FFの恋する小説スレPart9

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464名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/18(金) 12:05:03 ID:QVODFYYx0
乙!
465名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/19(土) 17:04:40 ID:YShqw6KT0
466名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/21(月) 10:41:45 ID:GyVhLsW00
467名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/22(火) 23:15:26 ID:gTC1Mxti0
468名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/24(木) 10:15:52 ID:Z4UYNrqD0
469名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/25(金) 09:56:28 ID:b5ogqpml0
470名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/26(土) 12:21:21 ID:E0BimpPj0
471名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/27(日) 11:23:07 ID:1dZhkT/B0
472名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/27(日) 17:15:48 ID:Ci1DdvMxO
473名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/28(月) 19:10:50 ID:kR4blpeS0
474名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/30(水) 17:08:45 ID:hfybAENf0
475名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/31(木) 14:15:19 ID:dd7Gqytv0
476名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/01(金) 09:00:18 ID:hed5ejNN0
賀正
477『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 :2010/01/01(金) 16:17:44 ID:2czqwAhk0
FFTA2のアデル視点で進む、クリア後外伝(+パラレル展開)なお話です。
ジャンル自体がマイナーな上にFF5や6のキャラと絡むため
色々知ってる人向けになりますが…これでも楽しんで頂ければ幸いです。

『Trois Grimoire』 -トリア・グリモア(三つめの魔道書)その1-

第一話 アデル、旅立つ
----------------------------------------------------------------
「あーあ…」
青空の下、アデルは幾度となく溜息を漏らした。
「なンだ、アデル。まーたボーッとしてンのか?」
シドはその様子を見て、やれやれと肩をすくめた。
「"あいつ"がいなくなってから、もう1年も経つってのによ。
 お前、見た目より案外ナーバスなンだな」
アデルはいつもの憎まれ口を叩くシドに、いつもの調子で答える。
「お生憎様。あたしは、ルッソのことなんて考えてませんから!」
シドはそれを聞いて、ニヤリと笑った。
「あぁン?誰が"ルッソ"って言ったよ?」
アデルはハッとなって、赤面した。
(しまった…シドってば、結構人の気持ちに鋭いんだから、嫌んなっちゃうわ…)
だがすぐに元のアデルに戻る。
「はいはい、誰も言ってませんでしたわね。でも、1年前にいなくなった
 "あいつ"って言えばルッソ以外に誰がいるのよ?」
「はは、違ぇねえ。こいつは一本取られたな」
「っとに、もう」
アデルはまた、フゥと溜息をついた。
その目は今日も、青々と広がる空を見ていた。
ここはイヴァリース。
剣と魔法の支配する、ファンタジーの世界。
その世界の、とある小さな町で。
一人の少女は、異世界…普通の人間にしてみれば『現実』と呼ばれる世界からやってきた
一人の少年の事を思い出していた。
478『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 :2010/01/01(金) 16:19:58 ID:2czqwAhk0
「しかし、なンだな。ルッソがいねえと、このクランもなんだか火が消えたみてぇに
 さびしくなっちまったな」
シドが感慨深げに言う。
「そうね。あいつは随分張り切ってガリークランを盛り立ててたもんね。
 人生半分投げやりな、隠居気味のおじさんと違ってさ」
「ははっ、手厳しいな。だがまあその通りだ。
 …それに、オレはそもそも、そういう役目を担うような器じゃねぇンだよ」
「な〜んか、言い訳がましい」
「どうとでも言えよ。それより、あいつはどうしてんだかな。おばさんに迷惑かけてねぇだろうな」
「さぁねえ。あいつのことだから、イタズラばっかやって、でも何だかんだ言って周りを楽しませてるんじゃない?」
「オレ達も随分、楽しませてもらったしな」
「そうね」
あいつはいつもそうだった。
自分が楽しむ事が第一で。
そのくせ、他人も一緒に楽しく遊べたらいいなって思ってるヤツで。
不思議なくらい、人を巻き込んじゃう魅力があった。
…少なくとも、あたしは。
あいつのお陰で、独りぼっちだった人生から、抜け出せた。
「…会いたいンじゃ、ねぇのか?」
479『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 :2010/01/01(金) 16:21:27 ID:2czqwAhk0
シドが薮から棒にそんな事を言い出した。
「なによ、突然。あたしは別に…」
アデルはシドに向き直り、いつもの軽口に対するいつもの返しをしようとした…。
そして、いつものからかい口調じゃない事に気づく。
「実はな、会えるかも知れねえンだ。…真剣な話だぜ?」
シドは嘘を言ってるような顔じゃなかった。
大体、このおじさんは嘘をつくのが下手糞だ。
あたしのほうが、まだ上手に嘘をつける。
「へぇ?もしかして、あいつをこっちの世界に呼び戻せたりするの?」
あたしは半信半疑で尋ねてみた。
まったくの嘘じゃないだろうけど、今更そんな事が出来るとも思えなかったからだ。
「いや、その逆だ」
だが、シドの答えは意外なものだった。
随分、具体的な話らしい。
「逆っていうと…」
あたしは喉まで出かかった言葉を、シドが引き継いでくれるのを待った。
シドはたっぷりと間を置いて、もったいぶって答える。
「アデル、お前が"あいつの世界"に行ける方法があるんだ」
「!」
実を言うと、ほんの少し…ほんの少しだけ、予想はしていた。
…期待もあった。
だが、本当にそんな方法があるんだろうか?
まだ、話半分に聞いておいたほうが良さそうだ。
ぬか喜びは、したくないから。
480『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 :2010/01/01(金) 16:22:31 ID:2czqwAhk0
そんなあたしの葛藤を知ってか知らずか、シドは構わずに続ける。
「ラザフォードさんの事は覚えてるよな?」
「そりゃあね。随分お世話になったもの」
シドが口にしたのは、やはりというか、
あの『大魔導師』ラザフォードの名だった。
話の信憑性が、少しずつ高まっていく。
「この間、アルダナ山へクエストで向かった時にな。ついでだから、
 挨拶に行ったのさ。その時にお前の話もしててよ」
「ちょっと、何話したのよ?」
あたしは狼狽した。
自分のいないところで自分の噂話をされるのは、あんまり気分が良くない。
「何、お前が毎日、ルッソに会いたがっててしょうがねえってな話さ」
「適当な事吹いて回らないでよ!?」
全力でツッコんだ。
そんな目に見えて会いたがってる素振りは見せた覚えがない。
…ハーディの前では、見せちゃった事あるけど。
「そしたら、やっこさんが一冊の本を見せてくれた」
「さらっとスルーしないでくれる!?あたしのツッコミ、超カラ回りしてんだけど!」
「で、その本ってのがよ…グリモアらしいンだ」

「ちょっと!人の話………………………………え?」

そこで空気が張り詰める。
「だから、グリモアだよ。ルッソがこっちの世界に来る時に持ってた手帳そっくりなンだ」
あたしはツッコミも忘れて、呆けた。
…まさか。
あいつが持ってた、この世界の『穴』を封じるための魔道具。
そして、こっちの世界に来たきっかけでもある、あの『グリモア』が。
今、ラザフォードの手に、ある?
481『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 :2010/01/01(金) 16:24:10 ID:2czqwAhk0
「それじゃあ…」
あたしは全てを理解した。
シドは、言っているのだ。
「お前が望むなら、行ってきたらどうだ?」
そう。
確実ではないかもしれないにせよ、ルッソの世界へ行く手段がある。
シドもそれを止めない。むしろ、背中を押してくれているのだ。
「…いいの?」
あたしは思わず、躊躇してしまった。
あたしの居場所。
あいつが作ってくれた、心地よい居場所。
あいつに会いたいという一心だけで、捨ててしまっていいのだろうか。
「いいも悪いも、お前が決めるこった」
シドはそう言って、ニカッと笑った。
「会いたいんだろ?あいつに」
…余計な一言を付け加えて。
「ああ!もう!」
あたしは覚悟した。
そうよ。会いたい、会いたい、会いたい!
「…会いたい!会いたいわよ!あいつに会いたい!だから、クラン抜けるわ!悪い!?」
我ながら、なんか逆ギレっぽかった。今、絶対真っ赤な顔してる、あたし。
ああ、恥ずかしい。
でも、これはデリカシーのないシドが悪いと思う。
「悪かねえよ。素直になるのは、全然何にも悪いことじゃねえ」
シドは急に真顔で、そんな恥ずかしい事を言った。
「…はぁ。ホント、空気読めないところがあいつに似てきたわね、シド」
「おかげさまでな」
あたしは呆れつつも、何かが吹っ切れた気分になった。
…ありがとう、シド。
あたし、行ってくる。
そして、きっと、戻ってくる。
あたしは口に出せない気持ちを飲み込み、ただ一言だけこう言って別れの言葉にした。

「さよならは言わないわよ。だって、また戻ってくるんだから!」

あいつとの別れの言葉。
今度はそれを、シドに言う事になるとは思わなかったけれど。

…あたしには、帰るべき居場所がある。

大丈夫。
もう、あたしは独りじゃないんだ。

そう思うと、異世界へ旅立つという決意が…まるで、ピクニックへ行くときのように軽
482『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 :2010/01/01(金) 16:25:22 ID:2czqwAhk0
そう思うと、異世界へ旅立つという決意が…まるで、ピクニックへ行くときのように軽く感じられた―――――
483『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 :2010/01/01(金) 16:26:44 ID:2czqwAhk0
ごめんなさい、最後コピペミスりました、台無しだぁ;;

一応HTML形式のがあるので、そっちで読んで頂くというテもあります。
484名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/02(土) 17:12:15 ID:RfpR4thT0
乙!
485名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/04(月) 19:11:58 ID:ZC9ZvrgN0
乙!
486名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/06(水) 05:12:26 ID:wquZTinA0
GJ!
487名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/07(木) 09:45:18 ID:Gdfkzu3f0
488名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/08(金) 17:20:47 ID:+Q88Po490
489名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/10(日) 13:37:56 ID:ahx/fjx60
>>477-481
乙!
FFTA2はやったことがないんですが、(本繋がりで)5は古代図書館とかあるから絡ませ易いかな〜
などと予想しつつ、今後の展開を楽しみにしてます。


ところで、現時点でスレの容量が471kbなので、そろそろ次スレのテンプレを準備してみた。
500kb容量制限があるので、レス数が1000未満でも書き込み不可になりますので、
スレ立て可能な方、頃合いを見計らってよろしくお願いします。
490Part10 >>1:2010/01/10(日) 13:39:24 ID:ahx/fjx60
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
=======================================================================
 ※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
 ※sage推奨。
 ※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
 ※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
 ※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
 ※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================
前スレ
FFの恋する小説スレPart9
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1230802230/
記述の資料、関連スレ等は>>2-5にあるんじゃないかと思います。
491Part10 >>2:2010/01/10(日) 13:41:24 ID:ahx/fjx60
【過去スレ】
初代スレ FFカップルのエロ小説が読みたい
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1048776793/
*廃スレ利用のため、中身は非エロ
FFの恋する小説スレ
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1055341944/
FFの恋する小説スレPart2
http://game5.2ch.net/test/read.cgi/ff/1060778928/
FFの恋する小説スレPart3
http://game8.2ch.net/test/read.cgi/ff/1073751654/
FFの恋する小説スレPart4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101760588/
FFの恋する小説スレPart5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1134799733/
FFの恋する小説スレPart6
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1150527327/
FFの恋する小説スレPart7
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162293926/
FFの恋する小説スレPart8
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1191628286/


【FF・DQ板内文章系スレ】
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら15泊目
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1251966357/
492Part10 >>3:2010/01/10(日) 13:43:23 ID:ahx/fjx60
【お約束】
 ※18禁なシーンに突入したら、エロパロ板に書いてここからリンクを貼るようにしてください。
   その際、向こうに書いた部分は概略を書くなりして見なくても話はわかるようにお願いします。
【推奨】
 ※長篇を書かれる方は、「>>?-?から続きます。」の1文を冒頭に添えた方が読みやすいです。
 ※カップリング・どのシリーズかを冒頭に添えてくれると尚有り難いかも。

 初心者の館別館 http://m-ragon.cool.ne.jp/2ch/FFDQ/yakata/

◇書き手さん向け(以下2つは千一夜サイト内のコンテンツ)
 FFDQ板の官能小説の取扱い ttp://yotsuba.saiin.net/~1001ya/kijun.html#kannou
 記述の一般的な決まり ttp://yotsuba.saiin.net/~1001ya/guideline.htm
◇関連保管サイト
 FF・DQ千一夜 ttp://www3.to/ffdqss
◇関連スレ
FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の3
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1182600123/
◇21禁板
 FFシリーズ総合エロパロスレ 6
 yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1258013531/
 FFDQカッコイイ男キャラコンテスト〜小説専用板〜
 jbbs.livedoor.jp/game//3012/
【補足】
 トリップ(#任意の文字列)を付けた創作者が望まない限り、批評はお控えください。
 どうしても議論や研鑽したい方は http://love6.2ch.net/bun/

 挿し絵をうpしたい方はこちらへどうぞ ttp://ponta.s19.xrea.com/
493Part10 >>4:2010/01/10(日) 13:46:19 ID:ahx/fjx60
【参考】
 FFDQ板での設定
 http://schiphol.2ch.net/ff/SETTING.TXT
  1回の書き込み容量上限:3072バイト(=1500文字程度?)
  1回の書き込み行数上限:60行
  名前欄の文字数上限   :24文字
  書き込み間隔       :20秒以上※
  (書き込み後、次の投稿が可能になるまでの時間)
  連続投稿規制       :5回まで※
  (板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
   1スレの容量制限    :512kbまで※
  (500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)



            //--テンプレここまで--//



見落としや誤記があったら追加訂正希望です。
もしかして千一夜スレって落ちてますか?
494名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/11(月) 01:43:50 ID:OYXbovA10
FFの恋する小説スレPart10
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1263141359/
495名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/13(水) 02:33:39 ID:td8knYoC0
>>494
乙!
496名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/16(土) 21:15:09 ID:RvB+7qTf0
497ラストダンジョン (347)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/19(火) 02:27:55 ID:Ij0L1OfV0
前話:>>455-459
----------
「ここはどこで、あなたが何者なのか。ご説明いただけませんか?」
 年の頃は自分と同じか少し上、とても落ち着いた雰囲気にそぐわない髪結いの大きなリボン――
もっとも、幼少期以降をディープグラウンドで過ごしたシェルクにとって、リボンなどの装飾品には
縁がないという背景もある――が強くシェルクの印象に残った。彼女から悪意などは感じられない
ものの、先程からここの事や、この先の事を予見しているような物言いに対する不信感は拭えない。
「ここ、古代種の神殿。でも、今はもう無い。だから、記憶を元に再現された場所」
「その記憶は、あなたの?」
 首を振ってシェルクの問いを否定すると、女性は無言のまま祠の奥へと歩き出す。祭壇の前まで
来ると、振り返ってからこう告げた。
「鍵、開けるね。あなたの探してる人、この先にいるから」
 女性が取り出した石を祭壇に置くと、先ほどと同じようにしてフィールドには強いノイズが現れた。
「私にできるのは、ここまで」歪み始める周囲の風景と共に、女性の輪郭が徐々にその形を失っていく。
最後にもう一度「がんばって」と言い残すと、女性はシェルクに背を向けて歩き出した。
「待って! あなたは……?」
 シェルクの声に答える代わりに、振り向きざまに笑顔を浮かべた。その笑顔はやがて静かに消え、
周囲のノイズも収まった。目の前には先程までと変わらない風景、三度シェルクは周囲に目をやる。
祠の中に変化はなかった。さっきまで女性の立っていた祭壇の前まで来てみたが、やはりどこも
変わっていない。
 結局のところ、「古代種最後の一人」だと語った彼女が本当は何者だったのかを知ることはできな
かった。前後に現れた強いノイズから推測するに、“彼女”はこのフィールド作成者の作り出したオブ
ジェクトではないのだろう。すると、外部からこのフィールドに――シェルクと同じようにして――干渉
する者がいるのかも知れない。
「……干渉?」
 自分で立てた予測に、強烈な違和感を覚えてシェルクは立ち止まる。何か、何かとても重要なことを
見落としている様な気がする。
「そもそも、私以外にこんな事ができる人間が?」
 その可能性について考えてみたが、いるとは思えなかった。SND実施に必要な環境を揃えるだけでも
困難だが、そもそもSNDの技術自体が神羅によって秘匿されていたのだから、環境を揃えたところで
実施は不可能だ。
 たとえばルクレツィア・データと同様に、このフィールドを含めたオブジェクトが過去にあらかじめ用意
されていた物という可能性を疑う方が現実的ではあるが、“彼女”の言動は明らかに今ここにいる
シェルクを認識したものだった。
 あるいは、これ自体も同じフィールド作成者の作り出したオブジェクトであるという可能性だが、
そうするとフィールドに多大な負荷が掛かっていた事を示すあの強いノイズが現れた理由の説明が
付かない。
 思いつく限りの可能性を検討してみるが、正解にたどり着く気配はなかった。
498ラストダンジョン (348)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/19(火) 02:38:11 ID:Ij0L1OfV0
 目の前には祠と外を結ぶ唯一の出入り口があった。彼女の言葉に従うなら、この先にこのフィールド
の作成者がいるらしい。考えることに行き詰まった現状、動いて新たな情報を集めるしかない。踏み出す
シェルクに躊躇いはなかった。
 こうして祠から外へ出た途端、周囲にあった風景のすべてが消えてしまった。後ろにあった祠の入口も、
目の前にあるはずの石段も、何もかもがあっという間もなく消えてしまった。戸惑うシェルクが耳にした
のは、遠くの方で自分の名を呼ぶどこか暢気な声だった。
 その正体が、3年前に顔を合わせている猫のぬいぐるみだと知ると、シェルクもまた彼の名を呼んだ。
 どうやらフィールド作成者の正体は、ケット・シーらしい。そうと分かったシェルクの顔には、安堵感から
穏やかな笑みが浮かんでいた。

                    ***

『んあ〜っ!』
 突如としてケット・シーが表現に困るような奇声を発したかと思えば、急にそわそわし出したものだから、
横にいたマリンは何事が起きたのかと身構える。
『ああ、すんません』
 驚かせるつもりは無かったのだと慌てて謝るケット・シーに、マリンはどうしたのと優しい声で尋ねる。
『……いや、なんて言うたらエエんか分からんのですが……』そこで言葉を切ったケット・シーは、照れ
隠しなのか頭をかく仕草をしながら言った『思わぬ場所でばったり再会したもんで、なんや感動して
もうたんですわ』。
 その言葉を聞いたヴェルドは頷いて、彼の身に何が起きたのかを察し、携帯電話の向こうにいる
元部下にそれを告げた「どうやら彼らも合流した様だ」。

                    ***

 ネットワーク上で再会した両者が、互いの経緯や状況について共有するのに多くの時間は必要な
かった。こういった分野においてシェルクの能力は絶大な力を発揮する。一方ケット・シーは元々それ
自体がコンピューターであるからこそ、こういう芸当ができるのだ。それぞれ実現のためのプロセスは
真逆と言えるが、それでも彼らは自身の記憶を記録として収めたライブラリを持ち、さらにそれを他と
共有することができた。その事は3年前、すでに飛空艇シエラ号の設備で実証済みであったにも
かかわらず、シェルクはそれをすっかり失念していた。
 互いの中で散らばっていた情報が繋がり合って大きな輪を作る。散在していた一音一音が集まって
和声となり、それらが連なって拍子を刻みやがて旋律を成すように。
「……そちらの事情は分かりました」ゆっくりとした口調でシェルクが言う「1つ提案があります」
『おっ? さーっすがシェルクはん!』
「現状、こちらから飛空艇師団へのアクセスは不可能です。ですので、全周波数帯を一時的に借用
します」
 手順はこうだ。エッジを起点として各地でほぼ同時に起こす基地局リセットの作業を、ネットワーク側
からシェルクが補佐する。ネットワークの掌握後は、ここが一時的な制御中枢の役割を果たす。
『そないな事、簡単にできるんかいな?』
499ラストダンジョン (349)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/19(火) 02:39:58 ID:Ij0L1OfV0
「さすがに簡単とは言えませんが、3年前すでに実施済みです」
 ディープグラウンドによるエッジ襲撃の直後、ヴァイスの演説を世界中に配信できたのはシェルクの
能力を利用したからである。この方法なら、飛空艇師団の使用している周波数帯が判明してなくても、
一方的とは言えこちらの意思を伝えることができた。
『シェルクはんって、可愛い顔して意外と荒っぽいことするんやねー』
 自分達のしている事を棚に上げて、ケット・シーは感心したように呟いた。
「手段を選ぶ余裕はありません、違いますか?」
『ま、それもそうやな! そんじゃ早速、外の皆さんにも知らせんとな』
 最初は無茶な試みと思っていた事が、もしかしたら何とかなるのかも知れない、ケット・シーの声は
弾んだ。




----------
・次はいよいよ問題の飛空艇師団編。一緒に投下するには量が多いので、パートが変わる事ですし
いったん切らせて貰います。(今度はすぐ来れると思います)
・相変わらず色々分かりづらい&読みづらくてすみません。
・遅くなってすみません。とっくに明けてますが今年もよろしくお願いします。
500名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/20(水) 18:20:43 ID:yvUSEwnP0
乙ううう!
501名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/22(金) 09:31:01 ID:PncVGUYd0
あけおめ

>477
今さらですけど規制でレスできなかったんで…投下乙です
TA2好きなんで、全力で続き待ってます

>497
投下乙です。相変わらず続きが気になる引きでいらっしゃる


んで、そろそろスレ立てた方が良いのか…もうちょい待ってても問題ないかな
502名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/22(金) 11:09:10 ID:9mCprhCN0
503ラストダンジョン (350)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/24(日) 01:47:41 ID:YLTk+Ux20
前話:>>497-499(場面はPart7 682-683)
飛空艇師団編
----------


「こりゃどういう事だ!!」
 コントロールルームに戻るなりシドは叫んだ。彼自身が地上から見上げた光景、飛空艇の可視モニタ、
レーダーのどれも全て同じ状況――残念ながら見間違いや計器類の故障では無く――ありのままの
現実を正確に映し出していた。
「この付近一帯を包囲しているのはすべて我々の……、WROの飛空艇部隊です」
 最初に応じたのは航法担当のクルーだった。
「ちくしょう! 交信は!?」
 シドが勢いよく向き直り、通信担当のクルーに問いかける。
「通信状態は良好。ですが今のところどの艇からも応答ありません」そう答えながら、内心でそれも仕方
がないとクルーは思う。かく言う彼自身さえ、問われたところでどうすれば良いのか分からない。応答の
ない他の艇のクルー達も同じ様に戸惑っている事は容易に想像できた。しかしここに立つ勇ましい艦長
からの問いには、何が何でも応じなければならない。
 シドが飛空艇へ戻ってくるまでの間に、要請を受けて当該エリアに集結しつつあった飛空艇はどれも
重装備だ。各機が搭載している兵装情報を手元のパネル上で確認すると、シドは舌打ちしてからこう言った。
「おいおい、どいつもこいつも随分と喧嘩腰じゃねぇか」
 本部空爆――ユフィが嘘を吐いていたとは思わなかったが、実際にこの目で見るまでは信じられな
かったと言うのがシドの本音だった。3年前のミッドガル会戦では地上と上空に展開していたディープ
グラウンドの軍勢に対抗する手段として、彼らは飛空艇に満載した兵器を用いた。しかし今は違う。どこ
に抵抗する部隊がいる? シドの見てきた限り、満足な迎撃態勢も無い本部施設への空爆をこのまま
実施すれば、それは喧嘩にもならない一方的な破壊行為でしかない。しかも建物の中にはまだ
仲間達がいるのだ。
 たとえどんな事情があろうと師団長としてそんな命令を下すつもりはないし、頼まれたところでできる
はずがない。自分だけではなく飛空艇師団の誰もがそうであるはずだ――少なくともシドはそう信じて
いる。だとすれば、この状況を認識した上で彼らは今ここへ集まっているという事になる。
「お前ら、一体誰の命令で……」
 マイクに向かって叫ぶシドの声を遮り、問いに応じたのは通信担当のクルーだった。
「局長、ご自身です」
「なんだって!?」シドの発した声は驚きにではなく、怒りに震えていた。
 飛空艇師団への出資者はWROだった。それは師団に所属する誰もが知っている。そして、シド以外に
飛空艇師団全体への出動要請を行える人物は、局長リーブの他にはいない。だから驚くことはなかった。
逆にそうと知らされたシドは内心どこかで安堵していた。命じられたのならば彼らは従うしかない、仕方なく
皆はここへ来たのだと。たくさんの武器を積んで来たのは、彼らの本意ではないのだと。
 安堵の一方で、リーブに対する落胆や憤りを感じずにはいられなかった。
504ラストダンジョン (351)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/24(日) 01:50:36 ID:YLTk+Ux20
 そもそも空を飛ぶには元手が要る。だからといって、それを得るために破壊活動や戦争をしたいのでは
ない。大空に描くのは飛行機雲と夢だけで充分だ、ミサイルの弾道なんて描きたいとは思わない。でも、
飛ぶ理由が無ければ飛空艇師団も存続できない。夢や理想だけで空は飛べない、鳥の翼が多くの羽で
できているように、人間が翼を得るためには羽以外にも多くの物が必要だった。
 それらをシドに与えてくれたのはかつての神羅であり、今はWROだった。一人で空を飛び続けることは
できない。何よりそれはシド自身が一番よく知っている。

                    ***

 6年前。
 メテオを退け星の滅亡こそ辛うじて免れたものの、不治の病とされた星痕症候群の蔓延と、魔晄依存
型の体制が根底から覆された世界は、未曾有の混乱に陥っていた。
 一方で地上を覆った混乱は、人々が飛空艇――翼を求める動機にもなった。
 こうして北の大空洞から故郷へ帰還したシド達は、休まる暇もなく復興作業と並行して新しい飛空艇の
開発に取り掛かることとなった。
 飛空艇技術と原材料は、大地が育む過去からの恵みとシド達の尽力によって揃える事ができた。燃料
調達についてはバレットが探索を引き受けてくれた。しかし人が空を飛ぶ翼を得るには、一朝一夕とは
行かなかった。
 やがて開発が長期化するにつれて別の問題が持ち上がった。それが開発費と生活費の工面――特に
飛空艇開発に従事する者達の生活を維持するための費用を、どう捻出するか――だった。空を飛べない
飛空艇はただの鉄屑同然だ。知識と材料を集めたところで彼らの生活、大げさに言えば生命を維持する
事はできない。また星痕に冒された者にとって、与えられた猶予は決して多いとは言えなかった。そうな
れば開発どころではなくなる。思うように進まない作業に苛立ちを覚えながらも、これまで自分達が魔晄
エネルギーだけではなく、神羅の庇護の元にあった事を思い知らされた。
 そんな折、村を訪れたのがリーブだった。彼はシドに会うなり、挨拶もそこそこに飛空艇の開発を組織化
して維持する為に必要な物を補いたいと申し出た。それは言うまでもなく、シドにとって渡りに船だった。
 開発援助と引き替えに提示された条件は“星の危機には協力する”という物だった。さして難しい条件
でも無い、それどころか自分達の目的だって似た様なものだ。リーブの申し出は確かに有り難いし、
二つ返事で引き受けて作業を進める他の連中にも報告したかった。けれど、どうしても釈然としない。
この時シドは、返答まで一晩待って欲しいとリーブを村に滞在させた。
 その晩シドがこの話を持ちかけたところ、シエラをはじめ開発に関わる者達から反対の声は出なかった。
反対する要素がない、聞くまでもなく答えは決まり切っている。
 それでもシドの心は晴れなかった。なぜだろう? 皆の言うとおり、断る理由も躊躇う要素も無いはず
なのだ。一刻も早い飛空艇の完成と、組織としての活動を始めたい――無意識に向けた視線の先には
シエラの姿があった。
(……オレ様は、なんで迷ってるんだ?)
 心の中で舌打ちすると、意図的にシエラから視線を逸らした。
505ラストダンジョン (352)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/24(日) 01:55:23 ID:YLTk+Ux20


 旅の間ずっとケット・シー――ぬいぐるみとして接してきたせいか、そうと感じることは無かった。けれど
この日、実際にリーブと対面したときの印象は息苦しささえ感じる程だった。それはかつてパイロット時代
に“背広組”――本社にいる事務方連中を指す仲間内での俗語――と称した類の人間に対する印象
そのものである。はっきり言えば、良くなかった。
 リーブが信用できない人間ではないと分かっているはずなのに、彼の申し出を受け入れられなかった。
自身の中にある不可解な感情の正体を、シドは何か分からずにいた。
 きっと疲れているんだ、だから考えがまとまらないのだ。今日はとっとと寝てしまって、とにかく明日
もう一度話してみよう。この日シドは逃げるようにして床についたのだった。


 明くる日、飛空艇師団発足への支援について話の口火を切ったのはリーブだった。
「私には、どう努力しても翼を持つことはできそうにありません。ですから、翼を持てる人に協力……
率直に申し上げれば、その力をお借りしたいとも考えています」
 何とも事務的な話しぶりだとシドは思った。そんなリーブの姿は、かつて宇宙開発に力を入れていた
頃の神羅を彷彿とさせた。その事に気付いてようやく不可解な感情に納得がいった。シドの目に映る
リーブの姿が、かつての神羅と重なって見えていたのだ。
「で、必要なくなったら翼ごと切り捨てるってか?」あいつらと同じように。
 シドが言外に含んだ意図を汲んだらしいリーブは、何も言わずに苦笑を返した。宇宙開発事業の規模
縮小は、魔晄エネルギー開発事業の拡大によるものだと言う過去の経緯は、都市開発部門の責任者
だったリーブも知るところだ。否定すれば嘘になるし、シドの言わんとしている事も理解できる。
 しばらくの沈黙の後、リーブは真剣な表情でこう言った。
「残念ながら翼を得ただけでは、人は空を飛べません。どうです? 煩わしい枷と思わず羽と思って
みませんか? 鳥の翼も、一枚一枚の羽が集まっているものです」
 リーブから返って来た言葉は、シドの期待していた物とはかけ離れていた。テーブルゲーム以外では
仲間と駆け引きじみたことはしたくない、そう考えていたシドは少しばかり呆れていた。
「なんだよ、『一緒に旅した仲間なんだから信じろ』ぐらい言わねぇのかよ?」
 要するに、そう言って欲しかったのだ。
 ところがリーブはまったく別のことを言う。
「……『信じろ』と言っても無駄でしょう? 誰がなんと言おうと、あなたは自分が信じようと思った事しか
信じない」
 リーブはにこやかに指摘すると、対照的にシドは不愉快を露わに舌打ちをした、指摘は間違っていな
かったが、どうも気に食わない。これならまだ、思ったことを軽々しく口に出すケット・シーの方がずいぶん
マシに思えた。
 苛つく様子のシドを見て、リーブはさらに目を細めた。
「一応こう見えて私も元は技術屋だったので、似たような気質があるんですよ。よく、頑固だと言われます」
「お前と一緒にするな!」オレ様はもっと素直だ、とでも言いたげにシドは反論する。
 ははは、とリーブは声を立てて笑った「管理職経験が長いと、どうしても」。
506ラストダンジョン (353)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/24(日) 01:59:35 ID:YLTk+Ux20
 それを見ていたシドは観念したとばかりに両手を挙げた。
「あーオレ様が間違ってた、認める。確かに本社の事務方連中と違って、ひとクセもふたクセもありやがる」
「自分でこう言うのも何ですが、本社の一般勤務の皆さんと違って副業でスパイもしていたぐらいですから」
「言われてみれば確かにお前、タークスよりタチが悪そうだ」スパイなんて適任じゃないかと冗談を返した
つもりだったが、実のところ大部分はシドの本音でもある。
 本来であれば「クソッタレ」とでも言ってやりたいところなのだが、そう言わせぬ何かがリーブにはあった。
だから余計に気に食わないのだとシドは思う。
「それ、褒め言葉として受け取っておきますね」リーブは相変わらず笑みをたたえている。
「クソッ! 勝手にしやがれ」
 根負けした――というよりは、元々リーブの申し出を断る理由がないのだから最初から負けていた――
格好でシドが投げやりに答えると、リーブはその言葉を待っていたと言わんばかりに書面を差し出した。
「では、勝手にさせて頂きます」
 書面には具体的なスケジュールと送金、受取の方法が記載されている。なんだかんだとご託を並べて
いたが、既に決定事項じゃないか。そう文句を言おうとしたが、どうせぐだぐだ言われるのだからと諦めて
シドは言葉を呑み込んだ。そうするのが利口だ。
 それにしても随分と手回しが良いなと呆れ半分に眺めていると、最終的な受取額を見て驚いたシドが
思わず顔を上げて問い詰める。
「おい、こんな額どっから……!?」
「本来であればそちらに回るはずだった分の予算……とまでは行きませんがね。差益分の還元とでも
お考え下さい」
 まるで予想したとおりの反応だとでも言わんばかりに、リーブの返答は淡々としていた。
「つまり神羅の金って事か!?」
「まさか!」今度はリーブの方が驚いた表情を作った後、顔の前で手を振ってそれを否定した「さすがに
それはありません。幸い、公私ともに不自由はしていませんでしたしね」さらに誤解の無いようにと、
あくまでも臨時の予算編成で削られた宇宙開発費が都市開発に回された分という意味です、と言い添えた。
 捉え方によっては自慢なのかとも思うような言葉をさらりと口にしておきながら、けれどもシドに付け入る
隙を与えずにリーブは話を続ける。
「ですから、遠慮は要りません」
「つまりお前の金って事か?」
 リーブはにっこりと微笑むと、耳打ちをするような仕草で口元に片手を添えて、少しいたずらっぽい口調で
応じた。
「……魔晄で随分と稼がせて頂きましたからね」
 それを目の当たりにしたシドは額に手を当て思わず溜息を吐いた。どこまでが冗談でどこまでが本気
なのか、いまいちよく分からない男だ。少なからず、冗談の塊みたいな元上司――パルマーよりはるかに
扱いづらい事だけは確実だ。
 それから二人は新しい飛空艇の開発状況、魔晄に代わる新エネルギー模索や蔓延する星痕症候群の
影響など、互いの知る情報を交換し合った。
507ラストダンジョン (354)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/24(日) 02:14:55 ID:YLTk+Ux20
 特に各地の復興作業に話が及ぶと、大きな機材の運搬には飛空艇など大型輸送手段が必要なのだと
リーブは訴えた。
「これまでは何とか急場をしのいできましたが、すでに限界は見えています。まずは一刻も早く各地の
生活基盤を安定させなければならないんです」星痕の病理研究にしたって、基盤が整わなければ本腰を
入れられない。設備制度を整えなければ、災害以前の秩序を取り戻すことは極めて困難なのだと。
リーブの口から語られる情勢は、この村と同じだった。
「それが、お前が翼を求める理由か?」
 ええ、とリーブは頷く。この時期、ミッドガルやジュノンを中心に各地の復興ボランティア同士を繋ぐ
ネットワークが徐々に形になりつつあった。リーブは都市開発事業で得たノウハウを、復興事業に活かし
たいと考えていた。しかし、建材は現地調達が可能だとしても、大型の機材や大量の人員・資材の運搬
には限度があった。この話を聞いてシドはようやく真意を理解した。
「この野郎、それを先に言え!」紛らわしい言い方しやがってと、文句を交えつつもシドは言う「飛空艇が
完成した時にゃ、喜んで協力するぜ」
「ありがとうございます」そう言ってリーブは深々と頭を下げる。それから「こんな情勢ですから、できる
だけ急いで頂けると助かります」と、注文を付けることも忘れない。
「んな事は言われなくても分かってらぁ!」だからオレ様の所へ来たんだろう? とシドは胸を叩く。
 助かりますと、リーブは再び頭を下げた。


 まだ次に向かう先があるのだと言うリーブと別れ際、見送りに外まで出たシドはふと疑問に思って
尋ねた。
「なあ、なんでお前そこまで?」自分の金つぎ込んで、世界中を飛び回って。しかも迷ってる様子なんざ
ちっとも見えねぇ。なんでそんなに自信たっぷりなんだ? 少なくともシドの目にリーブはそう見えていた。
 問われて振り返ると、リーブは少し困ったような表情を浮かべた。
「自信があると言う訳ではないんですが。そうですね……」
 言葉に詰まったのはほんの僅かの間だった。リーブは控えめな笑みと共にこう答える。

「私の夢の続きだから。……そう言ったら、呆れますか?」

 シドは首を大きく横に振った。
「そいつはいい!」
 そう言ってリーブの背中を見送るシドの表情には、頼もしくも爽やかな笑みが浮かんでいた。
(なるほど、確かにコイツはとんでもない頑固者だ)
 親近感とは違う、どちらかと言えば対抗意識にも似た――飛空艇は絶対に完成させてみせるという――
高揚感だった。それは金銭的な援助を得たという以上の力で、シドの心を揺さぶった。
 湧き上がる感情任せにシドは声を張り上げる。
508ラストダンジョン (355)   ◆Lv.1/MrrYw :2010/01/24(日) 02:18:24 ID:YLTk+Ux20
「おいリーブ! お前、まだオレ様の飛空艇に乗ったこと無かったよな? 近いうち必ず乗せてやるから
楽しみに待ってろよ!」
 その声にリーブは振り返ると、穏やかな笑顔を向けた。

 それから数ヶ月後、リーブを局長とするWROが発足。各地の復興事業の中心を担う活動を開始した。
そのあと少し遅れて、シドを中心とする飛空艇師団が発足し、オメガ戦役を経た今日に至るまで、その
協力関係は確かに続いていたのだ。




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・金銭の絡む話になると途端にファンタジーっぽくなくなる気がするのは、某政治家のせい?
 (いいえ単に作者のせいですw)
・以前に書いたパルマー統括主人公の話とは別視点…という感じでシドさんの心中を妄想。
 本編でもロケット整備中にシドは「神羅はすっかり魔晄屋」なんて言ってますしね。
 この2部門の相反する様相が好き。表向き華やかな宇宙開発って結局は長距離兵(ry
・On the Way to a Smile(バレット、ユフィ、ナナキ編)とは微妙に時間のズレがあるかも知れません。
・「あいつあんなに金持ちだっけ?」(DC7章シド)が元になってる話。
・こんな路線にお付き合い下さる皆さん本当にありがとう!!
509名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/24(日) 02:20:28 ID:YLTk+Ux20
次スレ誘導。

FFの恋する小説スレPart10
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1263141359/
510名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/25(月) 14:03:49 ID:izzes9yi0
GJ!!
511名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/01/30(土) 11:27:28 ID:Xh6w20Mj0
乙!
512名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/02/02(火) 19:09:19 ID:c9SKVGrQ0
GJです!埋められるか微妙ですが、ちょこっとだけ。
513読書尚友 1/2 白 ◆SIRO/4.i8M
 ダゲレオの水が、静かに本を守っている。
決して本を腐らせず、痛めることもない不思議な水。
書架に眠る数々の本。あるものは精緻な装丁に彩られ、
またあるものは冒険の炎に炙られた跡を残す。
肉筆による写本もあれば、細やかな銅版や石版画に満ちた本もある。
一葉一葉の版画は、それ自体がたっぷりと物語を綴り、紐解く。

 クリスタルの伝承。失われた技術の足跡。町の人々の歌声。
様々な事柄が、ダゲレオに記録されていた。
それは世界の記憶であり、知恵であった。

 ダゲレオの重厚な本棚に、優しい灯りが照り返す。
その元に立つ、じたばたした二つの人影。
「また呼び出されたクポ! ぷふぇっ!」
「モグオは大変クポ」
「アレクサンドリアが大騒ぎで、何度も何度も呼び出されるクポー」
「即位は大切な事クポ。またここに、新しい歴史書が増えるクポ」
「モゲレオはモゲレオで、仕事があるクポね……」
モゲレオは本当に嬉しそうに、本の甘い香りを吸い込む。
そして顎に手を当て、フフフって感じで呟いた。
「ジタンがずっとお城にいたから、もしやと思ったクポ」
「また色々戦ってるクポよ。だから呼び出されるクポ!!」
モグオはまた、じたばたクポクポしていた。全力でしていた。
「ジタンなら大丈夫クポ。きっと無事にアレクサンドリアに新女王が立つクポ」