文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
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※sage推奨。
※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
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※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
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前スレ
FFの恋する小説スレPart7
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162293926/ 記述の資料、関連スレ等は
>>2-5にあるんじゃないかと思います。
【参考】
FFDQ板での設定(game11鯖)
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テンプレ以上です。
作品楽しみに待ってます。
※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
前スレ
>>612-618よりつづきます。
幕間の通路は次の舞台に向けての準備のスタッフで溢れていた。
ヴァンはその間を縫う様にして走る。
「おい、何をしている。」
不意に呼び止められて肩を掴まれた。
「なんだ、ヴァンじゃないか。」
呼び止めたのはダラマスカ兵だ。劇場の警備に回っていたのだろう。
兵隊がなんで自分の顔を…と思っていると、顔馴染みの男だ。
レックスが亡くなってから、帝国兵にスリを働くヴァンを
街中が心配してよく声を掛けてくれていていた。その中の一人だ。
急いでいたが、知り合いなので無下には出来ない。
「随分物騒な物を背負ってるが、なんだ、芝居に出るのか?」
兵士はヴァンを疑いもせず、仰々しい武器も舞台の小道具だと思った様だ。
「そ、そうなんだ!」
ヴァンは咄嗟に嘘を吐いた。
「エキストラだけど…ここのダンチョーがミゲロさんに人が足りないって頼んで…っ!」
「へぇ…。」
「じゃ…俺、急ぐから!」
兵士は掴んでいた肩を離すと、
「おぉ!頑張れよ!見られなくて残念だよ。」
相手の顔が見られず、小さくごめんと呟いてヴァンは再び走り出した。
いつも自分を気遣ってくれる相手に嘘を吐くのは辛いが、
今はパンネロが危ないのだと言い聞かせ、ヴァンは走った。
音楽が鳴り、拍手が聞こえてきた。
(しまった…!)
ヴァンは賊が居ないかと探しながらロビー、楽屋、舞台裏を駆け回る。
ホールからは途切れ途切れに音楽が聴こえて来る。
今の所舞台は何事もなく進んでいるようだ。
(残りは…)
あと、探していない所はどこだとヴァンはキョロキョロと辺りを見回す。
(落ち着け…)
ダンチョーに見せられた館内の見取り図を必死で思い出す。
「…上だ!」
ヴァンは誰も居なくなった階段を上がり、
ボックス席の後ろのロビーのをすり抜けようとした。
「……ヴァン?」
呼び止められて、今度は誰だと振り返ると、
「アーシェ?」
そこには白いドレスを纏ったアーシェが立っていた。
幕間の間にロビーに出てバッシュの戻って来るのを待っていたが、
一向にその気配がなく、気になって席に戻れずに居たのだ。
ヴァンは足を止めてアーシェに歩み寄る。
「なんでこんな所に居るんだよ!」
自分とラーサーの為の上演会なのに随分な言い草である。
アーシェは久しぶりに頭に血が上るのを感じた。
「久しぶりに会ったというのに、なんて言い方なの!?」
だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
パンネロが舞台で歌い、ヴァンが武器を持って
走り回っているという事はやはり何かあるのだ。
「いえ…そんな事よりどうして…」
言いかけたアーシェの言葉をヴァンは乱暴に遮る。
「芝居、始まってんだろ!ちゃんと観てやれよ!」
「え…?」
「パンネロ、一生懸命練習したんだぞ!おまえとラーサーの為に!だからちゃんと観てやれよ!」
ヴァンらしからぬ剣幕にアーシェは一瞬怯んだが、
「問題はそこじゃないでしょう?」
「ラーサーは!?」
アーシェは違和感を覚えて黙り込む。
(おかしいわ…)
普段のヴァンは言葉こそ乱暴だが、こんなに攻撃的ではないはずだ。
「…中で舞台を観てるわ。」
ヴァンは“よし”と頷くと、立ち竦むアーシェを残し、
舞台の上方に向かって再び駆け出し…と、足を止めてくるりと振り返ると、
「アーシェ!早く!中でちゃんと観てやれよ!」
そう怒鳴ると、瞬く間に駈けて行ってしまった。
呆然と後ろ姿を見送っていると、ヴァンがやって来た方から
ガチャガチャと剣の音させてバッシュが駆けて来る。
「陛下…」
「バッシュ…今、ヴァンが…」
「存じております。彼を追って来ました。」
「ヴァンならあの階段を上って行ったわ…早く追って!」
「御意。」
「様子が変だったわ…あんな言い方する子じゃないのに…おかしな事に巻き込まれてないといいけど…」
アーシェは心配そうにヴァンが走って行った方に目をやる。
「ご心配ですか。」
「当然です。」
きっぱりと言い切ったアーシェにバッシュは恭しく一礼すると、
ヴァンの後を追い、また走り出した。
舞台の天井には、バトンと呼ばれる棒が何本も渡されており、
大道具や照明器具が吊られている。
時には大道具係が紙吹雪を降らせたりする為
人一人がなんとか通れる幅と強度しかない。
天井まで駆け上って来たヴァンがそこで見つけたのは、倒れている照明係と大道具係。
「おい、お前ら!!」
そこに居たのは、やはり例の一味だった。
「また懲りずにやって来て…どういうつもりだ!」
照明の為の大きなライトを運んでいた一味が振り返る。
「あぁ?おまえ…バルフレアの腰巾着じゃねぇか。」
一味の首領、バッガモナンが答える。
腰巾着じゃねぇよ!と、怒鳴りそうになってヴァンは慌てて口を噤む。
舞台の真上だ。客席に聴こえでもしたら大変だ。
「バルフレアの野郎は何処に居る?あの野郎…
おまえが来たって事は尻尾巻いて逃げ出しやがったのか?」
「予告状を出したのは、やっぱりお前らなんだな?」
「あぁ、そうさぁ!あの野郎がなかなか出て来ないんで、あぶり出してやる所だ。」
ヴァンが剣を構え、じり、と一歩踏み出すと、
「おぉっと、動くなよ。一歩でも動けば、こいつを舞台に落とす。」
バッガモナンは傍らにある大きなライトに手をやる。
あんな物を舞台に落とされたら大騒ぎだ。
いや、それよりも、もし誰かの上に落ちでもしたら…
(ちっくしょぉ〜…)
何かいい手だてはないものか…
ある考えが閃き、ヴァンは構えていた剣を下ろし、
わざとらしくため息を吐いてみせる。
「そんなんだから、お前らは三流だって言われるんだよ。」
「なんだとぉ!?」
ヴァンの挑発にバッガモナンはあっさりと引っかかる。
「あんな偽物、バルフレアじゃないってすぐに分かったさ。もう少し頭使えよ、あ・た・ま!」
ヴァンに背を向けて肩越しに話していたバッガモナンが
ゆっくり振り返り、ヴァンに歩み寄る。
バッガソウを掲げると背後の部下達に、
「お前ら、そこに居ろよ。」
言うが早いか、上段から一気に得物をヴァン目がけて振り下ろした。
その一撃を受け止めると、足場がゆらゆらと揺れ、
ヴァンは思わず尻餅をついた。
バッガモナンは容赦なくヴァンめがけてバッガソウを振り下ろした。
その頃舞台では。
“今回のマリア”は一本の線でなんとか演じ切っている事に観客は気付き始めていた。
さっきから天井で物音がし、そうすると、
ふと集中力が途切れる瞬間があるのだ。
折しも舞台は敵国の王子、ラルスに求婚されるシーンだ。
パンネロの危うさがドラクゥの不在に揺れるマリアの心と
うまくマッチして観客の庇護心を一層かき立てる。
舞台はいよいよマリアの見せ場のシーンだ。
城の塔に上り、星空を見上げて歌う。
観客はこのシーンを観るために来ていると言っても過言ではない。
パンネロは、自分が歌い終わる度にどよめきが起こり、
拍手がされるのが不思議でならなかった。
まさかそれが、“がんばれ”とか“よくやった”という
励まし故の物だとは思いもせず、偽者な上に、未熟な自分の歌に
なぜ観客が惜しげもなく拍手をするのか理解出来ない。
最もそれはBOX席に居るラーサーの影響が大きいのだが。
ラーサーは食い入らんばかりに舞台を観ていて、
パンネロが歌い終わる毎に拍手をすると、観客も今日の主賓に習う。
目の前にある台詞と歌で精一杯のパンネロだったが、
漸く舞台も終盤に差し掛かった所で、天井の方から物音がし始めたのだ。
微かに怒声と、ヴァンの声が聞こえてきた。
(ヴァンなの…?)
一方、ラーサーと一緒に居るアーシェは
ラーサーの熱中ぶりに驚くやら呆れるやらだ。
だが、この健気な代役が無事に演じ切る事を願う気持ちは同じだ。
さっきから舞台裏が騒々しいようだ。
走って行ったヴァンと後を追ったバッシュも気になる。
油断してはいけない…と、アーシェは注意深く舞台を見下ろした。
ヴァンは右手に大剣を持ったまま、左手を肩越しに床に付き、
狭いバトンの上で器用にくるりと後方に一回転する。
ムキになって斬りつけて来るバッガモナンを
紙一重で避けながらじりじりと舞台の裾へとおびき出す。
「このガキャあ!」
バッガモナンが大きく足を踏み込む度にバトンが大きくと揺れる。
それに合わせて照明やセットも揺れるのでヴァンは気が気ではない。
(パンネロは…)
「小僧!どこを見てやがる!」
ふと意識が舞台に飛んだ隙に目の前までバッガモナンが迫って来ていた。
ヴァンは慌てて後ろ向きに後ずさりをすると、足場の感覚が硬い物に変わった。
(しめた!)
やっと不安定な足場を抜けると、ぐっと足を踏み込んで
今までのお返しとばかりに大剣を大きく払う。
バッガモナンは辛うじてそれを受け止めるが、腕がビリビリと痺れる。
(くそっ!ガキのくせになんて力だ!)
ヴァンはにやりと不敵な笑みを浮かべ、さらに剣を振るう。
バッガモナンは防戦一方だ。
ヴァンの剣に弾き飛ばされて、ヨロヨロと後退する。
バルフレアは現れない、見下していたヴァンにあしらわれ、
怒りと屈辱で凄まじい顔だ。
「小僧!ブッ殺してやる!」
バッガモナンは得物を構え直すと、ヴァン目がけて突っ込んで来る。
「お前なんかに、邪魔されてたまるかよぉっ!」
ヴァンは叫ぶと、バッガモナンの頭上に高々とジャンプし、
渾身の力をこめ、大剣を振り下ろした。
ヴァンの剣を頭上で受け止めたバッガモナンだったが、
バッガソウをへし折られ、そのまま床にどう、と倒れた。
城の塔への階段を上りながら、漸く天井を見る事が出来た
パンネロが目にしたのは、バッガモナンの手下達に囲まれたヴァンだった。
(ヴァン!)
舞台も何もかも放り出して傍に行きたい、一緒に戦いたい…
(こんなに近くに居るのに何も出来ないなんて…)
だが、ショーは続けなければならないのだ。
パンネロは歌い出した。
“いとしいあなたは遠い所へ…”
泣き出しそうな、震える声だった。
だが、歌い続ける事がヴァンとの約束なのだ。
パンネロは大きく息を吸い込み、歌い続ける。
「パンネロさん…泣いています…」
客席のラーサーが誰に言うとなしに呟いた。
その言葉にアーシェパンネロを見ると、
確かにぽろぽろと涙を零しながら歌っているのだ。
思わず抱きしめてやりたくなるような儚さだった。
気付いた観客がまたざわめき始めたが、パンネロにはどうでもいい事だった。
ただ、ヴァンの為だけに歌う。
今のパンネロを動かしているのはその気持ちだけだった。
頭目を倒された子分どもがわらわらとヴァンを取り囲む。
(こいつらさえ倒せば…!)
ヴァンは剣を握る手に力を込めた。
力任せにつかみかかって来たブワジを避け、
勢い余ってつんのめったプワジの頸部を剣の柄で軽く小突く、
と、プワジは糸が切れたかの様に倒れてしまう。
ヴァンを後ろから羽交い締めにしようとしたリノは
同じく剣の柄で腹を突かれ、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
残すは一人、と振り返った所で「ぎゃっ!」と悲鳴がした。
見ると、既に剣を鞘に収めたバッシュがそこに立っていた。
足下にはギジュが転がっている。
「バッシュ……」
「“遠距離攻撃”と魔法で攻撃してくる敵を先に倒せ、と教えたはずだが?」
ヴァンは気まずそうにそっぽを向いてしまう。
「危ない所だったな、ヴァン。」
「別に…バッシュが来なくても…俺一人で…」
「あぁ、見事だった。」
ふて腐れた態度は、少年らしい負けん気から来ているのだと
バッシュは微笑ましく思ったが、
「子供扱いすんなよ。」
きつい瞳で見据えて来るヴァンにバッシュも違和感を覚える。
(陛下が様子が変だと仰ってられたが、この事か…)
「そうだ…!パンネロ!」
ヴァンは天井から舞台を覗き込む。
丁度、パンネロが塔への階段を上って来ている所だった。
心配して天井を見上げていたパンネロと目が合ったので、
小さく手を振り、右手の親指を立ててみせる。
パンネロに笑顔が戻る。
そこに幻のドラクゥが現れる。
パンネロはドラクゥとダンスを踊る。
さすがに踊りが本分なだけあり、パンネロの踊りは見事だった。
軽やかなステップはいつ足が舞台に着いたのかすら分からない。
ボリュームのあるドレスのスカートを大きく翻し、細い腕を緩やかにまげ、
くるくると回る姿は舞台に花が咲いたかのようだ。
ドラクゥに見せる表情も、泣き顔とは打って変わって晴れやかな物になり、
会いに来てくれた事がうれしくて仕方が無いと、うっとりと見つめて来るのだ。
その愛くるしさに観客はまた、釘付けになる。
幻のドラクゥが消えた後に残された花束を手に取ると、
パンネロは再び歌い出す。
“ありがとう、わたしのあいするひとよ…”
声の伸びやかさも取り戻したようだ。
ヴァンが手を振ってくれた…それだけで、
今までくすぶっていたわだかまりが溶けていった様で、
パンネロは舞台に立って初めて晴れやかな気持ちで歌う事が出来た。
「ヴァン…。」
ずっと舞台を覗き込んでいるヴァンにバッシュが声を掛ける。
「君の目的はなんだったんだ?パンネロを守って、無事に舞台を終わらせる事なのか?」
ヴァンは答えない。
よほど舞台に熱中しているのか、それとも、
(聞こえないふりをしているのか…?)
バッシュは根気よくヴァンの背中に問いかける。
「ヴァン…バルフレアまで来ていたが…一体何が起こっているんだ?」
バルフレア、と聞いてヴァンが振り返った。
「…バルフレアが来ているのか?」
眼下では歌が終わり、パンネロが投げた花束が舞台に落ちて行く。
その時、ずん、と地響きがした。
舞台に落ちが花束が振動で不気味に跳ねる。
ヴァンとバッシュは思わず顔を見合わせる。
地響きは間を置いてもう一度起こり、やがて、地震の様に断続的に続いた。
客席からは悲鳴が上がり、観客は出口に殺到する。
音楽も鳴り止み、舞台の俳優達は皆舞台から飛び降りて逃げ出してしまう。
「いかん!」
バッガモナン達が落とそうとしていたライトが振動で、
今、まさに舞台に落ちようとしている。
パンネロはと言うと、何事が起こったのかとキョロキョロと周りを見回している。
「パンネロ!逃げろ!早く!」
地響きは一層強くなり、ライトがぐらり、と傾き、パンネロの頭上へと真っ逆さまに落ちる。
咄嗟の事で、パンネロは動けないようだ。
「パンネロ!」
ヴァンが飛び出そうとするより早く、何かの衝撃を受けて、ライトが粉々に砕けた。
ヴァンは砕けた破片の中に飛び降り、パンネロに覆い被さる。
(今の…誰だ…?)
ライトを砕いた衝撃波は魔法ではなかった。
(ハンディボムだ…)
バッシュではなかった。だとすれば誰が…?
「…アーシェ?」
ボックス席の手すりに雄々しくも片足を掛け、
右手にブルカノ式を持ったアーシェがこちらを睨んでいる。
(おっかねぇの…)
ヴァンは肩をすくめ、身体の下のパンネロに声を掛ける。
「パンネロ、大丈夫か?」
「…うん、平気…」
健気に答えるが、身体が震えている。
パンネロをこんな目に遭わせてしまった自分を腹立たしく思いつつも、
それが素直に言い出せない。
「…アーシェにバレた。逃げるぞ。」
その時、舞台の床を突き破り何かが飛び出して来た。
つづく。
>>1乙です。
>>1乙です。
投下ミスです。×10→【37】○10→【38】ごめんなさい。
今回、舞台←→天井裏の場面切り替えが分かりにくいですね。精進します。
ヴァンの「早く!」は「アヤク!」各自で変換頂けるとうれしです。
GJ!
乙乙乙!
乙GJ!おまいら大好きだ(つд`)
表向きここは「新本部施設」とされていますが、実際のところ目的は本部機能の移転ではなかったのです。
W.R.O新本部施設としておきながらも、実際ここにはW.R.O隊員が一人も常駐していない理由はこのためです。
だからこそ、こうして私達のような“人形”が各所に配置されています。このフロアにある隔壁も、建物内の
入り組んだ構造も、すべて侵入者に対する備えの一環でした。
これだけ厳重なセキュリティを施しているのは、なにも3年前の一件が尾を引いていると言うだけではあり
ません。この施設は、あるものを保管する事を目的として建てられました。
では、それが何であるのか? ……ここまで話せば、もうお分かりかも知れませんね。
ここはインスパイア能力そのものを安置しているのです。我々は、それを守るために配備された人形なのです。
ユフィさん、あなたの意向に沿ってここを出る事ができないとお伝えしたのは、このためなんです。
そしてあなたがここへ戻ってきた時、私はその事を打ち明けなければならないと考えていました。あなたに
「戻ってきて欲しくなかった」のは、W.R.Oの活動に協力して下さったユフィさんに対する後ろめたさなのかも
知れませんね。
……申し訳ありません。
----------
・500kb超えると規制だったのか…wとりあえずここで一区切り。
・ともあれ
>>1乙!
>>9-18 前話からそうなんですが、いちいち大人の振る舞いを見せるバッシュが良い味出してて困りますw大好きだ!
ちゃんと相手の心情汲んで言葉を選んでるバッシュと、それを振り払うヴァンの対比から彼の必死さも伝わって来て良かった。
ただ今回、ちょっと気になったのは展開を急いでる感じがした事です。ヴァンの心中からいけば、
文章まるごと使っての上手い演出とも思えるんですが、一方でもうちょっとパンネロ公演の余韻に浸っていたかった
というそんな思いも否めず。しかしながら最後のアーシェが男前過ぎて惚れました。
舞台下からは何が現れるのか、引き続き期待sageしてお待ちしております。
パンネロ公演の余韻という点で、僭越ながら個人的に思った事を。
>>15での歌詞の引用が、バトン上のヴァンと舞台上のパンネロ(ヴァンを“遠い所”と感じる心中)を結んでいて良かったです。
欲を言えばこの流れで、もう少し歌詞を引用して(歌詞の引用を契機に場面転換する感じで)
「どうすれば? ねえあなた 言葉を待つ」→ヴァンの戦闘→
>>16の後半(戦闘終了)→
「ありがとう 私の 愛する人よ」→パンネロの舞台→
「一度でも この想い 揺れた私に」→バッシュの問い掛け(パンネロを守って―)→
「静かに 優しく 応えてくれて」(結局ヴァンは答えないw視線を追うようにして舞台へ)→
「いつまでも いつまでも あなたを待つ」→直後に客席からの悲鳴
みたいな展開だったら、もっとこう、オペラ公演中ならではの緊迫感?があったかも。なんて思ったりもした。
今後の展開次第ではこの流れは逆効果になる場合もあるので一概には言えないけども。
「もっとパンネロ公演見たいよ!!」と、心の中のラーサーが申しておりました(あくまでもラーサーのせいw)
GJ!
乙乙乙!
>>23 W.R.O新本部施設…。つまりそれは、
リーブの、リーブによる、リーブのためのリーブハウスだったんだよ!
ってことかw
おつおつ
乙
前話:前スレ747-
>>23(場面は前スレ196-199)
----------
真っ暗な闇の中を落ちて行った。
その間に夢を、とても長い夢を見ていた様な気がした。
――じゃあ、死んだ人は?
あの山の向こう、あそこに行けば……ママに、会える?
***
ティファの意識を現実に引き戻したのは、激痛だった。
「……っ!」
痛みと共に込み上げてくる嘔吐感は全身、特に腹部を強打した為だと思われるが、状況がいまいち掴め
なかった。意識を取り戻し瞼を開けてみたが薄暗く、周囲に見える景色は何もない。
混乱する頭を整理しようと、直前までの記憶を必死で辿った。確か「リーブ」に首を絞められ、それから――。
「……気分はどうだ?」
「!!」
声をかけられてようやく横たわっている自分と、それを見つめている者の存在に気付いたティファは、反射的に
身を起こそうとする。が、その瞬間にも激痛が走り身体の自由が利かなかった。
「急に身体を動かさない方が良い。あんた相当上のフロアから落ちてきたんだ、打撲傷だけで済んだのは
幸運だ。その幸運に感謝しながら、治るまで大人しくしていろ」
「……あなたが、助けてくれたんですか?」
徐々に輪郭を取り戻してきたティファの視界には、白衣の人物が映った。声から察するに女性だと思ったが、
室内照明が稼動していないせいか薄暗くてよく分からない。
「ああ、行きがかりとは言え見つけた負傷者を放っておくほど冷血じゃない。それに、応急処置程度なら
心得もあるのでな」
「ありがとうございます」
ゆっくり動けば耐えがたい痛みではないらしく、身を横たえたまま首だけを動かしてティファは周囲を
見回した。見た感じからすると、どうやらここは医務室のようである。そこに白衣を着た女性がいるという
ことは、彼女は女医だろうか。
「それにしても、落ちてきた場所が医務室の前で良かったな」
白衣の女性は笑いながらそう言った。さらに「手負いの人間が都合良く医務室の前に落ちてくるなんて、
作り話にしてもできすぎている」とも。
彼女の話が本当だとすれば、確かにその通りだ。
「……そう、だったんですか」
しかしティファにはこれが偶然とは思えなかった。瞼を閉じて思い出す。最後に見た彼は笑っていたのだ、
それもとても幸せそうに。
「さっきも言ったが軽度の打撲傷だ。安静にしていればじきに治る。私は先を急ぐので失礼するが、くれぐれも
無理はしない事だ」
白衣の女性はさらりと言ってのけた。あまりにも自然に言われたものだから、危うくティファはそのまま聞き
流してしまうところだった。とっさに瞼を開き、彼女の方へ顔を向ける。
「ち、ちょっと待ってください。……『先を急ぐ』って……」
ここは建造中のW.R.O本部施設、それも入り口からは相当離れた場所であるはずだった。そんな場所に、
なぜこの女性がいるのか? 稼動していない本部施設内の医務室に、医者だけがいるというのはどう考え
ても不自然だ。
「あなたは一体?」
問われた女医は医務室の扉の前で立ち止まる。明るめの茶の髪が揺れ、それから「すまないな」と呟いて
振り返る。
「……上で起きた一連の出来事を、ここからモニターさせてもらった」
「え?!」
向けた視線の先に立つ女医を見つめて、そう言えば以前に見た顔だと思う。どこかで会ったことがある
だろうか? ゆっくりと上半身を起こすと、彼女の顔を正面から見つめ直す。
ティファの手助けをするように、女性は言葉を続けた。
「それとどうやら……妹が、世話になったようだ。その礼も言わなければならない」
ぼろぼろになったネームタグに示されている文字を追い、ティファは女医の名を呟いた。
「シャルア、ルーイ? ……それじゃあ、あなたが?!」
ティファがシャルア自身を見るのは今回が初めてだった。しかし、話はユフィやシェルクから聞いて知って
いる。たしか彼女は3年前のW.R.O襲撃の際、敵に襲われ昏睡状態に陥ったと。
「話によれば『奇跡でも起きない限り目覚めない』……と、言われていたらしいな」
表情からティファの心中を察し、シャルアは苦笑がちに呟く。事実、先のディープグラウンドとの交戦で
襲撃を受けた当時のW.R.O本部施設内で、シャルアは妹を逃すために致命傷を負った。その件ではユフィが
相当にショックを受けていた姿もティファは目の当たりにしている。
それにディープグラウンドとの戦いを終えて、ヴィンセントの捜索と並行してエッジの復興作業を手伝う
ことになったシェルクがセブンスヘブンで過ごした僅かの期間、あまり言葉には出さなかったが彼女はずっと
姉のことを気にかけていた。
「ユフィが知ったらきっと驚くわ! 妹さんにはもう会ったの? とにかく無事で本当によかった」
ティファはそんなふたりを間近で見ていたせいもあって、初対面とは言えこうしてシャルアの元気な姿を
見られたことが本当に嬉しかったのだ。思わず声が弾んだのは、そんな心中を反映しての事だ。
しかしティファとは対照的に、語ったシャルアの横顔には喜びという感情を見ることはできなかった。
「私が目覚めたのは『奇跡』なんてものじゃないさ。……ただ、まだ星に還れなかった。それだけだ」
「……シャルアさん?」
そんな彼女を不思議に思って、ティファが声をかける。それに気付いて取り繕うように言葉を続けた。
「すまない。そうやって喜んでくれる事が嬉しくない訳じゃないんだ。私を心配してくれたユフィにも
悪いことをした。……」
ティファの方へ顔を向けてぎこちなく笑顔を作った後、シャルアは何かを言い淀むようにして背を向けると、
医務室に備え付けてあったモニタの電源を入れた。するとあまり解像度の良くない映像が映し出される。
それはつい今し方、この施設の地下7階で行われていた遣り取りだった。モニタの中にいる自分の姿を
見つめていると、少し気恥ずかしいような不思議な心地がする。映像を見つめながらティファはそんなことを
思った。
『いくら……人形でも……。……彼、には。……命が、あるんで……しょう?』
それにしても自分の命が危険にさらされている状況下で、よくもこんな事が言えるなとシャルアは呆れた
ように溜め息を吐く。しかし、再びティファに向き直った彼女が口にしたのは、思いがけない言葉だった。
「あんたの言ったこと、恐らくこれがカギだ」
「かぎ?」
ティファは首を傾げた。
そもそもここへ来た理由もあまり明確ではない彼女にとって、シャルアの話を理解するためには重要な
パーツが抜けているように思えたのだ。
「教えてくださいシャルアさん。……私達は……」
「この施設には、彼の……W.R.O局長の“オリジナル”が保管……いや、閉じこめられている」
「彼? オリジナル? 保管? ごめんなさい……一体どういう」
シャルアの語る言葉に、なぜか嫌悪感を抱いた。それはティファの本能的なものであったのかも知れない
が、本人にもその理由はよく分からない。そんな不安がそのまま表情に出ているらしく、シャルアは首を横に
振るとゆっくりと話し始めた。
「局長の能力については、どこまで?」
「あまり詳しいことは……。ただ、ケット・シーを動かしているのがリーブさんの能力だと言う事ぐらいで」
ティファの言葉にシャルアが頷く。
「私にも詳しいメカニズムは分からない。ただ、局長には『物を操る能力』があるそうだ。ケット・シーは機械を
使った遠隔操作ではなく、局長自身の意思が直接反映する形で動いている……」
元来ケット・シーは高性能マシンを内蔵したロボットとして製作された。
局長はその動作について、コンピュータやマテリアの介在なしに操作を可能としている。
その能力自体を、『インスパイア』と呼ぶらしい。
「……インスパイア?」
つい先ほど、ヴィンセントがエレベーターで語っていたのを思い出す。それにしても耳慣れない言葉だった。
少なくとも、6年前共に旅を続けていた間や、その後にも聞いたことはない。
シャルアは頷くと、再び語り出す。
「しかし、このインスパイアという能力は『物を操る』だけに留まらない……」
物体を意図通りに『操る』だけならば、作用部を付けた人形を遠隔操作する事と何ら変わらない。
しかしケット・シーがそうであるように、彼らは自律行動をし、やがて個別の意思を持つようになる。
局長はそれを『生命を吹き込む』と表現していた。インスパイアの本意は、そこにあるのだと。
「それじゃあ、ケット・シーは……?」
そうだ。とシャルアは頷いた。
「ここから、さっきあんたの言ってた言葉に繋がる。『人形でも命がある』」
「……」
ここまでの話を聞いたティファは、急に不安になった。先ほど自分が言ったはずの言葉に自信が持てなく
なって来た。インスパイアなんて存在を知らなかった。ただ、目の前にいた「リーブ」を、人形ではなく本人に
重ねて見ていたから思わず出た言葉だった。ヴィンセントの指摘通り、見た目に惑わされていただけなのだ。
顔を俯けて黙り込んでしまうティファに、シャルアは優しい口調で言った。
「あんたが気にすることはない。それに、この話をすぐに理解しろという方が無理だ。……なにせ局長自身、
自分の持つ能力について今のあんたと同じように言っていた。能力者自身でさえそうなんだ、実際に能力を
持たない他の人間が理解するのはもっと難しいだろう」
「リーブ……さん、が?」
シャルアは黙って頷く。「それも、私が聞いたのはほんの一部に過ぎないだろう」と付け加えてから。
「自分が生み出した命を、直接的ではないにしろ自分の手で殺める……それはどんな感覚だろうな」
「そんな……」
「少なくとも、これまでにケット・シーは何体か犠牲になっている。その度に局長は思い悩んだのだろうな。
自分の能力によって吹き込まれた命が、死んでいく様を見て、時にはそれと同調することもあったそうだ」
小さくため息を吐いてから、シャルアはこう続ける。
「同調が、インスパイアという能力の代償なのか。それとも局長自身の精神的な部分に由来するのか。
どちらにしても苦しかったんじゃないかと思う。
……もっとも、他人がいくら想像したところで真相は分からない。インスパイアという能力そのものが
何なのか、私達には理解できないからな」
ここまでの話を聞いて真っ先にティファの脳裏に過ぎったのは、6年前の古代種の神殿だった。
あの時はまったく気にしていなかった、気にする余裕などなかった。けれどあの時、ケット・シーは自ら
神殿内に残ることを申し出て、最後にこう言った。『2号機が来ても忘れないで』と。
同じボディを持ちながら、それぞれに持っている心は違った?
作り物の体――その替えはあっても、宿る心に代わりはないとしたら?
「わ、私……」
取り返しのつかない過ちだったと、それだけで後悔の念が押し寄せてくる。
――『いくら……人形でも……。……彼、には。……命が、あるんで……しょう?』
それは人の形をした外見に惑わされた言葉。けれど、本当にその言葉を向けるべき相手は、もっと古くから、
それも身近にいたのだとしたら。
シャルアは優しく微笑んで、ティファの肩に手を置いた。
「忘れるな。あんたの……いや、あんた達のその優しさが、局長を救うカギになるはずだ」
そう語るシャルアの声は力強く、触れた手は温かかった。
その心地よさの中に、ティファはひとときの安らぎを覚えたのだった。
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GJ!
おつー
気になってたティファキター
続きwktkしながら待ってます
乙
ほ
し
う
ら
な
い
ほ
ろ
す
こ
っ
ぷ
り
log消えてしもうたorz
どなたか前スレのログくださらんじゃろうか
>>1
乙です
>54
っ>39
前話:
>>30-35(現在地:建造中のWRO施設地下12F・医務室)
----------
寝台に背を向けると、シャルアは医務室を出ようと扉へ向かって歩き出した。ティファの傷は心配する程
ではなかったし、もう彼女ひとりでも大丈夫だろうと判断したからだ。ティファ達がどのような経緯でここへ
来たのかは分からない。ただ、どちらにしてもシャルアは彼らと行動を共にする気はなかった。
「人は」
部屋を出ようとした時、不意に聞こえてきたティファの声にシャルアは足を止めて振り返る。
寝台の上のティファは目を閉じて、静かに語り出した。
「死んでしまった人はどこへ行くんだろう? ……小さい頃、私の母が死んでしまった時とても悲しくて。
母は死んだんじゃなくて、いなくなったんだって思ったんです。だからいなくなった母に会いたい一心で、
無茶をした事があったんです。私を心配して追いかけてきてくれた子の事にも気付かずに、そのまま
橋から落ちて大ケガをして……」
親や周囲の人々を心配させて大騒ぎになったはずなのに、後になって言われるまで自分じゃすっかり
忘れてたんですよ。とティファは照れたように笑った。扉の前に立っていたシャルアは何も言わず、黙って
話に耳を傾けていた。
「死んだら星に還る……そう言われても、やっぱり実感が湧かないんです。本当は今でも」
死んでしまった人達はどこへ行ったのか、分からないんです。と、ティファは申し訳なさそうに告げた。
彼らは思い出として、確かに今も心の中に生き続けている。けれど自分には、エアリスのように星の声を
聞くことができるわけでもない。だから人々が星に還った確証を持てずにいるというのが本音だった。
――それに。
もしケット・シーにも生命が宿っていたとするのなら。
黒マテリアの中に閉じ込められたケット・シーは、星に還れたのだろうか?
もし、星に還れないのだとしたら……?
それ以上を口に出さないティファの横顔は、苦渋に満ちていた。まるで罪を犯した自分に下される審判を
待っているような――少なくともそれは、星を救った英雄と讃えられる者のする顔ではなかった。
自分にはないものへの憧れのような、一方で呆れのような。吐き出したくなったため息を飲み込むと、
シャルアは口を開いた。
「その感覚は間違ってない。むしろ私はその方が正しいんだと思ってる……生物としてな」
それからシャルアは顔を上げ、さらにこう続けた。
「私も幼い頃に母親を亡くした。悲しかったがそれ以上に、泣きやまない妹をなんとか落ち着かせようと
必死だった。生前、母がよく話してくれた星命学の話を引用して、母も星に還ったんだと、また会えるんだと
妹に話してやった。けど、本当は信じてなかった」
それは私が科学者になろうとした理由の1つだ、とシャルアは語った。「こんな場所にいるから医者だと
思った」と言いたげな表情を向けてくるティファに、こう見えて本業は科学者なのだとシャルアは苦笑を返す。
科学者には見えないか? と問えば、迷った末うなずくティファに、皆から良くそう言われるんだと一笑して
から話の先を続けた。
「死んだ者の精神エネルギーはライフストリームとなって星を巡る……星命学で説かれている原理は
嘘ではない。
でも、そこに私達の知る母はいない。だから母には二度と会えない。結局のところ私がシェルクに話した
のは、気休めでしかなかった。子供心にそうと知りながら嘘をついていた」
だからこそ、連れ去られたシェルクを捜し続けることができた。この地上でしか再会できないと分かっていた
から。死んでしまったら二度と会えない、あの時の母と同じように。
妹を取り戻すためなら、自分の持っている全てを差し出す覚悟はあった。シャルアが10年という長きにわたり
戦いに身を投じて来られたのは、その覚悟があったからだ。
「……でも、あなたは嘘だと言うけれど。シェルクはあなたに救われたと思うわ」それはあなたの言葉だけじゃ
なく、あなたという存在がシェルクの支えになっていたからなのだと。短いながらもシェルクと共に過ごした
ティファにはそう思えたのだ。
そんなティファの思いを、シャルアは柔らかく否定した。
「あんたは本当に優しいな」
その言葉にティファは首を振る。これは優しさなどではないのだと、自分の知る限りシェルクは確かに
姉であるシャルアの存在に支えられていたのだと言いたかった。けれどティファは姉妹の間に何があった
のかを知らない。だからこれ以上、口を挟んではいけないと思った。でも、自分の言葉は優しさや憐れみ
から出たのではないのだと、それだけは伝えておきたかった。
「優しくなんてありません。ただ臆病なだけ……なんだと思います」
ティファは自分の右手を見つめながら、ぽつりと「恐いんです」と呟く。同時にそれが、今の自分にできる
精一杯の反論だと分かっているから、言葉を止めるつもりはなかった。
「たとえ相手がモンスターだったとしても、命を奪う側にも痛みがあるから」
星を救った英雄などと言われても、これまでにやって来たことは所詮、血腥い戦いだった。敵が誰であれ
多くの場合、敗北は死を意味している。生き残るために自らの意思で戦い、勝利と生を得てきた。最初から
星を救うために戦った訳ではない自分が、今さら讃えられる存在などではないとティファは思う。
剣や銃を持たないティファはいつでも身一つで戦場に立ち、その拳で敵と対峙してきた。過去には憎しみの
あまり痛みを忘れ、あるいは痛みを忘れるために拳を振るった事もあった。しかし、たくさんの戦いを経て
彼女は知った。失われる命の重さと、それを奪うことの痛みに。
拳を通して伝わってくる痛みに、嘘や偽りがない事を。
「だから、恐いんです」
戦場に立つ自分のすぐ隣にある死への恐怖、それ以上に相手の命を奪う痛みを知った。大切な人の死も、
自分が誰かの命を奪うことも。勝利も敗北も、生も死も。戦いの後に残されたものに触れる度、ティファは戦う
事を忌避するようになった。形振り構わず、感情にまかせて拳を振るっていた方が楽だったとさえ思う。
もちろん、それが良いことではないのも承知のうえで。
そう言ったきり俯いてしまうティファの姿に、シャルアは短く詫びた。もともと彼女を巻き込むつもりは
なかった。
「……すまない」
あのままここを立ち去るべきだったと、この話をティファに聞かせるべきではなかったと後悔した。しかし
ここまで話した以上、最後まで伝えておかなければならない。
「あんたの言ったように、ここにいる人形達には命が宿っている。だから私がこれからやろうとする事は、
単なる破壊ではなくなる」
理由や状況はどうであれ、命ある者からそれを奪おうとしている。だから。
「今からでも遅くはない、引き返せ」
その言葉に顔を上げたティファに、驚きと戸惑いをない交ぜにしたような顔を向けられた。なぜと問うように
真っ直ぐ向けられた瞳の奥には、非難の色を見た気がした。シャルアは僅かに句を繋ぐことをためらったが、
決意を揺るがす程ではなかった、躊躇もほんの一瞬の事である。
「……私はあんたの様に優しくはない」
語られるシャルアの話を遮ろうにも、ティファの口から言葉は出なかった。扉に背を向けたシャルアは、
小さく笑って言い換える。
「いや、あるとなしで語るなら、優しさではなく理由だな。別に戦うことを好んでいる訳ではない、ただそうする
理由が私にはある」
「理由?」
「そう。他の命を踏み越えてでも先へ進み、目的を成そうとする理由だ。故に、ここで足を止める訳にも引き
返すわけにも行かない」
それ盾に他の命を犠牲にすることが正当化される道理はない、そんなことは分かっている。だが恐怖や
痛みを上回る理由があれば、人は戦場に身を置くことが出来る。ティファの無言の問い掛けに、シャルアは
視線を逸らさずにこう答える。
「……私もね、この通り体の一部は人工物に頼ってる身だ。だから今回の件がどうしても他人事には思えない」
失われたままの左眼、義手と交換した左腕、そして一部の内臓――肉体を構成するものを失い、それを
人工物と取り替えてでも生に執着した。こうして生きながらえる一方で、体内に入り込んだ"異物"にシャルアの
肉体は拒絶反応という抵抗を示す。生命を維持する代償として与えられたのは、止むことのない苦痛だった。
それでもシャルアはその苦痛すらも、生存の証と受け入れた。妹を救い出すためなら何だって差し出す
覚悟でいたからこそだ。事実、命以外の多くを差し出して来た。そうして3年前、戦いの中で10年振りに妹と
再会した。そしてこの先、妹が生きて平穏に暮らせるのなら、自分はもう星に還っても良いと思った。自分の
命はそこで役目を終えるのだと。
しかしシャルアは今もこうして生きている。昏睡状態から目覚めたとき、最初に感じたのは絶望感だった。
もう生きている意味はない、止むことのない苦痛に耐えられるほどの理由が無い。そう思ったからだ。
そんなシャルアを再び生に執着させる事になったのが、この施設の存在だった。
無機物を意のままに操り、さらには生命を吹き込むという異能力『インスパイア』。そのすべてが、この
建物に収容されていると伝え聞いた。
肉体の一部が人工物である自分と、肉体の全てが人工物である彼ら。思考を司り、自律行動を取り、
行動するための機能を持った身体を持つ。
そうなれば、『生きている』と自覚する自分自身と、彼らの違いはおよそ半分の肉体構成でしかない。
その半分の中の一体どこに、生命と物とを別つ違いがあるのか?
あの日以来、彼女はずっとその答えを探している。
「これは星に還り損ねた私が、果たすべき使命なんだ」
インスパイアという能力の存在を知ったあの日から。
その能力に支配され、翻弄される命の存在を知ったあの日から。彼女はずっと、答えを探している。
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・DCFF7第10章「子どもの姉妹」と、FF7Disc2のエピソードからねつ造した母親話。
・ちょっと読みづらくてすみません。ふたりの微妙な行き違いを…表現するのが難しいorz
GJ!
乙!
おつー
おつおつ
ほ
ぼ
前話:
>>56-60 ----------
医務室の扉はシャルアの存在を認め、塞いでいた道を明け渡す。
その光景を眺めながら、彼女はおよそ3年前の出来事を思い出していた。
***
「ケット・シー……ぬいぐるみを、ですか?」
シャルアは声と表情にあからさまな呆れを含んで問い返す。机を挟んで向かいに座る男――現W.R.O局長
であり創設者――は、真顔で「はい」と言って頷いた。
この当時W.R.Oは、ジュノンを皮切りに各地で発生した集団失踪事件の調査を行っていた。事件の裏に見え
隠れする『ディープグラウンド』の実態を掴むべく、ミッドガルへの調査団派遣を目前にしていた時期だった。
この日W.R.O本部の局長室を訪れたシャルアは、ミッドガル調査団の先遣隊として自らも神羅ビルへ同行し
たいと進言したことに会話の端を発している。シャルアの申し出に対し、局長であり今回の作戦を総括する
立場にあったリーブは、二言目にはあっさりと彼女の申し出を退けた。その根拠としてケット・シーの使用を
打ち明けたのだが、シャルアはケット・シーが任務に対して適任とは思えなかった、これが先ほどの発言に
繋がっている。
シャルアの不満を解消するべく、リーブは手元のパネルを操作すると部屋の脇にあるスクリーンの電源を
入れた。すると壁面全体に浮かび上がるようにして現在のミッドガル全景が映し出された。傾いたまま放置
されている建物や、寸断された道路に積み重なるおびただしい量の瓦礫、どこを見ても荒廃した光景が延々
と広がっていた。そこにかつての繁栄は見る影もない。映像はゆっくりスクロールしながら、画面には映りき
らなかった部分も時間をかけて見せてくれる。
スクリーンの動作を確認すると、正面に立つシャルアに視線を戻してリーブは話を始めた。
「神羅本社ビルを含めミッドガルの多くは3年前のメテオ災害以来、ほとんど手つかずのまま放置されて
います。建物だけでなく、それを支えるプレートそのものの強度も設計段階で想定された以上の負荷に
耐えています。都市開発責任者だった私が言うのもおかしいと思われるでしょうが、倒壊の危険性は否定
できません。加えて残留魔晄の影響、モンスター襲撃の可能性……今のミッドガルはあらゆる危険に満ちて
います。そんな場所へ女性であるあなたは勿論、調査団を向かわせる訳にはいきません。その為の
先遣隊です」
過去に自らが手がけた都市の末路を目の当たりにしながらも、現状を説明するリーブに感情の類は見ら
れなかった。いったん言葉を切ってから机の上で手を組むと、やや声を落として続ける。
「……先を急ぎたいお気持ちも分かりますが、これだけは譲れません。先遣隊が戻り内部の状況、安全の
確認が取れるまで、申請者や理由の如何を問わずミッドガルへの立入調査を許可することはできません」
「だからと言って、あのぬいぐるみが役に立つとは思えないが?」
憮然とした態度を隠さずにシャルアは問う。
もちろんケット・シーがジェノバ戦役の際、戦いに参加した事は知っている。しかしそれは戦闘用の機体と
組んだ結果で、このぬいぐるみ単体での功績ではない。見た目の通り非力なぬいぐるみよりは、自分の方が
よほど適任ではないか、と言うのがシャルアの主張だった。
その主張を受けて、リーブは真っ向から切り崩しにかかった。
「ケット・シーはああ見えて、かなり高性能のコンピュータを積んでいます。それからもう1つ。先遣隊に求め
られるのは腕力や戦闘能力ではありません、機動性と潜入能力です。先ほども申し上げたとおり、現在の
神羅ビル内部の状況を正確に把握し、調査団本隊の派遣に必要な情報を得ることが目的ですからね。
ケット・シーを先遣隊として向かわせる理由はこのためです」
「局長が遠隔操作を?」
「もちろん。もうずいぶん続けているので操作に問題はありません」
「単独で?」
「ええ。侵入するのが神羅本社ビルですからね。私よりも内部に詳しい者と言われても、残念ながら思い当た
りません」
「通信が途絶えた場合は?」
「ケット・シーは単なる遠隔操作ロボットではありません。ですから通信環境を気に病む必要もありません」
「危険はないのか?」
「『無い』とは言い切れませんが、これが最も危険の少ない方法である事は確かです」
……と、まあこのようにしてシャルアの繰り出す反論は片っ端からきれいに回答されたのである。ここまで
言われては、これ以上出る言葉がない。完敗だ、と言った具合に手を広げたシャルアに、リーブはようやく
小さな笑顔を作って、諭すようにこう告げる。
「急いては事をし損じます。神羅に復讐を果たすにしても今はまだ時期尚早と言えるでしょう」
「……復讐?」
リーブの言葉はシャルアの失笑を買った。そこでようやく自らの失言に気付いたリーブが首を傾げる。
シャルアは真剣な表情に戻ると反論を続けた。
「神羅への復讐なんてくだらない理由のために私はここにいる訳じゃない。そう言うからには私の前歴も?」
「……ええ。申し訳ないとは思いましたが一通り拝見させて頂きました」
反神羅組織の一員といたところを、タークスと接触した記録が残っていた。リーブの発言はここを拠にした
ものだった。シャルアとしても、そのことを隠すつもりはなかったので事実を認めて頷いた。
「確かに神羅とは敵対する立場にいた。が、それは神羅への復讐が目的じゃない」
「他企業の人間と言う経歴は見つかりませんでしたが、なにか他に目的が?」
良かったらその理由を聞かせて頂きたい。と申し出るリーブに、シャルアはこう答える。
「およそ10年前に神羅が連れ去った私の肉親、妹を捜している」
返されたシャルアの言葉を聞いて、表情こそ変えないものの返答までには不自然な間があった。それが
リーブの中のどういった感情によるものなのかは分からない。
「……そうでしたか」
沈痛な面持ちで呟いたあと、リーブは改めて正面に立つシャルアに顔を向けた。彼女が何故ミッドガル――
神羅本社ビルへ急ごうとするのか、その動機はここにあった。だがそれを知ったからと言って、シャルアの
同行を許可する理由にはならない。
「事情は分かりました、後はお任せ下さい」
そう言ってリーブは席を立って部屋を出ようとすると、シャルアはその進路をふさぐようにドアの前に立ち
はだかった。リーブが無言で顔を向けると、促されたように語り出す。
「まだ納得したわけじゃない」
「はい?」
「妹は私の命、つまり生きる目的の全てだ。その証拠にいま私はここにいる。私がミッドガルへ向かうのは、
私の命を探す為だ。いくら局長といえど、それを妨げる権利はないはずだ」
シャルア自身、どうしようもなく子どもじみた理屈だなと思う。しかし、どうあっても局長を説得してミッドガルへ
向かいたかった。形振り構っていられるほど余裕はない。
リーブは呆れたように溜め息を吐き出すと、こう告げた。
「……あなたの身を案じての判断です。どうかご理解下さい」
「それを余計なお世話という。私の身も命も、私がどう使おうが自由だろう?」
もし仮にシャルアの理屈が正しいとするなら、こうしてリーブにミッドガル行きの許可を請う必要性は全く無い
はずだった。しかし、シャルアにはW.R.Oにいて得られるメリットの方がはるかに大きい。まして本人も言って
いる通り神羅ビルやミッドガルに関して、局長以上に精通している人物が他にいないのも確かであり、ここで
話がこじれて損を被るのはシャルアだった。
これはどう考えてもシャルアに勝ち目はない交渉だと、それどころか口論にすらならない事は、向かい合った
両者とも分かっていた事だ。
それでもリーブは真剣な表情でシャルアに対し、静かに告げた。
「シャルアさん。あなたが妹さんを探しているのだという事情も、思いも、私なりに理解したつもりです。
ですが、こちらとしても軽い決断ではありません。この作戦には……命が懸かっています」
「命って、あんたのか?」
その問いにリーブは答えなかった。そのかわり、シャルアを見据えるとこう断言した。
「少なくとも、いくら大切な者の為とは言え、自らの命を投げ売りするような方に今回の作戦同行を許可する
事はできません」
声を荒げるわけでも、口調が強まるわけでもない。
「……私からお伝えしたいことは以上です」
ただ淡々と語られた言葉だった。にもかかわらず、どんな反論にも応じる姿勢はないと言外にはっきり
示されている。横合いを通って部屋を出たリーブに、シャルアは返す言葉を持たなかった。
その後、先遣隊が戻った後に編成された調査団本隊と共にシャルアは神羅ビルへ赴き、そこでディープ
グラウンドについて記されたレポート(後に「スカーレットレポート」と呼ばれる事になる)を発見する。W.R.Oと
ディープグラウンドとの対立が表面化するのは、調査団派遣からさらに後の事である。
またこの時に発見されたのはディープグラウンドに関する資料だけではなかった。資料室にはルクレツィア
博士の残したカオス研究のレポートと同じく、データ化されなかった論文の数々が調査団を出迎えた。あまり
の数と保管状態の悪さに阻まれ、収められている全ての内容を把握する事はできず、ほとんどが置き去られ
る事になる。
しかしそのうちの1つがシャルアの目に止まった。年代別に分類されているフォルダによれば、時期は
ルクレツィアレポートとほぼ同じ頃である。しかし著者は不詳で、『星還論』と付けられた論文内で語られて
いるのは、『インスパイア』という能力の存在だった。それはマテリアなどを介さずに無機物を意図通りに操り、
やがて生命を吹き込むに至る“異質な能力”と位置づけられ、その能力の発生と作用が仮説として記されて
いる。どの項目においてもすべてが仮定を基にした推論に終始しており、それを実証するデータは1つとして
無かった。その点から言えば「研究論文」にはほど遠く、さらに提唱されている仮説自体に重要性が認められ
なかったため、研究対象からは除外されデータ化もされずに今まで眠っていたものと思われる。もちろん
W.R.O調査団の目的ともかけ離れた内容だった。
それでもシャルアはこの論文に興味を示した。論文としてはほとんど要件を満たさないものの、それを手に
したのは直感に近いものがある。
――『インスパイア』とは、
ライフストリームによる生命循環システムから逸脱した存在であると同時に、
この星の内部を巡る生命循環システムを超越した存在であると仮説する。
また、インスパイア因子を持つ変異体を『インスパイヤ』と呼称する。
この日、インスパイアという能力の存在を知ったシャルアは、やがて気付く事になる。
その能力に支配され、翻弄される命の存在があることを。
----------
・DCFF7(第2章・第7章で聞ける)ミッドガル調査団を前提にしたシャルア回想。
おつ!
GJ!
おつおつ
乙
ほ
っ
し
ゃ
ん
ま
ー
ぶ
る
ち
ょ
こ
ぼ
前話:
>>67-72(現在地:建造中のWRO施設地下12F・医務室)
----------
医務室の扉が閉まる音を聞きながら、ティファは寝台の上から動けずにいた。身体の痛みはとうに
治まっているというのに、動けなかった。それは、自分がどう動くべきなのかを見失っているからに
他ならない。
部屋の奥にあった備え付けモニタの電源は入ったままだったが、画面には何も映し出されていない。
今はモニタが室内を照らし出す照明代わりだった。
――「今からでも遅くはない、引き返せ」
薄暗い室内に取り残されたティファの脳裏には、シャルアの言葉が繰り返し響いていた。
片眼を失い、片腕を失い、そして内蔵までも失ったというシャルアの言葉。自分の生還が奇跡など
ではないと、「星に還れなかっただけ」だと告げた彼女の横顔に愁いを見た様な気がする。
ティファにはその理由が分からなかった。
妹を救おうと懸命に生き、その結果として妹は救われ、同時に彼女の思いは報われた筈だった。
なのになぜ?
分からないことはそれだけではない。
そもそも彼女がなぜ、ここにいたのか? ここで何をしていたのか?
(私達だって……)
そこまで考えてふと気付く。彼女だけではない、自分達はなぜここへ来たのか? その本当の
理由をティファはまだ知らない。
シドの飛空艇に集い、皆と共に行き着いたのが建造中のW.R.O新本部施設だった。私達はここに“閉じ
込められた”リーブを連れ出すために集まったのだとユフィは言っていた。
しかしそんな自分達の行く手を阻んだのは、他でもないリーブだった。
(違うわ。なにかが……おかしい)
ティファの前に立ちはだかったのは、リーブの姿をした人形。
寝台から降りると、部屋の奥にあったモニタの前に立つ。何も映し出さない画面を見つめると、ティファは
ほんの少し前の記憶を投影させる。“命を持つ人形”は、自分の首を絞めながら最後に笑っていたような
気がする。
――「それにしても、落ちてきた場所が医務室の前で良かったな」
シャルアはそう言っていたが、ティファにはそれ以上に引っ掛かる事がある。
それは、この医務室にシャルアがいた事だ。自分を首を絞め、振り落としたリーブには何かしらの思惑が
あった。確証はないがなんとなくそんな気がしている。恐らく彼の"思惑"は、落下地点に医務室がある事を
想定していた、リーブは最初から自分に危害を加えるつもりはなかった。
でもシャルアは違う。
自分が落ちてくるところにタイミング良く彼女が居合わせた事の方が気になった。シャルアの言葉を借り
れば、「作り話にしてもできすぎている」のだ。
できすぎた作り話――
(まさか、シャルアさんが……)
この事態を、こうなることを事前に予見していた? 予見どころではない、彼女はこの部屋から「一部始終を
見ていた」とも言っていた。つまりここで待っていたのだ。
だとするならシャルアこそが、この「できすぎた作り話」の作者本人という事になる。予見ではない、予め
用意しておいたシナリオなのだ。作者であれば都合だってタイミングだって、自分の意のままに演出できる
だろう。
(私達をここへ招いた?)
W.R.O新本部施設を舞台にした物語。私達はその出演者としてここに招かれ、舞台上で役を演じる――
導き出された結論にはっとしてティファは顔を上げる、無意識に置いていた左手が、装置のボタンに触れた。
途端にモニタの電源が落ち、室内は暗闇に包まれた。驚いたティファはもう一度同じ場所に触れてみたが
モニタは復旧しない。光源を完全に失った室内を照らす物は何もなく、この狭い範囲を移動するのにも、
ティファは手探りで慎重に進まなければならなくなった。
(あー、もう!)
暗闇に目が慣れるまで、しばらくはじっとしていた方が良い。そう思いながらも壁に背をあて片膝をつくと、
両腕を伸ばして周囲に障害物が無いことを確認しながら、ティファは壁伝いにゆっくりと室内を進んだ。
音も光も無い、この狭い室内にただ一人。こんな状況で楽観的になれと言う方が無理な話だ。芽生えた
疑問はどんどん大きく成長し、やがて疑念の実を生み出す。
(それならシャルアさんの目的は何?)
――「この施設には、彼の……W.R.O局長の“オリジナル”が保管……いや、閉じこめられている」
(だいたいこの施設って……)
考えに集中していたティファの指に何かが触れた。次の瞬間、それは床に落ちた。澄んだ音を立てて
ガラスが砕ける音がしたかと思えば、飛沫を肌に感じる。
(なっ、なに!?)
反射的に腕で顔を庇うが、何も起きない。腕にかかった飛沫の正体は分からないが、痛みや異臭もない。
ティファは目を凝らして音のした方向をじっと見つめるが、闇ばかりで何も見えない。状況を確かめたくても
この暗闇ではどうしようもない。光源になりそうな物をと周囲に顔を向けるが、どこを見ても何も見えない。
(あっ!)
そこで今の今まですっかり忘れていた携帯電話の事を思い出し、ポケットに手を入れる。
壊れていなければいいけれど、と祈るような気持ちで取りだした携帯をゆっくり開くと、バックライトが点灯
した。それから闇に慣れた目には眩しすぎるディスプレイを見つめた。ボタンを押せば機能も呼び出せる
ので、どうやら故障はしていないようだ。ホッと胸をなで下ろしたところで表示された「圏外」の文字を確認
すると、今度はバックライトを照明代わりにするため携帯をかざした。
ぼんやりと照らし出された床には飛び散った水とガラス片が光を反射し、きらきらと浮かび上がった。
暗闇の中でティファが触れたのは、コップに入っていた水だったようだ。
その中に別の種類の光を見つけたティファは両膝をついて顔を近づける。金属的な輝きを放つそれの
正体に思い当たって今度は立ち上がると上を見上げた。視線の先をバックライトで照らし出すと、浮かび
上がったのは大きな棚だった。両開きのガラス戸の片側が開けられており、奥には大小様々な瓶や引き
出しが備え付けられていた。場所が場所だけに薬品をしまってあったのだろうと察しはつく。棚の前の
物置台に視線を向ければ案の定、床に落ちていたのと同じ物が置かれていた。
(きっとここから薬を取り出したのね)
台の上には様々な種類のシートが散らばっていた。先ほど落としてしまったグラスもここに置かれていた
様だ。手に取ったシートには規則正しくカプセルが収められており、シート裏面には『抑制剤』を示す文字が
記されている。それを目にしたティファは、呆れたようにため息を吐く。
「……シャルアさんも、私と同じなんだわ」
恐らくはシャルアがここに居合わせたのは偶然。彼女は今も体内に抱える拒絶反応と戦っている、目の
前にある大量の薬は、その証。彼女が医務室に立ち寄る理由はあった。となれば――
シャルアもまた、誰かが作った筋書きに沿って舞台に上る出演者のひとり、と言うことになる。
そうと分かれば行き先は1つだ。
(ちょっと良い気分はしないわね。……でも)ティファは手近にあった薬をひとまとめにすると、携帯で床を
照らしながら出口へと向かう。
「私の出演料は高いわよ?」
できすぎた作り話――その筋書きを書いた者に会うために。恐らくは同じ場所を目指して先に部屋を出て
行ったシャルアの後を追うべく、ティファは医務室を出た。
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GJ!
>「私の出演料は高いわよ?」
kakkeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!! GJ !!!
GJ!
ティファ(・∀・)
おつおつ
ほ
ぼ
ま
り
も
ん
103 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/06(木) 23:06:05 ID:Wwsfi/UT0
下がり過ぎてるので一旦上げますよ。
ば
ーばらの姉妹
ほ
の
ぼ
の
君
前話:
>>89-92(現在地:エッジ)
※ここからパートが変わります。
----------
上空を分厚い雲に覆われたエッジは、今や街全体の空気が大量の湿気を抱え込んでいた。こうなると
頭上から雨滴が落ちてくるのも、いよいよ時間の問題だ。夜も迫り人通りもまばらなエッジの街に入った
男は、手にしていたチラシに目を落とし、記載されている地図から改めて目的地を確認すると、来るべき
雨に備えてそれをジャケットの内ポケットへと押し込み、時計を気にしながら早足でメインストリートを
進んだ。
予想通りチラシの住所にたどり着いた頃には、ついに霧雨が降り出していた。傘を差したくなるほど
濡れはしないが服や肌、髪の毛にと体中にまとわりつく水気を鬱陶しく思いながら、店の入り口の前に
立つ。『開店準備中』の札が見えたが、気にせず男が扉を開くと小さな鈴の音が聞こえた。控え目だが
耳に心地のよい響きは、店の主にこうして来客を知らせるためのものだろう、やがてカウンターの奥から
慌ただしく階段を駆け下りてくる足音が聞こえてきた。
「あのー、すみません。今日はまだ……」カウンターへ出るなり、彼は訪問者に向けてそう告げた。
店の奥から出てきたのは、声も姿もまだあどけなさの残る少年だった。聞いている話では、
セブンスヘブンの経営者は女性だったはずだが。地図を読み間違えたのかとも考えたが、チラシに記載
された住所はここで間違いなかった。
「『セブンスヘブン』は、ここで良かったかな?」
男が念のためにと尋ねてみる。すると少し困ったような表情を作りながらも、ハッキリした言葉が返ってきた。
「そうです。だけど、今はまだ開店前で……」
店の外には準備中の札を出しているのに、この人もそれを見なかったのかな?――今日、開店前2人目の
来客を迎えたデンゼルは心の中で愚痴をこぼしながら、男をやんわりと追い返そうとした。ティファもいないし
ここで注文を聞いても何も出すことができない。そしてなにより今は店の営業どころではない。
しかし男は帰る気配を見せなかった。それどころか、カウンターまで来ると持っていたアタッシュケースを
傍らに置いて、自身は隣の椅子に腰をかけた。
「あの、店はまだ」
ここまで言ってるのに図々しい客だなと思いながら、デンゼルは目の前の男をまじまじと見つめた。着ている
服こそ――ちょうど死んだ父親の様な――勤め人風の装いだったが、ジャケットの上からでも分かるほど引き
締まった体格の持ち主で、顔を見れば刻まれた深いしわと多くの傷跡が目についた。
「開いてな……」
そんな男と正面から目が合って、デンゼルは思わず言葉を止める。
この人はきっとクラウドやティファ以上に、たくさんの戦いを生き延びてきた強者なのだろう。顔のしわや
髪の毛に混じる白いものを見ていると、死んだ両親よりは年上だろうとデンゼルは思った。その年齢であれば、
もしかしたら戦争も経験しているのかも知れない。戦争――デンゼルにとっては記録の中でしか知ることの
ない出来事だった。もっとも、戦争と同じぐらいの惨状ならば彼にも経験はあるが、自ら武器を持って同じ
人間を相手に戦ったことはない。いつかそんな話をしたとき、ティファに「そんな経験はしない方が良いの」と
窘められたことを思い出す。
やがて男は何かに気付いたように僅かばかり眉を上げ、ひとつ咳払いをした。途端に、険しかった表情と
声に柔らかさが加わる。
「準備中すまない。しかし今日ここへ来たのは出される料理や酒を楽しむのが目的ではないんだ」
そう言って男は笑顔を浮かべる。笑っている顔を見れば、人の良さそうなおじさんだった。デンゼルは
内心でホッと胸をなで下ろす。
「あの、それじゃあ……」
何しに来たんですか? というデンゼルの問いかけに、今度は男が質問を返すのだった。
「リーブがここにいるだろう? 彼に話があって来た。会わせてくれないか?」
男の口から出た意外な言葉にデンゼルは面食らってしまう。とっさにどう返して良いのかが分からなく
なって、視線を彷徨わせる。
(この人は誰だ? 大体どうして、リーブさんの事を知ってるんだ? ……違う。リーブさんは有名人だし、
みんな知ってて当たり前だ。だったらどうしてここに? ここにリーブさんがいるはずないのに)
そんなデンゼルの様子から彼の心中を察し、男はまた笑顔を浮かべてこう言った。
「言い方が悪かったな。リーブじゃない、リーブの『分身』がここにいるだろう?」
(ケット・シーのこと?!)
デンゼルは注意深く男を見つめた。ケット・シーを知る人は沢山いる、なにせ『ジェノバ戦役の英雄』の
ひとりだし、今やW.R.Oの局長にまでなった人の操るぬいぐるみだ。しかし、ケット・シーがこの店にいる
という事を知っているのはクラウド達以外には誰もいないはずだった。セブンスヘブンの常連客でさえ、
その事を知る者はいない。
「おじさん……誰?」
声に含まれている警戒心を男は聞き逃さなかった。浮かべていた笑顔を消し、低く通る声でこう答える。
「安心して良い、少なくとも君たちの敵ではない」
デンゼルは視線を逸らさずに男を見据え、カウンターを挟んで座る男もまたデンゼルから視線を逸らす
ことはしなかった。
こうして互いに向き合ったまま沈黙が続いた。その間、店内の置き時計が時を刻む音や、外の霧雨の
音まで聞こえてきそうな静寂が室内を満たす。やがて諦めたようにため息を吐き出すと、男は再び口を
開いた。
「……と言っても、簡単には信じてもらえないか」
無言のまま不信感をあらわにしたデンゼルの視線を正面に受けて、男は苦笑したように呟くと言葉を変える。
「俺は昔、神羅カンパニーに勤めていた事がある。そうだなリーブの……」続けようとした言葉の先に疑問を
見つけて、男は暫く思案した。『同僚』と呼べるほど近い部署にもいなかったし、同じ仕事に携わる事も無かった。
しかし『知り合い』と表現してもこの少年の不信感をぬぐい去るには説得力が足りないだろうと思う。
どうしたものか。
言葉の代わりに男は懐にしまったチラシを取り出すと、カウンターに乗せた。
デンゼルは身を乗り出して紙を覗き込んだ。表側にはセブンスヘブンの案内図が載っているチラシだったが、
裏返すと細かな文字がびっしりと埋め尽くされている。示している内容まで読み取ることはできないが、
共通しているのは左側がすべて日付で始まっている事だ。横1行が1日、縦1列で約1年、それらが3列に
並んでおり、およそ3年前から継続する何かの記録らしかった。中には金額や、量を示していると思われる
数値や単位も記載されている。
(何だこれ?)
すっかりデンゼルの注意が紙上に注がれた頃に、男は再び口を開いた。
「……リーブの昔なじみだ。今すぐこれを止めさせる、その為にここへ来た。とにかく今は時間がない、話を
させてくれないか?」
言いながら、男は紙の上の一点――書かれていた一番最後の行――指し示す。
最後の行の左側に記されていたのは、今日の日付と、「0」の文字だった。
----------
・チラシの裏から始まる話。
主任!?
いつも乙!!wktk
GJ!
おつおつ
乙
ぽ
ま
ー
が
り
ん
す
あ
ま
ぐ
り
も
前話:
>>109-112(現在地:エッジ、セブンスヘブン1F)
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デンゼルは紙から顔を上げて、男に言った。
「まずはおじさんの話をするのが先だと思う。そうじゃなきゃ、いくら『信じて』って言われても……」
「確かに君の言うとおりだな。……分かった」
苦笑したような表情を作ってから、男は腕の時計に目を落とす。つい今し方、時間がないと語っていた
とおり彼の用件はよほど急を要すことなのだろう。
(そう言えば……)
男に釣られるようにしてデンゼルも振り返って壁掛け時計に目をやった。エッジの空は雲で覆えたとしても、
時計の針が時を刻むことを止めさせる事はできない。今こうしている間にも日没は刻一刻と迫っていた。
通信の向こうにいるバレット達が、あの後どうなったのかが気がかりだった。デンゼルは階段の上にある
部屋の方へ視線を向ける。カウンターを挟んで向かい合う男が口を開いたのは、ちょうどその時だった。
「さっきも言ったとおり俺は元神羅カンパニーの社員だった。ずいぶん昔、事情があって会社から追われる
身になった。社命で俺が指名手配されていた時、ひそかに助けてくれた一人が当時の都市開発部門統括
だったリーブだ」
それを聞いたデンゼルの頭に過ぎったのは、今は亡き父の言葉だった。
デンゼルの父エーベルも神羅カンパニーに所属する社員だった。仕事熱心で冗談好きな父は、まだ幼い
我が子にもこう言って聞かせた。神羅カンパニーにとっての危険因子は、容赦ない追及と徹底的な排除を
受ける、「だから決して会社に逆らってはならない」と。話を聞かされた当時はちゃんと意味を理解することは
できなかったが、そう語る父の険しい表情は、まだ幼かったデンゼルの心に強く焼き付いてる。幼心に会社
という場所がとても怖い所なのだと思った。同時に、そんな場所で働く父のことを誇らしく思えた。
そうなるとこの男も、そして男を助けたリーブも、父の言っていた「決してしてはならない」行いをしていたと
言う事になる。
(……じゃあ二人とも)
けれど男はそれ以上の細かな事情までは口にしなかった。それは時間がないからと言う理由だけなの
だろうか? デンゼルは最初にそう疑った。しかしリーブがこの人を助けたのだとすれば、この人が追われる
のには何か特別な事情があったのかも知れない。その結論に至ったデンゼルは、素直に話を聞くことにした。
「つまりおじさんは、リーブさんに借りがあるから?」
「“借り”か」そう言って男はデンゼルから視線を外すと、店の壁を見つめてから僅かの間を置いて「そうだな」
と頷いた。その様子を見て、彼らにはきっと複雑な事情があるんだろうと察した。同時にそれは多分、話して
くれたとしても自分には理解できないものなのかも知れない。自分の前で言葉を飲み込む大人の姿は、これ
までにも見てきた。その度にちょっとだけ悲しくなり、腹が立った。
「この先は君にとって少し退屈な話だろうが、それでも構わないな?」
再び顔を向けた男の問いに、デンゼルはもちろんという代わりに大きく頷いた。
***
話は男がエッジを訪れるより数ヶ月前にまで遡る。
この日、男はW.R.O本部施設のエントランスに立っていた。現在も稼働中の本部施設は地上5階地下1階の
フロア総数6階建ての建物で、ロビーを含めた地上部分は吹き抜け構造になっており、天窓から陽光を取り
入れることで館内は明るく保たれていた。所々に観賞用の植物などが置いてあり、これらが無機質になりがち
な雰囲気を和らげている。入り口に立って正面を見上げると館内の案内図が巨大モニタに映し出されていた。
ここは3年前、ディープグラウンドとの交戦で甚大な被害を受けたと聞いていたが、今や建物も人々も見た
目には完全に立ち直っている様に思われた。しかし、フロアを行き交う隊員達を見ていると、その認識が誤り
なのではないかと思えてくる。
違和感だった。
すぐに何とは分からなかった。しかし肌で感じるこの違和感の正体を、この後いやでも知る事になった。
「おう兄ちゃん、そんなところに突っ立ってどうした? 道にでも迷ったか?」
呼び止められて振り返る。後ろには自分よりもはるかに屈強なW.R.O隊員の姿があった。
ここへの立入に際して、男はW.R.O支給の制服を身に付けていた。とは言っても別にW.R.Oに所属している
と言うわけではない。どちらかというと、正規の手続とは別の方法で服を入手したうえ、さらに無断で施設内に
侵入しているところだ。
正規の隊員でもない男にとって、本部施設内に足を踏み入れるのはもちろん今日が初めてだった。目指す
局長室が建物のどこにあるのかが分からない、モニタの案内図にも記載は無かった。そんな状況下にあって
隊員の言葉はまさに渡りに船だった。彼の話に合わせて男は頷き返す。
「そうなんだ。配属されてまだ間もないせいもあって、ここの構造がよく分からない」
「ほーお? 珍しいな、今は新規の入隊希望者を受け入れてないって聞いてたが」
しかし向けられたのは予期せぬ言葉だった。返答を聞くと隊員は注意深く――どこか品定めでもするかの
ように――男を見つめながら話を続ける。
その様子に男は一瞬肝を冷やすが態度に出すような事はしない。「そうだったのか?」と話の調子を合わせ
ながら目の前の隊員の出方を待つ一方、悟られぬよう周囲を観察する。
エントランス周辺には多くの隊員がいた。仮にここで揉め事を起こせば、彼らはすぐさま駆けつけてくる
だろう。多少の荒事にも慣れていたとはいえ、相手にする数が多すぎる。男にとって分が悪いことに変わりは
ない。
「……まあ、アンタぐらいの人材なら納得だな。で、どこへ行きたい?」
隊員は思いのほか軽い口調になって尋ねてきた。内心、身構えていたこともあり男は拍子抜けするほどで
ある。もちろん、心の動きが言葉や表情に反映されることはない。
「ここの『中央司令室』へ、この荷物を届けて欲しいと依頼されたんだが」
そう言って、男は持っていたアタッシュケースを示す。この場で中身を見せろと言われても、相応の細工は
してあるから心配はない。
ところが隊員は別のことを尋ねて来る。
「誰からの依頼だ?」
口調こそ変わらないが、隊員の視線が荷物ではなく自身に向けられていた事に気付いた男は一瞬、返答に
窮した。そしてここで局長であるリーブの名を出す事が得策なのかと思案する。目の前の隊員は明らかに
自分を警戒している、ここで不用意なことを口にすれば、さらに追及されるだろう。
そこで下調べしておいたW.R.Oの組織を思い起こしながら、男は言葉を選び慎重に、しかしそうと悟られない
よう平静を装って言葉を返す。
「依頼は技術部だ。なんでも導入予定の設備のテストをしたいとかで、この機材の搬入を依頼された。カーム
からだ」
「…………」
昔取った杵柄、とまでは言わないが敵地への単独潜入という作戦も過去に何度も経験してきた。しかし
ここは、自分にとって他所ではあるが『敵地』ではないし、当時と比べれば生命を危険にさらすような情勢でも
ないはずだ。そうであるはずなのに、目の前に立つ隊員の緊張感は何だ?
しばし無言で互いを観察するように見つめ合うが、やがて口を開いたのは隊員の方だった。
「ちょうどいい、俺もこれから司令室に行くところだ。ついでだから案内してやる」
「ありがとう、助かる」
ひとまずこの場は切り抜けた――そんな風にして吐きたくなるため息を飲み込むと、自分に背を向け歩き
出した隊員の後について施設内の奥へと足を進めた。相変わらず隊員に警戒されているのだと言うことは、
考えるまでもなかった。とは言え、隊員はそれ以上の詮索をしようとしなかった。事情はどうあれ男にとっては
好都合だ、このまま目的地にたどり着ければそれでいい。
案内されるままに歩いていると、人が集まるホールなどで他の隊員ともすれ違った。顔を合わせれば軽く
会釈をするのは、ごく自然な光景だろう。しかしここで違和感の正体に思い当たる。隊員の顔が一様に沈んで
いるのだ。周囲を見回しても、ほとんどの隊員がそうだった。
(隊員達の態度、漂っている異様な緊張感……何かがおかしい)
「あんた所属はどこだ?」
考えを巡らそうとするのを邪魔するかのように、振り返った隊員が声をかけてくる。
「カームだ」
「そうか、となると本部は……?」
「今回が初めてだ。元々はカームの現地復興にあたっていた、“こっち”は本業じゃない」
「なるほどな」
そう言って隊員は頷いた。まるで男の考えていることを見透かしているとでも言いたげに言葉を続ける。
「今のW.R.Oは昔とは違う。確かにここは、お前さんの想像していた場所とは違ってるかも知れないな」
そのままフロアの奥にある昇降機に乗り込むと、隊員は目的階を押した。すると僅かな機械音と共に
昇降機が上昇を始める。操作盤の上にあるパネル越しに、吹き抜けになった本部施設全体が見渡せた。
フロアに見える隊員の数はそれほど多いとは言えないが、まばらと言うほど少なくもなかった。3年前、
ここも激しい銃撃戦の舞台となっていた事を考えると、年数を経たとは言えよくここまで持ち直したものだと
思う。
「俺もエッジの復興部隊からここへ来たんでな、最初に感じた違和感には驚いた」
違和感――この隊員も感じていたというのか? 男が顔を向けると隊員は苦笑を返した。
「お前さんだけじゃない。多少の差はあるだろうが、ここにいる誰もが感じてる」
「一体どういうことだ?」
「来れば分かる」
隊員が言い捨てるようにして告げた直後、昇降機が停止した。どうやらここが目的階のようである。
昇降機を降りた隊員の後について通路を進んだ先にあるドアをくぐると、薄暗く狭い通路をさらに奥へと
進んだ。通路は大人が2人すれ違うのでやっとという程の幅しかなく、壁や床には余計な装飾も施されて
いない単調な作りだったせいもあってか、やたらと無機質で圧迫感のある場所だった。道が複雑に入り組んで
いるというわけではないが、どこを見ても同じ景色が続くせいで気を緩めると方向感覚が麻痺してくる。
(なるほど、侵入者対策か)
ここへ来る前、事前に入手しておいた施設内部のデータにはない場所だった。ここが中央司令室に続く
唯一の通路だと言うならそれも頷ける話だ。通路の角を曲がって階段を上り、また続く通路の角を曲がり
……歩き続けていると同じ場所を彷徨っているような錯覚に陥りそうな構造だった。隊員の後を歩きながら、
念のためにと角を曲がる度に目印を付けて行ったのは退路確保のためだ。
この先にある中央司令室を制圧されれば、本部機能は停止する。ここまで敵の侵入を許したということは、
聞いていた以上にW.R.O側の被害は大きかっただろう。壁面は上から新たに塗装を施してはいるが、よく見て
みれば弾痕もまだ残ったままだ。
ひとまずここまで、投下に時間かかってすみません。
このパート長いので一旦区切らせてもらいます。
・On the Way to a Smileデンゼル編で見られる設定をお借りしています。上手く活かせてたらいいな。
・元主任(作中では「男」という表現ですが)については100%ねつ造です、ご容赦下さい。
・7本編のパーティーメンバーにはまったく絡まない話なので、本気で退屈かも知れませんw
たぶん年内にもう一度来れるとは思うんですが、今年も一年間お付き合い下さいまして
ありがとうございました。
どうぞよいお年をお迎えください。レス消費すんません。
GJ!
乙!
限りなく乙!毎回続きが楽しみでならない。
おつおつ
前話:
>>129-134(ある男の回想/W.R.O本部施設内)
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やがて前方に壁が見えてきた、どうやらこの先は行き止まりらしい。突き当たりの壁を背にした隊員が
振り返ると、扉を指しながら告げる。
「見ての通りこの扉は専用コードがないと開かないようセキュリティが施されている、俺が案内できるのは
ここまでだ」
「ありがとう、助かった」
持っていたアタッシュケースを下ろすと、男は扉に向かった。扉の脇に設置されているセンサーとキーを
眺めながら、この扉に施されたセキュリティの種類を推測する。幸い、男はこれと同じタイプの物を以前にも
目にしたことがある。たしか暗証コードを埋め込んだ媒体をリーダーに読ませるか、コードを手動で入力
すればロックは解除される仕組みのはずだ。恐らく暗証コードを埋め込んだ媒体は、隊員証か何かだろう。
正規隊員ではない男が隊員証を持っているはずはないので、必然的に手動入力でロックを解除するしか
ない。
男はディスプレイに表示できるコードの桁数を確認すると、思い当たる番号と照らし合わせた。その数が
一致したことで確信を得て、ボタン操作を始めた。慣れた手つきで思いついたコードを入力すると、それに
伴ってピッピッと軽快な電子音が薄暗い通路内に響いた。
入力を終えて決定キーを押すと、ひときわ甲高い電子音が数秒間鳴った。ロックは解除されない。
(……コードエラー?)
どこかで操作か入力を間違ったのかとも思って表示を確認するが、どちらも問題は無かった。脇に立って
いる隊員に悟られたかと気配を伺うが、どうやらその様子はなさそうだ。
「あせって押すから間違えたか?」
「指が太いせいか、携帯端末のボタンもよく押し間違う」
「ああ、それなら俺もよくやるよ。それで若い連中に笑われる」
そんな風に談笑をかわしながら、男は考える。
(暗証コードは、たしかに……)
昔の社員コードだと聞いていた。しかし実際はこうして弾かれてしまったのだから、予期せぬ事態が起きた
と考えるべきだろう。頭を切り換えて、男は改めて装置に向き合うと打開策を探し始めた。
確かこの装置は、入力された(あるいはリーダーが読み取った)暗証コードをデータベースから照合する
システムを採用していたはずだ。そして3回連続で暗証コードを間違うと、一定時間ロックの解除が不可能に
なってしまう。ここまで来て何もせず引き返すわけにも行かない、それだけは避けたい事態だった。
その時、脇に立つ隊員が口を開いた。その声は先程までとは明らかに違う緊張を帯びている。
「……都市開発部門統括の社員コード。どうやら連中は下調べして来るらしいんでな、そのパスワードは
削除しておいた。残念だったな」
あからさまな敵意と共に銃口を突きつけられる。
(そう言うことか)
最初から男が部外者であることに、隊員は気付いていたのだろう。それでも尚ここまで案内した隊員の
意図にも、ある程度の察しは付いた。
「あそこじゃ他の隊員が多すぎるから騒ぎは起こせない、だからこうして人気のない場所へ連れてきた。
という訳か」
「まあ、それもある」
含みを持たせる言い方で隊員が応じる。男は言葉の意図を計りかねて首を動かす。
「チャンスはあと2回、それでこのドアのロックを解除できればお前を殺す事はしない」
「たかだか不法侵入ごときで殺すのか? ずいぶん物騒な場所だな」
「……訊く前に、まず試してみたらどうだ」
隊員が嘲笑うような口調で言った。
男は再び装置に視線を戻す。隊員の言葉から察するに、暗証コードの1つとしてリーブの神羅時代の
社員コードが設定されていたのは間違いなかった。となればデータベースに登録してある他の暗証の
中にも、これと同じように“誰かの社員コード”が含まれている可能性が高い。この装置に入力できる桁数も、
旧社員コードとちょうど一致する。いくらなんでも旧社員コードがW.R.Oの隊員コードにそのまま流用されて
いる、なんて事はないだろうが。
(当たりを付けてもう一度試すしかないか)
では、誰の物が該当するか? さすがに旧神羅社員全員分のコードを知る訳ではない。仮に知っていた
としても、総当たりで挑むには確率が低すぎる。となれば、設定しそうな人物の当たりをつけた方が早いし
確実だ。
そこで真っ先に思いついたのは、旧経営者だ。
(社長の物を使うとは思えないが)
3年前の一件ももちろんあるが、W.R.Oの活動が――言ってみれば神羅の残した負の遺産を清算するため
――星の救済と人々の復興支援である以上、リーブの心情を思えばそれを本部の中枢に設けたロック解除
コードに設定しているとは考えづらかった。けれど試してみる価値はある。男は再びキーを押すが、またも
甲高い電子音を最後に扉は沈黙した。
「あと1回だ。それとも降参するか?」
「心配するな、次で開く」そう言って男は笑顔で応じた。
降参する気など毛頭無い。しかしそうは言ったものの、内心では思案を巡らせる。
W.R.O司令室、ここの暗証を管理・設定しているのは恐らくリーブだ。神羅に在籍していた当時の社員コード
を設定するあたり、一見すると不用心にも思えるが、裏返せば今は存在していない会社のデータなど、よほど
注意深く調べでもしない限り見つけ出す事は難しい。たとえ見つけることが出来たとしても、そこからコードの
見当を付けることも至難の業だ。そのうえ暗証設定者本人がかつて使用していた社員コードと、当時の経営
者のコードも弾かれた今、リーブならどう考える?
装置と向き合い考え込んでいた男の耳に、隊員の言葉が聞こえてくる。
「降参して命乞いするなら殺すまではしない。……貴様がどこから来たのかを答えれば、それでいい」
(どこから? ……)
隊員の言葉で確信した。男は顔を上げて睨み付けるようにして隊員を見上げて問う。
「俺みたいな人間に会うのは今回が初めてではない、そう言うことか?」
「ああそうだ」憤然とした声で隊員は答える。
「では忠告しておこう。今後うたがわしい相手を前にした時は警戒心を丸出しにしない方がいい。まして
陣営内に侵入された上で、相手側の情報を引き出したいのならば尚更な。それと残念ながら、お前さんが
俺を殺すことは不可能だ」
しかし一方で、侵入者を秘密裏に処理する――ここへ侵入されたという痕跡すら残したくないのだとすれば、
このやり方は正しいとも言える。ここならば人目に触れる心配もない。隊員の誘導については的確だとも
思ったが、当然そんなことまで口には出さない。
「ご忠告どうも」
そう言って隊員は促すように銃口を扉へ向ける。依然として不利な形勢にあるのは男の方だった。
(こいつの話が事実なら、ここは幾度も侵入を受けている……いや、それも想定していたとしたら?)
男はまるで自分が試されている様だと思った。実際のところ、彼らは試しているのかも知れない。
この扉を開ける者が何者なのか、その力量を。
(試す、か。……なるほど、ならば話は早い)
男は記憶にあったコードを手早く入力した。迷いのないその動作に、銃を構えた隊員は口を挟むこともできず、
ただ成り行きを見守っていた。
最後の桁を入力し終えると、今度は低めの電子音が鳴ってパネル上の青いランプが点灯した。入力した
暗証コードを認識し、見事ロックは解除された。
「! ……これで開くのか」
男の口から思わず出た本音に、隊員は呆れた口調を向ける。
「おいおい、自信があって入力したんじゃないのか?」
「まあ確かに、大凡の見当はついてたさ。それもお前さんのお陰でな」
皮肉を込めて言うと、隊員は悔しそうな表情を作って唇を噛みしめる。その様子を横目で見ながら男は種
明かしを続けた。
「『リーブの旧社員コードは削除した』というお前さんの言葉は、それが正しい暗証だったことを教えてくれた。
だから後はその方向で考えれば良い。それとここが標的にされる事を考えれば、暗証コードは侵入防止では
なく、選別に利用していたのだろう。わざわざデータベースとの照合作業が必要なこの装置を採用したのは、
その狙いもあるんじゃないか?」
「そこまで分かってるなら、なぜ」
「もちろん単なる当て推量というだけではない」当時の経営者のコードを使わないなら、恐らく他の重役連中の
コードなど指定するはずもないだろうと踏んだ。次に、神羅カンパニー最後の経営者のコードを使う可能性を
考えたが、恐らく資金提供という面での繋がりが噂されている以上、これも推察されやすい。となれば、
表舞台には立たない人物のコードを設定する、そう考えたのだ。
「ただ、まさか俺の旧社員コードが使えるとは思わなくてな、……さすがに驚いたよ」
男がかつて神羅カンパニーに所属していた時代の、自分の社員コードを入力しようとしたのは、それが既に
記録上からは抹消されているはずの物、つまり表面上は存在し得ないコードだったからだ。
「ロビーで見た時からただ者じゃないとは思ったが……あんた何者だ?」
依然として銃口を向けたままの隊員が問うと、男は小さく笑ってこう返す。
「死人が名乗る名前はない」
口元を小さくゆがめると、男は立ち上がる。
「お前、からかって……?」
隊員は途中で言葉を飲み込んだ。男は自分に向けられた銃を容易く奪い取ると、今度は逆に隊員の顎の
下に当ててこう言った。
「次はこちらの質問に答えてもらおう。これが『初めてではない』と言ったな? では俺が来るよりも前、
ここに侵入した者は誰だ?」
「…………」
ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。それでも隊員は頑として口を開こうとはしなかった。
「これは忠告ではなく警告だ、俺は人を殺すことを厭わない。そして死人は死も恐れない。つまりお前に
勝ち目はない。素直に質問に答えろ」
男の目を見れば、その言葉が嘘やはったりの類でない事は分かった。観念したように目を閉じると、
隊員は口を開き短く言葉を吐いた。
彼が告げた団体名、残念ながらそれらは男の耳にも馴染みのあるメディアの名称だった。なるほど、
隊員がここまで敵意を向けて来るのも納得できる。
さらに先を続ける隊員の声が震えている様に聞こえたのは、男の気のせいではない。
「内通者……我々の身内に、裏切り者がいる。局長はそのことを予見していたのだろう。だからこそ、
わざわざ旧式のこの装置を導入された。あんたの読み通り、それはこの司令室へ入室できる者を
特定するためだ。あんたが来る少し前、データベースにも不正アクセスがあってな。その後あわてて
コードを削除した」
ところが報道機関やネットワークを通して外部に漏れている情報は、データベースに記録されて
いない――W.R.O内部でも一部の者しか知り得ない内容まで含まれている。となればこの組織内に、
外部機関へ情報をリークしている者がいる可能性がある。さらに漏れた時期などから考えると、候補は
かなり絞られる。
「あんたも見ただろう? 我々は……仲間が信じられない……いや」
「内通者に心当たりがあるな? 誰だ」
その時、隊員の顔を見て気付く。彼の声が震えているのは、男への恐怖などではないのだと。
しばらく考え込んだ様子で立っていた隊員は、意を決したように名前を呟いた。
「W.R.O局長……リーブ・トゥエスティ自身、だ」
そしてその事実を知った者を外へ出す訳には行かないのだと、隊員は懐に忍ばせていたナイフを取り
出した。
----------
・DCをプレイするとWROと報道機関との強めの結びつきが分かりますが、これはその裏を掻いた話
…のつもりで書いた。
GJ!
GJ
主任にはあの武器があるんだから、ナイフくらい何とも無いぜ!
乙!
おつおつ
乙
ほ
ぼ
153 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/16(水) 23:26:48 ID:3fvaNffa0
【 】
[【 】]
[【 】]
[【 】]
【 】
【 】
154 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/16(水) 23:30:15 ID:3fvaNffa0
【 】
[【 】]
[【 】]
[【 】]
【 】
【 】
ま
り
も
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き
ー
ぱ
ん
つ
前話:
>>140-145(場所はエッジ・セブンスヘブン)
----------
刃が触れる直前に、男は隊員の腕を掴み挙げると天井へ向けた。無理な体勢で腕をねじり上げ
られた隊員は苦痛に歪んだ表情を作るが、声をあげないところを見ると相応の訓練を受けた者の
ようだ。床に落ちたナイフの金属音がやけに澄んだ音を立てたように聞こえた。
「……素晴らしい覚悟だ」
感想じみた言葉を吐きながら男は隊員の腹に肘を当てると、僅かな呻きを残して隊員はその場に
倒れ込む。倒れた隊員の意識がないことを確認すると、男はアタッシュケースを持って司令室へ
足を踏み入れた。隊員の持っていた銃をわざと扉に挟んで置いたのは、室内で作業中に外部から
扉のロックを操作されないための用心だ。
***
「ちょっと待ってよおじさん」
男の話を遮ってデンゼルは思うままに疑問の声をあげる。
その声に従って男は話を止めカウンターに立つ少年を見つめるが、話の腰を折ってしまった本人は
はっと我に返って申し訳なさそうな表情を作った。しかし男は大して気にした様子もなくデンゼルを
促すように頷くと、静かにこう尋ねた。
「どうした?」
「……すみません。あの、今の話がちょっと分からなくて」
そもそも「リーブの昔なじみ」を自称するこの男がなぜW.R.Oの本部施設に潜入したのか? その
理由もデンゼルには分からなかったが、今のところそれは問題にはならなかった。それよりも引っ
掛かる点があったからだ。
「なんだ?」
話してみろとさらに促されて、デンゼルは頭の中を整理しながら言葉を繋げていった。
「さっきもテレビでやってた話やニュースの記事は、W.R.Oの中から漏れた情報なんですよね?」
「そうだ」男が頷く。
「W.R.Oの中にスパイがいて、その人が外部に情報を流してるって事ですか?」
「その可能性が極めて高い」いっそう声を低くして言うと、男の目つきの鋭さが増した。それを見た
デンゼルは続く言葉をためらった。その中には、これから口に出す疑問を肯定されたくないという
思いもある。
ひとつ深呼吸をしてから、意を決したようにこう尋ねる。
「W.R.Oの人達は、リーブさんが犯人なんじゃないかと疑ってる?」
「全員とは言い切れないが、少なくとも一部にはそう考えている者もいる。俺も含めてな」男は表情を
崩さない。
「だけど! リーブさんはW.R.Oの局長ですよね?」
「その通りだ」
「……ほら、やっぱりおかしいじゃないですか!」自分でも驚くほど弾んだ声で男に反論した。
W.R.Oはリーブが立ち上げた組織なのに、なぜ自ら混乱を招くような事をするのかがデンゼルには
理解できなかった。2年前、デンゼルの申し出を退けW.R.Oへの入隊を拒んだリーブの言葉も理解し
納得できるものではなかったが、それでも彼からは強い『意志』を感じた。だからリーブは好んで
人々を混乱させるような人物ではないと、この騒ぎを起こしたのがリーブであるはずがないと
デンゼルは強く主張する。
目の前の少年の話に黙って耳を傾けていた男は、苦笑したような笑みを浮かべてこう言った。
「君はとても素直だな」
「……?」言われた言葉の意味を計りかねてデンゼルは首を傾げる。男はこう続けた。
「君に1つ訊こう。
自分の余命……生きていられる時間があと1日しかないと知った時、君ならば何をする?」
デンゼルにとってそれは唐突で、しかも漠然とした内容で具体性に乏しい質問だった。しかしそんな
ことを聞いてきた男の意図に考えを巡らす余裕もなく、向けられた問いについて真剣に考える。
「ええと……死にたくない」
真剣に考えた末に出た結論だった。男は笑うでもなく、デンゼルの返答を聞いて当然だと頷くと
さらに言った。
「死にたくなくても明日、自分が死ぬと分かってしまったらどうする?」
さらにデンゼルは考えた。
まずは好きな食べ物をお腹いっぱい食べて、読みたいと思っていた本も全部読んで、写真でしか
見たことがない雪原にも行ってみたいし……、となると1日ではとてもじゃないが時間が足りない。
それよりもまず生きていられる時間を延ばす努力をすると思い直すが、果たして1日でどうにかなる
だろうか? 何も出来ないまま終わってしまうかも知れない。だったら悔いが残らない様に遊び
ほうけた方が良いのかも知れない。そうやって考えれば考えるほど、どんどん分からなくなってくる。
最後に、これだけは絶対にやらなければと思う事を探す。
「クラウドやティファ、それに……」カウンターの奥にある階段の方へちらりと視線を向けると、小声に
なってこう続けた。「マリン達と過ごしたい、かな。その……お礼も言いたいし」
デンゼルの言葉を最後まで聞くと、男は納得したように頷いて「そうか」と言ったきり黙り込んで
しまった。自分だけが置いてけぼりにされた様な心境で、デンゼルは男を問い質そうと言葉を続けた。
正確には、続けようとした。
「おじさん一人で納得しないでよ、大体それが何……」
そこで男の質問の意図に思い至るが、一方でそれを否定しようとする感情が先に立って言葉に
表れる。
「……まさか……」
デンゼルの脳裏に過ぎったのは、今さっき男が差し出したチラシの裏の――約3年分の日付と、
日ごとに何かの量を示しているらしい数値が記されていた――記録だった。
その記録の最後の行は、今日の日付と0の文字。
――「自分の余命……生きていられる時間があと1日しかないと知った時」
「まさかそれって」
デンゼル自身、考えすぎだと思った。言葉に出すことをというよりは、その2つを関連づけてしまう
事を躊躇った。まるで救いを求めるようにして、視線をもう一度目の前の男に戻す。そして男の口から
否定の言葉が語られるのを待った。
そんなデンゼルの期待をよそに、男は淡々と告げた。
「あいつは自ら立ち上げた組織を自分の手で終わらせようとしている。恐らくはそれを、局長として
果たすべき最後の責務と認識しているんだろうな」
さらに男は「その感覚はリーブにとって、君の言う『お礼』と同じなんだろう」とも言った。
「そんな! どうして!?」
カウンターに乗り上がらんばかりの勢いで、デンゼルは男に詰め寄った。
「理由までは俺にも分からん。だが、さっき君に言ったはずだ。俺はあいつの思惑を阻止する為に
ここへ来た」
「リーブさん……まさか病気なの?」
そう呟いたデンゼルの脳裏を過ぎったのは星痕の記憶だった。原因不明の不治の病、その恐怖は
デンゼル自身もよく知っている。しかし、福音の泉――4年前、ミッドガル伍番街教会跡地に湧き出た
泉は、住民の間でいつしかこう呼ばれるようになっていた――で症状は完治するはずだった。だと
したら星痕とはまた別の、何か他の原因があるのだろうと考えた。それも、死に至る恐ろしい“何か”が。
「今回の件が何を起因としているのかは皆目見当も付かない、W.R.Oの隊員達が戸惑い混乱するのも
無理からぬ話だ。しかしそれぞれの現象を繋げて考えたとき、あいつがやろうとしている事は明らかだ」
たとえ現時点では原因が分からなくても、その先にある結果が見えているのなら、こちらから動いて
その達成を妨げる事ぐらいはできるだろう。あいつの身に何が起きているのかを探るのはそれから
でも遅くないと、男はきっぱりと断言する。
----------
・前スレ253とは別の方向からの見方で、という主旨です。
・投稿が遅くなってすみません、短いですが保守がてら。
「福音の泉」に目から汗が出た。
こんちくしょう、なんて言葉使いやがる。。。いや、いいんだ。いいんだ。
職人さんがんがれ、超がんがれ。
GJ超GJ!
目から汁が止まらない。
GJ!
乙!
172 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/01(金) 19:07:08 ID:LYonHlfl0
おつおつ
ほ
ここ数ヶ月これなくて、今北産業。やっと追いついた!
GJ!ちょ、ま、目から透明な液体が……
続きが気になりすぎて禿そうだ!
乙
ぼ
ま
り
も
ん
ば
|
ば
ら
ほしゅ
ほ
ぼ
185 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/17(日) 12:56:05 ID:LO3cnKZ+O
ティファ「アタシの乳首しゃぶりな」
死ねよババァティファデブス
187 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/17(日) 13:48:29 ID:LO3cnKZ+O
ティファ「アタシのマン汁が欲しいんだろ坊や?」
保守
ほ
ぼ
保守しながらいつまでも待つよ
ほ
ぼ
ま
り
前話:
>>164-167 ----------
もともと男はそういう声の持ち主だったのかも知れないが、デンゼルは何となく気になったので
グラスを手に取ると水を注ぎ、それをトレイに乗せてカウンターまで戻ってくると、そっと男の横に
置いた。少年のささやかな心遣いに男は目を細めると、短く礼を言った。
男の方にはまったく悪気はないのだが、デンゼルにはなぜだかこういう態度がいちいち癇に障る
のだと、手に持ったトレイを放り投げようとした。しかしそれも大人げないと思いとどまって「注文は
ティファがいるときに」と不愉快を隠さずに言い捨てると目の前の男から視線を逸らし、後ろにある
店の入り口を見つめた。
つまりデンゼルと向き合ってカウンターに座っていた男にとって、店の入り口は完全に死角に
なっていた。それでも、異変に気付いて口を開いたのはデンゼルではなく男の方だった。
「……そう言えば君はさっき、『まだ店は準備中』と言っていたな?」
「はい」
「では、ここはかなり繁盛しているようだ」
「え?」
「どうやら俺のほかにも開店を待ちきれないお客がいるらしい」
その言葉に再び顔を上げたデンゼルの視界には、ちょうど店の扉を開けようとしている人影が
映った。さっき見た時にはそんなもの見えなかったのに、と呟く代わりにデンゼルは目をしばたたいた。
(おじさん、どうして見てないのに人が来るって分かったんだろう?!)
音もなく静かに扉が開かれると、店内には外の湿った空気と雨の音が流れ込んでくる。時間を
追うごとに雨脚は強まっているようだ。少し遅れて、ドアについた鈴の音が控え目な音を立てた。
「あのー、すみません。店はまだ……」
トレイを手にしたままデンゼルは今日3度目になる台詞を口に出そうとしたが、その言葉は最後まで
語られずに飲み込まれていった。
開店前のセブンスヘブンを訪れた3人目の客も傘を持っていなかったようで、細身で背の高い男性の
着ていた黒いレインコートは雨ですっかり濡れてしまっていた。コートと同じ色の髪の毛も、こめかみに
張り付いて水を滴らせている。コートの下には紺色のスーツを着用しており、ネクタイもしっかり締めら
れている。身なりだけを見れば、まだ若い真面目そうなサラリーマンだった。
「セブンスヘブンは、ここですね?」
その男性客は左手を扉に添えたまま、誰にともなく問い掛けた。その声に、カウンターに座っていた
男はゆっくりと振り返る。そして、確かめるようにしてその名を告げた。
「……リーブ」
「リ、リーブさん!? この人が?! っていうか何で?」
デンゼルが目を丸くするのも無理はない。彼の知っているリーブといえば、W.R.O局長という肩書きも
手伝ってか威厳と貫禄を十二分に備えた、実年齢以上に落ち着いた風貌の持ち主だった。しかし目の
前の男性客はどう見ても20歳代ぐらいの、まだまだ威厳や貫禄というよりは若々しさの方が強調されて
いるようにしか見えない。威厳や貫禄はおろか髭までないのだから、彼をリーブと呼ぶには多少の抵抗
がある。けれど声だけを聞けばリーブのものに間違いない。それに、よく見てみれば顔立ちも(確かに
髭はないものの)現在のリーブを思わせる面影だってちゃんとある。
より正確に言えば、いま目の前にいるのはリーブを若返らせたような容姿の人物なのである。
「おや、ヴェルドさんじゃないですか。あなたがここの常連だったとは知りませんでした」
「お前こそ、わざわざ“そんな姿”でなぜここへ?」
デンゼルの脳裏に渦巻く疑問をよそに、ふたりの会話はどんどん進んでいく。こうなると、どうやら
今日3人目の男性客は本当にリーブらしい。そして両者がお互いの事をよく知る間柄だと言うことも
会話から分かる。男の言っていた「昔なじみ」と言うのも俄然、真実味を帯びてきた。
「もちろん、あなたにお会いするためですよ。所在を特定するのに少々苦労しましたが、何年ぶりかの
再会ですからね、気付かれずに素通りされてしまうのも困りますので、昔の姿の方が良いかと考えた
次第です」
「それで若作りしてまで来たという訳か」
ヴェルドと呼ばれた男は席を立つと、カウンターを背にして店の入り口に立つリーブと向き合った。
「あっ、あの!」
訳が分からなくなってデンゼルはカウンターを飛び出すと、向き合う二人を前に立ち止まる。入り口に
立っていたリーブは顔だけをデンゼルに向けた。
「……。……デンゼル君、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです。ですが残念ながら今日こちらへ
お伺いしたのは別の用件ですので、お話はまた今度」
妙な間を置いてから、しかも一方的に会話を切り上げると、リーブは再び正面に顔を向けた。それ
から笑顔もなく淡々と話をはじめた。
「先日、あなたが本部から持ち去ったデータをお返しいただきたいのですが」
「何のことだ?」
「数ヶ月前になりますが、我々W.R.O本部施設に侵入者がありました。その侵入者は司令室から直接
データベースにアクセスした形跡があるのです」
「さあ、覚えはないが」
「そうですか。しかし司令室への入室に使われたコードはあなたの旧社員コードだったんです、
お心当たりはありませんか」
「見当も付かないな。それにしてもリーブ、俺の旧社員コードが司令室への入室コードになっている
なんて、些か不用心じゃないか?」
「もとは予備のコードでしたからね。ですが仮に、この件にあなたが関与していなかったとしても、
偶然にしては不自然な点が多いと思われませんか?」
「そうだな、お前の言うとおり確かに不自然だ。まるで『最初から俺を疑うために予め用意しておいた』
みたいでな」
「考えすぎですよ」
「だと良いんだが」
笑顔もなくどこまでも淡々と交わされる両者の会話に、デンゼルは不気味さを覚えた。
ただ1つデンゼルにもはっきり分かったのは、ヴェルドと呼ばれた男は嘘をついていると言うこと
だった。その嘘がこれまで自分にしてきた話だったのか、それとも今の会話の中で話している事
なのかは分からない。ただ、どちらにしても彼は嘘をつくことを躊躇っていない様だ。
そんな男の態度がますます癇に障った。
――いつでも、何もかも分かったような顔をして。
子ども相手だから気付かれないと思って、平気で嘘をつく。
すぐに追いかけるからねと、大丈夫だからと言って背中を向けた母も。
母を連れ戻すから待っていろと言った父も。
自分を抱きしめてくれた人も。手をさしのべてくれた人も。
大人達の誰もが混乱の中、デンゼルに嘘をついた。
嘘をついて、最後には自分だけを置いていってしまう。
――だから。
(大人なんか嫌いだ)
デンゼルは俯くと拳を強く握りしめた。
入り口の扉につけてあった鈴が小さな音を立てた。デンゼルははっとして顔を上げると、リーブが
扉に添えていた左手を離していた。閉まりかけた扉を半身で支えながら、あいた左手はコートから
覗く長い銃身を支えている。
「こちらの要求に応じて頂けないのでしたら、不本意ですが実力行使です」
「……またずいぶんと」そう言ってヴェルドは銃身を見つめた。
長い銃身だけをみればライフル銃の様にも見えるが、そうでない事はハンドルの上を見れば分かる。
通常スコープが装着されている部分には、眩しいほど鮮やかな黄色で着色された楕円形のタンクが
取り付けられている。色目を見てもあからさまに浮いた存在のタンクに、デンゼルやヴェルドの視線は
自然とそこに向けられる。
「あ、これですか? 市販されている水鉄砲に少し手を加えたものです」
やっぱり迫力に欠けますかね? と本人が述べているとおり、一見すると不釣り合いを通り越して
滑稽にも映る光景なのだが、そう語るリーブに笑顔はない。さらに指摘したヴェルド自身にも同じ事が
言える。笑顔のかわりにあるのは露骨なまでの警戒心だった。
一方で、向き合うふたりを前にしたデンゼルにしてみれば、いい歳をしたおっさんが水鉄砲片手に
どうすればここまで真剣になれるのか、とうてい理解しがたい感覚を持て余していた。お陰ですっかり
緊張の糸が切れたのか思わずため息を吐き出そうとした。ところが、またも不意に入り口の扉の鈴が
鳴る。
ヴェルドの声がデンゼルに向けられたのは、それとほぼ同時だった。
「目を閉じて息を止めろ!」
言われていることの意味が、というよりも状況がよく飲み込めないでいたデンゼルの目に映ったのは、
床に転がった何かと、鈍い金属音だった。声をあげる間もなく、辺りには霧のような煙のようなものが
充満し始め、直後から目と喉に強い痛みが走った。
「……っ、な、何だ……よコレ!?」
持っていたトレイが床に落ち、乾いた音を立てながら目の前を転がって行った。それからすぐに、
トレイはけたたましい音を立てて床に倒れた。生理的に溢れてくる涙を必死に拭いながら、まるで泣き
崩れるようにしてデンゼルはその場にしゃがみ込む。遮られた視界と充満した煙で前はまったく見え
ない。そんな中、聞こえてきたのはあの男のくぐもった声だった。
「俺ならまだしも、抵抗の術を知らない子ども相手に何をする!」
床に転がった催涙剤の事を察知していたヴェルドは、とっさに口と鼻を覆うように手を当てながら、
今までになく感情まかせに声を荒げた。目を開けることは出来ないので足音から互いの距離を推測し、
距離を取ろうとカウンター伝いに移動する。小さな鈴の音が聞こえた後、躊躇わずこちらに歩み寄って
きたリーブの姿が瞼の裏にぼんやりと浮かぶ。
「安心してください、薬剤の濃度は薄めてありますから後遺症はありませんよ」
事も無げに語る声に、込み上げてくる感情がそのまま言葉になって吐き出される。
「そもそもW.R.Oの局長がこんな所で何をしている!? 局長でありながら隊員達を混乱させた挙げ句、
放置しておく気か?!」
その声とは対照的に、極めて冷静な声でリーブはこう返答する。
「おっしゃる事は確かに正論ですが、残念ながらあなたの口から出たという時点で説得力がありませんよ、
ヴェルドさん」
「……!」
返す言葉が見つからず、男は唇を噛んだ。
リーブの言葉は男の過去を指している。当時、自らの決断によって神羅カンパニーを去ったことで、
その後は神羅から追われる身になった。そこにどんな理由があろうと、彼のしたことは職務放棄に
他ならない。それでも、彼を信頼し慕う部下達の協力を得ることで、彼は救われた──この時、神羅に
残される側だったのがリーブだ。ヴェルド直属の部下ではなかったにしろ、少なからず『残される側の
混乱』は、今さら指摘されるまでもなく知るところだった。
言葉を失った男に、リーブは穏やかだが淡々と続けた。
「かつてあなたがそうしたように、私も、私自身の意思でこの道を進むことを選びました。ですから行く
手を阻む者は、たとえ誰であろうと容赦はしません。それもすべて覚悟の上での選択です」
その言葉は相手に理解を求めるためではなく、ただ一方的な意思表示のために語られたのだという
ことをヴェルドは察し、同時に確信を得た。
「それを聞いて安心した。俺は、お前の思惑を阻止するためにここにいる。目的達成を阻む者に、
初めから容赦するつもりはない。それが俺の方針だからな」
そう語ったヴェルドの顔には、笑顔さえ浮かんでいた。
----------
・もしかしたらツッコミどころ満載のパートかも知れませんw
・ヴェルドさんの描写(BCの話)間違えてたらごめんなさい、ご指摘もらえると幸いです。
・1ヶ月も間が空いてすみません。お前ら健康にはくれぐれも気をつけてお過ごし下さい。
待ってましたGJ!デンゼルの心情にぐっときた。
展開も気になるし本当超がんがって。続き待ってる!
病気?もう体の方は大丈夫?お大事に!
GJ!
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!GGGGJ!!!
wktkが止まらないです!!
おつおつ
乙!
208 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/06(木) 07:00:08 ID:BXT/QZyD0
保守
ほ
ぼ
ま
GJ過ぎて眠気が飛んだ
どうしてこんなカッケー話が書けるんだおまいは
せいぜい健康に気をつけてまた続きを書いてくれるがいいわ
ほ
ぼ
ま
り
も
ん
前話:
>>196-202 ----------
神羅カンパニー総務部調査課、通称タークス。恐らくは神羅内で最も構成員が少ないであろうこの
セクションが取り扱う業務内容は、人数とは反比例して幅広く多岐にわたり、しかもほとんどの場合が
危険を伴う困難なものばかりだった。その一部を例として挙げるなら、内偵調査や隠蔽工作、時には
暗殺まで手がける特殊――言ってみれば会社として表沙汰にできないような案件を、時には非合法の
手段を用いてでも片付ける――部隊として、水面下で活躍していた組織である。
そんな業務の性質ゆえに一般社員や兵士の採用とは異なり、志願する者なら誰にでも門戸を開いて
いる訳ではなかった。狭き門どころか、たいていの者はその入り口すら見つけられずに終わる。
優れた身体能力、卓越した知識、正確な状況把握能力と咄嗟の判断力、それら全てを満たす選り
すぐりのエリートばかりで構成されたこの部署に配属される事は、彼らにとって最高の名誉だった。
こうすることで彼らは会社から高額の給与と豊かな生活の保障を与えられ、なによりもタークスである
事への誇りを手に入れることが出来た。しかし同時に、彼らは様々な制約に縛られる事になる。その
最たるは、『死亡以外の理由で神羅を退社する事を許さない』という厳しい掟である。つまり彼らは
会社に命を捧げ、最期まで運命を共にすることを義務づけられていた。
ジェノバ戦役が始まるよりも前、ヴェルドはこのタークスに所属していた。しかしある時期に、彼の
記録は神羅のデータベース上から人為的に抹消された。さらにその後の混乱によって彼の記録は
ほぼ永久的に失われたと言って良い。故意と偶然によって歴史の闇に葬り去られた彼の記録は、
今や一部の人間の記憶にのみ残るだけである。その中には、都市開発部門所属のリーブも含まれ
ていた。
たとえ記録は抹消されていたとしても、彼自身の能力を消すことはできない。年を重ねたとは言え、
まともに戦って生身のリーブに負けるようなことはないと、ヴェルド本人にもその自負はあった。たった
1つの懸念要素を除けば。
(……異能力、か)
リーブの持っている『インスパイア』という能力の詳細について、ヴェルドが得ている情報は少ない。
もともと公表されている能力でもないし、在社中も本人が好んで口に出す事は無かったからだ。神羅を
離れてからは――追われる身になったヴェルドから部門の統括責任者と接触を図ることは容易では
なく、その後もメテオ災害の混乱と猛威を振るった星痕症候群、さらにオメガ戦役と続き――ほとんど
連絡を取り合う事もできず今日に至った。日陰の道を歩んできた自分とは違い、神羅の重役どころか
今や『世界を救った英雄』の1人に名を連ね、なおも世界の表舞台で活動を続けるリーブは、メディアを
通してこちらが一方的に知るだけの存在となっていた。
先日W.R.O本部に侵入した際、施設内で出会った隊員がオメガ戦役の事も語ってくれた。そこで
リーブが「人形をまるで生きているように操る」能力の持ち主だと知った。操るのはケット・シーのような
ぬいぐるみではなく、等身大の人形である。そして、その原理を知る者は誰もいないとも言っていた。
となると、いま目の前に立っている『リーブ』も生身ではない可能性がある。店に入ってきたリーブと
最初に顔を合わせた時から、妙な違和感はあった。どれだけ念入りに若作りをしても、生身の人間が
ここまで若返る事は不可能だと思ったからだ。外見はごまかせても体組織の老化を抑制する方法は
(一部の例外を除き)存在しない。だとすれば、これこそが「まるで生きているように操られている人形」
なのだろう。
操作原理はどうあれ、“自分の若い頃の姿に似せた人形を操る”というのは、いかなる気分なのだろう
か? そんな疑問がふと浮かぶ。
(もともと少し変わった奴だとは思っていたが)
その度合いが少しどころではなく相当だと思い直したのは、この時である。
…何のエラーも無く投稿が弾かれる理由がよく分からないので、
明日再度出直して来ます。中途半端になりますが、すみません。
GJ!
じぶんも連投で弾かれる時があります。
GJ!明日楽しみにしています!
22行以上で1行目が空白か連続した記号(?)だと書き込めない、とか小耳に挟んだんですが…
>>219-220 ----------
こうして両者が向き合ったまま、膠着状態がしばらく続いた。この状況は視界のないヴェルドにとって
頭の中を整理する事と、室内に充満した催涙剤の濃度が薄まるまでの時間稼ぎという2つの点で有利
に働いた。少年が噎せている声を聞くと、リーブの言うとおり彼の生命に危険は及んでいない事を知っ
て内心で安堵し、次に取るべき行動を考える。
カウンター伝いに移動していたヴェルドは、自分が持ち込んだアタッシュケースに手を伸ばそうとした。
そのとき足に触れた異物感に気付いて、動きを止める。頭の中で店に入ってから見た光景を元にこれ
までの状況を整理し、床に落ちているものの正体をデンゼルの手から落ちたトレーだと特定する。
床とトレーの間の隙間を利用し、つま先でトレーを蹴り上げると宙に浮いたそれを手の中に収めた。
対峙した相手が水鉄砲なら、こちらの武器はこれで充分だ。ヴェルドは言い放つ代わりにトレーを持っ
た方の手を大きく振り抜いた。トレーの空気抵抗を利用して、室内に対流を起こそうというのが狙いの
1つではあったが、目を開いたヴェルドは次の瞬間、反射的にトレーを眼前に構えていた。
開けたばかりの視界がとらえたのは、リーブが手元のレバーを引き銃身の先端から“水”が出る
まさにその一瞬だった。身を守る為に取った咄嗟の行動は、タークス時代の鍛練の賜と言えるが、
自身に迫る重大な危機を認識したのは、直後に嗅いだ刺激臭と、大きく歪んだトレーを目の当たりに
した時だった。
(溶剤!?)
手にしたトレーの材質と変形具合から、思い当たる試薬はいくつかある。そのうちどれであったと
しても、人の皮膚に付着すればただ事では済まない。そしてここへ来てようやく、リーブが最初に
濃度を薄めた催涙剤を使った事の意図に思い至った。彼は水鉄砲から射出する溶剤が持つ独特の
臭気を事前に悟られないよう、カムフラージュするのが狙いだったのだ。
自らの浅慮を悔やもうにも、ヴェルドには猶予がなかった。今は溶剤の種類や濃度を特定すること
よりも、まず相手の動きを封じる方法を考えなければならない。と同時に、持っているものが水鉄砲
でも、それを向けてきたリーブは本気なのだと今さらながらに改めて思い知らされた。
ヴェルドはすっかり変形したトレーをリーブの顔面めがけて投げつけた。回転しながら真っ直ぐに
飛んでいったトレーは、いびつに変形しているため当たる角度が悪ければ裂傷を負わせることので
きる凶器になっていた。リーブの意識が逸れた僅かの間に、ヴェルドはカウンターに置いた手を支え
にして床を蹴ると、勢いを利用してそこを軽々と飛び越えた。
こうして先程デンゼルが立っていた場所に立つと、開店前と言うだけあって厨房内の器具類は
きれいに整頓されていた。振り返って手近にあった食器棚から数枚の皿を拝借すると、振り返りざま
それらを投げ放つ。皿はリーブに辿り着く前に床に落ちると、けたたましい音を立てて割れた。うずく
まっていたデンゼルが、驚きのあまり肩を振るわせ涙に濡れた顔を上げる。
皿が割れ床に散らばる音に乗じて、ヴェルドは懐から素早く取り出した拳銃の引き金を引いた。
消音器の効果も相まってその動作に気付いた者はいない。弾はリーブの腕に命中し、持っていた
水鉄砲が床に落ちた。
「そこまでだ!」
宣言するように言い放ったヴェルドの声に、撃たれた方の腕を押さえながらリーブは顔を上げ淡々と
返す。
「……優しいですねえ。でも、これだけでは相手の動きを完全に封じたとは言えません」
利き手ではないものの、まだ片方の腕が残っている。そう言って無事な方の手で床に落ちた水鉄砲を
無造作に拾い上げると、再びその銃身をヴェルドへと向けた。
そうされても尚、動じる事なくヴェルドは笑顔で応じた。
「さっきの言葉、もう忘れたか?」
任務の遂行――目的達成を阻むものに対し決して容赦はしない。それはタークスとしてのヴェルドが
掲げた信念であり、今の自分自身に課した責務だった。
言ってから間を開けず、ヴェルドは立て続けに3発の銃弾を撃ち込んだ。リーブの手にしていた水鉄
砲は再び床に転がった。
「相手の腕と足を狙う。……たしかに、これで相手の動きを封じる事はできましたね。マニュアル通りの
完璧な対応です」
どこか他人事のようにリーブは言う。ふつうの人間なら両腕両足に1発ずつ被弾した状態で、こんな
冷静に立っていられるはずはない。どんなに訓練を受けた人間でも、痛みを感じ行動が制限される
からだ。
「ですがマニュアルはあくまでも人間に対してです。私にも通用するとは限りません」
(……やはりお前は、人間ではなく人形か)
どこか呆れたような心持ちでヴェルドは入り口の前に立ったリーブを見つめた。リーブは笑顔になる
でもなく、ただじっとこちらを見つめて立っている。
わざとらしく大きな溜め息を吐いてから、ヴェルドが告げる。
「お前は病気なのかと、少年が心配していた」そう言って、うずくまっているデンゼルの方へ顔を向けた。
リーブは何も反応を示さなかったので、ヴェルドは話の先を続けた。
「俺も最初は彼と似たような事を考えた。……そうだな、病気なのかも知れないし、他に何らかの事情で
自分の余命を知った、あるいは知ってしまったのではないかと。それで自棄を起こした結果が一連の
行動だったのではないか? とな」
そこまで言い終えるとリーブからの返答を待った。
ずいぶん長い沈黙があったような気がする、それでもヴェルドは黙って待った。ここで根負けする
ようでは何も聞き出せずに終わってしまう。
やがてリーブは小さな声でぽつりと呟いた。「違いますよ」
ぎこちない動作で床に転がった水鉄砲を三度拾い上げる。袖口から見える赤いものに気付いて、
ヴェルドは眉をしかめた。
「まずもって人間が自分の余命を知る方法なんてありませんからね」
感情も抑揚もなく、それは言葉としての意味だけを持ってヴェルドに伝えられる。操られた人形は、
痛みを感じないのだとでも言うように。
「……そうか」
落胆したように答えると、ヴェルドは躊躇わずに引き金を引いた。この距離から標的に当てるのは
難しい事ではない。たとえその的が、昔なじみと同じ姿形をした物であったとしても。こうして5発目の
弾丸は、リーブの顔面を正確に撃ち抜いた。
頭部を撃たれ機能を停止した人形は、しばらくの間その場に立ち尽くす格好でいた。その様子は
まるで、戦場で自分が撃たれたことを理解しないまま死を遂げた兵士の様にも見えた。額の弾痕から
流れ始めた物が、色こそ似ているものの人間の血液でない事はすぐに分かった。しかし作り物とは
言え、こんな物を見せられて良い気分はしない。ヴェルドが意識的に顔を背けた直後、人形はとうとう
バランスを崩して床に倒れた。
息をつくヴェルドの耳に聞こえてきたのは、持っていた携帯電話の無機質な着信音だった。目の前の
人形が床に倒れるのと同時に、あまりにもタイミング良く鳴った音に驚きこそしたものの、ヴェルドは
懐からそれを取り出すとディスプレイを見つめた。しかしそこに番号の表示は無い。発信者非通知と
いう表示には慣れていたし、もともと番号の登録は端末にはせず記憶にするというのがタークス時代の
習慣として身についてしまっていたから、この状況でも何ら不自然とは感じなかった。
しかし、今回に限って言えばその習慣が災いした。
耳に当てた受話口からは、つい今し方まで聞いていたのと同じ声が聞こえてきた。
『人間が自分の余命を知る方法なんてありません。ただし、たった1つだけ例外があります。
ヴェルドさん、あなたはそれに気付いてしまった。ですからこうして“私”がそちらに伺ったのです』
リーブ――おそらくは人形の操り主本人――の声を聞き、ヴェルドは愕然とした。薄々ではあるが、
彼はその事実に気が付いていた、だからこそ今日ここに来たのだ。これが陽動だったと言う事にもっと
早い段階で気付くべきだったと、今度こそ自らの浅慮を悔やんだ。
『ああ、それからヴェルドさん。これ以上“子ども達を傷つけないようにしてあげて下さい”ね』
それだけを告げると通話は一方的に切断された。
----------
・色々お見苦しい点がありますが、ご容赦下さい。
・前スレ253とここは、個人的に“しおり”です。
・
>>222-223情報どうもありがとうございます。エラー通知無しで弾かれるのが初めてでちょっと焦ったw
待ってましたGJ!続きが楽しみでしょうがない!
GJ。いいセンスだ
でもヴェルドの最終兵器はおあずけか…
GJ!
乙
おつおつ
234 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/21(金) 23:51:27 ID:BIsYUgmx0
あげないとおちひゃう
ほ
保守
ぼ
前話:
>>224-228 ※ご注意※
今回の投下分には、著しく食欲を減退させる(よく考えるとグロテスクな)表現が含まれています。
苦手な方、食前あるいはお食事中の方は、回避推奨。
----------
喧噪から解放されたセブンスヘブンの薄暗い店内では、壁掛け時計の秒針が規則的に時を刻む
音と、外で降りしきる雨の音、そこに少年の嗚咽が混ざり合って不気味な三重奏を奏でている。
そんな店内のカウンターに立ったまま、店の主でもないヴェルドはそこを動けずにいた。
通話切断後に現れた簡素な待ち受け画面が静かに姿を消すと、ディスプレイには持ち主の顔が
映り込んでいた。バックライトも消灯し完全な待機状態に移行して尚も、彼は携帯電話をしまおうと
しなかった。その姿をたとえるなら、念願かなって新しい端末を購入した喜びに浸りながら電話に
見とれている若者のようだったが、残念ながら彼が持っているのは新機種ではないし、持ち主は
若者でもない。電話をしまうことに意識をやる余裕がなかった、というのが正確なところだ。
彼の頭の中では今し方聞かされたリーブの言葉が幾度も繰り返され、その意味するところを見出す
ことに集中している。
(例外、か)
世の中にはあらゆる法則や規律、掟が存在することで秩序が保たれている。一方でそれらの殆どが
必ずと言って良いほど『例外』を認めている。一見すると本則とは相反する例外にも、年齢を重ねるに
つれて自然と寛容になれるものだ。元タークス構成員という経歴の持ち主であるヴェルドが、ここに
今こうしている事が既に例外によって成立している現象だった。そんな経緯もあって、例外に対して
他よりも寛容な考え方の持ち主だと彼自身は思っていた。
だが先ほど示された『例外』についてだけは、どうも釈然としない。
――「人間が自分の余命を知る方法なんてありません。」
命あるものはいずれ必ず死を迎える、それはどんな生物にも普遍の法則として古来より君臨し続けて
いる。事故か、病気か、自然的あるいは人為的な原因によるものか――訪れる死の存在を知っていても、
自分がいつ、どういう形で直面するのかは誰も知らない。知る術がない。いずれにしても自分の身に
将来起こる出来事を、事前にすべて正確に把握する事など不可能なのだ。
そのはずなのに、リーブはそこにも『例外』があると言い切った。
言わばこれは簡単な謎かけだ。ヴェルドには簡単すぎてすぐに答えは導き出せそうにも思えた。
しかし、それを容認できるかと問われれば、答えは否だ。
(そんなもの、俺は認めない)
勢いよく携帯を折りたたんで、ヴェルドは顔を上げた。
謎かけの答えはいたって簡単だ。未来を予知する手段がなければ、いま頭の中で思い描いている
未来像を実現させてしまえば良い――カウンターに置かれたままのチラシに視線を落とし、自嘲する
ように口元を歪めた。そんなことを苦もなく思いついた自分自身に落胆したからだ。かつての
神羅カンパニーがそうであったように、自分やリーブ、そこにいた人間は皆、知らぬ間にこんな傲慢な
考えを持つようになってしまったのだろうか? そんな考えが脳裏をかすめた。
チラシの裏にびっしりと記されていた、およそ3年前から続く記録。恐らくそれは、予知できない未来を
リーブが自らの手で作り出そうとするための原案と、それに基づいた経過記録だろう。
死がいつ訪れるか分からないならば、あらかじめ自分で設定すれば良い。つまり死という最終納期を
定めたうえで、リーブは何かを成そうとしている。常人からすれば自棄以外の何ものでもない、常軌を
逸した行動とも思えるそれは、しかしながら綿密に練られた計画の上に存在している事をチラシの裏の
記録は示している。
現時点で計画の先に何があるのかは分からない、分からないまでも何かを目指してリーブが動いて
いるというのは明らかだった。同時に、どんな状況や内容であれ手際よく着実に事を進めるあたりが
実にリーブらしいと思った。長年にわたってミッドガルの都市開発に取り組んできたリーブは、タークスの
ように身体能力や戦術に長けている訳ではない。しかしながら期限までに仕事を完遂させるという
スタイルは両者に相通じるところがある。神羅時代を思い起こしながら、ヴェルドはカウンターを出た。
ついさっき自分がばらまいた皿の破片が散らばる床の上に、それは倒れていた。機能を失ってしまえば
ただの人形だ。膝をついて人形に顔を近づけると、弾痕の残る額に触れた。指に付着した朱色の液体を
眺めると、苦笑を抑えきれずに喉を鳴らす。
※(238注意参照)
----------
「……子ども騙し以下の演出だな」
手に付いた物を認識し、それが正しいかどうかを自らの舌で確かめる。思った通り、それは食用
ソースで肉を煮詰めたスープだろうと分かった。余談にはなるが、これはこれは彼の亡き妻が
得意とする料理の一つだった。しかもなかなか美味くできていることに思わず眉をしかめる。
(当てつけか?)
一瞬そうとも考えたが、リーブがそこまで知るはずはない。こうして余計なところに考えが及ぶ
ということは、集中力を欠いている何よりの証拠だ。ここで感傷に浸るつもりも暇も無いが、この事態を
前にして少なからず動揺しているのは認めなければならない。
不要な思考を頭の中から追い出すようにして、ヴェルドはため息を吐いた。
それにしても、わざわざそんな物を遠隔操作している人形の頭部に詰めておく事に一体なんの
意味があるだろうか? 人間のそれに見立てた演出だとしたら陳腐だし、それ以前に演出者の品格を
疑う。よもやこんな物で元タークスを欺けるとは思っていないだろうが、こちらの動揺を誘う目的であった
としてもお粗末すぎる。職業柄、過去に携わった任務には過酷な現場も少なくなかった。頭蓋骨の
損傷によって中の脳髄をさらけ出したまま転がる遺体も目にしたこともあったが、こんな生易しい
物ではない。
どちらにせよ見くびられたものだと、舌打ちをする。
(……まさか俺に試食させる為に詰めておいた訳でもあるまい)
迷走した挙げ句、浮かび上がったあり得ない結論を即座に否定し苦笑した。考えるだけ無駄だ。
そうと頭で分かっていても、このまま放っておくのは腹立たしい。
「本当に子ども騙……」
二度目になる言葉を口にしかけたところで、はっとして顔を上げる。脳裏に再生されたリーブの声と
重なるようにして、秒針の音と叩きつける雨の音が耳の奥に纏わり付いてきた。さらに遠くの方で
微かに響く雷鳴を聞いた。
――「これ以上“子ども達を傷つけないようにしてあげて下さい”ね。」
(しまった……)
そう思って視線を向けた先には、床に転がっていた水鉄砲を手にした少年が立っていた。窓から
差し込む稲光に浮かび上がった少年は泣き濡れた顔を向けながら、「大人なんて嫌いだ」と声と肩を
震わせた。言葉はさらに、ヴェルドのような人間はもっと嫌いなのだと続く。
この時、目の前の子ども騙しにまんまと引っ掛かったのが、少年ではなく自分の方だった事に
ヴェルドは気付いたのだ。
----------
・自分の描写力ではグロテスクと言ってもこんなモンが限界ですが、大変失礼いたしました。
・食べ物を粗末にするな、というライフストリームからの訓辞です。
GJ!
続ききてたー!GJ!
……デンゼル……。・゚・(ノд`)・゚・。
乙!
おつおつ
乙
ほ
ぼ
ま
り
も
し
も
し
か
え
め
ら
る
ど
う
え
ぽ
て
と
前話:
>>238-242 ----------
扉の鈴が悲鳴を上げて、今日4人目の来客を知らせてくれた。そのお陰で膠着状態はあっさりと
破られた。
外側から扉が勢いよく開かれたのと同時に、店内には大量の雨粒と轟く雷鳴が流れ込んで来た。
それらの音に混じって男の怒声が響き渡る。
「二人ともそのまま動くな!」
警告と共に室内に銃口を向けるその姿は、さながら強行突入の訓練風景だった。名乗るまでもなく
男がW.R.Oの隊員である事は、身につけている服と腕章が物語っている。
声に驚いて反射的に肩を揺らしたデンゼルの手から、握られていた水鉄砲が滑り落ちる。ヴェルドは
咄嗟に差し出した手で銃身の先端を掴み、床との衝突を寸前のところで回避した。おもちゃの水鉄砲
とは言えなにせ中身は溶剤だ、不用意に衝撃を加えて飛散したりでもしたら目も当てられない。拾い
上げた水鉄砲のタンク部分を手際よく取り外し、特に危険のない本体部分は床に投げ捨てた。
その様子を見ていた入り口の隊員は安堵の溜め息を吐くと、構えていた拳銃を下ろした。
一方のヴェルドはわざとらしい溜め息を吐いてから、隊員に視線を向けて呆れたようにこう言った。
「……及第点にはほど遠いな」
それから手にしたタンクを無造作に放り投げる。隊員は持参した麻袋を広げ、見事にタンクを回収
する。袋の中には粒子状の中和剤が入っていた。
「あいにくと、尾行や突入は俺の専門じゃないんでね」
言いながら袋の口を紐で縛り、後ろに控えていた別の隊員に手渡すと男は店に足を踏み入れる。
雨ですっかり水気を含んでしまったキャップを外し、慣れた足どりでカウンターに向かう。
そんな反論を受けてヴェルドは、「あんなもの、あからさま過ぎて尾行とは呼べない」と批評めいた
言葉を口にしていた。どうやらここへ彼らが来る事は、かなり以前から気付いていたらしい。
「じゃあ、尾行じゃなく追跡ってことで」
「ならば踏み込むタイミングが遅すぎる」
発言したそばから手厳しい評価をもらって、隊員は降参だとばかりに両手を広げて肩を竦めた。
どこまで本気なのかが分からない二人の会話を聞きながら、目まぐるしく変化する事態にようやく
デンゼルの思考が追いついたのは、隊員の手が自分の頭に乗せられた時のことだった。
「……ケリーおじさん、なんで?」隊員を見上げてデンゼルは尋ねる。
「驚かせてすまんな、デンゼル」
そう言って笑顔を向ける彼もこの店の常連客の一人で、エッジの自警団に所属するW.R.O<世界
再生機構>の隊員だった。非番の時などは、よくデンゼルの申し出を受けてトレーニングに付き
合ったりもしている。そして彼こそが、本部施設に潜入したヴェルドを道案内した人物だったのだ。
デンゼルは頭に乗せられた手を嫌うように顔を背ける、子ども扱いされているのが目に見えて
分かったからだ。彼に悪気がないことも分かっているし、常ならば気にならない筈だった。しかし
今日は事情が違った。
そんなデンゼルの心中を察したように、男は「悪い」と言ってから手を離すとさり気なく話題を変えた。
「フレッドを見かけなかったか?」
彼の口にした名前は、今日この店を訪れた最初の客だった。デンゼルは頷いて、さらにティファ宛の
書類を手渡された事も告げた。それを聞いたケリーは眉をひそめた。
「……くそ。こうなると、あの話はどうやら本当らしい」
「もう既に大々的な報道もされている。報道管制は敷いていないのか?」椅子には座らずカウンターに
凭れた格好でヴェルドが問う。
「そりゃ局長不在の現状、俺達だけでできる事なんて高が知れてる」
報道管制は局長の権限でなければ発令できない、そういう取り決めになっている。ケリーは悔しそう
にそう呟いた。
「それは分かる。だがW.R.Oですら事実関係を把握していない状況で、報道が先行するのはまずい
だろう?」
管制までは無理としても、偽の情報を流しておいて時間を稼ぐなり方策は他にもあったはずだ。
一般市民への混乱の拡大は一番避けたい事態ではないのか? と冷静に指摘するヴェルドに。
「じゃあどうすりゃ良かったんだ?! 俺達にどんな嘘がつけるってんだ!!」
混乱し苛立ちをあらわにした隊員は声を荒げて反論する。それでもヴェルドは表情を変えず、
一度ゆっくりと首を振ると静かにこう言った。「まずは落ち着け」
返す言葉もなく唇を噛みしめたケリーの腕を引いて、デンゼルは首を振る。悔しいけれど今は
ヴェルドの言っている事の方が正しいと思った。
「『あの話』って、空爆の事?」
デンゼルはケリーの顔を覗き込むようにして問うと、首を縦に振るだけの答えが返ってきた。
かける言葉を探していると、彼の背後から近づいてくる足音に気付いて顔を向けた。すると今度は
女性隊員の姿が目に入った。体格はやや小柄で、栗色の髪は肩に届く辺りの長さで切り揃えられて
いて、どこか几帳面そうな印象の女性だった。デンゼルには見覚えのない顔だったので、恐らく店の
常連ではないはずだ。
「初めましてデンゼル君、あなた達やこの店の話はケリーから聞いてるわ。私はW.R.O財務担当のダナ、
宜しくね」
やや小柄ではあるが、それでもデンゼルより背はあった。しかし大柄なケリーと並ぶと子どものように
見えてしまう。何よりW.R.Oの制服を着てはいるが、あまり似合っていない気がした。どちらかというと
デスクワークの方が合っていそうな雰囲気の持ち主だと言うのが、ダナに対するデンゼルの第一印象
だった。
ごく簡単な自己紹介の後、ダナと名乗った女性はここに至るまでの経緯を話し始めた。
彼女の話によれば、数ヶ月前ヴェルドが本部施設に潜入した事でこの騒動の中心に局長自身が
深く関与しているのではないか? という疑いに確信をもったのだと言う。そして真相を探るために、
彼女が独自に集めていたデータをヴェルドに託した。そのデータというのが、先ほどデンゼルが見て
いたチラシの裏に印字された3年分の記録である。
「我々W.R.Oの主な活動財源は、設立当初に投じられた局長自身の私財と、今も定期的に続いている
多額の寄付金に頼っているのが現状なの。これら出納データの管理が私の受け持ち、だから普段は
こうして現場へ出ることは無いわ」
だからこそ、継続してこれだけのデータを収集できたのだと言う。ついでに、デンゼルの第一印象は
あながち的を外しているわけでもないらしい。
「ヴェルドさんにお渡ししたデータの中身は、ここ3年間にわたるW.R.Oの支出……それも、建材調達
費用に限定した物なの」
「こいつはその辺の事情にも精通してるからな」落ち着きを取り戻したケリーが口を挟むと、ダナは
説明を遮られた事に不満げな表情を浮かべる。はいはいと両手を挙げて降参しましたと言うケリーを
一瞥し、話の先を続けた。
「項目を建材調達費用に絞ったのは、各地の復興事業と照合しやすかったからよ」
各地域、または管轄ごとに取りまとめられた収支のデータは、さらに本部へ送られて管理されている。
ダナはここから、目的の項目のみのデータを取り出し、各地の復興事業の進捗と照らし合わせた
データを独自に作成、保管していた。そして彼女は、両者に見過ごせない値の差を発見してしまった。
誤差を累積すると、巨大なビル1棟分の建材がどこかへ消えているという計算になる。少し大袈裟に
言えば、現在のW.R.O本部施設が建てられるほどの量だ。どう見積もっても誤差にしては多すぎるし、
それだけの巨大な建造物の修復や建築計画など該当するものはどこにも無かったのだ。W.R.O本部
施設の移転計画という噂も確かにあったが、それにしても予定地などの具体的な話は一切聞かな
かった。仮に本部移転計画が稼動すれば、建築作業に携わる多くの人間を通じて隊員の周知する
ところになるはずだ。少なくとも、その為に予算が組まれるというような動きもまったく無いし、なにより
隊員に伏せておく必要性など無いはずだ。だから本部の移転はないと結論づけた。
「私は元神羅カンパニー都市開発部門に所属していたの。これも昔取った杵柄、と言ったところかしら」
苦笑混じりに言った彼女の顔を見て、デンゼルは考えた。つまり彼女はリーブの元部下という事に
なる。そして恐らくは、苦笑に含まれる意味も少しばかり複雑なのだろうと。
「俺やダナももちろんだが、隊の連中の誰もが局長の事を疑いたいなんて思ってる訳じゃない」
しかし、状況がそれを許さなかった。
「文字通りの非常事態さ」ケリーは首を振る。
「私も最初からこの状況を疑っていたわけではないの。発端は……」ダナはそう言って視線をヴェルド
へ向ける。
「コイツ自身か、優秀な元部下さんからの親切な忠告があったって訳だ」言葉の先を躊躇っている
ダナに代わって、ことさら棘のある言い方でケリーが続けた。その意図を計りかねて、デンゼルは首を
傾げた。気は進まないが2人の向けていた視線の先にいるヴェルドを見つめる。
3人の注目を浴びても、何事かを考えていたのかヴェルドは口を開こうとする様子はなかった。
しびれを切らしてケリーが言う。
「こちらは元タークス主任だそうだ」
「タークスだって!?」思わずデンゼルは声をあげる。
「それだけ反応するって事は、君も素人じゃないのね」
「違います……俺はただ……」
確かにタークスを知らないわけではない。その意味においてデンゼルが「素人」ではない事は確か
だった。けれども、関係者と呼べるほど事情に精通しているという訳でもない。精通しようにも、この
歳ではどうしようもない。
ただ、むかし父から聞かされた話が、まさかこんなところで役に立とうとはデンゼル自身も思って
いなかった。そんなことを考えていたデンゼルに、ヴェルドは告げる。
「俺の過去などどうでもいい。それよりも今、君が考えなければならないことは他にあるだろう?」
その言葉に、今度こそ正面から向き合ってデンゼルは言い放つ。
「確かに、おじさんの過去なんかどうでも良い。……でも」
そう言って一度振り返る。ここにいるケリーも、ダナも。きっと自分と同じなんだとデンゼルは思って
いた――リーブを助けたい――その為に、彼らはここへ来たのだと。
それでは。
「おじさん、さっき言ったよね? 『リーブさんの思惑を阻止するためにここへ来た』って」
思惑の正体も動機も分からない。けれど背後に見え隠れする死の影を最初に指摘したのは、
他ならぬヴェルド自身だった。
「それなら、おじさんも俺達と同じって事だよね?」
真剣な表情を向けてくるデンゼルを見て、ヴェルドは改めて少年が素直なのだろうなと思った。
それは無知ゆえに人を疑う事を知らない愚かさなのか、人を信じようとする強さなのか。もし仮に
後者であるなら、先ほどリーブから受けた忠告は杞憂に終わるだろう。
ヴェルドはデンゼルの問いに頷き返した後、こう続ける。
「確かに俺が救いたいのはリーブだ。だがそれは、W.R.O局長とは限らない」
なぜヴェルドがW.R.Oと行動を別にしていたのか? 理由はこの一言に集約されている。ケリーも
ダナも、それを承知の上でここへやって来た。そうだと言うように、ふたりは頷く。
「じゃあ話は簡単だよ。おじさんも俺達に協力してよ」
人に物を頼む態度にしては少しばかり横柄な物言いではあるが、それも少年らしいとヴェルドは
目を細めた。
「いいだろう。……この老いぼれが役に立てるならばの話しだがな」
そう言ってヴェルドは、カウンターに置かれたままのグラスに口を付けた。
その姿を見ていたケリーとダナは顔を見合わせ、笑顔を浮かべる。
こうして、セブンスヘブンに集う者達による奇妙な協定が結ばれた。
――「これ以上“子ども達を傷つけないようにしてあげて下さい”ね。」
(……その約束は守ろう。ただし)
グラスの中の水を飲み干し、ヴェルドは脳裏に繰り返されるリーブの言葉に、1つ1つ答えていく。
――『人間が自分の余命を知る方法なんてありません。』
(お前を救おうとする者達にとって、他ならぬお前自身が立ち塞がると言うのなら)
まるで自らの決意表明であるかのように。
――『ただし、たった1つだけ例外があります。』
(お前を敵に回す覚悟は、出来ている)
あるいは、宣戦布告であるかのように。
----------
・WRO隊員は全くもってオリジナル設定です、肌に合わない方にはごめんなさい。
・ヴェルドは立ち位置的にかなりオイシイと思う。(…生きてれば)
…というかこのパートは殆どねつ造ですすみません。というかこの話自体(ry
・今回も懲りずにお付き合い下さいまして、ありがとうございます。
GJ!
GJ!
・おっさんズの描写好きだ
・リーブはちびちび小遣いパクり続けてたって訳かw
気の長いことだが確信犯。それが策士クオリティ。
・デンゼルがんばれ超がんばれ。
毎回毎回楽しませてくださって、ありがとうございます。
続きが楽しみでならない。
乙!
おつおつ
乙
おっつん
ほ
ぼ
ま
り
も
ん
ば
っ
保守します
ほ
ぼ
ま
り
前話:
>>267-273 ----------
ヴェルドに向けて威勢よく「協力して」と口走ったものの、では実際に何から手を付けて良いのか
分かっていた訳ではないデンゼルは、暫くその場で考え込んでいた。自分で言った手前、これでは
ちょっと格好が付かないと、僅かばかりの後悔の念が脳裏をかすめる。
意見を求めるようにしてダナを見上げ、口を開こうとしたデンゼルと一瞬だけ合った目を逸らし、
彼女はケリーに言葉を向けた。
「それじゃあ私は本部へ戻るわ。ケリー、こっちはお願いね」
そう言って彼女は踵を返すと足早に店を後にした。デンゼルは、まるで自分を避けているような
彼女の行動に疑問と違和感を抱きながら、ダナが出て行った店の入り口を見つめていた。
「局長不在の今、本部の通信施設を使って各方面の情報収集と指示を出すのがあいつの役目だ」
デンゼルの背後からケリーが告げる。「現場は俺らに任せてりゃ良い」
そう言ったケリーを振り仰いで、デンゼルはそうじゃないと首を振る。じゃあ何だって言うんだ?
とケリーが問うと、肩を落としたデンゼルは困り顔で言った。
「なんか俺って、ダナさんに嫌われてますか?」
今日初めて会ったばかりのはずなのに……。そう零したデンゼルを豪快に笑い飛ばしたケリーは、
話の先を続けようとして急に笑顔を引っ込めた。しかしこれでは、かえってデンゼルの不安を煽るだけ
だった。
ケリーは周囲の様子を伺うように視線をめぐらすと、少しだけ声を潜めてデンゼルに告げた。
「……ダナにとってここは、ミッドガルに近すぎるからな」
その言葉に、デンゼルは驚いたように顔を上げる。ケリーは頭に手を当てて、慎重に言葉を選んで
話をしている様子だった。
「さっき聞いたろ? あいつも元神羅カンパニー都市開発部門にいたんだ。その……なんだ」
そこまで聞いてようやく、デンゼルはケリーが言おうとしている事と、言葉を濁す理由に思い至った。
壱番魔晄炉爆破テロ、七番街プレート支柱爆破、それらの出来事が彼女にとってどういう意味を持って
いるのか? 直接訊けない以上は想像でしかないけれど、さほど難しい事ではない。
「ミッドガルの住民の避難活動に参加して以来、あいつはミッドガルに近づこうとしなかった。エッジに
すら来てないんだ」
ケリーは何度もダナをこの店に誘ったのだという。しかし、彼女は頑なにそれを拒み続けた。
ここまで聞けば、その理由にも見当が付く──星を救った英雄と呼ばれた者達が、一方で犯した
過ち――この店が「ミッドガルに近い」と言ったケリーの言葉が、場所という問題だけではない事も。
「あいつにとってミッドガルは、遠い過去にある都市じゃないんだ」
まだ過去と呼ぶには早すぎるし、思い出として振り返れるほど冷静ではいられない。もしかしたら
彼女が失ったものは、ミッドガルという都市だけではなかったのかも知れない。夢、家族や恋人、
あるいは彼女の全てが、あそこにあったのだとしたら?
今なおミッドガルに背を向けて生き続けている彼女にとって、“ここ”はあまりにもミッドガルに近すぎる。
「正直なところ、俺にもどうして良いかが分からない。もちろん、あいつ自身だって分かってるのさ。
だけど、頭で理屈を並べたところで、どうしようもない事もある」
吐き出すようにして言ったケリーの横顔は、深い愁いの色を帯びていた。
そんなケリーを前にして、デンゼルはなんと声を掛ければいいのかが分からなかった。ケリーの
語ったダナの心情を理解できないわけではないし、たぶん共感するところの方が多い気がした。けれど、
自分を救ってくれたのがこの街であり、この店であり、クラウドやティファ、マリン達だった事も紛れもない
事実だったから。どうしたらいいのかが分からずに、堪らなくなって視線を逸らし俯いてしまう。ケリーに
何かを言ってあげたいと思う自身の感情とは裏腹に、そんな行動しか取れない自分が恨めしかった。
そんなふたりの背後から、掛けられた声に振り返った。
「……ミッドガルに背を向けている限り、いつまでも都市の亡霊に追われるだけで何も解決はしない。
だが、お前がそれを分かっているのならば、何も悲観することはないんじゃないか?」
視線の先にいたヴェルドはそう言って、静かにグラスを置いた。
「あんた……」
「年寄りの戯言だ」ケリーの言葉を遮って言うと、ヴェルドは小さな笑みを浮かべた。彼の柔らかな
表情は、デンゼルが嫌う大人のそれではなかった。
「奴らは背を向けた者を追いかけてくる。ならば、我々の方から奴らと向き合えばいい。勝とうと思うな、
向き合うだけでいいんだ」
そしてダナならば、いつか向き合うことができるから心配は要らないだろうと言い添えた。
「……さて」ヴェルドは仕切り直しとばかりに咳払いをすると、こう切り出した。「俺達もそろそろ行動を
起こすとしようか?」
その言葉にケリーが大きく頷く。
「少年」
「デンゼルです」
ひとつ頷いてから、ヴェルドは続けた。
「……少し長くなったが、私の話はこんなところだ。君の答えを聞きたい」
それを聞いてデンゼルははっとした。そうだ、そもそも彼がこの店を訪れた最初の目的をすっかり
忘れてしまっていた。話の間に色々ありすぎたせいだ。
今になって悩むことは無い。
「マリンと一緒に上にいます。こっちです、案内します」
そう言ってデンゼルはふたりの先に立ってカウンターに入ると、奥の階段を数段上って振り返る。
ヴェルドは置いてあったアタッシュケースを持って立ち上がり、ケリーもふたりの後について歩き始めた。
階段を上りながら、デンゼルは今に至るまでの事情を手短に話して聞かせた。ケット・シーが通信の
手助けをしてくれた事。リーブとバレットが同じ場所にいて、自分達はここで彼らの会話を聞いた事。
デンゼルが全ての経緯を語り終えないうちに、彼らがいた部屋の前に到着する。扉を開けたデンゼルの
後ろに立った二人は、目の当たりにした室内の光景に閉口する。彼らの様子を見たデンゼルが問う前に
振り返ると、彼もまた同じように言葉を失った。
三人の前には、端末に繋がれたケット・シーを抱きかかえて涙を流すマリンの姿があった。
----------
・背中を向けるとおばけが寄って来ると知ってるにも関わらず、その場で立ち往生して
結局おばけに囲まれたのは、ヴェルドの思い出ではありません。(板違い)
GJ!!まってたよ!!
流石ヴェルドはいい事言うな。
ケットは… (ToT)
GJ!
299 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/10(土) 12:28:16 ID:YZpVh34NO
あげ
>勝とうと思うな、向き合うだけでいいんだ
GJ!さすが苦労したオッサンは言うことが違うw
ケット!マリーン!がんばれ超がんばれ!
そして最後にひとつだけ言わせてくれ。
そのあとがき、世界一有名な配管工のことかー!
ちょw 配管工ww
乙!
乙
前話:前スレ631-635
時間軸はFF7Disc1
----------
――一刻も早く楽になりたい――それは当初、私の心の多くを占めていた思いだった。
スカーレットから渡された写真に写っていた少女のことは、住民IDの管理データベースから知る
ことができた。また彼女の居場所も、ID検知システムを使えば大した労を費やすことなく割り出す
ことができた。私はそれを元に、示された住所へ向かった。
現在、彼女が保護されているのはミッドガル伍番街スラムの一角、かつて古代種の居住していた
一軒家だった。ネオ・ミッドガル計画と古代種の件について、私はこれまで直接関与する立場に
無かった事もあり、ここを訪れたのは今日が初めてだった。
そこで最初に目を引いたのは、大きな庭に咲くたくさんの花々だった。スラム街にあってこの光景は
珍しいと思わず庭先に回ると、久しぶりに踏みしめる土の感触に込み上げてくる不思議な感情が
あった。到着早々ここへ来た本来の目的をすっかり忘れ、よく手入れの行き届いた庭を見て回りながら、
ふと思った。
プレート上に建設された社宅区画には、庭はあっても土がない。
私は故郷から両親を呼び寄せていた。住み慣れた土地を離れる事にも、ふたりは「ご近所さんへの
挨拶」を心配する以外は特に何も言わず、七番街の社宅区画に用意した新居へと越して来たのだった。
これは後で聞いた話だったが、このとき母は大量の土を持ち込んで来たという。その話を今になって
ようやく理解した気がする、きっと母はこんな家に住みたかったのだろう。
母は優しい。けれど、とても正直な人だった。
「…………」
両親をミッドガルに招いた私に、何も告げなかったふたりの心情とその意味をよく理解している。
今すぐ応えることは出来ないものの、私なりに理解はしているつもりだった。いつか両親の思いに応え
ることが出来たら、それを手土産にして久しぶりに会いに行こうと思っていた。
庭隅で今にも開きそうな蕾を付けた花が目に留まり、いつしかその場に屈み込んで眺めていた。
何の気無しに葉に付いた虫を取りあげると、手のひらに乗せてみた。葉と同じような色味を帯びた虫は
私の手のひらの上から這い出ようと必死に移動する。端まで到達するのを見計らって、手を返す。
すると今度は手の甲を必死に進み始めた。
私の手のひらでも、この虫にとっては延々と続く世界に見えるのだろうか。二、三度そんな動作を
繰り返しながら、手の上を這い回る虫の姿をぼんやりと目で追っていた。そんなとき、不意に彼女の
言葉を思い出す。
――「しかもプレート下じゃあ逃げ惑う人々が虫けらみたいに潰されてるのよ? 最高ね」
私は急に恐ろしくなった。
急いで立ち上がると庭を離れ、いちど門から外へ出ると道端にしゃがんで手を差し出した。先程の
庭とは違い、痩せ衰えた大地の姿が目に飛び込んでくる。
「まだつぼみだし、種を落とすまで待っててくれな」
言い訳がましく声をかけながら、虫を手放した。こんな痩せた土壌に逃がしてやったところで、この
先に待つ餓死という結末だって想像が付くのに。
いや。
(この虫よりもこの都市が、……いっそ星が死ぬんが先かなあ?)
いずれにしても、自分の手でトドメを刺したくないだけなのだと言うことにも気付かされる。いいや、
もう気付いていたのだ、その現実から必死で目を逸らそうとしていた。スカーレットは既にそれも見抜い
ていた。だから彼女は言ったのだ「誰かを憎めば楽になる」と。
(七番街の人々を、殺したのは私なのだ)
「都市型兵器」。ミッドガルのことをそう評した彼女の言葉が頭をもたげる。
その重苦から逃れたいが為に、私はここへ来たのだと。改めてその現実と向き合う。私に逃げられる
場所など、もうどこにも無い事だって分かっている。
こんな事をしている姿を見られたら、とんでもない偽善者だと笑われるだろうな。そう思って自嘲めいた
笑みを浮かべると、私は再び門をくぐって玄関扉の前に立った。懐に入れた護身用の――スカーレット
の指摘どおり、形式に過ぎないのだけれど――拳銃に触れると、あいた方の手を玄関の戸に向けた。
(……ええと)
これまでに他企業や得意先などへの訪問は数え切れない件数をこなしてきた。仕事外にも上司や
部下、友人知人との付き合いで初対面の人と接する事それ自体には慣れていた。それに、交渉ごとに
も多少なりの自信はあるつもりだった。
けれど、さすがに人質を取るために訪問するのは今回が初めてだったから、話をどう切り出せば良い
ものかと頭を悩ませていたことが、玄関扉の前で立ち往生する最大の理由だった。
しかし、その戸惑いは思わぬ形で解消されることになる。
「いらっしゃい。……そろそろ、来る頃なんじゃないかと思ってね」
私が戸を叩くよりも先に内側から玄関戸が開かれた。思わぬ展開に、ノックしようと挙げた手を下ろす
ことも忘れ視線だけが先に室内へお邪魔する。扉を開いて出迎えてくれたのは、ほうきを片手に持った
初老のご婦人だった。髪を束ねて高い位置で結び、大きなエプロンを身に着けさらに腕まくりをした姿を
見れば、いかにも元気そうなおばちゃんと言ったところだ。
どことなく、本当にどことなくだが彼女に母の面影を見た気がする。
「エアリスも連れて行かれちまったしね、私らは用済みなんだろう? これでもエアリスの母、それに
元軍人の妻さ。あんた達のやり方ぐらいお見通しだよ」
呆気にとられたまま、私は発言するタイミングを完全に逸した。婦人は躊躇する様子もなく話を続ける。
「ところで自己紹介はないのかい? どうせあんたは私の事を知ってるんだろう?」
言われている通り、私は彼女のことも調べてきている。エアリス=ゲインズブールの養母・エルミナ=
ゲインズブール。報告によればエルミナ自身は古代種ではないそうだが、なるほど、歯に衣着せぬ
物言いなどは彼女に受け継がれている気がした。百戦錬磨のタークスでさえ手を焼く理由も少し分かる
気がする。
「あっ、ええと……申し遅れました。私は神羅カンパニー都市開発部門のリーブと申します」
お辞儀をしながら思わずそう名乗った後で、しまったと軽率な発言を悔いた。わざわざ自分から身分
を明かすこともないだろうに。
「へえ、タークスじゃないのかい? 意外だねえ」
「あなた方に危害を加える事が私の目的ではありませんので、その点はご安心下さい」
「ずいぶん物騒なモノを懐に忍ばせてるようだけど? そんなモノ持って言う言葉じゃないわねぇ」
彼女は私の顔を覗き込むようにして言う。
「お見通しですか」
すっかり相手のペースに乗せられてしまっている。しかしどうやら先方の言っていることは、あながち
嘘でも無さそうだ。彼女の読みは鋭く的確だった。
一方でこちらとしては余計な手順を省けて有り難い、隠す必要もなくなったので懐からそれを取り出す
と、私はこう続けた。
「話が早くて助かります。それでは用件から完結に申し上げます」
彼女たちはこの先に控える最も重要な“交渉”の切り札になる。用済みどころか、どうしても必要な
存在なのだ。こういったタイプとの交渉なら、単刀直入に本件を述べた方が効果的だと経験則で割り
出すと、言葉の先を続けた。
「あなた方にはこれから、私の人質になって頂きます」
ところが私に銃口を向けられていたはずのエルミナさんは、なぜか笑顔を浮かべていた。その態度が
気に掛かったのは確かだったが、今はそれよりも後に控えている交渉を成功させるために、最善を尽く
す以外に道はなかった。もしもここで断られた場合は――私が考えをめぐらせるよりも早く、返答の
言葉を耳にする。
「……いいさ。あんたの人質、だろう?」
「えっ?」
(エルミナさん、いくらなんでも答えを出すのが早過ぎやしませんか?)自分で押しかけておきながら、
そんな風に思う。しかも悪いことに、それがそのまま表情に表れていた様だった。
「自分で言い出しておいて、驚いてるんじゃないよ。『ここが危険だ』って忠告はとっくに受けてるし、
神羅が来るのも分かってた。だけどこうして残ってたのさ、私の意思でね。いいさ、私があんたの人質に
なるよ」
話が早くて助かるのは事実だが、先を読んで的確に発言する彼女の存在が少々厄介だとも思えた。
依然として会話の主導権は彼女に握られているという状況も覆せないでいる。
今回の交渉も、後に控えた交渉も、こちらが主導権を握り優位に立たなければ成立しない。なぜなら
それが、交渉と呼ぶには要求が一方的だと言うことを充分すぎるほど理解しているからだ。
「私の人質になっていただくのは、あなただけではありません」
意識的にゆっくりと言葉を発しながら、一歩進み出ると私は目の前にいた婦人を真っ直ぐ見つめた。
揺れてはいけない、絶対に悟られてはいけない。
(今さら躊躇うな)
「ここに、マリン=ウォーレスさんもいらっしゃいますね? ……彼女にも一緒に、人質になっていただきます」
顔から笑みが消え、婦人が一歩後ずさるのを目にしたとき、私はこの交渉が上手く行くことを確信した。
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・FF7Disc1蜜蜂の館よりもOn the Way to a Smileデンゼル編が基調になっている模様。
さすがに、あそこには住まない…よな。
・深夜のゴールドソーサーで起きた事件に至る経緯(似た話を見た事がある方は笑ってやって下さい)
・昨年はエレノアさんネタだったので、今年はエルミナさんとルヴィさんで…またも間に合いません
でしたが母の日に便乗してみた(つもり)。
・前話はこの辺www5f.biglobe.ne.jp/~AreaM/PiAftSt/LCFF7PiAftSt/FragmentOfMemory04.html
・こんなトンデモナイ設定の話ですが、良かったら是非どうぞ。(>>某427)ちょっと嬉しかったです。
・関係ありませんが、某兄弟は配管工だと言う事実を今知りましたwてっきりコインコレクターだtry
GJ一番乗り!
虫さん。。。 エレノアさんもエルミナさんも、リーブ母も、
強いカアチャン像で共通点が多いな。
(チラ裏---某427ですありがとう。どこで書いてもスレ違いなので、サイトに御邪魔させて頂きます)
乙!
GJ!
GJ!続きまってるよ
保守
名作ぞろいの中恐縮ですが、投下させてください。
FF7 Disc1、ケット・シーがキーストーンをタークスに渡し、
スパイだとばれた直後の都市開発部門統括の話です。
◆ Lv.1/MrrYw さんが投下されたばかりのFragment of Memory 5と
時系列的につながってしまったのですが、全くの偶然です。
◆Lv.1/MrrYw さん本当に申し訳ありません。
伍番街の幹部用社宅エリアの一角で車を止め、彼は車のドアを開いた。
空を見上げると、無数の星が瞬いていた。
魔晄炉とビルのネオン、人々の暮らす灯りで、ミッドガルは夜も明るい。
星がこんなに綺麗に見えたのは、彼が思い出す限りではじめての事だった。
もう真夜中と言ってよい時間であるが、一室から明かりが漏れているのをみて、
彼は家のドアを開け、居間へと向かった。
「ずいぶん久しぶりのお帰りだね。」ソファに座る母が、読んでいた本から顔を上げて言った。
「ええ、壱番魔晄炉の事件以来、全く時間がありませんでしたから。」
元々、二人の故郷では、こんな口調でやり取りをした事は無かった。
両親を少しでも近くにとミッドガルに呼び寄せたが、物理的な距離は縮まっても、
二人の間の距離はもうすっかり開いてしまった、少なくとも彼はそう感じた。
勿論、自分が建設に深く関わったミッドガルを両親にみてもらいたいという気持ちも少なからずあったのだが、
プレート上層と下層の分離、ID検知システムによる住民の行動監視など、プレジデントによる支配政策は
とどまる所を知らず、彼自身、自問自答と葛藤を続けている都市である。母がこの家に越してきた時も、
息子が近くに呼び寄せてくれた事を喜んではいたものの、彼女はミッドガルについての感想を多くは語らなかった。
代わりに彼女は家中の壁紙やテキスタイルを花柄に変え、庭に土を入れ始めた。
彼がその時の事を思い出し花柄のカーテンに手をかけると、窓ガラスにビニールが張られているのに気がついた。
「窓ガラスが割れたんですか?」
「ああ、あんたが帰ってきたら直してもらおうと思ってたんだけどね。今はもう遅いからいいよ。
うるさくてあの子が起きちまう。」
「あの子?」
「実の息子が帰ってこないから、養子をもらったのさ。」母はにやりと笑って寝室のドアを静かに開けた。
暗闇の中で、まだ小さな男の子がぐっすりと眠っていた。
「七番外プレートの事故で、一人になっちまったらしい。」
母は小さな声で言うと、音を立てないように寝室のドアを閉めた。
壱番魔晄炉が爆破されて以来、彼は本当にここに帰る暇が全くないほど多忙だった。
しかし数日前、花の溢れる家からエルミナとマリンを連れ出してから、
彼は度々この花柄模様に囲まれて暮らす母の事を想った。
そして今夜、真夜中近くになってとうとう車を伍番街社宅エリアに向けて走らせた。
七番街プレート落下以来、伍番外社宅エリアの住民のほとんどは避難のためいなくなっていたが、
母がここに残っているはずだと、ID検知システムから検索を行うまでもなく彼は思っており、
そしてそれは正しかった。
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壱番魔晄炉の爆破、七番街プレートの落下、神羅のスパイ、セフィロス、古代種、アパランチ、
自分が建設に関わり、愛し、住民を幸せにしたいと願ったこのミッドガル・・・
・・・星を救うと見返りの無い旅を続けるクラウドたち。
これまで自分の中に存在したが、既に自分自身で決着をつけたつもりだった疑問、葛藤、全てが頭の中で
また暴れ始めていた。自分らしくもないと情けなさで一杯になって、彼はソファーに腰を下ろした。
「あんた、ずいぶん疲れてるね。」ティーカップを差し出しながら母が言った。
そうだ。簡単に言えば、彼は全てに疲れていて、彼自身、それを自覚していた。
「ミッドガルもあの会社も、いろいろ大変らしいからね。」
彼女はまるで人ごとのようにつぶやいてから、お茶をすすった。
彼はそれには直接答えなかったが、母もそれ以上何も言わなかった。
彼は努めて明るく振る舞い、寝室の少年の事や、プレート落下後のこの社宅街の事、
母の最近の生活などとりとめも無く話しているうちに、夜が白けてきた事に気がついた。
「すみません、もうこんな時間に…」
「いいさ、久しぶりなんだからね。」母はさして眠い様子も見せず、さらりと言った。
【朝になったら、「ボクら」は古代種の神殿へと向かう。】
彼は会社に戻らなければと立ち上がり、母に改めて礼を言って、ドアへと向かった。
車に乗り込み、ドアを閉めようとすると、見送りにと外まで出てきた母が別れの言葉の代わりに
たった一言、しかし力強く言った。
「あんたが、信じる道を進めばそれでいいのさ。」
彼は、母の顔を見上げて微笑み、車のエンジンをかけた。
母は見えなくなるまで手を振ってくれていた。
「自分の、信じる道を進めばそれでいい。」
朝日に目をしかめながら、彼は、つぶやいた。
今日は、古代種の神殿だ。
【決意】Fin
-----------------------------------
・「On the Way to a Smileデンゼル編」がもとになっています。
・古代種の神殿へと向かう前の晩、実は母に会っていたリーブのお話。
・デンゼル編の母と息子の関係が悲しすぎたので、捏造してみました。
お目汚し大変失礼いたしました。
もう一つだけよけいな補足:
古代種の神殿でのケット・シーの行動は、中の人にとって大きな転換期だったと思っています。
神羅の人間として、当然迷いや葛藤があったと思うのですが、
その辺りをルヴィさんと絡めてみました。
では今度こそ失礼いたしました。
おつ
>>315-317 リーブ好きには嬉しい話です、少しは報われて欲しいです。ってその前にトリップがw
(以下、リーブ好きによる戯言ですが)
その後ルヴィさんも分かっていながら最期の時をミッドガルで迎える決意をしていたんですよね。
そう考えると
>>317で最後(に、結果的になってしまうのだとしても)彼を送り出す言葉が
「今度は帰る前に連絡を寄越してほしいね、そしたら美味しいきんぴらのひとつでも─」みたいな
ものだったら、たぶん涙腺が決壊してたと思う。
その4年後の「最後まで母に良くしてくれて」の台詞と併せて考えると…。
…これはどう考えても牛蒡フラグ。
デンゼル編ってのがよく出てくるのでやっと読んでみたんだが
そのあと各作品を読み直したら泣けた。GJ
>>315-317 と言う訳でやっと分かったんだが、これが親子の最後の対面か。
リーブ、きんぴら食べたかっただろうな(違う?)
おつおつ
イイヨイイヨー
※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※オペラ座の花形女優、マリアを誘拐するというバルフレアからの予告状届き、
ミゲロさんに頼まれて警護を引き受けた二人のお話。
※FF6のセリスのオペラ座イベントが下敷きになってます。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
>>9-18から続きます。
「それ」が突き破った舞台の破片が降り注ぐ中、
パンネロをかばって伏せていたヴァンは信じられない物を見た。
それは巨大な鞭(むち)の様な物で、目にもとまらぬ速さで伸びて来て、
気が付くともう、目の前に迫って来ていた。
ヴァンは咄嗟に両手剣を振るい、それをなぎ払った。
ヴァンに切られた「それ」の先端が舞台に転がった。
まだ生きているかの様に不気味にビチビチと跳ねている。
見ると、表面にはびっしりと吸盤の様な物で覆われていて、
手応えはぐにゃり、と柔らかかった。
ヴァンは「それ」をよく知っている様な気がするのに、
そのの巨大さから、「それ」がなんであるのかがすぐには思い付かない。
が、考えている先から第二波が頭上から襲って来る。
(なんだよ、コレ!!)
ヴァンは咄嗟に剣を頭上に掲げ、「それ」を受け止める。
と、「それ」はヴァンの剣にくるくると巻き付き、剣を取り上げようと強く引っ張る。
足は舞台の下の方から出ており、空いた穴にヴァンを引き込もうとしているのか。
腰を落とし、剣を奪われまいと踏ん張るヴァンの足が
ずるずると床を滑り舞台に空いた穴に少しずつ引き寄せられる。
「……くっ……!」
ヴァンの顔が歪む
一声吠えると、ヴァンは巻き付いたそれを振りほどき、
間髪を入れず上段から切り付け、「それ」を一気に断ち切った。
と、そのヴァンの脇をすり抜け、第三波がパンネロに襲いかかる。
身体を翻し、ヴァンが剣を伸ばすが、「それ」はスルリとヴァンの剣をかいくぐった。
しまった!と思った瞬間、今度は頭上から黒い塊が飛び降りて来て、
剣が閃き(ひらめき)、どう!という音とともに「それ」が切り落とされた。
「大丈夫か、ヴァン?」
「バッシュ!」
「その名で呼ばれるのは頂けんな。」
バッシュもパンネロを背にし、剣を構える。
「…アンタにしちゃあ、派手な登場だったから驚いただけだ。」
バッシュは思わずヴァンを見る。
(さっきから何を意地になっているのだ…?)
ヴァンは決してバッシュを見ようとはしない。
口をへの字に曲げ、正面を睨んでいる。余裕がまるで感じられない。
(いつものヴァンなら真っ先にパンネロを逃がすだろうに…)
バッシュは背後で舞台での緊張状態がとけぬまま、
今度は謎の物体の襲撃に石の様に固まり、動けずに居るパンネロに声を掛けた。
「パンネロ、逃げなさい。」
「でも……!」
ヴァンが振り返り、噛み付く様に怒鳴る。
「行けって言ってんだろ!武器も無いのに…!足手まといだ!」
「ヴァン!後ろ!」
「それ」は鞭の様にしなり、ヴァンに襲いかかった。
その身体に巻き付き、高々と持ち上げる。
床に叩き付けるつもりだ。
振りほどこうと暴れると、それはヴァンよりも強い力で締め付けて来る。
「ヴァン!」
下方でパンネロの悲鳴を聞きながら、ヴァンは奥歯を噛み締めた。
「くそ…っ!」
「ヴァン!」
バッシュは絶え間なく襲い来る攻撃を防ぐのに手一杯で、なす術もない。
ヴァンを抱えたそれが大きく振りかぶる様にしなる。
叩き付けられる…!思わず目を閉じた時、何かが「それ」にぶつかり、破裂した。
つん、と鼻をつく火薬の臭いが辺りに漂った。
戒めが解かれ、床に落ちたヴァンが顔を上げると、
柔らかい革に鮮やかな色とりどりの石がはめ込まれたサンダルと、
きちんと切りそろえられ、朱色に染められた足の爪、
白いドレスの裾、そしてエレガントなそれらに不似合いなハンディボム。
「あなたに聞きたい事はたくさんあるけど。」
頭上から冷たい声がする。
「まずは、あの蛸みたいな化け物を退治してからです。」
「タコぉ!?」
ヴァンは漸く「それ」の正体がなんなのか気付いた。
「あれ、タコかよ!」
合点がいき、思わず顔を上げると、そこにはアーシェが立っていて、
キリキリと眉を吊り上げてヴァンを見下ろしている。
パンネロは、と見回すと、ドレスの裾に躓いて転んだのだろう、そこをラーサーに助け起こされている。
無事な姿に安心しつつも、おもしろくない気持ちになる。
「どこを見ているの?」
アーシェがヴァンの目の前に、落とした両手剣を突き立てる。
ヴァンは更におもしろくない気分になり、落下して痛む身体をさすりながら立ち上げる。
「なんだよ、さっきからエラそうに。大体、おまえ、女王だろ?女王がこんな所に居ていいのかよ!」
「伏せて!」
咄嗟にヴァンがかがむと、アーシェは手に持ったブルカノ式を
肩の高さまで持ち上げると、腕を水平に払い、ハンディボムを放つ。
しなやかな腕から放たれた爆薬の塊をまともに喰らい、
ヴァンの背後に迫っていた蛸の足がバラバラに砕け散った。
砕け散った破片が頭にべっとりと張り付いたのを、ヴァンは慌てて指先で摘んで捨てる。
優雅な出で立ちと裏腹な凄惨な攻撃に、ヴァンが何か言ってやろうと口を開きかけるが、
アーシェに冷たく睨まれて肩を竦めるしかない。
「“あれ”はパンネロを狙っています。」
ヴァンの表情に緊張が戻る。
すかさず、両手剣を引き抜き、縦に振り回して構えた。
次々を襲って来る巨大な蛸の足を切り払いながら、ヴァンはダンチョーの話を思い出した。
「地下にでっかい湖があるって!」
「“これ”はそこから来たの?」
「たぶん!本体はそこだ!足だけ出して攻撃してくる!」
ヴァンがもう一度パンネロを探すと、ラーサーに手を引かれ、舞台裏へと走って行く後ろ姿が見えた。
ヴァンはホッとして…それでも、何故か胸がチリチリと痛んだが、
気を取り直して次々を襲い来る足を切り捨てて行く。
「キリがないわ!」
屈んで、火薬を弾込めしながらアーシェが叫ぶ。
「陛下、お下がり下さい!」
「バッシュ…」
戦闘の最中だと言うのに、アーシェは穏やかに微笑む。
「私がそうすると思うの?」
(じっとしておられぬお方だ…)
バッシュは苦笑いを浮かべ、また、懐かしい名前で呼ばれた事に戸惑う。
「…この場でその名は仰いますな。」
やっとそれだけ言うと、手を取ってアーシェを立たせた。
「策があります。」
「おとりが要るのね?」
バッシュが頷く。
「あの足をかいくぐって、私が本体に接近します。」
「援護します。ヴァンは?」
「我らの動きで察するでしょう。」
「そんな危ない橋、渡ることないよっ。」
突然の声に驚き、よく通るその声の方を見ると、そこには小柄な少女が立っていた。
金色のふわふわとした巻き毛が額にかかり、
その下には青く、大きな瞳が宝石の様に輝いている。
身体にぴったりとした大きく胸元の開いた丈の短い黒いジャケットを着て、
ハイウエストの裾がすとんと落ちるロングスカートは、薄い綿モスリンを
幾重にも重ねた鮮やかな赤、裾には砂漠の花の刺繍がほどこされている。
細い革ひものサンダルと、足の爪は金色にと色が揃えられている。
そして、頭の3倍はあるであろう、綿帽子の様な大きな赤い帽子を被っていた。
「さっきから見てるけど、あの兄ちゃん、危なっかしいんだもん。」
「あなた様は…」
アーシェもバッシュも、何故今日の賓客がこんな所に現れたのかと唖然としている。
不思議な事に、その少女が現れた途端、蛸の化け物の攻撃がにぶったので
二人が襲われる事はなかったが。
「アイツ、よく知ってるんだ。リルムの大好きな仲間が歌った時も邪魔しに来たんだもん。」
言いながら少女は、緑色の表紙のスケッチブックと、筆を取り出した。
開いたスケッチブックの上に少女がサラサラと筆を滑らせると、
化け物が悲鳴のような鳴き声を上げ、足という足がそれを阻止しようと
リルム目がけて一斉に襲いかかった。
得物を持った3人がそれを阻止している間に、「砂漠の王様の婚約者」は
スケッチブックに描いた絵を化け物に向かって高々と掲げた。
「さっさと地下に帰りな、オルトロス!アンタの居場所を
コロシアムのオーナーに言いつけられたくなければね!」
一際大きな悲鳴を上げると、オルトロスと呼ばれた蛸の様なそのモンスターは
舞台一面に這わせていた足を引っ込め、再び地下に潜っていった。
たったそれだけの事で静寂が戻り、何が起こったか分からず
ぽかんとする3人を見て、リルムはくすくすと笑う。
「ぷっ…あんた達の顔…」
「なんだよ、お前…いきなり現れて、生意気だぞ。」
ヴァンが喰ってかかるが、リルムも負けてはいない。
「へん!お仲間に助けてもらえないとなーんにも出来ないガキのくせに!
エラそうに言うなって!」
「お前だってガキだろ!」
子供同士のケンカにアーシェは呆れ、バッシュはやれやれと二人に割って入る。
「ヴァン、こちらは今日の主賓のお一人だ。遠い砂漠の国からお越し頂いたお方だ。
口を慎みなさい。」
「危ない所を助けて頂いたのに、失礼です。」
頭を下げるアーシェとバッシュに、リルムは居心地が悪そうに手をひらひらと振り、
「いいって、いいって!堅苦しいのは私も嫌いだし。それよりさ、この事は
エドガーにはナイショだよ。勝手に危ない事してとか、うるさいからさ。」
「そのエドガー様はどちらへ?」
「さあね。婚約者放ったらかしにして、どこへ行ってんだか…」
リルムは描いた絵のページをスケッチブックから切り取り、アーシェに渡した。
「これがアイツの正体。壁にでも貼っておけば、当分出て来ないよ。」
「リルム様、これは…」
「そこのジャッジマスターにもう一つの名前があるのを、私は誰にも言わない。
だから、そっちも詮索はなし。これは、その約束のしるし。」
アーシェは受け取った絵を受け取る。不格好で、間抜けな蛸の絵だ。
絵を描いた筆は、絵の具をつけた様子が全くなかった。
なのに、絵はちゃんと画用紙の上に描かれている。
それに、確かに自分もヴァンも、バッシュの名を呼んだ。
だが、聞こえる位置には誰も居なかったはずだ。
あのモンスターはこの絵と、目の前の少女を恐れていた。
(不思議なお方…)
だが、リルムの心遣いがアーシェには小気味好く思えた。
「感謝しますわ、リルム様。」
リルムは照れくさそうに笑う。
生意気そうだけど、チャーミングな笑顔だ。
「ジャッジ・ガブラス、リルム様をエドガー様の所へ。」
リルムは何か言いかけたが、すぐに諦めた様に小さく肩を竦め、
大人しくバッシュの後について、舞台を後にした。
その姿を見届けると、抜き足差し足でこの場を去ろうとするヴァンが目に入り、
アーシェはふぅ…とため息を一つ。
「どこに行くの、ヴァン!」
ヴァンが恐る恐る振り返る。
「聞きたい事があると言ったわね?」
アーシェの怒りの周波がぴりぴりと伝わって来る。
だが、ここで捕まっては…とヴァンは駆け出した。
「……!待ちなさい!」
「ごめん!アーシェ!」
ヴァンは客席に飛び降り、オーケストラピットの所にある柵を軽々と飛び越え、
出口に向かって走る。と、不意に前にがくん、とつんのめり、その場に倒れた。
アーシェは驚き、ドレスの裾を掴み、舞台から飛び降りてヴァンに駆け寄る。
「ヴァン!どうしたの!?」
抱え起こしてもヴァンは答えない。戦闘でのダメージかと身体を調べるが、
(どこも…怪我していない…)
改めてヴァンの顔を見ると、穏やかな呼吸だ。
(………眠って…いる……?)
そう言えば、この騒ぎに兵士が一人も出て来ない。
逃げ惑っていた観客の声も聞こえてこない。
(みんな眠っているの……?)
アーシェはヴァンの両手剣を持って立ち上がると、
バッシュとリルムが立ち去った方に駆け出した。
一方、パンネロを連れてその場を離れたラーサー。
舞台裏の階段を駆け下り、貴賓席横のロビーまで来て思わず足を止めた。
兵士や観客が皆、折り重なって倒れているのだ。
「ラーサー様、これは…」
怯えた様に周りを見渡すパンネロに、心配しないようにと微笑みかけ、
ラーサーは倒れた兵士に歩み寄った。
膝を屈め、倒れた兵士を調べてみると、外傷はない。
(これは……)
その時、ひどい睡魔がラーサーを襲った。
(しまった…!)
ラーサーは眠るまいと必死に頭を振るが、頭が異様に重く感じ、目を開けていられない。
堪えきれずにぐらりと身体を傾け、その場に倒れてしまう。
「ラーサー様!?」
異変を察したパンネロが駆け寄る。
「誰か…が…劇場…全体に……魔…法………」
目の前に大切な人がいて守らなければならないのに。
ラーサーは悔しさに唇を噛み締めるが、睡魔は圧倒的な力でラーサーの意識を奪おうとする。
「パンネロ…さん…逃げ………」
それだけを絞り出す様に言うと、ラーサーは意識を失った。
パンネロはラーサーの言葉のおかげで、辛うじて状況は理解出来たが、
なんとかしようにも、魔法を解除するアイテムすら持っていない。
「ラーサー様!どうしよう……!」
一体、何が起こったというのだろう。
パンネロは途方に暮れて、周りを見渡した。
賑やかだった劇場が、水を打ったようにしん…と静まり返って不気味だ。
そう言えば、劇場の方も静かだ。
(ヴァンは……みんなは!?)
きっと舞台に戻れば、ヴァンもアーシェも、バッシュも居る。
パンネロは藁にも縋る思いで立ち上がる。
と、信じられない人物がそこに居るのを見つけた。
「バルフレア…さん…?」
パンネロはホッとして、その場にへたり込んでしまった。
バルフレアも屈んで、パンネロの顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
とにかく心細かった。
そこにバルフレアが現れ、気が緩んだのだ。
「バルフレアさん…ラーサー様が…ヴァンが……」
が、バルフレアは信じられない言葉を口にした。
「どうしてお嬢ちゃんは眠らないんだ?」
瞬間、パンネロの心臓が凍り付いた。
改めて周囲を見渡し、倒れてる人々やラーサーを見、最後にバルフレアを見た。
「まさか……」
バルフレアは否定しない。
がくがくと足が震えた。
立ち上がる事が出来ず、パンネロはへたり込んだまま必死で後ずさる。
バルフレアは眉を顰めた。
「そんなに怯えなくていい。手荒なマネはしない。」
差し伸べられた手を、パンネロは思わず払いのけた。
「…手厳しいな。」
バルフレアは大仰に肩を竦めてみせる。
「どっ…どうしてこんな事を?」
「どうして…ってもな…」
バルフレアはどこか不機嫌そうだ。
自分は嫌々やってきた、そう言いたげだ。
「せっかく予告状も出した事だしな。」
「嘘!だって、昨日は知らないって!あれはバッガモナンが……」
バルフレアは舌打ちをすると、面倒だとばかりにパンネロを肩に担ぎ上げた。
「やだ!私、ここに居る!」
「こっちはそうも言ってられないんでね。」
手足をバタバタさせるパンネロの腕に見慣れたアイテムが着けられている。
(リボンか…)
もしもの事を考え、ヴァンが着けさせたのだろう。
「お陰でこっちは一苦労だ。」
パンネロの耳に入らないように小声で愚痴る。
「ばかばか!こんな事するバルフレアさんなんて嫌い!」
「嫌われちゃあ困るな。」
子供の様に駄々をこねるパンネロを軽く流しながら、バルフレアは階段を下りる。
「嫌!ヴァンの所に連れてって!」
「今頃みんなおねんねさ。あんまり暴れると落ちるぞ…っと。」
バルフレアは歩みを止めた。
「みんな…ってワケじゃなさそうだな。」
階下に一人の男が立っていた。
「婚約者を探していたら、とんだ所でとんだ場面に遭遇してしまったな。」
それを聞いて、バルフレアが真っ先に思った事は、
(随分と気取った野郎だな……)
「バルフレアさん…」
パンネロが耳打ちをする。
「その方、砂漠の王様よ!」
バルフレアは改めて階下の人物を見下ろした。
長い金色の髪を青いリボンでまとめ、青いマントを羽織っている。
マントの縁には金色の房、腰には鮮やかな柄に砂漠の刺繍を重ねた豪奢なスカーフが巻いてある。
そして、これも婚約者と色を揃えたのだろう、金色の靴を履いていた。
(へぇ…これが噂の…フィガロ王エドガー…)
王族でありながら、機工師としての腕もなかなかのものと聞く。
「君が抱えてるのは、さっきラバナスタ中を魅了した麗しの歌姫ではないかい?」
エドガーは腰に差した剣に手をかける。
「見た所、そちらのレディは同行を嫌がっているように見受けられるが?」
歯の浮く様なエドガーの言い方に、バルフレアはなにやら既視感を覚え、著しく気分を害した。
「これはこれは、フィガロの国王陛下。」
負けじとバルフレアは芝居のかかった返答をする。
「17も年下の婚約者殿を放っておかれ、こんな所で何をしておいでで?」
「おかしな噂を聞いてね。」
エドガーはバルフレアの嫌みをさらりと流し、ゆっくりと階段を上り、二人の前に立った。
「昔、古い友人が、君と同じ様な騒ぎを起こしてね…当時と同じ様な手紙が届いたと。
それで気になってここに居た…というワケさ。」
言いながらスラリ、と剣を抜き、バルフレアの喉元に剣先を突きつける。
「嫌がる女性を無理矢理かどわかすとは、見過ごせないね。」
バルフレアは不機嫌そうに天井を仰ぎ見、パンネロは思いがけない助けのはずが、
バルフレアが剣を向けられた途端、オロオロと慌ててしまう。
「ち…違うんです、王様!」
「レディ、心配しなくてもいい。私がここを通さない。」
そう言われても…と、パンネロはますます慌てる。
ここから連れ出されるのは嫌だけど、バルフレアが捕まるのも嫌だ。
不意にバルフレアは抱えていたパンネロを下ろすと、肩を抱いて引き寄せた。
「彼女も言ってるように、こっちにも事情があってね。」
「事情?」
剣先を1ミリたりとも動かさず、エドガーが尋ねる。
「俺と彼女は実は将来を誓い合った仲でね。」
さすがのエドガーも、目を丸くして交互に二人を見つめる。
「鳥かごに捕われた小鳥を、空に返してやろうと参上したってワケさ。」
当のパンネロはと言うと、突然バルフレアと恋仲宣言をされ、
(もう…なにがなんだか分からない…)
と、軽い目眩を覚え、よろめいてバルフレアにもたれかかった。
エドガーにはそれが、パンネロがバルフレアにしがみついた様に見えた。
「レディ?この男の言う事は本当かい?」
本当かどうかはさて置き、ここで違うと言えばバルフレアが切られてしまう。
パンネロはこくこくと、何度も頷く。
「フィガロ王エドガーは粋なお方と聞いてるがねぇ…
人の恋路を邪魔するような野暮をするのかい?」
エドガーはまだ半信半疑のようだが、
「王様…お願いです、どうかここを通して下さい。」
というパンネロの一言が効いたのか、剣を収めた。
「レディ…本当にいいのかい?」
立ち去る二人の背中に、エドガーは思わず声を掛けた。
パンネロは思わず足を止めた。
「その男は…私にはどうも、君を泣かせる様な男に見えて仕方ないのだがね。」
バルフレアは「余計なお世話だ」と呟き、パンネロが返事をする前に手を引いて走り出した。
エドガーは走り去る二人の後ろ姿を見て、やれやれと大きなため息を吐いた。
結果的に自らの誘拐に手を貸してしまったパンネロだが、走っている内に
やはり何かおかしい、と気付き、同時に色々な感情が一度にこみ上げてきた。
中でも、一番にこみ上げて来たのは怒りで、
最も腹が立つのは自分の手を引いて走る、この男だ。
パンネロはと足を止めた。
不意に立ち止まったパンネロに、バルフレアが驚いて振り返る。
「どうした?お嬢ちゃん?」
「バルフレアさんのばかっ!私を連れて行く為にあんな嘘を吐いて…」
「どうした?何が気に入らない?」
「私の事、なんとも思ってないくせに、砂漠の王様にあんな言い方して…!」
「落ち着け、お嬢ちゃん。」
バルフレアはパンネロの両肩に手を置く。
涙を浮かべ口を噤んだパンネロを、バルフレアはさすがに無下には出来ず、
「悪かった。その場凌ぎとは言え…な。」
パンネロはまだ怒っている。唇を尖らせて尋ねる。
「…どうして私を連れて行くの?」
「フランが連れて来いと言ったからさ。」
パンネロの眉がキリキリと上がる。
「分かった!悪かった!」
つん、と横を向いてしまったパンネロの頬を両手で包み、正面を向かせると、
バルフレアは腰を屈め、パンネロの顔を覗き込む。
「いいか…?お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは出会った相手の胸の中に花を咲かせる。
小さいが、黄色くて温かい花だ。俺はそれを摘み取る様な無粋なマネはしたくない。」
パンネロはじっとバルフレアを見つめる。
「うん?」
「ずるいわ、バルフレアさん…私が子供だと思って、どうとでも取れる様な言い方ばかり。」
「その割には“まんざらでもない”って顔をしてるが?」
バルフレアは手を離すと、右手を胸に当て恭しくパンネロにお辞儀をする。
「ラバナスタ中を瞬く間に虜にした愛らしい歌姫を盗みに参上つかまつりました。
どうぞこの哀れな空賊に盗まれてやって下さいませんか?」
芝居のかかった仕草と言い回しに、パンネロはとうとう吹き出した。
「いいわ…。」
バルフレアは満足げに頷くとパンネロに手を差し伸べる。
パンネロはその手を取って、バルフレアに続いて走り出した。
走りながら、どこかはしゃいだ口調で、
「ねぇ、あの王様、バルフレアさんにちょっと似てる。」
「どこがだ!?」
「バルフレアさん、嫌いだもんね。ああいうタイプ。」
バルフレア、答えない。
「自分に似てるから、嫌なんでしょ?」
「お喋りが過ぎると、その口を洗濯バサミで留めちまうぞ。」
二人の足音は徐々に遠のき、やがて、聞こえなくなった。
バッシュを追って、舞台裏にやって来たアーシェが見たものは、
壁にもたれかかるようにして眠るバッシュの姿だった。
リルムの姿が見えない…という事は、バッシュを運ぶこともままならず、
この場を立ち去り、エドガーの元に向かったのだろう。
「誰が…こんな事を…」
すると、遠くで足音が聞こえた。
アーシェは足音の方へと駆け出した。
通路に飛び出すと、走り去るパンネロと、
「バルフレア!?あなたなの!?」
バルフレアはほんの少しだけ顔を上げたが、アーシェには振り返ろうとしなかった。
アーシェは後を追う事も出来ず、何か言いたげに振り返るパンネロと
バルフレアの背中をただ見送る事しか出来なかった。
つづく。
ご無沙汰しております。
FF6に関する記述は色々と忘れかけているのでFF大辞典の
まとめサイト様を参考にさせていただきました。
リルムとエドガーは17歳違い…で良かったのかちょっと心配。
あと、投稿人、FF9を始めまして。
FF9やったら書きますよね、「どうか盗まれてやってください」って。
ですので、その辺のつっこみは、どうかご勘弁下さいませ。
339 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/26(月) 14:43:03 ID:rX7yxdfe0
乙
>>325-328 乙
しかしss投下スレは容量食うので前書きと後書きをどちらか一つにしてもらいたい
スレでの自分語りはほどほどに
乙!
いいじゃん別に。いっぱいになったら次スレ行けばいいだけの話
色んな作品が読みたい。んで「次スレ立てなきゃ!」って言えるぐらい繁盛するのは
むしろ喜ばしいことだと思うんだ。んだんだ。
>>325-337 やっぱリボンのヴァンGJ!! 前スレ325アイテム“装備”の伏線回収に感動した。
そしてこのシリーズ始まって以来、内心ちょっとした不安要素だったバルフレアとエドガーの
描き分けができてて素ん晴らしいです!そしてバルフレアの心理(同族嫌悪w)が笑える
且つ説得力抜群でw
あと
>>329、「名前」ネタの活かし方(戦闘時の描写)も上手い。やっぱリルム最高です!
17歳差で正解だと思う(サマサの問題発言が根拠)
余談ですが、「笑顔がとってもチャーミング」ってカイエンの形容として登場した気がするんだけど、
全員チャーミングで困るんだぜ?w(と、6信者が申しております)
うん、感想書けるスレも無くなっちゃったみたいだし、
感想書くのもビクビクしてたんだ。重いとか、スレ無駄遣いって言われるかなって。
でも職人さんの立場で考えたら感想があった方が嬉しいだろうし
何より自分だってここが繁盛するのは喜ばしい。
だから、自由にまったり書いていいと思うんだ。んだんだ。
前話:
>>304-308 ----------
ご婦人が私に何かを伝えようと口を開きかけた時、部屋の奥の階段から幼い女の子が顔を覗かせ
た。初対面ではあるが、ここへ来る前にスカーレットから渡された資料の中に、同じ顔を見ていた。
間違いない、彼女がマリン=ウォーレスだ。
「……おばちゃん?」不安げに揺れる声がご婦人に向けられた。その声にはっとした表情で振り返る
と、慌てて「ダメよマリンちゃん!」と言って部屋に戻るようにとジェスチャーで促す。先ほどの気丈な
応対ぶりから一転して、彼女の動揺が見て取れた。
少し気が引けるが、ここで心理的に優位に立つためにも私は敢えて言葉をかけた。
「やはり、彼女もこちらにいらっしゃいましたか」
「!!」
再び私の方を向き直ったご婦人の表情は険しかった。まるで私から幼子を庇うようにして立ち塞がる
と、声を潜めて、けれど強い口調で言い放つ。
「わたしゃ別に構わない。けど、あの子は関係ないだろう!?」
「たしかに関係ありません。ですが、それを言ったらあなただって無関係です」
「それじゃあ!」
「……あなた方は既に私の人質です、この状況で正論は通りませんよ」
反論はなかった。
ここで私は完全に優位に立ったと、そう思った。しかし、この状況は文字通り足下から揺らいだので
ある。
「おばちゃん」
ご婦人の後ろに隠れる様にして、しかし言いつけは守らなかったのか、先ほどの女の子がおずおずと
顔を覗かせる。
「このひと……」
いちど私の顔を見上げてから、けれどすぐさま俯いてしまった女の子が何かを言い終えるよりも先に、
ご婦人は私の右手を掴むとさらに声を小さくして言った。
「そんな物騒なモノ、子どもに見せるんじゃないよ!」もの凄い形相で睨まれながら、早口に捲し立て
られた。半ばご婦人の勢いに圧倒された感はあったが、その言葉には一理あると納得し、あわてて
銃を懐にしまう。そう、この子には何の罪もない、関係だってない。それは最初から分かっている。
私に言った直後、彼女はこちらに背を向け幼子から銃が見えないようにと立つ位置を僅かに変えて
いた。先ほどの応答も含めて、よく機転の利く女性だと感心させられる。
彼女の功労に敬意を表して、この日はいったん引き上げようと考えた。ご婦人の機転もさること
ながら、こちらの準備不足も明らかだった。
特に覚悟という心の準備が、まだ出来ていない。
「今日は唐突にお邪魔して申し訳ありませんでした。また近いうちに改めてお伺いします」
いったんここを離れることに不安はなかった。なぜなら彼女たちには行く当てがないからだ。仮に
逃げたとしてもミッドガル内であれば居場所の特定は容易だし、しばらくはID検知システムで監視して
おくのも良いだろう。
ひとつお辞儀をして玄関を出た私は、扉を閉めようと振り返った。その時に、視界の隅に思わぬ
光景を見た。
依然としてご婦人の後ろに隠れたままだったが、顔を覗かせていたマリン=ウォーレスが小さく手を
振っている。この状況から考えると、どうやら彼女は私に向けて手を振ってくれている様だ。
(……?)
まだ幼い彼女のことだ、状況が理解できずに私のことを来客と勘違いしているのだろう。逆にこちら
としては、そのまま来客と思われていた方が都合は良い。
私は静かに扉を閉めて、伍番街スラムの一軒家を後にした。
***
それからさほど日を置かず、私は再びこの家を訪れる機会を得た。
ゴールドソーサーでの作戦決行が深夜だった事もあって、二度目の訪問は夜も遅い時刻になって
しまった。申し訳ないと思いながらも玄関戸を叩くが、しばらく待っても応答はない。部屋の灯りは付い
ているから、どうやら寝ているところをお邪魔しなくて済みそうだと言うことに、内心で安堵する。
とは言え就寝前に戸締まりするのは当然だし、すでに一度「人質にします」と公言している以上、
好きこのんで扉を開けてもらえるとも思えない。
(さて、どうしましょう)
ごく一般的な民家の、それも見たところ古いタイプの錠だったから、恐らく私一人でも破錠は可能
だろう。どちらかというと可能か否かと言うことより、泥棒のまねごとをするのに対して躊躇していた
のだが、考えてみれば人質を取っている時点で明らかに泥棒よりもタチが悪い。
こうして、自分の行動について妥当な評価を見出して肩を落とした私の耳に、扉の内側から金属音が
聞こえた。どうやら中から解錠してくれた様だ。さらにチェーンロックもせずに出てきたのは、この家の
主たるご婦人だった。
「……ずいぶん遅かったわねえ」
「すみません、色々と手続に手間取りまして」
「どうぞ」
初めてここを訪れた時と比べると、幾分か警戒心もなくご婦人はそう言って私を通してくれた。
彼女のご厚意に甘えながらも、後ろ手にドアのロックを掛ける事だけはしておいた。前回とは違い、
今晩は門の外に万が一の事態に備えて見張りが付いている。
本来私の管轄外とはいえ、取り扱う性質だけに今回の作戦の失敗は許されなかった。つまるところ
外の見張りは、私が失敗した時のために会社がかけた保険だった。彼らが宅内に踏み込んでくれば
荒事は避けられない、そうなれば彼女たちの安全を保障しきれなくなる。誰に偽善者と罵られても
構わないが、最悪の事態だけは回避しなければならない。
彼女たちを人質に取った私が果たすべき、それは最低限の責任でもある。
リビングに通されると、飾られたたくさんの生花が出迎えてくれた。室内の花はそれだけではなく、
至る所に花形をあしらった内装にも目を引かれる。庭先だけでなく室内の装飾品にまで一貫した
コンセプトが感じられる。
「あの子……エアリスが好きでね」
心なしか嬉しそうに、エルミナさんは教えてくれた。
「こちらのお庭も拝見させて頂きました。正直言って驚きましたよ、ミッドガルでこれだけの花が咲くのも
珍しいですからね。何より花壇の手入れが行き届いている」闇に沈む庭を背景に、窓に映った自身の
姿を見つめながらそう呟くと、今度は少し淋しげな声で答えてくれた。
「あの子が連れて行かれてからは、マリンちゃんが世話してるよ」
「そうですか」
実はこのとき、失礼ながらも私は話半分に窓の外を見つめていた。部屋には照明がある以上、外か
らは簡単に室内の様子をうかがい知ることができる。それに、当初の予定では庭にも見張りが配置さ
れていたはずだ。この状況ではヘタに動けない。彼女たちには今回……今晩だけ辛抱してもらおう。
今夜の作戦が上手く行けば、なにも問題はないはずだ。
いつの間にか声が聞こえなくなったことに気が付いて室内に意識を戻すと、さり気ない動作でエルミナ
さんは窓際に歩み寄っていた。恐らく彼女は私の視線を追っていたのだろう。カーテンを閉めた窓を
背に振り返ると、私を見つめて静かに告げる。
「さて、あんたが今日ここへ来たのには理由があるね?」
それは私の行動から、起きている事態を推測しての言動だと分かった。本当に機転の利く人だと
思った。そう言えば初めて会った日、彼女の夫は軍人と言っていたか? だとすれば合点が行く。
「……はい」
壁掛け時計と腕時計を交互に見て、現在の時刻を確認する。作戦決行まではまだ少しばかり猶予が
あった。
「まあ座ったら?」と椅子を勧められたものの、その申し出は丁重にお断りしておいた。のんびり構えて
いられるほど余裕はなかったからだ。時間的にと言うよりは、どちらかというと精神的な面の方が大きい。
そんな私を意に介さずに、キッチンからカップを持ってくると私の立つ目の前のテーブルに置いた。
立ち上る湯気と共に、上品な香りが漂い始める。
「気の利いた物は出せないわよ」
その言葉に驚いて、置かれたカップを改めて見つめた。これでは本当に来客扱いだ。
「あ、あの」
「心配しなくても、一服盛ろうなんて事はしないわよ」
言われて初めてその発想を思いつくが、よくよく冷静になって考えてみれば、さらりと恐ろしい事を口に
している。もちろん、そこを指摘する余裕も無く。
「いえそうではなくて」否定するだけで精一杯だった。
「信じるも信じないも自由だけどね」そう言って彼女はカップに口を付けた。
ここまで言われてしまうと、飲むしかない。訪問先でせっかく出して貰ったものに少しも口を付けない
というのも、そもそもマナー違反だ。
「…………」
手にしたカップから伝わる温もりに、どこか懐かしさを感じた。仕事の合間に飲むものとは違って――
こうして味わう暇がないというせいもあるのだろうが――温度ではなく温もりを感じた。
それから口にした紅茶の味が、ひどく美味しいと思った。詳しくはないが、ハーブティーの一種だろうか?
「とても美味しいです」
「そうかい、それは良かった」
感想とお礼を述べてから、カップを置くと改めて現状について問う。問わずにはいられなかった。
「あの、おもてなしは光栄なんですが、私は来客ではありませんし……」
その言葉にご婦人は大きな溜め息を吐くと、「せっかく人質になったってのに、その気が全然しない
からねえ」と呆れたように笑った。
「……はあ」
やっぱり演出が足りないのだろうか? などと見当違いなことを考えていた私に、今度こそ呆れ声で
こう告げられた。
「『おじさんは悪い人じゃない』ってね、あの子が言うのさ。子どもに見破られるぐらいなんだから、この
仕事、あんたに向いてないわね」
その指摘には苦笑するより他になかった。確かに向いてない、と自分でも思うのだから。
――「誰かを憎めば楽になる」スカーレットはそう言った。
確かにそうかも知れないと、私も最初は思っていた。
「私だってだてに歳は取ってないさ、なんとなく事情は察していたよ。
大体あんたみたいな顔をした人間が、戦場(いくさば)を経験してるとは思えない」
――けれど。
「事情を話してもらえないのかい? マリンちゃんの安全を約束してくれるなら、私も協力するよ」
――だとすれば私は一体、誰を憎めばいいだろう?
エルミナさんは真っ直ぐに私を見上げてそう申し出てくれた。また、彼女の言葉が駆け引きを前提と
しているのではなく、真剣に向き合って出された提案なのだとも分かる。
彼女の経緯を考えれば、神羅に敵対的であってもおかしくはない。それでも、こうして彼女は私を
招き入れた。ただ機転が利くだけではなくて、親身になって私や事態と向き合おうとする。だから厄介
だと思ったのだ。
「申し訳ありませんが……それは、できません」
「そうかい」エルミナさんはそれ以上なにも訊こうとはしなかった。
いっそのこと、ここに至るまでの自分の行い全てを否定してくれた方が楽だったのに、と思う。七番街
プレート爆破の事から――それこそ、歩んできた全てをうち明ければ、望み通りの言葉が返ってくる
のかも知れないと、そんな考えが頭をよぎった。
しかし全容を語る訳にはいかない。もちろん、古代種の育ての親にあたる立場にあったエルミナさん
には、語らずともある程度の背景は見えていたはずである。だからこそ、自分の口から全てを話す
わけには行かなかった。
「でもねえ、無理はしちゃいけないよ。あんた今、かなり無理をしてるんじゃないのかい?」
その言葉を聞いて、はっとした。そう、彼女を厄介に感じる本当の理由に思い至ったからだ。だとしたら、
彼女を憎めるはずはない。
「余計なご心配を……おかけして、すみません」
情けなくも声がうわずったのは、自覚してしまった故の事だった。しかし、お陰で漸く結論も出た。
私は、今になって神羅カンパニーの社員である事を放棄するわけにはいかない。
――「誰かを憎めば楽になる」悔しいがスカーレット、君の言うことは正しかった。
どうやら私は……。
懐から拳銃を取り出す。それを“人質”に向ける事を躊躇いはしなかった。
「それからエルミナさん。申し訳ありませんが、今は立場をわきまえて頂けますか?」
――私を憎むことで楽になれそうだ。
----------
・Disc1のデートイベント(エアリスorティファorユフィorバレット)以外で、
神羅への好感度も設定してこんなイベント見れたら良いな、などと本気で思っている。
リメイクやるならこう言うところにも焦点を当t(ry。
・書き手は年中無休24時間リーブ祭実施中…のわりに明るい話が書けないんだうわn
乙!
やっぱり自分自身を憎んじゃったか…
おつおつ!
乙です!
前半の怒っていたエルミナさんと、後半の穏やかなエルミナさんの対比に
「お母さん」という人たちの懐の広さと強さをまざまざと感じました。
それがリーブには辛いという皮肉がとても切ない。
手を振るマリンの無邪気さも、リーブにとっては刃なんですね。
ほ
関連:
>>345-351 (FF7Disc1/エルミナの話から)
----------
“彼”がこの家を訪れるのは、今日が三度目だった。
あの晩、通話先とは少し揉めたようだったけれど、彼の意図するとおりの取引ができた様子だった。
わたしが理由を聞いても答えてくれなかった。そりゃあそうよね。聞けたところで何かが変わった訳でも
ないだろうしね。結局わたし達は大人しく彼の“人質”でいる事ぐらいしか協力はできなかった。
交渉さえ終われば、わたし達を人質としておく必要はなくなった。そんな主旨のことを告げてから、
彼は別れ際に一連の非礼を詫びてくれた。最初から最後までやっている事と言っている事がちぐはぐ
で、そうとう無理をしている事が見え見えなのよ。
この間ここへ来たマリンちゃんの父親の方が、その点よっぽどしっかりしてるわよ。
だからこそ彼は、もう二度とここへ来ることはないと思った。
だけどわたしは、待っていたんだよ。
***
玄関を出ようとした彼の背中に声をかけた。振り返るとは思っていなかったし、現に振り返りはしな
かった。恐らく振り返る必要がない、とでも思っていたんだろうね。さっき彼は「“人質”の役目はここで
終わり」だと言っていた。
だけどね、巻き込まれた側のこっちはまだ終わっちゃいないんだよ。あなたがここを出る前に、
言っておきたい事がある。
「……昔ね」
彼の背中に向けて、世間話でも始める様にして切り出した。
「戦地で夫が死んだときに、神羅は紙切れ一枚しか寄越してこなかった」
当時、エアリスの言葉を信じられずにいた私にとって、神羅から送られてきた夫の死亡通知は、
ただの紙切れではなくなった。
すべての命が“この星”に還るのだと、まだ幼いエアリスは言った――それでも夫は星に還る前に、
この家に帰って来てくれた事を、私に教えてくれたのもエアリスだった。彼女の言葉がなければ、
わたしは今なお何も知らないまま、信じられないままにその通知を受け取ることになっただろう。
「『夫は死にました』、紙にはそれだけが書かれてた。簡単なもんさ」もう少し形式で飾られた文章
だったと思うけどね、そんなものはどうでも良い事だから忘れちまったよ。今ならこうして言い切る
ことだってできるけどね、そりゃあ当時はショックだったさ。
その言葉に思わず振り返ったリーブの顔には、大きく戸惑っていますと書いてあった。私は今、
どんな顔をしてるだろうね? ちょっと不安に思ったけど、話を止める気はなかったわ。
「そりゃあ神羅にとっては、紙切れと同じ程度なのかも知れないけどね」
ああもう酷い顔しないで。今さっきまで“人質”取って交渉するような周到な男のする顔じゃないわよ、
見てるこっちが情けなくなる。だけどこの人、絶対に視線を逸らす事はしない。だから根の部分には
強い意思を持ってるんだろうね。でもそのぐらいでなくちゃ、人質になった張り合いってもんが無いわよ。
「あの時もこうして、ここで夫を見送った。確かに夫は軍人だったし、戦地へ向かったのも知ってた。
だけど帰ってくると信じて待ってるより他に方法がないじゃないか? だからずっと待ってたのさ。
それなのに、私のところへ帰ってきたのは紙切れ一枚だよ」
ひどい話だと思わないかい? そう問い掛けた。わたしも視線は逸らさなかった。
彼はなにも答えられなかった――長らく続いたウータイとの交戦で双方の兵士、一般市民を問わず
多くの犠牲が出たのは周知の事実だった。私にとって最愛の夫を死に追いやったのは誰でもない
戦争だった。そして、神羅だってそれに荷担していた事になる――あんたの事だから、そんなことを
考えていたんでしょうねえ?
「……すみませんでした」
その言葉、言うと思ったよ。ああもう、さっきからどうしてこう……。
「あんたに謝ってほしくて話したんじゃないよ、謝られたって夫が帰ってくる訳じゃないからね」
今度こそなにも返す言葉が見つからないと言った表情のまま、彼はその場に立ち尽くしている。
溜め息を吐いてから「分かってないねぇ」と呟く。きっとこの言葉も、彼は違う意味に捉えているん
だろうけどね。だから「分かってない」って言ってるのさ。
「私はね、ここで夫を送り出した時と同じ思いをするのはご免だって言いたいのさ。
あの子に無事に帰ってきて欲しい。……それに、あんたにもね」
だからまた顔を見せに来なさいね。私が言いたかったのはこれだけなんだよ。
エアリスだけじゃない、マリンちゃんの父親にも、あんたにも、みんな無事に帰ってきて欲しいんだよ。
――あんたらに分かるかい?
待っている時間がどれほど長く、どれだけつらいのか。
だから、必ず帰ってらっしゃいよ。
「まだしばらくは、ここにいるわよ。どうせ行く場所もないしね」
この晩、わたしはそう言って彼の背中を見送った。
***
こんな状況でも待っていた甲斐はあったわね。玄関戸を開けて、家の前に佇む彼の姿を目にした
とき、そう思ったのよ。ところで少し窶れたように見えるけど、あんた大丈夫かい? やっぱりそうとう
無理してるんだろう?
「あら久しぶり、ずいぶん遅かったじゃないの」
さあ入りなさいと招き入れようとしたけれど、首を横に振ってから彼は言ったわ。
「どうぞお構いなく。それに時間もありません、私が今回こちらへお伺いしたのは……」その先の
言葉が続かなかった。
その表情を見ればね、誰だってある程度は察するわよ。だから黙って“あなたからの”言葉を待った
の。意地が悪いって? だけど、そのぐらいの意地悪をしても罰は当たらないだろ。
彼の表情は硬かった。どうせ「これは彼女たちを人質に取った私が果たすべき、責任の範疇だ」
なんてことを考えてるんだろうね。つくづく難儀な性格をしてると思うよ。
こう思うのは変なのかも知れないけどね、今日あなたがここへ来てくれて嬉しかったよ。
彼がこれから告げようとしている話は、多分わたしの希望を否定するものでしかないだろう。少なく
とも明るい話題でないのは確かだね。話す前からそんな表情してるんだから。
「エアリスさんの事で、お伝えしなければならない事があります。今日は、その為に伺いました」
わたしの後ろ――部屋の奥の階段からマリンちゃんの声が聞こえてきた。「あ、おひげのおじちゃん!
いらっしゃい」手を振る彼女に応えるべく、それでも彼はぎこちないながらも笑顔を向けていた。
それを見て、性根の優しい人なんだろうと思った。
彼は逸らしていた視線を戻してから、じっとこちらを見ているだけで何も言わなかった。言えなかった
んだろうね。
言葉を待つわたしの方の心境はまるで、刑の執行を待つ死刑囚のようだったわ。「生きた心地が
しない」ってまさにこう言うときに使う言葉なのね。いくら歳を重ねたと言っても、こんな気持ちを味わう
のはいやなものよ? だから堪えきれずに言葉の先を促そうとしたの、でもその必要はなかったわ。
「北方大陸、忘らるる都という場所でエアリスさんは亡くなりました。ご遺体はクラウドさんら同行する
仲間達の手で現地に水葬されました」
――ああ、やっぱりそうだったのね。
確証はないけど気付いてしまった。彼がなぜここを訪れたのか、そして告げようとしている事実を。
だけどね、あの子が死ぬなんてやっぱり信じられなかった。
明日になったらひょっこり帰ってくるんじゃないか? そう思った、思いたかったわ。だけど、あなたの
顔を見たらそれが現実なんだと思い知らされた。
あなたは残酷ね。
だけど、誰よりも優しいのね。
あの子の死を知らせるだけなら、手紙にでも書いて寄越せば済む話。だけどあなたはそうしなかった。
命は紙切れみたいに軽くない。それを、あなたはよく知っている。だから来てくれたのよね?
私が泣いたのは、あの子を失った悲しみだけじゃない。
あなたがこうして戻ってきてくれた事に、感謝しているの。
――ありがとう。
それをうまく伝えられなくて、ごめんなさいね。
─Fragment of Memories[Elmina]<終>─
----------
・Disc1エルミナの回想場面(エアリスと出会う経緯)がFF7に傾倒し始めたキッカケだった。
エルミナさん大好きです。
・Disc2ブーゲンハーゲン同行直後のハイウインド内、ケット・シーの台詞
(「エアリスさんが亡くなってしまった事をエルミナさんに伝えた」という主旨)は、
上述の伏線があって読むととても深いな〜なんて思う。という事で書いた話。
・書いておいてなんですが「エルミナ」の綴り間違ってたらごめんなさい。
・ラストダンジョンとは直接の関係はありません。(だからMemories)保守のお供に。
。・ ゜。 。゜。
。・ ゜。 。゜ ・。
。・ ゜。 。゜ ・。
。・ ゜。 。゜ ・。
。・ ゜。 。゜ ・。
・。 。・
∴ ・(ノД`)・ ∴
GJ!
おつおつ
乙
ほ
【The Way We Were】
ミッドガルが大きな都市として繁栄していた頃、私は神羅カンパニーでも少し特殊な課のリーダーとなった。
神羅を捨て、名前も生きた証も消して去って行った尊敬する方の後任としてだった。その後、ジェノバ戦役に
よってミッドガルと神羅が崩壊し・・・
-----この辺りの事を実際に体験した人間は、もう多くは残っていないだろう。
おそらくこの手記を読む人々の親やそれ以上の世代が実際に体験した惨劇であり、今では既にこの星の歴史の
一部となってしまった、昔のはなしだ-----
・・・ライフストリーム、星自身が救ったこの世の中は、しかし混沌に
包まれた。統治する者も、傷ついた住民を助ける組織や軍隊も、無くなってしまった。それまでは神羅が
行っていた全てがいわば一夜にして無くなり、人々は混沌の中に放り出されたのである。
そんな中で、住民を少しでも避難させ、どうにか生き抜いてもらおうという、通常ならば誰しもが
あきらめるような大仕事を、ミッドガル崩壊直前から一人ではじめ、その後は自らの資産で残った
神羅関係者や各地からのボランティアを集め、各地の復興活動を行う組織にまでしてしまった男がいた。
リーブ・トゥエスティ。
ミッドガル崩壊前からそのあとまで、私自身、立場上、直接ではないにしろ、
接する事は多々合った人物である。
この手記では、神羅カンパニーとミッドガル崩壊後の彼の活動を中心に、あの頃の出来事を書き留めて
いきたいと思う。私が彼の活動をみる事が出来る立場にあったと言うのもあるが、あの時代の出来事は、
彼なしでは語れないからだ。もちろん、私自身は彼に直接協力し、肩を並べて何かをするような立場では
なかったので、あくまで、旧総務部調査課リーダーであったの私の目を通した、あの時代の記録である。
ジェノバ戦役については多くの本にも書かれ、研究がなされているので、
私がその内容をここでまた詳しく述べる必要は無いだろう。
その頃、私自身は総務部調査課のリーダーとして働き、神羅カンパニーが名実共に崩壊してからは、
元神羅カンパニーの新社長であったルーファウスのもとに私を含めたメンバーが集まった。
元々私達の任務は神羅カンパニーでも特殊なものであったが、神羅崩壊後は、
体に障害を残したルーファウスを絶対的な存在として、彼の命で任務を行うという更に特殊なものになっていった。
言ってしまえば、神羅カンパニーでも、神羅と言う組織が無くなったあとも、私達は任務をこなす役割としての
存在だった。
だが、彼は違った。
彼は、自分の信じる道を自ら進んでいった。
彼も、神羅カンパニー勤務時代は、都市開発部門統括として「任務」を行っていたのだ。
しかし、ジェノバ戦役で彼はスパイとなり、我々とは袂を分かつ所謂「ジェノバ戦役の英雄」たちと
行動をともにしているうちに、彼の中で、確かに何かが変わっていったのだろう。
今の私にはそう思える。
彼は、メテオ災害から住民を守るため、社長以下トップを失ってカオスと化した神羅組織をどうにかまとめ、
まず住民を避難させた。それでも彼一人が人を集めて行う活動では限界がある。
その後ライフストリームがメテオを消し去り、ミッドガルが名実共に廃墟となった時には、
数えきれないほどの被害者が出た。
ライフストリームの影響を強く受けたものは黒い膿を出して死に、町には死体があふれた
(後に、ライフストリームに混じっていたセフィロスの思念体の影響である事が分かったが、
その当時、人々は理由も治療法も分からない黒い病気に打ちのめされていた)。
それでも、彼はあきらめなかった。
資材を投じて自ら人員を集め、世界再生機構と言う組織を発足させ、本格的に各地の復興に乗り出した。
この当時の彼の活動で、いくつか興味深いはなしが残っている。
当時の記録映像から、そのまま抜粋してみよう。
----------------
【歴史の中のミッドガル・・いやWRO】
FF7以外の作品が読みたい方々、本当に申し訳ありません。
某リーダーが後世に残した手記ですが、このあとから当時のリアルな会話等が出てきて
少し読みやすくなると思います。ちゃんといろんなキャラも出したいと思っております。
でもつまんなそう!って意見が多いようでしたらここでストップしますです・・
>>369 乙
だけどあとがきのラスト1行が誘い受けくさくてウザs
書き手は多少の叩きは気にせず、スレの内容に沿った自分の書きたいものを書いていいと思う。
まあ今までのこのスレの流れからして『つまんなそう』というレスがくるとは思えないんだが……。
キツイこと書いたけど作品は面白かったよ。
FF7エンディング辺り
>>315-317 決意1
>>367-369 The Way We Were とつながっています。
----------------------------------------------
【決意2、或は歴史に残らなかった小さな出来事】
「おっちゃーん、こっちおわったよー。撤収して、みんな戻るからー」
通話口から、元気なユフィの声が、廃墟と化したミッドガルに響き渡った。
「ええ、では皆さん先にプレート下の駅方面に向かってください。
プレート上はもう危険です。私もあとから合流します」
リーブは、それだけ言うと避難や警備作業に当たっていた数人にいくつか指示を出し、一人歩き出した。
「統括!」そう呼びかけたのは、リーブの呼びかけによる住民の避難作業を手伝っていた元神羅兵だった。
「どこへ行くんですか!我々もプレートからはなれないと危険です」
リーブは短く振り返り「すぐに戻りますので、皆さんは先に下に向かってください」とだけ言い残して
瓦礫の先に消えていった。
-----------
この日。運命の日。
星が自分を救うために放ったライフストリームは、地上に生きる人々にとっては恐れる白い奔流となり、
ミッドガルを文字通り飲み込んだ。セフィロスはジェノバとともに大空洞に沈み、リーブの相棒である猫や
仲間たちは、空からその光景をみていた。
全てが終わったはずだった。?
全てが始まるはずだった。
しかし、ミッドガルに残って、テレビ等生き残ったあらゆるメディアや人力を使い住民の避難活動を
行っていたリーブが実際に目にしたものは、「ミッドガルの終わり」だった。
人々が集い、物が集まり、繁栄したミッドガルと言う都市は、単なる廃墟となった。
神羅カンパニーと言う組織が消えてしまった今、白い蛇が暴れたあとのミッドガルで、
人々がすがる事の出来るものは何も無かった。プレート下に逃げ遅れた者達は、何時間もかけて
線路を歩いて地面へと降りていった。途中で力つきるもの、自らの足で大地を踏みしめてすぐに
息絶えるものも沢山いた。
リーブは避難活動と同時に、食料や水等の緊急物資の準備を少しずつ始めていたが、
彼と彼が集めた神羅社員の残り有志だけでは、何より絶対数が足りていなかった。
メテオ消滅後24時間で、彼らが避難や食料等の物資援助を行った人数の何十倍もの人々が、
そのまま力つきていった。
-----------
リーブは瓦礫の山を越えながら進んでいたので、歩いても歩いても目的地に近づいているとは
到底感じられなかった。彼自身、避難や救出活動、避難物資の調達等で、体力はほとんど限界まできていた。
それに、一刻も早く自分もプレート下の物たちと合流して、物資の調達などの活動を引き続き行わなければ
ならない。それでも、彼はミッドガルを出る前に、どうしてもそこへ向かわなければならなかった。
夜が白んできた。ふと振り向くと、神羅カンパニー本社であったビルが、煌めいていた。
しかし、それは今となってはただの残骸に過ぎなかった。崩れた家の上に慎重に登ってみると、
朝日を受けて輝く、【廃墟ミッドガル】の全景が見えた。
「・・・」
リーブには、何も言う事ができなかった。
彼が建設に携わり、住民を守り、愛した都市が、巨大な死の廃墟となって目の前に横たわっていた。
朝の光が一日の始まりを告げていたが、この廃墟ではもう時間は流れていないようだった。
彼には、ただそれを呆然と眺める事しか出来なかった。
しばらくして我にかえり、目指す場所へと足を速めた。
その家は、廃墟の中で同様に崩れていたが、確かにそこにあった。慎重に家の中に潜り込むと、
先日訪れた時に割れていたガラス窓の部分を中心に、家具や物が散乱していた。
人がいる気配はなかった。(母とあの子は・・・)わずかな希望だけを頼りに、彼は家中を探しまわった。
倒れた家具の下も調べてみた。探索がキッチンにさしかかった時、彼は割れたキッチンの窓の向こう、
バックヤードに土が盛られているのを見つけた。
「・・・あれは」
リーブは裏庭に出て、盛られた土をみた。まだ新しく、表面も乾いていなかった。
認めたくない事実。その意味を正しく理解した時、彼は盛り土の横に力なく腰を下ろした。
彼には、分かっていた。母がここを離れないであろう事が。
(それでも、それでも)彼はとどめなく溢れ出す涙を拭うことも忘れていた。
(それでも、母は「いや大変だったねぇ。あんたが割れたガラスちゃんと直してくれないから、
こんなになっちゃったよ。次はちゃんとやっておくれよ」なんて言いながら
飄々と出てきてくれるんやないかって、そう、信じとったんや!そう、願っとったんや!!)
--------------
少し日が高くなってきたようだ。一刻も早くプレート下に行って住民救済措置の続きを行わなければならない。
しかし、彼は盛られた土の横に力なく腰をかけたまま、下を向いていた。
いつ涙が乾いたのかも分からない。どのくらい時間が経ったのかも分からない。自分が何を想って、
何を考えているのかも、もはや分からなかった。
(神羅もミッドガルも消滅した。母も、ミッドガルとともに眠りについた。
あの子・・プレート落下で孤児になったって子はどうしたんやろう。一緒にここに眠っとるんやろか。
都市も、住民らも沢山力つきていったのに、ボクは目の前でそれをみながら何もできへんかった。
終わり、終わりなんや。こっから始まりなんてもうあらへんのや。全部終わったんや。)
また涙が溢れ出してきた。
呆然と顔を上げると、キッチンの外に、ティーカップの破片が見えた。
(そうや、あの夜、お茶入れてくれたんやったな。あのカップで)
目を閉じると、ティーカップからの熱い湯気と、母お得意の花とハーブミックスのお茶の香りが漂ってきた。
「!!!」
はっと我にかえってリーブは顔を上げた。
(お茶飲んで、話して、それから・・・そうや、あの人は言ったんや)
「 あんたも、あんたが、信じる道を進めばそれでいいのさ」
(そうや、そうなんや)
彼は立ち上がった。
(あの人は、そう言ったんや)
まだ自分にはやるべき事が沢山残っている。ミッドガルは無くなったが、途方に暮れていく宛も無い人々が
山ほどいるのだ。この24時間で、彼は救済措置において自分が出来る事の少なさを痛感していた。
とにかくこの混乱した状態をどうにかするために、人員が必要だ。
「そや、自暴自棄になってる時間なんかあらへん」
リーブは家の中に戻り、残骸の中から母がいつも飾っていた造花を何本か探し出し、庭の土の前に差した。
(ボクはまだ生きて、ここにいる。やらなきゃいけない事があるんや。そう、信じる道を進ませてもらうで)
「ごめん、そして、ありがとな」
----決意2、或は歴史に残らなかった小さな出来事 Fin------
・お言葉に甘えて、うだうだ言わずに信じる物を投下させて頂くぜ。
・歴史シリーズは続くけど、「親不孝者!」リーブ小説はこれでおしまい。後悔してないんだぜ。
誤字脱字が沢山ありましたorz
○私財×資材
○とめどなく×とどめなく
「全てが終わったはずだった。?」←この?いらない
etc....次からは精進します。お目汚し失礼いたしました。
GJ!
>>367-369 ルーファウス陣営から見たWROというのは興味深い考察テーマですね!
AC、DC本編中では彼らの意図という面には殆ど触れられていないので、読み手として
今後の展開がまったく想像付かないという意味でも期待sage。
(個人的に、そもそもACで「セフィロスの影響の調査」っていう名目でジェノバの首を
持って来るって行動も、WROの立場からするとちょっと不可解なんですよね。仮にその
目的が神羅の復権であったとしても、いまいち何の役に立つのか…ってまさか恐怖政ry)
それにしても、語り手として位置的にツォンさんはオイシイなと、これを読んで気付いたw
>>371-375 ・゚・(⊃Д`)・゚・
自らの所業に気付いた親不孝者は、気付かない親不孝者よりも不幸だと思います。
以前に自分も言われた事ですが、誤変換程度の訂正はひとまずスルーで良いかも知れません。
(まとめる時にでもコッソリ訂正)みなさん分かった上で読んでくれてるのでw
自分の場合はコッソリどころかゴッソリ訂正してる場合もあったりなかったりいやすんません。
前話:
>>293-296 ----------
それは今日、セブンスヘブン開店前2人目の来客を告げる鈴の音を聞いたデンゼルが「まただよ?」
と、あきれ顔になりながらも、階段を降りてカウンターへ向かった後の出来事だった。
***
「そろそろ、お話ししておかなければいけませんね」
唐突にリーブが告げると、バレットは「何をだ?」と言わんばかりに視線を向けた。
「皆さんをここへお呼びした本当の理由です」
無表情で淡々と語られる言葉の中に、バレットは引っかかりを感じて問い返す。
「『お呼びした』ってお前……」
「そうです、ここへ皆さんをお呼びしたのはリーブ……つまり我々“人形”を配備した張本人です」
建物へ入る前にヴィンセントが指摘した「設計者自らが閉じ込められた、という話はどう聞いても
不自然だ」というのは、どうやら当たっていたようだ。
「なんだよ、わざわざこんな面倒な事しなくても、普通に呼んでくれりゃあ来てやるってのによ」
「確かにそうですね」
にこりともせず同意して、リーブは話の先をこう続けた。
「ですが、ただお呼び立てした場合、まず皆さんは自分達が招集される理由を尋ねるでしょう。しかし
それでは私の方の都合が悪かったんですよ」
「なんでだよ?」
どうせお前のことだから何か頼み事があるんだろう、そんなことぐらいお見通しだぜ? とバレットが
茶化すように応じると、やはり笑顔もなくリーブは頷いた。
「性質上、多少の困難と危険を伴う依頼になる事が予想されたからです」皆さんのことですから、きっと
私から話せば引き受けてもらえるでしょうが、そう言うわけにはいかなかったと話すリーブに、バレット
は「今さら水くさいぜ」と豪快に笑った。
「皆さんが考えているほど簡単な内容ではないんです。ですからまずは、こうして皆さんの力量と意思
を確かめさせて頂きたかった。先ほどの発言もこの意図があっての事でしたが、どちらにしても非礼を
お詫びします」
そんなことは気にしちゃいない。笑顔を消したバレットが首を振る。
「それよりなんだ? まるで俺達の腕試しでもしてるみたいな言い方だな」
「その通りです」
即答したリーブの態度が、バレットにはどうしても解せなかった。
6年前の旅の間はもちろん、メテオ災害後もたびたび協力して難局を乗り越えてきた。今さらそんな
俺達の何を試すって言うんだ? そんなに信用がないのか?
バレットが憤りにも似た疑問を口にする前に、リーブはそれを否定した。
「もちろんこれは皆さん自身と、力を信用しているからこその依頼です」
「だったらよ……!」
「話はまだ続きます」窘められてバレットが肩を落とす。大人しくなったところを見計らってリーブはこう
続けた「この施設には『インスパイア』という能力が安置されています。我々はそれが持ち出される、
あるいは外部に漏れる事を防ぐために配備されているのです」
「いんすぱいあ?」
聞き慣れない単語に素っ頓狂な声をあげるバレットを無視し、さらに話は続いた。
「この施設の最深部、そこにインスパイアは安置されています」
「だからインスパイアって……」
「私からの依頼は、そこに安置されている物の破壊です」
「分かった、やってやるからそのインスパイアってのは何なんだよ」
まあなんだ、ゲームで言えばダンジョンの奥にいるボスを倒して目的を果たせってヤツだな?
分かった分かったと頷くバレットには最初、回答の声は聞き取れなかった。
「リーブの事です」
ダンジョンと言えばやっぱり手強いボスだよな。うんうん。テレビゲームとか俺もやったぜ……。で、
何だっけ? 自分で話を振っておきながら、すでにバレットは話の方向性を見失っていた。
「この施設の最深部に安置されている、インスパイアを破壊して欲しいのです」
それでインスパイアってのは何だ? 新しい兵器の名前か? それにしちゃあ迫力に欠ける名前だ
よな。もうちょっとこう、強そうな名前を付けたらどうなんだ? すっかり自分の世界に浸っている
バレットに、根気強くと言うよりは事務的に言葉が繰り返される。
「インスパイアとはリーブ自身の能力を指した言葉です。つまり我々は、インスパイアの持ち主である
リーブを破壊してほしいと、皆さんに依頼したいのです」
じゃあ何だ? 要するにインスパイアっていう力を持ってるリーブを倒せば良いんだな? ……んっ?!
そこで漸くバレットは我に返る。
「ってお前、ちょっと待てよ……それってのはつまり……」
先に続く言葉を口にするのが躊躇われた。けれどここまで来たら確かめないわけにはいかない。
「俺達の手で、リーブを倒せって事なのか?」違う。これはゲームではない。それにさっきから聞いて
いて何かが変、というよりも歪んでいる気がした。
「お前は、俺達にリーブを殺せって言いたいのか?」
人形は、黙って頷く。返す言葉を見つけられず呆然とリーブを見つめていたバレットに、止めを刺す
ようにして最後に告げた。「皆さんを信頼しているからこその依頼です」
***
ちょうど同じ頃、本部施設内の最上層では、バレットと同じ様な表情をして頭を振っているユフィの
姿があった。
「『インスパイア能力そのものを安置』って……ごめん、おっちゃん。言ってる意味が分かんないよ」
困った表情のユフィに言葉を向けられて、どう説明したら良いものかと思案をめぐらせた結果、
リーブは次のように語った。
「ケット・シーをご存知ですね?」
当然とユフィは大きく頷く。それは6年前も旅を共にした――愛くるしくてちょっと憎たらしいネコの
ぬいぐるみ――いろいろな意味で忘れるわけがない。
「ケット・シーはリーブによって操作されていた『ぬいぐるみ』です」
それも知ってるよとユフィは続けて頷いた。「あの時おっちゃんは、神羅ビルからぬいぐるみを動か
してたんだよね」密かに北の大空洞で、ケット・シーのそんな境遇を羨ましいと思ったのは、ここだけ
の話。
「そうです。そして、それこそがインスパイア能力なのです」
その言葉にユフィは一瞬目を丸くした。ケット・シーはリモコンか何かで動いていると思っていたから
だ。そんなユフィの考えをリーブはやんわりと否定する。
「PHSも繋がらない地下の大空洞、潜水艇でなければ辿り着けない海の深淵、……それに大気圏外
の宇宙空間でさえも、ケット・シーの動作を保証できる通信技術はありません。残念ながらリモコンの
信号を受信できる環境は限られていますからね」
旅の当時、PHS――携帯通信機として仲間達の連絡用に用いられた物で、正式名称『パーティー
編成システム』の略称だった事は今さら説明するまでもない――では、確かに繋がらない場所もあっ
た。しかも肝心なときに限って繋がらなかったりするのでイライラしたりと、その事はユフィも実感とし
てよく知っている。確かにこうして考えると、ケット・シーが動かなくなりそうな場所も出てくるはずだが、
そんな場面は見たことがない。どんな場所にいても、常にケット・シーは仲間達のそばで愛くるしく振る
舞っていた。
でも一応、リモコンでの操作も可能なんですよとリーブが蛇足を加えるが、ユフィは聞いちゃいな
かった。ここぞとばかりに考えられる可能性を片っ端から聞く勢いで声をあげる。
「じゃあ、じゃあさマテリアは?!」
操作と言えば、『あやつる』マテリアだ。我ながら妙案! と得意げな表情を作るが、それもリーブに
よって否定される。
「インスパイアというのは、無機物……そうですね、分かり易く言えば“生物ではない物を操る力”です」
それは『あやつる』マテリアを使用した時と似ていると思われるかも知れませんが、現象としては全く
異なるのだと続けた。
その言葉に無言でユフィが頷くと、リーブの話はさらに続く。
「マテリアでは操れる対象が生物――こちらに敵意を持って動作する機械類なども含み、意思(プロ
グラム)を持って行動するもの――である事に対して、インスパイアで操れるのは無機物――意思を
持たない非生物――のみです。そして『あやつる』のマテリアでは実現できない一番の特徴は、操った
対象を自らの記憶媒体として意識下に置くことができる、というものなんです」
ここでユフィはちょっとぎこちない動作で頷いた、話が進むにつれて理解が追いつかなくなっている
気がする。それを表情から察して、リーブは話の後半にこう付け加えた。
「ケット・シーが体験したことを、私も共有しているんです。でなければ、状況に応じて的確な操作を
実現することは不可能ですからね」
つまりケット・シーに見た物、聞こえた音、感触などあらゆる感覚を共有することができる。もちろん、
痛覚も共有しているので戦闘中にケット・シーがダメージを被った場合、それはリーブにも少なからず
影響を与える事になる。
「ただ、操作している機体と完全に同調している訳ではありませんので、ケット・シーが動けなくなった
場合でも私は動く事ができるんですよ。それ以前に、機体との共有を切断することの方が多いです
けどね」
「ええと、つまり“おっちゃんの分身”?」そういえば忍術にも『分身の術』ってあるけど、たぶんあれは
相手の目を眩まして矛先を分散させるってだけで、自分という個体が増えるわけじゃないんだよね。と
ユフィなりの解釈を交えながら話を理解しようと懸命だった。
「そうですね。記憶や感覚を共有する、インスパイアで操った物は文字通り“分身”になります。私が
リーブの分身であるように」
それから「話を戻しましょうか」と言ってリーブはこう告げる。
「先ほど申し上げた“この星にとって害をなす存在”が、他でもないインスパイアなのです。
W.R.Oとしては、彼を見過ごしておくわけには行かないんですよ」
そしてこの作戦には、みなさんの協力が不可欠なのだと語るリーブに、表情はなかった。
***
『皆さんを信用しているからこその依頼です』
端末に繋がれ机の上に座っていたケット・シーは、そこからマリンを見上げていた。スピーカーを通し
て彼らの声を聞いたマリンは、バレットと同じように言葉を失ったまま唇を噛みしめ、今にもこぼれ落ち
そうな程たくさんの涙を浮かべて、それでも泣くのを堪えて立っている。何もできない悔しさや、大切な
人が自ら死を選んだ事を告げられた悲しさ、そして怒りにも似た疑問――胸の奥から湧き出る多くの
感情にマリンは戸惑いながらも、泣くことだけはするまいと必死で涙を堪えていた。
ここで自分が泣けば隣にいるケット・シーが困るだけだろうと、心優しいマリンのことだろうから、きっと
そう思っているに違いない。目の前に佇む健気な少女に、ケット・シーは申し出た。
『……なあ、マリンちゃん』
呼びかけに顔だけを向けるが、返事はしなかった。声を出せば口から感情があふれ出してしまいそう
だったのだろう。ケット・シーは両手を広げてマリンを促す。ためらいがちに差し出されたマリンの手を
握ると、さらにこう続けた。
『1つだけ、頼まれてくれへんかな?』
マリンは声を出さずに頷いた。
『あんな……。見ての通りボク、ぬいぐるみやねん』
今さらそんなことを言わなくても分かってるよと言いたげに、マリンはもう一度頷く。
『ボクの中には相性占いから高度なデータ処理までこなせる、高性能マシンが入ってるねん。しかも
マリンちゃんと同じ様に、怒ったり笑ったりもできるんや』
そう言ってケット・シーは背中に繋がれたコードを示すと、それを見たマリンはうんと頷く。
『せやけどな、ボクにも出来へん事があんねん。だからマリンちゃん、頼まれてくれへんか?』
それは何? と尋ねるようにマリンは首を傾げてみせた。
ケット・シーはほんの少し考えてから、ちょっと困ったような声色になってこう続ける。
『どないに悲しい思うても、ボク泣けへんねん。ぬいぐるみやから涙腺っちゅー機能が無いねん。
せやからボクの分も……ついででエエんやけど、一緒に泣いといてくれへんか?』
無理して涙を堪えることはない、泣きたいときは泣けばいい。泣けないボクなんかより、その方がどれ
だけ立派な事か。どれだけ大切なことか。それはぬいぐるみであるケット・シーの機能限界であり願い
だった。
言外に含まれたケット・シーの意図を汲んだマリンの頬を、一筋の涙が伝う。
『おおきにマリンちゃん。でもホンマに、ついででエエねん。無理せんといてな?』
差し出されたマリンの手を、ケット・シーは両方の手で包み込むように握りしめた。ふわりとした感触は、
いたわりの言葉と共にマリンに伝わる。
ケット・シーだって誰かが泣いてる顔を見たい訳じゃない、だけど涙を堪えている顔よりは、ずっと良い
と思った。
『ボクの胸で思いっきり泣いたらエエで!
……って、すんませんボクのサイズがもうちょい大きければ、マリンちゃんをこう、ぎゅ〜って抱きしめ
られたんやケドなぁ〜』
おしい事したなぁ、と戯けたようにしてケット・シーが言うと、マリンは涙で頬を濡らしながら笑顔を作る。
それからこう言った。
「しょうがないな、それも私が代わってあげるね」
涙を流せないケット・シーの代わりに泣くことも、抱きしめてあげる事も。
「……ありがとう」
マリンの言葉は、やがて嗚咽に消えた。頬を流れる涙を拭うこともせずに、ただただ静かに泣いていた。
彼女の腕に抱かれる中で、ケット・シーは考える。
――きっと涙は、悲しいから流れるんじゃない。
怒りに打ち震えたときに流れるもんでもない。
(マリンちゃん、しんどい思いさせてしもてすんません。ボクは……)
――きっと。
心が傷ついたときに流す、血のような物なんだと思った。
(ボクには流せる血も涙も……何もないんや……)
――おかげでボクが、所詮は作りモンやったって事に改めて気ィ付いたんや。
本物ちゃうで? "本物みたいに精巧な"作りモンなんや。
せや、作りモンには作りモンにしか出来ん事があんねん。
(せやからマリンちゃん、次は泣かんでもエエからな。泣かんといてな? やっぱ泣かれるんはイヤやし。
しかもボクが泣かした言うたら、デンゼルにエライ怒られてまう、そら勘弁や〜)
ケット・シーが結論にいたって顔を上げると、部屋の入り口に立った彼らと目があった。
----------
・229に来てようやくこの話の本題というか、インスパイア勝手解釈祭り実施中です。
インスパイアの操作対象は「無機物=非生物」、これは今作での解釈でありFF7作中での正確な解釈は
…こっちが聞きたいですw
・解説やらこれまでの伏線っぽい違和感の説明やらができてれば良いなと思ってるけど、実は微妙w
・諸事情あって次の投下まで時間が空いたら申し訳ないです。
乙!
GJ!
質問
ここって恋する小説じゃなきゃダメなの?
恋してない小説もあうわ何をすr(ry
他の小説スレが無くなっちゃったからなー。
俺は何でも喜んで読む!
書き手は一人でも多い方が楽しいよ!
>The...決意2、ラストダンジョンの方々
何なんだ久しぶりに来たら、朝からみんなして泣かせやがって…
リーブ頑張れ、ツォン期待sage、ケットもマリンもみんな頑張れ!!!
おつおつ!
乙
ほ
ぼ
ま
り
ん
実
は
携
帯
〜◆Lv.1/MrrYw 市毎度乙!
> ――きっと。
> 心が傷ついたときに流す、血のような物なんだと思った。
がすげーいい言葉だぜ!感涙した!って
書こうと思ったけど
http://music8.2ch.net/visualb/ な感じのお兄さん語録からの引用だったら怖い
と思って書き込めなかったぜ
でもいい言葉だぜ!
買って喜んでるヴィンセント
>369〜の続き
------------------
「駅周辺は片付いたようです。さすがにもう降りてくる者もいませんね」
住民避難・救済活動を手伝っていた元神羅兵がリーブに報告した。
「わかりました。ご苦労様でした」
「ただ…」
「ええ、避難勧告が徹底されなかった事への不満もいまだ高く、気力のある者は、我々を罵倒さえします。
更に、あの黒い液体を出す病の事でかなり混乱が広がっています。我々は一刻も早く、全ての生き残った
住民に食料や仮住居などの物資援助を徹底しなければなりません。それから、皆力つきているこのような
状況でも、食料が行き渡って少し落ち着けば、治安が不安定になります。そのための準備も行わなければ
なりません」
リーブは仮設テントに入り、腰をかけて考えを巡らせた。
この二週間ほどで、災害の少なかった地域からの食料供給パイプラインを整え、ミッドガルの東側に、
新しく寝泊まりできる、スラム街よりも衛生的な地区を作り始めた。リーブの声が届く範囲は限られていたので、
ある者はリーブたちとともに、ある者は噂を聞きつけ自主的に東に移っていった。
(あれから二週間。 救出活動や混乱を最小限に抑えるための活動を行ってきたが、我々だけでは決定的に
人数が少なすぎた。混乱で避難勧告を徹底できなかったと言うのは言い訳にはならない。あまりにも、
被害者が多すぎた。ボランティアの数は増えて、援助隊も組織と言えるぐらい大きくなってきたが…
組織、組織か)
携帯が鳴った。混乱を必要以上に広げないよう、彼は旧神羅の人的ネットワークを利用して、このエリアの
メディアと通信手段の普及にも努めていた。
「おっちゃーん!そっちどう?」
「ユフィさん、どうでしたか」
「うん、ヴィンセントはさっきどっか行っちゃったけどね、ゴンガがからウータイまで、
あっちこっちみんなまわってきたよ!どこの人たちも、ちゃんと食べ物とか送ってくれるって。
もう酔って酔って死にそうだったけどね。うえぇー」
「ご苦労様でした。おかげさまで、各地からの物資が既に届きはじめています」
「そっか、よかった! でもひどいね。住む所も何も無くて。全部1から作り直さないといけないんだね」
(全部1から…根本的に…作り直す…いや、再生を行う…)
「ウータイにもさ、黒い膿だす病気の人が結構いるんだ。だからって訳でもないけど、
ちょっとウータイにいようと思うからすぐにそっち行けないけど、おっちゃん頑張ってね!」
電話が切れてからも、彼は座ったまま考え続けていた。いつの間にか、夜が更けていたようだった。
机代わりに使っている輸送用の木箱の上のランタンに灯りをともすと、彼のものではない人物の影が映った。
「ツォンさん」
黒髪を後ろで束ねた、【元】タークス主任が立っていた。
「大分落ち着いてきましたね。我々の任務はこの辺りで終了としたいと思います」
メテオ襲来直後は、タークスも民間人の避難・救出活動を行っていた。統率のとれた彼らの行動は、
元神羅関係者やボランティアの寄せ集めとは比べ物にならないものだったが、それでも、被害の大きさに
対しては絶対的に人数がたりなかった。
「ありがとうございました。タークスの皆さんにも、ユフィさんたちにも手伝って頂きましたし、
ボランティアもかなり集まりました。でも、根本的に我々は力不足です。これまでの被害も、今後の復興も、
圧倒的に力不足です」リーブはため息をついた。
「出来るだけの事は、我々の方でもあなたの方でもやってきましたが…残念ながらその通りですね」
「ええ、でも力不足というのは言い訳にならないんですよ。・・・そこで」
リーブは改めてツォンの顔を見上げた。
「復興を援助する、きちんとした組織を作ろうと思うんです」
「組織ですか?もう既にある程度、救出と援助組織は出来上がっているのではないですか?」
「世界を…1から作り直すまでは行かなくても、再生する事が出来る、少なくともその手伝いをする事が
出来る組織です」
----------------------
(手記)
これが、【世界再生機構WRO】構想のはじまりだった。
彼がWROを正式に発足させる事を決めてからの行動は、とても早かったときく。彼は私財を投じて正式な
組織作りを始めた。勿論災害現場で金などは何の役にも立たないが、被害が少なかった世界の他の地域に行けば、
金がまだ力を持つ事を彼はよく知っていた。 神羅カンパニーでは統括であったほどの男である。彼はとにかく
頭が良かった。
そんな訳で、私達がルーファウス元社長と再会し、彼の介護などに尽力している間に、彼は多くの人々を
救う事を考え、次々と実行に移していった。1年もたたないうちにミッドガルから少し離れた所に本部
(といってもはじめは仮設の小屋に過ぎなかった)を設置し、正式に【世界再生機構WRO】を発足させた。
はじめはとにかく力を貸してくれる者を大々的に募集した。とにかく、少しでも多くの人間が必要だったのだ。
そうして集まったWRO隊員たちは、各地から送られた援助物資を住民に分け、ミッドガルや崩壊の危険が
ある地域を立ち入り禁止にして街を取り締まり、黒い膿を出す謎の病気についても調べ始めた。そうなると、
今度は資金が問題となってきた。当然である。元統括の資産とはいえ、彼個人の私財のみで大きな組織を
維持していくのは不可能だ。WRO局長となったリーブが再び悩み始めたとき、彼は資金援助をしたいという
無記名の通知を受けた。
------------
-----------------------
ルードは、WRO本部がやっと視認できるほどの位置で車を止めた。車を降りると、思ったよりも風が強く、
彼は思わずサングラスに手をかけ、改めて本部のある方向を眺めた。本部と言っても、そこから見えるのは
いくつかの小屋と、大量の資材、それに数台のトラックだけだった。
しばらくすると、一台のトラックが彼の前に止まった。乗っているのは、リーブ一人のようだ。
手紙で指示した通りである。
強い風を遮るために目の上に手をかざしながら、リーブはトラックから降りてきた。
「おひさしぶりで」「私は、資金援助をしたいと言う者の代理人としてここに来ている」
ルードがリーブの挨拶を遮って短く言った。リーブはルードを見つめた。サングラスをかけているので
表情までは分からなかったが、つまり、そういうことなのだろう。
「わかりました。では、交渉に入りましょう」
----
「・・・これで、手続きはすみましたね」リーブは代理人から受け取った書類をもう一度まとめて持ち直した。
「この本部は」代理人が言った。「とてもいい位置にある。ミッドガルやカーム、それに海からも遠くなく、
一方は崖と断崖、一方は平野。交通の便はいいが、簡単に攻める事も出来ない、天然の要塞のようだ」
「まぁ、そんな敵もこれ以上現れないで頂きたいものですが」 リーブは後ろを振り返って本部の方をみた。
「これだけの災害があったからといって、あとは永遠に平和だという保証はありませんからね。
WROは治安維持も行っていますから、最初の段階から備えておくのも、悪くはないと思いまして」
「・・・連絡は、定期的にこちらから行う」代理人はそう言うと車に乗り、リーブの方を振り返りもせずに
走り去っていった。
-----------
--------------------------
(手記)
結果的に、彼は間違ってはいなかった。勿論永遠に続く平和などないのだが。その後しばらくして、
ミッドガルから強大な力を持った軍隊が現れた。ところがその力が想定外のものであったために、
「天然の要塞」も一夜にして崩れ去ってしまった。・・・しかしこれはもう少し先の事だ。
WROの初期にはなしを戻そう。
彼は得た資金を再び上手く使い、WROは質量ともに大きな充実した組織となった。そしてそのWROの
援助の元、ミッドガルの東側に作ったエッジの街は瞬く間に発展した。街の人々にも笑顔が戻ってきた。
しかし、唯一人々の間に留まり、不安と恐れを抱かせていたのが、あの黒い病気、星痕症候群だった。
実は私自身、その後の任務で怪我を負っていたので、この辺りのはなしは、その後きいたものに過ぎない。
私達は、セフィロス亡き後の大空洞でジェノバの首を探し出し、持ち出す途中に何者かの抵抗を受けた。
結果、私ともう一人のメンバーは拉致され、拷問を受けた。そのメンバーの一人の女性を逃がす事が出来ず、
彼女にも生死をさまようほどの重傷を負わせてしまった事を、今でも私は悔やんでいる。
私達を拉致した者たちは、セフィロスの思念が作り出したものであるらしかった。そう、思念体である。
彼らはジェノバの行き先と、私達の目的についてしきりに問いただしたが、私も、もう一人の女性もそれを
もらす事はなかったため、思念体たちは大空洞から外に出て、ジェノバの首を探し始めた。彼らはジェノバと
リユニオンを果たすのだと言っていた。もし私達がジェノバの首を入手していなければ、彼らは何の障害も
なくリユニオンを果たし、新たなセフィロスやジェノバがこの星を襲っていたのかもしれない。結果的には
良かったと言う事なのだろうか。
ともかく、毎日続く拷問で生死をさまよっていた私達を助けてくれたのが、「ジェノバ戦役の英雄」であり、
我々の古い先輩に当たる、ヴィンセント・ヴァレンタインだった。彼は私達二人を忘らるる都まで運び出し、
出来るだけの手当をしてくれた。
私は仕事上、生死をさまようほどの傷を負ったのはそれがはじめてではなかったが、この時ばかりは
彼が助けれくれなければ本当にライフストリームに還っていただろう。歳を取って、このように手記を
書く機会など勿論無くなっていたはずだ。私だけではない、もう一人の女性も同様だった。
私達の容態が落ち着いた所でヴィンセント・ヴァレンタインは去っていってしまい、私は今日まで彼に
直接礼を言う事が出来ずにいるが、彼には、本当に感謝している。
その後私とその女性はチームに戻り、まずは体力を戻す事に専念した。しかし同時に、思念体たちの活動が
活発になり、3人の思念体たちはジェノバの首を持つルーファウスの屋敷にもやってきた。彼らはジェノバ
思念を体に取り入れた(星痕症候群をもった)子供たちを集め、エッジの町を破壊しながらジェノバの首を
探した。
結局、ルーファウスが所持していたジェノバの首と思念体はリユニオンを果たしたが、我々と連絡を
取っていた「ジェノバ戦役の英雄」クラウドとその仲間たちによって再度封じられた。私とチームの女性が
完全に任務に復帰できるようになったのも、この時だった。
この時リーブ・トゥエスティは、かつてのジェノバ戦役の仲間たちから思念体たちの情報を入手し、
ジェノバ戦役の際に使用したケット・シーと呼ばれるロボットを再度派遣して間接的に闘ったが、
自身はWRO局長として、エッジ周辺の出来る限りの治安維持と、その後の住民のケアと壊された街の
復興に尽力をつくした。
今日言われるところの、所謂【福音の雨】が降り、【福音の泉】が湧いたのはこの時の出来事である。
再度思念体が倒されたあと降った雨は、人々の黒い傷を癒し、元ミッドガルスラムの教会址から湧いた泉も、
同様の効果を持っていた。
若かりし頃に私も大事に思っていた事がある古代種の少女がいつもこの教会にいた事から、
その少女の名前をとって【エアリスの泉】とも呼ばれている。
(福音の雨とジェノバ、私達との関連についての詳細は秘密裏に処理され、
これまで誰からも語られる事が無かった。しかし、遠い昔となってしまった今、
私はこれについてもきちんと綴っておくことにした。私達が犯した罪、
あれを罪と言うのかどうか分からないが、それを償うためにも。
時系列が少しずれるが、この古代種の少女についても、少し書き留めておこうと思う。
過ぎ去った日の大切な思い出であり、決して手に入らない宝物であったあの少女の事を。)
-------------
空気読まずに投下させて頂きましたが、
説明部分が終わってこれからって所で
規制引っかかりまくりなので出直してきます…
>>402-409 GJ! 代理人がタークスだったら面白いんだけどなーって思ったら期待を裏切らずやってくれたw
ありがとう!
FF7エンディングに登場しない(リーブに至ってはDCのオープニングにも出ないけどw)
彼らの遣り取りが良い感じです。「再生」の旗印を掲げるに至った経緯までちゃんと描かれてて
さすがは主任、良い仕事をしてくれます。続き期待sage
>>389 亀レスだけども。
すべては
>>1に。たぶん「恋する」=「恋愛」って意味だけじゃないと思ってる、曲解だろうけど自分は。
だから心の赴くままキーボードに向かえ!そして投下してまえば良い!!
ちなみに板内での小説総合スレ的な存在は↓ここ。
FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の3
http://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1182600123/ 確かに一頃に比べて小説スレって減っちゃった気がしますね。
なんか普通にゲームやコンピの文章化を読んでるような気がしたが
よく考えたら大半が公式には出てない部分なんだな。
当たり前だけどびっくりした。
というわけでGJ
ルードファンより。
>>412 まったくだよな。これが公式じゃないなんて信じられないくらいの文章力だ。
職人さんみんな超乙!
おつおつ
ほ
ん
た
い
論
語
保守
派
ほ
い
ー
る
ば
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く
と
ら
れ
て
お
ろ
お
ろ
ち
FF4(DS版)
バイブルの塔進入前の魔導船にて
----------
魔導船は故郷の大地を離れ、星々のまたたく宇宙空間に向けて徐々に高度を上げていた。
地表から一定高度に達するまで、転送機能は使えないからだ。
船に乗り込んだセシル達の故郷まで短い船旅ではあるが、彼らにとっては貴重な休息だ。
暫しの間、広い船内で皆が思い思いに過ごしていた。
そんな中、特にやることもなかったエッジは、ぼんやりと眼下で遠ざかっていく月面を見下ろし
ながら思い出したように呟いた。
「あのじーさん、こんな場所にずっと一人って、淋しくねーのかな?」
エッジの目に映る月にはどこにも──闇に覆われた空には浮かぶ雲も吹く風も、褪せた色の
大地には生い茂る草木も流れる川も、月の世界の人々は深い眠りに就いているため声も活気も
──何一つもなかった。それでも、ときおり現れてくれるモンスターに辛うじて生命の息吹を見た、
というのは皮肉でしかない様な気もする。
そんな世界にたった一人、老人は暮らしていた。フースーヤと名乗った彼は、月の大地に眠り
続ける民達を見守る番人として8つのクリスタルと共に居続けているのだと、自らのことを言葉少なに
語った。
「……俺ならご免だなぁ……」
ちらりと見やった老人の背中は、何も答えてくれなかった。
だからといって正面から聞いたとしても、きっと彼は答えてくれそうにないだろうなと考えて、
エッジは苦笑を漏らす。
「エッジも見習って、少しは落ち着いたらどう?」
思わぬ方向から声を掛けられて、勢いよく顔を向けた先にはリディアが立っていた。すらりと伸びた
手足に加え、女性的な身体の輪郭線を強調するような服装も相まって、ただ立っていれば妖艶さを
兼ね備えた絶世の美女と評しても過言にはならないだろう。しかし片手を腰に当て仁王立ちした今の
姿は、いっそ凛々しいと表現してしまいたくなる。
(黙ってりゃあ可愛いのになぁ〜……)
盗み見るようにして視線を向けると、リディアはニッコリと微笑んでいた。その麗しさにつられて思わず
エッジが微笑を返すが、彼女の手に鞭が握られているのを視界の端で捉えるや否や、浮かべていた
笑顔が一瞬で引きつり背中を嫌な汗が伝い落ちていった。
「言いたいことがあるなら、どうぞ?」
「いっ、いえ何でもございません」
忍びと言うだけあって仲間達の中でも随一の素早さを誇るエッジをもってしても、ストップとホールドを
同時に喰らっては手も足も出せない。忍術こそ使えるが魔法はからきし使えないし、っていうかそもそも
今、詠唱したか? 混乱しながらエッジはひたすら首だけを横に振り、リディアに対して戦意がないことを
主張する。
「……あ、あの、ところで、リディアさん? 白魔法……って使えましたっけね?」
エッジは矛先を逸らそうという意図で、苦し紛れにそんなことを聞いてみた。ところがこれが思わぬ
形で功を奏すことになる。
「昔は、ね」
「えぇっ!?」目を丸くしたエッジは、大袈裟に驚いて見せた。
幻界へと旅立つ前のリディアと共に旅をしていたセシルやローザならばともかく、エッジはその事を
知らない。リディアはそれを察して、エッジの問いに素直に応じたのだった。
話を切り出したエッジの目論見通り、リディアの矛先が自分から逸れたことに内心で安堵しようと
した。ところが、その暇を与えずリディアの言葉はこう続く。
「だからあの人……」リディアの視線を追ってエッジが顔を向けると、その先にはフースーヤの背中が
あった。「とても強い人だと思うの」
「まあ、俺には適わないけどな!」
エッジに向けられたリディアの鋭い視線は、今度はストップとサイレンスの効果を同時にもたらした。
それからリディアは俯きがちに自分の両手を見つめながら言った。
「今はこうして幻獣を呼び出せる様になったけど、私にはもうケアルさえ使えない」
魔法というのはそれだけ扱いの難しいものなのだと、リディアは言う。1つの魔法を覚えるにも鍛練が
必要だし、何より才能がなければいくら鍛練を積んだところで魔法は習得できない。それに本来であれ
ば白魔法と黒魔法は相容れぬ存在、どちらかの力を求めれば、どちらかの力が滅してしまうのは必然
なのだと聞いたことがある。まさに今のリディアだった。
かつて出会ったテラがそうであった様に、両方の魔法を習得しその威力を維持することは、彼が『賢
者』と呼ばれていたことからも容易でないことは想像に難くない。そして魔法は、使い方を誤れば詠唱
者自身をも滅ぼしてしまう恐ろしい力なのだと言うことを、賢者は身をもって彼らに教え、世を去った。
リディアがフースーヤを「強い」と言った理由がここにある。力を持ちそれを長年にわたって維持しな
がらも、力に取り込まれずに自分を保ち続けている。それは言葉で言うほど簡単ではない。
軽口を叩いてはいるが、それはエッジとて十分に理解している。素早さや攻撃力こそ皆と比べれば
劣っているが、魔法についてはリディアやローザ以上の実力を備えている事は、ここまでの道のりで
見てきている。それらは言葉で語られるのではなく、どれも戦いの中で示されてきた。
そして何より、力を得るためには相応に強くならなければならない。
――『感情に振り回される人間では、真の強さは手に入らん』
脳裏に過ぎったのは焔の壁と、許し難き宿敵の声だった。だがそれは違わず真理を突いていた。
悲しみを乗り越えて、怒りによって新たな力を手にした今のエッジには、その言葉を理解することが
出来た。それでも結局、得ることのできた力は数えるほどの技でしかない。
ではそこまで強くなるために、フースーヤは一体どんな道を歩んできたのだろうか。いくつの感情を
越えて来たのだろうか?
ここへ至るまでに何を見、そして何を思ったのだろうか?
闇と静寂の支配する月の大地に立つ孤高の番人は、黙して語らず。
今は亡き故郷の星を出てから、他の民達が眠りに就くまでの長い間。そして青き星へと旅立った
弟の背を見送り、さらに長い時を孤独に過ごして来た。フースーヤの口から語られた少ない言葉の
中に垣間見えるのは、彼が遭遇したであろう数多の別れの物語。
彼らがそれを知る由は無く、また番人も自ら語ることはないだろう。
「青き星と、そして月の民の為に……」
その言葉を口にしたフースーヤの目は青き星、エブラーナに顕現したバイブルの塔だけを見据えていた。
─番人は、黙して語らず<終>─
----------
・「おれはしょうきにもどった!」…と言う事で、リハビリと保守を兼ねてのFF4。お粗末様でした。
・巨人体内で制御装置と6回ぐらい戦ったお陰で、フースーヤが好きになりましたw貴様よくも騙ry
・フースーヤ視点FF4。THE BEFORE-自由への帰還-を出して欲しいなと本気で思い始めました。
嘘泣きフースーヤ可愛いよ、フースーヤ。制御装置については嘘吐きフースーヤだったけども。
・最初「自由帰還軌道」と書いたらすっかり別の世界観になったので「高度」と記載しましたが、
自由帰還軌道を凄い高速で移動する船、なんだろうなと思ってます魔導船。
GJ!
・・・あれ?らすとだんj
ひとまず保守をば。
ほ
乙!
おつおつ
前話:
>>379-386 ----------
ケット・シーはジェノバ戦役の英雄であると同時に、W.R.Oの隊章にもなっているだけあって世間的な
知名度も高く、愛くるしい見た目からマスコット的な存在としても親しまれている。
そんなぬいぐるみを操作しているのがW.R.O創設者にして現局長のリーブであるという事も、ケット・
シーが「局長の分身」と言われるほどに広く知られている話だった。しかし、ケット・シーに向けて
「リーブ」と呼びかける者は誰もおらず、彼らを同一視しないというのは仲間内でも暗黙の了解とされて
いる向きがあった。
「……リーブ」
しかしヴェルドにとってそんな了解などどうでも良かった。それよりも今は一刻を争う事態なのだと、
険しい表情でケット・シーを見下ろすと単刀直入に切り出した。
「直ちに空爆命令を撤回しろ。事態はお前が思っている以上に悪いぞ、このままでは――」
『ちょ、ちょい待ってーなオッサン』
マリンの肩越しに顔を覗かせたケット・シーは慌てて応じるが、お構いなく話を続けようとしたヴェルド
を掠れたマリンの声が制した。
「……待ってください。ここにいるのはリーブさんじゃありません」
抱えていたケット・シーから手を離し、両手で涙を拭いて振り返るとマリンはヴェルドを見上げた。
ヴェルドとは初対面であるはずだったが、すぐ横に立っていた店の顔なじみケリーと、どうやら二人を
連れて戻って来たらしいデンゼルの姿を見て、彼らがセブンスヘブンの客としてここへ来た訳では
ないのだろうという状況を察した。
それからマリンはしっかりとした口調でこれまでの経緯――4年前のセフィロス再臨の日に
ケット・シーがこの家に来た事。その後の幽霊事件への調査協力の事。そして今日の事――を、
訪問者達に話して聞かせた。デンゼルがカウンターへ降りていった後、通信の向こうで交わされた
バレットとの遣り取りも含めて、それは彼女が知る限りのすべてだった。
――「皆さんを信頼しているからこその依頼です。」
マリンを介して聞かされたリーブの言葉に、ヴェルドは込み上げてくる感情を握りつぶすようにして
拳を作った。それはつい先程、自分宛にかかってきた電話の中でリーブが告げていた言葉の意図を、
最悪の形で裏付けるものだった。
――『人間が自分の余命を知る方法なんてありません。
ただし、たった1つだけ例外があります。』
(……お前は……)
自ら死に急ぐような事ももちろんだが、よりによって何故その方法を選ばなければならなかったか?
それがヴェルドには理解できなかった。
しかも今回の件は仲間達だけではなく、W.R.Oや飛空艇師団まで巻き込んでいる。なぜそこまで事を
大きくする必要があったのか? 市民の不安を煽り、いたずらに混乱を招くだけではないのか?
ヴェルドの知るリーブならば、それは最も嫌う事態の筈だ。
彼の懸念は、床にばらまかれた紙片を拾い上げたケリーが代弁してくれた。
「もうこれだけの情報が流れてるのか。……いったい狙いは何なんだ? 俺達を混乱させたいだけ
なのか?」
「それ、さっきフレッドさんが持って来てくれたんです。慌てた様子で『ティファに渡して欲しい』って」
「フレッドの奴が?」
ケリーと同じく店の常連だったフレッドは、ふだんは主にエッジの再建作業に勤しむ傍ら、各地に
点在する施設の復旧やメンテナンスのために世界中を飛び回っているW.R.O技術部所属の構成員
だった。今日は非番だと聞いていたが、この非常事態で招集が掛かったのだろう。それにしても
ティファになぜこんな物を? ケリーが首を傾げた。
『……もしかしてリーブはん、誰もようやらん事しようとしてるん違うか?』
応じるようにして言ったケット・シーの声色が少し変わって聞こえた。皮肉を込めたようなその声に、
ヴェルドとケリーが同時に顔を向ける。
『ネットワークに流れとる情報、さっきボクも作業の片手間に見さしてもろたけど、……なんやくだらん
話ばっかやな』
それがケット・シーの憤りだと言うことに気付いたのは、このときだった。
『困った時だけ他人に頼って、好き放題言ってる連中が多すぎや。神羅の時かてそうやけど、何でも
かんでも“英雄”やて持ち上げて、自分に都合悪なったらみーんな責任押し付けとるだけやないか』
確かに神羅カンパニーが犯した罪や過ちというのは、糾弾されて然るべき事実として今なお存在して
いる。リーブがW.R.Oを立ち上げた動機の一端には、神羅勤続時代に知らずと犯した罪過を償うため
というのもあっただろう。
しかし時を経ても消えない罪の一方で、同時に功績も存在していた。魔晄エネルギー発見から
めざましい躍進を遂げた科学技術は人々の生活を豊かにし、さらに海運業の発展や飛空艇による
流通機構の整備が進むことで地方交易が盛んになった。長期化した戦役は戦地で死者を増やす
一方、技術革新を加速させ経済発展をもたらした。こうして富と繁栄に支えられ、遂には人を宇宙に
まで送った。
繁栄の象徴とも言える魔晄都市ミッドガルがそうであったように、神羅の功罪は表裏一体だった。
それは豊かな生活の裏にある残酷な現実から、多くの人々が目を逸らしていた結果とも言える。
『神羅が悪い、アバランチが悪い……ホンマはそんなん違うねん。誰も自分が責を負いたない、そう
思とるだけ違うんか? これじゃW.R.Oは神羅の二の舞になるで。そんなん占わんでも分かりきった
事や』
「……なるほど、一理あるな」頷くヴェルドにケット・シーはさらに言う。
『一理どころや無いで』
彼は本気だった。
「ときにリー……いやケット・シー」
不機嫌をあらわに断言するケット・シーに対して、ヴェルドは声と表情に隠しきれない多少の困惑を
浮かべながらも、その質問を口に出した。
「お前はリーブの分身ではなく、代弁者としてここにいるのか?」
『なんやて?』
問う側と問われる側に、目に見えて行き違いがある気がした。しかしそれはヴェルドだけに限った
話ではないだろう。
「俺はケット・シーを操作しているのがリーブだと認識しているんだが?」だとするならば、ケット・シー
が語る内容はそのままリーブの言葉として受け取れる。ケリーをはじめ、W.R.O隊員や市民の誰もが
そう考えていた。
「確かにお前の言った事には一理ある。だがそれを、リーブ本人が発言できないという事情は察して
いる。別にその事を責めるつもりも、理由もない」自身の立場をわきまえて、口にするべき言葉や振る
舞いに配慮している。そう言った言動は、都市開発部門にいた当時から変わっていないし、間違い
ではなかった。「しかし敢えて本人自身ではなく、お前を通してそれを言ったということは、世間で
言われている様なリーブの『分身』ではなく『代弁者』という事になるだろう?」
結局のところ本人が操作しているぬいぐるみだから、結論は同じになるはずだ。それを承知でリーブ
がケット・シーを操作して発言したのだと考えれば、そこに何らかの意図があるのではないか?
だからヴェルドは問うたのだ。
ところが問われた方は無言でヴェルドを見上げるだけで返事をしなかった。やがて俯いてしまった
ケット・シーに代わって答えたのはマリンだった。
「さっき、私達も同じ質問をしたんです。そしたら『リーブさんはボクの呼びかけに答えない』って……」
「呼びかけって?」手元の紙片から目を離すと、首を傾げながらケリーが問う。「通信回路に障害が
あったって事なのかな?」
「本当ならケット・シーはもうとっくに壊れている頃なんだって……言ってた……けど」
躊躇いながらデンゼルは机の上のケット・シーに視線を向ける。まだ俯いたまま、ケット・シーは
答えようとしない。
「どうし」デンゼルの言葉に重なるようにして、ようやくケット・シーが小さな声を発した。
『……よう考えたら、おかしな話なんや。せや、もっと早う気付くべきやったんや』
顔を上げたケット・シーは、真っ直ぐにヴェルドを見上げてこう続けた。
『本来ボクはリーブはんが操作しよった通りに動く、ぬいぐるみなんやけど、今は違うねん』
「リーブは操作していない。つまり先ほどの発言も含めて、お前は自分の意思で動いている、と言う事
か?」
『……ボクの意思……って言うとそうなるんやろうけど、どーもその辺がイマイチ分からへんねん』
所詮ケット・シーは作り物、同じ型のぬいぐるみなら他にも沢山ある。高性能マシンを搭載している
とは言え、自律稼動するほど高度なプログラムが組まれているかと言えば、そうではない。あくまでも
マシンは動作補助のためでしかないし、実際リーブ――あるいはリモコンを使い操作する主体――が
いなければ、尻尾さえ動かすことは出来なかった。
それはここ数年間、ケット・シーがまったく動かなかった事実が示している。
しかしつい先ほど、この部屋でケット・シーが"再起動"したのはリーブの意思によるものではない。
デンゼルの名前を呼んだのは、リーブではなく確かにケット・シー自身だったのだ。
『今のボクは、どないなっとるんやろ? 多分、ボクは他にもおるはずやのに……』
今こうして起きている不可解な現象について、ケット・シーはぽつりとこう呟いた。
言ってみればこれは「システムエラー」だと。
----------
・2ヶ月ぶりなのに、テーマを詰め込みすぎてgdgdな事を今さら思い知った。
ここまで読んで下さった方、心からありがとう。
・DCのケット・シーはもう少し毒舌でも良かった気がする。FF7から年数を経て性格が丸くなった、とか?w
・451辺りは、兵器開発部門視点でFF7を見るとこんな感じだと思う(Part6-521)を形にしてみた…つもり。
・一応、拙作では「ケット・シー≠リーブ」という扱いです。分身と代弁者の違いで上手く語れなくて
すみませんでした。(…だから書きましたw)
ktkr
GJ!
保守
感想を書いてもいいスレは他にあるんですか?
スレ内のSSの感想なら、そのスレに書いてあげた方が書き手さんは喜ぶと思うよ。
このスレの場合なら
>>1にもあるとおり、感想はむしろ歓迎してる。
おつおつ!
460 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/08/14(木) 10:23:53 ID:HzINQP2x0
http://jp.youtube.com/watch?v=LbuSijwmJ9M コ永英明 夢を信じて
いくつの町を越えてゆくのだろう
明日へと続くこの道は
行くあてのない迷い子のようさ
人ごみにたたずむ君は今
恋することさえ恐れてた昨日に失くした涙を探してる
夢を信じて生きてゆけばいいさと
君は叫んだだろう
明日へ走れ 破れた翼を胸に抱きしめて
自分の空を越えてゆくのだろう
さよならにおびえず 君は今
傷ついた心 疲れ果てた胸を
凍える両手に温めて
心のままに生きてゆけばいいさと
君は笑っただろう
明日へ走れ 破れた翼を胸に抱きしめて
夢を信じて生きてゆけばいいさと
君は叫んだだろう
明日へ走れ 破れた翼を胸に抱きしめて
>>460 昔ドラクエのアニメで使われてた・・・っけ?
--------
The Way We Were
>>409の続き
--------
いつからだろう。仕事の間に、スラムの一角の花の溢れる家に足を向ける事がひとときの安らぎとなったのは。
正確に言えば、これも任務、それも重要な極秘の任務であった。
【古代種の最後の生き残りを実験室に連れ戻す事】これが、私がその家に向かう理由だった。
彼女は幼い頃神羅の実験室に母親とともに連れてこられ、母親がその子を連れて逃げる途中で死亡した後は、
スラムに住むエルミナと言う婦人のもとで育った。その子を、再び神羅へ連れ戻す事、要するにこれが
私に与えられた仕事だった。神羅は、彼女から古代種の間に伝わる「約束の地」についての情報が欲しかった。
-------------------------
(編集者注:以下数ページにわたって破り取られたあとがあり、一枚のメモが挟まれていた。
次にそのメモの内容を原文のまま記載する。)
---はじめてその家に足を運んだ日、私は花の中で踊る妖精をみた。
君は、幼い頃研究室に連れてこられた。
覚えている、君とはじめて会った日。
母と二人研究室に閉じ込められ、それでも君は輝いていた。
君がどんどん大きくなっていくのを、いつも見ていた。
母親ににて物怖じせずいつも明るい君は、妹のようであり、年が離れた幼馴染みのようでもあり、
機械と実験だけの研究室を明るく照らしていた。
任務が終わって本社に戻る度に、少しずつ成長していく君を見るのが楽しみだった。
いつまでも君の笑顔を見ていたかった。
君が少し大きくなった頃、母親は君を連れて研究室から逃げ出した。
君との一度目の別れだった。
母親と君が幸せに、「普通に」暮らしていける事を願ったが、
もちろんそれが叶わぬ夢である事も分かっていた。
しばらくして居場所が特定され、私は【監視】という任務のために、君の住む家へと向かった。
日の当たらないスラム街を進むと、突然一面に咲き誇る花が見えた。
そして、花に囲まれて、一人の妖精が笑っているのを見た。
----君だった。
Time Passed Me By
私の知らぬ間に、時間の魔法にかけられて
幼くやんちゃだった君は
いつの間にか輝く笑顔を持つ女性になっていた。
--------------
私の任務は、君の監視と、保護ーと言う名目の連れ戻しだった。
しかし、私は無理強いをするつもりは毛頭なく、時間が出来ればその都度通って、
君が協力してくれるのを待った。
話す仕草も、怒る仕草も、研究室の中を駆け回って男の子のように泣いていた小さな少女のものではなかった。
しかし花に囲まれたフェアリーの微笑みは、確かに君のものだった。
君が変わっていく全てを見つめていたかった。
ただずっと君が花に囲まれて笑っているのを見ていたい。
今や君は妹でも幼馴染みでもなかった。
恋や愛情と言う言葉で説明する事も出来なかった。
君はただ、手の届かない宝物だった。
ずっとずっとしまっておきたい、宝物だった。
やがて君は一人のソルジャーに恋をした。
私はそれまでと同じように君を、君たちを見守っていた。
私の宝物と、君が恋したソルジャーに幸あれと願った。
しかしこれも叶わぬ願いである事は分かっていた。
そのソルジャーは君の安全を私に託し、命を落とした。
-------
星の危機が近づくと、君は仲間とともに旅立った。
星と語り合うために。
君の監視は重要任務ではなくなり、私も彼女とは違う道のりで星の危機に直面していった。
古代種の神殿で倒れた私の所に、君は仲間たちとやってきた。
私はひどい怪我を負っていたので、君たちに願いを託した。
「セフィロスが……捜しているのは……約束の地じゃない……くそっ……エアリスを……手放したのが
ケチ…の……つきはじめ…だ…社長は……判断を あや……まった……」
「あなたたち、かんちがいしてる。約束の地、あなたたちが考えてるのとちがうもの。
それに、わたし、協力なんてしないから。どっちにしても、神羅には勝ち目はなかったのよ」
?「ハハ……きびしいな。エアリス……らしい……言葉だ」
朦朧とした意識の中で、私は、確かに、彼女の頬から涙が流れ落ちるのを見た。
「……ツォンはタークスで敵だけど 子供のころから知ってる。わたし、そういう人、少ないから。
世界中、ほんのすこししかいない わたしのこと、知ってる人……」
どんなに望んでも、手を伸ばしても決して触れる事の出来ない宝物。
君は私のために泣いてくれた。
?これが、彼女との二度目の、そして最後の別れだった。
---------------
君は、かつて君の先祖たちが創った都で、命を落とした。
君は、星へと還っていった。
私がどんなに望んでも決して手に入れる事が出来なかったあの微笑みは、永遠に失われた。
いや違う、誰にも汚される事のない星の海へと、還っていった。
君はもう追われる事もない。
危ない目に遭う事もない。
でも、私は、二度とあの微笑みを、花々の間で踊っていたかわいらしい妖精の姿を見る事は出来ないのだ。
Time Passed You By
君をおいて時間は流れ、君が祈った通りに星は生き延び、私も歳を取った。
私に託してくれた88通の手紙、君が恋したソルジャーへの手紙は
君が星に願いを届けた場所に沈めた。
君は怒っているだろうか? 私が手紙を届ける事が出来なかった事を。
君は怒っているだろうか? 私が彼を助ける事が出来なかった事を。
君は怒っているだろうか? 私が彼の死を伝えなかった事を。
君たち二人は、楽しく手紙を読んだだろうか。
私もまた、そう遠くない未来に君たちの所へいく事になるだろう。
君たちが幸せであるのを見る事が出来るのであれば、私の人生には悔いは無い。
その時は、一度でいい、また君の笑顔を見せてくれ。
-----------(編集者注:メモここまで)---------------
・少し詩的な主任の心の中。
・古い歌が元ネタになっていますが、分かる人はおるまい…
・ツォンとエアリスの話は星の数ほどありそうですが、自分の考えるツォンの内情を表そうとして微妙にgdgd
-------------------------------------------------
ツォンとエアリスとの【特別な関係】は、はじめて本編をやったときから気になって気になって
仕方が無いものでした。 ずっと待ってる、見守ってるツォン。タークスとしてのプロ意識とともに、
沢山のいろんな想いが渦巻いていたのだと思いますが、彼もまたリーブと同じく、
それを表現する事はしない人です。でも、
神羅が健在の時には、
・神羅社員と言うよりタークスとして任務をこなしていたツォン。
・神羅社員として、市民のために自分に出来る精一杯の事をやっていたリーブ。
神羅が無くなってしまってからは、
・借りのためもあってルーファウスと言うかつての神羅の象徴(置き土産?)に仕えたツォン。
・自らWROを設立し、信じる道を進んでいったリーブ。
二人の生き方の対比を表現したい、と言う小説です。
次からは場面も変わって時間も流れていろんなひとも出てきます。
(後説に1レス使ってしまってすみませんでした)
----------------------------
(当時の映像記録)
「副隊長、こちら終了しました」
「はい、では隊長の所で合流しましょう」シア・ダークライターは端末をポケットにしまい、
立ち入り禁止と書かれた柵の位置を真ん中に直した。
星痕症候群という悪魔が去った後のWROの最初の仕事は、思念体たちによって破壊されたエッジの
修復だった。戦闘員としてWROに入った彼女も、ここの所は訓練を中止し、毎日エッジの修復作業を
行っていた。WRO局長を務めている人物が元神羅都市開発部門統括だっただけあって、WROには街の
修復を行うにあたっての資材や物資の類いが十分に準備されていた。
隊長のもとに向かうシアに、一人の隊員が近づいてきた。
「おい、おまえの兄貴アバランチだったんだって?」
「はい、そうですが、何か?」
彼女の兄は、かつて反神羅組織であるアバランチに属していた。彼は星を救うと言って神羅と闘い、
七番街プレート落下の際に命を落とした。その後星は大きな災厄に見舞われ、彼女がいたスラムだけではなく
ミッドガル全体が破壊され、生き残った人々は逃げ惑い、途方にくれた。
「星に害をなすあらゆるものと闘う組織」としてWROが設立されたと聞いた時、彼女はすぐに入隊申請を
行った。兄のように、自分も少しでも星を救うために何かが出来たら、それだけが彼女の望みだった。
申請前は勿論、現在でも、彼女にも多少の迷いはあった。WROの局長なる人物は、兄が闘っていた神羅
カンパニーの元統括だ。WROの隊員にも、神羅の兵士だった者たちや、局長を慕ってWROに入った
元神羅社員が数多くいた。
そしてたった今シアに話しかけてきたWRO隊員は、他でもない、元神羅兵だった。
「ふぅん、ほんとなのか。よくWROになんて入ってきたな。元神羅関係者の巣窟なのに」
隊員は心なしか冷たい笑みを浮かべながら去っていった。
彼の言った事は、完全には正確ではない。WROには、ミッドガルからエッジに逃れ、無事に生き延び、
とにかく自分も何かがしたいと志願した者もかなり多かったからだ。しかし元神羅兵などは勿論戦闘の
プロなので、戦闘員としてすぐに使う事が出来る人材であるし、局長を慕ってついてきた技術者たちも、
ただ役に立ちたいとWROに志願したものよりは、プロとして実践力と即戦力を伴っていた。
しかしWROでは戦闘や技術関連の経験が無い者たちにも積極的にトレーニングを行う機会を与えているので、
最近では元神羅関係者とその他の者たちのスキル差は大分埋まってきた。
ー志を持つものが協力し、誰もが平等に任務に参加する機会とそのための訓練を十分に行うー
これがWROの方針だった。
シアがその局長の言葉を聞いたとき、入隊前から心の隅にあった迷いが吹っ切れた気がした。
しかし、隊員の中には、まだ【元神羅関係者】といった区分を完全には捨てきれない人が沢山おり、
特にエッジが作られて人々の生活が落ち着き、 WROの活動の内容が「緊急時の救助と復興」では
なくなってきた最近は、隊員同士の小競り合いや対人関係の不和と言った問題が常に起きていた。
ヒートアップして怪我を負う者が出るような喧嘩さえあった。
「ご苦労。今日の作業はこれで終了とする」
隊長が一日の終わりを告げると、シアはふぅ、とため息をついて空を見上げた。
自分の心の中では整理がついているつもりでも、さっき元神羅兵の隊員に言われた事が
何故か頭から離れなかった。
ーーなんで? 兄がアバランチだったのがそんなに問題なの?
WROは皆が協力して害をなすものと闘う組織じゃないの?
なんであの人は未だに神羅だのアバランチだのにこだわって…
「おい、おまえシアじゃないか」空転する思考を持て余していたシアの後ろで大きな声が響いた。
「俺だよ、バレットだよ!」
まだ幼い娘を肩に乗せてシアの方にやってくるのは、兄が属していたアバランチの元リーダー、
そして彼の愛娘マリンが抱いている人形は、WROの隊章ともなっているケット・シーだった。
「バレットさん! お久しぶりです。こちらにいらしたんですか」
「おう、ちょっと帰ってきただけなんだけどな。おまえWROに入ってたんだな」
シアは夕日に目を細めながら、バレットの肩の上を見上げた。
「マリンちゃんも久しぶりね。お姉ちゃんの事覚えてる?」
「もちろん覚えてる!」
バレットはにっこり笑っていた。
「今からセブンスヘブンに帰るんだ。お前も来ないか?」
---------------
娘と一緒に上機嫌で歩いていくバレットに連れられて、シアも店に向かった。セブンスヘブンは
もともとアバランチがアジトとして使っていた七番街スラムの店であり、その後バレットのかつての仲間
ージェノバ戦役の英雄の一人であるティファが、エッジで再開させた有名な店だ。スラムにあった当時は、
兄がいつもいく店としてシアも知っており、何回か遊びに行った事もあった。
店のドアを開けると、「いらっしゃ…あ、おかえり!」と男の子がこちらを振り返った。
「こいつはな、デンゼルってんだ。星痕症候群で苦しんでたんだけどな、この前のあれで治って、
すっかり元気になったんだ」
「うん、私も毎日デンゼルが良くなりますようにってお祈りしてたんだよ」マリンはバレットの肩から
飛び降りると、ケット・シーを抱えたままデンゼルと一緒に奥の階段に走っていってしまった。
「おい、ティファの野郎は店ほったらかして何処行ったんだ?」バレットが叫ぶと、
「知らないけど、夕方店が混む頃には戻るって言ってたよ。クラウドもどっか行っちゃった」
と言う返事が階段の上から返ってきた。
「なんだよ、せっかく忙しいケット・シーも連れてきたってのに、これじゃ話も出来ないじゃねぇか」
バレットは階段の方を見て文句を言ったが、シアにはその正確な意味は分からなかった。
ケット・シーはWRO局長であるリーブがジェノバ戦役の際に遠隔操作して闘ったロボット人形である、
多くの民間人やWRO隊員はそう思っていた。ケット・シーを使えば局長本人と通信が出来ると言う事なのだろう。
でもそれだけであれば、電話でも同じである。おそらく、その可愛さ故に子供たちのために連れてきたのだろう
と、シアはぼんやりと考えた。
「いやー、おまえがWROにいるなんて思わなかったぜ。生きてたんだな。それだけでも俺は…」
腕を銃に変えた強面の大男は、外見に似合わず感傷的になっているようだった。
「俺はこの店ができて落ち着いてから、マリンをおいて旅に出てたんだ。当ての無い旅ってやつだ。
目的も無いから、いっつもいろいろ考えてたんだ。でも考えても考えても訳が分かんなくなって、
思い出すのはいっつもおまえの兄貴たちの事だった」
「…そうだったんですか。兄も、喜んでくれていると思います。」
それからバレットは当ての無い旅についての話を続け、最終的に油田を見つけて今はそこにいる事、
エッジが攻撃を受けていると聞いて、かつての仲間たちと再びここに集まった事、油田に戻る前に、
少しの間マリンとの時間を楽しんでいる事を伝えた。実際、彼がマリンと街の通りを歩いているときは
本当に上機嫌で、幸せで子煩悩な父親そのものだった。
「ほんとはずっとマリンのそばにいられれば一番いいんだけどな」バレットが寂しそうに言った。
二人はしばらく押し黙っていたが、バレットが再び口を開いた。
「WROはどうだ? あのリーブの野郎がやってんだから、すげぇとこなんだろ?」
「はい…」シアはなんと答えて良いのか分からず、少し考えてからまた続けた。
「WROの方針、活動内容なんかは申し分はありません。ただ…」
まだ、シアの頭の中ではさっきの元神羅兵の言葉が渦巻いているのだった。
「兄のように、星を救う手助けが少しだけでも出来ればと志願したんです。
でも、平和が取り戻されてきた今では…」シアはなおもためらって言葉を切ったが、
ため息をついてから何かを決心したようにつぶやいた。
「私のように、元アバランチのメンバーを兄に持つ人間がいてはいけないような気がします」
「・・・」
バレットは、珍しく真剣な面持ちで彼女を見つめた。
「WROには、もちろん元神羅関係者が沢山いますから。最近は、元神羅関係者とそうでない隊員との
小競り合いもあるんです。だから私のような人間は特に…」シアはそう言ってうつむいた。
「俺はよ、」再びバレットが口を開いた。
「さっきも言ったけど、旅の間ずっといろいろ考えてたんだ。アバランチの事、おまえの兄貴たちの事。
俺がやってきた事は正しかったのか? いやそうじゃない。いやわからない。間違った事もいっぱいしてきた。
取り返しのつかない事だって山ほどしてきた。だからそれを償いたい、でもどうしたらいいのかさっぱり
分かんなくてよ」
シアはバレットの言葉を静かに聞いていた。
「でも、結局考えても考えても分からない。考えてるだけじゃだめなんだって、気づかされたんだよ。
俺が前に進んで行く事が、あいつらにとっても一番の供養になるってな」
バレットはなおも続けた。
「おまえも、兄貴みたいに闘いたい、星や人間やみんなを救いたいって、WROに入ったたんだろ?
WROはそんなにひどい所なのか?」
「いえ…【志を持つものが協力し、誰もが平等に任務に参加する機会とそのための訓練を十分に行う】
というのがWROの方針です。それに、入隊するときの面接で、局長にも聞かれたんです。私の兄が
アバランチだった事と、それに対する抵抗感はないのかと」
---------
シアは局長との面接を思い出していた。
「あなたのお兄さんは、元アバランチのメンバーで、プレート落下によって亡くなられたんですね」
リーブは書類から顔を上げて表情を変えずにシアを見た。
「おそらくあなたはご存知でしょうから御訊きしますが、あれを行ったのは神羅カンパニーです。
そして私は神羅社員として働いていました。いくら神羅カンパニーが崩壊し、WROが分け隔てなく
隊員を募集している組織だとしても、それについて、多少なりとも抵抗感があるのではないかと
思うのですが、いかがですか」
シアはこの率直すぎる質問に少し驚いて、局長の顔を見つめた。
「はい…抵抗感と言うか、迷いがないと言えば嘘になります。でも、私は兄が命をかけてやっていたように、
星や人々を守る手助けをしたい、その気持ちの方が強いんです。そしてそのためには、WROは私にとって
最適な場だと判断しました」
リーブは表情をやらわげた。
-----------
「そして局長に言われたんです。復興活動が終わって平和になっても、いつなにがおこるかわからない、
だからいつもその志をわすれないように、って」
「リーブの野郎は俺には難しくてよくわかんねぇけど、しっかりした奴だ。あいつがそう言ったんなら、
おまえはその通りに頑張りゃいい。俺が保証するぜ」バレットは胸をどんと叩いた。
「俺も前進する事にした。おまえもおまえの信じる事をくじけねぇでやってれば、兄貴は絶対喜んでくれるぜ」
「そやー、初志貫徹ですわ。神羅だろうがアバランチだろうが、もう昔の事や。胸はって隊員やって、
あんたが信じる道を進めばええのや。誰が何言おうと気にしたらあかん」
シアとバレットの会話に割って入ったのは、いつの間にか下に降りてきていたケット・シーだった。
「バレットはんも保証してくれてますさかい、WROはそんなわるぅとこじゃないとおもいますわ」
「そうよ、ケット・シーもそう思うだろ? リーブのやる事に間違いはねえって。シア、だから自身持て!」
リーブ自身との会話に生じた微妙な矛盾に気がつかないまま、バレットはもう一度力強く胸を叩いた。
シアはにこにこと笑う猫を見て微笑んだ。
「そうですね、最初の気持ちを忘れかけてました。誰に何を言われようが、兄はアバランチとして、
今のWRO隊員たちと同じように星のために闘ったんです。兄は私の誇りです」
------------
「ただいまー!」
元気よくドアを開けて店に入ってきたのは、ティファだった。
「ティファさん、お久しぶりです。私、」「シア!」ティファはシアの言葉を遮って走り寄ってきた。
「シア、生きてたのね。本当に久しぶり。その服は…WROに入ったの?」
「はい、 兄のように、星を救う手助けが少しだけでも出来ればと志願したんです!」
シアは胸を張って、笑顔で答えた。
「そや、シアはん、その調子や」
「あ、ケット・シーも来てるのね! みんな飲んでくでしょ? あ、ケット・シーは飲めないか」
ティファはケット・シーの頭を撫でて、カウンターに向かった。
「今日はみんなで集まって再会のお祝いね!」
彼ら、ジェノバ戦役の英雄である彼らと一緒に、兄は闘った。
兄だけではなく多くの人々が命を落としたけれど、彼らはそれでも前に向かって歩いて行く。
私は、そんな立派な意思を持って闘った兄の妹だ。
彼の意志を継いで、星のために…
二階から下りてきた子供たちと遊ぶバレット、笑顔でカクテルシェーカーを振るティファ、
「なんや、自分だけ損した気分や。ティファはん、猫にも飲めるもんつくってーな、あ、でも
猫舌やさかい気をつけてな」と冗談なのかなんなのかよく分からない注文をするケット・シー。
彼らに囲まれて笑いながら、シアは、もう少し頑張れる気がした。
------------------------
ミッドガルからの避難民やエッジの建設、復興が終わる頃は、WRO内でもそれまでの緊迫感が薄れ、
特に隊員たちの間でトラブルが多発していたときく。元々神羅で働いていた者、スラム出身の者、
復興の手助けがしたいと地方からやってきた者、WROには様々な出自の隊員がいた。皆の志は同じ
だったはずだが、平和の訪れとともに危機感が薄れると、彼らのこれまでの経験や所属による分裂や
隊員関係に関する不満が表面化してきた。
局長であるリーブ・トゥエスティ自身は早くからそのような問題が生じる事を予測していたようで、
設立当初から経験の無い者にも十分な訓練を与え、戦闘員・非戦闘員・男女・WRO以前の所属などによる
不平等などが起こらないよう、徹底した管理を行っていた。また彼は予期される不満や隊員同士の衝突への
対処についても事前に準備をしていたようだ。
それでも、常に不満を持ったり対抗意識を持ったりするのが人間である。彼は隊員たちが自分の感情と
その意味、影響や愚かさを自覚して自分で乗り越えて行く事が出来るように、時間と機会を与え、精神面の
ケアにおいてもほぼ完全とも言える隊員管理を行った。
元神羅関係者であれ新しくリーブ・トゥエスティという人間と出会った者であれ、隊員たちが彼の人徳に
感化されてWROを作り上げて行った事は間違いない。しかし、リーブ自身の恐ろしく冷静な判断と綿密な
管理によってWROは成長し、人々の生活を守ったと言う事もまた事実であるとあえて強調しておかなければ
ならない。
かつてリーブが都市開発部門で行っていたように。
---------------続く---------------------
一気に投下してしまって済みませんでした
>>461-476 自分のツォン像がFF7だけだからかも知れませんが、詩的思考のツォンがえらく新鮮に感じました。
そして副長〜っ!!(=DC8章列車墓場の彼女ですよね?)の背景は絶対複雑だと思うんですが、
その辺も描かれていて面白いです。つか注文したは良いけど飲むのかケット・シーw
僭越ながら以下、読み手の好みというか主観ですが。
作品全体が「記録」という(本人の手記の類ではない)客観的視点で描かれるからだと思うんですが、
そこに台詞としてではなく、登場人物の感情(
>>469シアの心中)がダイレクトに出てくると
読んでいてちょっと違和感がある気がします。感覚的にしか言えないので申し訳ないんですが…。
たとえば、今回のシア視点だったら段落毎に「シアの手記・証言」など形を変えてから、口に出される
事のない彼女の感情(悩みや葛藤など)を割り込ませてみるとか、その方がしっくり来るかな? なんて。
もしくは、心中描写無しで全て客観視点だけで(台詞や行動の描写のみで心中を表現する)書く…とか。
前話:
>>449-453 ----------
改めて室内を見回したヴェルドは、あることに気付いて眉をひそめた。彼の視線の先には、
ケット・シーの横にある端末モニタに表示された『通信中』の文字があった。
それからケリーに目配せすると彼の持っていた紙片を数枚受け取り、そこにペンを走らせ
ながら言葉と視線をケット・シーに向けた。
「ケット・シーは、お前の他にもいるのか?」
『ボクは元々ぬいぐるみやから、同じモンはいくらでもあるで』
「今もか?」
『そら分からへん。ボクが今リーブはんに操作されとるんやったらまだしも……』
「あいつは一度に何体ぬいぐるみを操れるんだ?」
ヴェルドは手にした紙片をいったんケリーに向けた。元はフレッドが持ち込んだニュース
記事だったが、整然と並んだ活字の上に記された字を読み終えたケリーは目を丸くした。
ここでの会話はすべてリーブが聞いている。
向こうに悟られないよう行動したい。
これから、この一帯の送電を止める。
(んな無茶な!)当然だがケリーは声に出して抗議する事もできず、首を振ってヴェルドに
その意思を伝えるが、はなから耳を貸すつもりは無いらしい。ヴェルドは視線をケット・シーに
向けたまま、再び手を動かす。
『さあ、正確なところは聞いたことないから分からへんけど。……でも、あんま多いと操作に支障を
来すと思うで?』遠隔操作と言ってもリモコンの類ではなく、感覚を共有して同調操作している筈だ
から。とケット・シーは付け加えた。
「今し方、この店にリーブが来た。とは言っても、リーブによって操られた“人形”だがな。すると
あれも、お前を操っていたのと同じ原理で動いていた、という事になる」これなら人形の破壊後、
まるで見計らったようにかかってきた電話にも納得がいく。ケット・シーは、その通りだと頷き返す。
言い終えるのと同時に、ヴェルドはもう一度ケリーに紙を向けた。書き足された文章自体は簡潔
だったが、この短時間の遣り取りから状況を正確に把握し、リーブに聞かれているであろう
ケット・シーとの会話と並行して今後の行動計画を立て、さらにそれを記すという器用なことを平然と
やってのける辺りからしても、やはりこの男ただ者ではない。
書いた人間がただ者でないのだから、書かれていることもただ事では済まない。
停電中にこのエリアの通信網を掌握。
その後、復旧時に仕掛ける。
我々が優位に立たなければ勝てない。
刻限は空爆開始まで──
「なんっ……!」そこまで読んで思わず声が出た、無茶苦茶だ。
(あんた自分に出来そうな事なら、他人にも当然に求めるってのは間違ってるぞ? 俺はそんな
超人じゃないからな!!)
感情まかせに勢いよく立ち上がろうとしたケリーの顔面に手持ちの紙片を叩きつけて発言を遮ると、
言葉の代わりに踏まれたカエルのような奇妙な声が聞こえてきた。鼻頭を押さえて噎せ返るケリーに
ヴェルドは無言のまま顎を引いて促した。
これは人使いが荒いどころの問題ではない。しかし、反論しようとケリーが開いた口からは、結局
なんの言葉も出てこなかった。
ケリーから言葉を奪ったものは目に見えない、けれど確かに存在する威圧感だった。
(……まったく、なんなんだよ)
憤ったり戸惑ったりと忙しいケリーを尻目に、ヴェルドとケット・シーの会話は依然として続く。
『せやなぁ。多分そうなると今バレットはんの前にいるんも合わせて、2体は同時に操ってたっちゅー
事になるわな』
「操作時にはどこまでの感覚を共有しているんだ?」
『ぬいぐるみやからボクはよう知らんけど、完全に共有化されとる事はないと思うで? もしそないなら、
6年前に古代種の神殿で潰れた1号機と一緒に、今頃はライフストリームん中や』
ああ違う、黒マテリアの中かも知れへんな。ケット・シーはそう言い直して笑った。
(行け)
もう一度ヴェルドは顎を引いてケリーを促した。ケリーは渋々ながらも立ち上がると、部屋を後に
する。その背中を視線だけで追いながら、ヴェルドは心の中でだけ呟いた。
(……頼んだぞ)
ここからヴェルドが考えなければならないのは、ケット・シーとの会話を自然な形で終わらせ、この
通信を終了させる事だった。ここまで会話のないリーブが通信を切らない理由は、おそらくこちらの
動向を把握するためだろう。
しかし、こちらの行動を相手に知られてしまっては意味がない。しかもこの作戦において、ケット・シーの
協力は不可欠だった。最低でもケリーが一帯を停電させる(通信が強制的に切断されてしまう)よりも
前に、この通信を断っておく必要がある。
仮にこちらの目的をリーブに悟られないよう行動できたとしても、自分がここにいる事を既に知られて
いる以上、形勢は不利だった。
(……さて、どうする?)
そんなヴェルドの思惑を妨げたのは、マリンの声だった。
「リーブさん、まだ聞こえていますよね……?」
***
『リーブさん、まだ聞こえていますよね?』
手にした携帯電話のスピーカーから聞こえてくるマリンの声に、リーブは答えようとしなかった。
それでも、マリンの声は一方的にこう続いた。
『リーブさん、話してくれませんか? どうしてこんな事をしたのか。これから何をしようとしているのか』
みんな不安なんです。と、最後に告げたマリンの声は小さく揺れていた。
バレットの電話を手にしたままだったリーブは、何も語ろうとしなかった。最初から、彼らに何かを
話すつもりはない。また彼らの話を聞く気もなかった。セブンスヘブンに向かわせた人形を破壊された
今、この通信を維持している目的は彼らの動向を探るためでしかなかったからだ。
通信越しに返答を待つマリンと、沈黙を続けるリーブとの間の膠着は、マリンの意外な言葉によって
破られた。
『……話す気がなくても、話して貰います。……リーブさん、私は』
意を決したようなマリンの声、だが彼女の言葉が途切れる事は無かった。
『この部屋にいる全員を人質に取っています。もちろん、あなたの大事なケット・シーも』
6年前。ミッドガル伍番街のあの家で、かつてリーブがそうしたように。
***
「まっ、マリン……!?」自分達にナイフを向けるマリンの姿を目の当たりにしたしたデンゼルは、
思わぬ展開に続く言葉を失った。彼女の手に握られているナイフが、たとえ殺傷能力のない
食卓用ナイフだったとしても。
しかし、これを好機と捉えたのはヴェルドだった。
「よさないか! そんな物を人に向けるんじゃない!」
「黙って! 人質は大人しくして下さい」
鋭く言い捨てるのとは裏腹に、マリンはにこりと微笑んで見せた。その顔を見てヴェルドは悟る、
彼女の真意はどうあれ、リーブに一芝居打っているのだと言うことに。
音声通信ではこちらの音と声が聞こえても、状況まで正確に把握する事は出来ない。先ほど
ケット・シーが言った事が正しければ、リーブには通信を経由した「音」しか聞こえていないはずだ。
それを逆手に取ったのだ。
あとは決定打が欲しかった。リーブを切り崩すとまでは行かなくても、動揺した隙を突けばいいのだ。
本来、こういった心理誘導ならリーブの方が得意なのだろう。しかしこうなれば一か八か、賭けて
みるしかない。
「リーブ、聞こえているか? ……さっき言ったのは嘘だ。お前が欲しがっていたデータなら俺が
持っている。持参したアタッシュケースの中にしっかり収めているよ。ただ残念ながら俺にはこの
データが示しているものが何なのか、皆目見当も付かなくてな。ここへ来れば何かしら手がかりが
見つかると思ったんだが……」
話を続けながら、ヴェルドは手元に残った紙に走り書きしたメモを子ども達に示してみせた。
このまま続けるんだ。
俺達は、君の人質だ。
それを見てさらに困惑を深めたデンゼルに、大丈夫と言うようにマリンが頷いてみせる。ヴェルドの
意図を完全に理解しないまでも、ケット・シーは畳みかけるようにして問い掛けた。
『なあ、リーブはん。なんでか分からんけどボクは今、異常動作を起こしとる。定期メンテナンスを
サボっとったお陰かも知れんな。でも、それだけやとは思えへんのや。リーブはんなら、心当たり
あるやろ?』
呼びかけてみたものの、やはり返答はない。それも承知の上だと言うように、さらにケット・シーの
言葉が続く。
『実を言うとこの現象……“システムエラー”に心当たりがあるねん。他に同じボディがあったとしても、
どうしてボクだけにこの現象が起きたんか。……リーブはん、もしかして今回の騒動ってこのエラー
現象と関係あるんと違うか?』
ケット・シーの言葉を聞いて閃いたヴェルドは、口調を早めて後を追う。
「他にも複数ある同型の機体、それでもエラーを起こしたのはここにいいるケット・シーただ1体のみ。
だとしたら、自ずと答えは見えてくるな。……そう、この機体が保有する『エラー因子』の存在だ。俺が
理解できず、お前が欲しがったデータの正体。それはこのエラー因子について記された物だった……
という訳か」
口に出した推測が正しいかどうかと言うことは、今は大した問題ではない。
ヴェルドの言葉に、今度はデンゼルが問い返すようにして言った。
「良く分からないけど、ここにいるケット・シーが他のケット・シーとは違う。っていう事は……」
続けようとした言葉を遮ったのは、スピーカーから聞こえてきた声だった。
『みなさんの勝手な推論で盛り上がるのは結構ですが、生憎とこちらには時間がありませんので、
この辺で失礼させて頂きますよ』
淡々とした口調で告げると、半ば一方的に通信は切断された。結果としてヴェルドの思惑どおりに
事は運んだ。
「万が一通信を回復されるとまずい。すまんが、いったん端末の電源を落としてくれ」
その言葉に振り返ったマリンが、急いで端末本体の電源ボタンを押す。その様子に慌てた
ケット・シーが、自分と端末を繋いでいたデバイスケーブルを本体から引き抜いた。
『…………。ま、マリンちゃん。今度から端末の電源落とす時は、ちゃんと手順踏んでーな?
こんなに可愛い顔しとるけど、ボクも中身は一応、精密機械やから』そう言って実際に発汗はない
ものの、汗を拭うようにして額の辺りに手をやった。
「ごっ、ごめんなさい」
しょんぼりと肩を落とすマリンに向けて、声を掛けたのはヴェルドだった。
「それにしても君の機転に助けられた、ありがとう」
「リーブさんの真似をしてみただけなんですけどね」
手にしていた食卓用ナイフを、置いてあったテーブルの上に戻したマリンは振り返って笑った。
「手本が悪い上に、にわか仕込みだったにしては真に迫る名演技だった。俺がまだ現役ならスカウト
したいぐらいだよ」穏やかな声でそう言うと、ヴェルドも目を細める。
「……嬉しくありません」どうせスカウトしてもらえるなら女優さんとかの方が良いですと、いたずらっぽい
笑みを浮かべて反論したマリンに驚いた表情を向けると、彼女は続けてこう言った。「おじさんの顔を
見れば、どんなお仕事をしていたのか、だいたい想像できますから」
それを聞いたヴェルドは、今度こそ小さく溜め息を吐いてから降参を宣言する。
「どうやら君には敵いそうもない」
続けて(彼女の父親は大変だろうな)と声には出さず呟いた。それは嘘偽りのない、ヴェルドの
本心である。
----------
・ここでマリン=ウォーレス最強説を提唱してみる。きっと彼女はリーディング能力の持ちnry
(「大事な─」の件は、ALERTマリン編参照)
・人質交渉(FF7Disc1ゴールドソーサー)の再現、というのは、マリンのささやかな反抗…と言うか
そんな感じで。このネタがやりたかったw
・実際は停電しても通信(電話)回線は生きてる気がしますが、そこは目を瞑ってやってくれw
・作者の趣味全開ですが、ここまで来たら開き直って突っ走りますwご了承下さい。
>477
(当時の記録映像)
(手記)
というのに分けてあるというコンセプトなのですが、今回それを各場面の最初に入れるのをすっかり忘れていました。
申し訳ありません、脳内補完をお願いいたします。
主任が語っているのは、(手記)の部分だけです。
手記なんだけど記録映像というか映画のようなものも見れるみたいな
本のようなDVDのような近未来のメディアだと思っていただければ幸いです。
ラストダンジョン続きが楽しみすぎてワクテカ
>>The・・・
ついぐぐっちゃったんだけど、ビッグス&ウェッジって
「ビッグス・ダークライター」と「ウェッジ・アンティリーズ」なんだね。
だからこの人はダークライターなんだ。妙に芸が細かくて感動した。
>>ラストダンジョン
リーブ電話きりやがったwww
やるのか?ついにやるのか???
GJ!
乙!
おつおつ
保守。
ほ
ぼ
ま
り
お
る
い
じ
>>325-337から続きます。
固い寝床に身体が悲鳴を上げ、目覚めつつある意識の中でヴァンは違和感を覚える。
最近の寝床はもっぱら飛空艇のシートで、そうでなければ良くて宿屋か悪くて野宿だった。
今自分が眠っている所はそのどこでもなさそうだ。
そして、何か大事な事を放り出している、それを思い出して跳ね起きた。
「パンネロ!」
跳ね起きて起きて辺りを見回す。
真っ暗だが、灯り取りの小さな窓から辛うじて月明かりがさしこんでいるので、目を凝らしてだがなんとか様子は分かる。
周りは石の壁、目の前には鉄格子、しかも手には枷がはめられている。
(……ここは……)
自分の置かれた状況が分からず、心臓が早鐘を打つ。
落ち着け…と自分に言い聞かせ、大きく息を吸い込む。
(そうだ…その調子だ…)
何度も深呼吸を繰り返す。
次第に心が落ち着き、目覚める前の事が思い出されてくる。
(そうだ…アーシェに見つかって逃げようとして…)
あの時、頭が溶けてしまったのではないか…という程眠くなった。
突然意識を失い、眠りこんでしまったという事は、
(アーシェのヤツ…)
ヴァンはアーシェに魔法をかけられ、捕らえられたのだと勘違いしたのだ。
魔法を防ぐアイテムをパンネロに持たせたのはいいが、自分が持っていなかったのは失敗だった。
こんな牢くらい、破るのは簡単だとヴァンは誰にでもなく強がり、そして一番の心配事に思いを巡らせる。
(パンネロは…)
ラーサーが連れ出していた。
「じゃあ…大丈夫……だよな……」
だが、あの騒ぎでは頼まれた事を完遂出来なかったとうい事で。
さすがのヴァンも落ち込み、もう一度仰向けに横になろうとした時、牢の外で鉄の扉が開く音がした。
兵士が3人入ってきて、ヴァンを一瞥すると、牢の鍵を開けた。
「出ろ。」答えるのも億劫で、寝転がったままでいると、「陛下がお待ちだ。」
言われてヴァンは仕方がなく起き上がった。
通されたのは、こじんまりとしてはいるが、大きなタペストリーが飾られた豪奢な部屋だった。
広間の隣にある控え室で、密談にもよく使われる部屋なのか、
中央に円卓と、それをぐるりと囲んでオーク材の椅子が並んでいる。
そこに並んで座るラーサーと能面の様に表情のないアーシェ、
その傍らに心配そうにヴァンを見つめて立つバッシュを見て、ヴァンは思わずその場を逃げ出そうかと思った。
兵士達は一礼をし、部屋を出て行った。
と、同時にガチャリ、と鍵の閉められ、ヴァンは驚いてドアを振り返り、
そして抗議しようとアーシェを見て、氷の様に冷たい視線に何も言えなくなり、その場に立ち尽くした。
重い重い空気の中、アーシェが口を開いた。
「…説明してもらいましょうか。」
ヴァン、答えない。
「不審者の逮捕に協力してくれた事には感謝します。だからと言って、
私やラーサー殿を欺こうとした罪が許されるわけではありません。」
「それぐらい…」
小さく呟いたのをアーシェが聞き逃すはずもなく。
「それぐらい?」
アーシェの声が一段と高くなる。
「あなたは事の重大さが分かっているの?…おまけにパンネロまでさらわれて…」
「パンネロが…?」
「バルフレアが連れ去った。」
「バルフレアが…っ?なんでだよ??」
パンネロならラーサーがあの場から連れ出したはずでは…?ヴァンはテーブルに詰め寄る。
「聞きたいのはこっちですよ。」
と、溜め息まじりにラーサー。
「あのモンスターを退治した後、劇場中を眠らせる魔法がかけられました。
その後でみんなを眠らせてパンネロさんを連れ去ったんです。何が目的なのかは分かりません…」
「劇場中?じゃあ、俺を眠らせた魔法は、アーシェじゃなかったのか…?」
バッシュが頷く。
「私が出会った時、バルフレアはあくまで傍観者に徹するという口ぶりだった。」
「あの時バルフレアが来てるなんて言わなかっただろ!?いつの間に来てたんだよ!」
何故言わなかった、と言わんばかりのヴァンにバッシュは端的に答える。
「君が地下で賊を捕らえた後だ。」
「そんな……」
ヴァンは力なく呟いた。
何故こんな事になったのか……肩を落とすヴァンにバッシュがごほん、と咳払いをする。
「バルフレアがパンネロを連れ去ったのを目撃したのは、アーシェ陛下と、フィガロ王なのだが……」
バッシュはそこで口ごもる。
「なんだよ、バルフレアが連れてったのは間違いないんだろ?」
「いや……その……」
更に口ごもるバッシュに痺れを切らしたアーシェが言葉を受け継ぐ。
「エドガー様によると、二人は駆け落ちをするためにあの様な騒ぎを起こしたそうです。
あなたはその事を知っていましたか?」
ヴァンはぱっくりと口を開け、高貴な三人を凝視する。
その顔につい吹き出しそうになるバッシュだったが、また一つ咳払いをして堪える。
「やっぱりあなたも知らなかったのね…」
「知ってるも何も…………俺とパンネロはずっと一緒だったんだぞ!?」
それがいつ駆け落ちの相談なんて出来るのか。
「片時も離れず、にですか?」
ラーサーが尋ねる。もちろん、その言葉には小さな針が仕込まれているのだが、
今のヴァンがそれに気付くはずもなく。
「そうだよ!いつだって!ずっと…………」
言いかけて、気付く。
(そうじゃない………)
舞台の前夜、そして当日と、パンネロをずっと一人にしていた。
「………舞台の前の夜………パンネロはずっと……一人だった……」
ヴァンは俯き、力なく呟く。目の先にある手枷がずっしりと重く感じた。
「ヴァン…ショックかもしれないが、我々も状況がさっぱり分からない。
いきなり舞台でパンネロが歌い出す。お二人を狙う輩は忍び込む。
バッガモナン達もだ。それにあの“オルトロス”とかいうモンスター、
そして最後にバルフレアとパンネロの駆け落ちだ。
君なら、我々よりも状況が分かっていると思う。話してもらえないだろうか。」
バッシュの落ち着いた声がしん、とした部屋に響く。
だが、ヴァンは俯いたままだ。
ラーサーとバッシュは困ってしまい、思わず顔を見合わせる。
と、不意にアーシェが立ち上がり、ヴァンに歩み寄る。
そして、その肩を優しく抱くようにして、壁際に置かれていた一人掛けのソファにヴァンを座らせた。
「ねぇ…ヴァン?」
アーシェは俯いてしまったヴァンの傍らに跪き、その瞳を優しく見上げる。
「確かに…私達は同じ道を歩む事は出来ないけど…でも、あの旅で同じ物を見て、
大切な何かを一緒に取り戻したわ…そうでしょ?」
「…………うん。」
「その私にも言えない事…?」
「アーシェ………」
「どうしてパンネロが舞台に立っていたの?何が目的であんな事を?」
強ばっていたヴァンの表情が泣き出しそうに緩む。
が、口を固く閉じると、また俯いてしまう。
怒ってもだめ、宥めてもだめ。
「陛下…おそらく…ヴァンはパンネロを大きな舞台に出させてやりたかったのではないでしょうか?」
「そうなの?ヴァン?」
ヴァンは黙っている。
アーシェは眉を寄せ、荒々しく立ち上がると、ヴァンの頬を思い切り張った。
「いってぇな!いきなり!何すんだよ!」
「陛下…落ち付いて下さい!」
「充分、落ち着いています!」
一喝され、ヴァンもバッシュも一斉に黙る。
「舞台に立たせてやりたいですって…?パンネロをあんな危ない目に遭わせて?
そもそもパンネロは舞台に上がる事を心から望んでいたの?
望んでいたとしても、それをこんな形で叶えるのがパンネロの為になるとでも?」
一気にまくしたて、ふぅっと息を吐いてから呼吸を整えるとアーシェは更に続ける。
「大体、こんな独りよがりな贈り物を送るなんで女性に対して失礼です!」
「陛下…それはあまりに…」
ヴァンの頑張りぶりをつぶさに見守って来たバッシュが助け舟を出すが、
「お黙りなさい!バッシュ、あなたはヴァンに甘過ぎます。
それに、ヴァンの目的はパンネロを舞台に立たせる事ではありません。」
「ちげーよ!俺は…!」
「白状なさい、ヴァン。でないと私がラーサー殿とバッシュに話します。」
「…分かるもんか。」
「言ったわね。」
ハラハラしながら二人の様子を見守っていたラーサー、
「陛下…では一体…」
「この子はね、自分が観たかっただけなのよ。」
バッシュとラーサー、目が点になる。
「ちげーってば!」
「お黙りなさいってば!ここで慌てるのが何よりの証拠よ。」
「勝手な事言うなよ!」
ヴァンは顔を真っ赤にして、違うと叫び続け、アーシェはそれを“はいはい”とあしらう。
傍で見ていたラーサーは言葉を挟むのも忘れ、二人の様子を眺めていた。
(なんだか姉弟喧嘩のようですね…)
「じゃあちゃんと理由を言ってみなさいよ!」
「俺はミゲロさんとダンチョーさんに……あっ…」
ヴァンが気付いた時には既に遅かった。
アーシェはおそろしく冷静な声で、
「バッシュ、この二人を連行するように。」
「やめろってば!」
叫ぶヴァンをアーシェはジロリ、と睨む。
「おっかねぇ。」
「なんてすって?」
ヴァンは首を竦めて黙る。
「賊を捕らえてくれたお礼として、二人を罪に問う事はしません。
でも、両国の大事な行事に対してあまりにも思慮が足りません。釘だけは差させてもらいます。」
罪に問われないと聞いて安心したが、結局、依頼を完遂する事が出来なかった。
落ち込むヴァンにアーシェは容赦がない。
「ヴァン、あなたも暫くここに居て貰います。」
「なんでだよ、俺はパンネロを…!」
「ナルビアに行きたい?」
“どこに閉じ込められたって、俺は行くからな。”そう言うつもりだったが、
アーシェの冷たい視線があまりにも恐ろしくて。
「……分かったよ。」
怖いもの知らずのヴァンだったが、ここで初めてこの世で最も恐ろしいものは何なのかを知る。
「モンスターとかお化けとそんなのよりさ、怒ったアーシェが一番おっかないんだな。
パンネロも怒ると怖いけど、アーシェの方がもっと怖いよ。おフクロより怖い。」
ラーサーは天井を仰ぎ見、バッシュが何かを言おうとするその前にパチーン、と小気味の良い音が部屋に響き渡った。
一方、バルフレアはパンネロを連れて劇場の地下からラムサイズ水路へ抜け、小舟で市街地外れまで移動する。
深夜の人気がなくなる時間を待ち、ダウンタウンを抜けてラバナスタの街への階段を上る。
ドレス姿では目立つので、パンネロはすっぽりとマントを被らされている。
闇に紛れ、二人は誰にも見咎められることなく広場に辿り着いた。
パンネロは、足を引きずる様にして歩いている。
履いている靴が窮屈で、おまけに靴擦れまで出来てしまい、どうしても遅れがちになる。
「どうした?」
バルフレアが振り返る。
「ごめんなさい……靴が……」
やっと追いついて来たパンネロにバルフレアは眉を寄せる。
「見せてみろ。」
パンネロは少しだけドレスの裾を持ち上げる。
見ると、靴のストラップの部分が合わないのか、足の甲の白い靴下に血が滲んでいる。
「すまん、気付かなかったな。」
「これくらい平気。」
バルフレアは強がるパンネロの頭にぽん、と手を置く。
「そいつを脱ぐんだ。それじゃあ裸足の方がまだマシだ。」
「うん。」
パンネロは周りを見渡し、広場の中央の噴水の縁に腰掛けると、靴を脱いだ。
押し込められていた足はじんじんと痛み、靴擦れは至る所に出来ていて、靴下を赤く染めていた。
だが、靴を脱いだだけで随分と楽になる。
(もっと早く脱いじゃえばよかったんだわ。)
ひんやりとした石畳が気持ち良い。
脱いだ靴を手に持って立とうとして、パンネロは思わず悲鳴を上げた。
いつの間にか目の前にバルフレアの背中があって、長い腕がパンネロの背中に回ったかと思うと、
そのまま背中に乗せられてしまったのだ。
「きゃあ!バルフレアさん!」
パンネロは思わずバルフレアの首にしがみつく。
「婚約者を裸足で歩かせるわけにはいかないんでね。…と、失礼。」
(まだ言ってる……)
どうせ“婚約者”なんて時代がかかった言い回しがおもしろくて使っているだけなのだろう。
だが、いつもの冗談だと分かっていても、パンネロはなんだかくすぐったい気持ちになる。
バルフレアはドレス越しにパンネロの腿の下に手をいれ、落ちないように固定する。
いつも見ていた女性に対するきどった態度ではなく、バルフレアらしくないぶっきらぼうな優しさだ。
だがそれが却ってうれしい。
「婚約者なら、おんぶなんかしないで腕に抱えるんじゃない?」
肩越しにパンネロがからかうと、
「生憎とそこまで頑丈じゃない。お嬢ちゃんがもっと軽けりゃいいんだが。」
(照れてるのかしら?)
バルフレアにとってパンネロは、気安い間柄ではあるものの、一応女性だし、
でも年下だし…で、どう扱って良いのか分からないようだ。
(二人っきりになったことって、ないもんね…)
「私、そんなに重くないよ?」
ちょっと拗ねてみせたのは、その方がバルフレアが話し易いと思ったからだ。
「あぁ、羽の様に軽いさ。さ、行くぞ。しっかり捕まってろ。」
パンネロは慌ててしがみつく。
昼間の喧噪とはうって変わってがらん、としたバザーを通り抜けると
バルフレアは路地裏にある一軒の家の前で立ち止まり、扉をノックした。
すぐに扉が開き、フランが顔を出すとバルフレアを招き入れた。
バルフレアは中に入るとパンネロを下ろしてやる。
「フラン、お望み通り、ラバナスタ一の歌姫を盗んで来てやったぜ。」
フランはおどけるバルフレアを無視してパンネロはマントを外してやる。
「よく来たわね、パンネロ。」
「フラン、どうして…?」
「話は後でゆっくりね。まずは、その窮屈なドレスを脱ぎなさい。」
フランは隣の寝室にパンネロを連れて行くと背中のボタンを外してやる。
幾重にも重ねられたスカートのウエストのボタンも外側から順番に外しすと、スカートはストンと床に落ちる。
床でくしゃくしゃの布の輪になったドレスから抜け出すと、パンネロはフランに背中を向ける。
フランがぎっちりと締め上げられたコルセットの紐を解いてやると、パンネロは、ほぅ…っと大きく息を吐いた。
「ああ…苦しかった!私、こんなドレスはやっぱり無理!走れないし、踊るのだって大変だったの。」
「とても似合ってるけど、あなたには暗い舞台より空の上の方がお似合いね。」
「私もそう思う。」
パンネロはフランに笑いかけると、ドロワーズと靴下を脱ぎ、シンプルなスリップ姿になる。
きっちりと結い上げられていた髪はあの騒動ですっかり崩れてしまっている。
フランは鏡台の前にパンネロを座らせると、頭に残ったピンを一つずつ丁寧に外し、
くしゃくしゃになった髪を櫛で丁寧に解きほぐし、薄いドレスを頭から被せてやる。
「これは?」
パンネロは袖を通すと鏡を見て歓声を上げた。
「わぁ…かわいい。」
着せられたドレスはハイウエストの白い綿モスリンのドレスだった。
白い糸で小さな花が一面に刺繍されている。
袖はふんわりとしたパフスリーブで、幾重にも重ねられた柔らかい生地が肌に気持ち良い。
「バルフレアが選んで来たのよ。窮屈でないのをね。」
「本当?」
「ええ。」
「うれしい…後でお礼を言わなくちゃ。」
ウエストの部分に淡いピンクの絹のサッシュベルトを緩く結び、
最後に湯を張った桶に足を浸し、きれいに洗ったあとで靴ずれの手当もしてもらった。
「やっと楽になったわ。」
パンネロは鏡に映った自分の姿をぼんやりと見つめた。
さっきのドレスもそうだが、いつもの踊り子の服と違うせいで、なんだか自分ではないように見える。
「ねぇ…フラン…私…暫くここに居た方がいいのね。
そう思ってバルフレアさんに私を連れて来させたんでしょう?」
「そうね。」
「昨日からずっとヘンだったもの……私も、ヴァンも。」
パンネロは、すん、と鼻を鳴らした。
唇をぎゅっと噛み締め、涙を零すまいとしている。
「泣いてもいいのよ。」
フランに言われても、パンネロは頭を振る。
が、涙はぽろぽろと溢れ、新しいドレスにどんどんシミを作る。
「フラン……わっ…わた…し……」
堪えきれず、パンネロは両手で顔を覆って泣き出してしまう。
フランは優しくパンネロを抱き寄せた。
「よく頑張ったわ。えらかったわね。」
緊張の糸が切れたのか、パンネロの泣き声が一際大きくなる。
それが落ち着くまで、フランはずっとパンネロの髪を撫でてやった。
隣で待機中のバルフレアの所にフランがやって来たのは二人が寝室に消えて30分程してからだった。
壁越しにパンネロの泣き声が聞こえて、一体どうしたのかと落ち着かなかったのだ。
「どうしてる?」
「眠ったわ。」
フランはバルフレアの飲みかけの酒を煽ると、乱暴にグラスを置いた。
「怒ってるのか…?」
「そうかもね。」
「怖いねぇ。」
言いながらバルフレアは二杯目を注いでやる。
フランはそれを手に取ると、琥珀色の液体をじっと見つめながら語り出した。
「あの二人…ね。私には時々、あの二人が二人にしか分からない言葉で話している様に見えたわ。」
「仲が良くて結構なことじゃないのか?」
「お互いを支え合ってる様に見えるけど、私にはよりかかって、それでやっと立ってる様に見えた……」
「どっちかが倒れたら、お終いってことか。」
あっという間に空になったグラスにバルフレアは更に酒を注ぐ。
「それで“お母さん”は放っておけなくなったって訳だな。」
「そんな所ね。」
バルフレアも口ではいつもの軽口ばかりだが、昨日からどこか痛々しいパンネロを見ていて、
おもしろくない気分になっているのは確かだ。
そして、ヴァンがパンネロに無茶をさせる事を腹立たしく思うと同時に、
やはりどこかおかしくないのではないか心配になる。
だが、それが素直に言葉にすることはない。
「…………お子様達のお陰で、とんだとばっちりだな。」
「アーシェに見られたの?」
バルフレア、不機嫌になる。
「あなたって本当に顔に出るのね。」
むっとして黙り込むバルフレアに、フランが笑った。
つづく。
[チラ裏]遅レスですが
>>340氏も他の皆様もありがとうございます。自重します。
ktkr!
職人さんが自重なんて言ってたら読み手も感想も書けないから
自由に書いちまえよ〜
面白かった!
きたー!
待ってたよ!!
ヴァンとパンネロ、ラーサーには悪いがお似合いだよ、二人ともカワユス。
>>461-467 もしかして、一部はTMのTime Passed Me By……?
結成と同時期生まれだが未だ現役ファンとしては、そうだととても嬉しい。
どの職人さんの話も大好き。続きを楽しみにしてるよ。
待ってました!
バルフレアがかわいいw
GJです!次も楽しみに待ってます。
>>509 大正解です!まさかご存知の方がいらっしゃるとは。
歌にもツォンにも失礼のないように頑張ったつもりですが書き手の技量不足でごにょごにょ。
というかそのまま書いてあるんで丸分かりですが、あくまでインスパイアなので、J●SRACには通報しないでくだ(ry
>>499-506 > よりかかって、それでやっと立ってる様に見えた……
フランの洞察力に感動した。
これまで読んでいて、どことなく引っ掛かっていたヴァンとパンネロの
危うさ(?)が、フランの台詞内で的確に指摘されてるってのが彼女の
キャラクターを活かしてるなと思ったり。要するに「フランかっけー」w
個人的には、戦闘以外の場面での立ち回りが色々不器用に見えるバッシュと
突拍子もない推理を披露して周囲を驚かせるアーシェがツボりましたw
前話:
>>478-484 ----------
通話を終え、ボタンを操作したあと無言でディスプレイを閉じるとリーブは携帯電話を持ち主に放り
投げた。
「ありがとうございました」
言葉尻こそ丁寧だが、明らかにぞんざいな態度を取られて顰めっ面になるバレットに背を向けて、
リーブはさっさと歩き出してしまう。
「おい! ちょっと待てよ」
こういう場合、待てと言って待ってくれるケースは少ない。だからと言う訳ではないが、バレットは
慌てて立ち上がるとリーブの後を追った。しかし、唐突にリーブは足を止める。
「……さすがに、良い気分はしませんね」
「あぁ?!」意図はどうあれ拳銃で撃たれるわ、唐突にとんでもない要求をされるわ、勝手に電話を
使われたあげく粗末に扱われるわ、良い気分がしないのはオレの方だぜと言わんばかりのバレット
を無視して、リーブは尚も淡々と続ける。
「マリンちゃんの事ですよ」
「あ、……ああ」マリンの名を出されると、途端にバレットの口調は勢いをなくす。
「たとえ“ふり”でも、女の子があんなマネをするのは感心できない。という事です」
「そうだな。……って、なんだって!?」
バレットの張り上げた声に振り返ったリーブは、対照的に素っ気なく問い返す。
「そもそもマリンちゃんが本気であんな事をすると思いますか?」
「……ま、まぁ。確かに」
バレットに似ずマリンは人の感情に敏感で、繊細な心の持ち主だった。そんな彼女には、どう
間違えても他人を脅しつけるようなマネなど出来ない事は、言われるまでもなくバレットが一番
よく分かっていたはずなのに、自分よりも先にリーブから指摘されたのが少し悔しい気がした。
「それに状況から考えても、マリンちゃんが室内にいる彼らを人質に取るなんてあり得ないんです」と、
リーブはさらに根拠を続ける。
「ヴェルド主任……あなたがご存じないのも仕方ありませんが、少なくともあの場には彼がいました。
かなり昔に現役を退いているとは言え元タークス、それも主任を務めたほどの人物です。たとえ
マリンちゃんが完璧に武装していたとしても、彼を人質にすることは不可能でしょう」
「ちょっと待ってくれ、だいたいマリンは……」
「そうです。ですからこれが彼らの『芝居』だと言うのも、すぐに分かることです」
「じゃあお前は、最初から知ってて?」
「こちらも先方の意向に従って“ふり”をしました。……これで返せるわけではありませんが、彼女には
大きな借りもありますからね」
6年前のミッドガル伍番街スラム。キーストーンとの取引材料として、あの家で彼女たちを人質に
取るという手段に出たリーブは、今もその事を悔やんでいた。
たとえ一時でも、無関係のマリンを憎もうとした自分がいたことを、リーブは知っている。
楽になりたかった、それも一刻も早く。
その為に、事情や経緯はどうあれ無抵抗の市民――それも女性と子ども――に、銃を向けた。
「私はミッドガルの都市開発責任者として、何一つもできなかった。それどころか──」
都市開発責任者として、維持しきれなかった都市機能。
暴走を続ける会社に、抗えなかった自分。
そうすることで見殺しにした多くの住民達。
共にミッドガル開発に携わってきた部下達を裏切り、本来知るべき闇も知ろうとせずに過ごしてきた。
それらの重圧から、一刻も早く解放されたかった。
……その為に。
「マリンちゃんやエルミナさんを傷付けてしまいましたからね」
今までも、そして恐らくはこれから先も、マリンがリーブを追及することはないだろう。
だからこそ、まだ幼い彼女の心を傷付けてしまった過ちは、できるうちに償っておかなければ
ならないと、少なくともリーブはそう考えていた。W.R.Oを創設し局長という立場から各地の復興に
貢献することはできたとしても、マリンに対する罪滅ぼしにはならない。
そもそもW.R.Oの立ち上げや組織の維持運営も、何かあるいは誰かへの償いを目的にしている
わけではないし、そうならない事もリーブは最初から承知していた。W.R.Oは、あくまでもメテオ災害
後の世界に必要な機能を果たすための組織でしかない。混乱を極めた当時の状況から考えて、
いち早く動ける環境にあった自分が主導をとった結果が、今の局長という地位だった。リーブにとって
W.R.O局長に就く意味は、それ以上でも以下でもない。
必要な場所に必要なものを作る、それは都市開発時代と変わらなかった。
「……まあ、なんだ? 落ち込むなよ。な? マリン達はそんな風に思っちゃいない」
バレットが口にしたのは慰めではなく、否定したいが為の言葉だった。リーブの話は事実としては
間違っていない。でも、間違っているのだと。
──とうちゃんと同じ、おひげのおじさん!──セフィロスとの決戦前、エルミナと共に避難していた
マリンに会いに行った時たくさんの話を聞いた。父が留守中の出来事を一生懸命に話すマリンを見て
いるだけで、力が湧いてきた。自分にとっての戦う理由、守るべき者、戻るべき場所──それらを再
認識できた。
何があっても必ず生きて帰ってくる──決意を新たにしたあの日の事は、今でも忘れていない。
もちろん今、この瞬間も。
マリンの話の中に登場した「おひげのおじさん」がリーブだったのだ。確かにあの当時まだマリンは
幼かった、だが自分を人質にした男をそんな風に言うか? 違うだろう? それがマリンの見たお前の
姿、事実の形なんだ。だからお前の言っていることは正しいが、同時に間違っているんだと。表現する
と矛盾してしまうが、それを伝えてやりたいと思って、バレットは続けた。
「それにあれ以来、マリンの口からお前の話を聞くとしたら、心配事ばっかりだったぜ? ……正直
オレの事より心配してるんじゃねぇかと思ったぜ」最後はふてくされたように呟く。
「……優しいですね」無表情のままで、しかしバレットの意を汲んだようにリーブが言う。その言葉を
否定しようと口を開いたバレットの発言を遮るように、リーブは続けた。
「やはり、依頼先に間違いはなかった様ですね。あなたなら、『私』の望みを叶えてくれる……」
言いながら、リーブはゆっくりと手を挙げた。彼が盲一方の手に拳銃を持っていたことを、ようやく
バレットは思い出した。
――「……『殺して欲しい』、とでも言いたそうな顔ね。」
「今さら思い詰めたところで仕方がないわよ、リーブ。
楽になりたいんでしょう? じゃあ誰かを憎めば良いわ。すぐ楽になるから。 」
スカーレット、たしかに君の言っていることは正しかった。
しかし、1つだけ間違っている。
誰かを憎んだところで、楽にはなれない。
なれたと思っても、それは単なる気休めでしかない。
本当に楽になるためには――
「……決着をつけましょう、バレットさん」
たとえ勝者が決まっているのだとしても、それが唯一の方法なのだ。
----------
・「おひげのおじさん」の元ネタは、Disc1(神羅ビル潜入前)エルミナ宅でマリンと再会して喜ぶ
バレットに対して「とうちゃん、おひげ、いたいよ!」と言う場面です。マリン可愛いよマリン。
・次回、ここら辺のちょっとした種明かし(?)も兼ねてユフィ編…の予定です。以降はいろいろ
勝手解釈全開で進みますので、予めご了承下さい。
GJ!
GJ!!!!!!!!!!!!
前話:
>>512-515 ----------
1階の様子を映し出していたモニタを見つめながら、リーブはぽつりと呟く。「ユフィさんの勘の
鋭さには驚きました」
「なっ、なに?!」
無意識のうちに声が弾んだ。ユフィにはリーブの言葉の意図するところまでは分からなかった。
それでも続く言葉に期待を込めて、モニタを見つめているリーブの背中に視線を向けた。
「先ほど、私に『ここへ戻ってきた理由』を教えてくれましたね? 『下で会ったのと、私とは違う』と」
今バレットと共にモニタの中に映っているリーブと、目の前に立っているリーブとは別だと。
確かにユフィはここへ来た理由をそう言った。
「……う、うん。理屈なんか分かんないし、なんとなくだけどさ」
「実はその通りなんですよ、彼と私は違います」モニタに映し出されている同じ“人形”を見つめ
ながら、リーブはさらに続けた「先ほども申し上げたとおり、インスパイアで操られた物は、記憶と
感覚を共有した操り主の“分身”になります。私も、彼も、その意味では同じです。ですが、全てに
おいて同じという訳ではありません。いまバレットさんの前にいる彼は、言わばミッドガルの亡霊
なんです」
「ミッドガルの……亡霊?」
「そうです。ミッドガルの都市開発責任者としての思い、それを本体であるリーブからもっとも強く
受け継いでいる。ですから彼は結論を急ぎたがるのでしょう」相変わらず口調は淡々としていたが、
どこか非難めいて聞こえた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。『本体から受け継ぐ』って……?」
人によってはこれを『憑依』と、そう表現する人もいるかもしれません。リーブはそう前置きしてから
続ける。
「人が何らかの行動を起こすとき、理性にしろ本能にしろ必ずその行動の原動力となる感情がある
はずです。そして感情は、物か人かを問わず対象への執着や愛着から生み出される場合が殆ど
です。……簡単に言ってしまえば、対象にまつわる記憶に伴って感情が存在しています。
インスパイアによって無機物を操る原理は、この記憶と感情にあります。無機物……つまり記憶と
感情を持たない物に、自身のそれを分け与えることによって意識の制御下に置き、己の分身とする
のです」
その理屈からすれば、『生命』とは記憶と感情を宿す存在。インスパイアによって操られていた
としても、彼らは生きている、という事になる。
「じゃあ、下にいたおっちゃんは神羅時代の記憶からできてるってこと?」
「そうなりますね。ですから、同じ分身同士でも完全に同一とはならないのです。ユフィさんの感じた
相違点は、恐らくこれが原因だったのでしょう。とは言え私自身にも真相は分かりませんし、今お話し
した『インスパイア』という現象の発生プロセスを科学的に説明することはできません。これはあくまで
感覚です」
たとえば、自分以外の他者と関わる場面で多くの人がそうするように、内心にある思考や感情1つ
1つを周囲の状況に応じて使い分けている。時には相反する要素を表面に出していたとしても、それ
ぞれは個の中で共存している場合が殆どで、いわゆる「本音と建て前」もこの類だろう。インスパイアは
この内包されている感情と、その中心にある記憶を自分以外の物体に分けることができる能力と
言えた。
「もしかしたら、星の内を流れるライフストリームの一部が結晶化してマテリアになるのと似ている
かも知れませんね。マテリアの多くが戦いに関連した物であるのは、それらが先人達の戦の記憶を
核として形成されているせいでしょう。言ってみれば戦によって生まれた感情が、どれも強い物ばかり
だったという事です」
戦によって生み出されるものは、死。死によってもたらされる悲しみは、やがて憎しみに姿を変え
心の底に堆積していく。それらが新たな戦の火種となり、次の死をもたらす。この星の生命――
少なくとも人の歴史は、その積み重ねの上にある。
過去の記憶を記録として、過ちを訓戒として後世に伝える術を持ちながら、人はその過ちを繰り
返している。それを人の愚かさとするか、性や宿命とするかは論者によって異なるだろう。しかし
ここでそんな議論をする気はない。
「星だけではなく、人の中にも同じ様な流れがあると考えれば、決しておかしな理屈ではないと
思います」
強い感情を伴う記憶ほど長く留まり蓄積される、だから抽出するのは簡単だった。かつて神羅が
人工的に作り出す事ができたマテリアには、戦闘にかかわる物が大部分を占めていた事実も、
それを裏付けているのではないだろうか。もっとも戦闘用途に適さないマテリアは、あっても廃棄
されていた可能性は否定できないが。
そこまで言い終えるとモニタから視線を外し、振り返ったリーブは真っ直ぐユフィを見つめると、
声を低くして告げた。
「生物が死の間際に放つ想念がどれほど強いものか。
……3年前、闇に触れたあなたなら理解できるはずです」
「!!」
このときユフィは反論どころか声を出すことも、視線を逸らすことさえもできなかった。別に脅されて
いるという訳ではないし、凶器を向けられているという訳でもない。なのに身体が動かなかった。
背筋に悪寒が走ると言うよりも、全身に戦慄が走ったというべきか。思い出したくもない──どちらかと
言えば忘れてしまいたい記憶を、リーブはわざと抉り出そうとしている気さえした。
(おっちゃんは……そんな事しない、そんな人じゃない……)
ぎゅっと瞼を閉じてから両腕で頭を抱えるようにして耳を塞ぎ、首を振って心の内に湧き起こる
疑念を追い出そうとする。どうしてそんなことを考えるの? どうして? 心の中で繰り返されるのは
自問ばかりだった。
「ユフィさん」
(違う、疑っちゃダメ!)
ようやく顔を上げたユフィの視界には、目の前に立つリーブと、モニタに映るリーブがいた。
----------
・説明過多な文章にお付き合い下さいまして、ありがとうございました。
・超個人的インスパイア概論その1「無機物に生命を吹き込む胃能力者」の解釈です。
それがなぜリーブなのか? ってのが、この長話の(一応)メインテーマです。こじつけ過ぎw
・ミッドガルの亡霊(294-295)その2。どうしてもミッドガルから離れられないのは作者だという話。
・「マテリアには戦いの記憶ばっかり」…みたいな事を、FF7でユフィが言ってた…様な気がする。
夜更かししてたらktkr
ありがとう!!GJ!
乙!
華
麗
に
と
おつおつ
乙
華
麗
と見せかけて
ほ
前話
>>461-476 --------------
(手記より)
少し話が前後するが、神羅カンパニーが名実共に崩壊し、魔晄炉からのエネルギーの採掘と供給が
ストップして以来、世界中の人々は、様々な面で困難に直面していた。飛行機や車などの移動手段、
工場の機械、農作機から、家の中で暖をとったり料理を作るのでさえ、全てが魔晄エネルギーで
賄われるようになっていたからだ。神羅カンパニーが魔晄エネルギーを供給し始めて何十年とたっては
いないとはいえ、人々は既にその生活に慣れきってしまっていた。
魔晄炉が停止してからは貯蓄分のエネルギーを各地で少しずつ分けて使っていたが、それが無くなれば
終わりと言う状態で、魔晄エネルギーの供給が受けられない個人の家庭や農家、小さな会社などでは、
昔ながらのーー魔晄以前の時代のエネルギーである石炭などを再び使用するようになっていた。
機械製造会社や家庭用機器製造会社などは、こぞって魔晄以前の製品の再開発を始めたが、仕事にしろ
生活にしろ移動にしろ、社会の様々な面で多くの困難が生じていた。
特に「移動」と言う面に関して言えば、我々は調査などで神羅カンパニー時代と同じヘリを使用していたが、
そのヘリコプター用の魔晄エネルギーの供給が止まるのも時間の問題であった。そもそもその頃世界中の
飛行機や車などは、既に魔晄エネルギーの使用が出来無い状態であったので、人々は昔の蒸気トラック
ーー多くの石炭と人力を必要とするーーなどを使用していた。世界中の人と物の移動に困難が生じ、
特に物流には魔晄エネルギーを使用していた時の数倍のコストと労力が必要になった。
そのような背景から、ロケット村でも以前飛空艇や各種飛行機のパイロットや技術者として活躍していた
人々が集まり、魔晄エネルギーに代わる燃料を使った飛空艇の開発が行われていた。
我々が、正確には私は負傷していて静養中であったが、調査中にとある物体を発見したのはその頃であった。
私とメンバーの一人の女性がセフィロスの思念体たちから受けた拷問の傷を癒している間も、他の者たちは
依然として北の大空洞や古代種の神殿周辺の調査を続けており、たまたま立ち寄ったボーンビレッジで近くに
妙な地形があるときいて調査を行った。その結果、ライフストリームや地形関連の自然物ではなく、何か
とてつもなく大きな物が地中に埋まっている事が判明し、我々はWRO局長に連絡を取った。
-------------
(当時の映像から)
「もう何時間経ったと思ってんだ!まだ着かねぇのか!!!ったく、これだからチョコボの方がよっぽど
速いってんだよ」
「艇長、もうすぐですよ。ほら、見えてきました」
大きいばかりで全く速度の上がらない蒸気自動車に乗ったシドがボーンビレッジ近くのキャンプに
ついた時には、既に日が傾きかけていた。
「ったく、腰がいてぇし、年寄りにこんなおんぼろで長旅させんなよ」大声で悪態をつきながら
シドが車から降りると、WROと書かれたテントからリーブが顔を出した。
「私より御若かったような気がしますが。お久しぶりです」
「おう、久しぶりだな!なんだか大変だってから来たけど、ほんとに大変なのか?」
「ええ、腰を痛めてまで来て頂いた甲斐はあると思いますよ。お疲れでしょうが、日が沈む前に
早速みて頂きたいのですが」
リーブはまだぶつぶつと悪態をついているシドと、運転でシド以上に疲れきった技師をキャンプの裏側の
森に連れて行った。
「うわ、なんだこりゃ!!!!」
木がかなり密集した森は、その部分だけきれいに切り開かれ、地面がかなり深くまで掘られていた。
かなり日が落ちており、薄暗くなっていたが、その中心で地中から顔をのぞかしているのは、何か、
船のような物の先端だった。
「船…?いや、飛空艇???」
「その通りです」
さらりと答えるリーブと飛空艇を代わる代わる眺めて、シドと技師は絶句した。
------------
「ボーンビレッジの人々に協力して頂いて、全体の掘り出しはほとんど完了しました。
まぎれも無く飛空艇です。しかし、我々ではこれがどういった飛空艇であるのか、修理次第で動く
可能性のある物なのか、それとも博物館行きの物なのか、全く判断が出来ないんですよ。ですから
もちろんシド、あなたに来て頂いたんです」
オイルランプに灯をともして艇内に入り、機関室と思われる部屋に進みながらリーブが説明を続けた。
「最初にこれを発見した方が中に続くドアを見つけて入ってみたらしいんですが、古くなってはいるものの、
まだ動く物であるようだといって、WROに連絡が入ったんです。そこで、その可能性があるのかどうかを
正確にみて頂きたくて御呼びしたんです」
シドは、突然自分の目の前に現れた、ハイウインドよりも大きな飛空艇への驚きとショックから完全に
回復していなかったが、土と埃をかき分けて機関室に辿り着くと、彼らしくもなく完全に言葉を失ってしまった。
「これは…」再び絶句するシドの隣で、同じく驚きを隠せない技師がつぶやくように言った。
「ハイウィンドとは全く違う…我々の技術とは違うものでできています…」
---------------
(当時の映像から---その2)
バレットはロケット村に着くと、まっすぐにシドの家の裏にあるハイウィンドの修理場に向かった。
シドたちは家の中ではなくそこにいるとわかっていたからだ。しかしシドの家をまわって裏に出てみると、
ハイウィンドの後ろに、何か更に大きな物があるのが見えてきた。
「な、なんだこりゃ!!!」
唖然としてその大きな物体を眺めるバレットの横から声がした。
「新しい飛空艇、シエラ号だ!」
------------------
シドの家の今にどっかと座り込んだバレットはもう一度ビールをあおった。彼がはじめてここを訪れた
ときと同じようにシエラがお茶を用意しようとしたが、バレットのショックはお茶ぐらいでは収まりそうに
なかったので、気を利かせた彼女はビールを出した。
「古代の技術???魔晄エネルギーでも燃料でもないってのか???」
「ああ、そうだ」机の上に足を投げ出したシドが満面の笑みをたたえて答えた。
「お前らがあれほど必死にオイル・エネルギーの飛空艇つくってたってのにか!!!俺はそのために
油田まで見つけたんだぞ!!!」
バレットはジェノバ戦役のあと、可愛いマリンをティファとクラウドに託し、世界中を旅していた。
そこで、魔晄エネルギーが無くなったばかりに人々が苦労していたり、高速の移動手段が無いために
困っている人々を見、そしてこのロケット村でシドと技術者たちがオイルを燃料とした飛空艇の開発を
行っているのを知って、新たな油田の発見をその身に課した。オイル燃料の開発を行っているのに、
肝心の油田が枯渇寸前だったからだ。そして、彼はつい最近、ついに新たな油田の発見に成功したばかりだった。
「バレットさん、オイル燃料がいらないのは、あの飛空艇だけですから。ハイウィンドや他の飛空艇には
これまで研究を行ってきた燃料が必要ですし、他の飛行機や車にも、油田は必要です」
シエラが静かに笑いながら答えた。
「バレットさんの油田も、私達の研究も、無駄になる事はありません」
「そうだ。そういうことだ!」
シドもビールを飲んで、満面の笑みをたたえたまま続けた。
「リーブの野郎が、オイル・エネルギーが完全に使えるようになったら、あのシエラ号を中心として、
飛空艇団を作りたいってんだ」
「リーブ?WROでか?」
「ええ。そうみたいです。オイル・エネルギーの完全な実用化まであと一歩です。私達は研究開発を
続けるだけです」
シエラはそう言うと、微笑みながら部屋をあとにした。
「そうか…」
「そうだ、おまえの油田も、俺様の飛空艇もみんな万々歳ってことだ!」
相変わらず上機嫌にビールを飲むシドに、シエラが出て行った扉を見つめながらバレットが彼にしては
小さな声で言った。
「シド…あの…シエラさんは…もう大分具合が悪いんじゃねぇのか?」
シドが急に表情を硬くしてバレットを見つめた。
「おまえ、知ってたのか」
「この暑いのに研究用の白衣脱いでもずっと長袖、それでも見えてるあの黒いのは、この俺だって気がつくぜ」
扉の裏でバレットとシドの会話を聞き、シエラは左手の袖口を握りしめた。
袖口は、黒い油のようなもので汚れていた。
しかしそれは油ではない。
星痕症候群だった。
----------------
(手記から)
我々がこの飛空艇を発見してWROに連絡を取ったのは、世界中でこれを一番必要としており、
正しく使う事が出来るのがWROであること、またリーブ・トゥエスティを通して、彼のかつての
仲間であった、飛空艇についての知識が一番深いシド・ハイウィンドとのコンタクトをとって
もらうのが一番であると判断したためだ。
神羅カンパニーがあった時代にこの飛空艇が発見されていれば多少歴史も代わっていたかも
しれないが、この時にはこの判断が正しかった。シドと技術者たちはWROの援助を受けて
掘り出された飛空艇の動力についての調査と研究を行い、機関部以外の修理も行って、
最終的には再び飛空艇をあるべき場所ーー土の中から空へと還す事に成功した。
「古代の技術」と彼らは呼んだが、それが古代種のものなのか、それよりももっと古い時代の
ものなのかはわからない。しかし、とにかくシエラ号は大空へと飛び立った。セフィロスの
思念体達によってエッジが攻撃された時に、シエラ号ははじめてその姿を大勢の人々の前に見せたが、
その時には戦闘に使われる事は無かった。
その後、シド・ハイウィンドとロケット村の技術者たちはオイル燃料を実用化し、それを使った
飛空艇も大量に製造を始めた。
そして、正式にWROの飛空艇団が発足した。
(続く)
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On the Way to a Smileバレット編の内容が含まれています。
ネタバレになってしまうので読んでいらっしゃらない方は注意!
・・・と最初に書き忘れました逝ってきます…
乙です。
バレット編は読んでないのですが、面白かったです。
乙だす
なんとなくあんたのティファは乗り物よいを全くしなそうですw
キャラがしっかりたってる!
>>532-537 ここで完全に(旧)神羅が裏方に徹しているという関係性がよく描けてるなと思います。
DCで「(出資者の)意図はどうあれ、利用させて貰った」というリーブの台詞の行間を上手く補えてる上に。
ACの「遂に見つけたぞ!」ってバレットの喜びようも、その裏で待っている技術者達がいたからこそ、
だというのも。
ACもDCも、仲間達の歩む別々の道がどうやって合流していったのかという経緯が描かれてないだけに
こういう話を読むのはとても楽しい。
ところで、もしかして飛空艇「シエラ号」命名エピソードはバレット編に?
もしそうでなければ、その辺も読んでみたいなーなんて思ったりしました。
前話:
>>518-521 ----------
志半ばで死を遂げた者達の想念、それらが溶け込み混ざり合った“闇”は、まさに混沌の名に
ふさわしかった。
3年前、放り込まれた闇の中で何かを見たのではない、目に映る物はどこまでも続く闇ばかり
だったから、何かが見えるわけがないのだ。見たのではなく触れる事で、彼女はその存在を知った。
闇の中でユフィが触れたもの、それが死者達の残していった生への執着という想念だった。
ネロの闇に取り込まれた多くの者達は死を望んでいた訳ではなく、むしろこの先を生きたいと願って
戦場に立つ者達ばかりだった。だから何の前触れもなく突如として訪れた死という現実に直面し
肉体を失っても尚、生へ未練を残すのは無理もない。
死者達の想念はまるで川底に堆積したヘドロのように手足に絡みつき、一方では内部から侵食し
心を蝕んでいった。その中で、ユフィはこれまでに経験して来たどんな窮地でも感じる事のなかった
恐怖を知った。それは死に対する強い恐怖であり、生への未練や執着――すべて自分以外の者達が
残していった、叶えられることのない願いや、託せなかった思い――それは生物が持つ本能的な
死への恐怖ではなく、死の向こうにある悔いや悲しみ、どれも生きている間には到底知ることのでき
ない感情だった。
言わば生きながらにして、死の向こう側から死を見つめた者にしか味わえない恐怖。それ以上、
ユフィが触れた闇を言葉にして伝えるのは難しい。いずれにしても、ヴィンセントが助けに現れなければ、
為す術もなく闇に呑み込まれ、今頃は彼らと同じようにユフィも闇の一部となっていただろう。
あの日以来、自分が死に対して臆病になった事にユフィは気付いていた。けれど、それを他の人に
悟られるのも、自分が認めるのも、どちらも嫌だった。
だからディープグラウンドの騒動が一段落したあと、故郷ウータイへ帰還して久しぶりに再会した
旧友や父親にオメガ戦役の事を語る時、いつもより少しだけ口数を多くして明るく振る舞っていたことも
自覚している。そして、零番魔晄炉での出来事は決して口に出さなかった。
思い出したくなかったからだ。
(あの時のこと知ってるのは、一緒にいたヴィンセントだけのはずなのに、おっちゃんがどうして?)
冷静になってみればすぐに分かる事だった。地上の魔晄炉破壊部隊と合流できたのも、ヴィンセント
達が互いの位置や作戦の進行状況を報告し合っていたから。なによりユフィだって同じ事をしていた。
(だからってさ、なにもアタシのことまで言う必要ないじゃんか)
当然ながらヴィンセントに悪意があったわけではないし、彼らなりにユフィの身を案じた結果だった
のは言うまでもない。しかし、今のユフィにそれを話したところで聞く耳を持たないだろうというのも簡単
に想像できた。
「……ユフィさん?」
(みんなずるいよ!)
口を真一文字に結んで、ユフィは目の前のリーブを睨み付けた。「何も話してやるもんか」、言葉を
発さずとも、彼女の表情が雄弁に物語っている。
それを見たリーブは「仕方ありませんね」とでも言いたげに溜め息を吐いて、こう切り出した。
「ユフィさんがここへ戻って来る、私がそう判断した理由をお教えしましょう。
それは、あなたが近いと思っているのが『私』だったから。……違いますか?」
「ちかい?」
後ろのモニタに視線を向けて、場所じゃないですよ? と前置きしてからリーブは続ける。
「ユフィさんはこれまで、進んで私達の活動に協力してくれていましたね? その理由にも同じことが
言えますが」
「理由って……アタシはべつに」
否定しようとしたユフィの言葉を遮って、リーブは端的に告げる。
「マテリアが用をなさなくなった今、それ自体の価値も下がっています」
元が稀少だったうえに長期化した多国間戦争の終結、ジェノバ戦役の勃発と星の危機、そして――
直接的な原因がマテリアではないにしろ――星痕症候群の教訓から、6年前を頂点としてマテリアの
需要は世界的に減少の一途を辿っていた。そんな情勢を背景に、W.R.Oの主導で『軍用目的での
マテリア使用禁止』の協約が各地で結ばれ、今日現在で批准していない地域が無い程の広がりを
見せていた。そのためマテリアは発見次第、放棄――つまり星に還すことになっている。仮にどこかで
新たにマテリアを量産しようとしても、世界各地の魔晄炉がすべて機能を停止した今となっては不可能だ。
魔晄炉から建造しようとしたところで、実現の見込みは皆無と言っていい。なにせ魔晄炉に関する
資料は神羅と共に失われ、今では殆ど残されていない。残されていたとしても、その原理を理解し
実現するには相当の困難と危険を伴うはずだ。
マテリアを求める者も、提供する者もなければ、必然的に市場(マーケット)は消滅する。
「そもそもW.R.Oの活動も各地の復興と治安維持が第一優先ですから、参加したところで期待通りの
報酬も見込めません」
つまり狙う獲物が無い以上、ハンターも存在できない。と言うことだ。
「ですから私達に協力して各地を転戦するメリットはありません。それでもユフィさんがW.R.Oの活動に
参加していたのは、他にメリットを見出していたからです」
「メリットって……」
「もちろん、ウータイの復興事業です」
「…………」
ユフィは何も言えなかった。
「ところで」唐突に口調を変えてリーブが尋ねた。「ゴドーさんとは最近、お会いになりましたか?」
「オヤジの話は関係ないじゃん」
「そうでしょうか?」訝しげに問い返せば、思った通りユフィは眉をひそめた。
「……なんだよ」
「そうやって今も、逃げているだけなんじゃないですか?」
「ちっ、違」
「本当にそう言い切れますか?
あなたは我々の活動に協力することを口実に、ウータイから逃げているのではないですか?
五強聖を束ね、ひいてはウータイの統領となる重責から」
6年前、父であり五強の塔の最上階に座したゴドーを破ったとき、その役目は本来ユフィに継がれて
いたはずだった。しかし未だに、五強聖の統領は『代役』ゴドーが務めている。
「ちがう! そんな事……!」
「代役は『旅を続ける間』、確かゴドーさんとの約束にはこんな条件を設けていましたね? そして
6年経った今も約束は守られている。あなたは我々の活動に協力して各地を回ることで、失効を延ばす
ことができた。これが、あなたにとってW.R.Oの活動に参加する目的。最大のメリットです」
「そんなこと……」
「無い」と、そう反論したかった。なのに、ひとつも言葉が出てこなかった。
もちろん逃げているつもりはないし、ウータイの復興を目指しているのは昔と変わっていない。でも
ウータイ以上に大変な場所を見ておきながら、そのまま放っておく事なんてできない。
(……アタシはそう言って、結局は逃げ回ってた?)
だから何も言えなかった。悔しくて俯くと、拳を強く握りしめた。
腹が立った。何よりも反論できずにいた自分がいちばん腹立たしかった。意地が悪いとは思った、
でも悪いのはリーブじゃない。付け入る隙がある自分なんだと言うことも分かっている。だから何も
言えなかった。
「すみません」そんなユフィが聞いたのは、意外な言葉だった。「『私』がここにいるのも、同じ様な
理由です。それをお話しするために、あなたの取った行動理念とは違った解釈で話をさせてもらい
ました。安易に反論できないだけに、聞いていて気分を害されたでしょう?」
そう言って苦笑したように呟くと、リーブはユフィに背を向け、再びモニターに映る人形を見つめた。
「私はね、こうすることで逃げているんですよ。……ミッドガルという過去から」
「おっちゃんが……逃げてる?」
仰ぎ見たリーブの背中からは、何も分からない。
ただ1つだけ分かっているのは、これまでユフィが見てきたリーブは、何かから逃げている様には
見えなかったという事だけだった。しっかりと地に足を付け、周囲の状況を冷静に分析し迅速な判断と
的確な指示で組織を動かし、来るべき未来をしっかり見つめている。それは紛れもなくW.R.O局長
リーブ・トゥエスティの姿だ。
しかし、リーブはそんな見方をあっさりと否定した。
「過去に背を向ける為には、未来を向かなければいけませんからね」
----------
・ユフィのお父さんは、17杯目のコーヒーを奢ってくれるあの人ではありません(念のため)。
・こんな形でしか表現できませんが、DCでユフィが大好きになりました。表現おかしくてすんません。
>>532-537 文章の安定感が半端無いんだよな。それでいてかたい文章と台詞部分のバランスが絶妙。
俺にとってはこれが公式で語られてないけど公式な補完でいいやw
>>542-546 GJ!文句なしに、ただひたすら楽しみに待ってる。
皆それぞれに個性的で、作品みんな大好きだ。
>>532の人は論文とか硬い文章を書き慣れている理系な男のイメージ
>>542さんはダイナミックな文章ながら気配り上手なお姉さんなイメージ
まさに某ミュージカルを観ているような雰囲気作りで魅せる
空爆さんは実はロマンチックな男(リーマン)だったりすると面白い。
そんな無粋な事を考えながら読ませてもらうのも読み手の特権と言う事でwww
応援してます。
ちょっと質問なんだけど、5〜6年位前にFFシリーズキャラ総出演の、
学園物小説を連載してたサイト覚えてる人いないかね?
ウォン先生がハゲだったり、クラウドの子供がスコールだったり、
たしか、ギュスターヴとかのサガフロキャラも出てた気がする。
最終的に異界送りで完結したんだけれども、もう一度読みたくなった。
ほ
ま
す
前話:
>>542-546 ----------
Subject :"A cat has nine lives."
Date :υ-Era1859.04.01
From :unknown
W.R.Oの創設者であり現局長リーブ・トゥエスティは神羅カンパニー在籍時代、若くして都市開発
部門の統括職に着任したエリート技師である事は一般にも広く知られている通りだ。統括としての
彼は優れた技能に加えて状況の分析力とそれに基づいた判断力、対人関係における柔軟性、さら
に持ち前の実直さも相まって、若いながらも部下達からは絶大な信頼を得ていた。
しかし都市開発部門統括としてリーブ・トゥエスティが選任された要因は別にあった。一般的に
もっともよく知られている彼の功績は、魔晄都市ミッドガルの建造であり、神羅カンパニーにとっても
大きな意味を持つ同プロジェクトへの貢献度は、そのまま彼の評価に繋がった。ここまでは誰もが
知り、誰でも簡単に想像できるだろう。
ところが、具体的に彼はどのような形でミッドガルの開発事業に貢献したのか? それを知る者は
少ない。
結論から言えばミッドガルの中枢、圧倒的な安定性を誇る魔晄炉の炉心制御システムを確立した
事に他ならない。これがリーブ・トゥエスティの統括就任を後押しした最も大きな功績となった。
同時に、炉心制御システムは神羅カンパニー内でも最高レベルの機密とされ、システムの詳細は
持ち出しだけでなく、あらゆる媒体への複写が禁止された。こうして社外はもちろん、社内でさえ
リーブの功績が正確に周知される事はなかった。
巨大都市ミッドガルを維持・運営するために欠かせない膨大なエネルギー需要をまかなうため、
それまでにはなかった密集型の魔晄炉建造は、ミッドガルの都市建設計画立ち上げ当初、すでに
草案の段階から盛り込まれていた。しかしこの当時、稼動していた魔晄炉は実験用か、もしくは大
規模な実験施設の電力を自給する用途でしかなかったため、都市部と隣接する魔晄炉建造には
困難が予想された。
中でも最も危惧されたのが「魔晄炉の安全性」である。
魔晄炉事故については現在でも知られているとおりコレル、ゴンガガ、ニブルヘイムなどの実例が
あるが、これらの他にも小規模の事故や不具合は以前から頻発しており、安全性を疑問視する声は
当時の開発者の間でさえ強かった。それは各地で発生した(自然的あるいは人為的な起因に関わら
ず)事故に対して、どの事例においても根本的な解決策は講じられておらず、事故の発生原因も完全
には解明されていないという事情が背景にあったからだ。
報告されたケースはどれも幸いにして僻地における事故であるため、周辺環境・生態系への影響に
ついては最低限に留まるも、ミッドガル建造に際して提案された『都市部密集型魔晄炉建設計画』で
は、最優先の解決事項に挙げられた。
偶発にしろ故意にしろ、いったん事故(特に懸念すべき炉心溶融)が発生してしまった場合、現在
でも食い止める手立てが無い。さらに密集型魔晄炉では、1基で起きた異常が他の魔晄炉に影響し
未曾有の大惨事を引き起こす可能性もあった。しかも計画では、この中心地に神羅カンパニーの
本社機能が置かれる予定だった。この事からも分かるように、神羅は新都市ミッドガルを“象徴”――
繁栄と、力の誇示――と位置づけていた。そんな場所で事故があってはならないし、わざわざ危険な
土地で働くことを好む者はいなかった。
よって、開発チームは「絶対に事故の起こらない炉心制御システム」を構築する必要に迫られた。
魔晄の発見とエネルギー利用は、近年に始まったものであり歴史は浅い。事故の発生原因を調べる
にしても、当時はろくにデータも揃っていなかった。事故が起きる度に神羅社内では部署の枠を超えて
大規模な調査チームが編成され各地の調査に乗り出したものの、事故原因の特定はおろか、事故
発生後の対処措置さえままならなかった。
そんなエネルギー事情を知る都市開発従事者の誰もが、「絶対に事故の起こらない炉心制御
システム」の実現など、とうてい不可能だと考えたのは言うまでもない。
そんな中でただ一人、「絶対に事故の起こらない炉心制御システムは実現可能だ」と言い切った
人物がいた。しかし彼の提唱した理論はどれも実証に欠けるものばかりであり、他の者達からは
提唱者の名を捩って『ヤマネコの妄言』と揶揄された。当時の開発設計局(後の神羅カンパニー
都市開発部門設計課)は、彼の提出した計画書をまともに取り合おうとせず、いつしか提唱者自身も
開発チームの中心から姿を消すことになった。
『ヤマネコの妄言』を要約すると、星命学を基礎とした魔晄エネルギーの循環法則、観測から汲み
上げ地点を算定する方法、エネルギー変換原理などが示されていたらしい。「らしい」としているのは、
現在では原版を閲覧する事ができないからだ。おおかた機密保持の名目で廃棄されたか、データ化
される事なく幾たびかの混乱で消失したものと思われる。
そしてリーブ・トゥエスティは、この妄言をミッドガルの都市開発に適用したとされている。
***
「……先輩。その記事、信じるんですか?」
そう言って、ツォンの背後から訝しげな視線とともに問いを向けたくなるのも無理はない。記事の
投稿日は明らかに改ざんされているし、情報の出所はおろか投稿者の身元すらも不明だった。
こんな物ではゴシップにすらならない。そもそも記事の内容に信憑性がまるでない、というか
デタラメだ。読むだけ無駄とすら思えた。だから、そんな物をじっくり読んでいるらしいツォンが、何を
考えているのかと尋ねたくなるのは自然なことだとイリーナは思った。
「たしかに信用に足る要素はないが、嘘と断言できるだけの根拠も揃っていない。……その意味では
興味深い記事だと思う」
「だいたい『ヤマネコ』って何ですか?」
「ネコ、だろうな」
ツォンが口にした言葉を最後に、場はしばらく気まずい沈黙で満たされた。当然ながら彼女は
そんなことを聞いたのではないし、ツォンもそんなことを聞かれている訳ではない事も分かっていた。
しかし、それ以外に答えようがない。
「まさかケット・シーと引っかけてる、ってだけじゃないですよね?」
「そうかも知れないが、現時点で記事の投稿者の意図を類推しようにも、これだけではな」
「ヤマネコが居るならウミネコだって……」
「ウミネコは鳥だ」
「じゃあそもそもケット・シーだって『ネコ』じゃありませんよ!」
発言者の意図とは全く別の方向に傾いてしまった機嫌を、今後どう修正していくべきかツォンは
僅かに悩んだが、今はそれどころではないのだと思い直して画面の表示と思考を切り替えた。
先程から幾度か経路を変えて試みているが、飛空艇師団中央管制とのコンタクトは未だに成功して
いない。先ほどの記事は、気分転換も兼ねて開いたページで偶然見かけた物だった。イリーナの
指摘した通り、信憑性は薄い記事だったが、それでも何か興味を惹かれたのは確かだった。
----------
・かっぜのなかーのすーばるーが無限ループしそうな雰囲気が出てたら良いな、なんて希望。
・猫ネタその2。猫のイメージって驚くほど沢山あって楽しいですね。
・もしかして行数規制、変わってますか? テスト。
>>547 その発想はなかったw
>>548 分かりません。
乙
クロノクロスからヤマネコ様ゲスト出演ktkr(違
クロノクロス懐かしいな…。
ラストダンジョン乙です。いつも楽しみにしています。
ラストダンジョン、すばらしい描写力に支えられた文と説得力ある設定に、いつも感嘆させられてます。
乙です!
…ただ、イリーナにとってツォンは上司なので、彼を呼ぶ場合の呼称は「先輩」ではなく「ツォンさん」なのですが…
GJ!
もうみんなGJ過ぎる…超カッケー!
ベタボメしたいのにしょぼい言い方しか出来ない自分が悔しい。
本当にいつもありがとうございます。
このスレに来るのが楽しみで楽しみで…。
続きを+(0゚・∀・) + wktk + 待っています。
が、決して無理はしないでくださいませ。
ご自愛ください。
おつおつ
前話:
>>553-555 ----------
「……それにしても」
席に戻ったイリーナは、ディスプレイに次々と現れる情報を追いかけながら、興味深げに呟く。
「ツォンさんが見つけたこのデータって、よく考えてみたらちょっと変わってますよね?」彼女は隣の
端末に表示されているデータに目をやった。
名を呼ばれたツォンは視線を向けると、短い返事と共に顎を引いて言葉の先を促した。イリーナが
見ている画面には、全ての発端となったデータ――以前にW.R.O使途不明金疑惑の内偵調査を
進めていた際、機関のデータベースから無断借用したもの――が表示されている。先ほどのゴシップ
記事よりは、よっぽど信憑性と重要度が高そうですよ。とでも言いたげな眼差しをディスプレイに向け
ながらイリーナは話を続けた。
「これって全部、建材調達に使われたって事ですよね? だとしたら正確には『使途不明金』ではない
と思うんですが」数字で埋め尽くされた画面上に指を当てると、時間の流れに沿って指を滑らせた。
彼女の指摘通り、一見すると建材調達費の収支データでしかない。しかしこのデータの真価は、
建材の購入量とかかった費用、実際に各地の復興事業のために使われた量、さらに事業の進捗
状況を参照しているところにあった。そうすることで、購入されたまま使われない建材がある事実を
示している。数値だけで言えば1件1件の差異は辛うじて誤差の範囲と言えなくもないが、累積すると
とんでもない量の建材が消失していることになる。
「データが事実なら、これだけ膨大な量の建材が何に使われたのかが不明だ」購入された建材に
金銭的な価値があるか否かという判断は保留とした上で、建材購入がロンダリング目的という可能性も
否定は出来ない。そもそもこんな量の建材が跡形もなく消えるというのも考えにくい、つまり建材の
購入量を水増しした架空支出だった可能性もある。そもそも今回、シェルクに建造中のW.R.O新本部
施設の構造解析を依頼したのは、この可能性を検討するのが第一の目的だった。
建材流用が無ければ、完全に『使途不明金』だ。今のところどれも実証はないが、いずれにしても
不審な点は多い。「実際、我々と同じ事を考えている者は内部にもいた様だしな」
現時点で彼らに心当たる名前は無かったが、このデータ作成者こそW.R.O隊員にして元都市開発
部門のダナだった。
建材費を中心にして緻密に整えられた費用データは、さらに各地域の復興事業の進捗状況を
参照しつつ約3年にもわたって記録されていた。その事からもデータ作成者の明らかな意図、半ば
確信めいたものを感じた。こんな大量のデータだ、いくらなんでも一朝一夕にとはいかない。
「だとすると、3年前から始まったって事ですか?」顔を上げて問い掛けたイリーナの言葉に、ツォンは
はっとした。
(そうだ、なぜ“3年前”からなんだ?)
このデータの作成者がW.R.Oに入隊したのがその時期なのか? と考えたが、おそらく違うだろう。
ここまで細かく記録を整理するような人物が疑念を抱いたのなら、自分が入隊する以前からのデータ
を徹底的に洗い直すだろう。それこそW.R.O発足当初、“姿無き出資者”の支援を受け入れ始めた頃に
までさかのぼるはずだ。でなければ、資金の流れの全容を把握することは不可能だからだ。
ではこの記録が始まった3年前に大きな異変があった? ある時点を境に何かが変わった、その
正体は分からないが、異変を契機に記録を取り始めたと考える方が自然だ。
(3年前……?)
――オメガ戦役。
思い浮かんだのはそれだけだった。確かに3年前のあの事件で、W.R.Oは多大な犠牲を強いられた。
その頃から軍備拡張を推し進めて来たとする見方もあるが、真相は定かではない。あの混乱の中、
W.R.Oに何が起きていたのか? ツォンは考えてみたが、どれも憶測の域を出ることはなかった。
ただ、どちらにしてもこの費用データは内部告発のための資料として充分な力を備えたものだった。
言ってみればこの武器を使えば、W.R.Oに致命傷を負わせることができる。
にもかかわらず、これが公表された形跡は今のところどこにも無い。W.R.Oデータベース内でも
セキュリティロックがかけてある場所に保管されており、そう易々とはアクセスできない仕様になって
いた。
「でも、外部に公表するつもりがないのに、こんな物をわざわざ?」
「これを使って脅迫を企んでいたと言うなら、まだ分かるが」交渉の切り札は、必要なときまで厳重に
保管しておくのが鉄則だ。
「隊員が局長を……ですか?」
「もはや私設団体とは言い難い規模にまで成長したからな、当然そこには利権も生まれる。おおかた
狙いはその辺りだろうな」
反論をあきらめ黙って画面に視線を戻したイリーナの横顔を見つめながら、ツォンは思った。「彼女
はこの仕事に向いていない」と。
メンバーの中で神羅カンパニーへの入社が最も遅く、また在任期間も短かった彼女は、任務を通し
て“世界の暗部”に触れる機会が少なかった。それは彼女にとって幸運であり、同時にこの仕事に
向かないと思う一番の根拠になる。
彼女は事態を予測できないのではない、予測したくないのだ。だから反論も同意もせずに目を逸らし
た。そんな彼女の性格はタークス向きではないと言わざるを得ない。しかしながら、だからこそ彼女は
必要なのだとも思う。
正直なところ心情的にはイリーナに同意したかった。いま口にした話がすべて自分の思い過ごしで
あればいいと、内偵調査を始めた当初から思っていた。しかし調査を進めれば進めるほど疑惑の色は
濃く、混迷の度は深まるばかりだった。
リーブは星を救った英雄であり、元神羅カンパニー都市開発部門統括、神羅解体後は私財を投じて
W.R.Oを設立し局長を務めるという変わった経歴の持ち主だ。かつてタークスが神羅内で孤立無援に
なった時、社命に背くことを知りながらも彼は密かに協力してくれた。その一件を知るからこそ、彼が
私欲に走る男でないことは分かっている。今でもそれは変わっていないのだと信じたい。それを証明
するための内偵調査だと、自分に言い聞かせていた。
なにより、任務を途中で放り出す訳にはいかなかった。たとえ結果がどうなろうと、完遂しなければ
ならない。これだけは、どうしても曲げられなかった。
なぜならば、それがタークスだから。
神羅がなくなってからも、彼はタークスとして生きることを選び、今もそれを実行している。
かつてタークスを救う手助けをしてくれたリーブに報いることができるのは、タークスである自分の
役目だと信じていたからこそ、曲げるわけにはいかなかった。
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・このパートを書く度に“どんどんファンタジーから遠ざかってる”という自覚はあるんだ。正直すまない。
・書いておいて何ですが、使途不明金の件は雰囲気で…なんとかなってますか?w
・FF7螺旋トンネルの「タークスの意地と心意気!」っていうイリーナの台詞が印象的で、
それだけが根拠になってます。認識に違いがあったらごめんなさい。
・
>>558 的確なツッコミありがとうございます。…「先輩」はレノですね。
・自分にとって(リーブもそうですが)全キャラクターを描写するのは難しいです。それと、やっぱり
考察不足は否めません。なので間違いや気になった点などあったら教えてもらえると本当に助かります。
・…路線の違うこんなお話なので、読んでもらえるだけでも有り難いですけども、はい。
・ところで投稿規制やっぱり変わった?(3072 って前より500文字程度増えてるっぽい…?)
乙です!!
ラストダンジョン、今回も堪能させていただきました。
企業の資金洗浄疑惑wまでファンタジーとして違和感なくお話に練り込む手腕、お見事です。ツォンさん、まるで島耕作ですね^^
GJ!
おつおつ
乙!
ほ
前話:
>>562-564 ----------
シェルクはダウンロードしてきた施設内の構造解析をいったん中断し、全ての端末操作をオフに
してからSND実行を最優先としてプログラムを設定し直した。彼らが事前に接続地点の座標と
仕様を調べていてくれたお陰で、シェルクは端末の調整とプログラムの組み上げに集中することが
できた。最後に各機器の計器類に目をやり、動作と数値が正常であることを確認すると、端末本体
から伸びたコードの先にヘッドセットを接続した状態で椅子に深く腰掛けた。
「これから潜ります。……ですが潜行深度はそれほどありません、現在の魔晄値から逆算しても
良くて48が限界です。この深度で接続を維持できるのは長くて2時間。深度を示す数値が高ければ
それだけ負荷も大きく、潜行可能な時間は短くなります」
シェルクの声に応じてツォンは頷く。右手のモニタにはSND実行中、常にシェルクの状態を外から
も確認できるように、潜行深度と時間が表示される様になっている。潜行深度は最大100、これは対象
への精神干渉と記憶の共有を意味している。
3年前、ルクレツィア・データを体内に埋め込んだ状態でヴィンセントと接触した際、シェルクは
取り込んだデータ断片から感情への干渉を受けたり、記憶の競合という現象を体験した。これらは
どれも潜行深度に関連しており、正確な観測数値は残されていないものの、当時の潜行深度最大
値は推定170前後と推測された。
100以上の深度で潜行すると、彼女自身の肉体・精神ともに負荷がかかる。さらにこの状況が長く
続けば生命維持にさえ支障を来す。ディープグラウンド時代、被験者の記憶操作を目的として
シェルクは深度100近いSNDを日常的に繰り返していた。そのため時間経過と共に損なわれた
エネルギーを補うべく、1日も欠かさず長時間に及ぶ魔晄照射を受ける必要があった。もっとも、
これは長期にわたって能力の調整を行ったシェルクだからこそであり、彼女同様「適性」とされた
被験者であっても、訓練や調整を行わずSNDを繰り返せば脳機能に支障を来し、心身共に正常を
保てず死に至る。
それはちょうど、非正規の方法でディスクの記録を改ざんしようとした結果、媒体そのものを破損
してしまうのと似ている。乱暴な言い方かも知れないが、両者の違いは人の脳か記録媒体というだけ
だ。SNDによって破損し廃棄されたディープグラウンドソルジャーの正確な数は残されていないが、
少なからず確かに存在した。
その事からも分かるとおり、SNDは技術としてはまだ不完全なものだった。実用化の見込みは
おろか、今となってはシェルク以外に扱える者はいない。
さらにSND潜行に伴うリスクはこれだけではない。
「それと、先ほども説明しましたがSND実行中は端末の強制終了は避けてください」
通常、コンピュータ上でプログラムを実行中に電源を落とすと、その時に使用していたデータは
まるごと消失する。これと同じ事がシェルクの身に起きるのだ。機械で言うメモリの消失という現象は、
人にとって短期記憶の忘却だけではなく、状況によっては重篤となる場合がある。そうして『破損』
した事例もディープグランド時代に見ている。当時と違い設備もない今、こうなると修復はきわめて
困難だ。
「それなら大丈夫よ。仮にこの建物への電力供給がストップしても、すぐに自家発電に切り替わるわ」
女性が答えると、シェルクは安心したように頷いた。
「飛空艇師団中央官制への侵入経路はまだ検索結果が出ていない、ルートが判明次第データを
送ろう」
「外の動きも随時知らせるわ」
ふたりの申し出にシェルクは今いちど頷いた後、彼らの顔を見上げて告げた。
「ありがとうございます」
「その言葉、……この任務が成功したら聞かせてちょうだい」そう言ってシェルクを励まそうと女性は
笑顔を作った。シェルクもまた、彼女の言葉に小さく笑顔を返す。
「……では、始めます」
ヘッドセットを装着し、シェルクは傾斜した椅子の背もたれに身を預けた。ふたりはそれぞれの持ち
場について、作業に取りかかる。
「出力90%、深度10。座標240.229.123.047.+027、座標修正プログラム起動。カウント5、4……」
大丈夫、何も恐れることはない。これまでだって何度も潜って来たのだから。
それに今は目指すべき場所も、そこへ続く道も分かっている。
声には出さず、シェルクは内心で何度も「大丈夫」という言葉を繰り返した。
「……リンク。センシティブ・ネット・ダイブ開始」
言い終えた次の瞬間、シェルクの意識はネットワークに繋がる。
ダナの乗り込んだ大型輸送車両シャドウ・フォックスは、現在稼働中のW.R.O本部へ向けて悪路を
ひた走っていた。荷台には彼女の他に数人のメンバーが同乗し、積み込まれた通信機器を使って
各々が作業を進めている。
エッジへ来るまでケリーが座っていた席に着くと、ダナは置いてあった携帯用端末のディスプレイを
開いた。彼女たちがセブンスヘブンを訪れている間、仮眠をとっていたシステムは持ち主の呼出に
応じて目を覚ます。ダナが「ただいま」の挨拶代わりにパスワードを打ち込むと、「おかえり」と言う
返事代わりに用件を尋ねてきた。
ディスプレイにはここを出る前まで開いていたいくつかの画面が並んでいた。ダナはその中の1つを
選んで中断していた作業を再開するのと同時に、ネットワークへ接続した。各地にいる隊員と連絡を
取り合うためのツール(余談になるが、これはW.R.O機関内ネットワークを参照するための専用プロ
グラムで、機構の所有する端末ほぼ全てにインストールされている。アイコンにはケット・シーが
あしらわれており、通信中はケット・シーの王冠がぐるぐると回転したり、通信を切断するときに手を
振ったり、トラブルなどで回線が切断されると背を向けたり、といった具合に妙に凝った仕様になって
いる。これが局長リーブの指示によるものなのかは、実際に聞いた隊員がいないので分からない。
ただ少なからず技術部の関与は認められた)も同時に起動する。局長の声明から時間が経つに
つれて、W.R.O内の混乱は目に見えて拡大していた。
(まるで末期の神羅ね)
思わず吐きそうになったため息を飲み込むと、ダナは姿勢を正して画面と向き合った。
W.R.O隊員の中には、ダナのように旧神羅カンパニー勤務経験者も少なくない。とは言っても、彼ら
の経歴はまちまちで、一言に「旧神羅」と括っても多くの部署があり、所属も役割も異なる者がほとん
どだ。そこに加えて、神羅カンパニーとは無関係だった者や、アバランチに代表されるような反神羅
思想の持ち主、中には元活動家もW.R.Oの隊員として所属している。
考えてみれば、これほど巨大な寄り合い所帯が分裂もせずに現在まで存続して来られたのは
奇跡とも言える。
神羅の最も大きな功罪の1つが魔晄文明だった。長期化した多国間戦争終結後に台頭した反神羅
思想の多くは、星の命を削る『魔晄エネルギー』利用に反発するところに端を発している。リーブは、
魔晄文明の申し子とも言えるミッドガル育ての親であり、一方では星を救った英雄という相反する面を
持っている。そんな彼が局長となったからこそ、この寄り合い所帯は存続しているのかも知れない。
ダナ自身にとってそうだったように、リーブは良くも悪くも象徴としてこれ以上ない適任者だった。
「……この記事の作者は、恐らくその事をよく理解しているのでしょうね」
ダナはディスプレイに語りかけるようにして呟く。彼女の前には、『A cat has nine lives.』と銘打たれた
例の怪文書が開かれていた。
「作成者も出所も不明。でもこの記事、すべてがデタラメという訳じゃない……タチの悪いいたずらを
思いつく人がいたものね」
両手を組んで、画面の中に記された文言をじっと見つめた。
> 圧倒的な安定性を誇る魔晄炉の炉心制御システムを確立した
(部門の中でさえ、炉心制御システムについて詳細を知る者は殆どいなかった。私の知る限りで
言えば、誰もいない)
> システムの詳細は持ち出しだけでなく、あらゆる媒体への複写が禁止された。
> こうして社外はもちろん、社内でさえリーブの功績が正確に周知される事はなかった。
(神羅が解体した後、魔晄炉に関する資料の多くが消失したとされているけれど、本当はそんな物、
『初めから存在していなかった』)
「……違いますか、部長?」
つまり炉心制御のシステムはリーブしか知らず、彼にしか理解できなかった。ミッドガルでただの
一度も魔晄炉事故が起きていないのは、リーブが“そこにいた”から――元都市開発部門に籍を置く
経験が導き出した、それがダナなりの見解だった。
「皆から妄言と呼ばれた仮説、それを実証できたのは部長だけだった。
そこに一体どんなカラクリがあったのか、私が知りたいのはそれだけ。それ以外に拘る理由は……」
懐に入れてあった携帯電話が鼓動するのに応じて、ダナは応答ボタンを押す。耳に当てた受話口
からは、苛立たしげなケリーの声が聞こえてきた。
「どうしたの?」言外に落ち着くよう諭す意味を込めて答えた。ダナから見たケリーは、年甲斐もなく
自分の感情を素直に表現し過ぎるところがある。
『まったくヒドイ有様だ、どいつもこいつも興味本位で好き勝手言いやがって』背後のざわつきようで、
ケリーの置かれた状況と彼の苛立つ原因は推測できた。
「分かった。気休め程度かも知れないけど、隊員をそちらに回すわ」
『そりゃあ有り難い。なるべく早く頼む、これじゃあ身動きが取れない』クラクションが短く何度か鳴った。
「じゃあ予定通り?」
『予定……とはちょっと違う形になったが、これから変電所へ向かうところだ』
「隊員の配備には時間がかかるわ、ひとまず手分けして郊外へ向かって」
『手分けも何も、俺一人じゃ間に合わない』
「あなただけって……! あの人は何をしてるの?!」思わず声が弾んだ。
『子ども達と一緒だ。まあ、成り行きってやつでな』苦笑したようなケリーの声に、ダナは我に返って
声量を落とした。
「なるべく早く手配するわ」
『頼む』
そこでケリーとの通話を終えると、間を置かずに携帯に着信があった。ダナは通話ボタンを押すと
話を始めた。
「私よ。……ええ、そう。手順に若干の変更があるけれど、概ね予定通り。彼は単独で変電所へ
向かったわ。それとエッジに増援を頼めるかしら? さすがに住民達にも混乱が広がっている様よ」
先方の了承をとりつけて、さらに付け加えた。
「『ご老人』は店に残っている、だから増援は変電所よりもエッジに回した方が賢明ね」最後にダナは
静かに告げる。
「空爆までの時間を稼げれば、それでいいわ」
通話を終えると、ダナは携帯電話の電源を切った。
----------
・SNDの設定が未だにワケワカラン。これも勝手解釈してますがあしからずご了承ください。
・区切りの都合上、この会話の一部場面は次回になります。全体的にワケワカラン構成ですみません。
雰囲気だけでも伝わってればいいなと思ってます、やや消極的ですがw
GJ!!!
乙!
おつおつ
578 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/19(水) 15:32:37 ID:9fg2Yd/D0
乙!
あげちゃった・・・
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
おつー
ほ
前話:
>>570-574 ----------
「おいおい! 一体どうなってるんだ?」
追い出されるようにしてセブンスヘブンを出たケリーは、この雨にも関わらず店の周囲にできた
人垣を前に呆然としていた。
セブンスヘブンと言えば、ジェノバ戦役の英雄――クラウドとティファ――の住処である。報道で
W.R.Oの空爆発表を見たエッジの人々が、ここへ集まって来るのも無理はない。さらに、店から
渦中のW.R.O隊員が出てきたとなれば、格好の標的になるのは当然だった。
「一体どうなってるんだ?」「空爆は本当なのか?」「状況を教えてくれ」「お前らは何がしたいんだ」
「こんな事をして何になる?」
訊きたいのはこっちだ! と喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、ケリーはマニュアル通りの
言葉だけを述べてから、逃げ込むようにして店の脇に停めてあった車に滑り込んだ。やや乱暴に
運転席のドアを閉め、片手をハンドルに置いてから視線を下げた。この中に報道関係者がいない事
だけが、不幸中の幸いだった。しかしこうなった以上、彼らがここへ来るのも時間の問題だ。
(こりゃ、増援を呼んだ方がいいな……)
――「一般市民への混乱の拡大は一番避けたい事態ではないのか?」――ヴェルドの指摘通りの
光景が、現実に起こっている。それはケリーとて想像できなかった訳ではない。ただ、彼には打つ手が
なかったのだ。
(くそっ!)
乗り込んだ車は一般にも普及している小型車で、元々ヴェルドが乗り付けてきたものだった。
エンジンをかけようとしたところでケリーはようやく不自然だということに気付く、キーは差しっぱなし
だったのだ。当初は成り行きだと思ったが、彼はあらかじめこうなることを予想していたのだろうか?
しかし車を発進させようにも、進路に出来た人集りのお陰でそうも行かない。こうして立ち往生して
いる間にも、時間は刻一刻と迫っている。
豪雨のエッジに鳴り響いたクラクションは、声に出せないケリーの叫びそのものだった。
2階の部屋でその音を聞いていたデンゼルは、窓越しに店の前の光景を見下ろしていた。
「ウソだろ……」
「こうなった以上、何らかの発表がない限り事態の収拾を図るのは困難だろうな」それが癖なのか、
窓の正面には立たず壁を背にして横目で外を覗いながらヴェルドは続けた。「この機に乗じて良からぬ
事を考える輩もいるだろう。不穏分子にとって流動化する情勢は好都合、そうなれば混乱は広がる一方だ」
「じゃあどうすれば!」
「その為の送電停止措置だ。W.R.O……いや、リーブがやらないのなら俺達がやる。それだけの事だ」
冷静な状況分析に加え、事も無げに語るヴェルドの姿にデンゼルは呆気にとられるばかりだった。
「どうするんですか?」今度はマリンが尋ねる。
「俺達がリーブに代わって事態を収めればいい。……とはいえ、時間稼ぎにしかならんがな」
「リーブさんに代わるって、一体どうするんですか?」変装でもするんですか? と真剣な表情で続けた
マリンに、ヴェルドは目を細めてこう言った。
「ここにいるだろう? ……W.R.Oの“顔”にして、『リーブの“分身”』と呼ばれてるヤツが」
「そうか!!」
「ケット・シー!」
デンゼルとマリンが同時に声をあげる。ふたりの様子を見てヴェルドは満足げに頷くと、話を続けた。
「まずはこの周辺一帯の送電を一時的に停止させ、その間に通信網を掌握する。送電回復後にこちら
からW.R.Oの広報としてケット・シーを使った偽の声明を配信。そうすれば、ある程度の情報を操作する
ことが可能になるはずだ。効果で言えば報道管制には遠く及ばないが、逆を言えばリーブの思惑に
反した情報を流せば、何かしらの行動に出るかも知れない。あわよくば空爆を停止させられれば良い
んだが、そこまでうまく行くとは思っていない」
話を聞いて概略を掴んだらしいケット・シーは頷くと、ヴェルドに向けて言った。
『通信基地局への侵入ならこっからでも可能やと思う。せやけど、ボクは専門と違うから細工には
ちぃーと時間かかるで?』
「ちょっと待ってください」そう言ってデンゼルが割って入る。「エッジだけじゃ意味が無いんじゃないです
か?」
デンゼルの指摘はもっともだった。エッジの通信基地局を乗っ取ることができたとしても、他の地域に
影響は出ない。各地域ごとに基地局が設置されているからだ。
その問いに「なかなか良い質問だ」とヴェルドは感心して頷いた。
「……昔のよしみで、力を貸してくれる者達がいる。各エリアの基地局は彼らに任せておけば問題ない。
あとは俺達がうまく成り済ませばいい」
つまりエッジ以外の各地で、同時に同じ事を行うというのだ。
「もしかして……その人達も?」おじさんの仲間、つまり元タークスなのかとデンゼルが問うと、ヴェルド
は頷いた。
「今の俺達にはW.R.Oのような組織力はない。その分、機動力を活かせる。ただ今回の件にしても皆、
自分の意思で協力を申し出てくれた。彼らが動くのは俺が依頼したからではないし、元タークスだから
という訳でもない。皆それぞれに理由があって事に当たっている。今日に始まったことではないしな」
俺にはそこまで詮索する趣味も権限も持ち合わせちゃいない。苦笑するように呟いてから、最後に
こう言った。
「ただ1つ言えるのは、彼らの仕事も人間性も信用するに足る連中ばかりだ。それは俺が保証する」
ここ数ヶ月ネットワーク上の各所で見られる小さな混乱が、表面化していないのは各地域に散らばって
いる協力者達の働きかけも大きい。彼らは性質上、神羅勤続時代のデータは抹消もしくは廃棄されて
いて、自分から口にしない限り神羅関係者と知られる事はまずない。さらにW.R.Oの関係者でもない、
言ってみれば中立の彼らが、一般市民に紛れ込み混乱拡大の抑止となっている。
とは言ったものの、現状を楽観視できる材料にはならなかった。
「しかし……厄介な事になったな」このままでは思うように身動きが取れない。予告された空爆開始時刻
まで、もう30分もない。この様子だとケリーが変電所へたどり着く頃には刻限を過ぎている可能性もある。
ヴェルドが出るにしても、彼が乗ってきた車を今はケリーが使っているから、他に移動手段が無い。
「エッジを発信源にする以上、ここの施設だけは押さえたいんだが……」そう呟いて思案をめぐらす
ヴェルドに、提案したのはデンゼルだった。
「変電所なら、ここから20分で行けるルートがあるんだけど」
「本当か!?」ケリーの話では車でも15分はかかると聞いたが? ヴェルドがそう尋ねるとデンゼルは
首を振った。
ケリーの言う「車で15分」の距離というのは、あくまでも車の通れる道を走った場合の事だからと
デンゼルは言う。
「でも、通る道の殆どが裏道ばかりだから……」
言ってみればそこは子供の利、多くは他所様の家を通ったりする“近道”だ。
「なるほど」
「だから俺が行くよ。おじさん達じゃ無理だから」
その言葉に、ヴェルドはデンゼルを見下ろして暫し考え込んだ。彼の躊躇いを悟ったのか、デンゼルは
さらに付け加えてこういった。
「こう見えても俺、この街ができた最初の頃から知ってるんです」被災したミッドガルから逃げてきた
人々が作り上げた街、それがエッジだった。当時まだ幼いながらもデンゼルはエッジ建設に必要な
資材をミッドガルから届ける仕事をしていたし、そのルートも分かっている。たしか変電所はエッジ郊外、
ミッドガルとの中間地点に設置されている。
年数で言えばもう少し、だけど記憶にある限りではミッドガルよりもエッジで暮らす方が長い。デンゼル
には自信があった。それに、やっと役に立てるのだと思うと、じっとしていられなかった。
「だから変電所、俺に行かせてくれませんか?」
そう言って自分を真っ直ぐ見上げる視線に、ヴェルドの脳裏に在りし日の光景が重なる。使命感に
駆り立てられ熱心になる姿は、若さの成せる業なのだろうかと年寄りじみた事を考えている自分には
苦笑を禁じ得ない。それでも選択できる最善の策だろうと言う結論に達し、ひとつ頷くと口を開いた。
「分かった、……君に託そう。ただしこれから提示する2つの条件が守れるという約束をしてくれ」
その言葉に、デンゼルの表情が明るくなるのが分かった。ヴェルドは制すように低い声で続けた。
「1つは、施設の破壊は絶対にしない事。一時的に送電を停める事だけを考えるんだ、復旧できな
かったらそれこそお終いだ」そう言って、アタッシュケースから何やら取り出す。どこから入手したのか、
変電施設の見取り図の様だった。細かく注意書きがされているものの、要約すれば回路の遮断装置の
位置や形状、停止するための手順が示してある。ここまで書かれていれば専門知識が無くても何とか
なりそうだ。
「分かった」
ヴェルドから変電所の見取り図を受け取ると、デンゼルは嬉しそうに頷いた。
「それとこれも持って行くといい」そう言ってヴェルドが差し出したのは携帯電話だった。見たところ旧世
代の物らしく、まだ子どものデンゼルの手には少し大きい。
「俺が現役時代に使っていた物と同型でな、型こそ古いがなかなか使い勝手もいいし、機能は劣らない」
言うとおり音声通信、映像通信、ネットワーク接続に対応しており携帯電話としての用は充分足りる。と
言っても、シンプルすぎる故に若者向けとは言えない。
念のためにと簡単な操作方法を教えて貰った。登録されているのはヴェルドの電話番号のみで、他に
は何も無い。型が古いだけあって作りはシンプルだし、基本的な機能しか付いていないから扱いには
特に苦慮することもなさそうだ。しかし、この端末にはデンゼルの知らない機能があるのだと教えられた
が、「まあ使うことはないだろうが緊急用だ」そう言ってヴェルドは微笑するばかりだった。
ふたりが話に夢中になっている間に、部屋の奥に引っ込んでいたマリンが戻ってきた。タイミング良く
手渡された肩掛け鞄に、デンゼルは見取り図と電話を入れた。続いて差し出されたのは傘だったが、
邪魔になるからとデンゼルは首を振って受け取らなかった。それでもマリンは引き下がらず、傘の代わり
にレインコートを差し出した。
「電話だって、濡れちゃったら使えないでしょ?」説得はその一言だった。デンゼルは渋々レインコートを
受け取ると、袖を通した。
浮き足立つデンゼルの背を心配そうにマリンは見つめていた。「大丈夫」振り返って笑顔を向ける
デンゼルに、ヴェルドは片膝をついて視線を同じ高さに合わせるとこう言った。
「2つめの条件。最も重要な事だ、良く聞いてくれ」
真剣を通り越して威圧さえ感じる視線に、デンゼルの顔から笑顔が消える。ヴェルドは厳かな口調で
こう告げた。
「決して無理はするな。いいな?」
何かあったら先ほどの携帯で呼び出してくれればいい。子どもに危険な真似をさせるのは本望では
ないのだと、言外に含まれたヴェルドの意思を汲んだデンゼルは、はっきりとした口調で返す。
「心配しないでください」何かあったら、電話しますから。言葉と身振りで伝えると、デンゼルは屈託の
ない笑顔を浮かべた。
部屋を出る直前、デンゼルは思い出したように食卓に戻ると、テーブルの中央に置かれていた
バスケットの中から菓子を鷲掴みにすると鞄の中へ放り込んだ。こんな悪天候の中、まるでピクニックに
でも出掛ける様だった。
「……デンゼル!」
マリンの声に振り返ると、デンゼルは悪戯っぽい笑みを浮かべて言った「今日は特別!」。それから
窓を開けると、彼の姿は見えなくなった。
窓から飛び降りると、エッジの裏通りに設置された配管の上に出られる。各建物を繋ぐダクトは当然
だが歩くためのものではないから、こんな事をすると普段ならティファに怒られてしまう。でも、それを
堂々と出来るのだからデンゼルが笑みを浮かべるのも無理はない。
「なかなか頼もしい」
目を細めながら呟いたヴェルドだったが、頬を膨らませたマリンに視線を向けられると思わず肩を
竦めるのだった。
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・わんぱくでも良い、たくましく育ってほしい。
・自分じゃ描写が甘いですが、タークスと元タークスは設定的においしいと思う。…立場の違いというか。
・文中で「旧型」と書いた携帯電話の原型は900iV(BCのプロモもこれ?)なんですが、形容は主観です。
・エッジの街の構造を検証してません。DCプレイするとそんなに広くは感じないですが、まあDC後3年
という設定を逃げ道にし(ry。
乙です!
「旧型」現役で使ってますw
GJ!
乙!
おつおつ
ほ
※非常に質の高い作品で溢れる中、稚拙ながら初投稿です。
※FF7のユフィで短いのを一つ書きました。ニブル山〜ロケット村の間のどっかの町での一コマ。
「お、いい湯加減じゃん」
ウータイの温泉を思わせる、アタシ好みの熱めのお湯。ニブルの険しい山道を歩いた疲れが消え去っていく
ようだ。風呂というものはやはりこうでなくては。シャワーしか無い宿に泊まった時には心底失望したものだ
が、露天風呂を売りにしているらしいこの宿は町中で何かとアタシの目を引いた。
奴らにそれとなく交渉した甲斐があったもんだ。オッサンくさい声を漏らしつつ熱い湯船に体を沈める。
遅めの時間に入ったおかげで、そこそこ広い浴場の泳げそうな湯船にはアタシ一人だけ。いっそのこと本当
にバシャバシャと泳いでしまいたいぐらいだけど、さすがに自重した。そこまでガキじゃない。
眺めのいい夜空にはのほほんと月が浮かんでいる。お月様は気楽でいいよな。夜になったら明かりをつけて
のんびり西に沈んでいくだけでいいんだから。アタシもあれぐらい楽な人生を送りたいもんだよ。
そういえば、ミッドガルのスラムで生まれ育った連中ってのは、上を見上げても金属のプレートしか見えな
いから『空』ってもんを知らないらしい。そういう奴らにとって頭上ってのはあくまでも『天井』らしい。神
羅なんかの下で生きてるのが悪いんだからアタシには関係の無いことだけど、哀れと言えば哀れだ。
「あ……やべ」
自分のマテリアを保管している袋を部屋に置き忘れてきたことに気が付いた。まぁ、お人よしなアイツらだ
し、仮に盗られたら倍にして盗り返してやればいいだけのこととはいえ、少々無用心だったかもしれない。
「なーんか、気が緩んでるなぁ。こんなはずじゃなかったんだけど」
セフィロス、だったっけ。神羅の英雄だとか言われてるけど、ウータイの人間からしたら悪魔以外の何者で
も無い。そのはずなんだけど、当のウータイの腑抜けどもと来たら「戦争はもう終わったんだ」と、まるで牙
を抜かれた狼だ。幼すぎて戦いに出られなかったアタシがこんな悔しい思いを抱えてマテリア探しに東奔西走
してるってのに、情けなくて仕方が無い。
そのセフィロスを追っかけて旅してる連中。マテリアをゴロゴロ抱えてたし、神羅に敵対してて利害も一致
ってなことでアタシも半ば強引についていくことに決めたわけだが、見れば見るほどヘンテコな集団だ。
チョコボ頭の男はリーダー格の癖に無愛想でなんか冷めてるし、バカでかいオッサンは声までバカでかくて
しかも右腕が銃だし、言葉の話せる犬みたいなのもいる。ついこの間メンバーに加わった赤マントの男もチョ
コボ頭に負けず劣らず無愛想だけど、アタシが数十分で理解できたPHSの使い方がてんで分からなくて、受話器
を持ってボーッとしてたりする。あと、変な方言で喋る猫。そいつの下にいる生物といい、本当に謎だ。
あぁ、でも女性陣はまともか。全体的にピンク色な感じの、リボンで髪の毛束ねてる人と、やたら胸のでか
い、髪がクジラみたいで瞳の赤い人。変人だらけのこの集団に馴染めるかどうかなんて心底どうでも良かった
けど、この二人のおかげでひとまずは居場所に困らずに済む。
タオルを頭の上に乗せて湯船の壁に寄りかかっていると、鼻歌を歌いながら一人、その後ろからもう一人と
浴場に入って来た。普通の客が風呂に入るような時間じゃないし、誰だかはだいたい見当がつく。
「へー、お風呂から外の景色が見られるのね」
ちらり、と目線を入り口の方へ送ってみると、リボンも解いて髪を下ろしたエアリスが、遠くを見やる時の
仕草で空に視線を送っていた。女同士なんだから当たり前なんだけど、体を隠す気は無さそうだ。スタイルの
良し悪しなんてまるっきり興味の無かったアタシだけど、スラッとしてて均整の取れてるエアリスの体つきを
見ると、なんだか羨ましいような気持ちになる。
「あらユフィ。来てたんだ」
ひたひたと足音も軽快にエアリスがこっちへ寄ってくる。六歳も年上なのに、汚れというものを知らないか
のような、無垢な笑顔。てっきり世間知らずのお嬢様か何かだと最初は思ったけど、この人はミッドガルのス
ラムで花売りをしていたらしい。詳しい事情は知らないけど、親が両方ともいない上に、小さい頃から、今で
も神羅から名指しで狙われ続けているみたいだ。
いつも明るい表情とそんな裏事情とは、アタシの中ではまだうまく結びついていない。
「わっ、熱い!」
手をちょんとお湯に触れさせた途端にエアリスが目を見開いた。
「これぐらいが丁度いいって。ヨソの風呂がぬるすぎるだけだよ」
ぶんぶん手を振って熱を飛ばしている所を見ると、分からない。相当苦労してきたはずなのに。世の中への
ムカツキとか、そういうものがエアリスには感じられない。神羅の奴らが金と力に物を言わせて幅を利かせて
るこんな世界だっていうのに。
彼女と話をしていると、アタシの苛立ちや怒りは、なぜかたちまちに鎮まってしまう。怖いとか威圧感があ
るとかそういうのじゃないのに、天下無敵のユフィちゃんも彼女の前では子犬みたいに従順になってしまう。
とにかく、不思議な魅力を持った人だと思う。
「先に体洗ってくるね」
そう言って、エアリスが背を向けて洗い場の方へ歩いて行く。長い髪の下に構えたお尻がつい目に入った。
入れ替わりに、洗い場の方からティファがこちらへやってきた。自己主張の激しい、グラマーな肉体。自分
の何倍もありそうなモンスターを文字通り己の身一つでボコボコにしてしまう力は、あの細い腕やしなやかな
長い脚のどこから湧いているのだろうと、知り合ってあまり長くは無い今までの間にアタシは何度不思議に思
ったことか。
「隣に入っていい?」
「う、うん」
やや下から見上げる大きな山脈が、二つ。少し体を動かす度にぷるぷる揺れていて、圧巻の一言だ。
そりゃあ、普段あんなに露出の高い服を着て歩いてるんだから、デカいってのは分かりきってたけどさ。何
を食えばあんなになるんだか。
身軽な服装が好きってのはよく分かる。アタシだって身軽な格好が好きだ。けど、並んで歩いていると、ア
タシの体つきがいかに貧相かってのを嫌でも思い知らされる。三角座りをするように膝を抱えて、熱い湯の中
で体を縮めると、なんだか自分がとてもちっぽけに思えた。
一応はアタシも女なんだけどな。なんだろ、この敗北感。
──別にどうでもいいよ、そんなの
心の中で吐き捨てるようにそう言って、込み上げる悔しさや情けなさを無理矢理押さえ込んだ。
「今日も疲れたね」
湯加減を確かめもせずに、ざぶんとティファが湯船に体を沈めた。心なしか、水位も上がる。濁ったお湯に
体が隠れて、ホッと一息。ずっと目の届く範囲にアレがあったら、目の毒だ。
「ずーっと殺風景な山道を歩き通しだったからね。ま、バギーに乗るより一万倍ぐらいマシってもんだけど」
「運搬船でもそうだったけど、乗り物は苦手なのね」
「あー、ダメだね。全然ダメ。っていうかクラウドの運転酷すぎなんだよ。揺れすぎて大変だったっての」
「うふふ……ねぇ、どうしてクラウドがずっと運転手だったか分かる?」
「へ? 知らないよ。一応リーダーだからじゃないの?」
「彼もね、ダメなのよ、乗り物。車なら運転席に座ってるのが一番マシなんだって」
くすくすと含み笑いをしながら赤い瞳を細め、ティファが口角を釣り上げる。そう言われてみれば。ジュノ
ンからコスタ・デル・ソルに渡る船の中でアイツから酔い止めの薬を貰ったっけ。いつも涼しい顔してるから
分からなかったけど、クラウドも気持ち悪いのを我慢して船をウロついてたのかな。
「なんだよ、そういうことならアタシが運転すれば良かった。あ、でも車の動かし方知らないし、めんどく
さいからやっぱナシだね」
「ユフィらしいわね」
呆れた顔でふうとティファが息を吐いた。
「瞬間移動のマテリアとか、あったら欲しい?」
会話が聞こえていたのか、遠くからエアリスの声が割り込んできた。
「とーぜーん! 密かに探してるんだよね」
アタシも声を張り上げてエアリスに応えた。
やがてエアリスも体を洗い終えて、おっかなびっくり湯船に入ってきた。眉間に皺を寄せながらゆっくりと
湯に浸かって床に腰を下ろすなり、にゅっと手が伸びてきてアタシの髪に触れた。
「髪が短いのは、昔から?」
「ま、まぁね。伸ばした髪って重たくてめんどくさいからさ」
おもむろにもみ上げを摘みあげられて、思わず早口になった。いきなり体の一部に触られたら怒声の一つで
もあげる所なんだけど、エアリスが相手だとどうにも調子が狂ってしまう。
「可愛いわよね、ショートカット」
「そうね。こういうのも、爽やかで活動的な感じ」
エアリスにつられて、ティファも手を差し出してアタシの後れ毛をちょいと摘んだ。ティファはイケイケな
服装と色っぽい外見とは裏腹に、意外なぐらい控えめな人だ。エアリスみたいに他人をグイグイ引っ張ってい
くタイプでは無い、ってのが段々分かってきた。まぁ、あの腕力だから、怒らせたらヤバそうってのは確か。
実際は優しいから、アタシが勝手にビビッてるだけなんだけど。
「ボーイッシュな印象よね、ユフィは。意外とこういう女の子って男の子にモテモテだったりして」
「そういえば、ユフィには『まだ』訊いてなかったわよね。そこの所、どうなの?」
「……キョーミ無いね」
クラウドの真似をして、ぎこちなく肩をすくめてみせる。
「あははっ、今の似てる!」
アタシの巧みな物真似に、エアリスがころころ笑った。ティファも横で噴出しそうになるのを堪えている。
好いた好かれたの話に興味が無いのは本当のことだ。ナヨナヨしてて覇気の無いウータイの男には魅力を感
じなかったし、ここの男も変な印象ばっかりが残ってて、そういう気にはならない。バレットはゴツ過ぎてア
レだけど、他の二人は顔だけ見ればまぁ美形だとは思う。でも、あんな愛想の無い表情と二人っきりにでもな
ったら息が詰まりそうだ。もっと仲良くなれば違った面が見えるのかもしれないけどさ。
ともかく、マテリアの方が大事だ。マテリア第一、ゼニが第二ってね。
「今はいいよ、そういうの。彼氏とかできたってメンドーなだけじゃん」
「へぇー……ふーん……」
「なっ、なんだよエアリス。ニヤニヤすんなって!」
「今後に期待ね、ふふっ」
「ティファまで! いいんだよ、アタシにはマテリアさえあれば」
「どうだか。興味無いとか言ってる子に限って、結構はまっちゃうと凄かったりして」
「あーもう! いいから別の話しよーぜ!」
強い祖国を取り戻すための真面目な旅だから気にしてなかったつもりだけど、一人であちこち駆けずり回っ
ている内に、アタシは知らず知らず人寂しさを感じていたみたいだ。こんな下らないお喋りをしている時間を
嬉しく思う自分がいる。
人間の年齢で言うとアタシと大体同い年と分かったレッドをからかって遊ぶのも楽しいし、あの猫も黙って
ればヌイグルミみたいで可愛い。段々と、自分がこの奇妙な一行に馴染みつつあるのを感じる。
しかし、アタシの旅の目的は、あくまでもウータイの復興だ。セフィロスを追いかけるこの連中に最後まで
付き合う義理は無いし、溜め込んだマテリアをごっそり頂いて旅の途中でオサラバするつもりだ。『戦いの中
でマテリアが成長する』という噂が本当だったことを確かめた以上、モンスターや神羅の奴らと戦う日々を過
ごすこいつらともう少し行動を共にしていようかと思っていたが、予定よりも計画の実行は早めなければなら
ないかもしれない。
そうしなければ、アタシは……。
「あ、そろそろアタシ上がるよ」
その場にいることが辛くなってザバッと湯船から出る。外気がやけに冷たく感じられた。
「部屋の鍵、どっちが持ってるの?」
「エアリスの籠に入ってるわよ」
「りょーかい。んじゃ、お先」
「ユフィ」
さっさと体を拭いてしまおうと爪先を脱衣場へ向けようとすると、エアリスの声に呼び止められた。
「おやすみ」
「あ……うん、おやすみ」
優しい笑顔を向けられて、胸がドキリとした。何をしても許してくれそうな、慈愛って言葉がぴったりの微
笑みだった。自分の中の良心を揺り動かされて、掌が汗ばんで来るような気がした。
脱衣場で体から立ち上る湯気を拭き取りながら、アタシは指先にぞわぞわと嫌な感情が沸き起こってくるの
を感じていた。
一刻も早く、あの計画を実行しなければ、という焦り。上手くやれば、力を蓄えたマテリアが望み通り大量
に手に入るだろう。でも、その宝の山が意味するものは、この心地良い時間からの別れ。
──離れたくない
目元に熱いものが込み上げてくる。
違う。こんな感傷的になってちゃダメだ。自分に喝を入れて、ごしごしと乱暴に目元を拭う。
「……よしっ」
バシッと頬を叩いて、決意を新たにする。
やるしかない。近づくチャンスは一度、おそらく最初で最後だろう。悪いけど、マテリアは頂いていく。
もう少し西へ行ったら、連中をウータイへ誘ってみよう。セフィロスの情報でもでっちあげれば、恐らく食
いついて来るだろう。その時に向かって、覚悟を決めなければ。
歯を強く食いしばって、アタシは脱衣所を後にした。
終わり
※マテリアをかっぱらわれるイベントについて、仲間になった時期が早く他のメンツと仲良くなるだけの時間
がもっとあったらユフィはもっと葛藤に苛まれるんじゃないかな、と思って書きました。7本編とACしか知らな
いんで設定の理解や描写は甘いかも。感想批評等頂ければ幸いです。
GJ!
面白かった。女の子のこういう会話は可愛くて良いね。
でも確かクラウドは酔いやすいってのこの時点では自分でも忘れてるんじゃなかったかな。
すごく良く出来てるだけに気になった、細かくてすまん。
いいねえ。あのイベントを改めてもう一度見なおしたくなったよ。GJ!
>>596 >クラウドは酔いやすいってのこの時点では自分でも忘れてるんじゃなかったかな。
マジかーorz
久しぶりに本編もう一回やり直すか。
>>591-595 ユフィの背景(経緯や一行との合流動機)と、穏やかながらも確実な心境変化が仲間達と過ごす
日常の中に描写されているのが良かったです。あと、「湯気の向こうで湯につかってるエアリス」に
呼び止められたユフィ(の視点)で読むと、後の水葬が連想されて唐突に泣けました。さらにDC
プレイ者にとっては、この描写でDCのとあるイベント(超要約:他者の死を嘲る人をユフィが引っぱたく)
にも違和感なく繋げられるお話だなと思いながら拝読させてもらいました。(DCの場合、決してあれは
お風呂じゃないですがw)
主観ですが、こう読める根拠を書いてしまいたいところなんですが、書き手さんDC未プレイとの事
なのでちょっと控えさせて頂きます(台詞解釈含めたネタバレ全開なのでw)とにかく面白かったです。
個人的に気になった点は、作品がユフィ一人称なので(一部。冒頭なんか)地の文ももうちょっと
フランクでも良いかも? と感じた事ぐらいでしょうか。
乙!
前話:
>>582-585 ----------
なにやら楽しそうな子供たちの会話を尻目に、ケット・シーは次の接続に備えてせっせと調整を行って
いた。さすがにこの辺を彼らに頼るわけにはいかなかった。
見た目は可愛らしいぬいぐるみではあるが、中身がマシンという事でこの古い端末にも愛着がわいた。
デンゼル曰くこの家ではあまり活躍の場がないそうだが、言われてみればクラウドやティファが熱心に
パソコンと向き合っている姿は想像できない。型自体も旧式のものだったところからすると、おそらく
ミッドガルから持ち出した物を再利用しているのだろう。
『お互い“お古”やけど、がんばろうな〜』両者を繋ぐケーブルをぶら下げながら、ケット・シーは端末の
電源を入れた。応えるようにしてパソコンはファンを回して起動画面を表示する、なんだかんだの調整
でこれが4度目の起動だ。この作業が終われば、ひとまずメドはつきそうだ。
作業が一段落したところで、ケット・シーは顔を上げて問いかける。
『……にしても、デンゼル一人で大丈夫かいな?』
デンゼルが向かった変電所はエッジ郊外、居住区画からもっとも離れた場所に建てられていた。
ちょうどエッジとミッドガルとの間に位置し人の往来も少なく、万が一事故が発生しても被害を最小限に
とどめることができる。ミッドガルから避難して来た人々の間にはメテオや星痕症候群だけでなく、
魔晄炉爆破事件も未だに暗い影を落としている。その一方で、ミッドガルでの生活が長く魔晄エネ
ルギーへの依存度が高かった住民も多く暮らすエッジでは、エネルギー問題は他の地域よりも深刻
だった。市街地から変電所までの距離は、そんなジレンマを表している様だった。
『通信乗っ取るだけやったら、通信塔行ってもええ気がすんねんけど』
エッジ周辺の通信基地局も変電所と同じく郊外にあった。エッジ旧市街の記念碑を中心にすると、
変電所とはちょうど正反対の方角に位置している。しかし変電所とは異なり『通信塔』という名称で住民
たちから親しまれている建物で、W.R.Oのエッジ支部も置かれていた。
ここから行くなら、どちらも距離は変わらない。舗装された道路を走れる分、通信塔の方がはるかに
便は良く短時間でたどり着けるはずだ。ではなぜ通信塔ではなく変電所を選んだのだろう? 作業を
進めながらふとケット・シーは思いつく。
(せや、なんやてボクらがこないにコソコソせなアカンのやろか?)
よくよく考えてみればW.R.Oの隊章にまでなっているのにと、ケット・シーは肩を落とす。
今回の空爆声明だってW.R.Oの総意ではなく、むしろ局長の独断専行だった事はその後の反応を
見れば明らかだ。となれば、わざわざ局長に成り済まさなくても、自分たちの経緯と目的を隊員達に
話せば快く協力してくれるんじゃないだろうか? ここでW.R.Oの後ろ盾を得られるのは大きい。
ケット・シーがそのことについて尋ねると、ヴェルドは「隊の混乱をあおるだけだ」と一蹴した。確かに
短時間で事の経緯を伝えるのは難しい、けれど状況を理解し納得してもらえれば全面的な協力を
得られるはずで、少なくとも今より状況は良くなるのではないかと思えた。
それとも、他に通信塔を避ける理由があるとでも言うのだろうか? 冗談めかして言ってみた。
『なんや、スパイでもおるんかいな?』元々スパイだった自分の言えた事ではないかと笑おうとした
ケット・シーの発言は、期待とは裏腹の結果をもたらした。
「任務は常に最悪の事態を想定して遂行するものだ」
ヴェルドがエッジ一帯の通信を掌握するのに、通信塔を目指さなかった理由を知ったケット・シーは、
通っていないはずなのに血の気が引いていく感覚を確かに感じていた。
『そんな……』
「こういう事はあまり、言いたくは無いんだが」そう言ってちらりとマリンの方に視線を向けると、ヴェルド
は声を潜めてこう告げた。「現時点で完全にスパイとは断定できない。ただ、未必の故意であるにしろ
事態の混乱を望んでいる者が近くにいる……気がしてな」
『なんやて!?』
「根拠を問われれば、今のところ俺の勘だとしか答えようがない。だが、さっきも言ったとおり俺たちは
常に最悪の事態を想定して最善を尽くさなければならない」そう語る表情からも、「この作戦は絶対に
失敗できない」という彼の気概が伝わってくる。
さらに通信塔を目指さなかった理由には、隊員の説得に割ける時間が無いことを付け加えた。現時
点での優先事項は隊員達の説得よりも、差し迫った空爆の回避だ。
「空爆対象になっているあの施設の中には、他の連中もいるんだろう?」
『隊員はおらんけど、バレットさんらがおるはずや』これまでの通信ログを画面に呼び出して、
ケット・シーは事のあらましを説明する。連絡こそしていないが、おそらくクラウドや他の仲間達も一緒に
いると見て間違いない。それを聞いてヴェルドの表情はいっそう険しくなった。
「ではやはり、なんとしてでも空爆は回避しなければならない。もしこのまま施設への空爆が実施され
れば、それが与える影響は計り知れない」
建造中のW.R.O本部施設への空爆指示者はリーブである、今や彼自身が配信した声明によって
世界中がその事実を認識している。さらに実行部隊の飛空艇師団にはシドがいて。そして建物内には
バレットや、他の仲間達がいるのだとすれば――
「ジェノバ戦役以降、世界を保っていた“『英雄』の秩序”は崩壊する事になる」
この空爆で破壊しようとしている物が、人や建物ではないことをヴェルドは告げた。そして、それを
止めることが最優先なのだと。
『なんや話聞いてたら緊張してきよった。そんな事、ボクらにできるんかいな?』
「俺は、見込みがない者に指示はせん」
『なんや、おっさんを信じろってか?』
ケット・シーの言葉を、首を振って否定した後でこう続けた。
「信じるのは俺ではなく、自分だ」
大丈夫。ケリーもデンゼルも、彼らなら必ずやってくれるさとヴェルドは笑顔で言った。
『この状況でも笑ってられるなんて、おっさん、アンタ相当タフやわ』
呆れたようにケット・シーが言うと、「だてに年は取っていない」と言ってヴェルドはさらに笑った。
「ここで俺たちが不安がっても仕方あるまい?」
『ふ〜、おっさんが味方で良かったわ』
胸に手を当ててため息を吐くケット・シーから顔をそらして、ヴェルドはぽつりとつぶやいた。
「俺としちゃ、一番敵に回したくない奴を相手にしようとしてるんだがな……」
視線の先の壁掛け時計は、同じリズムで時を刻んでいた。
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・エッジの街はDC3章の印象が基になってます。外側に向かって開発が進んでる?(高層建築とか)
・今から謝っておきますが、次回分ねつ造過多です、ごめんなさい。
ひとまず作者はヴェルドに5発ぐらい殴られる覚悟はできている。
(…というコメントから想像して、嫌な予感がした人は次回分回避推奨)
乙!
主任がああいう相手……ということは次回「あの方」の登場がw
GJ!
前話:
>>601-603 ・いつも以上にねつ造過多(+展開と文章が破綻気味)ですご注意を
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悪天候も手伝って、市街地を抜けるまでは誰とも遭遇せずに来ることができた。デンゼルの前には
分厚い雨雲と、衰える気配のない豪雨に打たれる荒野が広がっていた。
ここから先、徒歩での移動となると時間がかかってしまうし、デンゼルは車を運転できない。そこで
街外れに放棄された荷役作業車に目を付けた。名前に「車」と付けられているものの本来は移動を
目的として使われる事はなく、車体前方に突き出た2本の巨大な爪で荷物を持ち上げ、リフトの上下で
荷役を行うための専用車両だった。1人乗りの操縦席に扉はなく、操縦も立ったままで行う。2本の
レバーとハンドルで車体の稼働停止、方向転換からリフト上下動など全てをまかなっている。ふつうの
車よりも構造は単純で操作も簡単だった。
それは6年前のエッジ建設の際、大人達が使っていたものだ。デンゼル達が数人がかりで運んだ
資材も、あれを使えば一人でさらに何倍もの量を一気に運ぶことができた。やがて交通網も整備され、
大型輸送車両が登場するとメインの役目は取って代わられたが、今でも港などで荷役に使われている。
しかしここの作業車は、たまに子ども達の遊び場として利用されている程度でしかない。大人達に知ら
れてしまうと、これも撤去されてしまう。だからここを知っているのは街の一部の子ども達だけだった。
用途が荷役作業というだけあって走っても速度は出ない。だが徒歩よりは随分マシだ。バッテリー
充電式でなんとか今でも動く。充電用のバッテリーは今も子ども達が廃材から拾い集めて来た物を
利用していた。
とにかく今は変電所まで走ってくれればそれで良かった。運転方法は遊んでいるうちに覚えた。
デンゼルは動力を起動させると、ハンドルに手を置いた。
「大丈夫、いつも通りやればうまく行く」
たたきつける豪雨に視界を遮られながらも、操縦には影響が出なくて済みそうだ。デンゼルは力一杯
レバーを引き、作業車を稼働させると全速力で変電所へと向かった。
「よし! これなら後15分もかからない」
ここまではデンゼル自身が思い描いていた以上に順調だった。でもまだ気は抜けない。自分に言い
聞かせるようにして、ハンドルを握る手に力を込める。申し訳程度の舗装しかされていない路面は、
ゆっくり走るだけでもかなり揺れた。これは注意しないと、突き出た岩に爪が引っかかって走行に問題
が起きる可能性も出てきそうだった。路面状況の確認をと、顔面に叩きつける雨粒を左手で拭いまぶた
を開けた次の瞬間、デンゼルは見たくない物の影を目にした。
「げっ!」
豪雨に曇る視界の向こう、地上の土砂を跳ね上げ凄まじいスピードでこちらに向かってくる影が見え
た。しまったと口にする余裕もなく、デンゼルはハンドルを握り直す。
ガードハウンドだ。見えた影は3つ。
(……よりによって何で!)
デンゼルはまだ身を守る術を持たなかった。銃でも持っていればここから撃てたのだろうが、仮に
あったとしても俊足のモンスターを相手にするにはそれなりの技術と経験が必要だ。それに作業車は
小回りがきくものの、速度は出ない。モンスターに囲まれたら終わりだ。
(どうすればいい?)
考えているうちにも両者の距離はどんどん縮まっていく。これが普通車であってもメーターぎりぎりで
走行してどうにか振り切れるほどの速さだ、このままだと後20秒ほどでデンゼルの喉元に噛み付かれ
る計算になる。
(どうしよう!)
思わずハンドルから手を離し、投げられる物はないかととっさに辺りを探してみた。作業車には何も
積まれていないし、持ってきた鞄の中身は変電所の見取り図、携帯電話、お菓子……武器の代用品
どころか、投げられそうな物は1つも無かった。車から降りて逃げたとしても、この距離ではすぐに追い
つかれてしまう。
どうしたらいいのか分からなくなって、デンゼルはとうとう頭を抱えた。もうダメだ、お終いだ。
(ごめんなさい)
覚悟と言うより投げやりになったデンゼルの耳に、希望の声が聞こえてきたのはこのときだった。
「手を離すな! しっかりハンドルを握れ!!」
その声にはっとして顔を上げる。目前に迫ったガードハウンドの前に、もう1つ別の影が見えた。黒い
マントを靡かせてそれは一瞬にして視界から消える。と、同時にガードハウンドが悲鳴と血飛沫を上げて
次々と路肩に横たわった。
目の前で何が起こったのかを理解できず、ぼんやりと立ち尽くすデンゼルは再び一喝される。
「聞こえなかったか? しっかりハンドルを握れと言っただろう!」
その声で我に返ってハンドルを握り直す、危うく路上の石を撥ねて岩盤に乗り上げるところだった。
ホッとため息を吐くのも束の間、デンゼルは声のする方向に顔を動かしたが、姿は見えない。
「あ、あれ?」
きょろきょろと顔を動かすデンゼルを諭すように声は続く。
「ただでさえ覚束ない運転なんだ、しっかり前を見ろ」声の主はデンゼルの目の前に立っていた。突き
出た爪の上を歩きながら、持っていた剣を一度大きく振り下ろすと鞘に収めた。それからマストに寄り
かかって上目遣いにデンゼルを見上げた。黒いレインコートを羽織った出で立ちからしても、単なる
通行人とは思えない。「そんな運転だと、モンスターに襲われるまでもなく自滅するぞ?」
「……誰ですか?」
「単なる通りすがりだ」
「単なる通りすがりの人が、あんなに鮮やかな剣さばきをするとは思えませんけど?」
「通りすがった人であるには間違いない。そもそも君は助けられたのだから、先ずは礼を言うものでは
ないか?」
素っ気ない口調で切り返されて、一方その言葉で思い出したように慌てて頭を下げてから言い直す。
「あ、ありがとうございます。俺はデンゼルです、あなたは?」
問いかけてから不自然な間があった。しかし返ってきたのは、またも素っ気ない返答だった。
「……人前で名乗る名前は……考えてなかった」
そう言って視線をそらす。思わずデンゼルは反論した。
「そんなの良いですよ、親からもらった名前をふつうに教えてくれれば!」何を気取っているんだと言い
かけたところで、思いがけず真剣な口調で返答があった。
「こうして剣を持つときは、親からもらった名は捨てる。私の中での決まり事なんだ」それからフードを
取って、再びデンゼルに顔を向けた。自分の顔にまとわりつく不揃いな茶褐色の髪をうっとうしげに
梳きあげる仕草を見て、デンゼルははじめて気が付いた。驚くことに剣を振り回してモンスターを一刀
両断した人物は、女性だったのだ。
「あ、あの……」
「『エルフェ』、私をそう呼んでくれた者達もいる」
それだけ言うと彼女は再びフードをかぶってマストに背を預けた。いったいこの人は何者なんだろう?
デンゼルは不思議に思いながらも、彼女が悪い人では無いような気がして、それ以上は何も聞かずに
いようと思った。
……と思ったのだけれど、それは5分と持たなかった。
「あの、こんな場所で何をしてたんですか?」
無言に耐えられなかった、というよりは彼女に対する興味を抑えられなかった。こんな天気の悪い
日に、しかもあんな何もない場所を通りがかるなんて、どう考えても不自然すぎる。
「それに、どうしてまだ乗ってるんですか?」
悪路を走行中の荷役作業車の爪の上に立ったまま、腕を組んで進行方向を凝視している。平然として
いるが、姿勢維持だけでも相当のバランス感覚が必要なはずだった。それにこれからデンゼルが向かう
のは変電所だ、身形や所作からしても変電所の作業員とは思えないし、まして変電所など一般人が行く
ような場所でもない。どの要素を取って考えても彼女の存在そのものが不自然だ。
しかし彼女からの返答は無かった。腕を組み、前方に顔を向けたまま微動だにしていない。
「……あのー。話、聞いてますか?」
質問を開始してから5分、返事は期待しない方が良いのかも知れないと、デンゼルが1つの結論を
見いだしたところだった。「お前」
「デンゼルです」
「……お前、追われるような身の上なのか?」
「は?」人の話は聞かないくせに、人に質問してくる時だけ口を開くというのはちょっとどうなんだろう?
そんなことを思いながらもデンゼルは答えた。
「いいえ。俺は何も悪いことしてません」
「なら良いんだが」
含みを持たせるような言い方が引っかかって、デンゼルは問い返す。「俺が追われてるって、さっきの
モンスターの事ですか?」
「違う。あれはお前を追っていたわけじゃない、あれの進路にお前がいただけだ」
モンスターにとって通行の邪魔だったから襲われたんだと、彼女の解説は単純明快だった。デンゼルは
やれやれと首を振る、この女性は考え方がとても野性的で少々ついていけない部分がある。
「それにお前を追っているのはモンスターじゃない、人間だ」
「誰ですか?」
「『W.R.O』と書いてある様だが。何かの組織か?」
それを聞いてデンゼルは2つの事に驚いた。
1つ目は、このご時世で『W.R.O<世界再生機構>』を知らないと断言した彼女の境遇だ。誰しもが一度や
二度は何らかの形で耳にしているはずだ、なのにそれを知らないと言い切れるのは、よほど世間から
隔絶された場所に暮らしているという事なのだろうか? ジェノバ戦役も星痕症候群も、もしかしたら
オメガ戦役の事も知らない――知らずにいられる場所が、この世界のどこかにあったのだろうか?
見た目からしたらデンゼルよりは明らかに年上だ、まだ生まれてないはずはない。
2つ目は、その発言の内容そのものについてだ。
「俺、W.R.Oに追われる覚えなんて……」言いかけて思い出した。もしかしたら、ケリーおじさんが追い
ついたのかも知れない「……いえ、知ってる人かも知れません」
「そうか」
背後から聞こえてきたエンジン音は、瞬く間にデンゼル達の乗る作業車を追い越し、進をふさぐように
して道路の真ん中で停車した。それは4人程度が乗れる移動用の小型車だった。確かに車体には
『W.R.O』と大きく記されている。
気がつくと、前方だけではなく左右と背後にも同じ車が徐行しつつ作業車と併走していた。どうやら
「止まれ」と言いたいらしい。
(おかしいな……)
ケリーの乗っている車ではないし、彼なら変電所への進路を妨害するような事はしないだろう。
「私にはどうしても、君が彼らに歓迎されている様には見えないんだが?」
「……そうみたいですね」
ため息の1つも吐きたくなる。周囲を併走しながらプレッシャーをかけている相手の意図は理解できた
が、その要求に応じる理由が今のところデンゼルには見あたらなかった。前方で道をふさぐW.R.Oの
車両が間近に迫ってきたが、ブレーキを作動させる気は起きなかった。
「どいてくださーい!」試しに叫んでみたが、反応はなかった。止まる気のない車と、退く気のない車。
双方が同じ道の上にあるのだとすれば、考えるまでもなく答えは見えている。
「あのぐらいなら、大丈夫かな?」
デンゼルはレバーを動かしてリフトを操作した。突き出た2本の爪の先端が、道をふさぐ車体とぶつか
って耳障りな金属音を立てた。そのまま持ち上げようとしたのだが、操作がうまく行かず、車を押し退け
る格好でしばらく前進し続けた。少々荒っぽいが、仕方ない。どいてと頼んだけど退かない方が悪いん
だとデンゼルは誰にともなく言い訳じみた言葉をつぶやいた。
すると、今度は拡声器を通した人の声が聞こえてきた。『止まりなさい!』その言葉をひたすら繰り
返し、最後の最後で思い出したように付け加える。
『警告に従わず停車しない場合は発砲する』言い終わるか終わらないかというタイミングで、作業車に
弾痕ができた。
「なっ、なんだよそれ!!」
銃声に驚いてハンドルを回してしまったせいで、車体が反転した。勢いで爪に引っかかっていた小型
車が道路脇に投げ出される。車は脇の岩盤にぶつかって鈍い音を立てたかと思えば、エンジン部分から
煙を吐いてようやく停止した。慌ててハンドルを回し作業車の方向を元に戻すと、視界の後方に遠ざかって
行く煙を見送った。投げ出された小型車に同乗していたであろう隊員に気を回す余裕が、今のデンゼル
には無かった。
明らかにこの警告は形骸だ、最初から撃つ気だったんじゃないかとさえ疑いたくなった。デンゼルの
疑いは、続く銃声によって確信へと変わった。左右を併走していた車から、同時に発砲されたのだ。
「追っ手は任せろ、お前はハンドルから手を離すな!」
「ちょっと待……」デンゼルの制止もむなしく、叫ぶと同時に爪の上で跳躍すると、まずは左側を走る
車のボンネットに着地した。
「お前達に恨みはないが、今の所行を捨て置く訳にはいかん」宣言するように言い放つと、振り上げた
剣をボンネットに突き刺した。鈍い音を立てて剣が貫通すると同時に車体から煙が上がる。制御を失っ
た車体は岩盤に向けて走り出した。
剣を抜きボンネットの上からひらりと地上に舞い降りると、後続の車から容赦ない発砲を浴びた。
それでも怯んだ様子はなく再び地上を蹴って右側を走っていた車に向かう、銃弾をかわすために姿勢を
低くした状態から、地上と水平に薙ぎ払うようにして剣を振った。エルフェの横を通り過ぎてから半瞬を
おいて乾いた破裂音を立てたかと思えば、片方のタイヤを失った車体は姿勢を保てず、走行しながら
くるくると回りやがて道を外れて行った。
使い物にならなくなった車から降りてきた隊員が、威嚇のつもりかエルフェに向けて発砲する。彼女は
特に驚きもせず、その隊員に柄を向けた。
「今ので殺意がない事は分かったが、大人が寄って集って子どもに銃を向けるとは、一体どういう了見だ?」
問い質しても答えはなかったので、ひとまず無力化するために気絶してもらう事にした。こうして、
しばらく4人の隊員が豪雨に晒されたまま荒野に放置される事になる。
「……しまった!」
残っていた後続の車が、迷うことなくデンゼルの乗る作業車を目指して走っていく。さらにエルフェの
耳は、さらなる追随者の存在をとらえていた。デンゼルの後を追いながら、思わず舌打ちをした。いくら
なんでも数には勝てない。
彼らの目の前、500メートル先には変電所が見えていた。
----------
・わんぱくでもいい、たくましく育っt(ryごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
ちょっとお父さんに殴られて来ますね5発で済むかしら…。
・たぶん彼女の持っている剣なら、こんにゃく以外は何でも切れるんだと思います。
・荷役作業車=フォークリフト。FF7世界に存在しそうだけどフォークリフトと書くとなんか違う気がした。
・動きのある描写はやっぱり難しい…。
GJ!
エルフェさまキタァァァ!!!
文中、Theme of Elfeから‘目を見開いて、しっかりと見て’の歌詞が織り込まれてる丁寧な仕事ぶりに惚々v
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
=======================================================================
※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
※sage推奨。
※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================
前スレ
FFの恋する小説スレPart8
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1191628286/ 記述の資料、関連スレ等は
>>2-5にあるんじゃないかと思います。
【参考】
FFDQ板での設定
http://schiphol.2ch.net/ff/SETTING.TXT 1回の書き込み容量上限:3072バイト(=1500文字程度?)
1回の書き込み行数上限:60行
名前欄の文字数上限 :24文字
連続投稿規制 :5回まで※
(板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
1スレの容量制限 :512kbまで※
(500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)
※:ちょっと設定の読み方に自信がありません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
少し気が早いですが、保守がてら次スレテンプレ案を貼っておきます。良かったらご利用下さい。
適宜補足・修正あればお願いします。(特に板設定はかなり変わってるので自信がないです。
書き込み間隔の設定は無くなってるっぽいので記載から省きました)
最近ここを見始めたものですが、千一夜スレではなく、
このスレの保管庫というのは無いのでしょうか?
ほ
ぼ
ま
り
お
>>616 スレとしての保管庫は存在しません。
過去ログは
>>39 現在も投下中の長編作品(3つ)に関しては、作者による自主保管という形をとっています。
作品やキャラクターが限定されていないスレの性質上、保管作業を1人でやるのはかなり負担だと思い
ます。wikiとか扱えれば、自分もスレの保管ページ作りたかったんですが…(知識と時間が足りない)。
差し出がましいようですが、
>>591-595のような面白い短編作品も、なんとか形に残せたら良いな、と
いう希望はあるんですが、なかなか難しいです。(運用するとしても、過去の作品の作者さんに承諾を
取ったりとか、いろいろ問題が出てきそう)
説明長くてすんません。
前話:
>>606-610 ・前回に引き続きねつ造過多、というかねつ造しかしてない話。
----------
『止まるんだデンゼル! これ以上制止を無視して走行を続ければ、お前を拘束しなければならない
んだぞ』
拡声器を通して名を呼ばれて、デンゼルは声の主に思い当たった。
「……フレッドおじさん!?」
今日、セブンスヘブンを訪れた最初の常連客にしてW.R.O隊員。彼はデンゼルもよく知る人物だった。
そんな彼になぜ追われているのか、デンゼルにはますます理解できなくなった。
普段は気さくで笑顔の絶えない人だった、だからきっと何か事情があるんだろうと思った。でも今は、
デンゼルにも事情がある。だからブレーキペダルから足を離そうとはしなかった。
(ごめんなさいおじさん。でも俺、約束したんだ)
変電所はもう目の前だった。
デンゼルが止まるのを待っていたのだろう、しばらく何もせずに追尾していただけだったが、走行を
続ける作業車からデンゼルの意図を汲んだらしいフレッドはアクセルを踏み込んだ。
力だけで言えば作業車には敵わない。そこで助手席に同乗していた隊員は作業車の車体下部に
設置されているバッテリーエンジンに照準を合わせた。デンゼルが4発の銃声を聞く頃には、彼らの
ねらい通り動力となる電気系統の破壊に成功し、かろうじて走行は維持するものの火花を散らしながら
作業車の速度はみるみる落ちていった。
デンゼルは停止寸前の作業車から飛び降りて、必死に道路を走った。変電所は目前、もう100メー
トルも離れていない場所だった。しかし人の足で車の追跡を振り切れるはずもなく、あっという間に
デンゼルを追い抜いた車は行く手を阻むようにして道の真ん中に停車すると、降りて来たフレッドが
デンゼルの前に立ちはだかった。
「デンゼルやめるんだ」
「おじさんお願い! ここを通して」必死に乞うデンゼルを見下ろすフレッドの表情は、いつもの気さくな
彼とはまるで別人だった。
「変電所に行って何をする気だ?」
まるで懇請を切り捨てるような声でフレッドに問われて、デンゼルは何も答えられなかった。答えては
いけないような気がして口をつぐんだ。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。意を決してデンゼル
はもう一度言った「お願いです、ここを通してください」。しかしフレッドからの返答は無かった。
背後からデンゼルを呼ぶ声がする、エルフェだ。呼びかけに応じて振り返ろうとしたデンゼルは、
不意に髪を捕まれた。突然の出来事に驚いて顔を上げようとした時、こめかみの辺りに小さく鈍い
痛みが走った。
「お嬢さん止まりなさい」
デンゼルを盾にした格好でフレッドが告げると、状況を飲み込んだエルフェはその場で立ち止まった。
助手席から降りてきた隊員が、すかさずエルフェに銃口を向ける。
「その子を離せ」それでも尚、毅然とした物言いだった。
「まずは君が持っている物騒な物を捨てるんだ」
フレッドからの要求をエルフェは迷わず受け入れた。鞘に収めた剣を目の前に掲げると、前方に放り
投げた。
エルフェの手を離れた剣は、両者の立つ位置のちょうど中間辺りの泥土に転がった。
「さあ、その子を離せ」
「この子は俺の知り合いだ、こちらも手荒なまねはしたくない。まずは聞かせてもらおう、ここで何を
していた?」デンゼルに向けた銃口を離さずにフレッドは問う。その様子を目の当たりにしたエルフェは
僅かに眉を顰めながらも、質問に答えた。
「帰宅中、私はたまたまこの道を通りがかった。すると作業車に乗ったその少年がモンスターに襲われ
ていた。だから助けた」
「刃先を向けたのはモンスターだけではないな?」
「少年は自衛手段を持たない様だった、だから私が代行したまでだ。それに大人が寄って集って子ども
に銃を向ける状況は、どう考えても正常ではないだろう?」
不利な状況に置かれているにもかかわらず、エルフェは怯むどころか毅然とした態度を崩さなかった。
あくまでも自らの行動の正当性を冷静に主張する彼女の姿は、理知的であるとすら思えた。言葉と
共にフレッドに向けられた鋭い視線を見つめながら、この人は一体何者なんだろう? とデンゼルは
ぼんやりと考えていた。
「嘘をつけ。さも尤もらしいことを並べているが、こんな悪天候の中しかもあんな場所をうろついていた
お前の話に、信憑性があると思うか?」
「貴様が信じようと信じまいと、私には関係ない」
「それはどうかな? 我々の治安維持活動の妨害行為で公の場に突き出してやる!」
「善良な一般市民をどう突き出すのか、やれるものならやってみろ」
(あんまり煽らない方が良いと思うんだけど……)
申し訳程度にデンゼルが反論しようとしたが、当然この状況下ではそんなこともできず、結局はただ
成り行きを見守るより他になかった。
このまましばらく膠着状態が続くのかと思ったが、それを破ったのは豪雨にも負けない爆音だった。
その場にいたエルフェを除く3人が異変に気付いたのはほぼ同時だった。爆音の正体は車のエンジン
音、それも今までの小型車とは違う。しかも恐ろしいスピードでこちらに迫って来ている事は、音だけ
でも充分伝わってきた。
「なっ、なんだ?」
状況を把握しようと隊員の意識が目の前のエルフェから逸れた、その一瞬を待っていたと言わんば
かりに駆け出し、地面に転がった剣を拾い上げると勢いよく鞘から引き抜いてフレッドの隣に立つ隊員の
銃をたたき落とした。あっという間もなく起きた出来事に、唖然とする隊員めがけて剣の切っ先を向ける。
「さあ、これでおあいこだ。その子を離せ」
息をのむフレッド。デンゼルは瞬きすらできなかった。緊迫するこの場の空気を読まずに尚も突進
してくる車からは、やや緊張感に欠けた声が聞こえてきた。
「待ったせたな〜デンゼル!」
またも名を呼ばれ、デンゼルは我に返って顔を向けた。彼らの方へ向かって来る車は全く減速する
様子がない、このままではここにいる全員が轢かれてしまう。
「ケ、ケリーおじさん!? ストップ、ストップ!!」
焦ってデンゼルが叫んだのと同時にケリーはブレーキを踏み込んだらしく、タイヤが地面と擦れ合っ
て甲高い音を立てた。幸い交通事故は免れたものの、急停止の反動で車体後部が大きくぶれた。
お陰でその場にいた全員が泥水を頭からかぶる結果となった。
「や〜、遅くなってすまないな」
運転席のドアを開けて降り立ったケリーに、4人の冷ややかな視線が一斉に向けられる。
「おじさん、もうちょっとマトモな運転はできないんですか?」
「どうやらこの少年の方が運転技術は優れている様だ」
デンゼルとエルフェから苦情を付けられたケリーは、頭をかきながら反論する。
「おいおい俺を悪者にしないでくれよ、悪いのはこの車の持ち主だ。明らかに正規仕様じゃないぞこれ
……」面白いぐらいにスピードが出るんだと、そう語るケリーの口調がどこか楽しげに聞こえたのは、
おそらく気のせいではない。
まさか、ここへ来るまでに人を撥ねていたりしないだろうか? 極めて不吉な想像が頭を過ぎって
しまったデンゼルは、恐る恐るケリーを仰ぎ見た。そこにはいつもと変わらぬ笑顔のケリーがいた。
「うん、そんなはず無い」自分を励ますようにしてデンゼルは心の中で呟いた。
こうして、本人の意図するしないは別として、和んでしまった場の空気を味方につけたケリーが本題を
切り出した。
「フレッド、……デンゼルから手を離せ」どこか悲哀を含んだような声だった。
言葉に応じてフレッドがゆっくりと手を離す、それから小声でデンゼルに詫びた。
デンゼルも首を横に振って「大丈夫」と答えた。ちょっと驚きはしたけれど、フレッドを悪く思っている
わけじゃない。
「……手引きをしたのは、ダナか?」
質問と言うよりは確認の意味合いが強く、問う声が僅かに震えていた。フレッドはとっさに隠せなかっ
た驚きを顔に貼り付けたままケリーを見返す。それだけで答えとしては充分だった。
「すまんな。実はお前の経歴を少し調べたんだ」
「そうか」ケリーの言葉にフレッドは観念したように項垂れて、乗ってきた小型車の扉に寄りかかった。
「どういう事ですか?」デンゼルがケリーを見上げると、彼は話を始めた。
もともとフレッド自身は神羅カンパニーへの勤務経験も無く、かといって反神羅活動に身を投じていた
事もなかった。言ってみれば彼自身は直接神羅と関わらずに生きて来れた、ある意味において幸運の
持ち主だった。ただし、彼の父親が神羅の社員だった。所属は都市開発部門だったと言う。
「都市開発って……」
「そう、局長やダナと同じだ」
都市開発部門と言っても、地方に建造された魔晄炉に勤務していたというフレッドの父親と、本社勤
務だったダナに直接の接点があったわけではないし、まして世代も違う彼らが知り合う機会はない。
ただ単に、所属部署が同じというだけだった。そんな人間なら他にもたくさんいる。
「……子どもの頃」フレッドがゆっくりと語り始める。「親父が働いていた魔晄炉を見に行ったことがある。
当時あの大規模な施設に圧倒された。それに魔晄炉にいる時の親父は格好良いんだ。だから俺も
大人になったらこんな仕事がしてみたいって思ってたんだ」
そう語ったフレッドの表情は、どこか誇らしげだった。
「じゃあ、どうして……」
「職員の失踪事件だ」
話はジェノバ戦役よりもさらに5年前までさかのぼる。魔晄炉に勤務していた職員全員が忽然と姿を
消す、という不可解な事件がニブルヘイムで発生した。本来の予定であれば事件発生の翌日から
1週間の日程で、半年に一度の炉心部総点検が実施されるはずだった。そのための準備に当たって
いた作業員も含めて、全員が消息を絶ったのだ。
神羅はこの事件を世間には公表せず、社内でも一部の関係部署以外には通達しなかった。後に
ソルジャーを投入し実態調査に乗り出す事になるが、それにも数日を要した。
消息を絶った作業員の中には、フレッドの父親がいた。
「ある日、休暇中だった親父に連絡が入った。作業員の欠員を補充するために呼び出されたらしい。
翌日から急きょ親父は1ヶ月間の日程でニブルヘイムへ出張することになった」つまり欠員さえ出な
ければ、フレッドの父親はニブルヘイムに行く事もなく、もしかしたら今も元気に暮らしていたのかも
知れない。
「1週間後、本当ならおふくろと俺は親父に会いに行く予定だった。でも、前日に熱を出して寝込んで
いた俺はニブルヘイムには行けなかった」
ニブルヘイムへ向かった母親は、戻らなかった。
今にして思えば、セフィロスの起こした所謂『ニブルヘイム大火』に巻き込まれたのだろうと思う。
しかし当時はその情報すら公開されていなかった。その後、村は神羅によって完璧に復元された。
たとえ村は復元されてもフレッドの両親は戻らなかった。それは紛れもない事実だった。戦争や事故
でもない、何の前触れもなく唐突に訪れた現実を、当時幼かったフレッドは理解できなかった。正確に
は、未だに本当の原因は知らされていない。今の話もすべて、資料からの推測でしかなかった。
「俺たちに対して説明は無かった。もちろん納得できたわけじゃない。……その一方で、俺は神羅の
救済措置のお陰でその後も生活には困らなかった」
どうして両親がいなくなったのか? あるいは誰の仕業だったのか? どうする事もできないのなら
忘れてしまいたかった。忘れようとした。でも忘れることはできなかった。
「残された手がかりは『魔晄炉』だけだった。だから俺は神羅に行くことを決めた」けれど時期が遅すぎ
た、折しもミッドガル壱番魔晄炉爆破事件の起こった年だった。それから世界は瞬く間に混乱の渦に
呑み込まれ、その中で神羅も消滅した。
神羅と、各地の魔晄炉が機能を停止した後の世界は、どこも戸惑いに満ちていた。確かに神羅には
敵対者も多かった、しかし裏を返せば、良くも悪くも神羅の存在があらゆる形で人々の拠となっていた
のだ。メテオ災害後、フレッドは神羅の大きさを知った。
「俺にできること、俺がしなきゃならないこと。とにかく手探りだった。
そこでW.R.Oと出会った。しかも局長は、あの『魔晄都市建造の功労者』と呼ばれたリーブさんだと
言う。ここへ来るしかないと思った」各地の復興事業の傍らで、失われた魔晄炉関連の資料を集め
ようとした。そこでダナと出会った。
----------
・…公式設定(ニブルヘイム)の隙間をうまく縫えていれば良いんですが。
お気づきの点などあればご指摘いただけると大変ありがたいです。
・ゲーム本編では描かれない規模の小さな悲劇。ただし作者のねつ造100%です。
・フレッドの心理は、工場見学に行った時の子ども(経験則)のそれと同じです。
決して見学後に工場で作っている製品をもらえる事につられた訳じゃない。
・なんとなく、全っ然根拠ないんですけど、タークス主任はナイト2000ぐらいの車に乗ってるんじゃ
ないかという勝手な印象がありまして。文中の「正規仕様じゃない」の件はそれが反映してます。
(果たしてこのネタが通じるかwちなみにあのドラマはトラウmry)
…ちょっと火炎放射浴びて頭冷やしてきます。
乙!
神羅仕様ナイト2000ならキットならぬケットだなw
「ごっつう適わんな〜」とか喋りだすんだwww
GJ!
※ご注意※
・ラストダンジョンとは全く無関係の短編。でも主人公がリーブなのは書き手の趣味。保守のお供に。
・なお、この話では、リーブの年齢設定および性格が か な り オ カ シ イ です。
FF7本編、およびDCFF7などのリーブの印象を損ないたくない方は回避推奨。
・DCFF7エンディング後に、DC4章の“あのイベント”を振り返るところから話が始まります。
----------
「あのときは驚いた」
唐突にヴィンセントの口から珍しい句が紡がれて、リーブは作業の手を止めて顔を向けた。
それはオメガ戦役が一応の決着をみた後、襲撃された本部施設の復旧作業中の出来事だった。
「突然どうされました?」
床に散らばった大量の配線を前にして作業に勤しんでいたリーブは、手は止めずに顔を上げると
常のように穏やかな声で尋ねた。彼を見下ろしていたヴィンセントは感心した様子で語った。
「てっきり、神羅では都市開発部門の所属だとばかり思っていたんだが」
「ええ、おっしゃるとおり都市開発部門でしたが……」
これでも一応、統括職まで務めたんですがと苦笑するリーブに「そうではない」と首を振ると、ホル
スターから銃を抜き取り、止める間も与えず引き金を引いた。
銃口から発射された3発の弾丸は、天井に設置されていた感知器に命中し、ホール内にけたたましい
警報音が鳴り響いた。
「ヴィンセント! なんて事をするんですか?!」
どう考えても理不尽な仕打ちに対して、リーブは文句もそこそこに素早く立ち上がると警報を止める
ためにフロア壁面に設置された配電盤を開いた。そらから何やら作業を始めると、ものの数十秒で
警報音が止んだ。ふうと溜息を吐いて振り返り、銃をおろして立っていたヴィンセントに視点を合わせて、
先程の文句の続きを口にした。
「無闇に発砲して施設を破壊するのはやめて下さい。確かにこのフロアの復旧作業はこれからですが、
配線類など場所によっては施設全体に影響が出る物もあるんです」それから設備に関する蘊蓄を語り
始めたが、専門外のヴィンセントが聞いたところで子守歌にもなりそうになかった。
「すまない」言葉でこそ謝罪を述べているが、実際の意図は謝罪よりも、こうでも言わなければリーブの
講義が終了しないと考えての発言だった。
彼の意図を汲んでいたかどうかは定かでないものの、リーブは最初にしたのと同じ質問を繰り返した。
「本当に、どうされたんですか?」
まさか溜まっていたストレスを発散するために撃った、などと言うことはあるまい。なによりもヴィンセ
ントが考えなしに行動するような男でないことは分かっている。現に先程の発砲も、感知器1つの破損
だけで他に影響を与えずに済んでいた。だから尚のこと、リーブは突然の行動の根拠を尋ねたのだ。
その問いかけに、淡々とした口調でヴィンセントは答える。
「……かなり訓練していたとしても、小さな的を正確に打ち抜くのは難しい。しかも、咄嗟の判断で当て
るとなると相当の経験と才能が必要だ」
自分はタークスとしての訓練を受け、実戦も経験している。ヴィンセントが最後に言い添えた。そこで
ようやく、彼の言わんとすることをリーブは理解した。
「もしかしてスプリンクラーの事ですか? 以前にもお話ししたと思いますが、あれは本当に偶然だった
んですよ」
それは先の戦線で、ディープグラウンド勢の侵入を許したWRO本部施設内での出来事だった。敵勢の
指揮官にあたるツヴィエートと対峙し、それが10年ぶりに再会する妹である事を知ったシャルア博士は、
武器を向けられても無抵抗――というよりも突然の出来事に状況の整理が付かず無防備――でいた。
いくらシャルア博士の実妹とはいえ、シェルクが戦場で相対した敵である事には変わりない。しかも
明らかな殺意を持ってこちらに武器を向けているのだ、かける情けは無用とするのが当然だ。それでも
リーブは彼女の前に立ち説得を試みた。正直なところ、ヴィンセントにしてみれば彼の行動は無謀だと
思えた。WRO局長という立場を考えれば無謀どころか無責任だと非難されてもおかしくない。そして
予想どおり説得は失敗に終わった。
シャルア博士に武器が振り下ろされようとしたとき、ヴィンセントの銃口は当然シェルクに向けられて
いた。しかし、制止の声とともにリーブの放った銃弾は頭上のスプリンクラーを正確に打ち抜いた。噴き
出した水溶性の消火剤はシェルクの持つ武器の威力だけを奪い、一人の負傷者も出さずにその場を
打開した。
ほんの一瞬の出来事だった。その一瞬の中でリーブはもっとも犠牲の少ない方法で、さらに最も有効
な結果を導き出す判断を下し、実行に移したのだ。並の者ではこうはいかない。ヴィンセントが「驚いた」
と口にしたのはこの事だった。
「作戦指揮を執る立場上、敵陣営のデータは頭に入っていましたからね」その場での判断という訳では
ないのだとリーブは言う。
「それにしたって、その情報を元にあの場で判断を下したのだろう? それともあの状況を、以前から
シミュレーションで訓練していたとでも言うのか?」的確な判断と迅速な行動の上にある射撃であり、
何よりも射撃が成功する見込みがなければあり得ない判断だった。つまりどれ1つを取っても偶然の
産物とは言い難いのだとヴィンセントは反論する。
「……こだわりますね」
ヴィンセントにしては珍しいと、リーブが小さく笑った。そこに憮然とした口調で反論する。
「こだわっているのはどっちだ? 謙遜にしては些か不自然と思えるが、気のせいか」
「……分かりました」やれやれと肩を落としてリーブは立ち上がると、ヴィンセントを見据えてこう続けた。
「『スプリンクラーの件は私の素晴らしい功績だ』と認めれば、あなたの気は済みますか? でしたら、
ご要望どおりそうしますよ」
正面からぶつかった視線を、最初にそらしたのはリーブだった。ヴィンセントに背を向けて歩き出した
リーブの背に向けて、言葉を投げる。
「作業はまだ途中なのではないか?」
「これからの作業に不足している工具を取りに戻るだけです。こちらはしばらく時間が掛かりそうです
から、あなたは適当に休んで下さって結構ですよ」
振り返らずに言うと、扉の向こうに消えていった。
残されたヴィンセントは扉の方に視線を向けたまま、口に出せなかった疑問を零した。
「私と同じように、お前は昔から“死の匂い”を知っているんじゃないのか?」
戦地、あるいはそれ以外の場所で。
----------
・一応まだ続きます。(ここまではゲーム内に沿った話ですが、以降は無茶設定です)
昼夜を問わず光にあふれる巨大都市、ミッドガル。
神羅カンパニーによって計画、建設された他に類を見ない立体都市。それは豊かさと繁栄の象徴で
あり、人々の野心や欲望の集まる街である。
リーブ・トゥエスティ。彼は神羅カンパニー都市開発部門に勤務する一流の技師である。性格は生
真面目で誠実。一見すると地味な印象ではあるが、技師としては部門内でも有数の逸材として一目を
置かれている。
毎日朝早くから夜遅くまで、彼は一言も不平や不満を漏らすことなく働いている。その姿を見た上司
や周囲の同僚達からは、勤勉が服を着て歩いているようだ。とか、彼こそが機械仕掛けで動いている
のではないか。と囁かれるほどの働きぶりだった。以前ある同僚が「どうしてそんなに働くのか?」と
尋ねたところ、彼は笑顔でこう答えたのだという。
「ひとつの都市が成長していく様子を、こうして間近で見る事ができるんです。これほど面白くて夢中に
なれる仕事はありませんよ」
彼は自分の仕事に誇りを持ち、心からミッドガルを愛していた。
リーブの仕事を形容するとき、「完璧」という言葉は外せない。工期スケジュールを遅らせるような事は
絶対にしないし、内容にも手落ちがない。状況によっては無理な納期を設定される事もある、そんな時は
休みはおろか寝食を削ってでも完遂する事を常としていた。そんな仕事柄を目の当たりにすれば、担当
者がリーブというだけで誰しもが全幅の信頼を置くことになる。彼はこうして部門内で徐々にではあるが
着実に頭角を現していった。
後に都市開発部門の統括職に就任する事になるが、それはまだ先の話である。
***
どんな物事にも、表があれば裏がある。
ミッドガルが繁栄の象徴であるのはプレート上のみだった。プレート下――スラム街と呼ばれている
場所は、「繁栄」とはほど遠い醜態をさらしている。劣悪な環境、蔓延する貧困、悪化する一方の治安、
それらは繁栄を享受するために払った代償そのものだった。
誰もが現状のままで良いとは思っていない。けれども様々な理由やしがらみにに阻まれて、誰も
改善に乗り出すことはできなかった。
ちょうどこの頃、プレート上下を問わずミッドガル内では奇妙な事件が多発していた。社内報では
「タークスを中心とする部隊が事態の沈静化に全力で当たっているが、各自注意してほしい」という旨で、
治安維持部門から通達が出ていた。
具体的な内容は記されていないが、どうやら狙撃事件らしい。と噂話を好む同僚が話を持ち込んで
きたのは、まだ夜も明けきらぬある日の早朝、本社の都市開発部の1フロアに設置された宿直勤務者の
詰め所だった。
「なんだか物騒になりましたね」穏やかに答えたのはリーブだった。応じるように、同じ班の同僚が続け
る。
「でも狙われているのは上役連中ばかりでしたっけ? 僕ら下っ端には関係ないですよ」ちょうど八番
魔晄炉の運転試験を控えている頃で、班内はそれどころではなかった。この運転試験を無事に通過
しなければ、八番基の本格稼働はできないからだ。
「まあ、注意するに越したことは無いけどな」七番魔晄炉の宿直だった同僚が引き継ぎ用の資料を
持って入ってくると、リーブはカップに入ったコーヒーを差し出した。
「悪いな」本当はコーヒーよりも酒が良いんだが、カップを受け取った同僚はそう言おうとしたが、リーブ
の顔を見て思いとどまった。本音をうっかり口にしたら「まだ勤務中ですよ」と、窘められるのは目に
見えている。それでも、安物のインスタントコーヒーをこれほど美味いと感じたのは、宿直明けという
状況と彼の厚意のせいだろう。
一方、コーヒーと引き替えに同僚から資料を受け取ると、リーブは記されているデータを熱心に目で
追った。
「確かにこの時期、うちの班の誰が欠けても困りますからねー」リーブの横でのんきに欠伸をした別の
同僚に、リーブが告げる。
「ここ、やっぱり不具合と見た方がいいですね」
七番魔晄炉は3ヶ月前から本運転を開始したばかりだったが、ここのところ小さな不具合が頻発し、
八番基の試験を控えた班内スタッフにとっては追加の懸念材料となっていた。
指摘箇所に丸を付けて同僚に資料を手渡すと、考えられる原因とその箇所を手短に述べてから
リーブは席を立った。「ちょっと現地に行って確認してきます」
詰め所を出る後ろ姿を見送りながら、宿直あけの同僚がカップを手に持ったままぽつりとつぶやいた。
「……特にあいつに抜けられたら困るんだよな」
「狙撃事件なんて無くても、僕ならとっくに死んでますよ」
リーブも含めてここにいる全員が宿直あけだった。入り口横に掲示されたスケジュール表に目をやる
と、彼はいつ寝ているのだろうと思わずにはいられない。
本当に、彼はよく働く。まるで機械みたいだと誰かが言った。まさか機械仕掛けで動いているとは
思わなかったが、たとえに異存はなかった。
タークスが躍起になっていた狙撃事件だったが、都市開発部門の職員にとっては朝の挨拶に添え
られる会話程度でしかなく、彼らは忙しくも平和な日々を送っていた。
***
タークスにとっては朝も夜も関係ない。彼らの一日は任務に始まり、任務に終わるからだ。
「狙撃というのは狙撃手と、観測手の2名で行うのが通常だ。だからこの事件は単独犯とは考えづらい。
が、我々の警備網をことごとく破っている機動性から察するに、数はそう多くない」
エレベーター奥の壁際に立っていた男は、あごに手を当てながら思案の結果を口にした。癖のある
茶褐色の頭髪と鋭い目つきの持ち主で、加えて鍛練を積んでいるとスーツの上からでも一目で分かる
ほどの体格をしていたから、見た目からでは近寄りがたい印象を与える。それもそのはずで、彼は
ベテランの域に達するタークス構成員であり、課内を取りまとめる主任職を務めていた。名前は
ヴェルド。メンバーの皆からも信頼を集め、時に畏れられる存在だった。
「せいぜい2,3名。うち最低でも1名は土地勘のある者が含まれている可能性がありますね」
応じたのは操作盤の脇に立っていた年若い男だった。几帳面に黒髪を結い、やはり同じスーツを
着込んだ新人タークスだ。細身というわけではないが、隣にいる男と比べると華奢な印象を与える。
「ああ、狙撃地点はある程度限られてくるからな」自分の斜め前に立っていた黒髪の男に視線を向け、
さらに続けた「この時間帯とはいえ、警戒態勢中の八番街の警備任務だ。気を引き締めて行け」
そこまで言うと、乗っているエレベーターが減速している事に気付いて言葉を止めた。扉上のパネルに
目をやるが、まだ目的階には到着していない。黒髪のタークスも不思議そうに手元の操作盤を確認
する、やはり目的階以外のボタンは押されていない。この時ようやく、これは一般社員も使うエレベーター
だったと気が付いた。
やがてふたりが乗っていたエレベーターの扉が開くと、乗り込んできたのは詰め所を出たリーブだった。
先客、それもタークスだったと言う事を服装から知ると、リーブはにこりと笑顔を浮かべて会釈した。
「おはようございます」
それから周囲を見やった、一般の社員とタークスが同じエレベーターに乗り合わせる機会はそう多く
ない。本来ならば次のエレベーターを待つべきだろうが、リーブとしては一刻も早く現場へ向かいた
かった。
「気にするな、俺たちも専用エレベーターを使わなかったからな」リーブの様子を察して、奥の方に
立っていた男が言った。発言を受けて操作盤の前に立っていた新人タークスはリーブに目的階を尋ね
ると、返答に従って1階のボタンを押した。お互い初対面だったせいもあり、会話にはややぎこちなさが
伺える。
そんな若者達の様子を見かねたように、奥の男がリーブに問いかけた。「夜勤明けか?」
時刻はまだ早朝、一般の社員が出社する4時間も前だ。リーブは「ええ」と頷いてから自分がこの
エレベーターに乗り合わせた経緯を、部門外だった彼らにも分かるよう簡単に説明した。
「もしかして皆さんも夜勤明けですか?」
「似たようなものだ」そう言って質問者が笑う。
「鍛練を積んでいるとはいえ、健康には気をつけて下さいね。私たちがこうして仕事に集中できるのも、
皆さんの活躍があってこそ、ですからね」言い終えたところで、エレベーターが目的階に到着したことを
告げる。開きかけた扉を背にして「では」と会釈する。
「お前の方こそな」
開いた扉から外に出たリーブの背に声をかける。三度の会釈で応えるリーブの姿は、やがて閉まる
扉で見えなくなった。
再びエレベーターが動き出すと、ずっと黙っていた黒髪のタークスが口を開いた。
「お知り合いですか?」
「顔見知り程度だがな」答えた後も扉をじっと見つめている上司に、ふと思いついた様に問いかけて
みる。
「私たちが警戒しているポイントとはいつも別の地点からの狙撃、ですか」
「どうした?」
「いえ。ただ彼のような立場なら、そういったポイントを割り出しやすいのではないかと思いまして」
協力を要請してみては? という言外の提案になるほどと頷いた。
「考えておこう」
***
どんな物事にも、表があれば裏がある。
リーブ・トゥエスティも例外ではない。神羅カンパニー都市開発部門所属の一流技師、それは表の
顔である。
仕事熱心なことで有名な彼ではあるが、数少ない休日の行動を知る者は居ない。以前、休暇中
だったリーブに急な用件で電話をかけたが圏外で繋がらなかった。しかしその数時間後、連絡が
取れなかったにも関わらず彼は職場に姿を現し、周囲を驚かせたという。しかし常にはなく疲弊した
彼の姿を目の当たりにした上司や同僚達はその日以来、何が起きても休日の彼に連絡を取ることは
しなくなった。
(あれだけ働きづめだと死んでしまうよ)
部内の誰もが、リーブに死んで欲しいとは思っていない。
この日も彼は3ヶ月ぶりの休暇だった。休暇と言うよりも、上司から半ば強制的に休暇を取らされた
のだ。
同じ社内だというのに、先程からすれ違う社員の視線をやたら集めている事には気付いていた。都市
開発のフロアに立っている自分は明らかに場違いなのだろうと自覚しつつも、リーブのデスクを探して
歩き回っていたのは、あの日の朝エレベーターに乗り合わせたタークスの一人だった。「顔見知り」と
いうことで、今日ここへ来たという経緯があった。もっとも、ぎこちない会話を交わしていた新人よりは
幾分かスムーズに運ぶだろうという公算もあった。
なんとか彼のデスクまでやって来たのだが、肝心のリーブ本人が見あたらなかった。手近な社員を
つかまえてリーブの所在を尋ねると、怪訝な顔とともに回答を得ることができた。なんでも3ヶ月ぶりの
休暇だと言う。
それを聞いて机上に視線を落とす、なるほど言われてみればよく片付いている。とは言っても、積み
上げられた資料は膨大で、作業スペースを圧迫しているのは変わらないが、それでも用途別にきちん
と整理され無駄な物は一切置かれていない様だ、というのが分野外のヴェルドにも分かるほどだった。
機能的と表現すれば良いだろうか。
「もしも用事があるなら、明日また出直してきてもらえますか?」それだけ言うと、社員は逃げるように
してその場を離れた。
(俺が緊急の用件だと言ったら、呼び出さなきゃならないからな。そうしたくない気持ちは分からなくも
ないが……)
何も逃げることはないじゃないか。言う代わりに溜息を吐いた。
(とはいえ、最近は活動も沈静化しているからな。協力要請は後日にしよう)
彼が今日ここを訪れた理由は他でもない、あの日エレベーターで同僚から提案された件を実行に
移そうとしたためだった。しかし当人が不在となれば出直すしかない。そう思ってきびすを返したところ
で、携帯電話が鳴った。
ディスプレイで発信元を確認すると、かけてきたのはチームを組んでいたあの新人だった。受話口
から聞こえてきた声は、平生になく興奮した様子だった。
「どうした?」
『やられました! 現場は七番街です!』
「現地で合流する、詳細を転送してくれ」
それだけ告げてから通話を終えると、彼はエレベーターに向けて走り出した。
----------
・
>>630初っぱなからお見苦しい文章ですみません。
・さらに連投気味ですみません。書けるうちに書いて投下できるうちに投下させて頂きましたー。
GJ!
乙!
前話:
>>630-637 ----------
3ヶ月ぶりに発生した今回の件を含め、この半年間で起きた狙撃事件は全部で7件。うち4件が神羅
関係者、残りの3件がまったくの部外者。狙われた7人に特筆すべき共通点は今のところ見つかって
いない。
発生地点はいずれもミッドガル内であること。また狙撃に使用されている銃が同一のものであること。
状況についてもそれ以外の共通点はなく、発生時刻にも規則性は認められない。
目下のところ犯人に繋がる手がかりは得られておらず、はっきりとした犯人像すら見出せていないの
が現状だ。
この件は部外に伏せたまま、引き続き調査を継続中である。
また最初の事件発生から1週間後にはタークス、2ヶ月後には軍も投入しての警備体制を敷いていた
が、事件の発生を未然に防ぐことはできなかった。この反省を活かし新たに今後の対策を検討する必要
がある。
連絡を受けてから現地へ向かったが、7人目の被害者は既に息を引き取っていた。狙撃地点の特定
こそできたものの、犯人に繋がる手がかりを何一つ得られぬまま二人は帰社した。
その後、提出された報告書に目を通したヴェルドは肩を落とす課員を帰宅させた後、再び都市開発
部門のフロアに足を運んだ。さすがに夜も更けたこの時間帯、社員もおらずフロアはひっそりと静まり
かえっていた。広いフロア内を、非常灯の心細い明かりだけを頼りに進む。
今のヴェルドにはどうしても欲しい資料があった。それは都市開発部門の統括、あるいは部署の責任
者に申し出れば入手はそれほど困難な物ではなかった。しかし正確を期するためにも部門内の誰にも
知られずに、直接それを得る必要があった。
その資料とは、勤怠管理表である。
あの日の朝、エレベーターの中で呟いた部下の言葉が脳裏を過ぎる。
――「私たちが警戒しているポイントとはいつも別の地点からの狙撃、ですか」
(考えすぎなのか? それとも)
前回から間を空けた今日、3ヶ月ぶりの事件発生。
たまたま重なった、一社員の3ヶ月ぶりの休暇。
――「いえ。ただ彼のような立場なら、
そういったポイントを割り出しやすいのではないかと思いまして」
都市開発部門の一技師、しかし彼はこの街の構造をより深く知る立場にあった。それは紛れもない
事実だ。
考えているだけで答えが見つけられるほど、タークスがこなす任務は単純な内容ではない。一通り
考えて当たりを付けたら、あとは行動あるのみだ。
(……さて)
日中、一度ここを訪れていた事が功を奏した。ヴェルドが目的の机の前にたどり着くと、相変わらず
積み上げられた膨大な資料が出迎えてくれた。ペンライトを取り出すと、確認のために机上を照らした。
そこでおや? と首をかしげる。昼間来た時とは明らかに何かが違うと感じた。何だろう? 積み上げ
られている資料の位置とか、そういった小さな問題ではないような気がするが、ひとまず目的の勤怠
管理表を探す事にした。
机上に置かれた端末には触れなかった。電源を入れて起動したとしても、どうせロックが掛かって
いるはずだ。だとしたら、紙媒体の資料を探す方が早いと考えた。
大体デスクマットの下などにスケジュール表が置かれているものなのだが。そんな経験則に従って、
目的の資料を探し始めた。個人用のスケジュール表があれば、上手くするとメモなどから行動履歴を
追う事もできるかも知れない。端末での情報管理が進んでいる社内にあっても、業務中に突発的に
起きる小さな案件は、リアルタイムに自筆で付箋紙やカレンダーの隅に書き留める者も未だに多くいる。
そういったデジタル化されない情報は、正式な依頼で入手する勤怠管理表には記載されていない貴重
な手がかりだ、こうして残業する価値は充分にある。
ペンライトを口にくわえながら資料の一山を見終えると、作業スペースを確保するために、山を崩さな
いよう注意を払いながら机上から退けた。ここで、ヴェルドは最初に感じた違和感の正体を知った。
(……ぬいぐるみ?)
資料の山の間からひょっこりと顔を覗かせていたのは、見たこともない様な猫型のぬいぐるみだった。
この机の上にあるから、持ち主はおそらくリーブなのだろうが。
(昼間、ここへ来た時にはこんな物なかったぞ?)
資料こそ多いが、用途別に整理され無駄な物は一切置かれていない――この机を見てヴェルドが
最初に抱いた印象だった。丸一日も経過していないし、間違いない。昼間ここへ来たときは、ぬいぐるみ
は無かった。
(では誰が?)
首をかしげながら、ぬいぐるみをまじまじと見つめる。すると、ちょうどぬいぐるみの尻に敷かれるように
して、工期スケジュール表が置かれていた。
(これだ!)
スケジュール表を取る為に、ぬいぐるみに手を伸ばした時だった。机の上が突如として照らし出された。
ここへ来る前にあらかじめセキュリティ類は切っておいたし、フロア警備の巡回ルートと時間も把握し
ている。となると――この一瞬の間に、ヴェルドの頭の中では状況整理が行われ、背後に立つ人物を
特定しようとした。
「こんな夜中にどうされましたか?」
結論が出されるのと同じタイミングでからかけられた声によって、ヴェルドの推測が確信に変わった。
この席に座っているリーブ本人に見つかったのだ。伸ばした腕が何もない空中で止まる。迂闊だった。
まさかこんな時間にと完全に油断していた。周囲にもっと気を配るべきだったと後悔しつつも、平静を
装って振り返る。
手をかざして目を細めてみたが、薄闇に慣れた網膜には刺激が強すぎる。それでも目を逸らしはしな
かった、自分の前に立つ者の姿をなんとしても確認しておきたかった。
「……あなたは」夜中に自分の席を荒らしている、どこからどう見ても不審者でしかない。たとえ振り
返った人物が顔見知りであったとしても、その行動に疑問を持つべきであるのに、リーブの声音には
警戒心がまるで無かった。「ヴェルド主任?」
相手の顔を確認したリーブは懐中電灯を足下に向けると、ヴェルドもかざしていた手を下ろす。
どう考えても、申し開きのできる状況ではなかった。だからと言って、ここに至る経緯を正直に打ち
明けるべきなのか? ヴェルドがしばし逡巡していると、リーブが尋ねた。
「なにかお探しでしたか?」
自分の手持ちの資料で良ければと、まったく疑いもせずに申し出た。てっきり釈明を求められるもの
と思いこんでいたヴェルドにとっては、予想外の言葉だった。
「! あ、ああ……。実は」
ミッドガル内で起きる狙撃事件について自分達が調査任務に当たっていること。そして、ミッドガルの
構造をよく知る人物に協力を仰ぎたいと考えていたこと。そのために日中ここを訪れたが、リーブが
休暇中であったと聞かされた事。偽る必要のない範囲で経緯を打ち明けた。
「そうでしたか、せっかくご足労頂いたのに申し訳ありませんでした」話を聞いたリーブは、どこまでも
丁寧に応じた。「私なんかでお役に立てるのでしたら」
そう言って、脇机にしまわれた分厚いファイルを8冊ほど取り出した、どうやらミッドガル、プレート部の
設計図面の一部らしい。
「これは概略になります。詳しい状況を伺えれば、もう少し範囲を限定した物をご用意できるんですが」
その申し出を受けたヴェルドは、急場しのぎで拵えた話を聞かせた後、最後にこう付け加えた「もう少し
詳しい資料を見たい。メンバーとの打ち合わせも控えているので、なるべく急ぎたいんだが、どのぐらい
掛かるだろうか?」。
その言葉にリーブはにこりと微笑んでこう言った。
「今少しお待ちいただけるのでしたら、ここへ資料をお持ちします」
「そうしてくれると助かるんだが、頼めるか?」
ヴェルドの言葉を聞いたリーブはさっそく資料室へと向かいその場を離れた。フロアに残された
ヴェルドは、まさに我が意を得たりと口元を歪めた。
「……ありがとう、本当に助かるよ」
もう一度デスクに向き直ると、先程取りそびれた工期スケジュール表に手を伸ばした。月ごとに印刷
された約1年分の資料に目を通して、彼が『休んだ日』を素早く書き写した。転写する事自体に時間は
かからなかった、圧倒的に数が少ないせいだ。日数だけを言えば、まだ自分の方が休みを取っている
とヴェルドは思った。ミッドガルの建設が急ピッチで進んでいるという事情は分かるが、それにしても
異常だった。しかしそれを考えるのは自分の役割ではないと思い直し、脇のメモの書き取りを始めた。
一通り作業が終わると、資料を取ったリーブが戻って来る前にスケジュール表を返し、ぬいぐるみも
元の位置に戻しておいた。
この時ふと、誰かの視線を感じたので振り返る。ペンライトをかざして周囲にぐるりと視線を向けたが、
薄暗いフロアには誰もいなかった。気のせいかと再び机上に視線を戻すと、スケジュール表の上に
置いたあの猫のぬいぐるみが、まるでヴェルドを見上げているように見えた。
その猫のぬいぐるみは、微笑んでいた。
――狙われた7人に特筆すべき共通点は今のところ見つかっていない。
部下の提出した事件概要の報告書に記載された内容に、間違いはなかった。報告書提出者の認識は、
これで正しい。
しかしヴェルドの知る現実において、この認識は間違っている。つまり狙撃された7人には、明らかな
共通点があったのだ。
タークス構成員は、個々の能力に応じて多種多様の任務に当たっている。任務の内容により担当する
人員の数は異なるが、簡単なものなら単独という事もざらではない。また、一人が並行して複数の任務
を遂行することも常だった。任務を担当するメンバーを適材適所に振り分けるのは、主任であるヴェルド
の役割だった。
今回の狙撃事件については、新任タークスとヴェルドがチームを組んで調査任務に当たっている。
発生当初は新人教育の一環と言う意図もあっての人選だったが、まさかここまで引きずる案件になると
は予想だにしていなかった。
しかしもう1つ、今回の調査任務にヴェルド自身が積極的に関わった理由があった。それは、ヴェルド
が単独で遂行するはずだった任務と密接に関係している。
ヴェルドの単独任務、それはプレジデント神羅から直々に仰せつかった極秘任務だった。
任務の内容自体は単純なものだった。神羅に害をなす、または危険因子と判断された『要監視者
名簿』に記載されている上位14名の抹殺だった。
狙撃事件の被害者7名は、いずれも『要監視者名簿』上位に名前の載っている者達ばかりだった。
最初の被害者が名簿の一番最初に記載されている人物だったために、ヴェルドが「新人教育」という
大義名分の元に調査任務に当たる事になった、というのが真相だ。
狙撃事件はヴェルドにとって渡りに船とも言えたが、喜んでばかりもいられなかった。
処分方法、時期、そのどれもが予定とは異なっていたからだ。
名簿は危険度の高い順から記載されており、継続される監視報告を基に整理され、順位は常に変動
する。そして一定期間リストの上位に名前のあった者は、要監視から処分の対象となる。このため『要
監視者名簿』上位については『処分者名簿』とも呼ばれている。
もっとも、その存在自体を知る者はほとんどいない。タークスですら、任務に当たっているヴェルドの
みが知るものである。
名簿記載の対象となる者の所属は問わなかった。だから神羅カンパニー勤務者、つまり身内が名簿
に含まれていても何ら珍しいことではなかった。
処分対象の抹殺には特に定められたルールなどは無いが、『処分』の事実が明るみに出ることだけは
避けなければならない。よって対象の処分方法、時期などを調整し関連性を疑われないようカムフラー
ジュする必要があった。
ヴェルドが今回の狙撃事件を歓迎できない理由の1つだ。
被害に遭った7名全員が、『狙撃』という共通点を持っている。これでは何らかの意図を持った存在が
憶測される可能性がある。そうなると、今後の任務遂行に支障を来すおそれがあった。
これ以上の被害拡大を防ぎ、なんとしてでも狙撃手を捕まえなければならない。今のヴェルドにとって、
これが最優先の任務となった。
事と次第によっては、狙撃手の正体が誰であってもその場で処分対象となる可能性も充分あった。
これまでの7件のうち、即死が6件。残りの1件についても、被害者は未だに集中治療室で昏睡状態に
ある。そのことからも、一連の事件を起こした狙撃手は照準に定めた者の命を確実に奪う、腕は確かだ
と言う事だけははっきりしていた。今回の任務の完遂が極めて困難であろう事は安易に予測できたが、
先の見通しは全く立たなかった。
ヴェルドの携帯に事態の急変を告げる報がもたらされたのは、この日の深夜だった。
昏睡状態にあった被害者が、意識を取り戻したというのである。
***
およそ半年前、一連の狙撃事件で最初の被害者となった男は辛くも一命を取り留めていた。事件発生
直後に発見された男が搬送されたのは、ミッドガル地下にあるソルジャー向けの大規模な医療施設だっ
た。ここには最先端の医療機器がそろっている。ソルジャーではなかったはずの男が助かったのも、
ここに収容されたという幸運が大きく影響している。
もちろん、この幸運は当初より仕組まれていたものだったのは言うまでもない。
被害者が半年ぶりに目覚めたと聞いて、ヴェルドは治療棟へと急いだ。社命を受けたタークス主任と
いう事を担当医に告げ身分証を提示すると、渋々だが特別に面会を許可された。しかし容態が不安定
であるため条件付でだと、治療室へ行くまでに何度も釘を刺された。
集中治療室で機械類に囲まれ横たわる男は、処分者名簿の最優先対象とされていた人物に間違い
なかった。ヴェルドは訊問を開始すると、後ろに控えていた担当医の表情は途端に険しくなった。
問われた男はか細い声で、切れ切れになりながらも狙撃直前の様子をこう語った。
「『もうすぐ、死ぬで』、そう……言われた」
「いったい誰に?」
およそ重症患者を相手にする口調ではなかった。背後から担当医が制止する声には耳を貸さず、
ヴェルドは答えを迫った。
「猫……2本足で立つ、ねこ……だった」
「2本足で立つ猫だと?」
「ご覧の通り意識の混濁があります、分かりますよね患者は危険な状態なんです! ですからこれ
以上――」担当医の訴えを無視して、ヴェルドはさらに訊問を続ける。
「猫とは何だ?! 答えろ!」
「猫が……笑った、本当だ。それから『言いたいこと、あるか?』と聞かれ……た」
「なんと答えた?」
「俺が、『なぜ死ぬんだ?』と。すると」
ベッドに横たわっていた男は、言葉の途中でひときわ苦しそうに咳き込んだ。治療の手を差し伸べ
ようとする担当医の腕をつかんで引き留めると、ヴェルドは言葉の先を待った。
「『お前は、阻害要素、や』それで俺……は、その猫、が誰……なのか知……」
「これ以上は本当に危険です!」ついに怒りをあらわにした担当医を一瞥し、ヴェルドは冷淡に告げた。
「今から担当医はこの俺だ、お前は出て行け」
理不尽にも程があると反論しようとした。しかし言外に「患者が死んでもお前の責任ではない」という
意味を含んでいる事も同時に悟った。そのことに医師は良心の呵責を感じ、また横たわる重病人に後ろ
髪を引かれる思いで治療室を立ち去った。「社命を受けたタークス」がここに来たという現実、それが
持つ表面上の意味を担当医はよく理解していた。傍目には残酷と映るだろうが彼は医師である前に、
神羅社員という立場には逆らえなかった。それが神羅という会社だった。
「お前の言う猫とは誰だ?!」
「都市……開、発……部」吐き出される大量の呼気で、口から鼻を覆っていた酸素マスクが白く曇った。
その様子を見たヴェルドは躊躇いもせず男の顔からマスクを剥がした。それは呼吸を補助するための
マスク、当然この男にとっては生命線そのものだと知っての行為だ。
「お前を撃ったのは都市開発部門の人間か?! 誰だ!」
ベッドに横たわる男は、質問に答えるどころか今や呼吸をすることで精一杯だった。ヴェルドに向けて
手を伸ばし、マスクを返してくれと呼吸を荒くして訴える。
先に答えろ。ヴェルドはその一言だけで男の訴えを退ける。
「ま……こう炉、調せ、い……っか」引き攣った言葉がようやく零された。ベッドの横に置かれていた呼吸
数・心拍数を監視するモニターが、男の代わりに悲鳴を上げた。ヴェルドはその声に応えるつもりは
毛頭無い。ただ言葉の続きを待っていた。
しかし、男の口からまともな言葉が語られることはもう二度と無いだろう。それを察したヴェルドは、
事務的な口調でこう言った。
「お前はこうなる理由を知っているはずだ。俺がなぜ、ここにいるのかも」
眼窩から剥き出しにされ、白目を埋めるほどに血管の浮かび上がった眼球がヴェルドを見つめてい
た。死を目前にした命が、必死に生にしがみつこうとする姿そのものだった。
ヴェルドはせめてもの慈悲にと、男に向けてこう告げた。
「『もうすぐ死ぬで』」
これは本来であれば自分が殺すはずの男だ、それ以上なにかを感じるということもない。
こうして背を向けて歩き出したヴェルドの耳に、断末魔代わりの機械音が聞こえた。呼吸と拍動が
停止したことを告げる警告音だった。振り返りもせずに治療室を出ると、ヴェルドはその足で担当医の
元に向かった。
再びやって来たヴェルドの姿を認めると、担当医は疲労と諦念がない交ぜになった表情を向けた。
「俺の他に、奴と面会した者は?」
担当医に向けて問うヴェルドの声には、彼に対する慰労の念はかけらも無い。
「患者は誰とも面会できるような容態ではありませんでした」治療室を追い出された担当医は、既に
結末を予見していたとでも言いたげな口ぶりだった。
「一人もいないんだな?」
「……ええ。面会に来た人間は誰もいません」それだけを言うと担当医はヴェルドに背を向けて、デスク
に向き直る。
「つまり『面会の他に何かあった』ということか?」
耳ざとく言葉尻をとらえると即座に問い返す。再び振り返った担当医の膝の上には、ぬいぐるみが乗っ
ていた。
「面会を諦めて、見舞品を置いていった方がいました。『しばらく彼の傍に置いといてもらえますか?』と
おっしゃってましたね。しかし患者の意識が無いのだとこちらが容態を伝えると、『それでも構いません』
と。なんでもご家族から預かった物だそうで、患者と親しい方だったのでしょうか? 物腰も穏やかで、
とても丁寧な印象を受けましたよ」
「訪問者記録はあるだろう? 見せてくれ」
ソルジャー向けの医療施設だったここに、民間人が収容される事はまずない。さらに施設に立ち入る
ことができるのは、神羅社員と関係者のみだ。見舞いなどで施設を訪れた場合は、例外なく身分証の
提示を求められる。またその記録は厳重に管理・保管されている。
もっとも、訪問者記録を見るまでもなくヴェルドには察しが付いていた。あの猫とはつい最近、会った
ばかりだった。
「……ああ、この方ですね。都市開発部門、エネルギー開発課魔晄炉管理調整班のリーブさん」記録を
見ながら担当医が答える。やはりなとヴェルドは頷いた。
その様子を見た担当医は、ヴェルドに尋ねた。
「お知り合いですか?」
「顔見知り程度だがな」
ここで得られる情報がすべて整ったと、きびすを返したヴェルドの背に担当医が告げる。
「では、これを返してください。もう“必要ない”でしょう?」
椅子から立ち上がった担当医が、押しつけるようにしてヴェルドにぬいぐるみを手渡した。
自分の横を通り過ぎて歩き去る担当医の背を見つめていたヴェルドは、最後に振り返った担当医から
告げられた。
「ここは治療施設です、集中治療室に遺体を放置しておく事はできません」
その言葉が意味するところをヴェルドはよく心得ていた。ひとつ頷くと出て行く担当医を見送った。
これで処分者名簿の残りは7名になった。
----------
・書いておいて何ですが、この話に善人は一人も出てこない気がします。救いよう無くてごめんなさい。
・もし容量制限が生きているなら、500kb超えると警告文出るはずなんですが…、(出たら立ててみます)
一応テンプレ案は
>>612-615を参考にしていただければ幸いです。
警告は出てないから平気っぽい?(512kb容量規制無くなったのかな)
GJ
今年も一年間ありがとう。
512kbの容量制限はあるはずだけど、ホスト規制で立てられないので誰かお願いします。
650 :
sage:2009/01/01(木) 02:48:40 ID:sE9JsVwL0
まだ立ってないみたいなので、チャレンジしてみる。
>>650 だめだった。誰か頼む。
それと、上げちまった。すまん。
今年もよろしくお願いします。皆さんにとっていい年になりますように。
で、やっぱり容量制限あるみたいでした。さらに自分もホスト規制中。
どなたか次スレお願いします。(テンプレは612-615)