もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
乙
俺も気が向いたら書いてみようっと
言い忘れたけど、梅短編乙っした〜
スレ立て乙ですー。
埋め短編もよかった。
ミネアさんのお話は姉妹の絆というのが伝わってきてなんかいいなー。
タロウくんのお話も、ほのぼの。元の世界にもどったあともみんな幸せに暮らしてるのですね。
ヨウイチくんと、しなのさんと再会とかしちゃってるかもね。
>>1 スレ立て乙です。
だいぶ間が空いてしまいましたが、第13話を投下します。
ラインハットの関所を後に西へ…サンタローズを越えて更に西へと馬車は進む。
今回の俺達の目的地は、宿場町アルカパ。
サトチーが言う 船出前にどうしても立ち寄っておきたい場所。
「へぇ、デールさんを狂わせてたのも魔性ってやつなのか?」
「多分…だけどね。」
以前、スミスが語ってくれた『魔性』
無害なモンスターを凶暴な存在に変化せしめる黒い意思。
デールさんの異変もそれのせいだとすれば納得出来る話だが、一つ疑問が浮かぶ。
「でもさぁ、知能の低(ゴン!)…発育段階のモンスターはともかくとして、
魔性ってのは人間の思考まで狂わしちまうのか?」
「…兄を失った事で心に深い傷を追ったデール王…そこにつけ込まれたのだろう…
しかし…それでも人間を狂わす魔性とは…」
「悔しいけど、それだけゲマの魔力が強力だって事だろうね。」
どうもねえ…ラインハットの件は一件落着となったんだが…腑に落ちないな。
あの鬼ババアが元凶なのは間違いないだろうけどさ、それで全部か?
ライターや殺人機械を作っちまうような科学力とかも鬼ババアの入れ知恵?
ん〜…そうは思えないんだよなあ。
「お話の途中失礼します。間もなくアルカパの町です。今夜のご指示を。」
馬車の外から聞こえる遠慮がちな声。
声の主はパトリシアを先導するスライムナイト ピエール。
ラインハット関所近くで俺達と戦闘になり、仲間になったモンスターだ。
「ああ、もう到着か…ありがとう。それじゃあ、町外れに馬車を着けてくれるかい?
それから今夜は…スミスとブラウンと一緒に馬車番をお願いしてもいいかな?」
「御意。馬者の守りは我々にお任せ下さい。」
ゲマさんキタ――(゚∀゚)――――
深々と頭を下げ、手際よく下車の準備をするピエール。
「済まないね。本当は君達にこそベッドで休んでもらいたいんだけど…」
「そんな、滅相もございません。どうか我々の事などお気になさらず…」
「初対面のネチッこさが嘘みてえだなあ…人は変わるもんだねえ…」
今でこそ甲斐甲斐しく遠慮深いピエールだが、こいつとの戦闘は本当に嫌になった。
どんなにダメージを受けても回復魔法で何事もなかったように復活し、
魔力が尽きても俺達の魔力を奪って回復魔法で復活。
お供のアウルベアーが全滅しても何度も何度も一人で立ち向かってきたピエール。
最後は奪う魔力を持たないブラウンの会心の一撃でようやくKOだったな。
「いや、耳が痛い。私自身はサトチー様の広い御心のお陰で変わる事が出来ましたが、
残念ながら戦闘スタイルまでは変わらないようですね。」
ホント。ピエールを一人ねじ伏せるのに、だいぶ消耗させられたもんなあ。
まぁ、今では確かな剣の腕に加えて回復魔法まで使える心強い味方だけどね。
…はぁ、俺ももっと腕を上げなきゃな。
今の俺では、剣も魔法も仲間達に敵わない所ばっかりだ。
「君達なら守りに何も心配はないだろうけど、くれぐれも無茶はしないようにね。
僕から出す指示は『いのちだいじに』だよ。」
敬愛するサトチーから発せられた指令に、ピエールが跪いて敬礼の仕草をとり、
それを真似してブラウンもその横にちょこんと跪く。
「御意。サトチー様に救われたこの命、無下にするような真似は致しません。」
あの時、俺達とのバトルに敗れ、自ら命を絶とうとしたピエール。
そして、自らに剣を向けるピエールを救ったのはサトチー。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ブラウンの会心の一本足打法が直撃し、スライムごと吹き飛ばされる異形の騎士。
彼と対峙していたブラウンを制し、仲間達に回復を施すサトチーに騎士が問う。
『…くっ…なぜ止めを刺さぬ!同情か?憐れみか?勝者の優越感か?』
『生憎、僕は倒れた相手に向ける剣は持ってないからね。僕達はもう行くよ。
君なら自分で傷を癒せるだろう?これからは平和に暮らしなよ。』
投げ掛けられたサトチーの言葉を聞いた騎士の体に僅かな力が宿る。
震える手で取り落とした剣を拾い、震える声で呟く。
『敗れてなおも生き延びろとは…このような屈辱を受けるくらいなら…
誉れ高き騎士の名に賭けて…血花の下に果ててみせよう!』
騎士の手の中に収まった剣がくるりと一転し、騎士自身の胸に向けられる。
ちょま…HARAKIRIってヤツ?そんなに思い詰めなくっても…
ぱーん!!
爆竹を一本だけ破裂させたような音。それはサトチーの平手が騎士の頬を打った音。
『何が誇りだ。騎士の剣は何の為にある!敵を殺める為か?自分を殺める為か?
騎士が剣の使い道を忘れてどうする!騎士の剣は”守る”為にあるんだ!!
今日を生き、明日を生き…その剣で大事なものを守り続けるのが騎士だろう!』
珍しいサトチーの恫喝に衝撃を受けたように立ち尽くしていた騎士。
見つめるサトチーと、見つめ返す騎士の間に風が吹く…
彼は剣を地に下ろし、サトチーの前に片膝をついて深々と頭を下げた。
『…私は騎士の役目を忘れておりました。主に仕え、主をお守りするのが私の任…
私の名はピエール。あなた方のお陰で役目を思い出した一介の騎士で御座います。
高貴なる目を持つ主君、どうか私にあなた方の守護を担う役割をお与え下さい。』
支援
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『いのちだいじに』か…
あっちの世界じゃあ口にする事も考える事もなかったなあ…
一瞬の油断が、迷いが、瞬きする間に俺達の命を刈り取るこっちの世界。
矛盾した話だが、そうだからこそ『いのち』って物を実感できる。
「…命大事に…なかなか良い言葉だな…」
夜営の準備を進めるスミスがぼそりと呟いた。
◇ ◇
北方大陸西方の宿場町アルカパ。 別名―詩人の町―
主無き古城・レヌール城の伝承を求め、世界中の詩人達がこの町へ足を運ぶ。
交通の便に恵まれているわけではないこの町が栄えたのは、その城の影響が大きい。
街角で詩人が歌うのは、悲しい最期を遂げたレヌールの王と王妃への鎮魂歌。
死した後も呪いに縛られ、苦しみ続けた二人の悲哀を奏でる哀歌。
そして、その呪いから二人を解き放った小さな勇者を讃える賛歌。
呪いを解き放った小さな勇者ねぇ。
まぁ、田舎町によくある客寄せのおとぎ話だろうな。
「懐かしいなあ。レヌール城でオバケ退治をしたのは10年前か。」
…ナ ナンダッテー!!
Ω
多少の脚色はあるが、歌に残る『小さな勇者』とはサトチーで間違いないらしい。
なんだ、そのアグレッシブ過ぎる武勇伝…
「その時、一緒にお化け退治をしたのがこの町の宿屋の娘でね…」
なるほど、船出の前にこの町に立ち寄りたかったのはその子に会うためか。
その子…ビアンカの事を話すサトチーの顔はいつになく楽しそうに見える。
深夜の廃城に忍び込んで幽霊とバトった女の子か…
ゴメン…ベリアルとかダンビラムーチョに似た逞しい女の子しか想像できねえ。
顔を合わせた瞬間、防衛本能が働いて斬ってしまいそうだ。
…いや、モンスターだって全部が全部悪い奴じゃあないんだよな。
だからって愛せるかといったら話は別なんだが…
悶々とする俺を連れたサトチーは、晴れやかな顔で魔城…もとい、宿屋の門を開けた。
上品な装飾の施された木製のドアベルが奏でる乾いた音が来客を告げる。
「いらっしゃいませ。お泊りは二名様でしょうか?」
フロントからにこりと笑いかけたのは、人の良さそうな女将さん。
宿帳を閉じ、手にしていたペンを胸元に差して俺達を出迎える。
この人がベリアr…じゃねえ、ビアンカって子の母親か?
あれ?10年ぶりだってのにサトチーの反応が薄いなぁ。緊張してんのか?
「あの…ここにビアンカという名前の女性は住んでいませんか?
10年前には確かにここに住んでいた筈なのですが…」
サトチーの顔がみるみるうちに…いや、俺の立ち位置からは顔を見る事は出来ない、
恐らく、俺の予想通りの表情をしているのだろう。
「ビアンカさん? もしかして、私達の前にここに住んでいた方に御用かしら?
私達は8年前にこの町に移住してきたんです。お役に立てなくてごめんなさい。」
最上階、この宿の最高の部屋に通された後も、サトチーはうなだれたままだった。
サトチー…(´・ω・`)
◇
窓の外では小さな篝(かがり)の下で、詩人が夜想曲を奏でる。
静かな夜の町。その背景のように朧げに青白い輪郭を浮かべる廃城のシルエットが
ロマンチックな雰囲気を盛り上げる。
「明日も早いし…もう、寝ようか。」
窓際で夜風に当たっていたサトチーがカーテンを閉める。
数時間ぶりに聞いたサトチーの声は重々しく、どことなく疲れているように聞こえる。
ロウソクの火が落とされた部屋。カーテンの隙間から入り込む薄赤い篝の光。
その頼りない光の下では、互いの顔すら窺い知る事はできない。
「…明日から…世界中を回るんだろ?」
ふと、無反応の暗がりに向かって話し掛ける。
遠くで聞こえる夜想曲が静寂に無彩色を飾る…サトチーは眠ってしまっただろうか。
「俺…あっちの世界では、日本って狭い国の中の狭い一部しか見た事がなくってさ、
今いる国の外に出る…世界中を回るってのが、凄げぇ楽しみなんだ…
世界中を回ればさ、何だって見付けられる。何だって見付けられないわけがない。
今さ…実感してるんだ…『今日を生きている』って事…」
俺は誰に何を話しているんだろう。自分でもわからない独り言。
ただ、思っている事を口に出した…それだけの事。
「…何だって…見付けられるよね…」
無反応な暗がりが返した小さな反応。それだけの言葉。
それでも、その短い言葉の中に感じ取れた『明日を生きる』意志。
それは、神殿から脱走した時とは違う船出への希望。
イサミ LV 16
職業:異邦人
HP:77/77
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――
〜〜〜〜
今思い出しました。
LOAD DATA 第12話 >>(前スレ)436-443 …orz
今日はここまで。次回はいよいよ船出です。
12泊目でもよろしくお願いします。
乙!
そういやヘンリー抜けたから、面子が減ってるんだよな。当たり前だけど。
寂しいけど、新メンバー共に頑張って下さい。
スライムナイトかっこいいー。
敵に回すとねちっこいけど、裏を返せば最後まで勇敢に戦いぬくということだものね。
ピエールも、スミスも深いですね。
ブラウンも言葉こそすくないけれども信頼感でつながっている感じがするし。
ダンカンさん引っ越しちゃったんだものね。・・。
再会までの長い道のり、サトチーさんにはつらかったでしょうね。
でも明日を信じてがんばりぬいてほしいです・・・。
保守
20 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 11:38:52 ID:xlLiRS+k0
浮上保守
いつも乙です。
来年もよろしくお願いします。
あけおめ
初カキコはいつもこのスレだぜw
>>21 年の瀬に作業乙でした!
職人さんも住人さんもあけましておめでとう!
今年も投下楽しみにしています
25 :
【大吉】 【685円】 :2008/01/01(火) 05:53:15 ID:5ebuaEE0O
職人の皆さん
住人の皆さん
あけましておめでとさん
今年も楽しませて貰います
保守
アルス・タツミ『あけまして、おめでとうございまーす!』
タツミ「まずは合作完結、お疲れ様でした! あとはエピローグを残すのみですね〜wktk♪」
アルス「新スレも立ったしな。
>>1様、スレ立て乙っした!」
タツミ「タカハシさんも年末のまとめ作業ご苦労様です。いつもお世話になっております」
アルス「新しい職人さんも来て、ますます盛り上がってるし」
アルス・タツミ『宿スレ住人の皆様、本年&新スレも、どうぞよろしくお願いいたします!』
タツミ「それでは新春サンクスコール!」
アルス「前スレ
>>354様、確かにコイツ頭はいいが、そのぶん戦闘はからっきしだぜ。
合作のサクヤ君くらい機転が利けばまだ戦えるかもしれないけどな」
タツミ「じゃあ僕も最後に……コホン。前スレ
>>355様、僕と誕生日いっしょなんだ。
昔『願いが叶うように』って友達に竹をプレゼントされたけど、そんなことなかった?」
アルス「ねーよwww しっかし俺の誕生日おいしい設定なのに華麗にスルーされたよな。
絶対、番外でネタ用意してると思ってたのに」
タツミ「番外は前スレ
>>356様の疑問に答えるレスになりました。読者様第一主義ですから」
アルス「その後2週間以上も空いてただろ。しかも全然答えになってなかったし。
なんだよ位相反転だの反物質だのって……前スレ
>>478様、俺に説明してください」
タツミ「人に聞く前にまずググる! 2chの常識だよ」
アルス「貴様の家にはネットがないだろうが!」
タツミ「すみません前スレ
>>478様、今度ゆっくり前スレ
>>493様と一緒に光子魚雷について語りましょうw」
アルス「無視するな。そしてさり気なく読者様を巻き込むな。前スレ
>>644様に呼ばれてるぞ、ホラ」
タツミ「ア、アリスちゃん、ですか。一応、平行して執筆は進めてるんですけど……」
アルス「埋め用じゃなかったのかよ。読者様第一主義なんだろ〜?」
タツミ「あは、あははは……そのうち忘れた頃に投下されると思いますので……その、すみません……」
アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』
【Stage.12 リアル・バトル】
リアルサイド [1]〜[12]
Prev (前スレ)
>>344-352 (Real-Side Prev (前スレ)
>>211-219)
----------------- Real-Side -----------------
PS3やらWiiやらが台頭している今の世では、すでに3世代くらい前になる置き型ゲーム
機スーパーファミコン。そのドットも荒い原色バリバリなドラクエ3の画面の前で、俺は
きれいに「orz」の姿勢を取っていた。
「やべえ……本試験のこと完っっっ全に忘れてた」
タツミたち一行がランシールの宿に入り、例の「ターラーラーラータッタッタ~♪」の効果音のあと朝
を迎えたが、携帯電話はいっこうに繋がる気配を見せない。
「なんで通じねぇんだ。なにやってんだあのバカはー!」
などと俺が一人で騒いでいる間に、ヤツらは町はずれの神殿に入っていった。
そこで表示された会話を読んで初めて、俺は彼らが「一級討伐士の本試験を受けにラン
シールに来た」ということに気付いたのだ。
タッちゃんマジでごめんなさい。
そのあたりもちゃんとナビるつもりでいたんだがなぁ。クリアしてもらっちゃ困るけど、
くだらないことで余計な苦労はさせたくないというのが俺の本音だ。
矛盾してるのは重々承知だが、なんつーか……タツミには俺の世界を嫌いになってほし
くないんだよ。
この「本試験」、実はもっと楽に合格できる裏技があったりする。
一級討伐士のクリア条件の一つに、
【期間内に魔物から村や町、教会など慈善組織(海賊等は含まれない)を護る、救う】
というのがあるが、裏の仲介屋を通して教会や修道院に金を渡せば、「この方々に危な
いところを救われました」などといくらでも口裏を合わせてくれるのだ。向こうはあんな
世界だからどこも財政難で、そこは持ちつ持たれつ。俺も本試験のみならず、半年ごとの
更新試験のたびに利用していた手だ。
ズルいとは思わない。本当に魔物に襲われた人々を前にして、「俺が助けたんだ!」な
んて自慢げに世界退魔機構に申請するのは、なにか違うだろ? そんなことのために戦っ
てんじゃねえんだから。
なんだけど……もう日にちに余裕がないから今更の話だよな。
よりによってランシールか。正攻法でいくならレベル的にここしかないだろうが、他の
試験会場の内容と比べると一番面倒なんだよな、ここ。
「ったく、ホントお互いタイミング悪いよな……。って、レイ!?」
俺が頭を抱えている間に、画面の中ではなにやら妙な展開になっていた。
レイ=サイモン? あのスカしたキザ野郎と競争だと?
*「どっちが勝つか わからないが こうなったら 今回は ゆずるよ?」
はい >いいえ
*「協定を組む ということで いいのかな?」
>はい いいえ
ゲーム仕様でかなり省略された会話になっているが、どうやらレイと二人で洞窟攻略に
挑戦することになったようだ。
う〜む……まあ、腕は立つ男だからな。妙に馴れ馴れしくて俺は苦手だったが、最初か
ら勝ちを譲るようなことも言っているし、タツミが一人で行くよりは遙かに安全か。
どうも洞窟攻略が終わるまでは携帯を繋げる気も無いようだ(怒ってんだろうなぁ)。
今回はおとなしく経緯を見守ることにしよう。
となると、飲み物とお菓子は必須だろ。俺はタツミの自室を出てリビングに行った。
キッチン周りの戸棚を適当にあさると、「チョコパイ」と書かれた赤い箱を発見した。
何気なく箱の裏の成分表を見る。小麦粉や砂糖はわかるが、聞いたこともない物がいろい
ろ入ってる。ショートニングってなんだ。ソルビトール? なんの呪文だよ。
それにしても賞味期限がすごい。これ生菓子だろ。何ヶ月も保つってのが信じられん。
こんなのが旅の間にあればもっと……。
――ガチャガチャ
「んん!?」
玄関で鍵を開ける音がして、俺はその場に固まった。まさか。
「あら、タツミいるの……?」
そのまさからしい。タツミの保護者である「伯母さん」が帰ってきたのだ。
◇
ユリコに事前に確認したが、タツミも普通に「伯母さん」と呼んでいるそうだ。
「なんか下の階の店がボヤ出したとかで、今日は早く終わってさ」
彼女は高そうな毛皮のコートをそこら辺に放ると、リビングのソファにバタッとうつぶ
せに倒れ込んだ。歳を考えると少ぉしばかり露出度が高い気もするドレスをお召しになっ
ていて、昨日の昼間にはボサボサだった髪もきれいにセットされている。
うわぁ……酒くせぇ。本当に夜系のお仕事をなさっていらっしゃるらしいです。
別に職業差別してるんじゃないぞ。俺みたいな、たとえ魔物でも殺してなんぼのヤクザ
な商売やってたヤツが、なにをか言わんやだし。
そうじゃなくて、昔ルイーダの店で嫌なことがあって、そういう雰囲気を持っている相
手だとどう扱っていいかわかんねえんだよ、俺。
まして「身内」とくれば。
「……あれ出してよ」
伯母さんがかすれた声で言った。
「え、あれ?」
「ビール」
まだ飲むんですか。迎え酒ってやつですか。
やめた方がいいですよ、と言いたいけど、うかつなことは言えないし。タツミはいつも
素直に出してんのか?
冷蔵庫を開けると下段の奥に銀色の缶が並んでいた。一本取り出して、シンク横の水切
りかごに伏せてあったグラスに注ぎ、半分ほど余った缶と一緒に彼女の前のテーブルに置
いた。
向かいのソファに座って様子を見ていると、伯母さんは物憂げに顔をあげた。
「なによ……そのままで良かったのに。洗うの面倒でしょ」
「そ、そうだね」
伯母さんはモソモソと身体を起こして、グラスの中身を一気にあおった。俺が注ぎ足し
てやる間もなく、缶に直接口をつけて残りを飲み干す。
そしてグテーッと背もたれに寄りかかって動かなくなった。
「あの、もう一本、飲む?」
恐る恐る聞いてみると、彼女はヒラヒラと手を振った。
もういらないのか。となると俺はすることがない。
コッチコッチコッチ……
家の中は静まりかえっていて、時計の音だけが妙に大きく響いている。
伯母さん、なんか動かないんですけど。もしかして寝ちゃったんですか? そんな姿勢
だと首をいためるんじゃないかなぁ、とか。
えーと……。
コッチコッチコッチコッチ…………
だぁああああ!! 気まずい!! めちゃめちゃ気まずい!!
これならおばけキノコとお見合いしてる方がまだマシだぁ!!!!!
題 【お見合い】
アルス 「キノ子さん、ご趣味は?」
キノ子「甘い息を少々」
アルス 「zzz」
キノ子「まあ、居眠りするなんて失礼な方ね!」
〜完〜
いやいやいや、4コマに逃げるな俺。現実を見なきゃ。
「あんたさ、大学はどうすんの?」
いきなり聞かれた。
ちょ、ここで進路相談!!?? え? 俺が答えていいの?
でも俺がタツミなんだもんな。これからは俺が決めなきゃいけないんだよな。
「――い、行かせてもらえるなら、行きたいなぁ、とか」
今在学している「高校」の卒業まで約2年。ここからゼロスタートだとしても、卒業前
までに必要な学力を身につけるだけの自信はある。だてに一級討伐士は取ってないぞ。
俺の言葉に、伯母さんは「おや?」という顔をした。
「はーん、行く気になったの。働くってきかなかったのに」
ここの家庭環境を考えると、ヤツならそう言いそうだな。
「その方があの子も喜ぶだろうね。お母さんに報告した?」
「まだ、だけど」
「じゃあ伝えてきなさいよ」
くいっと奥のドアをあごでしゃくる。彼女の自室で、まだ入ったことはない。
もたもたしてるのも怪しまれるから、俺は素直にその部屋に入った。
◇
照明をつけてドアを閉める。ムッと立ちこめる芳香。化粧品や香水とかの "女" の匂い。
バックやら靴やら、果ては下着までそこらじゅうに散らばってる狭い部屋の奥に、そこ
だけきれいに整ってる、不思議な一角があった。
漆塗りの黒檀に金箔の装飾が施された、東洋版の祠というか。小さな扉が左右に開け放
たれていて、各神具の細かい意味はわからないが、それが死者を悼む祭壇だというのは察
しがついた。文化の違いはあれど、そこに込められた祈りはどの世界も共通だろう。
中央に白黒の写真が二つ飾られている。一枚が俺のおふくろによく似た女性で、もう一
枚は、親父を少し若くしてひょろっとさせたらこうなるかなって感じの男性。
タツミの両親に違いない。
あいつの。
「……やっぱ甘いか」
二度目のごめんなさい、かな。
俺もさ、こっちに来る前はありとあらゆることを予測してたし、覚悟もしてた。
でも実際、こうして目の前にしてしまうと、なんの意味もないことが思い知らされる。
俺が? タツミになる? ムチャもいいとこだ。
どの面下げてこの人達の供養を引き受けるってんだよ。
俺も最終的には、ショウが言っていたように適当なところでプレイヤーの人生を捨てて、
ここを離れることになるんだろう。そうじゃなきゃやってけねえよな、とても。
「タツミ、どうしたの?」
伯母さんに呼ばれて俺はリビングに戻った。怪訝そうにしている彼女に、さっきの話の撤
回を告げる。
「あー……大学のことだけど、やっぱりもう少し考えようかと思って」
「そう。ま、好きにしたらいいわ」
いくぶん投げやりに言う伯母さん。こういう話し合いは今までにも何度かあったようだ。
そういや俺もおふくろや爺ちゃんから「本当に勇者やるのか」ってよく聞かれてたっけ。
二人とも普段はそれを願ってるようなことを言ってても、やっぱり心配だったんだろう。ど
この家庭も一緒なんだな。
「ごめん、ちょっと忙しいんだ。部屋に戻るよ」
意識的に目を合わせないようにして、俺は背中を向けた。
と、リビングから廊下に出る寸前に、玄関のチャイムが鳴った。
人ンちを訪ねるには遅くないか。なんだかんだで夜の9時を過ぎているんだが。
「タツミ、出てきて」
伯母さんは玄関をジッと睨んでいる。なぜか少し声が震えている。借金取りのコワイお兄
さんだったりして? ありそうだなぁ。
ま、そいつが闇の衣をまとって極大呪文を連発するような魔王じゃない限り、2秒で撃退
してやるから心配すんな。もちろん正当防衛が成り立つようにな。
「はいはい、どちらさんっすかー?」
玄関のドアを開けてみたが、そこには誰もいなかった。
その前にパタパタと慌てて去っていくような足音がしたから、ピンポンダッシュってや
つだろうか。暇なヤツもいるもんだ。
と下を見たら、一抱えくらいのダンボール箱が置いてあるのに気がついた。
――これで俺がもう少し現実世界の風潮や時事に聡ければ、爆発物や毒物じゃないかと
まず疑っただろう。昼間の奇襲や、不良少年エージの存在を考えれば警戒して当然だった。
だが育った世界の違いというのは、ふとした瞬間に表れるもので。
「届け物か?」
俺は特に疑問にも思わず、その箱を抱えてリビングに戻ってしまった。
「誰からだろ。玄関に置いてあったよ」
封もしてないのですぐに開けられる。なんの気なしにテーブルの上に置いて、俺がフタ
を開いたのと、伯母さんが叫んだのは同時だった。
「ダメ! 開けるんじゃないタツミ!」
「え?」
黒い塊が詰め込まれていた。鼻をつくような腐臭がぶわっと広がる。
そして、俺はミスを重ねることになる。
「なんだこれ。なんかの動物の死骸か?」
そう……「冷静」に判断してしまったのだ。
「もういやだ! なんなのよあんたはぁ! そんな、なんともない顔して……!」
「な、なんともないっても、えーと……」
だって見慣れてるんだもん死骸なんかっ。ってか俺自身が死骸の大量生産してたしっ。
だから伯母さんが金切り声を上げて暴れ出したのにも、「いやなんでそこまで反応しちゃ
うのこんなもんで?」と、俺の方が一瞬ボーゼンとしてしまったワケで。
「あの、とにかく落ち着こう? すぐ捨ててくるから。ね?」
「信じられないよ! あんた、母親もそんな顔で見殺しにしたの!? ねえ!?」
ちょ、なんすかそれ。母親を見殺しにした?
伯母さん顔が真っ青になってるし、なにがなんだか。
「あんたが来てからロクなことないわ! もう出て行け!」
「いや、出て行くのはいいけど、コレとかどうしたら――」
「出てってよぉ! 疫病神! みんなみんなあんたのせいで……!」
た、た、助けてエリスぅ! ユリちゃんでも可! 俺どうすればいいんですかぁ?
――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り、一瞬、静かになる。……と同時に、俺は反射的に走っていた。
緊張状態が不意に断ち切られたせいで、フラストレーションが暴発したというのか。
「てめえがやったのかコラぁ!」
半ば体当たりするようにドアを開けて、勢いで吹っ飛んだ相手につかみかかっていた。
が、相手はきれいに受け流すと、俺の足をパンっと払った。勢い余って思い切り後頭部
から硬い床に落ちかけたところを、寸前で襟首をつかまれて引き止められる。
目の前で、色とりどりのブレスレットがぶつかり合って、チャリっと鳴った。
「いった〜。まったくどうしたんですか?」
「ショウ……?」
仰向けにゆっくり降ろされた俺は、廊下に転がったまま――ふうっと息をついた。
「悪い。こういうの……慣れて、なくて」
ショウは眉間にしわを寄せると、一つうなずいて中に入っていく。
俺も、もう一呼吸つけてから、起き上がって後についていった。
◇
ショウはダンボールの中身を一瞥すると、さっさと玄関まで持っていってリビングのド
アを閉め、目に触れないようにした。ソファで顔を覆っている伯母さんの前に腰を落とし、
見上げるようにしてゆっくりと話す。
「僕、タツミ君の友達でショウといいます。大丈夫ですか? ずいぶんと悪質な嫌がらせ
ですね」
「………」
第三者の介入を警戒してか、さっきまで半狂乱だった伯母さんもずいぶん落ち着いてく
れた。ショウはあの人好きのする笑みを浮かべ、穏やかに言葉を重ねる。
「これは立派に犯罪ですよ。警察へは届けましたか?」
「警察……」
彼女は壁際で腕を組んでいる俺をちらっと見て、首を振った。
「それはまずいわ。あの子、奨学金をもらってるんだけど、今度また警察沙汰になったら
もらえなくなるって言われてるの」
「そんなバカなことはないでしょう。本人が罪を犯したならともかく、被害者なんですか
ら。僕の父は警視庁の人間です。きっと力になれると思いますよ」
ショウの力強い言葉にも、伯母さんはただ戸惑うように視線を彷徨わせている。
「……少し休みましょうか」
彼女は小さくうなずくと、ショウに支えられながら立ち上がった。
奥の部屋に向かう前に、こちらに顔を向けて苦しそうに言った。
「タツミ……さっきは悪かったわ。あれ、本心じゃないからね」
疫病神とか、あんたのせいだとか。思わず本音が出た――って感じだったけど。
「わかってるよ。全然気にしてないから」
たぶん本物のタツミなら、こう答えるだろう。
そうして伯母さんが自分の部屋に入って静かになり、一段落したところで、ショウが小
声で聞いてきた。
「どうします? ここだと筒抜けですよね」
神経が過敏になってる今の彼女に、余計な話は聞かせたくない。
裏にある公園に出ようと決めて、俺はショウを先に行かせた。一度、自室に戻ってゲー
ムの進行具合を確認する。
レイを仲間にしたタツミは、特に問題なく進んでいるようだった。携帯にかけてみると
相変わらず不通のままだったが、取り立てて俺のナビも必要ないってことだろう。
「ちょっと出てくる。なんかあったらすぐ電話しろよ」
通じないのはわかっているが、画面にそう声をかけて、俺もショウのあとを追ってマン
ションを出た。
◇
「はい、お疲れ様。あなたのところはいろいろ厄介みたいですねw」
ベンチに並んで座ったところでコーラの缶を差し出され、俺は冷たいそれをひたいに押
し当てた。
「でもびっくりしましたよ。たまたま近くに来たんで挨拶しに寄ったんですけど、チャイ
ムを鳴らそうとしたら、いきなり中から『出て行け!』ですもん」
しかもドアで吹っ飛ばされるし、とショウはクスクス笑う。
「すまん、俺も気が動転してたっていうか……」
自分ではもうちょい冷静に物事に対処できる人間だと思ってたんだが。
なんか本気で、魔王を倒した英雄だって自信が無くなってきた。
「それで、コレですけど」
ショウの足下には、例のダンボールが置いてある。
「マンションの前で走っていく人影を見たんです。よく見えなかったんですが、背格好か
らして、たぶん昨日の昼間にあなたが投げ飛ばした子だと思うんですよね」
「やっぱあの不良か。今度会ったら絶対ヘシ折る」
「どこをですか。この国の法律は復讐を認めてませんよ」
「わかってる! でもこんなんされて黙ってられるか!」
俺は力任せにダンボールを蹴飛ばした。フタが開いて黒い塊が転がり出る。
「この猫はなにも悪くないんですから、八つ当たりしちゃダメですよ」
ショウが俺の肩を叩いて、猫を拾いに行った。ダンボールに入れて戻ってくると、また
足下に置く。
「モンスターとは違うんですから、たとえ死体でも憐れみを持って接してください。でな
いと『冷酷な人』と思われますよ。ヘタすれば『精神異常者』とされかねない」
「……面倒くせぇ」
さっき伯母さんも、俺の冷静な態度を責めていた。日々命がけでモンスターとバトルし
てた俺に、そんな甘っちょろい感傷を常識だと説かれてもツライものがあるぞ――。
「魔物を相手に剣を振ってる方が楽、ですか?」
そう問われると、どっちが楽とかって問題でもない気はするが。
「ま、現実なんてこんなもんですよ」
ショウは悟ってるように言い切った。
「狭い一地域で、狭い人間関係の中で、毎日こまごましたことに神経をすり減らして生き
ていく。これが現実での戦いなんです」
俺が冒頭で言ってたのと同じような言葉が並んでるが、意味合いはまるで正反対だ。
確かにこの世界に来てから、身体より心が疲れることが多すぎる。
タツミが以前から不良に金をタカられてたってことも、奨学金とやらの関係でそいつら
に真っ向から対抗できないってことも、さらにはネジの外れたゲームサイドの男に襲われ
てもケーサツにすら言えないってのも。挙げ句に猫の死骸を届けられるわ、保護者のはず
の人間に「疫病神」だの「出て行け」だの言われるわ。
悪者をぶった斬っておしまい、にはならない。なんでも手順を踏んでルールに従って、
いろんなことを我慢して……よくもタツミはここで16年間も生きてきたよ。
その他人の人生を横取りしようとしてる俺が、言う筋合いじゃないけどさぁ。
「僕のこっちの父親は警察の偉い人間なんです。この件は任せてもらえませんか?」
悪いようにしませんから、とショウは微笑んだ。
「ん……任せる」
今は素直に厚意に甘えておく。
携帯電話を貸してくれと言われて渡すと、ショウはなにやら設定してから返してきた。
「僕の番号を登録しておきました。短縮8番ですぐ僕に繋がりますよ。――あと本名、
教えてください。僕はラグエイト=ハデック。元の世界ではエイトと呼ばれてました」
「なんだよ、本名は伏せてた方がいいんじゃなかったか?」
「そうなんですけど……僕はもう『ショウ』の方が慣れちゃってますが、あなたは『タツ
ミ』と呼ばれるたびに、ちょっと困ってるみたいだから」
うっ。ホント気の回るヤツだ。俺は苦笑しながら名前を教えた。
「アルセッド=D=ランバート。アルスとか、アルとか呼ばれてた」
地元じゃ「ジュニア」と呼ばれることも多かったが……あれは大っっっ嫌いな呼び名だ
から却下。
「じゃあまた、アルス君」
ダンボールを抱えて、ショウは離れていく。
――俺は迷いつつも、その背中を呼び止めた。
「ショウ、もう一つ頼みがある」
「なんです?」
「その……三津原辰巳の過去を調べられないか? 両親を殺しただの、母親を見殺しにし
ただのと、不穏な話が多くてさ」
人のプライベートを探るようなマネは好きじゃないが。
「本人には聞けないんですか?」
「携帯がつながり次第、聞いてみるつもりだったけど。あいつ、仲のいい友達や幼なじみ
の女にも秘密にしてるみたいで、本当のことを話すかわかんねえし」
情報の曖昧さが、俺の判断を鈍らせる一番の原因になっている。背に腹は代えられない。
「わかりました。今回の件をカタすにも必要な情報ですしね。なにかわかったらすぐに知
らせますよ」
◇
マンションに戻ってみると、伯母さんは眠ってるのかシーンとしていた。
俺は冷蔵庫から缶ビールを何本か取り出して、自室に持ち込んだ。テレビ画面の中では、
タツミとレイが「ちきゅうのへそ」を出るところだった。
*「それでは 君がこまるだろう。本当に 私でいいのかい?」
>はい いいえ
なんだか入り口付近でもめている。レイに何度も念を押されつつタツミは「はい」を選
んでいた。もしかして、勝負をレイに譲ったのか?
缶ビールを飲んで(金属くさくてまずいコレ)携帯をかけてみるが、まだ繋がらない。
画面の中では、仲間たちが不合格になったことを口々に慰めている。
「……お前、なに考えてる……?」
なぜか、ひどく嫌な予感がした。
本日はここまでです。
皆様改めて、あけましておめでとうございます。
いざ投下しようとしたらアク禁に巻き込まれていてびっくり。
仕事柄もう一本プロバイダを持っていて助かりました。
ショウって、いい奴ですね。すくなくとも表面上は。
タツミさんの過去とかなんかいろいろ不穏な話がでてきましたね。
勇者試験、譲ってしまったのですか・・・(汗
実に困ったことになりましたね。
アルスガンガレww
大魔王を倒して世界救った勇者も、現実だと一人のただの人間なんだな。
まさにリアルバトルだ。
44は保守の呪文を唱えた。
しかし、なにも起こらなかった。
ほす
保守しとく
よっしゃ〜!!
遅れましたが、新年明けましておめでとうございます!!!!
まだまだ未熟な暇潰しですが、今年もよろしくお願いします!!(`・ω・´)シャキーン!!
新スレ立て乙! ゲマさん&Rさん投下乙! タカハシさんまとめ更新乙!
住民さんたちみんな乙!!
という事で今日は真理奈の方を書いたので投下!
と思ったのですが、続きよりもリメイクを先に書いてしまったんです。
なので今回はテキストでアップという形にします。
http://www.uploader.jp/dl/ifdqstory/ifdqstory_uljp00016.txt.html たった今書き上げたばかりで申し訳ないのですが読んでみてください。
という訳で今日はここまで。
1レスで済むって素晴らしいww
保守
50は保守の呪文を唱えた。
しかし、MPが足りない。
(´∀`)<保守
hosun
このタイミングでここまで過疎ることから導き出される答えは一つ!!
書き手さん達、実は受験s(ry
―小指の約束―
「あんな昔のことなのに、覚えていてくれたんだ」
「約束したことだから……」
僕は思い出していた。昔の自分、昔の彼、そして昔の約束を。
「ねえ、聞いてくれる僕の昔話。あ、でも笑わないでよ」
「笑わないよ」
「でも面白かったら少しは笑っていいからね」
僕は笑いながらそう言った。そして2人して笑った。
「昔々、僕は夢を見たんだ。だけど今でも夢だとは思っていない不思議な世界の出来事だよ」
「じゃあ、体験談として聞くよ」
そう、僕にとってあれは夢じゃない。紛れもなく体験したことだ。
「その世界で僕は『モンスター使い見習いトモノリ』って呼ばれていた」
「ええ? それって……」
「僕ね、目が覚めたらその世界の宿屋って言うところにいたんだ」
――
あれ、僕いつの間に寝ちゃったみたい。
うーん、いつ寝たのか思い出せない。
それにこれって僕のベッドじゃないよ。
ここ、どこだろう。
前に目が覚めたら病院だったなんてこともあった。
僕ってあんまり体が丈夫なほうじゃないんだ。
ここも病院なのかな。
それならどこかにナースコール用のボタンがあるはずだよ。
よく声が小さいって言われる僕だけど、ボタンなら声を出す必要はないんだ。
……あれ、ボタンがない。
あ、足音が聞こえる。誰か来たみたい。
「おお、目が覚めたようじゃな。」
やって来たのはお爺さんだ。病院の先生かな。
「あの、先生ですか?」
「わしか? わしは有名なモンスター爺さんじゃ。」
ああ、やっぱりここは病院みたいだよ……
僕は外に倒れていたところをこのおじいさんに助けられたんだって。
それでこの宿屋というところにつれてきてもらったみたい。
お爺さんは宿屋のおじさんと何か話しをしている。
僕もおじさんに挨拶をした。そのあと僕はお爺さんに連れられて宿屋を出た。
どこなんだろう。僕の町とは町並みがぜんぜん違う。
遠いところに来ちゃったのかな。
これから僕は迷子としてお巡りさんのところに行かれるんだろう。
ううう、この年で警察のお世話になるとは思わなかったよ……
でも僕は何故か地下室に連れてこられた。
この地下室には牢屋のような鉄格子がある。
何かを捕まえておくのかな?
ひょっとしたら、さらってきた子供を入れておくのかもね。
……嘘。
えええ! もしかしてそれって僕?
これって危険なんじゃない?
知らない人についていっちゃいけないってこういうことだったの?
うわわー! 誰か助けて!
僕の願いが神様に通じたのか誰かがこの地下室に降りてきた。
がっちりしたお兄さんが2人。
お兄さんたちはお爺さんと何か話している。
「わしが有名なモンスター爺さんじゃ。」
また言ってる。やっぱり怪しい。
「この子は?」
「ああ、モンスター使いとして育てようと思ってな。」
……何か変なこと言ってる。
さらってきた子供だと気づかれないように誤魔化そうとしてるんだ!
「お前、名前は?」
「ぼ、僕? 僕の名前はトモノリ……。」
僕は何とか声を振り絞って答えた。
「もう少し大きな声でしゃべれよ。トモノリって言うのか。変な名前だな。」
緑色の髪の毛のお兄さんが笑う。
「モンスター使い見習いトモノリね。いいじゃないか。」
黒い髪のお兄さんは優しくそう言った。
ううう、違うのに……。
ああ、このままじゃお兄さんたちが帰っちゃうよ!
僕は自分の中の勇気を全部出し切って叫んだ。いつもとは違う大きな声で。
「た、助けて! 僕、誘拐されたの!」
2人のお兄さんの顔色が変わった。
「貴様! 人攫いだったのか!」
「モンスター爺さんなんて名乗るから怪しいと思っていたんだ!」
「待て! 誤解じゃ!」
「問答無用!」
「うおぉぉぉ!」
「結局のところトモノリは爺さんに誘拐されたわけじゃないんだな。」
騒ぎは収まった。収めたのはイナッツというお姉さん。
モンスター爺さんの助手で騒ぎを聞きつけて出てきたんだ。
お兄さんたちはすっかり説得されてしまっている。
ちなみにお爺さんは僕を孤児だと思って引き取ろうとしただけらしい。
ごめんなさいモンスターお爺さん。
イナッツさんの格好はバニーガールって言うのかな?
これはこれでかなり怪しいよね。
もしかしたらモンスター爺さんの趣味なのかな。
でもこんな格好で街中を歩いていたら捕まっちゃうよね。お爺さんが。
「それでトモノリはどうなるんだ?」
そうだよ。僕はおうちに帰れるの?
「どうにも分からん。まるで別世界から来たようじゃわい。」
僕が住所を言ってもまるで分からないみたい。
「そうなると本当にモンスター使い見習いとしてここで暮らすしかないな。」
緑髪のお兄さんがそう言い放つ。ううう、そんなぁ……
「かつて勇者の前に別世界の人間が現れ奇跡を起こしたと伝え聞く。」
お爺さんがまた良く分からないことを言う。
「一説には天空の民だとも言われておるが……トモノリもそうなのかもしれんの。」
天空って……その人、本当に人なの?
「それならトモノリを大事に扱えばいいことが起きるんじゃないか?」
大事にしてもらえるのかな。それなら昔の天空の人ありがとう。
「勇者様の前に現れたなら、トモノリと一緒に旅をすれば勇者様に会えるかもね。」
黒い髪のお兄さんがそんなことを言う。でも……
「僕、体が弱いからお兄さんたちと旅をするなんて無理だよ。」
「いま、何って言った?」
緑色の髪のお兄さんが僕の言葉に反応した。え、僕、何か変なこと言ったの?
「いま、お兄さんって言ったよな?」
「う、うん。」
「そうだよ、俺たちはまだお兄さんなんだ!」
え、何? 何なの?
「外でかくれんぼしていたガキどもはおじさんなんて言ったが、そんなことはないぜ!」
どうやら誰かにおじさんって言われていたことが気に入らなかったんだね。
「よし気に入った。お前は俺の子分にしてやろう。これからは俺を親分と呼んでいいぜ。」
ごめんなさい。意味が分かりません。
「お兄さんが親分ならこっちのお兄さんは?」
「この青年はモンスター使いの才能があるようじゃ。いろいろ教えてもらうといい。」
ううう……。僕がモンスター使い見習いになるって確定事項なんだ。
「じゃあ、こっちのお兄さんはお師匠様って呼ぶよ。よろしくお願いします、お師匠様。」
黒髪のお兄さんはちょっと照れくさそうだ。
「おい。親分より師匠様のほうがかっこいいじゃないか!」
親分は必死だ。ちょっと面白い。
黒髪のお兄さん……お師匠様がモンスターを連れて来て、ここで面倒を見るんだって。
モンスター爺さんはモンスターの研究をしているのかな?
僕はそのモンスターの世話のお手伝いをすることになるみたいだ。
でもさ、そもそもモンスターって何? 怪獣みたいなの?
「モンスターの世話をしてくれるなら代わりにトモノリが家に戻れる方法を探してみるよ。」
お師匠様は僕の目線までかがみこみ、そう言ってくれた。
「約束だよ。」
僕は小指を立てて前に突き出した。
でもお師匠様はどうしていいかわからないみたい。
「約束をするとき小指を絡ませるるんだよ。」
僕がそう言うとお師匠様はにっこり笑って小指を突き出して僕の小指に絡めた。
約束だよ。……嘘ついたら針千本だからね。
――続く
>>60 今度の主人公は子供か
5主とヘンリーは人攫いには個人的な恨みもあるから
イナッツさんが止めなきゃきっと本気でモンスターじいさんを
やっちまう気だったんだろうなw
hosyu
でっていう
>>63 続きマダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
俺は待ってるぜ〜
―薬指に指輪―(
>>54-60)
僕ってついてないよね。
何で僕ばっかりこんな目に遭わなきゃならないんだろう。
理由も分からずこんな変なところにいるんだから。
僕はこの場所でモンスター使い見習いとして生活することになったんだ。
そういえばここってベッドがひとつしかないんだって。
イナッツさんのらしいけど一緒に寝るってことでいいのかな?
「それでさ、モンスターってどこにいるの?」
「今はまだいない。あの青年が連れてくるまで待つのじゃ。」
お師匠様しだいなんだ。いつごろになるんだろう。
「モンスターは馬車に入りきれない奴を連れてくる。先の話じゃよ。」
モンスター爺さんはそう言っていたけどお師匠様はモンスターをすぐに連れてきた。
「このホイミスライムの面倒を見て欲しいんだ。」
そう言ってお師匠様が見せてくれてのは宙を漂う青い海月みたいな生き物だ。
「これがモンスターなの?」
「ホイミンって言う名前なんだ。可愛がってやってね。」
「うん!」
どんな怖いのが来るのかと思っていたらこんなに可愛いなら大歓迎だよ。
「ホイミスライムなら馬車に入れておけば何かと便利じゃろうに。預かっていいのか?」
「はい。よろしくお願いします。」
あ、もしかしてモンスター爺さんに押し付けたってことは暴れん坊なのかな?
「ホイミスライムはモンスターの中でも特に優しい性格をしておるのじゃ。」
そっか。良かった。
「こいつはホイミという回復魔法を使い傷ついた仲間を助けるのじゃよ。」
モンスターの次は魔法か。次は神様かな。
「かつては人間になったホイミスライムもいるというぞ。」
僕が子供だと思ってでたらめ言ってるでしょ。
そんなこと言ったら進化論の人が泣くよ。
そのあとしばらくして今度はお師匠様と親分が女の人を連れてきた。
マリアさんっていう綺麗な人だよ。どういう関係なんだろう。
お師匠様たちは不思議な鏡を使って何かをする相談をしている。
「ねえねえ、この鏡でどうするの。どんな作戦?」
「子供には関係ない。」
ううう……。親分が冷たい。
「マリアさーん。親分がいじめるよー。」
「まあ、酷い親分さんね。」
「いじめてない! いじめてないですよ! むしろ可愛がっています!」
マリアさんの言葉を親分は否定する。でも、ちょっと必死すぎじゃない?
「ヘンリーさんたちは大切なお話をしているの。私たちは向こうに行っていましょう。」
「うん。おいで、ホイミン。」
ホイミンはふわふわしながら僕に近づいてくる。
「あら、可愛いわね。」
「いいでしょ。お師匠様から面倒を見るように任されているんだ。」
「トモノリさんが寂しくないようにお友達をつれてきてくれたのね。優しいお師匠様ね。」
あれ、そうなのかな。
マリアさんによるとお師匠様たちはあるモンスターの正体を暴く計画を立てているみたいね。
そのモンスターは親分の故郷で人間に化けて悪いことをしているんだって。
お師匠様の故郷もそいつのせいで酷い目にあったらしいよ。
悪いモンスターもいるんだね。
「お2人とも子供のころから苦労してこられて、さらにこんな仕打ちはあんまりです……」
「苦労って、どんな苦労してきたの?」
「あら、2人とも話していませんでしたか。私の口から言ってもいいのかしら?」
マリアさんは話していいものか迷っている。そんなに酷い目に遭ってきたの?
「でも、奴隷だったなんて私の口からは言えないわ。」
天然だ! この人天然だ!
それより何、奴隷……?
「詳しく教えてください!」
その夜、僕は眠れずにいた。
ホイミンを抱えたままずっとベッドの上で考え事をしていた。
お師匠様と親分は子供のころ攫われて奴隷として何年も働かされていたって。
その上お師匠様はお父さんを殺されて、家も町も壊されていたんだ……
そんな酷い目に遭ったのにぜんぜんそんな風に見えないよ……
僕がそんな目に遭ったら平気でいられるかな。
ぜんぜん知らないところに来ちゃったのは一緒だけど……
僕はみんな優しくしてくれる。酷い目になんて遭っていない。
でも、これからどうなっちゃうんだろう。
すぐに帰れると思っていたけど、もしこのまま帰れなかったらどうしよう。
もしかしてずっとここで暮らさなきゃならないのかな。
お父さん、お母さん、今頃僕がいなくなって心配しているだろうな……
考えれば考えるほど不安になってくる。
僕は枕に顔をうずめた。
「ホイミ。」
そのとき僕に何かが起こった。まるで毛布で優しく包まれたような……
「ホイミン。君がやったの?」
これが魔法の力なのかな?
「ありがとうホイミン。僕、大丈夫だよ。」
お師匠様たちの作戦はうまくいったみたい。
親分はお城に戻って暮らすんだって。
……それにしてもヘンリー親分が王子様だったなんて。
人は見かけによらないものだね。
お師匠様は船に乗って新しい土地を目指すそうだ。
僕もついていきたかったけどできなかった。
ここでモンスターの世話をするのが僕の仕事できる精一杯のことだから。
どうか新しい土地でお師匠様にいいことがありますように。
お師匠様が旅立って何日か過ぎた後、親分が僕を訪ねてきた。
「荒れていた国もだいぶ落ち着いてきたよ。デール……弟が頑張ってくれてな。」
「そっか。良かったね。それで、僕に何か用?」
「いやさ、あいつからお前のことよろしくって頼まれたからな。」
お師匠様、やっぱり僕のこと心配してくれてるんだ。
「それでな。トモノリさえ良ければ俺の国で暮らさないか?」
「ありがとう。でも僕、モンスターの世話をするって約束したから。それに……」
「それに何だ?」
「親分が迎えに行くべきなのは僕じゃなくてマリアさんだよ。」
僕の言葉に親分は慌てふためいている。親分、分かりやすい。
「親分、マリアさんゲットするなら今しかないよ。」
「だから何でそういう話になるんだよ!」
「いいの? マリアさんお師匠様に気があるみたいだから取られちゃうよ。」
「ちょっと待て。それ本当か?」
「マリアさん、お師匠様のこと優しい人だって言ってたよ。気になってる証拠だよ。」
親分は無言になってしまった。
「まあ、冗談だけどね。」
「冗談かよ!」
「ふふふ。親分ってやっぱりマリアさんが好きだったんだね。」
「大人をからかうもんじゃない。俺が子供のころはもっと素直だったぞ。」
本当かなぁ。
「ま、そりゃ気に入った奴を子分にするなんてことはしたけどさ。」
「それ、今でもやってるじゃん。」
あ、親分が凹んだ。
「でもさ、マリアさんに告白するならちゃんと伝えなきゃ駄目だよ。」
「何でだよ。」
「マリアさん天然だから遠まわしに言っても気づかないよ。きっと。」
ストレートに言っても気づくまで1分くらいかかりそうだけどね。
ヘンリー親分とマリアさんが結婚した。
親分、行動が早かったね。僕も結婚式に呼ばれたよ。
「マリアさんの花嫁姿すごく綺麗だったよ。」
僕はホイミンにご飯をあげながら話しかけていた。
「それは見てみたかったな。」
どこからか聞き覚えのある声がした。
「お師匠様!」
お師匠様はルーラって言う便利な魔法を覚えて帰ってこれるようになったんだって。
「そのルーラを復活させたのがベネットって言うおじいさんなんだ。」
ベネットさんの家では魔法の研究をしていていつも煙を出しているんだって。
「そのお爺さん、天才は理解されないものだってなんて言っていたよ。」
「でも、きっとそのお爺さんが理解されていないのは天才だからじゃないよね。」
「そうだ、紹介しておくよ。キラーパンサーのプックルだ。」
そう言うとお師匠様はトラのようなモンスターを連れてきた。
ううう……。ちょっと怖いかも。
「心配しなくてもいいよ。とってもいい子なんだ。本当はね……」
あれ、今お師匠様ちょっと寂しそうな顔をした気がする。
「ねえ、何かあったの? 僕でよければ聞いてあげるよ。」
「いや……実はプックルがある村で恐ろしいモンスターだと誤解されちゃってね。」
確かに見た目はかなり怖いからね。でも……
「僕は誤解しないよ。だから安心して。」
お師匠様はちょっと驚いた顔をして、その後にっこり微笑んでありがとうと呟いた。
「ところでお師匠様、親分には会ってきた?」
「うん。幸せそうだったよ。だからヘンリーに言ってやったんだ。」
「何って言ったの?」
お師匠様が辛い目に遭っているとき、親分は幸せの絶頂にいたんだよね。
「許さないって言ったのさ。」
「え?」
「マリアさんを不幸にしたら許さないって言ったんだ。」
もう脅かさないでよ!
「ねえねえ、お師匠様は結婚しないの?」
「ん……。まずは母さんを探さなきゃいけないから……」
うーん。それってどうなんだろう。
「あのね、お師匠様。僕さ、今こうして知らない世界にいるよね。」
「うん。なんとしても帰れる方法を見つけるからね。」
「ありがとう。それでね、もしも僕がお師匠様の子供だったとしてさ。」
「トモノリが? いきなり大きな子供ができちゃったね。」
「仮の話だよ。それで僕がお師匠様のところに帰ってきたらどう思う?」
「それはもちろん良かったと思うよ。すごく安心するだろうね。」
「じゃあさ、いなくなっていた間、僕が幸せに暮らしていて欲しいって思う?」
「もちろんだよ。たとえ会えなくても幸せを願うはずだよ。」
「それって、お師匠様のお母さんも同じだと思うよ。」
きっと僕のお父さんとお母さんもそう思っているよね。
お父さんお母さん心配しないで。僕はこっちの世界で幸せに暮らしているよ。
みんなとっても良くしてくれているんだ。
お師匠様はまたルーラで戻っていった。
今度はサラボナっていう町を目指すんだって。
きっとお師匠様も自分の幸せを考えてくれると思うよ。
でも結婚はまだ先だと思うけどね。10年くらいかかるかも。
――続く。
イナッツと同じベッドで寝てるのだろうか…トモノリはエロい子供だな
やっぱり冒険には参加しないんだね。
なんかこういう視点もおもしろいですね。
次にお師匠様に会う時はビアンカさんをつれてくるのかな。フローラさんをつれてくるのかな。どきどき
>>71 うーん、同じベッドでねてるだろうね(うらやましい)。
トモノリ…ガキのくせに的確なアドバイスばっかしやがって…!
>>64 先の長い話なんでお楽しみに・・・
パソコンなおったらハイペースで書きますんで
「……What?」
えげれす人でもない生粋の日本人な俺はその唐突な出来事に何かしらの言霊を漏らしていた。
豪奢な造りの天井、一人で寝るにはあまりにも大きすぎるベッド、簡素ながら品のある家財道具。
ぶっちゃければそんな部屋に居た。
「つまりあれか? 昔はやったどっきりか? カメラどこだカメラカメラカメラ……」
――鍵をかける習慣は欠かさないってのにクソッ、大家のクソババァが手を貸しやがったな。
心の中で悪態をつきながら窓を開ける。何ともいえない風が部屋へと吹きそそぐ。
「何この、何? ヨーロッパ村!? ヨーロッパ村ですかここ!?」
違う、ぜってー違う……意識の裏側で俺じゃない俺がツッコミを入れるも唖然として切り返せない。
目前の王城へと放射状に続く道のり、区画を丸ごと保存したとは思えないほどによーろぴあんな人々が歩いているのだ。
これだけの規模を維持しながら観光客が居ないなんて酔狂な話があってたまるかというわけでして……。
「……寝よう、こりゃ南下悪い夢の類だ、いや待てよ……夢なら夢でも良いじゃないの」
「うおっしゃあああああああああああああっっっ!!!!!」
俺は雄叫びを上げながら窓枠からソラへと飛んだ、跳んだじゃなくて飛んだ。
夢の中で夢と気付いたら全力で遊ぶことに決め込んでいるのだ、たまには嫌なリアルを忘れてメルヘンも良いってことなのさ。
「いぎゃああぅぇああああああああいっっ????!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い、何だこれ、何これ痛い痛い痛い、け、ケツの骨が、うぎいいいいいいいいいいい。
夢の中でありえないはず激痛に俺がのた打ち回っているとしばらくして人だかりが出来ていた。
「……ありゃあオルテガんところの子倅じゃねえのか?」
「重圧に押し潰されてついに狂っちまったようだな」
「あらまあ、彼が魔王を倒さないといけないのにどうするのかしら?」
痛ましい目で見る一群、どうやらメルヘンではなく俺がメンヘルだったようだ。
引いてきたとは言えどケツはまだ痛い、というより周りが引いた。
あぶそりゅーとなんたらふぃーるどな距離関係、一定間隔を保ちながら俺を動物園の珍獣の如く眺めている連中をかき分けながら迫る影ひとつ。
初見な人物、いや待て、この夢でまだ知ってる人物に会ってないと、それより聞いてくれ、この背筋をつたう冷たい汗はなんだろう。
心は知らない、体は知ってる、あれ?何かエロくね?一人ツボにはまってケタケタ笑ってると、引っ叩かれた。
「ロンリーロンリー、ここ狭くね?」
三階からダイブした俺を心配もせず引っ叩いたご婦人はなんとまあ俺のママンだったのさ、いや待てそれおかしいとか今無しで。
どうやら俺は俺じゃなくなったようなのだ。幸いにも連中は中身が変わったことに気付いていない、逆に危うい立場に居るらしいんだけどな。
なんつーかまあ、あれですよ、俺っつーか、俺じゃねーっつかー、この肉体の持ち主さんは勇者に成る者らしく国からがっぽがっぽ援助してもらってたらしいのね。
下手な貴族も裸足で逃げ出すような巨大なあぱーとめんとに家族三人で住まうなんて基地外じみたことができるのは俺以外に世界の脅威に対抗し得る勢力がないってことで。
スーパーお説教タイムで数時間ガミガミーなら俺でも耐えるさ、でもね、女の人泣いてるのね、うわー俺でも心を痛めるわさ。
そんでその後、豪邸の地下、魔法の訓練室にマジ監禁、真っ暗闇で時間の感覚なんてもうないです。
そろそろ出してくれないとこのまま発狂コースですね、いや、周りから見たら十分黄色い救急車なわけですが。
/
部屋から引きずりだされた俺は馬車にぶち込まれドナドナ気分、上半身裸でへるめっぽなムキムキマッチョな屈強お兄さん怖。
がたごとがたごと、止まれば死刑執行待ち。
/
人を運んでいるとは思えない扱いで俺は王城の赤い絨毯の上をずりずり、摩擦で何かズボンがすけすけで痛いです。
乱暴に投げ飛ばされ王の目前、洒落にならないオーラを纏ったご老体のつんざくような視線に俺素で土下座。
「勇者サードよ、魔王バラモスを倒す旅に出る時が来たようだ。 ここに50ゴールドを用意した。 それで装備を揃え早々我が前から立ち去れよ」
怒気の孕んだ言葉、悪意としか思えない50ゴールド、あれだけでかい家を用意していながらこの落差。
ビビった俺は文句も言えないままに後方へと向かって思いっきり前進した。決して逃げたわけではない。
たかが50ゴールド、されど50ゴールド、これが全財産であり、他に装備と言えば寝巻きぐらい。
頼る家もない、50ゴールドじゃ冒険者ギルドと言う名の派遣会社で仲間を雇うこともできない。
ぶっちゃけ今さっき気付いたんだけどこれってドラクエVなんだよね、とりあえず服を買って着替えて薬草調達……武器はその辺で拾う。
何でも風の噂じゃ勇者の特権たる屋内突入強制徴発、別名押し込み強盗は取り消されたらしくもしやって見つかったら首チョンパ。
そして国中の魔法使いを掻き集めて魔法付加された羽のように軽いフルプレートアーマーと薙ぎ払えば鋼鉄の壁さえも切り裂く剣は宝物庫の主と化したらしい。
最悪なことに噂がもう街中に流れているらしくさっさとアリアハンを脱出しなければ命が危ないみたいなのだ。
宿に泊まるなんて論外、野生児的な生活を強いられるらしい。
しかし何がモラルの欠如かと言えば俺の体まだ十にようやくとどくかどうか、ってところなんだよね。
こんなガキを外にほっぽり出すなと思うけど連中の怒りはそれほどのことだったらしく、はあむなしい。
「まあ最終兵器の勇者が使い物にならんとなるとぷっつん行くわな」
あー晩飯どうしよと嘆きながらとぼとぼ道を歩く、お情けに貰ったレンジャー図鑑が重い……でもこれガチで生命線。
とりあえずキノコは食べちゃ駄目ってことだな、道具屋で買った水筒に井戸で汲んだ水を入れたし一日は持ちそうだ。
「そういや朝飯も食ってないし昼飯も食ってない……」
勇者は多少じゃ死なないらしく、1ヶ月ぐらいの絶食なら余裕だそうだ、それ以上は精神が持たずに発狂だってさ、ありえねー。
それでもお腹はすくし凄くひもじい、さっきキノコは駄目と言ったが毒ぐらい食らっても最終的に外的なダメージを受けなければどうってことないらしい。
最悪キノコを食べて繋げばいい、道で転んだら即死だけどな!
「ぷにぷにー」
可愛く言ってみたけど凄いグロい、青い半透明ゼリー、通称スライム、俺の初めての敵、きっと食べられない。
取りあえず用意していた拳大の石を二、三個投げつけてみる。
「!!!!!!!!!」
ピギィィィィとかそんな感じの鳴き声?人語じゃちょいと表しにくいけどキレたみたい、まずい。
成人男性を軽く凌駕するポテンシャルとはいえど基本性能はガキ、レベルは底無しに上がるけどレベル1。
魔法の訓練とかやってたみたいだけど俺そんな記憶ないし使えない、マジ宝の持ち腐れ。
「かわいそうだけど俺の糧になってくれ、いや食わないけどな」
獣道にはわりと武器になりそうなものが転がってるんで助かるなーとか思ったり。
岩でぺちゃり、と。
「!!!!!!!!!」
声にならない断末魔、心にチクチクするけどたくさん殺して経験値をたくさん集めないと俺が死ぬ、さらばスライム、そしてこんにちはスライム。
仲間の最期に駆けつけ大軍来たれ、何かカラスの軍勢もやってくる始末……。
「あー焼き鳥食えそうだ、でもアイツら俺の屍突きに来たんだよな、おい」
撤退!撤退!撤退だ!!
/
ライターがなければメラがあるじゃない、俺使えないけどな!
「薬草不味ぃ、ちくしょうメラを覚えないことには死活問題だぜ」
さすがに生肉を食べる習慣はない、それになんだろう、火を通せば何でも食えそうな気分になれるのは。
「ばっちいの殺せるけどこの世界の何が悲しいって毒、毒、毒、毒物多すぎ、でも食える魔物が居るのはラッキー、なんか二足歩行なのも居るけど誰だ試した美食家は」
ロールでプレイングなゲームではこんな悩み無かったんだけどなーと乾いた笑い。
「しっかし恐ろしいのはゲームと大幅に時間軸がずれてるってことだ、知識は役に立たない、緒王連合の助けは借りれそうにないし……ロマリアにカンダタ一味が居ないのは幸いか」
いや、あれが無ければ王の信頼も買うことはできない、ジリ貧だ。
「どこかで仲間を調達できれば最良なんだが金も無ければ王の後ろ盾も無く、ガキは人を雇う資格はない」
ぶっちゃければ世界に搾取されるとはいえ勇者は王を除けば貴族すら凌ぐ特権階級だ、つーか、神授な時点で王より偉い。
発生率が凶悪に少なく、しかも二代続くとなれば運命を感じずに居られないのが世の定め、裏切られちゃかなわんと今まで贅沢していたわけだこの体は。
殆ど絞っていない体、子供とはいえ勇者とは思えない、実を言えばていのいい厄介払いだったのかもしれない。勇者とはそれほどまでに俗物であるらしい。
「塔に登って鍵を回収しその足で魔法の玉を……でも勝手に入るのは王命により禁じられるか、あの高性能爆薬がなければ大陸からの脱出は難しいぞ」
航路は魔物が溢れ、しかも船数が減っているとなるとチケットの値段が昂騰しているし、子供の一人旅は怪しまれる。
「旅の扉以外に選択肢がない、下手をすれば王軍すら敵に回す覚悟か、最低の勇者じゃねえか」
さすがに海路も分からず風も読めず星なんてさっぱりな状態でイカダを浮かべるのは避けたい。それは別の意味で勇者すぎる。
「時間の調整しかないよなあ、その頃にはほとぼりも冷めてるだろうし動きやすいだろう。 現代と違って人外魔境も多いし姿を隠すには……」
ん、今なんて言った?一人言が多い今日この頃だが、自分でなんかありえないことを言った気がする。
「現代? そうだ現代だ、俺の居た場所だ、色々ありすぎて忘れかけてるじゃねえか、どういうことだよ」
魔王?知ったこっちゃねえ、ルビスさえ本気になりゃあなんとかなんだよこんなことは、畜生、そうだよ、帰るんだよ俺は。
「しかしどうすんだよ、最悪神龍まで駒を進めなきゃならんのか?」
それこそ本当に最悪だ、あそこまで到達するのに後何年かかる?俺に思い浮かぶ手段はもっとバッドなことにそれしかない。
畜生、今日何度も呟いた悪態、その度に言葉が軽々しく思えるが逆に深まるのが最悪。
つーか順応してきたのが嫌過ぎる、そうしてもっと最悪があった。
「そういやドラクエ最後にやったのいつだ? 細々としたイベントなんてもう覚えてないな」
原作から脱線しても分からない、そうだ、この時点ですでにゲームと違う、一昼夜で行けるはずの村すら辿り着かない。
マップの密度からしておかしい、市街地戦を想定した入り組んだ迷路のような街だ、さすが城下。
「まあ、何とかなるだろう、多分。 なってほしいなホント」
プロローグ すりりんぐぶれいぶはーと 完
間幕
目が覚めると横に裸の男が居た。
「……ちょっとお酒が残ってるのかな?」
悪い冗談にしか思えない、僕が同性と一緒に一夜を共にするなんて何かの間違えに違いない。
横ですやすや眠る彼は無邪気そのもの、でも起こそうとは思わない、だってこれは夢なんだから。
たとえ夢であっても万が一男に掘られるなんてことはあってはならないから僕は静かにとこから出てスーツに腕を通す。
やや古めかしい感じが良い味を出してるって思ったけど気分は最低。
カウンターのおじさんもやっぱり同じ風な趣でここはそういうところなんだろう。
このホテルは食事は出さないらしく朝食は……。
「ここどこ?」
道路、じゃない、正真正銘の田舎道、石畳ですらなく土。
舗装こそされているけど踏み慣らされてている場所を除けば凹凸が痛々しい、管理者は何をやっているのか脇は草がぼうぼうと生えてる。
通好み、と言えば聞こえは良いけど多分怠慢。
僕は昨日の晩はこじゃれたバーでお酒を嗜んでいたと思う。
と言うのもどうも記憶が曖昧でよく分からない。
でも空気の良さは買う、清々しい、どうも都会の雰囲気は僕には合わないので良い感じだ。
「さて、駅はどっちだろう?」
とぅびぃこんてぃにゅうど
> どうやらメルヘンではなく俺がメンヘルだったようだ。
和良た
荒削り?だけど勢いがあって、先が楽しみです。
保守
文体が面白いな。
一気に読めるし読ませてくれる。
作者の知識もそれなりにあると見える。
楽しみ。
―中指で挑発―(
>>65-70)
サラボナに行ったお師匠様が帰ってきた。
僕のいるオラクルベリーとサラボナって結構遠いけどすぐに帰ってこれるんだ。
ルーラって便利だね。
「これから火山に行くから暑さに弱いガンドフを預かって欲しいんだ。」
ガンドフは顔の真ん中にひとつ目がある毛むくじゃらのビッグアイっていうモンスターだ。
「うわー! もふもふだね!」
僕はガンドフに飛びついた。
「ううう……」
「どうしたのトモノリ?」
「……獣くさい。」
「火山というのは死の火山じゃな。厄介なところに行くことになったの。」
モンスター爺さんが心配そうに言う。
「これも天空の盾を手に入れるためです。」
サラボナにはすごいお金持ちがいて、その人が家宝にしている盾が欲しいんだって。
「気をつけるのじゃぞ。あそこにいるモンスターはかなり凶悪じゃ。」
火山に行くってだけでも大変なのに悪いモンスターもいるんだ。
「お師匠様、そこに行かなきゃ駄目? そんなに盾が欲しいの?」
「確かに盾は手に入れたい。でも……いや、何でもない。」
あれ。なんだか歯切れが悪いね。何か隠しているのかな?
お師匠様が火山から戻ってきた。しかもまたモンスターを仲間にしたんだって。
「爆弾岩のロッキーだよ。」
ロッキーは大きな石のモンスターだ。生き物なのかな?
「こやつはメガンテというそれはそれは恐ろしい技を使うのじゃ。」
「わー、すごーい! 見せて見せて!」
「馬鹿もん! 恐ろしい技って言ったじゃろ!」
……モンスター爺さんのけちぃ。
「メガンテって言うのは自分の命と引き換えに敵を倒す技なのよ。」
イナッツさんが恐ろしい技の正体を教えてくれた。
「こんなところで爆発されたらひとたまりもないぞ。」
「見せてなんて言ってごめんねロッキー。使ったらロッキー死んじゃうんだよね。」
「知っていたらそんなこと言わなかったよね。大丈夫だよトモノリ。」
「それで、このロッキーを預かればいいのか?」
ロッキーは預けないんだって。馬車に入れて連れて行くんだ。
お師匠様、今度は船に乗って冒険するんだって。
なんだか落ち着かないようなんだけど気のせいかな?
お師匠様が結婚することになった。
僕もその結婚式に招待されたけど寝耳に水だったよ。
火山や船での冒険は結婚するための試練だったんだって。
僕と同じく結婚式に招待されたヘンリーさんとマリアさんが迎えに来てくれた。
「結婚のために危険な冒険をするとはあいつもやるなあ。」
「それがね、何故か最後にお嬢様と幼馴染とでお師匠様をめぐって戦ったらしいよ。」
修羅場だったのかな。うーん、僕もその場にいたかったね。
「俺の聴いた話と少し違うぞ。」
「あいつどんなプロポーズしたんだろうな。」
親分が茶化すように言った。
「そう言う親分はどんなプロポーズしたの?」
「ど、どうだっていいだろ。」
柄にもなく照れちゃってるよ。
「どんなプロポーズだったのマリアさん?」
親分がわーわー大きな声を出しているけどマリアさんは気にせず答える。
「白馬に乗って迎えに来て結婚してくれって言ったんですよ。」
これはまたストレートだね。
「私、プロポーズだって気づくのに3分くらいかかりました。」
強いねマリアさん。
結婚式が始まった。なんだか緊張しちゃう。
綺麗なお嫁さんだね。純白のヴェールを被って神秘的でさ。
お嫁さんと2人並んでお師匠様幸せそうだよ。
いいよね。憧れちゃうよ。
ホントお師匠様良かったね。
僕、うれしいはずなのに涙が止まらないよ。
お師匠様の奥さんの知り合いが僕のいるオラクルベリーの近くにいるらしい。
その人に結婚の報告をするためにお師匠様たちは夫婦で会いに行きたいんだって。
「それならさ、その間モンスターたちは僕が預かるよ。」
「いいのかい?」
「うん。新婚旅行だと思ってゆっくりしてきなよ。」
僕は彷徨う鎧のサイモンをつれて夜の町を散歩する。
「夜道を散歩しながらの一服は最高だね。」
「歩き煙草は駄目だよ、サイモン。」
「ああ、トモノリは煙草が嫌いだったな。」
「誰がそんなこと言ったの?」
「お師匠様だよ。お前のお師匠様だ。」
あれ、僕そんな話したっけ?
「ベネット爺さんの家から出る煙を嫌がっていたろう。だから煙草も嫌いなんだろうって。」
お師匠様そんなこと覚えていてくれたんだ。
「トモノリが煙草嫌いだから私は預けられない。預けるモンスターは大人しいのばかりだ。」
「そういえばホイミンもガンドフも大人しいね。」
うーん。でもそれじゃ僕、お師匠様の旅の助けになってないんじゃないかな?
旅がしやすいようにモンスターを預からなきゃいけないんだよね。
「トモノリは大切にされているんだな。」
「それは僕が別の世界の人間だからだよ。」
昔、別の世界から来た人が活躍したから同じことを期待してるんだよね。
「伝説ではその別世界の人間は滅んだ村を復活させたなんて話も残っているな。」
「もしかして魔法使いか宇宙人だったのかな。」
「天空人説というのはあったな。どうも別の伝説と混ざったようだが。」
「僕とは大違いだね。僕……何もできないよ。」
「いや、何もできないなんてことはないさ。」
サイモンは僕を慰めようとしてくれようとしたみたい。
僕とサイモンはしばらく黙ったまま散歩を続けた。
「実を言えば、その謎の人物は何もしなかったという説もある。」
「何もしなかったのに伝説になってるほうがすごいよ。」
「はっはっは。まあ、本当のところは良く分からないのだ。」
まあ、昔の話だからね。
「このサイモン、守るべきものを守れず死に、その悔恨の念が鎧に宿ったモンスターだ。」
「サイモン?」
「私はただただ彷徨うしかなかった。我が主、お前のお師匠様に出会うまではな。」
「お師匠様に?」
「ああ、あの人に出会うことで私は救われ、生きる道を見つけたのだ。」
「そっか。お師匠様はすごいね。」
モンスター使いってかっこいい。でも僕は何もできないや。
「僕も頑張らなきゃいけないね。」
「うむ。お前のお師匠様も今頃頑張っているころだろう。」
え、何を?
「だけどな、私はトモノリにも救われたのだ。」
「ええ? 僕、何かした?」
「わが主は多くのモンスターを仲間にしている。お前のために。」
「僕のため?」
「お前が寂しくないように、お前が退屈しないように、な。」
……やっぱりそうなんだ。
「だからお前がいなければ私はまだ彷徨い続けていたかもしれない。」
「うーん。それって何か無理やりじゃない?」
「そう考えたほうが人生楽しいってことさ。もっとも私は人間ではなく鉄の塊だがな。」
「鉄の塊じゃないよ。サイモンって熱い魂を持ってるもん。」
「はっはっは。うれしいこと言ってくれるじゃないか。」
おかしいよね。ホイミンやサイモンがモンスターって呼ばれちゃうのさ。
「そうそう。それからな、お前はお師匠様を救っているのだ。」
「えええ?」
「トモノリがいてくれたおかげでずいぶん助けられたと言っていたぞ。」
「お師匠様がそんなことを? でも僕何もしてないよ。」
「どういうことか、直接本人に聞いてみるといい。」
「うん。そうするよ。」
次の日の朝、お師匠様が帰ってきた。
僕は早速本当に僕がお師匠様を助けたのか聞いてみた。
「初めてトモノリと会ったとき昔の自分と重ねて同情していたんだ。」
「お師匠様も子供のとき知らないとところに連れて行かれたんだよね。」
「だからこそ助けてやりたいと考えていた。でも、いつの間にか逆に助けられていたんだ。」
「僕、何にもしてないよ。」
「そんなことないさ。この結婚だってトモノリの言葉で決めたようなものだよ。」
「僕がいなくてもお師匠様は結婚していたと思うよ。でも、僕が助けていたらうれしいな。」
「いつまでも助けられるばかりじゃないさ。人と人の関係なんて移ろい行くものだ。」
「関係が変わっちゃうのって、なんか怖いよね。」
「そんなことないさ。敵だったものが味方になることもあるんだよ。」
「あ、そっか。モンスター使いってそういうことができるんだ。」
やっぱりモンスター使いってすごいね。
「お師匠様、僕モンスター使い見習いだからどんなモンスターでも面倒見るからね。」
「うん。いっぱい仲間にするよ。」
「どんなモンスターとも仲良くなるから大人しいモンスター以外も遠慮なく預けてね。」
「よし、いろんなモンスターを預けるから頑張ってね。」
お師匠様はそう言うとにっこり笑った。
「うん! そういえばお師匠様も昨日の夜は頑張ったんでしょ? サイモンが言ってたよ。」
その後何故かお師匠様はすごい剣幕でサイモンを呼びつけた。
「サイモン。後で話がある。」
サイモンはホイミンと一緒にいる。
「ああー! お師匠さまぁー! サイモンが僕のホイミン取ったぁー!」
「ホイミンとは旧知の仲でね。」
ううう……サイモン嫌い。よく分からないけどお師匠様に怒られるといいよ!
お師匠様は奥さんとモンスターをつれてまた旅に出た。
今度は船旅だって。どんなところに行くんだろう。
「お師匠様、早くお母さんが見つかるといいわね。」
イナッツさんが僕に話しかけてきた。
「そのためには勇者様を見つけなければならないのよね。」
勇者様を探すために天空の盾が欲しかったんだよね。
「勇者様ってどんな人なの?」
「地獄の帝王が復活するとき生まれて世界の希望となる存在なんですって。」
「なんだかすごい人だね。」
「かつての勇者様もその存在をめぐり多くの人や魔物の運命を変えたらしいわ。」
「今度の勇者様もお師匠様や、いろんな人の人生変えてるよね。歴史は繰り返す、だね。」
歴史は繰り返す。
男の人と女の人が結婚するってこともずっと繰り返してきたんだよね。
そう考えると何か不思議な気がするよ。
でもお師匠様は奥さんといちゃついてる場合じゃないよ。
早く勇者様を探し出さないとね。
僕にもっと力があればその手伝いができるけど、僕にそんな力はない。
でも、僕はモンスターの世話をすることで助けるよ。
僕はお師匠様の弟子、モンスター使い見習いなんだから。
――続く
オラクルベリー近辺にいる奥さんの知り合いって誰だろな。
お師匠様…ゆうべは おたのしみでしたねwwww
奥さんの知り合いは建て前で、本当は2人っきりでお楽しみだったのでは
サイモンの過去もハードだなぁ・・・・。
魔物を仲間にするってことは、相手の人生(魔物生?)も救うってことなんだね。
正直感動した。
> 「うむ。お前のお師匠様も今頃頑張っているころだろう。」
wwwwwwwwwww
結婚相手はビアンカさんかな。フローラさんかな・・・。それともわからないほうがいいのかな。
>>93 乙でした。続きたのしみ。
>>94-95 普通にアルカパに行ったのでは?
ビアンカの故郷だし。
夜のアルカパ限定イベントあるしね。
南にはフローラが世話になった修道院があるし、
その辺は読む人が心の嫁を当てはめてくれ、ってスタンスなんじゃないか。
>>98 俺の嫁がヘンリーと結婚してしまっている件
>>98 おお。そうだ。
作者巧いな。
何にしても乙
ほす
偶然かもしれないがサイモンってうちのパーティーにもいるんだが
なんだこいつ…
保守
昔あった、「俺が3勇者だったら」というスレに投げ込もうとしていたが
先の展開でちょっと詰まって放っていた書きかけの文章を落としてみる。
「目が覚めたら勇者だった」ではなく、あくまで「俺が勇者だったら」なので
このスレの趣旨とはちょっと違っているが、そこのところはご容赦を。
もう16になる日だというのに、お母さんに起こされて目覚める俺。
そう、今日は旅に出るんだよな。
昨日は遠足気分で準備していて、なかなか寝付けなかった。
いつもよりちょっと豪華な朝食を食べて、おじいちゃんには自信満々な言葉をかけて外に出る。
さて、まずはお城へ行かなきゃならないわけか・・・
・・・途中までお母さんがついてくる。
もういいって、今から外へ旅立とうって言うのについてくるなって。
と思いつつも何もいえない俺。
さすが城へ続く道はきれいだな、と感心しながら歩いてたら、門兵にじろじろ見られた。
きょろきょろしてて挙動不審だったらしい。
身分を明かしてなんとか中に入れてもらうも、やっぱりきょろきょろ。
今度は物珍しさより、階段を上れば国のトップがいるんだ、と思うと緊張して
なかなか前に進めなかった。
意を決して階段を上ると、玉座まで一直線の道になっていた。
ここまで来たら後はきびきび動くしかない、全身の筋肉がこわばる。
・・・あとはあまり覚えてない、緊張の極致だったらしい。
大臣がちょっと胡散臭そうな目をしていたのは覚えてる。
それと「まずは酒場へ行け」なんて言われていた記憶もある。
うん、まずは言われたとおり見に行ってみよう。
こわごわと酒場の扉を開ける。
当たり前だけど酒臭い、少しうらぶれた雰囲気がする。
奥にいるおかみさんがルイーダさんだったと思うけど、なんだか話しかける勇気が湧かない。
テーブルでお客さんが話しているのを横目に見ながら、所在なげに2階へのぼってみる。
ここはどうやら登録所らしく、一階よりは多少清潔になっていた。
張り紙をなんとなく読んでから、カウンターのおじさんに話を聞いてみる。
ふーん、仲間を探すにはここが一番ってことか・・・
基本的なことも分かっていない俺。
多分このおじさんは心の中で笑ってるんだろうな。
結局俺はなにもせず酒場を出た。
仲間と旅するなら、俺がこんなひよっこじゃいけない。
もっと修行を積んで、旅の知識や仲間を守れる強さを身につけてから戻ってこよう。
手元には仲間用の装備と少しの資金があるけど、装備は袋に入れて薬草だけ買い、外へ出る。
はじめて出る外。
魔物が危険だ、お前はもっと大きくなってから、と言われて今まで一度も出る事はなかった。
でも剣の修行は一応マジメにやってたし、なんとかなるだろう。
目の前に広がる大平原が心地いい。
歩くのにも慣れてきた頃、不意に草陰に青いものが見えるのに気づいた。
魔物・・・?こんなに小さいのが?
どんなのか確かめてみよう、と少し近づいてみる。
不意に、その青い塊が俺の頭めがけてすっ飛んできた。
思いっきりボールを顔面に投げつけられたような衝撃を受けて地に突っ伏す俺。
やはり魔物だ、立って剣を抜かなければ・・・と思うが息ができない、前も見えない!
顔に張り付かれたようだ、しかも足まで噛みつかれていて立つ事もできない。
くそ、このまま切り裂いてやる、と剣を抜いたら何か後頭部に激痛が走った。
構わず頭に張り付いた奴をぶったたくが、こんな姿勢じゃ力が入らない。
それでも気合を込めてもう一度斬りつける、剣が頭にはめた環に当たって甲高い音を立てる。
だが避けられたわけではない、顔面を覆っていた青い塊からは力が抜けていった。
左手でぬぐってようやく立ち直す、後頭部が風に触れるだけでも痛む。
息が出来るようになり、視界も戻ってよく見ると、俺は四匹のスライムに襲われたようだ。
こんな雑魚に俺は苦戦しているのか――
なんだかヤケになった俺は、剣術の基本も忘れて力任せにめちゃくちゃに斬りつけた。
ちゃんと戦えば一撃で倒せる相手だった。
完全に殺して剣を収めると、改めて怪我を確認する。後で化膿すると大変だ。
手足の傷は大したこと無いが、後頭部の傷はひどく熱い。
倒れた時に剣の位置がずれて、抜く時にもろに切ってしまったらしい。
それに一匹目を斬った時もほっぺまで切れていたらしく、じんじんする。
・・・触りたくない。
我慢して手当てをした後、その日はもう宿屋に泊まる事にした。
家に戻ってもいいけど「スライム4匹に苦戦して負傷した」とはとても言えなかった。
体の痛みもひどいが、それ以上に今日はなんだかとっても疲れた。
夜、まだ痛む傷を庇って寝返りも満足に打てなかったが、深い眠りについた。
あれから一週間、俺はまだ宿に泊まっていた。
外には一度も出ていない。
怖いのか・・・そんなわけはない、ただまだちょっと傷が痛むだけだ。
けど玉に街中を通るお母さんを見るたび思う、このままじゃまずいよなって・・・
でも傷が痛むのも事実だ、しようがない。
――やっぱり、怖いのかもしれない。
そうして旅立ちの日から、一週間と一日が過ぎた。
宿代が工面できなくなったので仲間用装備を売りに出ると、お母さんと出くわしてしまった。
◆ THE END ◆
推敲も途中だったので、一部文章が変かと思いますが、所詮読みきりとスルーしていただければ。
続きを書く予定はありません。
キリもいいし、今更どう続けようとしていたか思い出せもしない。
そうだよな。
一晩とまったくらいじゃ、回復しないよな。
ママンもびっくり。
久しぶりに見る息子は顔面に大きな傷、後頭部がざっくり・・・。
―ひとさし指―(
>>86-93)
「モンスター使いとはモンスターの邪悪な心を打ち払うことができる存在なのじゃ。」
僕はモンスター爺さんからモンスター使いの講義を受けていた。
「これはある一族だけが持つ力だと言われておる。」
「ふーん。お師匠様ってその一族の人なんだね。」
「おそらくはな。モンスターを仲間にできる者は目が違うのじゃよ。」
そうなんだ。今度お師匠様の目をじっくり見てみよう。
「あ、それじゃ僕がいくら頑張ってもモンスター使いにはなれないってこと?」
「現状ではそうじゃな。じゃが案ずることはないぞ。」
「何かいい方法があるの?」
「モンスター使いが仲間にしたモンスターの世話をすることをやればよいのじゃ。」
それってモンスター爺さんのことだよね。僕が今やってることでもあるけど。
ん?
「あー! 今気づいたけど僕のやってることってモンスター爺さん見習いじゃないか!」
そうだよ。何で気づかなかったんだろう。
「これモンスター使い見習いじゃないよ! 僕が爺さん見習いっておかしいよ!」
「落ち着け。モンスター使いもモンスター爺さんも似たようなもんじゃ。」
全然違うよぉ……
「それにな。その一族の者でなくてもモンスターを仲間にする方法はある。」
「え、それを早く言ってよ! どうすればいいの?」
「魔王がいなくなればよいのじゃよ。魔物が邪悪な心を持ったのは魔王の影響じゃ。」
「魔王っていうのがいなくなればモンスターが大人しくなって仲間にできるの?」
「ま、そういうことじゃな。」
「魔王って地獄の帝王のことなの?」
「いや、魔王は地獄の帝王復活を利用して魔物たちを統率しておるだけなのじゃ。」
うーん。ややこしいね。
「かつて地獄の帝王が復活し勇者が誕生したときも魔王が現れたというぞ。」
「どんな奴だったのかな。」
「何でも1度は勇者を倒したといわれている。」
「ええー! 勇者様やられちゃったの?」
「それは勇者の影武者だったらしい。あるいはキツネに化かされただけなんて話もある。」
え、キツネに化かされたの?
「もしかして魔王って結構お茶目な人なのかな。」
「いや怖い存在じゃ。恐ろしいモンスターたちの親玉なんじゃからな。」
「モンスターっ恐ろしくないよ。いい子ばっかりだもん。」
「ここにいる者はそうじゃ。じゃが野生のモンスターは恐ろしい存在なのじゃ。」
ホイミンやガンドフを見ているととてもそうは思えないんだよね。
「何度も口を酸っぱくして言っておるが野生の魔物がいる町の外に出てはいかんぞ。」
「大丈夫だよ。僕インドア派だからね。それにしてもさ……」
「なんじゃ?」
「口を酸っぱくしてって妊娠したみたいだよね。」
「妊婦は酸っぱいものが欲しくなるだけで口が酸っぱくなるわけじゃないわい。」
あ、そういえばそうだね。
「まったく。どうやったら爺さんが出産するというのじゃ。」
「うーん。口から卵を産んで。」
それって口が酸っぱくなりそうだよね。
「わしゃ化け物か。わしゃモンスター爺さんであってモンスターではないぞ。」
「はーい分かってます。本気で言ってるわけじゃないよ。」
「本気で言っていたらわしゃ泣くぞ。」
とにかく僕はモンスターの世話を頑張ることにするよ。モンスター使い見習いとして。
「よし、こんなもんかな。」
僕はイナッツさんとモンスターたちの部屋を掃除していた。
「ご苦労様。きれいになったわね。」
「うん。でもちょっとにおいが気になるよね。」
ここって地下室だからモンスターのにおいが篭るんだよね。
「ねえ、いいものがあるわ。あれよ。」
そう言うとイナッツさんは小さな陶器の瓶を指さした。
「ここに花やハーブのエキスを入れて香り楽しむのよ。」
「アロマセロピーみたいだね!」
「このエキスを布に染み込ませて体を拭けば香水代わりにもなるわよ。」
そうなんだ。
「でも食べたら毒だから口に入れちゃ駄目よ。」
「はーい。口を酸っぱくして言わなくても大丈夫だよ。」
小さな瓶はほのかにいい香りをしてたてている。
「あ、これを使えばガンドフの獣臭さも取れるかな。」
僕は瓶のふたを開けた。これを布に染み込ませて体を拭けばいいね。
「えーと、ただの布きれがどこかにあったよね。」
どこだっけ?
「あったあった。」
いやー探しちゃったよ。布は部屋の外に干してあった。
「あれ、ホイミン?」
僕がモンスター部屋に戻るとホイミンが倒れていた。
「ホイミン! ホイミンってば!」
「ホイミンは大丈夫?」
「峠は越えた。もう心配はないぞ。今眠ったところじゃ。」
ホイミンは間違ってアロマのエキスを飲んじゃったらしい。
でも無事で良かった。本当に良かった。
ごめんねホイミン。僕の不注意で大変な目にあわせちゃって。
僕はその夜ずっとホイミンの看病をした。
次の日。お師匠様が来た。タイミング悪いよ……
お師匠様は今まで砂漠の中にあるお城にいたんだって。
どうしよう。僕怒られちゃうかな。
でも、仕方ないよね。僕が悪いんだもん……
ううう……お師匠様怖い顔してる気がする。
お師匠様の目をじっくり見ようと思っていたけど、とてもできないよ。
「今日は大事な話があるんだ。」
何だろう?
ひょっとして「お前は破門だ!」って言われちゃうのかな……
僕が心配している中お師匠様は重い口を開いた。
「もう、お師匠様っていうのをやめて欲しいんだ。」
ああああ……やっぱりそうなんだ。
お師匠様、僕を捨てないでよー。
僕この世界じゃほかに頼る人がいないんだ。
もし元の世界に帰れなかったら僕は、僕は……
「あの、あの……これから、僕は、どうしたら……」
「これからはさ、お父さんって呼んで欲しいんだ。」
「え?」
「いやさ、やっぱりお父さんがいないのは寂しいんじゃないかと思ってね。」
「ええと……」
「トモノリが元の世界に帰るまで、お父さんの代わりをさせてほしいんだ。」
「私のことはお母さんって呼んでね。」
目の前の夫婦は2人ともにっこり微笑んでいる。
「トモノリいつもモンスターの世話をしてくれて、ありがとう。」
「でも僕、ホイミンを危ない目にあわせちゃって……」
「ちょっと不注意だったけど、そのあと一晩中つきっきりで看病してくれたんだよね。」
「だけど僕きっとホイミンに嫌われちゃったよ……」
「そうかな? おーいサイモン。」
お師匠様が呼ぶとサイモンがホイミンをつれてやってきた。
「ホイミン! もう起き上がっても大丈夫なの?」
「ああ、もうすっかりよくなったようだな。」
ホイミンはふわふわと僕のほうに近づいてくる。
「やれやれ、ホイミンは俺よりトモノリのそばほうがいいのか。」
サイモンがちょっと寂しそうに言った。
「これでもホイミンに嫌われてると思うのかな?」
嫌われちゃうかと思ったけど、そうならなくて良かった。
「ね、お父さんとお母さんって呼ぶこと考えておいて。」
お師匠様と奥さんがお父さんとお母さんになってくれる。
かっこいいお父さんと綺麗なお母さん。
この世界にいる間だけだけど。
……でも、僕いつになったら帰れるんだろう。
こっちにお父さんとお母さんができたから、もうしばらくいてもいいけどね。
もし、このままお師匠様に子供が生まれなかったら本当の子供になっちゃおうかな。
そのためにはもっといい子にならなくちゃね。
そんなことを考えているとサイモンが頼みごとをしてきた。
「おーいトモノリ。煙草を買ってきて欲しいんだ。」
「煙草? お使いだね。いいよ。僕、行くよ。」
「お、ずいぶん素直だな。」
いい子になるって決めたんだもん。
「でもさ、煙草はやめたほうがいいよ。」
「そう思ってもやめられないものなのだ。それに鎧だから健康の心配ない。」
それもそうだね。あれ、でも、そもそもどうやって煙草を吸っているんだろう?
「だが我が身を案じることがないわけじゃないぞ。」
「そうなの?」
「戦闘中ロッキーが攻撃を食らうとメガンテしないかとひやひやする。」
「そうなんだ。ロッキー大丈夫かな。」
「うむ。あれは鎧の身にとっても心臓に悪い。」
「大変だよね。あ、それじゃ僕、お使いに行ってくるよ。」
「そうだ。ついでにレモンを買ってきてくれないか。」
「レモン? 体でも磨くの?」
「違う違う。奥方様が、何か酸っぱいものを食べたいと言っておられたのだ。」
「ねえ、お師匠様。僕やっぱりお師匠様のことお師匠様って呼ぶよ。」
「お父さんって呼ぶのは嫌かい?」
「なんだかさ、やっぱり恥ずかしいよ。」
「そっか。可愛い子供ができると思っていたんだけどちょっと残念だね。」
「あなた、無理を言っては駄目よ。」
「ごめんね。お師匠様。おかあさ……おかみさん!」
「え、おかみさん?」
「そう、お師匠様の奥さんだからおかみさんって呼ぶことにしたんだ。」
子供になれなくってごめんなさい。でもさ、お師匠様の願いは……すぐに叶うよ。
「そうだお師匠様。サイモンとロッキー置いていってくれないかな。」
「え? でも……」
「わがまま言ってごめんなさい。でも、一緒にいたいんだ。」
「分かった。そのかわりしっかり面倒見てね。」
お師匠様はサイモンとロッキーを置いてまた旅に出た。
今度はグランバニアって言うお師匠様のお父さんに関係があるを土地を目指すんだって。
「いいのか? 本当は2人の子供になりたかったんじゃないのか?」
サイモンが話しかけてくる。
「いいんだ……」
これでよかったんだよね。
「ところでだ。俺はお前の嫌いな煙草を吸うしロッキーはいっしょにいると心臓に悪い。」
サイモンは不思議そうに尋ねてくる。
「俺とロッキーを置いていけってのは何か意味があるのか?」
「それはね、サイモンは煙草を吸うしロッキーは心臓に悪いからだよ。」
お師匠様自分の奥さんの妊娠に気づいてないみたいだった。
今の僕にできることってこれくらいだ。
僕がおかみさんの妊娠を知ったときはまるで刺されたみたいな衝撃を受けた。
お師匠様が知ったときはどんな顔をするんだろう。
「ま、確かにグランバニアへ連れて行くのにロッキーは危険だな。」
「え? どういうこと。」
「グランバニアへ行くには険しい山道を越えていかねばならんのだ。」
「えええ! だ、大丈夫かな?」
僕は奥さんを置いていくように言うべきだったのかもしれない。
「何かあったらどうしよう……」
お師匠様もおかみさんもお腹の赤ちゃんも、どうか無事にグランバニアに着きますように。
――続く
リアルタイム遭遇ktkr
口を酸っぱく・・・っていうのはこの伏線だったのか。納得。
主人公の勘の鋭さと、心配り、すばらしいです。
子ども達との掛け合いが楽しみ保守
伏線の張り方と回収上手いなぁ
5主の石化中この主人公はどうなるんだろう
>>1 FCの3→いつ世界が消滅するか分からないのでドキドキするw
リメイク3→ロトに会えるので、やっぱりドキドキかな
2〜5なら、ワクワクする
こうやってたまにこのスレに初めて来てくれた人が、スレタイ通りになったらどうするかを書いていってくれるのを見ると、
何とも嬉しくなるんだ
123 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/13(水) 14:16:43 ID:omEviVx50
下すぎるので
124 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/13(水) 14:22:57 ID:REnXOqE3O
まず、町の人にはなしかけるな。で、モンスターとガチで戦ってみたい!
我流連続斬りとかやりたいなw
「我々ヵゞτ〃(≠ゑσレ£⊇⊇маτ〃T=〃」
「ここまで来れば十分だ。さ、他のモンスターに見つからないうちに帰んな」
「……」
「何か用でもあるのか?」
「不思言義ナょ人間ぇ幸ナニ″。――レヽ⊃@日カゝ、ぉ前ぇ幸@ょぅナょ人間カゞ土曽ぇゑ⊇ー⊂をネ斤зぅ」
「できれば俺らの無事も祈っててくれや」
「……±らレ£〃T=〃、勇気ぁゑ人間達∋」
順を追って話そう。
魔の島に渡るには虹の雫が必要。虹の雫を手に入れるためには太陽の石、雨雲の杖が必要。太陽の石を手に入れるためには(ry
ゲーム通り進めばやたら面倒な過程を踏まなきゃならん。
しかし、俺としては一刻も早く元の世界に戻りたい。セーブしちゃったしね。
太陽の石や雨雲の杖なんかを取ってられないのでというか面倒というかアレなんで、直接空から行こうと考えたわけよ。
俺って天才じゃね?
日本で一番最初に新一=コナンって気付いただけのことはあるくらい天才じゃね?
で、問題はどうやって飛んでいくか。
ヒント:ゲゲゲの鬼太郎。
ブランコの両端をカラスが持って空飛んでるシーン見たことないか?
カラスの代わりにキメラで代用。
キメラは空も飛べるし力もそこそこある。ドラキーだとちょっと頼りないしな。
そのためにキメラを捕らえて半ば脅迫のような形で取り引きを持ちかけたわけだ。
結果、交渉成立。
キメラ一族の命を保障するという言葉が決めてだったのかはわからんけど。
ともあれ、無事に魔の島に辿り着いたってわけだ。
そんなわけでハッピーバレンタイン!
さすがゴッグ!バレンタインなんて関係ないぜ!とか言っちゃってる奴らも実は気になってんだろ?
義理チョコでいいけどあわよくば本命を…なんて思ってんだろ?
アレフガルドにはバレンタインなんてありませんが何か?今のパーティーは男だけですが何か?
そもそも今日が本当にバレンタインなのかすらもわからんね。実はまだ正月を迎えてないのかもしれんし、ハロウィンすら迎えてないのかも。
できることならば夢オチ希望。
そんなこんなでキメラ達を見送った後、俺達は真っ直ぐ竜王の城を目指した。
鎧の騎士やキラーリカントなんかが出てきたが、俺のヤる気を見せつけただけで逃げていった。
馬鹿め、人間様に敵うとでも思ってるのか。
ファミコン神拳の歩く速度が速くなったのは一刻も早く竜王を斃そうという意思の表れだな。
っておい、待ってくれ。ちょ、速いよ、待てって。待ってくれよ!待てっつってんだろ!
「変態だす!変態が来ただす!」
「誰が変態だよ」
「いきなりモンスター相手に股間露出する奴が変態じゃなくて誰が変態だって言うんですか!」
「お、怒ることないだろ…」
「しかも元気すぎだ。なんで上を向くくらい元気なんだ」
「でっかい男はビッグマンって言うだろ?」
( ゚д゚) ←ゆう帝
(;゚д゚) ←ミヤ王
_, ._
(;゚ Д゚) ←キム皇
……え?何この空気?
なんかまずいこと言った?
ま、まあ、竜王の城に辿り着いたからいいよね?
……ね?
竜王の城は玉座には左からぐるっと回らなければならない構造。
地下の玉座に辿り着くまで魔物と戦わざるをえないはず――なんだが、魔物は一匹もいない。
あっという間に玉座まで辿り着いてしまった。
しかも玉座はバリア床になってるはずなのにそれすらもない。
それどころか――
「よく来た、哀れな人間どもよ」
ゲームとは違う現実――玉座には竜王が座っていた。
玉座に辿り着いても竜王の姿はなく、玉座の後ろを調べることで地下に続く階段を発見するはずだ。
「お前が竜王だな」
違う、そんなわかりきったことを聞いてどうする。
他の魔物にはない威風堂々たる存在感、威圧感、どれをとっても竜王そのものじゃないか。
「光の玉、返してもらいます」
「返すとはおかしなことを言う。――クク、そうか、お前達は何も知らないのだな」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる。力ずくでも返してもらう」
「何も知らぬならそれでいい。愚か者どもめ。我が力、思い知るがよい!」
「行くだす!」
キム皇の叫びと同時に、ミヤ王とゆう帝が竜王の左右へと走る。
ミヤ王が左下から斬り上げ、ゆう帝が右から突きを放ち、正面からキム皇の魔法。
三人の攻撃が竜王にヒットした――そう見えた次の瞬間にはミヤ王とゆう帝は地面に叩きつけられていた。
そして、自らの放った魔法に包まれるキム皇。
「愚かな人間どもよ、よもやこの程度ではあるまいな?」
静かに、どこか呆れた口調で、竜王は地に伏した三人を見下ろした。
絶望的な戦いが繰り広げられていた。
すでにミヤ王とゆう帝の剣は折れ、キム皇の回復が追いつかないほど怪我を負っている。
俺も立っているのが不思議なほどだ。
皮の盾はとうのむかしに灰になり、鎖かたびらも役目を果たしていない。
「ベギラゴン!」
キム皇の放つ閃熱系最強呪文ですらも、杖の一閃でかき消されてしまう。
「ロトの時代に使われたと云う古代呪文か。人間にしてはやる」
微塵も疲弊した様子すらない様子で竜王が笑う。
ミヤ王の爆裂拳を軽くいなしながら、だ。
「……強い!」
「そりゃそうだ、相手は王の中の王だからな」
「王の中の王――ふむ、面白いことを言う人間だ。それにあのラルスよりはずっと見所もある」
「どういう意味だ?」
少しでも回復する間を欲しいがための苦し紛れの問いだ。
だが、その問いに意外な答えが返ってきた。
「己の命を助けて欲しいがために自らの娘を差し出すような人間とは違う、ということだ」
「な……」
「わしが望んだのは亡き母の形見――光の玉のみよ。光の玉さえあればこの世界などはいらぬ」
DQ3で竜の女王は勇者ロトに光の玉を残した後、卵を産んで姿を消す。
その卵が何の卵なのか今も某スレでは議論が絶えないが、当時ファミコンでDQをやった人間は誰もがあれは竜王の卵だと思ったはずだ。
そして今、その推測は確信に変わる。
他の誰でもない、竜王の口から。
「わしを産んだ母は姿を消した。天界へと昇ったのやもしれぬ。
わし一人の力では天界へと昇ることはできなかった。だが、この光の玉を使えば……」
DQシリーズ中、数あるラスボスの中で唯一不明だった竜王の目的。
それは母との再会だったのか。
「光の玉を渡せと伝えた時、ラルスは交換条件を出してきた。光の玉を渡す代わりにドムドーラを滅ぼしてくれとな」
「バカな……」
「ラダトームとドムドーラとの間に何があったかは知らぬし興味もない。人間同士の諍いに我らが介入してやる義理すらもない。
我が目的は光の玉のみよ。それ以外はどうでもよい。この世界が滅ぼうが栄えようが、な。
そう答えたらあの男め、その日のうちにドムドーラに攻め入り一晩で廃墟と化したぞ」
翌日にでも、竜王達がドムドーラを滅ぼした…とでも発表すれば何も知らない民は竜王怖し、竜王憎しとなるわけか。
加えて、アレフガルド唯一の王国ラダトーム、ラルス王への支持も上がるって寸法か。
「悪名などどうでもよいとは言え、虚仮にされて黙っているわけにもいかぬ。
軍を率いてラダトームに向かうとあ奴は簡単に光の玉を渡してきたわ。
さらに『私の命を助けてくれるなら娘も差し上げます』とまで言ってな」
「何……だと……?」
「ラルスが何を考えているか、ここまで言えばわかるであろう?」
「竜王に光の玉を奪われ、一人娘ローラも攫われた。後は竜王を斃す勇者を待ち、その勇者をローラと結婚させて娘婿に……ってなとこか」
「その通りだ。勇者の義父となればラルスの地位は磐石のものとなる」
「では何故ローラ姫を解放しないのです?」
「天界に昇った後、ラルスの全ての罪を暴こうとしたまでのことよ。――お喋りも飽きた。続きを始めるとしよう」
違う。
そんな理由で竜王は人間の女を幽閉したりはしない。
それならば俺達と戦う理由はない。
「愚かで勇敢な人間どもよ。お前達に敬意を表し、我が全力を見せてやろう」
竜王の形態が変わる。
人型から、ドラゴンへと。
これが鰤ならドドドと効果音が鳴るんだろうな、なんて考えてる場合じゃない。
人型ですら歯が立たなかったんだ。ドラゴン形態になんてなられたら勝ち目はゼロだ。
そんな考えが頭をよぎった刹那、俺は竜王へと駆け出していた。
「うおらぁぁぁぁあああああああぁぁぁああああぁぁ!!」
変身途中の体に炎の剣で斬りつける。
竜の鱗はわずかにへこんだ程度。
「ギラ!ギラ!ギラ!ギラ!」
掌の中で炎が膨らむが焦げ痕一つつきやしない。
「だあああああああああああ!」
ミヤ王やゆう帝に教わった剣術などお構い無しの技術もへったくれもなしで剣を振り回してもかすり傷一つつかない。
「恐怖で狂ったか」
巨大な尾が俺の腹を薙ぐ。
ミシッともメリッとも聞こえる音が腹から鳴り、やや遅れて襲う激痛――そして吐血。
「何じゃあこりゃああ!!」
「ベホイ――」
「遅い」
回復しようと近寄ったキム皇の頭上に竜の豪腕が叩き落される。
折れた剣で斬りかかるゆう帝には竜の爪、疾風突きを放つミヤ王には口から放たれる業火。
「わしを斃しに来たにしては未熟過ぎるな」
返事をする体力はない。
これだけの激痛で頭がまともに働いていること自体が奇跡だ。
倒れている俺に、黒い影が――違う、竜王の足だ。
人間なんか比じゃない巨体の全体重が……
「がああああああああああ!」
「わしを殺すのではなかったのか?」
竜王が頭を鷲掴みにしてるのか、体が浮かんでいる感覚しかしない。
何を言っているのかすらも聞こえない俺の耳に、キム皇の声が聞こえた。
「……ラ……だす……ギ……ラ……」
「愚かな。古代呪文すら通用せぬわしにギラごとき何になる」
俺の……ギ、ラ……?
――囁き――
ギラ……
――詠唱――
ギラ……
――祈り――
ギラ……
――念じろ!
「ギラ――!」
ベギラゴンを越えたギラが、竜王の顔を直撃した。
「おのれ、よくもこのわしに……!」
竜王に踏み潰された俺の手足には感覚などない。
魔法を放つ杖なんかもない。
た だ し 魔 法 は 尻 か ら 出 る !
「今のは……ベギラゴンではない……ギラ……だ……」
……憎いほどに決まったな、今の俺……
ゆう帝が噛み砕かれ、ミヤ王が踏み潰され、キム皇が投げつけられる。
皆、誰も動かない。
皆を炎が包む。
死んだのか?
目がかすんできた。俺は死ぬのか?
死ぬ?俺は死ぬのか?
こんなところで
いやだ
死にたくない
死にたくない
しにたくない
死にたくないしにたくない
く
「さらばだ、人間よ」 い い
し た
に な き た
DSL『あなたは しにました』
LV:13
HP:0/42 MP:9/29
E:炎の剣 E:Tシャツ
呪文:ギラ ホイミ レミーラ ラリホー
特技:思い出す 舐めまわし 百裂舐め ぼけ つっこみ 雄叫び 口笛 寝る 穴掘り
急所突き マヒャド斬り
道具:携帯電話 網
DSL:聖水 100円ライター 臭い靴下 古びたトランクス アディダスのジャージ
タバコ×7 鍵×18 曲がった釘×6
といったところで投下終了です。
次回はエピローグみたいなものを投下して最後となります。
何気なく覗いたらリアルt(ry
激しく乙です
>131
それゲーム違うw
やはりまだ無茶だったか……。シリアス展開乙です。
次回最後か。寂しいけど楽しみ。
キメラの言葉を読むのにちょっと苦労したぜw
>>133 久々乙
毎度面白すぎっす
LV:13かよw
>>133 待ってました! 乙です。
意外すぎるが納得させられてしまう理由と展開…次でもう終わっちゃうのか。
寂しいけど、まだ種明かしされていないこともあるし楽しみにしてます。
ほす
―親指立てて―(
>>110−117)
お師匠様が来た。
「グランバニアには何事もなく着いたよ。ちょっと大変だったけどね。」
そう言うお師匠様はちょっと疲れているみたい。
「あの、あの、赤ちゃんも無事だよね?」
「知っていたのトモノリ?」
僕は小さく頷いた。
「まだお腹の中だけど元気に育っているみたいだよ。」
良かった。何かあったらどうしようかと……
「どうして泣いているんだいトモノリ?」
「だって……だって……」
お師匠様たちがお父さんとお母さんになってくれるって言ったとき、すごくうれしかった。
本当の子供になりたいって思った。
でも、すぐに奥さんが妊娠していることに気づいたんだ。
だから僕、お師匠様の申し出を断ったんだ。
お師匠様にはちゃんと自分の子供ができるんだから。僕の居場所はないから。
だから、もしかしたら、僕……
赤ちゃんが生まれてこなければいいのにって思っちゃったかもしれない。
そう思っていたから、グランバニアへ行くのを止めなかったんじゃないかって思って。
お師匠様大好きなのに、僕、お師匠様の不幸を望んでいたかもしれないから……
僕は声にならない声で思いのたけを吐き出した。
普段でも大きくない声をさらに小さくして。
でも、お師匠様はそんな僕の声をずっと聞いてくれていた。
「……良かれと思って言った事で、かえってトモノリを苦しめてしまっていたんだね。」
お師匠様はちょっと悲しそうに、でも優しい口調で僕に語りかけた。
「ね、少し町を散歩しようよ。2人きりでさ。」
「こうして2人でゆっくり話をするのってはじめてかもしれないね。」
そうかもしれない。いつもはモンスター爺さんやイナッツさん、モンスターたちがいたから。
「トモノリがこの世界に来てからずいぶん長い時間経ったよね。」
「お師匠様が結婚して赤ちゃんができるくらいだもんね。でも、全然そんな気がしないよ。」
「トモノリは変わらないね。」
「僕が一人前のモンスター使いになるのはまだまだってこと?」
「いや、そうじゃなくってこのくらいの年のころってもっと背が伸びるものだからさ。」
そういえばそうだね。
もともと体は丈夫じゃないから発育がいいほうだとはいえないんだけど……
「もしかしたらこの世界とトモノリの世界とでは時間の流れ方が違うのかもね。」
そんなことがあるのかな。
「ねえ、もっとトモノリのこと教えてくれないかな?」
「僕のこと?」
「うん。お師匠様だなんて言ってもトモノリのこと何も知らなかったみたいだからね。」
「……でも、何を話したらいいんだろう。」
「何でもいいよ。たとえば元々はどんなところに住んでいたの?」
「もともとは……こことは全然違う世界にいたんだ。モンスターも魔法もない世界。」
「そこでトモノリは何をしていたの?」
「小学生だよ。小学校に通って毎日勉強をしていたんだ。」
「元の世界にも勉強を教えてくれるお師匠様がいるのかな?」
先生ってお師匠様なのかな? ちょっと違う気もするけど。
僕はお師匠様に小学校での思い出を話した。
「僕、いじめられそうになったんだ。僕のしゃべり方が変だって……」
「因縁をつけられちゃったんだね。大丈夫だった?」
「うん。かばってくれた子がいたから。でもお礼が言えなかった。僕に勇気がないから……」
「トモノリはお礼がしたいんだね。それなら元の世界に帰ったらきちんとお礼を言おう。」
「……言えるかな。」
「言えるさ。すぐには言えなかもしれないけど、いつかきっとね。」
「うん。僕帰ったらその子にお礼を言うよ。いつになるかわからないけど必ず……」
その後もずっと、僕はお師匠様と僕の世界の話をした。
長い間話を続けたあと、お師匠は唐突に切り出した。
「ねえ、トモノリ。グランバニアに来てくれないかな?」
「グランバニアに? でも、モンスターの世話はどうするの?」
「それはグランバニアのお城で続ければいいよ。」
「お城で? そんなことして大丈夫なの?」
「それくらいはね。王様の言うことだから。」
「王様の許可を取ったんだね。」
僕がそう言うとお師匠様はクスクスと笑い出した。
「何がおかしいの?」
「ごめんごめん。あのね、これから言うことを笑わないで聞いてくれる?」
「うん。」
「あ、でもちょっとくらいなら笑ってもいいよ。」
「もう、もったいぶらないで教えてよ。」
「あのね、グランバニアの王様は君の目の前にいるんだ。」
「え?」
「王様になっちゃったんだ。正確にはこれから王様になるんだけどね。」
……え? 何それ。ひょっとして革命? 下克上?
「お、お師匠様、きっと、今の王様を倒すより、もっといい解決法があるよ……」
何でもお師匠様は前の王様の子供だったんだって。
今は王様の代理をお父さんの弟がやっていて、その人から王様になるように言われたらしい。
お師匠様が王族だったなんて驚きだよ。親分もそうだけどちっとも偉そうじゃないもん。
それにあっさり王様になるっていうのもびっくりだね。
僕はお師匠様のルーラでグランバニアへやってきた。
モンスター爺さんとイナッツさんにお別れを言って。
でも、そのうちモンスター爺さんたちもグランバニアへ呼ぶつもりみたい。
お師匠様は王様になるための試練を受けている。これを終えれば王様になるんだって。
僕は頑張ってきてねと言って親指を立ててお師匠様を送り出した。
みんな不思議そうにしていたから、これは幸運を祈るって意味だよと教えた。
僕はお城でお留守番だ。お城にいるオジロンさんやサンチョさんはみんな親切だよ。
でも、お城には悪魔がいた。お師匠様が仲間にしたメッサーラのサーラだ。
僕が言うのもなんだけど、サーラって女の人の名前みたいだよね。
「もうすぐ人間が泣き叫ぶ様が見れると思うと楽しみで仕方ないな。」
「ちょっとサーラ、怖いこと言わないでよ!」
「何を言っている。もうすぐ赤ん坊が生まれるのだぞ。赤ん坊が泣かなくてどうする。」
「……確かにそうだけどさ。」
「赤ん坊というのは本能の赴くままに人間の体液をすするらしいな。」
「そんなことしないよ!」
「おや、赤子とは母乳を飲むものではないのかな?」
「ううう……サーラの意地悪。」
お城にいる悪魔はちょっとひねくれ者みたいだ。
お師匠様は無事に試練を乗り越えて戻ってきた。
帰ってきたちょうどそのとき、おかみさん……お師匠様の奥さんの陣痛が始まった。
今にも赤ちゃんが生まれそうなんだって。
「ねえ、トモノリ。赤ちゃんが生まれるところを見せてもらいなよ。」
「僕がそんなことして大丈夫なの?」
「ああ。きっといい経験になるよ。」
赤ちゃんはお母さんのお腹の中から一生懸命出てこようとしている。
僕は思わず頑張れって声を出して応援してしまう。
赤ちゃんが取り上げられてからの一瞬。
ほんのわずかな時間だったけど、すごく長く感じた。
そして、長い一瞬のあと、赤ちゃんは泣き出した。
この声はきっとお師匠様にも届いているよね。
みんなは赤ちゃんをお師匠様に見せに行こうとしている。
「待って! まだ、まだ赤ちゃんがいるよ!」
僕は赤ちゃんの泣き声に負けないくらい大きな声を張り上げた。
赤ちゃんがもう1人お腹の中から出ようとしている。
頑張れ。頑張れ。もう少しだよ。
やった! 出てきた。えらいよ。頑張ったね。
こっちの子もさっきの子に負けないくらい元気な声を上げて泣き出した。
生まれた赤ちゃんを見るため、お師匠様がつれてこられた。
「お師匠様! すごいよ。2人も生まれたんだ。男の子と女の子の双子だよ!」
「本当かい? 一度に息子と娘を授かるとは思わなかった。今日はなんて素敵な日だろう。」
「良かったねお師匠様。王様になって。しかもパパになっちゃったんだよね。」
「ああ。トモノリもこの子達を弟と妹だと思って可愛がってやってね。」
「もちろんだよ!」
「ところでトモノリ。赤ちゃんが生まれて欲しくないなんて思ってないことが分かったろう?」
「もしかして、そう思わせるに生まれるところを見せてくれたの?」
お師匠様、本当におめでとう。
今まで苦労した分、これからは幸せになってね。
そう、思っていたのに、何でこんなことになるんだよぉ!
……僕、さらわれちゃった。
お師匠様の奥さんと一緒にモンスターに連れ去られてしまった。
今はどこかの建物の中にとらわれている。窓から外を見るとかなり高い位置みたい。
「心配しないで。絶対にあの人が助けに来てくれるわ。」
そうだよね。きっと来てくれるよ。
「わっはっはっ! 来たら後悔することになるだろう。」
僕たちをさらった馬みたいな奴がいやな笑い声を上げる。
こいつが悪いモンスターなのかな。
「グランバニア王をおびき出し、抹殺して奴に成りすますことが俺の目的なのだからな!」
ううう……すごく悪いモンスターだ……
期待通りお師匠様が助けに来てくれた。サイモン、サーラ、ホイミンと一緒に。
馬の魔物相手に最初は苦戦していたけど、奥さんの不思議な力で形勢が逆転して勝利した。
だけど、やられる間際に馬の魔物は別の魔物を呼び出した。
そいつのせいで、お師匠様は、奥さんと一緒に、石にされてしまった……
「ほっほっほっ。おや? 人間の子供がいますね。」
……僕のことだ。
「勇者ではないようですね。教団のために働いてもらうには少々貧相です。」
それじゃ僕はどうなるの……
「それに人間に味方をする魔物たち。魔性の力を取り戻させねばなりませんね。」
魔物はサイモンとサーラとホイミンに向かって語りかける。
「そうだ。いいことを思いつきました。お前たち、この子供を始末しなさい。」
「ほっほっほっ。主を失った今、私に歯向かえるはずもないでしょう。」
サイモン、サーラ、ホイミン……
「こうなってしまっては致し方あるまい。」
そう言ったのはサーラだった。サーラはゆっくり僕に近づいてくる。
「トモノリに何をするつもりだ?」
サイモンとホイミンがサーラの前に立ちはだかった。
「邪魔をしないでもらえるか。」
サーラはサイモンを足蹴りした。サイモンは壁まで吹っ飛びガラスの窓が派手に割れる。
「サイモン!」
僕はホイミンをぎゅっと抱きしめた。
「そうだ大人しくしていろ。少し痛いかもしれないが我慢してくれよ。すぐに済むからな。」
サーラの手が僕の体を掴んだ。
僕たちは割れた窓から外へ飛び出し宙を舞っていた。
「怪我はないか? なるべくガラスに当たらないよう飛び出したのだが。」
サーラが僕を抱えたまま翼を羽ばたかせている。
「頑張れよサーラ。俺たちの運命はお前の翼にかかっている。」
そう言うサイモンはサーラの足にしがみついている。
「何とかスピードを殺しながら落下するのが精一杯だ。」
「しかしお前の演技はたいしたものだな。さすがは悪魔だ。」
「悪いが話は後にしてもらえるか。……森に突入するぞ!」
僕たちは木の枝で衝撃を和らげながらなんとか地面にたどり着くことができた。
少しかすり傷を負ったけどホイミンが魔法で治してくれた。
「ここまでくれば安心だ。奴も私たちを探すようなことはしないだろう。」
「本当?」
「あいつにとってはそこまでして私たちを始末する意味も価値もない。」
悔しいけど、そうなんだろう。
「怖くなかったか?」
サーラが何事もなかったかのように言ってくる。
「怖かったに決まってるよ! 飛んでるときも、飛ぶ前も……」
「脅かしてしまって悪かったな。これも奴の目を欺くためだ。」
それは分かってるけどさ……
「お前には騙されたよサーラ。蹴りをくれる前、窓から逃げるぞと小声でささやくまでな。」
サイモンも知らなかったんだ。それじゃ本気で僕を助けようとしてくれたんだね。
「とにかく今は城へ戻ろう。こうなってしまっては俺たちには何もすることができない。」
「ああ! そうだよ。お師匠様が……」
「……私はまた守れなかったのだな。」
そういえばサイモン言っていたよね。昔、守るべきものを守れなかったって。
落ち込まないで。サイモンは何も守れなかったわけじゃないよ。
「ねえ、サイモン。僕を守ってくれてありがとう。サーラもホイミンもありがとう。」
「お前子供なんだからそこまで気を使うことないぞ。……だが、ありがとうなトモノリ。」
グランバニアへ戻ると僕はサンチョさんに事情を説明した。
僕の話を聞いてグランバニアの兵士がお師匠様たちを探しにいった。
でも、お師匠様たちは見つからなかった。
どこに行っちゃったんだよ……
グランバニアで今後どうするかという会議が開かれた。
結論はお師匠様を探すこと、そして石化から元に戻す方法を見つけることだ。
僕はお師匠様たちが無事に戻るまで、約束どおり赤ちゃんたちの面倒を見ることにするよ。
そう、思っていたのにまたしても僕の希望はかなえられなかった。
別れのときは突然やってきた。
グランバニアの学者さんが僕を元の世界に戻す方法を見つけたんだ。
「私は国王様の命を受け呪いを解く方法を探していました。」
「呪いって、どんな呪い?」
「はい。異世界の者を呼び寄せる呪いについてです。」
それって、僕のことだよね……
「でも、いったい誰が呪いなんてかけたんだろう。」
「あなたが目的だったとは限りません。何かの術に巻き込まれたのかもしれませんから。」
「そんなことが起きるの?」
「強力な魔法や術が使われればその副作用で呪いに似た現象が起きることがありえます。」
「そんな強力な魔法があるの?」
「どこかに時空を越える術があるらしいです。そんな術ならばきっと……」
時空を越える……どこかで誰かが過去や未来に行く術を使ったのかな?
「どちらにしても、貴方は呪いを解くことで元の世界に戻ることができるのです。」
「話は聞かせてもらった。」
唐突に懐かしい声がした。
「ヘンリー親分! どうしてここに?」
「あいつが行方不明になってって聞いて心配して来たんだ。」
「そう……」
「良かったなトモノリ。元の世界に帰れるんだ。」
「でも、僕……まだこの世界に……」
「よく考えて決めればいい。」
僕はどうすれば……赤ちゃんの面倒見るって約束したのに……
赤ちゃんたちはお父さんもお母さんもいないなんて可愛そうだよ。
でも、それは……
「決めた。親分、僕、元の世界に帰る!」
せっかくお師匠様が帰れる方法を見つけてくれたんだもんね。
赤ちゃんたちには城のみんながいるし、モンスターたちはモンスター爺さんが見てくれる。
僕がいなくなっても大丈夫だよ。
だから僕は、お父さんとお母さんのところに帰ったほうがいいんだ。
帰りさえすれば、僕はお父さんとお母さんのそばに、いられるんだから。
もし、お師匠様との約束のために僕が帰らなかったら、お師匠様、悲しむと思うから。
「ねえ、親分。僕はさ、笑って、笑って帰ったって、伝えておいて……」
僕の言葉にヘンリー親分は分かったと言ってハンカチをくれた。
呪いを解いてもらうことでこの世界から僕は消える。
僕はヘンリー親分、城のみんな、仲間のモンスターたちに囲まれてそのときを待っていた。
「こっちのことは心配するな。あいつは必ず見つけ出す。」
ヘンリー親分が僕を励ます。
「お前たちも協力してくれるよな?」
親分はモンスターたちにそう言ったけど誰も返事をしない。
「おい、どうしたんだよ。」
「いやなに、我らはモンスター使いに命令して欲しいのだ。たとえそれが見習いでも。」
サイモンがモンスターたちを代表してそう言った。
「なるほどな。よし、トモノリ。最後にモンスター使いとしてこいつらに命じてやれ。」
「うん! みんな必ずお師匠様を見つけて元に戻してあげてね!」
「了解!」
ありがとうみんな。僕はみんなに親指を立てて別れの挨拶をした。みんなも同じように返す。
そして、最後に一度だけ呼んでいいよね。ありがとう、この世界のお父さんお母さん……
こうして僕は元の世界に戻っていった。
お師匠様との約束、みんな中途半端になっちゃった。
モンスターの面倒を見ることも、赤ちゃんを世話してあげることも。
ああ、でも、ひとつだけ、ひとつだけ守れる約束があった……
――
「その約束が君にお礼を言うことなんだ」
そう。僕は約束したんだ。帰ってきたら必ずお礼を言うって。
「あのときは、いじめられそうになった僕を助けてくれて本当にありがとう」
「……いや、たいしたことじゃない」
ああ、ちょっと戸惑ってるみたい。無理もないか、こんな話を聞かされたんだもんね。
「この夢はきっと心の中でお礼を言いたいって思っていたから見たんだと思うんだ」
「夢じゃない。……夢じゃなく大切な思い出なんだろ?」
僕の話、信じてくれたのかな……
「うん。大切な思い出だよ。お師匠様はいまごろ遠い世界で幸せに暮らしている」
歴史は繰り返すって言うけど、お師匠様ならその因縁も打ち破るんじゃないかな。
きっとやってくれるよね。勇者様と地獄の帝王の両方を仲間にしちゃうとかさ。
「ごめんね。こんなに時間がかかっちゃって。でも、やっぱりすぐには言えなかったんだ」
「もう、10年以上も前のことだっけ。俺も今日、来て良かったよ」
「今はこっちに住んでないんだよね?」
「ああ、姉ちゃんがこっちで出産するんでそのお見舞いついでに同窓会に来たんだ」
「お姉さんいいタイミングで妊娠してくれたね。出産見せてもらいなよ。感動するよ」
「いやいや、それは勘弁して……」
「あれ、じん君ってシスコンじゃないんだ」
「……ところでさ、ドラゴンクエストって知ってる?」
「ゲームだっけ。ごめん僕あんまり詳しくないや」
そういえば僕のいたあの世界ってそういうゲームみたいな世界だったよね。
「それにしても変な世界だった。僕、あそこではずっとトモノリって呼ばれてさ」
しゃべり方のせいもあるけど、話だけ聞くとまるっきり男の子だよ。
声が小さかったことが原因なのかな。きっと最後のほうが聞き取れなかったんだよね。
「僕は本名の『友野理香』って言おうとしたけど、4文字目までしか名乗れなかったんだ」
―完―
乙
そういうオチかwwww楽しませてもらったよ
サーラがいいキャラすぐるw
DQ世界ルールで名前の文字数制限とかすげえなw面白かった!
次回作も楽しみに待ってます
乙
このオチの発想はなかったわw
乙でした!
久々にウルっときたよ
改めて読みなおしてみるわ
…だよな…夫である5主が別室待機なのに、赤の他人のトモノリを出産に立ち会い
させるなんておかしいと思ったんだ…
いくら子どもでも、男に奥さんの大股開き見せるのはまずかろう
女の子なら出産立ち会いさせてもらえても自然だね
>>151 そりゃリカちゃんの話を信じる気になるさ。
そのじん君も(たぶん)つい最近ドラクエ4の世界に飛ばされて、おまけに最後にどんでん返しをくらって帰ってきたんだから。
>>157 読み直した。確かに書いてある。スゲー。
ホントだ。冒険の書シリーズ、二重三重にすげぇ。
>>157 いやこれ…ちょ…すげえ!!!新たな感動が俺を包み込むwww
ご無沙汰してます。第14話を投下します。
LOAD DATA 第13話
>>7-16
甲板に燦々と降り注ぐお日様の光。波の音を運ぶ潮風。
ビスタ港を発った船は、俺達を乗せて西方大陸へ向かう。
「凄ぇ。魚に混じって犬が泳いでやがる…こっちの世界は何でもありだな。」
「シードッグだね。これだけ大きい船なら襲われる事もないから心配ないよ。」
へぇ〜…アレもモンスターなのか。
水面に目を凝らすと、なるほど…犬やらオタマジャクシやらの場違いな生き物まで
優雅に水中を泳いでやがる。
「ブッ飛んだ生態系だなぁ…こっちの世界なら人魚がいても不思議じゃねえな。」
「人魚?マーマンの事かな?」
ママン!?熟女系ktkr!!
「僕はどうも苦手だな。あのピチピチした下半身が生々しくってね。」
ピチピチした下半身!?生々しいママン!?
若妻人魚キタ――――(゚∀゚)――――!!!!
「船旅っては良い物だねえ。ママン…アンタに会うのが楽しみだよ…」
まだ見ぬ海の向こうの恋人に想いをはせる俺。
サトチーの痛い人を見るような視線が気になるが、俺の熱い心は冷めない。
「イサミ様。マーマンという種族はですね…」
「…やめておけ…良い夢は少しでも長く見させてやるものだ…」
抱えたブラウンを熱く抱擁する俺に何か言いかけたピエールをスミスが制する。
数時間後、船は西方大陸へ接岸した…愛しのママンには会えなかった…
降り立った町は潮の香りで満ちていた。
西方大陸の玄関 港町ポートセルミのドッグには様々な国の船が並んで停泊し、
様々な国の様々な人種の旅人達がせわしなく町を出入りする。
オラクルベリーとは違った賑わいを見せるこの町は、ある種の万国感を感じさせる。
「まずは、装備を整えてから今後の目的地を話し合おうか。
酒場には外国の船員が集まってるだろうから、そこで情報収集と作戦会議だね。」
「んじゃ、まずは買い出しだな。」
サトチーはヘンリーから譲り受けた鋼の剣を持ち、俺は天空の剣を持っているので、
武器に関しては当面の心配はないが、問題は防具だ。
修道院〜ラインハットの連戦で俺の鎖帷子はボロボロになっている。
かと言って、鋼の鎧や鉄の鎧は重過ぎてまともに動けなくなる始末。
「うん、これならイサミにも装備できそうだね。」
最終的に選んでもらったのは、鉄の胸当て。
正直これも少し重いのだが、黙っておく。
鉄の胸当てが装備できないとなれば、これより軽い防具として残される選択肢は
スライムの服とかいう奇抜すぎるデザインの服。
男として…いや、人としてアレを装備する事だけは絶対に避けなければ。
店のオヤジ曰く、鉄の胸当ては鎧を装備できない非力な旅人向けの防具らしい。
非力…その言葉に少しカチンと来たが、何も言い返せない。
…サトチーは鋼の鎧を装備して余裕なんだもんなあ。
「じゃあ、装備も整えたし酒場に行ってみようか。」
いつの間にか太陽は西に傾き、反対の空に向かって赤いグラデーションを描く。
いそいそと看板をしまう店とは対称的に、ようやく輝かしいネオンを灯した酒場。
静かに暮れ始める町とはこれまた対称的な活気…を通り越した酒場の喧騒。
思わずその方向に目を向ける。
うわぁ…いきなりDQNだよ…
華やかな酒場の雰囲気にそぐわない、ひなびた格好の男。
そして、その男に因縁をつけるのはガラの悪い二人組。
耳が尖って、口がデカくて、毛深くて、山賊ウルフに似てる気がするのは気のせいか?
「性質の悪い酔客が揉めてるみたいだね。」
「やれやれ、あいつらにもサトチー様の爪の垢を煎じて飲ませたいものですな。」
「これじゃあ情報収集どころじゃねえなぁ。」
「おい。何見てやがる。見世物じゃねえぞ!」
俺達の視線に気付いたのか、DQNの一人が俺達に向かって食って掛かってきた。
う〜ん…間近で見るとますます人間離れしてる顔だなぁ…
「んだと?俺の顔が人間離れしてるだと?ケンカ売ってんのか!!」
ヤベ…思わず口に出しちまった…
俺の言葉に激昂したのか、二人組が俺達に詰め寄る。思わず剣に手を伸ばす俺。
その一触即発の俺達の間に進み出るのはサトチーとピエール。
「何があったのかは知らないけれど、その辺にしておいたらどうだい?
魔物達だって自制心は持っている。人間である君達が持っていないはずはないよね。」
「サトチー様の仰るとおりだ…が、無法を目の当たりにして動かぬは騎士の名折れ。
お前達がさらに無法を重ねるのならこのピエール、これ以上は自制できぬぞ。」
「んだとゴルァ!!」
ちょ…ピエール、逆効果。お前が興奮してどうすんのさ。
ふと見ると、ブラウンまでピエールの横でハンマーを振り回して臨戦態勢だ。
相手は完全に逆上している。こりゃ戦闘は避けられねえな。
覚悟を決めたその時、しゃがれた呟き声が俺達の足を止めた。
「…私の吐息は生者の肺を腐敗させる毒…生きながらに体を腐らせるのは苦しいぞ?」
ぽつりと漏らしたスミスの呟きに、二人組の動きがぴたりと止まる。
「…毒…だと?」
「…疑うのならこの場に留まっていろ…苦しみも意識が途切れるまでの辛抱だ…」
淡々と並べられるスミスの言葉に、二人組の顔がみるみる青ざめる。
スミスの特技『毒の息』の事を言ってるんだろうが、知らなかったら怖いよな。
「あ…兄貴…」
「…ちくしょう!!覚えてやがれ!!」
スミスの仲裁(?)で、二人組が血相を変えて逃げ出す。
すぐにもとの賑わいを取り戻した酒場。これでようやく情報収集ができるな。
「スミスは役者だねえ。結局一人で場を収めちまったな。」
「…剣を抜かずに争いを収拾できるのならば、それが一番であろう…」
「サトチー様、申し訳ありません。主君の御前で憤怒に我を忘れようとは
騎士としてあるまじき不体裁。いかなる厳罰も慎んでお受け致します!」
「そんな…頭を上げて…いや、剣はしまって…ね?僕も力が入っちゃってたし…」
また切腹しようとするピエールを慌てて止めるサトチー。
俺とサトチーの二人で取り押さえてもジタバタと暴れるピエールだったが、
スミスの説得でなんとか落ち着きを取り戻した。
スミスが発したのは一言『命を粗末にするな』…って、凄げぇ破壊力。
―☆☆??―
「…あぁ…すまねえだ、どこも怪我はしてねえだよ。」
カウンター席の端では、絡まれていた男にブラウンが薬草を渡している。
「災難でしたね。怪我がなくて何よりです。」
「いや、あんたらのお陰で助かっただよ。やっぱり都会は怖い所だやな。
だども、おらぁ村の期待を背負ってるだ。おめおめと逃げ帰るわけにはいかねえ。」
この男、場違いな雰囲気だと思ったが、やっぱり田舎から出てきたばかりらしい。
懐かしいねぇ。俺も群馬から上京した時は、だだっ広い東京駅で右往左往したなぁ…
「ところで、あんたら腕がたちそうd…」
「いつかは故郷に錦を飾れるといいな。俺も応援してるぞ。」
男の境遇に妙な親近感を覚えた俺は、その肩にポンと手を置いて激励する。
頑張れ若人!(…俺より年上っぽいが…)
「いや、おら達の畑を荒らす魔もn…」
「慣れない都会生活は大変だろうが、体を壊したら田舎の母ちゃんが悲しむからな。」
それじゃあ元気で。世界は違えど大都会に同じ夢を見た同士。
ここでの素晴らしい出会いを俺は生涯忘れない!!
「お礼は3000G。前金で1500G渡すだ。これで仕事を引き受けて欲しいだ。」
「…何の話だ??」
「イサミ…熱くなるのは悪くないけど、人の話は最後まで聞くべきじゃないかな…」
突然大金を手にして呆気に取られる俺に、困った様子のサトチーが言葉を投げ掛ける。
「…なんだったらもういっぺん言おうか?」
「悪りぃ…全っ然聞いてなかった。」
「本当にごめんなさい。もう一回最初からお願いできますか?」
サトチーに促され、話を再開した男。その目は完全に俺から逸らされていた。
…仕方ないっちゃあ仕方ないけどね…
イサミ LV 16
職業:異邦人
HP:77/77
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鉄の胸当て
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――
〜〜〜〜〜
若干閑話的な内容になりましたが、第14話はここまでです。
きっとイサミにはDQ名物無限ループも通用しません。
何せ、相手の話を聞いちゃいませんので。
乙であります!
待ってました、乙です!
しかし久しぶりに改めて見ると、イサミLV上がったよなぁ
諦めないで待っててよかった。乙です。
相変わらずキャラの位置付けがうまくて面白い。
理論的なスミス。堅物なピエール。
癒し系のブラウン。猪突猛進のイサミ。
まとめ役のサトチーは苦労しそうだなwwww
イサミも仲魔モンスターかよw
スミスのファンになりましたw
ほすん
保守だお
閏年保守
保守
月は雲に隠れ、どこまでも深い夜の闇の中。それはあまりにも唐突なコンタクト。
ガサガサと茂みが揺れ、大きな影が飛び出した。
―不意打ち…ヤバイ―
遅れをとった事を感覚で理解し、ある種の覚悟を決めた次の瞬間、
虎のような巨大なシルエットは身を翻し、夜の闇の中に紛れて見えなくなった。
バキバキと枝葉を踏み砕く音。そして、カシャカシャと金属を打ち付けるような音。
音は次第に小さく遠くなり、夜の黒の中に風の音と虫の声が戻ってきた。
「村の中だってのに…今のが畑を荒らすモンスターか?」
「多分ね…でも、なんで襲い掛かってこなかったんだろう。」
ポートセルミで出会った男の故郷。―カボチ村―
これといった交易手段を持たず、決して裕福ではないこの村は危機に瀕している。
夜な夜な現れるモンスターが畑を荒らし回るようになり、作物の収穫量が激減。
自給自足を営んでいた村民の生活を次第に圧迫し始めているらしい。
この事態を重く見た村人は、モンスター討伐を引き受けてくれる冒険者を雇うべく
都会に村の人間を派遣した。 それがポートセルミで出会ったあの男。
「…妙な話だな。てっきりあのままパックリやられると思ったのに…」
「サトチー様、くれぐれも油断めさらぬよう。いつまた闇に紛れて姿を現すか…
前方の安全確保は引き受けました。ブラウン殿は後方の警戒をお頼みします。」
―!!!☆―
「いや、今夜はもう現れないと思うよ。もう夜も遅いし、今夜は宿をとって休もう。」
「…馬車は私が見張っておく…宿には四人で泊まると良かろう…」
スミスに馬車の守りを任せ、四人で村の宿に入る。
古い農家を改築したような粗末な宿。俺達以外に客はいないようだ。
女将はピエールとブラウンを見て驚いていたようだが、すぐに受け入れてくれた。
◇
数時間前の騒動が嘘のように静かな夜だ。
さっきまで轟々と不穏な空気を撒き散らしていた風もやや収まったらしく、
固いベッドに身を横たえると、聞こえるのは虫の声とブラウンの豪快なイビキだけ。
どこからか外の空気が漏れているのか、ぶるりと身震いした。
お世辞にも清潔とはいえない薄いシーツ一枚ではやはり肌寒い。
それでも、あの悪夢のような奴隷時代に比べれば…
神殿を逃げ出して何ヶ月が経っただろう…あの地獄を一日だって忘れた事はない。
そして、残してきた仲間達を一分だって忘れた事はない。
「…みんな…元気でいるかな…っぷしっ!!」
やはり窓の建て付けが悪いのか、小さなクシャミが漏れた。
すぅすぅと寝息を立てるサトチーを起こさぬようにそっと窓に手をかける。
「ん…やっぱり少し風が入ってるなぁ。まぁ、仕方ないか…」
窓の外は部屋の中よりも暗い完全な夜色で、その端に一点の薄赤い光を灯す。
あれはきっと町外れで夜営しているスミスの起こした焚き火の光だろう。
光はちらちらと無音のまま身震いを繰り返す。
「…外はもっと寒いだろうな。」
部屋の隅で鎧の隙間から緑色の中身をはみ出させて眠るピエールと、
すでにベッドから転がり落ちてイビキを上げるブラウンを跨ぎ部屋を出る。
宿の女将さんに夕飯の残りを温めてもらい、町外れに向かう。
本人は睡眠も食事も必要ないって言うけど、間違いなく生きてるもんな。
火はあまりに弱々しく揺れている。
ただ一度、風が吐息を吹きかければ根元から吹き飛ばされそうに。
そのすぐ前にスミスは無防備に座り込んでいる。
「……スミス?」
まるで生命感を感じさせないスミスを見て、俺の背中をじわりと嫌な汗が伝う。
今にも消え入りそうに揺らぐ灯りに照らされた朽木のような肢体がぴくりと動く。
揺らめく光と影の中では、それすらも錯覚に感じる。
「………イサミか…何の用だ?」
「あぁ…ほら、夕飯の煮物を温めてもらったからさ。持って来たんだ。」
相変わらずどんよりとした視線を浮かべるスミスはいつもと同じ。
簡素な器に盛られた煮物を差し出すと、その濁った瞳に疑問の色を浮かべる。
「寝てたのか?珍しい事もあるもんだな。」
俺の声にほんの僅か首を傾げるだけのいまいち希薄な反応。
スミスは無言のまま、消えかけた焚き火に顔を向けて薪をくべ始める。
「じゃあ…俺は宿に戻るよ。邪魔して悪かった。」
パチパチと再び音を立て始める焚き火に背を向け、宿に向かう俺を呼び止める声。
「……気遣い感謝する…ありがたく頂こう…」
「眠れねえにしても、ゆっくり休んでおけよ。」
焚き火の前で一人。豆の煮物をぼそぼそと口に運ぶスミス。
不意にその手が止まり、虚ろな瞳で崩れかけた自らの掌を見やる。
「…眠っていた…のか…」
あれ?引っかかっちゃったのかな?
4円です
184 :
GEMA:2008/03/02(日) 21:04:32 ID:gO1biD19O
ごめんなさい!
どうもPCの調子が悪いようで、一回投下を中断します。
gdgdになってしまい、支援して下さっていた方々には申し訳ないです。
また日を改めて投下させていただきます。
乙!規制じゃなかったのか
またの投下をお待ちしております
乙
PCよくなるといいですね。続き待ってます
続きに期待!
188 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/06(木) 06:42:18 ID:Iy5YIgP+0
保守
>>151 わー、最後の最後までこんな伏線があったとは。
でも、正直感動した。仲間のモンスター達とのやりとりとか、お師匠様に赤ちゃんができたことへの葛藤とか。
>>157-158 まじ?俺もよみなおしてみるよ。
保守
前回の続きを投下します。
今日は第十五話を終了させる予定です。
それでは、よろしくお願いします
◇
「冗談じゃねえ! 村長。考え直すベ。村の事は村の人間でなんとかするだよ!」
「なぁに言ってるだ。この人達は信用できるだよ!おらの目に狂いはねえだ!」
朝になり、村長の家へ足を運んだ俺達を出迎えたのはあまりにも不愉快な光景。
村長の家に入った俺達一行を見て、一人の農夫が不信を口にしたのが発端。
それにポートセルミで出会った農夫が噛み付き、口論に発展してしまった。
「化け物を連れた連中を雇うだなんて、おめえの目はケムケムベスだべか!?」
「おめえこそ、この人達を疑うだなんて頭にトンネラーでも巣食ったベか!!」
―気分悪りいなぁ。
収拾のつかない口論を見るのも気分悪いが、本人達の前で信用できねえだとか、
人様の仲間を化け物だとかよく言えたもんだな。
「私を化生と蔑むのは一向に構わぬ。だが、サトチー様に対する侮辱は許さぬ!!」
サトチーに対する攻撃に関しては短気なピエールが吼えると、部屋は静かになった。
「あなた達にとってモンスターとは畏怖の対象でしかないのかもしれません。
ですが、僕達にとって彼等は大事な家族であり、信頼のおける仲間です。
仲間を信用して頂けないと仰るのならば、この仕事はお受けできません。」
そう言いながらテーブルの上に前金の入った袋を置くサトチー。
その言葉にピエールは感激の涙し、ブラウンはサトチーに強く抱きつく。
「信用する…あんたも、あんたの仲間もだ…だから、金をしまって欲しいだ。」
「村長!!」
「なら、おめえが魔物を退治するだか?おめえにも、村の誰にも無理だんべ?
村を救うにはこの人達を信用して全てを任せるしかないだ。」
193 :
得獣失獣【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:30:13 ID:3V5v2oYI0
再び静まり返る部屋、数秒の沈黙を破って席を立ったのは最後まで懐疑的だった男。
「勝手にするだよ!そん代わり、おらも好きなようにやらせてもらうだ。
よそ者にデカイ顔されて黙ってられねえべ。」
男はボロボロの扉を蹴破らんばかりの勢いで乱暴な足音を立てて家を飛び出す。
村の総意を得たとは言い難いが、俺達は改めて依頼を受ける事になった。
「あんたらにはこれを渡すだ。きっと何かの力になってくれるだよ。」
村長から手渡されたのは奇妙な装飾が施された腕輪。
「なんでも、不思議な力が込められてるって話だで。ぜひ持ってって欲しいだ。
おらぁ、あんたらを信用したべよ。」
魔物のすみかはこの村の西にある。距離にして半日かからない程度。
馬車に飛び乗り、白い馬を早足で走らせる。
嘗ては敵だったモンスター達も、今ではサトチーの信頼に応えて力を貸してくれる。
俺達も村長の信頼に応えて力を貸してやることにしましょうかね。
旅人を乗せた馬車は走り去り、村長と農夫の二人だけが残された村長の家。
農夫が震える声で村長に問う。
「村長。なんであの腕輪を渡しただか?」
「あの腕輪さ持ってれば、間違いなく魔物を仕留められるべ。」
「んだども、あれで魔物を仕留めるって事は…」
「…なぁんも問題ねえ…これで村は安泰だぁ。」
ほぼ白湯に近い出涸らしのお茶をすすり、村長が細く息を吐く。
大きく開かれた洞窟の入口は、全てを受け入れているかのようであり、
その内に広がる深みは、全ての侵入者を拒んでいるかのように俺達を威圧する。
内部は鍾乳石が複雑に入り組み、滴る水に侵食されて崩れた岩壁が進路を塞ぐ。
長い時間をかけて造り上げられた自然の迷宮。
「視界が悪いね。皆、周囲には充分気を付けて。」
「前衛は私とイサミ殿。スミス殿とブラウン殿は後方の警護をお頼みします。」
最近の隊列はこのパターンが多い。
前衛にピエールと俺が立ち、先手必勝で相手に一撃を加える。
怯んだ相手にサトチーが剣と魔法で追い討ち、とどめに後衛の二人が殴りかかる。
前衛がダメージを受ければ俺が相手の足止めを受け持ち、サトチーは回復に専念。
タフな二人が後方を守っているので、背後を取られても被害を最小限に留められ、
その場合はサトチーが即座に治療に回れる。
スミスとピエールが提案した隊列だが、なかなか機能的だ。
この隊列なら剣、魔法、回復、指示出しをこなすサトチーが臨機応変に動ける。
神経毒を含んだクチバシを武器に、目を血走らせて飛び掛ってくるデスパロット。
巨体に似合わぬスピードと、体躯に恥じぬ怪力で猛攻を仕掛けるビッグスロース。
パチパチと燐光を散らす体から発する閃光で俺達を焼き殺そうとするデススパーク。
狂気に満ちた眼光をこちらに向け、槍を振りかざて突進してくる突撃兵。
一癖も二癖もあるモンスター達だが、俺達の連携の前では敵ではない。
襲い来るモンスターの群れをあらかた殲滅し、仲間に治療を施すサトチー。
その腕を指差しスミスが問い掛けた。
「…サトチー卿…先刻から気になっていたのだが…その腕輪はどうした?」
スミスが指差すのは、カボチ村の村長から受け取った腕輪。
「うん。この腕輪かい?カボチの村長から貰ったんだ。」
「…なるほど………その品…私が貰い受けるわけにはいかないだろうか…」
装飾品には興味なさそうなスミスの頼みに、サトチーも少し驚いていたようだが、
すぐににこりと笑いながらスミスに腕輪を手渡した。
「…ありがたく頂戴する…」
ドス黒い肌の上、神秘的に輝く宝石と施された装飾が奇妙なバランスで調和する。
腕輪に飾られた血のように赤い宝石。その隅にチラリと影が映りこんだのを見つけた。
「新手みたいだね。話が通じる相手ではなさそうだ。」
「え、よっこいしょ…休憩時間は終わりだな。」
周囲を警戒していたブラウンがハンマーを固く握り、鋭い眼光を影に向ける。
俺も重い腰をあげ、剣を正眼に構えて襲撃に備える。
さしたる音も立てず、物陰から姿を現したのは鈍色の騎士。
馬を繰る騎士ではなく、ピエールと同じくスライムに跨る異形の騎士。
―ピエールの同族か?
ヒュッ…ガギン!!
一瞬戦闘に入るのを躊躇した隙に、騎士がブラウン目掛けて突きを繰り出す。
間一髪でブラウンのハンマーが剣を弾き、喉元を狙っていた剣は大きく逸れた。
―いきなり痛恨即死コースで狙ってきやがった。
「お待ち下さい!」
睨み合う俺達の間に、ピエールが割り込む。
支援
「ヤツの相手は私にお任せ願えませんでしょうか…」
「そんな…ありゃ同族じゃねえのか?」
「その通り、ヤツは紛れもなく嘗ての同族…だからこそ私が討つのです。
ヤツは誉れ高き騎士の名を汚した種族の裏切り者。メタルライダー一族。
騎士の誇りに懸けて、私自身の手で決着をつけねばならないのです。」
言いながら剣を抜き放つピエールの気迫に押され、意思とは無関係に道を譲る。
一人、敵前へ赴く騎士の背にサトチーの声が投げ掛けられる。
「ピエール。作戦は『ガンガンいこうぜ』…だ。」
「勝手をお許し下さい。そして…『私にまかせろ』であります。」
静かな…そして、心強いサトチーの激励に応えて剣を高く掲げるピエール。
対峙するソレは、この薄暗がりの中ではピエールと瓜二つの容姿に見える。
ピエールと違うのはそのスライム。鮮やかな生命を感じさせる若草色に対し、
無機質な金属色。それも、メタルスライムのような光沢を持つ銀色ではなく、
騎士としての心の輝きを棄てたかのような鉛色。
「私の名はピエール。高貴なる主君、サトチー様にお仕えする騎士。
下郎にも名乗る名くらいはあるだろう。その下劣な名を名乗るが良い。」
構えた剣を頭上高く水平に掲げ、名乗りを上げるピエール。
対するメタルライダーは喉の奥で短く笑い、空っぽの鞘を後方に投げ捨てる。
「…脆弱な騎士め。貴様が大事にしている誇りなど無価値だと証明してやる。」
「誇りと一緒にその下劣な名までも捨てたか。誇りを捨てて得た力など無力。」
手にした剣をメタルライダーに向けながら、ピエールも同じく鞘を投げ捨てる。
それは―どちらかが果てるまで戦う―という決闘の意思表明。
「「覚悟!!」」
若草色と鈍色が交差し、入り乱れる画像に遅れて金属同士の衝突音が鳴り響く。
一合、二合と切り結ぶ度に、若草色の液体が飛び散り、鈍色の破片が弾ける。
互いの歯軋りが聞こえるような鍔迫り合い。優勢なのは体格に優れる鈍色の戦士。
頭上から押し込まれる力を横にいなし、ピエールが距離をとる。
「ぬぅ…下郎と罵ったが、貴様の剣の腕は本物…悔しいが認めざるを得ん。」
下のスライムと同じリズムで肩を上下させ、荒い呼吸を整えるピエール。
対するメタルライダーは所々に傷が見えるものの、その呼吸は穏やかだ。
―剣の腕は俺が見る限り互角。だとしたら、パワーで劣るピエールが不利か…
「だが何故だ!何故それほどの剣の腕を持ちながら魔に魂を売った?」
「逆に聞こう。弱者の盾となって戦う事に何の意味があると言うのだ?
私は狩られる側よりも、狩る側につく…弱者は弱者のまま狩られていれば良い。」
「儚い種族であるスライム族を守る…それが我等スライムナイト一派の存在意義。
己の存在意義を捨て、同族を狩る側に寝返った貴様を許すわけにはいかん!」
「今の私の存在意義は貴様等を狩る事。魔界の力を得た私が脆弱な貴様を叩き潰す!」
どちらが発したか、それとも両方が発したか、雄叫びと共に両者が肉迫する。
最上段から最大の力を込めて振り下ろされる鈍色の剣。
一太刀でピエールの脳天から下のスライムまで一刀両断する
…はずだった剣は、奇妙な液体音とともに天高く舞い上げられた。
「…な…貴様、私の腕を…」
最小限の動きで最短距離を縫い進むピエールの突きが相手の右肘を抉る。
その突きはカウンターとなって、全力で振り下ろされようとしていた鈍色の戦士の
右肘から先を完全に粉砕し、斬り飛ばした。
「そこが邪な力の限界だ。何かを裏切って得た力は、必ず最後に自らをも裏切る。
騎士は誇りを忘れぬ限り何度でも立ち上がる。そして、必ず最後に勝利するのだ。」
剣を失い、剣を握る手をも失い、短い悲鳴をあげてうずくまるメタルライダー。
ピエールの剣は、曲線を描いて相手の首筋に当てられ…その先の動作は中断された。
「下郎とは言え、剣を失った相手を斬る事は騎士の名折れ。命拾いをしたな。
貴様なら自分で傷を癒せるであろう?今後は過去を悔い改めて生きるがよい。」
ピエールがその剣を引き、くるりと踵を返す。
傷付いた体を意思で支え、それでも胸をはって仲間の下へ帰る騎士。
―あのピエールのセリフ…どこかで聞いたなぁ。
ごきん
ありえない衝突音。ピエールの雄々しい姿が大きく傾き、そのまま崩れ落ちた。
地に伏した騎士の背後、鉛色の塊を左手に抱えて立つ鈍色の鎧。
その右腕から流れる銀色の液体で地を汚し、ドス黒い復讐の気配を背負っている。
「…なるほど…確かに下郎だな…」
「ピエール!!」
―背後からメタルスライムでぶん殴りやがった…卑怯者め。
「手助け無用!!」
駆けつけようとする仲間を片手で制し、よろよろと立ち上がるピエール。
剣を支えにして立ち上がるも、それで精一杯なのが目で見てわかる。
当然だ。あの硬いスライムで後頭部に痛恨の一撃を喰らったんだ。
支援します
「騎士の剣は”殺める”為ではなく、”守る”為にある…そうでしたな。サトチー様…
こやつに『明日を生きる』事を命じた私の判断は正しいと信じております…」
消え入りそうな声で語り、再び剣を正面に構えるピエール。
その若草色のボディーを狩らんと、鉛色のスライムを振り回して突進する鈍色の鎧。
対して、ピエールはその場を動かずに構えた剣を引き絞る。
「だからこそ許せぬのです。サトチー様の御心を踏みにじったこやつを。」
怒れる騎士の懺悔に、悲鳴のような音が覆い被さる。
それは例えるなら、ピアノの一番右の鍵盤を大音響で鳴らしたような音。
かたや、鉛色のスライムを前方に振りかざす体勢のまま…
かたや、一直線に伸ばした剣で鉛色のスライムを押し留める体勢のまま…
静止画像のように硬直していた二人。
ゆっくりと剣を引くピエール。メタルライダーは動かない。
鉛色のスライムの胴を透かして鈍色の鎧が見える。
そして、鈍色の鎧を透かして後方の壁が見える。
会心の牙突は鉛色のスライムを貫通し、鈍色の胴にも風穴を開けていた。
「さらば、嘗ての同胞。貴様を殺めたのは私…全ては私の力不足ゆえ…」
動かないメタルライダーの鎧。その隙間という隙間から水銀のような液体が漏れる。
最後に残ったモノは銀色の水溜りと、バラバラになった鎧。
そして、その前に剣を立て追悼の構えを取る若草色の騎士の姿。
―騎士は何度でも立ち上がり、必ず最後に勝利する―
ピエール以外の存在が口にしたなら、これほどの説得力を持っただろうか。
ピエールはその行動をもって自らの言葉を証明した。
「ピエール…」
俺の呼びかけに対し、ピエールはこちらに背を向けたまま動かない。
生命を失った水溜り。変わり果てた嘗ての同胞の前で騎士は何を思うのだろう。
「…私は…騎士として失格ですな…」
胸の底から絞り出すような声。顔は見えない。
「私は何一つ守れていない…主君の御心を汚し…嘗ての同胞を殺め…
騎士として守るべき物を何一つとして守れず…」
―それは違う。ピエールは正真正銘…
俺が発しようとした陳腐な言葉は、横から伸ばされた手によって遮断された。
「騎士ピエール。主として君に命じる。」
いつもの優しい声ではあるが、どことなく威厳を感じさせるサトチーの声。
敬愛する主の声に、騎士がようやくこちらを振り向く。
「高潔な騎士である自分自身を否定する事を今後一切禁じる。
そして、騎士の信念に従った行動を後悔する事…それも今後一切禁じる。
例えどんな形だろうと、君が導き出した結果を僕は受け入れ、君を祝福する。」
ゆっくりとした動作で剣を地に置き跪くピエール。
水銀色の返り血に塗れたその姿は、勇猛さと同時に気品さえ感じられる。
絞り出すような声は変わらず、けれども、その声に迷いはなく…
「仰せのままに。我が信念はサトチー様の広く深い御心と共に…」
治療は終えたが、かなり消耗したピエールを隊列の中央に据えて洞窟を進む。
ピエールの代わりに前衛を務めるのはサトチー。
普段は隊列中央からの回復やサポートに回ることが多く、前線に立つことは稀だが、
長い時間をかけて磨かれた剣の冴えは見事だ。
突進力で相手を突き破るピエールの剣が”動”の剣だとするならば、
相手の踏み込みをいなし、すれ違いざまに相手を斬り伏せるサトチーの剣は”静”の剣。
果敢に攻め込んでいたはずが、気付いたら斬られている受け身の剣術。
恐らく、倒れた相手は斬られた事にすら気付かず命を落とすのだろう。
相手を不必要に傷つける事を嫌うが故に身についた優しい剣技。
それが相手の命を一瞬で刈り取る死神の鎌になるとは皮肉な話だねえ。
「さて…かなり奥まで辿り着いたけど、みんな怪我はないかい?」
その呼びかけに、ついさっきまで治療を受けていたブラウンが全身で答える。
「ははは…ブラウンは元気みたいだね。安心したよ。」
「私は問題ありません。魔力も完全とはいかないまでも回復しております。」
「俺も平気。道中サトチーがマメに回復してくれてたからな。」
「…サトチー卿…失礼ながら貴公の消耗が著しいように見受けられる…」
俺の心許ない回復技で治療を終えたスミスがサトチーに辛辣な言葉を投げ掛ける。
…いや、本意はわからんけど、無表情・無感情な言葉から真意を測るのは難しい。
実際、ピエールが後ろのほうで『無礼者!!』とか叫びながら抜刀してるし…
まぁ、確かに受けに重点を置いたサトチーの剣術は被弾確率が高いよな。
実際にサトチーの左腕には突撃兵の攻撃を受けた痛々しい傷が見える。
「ん?あぁ、これくらいならベホイミで全快できるさ。」
「…ふむ…一つ進言させてもらおう…時に慈悲は足枷となる…
…慈悲を向ける相手を見誤らぬよう…首領を失った一軍は非常に脆い…」
「わかった。君達を危険に巻き込むわけにはいかないからね。」
「…そうではない…貴公にはもう少し我が身を案じて頂きたいだけだ…
…我々にとって貴公の存在は貴公が考えているよりも重い…」
口下手だが、はっきりと伝わるスミスの心。
ピエールも納得したのか、ようやく剣を鞘に収めてくれた。
当のサトチーには意味がわからないらしく、きょとんとしている。
「素直じゃねえなあ。ハッキリ言わねえとニブニブサトチーには伝わんねえよ。」
―スミス達にとって何よりも大事なのはサトチー自身。それを忘れるな―
つまりはそういう意味だ。
ようやくスミスの言いたい事が伝わったのか、サトチーの顔に笑みが浮かぶ。
「ありがとう。スミス。」
「……治療が終わったのなら先を急ぐべきではないのか?…」
ぷい と、そっぽを向くスミス。
―もしかしてスミス、照れてんのか?この辺はまだサッパリ読めねえけど。
下層に向かうに連れ、狭く入り組んだ様相を見せる洞窟。
足場の悪い通路だろうが、狭い袋小路だろうが襲い掛かってくる魔物。
それらを薙ぎ倒して(時には宝箱に化けた魔物を谷底に蹴り落として)俺達は進む。
そして、辿り着いた最下層。
こぢんまりとした洞窟内の小部屋にソレは居た。
「サトチー様、前衛に出てはなりません。こやつは…キラーパンサー。
地獄の殺し屋の異名を持つ呪われし魔獣です。」
地獄の殺し屋 キラーパンサー。
発達したしなやかな筋肉。その体は薄暗がりの中でも明るい金色の毛皮で包まれ、
燃えるように真っ赤な鬣が彩りを添える。首周りに付着しているボロ布が邪魔だが、
その物騒な名前とは裏腹に、その姿は美しい。
…が、象牙のように艶やかに輝く長い牙は紛れもない獰猛な肉食獣のそれ。
同時にカボチ村での風のような身のこなしを思い出し、身が硬くなるのを感じた。
「先手必勝!呪われし魔獣め、そこになおれ!!」
鬨の声を上げたピエールが狭い室内を疾駆し、渾身の突きを繰り出す。
次の瞬間、俺の視界にいたのはピエール一人。
魔獣の姿は消え、前方から呻き声と円盤状の何かが飛んできた。
「ぬう…やはり速い。」
「ピエール!!」
ピエールに後の先の一撃を喰らわせ、その盾を弾き飛ばしたキラーパンサーは、
床を蹴り、壁を蹴り、僅か一足で間合いを飛び越え俺達の背後に回っている。
「心配無用。これしきのカスリ傷…」
「動かないで!すぐに治療しなきゃ!」
ピエールの左腕には三本の傷が刻まれ、緑色の体液が滲み出している。
―鎧で覆われたピエールに傷を負わせるなんて…
―!!!―
隊列の後方を守るブラウンのハンマーが小部屋を揺らす。
身を翻した魔獣は回避の瞬間、ブラウンに強靭な後肢で蹴りを喰らわせる。
「…これならかわせまい…朽ちて悶えろ…」
スミスの口から迸るドス黒い気体。
強力な毒素を相手に浴びせるスミスの特技『猛毒の霧』
地を這う生物である限り、広範囲に流動する霧から逃げる術はない。
そう…地を這う生物である限り…
目を疑った。
暴れるブラウンをその口に咥え、その四つ足で取っ掛かりのない天井に立つ獣。
強靭な爪を固い岩盤に食い込ませ、落下する事なく天井に文字通り『立って』いる。
これには無感情なスミスも驚きを隠せないらしく、その動作が一瞬止まる。
そして、その一瞬を見逃す相手ではなかった。
「…なるほど…鉄の爪か…」
天井を蹴った魔獣がスミスに襲い掛かり、その背に爪を刻み込む。
事も無げに、猫科特有の身の柔らかさを駆使して地に降り立ったキラーパンサー。
「てめえ!ブラウンを放しやがれ!」
ピエールも、ブラウンも、スミスも一撃で戦闘不能にする戦闘能力。
俺が敵う相手ではないのはわかってるが、せめてその回復の時間を稼ぐ。
キラーパンサーの直前で身を屈め、その足元を狙って水面蹴り。
突進からフェイントで足払い。プロトキラー戦で編み出した俺の必殺コンボだ。
思いっきり外した。
てか、普通に避けられた。
胸の辺りから黒板を引っ掻くような嫌な音。
足払いをミスった不安定な体勢のまま、胸に重い衝撃を受け、吹き飛ばされる。
「…痛ってぇ…」
痛みを堪え、なんとか受け身を取って立ち上がる。
ただの意地。だけど、この防具なら一撃に耐えられることがわかったのは大きい。
「さすが鉄の胸当てだ、あの一撃を受けてもなんともない…ぜ…」
胸の防具に目をやって絶句した。
ポートセルミで購入した鉄の胸当て。その表面に三本の太いエッジが刻まれている。
「…イサミ…ヤツは鉄の爪を身に着けている…天井に爪を食い込ませる荒業も…
…ヤツの異常な攻撃力もその力だ…生身で喰らえば助からぬ…」
背中に三つの傷を浮かべたスミスが倒れたまま忠告する。
鉄の爪…抉り取られた鉄板…もし、これが生身の部分だったら…
子供の頃、テレビの動物番組で見た肉食獣の捕食シーンが脳裏に浮かぶ。
ごくり…と、生唾を飲み込む俺。俺も相手も睨み合ったまま動かない。
こちらの攻撃は全て回避され、その瞬間を狙って強烈な一撃を叩き込んでいる。
動けない…それでも、相手が痺れを切らして襲い掛かってきたらそれまでだろう。
―☆!!☆!―
膠着状態はあっさりと終わりを告げた。
一番先に痺れを切らしたのは俺でも魔獣でもなく、その口に捕われていたブラウン。
小さな体をフルに使ってバタバタ暴れ、その赤い鬣を引っ掴む。
魔獣は堪らず首を大きく振り、ブラウンを俺の胸元へ放ってよこした。
「…っと、危ねえ!」
魔獣に噛み付かれて振り回されたはずのブラウンは思ったよりも出血がない。
見ると、蹴り飛ばされた時に作ったのか頭に大きなコブができているが、
軽く目を回している以外は引っ掻き傷も噛み傷も見られない。
魔獣に捕われて天井に離脱したのが幸いしてか、猛毒の霧の巻き添えも免れたようだ。
「皆、下がってくれ。」
ピエールの治療を終えたサトチーが、一行の前に進み出る。
低く構えて動かない魔獣を、真っ直ぐにその瞳で捉えながら。あくまでゆっくりと。
その手には、ついさっきブラウンが相手の首からもぎ取ったボロ布。
「サトチー様!なりません!!」
「作戦変更!『僕にまかせろ』イサミとピエールはスミスとブラウンの治療を。」
ピエールにとって、サトチーからの指示は絶対。
強い警戒心をあらわにしたままではあるが、即座にスミスの治療に向かう。
俺にとっても歯痒いが、戦闘の場ではサトチーに従う。それが俺達のルール。
「鉄の爪…この刺繍入りのケープ…大きくなったね…」
―ガァウッ!!―
無造作に振るわれる鉄の爪。サトチーの体にじわりと赤い色が浮かぶ。
それでも、そのゆっくりとした歩みは止まらない。
「サトチー様!!おのれ…」
「大丈夫だ。持ち場を動かないで…」
鉄の爪が何度も振るわれ、金属が擦れ合う音が何度も鳴り響く。
その度にサトチーの服に小さな傷が増える。
もう一回支援
―おかしい…
続けられるキラーパンサーとサトチーのやり取りに、何か違和感を憶えた。
俺と同じ違和感を他の仲間達も憶えたらしい。
―???―
「ええ…ブラウン殿の仰る通り奇妙ですな。あれ程の猛攻を繰り出しながら、
どの攻撃もサトチー様のを浅く傷付けるのみ。それは一つの幸いなのですが…
だとしても、サトチー様に傷を負わせる蛮行を目の当たりにしてむざむざ…ぬぅ…」
「…我々が受けた傷にしても同じ事が言えるな…あえて浅く…急所を外している…」
無防備な所に受けた傷。だと言うのに、俺達の誰も致命傷は負っていない。
俺が受けた一撃も急所となる首筋や腹部ではなく、胸当ての上を傷付けただけだ。
「ずっと一人で…寂しい思いをさせたね…」
―グウゥゥゥ…―
低い唸りを上げながら、じりじりと魔獣が後ずさる。
「その爪も、このケープも、僕から君にプレゼントした物だよね。
十年…ずっと大事にしてくれていたんだね。ありがとう…
僕も君との思い出をずっと大事に持っているんだ。」
―サトチーの腰帯に結び付けられていた、薄汚れた赤い布紐。
白と紫で統一されたサトチーの服装の中で、それは一際異彩を放つ存在。
以前、サトチーに尋ねた事がある。
『なあ、サトチー。気になってたんだけど、それ何かのお守り?』
『そうだね。僕にとっての大事なお守り…そして、いつでも僕を守ってくれる。』
『ふぅん…よくわかんねえけど、俺の世界でのミサンガみてえな物か。』
『みさんが?攻撃系の呪文かい?』
音もなく解かれた赤い布。
俺の世界でのミサンガは、それが解けた時に持ち主の願いを叶えるお守り。
ふわり…と、赤い紐が魔獣の鼻先を掠めた瞬間、魔獣の唸り声が消える。
何かに憑かれた様に身を伏せ、硬直する魔獣。その首にサトチーの腕が廻された。
「くじけそうになる度に、そのリボン…君とビアンカの思い出が守ってくれた。
この十年…一度だって忘れた事はないよ。」
鮮やかな赤い鬣に結ばれた薄汚れた赤のリボン。
「生きていてくれて…本当にありがとう…」
身を伏せていた魔獣が、がばっと身を起こす。
その目からは涙が溢れ、その金色の体毛に覆われた顔中を濡らす。
―オオオオォォォォォ…―
洞窟内に響き渡り、反響する遠吠え。それは歓喜の雄叫び。
顔を濡らし、その豊かな毛皮を伝う涙が地面に流れ落ちる。
こっちの世界のミサンガも、それが解けた時に願いを叶えるお守り。
ただ一つ違うのは、持ち主の願いを叶えるお守りではなく…
持ち主と持ち主にとって大事な存在、両方の願いを叶える…
両方にとって、大事な大事なお守り。
イサミ LV 16
職業:異邦人
HP:41/77
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鉄の胸当て
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――
〜〜〜〜
第十五話はここまでです。
長時間のお付き合いありがとうございました。
193でsage忘れ…マジ申し訳ないです。
>◆Y0.K8lGEMA さん
お疲れさまです。
リアルタイムで読めて楽しかったです。
おぉ、ついにキラパンが……!
名前を次回に持ち越すあたりが憎いw
指輪が気になるな…。
欝展開だけはやめてくれぇ…。
このシーンはいつどういう流れで見てもいい話だなー。非常に乙。
スミス生きろ。死んでも生きろ。俺はお前を失いたくない。
星降る腕輪だってあたい信じてる
乙
目から水が止まらん
サトチーはやっぱり上に立つ素質のある人物なんだな。カッコいい
腕輪とタイトルのことを考えると次回が不安だ
カボチの奴らの会話からすると多分あの腕輪なんだろうな…
スミスいやだああああああああ
乙です。
いつも楽しみにしてます!最近職人さん少ないけど頑張って!
誰か死ぬのかな・・・
カボチの地下室のあの腕輪か・・・?
・・・・・・スミスううううぅぅぅぅぅ!!!!
おつ
カボチにある腕輪だよな。
ま、この村はそれくらいのが納得できるがなw
カボチだけは滅ぼしていいよ、ゲマさん?
続き楽しみ保守
おおおお、ピエールVSメタルライダーといい、キラーパンサーとの再会といい、正直感動した。
洞窟の入り口の描写といい、メタルライダー戦の緊迫感といい、GJなんてレベルじゃねぇよ。超GJ。
おお。久美先生もこの洞窟でピエールvsメタルライダー戦を描いていたが、
こっちの矜持を賭けた我の張り合いも格好良くて好きだなぁ。
227 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/16(日) 18:01:41 ID:XbwzF01TO
目覚めたらアリアハンの宿屋のベッドの上でさ、もうね、慌てず騒がす兎にも角にもね、酒場直行だね、ああ、ルイーダ?
うん?ハーレムパーティー?ちっちっ、ノ〜ンノン、ここはあえて女戦士たんオンリー加えなくっちゃね、だめよ、常識的に。
やあよろしく女戦士たん、ん?ああ、いいのいいの、二人なら経験値倍でしょ?(どう考えても目的は別のところにあるのだが)
二人で力を合わせてがんばろうぜ!さ、いくか!
まずは財布と相談しながら多少装備強化、と・・・鎧のサイズ合わせやら試着を免罪符にセクハラチャンスタ〜イム。
いや、ほら、ここ、こんな隙間空いてると動くとズレたり?してまずい?んじゃない?
なんて具合に逞しいエロエロボディにボディタッチ?スキンシップね、やっぱ意志の疎通?的な?色々後々のためにもね、深めとかないとね、最初が肝心。
さあてと、しち面倒臭いが外に出て・・・危ないから城門から極めて近いとこでうろうろすっか。
まずは軽く一戦、あんまりいっぱい出てくんなよ、バカガラスライム軍団。
・・き・・た・・・うりゃ!こんちくしょう!
う〜ん・・・あ痛たたたたた・・・勝ったが・・もう・・だめだ・・女戦士たん、今日のところは・・宿屋で・・回・・復を・・・・・
!!?!
チャンス!!歩くのも辛いような重傷のフリをしてのろのろと足を引きずるように歩くと・・・
案の定、気の短い女戦士たんがこちらの作戦、思惑通りイライラしだして・・・
・・んもぅ!しょうがないね!大丈夫か?
と肩を貸してくれた。
・・す・・すまない・・うっ・・
と非常に安っぽい猿芝居をしながら女戦士たんにもたれかかり、むき出しの素肌胸お腹お尻太腿あたりに狙いをさだめ、かなり際どいボディタッチに挑戦する。
な・・ちょっ・・ぉ・・・い・・
と、嫌そうに拒否られるか怒られるか突き飛ばされるかされないかギリギリのところを見切りつつ危ないヤバいと感じたらすごく苦しそうなフリをしてごまかす。
むほっ、さて、宿屋はもうすぐだ。
はやる気持ちと股間の欲棒を抑えつつ、まだ日は高いが・・・・・
???
スレタイ見てこういう妄想を書きなぐるスレだとおもったんだが・・・
232 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/17(月) 19:06:36 ID:TV0MJuZOO
>>228 >YES,I am!チッ♪チッ♪
まで読んだ
新たなる可能性が参上してるのか保守
もし目が覚めたらそこがDQ○世界の宿屋だったら
朝。
窓から容赦なく目を射るまぶしい陽光に目を覚ます。
寝不足の頭を振り、気だるさを振り払う。
そして、頭がはっきりするにつれ、俺はあることに思い至った。
ココハドコダ?
ビルの谷間の俺の部屋の窓からは、はげかけた灰色のコンクリートの壁、そして洗濯物しか見えないはずだった。
陽光が差し込むことなど決してない。
一気に目が覚め、目をこすりながらうす暗い部屋の状況を確認する。
鼻先に洋服掛けの迫る、俺の部屋の四畳半じゃない。しかも古風で質素だが、布団ではなく大きなベッドで寝ている。
窓にはよろい戸があり、その隙間から日光がシマシマの模様を作っている。ちょうど俺の目の位置にもひとすじの日光が当たっていた。
「ちゃんと計算されているんだな。角度とか・・・」
俺は誰に言うともなく、ひとりごちた。
少々立て付けの悪い、鎧戸を開け放つと、俺は思わずまぶしさに目を細めた。
やがて目が慣れてくると、その光景に息を呑んだ。
窓の外には、まるで西部劇のテーマパークのような光景がそこに広がっていた。
そして、俺のいる部屋のレンガ作りの壁からは飾り文字でINNと書かれた看板が突き出していた。
外を歩く人々も妙な格好をしていた。甲冑をかぶったもの、上半身裸で覆面までかぶったものが前後左右に闊歩している。
女性はさすがに上半身裸ではないが、手の込んだ民族衣装のようなものを着ていたり、いずれにしても俺の見慣れたものではない。
「ここは日本じゃないのか?」
状況が飲み込めず、頭が痛くなってきた。
部屋の中に視線を戻すと、着替えらしいものはなく、甲冑と剣、盾、そして皮袋があった。
皮袋の中には漢方薬のような束ねられた草、ゲーセンのメダルのような金貨、趣味の悪い装飾のついた大きな鍵が入っていた。
もしや・・・。
昨日寝る前に見たスレを思い出す。ここは、噂のDQ世界の宿屋なんじゃないか。
ということはラスボスを倒せば元の世界に戻れるけだ。
それにしてもドラクエいくつなんだろう。それがわからないと目的とこれからすべきことがわからない。
ふくろがあるということは・・。いや、外に出てみればわかるだろう。
とりあえずDQn世界(nは自然数)としておこう。
俺は鎧をみようみまねで身に付けて、武器を身につけて、皮袋を持ち、宿の廊下の階段を下りた。
そこには、緑色の服に金ボタンをつけた宿の主人が待っていた。
だが、その宿の主人は俺の想像していたお決まりのセリフは言わなかった。
それどころか、くちゃくちゃとガムを噛み、安物の香料臭い息をさせながら眉間にしわをよせ言った。
「あ〜ん?ゆうべは眠れたんか?じゃあさっさと行きな。」
宿の主人はあごでドアの方を示した。
その勢いに気おされながら、黒い金具のついた重厚な扉を開ける。
そこには、二階の客室からは見えなかったが、想像を絶する光景が広がっていた。
俺を押しのけて入れ違いに宿に入っていく者。
宿の玄関前にたむろって、袋にいれた液体を吸う者。
昼間っからラリって、ふらふらと前後左右に不規則に歩く者。
路地から俺をにらみつける者。
地べたに座り車座になる者。
しまった。ここはDQn世界ではなくDQN世界だったのかっ!!orz
おしまい
なんてひどいんだ
すりりんぐぶれいぶはーと・第一話(1)
「山に潜んではや一週間、体臭がヤバイを通り越してもう何も感じなくなりました……でも風呂より温かい料理が食べたいです」
テンションガタ落ち、HP満タン、されどもMP空っぽ、薬草も尽きたわけで食えそうなものを図鑑と見比べ吟味、せめて茹でないと青臭くてかないませんよ。
草特有の灰汁っぽさ、お腹の調子は悪いけれどもひとまずステータス異常とまでは至ってませんよと自分を慰め大きくため息。
「魔法に関連する書物を奪取してこないことには始まらんぞおい、Lv上がったっぽいけど一向に覚える気配ないし」
知識は自分で付けなきゃならないっぽいです、もうちょい上手い具合のシステムを築いて下さい偉い人。
ぶっちゃけ二百年ほど前に魔法使いの反乱が起こって以来魔法はほんの一握りの人間だけが学べる免許制の特殊技能なわけで、必然的に学ぶための書は限られてくる。
ルイーダの店みたいに職業斡旋やってるところでも武道家だとか戦士だとかが余るぐらいたくさん登録されて続いて盗賊、商人と言ったネゴシエーター。
まあダンジョン内での鑑定も受け持つこともあるが圧倒的に交渉事に役に立つ。
そして何より引っ張りだこの僧侶と魔法使い、これの数はイーブン、似たようなもんだし……。
あー忘れてた、遊び人なんて言うふざけた職業もあるが……仲間の下の世話もリーダーの責務というもので、街中で性犯罪なんてものを起こされれば最悪打ち首ですからね!
んで賢者、高慢ちきが多いのと何より絶滅危機種かっつーぐらい個体が少なく保護対象となっているため滅多にお目にかかれないらしい。
いやまあ勇者ほどじゃないんだけど。
「あー何話してたんだっけか? あー魔法だ魔法、脱線しまくってるな」
こんだけだらだら話して何が言いたいかって……魔法習得無理ぽいです、てへ。
「洒落になんねー、無理ぺー、つーか、死ねるぜ」
動物性タンパクなんて当分くってねーなーと夜空に嘆く、カラスは復讐が恐ろしいから手を出さないしキノコマンとか中間すぎて食いたくない。
「誰が考えたんだよあんな万博不思議生命展、植物っぽいくせに肉っぽい感じ、毒持ってるし良いとこねえよ。スライムとか噛り付いたら舌に吹き出物がぶつぶつ出やがるし」
あれには本当に参った、元々ある舌のざらざらの上に数の子みたいな感触の密集体ができて、さらに悪いことに高熱にうなされること二日間。
さらにゲエゲエ吐いてせっかく詰め込んだ草が胃の中から消え去り胃液まで出し尽くす始末。
それだけならまだ良かったが悪いことはかさなるもんで下のほうも壊れた蛇口みたいに噴き出し脱水症状一歩手前。
いやぶっちゃければ重度のになってたんだけどな、干物だ干物。
まあそれでも死なないのが勇者の定め、パラメーター異常が長く続いてたせいもあって筋力と体力が衰えたのもご愛敬。
魔法なし武器なし知恵なし、けれども体は頑丈……だと思いたい、わりと元気じゃないけど今日も生きてます、と。
「つーかなんで魔王襲ってこないんだ?今の段階でフルボッコにしたら立ち向かってくる馬鹿は居ないだろうに……」
勇者を放置することは最悪自らを滅ぼすことに繋がる、ならその災厄の目をサクッと摘むに限る。
というか人類掃討を謳いながらなぜ圧倒的物量を誇る魔王軍を動かさない?
軍産複合体が裏で戦争を継続させている陰謀論、なんてものがあるなら分かりやすいがこれは不可解すぎる。
そんなものがあるなら勇者や魔王なんていう不確定要素があってもらった困るはずだ。
「ルビスってどこの祠に居たんだっけか、あれ?あれって四作目か?ちくしょう、なんでここまで覚えてないんだよ……」
自分の知識の何が正しく何が間違っているのか、それすら分からないのだ。
魔法がぽんぽん使えるファンタジーに自分の常識が屈伏している。
「いいや待て、金になりそうなことを思いついたぞ俺、そうだよ、ファンタジーだ、産業革命も起きてないんだ、チャンスは幾らでも転がってるじゃないか!」
え!?金がない!?借りれば良いじゃないの!!
子供じゃねーか!?無理!?d
「……現実味がないな、蒸気機関の仕組みは分かるがあんなもん作れるかよってんだ」
熱効率が半端なく悪くさらに強度がなくボロっちいのならイケそうだけどな、とぼやく。話が平行線だ……つーか誰と話してるんだよ俺。
(2)に続く
長く広い、迷路の様なシャンパーニの塔を迷いながら進んでいった。トラップの仕掛けられた床、侵入者を阻むために配置されたモンスター達、先の階に進ませないためのトリック。
外を見たら分厚い雨雲が塔を覆っていた。
これだけ好調に冒険してきたのにバラモスへの道のりが、進めば進むだけ不安になるのは何故だろう。
全てのモンスターを従えるバラモス。おそろしいほどの魔力。世界を黒く覆い尽くすその存在。その存在があまりに静かで、不気味な気配があるのだ…。
オルテガがただ一人でバラモスを倒すために旅立った。
各地にその伝説は語られていた…。その強さを、勇気を。
しかしその後どうなったかは誰もたぶん知らない。
そう、ぼくはその偉大なるオルテガの息子―勇者として、アリアハンをでたのだ。
ピカ一の剣の実力をもつ戦士サイモン。ただ、いまだ本気で戦っていないようで実力は未知数である―。
オルテガを慕い幼い頃から武闘家の道を選び鍛練を続けてきたエリー。その男勝りの性格の奧にある淋しさややさしさをぼくは知っている。
神を信仰する僧侶ナナ。口数は少ないが、そのあたたかい空気、雰囲気がぼくらを癒してくれる。
―さあ行こう、この上にカンダタがいる、そして国宝を取り返すんだ―。
カンダタ「何だおめえらは…? 下の階に子分達がいたはずなんだがなんで此処にいる?」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「全員倒して来たんだよ、あとは君だけだ。―国宝『金の王冠』を返してもらう」
カンダタ「なるほど…おめえらは勇者御一行サマってわけだ」
少しの静寂。対峙している時間がとても長く感じられた。
女武闘家エリー「かんねんしなさいよ」
カンダタ「はっはっは!王冠ならこの塔の屋根に飾ってある。俺を倒せたら持っていっていいぞ」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「…なんでロマリアの国宝を盗んだんだ」
男戦士サイモン「そうだな。どんな理由があったんだ?」
カンダタ「いずれ、世界のお宝の全てを手に入れるからだ」
盗賊らしい答えだった。ぼくらがバラモスを倒さなければいけないように、彼もまた確固たる自分の信念があるようだ。
戦いは避けられない―。
『カンダタがあらわれた。』
ついにバトルだ―。
『カンダタが先制攻撃をとった!』
なっ!?
カンダタ「おおおおッッ!!!!」
おそろしい巨体がふるう豪腕――。
『カンダタ、会心の一撃!』
ナナを襲ったその一撃を、サイモンがかばう―。
女僧侶ナナ「…さっ!サイモン!…」
サイモンはナナをおおうように前に立ち、カンダタの攻撃を背で受けた―。
男戦士サイモン「うぐ……。ナ…ナ……」サイモンは膝をつきガクリと倒れた。「……ゆきひろ…こんなところでお前は死ぬなよ………」
…そして目を閉じた…。
サイモンのHPが0…………。
―――サイモンが…、死んだ……。
サイモンが死んだ…。
カンダタ「ま、まだやるか?」
敵も少し状況に困惑していた。
女武闘家エリー「あの体力馬鹿がこんなに簡単に……う…あああぁ!!!」
ぼくは攻撃にはいろうとしたエリーを止めた。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「やめろ! うかつに飛び込むな、まだサイモンは大丈夫だ、ぼく達だけでカンダタを倒すしかない…。三人で連携してもちこたえて戦うんだ!」
そうは言ったものの長期戦になり、サイモンの死に動揺した今のぼくらに勝ち目はうすかった。
いつのまにか、雨が降りだしていた。
まるでサイモンへ捧ぐレクイエムのようにシトシトと降りそそぎ、そのうち稀にみる大雨――嵐へと変わった。
こんな非力なぼくが勇者なのか? 許されることじゃない。ぼくらはまだ負けるわけにはいかない…。バラモスを倒すために生まれた運命の血…。この血が敗北を許さないだろう。
どくん…。
血が逆流したかのように身体中が熱くなった。
女武闘家エリー「あっ!」
攻撃を防御されたエリーの鉄の爪が折れてしまった。
ナナのMPもきれてしまっていた。
もうぼくしかいないんだ。
バラモスへの道のりをとじるわけにはいかない。
ぼくはカンダタに向かっておたけびをあげて、剣をかまえ走りだした。
例えばコンマ数秒のことが鈍く数十秒にも一分にも感じられるという死の直前におこるといわれる走馬燈のように、悲しいほどぼくの一撃はゆっくりとかわされ、カンダタにそのまま身体ごと吹き飛ばされた。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「ぼくは………」
女武闘家エリー「ゆきひろ!!!」
女僧侶ナナ「大丈夫ですかっ!?…」
二人が駆け寄ってきた…。こんなに頼りないぼくが勇者なんて。
カンダタ「…このまま帰れば生命まではとらないぞ」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「か…帰れるわけがない、ぼくは勇者なんだ…だから…。必ずおまえを」
カンダタ「おめえは弱い。弱いヤツとは戦いたくない。出なおしてくるんだな……」
その時雷鳴が鳴り響いた―。
ぼくは弱い…。確かに非力だ。
ナナのような魔力もなければ、サイモンのような腕力も、エリーのような俊敏さもない。
ぼくにあるものはなんだ?
また雷鳴が鳴った。
雷が屋根を吹き飛ばし空が見えた。
この雷のように強くなれたなら―。
速くてそしてなによりも強い力―。
かみなり―雷。
雷だ…。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「…カンダタ、勝負だ」
ぼくは剣を天空にむけた。
それがどんなにおそろしいことか分かっていた。
女武闘家エリー「あんた! 何をやる気なの?!」
カンダタ「読めたぞ…。そんなことをしたら死ぬのがわからないのか」
どくん…。
血が逆流する。不死鳥ラーミア。精霊ルビス。ぼくに力を。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「勇者の名において命令する―。雷よ我に力を与えよ―。―雷よ!!!」
雷鳴が鳴った―。
剣を伝いぼくは雷に貫かれた。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「………ら、ライデインだ。―これがライデイン…。カンダタをも貫け!」
カンダタに向かってぼくはまた駆け出した。これが最後の力―。
ぼくはカンダタに剣を突き刺したまま、カンダタを逃がさないようにするために自らをもまきこむように呪文を唱えた。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「ライデイン!!!!!」
稲妻はカンダタとぼくを直撃した。
『カンダタを倒した。』
これでよかったんだ…。
ぼくの残りのHPは1。紙一重だった。
そしてぼくも倒れた……。
女武闘家エリー「ゆきひろ!」
倒れて意識を失うまでによくエリーの声が聞こえた。
エリー、ごめん…。
久しぶりに続きを書きました
ぜひご一読ください
投下終わります
ゆきひろの、何も出来ない焦り、そして土壇場になっての捨て身の大逆転、緊迫しました。
カンダタも、なんだか根っからの悪人じゃないみたいですね。
#まあ、本編どおりだとしたら、性懲りもなく出てくるのですが・・・。
251 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/20(木) 22:12:03 ID:yDKWVojqO
テリーが叫ぶだけで役立たずだなwww
252 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/21(金) 22:11:12 ID:H6JLvFmS0
スレ宣伝のため浮上
>>249 面白い!
勇者が超人でないとこがまたイイ
254 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/22(土) 01:05:07 ID:XXjlhrCf0
すげぇ。
3年前にこのスレをはじめて立てた者ですが、まだ残っていたんですね…
頑張ってください。
…………………。
…………。
……。
ん………んン?
痛い。頭がめちゃくちゃに痛い。意識は戻ったのだが目は開きたくない。
もうこのまま死ぬまで眠っていたい気分だ。
…………みっ……みず……。
そう、これは俗に言う二日酔いというやつだ。まあ一年中毎日ゲロゲロになるまで飲んでるから
今更なのだが今日はいつもに増して気持ち悪い。とりあえず水を……おおッ!?
ベッドから起き上がって俺は数秒間フリーズした。これは………どこだ!?
見慣れた小汚いせまっ苦しいボロアパートの一室ではない。確実にない。
きれいなシーツに洋風の家具、窓から覗く空は心なしか普段より澄んで見える。
俺は痛い頭を必死に回転させてある結論を導いた。
……よし!逃げよう!
部屋から出て階段を下る。一目散に出口と思われる扉を目指す。
幸運な事にここの家主はいないみたいだ。おそらく俺は酔っ払ってどこか知らない家に上がりこんで
眠ってしまったに違いない。確実に不法侵入だ。サツはもう懲り懲りだ。
バタンッ!
…………おおおおッうッ!!!!
なんだこののどかな田舎町は!?一瞬強烈な違和感を覚えたがその理由はすぐにわかった。
電柱がない。アスファルトがない。車なんてもっての他だ。
さすがに泥酔して無意識に行動したにしてもこんな僻地まで来るもんだろうか。
俺のアル中も比較的末期のようだ。とりあえず家に帰らなくては。
ここがどこかまったく見当もつかないが探せば駅くらいはあるはずだ。
そこから電車で帰ろう。俺はとりあえず村の出口らしき所から外に出た。
その辺の人に道を聞いてもよかったのだが田舎町ってのは人の出入りがない分よそ者が目立つ。
俺があの変な家から出てくる所を目撃していた人がいるかも知れない。
ここは一刻も早く離れるべきだと俺の直感が伝えていた。
しかし出たはいいものも見渡す限り謎の大自然である。下手したら今日中には帰れないかも知れない。
トボトボ歩き出した目の前に何かが飛び出した。
青い寒天のような物体。寒天に目と口がついている。これは………かわいい……
こんな生き物は見たことがない。もしかしてツチノコとかそういう類か?それなら捕まえたら
金になるかもしれない。つーかかわいい。飼いたい。
頭を撫でようと近づいた。よしよし…………ガブリッ!!いてッ!!!
いきなり噛み付く青寒天。なんて凶暴な生き物だ!俺はすかさず蹴りで反撃した。
青寒天はプゲッと潰れてしまった。田舎の野生生物はなんて危険なのだろう。
また草むらの影から何かが飛び出した。今度はもぐらだ。しかも生意気にもスコップまで持ってやがる。
やたら目つきが悪い。てめえこのヤロー俺にメンチきるなんて上等じゃねえかこのヤロー!
持っていたスコップを取り上げて思い切りブン殴ってやった。
ちくしょうなんてデンジャラスな所なんだ。いつの間にか日も落ちかけている。
もうここは素直に諦めてさっきの村へ戻ろう。事情を話せばサツに突き出される事もないだろう。多分。
そうして俺はまた村の入り口に戻ってきた。
しかしなんだここの人間は。みんなコスプレみたいな格好してやがる。どう考えても現代の日本とは思えない。
不気味な村だ。こうなってくるとあのボロアパートですら恋しくなるぜ。
とりあえず今日は木陰で寝て明日誰かに道を聞いて帰る事にしよう。
野宿なんて不本意だがこんな気持ち悪い連中の世話にはなりたくない。なんだかすげー疲れた。
木陰でウトウトしていると酔っ払ったおっさんが絡んできた。うぜえ。とりあえずブン殴ったら気絶した。
倒れる際に何枚かの硬貨を落とした。これは……見た所外国のお金のようだ。
迷惑料として貰っておくか。
しかしあんな酔っ払いがからんでくるような所じゃ熟睡できない。仕方なく別の場所を探しにまた歩き出した。
と、しょぼくれたジジイが話しかけてきた。なんだよさっきから酔っ払いとかジジイとかよ!
俺は一人が好きなんだよ!ほっといてくれよ!
無視して歩きだすと後ろをついてくる。ああああああうぜえええええええええ
立ち止まるとまた話しかけてきた。
ジジイ「うーむ…見慣れぬその服装…先程の旅のお方かね?」
すかさず胸倉を掴む俺
俺「あーそうだよだったらなんだアぁ?中学から愛用の学校指定ジャージに文句でもあんのかアぁ?」
ジジイ「くっ苦しい…!やっ宿がお決まりでないのなら…我が教会に…ゴフッ!」
宿だと?手を離した。
ジジイ「はぁ…はぁ…その身なりじゃ持ち合わせもないじゃろうて…」
なるほどなるほどつまりこんな時間にみすぼらしい格好でウロウロしてる旅人なんてどうせ金なくて
ホテルなんぞ泊まれないだろうからうちに泊まりに来いって事か。ふざけんな!
確かにボロジャージだがてめえらみてえなコスプレよりはまだ人として正しいぞボケ!
再度捕まりかかろうとする
ジジイ「こすぷれ?なんじゃそれは?とにかくここは寒かろうてうちの来なさい。」
手を止めて考える。確かに野宿は辛い。ここはいっちょこのジジイの世話になるかな。
警察に突き出すって訳でも無さそうだしな。
俺はジジイの後について行く事にした。着いたのは何て事無い今朝いたわりと大きな建物だった。
聞くと所によるとここは教会らしい。ジジイは神父だとさ。
神父…日本ではあまり聞かない。こちとら仏教だ。奈良の大仏なめんな。
まてまてという事はここはもしかして外国!?明らかに違う風貌の村、人、空気。可能性は十分に有り得る。
急過ぎる展開にまた頭痛が。とりあえず寝よう。これは悪い夢だ。そうに違いない。
目が覚めるとまたいつ死んでもいいようなくだらない毎日が始まるんだきっとそうだ。
部屋に案内されるとジジイを無視して俺はベッドに転がりこんだ。そしてすぐに死んだように寝てしまった。
ー次の日ー
朝。目が覚めた。一瞬戸惑ったが昨日の出来事を振り返る。
そもそも俺はなんでこんなおそらく日本では無い謎の場所に来てしまったのだろうか。
頭痛も収まった事だし冷静に振り返ってみよう。
記憶を辿る。たしか俺はいつも通り家で朝から酒を飲んでいた。
そして誰かに呼ばれたような気がしてベランダに出た。
ここまではなんとか思い出した。そしてその後に…
……あ……俺、落ちたんだった………
そうだ落ちたんだ。景色が急速に変わってゆく映像が脳裏に再生される。
つまり。
俺は死んだんだ。そしてここは死後の世界って奴だ。
なんともまあ斬新な展開だ。俺のくだらない人生は終わってしまった。
どうせ朝から酒飲んでるような元ヤンのヒッキーなんて死んでも誰も何とも思わないだろう。
そもそも俺自身自分が死んだという事について何の感情も沸かない。
いやちょっと待てよ…ここは死後の世界だとするとだな
もうあの借金取りに嫌がらせされる事もないんだな?昔もめたヤクザや警察に追い掛け回される事もないんだな?
おいおい最高じゃねーか!ヒャッホゥ!!天国だ!例えそうじゃないとしてもあの地獄の日々に比べたら天国だ!!!
言い得て妙だが死んで生きる気力が沸いてきた。
と、ここでジジイが入って来た。あ?よく休めたかだと?
ふざけんなこんな硬いベッドで休めるかボケ!もっといい部屋に泊めろボケ!と思ったのだが
よく考えたら俺の部屋の万年床と対してかわんねえし何よりも非常に気分がよかったので
まあなっと伝えておいた。飯を用意したから来いとの事だ。
まったくどこまでお人よしなんだこのジジイは。
テーブルの上に並ぶのは恐ろしく貧相な朝飯だった。
小さな屑野菜のスープにカチカチのパン。まあ食えるだけマシか。昨日から何も食ってねえしな。
一瞬で平らげた。その様子を見ていたジジイが足りないなら私の分も食えと言ってきた。
遠慮する事は無い、わしは味見しながら作ったのでもう腹一杯じゃとか言ってやがる。
本当か知らねーが老い先短いこんなジジイよりも俺が食った方が有意義だな。頂くか。
食い終わったあとジジイが自分語りを始めた。うん、まったく興味無い。
が、この世界の事が何もわからない以上ちょっと話は聞いとくべきかもしれない。
ここは教会で村の人のお布施や畑で農作物を作って生活しているようだ。
昔はそれで十分事足りたのだが最近になって夜な夜な村の畑に魔物が出て一切作業が出来ず生活が苦しいとの事だ。
魔物…ああ昨日の寒天やもぐらの事か。
何だか物凄く暴れたい。生前のうっとおしい事全部から脱出できたこの清清しさ。
大暴れしたい。急にそんな気分に駆られた。
俺「よし!その畑に案内しろ。俺が全部潰してやる。」
ジジイが危ないからやめろって言ってきた。
こいつ俺を誰だと思ってやがる。天下無双の暴走族、鬼浜爆走愚連隊の元総長だぞ?
あんな寒天やもぐらなんぞに負ける訳がねえ。
俺はジジイに畑の場所を無理矢理聞き出すと準備のために教会を後にした。
喧嘩には準備が大事だ。いかに喧嘩負け無しの俺様とも言えどこの世界では初めてなので準備は大事だ。
何か武器が必要だなと村をうろついていると「武器屋」なる看板を発見した。
なんとまあ直球ストレートな店だ。……この世界では村中で武器を売っているのか。
この世界のアウトローっぷりに愕然とした。子供の教育によくないぞったくよ…
店の中に足を進めるとそこの店長がまた角突き覆面にパンツ一枚そいてマッチョと言うとんでもない奴だった。
俺は…もしかしてとんでもない世界に来てしまったのではないだろうか…
とりあえずメリケンサックと木刀は無いかと聞いてみる。
ねえよそんなもん。と切り返された。く…なんて態度だ客に向かって…
仕方がないので店を物色した結果この「ひのきのぼう」を買って釘バットを自作しようと思う。
ん?買って?……俺金持ってねーじゃん!仕方が無い…こいつぶちのめしてパクるか。しかしこの店長も中々の風貌。
決戦に備えて出来るだけ体力は温存したい。
何となくポケットに手を突っ込むと硬貨が手に当たる。ああそういや確か…
昨日酔っ払いからブン取ったお金らしきものをカウンターの上に並べた。
これで十分足りるらしい。むしろまだまだ買えるとの事なので
「かわのぼうし」「うろこのたて」を買った。完璧だ。負ける気がしねえ。
それもこれも全部あの酔っ払いのおかげだな。感謝せざるを得ない。また会った際には協力願おうと思う。
太陽も高くなり腹も減ったので一旦教会に戻る事にしよう。っとその前にっと。
武器屋の周りの柵から釘を頂戴して釘バットを作成する。黙々と釘を埋め込む俺。
出来た。釘の間隔、絶妙な重量バランス。最高の一振りだ。さて帰るか。
教会に戻ると数人の人が長いすに座っていた。ジジイは一応神父なので悩み事相談みたいな事もしているようだ。
こんな辛気臭い教会に相談に来るなんてほんとにくだらない連中だな。
どこの世界にも負け組みなんているって事だな。あーやだやだマジで関わりたくねえわ。
そうこうしてるとジジイがこっちに来た。昼飯だと言って小さなバスケットを渡された。
これは…肉!肉だ!うめえ!肉うめえ!村の人が持ってきてくれたものらしい。
体中に肉パワーが染み込んでいく。これならどんな相手でも勝てそうだ。
さて大満足の俺は決戦の夜まで寝る事にした。が、寝れない。外がカンカンカンカンうるせえ。
文句言いに外に出るとジジイが薪割りをしていた。明らかに斧の重量にジジイの腕力が負けている。
くそったれそんなんじゃいつまでたっても終わんねーじゃねーか俺は眠みいんだよ!
無言で斧を取り上げると片っ端から叩き割った。まったく無駄な体力を消費しちまったぜ。
ー夜ー
ジジイが寝たのを確認して畑に向かう。この糞野郎危ないからと言って教会から出そうとしなかったからだ。
畑は村のはずれにあった。もはや畑と言うよりただの荒地だ。
そこにはいるわいるわこないだの寒天やもぐら、アホでかいミミズは角ウサギなどわんさか畑を荒らし回っている。
なんかあれだな。この光景は公園とかコンビニの駐車場でバカ騒ぎしてた昔の自分とちょっとかぶって見える。
そう思うと微笑ましくもある。いやいやそうじゃなかった俺はこいつらをブチのめしに来たんだった。
相手の数が多い時は先手必勝!奇襲をかけて撹乱しその隙に一気に数を減らす。
族時代は1対100でも勝った俺にとってはこのくらいの人数差なんて屁でもねえ。いくぜ!!!
畑の中心まで突っ込んでくと先制パンチとばかりに寒天を数匹潰した。開き直ってもぐらに蹴りを入れる。
薄ら笑いのコウモリを盾で叩き落したのち踏みつける。順調だ。このペースでいけば楽しょ…おおおッ!!!
角うさぎが猛突進をかけてきた。咄嗟に盾を構えるがその上から体当たりされ吹き飛ばされ岩にぶつかる。
こいつ体は小さいがなかなかのパワー持ってやがる。原付並みの馬力だ。
立ち上がり構える俺に向かって再度突撃してくるウサギ野郎。ギリギリの所を横っ飛びでかわした。
ゴベブッ!!という嫌な衝突音と共に角ウサギは岩に衝突して動かなくなった。
所詮獣か。相手がバカで助かったぜ。
残りの雑魚を蹴散らしてゆく。ははは俺に敵うやつなどいねえ!ああ神様強過ぎてごめんなさい…
ノリのノって大暴れする俺は背後に近づく脅威に気付いていなかった。
???「人間風情が随分とオイタしてくれんのぅ小僧が…」
ドスのきいた声に振り返る。そこにはえらくガタイのいい猪が凄まじい殺気を放ってこっちを睨んでいる。
猪のくせに喋りやがって…なんて迫力だ…
???「魔物に立てついてタダで帰れると思うなよ…グハハハ…」
ヤクザだ。こいつは昔愛人のちょっかい出して追い掛け回されたヤクザにそっくりだ。
ふんヤクザごときに俺が殺れるか!返り討ちにしてやる!
…返り討ち
…返り…う…ち…
太い。
腕が太い。
首が太い。
おまけにヤリなんて構えてやがる。これは相当なバケモノだ。だがしかし引くわけにはいかない。
喧嘩上等タイマン負け無しの俺だ。一度終わった命もう恐れる事など何もねえ!
とにかく自分より強い相手に萎縮したらそこで終わりだ。俺の親父の教えだ。
先手必勝!いくぞコラァ!!!!!特攻あるのみ!!!!!
俺は勢いよくヤクザ猪に向かって走り出すと固く握り締めたひのきバットを振りかぶり…
投げた。
相手の視線は宙を舞うひのきバットに釘付けになる。
ブシューっ!!!
その一瞬の隙をついて隠し持っていたナイフを喉に突き立てた。
このナイフは元の世界から常に携帯している護身用のナイフだ。ナイフの一本くらい常に持っているのが
暴走族としての嗜みってもんだろう。
動脈をスッパリやられたヤクザ猪はその場に崩れ落ちた。
勝った。俺は勝った。
意外な強敵の出現で思わぬ苦戦をしたが何とか勝つ事ができた。
緊張が安堵に変わる。全身の力が抜けた。というか力が入らかった。
この程度で腰を抜かすとは俺もまだまだだなっふっ…
体が熱い。返り血に染まった自分の体を眺める…
……え……
一瞬目を疑った。そこにはヤリが深々と突き刺さっている。思わず声をあげる。
が、出ない。代わりに口からはおびただしい量の血が噴出す。
そうか俺はまた死ぬのか。今度目が覚めたらそこにはどんな世界が広がってるのだろうか。
こんな俺の姿を見てジジイはどう思うだろうか。
今まで生死の淵を彷徨った事は二度ある。いやここに来た経緯を入れると三度か。
一度はガキの時に肺炎をこじらせて死に掛けた。あの時は両親そろって心配してくれてたっけ。
二度目は単車で事故った時。すでにその時親父しかいなかったが俺の意識が戻るまで三日間絶食してたらしい。
激しくどうでもいい話だ。なんで俺はこんな事考えてるのだろうか。不思議と安らかな気持ちだ。
段々と意識が遠のいていく。いよいよここまでだな…さよなら俺…
お久しぶりです!
再度投下させていただきました他の職人さんの面白い話読んでると創作意欲が燃えまくりました
今度は完結まで絶対にいきます!
トリップも変更しました
まとめサイトの方見ていましたら前回のと今回を差し替えて欲しいです…
お手数かと思いますがよろしくお願いします
続きはまた今晩きます
総長、途中変なツンデレみたいになってて良いなw
おかえりー、期待してます。
おかえりなさいませ〜。
神父さん、いい人。総長さんもだんだん影響を受けているようで今後の展開が楽しみです。
総長キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━!!!!
微妙にイイ奴のヤンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
総長おかえり〜!!!
ずっと待ってました。
バラモス戦を今から楽しみにしてます。
無理はしなくていいので、自分のペースでぜひ続けてください!
272 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/22(土) 20:36:40 ID:w4LI89Io0
目が覚めてDQの世界にいたら迷わずウィッチレディを狩りに行く
そしてうまく生け捕りにして・・・ 後はわかるな?
総長キタ――――(゜∀゜)―――
おかえりなさい!嬉しくて書き込んだ。今から読む!
総長さんキテタ(゚∀゚)
乙です
tst
ほっしー
ほすほす
ほ
職人の数のわりに書き込み少ないね
やっぱ感想とか書いた方が職人さんのモチベーション上がるんかね
年度末だしなぁ。色々忙しい時期なんだろうさ
職人さん降臨まで守りまくるよ!
アルス「ちーっす。みなさんお久し〜。またまた時間たっちまったな」
タツミ「サンクスコールの前におさらいだね。ゲームサイドでは、僕はランシールに勇者試験を
受けに行きました。ところがそこで同じく勇者(一級討伐士)のレイさんと試験が重なって
制度を管轄してる世界退魔機構がアホなせいで競争することになっちゃったんだけど……」
アルス「退魔機構に黙って、こっそりレイと協定を組むことにしたんだよな。
しかしレイは最初からお前に勝ちを譲る気だったハズだが、俺が画面で見てたら、
お前、あいつに勝ちを譲って不合格になってなかったか?」
タツミ「ま、そのあたりはこれから本編で語りますので。それではサンクスコール!」
タツミ「
>>42様、ショウ君いい人だよね。悪く言えなくなっちゃったなー」
アルス「あいつが来なきゃヤバかったよ。ったく、お前の家はどうなってるんだ」
タツミ「なに言ってんの、動物の死骸が届くなんて序の口なんだから、今度はもっとスマートに対応してよ」
アルス「じょ、序の口ってアンタ……」
タツミ「伯母さんヒステリー起こすたびに僕に八つ当たりするけど、他にはけ口ないから付き合ってあげて。
たまにビールの缶とか飛んでくるから、ガラスや鏡を背中に避けないこと」
アルス「なんだそr」
タツミ「一條栄治のアホは金さえやっときゃ黙るから、都市銀から1万くらいずつ降ろして渡してやって。
夏休みと冬休みに年齢詐称してバイトした分が信金の口座に30万くらい入ってるから、
入り用の分だけ都市銀に移して使うこと。あのバカには間違っても信金の方の残高は教えるなよ、
『なけなしのお金をなんとか工面して渡してる』って信じ込ませてるから」
アルス「あの、その」
タツミ「僕の机のひきだしに胃薬と抗鬱剤が入ってるので用法と用量を守って正しくお使いください。
さーて、この後のプランニングはどうするか――」
アルス「………………………………
>>43様、俺ちょっと頑張れそうにないかもしれません」
アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』
【Stage.13 勇者試験(後編)】
ゲームサイド続編 [1]〜[14]
Prev
>>29-40 (Game-Side Prev (マエスレ)
>>344-352)
----------------- Game-Side -----------------
「薬草は持ちましたか? 毒消し草は? 聖水と満月草もちゃんとありますね?」
「いいですか、危なくなったら迷わず逃げるのですぞっ。絶対に無理はなりませんぞっ」
「っくぅ! 俺が付いて行ければいいんスけどッ、いいんスけどぉ……!」
あのね、「はじめてのおつかい」じゃないんだからさぁ……。
「「「レイ殿(さん)、くれぐれもうちの勇者様をよろしくお願いします!!」」」
深々〜と頭を下げる三人組に、
「ま……任せておきたまえ……ップククククク」
レイさんは必死に笑いを堪えている。
――心配してくれるのはありがたいんだけどね。
そんなこんなで僕とレイさんは、いよいよ試験会場にやってきた。
「ここが入り口らしいな」
赤茶色の地肌がむき出しの荒野が、地平まで広がっている。そのど真ん中にぽっかりと
空いている空洞。妙に人工的に整った階段が地下へと続いている。
建材に発光物が含まれているのか、中は地下全体がぼんやりと明るく、視界に不自由は
なかった。降りてすぐ、僕の背丈ほどあるドクロの像が左右に並ぶ通路が続いている。
眼窩の奥が赤く光っている不気味な彫像を、レイさんが剣の先でつついた。
「まだ新しいな。わざわざ作ったのか?」
「やだね、このいかにも〜って雰囲気。ピラミッドでも感じたなー」
侵入者を歓迎しない建造物ってのは、えてして随所に恐怖を煽ろうとする「あざとさ」
がある。それでなくとも僕が直接絡むイベントは異常に難易度が高い。また本来のシステ
ムを無視した難問を吹っかけられなければいいけれど。
「しかし、まさか君がこんなふざけた話を承知するとは思わなかったよ、青少年」
先を歩くレイさんが振り返って言った。なにやら上機嫌だ。
あれ? 投下できない。
「青少年って……レイさんとあんまり変わらないと思うんだけど」
「ははは、一回りも年上なんだ、いいだろう」
ということは28歳か。それでも世界に名を馳せる勇者としては十分若い。
「君のことだ、てっきり本部に食って掛かると思ったんだがね」
「騒いだって時間を食うだけでしょ。どうせ世の中なんていい加減なもんだし」
僕がさらっと流すと、レイさんは首をかしげた。
「なんだか前に会った時とは別人のような気がするな」
「そんなに変わったかな」
「怒らないでくれよ? 以前の君は少々ギスギスしてて、人を寄せ付けない雰囲気があっ
たんだが、今は素直というか……かわいい、というのか……」
かわいい、ねぇ。まあ妥当な評価だな。へたに「デキるヤツだ」と頼られたり警戒され
るより、多少あなどられるくらいが丁度いい。
「それに武器も。剣は使わないのかい?」
僕の腰に差しているえものをレイさんは珍しそうに見ている。さっき武器屋で新調した
ばかりの物だ。基本的に戦闘は人任せな僕としては使う機会が無いことを祈りたいが、い
ざとなったら自分で身を守らないと、ってんでサミエルに見繕ってもらった。
「使い慣れてるわけじゃないけどね。僕、こういう軽いのじゃないと扱えないから」
なにより刃物で斬ったり刺したりってのが、どうにもダメだ。その点でもこの武器は僕
の性に合っていると思う。
「まあ人それぞれだが。やはり君は変わったなぁ」
ひとまず地下一階は問題なく進んだ。
僕がさりげなく正解ルートに導いてるせいもあるけど、なにせレイさん、強すぎ。
途中で二、三体のさまようよろいと出くわしたが、ひとりで瞬く間に倒してしまった。
金属の塊を剣でスッパスッパぶった斬っていくんだから、常軌を逸している。
最近のサミエルも戦闘が人間離れしてきたと感じていたが、この世界の人たちは能力の
上昇具合が半端じゃない。外側からゲームとして接していた時は考えもしなかったけど、
こうして生で見る分には鳥山先生のDBかって迫力だ。
しかも洞窟を入る前にさり気なく現在のレベルを聞いてみたら、30を超えたあたりから
面倒で数えていないとか言ってるし、もしかしてこの人、実は単独でバラモス打倒も余裕
なんじゃないだろうか。
◇
地下二階に降りると、だだっ広い空間に出た。画面上なら右上の方に正解ルートの下り
階段があるはずだけど、ここからじゃ遠くて見えない。
「たぶんこの方向だと思うけど」
見当をつけて歩き出そうとした矢先。レイさんが低い声でつぶやいた。
「あのヨロイ共ばかりなら良かったんだが……やはり生身の魔物もいるか」
「グワゥ!!!」
暗がりから突然ピンクの物体が飛び出してきた。キラーアンプ、蛍光ピンクの殺人ゴリ
ラという、こいつも別の意味で向こうじゃ考えられない生物だ。
そいつが2、4、6……ちょっと待て、なんだこの数?
「散れ、用はないっ」
地下室に爆発音が響き渡った。東の二代目のイオラが、押し寄せてきたピンクの群れを
牽制する。
だが魔物の群れは怯む気配もなく、さらに数を増して押し寄せてきた。地下室を埋め尽
くさんばかりのモンスター軍団。ピンクのゴリラの波間に、巨大な鹿型モンスター・マッ
ドオックスや、ピラミッドでも散々お世話になったマミーやら腐った死体やらも混ざって
大騒ぎだ。
やはり来たか、ゲーム設定を大きく無視した局地的ハードモード!
今回は「エンカウント率が黄金の爪所有時並」というイレギュラーらしい。
「仕方ない。君は下がっていたまえ」
すうっと流れるように、レイさんは魔物の群れの中に踏み込んでいった。
瞬間、黒い剣士を中心に殺戮の嵐が巻き起こった。血煙の中を舞う白刃に、迷いはかけ
らも見受けられない。
「グギャア!」
モンスターの身体の一部が空中を飛んで、ドサリと僕の目の前に落ちてきた。斬られた
本体の方と目が合った瞬間、そいつは後ろから縦に半分にされて転がった。
いやはや、本当に強いな。これなら僕に出番が回ってくることもなさそうだ。
「さて……と」
僕の作戦はいつものことながら「ぼうぎょ」。
いかに素早く戦線を離れ身の安全を計るかが重要だが、仲間から離れすぎると別の敵と
相対する危険があるため、「にげる」とは違う微妙な距離の取り方が難しい。防御も存外
と奥が深いのだよ。
ほら、戦闘じゃ全然役に立たない分、せめて邪魔にならないようにしないとね。
なんて気をつけてたつもりだったんだけど、いきなりバシっと肩のあたりに痺れるよう
な痛みが走った。
「――ッ なんだ?」
ブーンという昆虫の羽音が近づいてきた。巨大なピンクの蜂が何匹も飛び回っている。
げっ、ハンターフライだ。確かこいつは通常攻撃の他にもう一つ、ギラを持っている。
順当なルートでこの洞窟に挑んだのなら大したダメージではないはずだが、僕のレベルで
は十分な痛手だ。
「大丈夫か青少年?」
「平気、こっちは気にしないで」
とは言ったものの、素早いコイツらから逃げ回るのは至難の業だ。
仕方ない。
心は迷ったままだったが、僕の理性はその場で作戦を切り替えた。マントを後ろに払っ
て、新品の武器を引っ張り出す。
「たまには戦います、かっ!」
ヒュンと空気を裂いて鎖状の刃がうねり、攻撃してきたハンターフライが逆に吹っ飛ん
でいった。
はがねのむち。
『勇者様は器用っスから、こういう特殊武器の方が合うと思うっスよ。っていうかコレし
かないっしょ! ほらぴったり! 似合う!』
というサミエルのアドバイスを受けて(なにがそんなに似合うんだか気になったけど)
買ったものだ。今まで扱ったこともない武器をいきなり実戦投入するのは不安だったが、
さすが武器の専門家が見立ててくれただけあって、コイツは意外と思った通りに動いてく
れる。
僕には一撃で仕留められるほどの腕力は無いが、当たれば痛いものは痛い。本能レベル
で襲って来ているモンスターたちを牽制するには十分だ。
が。
「え、嘘?」
牽制のつもりで放った一撃が、一匹のハンターフライの片羽を根本から切り落とした。
偶然だ。テロップでは『改心の一撃!』とか出ているんだろう。足下に墜落してきたピ
ンクの蜂は、狂ったようにその場で暴れている。
これを放っておくのは……かえって可哀想だよね。とどめをさしてやるべきだ。
僕は意を決してそいつを足で押さえつけ、聖なるナイフを握った。
――手が、動かない。
耳元には別の敵の羽音が迫っている。
羽音に混じって、いつもの悪夢がフラッシュバックする。
刃物が肉を割く音と、飛び散る血と。
『あんたなんて――』
ズサリ、と目の前の蜂に大振りの剣が突き立てられた。
同時に肩にトン…と重みがかかり、そこがふわあっと暖かくなった。いつの間にか傍ら
に来ていたレイさんが、僕の肩に手を当てている。今のは回復呪文?
「無理しなくていい。さ、耳を塞いで」
僕は咄嗟に両耳を手の平で押さえた。
ドーン! ともの凄い音が轟き、先刻よりさらに激しい光と衝撃が周囲を席捲する。
イオラのさらに上位呪文、イオナズンに違いない。こんな極大呪文まで溜めナシ詠唱ナ
シで発動できるって、どんだけ熟達してんだろう、この東の二代目は。
ばしゃ、ばしゃ、と吹っ飛ばされた生物の部品が雨の様に降り注いできた。
今度は耳じゃなくて口を塞いだ。
「減らないな……立ってくれ、どっちへ行けばいい?」
グイっと僕の腕を取って引き起こし、レイさんは微かに焦りをにじませた声で言った。
見ると、敵の数がほとんど減っていない。むしろ増えているみたいだ。
あくまでここは「試験会場」のはず。このモンスターたちも神殿の管理者がなにかしら
の手段で呼び寄せたんだろうが、もう少し調整があってもいいんじゃないか? 本気で潰
しにかかってるようなこの状況は、どう考えてもおかしい。
「ま、まずあの昇り階段まで。昇らずにそこから北」
僕は一番近い位置にある昇り階段(結構距離がある)の方を指して言った。あの階段は
ダミールートで、そこを起点に上、つまり北方向に進めば正解ルートの下り階段がある。
簡単にそれだけを伝えると、レイさんは急にニンマリ笑った。
「緊急事態だ、大目に見てくれたまえ」
いきなり僕を抱き寄せるように手を回して、
「え?」
ひょいっと肩に担ぎ上げ――。
「ひゃあああ〜!?」
「腹に力を入れてないと息が詰まるよ」
とか言われた途端、すんごいスピードで景色が動き出した。グンッとGがかかって本当
に息が詰まりかける。
「はい退けて」「邪魔だよ」なんて、そこまで気合いが入ってるようにも聞こえないレ
イさんのかけ声とは裏腹に、進行方向に背中を向けている僕の眼前には、斬られた魔物が
死屍累々と横たわっているのが見えた。ちょ、なにこの人間ダンプ。
「ここから北だったね」
「は、はぇ?」
気がついたらダミールートの階段に到着していた。
止まることなく直角に折れてまた走り出すレイさん。背後からどたどたと追いかけてき
た人型モンスター・殺人鬼が斧を振り上げたが、
「レ、レイさん、さつじ……」
僕が警戒を呼びかけるまでもなく、レイさんはクルッと一回転、次に見たときにはそい
つはあっさり返り討ちにされていた。筋肉質の胸のあたりがぱっくり裂けて、吹き出した
生暖かい液体がピシャリと僕の顔に跳ねた。
「――!」
抑えろ! 死んでも抑え込まなきゃ!
「目をつぶってなさい。君が血に弱いのはロダム殿から聞いている」
一瞬、吐き気も忘れた。
ロダムから聞いてる?
◇
地下三階への下り階段へ飛び込んだところで、追撃はぴたりとやんだ。魔物にもそれぞ
れの持ち場があるのか。こうなってみるとあれも試験のうちだったのかもしれない。
先ほどまでの喧噪が嘘のように静まりかえった地下室に、レイさんの吐息だけが聞こえ
る。さすがの勇者様も少し息が荒い。少しで済んでるのがすごいけど。
「あの……そろそろ降ろしてくれます?」
やっぱり軽々と地面に降ろされた。よろけた僕をレイさんはすかさず支えてくれた。
「具合が悪そうだったからね。でもよけい酔わせてしまったかな?」
首だけ振って答える。ここはお礼を言うべきなんだろうが――。
「聞いてたんだね。いつ?」
「君が武器屋に行っていた少しの間にね。旅を始めた頃よりひどくなっていると。ずいぶ
ん心配していたよ」
やだなぁ、さすが最年長。見抜かれてたのか。
「なにか血に関してトラウマがあるのかい?」
レイさんの問う声は軽い。まるで大したことじゃないとでも言うように。本当なら、仮
にも勇者の名を背負っている人間に対して、怒鳴りつけてしかるべきだ。
どうしてだろう、この世界で僕が深く関わる人たちは、みんな怖いくらい優しい。
まるで僕の理想が反映されてるみたいに。
「ごめん、今は話せない。口に出すのはちょっとまずいんだよね」
さっきから過去のつらい感覚が戻りそうになっていて、僕の理性が必死に抑え込んでい
る。街中ならともかく、こんなダンジョンの奥で発作を起こしたら迷惑もいいところだ。
レイさんは困ったように下を向いた。言葉を探しているようだ。
話せない理由については、ちゃんと教えないといけないか――。
「なんていうか……僕は人より記憶力がいいんだ。知識面だけじゃなくて、その時に見た
映像や音、感じたこととかを丸ごと覚えていて、頭の中にそっくり呼び出せる」
「そりゃすごいな」
レイさんは感心したようにうなずいた。
「でも弊害もあるんだ。今この瞬間に感じてる現実の体感よりも、脳内で再生された疑似
体感の方が勝ってしまえば、僕自身はもう、自分が今どこにいるのかさえわからなくなる
ほどその『記憶』の中に引きずりこまれてしまうんだよ」
視覚も聴覚も嗅覚も触覚も、あらゆる感覚を処理しているのはあくまで脳だ。その全て
の記憶が忠実に再生されれば、今『それ』を体感しているのと同じことになる。
「そして感情もね。たとえばその当時は本当に死にたいくらい悲しかったとしても、何年
もあとに思い出したら薄れてるものだろう? でも僕の場合は……」
「その場で自殺しそうなくらいの悲しみが、同じ程度で戻ってきてしまう、ってこと?」
「うん。レイさん、理解が早くて助かるよ」
それでも、ただ頭の中で思い出すだけならまだ抑制がきく。
しかし口に出して語るというのは、まず頭の中で言うことをまとめ、音声で形にし、自
分の耳で聞くことでまた脳に還元されるという、三段階で記憶を鮮明にする行為だ。それ
だけですぐに意識が飛ぶってことはないけど、どうしたって感覚がおかしくなるから極力
避けたい。
ユリコやカズヒロに何度か過去を聞かれたこともあるけど、それが嫌でそのたびに誤魔
化していたものだ。
別に生まれた時から付き合ってる症状だから対処法もよくわかってるし、日常生活には
そんな支障もなかったんだけどね。うかつに思い出話ができないくらいで。
でもこの世界に来てガラッと環境が変わって、刺激の強いことも多くて……。
「血に弱いとしか聞いてなかったが、仲間にはそこまで話してないのかい?」
他人のパーティーを心配するレイさんの優しい言葉に、僕は苦笑を返した。
「言えばみんな気にしすぎて、必要以上に制約を設けてしまうからね」
それでなくとも最近、みんな戦闘ではなるべく流血沙汰を少なくしようと気を遣ってく
れてるみたいだし。今後イベントのたびに「これは勇者様には刺激が強すぎるのでは?」
なんて協議されるわけにもいかない。
「なるほどなぁ……。仲間に隠し事をするのは感心しないが。冷静に判断した上で黙って
るならいいんじゃないかな」
レイさんはにっこり笑うと、僕の頭をぽんぽんと叩いた。なんか完全に子供扱いされて
る? 仕方ないけど。
「先を急ごうか。次はどっちだい」
「右に折れて、あとは道なりに行けば突き当たりの小部屋にゴールの宝箱があるはず」
「ははは、楽で良いな。今後も一緒に旅をしたいくらいだよ」
「僕もだけど。ダメなの?」
こんなに頼もしい人がパーティに入ってくれるなら、願ってもない。
「私はどちらかというと父上を捜すのが目的だからね。同行することで迷惑になる」
っち、断られたか。惜しいなー。
まあ目的があるのに、こんな面倒な連中に構ってられないか。
◇
_、_
( ,_ノ` )y━~~~紫煙
いよいよ試験も終わりだ。地下三階にはまったくと言っていいほど敵の気配は無かった。
上の階で出し尽くしたんだろうか。
奥の正面の壁に目をやると、大きな人の顔が掘られていた。例の「引き返せー」を言っ
てくるわけだが……ここは黙っておこうw レイさん驚くかなー?
とかwktkしつつ、そいつの前まで来たら。
あれ? なにも言わないぞ? レイさんはさっさと左に曲がっていく。壊れてるのかな。
僕はそいつの顔をペチッと叩いてみた。
『しまった! レイさん、振り向かないでそのまま聞いて』
いきなりそいつがしゃべった。それも僕そっくりの声で!
「なんだい、青少年?」
『忘れてたんだよ、ここはそういうトラップなんだ。振り向いたらスタート地点に戻され
るっていう』
「ち……!」
違う! なにデタラメこいてやがんだコイツ!
と言う前になにかが腹の周りにもズルッと巻き付いて、すごい力で後ろに身体ごと引っ
張られた。
「おいおい、いきなりゴール間近で振り出しに戻るトラップとは」
『ひどいよね。そういうことだから、気をつけて……』
石の人面とレイさんの会話が、急速に遠ざかっていく。
「ひゃあああ〜!?」
なんかさっきも同じようなことなかったか?
『騒ぐな』
頭上から降ってくる低い声。見上げると、金色の鱗がうねうね動いていた。太い蛇のよ
うな身体が僕に巻き付いたまま、狭い通路を器用に飛んでいる。
僕の記憶が正しければこいつは、
「あんた、スカイドラゴン?」
『当たりだ』
確かにここの地下深くには、なぜか空の名を冠する金色の龍が出現する。システムバラ
ンスはともかく、生態系としてはどうなんだと突っ込んだ記憶がある。
『暴れるな、取って食ったりはせん』
金の龍は言った。
『貴殿に話しがあるのだ、異世界の勇者よ』
お、遭遇!
しえん
異世界の……僕の素性を知ってる?
『本当なら上の階で分断し、連れてくる予定だったのだが。片割れが絶えず貴殿を気にし
ていて、思うようにならなかったのだ』
「ええ〜!? じゃあ死ななくていいのに殺しちゃった魔物もたくさんいたんじゃないの?
ごめん! そんな事情知らなくて」
思わず謝ると、金の龍はぐははと笑った。
『気にするな。戦いに興奮して本当に貴殿を襲っていた愚か者もいたようだ。知能が低い
のはちっとも使えんよ』
そうこう話しているうちに行き止まりについた。ここは宝物部屋の裏側に当たる外れルー
トで、もっとも奥にある人面に「たまには人の話を素直に聞け」と諭される場所だ。
その最後の人面が、僕を見下ろしている。
僕の後ろで、金の龍が地に降りて頭を下げた。
直後に、威圧感。
圧倒的な――。
支援
『われが勇者と語り合うのは、これで五度目となるな』
壁の顔から声が聞こえた。どこか遠くから流れてきているような、擦れ混じりの声だ。
『だが貴様は、勇者であって勇者ではない。あの孤高の、悲しい少年とは、違う』
「……アルスのこと?」
『そうだ』
アルスのことを悲しいと言ったそいつは、静かに、決定的なことを僕に告げた。
『われが勇者によって討たれたのは四度。さしもの少年も、四度目には狂いそうな顔をし
ておったよ』
心臓が、鳴った。
ずっと考えないようにしてきた事実を、とうとうここで突きつけられてしまった。
「いやぁ……うん、なんとなくわかってたんだけどね。やっぱりそうなんだ。参ったな」
――あの、眩暈がするほど高い神竜の塔の最上階で、まるで鏡を見てるようなもう一人
の「僕」が、満面の笑みで手を差し出した。
『キミも勇者になってみなよ。本当に楽しいから』
吸い込まれるように僕も手を差し出して、そして契約が成立したあの瞬間。
彼が一瞬、すがりつくような目をしたのを、僕は見たのだ。
ゲーム……だからこそ、この世界には決定的なものが欠けている。
決して救われない。どんなにあがいたところでどうしようもない。
世界を救うはずの彼だけが、ここに未来がないことを知っている。
『繰り返される伝説の中で過去を覚えておったのは、勇者たる少年とわれだけであった』
そうか。それでも他に仲間はいたわけだ。皮肉にも敵の親玉だったみたいだけど。
本当に参ったなー。
いやね、最初からどうもおかしいとは思ってたんですよ。だってアイツ『四回も』って
言ってたでしょ? 僕のクリア回数を。
でもこのゲーム、前回のデータを引き継いだまま最初からプレイはできないから、冒険
の書は一度消さなきゃならない。アイツが前の冒険を覚えてられるはずがないんですよ。
っていうか、ですよ?
死に物狂いで旅をして、目の前で父親を殺されるような経験もして、挙げ句にやっとの
思いで魔王を倒したら今度は故郷にも帰れないとか、そんなキッツイ冒険をですよ?
延々と繰り返されたら……普通、精神イッちゃいますよね?
「魔王を倒してふと気がついたら、一六歳の誕生日の朝に戻されるってわけだ。あなたも、
いつの間にか復活していて?」
『さすがに飽いたわ。決して手に入らぬ世界を侵攻してなんになる』
「そういうシナリオだもんねぇ。でも僕に声をかけたということは、僕にそれを壊せる可
能性があるということかな」
『知らぬ。無いのではないか?』
そんな投げやりにされても。あんた魔王でしょ。
「じゃあなんで呼んだの」
『伝えただけだ。いつもの通りわれの元に来るも良し。なんらかの方法で神竜とやらに会
い、さっさと戻るもよし』
ただ貴様には会ってみたい気もするがな。壁の向こうで笑う気配があった。
支援
――そして、そのさらに向こうからレイさんが僕を呼んでいるのが聞こえた。
僕がいなくなったことに気がついたらしい。
『…………』
壁の顔は沈黙してしまった。あの圧倒的な威圧感も無くなっていて、後ろを向くとスカ
イドラゴンの姿も消えていた。
ビキッ
いきなり目の前の壁に亀裂が入った。あっという間に崩れ落ち、埃が舞い上がる向こう
側に、レイさんが剣を構えて立ちつくしている。
「ど、どこに行っていたんだね! 心配したぞ、気がついたらいないから」
「ごめん、なんか変なワープトラップ踏んじゃったみたいで、気がついたらここに飛ばさ
れてたんだ」
言いながら壁の残骸をまたいで隣の部屋に移動する。そこには二つの宝箱が並んでいた。
「まあ無事で良かったよ。それでこの宝箱だが、どちらかニセモノだったり罠だったりす
るのだろう?」
それを聞こうとしたら僕がいなかったんだね。さすがレイさん、慎重だ。
「えーと確か……」
僕は一方の宝箱を、すっと指で示した。
「こっちをレイさんにあげる。実はランダムで当たり外れがあるんだ。こればかりは事前
知識じゃわかんないんだよ。それでさ、考えたんだけど……ここくらいはフィフティにい
かない? 当たった方が合格ってことでさ」
◇
僕の手にはコインが一枚。初めて手に入れた「小さなメダル」ってヤツだ。向こうでは
レイさんがブルーオーブを片手に、神殿の人たちと更新手続きの件で話しをしている。
こちらを気にしているようだったので、僕はもう何回目になるのか、「気にするな」と
手を振った。
「心配ありませんよ勇者様、どうせすぐ別の条件で合格できますって!」
「一級討伐士を持つ者は人気が半端でじゃないですからな、退魔機構もそうそう剥奪でき
ません。ヘタなことをすれば世論を敵に回しますし」
「そうッスよ! 俺らも今までと変わんないし。元気出してください!」
仲間たちが口々に僕を励ましてくれる。
「ありがとう。ごめんね、期待に応えられなくて」
僕の形ばかりの返事にも、みんなは真剣な顔で言葉を継いだ。
「なに言ってるんスか! 無事に戻ってきただけでホッとしましたよ」
「命あっての物種ですからな」
みんな本当にごめん。僕もいい加減、自分が嫌いになりそうだよ。
こんなに心配されてるのに……僕もう、そんなのどーでもいいんだよね。
なんかいろいろ考えることがてんこ盛りで、もう頭の中ワヤクチャだよ。
さてどうしよう。
天下の魔王様まで投げちゃったこの大問題を、どうやって片付ける?
支援
本日はここまでです。
多数のご支援ありがとうございました。
しかしさるさんの次は行数制限なのでしょうか。
本日だけのイレギュラーだといいのですけど……。
私の様な文庫ページ換算で書いてる人間には、
さるさんより行数を制限される方がキツイですorz
>>317 作者さん超乙!
ドラクエの「リプレイ」は回を経る毎に苦痛だろうな〜
プレイヤーという神を超越しないと輪廻から抜けられないし…
次の展開に期待してます!
>>317 久々乙
いつも楽しみにしてます。
マイペースで頑張ってください。
>>317 乙!ずっと待ってました!
人間ダンプクソワロタwwwww
タツミも大変だなー。
だから映画のレインマン好きなのか?
サヴァンとは違うだろうけど。
>『さすがに飽いたわ。決して手に入らぬ世界を侵攻してなんになる』
>「そういうシナリオだもんねぇ。でも僕に声をかけたということは、僕にそれを壊せる可
>能性があるということかな」
>『知らぬ。無いのではないか?』
ゾーマ様セツナス
仕事放棄で読んでたわ。
保管庫を読み直していて気付いたけど
◆8fpmfOs/7wさんの冒険の書シリーズって
1〜3(ロト三部作)、4と5(天空三部作)がそれぞれ繋がってるんだな。
ドッキリだと思えばとか、勇者でも暗闇が怖いとか
キツネに化かされた魔王とか。改めてGJです。
目を開ける。目の前にはジジイがいる。
???????
まったく状況が飲み込めない。
ジジイが口を開く。
どうやら俺は生き返ったらしい。この世界では神様の気まぐれで稀に死人が甦るようだ。
そして生き返ったやつは必ず教会や城に現れる。ジジイも神父だけあって何度か経験あるらしく意外と冷静だった。
俺は結局生きていたという結果に妙な脱力感を覚えその場に座りこんだ。
ジジイは俺が無事だとわかると長々と説教を始めやがった。うぜえ。
無視して教会を出ようとすると村人が数人駆け込んできた。あろうことか皆俺に向かって礼を言いやがる。
ちっ他人にすがる事でしか救われない弱者どもが。
負け組みのオーラがプンプンするんだよ俺に近寄るんじゃねえ。てめえらの為じゃねーよ屑共が。
俺は結果的に負けたのだ。この史上最強の総長と恐れられた俺がぶっ殺されたのだ。
……負けて死ぬようならこの糞雑魚野郎共と変わらないじゃないか。
畜生が。
イライラと絶望で何も考えたく無い。誰も近寄るな殺すぞ。とっととその場を離れようとした。
が、その時意外な言葉が舞い込んできた。
よっ町の英雄さん今夜一杯どうだい?
酒…つまりこういう事だ。こいつらは畑の魔物を追っ払ってくれた礼に酒を飲ませてくれると。
ふざけるな今はそんな気分じゃねえ。喧嘩無敵の俺様が負けたんだよダボが。酒なんて飲んでる場合…
……酒……?酒…!?酒だと!?
と、いう事で夜町の酒場でささやかなパーティが開かれる事になった。それまで俺は寝る事にする。
−夜−
町の小さな酒場につくとそこには十数人の村人がいた。みな笑顔で気持ち悪い。
進められるままにまずビールを一杯飲む。癖があるがどうしてなかなかこれはこれでうまい。
ガキがこっちを見てる。あ?目が恐いだ?うるせー殴んぞあっち行け。
と、ここで凄いものを見つけてしまった。バニーの姉ちゃんだ。しかもかなりの食い込み具合。
こっちの酒場ではこれがスタンダードなんだろうか。だとしたらかなり顔がにやける。
最初は気持ち悪いオタのコスプレ集団のような世界だと思ったがこれなら悪くないかもしれない。
さあさあグイっとやってくんな!糞共が俺にお酌しようと列を成してきやがった。
たくこれだから弱い凡人はよ…俺は進められるがままに飲む。
ー3時間後ー
ウップ…もうこの辺で…
バニー「英雄さんかっこいぃ〜!わたしのお酒も飲んでくださ〜ぃ!」
デへへ。飲む飲む!バニーちゃんのお酌なら樽でも飲むぞ!てこれウィスキー…しかも激強…
ウゲっなんとか飲み干し…て何かかえてんの!?えっマジで樽で持ってきたの!?
例のごとく気づいたらベットの上だった。
とんでもなく頭が痛い。今日は一日中寝てようと決めた矢先ジジイが勢いよく部屋に飛び込んで来た。
うるせー殺すぞジジイ!あっ?これから会わせたい人がいるからすぐ準備しろだ?
知るかボケ!俺は二日酔いで死にそうなんだよ!寝かしとけや!
しかしどうやら相手はかなり金持ちらしくしかも飯を食わせてくれるらしい。
金持ち=肉。俺はすぐに準備を始めた。
準備ができジジイの所に行く。外へでてジジイが羽のようなものを放り投げた。
その瞬間信じられない事が起こった。
体が宙に浮き空を飛んだ。あっという間に小さな城の前に到着した。
そしてさらに驚いたのが会わせたいというのはそこの王様らしい。粗相のないようにと注意された。
連れられるがままに城の中を進む。さすがにあちらこちらに武装した兵士がいる。
そして階段を上るとそこには大臣らしき人物と王様らしき人物がいた。
俺は権力者と金持ちが嫌いだ。権力と財で肥えた豚は死ねと思っている。
適当に話を流していると突然聞かれる。
で、きみは旅人なのかね?何の目的で旅をしてるのかね?
考えた事もなかった。
訳もわからずこの世界に来て、ノリで化物相手に喧嘩売って、ぶっ殺されて、生き返って、
今王様の前にいる。俺はこれからどうしたいのだろうか。元の世界に帰りたいのだろうか。
否。
もはや別に帰りたくはない。未練無し。俺はしばらく黙りこくった。そして一つの単語が頭を過ぎる。
…世界征服…
そうだ。どうせならこの世界を手に入れてやろうじゃねーか。一度死んだんだ今更恐いものなんてない。
男なら一度は誰もが夢見る世界征服。この世界で実現してやろうじゃねーか。
妙に興奮してきた俺は一応無難に強くなる為の旅をしていると答えておいた。
王様はうんうんと頷くと無茶なお願いをしてきた。今この世界のどこかを勇者が旅をしている。
会ったらそいつに協力しろと言い出しやがる。
奇跡的に生き返った事、魔物を倒したその腕力はもしかしたら俺も選ばれしものの可能性があるとの事だ。
…たくどこまでもおめでてえやつらだな。そんなわけあるかっつの。
しかしながら旅の軍資金として500G、ちなみにこの世界の通貨はゴールドというようだ、と、
うまい昼飯を食わせてくれるらしいので気が向いたらなと答えておいた。
俺はこの世界について知らなさ過ぎる。利用できるものはなんでも利用しなければ。
いずれこの王とやらも俺の前に跪かせてやるぜ。
その日は一日中情報集めと旅の準備に走り回った。得られた情報は
@魔王と呼ばれるやつが世界征服しようとしてる
A勇者と呼ばれるやつが魔王討伐の旅に出てる
B選ばれし者は神様の恩恵で(ちなみにこの世界の神様はルビスと言うらしい)生き返る事がある。
つまりまとめるとだな、俺にとって魔王も勇者も邪魔な存在なわけだ。
この世界の覇者になる為にはこいつらをどうにかしないといけない。
俺は考えた。
やはり最初どちらかに味方して片方を倒す。
そしてその後もう片方を潰すのが一番効率が良いだろう。ではどちらに味方するべきか。
普通に考えて勇者の味方だろう。しかし待て。どうも魔王がそこまで強いやつとは思えない。
果たして本当に強いやつが手下を使ってちまちま小さな村の畑なんぞ襲わせたりするだろうか?
もしかして世界征服などたいそうな事しでかしてるわりには数にものを言わせるだけの小心者で雑魚なのかもしれない。
もしくはただのバカか。どちらにせよスケールの小さい男だ。
仮に勇者が屈強な大男だとした場合、トータル的に手ごわいのは勇者>魔王だろう。
つまり強い勇者を数の多い魔王軍と協力してブチのめし、その後魔王も倒すのが一番賢い。
完璧だ。自分の策士ぶりに我ながらビックリだ。
決まりだ。俺は勇者討伐の旅に出る事にした。
ただ今のままではどちらにも勝てそうにない。一手下でしか無いアホヤクザ猪に苦戦するくらいだ。
やはりここはどう考えても強力な武器がいる。さすがに釘ひのきだけじゃ心もとない。
それと仲間だ。忠実にして強い舎弟が必要だ。
ここで旅の目的が明確に定まった。
「この世界で新鬼浜爆走愚連隊を旗揚げして魔王を従え勇者を潰しその後魔王も葬る」
こうして俺の冒険は今始まった。
総長さん乙です
樽ワロタwあの勇者タンが登場すんの楽しみに待ってます(*´д`*)
>>324 おまいさんのおかげで読み直すことができたわ。
ありがd
>>総長
乙!
へたすりゃDQNなのに、なんか感情移入しちまうなwww
――アイツはじっと俺の言葉を聞いていた。
携帯の向こうで。
画面の向こうで。
決して混じり合うはずのない二つの世界。
俺たちの出会いは、それ自体はとんでもない奇跡であるはずなのに。
なのに。
なあ、タツミ?
俺はお前が大嫌いだよ。死ぬほど嫌いだ。
だけど俺は、どうしてもお前を嫌うことができない。
それも、お前がそう望んでいるからなのか。
俺の気持ちも、ぜんぶお前が決定していることなのか。
「さあね。で、これは復讐なの?」
――わかんねえよ。
【Stage.14 Cursing My Dear】
[1]〜[15]
Prev
>>284-315 (Real-Side Prev
>>29-40)
----------------- Real-Side -----------------
1周目。
俺が「現実」を「夢」で見るようになったのは、最初の旅の中盤くらいだった。
「夢」の中で俺は、タツミという5、6歳くらいの幼い少年をすぐ近くから見下ろして
いた。まったく知らない世界――そこは、すべてが見知らぬ物ばかりで、しかも毎晩のよ
うに見るもんだから、本気で俺の頭がおかしくなったのかと心配になった。
だが、タツミがしょっちゅう夢の中でやっている「ゲーム」のストーリーが、たった今
自分が歩んでいる冒険を簡略化したものだと気づいた時、俺はこの「夢」を、アリアハン
のはるか未来の世界を見ているのだと解釈した。
謎の「ゲーム」とやらは俺の冒険譚をつづった絵本のような物で、あの小さな男の子は
それを楽しんでいるのだろう、と。そして俺のことが後世に伝説として残っているのなら、
俺は魔王討伐に成功したに違いない、なんて、前向きというか、今思えばずいぶんのんき
に考えていたもんだ。
妙な「夢」はその後もずっと現れたが、俺はいつしかそれを楽しむようになった。メモ
を取ってあれこれ考察したり、仲間たちにもまるで知らない文化について語ってやるのが
日課になった。
いつかこのタツミって子に会ってみたいなと、そんなふうに考えたりもした。
旅自体は決して楽ではなかったが、それなりに順調に進んだ。エリス、サミエル、ロダ
ム。みんな頼もしい、強い絆で結ばれた大切な仲間たちだ。
特にエリスとは……まあ当然のように恋仲になって。この旅が終わったら結婚しようと
約束を交わした。プロポーズの瞬間は、ホント死にそうなくらい緊張したなぁ。
泣きながら抱きついてきたエリスが、デバ亀してたサミエルに気付いてイオナズンで吹っ
飛ばしたときは、ちょっと早まったかと不安になったが。
やがてバラモスを倒し、センセーショナルなゾーマ様の登場に再び旅立ちを決意し、ギ
アガの大穴から地下世界に赴いた。
俺はそこで、死んだはずの親父が生きていたことを知る。生きてたなら連絡くらい寄越
せと憤りも感じたが、やっぱり嬉しかった。
支援
でも結局助けが間に合わなくてさ。親父は俺の目の前で殺されてしまった。
つらかったよ。その場で崩れ落ちそうだったが、それでも仲間たちが懸命に励ましてく
れたお陰で、俺たちはついに魔王を倒すことができた。
が、今度は魔王のバカが半端な仕事しやがってたせいで、故郷に帰りそびれるという始
末。最後までハタ迷惑な野郎だ。
そこも俺はグッと堪えたさ。おふくろやじいちゃんには悲しい思いをさせてしまうが、
やるべきことは果たした。あの二人ならきっとわかってくれる。俺と、そして親父のこと
を誇りに思ってくれるだろうって……。
――そこで俺は、最初のループを体験する。
確かに倒したはずなのに、いつの間にか魔王の城に行く直前に戻されていたのだ。ラダ
トームでの華やかな凱旋式も記憶に新しいのに、なぜかアレフガルドは再び闇に閉ざされ
ていた。
メダパニ状態の一歩手前だった。仲間たちに聞いたら、魔王打倒を願うあまり幻でも見
たんじゃないかと笑われた。マジで?
俺が納得できないでいると、ロダムが「こんなもの持っていましたっけ?」と首を傾げ
ながらなにかを差し出した。まさに凱旋式のメインイベントで、ラダトーム国王ラルスか
ら授与された「ロト」の証しだった。
「ロトの称号を授けよう!」
という国王の言葉に国中が沸き返り、そのあまりの騒ぎっぷりに俺はつい「ロトってな
に?」と聞き返したら、全員がひっくり返ってしまった。いやだって、アレフガルドじゃ
立派な称号らしいが、俺にはその原義がよくわからんし。
なぜ手元にあるのか? 仲間たちはそれについても覚えがないと言う……。
ふと「真の勇者の称号がなんたら」とか聞いたのを思い出したんで、俺たちは先に竜の
女王の城に向かった。魔王の城を目の前にしてそんな寄り道する余裕もなかったんだが、
どうしても気になってさ。
そこから天界へ昇り、俺たちは神竜と戦うことになる。
神竜は強かったが、俺たちも弱くはなかった。ゴリ押しで叩いてたら意外と早く倒すこ
とができた。偉そうにしてっからだ。
そしたら願いを叶えてやろうと言われた。親父の復活さえ可能だって!?
信じられなかった。この俺が、あの時は心の底から感謝したもんだよ。魔王討伐の後、
あの幻(?)の通りにアリアハンに戻れなくなったとしても、これならおふくろだけが残
されることはない。息子としてはロクな孝行をしてやれなかったけどさ……これで少しは
許されるんじゃないかなぁ、って。
神竜に父親の復活を頼んで、アリアハンで久々に親父とツラを会わせた。
もう言いたいこと、山のようにあった。まずは最初に恨みつらみをぶつけてやる予定だっ
たけどなw 何年も家ほったらかしてこのクソ親父、おふくろがどんだけ苦労したかわかっ
てんのか!
んで十分反省したら、改めて「おかえり」って言ってやろう。
そんな風にさ、いろいろ考えてたんだ。
なのに……最初にちょっと会話しただけで、急にフッと意識が無くなって。
その冒険はリセットされた。
2周目。
次に意識が戻ったとき、俺は再び16歳の誕生日の朝を迎えていた。
……なぜこんなことが起こったのか、まったく理解できなかった。あれだけ過酷な旅を
したにも関わらず、エリスたちはなにも覚えていないという。
なんだこれ? なぜ俺だけが前の冒険の記憶を持っている??
起きたことは強引に解釈するしかなかった。前の冒険の記憶は、例の不思議な「夢」と
はまた別の「予知夢」かなにかで、ルビス様が事前に教えてくれたのかもしれない。
急げばあの時は助けられなかった親父も死なせずに済むだろう。サマンオサで偽国王に
理不尽に殺されてしまった人や、前の冒険では間に合わなかった人たちを助けることがで
きるんじゃないか。
俺は死に物狂いで突き進んだ。一日でも一秒でも早く進めば、それだけ誰かを救えると
信じていた。でなきゃやってられなかったよ。あの冒険のすべてが夢オチとか、冗談じゃ
ねえ。俺だけが「未来」を知っていることに、なにか意味を持たせたかった。
旅には同じメンバーを連れて行った。なんど過去の話を振っても誰もなにも思い出して
はくれなかったが、それでも俺の無謀とも言える旅程に必死に付いてきてくれた。
やっぱりこいつらはいい連中だ。大事な仲間だ。――そう自分に言い聞かせて。
エリスに結婚は申し込まなかったけどな。せめて彼女だけでも思い出して欲しかったか
ら。だから、なんか裏切られたようで、どうしても許せなかったんだ。
あの不思議な「夢」もまた見るようになった。ボケッと平和に過ごしているガキが腹立
たしくて、俺はもう無視することに決めた。
結局、俺たちがどんなに頑張っても、未来は変わらなかった。
前の冒険より数ヶ月も早く到着したってのに、レイの父親の勇者サイモンも、他の人た
ちも、みんな間に合わずに死んだ。親父もやはり俺の目の前で殺されてしまった。
なんで? どうして? 時間軸おかしいだろ!
わかっているのに助けられない。
苦しんでる俺を、エリスたちは本気で心配してくれる。だが本当の意味で俺の苦しみを
理解できてるわけじゃない。否応なく孤独感は増していく。心がすさんでいくのが自分で
わかった。
それでも俺たちはなんとか魔王を倒した。わかりきってた結末だから、達成感はなかっ
たが。凱旋式もその後のパーティーでも、俺はぼんやりと酒を飲んでるだけで、仲間も扱
いに困ってるみたいだった。
どうせこのあとは……とか思ってたら案の定、前回と同じくいったんショートループに
巻き込まれて魔王を倒す前に戻された。
そこから「予定通り」天界へと向かい、神竜と戦って今回も短期決戦で勝利できた。
願いを叶えてくれるというが……しかし二度も救えなかった人々のことを考えれば、
俺だけ親父を生き返らせるなんて、できないだろ?
せめて平和な世の中に似合う娯楽でも増やしてやろうかって。
仲間の猛反対を押し切って、俺は半ばヤケになりながら新しいすごろく場を頼んだ。
そのすごろく場でゴールした瞬間、フッと意識が遠のいた。
ああ、また最初からだと……ゾーマが大喜びしそうな絶望の中で、俺は眠りについた。
3周目。
16歳の朝に戻ったと気付き、俺はすぐに1回目の自殺を試みたが死ねなかった。寝間
着のままアリアハン王の前にワープしてきたバカは俺くらいだろう。
そのまま外出許可をもらい、その足で外に出て魔物に食われてみたが、やっぱり無駄に
生き返るので早々に諦めた。死ねないってのもある意味呪いだよなぁ。
家に戻ったらおふくろが半狂乱になっていた。当然だな、前日までは「明日から勇者と
して頑張るぞ!」とか意気込んでたヤツが、起きるなり割腹自殺を図ったら何事かと思う
わ。いちいち説明するのも面倒だったから無視して旅の支度をし、ルイーダんとこに行っ
た。メンバーは全員違うヤツらで、遊び人とか盗賊とか、なんか楽しそうな連中ばかり適
当に見繕った。……あいつらと一緒にいても俺がツライだけだし。
かったるい。もはや他人の生き死になんかどうでも良かった。飛ばせるイベントはガン
ガン飛ばした。すごろくやら闘技場やらに入り浸り、冒険はまるで適当だった。さっさと
役目を降りても良かったが、実は勇者ほど金回りのいい職業はないってことは知ってたか
ら、とりあえず続けていただけだ。
例の奇妙な「夢」は相変わらず見続けていた。
タツミの世界は平和そのものだ。その頃に気付いたが、向こうはどうもループしていな
いようだった。こっちと比べると恐ろしく時間の進み方が遅いが、前の冒険の頃に見てい
た「夢」よりは明らかに季節が進んでいる。
なんか知らんが向こうはこれから「ショウガッコウ」とやらに通うことになるらしい。
こちらのことなど露知らず、ガキは妙にはしゃいでいる。
ったく、俺はお前くらいの年の頃に親父が死んだとか聞かされて、同時に勇者の十字を
科せられたんだからな。こいつブチ殺して入れ替わりてえよ、ホント。
そんなんでも魔王を倒してしまったんだから、世の中は本当に適当だ。
親父はまた目の前で死んだ。いっそ火山に落ちた時点で素直にくたばっててくれりゃ良
かったのに。
ついでだから神竜も倒した。願いはエッチな本ってやつ。別に勇者の肩書きのお陰で女
に不自由はしてなかったが、神様直送便がどんだけスゲエんだって気になったから頼んで
みた。期待してたほどじゃなかったが。
冒険の最後がエロ本で終了。そして振り出しに戻されるわけだ。
ったく、すごろくの落とし穴よりひでえ。あんまりひどいと、なんか逆に楽しくなって
くるよ。人間どうしようもなくなると笑うしかないって言うが。
あははは。
あはははははははははは。
誰か助けてくれ。
4周目。
……感覚的なものだが、前回から随分と間が空いていたように思う。うんざりしつつも、
久々に冒険に出るような軽い高揚感があった。
それは間違いじゃなかったんだろう。例の「夢」の中のガキが、急にデカくなっていた
のだ。俺と同い年くらいまで成長していて、しかも驚いたことに、アイツは気味が悪いほ
ど俺とそっくりな顔をしていた。
(これなら本当に入れ替われるな……)
そう思ったがすぐに打ち消した。くだらねえ、「夢」の中の相手とどうやって入れ替わ
るってんだ。
変わったことはもう一つあった。俺の他にもう一人、過去を覚えてるヤツがいたのだ。
今までに何度も会っていたのだが、敵同士だったので気付かなかった。
切っ掛けは些細なことだった。
『何度来ようとも同じこと。このバラモスがどれほど偉大か、思い知らせてくれる』
はいはい、どうせ俺に倒されるのにご苦労なこって。心の中で嘲笑しつつ(半分は自
嘲だったかもしれない)、剣を構えたときだった。
「……あれ、前はハラワタ食うとか言ってなかったっけ」
今回の冒険では初対面なのに、「何度来ようとも」だと?
「あんたまさか、前のことを覚えてるのか?」
そいつの顔色が変わった。
『貴様も覚えているのか!?』
勇者と魔王が妙な会話を始めたことに仲間たちは動揺している。ウザいんで俺はそい
つらをラリホーで眠らせ、バラモスにバシルーラで片付けてもらった。
バラモスが記憶を引き継ぐようになったのは、俺の三回目の冒険の時かららしい。
二回目の頃からも、なんとなく俺の顔に見覚えがあるなぁとは思っていて、三回目と
四回目(つまり今回)は、最初からしっかり思い出していたそうだ。
『先を知っておるのに、侵略はある点を境に一向にはかどらぬ。まだ力を持たぬうちに貴
様を始末しようと刺客を差し向けたが、それもつど邪魔が入る』
立場こそ反対だが、こいつはこいつで俺と同じような苦悩を抱えていたようだ。
「しっかし、よりによってお前かよ。こちとら許嫁だった女にも忘れられてんだぜ?」
『こちらのセリフだ。われがなんど進言申し上げても、ゾーマ様は夢でも見たのだろうと
一笑に伏される。たかが人間に討たれるなどと、クドく言えばお怒りに触れるだけだしの』
「あー……上の理解が得られない中間管理職ってのも、大変だな」
取り引きしないか。俺はバラモスに提案した。紙とペンを用意させ、俺に関わる親類縁
者や親しい者たちの名を片っ端から書き連ねて、手渡した。
「この世界をくれてやる。人間を支配するったって、全員皆殺しにしようってんじゃない
んだろう?」
『な、なにを……』
ぽかんとしているバラモスに、俺はもっと呆れるような内容を告げてやった。
「お宅の上司、こっちにも簡単に手を出せるほどの力があるのに自ら侵略に来ないのは、
上の世界はとりあえずあんたに一任してるってことだよな? だったらそこに書いてる人
間たちだけは優遇してほしい。その人数なら現場レベルでこっそり調整できるだろ」
『われを信用するのか?』
「してない。でも他に頼めない。でさ、もしもゾーマ直々に上の世界もいじりだして、あ
んたでも庇いきれなくなったら、その時は……逆にあんたがみんなを、苦しまないように
一瞬で楽にしてやってくれ」
『勇者の言葉とは思えんな』
「それくらい思い切らなきゃ、この輪廻から抜け出せない気がする。完全に魔王に支配さ
れた世界でも、それもひとつの未来だろ? 人間中心の世の中が魔物中心に変わるってだ
けで、おふくろも親父も、俺の仲間たちも、来世でモンスターに生まれ変われば、普通に
暮らすんだろうし」
淡々と語る俺にバラモスさえビビっていた。その時の俺はどんな顔をしていたんだろう。
「俺を封じてくれ。完全に死ぬとアリアハンに戻るだけだから、生かさず殺さずで。つい
でに永遠に苦しむような呪いでもかけてくれよ。その手のは得意だろ?」
未来を得るために人類を売り飛ばすような勇者には、それくらいしないとなぁ?
バラモスは承諾した。承諾せざるを得ないだろう。
これでもかってくらい何重に呪術を施した丈夫な石棺が用意されて、俺はそこに押し込
められた。
「なんか、妙に寝心地いいんですけど」
中は柔らかくて肌触りのいいシルクが敷かれている。むしろこれじゃあ……。
『さらばだ』
バラモスの言葉と同時に、石棺の蓋が重々しい音を立てて閉じられていく。同時に強烈
な眠気が襲ってきた。
『安らかに眠っておればよい。これ以上苦しむ必要もなかろう』
なんだよこいつ、いきなり約束破りやがって。
魔王のくせに――。
意識が薄れるのと同時に、いつもの「夢」が現れた。タツミは「ゲーム」が映し出され
ている「テレビ」の前で、なにやら困っているようだった。
「おっかしいなぁ。バラモスごときに負けるなんて。しかもいきなりバグるし」
ヤツが見つめているテレビの中にはコミカルに描かれたバラモスがおり、「アルスたち
は ぜんめつした!」と表示されている。
随分あっさりした記述だ。その「ぜんめつ」するまでの行程にどれだけの想いがあった
のか、こいつにはわからないだろう。
画面は静止していて、なんの操作も受け付けないようだ。タツミはしばらくうなってい
たが、「まあいいか」とスイッチを切った。テレビが暗くなり、俺の世界は眼前から消え
た。あっちはどうなっただろう。バラモスはうまくやってるだろうか。
今のタツミは「コウコウセイ」とやらになっていた。父親は単身赴任で家におらず、母
親はお稽古ごとだのショッピングだの、自分が楽しいことを優先するタイプなので息子に
はほとんど構っていない。それが少し寂しいと思いつつも、タツミは友人やガールフレン
ドに囲まれ、それなりに楽しく暮らしている。
俺は「夢」の世界でタツミと一緒に時を過ごした。
そのまましばらく経った、ある日のことだ。
いきなり場面が飛んだ。
学校からの帰りがけに、戸田和弘とマクドなんとかに立ち寄ってダベっていたはずが、
いつの間にか家に戻っていた。
場面が飛ぶのは今までもよくあったことだが、タツミの様子がおかしい。
「まさか……嘘だろ」
薄暗い部屋の中で電気もつけず、座り込んでブツブツと呟いている。
「あいつの妹が? 冗談だろ? ……うぐっ!」
いきなりタツミがむせた。口を押さえて便所に走っていき、ゲホゲホと吐いている。
キッチンでうがいをして落ち着くと、タツミはまた部屋に戻った。
しばらくぼうっとしているようだったが、やがて物憂げにテレビの方を見た。あれ以来
ずっとやっていなかった「ゲーム」の機械を引っ張り出し、スイッチを入れた。
嫌な予感がした。なにが起きるか想像がついた。
やめろ、ソレに触れるな! あのまま終わらせてくれ! 俺をもう起こさないでくれ!
俺の祈りは届かず、グンと意識がどこかに引っ張られる感覚があって――。
目を開けると、俺はダーマ神殿の入り口に立っていた。あの時バラモスのバシルーラで
アリアハンに飛ばされた仲間たちも、何事も無かった顔で俺の後ろに立っている。
「恨むぞ、タツミ……」
この時になって俺はようやく、この世界と「ゲーム」との因果関係を把握した。
あっちが「現実」なのだ。
俺のいるこの世界こそが、ただの「ゲーム」だったのだ。俺たちが物語を作っているん
じゃない、すでに出来上がっているストーリーのコマとして、アイツに動かされているだ
けなのだ。俺も、仲間たちも、魔王ですら。そのことに俺はやっと気がついた。
再会したバラモスはすべてを諦めたような顔をしていた。お互いに一言も交わさず黙々
と戦い、シナリオ通りにヤツは俺に弊され、ことは運んでいった。
地下世界。魔王討伐。ショートループ。天界。そして神竜。
次の願いはなににしようか。もう新しい選択肢は無かったはずだが。
そこで、奇跡が起きた。
いきなりそれまでとは違う流れになった。神竜が急に妙なことをほざきだしたのだ。
『オマエノ ネガイヲ カナエヨウ』
ワケもわからず立ちつくしている俺に、神竜は言った。
『オマエハ タツミニ ナリタイノダロウ?』
お前はタツミになりたいのだろう?
意味が――理解できるまでに随分かかった。
返事をするまでには、さらにかかった。
「……本当、に?」
掠れている自分の声が、他人のものみたいだった。
【もし目が覚めたら そこが現実世界の一室だったら】
血を吐くような思いで神竜に願った瞬間。
渡されたのは、小さな精密機械。
遠く離れた個人と個人を一瞬でつないでしまう、魔法のような道具。
開いた途端にコールが始まり、出た相手は、夢の中のあの少年で――。
「初めまして、タツミ君。キミ、勇者をやってみる気はないかい?」
考えるより先に、言葉が出ていた。
◇
『……そして僕と入れ替わったわけだ』
俺の長い話しが終わり、携帯の向こうでタツミは大きく溜息をついた。
『で、これは復讐なの?』
「わかんねえよ」
いや、どうなのかな。考えないようにしてきたが。
俺はタツミを生け贄にして別な世界に逃げた。それが事実だ。これからタツミは、俺の
代わりに永遠に終わらない伝説をグルグルと紡いでいかなければならない。
『まあ、あくまで僕がクリアに失敗すればだけどね』
「そうだが……」
タツミの声は普通だった。いつもよりやや冷たい感じはしたが、俺が想像していたより
ずっと冷静だった。俺はもっとこう――
「お前、今の話しを聞いて、なんとも思わないのか」
『なにが。君が僕を身代わりにしたこと?』
「ああ、まあ」
『別に。なに、僕になんか言ってほしいの?』
すっかり呆れているようなタツミの返答に、俺は戸惑った。
俺が、なにを言ってほしいって……?
『あのさー。なんか僕ムカつかれてるみたいだけど、それ僕のせいじゃないよね。絵本の
登場人物に、ループするから読むなって恨まれても、それ読者の責任か?』
こんな理不尽な逆恨みもあるかよ、いい加減にしてくれ。
バッサリ切り捨てられ、俺は完全に言葉を失った。
タツミは続ける。
『さっき言ってたよね、どうしても僕を嫌いになれないって。イイコぶるのはよせよ、君
の目の前にあるそのゲーム、キャラの気持ちまで操作できないなんて、わかるだろ。単に
僕に罵られたくないだけじゃないの。それとも、僕への哀れみかな? バラモスが君を封
じた時みたいに。僕ってほら、割と物わかりはいい方だからさ。諦めて運命を受け入れて
くれるんじゃないかって期待してるんだろ? だからせめて俺はお前を許してやるって?
自己肯定するにしても、それはちょっと浅ましくないかなー』
…………。
支援
『まったく。一度は自分を犠牲にして、人類を引き替えにしてまで未来を勝ち取ろうとし
たってとこまでは、カッコ良かったのにさ。聞いててそこは感心したよ、さすが主人公だ
よなーって。でもだったら最後まで貫いてほしかったな。諦めて逃げ出してハイ終了はな
いっしょ。なにこのクソゲー。ねえ?』
…………。
『悪いけど僕はクリアするよ。こんな理不尽な要求、呑む気はさらさらないね。だいたい
さ、せっかく僕の親が僕のためにって買ってきたプレゼントに、こんなヒドイ仕打ちをさ
れるって、倫理的に許されるのかよ。親子の愛情とかさ、もう完膚無きまでに踏みにじり
まくってるよね。どう思う、正義の味方の勇者さんとしては?』
…………。
『でも君だって本当はわかってるんだよね? 自分の望みがどういう意味を持つのか、死
ぬほどよーっくわかってる。だから君は僕を素直に憎めない。可哀想だとは思うよ、同情
する。でも僕はどうなのかな。ねえ、君と僕と、どっちが可哀想なんだろうね?』
…………。
俺は…………。
『僕はただゲームをしていただけだ』
俺は……なにも答えられない。
『ゲームをしていただけなんだよ。平和な世界で、ちょっとしたヒマ潰しに、古いゲーム
を楽しんでいただけだ』
俺はなにも答えられない。
『でも――君にそれは関係ない。僕に君の苦悩が関係ないように、君の苦悩に対して僕の
権利や主張は関係ない。そうだろう? 運が悪かったんだろうね。僕たちは敵でも味方で
もなくて、起きてしまった現象に巻き込まれて、そこでお互いに譲れないってだけでさ。
だから君は悪じゃないんだ。僕の存在さえ否定すれば、君はちっとも悪くない』
なにも、答えられない。
『とりあえず僕が君に要求するとしたら、そっちの時間で明日の朝くらいまで、テレビを
消しててくれってことくらいかな。なんかね、見られてるのがわかるんだよ。どうも落ち
着かないんだ。どうせ金輪際、君にナビを頼むこともないだろうしね。でも本体のスイッ
チは切らないでくれよ? それとも僕と心中したいかな。僕は止めようがないけど』
「いや……切らねえよ」
『ありがとう。――ああそうそう、それともうひとつ』
「なんだ?」
『優しいバラモスさんはできなかったみたいだけど、僕はそんなに優しくないからさ。代
わりに僕から、君に呪いをあげるよ』
タツミの声が、急に明るくなった。
『それでもね、僕は君が好きだよ。友達になりたいって今でも思ってる』
「……友達?」
『そう。だってすごくない? ゲームの中の勇者と友達になれるとかさ?』
まるで子供がはしゃいでいるようなタツミの問いかけに。
「そうだな。すごいことだよな」
俺は、まるで中身のともなわない空虚な言葉を返す。
『だろ? だからさ、友達になってよ』
「いいぜ。友達になろう」
『良かった! 嬉しいよ。あ、画面は消してほしいけど、なにかあったらいつでも電話し
ていいからね。困ったことがあったらなんでも聞いて。簡単なアドバイスくらいしかして
あげられないけどさ』
「わかった。そうする」
『それじゃまたね。おやすみ、アルス』
「ああ――おやすみ、タツミ」
電話が切れた。
俺はまず、言われたとおりテレビのスイッチを切った。電気はつけていなかったから、
部屋が暗くなった。カーテン越しに差し込む街灯の明かりが、ぼんやりと室内を照らして
いる。
次に電源が入ったままのゲームの本体をテレビ台の中に押し込んだ。コントローラーの
ひもを巻いて、それもいっしょに中に入れてガラスの戸をカチッと閉める。
それから俺は、上着を脱いでベッドの中に潜り込んだ。
ただ眠りたかった。
バラモスが用意してくれたあの石棺が――異常に恋しかった。
タツミ「というわけでっ、君に同情の余地はこれっっっっっぽっちもないね!」
アルス「ひでえっ! お前最低だ!」
タツミ「なんとでも言えば〜?
さてと、こんな雰囲気の悪いところで本当に申し訳ありませんが……」
アルス「ちょ、やるの!? この状況で!?」
タツミ「うるさい勇者だなー。いただいたレスへの返答は僕らの仕事でしょ。
それでは恒例、サンクスコールです!」
アルス「
>>318様、わかっていただけますか俺のこの苦悩!!?? おっしゃる通り、
めちゃめちゃキツイんですよ〜。あううう」
タツミ「嫌だわぁ、この期に及んでまだ読者様の同情を買おうとしてる。
>>319様、暖かいお言葉ありがとうございます。マイペースで頑張りまーす♪」
アルス「はぁ〜……。まあ仕事はきっちりしないとな。
>>320様、長いことお待たせいたしました。レイはマジで強いんだ、
正直タイマン張ったら俺でもけっこうヤバイかもな」
タツミ「
>>321様、細かいところまで気がついてくれて嬉しいです。
過去の嫌なことを思い出した時ってあんな感じなんですよ。困ったもんです」
アルス「
>>322様、実は前述の通りバラモスだったんですが、あいつもかなり苦労してたみたいで」
タツミ「
>>323様、仕事より優先して読んでいただけるとか、本当に職人冥利に尽きますね」
アルス「リアルタイムでのご支援を含め、皆様にはいつも感謝です」
アルス「しっかし俺もここまで容赦なく叩かれるとは思わなかったぜ……orz」
タツミ「だって僕、 偽 善 者 って嫌いだし」
アルス グッサ━━━━━ΣΣ( Д ;;;)━━━━━━>ッ!!!
タツミ「まさか勇者様が『友達』を身代わりにして逃げるとはね〜?」
アルス「お、俺だって、俺だって…… ウワーン! (((((((((((((((((+。・::。゚+:。ヽ(TДT)ノ。:*゚。::・。
タツミ「……ちょっとやりすぎたかな。
それでは皆様、次回ゲームサイドでお会いしましょうっ」
本日はここまでです。
20行制限のせいで細切れ&投下に時間がかかってしまって申し訳ありません。
リアルタイム遭遇キタ、GJ!
商人→盗賊→遊び人→賢者と仲間の呪文コンプのために
ジパングの洞窟に籠ってメタルスライムを狩り
全員レベル99になるまでルビスの塔最上階に籠ってはぐれメタルを狩ってた
自分の粘着プレイを振り返ってちょっと泣いた
>>369でフイタwww
ここでサンクスコール持ってくるとは
不覚にもバラモスのループ仲間に対する心遣いにキュンとなったw
俺は2回目は勇者の名前と性別変える事にしてるから…
大丈夫だよな!?そんなひどい思いさせてないよな!?
>374
女から男になる場合は歴代主人公スレの女3主になるだけだが
逆の場合(ryさらに3回目で男に戻ったら(ry
バラモスに泣いた°・(ノД`)・°・
これでアルスの背景はほぼ明らかになったな
あと謎なのはタツミの過去とアナザーサイドか
しかし誰もタツミの正論ラッシュに突っ込まないのなw
どうせ何か考えがあるんだろうとか思われてるのかw
バラモスたん・・・。
何らかの方法で、終わらせられるといいのですが・・。
それにしても、リアルサイドでも、いろいろ他の勇者が暗躍してるし、どうなってしまうのでしょうね。
うちもドラクエ3は何度かやってるからなぁ・・・。主人公、すまん・・・。
379 :
携帯まとめ人:2008/04/07(月) 21:50:18 ID:55F3qjQM0
4の主人公とか最悪だろうな…
5主人公ヤバくないか?
10年奴隷、8年石化、嫁と離れ離れ、母親死亡
それでもようやく平和になったと思ったらリセット
ゲーム内不幸はダントツで、
一番幸せになれそうなエンディング後の未来がパーだからな……
そういえば以前出て来たリアルサイドの大ボスっぽい人、DQ5の主人公だったような・・・
5はゲーム内時間経過が年数レベルだから
何度も何度もループしたらもう逃げたくなるよな
だが忘れないでほしい。
5の勇者は主人公じゃなくガキのほうだということを!
一応ジジイにも世話なったし挨拶しとくか。頼むから無茶はするなたまには帰ってこいだと?
これだから辛気臭い年寄は嫌いだ。なにが悲しくてこんなじいさんの顔見に帰らなきゃいけないんだ。
まああのビールとバニーの姉ちゃん見にたまには戻ってやってもいいがなウヘヘ。
ついでに生きてるかどうか確認しに帰ってやるか。いつポックリ逝くかわかったもんじゃねえ。
ジジイは名残惜しそうにまた例の羽を使って帰って行った。
さて、次の目的地だがどうやらここから南に大きな町があるようだ。
どうせなんのあても無い事だし、とりあえず人の多いとこの方が色々情報が集まるかもしれない。
俺は南を目指す事にした。
ちなみにここでの収穫は「たびびとのふく」と「やくそう」をいくつか買った。
道具屋のおっさんが旅にでるなら絶対持ってけと勧めたからだ。
あっそれと城での飯は超絶最高にうまかった。あの肉の味は忘れまい。
町を出た。
しばらく歩くと頭に防災頭巾の顔色の悪いガキが道端に立っているのを発見する。
!?
そいつは俺を見るや否や弓をかまえ矢を放った。間一髪でかわす俺。
なんてガキだ。親のしつけはどうなってるのだろうか。
知らない人に矢を放っちゃいけませんとは教えられなかったのだろうか。
そんな事を考えてるうちに第二射が飛んで来る。
太ももに刺さった。痛い。しかしこの距離だと反撃できん。じわじわ弄り殺しになるだけだ。
さてどうしたものか。よく見ると連射は出来ないらしくリロード中に隙ができている。
ここだ!俺は勢いよくガキに向かって走りだした。矢が飛んで来る。盾で強引に叩き落す。
そして次の矢を弓に掛ける瞬間俺の中段回し蹴りが直撃した。
中段といっても身長差でちょうどガキの顔面にヒットする。
間髪入れずに左の順突き、右の逆突きが入る。
俺がもっとも得意とするコンビネーションだ。ガキはその場にうずくまる。勝った。
俺は親父の影響でジャリの頃から空手を仕込まれてきた。まさかこんなとこで役に立つとは。
こいつはおそらく町で聞いた魔王の手下の“魔族”と呼ばれる人種だろう。
こんなガキの頃から躊躇無く人に向かって矢が撃てるなんてなかなか感心できる。
昔連れにひとし君というのがいたが、そいつは親が極道で小学生のうちから妙に刃物の扱いがうまかった。
もしかして魔族はそれが一般的なのだろうか。
なんてデンジャラスな人種だ。
立ち上がった色の悪いガキは命乞いしてきた。無論俺は許した。子供を手にかける趣味はない。
法の道は外れようとも人の道は外れないのが族の粋ってもんだろ。イカスな俺。
そさくさと去っていくガキを尻目に俺は刺さった矢を抜いた。困った。
この傷で目的地まで歩けるだろうか。しばらく進むか引き返すか考え込む。
ん、そういや道具やでなんか買ったっけな。たしかこの辺に…あったあった。
俺はやくそうを取り出した。使い方がわからないので傷口にこすり付けてみる。
するとどうだろう。みるみるうちに痛みが引き傷口が塞がっていく。これは便利だ。
次の町ではやくそうを大量に買おうと心に決め俺は歩き出した。が、疲れた。
照りつける太陽がむかつく。やかましいセミの声がむかつく。
あまりにもむかつくので大きな岩の影で小休止する事にした。
なかなか涼しくていい感じだ。いつのまにかうとうとし始める…
グゥウォオオォォッゥ!!!
とてつもない唸り声に飛び起きた。岩の脇から覗くと変なじいさんが2mは優に超す熊に襲われている。
状況は絶望的だ。貧相なじいさんに勝ち目は無い。俺は思った。ご愁傷様だな。
心の中で静かに念仏を唱えてやった。
じいさんも観念したのか目を瞑ってブツブツ言っている。そして叫んだ。
メラミ!!!
え?メラミ?最後の言葉にしちゃヘンチクリンだがまあ気が動転してたんだろう。
誰だって死を目の前にして冷静でいる事の方が難しい。
俺は熊に気づかれる前にこの場を去ろうと逃げる準備をした。
その瞬間あり得ない光景を目にする。
じいさんの手からデカイ火の玉が発射され熊を直撃した。一瞬で熊は黒焦げになった。
情けない事に俺は完全に腰を抜かしてしまった。じいさんが立ち去ろうとする。
このまま帰すわけにはいかない。
おい!と声を上げる。裏返ってしまった。最悪だ。
とりあえずじいさんに駆け寄る。今の炎は何なんだと尋ねる。じいさんはキョトンとしている。
は?おぬし魔法を見たこと無いのかだと?あるわけねーだろバカ。おまえら変態集団と一緒にすんな。
どうやらこのじいさんは職業魔法使いらしい。
魔法使いといっても俺には引田天功かウザイ眼鏡の外国のガキか、柔術マジシャン・ノゲイラしか頭に浮かばない。
しかしこんなじいさんでも熊を倒せるなんて何て強力な力だろう。
じいさんに俺にも魔法を教えてくれと頼んだ。断られた。
かわいい年寄りの大ピンチを傍観しとるようなやつには教えてやらんとニヤニヤしながら言いやがった。
こいつ気づいてやがった…
じいさんが歩き出す。とりあえずついて行きしつこく頼み込む。
…がこのじいさんほんとにとんでもない野郎だった…
肩がこっただの喉が渇いただの腹が減っただの俺を完全にパシらせやがる。
元総長のこの俺様を!こんなヨボヨボが!
支援
挙句の果てに疲れたら背負えと言いやがった。俺は顔面凹ましてやりたい気持ちを抑えつつおぶる。
だいぶ歩いた。もう少しで町だから降ろせと言うので降ろした。どうやら目的地は一緒らしい。
さあ教えろと詰め寄る。じいさんは一言言った。
無理じゃ。
無言で俺のジェットでこぴんがじいさんに炸裂する。じいさんあわてて説明し出す。
要点をまとめるとこういう事だった。
まず魔法には「信じる」力が必要だと。魔法に縁のない環境で育った俺にはできるわけないという意識が先行してしまうし
尚且つ人には向き不向きがあり明らかに戦士系の俺には厳しいだろうということだ。
やれやれまったく凡人の考えだ。だいたいこんなじいさんに出来ておれに出来ないはずがないだろうが。
それでも教えろと脅しをかける。じいさんしぶしぶ基本を教えてくれた。
@頭の中で炎をイメージする。
A相手に手のひらを向ける。
Bメラ
え?こんだけっすか?こんだけで手から火がでるんすか?楽勝じゃん。俺は意気揚々と構えそして叫ぶ。
メェエエエラァアアア!!!
静寂。
沈黙。
ああ今日もいい天気だなあ。
俺のシャウトだけが虚しくこだまする。じいさん腹を抱えて笑う。
俺のババチョップがじいさんの脳天に直撃する。じいさん悶絶。
その後色々聞いたがやはり素人が簡単に使えるものではないようだ。
毎日精神統一の為瞑想したり、よりリアルなイメージが出来るようにトレーニングしたり、
魔法の理論そのものを学んだりと色々やらなきゃ使えるようなはならないらしい
ただ一つ希望があるとすれば、出来はしなかったが俺がメラと叫んだ時本人には「火が出る」という確信があった。
その気持ちがある限りいつかは使えるようになるそうだ。
当たり前だろ。乱立する100もの族を一つにまとめた男ぜ?俺に不可能はない。
町の入り口でじいさんと別れる。町長の家に呼ばれてるので一通り町を回ったら来いとの事だ。
町長=権力者=金持ち=肉
俺は即答でわかったと返事した。
でかい町だ。一日かけても全部回りきれないだろう。
適当に情報集めてからじいさんのとこに肉食いに行くか。
とりあえず道具屋に向かう。やくそうを買いだめするためだ。
途中柄の悪そうな三人のチンピラどもにからまれる。
この世界にも恐喝はあるのか。なんかちょっと嬉しい。
とりあえず釘ひのきで一発ぶん殴る。
バキ あ…
折れた。今まで酷使していたせいで相当ガタがきていたようだ。さらば相棒…
一人は頭から血を流し倒れもう二人は明らかにビビッてる。所詮群れなきゃ何も出来ない雑魚か。
片方がナイフを取り出した。金を出さなきゃ刺すと凄む。
俺はナイフ程度の刃物はまったく恐くない。
今まで相手の武器でびびったのは日本刀とひとし君が拳銃取り出した時くらいだ。あれは本当にびびった。
まあ素手で対抗するのも何なんで俺もナイフを取り出す。
こないだの極道猪戦で血錆がべっとりのナイフだ。
それを見た二人の顔色がみるみる変わる。
そして今日の所は見逃してやると倒れているやつを担ぎ、超速で逃げていった。
なんてお約束なやつらだ。
しかし困った事に相棒の釘ひのきは折れてしまった。
さすがにこのアウトローな世界を丸腰で旅するのは危険だ。
やくそうより武器が先か。そう考えると俺は武器屋を探し彷徨いだした。ちょうどすぐ角のとこにあった。
ついてるな今日は。中に入る。前のシケた武器屋と違い見るからに強そうな武器が並んでいる。
そこで一際目立つ武器を発見した。「ドラゴンキラー」と書いてある。
まさに覇者たる俺にぴったりの武器だ。
店主は言う。
それは15000ゴールドだぜ。
ここで新たな問題が生まれた。俺は貧乏だった。残金38ゴールド。とても足りない。一応交渉してみる。
おまえには常識がないのかと言われた。正直裸覆面に言われる筋合いはないと思った。
ムカつきつつも武器屋を後にする。金がなけりゃどうにもならんと町長の家に向かう。
途中道端の人に尋ねるが決まってこの町に町長はいないと言われる。あの糞ジジイ…はめやがった…
しかし代わりに新たな情報を得る。どうやら町長はいないが王様はいるらしい。城に向かう事にした。
その城はこんな見るからに怪しい俺でもすんなりと通してくれた。なんて無防備な城だろうか。
中央の階段を昇るとそこは王の間だった。
王様の前にはあのじいさんがいて何か話こんでやがる。俺は何となく無性にむかついた。
しっぺの一発でも決めてやろうと前に進む。とここで王様が話しかけてきた。
前も言ったが俺は権力者が嫌いだ。金に溺れ腐った豚は死ねよと思う。
が、ここの王様は違った。ヤバイ。目がヤバイ。今まで数々の修羅場を潜り抜けてきた俺にはわかる。
例えるなら武闘派系の組の親分の目だ。只者ではない。俺は身構えた。
頼みがあるのだがー
突然王様は切り出した。そしてその頼みに俺は愕然とした。
盗賊に王冠が盗まれたらしい。それを俺に取り返せと。
支援2
は?
まず王のくせに象徴である王冠を盗まれるという間抜けさ。
続いてそれを見ず知らずの旅人に取り返してくれと言うおおらかさ。本物のバカか大者かどちらかである。
てかとりあえず自分のとこの兵士送れよバカと思ったがそうもいかないらしい。
城の警護で手一杯だそうだ。
王冠盗まれといて今更警備も糞もあるかと思ったが如何せん俺も貧乏だ。
王の願いともなるとかなりの報酬が出るのではないだろうか。
いやむしろその王冠を売っぱらえばかなりの額になるのではないだろうか。
というわけで俺は引き受ける事にした。支度金として5000ゴールドくれた。さすが太っ腹だ。
じいさんの話によると盗賊の名前はカンダタ。手下を引き連れ東の党の塔にアジトを構えている。
かなりのツワモノのようだ。王様はじいさんも連れてけと言ったが断った。
またおぶれとか言われてもめんどくせーし報酬も独り占めしたい。
そもそもこんな性悪ジジイと一緒に旅なんかしたくない。
早速俺は5000ゴールドを持ってさっきの武器屋を訪れた。
散々悩んだ挙句「てつのおの」と「くさりかたびら」を持って店主の所に行く。
なぜか店主は物凄く同情した目でこっちを見てる。
え?この金はどうした?何?自首した方が罪が軽くなるだと?ちょ!おま!俺は強盗なんかしてないっつの!
店主に完全に怪しまれたまま俺は武器屋を後にした。
出発は明日の朝一でいいなと思い今日は宿をとり休む事にした。宿屋の看板を見つけ中に入る。
一泊12ゴールドらしい。これは安い。破格だ。と言ってもただベットが借りれるだけで飯も風呂もついてないようだ。
ライダーズホテルのようなものか。おそらくこの世界は旅人が多いためこの料金でも十分経営が成り立つのだろう。
飯は城に行って勝手に食うとして風呂には入りたい。
聞くと旅人は近くの川で水浴びをすることが多いらしい。
そこで俺も川に向かった。途中道具屋を発見したのでやくそうを買い込む。
服を脱ぎ水につかる。冷たさが心地いい。腹に目をやるとそこにはヤリが刺さった生々しい痕がある。
はたして俺はカンダタとか言うやつに勝てるのだろうか?また死んでしまうのではないだろうか?
いやいやまてまて。負けるはずがない。そもそも相手は同じ人間だ。だったら俺の方が強い。
と、自身に言い聞かせ宿に向かった。しかし酒場の看板が目に留まる。明日に備えて軽く英気を養っとくか。
3時間後残りの全財産を使い切った俺は千鳥足で宿に向かった。
支援dd!
夜にまた投下します
−次の日−
目覚めるともう太陽は高かった。寝坊した。頭痛い。腹減った。
俺はふらふらしながらかろうじてポケットに残ってた5ゴールドでパンを買いかじりながら町を出た。
今日もいい天気だ。しばらく歩くと青寒天が出る。相変わらずかわいい。
よくみると隣に色違いの赤寒天までいやがる。
こいつらは噛み付かれるのにだけ注意すればウエイトが軽いため体当たりはまったく効かない。
殺すのも可哀想なんで無視する事にした。後ろから必死に追いかけてくる姿またかわいい。
俺がこの世界を制した暁には寒天を飼おうと思う。楽しみだ。
寒天が諦め追いかけてこなくなると今度は犬が現れた。よく見ると所々が腐っている。気持ち悪りい。
俺は買ったばかりのてつのおので真っ二つにした。何がショックかっていきなり新品の斧がドロドロに汚れた。
新相棒の最初の獲物が腐った犬とは…俺はテンションが下がりつつも塔を目指した。
道中ゾンビ犬だの寒天だのでかいきのこだのが現れるがてつのおのの威力により苦戦する事は無かった。
そしてついに塔が見えてきた。
塔に入る。見張りなどはいない。ひとまず道なりに昇って行く。ややこしい。設計したやつ殴りてえ。
しばらく昇ると妙な三人組みがいた。向こうは俺の顔を見るなり顔色が変わる。
あ!こいつらこないだボコったやつらじゃん。そうかカンダタの手下だったのか。
三人で何か話し合っている。そして逃げた。俺も追って階段を昇る。
そこにはカンダタと思われるパンツに覆面&マントというとんでもない格好のやつがいた。
しかし手下が手下なら親分も親分だ。なんてファッションセンスだ。俺の戦闘意欲はマックスで失せた。
めんどくせーからとっとと終わらそう。
よくも子分をだの俺の名前は大盗賊カンダタだの言ってる間に近づいて一発脳天にてつのおのを見舞う。
ガキンッと金属音が響く。
こいつ覆面の下になんか仕込んでやがるな。カンダタは激怒した。
おまえには騎士道精神ってものがないのか外道!と言われる。盗賊が何言ってんだ…
そして子分にこいつは俺一人で片付けるから手を出すなと言った。アホだ。正真正銘のアホだ。
そこから俺とカンダタのタイマンが始まった。
お互い腕が上がらなくなるまで斧を振り回し、顔がボコボコになるまで殴りあった。
最後に立ってたのは俺だった。
カンダタは観念したのか煮るなりやくなり好きにしろと言う。俺は「きんのかんむり」を取り返した。
もうここには用はない。足早に塔を出た。入り口付近に差し掛かった所でカンダタらしき悲鳴が聞こえる。
無視してよかったのだが何となく見に行ってみた。カンダタがデカ蛙数匹に囲まれている。
手下は気絶している。…弱い…なんて弱い盗賊団なんだ…泣ける…さすがに同情を禁じえない。
適当に蛙を追っ払うとカンダタが涙目で抱きついてきた。
痛いって!そんな力入れるなっつの!俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味はねーんだよ!離れろ!
カンダタは世界で一番蛙が苦手らしい。俺は命の恩人と崇められてしまった。なんだこの展開は。
だがしかし次にもっと驚く展開になる。カンダタが俺を子分にしろと聞かない。子分も同じく騒ぐ。
嫌だと言って塔を出たが後ろからゾロゾロついてくる。マジ勘弁してくれ…
そこで俺はこいつらを舎弟にする事にした。新鬼浜爆走愚連隊栄光の船出だ…栄光の…ぐぅ…
栄えある初代のメンバーがこいつらか…
子分は塔の警備役(というか足手まといなんでいらない)として置いていく事にする。
一応俺らは盗賊じゃなく族なんだと言う事を言い聞かせたがこいつらはバカだから理解してないだろう。
まあいい。とりあえず親分じゃなく総長と呼ばすのだけは徹底させよう。
来た道を戻る。もう日が沈みかけている。途中魔物も出たがカンダタが一人で暴れて片付けた。
なかなか使える野郎だ。頭は悪いが腕力だけはある。特攻隊長くらいにしてやってもいいかも知れない。
そうして城に戻った時にはすっかり夜も更けていた。
門番はカンダタを見て腰を抜かしていた。無視して進み王様の前に立つ。
王様にきんのかんむりを渡した。衛兵がカンダタを連行しようとするので止める。
王冠も戻ったしこいつを無罪にしてくれないかと頼んだ。大臣憤怒。
まわりがざわつき始める。もしこいつを引き渡すのを拒否すると俺も連行されるかもしれない。
しかし舎弟のために体を張るのは総長として当然の事だろう。俺はいざとなればこの国と戦争する決意をした。
そして王の重い口が開く。
いいよ。
一瞬時が止まった。
大臣が物凄い勢いで王様をまくし立てる。このバカ王なんてイカしたヤツだろう。最高だ。
じいさんはゲラゲラ笑ってる。次の一言がまたイカレた内容だった。
さあ!王冠を取り返した英雄をもてなす宴の準備をせい!
数時間後。
王冠を盗んだカンダタ、盗まれた王様、取り返した俺という異色中の異色の組み合わせで宴会が始まった。
カンダタは物凄いペースで酒を飲む。こいつ自分がしでかした事をわかってるのだろうか?
王様も王様でヘラヘラしながらこれまた凄いペースで飲み続ける。
大臣は呆れて物も言えないといった感じだ。
まあそんな事よりも俺はこの国の肉料理に感動した。甘辛く重厚でそれでいてしつこくない。
三人の豪快な食いっぷり、飲みっぷりに即発され兵士達も騒ぎ出し、明け方には全員床で寝ていた。
ひたすら飲まずに食っていた俺はこの光景を見て思った。
ああこの国は純粋にバカなんだと。そら王冠も盗まれるわ。
と、ここでじいさんが話しかけてきた。いきなり身の上話を始める。興味ねえどっかいけよジジイ。
だが話の内容は驚くべき内容だった。このじいさんと王様は昔一緒に冒険した仲らしい。
しかもその冒険というのも魔王討伐だというのだ。その時は多大な犠牲と共に魔王を封印できたらしい。
信じがたい話だが俺は妙に納得した。
あの王様の目はカタギの目じゃない。絶対に人を殺めた事のある目だ。
ー次の日ー
このバカ王はまたまたとんでもない事を言い出した。
は?自分も久々に旅がしたいから代わりに王にならないかだと?こいつラリッてんのか?
……目が笑ってない。本気だ。俺は旅の目的があるのでと断った。
バカ王はそれなら今度こそこのじいさんを連れて行けと言う。
俺はそれも断ろうとした。だがじいさんを連れてく事がカンダタ釈放の条件だと言いやがる。
なるほどさすがに監視役もいないまま犯罪者を野放しにできないというわけか。俺はしぶしぶ了承した。
こうして不本意ながら新鬼浜爆走愚連隊(以下略して鬼浜)に新たな構成員が増えた。
現メンバーは
総長:俺
特攻隊長:カンダタ
構成員:じいさん、子分A,B,C
……非常に頭の痛くなるメンバーだ…硬派にも武闘派にも程遠い…
俺はこの世界に来て初めて自分のやってる事が不安になった…だが今はもう前に進むしかない。
バカ王は報酬として10000Gもくれやがった。やはりバカだ。
その夜、記念すべき第一回鬼浜会議が開かれた。議題は次の目的地についてである。
俺的には早く勇者に会ってどんな輩か確かめたい。じいさんに勇者について何か知らないか聞いてみた。
知っていたのは勇者の故郷はアリアハンという町であるという事だけだった。
一方カンダタにも何か情報がないか聞いてみる。明日の朝は目玉焼きがいいそうだ。
こいつもう今後一切の発言権は無い。とにかく明日から勇者の足取りを順に追ってみようと思う。
今日はもう遅いので宿で一泊する事にした。
次の朝出発の挨拶をしにバカ王の所に行く。まだ王にならんかとか言ってやがる。しつけえ。
アリアハンへ行くと伝えると船をだしてくれるようだ。貸切で。VIP待遇じゃん。
バカ王もたまにはやるな。
そうして船に乗り込んだ一行はアリアハンを目指した。道中暇なのでじいさんに魔法を習う。
どうやら俺には「リアルにイメージする力」が足りないらしい。
じいさんは松明や焚き火ではなく、もっと攻撃的な炎を頭の中に思い描けと言う。
攻撃的な炎…
そういや昔抗争中の族にひとし君の単車のオイルタンクに穴開けられて、気づかずに乗って引火して
炎の塊になって爆走した事あったっけな。よく生きてたなあいつ。
そんな事をぼんやり考えながら俺は手のひらを構えメラッと叫んだ。
出た。
炎の塊が船のマストを直撃する。燃えるマスト。じいさん慌てて手から氷の塊を発射し消化する。
じいさんとカンダタと船長が物凄い勢いで詰め寄ってきた。船を沈める気かと叫んでいる。
しかし俺にはそんな声まったく届いてなかった。出来たのだ。俺にも魔法が使えたのだ。
そこから二日後アリアハンにつくまで俺はひたすら練習を重ねた。徐々に火の玉も大きくなる。
俺は天才かもしれない。自分で自分の才能が怖いぜ。
しかしじいさんはそのくらいの魔法ならガキの頃にもうできたわいと言ってきた。黙れ。目の上のタンコブが。
アリアハンに到着する。
なかなかきれいな町並みだ。じいさんは王様に挨拶に行った。
おまえも来いと言われたが堅苦しいのはいやなんで一人でぶらつく事にした。
カンダタは腹が減ったとうるさいので50ゴールド渡してどっかやった。
きれいな町並みだがシケた所だった。強い武器もない。きれいなねーちゃんもいない。典型的な田舎町だ。
こうなったら昼真っから酒でも飲んでやろうかいと酒場に入る。町の規模にしちゃかなり大きな酒場だ。
そこは酒場兼人材派遣センターのような所らしい。冒険に出る人が有志を募れるシステムだ。
年齢や職業や性別を指定すると合致した人と出会える…え?これって出会い系サイトと同じじゃないか?
もしかして表向きは「冒険者の集まる酒場」だがほんとはただの出会い系酒場なんじゃないのか?
とりあえず俺も利用してみる事にする。
と、その時だ。奇抜なピエロの格好をしたかなり大柄な男に声を掛けられる。
どうやら仲間にして欲しいらしい。
腕には自信があるそうだが俺はこれ以上色モノが増えても敵わないので丁重にお断りした。
ジーッと見つめてくる。こっち見んな気持ち悪い。クソが。俺は仕方なく酒場を後にし城に向かった。
城に入り王の間まで行く。じいさんが王様と親しげに話している。しかしこのじいさん侮れない。
各国の王とここまで親しいじいさんは他にいるだろうか。食えないジジイだ。
その後王様と話し、勇者は北に向かったと聞く。北か。今出来ることは追う事だけだ。
この町にこれ以上いる必要もないと思い早速出発する。あっカンダタ忘れてた。
町中探し回ると結局さっきの酒場の中にいた。となりにはあのデカピエロがいる。
二人で酒を飲み意気投合しているようだ。バカ同士気が合うのだろう。
…嫌な予感がする…
案の定カンダタはこいつも連れてけと言う。じいさんはなぜかニヤニヤしている。
はいはい。もうわかりましたよ。好きにしてくれ。という事でまた一人舎弟が増えた。
見るからに怪しいピエロの大男。服装が服装だが相当なマッチョだ。
ん?この目どこかで見たことがあるような…いやいや俺にはこんな変態の知り合いはいないはずだ。
さて、町を出て北に向かう。振り返る。後ろにはヨボヨボじいさん、覆面パンツ男、ピエロの大男…
これから世界征服を狙う組織とはとても思えない。これは酷い。次はまともな舎弟を入れなくては…
しかし戦闘は楽になった。実際このピエロ男がバカ強い。大体の流れはこうだ。
まず敵を見つけるや否や俺、パンツ、ピエロが突撃して袋にする。それでも仕留め切れない場合、
後方からじいさんが炎なり何なりだしてTHE ENDだ。
魔物共も俺達の異様さとその強さに逃げ出す事も少なくない。
むしろ魔物の群れなんかより俺らの方が全然柄悪い。
特に強い魔物も出て来ず暇なので鬼浜軍事訓練を行いながら進む事にした。
軍事訓練と言っても要は俺がパンツ、ピエロとど突き合いながら進むのだ。
これがまたしんどい。この二人その辺の魔物より遥かに強い。
しかし俺も総長としてのプライドがあるため負けるわけにはいかない。
次の町に着いた時は三人とも血だらけのボコボコだった。
みんなやくそうをアホほど買って全身に塗りたくる。
その日は疲れたので宿で一泊した。
ー次の日の朝ー
その辺の人曰く勇者は「いざないのどうくつ」なるとこに向かったらしい。
何か痕跡が掴めるかも知れないので、そこに向かう事にした。
今日はど突き合いではなくじいさんに魔法を習いながら歩く。なんとなくコツがわかってきた。
要はイメージなのだ。
炎が上手くイメージできるやつは炎系の呪文が得意だ、
氷を上手くイメージ出来るやつは氷系の呪文が得意なのだ。
何にせよ、「イメージ」と「確信」と「集中力」が大切なのだ。
俺はやはり天才なのかもしれない。そんな事を考えているうちに洞窟についた。
薄暗い陰気な感じの洞窟だ。
洞窟の中にもじいさんがいたが俺はもう年寄りはお腹一杯なので無視した。
いかにも怪しい爆弾によるだろう吹き飛んだ壁を抜けしばらく歩くと紫色の角うさぎが数匹でてきた。
どうせ雑魚だろうといつものように三人で突撃する。
ラリホー
何故かそこからの記憶は無い。目が覚めるとじいさんが一人でゼーゼー言いながら汗だくで立っていた。
じいさんはキレ気味で初めての敵にはもっと慎重にだの何だの説教を始めたが無視した。
鬼浜には特攻あるのみだ。これだから年寄は嫌いだ。
洞窟を抜ける。妙に懐かしい感じが。とりあえず近くの町に…っておい!ここバカ王の城じゃん!
ピエロがここは無視して先に進もうとしきりに主張する。何故だ。まあいい。
俺ももうこの町に特に用は無いし先に進む事にした。
しかしこのまま北に行くと俺が初めてこの世界に来た町に着くな。ジジイは元気でやってるだろうか。
いやそんな事よりもあのバニーの姉ちゃんはまだあの格好で仕事してんのだろうか。
そう考えると足取りが軽くなる。軍事訓練にも気合が入るというものだ。
三人のボルテージも飛躍的に上がっていく。
町に着く頃には三人ともボロ雑巾のようだった。
このままいくと訓練中に死人が出てもおかしくないかもしれない。
町の中に入る。いきなりガキとすれ違った。
ガキはヤンキー、パンツ、ピエロという三人組を目の前にして固まった。
そりゃそうだろう。正直俺も怖い。まだ酒場は開いてないようなので教会に向かう。
ジジイに再会する。まだ生きててくれたのかと喜ぶジジイ。たりめーだろうが。
ジジイの話によるとこの町に三日前勇者が来たらしい。
なんて事だ。クソ入れ違いかよ…勇者はさらに北の村へ向かったそうだ。
が、その村は数週間前に魔王に滅ぼされた町だというのだ。
一応止めたが聞かずに行ってしまったらしい。
それならまだその辺にいるのかもしれない。これは追いつけるぞ!俺達は急遽そこに向かう事にした。
その村には半日程歩くとついた。
そしてそこで俺は自分の認識の甘さを思い知る。
村。
いやもうそこはそう呼べないだろう。
民家は原型を留めていない。生々しい血の痕がそこらじゅうにある。
魔王はやはり魔王だった。生易しい相手ではなかった。ひとまず村を一周してみる。
普段は陽気なパンツもピエロも終始無言だった。
しかし気になるのは血痕の多さの割には死体が一つもない。
答えはすぐそこにあった。
そこには墓を掘る一人の少年の姿があった。
おそらく村に着いてからずっと掘り続けてたのだろう。
服は真っ黒で顔は疲弊しきっている。だが目は凄まじく澄んでいた。
それをみたパンツとピエロとじいさんが無言で墓堀を手伝う。
墓堀が終わった。少年がこちらに向かいありがとうと言う。
…え!?その声は少年ではなく少女のものだった。
この子が勇者のようだ。
俺は全身ありえないくらいの脱力感に襲われた。屈強な大男との死闘を想像していたのだ。
俺がこんな女の子をぶん殴ったらそれこそ問題じゃないか。犯罪だ。こいつを倒す必然性は無くなった。
パンツが話しかける。じいさんも色々聞きたい事があるらしくこの子に駆け寄る。
話の内容は大体こうだ。
何故一人旅なのか。この子は先代勇者の娘らしい。
それで常に魔物に狙われるのでできるだけ他の人を危険に晒したくないと。
それで16歳になり先代が旅に出たと同じ年齢なったので旅に出たと。
俺は無性にむかついた。この世界のやつらはみんなそうだ。「勇者」という名にすがりたがる。
実際16歳のガキに一体何を望むのだ?魔王がムカつくなら自分で喧嘩売りにいけばいいじゃないか。
世間の理不尽さはどこの世界も変わらないようだ。と、その時、
カカカこれはこれはこれは勇者サマ!
突然背筋に寒気の走る声がする。振り返るとそこには腕が6本ある骸骨二体と覆面魔術師が立っていた。
この村を襲った残党だろうか。
コンナところで出くわスとハ! その首ヲ我が主への手土産にシましょうカ!
俺達は無言で武器を構える。しかし皆顔に余裕がない。それもそのはずだ。こいつら雰囲気がかなりヤバイ。
明らかに今までの敵とは次元が違う。
均衡状態を撃ち破ったのはじいさんだった。じいさんの手から巨大な火の玉が発射される。
骸骨はそれをかわす。その瞬間残りの4人が飛び掛った。てつのおのにかなりの手ごたえがある。
やったか!?
残念ながらさほどダメージは与えられなかったようだ。逆にパンツとピエロが血を流している。
あの状況できれいにカウンターを決めやがった。こいつマジで強ええ。
じいさんが今度は強烈な氷の突風を放つ。これはかわしようが無く骸骨はその場でふんばり耐える。
このチャンスを逃すまいと俺は骸骨の脳天に全身全霊を込めて一撃を見舞った。
そこにパンツ、ピエロ、勇者と続く。骸骨の6本の剣が踊る。
俺は全身なます切りになりつつも骸骨に留めの一撃を決めた。
もう一体は!?
振り返るとじいさんが必死に杖で対抗している。が、体には深い斬り傷が刻み込まれていく。
骸骨が剣を振り上げじいさんの頭に狙いを定めた瞬間、パンツが後ろからはおい締めにした。
パンツGJ!
骸骨の剣がパンツに深々と突き刺さる。しかしじいさんの火炎球が至近距離で骸骨に直撃する。
骸骨は体半分吹き飛ぶ。
勝った…
辛勝だ。なんとか退けた。鬼浜軍事訓練もあながち無駄ではなかったようだ。
しかしダメージがでかい。とくにパンツとじいさんの傷がひどい。ありったけの薬草を塗り込む。
ひとまず危機は去った。みんな安堵の表情を浮かべる。
…しかしそれはすぐに打ち消された。
そこには見たことも無い魔物の群れを引き連れ薄ら笑いを浮かべる魔術師がいた。
増援。
絶望。
皆一応武器を構える。もう顔に覇気が無い。くそっ俺の野望はこんなとこで潰えるのか…。
誰もが諦めたその時、じいさんがおかしな事を言い出した。
俺の目を見て
いいか
魔法で一番大事なのは信じる心だ。
おぬしは絶対にわしをも越えるだろう。何か普通の人とは違う素質がある。自分の可能性を信じろ。
そして勇者に向かい
父は誰よりも強く、そして優しい立派な男だった。
その存在が重荷に感じることもあるだろうが自分の血筋に誇りを持ちなさい。
パンツにも
この世に意味の無い事などない。おぬしのその人並み外れた腕力にもな。
勇者とこれからも旅を続けなさい。さすれば自分の生きる意味を知るであろう。
最後にピエロに
さらば我が戦友にして親友よ。一足先に向こうでまってるぞ。
と言ったと思うと魔物の群れに向かって駆け出した。
メガンテ
数十秒だったのだろうか。数時間だったのだろうか。
一瞬とも悠久ともとれる時の後、そこには何もなかった。
あるべきはずのものは何もなかった。
パンツは大声を上げて泣いている。ピエロは恐い顔をして考え込んでいるようだ。
勇者は涙ぐみ俯いている。パンツと勇者は口々に魔王軍絶対許さないと言う。
違う。
悪いのは魔王軍ではない。
俺だ。
俺が弱いから悪いのだ。結局これは弱肉強食の潰し合いなのだ。
この村の人も、じいさんも相手より強ければ死ぬ事はなかった。俺は自分の弱さが許せなかった。
何が鬼浜だ。何が世界征服だ。自分の舎弟の命すら守れなくて何が総長だ。
これは相手からの強烈な宣戦布告だと受け取った。俺は売られた喧嘩は必ず買う男だ。
魔王…絶対原型わからなくなるまでぶん殴ってやる。顔面ボコボコに凹ましてやる。
あああああああああぁぁあああぁああああああ!!!!!!!!!!!!!!
突然俺は叫んだ。頭の血管ブチ切れるくらい腹の底から叫んだ。
パンツと勇者はビクッとなりこっちを見る。俺は空に向かってさらに叫んだ。
新鬼浜爆走愚連隊総隊長、魔王のとこまでブッこんでくんで夜露死苦!!!!!!!!
規制かかった?
一応支援・・・。
じいさん…
こうなることは知ってたけど
切ないな…
続きが待ち切れなくて
つい保管庫読み返してしまうんだが
展開変わったりするのかな
>王冠を盗んだカンダタ、盗まれた王様、取り返した俺という異色中の異色の組み合わせ
なんだこの宴会wwwww腹筋痛いwwwwwwwwww
笑いながら読んでたらじいさんが…そんな…
>>425 大筋は変わんないよ!でもキャラの性格なり矛盾点を解消するために細かい所をいかなりいじってます
元々が今は昔の初代スレを埋めるために書いたものだったので長編になると色々問題が…w
では続き投下します
その後、俺達は村の中央にじいさんの墓を作った。
そして村を離れ一旦ジジイのいる町まで戻る。
ジジイはじいさんが減ってる事に気づいたが俺らの表情から事を察し静かに十字をきった。
深夜鬼浜会議が開かれる。ピエロは気になる事があるので城へ帰ると言う。
今まで黙っててすまないが、実はお前らが立ち寄ったロマリアと言う国の王様だったんだと告白する。
…いやいやわざわざ告白せんでも未だに気づいてないヤツなんていねーよ…
そんなヤツは正真正銘本物の極限のバカだ…
隣でパンツが驚きの声を上げる。
………。
勇者はまた一人旅を続けるらしい。ちょっとまて。それは無茶だろ。
あいつらのバカ強さお前も身をもって実感しただろうがよ。一人とか死にたいのか?
俺はなんならお前も舎弟にならないかと誘う。勇者はキョトンとしている。
いやだからな?俺は世界征服する為に鬼浜という族を結成しててだな…いや族っつてもわからんか…
世界を救うとかまったく興味無いんだが魔王は邪魔だからどっちにしろイワしとかなダメだし、
おまえも魔王潰したいなら一緒に来るかって事!わかるか?
必死に説明する俺。勇者はやっと意味が飲み込めたのか笑顔になる。
是非仲間にして下さい!と言った。
ここで明確にしておかなきゃいけない事がある。世間では勇者様様だがここで一番偉いのは俺だ。
俺の事は総長と呼ぶこと、勇者だか何だかしらんが俺の方が偉いことを説明する。
勇者はニコニコしながらよろしく総長さん!と答えた。ちっなんか調子狂うな…
その日、鬼浜会議は深夜まで続いた。ピエロ改めバカ王からいくつかの提案があった。
一つ目はラーミアの復活。
よくわからんがラーミアっつーのは簡単に言うとバカデカい鳥らしい。
なぜそんな鳥が必要かと言うと、魔王のいる城へは空路でしかいけないのだ。
昔じいさん達が攻めてった時もこの鳥を使ったと言っていた。
デカいってどんだけデカいんだよ…人を数人乗せれる鳥なんてまったく想像がつかない。
人を乗せて飛ぶ巨大な生き物…
…モスラ。咄嗟に頭に思い浮かんだ。そうだきっとモスラに違いない。鳥とか言ってるけど
ほんとは蛾なんだろ。こいつはすげえ!モスラが復活したら魔王軍なんて目じゃねえ。
むしろちんけな城一つなんて簡単に壊滅させられるだろ!その後の世界征服も余裕だ!
これは非常に有益な情報だ。一気に俺の覇王への活路が開けた。
さあ復活だ。すぐ復活だ。どこにいるんだモスラは!さあ!どこに!
ちょっと総長さん興奮しすぎ!と勇者に諌められる。
ピエロの話によるとラーミアを復活させるには6つのオーブが必要だそうだ。
そのオーブはじいさん達が自分達で保管してたり元あった場所に安置したりで世界中にバラけてるらしい。
なんて事だ。
俺は大きな勘違いをしていた。まあ当然だ。モスラなんて現実離れした生き物がさすがにこの世界にも
いるわけが無い。オーブ…ボール…集める…集めたボールで復活…空を飛ぶ化け物…と言えば龍……三つの願い…
答えは一つに繋がった。どっちにしろ強力な味方に変わりは無い。
で、ひとつはロマリアにあるので取りに来いと言われた。
二つ目は戦力強化。今のままでは絶対に魔王軍に勝てない。強力な武器や防具が必要だ。
じいさんは生涯掛けて究極の魔法を研究していたので、イシスという国にある実家を訪ねれば
何か手がかりがあるかもしれないとのことだ。究極の魔法か。覇王たる俺にピッタリの響きだ。
何の手がかりもないしとりあえずイシスを目指すか。
その日はそのままジジイの家に泊まった。
パンツのいびきがうるせえ。
洗濯バサミでマスクの上から鼻を摘んだ。
………………。
三分後。
息をしていない事に気づく。あわてて洗濯バサミをとった。危うく永眠させる所だった。
ー次の日ー
朝食にはおなじみの野菜屑のスープが出た。それをたいらげると早速出発する事にした。
ロマリアに向かう道中勇者とピエロが勇者の親父の冒険について話していた。
ざっとまとめるとこういう事だ。
昔バラモスという輩が人間を滅ぼそうとした
当時16歳の勇者の親父はロマリアの王子(現ピエロ)世界でも有数の魔法使い(故じいさん)
それと「賢者」と呼ばれる何だか凄いヤツと旅に出て、長い冒険の末ついにバラモスを倒した。
世界に平和が訪れた。
そこから月日は流れ、現勇者が生まれた。誰しもがこの平和な日々に何の疑問も抱かなかった。
しかし危機は着々と迫っていた。魔物の活動がまた徐々に活発となる。
魔物は頻繁に「我が主」という言葉を口にする。
数年前、魔王の復活を直感した親父は単身旅に出た。そしてその後消息を絶つ。
大体こんな感じだ。それでじいさんもバカ王も旅に出るチャンスを伺ってたらしい。
なるほど。そのバラモスて奴が実は生きていて今また力をつけて暴れてるのか。
倒すべき敵の名前も判明した。バラモス…首洗って待っとけよ…
そうして俺達はロマリアに到着した。黄色いオーブを受け取る。
バカ王は大臣に物凄い勢いで説教されていた。どうやら勝手に旅立ったらしい。
なんて無責任な王なんだ。国民の今後が心配だ。そもそも何でこいつは王になれたんだ。
そんな事考えつつも俺は武器屋に向かった。
あった。
前回は貧乏極まりない為買えなかったドラゴンキラー。今ならギリギリ買える。おい店長これくれ。
断られる。
は?客寄せの為に一本だけ仕入れたモンだから実際に売る気はないだと!ふざけんな!!!
俺:ふざけんな!売れ!今すぐ売れ!
店:すみません無理です。
パ:売れ!あっしは大盗賊改め鬼浜の特隊カンダタでやんす!売れでやんす!
店:無理なもんは無理です。
勇:お願いします!私達の旅にどうしても必要なんです!
店:いいよ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????
何故だ!?店長を問い詰める。店長は言う。だってかわいいんだもん。
その後俺とパンツに袋叩きにされたのは言うまでもない。
その後の商談により俺達は店側の好意で500ゴールドでドラゴンキラーを手に入れた。
うむ。なかなかよい買い物だ。
こうして新しい相棒も手に入れ大満足の俺は一同東へ。目指すはイシスだ。
バカ王にオーブのついでに世界地図も貰った。
これで行き当たりばったりの冒険をする必要もなくなったようだ。
しかしこの勇者、筋肉ダルマのピエロ、火力抜群のじいさんの穴を埋めるのはキツイだろう。
ここからは苦しい旅になりそうだ。
気合を入れ直す。魔王にたどり着く前にくたばっちまうわけにはいかなからな。
取り越し苦労だった。
この女べらぼうに強い。
まず剣だ。筋力こそ欠けるものの抜群にスピードが速い。
俺は達人でも何でもないので素人じみた感想になるが、太刀筋が「活きて」いる。
おそらく血の滲むような努力とともに天性の才能もあるのだろう。
次に魔法。数種類の攻撃魔法を使いこなす。
だが何より驚いたのはこいつやくそうなのだ。やくそう魔法が使えるのだ。
ホイミ。それは優しい光と共に瞬時に傷を癒す。
もうやくそう買わなくていいじゃん。いいなそれ。おし俺にもその魔法教えろ。
勇者曰く、この魔法は「怪我をする前の姿」をイメージし、
傷口に手をかざしその姿と今の姿を一致させる事によりそれを実現させるようだ。
簡単そうだ。試してみる。誰も怪我してないのでとりあえずパンツぶん殴る。
ホイミ。
メラの件もあるので少し控えめに言ってみた。当然の如く何も起こらない。
パンツはくすぐったいと笑っている。
…まあこれはボチボチ練習してくか。俺に使えない魔法なんてあるわけいいんだから。最強且つ至高の天才の俺様に。
その日は一日中歩いたがまだまだイシスは遠そうだ。野宿する事にする。
しかし…じいさんとピエロが抜けて少しはまともになるかと思えばそうでもなかった。
ヤンキー、パンツ、少女。違った意味でヤバイ。犯罪の臭いすらする。
俺の世界だと確実にポリに呼び止められ、職務質問くらうだろう。
断じて俺達はこの少女をさらったわけではない。
更にその夜の鬼浜会議でとんでもない事が判明する。この女天然だ。清々しいまでの天然だ。
やべえ…このメンツヤバ過ぎる…
以下会議議事録。
俺:イシス遠いから途中アッサラームという町に寄ろうと思うがいいか?
パ:総長明日の朝はパンがいいでやんす。
勇:異議アリ。パンもう無いよ。野草摘んでスープ作ろうよ。
俺:いやだからアッサラームにだな…
パ:総長!パンを切らすのは緊急事態でやんす!キメラの翼で一旦戻りましょう!
勇:異議アリ!ここまできたのにもったいないよ!
だいたいカンダタちゃんがつまみ食いするから、すぐなくなっちゃうんでしょ!!!
パ:異議アリ!違うあれは毒見でやんす!みんなのためを思ってこその…
勇:いいわけしないの!ちょっと総長さん黙ってないでなんか言ってよ!
俺:…………。
もうこいつらに意見を求めるのはやめよう。信じれるのは己だけだ。何なんだこの孤独感は。
翌日俺達はアッサラームを目指す。パンツと勇者はまだ口論している。無視して先に進む。
途中パンツが地図を逆さに見ていて迷うというアクシデントもありつつアッサラームには三日後についた。
なかなか活気の溢れる町だ。
よく見ると俺の服ももうボロボロだ。この辺で新調したい。という事で店を探す。
あった。
店に入ると店主が話しかけてくる。妙に慣れなれしい。
あ?友達だと?おまえんか知らねーよどっかいけ。
どこの世界にもサイズ出しますよとか試着しますか的なうるせー!ゆっくり選ばせろ!てタイプの店員はいるようだ。
俺は真っ黒な動きやすそうな服を見つけた。なかなかいい感じだ。
おいこれくれよ。
え?38400ゴールド!?マジで!?…信じられない値段だった。
こいつニコニコしながらかなり悪どい野郎だ。俺をボろうとは舐めたやろうだ。
こんな店で買い物なんかするかいと店を去ろうとすると店主が友達だからまけると言ってくる。
友達だと…?そしてそこから交渉が始まった。
結局俺の巧みな交渉術(途中何度か俺とパンツの鉄拳が飛んだ)
により「くろしょうぞく」は800ゴールドで買う事ができた。
ついでに「てつかぶと」を200ゴールドで、「マジカルスカート」を400ゴールドで買った。
パンツ、勇者に渡す。
鉄兜にパンツ一枚の大男、ミニスカの少女、やたら眼つきの悪い一見モジモジ君にも見える俺…
ひょっとして取り返しのつかない事をしてしまったのではないだろうか…
帰り際店主に頼むからもう来ないでくれと土下座されたがおそらくまた来るだろう。
なんたって友達だからな。
道具屋にも寄るがこいつもさっきのやつの親戚らしく
俺とパンツの交渉術により破格の値段で売ってくれた。
とても良心的な店が多い町だ。世の中まだまだ捨てたもんじゃないな。
町の人の話によるとイシスはここから西の砂漠にあるようだ。水と食料を大量に買いこんでおこう。
その日は宿をとり、翌朝出発する事にした。一同歩き疲れたのか早々にベットに入る。
明け方鋭い空気を裂く音で目が覚める。窓の外を見ると勇者が必死に素振りしていた。
この子は強い子だと思っていた。
一人で旅に出て、数多くの魔物を倒し人から尊敬を集める。
だが本当はプレッシャーに押し潰されそうになってたに違いない。そもそもたかだか16歳だ。
俺の世界の16歳なんてバカ女子高生の極みだ。
携帯いじり髪を染め顔にとんでもないペイントしてヘラヘラ遊びまわっている年頃だ。
俺が16の時なんて朝から晩まで道場で親父にしごかれ、
学校はほとんどさぼり深夜単車で走り回っていた。
何だか無性に体を動かしたくなった俺はそこからニワトリの鳴き声が聞こえるまで延々と筋トレをした。
しえん
支援
……………………。あちい。
完全になめていた。砂漠。見渡す限り砂漠。歩けど歩けど砂漠。
灼熱の太陽が容赦なく降り注ぐ。ほんとにこんな地獄の向こうに町などあるのだろうか?
俺達は砂の山を登ったり降りたりしながらひたすら西を目指した。
目の前に何匹かのカニがあらわれた。
涎を垂らし目は完全にイってちゃっている。カニの分際でラリってんのか?
俺は先頭きって切りかかった。只でさえ熱い。頭に完璧血が上っている。
ドラゴンキラーを手に入れてからというもの苦戦した記憶がない。
どうせこいつらも瞬殺だろう。
スクルト
?
スクルトスクルトスクルト
????
カニの分際で何かしらの魔法を唱えやがった。
生意気な魚介類め。まあどっちにしろ俺のドラゴンキラーに敵は無い。
大きく振りかぶると腰を入れて目一杯突き込んだ。金属音と共に派手に弾かれる。
硬い。こいつら異常に硬い。なんじゃこりゃあ!!!!?????
カニ如きが俺の攻撃を…天下無敵総隊長の俺の攻撃を…
へこんでいる間に勇者が冷静に強烈な閃光で他のカニを焼き払った。
そっちも援護しよっか?とアイコンタクトを送る。
いらん。
これは俺とカニと男の意地を賭けたタイマンなんだ!
俺は狂ったように殴りまくった。カニはまったく涼しい顔をしている。
あっこいつ今笑いやがった!明らかに俺の事バカにしてやがる!甲殻類の分際で!
クレバーな俺は魔法に切り替える。くらえ!メラ!
多少効いたようだが火力が足りない。ちくしょうどうすればこいつを倒せる!?どうすれば!?
んメエエエェエエエラアアミィイイ!!!!!!!!!!
極限状態の俺はとっさに叫んでいた。
じいさんの見よう見まねだ。俺の手からメラの数倍はある火の玉が飛び出す!
カニは一瞬にして灰になった。出来た。出来てしまった。
勇者はすごいすごい!と手を叩く。はっはっは当然だろうが俺を誰だと思ってやがる。
戦闘後、パンツがこのカニ食えそうだと言い出す。おいおい勘弁してくれよ…
俺と勇者は断固拒否したのでパンツはふてくされながら一人で食っていた。
ありえない。今後もできるだけ距離をおこう。ていうか何でコイツ舎弟にしたんだろ…
ちなみに味はうまかったらしい。
一日中あてどなく歩きついに陽が暮れた。
しかしビックリした。砂漠の夜はハンパなく寒いのである。
今日はもうここで寝る事にした。三人身を寄せ合い寒さを凌ぐ。こんな状況なのに勇者は楽しそうだ。
聞くと「仲間」がいる事が嬉しくて仕方がないらしい。
あっそうかこいつずっと一人で旅してたんだっけ。
急に表情が曇る。私のせいで魔物に狙われてみんなを危険にさらすのが怖いと言う。
アホかこいつ。
俺は勇者を軽く小突く。
舎弟の分際でいらん心配するな。おまえ俺をなめてんのか?天下の鬼浜の総長様だぜ!
勇者は笑顔でありがとうと言った。これからもほんとによろしくねカンダタちゃん!総長ちゃん!
…このアマついに俺までちゃん付けしやがった…しかしこの笑顔を見てると何も言い返す気がなくなる。
ちっ…ほんと調子狂うぜ。
ー次の日ー
魔物を蹴散らしながらあいかわらず西を目指していた。遠くにぼんやりとだが町が見える。
みんなのテンションが一気に上がる。結局町に着いたのはその日の昼過ぎだった。
砂漠の町イシス。
俺達はじいさんの家を探すべく聞き込みをする。
ああ大魔導師様の家ですね。この路地のつき当たりですよ。
…大魔導師様!?あのじいさんが!?
情報通り進むとそこには家があった。かなりデカイ。困った事に入り口には鍵がかかっている。
扉の前で考え込んでいるとパンツが不思議そうな顔で近づいてくる。
バキッ
錠前ごと引きちぎった。こいつには「鍵」という概念が無いようだ。
結果オーライて事で俺達は中に入る。
一部屋一部屋見て回るが特に変わったものはない。
一番奥の部屋に入る。ここが最後だ。
うわっ汚ねえ。
そこには本だの巻物だのが散乱していて
よくわからない実験器具のようなものが部屋中を埋め尽くしていた。
何か手がかりになる物はないかと足元の本を拾ったその時、
おい!そこで何をしている!
振り返ると数人の兵士がこっちを睨んでいる。何をしてると聞かれても返答に困る。
怪しいやつだ。さては魔導師様の研究を狙う賊だな?こっちに来い!
近くにいた勇者の手を引っ張る。連行する気だ。俺は反論した。
何だと!俺達のどこが怪しいと言うのだ!どこが怪し…どこが…怪…
明らかに怪しい。
思いっきり不法侵入だ。バカパンツが鍵ぶっ壊してるし。
結局俺達は城まで連行された。そして王の前に突き出される。
驚いた事に目の前にいたのは超絶美人の女王だった。
思わず見とれてしまう。
パンツなんて興奮しすぎてその場でスクワット始めやがった。周りの視線が痛い。
俺はこのままだと牢獄行きなので今までの経緯を必死に説明した。
……じいさんの死はさすがに衝撃だったようだ。その場の空気が一気に重くなる。
そんな話信じられるかと言っていた側近も勇者の目を見るなり黙りこくった。
なんかこいつの目には人を信じさせる力があるんだよな。
勇者は続ける。
魔王を倒すためにはどうしても力が必要なこと。じいさんの家には何かヒントがあるかもしれないこと。
女王は口を開く。
…いいでしょう。魔導師様が命を賭けて守ったあなた方を信じましょう。
何か困った事があったらいつでも力になります。
わーお。顔だけでなく性格もいい女だ。惚れた。世界征服の暁には是非俺の女に…
ちょっと総長ちゃん何ニヤニヤしてんの?気持ち悪いよ早くいこーよ!
そうして俺達は再びじいさん宅へ向かった。
例の部屋に着く。
みなそれぞれ散乱する本やら巻物を調べていく。パンツはどっかに行ってしまった。
まああいつに本を読めという方が酷だろう。
正直俺もかなり眠い。勇者は何か見つけたらしく読みふけっていた。
数時間後。
夢の世界にいた俺の頭に一本の巻物が落ちてきた。いてーなコラ。燃やすぞ。
まさにメラを唱えようとしたその瞬間ひとつの単語が目に留まる。
「究極攻撃魔法」
…究極攻撃魔法!?
究極の破壊力を持った攻撃呪文。
それは我々魔法に頼る者にとって生涯の研究課題であり夢である。
現存する魔法で最高の破壊力を持つのはメガンテであろう。
これは詠唱者の生命エネルギーを燃料にして
大爆発を起こす呪文である。
しかしこれではリスクが大きすぎると考えた古代の賢人達は
生命エネルギーの代わりに
精神力そのものを燃料に出来ないかと考えた。
そうして完成したのがマダンテである。
マダンテ。
それは使い手の精神力すべてを一瞬にして
増幅、圧縮開放してしまうのだ。
威力が使い手の精神力に依存する事、
「一瞬で精神力を開放する」ためには人並み外れた集中力が要る事、
そして何よりその後しばらく一切の魔法が使えなくなる事。
これは術使用者にとって致命的ではあるが、
その威力はそれを補うには十分であろう。
私の知る限りこの呪文を使いこなせた人間は一人しかいない。
もしあなたがこの呪文を使いたいと願うのなら、
日々の精神鍛錬を怠らない事だ。
そして何よりも重要なのは呪文の反動に耐え得るだけの
強靭な肉体が必要とされる。
想像を絶する心身の修練の果てに習得が可能な
まさに究極の呪文なのである………
その後は修行の方法やら何やらが延々と書いてあった。
とりあえずこの巻物は貰っておこう。俺ほどの才能があれば使えるに違いない。
俺はその後も部屋を物色した。と、その時パンツが勢い良く部屋に入って来た。
両手には何かゴチャゴチャ何か抱えている。
暇だから他の部屋で使えそうな物を取ってきたというのだ。
さっき回った時はまったく気づかなかったのに。
こいつ頭は悪いがお宝を発見する事にかけては天才なのかもしれない。
飽きてきた俺はパンツと一緒にチェックを始めた。
とんでもないものを見つける。これ例のオーブじゃねーか!?
そうかじいさんもひとつ保管してたのか。あっさりと緑色のオーブを手に入れた。
だがしかし他はすべてガラクタだった。やはりパンツはパンツだった。
勇者は気に入った本が何冊かあったらしくいくつかの収穫を得て俺達はじいさんの家を後にした。
その夜も宿屋で鬼浜定例会議が開かれる。ここで初めて勇者がまともな意見を出した。
支援
どうやら賢者に会いたいらしい。
賢者とは勇者の親父、バカ王、じいさんと共に魔王を倒したあの賢者だ。
じいさんの本によると魔王を倒した時賢者は約300歳らしい。
300歳!?どんなアグレッシブなジジイだよ。
きっと俺達の旅の助けになる何か知恵を授けてくれるんじゃないかと勇者は言う。
俺は個人的に300歳の人間というものが見てみたかったので次の目標は賢者に会う事になった。
ー次の日ー
俺の独断で出発する事を女王に挨拶がてら伝えに行く。相変わらず美人だ。
一応賢者について何か知らないか聞いてみた。
ここから遥か東に「ダーマの神殿」というとこがあってそこの神殿長がかなりの物知りらしい。
そいつなら何か知ってるんじゃないかという事だ。この美人が言うんだから間違いない。
俺は3秒で次の目的地を決めた。
もう砂漠は懲り懲りなので羽を使ってアッサラームまで戻る。
パンツはカニが惜しいのでもう一度砂漠に行こうと言う。
…こいつ砂漠に捨ててきたろか。
友達の店にも寄ろうと思ったが勇者が頼むからやめてくれと言うので即出発した。
本日はここまでです
途中の支援ありがとうございました!
マジで20行規制がひでえ…読みにくくてスマンorz
>>456 ぅぅぅううううううううおおおおおっつううううううぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!
久し振りでも面白かったあ!
やっぱり総長いいなぁww
パンツwwwww
あと、ひとし君が気になってしょうがないw
ちょww友達ってwwwwwww
ひでえwwwww
>>456 総長久しぶり
やっぱこの作品おもしれーわ
初代スレの埋めネタだったのが懐かしい
久しぶりに来たら総長復活してる!?
応援してますんで頑張ってください!
総長の話読んでると泣かされたり笑わされたり忙しいw
>>463 うおおおおおうめえw丁度物語の今頃はそんな感じですよ!
絵とかマジ感激!
では続きを投下します
ダーマにはここから東の洞窟を抜けてくらしい。一同洞窟を目指す。ここで魔物の群れが現れた。
むさい鎧野郎とキモいでかいイモムシ。そして空飛ぶ猫だ。この猫かわいい。もの凄くかわいい。
俺が猫に見とれてる間にパンツは鎧男と取っ組み合い、勇者はイモムシを焼き払っていた。
二人とも相手を仕留める。
二人の視線が俺に集まる。
駄目だ出来ない。俺にはこんな愛くるしい猫を斬る事など…
ザクッ
猫の爪が俺の顔にめり込む。痛い。ザクッ。痛い。ザクッ。痛い。ザクッいた…
まったく反撃しない俺をみてパンツは大声を上げて猫を脅かす。猫はビックリして逃げて行った。
戦闘後。
俺は勇者に叱られ列の一番後ろに並ばされた。なんなんだこの不当な扱いは。おれがボスなのに。
その後三日程歩きバハラタに到着した。ここは「くろこしょう」の名産地らしい。
今日は一日ここで休憩して明日の朝出発するか。
何気に武器屋を覗いてみる。なかなかいい品揃えだ。
道具袋の中を見ると2万ゴールド程貯まっていた。
どこの店も俺とパンツをみるとサービスしてくれるので、金は貯まる一方なのである。
ありがたい事だ。パンツがバカデカイはさみのような武器を持ってきた。
おいおいその格好にその武器は変質者のレベルじゃねーよ。俺はやめとけと言った。
しかしパンツは買ってくれるまでここを動かないなどとガキみたいな事言うので仕方なく買ってやった。
今後コイツとはマジでなるべく離れて歩こう。
俺と勇者は「まほうのたて」を買う事にした。
しかしさっきの出費もあるのに一つ2000ゴールドは高い。
おいこれ二つで2000ゴールドに負けてくれ。
店長はまさかそれはできないと言う。
が、後ろでパンツ一丁でおおばさみをジャキジャキ鳴らすパンツを見てひきつった顔で負けてくれた。
そして俺達が店を出るや否や鍵を閉め「本日はもう閉店しました」という張り紙を貼った。
せっかちな奴だ。
そうして街中をウロウロした後、夜になったので宿屋に向かった。
宿をとった後腹が減ったので酒場に向かう。そこで俺は運命的な出会いを果たす。
ここの肉料理はヤバイ。地肉とくろこしょうの絶妙なコンビネーション。
俺達三人は久しぶりの御馳走を堪能した。
パンツはこれは上質の牛肉だとかこの味加減は中々だせないとか知った風な口を聞きやがる。
モンスター食ってうまいとか言ってた奴がなに言っても説得力ねーよバカ。
結局最高の肉料理の魔力により町を出たのは二日後だった。
俺達は町人に言われた通り橋を渡り北上した。段々と山道になる。砂漠の次は山越えか。正直萎える。
前の方でパンツと勇者が何やら楽しそうに話ている。ちなみに俺はまだ最後尾のままだ。
そろそろいいんじゃないかと思い勇者に聞いてみた。
俺前行ってもいい?
ダメ。
わかった。
確認しておくがここのボスは俺だ。
しかし後ろからだと二人の闘いっぷりがよく見える。
勇者の剣技は相変わらず冴えている。日に日に力強さが増しているようだ。
一方パンツは…いっつも隣にいたため気づかなかったがこの男計り知れない。行動が読めない。
まずムカついたのがせっかく買ってやった「おおばさみ」をほとんど使わない。
どんな敵にもボロボロのてつのおので殴りかかる。
本人曰く相手によって使いわけているらしい。おまえ明らかそんな頭脳派じゃないだろ。
やっと使ったかと思うとそれを両手で持ちそのまま殴りかかる。
その武器ってそうやって使うのか?それならてつのおのでいいんじゃないか?
おそらくこいつに拳銃渡そうが機関銃渡そうがそのまま殴りかかるであろう。
こいつはそういう男だ。そうこうしてるうちに俺達はダーマ神殿に着いた。
ダーマ神殿。
相当古い造りの神殿だ。中には冒険者と思われる奴らが結構いる。有名な神殿のようだ。
中に入り道並みに進むと祭壇があり上に人がいた。こいつが神殿長か。
まぶしい。
ハゲだ。バーコードだ。
どんな偉い神殿長か知らないがそのバーコードっぷりはもろに俺のツボにはまった。
まともに顔が見れない。
必死に冷静を装う。…ふう。もう大丈夫だ。よし。顔を上げる。が、次の瞬間
ぶほぉッぐへへへへへっうびゃっぱっ
パンツだ。このバカが…せっかく俺が精神を集中させて笑いという雑念を消したと言うのに…
パンツは腹を抱えて笑い転げている。お月様が!お月様が!とか言ってやがる。
俺も気持ちの糸がプッツりと切れた。神殿内を這いずり回って笑い転げる俺とパンツ。
そして数分後見事につまみ出された。ガッデム。
そしてさらに数十分後神殿から出てきた勇者に正座させられ俺達は延々と怒られた。
ここのボスは俺のはずだが最近は自信が無くなってきた。
勇者の話。
賢者は隠居してここからさらに山道を行った北の塔に住んでいる。また山道か。鬱だ。
山道と聞いてほんとは神殿で休憩して行きたかった所なのだが
あのハゲと目を合わせる自信が無いため仕方なく出発する。
パンツはまだ笑っている。…こいつ本気でこの山に捨ててったろか…とにかく俺達は出発した。
相変わらず後列で戦闘に参加させてもらえない俺は暇なのでこっそり「ホイミ」の練習をしていた。
俺にはこの呪文は向かないのか。
破壊的なイメージはすぐに湧くのだが「治癒」がどうしてもリアルにイメージ出来ない。
ちょうど前でパンツが勇者にホイミをかけてもらっている。
そういや昔ひとし君と喧嘩して刺されて入院した時看護士さんに包帯代えてもらったっけか。
そんな事ボーっと考えながらホイミっとつぶやく。一瞬だが青白い光が俺の掌から放たれた。
…わかった。
そうかコツは「病院」だ。そして俺はもっと重要な事に気づいた。所詮俺は余所者である。
魔法を使う際この世界のモノをイメージしてもうまくいかないのだ。
単車なり病院なり自分に身近だったものを強くイメージし、それを具現化する。
つまりのとこ「魔法」とはそういうものなのだ。
こんな事に気づいてしまう自分の才能が怖いぜ。
俺は自分の天才ぶりにニヤニヤしながら歩く。勇者が心配そうに近寄ってくる。
総長ちゃん大丈夫?どっか頭打った?ってどういう意味だよオイ!
おまえらの方がよっぽど人としておかしいから!
その後さすがに疲労の見える二人にかわりようやく先頭に復帰した。
久しぶりの出番に暴れまくる俺。
相棒のドラゴンキラーもすこぶる調子がいい。
デカ猿だろうがデカアリクイだろうが俺のドラゴン正拳突きの前に敵はいない。
圧倒的な強さで蹴散らして俺達は順調に塔を目指した。
そこからどれだけ歩いただだろうか。山道の上り下りを繰り返し遂に塔の前に立つ。
でけえ。
早速塔に入ろうとした。が、ドアが開かない
今回ばかりは相手がデカ過ぎてパンツの怪力も通用しない。
仕方ないので辺りを一周してみることにした。ちょうど入り口の反対側に一軒の家があった。
もしかしてここが賢者の家か?ドアをノックする。
出てきたのは300のジジイとはかけ離れた若い女の人だった。
女の目は固く閉じられている。とりあえず話かける。おいここは賢者の家か?女はコクリと頷く。
じゃあ話は早い。おい賢者に会わせてくれ。女はまたコクリと頷き家の中に手招きする。
おかしい。実におかしい。事が順調に運びすぎる。俺達の旅ではありえない展開だ。
絶対何か落とし穴があるに違いない。
まあ尻込みしてても仕方ないので入るか。
中は普通の民家と変わらない。と奥の部屋から一人の男が出てきた。イケメンだ。
青い目、整った顔、金髪のロンゲ、長身。…なぜか無性にムカつく。
俺は基本的にイケメンが大嫌いだ。
とりあえずガン付けつつ話かけた。
おい賢者に会わせろやイケメン君よーちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねーぞコラ。
イケメンはプッと吹いた。
あああ!!!??なんじゃ純日本人顔純日本人体型の俺がそんな面白いか!!?
明らかに見下されている。ここでなめられてはいけない。
俺がまさに胸倉を掴もうとした瞬間みんなの視線に気づいた。
みんな揃ってイケメンを指さしている。
俺は5秒ほど考えた。そしてある一つの結論に至った。
…こいつが賢者なんすか?…
あり得ない。…絶対あり得ない。こいつが300歳とかあり得ねえ!!!!
一応確認する。
おいおまえが賢者なのか!?イケメンはニヤニヤしながら頷く。
こいつ賢者だか何だか知らないがムカツク…何だこの人を小馬鹿しにた態度は!?
勇者が駆け寄ってきイケメンに話かけた。
長くなりそうなんでテーブルを囲み茶でもシバキながら話す事になった。
そしてその話の中で俺は心臓止まるくらい驚いた。いやマジで。
まず何よりも一番ビビッた事。
このイケメンとうの昔に死んでるらしい。俗に言う「幽霊」というやつだ。
元々はすげー魔法使いで寿命を迎え死ぬ時にこの世界の神様(例の精霊ルビスと言う奴だ)
から精霊となり世界に危機が訪れる度にその危機を救うという使命を与えられたとの事だ。
なんてスケールのでかい野郎だ。
だが前回の戦いで力の大部分を使い果たしたため今は魔力の込められたこの塔周辺でしか
自分を保てないらしい。幽霊も色々大変だな。
そしてこの女(よくみるとかなり美人。しかも年上。俺の好み180%超)はイケメンの娘だとのこと。
といっても実の娘ではなく、前の戦争の孤児で賢者が引き取って育てたようだ。
魔物に襲われたショックで視力を失ったがイケメンとの修行で「心眼」を会得して
今では世界有数の「僧侶」らしい。やはりこの女も只者ではなかった。
その後もここに俺達が来ることは予言で知ってたとかごちゃごちゃ言ってた。
まあ俺はあんま真剣に聞いてなかった。はいはいイケが何か難しい事言ってますよ。
そして最後に一言。私はもうついて行けないのでかわりにうちの娘を……
!!!????
うちの娘を連れて行って欲しい。我が娘であり愛弟子だ。きっと役に立つ。
……つまりて事はこのきれいなねーちゃんも参加すんのかよ!?イケメングッジョブ!
ようやく…ようやく鬼浜にまともな面子が追加されそうだ。しかも美人。やったぜ。
その夜はささやかな宴会が開かれた。
イケメンがつけたとかいうワインが出された。味はいいのだがやはりムカつく。
きまって顔がいい奴はワインに詳しかったりするんだよな。
ねーちゃんはわりと飲めるクチのようだ。勇者はヘラヘラしてる。
久しぶりのアルコールだ。がぶ飲みする俺。お約束通り意識が飛ぶ。
‐次の日‐
頭は痛いが爽やかな朝だ。
さて新メンバーも加わったとこで楽しく出発するか。俺はベットから降りて下に向かう。
もう勇者とねーちゃん旅の準備を済ませ待っていた。
じゃあ行ってくるね!総長ちゃんもカンダタちゃんも賢者様の言う事聞いてしっかり修行するんだよ!
……???????
状況がまったく飲み込めない。あっ行っちまった。どういう事だ。
呆気にとられてる俺を見てイケが口を開いた。
…俺が酔いつぶれてる間に話は進んでたらしい…
まとめると
・勇者とねーちゃんは引き続きオーブを探す旅に出る。
・俺とパンツはここで修行する。
ということだ。ちょっと待て。何が悲しくて男三人で山篭りしなければいけないのだ。俺も後を追うぞ。
追いかけようとする俺にむかってイケがボソッと呟いた。…マダンテ。 マダンテ!?
このイケなんとマダンテが使えるらしい。
ちゃんと修行をこなせば俺にも使えるようにしてくれるという。俺は悩んだ。
やはり世界征服及び魔王をボコるために強力な魔法は必要だ。
俺ほどの才能があればすぐに覚えれるだろう。とっとと済ませて後を追うか。
ということで俺とパンツはここで修行する事にした。
そこから俺とパンツの苦悩の日々が始まるとはこの時は知る由も無かった。
このイケ洒落になんねえ。もはや修行という名の拷問である。
朝:ひたすら走る。山道をどこまでも走る。手を抜くと炎や氷の塊が飛んでくる。危ねえ。死ぬ。
昼:ひたすら闘う。イケが連れてくるよくわかんない魔物と闘う。強い。
負けたら死ぬから気をつけるようにと言われる。笑えねーよ。死ぬ。
夜:ひたすら寝る。死んだように寝る。
これの繰り返しだ。
本人曰く「健全な肉体には健全な精神が宿る」からまずは基礎体力から鍛えなきゃ駄目らしい。
俺は幾度と無く脱走を試みるがその度に捕まりボコボコにされた。こいつは絶対Sだ。極度のドSだ。
しかし珍しくパンツは文句一つ言わない。つらくないのかと聞いてみると飯がうまいから平気らしい。
なるほど。
おそらくこいつは魔王に最高級のステーキを食わせてやると言われたら簡単に寝返るだろう。
そうして一ヶ月ほど経っただろうか。
やっと次の段階に入る事になった。次の修行はようやく魔法の修行に入るようだ。
そしてここからはスペシャルゲストも参加するらしい。
どうせこのクソイケだからろくな奴じゃないだろう。何がスペシャルだくたばれ。
嫌な予想程的中する。
スペシャルゲストとして紹介された…そこにいたのはピエロだった。
おまえまた城から脱走してきたのかよ…
しかしちょっと雰囲気が違う。
どうやら塔の魔力により一時的に若返ってるようだ。ガタイが半端ねえ。
こうしてここからは魔法はイケと、格闘はピエロと地獄の特訓が始まった。
とりあえずとにかくピエロ強え。
こいつの全盛期はこんなに強かったのか。組み合っても普通に力負けする。チクショウ。
わしに勝てないようじゃ魔王になんて簡単にひねり潰されるぞだと!?俺の負けず嫌い魂に火が着いた。
同じ人間だ。本気を出せば負けるはずがねえ!その日からさらに「俺メニュー」として
別のトレーニングも追加した。ピエロ如きに負けてるようじゃこの先どうしようもねえぜ。
そしてイケ。こいつ笑えねえ。
よくわからん強力な呪文を連発してきやがる。危ないとかそんなレベルじゃない。
「実際にその呪文をくらって痛い思いをする事で覚える」のがこいつの教育のポリシーらしい。
いやいやその前に死ぬから…俺とパンツは毎日瀕死になりながら修行した。
後一歩で死ぬって絶妙のタイミングでイケメンが回復魔法をかける。生殺し状態だ。
徐々にだが俺の魔法のレパートリーも増えていった。
そしてさらに一月ほど経った。
正確な時間の経過はもう覚えていない。俺達は確実に強くなった。
パンツ。こいつヤバイ。もともとガタイよかったのだがここ二ヶ月でさらにでかくなった。
どのくらいヤバイかってもはや見た目人間か魔物かってわからんくらいヤバイ。
一人で町に入ったら町人総出で討伐されそうだ。
城とか絶対入れてくれなさそうだ。子供が見たら確実に泣き出すであろう。
支援
そして俺。
俺も確実に一回りでかくなった。
イケメンが変な種を調合した薬とか飲ますせいで飛躍的に身体能力は向上した。
おそらくこっちの世界でいうステロイドみたいなもんだろうか。
副作用が心配だ。ちょっと聞いてみる。最悪死にはしないから問題無いらしい。
それって問題無いって言うのだろうか。もうあまり考えない事にしよう。
俺達は幾度と無く死に掛け(死んだおじいちゃんにこっちきちゃだめだって言われた:パンツ談)
最終試練に入る事になった。最終試練とは塔の中で行うようだ。
ずっと近くにあったのに一度も立ち入る事のなかった塔。
ついにその中に足を踏み入れる時がきたようだ。イケは最初に俺に中に入るように言った。
大きな扉の前に立つ。
扉は簡単に開いた。中は真っ暗だ。しばらく足を進める。後ろの扉が消えた。
もう前進するしかない。暗闇の中をズンズン進む。
しかし真っ暗闇を長時間歩くと不思議なもので段々感覚が麻痺し出す。
どっちが前でどっちが後ろなのかわからなくなってくる。
さらに進む。
もう右も左もわからない。
さらにさらに進む。
ここまでくると自分が上に向かってるのか下に向かってるのかすらわからない。
もの凄く広い部屋の真ん中にいる気もするが細い平均台の上を歩いている気もする。
だがパニックではなく何故か心は落ち着いている。俺はひたすら奥を目指した。
どのくらい進んだだろうか。
急に視界がひらける。見覚えのある村。魔物に荒らされ破壊された村。
俺はその村を空中から見下している。なんとも不思議な感覚だ。やがて数人の人間が入ってくる。
あれは………俺だ。
おれとピエロとじいさんとパンツだ。体中から嫌な汗が噴出す。
勇者と出会う。
やめろ。
墓を掘る。
やめてくれ。
魔物と鉢合わせる。
もういいだろ。
俺達は命ギリギリで魔物を倒しそこへ増援が現れる。
絶望。
そしてじいさんの決断。
やめろおおぉおおお!!!!!!!!!!
しかし俺の声は届かない。激しい閃光と共にじいさんは魔物のと共に塵になった。
その後何回、何十回、何百回とその場面がフラッシュバックする。気が狂いそうだ。
俺は自分の弱さを呪った。俺が、俺が強ければ。もっともっと強ければ。
この先旅を続けるとまた誰かが死ぬのかもしれない。それはそれで仕方ないだろう。
強い奴が生き残り弱い奴は死ぬのだ。当然の事だ。だが、だが俺は納得できない。
自分の舎弟が俺自身の弱さの為に死んでいくの事など納得できるはずがない。強くなりたい。
誰よりも圧倒的に強くなりたい。俺は心の底から力が欲しいと渇望した。
思えば俺の人生は「強さ」へのあてつけだった。親父は小さな工場の社長だった。
豪気な性格に腕っ節の強さ。けっして裕福とは言えないがそんな親父を慕って
従業員も集まり幸せに暮していた。
だが突然王手の企業がそこに大きな工場を建てたいと言い出し親父に立ち退けと言ってきた。
無論親父は断る。そこから執拗な嫌がらせが始まった。裏に手を回され受注は激減した。
雪ダルマ式に増える借金。従業員も一人、また一人と去って行く。おふくろは過労で倒れた。
そしてそのまま帰らぬ人となった。あろうことかあいつらは俺のチームにまで目を付けた。
「鬼浜爆走愚連隊という暴走族は薬の仲介をしている」
事実無根のでっち上げだ。しかし世の中金というもので事実なんてどうにでも変えれるらしい。
俺は無実の罪で刑務所に入った。獄中に一通の手紙が来る。
親父が死んだ。
「リュウジへ
おまえが無実なのはみんな知っている。
馬鹿で喧嘩っぱやくて暴れまわっていたが薬なんぞに手を染めるようなまねは絶対にしない子だ。
俺が保障する。
おまえが仲間を守るため一人で無実の罪を被り刑務所に入った事を父は誇りに思う。
世の中汚い奴が多いがそんななかでもしっかりと自分の信念を貫いて欲しい。
日頃命は粗末にするななんて言っておいておかしいかもしれないが
おそらく私はもう長くない。最後に大きな花火を上げて一足先に母さんの所へ行く事にする。
工場は閉める。借金の事は何の心配もしなくていい。
刑務所には入っているが、出てきたら堂々と胸を張って歩きなさい。
リュウジの人生に何一つ負い目を感じる所はないのだから。
自分のやりたい事を見つけ、精一杯生きなさい。父は母さんと天国から見守ってるぞ。
父より 」
出所してから知ったのだが親父は自分の保険金で借金を返済した。
死因は原因不明の事故らしい。おそらく事故ではないだろう。
俺の工場兼実家はもう無くなっていた。その無くなったという事実が全てを物語っている。
そこにはただ馬鹿デカい無機質な工場があるだけだった。
そこからの俺の人生はひきこもり酒に溺れる毎日だった。
自分を責めた。身の危険を覚悟で交渉に行ったのかもしれない。
もしくは何かしらの弱みを握られて呼び出されたのかも知れない。一つ確実なのはその時に決死の覚悟で
この遺言ともとれる手紙を残した事だ。今となっては何が真実だろうとどうでもいい。
無気力でただ過ぎるだけの毎日を送った。いつ死んでもよかった。
………そして何の因果かこの世界に迷い込む。
俺はずっと考えていた。ベランダから落ちて何故あのまま死ねなかったのだろうか。
これはもしかして神様とやらがくれたチャンスなのではないだろうか。
結局この世界も元の世界と何も変わらない。
強い奴が弱い奴を喰いものにし、弱者は弱者で勇者にただひたすら救いを求める。
どっちも腐ってる。
なら自分で理想の世界を創ればいい。魔王を潰し自分がこの世界の覇者になればいい。
もう誰も俺の「弱さ」のせいで死なせたりはしない。
急に視界が変わる。
見下していた自分の視点に戻ったようだ。
じいさんが魔物へ向かって駆け出そうとした瞬間、俺が遮り逆に魔物の前に立つ。
目を閉じ精神を極限まで集中させる。
魔物のが一斉に飛び掛かる。
時間が止まる。いや、微かに動いている。自分以外の感覚が全てスローモーションになったようだ。
やるべき事は分かっている。心に思い描くまま叫んだ。
マ ダ ン テッッッ!!!!!!!!!!!!!!
叫び声と共に強力な光が発生しそれは球体となり魔物の群れの中心で爆発した。
閃光で視界が無くなる…
次に目を開けた時、そこはもうあの村ではなかった。
暗闇の中一冊の本がぼやけている。
俺は誘われるがままにその本を手にし、開いた。
ぼうっと扉が現れる。
開けるとそこにはイケメンとパンツが立っていた。
おめでとう。
イケメンがニヤニヤしながら手を叩く。こいつには言ってやりたい事が山ほどある。
なんなんだこの胸糞悪い塔は!俺は素でコイツをぶっ飛ばしたかった。イケが口を開く。
塔の中で何を見たのかは私にもわからない。
ただおまえは己の内面に触れた。答えを見つけるのは自分自身だ。
まったく何を言ってるのかわからない。意味不明だ。
ただ小難しい事をスカした顔で言ってかっこつけてるのはわかった。
これだからナルシストは嫌いだ。うぜえ。もう殴る気も失せた。
パンツが目をキラキラさせながら今度はあっしの番でげすねとか言ってやがる。
コイツはこの塔の恐ろしさを何一つ理解してない。
俺は軽く肩を叩き頑張れと一言だけ伝えた。パンツははいでやんすと意気揚々と塔に入って行った。
そしてその後塔から出てきたのは二日後だった。ちなみに俺は一週間だったらしい。
なんというかパンツの目付きが違う。
脱力しているようで、それでいて鋭く、隙が無い。全てを悟った顔をしている。
きっとこいつも塔の中で想像を絶する体験をしたのだろう。
俺は初めてパンツに感心した。
こいつは普段チャランポランだが色々辛い経験をしてきたに違いない。
じゃなきゃ裸パンツ覆面盗賊なんてできない。常人の感覚ではできるはずがない。
パンツが重い口を開く。成長したパンツは何を言うのだろうか。
腹減ったでやんす…
…………。
最終試練も終えた事だしそろそろ出発の時期かな…。
その後パンツは10人分の飯を食らい死んだように寝た。
その間俺はひたすらマダンテを試みていた。
だがうまくいかない。いけそうな雰囲気はあるのだが最後の詰めが甘いのか集中しきれない。
これはどうやらまだまだ修行が必要なようだ。手応えはある。絶対に魔王のブチ込んでやるぜ。
パンツが目を覚ましイケメンの所へ行く。イケは言った。
これより最終試験を始める
?は????
意味わかんねえ。こないだ最終試練終わったばっかじゃねーかよ。何言ってんだこいつ。馬鹿か?
こないだのは最終試練だ。次は最終試験。別物だ。
俺は深く殺意を抱いた。
これだから顔のいいやつは信用できない。こいつほんとどうしてくれようか。
しかしその試験の内容は「イケメンとピエロをぶっ飛ばす」というものだった。願っても無い事だ。
鍛えぬいた俺の体力と魔力!ギタギタのボコボコにしてやるぜッ!
イケは静かに一言。…覚悟しとけよ…
近くの拓けた場所に移動する。
積年の恨み、今、晴らす時べし!
ハイテンションで身構える俺とパンツ。
イケは構えもせずブツブツと呟いている。チャンスだ。
パンツが飛び掛かろうとした瞬間イケとピエロが青白い光に包まれた。
……!?どんどんその姿が変貌していく…これは!?
そこにはイケとピエロの姿は無く巨大な二匹の魔物がいた。
ヤバイ。直感的にヤバイ。本気ださなきゃ普通に死ぬ。
修行中幾度と無く死にかけたが今回ばかりは洒落にならない。二人(匹?)とも目がイっちゃってる。
本気で俺達を殺る気だ。
強い相手には先制パンチ。これ喧嘩の基本。
俺はパンツに相手の注意を引き付けるように指示しスカラをかけた。
パンツは相手に特攻する。その間に俺は精神統一する。
いきなり俺のもてる最強の呪文をぶつけてやる。先手必勝!くらえ!
俺はメラゾーマと叫んだ。特大の火炎球が元イケメン目掛けて飛んでいく。
もらったッ!!
元イケは大きく息を吸い込むと強烈な炎を吐いた。炎と火炎球が衝突し強烈な熱風が巻き起こる。
相殺された。
なんてこった。いきなり打つ手無しか!?作戦を変えよう。相手の戦力を分析し比較する。
総長たるもの馬鹿みたいに特攻してても駄目なのだ。時には冷静になる必要がある。
イケメン…デカい骨の竜。もの凄い炎を吐く。
ピエロ…でかいおっさん。石っぽい。固そう。力強そう。
俺…強い。
パンツ…頭悪い。
おいおい勝てんのか!?
これはまずタイマンはっても勝ち目ないので二人がかりで一匹ずつ倒すしかない。
最初のターゲットはでかいおっさんだ。動き鈍そうだしできるだけ体力温存して潰したい。
と、パンツに伝えようとするがパンツはまた一人で骨に突っ込んでった。コラっバカ!死ぬから!
パンツは骨に一撃見舞ったがカウンターの炎を直撃した。
やべえ!俺はとっさに地面目掛けてイオラを放つ。
大量砂埃が巻き上がり二匹の視界が奪われる。その隙にパンツを引っ張り出し回復させる。
パンツはおじいいちゃん…おじいちゃんとうなされている。
駄目だ!おじいちゃんは駄目だ!帰ってこい!
何とか一命を取り留めた。俺はパンツに先におっさんから倒すぞと言った。パンツは頭を縦に振る。
…理解してくれてる事を祈る。
自分とパンツにバイキルトをかけあえておっさんに肉弾戦を挑んだ。
なぜかというと骨の炎が危険過ぎるからだ。あれは一撃で致死レベルだ。
俺達がおっさんに接近し続ける限り巻き添えを食うから骨は炎を出せない。
というよりほとんど手を出せない。二匹とも図体がデカすぎる。
実質2対2というよりは2対1×2といった所だ。
何とか活路を見出した。冷静に状況を分析し最良の策を立てる。自分の才能が怖いぜ。
とか考えてるうちにパンツはおっさんと殴り合っていた。すかさず加勢する。
いける。おっさんの一撃一撃は重いが単調だ。ある程度はかわせる。
俺達はゴリ押しでおっさんを攻め立てた。
体中に傷が増えていく。だがそれ以上にハイペースでおっさんの体力をけずる。
ついにパンツの渾身の一発がおっさんの脳天を砕いた。ボロボロと崩れ落ちる。
そして元のピエロの姿に戻った。気絶しているようだ。
さて次は問題の骨だ。
……うお!!!!!!!???間一髪で炎をかわす。骨は次の炎を吐く体制に入っている。
第ニ射が来た。何とか避ける。
畜生このままじゃ避けるので精一杯だ。反撃できない。丸焼けになるのも時間の問題だ。
パンツが俺の近くに来る。
あっしが何とか注意を引き付けますんでその隙に総長の魔法でなんとかして下さいだと…?
何か策があるのだろうか?まさか塔で超必殺技でも身に着けたのだろうか?
このままでもジリ貧なのでこいつに賭ける事にした。おまえにまかせる!
合点でやんす!と、次の瞬間パンツが骨の前に仁王立ちになる!
結果的に俺達は骨を倒した。
パンツが骨の前で謎のダンスをし、何事もなかったように骨が炎を吹いた時は本当に終わったと思った。
だがパンツが転んで偶然炎を避け、飛んでった武器が骨の口に挟まり塞いでしまい、
その隙に俺の渾身の鉄拳ドラゴンキラーを連撃でぶち込まれた骨はバラバラになった。
パンツの武器がまたいい具合に作用した。言うなれば電球を口に突っ込んで顔面パンチ。
あれに似てる。限りなく偶然だが運も実力のうちという事にしておこう。
一つ学んだのはパンツはろくな事をしない。本当にろくな事をしない。
前から肝に命じていたのだが塔の試練で何か変わったんじゃと期待した自分がバカだった。
そうして骨もまたイケメンに戻った。
ようやくイケメンから修行終了宣言が出た。
終了証明品として変なでかい本を渡された。塔の中で見たやつだ。
「さとりにしょ」というらしい。
この先何かしらの役に立つから持って行けと言われる。俺は一瞬考えて答えた。
いらない。
イケが驚いた顔をして言った。
いいのか!?賢者の証明だぞ本当にいいのか!?
いらないものはいらない。
歩いて旅をするのにこんなでかくて重い本邪魔なだけだ。読む気しねーし。
そもそも俺は賢者になりたいなんて言った覚えは無い。
何が賢者だ。ナルシストっぽくて寒気がする。
イケメンが賢者なら俺はそう、例えるなら強者だ。心技体共に揃ったつわものなのだ!
だいたい俺の肩書きは総長なのだ。勝手に変えんな。
イケメンは俺が本気でいらないのを確認すると苦笑いしながら
その方がおまえらしくていいのかもしれないなと言った。
その夜はイケメンの所での最後の晩餐だった。
パンツはここの料理が惜しいのでもう一週間ほど居たいと言った。
100%断る。早くこの山奥から開放されたい。確かにこのワインは惜しいが。
しかしここに居たのも二ヶ月程だろうか。思えば色々あったな。
数え切れないほどイケの魔法をくらいパンツにどつきまわされ死にかけた。
今となってはそれもいい思い出…………ではない。絶対ない。本当に地獄だった。
結局俺達は4人でデカイ樽一つ分のワインを空け、二日酔いに苦しみ出発は次の日の昼になっていた。
まあいつもの事だ。
イケメンは勇者と伝書鳩で連絡を取っていたらしく合流場所はバハラタになった。
今日の夕方待ち合わせなのでボサッとしてないで早く出発せいと言われる。
最後の最後まで人使いの荒いやつだ。ピエロは羽で帰っていった。
さて行くか。とにかく俺達は走った。毎日アホみたいに走らされていたためこのくらい屁でもない。
バハラタには夕方を待たず着いた。
まだ勇者達の来る気配はないのでパンツと二人で時間を潰す事にした。
久しぶりのシャバの空気はうまい。
気分がいい俺達とは対照的に町人達の視線は冷たい。…というか絶対怯えている…
武器屋の前を通る。オヤジと目が合う。
その瞬間物凄い勢いで窓、ドア、その他ありとあらゆる外部と接触している場所に鍵を掛けられた。
…ひどすぎやしないか。まるで凶悪犯扱いじゃないか!誤解を解こうとドアをノックする。
トントン …。
トントントン ………。
トントントントン …………………。
バキバッ!!!ドコッ!
思わずドアを破壊してしまった。
中からうぅぅぅぅひぃぃぃいいい!!!!!!!!という悲鳴が聞こえる。
非常にやるせない気持ちになり俺達は武器屋を後にした。
そろそろ勇者が来る頃だろう。町の入り口で待ってやるか。
遅い。
三時間程経過した。すでに真っ暗だ。あのバカイケまさかはめやがったのか!?
総長ちゃんカンダタちゃんおひさ♪
!!!!?????いきなり後ろから声をかけられた。驚く俺。
いつのまに背後に!?入り口は一つしかないはず!?
あはは!驚き過ぎ!ルーラで飛んできたんだよあーお腹痛い
ルーラ???なんじゃそりゃ????
どうやらルーラとは一瞬で町を移動できる魔法らしい。羽のようなもんだ。
あれ?もしかして俺達もわざわざ走らんでも羽で来たらよかったのでは?
おそらく今頃イケはニヤニヤしてるだろう。
あいついつか殺す。もう死んでるけど殺す。
とりあえずいつものように宿屋に移動した。全員集合で鬼浜会議を行うのもひさしぶりだな。
みんなの顔を見回す。ねーちゃんは相変わらず美人だ。
ようやく、ようやく鬼浜にまともなメンバーが…非常に感慨深い。
勇者は髪が伸びだいぶ伸びちょっと大人っぽくなったようだ。
女二人旅ってのも色々苦労があったんだろな。
ちょっと総長ちゃん!しきってくれなきゃ話進まないよ!
おっといけないいけない。
思わず娘に見とれる親の気持ちになってしまった。俺達は別れてからのお互いの出来事を話し合った。
まあこっちは山に篭ってひたすらしごかれてただけでたいして話す事もないのだが
勇者達は色々あって結局例の赤いオーブを手に入れたらしい。
女二人旅なので辛い事もあったのだろうと思いきやかなり楽しかったようだ。
久しぶりに勇者の笑顔を見るとホッとしてしまいその日も俺達はしこたま飲んだ。
そしてうちのチームで一番酒が強いのはこのねーちゃんだという事が発覚した日でもあった。
べらぼうに強い。酔わせてウへへ…何て考えた俺が甘かった。
俺とパンツ二人がかりでも歯が立たない。なんて女だ。
酒を運んできた酒場のバニーちゃんが
さすが勇者様はモンスターも従えてるんですねとかわけわかんねー事言いやがる。
総長!あの女総長見てあんな事言ってるでやんす!しめましょう!!
…おめーの事だ。
今日はここまでです!
毎度毎度支援ありがとうございます!
乙!
今日も楽しませてもらったよ。
改めて吹いたww
パンツがおもしろすぎるwww
510 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/14(月) 02:23:17 ID:+Q6uMGopO
>>502 >数え切れないほどイケの魔法をくらいパンツにどつきまわされ死にかけた。
下剋上www
ー次の日ー
ロマリアを目指した。
まあ目指したと言っても勇者の「ルーラ」とやらで一瞬で行けるのだが。
なぜバカ王のとこへ行くかというとこの先オーブを探すにあたり自分達の船が欲しいのだ。
勇者とねーちゃんは二人旅の間商業船に便乗してたらしいのだが、決められた航路外も探索したいし
何よりも自分達のせいで船員を危険に巻き込みたくないらしい。
普通なら船一隻ほいほいとくれるはず無いだろうがおそらくバカ王はくれるだろう。
なぜならバカだからだ。
勇者が呪文をとなえるやいなや体が浮き上がり一瞬でロマリアへ着いた。
これは凄まじく便利だ。一同真っ直ぐ城へ向かう。
階段を上がり王の間へ進む。
???おかしい。王の玉座には誰も座ってない。隣の大臣にどこへ言ったか聞いてみる。
バカ王はこないだ勝手に城を空けた罰として部屋に監禁されているようだ。
しかし家来に監禁される王なんてこいつくらいのもんだろう。
とりあえず大臣に聞いてみる。おい船くれよ。もの凄い剣幕で大臣が怒り出す。
何だかよくわからんが俺達に関わると王様はろくな事をしないとか
パンツはまだ無罪じゃないとか船なんかそんな簡単にやれるかとかそんな事を言っていた気がする。
埒があかないので無視してバカ王の部屋に直接会いに行く事にした。
途中兵士に阻まれたがパンツを見るなりすごすごと道をあけた。
王の部屋には何十にも鍵がかけてあった。
例の如く扉を吹っ飛ばして中に入る。見たところ誰もいない。
ベットが膨らんでいる。おそらくふて寝してるのだろう。
思えばこいつが城を飛び出したのも俺達の修行の為だった。
そう考えると俺にも責任がある気がする。礼の一つでも言うかと思いさすってみる。
反応がない。
熟睡してるのだろうか。
軽く小突く。
反応がない。
大きく揺すってみる。
…やっぱり反応がない。
俺は思い切って布団を引っぺがした。
………。やられた。
そこには王の姿はなく「おおさまちゃん(はぁと」と書かれたでかい人形があるだけだった。
やっと駆けつけた大臣はその光景を見て怒りが再発したのかギャ−ギャー騒ぎ遂には倒れてしまった。
コイツは絶対カルシウムが足りてないな。勇者が心配そうに駆け寄る。結局兵士が担いでった。
脱走したとなるとバカ王はどこへ行ったのだろうか。意見を聞いてみる。
勇:きっと凹んでどこかへ気晴らしに行ってるんだよ。お花畑とか。
パ:ピエロの旦那は魔王の呪いで人形にされたでやんす!魔王めがなんて残忍な!許さないでやんす!
ね:頻繁に脱走してるみたいだし城の人に聞いてみたら?
ねーちゃん…あんたがいてよかった…
そこから俺達は手分けして情報を集めた。
どうやらバカ王は無類のギャンブル好きらしい。
そして城下町にモンスター闘技場という賭場があり隙をみてはそこに入り浸っているらしいのだ。
典型的なダメ人間じゃねーか。
他にあても無いので俺達は闘技場を目指す事にした。
闘技場ー階段を降りるとそこは熱気で充満したいた。ギャンブル特有の熱気。
パチンコ狂の俺としては非常に懐かしい。何というか心地いい。
勇者はこういう所は初めてのようでキョロキョロしている。周りの視線がパンツに集まる。マズい。
おそらくみんな逃げ出したモンスターか何かだと思われている。
俺はパンツに300ゴールド渡し、これで何か食って来いと言った。
パンツは嬉しそうに駆けていった。やれやれ一安心だ。
さてこの広い闘技場でこれだけの人の中でバカ王を探すのは苦労しそうだ。
そう思った矢先、闘技場のアリーナに向かって一際大声をあげて大騒ぎしている大男がいる。
見覚えのあるピエロの格好…バカ王だ…目立ち過ぎだろ…
どうやら賭けていた魔物は負けたらしく全身で悔しさを表している。
暑苦しい上にうっとおしい。正直知り合いとは思われたくない。
暫く地面にへたり込んだ後、もの凄い勢いでチケット売り場へ向かった。まだやんのかよ…
バカ:次こそは!次こそはあああああ!!!!
売り場の人:はいはい毎度王さ…じゃなくて謎のピエロさんどうします?
バカ:スライムベスに500ゴールド!
売り場の人:(相変わらずギャンブルの才能ねーな)かしこまりました。
スライムべスに500ゴールドですね?
当然だがこの町の人みんなこのアホピエロが自分達の王様だと気づいているのだろう。
俺は売り場の人に話かけた。いいのかあんたらの王こんなんだぞ?苦笑いしながらこう答える。
売:いいんですよ!この町の人みんな王様の事大好きですから!
世界を救った英雄なのに物凄く気さくでしょう?
何しても憎めないんですよね〜。この国の国民は王様の家族みたいなもんですからね。
ほんといい国ですよ。
「人を治める」というのは頭がいいだけでも、力が強いだけでも駄目なようだ。
きっと人を惹きつける「何か」が必要なのだろう。
そしてバカ王はバカだがその大切な「何か」を持っているようだ。何となく親父を思い出した。
バカ王に目を向ける。また負けたらしい。悔し泣きしている…
いい歳してこんな事で無くなよ恥ずかしいからさ…
勇者が慰めに行った。ね?もう十分遊んだんだからお城帰ろーよ?みんな心配してるよー?
16歳の女の子に説得されて帰ってくる家出おっさん…。俺達は再び城へ向かった。
途中道端で寝ていたパンツと合流し本日二回目の城へ着いた。
バカ王はピエロの格好から王の格好に着替えた。入り口で兵士が敬礼する。
今回はお早いお帰りですねだと?今回はって…お早いって…いやもう突っ込むのはやめよう。
王の間へ着いた。大臣は部屋で寝込んでるらしい。ストレスの溜まり過ぎだろう。
王が王だけにさすがの俺ですら同情を禁じ得ない。まあいいや。バカ王に船が欲しい旨を話す。
暫く考え込む。
船一隻ともなるとバカでもさすがにホイホイとあげられないのか。
王が口を開く。
この国には船は何隻かあるものの、船乗りは必要最低人数しかいない。
つまり船はやってもいいが船乗りはつける事はできないという事だ。
船があっても動かせなければどうしようもない。これは困った。
パンツ:あっし船操舵できるでやんすよ。
………。俺の聞き間違えだろうか。
パンツ:あっし盗賊になる前は海賊だったでやんす。
………。あり得ない。こいつに操舵ができるはずがない。超絶天然バカのこいつに!
脳ミソまで筋肉化したこいつに!
勇者がすごーいカンダタちゃんすごい♪これで出航できるね!とか言って煽りやがる。
全会一致でパンツを船長にする流れだ。やべえ。これはやべえ。パンツも乗り気だ。
おいやめろバカおまえら考え直せ!こいつが地図逆さに見てて遭難しかけたのもう忘れたのか!?
パンツが船長の船なんてある意味魔王と戦う事なんかより遥かに危険だ!
魔王に殺られるならまだしも遭難難破で海の藻屑になるなんて死んでも死にきれねーぞ!
え?何?今から船に案内するだと?バカ!だから待てって!
おいコラ人の話を聞け!殴んぞ!
俺の必死の抵抗も虚しくパンツが船長になった。終わりだ。俺達の旅は終わった。完全に。
しぶしぶついて行き船の前に着いた。なかなかいい船だ。この船が俺達の棺桶となるのか…
パンツはさすがに一人で操舵はできないらしく子分がいると言ってきた。
子分?ああそういやこいつらのアジトの塔に置いてきたな。
そこでパンツは羽を使って子分を呼びに行くことになった。
一人だと迷子になる可能性大なのでねーちゃんも保護者としてついて行かせた。
ほんとは最初は勇者がついて行くと言ったのだがこいつが行くと余計に事態が悪化するからやめさせた。
勇者はふてくされてずっと頬を膨らませている。ガキか。
道具屋に行く。
パンツとねーちゃんは羽を買うなりさっさと行ってしまった。俺はご機嫌ナナメな勇者様の子守だ。
二人が帰って来るまで町をぶらつく事にした。突然勇者が振り返る。なんだよ。
名前つけなきゃ…これからいっぱい働いてもらうんだし。うん名前がいる!
どうやらあの船に名前をつけたいらしい。
名前とかはどうでもいいがこれで機嫌が直るならそれでいいや。
で、どんな名前がいいんだと聞いてみる。
え?ラブラブネコちゃん号?…それは嫌だ。え?キラキラチューリップちゃん号?
…それも嫌だ。確信した。コイツにはセンスが無い。てか「ちゃん」から離れろ。
じゃあ総長ちゃんもなんか案出してよって言われた。
名前か…そういや俺の族時代の愛車はフレアラインのZU…
漢の単車ゼッツー
思わず口にでた。
何それ全然かわいくない。意味わかんないし。総長ちゃんセンスないね。
…おまえに言われたくねえ…
その後白熱した討論の末名前は「みんなのゼッツーちゃん号」に決定した。
正直もう何でもいい。ゼッツーちゃん号…いい名前じゃん…ははは…
その後うだうだ喋りながらウロウロしてると向こうから柄の悪い集団が来る。パンツ達だ。
しかし見れば見るほど一緒に旅をしたくない連中だ。
兄貴と旅ができて嬉しいっすとか言ってやがる。俺は何一つ嬉しくねーぞ。とにかく船着場に向かった。
船着場に着くなりパンツ共は出航の準備を始めた。
妙に手際がいい。さすが元海賊といった所か。
俺は危うく感心しかけたがやめた。こいつに期待してもいつも裏切られる。もう騙されないぞ。
暇そうにボーっと船を眺める三人。そこにバカ王達がやってきた。なにやら馬車をひいている。
馬車には食料と水が大量に積んであった。餞別に持ってけという。気がきくじゃねーかよ。
ようやく出航の準備が終わる。
さて問題は次の目的地だ。復習だが俺達はシェンロン復活のためオーブを集めている。
バカ王曰くここから遥か南のランシールという町がある島に「地球のへそ」と言われる地下洞があり、
そこに元々オーブがあったらしい。そして勇者の親父が再びそこに封印したらしい。
よしそれなら行き先は決まった。次の目的地はランシールだ。早速船に乗り込む俺達。
下手したらもうこの足で大地を踏みつけるのも最後になるかもしれない。覚悟を決める。
ちょっと総長ちゃん!何してんの早くおいでよ!おいてっちゃうよ!
…はいはい。
船の上から勇者達は楽しそうにバカ王に手を振っている。
帆を張り碇を上げると船はゆっくりと動き出した。
バカ王がどんどん小さくなる。ついには見えなくなった。帆船てのもけっこうスピード出るもんだ。
潮風がすげー気持ちいい。天気もいい。船旅も悪くないぜ。これで船長がパンツじゃなけりゃ…。
勇者とパンツは持ち込んだおやつがどうだとか言い合っている。そんなもん持ってきたのかよ。
おそらくこいつらは遠足程度にしか考えてないだろう。しかし勇者は変わったな。
出会った頃の勇者は世界の運命を一身の背負ってますみたいな悲壮感漂うガキだった。
だが今はほんとよく笑う。
ジャリん時から親父に戦闘の英才教育をされ
魔王が復活するなり訳もわからず旅に出され勇者として期待される。
もしかしたら今が一番楽しいのかもしれない。そんな事を考えてるとねーちゃんが話しかけてきた。
父にひと段落ついたらこれを渡すように頼まれたんだけどと手紙を渡された。
………。
内容はおまえは賢者としてはまだまだ呪文のバリエーションも少ないし未熟だから
このねーちゃんに色々教えてもらえって事だった。はっ今更何を。俺が学ぶ事なんてもうねーよ。
キシャーッ!!!
突然海面から硬そうな凶悪な面した魚が群れで飛び出してきた!不意をつかれる俺!
バギッ!!!!
ねーちゃんの手からカマイタチのような線状の空気が飛び出した。悪魚達がひるむ。
この女俺が身構えてる間にもう反撃に移っていた。行動が早い。すげえ。
いい?これが風を操る一番基本の呪文。そして練度が上がるとこういう事もできるようになるわよ!
ねーちゃんは精神統一させ一呼吸置くと叫んだ。
バギッ!!!クロスッ!!!!
轟音と共に巨大な真空の刃が竜巻となり相手を切り刻む!
一瞬で悪魚達はバラバラになった。いやいやほんとすげえ。
さすがイケの娘だけある。強い。何よりも凄いのはその反応速度。
まるで相手が襲ってくるのを知ってたかのような行動だった。
ねーちゃんの説明によると俺達は視力に頼るから感覚が鈍ってるらしい。
心眼というのは超能力でもなんでもなく、極限まで研ぎ澄まされた感覚の事のようだ。
そのくらい感覚が冴えると相手の殺気が読める。
そうなると敵が近づいてくるのも簡単に察知できるとの事だ。わかったようなわからんような…
さっ早速始めるわよ。まずは空気の流れをイメージする事からね。しばらくは私が総長さんの師匠よ。
………へ?
その後ねーちゃんはイケメン並のスパルタ女だった事が発覚した。
俺の安息の日はまだ、来ない。
早くも海に出てから早くも一週間が経った。
そこで重大な問題に直面する。食料が尽きそうだ。
水は海水を蒸発さして造れるため何とかなるのだが食料はそうはいかない。
みんな腹が減ってイライラしてきた。
引き返すべきか。このまま進むべきか。決断を迫られる。
ん?今船が不自然に揺れたような…
パンツ子分Aがランシールまでは確実に飢え死にするので航路を変えて
近くの町で補給しましょうと言う。それもそうだな。船旅も中々難しいもんだ。
特にうちには超絶大飯食のパンツがいるから一般的な貯蔵では追いつかない。
……。
いややっぱこの船変に揺れてねーか?腹減って感覚おかしくなってきたんだろうか。
このままでは非常に危険だ。とにかく世界地図を見ながら現在地と近い町を探して…と
…またまた船が大きく揺れる。
あーもう何事だうぜえええ!!!
と、船の下に巨大な影が見えたと思うやいなやバカでっかいイカの化物が現れた。
こいつが下から船を揺さぶってたようだ。
普段なら間違いなく秒殺してるとこだ。
しかし今回はみんなの眼つきが違う。おそらく考えてる事は一緒だろう。
こいつは…………食える!!!
俺達の異常な殺気にビビッたのかイカは引き腰になっている。やべえこのままじゃ逃げられる…
逃がすかあああああああああ!!!!
一斉に飛び掛る俺達。ここ最近で一番本気の戦闘だ。パンツなんてすでに足に噛み付いている。
イカもでかい図体してるだけあってなかなか強かった。しかし飯の懸かってる俺達の敵ではなかった。
沈んでいくイカから太い足を数本頂戴した。さてどうしたものか。いざ目の前にするとさすがに躊躇する。
食って腹壊したりしないだろな。食中毒死とかマジ勘弁して欲しい。
ねーちゃんが私にまかせてと言うと足を一本持って厨房に入って行った。
パンツは生でイカにかぶりついている。まあコイツは何食っても平気そうだから放っておこう。
支援です
愉快な仲間達に恵まれ
歳相応に笑えるようになったんだな勇者良かった良かった
暫くしてねーちゃんが大きな皿を持って戻ってきた。
これは…皿の上にはうまそうなイカの炒め物?が乗っている。
有り合わせの調味料を使ってイカのソテーを作ったのよとの事。
味は…………うまい!これはうまい!
イケメンも料理うまかったがねーちゃんもかなりの腕だ。本当にこいつがいてよかった…
そしてさらに一週間後。
俺達はランシールに到着した。とりあえずゼッツーの処女航海は無事に終える事ができた。
二週間程の航海だったが俺達は色んな意味で逞しくなったと思う。
魔物を食うなんて一昔前じゃ考えられなかった。
魔物よりも魔王よりも一番しぶとい生き物は人間なのかも知れない。何はともあれ久しぶりの大地だ。
碇を降ろし船を固定すると早速町へ向かった。
毎度の事ながら住人の視線が痛い。場所が場所だけに滅多に旅人も来ないのだろう。
それに加えてこの面子だ。好奇の目に晒されるのは仕方が無い。
オーブがある「ちきゅうのへそ」の入り口は町の中心にあった。
今日は一晩宿屋で疲れをとってから明日攻める事にしよう。俺達は宿屋へ向かった。
その夜無事航海終えた記念の宴会が開かれる。久しぶりの酒だ。
船にもある程度積んでたんだが初日で飲み干したからな…。
ここの地酒はウイスキー。うまい。が、キツい。調子のってるとすぐ潰れそうだ。
言ってる先からパンツの子分三人組がねーちゃんと飲み比べを始めた。
アホだな。こいつらはまだこの女の殺人的な酒の強さを理解してない。
案の定一人、また一人と倒れて行く。ねーちゃんは涼しい顔してる。
勇者もかなり飲んだらしく相当ヘラヘラしてる。ピーピーうるせえ。
途中料理を運んできたおばちゃんに何の目的で旅してるの?と聞かれて
あのねー私達海賊なの!この町のお宝奪いに来たの!
と言った時のおばちゃんのひきつった顔は笑えた。まあ間違えてはいない。
その日の宴も明け方まで続いた。
ー次の日の昼ー
パンツの子分三人組はまだ潰れてるので宿屋に置いてきた。洞窟の入り口の建物に入る。
入り口にはおっさんが一人いた。邪魔だどけ。無視して進もうとすると慌てて止められる。
なんだようぜえな。
この洞窟には一人でしか挑めないらしい。何だよそれ。意味わかんねえ。そんなきまり当然無視だ。
しかしおっさんも頑固で一歩も退かない。目がマジだ。
わしの人生に懸けてここは通さん!通りたければわしを倒してか…ドスッ。
俺の中段突きをモロにみぞおちにくらいうずくまるおっさん。よし。おまえら先に進むぞ。
勇:ちょっと総長ちゃん!かわいそうだよ!ちゃんときまりは守らなきゃダメだよ!
パ:総長!男ならここは一人で攻めるべきでやんす!それが真の漢でやんす!
ね:一人じゃなきゃ先に進めないとかそんな仕掛けがあるんじゃない?
無意味にそんなきまりがあるとは思えないわ。
おまえら…多数決により誰か一人で探索に行く事になった。
おっさん:ゴホッゴホッなっ…なんて乱暴な若者じゃ…こんな奴は初めてじゃまったく…
いいか?ここは由緒正しい試練の洞窟でな。
一人で攻略してこそ求めている物が得られるのじゃ。
といってもそんな危険なとこ誰も探索するはずがなく今までは未知の空間じゃった。
勇者様がおそらく歴史上初めて攻略されてオーブを持ち帰ったのじゃよ。
それで次に必要な時が来るまでまたここに封印なされた。ただオーブを封印するだけの為に
これだけ大掛かりなものが造られたとは思えん。きっとまだ謎が隠されておるかもな…
謎…ねーちゃんがピクッと反応した。とにかくそうなれば誰が行くのか決めなければならない。
ここは総長である俺が行くのが筋ってとこだろう。文句ないなおまえら。……明らかに不満顔だ。
勇:あたしも行きたい!お父さんも行った洞窟なんだし…絶対行きたい!
ね:謎…謎が私を呼んでるわ!未知…なんて素晴らしい響き!ここは譲れない!
おいおい…てかねーちゃんあんたそういうキャラだったんだな…さらに輪をかけて
パ:よくわかんないけどズルいでやんす!あっしも行きたいでやんす!仲間外れは嫌でやんす!
もうこうなると収拾がつかない。どーせこいつらは総長である俺の意見なんてきかないだろう。
いいんだわかってた事だから…俺がここのボス…自分でそう思ってたらいいんだ…
しかし絶対話し合いでは結論がでない。こいつらはそういう奴らだ。
ここは公平にじゃんけんで誰が行くか決めようじゃないか。
じゃんけん…!?何それ??
どうやらこの世界には「じゃんけん」はないらしい。ルールを説明する俺。
へー楽しそう!と勇者とねーちゃんはすぐ理解したようだ。パンツはまったく理解できてない。
とにかくグーかチョキかパーか何でもいいから出せと教えた。じゃあいくぞ。せーのー
じゃーんけーんポンッ!
………………。
やっちまった。おそらく考え得る中で最悪のパターンだ。
勝ったのは…パンツだった。
………。勇者は本気で悔しがっている。パンツは当然の如くわかってない。
ねーちゃんが勝ったのはあなたよと教えてやった。途端に大喜びするパンツ。
しかし勿論こいつには何のメリットもない。
やったでやんす!これでお宝は俺の物でやんす!
明らかに勘違いしている。もういい。こいつが無事にオーブを持ち帰って来るのを期待するしかない。
ここまでくると運の問題だ。直ぐにでも出発しようとするパンツを制止してありったけの薬草を持たせた。
勇:いいなぁ…お父さんに関係あるものあったら必ず持って帰ってきてね!
ね:いい?こんな手付かずの古代遺跡に入れる機会なんてそうそうないんだから
気を引き締めて行ってくるのよ!この貴重な体験を噛み締めてきなさい!
俺:あの…その何だな…無理しなくていいからな…適当に頑張れ…
パンツは嬉しそうに頷くと意気揚々と行ってしまった。
入り口を守ってたおっさんがほんとのあいつでよかったのかと驚いている。いいわけねーだろバカ。
今更ジタバタしても仕方が無いのでここで大人しく待つ事にする。
丸一日が経った。パンツはまだ帰ってこない。
だからあいつに行かしたくなかったんだよチクショーが!
おっさんの話によると勇者の親父は半日ちょっとで帰ってきたらしい。
つまり明らかに中で迷っている。
という事で第二陣が出発する事になった。問題は誰が行くかだ。
とりあえず勇者だけはマズい。パンツの救出に勇者が行くなんて火に油を注ぐようなもんだ。
確実にミイラ取りがミイラになる。今回に限ってはねーちゃんもヤバい。テンションがおかしすぎる。
遺跡に夢中になりすぎてパンツの事を忘れて帰ってくる可能性が高い。
やはり…俺が行くしかない。
しかし選出方法はじゃんけんじゃきゃこいつらは納得しないだろう。
そうなると俺が勝つ保障は無い。さてどうしたものか。
はやくじゃんけんで決めよーよーカンダタちゃんお腹空かせて待ってると思うよー?
勇者が急かす。うるせーちょっと待ってろ今秘策を考案中だ。
……こうなったら最終手段を使うしかない。これだけは避けたかったのだが。
わかったいくぞ!せーのー!じゃーんけーん…ぽんっ! …今だ!
勇&ね:…………………!!!!????
勝った。俗に言う「後出し」というやつだ。勇者が騒ぎ出す。
うるさい。世の中勝ったやつの勝ちなのだ。
反発する二人を無理やり丸め込み何とか次の挑戦者は俺になった。
目的はオーブ発見&パンツ救出。ちくしょう最初から俺が行けてればこんなめんどくさい事には…
やり場の無い怒りを覚えつつ俺は出発した。
出発前に勇者に大量のパンを持たされた。
ふざけんなてめー荷物になるだろうがと思ったのだがパンツの為に持ってけときかない。
もう一回じゃんけんやり直しとか言われてもややこしいので黙って持ってく事にした。しかしかさばる。
通路を抜けるとそこは大理石のでかい人工的な洞窟だった。不気味な所だ。
俺まで迷ってしまってはシャレにならないので慎重に地図をつけながら進む。
シャー!!!!キシーッ!!!!!! ビッチャザアアアアアア!!!!!
グェェェェエエエエ!!!
ブッヒョーるるる!!! ギブアァアアア!!!!
クソが!ここはなんて魔物が多いんだ!倒しても倒しても後から後から湧いてきやがる!
俺のブチ切れスイッチが入りかける。
呪文で一気に木っ端微塵にしてやりたい所だがこんな入り口付近で精神力が尽きてもいけないと
俺の残り1%の理性が制止をかける。仕方なく相棒のドラゴンキラーでぶっ飛ばして進む。
かなりの魔物を潰した。ひと段落して辺りを見回す。
どうやらここからは一本道の長い通路のようだ。
ん?よく見ると通路に大きな顔型の彫刻が並んでる。気持ち悪い。ここを設計したヤツのセンスを疑う。
まあいい。とりあえず進もう。
……………せ……
ん?
ひ……………せ
ん?ん?
何か声が聞こえた気がした。パンツだろうか。耳を澄ませながら進む。
ひきかえせ
ひきかえせ??今はっきりとひきかえせと聞こえた。誰だ!?誰かいるのか!?
ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせ
…わかった。この顔型の彫刻喋りやがる。おそらくへタレ冒険者をふるいにかけるためだろう。
フッ…こんな子供騙しにひっかかる俺じゃない。無視だ無視。
ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせ
しかしこの洞窟暑い。というかジメジメする。
ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせ
うざい。暑いので黙ってろ。てか迷った。同じ通路をループしてるような気がする。地図は捨てた。
ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせひきかえせ
ひきかえせひきかえせひきかえせひきかえひきかえひきかえひきひきひきひき
うるせえええええええええええええぇえええええぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!
その瞬間俺の中の理性は吹き飛んだ。
うおおおおおおおおおおおおおおォぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
およそ思いつくあらん限りの魔法を放つ。轟音が狭い通路に反響する。かおの彫刻は大半が吹き飛んだ。
ー地上ー
勇:総長ちゃん大丈夫かなぁ…
ね:魔物にやられる事はないと思うけどね。
お:ここは試練の遺跡じゃぞ。一筋縄にはいかんわい。
ー揺れる地面。鳴り響く轟音ー
勇:キャッ!!!!今の何!?
ね:ただ事ではないわね…総長さんもずいぶん派手に暴れてるみたい。
お:おい!わしは長年ここを守っておるが今のはなんじゃ!初めてじゃぞ!
勇:助けに言った方がいいかな…!?
ね:そうね。
お:ちょっちょっと待て1何人たりとも二人以上でここを通すわけには…
ね:はいはいお話は後で聞くからちょっとどいててね!
勇:ごめんね!すぐ戻ってくるから!
お:こっコラ!待たんかい!おぬしらにはほんと常識てもんが…あ…行ってしまいおった…
今日はここまでっす
支援ありがとう!
お疲れさまでした。これからも楽しみにしています
外道総長キターwwwwwww
やっと前回の分を越えましたね、続きが本当に楽しみです。
頑張ってください!
ランシールアワレwwwww
試練に立ち向かう気さらさら無し!ってのがキモチイイw
みんなのゼッツーちゃん号wwwww吹いたwwww
ほすほす
………………………………………………………。
……………………………………。
……………………。
………。
…ん……。
目を覚ました。俺の名はリュウジ。泣く子も黙る史上最大・最強・最高の暴走族“鬼浜爆走愚連隊”
の総長を務めていた男だ。まあ昔の話だ。今はただ酒びたりのひきこもりだ。
生きていても死んでいても関係ない無気力な毎日。
…………あっ!やっと目覚ましたよ!もう総長ちゃんの寝ぼすけ!
ぞおおおうぅぅううじょぉおおおおおおおおおおういうううう!!!!!!!
甲高い女の声と同時に筋肉ダルマの熊みたいなパンツ男が抱きついてきた。…痛てえ。
痛てえっつの!
俺はパンツ男を3メートル程吹っ飛ばすとその見るからに怪しい風貌の男は
天井にめり込んだまま沈黙した。
それだけ元気があればもう大丈夫ね。
やたら美人のねーちゃんが口を開く。
…………そうだった。俺はベランダで足を滑らせて気づいたらこの謎の世界に迷い込んだんだった。
ぞううじょうううぅういぎでででよがっだでびゃんずううぅううう
パンツが号泣している。相変わらず頑丈だなコイツ。しかし俺は何故気を失っていたのであろうか。
………思い出した。オーブを求めて洞窟に入り、ちょっとした手違いで洞窟をぶっ壊してしまった。
崩壊していく洞窟の中で記憶が途切れている。あの後どうなったのだろうか。
うんとね、おっきい地震が起こって心配だからあたしとおねーちゃんとで洞窟に助けに入ったの!
そこで総長ちゃんとカンダタちゃん見つけて戻って来たんだよ!オーブもちゃんとだよ!
……オーブ……オーブ!?危ねえ危うく夢も野望も全て土の中に埋もれる所だったぜ。
しかしこの女二人が俺ら大男二人担いであの崩壊する洞窟を抜けてきたのか。こいつらわりと
パワーあるじゃん。
まさか!そんなの無理だよーあのね、魔法で一発でポーンって出てきたの♪
なんてこった…そんな便利な呪文があるとは…てかそんな呪文使えるならおまえが行けや!
行くって言ったじゃん!総長ちゃんがじゃんけんでずるっこして勝手に行ったんでしょ!
それにほんとにギリギリだったんだから!もう!
ああ。そういやそんな事もあったな。ピーピーうるさい勇者を無視してベットを出る俺。
腹減った。なんか食い物ないかな。その辺の棚を漁る。何も無い。ちっ…しけたとこだな。
部屋を出る。玄関には変なおっさんが顔真っ白にして放心状態だった。おいおっさん腹減ったから
なんか食いもんくれよ。おっさんは小声でブツブツ呟いている。わしの洞窟が…わしの使命が…
話しかけても素無視だ。大丈夫かコイツ。おっようやく俺の存在に気づいたようだ。
…と同時に近くにあった椅子で殴りかかってきた。おいやめろ!あぶねっつの!
おぬしさえ!おぬしさえ来なければわしの平穏な日常が!ぬおおおおおぉおおお!
反射的に体が反応してカウンターを入れてしまった。やべ。おっさん壁突き破って外まで吹き飛ぶ。
おい。大丈夫か。反応がない。騒ぎを聞きつけて人だかりが出来てきた。マズい。これはマズい。
ヒソヒソ…あいつあれだろ…勇者様御一行の…なんで一般人殴ってんだ…
ママー!しっ!見ちゃいけません!ヒソヒソ…
おまえら帰れ!見せもんじゃねーぞコラァ!ヒーこの子だけはどうかお助けを!なんてやり取りを
していると勇者たちが来た。あー!また総長ちゃん町の人いじめてる!違うこれには深い訳が…
ホイミ
ねーちゃんが魔法をかける。目を覚ますおっさん。
いやはやこれはこれは勇者様。取り乱してしまいしまんですな。
やっと落ち着きを取り戻したようだ。おっさんの家系は代々この「ちきゅうのへそ」という洞窟を
守ってきた。しかしその洞窟は無くなってしまった。確かにちょっと悪い事したかもしれない。
わしは女房と子供のいる故郷に帰ります。ここ半年程帰ってなかったので。そこで農業でも
始めますわ。ハッハッ八…
そうかこのおっさんも無職か。まあ無職も悪くは無いと慰める。勇者が申し訳なさそうに口を開く。
なんか…悪いことしちゃったね…ゴメンナサイ…
おっさんはいやいや気にしないで下され。それよりもお目当ての宝手に入ってよかったですなと
言っているが確実に目は死んでいる。
あっそうだ!奥さんと子供ってどこに住んでるの?私たち送るよ!
また勇者が勝手な事言い出したが今回は仕方がないだろう。そのくらいはしてやる。
ノアールですじゃ。とんだ田舎で勇者様の旅の妨げになるだろうにわしの事は気にしないで下され。
一瞬時が止まった。ノアール。そう俺と勇者が出会った場所。じいさん最後の場所。
もはやノアールという言葉は町の名前ではない。今となってはただの地名としてしか用を為さない。
誰も口を開けなかった。破壊された民家。あたり一面の血痕。そしてじいさん…全てが鮮明に
蘇る。ノアールは…もう無い。あそこは魔王に滅ぼされた。またまたご冗談をと笑っていたおっさん
も勇者の目を見ると黙り込んだ。そうですかいやいや酷い世の中ですな!最後にもう一度息子の顔でも
見ときたかったわい…必死に何でもない風に振舞うのが痛いほどわかる。……こいつ強いな。
いやー守るべき場所も家族も同時に無くなってしまうとはさすがに参りましたな。ハハハ
かける言葉がねえ。勇者がいいこと閃いた!っと喋りだした。嫌な予感がする。
ねえねえおじさん!する事無いなら私たちと一緒に旅しよーよ!
へ?
おっさんは突然の申し出に今一状況が飲み込めてない。当たり前だ。俺も訳がわからねえ。
勇者の目はマジだ。もはやこうなったら誰もNOとは言えない。
あのね、私たちと一緒に旅をして、色んな人に出会って色んな場所にいってね、それでおじさんが
好きな場所やもしかして好きな人に出会ったら、そこでお別れすればいいと思うんだ。うん絶対そう!
そうですな…ここにいても何もありゃせんし勇者様がそう言って下さるならお邪魔しましょうかな!
わーい♪こちらこそよろしくお願いしまーす♪
まただ。また総長様である俺を差し置いて勝手に話が進む…いいんだどうせ…俺は形だけの総長さ…
てなわけで我が鬼浜爆走愚連隊にまた一人メンバーが加わった。不本意ながら。
その日の晩鬼浜定例会議の議題はもっぱら新加入のおっさんについてだ。とりあえず俺が総長であり
このチームのボスである事、勇者を含めここの構成員はすべておれの子分であることははっきりさせて
おかなければいけない。ではまず俺がボスである事から説明しよう。
威厳・強さなどから当然言わなくてもわかってると思うがこのチームのボスは俺d…
ねーねー!おじさん何て呼んだらいい?お名前は何て言うの??
く…このクソガキが…
わしの名前はノーマンと申します。好きに呼んで下され。
んとねーじゃあノマさんでいい?そっちの方がかわいいし!
ノマさん…何か照れますな!ホッホッホ
おっさん小娘にデレデレしてんじゃねーよ…しかし相変わらず勇者はすげえ。家族も使命も一日で
失った一人の男がその晩にここまで笑顔で笑えるだろうか。コイツはアホで天然だけど周りの人全てを
巻き込んで幸せにする力を持ってるのかもしれない。
で、次の目的地くらいは決めといた方がいいんじゃない?
ねーちゃんが突っ込む。その通りだ。鬼浜会議はバカ勇者とアホパンツのせいでいつも話がそれる。
今手元にあるオーブは4つ。全部で6つあるらしいから残りは2つだ。しかし何処にあるのか
検討もつかない。さてどうしたものか。一応聞いてみる。
おまえら誰かどんな小さな事でもいいからオーブについて何かしらないか?
パ:あっしの考えによりますとですね…
黙れ。おまえは喋んな。
勇者とねーちゃんが首を横に振る。
おいおいあてもなく世界中探し回るなんていったい何十年かかるんだよ…
おっさん(以下‘お’):確かな情報じゃないんだが東の果ての‘ジパング’という国に凶悪な巨竜がおり
先代勇者様がその竜を封じるためにオーブを使ったらしいですぞ。
マジか。これは有益な情報だ。こいつの知識は意外と役に立つかもしれない。
そういやまだ確認してなかった。このおっさん果たしてどのくらい戦えるのだろうか。
お:ハッハッハ戦闘?無理無理!無理ですわ。肉体労働は苦手でしてな。
その辺の子供にも負ける自信があるぞい。
……聞かなきゃよかった…。戦力は増えないが悩みの種は一つ増えたようだ。
次の目的地もジパングに決定した所で会議はお開きになった。ドッと疲れた。俺はその日すぐ寝た。
ー深夜ー
今晩は冷える。しょんべんでもしようかと部屋を出る。おっなんかおっさんと勇者が話し込んでいる。
何故か反射的に隠れてしまった。ん…どうやら俺の話題のようだ。
支援
しかしわかりませんな。あの総長とかいう男…ただの乱暴者にしか見えないですぞ。
なぜあんな男が勇者様の御一行に…。しかもあやつ自分がボスだとか勇者様は子分だとか…
ふーむわからぬ…
総長ちゃんは見た目恐いし口も悪いけど頼りなるうちのリーダーだよ。ノマさんもそのうちわかるよ!
ああみえて根はすーっごく優しいんだ。
そうですかな。まあ勇者様がそう言うなら間違いないでしょうな…。あとあのカンダタという男…
あれは本当に人間ですか?なんと恐ろしい風貌!わしには魔物にしか見えんぞい。
えー!そんなことないよ!カンダタちゃんかわいいじゃん!絶対!
うーむ…いやはや最近の若い子の感性はわからんわいハッハッハ
総長ちゃんもカンダタちゃんもあたしの大好きな仲間です!もちろんカンダタちゃんの子分も
おねーちゃんも…それにノマさんもね!
……。
一応俺がボスだという事は自覚しているようだな。殊勝な心がけだ。
おっさんは明日絶対殴る。
ー朝ー
俺たちは船に積めるだけの荷を積んで港を後にした。
おっさんの事情を知った町の人達が食料やら酒やらをアホみたいにくれたおかげで
ほとんど買い物せずに済んだ。実は最近かなり金が貯まっている。
何故かと言うと基本的に宿屋もタダだし飲みに行ってもタダだ。
武器も防具も道具も定価の半分から10分の1程で買うことができる。
場合によっちゃお代はけっこうですとか言われる始末だ。
これも全て俺とパンツの巧みな交渉術の賜物だ。特にパンツなんて口を開く事なく目だけで値切る
事ができる。こいつにはきっと天性の商才があるのだろう。
ジパングまではまだ暫らくかかりそうだ。最初はパンツが船長な事に生命の危機を感じたがさすがに
もう慣れた。たいして強い敵もでないしのんびりしとくか。
いっとくけど気休める暇なんてないわよ。
げ…ねーちゃん…
父から私の使える呪文全部教えるようにって頼まれてるの。まだ全然進んでないじゃない。
ペースあげてくわよ!
いや俺には己の体という最強の武器があるからそこまで呪文にこだわらなくても…
さあじゃあ最初はバギの復習から!
聞いてねえ…
当然俺にブレイクタイムなどあるはずもなくみんながしばしの休息をとってるのを尻目に
今日もコツコツと修行に励むのであった。鬼だ。人の皮を被った鬼だこの女は。
ちょっと!こら!寝ぼすけ!起きろー!
うぅうんん…ぶぶぁギは精神の統一よりしいいいん空を巻き起こ…zzzzzzz
こら!意味不明な寝言言ってないで起きろー!
………。ん…?なんだもう朝か。夢の中でまでねーちゃんに特訓されちまったぜ。
お?なんだ勇者。なんでおまえがここにいる。とっとと自分の部屋へ帰れ。
帰れじゃないでしょ!もう!着いたよ!ジパングに着いたの!
みんなもう船降りる準備できてるよ?総長ちゃんも早くしてね!
ランシールを出てから一週間ちょっとか。俺たちはようやくジパングに着いた。
しかし辛かった。ねーちゃんのスパルタ度はあのクソイケにも引けをとらないくらいだ。
ほんとに恐ろしい親子だ。…正直できる事ならもう関わりたくない。
船を泊められそうなポイントを見つけるといつものように船番はパンツの子分共にまかして
俺たちは上陸した。ジパング。言葉の響きもそうだがどこか懐かしい気がする。
おっさん曰くここから東にしばらく歩くと町に着くらしい。このおっさんどうやらかなりの
インテリのようだ。ねーちゃんも頭はいいのだが、如何せんイケと一緒に長いこと塔に引きこもって
た分こういう情報面にはうとい。そういう面では勇者も微妙だしパンツは論外、別世界の俺が
知る訳がない。このおっさんカーナビばりに使えそうだ。
やはり地面は落ち着くな。ぼんやりそんな事を考えていると敵が現れた。
不細工面の蛾が5匹にデカいキノコが三匹。杖もった小デブが2匹。…ちっ多いな面倒くせえ。
とりあえず分担して片付けていくか!みな各々近くにいた相手に飛び掛る。
俺はキノコを焼き尽くすとそのまま翻って小デブに切りかかった。
ヒュン!ザクッ!!
そこじゃ!総長殿お見事ですぞ!
危ない!カンダタ殿後ろじゃ!後ろに魔物が!ああ!噛み付かれた!痛いい!
ガブ!ドカッ!グゥエェェェ!!!
勇者様頑張ってくだされ!不肖ノーマン応援しておりますぞ!
バシュッ!!!キーン!カキーン!
総長殿あなたもリーダーならもっと全体を見てですな…あ!ほら勇者様が囲まれておる!
うるせええええええぇぇぇえええええ!!!!!!!!!!
魔物に飛ぶはずの鉄拳がついおっさんに炸裂した。
おまえは戦えないなら黙っとけ!邪魔じゃボケ!
うぬうう…すまんつい血がたぎってしまい…面目ない…
ちょっと総長ちゃん!怒っちゃかわいそうでしょ!せっかく応援してくれてるのに!
敵を片付けた勇者達が戻ってきた。いやだってよ!うるせーじゃんこいつ!
その後しばらく勇者と口論した結果、おっさんは戦闘中必要最低限以外口を開いてはいけない
という事で落ち着いた。しょぼくれるおっさん。慰める勇者。
そうこうしているうちに町が見えてきた。おお!これはかなり大きな町だ。
町の入り口で異常なまでの注目を集めてしまった。好奇の視線。いや、町に着くたび
変な目で見られるのはいつもの事なので気にならないが今回はちょっと違う。
むしろ変なのはこいつらだ。服装、髪型どれをとっても今まで旅してきたどの国とも
当てはまらない。ガキが三人近づいてくる。は?何?田舎もんだと?
あっいてコラ服引っ張んな破れんだろがコラやめろって!
ガキどもを振り払う。何なんだこいつらは…
わーいわーい田舎もんが熊つれてきたぞー田舎もが熊連れてきたぞー
総長!あいつら総長の事を熊呼ばわりしてるでやんす!シメてやりましょう!
いや熊に間違えられたのはおまえの方なんだが…しかしうっとしいガキ共だ。
ガアアアアッッ!
突然パンツが奇声を発して驚かした。一瞬固まりその後号泣しだす子供。正直泣き出す
子供の気持ちもわかる。子供に対してよくやる事と言えばよくやる事だがパンツがやって
しまうとシャレにならない。子供は泣き止まない。バカでかい声で鳴き続ける。
なんだなんだと人が集まってきた。く…いつもそうだ。いつもこうなる。行く先々で注目を
集めてしまうのは俺が天才故に仕方のない事なのか…。気づけばもの凄い人数に囲まれていた。
もはや身動きがとれない。仕方がないこいつらぶっ飛ばして道つくるか。
俺が拳を振り上げたと同時に凄い勢いでおっさんが飛びついて阻止してきやがった。
一般人に手をあげるのはよくないですぞ!ぬおっ!
こいつ弱いくせに。魔物と戦う時も今くらいの根性の一つでも見せて欲しいものだ。
おっさんと取っ組み合ってる間にも事態はさらに悪化していた。明らかにカタギではない
恐い顔した人らに囲まれている。おそらくこの国の兵士だろう。
有無を言わさず俺たちはそのまま連行された。まあこれも経験済みのパターンだ。
この国の王に会って誤解をを解けばなんて事はない。さあ俺を王の前まで連れて行け。
…………。王に会うはずがなぜか地下に向かう。なんだなんだここの王は引きこもりか?
…………。ガチャッ。……え?……。そのまま投獄されてしまった。これは読めなかった。
ちょっと待てコラ!いきなりブタ箱はねーだろ!話くらいさせろクソ共が!兵士はまったく
聞く耳を持たない。てめーマジ黒焦げにすっぞコラ!下っ端兵士のくせに世紀末覇王の俺様を
こんなとこに閉じ込めやがって後悔すんぜ?いいのかコラ!
…………。無視か…。
今まさにボルテージは頂点へと向かっていた。仮にここに閉じ込められるまでの俺の怒りを
10としよう。だが今は10億10!!!お前らに明日を生きる資格は無い!!!!
くらえ!むぅぅえラゾォオオオオ……総長ちゃんだめ!!!!マァァアッァ!!!!
勇者の叫びも空しく俺の放った特大の火炎球が牢の入り口ごと吹き飛ばした。
響き渡る轟音。吹っ飛ばされる兵士。そしてヒッッヒエェ〜!!!!と奇声をあげて逃げ出した。
俺をこんなとこに閉じ込めるからだ。まったく常識のないヤツらだ。
振り返るとみんな有り得ない程の冷たい視線でこっちを見てる。
なんだよ!俺が何か悪いことしたか!?俺のおかげでおまえらここから出れるんだぞ!
ほんとにこいつらも常識が無い。感謝の一つでもしていいとこじゃねーかまったく。
で?
ねーちゃんが恐ろしく低いイントネーションで言う。いやでって言われても…
で?これからどうするわけ?
ヤバい。完全にブチギレしてる。正直恐い。
もうここでの情報収集は望めないわ。とにかく人が来る前に逃げましょう。
一旦船に戻ってからもう一度出直すわよ。
みんなぞろぞろとねーちゃんについて行く。なんだよまるで俺が悪者みてーじゃんかよ!
おっいい事思いついたぜ!多分オーブ程の代物となると宝物庫とかそんな感じの場所にあるから
このまま襲って奪っちまおーぜ!
誰も聞いていない。サッサと行ってしまった。俺は泣いた。
すんなり帰れるわけもなく城の入り口付近で今度は完全に武装した50人はいるであろう兵士に
囲まれた。しかし問題は無い。俺は昔河原で一人対100人で乱闘になっても生還した男だ。
この人数ならいけるぜ。一気にぶっ飛ばしてやる。
いい?絶対殺しちゃダメよ。出来るだけ最小限の相手だけ倒して一気に駆け抜けるわよ!
ねーちゃんが指示を出す。おい待て。俺は売られた喧嘩は買う男だ。この状況で逃げるなんて
真似できるか!と思ったがとりあえずここはねーちゃんの指示に従おう。どーせ一人で暴れてても
また置いていかれるのがオチだ。…世界征服したあかつきには絶対こいつら全員島流しにしてやる。
おやめなさい!
女の人の鋭い声が響き渡った。兵士が一斉に構えをとく。そこには女と老人がいた。
女の方は勇者と同じくらいの年齢だろうか。兵士が全員ひれ伏した。
そこまでです異国の者達よ。もしこれ以上騒ぎを起こすようならジパングの女王ヒミコの名において
あなた方を処罰します。大人しく武器を下ろしなさい。
このクソジャリ女王だか何だかしらねーが偉そうな奴だ。結局ねーちゃんとヒミコとやらが交渉した
結果、正式に謁見する事になった。そのまま奥の間に案内される。
そなた達は何の目的でこの国に参られたのじゃ?
この国に竜を模ったオーブがあると聞いてきました。
旅の目的達成の為どうしてもオーブ必要なんです!
勇者が答える。
オーブはオルテガ様から預かりし我が国の宝。簡単に旅の者に渡すような物ではない。
いったい旅の目的とはなんじゃ?
旅の目的?んなもん決まってんじゃねーか。
俺らの旅の目的が聞きたいか!耳カッポじって良く聞けよ!俺が世界中を旅すんのは世界征服の為だ!
取りあえずその一環として異常に態度のデカイ魔王とやらを一発ブチのめしてやろうと思ってな。
そのためにオーブが必要だ。さあくれ。
周りがザワつく。ヒミコが噴き出す。
はっはっは異国の者はおもしろいのう!世界征服とは大きくでたな!まあ夢は大きい方がいいわい。
はっはっは
この小娘俺よりだいぶ年下のくせに何を偉そうに…。だいたいその年寄りみたいな喋り方が
感に障る。うぜえ。
お願いします!どうしても必要なんです!
勇者が割って入ってきた。
私は…オルテガの娘です!
一瞬でヒミコの顔つきが変わった。じっと勇者を見つめる。
そなたの眼…嘘は言っておるまいな。
ヒミコは一発で信じたようだ。またこれだ。こいつは本当に相手の目を見るだけで全てを納得
させちまうからすげえ。
しかし今オーブはここには無い。オーブは…
姫!!!!!
隣の老人が割って入ってきた。
姫!異国の者をそんな簡単に信用してはいけませんぞ!もっとジパング大国の女王である
自覚を持たれい!
正直老人の言う事は正しい。自分の事を勇者と名乗る怪しい集団が国宝くれなんて言ってきて
信用するほうが問題ある。
老子よ。この者の眼は本物じゃ。それに異国人という事に何の問題がある?
そのような閉鎖的な時代はもう終わったのじゃ。自らの国の問題を自らで
解決出来ないような我が国に置いて異国と交わるのは今後必要であるだろうぞ。
姫!いくら姫と言えどそのような発言は許されぬぞ!選民であるわが臣民は卑下な異国人と
関わる必要なんてありますまい!
ヒミコは頭を抱えると老子と呼ばれる老人を退室させた。老人は渋々出て行った。
すまぬな異国のものよ。あやつも人一倍愛国心の強いゆえ、無礼な発言許されい。
いるよなああいう頭の堅いジジイは。ヒミコも大変だな。
それでオーブの件なのだが…ここから北の鳥居のある洞窟に安置されているはずじゃ。
はず?どういう事ですか?
勇者が聞き返す。
この国には「やまたのおろち」という巨大な悪鬼がおりましてな。度々現れては
破壊の限りを尽くしわが民を恐怖に陥れておった。だが先代国王の時オルテガ様が
この国に現れ見事に退治なさった。ただその生命力の強さ故完全に葬り去る事ができず、
北の洞窟に封印されたのじゃ。そして封印をより強固なものとするためオーブをそこに
安置された。
じゃあそこに行きゃオーブあるんじゃねーか。
ヒミコの顔が曇る。
悪鬼が……復活したのじゃ。あの封印は簡単に解けるような物ではない。しかもオーブで強化されて
おるので尚更の事じゃ。おそらく…強大な魔力を持つ者がオーブを持ち去った後封印を解いた
のだろう。もう何度も原因究明のため兵を送ってるのだが誰一人として帰ってこないのじゃ。
強大な魔力を持つ者。おそらくその場にいた全員が同じやつを想像しただろう。
偉大なる勇者オルテガの娘達よ。恥をしのんでお頼み申す。どうか…
断る。
ヒミコが話し終える前に断ってやった。どうせまた退治してくれとか言うんだろ?
何で俺らがそんな事しなきゃいけないんだよ。俺はボランティアでも人助けの為にでも
無い。世の中クソ共全部ぶっ飛ばして俺が覇権を握る為に旅をしているのだ。
自分の国のゴタゴタは自分で解決しろよ。オーブがないならもうここには用は無い。
おまえら帰るぞ。
ちょっと!総長ちゃんそんな言い方無いでしょ!もう少し考えてよ!
勇者が怒った顔でこっちを見る。うるせえ。俺は人助けなんてまったく興味ねえ。
空気を読んだねーちゃんが簡単には返事できないので話し合い明日また返答すると
その場をまとめた。ヒミコは宿を手配してくれた。
その日の鬼浜会議は荒れた。過去最高に荒れた。
勇者は引き受けるの一点張りだ。あとのメンバーも勇者に賛同する。そろいもそろってアホ共が。
どうやら勇者はかなり勇者の親父が前に倒したという事を気にしているようだ。今度は自分が
この国を救うのが使命とでも考えているのだろうか。付き合いきれん。
そんなに行きたいなら勝手にしろ。俺は絶対に行かん。
総長ちゃんのバカ!わからずや!
ついに勇者は泣きながら出て行ってしまった。
総長!あっしは心底見損なったでやんす!
パンツも出て行った。それを機に自然解散となった。
ー次の日の朝ー
あいつらはヒミコに会いに行ったようだ。置手紙があった。
無性にイライラする。ちっ…こんな時は飲みに行くしかない。俺はフラフラと宿を出た。
外には小雪がチラついている。どうりで寒いと思った。昨日はそんなでもなかったのにな。
ほんとになんだってんだよあいつら…あの甘ちゃん加減にはほとほと愛想を尽かした。
こうなったら全員辞めさしてまた新しくメンバー集めるか。ったく面倒くせーなチクショウが。
しかし初めて来る場所だ。どこで酒が飲めるかさっぱりわからない。その辺のおばさんに
聞いてみる。少し先に酒屋があるらしい。なぜかおばさんの顔が曇る。まあいい。
そこから500メートル程行った先に酒屋はあった。しかし人気がない。朝だから当然か。
中に入る…うおっこれは酷い。中には店の主人とその奥さんと思われる人がいた。だが凄まじく
顔に生気が無い。世の中終わったみたいな顔をしている。客商売だろ大丈夫かここ!?
……すいません…もうこの店は閉めましたんで…よそに行って下さい…
閉めたって店自体を辞めたって事か?おいおいふざけんな俺は酒を飲みにきたんだ。出せ。
そうですか…なら残ってるお酒全部飲んじゃって下さい…お代は結構ですので…
マジか!?まあせっかくの機会なんで有難く頂く事にしよう。
そしてアホかって程酒が運ばれてきた。マジで店の在庫全部持ってきやがった。
一口飲んでみる……………これは!?それは俺の世界で言うところの焼酎のような味だった。
酒ってのはその時のテンションにより味が大きく左右される。自棄酒の類ってのは大概
どんないい酒を飲んでも不味いもんだ。ましてや今の俺の心境はどん底だ。
なのにこれはうまい。文句なしにうまい。ここまでうまい酒を漬ける事ができるのに何故店を
閉める必要があるのだろうか。ほろ酔いも手伝ってお節介にも聞いてみる。
娘が…選ばれたのです…
????わけがわからん。何に選ばれたって????
主人が奥から無言で一通の手紙を持ってきた。内容はつまりあんたの娘をやまたのおろちの
生贄にするってもんだった。差出人はジパング…つまり国から直接の指名だ。
うっ……うッ…仕方がないんです…仕方がないんですよ…やっとできた娘なんですが…
国の為に命を差し出せるなら本望です…
俺は無言で手紙を破り捨てた。燃やした。そして主人を殴りつけた。ふっとぶ主人。
な…何をなさるのですか!?
何をなさるのですかじゃねー!!!!!俺はもう一発殴った。てめーはアホか!そんな大事な
娘をなぜ簡単に差し出す!?そんな大事なもんだったらタマ張って守ってみろや!
主人が力なくうな垂れた。
無理です…あの怪物には誰も逆らえないんですよ…人の力ではどうしようもありません…
私は所詮酒を作るしか能の無い人間です…
く…俺はこいつみたいに卑屈な人間が一番嫌いだ。もう一発どついてやろうと近づくと
やめて!お父さんをいじめないで!
小さい女の子が止めに入った。娘だろう。必死に父親にしがみついてこっちを睨む。
その必死な顔を見た瞬間俺の心のモヤモヤはキレイに吹き飛んだ。
うおおおおぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉおおお!!!!!!!!!!!!!
もうゴチャゴチャ考えるのは止めよう。俺らしくねえ。俺はやまたのおろちがムカついた。
だからぶっ飛ばす。それでいいじゃないか。誰の為でもない。俺自身の怒りの鉄拳だ。
いいかてめー店閉めやがったらマジでボコボコにするからな!こんなうまい酒を振舞う
店が無くなっていいわけないだろうがアホが!やまたのおろちは俺を怒らしてしまったため
跡形も無く消し飛ばしてやる!祝勝会はここでするからてめーは準備してまってろ!
主人と奥さんと娘は最初キョトンとしていたがやがてバタバタと駆けずり回ると一本のビンを
持ってきた。
これを使って下さい!これは特別な酵素をつかって我が家に伝わる秘伝の方法でつけた神酒です!
オルテガ様もこれを使いやまたのおろちの動きを止めました!もう残りはこれしかありませんが…
どうせ蔵にあっても眠っているだけです。見ず知らずの旅の方に渡すのも変かもしれませんが
あなたに使って欲しいのです!
俺はビンを受け取ると走った。とにかく走った。粉雪舞い散る中無我夢中で走った。
国一つをここまでかき回す化け物だ。きっと恐ろしく強いのだろう。
頭の中にはあいつらの顔がよぎる。もしかしてもう戦ってるのだろうか。
俺がいなくて大丈夫だろうか。あいつら俺に比べるとあんま強くねーからな…
まさか今頃もうやられてたりは…クソッ!そうなったら総長一生の失態だ。何故あんなつまらん
意地を張ってたんだろうか。自分で自分がムカついて仕方がない。今はただとにかく速く走るのみ!
そして俺は北にある洞窟へついた。おそらくここだろう。周囲の空気が明らかにおかしい。
中から邪気が溢れ出ているように感じる。勇者は!?パンツは!?ねーちゃんは!?
この静けさからおそらくまだ到着してないに違いない。どうやら間に合ったようだ。
もうすぐ来るろう。暫く待つか。
だが俺の予想は外れた。勇者達が来たのは…二日後だった。
……寒い…
おうやっと来たか。おせーぞてめーら。とっととやまたのなんとかってやつ倒して帰るぞ。
俺は寒いんだ。
ぃぎやぁぁぁぉおおおぁぁぁおううううぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!
パンツ。
ぞうぢょーーーーぢゃーーーーんんん!!!!!!
勇者。
二人とも俺の声を聞くなり涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして奇声を上げながら
飛びついてきた…おいコラ!あっ鼻水ついたきたねっつの!離れろ!あーもう!
こいつらほんと涙もろいな。何はともあれ俺たちはようやく合流した。
絶対来てくれるって信じてたんだ!
勇者が満面の笑みで言う。いいから顔ぬぐえ。まだ鼻垂れてんぞ。俺たちは嫌な空気が
プンプンする洞窟の中へ入った。なんて事はない普通の天然洞だ。
へックシュッ!クシャミが止まらない。勇者が総長ちゃんはこんな寒いのにそんな薄着でウロウロ
するから風邪ひくんだよとかぬかしやがる。いや誰のせいで…そういやこいつら二日間も何してた
んだろうか。ねーちゃんに聞いてみる。
やまたのおろちについて色々調べ事してたのよ。強敵だから。でもあまり有益な情報は
得られなかったわ。一つだけあったんだけど…弱点が
おいおい弱点だなんて有益この上ないじゃないか。さすがねーちゃん。
どうやらやまたのおろちの苦手な植物がこの辺に生えているらしいの。それをつかってつけたお酒を
使えばかなり動きを鈍くできるみたい…ただそのお酒探し回ったけど見つからなかったわ。
一軒だけ置いてるお店見つけたんだけど最後の一本旅の人にあげちゃったみたいで…
正攻法で攻めるしか無いわね。
うーむそんな貴重な酒を持ってくとはかなりの酒通の旅人ですな。しかしもしかしたら簡単に
退治できたかもしれぬのに実に残念ですな。
やべ。俺は持っていたビンをそっと捨てた。だって飲んじゃったんだもん…この二日間凍死せずに
すんだのもこの酒のおかげ…神酒だけあって確かに燃えるようなうまさだった…
総長ちゃんぶつぶついっちゃってるけど頭大丈夫!?もしかして風邪が頭まで回った!?
………。仮にそうだとしても普段のおまえらよりは正常な自信はある。絶対に。
そうして俺たちは巨大な門の前に着いた。
しかしでかい。しかも開いてない。鍵はかかってないようだがこんなもん開けれるか。
おいおいこれじゃ開かなねーぞどうするよ?なんだよ。はいはい。わかりましたよ。
俺とパンツは左右の扉の前に立つとあらん限りの力を振り絞って押した。
く…ピクリともしない。ねーちゃんが俺とパンツにバイキルトをかけた。力が漲る。
ふんッ…ぬうううう…ぬおおおおおぉおぉぉぉ…
血管がはち切れそうになりながら必死になる俺とパンツ。やがて扉は少しづつ開いていく。
ある程度開くとあとは惰性でわりと楽に開いた。
熱い。さっきまでの寒気が吹き飛ぶほど熱い。なんだこの熱気は。
そりゃそーだ。これは溶岩だ。所々地面の隙間から熱気が噴出している。
とにかく俺たちは進むしかない。汗を拭いながらひたすら歩いた。
そうしてたどり着いた先は行き止まりだった。一際大きな空洞で立ち止まった。
つーか熱いだけで何もねえ。
…ん?今微かに地面が揺れたような。いや気のせいだろう。気のせいという事にしておこう。
…やはり揺れている…。
……しかも徐々に振動が大きくなる。みんな終始無言だ。
ねえ…ちょっと…揺れてない…?
勇者がついに口を開く。あーあやっちゃったよ。こいつ明らかにズラの人に向かってカツラですか?
って聞くタイプだな絶対。ここは総長としてみんなを鼓舞しなければ。
先頭を歩いていた俺は振り返る。
いいかおまえら。例えこれから相対する敵がどんな怪物だとしてもだ。例えどんな
山のような化け物だとしてもな…鬼浜爆走愚連隊は最強だという誇りをもってだな…
なんだ?みんな目が点になっている。俺の顔になんかついてるか?そんなジロジロ見んな。
おっさんがガタガタ震えながら後ろを指差す。何だよまったく。
俺は後ろを振り返った。そしてとんでもないものを目撃した。
………ダッシュ……
俺が小さな声で呟くやいなやそれはそれは凄い速さで転進した。おそらくマッハはでていた。
むおおぉぉぉぉおおぉぉぉ!!!!!!!!!
全員さっきの扉をこえると一気に閉めた。今度はみんなで閉める。必死だ。
落ち着け。あまりの突然の出来事に引き返してきてしまった。逃げてどーする…
おーーーーーーっきかったねー
勇者が半笑いで言った。まあ確かに笑うしかない。冷静に記憶を呼び覚ましてみるが
とりあえず頭らしきものが三本見えた。あれに胴体がついて…うーん…
とにかくとんでもないデカブツだ。これは気を引き締めてかからなければ俺たち全員
あの化け物の胃の中に納まる事になる。
ガンッ!!!ガンガンガンッッッ!!!!!!
突然金属音が響き渡る。どうやらあのデカブツが扉を叩いているようだ。
ガンガンガンッ!!!!ガンッ!ガンッ!
…ちょっと様子見るか。
ガンッ!!!ガンガンガンッ!ガン!!!!!!
あーうるせえ!わかったわかった今すぐぶっ飛ばしやるから静かにしてろ!
支援
俺が扉を開けようとするとねーちゃんに止められた。
待って…妙だわ。もう少し待ってみて。
暫くして音は消えた。どうやら帰ったようだ。
やっぱり。やまたのおろちは自分ではこの扉開けられないわ。
え?どういう事だ…?理解するまで三秒程かかった。つまりだ。あのデカブツは
自力でここを開けられない。でもはジパングを襲われている。
わかったでやんす!アイツは透明人間になって瞬間移動できて空を飛べるで
やんすね!?とんでもな化け物でやんすな!
…つまりだ。自力でここを出れないとなると何者かがここをいちいち開けている事になる。
そして国を襲わせていると。一体何の為にだ!?謎だらけだ。
どうやらやまたのおろちを退治すればいいだけの問題じゃなさそうね。
ねーちゃんが難しそうな顔をする。とりあえず俺たちは一旦引き返して出直す事にした。
パンツが腹が減ったとごねるので飯にする事にした。ここでいいんじゃないさっきも
寄ったしと勇者が立ち止まる。げっここは…ここは例の酒屋だ。ヤバイバレる。
おいここはやめて別のとこにしようぜなんか辛気臭い店だしってオイ!総長である
俺を差し置いて勝手に店に入るな!あーあ行っちゃったよ。
中に入るなり店長と目が合う。意味深な目で見つめる俺。いいかくれぐれも俺に神酒を
渡した事は喋るなよ…そんな視線。店長はコクッと頷いた。通じたようだ。
やはり真の男同士は目で語れるものだ。店長イカスぜ!あんたも漢だ!
あなたはさっきの!生きてたんですね…!神酒は役に立ちましたか!?
一気に俺に集まる視線。な…なんだよその目は!見るな!こっちを見るな!
まあいいわとりあえず座りましょうとねーちゃんが誘導する。
さて。うんそうだな。まあここは英気を養うためにまず一杯…ピシッ!
ねーちゃんの張り手が持ちかけた俺のグラスを叩き落した。やっべ目が座ってる。
仕方がないので酒は一旦諦めて真面目に会議をする事にする。
議題は二つ
・どうやってあのデカブツを葬るか。
・誰があの扉を開けて町を襲わせているのか。
デカブツは本気だせばどうかなるだろ?大体酒飲ませて動けなくなったとこ襲うなんて
男の闘い方じゃねえ!
…………。まあいわ。それよりも問題はあの扉。まず考えられるのは魔王軍。
でも私はこの線は薄いと思う。
…なんと。大本命をいきなり切り捨てやがった。てかありえねーだろ。わざわざあんな
化け物をけし掛けたり閉じ込めたり繰り返す様な奇特なバカは魔王以外いねー。
しかしねーちゃんが続ける。
魔王軍なら一気に滅ぼしてしまうと思わない?なぜ中途半端に襲わせるのかしら。
見たところこの町に目立った被害わないわ。生贄が要求されるくらい。
そんな回りくどい事をするメリットなんて無いわ。見せしめに一気に潰した方がいいもの。
……なるほどな。そう言われりゃそーだ。じゃあ一体誰が…
あの洞窟は普段人は近寄るのかとねーちゃんが店長に尋ねる。店長曰く国の御触れでなるべく
近寄らないようにとの事だそうだ。近づいたら牢ぶっこむぞって程でもないが、
あまりいい思い出の場所でもないので滅多に自発的に行こうという人はいないらしい。
益々行き詰る。いや行き詰るというよりはなんだろうこれは。強烈な違和感を感じる。
……………。まさかな。そんなはずはない。ねーちゃんと目が合う。どうやら同じ事を
考えていたようだ。
ヒミコの所へ行こう。
まさか国が犯人だとは思えない。ただこんな大掛かりな事をできるのは魔王軍かこの国の
機関かのどちらかだ。少なからず何かは知っているはずだ。
勇者とおっさんは難しい顔をしていたが仕方ないと頷いた。パンツは寝ている。
俺達は店長一家に礼を言うと足早に城を目指した。
衛兵の制止を振り切り俺達は中に入った。そしてヒミコの前に立つ。
勇んで来たはいいものを何をどう説明しようか。やべこのままじゃまた只の侵入者だ。
と、ねーちゃんが簡潔に事情を説明した。ひみこはため息をつくとそこにいる全員席を
外せと命令した。
実は…確かにおかしいのじゃ。突然解けた封印。姿を見せるが実際大して暴れたりはせん。
しかし封書で生贄を出せと要求する。無論あの化け物がそんな事できるわけは無い。
その存在だけで国の民は脅えおる。
コイツは本当に何も知らなさそうだ。……………。よし。明日もう一度あの洞窟へ行こう。
面倒くせえ。ごちゃごちゃ考えるのはアイツをぶっ飛ばしてからだ!
すまんな勇者殿達よ。
勇者はいいんです頑張ってきますと笑顔で答えた。決戦は明日だ。
支援いつもありがとうです!
20行規制解除きたああああああああああっしゃあああああああ
駄文ですがこれからは32行フルに使えるのだ多少は読みやすくなるかと…
おっさん…ノアニール出身だったのか…
絶対何処ででも必要以上に騒ぎ起こすなあ鬼浜はw
勇者の言動にいちいち萌える(*´д`*)
※ 今回はゲーム世界の謎について主人公sに考察してもらいます。
タツミ「ではさっそく。アルスの過去もいろいろ解明されましたが、
今回はいまいちわからない部分を考察したいと思います」
アルス「そういやお前、あの世界が丸ごと無限ループだってこと、薄々気づいてたみたいだな」
タツミ「まあね。でも確信はなかったんだ。だっておかしいだろ。
君の冒険が『ロト伝説』としてドラクエ1&2に継承されていく以上、
ストーリー上『語られない未来』があるのは間違いないんだから」
アルス「だよな〜。1と2の主人公は『ロトの血を継ぐ者』ってはっきり言われてんだから、
俺は子孫を残したってことだろ? なんで俺の未来がねえのよ」
タツミ「思うに、ゲームの枠を逸脱してしまった『君』だけに起きたイレギュラーなんじゃないかな。
Stage.10.5のまとめでも、これはあくまでソフト単位の話であって、
君たちはドラクエというゲームの代表としての存在じゃないって言ってるし」
アルス「他のプレイヤーの勇者たちは、ループなんかしてないってことか」
タツミ「というわけで、読者の皆様がお持ちのドラクエの主人公たちは、
うちのアルスみたいなことにはなりません。何周でもプレイしてあげてください」
アルス「やり込むほどに味わい深くなるのがドラクエだからな」
タツミ「ところで今回の雑談、よく引き受けたね」
アルス「なにがだよ」
タツミ「いや、前回散々言ったから、本当は僕と口をきくのも嫌なんじゃないかなーって」
アルス「本編の確執をいちいち番外に持ち込んでたら仕事にならんだろうが」
タツミ「そりゃそうだけど。……君って意外とオトナだよね」
アルス「意外は余計だ」
サンクスコール?リアルタイム遭遇ktkr
支援
>593
ちょ、メル欄…
雑談しとらんで養生しる!
>>593 病室ってどうしたん?
無理せず休んでくれ
やっと規制明け。乗り遅れた〜
作者の皆さん乙!
楽しみにしてますよ
ざっとまとめ一覧見てきたんだがここってひょっとしてモンスターズは含まないの?
まあでも宿屋ないからスレタイに反するのかな
DQM2には宿屋あるぞ
・・・異世界にだがw
601 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/25(金) 07:27:11 ID:OqPmcdHjO
ー次の日ー
さすがに今日は誰一人寝坊する事はなかった。パンツですらキチンと起きたのだ。
奇跡。やれば出来るじゃねーかと話かける。ちょうちょが…ちょうちょが…
寝ぼけてるのか何言ってるのかさっぱりわからない。いや違うこれは寝ぼけてるのではなく
寝ているのだ。体は起きているが頭は寝ている。立ったまま寝ている。さすがパンツ侮り難し。
俺達は真っ直ぐ洞窟を目指した。中に入る。一度来ているので今回は進むペースが早い。
迷うことなく扉の前に到着した。一気に開ける。
最深部に奴はいた。咆哮が腹に響く。無意識に後ずさってしまう。チクショウ前に出やがれ
俺の足!みんな完全に気持ちが呑まれてしまっている。ここは先陣きって俺が行くしかない!
俺はダッシュで一直線にデカブツを目指した。ねーちゃんがすかさず補助呪文を唱える。
いくぜええええぇぇぇぇえええ!!!!!!!!
ガキィィィィィィィイイイインンンッッ!!!!
金属音が洞窟内に響き渡る。コイツなんて硬い皮膚してやがんだクソが!…え?
信じられない光景だった。俺の愛用ドラゴンキラーが真っ二つに折れた。
おいおい!ドラゴンキラーとは名ばかりか!いやいや有り得ないから!そしてデカブツと目が合う。
ゆっくり口を開ける。やべえ。次の瞬間凄まじい炎が放たれた。一瞬にして目の前が真っ赤だ。
ねーちゃんが反射的にかけてくれたフバーハのおかげで何とか持ちこたえる。
が、痛い。超熱い。
隣では勇者とパンツが必死に切りかかっていた。炎をギリギリでかわしつつ刃を立てる。
しかし聞こえるのは乾いた金属音だけであまりダメージはないようだ。
…仕方がない。俺だってバカじゃない。こんな超規格外の相手に丸腰で挑んだりはしない。
昨日一晩考えて奥の手を用意しておいた。毒を以って毒を制す。目には目をデカブツには
デカブツを…!
ド ラ ゴ ラ ム !!!!
いや正直かなりの賭けだった。イケが一回使った呪文を見よう見真似で使うことは。
だがしかし!俺は!賭けに!勝った!ぬをををををおおおおおおおっっ!!!!!!!!
これは…凄い…!
ねーちゃんが唖然としている。そりゃそうだ。俺のドラゴラムはその辺の奴のとは
訳が違う。このデカブツを一目見たときから考えていた。こんな化け物に勝てるのは
ヤツしかいない…そう…幾度と無く日本を壊滅させかけ、終いにはニューヨークにまで
遠征かけた…
ドラゴラムは呪文を唱えた本人の能力やイメージが強く反映されるわ。
ただこれは…禍々しいというか何というか…そうこの世界の生物ではないみたい…!
当たり前だ!俺たちのヒーローをこんな世界のチンケな竜なんかと一緒にすんな!
今日俺は「ゴジラ」の名においてコイツを倒す!!!!!!!!!!!!!
野生の本能かデカブツは即座に俺を敵だと判断すると飛び掛ってきた。
それでもまだなおデカブツの方が二周りはデカい。だがしかし!ゴジラの名において
敗北は許されない!俺は正面から取っ組み合った。
ぐんむぬぬぬガアアアアアァああグアアああッッ!!!!!
巨体がぶつかり合う。もはや小細工無しの力と力の真っ向勝負!
俺の強烈なパンチが炸裂する!が、相手はたくさんある頭で同時に噛み付いてくる!
ぐッ…これはズルい…キングギドラですたら頭3つだったと言うのに…
俺は渾身の力で全身を叩きつける。体が小さい分小回りが利く。一撃の重さに劣るなら
こっちは手数で勝負だ!洞窟内に硬い皮膚と皮膚がぶつかり合う鈍い音がこだまする。
しかし徐々に押され始める。コイツは文字通り頭数が多すぎる!
ふんぐああぁぁぁぁぁ!!!これでどうだああああああ!!!!!!
力任せに一つの首を締め上げた。フロントチョークみたいな状態だ。そうとう苦しいのか
他の首が一斉に暴れだした。体中噛み付かれてボロボロだ。放さねえ!絶対放さねえ!
やがてゴキッと鈍い音があすると締め上げていた首の力が抜けた。
ぎゅアアアアアアァアアァ!!!!!!
さらに追い討ちと俺は口から強烈な炎を吐いた。温度でこそのダメージは薄いものの強烈な
圧力により相手は怯む。チャンスだ。一気にタコ殴りにする。俺の鉄拳連打が完全に相手を
捕らえた。
一瞬グッタリしたように見えた。まじかよ…コイツは一体何処までタフなんだ!?
直に体制を立て直し反撃に出てきやがった。残った口という口から猛烈な炎を吐く。
衝撃に押されて後退する俺。
バギッックロスッッ!!!!!
ねーちゃんの起こした真空波がデカブツの炎を切り裂き顔面に命中した!
助かったぜナイスねーちゃん!立て続けにパンツが同じ箇所に一撃を見舞う。
この首も動かなくなった。
お父さん…私に力をかして!…ラィッディイイイインンッッ!!!!
勇者が強烈な雷を落とした。こいついつのまにこんな強い呪文を…
ギャアアアアオオオオオオオオおおううウウウウ!!!!!!!
これはさすがにかなりのダメージを与えたようだ。悶絶するデカブツ。
よしここで俺が一気にカタをつけてやる!あれ?なんかコイツさらに巨大化してないか!?
デカブツの目線がどんどん高くなる…いや違う!これは俺が縮んでるんだ!!!
…元にもどっちまった…。だがこの好機は逃せねえ!炎が効かないなら逆を攻めるのみ!
くらえ!ヒャダイン!!!!!!氷の刃を含む猛吹雪がデカブツを包む。
凍ったせいなのかはたまた体力が尽きたのかデカブツは動かなくなった。
倒したのか…?おそらく一気にダメージをおって動かなくなっただけよ!ねーちゃんが叫ぶ。
膝の力がガクッと抜けた。ち…ちょいとばかし飛ばしすぎたようだ。
もう一息なのに!動け!俺の脚よ動け!
ドク…ドク…とバカでかい心音が響く。
ゆっくりとだが動き出しこっちを睨む。こいつどうしたら倒せるんだ!?
まずいわ!体力も回復力も異常だもの!このままでは競り負ける!
次の瞬間デカブツの振り回した頭により勇者とパンツが宙を舞った。
壁に打ち付けられ崩れ落ちる。どうやらパンツが自らを下敷きにして勇者をかばったようだ。
確かにこのままじゃこっちがもたねえ。クソこっちは
5人がかりだというのに…あれ?5人…そういやおっさんどこいった!?
総長殿総長殿…おっさんが話しかけてきた。てめえ無事か!?はい!身の危険を感じた故
あの岩の陰に最初から隠れてました!っていばるなそんなもん!…え!?なんだと?
おっさん曰くあの動きからして頭はたくさんあれど脳は一つらしい。で、その脳の場所だが
全部の首の付け根が怪しいらしい。ほんとか!?
間違いありません!あやつさっきからそこだけかばっておる!わしはずっと見ておった!
この際試してみるしかない。ねーちゃんに回復してもらう。ある程度はこれで動ける。
問題はどうやってその弱点を狙えるかだ。さてどうするか。今こっちの戦力は…
ねーちゃんはほぼ魔力使い果たし、パンツは完全に動けない。残るは俺と勇者。
勇者を呼び寄せる。俺がなんとかしてアイツの注意をひくからお前が剣で弱点を突け。
俺のドラゴンキラーは折れてしまったためこれがベストの選択だろう。
わかったと勇者が頷く。ここで失敗すると勝ち目は無い。気合入れてくぞ!
ねーちゃんが最後の気力を振り絞って竜巻を巻き起こす。デカブツの注意はこっちにむいたようだ。
勇者が駆け出す。よし後は勇者が回りこむまで俺がヤツを引きつけるだけだ。
とりあえず回りこんでることに気づかれてはいけないので派手なの一発かましとくか。
イオ!!!わざと爆発の中心手前にずらした。デカブツは口をこっちに向けると炎を吐く。
俺はフバーハを張ると後は仁王立ちだ。耐え切ってみせる!!!!
熱風が視界を塞ぐ。だがしかし俺は倒れん!!息切れか炎は止まった。
デカブツが大きく息を吸い込む。俺はポケットに詰めてあった薬草を全部口に押し込んだ。
ぐにゃあ!ぐるぢゃらごういびゃ!(コラ!くるならこいや!)
第二波がきた!俺は男の意地にかけて倒れん!…………ぬううううう………
意識が遠のきそうになる。勇者は!?勇者は今どこだ!?勇者がデカブツによじ登っているのが
見えた。もう少しだ。ちくしょうだが目の前の敵はまた大きく息を吸い込む…きた!!!!
やられてばっかじゃないぜ!ヒャダルコおおおお!!!!!!
冷気が炎を押し返す。ぐうううううううう!!!!…だめだ魔力がもたねえ…!
逆に押し返される。多少勢いは抑えられたようだ。なんとか踏みこたえる。
これはもう限界だ。視界がボヤける。デカブツが二重にも三重にも見える。ここまでか…。
総長!起き上がったパンツが体全体を引き摺りながら寄ってきた。そして俺の横に並ぶ。
次の一発が最後になるだろう。その間に勇者が一撃見舞えれば俺たちの勝ちだ。
パンツ!俺たちの根性をあのクソデカに見せてやるぞ!はいでやんす!俺達は肩を組むとデカブツを睨み付けた!
怒号共に一際大きな炎が飛んできた。耐える耐える耐える!根性なら誰にも負けん!!!!!
全ての力を振り絞った。もはや体力は尽きている。だが時に気力は体力を凌駕する!!!!
イヤああああァァァァあああああぁ!!!!!!!
勇者の叫び声が聞こえる。どうなったんだ?炎が止まりそこに写ったのは深々とデカブツの
首元に剣を突き立てる勇者の姿だった。
さっきまでの激闘が嘘のように一瞬静まり返る。
……グ……グッウィヲヲオオオオオオオオオオオオ…!!!!!!!!!
明らかにさっきまでとは違う苦しみ方だ。七転八倒して大暴れした後、動かなくなった。
勝った…のか…?満身創痍の俺達が集まる。いやーいやいや凄まじい死闘でしたな!
…いや一人だけピンピンしてやがる奴がいた…だが突っ込む元気もねー…
デカブツはもう完全に動かない。コイツ…本当に強かったな。デカイとはいえこっちは五人がかりだ。
おそらく俺一人でタイマンはってたら勝ち目は無かっただろう。強敵だった。
できる事なら墓の一つでも掘ってやりたいがさすがに無理がある。俺達は洞窟を後にした。
みんな疲弊しきっているのか無言だ。おっさんは一人興奮しているが誰も聞いちゃいねえ。
入り口で立ち止まる。どうしたの総長ちゃんと勇者が振り返る。
イ オ ナ ズ ン ! ! !
轟音と共に入り口が崩れる。数分後岩盤で埋め尽くされ完全に埋まった。
強敵との闘いに敬意を表してこの洞窟をデカブツの墓標にしてやろう。我ながら粋な計らい…
完全に気力も体力も魔力も使い果たした俺はその場で意識を失った。
次に目を覚ましたのはあの酒場だった。そう例の神酒のとこだ。パンツがここまで担いできたらしい。
店長は号泣しながら礼を言ってきた。別にお前のためにデカブツと倒したんじゃねえ。
うざいから泣くな。と、ねーちゃんが手招きしている。ははーんさては俺の男の中の男の闘いっぷりに
惚れちまったか?ったくこれだからモテる男はつらいぜ。誘われるがままに店の外に出る。
勇者殿…
来た来た。いつでも準備は万端だぜハニー。今晩は最高級のスイートルームを予約しようかってぬお!
振り返った視線の先にいたのはおっさんだった。なんでてめーがここに居るんだチクショーが!!!
実は洞窟でこんなものを拾ったのですじゃとおっさんが勲章のような物を見せた。
竜の形をしていて真ん中にはよくわからない文字が刻まれている。なんだこりゃ。
それはジパングの紋章よ。それもかなり地位の高い人しか身に付ける事ができないものよ。
ねーちゃんが続ける。男心を弄びやがって酷いぜねーちゃん…ってえ!?どういう事だ!?
あの洞窟にこの国の偉い奴しか身につけられない物が落ちている。どうやら嫌な予感は的中した
ようだ。沸々と湧き上がる俺の怒り。すぐに酒場に戻り全員に召集をかける。
おまえらこれを見て欲しい。
みんなの視線が竜を象った紋章に集まる。
これは洞窟に落ちていたものだ。おっさんが拾った。ブローチだかペンダントだか何だかしらねーが
どうやらこの国のお偉いさんしか身に付ける事ができないものらしい。
勇者の顔が強張る。パンツが何か大発見をしたような顔で喋りだす。総長それはつまり…黙れ。
会議中においておまえに発言権は無い。
俺はハッキリ言ってブチ切れた。今から城に殴りこみに行くぞてめーら!
俺は大声を張り上げた。ちょっと待ってとねーちゃんが話し出す。
今日はみんな疲弊してる事だし準備を整えて明日改めて訪ねましょう。それにその格好じゃ
多分城の中に入れてくれないわよ。
自分の服を見つめてみる。ボロだ。これは服というより完全なボロだ。いやしかし服装など関係ない!
俺は今殴りこみをかけたいんだ!
あの…お取り込み中失礼しますがささやかですが出来る限りの料理と酒を用意しました!
娘の恩人です!遠慮なく食べて下さい!
……よし。出発は明日にしよう。
ー次の日ー
足取りは重い。場合によっちゃあの城にいる奴ら全員ぶっとばさなきゃ気がすまねえ。
相変わらず衛兵に止められる。ブン投げた。どけ。俺達は最短距離でヒミコの元へ向かった。
ブチのめしたぜ。やまたのおろち。まことか!?とヒミコが驚く。しかし俺たちの浮かない顔を見て
黙り込む。これに見覚えはあるかしら?とねーちゃんが例の勲章のようなものを見せる。
あの洞窟に落ちていた。…………説明してくれ。
一呼吸置いてヒミコは話し出した。
それは…我が国が公的に作っているものじゃ。各役職ごとに異なる紋章を授ける。
古くからの伝統じゃ。そしてそれは…もうよい。本人を直接呼ぼう。
ヒミコは衛兵に何か耳打ちすると衛兵は一礼した後出て行った。数分後。
部屋に入って来たのは最初にこの国に来たときに食ってかかってきた老人だった。
これが封印の洞窟に落ちていた。説明してくれ。
ヒミコはそれだけ言うと紋章を老人に渡した。老人はため息をつくと右手を大きく振り上げた。
突然ドカドカと十数人はいるであろう武装した兵士が部屋になだれ込んで来た。
状況が把握できない。どういう事だ!?ねーちゃんと目が合う。
ねーちゃんが女王様を守って!と指示を出す。何が何だかわからないが俺達は王座を取り囲む様に
円陣を組み備えた。おいおい。ヒミコは顔を強張らせたままどういう事じゃ!と叫ぶ。
姫様…いや今は女王様か。わしは先代国王の時よりずっとこの国の為に心身を奉げてきた。
………?
王妃様はあなたを産んだ後直亡くなられた。偉大な王であった先代の血をひくのはヒミコ様
あなだだけじゃ。王位を継いだ事も女王となった事も何の間違いは無い。
………??
しかし…あなたの思想は危険すぎた。隣国と仲良くとな?笑止万全!何故選ばれた民である我が民と
下民である者たちが手を取り合う必要がある?崇高なるジパング国の指針は一つ!他の国を従える事
のみ!残念だが姫…いや女王様。あなたにはここで退官願う。死をもって!
老人が手をかざすないなや、兵士達が異形の物へと姿を変えた。
コイツ…魔王と手組んでやがったのか!?非常に混乱しているが今しなけりゃいけない事は一つだ。
こいつらを叩きのめす!
俺はねーちゃんと勇者にヒミコの護衛と呪文での後援を頼んだ。そしてパンツと敵陣に切り込む。
数は多いがやまたのおろちに比べりゃ雑魚だ。片っ端から片付けていく。暫く後目の前に敵対するのは
老人だけだった。
ぐぬうううぅぅ…愚かな者達よどこまでも神の国に楯突こうというのか…
ククク…お困りのようですね…
どこからともなく嫌な声が聞こえる。生理的嫌悪感をもよおすこの声。どこかで聞き覚えがある…
不気味な黒い霧と共に一人の覆面の魔術師的な男が現れた。
俺とパンツと勇者は絶句する。コイツは…コイツは忘れもしねえ!あの時あの時じいさんが自分の命と
引き換えに潰した奴あの時の…言葉が出ない。心の奥底からただ怒りが湧き起こる。
てめえ生きてやがったのか!おまえだけは絶対に俺の手で潰す!
今にも飛び掛ろうとした。が、体が動かない。
落ち着きなさい。相変わらず熱い男だな。今日はおまえらの相手をしにきたんじゃない。
後始末にきただけです。
と、次の瞬間魔術師の手が老人の胸を貫いていた。
今までよく働いてくれました。あなたがジパングに与えた恐怖や絶望…大魔王様もお喜びでしたよ。
ただやまたのおろちを失った今もうあなたは不要です。安らかに地獄に行きなさい。カカカ…
老人は口をパクパクさせながらうわ言のようにジパングと呟くとやがて動かなくなった。
魔術師はボロ雑巾のように老人を投げ捨てるとこっちに向かってきた。
やまたのおろちを倒した所をみると少しはマシになったようだが…この程度の邪気で
身動きが出来ないようじゃまだまだだな。大魔王様もおまえらが自分の存在を脅かすくらい強くなるのを
お待ちですよ。色々な国を回り様々な人を助けもっと勇者とその仲間として完成しなさい。
勇者は人々の希望であるから勇者なのですよ。ククク…
メェェラゾォォォォッッマァァァァァ!!!!!!!
俺の放った極大の火球が魔術師を捉える!
轟音と共に大量の煤と埃が舞い上がり一瞬視界を遮った。
徐々に視界が回復する。
ほう…さすがこの状況で動けるとは…異世界より迷い込みし賢者よ。少しは楽しませてくれるようだな。
コイツ…俺の必殺技を食らって無傷なのか!?ヤバイ近づいてくるが今度こそまったく指一本動かせない。
く…殺られる……………!
魔術師が耳元で囁いた。
そして去って行った。
俺達の金縛り?も解けたらしく全員が一斉に動けるようになった。目の前にあるのは魔物の死骸の山と
老人の屍。外にいた兵士が何事ですか!?となだれ込んできた。ヒミコは力なく死骸の片付けと
老人の埋葬を命じた。
ひと段落ついてもう一度ヒミコの座の前に集まる。
重い沈黙。
ちょwゴジラに変身しやがったwwwwwwww
ドラゴンなのかそれはw
重ね重ね礼を言うぞ。勇者とその仲間達よ。やまたのおろちの件だけでは無く命まで助けてもらったようだな。
こんな事言える立場じゃないかもしれんがあの者は手厚く葬った。許してくれとは言わん。
ただ誰よりもこの国を愛するが故の行動だと思っておる。わかってやってくれ。
そして一冊の日記のような物を差し出した。あの老人の部屋にあった物らしい。
内容は要約するとこうだ。ジパング再興のため魔王軍と手を組んだ事。やまたのおろちを使って
ヒミコの世評を下げ退官させようとした事。そして最終的に魔王軍が世界征服した後
ジパングだけは独立を守ることを契約した事…何があの老人をここまで駆り立てたのだろうか。
さっぱり理解できねえ。
さて話を本題に戻そう…。ぬしらが求めていたオーブの話じゃが…
オーブ…ああそうだ忘れてたたしかあの鳥居の洞窟の奥にってオイ!入り口はもう塞いじまったぞ!
やべえすっかり忘れてた。今から掘り返すのか…しかしあそこは俺とデカブツの名誉ある死闘の場所…
あの洞窟にはありませんでした。
ねーちゃんがこれまた驚き発言をする。えっあの状況で探してたのか!?当たり前でしょと多少冷たい目でこっちを見る。
正直先にオーブ見つけてしまってやまたのおろち退治は後回しにしようと思ってたわ。
勝てそうにもなかったし…結果論から言うと勝ててよかったけど総長さんも私達を率いるリーダーなら
その辺もっと慎重に行動して欲しかったわね。
……こんな所で説教しなくてもいいじゃないか…
あやつの手記と共にあったわ。もう我々には必要ないもの。好きにするがよい。
と紫色に輝くオーブを渡された。そうかあの老人が持ってたのか。いやいや結果オーライだな。
ヒミコはさすがに顔色が優れない。そうだろな。これからこの国の奴らにこの一件を
どう説明するのだろうか。差し出した生贄…支払った犠牲を考えると黒幕が魔王とうちの大臣でした
なんて簡単に言えるもんじゃない。事情をしってる周りの大臣や兵士も表情は重い。
俺は考えた。この空気。この雰囲気。問題は山積だがだからこそ立ち止まってはいけない。
一歩ずつでも前に進まなくては。そしてこの状況を打開するには…酒しかねえ。
おいヒミコ。今すぐ宴会の準備をしろ。国をあげて総出の宴会だ。異論反論は許さん。
逆らったらこの国ごと潰すぞ!
一気に城内はザワついた。バカな…あの異国人は何を考えてるのか…この状況で…空気読めよ…
あちらこちらで陰口が聞こえる。ええい黙れ!世界の覇王に最も近い俺に逆らう奴はブン殴るぞ!
数時間後。
夜もすっかり更けたころ、国で一番大きい広場に物凄い人数が集まった。
ブツブツ文句をいってた兵士や使用人もいざ宴の準備を始めるとちょっと楽しそうだった。
頃合を見計らって一番高い演説台に立つ。
…誰も見ちゃいねえ。それどころか何の為に集まったかも知らされていないので不審そうな顔をしている。
目の前には大量の料理と酒。家にあるありったけの酒と料理をもって広場に集まれという
女王からの謎の通達。不審がるのも無理はないか。ここは一発派手に民衆の心を引くしかないようだ。
花火でもあげるか。俺は天を仰ぐと夜空に向かい叫んだ。
イ オ ナ ズ ン !
けたたましい轟音と共に一瞬真昼かと思う程に夜空が光った。突然の出来事にへたり込む奴や
当然子供は泣き出した。うんうん。この反応を待っていた。一息つくと俺は声を張り上げた。
コホン…えー俺は鬼浜爆走愚連隊の総長である!
近い将来この世界の王となる男だ有難く目に焼き付けておけ!
あっけにとられる民衆共。
えーここで一つ報告がある!おまえらを悩ませるやまたのおろちはもういない!
俺達が死闘の末今アイツは洞窟の奥で永遠の眠りについた!感謝しやがれ!
そんな話信じられるか!いやまてしかしヒミコ様の命でここに集められたんだから…あんな異国人の
たわ言など!色んな声が錯綜する。
…やっぱ全然信じてねーなコイツら。おいヒミコ出て来いや!
この者のいう事は真実じゃ。
ヒミコが台の上に立った。一斉に静まり返る。
勇者率いるこの者たちの手でやまたのおろちは倒された。そして今みなに伝えなければならない事がある。
ヒミコはありのままを国民に伝えた。内容が内容だ。中には敵意むき出しでこっちを睨む奴もいる。
再び俺が前に出る。
えー色々思うとこがあるかもしれないがおまえらに一つ命令しておく!今回の事は全て水に流せ!
そしてやまたのおろちと言う天災が去った今、今日この日を記念日にしようと思う!
毎年今日を「鬼浜祭り」として未来永劫祝え!飲め!歌え!踊れ!騒げ!
一気にヒートアップする広場。賞賛と怒号が飛び交う。
えーそれでは鬼浜祭りに…乾杯!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そう叫ぶと俺は持っていたグラスに注いである酒を一気に飲み干した。
かんぱーい!と勇者も声をあげパンツやねーちゃん、ヒミコ、兵士、城の使用人、その他みんな一斉に
酒に口をつける。なんだかよくわからないがその雰囲気に呑まれあちらこちらで乾杯の音頭が上がった。
もうあとはとにかく酒を注いで回る。飲ます。飲まされる。一時間だか二時間だか過ぎた頃には
かなりの人数ができあがってきていた。もう誰も恐い顔をしている人はいない。
うんうんこれでいい。やはり祭りはこでなければな。と、むこうから女の子がいっぱい駆け寄ってきた。
これは…もしかして…そうだ。俺はこの国を困らすデカブツを倒した。つまりこの国の英雄ってやつだ。
キャー本当にやまたのおろち倒したんですね!すごーいつよーい!かわいいーーーー!!!!
へへへよせやい照れるべ!?え!?かわいい!?案の定俺を素通りして女の子軍団は勇者とねーちゃんの元に向かった。
パンツが総長総長と寄ってくる。なんだよ気持ち悪いな。こっち来んな。
え?あっちで俺の武勇伝聞きたい奴がいっぱいいるって?しゃーねーなおい行ってやるかデへへ
…そこにいたのは明らかに土方系のイカツイにーちゃん達…あっちの世界でもこっちの世界でも
こんな奴らばっかにモテるのはなぜだろう。チクショウ…
それから更にしばらくたった。ねーちゃんがこっちに来る。ねえ一つ聞きたい事があるんだけど…
あの魔王軍の魔術師、最後総長さんの耳元で何か言ってたでしょ?何を言ってたの?
そう…あの時からずっと心にひっかかってる事。アイツは…あの時信じられないが俺の事名前で呼びやがった。
この世界に俺の本名を知ってる奴はいない。俺は総長としか名乗っていない。
なのになぜあいつは俺の名前を…
いや違う。無論それも不思議ではあるのだがあの声、あの声はどこか懐かしい。
口調はまったく違うのだが俺の良く知るアイツにどこか似ているー…ちょっと?大丈夫?聞いてる?
いけないいけない自分の世界に浸りこんでしまった。ねーちゃんには本当の事話すべきだろうか。
いいわ…誰にだって知られたくない事はあるし無理に聞こうとは思わないわ。
そう言って微笑むとねーちゃんは去ってしまった。別に隠す程の事でもないんだが…もし
仮に俺が異世界から来た事をぶっちゃけるとコイツらはどう思うのだろうか。
この国のやつらは生まれた国が違うというだけでかなりの偏見を持っていた…俺の場合はそもそも世界が違う。
……ていったい何考えてんだろうか。酒のせいだ酒のせい!
今、目の前にうまい酒がある!それでいいじゃないか!
俺はその日も結局浴びる程飲んだ。
今日はここまでです
次からはようやく新規更新いくぜ!
今度は絶対完結までいきますんでよろしくおねがいしますです
ジパングエピソードおもしれえええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!
作者さん超乙!
総長さん乙です!次回も楽しみにしてます!
魔術師の正体が気になる…
やまたのおろち戦、すごい燃えたっ!
そして、覆面魔術師登場。魔術師も総長さんと同じ世界から来た人物か・・・、あるいは総長さんを呼んだのはそいつか・・・。どきどき。
乙ッッッ!!!!!!!
総長乙!
今度からは新規だね。
面白いんだから最後までやってくれ。待ってる。
やまたのおろちの正体ヒミコじゃなかったのか!!
魔術師は何で総長の事知ってるのかな…最後まで期待してます
明け方。
フラフラと千鳥足で俺は鳥居の洞窟へ向かった。手には一等うまい酒を持って。
デカブツの話を色々聞いた。古く遡ってはこの国の守護神として崇められていた事。魔王の魔力により
暴れだしそれを勇者の親父達が封印した事。魔王に操られ暴れて封印され今度は権力者にいい様に扱われ
挙句の果てに殺された…正直何が悪なのかなんて俺にはよくわからない。ただコイツにはうまい酒を
飲ませてやりたい。それだけだ。
洞窟の前に立つ。
その辺の岩を切り出して背丈程の石碑を造った。そして上から酒を注いでやる。
…………………。
持ってきたグラスに自分の分も注ぎ無言で乾杯した。
…………。
少しばかり感傷に浸っていた。
なんだか背中の辺りがゾワゾワする。気持ち悪い。
さすがに飲み過ぎだろうか。……いや酔いとはまた違う。この感覚は…覚えがある。
不安が疑問に変わり疑問が確信に変わる。咄嗟に持っていた小さなナイフを抜き身構えた。
吐き気がする程の嫌な感覚。目の前には当然のようにあの魔術師が立っていた。
久シぶりだナ。
聞き覚えのある懐かしい声で声をかけてくる。そしてゆっくりと顔を覆うフードを外す。
そう。この声この顔は…ひとし君だ。暴走族時代の連れで親が極道だったひとし君。年齢は上だけど
いつのまにか同級生になりそして後輩になったひとし君。とにかく危ない男だった。
俺以外とは殆ど口を聞く事なく何を考えてるのかわからない男だった。
喧嘩に日本刀や拳銃を持ち出して「限度」ってものを知らない男だった。
そしてついには動機不明で親を殺し刑務所の中で自殺した。俺が知っているのはここまでだ。
懐かしくそれでいて禍々しい声で続けて話しかけてくる。そのギャップに頭がおかしくなりそうだ。
理解できナいと言った顔ダな。
おまえが知ってルのハ私が親を殺し自殺した所まデか。
そウだな…なぜ私ガ親を殺したか解るカ?
解るわけがない。何とか平静を装い話を理解しようとする。
ひとし君は続けた。
それはあの人達が私の飼っていた鳥を殺したんだ。おまえは極道に生きるには優し過ぎるってな。
そうだ。そういえばひとし君は異常に鳥を可愛がっていた。
喧嘩では徹底的に相手をいたぶる反面、動植物には異常に優しい所があった。いや、しかしだからって…
まだ解らないと言った顔だな。そんな鳥くらいで親を殺すかと思うか?
鳥より人間の命が重いとでも?そもそも鳥と人間どっちが偉いなんて誰が決めた?
ダメだ。この声を聞いていると本気で気が狂いそうになる。
私は考えたよ。もし鳥に人間以上にの腕力があれば立場は逆転してたんじゃないか。
例えば私が拳銃を持った時あの人たちは虫ケラ以下の存在なんじゃないかってね。
何を言っているのかさっぱりわからない。わかりたくもない。きもちわるい。
あたまがおかしくなりそうだ。このこえはこえはこえはこえはこえはこえはこえは
このこえはこえはこえはこえはこえはこえはこえはこのこえはこえはこえはこえはこえはこえはこえは
結局の所悟ったのだよ。弱い奴は強い奴に殺されても文句は言えない。
強い奴が全てなんだ。弱い奴に生きる権利なんてないんだってね。
夢を見たんだ。そこでは人間は人間よりはるかに強大な存在に脅えながら暮らしている。
時にその強大な存在は理不尽に、簡単に、無慈悲に人の命を奪う。
その行為はむしろ自然の摂理に則った美しい行為だとは思わないかね。
私は心から力を望んだ。弱い存在を蹂躙したかった。強く強く気が狂う程強く願ったんだよ。
そうしてある日目を覚ましたらそこはいつもの独房ではなかった。
暗く重い空間の中で目の前にいたのは世の中の全ての恐怖を凝縮したような存在だった。
すぐにそれが強大な存在だと理解した。
言葉のやり取りは無かった。だが意志は通じた。私は力を求め彼の存在は絶望を求めた。
私は彼の存在の力を与えられ絶望を生む事を約束した。
人は脆い。絶対的な存在の前では虫ケラと変わらないくせに愛だの希望だのを語る。
なんとも滑稽な生きものだ。そうだな。滑稽と言えばあの町で会ったあの老人。
自ら命を絶ってまで私の存在を消そうとしたが犬死だったわけた。
カッカッカ…無力とは罪なものだな!
ひとしィィィィッ!!!!!!てめええええええェェぇええッッっっ!!!!!!
犬死…その一言で正気に戻った俺は殴りかかった。手ごたえがまったくない。
もっとだ…もっと怒れ…
あの勇者と共に人々に希望を植えつけろ…絶頂までにな…
待っているぞ。その時まで…
そうしてあの魔術師は消えた。
あいつの言葉一つ一つが激しく心を揺さぶる。
俺のやろうとしている事は結局あいつと同じなのだろうか。強い奴が生き弱い奴は死ぬ。
………わからねえ。
…ちゃn……そうちょう……てば…
もう!総長ちゃんてば!ボーっとしてないで呼んでるんだから返事してよ!
ふと我に返るとそこにはみんなが立っていた。
もう!何一人で恐い顔してんの!探したんだよ!そろそろ出発する段取り決めようよ!
総長ちゃんがいなきゃ話進まないよー
なんだか勇者の顔を見ると一気に気が抜けた。
そうだ。何も難しく考える必要はない。一つ確実なのはあいつにしろ魔王にしろいけ好かねえって事だ。
俺のぶっ飛ばすリストにひとしの名前が加わっただけだ。
知能腕力共に常人を遥か凌駕して優れている俺だ。グチグチ考えるのは性に合わねえ。
天才は悩む必要などないのだ。俺が正しいと思ったをするしかないのだ。
ッしゃァ!この国にきて色々あったがとにかく気合入れ直してガンガン行くか!
また長い船旅になるからおまえら心しておけよ!
ならないわよ。
ねーちゃんがあっさりと否定する。え…なんでっスか…
次の目的地はアリアハンよ。ルーラでアリアハンへ飛ぶわよ。
お父様から連絡があったの。アリアハンへ行けば道が開けるって。
ああそうですか…俺の気合は空回りですか…
…?て連絡があったってどういう事だ?
夢よ。夢に出てきたの。
ああなるほど。まああの糞イケの魔力ならそのくらいできるだろうよ。
しかしせっかくの睡眠時間なのにあんなのが出てきたらたまらんな。俺の夢には絶対に出て来ないで頂きたいもんだ。
ん?しかし船はどうするんだ?俺達だけ移動してもダメだろ?
船も一緒に飛ばせるよー!
言葉に出したわけじゃないが俺の疑問を察知したらしく勇者が答えた。
この船にはよくわからん護符みたいなもんが付いてて勇者がルーラで飛んだあと自動的に近くの海に着水するらしい。
なんだかわからんがすげー仕組みだ。というかそもそもルーラって魔法自体がすげえ。
攻撃呪文でも回復呪文でもないから軽視しがちだが瞬間的に長距離を移動できるなんてありえねーだろ。
この世界の人にはそれが当たり前過ぎて何とも思わないだろうが俺にはどんな呪文よりも強力な呪文に思える。
……この呪文を応用したらすっげー破壊力の呪文が作れそうだな。まさに逆転の発想。
まあ今考えるのもめんどうだしもういいや。
俺達は最後の挨拶にヒミコの所へ向かった。
ヒミコは多少疲れた顔をしている。そりゃそうだろうな。わだかまりは俺様が大宴会により溶かしてやったにしろ
民衆共から不信を募った事に間違いは無い。まあしかしこいつならこの国をしっかり立て直す事ができるだろう。
そうかもう出発するのか。もう少し留まって欲しい所だがそなたらも目的がある旅故仕方ないの。
ヒミコはそう言うとさらに続けた。
ゆっくり礼を言う暇もないな。そなたら何か望みはないか?できる限りの事はするぞ。
マジか。何かないかな。別に金に困ってるわけでもねーし。しかしせっかくの機会だ。あっそうだ。
大事な事を忘れていた。俺はヒミコにやまたのおろちの墓を作った事を伝えた。
まあぼちぼち暇な時にでも花でも酒でも備えてやってくれ。
わかった。あの怪物も今回の件では利用されただけだからな。今日この日を記念日とし
やまたのおろちは古来のようにこの国の土着の神として毎年手厚く奉る事を誓おう。
他には何かないか?
他には…そうだ俺達も酒をもらおう。ここの地酒はまた格別だった。樽でたくさんもらおう。
そう思いつき言葉にしようとした瞬間勇者が遮って話だした。
ヒミコさま。わたし達は望む事はただ一つ。ジパングをみんなが笑顔で過ごせる国にして下さい。
そうか…。そうじゃな。今度そなたらが来る時までにはそなたらが望むような国にする。
ジパング正統王室相続女王の名にかけてでもな。また顔を見せにきておくれ。
勇者はにっこりと微笑む。ヒミコのつられて微笑む。
よく見ると兵士達もニコニコしている。急にこの場が和んだようだ。やっぱ勇者はすげーな。
ってそうじゃねーよバカ!だいたい将来的にはこの国も俺の支配下になるんだからそういう事はむしろ
俺に言え!俺が望んでるのは酒だっつーの!酒をよこせ酒を…ッ痛ッ!!!
ねーちゃんが俺の耳をつまんで歩き出す。いやまてまだ帰るのは早い!勇者が何言おうが俺の用は済んでねーって!
城の外まで引っ張られた。もう!オーブももらったんだしもういいでしょ!どうせ総長ちゃんのことだから
お酒でもくれって言おうとしてたんでしょ?
この女鋭い。あーあせっかくの機会だったのに…しょうがない今回は諦めるか。
すいませーーーーーん!
どこからか呼び止められる。ああなんだてめーか。そこにはあの例の酒場の店長が立っていた。
どこからか呼び止められる。ああなんだてめーか。そこにはあの例の酒場の店長が立っていた。
本当に…本当に色々ありがとうございました!
もう出発されると聞きまして…何せうちにはお酒しかないものでせめてもの気持ちです。
と俺に大きな瓶を差し出した。これは…店長GJ!
まあ気を使ってもらってすいません…。ほら!ちゃんとお礼を言いなさい!
ねーちゃん…いつからそんなお母さんみたいなキャラになったんだよ。
俺はなされるがままに礼を言った。おまえの店はなかなか酒も料理もイケてたぞ。
世界征服した暁にはまた来てやる。
店主が見えなくなるまでみんな手を振っていた。
さて。そろそろ出発するか。
勇者が目を閉じている。久しぶりだなあ家に帰るの…そう呟いた。あっそうかアリアハンてこいつの地元なんだよな。
ルーラ!!!!!!!
しまった
>>633の一行目はコピペミスなんで脳内削除して下さい
今日はここまでです
乙です
やっぱひとしだったか・・・
にしても総長のキャラが(笑)
むむむ・・・・。
魔王の力を得てスーパーになったひとしくん、怖ぇぇぇぇ。
> ……この呪文を応用したらすっげー破壊力の呪文が作れそうだな。まさに逆転の発想。
オリジナル呪文フラグ立った。
やまたのおろちのために墓をつくったり、ヒミコに後を頼んだり、総長いい奴。
637 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/29(火) 05:32:12 ID:yZPd85kVO
総長ルーラ使えなくね?
>>637 飛行機あたりをイメージしたらルーラもいけるかもしれん…
職業賢者だから、デイン系以外は全部使えてもおかしくないし
>>636 >スーパーになったひとしくん
スーパーひとしくんってことはラスボスは世界ふしぎ発見のあの人か
>>634 総長おもしれええええええええええ!!!111!!
俺的最高SSで4の人と双璧だな
完結までまったり待ってるぜ!
乙です
647 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/30(水) 11:31:01 ID:jdFhU5hLO
埋め埋め
ぢおn軍規制解除でやっと書き込めるよ…
おもしれええぜ!総長!
これからの展開に期待!
650 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/09(金) 12:35:12 ID:bu7ssWsZO
ゆうべは おたのしみ…
は!まさか、セックルて言いたいの?ばーか!
>>650 おまえら、セックスのことをセックルとかセクロスとか言うなよな。
言うんだったら堂々とセックスと言え。
みなさま、お疲れ様です。
そしてご無沙汰しておりました。
まとめサイトのほう、全く更新が出来ず申し訳ないです。
そして合作エピローグも全く公開できず、本当に申し訳ない。
タカハシの物語ですが、第五部を一応終わらせました。
ほとんどすっかりを忘れてしまっているので、強引過ぎるくらいに展開させてしまいましたが、
完結を目指す私の方針転換なんだと、ご理解いただければ幸いです。
また、間が驚くほど空いてしまったので最後あたりは書き方がかわって戸惑うかもしれません。
これもまた、ご理解いただければ……
長く投稿している間が無いので、失礼ながら今回はテキストファイルをアップロードさせていただきます。
ttp://www.uploader.jp/dl/ifdqstory/ifdqstory_uljp00018.txt.html ではまた、そのうちに。
ああ、こっちは前スレでした…
空気を乱すといけないので、このままにしておきます。
>>652、653
乙でございます。
あまり無理しないでくださいね。
>>652からの 続き
〜 最終部 〜
●隠されるモノ達
心は、いつだって一つではなく、肉体はまるで入れ替え可能な入れ物だ。
やると思えばどうにでも、ある水準にまでは性格すらも切り替えられる。
誰にだって気軽にだって出来るわけではなく、俺にとって初めての試みで、自分の意思として今、違う自分を作り出している。
うまくいっているように思えるが、実際、これがどうとにもならず逆に苦しみを増やしているんじゃないかとさえ、考える。
けれどこの通り過ぎる時間を遣り過ごすには、そうやってあの出来事たちを抑える必要があった。
でなければ、まるでそこに意思とは関係が無い一人を作ってしまうからだ。
「お前達の主人はどこにいる」
「お、教えるものか。なんで人間になどあの神聖な……」
「そうか」
鋼の剣がボウと空間へ亀裂を立て、死絶寸前の醜い魔物の頭上へと鋭く研ぎ澄まされた刃を触れる。
骨を砕き肉をえぐる悲鳴は、もう数千と聞き慣れた。べたりと這う色の無い塊は、ざらざらと巡るしぶきを落としている。
俺はいま、魔王へと一直線に向かうべきとし、そうしようと進んでいた。
襲う魔物も見つける魔物も全てを薙ぎ倒しながら、まっすぐとライフコッドであっただろう残骸を踏み、山を谷を越えてきた。
なのに、あるはずの邪悪でいっさいが神聖ではない往くべき根城が、見つからない。
もう数日は同じところをぐるぐるざつざつと、岩や土や水も草も樹も枝も踏み続けている。
「またきたか……」
独特の感触をもたらす嫌な気配を感じた。
薄っぺらな声をあげ、少し離れた場所でいくつかの影を呼び出す蠢くもの。
この地ではよくある風景で、辿り着いた黒い── もはや俺には黒い塊にしか見えない魔物達は凝りもせず襲ってくるのだ。
「最近ここらで暴れている人間とはお前のことか。
どうも、信じられん。なんと小さな存在であることか。
それにしてもお前、よくここまで生きてこられたな」
似たような言葉を今日だけで何十回と聞いただろう。
こいつらは、同じ言葉を下等な魔物全員の意識間で共有しているのじゃないか。
だから同じ文句しか言えず、同じ行動しかしないのではないのか。
そうなら、こいつら魔物達は単に姿かたちが違っているだけで、ぜんぶ運命共同体ということに成る。
結局は魔王の存在たった一つが、それらにたった一つのどうやりようもない邪悪を与え、動かしているに過ぎないのだ。
「おい。なんとかいえ。せっかく、お前に喋る機会を与えてやっているのに。
俺達を楽しませろ。もう人間という餌がなかなか見つからないから、我々は退屈しているのだ」
「そうか。逆に言わせてもらうが、ならばお前達こそ、この俺を楽しませてほしい。
これは俺の頼みだ。どうしてもというわけではないが、それなりに楽しませてはくれないだろうか」
「こいつ……! 黙っていれば生意気を言う。
お前の願いを叶える事などまっぴらだが、ゆっくり痛めつけてその口を後悔させてやろう。
どうだ。少なくとも俺達の望みは叶うのだ。
ああ、そうだ。もしお前が、痛みを好むのならお前の願いも叶うというわけだ。ガッハハハ!」
大きな黒が笑うと、周りの中くらいの黒たちもぎゃあぎゃあと笑った。
いったい、どんな魔物なのだろう。
俺の目に映るごわごわと動くソレは、まるでぼんやりと反射する黒い生命体にしかわからない。
こんなものを生命体と呼ぶにも、まったくがふさわしくなどなく、先刻できたばかりの残骸のほうが高尚だ。
「痛みなら、もう十分にある。好きではないが、今では嫌いでもない。
生きている限りどうしたって痛みは発生するのだから、嫌っていても逃れられない。
俺はそういった感触とどう付き合っていくのかが、大事なんだと思う。
けれどまだ、俺に答えは見えていないから、こうやって自分を隠して歩く。
なぁ、いい話題だ。
なのに、お前たちには理解できないんだろう。
なぜなら、お前等は思考もまっとうな感情すら持たず、あわよくば生きているだけの、下等で下劣でただ動く肉なのだから」
ぐっと、邪悪な波動がこの淀んだ空気を波立てる。
言った台詞はどうも、黒い者達を刺激したらしい。
もっともだと思えるから、少し可笑しかった。
「お前が、殺されるのは、既に決定していることだから、こうして会話でもしてお前を死の緊張から解いてやろうと、してやっているというのに。
良かったな、俺は他のやつらと違って、気が大きいんだ。
だが、もう俺はお前の叫びや掠れた声や血や肉を喰いたい。
イライラとする身体を慰めてやりたいと思う。おい、人間よ」
「ああ。そう出来るのならすればいい。その前に、俺の話を聞いてもらえないか。
逃げ惑い地を這いずりながら命乞いをし掠れた声で空に助けを求め、最後はこの両手でお前にすがると約束する」
黒い魔物はふふんと鼻を鳴らした。
今の言葉が相当に楽しみで、今にもすすりたそうに感じる。
次の声は喜びで微かに震えていたのだから。
「おお。いいだろういいだろう。なんでも言ってみろ」
「ありがとう。では聞くが、魔王の元へはどうやって行ったらいいんだ。
さっきまで見えていた城が、まるで見当たらなくなった」
「魔王様の…… お前、約束は必ず守るんだろうな」
「いまさら、嘘を言ったってどのみちお前達に殺されるんだろう」
「それもそうだな。よし、教えてやる。
魔王様の城は、美しく強大な邪悪の魔力によって守られているのだ。
だから、ルビスなどという神にすがる人間に見えるはずなどない、というわけだ」
「なるほど、そういう事か。 じゃあ、俺を案内してはくれないか」
「バカな。誰がそんな事をするというのだ。
それより俺はもう我慢が出来ん。十分話してやったのだから、お前を約束のためじわりじわり殺そう」
大きな黒は、何か武器を持っているようだった。
それを大きな身振りで構え、左右にまた大きくゆっくりと振る。
どうやら中くらいの黒たちに手を出すなと、合図しているらしかった。
「さぁ。命乞いをしてみろ」
黒い武器は、剣のようでそれがそこそこの速さで俺を突こうとしてくる。
俺もまた剣を抜き、その暗闇からにゅうと出る刃を激しく叩き、弾いた。
黒の魔物は驚いた様子を見せ、やや狼狽しながらも強気を見せる。
「お前! 約束したではないか! 抵抗など、そんな意味の無いことなど……!」
「約束はした。だが、お前らが守らないものを俺が守る道理などない。
ついでに言うが、殺されると決まっていたのはお前達で、俺ではないよ」
こいつら魔物は、自分の都合の良い事に関してだけは気安く「約束」などという言葉を使う。
今までに守ったことの無い単なる飾りと化したその言葉を、今度は人間の俺にやられたのだ。
怒りは分かるが、その意味など理解できようもなく、やはりこいつらは哀しい塊にすぎない。
「や、やくそくが──」
まっすぐ衝き立て、大きな黒の首をゴツリと刎ね、更に四方八方へ刃を振るい全てを小さな個々とする。
中くらいの黒たちが一斉に飛び立ちばらばらに、やがて重たい雲の中へと消えていく。
「さて。どうしたらいいものか」
その場で少しの間を考え、そのうち俺は元来た路を引き返し、山を谷を越え始める。
城を暴く方法が無いのもあるが、魔物を易々と粉砕していくことに、少しばかり疲れていた。
ライフコッドの跡地で身体を休め、気力をも充実させなければならない。
今の廃れきった状態ではすぐ、代わられてしまう。
なにもかもが弱すぎる、たった一つのそんな自分に。
今回はここまで。
次回更新がいつになるかわかりませんが、まだ続きます。
>>660 乙です!
サイトの話も一気に読んじゃいました!
続きも期待してます!
気長に待ちますのでマイペースでやって下さい
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