhGMuvG
 
35 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:10:28 ID:4B9WHu3v

「はぁ、分かりました。とりあえずその道具を見せてください。
 それに……私が分からなくても、ことみさんなら大概の物は知っているでしょうし」
「うん。ソレぐらいしか……役には立てないけど」
「ん、分かった。えーと、これなんだが……」

そう呟くとアセリアさんは傍らから小さな紙の箱を取り出した。
私とことみさんはその物体の存在を確認した瞬間、またまた顔を見合わせた。


だけど、今回は前の二回とは少しだけ趣が違う。
ことみさんは顔を真っ赤にし、露骨にうろたえている。
きっと触ったら凄い熱だろう。
突然の自体に「えと……」とか「その……」など、と意味不明な台詞を口篭っている。

私だって平静を保ってはいられない。嫌な汗が一気に吹き出る。
どちらかと言えば、コレは<<僕>>が担当するべき質問だと本能で察した。
だけど解せない。いや、鷹野は何故こんなものを……!?
あくまで『殺し合い』を想定して集められた筈の島において、そんなものが存在している事さえ信じられなかった。


しかし私達のそんな戸惑いにアセリアさんは気付いていない。
……そもそも彼女の世界には、コレは存在しないのだから当然だ。
無い物を知っている訳がない。だけど無知である事は時に罪であり、知るものに苦難を課す事もある。

彼女は無垢で、純粋で、全く悪気のない少女の声でもって僕達に尋ねる。
それは天使の囁きに似ていたのかもしれない。
穢れを知らない永遠の少女――だけど、その言葉は僕達にとって、悪魔のソレにきっと、近かった。


「くっついていた紙によると……"こんどーむ"と言うものらしい。
 ミズホ、コトミ。これは――いったい何に使う道具なんだ?」
36名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:10:38 ID:iaFjVge1
 
37 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:10:59 ID:4B9WHu3v



 ■


『これはですね、アセリアさん。
 私達の世界において、男性と女性が○○○を行う際に男性が△△を防ぐために×××に付けるものです。
 不思議に思うかもしれませんが、つまりは△△しないようにするための、□□□ですね』




――なんて口に出して言ってしまったら、何かが終わってしまうような気がする。
ソレがエルダーシスターとしての宮小路瑞穂なのか。それとも人間としてなのかは分からないけれど。


私は頭の中に一瞬でアセリアさんに説明するための原稿を作成し自分の声で再生した後、その台詞を全て削除する。
駄目だ駄目だ駄目だ! 
こんな事を常識的に考えて口に出せる訳がない。

宮小路瑞穂は女である、とこの場にいる誰もが思っていたとすれば、誤魔化しようはあったかもしれない。
だけど違うんだ。ことみさんは僕が女じゃなくて、男だと知っている。

その証拠に先程からチラチラと僕に向けられている嫌な――少しだけ気恥ずかしい視線。
そりゃそうだ。
僕はことみさんに不本意ながら、女装が趣味の変態男だと思われている。
オカマや同姓に興味がある人じゃなくて、ただ女の子の格好をするのが好きな男。
つまり、見た目はアレでも興味があるタイプや恋愛対象が普通なのも知っているんだ。
38名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:11:17 ID:zAhGMuvG
 
39名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:11:27 ID:iaFjVge1
 
40 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:11:29 ID:4B9WHu3v

故に、この状況下で浴びせられる視線は異性間を意識した属性を帯びる
瞳が身体を捉える度にそれが何処を見つめているのか、普段なら気にもしないような事象が何故か頭を支配する。
汗がどんどん溢れて来るのが分かる。


少なくとも『男』として、ことみさんにこんな事を説明させる訳にはいかない。
だけど、いくらなんでも僕の口からだって――


「……二人とも? 変だぞ? コトミは顔が真っ赤だし、ミズホは凄くビクビクしてる」
「そそそそそ、そんな事ないですよ!」
「そ、そうなの! 何でもないの!」

僕達は必死に取り繕う。微妙に語尾のイントネーションがおかしくなっている。
もう言い訳をする自分達ですら、明らかに変だと確信を持てるくらいの慌てふためきっぷりである。
いっそ「諦めてください、お願いしますアセリアさん!」とお願いしたい気分だ。
だけど、アセリアさんの反応は、僕が思っていたものとはまるで違っていた。


「やっぱり、変だ………………ずるいぞ」
「――え?」


アセリアさんは少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。軽く俯く。
その時だけ何故か、僕の眼には彼女の輪郭がぼやけて見えた。
今まで一度も見た事のない、触れれば消えてしまう粉雪のように儚げな雰囲気だ。
高嶺さんが命を落とした時とは違う。
それは、きっと『消えていくもの』ではなくて『在るもの』に対する悲しみの表現だったんだと思う。

「私だけ……知らないなんて嫌だ。私はミズホとコトミが大好きだ。だから、二人には……隠し事をして欲しくない」
「アセリアさん……」
41名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:11:49 ID:zAhGMuvG
 
42名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:11:58 ID:iaFjVge1
 
43 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:12:00 ID:4B9WHu3v

ことみさんがごくっと息を呑む音が聞こえたような気がした。
感じる事は多分、同じ筈。忘れていた、僕達は大切な何かを見失う所だった。

肌に纏わりつくような潮の香りが僕の鼻をくすぐる。
押しては返す波の音がまるで人気のない海岸線に木霊した。
砂粒はサラサラ、サラサラと海風に流され小さな渦を巻く。

今のアセリアさんは無邪気そうに見えて、きっと、凄く不安なんだ。。
目の前で仲間が命の炎を消し、最愛の人の止めを自らの手で差す――それは凄く辛くて、凄く勇気の要る行いだ。
貴子さんを失って、茫然自失となり一度は自らの手を血で染め掛けた僕だから痛いくらい分かる。

大好きな人の死がどれだけ自身の心を傷つけ、闇を落とし、絶望をもたらすのかって。
いっそ自分が死んでしまえたら、どれだけ楽なんだろう。
胸が張り裂けそうなくらい痛くて、頭は朦朧として、渦巻く激情に身を任せてしまいたくなる。

そんな葛藤を乗り越えて、一度だけ無力な少女に戻って涙を流したアセリアさんが、既に何もかもを吹っ切ったなんて思える筈もない。


――隠し事。


この存在自体がアレな物体の件は置いておくとして。

一つだけ、思い当たる節があった。
でも多分……だけど、アセリアさんはそれを疑った事はない筈なんだ。
もしも少しでも引っ掛かる部分があれば、ソレは必ず態度に表れる。
僕だって伊達に何百人もの女の子から誤魔化し続けていた訳じゃない。バレていない自負はある。

彼女とはこの島で誰よりも長い時間を共にした。
だけど、僕はずっと嘘を付いたままだ。ずっと、ずっと、ずっと。
44名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:12:28 ID:zAhGMuvG
 
45名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:12:29 ID:iaFjVge1
 
46 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:12:30 ID:4B9WHu3v
罵られるかもしれない。
蔑まれるかもしれない。
今まで築き上げた信頼や関係がガラガラと崩れてしまうかもしれない。
だけど今のアセリアさんに自分を偽り続けるよりも、そのほうがよっぽど……よっぽどマシな気がした。

「ゴメンなさい、アセリアさん。私、いえ……僕は、
 あなたに一つだけ……ずっと、黙っていた事があります」

一歩前に足を出して、もう一度『アセリアさんに手が届く距離』へと踏み込む。
アセリアさんは肩をビクッと奮わせる。
こうして改めて彼女と向かい合って初めて、彼女の体躯が僕よりも一回り以上小さい事に気付いた。


「僕、宮小路瑞穂はアセリアさんが思っているような人間じゃないんです」
「……ミズホ?」
「僕は……こんな、こんな格好をしているけど――」

彼女の深い蒼色の瞳を覗き込む。
瑠璃色に染まった結晶は大きく見開かれ、その鏡の中に僕の姿を映している。

「――瑞穂さんッ!!」
「いいんです。ことみさん。いつか……言わなければならない事でしたから」

後ろから響くことみさんの声を遮って僕はもう一歩前へ。
アセリアさんとは一メートルを割る数十センチくらいの距離だ。眼と鼻の先。
呼吸の音まで伝わってしまいそうなくらい近くまで。


「アセリアさん、僕は――本当は……男なんだ」

47 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:13:03 ID:4B9WHu3v
――言った。
手足の感覚がおぼろげだ。指先や爪先なんて特に。
吹き込んでくる少しだけ肌寒い海風がスカートから露出した足をくすぐる。

確かに、震えてはいた。だけど――しっかり告げた。
何を言われようと構わない。
変態だと顔を顰められて、見放されるかもしれない。
出会ってから一、二時間程度だったことみさんに告白した時とは状況が違うんだ。

アセリアさんと出会ったのは、丁度一日ほど前。それ以来、ずっと同じ時間を過ごした。
様々な苦難を乗り越えて、落ち込んで、仲間を失って、励ましあって、涙を流して……それでも手を取り合って進んで来た。
単純な時間にしても、たったの二十四時間だ。
だけど、それは僕の中で既にとても重くて掛け替えのないスペースを占めている。

命のやり取りと信念のぶつかり合い。お互いの大切な人の喪失。
そしてその裏側で僕はずっと自分を――偽っていたんだ。

顔を上げていられない。
アセリアさんの顔を直視出来ない。
視線は軸を外れ、僕の弱い心と連動するように下へ下へと方向を変える。
断罪を待つ死刑囚の気分というのはこういう感じなのだろうか。



「ああ……そうだったのか」

思わず顔を上げる。

「……え?」
「女でもないし、スピリットでもない。でも……どうしてミズホはこんなに強いんだろう……ずっと考えてた。
 やっと……その理由が分かった」
「……えと……その、怒らないんですか?」
48名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:13:21 ID:iaFjVge1
 
49名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:13:34 ID:zAhGMuvG
 
50 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:13:41 ID:4B9WHu3v


帰ってきた回答は糾弾でも罵声でもなくて、もっとずっと暖かくて柔らかな囁きだった。
アセリアさんは、はにかむように笑う。

「ん、男でも女でも……ミズホはミズホ。同じ……変わらない。
 でも……驚かさないで欲しい。いったいどんな事を言われるのか……心臓がドキドキした」

僕の中に胸の支えが取れたような、深い安堵感が湧き上がる。
ホッと胸を撫で下ろす。

「……一方的に罵倒されるくらいの覚悟はしていました」
「私が……そんな事をする訳がないだろう? 酷いな、ミズホは」
「あはは、ゴメンなさい。――でも」

ちらりと横で微笑むことみさんの顔を盗み見る。
彼女も僕が男であると知っても、そのまま受け入れてくれた(女装趣味の人間だとは思われているようだが)
自分は良い仲間に巡り会えた。本当にそう思う。

「……そうだ」

僕が眼を細め、感傷に浸っている時。
アセリアさんが何かを思い出したような声を上げた。


「で……ミズホ。結局、このゴム風船のようなものは何に使うんだ?」


アセリアさんが箱を開封して中のアレをぴらぴらと振る。
もういちど僕達は顔を見合わせる。
この後、アセリアさんに真実を隠蔽するべく躍起になる訳だが、それはまた……別の話。
51名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:13:52 ID:iaFjVge1
 
52名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:14:12 ID:zAhGMuvG
 
53 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:14:13 ID:4B9WHu3v

 ■


結局、何とかアセリアさんをやり込めた私達は結局目的地を『廃鉱南口』と指定して、トロッコを使用する決断を下した。
道具の整理も大体終了しあとは移動を残すのみ、私がそう思った時の出来事だった。
アセリアさんがまた例の箱(デイパックから出さないようにキツく言っておいたのが)を取り出して奇妙な声を上げた。

「……やっぱり。名前、が書かれている。すっかり……忘れていた」
「名前……ですか?」

一度頷くと彼女は紙ケースのある部分を私達に示す。
確かにそこには『鮫氷新一』と油性マジックで書かれている。
ん……鮫氷新一? あれ、どこかでこの名前……。

「あっ!」

私はすぐさま蟹沢さんから預かっているゲームのパッケージを取り出した。
表面には何人もの可愛い女の子が描かれている。そして――裏側には同じ『鮫氷新一』の文字。

「……同じ、筆跡なの」
「アセリアさん! その箱の正しい名前は分かりますか?」
「正しい……名前? ……ああ、確か『フカヒレのコンドーム』だと思ったが……」

間違いない。
フカヒレとは一番最初に私達がホールに集められ、ルールを説明された際に殺された少年の名前だ。
蟹沢さんや何人かの男の人達が彼をそう呼んでいたのを覚えている。
私はあの時フカヒレさんが殺されたのは、鷹野の気に障る言動をしたから――そうだとばかり思っていた。
だけど、彼の愛称が冠に付いた支給品が二つも存在するとなると話は変わってくる。


――おそらく、彼はこのゲームにおける重要人物だったのだ。
54名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:14:24 ID:iaFjVge1
 
55 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:14:43 ID:4B9WHu3v


これで、全ての辻褄が合う。
支給されたのは参加者愛用の武器などではなく、全く無関係の道具。
例えば参加者に配られた名簿には六十三名の参加者の名前が記されている。
しかしこの中に『鮫氷新一』の四文字はどこを探しても存在しない。
呼ばれた死亡者との兼ね合いから考えるに、首輪を爆破された少女も初めから頭数には入っていないように思える。

つまり彼らは参加者ではなくて、あそこで殺されるためだけに呼び出された、いわば見せしめという考えが浮かぶ。
しかし果たしてその考えは正しいのだろうか?
加えて、彼は自らと関連性を持つ多くの愛用品を支給されている。それはいったい何故?

そして最後に頭を過ぎるのは、ことみさんが言っていた『i-podに入っていたメッセージ』について。
曰く、『三つの神具を持って、廃坑の最果てを訪れよ。そうすれば、必ず道は開かれるだろう』という一文だ。
これらを総合すると、つまり――



私の背中をゾクッとするような戦慄が駆け抜けた。
そうだ。この仮説ならば気持ち悪いくらいに何もかもが一致する。
握り締めた拳がワナワナと震えた。

そういえば、最初に亡くなった少女も今私が着ていたのと同じ制服を着用していた気がする。
何気ない事柄だが、巡り巡って私がこの確信に至るヒントになってくれたのは事実だ。
これも……何かの因果なのだろうか。


「どうやら……私達はとんでもない思い違いをしていたようです」
「何……か思いついたの? 瑞穂さん」
「はい、そうですね……順を追って説明しましょう。まず、ことみさん一つご教授お願い出来ますか?」
 日本神話における『三種の神器』について」
56名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:15:03 ID:iaFjVge1
 
57名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:15:13 ID:zAhGMuvG
 
58 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:15:14 ID:4B9WHu3v
ことみさんは私が言った内容に面食らったのか、瞳を二、三回パチパチと開閉させる。
そして疑問に満ちた表情のまま、解説を始めた。

「……三種の神器とは天皇という皇位の標識として代々受け継つがれる宝物の事。
 具体的には次の三つ、八咫鏡・八尺瓊勾玉・天叢雲剣を差す。ああ、それに天叢雲剣は草薙の剣という別名もあるの。
 日本書紀において、天照大神がヤマトタケルにこの天叢雲剣を授ける逸話はあまりにも有名」
「……その鏡やら剣が何の意味があるんだ?」

日本の歴史など知る訳もないアセリアさんが怪訝な顔をしてこちらを見つめた。
私以上にこの辺りの史実に詳しいであろうことみさんも、クエスチョンマークを頭上から飛ばしている。
息を大きく吸い込み、深呼吸。そして、一気に核心へと迫る。


「私は今この鮫氷新一という名前を見て、恐ろしい仮説を思いついたんです」
「そ、それは……?」
「――つまりこのフカヒレさんの名前が付いた道具が私達にとっての日本書紀で言う三種の神器にあたるのではないか、という事なんです!」


「「な、なんだって――――!!!!!」」


私のあまりの破天荒な推理に二人の口から驚きの声が飛び出す。
当然だろう。私自身ですらこの興奮を抑えきれないのだから。
だが、これ以上の解説を言葉にする訳にはいかない。
私は驚愕の表情を未だに隠せない二人を手元のメモ用紙へ注目するよう促した。


【ことみさん。i-podの中に『三つの神具』という記述があったのは確かですね?】
【う、うん……それは確かなの】
【順当に考えれば三つの神具と暗号文が示す三つのキーワード……この二つに関係性があるように思えます。
 ですが、『神の使いの羽』がアセリアさんである確立が極めて高い以上『神具』という言葉と決定的な矛盾が生じます】
59名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:15:36 ID:iaFjVge1
 
60名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:15:43 ID:zAhGMuvG
 
61 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:15:45 ID:4B9WHu3v

おそらくこの仮説は天才と呼ばれ、凄まじい知識を有することみさんでは思いつかないものだったと思う。
それだけ大胆な考察である。一般人の思考だからこそ、生まれる逆転の発想。
最初に殺された人間が脱出の鍵を握っている最重要人物だった――誰もそんな事を考える訳がない。


【故にここで浮上するのが鮫氷さん、いえフカヒレさんグッズです】
【!?】
【落ち着いて聞いて下さい。
 最初に殺害されたフカヒレさんは何らかの特殊能力、あくまで仮定の話ですが――神に近い力を持っていた可能性があります】
【!!!!! ま、まさか……】


二人の顔面の驚きの色が更にその濃度を増す。
私は一呼吸の後、さらに奥へ、核心へと向けてペンを握る手に力を込めた。

 
【そうです。彼はおそらく何らかの能力でこの殺し合いが行われる事を前もって察知し、会場に潜り込んでいた。
 ですが、アセリアさんや一部の参加者の能力に制限が掛かっているのと同様に彼もその力を封じられてしまい、結果として……殺された、こうは考えられないでしょうか?】
【確かに……私達に掛けられている呪いの力は強大だ。しかし……】


アセリアさんが息を呑み、躊躇いがちに筆先を滲ませる。
思い当たる節が多すぎるのだ。つまり永遠神剣を持った自身や高嶺さんの戦闘能力の低下具合。
実力者であった筈のエスペリアさんの早期死亡……過去の事実が、そして現在の状況がこの説を肯定する。
彼女は口元を片方だけ持ち上げ、信じられないという表情を見せた。
不安、戸惑い、疑心……そういう感情に満ちた顔だ。
そう、なぜならこの説を信じる。それは――主催者の圧倒的なまでの力も肯定する事になるのだから。
62名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:16:08 ID:iaFjVge1
 
63名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:16:14 ID:zAhGMuvG
 
64 ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:16:32 ID:4B9WHu3v
だけど、私は迷わない。
爆弾を爆発させるような荒唐無稽で、衝撃的な内容だとは理解している。
それでも皆を導くのが自らの役目だ。
事実を、状況分析による最も信憑性の高い説を突きつける。

【その事実を裏付ける証拠として彼の名前は名簿には存在しません。また、次に殺された女性は彼のパートナーだったと思われます】
【それが……例の道具に繋がる、と?】

確かめるようなことみさんの疑問。
そう、これが私の仮説の軸。i-podの中に入っていた文章が示すものがすなわち――

【ええ。自らの死を悟った彼が支給品の中に忍ばせたのがおそらく、このフカヒレグッズなのでしょう。
 恋愛ゲーム・コンドームと若干性的な意味で統一したのも、鷹野達の眼を誤魔化すためと考えれば辻褄が合います。
 まさか日本書紀のまま、剣と鏡と勾玉を用意する訳にもいきませんしね】
【つまり『フカヒレの〜』という名前の支給品があと一つ存在する、瑞穂さんはそう言いたいの?】
【はい、神具は三つセットです。おそらく――もう一つ、誰かが所持している筈かと】



ことみさんが虚空を見つめ、数秒をの間を置いてペンを置いた。
そして一度だけ溜息。じっと私の眼を見つめ、口を開く。

「瑞穂さんの言いたい事は分かったの。確かに筋は通っている。
 でも、これ以上はとりあえず――トロッコに乗ってから考えるべきなの」
「そう……ですね。この場所にあまり長居する訳にもいきませんし。アセリアさん、それでよろしいですか?」
「ん、構わない」
「それでは……」

私は奥で佇むメカリンリンへと近付き、そして「廃鉱の南口まで」と告げた。
彼女(?)の瞳が怪しげに光る。
その直後「条件確認、輸送路開きマス」とのアナウンス。そして――私達の身体は青い光に包まれた。
65名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:16:52 ID:zAhGMuvG
 
66名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:16:53 ID:iaFjVge1
 
67かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:17:07 ID:4B9WHu3v

 □


私、古手梨花は二つの力を持っている。


一つは首輪探知レーダー。
半径500mという広範囲に接近した参加者の存在を感じ取る事が出来る超当たり支給品だ。
だけど、今この武器は物言わぬただのガラクタに過ぎない。
電池切れ――ありとあらゆる電子機器に須らく訪れる終焉。定められた宿命。曰く、運命。

一つはノートパソコン。
搭載されているCPUやメモリなどのスペックではなくて、争点に上がるのは放送と共に追加される様々な特殊機能。
断言しよう。これはこの島に支給された道具の中でも、一番の当たり支給品であると。
微粒電波発生装置、支給品リスト、留守番電話メッセージ、現在地検索機能、殺害者ランキング……。
どれも状況を一変させるだけの力を持ったものばかりだ。



だけど、本当の力はそんな機械には頼ってなされるものではない――私は、今頃になってようやく理解した。

迫り来る<<本当の死>>の恐怖。
輪廻転生でも、永遠に終わらない昭和58年の夏でもない。一度きりの命のやり取り。
羽入がいない。雛見沢でもない。そうだ、もしも死んでしまったら……次はないのだ。

私は、一人だった。
私は、脅えた。
忘れていた感情。つまり腹の底から湧き上がって来る、純然とした恐れとそして生への渇望。
一人で、心細くて、それでも心の底から信頼出来る仲間を見つけたかった。
68名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:17:22 ID:zAhGMuvG
 
69名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:17:24 ID:iaFjVge1
 
70かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:17:38 ID:4B9WHu3v
私は走った。走った。走った。
そして見つけたのだ。
皆と同じぐらい信用出来る。そう確信出来るような人間を。


「風子……潤……」


もう帰らぬ人となった二人の名前を呟く。
それは虚しい響きだった。
誰にも受け取られず、誰にも聞かれる事のない空気の振動。ただの、自然現象に過ぎない。
二人はもう眼を開かない、怒らない、笑わない……私の名前を呼んではくれない。

木々は私のそんな憂鬱を知ってか知らずか、好き勝手に葉と枝を擦り合わせる。
ザワザワと風が音を奏でる。
太陽も既に昇り、暑苦しいくらいの勢いで私に木漏れ日を投げ掛ける。
風、音……季節外れの北風は太陽に押し潰されたのだ。


現在地はC-5。純一やまだ見ぬ他の参加者など、信用出来る人間を探すのも重要に思えた。
しかし、ひとまず私は実際に廃鉱の別入り口を確かめるために行動していた。
エリアを指定したとしても、実際に探すべき場所は無数にある。
特にこのC-5エリアは山頂に電波塔、そして湖と土地が大きく分断されているのが特徴だ。
最悪山を一回りしたり、登山と下山を繰り返す嵌めになる可能性も存在した。

「ん……?」

とぼとぼと足を進めていた私の視界の先、数十メートル向こうに奇妙な物体が出現した。

<<椅子>>である。
71名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:17:55 ID:iaFjVge1
 
72名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:18:06 ID:zAhGMuvG
 
73かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:18:09 ID:4B9WHu3v

四本足の茶色い木製の椅子、だ。
遠目なので断定はし難いが、おそらく間違いではないだろう。
私はキョロキョロと辺りを見回す。
当然、眼で捉えられる範囲に民家は発見出来ない。
そもそも近くに家があったからとはいえ、椅子だけを持って来るとは思えない。

ならば他の参加者が使用した道具だろうか。
いや、これはプロレスの興行ではないのだ。
パイプ椅子のような凶器ならばともかく、普通の椅子を武器にしたりするという概念は私の中には存在しない。

「どうしてこんな所に……!? ……この臭いっ!!」

首をかしげながら椅子に接近しようとした、その時私の鼻腔はある刺激を感知した。
つまり、刺激臭だ。私はこの臭いに覚えがあった。
不快で、独特で、微かな金属の香り。そして胸糞悪くなるような独特の臭いの正体はおそらく……。


私は、走った。
逃げたのではない、まっすぐその異臭の原因へと向かって思いっきり両脚を動かす。
近くに――死体がある。それは予感でも、悪い想像でもなくて、確証だった。
血生臭い展開には慣れている。それに今の私は大分、クールだ。
突き付けられた現実に足を震わせ、泣き叫ぶだけの少女ではない。きっと。


 ■

74名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:18:27 ID:iaFjVge1
 
75かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:18:39 ID:4B9WHu3v
それは、おそらく殺戮の跡だったのだと思う。
四本の足に傷一つなく、転がる木製の椅子。
石か鉄にも似た妙な材質の破片が辺り一面に散らばっている。
弾痕が見渡す限り、ほとんどの樹木に見受けられる。
おそらく、マシンガンか重機関銃……そうだ、あの女が持っていたような武器を用いて銃撃が行われた証拠。

ある地点、つまり椅子が転がっている場所から数十センチという場所に赤い池があった。
私がやってきた方向からは茂みに隠れて丁度、見えない角度だったのだと思う。

そして、そこには、血塗れの死体が一つ、前のめりで倒れていた。


「え…………」


私、古手梨花は巫女である。
だがそうは言っても一般的なイメージとしての予言や神託のような確固たる能力がある訳ではない。
通俗上、慣習の上における巫女なのだ。幻視や未来視を実際に行う事など出来やしない。
だけど頭の先から靴の中まで紅く染まったその男に、私は何故か、見覚えがあるような気がした。

血を吸って、完熟した山葡萄のような色になったツナギ。
それは非常に見慣れた――小此木造園の作業着だった。
鷹野三四が指揮する特殊部隊、山狗。そのリーダーである筈の小此木が好んで身に着けていた服だ。


繋がる。
私の身体から、意識から、いつの間にか乖離していた雛見沢の記憶が、断片が、かけらが……一つにむすばれる。


「あ……か、さか?」

76名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:18:58 ID:iaFjVge1
 
77名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:19:01 ID:zAhGMuvG
 
78かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:19:10 ID:4B9WHu3v
彼は、昭和53年のままの姿でそこに、居た。
足が勝手に動いた。前へ、また、前へ。
よろよろと夢遊病の患者のようにふら付きながら、既に物言わぬ屍体となった彼の前へ私はぺたりと座り込んだ。


「にぱー☆ 赤坂、しっかり……しっかりするのですよ」


私は話し掛けた。造ったその声で、口調で。分かってる、ただの……ただの空元気だ。
彼は何も言わない。
当然だ、死んでいるのだから。
彼は死んだ。運命の連環から抜け出したこの地においても、死の運命から逃れる事は出来なかったのだ。


「まったく、赤坂はダメな奴なのです。こんな所で倒れてしまうなんて……もうボクはプンプンなのです」


私は彼に言葉を投げ掛ける。
返答は無言。行間は木々のざわめきが埋めてくれる。
透き通った風が髪を揺らした。


「ボクが……もう少し早ければ良かったのですか? 
『赤坂、あなたを助けに来たのですっ』とでも言いながら颯爽と登場出来たら、もしかしたら……」


私は何を言っているのだろう。
答えなど返って来る筈もないのに。
こんなもの所詮独善的な呟き、独りよがりに過ぎない。
彼が命を落としたのは一日近く前の話。
位置的にも情報的にも私が、この出来事に介入出来た可能性はゼロに等しい。
79名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:19:29 ID:iaFjVge1
 
80かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:19:41 ID:4B9WHu3v

涙が、溢れた。
瞼を濡らし、頬を伝い、顎骨を介して二筋の液体は一つにむすばれ、そしてこぼれた。
多分これは風子や潤が死んだ時とは違う種類の雫だ。
孤独でも絶望でもなくて、これは、寂しさだ。


「せっかく、せっかく……運命が変わったのに。生き残るチャンスだったのに……。
 どうして圭一もレナも詩音も大石も、赤坂も……<<私>>を置いて死んでしまったの?」


呟きは森の声に掻き消される、一陣の風と蠢く葉。
運命は覆せる筈ではなかったのか。
皆、皆死んでしまった。定められた結末に抗うこともなく。
あっけなく、夏の羽虫のように。
終わらない夏と終わらない運命を打ち砕く、そんな奇跡を起こす……その為に自分達は力を合わせて来た筈なのに。

結果はどうだ。
ずっと行動を共にしていた人間はほとんど死んでしまった。
仲間達も、出会うことすら出来ずに皆逝った。
私自身も武器にこそ恵まれても、身体はひ弱な少女。


私一人の力では……無理なのだろうか。




――梨花。


81名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:20:10 ID:iaFjVge1
 
82かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:20:12 ID:4B9WHu3v
「……え!?」

私の背筋に得体の知れない感覚、違う――忘れていた感覚が蘇った。
急に、どうしたと言うのだ。今までは全くその存在を感じ取る事は出来なかったのに。

居なくなっていた、もしかして消されてしまったのではないかと思っていた彼女が……


羽入が、いる。


大慌てで立ち上がり、辺りを見回す。
見えない。だけど、それは当然だ。なにしろ、まだ『聞こえない』のだから。
間違いない。この島の何処かに彼女が居るのだ。

手を額に当て、意識を研ぎ澄ませる。そして思考する。
何故、こんなにも急に?
しかも今のはどこか……妙な、まるで羽入が『突然出現した』ような感覚だった。

でも、明確でざらついていて、どこか懐かしい心が落ち着くような感じだ。
当たり前のような存在だった羽入がいなくなって、私にとってあの子がどれだけ大切だったのか、ようやく理解出来た気がする。


「…………ごめんなさい、赤坂。こんな涙、流している場合じゃなかったわね」


足元の赤坂に軽く頭を下げる。
希望の炎は再度、灯った。羽入と合流する事が出来れば、この状況を打破出来るかもしれない。


「――行って来るわ、赤坂」
83名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:20:21 ID:zAhGMuvG
 
84名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:20:40 ID:iaFjVge1
 
85かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:20:43 ID:4B9WHu3v

当然、言葉が返って来る訳でもない。
だけど、さっきまでの呟きとは違う――もっと大きくて暖かな光が私の中には生まれていた。
皆が残してくれた意志は、私が引き継がなければならない。
何もかもを背負い、そして、この漆黒の闇を打ち消すのは他でもない。私自身なのだから。


 
 ■


女が、空を飛んでいる。


違う。跳んでいるのだ。
その真っ青な影は、空の色にも似た影は数メートル近い高さまで飛翔し、私の目の前に新体操選手のように見事な着地を披露した。

その腕の中には二人の女が抱かれている。
一人はホテルで私達を襲撃して来た復讐者・坂上智代と同じ制服を来た大人しそうな少女。
一人はゲーム開始時、私が初めて出会った耳の長い人間と同じ制服を来た優雅そうな女性。

そして――人を二人も抱き締めたまま、アレだけのジャンプする事が出来る規格外の能力を有した女性。
青い髪に大きな瞳。華奢な身体を銀色の甲冑に包んでいる。
髪の毛がさらりと揺れた。右耳が、ない。


しかし、どうして――彼女達は山肌の何もない場所を突き破って飛び出して来たのだろう。



軽く状況を確認しよう。
86名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:20:52 ID:zAhGMuvG
 
87名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:21:11 ID:iaFjVge1
 
88かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:21:17 ID:4B9WHu3v
私は赤坂の屍体に別れを告げた後、電波塔を睨みつけながら山頂へと向かった。
風子の遺言の中には、私達には山頂へ向かうという意思を消滅させる暗示が掛かっている可能性があると言うのだ。
ならば、廃坑は頂に近い場所にあるのでは……そんな思考に至った訳だ。

山の中腹辺り、全身に溜まった疲労を解消するために朽ち果てた樹木に腰掛けて休息を取っていた時の出来事だ。
突然背後、つまり<<山の中>>から奇妙な音が聞こえて来たのだ。
私は振り向いた。そこには何も……厳密には露出した断層があるだけだった。
しかし音はどんどん大きくなる。
私は違和感を覚え、サッとその場から飛び退いた。

その直後――トロッコが<<そこから>>飛び出して来た。


閑話休題、


「し……死ぬかと……思ったの」
「……すまない、コトミ。あの場面では……こうするしか手段がなかった」
「いえ……アセリアさん、ありがとうございます。あのままでは私達は湖の中へ――あれ?」


琥珀色の髪の毛の女性が、ようやく私の存在に気付いた。
しかし、それでも遅すぎるくらいだ。
だって私達の距離は数メートル程度しか離れていない。
空中に打ち出されたトロッコから飛び出した時点で私を察知していてもおかしくない筈なのだ。


「あ……ゴメンなさい。驚かせてしまいましたか?」

89名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:21:40 ID:zAhGMuvG
 
90名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:21:42 ID:iaFjVge1
 
91かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:21:48 ID:4B9WHu3v
心臓が、止まるかと思った。
だって目の前の彼女の声は、羽入のソレと全く同じだったのだから。
甘ったるいようでもあり、それと同じくらい可憐で、そして可愛らしいあの独特な声と寸分違わぬ声と……。

「……あなた、羽入?」
「羽入?」

女性は怪訝な顔で質問を反芻した。
当たり前の反応だった。
私は何を言っているのだろう。ただ少し、声が似ていただけなのに。

おそらく脳の記憶のズレか幻聴だろう。
少しだけ声紋が近かったものを、勝手に修正してしまったのだ。
……もしかして、私はそこまで羽入が恋しくなっているのだろうか。

「ミズホ」
「そう……ですね。私は宮小路瑞穂。彼女がアセリアさん、そして彼女が一ノ瀬ことみさんです。
 どちらも、私の仲間です。そして……信じてくれるかは分かりませんが……殺し合いには乗っていません」


<<残り十三人>>の生存者のそのうち三人がここに居る事となる。

宮小路瑞穂
殺害ランキング14位タイ。殺害数一人。殺害者氏名=鳴海孝之

アセリア
殺害ランキング14位タイ。殺害数一人。殺害者氏名=高嶺悠人

そう、私の手にはノートパソコンがある。
つまり、リアルタイムで死者が更新される。だから、つぐみや純一、土永さんが既にこの世にいない事も知っている。
既に直接の知り合いは蟹沢きぬ、ただ一人。
92名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:22:13 ID:iaFjVge1
 
93かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:22:18 ID:4B9WHu3v
事態は切迫している。

「証拠はあるのかしら」
「証拠……ですか?」
「そう、あなた達がこのゲームに乗っていないという明確な証明」

いざとなればすぐにでも逃げ出せるように重心を踵に移動。
それでも態度は崩さず、悠然とした笑みを保ったまま喉を奮わせる。
私の外見とまるで似合わない口調に戸惑ったのだろうか。彼女達は顔を見合わせた。

私だって彼女達を信じたい。
生き残るため、もう一度奇跡を起こすためには私一人の力では全然足りないのだ。
だから確実に信用出来る材料が欲しかった。


「じゃあ……"あなた達が今までに殺した人間の名前"を教えてもらえるかしら」
「!?」


当然彼女達の困惑の色が更に濃くなる。
出会ったばかりの相手、しかも年端も行かない少女に『自分が今まで殺した相手の名前を教えろ』とせがまれているのだから。

しかも、この質問が行われる文脈には『ゲームに乗っていない証明をしてくれ』という問い掛けが存在している。
まともな頭なら「私は人殺しをした事はあるけれど、ゲームには乗っていません」なんて馬鹿げた台詞を信じるのは難しい。
下手に自らが殺した相手を告げても、それは自分達に不利な状況を作り出す可能性の方がよっぽど高いからだ。
加えて初めて会ったばかりの人間に、そんな核心に近いような秘密を教える事が出来るだろうか。
嘘を付いてもどうせばれない――普通はそう考える。

94名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:22:40 ID:zAhGMuvG
 
95名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:22:43 ID:iaFjVge1
 
96かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:22:50 ID:4B9WHu3v
だから、私は賭けた。
彼女達が嘘をつけば、その瞬間に、全力でこの場から逃げる。
目の前のアセリアという女の身体能力を考慮に入れると、無事に逃げ出せる可能性は非常に低い――それでもだ。
この終盤の局面、初対面の相手を信用するにはソレぐらいの対価が払える人物でなければ難しいと思うからだ。


「アセリアさん」
「……分かっている」
「……二人とも、本当に……いいの?」
「――ええ。状況が状況です。今は一人でも多くの力が必要……信じてもらう為に背に腹は代えられません」
「へぇ……つまり?」

茶色い髪の女性、つまり宮小路瑞穂が一歩前へ出た。
眩しいくらい真っ直ぐな瞳。
自らの手を血で染めた人間には到底見えない。


「正直に言います。私達が殺したのは……鳴海孝之さんと高嶺悠人さんの二名です」


宮小路瑞穂は真実をその可憐な口唇でもって語った。
……ああ、やっぱり。
その血と背徳の歴史を惜しげもなく、一片の嘘を交えることもせずに披露したのだ。
見れば分かる――あれは潤や圭一と同じ、理想と責任、覚悟を背負ったものの眼だ。
答えなんて聞く必要、なかったような気もする。

「……知ってたわ」
「え?」
「高嶺悠人が殺したのは三人。しかもつぐみを直接殺している。
 鳴海孝之は二人。彼は私の知り合いの友人を殺しているわ。
 そんな罪人を裁いたとしても、私はあなた達を決して責めない。それが……生き残るという事だから」
97名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:23:14 ID:iaFjVge1
 
98かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:23:20 ID:4B9WHu3v

破顔一笑。表情と一緒に口調も崩して、笑いかける。
三人は私の不可解な言葉に苦笑いを浮かべた。


「私は古手梨花。あなた達を……信用するわ」



 ■


結局その後の情報交換で彼女達が、はっきりと信用に足る人物である事は確認出来た。
きぬやつぐみなどの、直接出会った人間しか知らないようなデータも幾つか所持しており、塔の情報も入手していた。
つまりそれは彼女達と極めて強い親交を結んでいた十分な確証。
私は心強い味方の存在に心を躍らせた。

「でも……このパソコンは凄いの。これ一台が何より強力な武器」
「ええ。これが無かったら、私はとっくに……死んでいたと思うわ」

ことみがノートパソコンの各種機能を確かめながら感嘆の声を漏らす。
彼女、一ノ瀬ことみは高い技術力を持つ才女だ。何しろ既に首輪を一つ、解体している。
実物を見せて貰ったが、中の構造は私にはまるで手の届かない分野であると再確認しただけだった。

「これが殺害ランキング……なるほど、だから梨花ちゃんは……」
「――あなた達を試すような真似をしてごめんなさい。
 でも、本当に皆が信用出来る人物かどうか、確かめる必要があったから……」
「いえ、梨花さんの取った行動は至極当然……こんな事態ですし。
 安全に安全を重ねるのは褒められこそすれ、文句を言われるものではありません」
99名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:23:22 ID:zAhGMuvG
 
100名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:23:44 ID:iaFjVge1
 
101かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:23:52 ID:4B9WHu3v
瑞穂が優しげな顔で笑いかける。
全ての罪を赦し、何もかもを包み込む包容力。
彼女は今まで私が出会った経験のないタイプの女性だった。

だが彼女の顔色は険しい。
それはこの殺害ランキングの結果――この時間帯で多くの仲間が死亡した事実を知ってしまったからだ。
現在生き残っている参加者で確実に殺人鬼であると断定出来る人間は二人。
川澄舞に月宮あゆ、少なくとも彼女達が積極的に人を殺して回っている人間である事は間違いないようだ。

「あ……そうだ。支給品リスト……ってありますよね。その中に『フカヒレの〜』と付いている道具を探して頂けませんか?」
「フカヒレ? ああ……きぬの」
「はい。実はある仮説を立てまして――」

彼女はその後、開いた口が塞がらなくなるような大胆な仮説を私に披露した。
コンドームや恋愛ゲームが脱出の鍵?
きぬの友人が超能力者?
いや、確かに説自体に筋は通っている。ゼロパーセントとは断定出来ないだろう。だが――

「……待って、瑞穂」
「どうしましたか、梨花さん?」
「――やっぱり。残念だけど……あなたの仮説は成り立たないわ」
「な……ッ!?」
「実際、見て貰った方が早いかしら。ほら、画面をよく見て」

私はノートパソコンの画面を支給品リストに切り替え、瑞穂に見せる。
つまり、


「二つしか、ない……!?」
「そう。『フカヒレの〜』と名前がつく支給品はこの島には二つしか存在しないの」
「そ、そんな……馬鹿な――ッ!!」
「瑞穂さん……」
102名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:23:58 ID:zAhGMuvG
 
103名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:24:15 ID:iaFjVge1
 
104かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:24:26 ID:4B9WHu3v


瑞穂は膝から地面に崩れ落ちた。ことみが気の毒そうな眼で彼女を心配そうに見やる。
手と膝を付き、瑞穂は「私にだって……わからないことぐらい……ある」と意味が分からない事を呟いている。
隣でアセリアが彼女をよしよしと慰めている様を見て「この三人は本当に仲が良いんだな」と感じた。

「……でも、あながち間違ってはいないかも」
「え?」
「見て」

私はペンと紙を取り出し、今思い出した情報を文章にして表す。

【役場にね。あるらしいのよ……『特別なゲームディスクを必要としているパソコン』が】
【それって……】
【ええ、試してみる価値はある……そう思わない?】

瑞穂の顔に一明の光が射した。
そう、私は潤から役場の妙なパソコンの存在を聞かされていた。
実物は見ていないが、何か重要な情報が隠されているような気がしないでもない。

【しかし……ここはC-5ですよね? 役場に向かうとなると南口とは正反対の方向に……】
【でも武さんは……ホテル経由なの。もうすぐ放送の時間。死者が発表されれば……】
【――確かに。武さんにとってはとても……辛い結果に、なってしまいますね】
【ただ、役場まではほぼ一本道。後回しにして、禁止エリアになってしまうのだけは避けたい所なの】
【……大急ぎで向かえばなんとかならないか?】
【いや、ですが……】

しばらくの間、紙を挟んで議論が行われた。
争点は仲間との集合地点が役場とは真逆の方向にある、という事。
下手にチームをばらすのはここまで参加者が減ってしまった以上、得策ではないと考えているのだろう。
北か南か。微妙に意見がまとまらない。
105名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:24:32 ID:zAhGMuvG
 
106名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:24:49 ID:iaFjVge1
 
107かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:25:01 ID:4B9WHu3v
武、と言うのは圭一を殺した人間の名前だった筈だ。
だがH173を打たれ、雛見沢症候群に侵されているとは思いもしなかった。
もしも私が死んだら彼も発症するのだろうか―ーつまらない仮定だ。


【じゃあ、こんなのはどうかしら。北上してひとまずパソコンを調べる。
 その時に、ノートパソコンの現在地検索機能を使って彼の居場所を探して、南口にいるようだったら移動する。
 まだ到達していないようだったら、調査を続行……どう?】
【……それしかないようですね。梨花さん、道案内お願い出来ますか?】


返事を伝えようとした私の右腕が止まった。
そして、深く考える。強く思い出す。

命を落としていった親しい人達の顔を、声を、暖かさを。

瑞穂
アセリア
ことみ

彼女達は、私がなくしてしまったものを持っている。
暖かくて思わず笑顔が漏れてしまうような『仲間』という関係。
消えていったものがある。
掌から零れ落ちていったものがある。


でも、皆と築き上げた温もりを、絶対に私は忘れる事はないだろう。

グチャグチャに壊れ、塵になってしまった皆との思い出はまだ胸の中で息衝いている。ドクドクと脈を打ち、その存在を示してくれる。
散って行ったそのかけらを拾い集めた時、皆は、もう一度私に笑い掛けてくれるだろうか。
108名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:25:20 ID:iaFjVge1
 
109名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:25:49 ID:zAhGMuvG
 
110名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:25:58 ID:iaFjVge1
 
111かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:26:05 ID:4B9WHu3v

分からない。
だから、探しに行くのだ。
そして、私は必ず運命に打ち勝って見せる。


「任せて頂戴――そして、いきましょう。必ず……生き残るために」



【C-5 森(マップ上)/二日目 昼】

【女子四人】
1:役場へ向かう。

【備考】
※廃坑別入り口を発見しました(瑞穂たちのワープ先は『廃坑南口の反対、つまり北口に位置する隠し入り口』でした)
※殺害ランキングは梨花以外のメンバーは適当にしか見ていません。
※一通りの情報を交換しました。
※旧お姉さまチームは梨花の事をひとまず信用しました。

112名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:26:29 ID:iaFjVge1
 
113名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:26:32 ID:zAhGMuvG
 
114かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:26:35 ID:4B9WHu3v
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭  暗号文が書いてあるメモの写し
     ヒムカミの指輪(残り1回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄 】
【所持品:風子の支給品一式(大きいヒトデの人形 猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、風子特製人生ゲーム(元北川の地図) 百貨店で見つけたもの)】
【所持品2:支給品一式×2(地図は風子のバックの中)、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)
     ノートパソコン、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7、出刃包丁、
     食料品、ドライバーやペンチなどの工具、他百貨店で見つけたもの 、コルトパイソン(.357マグナム弾2/6)、首輪探知レーダー(現在使用不能)、車の鍵 】
【状態:頭にこぶ二つ 軽い疲労、精神的疲労中、強い決意】
【思考・行動】
基本:潤と風子の願いを継ぐ。
1:ひとまず瑞穂達と一緒に行動したい
2:羽入を探す
3:きぬが心配
4:仲間を集めたい
5:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を探す)

【備考】
※皆殺し編終了直後の転生。鷹野に殺されたという記憶はありません。(詳細はギャルゲ・ロワイアル感想雑談スレ2>>609参照)
※梨花の服は風子の血で染まっています
※盗聴されている事に気付きました
※鷹野を操る黒幕がいると推測しています
※塔の存在を知りました
※月宮あゆをマーダーと断定、警戒
※当面は病院を目的地にしていますが変えてもいいです。
 レーダーが使えなくなったので現在地検索機能を使って探す方法も考えています
 電池(単二)が何本必要かなどは後続の書き手に任せます
※羽入が今この島にいる事に気付きました。

115名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:26:59 ID:iaFjVge1
 
116かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:27:05 ID:4B9WHu3v
【アセリア@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:永遠神剣第四位「求め」@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x1、鉄パイプ、国崎最高ボタン、高嶺悠人の首輪、フカヒレのコンドーム(12/12)@つよきす-Mighty Heart-、情報を纏めた紙×2】
【状態:深い悲しみ、決意、肉体的疲労大、魔力消費中程度、両腕に酷い筋肉痛、右耳損失(応急手当済み)、頬に掠り傷、ガラスの破片による裂傷(応急手当済み)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:ミズホとコトミと梨花を守る
2:無闇に人を殺さない(殺し合いに乗った襲撃者は殺す)
3:存在を探す
4:ハクオロの態度に違和感
5:川澄舞を強く警戒
【備考】
※アセリアがオーラフォトンを操れたのは、『求め』の力によるものです
※永遠神剣第四位「求め」について
「求め」の本来の主は高嶺悠人、魔力持ちなら以下のスキルを使用可能、制限により持ち主を支配することは不可能。
ヘビーアタック:神剣によって上昇した能力での攻撃。
オーラフォトンバリア:マナによる強固なバリア、制限により銃弾を半減程度だが、スピリットや高魔力の者が使った場合はこの限りでは無い)


【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:ベレッタM92F(9mmパラベラム弾2/15+)、バーベナ学園女子制服@SHUFFLE! ON THE STAGE、豊胸パットx2】
【所持品1:支給品一式×9、フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)、斧、レザーソー、投げナイフ5本、
 フック付きワイヤーロープ(5メートル型、10メートル型各1本)、茜手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成)、予備マガジンx2、情報を纏めた紙】
【所持品2:バニラアイス@Kanon(残り6/10)、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾、電話帳、スタングレネード×1】
【所持品3:カルラの剣@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、竹刀、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F(9mmパラベラム弾15/15+1)、懐中電灯】
【所持品4:単二乾電池(×2本)バナナ(台湾産)(1房)、ミニウージー(25/25)】
【所持品5:手術用メス、パワーショベルカー(運転席のガラスは全て防弾仕様)】
117名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:27:07 ID:zAhGMuvG
 
118名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:27:30 ID:iaFjVge1
 
119かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:27:37 ID:4B9WHu3v
【所持品6:破邪の巫女さんセット(弓矢のみ10/10本)@D.C.P.S.、乙女と大石のメモ、麻酔薬、硫酸の入ったガラス管x8、包帯、医療薬】
【状態:強い決意、肉体的疲労中、即頭部から軽い出血(処置済み)、脇腹打撲】
【思考・行動】
基本:エルダー・シスターとして、悲しみの連鎖を終わらせる(殺し合いを止める)
1:ことみとアセリアと梨花を守る
2:川澄舞を警戒

【備考】
※一ノ瀬ことみ、アセリアに性別のことがバレました。
※他の参加者にどうするかはお任せします。
※この島が人工島かもしれない事を知りました。



【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:Mk.22(3/8)】
【所持品:ビニール傘、クマのぬいぐるみ@CLANNAD、支給品一式×3、予備マガジン(8)x3、スーパーで入手した品(日用品、医薬品多数)、タオル、i-pod、
陽平のデイバック、分解された衛の首輪(NO.35)、情報を纏めた紙】
【所持品2:ローラースケート@Sister Princess、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数、】
【状態:決意、肉体的疲労小、後頭部に痛み、即頭部から軽い出血(瑞穂を投げつけられた時の怪我)、強い決意、全身に軽い打撲、
 左肩に槍で刺された跡(処置済み)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。必ず仲間と共にゲームから脱出する。
1:ハクオロとあゆに強い不信感、でもまず話してみる。
2:アセリアと瑞穂に付いて行く
3:首輪、トロッコ道ついて考察する
4:工場あるいは倉庫に向かい爆弾の材料を入手する(但し知人の居場所に関する情報が手に入った場合は、この限りでない)
5:鷹野の居場所を突き止める
6:ハクオロを警戒
120名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:28:01 ID:iaFjVge1
 
121かけらむすび ◆tu4bghlMIw :2007/11/20(火) 00:28:13 ID:4B9WHu3v

※ハクオロが四葉を殺害したと思っています。(少し揺らいでいます。)
※あゆは自分にとっては危険人物。
※瑞穂とアセリアを完全に信用しました。
※この島が人工島かもしれない事を知りました。
※i-podに入っていたメッセージは『三つの神具を持って、廃坑の最果てを訪れよ。そうすれば、必ず道は開かれるだろう』というものです。
※研究棟一階に瑞穂達との筆談を記した紙が放置。

122名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:28:36 ID:iaFjVge1
 
123名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 00:28:43 ID:zAhGMuvG
 
124 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:35:43 ID:XBpbvSgg
ボクが目を開けたときには凄い風景が待ち受けていた。
空を見上げれば一面のピンク。青い空なんか見えなかった。
それは桜。本当に沢山の桜。
桜が舞散る中にボクはいた。

あ、あり? でもなんかおかしいぞ?
たしかボクは殺し合いの中にいたはず。
なのにボクは呑気にベンチなんかに座っている?
訳解んないぜ。

「おーい! 蟹沢!」
混乱するボクに呼びかけながら走ってくる人がいる。
それはあの島で出会った大切な人。掛け替えのない人。絶対失いたくない人。
その顔を見るだけで笑いたくなる、本当に。
走ってくる少年は朝倉純一、大好きな人だった。
「悪い、待たせたようだな」
純一は息を整えながらそう言った。
両手には何故かクレープ。
男が両手で持ってるこの状態はとてもシュールな風景だった。
「ほら、これ」
純一はその一つのクレープをボクに渡してきた。
ボクは素直にそれを受け取りそれに口をつける。

あ、美味いぞ、これ。

「ほら、前言った通り美味いだろ?」
ボクは食い続けると純一は笑顔でそう言った。
うん、確かに美味い。
なんか久々に甘いもの食った気がするぜ。
125 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:36:24 ID:XBpbvSgg

じゃなくて!
「お、おい純一! 殺し合いは! 何でこんなとこにいるんだ!?」
「蟹沢? 大丈夫か? 殺し合いは終わったんだ。脱出できたんだよ。皆で」
純一はきょとんとしてさらに不思議そうにそう言いのけた。

あ、あり? そうだっけ?
思い出そうにもなんか記憶がおぼろげで思い出せない。
確かに出来た気もするし出来ない気もする。
思い出せねー。

「それで蟹沢に前にはなした俺の出身地、初音島に蟹沢が来たがったからきたんじゃないか」
そ、そうなのか?
確かにここは純一からあの島で聞いた初音島に違いないと思う。クレープの話も聞いたと思う。
まだあやふやだが脱出できたに違いない。
だって純一がそう言ってるんだ。
信じない理由なんてない。

そうか、脱出できたんだ。純一と一緒に。
信じられねー。でも凄い嬉しい。
だって純一が傍に居る、それだけ。これからもずっと。
でもそれが堪らなく嬉しい。

「よし、大丈夫なようだな、なら行こう」
「何処へ行くんだよあ?」
「前に話しただろ? 俺のとっておきの場所さ」
そう純一は言って歩き出す。
僕もそれに続く。
126名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:37:01 ID:5Cf7WWbz
    
127 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:37:43 ID:XBpbvSgg

そこに行く間ボクは純一と色々話していた。
なんか色々喋ったんだけどよく憶えてない。
でも幸せだった。
それは間違いなかった。
こんな時間がいつまでも続けばいい、考えたのはそれだけ。

そして辿り着いた先には凄いものが立っていた
「うおーーーーーーー!!!」
「どうだ、すごいだろ?」
立っていたのはまさしく巨木というのにピッタリな桜の樹。
とても綺麗だった。
話には聞いてたけどこんなに凄いとは。
ボクの街にはこんなものはない。
またボクの視界には鮮やかピンクの花びらしか見れなかった。

「気に入ったか?」
「おう! こんなに凄いなんて聞いてねーぞ」
「そうか。蟹沢もこっちに来いよ」
純一はその木にもたれかかりボクを呼ぶ。
ボクは純一に駆け寄ったその瞬間
「お、おい? 純一?」
ボクを抱きしめた。
しばらくそのままだった。
びっくりしたけどとても温かい。
ホントに幸せだった
128名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:38:00 ID:zAhGMuvG
 
129名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:38:06 ID:5Cf7WWbz
    
130 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:38:16 ID:XBpbvSgg

「蟹沢。本当にありがとうな。お前が居たから、俺はここに居る。凄いうれしい」
「ボクもだ。これからもずっと傍にいていいよな? 死ぬまでさ」
「ああ、勿論」
ボクらは見つめあいキスをした。

ああ本当に幸せ。

これからもずっと。ずーーっと。

傍に居られる。
大好きな純一と。

ずーーーーーーーっと。

そして異変に気付く。
なんか抱きしめた純一が軽い。

目を開けてみるそこには

純一は上半身しかなかった。
そして冷たく動かない。

え? なにこれ?
なんだよ?
ずっと一緒だといっただろ。
嘘だ。
嫌だ。
131名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:38:39 ID:zAhGMuvG
 
132 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:38:49 ID:XBpbvSgg
ナンダロウコレ? オカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイ! 
アリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイ! 
コンナノミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイコンナノミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイ!

ゼッタイミトメナイ!

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

その瞬間ボクの意識はなくなった。




 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・






「ここまで逃げれば……大丈夫だろ」
私は朝倉と別れた後、必死に走っていた。ハクオロと朝倉の思いを無駄にしない為に必死で。
蟹沢を背負って山を登るのは非常に苦痛でしかない。
それでも止まる事は許されない。
まるでそれが私の義務のように。
しかしもう体力の限界が近づいてた。
朝倉から別れた地点から随分離れたし休憩を取ることにしようか。
133名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:39:10 ID:zAhGMuvG
 
134名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:39:12 ID:5Cf7WWbz
    
135名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:39:40 ID:zAhGMuvG
 
136 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:40:04 ID:XBpbvSgg

「よいしょっと……蟹沢、ぐっすり寝てるね……」
私は蟹沢を樹によっかからせた。
蟹沢の顔には涙の跡が付いている。
蟹沢は最後まで拒み続けていた、朝倉と別れるのを。
私には知らない二人だけのことが会ったのだろう。
それだけに蟹沢は離れらなかった、たとえ自分が死んだとしても。

朝倉は優しすぎた、最後まで。
全く私も落ちたもんだ、朝倉と別れる時に少しでもなくなんてさ。
それも時雨、ハクオロ、朝倉の甘さに感化されたせいかもしれない。
でもその人達は皆、逝っちまった。

私は何もできないのか、いや、できるはずさ。
私はやらなきゃいけない、一ノ瀬を殺すという事を。
利用され、殺された時雨の為にも絶対に。
だから、私は生きる。

その時、前方の茂みから物音が聞こえてきた。
まさかもう追いつかれちまったのかい、あの女に。
私は銃を向けるも半場諦めていた。
悔しいが今の状態じゃ敵わない。

だがそれはあの女じゃなかった。
茶髪をした長髪の少女。
「私は殺し合いに乗ってないわ! 私の名は白鐘沙羅! 人を探している!」
137名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:40:34 ID:5Cf7WWbz
    
138名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:40:37 ID:zAhGMuvG
 
139 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:41:04 ID:XBpbvSgg
本当かね?
簡単に信用できない。だから
「それなら今、手に持ってる銃を離しな。そして両手を上げな」
白鐘は迷っている様子だが、やがて言う通りにした。
だから私も銃をおろし名を告げた。
「悪かったよ、私の名は大空寺あゆ」

白鐘はそれを聞くとこっちに近づいてきて
「なら、あゆ。聞きたい事があるの。朝倉純一、蟹沢きぬって知ってる?」

おいおい、まじかよ。
こいつ朝倉探していたのか。仲間なのかね。
兎も角、仲間なら伝えないといけない。
朝倉の最後の生き様をさ。
「蟹沢ならそこで寝てる。朝倉は……死んだよ」
「……そうなの、ごめん」
「……かまわないさ、朝倉とはどうして?」
「それは……」

白鐘は今まで自分にあったことを教えてくれた。
それは私にとっても驚きだったさ。
まさか佐藤が死ぬなんて。私が殺したかったのに。
でもまあ、あいつらしい惨めな最後で本当によかったよ。
殺せなかったのは本当に残念だが。

殺したのが同じ名を持つ月宮あゆというのも驚いた。
本当に何があったというんだい?
あいつは死んでおかしくなかった体だったというのに今は動いて元気に人を殺してますだって?
言っててこっちが頭がおかしくなりそうだ。
本当に訳がわかんないさね。
140名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:41:15 ID:5Cf7WWbz
   
141名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:41:17 ID:zAhGMuvG
 
142 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:41:37 ID:XBpbvSgg
「……それで土永さんから聞いてその人達を探してたのよ」
「そうかい……朝倉はさ……」
そして私は朝倉の最後をについて話した。
あったばっかの人間に話すべきではないのかもしれない。
でもつたえたかった。
あいつが最後まで笑ってた事を、優しかったかを。

「これで……終わりさ。それで蟹沢は……っておい何さ!?」
そして伝え終わり、蟹沢の方向を向くと信じらない光景が広っていた。

それは蟹沢が電動釘打ち機を自分の頭に向け今、まさに自殺しそうだった。
その目は虚ろでひどく曇っていた。そう、生気がまるで感じられりゃしなかった。
まるで壊れた人形のように。

いつの間に目を覚ましたのか?
今はそんなことよりも蟹沢だ。
多分蟹沢をそこまで突き動かしたものは解っていた。
しかしまさかここまで行くとは思っていなかったさ。
「おい! 蟹沢! 何やってんのさ! ふざけた事なんかやめな!」
「ふざけてなんかないやい……もういいんだよ……ボクなんて」
蟹沢は絶望した声で言った。
それこそ、もう何も求めてないように。

まだよく私は状況を把握していなかった。白鐘にいたっては唖然としてる。
ただひとつだけ解っていた。

これが非常に不味い事って事だけさ。
143名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:42:00 ID:zAhGMuvG
 
144名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:42:27 ID:5Cf7WWbz
    
145 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:42:27 ID:XBpbvSgg




 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・






ボクは飛び上がるかのように起きた。
あ、あれ? 純一がいない。
そしてここは初音島なんかじゃない殺し合いをしていた島だった。

ああ、何だ……夢だったのかよ。
最後は最悪だったけどあんなに楽しかったのに。
純一といれたのに。
殺し合いは終わってなどいないんだ。

って事はおい! 純一は何処にいったんだよ!
ボクはあの時急激な眠気に襲われて、それで倒れた。
純一はその時悲しく笑っていた。
確か半分になっていて。

ああそうか、純一はもう……

違う! まだ大丈夫だ。
まだ話せる! 時間があるんだ。
純一は何処だよ!
146名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:43:08 ID:5Cf7WWbz
    
147 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:43:37 ID:XBpbvSgg
好きになった人なのに、どうして今いないんだよ。
いやだ!
認めたくなんかない! 認めたくないんだよ!
おねがいだからいてくれよぉ……
苦しませないでよぉ……
辛いんだよぉ……
じゅんいちぃ……

そして探す為顔をあげるとあゆと見知らぬ少女が話していた。
少し話が聞こえてくる。

「……それで佐藤良美は月宮あゆに殺された……」

ああ、よっぴー死んでしまったのかよ。
遂にボクの人の知り合い皆死んじまった……
なんでだよ……よっぴー。
お前殺し合いになんか乗るから死ぬんだよ……
それでも悲しい……なんでだよ。
なんでだよ、どうしてボクにこんな悲しい事ばっか教えるんだよ。
この世界はよー……

そして僕の耳に一番聞きたくない事が聞こえてきた。
「朝倉は真っ二つにされ……死んださ……蟹沢は眠らさせて連れてきた……」
それは純一の事。
148名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:43:37 ID:zAhGMuvG
 
149名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:43:46 ID:5Cf7WWbz
    
150名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:44:16 ID:zAhGMuvG
 
151 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:44:31 ID:XBpbvSgg

ああ……嫌だ。
認めたくなんかないのに。
ききたくなんてないのに。
別れたくなんかなかったのに。
でもそれがボクに重くのしかかって来る。

純一が死んだ。その事が

どうして
どうしてだよ!
せめて最期まで話したかったのにぃ……
好きだって伝えたかったのに
どうしてそれさえも赦してくれないのですか?

ドウシテ……
ボクカラ……ゼンブウバッテイクンデスカ
タイセツナモノヲ

「あ……はは……」

もういいや……
なんでもよくなくった。
ボクはやっぱり疫病神だ。

乙女さんも、姫も、よっぴーも。
フカヒレも、スバルも、土見も、レオも。
そして純一も。
みんな、みーんな、ボクに関わって死んでった、大切な人達が。
152名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:44:46 ID:5Cf7WWbz
    
153名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:44:47 ID:zAhGMuvG
 
154 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:45:15 ID:XBpbvSgg

ナラ、イナイホウガイインジャーネノ?
ソノホウガラクダゼ。

そんな声が聞こえてくる。
悪魔のような声が。

でもその方がいいかもしれない。
生きて何になるんだ?
もう誰もいないんだ……
傍に居たい人もいないんだ。

ソウダゼ!
イキタッテツライダケ

そうだ。
生きて、生きて、生きて、生きて。
待ち受ける先がこんな苦しい世界なんだ。
誰もいない世界なんだ。

なら、コワレテシマエ、こんな世界。

コワレシマエヨ、ボク。

目に映るのはただの空虚。
おぼろげな物。
僕はデイバックを見つけそこからあるものを取り出した。
そのとき手にもっっていた何かを落としたが気にしない。
取り出したのは電動釘打ち機。
純一が使っていたもの。
これで頭を打ち抜けば簡単にコワレル。
155名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:45:31 ID:zAhGMuvG
 
156名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:45:39 ID:5Cf7WWbz
    
157 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:45:58 ID:XBpbvSgg

そう、とても簡単に。

ジャア、イコウゼ
ノゾムセカイニイケル

そうだ、こんな世界なんていらない。
きっとコワレレバ、さっきの楽しい世界にいけるんだ。
なんて楽しいんだろう。
そこには純一もいる、レオもいる、みーんないる。
それはボクが望むものだから。

そして頭に持っていった。
アトハトリガーヲヒクダケ。

「おい! 蟹沢! 何やってんのさ! ふざけた事なんかやめな!」

邪魔な声が聞こえる。
ふざけた事?
ふざけてなんかない。
純一や皆に会えるのに?
ナンデワカッテナインダロウ?

「ふざけてなんかないやい……もういいんだよ……ボクなんて」

ボクはそう返していよいよひこうとした。

純一が見える、迎えに着たんだ。
やっと会えるんだ。

158名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:46:23 ID:5Cf7WWbz
    
159名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:46:33 ID:zAhGMuvG
 
160 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:46:51 ID:XBpbvSgg

あれ?
ドウシテカナシンデダヨ?
イツモノヨウニワラッテヨ。
ヤットアエルノニ……ジュンイチラシクナイ
ナニイッテルンダキコエナイ

ホラ、モウアエ……!?

「ふざけんじゃないのさ! この糞チビ虫がああああああ!!」

全て吹きとばす痛み。
一気に頭が覚醒する。
殴られた?
なにがおきたんだよ?

目の前に仁王立ちするあゆ。
体ふるわせ異様におこっている。

どうして逝かせてくれない?
辛いのに……
何も変わりはしないのに。

でもボクはこれから何か起こると予感していた。





 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
161名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:47:37 ID:5Cf7WWbz
    
162名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:47:45 ID:zAhGMuvG
 
163 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:48:02 ID:XBpbvSgg







ちっ、私としたことがしくじった。
考えればすぐにわかった事なのにさ。
そう、純一が蟹沢を失えば不味いって事はイコール蟹沢も純一を失えば不味いってことだろう。
何故直ぐに理解しなかったのか? いやここまでひどいとは思わなかった。

でも別にほっといていいじゃないかとも思ってきた。
だってそこまで義理はないしさ。
辛いなら無理に生きる必要はないと思うし。

うん、別にいっか。
ほっとこうさね。
…………。


『生きろ……そう、伝えてくれ』
『ああ。生きろ。お前は生きてる。私も生きている。生きている事になんか罪はない』
『ほ……ら、もう……じか……ん……が……な……いよ……早く……逃げ……てッ!』


ああ! もう! ほっとける訳ないさ!
こんな時にあいつらの事思いだすなんて。
朝倉は私になんて遺した? 蟹沢に生きろって伝えろといった。
それを無視する事ができるか? いや、できないさ。
164名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:48:09 ID:5Cf7WWbz
    
165名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:48:20 ID:zAhGMuvG
 
166 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:48:58 ID:XBpbvSgg

そして私に沸き起こる感情が一つあった。
とても単純な感情。一ノ瀬に持ってるのと似たような感情。
そう、それは怒り。

朝倉、ハクオロ、時雨はどうして死んでった? 最後にあいつらは何思った。
単純な事。私達を守ったから。
私達に生きて欲しいから。
だからあいつらは生きろといった。

なのにこのチビはなにやってるんだ?
散々守られてそして死ぬって。
もう朝倉もいないから自分もいいと思ったのか?

ふざけるんじゃないさ!
そう、守って死んでった奴の思いをむげするじゃないさ!
このチビがやろうとしてる事は単なる逃避。
そして死んでった奴への冒涜。
最悪だ。

ああ、もうムカつくさね。
もう、いい。感情に任せてしまえ。
そう決意した瞬間体が動いた。そして

「ふざけんじゃないのさ! この糞チビ虫がああああああ!!」
167名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:49:05 ID:zAhGMuvG
 
168名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:49:23 ID:5Cf7WWbz
   
169 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:49:38 ID:XBpbvSgg

ぶん殴ってやった。チビが吹っ飛ぶ。
チビが信じられない風に私を見た。
疑問、悲しみ、怒りを篭めた目で私を見る。
まだ目は濁っていた。

そんな顔を見たら更なる怒りが襲ってきた。
もう、いいさ。
後は感情に任せるだけでいい。
理屈じゃないのさ。

「チビ虫! あんた何やってんだい! 自分が何してるか理解しているのかい?」
「五月蝿いなー……だから……死ぬんだ……もう……こんな世界……いらない……死んだら……純一にも会える……皆にも会えるんだよ」

このチビ……何、甘えた事を。
死んだら朝倉達に会えるって?
……ふざけるな!
「そうだよ! お前が邪魔しなきゃ純一と最期まで入れたんだよ! もしかしたら助かったかもしれないんだよ……なのにテメーは!」
チビが私が黙ってる事をいい事に騒ぐ。
……黙れ。
確かにわたしが眠らせなきゃ朝倉といれただろう。
だがこのチビに朝倉の死に様を否定する権利なんか絶対にない!
「黙りな……お前に朝倉の死を否定する権利なんかない……それにあんた死んだら朝倉に会えると思ってるのかい?」
「そうだよ! 死ねばあえるんだよ」
「違うさ……そんな甘い訳ないだろ」
そして私はこのチビに活を入れる。
死に幻想を抱くこのふざけた奴に。
死んでった者を否定するこの馬鹿げた奴に。
170名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:50:03 ID:5Cf7WWbz
    
171 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:50:19 ID:XBpbvSgg

「ふん……チビ、よく聞きな……死ってのはそんな甘い物じゃないのさ! 死はねえ……もっと残酷さ。死んだらそこまで。そのあとの世界なんてありはしないのさ、ただの蛋白質になるだけ」
「違……」
「違わないさ! そんなの餓鬼だってわかる! 朝倉、最期に何て言ったかわかるか!」
「……何だよ」
私はチビに近づき胸倉を掴み大声で
「お前に生きろって! そういったんだよ! 他にも言いたい事はあっただろうに、それでもお前に生きて欲しかったから! 誰よりもお前のことを思ってさ!」
「え……」
チビの目が驚きに変わる。信じられないという風に
私は言葉を続け
「お前が死んで朝倉が喜ぶと思うか!? そんな訳ないだろ! それは私よりお前が判ってるはずさね!」
「う……あ……」
チビの目に涙が溜まって来た。
よしこれでいい。
壊れた人形に心が戻ってきた。
「ハクオロもそうだ! 私達は守られてそして生きてるんだよ! そんな奴らの思いを否定するんじゃないよ!」

そして告げる。
ありったけの声で。

「だから、お前は生きなきゃ駄目なんだよ! 生きろよ! 蟹沢! 朝倉の事誰よりもわかってんなら! 誰よりも好きならさあ!」
「ひ……ぐ……うあ……うあああああ!!」

蟹沢の泣き声が響く。それも大きな声で。
いいさ。
もう壊れちゃない、血の通った人に戻った。
自殺なんかしないだろ。
だって今の蟹沢は泣いてる。子供の様に。
死を悲しんで。
172名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:50:38 ID:5Cf7WWbz
    
173 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:51:24 ID:XBpbvSgg

ああ、何て私らしくない。
怒りに任せ、あまつさえ生きろというなんて。
信じられない。

でも、ま、たまにはいいか。
朝倉の言葉を裏切るわけにはいかないしさ。
全くめんどくさい事押し付けねえ、本当に。
まあこれで多分大丈夫だろ。

「蟹沢……もう大丈夫だろ……生きていけるだろ」
「もう自殺なんかしない……でも、怖いんだよお! 生きてくのが、辛いんだ、苦しいんだ、この世界でさあ!」

その答えは私にも想定外だった
まだ、駄目なのかい、あれでも。
いや私は自殺を止め、蟹沢を正気を戻す事ができた。

でもその正気に戻った蟹沢に襲ってくるのは恐怖。
そうこの朝倉も友もすべて失った世界で生きていくことへの。

「もう……誰も残っていないんだよお……僕はこの世界で生きていける勇気も自信もない!」

後は必要なのは生きていく勇気。

でも私に蟹沢を勇気付ける言葉なんか見つからない。
はげますことなんか、私にはできない。
私はただ感情をぶつけただけ。
飾る言葉なんか思いつかない。
174名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:51:28 ID:zAhGMuvG
 
175名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:51:53 ID:5Cf7WWbz
    
176 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:51:58 ID:XBpbvSgg

もう……無理なのかい、蟹沢はもう無理なのか。
私にはもう無理なのか。

諦めようとした時、さっきまで隣に居た白鐘が蟹沢に近づいていった。

いったい何しようというんだい?






 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・






私は最初全く体が動かなかった。金縛りにあったように。
いきなりきぬって子が自殺をしようとしていたのだ。
多分純一という人間の死をきっかけに。

私は土永さんしか聞いた事しか解らなかったけどきっともっと深い仲だったのだろう。
恋人とかそんな感じなんだ。

いまはあゆが励ましてるけど私は何もできないの? また。
いや、何かしなきゃいけないんだ。
177 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:52:30 ID:XBpbvSgg
「もう自殺なんかしない……でも、怖いんだよお! 生きてくのが、辛いんだ、苦しいんだ、この世界でさあ!」
「もう……誰も残っていないんだよお……ボクはこの世界で生きていける勇気も自信もない!」

きぬの声が聞こえる。
どうやらあゆは自殺は止めることはできたらしい。
でもきぬはまだ生きる勇気、自信がないみたいだ。
地べたに座り泣き叫んでいる。
あゆは目を伏せ悔しがってる。
あゆはもう辛いみたい。

じゃああの子を勇気付けるのは誰?

私がやるしかないじゃない!

それは同情とかそんなもんじゃない。
ただ本心から。
あの子を生きて欲しい、ただそれだけ。

まだ話した事ないのに?
聞いてくれるかも分からないのに?

でも、瑛理子なら、圭一なら、双樹なら、恋太郎なら!
きっとあの子を励ますだろう
当たり前のように。

なら私がやらない理由がない訳がないじゃない!

「お、おい? 白鐘?」
だから私はきぬに近づいていった。

さあ、やろう。私にできる事。
178名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:53:12 ID:5Cf7WWbz
    
179 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:53:29 ID:XBpbvSgg
「きぬっていってたよね? 私は沙羅、白鐘沙羅よ」
「沙羅が……ボクになんのようだよ?」
きぬが怪訝そうに私を見る。
当然だ、私は初対面なんだから。
でもここでしり込みできない。
「ねえ……一人で生きることは怖いの?」
「怖いんだよ! 純一も誰もいないんだ!」

きぬは怯えていった。
確かに怖いだろう。
私だってそうだった。
でもね
「それでも生きていかなくちゃ駄目なのよ。どんなに辛い世界でも、苦しい世界でもね」
「五月蝿い! 何がわかるんだよ!」
きぬが手をばたばたさせ怒りながら言った。

私は何も判りはしない、きぬの悲しみなんて。
でもこれだけは多分一緒。
「私は貴方じゃないからわかんないわ……でも私達はその大切な人から、仲間から生きて欲しいと思われてんだよ」
「……っ!?」

そして私は告げる。
もっとも伝えたい事を。

「私達は生きなきゃいけない。この残酷の世界で怖くても辛くても苦しくてもね。でも決して一人じゃないのよ。そう一人じゃ。
 だって私達は死んでった人達の思いを背負って生きてるから。だから一人じゃない。たとえ辛くなっても大丈夫だよ。
 励ましてくれるから。いつも傍にいて、大切な人達が。
 だからその分、私達は生きて生きて生き抜いていくんだよ! この世界で! だから生きようよ!」
180名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:54:07 ID:zAhGMuvG
 
181 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:54:12 ID:XBpbvSgg

そう言い切った。
ねえ、聞いてるでしょ、瑛理子、圭一、双樹、恋太郎。
だから私は生きていくね。この世界で。
辛くても大丈夫。
貴方達が傍にいると思うから。
だから見ててよ。
私、頑張るから。


きぬはその私の言葉を聞きおどろき、そして何か見つけ見たい。なんか小さいものを。
そして震えてる。

さあ最後の一押し。
私はきぬも手を差し出し
「生きよう! そして帰ろう! 私達は独りじゃないのよ!」

私はあゆの方も向き
「あゆもよ」
「はあ? 私もか?」
「当たり前じゃない」
2人でやらなきゃ意味ないじゃない。
2人できぬを迎えなきゃ。

あゆは観念したように近づき
「解ったよ……ったく」
手を差し出し
「ほら、このチビ! お前も生きるんだよ! それがあいつらの望みだろう!」
そういった。
182名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:54:29 ID:5Cf7WWbz
    
183 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:54:43 ID:XBpbvSgg

後はきぬが手を掴むだけ。
お願い、掴んで。
生きて!




 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・






ボクはずっとその言葉を聞いていた。
あゆのその怒りの言葉を。
その言葉はボクを奮わせた。

純一は生きて欲しいってそういってくれたのか。
なんで死のうとしたのかよ、ボク。
それは純一を否定するだけだったのか。
最悪じゃん……ボク。

でもボクには生きる勇気なんかできっこない。
誰もいない世界なんて。
そう思ってるのに。
184名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:55:00 ID:zAhGMuvG
 
185名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:55:13 ID:5Cf7WWbz
    
186 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:55:32 ID:XBpbvSgg

この初対面の少女、沙羅はどうしてこう心に突き刺さる事を言うんだよ。
でもできっこない。
だって怖いんだ、嫌なんだ。その一歩を踏み出すのが。

「私達は生きなきゃいけない。この残酷の世界で怖くても辛くても苦しくてもね。でも決して一人じゃないのよ。そう一人じゃ。
 だって私達は死んでった人達の思いを背負って生きてるから。だから一人じゃない。たとえ辛くなっても大丈夫だよ。
 励ましてくれるから。いつも傍にいて、大切な人達が。
 だからその分、私達は生きて生きて生き抜いていくんだよ! この世界で! だから生きようよ!」

沙羅の叫びが響く。
独りじゃない……でもやっぱり怖いよお。
生きるって重いんだよ。
でも……沙羅の言葉を信じてみたくなった。

でも何か……足りない。

その時ボクは見つけた。

ボクを動かすものを。

それは釘打ち機を出す時落としたもの。

それは学生服の第2ボタン。

なんでそんなもの持ってったんだ?
でもそれをとった瞬間、記憶が蘇る。
あの短い別れの時間。
187名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:55:39 ID:zAhGMuvG
 
188名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:55:56 ID:5Cf7WWbz
    
189名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:56:10 ID:zAhGMuvG
 
190 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:56:28 ID:XBpbvSgg
『ゴホ……蟹……沢。済まないな、最期までいれなくて、代わりに……これ……やるよ』
『嫌だ……そんな事言うなよ!』
『大したもんじゃないけど……俺の代わりに……辛い時に……励ます為に使えよ』


ああ、純一。
なんでこんな事、おぼえていないなんて。
馬鹿……ボク。
そしてどんどん思い出す。
あの時は別れるのが嫌で聞けなかった。
今はよく響く。
純一の最後の言葉を。
優しいあの言葉。


『いいか……ゴホ……生きろ……何があっても……理屈なんかじゃないんだ……生きて進み続ければいい……どんな時でもな……
 辛くなったら……悲しくなったら……休んだっていいんだ……でも生きることを……諦めるなよ……俺は……この島で知ったから
 蟹沢や……つぐみ……みんな……から……どうしても……駄目だったら……それを見ろ……俺はいつも……傍……いるから
 励ますから……だから……安心……しろよ……傍に……いるから……そうして……また歩き続ければ……いいんだ
 だから……生きろ……蟹沢……生きて……生きて……いき続けろ……それが……願……い……だ……』


191名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:56:47 ID:5Cf7WWbz
    
192名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:57:00 ID:zAhGMuvG
 
193 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:57:30 ID:XBpbvSgg
っあ……あああああ!!!
どうしてあの時しっかり聞いてなかったんだ。
純一は望んだじゃないかよ。
生きることを。
どうしてあの時、うんって答えなかったボクは!

なにやってんだよお……ボクは……ボクはあ!

ボタンを強く握り締める。
強く、強く。
純一に応えるように。

「生きよう! そして帰ろう! 私達は独りじゃないのよ!」
「ほら、このチビ! お前も生きるんだよ! それがあいつらの望みだろう!」

沙羅とあゆの声が響く。
いまなら応えられる。

生きていこう。

大丈夫だ。
勇気はある。
このボタンとともに。

純一、あゆ、沙羅からももらったんだ。
いけるんだ。

諦めちゃ駄目だ。

傍に見ている、純一が。皆が

194 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:58:01 ID:XBpbvSgg

だから見せつけてやろう。
生き続ける様を。

そうずっと、ずっと永遠に。

ボクは歩き続ける。
生き続ける。

純一ありがとう。
諦めないぞ、ボク。

純一も
何時までも何処までも
大好き。

生きよう

だから

ボクは

そのふたりの手を

握り締めた!

「ボクは……生きる! 進み続けてやる! 諦めるもんかーーーー!!!!!!!」

もう絶対諦めてたるんもんか!

見てろよ、純一!
195名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:58:03 ID:5Cf7WWbz
    
196 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:58:44 ID:XBpbvSgg



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・





私達はやっと蟹沢を立ち直らせる事ができた。
……全く手のかかる子だよ。
今は今後の為の情報交換をやっている。
「……後、警戒すべき人間は、月宮あゆ、坂上智代、倉成武の3人よ。ただし倉成武は病気に犯されて凶行に走ってるだけ。治れば何とかなるはずだわ。そちらは?」
月宮あゆ、か。
まさか警戒すべき人物にあがるとはね。あの満身創痍の奴が。
訳わかんないさね。

そしてこっちが伝えるべきはもっとも憎い奴。
「まず一人は……名前がわかんないけど不思議な剣を使う女。そしてもっとも汚い奴が一ノ瀬ことみ!」
ああ、この名前を告げるだけで腹立たしい。
「そいつは無害な人間を騙し殺戮を繰り返している。今は瑞穂とアセリアという女を騙し行動してるさ」
瑞穂とアセリア。
その名を告げた瞬間、
「嘘……瑞穂達が!?」
「マジかよ……」
二人は驚いていた。
197名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:59:04 ID:5Cf7WWbz
    
198名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:59:12 ID:zAhGMuvG
 
199 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 02:59:26 ID:XBpbvSgg

何だふたりとも仲間だったのかい。
って事は信じてもらうことは難しいか。
また仲間を失うのかい。
まあ仕方ないか。信頼してるの私よりあっちの方に違いない。
でも参ったね。
そう思った瞬間
「許さないわね、その一ノ瀬って女。瑞穂達を騙すなんて」
「ああ……一ノ瀬って女、最悪だぜ」
二人は信じられないことをいった。

は?
今なんていった?
「……私を信じるというのかい、アンタ達?」
信じるのか? 私を?
そしたら2人はさも当然のようにこう言いのけた。
「当たり前じゃない、あゆこそ何言ってるんのよ」
「そうだぞ」
「いいのかい白鐘?」
「ええ、短い間だけど、あゆがそんな騙す人間じゃないのはしってる」
「そうだ、ボクもあゆがいなかったならどうなってたか……」

それに、と二人は続け
「「私(ボク)達、仲間じゃない。信じるのが当たり前だよ」」

ああ、何て甘い人間だ。
簡単に信じるって言うか普通?
200名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:59:43 ID:5Cf7WWbz
    
201名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 02:59:54 ID:zAhGMuvG
 
202 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:00:29 ID:XBpbvSgg

仲間……か。
必要ない……っていいたいけど。
こいつらならいっか。
少なくても蟹沢の一件以降こいつらを信用してるのは事実だ。
なら……いいか。
やれやれ甘くなったもんだ、本当に。

「そうか、ありがとよ、白鐘、蟹沢」

そうお礼を言った。でも白鐘気に入らなかったらしく
「……そう思うなら、名前で呼んでくれる? もう仲間なんだから」
「ボクも……できればカニって言って欲しい。皆に言われ続けたからさ」

沙羅とカニか。
私がそう呼ぶのか?
いや……あまり……。
そう思い二人のほうを見ると期待している目で見ている。

ああ! もう! わかったよ!
「これでいいのかい! 沙羅! カニ!」
「ええ! それでいいのよ、あゆ」
「おう、そうだぞ」
2人は満足そうに見る。

はあ、まあいいか。
これから……頼むよ。沙羅、カニ。
やれやれだよ


203名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:00:58 ID:5Cf7WWbz
    
204 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:01:04 ID:XBpbvSgg
それから私達はカニから脱出に好都合な情報を得た。
盗聴されてる事。これは私以外解っていたが。
山頂に「塔」といわれるものが有るらしい。
なにやら首輪に関係する事らしい。

そしてもう一つ、いま沙羅が頭を悩ましてるもの
『国を裂く事ができる最高の至宝……国を裂く事ができる最高の至宝……至宝?……うーん』
「別に今しなくてもいいんじゃねーの?」
「いや! 探偵事務所の助手としてこれはとかなきゃ! 引っかかってるのよ!」
暗号文とやらだ。なんか集めるとあるらしい。
その3つのうち一つ、国を裂く事ができる最高の至宝が何か気になるらしい。

「国を裂く、国を裂く? 至宝…………?」
沙羅の呟きをBGMにしながら考える。

どうやらわたしはなにも脱出について調べてなかった。
ただ復讐だけ。

でも考えなけれならない。
生きるのなら。
帰るのなら。
少しでも脱出の事を。

その時
「国裂く……国裂き……国崎!?……最高!?」
何か閃いたらしく

「国崎最高ボターーーーーーーーン!!!」

そう叫んだ。
205名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:01:40 ID:5Cf7WWbz
    
206 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:02:13 ID:XBpbvSgg

……はあ!?
なんじゃそりゃ!?
ああ遂に
「頭がいっちまったかい……かわいそうに」
「沙羅……」
私とカニは哀れみの視線を沙羅に向ける。
「違!? 違うって!? 本当に有るんだって!?」
「へえ……どんなのかい?」
「ええ……押すとね"イヤッホォォォオゥ国崎最高!!" というのよ」

ふーん
「「……」」
私とカニはもっと哀れんでやった。
馬鹿か。こいつは。
「本当に有るんだって! 本当に」
「ああ! もう解ったから叫ぶな! この糞虫が」
まったく! そんなに必死にならんでも。

う……ん、虫?
確か暗号文の奴って正義を持つ虫だよな。
まさか……いや
こんなトンチなわけがないだろ。
でもさ
「なあ、その虫って蟻じゃないかい?」
そう思い口に出した。
沙羅たちは驚き
「どうしてだよ、あゆ」
「いやさ……アリって漢字で書くと虫に義だろ? ほらそのまんまじゃない」
「おおー」
「そうか……とても簡単の事ね」
207名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:02:40 ID:zAhGMuvG
 
208名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:02:41 ID:5Cf7WWbz
    
209 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:02:47 ID:XBpbvSgg

いや信じるのかい! 思いっきり小学生のなぞなぞだぞ。
あれ? でもこれなら……ある。
ありを食う魔物、いや動物か。
しかも今は私はそれを持っている。
「これじゃないのかい? オオアリクイのぬいぐるみ、朝倉が持ってたさ」
取り出したるはやたら大きいぬいぐるみ。
そうオオアリクイのぬいぐるみ。
朝倉が持ってたもの。

二人は驚き
「きっとそれじゃねーの!? 違いないぜ!?」
「安易に信じるのはよくないけど、可能性は高いわね」
簡単に信じた。
……お前ら、本当に単純だよ。
なんというか……頭痛くなってきた。

でも。
どうやら……私は脱出に貢献できたみたいだ。
なら、頑張るか。
復讐だけじゃなく脱出の為に。
帰る為に。
生きる為に。




 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



210名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:03:14 ID:zAhGMuvG
 
211名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:03:25 ID:5Cf7WWbz
    
212 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:03:34 ID:XBpbvSgg
そしてボク達は意見交換が終わり出発する事になった。
目的はこれにきまった。
「一ノ瀬ことみを探す為に西へ。そして山頂に行きましょう」
取り敢えずことみを探す。その中で塔のある山頂に行くことにする。それで決まった。

そしてボク達は出発しようとした。
でもその前にボクは言いたい事があった。
それはここに居ないムカツク奴への言葉。
みんなの分を篭めての言葉。
「あゆ、沙羅。そこで止まっていろよ」

二人を止めボクはその言葉を大声で発しった。
それは

「鷹野ーーーーーーー!!!!! 聞いてるか! テメー! ボク達は絶対脱出してみせる! 純一達の想いをついで! 
 いつまでもそこでのんびりしてられると思ったら大間違いだ! 直ぐにお前の元にいってテメーを倒す! みんなの分までぶん殴ってやる!
 覚悟しとけよ! ボクは絶対生き延びてやる! 諦めるもんか! 首を洗ってまってろ! おらああ!!!!!!」

鷹野への宣戦布告。

もう止まらない。
213名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:04:02 ID:zAhGMuvG
 
214名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:04:04 ID:5Cf7WWbz
    
215 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:04:18 ID:XBpbvSgg
「ちょっと見つかるでしょ!? そんな大声出して!」
沙羅がボクを焦りなだめた。

あ、そっかこのままじゃ殺し合いに乗った人間に見つかる。
やベー。
「あゆ、沙羅、さっさ行こうぜ!」
「もうちょっと考えて言葉を発しようよ……本当に」
「まったくさね……本当にさ」
「いいじゃねーかよ! たまには!」

そういい僕らは駆け出した。




純一、聞いてるよな?
ボク、純一の遺志を継ぐから。
殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出。
まずはことみって奴からだ。たこ殴りにはするけど。
だから心配すんなよ? 傍にいるって解るから。
純一の分まで鷹野、殴ってやるからさ。
だから、安心しろ。

それにしてもお前解ってやったのか? 第2ボタン。
あれ本当は好きな女が男からもらうものなんだぞ。
だからボク、嬉しかった、純一からその好意の証であるボタンをもらえて。
まあお前はヘタレだから気付いてないだろうけどさ。
216名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:04:36 ID:5Cf7WWbz
    
217名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:05:08 ID:zAhGMuvG
 
218 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:05:24 ID:XBpbvSgg

でも嬉しいのには変わりはないからよ。
だって好きだから。
お前の分まで生きてみせる。

だから進むの諦めーねよ。
なあ? 純一?


それに応えるように何故か手に持ったボタンが温かく感じた気がした。
それは不思議な温かかさだった。




【D-6 森/2日目 昼】


【カニと夜叉と空気】

1:一ノ瀬ことみを探す為西へ。
2:山頂に行く。
3:暗号文を解読したい。

219名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:05:55 ID:zAhGMuvG
 
220 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:05:56 ID:XBpbvSgg

【備考】
※純一達の車はホテルの付近に止めてあり、キーは刺さっていません。燃料は軽油で、現在は約三分の二程消費した状態です。
※山頂に首輪・脱出に関する重要な建物が存在する事を確認。参加者に暗示がかけられている事は半信半疑。
※山頂へは行くとしてももう少し戦力が整ってから向かうつもり。
※鷹野を操る黒幕がいると推測しています
※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました
※ハクオロが死んだと思ってます
※一ノ瀬ことみ、月宮あゆ、坂上智代、倉成武を警戒。
※アセリアと瑞穂はことみに騙されていると判断しました。
※暗号文で正義を持つ虫を食べた魔物=オオアリクイのヌイグルミ@Kanon と考えてます。
 国を裂く事ができる最高の至宝=国崎最高ボタン と沙羅は思ってますが他の2人は半信半疑。




221名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:06:01 ID:5Cf7WWbz
    
222 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:07:28 ID:XBpbvSgg
【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:拡声器、釘撃ち機(10/20)純一の第2ボタン】
【所持品:竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス
     支給品一式x3、麻酔薬入り注射器×2、食料品沢山(刺激物多し)懐中電灯、単二乾電池(×4本)】
【状態:強い決意、左手指先に切り傷、数箇所ほど蜂に刺された形跡、悲しみ】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出 、ただし乗っている相手はぶっ潰す。
0:純一の遺志を継ぐ
1:西へ向かう。
2:武を探す
3:ゲームをぶっ潰す。
4:鷹野と川澄舞に対する怒り
5:殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出


【備考】
※アセリアに対する警戒は小さくなっています
※宣戦布告は「佐藤」ではなく「よっぴー」と叫びました。
※ハクオロはそれなりに信頼。音夢を殺したと思ってます。
※あゆを完全に信頼。
※沙羅を完全に信頼。
※純一の死を有る程度乗り越えました。
223名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:07:45 ID:5Cf7WWbz
    
224 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:08:29 ID:XBpbvSgg





【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10 (6/6) 防弾チョッキ 生理用品、洋服】
【所持品:予備弾丸6発・支給品一式x5 ホテル最上階の客室キー(全室分) ライター 懐中電灯】
      、大型レンチ  オオアリクイのヌイグルミ@Kanon クロスボウ(ボルト残25/30)
     ヘルメット、ツルハシ、昆虫図鑑、スペツナズナイフの柄 虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:生理(軽度)、肋骨左右各1本亀裂骨折、強い意志、左前腕打撲(多少は物も握れるようになってます】
【思考・行動】
行動方針:殺し合いに乗るつもりは無い。しかし、亜沙を殺した一ノ瀬ことみは絶対に逃さない。
0:とりあえず西へ。
1:一ノ瀬ことみを追う
2:二人を殺す為の作戦・手順を練る
3:ことみを警戒
4:沙羅とカニと一緒に行動
5:殺し合いに乗った人間を殺す
6;甘い人間を助けたい
7:川澄舞に対する憎しみ


225名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:09:04 ID:zAhGMuvG
 
226名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:09:05 ID:5Cf7WWbz
    
227 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:10:42 ID:XBpbvSgg
【備考】
※ことみが人殺しと断定しました。
※ハクオロの事は徐々に信頼しつつあります。多少の罪の意識があります。
※支給品一式はランタンが欠品 。
※生理はそれほど重くありません。ただ無理をすると体調が悪化します。例は発熱、腹痛、体のだるさなど
※きぬを完全に信頼。
※沙羅を完全に信頼。


【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備: ワルサー P99 (15/16)】
【所持品1:フロッピーディスク二枚(中身は下記) ワルサー P99 の予備マガジン5 カンパン30個入り(10/10) 500mlペットボトル4本】
【所持品2:支給品一式×2、ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭、空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE、往人の人形】
【所持品3:『バトル・ロワイアル』という題名の本、エスペリアの首輪、映画館にあったメモ、家庭用工具セット、情報を纏めた紙×12、ロープ】
【所持品4:爆弾作成方法を載せたメモ、肥料、缶(中身はガソリン)、信管】
【所持品5:地獄蝶々@つよきす、S&W M36(5/5)】
【状態:疲労大・肋骨にひび・強い決意・若干の血の汚れ・両腕に軽い捻挫】
【思考・行動】
基本行動方針:一人でも多くの人間が助かるように行動する
0:ことみを追う為西へ。
1:土永さんに複雑な想い
2:状況が落ち着いたら、爆弾を作成する
3:状況が落ち着いたら、フロッピーディスクをもう一度調べる
4:首輪を解除できそうな人にフロッピーを渡す
5:情報端末を探す。
6:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護。
7:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。 タカノ、というかこのFDを作った奴は絶対に泣かす
8:きぬたちと行動
9:空気って何よ?
228 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:11:53 ID:XBpbvSgg

【備考】
※国崎最高ボタンについて、暗号文と関わりありと考えてます。
※FDの中身は様々な情報です。ただし、真偽は定かではありません。
※紙に書かれた事以外にも情報があるかもしれません。
※“最後に.txt .exe ”を実行するとその付近のPC全てが爆発します。
※↑に首輪の技術が使われている可能性があります。ただしこれは沙羅の推測です。
※図書館のパソコンにある動画ファイルは不定期配信されます。現在、『開催!!.avi』と『第三視点からの報告』が存在します。
※肥料、ガソリン、信管を組み合わせる事で、爆弾が作れます(威力の程度は、後続の書き手さん任せ)。
※坂上智代マーダー化の原因が土永さんにあることを知りました。
※沙羅が持っていった良美の荷物は地獄蝶々とS&W M36だけです。他の荷物は良美の死体の側に放置しています。
※きぬを完全に信頼。
※あゆを完全に信頼。




 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・





229名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:11:59 ID:5Cf7WWbz
    
230 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:13:23 ID:XBpbvSgg
ここは鷹野がいる部屋。
そこにあるオペレーターの報告があった。
「鷹野様。桜の樹に少し異変が」
高野はけだるそうにそこへ向く。
折角見てたのを邪魔されたのだ。
少し不機嫌だった。

「……何?」
「……報告します。桜の一部が散りました」
「……は? どういう事?」
鷹野はあまりにも予想外の事で驚いた。
突然一部分がかれたのだ。

取り敢えず考えられることを言ってみた
「朝倉純一の死に影響したの?」
「いえ……それよりももっと後です。何かの物に反応したように散ったんです」
「何かに反応? ……解せないわ。朝倉純一が何かを残したとでも言うの?」
「いえ……そこまでは」
「まあいいわ。制限に影響はないのね?」
「はい。それは大丈夫です」
「なら、もういいわ」

鷹野はオペレータを下がらせて思考に没頭し始めた
(なにか……すこしずつ狂ってるわね……でもこれくらいは大丈夫……桜は参加者がいけない場所に有るんだし)

しかし思考の途中で割り込む大声が一つ
231名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:13:58 ID:5Cf7WWbz
    
232名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:14:25 ID:zAhGMuvG
 
233 ◆UcWYhusQhw :2007/11/20(火) 03:15:25 ID:XBpbvSgg

「鷹野ーーーーーーー!!!!! 聞いてるか! テメー! ボク達は絶対脱出してみせる! 純一達の想いをついで! 
 いつまでもそこでのんびりしてられると思ったら大間違いだ! 直ぐにお前の元にいってテメーを倒す! みんなの分までぶん殴ってやる!
 覚悟しとけよ! ボクは絶対生き延びてやる! 諦めるもんか! 首を洗ってまってろ! おらああ!!!!!!」

それはきぬの宣戦布告。
それを聴いた瞬間
「……っ!? この甲殻類!」
頭に血が上り何も考えれなくなってしまった。
だが直ぐに冷静に、そしてあざ笑うように
「ふふ……いいわ。来れるのならかかってきなさい……もっとも貴方の場合辿り着く前に死んでしまうと思うけど……ふふふはははは!!!!」
そう告げた。
そして残るのは
「はははははは!!!!!!!」
鷹野の嘲笑のみ。

【残り13人】
234名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/20(火) 03:15:45 ID:5Cf7WWbz
    
235第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:32:07 ID:BtD9P1td
恐慌、
困惑、
激怒、
失望、
消沈、
様々な感情が私の中に溢れ出して、やがてそれは一つ文章を形作った。

(駄目だこいつら…早く何とかしないと…)

まるで熱病に冒されたかのように、激しい頭痛が襲い掛かって来る。
(まさか…)
驚愕が全身を支配して、指一本動かすことが出来ない。
(まさか……)
体中の力が抜けて、自然とコンソールに体が傾いて行く。
(本気で言っていたなんて……)
俯いて、両手で頭を抱えた。

何となく嫌な予感はしてはいた。
でも、筆談の内容までは解らないし、そんなことは無いだろうと思っていた。
口では最低限のことと、疑われない為の雑談を行い、肝心の内容はもっと確信に迫る物だと思っていた。
いや、言い直そう。
肝心の内容はもっと確信に迫る物だと『期待』していた。 が正しい。
……その期待はあっけなく裏切られた訳だけど……
236第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:33:33 ID:BtD9P1td

(もう…駄目かも……)
全身を虚脱感と倦怠感が襲う。
いや、この程度で駄目だなんて本気で思ってないよ?
でも、
でもねぇ、
今一番期待できるチーム、ううん、今となっては唯一期待できるチームと言ってしまえるかもしれない人達から、こんなアホな意見が飛び出そうとは……。

(逆に、聞かないほうが楽だったかもしれないわね……)
さっきまで、
そう、ほんの数分前までは、この幸運に感謝していた。
首輪解除を期待でき、高い戦力を持つ、宮小路瑞穂、一ノ瀬ことみ、アセリアの三人と、
ノートパソコンを所持しており、羽入を通してこちらの意思を伝えられる相手、古手梨花。
この双方の遭遇は、間違いなく僥倖だった。
古手梨花の首輪を通して、宮小路瑞穂の声が届いて来るまでは。

あそこで彼女達が遭遇さえしていなければ、こんな絶望を覚えずに済んだかもかもしれない。
転送装置の影響で盗聴器が使用不能になった事で、希望を持ち続けられたかもしれない。
彼女達は真実に近い場所に居るという希望に浸り続ける事が出来たかもしれない。
237名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/21(水) 21:33:47 ID:J8Zs9lMh
238第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:34:05 ID:BtD9P1td

……
…………
………………いや、落ち着こう、冷静に、COOLに、KOOLになれ鈴稟。
今なら、今だからこの程度で済んだ。
これから先、もっと重要な、それこそ一分一秒が生死を分ける時に、あんな勘違いをされていて、それでジ・エンド。
と、いう事態が未然に防げた。
その幸運に感謝するべき。
それに、口で言っている内容は全てブラフで、本当の考えを筆談で語っている可能性も……
うん、無い。
……でもでも、羽入が梨花に接触さえすれば、正しい情報が伝わるのだから問題は無い。
羽入任せという時点で激しく問題だらけのような気もするけど……

て、言うかそもそも羽入が微妙なアイテムばかり選ぶのが悪い。
私には理解出来ない深遠な理由があるのかもしれないけど、それにしたってもう少しなんとかならなかったのか。
特にあの国崎最高ボタンは意味不明すぎる。
ことみさんと瑞穂さんが躊躇うことなく否定した時は思わず突っ込んでしまったけど、冷静に考えると多分私も否定しそう、というかする。
あんだけ仰々しい暗号文を書いといて、実はただのダジャレでした、と言われて納得は出来ない。
アレを選ばないといけない理由でもあったのだろうか?

(そういえば、そもそもアレは誰が造ったのかしら?)
支給品は、基本的には武器等の殺し合いに役立つものと、参加者に関係のあるアイテムが選ばれる。
この場合のアイテムとは所持品の事で、服とかアクセサリーとか、あるいは趣味で愛用している物品を意味する。
なので、私も見せしめになった少年の趣味であるゲームに偽装して、特殊プログラムを忍び込ませたのだが……、
アレは、国崎往人本人とは何の関係も無いし、作られた記録も無い。
殺し合いに使える可能性は……まあ、ゼロじゃないけど使う人間はいなそう。
(だから、誰かがわざわざ作ったのだろうけど……)
目的がまるで見えてこない、と考えた所で、
239名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/21(水) 21:34:34 ID:J8Zs9lMh
240第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:34:38 ID:BtD9P1td

「鈴稟、ちょっといい?」
コンコンというノックの音と共に優さんの声がした。

「えっ、あっはい、……なんですか?」
なんだろう?
倉成武の様子でも聞きに来たのかしら?
慌てて立ち上がり、ドアを半分くらい開け、そこに立っていた優さんの顔を見た。
表情は……駄目、読めない。
ただまあ、纏ってる雰囲気からそんなに重要な問題じゃなさそうかな、と思った所で、

「司令が、読んでるわよ」
優さんの口から用件が発せられた。
鷹野が?
一瞬、”ヤバッ?”と思ったけど、どうも優さんの態度からはそんな気配がしない。
となると……なんだろ?
また、トロッコ関係かな?
と、タイムリーなネタを思い浮かべていたけど、
241第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:35:10 ID:BtD9P1td

「『次の放送を、やってみない?』だそうよ」
優さんの一言で全てが凍り付いた。
は、
何…を、
今…何て…………言ったの?
……放送……って無論あれだ。
この時間帯に誰と誰が死んだ、というのを知らせる為の物。
それを……私にやれ?
私に……
私に………
私に、……千影が、死んだ、事を、口にしろ…って言うの?
私の、罪を、悲しみを、後悔を、再び、味わえと?

「馬……鹿な、こ…と……言わないで!」
その言葉を発した相手でもないのに、優さんに叫んだ。
馬鹿に……ううん、楽しんでるんだ!
私が苦しむのを、苦しんでいるのを!
だから……だから、そんな事を言って、弄ぶつもりなんだ!
私は、私は……

「まあ、そうよね。
 姉妹が殺されて、それを普通に放送なんて出来る訳ないわよね」
再び優さんの声がした。
それで、少し…少なくとも表面的には、落ち着いた。


242第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:35:40 ID:BtD9P1td

「うん…、だから……」
「どんな事を口走ってしまうか判らないものね」
お断りしますと続けようとして、遮られた。
「……え?」
「自分の姉妹が死んだのに、なんでまだ他の連中は生きているのか、なんて口にしてしまうかもしれないわね」
「何……を言って?」
「貴方達がさっさと死んでくれれば、私の妹は死なずに済んだとか」
「何を、言っているの! 優さん!!」
再び込み上げる怒りに任せて、優さんの服を掴み上げる。
私は、そんな事は、考えてなんか……
「貴方達だけ首輪を解除するのは気に食わないから爆破しちゃうとか」
けど、優さんは気にせずに続ける。
この……

「何人か、何してるか判らないから念のため殺しちゃうとか。
 首輪を確保しておきながら、間に合わなかったから殺しちゃうとか。
 “つい”そういう“感情に任せたこと”を口走ってしまうかもしれないしね」

(え……?)
黙って、と言おうとしたところで一気に頭が冷えた。
何?
“つい”
“感情に任せたこと”
……え?
でも……ううん、確かに、それなら、けど……
243名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/21(水) 21:35:44 ID:J8Zs9lMh
244第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:36:12 ID:BtD9P1td

「それで、どうするの?」
少し思い悩んだ所で優さんの声がした。
(……そっか、そういう意味だったんだ)
理解、出来た。
私に告げている訳だ。
“チャンスよ”と。
確かに、今なら、いえ、今この時にしか出来ない行為。
姉妹を全て失い、少し錯乱気味な研究班の主任。
それが放送をするなら、何か変な事の一つや二つ喋ってしまうかもしれない。
そう、“何か”
恨み言かもしれないし、何か重要な機密かもしれない。
つまり、利用しろという訳だ。
千影の死という結果を、機会として利用しろと、そんな残酷な事を言っているわけだ。
私の中に、先ほどまでとは違った怒りが込み上げて来た。
最も、そんなものはあっさりと受け流されておるみたいだけど。

そうして、私は
「いえ、やっぱりやります」
と口にした。
245第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:36:43 ID:BtD9P1td
その時、少し、優さんの感情が見えた気がした。



「参加者の皆さん、定時放送の時間だよ。
 今回は私、鈴稟が担当します。
 ちなみに皆さんの首輪は私が作ったものなんだけど、気に入ってくれてるかな?
 もう少しカッコいいデザインにしたかったんだけどね。
 と、まあ余計な話は抜きにして、まずは禁止エリアを発表するよ。

十四時からE−2
十六時からB−6
もう一度言うよ。
十四時からE−2
十六時からB−6
ちゃんと記入出来た?
間違っていても添削とかはしてあげられないから注意してね。

では続いて死亡者を読み上げます。

…高嶺悠人
小町つぐみ
北川潤
二見瑛理子
……千、影
朝倉純一
佐藤良美
土永さん
246名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/21(水) 21:36:48 ID:J8Zs9lMh
247第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:37:13 ID:BtD9P1td

なんだか知らないけど、今回は頑張ってるみたいだね。
私の知り合いも皆死んじゃったなあ。
残念。
でも、あと一息だからここまで来たら頑張ろうね皆。
支給品とかをちゃんと集めれば、楽勝だよ。
強力な武器とか、お気に入りの物とかがあるからね。
疲れたら、それらで気合を入れたり、適当にゲームとかして遊んだりしてもいいかもね。
て、そんなことしたら殺し合いにならないか、難しいね。
……なんかよく判らなくなったので、この辺りで終わりにするよ。
それじゃあ、また次の放送で」


……上手く、いったかな?
こればっかりはなんとも言えない。
ただ、羽入が接触してくれれば、そこから私の意図を読み取ってくれるかもしれない。
そんな事を考えていると、
248名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/21(水) 21:37:29 ID:J8Zs9lMh
249第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:37:44 ID:BtD9P1td

「ふふっ、随分妹想いなのね」
今一番聞きたくない声がした。
「……やらないか? って言ったのは司令だよ?
 …それに」
「……それに?」
一瞬、目を瞑る。
私は、既に汚れきった身だ、今更外面なんて気にしない。
「もう、誰が生き残っても興味がないから。
 ううん、むしろ一度くらいは禁止エリアでの首輪の動作テストをしたいかも」
何もかも失って、壊れてしまったヒト。
ゲームの駒に興味のない、冷徹な人間。
そういう風に装う。

「は、」
鷹野は一瞬呆けていたけど、ややあって、
「あは、はははははは!
 そう、ようやく貴女もこのゲームが楽しめるようになったのね」
楽しそうに、
心底楽しそうに語りかけてきた。
250名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/21(水) 21:38:11 ID:J8Zs9lMh
251名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/21(水) 21:41:51 ID:J8Zs9lMh
252第六回定時放送◇/Vb0OgMDJY代理:2007/11/21(水) 21:52:42 ID:HosxQMbV

「別に、楽しんでなんかいないよ、ただ、誰がどうなっても興味がないだけ」
たとえ演技でも、それだけは許容出来なかった。
だから、続ける。
より、私らしい理由を
「今私に興味があるのは、首輪の完全性。それだけ。
 それを上手くやれば、次以降のゲームで他の姉妹が選ばれても、私の権限で除外出来るようになるかもしれないでしょ」
伝えた。

「あら、そうなの、勿体無いわね。
 でも、それじゃあ仕方が無いわね、せいぜい頑張りなさい。
 貴女の望みが叶うように」
それだけ言って、鷹野は向こうを向いた。
話は終わりということみたい。
私も、鷹野に用なんてない、だから、すぐさま司令室から出ることにした。

……出来ることはした。
後は、祈ることしか出来ない。

どうか、この仕組みが、今回限りでありますように
253名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/21(水) 21:52:43 ID:eCbbpfxJ
「別に、楽しんでなんかいないよ、ただ、誰がどうなっても興味がないだけ」
たとえ演技でも、それだけは許容出来なかった。
だから、続ける。
より、私らしい理由を
「今私に興味があるのは、首輪の完全性。それだけ。
 それを上手くやれば、次以降のゲームで他の姉妹が選ばれても、私の権限で除外出来るようになるかもしれないでしょ」
伝えた。

「あら、そうなの、勿体無いわね。
 でも、それじゃあ仕方が無いわね、せいぜい頑張りなさい。
 貴女の望みが叶うように」
それだけ言って、鷹野は向こうを向いた。
話は終わりということみたい。
私も、鷹野に用なんてない、だから、すぐさま司令室から出ることにした。

……出来ることはした。
後は、祈ることしか出来ない。

どうか、この仕組みが、今回限りでありますように
254 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:03:08 ID:Fckykyjk
放送。
それは全ての参加者達に深い悲しみを齎す、絶望の鐘。
僕――宮小路瑞穂は、C-4とC-3の境界線に位置する草原で、六回目となる放送に耳を傾けていた。

『……なんかよく判らなくなったので、この辺りで終わりにするよ。
 それじゃあ、また次の放送で』

……放送が終わった。
呼ばれた人数は、八人。
生き残っていた人々の実に半数近くが、僅か六時間の間で命を落としてしまったのだ。
そんな驚くべき事実を聞いても、僕達は取り乱したりしなかった。
ノートパソコンに搭載されている、殺害ランキングと云う機能のお陰で、死亡者に関する情報は予め入手してある。
だからこそ、何とか冷静さを失わずに済んだ。

けれど、耐える事が出来たとは云え、悲しみは決して無くならない。
大切な人の死を改めて突き付けられたアセリアさんは、きっと心が裂けるような痛みを感じている筈だ。

「……ミズホ」

向けられたアセリアさんの視線は、消え入りそうに弱々しい。
青い瞳の奥底には、一目で見て取れる程の悲しみの色が浮かび上がっている
こんな時にどういう言葉を掛けてあげれば良いのか、僕には分からなかった。
だから僕は口を閉ざしたまま、アセリアさんの肩をそっと手を乗せた。
壊れやすいガラス細工を扱う時のように、出来るだけ優しく撫でる。

「ミズホの手……暖かい」

アセリアさんは小さく呟いて、静かに僕の手を取った。
触れ合っている肌の部分から、アセリアさんの存在が伝わってくる。
そうしていると、不思議と僕の心まで暖かくなって来た。
冷たい雪山の中でお互いを暖め合っているような、そんな感覚。
そのままの状態を暫く続けていたが、やがて梨花さんが声を投げ掛けてきた。
255 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:03:55 ID:Fckykyjk

「瑞穂、アセリア、そろそろ……ね? 残酷なようだけど、私達には立ち止まってる時間なんか無いわ」
「……ん、分かった。ミズホ……もう大丈夫だから、行こう」

梨花さんの声に応えて、アセリアさんはゆっくりと僕から離れて行った。
そうだ――僕達はどんなに辛くても、歩き続けなければいけない。
それこそが死んでいった沢山の仲間達に報いる、唯一の方法に他ならない。

「そうですね……では改めて、役場に向かいましょう」

僕達は再び歩き出す。
それぞれの胸に、大きな悲しみを抱えながら――


    ◇     ◇     ◇     ◇


放送から一時間半後。
歩きやすい草原や市街地を通ってきたお陰で、僕達は大した苦労も無く役場に辿り着いた。

「……酷いの」

開口一番に、ことみさんが眼前の建物を眺めながら呟いた。
それは、僕が抱いた感想と全く同じもの。
役場らしき建物は、扉を中心に夥しい程の切り傷が刻み込まれている。
一目見ただけでも、この地で行われた戦いがどれ程激しい物だったか、容易に推し量る事が出来た。
しかし、だからといって尻込みしている訳にもいかない。
この役場の中の何処かに、『特別なゲームディスクを必要としているパソコン』がある筈なのだから。

「アセリアさん……如何ですか?」
「……ん、大丈夫。今の所……私達以外の、誰の気配もしない」
256 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:05:01 ID:Fckykyjk

僕達は慎重な足取りで、役場の中へと侵入してゆく。
建物の内部は、一部がピンク色の粉に汚されていたものの、大きな損傷は見受けられなかった。
静まり返ったフロアの中で、案内所に掛けられた振り子時計の音だけが、規則正しく鳴り響いている。

「潤の話によれば、パソコンは此処に置いてあるらしいわ」

そう云って梨花さんが指差したのは、案内板の隅に載っている仮眠室という場所だった。
案内板の地図を参考にして移動すると、仮眠室は直ぐに見付かった。
早速アセリアさんが、扉のノブを掴んで押し開けようとする。
けれど扉はガチャガチャという音を立てるだけで、何度やっても開きそうには無かった。
きっと、鍵が掛けてあるのだろう。

「皆さん、ちょっと此処で待っていて下さい。鍵を取ってきますね」

建物の内部が安全なのは既に確認済み。
だから僕は、一人で鍵を取りに行こうとしたのだけれど――

「……ん、必要無い。開かないのなら……壊せば良いだけ」
「え――――」

掛けられた声に、慌てて振り返る。
するとアセリアさんが、永遠神剣第四位『求め』を天高く振り上げている所だった。
アセリアさんはそのまま、手にした大剣を扉目掛けて振り下ろす。

「てやああああああっ!!」
「…………っ」

鳴り響く轟音、飛散する木片。
アセリアさんの放った凄まじい一撃は、仮眠室の扉を粉々に粉砕し尽くした。

「うん……これで入れる」
257名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:06:28 ID:WLWIpw10
 
258 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:07:04 ID:Fckykyjk

余計な手間を省いてみせたと云わんばかりに、若干得意げな表情を浮かべるアセリアさん。
僕、ことみさん、梨花さんは僅かばかりの間呆然としていたが、やがて三人揃ってアセリアさんに歩み寄る。
そして大きく息を吸い込んだ後に、放ったのは。

「「「――アセリア(さん)っ!!」」」

軽率な行動を叱責する、怒りの叫びだった。


    ◇     ◇     ◇     ◇


「ふう……」

……流石に、さっきは生きた心地がしなかったの。
仮眠室の奥に置いてあったパソコンが無事だと確認してから、私、一ノ瀬ことみは小さく溜息を吐いた。
仮眠室には色あせた畳が敷き詰められており、中央には布団も敷いてあった。

廊下では、今も瑞穂さんがアセリアさんに説教を続けている。
対するアセリアさんは、飼い主に叱られた子犬のように力無く項垂れていた。
少し可哀想な気もするけれど、今回ばかりは仕方ないの。
もし部屋の入り口付近にパソコンが置いてあれば、扉ごと壊されてしまったかも知れないのだから。

「やれやれね……。まあとにかく、パソコンが無事で良かったわ。
 あんな事で希望が絶たれるなんて、笑い話の種にもなりはしない」

横に居る梨花ちゃんが、心底呆れた顔で呟いた。
出会ってからこの方、梨花ちゃんはずっとこのような口調だ。
艶やかな黒色の長髪、大きな瞳、そして私よりも数十センチは低い身長。
幼い外見をしているにも関わらず、随分と大人びた話し方をする女の子だと思う。
259名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:07:58 ID:WLWIpw10
 
260 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:08:27 ID:Fckykyjk

「それじゃ、早速パソコンを動かしてみましょうか」
「うん、分かったの」

私は小さく頷いた後、徐にパソコンの電源ボタンを押す。
そのまま暫く待っていると、やがて全く見覚えの無いOSが起動した。
……こんなOS、少なくとも私の知る限りでは存在しない。
もしかしたら、この殺し合いの為に用意された特殊な物かも知れない。
普通のパソコンなら、内部のデータを根こそぎ抜き出すという手もあったけど、それは不可能になった。
下手に弄って故障してしまったら、もう取り返しが付かないの。
此処は素直に、フカヒレさんのゲームディスクを起動させてみるべきだろう。

「準備良し……と」

ゲームディスクを挿入してから、ディスプレイ上にあるアイコンをダブルクリックする。
デフォルトされた女の子の顔をしたアイコンは、この島には不釣合いな程に可愛らしい。
けれどこれは、あくまでカモフラージュに過ぎない筈。
梨花ちゃんがじっとディスプレイを眺めながら、口元を笑みの形に歪めた。

「ふふ、鬼が出るか蛇が出るか――楽しみね」
「うん……きっと、何か凄いものが隠されていると思うの」

特別なディスクを必要とするパソコンと、特定の個人名が入ったゲームディスク。
どちらか片方が欠けてしまえば、このアイコンのプログラムは動かせない。
過酷な殺し合いの中で特定のアイテムを二つ共揃えるのは、決して容易では無い。
寧ろ、極めて困難であると云っても過言ではないだろう。
これだけの労力を必要とするのだから、起動に成功した暁には、きっと想像も付かないような物が手に入る筈なの。
それが何かは分からない。
とても重要な情報かも知れないし、主催者の準備した恐ろしい罠という可能性だってある……!

そう考えた私は梨花ちゃんと一緒に、期待と不安の入り混じった目でディスプレイを注視していたのだが――
やがてディスクの起動が完了し、ディスプレイにある画像が浮かび上がってきた。
261名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:08:41 ID:yIXGyqcs
262名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:09:15 ID:WLWIpw10
 
263 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:10:05 ID:Fckykyjk


「…………は?」


梨花ちゃんの口から、呆然とした声が漏れ出る。
ディスプレイに映し出されたのは、愛くるしい女の子達の顔、顔、顔。
画面上部に表示されているタイトルは、『ブルーベリー・パニック』……何だかとっても甘そうな名前なの。
何処から如何見ても、所謂恋愛ゲームのようにしか見えない。
つまり、このゲームディスクは――名前通り、フカヒレさんのギャルゲーだったのだ。

「……コメントする気も起きないわね」

梨花ちゃんは疲れた声で呟いた後、敷いてあった布団の中に潜り込んだ。
無理もない。
私だって今すぐそうしたい気分だ。
一縷の望みに懸けて、わざわざこんな遠くまで来たのに、得られた物が只のゲームでは余りにも報われない。
罠だったのなら未だ理解も出来るが、こんな毒にも薬にもならないような物を用意して、主催者は何がしたかったのだろうか。
まさかこんな殺し合いの最中に、暢気にゲームで遊ぶ人がいる訳――
そこまで考えた時、頭の中で何かが引っ掛かった。

殺し合いの最中にゲームで遊ぶ。
それは普通に考えれば有り得ない、愚か極まりない行動。
けれど私は少し前、その愚行を勧められた筈だ。
そう――六回目となる放送をした人物に、勧められたのだ。
一体、何故?

「梨花ちゃん、ちょっと聞いて欲しいの」
「……何?」

いかにも不機嫌といった表情で、梨花ちゃんが布団の中から顔を出す。
私は少し間を置いてから、浮かんだ疑問をそのまま口にした。
264名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:10:08 ID:yIXGyqcs
265名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:11:07 ID:WLWIpw10
 
266名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:11:07 ID:yIXGyqcs
267 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:11:46 ID:Fckykyjk
「さっきの放送をした人――鈴凛さんは、『適当にゲームとかして遊んだりしてもいいかもね』と云っていたの。
 もしかしたらアレは、私達に向けられたメッセージだったのかも知れない」
「……タイミング的に考えるとそうかもね。でも、それがどうかしたの?
 要するに、鷹野の手下が私達をからかったって事でしょ? 考えるだけでも苛立ってくるわ」
「ううん、それは違うと思う」

梨花ちゃんが吐き捨てるように云ったが、私は首を大きく横に振った。
勿論、梨花ちゃんの云い分が正しい可能性だってある。
鈴凛さんは、ゲームディスクに夢中になっている私達を嘲笑っていただけかも知れない。
けれど――

「死亡者発表をしている時の鈴凛さんの声……とっても悲しそうだったの。
 皆の死を悲しめるような人が、私達を嘲笑う為だけに、あんな事を云ったりはしないと思う。
 多分、ゲームディスクには何かしらの意味があるの」

高嶺悠人さんや千影さんの名前を呼んだ時、鈴凛さんの声は明らかに震えていた。
決して気の所為なんかじゃないと、思う。
人の死を悲しめる彼女は、鷹野のような悪魔とは明らかに違うタイプの人間だ。

「何か確証はあるの? それとも只の直感かしら?」
「確証は無いの。でもきっと、鈴凛さんは悪い人じゃない筈……」

値踏みするような梨花ちゃんの視線が、私に突き刺さる。
じっと見つめ合う事十数秒、やがて梨花ちゃんが表情を緩めた。

「分かったわ……貴女に懸けてみましょう。
 サイコロは振らなきゃ目が出ない――何事もやってみなければ始まらないものね」

梨花ちゃんは力強い言葉と共に頷いてくれた。
こうして梨花ちゃんの同意も得られ、私は『ブルーベリー・パニック』というゲームをプレイする事になった。
まずはこのゲームに関する説明を一読して、『ブルーベリー・パニック』の大まかな内容を理解した。
説明文は、以下のような感じだったの。
268名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:11:53 ID:yIXGyqcs
269名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:12:43 ID:WLWIpw10
 
270 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:12:59 ID:Fckykyjk


――アストラエアの丘、そこには、三つの女学校が建ち並んでいました。
聖ミアトル女学園、聖スピカ女学院、聖ル・リム女学校。
そして、その敷地のはずれにある三校共通の寄宿舎である、ブドウ舎。
アストラエアの丘……それは男子が立ち入る事の許されない聖域でした……。
聖ミアトル女学園に編入する事になった蒼井渚(高校1年生・女子)は、新しい学園生活への期待と不安で胸がいっぱいです。
プレイヤーである貴方は渚を操作して、秘密の花園に集う乙女達との親睦を深めてあげて下さい!



説明は以上。
……何だかとっても危険な予感がするけど、きっと気のせいなの。
舞台は女子校。
常識的に考えて、女の子同士でいかがわしい行為をするなんて事は無いだろう。
このゲームは、女の子同士で友情を深めていくという、すこぶる爽やかな内容の筈。
一抹の不安を振り払った私は、意気揚々と『ブルーベリー・パニック』の世界に飛び込んだ。



『うう……間に合わないよ〜〜!!』

ポニーテルの美少女、蒼井渚は一生懸命走っていた。
転校初日から、遅刻しそうになっていたのだ。
だが努力の甲斐もあって、遅刻せずに学校の敷地地内へと駆け込む事が出来た。

『うわあ、この制服素敵……。あ、この制服も可愛いかも……!』

登校途中の女子学生達は皆華やかな制服を着用しており、渚は思わず目を奪われてしまう。
しかし、走りながらの余所見は非常に危険。
前方不注意だった渚は茂みに突っ込んでしまい、そのまま坂を数十メートル程転げ落ちた。
……とってもツッコミたい気分だけど、我慢するの。
271名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:13:02 ID:yIXGyqcs
272 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:14:10 ID:Fckykyjk
気を取り直した渚は、何とか立ち上がって再び歩き始める。
そんな折、渚の前に一人の女性が現われた。

『すっごく綺麗な人……』

呆然としている渚の口から、そんな言葉が零れ落ちた。
これには私も同意出来る。
現われた女性は、銀色の長髪と切れ長の瞳を湛えた、とても美しい人だった。
女性は大人の風格を漂わせており、あくまでゲーム上の登場人物に過ぎないというのに、思わず私まで圧倒されてしまう。
その後幾つか会話を交わして、女性は花園静馬(はなぞのしずま)という名前である事が分かった。

『フフ……』

突然、静馬さんが穏やかな微笑みを浮かべた。
全てを包み込む聖母のような、見ているだけで心が癒されるような、そんな笑顔。
途端に渚は身体が硬直して、動けなくなってしまう。
渚の頬は、リンゴよりも真っ赤に染まっている。
そんな渚の肩を、静馬さんは優しく抱き寄せた。
徐々に近付いてくる、静馬さんの唇。
え……。
この展開は、まさか――――


『えぇ――――!?』
「えぇ――――!?」


パソコンから放たれる渚の絶叫と、私自身の放った絶叫が、部屋中に木霊する。
画面の中では、静馬さんが渚の額に口付けをしていた。


    ◇     ◇     ◇     ◇
273名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:14:13 ID:yIXGyqcs
274名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:14:49 ID:yIXGyqcs
275名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:14:54 ID:WLWIpw10
 
276名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:15:43 ID:yIXGyqcs
277 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:15:43 ID:Fckykyjk


「――ことみさん、どうしたんですか!?」
「……コトミッ!?」

ことみさんの叫び声を聞き取った僕とアセリアさんは、部屋の中へと駆け込んでいった。
すると真っ赤な顔をして俯いていることみさんと、呆れ顔の梨花さんが目に入った。
事態を把握すべく、僕は梨花さんに質問を投げ掛ける。

「梨花さん、一体何があったんですか?」
「……瑞穂、実はね――――」

そうして僕とアセリアさんは、梨花さんから一通りの説明を受けた。
ことみさんはゲームディスクに重大な秘密が隠されていると考え、『ブルーベリー・パニック』というゲームをプレイしていた。
しかし予想を大幅に上回るハードな内容――平たく云えばレズ物だった為に、耐え切れなくなってしまったのだ。

「ことみはあんな様子で、もうゲームを続けられそうも無い。だから、代わりに貴女がこのゲームをやってくれないかしら?
 このゲームをクリアすれば、何かが起こるかも知れないのよ」
「え、でも……」
「私はパソコンの操作方法が未だ余り分からないわ。如何考えても、貴女の方が適任よ」
「……分かりました、やれるだけやってみます」

正直な所、やる気は全くしない。
っていうか、する筈が無い。
何が悲しくて、レズ物の恋愛ゲームなどプレイしなくてはいけないのか。
女装したままレズ物のゲームをプレイする変態、宮小路瑞穂。
……自分で云ってて悲しくなってきた。
だけど、それでも僕がやるしかないのだ。
今のことみさんにプレイを強いるのは酷だし、アセリアさんや梨花さんでは上手くパソコンを扱えないだろう。

「あああ……なんでこんな事に…………」
278名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:16:50 ID:yIXGyqcs
279 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:16:56 ID:Fckykyjk
僕はぼやきながらも、パソコンの画面と向き合った。
画面の中では、主人公の蒼井渚が目を醒ました所だった。

『――何だったの? 全部夢だったの?』

静馬さんにキスされた後、渚は気を失っていたようだ。
気絶したまま、近くにある校舎の病室まで運ばれたらしい。
暫くベッドで呆然としていた渚だったが、やがて横に居る人影に気付く。

『うわあ!? 貴女は一体……』
『ごめんなさい、驚かせてしまいましたね。あんまり寝顔が可愛いものだから、思わず見惚れてしまいました。
 初めまして、私は涼水玉青(すずみたまお)です』

僕は渚を操作して、玉青さんとの会話を続けてゆく。
どうやら玉青さんは、渚と同じ寮、同じ部屋の、所謂ルームメイトであるようだった。
外見は可愛い子なのだが……明らかに態度が可笑しい。
『渚さんの可愛い寝顔を眺めていたら、あっという間に時間が過ぎていました』などという恥ずかしい台詞を、平気で云ってのける。
しかも初対面であるにも関わらず、3サイズまで測ってきたのだ。
レズ志向の子であると考えて、まず間違いないだろう。

「うう……このゲームはこんな子ばかりなのかな……」

僕が通っていた聖應女学院にもレズ志向の子は沢山居たが、ここまであからさまな子は初めてだ。
僕は頭が痛くなる感覚を覚えながらも、着々とゲームを進めてゆく。
その後も様々な女の子が登場したが、一人の例外も無くレズ志向だった。
そんな中でも特に印象的なのが、物語の始めにいきなりキスをしてきた静馬さんだ。

花園静馬――三校の生徒会を束ねるエトワール。
歩くだけで、周囲の視線を一身に集める程の美人。
因みにエトワールとは、現実世界で僕が就いているエルダー・シスターと同じようなものだ。
全校で最も人気のある者が就く、生徒達を纏めるリーダー的役職だと考えて貰えば、分かり易いだろう。
そんな名誉ある地位の静馬さんだが、渚に対する彼女の行動はとにかく凄まじい。
280名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:17:09 ID:WLWIpw10
 
281名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:17:47 ID:yIXGyqcs
282 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:17:58 ID:Fckykyjk

『ふふ……可愛い子ね』

そう云って、渚の身体を抱き寄せる静馬さん。
今彼女達が居る場所は大食堂で、当然他にも多くの生徒達が居る。
にも関わらず静馬さんは、堂々とキスしようと試みているのだ。
静馬さんが迫って来たのは、今回だけではない。
ある時は野外で、ある時は真夜中のプールで、場所も人目も気にせずキスしようとしてくる。
迫られる側の渚もまんざらではないらしく、大した抵抗はしない。
殆どは途中で邪魔が入って、キスの実行には至らないものの、両者の気持ちが通じ合っているのは明らかだった。

これだけ書くと、明らかに有り得ない。
人目も憚らず同性愛にのめり込む彼女達の姿は、常人から見れば異常としか云いようが無いだろう。
だけど……僕には、渚や静馬さんの気持ちが少なからず理解出来てしまった。
その理由は、もう少し後で述べる事にする。


物語は順調に進んでゆき、渚は静馬さんと共に舞台劇を行う事になった。
しかし練習初日、予期せぬ事態が起こる。
アクシデントが発生し、舞台セットの一部が倒れてしまったのだ。

『きゃあああああっ!』

渚に向けて、全長五メートルはあろうかという巨大な板が迫る。
このまま下敷きになってしまえば一溜まりも無いが、渚は腰が抜けてしまって動けない。
だがそこで渚に走り寄る、一つの影。

『――渚ぁぁぁぁっっ!!』
283名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:18:18 ID:WLWIpw10
 
284名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:18:58 ID:yIXGyqcs
285 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:19:00 ID:Fckykyjk

颯爽と駆け付けた静馬さんが、渚を抱き上げて離脱する。
お陰で渚も含めた全員が、怪我一つせずに済んだ。
静馬さんは美しいだけでなく、男の僕から見ても格好良い。
紫苑さんのような女性特有の色香と、武さんのような力強さ、その両方を持ち合わせているのだ。
流されるままエルダー・シスターになった僕とは比べ物にもならない、本物のリーダー。
これでは渚が惹かれてしまうのも、無理はないだろう。
そして渚もまた、静馬さんに釣り合うだけの魅力を持っている女の子だった。

『静馬様が、あれだけ熱心に教えてくれてるんだもの。私だって頑張らないと……!』

演劇のリハーサルが終わった後も、独り残って練習をし続ける渚。
何でも完璧にこなす静馬さんに比べ、渚の演技は余りにも稚拙。
はっきり云ってしまえば、役者としての才能が違い過ぎる。
それでも渚は諦めずに、昼夜を問わずに努力し続けていた。
元気だけが自分の取り得だと云って、何時も笑顔で頑張っていた。
その甲斐あって、劇の本番では素晴らしい演技を魅せる事が出来た。
どんな苦難にも立ち向かってゆける強い心と、全てを照らす太陽のような笑顔――それが、渚の魅力だ。

方向性こそ違うものの、誰にも負けない長所を持った渚と静馬さん。
そんな彼女達が惹かれ合うのは、ごく自然な事だったのかも知れない。
渚と静馬さんの距離は急速に縮まってゆき、やがて深い絆で結ばれるようになった。
……嘗ての、僕と貴子さんのように。

だが、幸せは何時までも続かない。
玉青さんの発言から判明した事実が、渚の心に大きな波紋を齎した。

『え……玉青ちゃん、それは本当なの?』
『はい。静馬さんには、嘗てパートナーが居ました。深く愛し合った末、共にエトワールに就かれた人が……』
286名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:20:01 ID:yIXGyqcs
287 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:20:11 ID:Fckykyjk
その後も、静馬さんやエトワールに関する説明は続いた。
概要を纏めると、以下のようになる。
本来エトワールとは一人では無く、強い絆を持った二人が一丸となって務める役職だったのだ。
此処で云う強い絆とは、レズ的な意味を想像して貰えれば、大きな間違いは無いと思う。
レズ必須の役職って倫理的に考えて如何かとは思うけど……ともかく、そういう事らしい。

次に、静馬さんについてだ。
静馬さんには、共にエトワールとなったパートナーが存在した。
桜木花織(さくらぎかおり)さんという方だ。
花織さんは嘗て静馬さんと深く愛し合っていたが、持病の所為で既に他界してしまった。

最後に、これは玉青さんも知らない事だが――静馬さんの心には、今も花織さんの存在が深く根付いていた。
渚を、花織さんの代わりとして利用している部分があったのだ。
いかな静馬さんといえど、そのような気持ちを何時までも隠し通せる筈が無い。
真実に気付いた渚は、大喧嘩の末静馬さんと決別してしまった。


そして静馬さんとの仲は戻らぬまま、渚は新たな運命の奔流に巻き込まれる。
現在のエトワールは静馬さんだが、彼女は後半年で卒業する。
故に、次のエトワールを決める選挙――通称エトワール選が行われる事となった。
そのエトワール選に、渚は玉青さんと組んで出馬する事になったのだ。

エトワールに当選してしまえば、渚と玉青さんは否応無く恋人的な関係を強要される。
未だ静馬さんへの想いを吹っ切れていない渚が、自分からエトワール選に出る筈も無い。
渚が出馬したのは、他ならぬ静馬さんの命令によるもの。
静馬さんは、玉青と付き合わせた方が渚を幸せに出来ると判断し、そんな命令を下したのだ。

「これは……私に道を選べって事みたいね……」

此処で、パソコンの画面上に二つの選択肢が表示された。
静馬さんとの復縁を狙うか、もしくは玉青さんと新たな道を歩むか、である。
こういった類のゲームは、誰か一人と円満な仲を築ければ、それでゲームクリアになる。
288名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:21:21 ID:yIXGyqcs
289 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:21:22 ID:Fckykyjk

心情的には渚を静馬さんと仲直りさせて上げたいが、それは恐らく難易度が高い筈。
ゲームオーバーになってしまう危険性も、十分考えられる。
逆に玉青さん狙いでプレイしてゆけば、何ら問題無くゲームクリアする事が出来るだろう。
仲直りの為の行動さえ起こさねば、このまま玉青さんと結ばれる筈なのだ。
時間は有限なのだから、最初からゲームをやり直しているような暇は無い。
故に僕は私情を捨てて、玉青さんとの道を選ぼうとしたのだが――その時、誰かが僕の肩を軽く叩いた。

「……アセリアさん、如何したんですか?」

背後へと振り返ると、アセリアさんの姿が視界に入った。
アセリアさんは何処までも澄んだ眼差しで、じっとこちらを見詰めている。

「……ミズホ、諦めたら駄目。何とかして……仲直りさせて上げて欲しい」
「――え?」
「このままじゃ……ナギサやシズマが可哀想」

縋るような表情で、必死に訴え掛けてくる。
アセリアさんは純粋な心を持っている分、ゲーム中の登場人物にも深く感情移入しまうのだろう。
……僕だって、出来れば渚は静馬さんと結ばれて欲しい。
この島は悲し過ぎる運命で溢れ返っているから、仮想空間の中だけでも幸せな結末を見たい。
流れに身を任せたまま、渚が玉青さんと結ばれたとしても、それは決して幸せな結末だとは云えないだろう。

「大丈夫――ミズホなら、きっとやれる」

揺るぎの無い、力強い言葉。
アセリアさんは、こんな僕の事をこれ以上無いくらい信頼してくれている。
だったら――応えないと。
アセリアさんの信頼に応えて、渚と静馬さんを助けて上げないと。
僕はアセリアさんに向けて大きく頷いた後、再びマウスを手に取った。
目標は静馬さんとの復縁。
エルダー・シスターとしての誇りに懸けて、絶対成し遂げてみせる。
290名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:22:27 ID:yIXGyqcs
291名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:22:32 ID:WLWIpw10
 
292 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:23:41 ID:Fckykyjk
僕が考えるに復縁の鍵となるのは、決して諦めずに何度も話し合う事だ。
確かに静馬さんは、渚を花織さんの代わりとして愛していた。
だけど、それだけじゃない筈。
少なからず渚自身の事も、愛していた筈なんだ。
お互いの気持ちを余す事無く伝い合えれば、きっと以前のような関係に戻れる。

だから僕は、渚を静馬さんの下に向かわせ続けた。
けれど静馬さんも軽い気持ちで、渚さんとの別れを決意した訳じゃない。
最初は上手く行かなかった。

『渚――貴女はエトワール選に出なければいけないのよ。
 こんな所で油を売っている暇があったら、ダンスの練習でもしてきなさい』

一昔前からは考えられないような、素っ気無い言葉。
何度話し掛けようとも、静馬さんは渚を冷たくあしらうだけだった。
その度に渚は傷付いていったが、それでも僕は行動方針を曲げなかった。
今渚にとって重要なのは、痛みから逃げる事などではなく、静馬さんと一つでも多くの言葉を交わす事なのだから。

そうやって諦めずに静馬さんの所へ通っていると、徐々に変化は訪れてきた。
静馬さんの口調が心無しか柔らかくなって、会話も長続きするようになった。
冷たくあしらわれたりもしない。
少しずつ、だけど確実に渚と静馬さんの距離は縮まっていった。
だけど二人の仲を元通りに戻すには、余りにも時間が足りない。
審判の時――エトワール選決行日は、静馬さんとの復縁を成し遂げる前に訪れてしまった。
293名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:23:45 ID:yIXGyqcs
294名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:23:58 ID:WLWIpw10
 
295名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:24:39 ID:WLWIpw10
 
296名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:24:54 ID:yIXGyqcs
297 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:25:01 ID:Fckykyjk


『(お願い……如何か、エトワールに選ばれませんように……)』

場所は教会の大聖堂。
全校生徒の視線を浴びながら、渚はひたすら祈り続けた。
エトワールに選ばれてしまったら、もう静馬さんとの復縁は絶望的になる。
パートナーであるもう一人のエトワール、玉青さん以外と交際するのは許されないからだ。

(玉青さんには悪いけど……お願い。渚さんをエトワールに選ばないであげて……)

僕も渚と同様、一生懸命祈った。
渚に、静馬さんと復縁し得るだけの時間を与えて欲しかった。
僕と貴子さんは離れ離れになってしまったけど、渚だけでも幸せになって欲しい。


『投票結果を発表します』


だけど、運命とは残酷なもので――


『次期エトワールは、蒼井渚さんと涼水玉青さんに決定致しました』


絶望を報せるアナウンスが、大聖堂内に流された。
どさりと、渚が膝から地面に座り込む。
……終わった。
僕はアセリアさんの期待に応えられなかったし、渚を幸せにしてあげる事も出来なかった。
ゲームディスクをクリアするという目的すらも、果たせなかった。
最初からやり直す事は可能だが、貴重な時間を浪費してしまったのは間違いない。
自分への怒りと失望が、僕の心を覆い尽くす。
298 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:26:06 ID:Fckykyjk


だが――未だ、終わってはいなかった。
唐突に大聖堂の扉が開け放たれ、そこからとある人物が現われた。

『――静馬、様……?』

渚の口から、呆然とした声が零れ落ちる。
銀色の美しい髪、切れ長の澄んだ瞳。
現われたのは、静馬さんだった。
静馬さんは驚愕する生徒達の視線を一身に受けながら、呆然とする渚に歩み寄った。


『渚…………ッ! 他の誰でも……花織でもない……。私は貴女を――』


渚に向けて手を差し出しながら、張り裂けんばかりの声で叫ぶ。



『――――愛してるの!!!!』



大聖堂内に木霊する絶叫。
それは静馬さんの心から漏れ出た、魂の叫びに他ならない。
渚は強く地面を蹴って、静馬さんの胸へと飛び込んだ。

『静馬様…………、静馬さまぁ…………っ!!』
『渚……!』
299名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:26:07 ID:yIXGyqcs
300 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:27:01 ID:Fckykyjk
ざわざわと騒ぐ生徒達の声も、今の二人には届かない。
すれ違っていたこれまでの時間を埋めるべく、強く、強く、抱き締め合う。
どれ程の間、そうしていただろうか。
やがて、静馬さんが悪戯っぽい微笑みを浮かべた。

『――渚、行くわよ』
『え……、わわっ!?』

突然、静馬さんが渚の手を引いて走り始めた。
大聖堂の扉を潜り抜けて、大きく広がる外の世界へと躍り出る。
ある程度教会から離れた所で、渚が足を止めて問い掛けた。

『静馬様、これから如何しましょう?』
『……さあ、如何しようかしら』
『え――何も決めてないんですか?』

エトワール選の最中にあのような行動をするなど、前代未聞の蛮行。
故に何か対策があると思っていたのだが、どうやら違うようだ。
静馬さんは紅く頬を染めた後、小さな声で呟いた。

『仕方無いでしょ……貴女をさらう事だけ考えていたんだから』
『はぁ…………』

渚が困った表情で相槌を打つ。
そんな渚の肩を、静馬さんは優しく抱き寄せた。
互いの吐息を感じ取れる程の距離となり、渚の顔が瞬く間に紅潮してゆく。

『渚――――愛してるわ』

触れ合う唇と唇。
熱き乙女の胸のたぎりは、遙かなる蒼穹に昇華し、気高く美しき新たなる星を産み落とす。
寄り添い合う二つの星は、鮮烈な光を放ち、永遠に輝き続けるだろう。
301名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:27:02 ID:yIXGyqcs
302名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:27:39 ID:yIXGyqcs
303名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:28:15 ID:WLWIpw10
 
304 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:28:37 ID:Fckykyjk


【ブルーベリー・パニック:HAPPY END】





……これ何て駆け落ちエンド?
それが僕の抱いた、最初の感想だった。
いや、渚と静馬さんが無事結ばれたのは、凄い良かったんだけどね。
僕が一息吐いていると、アセリアさんが労いの言葉を投げ掛けてくれた。

「……ミズホ、良くやった」
「ええ。でも、今の所何も起きませんね」

ゲームをクリアしたものの、パソコンの画面には何の異変も見られない。
もしかして、何の秘密も隠されていない、只のゲームディスクに過ぎなかったのだろうか?
そんな疑問も湧き上がったが、もう暫くは様子を見る事にする。

「瑞穂さん、お疲れ様なの」
「有り難うございます」

今度は、横からことみさんがペットボトルを差し出してきた。
僕はにっこりと微笑んでからから、それを受け取る。

「……でも、私知らなかったの」
「え、何をですか?」

発言の意図を理解しかねて、思わず僕は聞き返した。
一瞬の沈黙。
その後ことみさんが放った言葉は、予想だにしないものだった。
305名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:28:46 ID:yIXGyqcs
306名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:28:47 ID:WLWIpw10
 
307 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:30:00 ID:Fckykyjk

「瑞穂さん…………女の子同士で、というのが好みだったなんて」
「――――――ッ!?」

な……ななななな、何か壮絶に勘違いされてる――――!?
女装趣味の上、レスビアン嗜好の男、宮小路瑞穂。
……どう考えても変態です、本当にありがとうございました。

僕は力無く崩れ落ちて、地面に両膝と両手を付いた。
何故か周囲が暗くなって、僕の身体だけがスポットライトで照らし上げられているような錯覚に囚われる。
気だるい脱力感が全身を覆い尽くし、気力も萎えそうになってしまった。

だが――そんな僕の意識を覚醒させたのは、パソコンから発された一つの声だった。

『……あー、あー。そこの貴女達、聞こえてるかな?』


    ◇     ◇     ◇     ◇


「こ、これは……!?」

私、古手梨花の目には驚くべき光景が飛び込んで来ていた。
直ぐ傍では、瑞穂達も驚愕の表情を浮かべたまま立ち尽くしている。
突如パソコンの画面に、見知らぬ少女の顔が映し出されたのだ。
少女は頭に大きなゴーグルをつけており、歳は中学生位といった所だろうか。
少女の口が動き、それと同時にパソコンのスピーカーから声が聞こえて来た。

『私は鈴凛――覚えてると思うけど、さっきの放送を読み上げた本人だよ』
308名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:30:04 ID:yIXGyqcs
309名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:30:16 ID:WLWIpw10
 
310 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:31:19 ID:Fckykyjk
確かに、この声には聞き覚えがある。
第六回放送を行った者と同一人物であると考えて、まず間違い無い。
鈴凛――ことみの推測によれば、悪人では無い可能性が高い人物。
無警戒に信頼は出来ないが、取り敢えず話を聞いてみる価値はあるだろう。

「そう……それじゃ、用件を聞かせて貰いましょうか」

まどろっこしい腹の探り合いなどに興じるつもりは、毛頭無い。
単刀直入、余計な言葉を一切交えず私は問い掛ける。
それで私の意図は伝わっただろうに、鈴凛は念を押すように云った。

『……落ち着いて聞いてね。これは貴女達にとって、とても重要な事だから』
「前置きは要らないわ。早く本題に入って頂戴」

どうやら、余程重要な事を話そうとしているらしい。
ゴクリと、横で瑞穂が唾を飲み込む音が聞こえた。
鈴凛は意を決した表情で、ゆっくりと次の言葉を紡いだ。


『今なら――首輪を外せるよ』


瞬間、意識が凍り付いた。
いや、それどころでは無い。
余りの衝撃に、全身、手足の先までもが完全に硬直してしまっている。


『ゲームディスクをクリアしたお陰で、私の準備したプログラムが起動したんだ。首輪の機能を停止させるプログラムがね。
 だから盗聴される心配も、遠隔操作で首輪を爆破される心配も無いよ』
311名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:31:20 ID:yIXGyqcs
312名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:32:25 ID:WLWIpw10
 
313名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:33:09 ID:WLWIpw10
 
314 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:33:17 ID:Fckykyjk

成る程、と思った。
今の言葉が事実なら、確かに首輪を外す事は可能だろう。
聞いた話によれば、ことみは一度首輪の解除に成功している。
主催者サイドからの妨害さえ防げれば、生きている人間の首輪だって外せる筈。
首輪の解除は、主催者打倒の絶対必須条件して、最大の難関。
それを成し遂げられると云うのは、私達にとって最高の話だ。

「それで? まさか、そんな都合の良過ぎる話を信じるとでも思ってるの?」
『え…………?』

だから――当然、信じる事なんて出来なかった。

「梨花ちゃん、ちょっと――――」
「ことみは黙ってて。瑞穂もアセリアも、暫く口を挟まないで頂戴。
 此処は私に任せて貰うわ」

諌めようとしてきたことみを、問答無用で一蹴する。
性格的に甘い所のある瑞穂とアセリアにも、しっかりと釘を刺しておいた。
人を信じる事の大切さは十分に理解しているが、それはあくまでも仲間内での話。
敵陣営に属している人間相手ならば、まずは疑って掛かるのが普通。
軽率な判断を下した所為で罠に嵌められてしまった、という事態は避けなければならない。

「鈴凛――首輪を作ったのは貴女よね? つまり貴女は、鷹野の協力者という事になる。
 そんな貴女が、どうして今更私達に力を貸そうとしているの?」
『それは…………』
「私達に味方してくれる気があるのなら、もっと早くに行動すれば良かった。
 そうすれば、潤や圭一達だって死なずに済んだのに……っ!」

首輪の機能を無効化出来るのなら、何故今頃動いたのだ。
殺し合いが始まってすぐに、そのプログラムとやらを起動してくれれば、皆死なずに済んだ筈。
大勢の人々を見殺しにしておいて、今更手を貸すなんて云われても、信じられる訳が無い。
315名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:33:20 ID:yIXGyqcs
316名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:34:44 ID:yIXGyqcs
317 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:34:45 ID:Fckykyjk
『うん、梨花ちゃんの云う通りだね……。でも私は鷹野に監視されていて、自分からは行動を起こせなかったの。
 だからディスクにプログラムの起動キーを組み込んで、誰かが攻略してくれるのを待つしかなかった』
「そう。つまり私達が泥水を啜っている間、貴女は保身に走っていたって訳ね。
 そんな汚い人間…………信じられるもんかああああああっ!!」
『――――っ』

一喝。
自身の内に巣食っていた鬱憤を、鈴凛目掛けて思い切り叩き付けた。
鈴凛は、潤を、風子を、圭一を……皆を、見殺しにしたのだ。
許せない。
認められない。
信じられない。
怒りで頭が埋め尽くされ、何も考えられなくなった、その時。

懐かしい――とても懐かしい声が、直ぐ傍から聞こえてきた。


「……落ち着くのです、梨花」
「え――――」


私は、自分の目を疑った。
気が遠くなる程の永い時を共に過ごし、だけど私の前から消えてしまった友達。
ずっとずっと会いたくて堪らなかった、時の輪廻の大切な同朋。
それが今、目の前に…………立っていた……。

「は…………羽入っ…………? 羽入なの…………!?」

恐る恐る私が訊ねると、少女はこくりと頷いた。
特徴的な巫女装束に加えて、頭に生えた二本の角。
見間違える筈も無い。
今目の前に居る少女は、間違いなく羽入なのだ。
318名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:35:06 ID:WLWIpw10
 
319名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:36:40 ID:yIXGyqcs
320 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:36:41 ID:Fckykyjk
「羽入、今まで何処に行ってたの! ずっと貴女の事を探してたのよ!?」
「あぅあぅあぅ……ごめんなさいなのです、梨花……。でも、とにかく落ち着いて欲しいのです。
 まずは鈴凛について話させて下さい」

話したい事、問い詰めたい事は幾らでもあるが、確かに羽入の云う通りだ。
今は鈴凛の話が真実であるか如何かを確かめるのが、一番重要。
私は何とか気持ちを鎮めて、羽入の話の続きを待つ事にした。

「鈴凛は嘘を吐いていないのです。参加者達を助ける為に、頑張ってくれています。
 どうか、信じて上げて欲しいのです」

話し振りから察するに、どうやら羽入は鈴凛の事を知っているらしい。
そして羽入が信頼している以上、鈴凛は本当に私達の味方なのだろう。
だがその事実が判明しても、納得行かない気持ちは未だ残っていた。

「貴女がそう云うのなら、鈴凛の話は本当なんでしょうね。でも圭一達を見殺しにした事は……許せないわ」
「梨花……仕方無かったのです。下手な行動を起こせば、その瞬間に鈴凛は殺されていたでしょう。
 だから好機が来るまで、じっと耐え続けるしかなかったのです」

羽入の云っている事は正論だ。
状況が整わぬ内に行動を起こして、何も成し遂げぬまま殺されてしまっては、只の犬死にだ。
誰も、救えない。

『……私がもっと上手くやれてれば、死んでいった人達だって救えたかも知れない。
 見殺しにしたって云われても、否定は出来ないよ。
 でもこれだけは信じて欲しい――私は貴女達を助けたいの』

沈んだ表情をした鈴凛が、一つ一つ言葉を絞り出した。
その声は悲痛な色に染まり切っており、彼女の言葉が本心からの物であると証明していた。
間違いない、鈴凛は本当に私達を助けようとしている。
黒い感情に囚われ続けるのは簡単だが、死んでいった皆はそれを望まないだろう。
思い出せ、潤が最期に遺した言葉を。
321名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:38:16 ID:yIXGyqcs
322 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:38:18 ID:Fckykyjk

――梨花ちゃん……生きろよ……俺と風子の分まで。

私はその言葉に、肯定の意を返した。
ならば、怒りや憎しみなど捨てなければいけない。
皆と手を取り合って、何としてでも生き延びなければならない。
だから私は、鈴凛の瞳を真っ直ぐに見据えて、ゆっくりと手を差し伸べた。

「……分かったわ。私は過去の柵を捨てて、必ず運命に打ち勝ってみせる。
 鈴凛、どうか私達に力を貸して頂戴」


    ◇     ◇     ◇     ◇


瑞穂達は羽入の声や姿を認識出来ない。
だから私は、まずは羽入について簡単な説明を行った。
殆どの人間が認識不可能な、神の如き存在――普通に考えれば眉唾物の話だが、瑞穂達は直ぐに信じてくれた。

そして次に行ったのが、鈴凛や羽入との情報交換だ。
鈴凛の情報から、私達が使っていた役場のパソコンに、とても重要な物が隠されていると判明した。
ゲームディスクの効果や首輪対策について記載されている、企画書だ。
また羽入の情報から、鷹野達の本拠地に攻め込む方法も分かった。

鈴凛の企画書と羽入から得られた情報を整理すると、以下のようになる。


@ゲームディスクをクリアした事によって、首輪の機能を停止させるプログラムが発動した。
山頂にある電波塔を誤作動させ、参加者全員の首輪に、全機能を停止させる為の電波を送信したのだ。
だから暫くの間は盗聴されないし、首輪を爆破される心配も無い。
但し電波塔が通常の状態に戻ってしまえば、首輪の機能は復活してしまうだろう。
323名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:38:35 ID:WLWIpw10
 
324 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:40:02 ID:Fckykyjk
プログラムの効力が続くのは、長く見積もっても後三時間程度。
それまでに生き残り全ての首輪を解除するのは、まず不可能。
つまり皆を救いたければ、電波塔を直接破壊する以外に方法は無い。
又首輪の機能が停止している間は、ノートパソコンの微粒電磁波装置や現在地検索機能、レーダーも無意味なので、注意する事。

Aアセリアや一部の参加者達が力を制限されているのは、島に植えられた『桜』が原因。
『桜』はD-4エリア神社、祭具殿の内部に埋められているが、侵入するには専用の鍵が必要。
『桜』を枯らすか破壊すれば、制限は解除される。

B『大神への道』という暗号文の答えは、国崎最高ボタン、オオアリクイのヌイグルミ、天使の人形。
この三つを揃えて、廃坑隠し入り口から行けるとある場所に持っていけば、羽入の封印が解ける。
正確な場所は、富竹が参加者の支給品に紛れ込ませた、フィルムの中に写っている筈。
羽入の封印さえ解ければ、鷹野達の本拠地『LeMU』に行く道が開かれる。

C鷹野の背後に付いている黒幕は、強大な力を持ったディーという名の神。
詳細に関しては、羽入や鈴凛にも分からない。

D羽入は廃坑の奥地に封印されている。
外を動き回れるのは、ディーが眠っている間だけ。
又、私(梨花)以外の人間でも、契約者か雛見沢症候群発症者なら、羽入の姿を目視出来る。

E鷹野の陣営も、決して磐石ではない。
鈴凛や富竹は私達の味方だし、優という人物も説得次第では改心してくれるかも知れない。
但し、富竹は今囚われの身である。

F役場付近の駐車場には、鍵の掛かっていない乗用車を幾つか混ぜてある。
それらを利用すれば、素早く電波塔に向かう事が出来るだろう。
325名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:40:04 ID:yIXGyqcs
326名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:40:26 ID:WLWIpw10
 
327名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:41:41 ID:WLWIpw10
 
328 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:41:45 ID:Fckykyjk


以上が、新たに判明した情報だ。
……正直な所、驚愕を隠し切れない。
あの女――鷹野三四は、本物の神すらも味方に引き込んだらしいのだ。
神の力を借り、大勢の人の命を踏み躙ってまで行われた、今回の殺し合い。
吐き気を催す程の、圧倒的な悪意。
何が鷹野を、そこまで駆り立てていると云うのだろうか。
しかし今は鷹野についてよりも、今後どうすべきか考える方が重要だ。

得られた情報の中で最優先すべき事柄は、やはり@に記載されてある、電波塔の破壊だろう。
首輪さえなんとかすれば、参加者同士の殺し合いを食い止められる。
出来るだけ早く実行に移したい所だが――今は未だ、役場を離れられなかった。

鈴凛は情報交換を行った後、鷹野の元に向かうと言い残して、一旦通信を中断した。
表向きは電波塔の異常に対処する為、そして本当は鷹野達の動向を探る為だ。
敵に関する情報が多ければ多い程、電波塔の破壊は容易になる。
だからこそ私達は、鈴凛が再度通信して来るのを待っていた。
勿論、その待ち時間を無駄に費やしたりはしない。


「……これで、梨花ちゃんの分も完了なの」

そう云って、ことみが頬にこびり付いた汗を拭い取った。
ことみの足元には、銀色の光沢を放つ輪が転がっている。
それはつい先程まで、私に嵌められていた首輪だ。

……私達を縛りし枷は破られた。
首輪の機能が停止している今なら、鷹野に妨害される心配は無い。
その絶対的な好機を見逃さず、ことみは首輪を解除してのけたのだ。
既に瑞穂とアセリアの首輪も、解除は終了している。
後は、ことみの首輪を外すだけなのだが――
329名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:41:49 ID:yIXGyqcs
330 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:44:22 ID:Fckykyjk

「ねえ……本当に私がやらないと駄目なの?」
「うん。自分自身の首輪を解除するのは、流石に無理。
 アセリアさんと瑞穂さんは疲れてるし、梨花ちゃんがやるしかないの」

いくら優れた技術を持っていることみと云えども、目視せずに首輪を解除するのは不可能。
故に自分自身の首輪は外せない。
そしてアセリアは高嶺悠人との戦いで、瑞穂はゲームを攻略した事で、少なからず疲弊している。
もう暫く休憩してからでないと、精密作業を行うのは厳しいだろう。

「大丈夫なのです、梨花。ことみが書いてくれたメモ通りにやれば、きっと何とかなるのです」
「ハア……アンタ随分とお気楽ね。少し見ない間に、頭のネジが何本か抜けちゃったんじゃないの?」
「あぅあぅあぅ……」

羽入に悪態を吐いてみたものの、状況は変わらない。
首輪の機能が無効化されているのは、後数時間の間だけ。
問題を後回しには出来ない。
今この場で、私がことみの首輪を外すしか無いのだ。

「ことみ……首輪の機能が停止していようが、爆弾が内蔵されているのは変わらない。
 もし私がしくじれば、貴女は死ぬ。それは覚悟の上ね?」
「……分かってるの。梨花ちゃんは、出会ったばかりの私達を信じてくれた。
 だから、私も梨花ちゃんを信じようと思う」

紫色の大きな瞳が、じっとこちらを見詰めている。
碌な技術も持たない私が手を出せば、爆弾が暴発してしまう可能性は十分ある。
にも関わらずことみは、私に命を預けると云ってくれた。
それで、私の覚悟も固まった。

「……良いでしょう。私の全身全霊を以って、貴女の信頼に応えさせて貰うわ」
331名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:44:23 ID:WLWIpw10
 
332名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:44:29 ID:yIXGyqcs
333 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:46:16 ID:Fckykyjk
強く告げてから、私は工具を手に取った。
解除の手順は、ことみが全てメモに纏めてくれている。
首輪は主に六つのメインパーツ、【外殻】【生存確認装置】【盗聴器】【信管】【爆薬】【発信機】で構成されている。
これらの内、外殻の部分を上手く分解出来れば、首輪の解除は完了する。
逆に絶対触れてはいけないのが信管――つまりは、爆弾の起爆装置だ。
下手に信管を傷付けてしまったりすれば、首輪は爆発してしまうだろう。

(弱気になるな――私は百年の魔女・古手梨花。この程度の試練、絶対に乗り越えてみせる……!)

身体の底から沸き上がる震えを強引に抑え付けて、着々と作業を進めてゆく。
焦りや不安に飲み込まれさえしなければ、私にだって出来る筈なのだ。
運命を切り拓くのは、天でも神でも、ましてや偶然でも無い。
仲間を救いたいという絶対の意思で、弱き心など凌駕してみせろ……!

「梨花さん、次はこっちのパーツを……」
「大丈夫よ瑞穂、ちゃんと理解してる」

百年以上に渡る私の人生経験の中でも、これ程繊細な作業を要求されるのは始めてだ。
極めて慎重な手付きで、しかし決して恐れず工具を振るう。
何度もメモを確認して、手順通りにパーツを取り外す。

「…………っ」

息が詰まり、全身の血液がグツグツと沸騰するような錯覚。
私が持ち得る全集中力を、指の一本一本に注ぎ込む。
手にこびり付いた汗を拭き取って、しっかりと工具を握り締めた。
僅か数分が、気の遠くなる程永い時間に感じられる。

そうやって作業を続けていると――やがて首輪が、ガチャリと音を立てた。


「しまっ――――!?」
334名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:46:19 ID:yIXGyqcs
335名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:46:19 ID:WLWIpw10
 
336名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:46:27 ID:MHGBsx1h
337名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:47:02 ID:WLWIpw10
 
338名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:47:42 ID:MHGBsx1h
339 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:48:00 ID:Fckykyjk


失敗、破滅、絶望。
一瞬そんな言葉が頭を過ぎったが、それは杞憂だった。
音を立てたのは信管でなく、外殻の部分。
硬直する私の目の前で、真っ二つに割れた悪魔の枷が、地面へと落下していった。
張り詰めていた精神が一気に霧散し、私は支えを失った人形のように地面へと座り込んだ。

「ふう……何とか成功したみたいね」

私も、他の皆も、一人残らず大きく息を吐いた。
爆発は、起きていない。
私の指にも、ことみの首にも、傷一つ付いていない。
綱渡りのような作業だったが、何とか首輪の解除に成功したのだ。


『皆、今戻ったよ。首輪解除に成功したみたいだね、お疲れ様』

作業の終了を待っていたかのようなタイミングで、スピーカー越しに鈴凛が話し掛けて来た。
否、事実解除が終わるのを待っていたのだろう。
鈴凛は電波塔に頼らない類の盗聴器とカメラを、この仮眠室に設置してあると云っていた。
私の集中力を途切れさせないよう、気を遣ってくれたと考えるのが妥当だ。

「鈴凛さん、鷹野達の様子はどうでしたか?」
『あははっ、もう笑えるくらい怒鳴り散らしてたよ。皆にも見せてあげたかったなあ、鷹野が取り乱してるトコ』

瑞穂が問い掛けると、愉しげに弾んだ鈴凛の声が返ってきた。
いきなり首輪の機能が停止したのだから、鷹野が取り乱すのも当然だろう。
直接この目で見なくとも、ヒステリックに暴れ回る鷹野の姿が想像出来る。

「フフ……良い気味ね。それで連中が次にどう動くつもりかは、分かったの?」
『ああ、それなんだけどね――』
340名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:48:04 ID:yIXGyqcs
341名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:48:39 ID:WLWIpw10
 
342名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:49:15 ID:WLWIpw10
 
343 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:49:24 ID:Fckykyjk

鈴凛が笑顔を湛えたまま、敵の情報を語ろうとする。
それを、遮るように。


『――そこまでよ小娘。良くもまあ、派手にやってくれたわね』


聞き間違える訳が無い。
忘れもしない。
忘れられる訳が無い。
憎むべき怨敵。
私達を地獄へと突き落とした張本人――鷹野三四の声が、スピーカーの向こうから聞こえてきた。



    ◇     ◇     ◇     ◇



場所は移り変わって、LeMU地下二階『ツヴァイト・シュトック』第一研究室。
背後へと振り返った鈴凛は、余りの驚愕に大きく目を見開いていた。

「た、鷹野…………それに、部隊長まで…………っ!?」

眼前には漆黒の銃を構えた、鷹野と桑古木の姿。
鷹野達の目には明確な殺気が宿っており、銃口は鈴凛の胴体部にしっかりと向けられている。
疑惑を掛けられている、というような生温いレベルでは無い。
完全に、裏切り者として扱われている。
だが何故自分の背信行為が露呈してしまったか、鈴凛には分からなかった。

(こんな……有り得ない……。失敗なんかしてない筈なのに、どうして…………っ!?)
344名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:49:24 ID:yIXGyqcs
345名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:50:52 ID:WLWIpw10
 
346 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:51:13 ID:Fckykyjk

田中優美清春香菜が仕掛けた盗聴器は、ちゃんと撤去しておいた。
先程鷹野達の様子を探りに行った際も、演技に手落ちは無かった。
だから、此度の騒動が自分の手によって行われたなど、バレる筈が無い。
そんな鈴凛の内心を見透かしたように、鷹野は歪な笑みを浮かべた。

「くすくす……どうしてバレたか分からないって顔してるわねえ……」
「くっ…………」
「良いわ、教えてあげる――この部屋に盗聴器を仕掛けていたのは、優だけじゃ無い。
 私もね、貴女を盗聴器で監視していたのよ」
「―――――っ!」

絶句する鈴凛を余所に、鷹野は言葉を続けてゆく。

「貴女には覚悟が足りないのよ。意思の力が足りないのよ。
 姉妹の為に全てを投げ出して、悪魔になろうって姿勢が貴女には無かった。
 そんな人間が裏切る事くらい、少し考えれば誰にでも予測出来るでしょ?
 尤も――電波塔の誤作動を狙っているとは、思いもしなかったけどね」

それで、鈴凛は大体の事情を了解した。
何の事は無い。
恐らくは、最初から疑われていたのだ。
盗聴器を仕掛けられていたのも、ずっと前からだろう。
だがそこまで考えた時、鈴凛の脳裏に新たな疑問が浮かび上がった。

「だったら……何でもっと早く、私に対処しようとしなかったの?
 そうすれば――今回みたいな痛手を受けずに済んだ筈じゃない」
「……『あの人』の命令で、迂闊に手は出せなかったのよ。
 でもそれも終わり――祭の邪魔をした以上、もう黙っていられない」

鷹野は真横へと視線を移して、冷え切った声で言い放つ。
347名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:51:16 ID:MHGBsx1h
348名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:51:17 ID:yIXGyqcs
349 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:52:29 ID:Fckykyjk
「桑古木――今すぐその小娘を、牢にブチ込みなさい。
 首輪の設計法だけ聞き出してから、贓物を引きずり出してやるわ」
「…………分かった」

一瞬躊躇した桑古木だったが、直ぐ命令に従った。
桑古木の目的はあくまで、ココを殺し合いに巻き込まない事。
その為には私情など捨て、忠実なる鷹野の手足として働き続けなければならない。
既に目的の為、多くの人間を殺めてきた身だ。
今更、道を変えたりなどしない。
力任せに鈴凛の手を掴み取り、骨折しない程度に捻り上げる。

「――さあ、来るんだ!」
「痛っ…………」

鈴凛は碌な抵抗すら許されず、部屋の出口へと引き摺られてゆく。
女の、しかも子供の膂力で、キュレイキャリアである桑古木に対抗出来る筈も無い。
だが凄まじい激痛の中でも、鈴凛の目は闘志を失っていなかった。
大きく息を吸い込んで、あらん限りの声で絶叫する。

「梨花ちゃん、皆――勝って! 深い絆で結ばれている貴女達なら、きっと鷹野にだって勝てる! 
 何としてでも勝って、この悲しい殺し合いを終わらせてええええええええ!!!」

役場へと繋がるマイクの電源は、未だ切られていない。
悪魔に敗れ去りし鈴凛が遺した、最期の絶叫。
それは確かに、梨花達の耳へと届いていた。


    ◇     ◇     ◇     ◇


「り……鈴凛っ…………」
350名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:52:30 ID:WLWIpw10
 
351名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:52:34 ID:yIXGyqcs
352名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:53:20 ID:WLWIpw10
 
353名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:54:49 ID:WLWIpw10
 
354 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:55:04 ID:Fckykyjk

鈴凛が遺した言葉を聞き届け、梨花は強く拳を握り締めていた。
確かに鈴凛は鷹野達に協力していたし、悲劇の一因を担ったのは間違い。
それでも彼女は、仲間だった。
自らの危険など顧みずに、希望への道を切り拓いてくれた。
梨花の中に、言い表しようの無い感情が渦巻いてゆく。
そんな折、再びスピーカーから悪魔の声が放たれた。

『フフフ、聞いてたわよね? 貴女達の企みなんて、こっちには全て筒抜けよ。
 残念だったわね……鈴凛がもう少し有能だったら、貴女達にも勝ち目があったかも知れなかった』

何処までも愉しげな声。
パソコンの画面には、見下すような嘲笑を浮かべている鷹野が映し出されている。

『これでもう、内部から切り崩される心配は無い。凡俗が幾ら集まった所で、私達には勝てやしない……。
 神の儀式は最後まで行われ――そして私も神になる!』
「……神? 貴女一体、何を云っているんですか……?」
『そのままの意味よ、瑞穂さん。私は神と等しき力を手に入れ、神と同格の存在となってこの世に君臨する。
 くすくす……素敵でしょう? そしてそれはもうすぐ実現する……アハハハハハハッ!!』

瑞穂が問い掛けると、鷹野の口から悪意ある笑いが溢れ出した。
その笑い声には、黒い憎悪と狂気の色が入り混じっている。

「その為に……多くの命を踏み台にしても、ですか?」
『結局ね、人間は何時も一人なのよ。自分の欲望を満たす為なら、正義とか倫理なんて平気な顔でドブに捨てるわ。
 それは一度、貴女自身が証明している――違うかしら?』
「――――っ!」

その言葉に、瑞穂は大きく息を呑んだ。
嘗て自分が、目的の為に仲間を裏切ったのは紛れも無い事実。
瑞穂の様子を見て取った鷹野は、顔に浮かび上がった笑みをより一層深める。
355名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:55:27 ID:WLWIpw10
 
356 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:57:15 ID:Fckykyjk
『歴史に名を残してきたのは、殆どそんな人達。願いを掴み取るのは、他を省みない者!
 私は仲間なんて戯言に惑わされない……己の目的だけを追い続ける。強い意志はね、運命を強固にするのよ。
 鋼のように鍛えられた運命は、如何なるサイコロの目にも動じない。
 それは即ち絶対の未来……、誰にも私は止められない!!』

終わりの見えぬ狂騒。
次々と紡がれる、絶対の意思と憎悪が籠められし言葉。
それを遮ったのは、一人の少女だった。


「いいえ――貴女は私達が止めるわ。鈴凛の意思を無駄にはしない」


鷹野の、そして仮眠室に居た全員の視線が、只一点に集中する。
そこに立っていたのは、永きに渡る地獄を潜り抜けし少女――古手梨花。
百年分の、そして散っていった仲間達への想いを籠めて、告げる。

「認めましょう……鷹野、貴女は凄い。神すら味方に引き込んだ強固な意志は、尊敬に値する。
 だけど――こちらには鉄さえ貫く固い団結力と、そして貴女以上に強い意思がある!」

自身の決意を伝え終えた梨花は、瑞穂へと視線を移した。
瑞穂は一度頷いてから、己が決意を口にする。

「……確かに私は一度道を踏み外しました。ですがどんな事があろうとも、もう二度と間違えません。
 死んでいった仲間の為に、未だ生きている皆の為に、鷹野三四――貴女を倒します!!」

自分が犯した罪への後悔はある。
きっとそれは一生、消えてなくならないだろう。
だけど、迷わない。
仲間達が命懸けで諭してくれたから、もう二度と迷わない。
357名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:57:21 ID:yIXGyqcs
358 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 18:59:30 ID:Fckykyjk


瑞穂の言葉が終わるのを待ってから、アセリアは一歩前へと踏み出した。

「タカノ……私はお前を許さない。お前を倒して……アルルゥ達の仇を取る。
 ディーという神も倒して……ミズホ達を、守ってみせる」

戦う事以外の生きる意味を知らなかったスピリット、アセリア。
だけど、この島で生きる意味を見つけた。
仲間を守りたい、仲間と一緒に居たい。
自らの『求め』を果たす為、蒼の妖精は誰よりも強き戦士と化す。


次々と叩き付けられる意思。
今度は自分の番だと云わんばかりに、ことみが口を開く。

「私は……皆みたいに強くないの。これまでずっと、誰も守れなかった。
 だけど、だからこそ私は戦う。皆と一緒に戦って――今度こそ、全員で生き延びる!」

今までことみは、誰一人として守れなかった。
同行してきた人間は、皆が皆殺し尽くされてしまった。
避けられる筈だった惨劇もあった。
強い意志を持って生きてきたか問われれば、答えは否だろう。
だけど人は成長する。
水瀬名雪との、高嶺悠人との戦いでは、武器を取って戦った。
非力な自分にだって、頑強な意思さえあれば、出来る事はある筈だ。
今度こそ、大切な仲間達を守り切ってみせる。


四人の戦士達は、各々の意思を示した。
怨敵である鷹野三四も、全てを飲み込む程の強大な意思を示した。
今この場で自らの意思を示していないのは、只一人。
359名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 18:59:35 ID:yIXGyqcs
360名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:01:18 ID:yIXGyqcs
361 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:01:20 ID:Fckykyjk

「羽入――貴女もよ」
「え……でもボクは…………」
「今は私しか貴女の姿を見れないかも知れない。それでも貴女は、私『達』の立派な仲間なのよ。
 姿なんか見えなくたって、想いはちゃんと伝わるのだから……!」

梨花がそう云うと、瑞穂も、ことみも、アセリアも、間髪置かずに頷いた。
梨花以外の誰も、羽入と直接話した訳では無い。
それでも羽入の事を疑おうとする者は、一人として居なかった。

羽入は僅かの間呆然としていたが、直ぐに大きく頷き返した。
確かな決意を瞳に湛え、積年の宿敵を思い切り睨み付ける。

「ボクには分かっています。貴女の……そしてディーの強大さは分かっています。
 それに比べて、ボクや仲間達の力は余りにか細いかも知れない。
 でも教えられたのです……信じる力が運命を切り開く奇跡を起こすと」

雛見沢症候群を発症してしまった人間は、もう救えない。
それは絶対の運命だった筈。
だけど前原圭一と小町つぐみは、その運命を覆した。
強き意思を以って、疑心暗鬼に囚われた倉成武を救い出した。
だから――次は自分が、運命を覆してみせる。

「だから、ボク達は絶対に諦めない! 自分達が勝利出来ると、信じて疑わない!
 そしてボク達の意思が貴女を凌駕した時、永きに渡る運命の戦いに決着がつく!!」

それは、紛れも無い宣戦布告だ。
決戦の開始を意味する狼煙だ。
向けられた五つの意志を前にして――――鷹野は哂った。
362名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:02:08 ID:WLWIpw10
 
363 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:03:17 ID:Fckykyjk
『ククク…………ハハハハハハハハハッッ!!』

部屋中に響き渡る狂笑。
天上より愚かな人間を見下ろす、神の声。

『ならば結構、掛かっておいでなさい!! どちらの意思が強いか、試してみるが良い!!
 私はね……これまでずっと、たった一人で運命とタイマンを張ってきたのよ。
 あんた達のちっぽけな意思で、この私が命懸けで作り上げた運命を変える事など、出来るものかぁぁぁあぁッッ!!!』

やれるものならやってみろ、と。
絶対の信念、絶対の自信を持って、鷹野は告げた。
鬩ぎ合う意思。
互いが一歩も譲らぬまま、鷹野がスピーカーの電源を切った事で、両者の対決は次なるステージへと持ち越された。



鷹野との通信が途絶え、再び静寂が訪れた仮眠室。
出来る事ならば、今すぐ全員で電波塔の攻略に向かいたい所。
だが羽入には、皆と一緒に行けない理由があった。

「梨花……こうなった以上、鷹野は確実にディーを起こすでしょう。ボクはもう戻らなければいけません。
 お願いです――どうかボクの封印を解いて下さい、ボクにも、皆と一緒に戦わせて下さい」
「ええ、任せて羽入。絶対に貴女を解き放って、鷹野を打ち破ってみせる……!!」

梨花が力強い声で云い放つ。
瑞穂は梨花の台詞から事情を察して、素直な気持ちを言葉に変えた。

「羽入さん――私には貴女の姿が見えませんし、言葉も聞こえません。でも、貴女も私達の仲間だと思っています。
 ですから、今は私達を信じて待っていて下さい」
「……瑞穂。聞こえないと思いますが、ありがとうなのです」
364名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:03:19 ID:yIXGyqcs
365名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:03:35 ID:WLWIpw10
 
366名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:04:05 ID:yIXGyqcs
367 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:05:00 ID:Fckykyjk

未だ見ぬ仲間に向けられた、確かな信頼。
羽入はにっこりと微笑んでから、その姿を消した。

仮眠室に残された四人の行動方針は、考えるまでもない。
第一目標は電波塔の破壊だ。
倉成武との合流も重要だが、電波塔の破壊より優先すべき物では無い。
首輪――全ての参加者に嵌められていた、絶対の強制力を持った枷。
それさえ無力化出来れば、参加者同士の悲しい殺し合いは、きっと止められるのだから。


    ◇     ◇     ◇     ◇


梨花達が動き始めたのとほぼ同時、鷹野もまた行動を開始していた。
鷹野には、梨花達の攻撃目標が電波塔である事くらい分かっていた。
一ノ瀬ことみ――外部からの干渉さえ無ければ、確実に首輪を外してのけるであろう天才。
電波塔が一時的に誤作動している以上、首輪は外されてしまった筈。

首輪の脅威から逃れた梨花達が取る選択肢など、鷹野への反逆以外に有り得ない。
そして最初に狙ってくるのは、鷹野にとって最大のネックである電波塔に決まっているのだ。
だから鷹野は、いの一番にハウエンクアと桑古木を呼び寄せた。

「何の用だ、鷹野? まあ……大体の予想は付くけどな」

首輪が無効化されたという異常事態を前にして、かつてない程の混乱に包まれた管制室。
殺人遊戯を管理しているオペレーター達は、酷く慌てふためいている。
そんな中、桑古木が静かな声で問い掛けた。
桑古木の顔に、焦りの色は微塵たりとも見られない。
焦った所で電波塔の回復は早まらないと、理解しているのだ。
368名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:05:03 ID:yIXGyqcs
369名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:06:34 ID:WLWIpw10
 
370 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:06:39 ID:Fckykyjk

「ええ、きっと貴方の予想通りよ。貴方とハウエンクアは、今すぐ電波塔の防衛に向かいなさい」
「ひゃははははははっ、良いねえ良いねえ! やっと思う存分、虫ケラ共を踏み潰せるよ。
 けど、今から行っても間に合わないんじゃないかい?」
「『あの人』を起こして、転送して貰えば平気でしょう? 分かったら早く行きなさい。
 行って――あのクソガキ共を、ブチ殺してきなさい!」

ディーは殺人遊戯の開始時に、60名以上もの人間を纏めて瞬間移動させた。
多少力が衰えてるとは云え、アヴ・カムゥの一体や二体転送する程度、造作も無い事だろう。
ディーが生きている限り、鷹野達が機動力で遅れを取る事は、決して有り得ないのだ。
桑古木もハウエンクアも直ぐ命令に従って、管制室を後にした。


「さて……後は、5人目の契約者をどうするかね」

次に鷹野が考えたのは、月宮あゆに関する扱いだ。
今は首輪の機能が無効化されている為、あゆの現在位置は分からない。
しかしあゆはアヴ・カムゥの回収に向かっていると考えて、ほぼ間違い無い筈。

可能かは分からないが――もしあゆを電波塔に送り込めれば、梨花達を一気に殲滅出来るのでは無いか。
二体のアヴ・カムゥと、キュレイキャリアである桑古木涼権。
まず負けは有り得ないと、断言出来る戦力。
ハウエンクアと桑古木だけでも電波塔を守り切れるとは思うが、念を押すに越した事は無い。

しかしながら、この策にはデメリットも存在する。
まず第一は、ディーの許しが得られるか分からない。
月宮あゆを電波塔に送るのは、あくまで『殺し合いを継続させる』という一大目的による物。
しかしディーは、主催陣営が殺し合いに介入するのを酷く嫌っている。
部下を使って電波塔を防衛する分には構わないだろうが、参加者まで利用するのは許されないかも知れない。
371名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:06:41 ID:yIXGyqcs
372名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:06:53 ID:x+Ti3aPv
 
373名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:07:40 ID:yIXGyqcs
374名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:07:48 ID:WLWIpw10
 
375 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:08:09 ID:Fckykyjk
第二に、月宮あゆが桑古木達を襲ってしまう可能性。
桑古木ならば上手く戦いを避けるだろうが、ハウエンクアは大喜びで殺し合おうとするだろう。
どうしても、不確定要素が大きくなってしまう。


月宮あゆの転送を試みるか、己が部下達だけに任せるか。
神の座を求めし女が選び取った選択肢は――





【B-2 役場/二日目 午後】
【女子四人】
1:電波塔を破壊する(操縦可能であれば、役場に止めてある車を用いて移動)
2:羽入の封印解除と桜への対処、どちらを優先するかは後続の書き手さん任せ
【備考】
※廃坑別入り口を発見しました
※殺害ランキングは梨花以外のメンバーは適当にしか見ていません。
※メンバーは全員、羽入、鈴凛、企画書から情報を得ました(詳しい内容は、本文中の情報纏め参照)
※メンバーは全員、羽入と鈴凛を信用しました
376 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:08:43 ID:Fckykyjk


【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭、ミニウージー(25/25)
     ヒムカミの指輪(残り1回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄 】
【所持品:風子の支給品一式(大きいヒトデの人形 猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、風子特製人生ゲーム(元北川の地図) 百貨店で見つけたもの)】
【所持品2:支給品一式×2(地図は風子のバックの中)、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)
     ノートパソコン、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7、出刃包丁、首輪の解除手順に記したメモ、
     食料品、ドライバーやペンチなどの工具、他百貨店で見つけたもの 、コルトパイソン(.357マグナム弾2/6)、首輪探知レーダー(現在使用不能)、車の鍵 】
【状態:頭にこぶ二つ 精神的疲労小、強い決意、首輪解除済み】
【思考・行動】
基本:潤と風子の願いを継ぐ。
1:瑞穂達と一緒に行動する
2:きぬが心配
3:仲間を集めたい
【備考】
※皆殺し編終了直後の転生。鷹野に殺されたという記憶はありません。(詳細はギャルゲ・ロワイアル感想雑談スレ2>>609参照)
※梨花の服は風子の血で染まっています
※盗聴されている事に気付きました
※月宮あゆをマーダーと断定、警戒
※レーダーは現在電池切れ、 電池(単二)が何本必要かなどは後続の書き手に任せます
※ノートパソコンの微粒電磁波装置や現在地検索機能、レーダーは、電波塔の機能が回復するまで使用不可能(電波塔の回復は、第7回放送直前)
377名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:09:08 ID:yIXGyqcs
378 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:09:16 ID:Fckykyjk


【アセリア@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:永遠神剣第四位「求め」@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x1、鉄パイプ、国崎最高ボタン、高嶺悠人の首輪、フカヒレのコンドーム(12/12)@つよきす-Mighty Heart-、
 情報を纏めた紙×2】
【状態:決意、肉体的疲労中、魔力消費小、両腕に酷い筋肉痛、右耳損失(応急手当済み)、ガラスの破片による裂傷(応急手当済み)、首輪解除済み】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:ミズホとコトミと梨花を守る
2:無闇に人を殺さない(殺し合いに乗った襲撃者は殺す)
3:存在を探す
4:ハクオロの態度に違和感
5:川澄舞を強く警戒
【備考】
※アセリアがオーラフォトンを操れたのは、『求め』の力によるものです
※永遠神剣第四位「求め」について
「求め」の本来の主は高嶺悠人、魔力持ちなら以下のスキルを使用可能、制限により持ち主を支配することは不可能。
ヘビーアタック:神剣によって上昇した能力での攻撃。
オーラフォトンバリア:マナによる強固なバリア、制限により銃弾を半減程度だが、スピリットや高魔力の者が使った場合はこの限りでは無い)
379名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:09:57 ID:yIXGyqcs
380 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:09:58 ID:Fckykyjk


【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:ベレッタM92F(9mmパラベラム弾2/15+)、バーベナ学園女子制服@SHUFFLE! ON THE STAGE、豊胸パットx2】
【所持品1:支給品一式×9、多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)、斧、レザーソー、投げナイフ5本、
 フック付きワイヤーロープ(5メートル型、10メートル型各1本)、茜手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成)、予備マガジンx2、情報を纏めた紙】
【所持品2:バニラアイス@Kanon(残り6/10)、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾、電話帳、スタングレネード×1】
【所持品3:カルラの剣@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、竹刀、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F(9mmパラベラム弾15/15+1)、懐中電灯】
【所持品4:単二乾電池(×2本)バナナ(台湾産)(1房)】
【所持品5:手術用メス、パワーショベルカー(運転席のガラスは全て防弾仕様)】
【所持品6:破邪の巫女さんセット(弓矢のみ10/10本)@D.C.P.S.、乙女と大石のメモ、麻酔薬、硫酸の入ったガラス管x8、包帯、医療薬】
【状態:強い決意、肉体的疲労小、即頭部から軽い出血(処置済み)、脇腹打撲、首輪解除済み】
【思考・行動】
基本:エルダー・シスターとして、悲しみの連鎖を終わらせる(殺し合いを止める)
1:ことみとアセリアと梨花を守る
2:川澄舞を警戒
【備考】
※一ノ瀬ことみ、アセリアに性別のことがバレました。
※他の参加者にどうするかはお任せします。
※この島が人工島かもしれない事を知りました。
381名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:10:27 ID:WLWIpw10
 
382 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:10:33 ID:Fckykyjk


【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:Mk.22(3/8)】
【所持品:ビニール傘、クマのぬいぐるみ@CLANNAD、支給品一式×3、予備マガジン(8)x3、スーパーで入手した品(日用品、医薬品多数)、タオル、i-pod、
陽平のデイバック、分解された衛の首輪(NO.35)、情報を纏めた紙】
【所持品2:ローラースケート@Sister Princess、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数、】
【状態:決意、肉体的疲労小、後頭部に痛み、即頭部から軽い出血(瑞穂を投げつけられた時の怪我)、強い決意、全身に軽い打撲、
 左肩に槍で刺された跡(処置済み)、首輪解除済み】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。必ず仲間と共にゲームから脱出する。
1:アセリア、瑞穂、梨花に付いて行く
2:ハクオロとあゆに強い不信感、でもまず話してみる。
3:首輪、トロッコ道ついて考察する
4:工場あるいは倉庫に向かい爆弾の材料を入手する(但し知人の居場所に関する情報が手に入った場合は、この限りでない)
5:鷹野の居場所を突き止める
6:ハクオロを警戒
【備考】
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています。(少し揺らいでいます。)
※あゆは自分にとっては危険人物。
※瑞穂とアセリアを完全に信用しました。
※この島が人工島かもしれない事を知りました。
※i-podに入っていたメッセージは『三つの神具を持って、廃坑の最果てを訪れよ。そうすれば、必ず道は開かれるだろう』というものです。
※研究棟一階に瑞穂達との筆談を記した紙が放置。
383名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:10:35 ID:yIXGyqcs
384 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:11:42 ID:Fckykyjk




【C-5 電波塔/二日目 午後】
【ハウエンクア@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
【装備:アヴ・カムゥ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、他不明】
【所持品:不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:殺し合いを楽しむ
2:電波塔を防衛する

【桑古木涼権@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:不明】
【所持品:不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:電波塔を防衛する



【??? 廃坑・最果て/二日目 午後】
【羽入@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:封印中】
【思考・行動】
1:封印が解かれるのを待つ
【備考】
※『大神への道』の3つの道具を集めて、廃鉱の最果てに持っていく事で羽入がLeMUへの道を開きます。
※ディーの力の影響を受けているため、雛見沢症候群の感染者ではなくても契約者ならば姿を見る事が出来ます。
385名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:11:42 ID:yIXGyqcs
386 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 19:12:30 ID:Fckykyjk


【LeMU 地下三階『ドリット・シュトック』管制室/二日目 午後】
【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:不明】
【所持品:不明】
【状態:健康、若干の苛立ち、契約中】
【思考・行動】
1:月宮あゆを転送させるかどうか、考える

【LeMU 地下三階『ドリット・シュトック』地下牢/二日目 午後】
【鈴凛@Sister Princess】
【装備:鈴凛のゴーグル@Sister Princess】
【所持品:無し】
【状態:不明、契約中】
【思考・行動】
1:不明




【備考】
※現在、首輪の機能全て(爆弾、位置特定、生存確認、盗聴)が無効化されています。
 機能は、電波塔が正常に戻れば回復します(電波塔が元に戻るのは、第7回放送直前)。
※フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、暗号文が書いてあるメモの写しは、役場の仮眠室内に破棄
387名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/26(月) 19:13:00 ID:WLWIpw10
 
388 ◆guAWf4RW62 :2007/11/26(月) 21:33:31 ID:Fckykyjk
報告します
>>370を以下のように修正しました

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8775/1190239941/308
389 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:15:59 ID:2eohx2L2
(……私は正しい道を進んでいるのでしょうか……?)

何とは無しに、考えてしまいました。
“はい”と胸を張って言える自信は……ありません。
…多分、少し前、ほんの半日前なら、迷うことなく“はい”と言えたんだと思います。
そう、あの人と、圭一さんと一緒に居た頃なら。
いいえ、今でも、圭一さんの理想は正しいと信じています。
でも、
でも、

その“正しさ”は、本当にこの島でも“正しい”のでしょうか?

「悪いことをすると、神さまの罰が当たる」
どんな人でも、子供の頃にお母さんから言われる言葉です。
私も……私だった頃に言われました。
だから、悪いことはしちゃいけない……はずです。
けど、
でも、
でも、
じゃあ、『何故』圭一さんは死んでしまったのでしょうか。

あの人は、何にも悪いことはしていません。
いつだって、正しい言葉を訴え懸けていました。
懸命に、武さんを救おうと頑張っていました。
……ずうっと、私のことを守ってくれてました。

その、圭一さんがどうして殺されなければならないのでしょうか?
390 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:16:42 ID:2eohx2L2

……
…………
………………解っています、この島で殺された『正しい』人は、圭一さんだけではありません。
神尾さんは、国崎さんに、国崎さんを救う為に、殺されました。
その国崎さんは、沢山悪いことをしました。
ある意味では、罰が当たったのかもしれません。
でも、その罪を償おうと、その為に生きていたのに、殺されました。
その他にも、沢山沢山、この島には正しい人、償おうとした人がいたはずです。
でも、沢山沢山、殺されてしまいました。
だから、皆が死んだのは、罰と言う訳ではないのでしょう。

でも、どうして、悪いことをした人に罰が当たっていないのですか?

どうして……この子はまだ生きているのでしょう?

視線を下げて、膝の上で眠っている子の顔を眺めながら、なんとなく考える。
片方の目が、無残にも大きい切り傷で覆われている。
これじゃあ、もう見えないと思う。
なんとはなしに、髪の毛をなでてみた。
後ろで纏めた、黒い、綺麗な髪。
「…ぅ……」
少し、動いた。
もしかしたら、眠りが浅いのかもしれません。
391 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:17:20 ID:2eohx2L2
少し前、男の人の悲鳴が聞こえた後、
そっちの方向に向かって少し歩いたら、茂みに寄りかかるように倒れているこの子を見つけました。
急いで駆け寄って、抱き起こしました。
目に酷い怪我をしていますが、どうやら眠っているだけみたいです。
多分、何か……よく知りませんけど、眠くなる薬…麻酔?か何かを打たれて、それで茂みの中に隠れようとしたのだと思います。
なのでとりあえず少し道から外れて歩いて、やがて大きな樹とその間にある茂みの間の少し開けた場所、隠れるには良い場所を見つけました。
其処に座り、その子を膝枕の状態で寝かせて、持っていたハンカチを傷口に当てておきました。
そうして、ゆっくりと寝顔を見て、そこでようやくこの子が誰なのかに気付きました。
“川澄舞”
とても、危険な相手。
瑞穂さん達と戦った事があって、積極的に人を殺している子。
会うのは初めてですが、名簿で顔を見ておいたので、間違いありません。

(……どうしましょう?)

このまま放置……目を覚ませばまた殺し合いに参加するから無意味です…。
じゃあ武器だけ奪うのは……そうなると今度は川澄さんが危険に晒されてしまいます。
殺し合いを肯定する人の事を心配するというのも変なのですが……私には、この無防備に眠ってる女の子から武器を奪うなんて出来そうにありません。

(……いえ)
本当は、考えるまでもありません。
私がするべきことは一つだけ。
あの人の……圭一さんの歩んでいた道を受け継ぐこと。
迷うことなんて無い。
川澄さんを説得して、共にこの殺し合いを止める。
それだけです。
それだけの…………筈です。
392 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:18:09 ID:2eohx2L2

でも……
でもでも……
それで本当に殺し合いは止まるのでしょうか?

……多分、圭一さんなら、そんな事を考えもしないのでしょう。
何時だって、彼は真っ直ぐでした。
自分の進む道を、歩み続けていました。
だから、私もその道を信じる、それしか無いはず……です

そうやって、迷いながら、けれども、何とか選んだ時に、
放送が鳴り響きました。



熱……い?
……微妙…………何かぬるくなった……
…………何?お湯?
……あ、また熱い。
何だろ?
頬に何かが落ちて……あ、また。……今度は額……
というか、なんだかこの枕……凄く温かいナリ。
?ナリ??
……温かくて、気持ちいい。
何だろう?
……そもそも、私はどうしたんだ?
多分、寝てた。
何故?
眠る前の行動が思い出せない。
なので、とりあえず目を開けたら、
(…………佐祐理?)
誰かの膝の上に寝ている事に気が付いた。
393名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:26:19 ID:WuPHzDjz
 
394名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:26:23 ID:+Gg+yD6E
395名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:26:51 ID:WuPHzDjz
 
396 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:27:07 ID:2eohx2L2

(……違う)
見たことの無い相手。
ただ、
ただ、感じる雰囲気。
膝と手のひらの温かさ。
穏やかな空間。
その全てが、まるでかつてのあの場所。
最も心休まる空間を思い出させる。

……無論、現実には違う。
目の前にいるのは佐祐理ではないし、ここは学校ではない。
どんなに心地よい空気を放とうと、この相手もいずれ殺さなければいけない。
ここは、そういう場所。
でも、
少し、ほんの少しだけ、此処に居たかった。
この安らかな時間を過ごしたかった。
だから、先ほど感じた熱さの理由、
目の前の相手の両の瞳から僅かに零れ落ちる涙を目にしたとき、

「…………大丈、夫か」
無意識のうちに、声を掛けていた。
声を掛けてしまった後では、今更どうすることも出来ないけど、返事が返ってくるまでの間、何となく気になった。
それは……なんでだろう?
佐祐理に声を掛けられない事の代償行為かもしれないし、
単にその人が心配だったのかもしれない。
或いは、
単純に泣き止んで欲しかった、ただ、それだけなのかも。
397名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:27:17 ID:YphUNfbL
398名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:27:44 ID:WuPHzDjz
 
399 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:27:54 ID:2eohx2L2


「……見られちゃいましたね」
いきなり聞こえた声には驚きましたが、相手は分かっています。
ゆっくりと視線を落として、川澄さんの顔を見ました。
やはりというか……片方の目は見えていないみたいです。

「……はちみつくまさん」

……?
蜂蜜?
……えーと、もしかして、川澄さんもアセリアさんみたいな世界の人なんでしょうか?

「……違った。
 ……うん」

……流行語か何かなのでしょうか?
よく分かりませんが、肯定の表現みたいです。

「私も、寝顔を見ちゃいましたから、おあいこです」
涙を指で拭いながら、なんとなく返してみました。
勿論、特に意味は無いのですが。

「……うん、おあいこ」

川澄さんの返事も、多分あんまり意味がないものなのかな?
よくわからないし、あんまり重要な事でも無いですよね。

「…………」
「…………」
400名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:28:23 ID:WuPHzDjz
 
401名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:28:26 ID:YphUNfbL
402名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:28:51 ID:+Gg+yD6E
403名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:29:04 ID:WuPHzDjz
 
404名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:29:07 ID:YphUNfbL
405名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:29:42 ID:WuPHzDjz
 
406 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:29:43 ID:2eohx2L2
そこで、しばらく会話が途切れてしまいました。
なんとなく、川澄さんの頭にあてたままだった手を動かして、髪の毛を梳いてみました。
「ん…………」
気持ちよさそうな声が漏れてきました。
それで少しの間、それを続けました。
木漏れ日がきらきらと溢れて、風が木の葉をさわさわと揺しています。
とても、平穏な、平和な、時間。
できれば、このままずうっと味わっていたい、心地よい空間。

……ですが、
いつまでもこのままで居るわけにはいけません。

「……川澄、舞さん……ですよね」
意を決して、その言葉を放ちました。
川澄さんは、その言葉に大きく目を見開きましたが、そのまま動く様子はありませんでした。

少しして、
「……誰から、聞いた?」
とだけ言ってきました。
「アセリアさんと瑞穂さんのお二人からです。
 ……詳細名簿というもので、顔を確認しました」
正直に、答えました。
この答えは、確実に私と彼女が敵対する関係にあることを示しますが、何故か、特に警戒もしないで言ってしまいました。
多分、川澄さんも、今すぐに何かをするとは思えなかったからです。
「…………そう」
それだけ答えて、川澄さんは黙ってしまいました。
407名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:29:45 ID:YphUNfbL
408 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:30:21 ID:2eohx2L2

また、少しの間静かな時間が流れて、

「…………何故?」
今度は、川澄さんの方から話しかけて来ました。
「何故、とは?」
「その二人から聞いたのなら、何故、私とこんな風に喋っている?」
何故?
「そうですね………………何故、でしょうか」
理由は、いくつかありますが
まず
「何故、寝ている間に私を殺さなかった?」
それはありえません
「そんなこと……出来るわけありません」
人を、殺すなんて。
例えそれが正しいのだとしても、
私にはできません。

「…………私を、何時でも止められると思っているから?」
「私は……、私はそんなに強くないですよ」
少し迷いましたけど、正直に言いました。
嘘を吐いた方が安全なのかもしれませんが、何故かそんな事を言う気がしませんでした。

「……じゃあ、もしかして、……私を、説得するつもり?」
ええ、
「そうです。
 …………そう、思っていたんだと、思います」
それが、私の、圭一さんの道。
他の選択なんてない、そう、思っていま“した”。
…………ほんの、さっきまでは。
「……思ってた?」
409名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:30:24 ID:WuPHzDjz
 
410名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:30:26 ID:YphUNfbL
411名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:30:55 ID:WuPHzDjz
 
412名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:31:02 ID:+Gg+yD6E
413 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:31:05 ID:2eohx2L2

「………………解らなく……なっちゃいました」
思わず、涙が零れました。
多分、笑おうと、困ったような笑いを浮かべようと思ったのだと思います。
けど、なんだか自然に泣いていました。
私の、進む、

いいえ、
私には、圭一さんの理想を語る資格があるのでしょうか?



解らなく……なっちゃいました。

そう、言ったきり、黙り込んでしまった。
…………解らない?
何故?
泣きながら、辛そうな笑いを浮かべる顔が、あまりにも悲しくて、私はつい目を瞑る。
そうして、考えた。

今まで、私の事を説得しようとしてきた相手は、沢山居た。
…ことりと一緒にいた男の人は、私の事を助けたいと言った。
私がことりを殺すのを躊躇したから、或いは私を哀れんで。
でも、私は彼を殺した。
…アセリアと一緒に居た女性、確か瑞穂は、私が悪い人には見えないと言った。
もう、どうにもならないのかと、助け合う道は選べないのかと。
私は、彼女ほど強くない。
…朝倉純一は、私の道が間違っていると言った。
他の道が、みんなが笑っていられる未来があるはずと。
でも、『私の』道は間違ってなんかいない。
414 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:32:00 ID:2eohx2L2

皆、手を取り合う道が正しいと、そういう強い意志を持っていた。
…………私だって、言われなくても分かってる。
彼らの言っている事が正しいと。
茜が瑞穂に言ったように、そんな事をしても、佐祐理は喜ばない。
でも、私には他に道なんて無い。
だから、私は私の道を行く。
他の誰に何て言われようと、私は佐祐理が居ればそれでいい。
だから、どんなに強い意思に説得されようと、考えを変えるつもりなんて無い。

けど、
そこで、再び目を開けて、泣き顔を見た。
けど、何故彼女は迷っているのだろう?
私だって、最初はその道が間違いでは無いと、思っていたのに。
と、
それで、何となく思った。
「……誰か、死んだのか」
疑問でなくて、確信を持って聞いた。
「……!」
ビクッっと、震えが走った。
誰か、大切な相手が死んだ。
それで、自分の道が正しいのか迷ったのだろう……私のように。
納得と、僅かな落胆を覚えながら、
「大切な、相手」
確認の為に、聞いた。
415名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:32:03 ID:WuPHzDjz
 
416名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:32:06 ID:YphUNfbL
417名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:32:37 ID:WuPHzDjz
 
418 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:32:44 ID:2eohx2L2

「…………」

何も言わない?
どうしたのかと思って声を掛けようとしたら、

「圭一さんは、少し前に、私の目の前で、死にました」
漸く、反応が返って来た。
「圭一さんは、最後まで、正しい道を進んでいました。
 薬に侵された武さんを、必死に救おうとしていました」
やっぱり、思っていた通りみたい。

「何で、正しい道を歩んでいた圭一さんが死ぬのだろうと思いました。
 その道は、本当に正しいのか、迷ってしまいました。
 でも、それでも、圭一さんを信じようと思いました」
そこで、一度切れた。
「それで、川澄さんの事を説得しようと思っていました。
 でも、今の放送で、他にも何人もの仲間の人が死んでいました」
「それで、また迷ったのか」
立て続けに襲う、大事な人の死。
それで、迷いが生まれてしまったのか。
そう、理解した。
次の言葉が放たれるまでは。

「…………違うんです!」

少しくぐもった叫びが、辺りに木霊した。

419名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:32:56 ID:+Gg+yD6E
420名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:33:30 ID:WuPHzDjz
 
421名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:33:33 ID:YphUNfbL
422 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:33:42 ID:2eohx2L2

「違うん……です」
少し、苦しいです。
多分、泣きそうだからなのでしょう。

あの後に、何があったのかわかりませんが、千影さん、高嶺さん、つぐみさんの三人は死んでしまったそうです。
どこか別の場所で瑛理子さんも死んでしまいました。
その時は、悲しみと、落胆を覚えました。
でも、
でも、その他に、

「圭一さんを殺した武さんは、つぐみさんの説得と、薬の効果で元に戻りました。
 でも、圭一さんを殺した武さんを、赦せなかった。
 ……アセリアさんは、赦さなければいいと言いました。
 だから、赦さない、でも、そこまで、……そう、思っていました」
そう、それでお終い。
赦す事は出来ないけど、償うと決めた仲間と共に脱出するって、そう決めた筈なのに。
「……思ってしまったんです。
 武さんの恋人の、つぐみさんが死んで、……思ってしまったんです。
 つぐみさんが死んで、それで、それで……それでそれで、“やっと武さんに罰が当たったんだ”って、そう思っちゃったんです」

そう、わずかな…『喜悦』
心の奥底にひそかにあった、想い人を殺した相手に対する拭えぬ憎悪。
何故、圭一さんを殺しておきながら、武さんはつぐみさんという最愛の人と一緒に居られるんだろうという、憎しみと、ある種の嫉妬。
それに、気がついてしまったんです。
だから
「だから、今の私に圭一さんの理想を語る、
 いえ、圭一さんの信じた道を、進む資格があるのでしょうか?
 そう…………思ってしまったんです」
423名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:34:04 ID:WuPHzDjz
 
424 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:34:23 ID:2eohx2L2

その、醜さに、
弱さに、情けなさに、
恥ずかしさに、怖さに、おぞましさに、
…………悲しさに、
思わず、泣き出してしまいました。

……だから、今の私には川澄さんを説得する事が、どうしても出来ません。
私自身が、圭一さんの理想を信じきれないのですから。



零れ落ちる涙を受けながら、何となく思った。
“泣かないで”
目の前にいるのはいずれ殺す相手。
今すぐにでも、武器さえあれば殺せる相手。
でも、
「資格なんて、必要ない」
何となく、口にした。

「…………え?」
思い出すのは、かつて聞いた言葉。
それを、自分の思う言葉で紡ぐ。
「その……圭一の事を大事に、思っていた。
 圭一に、大事に思われていたんだろう。
 ……なら、きっと圭一はそんなこと気にしていない。
 そんなことで悩んでるのを見たら、きっと……悲しむ」
目の前の女性に向けて、思った事を伝えた。
425名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:34:49 ID:WuPHzDjz
 
426名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:35:01 ID:+Gg+yD6E
427 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:35:07 ID:2eohx2L2

……そして、その言葉は私自身にも向いていた。
佐祐理は、圭一と違って死んでいないけど、でも、今の私を見たらきっと悲しむ。
それは、痛みとなって私を心を襲う。
でも、そんなものではいまさら止まらない、止まれない。
だから、私の事なんてどうでもいい。

ただ、その言葉は確かに相手に届いたみたいだった。


「……説得するつもりが、説得されてしまいましたね」
少し後、彼女は泣き止んだ。
それで、少し名残惜しいけど、膝枕の姿勢から起き上がって、向かい合った。
涙の後が少し痛々しいけど、それでも、その笑顔はすごく綺麗だった。
「……そうだな」
つられて、私も少し微笑んだ。
こんな、清清しい気持ちは、何時以来だろう?
428名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:35:48 ID:WuPHzDjz
 
429 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:36:22 ID:2eohx2L2

その後、私は彼女に名前を聞いた。
彼女は「…そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」
と少し苦笑しながら、
「遠野美凪です」
と自己紹介した。
なので私も、
「川澄舞」
と自己紹介しておいた。
既に知っている事はわかっているけど、礼儀みたいなものだ。
「舞でいい」
何となく付け加えた。
「じゃあ、私も美凪でいいです」
そうしたら、美凪も返してきた。
そうして、また二人して、…私は少し、笑った。


その後、美凪は放送の内容を教えてくれた。
禁止エリアは、特に関係なさそうな位置だ。
死者の中には、私が殺した二人の他に、千影の名前もあった。
……これで、この島にいた私の友達はいなくなってしまった。
美凪も、多分もっと早くに出会っていれば、友達になれたのだろう。
でも、今から友達になれるはずがない。
なっても、辛いだけだ。
……今でも、十分に辛いということは、考えない事にした。
430名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:36:37 ID:WuPHzDjz
 
431 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:37:12 ID:2eohx2L2
それで、話すことが無くなった後、沈黙が訪れた。
少しして、美凪が口を開いた。
「…………どう、しましょうか?」
私の気持ちも同じだった。
……判ってる。
佐祐理の為に、何時かは美凪を殺さないといけないって。
でも、今すぐに殺したいとは、どうしても思えない。
どうしようか。

……しばらく悩んで、何となく他の友達との行為を思い出した。
それで立ち上がって、近くに纏めて置いてあったデイパックを調べた。
そうして「それ」を取り出して、
「あげる」
美凪に渡した。
「…………えー、と?」
美凪は混乱しているみたいだった。
「約束。
 私は、次にあったら美凪を殺す」
その言葉で、美凪は真剣な顔になった。
私も、それに相応しい言葉で答える。

「私は、美凪に助けられた。
 このハンカチはその印。
 だから、その分は返す。
 私の最強の武器を、一時預ける。
 私は美凪を殺してそれを取り返す」
432名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:37:56 ID:WuPHzDjz
 
433 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:37:59 ID:2eohx2L2

そう、かつて二回、友達と行った行為、物々交換。
その時と同じように、弾丸を交換する。
私の最強の武器、機関銃の弾を美凪に渡した。
それは、再会の約束。
私は道を変えるつもりは無い、その決意。
それを、形にして手渡した。

「…そう……ですか」
美凪は、少し躊躇っていたけど、少しして、
「じゃあ、私も約束します。
 私は、次に会ったら舞さんを仲間にします」
私の決意に応えて、

「私は、舞さんに諭されました。
 この弾丸は、その時の印です。
 だから、私も印を渡します。
 私たちの、……友情の印を一時預け合います。
 私は舞さんと仲間になって、それを再び交換する事にします。」

もう揺るがない決意を口にした。
今までの、どれよりも綺麗な顔。
強い決意を秘めたその表情。
美凪も道を変えるつもりは無い、その決意。
それを、私に告げた。
434 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:38:42 ID:2eohx2L2

そうして一度、何故か握手をして、私たちは別々の方向に、進んだ。
……佐祐理。
佐祐理を助けるのが、少し遅くなる。
ゴメン。
でも、絶対に助ける。
だから、少し、ほんの少しの間だけ、待って欲しい。


D-6 森/2日目 昼】



【川澄舞@Kanon】
【装備:草刈り鎌、学校指定制服(かなり短くなっています) ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5)】
【所持品:支給品一式 永遠神剣第七位"存在"@永遠のアセリア−この大地の果てで−、ニューナンブM60の予備弾8、ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾0)、ハンドアックス(長さは40cmほど) 】
【状態:決意、右目喪失(止血済み)、肋骨にひび、腹部に痣、肩に刺し傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、太腿に切り傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、魔力残量70%、】
【思考・行動】
基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
1:優勝を目指すため、積極的に参加者を襲う。
2:佐祐理を救う。
3:次に美凪と会ったら必ず殺す。
4:多人数も相手にしても勝ち残れる、という自信。
435名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:38:42 ID:WuPHzDjz
 
436名無しくん、、、好きです。。。:2007/11/27(火) 07:38:50 ID:YphUNfbL
437 ◆/Vb0OgMDJY :2007/11/27(火) 07:39:17 ID:2eohx2L2

【備考】
※永遠神剣第七位"存在"
 アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
 魔力を持つ者は水の力を行使できる。舞は神剣の力を使用可能。
 アイスバニッシャー…氷の牢獄を展開させ、相手を数秒間閉じ込める。人が対象ならさらに短くなる。
 ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
 フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
 他のスキルの運用については不明。
※永遠神剣の反応を探る範囲はネリネより大分狭いです。同じエリアにいればもしかしたら、程度。
※どちらに向かったのかは次の書き手さんにお任せします


【遠野美凪@AIR】
【状態:決意、背中に血の跡、疲労中程度、髪の毛ボサボサ、】
【装備:ベレッタ M93R(15/21)】
【所持品1:支給品一式、ジッポライター、富竹のカメラ&フィルム4本@ひぐらしのなく頃に、情報を纏めた紙x1、可憐のロケット@Sister Princess、首輪(厳島貴子)、鍵、ブラウニング M2 “キャリバー.50”の弾30】
【所持品2:朝倉音夢の制服 桜の花 びら コントロール室の鍵 ホテル内の見取り図ファイル】
1:仲間と合流する
2:次に舞と会ったら必ず説得する
3:祭具殿の鍵について確かめる


【備考】
※所持品2の入ったデイパックだけ別に持っています。
※圭一の死を乗り越えました。
※富竹のカメラは普通のカメラです(以外と上物)フラッシュは上手く使えば目潰しになるかも
※所有している鍵は祭具殿のものと考えていますが別の物への鍵にしても構いません
※どちらに向かったのかは次の書き手さんにお任せします
438私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:04:10 ID:jjq1zG3K
「やべえええええええええええええ!! おい、お前ら早くしろって!! 追いつかれちまうだろ!?」

きぬが吼える。

「こいつ――ッ!! アホかッ!! お前があんな大声出したからだろうが!!」

あゆがきぬのあまりにも身勝手な発言に反感を覚え、怒鳴りつける。

「んだとコラァッ!!! んなわけあるかっ!! 言い掛かりつけんのもいい加減にしろや、テメェ!?」
「ああッ!? 威勢だけは上等じゃないか、この糞チビ!!」

結果として、それは口論に発展した。
言い争う金髪の女と橙色の髪の女。そのやり取りは非常に荒々しく、そして幼い。
本来ならばもっと高度なやり取りが出来る筈の彼女達も、切羽詰まった状況で混乱し切っていた。
そして、

「……最悪」

一人、最低の現状を実感する少女の姿。
色彩で表すならば、白。乳白色の長髪がバッサバッサと揺れる。
沙羅は噛み締めるように己に降り注ぐ不幸を呪った。

『あんた達、口動かしてる暇があったら、どっちも足を動かしなさいよ、バカ!!』

なんて、言いたくても言える訳がない。下手に藪を突っついたら蛇が出てきそうだ。


「どうしろって言うのよ……っ!!」


小さく後方を一瞥し、彼女は迫る威圧感を再確認すると更に走るペースを上げた。
439私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:04:53 ID:jjq1zG3K

蟹沢きぬ、大空寺あゆ、白鐘沙羅は全速力で森を駆けていた。
三人ともここまでの無理がたたって、身体は万全ではない。
だが、しかし走る。ひたすら走る。山頂がある<<西>>――ではあると思うが、彼方へと向けて。

「…………逃がさない」

騒がしい三人組を背後から追走する一つの影。
<<魔物>>を――いや今は、<<人>>を狩る牢獄の剣士・川澄舞。
友のため殺し合いに乗った悲しき戦士は、剥き出しの殺意を隠そうともせず、獲物を追走する。


 ■


沙羅はため息をつきながら、現状の分析を試みた。あくまでも、<<冷静>>に。
発端は大空寺あゆの言った通り――かどうかは分からない。
確かに遥かな虚空、居場所も分からない地点から自分達を監視しているだろう鷹野三四に対して、蟹沢きぬが見事な啖呵を切ったことは事実。
そして、その無駄なボリュームが川澄舞を呼び寄せたと判断することも可能だろう。

しかし沙羅達が彼女と遭遇したのは放送明けだ。きぬの宣戦布告とは時間に多少のズレが生じる。
彼女がどこかに潜み、頃合を伺っていたと考えることも可能ではあるが。
やはり断定するには材料が決定的に足りない。


放送は三人に残酷な現実だけを一方的に突き付けた。
前々回から毎回、放送者が変わっていたため、今回も別の人物がそれを行うだろうとは思っていた。
しかし、今回の担当者は沙羅の予想を遥かに上回る人物だった。
【鈴凛】と名乗った少女。彼女はなんと今も彼女達の首を締め付けている爆弾の製作者であったのだ。
そして、参加者の中に自らの知り合いが存在していたこともサラリと言ってのけた。
440私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:05:27 ID:jjq1zG3K

残りの参加者は十三人。
殺し合いの終盤を沙羅は肌で感じ取る。
佐藤良美ですら、その命を落とした。
もはや、この状況下において生き残っている者は誰しもが一種の強者と言って間違いない。
ならば、<<この状況下において殺し合いに乗っている者>>は――鬼、もしくは悪魔に近い。


どこに向かっているのかさえ分からず、ただひたすら山林を駆け抜ける。
弾丸は飛んで来ない。最初に威嚇で撃たれた一発だけだ。
だが、背後から感じる威圧感だけは紛れもない本物である。川澄舞は、確実に彼女達を追い詰めつつあった。

(どうする……!? このまま逃げ回っていても埒があかない。それに、一対三なら分の悪い賭けじゃない。
 それに皆それなりの動きは出来る……明らかな足手まといは――いない)

あゆときぬの言葉から、沙羅は背後の襲撃者が圧倒的な実力を有していることは理解していた。
熟練した戦士が一対一で容易く力負けし、武装も強力。
今、彼女の手の中にある武器は心細い拳銃一丁である以上、満足の行く戦いが出来るとは思えない。
加えて先ほどから、自分達が逃げているのではなく、<<逃がされている>>という感覚。
まるで同じ場所で堂々巡りを繰り返している気にさえなって来る。


「聞いて、二人とも。彼女を……川澄舞を迎え撃ちましょう。
 大丈夫、こっちは三人。あっちは一人……勝機はあるわ」
「「はぁっ!?」」


あゆときぬは沙羅の提案に素っ頓狂な声で驚きを示す。だが、決して足は止めない。
とはいえ、二人がこのような反応を示すのも無理のない話だ。
一度川澄舞と刃を交えたものが、彼女と再戦をしたいなどと思う筈がないからだ。
441名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:06:04 ID:7oPItBez
442私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:06:08 ID:jjq1zG3K
この中で唯一、沙羅だけが川澄舞が戦う場面を目撃した経験がない。
本物の戦士が得意武器を持ち、自らの得意な地形で戦ったにも関わらず容易く押し負ける――
事実として把握こそしてはいるものの、<<空気>>を感じた訳ではない者故の選択であった。


「馬鹿、ねーよ!! 数がいりゃあ何とかなるなんて、<<人間>>に対する理屈だぜ?
 あの女ヤバ過ぎるって!!」
「アイツばかりは、な。参加者の中には明らかに人間離れした連中ってのが、確かにいるのさ。
 あたしも……ほれ、この通り」


あゆが沙羅に見事な青痣が出来上がった左腕を見せつける。
これは彼女がアセリアと戦闘した際に、付けられた傷だった。
頭部を狙った一撃を回避するため、咄嗟に差し出した身代わりである。
敵の獲物は金属バット、あゆは拳銃――天と地ほどもありそうな武器のハンデを容易くアセリアは覆した。
もしも、あゆの動作があと一秒遅ければ、彼女は今、生きてはいない筈なのだ。

触らぬ神に祟りなし――この島では誰もが勇者になる必要などないのだ。
しかし、沙羅は自らの意見を曲げなかった。


「だからよ! 生き残りは十三人。ある程度戦える人間が複数揃っているチームなんて、多分ほとんどないわ。
 今ここで彼女を食い止めないと、どう考えてもジリ貧。命がいくつあっても足りないもの!」
「それを……あたし達がやるのか? 相手は素人の拳銃が有効打になるようなレベルの相手じゃない」


あゆは憎々しげに自身の掌に握られた拳銃を見つめながら呟いた。
彼女は既に非常識な力を持った人間に何度も圧倒されていた。拳銃は万能な武器ではない、そう感じていたのだ。
そして、極めつけは舞が持っている奇妙な形をした剣について。
あゆはあの武器から、ホテルで感じた奇妙な違和感に似たプレッシャーを受け取っていた。
443私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:06:52 ID:jjq1zG3K
だが、二人の意見は食い違う。
沙羅はこの島に来てから戦う機会にこそ恵まれなかったが、元々銃器の扱いに長け、荒っぽいやり取りにも慣れている。
一方であゆは殺し合いの経験こそないが、この島で異質な力を持った相手との修羅場をいくつも乗り越えて来た。
二人の立ち位置は酷似しているようで、微妙なズレがあった。

「じゃあ、逃げるの? そのせいでまた犠牲者が出るのよ!」
「この期に及んで善人面することもないだろうが。自分が死んじまったら元も子もない……そうだろ?」

走りながら二人は言い争う。
きぬがイライラした表情で彼女達のやりとりを見つめる。
いつ終わるかも分からない追いかけっこに終止符を打ちたい、と思う沙羅。
ひとまずこの場を切り抜け、一刻も早く一ノ瀬ことみを追跡したいと思うあゆ。


決して沙羅が舞の実力を甘くみていた訳ではない。己の力を過信していた訳でもない。
彼女が今この場にいる誰よりも戦場に慣れているのは明らかであり、人一倍危険察知能力にも優れている。
しかし。
彼女に一つだけ欠けているものがあるとすれば、それは異質な力に対する知識だった。

そう、白鐘沙羅は血と火薬と拳銃には慣れていたが――魔法や超能力などの超常現象にはとことん無知だった。
だから気付かない。
永遠神剣の力を引き出した人間と普通の人間が対峙することの無謀さに、愚かさに……そして結果的に与えられる絶望に。


「だからって――ッ!!! あ……ッ!!」
「嘘……道が……ない!?」


鬱蒼とした梢の先に広がっていた光。
それは荒々しい大地と僅かな緑に囲まれた盆地のような場所だった。
唯一つの問題点、向こう岸まで数メートルはありそうな峡谷を除いて。
444名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:07:22 ID:7oPItBez
445私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:07:29 ID:jjq1zG3K
島の中間部、この周辺はC-5に存在する山を中心としたエリアだ。
つまり、西に向かえば向かうほど傾斜も急になって行く。そして島を横切るように流れている河川の存在がある。
この川が島を大きく二つに分断する。両者を行き来するためには吊橋を渡らなければならない。

しかし、方角も調べずに走り回っていた彼女達は、丁度、山中の行き止まりである崖部分にぶち当たってしまったのだ。
吊り橋はまだ大分西、急いで左右に散開しようとしても不可能だ。
引き返すことも出来ない。なぜなら、

「…………追い詰めた」

ついに、殺人鬼・川澄舞の射程内に三人は入ってしまったのだから。
おぼろげな霞を身に纏い、鬼が笑った。
無表情な能面の口元を無理やり持ち上げたような不自然さで。

それが彼女にとって何を示しているのかは分からない。
ただ、明らかについ先ほど出会った時とは違う――
そんな予感を沙羅達に抱かせるには十分過ぎる程、今の舞は戦いを求めていた。


もちろん、舞が三人を意図的にこの場所へと導いたのだ。
永遠神剣第七位"存在"を使用した高速移動は元々、彼女の性分に非常に適していた。
月宮あゆは永遠神剣第七位"献身"を用い移動したことで、多大な魔力を消費したが舞にその心配はほとんどなかった。

舞にとって神剣魔法は力の消費が激し過ぎる帰来がある。
一回のウォーターシールドとアイスパニッシャーの行使……それだけで全魔力の30%近くを消費したのだから。
しかし、こと魔力による肉体強化に関して彼女には天賦の才があった。

加えて残された弾丸の少なさ。千影から譲り受けた100発の弾も残すはあと七発。
ニューナンブに装填してあるものを含めても僅か十二発。キャリバーの予備弾は全て遠野美凪が持っている。
故に出来るだけ接近戦、そして敵を戦いにくい場所に追い込みたかったのだ。
相手に背水の陣を強制的に敷かせることによる殲滅――それこそが彼女の望みだった。
446私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:08:06 ID:jjq1zG3K
「糞ッ――結局、こういうことになった訳か。沙羅ッ!」
「分かってる。この状況……少しだけ、厳しいけれど」
「二人とも……」
「きぬ、私達が前に出るわ。あなたは無理せず、援護に専念して」
「……ああ」

振り向いた三人は後ずさりしつつ、武器の準備をする。
一歩、一歩、舞が歩みを進める。比例するように三人も後方へ移動。
距離自体は変わらない、しかし沙羅達の後方に少しずつ崖が近付いていることもまた事実。

照り付ける太陽の光。
時刻は日中――十三時も半ばが過ぎた辺りか。
一日のうちで最も眩しい輝きを放ちながら、絶空から四人の少女を見つめる恒星。
そして、一丈の白雲がその煌きに影をもたらした時。
戦いは始まった。


 ■

<<一対三>>

先手を打ったのは沙羅だった。
ワルサーP99を容赦なしに舞に向けて三発発射する。

この銃の最大の利点とは何か。
ワルサーP99はワルサーシリーズの中でも傑作とされ、旧型のワルサーP38の真の後継者とまで称される名銃である。
しかし、現在の状況下においてグリップの利便性や汎用性よりも効果的なのはやはり、装弾数の多さではないだろうか。

舞が使用するリボルバータイプのニューナンブM60と比べ、こちらは何と数にして十六発という圧倒的な数の弾丸を発射出来る。
マガジンタイプの弾倉は弾丸の補充も容易である。
弾薬こそ、補給の効かない状況下における命。そして生命線だ。
故に、その利点を最大限生かし、複数射撃によって先制攻撃を試みた白鐘沙羅の判断は的確だったと言えよう。しかし、
447名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:08:12 ID:7oPItBez
448名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:08:26 ID:SsOeD/EG
    
449私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:08:39 ID:jjq1zG3K

「――ッ!! そんな単純な攻撃……当たらない」
「なッ……!!」

川澄舞にとって、真っ向からの直線的な銃撃では牽制にさえならないことを彼女は知らなかった。
ゆらりと幽鬼のように舞は弾丸を体勢を低くすることで回避する。
そもそも彼女は永遠神剣によって肉体強化を行う前の状態でさえ、弾丸を目視し、それを躱すことが出来たのだ。
"存在"を手に入れ、人の力と神秘の力を融合させることを覚えた彼女にとってそれは児戯に等しい。

「糞……化け物が!!」

あゆが憎まれ口と共にゲーム開始時から使用しているS&W M10を発射。
が、彼女がトリガーを引くと同時に舞は大地を蹴って一気に距離を詰める。
結果あゆの眼に写ったのは、弾丸が間抜けにも地面に当たる音と、十メートル以上の間合い数メートル前まで一瞬で移動する女の姿だった。

沙羅が一瞬の混乱から復帰し、あゆを援護するべく数発弾丸を放つが当たる筈もない。
正確に頭を狙った一撃でさえ、軽く首を動かしてかわされる始末。
彼女の脳裏に過ぎったのは川澄舞の非常識な能力に対する恐怖と脅えだった。

森が終わり、かすかな荒地と芝生が覗くこの場所において、舞の存在は脅威的だった。
鬼神、武神、殺人鬼――どんな言葉を使っても表現しきれない。
本来なら相手を目視することしか出来ないような距離でさえ、一足で自らの間合いへと持ち込み剣を振るう。

そう、沙羅は感じていた。
もしも――自分が少しだけ長いまばたきをしたら、その時既に彼女の顔が目の前に来ているのではないか。
そんな、杞憂を通り越して神経過敏にさえ思えるような不安が、今は現実なのだ。
事実、彼女の動きは目視するのが精一杯なくらい、早い。

「二人ともッ!! 散って!!」
450名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:09:01 ID:SsOeD/EG
    
451名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:09:07 ID:7oPItBez
452私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:09:37 ID:jjq1zG3K
だが、決して彼女はその禍々しいオーラに飲み込まれることはなかった。
震える心に渇を入れ、あゆときぬに対して大声で指令を出す。
幸いなことに他の二人も完全に舞に気圧されていた訳ではなかった。
沙羅の言葉に突き動かされ、完全に退路を断たれ、谷のすぐ側まで追い詰められる前に散開する。

沙羅は舞から見て左へ。
あゆときぬは右へ。

当たらないことを理解しながらもあゆと沙羅は銃で、きぬはマトモな射撃が期待出来ない釘撃ち機をしまい、クロスボウで応戦する。
自らを中心にしたTの字型に散った敵を見据え、舞は思考する。
左から飛んで来た弾丸を身体を捻って回避、右から来た玉は――何もせずとも当たらないと判断。無視する。
だが、オレンジ色の髪の女が放った矢だけは上手いことに、真っ直ぐコチラへ向かっているようだ。

故に、舞は周りの人間にとって想像も付かない方法を取った。
右手の"存在"を地面に突き刺し、慣性の掛かった身体を緊急停止させる。
そして、拳銃を真上へとポーンと放り投げた。

「「「えッ!?」」」

黒鉄の凶器が空を舞う。約五、六メートル近く上空まで拳銃は上昇。
当然、五秒も掛からずに重力に引かれ落下する――誰もがそれは理解していた。
だが、その与えられた五秒間で舞が取った行動は三人を驚かせるには十分過ぎるものだった。

時は淀みなく進む。
クロニクル通りに、物事を消化しよう。
まず舞が拳銃を投げ、次に――その身体目掛けて蟹沢きぬの放ったボウガンの矢が飛来する。
そして彼女はその矢を「ある夏の日にスイカを食べて涼んでいる者が、飛んで来た一匹の蚊を叩き落す」ように、

――顔色一つ変えず掴んで止めた。

453私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:10:13 ID:jjq1zG3K
三人の顔に驚愕の色が走る。
それから後はもはや曲芸の域だった。
舞はすぐさま矢を右手に持ち替え、空いた左手で永遠神剣を再度持つ。

そして、メジャーリーグのピッチャーのような豪快なオーバースローでそれを、きぬに向けて――投擲したのだ。
放たれたのはボールではなくて、ボウガンの矢。
ただし、その速度は時速にして160kmを軽く超えていた。

勿論、人が投げる矢と火薬の爆発によって推進力を得た弾丸の速度など比べ物にならない。
事実三人の眼には、舞が放った矢の軌道がある程度は見えた筈なのだ。
しかしこの状況下において最も重要な事実は、彼女が本人以外誰一人として予想しなかった行動を取ったということ。

『攻撃が跳ね返される』という、ゲームか漫画の世界の常識が彼女達に備わっている訳がなかった。
そもそも銃を上に放り投げた時点で、三人の注意は一時的に舞の身体から離れていた。
つまり彼女が矢を受け止めた瞬間――沙羅達の動きは有り得ない出来事に停止したも同然だった。

言うまでもなく、止まっている人間に攻撃を当てることなど彼女にとって造作もないことで、


「あぁぁぁあああああッ!!!!」
「カニッ!?」
「きぬ――ッ!! あっ!!!」

その銀色に光る矢は、蟹沢きぬの身体を貫いていた。きぬの空気を裂くような悲鳴が木霊する。
声にならないうめき声の裏側、小さな音を立て、ニューナンブM60が天から主の掌へと舞い戻る。
唯一、それに気付いた沙羅は友を案ずる叫びを飲み込み再度銃を構えた。



 ■

<<一対二>>
454名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:10:17 ID:7oPItBez
455名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:10:31 ID:SsOeD/EG
    
456名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:11:31 ID:7oPItBez
457名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:12:29 ID:7oPItBez
458名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:13:05 ID:7oPItBez
459私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:13:48 ID:jjq1zG3K

一対多の構図の際、単独のものが取るべき戦術は二通りある。

リーダーを狙うか、敵の数を減らすことを目的にするか。それらのどちらかである。
しかしいかに数で勝っていても川澄舞と相対した現在の状況において、それが絶対的な有利には繋がらないことを、沙羅はこの短いやり取りの中で嫌と言うほど思い知っていた。
故に、彼女が取るであろう行動は決まっている。
おそらく、明らかな手負いとなったきぬを狙って攻撃してくることだろう。

誰かを守りながら戦うことは非常に難しい。
そもそも自分達が彼女に対して持っているアドバンテージは『足でまといにならない人間が三人いること』ただ一つだったのだ。
一対三の構図は脆くも崩れ去った。残されたのは、圧倒的に不利な状況だけ――つまり、一対二。
沙羅は己の無能具合を責めることしか出来なかった。

(考えなさい、沙羅。冷静になって考えるの。もう圭一はここにはいない。
 美凪はなんとかまだ生きているようだけど、安全かどうか保障はない。クールに、クールになるのよ。
 私が絶対に圭一の意思は継いでみせる。彼女は私が必ずここで……止めるっ!!)

幸いなことにきぬは死んだ訳ではない。
ただ矢に当たっただけだ。
人の手で投げられた矢など、余程当たり所が悪くなければ一発で命を失う怪我を負ったりはしない。
そもそも、投げた矢が身体に刺さった時点で奇跡に近いのだ。

だが、命中した場所は中々条件が悪い。右の太股――移動の要となるそこを見事に矢は貫いていた。
とぷとぷと漏れる赤がやけに扇情的である。出血が酷い。
つまりきぬはもはや、機敏な動きで逃げ回ることは出来ない。
位置の固定、それは自分達にとって最悪の結末に直結することとなる。


そう考えた瞬間、沙羅の身体は勝手に動き出していた。
拳銃をすぐにでも射撃体勢に移れる位置にしまうと、デイパックから一本の刀を取り出す。
地獄蝶々――竜鳴館高校の風紀委員長に代々伝わる名刀である。
460名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:14:00 ID:7oPItBez
461名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:14:02 ID:SsOeD/EG
    
462名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:14:42 ID:7oPItBez
463私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:14:52 ID:jjq1zG3K

「川澄舞っ!! こっちを向きなさいッ!!!」
「…………?」

突然名前を呼ばれ、舞は怪訝な顔付きで軽く振り向く。
だが前方のあゆときぬに注意は向けたままである。
妙な動きをすれば、一瞬で仕留めに行く。沙羅でさえ彼女のその意思に確信を持つことが出来た。

だが、同時に沙羅は心の中で改心の笑みを浮かべた。
何とか相手の興味を引くことが出来た――これは非常に大きい。
状況の逆転は時間、時間との関連性が少なくない。
いかに分が悪くても勝負行かなければならない状況があるのだ。そしてソレはきっと、今この瞬間だ。


「私とタイマンで勝負しなさいッ!!!!」


沙羅は地獄蝶々の刀身を抜き放ち、鞘を後ろへと放り投げた。
カランカランと乾いた音を立て、素晴らしい装飾が施されたそれが大地を転がる。
そして刀を握り締め、沙羅は正眼に構えた。
舞の後ろであゆが眼を丸くして唖然とした表情を浮かべている。
苦痛で顔を歪めていたきぬも驚きの色を隠せない。

倉成武が前原圭一に持ちかけた一対一での決闘の誘い……その時の言葉が一字一句正確に沙羅の頭の中で繰り返された。
男と男の命を賭けた全力でのぶつかり合い。
圭一の意志を継ぐと決意した自分にとって、コレ以上ないほど最高の提案のようにさえ思えた。

しかも、そんなダンディズム以外の要素の方がよっぽど重要だ。

『川澄舞の注意を引きつける』という一点。
この点だけに絞れば、一対一での闘いを申し込むというのは最高の策ではないか。
464名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:15:18 ID:SsOeD/EG
    
465私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:15:23 ID:jjq1zG3K
他の二人が狙われることもなく、最低限の時間を稼ぐことが出来る。
このままジリ貧で三人ともやられてしまうよりはよっぽど有益な作戦だ。
沙羅は自らの閃きの鋭さに若干の笑みを浮かべた。
「さすが名探偵の美人助手だ」と決闘は始まってもいないのに、自画自賛したくなる。――が、


「…………馬鹿?」
「――な、なんでそんな反応なのよっ!?」


返って来たのは、あまりにもつれない返事。
舞は完全に沙羅の方へと向き直り、目の前の少女を哀れむような瞳で見つめる。
視線は言葉以上に雄弁に語る。

『うわぁ、可哀想な人だ』(←注:訳・白鐘沙羅)

とはいえその姿に隙は全くない。
その気になればこの場にいる三人など容易く御せるという自身の表れか。が、確かなことは分からない。
ただ、とりあえず、彼女の眼が沙羅を思いっきり馬鹿にしていることだけは明らかであった。

(嘘嘘嘘!! なんで!? どうして!? しかもよりによって、あんな眼で見られないといけないの!?
 私そんなに変なこと言った!? ここは二つ返事で「分かった」って頷く所じゃないの!?
 これじゃあ……私がただの頭の弱い子みたいじゃないっ!!)

沙羅の顔面に浮かび上がった微笑は一瞬で消滅し、今や茹タコのように真っ赤になっている。
こんな極限状況でも羞恥心は感じるんだな、などとどうでもいいことにだけ頭が回る。
加えて、彼女としてはいたって真面目な発言であったため、ソレを普通に却下されたことは彼女の精神に大きなダメージを与えた。

466名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:15:42 ID:7oPItBez
467私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:16:02 ID:jjq1zG3K
「タイマン……ってつまり……私と剣で勝負したいってこと……でしょ?」
「そうよ、そうに決まってるじゃないっ!! この刀を見なさい、きっと業物……いえ、大業物よ!? 
 その辺のナマクラ刀じゃないのよ!? 相手にして不足はない筈だわ!!」
「……でも」
「何よッ!?」
「それ……刀の握り……じゃない」
「…………へ?」


間抜けな声を出しながら、沙羅は自らの手元を確認する。
自分は確かに刀を両手でしっかりと握り締めていた。
もうドンだけぶん回してもすっぽ抜けることはない、と確信出来るくらい強く。
つまり、俗に言うバットでボールを打つ時の持ち方である。

沙羅はこのときようやく、そう言えば剣道の刀って特別な持ち方あったなぁ、という事実を思い出した。


「刀は……こう……持つ。剣を使う人間にとっては……常識」
「でででで、でも!! だからって決闘が成立しない訳じゃないわ!!」
「……ううん」


沙羅は狼狽した。
つまり彼女は舞から『決闘をするに値しない』と切捨てられたのだ。
自らが戦いのスタートラインにさえ立っていなかったという事実は、彼女に少なからぬ動揺を与えた。そして、


「握りも知らない人間が……経験者に勝てるほど……剣術は甘くない」

468名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:16:32 ID:SsOeD/EG
    
469私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:16:38 ID:jjq1zG3K
――玉砕。
トドメの一言が炸裂した。
舞はもう言うことはないとでも言いたげに、クルッと身体を返した。沙羅に堂々と背中を向けたのだ。
それは、つまり、先にあゆときぬを攻撃するという意思証明。
あゆはまだ十分動ける。しかし、きぬは無理だ。
あゆが生き残るためにはきぬを見捨てるしかなくて、きぬにはどうすることも出来ない。

沙羅はブルブルと身体を震えさせた。

彼女は一体、何を感じたのだろう。
己の馬鹿さ加減を、愚かさを呪うのだろうか。
絶望に打ちひしがれ、大地に膝を付いて涙を流すのだろうか。
だが、正解はそのどちらとも違った。
いや、そもそもベクトルからして全くの真逆、


(何なの、何なの、何なの!? ダメじゃない、これじゃダメ……全然ダメ……ッ!!
 圭一の意思を継ぐなんてレベルじゃない。自分の流儀どころか、仲間の命一つ守れない。
 しかも何も出来ずに、二人が殺されるのを見てろって言うの!? 冗談じゃないわ!!
 って言うか何が「握りも知らない人間が経験者に勝てるほど剣術は甘くない」よ!!
 剣なんて切れればいいじゃない!! 自己流だって何とかなるわよ、気合で!!)


沙羅はキレた。
俗に言う逆ギレ、逆恨みという奴だ。
人を小馬鹿(間違いなく今の沙羅は非常に滑稽だったのだが)にしたような言動、物憂げで物事を斜めに見ているな視線。
何もかもがムカつく。何もかもが気に入らない。
沙羅の色素の薄い髪が何処かの神様のように、ピリピリと殺気立っていく。

だから彼女は決めた。
つまり、こういうこと――もう、どうにだってなれ。
470名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:16:55 ID:7oPItBez
471名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:17:08 ID:SsOeD/EG
    
472私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:17:16 ID:jjq1zG3K
「じゃあ、そろそろ……二人とも死んで――」
「待ちなさいッッッ!!!」
「…………また」


舞は今度は露骨な不快感を表情に刻んで少しだけ振り返った。
だが、瞬間その可憐な瞳を大きく見開いた。
なぜなら、視界に飛び込んで来た沙羅の行動は彼女にとってあまりにも予想外だったのだから。


沙羅は今まで手に持っていた刀を、谷底へ――ぶん投げた。
舞のオーバースローに対抗するような、地を這うようなアンダースローで。
それは、どこぞのプロ野球球団のピッチャーの投球フォームというよりも……子供がダダを捏ねて、玩具を放り投げる仕草と非常によく似ていた。


「沙羅っ!!! アンタ何を……ッ!!」
「いいから、あゆは黙っていて!!
 川澄舞ッ!! 聞きなさいッ!! 私は剣を捨てた!!
 これで私が剣の使い方を知らないのはタイマンを拒む理由にはならないっ!!」
「………………本当に、馬鹿?」


あまりの沙羅の強烈な怒気に押され、思わずあゆが気圧された。
舞は本気で「駄目だこいつ……早く何とかしないと」という感じの眼で彼女を見た。
沙羅は大きく息を吸い込むと、矢継ぎ早に喋り出す。
まるで――マシンガンのようなスピードで。

473名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:17:47 ID:SsOeD/EG
    
474私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:18:04 ID:jjq1zG3K
「ええ、そうよ。確かに私は無知だった。好きなだけ馬鹿にするがいいわ!! 嘲笑うがいいわ!!
 っていうか剣の握り方なんて、普通の女子高生が知ってる訳ないじゃない!?
 今時の女の子は棒切れを振り回すよりも、料理の一つでも勉強した方がよっぽど健康的なのよ!!
 どうせアンタなんて剣の練習ばかりしてマトモなメニューの一つも作れないでしょ!? いいえ、きっとそうに違いないわ!! この穀潰し!!
 他人の作った料理ばかり食べているなんて、女の風上にも置けない奴!!
 それにね。アンタが剣術を語るなら、こっちも言わせて貰うけど、アンタの銃の撃ち方何から何までおかしいのよ!!」


この場にいる沙羅以外の人間は、何故急に彼女の話が料理のテクニックにまで波及したのかまるで理解出来なかった。
とりあえず分かるのは目の前のこの少女は、とにかく物凄く怒っているという事実だけ。
ちなみに、この場に双葉恋太郎、もしくは白鐘双樹がいたとしたら「よりによって、お前がその台詞を吐くか」と冷静な突っ込みを入れてくれたことだろう。
余談ではあるが彼女、白鐘沙羅はとんでもなく料理がド下手糞なのである。

だが、ヒートアップした沙羅を止められる人物がこの場に居なかったのは不幸なのか幸いなのか。
沙羅は興奮したまま、自らの服の隙間から拳銃を取り出す。
呆れていた舞の顔が戦士のソレに一瞬で変わった。しかし、

475名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:18:22 ID:A5i29Y3z
.
476名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:18:23 ID:7oPItBez
477名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:18:54 ID:A5i29Y3z
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478私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:19:33 ID:jjq1zG3K
「まずね。アンタが持っている銃――それってニューナンブM60でしょ!? 日本の警察が結構普通に持っている奴!
 種別はリボルバー。全長198mm、重量685g、装弾数五発、有効射程は50m!!
 結構良い銃よね、私も試し撃ちしたことがあるわ!!
 でも結構グリップが厚くて、私の手だと少しだけ撃ち難いのよね。
 しかも旧式のT型だったから、操作性も最悪で『日本政府もっと気合入れなさい!』って何度思ったことか!!
 でもね、そんなのはどうだっていいの。今問題なのはアンタの結滞な銃の撃ち方についてよ!!
 まず私から言わせて貰うなら、素人がニューナンブをダブルアクションでぶっ放す時点でおかしいのよ!!
 そんなやり方で当たる訳ないじゃない!
 正しい銃の撃ち方も知らない人間にとってニューナンブは決して撃ち易い銃じゃない。
 シングルアクション以外だと極端に銃の命中精度が落ちるってのは、結構大きな問題点よね。
 ん? 何でアンタが素人か分かったのか、って顔付きね。分かるわよ、そりゃあ。
 っていうかこの島で正しい銃の撃ち方を知っている人間に、私はまだ一人も出会っていないもの。
 グリップの持ち方一つで、そんなの分かるの。
 知ってる? 正しい射撃姿勢を取れるかどうかで、銃撃の結果は左右されると言っても過言じゃないのよ!?
 こうよ、こう持つの!! 見て、こうよ!?
 とくに川澄舞、アンタの持ち方は最悪ね。片手撃ち……本当はそんなの漫画の中の出来事なのよ!?
 それ用に改良された銃じゃないと肩の骨が外れても文句は言えないんだから!!」


舞はすぐさま始まった【白鐘沙羅の"ただしいじゅうのうちかたこうざ"】に唖然となる。
あゆときぬも沙羅がこんなに気の強くて、短気で、そしてアホな女だとは知らず意外そうな眼でその光景を見つめている。

「つまり……私の銃の撃ち方は……なってない……と」
「そうよ!! 私も刀を捨てたんだから、アンタにもその銃をどこかにやって欲しいぐらいだわ!!」
「……さすがに……それは、出来ない」
479名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:19:39 ID:7oPItBez
480私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:20:05 ID:jjq1zG3K

苦笑い。激昂する白の少女を除いて、誰もが口元を引き攣らせる。
非常に身勝手な理論を景気よく振り回す沙羅。
自らの命の危機だと言うのに、よくぞここまで好き勝手やれるものだと、逆に賞賛の拍手を送りたくなる。
だが意外なことに舞はそんな目の前の少女に対して、ある決意を固めたようだった。


「でも、その代わり……お互いの得意武器でなら……どう?」


左手に持っていた拳銃をデイパックにしまうと、舞は"存在"を沙羅に見せ付けた。
剣と銃。
両者が拘りを持つ武器同士なら、折り合いがつくのではないか。そう考えたのだ。
気のせいか、彼女の表情は先ほどまでと比べて大分穏やかになっているようにさえ見えた。

しかし、ソレは大分沙羅に影響された末の選択だったのではないか。
空気に呑まれた、とでも表現するべきだろうか。
なぜなら舞には沙羅とタイマンを張る理由も意地も利点も大して存在しないのだから。


(なんか……逆に事態が好転した? )

もしも、あのまま剣と刀の決闘が受諾されていた場合――
沙羅は一度目の切り結びで、見事な斬殺死体にフォームチェンジしていただろう。
それ程両者の間における、剣術の腕前の差は歴然としており、無謀や愚図という言葉すら勿体ない。
ただの捨て身の突貫として、舞に消化されていた筈だ。

剣と銃ならば、まだ勝負になる。沙羅はそう考えることも出来ると思った。
どちらもエキスパート、身体能力に精神論では挽回できない程の隔たりがあろうとも、だ。
しかも今まで沙羅は一対三という現状最高の構図でありながら、舞に完全に圧倒されていた。
それが一対一での勝負になっても、彼女に勝機があるようには思えない。
481名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:20:37 ID:A5i29Y3z
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482私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:20:40 ID:jjq1zG3K

しかし、沙羅はそれでもニカッと改心の笑みを浮かべた。
唇の両端を大きく吊り上げ、心底嬉しそうに。
そして大声で舞の言葉に応える。
そうだ、明日の一歩を踏み出すため――彼女はどちらにしろ、この場を乗り切らなければならないのだから。


「その喧嘩――双葉探偵事務所の美人助手、白鐘沙羅が買ったわ!!」


ノリノリで自動拳銃を構える沙羅。
その瞳は決意とそして女の意地に溢れ、輝いていた。


前方から「やべーだろ、これ」「ああ」「てか、無理じゃね?」「……だろうね」「でも、助けに行くとしても……」「川澄が勝負を飲んじまった以上……不可能さ」
「てことは」「いや、結論を下すのは早過ぎるさ。何か抜群の計画がある筈……多分」「……どうだか」みたいな声が聞こえてきたが、少女は全力で耳を塞いで聞かなかったことにした。


ちなみに沙羅の心の中を語るならば、曰く――必勝法なんてある訳ないじゃん(苦笑)


 ■

<<一対一>>
483名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:21:13 ID:7oPItBez
484私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:21:14 ID:jjq1zG3K
先攻はまたしても沙羅だった。
流れ弾があゆ達に当たらないように舞を中心に時計回りで走り出す。
獲物は彼女の支給品ワルサーP99。弾丸補給に優れたマガジンタイプの自動拳銃だ。
マガジンに残された弾薬は六発。
弾倉を入れ替えるべきか、躊躇う微妙な残弾数である。
だが、彼女は眉一つ動かさず、マガジンをパージする。そして新たに十六発を装填。
心も身体も理解している。残りの弾薬を全て使い切るくらいの力を注ぎ込まなければ彼女を御することなど出来る筈もないと。

対する舞は沙羅の動きを警戒しつつ、自らの力を最大限に発揮出来る永遠神剣第七位"存在"を横に薙いだ。
魔力を帯びた刀身はそれだけの動作で空気を揺るがし、森を奮わせる。

そして――舞が動いた。


先ほどまでとは違い、"存在"をしっかりと<<両手>>で握り締め沙羅に向ける。
極端に柄が長い独特の形状を誇る彼女の獲物は、普段愛用しているブロードソードとは大分形状が異なる。
彼女の本来のスタイルは敏捷性を重視し、細身の剣を用いたヒットアンドアウェイ。
攻撃手段も力に任せた斬撃というよりも、急所を狙ったピンポイントなものがほとんどだ。

つまり、この島にいるもう一人の剣士、そしてこの"存在"の正当な所持者であるアセリア・ブルースピリットとは一線を成している。
アセリアの攻撃方法は永遠神剣によるウィングハイロゥの展開、『高速機動・急速降下・一撃離脱』の三つで構成されている。
また、剣の使い方もスピードと力を融合させた強力無比なパワータイプだ。
神剣の契約者である特性を最大限に引き出したやり方と言えるだろう。


川澄舞に翼はない。
卓越した身体能力を持っていようが、所詮ソレは人の身。
永遠神剣という神秘を戦闘スタイルに取り込んだものと比べて見劣りするのは仕方のないこと。
しかし、彼女には『永遠神剣を扱う素質』があった。
もちろんハイロゥの展開など出来る筈もない。可能なのは不器用で粗雑な神剣魔法と身体強化だけ。
だが、それだけでも彼女にとって、十分過ぎるほどの利点――
485名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:21:20 ID:A5i29Y3z
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486私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:21:44 ID:jjq1zG3K
「…………勝負」

踏み込んだ右足、人の身からは考えられない爆発的な加速。
否。あゆ達の眼には本当に地面が爆散したかのように見えていたのではないか。
事実、舞が先ほどまで立っていた大地にまるで火薬が破裂したようなクレーターが出来ていた。
鼓膜を震わすような音と土煙。舞は既にその場所にはいない。

そう、非常識なまでのスピードの強化―ーそれこそが、川澄舞に与えられた最大の祝福だった。

「甘いわっ!!」

しかし、この場に存在したのは戦闘経験の少ない者だけではない。
この島で生き残った、唯一の銃器に関するプロフェッショナル、名を白鐘沙羅。
当然、彼女には見えていた。
決して舞はその場から消えた訳ではない。ただ一歩を踏み出した――それだけなのだ。
有り得ない速度で突貫してくる少女の姿を沙羅の双眼は見失わない。
舞の身のこなしをある程度知識に収めたことで、沙羅は彼女に対する一つの対策を打ち立てていた。

沙羅はワルサーP99の先端を限りなく"地面"に向けて、引き金を引いた。

「な……ッ!?」

驚きの呻き声を上げたのは舞の方だった。
もちろん完全に戦闘モードに入った彼女が相手の奇行に惑わされる訳がない。
意外性、無謀と同意義のソレならばただ敵の気狂いと認識し、容赦なく叩き潰す――それが彼女の流儀だ。

故に彼女はただ間合いまで超高速で接近し、相手を切り伏せる。
それだけを考えていれば良い筈だったのだ。
しかし、彼女は加速を停止し立ち止まざるを得なくなった。舞の移動軸を防ぐかのように弾丸が発射されたからだ。

「くッ……」
487名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:22:31 ID:7oPItBez
488名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:22:34 ID:A5i29Y3z
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489私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:22:37 ID:jjq1zG3K
舞は唇を噛み締めた。そしてすぐさま敵の銃撃に備え、その場を飛び退く。彼女の判断は正しく、間髪居れず銃声が二つ響いた。
そう、彼女の機動力に唯一弱点があるとすればそれは―ーあまりにも早過ぎること。

全力を出した彼女の動作は疾走という段階を遥かに超越し、地面を"跳ねている"に等しいのだ。
足を一歩踏み出しただけで軽くメートル単位の移動が可能である。
それはつまり、毎回"ジャンプ"しているようなもの。
ハクオロとの戦いでは鉄扇と剣、どちらも接近主体の武器を用いていたためほとんど気にならなかった問題だ。
足場も悪く、傾斜のある土地では爆速加速はプラスにしかならなかった。しかし、

平地で、銃相手で、となると話は別だ。


川澄舞に翼はない。
故に空中での体勢制御には限界がある。
一気に沙羅との距離をつめようとも、丁度着地する地点を精確に狙われては近づけない。

弾速、照準、発射技術――それらを全て完璧な割合で持ち合わせた者。
それはこの島のラスト・ガンナー、白鐘沙羅にしか取れない戦術であった。

身体強化と舞がいかに相性が良くても、永遠神剣を手にしたのは僅か数時間前の話。
出来るのはせいぜい、スイッチのオンとオフだけ。
つまりMAXとMINしかない不器用なスピーカーのようなものだ。
常に全力で強化するか、それとも強化をしないか。彼女に与えられた選択肢は二つ。

(予想通り……ッ!! これで第一関門は何とか突破……ッ)

一方で沙羅は心の中でド派手なガッツポーズを取っていた。
彼女の川澄舞に関する考察はこうだ。

まず武器が剣と銃である以上、懐に入られてしまえばこちらの負け。
銃のフレームであんな大剣とチャンバラを行うなんて自殺行為に他ならない。
ならば、とにかく相手が近付けないようにすることに重点を置くべき――そう考えた。
490名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:22:49 ID:SsOeD/EG
    
491私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:23:07 ID:jjq1zG3K

しかし沙羅は銃の怖さ、恐ろしさを痛いほど知っている。
これが二人の決定的な違い。
銃を軽視する者と、構造を知り尽くし何よりも重く見る者。
慣れない力を遣う者と、十分な知識と経験に裏づけされた力で戦う者。


タイマン開始から数分が経過。
一瞬で決着がつくと仲間にさえ思われていた戦いの結末は未だ見えずにいた。
予想外なくらい平行線の戦いが、いや若干沙羅に有利な展開で勝負が続いている。

いまだに一度も舞はまともに剣を振るうことが出来ずにいた。
移動しながらも精確な射撃を繰り返す沙羅に、煮え湯を飲まされた形だ。

谷前の荒地はそこら中に小さな穴ぼこが広がり、芝生はほとんどが破壊されてしまった。
端に移動し、二人の戦いを見つめるあゆときぬの顔も緊張に満ちている。
沙羅が舞を上手くあしらっているようにも見えなくはないが、やはり川澄舞の実力を侮ることは出来ないという確信があったためだ。

「9……10……」

カウントダウン。決して間違えることのないように口に出して、はっきりと。
それは沙羅が前回マガジンを入れ替えた時から続いている数え唄である。
舞は相手をキッと見つめつつ、回避と遊撃運動に全てを注いでいた。
最高の、攻撃のタイミングを狙って。

意思と技術が込められた牽制射撃、銃士特有の間合いの取り方。
<<本物の銃使い>>を相手にすることがここまで厄介だと彼女は想像だにしていたなかっただろう。
確かに彼女はこの島で銃器を扱う人間との戦闘経験は積んで来た。
しかし、銃を使うエキスパートと出会うのはコレが初めて。
センスでも直感でも何でもない。修練と習熟から成る射撃は一味も二味も違った。
492名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:23:36 ID:7oPItBez
493私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:23:46 ID:jjq1zG3K

発射された弾丸を叩き落し、一気に敵へと接近するというやり方も舞の脳裏には過ぎった。
この広刃の剣ならばソレもおそらく十分に可能。強度的な問題もないだろう。
しかし、彼女はそうしなかった。
ソレは驕りや命を顧みた行為ではなく、単純に難度が争点となる。
舞の下半身のみを狙って発射される鉛玉は無理やり弾くにはハードルが高く、上体に明らかな隙が出来てしまうという難点があったのだ。
故に前に出ることは出来なかった。だが彼女が相手の牽制に対して無策であった訳ではもちろんない。
彼女は待っていた。
銃を扱うものに須らく訪れる決定的な隙――次の、三回目のリロードの瞬間を。


(どうしよう、どうする、どうすればいいの、私!?)

あくまで冷静、鉄の仮面を顔に被り剣を凪ぐ舞とは対照的に沙羅は焦りに焦りまくっていた。
黒のロングスカートを靡かせ、荒野を跳んで駆けて疾走する。
もちろんその心配は、銃器の弾薬について。
場を沙羅が支配しているように見えるのは当然の如く、まやかしである。

なぜならば、剣は折れない限り戦闘を続行することが出来るが、銃は弾が尽きてしまえばただ重いだけの板切れになってしまう。
狙い済まされた射撃と豊富な弾薬によって、沙羅は舞の動きを封じることには成功していたと言っていい。
だが、それはあくまで<<負けない>>ための戦術。
決して<<勝つため>>の戦術には成り得ない。

そう、もしもこれがゲームセンターに置かれたFPSゲームだとしたら弾丸は無尽蔵だ。
相手の疲弊を待ち、鎬を削るという一点において舞と沙羅は互角だっただろう。
しかしこれはあくまでリアル。
物品には限りがあり、当然物理的な補給のタイミングも見計らわなければならない。
494私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:24:21 ID:jjq1zG3K
銃使いが最も自らの無防備を晒すのはやはりマガジンをリロードする瞬間だ。
その対策として複数の銃器を用い、相手に残りの弾薬を悟られないようにする工夫などが必要なのだが。
一対一、遮蔽物のない完全な平地、一丁だけの自動拳銃。
デイパックの中にリボルバー形式のS&W 36が入っているが、一発でソレを探り当てる自身はない。
これらの要素は埋めようのない隙間となって、沙羅の目の前へと立ちはだかる。

(残り六発……数えてる? 数えてるわよね!? ……数えてない訳ないか。
 次でマガジンの入れ替えは三回目。相手はそれを見計らって必ず来る――)

奥歯を強く噛み締めながら、飛び込む仕草を見せた舞に向けて二発牽制。
顔色一つ変えずに彼女はこれを回避。既に沙羅は相手に直撃させることを放棄したい気分にさえなってきていた。
これで残りの弾は四発。
ついに下手を打てば一回の射撃で消費しかねない、そんな心細い段階まで来てしまった。

リボルバーならば、込められた弾丸は六発か五発と適当な見積もりを立てることが出来る。
それに、毎回全弾補給する必要もない。迂闊な飛込みを防ぐことは可能だったかもしれない。
だが、マガジンタイプとなるとそれは別。オールオアナッシング。弾倉をパージした瞬間は完全な手ぶらに近い状態。

(弾が切れたらジリ貧……こうなったら……ッ!!)

故に沙羅は奇策に打って出た。

突如、彼女は足を止めデイパックへと手を伸ばした。
そして、当たりクジを弄っているかのような仕草を見せる。
『何かを取り出そうとしている』
それはこの場にいた沙羅を除いた誰もが抱いた感想だ。

あゆときぬは彼女の不用意な行動に端正な顔を歪ませ、舞はそれを純粋な好機と見てすぐさま突撃運動に移行する。
だが唯一、沙羅だけが――笑った。


「これでも食らいなさいッ!!!!!」
495名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:24:46 ID:7oPItBez
496私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:24:51 ID:jjq1zG3K


何とか、間に合った。
沙羅は舞に彼女が剣を振るうことの可能な位置に接近されるギリギリで、デイパックから妙なものを取り出した。
そして、投擲。影は三つ。

舞は思わず舌打ちした。
投げられたものの中に、明らかな危険物が混じっていたからだ。
故にその<<一つ>>だけを回避し、飛来した<<一つ>>を"存在"の柄で叩き落し、そして<<一つ>>を両断した。

それが分岐点だったのか、彼女は選択を――誤った。


瞬間、凄まじい閃光と爆音が巻き起こった。


「があぁぁぁぁッッッッ!!!!!!!」
「へ…………?」


沙羅は驚いた。思わず間抜けな声が唇から漏れる。
そう、適当に時間稼ぎのために引っ掴んで放り投げた<<フロッピーディスク>>が何故か大爆発を起こしたのだ。
鷹野三四が"罠"として仕掛けた筈のそれは、最初の使用時における三択に勝利した彼女へと幸福をもたらした。

ちなみに、彼女が本来"おとり"として放り投げた<<エスペリアの首輪>>は、内部の爆弾機能を警戒した舞に躱わされてしまった。
狂人・鳴海孝之のようにソレを破壊するほど、舞は愚かではなかった――逆にそれが仇となった訳だが。


舞は身体のすぐ側で起こった爆発に耐え切れず、思わず後ずさる。
直撃は避けている……が、身体のあちこちに破片で火傷を負ったようだった。
497名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:25:45 ID:A5i29Y3z
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498名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:25:47 ID:7oPItBez
499私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:26:17 ID:jjq1zG3K
絶好の追撃のチャンス――しかし、沙羅は一瞬行動が遅れた。
まさか、フロッピー"が"爆発するとは思いもしなかったためだ。
確かに一回目の使用後、勝手に"PC"が爆発したのだが、アレはあくまでプログラムのせいである。自分はそう考えていた。

ところが、

どうも、一枚<<本物の爆弾>>が含まれていた……ようなのだ。
その一枚をPCのスロットに挿入していたらどうなったか。……想像に難くない。

『皆さんに支給された重火器類の中には実は撃つと暴発しちゃうものがあります♪
 特に銃弾・マガジンなどが大量に支給された子は要注意だぞ☆』

という注意書きは、すなわち『フロッピーディスクの中には使用すると爆発しちゃうものがあります♪』という真実を隠蔽するためのものだったのか。


(アレ……私……もしかして、ツいてる……ッ!?)


沙羅は小さく、笑った。
予感、いやそれは確信に近かった。
ついに沙羅は意識の中でこの場における自らの幸運を自覚した。

そしてすぐさま爆発の向こう、退いた舞を追い詰めようとした時――一瞬で、その思い上がりは完膚なきまでに喪失した。


ガクン。

500名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:26:25 ID:7oPItBez
501名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:26:29 ID:SsOeD/EG
    
502私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:27:05 ID:jjq1zG3K
何かに、靴がぶつかった。はまった。引っ掛かった。
身体が前方に倒れる。地面が近くなる。
一点を固定して行われる組体操かなんかの演技みたいだ。
視界が低くなる。上手く、動けない。


もしか、して?


「嘘!!!!!!!!」
「馬鹿……!!!」
「ちょッ――沙羅の奴、コケやがった!!!!!」

白鐘沙羅に翼はない。
だから、空は飛べない。
地面に縛られた者が、大地に嫌われた時。それは終焉を意味する。

二人のそんな叫び声が自らの鼓膜を揺らした時、沙羅は理解した。
そこら中に出来上がった穴ぼこに足を取られて転倒したことを。
そして、思った。

慢心した、と。

何故か、自らの名前の由来となっているとある古文を思い出した。

 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす
 おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし
 たけき者もつひには滅びぬ ひとへに風の前の塵に同じ

驕った人間は滅びゆく、ただそれだけ。
それだけの、話。
503名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:27:31 ID:7oPItBez
504私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:27:37 ID:jjq1zG3K


「…………終わり」


いつの間にか目の前まで迫っていた<<鬼>>が、地面に倒れた沙羅へと大剣を振り下ろした。 


(恋太郎……沙羅。私、少しだけ……力が足りなかったみたい。
 二人の無念を晴らせなくて……ゴメンなさい。本当に、ゴメンなさい。
 圭一、ダメだったよ。頑張ったけど、やっぱり難しかった。あなたの意思――貫けなかったよ)


沙羅は眼を瞑り、自らの死の運命を――受諾した。







「よく……頑張ったな」
「な、つッ――!! 誰ッッッッ!?」


死んで……ない?

どこかから一発、銃声が響いた。
到来するだろうと思っていた刃が、いつまで経っても、自らを切り裂かないこと。
そして自分の近くから人間の気配が消えたことを不信に思い、沙羅は瞳を開いた。
そこに居たのは、
505名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:28:02 ID:A5i29Y3z
.
506名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:28:11 ID:SsOeD/EG
    
507私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:28:12 ID:jjq1zG3K


「……意外と…………遅かったな」
「悪かった。少しばかり、傷が重くてな」
「ボケが……心配させんじゃないさ」
「む? 心配してくれていたのか、あゆ」
「ッ……馬鹿、冗談だよ、冗談。死んでなくてガッカリしていた所だっつーの」


全身を朱に染め上げ、ベレッタM93Rを構える偉大なる仮面の皇――ハクオロ。
あゆと会話する彼は満身創痍ながらも非常に頼もしかった。そして、


「沙羅ちゃん……怪我はありませんか」
「み……なぎさん?」
「私はあなたを……助けに来ました。そして――彼女を救いに来ました」


太陽を背にした慈愛の主――遠野美凪。
川澄舞を見つめるその視線はた儚く、おぼろげで。


「…………援軍」


脇腹に射撃を受け、思わず後退した舞が無表情のまま呟いた。
ぽたぽたと赤く、紅い血を流しながら。


 ■

<<一対五>>
508名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:28:45 ID:7oPItBez
509私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:29:14 ID:jjq1zG3K
戦況は逆転していた。


数の利さえ跳ね飛ばす川澄舞の戦闘力は圧倒的だ。
しかし、彼女はついに銃弾を浴びた。身体の側で爆風を受けた。
鉛の玉はウィルスのように全身に苦痛という形となり侵食する。
ソレは絶対的な暴君として、この場を支配していた彼女に対しても例外ではない。

(身体が……重い)

唯一、無傷に近い沙羅が前線に出て先ほどのように舞を牽制。
あゆとハクオロがソレをアシスト。
戦列に復帰したきぬ、そして美凪は三人の邪魔をしないようにバックアップを務める。


沙羅達にとって最も影響を及ぼしたのはハクオロの参戦だ。
確かに彼は死に体である。
全身に傷を負っており、愛用の鉄扇も破壊されてしまった。
だがその<<智>>は未だに健在なのである。

複数の人間を指揮し、導く技能こそが彼の最大の武器。
トゥスクルの賢王の名前は伊達ではない。

陣形を組み、加えて一度舞と一対一の戦いを行っているハクオロは彼女の行動パターンを十分に理解していた。
意外性の排除――この一点を徹底することで戦局は一気に安定する。


「沙羅、弾が切れただろう。一度下がれ、私とあゆが前に出る」
「分かったわ」

沙羅が後退。すぐさまマガジンを取り外し、新しいものと入れ替える。
510名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:29:16 ID:SsOeD/EG
    
511名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:29:21 ID:7oPItBez
512名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:29:39 ID:A5i29Y3z
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513私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:29:54 ID:jjq1zG3K
「あゆ、無理はするな。数の利を最大限に生かす」
「……了解」

続けて前に出たハクオロとあゆが舞に銃弾を放つ。
舞は永遠神剣の力を生かし、横っ飛びにソレを回避。
が、着地した際に彼女の身体に走った衝撃は確実にその動きの幅を狭める。


(駄目だ……このままじゃ……やられる)

舞は肩で息をしながら考える。
蟹沢きぬと遠野美凪に関して言えば、戦力的には深く考える必要はないだろう。

問題は残りの三人。
白鐘沙羅、単純な戦闘力では彼女が最強。
攻撃、防御、牽制。彼ら五人の中で確実な軸だ。
しかし彼女を倒すには自らもそれなりのリスクを背負わなければならない。

大空寺あゆ、身のこなしは悪くない。だが、まだ甘い。戦闘経験不足は簡単に埋められるものではない。
彼女ならば、単独になれば容易く殺すことが出来る。だから後回しだ。

しかしそれよりも狙うは仮面の男、ハクオロしかないだろう。
彼は深手を負っているため、直接的な動きこそ機敏ではないが他の人間にはない<<指揮能力>>を持っている。
集団を率いて戦うことを熟知している。それは大きい。
経験とは何よりも重く、代え難いもの。

先程までの殲滅戦とは状況が違う。
弱いものから倒すのではない。まず、頭を潰す。
とにかく一刻も早く、ハクオロを殺す。コレしかない。

(キャリバーは使えない……そうなると、"魔法"しかない)
514名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:30:16 ID:SsOeD/EG
    
515名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:30:16 ID:A5i29Y3z
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516私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:30:24 ID:jjq1zG3K


拳銃を沙羅との決闘の際にデイパックにしまったのは失敗だった。
ハクオロは舞が銃を持てないように波状攻撃を仕掛けて来たのだ。
当然、キャリバーを取り出すことなど出来る筈もない。加えて、残弾は全て美凪が持っている。
切り札、奇策、共に封じられている。

だが、自分には確かな武器がもう一つだけある。舞はそれを知っていた。
神剣魔法、それは永遠神剣と適合した者のみが行使することを許される超常の力。
激しい魔力の消耗という弱点も持ち合わせるが。
とはいえ、ほぼノータイムで発動するこれこそが彼女の最終兵器――

が、彼女は決断した。
もはや後のことを考えている余裕はない。
全身全霊をもって戦う。そして、


「ハクオロ……お前を……殺すッ!!!!」

舞は強化の魔法を張り巡らし、ハクオロに向けて突進した。

「懲りないわねっ!!」

弾丸を補給した沙羅がワルサーP99による精密射撃で舞を撃墜しようとする。あゆもそれに続いて射撃。
下半身、着地点を狙ったピンポイントアタックだ。
だが、しかし、


「ウォーターシールドッ!!!!!!」
「え……ッ!?」
「馬鹿な!?」
「ハクオロ…………覚悟」
517名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:30:33 ID:7oPItBez
518名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:31:05 ID:A5i29Y3z
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519私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:31:07 ID:jjq1zG3K


舞の身を守るように水面の盾が出現、展開する。
沙羅の放った弾丸は全て流水に弾かれる。

そして、二足目――
舞は自らの前に踏み出した足が慣性を持って地面を蹴る感覚を久しぶりに味わった。

沙羅との一対一との戦いが始まってから初めて、彼女のスピードが極限点に達する。

(いける……ッ!!)

一気に数メートルはあった筈の距離から、五メートル以内まで接近。
あと一歩、"存在"の間合いまで踏み込もうとも考えたが却下。
確実に確実を上乗せする。この邂逅で必ず、ハクオロを殺す。それならば、

もう一つの魔法を使うのが最上の手。

舞は腹の底から響く声で叫ぶ。
その名を。久遠なる氷の牢獄、凍気の檻――


――アイスバニッシャー。


ハクオロの前方から氷の牙が出現する。
アレだけの冷気を浴びれば普通の人間は一瞬で凍死する。殺った――舞はそう、確信した。




520名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:31:37 ID:SsOeD/EG
    
521私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:31:42 ID:jjq1zG3K
筈だった。


「ハクオロッッ!!!!!」


死角から弾丸のような速度で飛び込んでくる一つの影の存在が全てをチャラにした。
その影はハクオロを迫り来る氷の波から突き飛ばす。
そして、素早く体勢を立て直し後退しながら一言。

「撃ち抜け!!! 智代!!!!!!!」
「……了解した」

合図と共に彼方から飛来する弾丸、対戦車ライフルによる遠距離狙撃だ。
驚異的な速度で発射されたソレは氷とぶつかり合う。
閃光。
恐ろしい爆発音と共に氷の檻は――九十七式自動砲によって打ち砕かれた。

(な……んで……?)

パラパラと氷の粒が壊れ、そして蒸発していく。
舞は唖然としながら、その光景を見つめていた。
鉄の板ですら貫通する圧倒的破壊力の前には、魔力で紡がれた冷気といえど無力だったのだ。

更なる二人の乱入者は不敵な笑みをこぼした。


「…………嘘」
「嘘じゃない。全部、現実さ。
 ったく騒がしいと思って来てみたら……派手にドンパチやりやがって。
 ハクオロ――てめぇ、学校じゃよくも騙してくれやがったな」
「まさか……お前が助けに来てくれるとは、思ってもみなかったな」
522名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:31:59 ID:7oPItBez
523私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:32:18 ID:jjq1zG3K

ハクオロも苦笑する。

「武っ!! 正気に……戻ったの?」
「おう、沙羅。久しぶり……身体の方は……あーまぁ一応、な」
「――バカッ!!!!! アンタ、私たちがどれだけ心配したと思ってるの!?
 それに、圭一は、圭一は……!!」
「……分かってる。話は……後でする」


その身に二つの異なる病原体を宿す、地獄から蘇った男――倉成武。
飄々としていた彼も、さすがに"圭一"という言葉には悲痛な表情を見せた。
自らの犯した罪、彼を殺してしまった事実は消しようがない。
黒く染まった永遠神剣第三位"時詠"を構える。


「……見知った顔もいるようだな」
「お前、ホテルで襲って来た女!!」
「怖い顔をするな。それに、今はもう……殺し合いには乗っていない」
「はぁ? じゃあ何なんだよ、いったい」
「そうだな……では<<救世主>>なんて言うのはどうだ?」
「な――バカにしてんのか!!」
「む、中々ピッタリ嵌まるネーミングだと思ったのだが」


修羅の心を宿した悲劇の復讐者、そして過ちを認め贖罪の道を歩む蹴姫――坂上智代。
美麗なる銀髪を靡かせ、巨大なライフルを肩にかけた彼女は武の下へ歩み寄った。
きぬと軽口を交わす彼女からは、つい数時間前までの鬼気迫る憤怒はもはや一切感じられない。


(また……援軍?)
524名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:32:20 ID:A5i29Y3z
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525名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:32:36 ID:SsOeD/EG
    
526私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:32:57 ID:jjq1zG3K
奥の手までも完全に打ち砕かれ、舞は茫然自失となる。
この島でも最強に近い二人の戦士。
彼らは元いた五人に希望を、そしてただ一人に対してだけ絶望をもたらす存在だった。

時刻はもうすぐ十四時。
昼下がり、身体を休めてしまうには早過ぎる時間帯。


 ■

<<一対七>>

多勢に無勢――そんな領域はとっくに突破していた。
舞は絶望を身に宿し、谷側へと後退を余儀なくされる。

ハクオロを中心とした敵の集団に欠けていたピースが埋まった。

前面に出て接近戦を担当する倉成武と坂上智代。
舞に迫る身体能力を誇る彼らはそれぞれ戦闘スキルと格闘術に秀でている。
戦況は完全に決したと言っても過言ではなかった。


「さて……と、川澄舞。分かっているとは思うが、君の負けだ」
「…………」
「私達も……これ以上、手荒な真似はしたくない」


ハクオロが代表して舞に語り掛ける。
意味することはつまり、武器を捨て投降しろ――事実上の降伏勧告だった。
しかし、あゆがハクオロの言葉に反論する。
527名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:33:26 ID:SsOeD/EG
    
528名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:33:44 ID:A5i29Y3z
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529名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:34:05 ID:7oPItBez
530私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:34:29 ID:jjq1zG3K

「おい、ハクオロ。そんな甘いこと言ってる場合じゃない。一体コイツに何人殺られてると思ってるのさ!?」
「いや……だがな。具体的な人数までは分からないだろ?」
「あたしが知る限りじゃ確かに純一だけさ。でも、コイツは相当早い段階からゲームに乗っていた筈!
 それで一人しか殺していないなんて、そんな訳ないだろうが!!」
「む……」

舞は言い争うハクオロとあゆをぼんやりと見つめていた。
隙を見て襲い掛かろうとも、今下手に動けば確実に死ぬ。それは愚かだ。だから出来ない。

(佐祐理……)

最愛の親友の笑顔が彼女の脳裏を過ぎった。
今も佐祐理は鷹野に捕らわれて、窮屈な思いをしているのだ。
絶対に助け出さなければならない。それが、自分の仕事なのだ。

「武、智代。君たちはどう思う?」
「いや……ちょっと、な。俺達には参加し難い話題と言うか……」
「武……」
「沙羅、そんな泣きそうな顔を……しないでくれ。分かってる、俺が全部悪かったんだ」
「……ゴメン」

武はハクオロの問に渋い顔をしながら答えた。彼も二人の命を殺めている。そして実際に殺し合いに乗っていた過去もある。
頭の痛い、逃げ出してしまいたいとさえ思うようなテーマだった。

ここで考え込んでいた智代が一歩前へ出た。


「川澄……だったか。一つ、聞きたい」
「……何」
「何故、殺し合いに乗ったんだ? 復讐か? 生き残るためか?
 私にはお前が私欲のために、他人を殺すような人間には到底見えない」
531名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:34:32 ID:A5i29Y3z
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532名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:34:56 ID:7oPItBez
533名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:34:58 ID:SsOeD/EG
    
534私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:35:01 ID:jjq1zG3K


智代は舞に問い掛ける。心底不思議そうな表情で。
一方で舞はその言葉を聞いて、嘲笑うかのように小さく口元を歪ませた。


「……佐祐理を救うため」
「さ、ゆり?」
「倉田佐祐理。鷹野に捕らわれている私の大切な友達」
「……何を、言っている?」


舞がぼそりと呟いたその台詞に、周りの人間は背筋に寒いものが込み上げる感覚を覚えた。
狂っている、そう考えずにはいられなかった。

誰もが覚えていた。
倉田佐祐理――それは、一番最初の放送で死亡を発表された少女の名前だったからだ。
加えてこの場には彼女を殺害した国崎往人から、詳しい説明を受けている白鐘沙羅のような人間も存在した。
いや、もう一人……誰よりも彼女の死を間近で目撃した人物さえ存在していた。
ハクオロだ。


「舞……しっかりするんだ。確かに親友を亡くした君の心の痛みは私も十分過ぎるほど分かる。
 だが現実は受け止めなければならない。逃げていても何一つ――」
「佐祐理は死んでないッッッッ!!!!!!!!!」


絶叫。
それは今までの舞の様子からは考えられないほど、強い意志の力に溢れた否定だった。

535名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:35:05 ID:A5i29Y3z
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536私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:35:38 ID:jjq1zG3K
小さな行き違い。
彼女、川澄舞を修羅道に叩き落した土永さんはこの場にいない。いや、既にこの世にいない。
彼は朝倉純一によって説得され、自らの所業を告白した時、

――自分が川澄舞をそそのかしたことだけは、誰にも喋る機会がなかった。

故に真実は闇へと葬り去られた。
倉田佐祐理が重傷を負い、鷹野に捕まっているなど当然の如く口から出任せであった。
彼女は死んだ。それは揺るぎない真実。

しかし、舞はその言葉を信じた。
否――その台詞を肯定することでしか、自らの命を、心を守る術を知らなかった。
事実、もしもあの場に土永さんが居合わせなければ舞は拳銃で己の頭を撃ちぬいて自殺していただろうから。


そして、ハクオロは迷った。
この少女は幻想に捕らえられている、と。
ならば自らが行うべき解決策は一つだけ――そう、思い切り出した。


「舞、聞くんだ。私は……確かに倉田佐祐理の死体を埋葬した」
「…………え?」


残酷な響き。舞の視界が歪む。
脳髄が燃え上がるような痛みに襲われる。


「場所はD-2の公園。そこで彼女は眠っている。
 それどころか……私は彼女を……殺してしまった人間を知ってさえいる。
 名前は国崎往人。既に……この世にはいないが。
 だが聞いてやって欲しい。彼は自らの手で大切な人を……」
537名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:35:44 ID:A5i29Y3z
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538名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:35:44 ID:7oPItBez
539名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:35:48 ID:SsOeD/EG
    
540私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:36:33 ID:jjq1zG3K


『彼女は名前を呼ばれたから死んでいるに違いない』


そんなニュアンスの言葉はこれまで何度も聞いて来た。
だけど、違う。これは具体性。
倉田佐祐理を見た人間が放つ、狂ってしまいそうなくらい精確な情報。


死んでいる?
佐祐理が?
本当に?


それじゃあ――私が今までやって来たことは一体なんだったのだろう?


「――黙れ」
「舞ッ!!!!」



「黙れ……黙れ、黙れ黙れ………黙れ――――――――――――――――――――ッ!!!!!」



その時、光が満ちた。



541名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:36:41 ID:A5i29Y3z
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542名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:36:50 ID:SsOeD/EG
    
543名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:36:58 ID:7oPItBez
544私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:37:04 ID:jjq1zG3K
凄まじい閃光が世界を覆った。
そして思わず、目を閉じたあゆ達が目を開けるとそこにあったのは、


「がっ…………!!」
「ハクオロ――ッ!?」


見えない手に身体を貫かれるハクオロの姿だった。




信じられない光景があゆ達の前に広がった。
だから、誰も気付かなかった。

ヒラリ、ヒラリと桃色の花びらが天から降り注ぎ始めたことに。



545名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:37:21 ID:A5i29Y3z
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546私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:37:35 ID:jjq1zG3K
川澄舞には他の参加者と違い、特別な禁止制限が掛けられていた。
エターナル化、ウィツァルネミテル化、リヴァイブ、蘇生能力。

"ソレ"は発動さえしてしまえば、苦もなく全ての参加者を皆殺しに出来るような能力ではない。
生まれて初めて木刀を握った高校生でさえ、一瞬の足止めは可能な程度の存在。
もちろん、人の命を左右する力になど及ぶ筈もない。

そう、他の発動さえ禁じられている能力と違い、彼女の"ソレ"は若干見劣りするもののように感じられる。

だから、一番最初に"ソレ"が解けたのだ。
今も蟹沢きぬのポケットの中で力を放つ朝倉純一の第二ボタン。
残された願いによって、神社の奥深くに植えられた桜は力の一部を失った。


ソレは彼女の自意識の一部。
自らの中から生まれ、自らを喰うもの。
ソレは川澄舞が幼い頃、相沢祐一と出会い、そして別れた時に生まれた。

そして、また――舞が、倉田佐祐理の生に疑問を持ってしまった時、彼らはもう一度、この世に誕生した。



人、それを<<魔物>>と呼ぶ。

547私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:38:22 ID:jjq1zG3K
 □


<<INTERLUDE――START>>


「あの…………」
「……何。私は忙しいのだけれど」
「それが……」


鷹野三四は顔に刻んだ不愉快を隠そうともせずに部下を睨みつける。
彼女は怒り狂っていた。
それはもちろん、ハクオロが身体を貫かれたのと同時刻、丁度瑞穂達が首輪の解除に成功していたからだ。
時系列では若干瑞穂達の方が後の出来事になる。

とはいえ、電波塔の機能が一時的に停止するという有り得ない事態のせいで、誰もがその事実を失念していた。
しかし、一人だけ。
川澄舞の担当オペレーターの男だけがその場面を監視していた。
鷹野や他の部下達が第一研究室の鈴凛を捕まえるために出動していた時も、ずっとだ。

故に男は進言出来た。
そう、彼は優秀な兵士だったのだ。


「魔物が、出現しました」
「…………川澄舞?」
「はい」
「……桜の制限はどうなっているの?」
「それが……」

548名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:38:21 ID:7oPItBez
549名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:38:26 ID:A5i29Y3z
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550私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:38:52 ID:jjq1zG3K
男は言い淀んだ。
電波塔の機能がジャックされたため、その時記録されていた首輪からの録画映像が吹っ飛んだのである。
モニター自体は使えるが、直接の録画はない訳だ。
つまり、事実の証明は何もかも男の記憶によって成されなければならない。

「……使えないわね。……そこのあなた!! アヴ・カムゥに設置したメインカメラの映像出しなさい。大至急よ」
「は、はいっ!!」

違和感を覚えた鷹野は他の部下にハウエンクアの機体に設置されているカメラの接続を促す。
首輪の機能が無効化されたということは、効率的な位置特定が不可能ということ。
各種施設、室内に設置されたカメラは問題なく機能しているが、屋外は全く駄目だ。
首輪から発せられるシグナルを受信出来ず、全くの役立たずとなっている。そして、


「映像、出ますっ!!!」
「!!! 何よ……これはッ」


管制室の鷹野達の眼に飛び込んできたのは、まさに異様な映像だった。


「ハウエンクアッ!!! どうなっているの、これは!! 報告しなさい!!」
『アハハハハッ!! ボク達も驚いていた所さ、一体何なのだろうね、この"桜"の花びらは!!』
「――ッ、あなた馬鹿なの!? 笑っている場合じゃないでしょ!!」


モニターに写されたのは、有り得ないほど豪快な桜吹雪だった。
しかもまるで空から降り注ぐようにソレは島全体に降り注いでいた。
桜の持つ特殊な力、つまり物体を空間転移させる異能によって直接島にワープさせられているのだろう。

551名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:39:08 ID:A5i29Y3z
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552名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:39:09 ID:7oPItBez
553私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:39:24 ID:jjq1zG3K
「話にならないわ……桑古木!! 桑古木涼権!! 応答しなさい!!」
『……桑古木だ。鷹野、少しは落ち着け』
「いいからっ!! 早く!!」
『……はぁ。俺達が到着した時からずっとこっちは百花繚乱さ。
 詳しいことは分からんが、先程から南方で大きな音が立て続けに聞こえる。おそらく他の参加者達が争っているのだと思うが……』
「どういうことよ……ッ」


鷹野は一方的に通信を遮断した。そして、凄まじい形相で考える。
まずこの件に"桜"が絡んでいることは明確。
だが、問題はその意図だ。何をしたい、何をさせたい?
その時、鷹野の頭にある一つの事例が思い浮かんだ。つまり<<魔物>>の出現について。

使用を制限していた筈の川澄舞の超能力が実際に使用された――
それはすなわち、参加者に対する戒めが弱っている証拠ではないだろうか。
桜の目的、それはおそらく、

――自らの消滅。そして参加者に対する全制限の解除。

「……なるほど、裏切る気かしら。フフフフフ、良いわ……叩き潰してあげる!!」
「た、鷹野様……?」

部下の者が突然笑い出した鷹野に心配して声をかける。
しかし、鷹野はそんな気遣いなど意にも介せず、大声で告げた。


「月宮あゆをここに呼び寄せなさいッ!!!! それと首輪を解除する準備も、大至急!!!」
「そ、それはつまり……?」
「コレは、祭なの。参加者は参加者同士で殺し合いをさせる……それが一番じゃなくて?
 彼女には――桜の"警護"をやって貰うわ」

554名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:39:52 ID:A5i29Y3z
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555私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:40:05 ID:jjq1zG3K

【LeMU 地下三階『ドリット・シュトック』管制室/二日目 午後】

【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:不明】
【所持品:不明】
【状態:健康、若干の苛立ち、契約中】
【思考・行動】
1:月宮あゆを転送させ、首輪を解除。桜の警護を任せる。


【備考】
※現在、首輪の機能全て(爆弾、位置特定、生存確認、盗聴)が無効化されています。
 機能は、電波塔が正常に戻れば回復します(電波塔が元に戻るのは、第7回放送直前)。
※フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、暗号文が書いてあるメモの写しは、役場の仮眠室内に破棄


<<INTERLUDE――END>>


 □

<<七対七>>


「ああああああああああああああああッッッ!!!!!」

舞はただ、叫ぶ。地面に膝を付き、まるで救いを求めるように。


それはこの島でのあらゆる殺し合いの中でも、最も激しい大乱戦だった。
場にまるで不釣合いな桜吹雪の中、人と人外の存在との戦いが行われる。
556名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:40:43 ID:A5i29Y3z
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557名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:40:47 ID:SsOeD/EG
    
558私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:40:48 ID:jjq1zG3K

それもその筈、とにかくどちらの陣営も数が半端ではない。
<<魔物>>と人間の構図――彼らの創造主たる川澄舞を守るように、見えない<<魔物>>は沙羅達に襲い掛かった。

(なんなのよ……一体っ!!! も、モンスターだって言うの!?
 それこそ、御伽噺かファンタジー小説のキャラクターじゃない!!)

沙羅は分析する。今回ばかりは完全に<<冷静>>になることは出来なかったけれど。
敵の数はおそらく七。川澄舞とソレを守る六体の<<魔物>>
確証はないが、おそらく当たっている筈だ。こちらと同数である。

しかし、数がイーブンであるとは厳密には言い難い。
なぜならこちらの陣営には重傷一人、怪我人一人、非戦闘員一人が含まれるからだ。


「ちっ……何なんだコイツら!!」
「油断するなよ、武。……動きは大したことはなくても、あの不可視性、攻撃力は厄介だ」


文句を言いながら武が"時詠"を振るう。
智代がサバイバルナイフとデザートイーグル、そして蹴撃を使い分け敵を撃退する。
三体の魔物と対峙した二人は抜群のコンビネーションを誇っていた。


「糞ッ……!! ハクオロ、ハクオロ!? しっかりしろ!!」
「う……」
「大丈夫ですか、ハクオロさん!?」
「おい、馬鹿しっかりしろ!!」

559名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:41:02 ID:7oPItBez
560私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:41:24 ID:jjq1zG3K
身体を貫かれ、地面に倒れたハクオロを守るように立っているのがあゆだ。
ハクオロの近くには美凪ときぬの姿も見える。
乱戦となった際、戦闘経験の薄い彼女たちは足手まといになる可能性が高いため、戦線から退いてもらったのだ。

彼女が相手をしている魔物は一匹。
銃弾が命中さえすれば、なんとかなりそうなものだが、とにかく<<見えない>>という一点は大き過ぎる。


武と智代が三匹。
あゆが一匹。

六−(三+一)=X

エックスは二。つまり、


「私が……二匹か」


空気を震わす、見えない<<魔物>>に向けて、沙羅は少しだけ自嘲気味に呟いた。
その二体は川澄舞を守るように立ち塞がっている。
つまり、最後の防衛線という訳だ。

沙羅は思った。
『絶対、私よりも武とか智代の方が強いじゃん!』と。
だがこうなってしまったものは仕方がない。
状況が次々と入れ替わる乱戦では珍しいことではない。ただ自分は目の前の敵を滅殺するのみ。

彼女はため息と共にデイパックからS&W 36を取り出すと、自ら邪道と言い切った二丁拳銃を試みる。
しかし、ここで後方の美凪が彼女に話しかけて来た。

561名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:41:53 ID:SsOeD/EG
    
562私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:41:55 ID:jjq1zG3K
「――沙羅ちゃん」
「……どうしたの、美凪さん?」
「聞いてください。私が……舞さんを説得します」
「え……!」


思わず沙羅は後ろを振り向き、美凪の瞳を見つめた。
そして納得した。彼女がそれを決して冗談やハッタリとして発言した訳ではないことを悟ったからだ。
真摯な眼、真一文字に結ばれた唇、それは決意の表れ。舞に対する親愛の証明でもあった。

もしかしたら美凪は舞と面識があるのかもしれない。この状況で舞が戦列に復帰すれば、確実に自分達は全滅する。
しかし、彼女を本当に説得することが出来れば――?
ソレはとてつもないメリットになる。


「……分かった。で、私はどうすれば?」
「多くは望みません。沙羅ちゃんは私が……舞さんに触れられる位置まで行けるよう……あの敵を排除してくださるだけで結構です」


美凪は舞の眼前に立ちはだかる<<魔物>>を指差しながら、事も無げに言ってのけた。
一方で沙羅は彼女のあまりにも大胆不敵な発言に、頭がクラッと揺れる眩暈のようなものを感じた。
一対二というだけでも十分にハードワークなのに加えて、彼女も守らなければならない。
それがどれだけ大変なことなのか、分かった上で言っているのか。
いや、むしろ焚き付けているのか。


「美凪さん……簡単に物凄いことを言ってくれるね」
「うふふふふ……大丈夫ですよ。だって、」
「?」
「"私達"には"圭一さん"が付いてますから」
「――ああ、そういうこと」
563名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:41:58 ID:7oPItBez
564私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:42:26 ID:jjq1zG3K

(その名前を出されちゃ、断れる訳ないじゃない。でも呼び方……いつの間に)

沙羅は小さく笑った美凪を、本当に、本当に美しいと思った。
だから、頷いた。
前原圭一の意志を貫き通すため。そして、<<三人>>で勝利を掴むため。


美凪さんを信じて私は、やれるだけのことをやる。
白鐘沙羅は絶対に、絶対に負けられないんだから。



 ■

<<三対三>>

(さてと……どうする?)

沙羅にとって実態のない敵と戦うのはさすがに初めての経験だった。
アイツらにぶち込んだ銃弾は貫通するのか、しないのか。
そもそも身体に吸い込まれたら見えなくなるのか、どうなのか。
透明人間との戦術に長けている人間なんて、存在しないだろうとは思うけれど。
565名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:42:46 ID:7oPItBez
566私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:42:58 ID:jjq1zG3K

じっと沙羅は<<魔物>>を観察する。
よくよく見てみると、敵はどうも……完全に透明ではないようだ。
まるで波打つゼリー体。スライムとまでは行かないが、確かにその場に"居る"ことは分かる。
そしてその形。まるで動物のようにも見えるし、人型のようにも見える。
しかし、知能は低そうだ――舞本人と戦うよりもよっぽどやり易い相手だろう。

「美凪さんは下がっていて」
「はい……」
「――行くよっ!!」

後ろの美凪に警戒を促し、沙羅が跳んだ。
まずは小手調べ。三本目のマガジンに残った弾は十発。
自分から見て左側に位置する<<魔物>>に向けて右手のワルサーP99を二発撃ち込む。
牽制代わりなので、当然左手も添えてある。
若干、グリップが緩くなったため、肩に少しだけ痛みが走る。


「亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞!!!」
「ちょ……ッ!?」

<<魔物>>は凄まじい声で吼えた。
見えない魔物に吸い込まれた弾丸はやっぱり見えなくなるようだった。
弾だけが浮いているみたいなオカルト現象は起こらなかった。

身体を捩りながら左の奴が沙羅に向けて突進してくる。
バックステップ――駄目だ、美凪さん達がいる。彼女は一瞬で、判断を下しその場で迎え撃つこととした。
それは、出来れば防衛ラインは出来るだけ前方に引いておきたいという考えが彼女の中に存在したからだ。
武達は遥か後方。だが、ハクオロが倒れている場所はそれなりに近い。

――ひとまず、私がここで引き受ける。
567名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:43:04 ID:SsOeD/EG
    
568私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:43:29 ID:jjq1zG3K
「沙羅ちゃん、左!!」
「分かってるッ!!!」

雄たけびを上げながら突っ込んでくる左の奴、攻撃方法はおそらく"腕のようなもの"を上から叩き付けて来ると見た。
沙羅は回避運動に移る前にちらりと右の奴を一瞥する。
想像通り、左の奴に続いてもう一匹接近しているようだった。

「峨亞亞亞亞亞亞亞亞亞!!」
「遅いわっ!!」

左からの打ち込みをジャンプして沙羅は躱わす。
しかし、宙に浮いたその身体目掛けてもう一匹が波状攻撃を仕掛けてくる。
が――当然、彼女はその攻撃を読みきっている。

右のワルサーP99を上方に構え、防御姿勢へ移行。そして左のS&W 36を虚空の水面に向けてぶっ放す。爆音が木霊する。

「虞峨亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞ッッ――!!!」
「う……!!」

沙羅の一瞬浮いた身体は、すぐさま地面へ叩き戻された。
S&W 36の射撃が見事に命中。そして右の<<魔物>>の身体は崩れた――しかし、まだ足りない。
敵はそれでもなお、腕をこちらへと叩き付けて来た。
限りなく透明に近いその腕を白の少女はワルサーP99のフレームで受け止める。

沙羅は小さな笑みをこぼした。

――なんだ大したことないじゃん。

いかに不可視であろうとも、そもそも"実際に振るった刀身が見えない"川澄舞に比べればソレは児戯に等しい。
完全に一撃をブロック。衝撃を受け流すように後ろへ。
だが、それだけでは終わらない。
569名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:43:53 ID:A5i29Y3z
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570私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:44:01 ID:jjq1zG3K


「チェックメイト!!」


起き上がり、沙羅を追撃しようとしていた左の奴に向けて、右のワルサーP99を発射。
若干、肩が痛むが振り払う。
地面に倒れこんでいたため、敵は回避運動に移れない。
故に、おそらく奴の頭と思しき場所に弾丸は命中した。そして、

「御御御御御御御御御御御御ッ!!!!!!」

左の魔物が――消滅する。
だが沙羅は表情を崩さない。残ったもう一匹、右の<<魔物>>を見据える。
一瞬の間。
そして、次なる邂逅。

「亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞ッッ!!!」

右の奴が沙羅に再度、突撃を試みる。
だが、一撃弾丸を貰っている<<魔物>>の動きは先程と比べて明らかに鈍い。
そう、彼らは相沢祐一が木刀を持って戦ったとしても、足止めする程度のことは出来た。
硬い外皮も甲殻も持たない彼らにとって、まさに銃は天敵とも言える存在だったのだ。

当然のように沙羅はその攻撃を身体を捩って回避する。
勢いの付きすぎた<<魔物>>の身体は、運動法則に従い彼女が立っていた場所を通過する。


「じゃあね……恨むなら――アンタの生みの親を恨みなさい」
571名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:44:20 ID:7oPItBez
572名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:44:25 ID:SsOeD/EG
    
573私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:44:32 ID:jjq1zG3K


沙羅は左手のS&W 36を数刻前に川澄舞がやったのと同じように、拳銃を真上へ放り投げる。
舞はこの後、飛んできた矢を掴んで投げ返した訳だが、沙羅が考えたことはそれとはまるで違った。
これは彼女があくまで、自らのやり方に拘った故の選択だ。

右のワルサーP99のグリップを確認。
何百何千何万と繰り返してきた反復行動は、彼女の心に安息をもたらしてくれる。
まるで自分専用にあつらえたように手に馴染む。
右掌の支えは完璧。
そして、もちろん彼女は自らの存在を確かめるように、左手を――ワルサーP99にそえた。

(見ていて……圭一、美凪さん。私は自分の手で"正しい道"を切り開いてみせる)

両手でグリップをしっかりと握り締める。それは射撃における基本中の基本。
自らが信じ、貫いて来た全力全開。沙羅はトリガーを引いた。反動で腕が高く、上がる。

「虞峨亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞ッッ――!!!」

そんな、一切無駄のない完璧な射撃が<<魔物>>を貫いた。


 ■

<<一対一>>


「美凪さんっ!!!」
「……はい」

後方の美凪を沙羅は呼び寄せる。
美凪は一切の武器を持たず、駆け寄ってきた。
574名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:44:50 ID:A5i29Y3z
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575私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:45:03 ID:jjq1zG3K

美凪は走った。
守るもののいなくなった舞の元へ。
今も悲痛な叫び声をそのか細い喉から発する悲しみの少女の元へ。
見つめる沙羅の視線を背中に浴び、数時間ぶりの再会を果たす。


「舞……」
「ああぁぁあああっ!!! いや、いやぁぁぁああああああああああ!!!」


舞は虚ろな眼のまま、地面に倒れ込んでしまう寸前だった。
ボロボロになった身体を大地に預け、餌付き、喘ぎ、絶叫する。

このとき、美凪は妙なことに気付いた。
舞の身体のあちこちに見慣れぬ妙な痣が出来ていたのだ。

最初はただの打ち身、青痣かと思った。しかし、よくよく見ると明らかに違う。
ソレは肌の上から紫のペイントを施したかのようなドギツイ色をしており、皮膚下の肉が内出血しているようには到底見えないのだ。
加えてその痣が、少しずつ、舞の身体を浸食していた。

(どういうこと……なのでしょう。いったい、何故こんな……)

美凪にその理由が分かる筈もなかった。
その舞の痛み・苦しみの原因は、外傷でも何でもなくて、もっと精神的なものだったからだ。
彼女が生み出した<<魔物>>の消滅こそが彼女の身体を蝕んでいた。


<<魔物>>とは舞であり、舞とは<<魔物>>である。

576名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:45:11 ID:7oPItBez
577私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:45:35 ID:jjq1zG3K
両者は繋がっており、同一であり、彼女自身の空蝉なのだ。
つまり舞を説得すために<<魔物>>を消し飛ばすことを沙羅に願った美凪の選択が、結果的に彼女を苦しめる結末を生んだことになる。
本来ならば<<魔物>>は"全て"が始まった時に、ある一定の数創造され、一体が消滅するごとに舞に痛みが還ってくる構造となっていた。
彼らが全て倒される――それはすなわち、舞の死と同調していた訳だ。

しかし、この地は舞の能力を離れた輪廻によって築かれた偽りの大地だ。
彼女は自らの生命力を遣って彼らを生み出している。
舞は疲弊していた。もはや、自分以外の何もかもを消し去ってしまいたい。そんな衝動さえ湧き上がるほどに。


「大丈夫です、舞さん。私です、美凪です。
 約束どおり、いいえ……本当はこんなに早く再会するとは思っていなかったんですが」
「――みな、ぎ? み、なぎ?」
「はい……美凪ですよ。言ったじゃないですか、必ず説得してみせるって」


舞は脅えていた。震えていた。
翡翠のような眼球には翳が差し、闇色に染まる。
開き切った瞳孔、瞬きを忘れた瞳。
震える唇、白を通り越してもはや青白くなってしまった肌。
天から降り注ぐ桜花と彼女の身体とのコントラストは、もはや見ている方が悲しくなってしまうくらい。

何もかもが先程であった少女とは違った。


「あ、あ、あ、あ、」
「舞さん……そんな悲しそうな顔は……あなたに……似合いません。
 笑いましょう、そしたらきっとへっちゃらへーです」

578名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:45:49 ID:SsOeD/EG
    
579名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:45:50 ID:A5i29Y3z
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580名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:45:52 ID:7oPItBez
581名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:46:33 ID:7oPItBez
582私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:46:39 ID:jjq1zG3K
ほがらかに美凪は笑った。
神尾観鈴を太陽のような笑顔と称し、霧島佳乃を青空のような笑顔と称するならば、おそらく遠野美凪のそれは月に例えられることだろう。
美と月を司る偉大なる母、女神アルテミス。
美凪を表す最も的確な比喩であることは間違いない。
見るものをホッとさせるような闇夜を照らすその笑みは、今の舞にとって最も欠けているものだった。

暖かさ、
平穏、
安静、
秩序
慈愛、

舞が欲しかったのは剣と血で彩られた戦いの道などではなかった。
彼女は本当は、普通の女の子になりたかったのだ。
友達と毎日笑い合って、冗談を言って、一緒にお弁当を食べて、何の事件もなくのんびりと時を謳歌する。
大切な人達とそんな生活がしてみたかった。剣を捨てた自分を受け止めて欲しかった。だからこそ、



「美凪……」
「舞さんっ!! ようやく、心が――」
「ゴメン、なさい」
「え……ッ!!!!! あ――」



一度、修羅道に堕ちたその身にとって、彼女の愛は――重過ぎた。受け止められなかった。


「美凪さんっ!!!!」

583名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:46:57 ID:A5i29Y3z
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584名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:47:12 ID:SsOeD/EG
    
585名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:47:13 ID:7oPItBez
586私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:47:19 ID:jjq1zG3K
沙羅の叫び声が桃色の空に響き渡る。
智代が、武が、ハクオロが、きぬが、あゆが、戦いの手を止めていた。
宙を舞う薄紅色の花弁だけが制止した世界を動いていた。


既に、出現した魔物は全て駆逐され、舞を残すのみとなっている。
再度構図は一対七に……いや、今一対六へと変わった。


永遠神剣第七位"存在"が美凪の胸に深々と突き刺さった、その瞬間から。


「あららら……私の……負け、なのでしょうか」
「言った……筈、次に会ったら必ず殺すって」
「そう……いう、約束……でしたものね。ええと……私の、敗因は何だったのでしょう」
「それは……多分。私の中に、もう佐祐理しか……なかったこと。
 美凪の友情を受け取る資格なんて…………私にある筈がなかったから」


誰もが思った――助からない、と。
そして誰もが動けなかった。
彼女たちの領域を汚してはならない、本能的にそう感じ取ったのだろうか。真実は分からない。
小さな唇から紅い血液を零す美凪と彼女を抱き締める舞。
そして誰もが思った、
でも、どうして、それがこんなにも美しい光景に見えるのだろうか、と。


「舞……コレ」
「ん。ハンカチは……持っていて……いい?」
「もちろん……です」

587名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:47:29 ID:A5i29Y3z
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588私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:48:03 ID:jjq1zG3K
その場の人間は皆、呆気に取られていたのだ。
だから美凪と舞がとある<<道具>>を交換したことを、まるでスライドショウを眺めるかのように傍観してしまった。

そして時は動き出す。
この島において、九十七式自動砲と対を成す最強の銃の片翼が、ついにその身に焔を宿したのだから。
神剣魔法を破られ、肉体強化を施した剣術をも無効化された舞に残された最後の武器。

全長百156cm。
総重量38kg。
50口径の弾丸を連続発射する<<対物兵器>>
アメリカの軍隊でさえ、人間に使用することを躊躇う意見が聞こえる鉄の厄災。

ブラウニング M2 "キャリバー.50"がついに発射準備を整え、川澄舞の手に握られた。

「しまっ――!!」
「……動かないで。あなた達はもう……私の射程範囲に入っている」
「糞が……ッ」

舞を取り囲むように位置していた沙羅達は、逆に彼女の攻撃圏内にも同時に侵入していた。
今までは"存在"を持ち踏み込んだ際の間合いだけを考えれば良かったのだが、こうなると完全に形勢は逆転。
加えて彼女の残弾がいくつなのか、断定的出来ない以上無謀な特攻など仕掛けるものもいなかった。


「心配しないで……私に、今は戦うつもりはない」
「……逃げる気か」
「"三人"……仕留めた。……あなた達の"嘘"を確かめたら、また……絶対殺しに来る」
「く…………」


40kg近い鉄塊を構えながら少しずつ、舞が後ずさる。
沙羅達は当然動けない。下手な攻撃が更なる被害を生むと十分に理解していたからだ。
589名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:48:04 ID:A5i29Y3z
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590名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:48:05 ID:7oPItBez
591名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:48:17 ID:SsOeD/EG
    
592名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:48:42 ID:7oPItBez
593名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:48:47 ID:A5i29Y3z
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594私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:49:00 ID:jjq1zG3K
ハクオロを、美凪を、こんな目にあわされて黙っている訳にはいかない。
大地を己の足で踏み締め、舞を睨みつける五人の人間の胸中を暗澹たる闇が渦巻く。
しかし、動くことは出来ない。なにしろ距離が近すぎるのだ。
実際、舞はキャリバーを戦闘開始時の先制手段として使うことが多かった。
戦闘中にこの凶器を取り出すのはリスクが大き過ぎる。故に主にはニューナンブM60や刃物を使い戦う機会が多かった。

だが、今は――八人の人間が十メートルも離れていない位置に密集している。
迂闊な動きは死に繋がる。自分だけではなく、仲間を危険に晒すことになる訳だ。
加えて彼女がこの場から撤退すれば、ひとまずの安全は確保される。この一点も大きかった。

保身と憤怒のジレンマ。
結局彼女達が選んだ選択は、舞を見逃すことだった。



舞の背中がようやく見えなくなった所で、誰ともなしに安堵の嘆息を漏らした。
ひとまず、脅威は去った。
後はハクオロと美凪に一刻も早い応急処置を施さなければ。そんな意識が健全な人間達の脳裏を過ぎった。
が、しかし。


「あぐぅ…………ッ!!!!」


川澄舞は去り際にこう、言い残した。

『"三人"仕留めた』と。

しかし、あの時点で重傷を負っているように見えた人間は二人のみ。
それでは最後の一人は一体誰のことを差していたのか。
595名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:49:18 ID:SsOeD/EG
   
596私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:49:32 ID:jjq1zG3K


「きぬッ!? おい、どうした!!」
「――なんだよ、この血の量は……」


太股に巻かれた包帯を一面紅で染めた少女。蟹沢きぬが地面に倒れ込んだ。
沙羅とあゆは気付かなかった。
舞がボウガンの矢を受け止め、きぬに投擲したあの時点で既に――最初の犠牲者が出ていたことに。






「はぁっ……はぁ……つッ――!!」

舞は走る。
目的地はマップの遥か北、D-2公園。

痛いんだけど痛くない。
矛盾しているようでそれは非常に正しい感覚だった。

<<魔物>>を呼び寄せた代償として、蒼の浸食は進み、麻酔を打った後のような陶酔感を彼女に与える。
フロッピーの爆発を浴びた代償として太股や腕には火傷の跡、撃たれた脇腹は未だに血液を吐き出し続けている。


佐祐理は鷹野三四に捕らわれている。
まだ、生きている。信じていた。いや、それしか信じることは出来なかった。

そして今でも舞は思う。
鷹野のその言葉を信じていたい、と。一丈の希望に縋っていたい、と。
597名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:50:05 ID:7oPItBez
598名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:50:16 ID:SsOeD/EG
    
599名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:50:19 ID:A5i29Y3z
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600私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:50:24 ID:jjq1zG3K

だからその信念を揺るがす戯言は全て振り払わなければならない。
佐祐理の死体を見た? ソレどころか埋葬した?
全部、全部、つまらない虚言に過ぎない。


悲しき剣士は走る。
舞い散る桜におぼろげな願いを込めて。



【C-5 森/2日目 午前】

【川澄舞@Kanon】
【装備:永遠神剣第七位"存在"@永遠のアセリア−この大地の果てで−、学校指定制服(かなり短くなっています)】
【所持品:支給品一式 ニューナンブM60の予備弾8、ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾0)、ハンドアックス(長さは40cmほど)、草刈り鎌、 ニューナンブM60(.38スペシャル弾3/5)、美凪のハンカチ】
【状態:決意、疲労極大、精神磨耗、右目喪失(止血済み)、肋骨にひび、腹部に痣、肩に刺し傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、太腿に切り傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、脇腹に被弾、"痣"の浸食(現在身体の40%)、魔力残量20%】
【思考・行動】
基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
0:D-2公園に向かい、ハクオロの言葉が"嘘"であることを確かめる。
1:積極的な戦いは避けるが、応戦はする
2:佐祐理を救う。

【備考】
※永遠神剣第七位"存在"
 アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
 魔力を持つ者は水の力を行使できる。舞は神剣の力を使用可能。
 アイスバニッシャー…氷の牢獄を展開させ、相手を数秒間閉じ込める。人が対象ならさらに短くなる。
 ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
 フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
601私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:50:54 ID:jjq1zG3K
 他のスキルの運用については不明。
※永遠神剣の反応を探る範囲はネリネより大分狭いです。同じエリアにいればもしかしたら、程度。
※<<魔物>>
 制限によって禁止されていた魔物を生み出す力が、枯れない桜の力の減少によって使用可能になっています。
 呼び出す対価として魔物がやられる度に舞は生命力を失います。


 ■


「血が止まらねぇ……くそ、動脈が完全に逝っちまってる……何で、こんなになるまで放っておいたんだ」
「ボクを……バカにすんじゃねーよ。あんな状況で一人だけ寝てられる訳ねーじゃん」


沙羅は己の愚かさを、そして不注意を呪った。
いや、それだけでは済まされない選択ミスをした。ミス。有り得ない選択肢の不一致だ。

きぬの傷は川澄舞が投げた矢が太股に刺さっただけ……沙羅はそう考えていた。
最初はおそらく、本当にただの小さな刺し傷に過ぎなかったのだろう。
だが、彼女は簡易な手当てだけを済まし、すぐさま戦線に復帰した。
傷口を、労わることもなく。そして走り回り、大地を駆け回った。

人と言うのは大動脈が流れる太股を刺されただけでも十分に死に至る。
あの時、きぬは絶対安静だったのだ。


「智代、包帯と……消毒液、もっとだ!! 俺のデイパックの中に入っている!」
「……だが、もう薬品は……」

602名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:50:55 ID:A5i29Y3z
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603名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:51:37 ID:A5i29Y3z
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604名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:51:43 ID:SsOeD/EG
    
605私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:51:44 ID:jjq1zG3K
智代は言い淀む。まるで辺りは野戦病院のようだった。
なにしろ無事な人間と重傷の人間の数がほとんど変わらない。
きぬの隣には美凪が、美凪の隣にはハクオロが全身を赤く染めて横になっているのだ。

そう、三人もの人間の応急処置をするためには――絶対的に薬品が足らない。


死ぬ。
確かに三人は近いうちに命を落としてしまうだろう。
だが、それでも彼らに出来るだけの治療を施してやるのが残されたものの務め、沙羅はそう思う。

特にきぬはマトモな設備があれば、まだ十分に助けることが出来る傷である。
この場に医者がいれば何とかなった。でも、今のこの状態では全く希望の湧き様がなかった。

(出来ないの……? 何も……私の力じゃ……)

「くそ、病院に運び込むにしても……ここからじゃ……」
「畜生……」

武やあゆも沙羅と同じ絶望を感じていた。
助けられない。死にゆくものに十分な処置を施すことも出来ない。
しかし、


「――おい、そこの女装野郎。メソメソしてんじゃねーよ。
 あと、皆。ちょっと、今からボクの話を聞いてくれ」
「カニ……?」
「皆が思ってる通り、ボクは結構ヤバイ状況でさ。だけど……一つだけ、やらなきゃいけないことがあんのよ」
「やらなきゃ……いけないこと?」


沙羅がオウム返しできぬに尋ねる。
606名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:51:57 ID:7oPItBez
607名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:52:06 ID:A5i29Y3z
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608私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:52:19 ID:jjq1zG3K


「コレだよ、コレ。さっきからずっと光ってんだ」
「ボ……タン? どうしてただのボタンが光を……」


きぬがポケットから取り出したのは何の変哲もない学生ボタンだった。
しかし、一点だけ。
そのボタンが淡い桃色の光を放っていることを除けば。


「桜の花びらが空から降ってきたぐらいかな。そんで……さ。――呼んでだよ、ボクを」
「呼ん……でる?」
「見たのさ、夢ん中で。これと全く同じ桜をさ。場所は……きっと、あそこ」
「北……違う、神社……?」
「そ」


きぬは遥か北、森の奥深くにある神社の方角を指差した。
沙羅は考える。確かに木を隠すなら森の中、と言う。
極めてオカルティックな話ではあるが、もうこの一時間ぐらいで散々ファンタジーな体験をしたので、きぬの言葉を簡単に信じることが出来た。
だが、神社の中に桜の木などあっただろうか。あそこは境内のほかには何も――いや。
沙羅の頭に圭一達と神社を探索した時見つけた、奇妙な一角が浮かび上がる。


「……祭具殿の扉ッ!!!」
「……沙羅? 何か、見たのかよ?」
「うん。神社の境内の奥に妙な扉があった。でもあそこには鍵が……」

609名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:52:28 ID:SsOeD/EG
    
610名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:52:33 ID:7oPItBez
611私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:52:51 ID:jjq1zG3K
確かにあの古手神社とか言う建物には開かずの間があった。
しかし、沙羅は言葉を濁す。そこの扉に強固な鍵が掛かっていたことを思い出したからだ。
つまり、ノコノコと出向いて行ってもその奥へと向かうことは出来ない。

「……ッ、鍵……なら、あります」
「え!?」
「これ……です」

沙羅にとって最も意外な人物が、ここで手を挙げた。
美凪が荒い息を吐きながら、無理やり血塗れの身体を起こす。
そして、彼女のデイパックの中から出て来たのは確かに"鍵"だった。


「俺に支給された鍵だな。しかしこれが……? っても、神社はエリアごと禁止エリアなんじゃ……」
「いや、何かさ……大丈夫らしいよ」
「はぁっ?」
「ん、だから首輪。何かボタンが言ってたんだ。『次の放送まで、首輪は完全に無力化されている』って」


きぬはさも当然のように、そう呟いた。
沙羅は思わず自分の首輪に手を伸ばす。
体温で少しだけ暖かくなったその銀色の枷が既に無効化されている。俄かには信じられない。
しかし、

「ふ……行けばいいさ。禁止エリアに入っても……30秒間は首輪は爆発しない。私が実際……に確かめたからな」
「ハクオロッ!! お前、身体――」
「あゆ……すまない。私の身体だ。自分が助からないことは……誰よりも私がよく分かっている」
「ハクオロ……」

美凪同様、地面に横になりグッタリしていたハクオロが起き上がる。
あゆが目を伏せ、両の拳を強く握り締めた。
612名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:52:57 ID:A5i29Y3z
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613私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:53:26 ID:jjq1zG3K

「美凪」
「はい――分かっています」

ハクオロが美凪に小さく目配せを送る。
沙羅と舞が一対一で戦っていた時に彼女を助けに入る――その数分前に出会ったばかりだった二人だ。
しかし、二人の意志は繋がっていた。
そう、両者の頭には全く同じ言葉が全く同じタイミングで芽生えていた。


「武――私たちを置いて、お前達はきぬを神社へ連れて行け」
「……本当にいいのか?」
「ああ、ボタンから得た情報が本当ならば、猶予はあと四時間……こんな所でグズグズしている暇はない筈だ。
 "私たちが死ぬのを待っている必要"はない」
「ッ……くそッ! ……引き、受けた」


沙羅は自分の心臓がドクンと大きく一回脈打つ感覚に脳を揺さぶられた。
ハクオロは既に認めているのだ。もう、自分の命が助からないことを。
確かに今、こうして彼が言葉を話していることさえ奇跡のようなものだろう。
元々、傷だらけだった上に<<魔物>>に腹を貫かれたのだ。血も大量に失ってしまっている。助かる訳がない。

だが、沙羅は知っていた。
こうやって自分を見捨てていくよう進言することが、どれだけ勇気のいることなのかを。
死とは寂しく、心細いもの。最後の一瞬ぐらいは皆に見守って貰いながら逝きたい――誰だってそう思う。

美凪さんも同じ。立派。本当に立派だ。
最期の最期までみんなのことを考えて行動している。
だから自分に出来ることは、二人のそんな意志を邪魔しないこと。それだけだ。


「そうだ……ちょっといいかしら。皆、見える? ……あの、"塔"についてなんだけど」
614名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:53:28 ID:SsOeD/EG
    
615私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:54:00 ID:jjq1zG3K


一つだけ、沙羅は気になっていることがあった。
それはC-5、山頂にいつの間にか出現していた"塔"の存在である。
桜が降り始めた丁度その前後、この時になってようやく沙羅はそこに塔があることに気付いたのだ。

これはどう考えても可笑しい。
いくら何でも、あんなに大きな建物を見逃すほど自分は愚かではない。
何か、裏があるような気がする。そう、自分の中に眠る探偵魂が疼くのだ。


「ああ、何だっけな……確か、鷹野が暗示をかけて見えないようにしていた塔らしいぜ」
「暗示? そんな都合のいい力が――」


ある。桜、だ。
そう考えれば塔が見えるようになったタイミングも完全に一致する。


「決めた。私、皆とは別れて山頂に向かうわ!」
「……そうだな。あそこを調べる必要もある筈だしな」


武がきぬを自分の背中におぶさりながら頷く。
大分核心に迫ってきている、沙羅は天を仰ぎ見た。

有り得ないくらいの量の桃色の花。
まるで世界中で一度に桜が開花したような、凄まじい光景だった。

616名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:54:11 ID:SsOeD/EG
    
617名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:54:12 ID:A5i29Y3z
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618私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:54:48 ID:jjq1zG3K


「よし、行くぞ。じゃあな……ハクオロ、美凪。後は……俺達に任せろ」
「ああ……頼んだぞ、武」
「桜を何とか出来たら、山頂の辺りに来て。そこで合流しましょう」
「分かった。そっちも気をつけろよ――まだ、危険な奴は残っている筈だからな」
「……ええ」

きぬを背負った武、そして智代が先に出発した。
禁止エリアが関わる神社方面はまさに時間との勝負だからだ。
つまり今やこの場に残ったのは沙羅、ハクオロ、美凪。そして、あゆの四人。

「……沙羅、あたしも一緒に行くさ。一人じゃ心細いだろ? おい、ハクオロ。これでいいんだよな?」
「あゆ」
「……じゃあな。私は――生きるよ。アンタの分も」
「……それでいい」

あゆは俯いた。

「美凪さん……」
「沙羅ちゃん。ゴメン……なさい。全部、あなたに……背負わせてしまって」
「ううん、いいの。だって私には<<圭一>>も<<美凪>>さんも、どっちも付いているんだから!
 絶対無敵よ、もう負ける筈なんてない! こんな最低のゲームぶっ壊して見せる!」
「ふふ……頼もしいです、ね」

あゆも沙羅も振り返らなかった。
最後にただ一言『生きる』と言い残し、その場から立ち去ったあゆ。
二人の仲間の意志をその身に宿した沙羅。
数え切れない悲しみと想いを受け止めたその心の中は、決意と正義に満ち溢れていた。

気丈な少女達は桜が舞い散る世界を進んでいく。
決して立ち止まることなく、歩むを遅らせることもなく、少しだけ涙でその瞳を濡らしながら。
619名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:54:50 ID:7oPItBez
620名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:54:55 ID:SsOeD/EG
    
621名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:55:08 ID:A5i29Y3z
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622名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:55:59 ID:7oPItBez
623名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:56:00 ID:A5i29Y3z
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624私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:56:13 ID:jjq1zG3K
【D-5 森/二日目 午前】

【倉成武@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:永遠神剣第三位"時詠"@永遠 のアセリア-この大地の果てで-、貴子のリボン(右手首に巻きつけてる)】
【所持品1:支給品一式x14、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、バナナ(台湾産)(3房)】
【所持品2:C120入りのアンプル×6と注射器@ひぐらしのなく頃に、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、
 大石のノート、情報を纏めた紙×4、ベネリM3(0/7)、12ゲージショットシェル85発、ゴルフクラブ】
【所持品3:S&W M37エアーウェイト弾数5/5、コンバットナイフ、タロットカード@Sister Princess、出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭】
【所持品4:トカレフTT33の予備マガジン10 洋服・アクセサリー・染髪剤いずれも複数、食料品・飲み物多数】
【所持品5:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×7 9ミリパラベラム弾58発】
【所持品6:銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルト80、キャリバーの残弾は50)、 バナナ(フィリピン産)(5房)、各種医薬品】
【所持品7:包丁、救急箱、エリーの人形@つよきす -Mighty Heart-、スクール水着@ひぐらしのなく頃に 祭、
 顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)、永遠神剣第六位冥加の鞘@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【状態:肉体的疲労大、L5緩和、頭から出血(二時間で完治)、脇腹と肩に銃傷、腹部に重度の打撲、智代に蹴られたダメージ、女性ものの服着用、きぬを背負っている】
【思考・行動】
基本方針:仲間と力を合わせ、ゲームを終わらせる
1:神社の奥まできぬを連れて行く
2:合流後、廃坑南口に向かう
3:美凪や瑞穂たちを心配
4:自分で自分が許せるようになるまで、誰にも許されようとは思わない
5:L5対策として、必要に応じて日常を演じる
6:ちゃんとした服がほしい
625名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:56:38 ID:SsOeD/EG
    
626名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:56:58 ID:A5i29Y3z
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627私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:56:59 ID:jjq1zG3K

【備考】
※C120の投与とつぐみの説得により、L5は緩和されました。今はキュレイウィルスとC120で完全に押さえ込んでいる状態です。
 定期的にアンプルを注射する必要があり、また強いストレスを感じると再び発祥する恐れがあります。キュレイの制限が解けるまでこの危険は付き纏います
※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。
※キュレイにより僅かながらですが傷の治療が行われています。
※永遠神剣第三位"時詠"は、黒く染まった『求め』の形状になっています。
※千影のデイパックを回収しましたが、未だ詳しく中身は調べていません
※海の家のトロッコについて、知りました。
※ipodに隠されたメッセージについて、知りました。
※武が瑞穂達から聞いた情報は、トロッコとipodについてのみです。


【坂上智代@CLANNAD】
【装備:IMI デザートイーグル 7/10+1】
【所持品:支給品一式×3、 IMI デザートイーグル の予備マガジン7
 サバイバルナイフ、トランシーバー×2、多機能ボイス レコーダー(ラジオ付き)、十徳工具@うたわれるもの、スタンガン、 九十七式自動砲 弾数6/7】
【所持品2:九十七式自動砲の予備弾91発、デザートイーグルの予備弾85発、情報を纏めた紙×2】
【状態:肉体的疲労大、血塗れ、左胸に軽度の打撲、右肩刺し傷(動かすと激しく痛む・応急処置済み)、左耳朶損失、右肩に酷い銃創】
【思考・行動】
基本方針:武と行動を共にする
1:神社の奥まできぬを連れて行く
2:自分のこれからの目標を探し、実行する

【備考】
※『声真似』の技能を使えるのが土永さんと断定しました。
※土永さん=古手梨花と勘違いをしています。
628名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:57:25 ID:SsOeD/EG
    
629私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:57:30 ID:jjq1zG3K


【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:クロスボウ(ボルト残24/30)純一の第2ボタン】
【所持品:竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス 釘撃ち機(10/20)釘撃ち機(10/20)
     支給品一式x3、麻酔薬入り注射器×2、食料品沢山(刺激物多し)懐中電灯、単二乾電池(×4本)、鍵】
【所持品2:支給品一式、ジッポライター、富竹のカメラ&フィルム4本@ひぐらしのなく頃に、情報を纏めた紙x1、可憐のロケット@Sister Princess、首輪(厳島貴子)、】
【所持品3:朝倉音夢の制服 桜の花 びら コントロール室の鍵 ホテル内の見取り図ファイル】
【状態:強い決意、左手指先に切り傷、数箇所ほど蜂に刺された形跡、悲しみ、右太股大動脈破裂、出血多量(処置不能)、肉体的疲労極大、武に背負われている】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出 、ただし乗っている相手はぶっ潰す。
1:神社の奥に向かう。
2:純一の遺志を継ぐ
3:ゲームをぶっ潰す。
4:殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出

【備考】
※アセリアに対する警戒は小さくなっています
※宣戦布告は「佐藤」ではなく「よっぴー」と叫びました。
※ハクオロはそれなりに信頼。音夢を殺したと思ってます。
※あゆを完全に信頼。
※沙羅を完全に信頼。
※純一の死を有る程度乗り越えました。
※足からの出血が酷く、数時間後に死に至ります。


【C-6 吊橋/2日目 午前】

630名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:57:51 ID:7oPItBez
631名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:57:54 ID:A5i29Y3z
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632私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:58:00 ID:jjq1zG3K
【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:ワルサー P99 (6/16)】
【所持品1:S&W M36(4/5)、ワルサーP99の予備マガジン2 カンパン30個入り(10/10) 500mlペットボトル4本】
【所持品2:支給品一式×2、ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭、空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE、往人の人形】
【所持品3:『バトル・ロワイアル』という題名の本、、映画館にあったメモ、家庭用工具セット、情報を纏めた紙×12、ロープ】【所持品4:爆弾作成方法を載せたメモ、肥料、缶(中身はガソリン)、信管】
【状態:疲労極大・肋骨にひび・強い決意・若干の血の汚れ・両腕に軽い捻挫、両肩間接に軽い痛み】
【思考・行動】
基本行動方針:一人でも多くの人間が助かるように行動する
1:山頂に向かい電波塔を調べる。
2:ことみを追う為西へ。
3:状況が落ち着いたら、爆弾を作成する
4:情報端末を探す。
5:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護。
6:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。 タカノ、というかこのFDを作った奴は絶対に泣かす


【備考】
※国崎最高ボタンについて、暗号文と関わりありと考えてます。
※肥料、ガソリン、信管を組み合わせる事で、爆弾が作れます(威力の程度は、後続の書き手さん任せ)。
※坂上智代マーダー化の原因が土永さんにあることを知りました。
※きぬを完全に信頼。
※あゆを完全に信頼。

※フロッピーディスク二枚は破壊。地獄蝶々@つよきすは刀の部分だけ谷底の川に流されました。
 エスペリアの首輪、地獄蝶々の鞘はC-6に放置。

633名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:58:07 ID:SsOeD/EG
    
634名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:58:37 ID:7oPItBez
635私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:58:44 ID:jjq1zG3K
【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10 (2/6) 防弾チョッキ 生理用品、洋服】
【所持品:予備弾丸6発・支給品一式x5 ホテル最上階の客室キー(全室分) ライター 懐中電灯】
     大型レンチ、オオアリクイのヌイグルミ@Kanon 、ヘルメット、ツルハシ、昆虫図鑑、スペツナズナイフの柄 虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-、ベレッタ M93R(10/21)】
【状態:生理(軽度)、肋骨左右各1本亀裂骨折、強い意志、左前腕打撲(多少は物も握れるようになってます】
【思考・行動】
行動方針:殺し合いに乗るつもりは無い。しかし、亜沙を殺した一ノ瀬ことみは絶対に逃さない。
0:とりあえず西へ。
1:一ノ瀬ことみを追う
2:二人を殺す為の作戦・手順を練る
3:ことみを警戒
4:沙羅とカニと一緒に行動
5:殺し合いに乗った人間を殺す
6;甘い人間を助けたい
7:川澄舞に対する憎しみ

【備考】
※ことみが人殺しと断定しました。
※ハクオロの事は徐々に信頼しつつあります。多少の罪の意識があります。
※支給品一式はランタンが欠品 。
※生理はそれほど重くありません。ただ無理をすると体調が悪化します。例は発熱、腹痛、体のだるさなど
※きぬを完全に信頼。
※沙羅を完全に信頼。


 ■


最後に残った二人の人間。
ハクオロ、そして遠野美凪。
全身から血を流し、大地を真っ赤に染めながらも彼らは気丈に天を見上げていた。
636名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 01:59:22 ID:SsOeD/EG
    
637私たちに翼はない ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:59:23 ID:jjq1zG3K

ほんの数刻前まで喧騒に満ち溢れていた空間を無数の桃色の花びらが飾る。
それは舞い散る桜の花。
柔らかな春の匂いを帯びた妖精のような――暖かな想いに護られた花だった。

「ハクオロさん」

美凪が震える口唇で傍らの男の名前を呼ぶ。
殺し合いが始まってから既に一日と半分が経過した。
二人はこの空間、誰も居ない森の中でついさっき出会ったばかりだった。
特に美凪は男に関する特別な情報を大して持っていなかった。
様々な誤解や権謀が錯綜し、何が真実で何が嘘かをハッキリと見分けることの出来る人間が誰一人として存在しなかったからだ。

だが、彼女は今隣にいる男の姿を見て思った。
彼は本当に皆を救うために頑張って来たに違いない、と。
少女は男の横顔に一人の少年の顔を重ね合わせる。

「どう、した……美凪」
「まだ……生きて……いますか?」
「ああ、意外と生き汚い性分でな……。もう少し、だけ掛かりそうだ」
「……そう、ですか。私も……です」

二人は草むらに血だらけで横たわる。
緑色の芝生、軽く土肌を露出した大地は様々な色が混ざり合っていた。
それはまるで洗ってないパレットのようだ。数え切れない色彩が二人の周りを賑やかす。

「病院にいたのは……君だったのか」
「……奇遇ですね。既に……初対面ではなかったんですね」
「ああ。もっとも、私は病院から君が出て来たのを利用して……あの場から逃げ出したのだがね」
「そうですか……酷い人、ですね」
「そう、だな」
638空蝉ノ影 ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 01:59:54 ID:jjq1zG3K

交わされた言葉だけを見れば、この時両者の間にある種の怨恨の感情が生まれる可能性さえあった。
だが、そんな結末がこの両者に限って起こり得る訳がないのだ。
この島において見知らぬ人間全てに、友愛と微笑と慈悲をもって接することなど出来る筈もない。
そんな簡単で残酷な事実を把握していないものが、未だ生き残っていられる程この島は甘い環境ではないのだから。

ただ、こうしてほとんど接点を持たなかった二人の死に損ないが、頭を並べて最期の会話に興じている。
そして、その事実がどれだけ貴重で奇妙で異様な光景なのか、本人達が誰よりも理解している。

「往人と……観鈴。分かる、か?」
「……はい」
「会えたか?」
「……会い、ました」

二人はポツリ、ポツリと断片的な言葉を紡ぐ。
まるで、いつ止まってしまうのか分からないゼンマイ人形のように、あやふやで心細い呟きではあったけれど。

「それでは――」
「全部……聞きました」
「そうか」

ハクオロが唇を噛んだ。口の中にほのかに広まる新しい血の味。
粘膜を伝い、鉄は彼の身体を浸食していく。少しだけ紅に色を変えた空を桜が舞う。

「許してやって、くれないか。憎まれたままでは……奴があまりにも……可哀想だ」
「憎む? ……ふふ。ハクオロ、さん。不思議なことを……言いますね」
「不思議?」

ハクオロが語尾を少しだけ上げた。
神尾観鈴を自らの手で殺し、何人もの少女の命を奪った男の罪。
それは容易く清算されるものでもなく、一生を持って償われなければならない咎だった。
だが国崎往人は逝った。誰にも見守れることなく、志半ばで力尽きたのだ。
639名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:00:00 ID:7oPItBez
640名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:00:04 ID:SsOeD/EG
    
641名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:00:20 ID:A5i29Y3z
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642空蝉ノ影 ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 02:00:24 ID:jjq1zG3K

「ええ、そうです。だって元々、私は国崎さんを恨んだことなんて一度も……ありませんでしたから。
 ひとごろし、なんて罵ったりしません。だけど、国崎さんはダメですね。
 私や瑛理子さんをあんなに悲しませて……ぜんぜん、へっちゃらじゃないです」
「美凪……」
「でも、神尾さんが赦したのならば、それは私が口を挟んでいい問題じゃないんです。
 だから……もう……この話はおしまいです」

瑛理子、その名前をハクオロは頭の中の記憶と結びつける。
気丈で少し大人びた非常に聡明な少女。
黒真珠のような長髪を神尾観鈴のリボンで結んだ少女の姿を。


言葉が途切れた。
空白を二人の荒々しい呼吸が埋める。
森はざわめき、風は空を天へと昇る龍のように駆け巡る。
桃色の煌きが瞳を揺らす。

「私も……私も一つ、お話をしてもよろしいでしょうか」
「……聞こう」

ハクオロは短く、美凪の問いに答える。

「ありがとう、ございます。
 私、遠野美凪は……この島で数え切れないほどの恐怖に出会いました。
 苦しみに出会いました。悲しみに出会いました。でも、」

美凪はそこで言葉を一端切ると、一呼吸置いて再度語り出す。
自らの物語を、眼を覆わんばかりの桜の嵐に乗せて。


「私の傍らにはいつも、一人の――男の子がいたんです」
643名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:00:39 ID:7oPItBez
644空蝉ノ影 ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 02:01:01 ID:jjq1zG3K


美凪は瞳を閉じた。
そして浮かんでくる懐かしい記憶の渦へと身を任せた。
夏の海、青い空、白い雲、古ぼけた駅、そして小さな女の子。
親しかった人間の姿も次々と白いもやから実像へと変わって行く。

「彼は私を守ってくれました。戦ってくれました。でも、私はそんな彼に……迷惑をかけてばかりでした。
 …………ああ。私も……ダメダメだったみたいです」
「私も同じだ……。皆を率いる、纏めるなどと言っておきながら、部下や大切な人を残しておめおめと生き残って来た。
 そして今は、この有様だ。私は王として……失格だ」
「……そっくり、ですね」

そのの言葉を聞いて美凪が小さく笑った。
ハクオロも一瞬、驚いたような表情を浮かべたが、すぐさま同じように笑った。

美凪の言葉は続く。
沙羅との出会い。
少年とゲームに乗った少女との因縁。
薬のせいで精神に異常を来たした武との戦い。
そして、自分が油断していたせいで始まってしまった少年と武の一対一での決闘。
心の力でそれに勝利した自分達を待っていた、残酷な結末――


ハクオロは美凪の言葉を聞きながら考える。
彼女の言う<<男の子>>とは一体誰のを差しているのだろう、と。

もちろん、沙羅の口から何度も出て来た<<圭一>>という人物なのだろう。文脈から容易に想像出来る問だ。
しかし、
645名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:01:05 ID:A5i29Y3z
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646名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:01:17 ID:SsOeD/EG
    
647空蝉ノ影 ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 02:01:32 ID:jjq1zG3K
もはや自分達の命の炎が尽き掛けていることは明確過ぎる事実である。
では何故、美凪はあくまで言葉をぼかすのだろう。
未だに何か消化し切れていない事象でもあるのか。まさかただの気紛れ、ということはあるまい。
もしも自分が名前を知っていれば、更に話が発展する可能性もある。
そうしないのは逆に彼女の中に微妙なしこりが残っているという証拠に他ならない。

「迷って……いるのか」
「え?」
「なに、その少年のことさ。ただ美凪、君の言葉からは何か……煮え切らない衝動のようなものを感じる」
「すごい、ですね、まるで……魔法みたい」

冗談めいた口調で美凪が小さく吹き出した。
血に濡れた森に響く可愛らしい声。
が、数秒続いた笑いは唐突な彼女の咳き込む音と口内まで上昇した血液の反流によって停止させられた。
新たに彼女が咳き込む音が木霊する。

「……ッ!! いや、です……ね。少しだけ咽ちゃいました」
「美凪……」

ハクオロは自分達に残された時間がもう、ほとんど残り幾許もないことを実感する。


「その……彼のことが、好きだったのか?」


故に聞いた。
もう指一本動かすのさえ億劫な筈なのに、錆付いたガラクタのような自らの身体にハクオロは力を入れる。
最後の力で彼は美凪の方を向き、そして問い掛ける。
彼女が未だに消化出来ていない最後の迷いを解き放つために。

648名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:01:35 ID:7oPItBez
649空蝉ノ影 ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 02:02:03 ID:jjq1zG3K
「どう……だったんでしょうね。あれは恋……と呼べるようなもの……だったのでしょうか」
「美凪は、どう思うんだ」 
「正直、分からない……です。……でも、」


もう一度大きな風が桜の花びらと共に二人へと降り注いだ。
身体の上にひらひらと落下する桜花。
まるで、花自体が<<意志>>を持っているかのような、二人の身体を包み込むような。
散りゆくものを祝福する光に満ちていた。


「圭一さんと出会えて、本当に、本当に……良かった」
「心の底から……そう思うか?」
「はい――この気持ちにだけは……一片の嘘も偽りも……ありません」
「……安心した。私が心配する必要もなかったようだ」


ハクオロも深く息を吐き出す。
これで心置きなく逝ける、そう感じたからだ。しかし、彼女の話は未だ終わっていなかった。

「あぁ、そうだ……ハクオロさん、私からも……最後に一つ聞いてみたいことがあります」
「……何だ?」
「いえ、別に大きく構える必要は……ありません。これも……私の中では終わったことの一つですから。
 ただ、ハクオロさんならどう答えるのか……気になっただけです」
「……分かった」



「……飛べない翼に意味はあるんでしょうか」

650名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:02:11 ID:7oPItBez
651名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:02:19 ID:A5i29Y3z
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652名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:02:22 ID:SsOeD/EG
    
653空蝉ノ影 ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 02:02:54 ID:jjq1zG3K
ハクオロは美凪の突然の問い掛けに苦笑した。そして考える。飛べない翼、それは一体何を表しているのか。
何かを例えているのだとは思う。それではソレは何か。自分自身の境遇? 過去? それとも未来?
浮かび上がる候補はいくつもある。死を待つまでの謎掛けかもしれない。

ハクオロは少しだけ頭を働かせ、そして答えた。


「さあ、どうだろうな。ただ……翼がなくても生きて行ける鳥もいる。決して無駄なものなんかじゃない。私は……そう思う」
「…………ふふ。それだけ聞ければ……結構です。お粗末様……でした」


美凪はそう行ったきり、もう何も言葉を発さなくなった。
会話はいつの間にか途切れてしまった。桜が空で遊び、それを二人は見つめる。終焉の時は迫っていた。

どれくらいの時間が経っただろう。美凪ぼそりと、本当に小さな言葉でハクオロを呼びかけた。

「ハク、オロさん」

彼は安堵した。まだ、少女は生きていたのだ。
ハクオロも痺れた舌に鞭打って答える。


「どう、した……美凪」


だが、いくら待っても――彼女の返事はなかった。

ハクオロは薄れゆく意識の中で、彼女に祈りを捧げた。
そして、いつしか、彼も永久の闇の中へと落ちて行った。


【遠野美凪@Air 死亡】
654名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:03:14 ID:SsOeD/EG
    
655空蝉ノ影 ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 02:03:25 ID:jjq1zG3K


 ■

<<一対一>>


『我が空蝉よ、無様だな』

ディーが睡りから目覚め、そしてこの地を訪れた時。それは全てが終わった後だった。

彼の目の前には桜の花弁に囲まれ、死の世界へと旅立った小さき少女。
そして今にも息を引き取ろうとしている空蝉――ハクオロの姿があった。

「……まさか……お前が……」
「察しがいいな、空蝉よ。我こそが鷹野三四と契約を交わし、この地を創造した者」

ハクオロはディーを睨みつける。
もはや、指一本動かす力は残っていないだろうことが容易くディーには見て取れた。
ハクオロの意志を示す器官はもはや眼と口しかまともに機能していない。

「何をしに……来た。もはや、私にはお前と戦う力は……」
「残念だがそれは我も同じなのだ、空蝉よ。力を集め、子供達を集め、私は力を使い果たした」
「ならば、何故……?」
「何、簡単なことだ。弱ったとはいえ、私には――空蝉、お前を治療する程度の力は残っているということだ」
「な……に……!?」

ハクオロは仮面に覆われた瞳を大きく震わせ、驚愕の声を上げた。
そう、これこそがディーの目的だった。
衰え、戦う力を無くしたものに送る些細な慈悲。
656名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:03:34 ID:A5i29Y3z
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657名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:03:38 ID:7oPItBez
658名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:04:24 ID:A5i29Y3z
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659名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:04:30 ID:SsOeD/EG
    
660名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:05:09 ID:7oPItBez
661空蝉ノ影 ◆tu4bghlMIw :2007/12/04(火) 02:05:27 ID:jjq1zG3K

「こんな所で朽ち果てるような器ではない――誰よりもソレはお前自身が分かっている筈だ、空蝉よ」
「ふ……何を言い出すかと……思えば、残念だが……その必要はない」
「――自ら死を望むか」

空蝉の予想外の言葉にディーは思わず、眉を顰めた。
桜の木が施した制限が弱っている今、この瞬間を生き抜くことの重要さが分からぬ程愚かではあるまい。

では何故――?


「ディー……お前には一生分からんさ。私には……信じた仲間達がいる。
 私の意志は彼らが引き継いだ――もう、私の仕事は終わったんだ」
「――話にならんな。だが、もう一度だけ問おう、空蝉よ。生きたくは――ないのか」
「何度聞かれても……私の答えは変わらない」
「…………」


ディーはもう何も語らなかった。
そして、彼は無言のまま、現れた時と同じように姿を消した。




残された男は数分、じっと天を見つめる。
自分の選択は間違っていた――そんな考えは微塵も存在しない。自分はやるだけのことをやって、そして全てを仲間達に託したのだ。
そこには一分の妥協も、後悔もなかった。
男は最後に小さく笑い、瞼に映った極彩と桜吹雪の中、息絶えた。


【ハクオロ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄 死亡】
662名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:05:42 ID:A5i29Y3z
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663名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:06:17 ID:A5i29Y3z
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664名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/04(火) 02:06:44 ID:7oPItBez
665命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:08:18 ID:tb2wvPJN
ここは島の最北西に位置する場所。
此度の殺人遊戯の舞台となった島とは陸続きとなっているものの、離れ島と表現したほうがふさわしい。
参加者に支給された地図の表記に従って言えばA-1、A-2、B-1のあたりだ。
もはや参加者の人数も当初の5分の1まで減った今、この場所に訪れる意味はほとんどない。
殺し合いを肯定しその手を血に塗らすことを決意した人間からすれば、こんな辺鄙なところではなくもっと生贄となる人のいそうな場所を探すだろう。
逆に殺し合いを否定し見知らぬ仲間と手を取り合うことを選んだ人間からすれば、もっと仲間を得られそうな場所に行くだろう。
どちらの人間の側にも言えることは一つ、こんな場所を訪れるメリットはないということだ。

ただ一種類、すべての現実から目をそらし逃げることを選んだ者だけがこの地を訪れる理由があるかもしれない。
だが、そんな人間は当の昔に淘汰され消えていった。
ある者は逃げることをやめて戦うことを選んだ矢先に殺され、ある者は最後まで逃げ続けて。
よってこの離れ島はもはや用済みとなって打ち捨てられていくだけの存在に等しい。
だが、ただ一人、参加者の人数も減り、この遊戯も最終局面を迎えた時間にこの地の土を踏む者がいた。
その者の名は契約者、月宮あゆ。

「ここが工場……だよね?」

息を切らせながら手元にある地図を眺めて、あゆが呟く。
永遠神剣で身体能力を強化していたとはいえ、かなりの距離を走っており疲労の色を隠すことはできない。
時間にして数時間は走っていたのでそれも当然だといえよう。
気がつけば太陽も真上から西に傾きかけていた。
地図を信用する限りここが工場であることは確定事項なので、疲労に息つく体を動かして周囲を探す。
程なくして近くに扉があることを発見して、ドアノブに手をかけて開いた。

「おじゃまします」
666名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:08:30 ID:Pj96S4ZO
 
667命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:08:49 ID:tb2wvPJN

誰もいないということが分かっているのに何故かそんな言葉が出てきた。
ギギィと錆付いた金属が軋む音をたてて薄暗かった工場内に光が差し込む。
あゆはその空間内に足を踏み入れた。

「うぐぅ、どこに行けばいいんだろう……」

電灯のスイッチが見つからないがが今は真昼間だから問題ない。
多少薄暗く感じるだけで歩くのにはなんの不自由もない。
工場に足を踏み入れたとき呟いた言葉とは反対に遠慮なくカツカツと歩いていく。
あちこちに首を振り視線を走らせるが、目当てのものらしき物は一向に見つからない。
目に入るものといえば遠い昔社会見学で見た光景に似た景色が続いていくだけだ。
自分はなにもここに社会見学にきたわけではないのだ。
しかも専門知識のないあゆにとって工場内に所狭しと広がる機械類が何の用途で用いられるのか、どういった名称なのか皆目見当もつかない。
一つだけベルトコンベアと呼ばれるものの存在だけはあゆにも分かったが、それだけだ。

「もしかして、ここにある機械とかがその力だったりする、とか?」

見つけた階段を上りながら自信なく口に出してみる。
しかしすぐにその考えは捨てた。
機械なら用途不明のものが無数に工場内のスペースを埋め尽くしている。
電源も入っていなくてただその輝く金属の体のみを曝け出しているだけの虚しい存在。
それを武器というのには無理がある。
そもそもこんな見るからに重そうな機械群など持ち運ぶのさえ難しいだろう。
それでなくともディーは『契約者ならば』と言っていたのだ。
その『力』とは契約者でなければその真価を発揮することのないものなのだろう。
無論、その考えから理論を展開していくと銃などの汎用性のある武器などあゆが頭に浮かべていた候補から真っ先に消えていた。
668名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:09:19 ID:Pj96S4ZO
 
669命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:09:20 ID:tb2wvPJN
よって、ここにあるのは本当にただの工場によくある作業用の機械なのだろう。
何かを作り、あるいは壊し、与えられた命令を意思もなく実行し続けるだけの存在。
月宮あゆはそんなものに興味も用もない。
これだけ考えても皆目見当もつかないほどの『力』を持ったもの。
契約者のみにしか使えない強力な武器か、はたまた自分の想像もつかないような効果を持つ道具か、想像しただけで胸が躍るのを感じる。
あゆはその『力』との邂逅を求め更なる探索を続けた。

「こっちにはなにもないかなぁ……」

機械が一切の活動を止め、静寂のみが支配する空間を探索し終えたあゆが次なる場所へと足を踏み入れる。
今度は機械類の一切ない空間、即ちこの工場で勤務する人間が使うであろうところへ来た。
着替えに使うであろうロッカールーム、仮眠室と思わしき部屋、次々へと探索するもいまだ何も見つからない。

「うぐぅ、まさか嘘、なんてことはないよね?」

あゆが見た限りディーという男は嘘をつくような男には見えなかった。
必要最低限のことしか言わず、こちらの問いや質問にも最低限の情報が与えられるのみ。
そんな男が自分に嘘をつき、今この場で足を棒にして工場内を探し回る様を腹を抱えて笑っている様子など想像できない。
だが、いくら探してもディーなる男の言う『力』に該当するようなものがないのもまた事実。
やはりあの男の言っていたことは嘘なのだろうか。
そんなことを考えているうちにもう残りは目の前にある事務室らしき場所のみ。
これで見つからなかったらどうしようかという考えも纏まりきらぬ内にあゆは事務室の扉を開けた。

「やっぱり……なにもない」
670命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:09:52 ID:tb2wvPJN
あちこちに設置された机や棚。
机に積み上げられた書類の山。
壁際にかけられた掛け時計。
やはり目を引くようなものは何もない。
どこからどう見ても事務室。
100人に聞いても100人全員が事務室です、と答えることができるくらい。
完全無欠の事務室の匂いを持つ部屋。
何かが隠されているように思えない。

「うぐぅ、なんだか怖くなってきちゃった」

事務室の扉を閉め、再度通路を歩き出す。
誰もいない工場に一人きりというのは考えてみれば恐ろしい状況である。
静寂のみが支配する空間において音をたてるのは自分ひとり。
カツカツと鳴る靴の音、鼻と口から漏れる空気の振動、心臓の鼓動までもがハッキリと聞こえてくる。
真昼間とはいえ、幽霊の一つや二つ出てもおかしくはない気がしてならない。
自然と足を運ぶ速度が速くなり、気がつけば走り出していた。

「ひぐぅっ……」

脅えの色を隠すこともなく、目に涙を浮かべながらも走り続ける。
実はもうあゆが殺した人数は6名にも昇る。
言わば生粋の殺人鬼で、端から見ればあゆの方も恐ろしい存在なのだ。
だが、怖いものは怖いから仕方がない。
それでなくてもあゆは怖いものが苦手だ。
人殺しがお化けや幽霊を怖がってなにが悪い。
あゆはそんな言い訳を頭に浮かべながらついに最初に入ってきた入り口まで戻ってきた。
671命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:10:29 ID:tb2wvPJN
「はぁ、はぁ……ここまでくれば大丈……ってあれ?」

気がつけば入ってきた扉とは別の入り口がそこにあった。
あゆは即座にこの扉に対して疑問を抱く。
そもそも外から入ってくるとき、外側から見た扉は一つしかなかった。
それだけなら、壁に書かれた扉の絵という強引ではあるが納得のいく回答も得られるだろう。
しかしこの工場内に入ってきたときにもこんな入り口は見つからなかった。
もし、こんなところに扉があればあゆはいの一番にこの扉を開けていただろう。
そして、この扉に対しての最大の疑問。
扉は砂漠で時折見かける蜃気楼のようにユラユラと揺れているのだ。
砂漠のど真ん中ならこれも蜃気楼だろうと笑い飛ばせる。
が、もちろんここは砂漠のど真ん中などではない。
それだけにこのアンバランスさが本当にそこに存在するかも分からない扉に確かな存在感を与えていた。

「もしかして、ここが……」

少し前まで脅えていた幽霊への恐怖も忘れ、臆することもなく扉のドアノブに手をかけた。
冷たくて硬い金属の感触、この扉は間違いなく幻ではない。
だが、同時に不安も生まれた。
この扉は何処につながるのであろうか、という疑問。
一番可能性が高いのはディーの言う『力』へと続く道。
しかし、やはりどこかその言葉を信じきれないのも事実だ。
ここまで来ておきながら何を今更という思いもないではないが、あゆの中にはやはり拭いきれない恐れがあった。

もし、これが罠でこの扉を開いた瞬間、足音に落とし穴ができて奈落の底へ落ちるのではないか。
あるいはこの扉を開いた瞬間、頭上から鋭利な刃物が落ちてくるのではないか。
672命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:11:10 ID:tb2wvPJN
浮かんでは消える最悪の未来への恐怖がドアノブに手をかけたままの手を硬直させていた。
開けたくても開けられない、かといってこのまま去るという選択肢も浮かばない。
何度も頭上や足元を確認して何もないことを確かめる。
一度工場の外に出て全体も見渡したりもしたが、やはり罠らしき怪しいものはない。
たった一つ、この扉をのぞいて。
再度扉に手をかけるが、やはり動かずにそのまま数分立ち止まることになる。
しかし埒が明かない現状を憂いて、あゆはついに扉を開く決心をした。

「ここで一生このままで止まっていられないもん。 生きて帰って大好きな鯛焼きをたくさん食べるんだから」

実にあゆらしい方法で自らを奮い立たせあゆはついに虚ろな存在の扉を開いた。
その先に待っているのは罠でも『力』でもなく自身の体に訪れた変化だった。
視界がぶれて自身が今何処に存在するかも分からなくなってくる。

(うぐぅ、やっぱり罠!? でも、あれ? これって……)

やはり罠かと脅えた声を出すが、よくよく考えるとこの感覚は以前にも経験したことがある。
そしてあゆがすべてを理解した瞬間、あやふやだった視界が元に戻った。
だが、そこはさっきまで自分がいたところではなく、巨大な戦艦ののブリッジのような場所。
アニメや映画のような創作の世界でしか見たことがないような光景が広がっていた。
多数のモニターとあゆにはよく分からない機械の数々。
そしてここには多くの人間がいた。

「ひ、人がたくさん! え? ここどこ? なんでここにボクはここにいるの?」
673命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:11:41 ID:tb2wvPJN
あゆが思い出したのは殺し合いに参加させられる直前にワープさせられた感覚。
やはりその記憶に間違いなく、自分はワープさせられたのだ。
しかし、ここはどこなのかという現状の把握がまるでできない。
とりあえずここに来るまでの経緯を思い出してみるが、工場まできたはずなのにどうしてここにいるのかも想像ができない。
何よりも先ほどから忙しくこの広大な部屋を走り回っている人間の存在があゆの混乱に拍車をかけていた。
全員顔を見たことがない大人の人間、しかもその大人の何人かがこちらをずっと見ている。
その大人の視線に耐えられなくなってあゆが視線をそらすが、ここにきてさらに重大な事実に気がつき、大人たちの方を見た。

「首輪がない!?」

ここにきてあゆの混乱はピークに達した。
ここにいる人間の誰一人として首輪をしてないのだ
これが未だ見ぬ参加者ならともかく、首輪をしてない人間となるとこの人たちは殺し合いの参加者ではないということ。
もはやあゆは現状把握ができないほどまでに混乱していた。
元々決して優秀とは言えない彼女の脳はキャパシティーを越え、現状に大きく振り回される。
しかしここで彼女に助け舟を出す人間がいた。
その人物は悪趣味なことにあゆの混乱する様をお腹いっぱいに堪能してようやくあゆの背中に声をかけたのだ。

「クスクスクス……久しぶりね、月宮あゆさん。 私の顔は覚えてる?」

振り向いたあゆの先には驚くべき人物がいた。
問われるまでもなくあゆはその人物の顔を覚えている。
この悲劇の数々を起こした張本人の顔を誰が忘れていようか。
この人間がいなければ自分は手を汚すこともなかったのだ。
あゆは最大級の憎しみをもってその人物の名前を呟いた。
674名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:11:46 ID:Pj96S4ZO
 
675命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:12:13 ID:tb2wvPJN
「鷹野……さん」
「ええ、そうよ」

あゆが武器を取り身構えようとするが、自身の手には何もなく空気を掴んでいるだけだった。
慌てて周辺も見渡すがどこにもあゆの持っていた武器の類は転がってもいない。
それはつまり、あゆは今無力な一人の小娘にすぎないということ。
あゆに力と自信をもたらしていた永遠神剣もなく、素手で鷹野三四と対峙しているという絶望的な事実があゆの頭の中を駆け巡っていく。
顔が真っ青になっていくことを自覚するが自分の意思では止められない。
今の月宮あゆはただ搾取され、毟り取られていくだけの哀れな生贄にも等しき存在。
これから何をされるか、何故こんなところにいるのか、想像がつかないだけに恐い。

「ヒイッ!!」

情けない声を上げてあゆが後ろに下がっていく。
鷹野はそんなあゆを見て恐がらせないように穏やかな笑みを作った。

「大丈夫。 あなたに危害は加えないから」

あゆにはその言葉を信じることなどできるはずもなかった。
自分、いや、自分だけでなく多くの人間をこんな殺し合いに参加させた首謀者の言うことを頭から信じることのできる人間などいない。
いたとしたらその人間は心の底から性善説を信奉するようなお人よしの馬鹿に違いない。
あゆも知らず知らずの内に否定の言葉を口にしていた。

「信じられない……」
「嘘じゃないわ。 貴女と取引をするためにここに呼んだのよ」
「取引?」
「そう。 といってもこの話を断ったって元の場所に返すだけだからデメリットはないわ」
676名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:12:24 ID:Pj96S4ZO
 
677名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:12:59 ID:Pj96S4ZO
 
678命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:13:13 ID:tb2wvPJN
鸚鵡返しに繰り返したあゆの言葉に鷹野は口元を吊り上げた。
そしてあゆに自らが出した条件とその対価として与えられる恩恵を口にする。
あゆもその条件を聞き始めは悩んでいたがついに決心をした。
果たして月宮あゆの出した答えとは?

  

   ◇     ◇     ◇     ◇



島全体に桜の花びらが舞い散るある種幻想的光景の中、神社を目前にして止まっている影があった。
彼らはボタンに届いた声を信じて、禁止エリアをこえてここまできたのである。
その人物の名前は倉成武、坂上智代、蟹沢きぬ。
しかし神社の入り口に当たる石段までも視界に捉えているのに彼らはそこから動こうとはしなかった。

「おい、なんだよあれは?」
「私に聞くな。 私が知っていると思うか?」

武の声に智代が応えるが、それは武の疑問に答えるようなものではなかった。
それもそうだ。 あれは何かと聞かれて答えることができる人間はいないだろう。
神社の入り口になる石段の前にあたかも門番のごとく立っている存在があるのだから。
それは一言で言い表すなら鉄の巨人。
身長はおよそ5mほど、西洋でいうところのプレートメイルのような赤く塗装された鎧で身を固めている。
その巨体から発せられる威圧感はまさに圧倒的。
そしてその右手には巨人が振るうのにふさわしき、巨大な剣。
長さは2mほどの肉厚な剣で、もしもあれを生身の人間がその身に受ければ一瞬で肉塊へ変えられることは必須。
その難攻不落の要塞にも等しき存在が神社の入り口を固めているのである。
幸いこちらの存在には気づいていないようで、あちこち向いて敵の存在を見つけようとしている。
どう考えても友好的に話し合いをして歌でも歌えば快く道を開けてくれる、と楽観的な考えは持たせてくれそうにない。
679名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:13:13 ID:upT2mRRL
680名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:13:32 ID:Pj96S4ZO
 
681命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:13:43 ID:tb2wvPJN
「じゃあそもそもあれは参加者なのか?」
「だから私に聞くな」
「いや、少しは考えろよ」

すでに三人は生き残った全参加者の情報を共有している。
各自の持つ情報と所持品の全参加者名簿により顔も大体の性格も把握済みだ。
そして与えられた情報からつなぎ合わせていけば、あの鉄の巨人の正体も自ずとつかめる。
まず、あれは参加者ではなく与えられたロジックに従って行動するロボットである場合。
その場合はもう話し合いの余地もクソもなく、全戦力を持って排除するしかない。
次にあれには参加者の誰かが乗っている、もしくはコントローラーのようなもので遠隔操作で動かしている場合。
この場合も全力を尽くして排撃せねばならない。
ただ、あの鉄の巨人を操っている人間が誰かという疑問もわく。
最も可能性が高いのはここ数時間で行方の知れない古手梨花と月宮あゆ。
そして蟹沢きぬと坂上智代の持つ情報から古手梨花という人間性を窺い知るにその線は消える。
ならば残った人物はただ一人、殺し合いに乗ったという月宮あゆしかいない。

「俺があいつの注意を惹きつける。 智代は蟹沢を背負って回り道をして裏手から神社に行け」
「分かった。 無茶はするなよ」
「お前ができるだけ早くこっちに駆けつけてくれれば助かる」

不敵な笑みを漏らす武に対し、智代は迅速に行動し始める。
武からきぬを受け取ると背中に背負い、鉄の巨人に見つからないように走り出した。

「おいテメェ、揺らさずに優しく、それでいて速く走れよ? ボクはデリケートな性格なんだからな」
「バリケードの間違いじゃないのか? 喋ってると舌をかむぞ」
682名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:13:53 ID:cemZfgWg
683名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:13:53 ID:upT2mRRL
684名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:14:04 ID:Pj96S4ZO
 
685名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:14:38 ID:Pj96S4ZO
 
686名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:14:40 ID:upT2mRRL
687命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:14:59 ID:tb2wvPJN
過去のわだかまりも完全に捨てきれたわけではないだろう。
しかし二人は取り立てて喧嘩もすることなく武の視界から消えていった。
最後に聞いたやりとりも軽口の範囲内だろう。
首尾よく智代たちが任務を果たしてくれれば武もあんなバケモノと戦う必要もなくなる。

「それじゃ……少し待ってから俺もいくか」

一番恐れている事態は神社の裏にもあの鉄の巨人が待ち構えていることだ。
それなればもうこちらもお手上げ、事実上の戦力が二人しかいない現状を打破する手など見つからない。
精々あの鉄の巨人の動きがカメのように遅いことを祈るだけだ

「武器の整理でもしておくか」

智代たちが神社の裏まで行くのには大分時間がかかるだろう。
それまで多少時間はある。
数々の仲間の遺品や戦利品を一度整理しておくのもいい。
まずは自分の生命線とも言うべきC120のアンプル。
キュレイの制限が解ければ要らなくなるとはいえ、まだまだ自分に必要な物だ。
念のためもう一本打っておいた。
次に銃器の点検。
今のところ所持している銃全てに弾を補充、そして一番強力そうなベネリM3を出しておいた。
あの鉄の装甲がどれほど強力かはまったくの未知数。
故に半端な銃ではなく最も威力のあるであろう散弾銃を使用することにしておいた。
そして慣れ親しんだ『求め』と同じ形をしている永遠神剣『時詠』、この二つさえあれば十分だ。
出刃包丁やコンバットナイフであれと戦うのは無謀というものだろう。
これで大体の準備も出来た。
智代も問題がなければそろそろ鉄の巨人の遠く離れた横を通過しているだろう。
688名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:15:11 ID:Pj96S4ZO
 
689命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:15:30 ID:tb2wvPJN
「よし、行くか」

その一言ともに立ち上がり、鉄の巨人のいる場所へ歩いていく。
あくまで武のやることは時間稼ぎ。
無理をする必要はないが、時間稼ぎだと思われても意味がない。
こちらから積極的に仕掛けていかないと陽動だと気が付かれる可能性もある。
まったくもって楽じゃない仕事。
見た感じ勝算はほとんどないにもかかわらず戦わないといけないのだから。

鉄の巨人も堂々と近づいてくる武の存在に気がついた。
獲物の出現に歓迎するかのように武の方に体を向ける。
そして鉄の巨人は武の聞き覚えのある声で喋りだした。

「倉成さん、だよね?」
「そういうお前は月宮あゆか?」

やはり中に人が乗っている仕組み、武はそう結論付ける。
しかも予想通り乗っている人物は月宮あゆ。
臆病な彼女の姿しか知らない武にしてみれば、沙羅の言葉を聞いても信じることができなかった。
だが、目の前の現実を見てようやく信じることにする。
あゆの方も思わぬ人物の登場に嬉しそうな声で聞く。
その鉄の巨人の顔にある口は動いてないが、中に乗っている月宮あゆはさぞかし笑い転げているだろう。
巨人は武、いや正確には武の身に纏っている衣装を指差し嘲りの色とともに聞いてきた。

「なにそれ? 女装趣味でもあったの?」
「諸般の事情によりってやつだ」
690名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:15:39 ID:cemZfgWg
691名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:15:50 ID:Pj96S4ZO
 
692名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:15:53 ID:upT2mRRL
693命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:16:00 ID:tb2wvPJN
武も自分の格好が正常だと思ってはいないが、時間がなかったのだからしょうがない。
もちろんその分他者に笑われる可能性も考慮に入れて行動していたのだから、今更笑われても痛くも痒くもない。
そんなことより武には色々とあゆに聞きたいこともある。
安い挑発に乗るよりは聞きたいことを聞いたほうが百倍マシだ。

「お前、良美を殺したな?」
「そうだよ、すごいでしょ? 圭一君や倉成さんでも倒せなかった佐藤さんをボクが殺したんだよ!」
「その点についてはいい。 あいつは殺されても仕方ないからな。 けど他の人間を殺したのはどう言い訳するつもりだ?」
「誰からそんなこと聞いたの?」
「沙羅だ」
「余計なことをするね沙羅さんは。 やっぱり殺しておくべきだったね」

その言葉を聞いた瞬間、武の鼻に濃密な血の匂いが飛び込んでくる。
人を殺した人間のみが発し、人を殺した人間のみが嗅ぎ取れる匂い。
まぎれもなく眼前に立つ月宮あゆは数多くの人を殺した殺人鬼。
拳に自然と力が入り、体が怒りに打ち震えてくる。

「弱い人間に生きる価値はあると思う?」
「あるに決まってる!」
「ボクもあると思うよ。 奪われるためだけに存在して奪われることで価値がある」

両者、出された問いに対しての答えは同じ。
だが、何故そういう答えになるのかという解法は真逆のものだった。
あゆはさらにこの島で得た唯一絶対の摂理を説く。
694名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:16:26 ID:Pj96S4ZO
 
695命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:16:31 ID:tb2wvPJN
「ボクは今まで奪われるだけの存在だったんだ。 そして奪われる度に思ったよ。 なんでこんなことをされるんだろうって。
 理不尽だって、こんなの間違ってるって何度も泣いたりしたよ。 でもね、その考えは間違ってることに気がついたんだ。
 ボクは力を手に入れてからその事実に気がついたよ。 弱い人間はなにをされても文句は言えないんだもん。
 だって世の中は所詮弱肉強食なんだから。 だからボクは奪う側になった。 そしてたくさんの力をもらったの。 このアヴ・カムゥもそうだよ」

そういってあゆは鉄の巨人、いやアヴ・カムゥの巨体を揺すり笑い出す。
武はそんなあゆを見下げ果てた目で見ていた。
ここまで自己中心的な理論で人を殺していく人間がいるとは。
そんな思いとともに武はあゆの言葉を聞いていた。
尋常ならざる生への渇望。
その思いは何者にも否定することは出来ないが、他者を踏みにじってでもという言葉が頭につくのなら話は別。
もうこれ以上あゆの言葉は聞いていられない。
時間稼ぎが目的とはいえこれ、以上あゆの言葉を聞いていると耳が腐りそうになる。
だが武は今にも飛び出しそうになる思いを懸命に抑えていた。

「似ているな、良美に」
「佐藤さんと一緒にしないでよ。 あんな下種と一緒に」
「お前は下種じゃなくて屑だけどな」

そのとき、武の目にきぬを背負った智代の姿が映る。
もうあゆの遥か後方におり、これなら問題なく神社の裏にいけるだろう。
その姿を見て武は落ち着きを取り戻す。
どうか上手くいけと武はあゆから視線は放さずに柄にもなく祈った。
しかし、皮肉にもあゆの方が時間稼ぎを終わりにしないといけないこと伝えてくる。

「そろそろお喋りは終わりにしない? ここに来る人間は残さず殺さないといけないからあまり一人に時間をかけられないんだよ」
「いいぜ。 俺もお前をどかして神社に行きたいしな」
696命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:17:02 ID:tb2wvPJN
ふと両者が空を見ると、いつの間にか空には雲が立ち込めていた。
それでも桜の花びらだけ止むことなく降り注いでおり、曇りの空に花びらが舞うという奇妙な光景が広がっていた。
そして、湿った風が吹き始め武の肌を叩きつける。
何故か武はその曇った空をこれからの自分の辿る運命のようだと思ってしまった。
不吉な予感にも似た感覚を吹き飛ばし、武は相対するアヴ・カムゥと視線を交錯させる。

「始めるか」
「うん、いいよ。 一瞬で肉塊にしてあげる」

ここから先は剣と銃と己の力のみが支配しモノを言う世界。
あゆの言葉を借りれば弱肉強食、勝ったものが正義で負けたものが悪となる。
必要なのは強力な武器と臆することなく敵に向かう勇気、そして相手を出し抜ける知略。
だから、頭を熱くする必要はない。
熱くするのは、己が命運を託す武器を持つこの両の拳だけでいい。


「身勝手な理屈で人を殺すようなやつに!」
武が『時詠』を構えた。
「正義の味方ヅラして目の前の現実も見ないような人に!」
あゆもアヴ・カムゥの大剣を構える。 そして両者が。
「俺はッ――!」
「ボクはッ――!」
走り出す!!
697名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:17:03 ID:Pj96S4ZO
 
698名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:17:05 ID:upT2mRRL
699命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:17:33 ID:tb2wvPJN
まずはあゆの先制。
体躯の面でも間合いの広さでも圧倒的に勝っているあゆが先に攻撃を仕掛けるのは当然だ。
真上から大剣を振り落とし、武を両断せんと襲い掛かる。
それは剣道や剣術を会得した人間からすればまったくなってない動き。
型も腕や足の運びもまるでなってない、チャンバラごっこ以下と呼ばれても仕方がない一撃。
だが、アヴ・カムゥの巨大な体とその巨大な剣はそんな一撃さえもちっぽけな人間からすれば必殺。
迫りくるその一撃を前にして武が浮かべた選択肢は三つ。
横によけるか後ろに下がるか、前に進むか。
大剣を受けるという選択肢はもちろん却下だ。
武が選んだのは三番目。
臆することなく前へと走り続け、その身に大剣が届く前にアヴ・カムゥの懐に走って潜り込み、間一髪でアブ・カムゥの一撃をよけた。
あゆはまさか敵がそのまま前に出てくるとは思わず慌てる。
あゆが次の行動に移る前に漆黒の刃を持つ『時詠』を振るい、アヴ・カムゥの右足に切りつけた。

「おりゃあ!」

気合一閃、武の渾身の力を込めた一撃がアヴ・カムゥの足に当たるがほとんど傷がつかない。
重たい金属の感触を受けて武の手に振動が伝わる。
もう一度『時詠』による一撃を当てようとするが、あゆがそのまま黙っているはずもなく傷つけられた右足を振り、武に襲い掛かる。
武もそれを間一髪でかわし、一旦離れようとする。
だが、あゆが逃がすのをよしとせず二度、三度とその大剣を打ち付けてくる。
かするだけでも敗北は確定、その一撃は受けることは無理の一言。
武は必死に避け、最後には転がり込むような体勢で回避を強いられる。

「デカブツとやるのは二度目だけど、こっちには足もあるんだったな!」
700名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:17:56 ID:Pj96S4ZO
 
701名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:17:57 ID:upT2mRRL
702命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:18:03 ID:tb2wvPJN
舌打ちをしながら転がりあゆの一撃を避ける。
武の人ならざるものとの戦いの経験は決して少なくはない。
機械に分類されるものとの戦いは狂人水瀬名雪以来だが、こっちはショベルカーと違って足を使えるという点が脅威。
加えて創作の世界にありがちな、でかいものは動きも鈍いというセオリーがまるで通用しない。
人間と変わらぬ速さの動きで確実に武は追い詰められる。
時間稼ぎが目的なのにはやくも死にそうな状況に追い込まれていた。
あゆは最初に油断していた時の一発を受けただけでその後はもはやあゆの一方的な虐殺ショーとなっている。

「あはははははははは! ほらほら早くしないとミンチになるよ!」

まだまだあゆの攻撃は止まらずに続けられ、武の延々と回避し続けるだけの展開となっている。
あゆが新たに手に入れた『力』、アヴ・カムゥは永遠神剣と違って魔力を消費せずに動かすことが可能。
加えて、永遠神剣をもってすらも防ぎがたい剣の一撃さえも防いで見せた。
まさにアヴ・カムゥとは最強の矛であり、盾でもあるのだ。
アリのように逃げ惑う武の姿が愉快でたまらない。
今のあゆは有頂天という言葉がピッタリと当てはまる。
かつて踏みつけられる側だったあゆだからこそ、踏みつける側の人間だけが得られる快感に誰よりも酔っていた。

(ここじゃ駄目だ。 平地じゃ不利すぎる)

武も現状をただ受け入れるだけでなく、打開策を考えていた。
あゆの攻撃が止まった隙を狙って脇目も振らずに森の方へ走っていく。
森ならその巨体を木々が阻んでくれるはず。
その可能性を信じて武はひたすら走った。

「逃がさないよ!」
703命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:18:33 ID:tb2wvPJN
すかさずあゆが追ってくる。
走る速度は断然あゆのアヴ・カムゥが上。
一歩一歩の歩幅がまるで違う。
あゆは徐々に武との距離をつめる。

「間に合え! 間に合え! 間に合えぇぇ!」

祈りにも似た叫びとともに武が走る。
もう森は目前で、樹木が生い茂る空間が武を手招きして待っている。
だが、あゆという名の恐怖がもう背後に迫っており、ついに武の背中を捉えた。

「残念だったね!」

あゆが武の背中に向かって鉄塊を振り下ろす。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

武がヘッドスライディングをするように頭から森の中に飛び込む。
武にはそれは一瞬の出来事のはずなのに永遠のようにも長く感じられる。
あゆの大剣が地に付いた瞬間、巨大な音ともに地震のような振動が地面に響く。
舞い上がった土煙が辺りを覆いつくす。
あゆは確かにその大剣に人の肉を切り裂いた感触が――。

「いない!?」
704名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:18:49 ID:Pj96S4ZO
 
705名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:18:51 ID:upT2mRRL
706命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:19:03 ID:tb2wvPJN
そう、あゆの大剣は武を捕らえることは適わなかった。
武は間一髪で森の中に逃げ込むことに成功したのだ。
そのことを把握したあゆは注意深く森の中を見渡そうとする。
と、轟音がすると同時にアヴ・カムゥの胸の辺りに強い衝撃を感じてよろめく。
よく見ればアヴ・カムゥの装甲にいくつか小さな丸い凹みが見つかる。
おそらく銃撃、しかもその獲物は散弾銃。
もう一度音がして今度は腹部の辺りにも同様の傷が生まれる。
だが、あゆはそれを見ても脅威を感じない。
それどころか銃弾を浴びてもこれだけの凹みで済むアヴ・カムゥの強さに改めて惚れ直したところだ。

「くそっ! もう一発だ!」

その声がするや否や武が茂みの中から姿を現し、再度その手に持つショットガンを撃つ。
だが、やはり結果は同じ。
アヴ・カムゥの胸部の装甲をほんの2,3ミリ凹ましてその衝撃で一歩下がっただけ。
苦虫を噛み潰したような表情の武とは逆にあゆは楽しそうな表情をする。

「そんなのじゃ無理だよ。 アヴ・カムゥを舐めないで欲しいなあ!」

気分は最高、調子は絶好調。
哄笑を響き渡らせ、あゆが再度攻勢に回る。
袈裟斬りの要領で斜め上から武目掛けて唯一にして最大の武器を振り下ろす。
707名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:19:05 ID:cemZfgWg
708名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:19:30 ID:Pj96S4ZO
 
709名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:19:31 ID:upT2mRRL
710命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:19:34 ID:tb2wvPJN
「!?」

が、途中でこの森の中でも上位に入るであろう大木の幹に剣が引っかかり抜けなくなる。
あゆが驚愕し、大剣を抜こうとするがアヴ・カムゥの力をもってしても中々抜けない。
武が望んでいたものがこれだ。
森の中という狭い空間で大きな獲物を振り回せばこうなることは自明の理。
自らの力に溺れるあまりあゆは今の今まで武がどうして森の中へ逃げたかも想像が出来なかった。
そしてこのチャンスを見逃す武ではない。

「もらった!」

この瞬間を望んでいた武の行動は迅速であった。
迷いもなくあゆの元へ一直線に突撃、風のような速さで突っ込んでくる。
武の突撃にただならぬ気迫を感じたあゆも剣を抜く作業を止め、その二つの腕で武を掴もうと迎撃に移る。
虫を掴もうとするかのような無造作な動きで右腕を繰り出すが、武はこれを脅威の反射神経でよける。
キュレイウイルスとH173は血肉となって武の筋力、および反射神経を高めていた。
右腕がよけられても人間と同じようにアヴ・カムゥにも腕が二本ある。
あゆがもう一つの左腕を使って武を握りつぶさんとする。

「その高さ、丁度いいな!」

その一言ともに武は左腕もかわして跳躍し、なんとアヴ・カムゥの左腕に飛び乗ったのだ。
あゆが右腕を使って邪魔な虫を追い払うかのように武を振り落とそうとするが武の次の行動の方が早い。
左腕を伝って一気に駆け上がり、アヴ・カムゥの肩のところまで上った。
アヴ・カムゥの搭乗席越しにではあるがあゆの目にはそれが脅威に映っただろう。
腕に乗ってここまで駆け上がってくるなんて非常識にもほどがある行為なのだから。
武の手には『時詠』が構えられ、アヴ・カムゥの脳天を切り裂かんと最大の一撃を振り下ろした。
あゆの脳裏には脳天を切り裂かれ脳漿や臓物を撒き散らす自分の姿が自然に浮かんでくる。
711命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:20:05 ID:tb2wvPJN
「人間の癖に! 弱いだけの一人の人間の癖に!」
「その弱っちい人間一人倒せないお前はなんなんだろうな!?」
「ひぐぅっ!」
「くらいやがれ!」

迫り来る脳天への一撃をあゆは怯えた目で見ることしかできない。
あゆの自信を裏付けているのはあくまでも永遠神剣やアヴ・カムゥであり、それさえなければ奪われるだけの存在なのだ。
ガツーンという大きな音がしてアヴ・カムゥの頭部に大きな衝撃が響く。
あくまでそれを食らったのはアヴ・カムゥであり、痛みなどまるでないはずなのにあゆはもんどりうって倒れる。
アヴ・カムゥが地面に倒れてしまう前に武は肩から飛び降りた。
桜舞い散る幻想的な雰囲気の中、漆黒の剣を持って飛んでいる若者の図というのは一枚の絵にもできそうな光景であった。
あくまで空が曇っていることと、その若者が男なのに女装しているという点を除いての話だが。
武が地面に着地すると同時にズズーンという音を立ててアヴ・カムゥが地面に倒れこむ。
しかし、大きな金属音こそしたもののやはり一筋の傷が入っただけでアヴ・カムゥの勇壮な姿は保たれたまま。
あゆもそのことに気がつくと怒りを押し隠すこともせずに立ち上がる。

「よくも、よくも!」
「へっ! くやしかったらここまでこいよ!」

烈火のごとき怒りを見せあゆは立ち上がり、挑発しながら逃げる武を追いかける。
一歩ごとに大きな音を響かせ、上も下も横も見ることなくただ前方にいる武だけを目掛けて突進。
立ちふさがる木々をなぎ倒しながら武に迫っていく。
身長だけなら常人の三倍、質量にいたってはその十倍は優に超すであろうアヴ・カムゥの突進は見るもの全てを竦みあがらせる。
しかし、武は恐れることなく不敵な笑みであゆが来るのを待ち構える。
武の手には倒れたあゆから離れる間取り出した武器が握られていた。
S&W M37エアーウェイトを構え、惜しげもなくあゆの操るアヴ・カムゥを狙い全弾を撃つ。
標的は小さな人間ではなく身長5mもある巨躯、アヴ・カムゥ。
放たれた五つの弾丸は全てアヴ・カムゥの体に吸い込まれる。
しかし、人間相手ならその一発一発が致命傷になるであろう攻撃がアヴ・カムゥにはまるで通用しない。
712名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:20:10 ID:Pj96S4ZO
 
713名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:20:12 ID:upT2mRRL
714命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:20:36 ID:tb2wvPJN
「効かないよ、そんなの!」

怯えることはない。 銃の一撃も『時詠』の一撃もアヴ・カムゥの前にはほとんど効果はない。
自分は無敵のはず、そう落ち着きを取り戻しかけたあゆをおちょくるかのような出来事が起きた。
いつの間にかあゆの視界には空があった。
ピンクの桜の花びらが絶えず落ちてくるその光景を見ながらあゆは考える。
どうして自分は今曇った空を見ているのだろうかと。 自分は武を襲っていたはずだと。
それだけではなく、自分は今仰向けに地面に倒れているのも察知する。
脳の処理が追いつかず混乱していたが、自分が今こうなっている答えにたどり着く前に武がアヴ・カムゥの胸部に乗っていた。

「末代まで語り継いでやろうか? お前の無様な姿を」

武の手には弾を撃ちつくした拳銃ではなくベネリM3がある。
そしてベネリの銃身をアヴ・カムゥの鉄の肌に接して引き金を引く。

「一発!」

銃声がしてあゆは胸部に大きな衝撃を感じる。
零距離射撃、これなら散弾がバラけることもなくアヴ・カムゥの体に集中的に当てられる。
あゆが地面に倒れたのは偶然、ただ転んだだけの偶然の産物が今の状況だ。
だが、これを今世紀最大のジョークと笑い飛ばすよりも武には優先せねばならない事項がある。
もてる火力の全部を注ぎ込んででも今の幸運を最大限に生かさねばならないのだ。
だから、武が持っている最も強い銃で全弾を撃ち尽くす。

「二発!」 武の持っているのは散弾銃の中でも連射性能に性能に優れたベネリM3。 連射が無理という訳でもない。
「三発!」 あゆの体が激しく揺さぶられる。 ベネリの一撃は確実にあゆに伝わっていた。
「四発!」 残り最後の一発にアヴ・カムゥの厚い装甲が凹む。
715名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:20:39 ID:cemZfgWg
716名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:21:04 ID:Pj96S4ZO
 
717名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:21:06 ID:upT2mRRL
718命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:21:06 ID:tb2wvPJN
だが、ベネリに装填されていた残り全ての弾丸をもってしてもとうとうアヴ・カムゥの赤い色の装甲を貫くことは適わなかった。
歯噛みしてアヴ・カムゥから飛び降りようとするが、その体を捉えんとあゆが両腕で包み込むように武の体を掴む。

「クソ!?」

抜け出そうとするが、万力のような強さで武の体を掴むアヴ・カムゥの腕からは逃れられない。
ついに、捉えられた。 一撃が当たるどころかかするだけでも致命傷を負いかねないアヴ・カムゥの腕にだ。
まな板の上の鯉にも等しき状況を抜け出そうと必死にもがくが、陸上で鯉がいくら抵抗しても無駄なようにアヴ・カムゥの腕の中にいる武の抵抗も無駄に終わる。

「捕まえた」

武を掴んだまま上半身だけを起こしてあゆが笑う。
今の戦いで煮え湯を飲まされ続けていた怨敵をついにその手中に収めたのだ。
このまま握りつぶすのも面白いが最後に辞世の句を聞いてやるのもいいだろう。
今までコケにされ続けた分、苦しませ責めぬいて殺してやってもいい。
慌てて処分を決める必要はない。 時間はたくさんある。

「このまま殺してあげてもいいけど、最期に何か言いたいことがあれば聞いてあげる」
「狂っているな、お前は」
「狂ってないと出来ないこともあるよ。 圭一君みたいに正義の味方をやって死ぬよりはこっちの方がいいもん」
「圭一は俺が殺したんだけどな」
「へ? ……くくく、あは、あははははははは! どうして!? あんなに仲良くやってたよね!?」
「憎かったからな、あいつが」
「へぇ? ってことは圭一君を殺したくせに倉成さんは正義の味方をやっているんだ」
719命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:21:37 ID:tb2wvPJN
あゆの目が暗く光った。
この人間は人殺しの罪を背負ったのに正義の味方のようなことをやっているという。
その身に罪の十字架を背負いながら希望を持ち続ける人物、かつてあゆが殺した人間にも一人そんな人物がいたことを思い出す。
月宮あゆは自分と同じ境遇にありながら希望を持つ国崎往人との落差に耐え切れず国崎を殺したのだ。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。
前原圭一はあゆの眼から見ても強く、正しい心を持った人間だった。
その圭一を殺した人間がこうやって圭一と同じことを抜かすことに吐き気を催しそうになる。
どうして自分はこんなに汚れてしまったのにお前はそんなに綺麗でいられるのか。
罪の意識は感じてないのか、感じているのだとしたら何故こんなことをしているのか。
ここにきてあゆは倉成武の処遇を最大級の苦痛を与えて殺すことに決定した。

「浮かばれないね、圭一君は。 自分を殺した人間が今こんなに偉そうにして正義の味方をやっているなんて。
 圭一君を馬鹿にしているんじゃないの? 罪人なら罪人らしくしていようよ? それとも圭一君は単なる馬鹿だったのかな?」

聞き捨てならない台詞を聞いた武の体が震える。
自身の罪は認める、無知なる故の過ちへの批判も受け入れよう。
だが命を賭してまで自らを救ってくれた存在への侮辱はどうやっても受け入れられない。
あゆも武の気迫にもうチェックメイトまで追い込んでる状態にも限らず気圧されてしまった。

「あいつらがそうしろと望んだからだ」
「何?」
「あいつが、つぐみが、そうしろと命を懸けて教えたからだ。 俺のことなんか殺せばいいのに、俺が元に戻る保証なんてないのに。
 あいつ等は変な薬に負けちまった俺なんかより強いのに俺のために命張ったんだ。 俺に元に戻って欲しいってただそれだけの理由でだ。
 だから俺は今お前を倒すためにここにいる! あいつらがそう望んだから俺は今こうしている! 
 でなきゃ俺は今頃悲劇の主人公気取って泣いてる! 馬鹿にしているだ? 圭一とつぐみを馬鹿にしているのはお前だ!」
720名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:21:47 ID:Pj96S4ZO
 
721名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:21:49 ID:upT2mRRL
722命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:22:08 ID:tb2wvPJN
あゆが気圧されたのは一瞬。 そう、本当に一瞬のことだ。
だからもう武の言葉は死に際の人間が放つ捨て台詞と同じ。
あゆの目には哀れな羊が一匹、何かが吠える姿だけだった。
ただ一つ、何故もう死ぬ間際なのにそんなに威勢のいいことがほざけるのかが不思議なだけ。
そして別にそのことをどうしてかと追求する気ももうあゆには無い。

「もういいよ、それなりに面白かったから」
「うぐっああああああぁぁぁぁ!!」
「終わりだね」

アヴ・カムゥの両腕に力をこめられて、武の顔が激しい苦痛にゆがむ。
少しずつ、獲物がじっくりと痛みを味わえるようにあゆは力を加える。
まだ逃げ出そうとする武の抵抗を更に大きな力で強引に押さえつけ、最後に力いっぱいに武を握り締めた。

「じゃあね」

そして、耳を聾する音が森中に響いた。



     ◇     ◇     ◇     ◇
723名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:22:19 ID:Pj96S4ZO
 
724命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:22:38 ID:tb2wvPJN



森の斜面を駆け抜けてようやく開けた地形に出た二人を待っていたのは崩れかけた神社だった。
戦いの跡を匂わせる残骸を見て誰かがここにいるのかと警戒したが誰もいない。
最悪の結末である二体目の鉄の巨人もいなく無事に目的地までたどり着いたことを知った。

「よし、ついたぞ」
「……で、祭具……殿って……どこ……よ?」

智代が背中に背負っているきぬの声はもう力がない。
もうきぬの命は風前の灯に近い。
智代もそのことを知っており、きぬの最期の願いを叶えようと全速力でここまで走ってきたのだった。

「待っていろ、すぐに見つける」
「早く……しろよ」
「もう見つけた」

智代の目にはもう祭具殿が映っていた。
そもそも鍵のかかった建物などこの場に一つしかないから探すもへったくれもない。

「って早ぇなオイ!」
「なんだ、元気じゃないか?」
「いいから……降ろせよ。 後は……ボク一人でやる」
725名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:22:55 ID:Pj96S4ZO
 
726名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:22:58 ID:upT2mRRL
727命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:23:09 ID:tb2wvPJN
強引に智代の背中から降りたきぬは鍵を取り出し祭具殿の前まで自力で歩いていく。
この辺りだけ空から降ってくる桜の数も異様に多く、祭具殿の前に至っては積もるほどの花びらが落ちていた。
蟹沢きぬが最後に託された仕事、朝倉純一の遺志をついでやることは唯一つ。

「これ、餞別だ。 ボクにはもう必要ないからお前にやるよ」

そう言ってきぬはデイパックを智代に渡した。
中に入ってる武器をが必要なのは死者ではなく生者、これからの戦いに役立つ武器を全て智代に託したのだ。
だが、智代は差し出されたデイパックを受け取る前に聞かなくてはならないことがあった。
その答えを聞くまできぬからは武器を貰う資格などないのだから。

「お前は私のことを恨んでないのか?」
「なんで……だよ?」
「私がホテルであんなことをしたからお前の仲間は次々と死んだ、そうは思わないか?」
「関係……ねぇよ」
「本当にそう思うのか?」
「ああ……関係……ないね」

関係ない、文字にしてみれば僅か4文字だがその言葉には様々な思いが込められていた。
きぬも全く恨んでない訳ではないだろう。
積もる思いも、押し殺しきれない恨みもある。
だが、それでもきぬは関係ないと智代の過去の過ちを許してくれたのだ。
死に逝く自分にはもう恨みもなにもない。
そんな物を抱えて死ぬよりは、仲間と触れ合った暖かい思い出を抱えていった方がいい。
智代は感謝すると同時に、無条件に許されたことが逆に鋭い痛みとなって胸を打つのを感じた。
728命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:23:40 ID:tb2wvPJN
「そうか、じゃあ貰っていく。 悪いがお前を最期まで看取る時間はないからな」
「誰に向かって……言ってるんだよ。 ボクの……名前は、蟹沢きぬ……だぞ」

その一言を聞くともに智代はここに来たときとは反対に正面の入り口に向かって駆け出していく。
智代の小さくなっていく背中を見つめ、消えていくのを見るときぬは祭具殿に向かっていった。
蟹沢きぬの最期の仕事、この先にある桜を目指して。
鍵は確かにカチリと嵌り、祭具殿は重い扉を開けてその封印されし中を晒した。

「もう少し……持ってくれよ……純一のためにも……」

日の光の全く当たらない場所のはずなのに、その奥は薄暗く輝いているように見える。
そして不気味な光景にも関わらず、きぬは祭具殿の中に足を踏み入れていった。
桃色に光るボタンを握り締めて。

【D-4 神社の祭具殿/二日目 夕方】

【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:純一の第2ボタン、鍵】
【所持品:なし】
【状態:強い決意、左手指先に切り傷、数箇所ほど蜂に刺された形跡、悲しみ、右太股大動脈破裂、出血多量(処置不能)、肉体的疲労極大】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出 、ただし乗っている相手はぶっ潰す。
1:神社の奥に向かう。
2:純一の遺志を継ぐ
3:ゲームをぶっ潰す。
4:殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出
729名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:23:42 ID:Pj96S4ZO
 
730名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:23:43 ID:upT2mRRL
731命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:24:11 ID:tb2wvPJN
【備考】
※純一の死を有る程度乗り越えました。
※足からの出血が酷く、数時間後に死に至ります。
※純一の第2ボタンは桃色の光を放っています



     ◇     ◇     ◇     ◇



アヴ・カムゥの手が握り締められ、武をつぶしたと思われたその瞬間、轟音が響きアヴ・カムゥの右腕に大きな衝撃が走る。
まるで大型のトラックと衝突したかのような大きな衝撃にあゆが驚き、手を緩めたその隙に武は両手の束縛から抜け出し、あゆから逃げ出す。
逃げ出す武を捕まえようとあゆが立ち上がって追いかける。
しかし三歩も歩かないうちに今度は背中にまた大きな衝撃が走った。
それは武の『時詠』の一撃よりも至近距離でくらった散弾銃の一撃をも遥かに上回る威力。
アヴ・カムゥの装甲を打ち破るほどではないが、当たった装甲部分に弾丸が深く埋まっており尋常ならざる威力だ。
武とこの強力無比な砲撃の射手のどちらかを警戒するかは言うまでもない。
武を追う行為を中止して砲撃の行われたであろう方角を振り返った。
近くを探してもいない、ならば遠く。
あゆが探す範囲を近くからもっと遠くのほうへ切り替える。
そしてついにその忌々しい敵を見つけた。
732名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:24:32 ID:Pj96S4ZO
 
733名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:24:34 ID:upT2mRRL
734命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:24:42 ID:tb2wvPJN
そこにいるのはあゆのいる場所から遥か遠くに離れた場所、神社へと続く石段の一番上に立つ銀髪の少女。
全長2m、重さにして60kgにもなる超重量の武器、九十七式自動砲を構え仁王立ちしている。
艶のある銀髪を風にたなびかせ、黄を基調とした制服に身を包むその姿はまさに戦乙女と呼ぶにふさわしき勇敢さと美しさを併せ持つ。
その者は明らかにあゆを挑発していた。
隠密行動が原則の狙撃において自分の場所を知らせるのは愚の骨頂。
にも関わらず自分の場所を隠そうともせずにしているという行為は挑発であり高らかな宣戦布告でもあった。
曰く、お前の敵はここにもいるぞ、と。
戦乙女こと坂上智代は間一髪で武の危機に間に合ったのだ。

この戦いはいつから始まったか?
武が智代の時間稼ぎのためにあゆの前に現れた時か?
武とあゆが一通りの問答を終え、互いの剣を抜いたときか?
それらは全て否。 武の『時詠』も散弾銃もアヴ・カムゥの装甲を凹ませることこそできたものの、決定打にはならなかった。
そしてあゆは一撃でも当たれば武を必殺可能な戦力を持っている。
故に今までのは戦いとも呼べない、あゆの一方的な虐殺だった。
だが、智代の九十七式自動砲は連射しなくとも、一箇所に攻撃を集中させなくともアヴ・カムゥの装甲を打ち破ることが可能。
互いに相手を打ち破る条件が整った今こそ、この戦いの始まりの瞬間だった。

「遅いぞ智代!」
「悪いな! これでも急いできたつもりだ!」
「ちゃんとやってきたんだろうな!」
「ああ、あとは蟹沢がやってくれる!」

その言葉を聞いてあゆは顔が青ざめる。
智代と呼ばれた人物が神社へと続く石段の最上段にいること、武が神社へと行きたいと言っていたこと。
そして今の武と智代の会話を聞けば自ずと状況の把握も出来る。
つまり武は陽動で本命は智代と蟹沢という人物なのだ。
鷹野から与えられた指令、それは神社に侵入しようとする輩を残らず潰すこと。
それが失敗したときの処罰ももちろん言い渡されていた。
735命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:25:13 ID:tb2wvPJN
即ち死。 首輪の爆破によるものではない。 首輪は条件を呑む手っ取り早い報酬という形で外されている。
ディーが、契約の主が直々に殺しに来るのだ。
逃げるのは不可能。 抵抗など無理。 あのこの世ならざる存在にはなにをしても無駄。
アリと恐竜どころの違いではない、アリと核兵器くらいの強さの違いがあるのだ。
逃れられない死から逃れる方法はただ一つ。
この二人をいち早く殺して神社の祭具殿へ行き、蟹沢という人間も殺すこと。
あゆは祭具殿へ向かうべく智代のいる石段へと向かって走っていった。

「どいて!」
「退かせてみせるくらいのことは言ってくれないとな」

あゆの巨体を生かした突撃を智代も全く気にしていない。
それどころか砲撃体勢に入ってあゆを待ち構えんとしている。
あゆにはその行動原理が全く理解不能。
武といい、智代といい、どうしてこの巨体が恐くないのか分からない。

「受けろ!」

異能を持たない人間が扱いうる最強の武器の一つを構え、智代が九十七式自動砲を撃つ。
放たれた弾丸がアヴ・カムゥの胸部、あゆの搭乗している部分に向かっていった。
智代の狙いを読み取って右に回避する。
弾丸が一瞬前まであゆがいた空間を切り裂き、後方の木を深く抉り取る。
あゆはアヴ・カムゥに乗って以来初めて脅威となる武器に対して『回避』という動作を行ったのだ。
736名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:25:20 ID:Pj96S4ZO
 
737名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:25:23 ID:upT2mRRL
738命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:25:43 ID:tb2wvPJN
だが、まだ智代の攻撃は終わっていない。 あゆとの距離はまだある。
今度はギリギリまで引き付けて撃つ。 近づいて撃てばあれだけの巨躯、そうそう弾丸を避けれるものではない。
弾は豊富にあるとはいえ、無駄弾を撃つ趣味はないのだ。
一歩ごとにアスファルトで舗装されてないむき出しの土が陥没し、アヴ・カムゥが智代目掛けて突っ込む。
智代がカウントを取り始めた。

「まだ」 あゆが突っ込んでくる。 智代は照準を合わせ狙いをつけた。
「まだ」 両者は相対距離にしてもう30mもない。 対物狙撃銃としては異例の超至近距離での発射だ。
「まだ」 二人の視線が交錯する。 この時点で両者はお互いの意図を察知。 その上で自分の行動を優先する。
「今だ!」 智代の望んでいた距離にあゆが到達。 奇しくもそれはあゆが智代に攻撃できるギリギリの射程範囲内だった。

「どいてぇ!」 鉄の拳を唸らせ、あゆが右手を大きく振りかぶり攻撃!
「そこだぁ!」 己の安全以外の万全を期して智代が必殺の一撃を叩き込む!



爆発が起きたかのような轟音が二つ、周辺一帯に響き木々や木の葉が激しく揺れる。



あゆの一撃に神社へと続く石段が粉微塵に砕けた。
まさに必殺、アヴ・カムゥの一撃は石段のほぼ全てを破壊していた。
ほんの数秒前まで石段を形成していた大小の破片がパラパラと桜の花びらに混じって舞う。
破片がアヴ・カムゥにいくつも降りかかるがあゆは全く気にしていない。
あゆにはそんなことよりも胸に穿たれた深い穴の方が重要。
やはり九十七式の弾丸、いや、砲弾を何発も受けるとこのアヴ・カムゥの装甲でさえ危うい。
そしてあゆの拳は智代の体を捉えることはなかった。
それはつまり、このアヴ・カムゥに対抗しうる武器を持った人間は今だ健在である証拠に他ならない。
739名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:25:53 ID:Pj96S4ZO
 
740名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:25:58 ID:upT2mRRL
741命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:26:13 ID:tb2wvPJN
「見えた! そこ!」

あゆが再び突き出した拳の先には砕けた石段の破片と桜の花びらとともに空中で九十七式を構えた智代の姿。
超重量の九十七式を空中で撃つなど無謀にも程がある考え。
しかし翼なき存在である彼女が迫り来る鉄拳を前にして空中で取りうる方法はただ一つしかない。
60kgの鉄塊の砲身を両腕で強引にあゆの方へと向け、細かい照準をつけることもなく発射。
巨大な鉄の拳と、大砲の一撃にも等しき弾丸が鎬を削りぶつかり合う。
結果は互角、正確に智代目掛けて突き出されたアヴ・カムゥの拳は九十七式に無理やり進路を変更させられる。

空中で九十七式を撃った智代は受身も取れず倒れる。
そして痛覚の無いアヴ・カムゥが腕に受けた九十七式の傷を気にするはずも無い。
この隙を見逃すまいと智代が体勢を立て直す前にアヴ・カムゥのもう一つある拳が風を唸らせて放たれる。
智代の回避は間に合わない。 着地時の衝撃の大きさと60kgという重さの九十七式、そして空中で無理矢理九十七式を撃った反動がここでネックとなる。
智代は逃れられない一撃を前にして死を覚悟した。
この先の未来にあるのはミンチのように潰された智代の姿しかないはずである。
この場にいるのがあゆと智代だけならば。

「俺のことを忘れるなよ?」

戦いを一時智代に任せ、弾薬の補充をした武が智代を抱えてあゆの拳から救い出す。
一瞬の後に智代がいた地面が大きな拳の形に陥没した。
絶体絶命の危機を助けられた智代がすぐに立ち上がりあゆと対峙する。
しかしあゆは二人には目もくれることなくそのまま石段があった坂を上り、祭具殿へと急ぐ。
あくまで与えられた指令は祭具殿に侵入しようとする敵の排除であり、無駄な戦いをする義務は無い。
だが、武があゆにとっては捨て置けぬ台詞を言う。
742名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:26:26 ID:cemZfgWg
 
743名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:26:31 ID:Pj96S4ZO
 
744名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:26:34 ID:upT2mRRL
745命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:26:49 ID:tb2wvPJN
「お前、どうして生きてるんだ?」

その一言にドクンとあゆの心臓が大きく跳ね、祭具殿へ向かう足を止めた。
その言葉は剣による攻撃も銃による攻撃もまるで効かなかったあゆを今までで一番振るえ上がらせる。
アヴ・カムゥの装甲もあゆの肌を覆う衣服も関係なく、武の言葉はあゆの心臓を鷲掴みにしてしまった。
それの意味するところは何なのか考えるまでもない。 そう言われる心当たりがあゆにはある。
あゆは死んでもおかしくない経験と怪我、そしてその絶対の死の結末を覆す悪魔の契約をしてきたのだ。
あゆは喉の震えを隠せずに武に聞き返した。

「な、なんで……知って……」
「あゆから聞いた。 大空寺の方からな。 キュレイに感染している訳でもなさそうだし、仮にキュレイに感染してたとしても治るのが早い。
 答えろ、なんでお前はそこでピンピンしてる。 瀕死の重傷を負っているお前が何で生きているんだ?」
「う、うううぅ……うああっぁぁ」

誰にも知られてはならない秘密を知られている。
誰にも喋っていないはずの事態を知られている。
ディーは、契約の主は契約の内容を話したり知られたりすると死ぬと言っていた。
では『知られる』という条件の範囲はどこまでのものなのか。
ディーとの契約の全容を知られればもちろん死ぬだろう。
では今の武の言葉はどうなるか?
怪我が治ったことまでは知られていると見て間違いない。
だが、それ以上の情報をどれぐらい掴んでいるかが問題だ。
果たしてどの程度まで情報を握られているか、あるいは今の武の言葉だけで『知られる』という条件に一致するのか分からない。
ディーに怪我を治してもらって以来、遠のいていた死の感覚が再びリアルな感触とともにあゆの背中に張り付いてきた。
746名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:27:15 ID:Pj96S4ZO
 
747名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:27:17 ID:upT2mRRL
748命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:27:19 ID:tb2wvPJN
前門の虎、後門の狼。
祭具殿をそのままにしたら任務失敗で殺される。
ここで武たちを放っておいて祭具殿に行っている間に武たちに逃げられたら、いずれ武たちは自力でディーとの契約という答えにたどり着くかもしれない。
どちらも待っているのは完全無欠な死。
そんな結末は受け入れられない。
受け入れられないからこそ、あの時あゆはディーと契約を交わしたのだ。

「答えられないのか? 答えられないようやましい事情でもあるのか? お前が清廉潔白なら答えてみせろ!?」
「う、うるさい……うるさい、うるさいうるさーーーーい!」

なればやるべきことは唯一つ。
武と智代を全力で排除した後に祭具殿へ向かう。
今までの油断も慢心も捨ててただ全てを粉砕し、撃滅するしかない。
祭具殿のほうへ向けていたアヴ・カムゥの体を武たちに向けて走り出す。
個々の役割分担に従って武がベネリM3を構え、智代は砲撃のために走ってその場から離れる。
 
「囮役は頼んだぞ」
「お前の武器だけが頼みの綱だからな、頼むのはこっちの方だ」
「分かってる。 それから蟹沢からの餞別だ、受け取れ」

そう言って智代はきぬから貰った武器をデイパックごと投げる。
武は受け取ったデイパックの中身を確認することも無く、アヴ・カムゥへベネリM3の散弾を惜しげもなく撒き散らす。
数度に渡る射撃をものともせずに、あゆの乗るアヴ・カムゥが土埃をあげながら向かってくる。
二人の距離が近くなり、武がそろそろ回避行動を視野に入れ始めたころ、急にあゆは体の角度を変えてあらぬ方向に走り出した。
749命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:27:50 ID:tb2wvPJN
「逃がすか!」
「待て、智代! お前は弾の補充をしてから来い!」

逸る智代を抑えて武があゆの追跡に移る。
森の方へ向かうあゆを追いかけて武が追撃、エアーウェイトを構えて撃つが足止めにもならない。
アヴ・カムゥの体に刻み込まれた銃の凹みは実に15を越え、命中率で言うならほぼ100%当たっている。
だが、それだけの戦果を以ってしてもアヴ・カムゥは行動に支障をきたさずに動いている。
あゆは気づいてないだろうが、武も智代もこの難攻不落の巨人に確かな脅威を感じていた。
あゆが走って走ってたどり着いたのは始めに持っていた剣は引っかかった巨木の前。

「これさえあれば……」

そう言うと大剣に手をかけて巨木から抜き取ろうと引っ張り始める。
フンと気合を入れて大木に片足をかけて、一気に引き抜こうとした。
その状態を見逃さず、武が散弾を放つ。
巨大な的となったアヴ・カムゥに対して散弾銃で猛攻をかける。
二度、三度と武が弾を交換してもあゆはまだ大剣に拘り引き抜く作業をやめない。
アヴ・カムゥの装甲は赤い色だが、きっと中に乗っているあゆも顔を赤くして踏ん張っているだろう。
間抜けな醜態を曝け出しているアヴ・カムゥにさらに武が散弾銃を連射する。

「あとは下がっていろ武。 私が仕留める」

そこについに智代が駆けつけて九十七式を取り出し、武も下がる。
射線を木に邪魔されないように位置取りを行い、座り込んで反動対策に丁度いい大きさの木を背にした。
気がつけばもう桜の花びらは島全体の色を変えてしまうほどに積もっている。
緑なす木々の色もピンクの占める割合が多くなってきているようだ。
これで天気がよかったら花見の一つでもしたのだろうが、生憎今はそんな感傷に浸っている場合ではない。
照準、問題なし。 ターゲット、未だ動かず。 右肩の痛み、噛み殺せば問題なし。 狙撃開始。
750名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:27:57 ID:Pj96S4ZO
 
751名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:27:59 ID:upT2mRRL
752命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:28:21 ID:tb2wvPJN
「貫けぇ!」

舞い散る花びらを蹴散らし、智代の九十七式が火を噴いた。
脇に命中したアヴ・カムゥの体が大きく崩れそうになるが、気力で踏ん張る。
智代の加勢も加わり、いよいよ自分の不利を悟ったあゆが焦る。

「早く、早く……抜けてよ!」

全力をもって大剣を引き抜こうとするが、今まで抜けなかったものが今回に限って抜ける道理は無い。
序盤に武を圧倒できたこの大剣があればまだマシに戦えるはずなのだが、武の策とも呼べないような間抜けな策に嵌った剣は一向に抜けない。
あゆの視界に移ったのは再度九十七式を構える智代の姿。
その先に見えるのはアヴ・カムゥの装甲を引きちぎられ、むき出しになったあゆの体へ銃弾が打ち込まれる姿。

(いやだ、ボク死にたくない。
 ボクは死にたくない。 ボクは、ボクは、ボクは!)

死にたくない。 
月宮あゆという存在を成り立たせる本能が悲鳴を上げる。
なにか現状を切り開く名案は無いのか、考えても考えても見つからない。
よって、あゆにできたのは今まで多くの命を奪い自らの命を繋いできた武器に縋って祈るだけであった。
それが単なる武器ならこの祈りは何の意味も持たないはずである。
しかしその武器は異能を持つものに望む力を与える永遠神剣。


あゆの力が注ぎ込まれた永遠神剣があゆの体を伝ってアヴ・カムゥにも伝わる。
753名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:28:39 ID:Pj96S4ZO
 
754名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:28:41 ID:upT2mRRL
755命を懸けて  ◆4JreXf579k :2007/12/11(火) 00:28:52 ID:tb2wvPJN


アヴ・カムゥの鉄の皮膚が暖かな光を発して、梃子でも動かせそうに無かった大剣をあっさりと引き抜く。
その瞬間を見た智代が驚きのあまり一瞬立ち上がるが、すぐに落ち着きを取り戻し、砲撃を開始する。
爆音とともに飛来するその弾も今まで通りならアヴ・カムゥの装甲にめりこむはずであった。

「ウインドウィスパー!」

あゆが智代に向かってアヴ・カムゥの大剣を真一文字に構えてそう唱えた。
瞬間、暴風があゆを守るかのようにアヴ・カムゥを中心にして巻き起こり、恐るべき速度で打ち出された弾丸に立ちふさがる。
それでも対戦車ライフルである九十七式の強力な弾丸を叩き落すことはできず、発射された弾は風の鎧を貫いていた。
しかしその神剣魔法はたしかに九十七式の弾丸の威力を削いでいる。
その証拠にアヴ・カムゥの装甲には小さな丸い凹みが生まれただけ。
武の持つベネリM3を受けたときと同じくらいの傷しか出来てない。

「やべぇ、永遠神剣だ」

驚愕する智代に解説するように武が呟く。
永遠神剣を持つ者との戦いの経験がある武がいち早くあゆに起こった変貌に気づく。
高嶺悠人やアセリアはキュレイウイルスのキャリアである武をも凌駕する身体能力と戦闘能力を有していた。
月宮あゆが単体で高嶺悠人やアセリアを凌ぐほどの戦闘能力を有しているとは思えない。
しかし、アヴ・カムゥという機体に乗ったあゆの戦闘力は攻撃力も防御力も倍増される。
756名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:29:20 ID:Pj96S4ZO
 
757名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:29:21 ID:upT2mRRL
758名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:30:08 ID:Pj96S4ZO
 
759名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:30:09 ID:upT2mRRL
760名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:30:24 ID:cemZfgWg
 
761名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:30:43 ID:Pj96S4ZO
 
762名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:30:44 ID:upT2mRRL
763名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:31:33 ID:Pj96S4ZO
 
764名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:31:37 ID:upT2mRRL
765名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:32:15 ID:08OrRPVj
   
766名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:32:17 ID:Pj96S4ZO
 
767名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:32:18 ID:upT2mRRL
768名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:32:53 ID:Pj96S4ZO
 
769名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:32:56 ID:upT2mRRL
770名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:33:34 ID:Pj96S4ZO
 
771名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:33:37 ID:upT2mRRL
772名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:34:14 ID:Pj96S4ZO
 
773名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:34:16 ID:upT2mRRL
774名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:34:49 ID:Pj96S4ZO
 
775名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:35:49 ID:Pj96S4ZO
 
776名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:35:50 ID:upT2mRRL
777名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:36:22 ID:Pj96S4ZO
 
778名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 00:37:14 ID:upT2mRRL
779代理投下:2007/12/11(火) 01:40:31 ID:Pj96S4ZO
「そうだよ。 こんなこともできるなんてボクも知らなかったけどね」

一番驚いたのは自分、そう言いたそうな口調であゆが右手に持った大剣で左手をトントンと叩いて遊ぶ。
しばしその余興に興じていたあゆが今度は武の持つ剣を指差した。

「それ、永遠神剣だよね? それも元々ボクに支給されていた剣。 返してもらうよ、ドロボウさん」
「悪いがこれはお前に支給されていたのとは別のやつだ」

武があゆに見せびらかすように『時詠』を掲げる。

「それでもいいや。 ボクが貰うことには変わりないから。 倉成さんが持っていたって仕方ないでしょ?」
「これは仲間に託された大切なモンだ。 欲しけりゃそのデカブツから降りて土下座でもしてくれ」

『求め』と同じ形状をした漆黒の『時詠』はこの島で最も強力な神剣。
アセリアはおろか高嶺悠人でさえ制御できずに暴走した。
ここであゆに与えればアヴ・カムゥに乗って神剣の命ずるままにマナを貪る危険な存在が誕生する恐れもある。
たとえどんな事情があれどあゆに渡すわけにはいかない。

「逃げるか?」
「いや、蟹沢がやってくれるまでもう少しやろう」

あゆに聞かれないように武と智代が小声でやりとりをする。
きぬがしている祭具殿での最期の仕事を終えたことを確認するまでは撤退は不可能。
見事制限が解かれたのなら、キュレイウイルスに制限がかかっている武が気づくことも可能だろうし、
降ってくる桜の花びらが止むくらいの分かりやすい変化があってもおかしくない。
最悪、きぬがその前に死んでいた場合は武か智代のどちらかがやらなければならない。
つまり武と智代にここから逃げる選択肢はないのだ。
780代理投下:2007/12/11(火) 01:41:41 ID:Pj96S4ZO
「腕ずくで貰うからいいや。 じゃあいくよ」
 
そう言うと先ほどまでとは比べ物にならない速度でアヴ・カムゥが疾駆する。
アヴ・カムゥは永遠神剣の力を受けて身体能力が大幅に強化されていた。
十分な距離があったはずの武と智代に一瞬で接近、旋風のごとき速度をもって武に打ち付ける。
武も間一髪でその攻撃を見切り、後ろに下がる。 が、あゆの驚くべきはその速さだけでなかった。

炸裂し、爆発!

あゆの振り下ろした剣の先にはクレーターのような窪みができていた。
常識はずれもいいところの威力だが、永遠神剣の恐ろしさを知っているだけに武は納得せざるを得ない。

「なめんな!」

ここで怖気づいて逃げ出すような人間なら武も今まで生きてはいない。
『時詠』を振りかざし、あゆの懐目掛けて突っ込もうとする。
しかし武が突っ込むよりも早く、返す刀で武を切り裂こうとあゆが横薙ぎに大剣を振るう。
以前は一撃と一撃の間に若干の間があり、その隙をついて武も回避、もしくは攻撃が行えた。
だが、永遠神剣で強化された今は早すぎてそんな暇も無い。 
遠い、何もかもが。 あゆの懐までの距離が遠い。
アヴ・カムゥの長い腕から繰り出される斬撃の範囲が広い。
完全無比の動く城塞と化したアヴ・カムゥにもはや接近戦は無謀。
武は『時詠』での攻撃はしばし止めてベネリを使うことにした。

「隙が無い……」

武が攻撃されている間智代も油を売っていた訳ではない。
なんとかして九十七式を撃とうとするのだが、あまりにも早く動くアヴ・カムゥを捕捉できないのだ。
それでもなんとか止まった瞬間を狙って撃とうとするのだが、そういうときに限って木が邪魔をしている。
ならば元々銃を撃つ経験などない智代がそこで取る行動は接近しかない。
射線が武に交わらないように智代は慎重に移動し始めた。
781名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 01:42:28 ID:Pj96S4ZO
智代が移動している間もあゆと武の戦闘は続く。
圧倒的な戦力の前に武もよく善戦し、少しずつではあるが散弾をアヴ・カムゥの体に撃ち込んでいた。
だが、あゆは以前は一発しか攻撃を放てなかった時間に二発の攻撃が可能になっている。
大剣を横から薙いで、上から叩きつけて、あるいは大剣を握り締めた腕とは逆に腕を使って武を追い詰める。

「はあっ!」

それはパフォーマンスも兼ねた一撃、隠れても無駄だという主張を込めた斬撃だった。
武が隠れていた大木を両断して圧倒的な力を見せ付ける。

「マジかよ!」

倒れてくる大木から逃れて武がベネリM3を撃つ。
その顔には玉のような汗が浮かんでおり、確かな疲労が見える。
機械と人の決定的な違い、疲労の蓄積の度合いが顕著に現われ始めてきた。
続けてあゆが逃すまいと斬撃を繰り出すが、それをよける武の動きは精彩を欠いていた。
クレーターが出来上がるたびに武の息も上がっていく。
そしてついに武を完全に捕らえた一撃が武の頭上に迫る。

(よけられない!)

足が思うように動かない。 
体を捻ったところで迫り来る鉄塊の辿る軌跡からずらせる距離など気休めにもならない。
だから、武が最期にできるのはあゆを睨み付けることだけだった。
もっとも、あゆも睨みつけられたくらいで怯むはずもなく、無常に剣を叩きつけようとする。

その瞬間、あゆの腕に爆発的な衝撃が響く。
ようやく絶好の狙撃ポイントを見つけた智代が銃撃を開始したのだ。
転がるようにあゆの攻撃を緊急回避した武が安心して一息つく。
しかし武の側面から大剣とは違うもう一つの影が襲い掛かった。
今度はもう智代の援護も武の回避も間に合わない。
782名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 01:43:05 ID:Pj96S4ZO
飛来する影、それはアヴ・カムゥの左手。
アヴ・カムゥの一撃は人間相手ならかするだけでも致命傷になる。
ならば、両手で剣を握るよりも右手と左手で別の生き物のように攻撃をすればいい。
今回はそれが功を奏したのだ。



一瞬、全ての出来事がスローモーションになり、世界を構成する色が抜け落ちて黒と白のモノクロの世界に変わる。
智代の目にはアヴ・カムゥの左手が張り手のように武を吹き飛ばす光景が映った。
武が顔を歪め、苦悶の表情浮かべる。 武の口から零れる血だけが赤い色をしているのがやけに智代の印象に残った。
そして空中浮遊を体験した武は次の瞬間、森を構成する木の一つにぶつかる。



世界が元通りの色と早さを取り戻した。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「これで一人」

あゆの勝利宣言どおり武の体はピクリとも動かず、声も出さずに石の様に固まって横になっていた。
武の息が止まったことを確認もせずに、あゆは次なる標的である智代に向かってアヴ・カムゥの巨体を走らせる。
乱れる心を懸命に押さえて智代は狙撃を敢行したが、再び唱えられた神剣魔法ウインドウィスパーにより威力を軽減された。
智代は九十七式をデイパックにしまいこんでデザートイーグルを取り出す。
一対一では九十七式は使いにくいし、まだ武は死んだと決まったわけではない。
離れた位置にいるので出血の量も確認できないが、おそらく生きている。
ならば、武が気絶から回復する時間を稼ぐのが智代に課せられた仕事。
783代理投下:2007/12/11(火) 01:43:45 ID:Pj96S4ZO
「逃げたらどうなの? 逃がさないけどね!」
「逃げる? そんな選択肢、とうの昔に捨てたぁ!」

智代が果敢にも自らアヴ・カムゥへ突撃した。
あゆの攻撃の間合いを読み取ってギリギリでかわし、デザートイーグルの弾丸をアヴ・カムゥの胸に命中させる。
何度当てればいいのか。 アヴ・カムゥに当てた銃弾の数はもう数えるのも億劫になるほどだ。
にも関わらずまるで動きが止まる気配がしない。

「倉成さんのことを助けたいの? 人殺しだよ、あの人は。 私と一緒、血の匂いがプンプンするよ!」
「一緒にするな、お前と! あいつはなりたくてそうなったんじゃない。 薬のせいでそうさせられただけだ!
 そして私とも違う! いじけて人を殺す道を選んだ私のような馬鹿ともな! あいつを馬鹿にするのは許さない!」

地面を蹴ってあゆの攻撃から逃れながらデザートイーグルの攻撃を放つ。
智代もこの島に来る前は伝説の不良として数々の喧嘩に明け暮れていた時期がある。
当然、拳と拳の正々堂々とした勝負という訳にもいかないこともあり、竹刀や木刀など長物を持った敵と対峙したことは数え切れないほどだ。
そんな敵に勝つために智代がやってきたのが間合いの見切り。
相手の攻撃範囲のギリギリ外に身を置き、いざとなれば一足飛びで相手の懐に入れる距離を保つ。
その方法で智代は勝ち続け、近隣の高校にまで悪名を轟かせていたのだ。
トウカのような本物の剣士にはその方法も通じなかったが、あゆのような付け焼刃の剣術を使う相手なら十分威力を発揮する。

「何が違うの! やっていることは一緒! 綺麗な言葉で誤魔化しているだけだよ! 世間ではそういう人間のことを偽善者って言うの!」
「偽善者で何が悪い! 開き直って殺人を肯定するようなお前よりはマシだ!」

あゆの攻撃がいっそう激しさを増す。
右手が鋭い閃光となって、左手が蛇のように蠢いて智代を襲う。
智代もこれで全弾を撃ち尽くす。 速やかにリロード、この銃がカートリッジタイプで本当によかった感謝した。
もしも手に持っている銃がリボルバーだったらと思うと寒気がする。
784代理投下:2007/12/11(火) 01:44:46 ID:Pj96S4ZO
「偽善者なんて見てて吐き気がする! 奇麗事さえ説いてればなんでも解決すると思ったら大間違いだよ!」
「………………ない」
「何? 聞こえないよ!」
「…………って言った」
「恐くて声も出せないの? もっと大きな声で言いなよ!」
「この殺し合いを動かす歯車になることを選んだお前には一生分からないって言ったんだ!!!」

島全体に響き渡らせるつもりで大きく智代が叫ぶ。
その雄叫びはこれから行う蛮勇への恐怖を振り払うためでもある。
自慢の脚力を活かして智代があゆの攻撃を掻い潜り、懐へ飛び込んでいく。
デザートイーグルを仕舞い込み、手には別の武器を握り締める。
あの鉄の巨人の装甲がなんらかの金属で出来ていることは間違いない。
だからこそやれる方法がある。

懐に入られれば手を使うよりは足を使ったほうがいい。
あゆは足を振りかざし、智代を踏みつけようとする。
だが、それすらも智代は掻い潜った。
足技を得意とする智代が敵の足技の警戒を怠るはずがない。
アヴ・カムゥの足に智代がスタンガンを突きつけ、電流を流し込んだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

電流がアヴ・カムゥの機体を通してあゆまで伝わったことを知らせる声が響く。
智代は確かな手ごたえを感じて、力なく地面に膝をついたアヴ・カムゥの肩まで乗った。
もう一回、確実にあゆを失神させるべく電流を流し込もうとする。
これで武が回復する時間を稼げる、そう信じて。
だが、現実はそう甘くない。

「な〜んちゃって」
785代理投下:2007/12/11(火) 01:45:49 ID:Pj96S4ZO
その言葉とともにあゆは肩まで上っていた智代を武と同じように張り飛ばした。
あゆの一撃をかわす暇も無く飛ばされた智代は体がバラバラになりそうな痛みを感じながら、アヴ・カムゥが立ち上がるのを見る。
その動きにはいつもと変わりが無い。
とどのつまり、智代はあゆの臭い三文芝居に騙されたのだ。
ボロ雑巾のように地面を転がっていく体がやっと止まり、智代はあゆに簡単に騙された己の不甲斐なさを呪う。
体を苛む痛みは尋常ではないが、気絶するほどではないから武よりも怪我の度合いはマシなのだろう。

「どうすればいいんだ……」

弱音を吐いてしまったがそれは智代のせいではない。
普通の銃弾では満足な傷もつけられない。
九十七式も神剣魔法で防がれる。
接近戦ももちろん駄目。
これ以外の方法など思いつかない。
こっちは満身創痍で向こうは装甲が凹んだだけで外側の機体も内側の搭乗者もまるで元気。
最善を尽くしても未だ状況は絶望的なのだ。

「さてと、終わりにしようね。 ボクの秘密を知ってる人間を生かしてはおけないから」

余裕の足取りで歩いてくるあゆに、智代も立ち上がるがどうしようもない。
九十七式を使う暇はなく、攻撃をしようにも張り飛ばされた衝撃で満足な運動も出来そうにない。
気力だけで体を支えるが、今になってようやくアヴ・カムゥの巨体に恐怖で失神しかねないほどの恐ろしさを感じていた。
けど、このまま甘んじて死を受け入れるのだけはノーだ。
抗って抗って、いつの日かその身に背負った罪が許されるまで戦って生き続けると決めたのだから。

「余裕だな……私はまだ生きているのに」
「もう死にそうだよね?」
786代理投下:2007/12/11(火) 01:46:45 ID:Pj96S4ZO
いよいよ至近距離に迫ったアヴ・カムゥの巨体を智代が見上げる。
改めて対峙する一人と一機の大きさは大人と子供以上の違いがあった。
アヴ・カムゥの手には大剣が大きく振り上げられており、その狙いは間違いなく智代の体。
智代の手にはデザートイーグルがあるがそれではなんの抵抗も出来ない。
最後の抵抗とばかりに一発撃つが、やはり装甲が多少凹んだだけで終わった。

「なんでそんなに勝ち目のない戦いをしようと思うの? なんで諦めないの?」
「……人間だからだ」
「なんで逃げ出さないの? なんで抵抗することをやめないの?」
「……生きているからだ!」

迷いなく言い切る智代に後悔はない。
エリカを殺すように騙されただけの少年を殺してしまった罪。
罪を背負いながらも、その先にあるものを追い求めて得られた嘘偽りのない答えだ。
人間だから諦めず、生きているから抗うことを止めない。
それが人間の本質、生きるものの責務。
言いたいこいことは全て言い終えた。 
残念なことにその言葉の意味の一片たりともあゆの心に届くことはなかったが。

「もういいよ、バイバイ」

あゆが死刑執行書を読み上げて大剣を思いっきり振り下ろした。



     ◇     ◇     ◇     ◇


787代理投下:2007/12/11(火) 01:47:41 ID:Pj96S4ZO
前原圭一の強さの秘訣が強く信じる心にあったのなら、その者の強さの秘訣は諦めないことにあったであろう。
どんな最悪の状況でも決して投げ出さず、最後まで可能性を信じる不屈の心。
倉成武はそういう強さをもっていた。
だからこそ崩壊の危機に揺れるLeMUでも心を閉ざしていた小町つぐみの信頼を勝ち取り、最善の未来を選び取れたのだ。
そしてこの島でもその不屈の心は健在している。
気絶から回復した武は痛む頭を抑えつつ現状の把握に努め、智代の危機を見るや否や矢のように飛び出し無造作にデイパックの中に手を突っ込んだ。
特になにか目当てのものがあったわけではない。 だが、それが結果的に功を奏した。
武の手にあったのは首輪。 そこにはNo.16と印されている。 つまりこれは厳島貴子の首輪なのだ。

「貴子! 力を貸してくれ!」

最後まで力を貸してくれる仲間に感謝して武はその首輪をアヴ・カムゥ目掛けて投げる。

「いっけぇ!」

投げられた首輪が放物線を描き、アヴ・カムゥの元へ到達すると同時にベネリM3を発射。
銃の達人でもない限り投げられた首輪に銃弾を当てることなど不可能。
だがそれは拳銃を用いた場合の話であって、散弾銃であるベネリM3なら命中率は飛躍的に上昇する。
銃弾は上手く首輪に命中し、大きな衝撃を受けた首輪はカウントダウンを始めることもなくアヴ・カムゥの脇腹の付近で爆発した。

「うぐぅぅぅ!」

あゆのアヴ・カムゥが大きくよろめき、智代へのとどめの一撃も大きく逸れる。

「もう一発だ!」

智代も武の無事を確認すると、残った力を振り絞って九十七式をデイパックから取り出し、武の一撃に続いた。
狙いはまたしてもアヴ・カムゥの脇腹。
二度も同じ場所に大きな衝撃を受けたアヴ・カムゥが地響きを伴って今度こそ倒れた。

「遅くなって済まない」
「ああ、死ぬかと思った」
788代理投下:2007/12/11(火) 01:48:39 ID:Pj96S4ZO
駆けつけた武に大きく息をついて智代が応えた。
死にそうなところを助けてもらうのはこれでお互い様だと二人で笑いあう。
しかし、戦いがまだこれで終わったわけではない。
アヴ・カムゥは倒れただけでまだ襲い掛かってくる。
あの程度の衝撃でアヴ・カムゥが止まりはしないということは武と智代がよく知っていた。
だからこそ、再開の挨拶もそこそこに二人は臨戦態勢に入ったのだ。
だが、起き上がってきたアヴ・カムゥの動きはどこかぎこちない。
ガラクタの人形のようなノロマな動きを披露するだけで、先ほどまでの脅威がまるで感じられないのだ。

「うぐぅ!? どうしてアヴ・カムゥの弱点が脇腹だって知ってるの!?」
「「弱点?」」
「あっ、しまった!?」

契約をして、幾多の人間を殺した人間とは思えないほど迂闊な一言を滑らせたあゆに武と智代が鸚鵡返しに聞く。
あゆのその答えもまた自らの一言が真実であることを語っていた。

「本当なのかよ……」
「いや待て、こいつにはさっき騙されたからな。 慎重にこいつでやる」

呆れる武に対して智代は慎重論を取って、弾の補充を終えた九十七式を構える。
あゆは回避しようと永遠神剣に力を送り込むがアヴ・カムゥの動きは拙い。
あゆの全力をもってしても永遠神剣を使わない時の半分程度の速度しかだせないのだ。
もはやアヴ・カムゥは頑丈さだけが取り柄の重たい人形であった。
智代が発射体勢に入り、いよいよ撃つ段階になってアヴ・カムゥに起きた変化以上に衝撃的な出来事が島全体を覆った。

「「「!?」」」
789代理投下:2007/12/11(火) 02:01:38 ID:Pj96S4ZO
祭具殿から光の柱が天に向かって伸びているのだ。
桜の花びらが落ちてきたとき以上に不可解な現象だが、これは蟹沢きぬがなにかしらをやってくれたこれ以上ない証拠。
それにともなって雪のように降っていた桜の花も止み、この島で異能を扱う者の能力が全て解放された。
もちろん武も例外でなく、これまで幾度も苦しめてきた疑心が完全に消え去り、体が軽くなってきた。
今まで正常ながらも、どこかフィルターがかかったかのようにハッキリとしなかった思考回路が正常に動き出す。
キュレイウイルスが再び活発に活動を始め、H173を完全に押さえ込んでいる証だ。
雛見沢症候群の影に怯える必要もないことに武は心から喜ぶ。
もう、圭一を殺したときのような間違いを犯すこともないのだ。 

「蟹沢がやってくれたんだな」
「……だろうな」

智代も何が起こったのか察したようだが、その表情はどこか固い。
各自にかけられた異能を封ずる鎖が解けたのはいいが、それはきぬの命が消えたことも示すのだ。
分かっていた結果とはいえ、悲しくなってくる。
だが、智代がそれ以上に気にしているのが空の様子だ。
制限が解かれたのに未だに空を隙間なく埋め尽くす雲がどこか不気味に感じられる。
まだ、なにも終わったないのだと雲が語りかけてくるようだった。

祭具殿から伸びる光を誰よりも注目していたのがあゆだ。
鷹野から与えられた任務は失敗した。
自分たちを不幸のどん底に叩き落した張本人に尻尾を振ってまで生きようとしたのに、その努力が全て無駄になってしまったのだ。
そしてこの任務の失敗の代償は月宮あゆの命。 今からディーが直々に殺しに来る。

(やだ、死にたくない。 ボクは死にたくない。 死ぬのはイヤだ。 ボクまだ死にたくない)
790代理投下:2007/12/11(火) 02:02:48 ID:Pj96S4ZO
失敗しても元の奪われるだけの人生に戻るのならまだいい。
しかし今回は命そのものが代償、次の機会を待つようなことも不可能。
なんとか死から逃げる方法はないか、藁にもすがる思いでその方法を模索してあゆはその方法を見つけた。
目の前にいる二人を殺して自分がまだまだディーにとって価値のある生命体であることを見せ付ければなんとかなるかもしれない。
他の人間から見ればそうしても助かる見込みはないだろう。 
あゆ自身もそうやって助かる見込みなどほとんどないと考えている。
だが、あゆの生への異常な渇望は僅かでも可能性があるのならその全てを賭けでも目的を遂行しようとする。
そう考えて自分を保たないと今のあゆは簡単に壊れてしまいそうだから。

「殺す。 今すぐ、速やかに!」

光の柱を眺めている武たち気づかれないようにあゆが『献身』を握り、精神を集中させる。
制限が解かれたのはなにも武やアセリアだけではない。
月宮あゆもその範疇に入るのだ。
残された力と制限が解放されて使えるようになった力の全てをかき集めて最大の神剣魔法を行使する。

「武、気をつけろ。 何かしようとしている」
「は? ……まずい、逃げろ! 遠くまで!」

ようやく気づいた武たちが逃亡しようとするがもう遅い。
ピリピリとあゆのアヴ・カムゥを中心に物凄い力の渦が出来上がる。
残った力の全てを注いで、大地のスピリットが使う最大の神剣魔法を発動させたのだ。

あゆが唱えた魔法、それは全てを貫く緑の衝撃!


「エレメンタルブラスト!!!」


その言葉を唱えると同時に武たちが逃げ出した方角に上空からバレーボールほどの大きさの緑色の球体が降りてくる。
そしてある程度の高さを保つと緑色の球体が破裂。
瞬間、球体に凝縮されていた空気の塊が衝撃波と真空波となって暴れ出し、森の中を駆け巡り、一つ残らず木を薙ぎ倒す。
791代理投下:2007/12/11(火) 02:04:37 ID:Pj96S4ZO
時間にして数秒。 あゆの残った力でエレメンタルブラストが効力を発揮させたのはそれほどまでに短い時間だ。
だが、わずか数秒しか発動してない魔法がエリア一面の木を残らず薙ぎ倒していた。
風はただ安らぎをもたらすだけのもののではない。
時として荒れ狂い、自然も人間もすべて薙ぎ払うのだ。

あゆがその狙いの中心に据えたのは木ではなく、あくまでも倉成武と坂上智代。
視線をこらしてみると静寂の中、動く生き物が二つあるのを確認する。
まだ、生きているしぶとさに驚嘆しながらもアヴ・カムゥの体を動かした。

大剣が動かしづらくなり、いよいよこのアヴ・カムゥも本格的な機能不全に落ちたことを知る。
が、攻撃力は失われてもその鉄壁の防御力は健在。
永遠神剣に回せる力はもうエレメンタルブラストで使い果たした。
アヴ・カムゥは当初のとおりにあゆがそ永遠神剣の補助もないまま動かしている
万全を期してゆっくりと歩を進めていった。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「おい、起きろ。 武、起きるんだ。 早く起きないとあいつが……」

血だらけの格好になりながらも智代はまだ生きていた。
エレメンタルブラストで生じた衝撃波と真空波が彼女の体を幾重にも切り裂いている。
周辺の残さず切り倒された植物の被害を見る限り、智代もよく生きていられたものだと己の幸運に感謝していた。
這いつくばって武のいるところへ進み、武の脈を取る。
脈拍は正常とはいえないが、動いてるのは確かだ。
怪我の度合いも智代とそう変わらないが気絶している。
背負って運ぶのは不可能。 智代も這って動くことしか出来ないほどの怪我をしているのだ。
武には自分で起き上がってもらって、自分で逃げ出してもらうしかない。
しかし、智代が武を起こすよりも速く、あゆのアヴ・カムゥがそこにいた。

「これでボクは助かる。 二人を殺せば助かるんだ」
792代理投下:2007/12/11(火) 02:05:37 ID:Pj96S4ZO
もはやあゆの中で確定事項と化した目的を果たすためにアヴ・カムゥを動かす。
アヴ・カムゥが自由に動かせる部分、つまり足を使って智代と武を踏み潰すのだ。
まずは気絶している武を標的に定めた。 
象をも上回るアヴ・カムゥの巨体は人一人踏み潰すのになんら不自由のない重さがある。
だがそれを阻止するかのように武とアヴ・カムゥの間に智代が体を割り込ませた。
武の体を覆うように四つんばいになって、アヴ・カムゥの足から武を守ろうというのだ。
もうそれしか智代にできることはない。 九十七式の反動に耐えれる自信もなく、他の方法も思いつかない。
わが子を守る母のように智代は自分ができる唯一の方法で武を守る。

「早く、早く潰れろ!」

グイグイと体重をかけるアヴ・カムゥに対し、智代は最期の力を振り絞って四肢を踏ん張る。
このままでは二人とも死ぬのを待つだけ、ならば一人だけでも生きていた方がいい。
その一人とはもちろん智代を助けてくれた倉成武でなければならない。
かつて受けた恩を命がかかっている今こそ返さねばならないのだ。

「起きろ、武。 お前はこんなところで死ぬ男じゃないだろう? お前は強い男だ。
 こんなところでお前は死んではいけないんだ」

あゆから守りつつも武を起こす作業は続ける。
背中にかかる負担も強くなり膝や腕が地面にめり込んでいく。
あゆに負けまいと踏ん張れば踏ん張るほど、傷口から血が噴水のごとく吹き出て力が抜けるという悪循環。
智代の体を赤く染めている部分が半分を越えた。
 
「私は嬉しかったんだ。 私を叱ってくれたことが。 いけないことはいけないって教えてくれたことが。
 お前にはいくら感謝しても足りないんだ。 それはもう七日七晩かけても語りきれないくらいにだ。
 こういう言い方は失礼かも知れないが、お前のことは父親のようだとさえ思えたよ。
 駄々をこねる私に根気よく付き合ってくれて、その上で私を元の道に戻してくれたんだからな。
 だから今度は私がお前を救う番だ。 お前は命を懸けて私を救ってくれた。 だから今度は私がお前を命に換えても守る」
793代理投下:2007/12/11(火) 02:06:55 ID:Pj96S4ZO
智代の命の炎がいよいよ小さくなる。
あゆもアヴ・カムゥが思ったより自由に動かせないことにヤキモキする。
このままでは埒が明かないと判断したあゆは直接『献身』で殺そうとアヴ・カムゥから降りようとする。
しかし、智代の命を懸けた呼びかけの方が早かった。

「武! 私の命をお前に託す! 私の命とともに戦うんだ!」

命を託す、それはつまり自分は死ぬという意思表示。
智代の一言で武は完全に覚醒し、アヴ・カムゥの足の下から逃れる。
その数秒後、地響きとともに智代の体がアヴ・カムゥに飲み込まれていく。
智代のいるであろう空間を見て静かに黙祷を捧げた。

「よく気絶するもんだ、俺は。 自分でもウンザリする」

エレメンタルブラストで大きく武の衣服と胸が切り裂かれているが、制限の解かれたキュレイなら数日で治るレベルだ。
あゆが狼狽し、再びアヴ・カムゥの中に篭城を決め込む。
その様子を見ていた武が絶対の意志をもって対峙する敵に向かって告げる。

「こじ開けてやる。 その体にでかい風穴をな!」

あゆが完全に武の殺意に気圧されて、一歩どころか二歩三歩と下がった。
そのとき、地上に露になった智代の赤く染まった体から蛍のような小さな光が出て、武の構える『時詠』に吸い込まれていく。
そして『時詠』の刀身が夜闇を切り裂くほどの光量で光を放ち始めた。
あゆにもそれが意味するものは何なのかいやでも想像がつく。

「ううう、うわああぁぁぁぁ!」

逃げても待っているのは死。 だからあゆは武に襲い掛かるしか手段がない。
追い詰められた鼠のごとくあゆが決死の抵抗を見せる。
残った足とほとんど動かない腕も強引に総動員して武に何度も襲い掛かる。
だが、その抵抗は猫を噛むことはできない。
794代理投下:2007/12/11(火) 02:07:52 ID:Pj96S4ZO
「分かるか? あいつの命の光が! 見えるか? あいつの魂の輝きが!」

武が不規則に繰り出されるアヴ・カムゥの鉄の腕や足を避けながらタイミングを計る。
勝負は一発限り。 身体能力の強化はできない。
武にマナや魔力をコントロールする能力はないし、それでなくとも雀の涙ほどしかないこの光の力を無駄な行為に回す余地はない。
最善の状況で最高の一撃を叩き込むその技を叩き込むためには慎重な判断力が必要。

「そんなものでボクが!」

あゆの一撃は通常時の半分以下の速度だが、威力に関しては未だに必殺の域にある。
武も重傷を負い動きが鈍くなってるから条件はほぼ互角。
無理やり繰り出されたアヴ・カムゥの大剣の攻撃に対して、武は攻撃を一切行わず回避行動だけに専念する。
『時詠』の一撃を当てる絶好の機会を待っているのだ。

“その一撃は未来を見通す『時見』の力が必要不可欠”

それを悟ったあゆもしばらく攻撃されないと見て、防御を考えずに乱舞のように腕や足を使って武を追い詰める。
押して押して押して押しまくれば必ずあゆにも勝機はあるはず。
津波のように広い範囲を薙ぎ払うアヴ・カムゥの攻撃をよけるのは至難の技。

“それだけでなく膨大な量のマナが必要だ”

『時詠』が持っている力の量がほとんど無いことを知るとあゆにも自ずと冷静さも戻ってくる。
倉成武は永遠神剣の初歩である身体能力の強化も使ってないのだ。
それは身体能力の強化もできないほどあの光の力は弱いということ。

“よってこの一撃は技とも呼べないような失敗した技”

「もらった!」
795名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 02:10:44 ID:Pj96S4ZO
アヴ・カムゥの大振りの一撃が空を切る。
初めてできた絶好の隙を前にして武が突っ込まない手はない。
あゆが執念を振り絞って残った手足で武を迎撃する。
左腕は軌道を見切り回避して、右足は武の体に当たる前に前に出て懐に飛び込む。
アヴ・カムゥの返す刀の一撃も回避して武が再びアヴ・カムゥの腕に乗って駆け上がる。

“その威力は本家の一万分の一以下のものだ”

あゆと武の距離がこれ以上ないくらい近づいた。
そこであゆの顔に突如一筋の光が当たる。
それは『時詠』の放つ光ではなく、雲の間から漏れた夕日の光。
曇った空がやっと明けて茜色の空がその顔を覗かせたのだ。
人ははこの時間をこう呼ぶ。

「聞けよ、あゆ。 黄昏がお前を呼んでいる!」
「ひッ! う、うぐぅ! ああああ!」

『時詠』の刀身を装飾する輝けるかの光こそは、永遠神剣を扱う者だけが放つことの可能なオーラフォトンの瞬き。
一人では無理なことも二人でならできるという幾千の可能性を秘めた希望。
武は『時詠』にこめられた力を解放して、二人分の命の重さを含んだ一撃をアヴ・カムゥの頭部に向かって放つ。
あゆが目の前の脅威を排除しようと体を揺さぶるが遅い。

「クリティカルワン!」

“だが――それで十分”
796代理投下:2007/12/11(火) 02:12:02 ID:Pj96S4ZO
それは高嶺悠人が得意とするヘビーアタックの一撃に似ていた。
オーラフォトンを纏った剣を叩きつけるだけの基礎的な攻撃。
紛い物のクリティカルワンの一撃はアヴ・カムゥの頭部から腹部までの装甲全てを完膚なきまでに引き裂く。
引き裂かれた装甲の薄暗い空間にいるのはまぎれもなく月宮あゆその人。
ついに無敵の城塞を破られ、剥き出しの姿を見せ付けることになったのだ。
武の宣言どおりその装甲に風穴が通された。
ここでアヴ・カムゥはその機能を完全に停止して地面に仰向きに倒れる。

武が中に入っているあゆを引きずり出そうと壊れたアヴ・カムゥに近寄る。
と、そこで亀裂の入った箇所からあゆが羽化した蝶のように飛び出してきた。
武が身構えるが、あゆは武と相対することもなく一目散に逃げ出そうとする。
永遠神剣の魔力も使い切ったあゆの残された武器は国崎から奪ったコルトM1917のみ。
ショットガンを扱う男を相手するには無謀というに過ぎる。

「待ちやがれ!」

武が智代を殺した犯人を逃すはずもなく、追いかける。
身体能力も歴然、あゆはグングンと追い詰められる。

(どうしよう、殺される。 死んじゃう。 いやだ。 怖い)

あゆがその逃れられない死から逃れるために一つの行動を取る。
それは人質を取るということ。
いや、それはそもそも人質という言葉が当てはまるかどうかも怪しい。
あゆが人質に取ったのは生きてる人間ではなく、死んだ坂上智代の死体なのだから。
智代の額にコルトを突きつけて武に勘違いした警告を始めた。
797代理投下:2007/12/11(火) 02:12:45 ID:Pj96S4ZO
「こ、来ないで! 来るとこの人を傷つけるよ!」
「はぁ?」
「この人の脳みその色を確かめたくなかったらボクを見逃して! それだけでいいの!」
「何言ってるんだ、お前? そいつは死んでるぞ」
「武器をよこせなんて言わないから、ね、いいでしょ? ボクを見逃してよ!」

もはや前後の不覚すらもつかず、ただ生きるためだけにあゆがとった方法はは余りにも哀れだった。
例えこの場を切り抜けてもディーが殺しに来るというのに、あゆが考えているのはとりあえずこの場から逃げ出す方法のみ。
武も哀れを通り越した不快な感情が沸き起こっていた。

「やれよ」
「へ?」
「やれって言ったんだ。 智代ならそう言う」
「勝手に死んだ人の気持ちを語らないでよ。 いい加減なことを言うと本当に撃つよ?」
「撃てよ。 撃った瞬間俺がお前を撃つ」

武が一歩進む。
あゆが後ずさる。

「撃つよ。 本当に撃つよ?」
「やれ!」

武があゆに向かって走り出した。
あゆが口からヒィと息を漏らして訳も分からず智代を撃とうとする。
だが、ここで驚くべき第三の人物が声を出した。

「撃たれるのは……困る」

その声がした方向を向こうとしたが、あゆは銃を持った手首に違和感を感じる。
見てみると、あゆの手首は切り裂かれ動脈から大量の血を流していた。
慌てふためいて止血しようとするあゆを尻目にもう一度第三の人物が声を出す。
798代理投下:2007/12/11(火) 02:13:16 ID:Pj96S4ZO
「私は……まだ、生きてる……からな」

第三の人物、智代が持っていたサバイバルナイフであゆの手首を切り裂いたのだ。
それを見た人間の反応は二通り。
月宮あゆは『献身』取り出し無駄な行為を始め、倉成武は『時詠』を構えて走り出した。

「ア、アースプライヤー!」 あゆの言葉に『献身』は何の反応も示さない。
「ハ、ハーベスト!」 何度やっても無駄。 魔力を使い果たした人間に奇跡は起こらない。
「おおおおおぉぉぉぉ!」 武があゆに向かって切りかかる。

その光景を前にして信念も理念もなくただ生きたいがためだけに殺し合いに乗ったあゆが次に選んだ方法は命乞いだった。

「ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい! 嫌だっ、死にたくない、助けてええぇぇぇ!」

だが、遅すぎた。 なにもかも。
謝罪を始めるのも、自分の間違いに気付くのも。
月宮あゆはその手を人の血に塗れさせすぎていた。

「悪いが、もう俺でもその命乞いは聞いてやれない」

なおも命乞いを続けるあゆを袈裟斬りで一刀の元に切り伏せ殺害。
一度目も二度目もH173のせいにしようとすればできる。
だが、今回ばかりはどうあがいても言い訳できない純粋たる武の罪だ。
倉成武はこの島に来て三度目の殺人を犯した。 
言い訳もできないほどに、純粋な自分の意思で、だ。
かくしてこの島で最も数奇な運命をたどった人物がこの世を去ることになる。



     ◇     ◇     ◇     ◇
799代理:2007/12/11(火) 02:28:01 ID:2Nvel4Qv



「済まなかった。 お前が生きてると知らずに撃てなんて言ってしまった」
「いいさ……私も、生きてる、のが…不思議なくらいだし、私も、そうしろと言うさ」

智代を柔らかい草の上に寝かせた武は智代の応急処置を始めようとした。
が、同時に数時間前の戦いでほぼ全て使い切っていたことを思い出す。
何もできない己の無力を悔やむ武に智代はどうせ助からないからと笑った。

「なぁ」
「何だ?」
「私は……満足だよ。 生きて帰ることはできなかった。 やり、残した……ことも、悔いも、ある。 
 けど、私は欲張り……だからな、やりたい…こと、や、悔い、が、なくなる日、なんて一生……こない。
 だから、ここで死ぬ…のは、守りたいもの……守れて死ぬ、の…は…本望だよ」
「勝手に満足するなよ! 鷹野を、俺たちをこんなところに放り込んだやつをぶっ潰すんじゃないのか!?」
「お前が……やって、くれる…だろ?」

美しい銀髪ももはやそのほとんどが赤く染まっている。
武の血に塗れた手を同じく血に塗れた手で掴み、高く掲げた。

「私の……希望は、ここに、ある。 見て…いるか……鷹野。 お前を……倒す存在が……ここに、いる」

呼吸を荒くして最後の宣戦布告を行った。
そのまま智代はしばらく目を閉じて深呼吸して、あるがままの世界に身を委ねる。
風が気持ちい、空気がおいしい、空の色が美しい。
こんな島でさえ、こんな鉄と血に塗れた島でも世界はこんなにも綺麗に移るのだ。
死ぬ間際にそんなことに気が付くとは余程余裕のない生活を送ってきたのだろうか。
かもしれない、と智代は口元を小さく歪ませて笑う。

800代理:2007/12/11(火) 02:29:27 ID:2Nvel4Qv
街の不良を相手に荒れていた時期もそうだ。
この島でも心安らぐ時間よりも復讐心に身を焦がしている時間の方が多かった気がする。
ああ、なんて、もったいない。
そよそよと耳に入ってくる風の音を聞きつつ、時間がいよいよ少なくなってきたことを悟る。
智代はずっと考えていたことを武に頼むことにした。

「なぁ?」
「何だ?」
「頼みごとが……あるんだ」
「何だ?」
「私を殺してくれないか?」
「な!?」

聞き間違いがないようにハッキリと一息で言い切ったが、やはり武は信じられないという顔をしている。
自らの死期を早める行為を頼むのは武には信じがたい望みであった。
当然、聞き入れるわけもなく武はその行為の真意を尋ねることになる。

「できる訳ないだろ! なんでそんなこと言うんだ!」
「殺され、たく……ないか…らな、あんな奴に」
「だからってそんなこと言うな!」
「お前だから……言った、んだよ。 私、を…助けてくれた……お前…だから、私の命…を、もらって……欲しいんだ。
 どこの、馬の骨…ともしれない……ような…やつ、に…私の命をやるつもり…はない」

息も切れ切れに智代は咽ながらその理由を答えた。
武にもその理由なら分からないでもない。
このまま快く思わない相手に致命傷を与えられ苦しんで苦しんで死ぬより、大切な人間の手で一瞬のうちに逝くのが幸せなのか。
どちらにせよ、決まっているのはこのままでは間違いなく智代は死んでいくのだ。
ならばいっそと情けをかけて苦しみから解放して上げるのもまた一つの幸せではないだろうか。
武は気付かないうちにエアーウェイトを構えていた。
801代理:2007/12/11(火) 02:31:09 ID:2Nvel4Qv
「これで……いいのか?」
「ああ、それで……引き金を……引けば、いい」

捧げられた真っ暗な銃口を前にして、智代は満足そうに呟いた。
武が銃を撃った経験は初めてではないが、今ほど引き金を重く感じたのは初めてだ。
この先は互いに殺意をぶつける『殺し合い』ではなく100%の結果が待っている『殺し』。
引き金を引く人差し指どころか腕全体が震えている。

「……いくぞ」
「いいぞ」

片手で撃てないのなら両腕で撃てばいいだけのこと。
左手で震える右手を強引に押さえて智代の心臓に狙いをつけて、発射した。

森の中に響く轟音。
エアーウェイトの薬室から薬莢が排出される。
銃弾は、智代に当たっていなかった。

「できる訳ねぇだろ!」

武が叫ぶ。

「人を何人殺したって、仲間を撃てる訳ないだろうが!?」

徹頭徹尾の偽善者、つぐみにLeMUでそう言われた時から何一つ変わっていなかった。
仲間だろうと敵だろうと殺害という行為に全く変わりはない。
そこで得られる過程も結果も全て等しきものなのだ。
だが、悔やむ武をまたもや智代が慰めた。
802代理:2007/12/11(火) 02:32:28 ID:2Nvel4Qv
「そう、言うと思った。 お前、優しい、からな」
「優しかったら人なんて殺さない!」
「違う、さ……誰もが、やりたく…ない…ことは、誰かが……やらない、と、いけない。
 お前、は…それをやってるだけ……だ」
「だったらお前のこともちゃんと殺してる」
「これ、は…私の……我侭。 やる…必要は、ない」

その言葉が終わると、智代は一際大きく咽て血の塊を吐き出す。
武にトドメを刺してもらうよう頼んだのも自分の死期を悟ったからこそ。
頭を動かすのも難しくなってきた。
残り少ない時間を前に最期にやるべきことを考えて智代は口を動かした。

「これは罰、なんだ、ろうな。 たくさんの……人に、迷惑かけた。 その、痛みを、甘んじて…受け入れろ、ということか」
「お前はもう十分償っただろ! 許されてるに決まってる」

武が智代を抱きしめる。 
その消え逝く命を離さないように、智代の命そのものを掴むように強く抱きしめた。
智代が天を仰ぎ、最期の言葉を喋る。

「まだ……許されて、ない。 地獄で、罪をつぐなってくるよ。 私の、最後の願い…だ。 聞いてくれ。
 私を…埋める…必要、ない。 地獄は……暗い、だろう…から。 頼まれて……くれるか?」
「……ああ」
「このまま……空…見ながら……優しさに、包まれ、て………………」

その一言を最後に、坂上智代は粉雪のような淡く凄烈で儚い人生の幕を閉じた。
803代理:2007/12/11(火) 02:33:21 ID:2Nvel4Qv



     ◇     ◇     ◇     ◇



「クソオオオオオオォォォォォォォ!」

地面に拳を叩きつけ武が慟哭する。
ここでも守るべき対象を守れなかった。
厳島貴子、千影、坂上智代。 武が守ると決めた人間が尽く武の目の前で死んでいく。
全力を尽くしてあらゆる障害から守り抜くと決めた少女たちは誰一人として帰らぬ人となった。

「まただ。 俺は誰一人守れない!」

それは倉成武のせいではない。
彼はいつでも全力で戦ってベストを尽くしてきた。
ただ、結果がついてこないだけ。
だが、そう言われても武は納得できないだろう。

どうしようもできないのだ。
彼がベストを尽くしている以上改善すべき点はもはや何一つないのだから。
酷な言い方をすれば対峙した相手が悪かっただけだ。

「俺は悔しい!」

天に向かって吠える。
その声の先には誰にもいない。
あくまで武の独り言だった。
804代理:2007/12/11(火) 02:34:27 ID:2Nvel4Qv
「なぁ、俺はいつになったら他人を守れるようになるんだ?
 いつになったら俺は圭一とつぐみに顔向けできるようになる?
 俺は、俺は、堪らなくそれが悔しいんだ!」

涙を溢しながら大声を上げる。
その問いに答えてくれる存在を求めて。

「クソオオオオオオォォォォォォォ!」

その叫びとともに瑞穂たちに合流すべく走り出した。
罪を背負いし武に休息の時間などありはしないのだから。








そう、どうしようもない、どうしようもないことなのだ。






【月宮あゆ@Kanon 死亡】
【坂上智代@CLANNAD 死亡】
805代理:2007/12/11(火) 02:46:00 ID:2Nvel4Qv
【D-4 神社付近/二日目 夕方】
【倉成武@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:永遠神剣第三位"時詠"@永遠 のアセリア-この大地の果てで-、貴子のリボン(右手首に巻きつけてる)】
【所持品1:支給品一式x24、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、バナナ(台湾産)(3房)】
【所持品2:C120入りのアンプル×5と注射器@ひぐらしのなく頃に、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、
      大石のノート、情報を纏めた紙×9、ベネリM3(5/7)、12ゲージショットシェル50発、ゴルフクラブ】
【所持品3:S&W M37エアーウェイト弾数4/5、S&W M37エアーウェイトの予備弾85、コンバットナイフ、タロットカード@Sister Princess、出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭】
【所持品4:トカレフTT33の予備マガジン10 洋服・アクセサリー・染髪剤いずれも複数、食料品・飲み物多数】
【所持品5:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×7 9ミリパラベラム弾58発】
【所持品6:銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルト80、キャリバーの残弾は50)、 バナナ(フィリピン産)(5房)】
【所持品7:包丁、救急箱、エリーの人形@つよきす -Mighty Heart-、スクール水着@ひぐらしのなく頃に 祭、
      顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)、永遠神剣第六位冥加の鞘@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【所持品8:IMI デザートイーグル 10/10+1、 IMI デザートイーグル の予備マガジン6、多機能ボイス レコーダー(ラジオ付き)】
【所持品9:サバイバルナイフ、トランシーバー×2、、十徳工具@うたわれるもの、スタンガン、 九十七式自動砲 弾数7/7
      九十七式自動砲の予備弾85発、デザートイーグルの予備弾85発】
【所持品10:クロスボウ(ボルト残24/30)竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス 釘撃ち機(10/20)】
806代理:2007/12/11(火) 02:47:24 ID:2Nvel4Qv
【所持品11:食料品沢山(刺激物多し)懐中電灯、単二乾電池(×4本)、ジッポライター、富竹のカメラ&フィルム4本@ひぐらしのなく頃に】
【所持品12:可憐のロケット@Sister Princess、 朝倉音夢の制服 桜の花 びら コントロール室の鍵 ホテル内の見取り図ファイル】
【所持品13:永遠神剣第七位"献身"、コルトM1917の予備弾25、コルトM1917(残り2/6発)、トカレフTT33 0/8+1、ライター】
【状態:肉体的疲労大、脇腹と肩に銃傷、腹部に重度の打撲、智代に蹴られたダメージ、女性ものの服着用】
【思考・行動】
基本方針:仲間と力を合わせ、ゲームを終わらせる
1:電波塔へ援護に行く
2:合流後、廃坑南口に向かう
3:瑞穂たちを心配
4:自分で自分が許せるようになるまで、誰にも許されようとは思わない
5:ちゃんとした服がほしい

【備考】
※制限が解かれたことにより雛見沢症候群は完治しました。
※キュレイにより僅かながらですが傷の治療が行われています。
※永遠神剣第三位"時詠"は、黒く染まった『求め』の形状になっています。
※海の家のトロッコについて、知りました。
※ipodに隠されたメッセージについて、知りました。
※武が瑞穂達から聞いた情報は、トロッコとipodについてのみです。
※確認はしてませんが蟹沢きぬは死んだと思ってます
807 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:45:23 ID:WZGZp/iD
さて、困ったもんだ)
電波塔に寄りかかり、辺りを見回しながら、人知れずに短く溜め息をつく。
(電波塔に寄りかかり、桜吹雪を眺めながら、タツタサンドを食らう……か)
とりあえず自分には詩文の才能は無いな、などとどうでもいいことを考えながら、
先ほどからの溜め息の一因である、直ぐ近くでキャンプ用の椅子とテーブルを広げて堂々と食事を行っている当面の相方に目をやった。

「ふうん、見慣れない物だけど、なかなかイケルじゃないか」
長い銀髪で、そこそこ背が高く、そして、何よりも目立つウサギのような……いや、事実ウサギそのものにしか見えない長い耳を生やしている男を。
ウサギのような、といっても、俗に言うバニーガール等のデフォルメされた飾りでは無い。 人の耳の位置から、実際に生えているのだ。
似たような動物に近い耳の生えた参加者達と同じ世界からやって来た、立場的には「客人」。
名は、「ハウエンクア」
見たところ、そこそこ身に覚えはありそうだが、それでも客として扱うほどの相手には見えない。
彼がそのままで戦うのなら、だが。

「ん? 何だいカブラギ、君も食べたいのかい?」
と、そこでこちらの視線に気付いたのか、ハウエンクアが声を掛けてきた。
「いや、遠慮しておく」
(暢気だな、オイ)
なんて本音はおくびにも出さずに答え視線を外し、タツタサンドをまた一口齧った。
というか渡された食料がタツタサンドなのは嫌がらせだろうか……
「そうかい、まあ、ボクも珍しいから食べてるんであって、そこまで美味しいとは思っていないんだけどね」
聞きもしないのに答えてきた。
「まあ、折角だから少しくらい食べておこうかなと思ってね」
と、言いながら湯に入れて暖めておいた、先ほどとは別のルウの缶を開けて、茹でてあったパスタの上にかける
(お前は昨日到着してからずっとそればかり食べてるだろ……)
というか、コンビニやら缶詰やらのスパゲッティ程度でそこまで喜ぶなら、いつか本格的に釜茹でのスパゲッティを作って食わせてやろうか……
などとどうでもいい考えすら浮かんでくる。
808 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:45:54 ID:WZGZp/iD

まあ待て、落ち着け。
今はそんな事はどうでもいい、と思い直し、思考を元に戻す。
そうして、数歩前に進みながら顔だけ振り向いて、自分が守るべき対象を視界に入れた。

最重要施設である『電波塔』
暗示の護りを解かれたこの施設の防衛が、現在の自分の……いや、自分達の急務である。
その為に、あのよく分からないが強大な『力』によってこの場所へとやってきたのだが……。
(人員が、足りん)
辺りを見渡しながら、一人愚痴た。
この場所にいるのは、自分とハウエンクアの僅か2名のみ。
その他、自分が指揮する山狗部隊の人員は、全て地下に残ったままだ。
(これで電波塔を守れとは、無茶な事を言ってくれるな…)
確かに、戦力を単純に数値化して見るならば、十分すぎるほどの『戦力』が派遣されてはいる。
今居る電波塔の少し前に見える、小山のように蹲る物体を眺めながら思う。
アレは、反則だろうと。
自分もそれなりに、普通ではあり得ない物を見てきたと思ってはいる、というか自分自身の体も普通にはあり得ない物だ、がそれにしてもアレは際立っている。

全長五メートル程の、巨大な身の丈。
材質不明の砲弾すら防ぐ強固な鎧と、それを自由に動かすこれまた材質不明の肉のような稼動部。
全身を鎧で固めた巨人『アヴ・カムゥ』
現存するどのような兵器すらも凌ぐ機動性と汎用性を併せ持つ、悪魔のような機体。
というか人型の兵器というもの自体、フィクションでしか見た覚えがないのだが……
兎に角そんな『化け物』という呼称が相応しい代物だ。

確かに、コレならばこの島にいるちっぽけな参加者達など、皆殺しにしてもお釣りが来るどころの話では無い。
(コチラが狩る側なら、だがな)
809 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:46:31 ID:WZGZp/iD

だが、それを踏まえた上で、桑古木は難題と判断した。
事は防衛戦である。
如何にアヴ・カムゥが強力だろうと、電波塔を破壊されてしまってはコチラの負けなのだ。
そして重要施設なだけあって、電波塔はそれなりにデリケートな作りだ。
まあ外から拳銃の弾程度で破壊されはしないが、車で突っ込まれでもしたらそれなりに被害が出る。
さらに言うまでも無く、物は直すよりも壊す方が容易い。

が、今回はそんなレベルの話では無い。
何しろ、「壊れたら直せない」のだから。

無論、機械に詳しいスタッフ自体は、優をはじめ何人かいるのだが、自分達主催側の本拠地は、水中にあるLemuである。
この場所は出入り口である廃鉱に近いとはいえ、地上に出る為に減圧処置が必要なLemuから、スタッフを派遣するだけで、最低二時間は掛かる。
しかも必要な部品、資材等は、スタッフが故障箇所を調べてから、改めてLemuに要請しなければならない。
この、最低限の移動時間だけで四時間。 
故障箇所の調査と修理の時間を含めると、……考えるのも馬鹿らしい。

が、これはあくまで直せるなら、の話である。
機械関係の総責任者であった鈴凛の裏切りは、致命的だった。
首輪に用いている装置は彼女のオリジナルであり、そこは他の人員ではどうにもならない。
だが、「それだけなら」そこまでは致命的では無い。
問題は、『彼女がどこまで裏切っていたのかがわからない』という点だ。
万が一、
万が一だ。
彼女が電波塔の資料そのものに手を加えていたとしたら、もうお手上げだ。
直したと思ったらドッカン、という事すらあり得る。
(まあ、そこまでした可能性は低いと思うんだが……それでもゼロじゃないな)
つまり、壊されてしまったら、そこまでなのだ。
810名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:46:37 ID:9IWmg6s1
 
811名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:47:31 ID:9IWmg6s1
 
812 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:47:52 ID:WZGZp/iD

さて、それを踏まえた上で、状況を見直してみよう。
戦場において、まず行うべきなのは相手を捕捉することだ。
平時なら、首輪の発信機と監視衛星によって簡単に行えるそれも、今の状況下では肉眼で行うしか無い。

そして、ここ電波塔は山頂に近い位置にあり、東西におおよそ150メートル、南北におよそ100メートルほどの楕円形に森が途切れている。
その楕円の西よりに山頂があり、円の中心から少し南西の位置に塔は立っている
施設そのものは巨大で、要するに島の何処からでも見る事が可能だ。
ついでに、その前には堂々と謎のデカブツが鎮座している。
敵からすれば、こちらの動向は丸見えだ。

それに対して、敵は何処から来るのかすら判らない。
電波塔の周囲から外側は、それほど深くは無いとはいえ、森に覆われている。
よほど運が良くなければ、たった四人の少女なんぞ捕捉出来る筈も無い。
最も単純に考えれば北の方から来る筈なのだが、あのデカブツを見て迂回するぐらいは考えるだろう。
そう考えると、いつ来るかすら不明だ。

さらに移動方法によっても到達時刻は変化する。
最もあり得る選択肢、車を調達した場合、
この森は車で通れはしないので、来るなら西と東に二つある林道のどちらかだ。
当然、そこは待ち伏せしやすい。
なら、近くまで車で来て車から降りて来るのが普通ではあるのだが……。
その、最も単純かつありそうな選択肢ですら、数十分程度の誤差が存在する。
この他にあり得そうな選択肢上げていくと、到着予想なんぞ最短の2時から、
監視設備の最も早い回復予定の6時くらいまでの4時間の何時かとしか立てられない。
813名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:48:08 ID:9IWmg6s1
 
814名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:48:37 ID:J9FtPCqI
815名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:48:41 ID:9IWmg6s1
 
816 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:48:46 ID:WZGZp/iD

(馬鹿らしくなって来るな)
中断していた双眼鏡による監視を再会しながら考える。
しないよりはマシだから。
…ちなみにハウエンクアはまだ食事中だ。
奴の頭には戦闘中という単語が存在するのかすら疑問に思えてきた。
まああんなものに乗っていては、戦闘なんて一方的な虐殺にしかならないから仕方が無いのかもしれないが、
正直、あの真面目そうな方の…確かヒエン…とまではいかなくても、山狗一個小隊の方がはるかに有り難い。

が、そうもいかない事情があった。

元々、山狗とは『東京』という組織から鷹野の指揮下に入るように言われているだけで、鷹野に忠誠を誓っているわけでは無い。
まあ、軍人である以上、命令には従うのだが、それでも鷹野のように楽しんでいる人間などごく少数、いや皆無かもしれない。
加えて山狗の中でも戦闘に秀でた連中は、前隊長である小批木の私兵じみたところがあった。
その小批木の死によって、数人が命令に従うことを拒否、このゲーム開始前に離脱している。
つまり、基本的に余分な人員は少ないのだ。
更に、その少ない人員から裏切り者――富竹と鈴凛の監視の人員を割き、
その他にも裏切り者がいないか洗い出す作業にもかなりの人手を回している。
そういうわけで、島のシステムが聖上なら兎も角、今の非常時には絶対的に人手不足なのだ。

そして、もう一つ根本的な問題がある。
そもそも、この島に居る連中の士気は、高いとは言えない。
まあ、突然変な島に連れて来られて、子供達の殺し合いを監視しろと言われてマトモな人間の士気が高いはずもないのだが。
加えて、見知らぬ人間が隊長に就任して、よく分からない人員も増えたと。
これでやる気を出せという方が無理だろう。

そんなわけで、山狗を派遣すると言う選択肢は無い。
817名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:49:12 ID:9IWmg6s1
 
818名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:49:20 ID:upT2mRRL
819 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:49:26 ID:WZGZp/iD


「やれやれ、心配性だな、君は」
漸く食事を終えたハウエンクアが、僅かに小馬鹿にしたような声を掛けてきた。
どうやら、俺の行動が余り御気に召さないらしい。
(お前が能天気すぎるんだろうが……)
声には出さずに毒吐く。
そんな俺の感情になど当然気付かずに、続ける。
「このボクがここに居るんだ、何人来ようが皆殺しにしてあげるよ」
(だから、皆殺しにしても無意味なんだよ)
極端な話、一人も殺す必要は無い。
別に人道がどうとかの寝言ではなく、電波塔の破壊を諦めてくれればそれでいいのだ。
まあ、万に一つ程度の可能性だが…。



(全く、何をそこまで警戒しなきゃならないんだろうね?
 このボクが居る限り、虫ケラが何人来ようが意味なんて無いのに)

そう、この『アヴ・カムゥ』がある限り、地を這う虫が何匹寄ってこようと、全て踏み潰すだけなんだから。
820名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:49:57 ID:J9FtPCqI
821名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:50:05 ID:9IWmg6s1
  
822名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:50:06 ID:upT2mRRL
823 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:50:11 ID:WZGZp/iD

(まあ、四人程度しかいないのが凄く残念だけどね)
気は進まないが、これも仕事だ。
本当なら、見える位置まで来てから乗り込みたいと思いながら、アヴ・カムゥの背中によじ登る。
アヴ・カムゥの使用は、以外と疲れるのだ。
だから余り長い時間乗り続けるのは御免蒙りたいのだけどね。
(全く、役に立たない連中だよ)
本部に居る連中は、無能揃いだね。
あんな小娘にいいようにやられて、それでボクの手を煩わせるんだから。
本当なら、あいつらが虫どもの位置を特定して、それからがボクの出番の筈なのに……
無能共のせいで余計な手間が掛かってしまう。

ついでに言えば、このカブラギが一緒に居るのも不満だ。
ボクの他に戦力なんて必要無いだろうに。
(まあ、カブラギ本人はそんなに嫌いじゃないが)
それにしたって、不満は募る。
まあ、監視してくれているっていうんだから、文句は言わないけどね。

「さて、これでもう何の心配も無いね」
アヴ・カムゥに搭乗して、カブラギに声を掛けてやった。
「まあ、一安心ではあるな」
うんうん、『一』安心ってのが多少気に食わないけど、まあ素直なのは良いことだよ。
もう、これでなんの心配も無いんだから。
「そうそう、大船に乗ったつもりでいなよ。
 ボクが全部片付けてあげるから」
カブラギの方に、視線を向けて、言ってやった。
824名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:50:53 ID:9IWmg6s1
 
825名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:50:54 ID:upT2mRRL
826 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:51:18 ID:WZGZp/iD

(でも、アレは何のつもりなんだ?)
ただそこでカブラギを見ていたら、再び不満が募って来た。
「それに君も出掛けに鷹野から何か貰っていたじゃあないか」
「ん、ああ」
…カブラギに対してじゃない、鷹野に対してだ。
カブラギが腰に差している赤黒い剣。
出掛けに、鷹野がカブラギに渡したものだ。
何で、そんな物を渡す必要がある?
ボク一人で十分に皆殺しに出来るのに。



「それに君も出掛けに鷹野から何か貰っていたじゃあないか」
「ん、ああ」
適当に聞き流していたが、少し意味のある言葉が聞こえたので、監視を一時中断することにした。
そして、右手を腰に、左手を懐にやって、
「こいつのことか」
出掛けに渡された物を手に取った。
赤黒い剣と、青い宝石、
鷹野曰く強力な兵器らしいのだが……
「正直、こんな胡散臭い代物を使う気はしないんだがな……」
いきなり渡されても、使い道に困る。
まあ、剣の方はそれなりに役に立つだろうが…
「おや、勿体無いんじゃないのかい?」
全然
「よく分からない物よりは使い慣れた物の方が信頼できるからな」
「ふうん、まあ真理だね」
それで、興味を失ったのか、ハウエンクアは再び別の方向を向いた。
827名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:51:32 ID:9IWmg6s1
 
828名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:51:34 ID:upT2mRRL
829 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:52:09 ID:WZGZp/iD

「………………」
再びしまいながら、考える。
『永遠神剣』
確かに、映像で見た限り、この剣の性能はかなりのものだ。
加えて、この宝石『マナ結晶』があれば、俺にも使用可能になるそうなのだが……
(余り有り難いとは思えん)
このマナ結晶とは固形燃料の類と考えればわかり易い。
燃料である以上は、当然消費されていくものだ。
で、使用出来る回数に限りがある以上試しづらい、ので性能が把握出来ない。
さらに、性能が把握出来たとしても、明確な消費がわからない代物など危なすぎる。
(ガソリンの残量が不明なバイクを渡された気分だ…
 いや、ある程度は見れば性能が解るバイクの方がマシか)

考えれば考える程気が進まない。
そして、この他にも最も気に入らない点がある。
「『誓い』…とはな…」
何となく声に出した。
皮肉な名前だ。
恐らく、今の俺には最も相応しく無い言葉だ。
そして、最も相応しい言葉でもある。
830名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:52:27 ID:9IWmg6s1
 
831名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:52:30 ID:upT2mRRL
832 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:52:54 ID:WZGZp/iD

かつて、共に助かると『誓った』仲間は、一人は死に、一人は今もこの島で戦っている。
その事は無論俺の心を乱す。
が、ソレらを強引に断ち切る。
俺は、その仲間を捨てて、ココだけを護ると『誓った』のだから。
だから、今の俺には相応しく、そして相応しくない。

(感傷…だな)
戦場でモノを考えるのは愚かな事だが、今はソレを自分に許した。
かつての『誓い』と今の『誓い』、俺は今の『誓い』を選んだ。
だが、恐らくあの男は、倉成武は、両方を選ぶと言うのだろう、
そう、確信している。

だから、思う。
今の俺を見て、武は何と言うのだろうか。
俺の事を、何と呼ぶのだろうか。
無意味な考えだ。
答えなど出はしないのだから…
(いや)
だから…考えた。
意味の無い事を。
…意味のある答えが見つかることを願って。

それ自体が、無意味と知りながら


833名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:53:20 ID:J9FtPCqI
834名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:53:54 ID:9IWmg6s1
 
835 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:54:10 ID:WZGZp/iD


(……せ…)

ん?
「ミズホ? 何か言ったか?」
「え? いえ、何も言ってませんよ」
前の座席―ジョシュセキというらしい―に座っているミズホが、わたしの方を向きながら答えてくれた。
「ん…そう…か?」
おかしいな
今、確かに誰かの声が聞こえた気がしたんだけど…
走っているクルマの中に居るのだから、ミズホにも聞こえる筈。

「別に羽入が近くにいる訳でも無いわね」
私の戸惑いを見て取ったのか、横に座っていたリカがそう言った。
ハニュー…
リカだけにしか見えない相手らしいけど、それが近くにいる訳でもないらしい。
「ん……」
空耳かな?
「もしかしたら、車酔いかもしれませんね」
ミズホが心配そうな声で言った。
クルマヨイ?
何だろう?

聞き返そうと思ったその時、甲高い音が鳴った。
それと同時に、体が前に流される。
「痛い」
前の椅子に体をぶつけてしまった。
見ると、隣のリカも同じような姿勢になっている。
「いたた……どうかしたんですか?」
前に居るミズホが、運転しているコトミに声を掛けた。
836名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:54:30 ID:9IWmg6s1
 
837名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:54:32 ID:upT2mRRL
838名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:55:27 ID:9IWmg6s1
 
839 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:55:32 ID:WZGZp/iD

「何……なの?」
返事の変わりに、戸惑いが帰ってきた。
それはわたしが聞きたい。
そう思って体を起こして、

異変に気付いた。
「……?」
クルマの周りに、ピンク色の花が舞っていた。


「……何、だっていうの……これは?」
車から降りて、辺りを見回す。
他の皆も、既に車を降りている。
「桜……でも、こんなに沢山、どこから?」
「おかしいの、桜の木自体は何箇所かで見かけたけど、どれも葉桜だったの」
「ん……綺麗」
あたり一面に舞い散る花びら、桜吹雪。
その美しい風景は、だからこそ不気味な印象を感じる。
だけど、不気味でありながらも、それを上回る美しさと儚さと、そして、神聖さすら感じる光景。
思わず、魅入ってしまいそうだ。
ああ、そもそも、――私が最後に桜を見たのは何時のことだったのかしら。
そんな…どうでもいい感傷すら湧き上がってきた。
瑞穂も、ことみも、呆然と見守っている。
アセリアは、なにやら興味深々といった感じで、キョロキョロと辺りを見回していたが……
840名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:55:42 ID:cemZfgWg
 
841名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:56:29 ID:J9FtPCqI
842名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:56:36 ID:9IWmg6s1
 
843 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:56:38 ID:WZGZp/iD

「サクラ?」
「あ、ええ、これは桜と言う花が散って、花びらが風に舞っているのです……でも」
「その、肝心の桜の木が何処にも見あたらないの」
瑞穂の説明を、ことみが引き継いだ。
そうなのだ、コレだけ沢山の桜が舞っていながら、何処にも咲いている桜の木が見あたら無い。
どう考えても、異常な状態なのだ。
「ん……」
納得したのかしてないのかわからないが、アセリアは宙に舞う桜の花びらを眺めていたが、少ししてその一枚を掴み取って、それをじ〜〜〜と眺めて、
やがて、掴んでいたそれを……口に入れた。

「あ! アセリアさん! 駄目です!!」
「ん……平気……」
「平気じゃありません! ぺっしなさいぺっ!」
「ん……んぺっ」
何処の親子だこいつら……。
「アセリアさん! 何でもかんでも口に入れてはいけません、って親御さんに言われませんでしたか!?」
「ん…………違うんだミズホ」
「違いません! お腹を壊したらどうするんですか!」
「いや……そうじゃなくて」

「この……サクラ?からは、少しだけどマナみたいな力を感じるんだ」
「は……?」
マナ?
お菓子が……何?
「この、……花びらからですか?」
「ん」
「それは……興味深いの」
844 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:57:27 ID:WZGZp/iD

どうやら、私以外には通じているらしい。
……微妙に疎外感を感じるわね……
「ちょっと待って。 その『マナ』って何?」
「あ、そういえば説明していなかったの」
私の疑問に対してなされたことみの説明によると、アセリア達の世界に存在する力の事らしい。
なんでも生命の源みたいなもので、あの神剣という武器を使用するのに必要な力だとか。
フィクションでいうところの『魔力』と近しい代物かもしれない、とか。
実際に、千影という参加者が、その魔力で神剣を使っていたそうだ。

…まあ、私自身(というか羽入)がかなり非常識な存在なのは判ってるけど…
それにしたって…もう少し普通な人が多くてもいいんじゃないの?



「ちょっと待つの、アセリアさん、この桜の花以外の植物からは、マナを感じないの?」
「ん……少し待ってくれ」
そういうとアセリアさんは、トテトテと近くに植えてある街路樹……イチョウの葉を一枚取って、またそれを口にした。
「……他に調べる方法は無いのですか?」
「ん……これが一番判る……ような気がする」
「確信が無いならやめなさい!」
「ん」
そうして、また“んぺっ”と吐き出した。
その吐き出した唾液が、少しして金色の光になって消えていく。
そうして残るのは少し噛み跡の付いたイチョウの葉のみ。
(もしかして、体外に排出された物質は、みんな消えてしまうの?
 だとしたら、何てうらやまs……ゲフンゲフン、何て不思議な生態なの)
「特に感じない」
「そう、という事は」
「この花びらは、何か魔術的な物と見て間違い無いの」
845名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:57:59 ID:J9FtPCqI
846名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:58:24 ID:cemZfgWg
 
847 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:58:55 ID:WZGZp/iD

アセリアさんの言葉から判断すると、そうなる。
でも、
「でも、これは妨害なんでしょうか?」
瑞穂さんが、私の気持ちを代弁してくれた。
そう、目的が見えないの。
「特に、敵意は感じない……ん、強いて言うなら……悲しいとかそんな感情を感じた気がする」
「悲しみ……ですか?」
「ん、でも微弱すぎて、詳しくは判らない」

悲しみ?
鷹野が悲しんでいる……ないの。
「鷹野の仕業ではないと?」
「断言は出来ない。 でも、多分違う気がする」

舞い散る桜は、止む気配を見せない。
けど、何一つ理解も出来ない。
私たちはしばらく、その場に居た。



とりあえず、害は無さそうという事で、わたしたちは再び移動することになった。
でも、その前に…
「ところで、ミズホ、親御さんってなんだ?」
さっき気になった言葉について尋ねてみた。
「は?」
ミズホは何だか呆然としている。
コトミとリカも、同じような顔だ。
……もしかして、また何か変な事を言ってしまったのだろうか……
848名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:59:06 ID:mV6VFYXu
849名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 22:59:16 ID:J9FtPCqI
850 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 22:59:59 ID:WZGZp/iD

「えーと、両親の事ですよ。
 お父さん、お母さんとか」


……あ、
「そうか、人間は、オヤから生まれるんだったな」
そう言えばエスペリアに聞いた事がある。
わたしたちと違って、母親のお腹から生まれるとか。

「……待って下さい。
 アセリアさんは……違うんですか?」
ん、
ああ、
「ん…わたしたちスピリットは神剣と共に生まれる。再生の剣から生まれて、戦って、そしていつかはマナの霧となり、再生の剣に還る。
 それが、わたしたちだ」
何だか驚いたような顔をしている。
何でだろう?
「いつ、どこで生まれたのかは覚えていない、わたしはラキオスの森の中にいたらしい」
「ちょ、ちょと待つの」
コトミが、慌てたような声を出した。

「えっと、その……神剣と共に生まれる?」
「ああ、わたしたちは、生まれたときから死ぬまで、神剣と共にある。
 神剣と一緒に、戦う」
「戦う……」
何だか、また呆然としている。
「うん、戦うのはスピリットの定め。
 それが、スピリットの生きる理由」
そう、教えられた。
851名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:00:21 ID:J9FtPCqI
852 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:00:34 ID:WZGZp/iD

少しの間、言葉が途切れた。
何か喋ろうと思って、そこで、
「アセリアさんは…それでいいのですか?」
ミズホが問いかけて来た。

ん…
それを疑った事は、無かった…少し前までは。
「そう、思ってた。
 でもユートは、戦う以外の目的を見つけろと言った。
 その時はよく判らなかったけど、この島に来て、何となく判って来た気がする」
まだ、上手くは言えないけど。



この島で、最も長い間共にいたというのに、僕はアセリアさんの事を何も知らなかった。
いや、知ろうとしていなかった。
その幼い言動、無垢な眼差し、疑いを知らぬ心。
戦うことに躊躇いを持たず、死ぬことにすら恐れを抱かない。
そんな人間が、存在するとしたら、それはどのように育ったのだろう。

「アセリアさんは…それでいいのですか?」
聞いてしまった後に、失言だと気付いた。
良いも悪いも、無い。
「そう、思ってた」
それが当たり前だったのだから。
アセリアさんの返事がそう告げていた。

「でも」
え?
「ユートは、戦う以外の目的を見つけろと言った。
 その時はよく判らなかったけど、この島に来て、何となく判って来た気がする」
853名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:01:03 ID:cemZfgWg
 
854名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:01:11 ID:9IWmg6s1
 
855 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:01:20 ID:WZGZp/iD

その瞳は、戸惑いと、そして嬉しさのような色を放っていた。
ああ、そうか。
高嶺さんも、同じ事を思ったんだな。
この少女に、自分の幸せを考えて欲しいと

そう、思ったんだ。

「アセリアさん…」
「ん……?」
「何か、やりたいと思う事はありますか?」
「え?」
「高嶺さんが言ったように、戦う以外に、やってみたい事は、ありますか?」
「ん……?」

思わず、聞いていた。
何か、願いがあるなら……
それを、かなえてあげたいと思った。
願いがある事を、……望んだ。


「そうだな、わたしは…ハイペリアに行ってみたい」
やがて、帰ってくる答え。
「ハイペリア?」
「ん、ユートや、ミズホ達の世界。
 星の向こうにあるらしい」
僕の問いに、アセリアさんの答え。
「人は、死ぬとハイペリアに行くのだと聞いた。
 わたしはスピリット、人間じゃない、でも一度、ハイペリアをこの目で見てみたい」
「海の彼方……星の世界……龍の爪痕の彼方……
 わたしは……ハイペリアに行ってみたい」
856名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:02:04 ID:cemZfgWg
 
857名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:02:16 ID:J9FtPCqI
858 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:02:56 ID:WZGZp/iD

純粋な、ただ憧れだけを秘めた瞳を見て。
僕は、思わずアセリアさんを強く抱きしめていた。
「ん……どうした? ミズホ?」
少し戸惑ったようにアセリアさんが問いかけて来た。
でも、構わずに抱きしめ続けた。
そして、少しして、
「行きましょうね……アセリアさん」
「ん?」
「終わったら、何もかも終わって、この島から帰ったら、必ず、行きましょうね……ハイペリアに」
「…………うん!」
アセリアさんは笑顔だった。
僕も、笑顔で答える。
僅かに感じた哀れみに似た感情を、見せないように。



「ん、そろそろ行こう」
「ええ、そうですね」
アセリアさんの声に答えて、車の方に向かう。
と、そこでことみさんが何だか複雑な目で僕の事を見ていた。 
見ると、梨花さんも同じような……こちらは少し戸惑いといった感じだが……視線を向けていた。
「…………」
「…………」
沈黙
なんだろう、この微妙な空気は?
なんだか痛い。
なので、耐え切れずに声を出そうとした時、
859名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:03:26 ID:J9FtPCqI
860名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:03:47 ID:cemZfgWg
 
861 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:03:52 ID:WZGZp/iD

「瑞穂さん……まさかとは思っていたけど……まさか、よ、よ……幼女趣味だった、の」
「みーー、寄るな変態。 なのですよ」
は?
え?
そ、それは、そ
「レズで幼女狙いだなんて、とんだ変態女郎なのです。 とりあえずボクの周囲半径5メートル以内には近づくななのです」
「レ……? ああ、そういえばそうだったの、梨花ちゃん、瑞穂さんは実は……」
「ま、待って下さい!! ことみさん!」
いくらなんでもそれは不味い。
レズの幼女好きと、女装趣味の幼女好きでは変態度が………………どっちにしろ変態です本当にありがとうございました。
我ながら……泣きたくなって来る。
行くも地獄、進むも地獄。
ああ、ここが終着点か、思ったよりも近かったな。

「ん…違う」
え?
ア、アセリアさん、今度も僕を助け……
「わたしは、幼くない」
てはくれなかった。
違うんですアセリアさん。
この場合、自己申告に意味は無いんです。
ああ、そして、この僕の思考自体が一番間違っている…

「どっちにしろ、ガチだったのは確かなのです。 つまりここに居る全員が危険ということは変わらないのですよ」
「まあ、そういう事なの」
アセリアさんの主張に、一定の譲歩を見せたけど、二人の態度は変わらなかった。
そうして、僕は空気に耐え切れずに、地面に突っ伏してしまった。

違うんです……ただ純粋に、アセリアさんの事が大切に思えた、それだけなんです。
断じて、邪な気持ちは、無いのです……………
862 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:04:26 ID:WZGZp/iD


「まあ、冗談は此処までにしましょう」
「うん、そうするの」
動かなかった瑞穂が、私たちの会話に僅かに反応した。

「じょ……冗談、だったんですか?」
瑞穂が、縋る様な目を私たちに向けてきた。
なので、思いっきりの笑顔で、
「寄るな変態」
「………………」
叩きつけてあげた。
少し上を向いていた顔が、思いっきり沈んだ。
……うん、面白い。
思わず、かわいそかわいそと撫でたくなる位だ……やらないけど。

隣でことみが苦笑していたが、ややあって、
「瑞穂さん、ずるいの」
ことみが笑顔で言った。
「…………ずるい……ですか?」
「ええ、とっても、ずるいわね」
瑞穂の反応に、私もことみと同じ事を告げた。
瑞穂は、半泣きのままハテナ顔だ……器用ね
まあ、とにかく確実に解っていない瑞穂に、
「うん、ずるいの。 私も、私だって、アセリアさんと一緒にハイペリアに行ってみたいの」
「勿論、私もよ。 一人だけ抜け駆けなんて、ずるいわよ。
 行くのなら『皆』で行きましょう」
ことみと私の、同じ想いを告げた。
863名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:05:19 ID:cemZfgWg
 
864 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:05:54 ID:WZGZp/iD


何だろう?
とても、暖かさを感じる。
理由は、判ってる。
皆のおかげだ。
でも、何でだか判らない…
だから、
「ありがとう、皆」
お礼を、言った。

「あ、いえ、お礼を言われるような事では無いと思うの……」
「みー、ボク達は、思ったことを言ったのです」

ううん、
「そのことじゃあ、無いんだ」
これは、そう思えたそのものに対する感謝。
「ミズホも、コトミも、リカも、
 アルルゥも、エスペリアも、アカネも、
 チカゲも、サラも、……ユートも」
この思いは、そう、
「皆が、私に色々なものをくれた。 それはきっと……
 とても大切なもの…」
だから
「皆と出会えて…うん」
「…わたしは幸せ!」
精一杯の、感謝を伝えた。
865名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:06:31 ID:cemZfgWg
 
866 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:06:31 ID:WZGZp/iD


「「「…………」」」

…………あれ?
もしかして、また何か変な事を言ってしまったのだろうか……
「あ…その、皆に会えた事に、感謝しているんだ…
 別に、この戦いがどうとかそんなのじゃ……」
慌てて…とりあえず変なような気がする所を弁解してみる。

「「「クスッ」」」
え?
「違いますよ…アセリアさん」
「うん、少し驚いたの……嬉しくて」
「みー、少し敗北感を覚えた気がするのです」


「ええ、私も、…いえ、私たちも、アセリアさんと…
 皆と出会えて、幸せです」
「辛い事や、悲しい事は、沢山あったの。
 でも、幸せと思える事も、間違いなくあるの」
「アセリアだけじゃ無いわよ。
 私たちも、確かに幸せだと思ってる」 


「皆……うん!!」
そうか…私だけじゃないのか…
私が幸せと思うことが、皆も幸せと思える。
それは、凄く…嬉しいと思う。

そう、この気持ちも、皆に貰った。
だから、皆は、私が…守る!
867 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:07:28 ID:WZGZp/iD


「……よし! これで完成!」
「へーえ、これがかい」

やったよ、瑛理子。
ようやく、貴女にもらったコレが使えるようになった。


私とあゆは、ホテルに来ていた。
ハイキングコースに従って山頂を目指していたら、どうやらかなりの迂回路だったみたい。
途中で、ホテルと山頂の分かれ道になってた。
分かれ道にあった案内板によると、山頂の方が僅かに近い程度の距離。

と言っても、山を登る道と平坦な道では疲労度は登りの方が遥かに上。
そこで、あゆが一度ホテルの方に行くと言った。
理由は簡単。
私が余りにも疲弊しているから。
ここに来るまでの道のりで散々遅れておいてなんだけど、勿論反対はした。
でも、結局押し切られてしまった。
疲労の極地で塔までたどり着いても、結局ほとんど何も出来ないから。
今のペースだと、ホテルで車を調達した方が早いくらいだからと。
そして悔しい事に、私自身があゆの言葉の方に理があると理解していた。

それでホテルまでやって来たのはいいんだけど、私がロビーのソファにドッサリと……今思うとかなりはしたない気もするけどまあ疲れてたんだし……腰を下ろした。
そして、そのまま少し目を瞑ったら、直に睡魔が襲ってきた。
868名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:07:39 ID:cemZfgWg
 
869 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:08:02 ID:WZGZp/iD

で、目が覚めたらあゆは居なかった。
あったのは目の前のテーブルに置かれた“すぐ戻る”の書置きと、私の体に掛けられた毛布のみ。
時計を確認したら30分くらいは寝てしまったみたいだった。
とりあえずこの状況下で堂々と眠れる私の体と、何処かに行ってしまったあゆに腹を立てつつ、
そういえば腹が立ったらお腹が空いたなーとかのんびり考えて数秒、
とりあえずテナントエリアへと行った。
荒らされてた。

でもまあ食料品はかなりあったので、適当にその辺からサンドイッチを取り、パクつきながら、
…人間って、どんな状況でもお腹は空くみたいね、
とか考えながら歩き回っていたら、
「こんなとこに居たのかい?」
とあゆがやって来た。
何処に行っていたのかと聞いてみたが、言葉を濁すだけで答えなかった。
そうして、あゆもその辺からパックになってるスパゲッティをレンジでチンしだした。
なので、私ももう一つサンドイッチを失敬しておいた。
…マグロタツタって珍しいな。

そうして柱の傍に設置された長いすに腰掛けて、遅めのランチタイムを迎えて数分後、
「地下の駐車場を確認してきたけど、何台かは動くみたいさね」
スパゲッティを半分位平らげたあゆが、そう話を切り出した。
…朗報ね。
これでまた歩いて山を登っていくなんて事になってたら、目も当てられ無かったかも。
「そう、それじゃあ食べ終わったらすぐに山頂に向かうとしますか」
タツタサンドの包みを丸めながら答える。
別にホテルに長居する理由なんて無いからね。
870 ◆/Vb0OgMDJY :2007/12/11(火) 23:08:40 ID:WZGZp/iD

「ん、もう元気になったのかい?」
「うん、もう大丈夫!」
少し空元気を混ぜながら威勢よく答えておいた。
ここでもう少し休んでいくなんて事になっても困るし。
…いやまあ私の事を心配してくれているんだから文句は言えないんだけどね。
と、そこでとりあえず元気な事を見せるために、
「他のみんなの分の食べ物と、後何か役に立つものがないか見てくるね」
少し強引に席を立ち、喫茶店を出た。
「無理するんじゃないよー」
というあゆの声が、何だか無性に嬉しかった。

そうして、幾つかの店をまわって、適当に持ち運びのしやすい食べ物を買い物籠に入れる。
デイパックはあゆの所に置いたままだ。
何となく不便さを感じながらも、他にも消毒液やら包帯やらを籠に入れていく。
…あの時にこれがあれば、三人は助かったのかもしれない。
考えても仕方の無い事だけど、つい考えてしまう。
胸にこみ上げた悲しみを振り払うように、店を出て、
「あいたっ!」
何かに足をぶつけた。
「痛ったーー……何よ一体!?」
とりあえず少し涙目になりながら、ソレを見た。
一斗缶だった。
そう、一斗缶。
燃料を入れておくアレ。
それが何故だか廊下の端に置かれていた。
「……何でこんな所に置いてあるのよ…」
決まっている、此処に来た誰かが置いた訳だ…目的は不明だけど。
痛かった所を見ると中身はそれなりに入っているのだと思う。
(こんなとこに置いておいて火事にでもなったらどうするのよ!)
と、半ば八つ当たり気味に缶を蹴ろうとして……止めた。
871名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:09:33 ID:cemZfgWg
 
872名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:10:28 ID:31ij95fQ
 
873名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:11:23 ID:mV6VFYXu
874名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:14:52 ID:9IWmg6s1
 
875名無しくん、、、好きです。。。:2007/12/11(火) 23:17:14 ID:9IWmg6s1
 
876 ◆/Vb0OgMDJY

「ん?」
一斗缶……燃料……火事……はて?
何か、引っかかったような…?
一斗缶……燃料……燃やす……火事……火事…………火……
火……火を見たのはあの時……そう、瑛理子が、死んだ時…………。
(瑛理子……)
思い出せば、悲しみが襲って来る。
でも、何か少し違う…。
何だろ?
解らないときは…整理してみる。 探偵の基本だ。
あれは、農場。
月宮あゆと佐藤良美、それに今は仲間だけど智代、に襲われて、私を逃がす為に火を付けた。
でも……そもそも、何で農場…に…………

「!!」
走り出した。
買い物籠は無意識にその辺に放り投げた。
でもそんなこと気にせずに、全速力であゆの居る喫茶店へ。
「ど…どうしたさ?」
突然の行動に驚いているあゆには答えず、私のデイパックを引っ掴み中身を漁ること数秒、目的の物を発見して急いで確認する。
そうして、目を丸くしているあゆに
「手伝って! 
 凄いものが出来るわ!」
満面の笑みで伝えた。


そうして、慣れない作業に悪戦苦闘しながらも、何とか作り上げた。
瑛理子の形見の品、爆弾を。
威力は……紙に書かれた内容だと、図書館くらいならヤバイかも。
まあ、そんな危険な物を持ち歩く訳にもいかないので、信管はまた外したけどね。