ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level7

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
DQツンデレスレへようこそ。
ここは職人方が書いてくれるDQ関連のツンデレなSSに萌えるスレです。
新しい職人さん大歓迎です。SS題材はDQであれば3以外でもおKです。
DQ3の攻略等に関する質問は専用スレでどうぞ。

前スレ Level 6
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162828557/

過去スレ
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1132915685/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Part2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1138064814/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Level3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142515071/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1144425198/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜  Level5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1157354640/

まとめサイト
http://www.geocities.jp/game_trivia/dq3/
CC氏まとめサイト
http://www.geocities.jp/tunderedq3cc/
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/02(火) 22:15:14 ID:xhLEMP0Q0
だから何?
3名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/02(火) 22:15:27 ID:13n7T1ixO
2
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/02(火) 22:17:47 ID:xhLEMP0Q0
>>3
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/02(火) 22:19:08 ID:F/8yoWwv0
スレ立て完了。
うまれて初めてのスレ立てなんで間違いがあれば指摘をお願いします。

べ、別にアンタ達のために立てたんじゃないわよ!!
芸能人格付けチェックが終わって暇なだけだったんだから!!
6名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/02(火) 22:25:13 ID:vaD4t6WAO
あーん
7名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/02(火) 22:28:32 ID:HWeI1OJFO
スレ建て乙
8CC ◆GxR634B49A :2007/01/02(火) 22:56:45 ID:HV39JI4k0
>>1,5
乙です!
生まれてはじめてとは思えないほどの見事なスレ立てDAZE
9名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/02(火) 22:57:51 ID:7oTe4b880
スレ立て乙であります
そしてCC氏に期待
10名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/03(水) 02:00:05 ID:hhxVH1GK0
>>1乙!!!
CC氏に続きwktk!!
11CC ◆GxR634B49A :2007/01/03(水) 02:28:21 ID:17qKNfLt0
なんか、途中でぶった切って、数日置いて続きって、思ったより投下し辛いw

えぇと、以下は前スレに入り切らなかった16話の残りです。
もしまだ16話を読んでない方は、先に前スレ471以降をご覧下さいませ。
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162828557/471-
12CC 16-23/26 ◆GxR634B49A :2007/01/03(水) 02:33:40 ID:17qKNfLt0
 一瞬、ほどけかけたリィナの腕に、再び力が込められるのを感じた。
「あ、マグナだ。やっほー」
「――ちょっと、リィナ。どうしたのよ、その格好……っていうか、すごい飲んでない?」
「うん、飲んだよ〜。ヴァイスくんと一緒に〜」
 えへへ〜、とか笑ってみせる。しょうがねぇな、こいつ。
「今日は、ずっと一緒に居たんだ〜。楽しかったよね〜?」
 酔っ払い口調で、俺に同意を求める。いやいや、お前、そこまで泥酔してねぇだろ。
「それで……そんな格好してるんだ」
 マグナも、あっさり信じんじゃねーよ。いや、嘘じゃないんだけどさ。
「マグナは、どこ行ってたの?誰〜、そのヒト〜?」
 俺の腕にぶら下がりながら、リィナは白々しくマグナに尋ねた。
「えっ……あ、その……」
 マグナが、ちらっと俺に目をくれた気がした。
「あ――あたし達だって、今日はず〜っと一緒だったんだから。夕べ言伝を受け取った時、リィナも側に居たでしょ?その人よ。ヴァイスも、昨日会ってるわよね」
 マグナは、すすっと野郎に身を寄せた。
「どうも。アルスと言う。いや、いい――そちらの事は、マグナに色々聞かされた」
 名乗ろうとした俺達を、アルスとやらは手で制した。
 何か言いたげな目つきを、俺に向ける。
「なんだよ」
「いや、すまない。想像していたのと、まるで印象が違ったんでな。意外だっただけだ。マグナの話では、随分と頼りにしている様子だったからな」
 つまり、俺は頼りにならなさそうに見える、と。
 この野郎。
「ちょっと、何言ってんの!?」
 マグナは慌てて、野郎の腕を引っ張った。
「そんなこと、ひと言も言ってないでしょ?こんなの、全然頼りになんてならないんだから!?」
「あー、そりゃーすいませんねぇ」
 おお、口が勝手に。
「そっちの人は、頼りになりそうだよねぇ」
 それまで、しどけなく俺の腕にぶら下がっていたリィナが、急にしゃっきりと背筋を伸ばしてマグナ達に歩み寄った。
「リィナ?」
 何かを感じたのか、マグナが不安げな声を出す。
13CC 16-24/26 ◆GxR634B49A :2007/01/03(水) 02:37:31 ID:17qKNfLt0
 前触れは、全く無かった。
 気付いたら、パンという音が辺りに響いて、リィナの拳がアルスの眼前で握られていた。予備動作も無しに繰り出されたリィナの拳を、野郎が受け止めたのだ。
「やっぱりね。強いね、キミ」
「あんたは、話に聞いた通りみたいだな」
「なっ――ちょっと、なにやってんのよ、リィナ!?」
 間に入って、マグナが二人を引き離す。
「いきなり、なんてことすんのよ!?怪我でもしたらどうするの!?」
「いや、いいんだ」
 マグナの肩に手を置いて、野郎は微笑――じゃねぇ。薄ら笑いを浮かべながら、リィナを見た。
「それで、どうだ。合格か」
「ダメ。不合格」
「だろうな」
 くつくつと笑う。
 意味が分からなくて、端で見てるこっちは面白くねぇぞ。
「ちょっと、リィナ――」
「いいんだ。彼女は、マグナが心配なんだろう」
 分かったような事ぬかすな。
「なるほど。これが仲間か。いいもんだな」
「ごめんなさい、ホントに。いつもは、こんな事するコじゃないんだけど……」
「いや、いい。別に何とも思ってない。それじゃ、そろそろ行くよ」
「あ……うん」
 野郎は、マグナの頬に手を添えた。
「そんな顔するな」
「……うん」
「できれば、笑ってくれ。立ち去り難い」
「……でも、淋しいよ。体が半分、無くなっちゃうみたい……」
 なんか……こいつらの口振りや表情、そして仕草が、意図的に見せ付けてるように感じられるんだが、俺の考え過ぎ……だよな?
「俺もだ。けど、きっとまた会うよ。確信がある」
「そうだね……っ!」
 野郎、マグナの頬に顔を寄せて抱き締める前に、俺を見て笑いやがった。
「じゃあな。喧嘩するなよ」
 吃驚した顔で頬を押さえるマグナを置き去りにして、野郎は颯爽と歩み去った。はいはい、面がいいと、何をやっても様になっていいですね。
14CC 16-25/26 ◆GxR634B49A :2007/01/03(水) 02:40:07 ID:17qKNfLt0
「ずいぶん、仲良しになったみたいだね」
 まぜっ返したリィナに、マグナは呆然としたまま呟く。
「ううん、そういうんじゃないの……あんな事する人じゃなかったのに……びっくりした……」
 てことは、アレか。俺への当てつけかよ、あの野郎。
 マグナは、はっと我に返る。
「ちょっと、リィナ、どういうつもりなの!?なんで、いきなりぶとうとしたのよ!?――っていうか、仲良くなったのはあんた達でしょっ!?」
「ううん、違うよ」
「なにが違うのよ!?そんな、いくらあたしが言っても着なかった服まで着て!!」
「そうじゃなくて。今日、仲良くなったんじゃなくて、ボク達、前から仲良しだもん。ね〜?」
 そこで、俺に振るのかよ。
「……ああ、そう!!ごめんなさい、お邪魔だったわね!!それじゃ、あたしは消えるから!!部屋の鍵閉めとくけど、リィナはそいつの部屋にでも泊まってよねっ!!」
 そうまくし立てると、マグナはずかずかと足音も荒く宿屋に入っていった。
 そちらを指差して、けろりとリィナが言う。
「ほら、妬いてる」
 やっぱり、わざとかよ。
「……お前な」
「だいじょぶだってば、そんな顔しないでも。後でちゃんと、マグナには謝って説明しとくから」
「余計ややこしくすんなよ」
「信用ないなぁ……あ、それとも、ホントにヴァイスくんの部屋に泊まっちゃって、マグナにもっと焼き餅やかせてみる?」
 にへらと笑う。
「俺は、別に構わねぇけど」
 つか、そっちの方がいいかも。
 乗ってくるかと思いきや、リィナは腰に手を当てて溜息を吐いた。
「ううん。やっぱ、止めとく。身の危険を感じるよ」
 そりゃ残念だ。
「ヴァイスくんも、余計な心配ばっかりしてないで、少しはボクの気持ちも考えてくれなきゃ」
「へ?」
 それって、どういう――?
「そいじゃね。おやすみ〜」
 おどけた素振りで指先に当てた唇を投げてみせると、リィナは小走りに宿屋の中に消えた。
 俺はしばらく、その場を動けなかった。
 なんていうか、リィナにはいっつも煙に巻かれてんな、俺。
15CC 16-26/26 ◆GxR634B49A :2007/01/03(水) 02:44:35 ID:17qKNfLt0
 部屋に戻った後も、俺の混乱はまだ収まらなかった。
 リィナのこととか、マグナのこととか、野郎のこととか、頭には浮かぶんだが、思考になる手前で酔いが邪魔をする。
 簡単に言うと――考えんの、面倒臭ぇ。
 このまま眠っちまうか、とか思っていたら、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
 誰だ?
 マグナに追い出されたリィナが、寝床を求めて来たとか。
 それとも、まさかマグナが――
 俺はベッドから身を起こして、扉に歩み寄る。
 胸の高鳴りを意識的に無視しつつ扉を開くと、そこに立っていたのは、リィナでもマグナでもなかった。
 俺を見上げる、捨てられる寸前の子猫みたいな、どうにも心細げな目。
 そこに居たのは、昼間、突然姿を消したシェラだった。
「どうしましょう、ヴァイスさん」
 泣きそうな声で言って、俺の服を掴みかけた手を躊躇いがちに下ろす。
「私――どうしたらいいんでしょう」
 同じ言葉を繰り返して、シェラは床に視線を落とした。
 やれやれ。
 今日は、なんだか妙な一日だったが。
 どうやらまだ、終わってくれないらしかった。
16名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/03(水) 02:50:43 ID:7bjD+Gh00
援護射撃
17CC ◆GxR634B49A :2007/01/03(水) 02:54:57 ID:17qKNfLt0
ということで、第16話を変則的にお届けしました。
いかがでしたでしょうか。

さー、こっから先が問題です。
ここからの数話は、2、3の書くべき場面が頭にあるだけで、
ロクに話を考えておりませんw
あー、どうしようかなー。
なんとなく、一転してちょっと重い話になりそうな気が。。。
個人的にはそうじゃなくしたいんだけど、どうしようもなさそうな。
ともあれ、なるべく早くお届けできればと思っております。
よろしければ、今年もお付き合いくださいませ。
18名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/03(水) 03:02:27 ID:mIgXGvXf0
>>しーしーし
重かろうが悪ノリだろうが何だって受けとめてやるぜ!
19CC ◆GxR634B49A :2007/01/03(水) 04:28:02 ID:17qKNfLt0
>>18
頼もし〜ヽ(´ー`)ノ

以下、すごい蛇足〜
書き忘れてましたが、今回の話は、私の頭の中では日常の一幕として
存在することが確定してましたが、全部文章に落とす必要があるのかなぁ、
とも考えたりしてました。
でも、実際に書いてディテールまで分かってみると、自分でも意外なことに
リィナが前よりちょっと好きになったので、書いて良かったと思いますw
他にもそういう方がいたらいいなぁ、と贅沢なことを思いますた。
まーだからといって、出番が増えたりストーリーに影響したりはしないんですがw
ちなみに、私の中では、この子はレベル高いだけで万能キャラじゃないです。

さてー、呻吟しますかー
20CC ◆GxR634B49A :2007/01/03(水) 18:42:15 ID:17qKNfLt0
煙草の本数が増えるZE
21名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/03(水) 22:09:52 ID:JGlespYu0
がんばれー
22名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/03(水) 22:10:52 ID:5N/pIZi+0
煙草はハイライトメンソールだZE!

しーしー氏登場を朝に気づいていつも大学遅刻してる奴だぜ!
でもしーしー氏と同じくらいYANA氏にも期待してるぜ!
正月暇過ぎて酒飲みながら何度もこのスレ確認しちまうZE!

23名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/03(水) 22:22:12 ID:a8wC/4cu0
しーしー氏乙
この前買い物に行ったとき、ヴァイスという洗剤を見つけたZE!
24CC ◆GxR634B49A :2007/01/04(木) 01:15:16 ID:sh1RSitG0
がんばるーヽ(´ー`)ノ

煙草は1年くらい前に、体を気遣ってマイセンライトから
セブンスターレボウルトラライトメンソールに変えたZE
つか、名前長ぇw いつも買う時は番号で指示DAZE
遅刻には気をつけるんDAZE

その洗剤は見たことないZE!
ウチも明日買い物行かないと。。。急に所帯じみたw

すいません。私バカみたいですね(^^ゞ
やっぱりこっちは、ほぼノーリアクションになっちゃうかなー、と思ってたんですが、
お陰様で書く元気が湧いてきますた

あ、あと、今回で分かり易い何かに気付いた方は、まだ黙っててくださいw
25名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/04(木) 02:37:06 ID:P2KN1IJG0
>>分かり易い何か
それはマグナの事かヴァイスの事かリィナの事かシェラの事かCC氏の事かはたまた俺の事か?
26CC ◆GxR634B49A :2007/01/04(木) 03:32:20 ID:sh1RSitG0
>>25
「はたまた俺の事」が正解の方向でw

うは、まだ次回の話が上手く組み立てらんねーw
うぐぅ
27名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/04(木) 10:08:21 ID:stKAuiRs0
乙乙。
てか前の話の段階で十中八九それだろうと思ってたけどな。
がんばってください。
個人的にリィナはぁはぁ。
28名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/04(木) 14:55:20 ID:Z4+tTMBNO
>>しーしーしー
そろそろ主要キャラの3サイズ公開ディスね?
29名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/04(木) 15:43:09 ID:mHHY0WmC0
ギリギリエロスのCC氏ならやってくれるはずだ。
30名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/04(木) 17:53:17 ID:DCnaacL40
分かり易い何か がさっぱりわからないけどGJ
31名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/04(木) 19:30:51 ID:uT3dZkOc0
サイズなんてものは雰囲気から想像するのが楽しいんじゃないか。
それに、、、体が男の方はどうすれば…。
32CC ◆GxR634B49A :2007/01/04(木) 19:51:56 ID:sh1RSitG0
>>27
いちおう、それを裏切る予定。
分かっていても、分かってなくても、誰もが困惑気味に首を傾げる展開とゆーか。
なので、分かってなくても大丈夫です(?)>>30
いや、すぱっと気持ちよく意表をつけよw>俺>ムリ

スリーサイズ。。。いちおう考えてみましたが、
リアルとドリームの間の中途半端なものにw
そうですね。特にマグナとか、表向きの答えしかしてくれなさそーなので、
今のところ内緒でご想像にお任せしますとゆーことで、どうかひとつ。

なんか、ギリギリエロスがキャッチコピーみたくなってるw
今後も、もどかしい〜って感じでいきますよ〜。

ようやく話が組み上がりはじめました。
もっかい基礎からやり直し、みたいなことが無いといいな。。。
33名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/04(木) 20:54:27 ID:6CnlJuDo0
キャラ設定のとこにステータス&装備を公開とかw
ダイ大みたく。
ちゃっかりエロスとかギリギリとか項目増やして。
34名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/04(木) 21:46:21 ID:Yi3m8OrmO
それぞれの脳内イメージでイイヨ
俺の最初のリィナのイメージはロリ巨乳ツインテだったが、今は鶴屋さんになってる
35CC ◆GxR634B49A :2007/01/05(金) 00:18:31 ID:dhOa3wEc0
装備はな〜。
ゲーム内と違っちゃって申し訳ありませんが、
街の外ではずっと公式のイメージイラストみたいな
旅装をしてるつもりです。
森や山も歩くので、基本的に厚手の長袖長ズボンで、
だから思ったよりは日に焼けてない、みたいな方向で。
さらに、マグナとシェラは日焼けを嫌って
なんか被ってることもあったりします。
その内、描写しようと思ってたんですが。
マグナは「あっつい!」とか言って、はいじゃうことも多いですがw

ステータスは、話が進むにつれてどんどん変わっちゃうので難しいかも。
習得している呪文でなんとなくレベルが分かると思いますので、
そのレベルの平均値くらいです。きっと。多分。

私も、各々の脳内イメージが最強だと思うんですよ。
そんな感じで、今後ともお付き合いいただければと思いますです。
ちゅるやさんは、一瞬意外に感じましたが、そうか、
グループ分けしたら、同じグループには入るのかなぁ。
ボク言いますしねw
3627:2007/01/05(金) 10:51:00 ID:SDgdmIDa0
楽しみに待っています。

旅をしている間の服装は脳内で補正してます
リィナだけは公式の旅装
着替えたシーンではぁはぁ
37名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/05(金) 11:42:40 ID:S5Bfcq7KO
面白すぐていっきに全部読んだ作者がんばれ〜
38名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/05(金) 12:46:17 ID:fKoIntcU0
3サイズもいいけど年齢も気になります。
ヴァイスとリイナが同い年くらいでマグナよりちょっと年上。シェラが最年少。
くらいのイメージで読んでましたがオフィシャル設定が気になりますw
39名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/05(金) 17:55:20 ID:Y8UOckBD0
歳はマグナ16−17 リィナ18−19 シェラ14−15 ヴァイス21−22くらいに思ってる
40名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/05(金) 18:35:07 ID:rY+lWsbY0
>>38
しーしーしのキャラ設定に書いてあるっす。
ttp://www.geocities.jp/tunderedq3cc/char.html
ほぼ>>39のとおりですね。

にしても、しーしーし乙です!
そして、YANA氏・見切り氏も楽しみに待ってます!
いつも楽しみにこのスレ読んでるし、実家に帰省した時にも毎日チェックしてしまったw

書き手の皆さん、これからも存分に筆を揮ってください。
リアルタイムで遭遇することがあれば、ぜひ支援しますので〜
41CC ◆GxR634B49A :2007/01/05(金) 22:25:46 ID:dhOa3wEc0
>>38,39,40
文章だけで、私のイメージと一致しててうれしーですヽ(´ー`)ノ
よかったよかったw

旅装は私も脳内変換してますw
リィナの胸、下から持ち上げてー。いやなんでも。

案の定、かなり基礎からやり直しになってますがw、がんばります〜
こっちの方が、きっとマシになるハズ。。。
結局、ずっと自転車操業。。。ぐふぅ
42名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/05(金) 23:01:20 ID:Y8UOckBD0
キャラ設定あったんだ。>>40GJ
サッと見てきたけどリィナの目とヴァイスの髪の色以外は想像通り…
イメージだとリィナはキツネ目、ヴァイスは赤みがかった茶髪(やや長め)ですたw
読み手がイメージを膨らませられる所が読み物のいい所って事で。

がんがれしーしーさん!
43CC ◆GxR634B49A :2007/01/05(金) 23:43:31 ID:dhOa3wEc0
あ〜、なるほどヴァイスの髪はいいかもですねぇ(黒ばっかだし)
いやでも、野郎にはカッコ良過ぎるか?w
44CC ◆GxR634B49A :2007/01/05(金) 23:45:28 ID:dhOa3wEc0
ああ、いや、もちろんご想像の通りで全然問題ないですが(^^ゞ
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/06(土) 03:20:56 ID:U5rZFHYa0
この際、CC氏もエロパロに突撃しちゃいなよヽ(゚∀゚)ノ
46CC ◆GxR634B49A :2007/01/06(土) 05:33:44 ID:FNTWK2Rl0
いやいや、モロよりギリギリ感のもどかしさが好みとゆーことでw
つか、前スレに引き続き、そんな余裕ないです><
47名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/07(日) 00:50:07 ID:un7J9tgbO
なんとなく保守
48CC ◆GxR634B49A :2007/01/07(日) 04:10:01 ID:eU82kHD90
やっぱエロ控えめ保守
長い。。。分割か直しか。。。
49名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/07(日) 23:36:06 ID:xj1FxDfl0
長くていいじゃん。新聞の小説じゃないんだから。
納得いかないなら仕方ないですが…。
50CC ◆GxR634B49A :2007/01/08(月) 06:46:06 ID:ZPRzwoAd0
うん、ちょい長めになりそうです保守
51名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/09(火) 04:49:49 ID:YCqj59+pO
寝る前の保守
52CC ◆GxR634B49A :2007/01/09(火) 15:22:20 ID:+1Dzyc2r0
イナヅマ保守 いましばしお待ちを。。。
53名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/09(火) 17:57:37 ID:EX/Bo3xg0
イナズマ?よくわからんけどwktk
54名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/09(火) 19:12:47 ID:n8rCoDfIO
ほしゅ
55CC ◆GxR634B49A :2007/01/10(水) 05:17:10 ID:D2pnNCv20
すみません、意味ないです保守w
うぃ〜、煙草増える増えるー
56名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/10(水) 15:04:04 ID:4HFw0ZqtO
いかん!
すぐにニコレットを噛むんだ!

肺ガンになってしまうぞ!
57名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/10(水) 15:41:05 ID:2oV8z0EIO
たばこはいけないよ
58CC ◆GxR634B49A :2007/01/10(水) 23:43:34 ID:D2pnNCv20
うん、順調に本数減らしてたんですけど、
これ書きはじめてまたどんどん増えたのすw
書き終わったら、また減らしていくですよ。
それまではムリです><
2、3日中に投下できる予感
59CC ◆GxR634B49A :2007/01/11(木) 20:29:52 ID:Kj2agPEy0
あ、前スレ埋まったみたいですね。う〜ん、保守
60名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/12(金) 19:59:04 ID:H19uZGIkO
ひろゆき提訴無視により2ch封鎖の可能性
61名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/12(金) 20:15:02 ID:L0VpWo2IO
閉鎖になったらどこに投下するの?
62CC ◆GxR634B49A :2007/01/12(金) 20:35:38 ID:CnjLsslj0
うぃ〜、ぢがれだ〜。。。
もういいやー、キリがねー
いったん寝ます。起きれたら、明朝辺りにお会いしましょー

。。。と思ったら、閉鎖!!?
マジなの、これ?w
うぅ。。。ちょっと調べるか。。。
最悪、ウチは今のまとめで続けるのかなぁ。。。
でも、それもちょっとなぁ。。。
63CC ◆GxR634B49A :2007/01/12(金) 20:42:57 ID:CnjLsslj0
ん〜、izaの記事読んだ限りでは、すぐ閉鎖って感じでもないなぁ。
でも万が一、途中で閉鎖しちゃったら、ちょっとショックだなぁ。。。
64名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/12(金) 20:58:39 ID:b9oYVW8o0
途中で終わってショックを受けるのは名無しのほうなんだぜ。
YANAさんも最近音沙汰無しなんだぜ…どうしたんだぜ?
65名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/12(金) 21:05:24 ID:rBpc/9gr0
詳しいことはわからんがドメイン差し押さえられたくらいで閉鎖はないんじゃないかな。
差押するのかどうかも結構微妙だし。
それでも不安なら避難所作るとか考えてもいいかも。

YANA氏もだが見切り氏もカモン。
66CC ◆GxR634B49A :2007/01/12(金) 21:08:42 ID:CnjLsslj0
zakzakでした。こっから既に信用がw
サーバーが継続して運用されるんであれば、あんま問題ない気もするですね。
運営がやーめたとか投げ出さない限りw だいじょぶだと思いますが。
はっきりするまで、なんか落ち着かないし、投下は見合わせた方がいいのかしら。
67名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/12(金) 21:17:37 ID:rBpc/9gr0
投下はしてほしいんだぜw>CC氏
68CC ◆GxR634B49A :2007/01/12(金) 22:12:25 ID:CnjLsslj0
そいでは、明日の朝辺りにでも(起きれたら)
百万が一、移転とか避難とか発生した場合は、
とりあえずウチのまとめのトップにリンクは張るようにしときますので、
急にスレが開けなくなったり、行き先が分かんなくなった場合は、
そちらから移動するなどしていただければと思いますです。
念のためアドレス(まだ何も起こってないので、今は見なくていいですw)
http://www.geocities.jp/tunderedq3cc/
そいでは、おやすみなさいませ。。。
69CC ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 08:44:43 ID:DiFhmsY00
起きれなかったw
朝ご飯食べて頭が起きたら、投下します〜。
今回、直しながらの投下になると思いますので、リアルタイムだと待ってられないと思います。
午後2時くらいには終わってると思いますので、その頃に確認してみてくださいませ。

そいでは、ここではしばし閉鎖のことは忘れて、お楽しみいただければと思いますです。
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 08:48:25 ID:NWqKuPTU0
なるほど、今日の俺はついてるな。5時間くらいwktkしながらスレを追いかけようぞ
71CC 17-1/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 09:41:05 ID:DiFhmsY00
17. Trust

「ほかに、洗い物ある人いませんかー?」
 ほがらかなシェラの声が、夕暮れ時のキャンプに響き渡る。
「おう、こっちも頼まぁ」
「はいはい」
「あ、あの……これもいいかい」
「馬鹿野郎。お前ぇの臭ぇ下着なんざ、嬢ちゃんに洗わせんじゃねぇよ」
「き、汚くなんかねぇよ!」
「構いませんよ。どうぞ」
「わ、悪いな」
「しっかし、あんた働きモンだなぁ」
「そんな、全然」
「いやいや、ウチのかかぁとは偉ぇ違いだよ。これで、もちっと腰がしっかりしてりゃあなぁ」
「――ひゃっ!?」
「細っこくていけねぇや。もっと飯食え、メシ」
「て、手前ぇ、どこ触ってんだよ!」
「お?なんだ?なんだって、お前ぇが怒んだよ?あぁ?」
「べ、別に――」
「あ、あの、じゃあ、日が暮れない内に洗ってきちゃいますから」
 むさ苦しい野郎共の間をかいがいしく飛び回り、集めた洗濯物が山と詰まれた籠を両手で抱えて、シェラは川べりの方へと歩いていく。
 護衛として雇われてるんだから、そんな雑事までこなす必要は無いって言ったんだけどな。
「いえ、でも、好きでやってますから。毎日って訳じゃないですし、全然平気ですよ」
 いい笑顔で応じられては、それ以上止めようもなかった。
 夕飯前のひと時に、思い思いの場所で、だらしなく座り込んでいる野郎共を眺め回す。
 こんな連中の世話なんて、あっちの馬車の女共に任しときゃいいんだ。それが連中の仕事なんだからよ。
72CC 17-2/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 09:44:51 ID:DiFhmsY00
 俺達は今、護衛として、とある隊商と行動を共にしていた。
 神殿を求めて、東を目指す為だ。
 エルフの女王に助言されるまでもなく、俺達に残された方角は東だけだからな。
 なにしろロマリアの南には海が広がっているだけだし、西にはポルトガがあるだけ。さらに北は、外れのノアニールまで既に足を伸ばしたとあっては、単純な消去法で導き出せる解答だ。
 次の目的地は、ロマリアから東にある街の中で、最も大きな都市だというアッサラーム。
 正確には南東に位置しており、どうやら相当に距離があるという話だ。
 手持ちの金には余裕があることだし、また道中はほぼ平地が続いているらしいので、最初は馬でも調達してそれで移動しようかと考えたんだが、遠出の割りに今回は案内も無く、土地感がまるで無いのが多少気がかりだった。
「だったら、隊商の護衛なんてどう?」
 道程の下調べに訪れた冒険者の組合所で、久し振りに再開したスティアは――相変わらず、いい女だった――俺にそう助言した。組合所では、そういった類いの仕事の斡旋も行っているのだ。
 試しに調べてみると、まだ締め切られていない募集がひとつあった。三日後にアッサラームへ向かう隊商の護衛だ。
 こりゃ都合がいい、と俺は思ったんだが、ひと通り内容に目を通したスティアの顔は、なんだか曇っていた。
「これは、止めておいた方がいいかしらね」
「へ?なんで?」
「ん〜……あのね、この代表者のフェリクスって人には、特に問題無いのよ。変わってるって言えば変わってるけどね。もういいお歳の筈なのに、いつまでご自身が出張るつもりなのかしら。本人は、若さの秘訣とか言ってるらしいけど。
――まぁ、それはいいわ。ロマリアでも豪商の部類で、商売人だから清廉潔白って訳じゃないと思うけど、悪い噂もあんまり聞かない人よ」
 じゃあ、いいじゃん。
「ただねぇ……同じくらいの規模の商人が寄り集まって仕立てるのとは違って、この隊商はあくまでフェリクスの家が中心で、そこに小さい商人達が便乗させてもらうような構成なのよ」
「うん」
「つまりね、全部フェリクスさんの思い通りになっちゃうってこと」
 スティアは、紙に書かれた名前を指差した。
73CC 17-3/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 09:48:51 ID:DiFhmsY00
「このバロウって奴、確かフェリクスさんの遠縁だったと思うんだけど、こいつが護衛組を取り仕切る事になってるのが、ちょっと気になるのよねぇ……」
「あんまり、いい噂を聞かないってことか」
「私も実際に会ったことはないから、詳しくは知らないけど……そうね。聞いた話じゃ、ただのやくざ者よ。放っておくと働きもしないで遊び歩くばっかりの穀潰しに、とにかく仕事をあてがったってところじゃないかしら」
 要するにゴロツキか。
「護衛頭がこれじゃ、ロクな人材が集まらないかも知れないわよ」
「まぁ、でも、こんな仕事をしてるような連中なんて、多かれ少なかれそんなモンだろ」
「……言われてみれば、そうかもね。ウチやあなた達みたいな人間の方が、よっぽど珍しいわね」
 くすりとスティアは笑った。
「まぁ、最後は自分達で決めてちょうだい。脇道に気をつければ、あなた達だけで行けないこともないと思うわよ。私もアッサラームの方面は不案内で、確かな事を言ってあげられないのが申し訳ないけれど」
「いや、充分助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。探し物が、見つかるといいわね」
 色っぽく含み笑いを浮かべたスティアは、ふと何かを思い出すように、額に指を当てる仕草をした。
「んん、あれ?ちょっと待って……何か気になる噂があった気がするんだけど……ああ、そうだわ」
 スティアは眉を顰めて、軽く握った人差し指を下唇に当てた。
「やっぱり、隊商と同行した方がいいのかしら。あのね、アッサラームの近くで、出るらしいのよ」
「なにが?」
「盗賊団」
「盗賊団?」
 俺は、アホみたいにオウム返した。
「ええ。割りと大きい賊みたい。毎回、襲われる訳じゃないと思うけど、荷物をごっそりやられたって話を何度か聞いたことがあるわ、そう言えば」
「物騒だな」
「ロマリアは治安がいいけど、アッサラームの辺りはね。結構危ないって聞くわよ。まぁ、却って隊商なんかと一緒じゃない方が、襲われ難いのかも知れないけど……どうかしらね。あのコ達、みんな可愛いから」
 みんな可愛いかはともかく、そうだなぁ。目ぇつけられたら、四人じゃ気軽にちょっかい出されちまう可能性はあるな。
74CC 17-4/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 09:52:00 ID:DiFhmsY00
「あなた達なら、上手く切り抜けられなくはないでしょうけど……」
 スティアは、語尾を濁した。
 徒党を組んだ人間ってのは、錬度によっちゃ魔物共より余程やっかいだからな。いくらこっちにリィナがいるとは言っても、相手取れる人数に限界はあるだろう。盗賊団が思った以上に大規模だったら――とは、あんまり考えたくねぇな。
「それとも、ロランに頼んみたら?マグナちゃんがお願いすれば、きっと騎士団の一個中隊くらい、喜んで護衛につけてくれると思うけど」
「よせよ。お断りだね」
 俺が渋い顔をしてみせると、スティアはおかしそうに笑うのだった。
 一通り相談を終えて、お礼に飯でも誘った方がいいかな、でも今はなぁ、とか俺が悩んでいると、何も言わない内に向こうからやんわり断わられた。
 どうやらこっちの事情を、それとなく見透かされたらしい。
 全く、よく出来た女で有り難いね。
 結局、俺は迷った末に、一応ウチの連中に計らってから、この仕事を請け負うことにした。
 隊商と一緒なら、護衛は俺達だけじゃない訳だし、盗賊共の戦力も分散されて組し易い筈だと考えたのだ。四人きりで行くよりゃ、多少は安全だろう。金も貰えることだしさ。
 それにしても、この辺りの手配は、全部俺が独りで済ませたんだぜ。
『だいじょぶだってば、そんな顔しないでも――』
 とか言ってやがった癖に、リィナはどうもマグナと本格的に喧嘩になっちまったらしい。次の日から、寝る時以外は飯も別々で、完全に別行動を取っていた。
 不機嫌なマグナと我関せずみたいな態度のリィナに挟まれて、シェラはひどく困惑していた。可哀想に、お前だって悩んでんのにな。でも、俺が仲裁に入ると、余計にややこしくなりそうでさ。
 スティアを飯に誘うのを迷ったのは、こんな時に俺だけが、呑気に女とよろしくやってんのは気が引けたからだ。
 そんな訳で、マグナもリィナも先の事を考えるなんて状態じゃなく、シェラは相変わらずマグナに引っ張り回されてるわで、仕方ねぇから俺が独りで動き回って、あれこれ手配を済ませたという次第だった。
「あんまり独りで、アレコレどうにかできると思わない方がいいわよ」
 別れ際、スティアにもそう言われたのにな。
「貴方はまず、自分の事をちゃんと考えなさいな」
 最後の台詞は、よく意味が分からなかった。
75CC 17-5/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 09:58:29 ID:DiFhmsY00
 スティアの言っていた通り、護衛頭のバロウってのは、見事に単なるロクデナシだった。
 中年太りの普通のおっさんで、まともに指揮をしたり戦ったり出来るようには、とても見えない。事実、魔物に襲われても、自分は馬車の中に隠れて決して表に出ようとせず、愚にもつかない指示を出しては悦に入っているようなアホだ。
 そのクセ態度は尊大で、最初に対面した時も、口では「こんな小娘共が役に立つのか」などと偉そうなことをほざきつつ、厚ぼったい瞼の奥の濁った目が、マグナ達をしっかりと値踏みしてやがったのが気に喰わねぇ。
 横柄な態度が身に染み付いた、好色そうな嫌なオヤジだった。
 マグナ達は、女連中がまとめられた馬車に同乗することになって、少しは安心したけどな。
 俺はというと、独り離れてむさ苦しい野郎共と一緒の馬車に押し込められた。
 どこか物足りないような、妙な気分だ。
 これほどマグナ達と離れて過ごすのは久し振り――というか、出会ってから初めてになるのか。
 隊列は、露払いを兼ねた先導、続いて荷駄隊、それをなるべく取り囲むような隊形で護衛の本隊、最後に後詰めという順番で、それぞれ複数台の馬車で構成されており、荷駄隊を除いては単騎の人馬もいくらか割り当てられている。
 馬車の数はもちろん荷駄隊が最も多く、次いで護衛の本隊になる。大半の馬車には幌が付いていたので、雨が降った日は有り難かった。
 マグナ達が同乗している女共の馬車は荷駄隊に配置されており、俺が居るのは護衛の本隊だ。
 割りと配置の近い馬車をあてがわれたので、会おうと思えばいつでも会えるんだが――実際、魔物との戦闘時はマグナ達と合流している――今は正直、少し距離を置けてほっとしている自分もいたりする。
 いや、情けないのは分かってるんだけどさ。俺がちゃんと話をするべきかなー、とも思うんだけどさ。なんか、踏ん切りが付かねーっつーか。
 男臭い連中に始終囲まれてんのも、つまんないんだけどね。
 護衛組の面子は、なんというか、まるきり寄せ集めといった感が否めなかった。
 組合を経由して仕事を請け負った冒険者が大半で、俺達と同じくパーティぐるみで参加してるのが、他にニつ。後は、個人もしくは知り合い同士で示し合わせて参加した風な連中が多かった。
76CC 17-6/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:02:15 ID:DiFhmsY00
 しかしまぁ、冒険者っても、ロマリアでは制度が開始されてまだ間も無いので、言っちゃ悪いが全然「らしく」ない。
 アリアハンでもチンピラみたいな冒険者は掃いて捨てるほどいたが、それなりに歴史を重ねているだけあって、頼みもしないのに冒険者の流儀とやらを新米に叩き込んで下さるハタ迷惑――じゃなくて、有り難い諸先輩方には事欠かない。
 それで、なんとなく「冒険者とはこういうものだ」みたいな空気というか、最低限これだけは守りやがれみたいな暗黙の了解というか、そういう雰囲気が自然と醸成されていたのだが、ここにはそれが一切無い。
 要するに、単なる傭兵くずれやゴロツキそのものにしか見えない連中が目立つって事だ。
 その上、護衛頭からしてアレだから、戦闘になっても統制もへったくれも無いってのに、よくまぁ魔物に襲われながら、ここまで怪我人程度で死人が出なかったモンだと思うよ、ホントに。



 今は、道程のちょうど半ばあたりだろうか。
 日が暮れかけた頃合に隊列を止めて、川の近くでキャンプを張ることになった。
 左右を森に囲まれているが、街道の両脇がかなり開けているので、馬車を止めたり飯の仕度をする場所には困らない。
「すみません、ヴァイスさん。ちょっといいですか」
 いびつな車座に焚き火を囲んで、俺が晩飯を食い終わるのを見計らっていたように、背後から小声で囁きかけられた。
 振り返ると、シェラが腰を屈めて俺を覗き込んでいた。
「ん?どうした?」
「すみません、ちょっと……」
 どうやら、ここでは話し難いことらしい。
 むさ苦しい連中と顔をつき合わせるのにも飽き飽きしていたので、俺は一もニも無く腰を浮かせた。
 目敏くそれを見つけた連中が、あちこちから冷やかしの野太い声があげる。うるせぇよ、手前ぇら。
 まぁ、こんだけ可愛いし、かいがいしく世話を焼いてくれるし、戦闘で傷を負ったヤツにはホイミもかけてくれるしで、シェラは本隊ではちょっとした人気者になっていた。
 あからさまに嫉妬の目つきで、俺を睨みつけてる若いの――マグナと同い年くらいか?――とかまで居たりする。
 そいつらを適当にあしらいながら、俺はシェラの後について、川べりまで歩いて行った。
77CC 17-7/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:06:43 ID:DiFhmsY00
 キャンプの灯りはほとんど届かないが、すっかり日が暮れてる割りには、月や星の明かりのお陰でそれほど暗くない。
 せせらぎと共に運ばれる涼しい風が、頬に心地よかった。
「座りませんか?」
 そこらにあった大きな石の上に、シェラはちょこんと腰掛けた。
 俺も座ろうとして――足元を石に取られて、転げそうになる。
「大丈夫ですか?」
 くすくすと笑われた。いやなに、大丈夫ですとも。幸い、足首は捻っちゃいねぇようだ。
 何事も無かった澄まし顔で、隣りに腰をおろす。
「で、どうしたんだ?」
 シェラは、しばらく何かを言いたげに――というか、何かをしたそうに、脚を伸ばしたり、組んだ手を伸ばしたりして、もじもじするだけで、なかなか用件を切り出そうとしなかった。
「あの……」
「ん?」
「すみません、ちょっとだけでいいですから……ホントに、すぐ止めますから……」
 やたら弁解しながら、おずおずと俺の腕に手を伸ばす。
「ごめんなさい、ホントに、ちょっとだけですから……」
 そろそろと俺の腕に手を絡めると――くすぐってぇ――肩に頭をもたせかけてきた。
 なんか知らんが――どうも、甘えたいらしい。
「なんだよ。別に、遠慮すんなよ」
 ゆっくりと抜いた腕を、シェラの肩に回して抱き寄せる。こっちの方が、いいんじゃないかと思いまして。
「すみません……ちょっとでいいですから……」
 まだ申し訳なさそうに漏らしつつ、俺の服を弱々しく握る。
 俺の胸に頭を押し付けて、はぁ、と疲れたような、安堵したような吐息をシェラは吐いた。
 肩越しに髪を撫でてやりながら、なるべく優しい声音で尋ねる。
「どうした、疲れてんのか?」
「いえ、あの……はい……少し」
 こいつが自分で肯定するってことは、相当疲れてんのかな。
 なにが原因だ――すぐに俺は、できれば目を背けていたい問題に思い当たる。
「あー……その、なんだ。マグナとリィナのことか?」
 未だに板挟みだろうからなぁ。俺もこいつに任せちまったようなトコあるし、ちょっと負い目を感じるぜ。
「あ、そうですね。それも……あるんですけど……」
 それも、って事は、他にもあるのか。
 やっぱり、あの事だろうか。
78CC 17-8/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:11:26 ID:DiFhmsY00
 あの日――ロマリアの宿屋で、シェラが俺の部屋を訪ねた夜。
『私――どうしたらいいんでしょう』
 そう言ったきり俯いてしまったシェラを、俺はとにかくベッドに並んで座らせて、話を聞いたのだった。
「――お昼は、急にいなくなっちゃって、すみませんでした」
「いや、別にいいけどさ。なんかあったのか?」
「あの……お店を出た時、私、見つけちゃったんです」
「なにを」
「その……フゥマさん」
 ああ、そういう事だったのか。
「それで……今度はちゃんと伝えなくちゃって思って……」
「うん」
「声をかけたら、すごく吃驚されて……でも、すごく喜んでくれて……」
 そうだろうな。ベタ惚れっぽかったもんな。
「これから遊びに行こうって……ホントは、この時ちゃんと断わって、伝えるべきだったんです」
 シェラは、ぎゅっと膝の上で手を握り締めた。
「分かってたんですけど……でも、その時……私、マグナさんがすごく羨ましくて……」
 そういや、『いいなぁ』とか溜め息吐いてたな。
「ちょっとだけでいいから、私も女の子の気分を味わいたくなっちゃって……ホント、馬鹿なんです」
「いや……」
「でも、すぐ言うつもりだったんですよ?ホントに少しだけで充分で、騙すつもりなんて全然なくて……ううん、そんなの嘘ですよね。やっぱり、騙してたんです……」
 俺は、なんとも言えなかった。
 おそらくフゥマは大喜びだったろうから、それはそれでいいような気もするんだが、そうは言ってもお互いにとってよくはないのかな、と思わなくもない。
「……楽しかったか?」
 何故か、俺はそんな事を尋ねていた。
 シェラは俯いたまま、こくりと頷いた。
「すごく優しくしてくれて、それでつい言い辛――そびれて……なんて言い訳、無いですよね。ホントに馬鹿です。言おうと思ってたのに、最後まで言えなかったんです」
「そうか」
「どうしよう……あの人、何も知らないのに……好意に甘えて騙すなんて……馬鹿みたい……ヒドい裏切りです……お詫びしようにも、私のことを知ったら、きっともう何も聞いてくれないです……私、どうしたらいいんでしょう」
 途方に暮れたように、シェラは呟いた。
79CC 17-9/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:15:48 ID:DiFhmsY00
 何か気の利いた助言をしてやろうと、俺は必死で頭を回転させたが――取っ掛かりがまるで見つからずに、虚しく空回りするだけだった。酔いが潤滑油になって、またこれがカラカラよく回ること。
「シェラは、どうしたいんだ?」
「はい?」
「あのさ……誰かに相談する時って、もう自分の中に答えがあるモンなんだよ、大抵の場合」
 言いながら、俺は内心であ〜あと顔を覆っている。
 なんでこんな、どっかで誰かに聞いたようなコトしか言ってやれねぇんだよ。
「だからさ、自分の中にある答えの通りに、シェラがしたいようにするのが、一番いいんじゃねぇかな」
 はぐらかしてるだけだろ、こんなの。こんな愚にもつかない御託が聞きたくて、シェラはわざわざ俺を訪ねてきた訳じゃねぇっての。
 でも、他には何も思い浮かばねぇんだよ。
 酔っぱらっちまってるしさ。
 シェラは、しばらく何も言わなかった。
 頼り甲斐のない相談相手で、ホント申し訳無い。
「……そうですよね」
 呟きながら、シェラは立ち上がった。
 くるっと振り向いて、健気に微笑んでみせる。
「次に会ったら、ちゃんと言います。怒られちゃうと思いますけど、仕方ないですもんね」
「そっか。うん、大丈夫だ。あのバカがお門違いに腹を立てやがったら、俺がぶん殴ってやっから」
 まぁ、実行は絶対無理な訳ですが。
「そんな。それじゃ、あべこべですよ」
 シェラがふふっと顔をほころばせて、その日の相談――になってねぇけど、とにかく会話は、それで終わったのだった。
 その後は、マグナとリィナの喧嘩に巻き込まれて、自分の悩みどころじゃなかっただろうな。可哀想によ。いや、俺も原因の一端な訳だからして、そんな他人事みたく思える立場じゃないんだけどさ。
――そして、今。
 黒々と流れる夜の川に目を落としながら、俺は黙ってシェラの小さい体を片手で抱いている。
 時折吹く夜風が、シェラの細い金髪をなびかせて、俺の手をくすぐった。
 ぽんぽんと頭を叩いてやると、はぁっと溜息を吐く。
 今度は、安堵の方が勝っているようだった。
80CC 17-10/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:20:08 ID:DiFhmsY00
「ありがとうございます……」
 シェラは礼を言うのだが、適切な言葉を何もかけてやれない俺としては、なんとも複雑な心境だ。
 それを口にすると、シェラはまた溜息を吐きながら、少し笑った。
「こうしてもらえるだけで、充分です……ちょっと、変なこと言ってもいいですか?」
「なんなりと」
 僅かに躊躇の間があった。
「あの……ヴァイスさんにこうしてもらえると……安心します。私のこと、もうずっと知っててくれてるから、勘違いしてるんじゃないかって心配しなくていいですし、バレちゃうんじゃないかってビクビクしなくてもいいし……」
 自分の言葉で改めて認識したのか、シェラはおかしそうに含み笑いを漏らした。
「あ、やっぱりビクビクしてたんですね、私。次は、ちゃんと言わなきゃ」
 返事をする代わりに、俺はシェラの頭を撫でた。
「だから、すごく安心します。私がどうとか……性別とか関係なくて、どっちでもなくて、素のままの私でも大丈夫なんじゃないか……みたいに……ごめんなさい、変なこと言って」
「いや、いいよ。ちょっとは役に立てるんなら、俺も嬉しいし」
 言われてみれば、普段はそれほど男とか女とか意識してないかもな。シェラはこういうモンだっていうか。
「ごめんな。なんか、あいつらの喧嘩を押し付ける格好になっちまって」
「いえ、それはいいんですけど……あ、そうだ」
 不意に、シェラは口調を変えた。
「この前、言うの忘れてました。すみません――私達がロマリアに泊まってた同じ日に、あのフードの人も同じ宿屋さんに泊まってたみたいですよ」
「へっ?」
「フゥマさんが言ってました――って、今さら教えても、意味無いですよね。あ、でも、ヴァイスさんが頼んでたエルフ達のことは、ちゃんと報告しておいたって言ってました」
 確かに、今更言われてもどうしようもないんだが。ばったり顔を合わせなかった幸運を、喜ぶくらいがせいぜいかな。
 それきり、この件について考えることが無かったのは、背後でじゃりっと石を踏む音がした所為だ。
「そんな意味分かんねぇ話、どうでもいいからさ」
 振り向くと、若い男が立っていた。ついさっき、俺を嫉妬の目つきで睨みつけていた――確か、ストラボとかいう若造だった。
81CC 17-11/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:23:40 ID:DiFhmsY00
「それより、さっきの話。なんか、ヘンなこと言ってなかった?」
 こいつ、後をつけてやがったのか。
 腕の中で、シェラがびくりと震えた。
「お前には関係ねぇよ」
 面倒臭そうに返事をしてやると、ストラボは足早に近づいてきた。
「ねぇ、バレるって、ナニ?俺、なんか勘違いしてんの?」
 半分想像がついているのか、これまでとは全然違う、恫喝に近い目つきでシェラを睨みつける。
 こいつに、そんな目を向けるんじゃねぇよ。
「しつけぇな。お前には関係ねぇって――」
「いいんです、ヴァイスさん」
 俺の言葉に被せて、シェラが口を開いた。
 いや、そりゃこいつには、はっきり言っておいた方がいいのかも知れないけどさ――この時、シェラを止めなかった事を、俺は後悔する。
 俺の腕をほどいて、一度俯いてから、シェラは真っ直ぐにストラボを見上げた。
「あの、私、男なんです」
 瞬間、ストラボは動きを止めた。
「……はァッ!?」
「さっき言ってたのは、その事です」
 シェラは俯きそうになるのを、凝っと堪えているように見えた。
 我慢して、そのまま正面からストラボを見詰め続ける。
 それが気に喰わないみたいに、ストラボは顔を歪めた。
「ンだよ、それ……」
 いきなり、シェラの胸倉を掴みあげる。
「ナニそれ、ウソだろ!?」
「やめろ」
 俺は、ストラボの腕を強く握って押さえつけた。
「……マジかよ」
 ちらりと俺に視線をくれて、シェラに戻す。
「手前ぇ、俺を騙してやがったのか!?」
 馬鹿が、デケェ声を出すんじゃねぇよ。
82CC 17-12/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:26:48 ID:DiFhmsY00
「お前が勝手に、勘違いしてただけだろうが」
 ストラボの手を振りほどこうとして、力を込める。
「俺が悪いってのかよ!?」
「いいから、離せよ」
 くそ、こいつは剣士だったか。けど、駆け出しだろ。こんなヤツすら引き剥がせないとは、情けねぇぞ、俺。
「ごめんなさい……」
 胸倉を掴まれたまま、シェラがとうとう目を伏せた。
 いいよ。お前が謝る必要ねぇって。
「チッ」
 ストラボは舌打ちをして、胸元を掴んでいた手を開いた。
「離せよ。痛ぇな」
 俺が離した途端に、シェラを突き飛ばす。
「あッ」
 シェラは、座っていた石の上に倒れ込んだ。
「手前ぇっ!!」
「へっ、なに謝ってんの?意味分かんねぇ」
 立ち上がった俺から身を翻して、ストラボは半笑いを浮かべた。
「そっちこそ、なンか勘違いしてんじゃねぇの。すっげぇメイワク」
 川原に唾を吐き捨てて、憎々しげに言う。
「じゃあお前ら、男同士で抱き合ってたのかよ。バッカじゃねぇ。オカシイんじゃねぇの?ヘンなモン、見せんなよな」
 わざとらしく吐く真似をしてみせて、キャンプの方へと足を向ける。
「手前ぇ……」
「おお、怖ぇ。魔法喰らっちゃ堪んねぇや」
 俺はほとんど本気で魔法を唱えるつもりでいたんだが――
「ヴァイスさん、駄目!」
 後ろからシェラの声が聞こえて、その隙にストラボは小走りに逃げ去ってしまった。
 くそ、あの野郎――いや、あんな小僧、どうだっていい。
 それより、シェラだ。
 見ると、倒れた拍子に打ちつけたのか、額から少し血が流れていた。
83CC 17-13/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:32:46 ID:DiFhmsY00
「大丈夫か?」
 ヒデェことしやがる。
「あ、大丈夫ですよ」
 シェラは、身を起こして呪文を唱える。
『ホイミ』
 おどけて、人差し指を立ててみせた。
「ね?全然、なんでもないです」
 精一杯の笑顔を浮かべる。
 呼吸が詰まった。
 大丈夫かっていうのは、怪我のことだけじゃなくて――
 声をかけようとして、躊躇った。
 何を言っても、さっきのことを蒸し返しす結果になる気がして。
 わざわざ触れない方がいいんだろうか。
「うん」
 結局、俺はそれだけ言って、あちこち服をまさぐった。くそ、拭くのに都合のいい布きれとか、持ってねぇよ。
「あ、だいじょぶです。持ってますよ」
 俺がおたおたしている間に、シェラは隠しからハンカチを取り出して、額の血を拭ってしまった。
 今度から、ハンカチくらいは持ち歩くようにしよう。
「……バチが当たっちゃいました」
 そう言って、シェラは自嘲するように笑った。
 フゥマのことか――そんなこと――そんなんじゃねぇだろ。
 だが、口を開こうとした俺を制するみたいに、シェラは勢いをつけて石から立ち上がった。
84CC 17-14/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:34:58 ID:DiFhmsY00
「それじゃ、私、そろそろ戻りますね」
 なんでもない口調で言う。
「すみません、なんか、ヘンな誤解されちゃったみたいで」
 シェラは、ちょっとはにかんでみせた。
「後で、私から説明しておきますから」
「いいよ、そんなことしなくて……」
 言葉にならない感情が、喉の奥でつかえる。
 俺は、声を絞り出した。
「あいつとは、二度と口利くなよ……近付くのもダメだ」
「でも、それじゃ、ヴァイスさんが……あの、大丈夫ですから。私が悪いんです。私が最初から――」
「いいから!」
 シェラはびくりとして、俺から目を背けた。
 ああ、ごめん。違うんだ。
 俺の気持ちなんて、どうだっていいのに。
 俺は、シェラを抱き締めようとして――できなかった。
 シェラの佇まいが、それを拒否しているように感じてしまって。
『そういうの、いいですから』
 抱き締めても、きっとさっきみたいには安心してくれない。
 そんな気がした。
「送るよ」
 俺は、溜息を堪えてシェラを促した。
 なんでもなかった事にして――これで良かったのか分からない。
 やるせない想いが、胸に渦巻いていた。
85CC 17-15/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:39:48 ID:DiFhmsY00
 だが事件は、何事も無く終わりはしなかった。
「ヴァイス、行くわよ!」
 その日も、川沿いの道端で隊列を止めて、夕飯の仕度をする煙があちこちから上がる頃合に、怒り心頭といった感じのマグナが足音も荒くドカドカやって来て、いきなり俺を怒鳴りつけた。
 必死に手を引いて止めようとするシェラに構わず、マグナは隊列を避けて森へ分け入っていく。
「いちおう、自分のフクロを持ってきといてよ」
 なにやらリィナも、かなり腹を立てている様子だった。マグナ程あからさまではないものの、珍しく怒りの色が表情に見て取れる。
 フクロは普段から腰に吊るすようにしてるので、俺はそのままリィナの後について、マグナ達を追いかけた。
 隊列が見えないくらい遠ざかったところで、シェラは地面に半分しゃがみ込むようにして、ようやくマグナを引き止めた。
 そのまま、二人で言い合いをはじめる。
「――マグナさん、いいですから。私、大丈夫ですから」
「冗談じゃないわ!あんなトコ、もう一瞬だって居たくないわよ!」
「だって、こんなところで隊商から抜け出しちゃって、この後どうするつもりなんですか!?食べ物の持ち合わせだってほとんど無いし、道だってよく分からないし、それにここまで一緒に来たのは、盗賊団がいて私達だけじゃ危ないからですよ!?」
「そんなの――どうにだってなるわよ」
「なりませんよ!落ち着いてください。私なら、ホントに大丈夫ですから」
 嫌な予感を覚えつつ、俺はリィナに事情を尋ねる。
「なにがあったんだ?」
 リィナは、言い難そうに口を開いた。
「あのね……シェラちゃん、同じ馬車の女の人達に、いじめられてたんだよ」
「リィナさん!」
 叫んだシェラを手で制して、俺は先を促す。
「シェラちゃん、可愛いし、よく働くでしょ?だから、爺ちゃん――あ、フェリクスっていう一番偉い爺ちゃんね。その人に気に入られちゃって。お付きの女の人達は、それが面白くなかったみたい」
 荷駄隊のことは関知してなかったが、そんな事になってたのか。
86CC 17-16/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:44:32 ID:DiFhmsY00
「その人達の仕事まで押し付けられちゃったり、他にも隠れて色々イジワルされてたみたいで……ボクもマグナも、最初は気付かなくて……ごめん……」
 言葉を濁したのは、お互いの喧嘩に気を取られていた所為もあったからだろう。
 シェラはシェラで、こいつの事だから、二人に分からないように苛められていたとしたら、余計な心配をかけたくないとか変に気を回して、自分から話そうとはしなかったに違いない。
「おかしいなって思ってからは、気をつけるようにはしてたんだけど……なんかやっぱり、スゴいよね。女の人のイジワルって。コソコソしてて、何してくるか分かんないっていうか……」
「それだけじゃないわ!!」
 マグナが怒声をあげた。
「あいつら、さっき……」
 歯軋りの音が聞こえるくらい、口惜しそうに歯噛みする。
「……気持ち悪いって言ったのよ!?シェラのこと!?許せる訳ないじゃないっ!!」
「でも……しょうがないですよ。黙ってたこっちが悪いんですから」
 宥めるシェラを、マグナはヒドく悔しそうに見詰めた。
「なんで、そんなこと言うのよ……仕方ないなんて言わないでよ……」
 つまり、こういう事だった。
 シェラが男だということが、他の女共に露見してしまったのだ。
 そうと分かれば、同じ馬車には置いておけない。女共は、ここぞとばかりにシェラを追い出しにかかったらしい。フェリクスを説き伏せて、俺と同じ護衛の本隊に移動させることが決まったと、ついさっき告げられたのだという。
 吹聴して回ったのは、もちろんあの腐れ小僧――ストラボに違いない。あの野郎、まず手始めに女共に告げ口しやがるとは、ずいぶん根性悪い真似してくれんじゃねぇか。
「大丈夫ですよ、マグナさん。ホントは、最初からこうしなきゃいけなかったんですし、それに、向こうにはヴァイスさんも居ますから。心配ないです」
「なんでシェラが、あたしを慰めるのよ……あんなこと言われて、悔しくないの!?」
「そりゃ、気にならないって言えば、嘘になりますけど……あの人達にしてみれば、当たり前の事を言ってるだけだと思いますし……」
「そんな風に、簡単に納得しないでよ!!お願いだから!!」
 マグナは、シェラの両肩に手を置いてガクガク揺する。
87CC 17-17/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:49:02 ID:DiFhmsY00
 激昂と表現していいくらい、マグナは腹を立てていた。
 リィナも怒っていたが、それは半ば自分に向けられたもののように思えた。
 俺も、同じだった。昨日シェラを止めなかったことを悔やんでいたし、手前ぇの馬鹿さ加減に落ち込んでもいた。
 昨夜、シェラが俺を頼ってきたのは、他の女共に苛められていたのが原因だったんだ。それで疲れちまって、少しだけ自分を休めたくて――
 あいつが自分から言う訳ないんだから、俺が察してやらなきゃいけなかったのに――まるで気付いてやれなかった。
 直情的に憤りを顕わにするマグナが、少し羨ましかった。俺も、そうするべきだったんだ。余計なことばっか考えてないで。
「と、とにかく、私は大丈夫ですから。ヴァイスさん達の方に、馬車を移ります」
「……嫌よ」
 短く答えたマグナに、シェラは苦笑を浮かべる。
「最初から、そうしなきゃいけなかったんですってば。だって、私は男なんですから。マグナさん達に、ずっと女の子みたいに接してもらってたから、甘えて自分でも勘違いしちゃってました。ごめんなさい」
「……なによ、それ。甘えていいのよ!?」
「いえ、もう充分、甘え過ぎちゃってます。そんなことより――」
 シェラは冗談めかした顔つきで、マグナを睨みつけた。
「マグナさんもリィナさんも。いい加減に、仲直りしてくださいね?」
 痛いところを突かれた、みたいな顔をマグナは浮かべた。
「そ、そんなの――それこそ、シェラが心配することじゃないのよ。あたし達、別にもう喧嘩なんてしてないんだから。ね、リィナ?」
「うん。だって、最初っから、マグナが一人で怒ってるだけだもん」
「ちょっと、何言ってんの!?あんたが、いちいちしつっこいから……」
 マグナは途中で無理矢理口を閉じて、大きくひとつ深呼吸をした。
「……分かったわよ。ちゃんと話せばいいんでしょ」
「うん。そうしなよ」
 リィナは後ろからシェラの肩越しに腕を回して、首の辺りを抱き締めた。
 それを見て、マグナはぼそぼそと呟いたと思うと、軽く自分の頭を拳で叩いて、ぎろりと俺を睨みつけた。
88CC 17-18/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:52:32 ID:DiFhmsY00
「ヴァイス」
 はい?
「ちょっと来て」
 そのまま、さらに森の奥に歩を進める。
「リィナ!シェラをお願いね!」
「あいよー」
 このやり取りの雰囲気は、マグナの語気こそ荒いものの、喧嘩をする前の二人に近かった。どうやら、お互いに仲違いしている場合じゃないとは思っているらしい。
 問題は、俺だ。一体、何をされるんですか。
 声が届かない辺りまで離れて、マグナは俺を振り向いた。
 なにやら少し困った感じで、俺を睨みつける。
「……勘違いしないでよね」
 そう切り出した。
「あたしとリィナは、別にあんたなんかの事で喧嘩してたんじゃないんだから。ただの、ちょっとした行き違いっていうか……別に、リィナが嫌いになった訳じゃないし、今だって大好きなんだから」
「ああ、分かってるよ。リィナもきっと、同じ気持ちだろ」
「わ、分かったようなこと言わないでよ!!」
 自分で言っといて、なに照れてんだ、こいつ。
「とにかく!」
 マグナは、大声を出して仕切り直した。
「今は、シェラのことを一番に考えてあげたいの。あたし達が、ぎくしゃくしてる場合じゃないのよ」
「同感だね」
「だから……その……お互いに色々話して、誤解をといておいた方がいいかなって……」
「誤解?」
「もしあったらって話!!じゃあ、あたしから言うわよ!?」
 間を恐れるみたいに、マグナは急いで言葉を続けた。
「あのね、あたしとアルスのこと、あんたはどう思ってるか知らないけど……っていうか、あんたにどう思われても別に構わないんだけど……」
 いやあのな。だったら、わざわざ言う必要ねぇだろ。
「あ、あんたが思ってるようなことなんて、何もなかったんだから!?そういうんじゃないの!!分かった!?」
 支離滅裂だ。
「よく分かんねぇ」
「なんで分かんないのよっ!?だから、そういうんじゃなくて、なんであたしもあの人があんなに気になるのかよく分かんないんだけど、とにかくそういう気持ちとはちょっと違うの!!分かるでしょ!?」
 こんな際だが、俺は思わず笑いそうになった。必死で訳の分かんねぇこと言い募るマグナが、おかしくてさ。
89CC 17-19/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 10:56:09 ID:DiFhmsY00
「要するに、あいつのことは、別に好きじゃねぇって言いたいのか?」
 マグナは、軽く息を飲んだ。
「っ――なに恥ずかしいこと言ってんのよ!?」
「違うのか?まぁ、ぽわ〜っとした目つきであいつのこと見てたしな」
「だって――もぅ、いい!!分からないなら!!」
 拗ねてそっぽを向くマグナ。
 ちょっと反省する。まぜっかえしてる場合じゃねぇだろ、俺も。なんでこいつを相手にすると、こうなっちまうかね。
「いや、分かったよ。あいつとは何も無かったし、なんか知らんが気にはなるけど、別にあいつのことを好きって訳でもないんだろ。了解だ」
 マグナは、まだ拗ねた目をして、伏目がちに俺を見た。
「分かったんなら、さっさとそう言いなさいよ――じゃあ、今度はそっちの番」
「え?」
「だから……あたしは別に気にしてないんだけど、あのコが聞けってうるさいから……」
「なにがよ?」
「だからっ!!……あの日、リィナと何してたのよ」
 何って……どう答えりゃいいんだ。
「リィナに聞いてないのかよ」
「だってあのコ、適当なことばっかり言って、何がホントか分かんないんだもん。問い詰めても、だったらあんたに確かめればいいってはぐらかすし……」
 唇を尖らせる。
「何してたって言われてもなぁ……犬を探し歩いて、その後酒を飲んだだけだぜ」
「は?犬?」
「うん、まぁ、事細かに話してやってもいいけど……何が聞きたいんだ?」
「……それはつまり、何も無かったって言いたいの?」
「まぁ、そうかな」
「じゃあ、なんでリィナはあんな服着てたのよ」
「へ?」
 あいつら、そんなことも言ってなかったのか。
 どうしたモンかね。俺が勝手に喋っちまってもいいのかな。
「なによ。何も無いなら、言える筈でしょ」
「あ〜、その、なんだ。怒んなよ?」
「別に、あんた達が何しようと、あたしが怒る訳ないじゃない」
 そういうことじゃないんだが。
90CC 17-20/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:02:18 ID:DiFhmsY00
「いや、あのな……あの日、こっそりお前の後をつけてたんだよ、俺達全員で」
「……はぁ!?」
 俺の告白は全くの予想外だったらしく、マグナは目を丸くした。
「それで、いつものカッコじゃ目立ってバレちまうからってんで、リィナはあんな服を着てたってわけでさ」
「あ、後をつけてたって、それって――えっ!?あんた達、まさかずっと見てたの!?」
「いや、ずっとじゃねぇよ。最初に入った飯屋までだ。その後は、いちおう俺が、もう止めようぜって終わらせたんだからな。そもそも、言い出しっぺはリィナだしよ」
 なにやら情け無い言い訳をしてますが。
「最初の――その後は、見てないのね?」
「なんだよ。やっぱり、見られたらマズいことでもしてたのか、あいつと?」
「ち、違うわよ!!さんざんあんたの悪口とか言ってたから、それを聞かれないでよかったってだけなんだから!!」
 今それを言ったら、おんなじだと思うんだが。
「じゃなくて、なんでそんな事したのよ!?なんで、隠れてコソコソ……なによ……心配、だったの?」
「あ、いや……」
 まさか、あいつらが面白がって、とは言えねぇしな。
「あの日、あんたとリィナが二人でいたのは……あんたがムシャクシャしてたから、慰めてあげてたって、リィナは言ってたわよ」
「はい?」
「意味分かんなかったけど……なんで、ムシャクシャしてたのよ」
「あいつがそう言ってるだけだろ。よく分かんね」
「あたしが、あの人と出掛けたりしたから……?」
 マグナは俯きながら、小声で呟いた。
 俺は――いきなり追い詰められた気分になった。
 どう答えりゃいいんだ。
 つか、こんなことしてる場合なのか。いや、俺達がぎくしゃくしてる場合じゃねぇんだよな。そりゃ分かってる。どの道、話はしておかなきゃいけなかったんだ。
 マグナを見る。俯いたまま、凝っとして動かない――真面目に答えてやらないと駄目だよな。
91CC 17-21/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:05:34 ID:DiFhmsY00
「まぁ……ちょっとは、そういうトコもあったかな」
 ぴくりと動いたマグナが喋り出す前に、慌てて付け加える。
「アレだろ、だって、どこの誰とも分かんねぇ怪しい男に、ほいほいくっついてくお前の無用心さがだな、リーダーとしてどうなんだっていうか……」
 駄目だ、俺は。
「あの人は、怪しくなんかないわよっ!!」
「おーおー、肩持っちゃって。やっぱり、なんかあったんじゃねぇの?」
「なんにも無かったって言ってるでしょ!?」
「俺達だって、なにも無かったんだよ!」
 いかん、何を興奮してるんだ。なんで俺とマグナが、こんな言い合いしてんだよ。そんな場合じゃねぇだろっての。
「つまり、なんだ。お互い何も無かったってことで、その……手を打とうぜ」
 マグナは、自分を落ち着かせるように、深く息を吸ってゆっくりと吐き出した。
「……まぁいいわ、それで。別にあんた達に何かあったって、あたしには関係ないけど」
 こいつも、大概だな。
「ホントに、リィナは適当なことばっかり言って……後をつけてたのも、許せないわ。後で、とっちめてやらなきゃ――っていうか、あんたがそんなバカなこと、最初っから止めてれば良かったのよ」
 そりゃすいませんでしたね。
「でも、そんなのは後回し――今は、シェラのことよ」
 関係無いやり取りで興奮していた自分に罰を与えるように、マグナは自分の頬を叩いた。
「あのコ、絶対無理してるのよ。平気な筈ないのに……」
「ああ」
「ヘンに頑固なところがあるから、このまま隊商と別れるって言っても聞きそうにないけど……ヴァイス、お願いね。そっちに行ったら、あのコを守ってあげて」
「分かってる」
 マグナは、額を掌で押さえて溜息を吐いた。
「なんで、あんなこと言うんだろ……」
 その時のことを思い出したのか、マグナの声に深く怒りが滲んでいく。
92CC 17-22/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:15:33 ID:DiFhmsY00
「なんで、あのコがあんなこと言われなきゃいけないのよ。なんで……」
 俺の袖を掴んで、ぐいと引っ張った。
「……あたし、悔しいよ、ヴァイス」
 袖を引いた手に、力が篭る。
「シェラは仕方ないって……そりゃそうかも知れないけど……でも、ホントにそうなの?だとしても、あんなこと言わなくたっていいじゃない!!なんで……ダメ。やっぱり、納得なんてできない。悔しい……」
 千々に乱れた内心の吐露。
「あのコはただ、そうありたいって思ってる自分で居るだけじゃない……なんで……それをなんで、周りから色々言われたり、否定されなきゃいけないのよ!?」
 悲痛に歪んだマグナの顔を見ながら。
 まるで自分自身のことを言ってるみたいだな――そう思った瞬間、俺は唐突に得心がいった。
 迂闊なことに、これまで全く気付かなかったが――マグナとシェラは、良く似てるんだ。いや、性格とかじゃなく、置かれた境遇に通じる部分がある。
 周り中から望まれて、勇者を演じていたマグナ。
 誰からも望まれることなく、女の格好をしていたシェラ。
 表面的には正反対だが、己がそうありたいと願った自分を許されなかったという意味では、どちらも同じなのだ。まるで、鏡像みたいに。
 言葉にしてそれを理解していたとは思わないが、おそらくマグナは出会って間もない頃から、それを感じていたんじゃないだろうか。今になって思えば、だからこそ早々と、シェラを完全に女の子扱いしていたのではなかったか。
 自分が押し殺され、否定される苦しみが、身に染みて分かっていたからこそ。
「そもそも、あいつらに何も迷惑なんてかけてないでしょ!?それどころか、あいつらがシェラに迷惑かけてるんじゃないっ!!
 なんで、こっちが顔色窺わなきゃいけないのよ……ズルく示し合わせたりして……なによ……なんなのよ……あいつらの方が、人数が多いってだけでしょ!?」
 泣いてはいない。だが、それ以上に辛そうな表情で、マグナは唇を噛んだ。
93CC 17-23/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:19:49 ID:DiFhmsY00
「悔しいよ、ヴァイス。あたし、悔しいよ……」
 やるせない。マグナの言葉に、俺の大部分は同調しているんだが――歳を重ねて小利口になった、俺の残りが囁く。
 世の中って、そういうモンだぜ。程度の差こそあれ、思い通りに生きてるヤツなんて、誰もいやしねぇんだ。どいつもこいつも、世間だの「人数が多い」方におもねって、自分を曲げてどうにかこうにか生きてるんだよ。
 こういうつまんねぇこと言う自分、俺、大っ嫌い。
 だからやっぱり、せめてこいつには、真っ直ぐなままでいて欲しいんだ。必死にずっと隠して守り通した自分を、最後まで曲げることなく、さ。
「大丈夫だ。シェラのことは、俺に任せとけよ」
 気が付くと、俺はマグナの体に腕を回していた。
 ホントはシェラを、昨日こうして抱き締めてやるべきだったんだ。
 しょうもねぇな、俺は。ごちゃごちゃ考えるばっかりで。
 いくら二人を重ねたところで、昨日をやり直したことにはならないってのによ。
「うん……お願いね……」
 マグナはぎゅっと、俺の服を握った。
 しばらくして、衝動が去ってみると、なんだか急に照れ臭くなった。
 こんな時に何をしてんだ、俺は。
 誤魔化すように、マグナの頭をぽんぽん叩いて身を離しかけ、ふと気付く――
94CC 17-24/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:24:37 ID:DiFhmsY00
「あれ?」
「え?」
 マグナが、俺を見上げた。
「お前、髪切ったか?」
「は?」
 場違いな台詞に、一瞬、呆気に取られたマグナは、不謹慎だと自分に言い聞かせて笑うのを堪えてるみたいなヘンな顔をしたかと思うと、すぐに俯いて吹き出した。
「っぷ……くっ……ダメ、何笑ってんのよっ!!」
 自分で自分を怒鳴りつける。
「ヴァイスがヘンなこと言うからよ!?」
 いや、俺も言うつもりはなかったんだが、つい。
「あのねぇ、あんたね、今さら何言ってんのよ?あたしが髪切ったの、ロマリアを出る前の日だから、もうずっと前よ?」
 そりゃそうだよな。いや、最近、お前の顔をまともに見てなかったからさ。
 それに、切ったと言っても、鎖骨の下辺りまで伸びていた毛先が、鎖骨の辺りになっただけだ。整えたと言った方が正確かも知れない。
「そんなんじゃ、あんたと会ってから髪切ったの、これが二回目だってことにも気付いてないでしょ」
「え、そうなのか?」
「やっぱりね。最初にロマリアに着いた時にも、切ってたんだから。どうせ、そうじゃないかと思ってたけど!」
 マグナは、呆れたように言うのだった。
 うるせぇよ。お前の切り方が、微妙過ぎるんだ。逆に、今回気付いた事を誉めて欲しいぜ。
「そんなことより、シェラのこと。ホントに、お願いよ」
 マグナは身を離して、憂いを浮かべた瞳を俺に向ける。
「ああ、分かってる。ちゃんと守るよ」
 そんな不安そうな顔するなよ。頼りないとは思うけどさ。
「お願いね」
「ああ。そっちは、リィナと仲直りしとけよ」
「う、うるっさいわね。分かってるわよ。元々、別に喧嘩って訳でもなかったんだから、言われなくたって――ほら、戻るわよ!」
 ぶつくさ言って歩きはじめたマグナの後について、俺はシェラ達の方に戻った。
95CC 17-25/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:29:09 ID:DiFhmsY00
 俺は半ば強引に、シェラを同じ馬車に配置させた。
 護衛頭のバロウは、当然のようにシェラを自分の馬車に同乗させようとしやがったが、ちょっと脅してやったら泡食って前言を翻した。縁者の威が通じないヤツには、てんでビビりな野郎だ。
 当たり前だが、本隊の連中にも話は広まっていたので、それからのシェラの生活は一変してしまった。
 相変わらず、シェラは連中の洗い物をしてやったりしていたが、前回までのようにわざと取りに行くまで待っているのではなく、洗濯物はキャンプの端の方にぞんざいに詰まれるようになった。
「他に洗うものありませんかー」
 シェラが元気に声をかけても、ああ、とか、おお、とか煮え切らない返事がちらほら戻ってくるだけだ。
「急なことだから、どういう態度を取っていいのか分からないんですよ」
 いつもの事です、とシェラは言うのだが、俺は気に喰わないね。ちょっと前まで、ちやほやしてやがった癖によ。シェラ自身は、何も変わっちゃいねぇんだぜ。
 こんなこと考えたくもないんだが、まるきり珍獣や見世物でも眺めるみたいな――
 だが、態度の曖昧なヤツらは、まだマシだ。男だとバレる以前に、すけべったらしい目つきを向けてたバカ共は、もっとムカつく。
 その頃とはまるで異質な、もっと下世話であからさまな興味本位の目つきというか――表現としては、どちらもいやらしいという事になるんだろうが、女に向けるそれとは明らかに違う。
『女の子として見てくれる訳じゃないです』
 エルフの森の洞窟で、そう呟いたシェラの気持ちが、少しだけ分かった気がした。
 なにより最も許せないのは、腐れ小僧のストラボだった。
「おら、これも洗っとけよ」
 ぞんざいな口振りで、シェラの顔に手前ぇの下着を叩きつけたのを目にした時は、頭がおかしくなりそうだった。
 必死にシェラに止められて、結局ぶん殴ってやれなかったのが悔しくて仕方ねぇ。
 腐れ小僧の分際で、シェラに粉かけようとしてやがったのは、本隊の奴らは皆知ってる周知の事実だからな。未だに他の連中に、それをふざけて冷やかされるのが我慢ならないらしく、事ある毎にシェラを悪し様にこき下ろしてやがるのも許せねぇ。
96CC 17-26/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:35:18 ID:DiFhmsY00
 マジで、魔物との戦闘中にでも、事故に見せかけて魔法を喰らわせてやろうかと思ってるんだが、野郎は小狡く立ち回って、そういう時は決して俺の側に寄ろうとはしなかった。
 この腐れ小僧を除けば、表立って何かヒドいことをされる訳ではない。前とほとんど変わらない態度で接してくるヤツも、居ることは居る。
 だが――
 雰囲気――シェラを囲む空気は、まるで別物になっていた。
 なんなんだ、これは。こんなに、変わるモンなのかよ。
 別に気にしてないよとうそぶく奴らですら、言葉とは裏腹に、シェラを見る目に――なんというか、上手く言い表せないのがもどかしい、得体の知れない妙な含みがある。
 俺もこいつらと同じ立場だったら――単なる護衛の一人として、たまたま同じ隊商に居合わせただけだったら。
 やっぱり、どういう態度を取っていいか分からずに、意識的に距離を置いて、遠くから妙な眼差しを向けていたんだろうか。そう考えて、少し落ち込んだ。
 どう考えても居辛い筈なのに、シェラは努めて前と変わらず振舞っていた。見ていて辛い。こんな隊商なんかに、参加するんじゃなかったぜ。自分を憎んじまいそうだ。
 俺は、出来るだけシェラの側に居るようにした。シェラにしてみれば、もしかしたら鬱陶しいぐらいだったかも知れないが、無遠慮な視線や言葉から守ってやりたかった。
 常に目が届くように、どこにでもついていって、馬車の中で寝る時も、他の奴らとなるべく離れて隣りで眠った。
 隊商宿に泊まった際にも、連中と一緒の雑魚部屋ではなく、二人で馬車の中で眠った。
 マグナ達とも、ちょくちょく顔を合わせるようにした。やっぱり四人で居ると、シェラも落ち着くみたいだしな。
 シェラは、マグナとリィナが仲直りしたことを喜んでいた。マグナは、ちょっと照れ臭そうだった。マグナがいちいち他の女につっかかって大変だとリィナが溜め息を吐いて、あんたはハナから無視してるだけじゃない、とやり返されていた。
 何日か経つにつれ、以前と変わらないシェラの振る舞いは、少しづつ周りに変化を及ぼした。それまで曖昧な態度を取っていた連中は、徐々に普通に接するようになった。
 それでも前とはどこか違っていて、やっぱり違和感は残っているものの、あからさまにおかしな目を向けるヤツは減っていた。
 だが、そんなのは俺の勘違いだった。
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 11:38:39 ID:XOX+4c/D0
支援
98CC 17-27/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:51:00 ID:DiFhmsY00
 その晩――
 シェラを手伝って、夕飯の後片付けをしている時だった。
「なぁ、おい、聞いたぜ」
 そこらにだらしなく腰を下ろし、仲間内でだべっていた腐れ小僧――ストラボが、いつもは遠巻きに悪口をほざくだけだった癖して、なんのつもりかシェラに声をかけてきたのだ。
「無視しろよ」
 小声で囁いて、俺は皿を拾いながら、それとなくシェラを体で隠すように位置を変えた。
 腐れ小僧は、構わずに言葉を続ける。
「バロウさんに聞いたんだけどよ、お前みたいなのって、男のアレをしゃぶんのが大好きなんだって?」
 びくりと震えて、シェラが動きを止めた。
「しかもこれが、女より上手いんだってよ」
「へぇ、そうなんかよ」
「そりゃそうだろ。なんせ、手前ぇにもついてんだからさ。どこをどうすりゃイチバン気持ちいいのか、よく知ってんだってよ」
「ああ、なるほどねぇ。そりゃそうだわな」
 俺は、軽い思考停止状態に陥っていた。
 ごく普通の世間話をするみたいな。
 こいつらの気軽さに、唖然としてしまっていた。
 なんで、そんな事を平気で言えるんだ。
 こいつの目の前で。
 相槌を打ってるヤツにしても。
 聞いてるだけのヤツにしても。
 まるで悪いことだなんて思ってないみたいに――
「なんでも、咥えてっと自分が女になった気がして、嬉しいんだって?」
 ストラボは、嘲るように鼻を鳴らした。
「へっ、すげぇ変態だな」
 それを聞いた瞬間。
 思考がすっ飛んだ。
 頭にすげぇ勢いで血がのぼっているのに、妙に芯が冷えている。
 この野郎――
 こいつら――
 許さねぇ――
99CC 17-28/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:53:54 ID:DiFhmsY00
『ベギ……』
「――ダメ!!ダメです、ヴァイスさん!!」
 俺の口は、シェラの手で塞がれていた。
 俺達の手から地面に落ちた皿が、派手な音を立てる。
「無茶です。落ち着いてください。お願いですから」
 俺の口を押さえたまま、シェラが宥めるような声を出す。
 なんでだよ。なんで、お前が――
「へっ、脅かすなよ。どうせあんたも、しゃぶってもらってんだろ?」
 この――クソがっ!!
「なんだよ、必死こいて独り占めしちゃってよ。別に取りゃしねぇって。いらねぇっての、そんなの」
 腐れ小僧。上等だ。手前ぇ、覚悟は出来てんだろうな。
「ダメですってばっ!!ヴァイスさん、こっち!!」
 片手で俺の口を塞ぎ、片手で俺の手を引いて、シェラは森の方へ俺を引っ張った。
「まぁでも、タマにゃお前も、違うモン咥えてみたいんじゃねぇの?どうしてもってんなら、俺のをしゃぶらせてやってもいいんだぜ」
「そういう事なら、俺もお願いしてぇな」
「じゃあ、俺はその次な」
 悪びれた風もなく――
 まるきり冗談みたいに――
「手前ぇらっ!!」
 シェラの手を払って振り向いた俺の耳に、弱々しい声が届く。
「お願いですから、行きましょう……ね?」
 それを聞いて、俺は――
 どうして――
 辛いのは、お前なのに――
 歯がゆさが突き抜けて、脱力してしまった。
「おい、どこシケ込む気だよ!いいけど、後で貸してくれよな!」
 囃し立てる声を背に、腕を引かれるまま、足を動かす。
 訳分かんねぇ。
 頭ん中、ぐちゃぐちゃだ。
 口惜しい。
 なんなんだ。
 なんで、あんな見下しきった態度と口振り――
100CC 17-29/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 11:59:07 ID:DiFhmsY00
 もうシェラは、俺の口を塞いでいなかった。
 握った手が、次第に力を失う。
 篝火が――下品な笑声が遠ざかる。
 やがて、森の中で足を止めて、シェラは俺の手を離した。
 シェラは俺に背中を向けたまま、俺はシェラの細い背中を見詰めたまま、時間が過ぎていく。
 なんて声をかけたらいいのか分からない。
 違う。
 俺が怒ったり落ち込んだりしてる場合じゃねぇんだ。
 こいつの――シェラのことを考えてやらなきゃ――
「私なら、全然大丈夫ですよ?」
 俺が口を開くのを待ってたみたいに、シェラがくるりと振り向いた。
 笑ってる。
 この前と同じように。
 精一杯。
「独りだったら、何をされるか分からなくて、怖かったと思いますけど……ヴァイスさんが一緒にいたから、平気です」
 無理だ。
 それを信じろっていうのかよ。
 俺に。
 あんなクソみてぇな台詞を、あのクソ共に吐かせちまったのに。
「ほら、私、何もされてないんですよ?全然、へっちゃらです」
 やめてくれよ。
 そんな、いつものことみたいな顔すんなよ。
「だから、今のことは、マグナさんには言わないでくださいね」
 なにを――
「言ったらきっとマグナさん、今度こそ出ていこうとするに決まってますから」
 微笑んだ。
 痛々しい。
「これ以上、私のことで、皆に迷惑かけたくないんです」
 まだ、そんなことを気にして――
 だから、俺を諌めたのか。
『ヘンに頑固なところがあるから』
 ああ、まったく同感だよ。
101CC 17-30/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:01:10 ID:DiFhmsY00
「そんな顔しないでください。私なら、ホントに大丈夫ですから――」
 はにかんで、シェラは俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫な訳ねぇだろ……」
 俺は、シェラの腕に手を伸ばす。
 シェラは、それを拒むみたいに、背中に手を回した。
「平気です」
「そんな訳ねぇだろ……」
 なんで、そんな無理すんだよ。
「だって……」
 ちょっと目を伏せた。
「だって、どうしようもないじゃないですか」
 ぽつりと呟く。
「私……おかしいですから」
 だから。
 おかしいから。
 普通じゃないから。
 何を言われても仕方ないってのか。
 俺は、今日までシェラに向けられていた、妙な目つきの正体に思い当たる。
 優越感。
 自分はおかしくないから――
 だから、あんな気軽さで――見下した目で――
 うるせぇ。
 うるせぇよ――
102CC 17-31/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:06:10 ID:DiFhmsY00
「あっ」
 俺は、無理矢理シェラを抱き締めていた。
 頭を抱えて、胸に押し付ける。
「ごめんな……」
「なんで……ですか。ヴァイスさんは、なにも……」
 全然守ってなんてなかった。
 こんな無理をさせてる自分がムカついてしょうがねぇ。
 今も、何も言ってやれない自分に腹が立つ。
 おかしくなんかないって。
 そんなこと、どうでもいいって。
 だって、言えないじゃねぇかよ!?
 こいつにとって、それがどうでもいい訳ねぇんだから!!
 ハナから理解するつもりの無い、妙な視線を向けられて――
 勝手な思い込みで、無遠慮な言葉を投げつけられて――
 あれが――シェラの居る場所。
 俺が適当なおためごかしを言ったところで、それが何になるってんだ。
 あいつらをぶちのめしてさえ、何も変わらない。
 シェラを囲む世界は、何ひとつとして変わらない。
 本気で思ってもいねぇ慰めを並べたところで。
 いくら気休めを口にしたところで。
 ただ――
「俺は、そんな風に思ってねぇから」
 それだけは分かって欲しくて。
「俺だけじゃねぇよ。マグナも、リィナも、お前がおかしいだなんて思ってねぇんだ」
 他の誰が何と言おうとも。
 どう思おうとも。
 それだけは言える。
103CC 17-32/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:11:15 ID:DiFhmsY00
「だから、俺達の前では、平気そうな顔すんなよ。な?」
 シェラは、ちょっと目を見開いた。
 びっくりしてるみたいに。
「迷惑だってかけろ、いっくらでも。俺達には、かけていいんだよ」
「ぇ……」
 時間をかけて、俺の言葉を噛み砕いたように。
 ゆっくりと、顔がゆがむ。
「マグナも言ってたろ?甘えていいんだってさ」
 瞳に涙が滲んだ。
「だって、ほら、アレだ――」
 会話の都合上でも、誤魔化すのが目的でもなく。
 俺が大マジで、こんな台詞を吐く日が来るなんてな。
 アリアハンでへらへらやってた頃は、想像もしなかったぜ。
「お互いにさ、迷惑かけたり、許し合ったり、そういうコト出来んのが……」
 それが、さ。
「仲間ってモンだろ?」
「ふぐっ……」
 言ってから、ちょっと照れた。
「まだごちゃごちゃ言うつもりなら、お前は俺達のことを仲間だと思ってないって事になるんだぞ?」
 照れ隠しに、言葉を重ねる。
「それでいいのか?そうなのかよ?俺達は、お前の仲間じゃねぇのか?」
 一拍置いてから。
「ふっ……ふぐっ……ふえええぇぇ……」
 声をあげて、シェラは盛大に泣き出してしまった。
 ああ、ごめんごめん。責めたつもりじゃなかったんだ。よしよし。
 俺は慌てて、抱えた頭をぽんぽん叩く。
「あふっ……あぅっ……ふえええぇぇ……」
 なんか言おうとしてるみたいなんだが、言葉にならないみたいだ。
「ああ、うん、分かってるから。大丈夫だから。な?」
 俺も必死に、よく分からない返事をする。
 まぁいいや。この際、思いっ切り泣いちまえ。
 俺はしばらく髪を撫でながら、シェラがむせび泣くに任せた。
104CC 17-33/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:14:16 ID:DiFhmsY00
 まったくよ。最初から、無理しねぇで泣いちまえばよかったのに。
 シェラ自身の問題は、何も変わっちゃいないんだけど。
 俺は、少しだけ安心していた。
 多分もう、俺達の前では、こいつは今までみたいな無理はしないだろう。
 性格的なモンは残ったとしても、変な遠慮はしなくなるだろう。
 そう思えた。
 少しは俺も、役に立ったのかな――いや、別に何もしてやれてないんだけどさ。
 あんなクソみてぇな台詞を聞かせちまって――これじゃ、マグナに怒られちまうよ。
 泣き疲れるまで、このまま抱き締めていてやりたかったんだが。
「うぷっ……ふううぅぅ……」
 シェラの顔を再び胸に押し付けて――ごめんな――辺りの様子を窺う。
 何か、おかしい。
 なんだ――地鳴り?
 近づいてくる。
 街道を挟んで、逆側の森の方だ。
「敵襲だぁっ!!」
 やがてどこかで、敵の来襲を告げる叫び声が上がった。
105CC 17-34/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:18:33 ID:DiFhmsY00
「シェラ、大丈夫か?走れるか?」
 鼻をすすってしゃくりあげ、両手の甲で頬を拭いながら、シェラは健気に頷いた。
 ごめんな。さすがに、無視する訳にはいかねぇや。
「よし。マグナ達と合流するぞ」
 俺はシェラの手を引いて、マグナ達の馬車に走った。
 辿り着く前に、地鳴りの正体が知れる。
 小山みたいなゴリラの化け物が、わらわらと森から飛び出してきたのだ。
 おい、ちょっと数が多くねぇか!?十匹……二十匹近くいやがるぞ!?
 こんだけ群れてんのもおかしいが、篝火を怖れる様子がほとんど無いのもヘンだ。
 なんだ、こりゃ!?
 一体、何事だ!?
『ベギラマ』
 とりあえず、目に付いたゴリラ共に呪文を喰らわせる。
 そこらにいた護衛連中も、慌しく戦闘の準備をはじめていたが、ぎょっとしたように立ち竦むヤツもいて、あんまり当てになりそうもない。
 シェラが足をもつれさせた。
 息も整わない内に走らせちまったからな。
「すみません、もう大丈夫です。行きましょう!」
 何度か深呼吸をしただけで、シェラは気丈な目を俺に向けた。
 悪いな。こういう場合は、無理してくれて助かるぜ。
 俺は再び、シェラの手を引いて駆け出した。
 ほどなく、マグナ達の馬車に辿り着く――どこだ。
106CC 17-35/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:22:55 ID:DiFhmsY00
「いた、あそこだ」
 リィナがとんぼを切って、ゴリラの顔面に爪先を叩き込んでるのが見えた。
 マグナも剣を握って斬りつけている。
 同じ馬車には、他にも女の冒険者が少しは乗っていた筈だが、そこらで戦ってんのがそうか。
 荷駄隊を護る為に、近くの馬車の護衛連中も、徐々に集まりつつある。
『イオ』
 広範囲呪文で、視界に入ったゴリラ共を弱らせる。
 特に指示をするまでもなく、リィナとマグナがそいつらを的確に倒していった。
 姿こそ似ているものの、このゴリラ共はルシエラが連れていた化け物よりも、随分と弱いようだ。
 他の連中でも、メラで弱らせたりして、数人がかりで割りとあっさり倒せていた。
「無事か?」
 ようやくマグナ達の傍らまで辿り着いた時には、戦闘は大分落ち着いていた。
 ゴリラの化け物を斬り倒して、マグナがこちらを振り向く。
「ヴァイス、遅いわよ。なにしてたのよ……ん?」
 眉根を寄せる。
「シェラ、どうしたの?なんか……」
 じろりと俺を睨みつけた。
「まさか、あんた。泣かせたんじゃないでしょうね?」
『イオ』
 俺は、残りのゴリラ共に呪文をあびせる。
「ちょっと、無視しないでよ」
 いや、お前。後にしろよ。
「よっと」
 だが、リィナが掌底で突き飛ばしたのを最後に、付近の化け物はあらかた片付いてしまった。
 まだ離れて数匹残っているが、他の奴らに任せてもなんとかなりそうだ。
「あの、なんでもないんですよ、マグナさん。えと、ちょっと転んじゃって……じゃなくてですね」
 首を竦めて、シェラは上目遣いを俺に向けた。
 うん、いいよ、誤魔化さなくても。仲間だもんな。うわ、恥ずかしい。
「バカに、ちょっとヒドいこと言わせちまってな……悪ぃ」
 マグナは、ますます眉根に皺を寄せて、俺を睨みつけた。
「なんの為に、あんたに頼んだと思ってるのよ。何でそんなコト言わせ――」
 自分も女共に言わせた事を思い出してくれたのか、マグナは語尾を濁らせる。
107CC 17-36/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:26:59 ID:DiFhmsY00
「何よ?――大丈夫?何言われたの?」
 お前には言えないようなことだよ。
 シェラも、口篭る。
「その……」
「……そう。あたしには、言えないようなことなのね」
 うお、心を読むな。
「許せないわ……ちゃんと、ぶん殴ってやったんでしょうね?」
「……悪ぃ」
「違うんです。私が止めたから……」
 俺を庇うシェラを見て、マグナは嘆息する。
「誰?あたしが、ぶん殴ってやるわ」
「じゃあ、ボクも」
 お前は、止めとけ。死んじまうぞ。と思ったが、リィナもかなり腹に据えかねた顔をしていた。
 まぁ、俺が止めてやる義理は無ぇよな――つか、やっぱり俺も殴ろう。
――リィナの顔が、急に左右を向く。
「まだいるっ」
 リィナの鋭い喚起に続いて、あちこちで悲鳴があがった。
 篝火の炎が、黒づくめの人影を照らし出す。
 黒装束に黒マント、頭に黒い布切れを巻きつけた浅黒い顔の男達が、湾曲した刀を片手に次々と湧いて出た。
 これは――盗賊か!?
 混乱に乗じて――もしかして、こいつらがゴリラ共をけしかけたのか!?
「ふっ」
 リィナが黒づくめの一人を蹴り倒す。
 俺はシェラの手を引いて近くの馬車に駆け寄り、背中を預けた。
「なに?なんなのよ、こいつら!?」
 マグナは捌き難そうに、黒づくめが手にした曲刀と切り結んでいる。
 動きが悪い。人間相手で、躊躇いがあるのか。
「マグナ!!動きを止めるだけでいい!!」
 そう声をかけると、マグナは剣の腹で黒づくめの頭をぶっ叩いた。
 ああ、脚とか斬れって言ったつもりだったんだが。
 まぁ、いいか。
 多勢に押し包まれる前に、援護してやらねぇと。
108CC 17-37/37 ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:31:25 ID:DiFhmsY00
「ヴァイスくん、上!!」
 リィナの指摘で振り仰ぐと、幌の上から黒づくめが刀逆手に飛び降りてくるところだった。
 おい、ちょっと待て、コラ。
 俺は体ごとシェラを押し倒して身を躱し、呪文を唱える。
『ヒャド』
 危ねぇ。間一髪だぜ。
 あ、やべぇ。呪文を唱えちまった。
 マグナが囲まれちまう。
『バギ』
 真空の刃が、黒づくめ共を斬り刻んだ。
 マグナがそれを、端から剣でぶん殴っていく。
 俺が顔を向けると、シェラはちょっとだけ得意そうに微笑んだ。
 あー、なんか、すげぇ嬉しい。
 いやいや、娘の成長を喜ぶ親父みたいな、ほんわか気分に浸ってる場合じゃねぇよ。
 急いで立ち上がって、戦況を確認する。
 リィナがすげぇ。
 いや、凄いのは、元から分かってるんだが――今までと、なんか違うような。
 武闘の事なんてよく分かんねぇから、上手く言えないんだが――ノッてる、とでも表現すればいいんだろうか。
 あちこちから襲いくる、煌く曲刀の間隙を縫ってくるくるとリィナの躰が回る度に、黒づくめ共が片っ端から弾き飛ばされていく。まるで、小型の竜巻だ。近くで他の護衛連中と戦っていた黒づくめ共まで巻き込んでいく。
 俺が知ってるあいつの動きより、なんと言うか――出鱈目に見える。
 もっと、のびやかで――
 ただ思い通りに、好きなように全身を操っているというか。
 一瞬も止まることなく、上に下に横に縦に、くるくるくるくる回る。
 なんだか、気持ち良さそうだ――
 マグナを呪文で援護しながら、思わず見とれそうになった。
「うん。戻ってきた」
 手近に居た最後の一人を空中で蹴り飛ばして、回転しながら猫のように着地したリィナが、そう呟くのが聞こえた。
 だが、黒づくめ共はまだまだ数を残している。
 他の護衛連中が抑え切れなかった分が、次第に他所から押し寄せてくる。
 迎え撃とうと、リィナが身構えた時だった。
 何処から姿を現したのか――いや、降ってきたのか。
 リィナと黒づくめ共の間に、影が音も無く降り立った。
109CC ◆GxR634B49A :2007/01/13(土) 12:42:23 ID:DiFhmsY00
という訳で、第17話をお届けしました。
寝起きであんま頭が働かなくて(今も)、結局ほとんど直せませんでしたw
漠然と不安です><
それにしても、思ったよりかかっちゃいましたねぇ。疲れました。
最低でも週間ペースを維持したいと思ってるんですが、どうも無理みたいw

今回は長かったので、意図せず引きになっちゃいました。
少しは先の話も思いついたので、次々回あたりで、バカな展開になる予定。
まぁ、ニ、三日したら、やっぱヤメとか思ってる気もしますけど。。。
今、頭が働いてないので、とりあえずそんな感じで<なにが
110名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 12:53:51 ID:Cot4FKiL0
CC氏GJ!!!!!!!!!!
乙です。
111名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 14:01:01 ID:OF/cIUPRO
かっ、勘違いしないでよ!別にに乙なんて思ってないんだからっ!!
112名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 15:39:54 ID:GOFYOKz0O
GJ。相変わらずしーしーしーの作品を読んだ後は心地よい鬱になるなあ。
113名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 21:05:26 ID:zB1LKiVZ0
>>112
心地よい鬱ワロタw
でも当てはまるなぁ〜、しーしーしGJ!
114名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 21:12:28 ID:XOX+4c/D0
GJ!!!!
マグナのツンデレ→シェラの成長→リィナのバトル。CC全開だw
・・・・・・・と、少しずつ変化を見せるヴァイスもGJ!

モチベ保つのは大変だと思うけど気長に待ってるので、自分のペースでお願いしますノシ
115名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 23:13:27 ID:4sDdYOCTO
しーしーし乙!!
次もwktkしながら待ってるぜ!!
116名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/13(土) 23:39:34 ID:LCG8CI+Y0
>>CC氏
乙であります!
泣きますた。・゚・(つд`)・゚・。
117名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/14(日) 00:06:09 ID:4RBeCJbo0
CCさんGJ!!
マグナのツンデレ最高!! シェラ頑張れ!! 氏ねストラボ!!
とにかく最高です
118名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/14(日) 01:35:33 ID:SVoaq3dp0
CCCGJです。
ヴァイスとシェラガンバレ。
119CC ◆GxR634B49A :2007/01/14(日) 02:23:48 ID:MoJHw9pC0
心地よい鬱ワロタw

今回、全然反応なかったらどうしよう、とか思ってたので、
レスしてくださった皆様、ホントにありがとうございました・゚・(ノД`)・゚・。
>>116,117,118 のように感じてくださった方もいて、ほっとしましたw
お陰様でモチベも保てますとも! >>114
乙やGJや感想がエサですので、この後読んだ方も、
もしお気が向いたら、引き続きエサを与えてやってくださいw

私も書いてて「どう考えても、ここまでで一番成長してんのってシェラだな」
と思いますた。さすが最年少ですね。
ヴァイスは >>114 さんの仰る通り、書き手としても意外な変化を見せてますが、
全然成長してねーw
まぁ、そういう人なんですが。一番年寄りだし。
登場人物の描写は、私が頭の中で考えるというより、
彼らの言動を文字に落とし込んでるという感覚が強いですが、
年齢的なものがいちおうちゃんと反映されてるみたいなので、
よかったなぁ、と思いました。なんだこれw

とにかく、どこかでやんなきゃと思ってたシェラの話ができてよかったです。。。
ホントは、今回アッサラーム到着まで行く予定だったんですけどね(^^ゞ
当初、予定に無かったエルフの話の分も後ろにずれ込んでるので、
中盤のクライマックスは、20話台の中盤になりそうだなぁ。。。
120名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/14(日) 07:50:00 ID:054qoUgrO
mixiでここのコミュを探したがなかったから遊びに来た。

もう1年経つのか。。。
121CC ◆GxR634B49A :2007/01/14(日) 15:45:35 ID:MoJHw9pC0
ヤバい、この先の攻略チャート、ちょっと勘違いしてたw
考え直さな。。。
122CC ◆GxR634B49A :2007/01/15(月) 13:30:46 ID:csHfF6aB0
普通に保守
123名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/16(火) 02:15:47 ID:BmCgnLOTO
保守
作者の皆さん、いつも良い作品をありがとう!
これからも、楽しみに待ってるよ
124名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/16(火) 02:52:33 ID:xGz0YnxE0
>>123
そろそろ君の出番だ
125CC ◆GxR634B49A :2007/01/16(火) 08:03:11 ID:jCNraLPX0
コンタクトしたまま寝ちゃった( ´・ω⊂ヽ゛
126名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/16(火) 15:51:44 ID:9mVUV8S9O
コンタクトより眼鏡のほうが寝るとき便利だよね
127名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/16(火) 22:10:10 ID:lbJCd0780
萌えレベルも上がるよ
128CC ◆GxR634B49A :2007/01/16(火) 23:15:03 ID:jCNraLPX0
うん、家では眼鏡が多いんですけど、度が強いので外ではちょっと恥ずかしくて保守
まだ保守の必要ないけどw
129CC ◆GxR634B49A :2007/01/17(水) 23:33:07 ID:pDexFWjF0
うぐぅ保守
130名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/17(水) 23:54:49 ID:WXnDezAY0
気持ちの支援
131名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/18(木) 17:24:40 ID:ZH7LqDUz0
4円
132CC ◆GxR634B49A :2007/01/18(木) 23:58:21 ID:Rl2xP1+50
お陰様で、ちょっと進んだよ〜ヽ(´ー`)ノ保守
133CC ◆GxR634B49A :2007/01/19(金) 10:06:44 ID:lbrds+Ae0
電源断キター。無事復帰w
134名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/19(金) 10:40:50 ID:MdWZWtJkO
おはよ。おなかすいた。
135名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/20(土) 00:54:45 ID:AqS2SE3DO
仕事中だが、保守しておこう
136名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/20(土) 02:17:04 ID:7a9S0N800
なんと追いついた!

たまたま数日前にこのスレを見つけまとめサイトから読み始めたが、
YUNA氏の最終回前に追いつけるとは思わなかったよ。
過去スレで感想書いてる人たちを羨ましく思っていた。
心待ちにさせてもらうぜ!

CC氏スマンまだ読んでないw
スレ住人の感想を飛ばし読みしただけで、良作なのは十分推察できたが、
先にYUNA氏の方を読み終わってからと思って読むの我慢してた。
明日まとめサイトの方へおじゃまさせてもらうぜ!

執筆係氏はフカーツしないのかな?
このスレにガッツリ食いついたのは執筆係氏のおかげなのに。
とにかくこのスレサイコー!




・・・てそんなこと思うわけないじゃない!勘違いしないでよね!
137名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/20(土) 03:23:11 ID:ZFlbZJ1S0
>>136
YUNAじゃなくて、YANA、だな
138CC ◆GxR634B49A :2007/01/20(土) 06:29:03 ID:2r/Qcecf0
またコンタクトしたまま寝ちゃった( ´・ω⊂ヽ゛
一週間て、恐ろしくあっという間だわ。。。

>>136
私の長いので、もしお気に召しましたらのんびりお読みください。
まだ当分完結しないのでw
139名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/20(土) 20:21:45 ID:a7NeitkC0
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/21(日) 01:13:45 ID:/czrR5if0
今日もほしゅ・・・

べ・・・別に、毎日みてるわけじゃないからね!!
ちょうど暇だっただけなんだから






その・・・待ってるから
141CC ◆GxR634B49A :2007/01/21(日) 02:39:47 ID:Fw2MGyDN0
ホントはそろそろ投下したかったんですが〜
進んではいるけど文章が乗ってこない感じで、もうちょいかかりそう。。。
ごめんよぅ・゚・(つД`)・゚・
つか、なんか腰が痛いw
142名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/21(日) 10:59:12 ID:cb6752kB0
前スレのdatをぎぶみー…orz
143見切:2007/01/21(日) 12:38:10 ID:uEODtw6k0
>>142
ttp://up2.viploader.net/mini/src/viploader102692.zip.html

あと一週間。もー泣きそーorz
144136:2007/01/21(日) 19:14:05 ID:oq4ylXzL0
CC氏読ませてもらいました〜
なんと言いますかね・・・

想 像 以 上 に 良 い !!

3人娘全部萌える。
でもツンデレスレだというのに、特にシェラに一番萌える。
もうついててもいい!ウホっ!




はっ・・・?か、勘違いしないでよね!
あたしはノンケでも平気で食っちまうような男じゃないんだから!
145CC ◆GxR634B49A :2007/01/21(日) 20:13:33 ID:Fw2MGyDN0
>>144
読んで下さってありがとうです〜ヽ(´ー`)ノ
楽しんでいただけたみたいで、よかったです。
このコはあんま好きな人いないかなぁ、と思ってたので、
シェラを気に入ってもらえたのも嬉しー。
いや、ウホッ、とか言いませんよ?w
よろしければ、今後ともお付き合いくださいませ。

よーし、この嬉しさを活かして、パパ頑張って進めちゃうぞー
146名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/21(日) 20:30:23 ID:szF/ZfoX0
そういえば最近ツンデレっぽくないな。
マグナですらも。

はっ?!ストラボがツンデレ?!
147名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/21(日) 21:12:55 ID:+Tgvo1nXO
何言ってんだツンデレエナジーを溜めて一気に放出するんじゃないか。
148名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/21(日) 21:40:45 ID:U0lQoA/f0
CCのツンデレ比率は9:1です。
つんつんつんつんつんつんデレつんつんつん…
149CC ◆GxR634B49A :2007/01/21(日) 21:58:35 ID:Fw2MGyDN0
えっ、前回のマグナは割りとツンデレっぽかったと思ってたんですがw
マズい、次回はもっとツンにするか。。。って、今さら直さねーw

ツン9の方が、今はまだいいかにゃ〜。
でも、いつまでもツンツンしてらんないので、ぼちぼち。。。いやなんでもないやw
150CC ◆GxR634B49A :2007/01/21(日) 22:02:16 ID:Fw2MGyDN0
>>147
これは、ある意味そーかも。ツンデレかどうかはともかく
151名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/21(日) 22:12:42 ID:yHBCooLF0
見ていて反吐ブチ吐きそうになる悪役を描けるって非常にすごい。
感動した!そして尊敬しおぼろろろろろろ
152名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/21(日) 22:41:37 ID:he0nxYnd0
>>151
もちつけ
そして期待しつつ待機
153CC ◆GxR634B49A :2007/01/21(日) 23:15:23 ID:Fw2MGyDN0
それが、ちょっといきってるだけの普通の小僧とゆーのがミソでして。

全然関係無いけど、作者以外は誰も気にしていない副題のネタが尽きてきますたw
重要の回のは決まってるんだけどな。。。まぁ、次回は適当でいいかー
154名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/22(月) 08:42:58 ID:uplRErsl0
ヴァイス君がツンデレなんだと思ってました^^
155名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/22(月) 17:02:22 ID:IWlSff6G0
ところで少し前に言ってたわかりやすい何かってなんだったの?
156CC ◆GxR634B49A :2007/01/22(月) 18:20:32 ID:haLzLgfe0
じゃあ、それでw >>154

>>155
大したことではないので、その件はしばらくスルーしていただければと(^^ゞ
いや、もったいぶってる訳じゃないんですが、先の展開に多少関わるので。
すみません、ヘンなこと言ってしまって。

う〜ん、今日の投下は無理っぽいかな。。。
明日は用事で潰れちゃうので、二、三日中にはなんとか〜
157名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/22(月) 20:23:40 ID:IWlSff6G0
了解です
158名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/22(月) 23:24:54 ID:g0dNIVbg0
CC氏ネタバレ(嘘
 ゾ ー マ 様 が ツ ン デ レ
「べ、別に大魔王だから勇者に来てもらわないと困るからで、
 あんたに会いたいからやる気の無い勇者をわざわざバラモス作って
 ついでにアレフガルド支配してまで誘い込んだわけじゃないんだからねっ!」
159CC ◆GxR634B49A :2007/01/23(火) 09:43:08 ID:yBptsTcD0
バレたw
160名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/23(火) 13:45:01 ID:rBau2ijq0
CC氏ネタバレその2(嘘)

ゾーマに勝つ
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/23(火) 15:32:07 ID:RlsVaESe0
CC氏ネタバレその3(嘘

ラーミアが復活する
162CC ◆GxR634B49A :2007/01/23(火) 15:38:03 ID:yBptsTcD0
バラしまくりwww
163名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/23(火) 17:05:45 ID:UiPGujsXO
しーしーしーネタバレ(嘘)


変化の杖のじいさんがツンデレおにゃのこに。
164名前が無い@ただの魔物のようだ :2007/01/23(火) 19:23:49 ID:40zzHPUu0
>>136
そういや最近YANA氏来てないよなぁ
でも俺は待ってるぜ、続編が投下されるまで…ずっと
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/24(水) 03:00:35 ID:WLiVxaBY0
YANA氏にはこれからゾーマ倒したあと神龍編やって、それから2も書いてもらわなきゃならないからな

気長に待ってるからがんばれ
166YANA:2007/01/24(水) 19:05:47 ID:fYKI7eKB0
皆さん、あけましt(死ね

あいあい、随分留守にして申しわけねぇです。
去年といい、どうやら俺は一月は無駄に身動き取れないようです。正月ボケか。
いや、スレ覗くだけは覗いてたんですが、書き手が大した用もないのに書き込んで
スレの容量を圧迫して、無闇にてめぇの首絞めるのは自分の信条に悖るので。
長いこと不在だった分際で手ぶらで来るなんてのは更に論外で、ずるずると執筆が難航すればするほど来づらくなりました。

さて。

そんなわけで大変長らくお待たせしましたんだぜ?
漸く完成の目処が立ったので、予告に来ました。

最終投下は、1/26 22:00 より開始します。
仮に何かのハプニングで執筆が遅れても、一週間以内には間違いなく完成します。
予告より遅れる場合は、最悪でも二時間前には告知に来ます。

それにしても執筆にかけた時間が本編三ヶ月、最終章十ヶ月というのはどんだけイカレた期間配分なのか。
自分がどれほど三人称文体苦手かということを思い知らされる一年間でした。

では、また後ほど。ノシ
167名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/24(水) 20:15:41 ID:OszsaE4oO
無知ですみませんがYANA氏のスレのタイトルってなんですか?
168名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/25(木) 00:02:46 ID:beP/Zn0eO
予告キタ━━(゚∀゚)━━!!
待ってるよYANA氏
169CC ◆GxR634B49A :2007/01/25(木) 01:57:29 ID:HQ+Dk8ja0
>>167
このスレですよ?w

YANA氏、おかえりなさ〜いヽ(´ー`)ノ

な、なによ、みんなをさんざん待たせて。。。
投下でもなんでも、さっさとすればいいでしょっ!?
ち、違うんだから!!
「しめしめ、これで投下を数日遅らせられるわい」
とか、思ってないんだからねっ!?
その間にちゃんと書き溜めて、次々回はなるべく早く投下できるようにって。。。
。。。ごめんなさい。大した用もないのに書き込んだりして。

いや、シャレですがw
そいでは、わたしゃしばらく地下に潜伏しますね〜ノシ
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/25(木) 02:01:15 ID:0s69fsJZ0
いよいよか・・・
期待してますb

171名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/25(木) 07:22:46 ID:c+2F9QMB0
そしてその後は俺の出番か…
172名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/25(木) 09:23:06 ID:arXH4TLoO
>>168
新参なものですみません(´・ω・`)ありがとうございます。
173見切り現実逃避:2007/01/25(木) 22:28:41 ID:l4yxf0Dq0
>>171
是非是非。wktkして待ってます。
174名前が無い@ただの翁のようだ :2007/01/25(木) 22:39:21 ID:F8QtFzFQ0
>>166
YANA氏…ですかな?
どうやら、わしは長い時を待ちすぎたせいか何も見えなくなってしまったようですぢゃ。
しかし、見えずとも声でわかりますわい。
その威勢の良い声はまさしくYANA氏のもの。
待っておりましたぞYANA氏!
175名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/26(金) 05:21:51 ID:uCHDN3lj0
そういえば最近見切り氏を見かけないが
執筆中の見切り氏をヒンヌー嫁が目撃→「あなたは私の胸に何か不満でもあるの!?」と激怒→折檻
のようなことになってはいないだろうか。心配だ。
176名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/26(金) 06:01:23 ID:ofjtQ4Yb0
いいパスだ
177名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/26(金) 19:46:43 ID:0pwOToW1O
Mの見切氏には願ったり叶ったりだな。
178YANA 93-1:2007/01/26(金) 22:00:18 ID:VrnUiaoZ0


 ―――――――――ズシンッ


 …ゾーマの巨体が、石の壁へと叩きつけられる。
 ゴドーが呪文を唱え、右の掌が発光するや否や、大魔王の体躯は後方へと、水平に吹き飛ばされた。
 胸部の装飾には円形の穴が開き、その皮膚はブスブスと焦げ付いたようにやや黒ずんでいる。
「ぐ…」
「は、あ」
 壁のひび割れから頭だけを傾ぎ、呻き声を搾り出すゾーマ。
 それに向かい、ゴドーは肺に送り込んだ大気を、外部へと放出する。

「終わりにしよう。ゾーマ」

 かつん。一歩、足元から髪の先に至るまで気合を叩き込み、踏み出す。

「目当ては俺を殺すこと、だったな―――結構じゃないか。止めやしねぇ、全力で殺しに来い」

 かつん。…二歩目。
 左手の盾が、重い。気を抜けば、左腕がだらりと滑稽に垂れ下がったまま、動かすのを忘れてしまいそうだ。

「だが、俺にも目的が…叶えたい望みがある。俺も、お前と同じように。死に物狂いでそれを成し遂げる」

 ゴドーの脳裏に、約束を交わし、共に生還を誓い合った仲間の顔が。
 長い旅で出会った、数々の友たちが次々と蘇ってくる。

「絶望に伏した人たちを目覚めさせ、歩き出すことを教える。…それはもう、叶えられた。けど」

 俺は、やはり餓鬼っぽいところがあるらしい。
 これここに至って、俺の闘争心が、この戦いの締め括りを他者に譲るなと訴えている。
179YANA 93-2:2007/01/26(金) 22:00:57 ID:VrnUiaoZ0

「…さっきは期待させて、悪かったな。俺はやっぱり、お前に負けたくないらしい。
 ケリはどうしても、自分の手でつけてやりたいみたいだ」

 大丈夫。まだ俺は、戦える。
 アリスは………駄目か。でも、ありがとう。よくここまで戦ってくれた。
 思えばお前には、心配させっぱなしだったな。すまん。
 これで最後にするから。俺の無茶を見るのは、これで終わりだから。
 文句はあとでたっぷり頼む。だから今は、勝利を、信じてくれ。
 
「…仕上げだ、ゾーマ。後は勝ち取るだけだ…お前を倒して――――――!」 




                  最終節 「この世界に夜明けを、人々に始まりを」




「ぐ、ふ…!」
 がらんっ。ゾーマは力み、全身を、めり込んだ石壁から引きずり出す。
 そして目もくれず、胸の傷跡に神経をやり、思案する。

(闇の衣が消えている…あれは、この大地の力を闇に染め上げて編み上げたモノ。
 人間どもが奮起したところで、その性能には無関係なはず―――)
180YANA 93-3:2007/01/26(金) 22:01:40 ID:VrnUiaoZ0

 ――――――闇の衣。
 ゾーマが纏い、自身に降り注ぐ外部からのあらゆる魔力を遮断し霧散させる、大魔王だけが有する唯一無二の暗黒の障壁。
 アリスのメラゾーマや、王者の剣の一撃を無効化したそれが健在であれば、ゴドーの弱った魔力など、たちどころに弾き返す筈。
 だが、それが起こらない。彼の青き右手は、苦もなく大魔王の肉へと届き、その体を溶かし、焼き焦がした。 

(奴のとりだした玉の光の影響か。ただの合図や、はったりではなかったということか………面白い!!)

「よくぞ――――――人の身のままで、よくぞ、ここまで辿り着いた…!」
 ゾーマの口端がぐぐぐっ、と、かつてないほど吊り上がり、おぞましい笑みを形作る。

 …狂おしいほどの、歓喜。
 凡百の虫けら、人間どもの力なぞ我に遠く及ばぬ――――――だが、認めざるを得まい。
 貴様のその頑なな意地が。人間として戦うという意志が、かつてないほどに我を追い詰めたという事実だけは…!

「過程はどうであれ。貴様は我にとって『敵』と成り得た。なれば我は―――貴様を叩き伏せ、咀嚼するのみだ」

 幾百年の策謀も、最早何一つとて意味を成さぬ。
 貴様は目覚めを拒み、あくまでも脆弱な人間であることを選んだ。
 我が求めた怨敵は貴様ではないが――――――今はただ、貴様だけが憎い。憎くて堪らぬ。
 だが、その憎しみが、例えようもないほど心地よい。
 貴様だけが。貴様の死だけが、この身の猛りを静めてくれる存在だと、我が本能が告げる。


   「往くぞ、ゴドー。――――――今こそ、我が腕の中で息絶えるがよい――――――!!」
   「上等だ――――――残ったその片腕ごと、薙ぎ払ってやる――――――!!」


 スゥゥゥッッ
181YANA 93-4:2007/01/26(金) 22:02:13 ID:VrnUiaoZ0
 ゾーマは左腕を引き、口内に隙間なく居並ぶ歯の合間を広げ、大気を吸い込む。
 それは、極寒の吹雪が放たれる前触れ。だが、

「あああああァァァァァァァッッッ!!!」

 絶叫。一瞬の迷いもなく、ゴドーはゾーマへと疾走し、間合いを縮める。
 激痛の走る全身に、鞭を打つことすら放棄し。走らねば死ぬという、本能への強迫により、彼の体は思考を超えて弾けた。

「ふんっ…!」

 突き出される、ゴドーの右腕を紙一重で躱わす。
 ゾーマの予想より、彼の反応は遥かに素早いものだった。
 だが、冷静さを取り戻した大魔王にとって、それは余りに凡庸で、芸も捻りもない動きだった。
「死ね…!!」
 轟音を上げ、ゾーマの左腕の爪が未だ直下にいるゴドーの頭部へと振り下ろされる。
 間違いない必殺の一撃。その魔爪は、寸分の誤差もなく、彼の急所へと直進する、が――――――

    ガキンッッ

「ぬぅっ?!」
「…!」
 再び、先ほどのように叩き落される。
 頭を深く、詫びるように勢いよく振り下ろして体勢を変え、反転した勢いで、左手の盾を側面からゾーマの腕に叩きつける。
 大魔王の爪は空を切り、彼の頭を素通りする、と。

    ブシュゥゥゥッ
182YANA 93-5:2007/01/26(金) 22:03:02 ID:VrnUiaoZ0
「ぐ…」
 懐に飛び込んだゴドーが、広げた右掌をゾーマの腹部へと打ちつける。
 青き光は白煙を上げ、歪な音を立てて闇の源を焦がしてゆく。
 …ゾーマは、ゴドーの掌から流れ込んでくる生命の息吹の衝撃に吹き飛ばされまいと、息み踏み止まる。
「はあ…っ!!」
「くふっ…!!」
 両者とも、甚大な肉体の損傷に、血液混じりの呻きを漏らす。
 ぴちゃり、と、赤と紫、二色の体液がタイルへと滴り落ちる。

 …片や、全身に激痛を抱え、利き腕の筋は損耗し動かなくなるのを待つのみの体の勇者。
 片や、力の供給を断たれ弱体化し、右腕を消滅せられた大魔王。
 その戦いは、凡そ光と闇の象徴同士の決戦とは思えないほどに、荘厳さも、神々しさも宿さぬ、醜く泥に塗れたものに見えた。
 まるで、獣の喧嘩。互いに数少ない攻め手を、ただ打ち込み、ただ防ぎ躱すのみ。

 だが――――――それは、地を這い蹲って足掻く人間たちのこの戦いを、象徴しているようだった。

「――――――ッッ!!」
「………………ッッッ!」

 二人は、最早声にさえならない絶叫を上げ、三度、激突を始めた。
183YANA 93-6:2007/01/26(金) 22:05:41 ID:VrnUiaoZ0
 ・ ・ ・

「………」

 アリスの視界の彼方で、二人の最後の死闘が始まる。
 …それを見つめ、彼女は言いようのない不安を覚える。

 何故?残っている力こそゾーマの方が上だけれど。代わりに奴は、右腕を完全に失っている。
 条件はそれほど不利ではない。だというのに。


 ――――――何故、あいつの負ける光景しか、想像できないのだろう。


     ワアアアアアアアァァァァァァッ………

「…!」
 と。実態の掴めぬ焦燥に駆られるアリスの目に、ソレが飛び込んでくる。
 玉座の上方に映し出され、彼方の地で未だ終わりの見えぬ魔物の軍勢を相手に戦う、友と、この大地の人々の顔。
 その姿の――――――何と、光り輝いていることか。

「は――――――」
 そうして、アリスは悟る。

 あいつの勝利を想像できない――――――?
 当然だ。出来るはずがない。
 だって、そもそも、この戦いは――――――ゴドーが挑んだ、この勝負は。
 今この地に生きる全ての人間が、自分たちの勝利を信じ、恐れず、立ち上がり、挑まねば一分の勝算さえありえない。
184YANA 93-7:2007/01/26(金) 22:06:32 ID:VrnUiaoZ0


 だというのに――――――私は、こんなところにへたり込んで、彼らの戦いを眺めているだけで、何をしているのか?


 …なんて、皮肉。
 私が、このアレフガルドに来て最初にここの人々に吐いた言葉が。
 今の私には、他のどんな言葉よりもお似合いではないか。

 あれほど軽蔑し、侮辱したアレフガルドの人々が、今はあんなにも希望に思いを馳せて戦っているというのに。
 私だけが、未だゾーマの力に圧倒され、立ち上がれないでいる。

 情けない。情けない、情けない、情けない、情けない―――!
 これが、あいつの。勇者ゴドーのパートナーの有様か。
 どんなときでも諦めず、静かに不屈の闘志を燃やす愛する人の相棒が―――こんな様で許されるはずがない…!

「っ!」
 アリスは、目が覚めたように四肢に力を込め、立ち上がろうとする。だが。
「…!?」
 腕と、足の反応が、鈍い。
 痺れ、感覚は磨耗し、思ったとおりに動いてくれない。

 ――――――ああ、そういえば。
 さっきから痛みをあまり感じなかったけれど、そういうことか。
 気づけてよかった。危うく、二度と取り返しの付かない一線を越えてしまう所だった。

「…ゴドー、ごめんね。あたし、あんたの一番近くにいたのに、目を覚ますのが一番最後になっちゃったね」
 ふふ、と自嘲気味に微笑みながら。彼女は徐に、腰に差した短剣を抜き取った。

(ああ、きっと、凄く痛いんだろうなぁ…)
185YANA 93-8:2007/01/26(金) 22:07:49 ID:VrnUiaoZ0
 先ほど投影された戦いの中での、アルムの行為を思い出す。
 …恐怖に竦む己が体を、痛みによって奮い立たせる。
 だが、今のアリスの体を縛るのは恐怖だけではない。
 彼女の肉体は、全身の激しい損傷により、覚めない眠りに付こうとしている。

(この、寝ぼすけ…根性叩きなおしてやるわ…!)


 だから、彼女は。アルムのそれを超え、自身が考えうる最も痛み≠伴う箇所に、短剣を突き立てた。


 ―――――――――グシュッ



「あ――――――は―――!!」
 じゅるり、と血が滲む。
 刃の先端は、レザーの手袋の上から。彼女の左手の中指、その爪と肉との間に差し込まれた。
 瞬く間に激痛は全身を駆け巡り、アリスは泣き喚きそうになる体を抑え込み、悶える。
 そして同時に、彼女に生の実感が立ち戻ってくる。

 これでまだ――――――戦える、と…!

「っ…痛いでしょ。バカアリス。でもね…!」

 あいつは――――――もっと痛いのよ――――――!!

    ………!!
    ッッ!!!
186YANA 93-9:2007/01/26(金) 22:08:23 ID:VrnUiaoZ0
「のっ…!」
 果てない攻防を繰り返す二人をキッ、と睨む。
(あたしだけ蚊帳の外で騒いじゃって。…見てなさい、絶対、後悔させてやるんだからっ)
 ゆっくりと、四肢に力を込めて熱を入れなおす。
「く」
 立ち上がっても、歩く、とはお世辞にもいえない、ずりずりと足と体を引きずるたどたどしい運動しか出来ない。
 少しばかり刺激が強すぎたか、と思案するが、もう後戻りは効かない。現状の戦力で戦うのみ。
 とはいっても。
(今更あたしがあそこに行っても、ゴドーの足手まといになるだけ。…となると)
 幸いにして、ゾーマは自分に気づいていない。というより、そもそも眼中にない。
 攻撃を行うなら、これ以上のチャンスはない。
 …そしてどういうからくりか分からないが、ゴドーが光の玉を掲げ、奴に呪文が通用するようになったようだ。

 ならば、手段はたった一つ。
 ――――――遠距離から、最大出力の一撃を狙い撃ちで叩き込む。だが…。

(今の私に、出来るの?…この、痛みに震える手と、数メートル先にも霞がかかる目で)

 このままではおそらく、狙えないし、当たらない。
 けれども、やるしかない。他に手段が、何もないのだから――――――。

「…あ、れ?」
187YANA 93-10:2007/01/26(金) 22:09:18 ID:VrnUiaoZ0
 だが。その、今僅か先のものすら捉えられなくなったはずの彼女の目に。
 何故だかそれ≠ヘ、尚もはっきりと、その存在を誇示していた。
「そっか―――そうだよね。あなたも、最後まで、戦いたいんだ」
 ずり、ずり。…覚束無い足取りで、それに歩み寄る。
 アリスは微笑み、滴る汗を拭おうともせず、拾い上げる、が。
「っぐ!」
 からん。…彼女の手から、ずるりと抜け落ち、乾いた音を鳴らす。
「…ごめん、ね。あたしなんかじゃ、あなたを上手く使えない。わかってる、けど」
 それでも。諦めるわけにはいかない。
 現状がどうあれ、彼女は立ち上がり、再び戦うことを決意した。
 ならば、もう一度力尽きるまで。その体も、目も、耳も、何もかもが動かなくなるまで。
 彼女が地に膝を着く事など、有り得ない…!
「今だけは、ただ、アイツを感じて。あたしの目になって。お願い…!」
 ギリッ。
 今度こそ、それは彼女の手に、落とされることなく収まった。
「…あそこがいい」
 一時の相棒を得て、アリスは最も攻撃に適した位置を探し、辺りを見回す。
 遠くからの狙撃。…位置は、高い場所がいい。他に、目標との間に遮蔽物がなければ尚いい。
 この玉座の間でその条件を満たす場所は、ただ一つ。…今の彼女の状態で行くには、些か遠いが。

 彼女は僅かの逡巡もせず、そこへと歩を進め始めた。
188YANA 93-11:2007/01/26(金) 22:10:12 ID:VrnUiaoZ0
 ・ ・ ・

    ギイイイイィィィンッッッ

「っ―――!」
 十二合目も、凌がれる。
 この至近距離だというのに。何度打ち込もうと、ゴドーの肉に掠りもしない。
「…ぁぁアアアっ!」
「ぐ!」
 また、胸部へとゴドーの右手が打ちつけられる。
 ゾーマの服飾はところどころに穴が開き、その肉は黒ずみ、爛れている。

 …腹部に三。胸部に五。左脇と右腕の断面に一ずつ。そして、左腕の左右の側面に二。
 ゴドーは一度の例外もなく、ゾーマの攻撃を打ち払い、寸分の誤差もなくその隙を狙い撃ちしてくる。
 病的なまでに繰り返されるその攻撃は、彼が、どこに打ち込めば最も強い打撃となるかを探っているようだった。
(無駄だ、ゴドー…!そんな攻撃では、我に止めを刺すことなど、出来ぬ!)
 ゾーマはぎり、と余裕なく歯軋りしながら、内心でゴドーを窘める。

 ――――――真実、ゾーマの分析は確かだった。 
 ゴドーの攻撃は、例えるなら巨岩に酸を浴びせるような行為だ。
 表面や、崩れかかった部位を破壊することは出来るが、その余りに規模が大きすぎる本体の中核を崩すには至り得ない。
 ゾーマが如何に片腕というハンデを抱えようと、決定打を欠くゴドーには勝ちの目はないのである。

    ギン、ドスンッッッ

「…ッ!!」
 十三合目を地面に打ち落とされ、今度は脇腹を焼かれる。
189YANA 93-12:2007/01/26(金) 22:11:01 ID:VrnUiaoZ0

 ――――――だが、決定打を欠くのはゾーマも同じだった。
 自分の爪は、ゴドーには届かない。何度放とうと、届く気がしない。
 彼の冷たく、熱い眼光が語る。もう慣れた=\―――――と。
 それでも尚、攻撃をやめ、守りに回るわけにはいかない。
 何故なら、ゾーマの力も既に――――――人々の絶望の克服により、徐々に衰弱していっているのだから。
 絶望の力の加護を完全に失い、戦いで消耗した自分であれば、ゴドーのあの右腕に貫かれないとも限らない。
 ならば、少しでも攻撃の手を緩めず、ゴドーが消耗し、自壊するのを待つのみである。

 ゴドーが力尽き、倒れるのが先か。ゾーマの貯蔵する負の力が枯渇するのが先か。
 これは、そう―――初めから互いの決め手を欠き、最後まで涸れずに立っていた者だけが勝者となる、力の削りあいなのである。

「が…っ!!」
 黒く変色した焦げ痕に、初めてゴドーの二撃目の右手が抉りこまれる。
 爛れた皮膚に深くめり込む掌が、包み込む肉を溶かしながらずるり、と抜き取られる。
「は…!」

 ズンッッ

 瞬時に反撃するゾーマの左手を、感覚だけで察知して反転し、大きく振り上げた左足で先端を踏みつけ、地面へと叩き落す。
「ぬ…!?」

 ――――――だが。
 ここに、一つの理不尽が起こっている。
 恐らくは、実際に拳を交えているゾーマしか気づかないだろう。その不条理―――

(――――――解せん…!何故だ。何故、この期に及んで――――――!)
190YANA 93-13:2007/01/26(金) 22:11:58 ID:VrnUiaoZ0

 ゴドーの勢いが、増す一方なのか―――と。
 
 単純な運動のスピードだけではない。反応の速度も。攻撃の対処から反撃に転じるまでの間も。
 『慣れ』の一言でどうこう出来る次元を超越し、際限なく上昇してきている。
 彼に残る体力は間違いなく減少する一途である。それは、断言できよう。
 だが、まるでそれを引き換えにするかのごとく。彼の動きは、烈火を極めてゆく。

 それはさながら――――――力強く躍動する孤狼の如く。

 ………呪うべきは、ゾーマ自身の不運か。
 今までゾーマが―――否、彼と戦った全ての相手が見てきた勇者ゴドーの力は、真実、彼の本当の力ではなかった。
 それはゴドーが手を抜いていた、という意味ではない。
 誰がなんと言おうと、それこそ彼自身による保証をすら誓ってもいいほどに、彼は本気だった。
 勇者ゴドーという男は、手を抜いていたのではない。束縛されていた≠フである。

 他の何物でもない。彼が民草の期待に応え、そうあろうと心がけた―――勇者、という名の枷に。

 …強くなる者には、大きく二種類がある。
 一つは、何かを守ることで強くなる者。
 弱き者を、仲間を、友を守るという志の下に、他者の命を背負うことで、不屈の闘志を宿す、英雄の如き存在。

 もう一つは、守りをやめることで強くなる者。
 そもそもから、自己も他者も、守るという行為が重荷でしかない、強い野性を持つ獣の如き存在。
 守ることを非、とするのではない。その強すぎる攻撃性が故に、性質から既に、守るという行為が不得手なのである。
191YANA 93-14:2007/01/26(金) 22:12:41 ID:VrnUiaoZ0

 ――――――皮肉にも。ゴドーの天性は、どうしようもないほどに後者であった。
 世界中の人々が求めた理想の英雄。
 鋼の勇者たらんとした彼は、世界≠ニいう枷を背負うことで、知らず、己が本質を歪めていた。
 自分が死ねば、世界は滅ぶ。多くの人が死ぬ、と。
 ゴドー自身気づかぬまま、彼は戦いの中で、常に無意識に二の足を踏んでいた。
 アリスが無茶だ馬鹿だと称する彼の戦いぶりでさえ、本来のゴドーにとっては全力ではなかった≠フだ。

 …しかしながら、最も滑稽な皮肉は。
 彼の全てを知るアリスも。
 戦いの師であるライナーも。
 ゴドー本人でさえもここに至るまで、誰もその事実に気づかなかったということである。

 だって、そもそも――――――彼はかつて一度、自分は守りながら戦うことは無理だと悟っていたのだから=\――。

 ――――――ギイイイイィィィンッ。

「ゴ…ドォォォッ!!」
 遂に、二十合目。
 ゾーマは潰れかかった喉で、呪詛の声を絞り出す。

 …そうして、今。彼は全ての枷から解き放たれた。
 弱々しく、ただ救いに縋るだけだった人々は立ち上がり、目の前の脅威へと敢然と挑みかかっている。
 もう、後ろを気にすることはない。
 彼らであれば、自分が死んでも大丈夫。ちゃんと、全てを終わらせ、始めてくれる。
 だから、今一度、自分は取り戻そう。抑え付けていた野性を。限りなく猛る闘争心を。

 そして、その全てを、奴を倒す≠ニいうただ一点に注ぎ込む――――――!!
192YANA 93-15:2007/01/26(金) 22:13:29 ID:VrnUiaoZ0
「…ッッッ!!」 
 無言で、だが確かに、何かを叫ぶような形相で、咆哮を上げるゴドー。

 …彼が枷から解き放たれ、本当の自分を取り戻すには、途轍もない回り道を巡ってしまった。
 だが、それは通らねばならない道だった。
 彼が、今もこうしてゾーマの攻撃を打ち落とすことができるのは。
 自身の本質と真逆の戦い方を、音を上げ挫折せずに絶え間なく培ってきたからこその技なのだから。

 勇者という「秩序」から解放された野性は、徐々に彼に本来の攻撃性を取り戻させる。
 人≠フ技がその身に染み付いた獣≠フ本質を持つ少年は、更なる加速をしてゆく―――!

「…っ、そう、か―――!」
 二十と、三合目。
 そして、ゾーマは漸く気づく。彼の肉体に、限界など来ないという事に。
 仮令、ゴドーの右腕が動かなくなったとしても、彼に自分の攻撃は当たらない。
 倍の負担がかかることを承知の上で、彼は左腕一本で、攻撃と防御をやってのけるだろう。
 今でこそ攻守の役割を完全に分担しているが、それさえ今に必要なくなる。
 だって彼は、打ち合うたびにこんなにも。速く、迅く、疾く――――――強くなっていく…!

 そして右腕が死に、左腕が朽ちたとしても、彼は絶対にその動きを止めはしないだろう。
 何故なら、彼は獣。絶命するその瞬間まで出来うる全力で足掻き、潔く諦めるなどという人間らしさなど持ち合わせぬ存在。

 間違うな。今、目の前にいる男は、誇り高き勇者などではない。
 汚らしく、そして何よりも美しく生命の炎を燃やす、人の姿をした一匹の孤狼。
 元々、一人で戦い抜くことしか自身を守る術を持たなかった彼にとって、生き残り戦など領分も領分。


 ――――――ああ、だから。彼に、力の削りあいで挑むなど、初めから間違っていたのだ――――――…!!

193YANA 93-16:2007/01/26(金) 22:14:25 ID:VrnUiaoZ0
「っ…!!」
 ギンッッッ。二十五合目を超えて―――否。既に、数を数えることは無意味だろう。
 ともあれ、決着の時は来た。果てなく続くかに思われた打ち合いの末に。

 最早当たらぬ魔爪の一撃を叩き落とし、ゴドーの右腕がゾーマの胸元へと肉薄する。
 赤黒く溶解され、ぶすぶすと爛れるゾーマの胸の中心は、既に彼によって三度、右腕を捻じ込まれている。
 そこが、ゴドーが見出した突破口。ゾーマの深部に向け、掘削するように、何度も掌を打ち込んだ。
 打ち抜くたびに、確実にゾーマの中へ、深く、強く、掌は収まっていった。

 そして今、とどめの四撃目を加えようと、ゴドーは最後の一撃を放ち――――――。


「――――――ちっ」

  
 突き出された右腕は、ゾーマに届くことなく、停止した。


「――――――惜しかったな。あと一歩だったものを」

 グオンッッ

 刹那。ゾーマの左腕が、雷の如く振り下ろされた。
「!!」
 ゴドーはざん、と土煙を上げ、瞬時にゾーマとの間合いを離し、魔爪から逃れる。
 …そう。避けた≠フではなく。逃げた=c。
194YANA 93-17:2007/01/26(金) 22:15:00 ID:VrnUiaoZ0
 かつて、彼は言った。
 不器用な自分は、避けるなら避ける、攻めるなら攻めるで集中しないと、戦いにすらならない―――と。
 だから、彼が自分への攻撃を避けようとし、それが成功したということは。
 彼が、攻めることをやめた≠ニいう事実に他ならない。

「ふん…」
 攻防の中、ゾーマは悟った。自分がゴドーに勝利する、唯一つの例を。
 彼の体力は、無尽蔵だ。自分が動けなくなろうと、彼の方は動きを緩めることは、万に一つもないだろう。
 力と体の消耗戦においては、どう足掻いたところで自分は彼に勝つことは有り得ない。


 だから――――――ゴドーが敗北するとしたら。それは、彼が攻撃手段を失ったとき―――。


 かくして、ゴドー自身が、この攻撃方法を実行する当初に危惧した事態の一つは現実のものとなった。
 右腕が動かなくなるのが先か、魔力が尽きるのが先か――――――現となったのは、後者であった。
 彼の右手は、つい先ほどまでの眩い輝きが朧な夢だったかのように、今は薄汚い血塗れた肉塊と成り果てた。
「………」
「そうだ。その目だ。やはりキサマは、素晴らしい…!」
 無言で、険しい目つきのまま。尚も闘志を絶やさずゾーマを眼光で射抜きつづけるゴドー。
 ゾーマは彼の獣のような目を見つめ、満ち足りたような冷笑を浮かべる。
「魔力が涸れ、攻める術を失い、尚もその目を濁らせぬ。
 そうでなければ、我が数百年を引き換えにした甲斐というものがない」
 …数メートルの間合いを、離すことも詰めることもせず両者は睨み合う。
 攻める一方であったゴドーの動きが完全に手詰まりとなったと見て、ゾーマは目を細め、問う。
「どうした。切り札は、もう使い尽くしたか?」
「…そうだな。俺一人だけじゃ、ここら辺が限界らしい」
195YANA 93-18:2007/01/26(金) 22:15:47 ID:VrnUiaoZ0
 目線を微動だにさせず、ゴドーは暫くぶりに人の言葉を発する。
「ククッ」
 それを認め、ゾーマは首を傾け、愉悦に満ちた笑い声を漏らす。
 嘘をつくな。それが、限界を迎えたという人間の目か、と。
 ゾーマはまだ、彼が何かを隠していると結論し、徐に左腕を掲げた。
「…!」
 ゴドーの眼差しが僅か、怪訝そうなものへと変わる。
 意識を向ければ、ゾーマの左腕へと、魔力が充填されてゆくのが全身で感じとれる。
 衰弱したとはいえ、死に体の人間一人を殺滅するのなら十分に過ぎる威力。
 それが放たれれば、恐らくは―――、
「キサマが何を企んでいるかは知らぬ。
 だが―――キサマの人間としての意地とやらを見縊ったせいで、この状況に至った。それを、再び侮るわけにはいかぬ」
 バキ、バキバキ―――。
 世界が、寒気がするほどの深く、濃い青に侵食されてゆく。
 ゾーマは涸れかかった自身の魔力を補おうと、アレフガルドの基盤から力を掻き集めてゆく。
 …元より、炎や氷の呪文は自然界の延長。自身の闇の魔力に変換するには時間がかかるが、呪文の源とするだけならば容易い。
196YANA 93-19:2007/01/26(金) 22:16:58 ID:VrnUiaoZ0
「この一撃で、キサマは氷塊となって砕け散る。
 安心しろ、最早痛めつけようとも思わん。一瞬で終わる」
「………」
 僅かでも動けば、ゾーマは容赦なく魔力を解放する。
 そうなれば、自分に避ける術はない。寧ろ、中途半端な威力を受け、苦しみ、現世にて長くのたうつ事になるだろう。
 そもそも、最早魔力の残らぬ自分がゾーマに肉薄したところで、奴を倒す手段がない。

 ゴドーはそれでも、闘志までは折るまいと、全神経を総動員して反撃の方法を模索する。
 あと、一歩。今の自分に足りない、あと一歩を埋める何かを――――――。

「さらばだ――――――我をここまで追い詰めたのは、キサマが初めてだ。深淵の底にて誇るがいい…!!」

 そして遂に。臨界点に達した魔力は、凝縮し、ゾーマの体から左肩、左肘を通過して、ゴドーへと――――、





               ――――――メ、ラ、ゾ、オ、マ――――――




197YANA 93-20:2007/01/26(金) 22:17:40 ID:VrnUiaoZ0



 ――――――――――――ゾクンッ



「――――――」
 瞬間。ゾーマの全てが、凍りついた。
 全身の神経という神経が総毛立ち、血液という血液が逆流するかのような悪寒。
 熱も光も命も、全てを凍てつかせる闇の盟主をして尚も逃れられぬ絶対零度の奈落―――『死』の予感。
 目の前のゴドーは力尽き、既にこの玉座の間に脅威はない。ない、はず。
 だが、大魔王の本能が、そんな理屈を超越し最後の檄を飛ばす。

 ――――――後ろへと。『振り返れ』―――と…!

「…っ!」
 ズシンッ。全力でタイルを踏み抜き、固まっていた体躯を力任せに、背後へと振り向かせる。
 ぶれる視界を修正すらせず。本能の訴えを頼りに、己が『死』を運ぶモノを探る。
「ハ―――」
 数瞬。ゾーマの目に映る世界が、コマ送りになる。
 遠い彼方。自分が背を向けていた、この玉座の間へと下る道―――生贄の祭壇。
 その頂から、己が身に向かって一直線に飛来する、赤く、紅く、朱く輝く球体。

 …それは、凄まじい熱量を湛えた、巨大な火球。
 ゾーマも未だかつて見たことのない、圧倒的な温度と速度を持ち。
 寸分の狂いもなく、こちらへと疾走してくる。

「――――――マヒャドォッッッ―――!!」
198YANA 93-21:2007/01/26(金) 22:18:18 ID:VrnUiaoZ0

 何故、という疑問よりも先に体が動いた。
 ゾーマはゴドーを葬るために充填した魔力の全てを、惜しげもなく、わけもわからず飛来する正体不明の炎の弾丸へと叩き付けた。
 ただ、ゾーマは確信した。
 あの炎が直撃すれば―――否。必ずその身を捉えるだろうその弾丸を迎撃しなければ。
 今度は一切の間違いもなく、自分は跡形もなく消滅させられると…!

「は、あ…!」

 ゾーマの左手より放たれた吹雪は轟音を上げ、太陽の如く猛る炎の塊を包み込んだ。
 …アレフガルドという、世界から吸い上げた魔力の結晶で作り上げた吹雪である。
 あの火球が如何なモノであろうと、それでもって打ち消せぬはずがない。

 果たして。大魔王の鋭敏な判断は正しかった。
 赤々とその力を滾らせた火球は、見る間に白銀に飲み込まれ、消え去った――――――しかし。

「―――――――――…っ!!?」


 ―――――――――ゾーマは見た。
 燃え盛る紅蓮のフレアの消えゆく先。
 忌まわしき陽光と見紛うような炎の衣を脱ぎ去り現れた――――――一振りの剣≠…!!

「くふっ…はあ、は、あっ…!」

 体中の魔力という魔力を絞りつくしたアリスは、祭壇の上でがっくりと膝を付く。
 …その両腕を。黒く、赤く、染め上げて。
199YANA 93-22:2007/01/26(金) 22:18:59 ID:VrnUiaoZ0

 ――――――既に、説明するまでもないだろうが。
 アリスがゾーマへの狙撃を行うために選んだのは、この戦いの始まりの場所、生贄の祭壇だった。
 そして彼女が、定まらぬ狙いを補うために拾い上げたのは、神器・王者の剣。
 主であるゴドーの手から取り落とされながら尚も冷めやらぬその脈動は、一人の少女に「我を使え」と攻め立てた。

 …そうしてアリスは。最大最強の一撃を放つために、常軌を逸した攻撃を敢行した。

 彼女は砲≠放ったのだ。
 ――――――柄を握る両手を『砲身』に。王者の剣を『弾丸』に。
 そして…その身に残る全ての魔力を使った火球呪文を『火薬』に見立てて。

 一発限りの弾丸は、一度限りの火薬を使い果たし、二度は使えぬ砲身を容赦なく焦がし。

 ――――――倒すべき敵へと、音速を以って疾走する…!!

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!」
 喉を潰さんとばかりの雄叫びを上げ、ゾーマは文字通り死に物狂いの形相で剣を迎え撃つ。
 世界から吸い上げた魔力も尽きようとし、今や貴重となった自身の残りの魔力にも手を掛けて。
 氷の暴風を途絶えさせまいと、両足を踏みしめ、突き出した左腕に力を込める。
 だが、それでも剣の勢いは全く弱まらない。刀身はいつしか旋風を纏い、更にその速度を高める…!


 ――――――ゾーマは知らない。
 その、王者の剣という神器が、そもそもどういったモノであるかを。
200YANA 93-23:2007/01/26(金) 22:19:43 ID:VrnUiaoZ0

 …神話は語る。古の昔、まだこのアレフガルドが創世される遥か以前。
 地上の奢れる人間たちに、神々が裁きを下さんとした時。
 信仰を失わなかった僅かの人間だけは、ある条件と引き換えに新天地…アレフガルドへと導かんという盟約が、ルビスと神々との間で交わされた。
 その条件が、ミスリルの盾と、ブルーメタルの鎧、そしてオリハルコンの剣を、人の力だけで完成させるというもの。
 神話は語り継がれ、後に伝説の三つの神器となったこれらを、神の力を借りずに作り上げることは困難を極めた。
 だが、人々は打ち勝った。人と、ホビットと、妖精が互いに協力し合うことで。

 それはまるで――――――この、アレフガルドの戦いの縮図。まさしくこれは、現世に蘇った、人々の生き残りを懸けた戦いの再現。

 そして、ゾーマによって砕かれた王者の剣は、今再び、かの鍛冶師の手によって再生された。
 故郷を。家族を。人々を守り、生き残るという強い意志を受け継ぎ、込められて。
 …そう。三つの神器とは、即ち、人々の生きたい≠ニいう想念、そのものである。


 それが――――――絶望に塗れた汚らわしい闇の力になど、止められよう筈がない――――――!!


(ぐぅ…止まらぬっ、ならばァッ!!)

                 ドンッッッ

「な…!」

 だが――――――その道理を覆すのも、またゾーマの大魔王たる所以か。
 王者の剣は、遂にゾーマへと突き刺さった。…着弾部は、突き出されたゾーマの左手。
 刃は真っ直ぐに掌へと突き刺さり、筋を裂き、血管を破り、ゾーマ本体へとその肉を食い破ってゆく、が。
201YANA 93-24:2007/01/26(金) 22:20:26 ID:VrnUiaoZ0

「はああっ…!!」

 ――――――ブチンッ

 何かが弾ける音がした。
 アリスは、彼方で起きた光景に視界を正され、眼を見開き己が正気を疑う。

 ゾーマは、肩から先、自分の左腕を丸ごと、内部から破裂させ、切り離したのだ。
 その内側に――――――王者の剣を呑み込んだまま。
 剣が肉を引き裂く、その僅かな抵抗の生み出す減速の間に、ゾーマは身体を、剣の射線上から脇へと離脱させる。

 そう、ゾーマは、残った片腕を身代わりの『盾』として切り捨てた―――!

「ぐっ」

 ――――――ガスンッッッ

 ………かくして。弾丸となった王者の剣は、ゾーマの左腕を跡形もなく粉砕し。
 ゾーマ本体を穿つことなく、そのまま後方へと通り過ぎ、乾いた音を立てた。
202YANA 93-25:2007/01/26(金) 22:21:07 ID:VrnUiaoZ0

「あ…」
 最後の一撃を回避されたのを見届けて、アリスは失意に念に、地面に崩れ落ちる。
 指に突き刺したナイフの痕も分からぬほどに黒ずみ、焼け焦げた両腕をだらん、とぶら下げたまま。
「…小娘。よもや貴様が、最後の脅威になろうとは。わからぬものだな」
 ゾーマは彼方の祭壇にアリスの姿を見つけ、今の刹那に起きた事象の全てを把握する。
 驚きはなかった。既にいくつもの常識を打ち破られ、全ての策を台無しにされたゾーマはタガが外れていた。
 理の分からぬ事態でない、筋道の明かされた現象など、意外でも何でもない、最早驚くに値しない。
 意外と呼べる意外など、この数刻の間に、既に自身にとっての数百年分は体験したのだから。
「…だが、ここまでだ。最早貴様に、二撃目を放つ余力はあるまい。
 これで終わりだ、おまえたちは――――――クク、クハハハハハハハハハッ!!」
「っ………」
 ゾーマの勝利の確信は、真実だった。
 敵には、既に攻撃の手段がないと分かりきっている。加えて、損耗は激しく死に体。
 自分も両腕を失い、魔力も既に一割すら残っていないが、それでも人間二人を殺すには充分、事足りる。

 今ここに、勝敗は決する。
 光と闇の象徴同士の戦いは、闇へと軍配が上がることで幕を閉じる。
 ゾーマは哄笑を終えたら、自分を苦しめた二人の人間を滅殺し、この私闘となった死闘を締め括ることになるだろう。
203YANA 93-26:2007/01/26(金) 22:21:44 ID:VrnUiaoZ0














            「ありがとうな、アリス――――――やっぱりお前、最高だよ…っ!!」













 ――――――そう。放たれた王者の剣の行き着く先に。この男≠ェいたということを、忘れてさえいなければ――――――!!
204YANA 93-27:2007/01/26(金) 22:22:40 ID:VrnUiaoZ0

 アリスとゾーマは、即座に顔を上げ、振り向き、声の主へと視線を投げかける。
 …二人は、目の当たりにする。


 ゴドーの左腕に填められた、大きく罅割れた勇者の盾。
 そして、その罅を走らせる大元に。勇者の盾に突き刺さった―――王者の剣の姿を…!


「…っ!」

 ――――――パキンッ

 直後。罅割れは、罅としての形を失った。
 勇者の盾は、傾いだゴドーの体の僅かな揺れに呼応するかのように、その身を瓦解させる。
 それと同時に、動きを止めた王者の剣が、再び胎動を再開する。

 剣は何もない空へとその身を躍らせ、そして。

    ガリッッ

 大きく全身を前傾させたゴドーは、、落下する剣の柄へと、噛み付いた=\――。

「――――――っ!!」

 ゾーマは、残る両足をも千切らんばかりに、体を反転させようと力を振り絞る。
 それと並行し、自らの体への負担を度外視し、全力で大気を肺へと叩き込む。
 爪で突き、魔力を放つ両腕を失い。自身に残された、唯一つの攻撃手段を、迷うことなく実行する。
205YANA 93-28:2007/01/26(金) 22:23:12 ID:VrnUiaoZ0

「■■■■―――!」

 その顎で剣を構え、全てを懸けて一太刀を加えんとゾーマとの間合いを縮め、駆け抜けるゴドー。
 それを、大気が体内で吹雪へと変換される遥か遠い刹那の時間を待ちながら、ゾーマは背筋を凍らせて見つめる。

「■■■■■ッッッ!!」

 ――――――ザクンッッ

「が…ッッ!」
 吹雪の精製が終わるよりも、僅かにゴドーの一刀が迅かった。
 ゴドーは体を捻り、側面をゾーマに向け、構えた王者の剣を切っ先から突き立てた。
 そう、つい先ほど。止めの呪文を打ち込むはずだった、爛れ、落ち窪んだ胸元の傷へと…!

 だが、まだ浅い。それでも、ゾーマの体を貫くには、寸分足らない。
 消えかかる灯火を揺らめかせ、それでもゾーマはその一刀を耐え抜く。

 …胸を貫かれまいと、その一撃はどれほどの打撃であったか。
 だが、ゾーマは倒れず、生き残った。
 ゴドーはゾーマの胸に突き立てた剣から僅かに離れ、背を向ける。
 逃げるためではなく――――――ゾーマの息の根を止めるために―――!

 そして、ゾーマは吹雪の精製を完了させ、強く念じる。
 今一度、奴よりも疾く、最後の一撃を、解き放て…!!


               「アアアアアアアアアアァァァッッッ!!!」
               「オオオオオオォォォォォァァァァッッッ!!!」
206YANA 93-29:2007/01/26(金) 22:23:45 ID:VrnUiaoZ0

 瞬間。玉座の間に、その一戦、最大の咆哮が響き渡った。



 ―――――――――ドズンッッッ



 …轟音を上げたのは、ゴドーの左手。
 代償として盾を失い、自由を得た左腕は拳を形成し、尚もゾーマの胸に残る愛剣の柄へと打ち込まれた。

 ――――――磔のメシアを貫いた槍の如く。
 王者の剣の切っ先は、大魔王の胸元から背中へと、貫通した。

 ………夢か、現か。
 停止したゾーマと、拳を放ったまま項垂れるゴドーを、美しい白銀の霧が彩る。
 ゾーマの穿孔から尚も噴出し続けるそれは――――――大魔王がその身の内で練り上げた、雪の結晶だった。

「――――――俺達の勝ちだ、ゾーマ」
「――――――ああ。我の負けだ、ゴドー」

 互いに、視線を交わすことなく。
 指先一つ動かさずに、宣言する。
 今ここに――――――勝敗は決した。

「…見事であった。キサマも、小娘…いや、アリスとやらも。そして、凡百の人間どもも。
 人の意地というものは、かくも虫けら風情を強くするものなのだな」

 ゾーマの傷だらけの体が、足元から徐々に、灰とも砂ともつかないモノへと変異してゆく。
 ゴドーは無言で、突き出した拳を下ろし、ゾーマの体とすれ違い、歩みだす。
207YANA 93-30:2007/01/26(金) 22:27:17 ID:VrnUiaoZ0

「だが、覚えておくがいい。人という生き物の本質は、キサマが思っている以上に弱く、移り気だ」
 かつん、かつん。離れてゆくゴドーへと、呪詛とも、忠告ともとれる言葉が投げかけられる。
 それを彼は、淡々と重ねる歩を緩めずに受け止める。
「我には見えるのだ。遥か未来にて、この世界に再び我のような存在が、闇より現れよう。
 その時、彼奴ら人間どもが、再び此度のように自分達で戦おうとするか。
 …恐らく違う。奴らは都合のいい英雄を求め、先のように絶望の中、安寧を貪るだろう」
 かつんっ。ゴドーは、数間先、石柱を一本跨いだ所で歩みを止めた。
 ゾーマは、それにさえ構わずに続ける。
「だが、キサマがその真の力を示し、この戦いを伝承すれば、或いはそれを防げるやも知れぬ。
 …それでもキサマは。目覚めることを、拒むか」

 狂気も、邪気も混じらないゾーマの問い。
 それはおそらく、ゾーマが口にする、最初で最後の真理だろう。
 人とは、かくも弱い生き物である。障害が現れれば、大いなる救いを求めるのが人の性。
 だが、この戦いを絶対的な威光の下に語り継ぐことが出来れば、人々は自分達の力を信じ、再び立ち上がるかもしれない。

 人の革新を望むのならば、ゾーマの言は確かに的を射たものであるが―――。

「まぁ…確かに。それは、ちょっと頂けねぇな」
 小さな溜息とともに。ゴドーは振り返らずに、ゾーマの問いに難色を示した。
 だが、その口調はすぐに、疲労しながらもそれと分かる明るいものへと変わり、

「――――――でも。いいんじゃねぇか?それが、人間ってもんだ」

 言って。彼は、この世の全てを肯定した。

「な、に?」
208YANA 93-31:2007/01/26(金) 22:27:52 ID:VrnUiaoZ0
「…そもそもさ。何百年も変わらずに称えられ続ける人間なんて、そんなの人間じゃねぇよ。
 それじゃ、そいつは――――――神様じゃねぇか。
 いっただろ、ゾーマ。俺は、人間だって。例えどんなに神に近かったとしても。俺は、人間で…この世界の一員で在り続けたい。
 俺が世界を変えるために出来るのは、どんなに気に入らない結果になろうと…やっぱり、人として出来る範囲だけだよ」
「それが…数世紀先のこの世界を、再び地獄に変える結果になったとしてもか」
「…ん。別に俺は、二百年も、三百年も未来に生きる人たちから世界≠横取りしたいわけじゃねぇ。
 厳しいようだけど。そこをどんな世界にするかは、その時そこに住む人間が、自分たちで決めることだ。
 それがその時代の人間が作り上げた世界なら、俺や、ましてや神様もどきが口出しする筋じゃない」

 互いに背を向け合い、その表情は確認できないけれど。
 ゴドーはきっと、笑いながら、己が決意を締め括った。

「例えそれが―――どんなに辛く悲しい世界だとしても、な。
 …そうだな。俺たちはただ、もし叶うのなら、その世界を作る上での参考にだけ、なってやれればいい。俺は、そう思ってる」

 ゾーマは、言葉を失う。
 およそ、力と欲望の妄執に塗れた自分達魔族には、到底理解できない決意。

 だが――――――ゾーマは今ならば、微か、ほんの微かであったが、理解できる気がした。
 その思想が、ではない。このゴドーという男であれば、そんな馬鹿げた理想を本気で口にしているかもしれない、という事が。
「――――――く」
 知らず、堪えきれずに小さな笑いを漏らす。
 …何とも、滑稽だ。もう、体の消滅は胸の辺りに差し掛かっているというのに。
 自分は何がおかしくて笑ってなどいられるのか。
「………」
 ゴドーは、もうゾーマが言い遺すことはないと判断し、そのまま遠ざかろうと再び歩みだす、が。
「――――――しまった。危うく、言い忘れるところだった」
 何かを思い出したように。踏み出した足を元あった位置へと戻した。
209YANA 93-32:2007/01/26(金) 22:29:23 ID:VrnUiaoZ0
「…?」
 ゾーマは何事かと、ゆっくりと首だけを捻り、後ろに振り返る。
 と。何の偶然か、ゴドーも同じように、僅か首を捻り、こちらに視線を投げかけていた。

 それは、両者が。決着から初めて、そして最後に交わした視線であった。
 ゴドーはそのまま、一息にその言葉を言い切った。


         「ありがとう。おまえがいなければ、俺の目的は果たせなかった」


「――――――?」
 ………聞き慣れない単語に、ゾーマは柄にもなく首を傾げる。
 今、奴は何と言ったのか。確か、そう―――アリガトウ―――と。
 数秒ほど経って、ゾーマは漸くその言葉の意味を理解し、くつくつと笑った。
「戯け―――殺しておいて、ありがとうもないものだ」
「悪かったな。事実なんだからしょうがねぇ。…一々筋道立てて説明するのは億劫だからしねぇぞ。
 でも、俺が言わなきゃ、他に誰もいわないだろ。大魔王にありがとう、なんてな」
 それだけだ、と。
 ゴドーはもう、二度と振り返らずに、背を向けて離れていった。

(ありがとう…ありがとう、か)
 ゾーマは、ゴドーの言葉を残り少ない余命で反芻する。
 …死はもう、首まで迫っている。
 だというのに、ゾーマは尚も笑いを絶やさず、自分らしからぬ考えを、脳裏で巡らせる。

 そうして。最後の戯れに、それを口にしてみることにした。


            「ゴドーよ。我は、おまえを――――――」
210YANA 93-33:2007/01/26(金) 22:29:59 ID:VrnUiaoZ0

 そこまで言葉を紡ぎ。ゾーマの口、そしてすぐにその全てが、二度と集まらぬ塵となって消え去った。
 舞い散る白銀の結晶に混じり、大魔王の亡骸はどこにともなく霧散してゆく。

 …最後に、がらん、と。王者の剣がタイルに落ちる、鈍い音だけが響いた。

「あ――――――」
 それと、ほぼ同時に。ゴドーは一度だけ間の抜けた声を上げてぐらりとよろけ、片膝をつく。
(…まいった、な。喋りすぎた。流石に、ガタガタか)
 むぅ、と至極冷静に思案しながら、彼はそのまま、うつ伏せに地面に倒れこもうとする。

「もう…何、やってんのよ、バカ」
 と。余りにも聞き慣れた、そして何故だかとても懐かしい声とともに、その半身を抱き止められた。

「………む」
「はぁ…全く。余計な労力、使わせないでよね。あたしだって、結構、きついん、だから」
 アリスは息も絶え絶えに、火傷を負った両腕で、傷だらけのゴドーをたどたどしく抱き起こす。
「よい、しょ。…歩ける?」
「気を抜かなければ、なんとかってとこか。…悪い、待った。やっぱり肩貸してくれ」
「奇遇ね。あたしも丁度、ほしかったとこ」
 お互いの酷い有り様を改めて確認し合い、二人は小さく苦笑した。と―――

 ――――――ガクンッ

 突如、二人の視界が大きく揺れる。
 疲労や消耗のためではなく、揺れているのはこの玉座の間と、大魔王の居城、そのもの。
 主を失った魔の巣窟は、その形を維持できなくなった。
 震動は徐々に、秒を重ねるごとに確実に大きくなってゆく。
「…ちっ。しまった。脱出路まで確保してなかった」
「今更言っても遅いわよっ。急ぎましょう」
211YANA 93-34:2007/01/26(金) 22:30:38 ID:VrnUiaoZ0
 支えあい、立ち上がろうと、アリスは右肩を、ゴドーは左肩をそれぞれに差し出す。
 そこで、アリスは右腕をゴドーの首に回そうとして、気がつく。
「あれ…?あんた、王者の剣は?」
「ん?ああ、置いて来た。…うおっ、何しやがるっ」
 ゴドーのあっさりとした返答に、アリスは思わず体勢を崩しかける。つられてゴドーも、バランスを悪くし、不平を漏らす。
「あ、あんたねぇ…仮にも神器なのよ?何してるのよっ」
「仕方ねぇだろ。剣がゾーマの体から抜けるの待ってたら、意識が飛んじまう。…俺はそれより、お前が心配だった」
「!〜〜〜っ…」
 突然の不意打ち。
 どさくさに紛れてこの男は何を言い出すのか、とアリスは頬を紅潮させる。
「ああ、もう、いい!あたしが拾ってくるから、あんたは先に、祭壇で待ってて!」
「あ、おいっ」
 半ば自暴自棄気味に、照れ隠しに痛みも忘れて、一人離れてゾーマの息絶えた場所へと向かおうとするアリス。
 それを、ゴドーは引きとめようと彼女の肩を掴む、が。

「あ、れ――――――?」
「――――――!?」

 その瞬間。二人の世界は、ぐるん、と大きく真横に傾いた。
 彼と彼女は、何事かと、自分の足元に目線を落とす。
 …そうして、そこに何もないことを確認すると、どちらともなく悟った。

 ――――――ああ、傾いたのは。世界ではなく、自分達の方なのか、と――――――。

 二人は抵抗することも適わず、崩れた瓦礫の山と一緒に暗黒の闇へと、どこまでも、どこまでも落ちていった。
 …途中。彼らは美しく輝く一振りの剣が、自分たちと共に闇へと飲み込まれてゆくのを見た気がした。
212YANA 93-35:2007/01/26(金) 22:32:10 ID:VrnUiaoZ0
・ ・ ・

 ―――――――――ドチャッ。

「ぐっ!」
「ひゃんっ!」
 落下の感覚は突然反転し、いつのまにか二人は宙を舞っていた。
 無造作に空中に投げ出された彼らは、わけもわからないまま背中から地面に叩きつけられ、各々悲鳴を上げる。
「っつ〜。…ん?」
 ざりっ。ゴドーは起き上がろうと突いた左手の感触に違和感を覚える。
 …幾らかぶりの、土の手触り。ゴドーは状況を確認しようと、未だがんがんと不調を訴える頭を軽く叩き、視界を整える。と。
「ここは」
 明かりらしい明かりもない、暗い場所。目が慣れないため、その全体像ははっきりしないが。
 それでも一つだけ。そこがその場所≠ナあることを証明するモノをすぐ側に確認し、ゴドーは記憶を手繰り寄せる。
「…魔王の、爪痕」
「え?…嘘、ホントだ。何で」
 ゴドーの呟きに、アリスも倒れた足の先に広がる、大きな地割れに目を向ける。
 ゾーマの城の崩壊に巻き込まれた自分たちが、どうしてここにいるのか。その理由はわからないが―――。
「…不味い。嫌な予感がする」
 突如ゴドーを襲う、ぞわりと背筋を虫が這うような薄気味の悪い悪寒。
 彼は軋む体に鞭を打ち、立ち上がる。
「ゴドー?」
「立てるか、アリス。すぐにここから離れるぞっ…つっ」
 ぐらり。無理矢理起こした体は、すぐにゴドーの動きに拒否反応を示し、その異状を訴える。
 アリスはそれを支えようと、慌てて片膝を立てる。
「無茶しすぎよ」
「………おまえがいうな」
「そうかもね。…ほら、あたしも、ずっとこうしてるの、辛いんだから」
 僅か、整いかけていた呼吸を乱しながら。ん、と先ほどと同じように肩を出すアリス。
 ゴドーは小さくすまん、と謝罪し、それに応えて立ち直す。
213YANA 93-36:2007/01/26(金) 22:33:04 ID:VrnUiaoZ0
「急ぐんでしょ」
「死なねぇ程度にな」
 こくり、と頷きあって。不器用そうに、二人は地上を目指し、踏み出した。

 …一歩、また一歩と、確実に足を前に出す。
 慣れていくのか、はたまたそもそも阿吽だった呼吸が戻っただけなのか。
 徐々にその速度も、上がっていった。
「王者の剣。結局、持ち帰れなかったね」
「…そうだな」
 暗い洞窟を、土を踏みしめながらアリスは自分よりもやや重傷のゴドーに静かに語りかける。
「最後。ゾーマと、何話してたの」
「見てたのか。…そうだな。機会が来たら、話す。必ずな」
「本当?…もう、蚊帳の外は、嫌だからね」
 アリスの穏やかな皮肉に、ゴドーはう、と目を細めてばつの悪そうな顔をする。
 そんな彼に微笑みながら、彼女は嫌味っぽく付け加える。
「いーわよ、別に。その代わり、あとでちゃーんと責任とってもらうもん。
 …ビンタ一発で済まそうなんて、させないんだからね?」 
「…了解」
 ふふり、と意地の悪そうな笑みを浮かべるアリスに、ゴドーはむぅ、と唸った。

 ――――――ドドドドドド…

 階段を上がり、記憶する限りの地下二階の真ん中辺りに差し掛かり、突如轟音が鳴り響く。
 そう遠くない場所。おそらくつい数分前まで二人がいた地割れを含めた一帯が、魔王の爪痕の闇へと飲み込まれ、崩壊したのだろう。
 彼らは一瞬だけ立ち止まり何かを思い返したが、また数秒とせず、申し合わせたように同時に、再び歩き出した。

 …そこが、再び勇者を目指す者が訪れるべき場所になるとは、知ることもなく。
214YANA 93-37:2007/01/26(金) 22:33:40 ID:VrnUiaoZ0

「っ――――」
「!――――」
 洞窟から出た二人を出迎えたのは、眩い光だった。
 地平の彼方には、このアレフガルド全てを照らす太陽が輝いている。
 空を覆いつくした暗雲は既になく、青く白んだ世界が、そこに広がっていた。
 ―――数百年ぶりの夜明けが正に訪れた瞬間に、彼らは立ち会ったのである。
「朝日………知らなかった。夜明けって、こんなに綺麗なものだったんだ」
 恍惚とし、ぽつりと感慨を漏らすアリス。
 その傍らで、ゴドーは眩しげに目を細めて、空を見上げる。

 …戦いの終わりに、己が故郷を。見ることが適わずとも、せめて魂だけは背くまいと。


         ―――――――――ズ―――…ン。

215YANA 93-38:2007/01/26(金) 22:34:17 ID:VrnUiaoZ0
「あ…」
「―――」
 遥か空の彼方で、何か、大きな穴が塞がる様な地鳴りが響いた。
 同時に、アリスもゴドーに倣うように空を仰ぐ。
 …それが、地上のギアガの大穴がその口を閉じた証なのだと、誰に教えられるでもなく二人は理解した。
 ゾーマによって繋げられた二つの大地は再びあるべき別々の世界として隔絶され、そして――――――、

「…さようなら。母さん、アレイ…みんな」
「………」

 そこに居るべきでない。少年と少女だけが、取り残された。

 アリスは微かに口元を緩めながら、そっと別れの言葉を告げる。
 そして、ゴドーは終始無言で、ただ青い蒼い遠い彼方を見詰めていた。
「…アリス」
「?」
 が、思い立ったように。彼は視線を下ろして此方へと向けながら、傍らの少女の名を呼ぶ。
「行こう。まだ、仕事が残ってる」
「…ん。そうだね」
 そうして、彼らは再び肩を組み直し、新たな世界をその目に焼き付けながら。
 人々の戦いに終結を告げるために、その中心へと向かい始めた。
216YANA 93-39:2007/01/26(金) 22:34:57 ID:VrnUiaoZ0
 ・ ・ ・

 ラダトームに到着したゴドーとアリスは簡単な手当てだけを受け、すぐに城の玉座へと向かう。
 多くの国民達がゾーマを倒した勇者の姿を一目見ようと、城へと押しかけている。

 二人は、人々の労いの言葉と歓声を浴びながら、幾人もの兵士に守られて城門をくぐり、階段へと進む。
 それでも尚減らない、老若男女を問わぬ、人、人、人。
 最早城の容積など無視するかのように、国中の人々が集まってきているようだった。

「さあ。王が、お待ちです」
 兵にエスコートされ、漸く人ごみを抜ける。
 そしてがこん、と古めかしい音を立てて、いつか見た荘厳な扉が開け放たれる。
「わ」
「………」
 一たび抜け出たと思った人ごみが、まだそこにあった。
 ただ違うのは、みな扉を開け放った瞬間こそ大きな歓声を上げたものの、一様に彼らの往く道を塞ごうとはしなかった。
 誰もが待ち望んだこの時を。全てを終わらせた勇者の言葉を、一秒でも早く聞きたくて。
 その場に居る皆が、ただそれだけをうずうずと落ち着かずに待つ。
「…ゴドー。ほら」
「…ん」
 奥に鎮座する国王の目前に迫った時。ゴドーはアリスにポン、と背中を叩かれる。
 口元を一度だけ緩めて微笑み返し、やがてすぐにその表情を引き締め直す。

 ―――いつかも確か、こんなことがあった。失意と虚勢に駆られた、あの無念。
 …心は、決まっている。もう二度と、あの時のような後悔はしない。あんなことは起こらない。
 かつて届かなかった願いは、夢と散った。…だが、今度は。最後に辿り着いた願いは――――――届く!

「――――――皆のもの、静まれっ!!
217YANA 93-40:2007/01/26(金) 22:35:29 ID:VrnUiaoZ0
 はた、と喧騒がやむ。突如響いた国王・ラルスの一声に、国民達は背筋を正し、静まり返る。
 そこには、以前二人が見た陰鬱さなど微塵も残さぬ、凛々しい熟年の君主の姿があった。
 ゴドーは眼前の王へと向かい、無言で玉座の前で跪く。
 しんと静まった城内とゴドーの待機を認め、王は功を讃える言葉を紡ぎ出す。

「ゴドー、そしてその仲間よ。この度の働き、見事であった!
 見るがいい、この光溢れる世界を。鳥が歌い、獣が駆け巡り、水の潤うこの大地を。これがアレフガルドのあるべき姿。
 …全て、そなたとその仲間達が我らを導き、ゾーマを倒してくれた故だ。国民に代わり、心より礼を言わせてもらうぞ!」

 …王の荘厳な声が、城中を支配するかのように。
 多くの民の誰も、その間に言葉を発しようとはしなかった。

「そなたこそが、真の勇者!そなたの名は、永遠にこのアレフガルドにて語り継がれることになろう!!」
 王が、ゴドーを讃える言葉を締め括り、その名を未来永劫歴史に刻むことを宣言する。

 ――――――それは、王の眼下に鎮座するこの少年が、かつてどれほど望みやまなかった言葉であったか。
 偉大な父の呪縛に苦悩し。その名を世界に轟かせることを目指した彼はしかし―――、


「――――――ラルス王。申し訳ありません。せっかくですが自分は、それを受け入れるわけには参りません」


 面を下げたまま。静かに、淡々と、それを拒んで返したのだった。

「…な、に?ゴドーよ、今、何と」
 言葉を受けた王だけでなく、その場に居た皆が耳を疑う。
 玉座の間はざわざわと慌しくざわめき始め、僅かな混乱が起こり、誰もが動揺を隠せない。

 …ただ一人。僅かに微笑んで、彼の背中を見つめる少女を除いて。
218YANA 93-41:2007/01/26(金) 22:36:27 ID:VrnUiaoZ0

「この度の戦い。決して、自分たちだけの力で勝利を収められるものではありませんでした。
 …いえ。或いはそうだったのかもしれません。ですが自分は、それを否定しました。
 ゾーマとの戦いは、ただ奴を倒すだけでは勝利とは呼べない、と。
 我ら大地に住まう者が力を合わせ、互いに手を取り合って立ち向かい、得た勝利でなければならないと」

 そこまで語って。ゴドーは失礼します、と静かに面を上げ、王に背を向ける。
 彼の眼前には、こちらに視線を注ぐ多くのアレフガルドの国民達が集結している。
(…アリス)
(…うん)

「――――――ここにいる人達に。願わくば、このアレフガルドの全ての人々に聞いてもらいたい――――――」

 少女と視線を交わし、こくり、と頷きあって、ゴドーは民達に向かい、彼らの待ち侘びた言葉を語る。
 …熱く、強く、真摯に――――――そして見るものが見れば、甚だ愚かに。
 それは彼らの予想した救世主の…勇者の演説ではなかったかも知れない。
 だが、自分達に語りかける彼を見た誰もが信じた。
 彼の言葉が、嘘も、偽りも、虚栄も混じらぬ、真実の思いなのだということを―――。

「――――――…ふぅ」
 民への言葉を終え、ゴドーは緊張を緩めるために呼吸を一つ吐く。
 そして休みをおかず、背後の国王へと振り返り、改めて自分の意思を伝える。

「そういうわけです、ラルス王。この勝利は、我ら生きとし生ける者全てが勝ち取った勝利。
 なのに自分だけが、勇者として、英雄としてその名を讃えられ続けることなど、俺の良心が許しません。
 …身勝手な我侭の程を――――――どうか、お許し下さい」
219YANA 93-42:2007/01/26(金) 22:37:34 ID:VrnUiaoZ0

 恭しく頭を下げて。彼は、自分が勇者であることを否定した。
 王は苦々しく、だがはっきりと彼の希望を承認する意思を伝える。
「…あい分かったゴドー。そなたの願い、聞き届けよう。
 しかしな、ゴドーよ。それでもそなたが最大の立役者であることには変わりはないのだぞ。
 第一、これよりこの国に歴史を記す際、今日の出来事がすっぽりと抜け落ちてしまうことになる」
 ゴドーは王の問いを受け、目を閉じて『む…』と数拍ほど考え込んで、難しい顔で答える。
「…一理、あります。分かりました。では、せめて俺の名だけ、何か別のものに置き換えて頂けますか」
「偽名か。そうだな、どんな名がよいか…」
 現実に譲歩するゴドーの希望に、今度は王は唸る。
 …と。突然妙案を閃いた様に、彼はうむうむと何度も頷いて、その名を提示した。



「――――――それではロト≠ニ」



「ロト?」
「うむ。この国に伝わる、真の勇者の名じゃ。意味は――――――神に近き者=v
 その言葉の示すところを聞き、ゴドーと、そしてアリスも目を見開く。
 王は二人の反応を見て不敵に笑い、己の意図、真意を語る。
「至上の英雄として、或いは神子として讃えられるかも知れぬ偉業を成し遂げ、それでも尚、人であることを誇る。
 そして、その名に同じ韻を宿す者。ゴドーよ、そなた以上にこの称号を冠するに相応しい者は、天にも地にもおるまいて」
「………わかりました。どうかその名で、此度のことを記録頂きますよう」

 王の確認と、ゴドーの承諾。
 その二つをもって、人々の史上最大の一戦は幕を引いた。
 ゴドーが再び頭を下げると、民達の天を裂かんばかりの大歓声が、ラダトームの城を貫き、国中に響き渡った――――――。
220YANA 93-43:2007/01/26(金) 22:38:05 ID:VrnUiaoZ0
 ・ ・ ・

「――――――見ーつけたっ」
「………む」
 腰を下ろしたまま月を見上げるゴドーの視界に突然、何かが被さってくる。
 …戦いの終焉を祝う宴の最中、アリスはやっとの思いで目当ての人物を発見した。
 城の外れの、小さな野原で。彼は左手にグラスを傾け、野原の真ん中に佇む一本の大樹に背中を預けていた。
「まったく。主賓がこんなとこで何してんのよ」
「うるせぇな…騒がしいのは苦手なんだ。静かに飲ませろ」
 グラスに満月を透かし、ゴドーは雲の晴れた夜空を眺める。紫色の葡萄酒はたぷんと一回転し、グラスに染みを残した。
「変わらないのねー、そういうところは」
 んしょ、とアリスは呆れながらゴドーの右脇に腰を下ろす。
 そして、持参した自分のグラスに、もう一方に持っていたボトルを軽く傾ける。
 それをゴドーは、意外そうに見つめる。
「おまえ、酒は駄目じゃなかったっけ」
「いーのよ、今日は特別なんだから。…ほら」
 微笑みながら、赤味がかった液体を満たしたグラスを差し出すアリス。
 ゴドーは目を伏せて苦笑しつつも、それにきん、と自分のグラスをぶつけた。
  ・
  ・
  ・
「…というわけでな。最高純度のミスリルが必要量集まるまで―――少なくとも向こう四、五百年は使い物にならねぇらしい」
 言いながらグラスを置いて、最早原形を留めぬほどボロボロに砕け散って柄だけになった勇者の盾を取り出してみせる。
「あーあ、もう、こんなにしちゃって。…まったく、王者の剣が貫通してたらどうするつもりだったのよ」
「さあな。そんなこと、考えてる暇なかったし。とりあえず、体が動いた」
 勇者の盾(の柄)を懐に仕舞い、再びゴドーはグラスを持ち上げて中身を啜る。
 …その、不自然な一連の動作はさっきから続いていた。アリスは遂に看過できなくなって、彼に確かめるために、問う。
「ねぇ…ゴドー。その右腕、」
「ああ。もう、二度と動かねぇだろうな」
221YANA 93-44:2007/01/26(金) 22:38:47 ID:VrnUiaoZ0
 何でもないことのように、あっさりとゴドーは彼女が言い切る前にその疑問を肯定した。
 アリスは言葉を詰まらせ、それを口にしたことを僅か、後悔した。
「おまえが気にすることじゃねぇさ。…本当なら、ずっと前に無くなっていたはずの右腕だ。
 それが何かの幸運で、俺がこうして役目を終えるまで形を成して動いてくれてた。寧ろ、俺は嬉しいくらいだよ」
 そんな彼女を、ゴドーは安心させるように諭す。
「でも…」
 しかし、アリスはやはり割り切れないように、俯き弱々しく食い下がる。
 だが、ゴドーはやはり言葉どおり、全く曇りのない目で諭し続ける。
「まぁ、あれだ。右腕がなくてアレが出来ないコレが出来ないって悲しむよりもさ。
 片腕でも残ってれば出来ることを考えたほうが、建設的だろうよ」
「むぅ…例えば?」
「そうだな。差し当たって――――――」
「―――っ!」


 ――――――グイッ。


「―――――――――おまえを、抱ける」 


 拗ねたように問い返すアリス。それにゴドーは体を起こし、左腕で彼女の頭を自分の胸に抱き寄せる。
 彼の囁きを聞いて、アリスは耳まで顔を真っ赤にして、パクパクと口を魚のように開閉している。
「…いや、本当。片腕だけでも残っててよかった」
 心底、安堵したようなゴドーの本音。
 …そう。彼が本当に恐れ、忌避したかったことは己が体の損失などではなく。
 愛する少女に、その手で触れることが出来なくなること。…ただ、それだけだった。
「〜〜〜…っゴドー!」
「?…んぅっ」
222YANA 93-45:2007/01/26(金) 22:40:06 ID:VrnUiaoZ0
 吹っ切れたように、しかし赤面はそのままに、アリスはゴドーに抱かれたまま彼の名を呼ぶ。
 何事かと眼下に視線を落とすゴドーの僅かな隙、真下から彼の口元へと何かが突き上げられ、触れる。
 アリスが背伸びし、彼の唇に、己が唇を重ねたのだ。
「…何をする」
「…お仕置き。まだだったでしょっ。ざまぁみなさい」
 つぷっ、と軽い口付けを終えて合わせた顔と顔を離す。
 口調こそ咎める様だったが、その実、ゴドーは眉を顰め、困ったように唸り顔をしている。
 アリスのほうは不意打ちに成功し、得意満面という表情で不敵に笑ってみせている…が。
「そういえば。初めてだったよね」
「何が」
「あたしから、キスするの」
「っ…!!」
 次の瞬間アリスが見せた、はにかむ様な照れた様な少女然とした笑顔と言葉。
 ゴドーは目を見開いて紅潮し、沈黙する。
 間髪置かずの、二度目の不意打ち。しかも、会心の一撃。…おそらく、本人にその自覚はないのだろうが。
 それは彼にとって、史上空前の衝撃だったかもしれなかった。
「ったく…」
「?」
 不貞腐れた振りをして、照れ隠しにそっぽを向くゴドー。
 アリスは頭に疑問符を浮かべたまま、座り直し、彼に寄りかかる。
「………」
 荒れる鼓動を落ち着かせながら、ゴドーは再び異世界の空へと視線を流していく。
 そんな、何を考えているか分からない、無愛想な彼の横顔を薄目で見上げながら、アリスはぽつりと漏らす。
「帰る場所。…なくなっちゃったね」
 アレイ、エデン、ライナー。…三人の姿は、宴の席にはなかった。
 彼らは無事、地上へと帰ることが出来たのだろうか、とアリスは考えを巡らせる。
 …最早見ることの適わぬ愛しき故郷を、思い返しながら。
「ん。その話なんだけどな、アリス」
 整いかけた鼓動を、また乱しそうになりながら、ゴドーは脇の少女に提案する。
223YANA 93-46:2007/01/26(金) 22:40:48 ID:VrnUiaoZ0
「帰る場所だったら、これから作ればいいんじゃねぇか?」
「…?」
 意味が分からない、という風に、アリスは首を傾げる。
 ゴドーは彼女のそんな反応に、遠回しでは駄目か、とやっぱり難しい顔で唸って、一言だけ付け加えることにした。
「…俺と、一緒に」
「――――――え。それって、」
 漸く彼の真意を理解し、アリスは俯いてポヒー、と湯気でも噴きそうなほど紅潮する。
「嫌か」
「ううん―――いいよ。ゴドーとなら」
 確認の言葉を交わし、穏やかに笑いあって。二人はどちらからともなく、立ち上がった。
「あーあ、もう。それにしても、あんたは本当、最初っから最後までポジティブだったわよね。
 見た目は陰気なくせに。…また、勇気付けられちゃった」
 城へと戻るために、二人は歩き出す。
 アリスはゴドーの一歩先をゆき、くるくると踊るように回りながら愚痴を零す。
「酔ってやがるな。…悪かったな。そういう風に教えられたんだよ。勇者の心得ってやつだ」
「そーなの?」
「リーダーはどんな状況でも不敵に笑え、だとさ。アレイが口を酸っぱくして言ってた。
 どんなときでもポジティブに、か。…ああ確かに。いわれてみりゃ、身に染みてるぜ」
 肩を竦めて、皮肉っぽくアリスの言葉を肯定するゴドー。
 それをアリスは、少し寂しそうに見つめる。
「…本当。旅の間、あたしはしょっちゅう泣いてた。その度に、あんたのその前向きさに勇気付けられた」
 僅か、声のトーンを落として、アリスは淡々と語りだした。
 抑揚のないそれに、ゴドーはむ、と注意を引かれる。
「勇者として鍛える内、いつの間にか泣かなくなった。泣こうと思っても、泣けなくなってた。…それだけだよ」
「そう。でも、ごめんね、辛かったでしょ。…ありがとう、ゴドー。あたしを、支えてくれて」
 花のように笑い、頭を下げるアリス。
 それが、酒の勢いではない、素直な感謝の言葉だと、ゴドーはすぐに理解できた。
「馬鹿いえ。…支えてもらったのは、俺も同じだ。ありがとう、アリス」
 く、と口元を吊り上げて、ゴドーも真っ直ぐな礼を述べる。
224YANA 93-47:2007/01/26(金) 22:41:19 ID:VrnUiaoZ0
「くすっ」
「はっ」
 互いに笑いあいながら、草原の土を踏みしめる。
 アリスは回ることこそやめたが、尚も軽快なステップを踏んでゴドーの二歩、三歩先へと進んでゆく。

 ゴドーはそれを、やれやれ、と苦笑して眺めながら、アリスの言葉にこれまでの日々を思い返す。

 修行の毎日を。少女との出会いを。宿屋での決別と、再会を。
 少女と拳を交えて巡った友との、短い旅と涙の夜を。父の背中を追い、戦士の誇りより、民の平安を願った戦士との邂逅を。
 死にかけの自分を何度も救ってくれた師との契りを。魔王を倒し、凱旋した時の大いなる失意を。
 …少女との争いを。自身の志との葛藤を。辿り着いた答えを。故郷と、仲間達との別れを。そして――――――、
「――――――あ…」
 瞬間―――草原を、一陣の風が駆け抜けた。
 …その中に、何故だか知っている誰かの言葉が見つけた気がして。
 ゴドーはふ、と笑いながら、空を仰ぎ、拳を掲げた。




             「…おう。あんたもな――――――親父」




「?…ゴドー?」
 背後からついてくる気配のない少年を不審に思い、アリスは振り返る。
 そうして、空を見上げ、月明りに照らされる彼の姿を認め、彼女は暫く呆然としたが。
「………………はぁ」
 やがて、安堵したように微笑み、溜息を吐いた。
225YANA 93-48:2007/01/26(金) 22:42:13 ID:VrnUiaoZ0



             「なんだ――――――泣けるじゃない。あんた」



「え――――――?」
 何を囁かれたのか理解できず。
 ゴドーはただ、声の主へと、視線を向けた。
 …その目には。間違いなく、人の生きる証が輝いていた。
「…あれ、何で。なん、で―――?」
 ボロボロと。訳も分からず目から溢れ来る暖かいそれを、手の平で掬っては、拭う。
 だが、どんなに拭いても、どんなに止めようとしても、それは止まらない。
 ゴドーはやがてへたり込み、赤子のように言葉を失う。
226YANA 93-49:2007/01/26(金) 22:42:55 ID:VrnUiaoZ0

 ――――――とある誰かは、云った。
 勇者だから、泣かないのではない。泣かないから、勇者なのだ―――と。

 十八年間――――――鋼と剣で、心も体も武装し。
 世界を救う強き勇者たらんとして、己を偽り苛め抜いた彼が堪え、流さず、内に溜め込み続けた涙である。
 今日、この日、彼は遂にその役目を成し遂げ、勇者としての責務を全うした。
 そして今、この時。彼は、勇者ではなくなった。
 もう、彼の涙は何ものにも、縛られない――――――。

「…バカね。どこまで不器用なのよ」
「…?」
 アリスは見兼ねて、ゆっくりと歩み寄り、跪いてゴドーの顔をその胸に抱き寄せる。
 そうして、笑いながら優しく。彼を受け入れた―――。

「――――――お疲れ様。ゴドー。泣きたいのなら思いっきり泣きなさい。…もう誰も、あなたを責めないから」
「う……わ…ワアアアアアアァァァァァァッ…!!」

 恥も、外聞もなく。彼は泣いた。
 嗚咽を漏らし。慟哭し。歩んできた道で切り捨ててきた、何もかもに哀惜しながら。

 愛しき少女の胸の中で、ずっと。ずっと――――――。
227YANA 93-50:2007/01/26(金) 22:44:18 ID:VrnUiaoZ0

    ――――――宴の明くる日の朝。勇者ゴドーの姿はどこにもなかったという。

    ただ、彼が残していった神器は、それぞれロトの名を冠した武具や印として、後世へと長く受け継がれてゆくことになる。

    彼の連れていた少女は何も語らず、いずれどこかへとふらりと旅立っていった。

    …それは、後の世界にて語られぬ、語ることを忘れられた遠い、遠い昔の物語だった。

    歴史は時の執政者の手によって少しずつ、少しずつ…歪められていった。

    やがて、少年と人々の戦いは、空から来た一人の英雄の逸話へと姿を変えた。




                   そして。伝説が、始まった――――――。


228YANA:2007/01/26(金) 22:47:24 ID:VrnUiaoZ0
 :勇者ロト:
 神に近き者≠フ名を持つ、アレフガルドに突如として現れ、秘宝・光の玉で世界を救ったと伝えられる英雄。
 「勇者ロト」という人物が実在した確かな記録はなく、今ではそのモデルとなった人物に関して、諸説が語られている。
 アレフガルドが幾世紀かぶりに朝を迎えた日の宴の後、突如として消息を絶ったといわれている。
 …真偽は不明だが、勇者ロトが王の御前で語ったとされる言葉は、その場に居合わせたといういくらかの人々が記憶したのみである。

   ・
   ・
   ・
   ・
   ・

 ここにいる人達に。願わくば、このアレフガルドの全ての人々に聞いてもらいたい。

  まずは…この戦いで命を落とした多くの人に、礼を言わせてほしい。…有難う。
  そして大切な誰かを失った人たちに。…御免なさい。

  きっと、俺のこんな乱暴なやり方で、沢山の人が涙を流したと思う。
  だから――――――俺のことが憎くて、勇者だなんて認められない人がいるだろう。
  俺の考えが気に入らない人、俺のやり方が気に入らない人、俺の全てが気に入らない人。
  色んな人がいるはずだ。…それでいい。

  俺が気に入らなければ、踏み越えていけ。あんたたちの世界を作れ。
  ちっぽけな俺一人だけの権威なんか、ぶち壊していけ…!
  今度こそ出来る!闇の世界に打ち勝ったあんたたちなら!
  あんたたちの力で!あんたたちの願う世界を!!作って見せろッ!!!
229見切り現実逃避中:2007/01/26(金) 23:04:26 ID:uUzf1wuG0
リアル更新ktkr
いやぁ、もうなんていうか言葉がありませんGJ!
そして長いことお疲れ様でした。
神竜編と2を楽しみに待ってますね。

>>175
そうなったら「それはそれ、これはこれ」で返すのが良いと思います。

>>177
わたしってMだったのっ!?
230見切り現実逃避中:2007/01/26(金) 23:15:05 ID:uUzf1wuG0
とか書いておいて、まだしまりきってなかったらどうしよう((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/26(金) 23:42:08 ID:BynEKgqR0
YANA氏乙です!
主人公が負けるわけないと思いつつも、「コレマジヤバクね?」とハラハラさせられましたw
このスレを見つけて間もないのに最終回に立ち会えた自分はなんて幸運なんでしょう。
ありがとうございました。

>>230
今までのパターンだとこれで締めでしょう。
だが萌え萌えエピローグが来ると期待。
232名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 00:09:09 ID:iOetAp+g0
YANA氏
すばらしい…すばらし過ぎるよ…
233名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 01:50:57 ID:q0A0kq4n0
>>YANA氏
リアルタイムでこの物語で読めて本当に良かった。
あぁもう言葉が出てこない。
とにかく、これほど続きをwktkしたものもなかったし、
読みながらずっと面白いと感じれたものもなかったよ。
素晴らしい作品をありがとう
最高の気分!
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 04:37:00 ID:zr4eP5z60
YANA氏
もうこれは言葉もないわ…GJ
235名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 09:40:59 ID:rGaWMsNAO
ただただ言いたい。YANA氏GOODJOB!!
偶然このスレを見つけ、保管庫で一気に読んだ時がYANA氏の作品との出会いだったなぁ。
一度完結したと思ったら久しぶりに保管庫に行ってみると続きが来ててビックリした。
とにかく超乙でした。次回作もこっそり期待してます。
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 11:24:12 ID:XUb2JvGxO
YANA氏GJ!!
なんだか切ないラストだったけど、二人には幸せになってほしい
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 11:55:08 ID:ORJFNdjH0
YANAさんGJ!!!!!!!そしてお疲れ様です。
一つの作品が終わる時と言うのはどうにも、感動よりも寂しさが大きくなってしまいます…
が、神竜編も描かれるようなので待ってますよ!wktkwktk

俺もここを開いたのはほんと偶然、というか間違って開いたんだけどw
まさかこれほどの良スレだとは思いもしなかった3ヶ月前の夜。
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 17:31:20 ID:vwgH4SfBO
YANA氏GJ!!長い間お疲れ様でした!!

しかし最後は壮絶だったなあ。こんなの読んだのは初めてです。
239YANA EP-1:2007/01/27(土) 22:00:06 ID:OJNw+ymi0
 エピローグ 『GODO』



『拝啓 母さん――――――、





                                    』



「――――――はぁ」
 ペンをテーブルに放り出し、体に染みに染み付いた作業を強制的に中断する。
 窓から差し込む陽光を眺めながら、私は突っ伏し溜息を吐いて、苦笑する。

「…駄目だなぁ、私。全然成長してないや」
 長いこと生活の一部となっていた、母さんとの手紙のやり取りのくせは抜け切らず。
 今でもこうして、時々気を抜くと便箋とインクに手が伸びてしまうのだった。
「………」
 顔を上げ、目の前に広がるいくつもの他のテーブルに視線を向ける。
 …えっと、掃除は大体、終わったよね。買出しもお昼のうちに終わったし、仕込みも。あとは………あれ?

「まいったなぁ。これじゃ手紙も書き始めるわ。…お昼の仕事、もうないじゃない」
 後は、日が沈んでお店を開けるまでの数刻を、どうにかして過ごすだけである。
240YANA EP-2:2007/01/27(土) 22:00:42 ID:OJNw+ymi0

 ――――――旅を終えた私は、今、見知らぬ町の郊外で小さな酒場を開いている。
 名前は、『LAIR OF WOLF』―――狼の塒≠ニは、我ながら色気も何もないセンスだが…。
 ともあれ、やはり女で一つで店を切り盛りするのは大変なので。そろそろ男手が欲しいところ。
 申し出がないわけではないけれど、いつも少し考えて、断ってしまう。
 …ほら、やっぱり。狼の塒を支えるのは、狼が相応しいと思うわけで。

「さて、と。じゃあ、ちょっと反則気味だけど、先に一本開けますか」
 カウンターの棚から、ワインボトルを一本、引っ張り出す。
 最近私は、少しお酒を好きになった。
 職業柄、そうでなければやっていられないというのもあるけど。…本当の理由は、ちょっと別にある。
 まぁ、それでもやっぱり酔ってしまうのは変わらないので、無茶は出来ない。
 全部はきっと飲みきれないだろうから…残った分は、仲のいい常連さんと空にしてしまおう。

 私はキュポン、と景気のいい音を立てて、コルクを引っこ抜く――――――と。


 ―――――――――ガチャッ。


「すんませーん!………ありゃ」
「あ」
 同時に、突然元気に店に入ってきた少年と目が合う。
 …私はボトルを開けた姿勢のまま、少年は威勢良く振り上げた右手を下ろせないまま。
241YANA EP-3:2007/01/27(土) 22:01:13 ID:OJNw+ymi0

「…あはは。ごめんなさいね、お店は夕方からなの」
 いつまでもそうしていても仕方ないので、ちょっとばかり不恰好だけれど私のほうから膠着を崩す。
 ぎこちない照れ笑いを浮かべながら、やんわりと告げる。
「あ、いや、違うんス。俺は、」
「こらぁっ!まぁたあんたはっ!!」
 慌てて何かを弁解しようとする少年の背後から、活気に溢れた怒鳴り声が響く。
 少年はビクッと一度縮み上がって恐る恐る振り返った。
「げ」
「『げ』、じゃない!全くあんたはちょっと目を離すと…。
 ほら、見なさい!ドアに準備中≠チて書いてあるでしょうが!」
 年の頃は少年と同じくらいの、気の強そうな少女がそこにいた。
 少年は彼女が苦手なのか、妙な悲鳴を上げていた。
「ありゃ。ホントだ」
「…あんたね。…すみません、うちのバカがお騒がせして。すぐに出て行きますから」
 少女は少年を姉のように叱り付けたかと思うと、私の方に向き直って、ぺこぺこと礼儀正しく頭を下げた。
 …あ、何か既視感。ちょっと男の子の方が気が弱いけど。
「いいわよ、別に。…それにほら、私も丁度暇だったし。お店を開けるまででいいなら、付き合うわ」
 何だか可笑しくて、却って落ち着いて笑うことが出来た。
 私は持っていたグラスに二つを加え、彼と彼女をテーブルに招き寄せた。


「――――――へえ。勇者ロトに憧れて、旅を?」
「そっス。んで、とりあえず行く先々で、ロトがどんな人だったかを調べてます」
 少年は嬉しそうに、私に自分の目的を語ってくれた。
 傍らの少女は、やれやれ、という風に困り顔だけれど。
「ふぅん。何で、また?」
「はい。…えーと、アレフガルド戦役の話は、知ってますよね?」
 うん、とグラスを傾けながら首肯して返す。
242YANA EP-4:2007/01/27(土) 22:01:56 ID:OJNw+ymi0

 ――――――アレフガルド戦役。あの一大抗戦は、後にそう呼ばれるようになった。
 ラダトームを中心に、アレフガルド全土の命運を懸けた、魔物たちとの大合戦。あれから、もう何年になるだろうか…。

「俺もこいつも、まだ何も出来ないガキで…空に映し出された魔物の軍団を見て、びびって泣きそうになりました。
 でも、そんな時っス。大人たちが歓声を上げて、恐る恐る空を見たら、人間が優勢になってるじゃないっスか!
 それで、戦いは終わって、後でラダトームに行ってた大人に聞いたら、それは全部、勇者ロトって人の作戦だって―――」

 少年は、目を輝かせて当時の体験を語る。
 いつしか少女も、懐かしむような、穏やかな微笑を少し、ほんの少しだけ、浮かべていた。

「…ふぅん。そうなんだ。でもね、君」
「はい?」
 それだけは、やっぱり譲れないので。
 一つだけ忠告してあげた。
「勇者ロトは、決して最初から全てを見通してたわけじゃないわ。
 悩んで、挫折して、最後に辿り着いた場所がそこだった。…そんな人」
「え…お姉さん、ロトに会ったことあるんですか?」
 少女は、それまで黙っていたけれど、私の言葉を聞くと目の色を変えた。
 …ああ、そうか。冷静を装ってるけど、この子もやっぱり、ロトに憧れてるんだ。
「ん。昔、ちょっとね。
 …いい?彼はもしかしたら、君達の憧れてるような人じゃないかもしれない。それでも君達は、」
「愚問っス!」
 私の意地悪な質問が終わる前に。
 少年はふん、と鼻息荒く答えて返した。…勢いのまま、手付かずのグラスを一気に呷って。
「〜〜〜…きついっスね、コレ」
 案の定、目に薄く涙を浮かべて率直な感想を漏らす。
 少女はバカね、と困り顔で少年を介抱する。そんな彼女の目は、やっぱり笑っていた。
 …因みに少女のグラスは疾うに空である。ここら辺も、やっぱりちょっと違うようだ。
243YANA EP-5:2007/01/27(土) 22:02:29 ID:OJNw+ymi0
「貴重なお話、ありがとうございました!
 逆に、ちょっと親近感が沸いてきました!ロトも俺達と同じ人間なんだって!」
「ふふ。彼にいってあげたら、喜ぶわよ。…こっちこそ、今日は退屈凌ぎに付き合ってくれてありがとうね」
 漸く落ち着いたのか、少年はやっぱり威勢良く礼を言って立ち上がった。
「また機会があったら、お願いしますね。ここのお酒、気に入っちゃいました」
「ん、ありがと。でも、若いうちは程ほどにしないと、体に悪いわよ?」
 少女はばつが悪そうに言葉を詰まらせ、それを少年にからかわれる。
 怒りながら、少女もやがて椅子から立ち、そろそろお開きのムードが漂う。
 二人はそのまま、もう一度、口々に礼を言いながら店を出て行った。

 ――――――ガチャン。

 ドアが閉まり、二人の騒がしくもどこか楽しげな掛け合いが遠ざかっていく。
 それと共に、この空間も再び静寂に支配される。
「………勇者ロト、か」
 ぽつり、と誰にともなく、英雄の名を呼ぶ。
 …話をしたら、また寂しくなってしまった。おかしいな…もう、大丈夫だと思ったのにな。

 ――――――あの日、あいつは一頻り泣いた後。私に告げた。


            『決めた―――ここまで来たら、最後の最後まで始末をつけてやる』
244YANA EP-6:2007/01/27(土) 22:03:39 ID:OJNw+ymi0
 そういい残し、あいつはラダトームを去った。
 いつか必ず、約束≠果たすと誓って。
 だから私も、あいつとの約束を守れるように、いくらかの準備をした。
 その一つが『LAIR OF WOLF』―――狼が在るべき場所がここであるように、と、知らせるために―――。

「…っ」
 考えて、あいつの顔を思い出す内。私の頬を涙が伝う。
 あいつと会えないことが、こんなに辛いなんて、と今更のように思い返す。
 旅の間、ずっと一緒に居た。それが当たり前だった。その当たり前がない世界が、どれほど悲しいものか。

 ――――――ギィ。

 私はまた、テーブルに突っ伏す。
 そして、堪えきれない思いが知らず、口を突いた。


          「…馬鹿ゴドー。寂しいよ…会いたいよう…早く、見つけてよう…!」
245YANA EP-7:2007/01/27(土) 22:04:34 ID:OJNw+ymi0
 ・ ・ ・

 ―――――――――ドサッ。

「――――――」

 肩に引っ掛けた僅かな荷物を、背負っているのが馬鹿馬鹿しくなったので無造作に地面に放り出す。
 ………………………まいった。どこだ、ここは。
 一人旅にも慣れたかと思って油断して、知らない街を適当に歩いたのが不味かったか。

 辺りを見回しても、建造物の間を入り組んだ道がうねっているばかりで閑散としており、人通りも殆どない。
 一本だけ目立って伸びる道は郊外へと通じているようだが、どうやらこちら側は裏口みたいなものらしい。
 それとも、時間の関係で、夜になれば多少は人の姿も増えるのか…だとしても、夜までここにいるのはなぁ。

 むぅ、と唸って転がるタルに腰掛けてどうしたものかと思案する。
「――――――」
 …空が、赤く染まり始めている。そろそろ日が傾いているのか。
 日没も近いのだろうが…やっぱり、ここでじっとしているのは面倒くさい。

 ――――――そうだ。面倒くさいといえば。

 ゴソッ。

 懐から、手乗りサイズの小さな丸い皮袋を取り出し、眺める。
 …コレ、どうしようか。結構色々旅してきたけど。
 やっぱりこいつだけは、誰にも任せる気が起きなくて、最後まで俺の手元に残ってしまった。
246YANA EP-8:2007/01/27(土) 22:05:23 ID:OJNw+ymi0

 ――――――勇者の盾の修繕の依頼、神器の返還、その他色々。
 事後処理も粗方終わったが、結局後回しにしていたコレがまだ俺の懐に納まっている。
 …ガライの奴に『目処が立つまで、僕と一緒に世界を歌って回らないかい?』という誘いを受けたりもしたのだが。
 俺にはあいつとの約束があるので断った。…一日でも早く、事を終えてあいつとの約束を果たしたかったので。

 そうだなぁ…とりあえず、また酒場か宿屋か、人の集まる所で何かして路銀集めかな。
 芸は身を助ける、というか俺の場合は旅する内に、収入の手段として自然と芸が身についたというか何と言うか。
 …時々、襲ってくるゴロツキや野盗を返り討ちにして路銀を得ることもあるが、まぁそれは臨時収入程度の認識ということで。

「…〜〜〜!」
「!……!!…」

 などと今後の計画を練っていると、郊外から何やら騒がしい話し声が聞こえてくる。
 目を凝らして声の主を探ると、十五、六歳くらいの少年と少女が何か言い争いながらこちらへ歩いてくるのが見えた。
 丁度いい、駄目もとで、あの二人に聞いてみよう。ちょいと、そこ行くお二人さん。

「―――どーしてあんたはそう考えなしなのよ!今日はたまたまいい人だったからよかったものの…」
「だから悪かったって――――――は?はい?俺らっスか?」
 俺が呼びかけると、暫く喧嘩に夢中だったのか反応がなかったが、数秒して少年の方が俺に気づいた。
 あー…何だか、どっかで見たような光景だな。まぁいいや。
「!…う、うす!何でしょうか!?」
「あ…」
 と。俺を見るや、少女は小さく何かに気づいたような声を上げ、少年は鯱張って姿勢を正す。
 …ああ、そうか。いい、いい、普通にしてくれ。
「はぁ…すんません。でも、今の俺らの生活は、貴方みたいな人の傷を代償に成り立ってるっスから」
 少年は謝りながらも、決まりが悪そうに自身の意思を語る。
 …ふむ。そういうことなら、一応譲っておくか。けど、そういう目で見られるの嫌いな奴もいるから、気をつけるように。
247YANA EP-9:2007/01/27(土) 22:06:03 ID:OJNw+ymi0
「うす!わかりました!」
「あの…それで何でしょうか」
 元気のいい返事をする少年の代わりに、おずおずと少女が俺に訊ねてくる。
 …うん。この辺りに、酒場か宿屋はないか訊きたいんだけども。
「宿屋街は、ここからだと町の反対側っスね。ちっと遠いっスよ。…そうだ。
 まだ開いてないっスけど、ここを真っ直ぐ行ったところに、穴場の酒場がありますよ。レイアーオブウルフって言う」
 ほう、穴場か。そうだな、たまには少人数相手にじっくりやるのも悪くない。
 …それにしても、何て名前だ。天国にも地獄にもなりそうにない、野性味たっぷりの匂いがするぞ。
「それで、ここだけの話なんスけど」
 少年がニヤニヤしながら、指を立て、続ける。
「何とあそこのマスター、勇者ロトに会った事があるみたいっス!」
 ………何だ、またか。
 自称・勇者ロトの知り合いは何人も見てきたが、未だにそれを吹聴する奴の中には誰一人として見知った顔は居ない。
 生憎と、俺は顔覚えはいい方なのだ。まぁ、とりあえずそれはどうでもいいので流すとして。
「…しかも、すげーべっぴんさんっス―――うわいでっ!!」
「鼻の下が伸びてるわよー?うふふふふ」
 ………何だろう。何かこいつら、他人のような気がしない。
 いや待て、俺は断じてこいつのような尻に敷かれマンでは――――――むぅ。
 そ、それにしても―――。
「はい?…はぁ。勇者ロトに興味っスか?
 うす!俺は、ロトみたいになりたくて放浪してるっス!」
 …そうか。まぁ、憧れは幻滅して死にたくならない程度にしとけ。
 英雄ってのは、得てして好き勝手に噂が一人歩きするもんだからな。
「心配いらないっスよ。さっき、ロトも俺達と同じ、生身の人間だったって教えてもらったばっかりっスから」
 ………へぇ。そんな嬉しそうな顔でそういうこと言う奴は、初めてだな。
 だが、おまえに勇者として生きる覚悟があるか?…それはきっと、おまえが思っている以上に辛いぞ。
248YANA EP-10:2007/01/27(土) 22:06:39 ID:OJNw+ymi0
「うっす!!怖い思いは、ガキの時にアレフガルドで腐るほど味わったっスから!
 後は出たとこ勝負、くよくよしてもしょうがねーっス!やるだけやって、当たって砕けるっス!!」
「砕けちゃ駄目でしょ、砕けちゃ。…こいつ、いつもこんななんですよ?全く」
 ………やばい。こいつら面白い。
 そうか。俺たちの戦いは、こういう奴らも守り、育ててたのか。…何だろう。この安心感は。
 いや――――――今は、まぁ、いいさ。こんな奴らが、元気に、自分の目標を持って生きている。それが、何よりも嬉しい。
 …なぁ、嬢ちゃん。こいつのこと、好きなんだろ?
「え!?そ、そそそ、そんなっ!何言ってるんですk」
「あはははは、そんなわけねっスよ!俺なんかいっつもこいつの鉄拳の餌jっぶぇぇぇっ!!」
 くくっ。…ああ、引き留めて悪かったな。ありがとう。
「いてて…いやいや、どーいたしまして」
「失礼しますっ!…もう」
 ………そうだ。ちょい待ち。…持っていきな。
「え?…いや、そんな、いっスよ!そんなつもりでいったんじゃないっスから!」
 俺が左手の皮袋を投げてよこすと、少年は慌てて返そうとする。
 嫌なこった、もう決めたからな。そいつは、お前に預ける。…せいぜい、やれるところまで頑張りな。
「いいんじゃない?もらっておけば」
 流石、少女の方はちゃっかりしている。
 じゃあ、俺は行くよ。また、機会があればどっかで会おう。
「うっす!」
 …嬢ちゃん。こいつのこと、助けてやってくれ。
249YANA EP-11:2007/01/27(土) 22:07:42 ID:OJNw+ymi0
「トーゼンです。私が居ないとこいつ、ほんと馬鹿ばっかりするんですから」
 じと目で傍らの威勢のいい少年を諌めながら、少女は口調だけ渋々、答えて見せた。
「そ、そんな言い方しなくてもいーだろ」
「ふーん、あんたなんかそれで十分よ。大体一昨日の道具屋だって―――」

 背中に彼らの楽しげな口論を受けながら、俺は荷物を肩に引っ掛けて旅路を急ぐ。
 さて、じゃあその酒場の美人とやらを拝みに行きますか。

「―――もうっ馬鹿ぁっ!!」
「ぐえっ!」
 ボトッ
「いてて…」
「ふん。…あれ?…!!ねぇ!」
「んう?ああ、さっきのにーさんがくれた…って、これ!!」


                   「「ロトの印!?」」
250YANA EP-12:2007/01/27(土) 22:08:15 ID:OJNw+ymi0
 ・ ・ ・

 ――――――コン、コン。

「あ――――――」

 ドアのノックの音で目を覚ます。
 すっかり、寝こけてしまっていたらしい。
 …日はだいぶ傾いている。日没まであと半刻程度か。

 ――――――もう一度、ノックの音が響く。
 今日は千客万来だ。丁度いい、少し早いが、もう札を反してしまおう。

「はいはい、ちょっと待ってね」

 涙の滲む目をごしごしと服の袖で拭って、ドアへと出迎えに駆け寄る。
 ドアノブを握ると、さっきの声が聞こえていないのか、三度目のノックが始まる。
 それが終わるのを待たずに、私はノブを捻って、内側に引いた。

「――――――」
「――――――っ?」

 太陽の逆光で、よく見えなかったけれど。
 目線より、顔が大分高い位置に来てしまっていたけれど。
 最後に見た時にはあったものが、今は欠けてしまっていたけれど。

 それでも私は――――――同じように彼も。とにかく、二人とも。
 互いを互いだと認識し、そしてやっぱり互いに互いがそこにいるとは思っていなかったようで。
251YANA EP-13:2007/01/27(土) 22:09:28 ID:OJNw+ymi0

「――――――」
「………」
 
 二人、何を話していいのか分からずに、少しの沈黙が訪れる。
 …あいつはどうか知らないけど。私は色々と、言いたいことがあった気がする。
 でも、突然心の準備もなしにこんなことになっても、頭が真っ白になって何も出てこない。

 それを察したのか―――或いは、彼も同じ心境だったのかもしれない。
 お互いに申し合わせたように、殆ど同時に破顔して見詰め合う。

 ああ、そう――――――遅いと文句も言いたいし、引っ叩いてやりたいし、それに…ぎゅっと、抱いて欲しい。

 けれど、とりあえず。まずはあの時の約束を、果たしてしまおう。
 あいつはいつか見せたような、最高の笑顔で。
 私も努めて笑顔で、そしてやっぱり我慢できずに、一度止まった涙を再び流しながら――――――、





       「――――――よう。『ただいま』――――――アリス」
       「――――――うん。『おかえり』――――――ゴドー」






                〜 F I N 〜
252YANA:2007/01/27(土) 22:11:05 ID:OJNw+ymi0
 :ゴドー:
 アリアハンの勇者。勇者ロト、その人。
 神に近き者。神になれなかった者。神になりうる器でありながら、ヒトであることを望んだ者。。
 普段はあまり笑わない、無愛想な少年。だが、粗野で厳しい言動の裏には優しさが見え隠れする。

 ゾーマ打倒後、数々の神具の返還、大破した勇者の盾の修繕など、事後処理のために世界各地を放浪する。
 アレフガルドを中心とした地下世界では数百年後以降、勇者ロトの名で、伝説の英雄としてのみ讃えられる。
 ――――――彼の故郷・ギアガでも当初は同じような捉え方をされていたものの、
 二百年の時を経て後、数々の新資料の発見により地上ではその認識を改める動きが見られはじめている。

 …後に、とある町の外れの酒場に「帰宅」―――自分をずっと支えてくれた少女と二人、人としての生涯を歩む。
253YANA あとがき:2007/01/27(土) 22:14:35 ID:OJNw+ymi0
 俺はまだ一言も――――――『これで終わり』とはいってなかったぜ!?(最終投下って言ったじゃん
(萌え萌えってかベタベタだけど)EPがあると見抜いたのは君だけか、>>231よw
 しかし24時間というスパンは長すぎたか。完結前の多くの方の労いの言葉に感謝しつつ、今後の課題としたい所存です。

 …さて、一年と三ヶ月間。筆の遅い俺を根気強く応援し、励ましてくれた皆さん。
 心よりありがとうございます。これを持ちまして、アリスワードは完結です。

 −−−以下、興味のない方、読み飛ばし推奨−−−

 ドラクエファンである皆さんにはいうまでもありませんが、ドラクエシリーズは極めて血統主義的です。
 如何に優れた傑物であろうと、勇者・或いはそれに準ずる特別な血を引く『選ばれたもの』でなければ、
 世界を救ってはならない、という暗黙の了解があります(無論、そうじゃないとゲームが成立しねーよハゲってなもんですが)。

 道徳的な観点から見て、こんな理不尽な話もない。人の生後の努力を、一切否定しているわけですから。
 そう思って私は、「じゃあ勇者が勇者としてでなく、一人の人間として世界を救うことは出来ないだろうか?」と
 筆を執った次第です。
 ですが、作中のような天文学的確率の偶然と奇跡がそう起こるはずもありません。
 だから、常識など逸脱した魔王という強力な癌細胞を倒すために、やはり人から外れた存在である勇者という抗癌剤を投入する、
 という思考は、決して間違いではありません。
 ただ、その勇者という人物が、自分の意思で望むと望まざるとを考慮されないという、一点を除いて。
 常に偉大な父と比べられ、同等以上の期待を背負わされた勇者ロトの苦悩は、想像を絶するでしょう
 (などということを考えていたら、執筆開始から二ヶ月ほどで、それをテーマにしたドラクエ3同人漫画に出会いました)。

 そんな誰にも理解されない勇者が、何かの間違いで誰かに理解してもらえたら。
 きっと、その人生は、また違うものに変わるのではないか、と。
 アリスワードでは、その可能性の一つをお見せした次第です。スーパー系的な意味で。

 −−−読み飛ばし終了−−−

 では、説教話は一先ず終わりにして、ちょっとしたチラシの裏に入りたいと思います。
254YANA あとがき:2007/01/27(土) 22:15:49 ID:OJNw+ymi0
●各キャラの名前
 既にお気づきの方が居るかもしれませんが、作中のオリジナルキャラの名前には、ある出典があります。
 アリスワードのテーマの一部には、俺がお気に入りの、天使を題材にしたとあるマイナー小説と同じものが含まれています。
 オリキャラたちの名前は、その小説に関連する用語などから引用・或いは独自の解釈・アレンジを加えて名付けられています。

 また、メインキャラでアリスのみその名前の意味が語られていませんが、
 それにもちょっとした事情があります(ネタバレに非ず。個人的な配慮です)。
 が、それは何か、別の機会にでも。…分かる人は、もう分かっているかと思いますがw

●アリスワードからドラクエ1へ
 王者の剣(ロトの剣):ゾーマの居城崩落と共に地の底に。…後にその上には、竜王の城が建立。
 勇者の盾(ロトの盾):竜王出現までに修復が終わらず、実戦投入に間に合わず。2にて再登場。
 光の鎧(ロトの鎧):ゾーマに空けられた穴を修復することを約束・完遂したドムドーラの商人に、ゴドーによって委ねられる。
 ロトの石版:大体百年後くらいに、当時のラダトーム王が職人に巧妙に作らせる。
 聖なる守り(ロトの印):………所在不明。
 オルテガの兜:LAIR OF WOLFの付近に立てられた墓標に供えられている。

●最萌んときのアレ
>413 名前:YANA 投稿日:2006/06/16(金) 17:19:57 j4kWedP60
>ぞくぞくしてきたぜ!この高揚感!!(お前は何を言っているんだ
>ウチの本命キャラが思った以上に最萌えトーナメントを勝ち抜いております。
>まかり間違って優勝、なんていうのも不可能ではないかもしれん位置まで来てます。
>はりきって支援しまっくてたら、いつの間にかベスト8。オウ、ジーザス。
>つきましては、続編の投稿が最悪、6月末まで停止するかもしれません。申し訳ないです…。
>んで、せっかくなので、今後の展開について少し。
>でも、ネタバレ嫌いな人は読まないでくださいね。
>レベルとしては比較的軽度のネタバレであると判断していますが、あくまで俺の主観ですので。

 ぞウまはつんでレ→ゾーマはツンデレ 
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 22:16:14 ID:FHae0fPu0
初リアルタイム遭遇がなんとも素晴らしいエピローグ・・・
今まで最高の作品を有難う!
本当にお疲れ様でした!
256YANA あとがき:2007/01/27(土) 22:17:11 ID:OJNw+ymi0
●完結しない「SS」
 世の中には、凍結とか何とか名目をつけて「飽きた」からといって執筆中のSSを放り出す人が沢山居ます。
 俺はそういった輩は大嫌いですが、ある意味感謝しないといけないかもしれません。
 反面教師、「ああはなりたくない」という気持ちが、俺という人間を強くしてくれました。
 原作のシナリオをなぞる為、始まりと終わりがある程度決まっていたモノを書いた俺が言うなって話しではありますがー。

●神竜編と2
 暫くスパンを置くことになりそうなんだぜ?
 前後の余韻も作品の一部、というのが俺のモットー(その点、WEB小説は便利ですw)なので、
 そんなすぐ出すのは頂けない…というのもありますが。
 いくつか、先約があるのです。それを終わらせてから、忘れた頃にやってきます。
 …この二つの順序としては、多分2が先なんじゃないかと思いますが。
 神竜編はどっしょもないカオスなので、確実にプロットをまじめに組み直す必要があるのでw

●泣かないライナー
 オリキャラの中で、特に群を抜いて異質を極める彼女。
 お気づきでしょうか。ゴドーたちメインキャラは全員、作中で必ず一度以上「泣いて」いることに。
 涙は人が生きる証であり、また彼らが誰一人として、決して神や何かでないことを象徴しています。
 そんな中、ただ一人一度たりとも涙を流さなかったのがライナーです。
 彼女が泣かない原因となった事件は、その内TEXTファイルか何かでうpされるかもしれません。ドラクエとは無関係なので。

●他にも
 俺が見落としてるチップがあるかもなので、何かして欲しい種明かしとかあったら答えます。
 執筆上の裏話とかも可。俺や読者様方を含めた各所に支障が出ない程度にw
 
 それにしても、まとめさんは大丈夫なのかしら。最近動きが見られないので心配です。
 もし俺ので未読の方の希望があれば、生原稿でよけりゃうpしますぜ。

 さて、んじゃとりあえずは、CC氏の作品を読んできますね。
 …しかし氏のP.N.は、何度見てもタイムリーだと思うわけですよ。全力でツンデレ!!
257255:2007/01/27(土) 22:26:26 ID:FHae0fPu0
ゴドーの人物紹介で終わりだと思って、あとがき待たずに
書き込んで割り込む形になってしまった・・・orz
YANA氏申し訳ない!
258CC ◆GxR634B49A :2007/01/27(土) 22:57:49 ID:hKaqmjfl0
YANAさん、ホントにお疲れ様でした〜。
完結しないSSってゆーの、激しく同意かもw
その意味も込めて、改めてGJでした。

>>253
ウチが書き始めた頃は、アリスワードがそういうテーマだと思ってなかったので、
今思うとちょとカブちゃってたかもですねぇ。
でも、実際はちょっとズレてて、アプローチの仕方も全然違くなる筈なので、
(ウチは表面的には真正面から書いてるけど、実際はそれが主題はないので)
まぁ皆様笑って流してくださいませw
あと、とあるどこかの一節で汗かきました。マジやべー。

嗚呼、しばらく潜伏してるつもりだったのに、我慢できずにレスしちゃったよw
それでは、余韻を汚さぬ内に、しばしドロン。
あ、跡が濁ったw
259見切り先走り液:2007/01/27(土) 23:05:13 ID:94Yep3al0
昨日はそんな書き込みでスマソ
そして、改めてお疲れ様です。
なんていうか「良いなぁ」という終わり方で思わず感動。幸せそうで何より。
つーか羨ましいやら妬ましいやら。
いやほら、こう良い比較対象があると自分の粗がどんどん見えてくるというかなんというか。
良いもの見せて貰って有難う御座いました。

>それをテーマにしたドラクエ3同人漫画
武(ryのやつですか?もしそうなら、あれは創作意欲を掻き立てますよね。
3スレでありながら3をずーっと忌諱していたけど、あのテーマなら、と思ってみたりみなかったり。

またこのスレでYANA氏の作品に出会えることを心待ちにしています。

つーかっ!いつまで現実逃避してるんだっ!今はやることあるでしょっ!あと一寸なんだから頑張りなさいっ!<自分
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 23:15:34 ID:ORJFNdjH0
エピソードGJGJGJGJGJGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGJJJJJJ!!!!!!でしたー。
余韻冷めやらぬ内に質問で申し訳ないですが少しだけ。

>と。俺を見るや、少女は小さく何かに気づいたような声を上げ、少年は鯱張って姿勢を正す。
↑これはゴドーの傷とかかなと思うんですが、、、

>最後に見た時にはあったものが、今は欠けてしまっていたけれど。
↑この文の解釈を、この出来の悪い名無しに教えて頂けると幸いです・・・
261名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/27(土) 23:20:32 ID:YkjfBphfO
>>260
頭のリングじゃね?


YANA氏乙
262YANA:2007/01/27(土) 23:46:53 ID:OJNw+ymi0
>>見切り頭皮氏
>武(ry〜
勇×武であるという点はそうですがwどうなんだろ?w
某もよもと本の一作品ですね。あれのあとがきまで読んだ時、自分の中に火が点きましたw

>>260
ゴドーは最終節後に暫くして、腐り始めた右腕を思い切って切り落としました。
二人はゴドーに右腕がないのを見て、彼がアレフガルド戦役に参加してそうなったと勘違いしたわけですね。
アリスに関しては、いわずもがな。
263名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/28(日) 00:24:48 ID:XkOWaM8z0
エピローグキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
YANA氏グゥゥゥゥッジョ!!!

今日レス無かったら、「アンタのファンの為にあとがきくらい書きなさいよねっ!」
と説教する勢いでスレ覗いたけど・・・流石に完璧ですねwww
本当にお疲れ様でした〜。


さあ余韻に浸りながら、幸せな気持ちで寝よう・・・
264144:2007/01/28(日) 00:42:59 ID:OTExkodg0
YANA氏があとがき無しで終わるとは思ってなかったがやっぱりあったwww

お疲れ様でした開始時から見ていて、一年以上たつなんて…
最後まで無事完結おめでとうございます。
また絵を描かせて貰おうと思っていたんですが、それも完結した今となってはww
次回作も楽しみにしています!!

質問ですが、ロトのしるしって1では毒の沼地にあったような?まさか彼らがそこに捨て…?w
265YANA ※補足(読む人によっては腐女子分有?):2007/01/28(日) 01:00:27 ID:F1LiuKJQ0
言い忘れてました。これだけは、今のうちにあとがきに加えておきたいので一つ。


   ゾーマは、ロトに恋をしてたんじゃないかと思うんです。


突然何を言い出すんだこの馬鹿はとお思いでしょうが、
アリスワード終曲の裏テーマは、「アリスとゾーマの壮大な痴話喧嘩」なのです。
それを垣間見れるのが、第五節「勇者の挑戦」の中盤の、二人の言い争いです。
原作中の「よくぞ来た!〜」「我が腕の中で息絶えるがよい」などの台詞から読み取れるとおり、
ゾーマは異常なほど勇者に執着しています。

待って、待って、待ち侘びた相手が遂に目の前に来て、ゾーマは自分の感情が高まって、
それでもそれがどんな感情なのか理解できなくて、自覚もないままあんな変態的な言葉を発してしまったのではないかと。

アリスワード内では、ゴドーとの最後のやりとりで、ゾーマは死の間際に自分が彼をどう思っていたのかを理解します。
そうして狂おしいほど思い、その腕に抱いて殺してしまいたいほど執着した彼に、それを告白しようとしました。

ゴドーよ。我は、お前を愛していたのかもしれない≠ニ。

…アリスワード真のツンデレの称号は、ゾーマ様にこそ相応しいのかもしれません。

又、性別の垣根を取り払うために、作中では意図的にゾーマの三人称には『彼』も『彼女』も使用されていません。
ゾーマはただ、生まれた時の邪悪な本能のままに、ロトを欲し、自分の元に導いた…と、私は解釈しています。
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/28(日) 03:04:59 ID:SZgtXyZR0
最大級のGJ!とお疲れ様でしたを。

>先約
アレですね。
エロパロスレの武道家(え



この発言で空気を台無しにしたら俺が悪かったwww
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/28(日) 08:47:39 ID:wrt5O0Oe0
YANA氏作品完結乙でした。
文中からそんな意図が読み取れますね。>恋焦がれ

またいつかYANA氏の作品を見たいものです。
……もしかすると別所で毎日見てるアレかもなぁ。
268名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/28(日) 09:27:59 ID:fpdLxYBI0
今度こそYANA氏乙&GJ!!

>ゾーマは、ロトに恋をしてたんじゃないかと思うんです。
実はそれ考えちゃってた俺は腐女子。男なのに
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/28(日) 12:27:13 ID:R4poIuQv0
>YANA氏
本当に感動をありがとうございました。お疲れ様です。

俺も一つ質問なんですが、
ルビスやゾーマがゴドーに照らし合わせていた者の正体は一体何だったんですか?
270YANA:2007/01/28(日) 14:13:56 ID:F1LiuKJQ0
>144氏
>>ロトの印
少年と少女はその十年後、山奥で咲き誇る一面の花畑を舞台に、
双剣を携えた一人の青年とロトたる証を懸けた死闘を繰り広げる。
結果は相打ち…双方ともそこで息絶え、ロトの印だけがそこに残った。
此方より彼方まで、アレフガルドを見守り続けた花々に包まれて――――――。

…などということを夢想したわけですが、俺の全くの与太話なのでどうぞご自由に解釈なさってくださいw

>>267
まぁそれもあるけどもwww

>>267-268
っていうか、自分で書いといて何なんだけども。
作中のゾーマ様の容姿を、脳内で某朱い月よろしくなお貴族ドレス装備の美女に疑女化してみて悶絶した(ぇー

因みに俺がこれまでにドラクエ以外に書いたSSは、
バハラグエロパロの一部と素直ヒートの短編くらいなので毎日は書いてねぇw

>>269
http://www.geocities.jp/game_trivia/dq3/1138064814.html
ここの383の解説を参照くだせぇ。
尚、作中では彼と黒い竜の邂逅にて、彼の内なる竜とその黒い竜がそっくりであること、
そして彼が竜の子であり、大地の一族が天より下りし竜の末裔であることが仄めかされています。
が、ついぞ彼の竜の子たる力は発現することなく、物語は完結します。

アリスワードでゾーマが異常なほど拘ったゴドーの目覚めとは、ディアルトの人格と、
彼本人すら扱うに至らなかった秘めた竜の力の顕現を示していたわけです。
271名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/28(日) 17:28:12 ID:R4poIuQv0
>>270
なるほど。本編だけ見ててログまではチェックしてなかったw
そういう事か、納得しますた。お答えサンクス
272144:2007/01/28(日) 19:05:03 ID:l6r+OR6B0
>YANA氏
ウハwww少年達にもそんなストーリーがwww描きてぇwww
ホントにYANA氏GJ!!!

その内自分もオリジナルで漫画投下できたらと思ってます!!卒論終わったら…
273名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/29(月) 01:02:55 ID:EZjRdFy60
…ゾーマ様に燃え以外の何かを感じるかと思えばやはりそういうことでしたかw
確かに唯一自分への脅威となりそうな勇者をわざわざ異世界にまで呼びに来ますもんね。
しかも生贄の祭壇では自分にはあまり利益のなさそうな篝火をわざわざ炊いてお出迎え。
…あぁもうゾーマ様がツンデレにしか見えないwww

そういや竜王も「お前が来るのを待っていた」みたいな事言ってましたね。
ハーゴンはいかにも迷惑そうにしてましたけど。
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/29(月) 18:45:38 ID:uz1VZDPD0
YANA氏の作品が完結した今、SSのネタがふつふつと頭の中に浮かんでくる…。
だが、自分にはツンデレという複雑な恋愛表現をうまくかけそうにない。
そういう事からも、やっぱり職人てのは難しいもんだと思う。
だから、それを完成させてしまったYANA氏はやっぱりすごいんだなぁと
あらためて実感しましたよ。今回。

さぁて今日も手馴れた職人方のSSを読んで物思いに耽ることにしましょうか。
275名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/29(月) 21:08:17 ID:Z7ye/qFN0
精霊ルビス伝説の概要は色々な所読んでちょっとだけ知ってる俺。
確かDQ6の時、主人公未覚醒なんでルビス様ヨヨヨしてたような気がする。
SFCDQ3のルビスの塔の時はそんなそぶりなかったけど。
あとルビスと会話あるのってどこだっけ。

あと俺は黒髪ロングを想像(ry
276名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/30(火) 04:25:50 ID:p6AU5x8R0
しーしーし、そろそろ投下してくれたら嬉しいなぁ。
YANA氏の作品も区切りついたし、見切り氏・CC氏の作品が、このスレの進行形作品ですよね。
体調気をつけつつ、頑張ってください!
277CC ◆GxR634B49A :2007/01/30(火) 05:48:44 ID:RU48AGdq0
あいあーい。
そろそろ落ち着いたかな?

では、明日辺りにボチボチ投下しようかと思います〜。
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/30(火) 18:58:02 ID:VuD4T46p0
ながれ読まずにカキコだけど、「ひかりのたま」ってバラモス倒して
アリアハンのイベント後に竜の女王の城でもらえるって攻略サイトに書いてあったんだけど
女王がいない....orz

ランシールバグやりまくったら女王消えちゃうの?
おしえて!!
279名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/30(火) 19:50:54 ID:/bdMa4AS0
該当スレで聞いてね。

CC氏楽しみにしてます。
280名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/31(水) 05:50:53 ID:hD7c+Xae0
>>1も読めない人には・・・ってやつだ。
281CC ◆GxR634B49A :2007/01/31(水) 07:47:15 ID:8Cm62mdu0
うはw今度はキーボードに味噌汁こぼしたwww
なんかノリも出ないし、まいっちゃったなぁ。。。
まーでも、今晩か明日の明け方くらいには投下します〜。
すいませんが、今しばしお待ちを。
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/01/31(水) 23:43:27 ID:MbE6YVmt0
ワックテカワクテカ〜保守
283CC 18-1/27 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 06:36:12 ID:dOeKmTAH0
18. CUTIE ON DUTY

1

 そいつは、一言でいって異形だった。
 全身黒づくめなのは他の盗賊共と大差ないが、マントは羽織っておらず、頭だけでなく顔にも黒い布を巻きつけている。
 そいつを最も異形たらしめているのは、大きな瘤でも隠されているように盛り上がった、いびつな背中だ。ゆったりとした上着に覆われているので、実際にその下がどうなっているかは窺い知れない。
 それ以外の全てがひょろりと細いことが、余計に病的な印象を醸し出していた。
 だらりと両脇に垂れた腕が、異様に長い。地面に着きそうとまではいかないが、膝の辺りまで伸びている。
 一体どこから降ってきたのか、ゆらりと身を起こした痩身の影は、どこか無機質で底冷えのする気配を漂わせ、まるで墓場から這い出した幽鬼めいて見えた。
「待テ」
 長い腕を横に伸ばして、盗賊共を押し止める。
 よく見ると――腕が長く見えたのは、両腕の先にデカい爪のような武器を嵌めているからだ。
「コいつハ、オれガ始末スる」
 覚えたての言葉を喋るように、たどたどしく言い置いてリィナと対峙する。
「ったく、遅ぇよ。もう出て来ねぇのかと思ったぜ。そんじゃ、頼んだぜ、センセイさんよ」
 盗賊の一人がかけた言葉から察するに、この異形はさしずめ盗賊共の用心棒といったところか。確かに、只モンには見えねぇな。
「ふぅん――よろしくね、センセイ」
 揶揄を口にして、構え直すリィナ。
 こいつが後れを取るとは思わないが――あぶれた連中くらいは、こっちで面倒見てやらないとな。
『イオ』
 閃光が黒づくめ共を包んで炸裂し、爆音が悲鳴を塗り潰す。
 阿呆共が。無警戒に、いつまでもひとつ処に固まってやがるからだ。
 イオの端っこに捉えたと見えた黒い影は、いつの間にやら離れた場所でリィナとやり合っていた。
 地面を滑るように、足を全く動かさずに移動している――ように見えたが、そんな訳ねぇよ。おそらく、地面と平行にスレスレを跳躍してやがるんだ。
「――へっ!?」
 立ち姿とほぼ変わらない姿勢のまま接近する影に距離感を見失ったのか、リィナが戸惑った声をあげた。
284CC 18-2/27 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 06:39:44 ID:dOeKmTAH0
 伸ばした長い右腕を、影が振りかぶる。
 袈裟懸けに振り下ろされたそれを身を捻って躱したリィナに、すぐさま反対から左腕の鉄爪が無造作に襲いかかった。
「っと」
 体の捻りを逆にして空を切らせた鉄爪が、左右同時に跳ね上がる。
「ひょ」
 下からバツの字を描くように、振り下ろされた軌道を逆行して交差する鉄爪から、リィナは辛うじて後ろに跳んで逃れていた。
 足が着くなり地面を蹴って、ちょうどバンザイの格好になった影に突っ込んでいく。
 リィナの拳は、影を捉えなかった。
 影の躰は小さく折り畳まれて、リィナの頭上にあった。
 いつ跳躍したのか、躰を丸めてしゃがんだ姿勢で空中に浮いている。
 そのまま、両腕の鉄爪を振り下ろした。
「うわととっ」
 リィナは突っ込んだ勢いを殺さずに、影の下を前転で潜り抜けて爪を避ける。
 落下するよりも速く、縮めていた躰を伸ばして、影は両足を地面に着けた。
 体のどこかに結ばれた紐をぐいと引っ張られたみたいに、ぐりんと不自然な挙動で振り返り、左右の鉄爪を擦り合わせる。しょりんしょりん、と鉄同士が擦れる嫌な音が響いた。
 それにしても、奇妙な動きをしやがる。動作に力感が無いというか、操り人形じみているというか――まるで影だけが、重力が存在しない異なる理の中で動いているように見えた。
 動きの予測がつかないのか、リィナも多少面食らった様子だ。
 あっちの趨勢も気にはなるが、こっちはこっちで、呑気に観戦してる場合でもない。
 残念ながら、イオで全滅するほど盗賊共は弱っちくなかったようで、比較的ダメージの少ない黒づくめから身を起こし、ウラーとか妙な雄叫びをあげつつ向かってくる。
 問うような眼差しをして、シェラが俺を見上げた。
 うん、マグナだけじゃ防ぐのがキツいのは分かってる。他の護衛連中も手一杯みたいだから、加勢も期待できねぇしな。
 でも、ほんの少しだけ待ってくれ。
 先頭の黒づくめが、マグナと剣を合わせた。
 二合打ち合ってそいつを倒したマグナに、次の黒づくめが襲い掛かる。二人目を捌き切らない内に、三人目――ここらが限界か。
「マグナ!!」
 声をかけると同時に、シェラの背中を叩く。
285CC 18-3/27 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 06:44:21 ID:dOeKmTAH0
『バギ』
 鍔迫り合いを押し返した勢いで、マグナが大きく後ろに跳び退く。
 殺到しつつあった黒づくめ共の行く手を遮るように、シェラの呪文が発動した。
 真空の刃が、先頭付近の何人かを薙ぎ倒す。だが、後ろの奴らは生意気にも、たたらを踏んでバギの効果範囲から逃れやがった。まぁ、しょうがねぇ。期待以上の成果じゃないが、別に以下って訳でもない。
 ただ、これで俺もシェラも呪文を使っちまったからな。できれば、もうちょい時間差が欲しかったんだが。
「マグナ、こっちだ!!」
 俺はシェラの手を引いて、対峙するリィナと影を、黒づくめ共との間に挟んで盾にするように回り込んで走った。
 リィナは、影に苦戦していた。
 道着のあちこちが、鉄爪に引き裂かれている。致命傷は無いみたいだが、休むことなく振り回される鉄爪の回避に追われ、時折隙を見つけて反撃するも、不気味な動きで躱されている。
「反応――いいなぁ――もうっ」
 牽制気味の掌底すら、背骨がはずれてるんじゃないかみたいに上半身だけ「後ろにズラした」黒い影に届かず、リィナは愚痴をこぼしながら、連続して繰り出される逆襲の鉄爪をギリギリで避け続けた。
 まぁ、お互い様だろうけどな。どっちも、まだマトモな攻撃が当たっていない。
 そこに、迂回した俺達を直線的に追ってきた黒づくめ共が乱入した。
 頼むぜ、リィナ。お前なら、この状況を利用できるだろ。
 地面を転がって横殴りの鉄爪を避け、リィナは黒づくめの群れに飛び込んだ。
 足元を素早く動き回るリィナに対して、黒づくめ共は慌てて蹴りや刀を浴びせたが、どれも空振りに終わる。
 リィナを追う影は、黒づくめ共に全く構わなかった。
「ぐわっ」
「ぎゃあっ」
 黒づくめ共の悲鳴が連鎖する。
 邪魔な障害物を除ける程度のつもりしかないのだろう。影は無造作に鉄爪を振り回し、仲間である筈の黒づくめの群れを引き裂いて、ただひたすらリィナに迫る。
「ちっ、バケモンが。見境無しかよ――馬鹿野郎共!!そいつに近付くんじゃねぇよ!!」
 どれも同じ格好で分かり難いが、隊長格と思しき黒づくめが大声で警告を発した。
「よい――しょ」
 群れの合間をするすると移動していたリィナは、脇から繰り出された曲刀を紙一重で躱すと、体を入れ替えて斬撃の主を黒い影の歩みの先へと突き飛ばした。
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 06:45:30 ID:uJQoee0ZO
支援
287CC 18-4/27 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 06:49:05 ID:dOeKmTAH0
「ひぃ――ぎゃっ」
 真横に払った影の鉄爪に斬り裂かれ、黒づくめはきりもみしながら地面に倒れた。
「ありゃ、ちょっと可哀想だったかな」
 口ではそんなことを言いつつ、リィナは再び黒づくめ共の陰に隠れて移動する。
「離れろってんだよ、このボンクラ共っ!!死にてぇのかっ!!」
 隊長格はそう叫ぶものの、必死に離れようとするその黒づくめ共に、リィナは意図して紛れ込んでいるのだ。
 忠告も虚しく、リィナが巧みに誘導する影に、黒づくめ共は次々と屠られていった。
 なんか段々、影が遠隔操作で動くリィナの武器みたいに見えてきたぜ。
 何人かは惨劇の巷を抜けて、こちらに襲い掛かって来たが、そう数は多くなかったので、マグナだけでも充分に対処できた。
「ん〜……楽でいいけど」
 味方である筈の影に襲われるのは、リィナが近くにいる所為だ。元凶を追っ払おうとして、傍に居た黒づくめが振るった曲刀を、リィナはひょいと躱す。
「でも、キミ、ちょっとやり過ぎ」
 躱しざま、柄を蹴り上げた。
 曲刀が、黒づくめの手を離れて宙を舞う。
「あんまり気分良くないな」
 ひゅんひゅん音を立てて回転する曲刀の腹を、影に向かって横から蹴り飛ばす。
 直線上にいた黒づくめ共が、悲鳴をあげて地面に身を投げた。
 唸りを上げて眼前に迫った曲刀を、影は慌てた風もなく右の鉄爪で叩き落とす。
「ととっ」
 その時――リィナは自分が蹴り飛ばした曲刀の後を追って、ほとんど影の懐に入りかけていた。
 だが、それ以上に影の反応がいい。残った左の鉄爪で、リィナを迎撃する。
 リィナの顔面を襲った横殴りの鉄爪が、すり抜けたように見えた。
 身を沈めつつ水平に振り回されたリィナの脚が、影の足を刈る。
 下半身を跳ね上げられて、影の躰が地面と平行に浮かんだ。
「よいしょおっ」
 リィナは蹴りを止めることなく、回転しながら膝を伸ばして影を刈った足先を跳ね上げると、大きく振り回した踵を空中の影の腹に叩き落とした。
 撃墜された影が、リィナの踵で地面に縫い付けられる。
 一連の流れを、俺は目で追えた訳じゃない。僅かに目に留まった情報を頼りに脳内で補完しただけで、感覚的には影の鉄爪がリィナの頭をすり抜けたと思った瞬間、いつの間にやら逆にリィナが影を踏んづけていた、という感じだった。
288CC 18-5/27 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 06:52:29 ID:dOeKmTAH0
「ん?」
 リィナが妙な手応えを感じたみたいな、怪訝な呟きを漏らす。
 ともあれ、これこそ俺が待ってた好機だ。
「リィナ、離れろ!!」
 言い終わる前に身を翻したリィナが、ぎりぎり巻き込まれない距離まで離れるのを見計らって、俺は呪文を唱える。
『イオ』
 地面に倒れた影を中心に、閃光が黒づくめ共を呑み込んだ。今度こそ、影野郎もモロに喰らっただろ。
 だが、二度目のイオで力尽きた黒づくめ共がごろごろ地面に転がる中、影はゆらりと身を起こした。
 リィナの蹴りも喰らいやがった癖に、ふらついた様子もなく平然として見える。向こうの隊長格が言ってた通り、どうやらホントにバケモンらしいな。
 けどまぁ、隊長格がいくらか押し留めていたとはいえ、これで近くにいたヤツの半分くらいは倒したと思うんだが。そろそろだろ。
「ちっ、駄目だぁ、こりゃあ」
 隊長格が吐き捨てて、手を振り上げた。
 よしよし、そうこなくちゃな。
 魔物と違って、盗賊なんてモンは、全滅するまで戦うような連中じゃねぇからな。ある程度持ち応えれば、しくじったと見て引き上げるんじゃねぇかと予想してたんだが、思った通りだ。
 隊長格の周りの連中が、口に手を当ててホーホーと奇妙な合図を送る。すると、あちこちから生き残りの黒づくめ共がわらわらと集まって、地面に倒れた奴らを抱えて森へと逃げていった。
「おい、バケモン――センセイさんよ!!引き上げだ!!」
 影に一声かけて、隊長格も身を翻す。
 構わずにリィナを襲い続けるかと思いきや――さっきまで、あれほど執拗に追い回していたのに、影は既に全く興味を失ったように、リィナに目をくれることもなく、黒づくめ共の後を追った。
 篝火の明かりが届かない黒々とした森の奥に、その姿はすぐに溶け込んで見えなくなる。
 盗賊共が一斉に去ってみると、周囲は急速にウソみたいな静けさを取り戻した。
 篝火の薪が爆ぜる音さえ、耳に届く。
 夜空の星々は、地上のちっぽけなイザコザなど全く意に介さぬように、襲撃前と何も変わらずまたたいていた。
「――終わった、の?」
 俺の隣りで、マグナが呟いた。
「ああ。とりあえず、追っ払えたみてぇだな」
289CC 18-6/27 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:00:55 ID:dOeKmTAH0
 こちらの被害を見て回ると、なかなかヒドい有様だった。
 護衛連中のざっと三分の一は、既に事切れていた。その上、残りの半分も瀕死だ。
 軽傷の連中には、自分で薬草を使って回復させることにして、俺はシェラと一緒に瀕死の奴らを治療して回った。
 いや、俺がついて行ったところで、何も出来やしないんだけどさ。くたばってるヤツを目にする度に、気を失うんじゃないかってほど真っ青になってよろめくこいつを、独りで行かせる訳にもいかねぇだろ。
 リィナにも手分けしてもらったんだが、あいつはそう何回もホイミを唱えられないらしい。他にニ、三人いた僧侶も似たようなモンで、あんまり分担って感じでもなかった。
 シェラの回復してもらって、バツが悪そうな顔をするバカがちらほらいるのがムカついた。
 曖昧にへらへらとにやつくそいつらが口を開く前に、俺はシェラの腕を掴んでさっさと移動する。ヘンな目を向けてた相手に助けてもらった手前ぇらのきまり悪さに、付き合ってやるつもりはねぇんだよ。
 瀕死の連中には、腐れ小僧のストラボも含まれていた。
 それを見つけちまって、俺は内心で舌打ちをする。
 悪運の強ぇ野郎だ。駆け出しの剣士風情が、命冥加なことだな、くそったれ。
 まぁ、こいつを回復してやる義理はねぇだろ。
 地面に伏したまま、か細い喘鳴を繰り返すばかりで、呻き声すら上げない腐れ小僧の脇を素通りする。
『ホイミ』
 背後で、シェラの呪文が聞こえた。
「おい」
 振り向いた俺に、シェラはなんとも言えない微苦笑を浮かべてみせた。
「放っておく訳にも、いかないじゃないですか」
「けどよ――」
「いいんです。こうしないと、多分後悔しちゃいますから」
 隣りに並んで、俺を見上げる。
「もうこれ以上、自分を嫌いにならないようにしたいんです。思い出した時に、ああすればよかったって、なるべく悔やまないように。だから、どっちかと言うと、自分の為です」
 確かに、後々までシェラの後悔の種になるような価値は、こいつには無ぇけどさ。引っかかりにしちまうくらいなら、気が済むようにしてすっきり忘れた方がいいのかね。
290CC 18-7/27 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:03:47 ID:dOeKmTAH0
「それに、まだ全然完治してませんから。却って意識がはっきりして、苦しいかも知れませんよ?」
 冗談めかして、そう言った。
 まぁ――お前がそれでいいなら、俺が四の五の言うことじゃないけどさ。
 命を取り留める程度には回復したのか、腐れ小僧が呻き声をあげた。なるほど、意識が混濁した状態よりは、逆に苦痛かも知れねぇな。
 俺はストラボの傍らにしゃがみ込んで、後頭部を思いっ切り殴りつけた。
「ぐっ――」
 手が痛ぇな、くそ。蹴っとばせばよかったぜ。
 シェラの代わりだ。仕方ねぇから、これで勘弁――はしてやらねぇけど、見逃してやらぁ。
 ひと通り回り歩いて、瀕死の奴らをあらかた治療してやった俺達は、なんだか疲れてる様子だったので、休ませておいたマグナの元に戻った。
「お疲れ様。ごめんね、任せちゃって」
「いえ、私の役割ですから」
 そうそう。気にすんなよ。俺もなんもしてねぇし。
 大体、魔法オンチのお前のホイミにかかっちゃ、逆に具合が悪くなるヤツが続出しそうだからな。大人しく待ってるのが、一番の手伝いってモンだぜ。
 溜息を吐いたマグナを、シェラが心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか?どこか怪我してたら、隠さないで言ってくださいね」
「あ、ううん。大丈夫。ごめんね、シェラの方が疲れてるのに……」
「いえ、そんな」
 マグナはちらりと、斬り殺された護衛の一人に目を向けた。
「あいつら……人間よね」
 黒づくめ共のことか。
「ああ」
「なんなのよ……人間同士で、こんな事してる場合なの?」
 そう言って、また深い溜息を吐く。
「そうですね……」
 マグナの煩いが、シェラにも伝染したようだった。
 元から重かった空気が、さらに目方を増す。
 やれやれ。
 言っとくけど、くたばった連中を土に埋めてやるっていう、もっと気の重い仕事が、まだ控えてるんだぜ。この調子じゃ、終わる頃には夜が明けちまいそうだ。
 堪えたつもりが一瞬遅れて、俺の溜息は鼻から抜けていった。
291CC 18-8/27 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:07:44 ID:dOeKmTAH0
 盗賊団の襲撃もやり過ごしたことだし、アッサラームまで歩いても大してかからない処まで来ていたので、隊商とはもう別れるつもりだったんだが。
 ずっと馬車の中で震えていた護衛頭のバロウは、俺達に残ってくれと懇願した。
 護衛の人数がエラく減っちまったモンだから、自分の安全に直接関わるとあって、この中年太りも必死だな。平身低頭でべんちゃらを並べ立てるその姿は、なんだか哀れというか呆れるというか、今さら腹も立たなかった。
 フェリクスの爺さんにも引き留められて、このまま別れたら見捨てるみたいで後味が悪いということになり、報酬の倍増と、護衛連中を再編成して俺達に専用の馬車を与えることを条件に、渋々ながらアッサラームまで同行することになった。
 腐れ小僧や女共と顔を合わせなくて済むように、本隊ではなく先導に配置も換えさせた。その分、魔物との戦闘は増えたが、四人でいられる気楽さを取り戻せたことの方が大きい。
 例によって寝る時は、俺は独りで馬車から追い出されたりした訳だが、居場所が無さそうなシェラの姿を見ないで済むだけ、全然マシだ。
 その後は、魔物に襲われる以外は特に問題も起こらずに、数日を経て無事アッサラームに辿り着いた。
 報酬を受け取った際に帰りの護衛も打診されたが、もちろん丁重にお断りした。
 ここの魔法協会に顔を出しておけば、俺達はルーラですぐに戻ってこれるから、何事もなきゃ付き合ってやっても良かったんだけどな。まぁ、頑張って代わりを見つけてくれ。
 アッサラームは、賑やかな街だった。商売が盛んな様子で、沢山の人間が行き交う大通りにはずらりと露店が並び、道の両脇からは威勢のいい掛け声が飛び交っている。
 通りを眺めていれば、すぐに気が付く事だが、男はどいつも同じような格好をしていた。まるで示し合わせたように、頭に白い布を巻きつけて、膝上くらいの貫頭衣をすっぽり被っている。なんか決まりでもあんのか。
 ゆったりとした穿き物を身に着けているのは、男女に共通していた。残念なことに、女がスカートを穿く習慣が無いらしく、一人も見かけない。
 もう晩夏だってのに、この辺りは日差しがキツいからな。あんまり肌を露出するのは、敬遠されるんだろう。つまんねぇの。
 ともあれ、ここの連中の服装はかなり独特で、俺達の旅装は余所者だということが一目瞭然だった。
292CC 18-9/28 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:10:45 ID:dOeKmTAH0
「お嬢さん、とてもキレイね。でも、これをつけたらもっとキレイね。この世で一番キレイなイシスの女王様も、同じのつけてるね」
 そんな訳で、今もマグナが旅行者狙いの物売りに、しつこく付き纏われていたりする。俺達に声をかけてきたヤツまで合わせると、これでもう六人目だ。
 偽物くさい宝石が無数に象嵌された、ジャラジャラとやたら煌びやかな首飾りを押し付けてくる物売りを、マグナはうんざりした顔で追い払う。
「だから、要らないってば。そんなゴテゴテした悪趣味なの」
「おー、お気に召しませんか。もっとすっきりしたのあります。もちろんね。これなんか、きっとお嬢さんによく似合いますね」
 物売りは、腰の袋から違う首飾りを取り出した。今度のは一転して飾りっ気の無い、鎖と金属片だけで構成されたような代物だ。
「へぇ……」
 割りと気に入ったらしく、マグナは一瞬だけ物欲しそうな目をしたが、すぐに首を横に振った。
「――って、要らないから。着いたばっかりで、まだ買い物とかするつもりないの!」
「分かります分かります。着いたばっかりね。だから、コレ買ってくれたら、いい宿紹介します。ワタシが口利くと、特別に安くなりますね」
「ホントに?でも、それいくらなのよ」
「とてもとてもお安いね。なんと、たったの二千ゴールド」
「……バッカじゃないの」
 言下に切り捨てられて、物売りは慌てて訂正する。
「おお、お嬢さん、とても買い物上手。ワタシまいってしまいます。では千ゴールド。とてもお買い得ね」
「話になんない」
「おー、これ以上まけると、ワタシ大損します。でも、あなたトモダチ。五百ゴールドにしますね。これならいいでしょう」
「いいワケないでしょ」
「おお、お嬢さん、とてもヒドい人。ワタシに首吊れと言いますか。分かりました。では、二百五十ゴールド。これ以上は、もうまかりませんね」
「……だから、要らないって言ってるでしょ!?あっち行ってよ!!」
 ちょっと心が動いたように見えたのは気のせいか。
「おー、お嬢さん、今買っておかないと、きっと後悔しますね。イシスの女王様ご愛用の首飾り、こんな値段で買える時、もうありませんね。それに、ワタシが紹介する宿、とてもとても豪華ね。豪華でお安い――」
「あ、いたいた。もー、探しましたよぉ!」
293CC 18-10/28 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:13:22 ID:dOeKmTAH0
 向こうからやってきた少女に、唐突に声をかけられた。
 ゆったりとした下穿きは周りの連中と同じだが、腰に肌触りのよさそうな薄手の布を巻いていて、ここでは珍しく袖の無い、ベストのような上着をひっかけている。
 長い髪を頭のてっぺんで結い上げた、大きな瞳と浅黒い肌が異国情緒を感じさせる少女だった。歳は、マグナより少し上くらいだろうか。
「ごめんねぇ。この人達、ウチのお客さんなんよ。悪いけど、他所を当たってちょうだいな」
 すっかり顔見知りみたいな口を利いて、物売りをしっしと追い払う。
 この地方の俗語と思しい、意味の分からない悪態を吐き捨てて、物売りは俺達から離れていった。
「ありがとう。助かったわ」
 マグナが礼を言うと、少女はにんまりと微笑み返す。
「いえいえ、どういたしまして。そうだなぁ、大まけにおまけして、五十ゴールドでいいよん」
「は?」
「いや、だってホラ。口で言うだけならタダってモンでしょ。タダは、お礼じゃないやねぇ」
 マグナの目尻が、見る見る吊り上がる。
「なんなのよ!?守銭奴しかいないの、この街!?」
 フンとばかりに顔を背けて先に行きかけたマグナの手を、少女は掴んで引き留めた。
「あ〜ん、お待ちになってぇ」
 マグナにずるずる引き摺られながら、妙な嬌声をあげる。
「……ふざけてんの!?」
「とぉんでもない。大マジメだよぉ。いやさぁ、悪い話じゃないんだってば。アンタらみたい余所モンが、この街の流儀も知らないでそこいらウロウロしてたら、あっという間にケツの毛まで毟られちゃうんだから〜」
 ケツの毛って。ずいぶん蓮っ葉な物言いをする女だな。
294CC 18-11/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:17:00 ID:dOeKmTAH0
「アタシに任せてくれたら、宿の世話からなにから、一切合切面倒みてあげるからさぁ。それで五十ゴールドったら、この街じゃ破格もいいトコなんですよぉ、お客さ〜ん」
「結構よっ!!」
「だから、ちょっと待ってよぉ。例えばさ、宿を取るにしたって、誰の口利きもない一見の客なんか、まず十倍はふんだくられるんだって。悪いこた言わないから、あたしに任せてみなよん。ウチくらい良心的にやってるトコって、ここじゃ他に無いんよ、これホント」
 言葉通りに、こいつが取り立てて良心的だとは思わないが、いずれどいつも同じ事を言いそうなこの街では、相場も知らずに自分達で手配したら、確かにぼったくられそうではあるな。
「まぁ、いいんじゃねぇの。五十ゴールドで、全部面倒見てくれるってんならさ」
 試しに提案してみる。
「おっ、気風がいいね、お兄さん。よっ、男前!話が分かる!まいどありぃ〜」
 少女が、俺の腕にぴょんと飛びついてきた。
 ぎろりと俺に向けられたマグナの目から、ある意思が露骨に読み取れる。
 いや、違くて。この娘が結構可愛いからとか、そういう事でなくて。確かに、お前より胸もあるけどさ。
「……別にいいけど。あんたが責任持って払いなさいよね」
 マジすか。
 共有の財布の紐を握ってんのは、マグナさんなんですが。
 余計なこと言うんじゃなかったぜ、畜生。
295CC 18-12/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:20:53 ID:dOeKmTAH0
「まっずは、そのナリだぁねぇ。そのまんまじゃ、アタシらカモで〜すって大声で宣伝して歩いてるようなモンだから」
 アイシャと名乗った少女の提言に従って、俺達は知り合いの店だという服屋に連れて行かれた。
 さっきも言ったが、この街の男共はどいつも似たような格好をしているので、俺の服はあっさり決まったんだが。案の定、マグナ達はそうすんなりとはいかない訳で。
 アイシャの服装を基本線として、ちょっとした柄の違いやら色使いなんかで、さんざん迷ってエラい時間がかかった。
 どうせスカートじゃねぇから、どうでもいいや。とか思ってたんだが。
 実際に着替えた三人を目にしたら、存外に悪くない。一番似合ってるというか、違和感ねぇのはリィナかな。もうちょい日に焼ければ、現地の人に間違われてもおかしくないぜ。顔立ちは、どうしようもないとしてもさ。
 マグナとシェラは日焼け対策の為か、幾何学模様が織り込まれた色鮮やかなショールみたいな布を頭から被っていた。
 待ち疲れでげっそりしつつも、気力を振り絞って似合う似合うと褒め称える。俺って健気。だが、どうやら適当を言ってるみたいに聞こえたらしく、あまり歓迎されなかった。
 服だけだと何か物足りないから、装飾品を見て回りたいなんぞと言い出したマグナを、頼むから後にしてくれと拝み倒し、俺達はアイシャの案内で宿屋に向かった。
「――ここは、コソ泥が入らないコトになってるから、安心して泊まれるよん。この値段でそういう宿、他にゃほとんど無いんだから〜。メシもそこそこだし、いい宿だよん」
 とりあえず部屋を取って、乾燥した空気に干上がった喉を食堂で潤していると、アイシャがなかなか物騒なことをのたまった。
「あとねぇ、ここより街の奥には、なるべく行かないようにした方がいいよん。柄悪いからさぁ。とか言って、アタシんチは、そっちにあるんだけどね〜」
 けらけら笑う。
 アイシャの話では、アッサラームは貧富の格差が激しい街で、もう少し街外れまで足を伸ばすと、貧民窟が広がっているのだという。必死こいて物を売りつけ、なにかにつけてぼったくろうとするのは、大抵そこの連中だという話だ。
 アイシャ自身は、そこそこの家柄の生まれらしいんだが、幼い頃に破産した両親が失踪して以来、貧民窟で自力で生活しているのだという。
296CC 18-13/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:27:05 ID:dOeKmTAH0
「ま、そんな話は、ここじゃありふれてますけどぉ」
 やたら明るく喋るもんだから、ヘンな同情心は全く芽生えなかった。貧民窟の子供達を束ねて金を稼いでいるという、逞しい少女なのだ。
「ウチらまで回ってくるような仕事は、大した儲けにゃならないけどねぇ。手間の割りには儲けが少ないってんで、金持ち連中が目こぼししてくれるから、なんとかやってけてるようなモンでさぁ」
 さばさばした口振りだった。
「いつかはアタシらも、もっとでっかい商売してみたいんだけどね〜。オイシイとこは全部金持ち連中が握ってて、金を卵を生む鶏の尻尾なんて、ここじゃなかなか掴めないんよ。そもそも、先立つモノが無いしねぇ」
 とはいえ、アイシャはこの街ではそれなりに顔が利くようだった。そこで、神殿のことを尋ねてみたんだが、あっさり知らないと返された。
 エルフの女王の助言から推察するに、もっと東にあるらしいんだが、という話をすると、呆れた顔で笑われた。
「ここより東ってことは、大山脈を越えるんよね?アハハ、そんなの無理ムリ〜。アレは、人が越せるような山じゃないよん。なんたって、夏真っ盛りでも、てっぺんにゃ雪が積もってるようなお山サンだよ〜?」
 ずいぶん望みの無いことを言うのだった。
「まぁでも、知らぬ存ぜぬで通しちゃ、お代はいただけないやねぇ。そういや、山を越えて東に行こうとした変わりモンのハナシ、どっかで聞いたことあるなぁ。よかったら、調べておきますよん」
 よろしく頼むと、「もちろん、お代は別だよん」とくる。さすがにしっかりしてやがる。
 第一印象はあまりよろしくなかったが、マグナはアイシャと性格が合わない訳では無さそうだった。その後も、アイシャとマグナを中心に、女連中はなんだかんだとしばらく四方山話を繰り広げる。
 俺から見ても、アイシャはなかなか面白い少女だった。最初は服やら食べ物やらの風俗の話をしていたのに、どういう流れでそんな話題になったのか覚えてないが、一風変わった見解をアイシャは披露してみせた。
297CC 18-14/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:31:05 ID:dOeKmTAH0
「――大体さぁ、頭ごなしに魔物が悪モンだって決め付けてんのは、アタシはオカシイと思うんよ」
「どういうこと?」
 突拍子も無いことを言われて、マグナは首を捻る。
「だってさぁ、この世の全ては、神様がおつくりになったんよね?だったら魔物だって、神様がおつくりになったってコトだよねぇ」
「えぅ――あの……」
 急に視線を向けられて、僧侶のシェラがしどろもどろの返事をする前に、アイシャは続けて口を開いた。
「なのにさぁ、魔物だけは問答無用で悪モンで、倒すのが正義!人間の敵だーっみたいな常識って、どうなのかなぁって思うんよ」
「それって、ちょっと違うと思うな」
 口を挟んだのはリィナだった。
「ボク達が魔物を倒すのは、倒さなきゃこっちが殺されちゃうからだよ。魔物だから倒してるんじゃなくて、襲ってくるから身を守ってるっていうか」
 冒険者なんかは、金の為に「魔物だから」殺してる訳だが、別に異論を唱えるつもりはない。放っておくと人間を襲うから、その前に退治しておくという、積極的な防衛行為みたいな建前は成り立たなくも無いしな。
「そうそう、そういう考え方だったらね、別にいいと思うんよ。けどさぁ、とにかく魔物は絶対に悪モンだ!みたいな特別扱いっていうか、世の中の常識があるってのも確かじゃない?」
 アイシャは、どう説明したものか、頭の中の思考を追うように視線をさ迷わせた。
「ん〜……つまり、『魔物は悪者!以上!』で思考が止まっちゃってるっていうかさぁ。同じ神様がつくったモン同士なのに、神様でもない人間が一方的に決め付けられるワケ無いと思うんよ。いやね、魔物を庇うワケじゃないよ?けど、他の生き物と何が違うのかなぁって」
 見かけによらず――と言ったら失礼だが、アイシャはなかなか信心深い性質のようだった。俺と来た日にゃ、神様が万物を創造したという前提から信じちゃいないからな。
 嫌味な講師に無知呼ばわりされたのがシャクで、魔法教会に置いてあった本とか多少は読んだりしたんだが、そこで仕入れた知識によれば――
 教会が崇め奉っている『名を憚られる神』、いわゆる神様は、過ぎし日のアリアハンが世界を征服した折に、共通語と一緒に広めて統治に利用しただけの存在に過ぎない。
 だが、僧侶であるシェラはそうも言ってられないだろう。
298CC 18-15/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:35:22 ID:dOeKmTAH0
「でも、魔物は他の生き物とは全然違います。魔王の出現と同時に、突然に世界中に現れるようになったんですよ?とても自然の存在とは思えないです」
「いや、だからさぁ。その魔王ってのも、結局は神様がおつくりになったモノだよねぇ。だから魔王が魔物の生みの親だとしても、それはやっぱり神様の子供には違いないって思うんよ。人間から生まれた人間だって、神様の子供なんだしさぁ」
「だけど……えと、悪魔という存在があってですね――」
「あ、そう、ソレソレ。その悪魔ってヤツ。そいつが、どうにも腑に落ちないんよ。だってさぁ、神様は全能なんよね?それに逆らう存在ってナニ?そんなの、在り得んの?」
 言われてみれば、そうだな。教会はなんて説明してたっけ。
 俺の理解してるところでは、いわゆる悪魔の大半は、アリアハンの世界制覇と共に教会勢力によって、地の底に追いやられた土着の神々でしかない訳で、別に矛盾しないんだが。
「えぇと、ですね。それはちょっと違ってまして。悪魔が人を堕落させたり害を加えるには、神様のお許しが必要なんです。だから、逆らってる訳でもないんですよ」
 シェラは答えながら、魔除けの印を切った。アイシャも感心した顔つきで、それに倣う。
「あぁ、そうなんだ。へぇ、なるほど〜。こんな分かり易い説明、はじめて聞いた気がするよん。教会で話を聞いても、小難しい言葉でケムに巻かれたり、全然頭に入んない寓話を聞かされるばっかで、いまいちピンと来なくてさぁ」
「あ、でも、私もちゃんと全てを理解してる訳じゃないですから、あの、あんまり鵜呑みにしないでくださいね」
「うん、分かってるよん。けどまぁ、つまり、魔物ってのは、悪魔が人間に害――この場合は試練って言うのかなぁ――とにかく、そういうのを与える為に生み出したモンだってことかぁ」
 アイシャは腕組みをして、唸り声をあげた。
「う〜ん……じゃあ、無理なんかなぁ。アタシはさぁ、そのウチ魔物とも共存できるんじゃないかな〜、とか思ってたんよねぇ」
「えっ!?」
 驚きの声をあげたのはマグナだ。
「だってさぁ、聞くけど――魔王は世界を征服しようとしてるんよね?それが今、どんくらい進んでるって思う?」
299CC 18-16/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:38:41 ID:dOeKmTAH0
「どれくらいって言われても……よく分かんないけど、半分くらい?」
 自信無さげにマグナが答えると、こちらは自信たっぷりにアイシャがいらえる。
「アタシはさぁ、もう終わってると思うんよ」
「は?――えっ?もう征服されてるってこと?」
「うん。だって、旅してるアンタ等の方がよっく分かってると思うけどさぁ、世界中どこ行っても魔物が出るんよね。それってさぁ、魔王サンにしてみたら、もう征服したって考えてても、おかしくなくない?」
「はぁ……」
 想像もしてなかった事を言われたみたいに、マグナの返事は気が抜けていた。
「つまりさぁ、魔王サンの方は、『もうこんくらいでいいや』とか思ってて、人間を一人残らず滅ぼすつもりなんて無いんじゃないかなぁ、とか。でなけりゃ、いっくら柵とか塀を拵えて護ってるっても、もっと街とか襲われてると思うんよ」
 そりゃどうかな。アイシャは知らないみたいだが、人間が集まるような土地には、範囲や程度の差はあっても、大抵は魔除けの結界が張られているのだ。
 魔物が容易く人間領域を侵せないのは、そのお陰によるところが大きいんだが、まぁ、言ってることは分からなくもない。
「向こうがそーゆーつもりなら、共存も不可能じゃないのかな〜、なんて。それにさぁ、魔物の中には頭がいいのも居るってハナシだし、そいつら相手になら、商売もできるのかな〜って」
「それ……本気で言ってるの?」
「ありゃりゃ、そんなマジメな顔しちゃいやん。ウソだよ〜ん。そんくらい誰も思いつかないようなコトを最初にしちゃったらさぁ、きっと儲かってウハウハだろうな〜ってハナシ。本気で出来るなんて思ってないよん」
 やだなぁ、とか言いつつ、けらけら笑う。
 なんつーか、ホントに逞しいな。
300CC 18-17/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:43:25 ID:dOeKmTAH0
 その日は、そのまま宿屋で休んで、翌日の昼過ぎから、俺達は手分けして神殿の噂――もしくは東に行く方法を尋ねて回ることにした。
 アイシャにも情報集めは頼んであるんだが、だからって報告を待ってるだけってのもなんだからな。シェラの為にも、早いトコ目星をつけてやりたいし。
 そのシェラには、リィナについてもらった。俺が同行するより、遥かに安心できるってモンだろ。
「じゃあ、夕方ね」
 二人を見送って、自分も立ち去ろうとするマグナの背中に、急に不安を覚える。
 いや――急にじゃない。実は、今朝起きてからずっと、漠然とした不安を抱えていたのだ。
 理由は分かってる。昨夜みた悪夢の所為だ。内容を思い出せないが、こんなに不安を掻き立てられるということは、何かマグナに関する夢だったんだろうか。
「なによ?あんたはあっちでしょ?」
 足を早めて横に並んだ俺に、マグナは怪訝な目をくれた。
「いや、そうなんだけどさ。この街、割りと物騒みたいだし、やっぱ一緒に行こうぜ」
「……別にいいけど」
 思ったよりあっさりマグナが了承してくれて、心のモヤが晴れた気がした。
 途端に、不安がっていた自分がバカバカしくなる。なにやってんだ、俺は。単なる思い過ごしだよな。そりゃそうだ。つか、夢って。俺はどっかの預言者かっての。単に一緒にブラつきたかっただけ、みたいな妙な誤解をされないといいんだが。
 聞き込みをはじめてすぐに思い知らされたことに、この街では買い物もしないで物を尋ねても、誰も何も答えちゃくれなかった。物売りじゃないヤツにしても、露骨に金を要求してきやがる。そんで結局、返ってくる答えは「知らない」だったりするのだ。
「ホントに、なんなのよ、この街!?どいつもこいつも、お金のコトしか言わないじゃない!!」
 マグナは、すっかりご機嫌斜めだ。
 なるべくマグナを刺激しないように、黙して通りを並んで歩く内に、俺は人ごみの狭間に覗く、あるモノに気がついた。
 うおっ――なんか、スゲェのがいるぞ。
 マグナの様子を盗み見る。まだ気付いてない。こいつのことだから、気付いたら絶対道を変えるに決まってる。でも俺は、もっと近くで見たいんだよね。
 うん、よし。
301CC 18-18/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:45:43 ID:dOeKmTAH0
「あ〜……いやー、それにしても、いい天気だよなぁ」
 とりあえず、マグナの注意を逸らすことにした。
「……」
 急に何言ってんの?という目つきを俺に向けただけで、すぐにマグナは正面に顔を戻す。マズい、視線をとっとと別のトコに誘導しねぇと。
「もう夏も終わりだってのに、こう暑くちゃまいっちまうよな。まぁ、乾燥してっから、日陰に入りゃ涼しいけどさ」
「……そうね」
 馬鹿か、俺は。こんな分かりきったどうでもいい話で、注意を惹ける訳ねぇだろ。
 なんか――なんかねぇか。
「あっ、ちょっとアレ見てみ」
「なによ」
「え〜……ほら、あの雲。なんか、面白い形してると思わねぇ?」
 どうでも良過ぎる。でも、他になんも見当たらねぇよ。
「ほら、アレだよ、あの雲。うわっ、すげー」
 俺も必死だ。
「……どれよ?」
 シカトするのも不憫に思ったのか、マグナはいかにも気が無さそうに乗ってきた。
 ここぞとばかりに、俺は上空を適当に指差して、マグナの視線をそちらに誘う。もちろん、変な形の雲なんて、どこにも浮かんでねぇんだけど。
「あれだよ、あそこにあるヤツ」
「……よく分かんない。どんな形してるの」
 よし、もうちょいだ――
 うわ、すげぇな、なんだあの格好。
「え〜とだな、なんていうか、その……」
 あ、ヤベェ。
 指差す先とは逆の方を、俺がちらちら窺っているのに気付いたマグナが、そっちに目を向けた。
「ちょっと、やだ――なにアレ!?」
 足を止めたマグナに気付かないフリをして、俺はそのまま歩き続ける。もう充分近い。
 そこに居たのは、肌も露わな踊り子だった。
302名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 07:51:52 ID:HHE7TEd60
支援
303CC 18-19/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:53:14 ID:dOeKmTAH0
 上半身は胸を小さい布で覆っただけで、ほとんど半裸に近い。ふわりとした腰巻は極めて薄く、大事なところだけを申し訳程度に隠した、その下の布着れが透けて見える。
 やたら肉感的なその踊り子が、いちいちシナを作って通りを行き交う人ごみにチラシを配っる度に、全身につけた装飾品がジャラジャラと音を立てる。
 うわ、すげぇスゲェ。なんか、マジマジ見てるこっちが恥ずかしくなっちまう格好だな、これ。ケツなんて後ろは紐しかねぇから、ほとんど丸出しじゃねぇかよ。
 またそんで、いい体してやがる。胸もデケェが、それ以上に腰つきが素晴らしい――つか、いやらしい。こんなのが、昼間も最中に堂々と天下の往来に顔出していいのかよ、おい。
 いやね、俺はもうちょい細身の方が好きなんだけどさ、観賞する分にはどうしてなかなか――
「あら、お兄さん、いい男。よろしくね」
 身を寄せてきた踊り子が、見え透いた世辞と一緒にちらしを差し出した。おお、すげぇいい匂いすんな。なんか香料を体に塗ってやがんのか。
「夜には開演するから、きっと観にきてちょうだいね」
 そこの劇場でなんかやるのね。はいはい、もちろん、観に――
「さいってー」
 背中に、冷たい声が投げつけられた。
 振り返ると、マグナが元来た道を足早に戻っていくのが見えた。
 今の声音からすると、必死にマグナの目を逸らそうとしていた俺の魂胆は、全部バレちまったようだ。まぁ、当たり前か。
 目的も果たしたことだし、慌てて後を追いかける。
「おい、待てって」
 小走りに追いついて、声をかけても返事がない。
「おいって」
 手を捕まえると、乱暴に振り払われた。
「知らないっ!!」
 マグナは言い捨てて、ますます足を早める。
「ついて来ないでよっ!!」
 そう言われましてもね。ほら、いちおう独りにすんのは心配だから、わざわざついて来た訳だしさ。
 しばらく、憤然と足を動かすマグナから三歩退がって、影を踏まないように歩く。
 会うヤツ会うヤツ、守銭奴ばっかりで、只でさえ不機嫌だった訳だし、こうなるのは分かってたんだけどさ。
 でもな、男としては、あんなのが道端に居たら、近くで見ずにはいられないモンなんだって。
 ンな怒んなよ。
 放っておくと、長引くからなぁ。なんとか、ご機嫌取らねぇと。
304CC 18-20/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 07:56:55 ID:dOeKmTAH0
 通りを見渡した俺の目に、とある露店の商品が留まった。あ、コレなんかいいかもな。
 マグナを見失わないように、手早く交渉を済ませる。多分ぼったくられたと思うが、この際しょうがねぇ。
 人ごみに隠れて追いかけると、むすっとした顔をしながらも、マグナが立ち止まってきょろきょろと俺を探してるのが見えた。こういうトコ、案外可愛いよな、こいつ。
 小太りのおっさんの陰に潜んで一旦通り過ぎ、背後からマグナに忍び寄る。
「よう、誰を探してんだ」
 思いがけない方向から声をかけられたマグナはびくりとして、悔しそうな顔を俺に向けた。
「べ、別に――誰も探してないわよ」
 じろっと俺を睨みつける。
「なによ?あたしのことなんか気にしないで、さっきの観てくればいいじゃない。好きなんでしょ、ああいうの」
「ああ、好きだな」
「……っ!!」
 マグナの鼻に皺が寄った。
「でも、夜からなんだ」
「ああ、そう!!なによ、しっかりチラシまでもらっちゃって。いやらしい――どうぞ、ご勝手にっ!!」
 折り畳んで俺が手にしたチラシに目をとめて、マグナは吐き捨てた。
 ちょっと失敗だったな。チラシ自体は、別に要らないんだが。
「おい、待てって」
 さっさと立ち去ろうとしたマグナの手を、再び捕まえる。
「離しなさいよっ!!」
「いいから。え〜と……」
 ぶんぶん振り回されるマグナの手を、なんとか握り締めて引き摺りながら、周囲を見回す。
 路地の先に、ベンチが置かれたちょっとした休憩所が目に入った。
「ちょっと、こっちに来てくれ」
「い――やっ!!離してよっ!!」
「頼むから。こんな道の真ん中じゃ、通行人の邪魔になるだろ?」
「あんたがさっさと離せば済むハナシでしょ!?」
「いやだ。離さない」
「離してっ!!」
 これじゃ、まるで痴話喧嘩だ。体裁悪ぃなぁ。
 力一杯振り回されるマグナの手を、俺は全力で押さえ込んだ。
「離さない」
 真面目ぶった声で、繰り返す。
305CC 18-21/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:02:38 ID:dOeKmTAH0
「――なによ」
 マグナは唇を尖らせて、拗ねた目をして俺を見上げた。
 すぐに、ふいと顔を背ける。
 ともあれ、やっと暴れるのを止めてくれたので、俺はマグナの手を引いて路地の奥に向かった。
 そこは高台に面していて、少し張り出した三叉路の行き止まりに木が植えられており、その下に簡素なベンチが置いてあった。
「いつまで握ってんのよ。さっさと離しなさいよ、痛いわね」
「ああ、悪い」
 マグナにつんけん言われて、手を離す。
「なによ?こんなトコ連れてきて、なんのつもり?」
「あのさ……ちょっと目を瞑ってくれないか」
 唐突だったかも知れない。
 マグナはそっぽを向いたままいらえる。
「イヤ。またヘンなことして、からかうつもりなんでしょ」
「そうじゃねぇって。いいから、頼むよ」
「……なに?何する気よ」
「頼むよ」
 ようやくこっちを向いたマグナの目を見て、できるだけ真剣な顔つきをしてみせる。
 不審な眼差しを向けられても、頑張って表情を保つ俺。こいつには、言葉を重ねるよりも、こっちの方が効くと思うんだ。
 しかし、マグナは胡乱げに俺を見上げるだけで、目を閉じようとなかった。しょうがねぇなぁ。なるべく驚かせた方が、効果が高いと思ったんだけどさ。
「じゃあ、目は瞑んなくていいから、後ろ向いてくれよ」
「なんでよ」
「ちょっとだけだから。なんもヘンなことしねぇって」
「……急に、なんなのよ」
 根負けしたのか、ぶつくさ言いながらもマグナが背中を向けたので、俺は折り畳んだチラシを開いて、中に隠していた物を取り出した。
 ソレを後ろからマグナの首に回して、髪を少しかき上げて留めてやる。
「――っ!?なに!?」
 マグナがびくっとして首を竦めた。
「ほれ、ついたぞ」
 そう言って、マグナの首から手を離す。
「え?これ……」
 マグナは首筋の鎖を抓んで、顔を俯けてそれを見た。
 俺がマグナの首にかけたのは、昨日、物売りに押し付けられそうになったのと良く似た首飾りだった。もちろん、ゴテゴテしたヤツじゃなくて、すっきりした方な。結構気に入ってたみたいだから、ご機嫌取りに使えるんじゃないかと踏んだ訳だ。
306CC 18-22/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:07:14 ID:dOeKmTAH0
「え――なんで?いつ買ったの?」
「さぁ、いつでしょう」
 この辺りまで、俺は全然余裕だったんだが。
 ほどなく振り向いたマグナの表情は――俺の予想と大幅に異なっていた。
「これって……くれるの?」
 意表を突かれてちまって、顎を引く動作がぎこちない。
「もらっていいの?」
 何度も確認すんなよ。
「ああ、やるやる」
 なんか知らんが、喉に唾がからみついた。
「え……あの――」
 マグナは、首飾りと俺の顔を交互に見る。
「いや、だって、俺が持ってても仕方ねぇだろ」
 連続して咳払いをする。喉乾いてきた。
「な、なんか飲もうぜ。喉カラッカラだわ。ここらは、乾燥してっからな〜」
 斜め後ろに、飲み物を売ってる露店があった筈だ。俺はマグナに背を向ける。
「ベンチに座って待っててくれよ。俺が買ってくるわ」
「……うん」
 露店で水を注文する間に、心の中で額の汗を拭う。
 いやはや、てっきり――
『こんなので誤魔化されないんだからね!!』
『なんだよ。じゃあ、いいよ。要らないなら、返してくれ』
『こ、これはこれで、いちおうもらっとくけど』
『やっぱり欲しいんじゃん』
 あっはっは。
 みたいな、軽いノリを予想してたんだが。
 まさかマグナが、急にあんなにしおらしくなっちまうとはな。調子狂うぜ、まったく。
 水を受け取って視線を巡らせると、マグナは大人しくベンチに腰掛けてこちらを眺めていた。
「ほら」
「ん。ありがと」
 コップを手渡して、隣りに腰をおろす。
 なんとなく、無言が続いた。
307CC 18-23/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:10:39 ID:dOeKmTAH0
 あれ。なんだ、これ。
 お前、いきなり無口になるなよな。
 間を持て余した俺は、ごくごく水を飲んだので、すぐにコップが空になった。
 逆にマグナは、一、二度口につけただけで、膝の上で両手に挟んだコップに、凝っと視線を落としている。
 うん、まぁ、とにかく、もう怒っちゃいないらしい。ご機嫌取りの用は果たせたみたいで、大変けっこう――ではあるんだが。なに、この雰囲気。
 ダメだ。もう耐えらんねー。
「あのさ――」
「あのね――」
 俺とマグナの声が、見事にハモった。
「あ、ごめん。なに?」
 マグナに促されて、俺は急いで首を横に振る。
「いや、なんもない。え〜……そっちが、どうぞ」
 単に気まずくて口を開いただけで、先の台詞なんか何も考えちゃいなかったのだ。
 どうでもいいけど、なんか俺、口調がおかしくねぇか。
「うん。あのね、これって――」
 突然しゃくり上げるように息を吸い込んで、マグナの言葉が途中で止まる。コップから片手を離して胸を押さえ、静かに息を吸ったり吐いたりを繰り返す――って、おいおい、ヘンな反応すんなよ、頼むから。
「ううん。あたしも、別に……」
 結局、マグナはそう言った。
 また二人して押し黙る。
 うわ、なんだ、この空気。今よりもっと小僧だった頃に味わった覚えのある、むずむずと落ち着かないこの感じ。
 いや、違う違う。俺はなんも意識してねぇよ。けど――ふとした拍子に妙な気分になっちまうのは、きっとお前のせいだからな、リィナ。
 だが、今度の沈黙は短かった。
「あ、アレよね。変わってるわよね、アイシャって」
 急に口調が変わったことから察するに、言おうとしていた事とは別の話題を思い付いたらしい。
308CC 18-24/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:13:47 ID:dOeKmTAH0
「そ、そうだな」
 ほっとして、それに飛びつく俺。
 いや、ほっとしてねぇし、なにドモってんだ。マジで。
「あんな考え方、はじめて聞いたから、ちょっとビックリした」
「そうね」
 返事短けぇよ。せっかくご機嫌を取ってる最中なのに、これじゃ気を悪くするぞ。
「でもね、あたしもちょっとだけ似たようなこと、考えてたんだ」
 だが、マグナは別段気にした素振りもなく話を続けた。
 慌て過ぎだろ。落ち着けよ、俺。
「魔物に襲われた時は平気で斬れるのに、相手が人間だと――躊躇っちゃうのは、なんでかなって。どっちも、襲ってくるのは同じなのにね」
 頭の隅っこに何かが引っかかったが、それはするりと記憶の奥底に滑り落ちた。
「いや、そりゃ普通なんじゃねぇの」
「うん、そうなんだけど……そうじゃなくてね、あたしもきっと、魔物は悪者で倒してもいいんだって、無条件に思い込んでたんだよね。でも、今言ったみたいに考えてたのもホントで、つまり、あたしもどっかでアイシャと同じような疑問を持ってたんじゃないかな、って」
 頭の中で内容を整理し切れていない、というよりは、意図的に迂遠に喋っているように聞こえた。
「よく分かんない……?」
 ジツはあんまり頭に入ってなかったんだが、懸命にマグナの台詞を思い出して、急いで脳裏で再構築すると、枝葉は見失ったが逆に全体像はぼんやりと見えた気がした。
「いや、分かるよ」
 多分。
「そう?だからね、アイシャが言ったことにびっくりはしたけど、なんていうのかな……受け入れられないとか、そういう感じはしなかったのね」
 いや――そりゃ理由が違うんじゃねぇかな。
 お前がアイシャの意見を拒まなかったのは、アイシャと同じように考えてたからじゃなくて――
「なんで……こんな時まで、人間が人間を襲ったりするんだろ。それじゃ、さ……」
 言い辛そうに口篭って、マグナはまた膝元のコップに目を落とした。
 マグナが言いたいのは、つまり――
309CC 18-25/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:19:06 ID:dOeKmTAH0
「魔物も人間も、大して変わらない、ってか」
 俺に向けられたマグナの表情は、意外そうでもあり、少し嬉しそうでもあり、恥じ入るようでもあり、次々と微妙に変化した。
「やっぱり、ヘンかな……ヘンだよね。そんな訳ないって、思うんだけど……でも、やってることに、大した違いはないでしょ?どっちも、殺そうとして襲ってくるんだから」
 ああ、盗賊団に襲撃された時のこと、結構気にしてるんだな。多分、カンダタ共とやり合った時のことも。
「なんかホントに、魔物も人間も大して変わらないみたい……同じでいいのかな。邪悪で倒さなくちゃいけないみたいに言ってるくせに、そんな魔物と同じでいいの?……そんなんじゃ、人のこと言えないって、あたしも思うのよ――向こうはヒトじゃないけどね」
 はっきりと口にはしないが、マグナの言いたいことは分かる。「魔王を倒して世界を救ってくれ」と、さんざん言われ続けて育ったマグナにしてみれば、そんなことを自分に強要するくらいなんだから、人間には魔物よりもマシな存在であって欲しいのだ。
 というか、魔物は悪モノで人間は救うべきものでなければ、勇者という存在自体の足場が揺らいでしまう。
 どっちも大差無いロクデナシなのに、それでも問答無用で他方を滅ぼそうとする勇者なんてのは、物語のソレ――正義の体現者――とはかけ離れた存在になっちまう。
 現実が物語ほど単純で綺麗事ばかりじゃ済まないのは当たり前かも知れないが、マグナが求められていたのは、正に物語のソレなのだ。
 だが、やっぱりそんなのは単なる幻想だと見せ付けられたら――そんな不確かなものにずっと縛り付けられていたとあっては、やりきれない気分にもなるだろう。
「どっちも大して変わらないなら、ホントに共存ってできるかも知れないよね。そしたらさ――」
 次の言葉は、予測出来た。
「勇者なんて、要らないね」
 そう。この帰結は、おそらくアイシャの話を聞いてマグナの中に生まれた無意識の願望だ。
 勇者であれかしと望まれていながら、自分の我侭でそれを捨てたという思いに、こいつは今でも少なからず苛まれてる筈なんだ。
 だが、勇者がハナから不要な存在となれば、その重荷は少しだけ軽くなる。
 だから、マグナはアイシャの考え方を否定しないんだ。
 そして俺は、そんなマグナの考え方を否定できなかった。
310名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 08:19:35 ID:HHE7TEd60
支援
311CC 18-26/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:26:31 ID:dOeKmTAH0
「まぁ、でも――お前には、もう関係無いハナシだろ」
 マグナの浮かべた力無い笑みは、複雑な感情が絡み合って見えた。
「そうだね」
「けど、ホントに共存できるかっつったら、ちょっと無理あるけどな。だってよ、魔物のお隣さんとばったり玄関先で出くわして、『あ、どうも』とか頭下げてるトコなんて、あんま想像つかねぇもんよ」
 マグナがちょっと笑って、俺は少し安心を覚える。
「なによ、それ。別に同じ街で暮らさなくてもいいでしょ」
「そりゃそうか」
 アイシャの言うことも分からないではないが。実際に魔物の相手をしていないヤツの考える事だとも思う。俺には、魔物が人間と相容れる存在とは思えないし、マグナもホントのところは同じだろう。
 今のはつまり、だったらいいな、ってハナシだ。
「ごめんね。こんな話するつもりじゃなかったんだけど」
「いや、いいよ。言ったろ。愚痴なら、いつでも聞くって」
「うん……」
 もしかして、未だに定期的に落ち込んだりしてるんじゃねぇだろうな、こいつ。
 その内、じっくり話を聞いた方がいいかも知れない。ちゃんと応えられるかどうかは分かんねぇけど、今なら「月のモノか?」ぐらいの軽口は吐ける気がする。いや、実際は言わねぇけどさ。
「これ、ありがとね」
 何気ない口調で言われたので、反応が遅れた。
「ん――あ、ああ」
「でもね――」
 俺がやった首飾りを、マグナは抓んでみせる。
「この服には、ちょっと派手なくらいの方が似合うかも」
「ソレの前に、売りつけられそうになったヤツみたいな?」
「そうそう。あの時はゴテゴテしてて悪趣味〜とか思ったけど、ここの服にはあっちの方が合ってるかも」
「……お前ね、人がせっかく買ってやったのに、そういうこと言うか?」
「嘘うそ、ごめんてば」
 くすくす笑って、首飾りに視線を落とす。
「ありがとう。大事にするね」
 改まってしみじみと言われて――俺は、なんだか申し訳ない気分になった。
 単なるご機嫌取りに使っただけなのに、思った以上の意味で受け取られてしまったような。そんなら俺も、そういうつもりで渡したかったっていうか。
 そういうつもりなんて、別に無いんだけどさ。
312CC 18-27/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:30:03 ID:dOeKmTAH0
 結局、俺とマグナは何の成果も無いまま宿屋に戻ったんだが、リィナとシェラの方は少々事情が違っていた。
 神殿や山越えに関する話じゃないんだが――
「あのね、盗賊団にセンセイとか呼ばれてた、ヘンな動きする人いたでしょ?ボクとシェラちゃんであちこちウロウロしてたら、たまたまその人を見かけたのね」
 夕飯を食いながら話を聞いたところによると、あの不気味な影――街中でも黒づくめの怪しい格好をしていたそうだ――を目にしたリィナとシェラは、見つからないようにこっそり後をつけた。
 というか、シェラは危ないから止めようと言ったらしいんだが、例によってリィナが「だいじょぶだいじょぶ」とか強引に押し切ったのが真相のようだ。
「でも、大きいお屋敷が沢山並んでる辺りで、ほっそ〜い路地に入ってさ。そこで見失っちゃったんだよね」
 一瞬拍子抜けしたが、話はそこで終わらなかった。
「でね、どう考えてもここに入ったって建物があって。ちょっと中を覗いてみたら、鍵がかかった扉があってさ。いつもみたいに開けようとしたんだけど、でもこれが全然開かないんだよ」
 シェラが、自信無さげに後を引き継ぐ。
「普通の鍵じゃないみたいでした。はっきりとは分かりませんけど、魔法がかけられてたみたいなんです」
 ふぅん。そういや、どんな鍵でも開けちまう、アバカムって超高等魔法があったな。逆に魔法で鍵をかけたりすることも、不可能じゃないって訳か。
 この辺りで食堂に入ってきたアイシャが、俺達を見つけて声をかけた。
「あ、いたいた。ん?なんの話してんの?」
 アイシャに関係あるとは思わないが、いちおう内容をかいつまんで説明してやる。
 影を見失ったという建物の場所を、リィナから詳しく聞き出したアイシャは、少し考え込んだ。
「それってちょうど、ウェナモンさんのお屋敷の真裏だねぇ」
 誰だ、それ。
「ははぁ……なんか、妙な具合に話が繋がってる気がするなぁ」
「どういうこと?」
 マグナが尋ねると、アイシャは何故かにんまり笑って、人差し指で顎を叩いた。
「さって、どう説明したモンやら……ま、とりあえず、こっちで分かったことを、先に報告するよん。後で話も繋がると思うからさ――あ、アタシもなんか食べていい?」
 飯代は、こっち持ちってか。ホントにちゃっかりしてやがんな。
313CC 18-28/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:33:32 ID:dOeKmTAH0
 注文を済ませてから、アイシャは報告をはじめる。
「え〜とねぇ、神殿とかいうのの話はさっぱり。全然分からなかったんよ」
 悪びれた風もなく、あっけらかんと言い放つ。つか、これ報告か?
「おっと、そんなガッカリした顔しないしない。慌てる乞食は儲けが少ないってね。神殿の方はさっぱりだったけど、東に行く方法は、少しは情報が集まったよん」
 そりゃ有難いね。何も分かりませんでした、で金取られたんじゃ、こっちも堪んねぇからな。
「あの山を越えるのは、人間には絶対無理ってハナシはしたよねぇ。でも、わざわざあんな山越えなくても、なんか地下を通って東に行ける抜け道があるらしいんよ」
 ちょっとちょうだいね、とか言いながら、マグナの皿から料理を抓んで口に運ぶ。
「うん、いける――でさぁ。こっから北東に何日か行った辺り、つまり山脈の麓に洞窟があるんだけどね、その洞窟のどっかに抜け道が隠されてるってハナシ」
「どっかって?」
 マグナの相槌を受けて、今度は俺の料理を抓んでぺろりと呑み込んでから応じる。
「うん、それなんだけどさぁ、抜け道の正確な場所を知ってんのは、洞窟に住んでるホビットだけだってハナシなんよねぇ」
「ホビットぉ!?」
 おいおい、エルフの次はホビットかよ。そろそろ吟遊詩人を仲間に引っ張り込んで、ひと山当てんのを考えた方がいいんじゃねぇのか。
「そんなの、ホントに居るの?」
「さぁねぇ。劇場――って言っても分かんないか。ウチのモンが、そこの支配人から聞いただけだからさぁ」
 劇場って、もしかして昼間見かけたアレか。あんな格好した踊り子が、どんな出し物をやっているのやら。大変気になりますなぁ。
 とか考えてたら、マグナに足を思いっ切り踏んづけられた。知らない内に鼻の下が伸びていたらしい。
「しかもねぇ、そのホビットが大した頑固モンで、頼んでも絶対教えてくれないらしいんよ」
 ん――?
 俺と同じ引っ掛かりを感じたらしく、マグナがアイシャに問い掛ける。
「ちょっと待って。それっておかしくない?絶対教えてくれないのに、なんで抜け道があることとか、ホビットがその場所を知ってるって分かったの?」
「それは、アタシに聞かれてもねぇ。ま、こっちはアタシも怪しいと思ってるから、ハナシ半分に聞いといてよ。本命は、もいっちょの方……あ、そっか」
314CC 18-29/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:37:05 ID:dOeKmTAH0
 アイシャは、何か思いついた顔をした。
「あんね、もういっちょ耳寄りな情報があってさ。山を越えて東に行く為に、わざわざイシスからこの街に引っ越してきた人がいるんよね。その人が、なんか知ってるんじゃないかってウワサだから、そっから伝わったんじゃないかなぁ」
「あ、もしかして――」
 察しをつけたマグナに、アイシャは頷いてみせる。
「はい、正解。その人が、ウェナモンさん。イシスでもお大尽だったみたいで、すっごいお金持ちだよ〜。今のハナシからすると、なんか知ってるのはホントみたいだねぇ」
「じゃあ、その人から話を聞けば――っていうか、もう聞いてくれたの?」
「いやいや〜、そうは問屋が卸さないっと」
「え?どういうこと?」
「あんねぇ、どうも最近、ウェナモンさんの様子がおかしいらしいんよ。屋敷に篭もったっきり、外の人間とは誰とも会わないんだって」
「つまり、いろいろ事情を知ってるのはその人だけど、会うのは難しいってこと?」
「うん。門前払いが関の山だねぇ」
 頼んだ料理はまだか、みたいな顔をして、アイシャは椅子の上で体を斜め傾けて、厨房の方を窺った。
「それで終わりなの?結局、どうにもならないって事が分かっただけじゃない」
「そぉんなことないよぉ。慌てない慌てない。そんなんじゃあ、立派な乞食にはなれませんよぉ」
 にやにやするアイシャに、「なりたくないっての」とかボヤきながら、マグナは先を促す。
「でね、さっきのハナシに繋がるんだけどさぁ、ウェナモンさんにはちょっと悪い噂があるんよ」
「悪い噂?」
「そそ、黒い噂」
 何のつもりか、アイシャは嬉しそうな顔をして、ぐふふとか笑った。
「なんなの、その噂って」
「よろしー。答えて進ぜましょ〜。あんね、裏で盗賊団と繋がってて、取り引き相手の隊商を襲わせてるってのは、この街の耳聡い連中の間では、割りと常識なんよね」
「はぁっ!?」
 とんでもないことを、軽く言ってのけるのだった。
315CC 18-30/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:40:58 ID:dOeKmTAH0
「最初は、盗賊団と取り決め結んで、襲撃の回数を抑えるのが目的だったらしいんよ。ほら、あんまり毎度襲われたんじゃ、誰もアッサラームと交易しようなんて思わなくなっちゃうでしょ。そいだと、他所の国と商売できるようなお金持ちも困っちゃうからさぁ。
 でも、今じゃなんだかんだで、すっかりウェナモンさんの私兵みたいになっちゃってるってハナシ。つまり、盗賊団が襲撃に成功したバアイは積荷丸儲け。失敗しても、普通に取り引きするだけってんだから、儲かっちゃって笑いが止まんないやねぇ」
「なによ、ソレ……そんなの、許されるの!?」
 色々と感じるところがあるのだろう、納得いかない顔をするマグナに、アイシャは慌てて手を振ってみせた。
「やだなぁ、あくまで噂だよん、ウワサ」
「でも……本当だったら、ホントにロクでもないわね」
 魔物よりタチ悪いってか。マズいね、どうも。このままだと、マグナは人間嫌いになっちまうんじゃねぇのか。
「まぁ、この街じゃ多かれ少なかれ、みんな汚いことしてるしねぇ。上手くやりやがって、ぐらいにしか思われてないんよね。今んトコ、ただの噂でしかないしさぁ。それなりに気をつけてるから、誰かがバッチリ証拠を掴んだってハナシも聞かないしねぇ」
「リィナとシェラが見たっていう建物が、その証拠になるかも知れねぇな」
 俺が口を挟むと、我が意を得たりみたいに、アイシャはにんまりしてみせた。
「そりゃどうかなぁ。実際に盗賊団の連中と密談してるトコにでも踏み込まなけりゃ、なんとでも言い逃れされちゃうと思うよん」
 顔と台詞が合ってねぇぞ。
 なんか、こいつの考えてることが分かってきた。
「で、当てはあんのか?」
 俺が尋ねると、アイシャはわざとらしく目を丸くした。
「おっ、お兄さん、ホントに話が早いねぇ。いい商売人になれるよん」
 だから、なりたくねぇっての。
「ちょっと、なんの話よ」
 マグナが、服の肘辺りを引っ張ってきた。
316CC 18-31/31 ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:47:58 ID:dOeKmTAH0
「いや、だからな――」
 東に行く方法については、どうやらウェナモンとやらが一番詳しいらしいが、こいつが一切外出をしないときてる。つまり、話を聞く為には屋敷を訪ねるしか無い訳だが、正面から行っても門前払い。
 かといって、大金持ちってことは、それなりに警備に人を割いてるだろうから、普通に忍び込むのも厳しい。第一、それで見つかったら、こっちが一方的に悪者にされちまって分が悪い。
 だが、リィナとシェラが見たという扉さえ開けられれば、簡単に屋敷に入って、直接話ができる可能性がある。
 忍び込むのは同じでも、こっちの場合は――
「けど、現場を直接押さえるってのは、難しいと思うぜ」
「ムリならムリで、仕方ないやねぇ。けど、隠し通路がホントなら、そいだけで充分ネタにはなると思うんよ」
 まぁ、そういうことだよな。
 俺とアイシャ以外は、いまいち分かっていない顔つきだが。
 こいつは要するに、金持ちウェナモンの弱みを握りたいのだ。それを使って取り入るつもりか、脅すつもりなのかは知らないが。
「乗ってやってもいいけど、そんかし今の情報料はタダな」
 俺達を利用するつもりなんだからよ。
「ありゃりゃ。思ったよりしっかりしてるねぇ。ま、お互い得するのはいい商売だから、それでいいよん」
 ちょうど給された料理に夢中で、アイシャはどうでもよさそうな返事をした。
 ごく簡単に神に祈りを捧げて、料理をがっつきはじめる。
 銭ゲバっぽくて、しかも結構悲惨な育ちまでしてる癖に、神様は信じてるんだよな。なんか、おかしなヤツだ。
「でもボクじゃ、あの鍵は開けらんないよ。鉄で出来てたから、無理矢理壊すのも難しそうだし。出来たとしても、さすがに音でバレちゃうよ」
「ああ、そりゃいいんだ」
 済まなさそうな顔をするリィナに手を上げて、俺はアイシャに視線を向ける。
「当てがあるんだろ?」
「ほーほー。ほれはんはへほへ」
 食いながら喋んな。
 アイシャは口の中の料理を、ごくんと呑み込んでから続けた。
「あんね、『魔法の鍵』って、知ってる?」
317CC ◆GxR634B49A :2007/02/01(木) 08:57:38 ID:dOeKmTAH0
総レス数、大幅に間違えてたw

ということで、第18話をお届けしました。
う〜ん、冒頭に前回の残りがあったせいで、
アッサラームの方にリズムが出なかった気が。。。
お陰でアイシャは、もうちょい「いい」キャラになる筈だったんですが、
なんかヘンなキャラになってしまいましたw
まーもう投下しちゃったから、いいや〜
今回、なんか読み難かったらすみません><

とりあえず、今のところパフパフイベントはスルーしてみたり。
アッサラームの目玉なのに。。。
次回からは、もうちょい気楽な話になる予定です。
そんな感じで。
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 10:26:38 ID:J4W21an/0
>CC氏乙です。
マグナかわいいよマグナ
319名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 14:19:44 ID:+Ht9SU0jO
CC氏乙
320名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 15:19:12 ID:jzvMS7Ru0
乙ですCCさん!!
照れてるマグナがすごくかわいいよ
新キャラも出てきて今後の展開が楽しみだよ
321名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 18:12:10 ID:0yxHS8+qO
CCの馬鹿っ!まったく何処行ってたのよ!?
・・・・・・・ずっと、ずっと待ってたんだからっ・・・!
322名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 21:07:53 ID:V5Pll+GxO
パフパフイベントは夜に・・・ないのかな(笑)
いや是非一人宿を抜け出してでも行ってくれヴァイス!!
323名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/01(木) 23:59:57 ID:zHH8Cg35O
しーしーしーお疲れ。
なななパフパフイベントが無いですとっ!?
あ、つまりはヴァイス君がナイスバデー踊り子とパフパフ以上のムフフなイベントが・・・
324CC ◆GxR634B49A :2007/02/02(金) 11:08:16 ID:/39pl6Mz0
意外にもマグナがそこそこよかったみたいでよかったですw
この人達、ほっとくと全然イベントをこなそうとしないので、
ご機嫌を伺いながら、そっちに話をもってくだけでも一苦労です><

パフパフイベントは、後であるかも〜。
そんかし直近に、違うむふふイベントが発生する予定だったりw
325名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/02(金) 18:54:38 ID:xbK+Qsi+0
なんてこった、今更こんな事に気づくとは・・・・・しかし気付いてしまったからには聞かずには居られない











ヴァイスもツンデレ?
326CC ◆GxR634B49A :2007/02/02(金) 23:08:49 ID:/39pl6Mz0
まぁ、どっちかと言えばそうかもw
でも、あんましツンツンしてないか。。。
素直じゃないとか意地っ張りの方が合ってるかも
327名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/02(金) 23:25:08 ID:xbK+Qsi+0
素直じゃない・・・意地っ張り・・?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ツンデレじゃん!
328CC ◆GxR634B49A :2007/02/03(土) 00:47:03 ID:ZBZrQIKt0
じゃあ、ええかっこしいでw
329CC ◆GxR634B49A :2007/02/03(土) 05:06:07 ID:ZBZrQIKt0
おっ、次回はなんか調子いいかも。今んとこですが。
明日になったら全然ダメにならないように祈るしかない。。。
330名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/03(土) 11:58:12 ID:uXUfZDVnO
男キャラもいつの間にかツンデレになるのがこのスレの知略
331CC ◆GxR634B49A :2007/02/04(日) 04:15:14 ID:CswFibJk0
書こうと思ってたのに寝ちゃったよ保守
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/04(日) 04:32:01 ID:CylBNLEh0
ザラキ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
333名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/04(日) 09:43:30 ID:SFcGW3h5O
メガザル!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ザメハ…
334名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/04(日) 11:51:07 ID:KyOddH2a0
いてつく波動!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
>>332-334の テンションが もとにもどった!
335CC ◆GxR634B49A :2007/02/04(日) 21:48:36 ID:CswFibJk0
今日は進みましたw保守
336名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/05(月) 05:36:26 ID:uMjwKG5/O
つ【星降る腕輪】
つ【バイキルト】


頑張ってくだせえ、ボス!!
337名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/05(月) 08:47:44 ID:Gkd7FO/h0
>>335
ラリホー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
338CC ◆GxR634B49A :2007/02/05(月) 14:56:02 ID:Mh+KXEnk0
ムムム、今回すげー書き易いですよ?
この分なら、割りと近い内に投下できそうかもです。
全くノリが変わるので注意w
いや、個人的にはすごい楽しいわ〜w
読み返して落ち込まないように注意>自分
339CC ◆GxR634B49A :2007/02/06(火) 16:30:43 ID:yB5dMpN70
明日明後日くらい?保守
340CC ◆GxR634B49A :2007/02/07(水) 03:39:58 ID:MlB5a8Kv0
うーむ、勢いで書き過ぎたw
今朝は無理っぽいので、明日になりそうです保守
341名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/07(水) 12:20:53 ID:bhqK6UVfO
全裸で待機(;´Д`)ハァハァ
342名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/07(水) 13:42:24 ID:NhmfJuXG0
>>340
ピオリム!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
343名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/07(水) 16:40:19 ID:WBXufwJ10
>>341
ニフラム!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
344名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/07(水) 21:32:37 ID:hFJ2rN8i0
>>341
ボミオス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
345名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/07(水) 22:42:51 ID:DF1ut0ua0
>>341
べホイミ!!!!!!!!!
346名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/07(水) 22:43:37 ID:DF1ut0ua0
すまん、sage間違えたorz
347名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/07(水) 23:07:29 ID:VN/7UeA5O
ちょwww
hageって、ワロスw
348名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 05:22:10 ID:KXAPMAlZ0
支援&期待
349ぬるぽ:2007/02/08(木) 05:24:52 ID:QeKz4liI0
今日か。wktk
350名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 05:45:28 ID:T8l3eAKoO
懲りずに全裸で待機(;´Д`)ハァハァ
351CC 19-1/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 06:31:02 ID:7LnUJgJe0
19. Dreamland

 魔法使いとして、俺がこれまでに培ってきた全ての経験と技量が、今こそ試されようとしている。
 これほどまでに、呪文の詠唱に神経を費やしたことは、かつて無い。
 額に汗が滲む。
 絶妙の加減、精密な制御が求められるのだ。
 ひとつ間違えば、自分が発動した魔法で、己の身を焼きかねない。
 己の手にした刃物で、自らの身を切りつけるように――
 正直に言おう。
 恐怖心は、ある。
 だが、その恐怖に遥かに勝るものが、俺の裡には確固としてある。
 それは、あいつらへの想い――
 強い、想い――
 集中しろ。
 失敗は、許されない。
 だが、果たして、俺の思い描いているような魔法の使い方が、本当に可能なのか。
 こんな微妙な制御が――
 いや、大丈夫。
 出来る筈だ。
 自分を信じるんだ、ヴァイス。
 俺なら、きっと出来る。
 いや、可能も不可能もない。
 やらなくてはならないんだ。
 目を閉じて、凝っと呪文に集中する。
352CC 19-2/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 06:32:25 ID:7LnUJgJe0
 どうせ目隠しされてるから、閉じても開いても大して変わんないけど。
 ばちゃばちゃ。
「きゃっ――ちょっと、やめなさいよ!」
 雑念が、俺の集中の邪魔をする。
 ばしゃんばちゃん。
「もう――やったわねっ!」
 ばしゃばしゃん。
 集中だ。集中。
「ひゃっ――ほらほら〜、シェラちゃんも」
 ざばざばばしゃんばしゃん。
「ひゃうぅっ――も〜、濡れちゃったじゃないですかぁ」
「ボク達みたいに、脱いで入っちゃいなよ。誰も見てないよ〜」
 勝手に脳裏で像を結ぼうとする雑念を、俺は懸命に追い払う。
 想像なんて、する必要ないのだ。
 すぐ後ろに、実体が存在するんだから。
「あ〜、気持ちいー」
 うるさい、マグナ。ヘンな声出すな。
「ホントですね〜。足だけでも、すごい気持ちいいです」
「ここまでのコト考えたら、ホント天国だわ」
 どぽん。
「――シェラ、ちょっと」
「はい?」
「浸かんなくていいから、ちょっとだけこっちに来て」
「はぁ、なんですか?」
 ざばざば。
353CC 19-3/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 06:33:56 ID:7LnUJgJe0
「――ひぁっ」
 ばしゃん。
 ばしゃばしゃごぼごぼばしゃごぼばしゃばしゃ。
「はぷっ――ふぁっぷ――ぷぁっ」
「あははははは」
「だいじょうだいじょぶ。シェラちゃん、まだ足着くよ」
「ふぁっ――げふっごほっ――けへっ……」
「あはは、ごめんごめん。でも、やったのはリィナだからね」
「頭まで浸かると、気持ちいいよね」
「う〜……ヒドいです〜」
「あれ?もしかして、シェラ、泳げなかった?」
「……はい」
「ボクが教えてあげよっか?」
 ざぱん。
 ざぱーざぱー。
「ほら、この泳ぎ方なら、息継ぎできなくてもだいじょぶだから、楽ちんだよ」
「いえ、あの、リィナさん……下着が透けちゃってるので、その泳ぎ方は止めた方が……」
「いいじゃない。誰もいないんだし。あたしもやってみよ」
 ざぱん。
 ざぱーざぱーざぱざぱ。
「げへっけへっ――水飲んだ――なによ、上手くできないじゃない!」
「マグナもカナヅチ〜」
「違うわよ!見てなさい。あたしのは、そんなヘンな泳ぎ方じゃないんだから」
 ざぱん。
 ばしゃばしゃばしゃばしゃ。
「おー、早いはやい」
「二人とも、泳ぐの上手ですね」
「シェラちゃんも練習すれば、すぐ泳げるよ」
「そうかな――あ、マグナさん、あんな方まで」
「負けず嫌いだなぁ」
「あはは」
354CC 19-4/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 06:36:30 ID:7LnUJgJe0
「じゃあ、ボクもちょっと」
 どぽん。
「………………リィナさん?えっ!?――マグナさーん!リィナさんが、浮かんで――」
「――ぁっ!」
「――ぇ〜」
「――ぅっ!ぉどかさないでよっ!!」
「負けず嫌いって、人のこと言えませんよ、リィナさん……」
――いかんいかん。
 耳に意識を集中してる場合じゃねぇんだ。
 呪文に集中しろっての、俺。
 くそ、手首が痛くなってきたぞ。鬱血してんじゃねぇのか、これ。マグナのバカが、力任せに縛りやがって。
 ナメんなよ。こんな縄如きで、俺を縛り付けられるなんて思うんじゃねぇぞ。
 今すぐ、そっちに行ってやるから、待ってろ。
 それまで、服着んじゃねぇぞ。着たら承知しねぇからな。つか、泣くぞ。
 さぁ、早く、メラの出力を極限まで抑えて、俺の手首を後ろ手に戒めてる縄だけを焼き切るんだ。
 俺なら、きっと出来る。
 夢を諦めるな。信じれば、きっと夢は叶う。
 夢って言葉は嫌いです。それは手の届かないモノじゃなくて、達成すべき目標だから。
 って、俺は一体、なにを考えてんだ。余計なことはいいから。
 集中だ。
 集中――
355CC 19-5/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 06:39:45 ID:7LnUJgJe0
「こっから西の方に、もーちょ〜〜〜広い砂漠があってさぁ。その砂漠の南の方に住んでる爺さんが、『魔法の鍵』のことを知ってるらしいんよ」
 ぺろりと晩飯を平らげたアイシャは、物凄い大雑把で曖昧なことをほざいたのだった。
 アッサラームの宿屋の食堂で交わしていた会話の続きだ。
 お前、当てって、まさかソレなのかよ。
「……ホントなんでしょうね」
 伝聞丸出しの内容に、不安の色を隠し切れず、マグナの口振りも疑わしい。
「ホントほんと。だって、この噂の筋はひとつじゃないからさぁ。かなり信憑性は高いと思うんよ」
「だったら、もうちょっと詳しい位置くらい分かんねぇのか?」
「えっとねぇ……確か、山づたいに砂漠を南に行くと沼地があって、そこのほこらに爺さんがいるってハナシだったかなぁ」
「頼りねぇなぁ――マグナ、いま持ってるか、アレ?」
「アレって、なによ。ちゃんと言いなさいよ」
 なにやら、カチンときたらしい。
 そうですね。俺達は、長年連れ添ったツーカーの熟年夫婦じゃありませんものね。
「アレだよ、ほら……世界地図」
「ああ、なんだ――そんな単語も出て来ないなんて、ボケが始まってるんじゃないの?」
 憎まれ口を叩きながら、腰のフクロを探るマグナ。コソ泥が入らないというアイシャの言葉がいまいち信用できなかったので、俺達はフクロを携帯して歩いていたのだ。
 つか、誰がボケだと?年寄り扱いすんじゃねーよ。まだバリバリの好青年だっての。
「――この地図で言うと、どの辺りだ?」
 食器を除けたテーブルの上に、世界地図を広げてアイシャに見せる。
「え、なにコレ、ホントに世界地図なん?へぇ〜、こんなのあるんだ。スゴいねぇ。これ、ちょうだいな」
 どさくさに紛れて、なに言ってやがる。
「やるか、バカ」
「え〜。きっと、高く売れるよ〜。分け前はハチニーでいいからさぁ。だから、ちょうだいな」
「ハチニーって、お前が――」
「はち」
「……いいから、さっさと場所を教えろ」
 アイシャは下唇を突き出して、ヘンな顔をしてみせた。
「そんなの、分かんないよん」
「……お前な」
「だって、アタシこんなの見たの初めてだから、アッサラームが何処なのかも分かんないよん」
 まぁ、そりゃそうか。
356CC 19-6/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 06:51:43 ID:7LnUJgJe0
「アッサラームは、ここよ」
 手を伸ばして、マグナが地図の一点を指す。アリアハンで受け取った時点では、地形やなんかしか描かれていなかった筈だが、地図にはここまでの街道筋や、立ち寄った町や村が、マグナの手書きで書き込まれていた。
 全員で頭を突き合せて確認したところ、確かに砂漠の南に湿原らしき地形が描かれていた。
 しかしまぁ、おっそろしく広いぞ、この砂漠。アリアハンにも砂漠はあったが、その十倍どころの騒ぎじゃない。ここを渡って行けって言うのかよ。
「早速、明日には出発するんよね?」
 アイシャが、軽い調子でのたまった。勝手に決めんな。
「迅速を尊んでこそ、商売敵を出し抜けるってモンだからねぇ」
「慌てる乞食は、儲けが少ないんじゃねぇのか」
「それは、ホラ――アタシ、乞食じゃないし。そいじゃあ、そゆことで。たっくさん期待してるよん」
 結局、アイシャの思惑通りに、俺達は翌日アッサラームを早々に旅立ったのだった。
 慌しいことこの上ないが、マグナはこの街の銭ゲバ連中があまりお気に召さなかったようで、珍しく文句を言わなかった。
 しかし、お陰で劇場をこっそり覗く暇もなかったぜ。どんな出し物やってたんかなぁ。
 砂漠に入るまでは、これまでの道程と大して変わりがなかったので、さしたる問題も無かったんだが。
 砂漠の入り口といえる、とある小さな町でのことだった。
「うわー、おっきいねぇ」
 リィナが背伸びをして、ラクダとやらの首筋を叩く。
 ここから先はずっと砂地だから、歩こうにも足を取られてまともには歩けない。そこで、背中に瘤のある、この奇妙な動物に乗って移動するのだ。なんでも砂漠を渡るには、最も適した乗り物なんだそうだ。
 そして、砂漠の旅に必要なものが、もうひとつ。道案内だ。
「なんで?別に、要らないわよ」
 ラクダ屋のオヤジが持ちかけた紹介話を、マグナはあっさり断った。
「そら無茶だぜ、お嬢ちゃん。あんた、砂漠は初めてだろ。ここにゃ、あんたらに分かり易い道なんて無ぇんだからよ。どこまで行っても同じ景色が続くだけでよ、素人なんざあっという間に自分の居場所を見失っちまうってなモンよ」
「馬鹿にしないでよ。これでもあたし達、あちこち旅してるんだから。ずっと山沿いを辿っていけば、目的地に着く筈だから、迷ったりなんてしないわよ」
357CC 19-7/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 06:57:26 ID:7LnUJgJe0
「分かってねぇなぁ。あんたらがどんくらい旅慣れてっか知らねぇけど、山ってもあんたの考えてるみたいな、麓に森がある豊かな山とは違うんだよ。川やら泉やらはおろか、草木もロクに生えてねぇ岩だらけのハゲ山だぜ」
 オヤジの話では、砂漠では点在するオアシスを結んで移動しないと、あっという間に干上がってしまうのだそうだ。
 だから、オアシスの場所が分かる案内人を連れて行かないと、自殺行為もいいところだとオヤジに説得され、マグナも最終的にはしぶしぶそれを受け入れた。
 まぁ、渋る気持ちは分かるけどな。余所の人間と行動を共にして、嫌な思いをしたばっかりだし。けど、今回は隊商みたいな大人数じゃなくて、案内人をひとり雇うだけだから、まぁ大丈夫だろ。
 俺達を案内することになったのは、ようやく子供と呼ばれる年齢を脱したばかりの少年だった。
「心配ねぇよ。このナジは、こーんな小っちぇ頃から案内人やってんだ」
 オヤジは前屈みになって、膝の下まで掌をおろす。嘘付け。
 未だにアッサラームの記憶が色濃いらしく、マグナがやたら強引に値切ったモンだから、経験の浅いぺーぺーを掴まされちまったんだと思いきや。
 無口で無愛想な性格はともあれ、ナジは案内人として必要な能力を不足無く備えていた。
 余計な口を一切利かず、俺達とも必要以上に打ち解けようとはしなかったが、無事に目的地まで辿り着かせてくれたのだから。
 砂漠の旅は、これがまたエラい単調だった。最初の頃こそ、砂地に描かれた風紋の見事さに目を奪われたりもしたが、そんなのは一日も眺めていればすぐに飽きちまう。
 これ山だろ、と思うほど巨大な砂丘を登ったり降りたり。岩場の有る無し程度の違いしかない、代わり映えのしない風景が延々と続き、やがて距離や時間の感覚は失われ、退屈を通り越して頭がおかしくなりそうだった。
 しかも、昼は日陰なんて一切無いから、ギラギラ照りつける日差しがバカみたいに暑くて、夜は真逆に、その気になれば楽勝で凍死できるほど恐ろしく寒いときてる。およそ人間が生きていける環境じゃねぇよ。
 その上、マグナですらぶーたれる元気すら失うこんな土地でも、魔物は律儀に襲ってきやがるのだ。
 とにかく、ここまでの旅の中でも、最も過酷な道程だった。
358CC 19-8/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:01:32 ID:7LnUJgJe0
 そんな苦労の末に、ようやく辿り着いたというのに。
「こっちの入り口から訪ねてくるとは、また珍しい客じゃのぅ。わざわざ砂漠を越えて、ご苦労なことじゃなぁ」
 なんてことを言いながら、俺達をほこらの中に通してくれた、魔法使いの爺さんは――
「『魔法の鍵』じゃと?なんで儂に、そんなことを尋ねるんじゃ?」
 などと、ふざけた事をほざきやがったのだ。
 以前、このほこらに迷い込んだ旅人に、昔語りのように魔法の鍵の話を語って聞かせたことはあるそうなんだが、俺達が掴まされた噂は、その尾ひれというオチだった。
「じゃから、儂に聞かれても困るわい。ありゃ、イシス王――今は、女王じゃったか。とまれ、『魔法の鍵』は、あすこの王家の管轄じゃぞ。そっちに尋ねるが筋というもんじゃろ」
 そんな訳で俺達は、今度はイシスという国を目指す次第と相成ったのだった。なんだか、たらい回しにされてみたいで、すげぇ気分悪いんですけど。
 過酷な砂漠の道行きに、いい加減溜まっていた鬱憤が爆発した格好て、マグナは俺に当り散らす元気を取り戻した。
「あーもー、あっついっ!!なんとかしてよ、ヴァイス!!」
 いや、俺に言うよりは、ナジに言った方が、まだなんとかしてくれんじゃねぇのか。
 そのナジは、いつも通り物も言わずに、ぽくぽくラクダで俺達の前を歩いている。
「あーもーイヤッ!!いっくら行っても砂砂砂っ!!全身ジャリジャリだし、もぅうんざりっ!!あんたがアイシャの口車なんかに乗ったから、こんなことになったんだからねっ!!」
 ご無体な事を仰る。
 まぁ、そのやけっぱちな元気も、この砂漠では半日ともたない訳で。
 その分、内側にどんどんイライラを溜め込んでいたらしく、やがて珍しく無人のオアシスに辿り着いて、一息くなりマグナは宣言した。
「あたし、泳ぐから!!あっついし、砂が気持ち悪くて耐えらんないっ!!」
「あ、いいね。うん、泳ごう泳ごう」
 すぐさま同調するリィナと、小首を傾げるシェラ。
「え、でも、服のままですか?」
「なに言ってんの。誰も居ないんだから、服なんて脱いじゃって、下着でいいじゃない」
 おお、お前にしては、素晴らしいアイデアだな。とか思ったんだが。
359CC 19-9/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:05:07 ID:7LnUJgJe0
 マグナは、俺とナジをオアシスのほとりにある岩場の陰まで連れて行くと、目隠しをした上に、手と足を縄で縛り上げやがったのだ。
「覗いたら、殺すわよ」
 駄目押しに、そんな恫喝までしてくる。相当イラついてるのか、冗談に聞こえないところが恐ろしい。俺達を庇おうとしたシェラも、つい口篭ってしまう勢いだ。
 砂漠における水の貴重さが身に染みているナジは、口にこそ出さなかったが、最初はずいぶんと不快な顔をしていたのだが。
「ごめんね。ちょっとだけだからさ」
 リィナに縛られながら、顔を赤らめてテレテレ半笑いを浮かべていた。
 この小僧、どうやらリィナがお気に入りらしいのだ。歳も近いし、普通ならシェラに目が行きそうなモンだが、意外とマセガキだよな。ムッツリってヤツか。
 そんなこんなで、身動きを封じられた俺とナジを尻目に、女共は存分に水浴びを楽しんでいるという訳なのだった。
 ナジも、とんだ災難だよな。まぁでも、悪いが、お前にあいつらの下着姿を見せてやる訳にはいかねぇからな。諦めて、お縄についてなさい。
 だが俺は、このまま素直に縛られてるつもりはねぇぜ。
 絶対、覗いてやっから待ってろよ、マグナ、こんちきしょう。
 とにかく、後ろ手に手首を縛ってる縄だ。こいつさえ焼き切れば、戒めを解いたも同然だからな。
 手首のごく近くで、メラを可能な限り絞り込んで発動すれば、イケる筈だと思うんだが。
 問題は、これほど呪文の目標と出力に精密さを要求された事はかつて無い上に、目隠しまでされてるってことだ。
 けどな、こちとら、それなりに経験を積んだ魔法使いだぜ。やってみせようじゃねぇか。
 俺は凝っと、背中に回された手首の辺りを、映像として思い描く。
 失敗したら、大火傷を負いかねない。しかし、この恐怖心を克服することなくして、楽園への扉は開かれないのだ。
 うん、また考えてることがおかしいな。
 なにしろ、あられもない姿のマグナ達が、すぐ後ろできゃっきゃはしゃいでいるという生殺しの状態なのだ。そりゃ少しは、思考もおかしくなろうってモンだろ。
 えいくそ、そんなこたどうだっていい。今は、雑念を全て振り払うんだ。
 呪文に集中しろ。
 俺なら出来る。
 出来なきゃ、俺が魔法使いになった意味は無い――
360CC 19-10/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:08:58 ID:7LnUJgJe0
「マグナさん、リィナさん!!」
 俺の集中は、シェラの叫び声であえなく破られた。
 背後で、巨大な生き物が砂を這う音が近づいてくる――まさか、魔物か!?
「この音――ジゴクノハサミ。あいつ、水に入れる。危ない」
 隣りでナジが、訥々と呟いた。
 あの蟹の化物か。マズいな。外殻がやたら固ぇし、いくらリィナでも、水中で襲われたらヤバいかも知れん。
 くそ。マジで、今すぐ縄を解かねぇといけなくなっちまった。こうなったら、多少の火傷でどうのと言ってる場合じゃねぇぞ。
「シェラ、こっち!!泳いで!!」
「あぅ……でも……」
「分かった、待っててっ!!」
「すぐ行くからっ!!」
「どう……どうしよう……なんとかしなきゃ……」
 ざざざざざぎちぎちざざざ。
『バギ』
 ゴウッ。
「……やっぱりダメ……あんまり効かないよぅ」
 ぎちぎちぎちざざざ。
「に、逃げなきゃ……」
 ざばざばざばざば。
 ざざざざざかざかざかぎちぎちぎち。
「追いつかれちゃう……」
 ざばざばざば。
 ……どっ……どっ……どっどっどっ。
 ざかざかざかざかぎちぎちぎち。
 どっどっどっどっどっどっ。
「あっ!?」
 どどっ。ざしっ。どちゃっ。
「どうどうどう」
 ばしゃばしゃばしゃばしゃ。
「シェラ、大丈夫!?」
「あ、はい……あの人が、助けてくれて」
 なんだ。なにがどうなってるんだ。
361CC 19-11/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:14:14 ID:7LnUJgJe0
「あの、ありがとうございました」
「いや、なになに。大したことじゃないよぉ。むしろ、こっちがお礼を言いたいくらいだよねぇ」
「はい?」
「ぷあっ――あれ?――おっちゃんが倒してくれたの?」
「はいはい、そうですよ。おっちゃんが倒しました」
「助かったわ。ありがと――っ!!」
 マグナの悲鳴が辺りに響いた。
「あっち行ってっ!!あの、お礼は言うけど――今はあっち行ってよっ!!」
「おっと、こりゃ失礼」
「ほら、リィナも!!いつまでも立ってないで!!」
「あ〜、大丈夫大丈夫。おっちゃん、すぐ行くから。だから、水だけ汲ませてよねぇ」
「え、あの、ちょっと向こうに行っててくれれば、すぐ上がるけど……」
「いいからいいから。おっちゃん、向こうに連れを待たせてるのよ。お嬢ちゃん達みたいに可愛い子の、恥ずかしい格好を見たってバレたら怒られちゃうから、急いで戻らないといけないの」
「恥ず……っ!?」
「ふぅん。あの蟹のお化けを一撃かぁ……おっちゃん、強いね」
「あらら、バレちゃった。そう、おっちゃん強いの。アッチはもっと強いんだけどね」
 デカい皮袋に水を汲みながら、ふざけたことをほざいているのは、がっちりした体躯の少壮のおっさんだった。
 顔立ちからして、ここらの人間ではないだろう。むしろ、ロマリア辺りで見かけそうな伊達男面をしてやがる。
「おっちゃん、剣士でしょ?後で手合わせしてみない?」
 水面に顔だけ出して、リィナがそんなことを切り出した。
「ん〜?お嬢ちゃんとかい?」
「うん。腕の立つ剣士と、ちょっと手合わせしておきたいんだよ」
「お嬢ちゃん達も、イシスに行くのかい?」
「うん、そだよ」
「じゃあ、そこで会ったら、喜んでお相手しましょうねぇ。それまでは今の連れと一緒だから、お嬢ちゃんといやらしいことしたら、おっちゃんヤキモチ焼かれて、砂漠のド真ん中に置いてきぼりにされちゃうの」
 リィナの反応は、一瞬遅れた。
「へっ!?――えっ!?ち、違うよっ!?そうじゃなくて、剣士としての手合わせだよっ!!」
「あらら、残念。ごめんねぇ。おっちゃん、女の子には、こっちの剣しか使わないことにしてるのよ」
 なんてことを言いつつ、おっさんは自分の股間を指差した。なんだ、この愉快なおっさんは。
362名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 07:17:26 ID:BDVmCk8gO
リアルタイムktkr支援
363CC 19-12/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:18:09 ID:7LnUJgJe0
 リィナは顔を赤らめながら、口まで水に浸けてぶくぶくと息を吐き出した。こいつにしては、珍しい反応だな。
「あのねぇ――」
 代わりにマグナが呆れた顔で何かを言いかけたが、おっさんはそれを待たずに、水を満たした皮袋を自分のラクダにくくり付けた。
「それじゃあねぇ、お嬢ちゃん方。どうぞ、ごゆっくり水浴びを楽しんでちょうだい」
「え――もう行っちゃっていいんですか?」
「うん。急いで戻らないと、連れがこっちに来ちゃうのよ。お嬢ちゃん達の格好を見られたら、きっと泣いて怒られちゃうの。おっちゃん、女の涙には弱くてねぇ」
「あの――ありがとうございました」
 ワンピース姿のシェラが礼を述べると、ラクダに跨ったおっさんは、立ち去りながら手だけひらひら振ってみせた。
「……なんだったの、今のは。まぁ、助かったけど」
 おっさんとラクダが豆粒くらいになるのを待って、マグナは水から身を起こした。よし――うは。
「ヘンなおっちゃんだったねぇ」
 リィナも水から上がったが、こいつの下着姿は見たことあるからな。どっちかというとマグナの方に目が行ってしまうのは、それが理由に違いない。
 でも、なんかマジマジと見れねぇぞ、何故か。
 なんだ、その……濡れて透けてるしさ。
 とにかくひと目でも見ることが出来て、どうやら俺の気は済んでしまったらしい。急に、いけないことをしている気分に襲われてしまう。
 こういうのって、やっぱり良くないよな、うん。男らしくねぇっつーかさ。いや、ある意味、こよなく男らしいんだけど。
 つか、あのおっさん、まさかバッチリ見やがったんじゃねぇだろうな。見られる前に、ちゃんと水に潜って隠したんだよな、マグナ?
「今日は魔物が出てなかったから、油断してたわ……ヴァイス達を縛っちゃったの、マズかったかな……」
 呟きながら、こちらを向いたマグナの目と、岩場の端から顔を引っ込めようとした俺の目が、ばっちり合った。
 刹那、世界は動きを止めた。
364CC 19-13/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:24:35 ID:7LnUJgJe0
「――っ!!」
 可聴領域を越えた絶叫が、砂漠の空に吸い込まれていく。
「違う、違うって!魔物に襲われてたみたいだったから、慌ててだな――」
「なんでよっ!?なんで縄から抜けてるのっ!?信じらんないっ!!」
 オアシスのほとりにしゃがみ込んで、マグナは足元の砂を俺に向かって投げつける。
「いや、マジでマジで!!今、動けるようになったばっかだから、全然見てねぇから――」
「いいから、あっち行ってよっ!!ばかぁっ!!」
 俺はほうほうの体で、岩場の陰に逃げ戻った。
 ヤベェ。見つかる予定じゃなかったのに。
 この後の事を考えるだに恐ろしい。今の内にトンズラこくか。いやいや、こんな砂漠のド真ん中で、どこに逃げるってんだよ。
 俺がわたわたしていると――
「ヴァ〜イ〜ス〜うぅ」
 物凄い勢いで服を着たらしい。いくらもしない内に、マグナが地の底から響いてくるような唸り声を引き連れて、ざかざかと砂を蹴散らしながら、足早に迫ってくるのが見えた。
 腕の火傷を誇示しながら、お前らが危ないと思って無理矢理縄を焼き切ったんだと、必死に説明したのが良かったのか。
 それとも水浴びで、マグナのイライラが解消されていたお陰なのか。
 カンペキ顎が外れたと思ったほどの、平手打ちの一発を俺に叩き込んで、「もぅ、しょうがないなぁ」とかマグナは苦笑した。信じられないことに、どうやらそれで気が済んだらしい。
 奇跡だ。奇跡って、ホントにあるんだな。感動しました。
 なんだかんだで、マグナの体も拝めたのも、言ってみれば奇跡だよな。正々堂々と拝む機会なんて、多分一生ねぇだろうし。なんていうか、細身で思った以上に体の線がさ、え〜、その、俺の好みだったりして。いや、まいっちゃうね、どうも。
 それと、今回のひと悶着で、収穫がもうひとつ。
 縄を焼き切る為に、極限まで呪文に集中した結果――
 俺は、メラミを覚えていた。
365CC 19-14/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:30:14 ID:7LnUJgJe0
 イシスに辿り着いてすぐに、ナジとは別れることになった。案内人の組合みたいなのがここにもあるので、そこに戻るのだそうだ。お疲れさん。必要以上に干渉もしてこなかったし、お前さんはいい案内人だったぜ。
 イシスの街は、なにやら華やかな活気にざわめいていた。祭景気に浮かれている、と言ってもいいかも知れない。
 通りのあちこちで出店やちょっとした出し物が目についたり、辻では吟遊詩人が楽器を奏でながら唄っていたりする。
 その理由は、そこかしこに見える垂れ幕やら立札のお陰で、ほどなく知れた。
「――へぇ、武闘大会だって」
 立札の前で立ち止まって、リィナが呟いた。
 そう。明日から、このイシスの街で武闘大会が催されるらしいのだ。
 なんでも逞しい輩がお好みだという、イシス女王の発案で開催されるこの大会で優勝すれば、賞金および何でもひとつ願い事を叶えてもらえる権利、そして何より絶世の美女との噂も名高い女王様と、間近で謁見する栄誉が与えられるのだという。
「ボク、出てみようかなぁ」
 リィナの反応は、予想通りだった。
「ああ、そりゃいいかもな――」
 ほこらの爺さんの言によれば、『魔法の鍵』はイシス王家の管轄らしいが、どうやって話を聞いたものやら、ここに着くまで考えても答えが出なかったからな。
 なんのツテも地位も無い俺達みたいな人間が、ほいほい女王様なんてご大層な方と謁見できる筈もない。そりゃ、マグナが正体を明かせば、もしかしたら目通りは適うかも知れないけどさ、そいつは論外だしな。
 そこで、この武闘大会だ。リィナが出場すれば、優勝は夢じゃない。つか、他にいい方法も考えつかねぇし、参加しない手は無いだろう。
「マグナも出てみれば?」
「え〜、あたしはいいわよ」
 リィナにお気楽に誘われて、マグナは顔を顰めてみせた。
 まぁ、そうだな。今のマグナなら、案外いいトコまで行けるかも知れないが、止めといた方が無難かな。
 相手を殺したら自分が負けってルールらしいが、心配は心配だし――ちょっとだけな。
366CC 19-15/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:35:26 ID:7LnUJgJe0
 明日行われる予選を勝ち抜いた連中と、主催側が用意したそれなりに名の通った数名の戦士達――もちろん、どいつも聞いたこともねぇけど――が、明後日の本選に出場できる段取りだ。
 予選がはじまってからも、ギリギリまで飛び入り参加を受け付けるみたいなので、とりあえず俺達はまず宿に落ち着くことにした。
「あっ――」
 適当な宿屋を探し歩いていると、急にシェラが声をあげて、俺の背中に身を隠した。
「あれ?フゥマくんだ」
 リィナの視線を追うと、こちらに向かって歩いてくる腕白坊主が、人ごみの合間に見えた。
 俺は、ちょっとシェラを振り返る。リィナより先に見つけるとは、すげぇな。
「おーい、フゥマくーん!」
「ちょっと、リィナ。いいわよ、あんなの呼ばないで」
 フゥマと反りが合わないマグナは嫌な顔をしたが、向こうもこちらに気がついたようで、やや足を早めて近づいてきた。
「――なんだよ、またあんたらかよ」
 そりゃ、こっちの台詞だ。
「フゥマくんも、武闘大会に出に来たの?」
 それだと、ちょっとマズいな。腕の立つヤツは、なるたけ少ない方がいい。けど、こいつはリィナに勝った試しがねぇから、まぁ、心配無いか。
 だが、フゥマは口をへの字に曲げて、リィナの問い掛けに首を横に振った。
「いやさ、オレ様も、すっげぇ出たかったんだけどさぁ……今回は、仕事なんだよな。大会に出るヤツで、使えそうなの見つけて来いって言われてさ」
「ありゃりゃ、そりゃ残念だねぇ」
 リィナは同情してみせたが、そっぽを向いたマグナはザマを見なさいと言わんばかりの表情を作った。
 フゥマは、はぁっ、と溜息を吐く。
「あの野郎、『私より、フゥマさんに観てもらった方が確かでしょう』とか言いやがってよ。そりゃそうだけどさ、ほら、アレだろ。自分が出場しちまうと、試合を全部観たりとか無理じゃんか。出たらオレ様、決勝戦までいっちまうしさ」
 はぁ?何言ってんだ、こいつ。
「あーくそっ、すげーつまんねぇっ!!」
 にやけ面に対する不満をぶちまけると、フゥマはにわかにそわそわし出した。
「ま、仕事だからしょうがねぇけどさ……なぁ、オイ」
 なにやら、俺の方をちらちら窺う。
「その……シェラさんは?」
 ああ、やっぱりそうくるよな。
367CC 19-16/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:38:23 ID:7LnUJgJe0
 服の背中を、シェラがぎゅっと握った感触があった。震えてるな。
「あー、いや、その、なんだ……」
「シェラは、あんたの顔も見たくないってよ」
 マグナがつけつけとうそぶいた。
「ばっ――そんな訳ねぇよ!!だって、オレ達、この前ロマリアで――あれ?あんたの後ろにいるのか?」
 体を傾けて俺の背中を覗き込み、フゥマはシェラを見つけてしまった。
「え?マジで?オレ、なんか嫌われることしちゃったのか?……あれ?」
 そうだよな。フゥマにしてみたら、ロマリアで偶然に出逢って、いい感じで一緒に遊んだ記憶が最後なんだもんな。そりゃ戸惑うわな。
「あの、シェラさん……この前、なんか嫌な思いさせちゃったんなら、ごめんなさい。オレ、バカだから、女の子の気持ちとかよく分かんなくて……」
 困惑しきりの腕白坊主を見てたら、ちょっと可哀想になってきた。
 シェラとフゥマがロマリアで逢っていたことを、どうやら知らないらしいマグナは怪訝な顔つきで、リィナはきょとんとしている。
「ちょっと待ってくれ」
 俺はフゥマにひと声かけて、後ろを振り向いた。
 声を潜めて、シェラに問い掛ける。
「どうした?今度こそ、ちゃんと言うんじゃなかったのか?」
「……ダメ……怖い……怖いです……」
 シェラは泣きそうな顔で、ぶるぶると身を震わせていた。
「分かってるんですけど……無理……無理です」
 今度は俺の袖を、縋るように握ってくる。
 どうやら――俺にも責任の一端があるのかな、これは。
 少し前までのシェラなら、こんな態度は取らなかっただろう。
 最初から諦めていたのだから。
 自分の素性を明かしたら、上手くいきっこない――女の子として見てもらうなんて、不可能だと。
 だから、素性を明かした後でヒドい態度を取られても、無理矢理自分を納得させて、なんでもないことのように振舞えた。ハナから期待してなかったから。
『だって、どうしようもないじゃないですか――私……おかしいですから』
 だが、あの日――
368CC 19-17/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:42:17 ID:7LnUJgJe0
『俺は、そんな風に思ってねぇから』
 心の底から真剣に、俺はシェラにそう言った。
 それが、シェラの裡でどういう影響を及ぼしたのか、本当のところは分からないが――多分、シェラの中に期待が芽生えたんじゃないかと思う。俺達みたいに、ありのままの自分を受け入れる人間が、実際に存在すると信じることが出来て。
 もしかしたら、受け入れてもらえるかも知れない――たとえ僅かでも、そんな風に期待してしまった上で、手酷く拒絶されたら、これまでのように平静を装うことすら難しいだろう。それが、恐怖に繋がっているんじゃないだろうか。
 一見すると、シェラは弱くなってしまったようにも思えるが、無理に平気な顔をしてみせていた以前の方が、異常というか不健全だったと俺は捉えているので、好ましい心境の変化ではあるんだが――なんだか、ややこしいことになっちまったな。
「あの……明日、ちゃんと言います。ちゃんと心の準備をしておきますから……今は……」
「……そっか。分かった」
 こんなに暑いってのに、シェラの顔面は蒼白だ。とても無理強いなんて出来ねぇよ。
「悪いな。旅の疲れが出ちまって、お前とお喋りできるような状態じゃねぇんだ。また明日、ってことにしといてくれよ」
 俺がそう言うと、フゥマは心配そうな、だが嫌われてる訳じゃなさそうだと判断したのか、幾分ほっとした顔をした。
「あ、ああ、分かった。そっか、あんたら、砂漠を越えて来たんだ?そりゃ、シェラさんみたいに繊細な人にはキツいよな。ごめんな、シェラさん。気分悪いのに、無理言っちまって」
「いえ……」
 消え入るようなシェラの返事は、本当に具合が悪そうに聞こえた。
「じゃあ、あの、明日はオレ、ずっと闘技場に居ると思うんで。よかったら声かけてください。それじゃ、お大事に」
 すれ違うフゥマを避けるように、シェラは俺を盾にして回り込んだ。その様子に、改めてショックを受けたらしく、とぼとぼした足取りで立ち去るフゥマ。
 なんていうか、元気出せよな、少年。
「シェラ、大丈夫?顔、真っ青よ?あいつに、なんかされたの?」
 心配そうに尋ねるマグナに、シェラはゆるゆると首を横に振るばかりだった。
369CC 19-18/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:48:04 ID:7LnUJgJe0
 明けて翌日。
 宿屋のベッドで寝ていた俺は、遠慮がちなノックで目を覚ました。
 多分、シェラだな。独りでフゥマと会うのはどうしても怖いから、ついてきてくれと頼まれていたのだ。
 腕白坊主にゃ申し訳ねぇけど、ちょっと放っておけねぇからな。保護者同伴ってことで、我慢してもらおうか。
「あいよ〜」
 欠伸を噛み殺しながら、鍵を外して扉を開ける。
「あ、おはよ」
 ……あれ?
 マグナじゃねぇか。
 こいつが俺の部屋を訪ねてくるなんて、珍しいな。
 なんかあったのか?
「相変わらず、宿では起きるの遅いのね。リィナなんて、もう闘技場に行っちゃったわよ」
 マグナは、なんだかこざっぱりしていた。髪とか、さらさらしてやがんの。
 俺の目つきに気付いたのか、マグナは髪をかき上げてみせた。
「さっぱりしたでしょ?や〜っと砂が落とせたって感じ。ヴァイスも、お風呂入ったんでしょうね?」
「あ、ああ」
 それに、スカートを穿いている。こういう服着てんの、久し振りに見たな。うん、やっぱこっちのがいいわ。
「ひっどいわよね〜。お風呂入るのに、すっごい追加料金取るんだもん。そりゃ、ここでは水が貴重なのは分かるけど――でも、この街も結構砂っぽいから、外に出たら、すぐまたじゃりじゃりになっちゃうかもね」
「ああ、そうかもな……で、どうしたんだ?」
「えっ!?あ、うん、あのね……」
 マグナは、視線をあちこちさ迷わせてから、意を決した顔つきで口を開いた。
「ヴァイスも、予選見に行くでしょ?でも、まだちょっと時間あるじゃない?だから、それまで、その……一緒に買い物に行かない?」
「へ?」
「なによ、その顔……イヤなの?」
「ああ、いや、そうじゃねぇけど……」
「その……あれよ?えと――アッサラームで、これ、くれたでしょ?」
 言われるまで気付かなかったが、マグナは俺がやった首飾りを身に着けていた。
「だから……あたしも、なんかお返ししよっかなって……違うのよ?あんたに借りを作ったまんまじゃ、気持ち悪いから――そうゆうコトなんだからね?」
「ああ、うん……そりゃ、ありがとう」
 なんというか。まだちょっと寝惚けてたし、それに完全に意表を突かれちまって。
 俺は素直に、そんなことを口にしていた。
370CC 19-19/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:51:12 ID:7LnUJgJe0
「お、お礼なんて、買ってからにしなさいよ。ほら、じゃあ、早く仕度してよ」
 マグナは、照れたように顔を赤らめた。
 あれ?なんか、可愛くねぇか、今日のこいつ。
「じゃあ、外で待ってるからね」
 閉じられようとした扉を――寸でのところで、俺は押さえた。
「なに?どうしたの?」
「いや……悪ぃ。その、先約が……」
「あれ、マグナさん?」
 廊下の先から、シェラの声が届いた。
「お出かけしたんじゃなかったんですか?」
「え?あの……そうよ?今から出るところ」
 一瞬、挙動不審にわたわたしたマグナは、じろりと俺を見上げた。
「なんだ……そういうこと」
 いや、そういうことってなんだ。どんな納得の仕方をしたんだ、お前。
「昨日、様子がおかしかったもんね。あんたは色々事情知ってるみたいだし、せいぜい元気付けてあげなさいよ」
 マグナの口振りは、いつもの調子に戻っていた。
「マグナさんも、ヴァイスさんに用事だったんですか?」
「ううん、違うのよ。どうせ、まだ寝てるだろうと思って、叩き起こしに来ただけ。放っておいたら、予選が終わるまで寝てそうじゃない、このバカ――それじゃ、あたしは出掛けるから。ごめんね、邪魔しちゃって」
「え?あの、マグナさんも予選見に行くんですよね?」
「そうね。じゃあ、また後で」
 マグナは後ろも振り返らずに、そそくさと足早に廊下を歩き去る。
 残されたシェラは、廊下の先と俺の顔をきょろきょろと見比べて、不安げな顔をした。
「あの……私、なにかマズかったでしょうか」
「いや、いいよ。別に問題無い」
 だって、しょうがないじゃねぇかよ。シェラを放っとく訳にはいかねぇだろ。
 俺は、なにやら女の子っぽかったさっきのマグナの素振りと、何故か浮かんだあいつの下着姿を、頭を振って脳裏から追い払った。
371CC 19-20/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 07:57:13 ID:7LnUJgJe0
 武闘大会の本選は、イシス城の正門前広場において女王様の御前で行われるが、予選はロマリアにあったのと良く似た地下闘技場で済ませるらしい。
 予選を含めて、この大会の勝敗は賭博の対象になっているとあって、開場前だというのに闘技場の前には、既に人だかりが出来ていた。選手以外は、まだ入れないってのに、ご苦労なこったな。
「あぅ――」
 人ごみの中にフゥマの姿を認めたのは、やはり俺よりシェラが早かった。
 向こうもソワソワとこちらを探していたようで、すぐに見つけておずおずと近寄ってくる。
「お、おはよう」
「よぅ」
 挨拶を返したのは俺で、シェラは無言だ。体半分しか俺の背中に隠れてない辺りが、昨日よりは幾分マシってところか。
「ぐ、具合はどうですか、シェラさん。ひと晩寝たくらいじゃ、良くならないかな?」
「そ、そんなの――フゥマさんには、関係ないじゃないですか」
 おや?
 フゥマはびっくりして目を丸くしているが、俺にはもっと驚きだ。
 こんな口をシェラが利くのは、初めて聞いたぞ。どうしちまったんだ、一体。
「そ、そりゃそうですよね、ハハ……オレには、関係ないですもんね……」
「いや、まぁ……割りと元気になったよな?」
「はい、そうですね。昨日よりは、ずいぶん楽になりました」
 あらま、俺にはいいお返事。
「良かった。昨日は、ホントに元気無かったから、心配してたんスよ」
「べ、別に……フゥマさんに心配してくれなんて、た、頼んでませんから」
 そっぽを向きながら素っ気無く言われて、目に見えてショボくれるフゥマ。
 なんか知らんが、やたら身につまされるんですが。ホントに気の毒になってきた。
 やれやれ。今日は一日、ずっとこの間に挟まれるのかよ。気疲れしちまいそうだなぁ。
 俺達三人が、微妙な空気をもてあましていると、少し離れた人ごみでざわめきが起こった。
「ンだ、このチビ。ずかずか割り込んでんじゃねぇよ」
「邪魔だ」
「手前ぇ、いい加減に――うわあぁっ」
「き、切りやがった」
「危ねぇぞ、こいつ」
 悲鳴に押し広げられるように人垣が割れて、両手に持った大振りのナイフを振り回している男が合間に見えた。
 ずいぶん小柄だ。マグナと同じくらいの背丈じゃないだろうか。
 逆立った短い髪と、鋭い目つきが印象に残る。
372CC 19-21/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:02:03 ID:7LnUJgJe0
「ちっ」
 ちらりとシェラを気にしてから、フゥマは舌打ちをして男に歩み寄った。
「おい、オッサン。こんなトコで、ンなモン振り回してんじゃねーよ。危ねぇじゃんか」
 苦言に耳を傾ける様子もなく歩を進めた男は、フゥマとすれ違い様にナイフを閃かせる。
「フン。あんた、出場者か」
 フゥマの四指と親指の間には、男のナイフが挟まれていた。切りつけられながら、掠め取ったらしい。出会った時のリィナを思い起こさせる。
 だが、あの時は動きの止まったナイフを掠め取っただけだし、得物の寸法といい、相手の技量といい、難易度としてはこっちが遥かに上だろう。
 やっぱ、こいつ強ぇんだな。リィナに負けてばっかだから、いまいちそういう印象が薄いんだけどさ。
「おい、そこら辺のアンタら。このオッサン、出場者みたいだから通してやってくれ――あんたも、ちょっと声かけりゃ済むコトじゃんか。あんま無茶すんなよな」
 フゥマが投げ返したナイフを受けて、男はソレをくるっと回して腰の後ろの鞘に収めた。
 刃物のような鋭い一瞥を残し、割れた人垣の間を闘技場の方へ去っていく。
「ったくよ、シェラさんのこんな近くで、ナイフなんか振り回しやがって……」
 右腕を押さえたフゥマの指の間から、血が滴り落ちていた。ナイフの男も、一矢報いてたってことか。
「あ……」
 流血に気付いたシェラが、口元を押さえる。
「いや、全然平気ッスよ。掠っただけで、動脈いってねーですから。ほっときゃ、そのウチ止まりますって」
『ホイミ』
 決まり悪そうに言い訳をするフゥマを無視して、シェラはホイミを唱えた。
 折角、格好をつけたつもりだったのにな。不憫なヤツだ。
「あ……どうも」
「今、切られてたんですね」
「ええ、まぁ……油断しちゃって」
「……そんなんじゃ、大会に出ても優勝なんてできっこないですね!出なくて良かったんじゃないですか!?」
 らしくないシェラの言葉に、フゥマは絶句する。
「私、怪我した人を治してきますから」
 シェラはついと顔を逸らし、男に切りつけられて呻いている連中の方に走っていく。
 俺は、フゥマの肩にぽんと手を置いた。
 まぁ、その、なんだ。元気出せよ。こればっかだけどさ。
 俺を見上げるフゥマの顔は、これまで目にしたどれよりも情け無い表情を浮かべていた。
373CC 19-22/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:06:37 ID:7LnUJgJe0
 その後、しばらくして客の入場が開始された闘技場は、中心に設けられた半地下の試合場はロマリアの物とよく似ていたが、それを囲んで通路に並べられているべきテーブルは全て撤去されており、そこに客がどっと雪崩れ込んだ。
 フゥマがシェラにいいトコ見せようと頑張ったお陰で、俺たちは最前列を確保できた。だが、シェラはそんな腕白小僧との間に俺を挟み、視線を合わせようとしなかったので、フゥマの顔は相変わらず景気が悪いままだった。
 予選の試合形式は、闘技場にまとめて入れられた出場者が一斉に戦い、最後に残った一人だけが本選に進めるという生き残り方式だ。
 賭けの対象になっているとは言っても、予選の参加者なんて、どこの馬の骨とも分からないようなヤツばっかだからな。名前や年齢、性別、得物――使用武器くらいの情報しかないので、実際に生き残りを予想するのは難しい。
 今日ここに観に来た連中の目的は、明日の本選で大きく張る為に、どいつがどれくらい強いのかを見極める意味合いが強いんじゃないだろうか。
「こん中じゃ、あいつかな」
 競技者が入場する度に、本当は自分も参加したかったフゥマが、つまらなそうに生き残りそうなヤツを予想して、それはことごとく的中した。
 こいつ、眼力も確かなんだな。ちょっと見直したぜ。
「なーんか、レベルひきーなぁ」
 自分が出てたら、一瞬で全員ぶっ飛ばしてるぜ、とでも言いたげな口振りだった。
「ニックの旦那レベルに近いヤツがいたら、連れて来いって言われてんだけどさ。こんなお祭りに、あんなバケモンみてぇのが出る筈ねぇんだよなぁ」
「やっぱり、あいつってそんなに強いのか?」
 シェラがロクに喋らないので、フゥマに相槌を打ってやるのは、もっぱら俺の役目だ。
「強ぇなんてモンじゃねぇから。マジでバケモンだよ、あのオッサンは。あんたのトコの姐さんも強ぇけどさ、実力は大体分かったからな。旦那とやり合って生き残ったのは、運が良かったとしか言えねぇって。旦那は、全然本気じゃなかったと思うぜ、多分」
 剣呑なことを言いやがる。
374CC 19-23/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:10:41 ID:7LnUJgJe0
「あんなバケモンとマトモにやり合ったって、勝てる訳ねーんだよ。あいつに勝つには、マグレでもなんでもいいから、一発でぶっ倒せるくれぇの必殺の一撃を叩き込む――これしかねぇんだ」
 やや思いつめた顔をして、拳を握り締める。こいつの大技に対するヘンなこだわりは、この辺りに由来があるのかもな。
「そういや、あいつも、お前らの仲間なのか?」
 ついでなので、ちょっと気になっていたことを聞いてみた。
「いや、オレ様も良く知らねーけど、ちゃんとした仲間ってんじゃないみたいだな。もちろん、引っ張り込もうとはしてるんだろうけどさ」
 相変わらず、情報の引き出し甲斐の無ぇ野郎だな。もうちょっと、自分の周りの事くらい、色々気にかけろっての。
「お前も、あいつとやり合ったことあんのか、さっきの口振りだと」
「ああ、一年くらい前だけどな。もうホント、ボロボロにされたぜ。全身の骨バキバキで、それまでオレ様、負けたことなんて無かったから、マジ、ショックでさ」
「お……オレ様とか、超強いなんて言ってる割りには、だらしないんですね!」
 俺の袖を握り締めたまま、フゥマの方を見ようともしなかったシェラが、まるでいちゃもんをつける機会を見計らっていたみたいに、突然そんな口を利いた。
「つ、次やったら、勝ちますよ!」
「そ、そうですか。まぁ、か、勝手に頑張ってください。フゥマさんが、ほ、骨とか……その、バキバキにされても、私には全然関係無いですから!」
 ホントにらしくねぇな。
 フゥマは返す言葉もない様子で、しょんぼりと俯いてしまう。
 そうこうしている内に、試合は終わっていた。生き残ったのは、またフゥマの予想通りだ。
 おっと、いけね。次の次の試合だけは、賭札買っておかねぇと。
「悪ぃ、場所取っといてくれ」
 フゥマに言い残して、慌てて人ごみを掻き分けようとしたら、袖をぐいっと引っ張られた。
 シェラが、縋るような目を向けてくる。そうか。二人っきりは、まだダメか。
 情け無い顔をして見送るフゥマを後に残し、俺とシェラは人垣を抜けた。
「どうしたんだ?なんか今日は、らしくないみたいだけどさ」
 俺がそう言った途端に、シェラは両手で顔を覆って、通路にしゃがみ込んでしまった。
375CC 19-24/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:14:12 ID:7LnUJgJe0
「おいおい、大丈夫か」
「……ホント、ヒドいことしてますよね」
 蚊の鳴くような声だった。
「なんで、こんなになっちゃったんだろう……苦しいです……ホントにごめんなさい」
 いや、それは俺に言う台詞じゃねぇから。
「でも……ごめんなさい……ホントに、言うの無理なんです……怖くて……だから、嫌われれば、フゥマさんも私のことなんて、相手にしなくなるかなって……」
「それで、あんな口を利いてたのか」
 シェラは、微かに頭を揺らして頷いた。
「あの……やっぱりヘンでしたか?どういう風にすればいいか、自分では良く分からなかったから、あの……ヴァイスさんに対するマグナさんの態度とか、参考にしてみたんですけど」
 俺は思わず、ぶーっと唇を鳴らした。
「あ、でも、ヴァイスさん、マグナさんのこと好きですもんね。そっか、あれじゃ嫌われないんだ……」
 自分で口にしてみて、改めて気付いたんだろう。いつもあんなにヒドい事を言われてるのに、どうして?みたいな、今さらながらに不思議そうな目つきを、シェラは指の間から覗かせた。
 いやいやいやいや。
「あのな、ナニ言ってんだ。俺は充分、あいつにムカついてるっての。ほら、いいから、早く立ってくれよ。賭札買いに行くんだからさ」
 リィナの試合がはじまっちまうよ。
「あ、ごめんなさい」
 はぐれないようにシェラの手を引く掌に、じっとりと汗が滲む。
 バカ言えよ。いきなり何ぬかしてんだ、ホントに、こいつは。
 いや、そりゃ――今朝のあいつは、なんだかちょっとだけ可愛かったけどさ。
 でも、結果的にお誘いをすげなく断っちまったからな。今頃はまた、プンスカしてやがるに違いない。また、ご機嫌取りを考えなきゃいけないのかよ。面倒臭ぇなぁ、もう――そういや、あいつもどっかで予選を見てんのかな。
 賭札の売り場で確認すると、思った通り、リィナの配当はかなり高かった。
 女の出場者なんて、ほとんどいねぇからな。絶対、人気無ぇと思ったんだよ。くくく、この試合が鉄板とも知らずに、間抜けな観客共め。
 有り金のほぼ全てをリィナに突っ込んだので、売り場の姉ちゃんに仰天された。まぁ、こんなにデカく張るヤツは、今日はあんま居ねぇだろ。儲けた金で、またなんか機嫌の取れそうなモンでも、マグナに買ってやるとするかな。
376CC 19-25/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:17:21 ID:7LnUJgJe0
 フゥマの元に戻ると、ちょうど前の試合が終わったところだった。
 シェラはまだ踏ん切りがつかないのか、依然として俺の陰に隠れている。
 やれやれ。こいつらも、どうしたモンかなぁ。
 内心で嘆息する俺の腋を、フゥマが肘で突付いてきた。
 拗ねた目つきだ。
「……仲いいじゃんかよ。まさか手前ぇ、やっぱりシェラさんと、そういう関係なんじゃ……」
 耳に口を寄せて、物凄い小声でそんなことを尋ねてくる。
「バカ、違うって」
 なんて答えてやりゃいいのかね。
「その……なんだ。俺にもよく分かんねぇけど、シェラはお前に照れてんじゃねぇのかな」
 囁き返してから、勝手なことを言っちまったかな、と反省する。けど、わざと嫌われたりって、なんかシェラらしくない気がするんだよな。
「そ、そうか?だったら、いいけどさ……」
 フゥマの顔に、少し生気が戻った。単純だな、こいつ。悪いヤツじゃねぇから、困っちまうよな。シェラの性格じゃ、今みたいな態度を取ってるのは、さぞかし心苦しいだろう。
 賭けの締め切りを待って、しばらく時間を置いてから、次の試合の出場者が闘技場に入ってきた。
 ここまでの参加者のほとんどと同じく、リィナ以外はみんな剣士だ。つか、無手の出場者なんて、あいつが初めてじゃねぇのか。
「あ、ヴァイスくん、シェラちゃん。やっほー」
 目ざとく俺達を見つけたリィナが、呑気に手を振ってくる。全然緊張してねぇな、あいつ。
「今回は、予想しねぇのか?」
 俺が尋ねると、フゥマに鼻を鳴らされた。
「必要ねぇじゃんか、この回は」
 よく分かっていらっしゃる。
 やがて、試合の開始を告げる鐘が鳴り響いた。
 リィナに向かって二人の剣士が、示し合わせたように殺到する。まずは、弱そうなところから潰していこうって腹積もりだろう。馬鹿だなぁ。
 左右から腹を向けて振り下ろされた剣を、後ろにとんぼを切って躱したリィナは、闘技場の「壁に」着地した。
「よっ」
 そのまま壁を蹴り、空中でくるっと回転して剣士の脳天に踵を叩き込むと、地面に落ちる前にもう一人の剣士の横っ面を蹴り飛ばす。
377CC 19-26/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:21:50 ID:7LnUJgJe0
 軽業師も真っ青の動きを目にした他の出場者は、呆気に取られて立ち尽くした。唾競り合いの体勢のまま、固まってるヤツらまでいやがんの。
 そんな隙をリィナが見逃す筈もなく、勝負はあっという間についた。
 観客から、怒号のような歓声があがる。まぁ、そうだよな。女で、しかも無手のヤツが勝っちまったんだから。賭け金をスった連中の悲鳴も、かなり含まれているに違いない。
 いや、ご苦労さん、リィナ。お陰で俺は、大儲けだぜ。あいつにも、なんか買ってやんねぇとな。
 調子に乗って、四方に手を振って歓声に応えながら、リィナは闘技場を後にした。
「……姐さん、ちょっと強くなったか?」
 フゥマが難しい顔をして呟いた。
 うん、まぁ、これ以上実力が離されないように、キミもせいぜい努力したまえ。
 次の試合の出場者には、見知った顔があった。
「あ、あの人……」
 久し振りに声を発したシェラの視線の先には、オアシスで女連中の危機を救った、あの愉快なおっさんが、大剣を肩に担いでダルそうに立っていた。
「知り合いなんスか?」
 フゥマが尋ねると、シェラはつんと顔を背ける。
「フゥマさんには、関係無いじゃないですか」
 マグナの物真似を、まだ続けるつもりなのかよ。フゥマはフゥマで、飽きもせずに落ち込んでやがるし、ホントにどうしたモンかね、この子供達は。
 試合が開始されると、おっさんは向かってくる相手を適当にいなすだけで、やる気が無さそうにフラフラと逃げ回った。
 そして、残り二人になった途端に、急に鋭い剣筋で相手の剣を叩き落として、首筋に切っ先を突きつける。
「はい、おしまい。申し訳ないけど、降参してちょうだいねぇ」
 タルそうに言って、にやりと唇を歪めた。
 このオッサン、ウチの女共のあられもない姿を見やがったからな。バッチリは見てねぇと信じたいが……やっぱ許せねぇ。それで負けちまえとか思ってたんだが、残念ながらそれなりに腕が立つようだ。
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 08:25:20 ID:T8l3eAKoO
C
379CC 19-27/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:26:05 ID:7LnUJgJe0
「あいつはどうだ?」
 意見を求めると、フゥマは渋い顔をして首を振った。
「モロに三味線弾いてやがっからな。あれじゃ、ホントのトコは分かんねぇよ。ま、結構使えそうではあるけどさ」
「フゥマさんより、強いんじゃないですか?」
 シェラに言われて、とうとうフゥマはムッとした顔をしてみせた。
「あ……」
 嫌われようとしてるんだから、上手くコトが運んでる筈なのに、シェラは申し訳なさそうに俯いてしまう。
 あのさ。やっぱり、マグナの物真似は、お前には似合わねぇよ。
 次の試合の出場者には、さっき表で騒ぎを起こした、あのナイフ使いが含まれていた。
「面倒だ。切られたヤツから、さっさと降参しろよ、クズ共」
 吐き捨てがちに挑発されて、頭に血を昇らせた他の出場者が一斉に殺到する合間を、小男は素早い動きですり抜けた。
 いつの間にやら両手に握った大振りのナイフをくるくる回して、腰の後ろで左右互い違いに留められた鞘に収める。
 すると、小男以外の全員が、腕から血を流して剣を取り落とた。
「あいつは、かなりいいトコまで行くんじゃねぇかな」
 フゥマが、そんな予想を口にした。
 お前、それ、自分もやられたから言ってるだろ。
 だがまぁ、目つきといい、身に纏った空気といい、お祭じみたこの大会にはそぐわない、物騒なヤツなのは確かだった。
 次が、予選最後の試合だ。
 入場してきた連中の一人を目にして――
 俺は堪えきれずに、盛大に唾を噴き出した。
「あれ?あいつ、あんたんトコの生意気女じゃん」
「マ、マグナさんっ!?」
 なにやってんだ、あいつは!?
 飛び入りで参加しやがったのか。リィナの試合以降の面子は確認してなかったから、気付かなかった――頭痛くなってきたぜ。
 シェラの声でこちらに気付いたらしいマグナが、闘技場の中からぎろりと物凄い目つきで俺を睨みつけた。
 なんだなんだ。とんでもなく、ご立腹のご様子なんですが。なんでだ。今朝は、そこまで怒ってる風でもなかったのに。時間が経つにつれて、どんどん怒りを募らせでもしたんですか。
 なにやら、ぶつぶつ呟いてやがる。うぅ、恐ろしい。
「あんた、顔青いぜ」
 俺の顔色を見て、フゥマがぎょっとしたように声をかけてきた。
380CC 19-28/28 ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:29:31 ID:7LnUJgJe0
「そりゃ、惚れた女があんなトコいたら、心配なのも分かっけどさ。まぁ、大丈夫だろ。タマに使えるのがいるくらいで、そんな大したヤツは出てねぇって。あの生意気女でも、なんとかなんじゃねぇの」
「……なに言ってんだ?」
「いや、だから、大したレベルじゃねぇから……」
「違う。誰が誰に惚れてるだと?」
「へ?あんた、あの生意気女に惚れてんだろ?――だって、エルフの洞窟で、あいつのことすげぇ庇ってたじゃん。あんなキツいのがいいなんて、あんたも変わってるよなぁ」
「……黙れ」
 俺は、やっとのことでそれだけ言った。誤解をといてる気分じゃねぇよ。マグナが繰り返し呟いてる言葉は――多分、「ヴァイスのバカ」だ。
 試合が開始されると同時だった。
「ヴァイスの、ばかぁ〜〜〜っ!!」
 雄叫び――雌叫びか?――をあげながら、マグナは近くにいた剣士の兜を、剣の腹でぶっ叩いた。
 こんなトコで、大声で人の名前を叫ぶんじゃねぇよ!!みっともねぇなぁ、もう。
「なによなによ――がどれだけ――ってんのよっ!!ばかばかばかばかっ!!ヴァイスのばかぁ〜〜〜っ!!」
 滅茶苦茶に剣を振り回しながら、突然の叫声に唖然となった他の出場者の剣を、力任せに叩き落としていく。
 なんつーか、やけくそだ。女の戦い方じゃねぇぞ。
 ひとしきり、暴れるだけ暴れると――
「あー、スッキリした。それじゃ、あたし、棄権しまーす」
 マグナは憑き物が落ちたみたいな顔をして、さっさと闘技場から出ようと踵を返した。
 ひでぇ。こいつ、この武闘大会を、憂さ晴らしに使いやがったよ。
 だが、その前に、試合の終了を告げる鐘が打ち鳴らされる。
「へ?」
 すでにマグナ以外に剣を握っている者はおらず、見事にマグナの本選出場が決定したのだった。
 事情が呑み込めずに、きょろきょろと辺りを見回すマグナ。
 おいおい。
「なんだ、ありゃあ」
 フゥマが、呆れた声で呟いた。
「あの……マグナさんが怒ってるのって、もしかして、やっぱり私のせいですか?」
「い、いや……き、気にすんなよ。ハハ」
 怯えた表情で尋ねるシェラに、俺は微笑み返してみせた。多分、顔は引きつりまくってたと思うけど。
 今ので、すっかりマグナの気が晴れたことを、神様に祈るばかりです。
 俺、明日まで生きてっかな……
381CC ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 08:38:33 ID:7LnUJgJe0
もうトナメしちゃえばいいじゃない、とゆー王道展開の第19話をお届けしました。
いや、まぁ、次回であっさり終わるんですけどねw
今回、調子は良かったんですが、まとまった時間が取れずに苦労しました〜。

武闘大会に関しては、イシス城のとあるキャラの
「ああ、たくましいひとたち!女王さまも、きっと気に入ってくださることでしょう」
という台詞から、かなり強引に話を広げさせていただきましたw
いちおう、背後に理由はあるつもりなんですが、そんなこたどうでもいい話で。
書き始めた時は、マグナが出場するかどうか、私も知らなかったんですが、
出ちゃいましたね。うーん、どうなることやら。。。。
(当然のように、次回の話の内容は、まだ私も知りませんw)

個人的には、シェラの無理してる感じのツンが、思いのほか良かったですw
あ、それから、冒頭のオアシスは、灌漑もしてないので、
塩水化してない淡水湖ということで、どうかひとつ(^^ゞ
382名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 09:08:31 ID:cJxILFF70
>CC氏
GJ!!!!!1111!

やべえ、マグナかわいいよマグナww
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 09:37:02 ID:R8vehp0P0
CC氏GJ!!
ツンデレマグナ最高だ
シエラのツンデレも無理してる感じが最高にイイよ!!
384名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 10:08:49 ID:GFDM76uTO
GJ!CCさん
冒頭のヴァイスの必死さにワロタwww
だが、俺も同じ様に想像したよ!
385名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 10:17:24 ID:i51MdPf1O
CC氏GJであります!

つうか、そんなんでメラミ覚えたのかよw
386名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 14:36:40 ID:HUmeW9xU0
乙!
ちゃんと修行しないと魔法は尻から出るぞw。
387名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 20:09:01 ID:KAhswcJPO
萌えた

ヌいた
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 20:13:15 ID:y5+FKAqVO
乙でした。
シェラに萌えた
389名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/08(木) 21:55:10 ID:5Uc8Lfle0
CCC乙でした
メラミの覚え方が情けないw
390CC ◆GxR634B49A :2007/02/08(木) 23:53:00 ID:7LnUJgJe0
魔法は、こういう覚え方がどっかで一回はあるな、と前から思ってたりw
今回は、個人的に楽しかったので、みなさまにも
楽しんでいただけてるといいなぁ、と思いますた。
あと、マグナにヒロインぽいレスがつくようになってよかったですw
391CC ◆GxR634B49A :2007/02/09(金) 00:26:17 ID:qxcMtkL80
つか、ヴァイスやシェラは、おまいらそう来ますか、みたいに、
自分でも他人事みたいでアレだったのでともかく、
まさか、メラミに複数反応があるとはw

あー、次回の話が、まだ1/10くらいしか分かんねー。
調子良く、あんまり間を置かず投下できるといいですね<他人事w
392名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/09(金) 01:45:46 ID:Hbqxk8Pk0
メラゾーマの覚え方に激しく期待
393名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/09(金) 01:54:16 ID:SybRDQpW0
ヴァイスの必死さとメラミで盛大に噴かせてもらったw
GJおつんでれーノシ
394名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/09(金) 02:30:23 ID:azJv1lcdO
CC氏お疲れさまです
このスレに出会ってDQ3を買い漁り初プレイ始めましたww
サイト色々調べたんすけどさすがにツンデレって性格ないんですねww
応援してるんで無理なく頑張って下さい!
395名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/09(金) 10:46:34 ID:xhYdxxaI0
性格にツンデレがあるならば
力が最高に上がりやすく、運の良さが最低に違いない
396名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/09(金) 15:08:51 ID:aPe58q3gO
ツンデレがホイミを唱えると「べ、別にあんたのry」とか照れ隠しします。
397CC ◆GxR634B49A :2007/02/09(金) 21:58:36 ID:qxcMtkL80
メラミ大人気w
DQ3の頃は、ツンデレって言葉自体ありませんでしたからねぇ。

うーむ、今回も、なかなかまとまった時間を取るのが難しそうですな〜。
まー、まったりお待ちくださいませ。
398名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/09(金) 22:20:07 ID:tM6oqGF20
いやん
399名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/09(金) 23:56:14 ID:9SL44Z8BO
まったく関係ないが、古いゲームプレイしてると意外とツンデレいたりするから困るw
400名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/10(土) 00:02:25 ID:HVOfHki00
>>399
まあ、「ツンデレ」という性格自体は昔からあるわな
最近になって定義付けされただけで、近年の人類に突然身に付いたものではないし
401名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/10(土) 17:38:12 ID:aWCWQe3S0
少年漫画のライバルキャラとかそんなんばっかだな
402名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/11(日) 16:46:49 ID:p6UcD04k0
ツンデレって性格がなくとも「お嬢様」とかの性格で想像力を働かせれば萌えるんだぜ!!
403名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/11(日) 18:27:58 ID:tnk0Fma/0
俺は「ひねくれもの」か「わがまま」で脳内補完してるな
404名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/12(月) 00:20:16 ID:cohxw4CG0
>>403
それにプラスして「なきむし」が入っている俺は異端ですか?
405名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/12(月) 03:16:40 ID:VTOh1i9I0
もうすぐ最下層か
406名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/12(月) 08:05:13 ID:tuOMqvUQO
アゲ(゚∀゚)
407CC ◆GxR634B49A :2007/02/13(火) 18:35:59 ID:0LFnVFDc0
ちょっとプライベートが立て込んでおります><
どうにかこうにか頑張りますので、引き続きまったりお待ちください(^^ゞ
408名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/14(水) 01:05:51 ID:BowglaeV0
チョコフラグ
409名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/14(水) 18:18:04 ID:QrhL1yMh0
ちょwwwwメラミwwwwwwwwGJJJ!!!111!!!!
410名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/14(水) 18:23:11 ID:JNfuA5gx0
ここで萌え分をほきぅ。
ttp://www.square-enix.co.jp/itastds/chara04.html
411CC ◆GxR634B49A :2007/02/14(水) 23:58:26 ID:fWNS+nFv0
うぅ。。。今日はお仕事が。。。ばたり
そういえば、ちょっとしたバレンタインネタとか書き下ろしてお茶を濁す手もありましたね。
今気付いたけど、もう過ぎちゃったからダメだw
つか、そんなことしてる暇があったら、本編を進めなくては。。。
412CC ◆GxR634B49A :2007/02/15(木) 23:00:08 ID:7zO6kT3C0
まったり保守
413名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/16(金) 11:33:54 ID:mxxfST7O0
414CC ◆GxR634B49A :2007/02/16(金) 22:13:43 ID:PaWPI+Cj0
それなりに進んだけど、週末は用事でやっぱりまったり保守
415せかし屋:2007/02/16(金) 22:18:15 ID:aCEAYP4t0
マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
416CC ◆GxR634B49A :2007/02/17(土) 01:58:18 ID:8OgBkazO0
まだまだ〜><
417名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/18(日) 00:10:50 ID:vu8xSZZbO
今週は無しか
418せかし屋:2007/02/18(日) 02:45:39 ID:fmODJbjF0
CCタソマダー?チン☆⌒ 凵\( ̄д ̄*)))(((* ̄д ̄)っ/凵⌒☆チンチン
419名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/18(日) 12:04:47 ID:OjZ1Tl020
そんなに急かすな。いつまでも、wktkしながら待とうぜ。

と言いつつ、メラゾーマの覚え方に大い期待。
420名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/18(日) 12:25:10 ID:0/mUeJK60
むしろアバカムまで覚えるかどうかッ 問題はそこだッ
421名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/18(日) 12:29:56 ID:nklFKim20
>>420
レオムルも忘れるなw
422CC ◆GxR634B49A :2007/02/18(日) 16:00:43 ID:bEwo/giM0
どこまで覚えるでしょうねw
すいません、今週はバタバタしてまして><
まったりお待ちくださいませ〜
423名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/18(日) 23:41:05 ID:2QZRmgBB0
まままままま待てん!真天満店まてんぞおおぉぉぉおぉぉ!!!!!
くぁwせdrftgyふじこlp;@
424せかし屋:2007/02/19(月) 02:43:39 ID:fnx98mFb0
o(´ー`)o 。oO マターリwktkして待つよ〜
425名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/19(月) 03:06:50 ID:/QETW2QyO
いい加減やかましい事に気付きなよ空気コテ君
426せかし屋:2007/02/19(月) 03:24:06 ID:fnx98mFb0
はい!すみませんでした><
427名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/19(月) 04:06:09 ID:pPTBX9B90
なんかどれも「そういった」イベントで覚えそうな呪文ばっかだな。
428名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/19(月) 08:00:19 ID:KbYJSasLO
今、俺の眼前には水々しい女の体がある。本来なら恥も外聞も投げ捨ててむしゃぶりつきたくなる所だが、生憎とそうはいかない。
ため息を一つ。俺とまったくの同時に女もため息を吐く。既に説明するまでも無いが、この女は鏡に映った俺だ。決戦間近だってのに不埒な想像をしていて罰なのか褒美なのか、気が付いたらアイツになってやがった。
超高等呪文、モシャス……それが使える事になった感慨は、あまりにも薄い。何故なら、俺の興味はアイツの体へと引き寄せられ……いや、そんな筈はない。うん。ただ久しぶりに女の体を見たからなだけだ、絶対。
大体、アリアハンを出た時から一緒に生活してきたのに、今更アイツを女としてなんて……綺麗な体してるんだな。
無駄を極限まで省いた四体は彫刻のように美しい。その芸術を愛でるように、白い肌へと手が伸びる。
ふぁ……っ……
いつも聞いてる声の、いつもとは違う声。脳天まで響き一瞬で支配する電撃。
俺の手は(省略されました。続きを読むにはモシャスを覚えて実践してください)

モシャスの覚え方を予想してたらこうなった。男の半端なツンデレが哀愁を誘う。だが後悔は現在進行形
429CC ◆GxR634B49A :2007/02/19(月) 13:16:52 ID:LYhyd99v0
あああ、すみません、私が遅いばっかりに><
なんか知らんが、魔法の覚え方に期待が集まってるw
小ネタのつもりが、予想外過ぎます><

思わず >>428 をヴァイスくんバージョンで書いてみようかと思ったけど、
モシャス覚えるころにはなんとかなってる筈だし、大人しく本編を進めます><
女にそこそこ免疫あるヴァイスくんだったら、
ひとりでこそーりでなく、レズプレイに使うかもw あ、うそ。今のナシw
430名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/19(月) 16:54:24 ID:v56mI02XO
シェラがメガンテを覚えるときも凄そうだ。
431CC ◆GxR634B49A :2007/02/20(火) 05:16:40 ID:v6kjW1wI0
書く時間がとれなくてすいません><
今週中には、なんとか〜
432名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/20(火) 23:51:00 ID:2JutEMSM0
我が名はムドー。やがて世界を制する者。
その我に刃向かおうとは…石となり永遠の時を彷徨うがよい!
(冒頭からいきなり訪ねてくるもんだから驚いたじゃない!
 魔王にも心の準備ってもんがあるんだからね!
 …今度来る時までには魔王らしさ(主に曲)に磨きをかけとくんだから
 …ちゃんと、帰って来てよね///)
433CC ◆GxR634B49A :2007/02/21(水) 20:54:43 ID:2I84GXjV0
いちおう進んでます保守
434名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/22(木) 00:47:15 ID:cc8A2os30
マタ〜リ待つよ〜
435名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/22(木) 11:20:05 ID:PfhOTqmkO
>>434
そのID!さてはおまえCCだな!?
436CC ◆GxR634B49A :2007/02/22(木) 14:33:27 ID:E68lfQ/g0
「ばれた!あぶないッ!」
バシバシバシ……ボゴオッア

ホントに自演だったらそーとー逼迫してますよねw
つか、ID分かり易すぎw
437CC ◆GxR634B49A :2007/02/23(金) 01:48:55 ID:pXCublnx0
うはw ヤベェ、全然乗らねーw
進んでるけど逼迫してます保守><
438名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/23(金) 02:14:14 ID:i3buNvKG0
ただwktkして待つのみ
439名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/23(金) 03:32:36 ID:ogrSeuPQ0
待ってるよ〜ン
440CC ◆GxR634B49A :2007/02/24(土) 01:19:07 ID:01LlvOuh0
ん〜。。。もうちょいお待ちを保守
441名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/24(土) 01:40:37 ID:he06+c6f0
おっ毛ぃ、待ちます
442名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/24(土) 18:22:23 ID:/kxgVEPs0
*「へんじ が ない ・・・投下は まだ のようだ 」
443名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/24(土) 19:26:28 ID:bJBCw7N0O
*「なにゆえ いそぎ せかすのか。
ツンデレこそ わが よろこび。
まちこがれるからこそ 投下がうれしい。
さあ わがうでのなかで 保守するがよい!」
444名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/24(土) 22:32:12 ID:pM/Cj+HK0
名言だな。
>443ってところがさらにいい。
445名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/25(日) 00:36:43 ID:Bn0piJt90
まとめサイトで読むと時間忘れちゃうね。
とりあえず保守。
446CC ◆GxR634B49A :2007/02/25(日) 08:05:41 ID:JJf8a0DY0
お待たせしちゃって、申し訳ないです><
時間が無くて書き殴ってたので、直しが凄くて(^^ゞ
内容的にも、ちょっとどうかなぁって感じなんですが、
これ以上時間かけるのもどうかと思うので、
近日中にはなんとか投下したいと思います〜。
447名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/25(日) 15:04:13 ID:q3R+971hO
焦らなくていいんで、自分で納得行くものを投下してください(^^)
マタ〜リ待ちます。
448YANA(武闘家エロパロ執筆中):2007/02/26(月) 02:10:13 ID:0F+i2pyN0
マグナが脳内でハルヒにしかならない俺は無礼なんてもんじゃねー(挨拶

お久し振りです。連載も終了した事だしけじめとしていい加減トリつけようかと考えてるYANAです。
現在、ようやっとCC氏の作品を9話目まで読み終わったとこなのですが…。

   「 ち ょ 、 こ れ 、 俺 い ら な く ね ? wwwww 」

というのが現時点での感想ですw

小気味よく展開されるヴァイスの独白や、センスの違いをまざまざと見せ付けられる皮肉たっぷり、
リアリティたっぷりの台詞回しや構成力には脱帽です。え、なに、プロの人ですか。俺もこんな台詞書きてぇ。ヴァー。
稚拙さを誤魔化し、且つより面白く読んでいただくために、行間の使い方や投下時間の調整などの
作品そのものの外側の演出にも拘らざるを得ない者としては羨ましい限りです。
頭ン中スーパー系で、物事を解決する手段がベタ展開と殺し合いの二択しかない俺には真似出来ねーwww

あとCC氏は嫌がるでしょうが、ゴドーはもしマグナのことを見たら滅茶苦茶気に入ると思います。
恋愛対象とかそういうのでなく、こう、暇があれば笑いながら友達感覚で殺し合いを仕掛けようとするような。…あれ?

そして途中感想書きながら思い描く、次回作への不安。
実はマグナ一行の一人が、次回作登場の誰かさんとキャラ丸かぶりという失態。オウ、ジーザス。
いや、勿論シナリオ自体のテーマは違うし、2はちょっと政治色とか人間臭い要素が強くなる予定というか
それでも俺が書くからやっぱり血生臭い戦闘多いなとかああいいやもう面倒くさい、このまま通しちまえ(最悪だ


しかし他職人さんとの差別化はやはり図るべきでしょうし。
CC氏のリアル路線と、見切り氏のギャグコメディ(ところによりガチシリアス)。

さて俺のアイデンティティは何かしら、などと首捻りながら3→2→1の流れをプチプチ組むのでありました、マル


んだば、戯言はこの辺にして、さっさと残りの十話を読み進めてきますねノシ
449CC ◆GxR634B49A :2007/02/26(月) 03:38:30 ID:SMBfT5YR0
やぁ、YANAさんに読んでいただけたとは、嬉しい限りです。
読み返すと、最初の頃は拙い部分が多くてお恥ずか。。。今も変わんねーかw
10話以降の方が話としては動きがあると思うので、引き続きお楽しみいただれればと思います。
なんというか、長くてすみません(^^ゞ

つか、ゴドーと戦ったら、マグナは一瞬で殺されると思いますw
あと、キャラかぶりで目を覆う感じは、私にもよく分かります。
あーあ。ハルヒ、世の中から無かったことにできねーかなぁw
書き手としては、全然意識してないんですけどねぇ。
すごいカブってるみたいだもんなぁ。
読み進めていただくと、印象が変わることを祈るばかりです。

ということで、第20話は、なんとかそろそろ投下予定です。
読み返しで絶望しなければw
450名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/26(月) 20:22:25 ID:IhkYutn50
ツンデレクエストは三国時代か
451CC ◆GxR634B49A :2007/02/26(月) 21:51:24 ID:SMBfT5YR0
直しまくってたら、なんか予定より長くなっちゃいました><
もうちょいしたら、先にひと眠りしないと。。。ぅぅ
452CC ◆GxR634B49A :2007/02/27(火) 07:34:05 ID:33Dqt/Me0
うぐぐ、今朝は無理でした><
でも、24時間以内には投下予定〜
はー。。。ようやくここまで漕ぎ付けたか。。。
453名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/27(火) 17:22:28 ID:wfKqajqj0
>452

   みんながんばれ
   ガンガンいこうぜ
>いのちだいじに
454名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 01:15:37 ID:I3bmK8kZO
文字化けか
455CC ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 02:26:39 ID:PHGltPG90
文字化け?してます?大丈夫だよね?
456CC 20-1/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 02:36:10 ID:PHGltPG90
20. Eye No

「――ヴァイスさん、ご飯持ってきましたよ」
 扉の外から、シェラの声が聞こえた。
 武闘大会の予選が終わり、宿屋に戻ってずっと、俺は部屋から一歩も出ていなかった。
 だって、そこいらウロウロしてたら、マグナにばったり出くわしちまうかも知れないじゃねぇか。
 なので、晩飯を食いに食堂にも行かず、後で部屋まで運んでくれるように、シェラに頼んでおいたのだ。
 我ながら情け無いとは思うけどさ。だって、怖ぇんだよ。
「悪いな。助かったよ」
 鍵を開けて扉を開き、シェラを中に招き入れる。
「ホントに、ずっと閉じこもってるつもりなんですか?」
 備え付けのテーブルに食事を置きながら、シェラが尋ねた。
「ああ、いや、まぁな……その、まだ怒ってたか、あいつ?」
「それは、怒ってますけど……」
 シェラは、くるりとこちらを向いて、両手を腰に当てた。
「でも、いま、マグナさんが怒ってるのは……ヴァイスさんが、こんな風にこそこそしてるからだと思います」
「へ?」
「だって、ヴァイスさんが一緒にお買い物に行けなかったのは、私のせいだって、マグナさん、ちゃんと分かってますよ?」
 じゃあ、なんであんなに怒ってたんだよ。
 俺がそう言うと。
「マグナさんが、あんなことしたのはですね……ヴァイスさんに、直接当たる訳にはいかないって思ったからです、きっと。だって、ヴァイスさんは断りたくて断った訳じゃないんですから」
「その憂さ晴らしが、アレかよ」
 シェラは、くすくすと笑った。
「当たり所が無くって、余計に感情表現が激しくなっちゃったんですね」
 上げた拳の下ろしどころが見つからなくても、無理矢理そこらに叩きつける辺りは、あいつらしいっちゃらしいけどさ。もうちょっと穏便にできないモンかね。
「それに、あれなら、『仕方ないのは分かるけど、あんまり気分良くないんだぞ』って伝わるじゃないですか。後から考えると、マグナさんらしくてとっても可愛いと思います」
「可愛いかぁ、あれがぁ?」
「マグナさん、すっごい照れ屋さんなんですよ――ヴァイスさんだって、分かってる癖に」
 そうかぁ?ホントの照れ屋は、大声で他人をバカ呼ばわりしながら、人前であんな風に大暴れしたりしねぇだろ。
457CC 20-2/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 02:39:02 ID:PHGltPG90
「それなのに、こんな風にこそこそ避けるなんて……いけないと思います」
「ん〜……いや、まぁなぁ……」
「早く仲直りしないと、どんどん仲直りし辛くなっちゃいますよ?」
「……そうね。考えとくわ」
 生返事しかしない俺に、シェラは溜息を吐いてみせた。
「仲直りできなくなっても、知りませんから」
「そんときゃ、シェラが慰めてくれよ」
 煮え切らない態度でヘラヘラしながらほざいたのは、我ながらマズかった。
 なんでこうなっちまうかね――あいつの事になると。
 シェラが、形のいい眉を顰める。
「……そんなこと言うヴァイスさんは、嫌いです」
 この台詞には、ちょっと驚いた。
 へぇ、言うようになったなぁ。少し前のシェラなら、絶対口にしない台詞だろ、これ。良い方向に変わってるんだと、信じたいね。
「そう言うシェラは、フゥマのことはどうするつもりなんだよ」
 だが、口に出しては嫌味を言ってやると、途端にシェラは言葉を詰まらせる。
「今日の態度は、さすがに可哀想じゃねぇのかな〜。ちょっとあいつに同情しちまったよ、俺は」
「……そう、ですよね」
 シェラは両手で口を押さえて、長い吐息を漏らした。
「なんか……お互いさまですね」
 口を押さえたまま苦笑する。
「ヒトのことなら、こうすればいいのにとか思いつくのに、自分のことになると、全然分からないです……」
「まぁ、そういうモンだろ」
 まさしく他人事じゃないからな。なかなか冷静じゃいられねぇさ。
「ヴァイスさんに偉そうなこと言っておいて……こんなんじゃ、ダメですよね――分かりました。私、明日はちゃんとフゥマさんとお話しします」
 逡巡を払うように頭を振って、シェラは真っ直ぐに俺の目を見た。
「だから、ヴァイスさんも、マグナさんとちゃんとお話ししてくださいね」
「……前向きに善処するよ」
 今のシェラにそう出られては、はっきり嫌とも言えず、俺ははぐらかすようにテーブルの食事に手を伸ばした。
458CC 20-3/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 02:42:17 ID:PHGltPG90
 だが、結局その晩、俺はマグナに会いに行かなかった。
 だって、なんて言やいいんだよ。あいつは、仕方なかったって分かってんだろ?
 なら、謝るのもおかしいしさ。
 いや、そんな風にごちゃごちゃ考えてないで、どうなろうが、とにかく顔を見せりゃいいってのは分かってるんだ。
 今思うと、俺がご機嫌取りのつもりで買ってやった首飾りを、あいつは思いのほか喜んでくれてたんだな。だから、オアシスで覗きがバレても、平手打ち程度で済んだんだと思う。
 あいつの性格からして、お礼を買いに行こうだなんて俺を誘うのは、かなりの思い切りが必要だった筈だ。
 それをあっさり、俺なんかにないがしろにされて、面白くなかったに違いない。でも、事情はなんとなく分かるから仕方無いと割り切って、けど、やっぱり腹の虫のおさまりがつかなくて――
 なるほど、シェラの言った通りかも知れない。
 俺のコソコソした態度が、余計にあいつを怒らせてるのも、本当なんだろう。
 頭じゃ、分かるんだけどな。
 あいつの事になると、どうも俺は、らくしなくなっちまうって言うか。
 アリアハンであいつと出会う以前の俺だったら、話が妙にコジれちまう前に、もっと上手く――というか、適当に、いい加減に立ち振る舞って、なあなあに収めた筈だ。
 だが――今の俺は、あいつに対して、その「適当」ってのが、なんでか出来ねぇんだよな。思ってもいないべんちゃらを口にしようとすると、俺の裡の何かが制止をかける。
 なんなんだろね、これは。
 あの夜――焚き火を眺めながら、初めてあいつの告白を聞いた夜――俺は、何も答えてやれなかった。その負い目が、俺をこんな気分にさせるんだと思うんだが。
 ともあれ、マグナは俺と顔を合わせないまま、今朝も早くにリィナと一緒に宿屋を後にしていた。あいつらは出場者だから、先に会場入りしておく必要があるのだ。
 んで、俺はシェラと連れ立って、ちょうど会場に着いたところだった。
 武闘大会の舞台となる王宮前広場は、呆れるくらい広かった。小さい村なら、そのまますっぽり入っちまうくらいの面積がある。
 そして、もっと呆れたことに、中央の試合場を囲んですり鉢状に設置された石の段組――観客席は、既にほとんど埋め尽くされていて、観客席以外の広場も人々でごった返していた。
 暇人ばっかりだな。
459CC 20-4/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 02:46:19 ID:PHGltPG90
 まさか、この何百――いや、何千か?――も見物人が座れそうな観客席、大会の為にわざわざ用意したのかよ。労力の無駄遣いも甚だしいぜ。
 空いてる席は一番上の方――つまり、試合場から最も遠い辺りにしか見当たらないが、そこからじゃ競技者は、ほとんど豆粒くらいにしか見えないんじゃねぇのか。
 気の毒にな。まぁ、一般人は、大人しくそこで見てなさい。
 俺達は選手の関係者なので、シェラが預かった書状さえ見せれば、のんびり来ても、試合を間近で観れる関係者席に堂々と入れるのだ。
 観客目当ての屋台やら見世物やらが、にぎにぎしくひしめく合間を抜けて、その関係者席へと向かう。
 途中で受け取ったトーナメント表を眺めながら辿り着くと、一体どうやって潜り込んだのか、そこにはフゥマの姿があった。
「おっす」
 シェラと目を合わせないようにして、短く挨拶をしてきた。
「よぅ」
「……おはようございます」
 シェラが挨拶を返すと、一瞬ぴくりとこちらを向いたが、困惑顔をしてすぐに正面に向き直ってしまう。
 あらま、なんかコジれちゃってんじゃないの、こいつらも。
 だが、素っ気無いフリをしながらも、シェラと俺の席を自分の隣りに確保している辺りが微笑ましい。憎めない坊主だ。
「姐さんと生意気女は、違う山に入ったみたいじゃんか」
 石造りの平台――試合場をぼんやり眺めながら、フゥマが呟いた。
 トーナメント表のことか。
「みたいだな」
 つまり、リィナとマグナが対戦するとしたら、それは決勝戦ということになる。まぁ、リィナはともかく、マグナがそこまで勝ち上がるこた、まず無いだろうけど。
「生意気女の方は、一回戦で消えるだろうけどさ」
 フゥマも、俺と同じ意見だった。
「……マグナさんの相手の人、そんなに強いんですか?」
 フゥマとの間に俺を挟んで腰を下ろし、シェラが少し心配そうな顔をした。マグナの物真似は、今日は止めることにしたらしい。
「あ、ああ。主催者推薦のヤツだから……『砂漠の孤狼』とか呼ばれてる、割りと有名なヤツらしい、よ」
 フゥマは、どういう風に喋ったらいいか迷っている口振りだった。
 つか、砂漠の孤狼ってふたつ名は、どうなんだ。砂漠にオオカミなんて居るのかよ。
460CC 20-5/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 02:49:20 ID:PHGltPG90
「リィナの相手も、主催者推薦のヤツなんだよな」
 俺は、トーナメント表を確認しながらひとりごちる。
「ハン。姐さんの方は、問題無いっしょ」
 そうだな、フゥマ。
 お前はリィナに負けっぱなしだから、あいつに負けてもらっちゃ困るもんな。
 そうこうしている内に、観客の注意を引きつけるように、何度も鐘が打ち鳴らされた。ざわめきが次第におさまるのを待って、大音声が女王陛下の御成りを告げる。
 芥子粒くらいにしか見えない女王様が、王宮のテラスに姿を現すと、一旦おさまったざわめきが、先刻とは比較にならない規模で沸き起こった。
 それは総じて肯定的なざわめきで、この国の女王様は民草にずいぶんと慕われていることが窺える。
 やっぱ、美人だからかね。残念ながら、こっからじゃ全然、顔なんて見えねぇけどさ。
 女王陛下をお待たせするのをはばかるように、開幕のセレモニーもそこそこに、最初の出場者が入場してきた。
 リィナの試合は二つ後で、マグナの試合は一回戦の最後だ。本選には、全部で十六人参加してるから、一回戦は都合八試合になる。
 リィナの勝ちに賭けてるのはもちろんだが、マグナの勝利にも少しだけ張っておいた。勝つとは思ってねぇけどさ、まぁ、なんていうか、ちょっとした応援っていうか、ささやかな罪滅ぼしのつもりだ。
 別にスっても構わねぇから、無事に試合が終わってくれれば、あいつの方はそれでいいや。
 さすがに本選だけあって、ひと試合目からなかなか白熱した勝負が繰り広げられた。観客席も、いい具合に盛り上がっている。
「あいつらはどうだ?割りと使えそうじゃねぇか」
 腕白坊主の仕事を、俺が心配してやる義理は別に無いんだが、なんとなく尋ねてみると、フゥマは口をへの字に曲げて首を横に振った。
「話になんねー。どっちもオレ様なら、十数える間にぶっ倒せるもんよ」
 ホントかよ。フカしこいてんじゃねぇだろうな。
 第一試合は、普段は王宮の警護を担当しているという、主催者推薦の兵士が勝ち名乗りをあげた。
461CC 20-6/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 02:54:36 ID:PHGltPG90
 続く第二試合に登場したのは、オアシスでの闖入者――あの愉快なおっさんだった。
 アランとかいう名前らしい。思い出したくもない、どっかの誰かを連想させる、気に食わねぇ名前だな。
 試合場に上がったおっさんは、こともあろうにテラスの女王様に向かって、投げキッスをしてみせた。
 途端に、観客席から物凄いブーイングが巻き起こる。
 女王様の人気を考えれば、自分の行為が観客を敵に回すことくらい分かるだろうに、アホですか、あのおっさんは。
「あらら、嫌われちゃったねぇ」
 大剣を肩にかつぎながら、呑気らしくそんなことをほざく。
 対戦相手も予選上がりのヤツだったが、ご多分に漏れず女王陛下をお慕い申し上げているようで、まるで親の敵でも見るような目つきで睨まれたおっさんは、ふざけて頬を弛ませて白目を剥いてみせた。
 うわ、すげぇムカつく顔。
 試合がはじまると、ほとんどが味方についた観客の声援を背に、予選上がりは雄叫びをあげて一気呵成にアランに打ちかかる。うん、ちょっとお灸を据えてやってくれ。
 だが、肩にかついだ大剣をひょいと持ち上げて、おっさんは相手の剣を斜めに受け流した。
 鉄の擦れる音を立てながら、相手の剣が大剣の腹を滑り落ちる。
 勢い余った切っ先が、試合場の床に打ち付けられた。
「よっこらしょ」
 気の抜けた掛け声と共に、おっさんは相手の剣の上に大剣を振り下ろした。甲高い音が響いて、相手の剣は半ばから真っ二つに両断される。
「はい、おしまい。お疲れさん」
 手に残った剣の残骸を呆然と見詰める対戦相手の肩を、おっさんはぽんと叩いた。
 一瞬、狐につままれたみたいに静まり返った観客席に、不満の声が燻った。
 観客連中は、もっと派手な打ち合いを期待してただろうからな。おっさん、試合が地味過ぎるぜ。
 だが、そんな空気もどこ吹く風で、おっさんは女王様に向かって優雅に礼をしてみせてから、再び投げキッスをして、観客をさらに逆撫でしつつ飄々と退場する。
「よくやるぜ、あのオッサンも。もうちょい本気でやってもらわねーと、こっちは困んだけどさ」
 フゥマが苦笑いを浮かべた。
 おっさんが準決勝まで勝ち上がれば、相手はリィナに決まってるからな。そんときゃ、さすがにもうちょいマジメにやるだろ。
462名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 02:55:04 ID:Q3djOWA90
スカラ
463CC 20-7/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 02:57:23 ID:PHGltPG90
 次が、そのリィナの試合だった。
 予選を見たヤツが噂を広めて、昨日より配当が低くなるかと思ったんだが、実際はそうでもなかった。
 理由は簡単。対戦相手が、優勝候補の一人なのだ。
 名前は、サムト。イシス軍に所属している職業軍人で、ぺーぺーの一兵卒ながら、その強力は軍隊内のみならず広く一般にも知られていると言う。
 リィナが四方に手を振りながら試合場に上ると、観客席から健闘を期待するような生暖かい拍手が起こった。
 続いて姿を現したサムトとの体格差を目にすれば、まぁ、誰もリィナが勝つなんて思わないだろうな、さすがに。
 サムトは、物凄い巨漢だった。そんなわきゃ無いんだが、横幅はあるわエラい肉厚だわで、リィナの倍くらい背丈があるように見える。体重は、三倍以上あるんじゃねぇのか。大人と子供どころの差じゃねぇぞ。
 観客が、死なない程度にリィナの健闘を祈ってみせるのも、無理からぬところだ。
「ふぅん。姐さんの相手、割りと良さそうじゃんか。オレ様も、ちょっとだけそそられるね」
 フゥマから見ても、手合わせしたくなる力量らしい。
「リィナさん……大丈夫ですよね」
 シェラの呟きは、言葉ほどには不安そうではなかった。
「当然だろ」
 俺も、確信を持って答える。
 なんせ俺達は、あいつの非常識な強さを、これまでさんざん見せ付けられてるからな。
 試合毎の勝ち負けだけじゃなく、優勝者を予想するもっと割りのいい賭けもあるんだが、俺は当然、そっちもお前にかけてんだからさ。ひとつ頼むぜ、リィナ。
 試合が開始されても、セムトは馬すら両断できそうな阿呆みたいに馬鹿デカい剣をだらりと下げたまま、気が乗らない様子で首の後ろを揉んでいた。
 女子供という言葉の条件を両方とも満たした相手じゃ、軍隊屈指の猛者としては、なんともやり難いのは分かるけどな。あんまり油断しない方が、身の為だと思うぞ。
 観客もざわざわするだけで、冗談みたいな体格差を目の当たりにして、けしかける気にもなれないようで、固唾を呑んで対峙する二人を見守っている。
 リィナは腰に手を当てて、サムトをちょっと睨みつけてから、とことこ無造作に歩み寄った。
464CC 20-8/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:00:39 ID:PHGltPG90
「ほら、もうはじまってるよ。ボクのことなら、お気遣いなく〜」
「……ああ」
 困惑しきりのサムトの腹に掌を添えて、リィナの躰が沈んだ。
「ふっ」
 どん、と聞き慣れた地を踏み締める音がして、サムトの巨体が宙に浮く。
 自分の背丈の三倍も離れた床に尻餅をついて、サムトは目と口をぽかんと開いた。
「後ろに抜いたから、ダメージは無いよね」
 驚くべき事なんて何も起こってない、みたいな口調で言って、くいくいっと手招きをするリィナ。
「本気で来なよ」
 にっ、と笑う。
 途端に、呆気にとられていた観客席から、歓声が地響きとなって沸き起こった。
「……おもしろい」
 膝に手をついて身を起こし、サムトは巨剣を両手で握った。
「刃引きはしてあるが、なるべく避けろ」
「うん、だいじょぶ。当たんないから。思いっ切り来なよ」
「そうか」
 唇の片側を吊り上げて、サムトはリィナに殺到した。
 端から見ていてすら、物凄い圧力だ。
 歩幅が広いから、あっという間に間合いが潰れる。
「ふんっ」
 大上段から振り下ろされた巨剣は、くるっと半身になったリィナに躱されて、石造りの床にがっつりとめり込んだ。すげぇ馬鹿力。
「ちょっと痛くしないと、遠慮が抜けないかな?」
 リィナが横っ面に回し蹴りをくれても、サムトの頭はびくともしなかった。
「ごぁっ!」
 気合もろとも、サムトは床に刺さった巨剣を力任せに引っこ抜く。
「うわっと」
 回し蹴りがちょうどサムトの腕を跨いだ格好で、体ごとぐいと持ち上げられたリィナは、下からせり上がる巨剣をはしっと両手で挟んで受け止めた。
 サムトは構わず、そのまま剣を振り上げて、リィナを後方に放り投げる。猫の子を放るくらいの気軽さだ。
「心配するな。遠慮などしない」
 とんぼを切って着地したリィナに、サムトは物騒な笑みを向けた。
465CC 20-9/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:03:54 ID:PHGltPG90
「うん。じゃあ、そろそろ行くよ?」
 足場を確かめるように、リィナはニ、三度床を蹴りつけた。
「遠慮してたら、すぐ終わっちゃうから。気をつけてね」
 リィナが、ちらりとこちらを見た気がした。
「『奥義!三つ身分身っ!』」
「はぁっ!?」
 フゥマの素っ頓狂な声が消える前に、リィナはサムトの至近に迫っていた。
 正面ではない。右斜め前だ。と思ったら、急な方向転換で真横に跳ぶ。と思ったら、再び床
を蹴って斜めにサムトの背後に入る。
 リィナと背中合わせになる前にサムトが出来たのは、巨剣を握った拳をぴくりと動かすことだけだった。
「ふん」
 ずしん。
 サムトの巨体が、前方に弾き飛ばされる。
 たたらを踏んで堪え、振り返りざまに巨剣を振るったのは、さすがと誉めてやるべきか。
 しかし、分厚い刀身は、空気を裂いて旋風を巻き起こしただけだった。
 巨漢の脳天に、空中で一回転したリィナの踵が叩き落される。
 びくり、と巨剣が反射的に振り上げられるよりも先に、サムトの頭を挟み込むように、リィナの逆の足が下から顎を蹴り上げた。
 くるっと後ろに宙返りをして、リィナはサムトの正面に着地する。
 巨剣が主の手を離れて床に落ち、サムト自身も後を追って、ゆっくりと崩れ落ちた。
「ん〜……やっぱり、三人には見えなかったかな」
 不服そうに、リィナが漏らす。
 当たり前だ。いくらなんでも、残像が見えるほど、人間が速く動けてたまるかよ。
 寸時遅れて、観客席で爆発した喚声は、半ば悲鳴じみていた。
 この国の人間にとっては、サムトの勝ちは鉄板だったろうからな。ほとんどの連中がスったに違いない。
「ったく、姐さんもよくやるぜ」
 忌々しげに、フゥマが吐き捨てた。
 自分の技を、一人多く見積もった上でパクられたのが、気に入らないらしい。まぁ、お前と違って、実際に分身して見えた訳じゃねぇから、気にすんなよ。
466CC 20-10/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:07:34 ID:PHGltPG90
「あのサムトっての、ちょっと期待外れだったな。戦場ならさぞかし働くんだろうけどさ、一対一なら姐さんの敵じゃなかったって訳だ。それを承知で客受け狙って、わざわざ派手に無意味な動きすんだから、姐さんには呆れるよ」
 フゥマは、面白くなさそうに続ける。
「くそっ、ホントに強くなってんじゃんか……オレ様も、こんな見物なんてしてる場合じゃねぇのに――」
 ぐっと拳を握り締める。
「まーとにかく、この祭りの見所は、姐さんとオッサンがやり合う準決勝くらいだな」
 拗ねた顔つきでフゥマは言ったが、その後の試合もそれなりに白熱し、俺達はともかく観客連中はそこそこ満足している様子だった。
 そして、やがて一回戦の最後の試合――マグナの出番が回ってきてしまう。
「マグナさんの相手の人、格好いいですね」
 シェラの呟きを耳にして、フゥマが苦虫を噛み潰した。
 意味不明のふたつ名を持つマグナの対戦相手は、確かにご面相の整った野郎だった。
 登場するなり、それまで全く聞こえなかった女連中の黄色い嬌声が、きゃーきゃーと場違いに響く。割りと人気があるじゃねぇか、優男。
 名前はサイス。年齢は二十六。普段は、荒事や揉め事を金で請け負う何でも屋みたいなことをしてるってな触れ書きだ。
 試合場に上ったサイスは、遥か遠くの女王様に向かって深々と一礼を捧げた。気障ったらしいその仕草に、女連中の喚き声が一層甲高くなる。
 なんかムカつくってより、見てて白けるぜ。
 一方のマグナはと言えば、対戦相手の容姿を特に意識した風も無く、いかにも所在無げに落ち着かない様子でふらふら立っていた。
 ハナから、出場するつもりなんて無かったんだもんな。全くやる気が感じられねぇぞ。やっぱ一回戦で終わりかね、こりゃ。
467CC 20-11/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:11:45 ID:PHGltPG90
「あのサイスっての、前からスカウト候補に上がってたヤツだぜ、多分。ま、大したこたなさそうだけどさ、それでもあの生意気女じゃ、もって二合ってトコか」
 どっちも勝って欲しくないような、フゥマの口振りだった。
 まぁ、怪我さえしなきゃ、なんでも構わねぇよ。
 やがて、試合の幕開けを告げる鐘が打ち鳴らされると、男にしては長い前髪の間に手を差し入れて、サイスとやらは目を閉じたまま張りのあるいい声で喋りはじめた。
「他ならぬ女王陛下のお召しとあっては仕方が無いが……本来、こんな見世物に出場するのは気が進まなかった。相手が君のような少女とあっては、なおさらだ。怪我はさせたくない。悪いことは言わないから、今の内に棄権しばべ――っ!?」
 口上の途中で、サイスは前のめりにぶっ倒れた。
 マグナが、剣の腹で頭をぶっ叩いたからだ。
「え?――っと、もうはじまってるのよね?え?大丈夫なのよね、これ?」
 あまりにもあっさり片付いてしまったので、逆に不安になったみたいに、マグナは試合場の上できょときょと周囲を見回した。
 頭痛ぇ。
 阿呆だな、あのサイスってバカは。
 試合が始まってんのに、目を瞑って格好つけてたら、そらやられるだろ。
 俺の隣りでは、フゥマが腹をかかえて爆笑し、観客席からは女共のなじり声がマグナに向かって投げつけられる。
「ヒドい!!卑怯者!!」
「なんてことすんのよ、この女!!」
「サイス様がせっかくお情けをかけてくださったのに!!」
「こんなのってないわ!!やり直しよ!!」
 非難轟々だ。
 最初こそオロオロしてたものの、仕舞いにはブサイクだの洗濯板だのさんざん罵られて、客席の女共に向かって怒鳴り返しながら、マグナは運営の人間に引き摺られるようにして試合場を後にした。
 ……頭痛ぇよ。
468CC 20-12/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:14:36 ID:PHGltPG90
 本日一番見っとも無い試合は、女共が陣取っている一角を除いて客にはある意味受けたらしく、あちこちで笑い――というか、失笑が漏れ聞こえた。
 スった連中は再試合を要求したが、サイスが完全に失神していたので、いちおうマグナの勝利は認められた。
「ヤベェ、面白ぇよ。こんなの、さすがにオレ様も予想外だぜ。あのサイスっての、実際にスカウトしてねーのも、こりゃムリねぇや」
 フゥマは、いまだにゲラゲラ笑ってやがる。なんか、俺まで恥ずかしくなってくるから、いい加減に笑うの止めろっての。
「で、でも、マグナさんに怪我が無くてよかったですよね」
 シェラのフォローにも、無理矢理感が否めない。うん、まぁ、それは良かったけどさ。それしか良くなかったっつーか。
 二回戦が開始されるのは、昼休憩を挟んだ後になる。屋台で食い物でも買ってこようと席を離れかけた俺の袖を、シェラが掴んだ。
「あの、ヴァイスさん……」
「ん?」
 フゥマの方を気にしながら続ける。
「その……私、お昼休みの間に、フゥマさんとお話ししてみます。だから、ヴァイスさんは、マグナさんのところに……」
 俯きながら、か細い声を振り絞った。
「大丈夫なのかよ」
「……頑張ります。だから、ヴァイスさんも……ね?」
 まいったね。シェラにこんな風に気を遣われちまったら、逃がれようが無いじゃねぇか。
「……分かったよ。無理すんなよ」
「はい……あの、ヴァイスさんは、ちょっとは無理してくださいね」
 心細そうな顔してやがる癖に、言うね。
 かなり気がかりではあったが、しょうことなしに、俺はシェラとフゥマの二人を残して席を後にした。
469CC 20-13/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:17:22 ID:PHGltPG90
 大会中は基本的に、選手は外部の人間と接触してはいけないらしいんだが、関係者の証明書を見せると、拍子抜けするほどあっさりと控え室に通してくれた。
 ちぇっ、「ダメだダメだ!会うことはまかりならん!」とか居丈高に追い払ってくれても良かったのによ。
 王宮の一部が解放されていて、そこが選手の控え室に割り当てられていた。とは言え、決められた通路以外の警備は、逆に物々しい。まぁ、この機を狙って、ヘンな人間が入り込んだら大変だもんな。
 イシスの王宮は、アリアハンやロマリアの王城とは違って、どこか女性的な雰囲気を感じさせる洗練された優雅な造りだった。建築様式の違いなんて分かりゃしないから、美人の女王様が主ってことで、単純に俺がそう感じただけの話かも知れないが。
 そこかしこに配された衛兵に監視されつつ廊下を行くと、リィナが物珍しそうにあちこち眺めながら、ふらふらしてるのが目に入った。
「あれ、ヴァイスくん。どしたの?」
「いや、まぁ――リィナには、優勝してもらわねぇと困るからな。ちょっと激励にさ」
「ああ、ようやくマグナに顔見せる気になったんだ?」
 人の話を聞けよ、お前は。
「ん〜……でも、ちょっと遅かったかも。なんで夕べの内に、会いに来ないかなぁ」
「……そんなに怒ってんのか、あいつ?」
 リィナは難しい顔をして、腕を組んだ。
「いや〜、怒ってるっていうのは、どうだろ。もっと悪いかも」
 マジすか。やっぱ、俺、戻ろうかな。
「そんなに怖がらなくても、だいじょぶだってば」
 俺の表情を見て、リィナはあははとかおかしそうに笑った。くそ、他人事だと思いやがって。
「顔見せても、きっと怒ったりはしないと思うよ」
「そうなのか?」
「うん。呼んでくる?」
「……頼む」
 えぇい、男は度胸だ。ここまで来ちまったんだ。覚悟を決めて――
 控え室に戻ったリィナと入れ替わりに、すぐにマグナが出てきた。
――覚悟を決めるヒマもねぇよ。
470CC 20-14/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:21:06 ID:PHGltPG90
「なによ。なんか用?」
 リィナの言った通り、ぶっきら棒な物言いではあるが、マグナは怒っている風ではなかった。不自然に目を逸らしたりもしない。
「よ――よぅ。その……調子はどうだ?」
「別に。普通だけど」
 だが、これは――
「よくこんなトコまで入ってこれたわね」
「ま、まぁな。これ見せたら、あっさり通してくれてさ」
「ああ、昨日もらった紙ね。ふぅん」
 気の無さそうなマグナの口振りは、気まずい沈黙を引き連れていた。
 なるほどな。
 確かに、怒ってるより始末が悪いかも知れん。
 ひと言でいえば、無関心――俺のことなんか、どうでもいいって態度だ。
 マグナは、気だるげに溜息を吐いた。
「で、なに?用事は無いの?だったら、もう戻るけど」
「いや――その、さ」
「なによ。もしかして、昨日のこと?」
 マグナが浮かべた笑みは、冷笑に近かった。
「今さら――別に気にしてないわよ。夕べ、シェラから全部聞いたしね」
「そ、そっか。そういや、シェラとフゥマのこと、お前ら知らなかったみたいだな」
「それが?」
 俺としては話を広げようとしたんだが、マグナのいらえは短かった。
 シェラの話なら、乗ってくるかと思ったんだが。
 他に話題も思いつかねぇし、もうちょい粘ってみますかね。
「いや――ちょっと意外だったっていうか……なんでお前らじゃなくて、俺に相談したんだろうな、あいつ」
「あんたの方が、事情を知ってたからでしょ。エルフの洞窟では、あたし達気を失ってたし」
「ああ――」
「それに、男の意見が聞きたかったって言ってたわよ。あたし達が何を言うかは、大体想像つくからって」
 そんなモンかね。
「あのコ、夕べは必死であんたの言い訳してたのよ?あたしは気にしてないんだから、必要無いのにね」
 そんなことまでしてくれてたのか、シェラの奴。
 こりゃあ――このまま戻ったんじゃ、あまりにも情け無ぇぞ、俺。
471CC 20-15/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:23:34 ID:PHGltPG90
「あんたが独りでここに来たってことは、あのコ、今はあの『オレ様』と二人きりなんじゃないの?そっちが大丈夫?」
 いや、お前に会いに来たのは、そのシェラに言われたからなんだ。
 喉まで出かかった台詞を、俺は危うく呑み込んだ。口にしてたら、きっと鼻で笑われたに違いない。
「大丈夫だろ。あいつは、俺よりよっぽどしっかりしてっからな」
「そりゃそうよ」
 どの道、鼻で笑われた。カチンとくるが、ここは我慢だ。
「あのさ……話があるんだ」
 俺の口が、意図せずして勝手な事をほざいた。
 話って、なんだよ。なんも考えてねぇぞ。どうすんだ、俺。
「だから、なによ?さっきから聞いてるじゃない。休憩の時間だって長くないんだから、さっさと言いなさいよ」
「いや――大会が終わってからにするよ」
 自分が何を話すつもりなのか、自分でも良く分からずに――俺には、時間を稼ぐしか手が無かった。
「なんなの、それ。だったら、最初から――」
「終わったら、会いにくる。聞いてくれるか?」
「だから、なんなのよ。会いにくるって、そんな改まって――」
「頼むよ。後で、ゆっくり話す」
「……分かったわよ」
 今日はじめて、マグナは俺から視線を逸らした。
「用は、それだけ?」
「ああ、悪いな。休憩中に邪魔しちまって」
「別に、いいけど」
「じゃあ、俺は席に戻るから。怪我しないように気をつけろよ」
「別に、すぐ治療してくれるから、大丈夫よ」
「そうだな。まぁ、でも、気をつけろよ」
「……うん」
 マグナの態度と声音が微妙に変化したことで、俺は少し安堵してしまったらしい。後から思うと、この先の俺は口を滑らせた。
472CC 20-16/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:26:17 ID:PHGltPG90
「元からマグナは、大してやる気なかったみたいだしさ、なんなら棄権しても――」
「……賭けの対象になってるから、棄権したら罰金取られるのよ」
「あ、ああ、そうなのか。まぁ、とにかく、優勝は、リィナに任せときゃいいんだからさ」
「……そうね」
「こういう時は、頼りになるよな。あいつが優勝してくれれば、美人の女王様に話を聞くって目的も果たせるしさ」
「……」
 余計なことを言ったらしい。
「――まぁ、とにかく、お前は怪我さえしなきゃ、それでいいから」
「なによ、それ」
 え?いや、言葉通りの意味ですが。
「え〜……そうそう、昨日はリィナのお陰で、すげぇ儲けさせてもらってさ」
「ふぅん」
 必死こいて話題を変えようとして、ドツボに嵌る。
「今日もたんまり儲けさせてもらう予定だし、あいつにも、なんか礼のひとつも買ってやんねぇとな。あとさ、よかったら、また――」
「……うるさいわね。もう用無いんでしょ?さっさと戻れば?あたしは、戻るから」
「ああ、うん。悪かったな。んじゃ、後でな」
「……」
 マグナは俺と視線を合わせないまま、控え室に戻っていった。
 しどろもどろだった自分の姿を思い出して、俺は立ち尽くしたまま軽く落ち込んだ。
 まったく、いつから俺は、こんなヘタレになっちまったんだ。オロオロして、みっともねぇったら。
 怒らせちまったかな。けど、怒りもしないよりは、多少マシか。
 さて――大会が終わるまでに、マグナに何を話すべきなのか、考えておかねぇと。
 自分が盛大な溜息を吐き出した事に、俺はしばらく気付かなかった。
473名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 03:26:35 ID:79UH9W6nO
支援(`・ω・´)
474CC 20-17/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:29:25 ID:PHGltPG90
 途中の屋台で買い食いをして席に戻ると、シェラとフゥマの間には、恐ろしく気まずい空気が立ち込めていた。どうやら、会話は上手く進まなかったらしい。
 きっちり空けてあった二人の間の席に腰を下ろす。すげぇ居心地悪いんですが。
「どうでした、マグナさん」
 シェラが小声で尋ねてきた。俺という緩衝材が間に戻ってきて、幾分ほっとした様子だ。
「ああ。大会が終わってから、また後で話すことになった。時間も、あんま無かったしさ」
「そうですか……」
 俺は、シェラの耳に口を寄せる。
「お前らは、どうだったんだ?なんか、空気が重いんだけど」
「……怒らせちゃいました」
 囁き声が返される。
「私がまた、ウジウジして、はっきり言えなかったから……また後で、ちゃんとお話ししますね、私も」
「そっか。独りで大丈夫か?」
「……はい。私の問題ですから……頑張ります」
 身につまされること言いやがる。まったく、おっしゃる通りです。
「ま、お互い頑張ろうぜ。ありがとな」
「ええ――はい?なにがですか?」
「ん?いや、色々と、さ」
 不思議そうなシェラから顔を離す。あんまりくっついてると、腕白坊主に妙な誤解をされちまうからな。
 フゥマは正面を向いたまま無関心を装っちゃいるが、体のこっち側半分を耳にするくらいの勢いで、気にしてるのはバレバレだ。
 悪いけど――お前らのことは、もうお前ら二人に任せるよ。俺は、あいつになんて言うか、そっちを考えておかねぇと。
 三人が三人とも押し黙ったまま、俺はあれこれ考えを巡らせていると、いつの間にやら時間は経ってしまった。
 昼の休憩が終わって、二回戦が開始されたが、まるで内容に集中できない。
 ホントに、何を言やいいんだ。
 謝る……のも、おかしいよな。
 俺、あいつになんか言うことあったっけ?
 今さらのように、別にねぇよな、とか考えている自分もいたりする。
 だが、さっきのマグナの態度――ここで下手を打てば、俺とマグナの関係は、今までとは変わってしまう気がした。
 あいつにとって、俺は単なる同行者に過ぎなくなってしまうような――いや、今でもそうなんだけどさ。
 どうすっかなぁ。
475CC 20-18/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:36:48 ID:PHGltPG90
 意図せず口をついたくらいだ。何か話をしなくちゃいけないと思ったのは俺の本心だろうが、それがさっぱり分からない――ああ、スティアの言ってた、『まず自分のことをちゃんと考えろ』ってのは、こういうことなのかね。
 びっくりするほど、自分がどうするべきなのか分かんねぇもんな。このままだと、適当にお茶を濁しちまいそうだぜ。
 などと、見事なまでに一歩も進まない思考を俺が持て余している内に、なんか知らんがマグナが勝ち名乗りを受けていた。
「あれ?あいつ、勝ったのか」
「目ぇ開けたまま寝てんじゃねぇっての。勝つには勝ったけどな。ヘンに気合い入ってて、見てて危なっかしいったらなかったぜ」
 ブゥマの解説につられて、試合場のマグナに目に向ける。
 マグナの相手は、確か正統派の剣士だ。一回戦を見た限りでは、そこそこ強かった筈だが、そうか、あいつ勝ったのか。
 やる気無さそうだったから、適当に負けてみせるかと思ったんだが、意外だな。リィナはともかく、マグナまで準決勝に残るとは思わなかったぜ。
 つか、主催者推薦のヤツがひとりも残ってないんだけど、大丈夫なのか、これ。面目丸潰れじゃねぇの?
 準決勝までの休憩時間を利用して、賭け札を買いに行く。
 リィナの次の試合は、アランのおっさんとだ。ここまで来ると、さすがに配当もずいぶん低くなっていた。
 転じてマグナの配当は、ずいぶんとお高めだ。相手は、あのナイフ使い。開始と同時に対戦相手の腕を切りつけて、あっという間に終了という、客受けしない物凄い地味な試合をしてやがったが、強いことは強いからな。
 マグナの一回戦はマグレ勝ちみたいなモンだし、あんまり記憶に残っていないが、さっきの二回戦もかなり苦労している。配当が偏っても無理ないわな。まぁでも、また応援がてら、あいつの勝ちもちょっとだけ買っておくか。
 席に戻ると、シェラとフゥマの間には、またしても重苦しい空気が淀んでいた。二人きりで残されて、お互いに会話をしようと頑張ったけど出来ませんでした、みたいな雰囲気だ。
 けど俺も、こいつらの関係を気遣ってる場合じゃない訳で。無言のまま着席した俺は、またしても大会が終わった後のことに思考を囚われる。
 周囲のお祭気分とはかけ離れた、鬱々とした空気を俺達三人が撒き散らしていると、やがて準決勝が開始された。
476CC 20-19/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:39:59 ID:PHGltPG90
 最初は、リィナとアランの対戦だ。
 リィナが登場すると、観客席のあちこちから応援の喚声があがる。女で、徒手空拳で、しかも派手な立ち回りで勝ち上がってきただけあって、人気が出てきたらしい。あいつも、いちいち手を振って応えたりするモンだから、なおさらだ。
 おっさんの方は、やや困った顔をしていた。
「さてと。んじゃ、あの時の約束を果たしてもらおうかな」
 準備運動をしながら、リィナがアランに声をかけた。
「いやぁ。おっちゃんが喜んでお相手するって言ったのは、アッチの方の手合わせなんだけどねぇ」
 大剣を肩にかついだまま、アランは逆の手で頬をぺちぺちと叩く。
「まいったねぇ。お嬢ちゃんが途中で負けますようにって、女神様にお祈りしてたんだけど、どうもおっちゃん、女神様に嫉妬されちゃったみたい」
「はいはい。残念だったね」
「こいつをお嬢ちゃんに向けるのは、おっちゃんの主義に反するのよ」
 アランは肩にかついた大剣を、軽く持ち上げてみせた。
「困ったねぇ……あ、そうだ」
 にたりと笑って、剣を握っていない方の手を前に出して、わきわきと開いたり閉じたりする。
「おっちゃん、いいこと思いついちゃった。あのね、お嬢ちゃんを捕まえて、その立派な胸をモミモミできたら、おっちゃんの勝ちってことにしてちょうだいよ」
 何言ってんだ、このオヤジ。
 ここで、試合開始の鐘が打ち鳴らされた。
 リィナは、ちょっと顔を顰めてみせる。
「見て分かんないかな。サラシ巻いてるから、胸なんて揉めないよ」
「じゃあ、お尻をナデナデできたらってことで」
 どんな勝負だ。
「あ〜、もうっ!できるモンならやってみなよっ!」
 らしくもなく苛立った声をあげて、リィナは真正面からアランに突っ込んだ。
「うひょお」
 顔面を襲ったリィナの回し蹴りを、アランは上体を背けて躱す。
 空を切った右足が地面に着くと同時に、軸足を入れ替えて放たれた後ろ蹴りも、軽く後ろに跳んで外される。
「お〜、おっかない。おっちゃん、もう歳だからさ。手加減してよねぇ」
「うん、してるよ」
 リィナは構えを解いて、とことこアランに歩み寄った。
「やっぱり強いね。いい加減、本気出してもらおうかな」
 リィナの手足は届かないが、アランの大剣は届く位置で、無防備に立ち止まる。
477CC 20-20/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:43:23 ID:PHGltPG90
「来なよ」
「じゃ、遠慮なく」
 アランは大剣を振ろうとせずに、リィナに身を寄せて片腕で抱き締めようとした。
「も〜。しょうがないなぁ」
 アランの腕を払い除けて、腹の辺りに掌をそえて力を込める。
「おっ!?」
 ずずず、とアランは元の位置まで、床を滑って押し戻された。
「はい、もう一回」
 腹を押さえていたアランは、苦笑しながら首を振った。
「やれやれ。どうしても、やんなきゃダメ?」
「そりゃそうだよ。やる気が無いままだと、おっちゃん罰金取られちゃうよ」
「ああ、そりゃマズいよねぇ。おっちゃん、貧乏なのよ。お金あったら、全部女の人に使っちゃうの」
「知らないよ。ほら、早く来なよ」
「早く来て、なんて言われて手を出さないようじゃ、男としてのコケンに関わるよねぇ。分かりましたよ。当たんないようにするけど、気をつけてちょうだいよ」
「当てる気でやってよ」
「はいはい――と」
 呑気らしい口振りにまるで似つかわしくない、鋭い打ち込みがリィナを襲う。
「だからぁ……」
 リィナは、全く動いていなかった。ハナから当てるつもりが無いことを、見切っていたのだ。
「当てるつもりで来てってば!」
 アランの大剣を真横に蹴り飛ばし、懐に潜り込む。
「もういいや」
 リィナが足首の辺りを絡めると、アランの膝がかくんと落ちる。
 左手を肘にそえて、落ちてきた顎を捉えかけたリィナの右の掌底は、アランの頬を掠めて上に抜けた。
「よっこらしょっと」
 横に弾かれていた大剣が、アランの手を支点にくるりと回って、斜め下からリィナに襲いかかる。曲芸まがいの斬撃に、さすがに鋭さは無く、リィナは剣の腹を肘で叩き落した。
 その間に一歩引いたアランの手の内で、くるりと逆回転した大剣が袈裟懸けに斬り下ろされる。
 今度は、避けなければ当たる太刀筋だ。
 リィナは身を沈めて躱しざまに、アランの足を払う。
 片足を上げてやり過ごしたアランの大剣が切り返されて、切っ先が地面すれすれを薙いだ。
「――っ」
 無理矢理床を転がって、リィナは辛うじてそれを避ける。リィナらしくない、不恰好な躱し方だった。
478名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 03:45:21 ID:q3xLiy6tO
支援
479CC 20-21/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:47:31 ID:PHGltPG90
「……よくあんなデカい剣を振り回せるな」
 サムトの巨剣ほどではないが、アランのそれは通常よりもかなり大振りのだんびらだ。体格はがっしりしてるが、筋肉隆々ってタイプじゃないし、そこまで力があるようには見えないんだが。
「別に、それほど不思議じゃねぇよ。力任せに振り回してる訳じゃなくて、ありゃ、なんつーか……力の流れを操るのが上手ぇんだ」
 俺の独り言に、フゥマが解説をつける。
「力の流れ?」
「なんつーの?重いモン持ち上げといて力抜いたら、勝手に落ちてくだろ?後は、剣を振り回した時の勢いとかさ。見てると、そういう自分の腕力以外の力を操るのが上手ぇんだよ、あのオッサン」
 下手糞な説明だが、なんとなく分かった。要するに、重力やら慣性やらを利用するのに長けてるってことか。
 さっきまでと異なり、リィナは用心しながら立ち上がる。
「そんな、おっきい剣で大丈夫なのかなって思ってたけど、上手いモンだね」
「そう、おっちゃん上手いのよ。あと、おっきいのも自慢なの」
「……あのね」
 ダメだ、このオヤジ。こんなことしか言わねぇよ。
「そういうことばっか言う人は……」
 リィナは不意に、ぴょんとスキップみたいに間合いを詰めた。
「おしおき!」
 前蹴りが、アランの股間に吸い込まれる。
「うわっとぉっ!?」
 アランは大慌てで剣を盾にした。
 その動きを見越していたように、リィナは大剣の腹に足をかけて踏み台にすると、一気に駆け上る。
 顎を捉える寸前で、アランの掌に膝を押さえられたが、リィナの動きは止まらない。
 さらに駆け上がって、おっさんの首を両脚――太腿で挟み込んだ。
「よっと」
 勢いをつけて背を反らす――首を挟んだまま投げるつもりか。
 アランの体が前屈みになったところで、動きが一瞬止まった。
「ん?」
 だが、二人の体はぐるっと回転して、アランは背中から床に打ち付けられる。
 派手な技が決まったことで、観客席からは喚声があがったが、フゥマは面白くもなさそうに鼻を鳴らした。
「オッサン、わざと投げられやがったよ」
 やっぱり、そうなのか。ちょっと堪えかけたもんな。
 それは仕掛けた本人が一番よく分かっているらしく、アランを投げた体勢のまま、うつ伏せに寝そべって憮然としていたリィナの表情が、いきなり一変した。
480CC 20-22/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:51:19 ID:PHGltPG90
「うひゃあっ」
 おっさんが、ぐったり腕を投げ出している風を装って、リィナの尻を撫でたのだ。
 なんてことしやがんだ、俺だって撫でたことねぇんだぞっ!?
――手前ぇ、殺すぞ、この野郎。
「こういうのを、試合に負けて勝負に勝つって言うのかねぇ」
「……」
 跳ね起きたリィナは、アランの顔を無言で踏みつけた。
「おっとぉ」
 寸前で、アランは素早く身を起こす。くそ、踏まれてやがれ。
「このまま、お嬢ちゃんの勝ちでよかったのに。案外、純情なのねぇ。そんな立派な体して――」
 言い終わらない内に、リィナが懐に跳び込んでいた。
 ぐわん、と鉄を叩く音がして、アランの手から大剣が遥か後方に弾き飛ばされる。恐ろしいことに、大剣は真ん中から少しひん曲がっていた。
「あらら、もったいない。まぁ、借り物だからいいけどねぇ」
 のんびりほざくアランを、リィナはきっと睨みつける。ちょっと顔が赤い。
「はいはい、降参。降参ですよ〜」
 茶化すように言って、両手を上げてみせるアラン。
「女王様のご尊顔を、間近で拝見したかったけどねぇ。ま、代わりにお嬢ちゃんの可愛いお尻を撫でられたから、良しとしますか――そんな目で睨まないでちょうだいよ。アソコが縮み上がっちゃうじゃない」
 最後まで、トボけたおっさんだった。
「ちぇっ。結局、実力は見せずじまいかよ――後で、ちっとふっかけてみっかな」
 フゥマがぼりぼりと頭を掻く。
「スカウトするつもりなのか?」
 アレを?
「いや、まだ分かんねぇけどさ。ま、試すにしても、姐さんの後かな。このままじゃ済まさないって顔してるぜ」
 フゥマの言う通り、勝ち名乗りを受けても珍しくむすっとした表情で、リィナはアランを睨み続けていた。
481CC 20-23/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:54:46 ID:PHGltPG90
 これまで、あまり言及してこなかったが、試合場の競技者には、声援とも野次ともつかない声が、ひっきりなしに投げつけられている。
 準決勝の第二試合。
 試合場に姿を現したマグナを例にとると、こんな具合だ。
「よぉ、姉ちゃん!昨日の晩は、旦那のヴァイスと仲直りしたのかい!」
 あのバカ、予選で思いっ切り俺の名前を叫びやがったからな。名前だけがひとり歩きして、ちょっとした有名人になっちまってる。名前の主が俺だって知れたら、恥ずかしくてこの街では表を歩けねぇよ。
 対するナイフ使い――キリクへの野次は、あまり聞こえてこなかった。この小男の発散している殺気が、観客にも感じ取れるんだろう。気安く声をかけるのがはばかられる、お祭気分とは一線を画した空気を、ただ独り強烈に振り撒いている。
 正直、この対戦は、実現して欲しくなかったぜ。
 マグナが無傷で勝てるとは思えないからな。いくら、すぐに治療してくれるっても、あいつが切られるところなんて、見たくねぇよ。
「ケッ。準決勝まで来て、こんな小娘が相手とはな。茶番もいいところだ」
 あからさまに不満げに、キリクは吐き捨てた。
「手加減が面倒だ。切られたら、さっさと降参しろよ、小娘」
「……あんたこそね。勝ち目が無くなったら、無茶しないでさっさと降参しなさいよ。蛇みたいな顔してるから、執念深そうで心配だわ」
 絶対に買い言葉を口にしなきゃ、気が済まないらしい。マグナも、少しは相手を選べよ。
「ハッ、勇ましいな。少しは期待できそうだ」
 ほらみろ。余計なこと言うから、小男がやる気になっちまったじゃねぇか。
 開始の合図が打ち鳴らされるなり、これまでの試合と同様に、キリクはいきなり対戦相手――マグナに向かって床を蹴った。
 腰からナイフを抜いて切りかかる。
 刃が交わる金属音が、ほとんど同時に二回響いた。
 キリクの両手のナイフは、一方は刀身で、もう一方は柄によって防がれていた。
 マグナは右手で握りを、左手は刀身にそえて、キリクのナイフを押し返す。いくら刃引きがしてあるからって、お前こそあんま無茶すんなよな。
482CC 20-24/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 03:56:36 ID:PHGltPG90
「フン、止めたか」
「馬鹿にしないで。あんた、仕掛けが毎回同じじゃない。分かってれば、誰でも止められるわよ」
 勝気なマグナの啖呵に、キリクは薄ら笑いを浮かべた。
「それすら出来ないクズではないか……いいだろう。貴様は、俺に切り刻まれる資格があると認めてやる」
 キリクが再び床を蹴る。速い。マグナが振り下ろした剣は空を薙ぐ。すれ違い様に、キリクのナイフが閃いた。
「とは言え……だ」
 マグナの背後に抜けたキリクは、ゆっくりと振り返る。
「実際に切り刻んで殺しちまったんじゃ、俺の負けらしい。面倒だな」
「……っ!?」
 マグナは、どこも出血していなかった。
 切り裂かれたのは、服だけだ。脇腹の辺り。
「ちょっと……なんのつもりよ!?」
「望み通り、これまでとは少し趣向を変えてやるよ」
「この……っ!!」
 マグナの打ち込みを片方のナイフでいなすと、キリクはもう一方のナイフを服の切れ込みに差し入れて切り上げた。
「――っ!?」
 はだけそうになった服を、マグナは慌てて両手で押さえる。
 バカ、お前、そんなことしてる場合かよ。
 けど、押さえない訳にもいかねぇし――
 くそ、観客共も、ヘンな喚声上げてんじゃねぇよ。お前ら、勝負とは別のことを期待してやがんだろ。
483名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 03:58:53 ID:q3xLiy6tO
支援(;゚∀゚)=3
484CC 20-25/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:02:17 ID:PHGltPG90
「ちょっと待って!!こんなの――」
「ハッ、聞けるかよ。どうせ下らんお遊びだ。少しは愉しませろよ」
 薄ら笑いを浮かべながらキリクがナイフを振るう度に、マグナの服が切り裂かれていく。
 なんだよ、これ。まさか、こんな展開――マグナ自身の体を切り裂かれずに済んでるのはいいけどさ――いや、全然良くねぇよ。
 ああ、おい、マジ、ヤバいって。服の裂け目から、肌がちらちら覗いてんじゃねぇか。それ以上は止めとけよ、手前ぇ、このチビ野郎。
「待ってって言ってるでしょっ!?」
 片手で服を押さえたまま振るったマグナの剣をあっさり躱し、キリクは背後に回り込む。
「せいぜい、客を喜ばせてやんな」
 背中まで切り上げるつもりかよ。
 そんなことされたら――マジで、上がはだけちまうじゃねぇか。
 させるかよ、馬鹿野郎っ!!
『ヒャド』
 威力を抑えた俺の呪文は、キリクの足元を凍りつかせた。
「なにっ!?」
「このっ!!」
 がくん、とつんのめった小男の後頭部を、マグナが振り回した剣の腹が打つ。
 前のめりに倒れた小男は、床を滑って動かなくなった。
 観客席から、落胆の声があがる。ふざけんなよ、お前ら。
「おいおい、マズいんじゃねぇの。バレたら失格だろ、今の」
 うるせぇよ。黙ってろ、フゥマ。
 威力は充分抑えたし、この日照りじゃ、氷はすぐに溶けちまうからバレやしねぇよ。
 つか、こんな衆人環視の中で、あいつが肌晒すくらいなら、失格の方が全然マシだっての。
 俺がそいつを拝むのに、どんだけ苦労したと思ってんだ。
 たまたまこの場に居合わせただけの連中に、拝ませてやる訳ねぇだろうが。
 マジで、ふざけんなよ、あのチビ野郎。
 ホントは、メラミを喰らわせてやりたかったんだが、さすがに一発でバレちまうからな。オアシスで呪文の制御を経験しといて良かったぜ。
 マグナが、怪訝な視線をこちらに向けた。
 キリクの足元の氷に気付いたらしい。
 俺は何食わぬ顔をして、視線を逸らした。
485CC 20-26/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:08:32 ID:PHGltPG90
 孤独な砂漠のオオカミさんの醜態やら、俺のズルやらあったとはいえ、まさかマグナとリィナが決勝を戦うとは、全く予想もしてなかった。
 なんていうか、複雑な気分だ。
 この大会、そこまでレベルが低い訳じゃないと思うんだが、ウチの連中が両方決勝にいっちゃっていいのかよとか、でもマグナの勝ち上がり方は、まんま実力って訳でもねぇしなとか。
 まさかあいつら、本気でやり合わねぇよなとか、でもちょっとガチ勝負も見てみたい気もすんなとか、そんなことよりマグナに何言うか、まだ考えてねぇよとか。
 俺がごちゃごちゃ考えてる間に、決勝戦の時間が訪れてしまう。
 女同士の対戦とあって、観客も妙な具合に興奮していた。ここまでの試合で、賭け金をスったヤツが多い事を窺わせる、やけくそ気味の盛り上がりだ。
 ちなみに配当からすると、観客も圧倒的にリィナが優位と見ているようだった。まぁ、正しいわな。ウチの連中が引っ掻き回しちまったお詫びに、せめて最後に少しでも取り返して帰ってください。
「どうせなら、本気でやろうよ」
 両手の指を組んでぐりぐり回しながら、リィナが気楽にのたまった。あいつらしい提案だ。
「いいけど……あたしが、リィナに勝てる訳ないじゃない」
 ちなみに、マグナはもちろん服を替えている。あのまんまじゃ、勝負どころじゃねぇからな。
「ん〜……戦う前からそれじゃ、面白くないなぁ」
 唇をへの字に結んだリィナは、はたと手を打った。
「あ、そうだ」
 にんまり笑う。
「負けた方は、ヴァイスくんのこと諦めるって、どう?」
「はぁっ!?」
 はぁっ!?
 マグナが目を丸くする。俺もびっくりです。
 何を言い出すんだ、あいつは。
「なに言ってんの?諦めるもなにも、あたしは別に……っていうか、リィナだって、そんなんじゃないでしょ?」
「ん?ボクは好きだよ、ヴァイスくんのこと」
「えっ!?」
 えっ!?
 って、いやいや、俺までその気になってどうすんだ。
 これは、アレだろ、またあいつ、俺とマグナをなんとかしようとか、余計なこと考えてやがんだろ。
 もういいから、そういうの。
 これ以上、ややこしくするんじゃねぇよ。
486CC 20-27/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:11:52 ID:PHGltPG90
 観客のざわめきが聞こえる。どうやら俺は、連中の勝手な想像の中では、どんどん色男にされちまってるらしい。
 一人の男を巡って、女同士が決闘する――それって、普通は逆だろ、みたいな野次が耳に届いた。まったくもって、尤もです。
「じゃ、そういうことで」
「そういうことって……ちょっと待ってよ!あたしは別に――」
「ほら、お客さん待たせちゃ悪いよ」
「……分かったわよ。あのバカのことは別にして、とにかく本気でいくわよ」
「うん。おいで」
 手招きするリィナに向かって、マグナが突っかけた。
 斬撃は思った以上に鋭かったが、やはりリィナには当たらない。
 フェイントを織り交ぜた攻めも、ひょいひょい躱される。
「……のっ!!」
 足元を薙いだ剣を避けて、リィナが跳び上がる。
 マグナの素早い切り返しは、それを予測していた軌道だった。
「およっ」
 空中で刀身に乗ったリィナは、そのままマグナの剣を踏みつけた。
「いた――っ」
 重さで剣を取り落としたマグナの腹に、リィナの掌底が叩き込まれる。
 威力は抑えたのだろうが、マグナはがくりと床に膝をつき、腹を押さえて蹲った。
「うん、よかった。強くなってるね」
 リィナは悠然と、マグナを見下ろす。
「でも、このままだと、ヴァイスくんはボクのになっちゃうよ」
「……関係無いって――言ってるでしょ!?」
 リィナが足をどけていた――おそらく、わざと――剣を拾い上げ、立ち上がりざまに斬り上げる。
 が、当たらない。剣を振り上げた体勢の無防備な側頭部に、リィナの爪先が叩き込まれた。
「あぐ――っ」
 真横に弾き飛ばされて、床に打ち付けられるマグナ。
「その程度なの?」
 リィナは、息も乱していなかった。おいおい、そこまでしなくてもいいんじゃねぇのか。
「強くはなったけど、それじゃまだまだ、マグナの望みには足りないと思うな」
 マグナは懸命に身を起こしかけたが、平衡感覚を失ったように、かくっと肘をつく。
「ほら、立ちなよ。立たないと、ヴァイスくんもらっちゃうよ」
 よろよろと起き上がったマグナは、きっとリィナを睨みつけた。
487CC 20-28/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:14:03 ID:PHGltPG90
「なんなのよ……いっつも、あんたは……ムカつく!」
 マグナは、リィナに向かって剣を投げつけた。
 これは、さすがに予想外だったようで、リィナの体捌きがいつもより大きくなる。
 ぱぁん、と小気味いい音が響いた。
 躱した先に回り込んだマグナが、リィナの頬を思いっ切りひっぱたいたのだ。
 俺の手は、自然と頬を押さえていた。すげぇ痛ぇんだよ、あれ。
 ちょっと呆然として頬に手を当てたリィナは、やがてにこっと微笑んだ。
「おみごと」
「……もういいわ、あたしの負けで」
 力尽きたようにへたり込むマグナ。
「一本取られちゃったね。今のは、ホントに反応できなかった」
「リィナも、まだまだ修行が足りないんじゃないの?」
 憎まれ口を叩きながら、マグナはごろりと仰向けになる。
「うん、そだね」
「あ〜、お腹痛い……頭くらくらする……ダメ。立てない。もうちょっと手加減してよ」
「ごめんね。思ったより、マグナが強かったからさ。つい力が入っちゃったんだよ」
「よく言うわ」
「ううん、ホントほんと。試合の勝敗は別にして、ボクとマグナの間では、マグナの勝ちでいいよ」
「……どうでもいいわ。ダメ、もう……控え室まで運んでよね……」
 寝そべったまま、マグナはぐったりとして目を閉じた。
488CC 20-29/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:17:20 ID:PHGltPG90
 その後の表彰式やらなんやらは、やっぱり俺は気もそぞろで、あまりよく覚えていない。
 とうとう大会が終わっちまったってのに――俺はいまだに、マグナにかける言葉を見出せずにいた。
 根が生えたみたいに、席から腰があがらない。
 けど、このまま行かない訳にもいかねぇしな。こうなりゃ、出たトコ勝負か。いざとなったら、なんか思い浮かぶだろ――多分。
 俺がようやく席を立ったのは、あれほど居た観客のほとんどが帰途について、すっかりまばらになった頃だった。
「ほんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
 こちらもずっと押し黙ったまま、身じろぎもせずに座っていたシェラの頭にぽんと手を置く。
「あ、はい……その、頑張ってください」
「お互いにな」
 俺はちらりとフゥマを見遣る。
 こいつも、どうしたらいいか分からないみたいな、落ち着かない顔してやがんな。
 頼むから、なるべくシェラを泣かせんなよ。
 足取り重く選手の控え室を訪ねると、マグナはそこに居なかった。
「あ、ヴァイスくん。明日は女王様に呼ばれてるから、悪いけど空けといてね」
 まだ残っていたリィナが、声をかけてきた。
 絶世の美女との誉れも高い女王様と謁見させていただけるってのに、「悪いけど」も無いモンだよな。そこらの衛兵が聞いたら、気を悪くするぞ。
「あいよ。今日は、ご苦労さんだったな」
「うわ、軽っ。ボク、いちおう優勝したのに」
「ああ、いや……最初っから、お前が優勝すると思ってたからさ。なんつーか、予定通りの仕事をこなしてもらっただけ、みたいな感覚っつーか……そうだよな。悪ぃ。優勝、おめでとう」
「やめてよ、そんな。改まって」
 ぱたぱた手を振って、リィナは照れてみせた。お前が言わせたんだろうが。
「それに、優勝って言っても、全然納得してないしね」
 リィナが視線を飛ばした先で、アランが肩を竦めた。
「ってことで、ボクはおっちゃんと決着つけてくるから、マグナの方はよろしくね」
 にやにや笑う。
489CC 20-30/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:20:34 ID:PHGltPG90
「そういや、あいつ大丈夫か?」
「うん、もうピンピンしてるよ。まぁ、いちおう手加減したしね。でも、思ってたより強くなってて、ちょっとほっとしたよ」
「ほっとした?」
「いいから、早く行きなってば。マグナなら、さっきヴァイスくんを探しに出てったから――っていうか、ボクが追い出したんだけどね」
 お前な。そういうことは、早く言えよ。
「入れ違いかよ。そんじゃ、まぁ……気をつけろよ」
 お前が野試合するのは止めねぇけど、おっさん、結構強そうだしさ。
 リィナは俺の胸の辺りをぽんぽんと軽く叩き、肩を掴んでくるっと後ろを向かせた。
「はいはい、今はボクの心配なんてしなくていいから。ヴァイスくんこそ、頑張りなよ」
 ぐいぐい背中を押されて、力づくで送り出される。
 なんだかなぁ。
 リィナといいシェラといい、無理矢理ヘンな方向に話を持ってこうとしてねぇか?
 はー。
 俺は、心の中で嘆息する。
 そりゃさ、正直なところ、俺もマグナにそういう感情を全く持ち合わせて無いったら嘘になるよ。こんだけ長く一緒にいる訳だし、可愛くねぇけど可愛げが無い訳じゃないし、俺も男だしさ。
 けど、なんての?
 惚れたとか腫れたとか、そういう感情とは、ちょっと違うんじゃねぇのかな、と。
 どっちかと言えば、保護者的な感覚つーかさ――お袋さんにも、よろしく頼まれてるしな。
 その保護者的な観点からすると、あいつに俺をお薦めする気にはなれねぇんだよ。あいつの側には、もっとしっかりして頼れるヤツが居た方がいい。あいつをちゃんと受け止めて、支えてやれるような。
 俺は――あいつに、何も言ってやれなかったんだから。
 今も、だな。何を言うべきなのか、分かってない。またあいつに何も言ってやれないのかと思うと、一層気が重くなる。
 こんな情け無い男は、ダメです。お兄さん、許しませんよ。
 つか、あいつはどこに居やがんだよ。
 あちこちウロウロしてんのに、全然見つかんねぇぞ。
 うん、今日のトコは、このまま宿屋に帰っちまうか。
 見つかんねぇんだから、しょうがないだろ?
 なんて事を考えてると、往々にして見つけちまうモンでして。
 まったく、人生ってのは厳しいよな。
490名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 04:20:56 ID:q3xLiy6tO
支援(´・ω・`)
491CC 20-31/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:24:35 ID:PHGltPG90
 すっかり人気の無くなった観客席の脇に、身を寄せているマグナが見えた。
 ヤベ、なんか鼓動が早くなってきた。いかん、頭に血がのぼって、考えがまとまんねぇぞ。
 思わず、苦笑が漏れそうになった。
 なんで今さら、あいつと話すのに、こんなに緊張してんだ、俺は。
 馬鹿馬鹿しい。もう、ごちゃごちゃ考えんの面倒臭ぇよ。こうなりゃ、当たって砕けろだ。
 男には、砕けると分かっていても当たらなきゃらない時がある――いや、まぁ、なるたけ砕けたくはないんですが。
「よ……よぅ。こんなトコに居たのか」
 背後から声をかけると、マグナはびくっと身を震わせて、しかめっ面を振り向けた。
「しーっ」
 唇に指を当てる。なんだ?なんか覗いてんのか?
 マグナに覆いかぶさるようにして、観客席の裏を覗き込むと、そこにはシェラとフゥマが向かい合わせで立っていた。
 相変わらず、空気が重い。別れる直前の男女みたいな雰囲気が漂ってるぞ。
「その……」
 フゥマは、髪の短い頭をぼりぼりと掻いた。
「やっぱり、オレ……嫌われてるってコトすかね?」
「違います!そうじゃないです!」
 シェラは俯いていた顔を上げて、声を大きくした。
「いや、だって……そんな嘘吐かれるくらいなら、ちゃんと嫌いって言ってくれた方が、オレもすっきりするっていうか……」
「違います……ホントなんです。ホントに、私、男なんです」
 ああ、もう告白した後なのか。
 シェラの口調も表情も真剣そのものだったが、フゥマはまだ半信半疑の顔つきだ。
 無理もないよな。俺だって、あんな可愛い男には、後にも先にもお目にかかったことねぇよ。つか、女まで含めたって、なかなか居るモンじゃねぇぞ。
 どうせ、あの腕白坊主は女経験なんて無いだろうからさ、女にも「ついてる」モンなんだって強弁すれば、案外信じて誤魔化せたりして――馬鹿か、俺は。下らねぇこと考えてんなよ。
「えっと……ちょっと、なんて言ったらいいか分かんないけど……」
「……ごめんなさい」
 フゥマは、さっきよりも激しく両手で頭を掻いた。
492CC 20-32/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:27:28 ID:PHGltPG90
「その……嫌われてる訳じゃないのかな」
「そんな……嫌われるのは、私の方で……」
「だったら――とりあえず、ダチってコトでどうすか」
「――えっ?」
 俺の胸の下で、マグナの体がびくっと微かに震えた。
 そうね。俺も、これは意外だわ。
「嫌われてるんじゃなければだけど。ダチなら、男同士でも問題無いでしょ」
「え、あの、でも……」
「なんだ。やっぱり、嫌われてんのかな」
 冗談めかした口振りに、シェラは慌てて頭を横に振った。
「そんな――そんなことないです」
「よかった。じゃあ、とりあえずダチってことで、よろしく」
 差し出されたフゥマの手を、シェラはおずおずと握りかけて、やっぱり手を引っ込めた。
「でも……」
 シェラの口は、しばらく開いては閉じを繰り返した。
 言葉の代わりに、吐息だけが何度も漏れる。
 ようやく搾り出された声は、少し掠れていた。
「……いいんですか?」
「いや、オレも正直、どうしたらいいか――違くて。いいんすよ。うん、いいです。問題ないです」
 差し伸べた手を、フゥマは下ろさなかった。
 シェラはひどく躊躇いがちに、だが、最後は両手で握り返した。
「あの……よろしくお願いします」
 微笑ましい光景ではあるが――大丈夫かね。お兄さんは、心配だよ。
 悪いヤツじゃないけどさ。シェラがどんくらいの覚悟で手を握り返したのか、ちゃんと分かってんのかな、あいつ。惚れた勢いに任せてるだけで、事の重大さを良く理解してるとは思えねぇんだけど。
 でも、まぁ、こっから先は、あいつら二人の問題か。
 うぐっ――マグナに、腹を肘打ちされた。
「ちょっと、いつまでひっついてんのよ」
 先に口で言えよ。いいじゃねぇか、減るモンじゃあるまいし。
「ほら、行くわよ。とりあえず心配無いみたいだし、これ以上覗いちゃ悪いでしょ」
 悪いってんなら、今覗いてただけでも、充分悪いと思うんだが。
493CC 20-33/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:30:11 ID:PHGltPG90
 少し離れたところで、俺の前を歩きながら、マグナが口を開く。
「それで?」
「へ?」
「だから……話って、なんなのよ」
 ホント、なんなんでしょうね。この期に及んで――自分がマグナに何を言うつもりなのか、俺はまだ判じかねていた。
 けど、シェラも頑張ったもんな。俺も、少しは見習わねぇと。
「あ〜……その、さ――今日は、お疲れさん」
 ……ダメだ、俺。
「いやさ、まさか、マグナが決勝まで進むとは思わなかったよ。怪我とか、大丈夫か?」
「……ええ」
 マグナの声は、明らかに拍子抜けしていた。
「なに?『話があるんだ』とか改まっといて、そんなことなの?」
「いや、そういう訳じゃ……」
「なんなのよ。じれったいわね」
 仰る通りです。
「悪ぃ」
 マグナは、ふぅと息を吐き出して振り返った。
「なんか、気持ち悪い。はっきりしなさいよ、はっきり。シェラとは大違いだわ」
 返す言葉もございません。
「あんたが来る前から、あのコ、すごい頑張ってたのよ。あんなに喋り難いことなのに。あのオレ様も、あんたと同じでだらしないわ。最初は、全然口利かなかったんだから。シェラが一生懸命喋って、それで――」
 ぱん。
 と乾いた音が響いた。
 マグナが、両手で自分の頬をはたいたのだ。
 びくっとか震えちまった。みっともねぇ。
「今だけだからね」
 じろり、とマグナは俺を睨みつける。
 何がですか。
「あたしがこんなんじゃ、あんたも喋り辛いでしょって言ってるの。えっと……」
 掌でほっぺたをぐにぐにさするマグナ。
「それで、話ってなぁに?」
 小首を傾げて、にこっと微笑んだ。
 いや、そんな急に変わられても、背中がむず痒いだけなんですが――くそ、可愛いじゃねぇか。
494名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 04:31:54 ID:q3xLiy6tO
支援( ・ω・)!
495CC 20-34/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:34:20 ID:PHGltPG90
 昼休憩からこっち、頭の中にぎっしりと詰まった益体もない考えが、性懲りも無くぐるぐると回り始める。
 いっそのこと――好きだとかなんだとか、そういう類いの話をしたいなら、まだ気が楽なんだけどな。言いたいことが決まってて、後は覚悟を決めるだけって方がさ。
 けど、そういう話じゃなくてだな、つまり、なんだ――
 飽和状態の思考が結晶化したように、頭の中でころりと転がった。
 ああ、そうか。要するにだ――俺は、マグナに嫌われたくないんだよな。
 単なる同行者に格下げされて、無関心になられるのも嫌だ。
 マグナの抱えてるモンを俺が解決してやれるとは思わないが、一緒にいる限りは少しは頼って欲しいんだ。そう思ってる。
 それが、あの夜、こいつの告白を聞いた俺の義務――ってんじゃないな。とにかく、俺がそうしたいんだ。
 俺にしてみれば短い時間だったんだが、マグナにとっては表情を保つのが難しいくらい、俺は黙っていたらしい。
 気がついたら、マグナの顔から笑顔は消え失せて、見慣れたふくれっ面が浮かんでいた。
「もぉっ、なんなのよっ!?いい加減にしてよ!!」
「一緒に、買い物に行かねぇか」
「――は?」
 用意してなかった言葉が、するりと口を出た。いつだってそうだ。俺がごちゃごちゃ考えることは、いつだって無駄になるのだ。
 特に、こいつの前ではな。
「昨日の埋め合わせって訳じゃなくてさ。改めて、俺から誘わせてくれよ」
「なによ、急に――今から?」
「ああ。今日はマグナも頑張ったしな。ご褒美に、なんか買ってやるよ」
「偉そうに――今からじゃ、お店なんて終わっちゃうわよ」
「まだ、もうちょっと大丈夫じゃねぇの?」
 暮れかけてはいるが、辛うじてまだ日は出ている。
「……もしかして、このまま行くって言ってるの?」
「へ?そうだけど」
「イヤよ。汗かいちゃったから、先にお風呂入りたいし、着替えだってしなきゃいけないんだから。準備が出来る頃には、もう夜になっちゃうわよ」
「ああ――そうね」
 別にそのままで構わねぇだろ、って訳にもいかないんだよな、女の場合は。
「そんじゃ、明日――はダメか。女王様との謁見があるしな」
「いいわよ、別に。ヘンな気遣わないでも」
「違くて」
 マグナの気の無い返事に、俺の口が勝手に動く。
496CC 20-35/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:38:21 ID:PHGltPG90
「埋め合わせじゃねぇって言ったろ。その……俺が、誘いたいんだ。昨日だって、ホントは……一緒に行きたかったんだぜ。すごく」
 お前、なんか可愛かったしさ。
 最後の言葉は、さすがに喉に引っかかった。
 おおお。これは、俺の本心なのか?
 なんか……すげぇ恥ずかしいんだが、妙に腹が据わっちまった。
「昨日は、ごめんな」
 つるりと、そんな言葉が口をついて出る。
「べ、別に気にしてないって言ってるじゃない。シェラとの約束を破られてたら、そっちの方がイヤよ」
「うん。それだけじゃなくてさ。今思うとバカみてぇだけど、夕べはコソコソしちまったし」
「それは……あたしが――」
「ああ。『ヴァイスのばかぁ〜〜〜っ!!』だもんな。お前な、あんなトコで、人の名前を叫ぶなよな、恥ずかしい」
「……だって」
「すげぇ怒ってると思ってさ。怖かったんだぜ。お前、怒るとすげぇおっかねぇから」
「なっ――!!」
 マグナはふくれっ面をして、拗ねたように視線を落とした。
「……悪かったわね、おっかなくて。分かってるわよ。どうせあたしは、シェラみたいに可愛くないもんね」
「そんなことねぇよ」
 俺の顔には、自然と笑みが浮かぶ。
「そんな風に思ってたら、誘ったりしねぇって。お前は、そのままでも――その、なんだ。怒った顔も、嫌いじゃねぇよ」
「……なによ、それ。それじゃ、あたしが年がら年中怒った顔してるみたいじゃない」
「へ?だって、そうだろ?」
 マグナは、ますます頬を膨らませた。
「怒った顔が好きなんて、あんたマゾっ気あるんじゃないの?」
「ああ、そうかもな」
 あっさり流されて、悔しそうに俺を睨みつけるマグナ。
 俺は、目を瞬いた。
 不意に、マグナが等身大のひとりの少女として目に映って――
 勇者だとかなんだとか、こいつはそんなんじゃねぇとか思いつつ――それを一番気にしてたのは、ジツは俺だったのかも知れないな。
 肩書きだとか、背負ってるモンだとか、そんなのは全部取っ払って――本当の意味で目の前の少女そのものだけを見たのは、もしかしたら今がはじめてなのかも知れない。
 俺の肩から、残っていた最後の力みが抜けた。
497CC 20-36/36 ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:40:59 ID:PHGltPG90
「そんならさ――せめて、メシでも食いに行こうぜ。飯屋なら、なんとか開いてる店も見つかるだろ」
「え、あ、うん」
「昨日今日でしこたま儲けたからな。奢らせてくれよ」
「いいけど……仕度してからね」
「ああ、別に待ってるよ」
「違うわよ。あんたもお風呂入って着替えて、ちゃんと仕度するのよ」
 ああ、そうですか。
 マグナは、何かを思いついたように、にやっと笑った。
「ふぅん――じゃあ、せっかく奢ってもらうんだから、すっごい高いトコにしなくちゃね。だから、ちゃんとした格好してよ?」
「へいへい」
「なによ、その返事。それじゃ、早く宿に戻るわよ」
「へいへい」
「もぅ――ほら」
 マグナが、手を差し伸べる。
 握り返そうとした俺の手の甲を、マグナはぎゅっと指で抓り上げた。
 へへ〜ん、みたいな笑みを浮かべて、小走りに先を行く。
「ほら、さっさとしなさいよ!時間無いんだから!」
「……へいへい」
 笑顔で手招きをするマグナの背後の夕日が眩しくて、俺は少し目を細めた。
498CC ◆GxR634B49A :2007/02/28(水) 04:51:32 ID:PHGltPG90
という訳で、第20話をお届けしました。
二人で出かけたはいいものの、街の人々に「ああ、あれがあのヴァイスか」みたいにバレて、
行く先々で冷やかされてデートどころじゃなかったオチは、とりあえず書きませんでしたw

は〜。。。
書く時間自体が取れなくて、こんなに苦労したのは、書き出してから初めてです。
お陰で、今回の話はヒネりを入れる余裕もありませんでした><
無事楽しんでいただけたのを、祈るばかりです。
お仕事の納期が迫ってるので、次回もかなり厳しそう。。。
なんとか頑張ります><

というか、「こいつと会って、こいつがこういう影響受けて。。。」とかキャラ心理を
追うのがめんどくさくなった私が、他のキャラと絡まず何も考えずに暴れるだけの
バカキャラとして出した筈のフゥマは、なにしてくれてんでしょうか。
あんたなんかに、単純なハッピーエンドは絶対用意してやらないんだからねっ!w
499名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 05:06:00 ID:I3bmK8kZO
500名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 05:15:37 ID:Q3djOWA90
シーシーシーおつかれ〜。
なんかリィナの考えとやり方が可愛くて仕方ありません。
501名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 08:39:57 ID:T+DhjRxQO
CC氏乙です!

小僧頑張れw

やっぱりヴァイスはツンデ(ry
502名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 12:18:48 ID:GQPwiFP90
CC氏乙です
おっさんウラヤマシスw リィナ可愛いよ!
シェラも頑張ったし、フゥマもいい奴全開だし
何より、マグナのツンデレ最高!!!
503名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 12:47:21 ID:79UH9W6nO
GJ!CCさん!!
支援した後いつの間にか寝てた(´д`)
ソレよりも!マグナかわいいよ!
504名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 19:52:20 ID:Xja+WgIH0
あー、もどかしい奴等じゃ。
くっついたりはなれたいむかつく。



だがいとおしいッ!
マグナかわいいよマグナ!
リィナ揉ませて!
505名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 20:07:18 ID:qqLzfaJn0
ムズムス
 ムズムズ
    ムズムズ
  ムズムズ
      ムズムズ

ああ、ストロベリー

ムズムズ
506名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 22:52:03 ID:qTUjUlxc0
⊂(″ー゛)⊃ ふにゃ〜ー

あのね、うんとね、うまく言えないけど。

GJ!
507名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 22:52:32 ID:bzv46hhFO
CC氏乙でした。
508名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 23:50:57 ID://6ucR9y0
しーおつ
509CC ◆GxR634B49A :2007/03/01(木) 01:20:59 ID:hQmQp1mu0
みなさま、レスありがとうございました〜ヽ(´∀`)ノ
感想いただけるとホントに励みになりますです
キャラがそれぞれ、それなりに好感触みたいで、ほっとしました。ふぃ〜w

もっとカッコいい大人になる筈だったアランが、
ただのセクハラオヤジになっちゃったのが心残りですw
こいつ、汚名返上の機会は(出番)は来るのかなぁ。。。
でも、再登場しても下ネタしか言わなさそうだなぁ。

中盤のクライマックスまで、やっとこさでもうちょいです。
はー、途中の内容考えてない数話、すっとばしてーw
そこまでいくと多分、今度は書き進められなくて苦労すると思いますが、
そこを盛り上げる為にあえて抑えてる部分もあったりするので、
無事に盛り上がるといいですね。
今はまだ、他人事のようにしか思えませんがw
510名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/01(木) 03:23:00 ID:C3hlDXJ80
もうすぐ最下層記念になんかやろうぜ!
511CC ◆GxR634B49A :2007/03/01(木) 07:19:43 ID:hQmQp1mu0
ありゃ、ホントだ。中盤辺りに埋もれてるのが理想的なのにw
512名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/01(木) 23:30:33 ID:Dpwt61+q0
シェラで目覚めたフゥマがアランとアッー!エンド。
513見切 米:2007/03/02(金) 00:38:32 ID:SxMU4yHS0
ワクチン接種したのにインフルエンザにかかって死にかけました。流石に40℃はキツイよ(挨拶)
資格試験受けてみたりとある迷宮でkageまくってみたりインフルエンザに罹患してみたりHi-νガンダム組み立ててみたり。
そんな生活をしていたことを君は知っても良いし、忘れても良い。寧ろ忘れれ。

いやまぁ、試験が終わった時点で書き始めるつもりだったんですが、長らく書いてなかったため筆が乗らない乗らない。
お陰でだいぶ時間が掛かりましたが、漸くそろそろ目処が立ちそうなそうでもないような(えー。
然もアレですよ、奥さん。見切りのカメムシってば以前書き込んだアレン編、全部無かったことにして書き直すらしいですわよ。
大して進んでなかったし面白くないし長らく開いちゃったしで別に其れでもイインジャネとかほざきやがりまして。
全く、以前のものに目を通してくれた人達に申し訳ないと思わないのかしらねっ。
取り敢えず何となく許せなくなったから、あのゴミ一度死なせてくるわ。

自分のことで手一杯なため、他の書き手様のように気の利いたコメントは残せませんが、そんな近況報告を。
514CC ◆GxR634B49A :2007/03/02(金) 05:54:34 ID:nSooOVUV0
>>512
イヤすぎるwww

>>513
なんていうか、だいじょぶですか?(^^ゞ
お体には気をつけてくださいね。
私も、早く続きを書きたいんですが、
仕事明けにまたお仕事入っちゃったので、
お互いに穴を埋めつつ頑張りましょーw
515名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/02(金) 19:28:14 ID:ol0u8j9g0
見切さん久々にキタヨ!!
なんてゆーか、いろいろ大変だったみたいですね
俺はいつまでも、続きをまってるよ〜
だから近況でもいい、たまには報告してくれい
516名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/02(金) 21:16:48 ID:ZozpRRYq0
ちょっと遅くなったけどCCC乙でした!
ヴァイスが名前だけ地味に有名になってら。
517名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/03(土) 00:23:01 ID:3J7iYgwAO
俺はヴァイスって聞くとエタアルの主人公思い出すんだよなぁ。
518見切り アレン編改:2007/03/03(土) 01:10:58 ID:ltfLhjMp0
朱い雪が降る処、死神が訪れる―――

それは、当時ロンダルキアの魔物の間で広がった噂である。
その大地を徘徊していたどんな魔物であろうとも、
朱い雪が舞うとき、例外なく其の命を刈り取られたという。

天に最も近き大地を本拠地にして以来、魔物にとっての天敵は存在しなかった。
其れがある日突然訳も判らぬまま、多くの魔物が命を落とすことになったのだ。
ロンダルキア中の魔物が震え上がるのも当然である。
姿の見えない恐怖は精神の安定を乱し、統制を挫く効果を持つ。
余談だが、『しにがみ』の名を持つ魔物らはこの時に、数を大きく減らしたともいう。

いつ何時、正体も判らない『何か』に殺されるかも知れないという事実は、
魔物たちをかつて無いほどに怯えさせていた。
519見切り アレン編改:2007/03/03(土) 01:12:18 ID:ltfLhjMp0
ザシュッ!!

肉を切り裂く音と共に、右腕が身体から離れ、地面に落下する。
一つ目の巨人は、突然自らの身に起こったことを理解できずに呆然と失った右手を見つめる。
一瞬の後、噴き出す血と傷口を襲う痛みに、其れが彼の身体に及ぼす影響について考え至る。
せめて身体から失われる血を止めようと、残った左手を傷口に伸ばした瞬間、

ザンッ

その頭は身体から切り離され、断たれた頸動脈から噴き出る血は吹き荒ぶ雪を刹那朱に染める。
そして、人の数倍は有ろうかという巨体は雪原に崩れ落ちた。
降り積もり続ける雪の上だから、音は響かない。真白き雪が其の音も惨劇の跡も覆い隠す。
然し、巨体がいきなり地に伏せたら不審に思うものも出てくるのは当然だ。
仲間の異変に気が付いた魔物が、様子を見に此方に近付いてくる。
其れに気が付いた死神は、その死体から少し離れたところで身を潜めていた。

白のコートで全身を覆い、世界と同化したかのように其の姿は一見しただけでは気が付くのはむつかしい。
更に好都合なのは、吹雪で視界が奪われている事だ。
移動時でも遠目からの発見はされ辛いし、今のように待ち伏せするなら好条件としか云いようがない。


向かってくるのはデビルロードが二体にアークデーモンが一体。
個体の戦力差では上回っていても、刃を交えるには、数の上では完全に不利。
何より搦め手で来られたときが一番怖い。
奴らにとっては此方を始末すれば終わりだが、此方からすれば目的までの単なる障害物にしか過ぎない。
ならば、どれだけ力を温存して此処を乗り切るか。
結局は、此処に至るまでに幾度も繰り返した、待ち伏せから隙をついての必殺。
目立つ剣は刃の部分は雪に隠して、雪から突き出した握りだけいつでも振るえるように握っている。
その時、魔物たちが忙しなく首を動かしていることに気が付く。
何を探しているのか――そんなことはどうでも良い。
大事なことは、此から迎え撃つであろう魔物は、決して平静を保っているというわけではないと云うことだ。
ならば、隙を突くことも容易となる。
520見切り アレン編改:2007/03/03(土) 01:13:53 ID:ltfLhjMp0
一番早く辿り着いたデビルロードの一体がサイクロプスの身体を見下ろす。
無論、直ぐに其れが『死体』だと云うことに気が付く。そのことを仲間に知らせようとしたのか。
身体を捻ろうとする―――――音もなく気が付かれないように近づいていた「死神」は、
その時横合いから斬りつけた。
いや、斬りつけたという表現は生温いだろう。
何しろ後頭部を振り下ろされた刃は、魔物の頭を『砕き』、『脳漿を撒き散らし』、『胸まで破壊する』に至ったのだから。

ベストは後ろから斬りかかれることだったが、其れは最初の位置取りが上手くなかっただけのこと。
真っ正面から突っ込むことにならなかっただけよしとして、痙攣する身体を余所に、
仲間の突然の死に呆気にとられたもう一体のデビルロードの首を一閃で刎ねる。
此で残るは一体。

流石はロンダルキアを守護する魔物の中でも、最高位にあるアークデーモンか。
狙いを付けられる前に、仲間を屠った『死神』に襲いかかる。
だが、其れは『死神』にとっても好都合だった。
彼にとって最も怖いのは、自分の存在を他に漏らされること。
其れを防ぐために遭遇した敵は全て必滅。
其れが目的を果たすために満たすべき必要条件。

唱えられる爆裂呪文。全てを破壊し滅する最強の呪文イオナズン。
引き起こされる爆発は、周囲を吹き飛ばし、全てを引き裂く牙と化す。
だが、その爆心地へと『死神』は突っ込む。その先に狙うべき敵がいるのだから。
身に纏っていた白のコートは爆発によって切り裂かれ、生じた熱に焼かれる。
そして現れる深き蒼。

前面に掲げた盾で爆圧の直撃を避け、抜けた影は、そしてそのまま魔物に突撃を喰らわせる。
「チッ」
一撃で決めるつもりだったものの、雪に足を取られ踏ん張りが効かず、敵の体勢を崩しただけに終わる。
舌打ちが思わず出たが、動きは止まらない。
蹌踉めいているところに蹴りを加えられたアークデーモンは、仰向けに倒れ込む。
蒼い影はその上に馬乗りになると、無造作に手にした幅広の剣を振り下ろした。
521見切り アレン編改:2007/03/03(土) 01:15:35 ID:ltfLhjMp0
身に着けている鎧と盾と兜は全て等しく深き蒼。そして同じく金色で描かれた不死鳥の紋。
ロトの装具を身に着けたアレンは、魔物の絶命を確認すると、力の盾を手にし天に掲げる。
反撃を受けずに一度に始末できる数は、二体までだということを改めて実感する。
それ以上は此方も手傷を負うこと覚悟しなければならない。癒しの力を感じながら再び気を引き締める。
力の盾を背中に戻すと、道具袋から白い布を取り出した。まるで其れをコートのように身に纏う。
出来うる限り体力を使わず、そして確実に目的地に辿り着くためなら何でもやろう。
そして、道具袋から地図を取り出す。
数日前まで居た小屋で手に入れた物だ。目指すハーゴンの神殿の方角を確かめる。
やはり吹雪が酷くなる方に進むことになりそうだ。

地図を仕舞いながら、ただの一度だけ契りを結んだ女に想いを馳せる。
児戯のようでもあったが、婚姻の義なども行った。妻と呼ぶべきだろうか。
そんな事を思いつつ何をやってるかと考えた。失笑が零れるが、直ぐに顔を引き締める。
彼女の事だ。間違いなく自分の後を追っている事に間違いない。
ならば自分がすべき事は、魔物に得体の知れない恐怖を振りまき、魔物との遭遇率を減らしてやること。
そして、彼女が追いつくまでに全てを終わらせる事。
その為に彼女を、ナナを置いて此処まで来たのだから。

辺りに魔物の気配がない事を確認すると、再び歩を進める。
全ての元凶が住まう万魔殿まで、あと僅か。
522見切り 米:2007/03/03(土) 01:29:35 ID:ltfLhjMp0
はい、そんなわけでアレン編改の開幕です。
一から書き直し、といってもただただ導入部を書きたくなっただけで。
ほら、神殿突入しちゃうと幻影を解くまで戦い無いじゃないですか。
どうしても戦闘が書きたかったんです。血湧き肉躍るそんな戦闘を。
………まぁ、今回はアレンが圧倒的でしたけど。
何となく説明書きも多いですけど。此から精進していかないと。

>>514
身体の方はもう復調しました、心配してくれて有難う御座います。
七編のような文体だと、勢いで書けるというのもあって毎日投下も可能なんですが、
今回の形にしちゃうとペースが一気に落ちるので、あんまり穴埋めは出来ませんがお互い頑張りましょう。
そうそう、実はCC氏の作品、いつも楽しみにさせていただいてますよ?
最近は余り読む時間がないので流し読みしか出来てませんが。

>>515
待っててくれて有難うー。
そんなわけで続きが始まりやがりました。期待に応えられるものになってれば幸いです。
因みに流れは出来ているんだけど、次の展開はまだ闇の中。
即ち、次の投下が何時になるかわ(ry
523名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/03(土) 02:20:41 ID:b19ZWnew0
見切りさん乙!!
アレン編、硬派ですね
ナナ編のホンワカした感じもいいけど、アレン編もいい感じです
好きな女を守りたいという、アレンの気持ちがイイ
524CC ◆GxR634B49A :2007/03/03(土) 10:23:19 ID:kk2kTU1h0
>>516
ちょっと遅いのも大歓迎ですよ〜。
お時間のある時にゆっくりお読みください。

>>522
見切りさん、乙でした。お体がよくなってなによりです。
久々&レスついてたということで、少しお邪魔を。
次回からは大人しくしてますから〜><
もう投下の直前だったんですね。
私もタマに、三人称で書きたくなったりしますw
流し読みはちょと淋しいですが、私の長いので仕方ないですかね(^^ゞ
スレ投下に適してないとは思うんですが、一話単位を崩すつもりないからなぁ。
毎日投下なんて、そんな、CCは何をしとるんだとゆーことになり兼ねないので、
上手い具合に間を補い合えるといーなぁ、とか勝手なことを考えてますがw
でも、何故か、同じように間が空いて、投下時期が重なったりしちゃうんだ、これがw
525YANA@座礁中  ◆H.lqZohyAo :2007/03/03(土) 19:51:06 ID:qAuzpMoI0
追いついた!!!!!111!!11!(挨拶

対人戦描写オモスレー、その辺もちっと勉強しろよ俺、と猛省するYANAです。
まずはCC氏、先日は失礼なことをべらべらほざいてすいませんでした。

全体の半分まで来て、氏の描くキャラの心理の変遷を見るのが何より楽しみであり勉強にもなっています。
半端に現実の残酷さをウタっておきながら、それを描写することは無意識とはいえ避けて通った俺はヘタレってレベルじゃ(ry
なんていうか、氏の描くキャラは凄く生きてるんですよね。人間的に。
俺が憧れてるライターさんの影響が酷く強いのか、はたまた各人毎の絶対揺るがないテーマから構築するせいなのか、
俺の書くキャラは大概何がしか達観してるというか、淡白というか、
ある意味で『終わってる』奇人変人の類ばっかりになってしまってます。
その点、氏の描くキャラ達は等身大の成長が切々と見られて素晴らしく、大変興味深い。
あとここまでで一番身悶えしたのが、シェラの「…そんなこと言うヴァイスさんは、嫌いです」だった俺は死んだほうがいいwww

現在、五合目にしてイシスなわけですが、そこから如何に物語を完結するかも見守らせてもらいますぜw

ああそれと、俺はアッー!エンドでも全然構わないというか寧ろばっちこいなのでいざとなったら宜しくです(何がだ
…ああ、くっそ、CC氏の超クオリティトナメのおかげで神竜編が書き辛いぜ!いい意味で。

>>見切り氏
おかえり…っ!
心配させるんじゃないこの、ば、馬鹿者め!!
あまり遅いと、私の方が先に終わらせてしまうんだからな!!…グスッ

というわけで、久々GJ!! アレンが存外に戦士してて驚きだっぜ。ただのスケベゴーグルじゃなかったとですね…w
526見切 米:2007/03/04(日) 00:00:01 ID:ieq7PW9r0
あんまりスレを消費するのもアレなのですが、現実逃避のためにやってきました。
……つーか、此処にコメントだけ残す時って、大抵現実逃避だなぁ、わたし。。。

>>523
良いというその言葉が何よりの励みです。
>好きな女を守りたいという、アレンの気持ちがイイ
と有るのですが、残念ながらその為だけに犬王女は置いてかれた訳じゃないんです……が。
はてさて、其れを書ききれるだけの技量がわたしにあるのかどうか。

>>CC氏
どんな反応であれ、レスが返ってくるのは嬉しいので、遠慮せずに書き込んでくださいな。
>流し読みはちょと淋しいですが、
ホントごめんなさい、カナブンよりごめんなさいorz
ちゃんと読みたいんですが、私生活で余り時間が取れないためにゆっくり目を通す時間がなかなか……
時間が出来たらちゃんと一から読み直しますよっ!
それと、投下についてはやっぱりその人の拘りがあるのだろうから、余り気にせずに自分のペースでやられるのが一番ですよ。
………その所為で被っちゃったときは、まぁなんだ。其れもまた運命って事でw
527見切 米:2007/03/04(日) 00:01:35 ID:DifKdk2N0
書き込もうと思ったら、長文過ぎて弾かれたので二回に分けて。

>>YANA氏
し、心配してくれてありがとうだなんて、ぜっ全然思ってないんだからね……っ!!

因みにその通り、アレンはただのスケベゴーグルじゃありませんでしたw
七編じゃあ、殆ど全くそんな素振りはありませんでしたが、一応真面目な考察もやってまして。
3以降戦士職が出来てからロレは、戦士職の脳味噌筋肉のイメージがついて回っているような気がするのですが、
王族である以上、帝王学や用兵学等は学んでいるわけで、戦闘に関して云えば間違いなく莫迦ではないはず。(寧ろイメージ的には賢い)
(だから本来なら感情は二の次で、より勝率を高めるためにムーンを連れていくのが彼本来の思考の筈なんですが………)
且つ其れだけではなく、ロトという英雄の血族である以上、個の強さも求められるはずと云うことで、
力任せだけではない、洗練された剣術を学んでいたという。
で、まぁロンダルキアまで辿り着く中で数え切れないほどの命のやりとりをし、より実践向けの剣技を身に付けたのが現在のスケベゴーグル、と。
2を書き始める前に情報集めた中では、ロレが歴代最強とか云う噂も見掛けたのですが、
わたし的ドラクエワールドの中では、色んな意味で問題在りな3勇者や根性だけなら最強だけどの1勇者(どっちも脳内設定)を押しのけて、間違いなく歴代最強です。
528CC ◆GxR634B49A :2007/03/04(日) 02:44:39 ID:KvGSjIyJ0
ああああ、コテが連続しちゃって、ホントごめんなさい><
見切りさんにも、逆に気を遣わせちゃったみたいですみません><
でも、>>525 の「対人戦描写オモスレー」が、すごい嬉しかったんだよぅ・゚・(ノД`)・゚・。
ここまで、感想でもほとんど触れられることがなかったので、私は好きなんだけど、
戦闘シーンとか誰も望んでないかなー、とか思ったりしてたので、正直ほっとしましたw
数話後に、自分でも楽しみな全開の戦闘シーンの話がやってきますが、
お陰様で遠慮せずに書けそうです。ありがとうございます〜・゚・(ノД`)・゚・。
YANAさんのラストバトルみたいな迫力はない、ちまちました戦いですが(^^ゞ

私の場合、話づくりは、ほぼ完全にキャラ任せだったりします。
私の役目はイベントをこなさせたり、話に少々ひねりを加えるくらいで、
後は、自分の勝手な解釈で、キャラに嘘を吐かせないことだけに腐心してます。
タマに私が「う〜。。。」とか唸って調子の悪そうな時は、
大抵はキャラに同調しきれておらず、書いたはいいけど
キャラに嘘を吐かせていると自分で感じてる時だったりします。
体調や精神状態が悪いとキャラに同調できなくなっちゃうので、
そうゆう時はいくら書きたくても全くぴくりとも書けなくなるとゆー諸刃の書き方w
台詞とかも私が考えるのではなく、勝手に喋らせるようにはしてるんですが、
微妙にズレちゃってるかなー、と思ってる時は、すり合わせに大変苦労しますw
いわゆるテーマとかもあんま無い訳ですが、そこいら辺がテーマのしっかりした
YANAさんとの違いにもなって、バラエティってことでいいや、あははー、みたいなw

そういえば、マグナの生みの親はYANAさんなんですよ。
その時メインで投下されていたYANAさんが男の勇者で書いてらしたので、
-> なら私は、バラエティを考えて女だな
-> 女で主人公でここはツンデレスレってことは、こいつがツンデレだな
で生まれたキャラなのでw
私は神龍まで書くことは絶対無いと思いますので、どうか頑張ってくださいねw

長々とすみませんでした><
さっさと続きを書くことにします〜。。。でも、お仕事の納期が。。。orz
529CC ◆GxR634B49A :2007/03/04(日) 14:28:56 ID:KvGSjIyJ0
普通に保守。
ヤバい、数話後の全開戦闘シーンが頭に浮かんで止まんなくなったw
いますぐ書きたいけど、まずはその前の数話を精一杯書くんだ<自分に言い聞かせてる
530名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/04(日) 17:20:24 ID:ZFtfx77s0
  _   ∩
( ゚∀゚)彡 ふーま! ふーま!
 ⊂彡

531名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/05(月) 15:17:57 ID:8Ulz6T+c0
いかん!どうしても爆裂究極拳の人が脳裏をよぎってしまうww
532CC ◆GxR634B49A :2007/03/05(月) 18:28:14 ID:lpYMTFyF0
爆裂究極拳?
ていうか、時間とれないです><
でも、なんとかしてやるんだから!<口調がおかしい
533見切 米:2007/03/05(月) 20:15:47 ID:Bahr/z2U0
上左下右下左上右上下
534名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/06(火) 09:57:53 ID:DEzTDLki0
>532
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E9%AD%94%E5%B0%8F%E5%A4%AA%E9%83%8E_(%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BA)
ごめんね、昔の格ゲーでゴメンね。
535名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/06(火) 10:25:58 ID:63AygxeB0
ゾーマ城ではずっと上のターン!
536CC ◆GxR634B49A :2007/03/06(火) 11:43:59 ID:L4sl4Uqo0
あーワーヒーかぁ。全然分かんなかったw 超必の名前なんて、よく覚えてますねw
見切りさん、急にどうしたんだ、とか思ったら、コマンドだったのか(な?)w
537名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/07(水) 16:56:46 ID:dv7r4gv20
保守
538CC ◆GxR634B49A :2007/03/07(水) 21:28:58 ID:uLoFd/HL0
なんとか進んでおります><
539名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/08(木) 13:50:27 ID:LagOfWuBO
ばっばっばっばくれつきゅうきょくけん!!
540名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/08(木) 21:30:34 ID:Xsif7/+c0
ダダダダブルたつまきしんけん!

って、ごめんなさい。
懐かしくて、つい……。
541名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/09(金) 02:12:00 ID:vLMch4bXO
誰だ〜?執筆係氏の話を萌えコピに投稿したヤツは?
542名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/09(金) 11:41:46 ID:D6VcfzLW0
保守がてら。
ごめんなさいスレ違いな話題ふっちまって。
どうにもフゥマ→風魔に脳内変換されてのう。
てか思いのほか反応があったのがオドロキw
そんなオレはワーヒーゴージャスが出るのを心待ちにしているわけだが。

で、シーツー氏の合間にちょこっとしたのを書いてみようと思ったりもしたのだが
改めて自分の文才のなさと仕事の忙しさに愕然とする今日この頃。
みさなんいかがお過ごしでしょうか。
543CC ◆GxR634B49A :2007/03/09(金) 21:23:28 ID:SzDhrETf0
呻吟しながらお過ごしです。う〜む〜。。。もうちょい。。。
544見切 米:2007/03/09(金) 23:15:07 ID:846nQjKj0
酔っぱらってるのでお邪魔。
取り敢えず次編の投下はもう少しかかりそうです。相変わらず筆が遅いですね。(なんで他人事)(そして挨拶)

因みにわたしの入れたコマンドはニンジャコマンドーの方でしたが。ばばばばくばばくれつきゅうきょくけん!!
ピンチになると気ばかり逸って結局出せずに、ボス相手に嬲り殺されるのが良い思い出。
そしてきっと>539-540は仲間。

>535
塔に挑んだらてふてふに麻痺毒盛られてhage

>541
確認してみたら、ノアニールで止まってるのな。
で、わたしではないことは確かです。

>542
是非投下してください

つーかこのスレって、平均年齢高い気がしてきた。
545名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/10(土) 16:49:32 ID:Z6sbtcm5O
すもうパワーにはまいったな!!
546CC ◆GxR634B49A :2007/03/10(土) 21:35:04 ID:FskNbsm70
ワーヒー全然やったことないから、ついてけないです><

ん〜。。。まぁ、つなぎだからいいかなぁ。。。
いちおう、近日投下予定
547CC ◆GxR634B49A :2007/03/11(日) 21:08:23 ID:PeCB/Wg00
う〜ん保守。もうちょい。。。
548CC ◆GxR634B49A :2007/03/12(月) 00:17:24 ID:bG4D6DOX0
巻き戻し〜w
すいません、少々お待ちください><
549名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/12(月) 00:42:46 ID:U1Za4vDe0
時の砂ですかそうですか
550CC ◆GxR634B49A :2007/03/12(月) 02:39:24 ID:bG4D6DOX0
うぃ〜、ちょっとは近付けた筈。
明日明後日あたりには、なんとか〜。
551CC ◆GxR634B49A :2007/03/13(火) 01:23:52 ID:xNDmNZFN0
ということで、明後日の方になりましたw
夜くらいに投下できるといいな〜、とか思ったりしてます
552名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/13(火) 02:35:22 ID:iV7DFyNuO
明後日の夜か
その日は、徹夜で待機だなw
wktkして待ってるよ!
553名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/13(火) 11:18:23 ID:IkupL/zG0
ラナルータ×3
554名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/13(火) 22:35:24 ID:m9T5yVyA0
期待sage
555CC 21-1/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:10:19 ID:OFxh71cO0
21. Girls & Boys

「あ、いたいた――おはよう、おっちゃん!」
 王宮前広場の入り口近く。
 あくびを噛み殺しているアランを見つけて、リィナが陽気に声をかけた。
「おはようさん。元気だねぇ、お嬢ちゃん。おっちゃん、まだ眠くて」
「ううん、ボクだって眠いけどさ。昨日は、ありがとね」
「昨日って言うか、ほとんど今朝だけどねぇ」
 そうなのだ。
 さっきマグナから聞いた話では、昨夜は割りと遅くまで起きて待っていたのに、眠る前にリィナは帰って来なかったらしいのだ。
 今朝になって目を覚ました時には、既に隣りでいびきをかいていたと言うが――まさか、朝帰りだったんじゃねぇだろうな。リィナのことだから、なんかあったとは思わねぇけどさ、相手が相手だけに心配だぜ。
 内心ヤキモキしている俺の気など知らず、リィナはアランと笑顔を見合わせている。
「で、なんでこのおっさんが、ここに居るんだ?」
 俺の声は、自然と不機嫌になった。端に居るマグナの目つきが少し気になったが、だってお前、心配じゃねぇのかよ。
「ん?ああ――おっちゃんも、女王様にお会いしたいって言うからね。昨日は、ずっと付き合ってもらっちゃったし、お礼に連れてってあげることにしたんだよ」
 したんだよって、お前、そんな勝手に。
 いや、そりゃ女王様とお会いできるのは、全面的にリィナのお陰ではあるんだけどさ。
「そうなのよ。おっちゃん、ずっとお付き合いさせられてたの。昨日の晩は、お嬢ちゃんがなかなか寝かせてくれなくてねぇ」
 どごっ。
 と重い音が響いた。
 リィナが裏拳で、アランの胸板を叩いたのだ。
 俺だったら、肋骨が折れてるんじゃないかってくらい、力の篭った叩き方だった。
「誤解させるようなことばっか、言わないの」
「いたた、今のでおっちゃん、心臓が潰れちゃった。せめて、その胸で――あいたたた。ホントに痛い」
 よろめく風を装って抱き締めようとしたアランの腕を捻り上げ、リィナは溜息を吐く。
「ホントにしょうがないね。ぜんぜん効いてないクセに」
「そんなことないよぉ。おっちゃん、もう息も絶え絶え」
「はいはい。ごめんごめん」
 腕を捻り上げたまま、リィナはおっさんの頭を撫でる。
 なんか……ヘンに仲良くなってねぇか、こいつら?
556CC 21-2/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:14:30 ID:OFxh71cO0
「それで、昨日は結局、どっちが勝ったんだ?」
 口を挟まずにはいられずに、俺はそんなことを尋ねていた。
「へ?――うん。いちおう、ボクの勝ちかなぁ。でも、おっちゃん、最後まで本気出さないんだもん」
 リィナは、軽くアランを睨みつける。
「いやいや、おっちゃん、そりゃもう必死だったのよ?なにしろ勝ったら、今度はアッチのお相手してくれるって約束だったからねぇ。生まれてはじめてってくらい、本気でしたとも。でも、お嬢ちゃんが強くてねぇ」
「嘘ばっかり――ずっとこんな調子でラチ明かなくてさ、途中から稽古に付き合ってもらってね。そっちは割りといい感じだったから、昨日はつい帰るのが遅くなっちゃったんだよ」
 そうだよな。やっぱり、そういうことだよな。
 安堵に胸を撫で下ろす。
 いや、だから、マグナ。ヘンな目で見んなよ。別にヤキモチ焼いたりしてる訳じゃなくてさ、そりゃだってお前、心配になるだろ?
「ほら、行くならさっさと行くわよ。女王様をお待たせしちゃったら、大変でしょ」
 ついと俺から顔を逸らして、マグナはすたすたと王宮に向かって歩き出す。
 昨日、俺とマグナが一緒に出かけたことを知っているシェラは、少し困ったような微妙な表情で俺達を見回して、後に続いた。
 その件を知らない筈のリィナとアランは、何故か揃ってニヤニヤ笑いを俺に向ける。
 ホントに仲良さそうだな、お前ら。
557CC 21-3/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:17:04 ID:OFxh71cO0
 なんというか、「圧倒的」だった。
 それが、この世で一番美しいと噂されるイシス女王を前にした、俺の感想だ。
 だが果たして、これを美しいと呼んでいいんだろうか。
 もちろん、美人は美人だ。それも、とびっきりの。顔立ちだけでなく、体つきまで含めてだ。
 ここまで俺達をさんざん悩ませてきた、砂漠のくそ暑い気候に、今ばかりは感謝を覚えずにいられない。きっとこの暑さが、女王という位におよそ相応しくない軽装を、目の前の美人に許しているのだろうから。
 軽装とは言っても、光を反射してきらきら金色に輝く鱗状の袖なしドレスは、身に着けているお方がお方だけに、この上なく煌びやかに映る。男女を問わない理想を具現化したような、見事に均整の取れたなめらかな体の曲線が、ぴったりとしたそのドレスの上から窺えた。
 アッサラームでマグナが売りつけられそうになった物とよく似た――もちろん、値段は比べ物にならないだろうが――じゃらじゃらした首飾りを下げていたが、着けている本人の方が余程華やかなので、まるで派手に見えない。
 僭越ながら、女王陛下に唯一、難癖をつけられるとすれば、化粧が濃すぎることくらいだろうか。
 そんなに濃くしなくても、充分にお綺麗ですよ、女王様。いや、まぁ、普通の化粧と違って、それも含めての正装なんだろうけどさ。
 単純な造形美という点では、かのエルフの女王に軍配が上がるだろうが――どちらが、より魅力的かと問われれば、断然こっちだ。
 存在感が、まるで違う。華やかな気品と自信に満ち溢れた――いや、違うな。そんな押し付けがましい印象ではなく、わざわざ自信だなんだと持ち出すまでもない、自然な、ただそこに居るだけの圧倒的な存在感。
 これを、単純に「美しい」のひと言で片付けてしまってもいいんだろうか。いや、よくない。
 そんな反語表現を使いたくなってしまうくらい、要するにまぁ、美人なのだった。
558CC 21-4/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:20:32 ID:OFxh71cO0
――って、痛ぇっ!
 こっそり腕を抓るんじゃねぇよ、マグナ。そんな、言うほど見とれてねぇから、マジで。
 大体、お前だって、今の今まで呆けた顔して、完全に呑まれてたじゃねぇか。リィナも、シェラもだ。
 女王陛下を前にして、その艶やかな気品に呑まれていなかったのは、アランのおっさんくらいだった。癪に障るが、さすがは年の功ってところか。
 玉座にしどけなく腰掛けて、両脇にはべった侍女に羽団扇であおがれている女王様に、俺がぼんやり見惚れてる間に、話はそこそこ進んでいた。
 見事な戦い振りでした、とか言われて、いやぁ、とかリィナが照れたりしている。頼むから、粗相の無いようにしてくれよな。
「――それにしても、残念です。そなたとファング殿の試合を、是非とも観たかったものですが」
「ファング?」
 女王陛下のお言葉に反応したのは、マグナだった。
「あ――失礼しました」
「いえ、構いません。ご存知のようですね。そうです。サマンオサの勇者殿が、つい先日までこの地に滞在していたのです。話せば長くなりますが――あの者は、我が王宮に潜んでいた魔物の存在を暴き、退けてくれたのです」
 喧嘩好きの勇者様は、あちこちでご活躍中らしい。
「大会まで残って優勝者と試合をしてくれるよう引き止めたのですが、あまり興味を持ってもらえませんでした。あの者にとっては、己の力添えを必要とする者の元に駆けつけることの方が、余程大切なのでしょう。立派な人物でした」
 男の分際で、この女王様のお願いを断れるとは、すげぇな。ただの喧嘩好きじゃなかったのか。
「話が逸れましたね――それでは、そなたの望みを聞かせてください。見事な戦い振りを見せてくれた褒美に、そなたの望みをひとつ、なんなりと叶えましょう」
 女王様に問いかけられて、リィナは救いを求めるようにマグナを見た。
 軽く息を吐いたマグナは、「あたしだって、別に得意じゃないのに」とか漏らしつつ、一歩前に進み出て、ちょっと深呼吸をしてから女王様に顔を向けた。
559CC 21-5/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:26:04 ID:OFxh71cO0
「失礼ですが、私が代わりにお話しさせていただきます。その――彼女は、口下手なので」
 まぁ、俺達の中で多少なりとも口の利き方を知ってるのは、せいぜいマグナくらいのモンだからな。そのマグナにしたって、かなり危なっかしいんだが、少なくともリィナや俺よりゃまだマシだ。
「構いません。そなたの戦い振りもまた、楽しませてもらいましたよ。最後に女子同士が残った時にも驚かされましたが、その二人が知己の間柄とは知りませんでした」
 にっこりと安心させるように、マグナに微笑みかける。下々に対しても気遣いを惜しまないとは、こりゃ、臣民に人気がある筈だわ。
「頼りになる仲間を持って、そなたらも心丈夫なことですね」
 魂を吸い取られそうな――と言っては、さすがに大袈裟だが――微笑みを向けられて、どうしていいか分からずに、ちょっとおどおどしちまった。格好悪ぃなぁ、俺。
「いや、全くですな。仰る通りです」
 なんで手前ぇが答えるんだよ、おっさん。
「――よろしいですか?」
 マグナの問いに、女王様は鷹揚に頷いた。
「どうぞ。なんなりと」
「えっと……お尋ねしたいことがあるんです」
「ほぅ。なんでしょう」
「女王陛下の美貌の秘密を――」
 どごっ。
「失礼しました〜」
 胸板を思いっ切りどつかれて、さすがにゴホゴホとむせ返るおっさんの隣りで、リィナが愛想笑いを浮かべた。
 リィナが突っ込み役を強いられるんだから、おっさんのどうしようもなさは、なんともどうしようもねぇレベルだよな。
 お咎めを受けるかと思いきや、女王陛下は鈴を転がすようにころころと、それはもうお上品にお笑いになった。
「ほほ、ひと時の美しさなど、なんになりましょう。所詮、薄皮いち枚の美醜で一喜一憂するなど、虚しいことではありませんか。わらわにしてみれば、そなたらの戦う姿の方が、余程美しく思えます」
 これだけの美貌を鼻にかけないとは、どこまでも出来た女王様だ。この国の連中の気持ちが、少し分かるぜ。
560CC 21-6/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:29:29 ID:OFxh71cO0
 仕切り直すように咳払いをして、マグナが続ける。
「えぇと――それでは、申し上げます。陛下は、『魔法の鍵』について、何かご存知ではありませんか?」
「まほうのかぎ……ですか」
 イシス女王は、はじめて聞いた単語みたいに繰り返して、脇に控えた侍女を振り返った。
 おいおい、なんだか話が違うんじゃねぇの。
「あの、『魔法の鍵』を管理しているのはこちらの王家だと伺って、それで私達はここまで来たんですけど……」
 マグナの声も不安げだ。
 しばらく侍女と小声で確認していたイシス女王は、やがて得心がいった顔でこちらに向き直った。
「失礼を。魔法王と称された、かのネフェルカプタハの鍵のことですね。確かにそれは、我が祖先と共に墓所に安置されています。そうですか。巷間では『魔法の鍵』と呼ぶのですね」
「あ、はい。多分、それのことだと思います」
「して、そなたらの望みとは、その鍵ということになるのでしょうか」
「はい。そうです」
 マグナが頷いてみせると、女王様は頬に手を当てて困った顔をしてみせた。そんな仕草も、まことに魅惑的でいらっしゃる。
「……お譲りいただくのは、難しいですか?」
 恐る恐る切り出したマグナに、イシス女王ははにかみを浮かべて頭を横に振った。
「いいえ、そうではないのです。望みをひとつ叶えると、わらわが口にしたからには、そなたらに与えることに否はありません。ですが、残念ながら、かの鍵を持ち出す術がないのです」
「と、仰いますと?」
「王族の墓所たるピラミッドには、不届きにも墓所を暴こうと企む賊を排する為に、様々な罠が仕掛けてあります。
 ですが、設計者は黙したまま、王が共に連れ逝くのがならわしですから、それがいかなるものかは伝えられていないのです。徒に人をやったところで、あたら命を落とすだけでしょう」
「なんだ、そんなことなら、ボク達で取りに行けば問題ないよね」
 リィナの囁き声に、マグナは嫌そうな顔をした。
「え〜、また砂漠を渡るの?……しょうがないわね――そちらで取ってきていただくには及びません。許可さえいただければ、自分達で取りにいきますから」
「それは――いえ、そうですね。そなたらであれば、然したる難事にはあたらないかも知れません。もちろん、許可は与えましょう。ですが、充分に気をつけることです」
561CC 21-7/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:35:15 ID:OFxh71cO0
「はい、ありがとうございます」
 浮かないマグナの声だった。
 まぁ、また砂漠を旅して、しかも危険に飛び込むようなハメになっちまったんだもんな。リィナは気楽に言ってくれたが、正直俺も、あんまり気乗りしねぇよ。
 まさか、ここまでたらい回しにされるとはね。アイシャのヤツ、さも簡単に見つかるような口利きやがって。
「詳しいことは、その者に尋ねるとよいでしょう」
 両脇にはべっている侍女ではなく、横にずらりと立ち並んでいる中でも、最も女王様のお側に控えた侍女が、ぺこりと頭を下げた。
「それにしても、そなたらの手を煩わせるとあっては、わらわが望みを叶えたとは言い難いですね。他に、なにか望みはありませんか」
「え――っと」
 マグナが困惑顔で俺達をかえりみる。
 いや、急に他の望みって言われてもなぁ。賞金も貰える訳だから、これ以上金をねだるのも、なんだか浅ましくて気が引けるし――
「それでは、女王陛下と一夜の――」
 皆まで言わせず、リィナがおっさんの胸板をどついて黙らせた。これまでで、一番強烈な叩き方だった。
 ホントにしょうもねぇな、このおっさんは。何しに来たんだよ、あんた。
「特に無いようでしたら――これ、あれを持ちなさい」
 先ほど頭を下げた侍女が、再び頭を垂れてからどこかに歩み去り、いくらもしない内に小振りの宝箱を両手で捧げて戻ってきた。
「リィナといいましたね。そなたに、これを授けましょう」
 リィナは、侍女に手渡された箱とイシス女王を、きょろきょろと見比べた。
「どうぞ。開けて御覧なさい」
 促されて、蓋を開ける。
 そこには、繊細な装飾の施された不思議な光を放つ腕輪が収められていた。
「我が王家に伝わる秘宝、『星降る腕輪』です。身に着ければ、夜空を流れる星の如き素早さが手に入ると伝えられています」
「へぇ――でも、えっと……秘宝なんてもらっちゃって、いいんですか?」
「構いません。元々、そなたに贈ろうと思っていた物です。それを身に着けて、いつか分身の術が本当にできたら、わらわにも見せてくださいね」
 多分、ご冗談のおつもりなのだろう。
 女王陛下は、おかしそうにころころとお笑いになり、リィナは箱を片手で抱えたまま、指で頭を掻いて恐縮した。
562CC 21-8/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:38:43 ID:OFxh71cO0
 イシスの王宮をお暇する段になって、なにやら急にもよおした俺は、便所の場所を門番に尋ねてそちらに向かった。
 マグナに呆れた顔をされたのは、ついさっき女連中がもっと奥で用を済ませた際に、「俺はいいや」とか言って行かなかったからだ。そん時は、別にしたくなかったんだから、仕方ねぇだろ。
 リィナが目を丸くしながら、「もーびっくり。ぜんぶ金ピカだよ、金ピカ。ヴァイスくんも、覗くだけ覗いてくればよかったのに」とかのたまったのを聞いた時は、多少後悔したんだが。
 ともあれ、詰所の衛兵なんかが使う、宿屋のソレと大して変わらない普通の便所で用を足した俺は、戻る途中で奇妙なことに気がついた。
 何故か、いつの間にか、また便所の方に向かって歩いていたのだ。
 おかしなことは、他にもあった。
 今日は王宮の一部を解放してる訳じゃないから、見かける衛兵の数は昨日よりも少ない。とは言え、それなりにそこらに立っていた筈だし、衛兵の他にも下働きやらなんやら、そこかしこに人の姿は目についたのだ。さっきまでは。
 だが、今は――
 目の届く範囲に、誰もいない。
 周囲は、しんと静まり返っていた。
 俺が、この異変に気付くことが出来たのは――おそらく、たった今、感じている悪寒に覚えがあったからだ。
 そうでなけりゃ、無意識の内に便所まで戻っていただろう。何者かに操られるようにして。
 踵を返して、マグナ達の待つ正門の方へ向かおうとすると、ソレは一層強く感じられる。
 このイヤな感覚――行きたくねぇ。心臓が激しく脈打ち、体も頭も「引き返せ」と警告を発しているのに、俺の足は止まらなかった。
 歩を進めるに従って、列柱の陰に隠れて見えなかった小さい何かが視界に入る。
 猫だ。
 この国では、どうやら猫が神聖視されているらしく、王宮内でも人間より大きな顔をして、そこらで寝そべっているのを頻繁に見かけたが――
 背筋をぴんと伸ばして、まるで彫像じみて微動だにせず、床に座っている猫の視線の先。
 びくん、と足が動きを止めた。
 全身の皮膚が粟立ち、震えが脳天に抜ける。
 フードつきの黒いマント――
 カンダタ共とやり合った時に見かけた、あの魔物――
563CC 21-9/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:42:54 ID:OFxh71cO0
 それはいきなり、俺の頭の中に雪崩れ込んできた。
 言葉ではない。少なくとも、人間の言葉ではない。
 それはまるで、言葉になる以前の漠然としたイメージ――だが、人間である俺には、人間の言葉でしか物を考えることができない。だから、理解が及ぶほんの一部の断片を、脳みそが無理矢理人語に翻訳しているような――
 苦しい。吐きそうだ。
 口の中に物を突っ込まれて、力づくで喉の奥に押し込まれてるみたいな――いや、咳き込んで吐き戻せる分、そっちの方がまだマシだ。
 脳みそは、咳き込めない。
 気を失っちまいそうだ。
 イシス女王――とは違って――
 完全には操れない――
 斃されはしたが――
 目的は果たした――
 最低限の――
 猫から、黒い染みが滲み出た。 
 いや、実際に目で見えた訳ではない。
 そう感じられたのだ。
 それが何か、俺は理解していた――というより、強引に理解させられていた。
 王宮に忍び込み、ファングに斃されたという魔物の残留思念。
 それを、黒マントが猫を媒介にして呼び出したのだ。
 俺の頭に捻じ込まれたのは、こいつらの会話だ。
 本来は、俺に分かる筈の無い会話――それは、理解が及ばないほど邪悪だからだとか、そんな大それた話ではなく。
 人間である俺には、本当の意味で、例えば猫の意識は理解できない。多少、人がましい反応を見せた時に、人間のそれに置き換えることによって「理解したつもり」になれるのがせいぜいだ。
 魔物の場合も、それに近い――「本当の意味で」なんて言い出したら、人間同士ですら、理解し合えるとは言い難いのかも知れないが――やはり、それとは違うのだ。
 人間同士が分かり合えない、そう表現する場合とは、まるで異なる。
 身を以って体感した。
 魔物と俺達は――ただひたすらに、絶望的に異質なのだ。
 理解や共感なんて言葉とは、かけ離れている――思考の筋道が違う――というより、筋道があるのかどうかすら分からない。
 全く把握できない思考の塊を、力づくで頭の中に捻じ込まれて、ブツ切れの断片とはいえ無理矢理理解させられて――
 これが長時間に及んでいたら、俺は発狂していたに違いない。
564CC 21-10/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:44:30 ID:OFxh71cO0
 脳裏の片隅に、無口な女の無表情な顔が浮かぶ。
 ルシエラは、こんな風にして魔物と意志の疎通をしてたのか。そんなことが可能なのか。
 魔物を異質と決め付けるのは早計で――あの女は、人間と魔物が理解し合えるという可能性を示しているんだろうか。
 両者の橋渡しとなれる存在なのか。
 そんな風には、全く思えなかった。
 生れ落ちた時から、ルシエラにとって人間のそれではなく魔物の意識が「当たり前」だったとしたら――あの女が人間を理解するのは、無理だ。断言できる。
 魔物を理解できるなら人間は理解できないし、その逆もまた同じ。両者を同時に正しく理解するなんて、不可能としか思えない。
 あの女が、人間相手のコミュニケーションを不得手としているのは、当然なんだ。見よう見真似で、表面的に人間っぽく振る舞ってみせるのがやっとだろう。
 思えば、カンダタのアジトで見かけた時の、この黒マントもそうだったのだ。
 誰に教えられたのか知らないが、無理して人間の言葉を使っていただけで、内容をきちんと人間的な意味で理解していたかは怪しい。
 フードの奥でゆらめく、妖しい二つの光。
 そいつは、今、確実に俺を見た。
 だが、俺に目撃されたことの意味を、全く理解していなかった。
565CC 21-11/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:49:57 ID:OFxh71cO0
 周囲から人気が失せたのは、この場に人間を寄せ付けないある種の結界を、この黒マントが張っているからだ。
 わざわざ、そんな手間までかけてるってことは、今のは密談だったんだろう――だが、マズいところを見られたとかなんだとか、そういう「人間じみた考え」を、黒マントは一切持ち合わせていなかった。
 結界を張ったのは、何者かにそうした方がよいと助言されたから。ただ、それだけ。
 黒マントにとって俺は、人間で言えば密談中にたまたま紛れ込んだ猫と大差なく――違うな。密談なんて発想自体が、あるいは人間的な考え方に過ぎないのか。
 自分がしていたのが、密談だとすら思っていない――いや、そもそも、こいつは何かを「思っている」のか?
 ダメだ、人間の言葉じゃ、俺の脳みそに捻じ込まれた、こいつの感覚が説明できない。
 それにしても、普段相対している魔物に、ここまで異質を感じたことは無い。
 ゆらりと、黒マントが宙に浮いた。
 こいつは、魔物の中でも、さらに異質なんだろうか。
 さながら幽鬼の類いのように、黒マントはすぅと壁を抜けて姿を消した。
 黒マントの人間に対する無理解に、俺は感謝するべきだろう。
 命冥加もいいところだ。
 人がましく口封じに襲い掛かってこられたら、一瞬で殺されていた。
 それは、確実だった。
 飢えた猛獣の前に素っ裸で放り出される――そんな経験はもちろん無いが、そんな目にあってすら、ここまでの確信は持てないに違いない。それくらい、はっきりしていた。
 気がつくと、俺は激しい呼吸を繰り返していた。
 熱に浮かされたみたいに、頭がくらくらして足元が覚束ない。
 冷たいイヤな汗が、全身の毛穴から噴き出している。
 吐き気を堪えきれず、口を押さえた。
 黒マントは、確かに俺がここに居た意味を理解していなかった。
 無視とか、無頓着とか、そういうのとも、少し違う。
 ただ、理解していなかった。
 だが――顔を覚えられた気がした。
 ふと目を向けると、猫は何事も無かったように大きく口を開けて、のんびりと欠伸をしていた。
566CC 21-12/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:54:31 ID:OFxh71cO0
「もう、遅かったじゃない。なにしてたのよ」
 気分が落ち着くまで時間を置いたので、俺の顔つきは平素と変わらなかったと思う。
「いや、あのな。便所に行ってすることなんて、ひとつしかねぇだろ」
 戻った俺を、マグナは「ちゃんと手は洗ったんでしょうね?」みたいな目つきで睨みつけた。当たり前だろ、ちゃんと洗ったっての。
 少し迷ったが――俺は、さっきの出来事を誰にも告げないことにした。
 王宮に忍び込んでいた魔物は、既にファングの活躍で斃されている訳だし、奴等がまたすぐにちょっかいを出してくるつもりが無いことは、さっきの会話で「分からされて」いたし――なにより、俺が早く忘れたかったのだ。
 ゾッとしねぇよ。魔王を斃そうと思ったら、あんな魔物ともやり合わなきゃいけないんだろ?
 やっぱり、こいつに魔王退治なんてさせたくねぇよ。改めて、そう思う。情け無ぇけど――あんなバケモン相手に、守ってやれる自信が、まるで無い。
「――?なによ?」
「いや、別に。待たせて悪かったな」
 怪訝に見返してくるマグナに、俺はとぼけてみせた。
 王宮前広場では、早くも観客席の撤去作業がはじめられていた。ホントに、昨日の為だけの即席だったんだな。贅沢なことで。まぁ、贅沢がこよなく似合う女王様ではあったけどさ。
 広場を抜けて王宮を出ると、出口の脇でフゥマが俺達を待ち受けていた。
 一瞬、俺の陰に隠れる素振りをみせたシェラは、なんとか踏み止まる。宿屋の場所くらい、教えといてやりゃ良かったのに。多分こいつ、お前に会う為に、ずっと待ち伏せてたぞ。
「やぁ、フゥマくん」
 リィナが手を上げて挨拶をし、マグナは相変わらず嫌そうな顔をしたが、心なし、以前よりは表情に険が無いように見えた。
 よかったな、フゥマ。怖くて手強い方のお姉さんも、しぶしぶ認めてくれたみたいだぞ。
「よぅ――あれ、なんでオッサンが一緒なんだ?まぁ、都合良かったけどさ」
「ん?なんか用かい、ボクちゃん」
 アランに子供扱いされて、フゥマはちょっと鼻白んだ。
「そうだよ、オッサン。用があんだよ。後で、ちっと付き合ってもらうかんな」
 言いながら、シェラに顔を向ける。
567CC 21-13/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 01:58:22 ID:OFxh71cO0
「昨日は、ありがとうございました」
 そう言って、シェラは頭を下げた。
「い、いや、こっちこそ」
 フゥマは、ぼりぼりと頭を掻く。
 それきり、しばらく無言が続いた。
 二人きりにしてやった方がいいのかね――けど、リィナは興味津々って顔つきだし、マグナはシェラにヘンなことしたら承知しないからねみたいな目つきをしてやがるし、どうせ陰から覗くことになるだろうから、ここで見ててもおんなじか。
「あの――」
 先に口を開いたのは、シェラだった。
「は、はい?」
 声が裏返ってるぞ、フゥマ。
「昨日、言ってくれたこと……すごく嬉しかったです」
「い、いやぁ」
「でも……」
 シェラは、一旦俯いた顔を上げて、フゥマを見詰めた。
「次に会う時までに、もう一度よく考えてみてください」
「へ?」
 虚を突かれたみたいに、フゥマはきょとんとした。
「い、いや、オレの気持ちは、昨日言った通りだし、別に考える必要なんて――」
「お願いします」
 真剣な眼差しを向けられて、フゥマも表情を改めた。
「……分かりました」
 なるほど。俺が心配してたことくらい、シェラも先刻承知だったらしい。願わくば、一時の気の迷いなんかじゃなく、ちゃんとシェラと向き合ってやって欲しいが――まぁ、もう俺が下手に口出しすることじゃねぇからなぁ。
「お仕事頑張ってくださいね。フゥマさん、すぐ無茶しそうだから、心配です」
「ああ、うん、ありがとう……えっと、その――」
 次に会う約束でも取り付けるつもりだったんだろうが、予めシェラに機先を制されたフゥマは、もごもごと口篭った。
「……シェラさんも、道中気をつけて」
 結局、それだけ言って、シェラの安全について釘を刺すように俺達を見回してから、フゥマはアランに向かって顎をしゃくってみせた。
「――そんじゃ、オッサン。ちっと付き合えよ」
「ん〜、ボクちゃんのお誘いかい。あんまり気乗りしないねぇ」
「ンなら、力づくってことになっけど」
「あらら、おっかない。おっちゃん、脅迫されちゃった」
 背中に隠れたアランを、リィナはちょっと振り返る。
568CC 21-14/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:01:23 ID:OFxh71cO0
「行ってあげれば。なんか用事あるみたいだし」
 あっさり突き放されて、アランはこれ見よがしに落胆の表情を浮かべてみせた。
「ツレないねぇ、お嬢ちゃん。昨日の夜は、あんなに激しくおっちゃんを求めてくれたのに」
「はいはい、そうだったね。でも、ボクの用事はもう済んじゃったし」
「あらら、事が済んだらポイだなんて、そんなに冷たいコだったの?おっちゃん、ショックで倒れそうよ」
「あのね……まぁ、稽古相手には、丁度よかったけどさ」
「いちおう言っとくけど、一緒になんて連れてかないわよ」
 マグナが嘴を挟んだ。
「あんたなんて連れてったら、身の危険が増えるだけだわ」
「いやいや、人生に必要な、ほどよい刺激と彩りと言って欲しいねぇ。それに、今よりきっと、お嬢ちゃん達にお悦びいただける自信はありますがねぇ」
 この野郎、なんで横目で俺を見やがった。
「結構よ。あんたとは、ここでお別れ。ああ、オアシスの時のことは、改めてお礼を言うわね。どうもありがとう。それじゃ、さようなら」
 取り付く島も無い物言いは、マグナの真骨頂だ。
 縋る目を向けたリィナには肩を竦められて、アランは自分でも肩を竦めてみせた。
「やれやれ、名残惜しいねぇ。分かりましたよ。まだ摘むにはホンの少し早いみたいだし、またの会う日を楽しみに――手塩をかけて育てるっていうのも、一度やってみたかったけどねぇ」
 どうせ枯らしちまうから、やめとけ。
「その前に――ちょっとおいで、ぼうや」
 そう言って、手招きをする。
 ぼうやって、まさか俺のことか?
 自分を指差してみせると、アランはひとつ頷いて手招きを続けた。
「なに?ヴァイスくんに、ヘンなこと吹き込まないでよ?」
 疑り深いリィナの視線に、おっさんは両手を振って否定する。
「いやいや、単なる連れションですよ、連れション。それとも、お嬢ちゃんが一緒に行ってくれるかい?」
 連れションて、あんた。俺、さっき便所に行ったばっかなんですが。嘘吐くにしても、もうちょっとマシな言い訳考えろよ。
 おっさんが適当なことしか言わないのは、既に全員よく分かっていたので、誰も突っ込もうとしなかった。
569CC 21-15/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:04:14 ID:OFxh71cO0
「それじゃ、ちょっとお借りしてくよ」
 促されて、しょうことなしに後についていく。
 少し離れた道端で、俺に背中を向けたまま、アランが口を開いた。
「なんかあったのかい?」
「へ?」
 なんの話だ。
「いやね、便所に行ってから、ぼうやの顔つきが心ここにあらずって感じだからさ」
 こいつ、案外鋭ぇな。
「いや、別に何も。つか、坊やは止めてくれよ。俺、これでも――」
 アランは足を止めて振り返り、俺の頬をぎゅっと抓った。
 痛ぇよ、バカ、なにしやがる。
「大の男のつもりなら、あんな可愛いお嬢ちゃん達に囲まれて、小難しいツラしてんじゃないよ」
 そんなに顔に出てたのか――そうかもな。
 さっきの出来事は、未だに俺の調子を狂わせている。それは、自分でもよく分かる。頭から布団をひっかぶってひと晩寝ないと、治らねぇかも――つか、痛ぇっ!いい加減、離せよ、この野郎!!
 手を振り払って睨みつけると、アランはにやりと唇を歪めた。なに笑ってやがんだよ、手前ぇ。
「たったひとりの男でしょうが。頼られようが頼られまいが、頼りにならなくちゃいけないんだよ、お前さんは」
 このオヤジ、人が気にしてることを。
「お嬢ちゃん達を不安にさせるような、辛気臭いツラしてどうすんの」
「あんたに……言われる筋合いはねぇよ」
 よく考えたら、まともに喋ったのすら、今がはじめてじゃねぇか。なんで、こんなこと言われなきゃならねぇんだ。
「だから、ぼうやだって言うんだよ」
 表情から内心を見透かしたみたいに、アランは鼻で笑った。ムカつく。
「いいかい、ぼうや。女ってのは誰でも、男が詮索しちゃいけない秘密を持ってるもんだ。そいつは分かるな?」
 なにを突然、どっかで聞いたような台詞をほざきやがる。
 無視していると、アランも黙したまま俺から視線を逸らさなかった。
 くそ、俺が頷くまで、黙ってやがるつもりだな。
「……ああ」
「よーし、いいコだ――だがな、あのリィナってお嬢ちゃんの抱えてるモンは、普通の女のソレとはちぃっとばっかしワケが違うみたいだ」
「……分かってるよ」
 あんたに言われるまでもなくな。
570名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/14(水) 02:06:22 ID:3eZPccTH0
支援
571CC 21-16/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:06:22 ID:OFxh71cO0
「ほぅ、そりゃ結構。なら、お前さんがどうするべきなのかも、分かってるな?」
 アランは俺の首根っこに腕を回して、ぐぃと自分の顔に引き寄せた。苦しいっての、このクソオヤジ。無精髭がじゃりじゃりして、気持ち悪ぃよ。
「よく聞けよ、ぼうや。いっくら強いったってな、あのお嬢ちゃんは女の子だ」
 どん、と俺の胸を拳で打つ。だから、痛ぇよ。
「お前さんが大人の男ってんなら、気をつけて守ってやんなきゃいけないんだぜ?分かってるか?」
――うるせぇな。
「分かってるよ」
 ニヤリと笑って腕を緩め、俺の頭をよしよしと撫でる。
「はい、お利口さん」
 やめろ、バカ。
「けどな、お利口さんも、場合によりけりだ。なんでも、あんまり小難しく考えなさんな。男はここぞって時だけ、しっかり腹を据えとけばいいのよ――ほれ、不景気なツラすんじゃないの」
 俺の眉間に寄った皺は、アランの指で無理矢理伸ばされた。
「人生とはコレすなわち、愛と冒険よ。もう少し気楽に愉しんでも、バチは当たんないんだからさ、ま、頑張んなさいよ、ヴァイス君」
 背中をどやしつけられた。
 言いたいことだけ言うと、アランはさっさとリィナ達の方に戻っていく。
 くそ、なんなんだよ。
 おっさんがリィナを心配してるのは分かるが――やっぱり、俺って端から見たら、そんなに頼りなく見えんのかね。
 にしても、昨日今日の付き合いの癖しやがって、リィナのことを分かってるみたいな口振りなのが気に喰わねぇ。手前ぇなんぞに、わざわざ言われなくたってなぁ――
 前を歩くアランに聞かれるのがシャクで、俺は溜息をなんとか堪えた。
「お待たせ、ボクちゃん。それじゃ、お話を伺いましょうか。女か金のどっちか出てくるお話じゃないと、おっちゃん途中で眠っちゃうから、そのつもりでいてよねぇ」
「あ、ああ。もう済んだのか。それじゃ、シェラさん、また――」
「はい、また――」
 シェラとフゥマは、お互い微妙に視線を逸らせながら、二人して語尾を濁した。
 気楽に愉しめなんて、こいつらにこそ言ってやれよ、このクソオヤジ。
572CC 21-17/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:08:51 ID:OFxh71cO0
「じゃあねぇ、お嬢ちゃん方。お名残惜しいけど、またお会いしましょうねぇ」
「うん、昨日はありがとね、おっちゃん」
「いやいや、こちらこそ。お陰さんで、女王様を間近で見られて、おっちゃん感謝感激よ」
「どっかで会ったら、また稽古に付き合ってよ」
「はいはい、喜んで。今度はアッチのお稽古にも、付き合ってちょうだいねぇ」
 最後までしょーもないことをほざきながら、おっさんは肩越しに手を振って、フゥマと共に去っていった。
 遠ざかるフゥマを凝っと見送るシェラに、声をかける。
「あれで、よかったのか?」
「え――はい。やっぱり、ちょっと時間を置いた方が……私も、もう一度、ちゃんと考えます」
 こちらを振り向いて、微かに笑った。
「あの――フゥマさんには、まだ神殿の話とか、しないでくださいね」
 そうだな。またややこしくなっちまいそうだし、それがいいかもな。
「ああ。分かった」
 お前に任せるよ。
 ホントに、俺なんかより、よっぽどしっかりしてるしな。
「で、おっちゃんに、なに言われてたの、ヴァイスくん?」
 リィナが、覗き込んできた。
「別に。大したこっちゃねぇよ」
 お前に言えるかよ。
「ホントにぃ〜?」
「ヘンなこと話してたんじゃないでしょうね」
 マグナまで口を出してきやがった。
「だから、しょーもねぇ事だって。あのおっさんが下らない事しか言わねぇのは、お前らもよく分かってるだろ」
「まぁねぇ」
「そりゃそうだけど」
 疑わしげな目つきながらも、どうやら納得したようだ。おっさんの人徳の無さがありがたいね。
 よりにもよって、あんなフザけたおっさんにまで、お前は頼りにならねぇから、もっとしっかりしろとか言われてたなんて、口が裂けても言いたかねぇよ。
573CC 21-18/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:11:19 ID:OFxh71cO0
 その日はそのまま一日休んで、翌日、砂漠の案内人の組合を尋ねた俺達は、幸いまだ客を取っていなかったナジに再び案内役を頼んで、イシス王都の真北にあるというピラミッドを目指して出発した。
 砂漠の旅は、相変わらず過酷だった。
 秋も深まる頃合だというのに、一向に気温が下がる気配すらなく、灼熱の太陽が、極寒の夜陰が、容赦無く俺達の体力を奪っていく。
 途中で無人のオアシスに立ち寄っても、マグナはもう泳ごうとしなかった。信用無いね、俺も。まぁ、そうなったら、もちろん覗くんですが。だって、それが礼儀ってモンだろ。
 うんざりするほど単調な、砂まみれの道程を経て、辿り着いたピラミッドは――
「うっわ、すっごいね〜」
「なんなの、コレ。ホントにお墓?」
 アホみたいに大きかった。
 ホントに、なんだこれ。大きさを表現しようにも、上手い言葉が見つからない。これまでに目にしたどんな建築物も比較の対象にはなり得ず、正直なところ人工の山にしか見えない。
 四角錐の形に石を積み上げただけの王家の墓は、造りとしては非常に単純だ。だが、その石の数と大きさが、半端ではない。
 両手でも抱えられない――というか、どうやっても持ち上がりそうもないデカい石が、文字通り無数に積み重ねられているのだ。
 こんな何も無いトコに、どうやって造ったんだよ、コレ。
 たかが個人の墓だってのに、こんな馬鹿デカいモンを造っちまうようなお国柄だ。武闘大会の観客席を急造で拵えちまうくらい、大したことじゃなかったのかもな。
「ん?誰かいるよ?」
 リィナの言葉にそちらを向くと、ピラミッドの麓に人影が小さく見えた。
 数はふたつ。
 ひとりは、地面にへたり込んでいる。
 傍らに立つ、もうひとりの被ったフードを目にして、俺の心臓はぎくりと縮み上がった。
 違う――落ち着け。あの魔物じゃねぇよ。色だって、黒じゃなくて煤けた白だ。
 まいったね。相当ビビってんな、俺。
 って、おい、ちょっと待て。
「あれって、フゥマさんの……」
 シェラが呟いた。
 そう、フードの主は、あのにやけ面だった。
 二度と会いたくなかったんだが、こんなトコで出くわしちまうとは、よっぽど縁があるのかね。切れるモンなら切っちまいたいところだが。
574CC 21-19/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:13:35 ID:OFxh71cO0
「あ……」
 マグナは、もうひとり――地面にへたり込んでいる方を見て、声を漏らした。
 俺は、舌打ちを堪える。
 ボロボロのナリをしてやがるが、見忘れよう筈もない。
 マグナが気になってしょうがない男。
 あれは――アルスだ。
 あいつら、仲間だったのかよ。ますます胡散臭ぇな。
 連中は元から俺達に気付いていたらしく、アルスがよろよろと立ち上がるのを待って、こちらに歩み寄ってきた。くそ、来んじゃねぇよ。
 敵対関係と決まった訳でもないから、いきなり戦闘になる確率は低いと思うが――ナジに礼金を渡して、この場から離れるように言い含める。
 俺達は、帰りはルーラでひとっ飛びだからな。ご苦労だが、ラクダはナジに連れ帰ってもらう手筈になっていた。
 手短に別れの挨拶を交わして――無口な小僧は、黙然と頷き返しただけだったが――ラクダの頭を巡らせたナジと入れ替わりに、にやけ面とアルスがすぐ近くで足を止めた。
「これは、また――皆さんとは、思いがけない場所でばかりお会いしますね」
「ちょっと、どうしたの、その格好――大丈夫?」
 にやけ面の台詞をまるきり無視して、マグナが心配そうにアルスに声をかけた。
 ズタボロの旅装を纏ったアルスは、自嘲気味に笑う。
「ああ、大丈夫だ。傷自体は、もう治っているからな。見っとも無いところを見られたもんだ」
「そんなことないけど……」
「おや。アルスさんも、こちらの方々と既にお知り合いでしたか」
 アルスは、にやけ面に顎を引いてみせた。
「ああ。前に街で興味深い人間に会った話をしただろう。あれは、このマグナの事だ」
「ほぅ。それはそれは」
 にやけ面は含みのある物言いをしたが、まるで表情が変わらないので、その内心はさっぱり読めやしなかった。
575CC 21-20/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:15:49 ID:OFxh71cO0
「……あそこで、何してたの?」
 マグナの問いかけに、アルスはなんでも無さそうに答える。
「ちょっとした探し物だ」
「探し物って……まさか、『魔法の鍵』じゃないでしょうね?」
「ん?いや、違う。そうか、マグナはそれを探しに来たのか。それは知らなかったな」
 こいつが、歳に似合わず芝居が上手いってんじゃなければ、どうやら本当に知らない顔つきだった。
 鍵を巡って争わずに済んで、マグナはほっとした様子だ。
 お前、こいつが先に鍵を手に入れてたら、ちゃんといつもみたいに横からぶん捕ろうとしたんだろうな?
「『魔法の鍵』ですか。それは、我々には必要の無い物ですね。墓泥棒に持ち出されていなければ、まだ中にあるんじゃないですか?」
 と、にやけ面。
「これからマグナ達も、ピラミッドに入るのか?」
「ええ――そのつもり」
 くそ、お前ら、見詰め合ってんじゃねぇよ。
「なら、通路の真ん中を歩かないことだ。地下に続く落とし穴があるんでな」
 野郎は、ちらっと俺に目をくれた。
「地下は魔法が封じられている上に、魔物ともつかない奇妙な亡者共がウヨウヨしている。落ちたら厄介だぞ」
 落ちたら、俺は役立たずだって言いたいのか、この野郎。
「うん、ありがとう。気をつける」
 礼なんか言うな、マグナ。
「もう地下には、何もありませんからねぇ。確かに、落ちないに越したことはないでしょう。『魔法の鍵』は、おそらく上の方にあるんじゃないでしょうか」
 ご親切に、どうも。手前ぇらなんかにゃ、何も聞いてねぇんだよ。
 ちょんちょん、と脇腹を突付かれた。リィナだ。
「ヴァイスくん、顔が怖いよ」
 ひそひそ声で、そんなことを言ってくる。
 馬鹿言え、ンなことねぇよ。シェラも、そんな顔すんなっての。
576CC 21-21/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:20:59 ID:OFxh71cO0
「さ、では戻りましょうか。呪文で回復したとはいえ、アルスさんには、お独りで亡者の群れをお相手していただきましたからね。少し休んでいただかないと」
 やけに説明的な、にやけ面の台詞回しだった。どういうつもりだ、こいつ。
 案の定、すぐにマグナが反応する。
「独りって――あんたが一緒だったんじゃないの!?」
「いえいえ、私はつい先程、お迎えにあがったばかりですよ。アルスさんが仰ったように、地下は魔法が使えませんからね。私がご一緒しても、足手まといになるだけです。休み無く襲いくる亡者を蹴散らして、無事に生還なさるんですから、本当にアルスさんは大したものです」
 何をわざとらしく、持ち上げるような事をほざいてやがる。
「なに言ってんの?なんで、そんな危ないトコに、独りで行かせたりしたのよっ!?」
「いや、いいんだ。俺が自分で行くと言ったんだ」
 肩に手を置かれて、マグナはアルスを見上げる。
「でも……」
 なんだなんだ、その心の底から気遣ってるみたいな目つきは。
「それより、マグナが心配だ。ここの亡者共は、なかなか手強い。俺としては、マグナにあまり入って欲しくないんだが――」
「だいじょぶ。心配要らないよ」
 リィナに言われて、アルスは二枚目面に微笑みを――じゃなくて、くたびれた小汚いツラに嫌味ったらしい薄ら笑いを浮かべた。
「そうだな。あんたがいれば、心配無いか」
 アルスは、マグナの髪を撫でる。汚ぇ手で、気安く触んじゃねぇよ。マグナも、なんで文句言わねぇんだ。そいつが俺だったら、絶対嫌な顔するだろ、お前。
「じゃあな。こんな場所でなければ、もう少しゆっくり話したかったが」
「あ、うん……あんまり無茶しないでね」
 ケッ。もっと無茶して、どっか知らねぇところでくたばりやがれ。
「それでは、いずれまたお目にかかりましょう」
 にやけ面はアルスを促して少し離れると、ルーラを唱えた。
 うるせーうるせー。手前ぇら、二度とそのツラ見せんじゃねぇぞ。
 野郎が去った後を見送るように、マグナは空を見上げていた。
 いや、あのな。ルーラは別に、空飛ぶ魔法じゃねぇからな。
577CC 21-22/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:22:33 ID:OFxh71cO0
「――な、なによ?」
 振り返って俺の顔を見るなり、マグナはぎょっとして口篭った。
 なんだよ、そんなに不機嫌なツラしてんのか、俺?
「別に」
 って、低っ。これ、俺の声か?
 マグナは、少し困った顔を見せた。
「あのね――前にも言ったでしょ?アルスとは、そういうんじゃないんだってば」
「別に、何も言ってねぇだろ」
 声を普通に戻そうとして、失敗した。
 すげぇぶっきら棒な口調になっちまった。
「なによ、その言い方……言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ」
「なんもねぇよ」
「嘘。顔に書いてあるじゃない」
「書いてねぇよ。なんだよ、それ」
 いつの間にやら距離を置いて、シェラはハラハラした顔つきで、リィナはにやにやしながらこちらを眺めていた。
 マグナが、俺の目を見た。
「ホントに……何も無いの?」
「……ああ」
 俺は、目を逸らした。
「……なによ、バカ」
 微かな呟きが、辛うじて耳に届いた。
 そうね。バカかもな。
 でも、俺は――
『なんでも、あんまり小難しく考えなさんな』
 やかましいんだよ、クソオヤジ。
 ひょっこり出てきて、何も知らねぇクセに、さんざん好き勝手ぬかしやがって。
 俺は、こうなんだよ。今さら変えられるか。文句あんのか、この野郎。
578CC 21-23/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:25:16 ID:OFxh71cO0
「それにしても、あのアルスくんって人、マグナとお似合いだよね〜」
 聞こえよがしに、リィナがシェラに話しかけた。
「え――あの」
「なんて言うんだろ、並んでるとハマって見えるっていうか、すっごい自然な感じがするよね」
「――そ、そうかも知れませんね……うん、そうですね。私も、お似合いだと思います」
 示し合わせて、俺に何を言わせようってんだ。女同士で結託しやがって。
 ヤキモチ焼いてました、って言やぁ満足なのかよ。
「ちょっと、二人とも、何言ってんのよ。だから、そういうんじゃないって――」
「そうだな。お似合いなんじゃねぇの」
 我ながら、気の無い口振りだった。
 リィナが、「あちゃぁ〜」みたいな表情を浮かべる。
 いいから、お前は余計なことすんなっての。見え透き過ぎてんだよ。
 アランのおっさんなら、分かってても乗っかるところなんだろうけどな、生憎と俺は、坊やらしいんで。
「また、ぽ〜っとした顔で見とれてたしさ。別に無理して、『そういうんじゃない』とか否定しなくてもいいんじゃねぇの」
「なによ、それ……」
 マグナの顔に浮かんだのは、怒りや苛立ちではなかった。
 伏せた目の上で、睫毛が微かに震えている。
「なんで……そんなこと言うのよ。あの時――分かったって言ったじゃない」
 あれ?
 反応が、予想と違う。
 てっきり、ムキになって言い返してくるかと思ったが――
「嘘吐き。結局あんたは、いっつもその場しのぎの適当な事しか言わないのよ」
 息が詰まった。
 こんな流れで、こんな場所で、いきなり図星を突かれるとは思わなかった。
「あたしの言ったことなんて、どうせいっつも適当に聞き流してるんでしょ。なによ、こっちは真面目に喋ってるのに――なんなのよ」
「いや、聞き流してる訳じゃ――」
「ぼ〜っと見とれてたのなんて、あんたも同じじゃない。バカみたいな顔して、イシスの女王様にポカンて見とれてたのは誰なのよ」
 今頃、そんなこと言うか?
「いや、あのな。女王様なんて、それこそそういう対象じゃねぇだろ」
 大体、謁見の後、「素敵な方でしたね〜」ってシェラの台詞に、お前だって頷いてたじゃねぇか。
579CC 21-24/24 ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:27:18 ID:OFxh71cO0
 だが、マグナは今の俺の言葉なんて、聞いちゃいなかった。
「やらしいカッコした女の人が居たら、ふらふら寄ってったりしてさ。美人とみれば、すぐ鼻の下伸ばすし、誰とでもキスするし、あの時だって――とにかく、あんたなんかにあたしの事を、とやかく言われたくないわよ」
 ふらふら寄ってったのは、アッサラームの時のことか?
 美人は――多分、スティアか。そんな、過去まで遡って、今さら文句を言われましてもね。
「なによ、あたしがアルスに見とれるのなんて、当たり前じゃない。あんたなんかより、全然格好良いんだから」
「……そうだな」
――勝手にしろよ。俺には関係ねぇよ。
 そう言いかけて踏み止まり、実際に口にした言葉は、おそらく無難過ぎた。
「――バカッ!!」
 そう吐き捨てると、マグナは踵を返して、足早にピラミッドの入り口に向かって歩き出す。
 マグナに言わせれば、また俺は、その場しのぎの適当な事をほざいちまった訳だ。
「ヴァイスくん、今のはちょっと無いんじゃないの〜?」
 うるせぇな、分かってるよ、リィナ。
 シェラには、溜息を吐かれた。言いたいことがありすぎて、言葉にならなかった感じの溜息だ。
 マグナの後についていく二人を見送って、俺の足は動かなかった。
『あなた、今のままじゃ、いつか行き詰るわよ。お兄ちゃん、ってだけじゃね』
 スティアに受けた忠告が、呪いみたいに気重くのしかかる。
 分かってるよ。その気が無いなら、もっとそれなりに振舞うべきだよな。
 そうじゃないなら――
 でもさ、マグナ。俺がどっちつかずの態度を取っちまうのは、適当に考えてるからじゃないんだ。踏ん切りがつかねぇのもさ。
 だって、いいのかよ――
 俺なんかが――
 だって、お前は――
 違う、そうじゃねぇだろ――
 俺は無意識に頭を掻いて、天を仰いだ。
 空が――高い。
 くそ、人の気も知らねぇで、アホみたいに青々と晴れ渡りやがって。
 見渡す限り広がる砂丘に、一点の曇りもない蒼穹。
 広大な風景の中にあって、自分がとてもちっぽけな存在に思えて、細かいことをウダウダ考えるのが馬鹿馬鹿しく思え――たりすることもなく、俺は深々と溜息を吐いた。
580CC ◆GxR634B49A :2007/03/14(水) 02:42:15 ID:OFxh71cO0
ということで、21話をお届けしました。
単なる意地の張り合いの口喧嘩でなくなったのを感じていただければ幸いです。
いま物凄い眠くて、全然頭が働いてませんが、今回ちょっとアレだったかも〜。
途中で投下止めようかと思いましたw
すいません、次回はもっと盛り上げますから><

ちなみに今回は、イシス城の猫に取り付いた魔物を利用しました。
好き勝手書いてるようで、意外とゲーム内のNPCを取り込んだりしてます。
当作では、魔物を非人間的なものとして扱ってるので、脅し文句は言いませんでしたが。

そろそろ次スレを考えないとですね。
残りの容量からすると、次回はスレまたいじゃうかな。

うぅ。。。眠たすぎる。。。おやすみなさい。。。
581名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/14(水) 06:46:25 ID:KnBn7dRNO
CC氏いつも乙です
ヴァイスのひねくれ者っぷりがリアルすぎw
582名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/14(水) 19:29:17 ID:AfkMaWEo0
CCさん乙です
このスレ見てから、久々にSFCのDQ3をやってるけど
確かに、NPCの会話でニヤリとする場面がありましたよw
583名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/14(水) 21:09:58 ID:2d4K4fq00
CCC乙です。
ヴァイスガンバレ超ガンバレ。
584見切 米:2007/03/14(水) 23:57:54 ID:lHYqSnYP0
あー駄目だ。
頑張ってみたけど、今日中の投下無理。
仕方ないから、今年も誕生日のケーキ食ってくノシ
585名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/15(木) 00:59:30 ID:vZ64DIcRO
CC氏乙でした。
586名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/15(木) 02:22:19 ID:wJWbYS3q0
>>見切りドピュ氏
お、ケーキですか。ケーキを一緒に食べる人がいる人はうらやましい・・・
587名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/15(木) 03:05:57 ID:vZ64DIcRO
sage忘れスマソ
588CC ◆GxR634B49A :2007/03/15(木) 03:54:37 ID:Mx12hGhx0
レスありがとうございました〜
う〜ん、やぱし今回はそれなりでしたかねw
NPCは、ホントにどうでもいい端役とか、言葉は同じだけど意味が違うのとかいたりします。

この先ニ、三話のマグナとヴァイスの関係を知らなかったんですが、
さっき急に見えたので、次回は戦闘も予定してるし、
それなりに盛り上がるといいですね。
まだ、細部どころか構成も見えてませんがw
あと、書く時間と気力も問題です><

つか、ホントに投下時期カブらなくてもw
589見切りドピュ 米:2007/03/15(木) 20:17:57 ID:VylEQBqn0
あれですよ、わたしが遅筆だからしょうがないんです。
全然文量が少ないのに、全くもう。

ということで、此処から投下してみたいと思うのですが。
万が一スレが埋まっちゃったらちゃんと立てておきますね。
………スレ立て出来なかったらどうしよう?
590見切りドピュ:2007/03/15(木) 20:19:25 ID:VylEQBqn0
最後のシルバーデビルの胸板に刃が沈む。
呪文を唱えようと開いた口から血が溢れ、全身が痙攣する。
刃は間違いなくシルバーデビルの心臓を破壊していた。直ぐに全身から緊張が抜ける。
根本まで刺さった剣を一気に引き抜くと、その躯は一気に崩れ落ちた。
雪原に横たわる魔物たちの死体に一瞥をくれると、直ぐに周囲に目をやる。
益々勢いを増す吹雪は、視界の殆どを奪っている。
此ならば、魔物にとっても周囲を視認することはむつかしいだろう。
ならば、と。魔物の気配を探る事よりも、方角を失う事を恐れて再び歩き出す。


風の音とその冷たさが耳に痛い。
距離から云えば、もうそろそろハーゴンの神殿があるとされる場所だ。
……手に入れた地図に間違いがなければ、の話だが。
体力については問題はない。ロトの鎧の加護だろうか、寒さで体力を奪われると云うことは無い。

となれば、問題は時間だ。

予定ではそろそろハーゴンの元に辿り着いていなければならない。
そんな時間的束縛さえなければ、コナンを置いてくることなど無く戦力を整えて此処まで来ていた筈だ……。
豪雪の中、唯の一人で歩を進めていると、全てがハーゴンの手の上で踊らされているような気分になってくる。
自分の計画が、児戯でしかないものであり、閉じゆく罠に身を躍らせているような―――

弱気でしかないその思いを、首を振って追い出す。
もし全てがハーゴンの手の内にあるのならば、罠にかかるのは自分だけでは済まない。
二人の仲間も、彼の祖国も、全ての人々が絶望の内に命を落とすことになるだろう。
此処まで来たからにはアレンのすべき事は、例え罠であったとしても其れを打ち砕いて、ハーゴンを討つこと。
その為には――――
591見切りドピュ:2007/03/15(木) 20:21:29 ID:VylEQBqn0
その時、一際強い吹雪がアレンを襲う。思わず閉じられる目。立ち止まる足。
そして。身構えた身体に降り注ぐ暖かなものに気が付く。
耳の外であれだけ吹き荒んでいた吹雪の音も聞こえない。
寧ろ、全てを拒むかのような荒れ狂う風の音ではなく、草原を渡る微風の囁きが耳をくすぐる。
戸惑いながら見開いた目に映った其れは、見慣れた光景。見知った城門。
「どういう………」
言葉は途中で途切れてしまう。其れも当然であろう。
アレンの目の前に広がる其れは、天に最も近き魔の大地ではなく、
かつて竜王を討伐した勇者が、彼の人を慕う姫と共に創り上げた国。
そして彼の故郷、ローレシアに他ならないのだから。


半ば呆然としつつも、城を見上げる。
本当に自分は帰ってきたのか、帰ってきたならどういう力が働いたのか。
せめて城内にさえ入れれば、最初の疑問については解けるはず。
忍び込むことも含めて入る方法を一瞬考えたが、結局正面から向かうことにして歩を進める。

衛兵の姿が視界に入る。
さて、一体どんな反応が来るものかと身構える。が。
「アレン様っ!!」
城壁の上に立つ見張りの兵の一声に、思いっきり肩透かしを食らう。
「王子っ!!」
「殿下っ!!!」
「アレン王子が帰られたぞっ!!」
「よくぞご無事でっ!!」
門は開け放たれ、続々と飛び出してくる人々から声を掛けられる。
そして、直ぐに人集りに囲まれた。見知った、懐かしい顔々が駆けつける。
「王子様……こんなにご立派になられて…………」
「此でローレシアの国も安泰ですなっ!」
592見切りドピュ:2007/03/15(木) 20:22:42 ID:VylEQBqn0
それにしても此は集まりすぎだろう。
正しく群衆の中心にいるアレンは、もう一歩たりとも進むことが出来ない。
そのことを喜ばしく思いつつも、国王に会う必要のあるアレンは声を上げる。
「再会を祝してくれるのは嬉しいが、陛下へのご報告がまだ済んでいないっ!
お目通りが済んだ後に、再び皆と語らいたいと思うので、今は道を空けて貰えないだろうかっ!」
一瞬騒然とするものの、まるで海が割れるかのように城内へと続く道が開く。
見られていることを意識しつつ、悠然と歩みを進める。
常に民衆の目を意識すべし。其れは今から会う父から教えて貰ったことだ。

城内を歩く。
目に映るもの全てが懐かしい。旅に出るまで過ごした場所なら、其れも当然か。
会う人会う人に声を掛けられるが、一言二言だけ交わして先へ進む。
気になることが出来ると、其れが解決するまで他に目が行かないのは自分の欠点か。
今は唯、父王と会うことしか考えられない。
そして王の間は、この階段を上った先にある。


ローレシア王と向かい合うアレンの顔は、困惑しきっていた。
王の間は記憶の通りだし、立ち並ぶ兵士の顔も全て見知った顔ぶれだ。
勿論玉座に腰掛ける父王も、最後に見たときと変わりない姿をしている。
ただ、どうしての其の左右にコナンとナナが居るのだ。
コナンはベラヌールでハーゴンの呪いに苦しんでいる筈だし、ナナはあの祠に――もとい、後を追っている筈。
ローレシアにいきなり戻ってきたのと同じくらい信じられない光景に、アレンの頭は真っ白になる。
593見切りドピュ:2007/03/15(木) 20:23:40 ID:VylEQBqn0
「よくぞ戻った、我が息子アレンよ」
その声にハッとし、我を取り戻す。
悪戯に考えても出ない答えはひとまず棚上げする。
「……挨拶が遅れて申し訳ありません。不肖アレン、ただいま無事に戻りました」
「うむ、うむ。世界は平和になったのに、お主一人だけが戻らぬ。
わしは其れだけが心配だったのだぞ?然し、良く戻った。戻った。」
「……は?」
耳に届いた信じられない言葉に、思わず声が出てしまう。
「父上に一つお尋ねしたい。世界が平和になったとは、誰か他の者がハーゴン討伐を成し遂げたということですか?」
その言葉に、今度は父王が顔色を変える。いや、父王だけではない。
その横に控えるコナンもナナも、また視界の範囲に居並ぶ臣下も同様だ。
「ふ……む。長く国を離れていたからな、知らないのも仕方のないことか」
気を取り直して父王は口を開く。

「ローレシアは、ハーゴン殿のものになったのだ」

今度は声すらも出せなかった。
其れをどう取ったのかは知らないが、言葉を続ける。
「全ては誤解だったのだよ。わしもな、直接ハーゴン殿にあったのだが、とても気持の良いお方だった。
ハーゴン殿は世界平和を考えて、教えを広めていたのだよ」
良く知っている声で、ハーゴン賛歌を語られると頭が狂いそうになる。
「その教えと考えに共感できたからこそ、わしもハーゴン殿の部下にして貰ったのだ」
助けを求めてコナンに視線を向ける。
「ハーゴン様がボクに呪いを掛けたのも、命を奪うためではなく、
ぼくがロンダルキアに続く洞窟で倒れるかも知れないから、無事でいて欲しいと願って、
足止めするために、掛けてくれたものなんだ」
だが、返ってきたのは今までの全てを覆す発言。
「だけど、ぼくの父上もハーゴン様の教えに共感して部下にして貰ったから、ぼくの呪いも解かれたんだ。
置いていかれたときは君たちを少し恨んだけど、今はもう気にしてないよ」
『恨んだ』と云う言葉に思わず眉を顰める。あれは寧ろコナンから云い出したこと。
594見切りドピュ:2007/03/15(木) 20:24:47 ID:VylEQBqn0
ナナは、と契りを交わした女の顔を見る。
「あの後直ぐにね、ハーゴン様がやってきたのよ」
弾んだ声が耳に届く。
「ムーンブルクを攻めたことを悔いた様子でね………先ずはそのことを謝ってくれたのよ」
何を云っているのか―――
「あの国を失ったことは確かに寂しいことだけど、もっとね大事なことがあるのよ、アレン」
判らない―――
「きっと、お父様だって仕方のないことと思ってくれてるわ」
その言葉に耳を疑う。流したあの涙は。全てを押し殺したあの声は。仇を討つと誓ったその想いは。
「其れにね、ハーゴン様はお父様たちの供養だってしてくれたのよ。
きっと天国で喜んでいるに違いないわ」

―――ソレイジョウカタルナ

「意見の食い違いから争いは始まるけど、其れを止められるのがまた人の良いところだと思うのよ。
ハーゴン様は、今までの行き違いの全てを赦してくれるって云ってるわ。」
にこやかに父を殺した男の事を賞賛する。

―――語るな

「だから、もうハーゴン様と戦おうなんて馬鹿げたことを考えないで。
ハーゴン様の教えに共感して暮らせば、今よりずっと豊かに平和を共有できるのよ。
ねぇ、アレン―――――」
言葉を留めることなく、ゆっくりアレンに向かって歩を進める。

―――騙るな

一閃。
背中に収められた大刀は、その名の如く稲妻の速さをもって女の身体を両断する。
笑みを張り付かせたままの顔が、それ以上騙ることなく横滑りしながら下に墜ちる。
完全に崩れ落ちるのを待たずに、その勢いを使って駆けるとコナンの心臓を一突きにする。
瞬間、静寂がその場を支配した。
595見切りドピュ:2007/03/15(木) 20:26:07 ID:VylEQBqn0
「これ以上、アイツを汚すな」
漸く絞り出した声は嗄れきっていたが、物音一つ掻き消えた王の間には良く響く。
その言葉で時間が動き出したかのように、怒声と悲鳴が王の間を満たした。
陛下をお守りしろ、という言葉が響くと、兵士たちがアレンに向かってくる。
数は7。相手にする必要もないのだが、純粋な怒りに囚われたアレンは其れに立ち向かう。

先頭を切って剣を振るってきた兵士の一撃を、ロトの盾で受け止めると、そのまま力任せに押し飛ばす。
アレンは後ろの兵士を巻き添えにして倒れ込んだ其の兵士目掛けて、大上段から剣を振り下ろした。
その一撃は前の兵士の頭をかち割り、後ろの兵士は肩口から肺まで刃が達し戦闘不能に追い込む。
背中から迫る兵士には、振り向きざまに振るった一閃は、肩から利き手を切り落とす。
残りは4人。だが、今までの戦い振りに恐れを為したのか、腰がすっかり引けている。

溜息を一つ突いて兵士らに一瞥をくれると、父王に切っ先を突きつけた。
「何を……考えている?」
そんな状況であろうとも、全く怯んだ素振りを見せないのは流石というべきか。
「何を考えている、だと?偽物が何を云う」
其処で、有ることに思い至る。
「そういえば……ハーゴンはまやかしを操るのが得意だと誰かが云っていたな。
となれば、此はそういうことか………。なら、もうアンタには用はない」
無造作に振るった剣は、父王の首を落とした。玉座から転がり落ちる躯。
「……例えアンタが本物だったとしても、ハーゴンに屈した国王など必要ない」
そう呟くと、道具袋からルビスの護りを取り出す。
其れは、此方に訴えかけるように僅かに光を放っている。

――――アレンよ――騙されてはいけません―――
  ―――これらは全て幻―――さぁ――しっかりと目を開き――
   ―――自分の目で――見るのです――――

「………よ」
誰の耳にも届かない呟き。そしてルビスの護りから更なる光が放たれる。
王の間を、偽りのローレシアを白い光で染め上げていく―――
596見切りドピュ 米:2007/03/15(木) 20:39:57 ID:VylEQBqn0
そんなわけでマーダーライセンスアレンをお送りしました。(えー
まやかしだという確証が無くてもザシュザシュ斬りまくるアレンて怖いよね。
無事に投下完了、というかもう少し余裕がありますね。
ただ、CC氏が書き込む前に新スレ立てた方が良いような気もしますが。

今回書き上げる前にふと思い立ったことがあり、七編を読み返してみたのですが。
当時の自分偉いよ凄いよ萌え萌えだよ(*´Д`)ハァハァ
と、自画自賛してみる。(何云ってんのこのウジ虫)

それはそうとして、七編が終了してから半年経っていることに愕然。
どれだけ長いこと放置してたんだ、わたしはorz
597名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/15(木) 22:29:12 ID:wJWbYS3q0
おお!!ドピュ氏乙!!
しかしこのシリアスな雰囲気にナナがどう溶け込むんだろう。
598名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/15(木) 23:56:12 ID:YprV7CxjO
見切り氏乙です!
このアレンは、あのスケベゴーグルと同じ人でつか?
メチャ鬼やんwww
599CC ◆GxR634B49A :2007/03/16(金) 21:57:28 ID:4211qCIW0
そですね〜。容量的に、私の次回投下は新スレのがよさそうですね。
その時期が、なるべく早く来るといいなぁ。他人事かw

クライマックスはまだニ、三話先かと思ってたんですけど、
次回はクライマックスの序盤の序盤みたいな感じになるかもです。
だから、結構サイズいっちゃうかも。その分、面白くなるといいんですが。
クライマックスの序盤を早く書きてー。本番は、大変そうで気が重いです><
600CC ◆GxR634B49A :2007/03/17(土) 23:01:13 ID:TTiNvt1i0
普通にほしゅ
601見切りドピュ:2007/03/18(日) 00:05:06 ID:45Okmfkp0
光の帷が晴れた後に広がる光景は、故国とは似ても似つかぬモノだった。
まるで廃墟の如く空虚な大広間。人という存在を否定するかの如き圧迫感。
目の前の、醜悪としか云いようがないオブジェのような玉座。
そして、その前に転がる魔物の遺体。
其れを見たとき、怖気が走った。
即ち相手がその気だったなら、幻術の中でアレンを殺めることも可能だったということだ。
完全に、とまではいかないが、警戒が途中まである程度解けていたのは事実である。
今此処で息をしていることは、ただ単に運が良かっただけのこと。

アレンは兜を脱ぐと、拳を握って自分の頬を撲った。
「い………っつ」
思っていたより力が入ってしまっていたようだ。というか、手甲を甘く見ていただけかも知れない。
予想していたよりだいぶ痛む。口の中に広がる鉄の味。
だが、半ば夢見心地だった意識はしっかりと引き戻された。
兜を被り直し、しっかりと緒を締める。
此処は天に最も近き大地、ロンダルキアにある邪教の根城、ハーゴンの神殿だ。
602見切りドピュ:2007/03/18(日) 00:06:01 ID:Y5tBQBaf0
バリアの威力を退けるロトの鎧の効果を確認しながら、神殿一階を歩く。
体力を一気に奪っていく筈のバリアは、アレンの肉体に影響を及ぼすことはなかった。
鎧表面で、弾けるようなものが見えるが、それ以上のなにかが起こることはない。
ふと、以前に止めるのも構わずバリアに突入したことを思い出す。
あの時はその威力なんて物は知らなかったら、甘く見ていた所為で酷いことになった。
数歩歩いた時点で意識を失い、気が付いたときには心配そうナナの顔が目の前にあった。
頭の後ろの心地よい感触についてコメントしなかったのは、我ながら賢明な判断だったと思う。

思わず緩んでしまう口元を、しっかりと結ぶ。
油断は禁物だが、この状況下では仕方のない部分もある。
なぜなら、此処には魔物の気配というのが全く無いからだ。
事実、先に進む道を探して彷徨いているが、此処に至るまで一度も敵と遭遇していない。
通常は幻術で守りを固めているから兵は必要ないのかも知れないが、其れが破られた今になっても、駆けつける気配すらない。

策は上手く成ったことを悟る。一瞬だけ目を瞑り、故国に思いを馳せ其の無事を願う。
603見切りドピュ 米:2007/03/18(日) 00:19:27 ID:Y5tBQBaf0
今日は此だけー。今回ののアレンくんは誰一人殺してませんYO!!
次が、下手したらちょーっと長くなりそうなのでキリの良いところで終えたらこんだけになっちゃいました。

>597
どう溶け込むのかって?
……………き、きっと溶け込む方法があるはずだよ、うん。(全く考えてなかったらしい)

>598
このアレンはあのスケベゴーグルと同一人物です。
どっかのカナブンが書いた4のように半パラレルではなく、全くの地続きです。
なのできっと七編の時も戦闘の時は鬼だったんだと思います。

そろそろ誰かスレ立てヨロ。
安価指定するなら>610辺りで。
てか、何バイト越えたら次スレ立てるとか決めて置いても良いと思います。
480kとかさ。
604CC ◆GxR634B49A :2007/03/19(月) 01:44:30 ID:L70qC6HE0
期待してるZE >>610
とか言いつつ、自分になる可能性大、みたいな。
しかし、次回は新スレにいきなり投下するような出だしじゃないな、コレw
605名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/19(月) 13:52:11 ID:nrnvyCJ80
うぉぃ 見切り氏CC氏乙&GJ 更なるwktkが俺を襲う
606CC ◆GxR634B49A :2007/03/20(火) 14:01:12 ID:jMWU108+0
ぼちぼち進んでますが。。。ヴァイスくんが。。。
巻き戻る感じもないけど、大丈夫かおまいw
607名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/21(水) 02:23:36 ID:oWK0b2qcO
ヴァイスくんの煮えきらなさにイラッと来る。
608CC ◆GxR634B49A :2007/03/21(水) 06:15:24 ID:55izD+Ik0
ごめんよぅ、あのヘタレも辛いトコなんですよぅ・゚・(ノД`)・゚・。
この先、もーホントますますイラッとくるかと思いますがw
生暖かい目で見守ってやっていただければ幸いです。
悩むキャラってイラッとくるのは分かってるんですけど、
煮えきったらツンデレもへったくれもない、単なるラブラブ小説になっちゃうしねw
そういうのは、そういう小説にお任せしますとゆーことで(^^ゞ
609CC ◆GxR634B49A :2007/03/21(水) 22:56:27 ID:55izD+Ik0
崖っぷち保守
610名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/23(金) 23:28:48 ID:FBrPvdTp0
次スレは建てておかなくていいの?保守
611CC ◆GxR634B49A :2007/03/24(土) 00:28:51 ID:wK6lVnFA0
分かったよぅ、自分でたてるよぅ・゚・(ノД`)・゚・。

と書こうと思ったら、>>610 エラい!!!w
>>603 で、次スレたてる人が >>610 に安価指定されてたんですよ?w

ぼちぼち進んでるのが奇跡的な感じに、
お仕事の納期やらプライベートのゴタゴタでてんやわんやなので、
私の方は早くても来週までは投下できそうにないんですが、
他の人のこともありますので、できればそろそろたてておいた方がよろしいかと。
そんな訳で、頼んだZE >>610

ダメだったら、他の方でもたてておいていただけると嬉しーなぁ、とか(^^ゞ
スレタイを Level 7 -> Level 8 にして、>>1 をそのまま貼り付ければ
おっけーだと思いますので。
612CC ◆GxR634B49A :2007/03/24(土) 00:33:12 ID:wK6lVnFA0
あ、>>1 をそのままっていうか、前スレとかはこのスレに変えなくちゃですけど。
そんなの当たり前ですか、そうですねw
613610:2007/03/24(土) 00:39:41 ID:7VZyiMcr0
くっ見切りCCにはめられたっ!踏んだからには建てましょう
614名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 00:55:11 ID:7VZyiMcr0
615CC ◆GxR634B49A :2007/03/24(土) 00:56:45 ID:wK6lVnFA0
>>613,614
エラすぎる!!
ありがとうございますた<(_ _)>
616名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 01:28:12 ID:/eCvk9qSO
>>610よくやった
お主こそ、真の勇者だ!
617名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 02:00:38 ID:SfrxWB2N0
>616
略して、しんゆう、だな。
マブダチ?
618名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 04:03:50 ID:430bQAsh0
>>617
誰がうまい事を(ry www
619CC ◆GxR634B49A :2007/03/25(日) 17:55:06 ID:KxDhGSFK0
すみません、なんとか進んでます(^^ゞ
なんか、思ってなかったトコまで行ってしまったw
620見切 米:2007/03/25(日) 21:11:26 ID:MBZLAwhV0
CC氏の報告の後に書くのは気が引けるのですが、全くもって止まってます。
今週はなんやかんやで忙しかったというのもあるのですが。
其れ以前に、次の展開書くのテラムツカシスwwwwwwwwww
もうこんなことになるんだったら、もっと単純な展開にすれば良かったorz
621CC ◆GxR634B49A :2007/03/26(月) 02:58:17 ID:XwhlUFd00
読み返さないことにはニンともカンともですが、なんとか来週中に
投下できそうな目処は立ったかも〜。ニンニン
622CC ◆GxR634B49A :2007/03/27(火) 03:39:44 ID:XIOlOcYp0
いちおう保守
623名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/28(水) 02:01:49 ID:8RSPr/FCO
まだ保守?
それとも埋め?
624CC ◆GxR634B49A :2007/03/28(水) 03:25:11 ID:ekc+rw/Z0
もう10Kちょいしかないから、埋めですかね〜
てきとーにご使用ください
625名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/28(水) 04:45:53 ID:LQpd3Xas0
ネットで6年ぐらい前友達がドラクエ3やってたんだけどどうやるの?
626名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/28(水) 05:15:49 ID:8RSPr/FCO
それはここでする質問ではないと思うが
取りあえず本屋に行ってみ
627CC ◆GxR634B49A :2007/03/28(水) 21:05:17 ID:ekc+rw/Z0
昨日寝てないのでねみー埋め
なんか面白い埋め方ができればなぁ。そんな余裕ないけどw
628名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/29(木) 16:54:20 ID:heqaySMl0
629CC ◆GxR634B49A :2007/03/30(金) 17:04:14 ID:tBdRopa60
UME
630CC ◆GxR634B49A :2007/03/31(土) 21:05:31 ID:nY7XdhlM0
そういえば、お花見の季節でしたね。関係ないけど保守
631CC ◆GxR634B49A :2007/03/31(土) 21:06:31 ID:nY7XdhlM0
あ、まちがえた。埋め。どうでもいいかw
632名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/31(土) 22:47:29 ID:GWnIulunO
北海道はまだ花見は無理だなぁ
2〜3日前に雪降ってたしw
633名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/31(土) 23:01:01 ID:/woS8jUpO
あるあr…ねーy…あるあるwwww
634CC ◆GxR634B49A :2007/04/01(日) 02:03:33 ID:R1osm/FG0
MAJIDE!?
まだ雪降ってんの!?
さすがというか、そりは大変ですねぇ。。。
635CC ◆GxR634B49A :2007/04/01(日) 07:37:01 ID:R1osm/FG0
ぐぬぅ。。。
636名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/01(日) 08:32:53 ID:WDpP+B8K0
NullPo
637名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/01(日) 09:09:21 ID:nYQpcNLKO
>>636 ガッ
638CC ◆GxR634B49A :2007/04/02(月) 06:21:31 ID:vIwWEeSX0
すみません、もうちょい時間をください><
639CC ◆GxR634B49A :2007/04/03(火) 08:21:29 ID:MEAKc4oc0
ふぃ〜。もう、いいことにしようじゃないかw
640CC ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 06:30:53 ID:eSe32PbL0
あー、規制がキビしかった埋め
641名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/05(木) 02:24:16 ID:1+Qk80t40
あの一網打尽の規制システムは何とかならんものか。
dion軍は規制に弱いなぁ

というわけでウメ。
642CC ◆GxR634B49A :2007/04/06(金) 07:02:18 ID:/c/UBZR90
ホントにねぇ。眠くてフラフラしてる状態で弾かれると、かなりキビしーです><
ということで、ウメ

前は、本編を補完する外伝みたいのも、できたらその内書きたいなぁ、
とか思ってたんですが、どうやら夢のまた夢っぽいw
冒険者になりたての、ナマイキ盛りの頃のヴァイスくんの話とか、
割りとおもしろそうな気が。外伝なら三人称で書けるしw
643名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/06(金) 23:56:16 ID:0tmAQ4yr0
夢は叶えるものだじぇ
644CC ◆GxR634B49A :2007/04/07(土) 03:15:57 ID:7kBOkSU/0
そういえばそうでしたw
外伝書くなら、本編の邪魔にならない、この上ないタイミングがあるなぁ。
ちょっと考えてみよ。
645CC ◆GxR634B49A :2007/04/08(日) 08:31:07 ID:5fcm8mhH0
いちおう埋め
646名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/08(日) 19:24:06 ID:C5OCVgqA0
647名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/09(月) 00:42:49 ID:kYzec0wb0
>>646
85度ですた
良かった、このスレにいられるwwwww
648CC ◆GxR634B49A :2007/04/09(月) 10:33:25 ID:6QfJ9+940
あのチェック、普通の人はまずツンデレになると睨んだw
649名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/09(月) 22:49:45 ID:g1jiSu6+0
69点 ランクB ラッキーアイテム 手ぬぐい









手ぬぐい…
650CC ◆GxR634B49A :2007/04/10(火) 20:55:04 ID:M7HZvUbr0
ふむぅ。もうちょいひねりを加えたいところで埋め

手ぬぐいって、あんまり持ち歩かないよねw
651名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/10(火) 21:01:56 ID:ux08vR5K0
日本と戦争したわけじゃないのに
敗戦に苦しむ日本人に戦勝国民気取って暴れてた在日(三国人)
レイプシーンもあるよ

http://www.youtube.com/watch?v=96iLGJ26kxA

652CC ◆GxR634B49A :2007/04/10(火) 21:45:58 ID:M7HZvUbr0
ちょwwwなんでこのスレにw
653CC ◆GxR634B49A :2007/04/11(水) 14:48:12 ID:H+YTHpEN0
さーて、次回はなんとか近々投下してしまいたいところです。
その次から先を早く書きたいので、もうひねんなくていーかなw
654名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/11(水) 18:32:29 ID:A0ivBIcmO
北海道にも桜の開化予報キタ━━━━━!
俺の地域は5月15日以降だってさ
GW終わってるしwww
以上、報告埋め
655CC ◆GxR634B49A :2007/04/11(水) 20:26:34 ID:H+YTHpEN0
うわー、そんな遅いんだ。
ホントにGW終わってますねw
656CC ◆GxR634B49A :2007/04/12(木) 20:44:45 ID:d3C9nUDS0
う〜む〜埋め
657名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 07:33:35 ID:n09XycTM0
支援梅
658名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 08:38:07 ID:Ko+pJbsZO
そこには、見渡す限り銀世界が広がっていた…
朝、起きての俺の感想です、今は何月でしょうか?www
もぅ雪はイラナィ…
659名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 13:59:10 ID:al7wVMQrO
こっちも雪だよ
しかもとびっきり重い奴
660CC ◆GxR634B49A :2007/04/14(土) 16:42:24 ID:VkDCNywO0
ひょえ〜。まだ雪ですか。そりは大変ですね。
661CC ◆GxR634B49A :2007/04/16(月) 01:31:38 ID:V/mjt1mt0
あと10Kくらいか。。。

次々回から数話の展開は、後先考えずに書いてきた中では
ちょー珍しく、かなり前から決まってました。
なので、私が楽しみにしてるので早く書きたいんですが、
次回を投下したら、まずお仕事上げちゃわないと。。。(^^ゞ
で、すっきりした状態で、がーっと一気に書けたらいいなぁ、
と思っております。

とか、どうでもいい報告をして埋めてみたり。
662CC ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 05:50:52 ID:PnTak0e70
うぅ。。。眠いので迷うトコですが、いっちょいってみますか
663見切会社員 王女代理:2007/04/18(水) 23:43:00 ID:qFQO43Dr0
全くもうっ!何時になったらわたしの出番が来るのよっ!!
大体見切りのヤツはなに書いてんのっ!?今書いてるところだけ見て、誰がドラクエだと思うのよっ!
CCさんの投稿とスレタイを見ないと、誰もドラクエだって気が付かないわよ!!

……ああそうだった。見切りが就職決まったから代わりに書いてくれって話だったわ。
うん、埋めるために何かネタを考えてたらしいんだけど、結局固まらずにこの有様だって。
時期的にもイベント外してるしね。まーその程度のおつむなのよ、あの蛆虫は。

あーあ、アレンは独りで出掛けちゃうし、わたしは寒い中震えながら追っかけてるし。
いったい何時になったら追いつくのよ、ふんとに。
…ちょっと腹立ってきたから、あの莫迦締め上げて来るわ。
664CC ◆GxR634B49A :2007/04/19(木) 01:20:35 ID:LBZ5Gxzm0
>>663
うわぉ、決まったんだ!おめ!
いやぁ、よかったよかった。

私も埋めネタ思いつきません><
665名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/19(木) 19:31:56 ID:et8d+TGP0
見切就職おめ!!
あとは、続きを書くだけだw
666CC ◆GxR634B49A :2007/04/20(金) 21:55:33 ID:Md0Clv4u0
もうちょいで書き出せそうな予感。
導入を考えないとな〜。。。
667CC ◆GxR634B49A :2007/04/22(日) 00:38:58 ID:XxxlJvGV0
やっぱ足踏みw埋め
668名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/22(日) 23:13:10 ID:T+sQf2gK0
>>667
なんかIDかっこよくね?wwwww
669CC ◆GxR634B49A :2007/04/23(月) 02:29:28 ID:fPiqtQl10
>>668
気付かなかった、ホントだwww
670名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/23(月) 03:00:58 ID:G8gQpaVzO
待て これは変な意味にもとれるぞ
671CC ◆GxR634B49A :2007/04/23(月) 06:44:28 ID:fPiqtQl10
え?というと?
そのまんま?w
672見切会社員 米:2007/04/25(水) 00:16:56 ID:4dCQinDd0
さて、仕事が始まって忙しすぎです。
そんなわけで、今のところ全然進んでません。ホント申し訳ない。
まさか此所までとは思ってもみませんでしたよ。

てなわけで、次回投下は今のところ未定です。
去年のように半年空けるとかそんなことはないので……ないよなぁ?
今しばらくお待ちください埋め。
673CC ◆GxR634B49A :2007/04/25(水) 00:40:59 ID:Ap+9yIkr0
ふぃ〜、ちかりた〜埋め
つか、全然埋まんねーw
なんか質問とか聞いて埋めたりした方がいいのかしら。
でも、先の展開に関わって答えられなくても申し訳ないし、
そもそも誰も質問なんて無い気がするので、あんましする気になれないとゆーかw

なら、本スレの流れ的に、解釈についてのことを書くとか。。。
メラを唱えられなきゃ冒険者になれない(魔法使いが最初からメラを使える理由)とか、
アリアハンに強い魔物が出ないのは冒険者制度がうまくいったから、とかは
突飛って訳でもなく、それなりに無理のない解釈ができたかなーとか思ったりしてますが。

。。。なんか、恥ずかしいなw
やっぱし書き手が、あんま作中について語るもんじゃないですね(^^ゞ
いいから、さっさと本編を書き進めろ的な。
ジツは、密かにルイーダさんはいいキャラになるのでは、と思ってたり。
もう出ないと思うけどw

そんなこんなで、今日も埋めネタは思い付かないのでした。
バカお前もーいーから、放置して落としちゃえっての、って流れですか、もしかして。
あ、でも、結構埋まったんじゃない、これで?w

疲れてる割りには、なんか書けそうな気分なので、試しに書いてきます〜ノシ
ピントさえ合えば、一気にイケると思うんだけどな。。。
674CC ◆GxR634B49A :2007/04/25(水) 00:43:55 ID:Ap+9yIkr0
あっ、そろそろ埋めなきゃなぁ、とか思ってぐだぐだ書いてる間に、
見切りさんがコメントしてたw
別に私が埋めたりしなくてだいじょぶでした><
は、恥ずかし〜www
675CC ◆GxR634B49A :2007/04/25(水) 10:39:58 ID:Ap+9yIkr0
うぃ〜。。。頑張ってみますた埋め
676名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/25(水) 18:01:07 ID:YcbtM7ww0
なんか書きたいけど浪人してるし
そのせいで家でネットできないし
だから予備校でネットしてるし
そんなことしてたらまた浪人しそうだし
そんな無限ループ
677CC ◆GxR634B49A :2007/04/25(水) 19:47:55 ID:Ap+9yIkr0
うん、書くのはすごい時間取られちゃうと思うから、まず先に合格を目指して、
無限ループを break した方がいいんじゃないかな〜、と老婆心ながらに思います(^^ゞ
及ばずながら、応援するし〜フレーヾ(゚ー゚ゞ)( 尸ー゚)尸_フレー
678見切会社員 米:2007/04/25(水) 23:48:25 ID:4dCQinDd0
目指しているのが医学部だとか東大だとか、いわゆる難関だったら話は別だけど、
そうでないなら、今から気合い入れてると途中で息切れしちゃうよ、と経験者は語ります。
息抜き程度に書けるなら、やってみるのも悪くないかもよー。
書くのが義務に感じたりしてくるとそれはそれでアレだから、むつかしいんだけど。

小ネタだったり、わたしが前に書いていた執筆係氏の文体だとあまり時間をとられないから、
それで書けるならやってみても良いかもしれんよ?
お前のせいで書き始めたら落ちたじゃないかっ!とか云われても困るってことは云っておく。
ちゃんとスケジュール管理が出来ないなら、やめておいた方が良いのかもしらん。

………つーか、もう10年前になるのか………年取るわけだorz
679CC ◆GxR634B49A :2007/04/26(木) 06:36:54 ID:3AEDjRvc0
いかん、睡眠不足で脳みそが必要なテンションまで達しません><
感覚的には、いい感じなのに。。。いましばしお待ちを埋め
680名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/26(木) 08:28:12 ID:N+03nB8I0
一つのことにしか集中できないタチだし
見切りさんの言う"話は別"なところだし
つーことでまず受験に専念するし
いいかげんドラクエもツンデレも関係なくなってきたし
受かってから考えます
応援ありがとうございます

埋まれ
681CC ◆GxR634B49A :2007/04/26(木) 15:24:41 ID:3AEDjRvc0
うわぉ、それは大変ですね。
応援しか出来ないけど、がんばれ〜
もしスレ覗いてもらえるなら、せめて息抜きになれるよう私もがんばるし

よぅし、手直しするぞー埋め
682CC ◆GxR634B49A :2007/04/27(金) 08:58:09 ID:nLH4Ju4/0
書けそうな絶好の感覚を、用事で逃しました><
口惜しい〜
683名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/27(金) 11:05:11 ID:ru6ummsU0
このスレにいるとこっちまで書きたくなってくるから困る埋め
684CC ◆GxR634B49A :2007/04/28(土) 01:09:49 ID:xTJxthcv0
なんかクラクラすると思ったら、風邪ひいちゃいました><
うぃ〜。。。
685名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/29(日) 00:59:19 ID:sslKhd2u0
つ やくそう
686CC ◆GxR634B49A :2007/04/30(月) 05:21:10 ID:M1cDkJl/0
ふぃ〜、ようやく熱が下がりました
まだクラクラしてるけど、そろそろなんとかなりそうです
本スレには、悪化したとか書いたけどw
687CC ◆GxR634B49A :2007/05/01(火) 06:18:10 ID:htmMUV2g0
>>686 の時点では、やっぱまだムリでしたw
ようやく、おおよそ回復〜。イヤな汗はかいてるけどw
なんとか、連休には間に合わせたい。。。
688名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/02(水) 01:17:51 ID:SdjbmhEk0
nullpo
689名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/02(水) 20:12:29 ID:So+Hqr5e0
galtu
690名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/03(木) 01:25:30 ID:UFS1JdOd0
691CC ◆GxR634B49A
ねみー。とりあえず埋め