文章で遊べる小説スレです。
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※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
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前スレ
FFの恋する小説スレPart6
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1150527327/ 記述の資料、関連スレ等は
>>2-5にあるといいなと思います。
2 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/10/31(火) 20:25:38 ID:LQ5+YyoN0
2
>>1乙!
そして続き物も新作もwktkして待ってる!
8 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/10/31(火) 21:49:42 ID:C3od+1hc0
>>1乙!
今後も職人さんがたには期待してます
マターリがんがってくださいw
>>1 乙です。このスレでも色んな作品が読めるの楽しみにしてます。
即死回避しつつワクテカ
保守
舞台:FF7AC〜DCFF7のエッジ
参照:前スレ550-552(時間経過で言えばこの話の後が前スレ分)
----------
エッジが怪物に襲われたあの日、俺はクラウドの仲間達を初めて見たんだ。みんな、あんな怪物に
向かって走っていくんだ。しかも手を振ったり、笑ったりしながら。
……俺は……ただ必死だったから。気がついたらティファが俺を庇って倒れてて、その後ろに怪物が
見えた。あとは何も考えてなかった。バレットに止められてなかったら、俺どうなってたんだろう? 今
考えるとバカだよなって思う。でもその時は本当に必死だったんだ。だから恐いとか、そういうの感じる
余裕なかったんだ。
でもみんなは違った。クラウドも、みんなも、強いからあんなに余裕があったんだ。クラウド達がエッジを
守ったんだ。……俺は、待ってる事しかできなかったけど。
だから俺も強くなりたいって、強くなって誰かを守れるようになりたいって、そう思った。星痕のこととかで
マリンにも心配かけてばっかりだったし。WROに入隊を志願しようと思った最初のキッカケだった。
この話を打ち明けたらティファは最初、あまりいい顔をしてなかった。マリンと一緒になって「男の子って
どうしてそうなのかな?」ってクラウドに言ってた。よく分かんないけど、クラウドは俺の方を向いて笑ってた。
それから「がんばれよ」って言って賛成してくれたんだ。リーブの連絡先も知ってるから直接訊いてみるか?
って言ってくれたけど、俺はそれを断ったんだ。
「ありがとう、でも俺一人の力でやりたいんだ」
その気持ちは嘘じゃない、みんなを守れるぐらい強くなるためには、最初から誰かに頼ってちゃいけない。
そう思ったんだ。
でも、……強がりだった。
後になってよく考えたら、どうやって入隊すればいいのかも知らない事に気づいた。でも、今さらクラウドや
ティファには言えないし……。そう思って途方に暮れてたんだ。
そんな俺を助けてくれたのは、やっぱりマリンだった。
「……伍番街に行けば会える気がする」
そう言ってくれたマリンに、俺はどうしてと聞いた。するとマリンはこう答えた。
「あそこは、おねえちゃんの住んでた家だから。あと、……お母さん」
“おねえちゃん”の事は話だけ聞いて知ってた。マリンの付けてるリボンの持ち主で、クラウド達の大切な
人だって。……あと、俺たちの星痕治してくれた人だって事も。
でも、“お母さん”って誰だ?
それっきり黙って俯いたマリンは、猫のぬいぐるみを膝の上に乗せて大切そうに見つめていた。この
ぬいぐるみは知ってる。クラウド達の仲間だったケット・シーだ。あれ? そう言えばケット・シーを動かしてる
のは……。
「リーブさん!? おいマリン、伍番街のどこに行けばリーブさ……」
気づいた俺は大喜びだった、だってリーブさんといえばWROの局長だぜ? だから考えるよりも先に
言葉が出てたんだ。でも、話してるうちに気づいた。
――“おねえちゃん”の家で、“お母さん”が住んでる。……なんでそこにリーブさんなんだ?
「なあ、マリン。それって……」
俺が俯くマリンを覗き込んだ時だった。
『……ちょっとマリンちゃん、ボクとのデートの場所、教えたらあきまへんで』
「しし、しゃべった!?」
マリンの抱えてるぬいぐるみが独りでにしゃべり出したのだ。……違う、しゃべるって事は知ってたけど、
突然の出来事に驚いたんだ。それでつい大声をあげた俺を、ケット・シーが見上げていた。
『そないに驚かれるのも久々ですわ。……初めまして、やな。君マリンちゃんのボーイフレンドかいな?』
「そっ、そんなんじゃ……!」
さらに大声で反論した俺を、ケット・シーがしっぽを振って見つめている。からかわれているのだと思った。
それをよそにマリンがケット・シーの頭を撫でながら、笑顔で話しかけている。
「……最近ずっと動いてなかったから、心配してたんですよ?」
『心配してくれてたんか? おおきに。マリンちゃんこそ元気やったか?』
話しかけられたケット・シーは、マリンを見上げると手を振った。……その仕草はちょっと可愛い。
「うん。リーブさんは忙しそうだって、ティファ達も話してました」
『まぁ、確かに忙しいのもあるんやけど……』
少し言いよどむケット・シーの姿を、マリンが心配そうに覗き込んで「また調べもの?」と尋ねると、『そんな
もんですわ〜』と答える。それから会話が途絶えた。見つめ合ってるふたり(?)に、ちょっと声かけづらかった
んだけど、聞かなきゃ何も分からない。
だから思い切って聞いてみた。
「あ、あの……良いかな?」
『なんや、やきもちか?』
……コイツやっぱり可愛くない、と心の底から思った。
「違うってば! ……質問があるんだけど」
俺をからかってるような態度に少しだけ腹が立った。だからちょっと口調がきつくなったんだけど、ケット・シーは
全然気にしてないみたいだった。
『ええけど、高うつくで?』
「金取るのかよ……」
『金やあれへん。せやな、デート1回や』
「あんたって男とデートする趣味あるのかよ」
『失敬な。……大体、ボクみたいなカワイイ男は他におらんで? 逆にボクとデートできるの光栄や思て
もらいたいですわ』
ああもう、何だよコイツ可愛くないな。
前にクラウドが、ケット・シーのことを「ちょっと苦手だ」って言ってた意味が少し分かった気がする。俺も、
あんまり得意じゃないかも知れない。
「あんたって……“おねえちゃん”の何?」
『“何?”言われても……なんや、本命はマリンちゃんやないんか?』
「違う! ちょっとはマジメに答えろよ」
『……怒られてしもた』
「怒るに決まってるだろ!」
そう言った俺に、ケット・シーが『まあまあ』とか言ってたみたいだけど、こっちはそれどころじゃなかった。
本気になってマリンの抱えてるぬいぐるみを引っ張って取り上げようとしたんだ。そんな俺を見上げながら、
ケット・シーを両腕で庇うマリンに、こう言われた。
「……あそこはね、私がここへ来る前にいた場所なの」
『エアリスさんの家ですわ。そんで、ボクらが出会った記念の場所や。……まあ最初は嫌われ者やったけど』
そう話すとマリンは照れたように「だって!」と頬を膨らませて、でも楽しそうにしゃべってた。マリン達がいた
家のことも、その理由も。何も知らなかったのは俺だけだった。
――それはまだリーブが神羅カンパニー都市開発部門に勤めていた時代、人々がメテオの脅威に
さらされる少し前の話。
彼はケット・シーを遠隔操作で操り、素性を明かさずクラウド達に接触した。その任務はクラウド達の
行動監視と、古代種の神殿への鍵となるキーストーンを奪うこと。
クラウド達にスパイ活動が発覚したとき、彼は人質を取って自らの同行を求めるため交渉の材料とした。
その時、人質になったのがマリンと、エアリスの育ての母エルミナだった。
「……だからマリンがケット・シーを預かってるのかよ?」
「ううん。それはもう一つ別の理由があるんだけど」
まだ内緒。とマリンは笑った。ちょっと嫌な気分だった。
「それから、エルミナさんと過ごしたの。……ケット・シーがいなくなっちゃってからリーブさん、たまに
来てくれたよね?」
『せや。楽しかったな』
「うん。楽しかったね」
「…………」
ふたりはそれから何も語ろうとしなかった。
そう、全てが終わるあの日まで――マリンのお父さんが帰ってきたのと引き替えに、楽しい日々は
終わりを告げた。
「エルミナさんは……」
『……そんな事よりマリンちゃん、ちょっとええか?』
まるでマリンの言葉を遮るようにケット・シーがしゃべり出した。『噂の検証、どないやろうか?』
「うわさ……?」
首を傾げる俺に、マリンは「ほら!」と促す。言われて心当たりがない訳じゃない。
「もしかして……幽霊の?」
『なんや、君も知っとったんか』
「……当たり前だよ、この辺じゃ知らないヤツいないと思うけど?」
毎夜、ミッドガルから聞こえてくる不気味な声。
あれはきっと、メテオで犠牲になった人達の……。
そう考えただけでも良い気分はしなかった。あの災害でみんな沢山のものを失った。住んでいた家も、
家族も、大切な人達も……なにもかも。
だからミッドガルの異変に気づいたとしても、そのことを積極的に話したがる大人はいなかった。わざわざ
嫌な思い出を振り返りたくないし、今はこの前壊されたエッジの再建作業でそれどころじゃないのかもな。
でもこの不気味な声の噂は、肝試しみたいな感覚で俺たちの間ではよく話されてた。だから、エッジの
子ども達でこの話を知らないヤツはいない。
「ケット・シーはね、その噂の調査のためにここに残ったんだって」
「それで、マリンが預かってたんだ……」
それを聞いて何だかホッとした自分がいた。だけど、ケット・シーが何でわざわざ?
『なにか新しく分かった事あれへんか?』
ケット・シーの問いかけにマリンは首を横に振る。確かに、俺たちも全員が同じ声を聞いてるって訳じゃ
ないし、おもしろ半分で言ってる連中も中にはいた。俺も、実際に聞いたかって言われると自信がない。
ただの風の音かも知れないし。
『時間とか、場所とか……なんでもエエねん。何か気づいた事あったら、教えてくれへんか?』
その言葉に、マリンは頷く。それを見て――ちょっと悩んだけど――ケット・シーに向けてこう言った。
「……それ、俺も手伝って良いかな?」
『遊びとちゃうで?』
振り向いたケット・シーがこれまでになく真剣な口調で言った。もちろん、そうじゃないって言い切る自信は
ある。
「興味本位で言ってるんじゃないよ。……ケット・シーが今こうしているのは、何か理由があるんだろ?
俺、なんでも良いから役に立ちたいんだ」
マリンの膝の上で手を組んで、少し考え込んだ様子のケット・シーは顔を上げると、俺を見てこう言った。
『無茶したらアカンで?』
「もちろん」
『もし、危なくなったらすぐ大人を呼ぶんやで?』
「分かってるって」
その言い方が、まるで子どもを心配している親みたいだった。頭の片隅で、本当の両親の顔を思い出す。
ちょっとだけ鼻の奥がつんとなったけど、今はもう平気だ。
ケット・シーはもう一度考え込んだように腕を組んで、しばらくしてからこう言った。
『ボクらがほしいのは……噂の詳しい内容、発生する時刻、場所……できるだけ多くの情報なんや」
「街の人に聞き込みすればいいね」
その言葉を聞いて、ケット・シーが大きく頷く。
『せや』
「俺、やるよ」
それからケット・シーはマリンを見上げた。意見を求めているのだろうか? それからマリンは「うん」と
言って頷いた。
『……ほな、頼んます……ええと』
「デンゼル」
『よろしゅうな、デンゼル』
そう言って手を差し出してくれたのが凄く嬉しかったんだ。だから、がんばろうって思った。力がわいてきた。
そんな気持ちとは逆に、悪戯っぽい事を思いついて試しにこう言ってみた。
「なあケット・シー。もしもこれが成功したら、報酬くれる?」
『……何や? 金取るんか?』
「お金なんかいらないよ……そうだな、デート1回! どう?」
さっきのケット・シーのマネしてやったら、ちょっとびっくりしてたみたいだ。へへっ。
『デンゼル、男の子とデートする趣味あるんか?』
ケット・シーはすかさず反論してくる。だけど不思議と腹は立たなくなった。
「そんな訳ないじゃん。……俺とデートできるんだから、逆に光栄に思ってもらいたいぐらいだね!」
『むむむ……』
う〜んと唸るケット・シーに、ごめんごめんと言ってからこう続けた。
「俺、WROに入りたいんだ」
***
あの人に会ったのは、ずいぶん後になってからの事だった。まさか本当に来てくれるなんて思って
なかったから、最初は緊張してて、それから俺自身のことを伝えるのに必死で、だけど入隊したいって
気持ちは強かった、だから入れて欲しいって言ったんだ。
あの人は首を横に振った。それから、俺にこんな事を言い残して去っていった。
――「大人の力を呼び起こせ」
あれから一生懸命考えた、だけどやっぱ意味分かんないよ。
俺は、早く大人になりたかったんだ。
呼び起こすんじゃなくて、俺の力で誰かを守れるようになりたいんだ。……これ以上、大切な人達を
失うのは嫌だったから。
俺にはまだ無理だって事ですか? お願いです、教えてください。
―ALERT(デンゼル編)<終>―
----------
・DCFF7第2章「エッジで奇妙な噂が…」と語る裏で繰り広げられたであろう調査風景に
彼らが一枚噛んでいる…というそんな話。
・前スレ550-552よりは前の出来事で、プロローグ2みたいな感覚でデンゼル編。
・キーストーンの件ではケット・シーとリーブの共謀による誘拐と(勝手ながら)位置づけてます。
・FF7AC公式サイト小説「On the Way to a Smile」で会う前に、実はこんな遣り取りあったら良いな、
という妄想の産物。…即死回避のお供にどうぞ。
お読み下さいまして有り難うございました。
>>13-19 GJ!ケットとマリンがとても仲良くて可愛らしい(*´д`*)
デンゼルも(・∀・)イイ!「早く大人になりたい子ども」感がよく出てたと思う。
ケットとマリンの仲に割り込もうとするデンゼルは、
やっぱヤキモチ焼いてるようにも見えますたw
乙!
GJ
続きが読みたいです
投下のタイミングがまちまちになると思いますが、その辺はどうかご容赦下さい。
・冒頭2レスを読んで肌に合わないと思われた方はスルー推奨。
・「インスパイア」という能力そのもののとらえ方(定義)が曖昧ですが、それがテーマかも。
・舞台はDCFF7終了後。つまり完全に 捏 造 です。
・作者は間違いなくFF7、FF7ACもDCFF7も大好きです。
・DCFF7ロストエピソード、BC、CCはこのSSでは考慮対象外です。……そもそも捏造ですが。
これだけ言い訳並べておいてなんですが、石を投げられる覚悟はできてますのでどうぞご自由にw
そんなこんなで以下、本編冒頭部分です。(2レス程度ですが…)
参照:
>>13-19 前スレ550-552(プロローグみたいな物)
----------
――戦いと同じ数だけ悲しみがありました。
戦いの中で、星に還った人達がたくさんいました。
「悲しみと引きかえに、全部終わったんだよ」
そう言われたのは6年前でした。
だけどまだ、人は戦うことをやめませんでした。
ある人は言いました。
「大切なもがあるから人は生きて、そのために戦う。
だからこの星に人が生きる限り、戦いが絶えることはない」。
戦いを望まないのに、戦わなければならない人達がいました。
彼らはいつも大切なものを背負って、戦場へと赴きました。
そこで訪れた死を目の前にしたとき、はじめて気付いたのです。
“星に還れない命”があることを。
これは
この星で最も悲しい運命を生きた命と、
その命を救おうとした人々の物語。
窓越しに空を見上げれば、灰色の雲が広がっている。つい先程まで青空に浮かぶ雲の色は
白かったはずなのに。
「雨……かな?」
椅子から立ち上がると少女はそう呟いて、窓辺に置かれたぬいぐるみを手に取った。
今を遡ること6年ほど前。
当時、繁栄の頂点にあった魔晄文明と、それを象徴する都市ミッドガルが滅んだ。後にメテオ
災害と呼ばれる事変だった。
いつしか少女の父と仲間達は、その戦役を経て英雄と呼ばれるようになった。少女がまだ幼かった
当時、父が何をしていたのか? その話を聞かされ、理解できるようになったのは最近のこと。
彼女の父が、自分のことを英雄だと言うことは一度としてなかった。
彼だけではない、共に戦った仲間達の誰もが、自らを「英雄」だと言うことはなかった。
自分のため、自分の大切だと思うもののために戦った。その一方で犠牲を強いた。たくさんの尊い
生命が地上から失われた、彼らの仲間であった少女も、戦いの中で命を落とし、星へと還った。
だから決して「英雄」などではないのだと、自戒するように言っていた姿を思い出す。
そんな彼らは強い絆で結ばれていた。
旅を終え、離ればなれに過ごす様になっても、その絆は変わらずに彼らを繋いでいた。
「……クラウド達から連絡は?」
「ないわ」
少女の手に抱かれたぬいぐるみを、少年は見つめていた。
かつてそれは、人の言葉を話し、笑顔を分かち合った存在。
けれど今は、物言わぬただのぬいぐるみに戻ってしまった。
彼らの元にようやく訪れたと思っていた平穏。しかしそれは静かに、異変を告げた。
沈黙によってかつての英雄達を導き、最後の戦場へと誘う使者――その名は、ケット・シー。
----------
>>23-25 GJ!「もっと読みたい、もっと読みたい」と思わせてくれる表現力スゴスw
感想を上手くいえない自分が悔しいー。のんびりマターリ次回を待ってますw
>>◆Lv.1/MrrYw
GJ!クラウド(達)また行方不明w
喋らないケットシーは「かわいいぬいぐるみ」の裏に
魂の抜けた骸ってイメージが付きまとって怖いと思った
続き激しく期待!!!
乙!
ほ
ぼ
さ
ん
ま
前話:
>>24-25 ----------
***
『艦長、我々は指示があるまで上空にて待機します』
飛空艇コントロールルームからの通信に片手を上げて応えたシドがタラップを降りたのを見届けると、
ハッチは閉ざされ飛空艇は浮上を開始した。
「……ちくしょう、とんでもねぇ大馬鹿野郎だ!」
地上に降り立った途端、不機嫌を隠さずにシドは言葉を吐き出した。浮上する飛空艇を背に、彼の
目の前にそびえ立つ巨大な建造物を憎らしそうに見上げた。こうしてシドを含めた仲間達は噂に聞く
W.R.O――世界再生機構――の新本部施設と初の対面を果たした。
同機構からの援助を受けている飛空艇師団、その長を務めていたシドに今回の報がもたらされたのは
つい一週間ほど前の事だった。それを聞いた妻のシエラなどは「久しぶりにみんなが集まるのね」と、
さも楽しそうに語り、夫を送り出した。
余談にはなるが3年前のオメガ戦役で、自分の名前を付けられた飛空艇シエラ号が墜落した事を受けて
「飛空艇に二度と私の名前は付けないで下さいね」と言ったことに端を発して夫妻が揉めたというエピソードは、
飛空艇師団の中ではわりと知られた事だったが、今回の件とは直接関係がないのでこれ以上触れないでおく。
報せを受けたシドがかつての仲間達を集めるのは比較的簡単なことだった。飛空艇を駆れば世界は
それ程広くはないからだ。しかし重要なのは招集の理由だ。
「……シド、これは一体どういう事なんだ?」
クラウドが神妙な面持ちで問う。
「そりゃ、こっちが聞きてぇ」
視線をおろし不機嫌なままシドは答える。招集に応じて皆を迎えに行ったのはシドだが――単に説明が
面倒だという理由にしても――彼自身もいまいち状況を把握できていないらしい。そんなシドの様子を見て、
クラウドが一抹の不安を覚えたのは言うまでもない。
ちなみにクラウドは仕事の帰り道、突然目の前に着陸した飛空艇によって――「招集」と言うよりも半ば
連行されるようにして――愛車と共にここへやって来たという経緯がある。こうなると怒りと言うよりも驚きと
疑問、あるいは不安の方が大きくなる。いくらシドとはいえやり方が強引すぎるからだ。ここまで強硬な
手段を使うとなれば、恐らく事態は一刻を争うほどなのだろうと容易に想像がつく。
しかしその「緊急事態」に、今のところ思い当たる節がない事が一番の不安要素でもあった。狂気の英雄も
メテオもジェノバの遺恨もオメガもディープグラウンドも、これまで世界に迫る脅威はことごとく退けてきた。
また、今はそのような存在があるという話も耳にしない。クラウドの知る限り、世界はこれまでになく平和で
あるはずだった。
黙って考え込んでしまったクラウドを見かねたユフィが、シドの後に続けて話し出す。彼女はW.R.Oへ協力し
活動を続けていたこともあり、ある程度――と言っても、クラウドやシドに比べてという意味だが――事情に
通じている立場にいた。
「なんでも建造中の新しい本部施設に、リーブのおっちゃんが閉じ込められちゃったんだとさ」
その言葉を聞いて、クラウドが「え?」と言う表情のまま固まった。変な言い方ではあるが、ユフィの語った
招集理由に、期待を裏切られたという思いは否定できない。ちらりと視線を向けた先のシドは、異常なまでの
鋭さを帯びた視線をW.R.O新本部施設に向けていた。不機嫌を通り越し、もはや殺気に満ちている。
「……閉じ込められたのはリーブだけなのかしら?」
今回の事件の概要、それも輪郭だけを語ったユフィから不足している情報を引き出そうとティファが尋ねる。
彼女の口調がいつにも増して穏やかに聞こえたのは、場の雰囲気を察して意識的にそうしていたのかも
知れない。
ちなみにクラウド連行に関しては、彼女の協力無しには達成できなかった。今回の招集に関して言えば
一番の功労者であり、クラウドにとっては信頼を寄せる相手だけにちょっと厄介な立場をとっている。
もっともシドやユフィに言わせると、自分たちを含め他の仲間からの着信を無視し続けた報いだと言われれば
反論は出来ないのだが、無視したくなる気持ちも分かって欲しい。尚、ここでクラウドの名誉のため誤解の
無いように補足しておくと、決して嫌いだから出ないという訳ではない。
「そうらしいよ。なんでもリーブのおっちゃんが設計した新本部施設は、3年前の敵襲の教訓を踏まえて、
万が一侵入されたときの対策だ! とか言って思いっきり中をややこしい作りにしたらしいんだ。だけど
いざ完成が近づいた今頃になって、中にいたおっちゃんが外に出れないってことが分かったってワケ。
……どうでもいいけどさ、人騒がせだよね〜」
隊員達に聞いて回った話をまとめたユフィは一通りしゃべり終えると、両手を頭の後ろで組んでぼんやりと
空を見上げた。W.R.O新本部施設の、潔癖とも思えるほど真っ白な外観が視界に広がった。
「……どうも腑に落ちん話だ」
対照的にヴィンセントは怪訝そうな表情をユフィに向けた。
「と言うと?」
クラウドの問いかけに応じ、ヴィンセントは先を続けた。
「設計しているのがリーブなら、中に“閉じ込められる”というのは不自然だ」
「間違っちゃったんじゃないの? ホラ、ああ見えてリーブのおっちゃん意外とおっちょこちょいだし」
どこまでも能天気なユフィの言葉を聞いたクラウドとシドが「そうなのか?」と言いたげな視線を向けて
いたが、当の本人は全く気付いていない。
「ユフィほどじゃねーだろ」
バレットが笑いながら横から口を挟むと、ユフィは頬を膨らませてむっとした顔を向ける。そんな姿を見て
さらに面白そうに笑いながら「冗談だ冗談」と頭を掻くバレットに、ユフィがくないを手に飛びかかろうとした
ところで、中断されていた話をヴィンセントが再開する。
「……リーブはミッドガルの設計に最も深く関わった中の一人だ。そんな人間が設計ミスとは考えにくい。
仮にそうだとしても今回の件がユフィの話通りならば設計ミス以前の問題だ。……それに」
言いかけて、ヴィンセントは言葉を止める。ユフィも手を止めてヴィンセントを振り返り、横にいたシドは先を
促すように顎を引いたが、けっきょく先が続くことはなかった。
確かにヴィンセントが言うのももっともな話だった。あれだけの巨大都市の開発に長年関わっていた男が、
今さら規模が大きいとはいえ建造物1つにミスというのも考えにくい。それに、自分自身が中にいるのに
出られなくなるというのは、設計ミスというレベルの問題ではない。ヴィンセントにしてみれば、だからこそ腑に
落ちないのだ。
なにより彼にはもう1つ『腑に落ちない』と口にする理由が存在するのだが、どうやら現時点ではさしたる
問題にはならないようだ。
「とにかくよ、入り口でうだうだ考えてたって始まらねぇ。中入ってみりゃ分かるだろ」
ヴィンセントのお陰で難を逃れたバレットが、ユフィから距離を置くように後ずさりながらもっともらしい提案を
する。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、か。なるほどバレットの言う事も一理ある」
そこへいちいち注釈を加えて頷くヴィンセントを、相変わらず几帳面なヤツだとバレットは笑う。
こうして仲間達は、パーティーに招待された賓客とでも言うように、正面入り口からW.R.O新本部施設へと
足を踏み入れたのである。
平和に浸っていた人々を巻き込んでのパーティーは、こうして賑やかに幕を開けた。
----------
・冷静に読み返すとこれ、
「リーブを建造中のWRO本部施設に閉じ込めてみた」ってなノリになってるよ…。
(一応、主旨はシリアスのつもりですが不安になって来たので期待せずにマターリして頂けますと幸いですw)
>>◆Lv.1/MrrYw
GJ!メンバー達のからみを見るだけでワクワクしてくる!
リーブは一体何を企んでるのだろう
ナナキは飛空挺にいないのかな
色々気になりつつ続きマターリ待ってます
>「リーブを建造中のWRO本部施設に閉じ込めてみた」ってなノリになってるよ…。
い ち ば ん 吹 い た w
ユフィとバレットのやりとりや、さりげなく助けたヴィンセントもいいけどこれ最強ww
続きをマターリお待ちしていますw
自分も真っ先に閉じ込めスレが浮かんだよw
メンバー達のやりとりがいい!
わくわくする。続き楽しみにしてます。
GJ!
スレ一覧で最下層は妙に緊張するなぁ
保守
44 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/15(水) 12:03:05 ID:bXJ47gCf0
アッー!
hosyu
保守
ほ
※FF12、本編終了後久々に再会したダウンタウンのスリと王女殿下のお話。
薄暗い城内の廊下の角をいくつも曲がり、漸く奥まった一画に辿り着いた。
案内してくれた侍女が扉を開けると、そこから溢れんばかりの光が差し込み、
ヴァンは思わず目を細めた。
漸く目が慣れるとそこはバルコニーで、光の中に懐かしい仲間が立っていた。
ラバナスタの強い陽射しの中でもそこだけ凛とした空気が漂っているようだ。
いつもの調子で声を掛けるつもりだったのに、そこに立つアーシェの美しさに声も出ない。
「よく来てくれたわね、ヴァン。」
少し首を傾げ、アーシェが微笑む。
「う…うん、久しぶりだな、アーシェ…」
それだけ言うのがやっとだった。
(こいつ…こんなにきれいだったっけ…?)
旅の間は終始悩み、一人で重圧に耐えていたアーシェが、
今、お陽様の下でふんわりと微笑んでいるのだ。
「どうしたの…?ヴァン?」
心配そうにアーシェがヴァンを見上げる。
(なんだよ…なんか、いい匂いがする…)
それだけで頭がクラクラするし、目も回る。
「あ…アーシェがさっ…きれいになったから、びっくりして…さ。」
最後の「…さ。」はアーシェにはほとんど聞き取れなかっただろう。
「まぁ、ヴァンもお世辞が言えるようになったのね。」
クスクス笑う声が耳にくすぐったい。
気持ちがいいけど、のぼせるようだ。なんだかいたたまれない。
(お世辞じゃなくて、本当に…)
白いドレスが良く似合っていた。
だが、悲しいかな、それを表現する語彙力がヴァンにはなかった。
でも、伝えなければ。
(俺は決してお世辞じゃなくて本当にアーシェがきれいだと思ったんだ!)
その想いが一気に喉から迸った。
「お世辞なんかじゃないって!だってさ!アーシェ、
旅の間いつも眉間にシワ寄せて暗い顔してたろ?
髪もボサボサで日焼けしてさ!それが今じゃ本当に…」
言い終わらない内にパチーン!と、小気味の良い音が
明るいバルコニーに響き渡った。
その後ヴァンは出入り禁止か、それとも城内でもっとも口やかましい
しつけ担当の侍女頭にみっちりとマナーを教わるかのどちらかを迫られ、
泣く泣く後者を選んだのだった。
おしまい。
以下チラシの裏。
1周目はゲーム進めるのに必死で分かりませんでしたが、
2周目でヴァンはすごくいいコだなぁと分かりました。
いつも心配そーにアーシェを後ろから見つめている姿はかわいいですなぁ。
すいません、49=<2>です。
殿下に引っ叩かれて逝ってきまつorz
乙!
>>48-49 アーシェの為にマナーレッスンを受けるヴァンの姿を想像したら
本当はバッシュ以上に実直なんじゃないかと思えてきましたよw
レヴァナント・ウィングまでこのままワクワクしておきますw
前話:
>>34-38 関連:前スレ550-552
----------
***
「……これは」
端末の前に座り、彼女はディスプレイの中を流れていくデータを目で追いながら、思わずそう呟いていた。
「分かりますか?」
「……正確なことは解析の結果を待って頂きたいのですが」
「概略、あるいは予測でも結構です。聞かせてもらえますか?」
あるビルの一室。
シェルクは最新鋭とまでは行かないが、それでもコンピュータ設備の整った部屋に招かれていた。
彼女に問いかけるのは黒いスーツを身に纏い、整った顔立ちと、真っ直ぐ伸びた同じ色の髪を持つ
男性だった。身だしなみや立ち振る舞い、口調や態度も紳士的で非の打ち所はない。その反面
どことなく冷たい感じがしたのだが、それはシェルクの主観かも知れない。とにかく一度見れば印象に残る
と言うのは間違いない。
男は自らのことを、「W.R.Oへの“姿無き出資者”、その代理人を務める者」とだけ言って名前までは名乗らな
かった。だからといって特に聞きたいとも思わなかったし、名前を知らなくても支障はない。逆に知った
ところで何かの役に立つとも思えなかったので聞こうとはしなかった。
それに彼の名前など知らなくても、周囲の状況からシェルクにとって必要な情報は充分得ることができた。
まず招かれたこのビル内のセキュリティ、そしてこの部屋の設備などから考えても、男の言っている事
――W.R.Oへの出資者との関係――は、あながち嘘ではないと判断できる。これだけの設備環境を揃える
には、相当の資力が必要だ。
次に並べられた機械類の製造元として貼られたラベルに記されたロゴを見れば、彼らの後ろ盾について
ある程度の納得がいった。
掠れてしまってはいるものの、はっきりとロゴに記された『神羅』の文字――恐らくこの男も、少なからず
過去に関わった組織なのだろう。W.R.Oの創立者も、かつてここに属していた。好むと好まざるとに関わらず、
シェルク自身も神羅とは浅からぬ因縁を持っている。
こうして考えてみれば自分が今ここにいるのも、何ら不思議な事ではない。いかに神羅という組織が
巨大なものだったかを、改めて思い知らされる。
そもそも事の発端はおよそ半月前、シェルク宛に届いた差出人不明のメッセージだった。内容は
あるデータの解析を依頼するもので、後日“代理人”が迎えに行く旨が記されていた。しかし差出人の
情報、具体的な内容が一切書かれておらず、最初はいたずらかと思って放置していた。
しばらくしてから、同じように差出人不明で届いたメッセージには日付と時間が指定されており、
シェルクからは自分の都合はおろか居場所さえ何も伝えていなかったにも関わらず、メッセージ通りに
彼らは目の前に姿を現した。ヘリから降り立った――やはり同じように黒いスーツに身を包んだ――
ふたりの人物に見覚えは無かったが、それでも彼らが『神羅』の関係者であろうとはすぐに察しがついた。
それは彼らではなく、彼らの乗ってきたヘリに記されたロゴを見たからである。
自分を迎えに来た人物、つまり差出人不明メッセージの出所が彼らであると知って、あまり良い気分は
しなかった。……と、言うよりも久しぶりに戦闘態勢を取ったのは無理もないだろう。
そんなシェルクを目の前にしても、彼らは動じなかった。そしてやや一方的にではあるが、事の経緯を
語り始めた。話の中に見知った人物の名前を聞くと、いつしかシェルクの方が事態の把握に対して積極的に
なっていた。
その後、シェルクは彼らの乗ってきたヘリに同乗してこのビルまでやって来た。こうして神羅関係者に
エスコートされるのは2度目になる。1度目はおよそ13年前の出来事で、恐らくここにいる者でそれを知るのは
自分だけだろうとは思ったが、彼女にとってはそこから『神羅』との関わりが始まり、自分と姉の人生を大きく
狂わされる事になった。シェルクが『神羅』に対して過剰に反応し、警戒心を強めるのはこのためだ。
しかし今回、彼らの招待に応じてここへ来たのは彼女自身の意思に他ならない。
過去がどうあれ、シェルクには今日ここに来た大きな理由――果たすべき目的があったからだ。
「これは何かを模倣しているような構造です……。おそらくどこかにオリジナルのデータがあると思われますが」
「手本となった物は分かるか?」
「現時点でそこまでは……」
会話を続ける間もディスプレイの中は忙しなく動いていた。
彼女の前にある端末は、休み無くデータをコピーし続けている。それも、コピー元のデータベースに無断で
侵入した挙げ句、勝手に拝借してきているのだ。それだけでも立派な犯罪行為だが、それに関してシェルクが
口を出せた立場になかった事もあり、特に言及することはしなかった。
読み取りを終えた時点から、シェルクによる解析が行われる予定だった。
しかし突然、画面は停止する。表示されていた全ての文字が消え、ディスプレイ上に広がるのは黒一色
だけになった。
異変に気づいた男がシェルクに尋ねる。
「これは?」
「……防壁。そう考えるのが妥当でしょうね」
シェルクが言い終わらないうちに、画面には入力用のボックスだけが現れた。カーソルが静かに点滅を
繰り返している。
「パスワード?」
「はい」
ここで足止めされるようでは、この膨大な量のデータ解析を行うなどという途方もない計画は成し得ない
だろう。しかしシェルクが依頼を受けているのはあくまでデータの“解析”であって、“抽出”ではない。
「……策は講じてあります」
男はまるで予定通りだと言わんばかりの落ち着きようで、隣の端末の前に腰を下ろした。
シェルクほどの早さではないにしろ、端末を扱う手つきはどう見ても慣れた者のそれだった。無意識のうちに
男の手元を追い、彼が入力したキーが何であるかを読み取った。結果的にそれは、特に意味を持たない
アルファベットと数字を組み合わせた物のようだ。
注目すべきは、これだけの桁数を男は何も見ないで入力していると言う点だ。シェルクは視線だけを動かして
男の横顔を見つめた。
『パスワード認証。アクセスを許可します』
端末から聞こえてくる抑揚のない機械的な音声は、彼の操作が成功した事を告げていた。ディスプレイに顔を
向けたまま、男はこう続けた。
「決して誇れたことではないが、このシステムには以前にも何度か侵入した事があったのでね。
……それにしてもまだ、旧システムコードをパスワードに使っていたとは」
「旧……というのは?」
シェルクの問いに男は顔を向けた。口元に小さな笑みを浮かべると、こう答える。
「神羅カンパニー都市開発部門統括リーブ=トゥエスティ。このシステムには彼の社員コードでアクセス
できるんですよ」
このネットワークシステムの脆弱性は、管理者の意識レベルの低さにあると断言できた。こうして外部からの
安易な侵入を許してしまう状況は、とても好ましいとは言えない。ましてやそれが、W.R.O<世界再生機構>の
機密データともなれば尚更だ。シェルクは思わずため息を吐く。
(私の出番は……しばらくなさそうですね)
同時に、念のためにと用意してきた荷をほどく機会がこのまま無ければ良いと思っていた。
----------
・色々テキトーな事書いててすみません。
>>54-57 今回はシェルクの視点ですか!
各視線を収斂させた先には何があるんだ、とwktkしながら読ませてもらいました。
リーブはうっかり者なのか策士なのか、食えない設計士だなぁww
それから、自分は黒スーツの〈男〉が大好きなので今回登場して嬉しいです。
ゆっくりでいいので、ぜひ物語の最後まで書いてください。
GJ!
壮大なストーリーのまだ初めの方といった所でしょうか?
新キャラから懐かしい人達まで総出演ですね!
続きをまったり楽しみにしております。
ワクテカ
ほ
FFTwolf◆HOZlQYR1MY 氏は
何処に行ってしまったんだろう………
待ち疲れたよ………
ほ
ね
66 :
とりあえず書いてみた:2006/11/28(火) 06:15:22 ID:md38uM+M0
喪「ふぁ〜まだこんな時間か・・・まぁたまには早起きもいいかな」
久しぶりに早起きをした俺は
いつも通り着替えてリビングへ
ユウナ「あ、おはよう。今日は早いね」
姉のユウナ。
早くに両親を亡くした俺たちにとって、母親のような存在。
数年前までSEEDの銃使いとして活躍していた
喪「ふぁ〜めんどくせ〜」
ユウナ「こらこら、SEEDになりたいって言ったのはあなたでしょ。
ちゃんと学校に行かなきゃ駄目だよ」
喪「はぁ〜」
ユウナ「何かあったの?ヘンだよ最近」
喪「いや、なんつ〜か、刺激が無いんだよね・・・体もだるいし・・・あ、やばっ」
ユウナ「・・・・・」
ユウナ「う〜ん・・・どうしてだろ?う〜ん・・・・」
姉が悩み始めた・・・やばい・・・
姉はかなりの心配性だ。特に家族のことに関しては
このままだと朝飯にありつけないどころか、
朝っぱらから家族会議だ。
ユウナ「う〜ん・・・」
喪「い、いやっ あのさ・・・たいしたことな・・・」
ユフィ「こ〜ら〜喪〜 まーたユウナねぇ困らしてる」
喪「ユフィ!?」
保守ついでに書いてみた。
こういう風にFFの世界に入るっていうのはOK?
小説初投下だから読みにくい文章かもしれないが、もし皆が良いならちょっとずつ
書こうと思う。
おおまかな設定は↓の通り、キャラや世界についてはそのつど付け加えようと思う。
長女(姉)…ユウナ
二女(姉)…セルフィ
三女(妹)…ユフィ
幼なじみ…リュック
その他・・・スコール、クラウド、ティーダ、ティファ、など
主人公・・・喪(兵士養成学校バラムガーデンのSEED候補生)
喪っていう名前はモテナイ男の喪ってことで。
主に8や7の世界を組み合わせているつもり。
姉ユウナ妹ユフィハァハァ
いつの間にか起きていた妹のユフィ
俺と同じバラムガーデンへ通う学生。
こいつのお陰で我が家はいつも賑やか。
喪「おまえいつの間に・・・」
ユフィ「そんなことどーでもいいじゃん あのねユウナねえ、
そんな心配しなくていいよ。こいつ学校ではい〜〜っつもこんな感じなんだから
いちいち構ってたら体もたないよ」
ユウナ「でも・・・喪も色々あるみたいだし・・・」
ユフィ「いーからいーから!喪のグチはあたしが学校行く時でも聞いとくから、ね?
それよりゴハンまだぁ?もうお腹へったよー」
ユウナ「きゃ・・ちょっとユフィ」
ユフィはユウナの服を引っぱり強引にキッチンへ連れて行った。
・・・こいつのこういう所には正直助かっているが、一言も二言も余計だから困る
喪「ふぅ・・・」
俺が一安心してため息をついていると、ユフィがすたすたと俺のところへ戻ってきた。
ユフィ「100ギルね」
ユフィ俺の耳元でそうボソッとつぶやいた。
こいつ・・・足もとみやがって
迷惑でなければ
こういう風に普通の日常生活から
学園生活→SEED試験→あわよくばミッドガルまで書きたいと思ってる。
キャラ、設定のシリーズ滅茶苦茶はOK?
おk!wktk
72 :
バラム:2006/11/28(火) 23:28:00 ID:M/8bUY920
>>69 喪「あ〜?金とんのかよ」
ユフィ「別にいいよ〜 お〜い!ユウn」
喪「わーーー!まて・・・
ふぐっ・・・・・昼飯のパンで勘弁しろ」
ユフィ「へへへ まぁそのくらいでカンベンしてやるよ
今後も超かわいいユフィちゃんをどうか宜しくお願い致しま〜す♪」
喪「・・・」
ユフィのお陰で、何事もなく
朝食をとることができた。そして制服に袖を通す。
バラムガーデンでは制服があるが
基本的に服装は自由だ。最近では風紀委員が学校内の服装を制服に統一するため活動してるらしいが・・・。
俺には風紀委員の活動なんてどうでもいいが、毎日服を選ぶのが億劫なおれは、制服派。
喪「まだ少し時間があるな・・・テレビでも見るか」
ピッ
〜あなたの大切な人・物守ります。神羅カンパニー!タークス!!〜
ピッ
〜魔こうエネルギーの供給から、社会福祉業、警備業など幅広い事業で知られる
神羅カンパニーが魔こう料金の一律値下げを発表しました。
社長のルーファウス氏は、本社のミッドガルでその理由を次のように・・・〜
ピッ・・・
73 :
バラム3:2006/11/28(火) 23:31:21 ID:M/8bUY920
>>72 喪「神羅・・タークス・・・か」
ユフィ「いーなーミッドガルぅ〜いってみたいなぁ〜
ユウナねえ 夏休みにでも行こーよ」
ユウナ「そうね 考えてみる。」
ユフィ「おっし!お金足りないならあたしバイトするからね!!
喪もモチロンするでしょ〜?」
喪「ん?ああ・・・」
ユフィ「ありゃ 珍しく素直・・・こりゃユウナねえの言う通り
どっかヘンかも」
・・・巨大都市ミッドガル、か。
どんなところだろう?歩く場所も無いほどの人ごみ・立ち並ぶビル、
それとは正反対のスラム街・・・想像もつかない・・・
そこへ行けば今の刺激の無い退屈な日々とオサラバできるかも・・・・・
・・・んなわけないか。
ぉ〜い!
ん?
ユフィ「おーい、聞いてる?」
>>71 ありがとう。
上の方々みたいにうまく書けないし、
文章も下手なオナヌー文ですが、マイペースで書きます。
スレの皆様どうか宜しくお願いします。
>>73 ユフィ「なになに 考えごと?それよりガッコウ遅れるよ〜、ほい弁当」
喪「ん、まあね。今日は先行っててよ なんだか腹が痛いんだ」
ユフィ「ふ〜ん・・・だいじょぶ?ユウナねえ呼んでこよっか?」
喪「い、いやいいよ。大した事無いし、教官には少し遅れるって言っといて」
ユフィ「りょ〜か〜い♪やべっおくれる〜 ダアァッシュ!!」
ユフィが出て行った後、家に居るわけにもいかないので、外に出る。
勿論、腹なんか痛くない。
ただ・・・なんとなくサボってみたかっただけだ。
理由なんか無い。ただ行きたくない。
喪「はぁ〜いい天気だな〜学校なんかいってる場合じゃないって」
春を迎えたばかりのバラムは雲ひとつない快晴だ。
今の時間はちょうど通勤・通学時間なので、このバラムでも
駅周辺は多少は混んでいる。
行くところも無いので、駅の人ごみを潜り抜け港へいってみる。
港へ着き人のいないテトラポットよりの磯に座る。
平日の朝なので人はいない。
波は穏やかだ・・・ふぅ〜っとため息をつく、ああ、いつまでもこうしていたい
と、そのとき
バンッ!!
76 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/29(水) 03:03:53 ID:E4LqM+/VO
昨日から見させてもらってるけど
ユウナ姉、ユフィ妹はツボです。
これであとリュック、セルフィがでてくるなら、賑やかになるんだろうな〜
スレ盛り上がるように頑張ってくださいね
77 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/29(水) 08:33:03 ID:iESyc2SEO
都会の女子中高生の間ではスカートの下にハーパンを履くのはダサいらしい。
階段あがる時に、スカートの後ろを押さえたり、カバンで隠すのはかっこ悪いとのこと。
ギャル系の間では、見られてもいいように可愛いパンツやブルマを履くんだってさ。足が長く見えるそうだ。ティーン雑誌にも掲載されてた。
と、背中に強い衝撃がはしった。
俺は驚き思わず咳き込んでしまう
喪「がほっ!ゴホっ!つ・・・あ、リュック・・・さん?」
リュック「こら〜サボりか〜 ユウナんに言いつけるぞ〜」
この人はリュックさん。
ユウナ姉さんの一番の親友で、この町で武器などの改造屋をやっている。
アイテムにも詳しく、改造屋はバラムガーデンの生徒も御用達。
喪「カンベンして下さいよ。ちゃんと後からガーデンには行きますって。」
リュック「ほんとかな〜、それじゃ・・・・・よし!喪、釣りしよ、釣り♪
このことは黙っててあげるからさ」
喪「えっ、釣り〜?」
リュック「そ、いっぱい釣ってゴハンのおかずにするんだよ。
そいでユウナんに調理してもらってさぁ〜」
喪「またウチっすか?(ここん所毎日だぞ・・・)」
リュック「いいじゃんいいじゃん♪じゃ、これは喪の分ね〜」
そう言うとリュックは喪の分の竿と仕掛けを手渡した。
喪「・・・ま、いっか どうせヒマだし」
リュック「そいじゃ始めますか♪やっぱ持つべきものは親友の弟だね〜」
喪「(なんだそれ・・・)」
リュック「さてと・・・よっ!」
2時間後・・・
リュック「お〜しっ そろそろ終わるか〜
へへへ・・・大漁大漁♪」
◆2TXthfoYnE氏
まずsageていただきたい。大変残念ながら名前「台詞」は小説ではありません。
ですがクロスオーバーは楽しみにしてます。小説形式での投下をお待ちしております。
>>79 sageについてはすいませんでした。
小説のような形式では自分は難しく書くことがません。
なので、投下もこれまでにします。
スレ汚し申し訳ありませんでした。
>>68>>71>>76さん
こんな駄文に期待してくれて、ありがとう。
励みになりました。すごく嬉しかったです。
短い間でしたが、書いていて楽しかったです。
まだまだ書きたいことがあったのですが・・・残念です。
スレの皆さんご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
>>80 おもしろかったし、頑張ってた思うよ。
読んでくれる人を意識するのが一番の上達の早道だと思う。
次回作楽しみにしています。
>>80 お疲れさまでした。
初投下とのことですが、
話もほのぼのとしていて楽しく拝見させて頂きました。
>>79氏の言われる通り小説形式ではなかったですが、
(自分としては全然構わないですが…正直残念です^_^;)
面白い話でしたので、いつかまた見てみたいです。
>>80 お疲れ様です・・・正直残念です。こういう形式でも良いと思うのだけど批判してるのは一人?
84 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/01(金) 20:47:38 ID:URLq9Mza0
>>83 自分はオリキャラが出ている時点でスルーしたけど、
スレタイが
>FFの恋する 小説 スレ
だからね…。
>>79一人じゃないね、まぁ自分は好みの問題でスルーしたから、形式を気にしたわけではないけど。
sage忘れスマソ。
オリキャラは嫌な人はまったく受け付けないからな
それよりこの主人公幸せ者のだよな
俺もこんな性格なんだが、羨ましい
オリキャラ云々ていうよりも、ギャルゲっぽさに抵抗が…。
>>87 良くも悪くもギャルゲっぽいっていうのは
最近のFFみたいだよな
批判するくらいなら自分も投下すればいいのに
>>89 まあ感想だしいいんじゃないか。
わざわざ抵抗があるとか書く必要は無いがな。
いまさらだが、◆2TXthfoYnEは住人に許可求めてから書いたのに
かわいそうだよなと思った。
スレ過疎ってるし俺は歓迎したかった。
質より量か
>>バラム◆2TXthfoYnE
同一線上に並ぶユフィ、リュック、セルフィの書き分けは自分じゃ絶対無理だw
この3人の書き分け(作中での役回り)と、FF8とFF7の世界観がどう融合していくのかに興味を持ちました。
ただ、個人的にあまりクロスオーバーっていう発想がない(作中世界に生きているキャラの背景込みでの生き様が好き)ので
クロスオーバーを読む際のテンションは通常よりは低いかも知れません。
逆に言うとこれは読み手個人の好みだし、好みは人それぞれ。
だから書くときは自分が書きたいものを書きたいように表現すれば良いんだと思う。
実際、自分は読み手側が「なんだよそれ!」って画面の前で言ってくれれば勝ち(?)だと思ってるw
また読むときも「なんだよそれ!」って思わず言ってしまうような作品に出会うのが楽しみでもある。
要するに、読み手側の好みなんか気にするな! 書きたいように書け! と言う事で。
…自分の中にある世界を、文字だけで伝えるのはとても難しいです。(というか、伝わってるかいつも不安です)
それでも、読み手側の好み(や先入観)をひっくり返せたら、それこそ書き手冥利に尽きるんじゃないかな。
と言うわけで、もしもまた「書きたいと思うもの」が浮かんだらぜひ挑戦してみてください。
作品を拝見できるのを楽しみにしています。
お節介な長レスですみません。
前話:
>>54-57 ----------
***
「こりゃあ凄ぇな」
正面入り口から延びた通路をしばらく歩き続けると、やがて開けた空間に出た。呟いたシドをはじめ
仲間達の誰もが、目の前に広がる光景にしばし足を止めたのだった。
W.R.O新本部施設のエントランスホールは建物のちょうど中心部分に位置しており、そこから各エリアに
向けて放射状に通路が延びている。また、頭上を見上げれば旧本部施設を思わせる吹き抜けの造りに
なっていた。
そんな開放感溢れるエントランスの中でもまず真っ先に目を引くのが、中央に設置された巨大な噴水だった。
機能性は別としても、噴き上がる水しぶきは今も来訪者の目を楽しませてくれている。天窓の代わりに
映像シミュレータが設置されているのは、3年前の本部襲撃の教訓を踏まえて屋上からの侵入に備えた
意図があるのだろう。
変更された点はそれだけではなかった。質素な外観から受ける印象からは想像もつかないほど内部は
複雑な構造らしく、1つの目的地に対しても複数のルートがある様だ。また、どのルートを辿っても最終的には
ここに繋がっているが、複雑なマップを見ればさながら迷宮と言った様相だった。
ホール入り口横の壁面に設置された本部施設内ルートマップは電光表示式のもので、マップ下には
各施設の一覧があり、対応のボタンを押すことで現在地からその施設へ通じる最短コースを表示してくれる
設計のようだったが、どうやら現在この機能は稼動していないらしく、全てのルートが点灯表示されている
状態だった。ルートが複雑に入り組んでいると感じるのはこのためでもある。
仕事柄なのか、ルートマップを見つめながらクラウドは誰よりも深刻なため息を吐いた。――今後、W.R.O宛の
荷物を頼まれても、施設内までは配達したくない――しかし脳裏に過ぎった率直な感想は口にせず、ここへ
来た本来の目的を果たすべく口を開いた。
「俺たちの目的地は?」
「恐らく局長室だろう……が」
残念ながらルートマップには局長室の表示は無い。恐らくこれも安全面での配慮なのだろうが、それに
しても来客に対して不親切な設計である。もっとも、局長室に来客を招く機会などそうそう無いだろうが。
「も〜!」
この先に続く道のりの長さを思い、ユフィは溜まらず声をあげる。
それにしてもこの複雑さなら、W.R.O隊員が音を上げ彼らに助けを求めたのも頷ける。敵の侵入を考慮して
いる施設である事は確かだが、身内の出入りにも支障を来すとあっては本末転倒だと思える。
「でもよ、いくら広いっても敷地は限られてんだし、フロアごとに当たっていけば何とかなるんじゃねぇか?」
かつて世界地図にも載っていない孤島を、空の上から見つけ出すなんて離れ業をやってのけたのだ。
シドはそう言ってユフィの零した不満を豪快に笑い飛ばした。
「……そうだな」
続いてヴィンセントが希望的観測を示す。ミッドガル地下に広がるディープグラウンドに比べれば、その
ものの規模は小さいし、今回は単身での探索ではない。というのが根拠だ。
ルートマップの前でクラウドが携帯を開く姿を見たティファが、あることに気づいてユフィを振り返ると、
励ますようにしてこう言った。
「ねえユフィ。手分けしたら早くないかしら? コレも使えるみたいだし」
それから電話を片手に微笑んでみせる。言われるままユフィは携帯を覗き込むと、確かに通信圏内で
ある事を示す表示がディスプレイに現れている。それから満面の笑みをティファに向けた後、ひとり飛び
跳ねたり――本人に聞けば「準備運動に決まってるじゃん」とでも言うのだろうが――していた。
わいわいと騒がしい仲間達を背に周囲を見渡していたシドが、エレベーターの存在に気づいて噴水の
向こう側にあるエレベーターホールへ向けて歩き出す。
「起動しているエレベーターは5基中2基だけか……」
「まだ建造中だ、無理もない」
シドに続くようにしてエレベーター前まで来た6人は、互いの顔を見合った。
表示によれば、地上15階、地下20階の総階数35のフロアからなる建物のようだ。単純計算すれば1人
およそ6フロアを受け持つことになる。
「まずはこのフロアを含めた地上部分と、地下部分に別れましょう」
その言葉を聞くやいなや、ヴィンセントは起動している1基のエレベーターのボタンを押すと、待機している
それに乗り込んだ。どうやら下へ向かうつもりらしい。行動から察するところ何かか考えあってのことなの
だろうが、相変わらず寡黙な彼からこの場でそれを聞き出そうとする者はいなかった。その後ごく自然に、
別に話し合うでもなくエレベーターに乗り込む組とフロアに残る組とに分かれた。
「じゃあ、何かあったらすぐ連絡ね!」
「了解」
ユフィは閉まる扉に手を振り、エレベーターに乗ったクラウド、ティファ、ヴィンセントを見送った。
扉が閉まってしばらくすると、降下を始めたエレベーターのモーター音が建物内に響いた。
「……で。俺たちはどうするんだ?」
シドが問う声を背中に聞きながら、ユフィは稼動しているもう1基のエレベーターのボタンを押して振り返る。
「アタシは一度、みんなより先に最上階まで行ってそれから下へ降りてみる」
そう言ってエレベーターに乗り込む姿を見て、シドは頷く。
「じゃあ、オレ様は下の階からだ。何かあったら連絡よこせよ」
「オッケー。そんじゃお先に」
ユフィを乗せて上昇するエレベーターを見送り、ホールにはシドとバレットの2名が残された。クラウド達を
見送ったときにはあまり感じなかったが、ユフィが去った後のフロアはしんと静まりかえっている様な気がした。
仲間達を乗せた2基のエレベーターを見送った後、バレットはもう一度周囲を見回して呟いた。
「それにしてもバカでかい施設だな」
「前に来た時はこんなややっこしいの造るなんて言ってなかったんだがな……」
3年前のW.R.O襲撃で受けた痛手の大きさを知っているシドは、リーブが新本部施設建造に対して
慎重になる理由が分からないでもない。しかし噴水の向こうにあるルートマップに改めて目を向けると、
さすがにこれはやり過ぎだろうと思う。
「そう言えばシド、お前……」
今回初めて訪れるW.R.O本部施設にばかり目がいっていたバレットは、シドが背に担いでいた槍の存在に
今さら気がつき、驚いたように声をあげた。
「ああこれか? ……あれだ、“備えあれば憂い無し”って言うだろ?」
「そうなんだけどよ……にしても、備えすぎじゃねぇか?」
そもそもバレットの場合は常に武器を持ち歩いているので、人のことをとやかく言える立場ではないのだが。
バレットの言葉を受けて天を仰ぎ、シドは吐き出すようにして呟いた。
「……今やW.R.Oは立派な軍隊になっちまった。つまり、ここは軍事施設ってやつだ。
備えたって憂いがない保証はない、そう言う場所だって話だ」
ケット・シー……いや、元々リーブはこうなる事を望んじゃいなかった。だが、あいつなら自分が求める
理想の為に、敢えて望まない道を進むことも厭わないのかも知れない――W.R.Oがいつからか軍拡路線を
進み始めた頃から、シドは懸念を抱いていた。
考えてみれば6年前の戦いの時も、3年前も、いつでも自分たちとは別の場所で、違う方法でひとり戦って
いた。リーブはそう言う男だった。だからそんな懸念は杞憂に過ぎないのだと、自分の考えを否定し続けてきた。
――では、今は?
噴水を見つめるシドの、脳裏に過ぎったのは不吉な予感だった。
その予感を口に出したのは、横に立つバレットで。
「チッ……、神羅ビルを思い出すぜ」
それはかつて神羅が歩んだのと同じ道だと、過去を知る者であれば誰もが思う事なのかも知れない。
そんな彼らにとって、その道の先に何が待っているのかを想像するのはとても簡単なことだった。
***
「リーブはW.R.Oを軍隊にするつもりは無かったはずだ。仮に彼を変えたものがあるとするなら、3年前の
オメガ戦役だろう」
3人が乗るには広すぎるエレベーター内でヴィンセントが語ったのは、ティファの問いに応じてのものだった。
オメガ戦役――それは各地で発生した集団失踪事件に端を発するディープグラウンドとの戦いである。
ジェノバ戦役になぞらえて、3年前の事件をこう呼ぶ者は多い。
「あの戦いでは多くの者達が命を落とした。W.R.Oの創設者であるリーブは、そのことに負い目を感じている
……様に見えた。結局、本人は何も語らなかった。故にこれは私の憶測に過ぎんがな」
リーブが弱音を吐く場面に遭遇したのは3年前、ディープグラウンド急襲によってW.R.O本部施設が陥落した
直後の司令室、後にも先にもこの一度きりだった。
「ディープグラウンド……“神羅の闇”、か」
「誰よりも責任感が強いものね、リーブ」
6年前、壱番魔晄炉を爆破した自分達を糾弾した彼――ケット・シー――の姿を思い出し、ティファは苦笑
がちに呟いた。そんな彼だからこそ、クラウド達との旅を終えた後W.R.Oを設立し各地の復興を目指そうと立ち
上がった。ディープグラウンドとの遭遇は、その矢先の出来事だった。さらに事の真相を知れば、恐らくリーブ
でなくとも心を痛めただろう。その為にさらなる犠牲を強いたのであれば尚更だ。もし自分がリーブと同じ立場に
いたとしたら、二度と立ち直れなかっただろうとさえティファは思った。
「ヴィンセント。ここへ来る前『腑に落ちない』と言ったのはその事か?」
クラウドは内心、この言葉がずっと引っかかっていた。それはW.R.O新本部施設を前にしてヴィンセントが
語ったもので、結局はユフィとバレットに阻まれてしまったが、確かに彼は言葉の先を続けようとしていた。
「そんなところだ。だが、何より腑に落ちないのは……」
そう言ってヴィンセントは愛用の銃をホルスターから取り出し、手に取ってこう続けた。
「ここへ来るときは各自、武器を持参するようにと告げられた事だ」
言い終わるのと同時に小さな機械音が鳴った。3人が目を向ければ、別に指定したわけでもない地下7階を
示す地点でエレベーターが停止し、ひとりでに扉が開いた。
「……確かに、腑に落ちないな」
クラウドは吐き捨てるように呟くと、大剣に手を添える。ティファは目の前の光景に信じられないと言った表情を
向けていた。
エレベーターの扉が開かれた先では、無数の銃口が彼らを迎えるべく待ち構えていた。
----------
・テーマはWRO変遷。
初投下です。かなり文才ないのでご容赦をorz
登場人物は7〜8あたりを混ぜてます。他にも出てきますが。
背景は完全に別物です。他の方と比べると台詞が非常に少なくてつまらないかも。
ストーリーは国に反意を持つユリウスがスコールなど、多くの仲間を集めて国を戦うという
話にしようかと思ってます。かなり長くなりそう^^;
今度の相手は6千。こちらの倍の兵力だった。
無謀と言えばそうかもしれないが、ユリウスは負けるとは思っていなかった。
ユリウスは傭兵団を率いる隊長だった。最初は1人で放浪していたが、1人、2人
と仲間が集まり、今では3千人を超える大きな傭兵団になってきている。
傭兵団の名前は皆から意見を聞き、フォークスという名前がついている。
依頼主は小さな町の長だった。領主から課せられる重い税金に耐えかねて徴税を断ったところ
領主は自分が囲っている傭兵団を差し向けたというのだ。
6千と言ったところで所詮脅しのために出撃したのだから戦う意思はないだろう。
そういう軍は脆い。誰も戦うべき場所じゃないところで死にたくないからだ。
「出撃」
夜が白み始めてきた頃、ユリウスは静かに言った。
スコール、出撃命令だ」
「了解」
気が重かった。SEEDとは言え、ただ税金を払わない町に警告で、6千もの兵を出撃させるのだ。
しかしそういうことに腹を立てても無意味だった。SEEDは依頼を全力で遂行するだけだ。
今この国は新羅という名の下で統一されている。新羅は星のエネルギーを利用する技術を確立した。
それによりあらゆる技術が進歩し、革新した。その新羅の旗本というべき部隊はソルジャーと呼ばれている。
ソルジャーは星のエネルギーを浴び続けたことで、青い瞳を持っている。ソルジャー部隊の戦闘力はこの国で
並ぶものは居ないといわれている。そのソルジャーになるには多くの試験をクリアし、SEEDにならなければならない。
それからさらに多くの試験をクリアし、実践で功績を揚げることにより、ソルジャーになることができるのだ。
夜が明け、スコールは兵を率いて20km先の町へ向かった。
全員歩兵だが、指揮官の自分と、部隊長は羽馬にのっている。ただの警告なので軽装備の部隊だ。ただ武器は槍に統一させた。
槍は弱兵でもある程度力を出すことが出来る。剣より相手との距離が開くから、その分臆病でも動けるのだ。
10kmほど進んだとき、不意に丘の上から3千ほどの軍勢が湧き出た。黒い騎馬隊。背中に嫌な汗が流れる。。
「2千ずつ3つにわかれろ。槍を前に突き出し突撃を防げ。敵はこちらの半分だ。1隊攻撃されたら他の2隊がそれを押し包むぞ」
指揮をしつつも嫌な予感は拭えなかった。
ゆっくりとガンブレードを構えた。余計なことは考えない。完璧に依頼を遂行する。今はそれしかない。
黒い騎馬隊が動き出した。鳥肌が立った。速いのだ。それも並の速さではない。
「押し包め」
間に合わなかった。一瞬だった。矢のように1隊を貫き、潰走させた。押し包む暇がない。
「固まれ。恐れるな」
潰走した部隊の兵がまた集まってくる。スコールはすばやくそれをまとめ守りの陣を敷いた。しかしあの騎馬隊には
役に立たないことをスコールは痛いほど感じていた。この場合どうすればいいのか。こちらは烏合の衆。敵は黒羽馬に乗った騎馬隊。
敵の騎馬隊が集まり、再び突撃の体制をとった。
「槍を構えろ。怯むな」
突っ込んでくる。しかし、槍が集まる中央は避けて脇をかすめて行った。それでもかなりの人数が蹴散らされた。
スコールは一騎で前に出た。
「俺はSEEDのスコール・レオンハート。指揮官、前に出てきて俺と戦え」
一騎打ち。残る手段はそれしかなかった。一騎打ちなら勝つ自信があるし、頭を失えば軍は脆いものだ。
敵の騎馬隊が二つに割れ、長剣を携えた一騎が前に出てきた。
「俺はユリウス。一騎打ちなどやめておけ。たとえSEEDでも容赦はしない」
長い髪を後ろで束ねた、精悍な顔つきの男が言った。構えてる剣はかなりの長物で、両手で遣うようだ。
「おまえこそ死にたいらしいな」
言うと同時に羽馬を走らせる。馳せ違う。腕が痺れるほどの衝撃が走る。
2、3回と馳せ違った。その度に打ち落とされそうになる。額に汗が流れる。ユリウスと名乗る男も苦しそうに肩で息をしている。
4度目に羽馬を走らせようとしたとき、後ろから援軍、という声が上がった。
「運のいい奴だ。また会おう」
男は言うと、騎馬隊を引き連れすぐに消えてしまった。後ろからは同じSEEDの者が率いる軍が来ている。自分は信用されていなかった。
だからこんなに速く援軍が来たのだろう。出陣するときにはすでに援軍が編成されて居たのかもしれない。
この軍なら任務は遂行できるだろう。しかしもし援軍が来なかったら。一騎打ちには負けたとは思わないが、軍と軍のぶつかり合いでは
完敗だった。スコールは兵をまとめ、援軍の指揮官、SEEDのクラウドに会いに行った。
新羅→神羅
orz
FFTwolf◆HOZlQYR1MY 氏は、
戻って来ないのか………
>>103=
>>63か?
そういうのはあんま書き込むもんじゃない
急かしたって書き手には辛いだけだし
>>ラストダンジョン◆Lv.1/MrrYw
GJ
そのメンバー編成には何か意味が?wktkがとまらない
続きまったり期待
乙!
>>99-101 ユリウス率いる義勇軍(意味合いはこんな感じだと思ったんですが、間違ってたらすみません)と
スコール率いる正規軍の各視点で描かれる行軍の様子が良かったです。
「誰も戦うべき場所じゃないところで〜」とか、セリフが少なくても(というか最初は世界観の説明が
あると思うので仕方ないと思いますが)気にならなかったです。
この世界ではソルジャーへの登竜門がSeeDって感じに読めますが、両者の関係(神羅と学園長)
にも何かからくりがあるのかな?
ユリウスが体制へ反意を持つに至った理由、彼に同調し集う仲間達の背景、現体制からの離脱…
この先、読みどころはたくさんありそうですね、今後の展開期待sage。
長編との事ですが、気負いせずマターリがんばって下さい。
前話:
>>93-98 ----------
エレベーターホールを取り囲む無数の――数えようという気にもなれないような――銃口を向けている
のは、本来ならば訓練に使用されるはずの射撃装置だった。
身構えることも忘れ、ティファは呆気にとられたままエレベーターの奥からその光景を見つめていた。
操作パネルの横に立ち銃を取り出したヴィンセントは、銃口をエレベーターの外には向けなかった。
大剣に手を添えていたクラウドも、そのまま剣先を向けることはしなかった。
エレベーターを包囲した無数の射撃装置も、起動する様子が全くない。
とはいえ、これだけの数の銃口を向けられて良い気分はしないし、いつ銃撃が始まるかは分からない。
仮にそうなれば退路を限定されている彼らにとって不利な状況なのは明らかだった。当然だが一刻も早く
この場から離れたいと考えたヴィンセントは、左手を操作盤へと伸ばす。
「…………」
視線は前方へ向けながら、無言のまま左手で操作盤の開閉ボタンに触れた。しかし開いたままだった
エレベーターの扉は操作を受け付ず、いっこうに閉まる気配を見せない。
現状、彼らにとって唯一の退路が断たれた事になる。
重苦しいほどの膠着状態が、どれほど続いた頃だったか。まるで空気さえも流れを止めてしまったような
空間が、僅かだが動いた事をエレベーター内にいた3人は感じた。ティファは反射的に身構え、クラウドが
彼女を庇うように一歩進み出る。
ヴィンセントは静かに銃口を差し向けたのは、目の前に並んだ射撃装置のはるか後方、闇に沈むフロア
だった。
やがて、3人の耳に聞こえたのは小さく硬質な音。
次第に大きくなってくるその音が、こちらへ向けて歩みを進める靴音だと知るのに時間は掛からなかった。
それからクラウドは一瞬、奇妙な表情を浮かべてから構えを解いた。
「……これはどういう事か」
ほとんど同時に、ヴィンセントも向けていた銃を下ろして静かに問う。ティファはふたりの視線を追うようにして、
闇に目をこらした。徐々に浮かび上がってくる人物の輪郭と重なるようにして、ヴィンセントが呼びかける。
「納得のいく説明をしてもらうぞ、リーブ」
その声で、靴音が止む。
無数の射撃装置に囲まれた中で顔を上げたリーブに、笑顔は無かった。
W.R.Oの局長として人前に出る時と変わらない姿で、彼は3人の前に現れた。
…………。
もともと口数の多い方ではない3人に対し、リーブも黙ってしまっては会話が進まない。射撃装置に包囲
されながらの膠着状態はさらに続き、息苦しささえ感じるほどの時間が過ぎた。
業を煮やしてエレベーターから出ようとしたクラウドをヴィンセントが無言で制したところで、ようやくリーブが
口を開いた。
「……皆様にご足労頂いておいて大変恐縮なのですが、今回の件をご説明しても納得して頂けないものと
思いますので」
相変わらず丁寧というか、どこか事務的な口調で笑顔もなく語ったリーブの姿に、ティファは妙な感覚を
抱いた。顔を合わせた回数こそ少ないが、ティファの知っているリーブとはどこかが違う気がした。もう少し
言えば、目の前のリーブには何かが欠けている。“何か”が何を示すのかと問われると明確な答えは出せ
ないものの、違和感があるのは間違いない。ティファがその答えを探すために考えを巡らせている間にも、
リーブの言葉は続く。
「申し訳ありませんが、お引き取……」
そこまで口にしたリーブに向けて、ヴィンセントは静かに銃口を向けると、ためらいなく引き金を引いた。
直後フロアには重々しい銃声が響き渡り、リーブの言葉が中断される。
銃は真っ直ぐリーブに向けて放たれ、弾道を追えば見事その腹に命中している。僅かに目を開いたリーブは、
膝をついて床に倒れ込んだ。
「ヴィンセント!?」
目の前で展開される光景に、驚き戸惑うティファの心中はそのまま声に現れていた。クラウドも横に立つ
ヴィンセントを問うように見つめた。
仲間達の問いに答えるかわりに、ヴィンセントは銃を下ろさず床に倒れ臥したリーブに言い放つ。
「……相変わらず人形遊びとは趣味が悪いな、リーブ」
しばらくして、俯せに倒れたまま身動き一つしなかったリーブの腕が、ゆっくりと動き出す。
「二番煎じは通用しませんか」と、くぐもった声が返されると、ヴィンセントはため息を吐いた。
「やはり……“本体”ではないな?」
リーブは両腕で体を支え、上半身を起こす。それからわざとらしく首を持ち上げてヴィンセントを見上げた。
「お見事です。……それに相変わらず優しいですね、ヴィンセントさん」
3年前。ディープグラウンドのカーム襲撃中に久々の再会を果たした際、ヴィンセントはリーブを“着込んだ”
ケット・シーに出会っている。今目の前にいる彼がそのことを言っているのだとは分かったが、それにしても
妙だった。
ああ、と思い出したようにリーブは告げる。
「……あの時と違って、今回はケット・シーが中に入っていると言うわけではありませんからね」
立ち上がって服の裾を手ではたくと、気付いたように腹の辺りに撃ち込まれた銃弾を取り出した――W.R.O
局長として人前に出る時に着ているあの服は、恐らく防弾仕様なのだろう――それにしても、その仕草は
まるで解れた糸をちぎるかの様なさり気なさだった。
こうしてよどみなく語るリーブの姿を、ヴィンセントは無言で見つめていた。ティファなどは目の前の状況を
飲み込めず、言葉も出ない様子だった。
再びエレベーターにいた3人に顔を向ける、笑顔を浮かべるわけでもなくリーブは淡々と言葉を続けた。
「改めて……はじめまして皆さん。私は実戦用に配備された“人形”ですよ。見た目がこれですからね、
好きなように呼んで下さって構いません」
元々名前も付けられていませんので、と付け加える。
「リーブ、お前……」
その言葉にヴィンセントが珍しく狼狽えたような声で応じた。
「ヴィンセント?」
クラウドが尋ねるが、答えに窮したような表情のヴィンセントから返答は得られなかった。代わりに答えた
のは、目の前に佇むリーブだった。
「ケット・シーをご存知ですね?」
「ああ」
「とすると、あれを操っていたのは『リーブ』だと言うことも?」
クラウドとティファが申し合わせたように無言で頷くのを見て、さらにリーブは続けた。
「ケット・シーは単なる遠隔操作ロボットではありません。『リーブ』が命を吹き込んだぬいぐるみです」
「確か……『インスパイア』と」
ヴィンセントが呟いた小さな声に、今度はリーブが頷く。そしてこう言った。
「私は、ケット・シーと同じようにして生まれました」
作られ、そこに命を吹き込まれた存在だと。彼は自らのことをそう語った。
その姿も、告げる声も、何もかもがリーブそのものだった。一見すれば両者の違いを見分けることは難しい。
それでも何故か、目の前で語るリーブに違和感を覚えた。だからヴィンセントは引き金を引いた。3年前、
ディープグラウンドソルジャーがそうしたように。
皮肉にも彼らが感じたとおり、目の前で語るリーブは機械仕掛けの人形だったのだ。
「一体なぜだ? 納得のいく説明をしろ、さもなくば……」
リーブに向けて問う声は僅かに震えていたが、銃はしっかりと向けられている。今度は腹ではなく、頭部に
照準を合わせて。
本来なら微笑でも浮かべるような場面でも、リーブは無表情に切り返す。
「では、どうしますか? 私を壊しますか? そんなことをしても無駄ですよ。この身体はもともと作り物ですからね」
――『ほな、どないするんですか? ボクを壊すんですか? そんなんしてもムダですよ。この身体もともとオモチャやから』
6年前、どこかで同じようなセリフを聞いた。クラウドは苦々しい記憶と共に目の前のリーブを睨み付けた。
深夜のゴールドソーサーでスパイである事を明かされたあの時と違うのは、純粋な怒りの他に別のある感情が
沸いたからだ。
「……“本体”は、どこにいる?」
クラウドからの問いに、リーブは答えなかった。
答える代わりに手をあげた。それを見たクラウドはとっさに大剣を構え、エレベーターから飛び出した。
ヴィンセントは依然としてエレベーターの操作盤から左手を離そうとはしなかったが、やはり扉は閉まらな
かった。覚悟を決め、銃口を向ける。
エレベーターホールを取り囲んだ無数の射撃装置が一斉に火を噴いたのは、この直後の事である。
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・DCFF7第1章を見た後、真っ先に浮かんだ想像。ちゃんと作ればこうなるんじゃないかと。
・ようやくタイトルらしい展開になって来たでしょうか? 以降、全員でこのダンジョンを攻略…できたらいいな。
>>ラストダンジョン◆Lv.1/MrrYw
急展開ktkr
まさか彼らが襲ってくるとは。場面を想像すると異様です。
続きまったり期待
メカ局長ワクテカ
かなりぬるぽな感じだが1本投下させて下さい
ネタ的にはFFYのセッツァーとセリスで。
「セッツァー!」
そう声を張り上げた女性は、彼女は繊細なレースが施された
純白のロングドレスをまとい、深緑のサテンのリボンで長い金の髪を
高くひとつに結い上げていた。
今彼女の立っている場所からすると酷く場違いな格好だった。
彼女は今、地上からは遥か上、見渡す限り青く広がる海原を
眼下に見下ろしながらゆっくりと大空を飛空挺で飛んでいた。
瑠璃色の水面は太陽の光を乱反射してキラキラと輝いている。
優しく吹き付ける潮風に髪を遊ばせながら、彼女は再び声を張った。
「セッツァー!聞こえてるの?」
セッツァーと呼ばれた男は、風になびく長い銀髪をうるさそうに
片手でかきあげ、自分の腕の中で眩しそうに前を見据えている
白いドレスの女に自慢げにささやいた。
「なぁセリス、空は最高だろ?俺はこの眺めの…」
セリスは大げさなため息を一つつくと、セッツァーの言葉を遮って
おもむろにセッツァーの右足の脛を靴の踵でけりとばした。
たまらずセッツァーは悲鳴をあげ、豪奢なレースに包まれた
セリスの豊かなふくらみから手を離した。
「ったく、痛ぇな!いきなり何だよ」
気持ちよく演説を始めた所にいきなりハイヒールで蹴りつけられ、
セッツァーは非難の声をあげる。
セリスはくるりと後ろへ向き直ると、きっとセッツァーを睨み付けた。
「飛空挺の操作を教えてくれとは言ったけど、
胸を触ってくれなんて頼んだ覚えはないけど?」
そう言い放つと、セリスはぷいっと飛空挺の舵へと向き直った。
たかが少し胸触ったくらいで蹴り入れやがって…。
予想以上のセリスの気の強さにセッツァーは正直手を焼いていたが、
その思いに反して笑いが顔に浮かぶのをセッツァーは感じていた。
実際気の強い女は嫌いなタイプじゃない。
ただ、“気の強い女”とやらは今まで何人も相手してきたが、
この女のは気の強さの種類が違う。
セリスの場合、男に媚びる気が全くねぇからだろうな、
セッツァーはそうひとりごちた。
セッツァーはセリスと並んで立つと、改めてセリスの横顔を見つめた。
こうして改めてみると、顔立ちが整いすぎていて、ともすると人形の様に
見えなくもない。しかしアイスブルーの瞳にたたえられた強い光が
作り物にはない内面の強い意志を感じさせる。
こういう完璧な美貌を持つ女ほど乱れさせるとそそるんだがな、と
セッツァーがよからぬ考えを抱いていると、
セッツァーの視線に気づいたセリスがセッツァーの方へ顔を向け、
楽しそうにニッと笑みを浮かべた。
「ふふ、私を普通の女だと思わない方が身のためよ。
生憎と私は舞台じゃなくて軍隊あがりなの。何事も鉄拳制裁が基本よ?」
セリスはさらりと恐ろしいことを口にする。
つい先ほど制裁を受けたばかりの右すねをさすりながら、
セッツァーは応じた。
「聞けば、帝国軍の常勝将軍と言えば泣く子も黙るほどの
有名人だったらしいな。そのくせ見かけは極上だって言うんだから
手に負えないぜ。
おかげでまんまと騙された哀れな男が帝国くんだりまで飛んでるってわけだ」
セッツァーはポケットに手をつっこむと肩をすくめた。
表情も口調も冷静さを保ったままだが、セリスも負けじと舌戦に応じる。
「人聞きが悪いわね。さっきのコイントス勝負で負けたのはそっちでしょ?
潔く負けを認めて敗者は大人しく勝者に従ったら?」
「口が減らねぇ女だな……。言っておくが俺がこうやって手取り足取り
飛空挺の操作を教えてやるなんて滅多にねぇぞ。
少しはサービスでもしたらどうだ?」
セッツァーが嫌味を言うと、セリスは長いドレスの裾を指でつまみ、
貴族の令嬢がするように優雅に膝を折って挨拶をしてみせた。
「わざわざこんなひらひらしたドレスのまま来てあげたでしょ。
それもセッツァーのリクエスト通りにね。
これだけで大サービス、でしょう?」
口調はあくまで冷ややかだが、セリスの態度はあからさまに
セッツァーを挑発している。
くそ、その格好のままついてくれば船の舵取りを教えてやるなんて
言うんじゃなかった、そう後悔したのもつかの間、
セッツァーはふと悪巧みを思いつき、目を細めて口元に薄笑いを浮かべた。
(これだから気の強い女はな。自分から負けようって気が全くねぇ。
だが俺も気の強い女専門だからな。ここで挑発に乗るほどバカじゃないぜ?)
つい先刻コイントス勝負で完全にセリスにしてやられた事も忘れ、
心の中でそうつぶやくと、セッツァーは負けを認めたとばかりに
両手を大きくひろげてセリスに一歩歩み寄った。
「わかったわかった。俺の負けだって認めればいいんだろ?
じゃ負けついでにもうひとつこの船の操作方法を教えてやるから
しっかりつかまってろよ?」
(本当は船に負担がかかるからあんまり連発できないけどな)
と語尾を省略して、セッツァーはセリスを後ろから包み込むような態勢
を取り、舵に手をかけた。
「操作ならさっきこれで全部だって言ってなかった?」
急に負けを認めたセッツァーに対して、
セリスの口調にはやや怪しんでいるような色が含まれている。
ここでセリスに怪しまれては元も子もない。
セッツァーは落ち着いた口調になるよう努めつつ、
セリスの耳元に口を寄せた。
「さっきのは基本を教えたんだよ。今からやるのは秘伝ってやつだからな。
セリスには特別に教えてやるんだよ」
と、セリスの髪から甘い香りがふわりと広がり、
セッツァーの鼻先と下心とをくすぐった。
この際だ、どうにでもなれとばかりにセッツァーは舌先で
セリスの耳たぶをぺろりと舐め、ひんやりとした感触のそれを
舌先で転がすようにして口に含んだ。
と、セリスの身体が目に見えるほどびくりとはねる。
耳から瞬く間にさあっと広がり、頬まで真っ赤に染めたセリスは、
セッツァーの不意打ちに急いで振り返ると、口をぱくぱくとさせた。
「なっ…な、な、」
突然のことに二の句が告げられないでいるセリスの腰に
さりげなく左手を回すと、セッツァーは空いている手で舵を一気にきった。
飛空挺は操縦者の突然の針路変更に、船体を軋ませながら大きく船体を
左に傾ける。小さな石ころが甲板の上を滑り、
カラカラと乾いた音を立てながら遥か下の海原へとすいこまれていく。
突然足元が揺らぎ、セリスは短い悲鳴をあげて
咄嗟に目の前の男にしがみついた。
セッツァーが片手で支えているとはいえ、
船体が完全に安定するまで、セリスは震えながらセッツァーの腕の中で
身体を押し付けていた。
小さく震えながらしっかりと抱きついているセリスを見ると、
やりすぎたかと軽い罪悪感を感じる反面、
男としての自尊心が満たされていくのをセッツァーは感じていた。
気の強いわりにやっぱり可愛いところあるじゃねぇか。
まぁ今までこの手で落ちなかった女はいねぇからな…。
そうほくそ笑みながらセッツァーはゆっくりとセリスを上向かせた。
(「悪かったよ、悪ふざけがすぎた。
その代わり最高の気分にさせてやるから、下に下りようぜ」)
そういつものきめ台詞を使おうとした瞬間、
挑みかかるような表情のセリスが目に入った。
怒りのメーターが吹っ飛んだような顔をしている。
セッツァーは本能的にやばい!と察したが、時はすでに遅かった。
次の刹那、脳天まで突き抜ける猛烈な痛みが下半身に走り、
何が起こったのかわからないままセッツァーは床に膝をついた。
全身に冷や汗が噴出し、声を出すことすらままならずに前のめりに
しゃがみこむ。
セリスが自分の急所を蹴り上げたのだ(しかもハイヒールの先で)
と分かったのは、セッツァーがうずくまってから十数分後のことだった。
涙目で弱々しくセッツァーが顔をあげると、
その目線の先には、感情の停止した機械仕掛けの人形のように、
恐ろしく冷酷な目をしたセリスが、無言で見下ろしていた。
くそ、こんな時でも頭にくるぐらいキレイな顔しやがって、
と見当違いな怒りがふっと頭に浮かぶと、その勢いでセッツァーは
なんとかよろよろと身をおこした。
だが、体勢を少し変えるだけで、治まったはずの冷や汗が
どっと背中に噴き出してくる。
しかしセッツァーはここまで来たらもう怖いものなんかねぇとばかりに、
渾身の力でセリスを抱き寄せた。
死ぬほど痛いのにまだ女の事を考えられる俺もなかなかすげぇな、
という考えが悪寒のようなの痛みの中、ちらりと脳裏をかすめる。
そして、セリスを抱き寄せた反動で立っていられずに、
セッツァーは再び床に崩れ落ちた。
残念なことに、その振動がまたセッツァーの痛みを増幅した。
今度こそあまりの痛みにセッツァーは情けない悲鳴をもらした。
さっきまで視線だけで人を殺せそうなほど冷酷な表情を浮かべていた
セリスも、情けないセッツァーの有様に、抱きよせられた格好のまま、
クスクスと笑い出した。
「なんて声だしてるのよ」
「女には一生わからねぇ痛みなんだよ…使えなくなったらどうすんだ」
セッツァーはできるだけ局部に響かないよう低く声を出した。
「急所を蹴られてなおこれだけできれば平気よ」
セリスの態度は完全に軟化している。
クスクスと笑い続けているセリスの表情には、年齢相応の幼さがふっと
去来する。初めて見せる柔らかい笑顔に、セッツァーはほっとしつつも、
セリスの手痛い反撃ぶりにため息をついた。
「少し悪さしただけで一撃必殺かよ。本気で蹴るか?普通。死ぬぞ…。
俺が死んで帝国に行けなくて困るのはセリスのほうだぞ」
「ふふ、私が本気で蹴ったら再起不能になってるわよ。それに、
さっき言ったでしょう?普通の女だって思わないほうがいいって」
セリスはセッツァーの泣き言には取り合わず、
楽しそうにウィンクすらしてみせる。
「でも……本当に感謝はしてるのよ?飛空挺を貸してくれた事」
セリスは照れたように小声で付け足した。
セッツァーはセリスのすべらかな頬を右手でゆっくりと撫で、
唇にはりついた髪をそっと指先で払った。
ここにきてやっとしおらしくなったセリスをじっと見つめたまま、
セッツァーは最後の追い込みをかけた。
「言葉だけじゃ足りねぇな。俺がいないと困るんだろ?セリス」
もはや半分脅迫になりつつあるセッツァーの口説き文句に、
セリスが根負けしたように小さくため息をついた。
「わかったわよ。じゃどうすればいいの」
乳ぐらい揉ませてもバチは当たらねぇだろ、という言葉が反射的に
口をついて出そうになるのをセッツァーはぐっとこらえた。
まぶたの裏に浮かぶセリスの艶かしい肢体の映像を振り払い、
セッツァーは大人然とした声をだした。
「もう一度マリアの格好してくれよ。
そしたらとびっきりの景色を見せてやるよ。二人っきりでな」
「そんなにこの格好が気に入ったの」
気にするのはそこじゃないけどな、と思いつつセッツァーは念を押した。
「約束だぜ?」
「わかったわ。約束する」セリスは半ば呆れたように微笑んだ。
よくよく考えると、女優を攫うどころか偽者をつかまされたあげく、
帝国までの足代わりとして利用されたセッツァーだったが、
不思議と怒りは湧いてこなかった。セリスは気は強いがなかなかの上玉だ。
これからじっくり落とせばいい。
そう、まだこいつとの旅は始まったばかりなのだ。
そう心に決めると、セッツァーはいつ手に入るとも知れない女の肩を
そっと引き寄せた。
めでたしめでたし
ネタのつもりが長文になってしまったようだ…
どもでした。
>>126 _ ∩
( ゚∀゚)彡 ツンデレ!ツンデレ!
⊂彡
てかセッツァーテラバカスwwwww
すらすら読めておもしろかった
GJ!!
FF1or3でハァハァって奴はここでは少数派かね
DS版FF3好きです保守。
>127>128 ありがとうございます。
機会があればまた書かして下さい。じゃっ!
とにかく保守だけ。
保
FF全シリーズの作品を期待ワクテカ
ほ
ぼ
ま
139 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/15(金) 23:45:38 ID:rj7pQ2DA0
アッー!
>>118-125 (またマリアの格好を〜、の件で)
さり気なく3人クリアの伏線が張られていると解釈して勝手にニヤニヤしてました、GJ!
さすがセッツァー、傷の多さは伊達じゃないって事かw
FF3ネタなら、シド夫妻の馴れ初めとか読んでみたい。ネルブの大岩破壊のイベントに
男気とばあさんへの愛を感じたw
そう言えばシリーズのシドって愛妻家や家族思い多いな。…6は似非家族だけど。
前話:
>>109-113 ----------
***
地下に降りた仲間達が衝撃の再会を果たしたのと同じ頃、1階エントランスに残ったバレットとシドは
エレベーター以外でフロアを移動する手段を探しながら、1階部分の探索を開始していた。
エントランス中央にある噴水を中心にして放射状に広がる通路を進みながら、目についた扉を片っ端から
開けていく。自動で開閉するものは問題ないのだが、そうでない扉は非常用手段――つまり手動――で
こじ開けなければならず、これが結構な重労働を強いられる。ふたりとも体力にはそれなりに自信があった
が、さすがに数が多すぎる。
「あークソ! それにしても一体いくつ部屋があるんだぁ?!」
「オレ様に聞くんじゃねぇよ!」
背負った槍が無用の長物と化しているシドが苛立ちをそのまま声に出すものだから、バレットも思わず
反論する。
「聞いてねぇよ!」
「じゃあ黙ってドア開けろドア!」
背後のバレットに向けて怒鳴ったシドが、いくつ目か数える気も失せてから更に数十枚目のドアをこじ開けた。
中は真っ暗で、何もない。美しい景観のエントランスや通路とは対照的に、闇に沈む室内は塗装もされずに
むき出しになった壁材がうっすらと見えた。ここと同じような部屋が他にも数え切れないほど――はなっから
数えるのが面倒なので数えていない為だったが、とにかく沢山――あった。
「まったく、いちいちドア開ける方の身にもなってみろってんだ」
愚痴を吐き捨てると顔を上げ、次に視界に入った扉の前へと移動する。が、扉はびくともしない。どうやら
ここも手動で開けなければならないようだ。
手動開閉装置は扉の横についていて、レバーを回転させることで扉を開閉する事ができる。シドはムキに
なってこれを回しながら、中が覗ける程度の隙間を確保すると開閉装置から手を離し、室内を覗き込んだ。
しかし、ここも真っ暗で中には何も見あたらない。
「にしても、一体何に使うためにこんだけ部屋作ったんだ?」
真っ暗なフロアにシドの声が反響する。自分たち以外には誰もいないはずの施設だから、もちろん返答を
期待しての問いかけではない。意味がない独り言とは分かっていても、小言の一つも言いたくなる。
「いっくら軍事施設だっつったってよ、やり過ぎじゃねぇか?」
「内部を分かりやすい構造にした場合、実際の侵入が容易になってしまいますからね」
「まぁ、確かにそうなんだけどよ。ジェノバやセフィロス、それにディープ……なんだ?」
「ディープグラウンド」
「それだそれ。……もうあいつらもいねぇ訳だしよ、なにもここまで厳重にしなくても良いと思、」
そこで初めてシドは異変に気付いた。自分のこぼした愚痴に対して逐一、それも的確な返答をされるもの
だから、自然に会話が成立していたせいで危うく聞き流すところだった。
もう一度考え直す。ここには自分たち以外、誰もいないはずだった。
「備えあれば憂いなし。先人達は良い言葉を残していますね」
シドが異変と気付くまでに時間がかかったのは、確かにシド自身の油断という理由もあるだろう。しかし
ながら、会話を交わして不自然と感じる相手ではなかった、という要素が一番大きい。
ちょうど顔と同じぐらいの幅が開いた扉の奥に、その声の主は立っていた。背後の闇に溶け込むような
黒髪に口髭、闇に浮かび上がる青い衣はW.R.O局長が身につけている服で。シドがその姿を見紛うはずは
なかった。
「……って……リーブ?!」
その声に勢いよく振り返ったバレットが慌ただしく駆け寄ってくる。
バレットはシドの視線の先に見知った人物の姿を見つけると、安堵する一方で強い疲労感に襲われた。
これだけ巨大な建物の、よりにもよって入り口のある1階のこんな場所にいなくても良いだろう――と、
なにやら説得力に欠ける様な事を口にしながら、それでもバレットはリーブとの再会を素直に喜んだのである。
通路と室内を隔てていた扉は、ひとりでにゆっくりと開き始める。それに従って闇に包まれた室内には徐々に
光が差し込み、リーブの姿が浮かび上がってくる。
「……何してんだよ心配させやがって」
リーブが“本部施設に閉じ込められた”と聞いて、なんだかんだ言いながらも彼の身を案じ、真っ先に仲間達
を招集しようと飛空艇を飛ばしたシドが、溜め息と共に思わず本音を漏らす。
その言葉に、目の前に立っていたリーブは生真面目にこう返した。
「心配して頂けたとは、光栄です」
「ふざっっけんなこの野郎!!!」
生真面目を通り越してどこか他人事のような返答を聞いたシドは、本気――手はもちろんグー――で殴り
かかろうとした。その直後、彼の左肩に手を置いて暴挙を止めたのはバレットだった。
「まあまあ落ち着けよシド」
「おう、オレ様はさっきから充〜分、落ち着いてるぜ? 落ち着いて考えて『一発殴らせろ』って結論が出たんだ。
だからよバレット、その手どけてくれねぇか?」
そう言って口元をつり上げて笑うシドの、どこを見れば落ち着いていると言えるんだ? とバレットは指摘した
かったが、今日二度目になる身の危険を感じて口にしかけた言葉を飲み込んだ。
シドの肩に置いた手は退けないまま、正面に向き直ったバレットは改めて問う。
「それでリーブ、お前こんな所で何やってるんだ?」
言い終わるのと同時にがたんと重たい金属音を立てて、扉が完全に開いた。誰もいないせいかフロアには
長く残響がこだましている。その音が完全に止む前にリーブが口を開いた。
「……見ての通り、W.R.O<世界再生機構>の局長をやってます」
笑顔を浮かべることもなく、やはり生真面目と言うか事務的にリーブは答える。それを聞いたバレットの耳の
奥で、何かがぷちっと音を立てた様な気がしたが、たぶん気のせいだろうと首を振った。
気を取り直して、ここへ至るまでの経緯を簡潔に告げた。
「俺達はよ、お前さんがこの施設に閉じ込められたって聞いたんで飛んできたんだぜ?」
バレットの言うとおり、というより文字通りに彼らは飛空艇に乗って飛んで来たのだ。
それを聞いたリーブは表情を変えずに問い返した。
「リーブがこの施設に閉じ込められている……と?」
「少なくとも俺はそう聞いてここへ来た。だけどよ」
しかし、これはどう見ても“閉じ込められている”という状況とは違う。入り口はすぐそこだし、出ようと思えば
いつだって出られるじゃないか。
「“閉じ込められた”、んじゃなくて“閉じこもってる”の間違いかよ? なんだよ本当に人騒がせだな」
バレットは呆れて大きくため息を吐くと、リーブに背を向けた。それから早速ポケットから携帯を取り出すと、
発信履歴の一番先頭にあった番号を呼び出した。わざわざ手分けして探すまでもなく、こうして再会できた
事を他の仲間達に知らせる為だ。
しかしバレットの背後ではリーブがまだ話を続けている。
「あなた方は、『リーブ』をここから連れ出そうと言うのですか?」
リーブ自身になぜそんなことを聞かれているのか、シドにはさっぱり状況が飲み込めなかった。悪ふざけ
にも程があると、そう口にしようとした。しかし次の言葉を聞いた時、シドは今度こそ訳が分からなくなった。
「我々は『リーブ』がここから連れ出されることを望んでいません。……どうぞお引き取り下さい」
実のところ、さっきから聞いていて気にはなっていた。彼の話しぶりはまるで他人事だったからだ。いま
目の前に立っているのが、リーブ以外の人間であるならその話し方にも納得できるが。
……いや、まさか。
「お前は……誰だ?」
まったく確証は無かった。それでも問うシドの口調や表情には明かな不安の色が浮かぶ。
シドの背後で携帯を片手にバレットは振り返る。耳に当てたスピーカーからはコール音だけが聞こえてきた。
機械的に繰り返されるその音に乗せて、抑揚のないリーブの言葉が聞こえてきた。
「私は、実戦用に配備された“人形”です。……あなた方の言う『リーブ』とは、我々を作った人物です。
我々は、彼の能力によって生命を吹き込まれた存在。つまりケット・シーと同じように、作り物です」
鳴り続けるコール音がやけに大きく聞こえたのは、その言葉を現実として捉えたくないと言うバレットの
願望がそうさせたのかも知れない。
未だに繋がらない電話の持ち主が、この施設内の別の場所で同じ事を尋ねたのだとは知る由もなく、
ふたりは目の前に立つリーブにこう尋ねた。
「お前の言う『リーブ』……“本体”はどこにいる?」
目の前に立つリーブは首を横に振るだけで、何も答えようとはしなかった。
----------
・人を小馬鹿にして楽しむ局長(DCFF7第1章)を表現できていたら良いなと。
・バレットとシドの書き分けが難ry。すんませんです。
>>145 そういえばバレットとシドは話し方そっくりだったな。
シドの一人称が「オレ様」ってこと位しか無印での違いが思い出せない。乙です。
てかリーブ人形またキター!襲って来なくてよかった……
今後の展開はげしくwktk まったり期待してます。
GJ!
前話:
>>141-145 ----------
――誰にも、理解してもらえるとは思っていません。
暗闇に包まれたW.R.O本部施設の一角。彼は一人ここに留まり、全てを見つめていた。
まずはW.R.O<世界再生機構>のネットワークアクセスコードに、神羅カンパニー都市開発部門勤続時代の
社員コードを利用したのは、最初にこの事に気付いてくれる人物をこちらで特定したかったからです。確証
こそありませんが、W.R.Oへの資金提供者の正体もある程度予測できていますからね、私の推測が正しければ、
彼らがW.R.O本部のネットワークにアクセスし情報を覗き見る事は雑作もないはずです。そこで“使途不明金”
の存在を知れば、彼らは必ず動いてくれるでしょう。もっとも、本当に隠しておきたい情報ならば安易に侵入
されるようなパスワードを設定しようなんて考えません。
問題は彼――W.R.Oへの“姿無き出資者”――が、この事態をどう捉えるかでした。どちらかというとそれは
賭でしたが、恐らくこういったゲーム性のある事に興味を示すと私は踏みました。根拠はおよそ6年前に見て
います。当時、セフィロスの暴走に端を発した社長交代の混乱があったとはいえ、父親の跡を継いだ彼が
示した神羅カンパニーの経営路線は、先代のものとはまったく別の方法でしたからね。情報操作と民意統制を
軸とした先代の方針は、言わば堅実路線でした。若さ故のお考えかも知れませんが、私にはどうも彼の打ち
出した経営方針が「ゲーム」のように見えたのです。恐怖での支配などあり得ない――しかし、それが今回の
行動を後押しする材料になりました。
次に、この事態を受けて実際に行動に移してくれる人物の存在です。“姿無き出資者”となった彼は、文字
通り人前に姿を見せるとは思えません。4年前のいたずらの清算もまだ済んでいませんからね。しかしネット
ワークへの侵入を実際に行った彼ら――代理人、と呼ぶことにしていますが――ならば、外部との連絡を
取ることは可能だと考えました。仮に、かつて神羅に属していたヴィンセントが最初に報せを受けたとしても、
自ら行動を起こすとは考えづらかったのですが、その面はユフィの行動力がうまくカバーしてくれるでしょう。
彼女に情報が渡れば、あとは黙っていても飛空艇師団へ事が知れるのは時間の問題です。
そうなれば当然、シドが黙ってはいないはずです。彼に伝わることによって情報だけではなく人が動く事に
なります。これで、かつての仲間達が揃う準備は整いました。あとはこちらに向かってもらうだけです。
ここまでは全て予定通りです。
後は、……最後の詰めです。
私の望みを叶えてもらうためにはどうしても、皆さんの力が必要なのです。
――誰にも、理解してもらえるとは思っていません。ですが、私はその結末を望みました。
ですからどうか皆さん、ここまで無事にたどり着いて下さい。
ここが、我々にとってのラストダンジョンとなるならば。
ここで皆さんを迎えることが、私の望む結末だからです。
----------
・短いですが保守がてら。いろいろ勝手解釈がありますが…すすすすみません。
・説明一辺倒になりましたが、とりあえずここまでの経緯まとめな感じになれば良いなと。
(これを投下したらもう後には引けない、と自分にプレッシャーをかけつつ、今後しばらく歳末マターリ進行で…)
・妙なお話ですが、お付き合い頂きありがとうございます。
>>149 リーブの語りで今後の謎解きまでの展開がもっと楽しみになりました
続きが読みたくて仕方ない
マターリ期待してます
出資者キタ!
152 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/19(火) 09:08:44 ID:o9g1liCGO
ユウナとリュックは双頭バイブを秘所につっこまれてたいる。
俺はユウナの尻穴をじっくりと観察した。
ユウナ「くっ…」
ユウナは秘所より恥ずかしい箇所をみられ赤面する。。
俺はユウナの尻穴にちんぽを近付ける。
ユウナ「そこは違う!ぎゃー!」
ワッフルワッフル
前話:
>>148-149(場面は
>>54-57)
----------
***
「……おかしいですね」
ここまでの作業は拍子抜けするほど順調だった。後から冷静になって考えてみれば、順調すぎるという
事態にこそ疑いを持つべきだったのだ。ここへ来てその可能性に思い至ったシェルクが、ディスプレイの
前で僅かに表情を変える。
「どうしました?」
その変化を見逃さず、男は尋ねる。問いかけに応じて画面から顔を上げるとシェルクはこう答えた。
「あなたは以前、このネットワークに数回侵入した事がある……そう話しましたね?」
「ええ。……まさか、こちらの侵入が発覚していたと?」
「……いえ、そうではありません」
今回、これまで彼が侵入に利用したバックドアから同じようにシェルクは侵入した。それは意識の低い
管理者の招いた致命的欠陥だと考えていた。しかし、どうしても引っかかる。
「どうも不可解です、まるで……」
「まるで?」
男の声に先を促され、口に出した言葉が最も現実的である事にシェルクは気付く。
「あらかじめ、ここへ侵入されることを見越して作られている……そんな気がします」
もっと正確に言うならば、私達が今まで裏口だと思っていた場所が、実は正面玄関だった。状況から考え
ると、その方が適切なのかも知れない。シェルクは静かに、だがどこか他人事のように語った。
「……あなたの言っていることが仮に事実だとするならば、W.R.Oが我々の侵入を許す事に一体何のメリットが?」
「それは分かりません……。……?」
そう呟いたシェルクの指が止まる。そして、元々血色の良くない顔から一瞬にして血の気が引いていった。
「どうしました?」
男の問いを受けてもしばらくは返答できずにいた。それから突然、シェルクは我に返ったように顔を上げた。
瞬時に両手がキーボードの上を走り出すと、たちまち画面上には様々なデータが呼び出され、画面内では
数種類のプログラムが走り出した。男は固唾をのんでその光景を見守っていた。
やがて耳障りな甲高い警告音が鳴り響くのとほぼ同時に、シェルクが振り返ってこう告げた。
「どうやら、本当に“侵入”されているのはこちらのようです」
思っていた以上に厄介な相手だと唇を噛む一方で、シェルクは考えた。
自分がここへ呼び出された本当の理由と、ここへ来た目的について。足下に置いた荷物をちらりと見た後、
こう切り出した。
「こちらの目的であるデータそのものはほぼコピーが完了できそうです。解析と並行して侵入者特定のために
ここへ潜ります……よろしいですか?」
シェルクの言う“潜る”の持つ意味を理解したうえで男は頷いた。それを確認するとシェルクは席を立つ。
「では席を外していただけますか。人前で肌を晒して喜ぶ趣味は持ち合わせていませんので」
シェルクが念のためにと持参してきた荷を解かなければならない時が、どうやら訪れてしまったようである。
男はその言葉の意味を察して扉の方を向くと、見計らったようなタイミングでドアが開く。姿を現したのは、
男と同じような黒いスーツに身を包んだ凛々しい女性だった。状況を補足するように男は背を向けたまま
告げた。
「念のため、監視は付けさせてもらう」
「構いません」
それから男と入れ違いにして女性が部屋に入った。肩まで届かない長さの、やや色の薄い金色の美しい
髪を持った女性だが、表情は凛として隙がないのは先ほどの男と似ている。彼女の背でドアが閉まるのを
確認してから、女性は言った。
「安心して、この部屋のモニタは切ってあるわ」
ただ先ほどの男と違うのは、彼女には冷たさを感じないという点かも知れない。それは同性という意味での
ものなのか、彼女の持つ個性がそうさせるのかは分からなかったが、とにかくシェルクは足下にあった荷物を
解き始めた。
ここまで着てきた服を脱ぎ、念のためにと用意した荷をほどくと、中に納められていたソルジャースーツを
取り出す。それはディープグラウンドで暮らしていた10年間、ずっと身につけていた物だ。
オメガ戦役以降、シェルクは開放されてから体質改善におよそ1年もの時間を費やした。かつてクラウドが
陥ったような魔晄への急性的中毒症状ではなく、彼女の場合は慢性的な魔晄依存症と言って良い。ディープ
グラウンドでは能力の酷使と相まって、1日1回の魔晄照射を受けなければ身体機能を保持できないほど
重度の依存症だった。あれから能力を使う事それ自体は無くなったが、体質が元に戻るまでには時間が
かかった。決して楽ではないリハビリを支援してくれたのは、W.R.Oをはじめとした“理屈抜きのお人好し”な
人々だった。彼女の場合、身体機能の回復はもとより、心の安定を取り戻すためにも時間が必要だった。
こうして魔晄照射をまったく受けなくなってから2年が経過し、魔晄に頼らなくても日常生活を送る分には
支障ないまで回復していた。
(まさか……今さらになってこれを着る事になるなんて)
そう考えると思わず苦笑が漏れた。
前腕部分をすっぽりと覆うグローブに手を通すと、少し違和感があるように感じた。これを着るのもおよそ
3年ぶりだ。機能を回復したとはいえ、止まっていた成長が再開したわけではない。彼女の成長はディープ
グラウンドで繰り返し施された実験の後遺症で、今も止まったままである。残念ながら彼女の感じた違和感は、
成長による体格の変化から起きるものではない。
シェルクが自ら望んで捨てたはずの能力を、今になって頼ろうとしている矛盾に対する感情が、違和感として
表れたと言える。しかし、そんなことを気にしている場合ではなかった。
(環境も設備も満足に整っていないこの状況で、本格的なSNDを行うことはないと思いますが……)
本音を言えば不安だった。
これまでの2年間、シェルクは魔晄照射に頼らず身体機能を維持できていたのは“能力”を使わなかった
為である。能力を使う事は彼女自身の体力と精神力――ひいては生命エネルギーそのもの――を著しく
消耗する。それを補うための魔晄照射だった。
今回、万が一にでもSNDを強行すれば回復する手段はない。
潜行するにしても時間は限られている。短時間でケリを付けて戻らなければならない。自信が無いわけ
ではないが、保証はない。
(…………)
脱いだ服をしまい、かわりに携帯電話を手に取った。地上に戻ってからというもの、不安になるといつも
それを見つめていた。
3年前の再会の折、気がつけばいつの間にか登録されていたアドレスがあった。教えてと頼んでもいない
のにと言ったが、けっきょく削除することができずにいたアドレス。
返信は来ないと分かっていながらも彼女は3年間、そのアドレスにメッセージを送り続けている。
事実、返信は未だに一度もない。
それでもシェルクにとって唯一、姉に思いを届ける事ができるのはこの携帯電話だった。
「……どうしたの?」
手にした携帯電話をじっと見つめて佇んでいるシェルクに、訝しげに声をかけたのはあの女性だった。
呼ばれて顔を上げると、シェルクは小さく微笑んでこう申し出た。
「メールぐらいは平気ですか?」
「悪いけど……宛先にもよるわ。誰に?」
問われて、少し気まずそうにシェルクは視線を外す。それから俯いてこう言った。
「私の……姉です」
その言葉に女性は一瞬、表情を変える。シェルクは顔を上げ再び向き直ると、平静を取り戻して
こう続けた。
「でも安心してください、こちらが一方的に送るだけのものですから。これは……私の気休めに過ぎません」
「なぜ?」
わざわざ届かないと分かっていてメールを出すなんて。と、口に出さずとも女性の顔に書いてある。きっと
素直な人なんだろうとシェルクはぼんやりと考えていた。
それから問われている事に答えるべく、それを表現するのにもっとも相応しい言葉を探し、笑顔を作った。
「姉は3年前、私を庇って死んでいるからです」
女性は驚いた表情のまましばらくシェルクを見つめていたが、やがて目を閉じてすまなそうに告げた。
「嫌なことを聞いたわね、ごめんなさい」
「事実ですから、なにもあなたが気にする必要はありません。それに3年前、私が姉を拒んだことを今に
なって悔やんでも、どうにもなりません。でも……」
「その気持ち、分からなくもないわ」
彼女は柔らかく微笑んで、まるで何かを懐かしんでいるように呟いた。
ああ、とシェルクは思う。きっと彼女も、自分と同じなのだろうと。
「……良いわ、メールを送信し終わるまで待ってるから」
そう言って彼女はシェルクに背を向けた。そんな彼女に「ありがとう」と呟いて、シェルクは携帯を手に
操作を始めた。慣れた手つきで文字を入力し、送信ボタンを押す。一度も返信のない宛先に向けて
メッセージが発信されたのを確認した後、彼女はスーツのポケットから細いコードを取り出すと、充電用の
端子にそれを繋げた。
傍目から見れば充電中の携帯電話と区別はつかないが、シェルクの端末にはある特殊な処理が施されて
いた。携帯電話にさされたコードを辿ると、ソルジャースーツに繋がっている。
(……準備は整いました)
もういちど携帯端末の文字入力を実行する。
――#VIN
幸いにも、その行動が示す意味を知っている者はここには誰もいない。
シェルクは端末の前に再び腰を下ろすと、コピーしたデータの解析を始めるべく、プログラムを起動させた。
----------
・DCFF7第7章を見ると本当は逆(端末はヴィンセント)ですが、まあ双方とも細工を施したって事でひとつ。
・…監視役さんについては書き手の趣味です本当ごめんなさいすいません。
159 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/20(水) 12:14:20 ID:r1H0ghMUO
>>152 おしりの穴に挿入されるのは痛いんだよ。出し入れされたあと、すーすーして変な感じがする。
ローションとコンドームはわすれずにね
ここは18禁鯖ではないし、妄想スレでもありません
エロ・下品は18歳以上になってから、しかるべき板でどうぞ
>>158 時間軸はW.R.O.と同じ?
DCは未プレイだからシェルクの能力はSNDくらいしかわからないけど、楽しめた。
#VINとは?また謎が増えたなぁ。
それから、
>わざわざ届かないと分かっていてメールを出すなんて。と、口に出さずとも女性の顔に書いてある。きっと
>素直な人なんだろう
ここの描写が好きだと思った。
>>158の描く彼女のキャラクターはイイ
>>161 >時間軸はW.R.O.と同じ? ×
時間軸はW.R.O.サイドと同じ? ○
続きwktkです
>ラストダンジョン
_、_
( ,_ノ` )y━・~~~ GJ!!!!!!!!!!!!!!
>#VIN
DCでのアレですよね。ヴィンの携帯端末を少しいじって、
シェルク『“#VIN”と押せば、私の携帯と直通通信が可能です』(うろ覚え)
っていう。要するに「あなたの携帯に私の番号入れといたからね」的なヤツ(笑)
ワクテカしつつマターリと続きをお待ちしてます。
165 :
162:2006/12/21(木) 00:06:28 ID:3qSRlLfi0
>>163-164 <#VIN>参考にさせてもらいました。dクス。
シェルクって意外と積極的なんですね。
電話がヴィンセントに繋がるってことは、少し過去もしくはほぼ同時刻の出来事?かな?
うはwww妄想がひろがりんぐwww
続きまったり期待してます。
保守
ほ
ぼ
ま
り
あ
ー
ん
ど
175 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/28(木) 08:15:51 ID:YA2wNJl/O
アーシェ「いくー」プシャー!ガクッ!
アーシェはモンスターの触手責めで失禁してしまった。
女ジャッジ「ふっ、元王女といえども、こんなものか。私が昔受けた凌辱はこんな程度ではないわよ」
パシッ!女ジャッジの鞭がアーシェの尻にあたる。
アーシエ「くっ!」
女ジャッジ「さて、パンネロとやらの処女でもいただくか゜」
パンネロ「いやー!」
アーシェ「約束が違う!」
176 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/28(木) 08:22:39 ID:YA2wNJl/O
女ジャッジ「安心しろ。処女といっても後ろの処女だ。」
フラン「なーんだ、それならいいぞ」
アーシェ「意味がわかってるの!」
パンネロ「?」
女ジャッジ「この娘にとっては後ろのほうが苦痛かもしれないがな!」
女ジャッジはペニバンを装着し、パンネロの尻穴にぶちさした。
パンネロ「ぎゃー!」
178 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/28(木) 13:53:20 ID:YA2wNJl/O
>>177 アナルセックスの経験のないおこちゃまは黙ってな!女は尻穴の方が感じるんだぜ!
ワッフルワッフル
180 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/29(金) 07:41:16 ID:h9nWzk7xO
※エロは無しでお願いします。
※sage推奨。
舞台:FF7AC終了直後
参照:
>>13-19。デンゼル編に至る経緯
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みんなが集まったあの日。
教会から帰る前に、こっそり抜け出して立ち寄ったあの家。教会からはちょっと歩くんだけど、でも
どうしても寄っておきたかった。ミッドガルに来る事なんて、もうほとんど無くなっちゃったから。
教会から出ると、周囲には『ここは立入規制区域です』と書かれた立て札とロープが張ってあった。
そのロープをくぐって歩き続けた先に、目的の家があった。
どうしてあの立て札があるのかも、もちろん分かってる。だけど、ここを通らないとあの家には行け
ないから。がれきが散乱する道を歩きながら、まるで自分に言い訳でもしているような気分だった。
時折、強い風が吹き抜ける。そのたびに何かが軋むような音を立てるので、立ち止まって見上げると
プレートの底が見えた。私が知っているミッドガルの空と、変わらない風景だった。
おねえちゃんに連れられて、はじめて七番街から出た日のことを思い出す。いっぱい色んなお話を
したよね。おねえちゃんはクラウドのこと、私にたくさん聞いてたよね。
今は一人だからかな? 家までの道がとても長く感じる。
こうしてしばらく歩き続けてたどり着いたのは、おねえちゃんの住んでいた家。大きな屋根、広い玄関、
スラムでは珍しい庭の花壇――だけど今は、大きな屋根は崩れかけていて、広い玄関にはがれきの山、
庭の花壇には枯れた草ばかり。
この家にはもう、誰も住んでいない。
変わり果ててしまった風景から呼び起こす、懐かしい記憶。
「おねえちゃん。……、……ありがとう」
玄関の前に立って、そう言った。ここにはもう、おねえちゃんも、エルミナさんもいない。それは分かって
るんだけど。どうしてももう一度、ここへ来たかったんだ。
門の前で立ち止まっていると、後ろの方からがれきを踏みつぶすような音が聞こえた。それから、頬に
当たる風の方向が変わる。
「……誰!?」
小さな不安と、それ以上の期待を込めて振り返った私の前には、モンスターの巨大な影があった。逃げ
出すことも、叫び声を上げることもできなくて、ただ瞼を閉じた。
――「ここは立入規制区域です」
瞼の裏に映ったのは、張られていたロープとそこに書かれていた文字だった。
それからティファ達に黙ってここへ来た事を、心の中で後悔した。ロープを張ってくれた人にも謝らなくちゃ。
勝手に入っちゃってごめんなさい。危ないよって言ってくれてたんだよね?
どうしよう、私マテリアも持ってない。……マテリアがあっても投げるぐらいしかできないけど。
「……助けて」
呟いた次の瞬間、響き渡った2発の銃声。目の前のモンスターががれきの上に倒れた音がした。
恐る恐る瞼を開き、周囲を見回した。私の目の前で、銃弾が命中したモンスターが倒れてた。それ以外は
がれきが広がるだけだった。
(誰もいない……)
最初は心配したティファ達が来てくれたのかと思ったけど、ティファやクラウドは銃を使わない。父さんの
銃はもっと大きな音がする。そうすると、誰だろう?
そう思っている私の後ろから、声がした。
「……『ここは立入規制区域です』の表示を無視して、こんな場所に女の子が一人で来るなんて。とても
感心できませんね」
ゆっくり落ち着きのあるしゃべり方、聞き覚えのある声。まさかと思って振り返る。玄関の横に、地味な色の
スーツを着た男の人が、厳しい視線を私の方に向けて立っていた。おろした右手には拳銃が握られている。
「ミッドガルは封鎖されて以来、魔物の巣窟です。分かっているはずですよね……マリンちゃん」
「リーブさん?!」
言いながら、懐へ銃をしまうとこっちに向かって歩き出した。きっと怒られるんだと思って、頭を下げようとした。
でも、リーブさんはにっこりと微笑んで「もうダメですよ?」と言って頭を撫でてくれた。
「お送りしましょう。皆さん、まだ教会にいますね?」
「うん!」
そう言って差し出された手を取る。それから、手を繋いで来た道を戻った。エルミナさんと3人で、この家を
出たときのことを思い出す。
歩きながら、リーブさんに聞かれた。
「それにしてもどうして、あんな場所に一人で?」
「……どうなってるかなと思ったんです。クラウドやティファに付き合ってもらうのも悪いなって思って」
「だからといって、一人でここまで?」
「……ごめんなさい」
ロープを張ってくれたのは、やっぱりリーブさん達だったんですね。だけど良かった、謝れた。
……あれ?
「リーブさんこそ、どうして?」
「あ。……私、ですか?」
見上げたリーブさんはしどろもどろになって、視線まで逸らされた。こんな仕草をする時は、何か隠してる
んだ。デンゼルやクラウドもそうだったから、すぐに分かった。
こう言うときはじっと相手の目を見るのよ、ティファがそう教えてくれた。だからリーブさんの顔をずっと
見上げてた。
「……どうなってるかなと思ったんです。その、とても個人的な事ですし……他の方に付き添ってもらうのも
気が引けたものですから」
「だからって、一人で?」
「……すみません」
ロープを張ってくれたのは、リーブさん達だったと思ったんだけどな。
……あれ?
「これじゃあ、どっちが怒られてるのか分かりませんね」
「そうですね」
そう言って笑った。リーブさんが笑うのを見るのは、まだ数えるほどしかなかった。初めて会った頃は、
難しい表情をしてばかりでしたよね、エルミナさんと口げんかばっかりだったし。この家を出るときも「ここは
危ないから」と言って私達の前を歩いてくれた、父さんよりは小さいけれど、大きな背中を覚えてる。
おねえちゃんの事を教えてくれた時も……。
リーブさんの横顔は、いつも苦しそうに見えた。
だから、笑っているリーブさんを見ることは少なかった。ちょっと嬉しい……かな。
来たときと同じ道のはずなのに、帰りはとっても早かった。
最初にロープをくぐった場所が見えると、リーブさんは繋いでいた手をゆっくり離してからこう言った。
「ここからでしたら、マリンちゃん一人でも安全ですね」
「……リーブさんは?」
教会には行かないんですか? そう尋くとリーブさんは笑顔を浮かべたままで何も答えてくれなかった。
「みんなに会わないんですか?」
「教会にはケット・シーがいますから、大丈夫ですよ」
「でも……」
「ありがとう、マリンちゃん」
私の言葉を遮って、「ありがとう」と言った時、笑顔だったリーブさん。
だけど分からなかったんです。
リーブさんともう一度会うときまで、ケット・シーは預かっておきますね。だからその時は、教えてください。
どうして何も言わずに、私達の前から去ってしまったんですか?
―ALERT(マリン編)<終>―
----------
・相変わらず、キーストーンの件ではケット・シーとリーブの共謀による誘拐と(勝手ながら)位置づけてます。
・エルミナとマリンにエアリスの死を告げたのはリーブだったと記憶していますが、間違ってたらすんません。
・FF7ACのラスト、集合写真にリーブの姿が無かった事が淋しかったのでやった。反省はしていない。
・時間経過はマリン編→デンゼル編→前スレ550-552。後出しっぽくて申し訳ないです。(マリン一人称で苦戦しry)
切ない…そこがまたイイ。とにかくGJ!
前話:
>>154-158 ----------
***
ユフィが単身エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押してからかなり時間が経っているような気が
したが、未だ目的階に到着する様子はなかった。
それによく耳を澄ませばモーター音は聞こえてくるので、エレベーターが何らかのトラブルを起こして停止
していると言うのでも無さそうだ。だから無理やりドアをこじ開けるわけにも行かず、フロア到着を待つ以外に
やることが無かった。
周囲を見回してみても建物の外観同様、簡素というか無機質というか、広々としたエレベーター内には
特に変わったところはなく、それでも何か仕掛けがあるんじゃないか? と思い当たる箇所を探ってみた
ものの、けっきょく成果はゼロだった。
「退屈だなぁ〜。アタシも残っとけば良かったかな?」
今さらになってそんなことを言いながら、手持ち無沙汰にしていたユフィは携帯電話に手を伸ばした。
どうも、じっと待っているのは性に合わないらしい。
待ち受け表示を確認すれば、通信圏内である事を示すアイコンが隅の方に見えた。1Fエントランスで見た
時よりは通信状況が良くないようだが、繋がらないわけでは無さそうだ。
(そう言えば)
考えてみればこの携帯電話から全てが始まった――ユフィはここ最近の慌ただしい動きを振り返る。
事の発端はヴィンセントからの妙な着信だった。普段は電話なんて滅多にどころか全くしてこない人物からの
着信に、ユフィは何事かと応答するが、次に出て来た言葉が。
「リーブはどうしている?」
だった。
てっきり重大な事件でも起きたのかと身構えて出たものだから、ユフィからすれば拍子抜けである。
そんなの本人に直接聞けば良いじゃんと言って、逆にユフィはヴィンセントの近況を聞き返した。あの日――
オメガ戦役集結――からW.R.Oにも顔を出さなくなってずいぶん経っていたこともあり、たまにはみんなで
集まろうよ! と言った具合に、気軽に声をかけたつもりだった。
それに、どうせ誘ってもすぐ話に乗ってくる様なタイプではないと知っていたし、案の定ヴィンセントは黙った
ままで、電話を受けた側のユフィが一方的に話を続けることになった。
自分は相変わらずW.R.Oとウータイを行き来しながら、世界各地を飛び回っていること。
クラウドとティファはあれからエッジに戻って街の再建に取り組んでいること。マリンとデンゼルが、店にも
遊びに来てよと言ってた事もついでに伝えておいた。
バレットは新資源の発掘作業に精を出しているらしい。W.R.Oには時折、発掘の進捗状況の連絡が入ってくる。
その話し声が相変わらずやかましい事。
シドは飛空艇師団の再建と、復興作業中の各地への物資輸送に協力しながら今も空を飛んでいること。
奥さんも元気で、「いつになったら家に来る?」とふたりから催促された事も付け加えた。
ナナキはコスモキャニオンでのんびりしてるそうだ。
シェルクはW.R.Oの施設を利用して1年近くのリハビリを経た後、行方不明の姉を捜すためにここを出て
行った事。
聞かれてもいないことを、けれど聞きたいと思っているに違いないだろうとユフィは賑やかに語って聞かせた。
いつものように黙って、ヴィンセントは話に耳を傾けている。
こうして一通り話し終えた後、ユフィの言葉が唐突に止む。
――「リーブはどうしている?」
ようやく、ヴィンセントが電話をかけてきた用件に自分が答えられないことを知った。
「そう言えば……おっちゃん何やってるんだろうね?!」
ヴィンセントの返答を聞くこともせずに――と言うよりも、そもそも質問したのはヴィンセントだったはずなの
だが――ユフィは「またかける!」と言って慌ただしく電話を切った。
ちなみにユフィが直後にかけた相手が、シドだった。
物資輸送などに関して、ふたりが以前からやり取りをしているのを知っていた。だからシドに聞けばリーブの
近況を教えてくれるのかも知れない。ユフィはそう考えたのだ。
しかし事情は違っていた。
こうして「たまにはみんなで集まろうよ」と気軽に話していた事が、意図せず実現してしまった。仲間の中で
唯一、ケット・シー――リーブが不在のまま、彼らは今ここに集っている。
「……?」
そこまで考えてふと、ユフィはある疑問に思い至って携帯電話の画面をもう一度見つめた。それからボタンを
操作しアドレス帳を呼び出すと、待ち受け画面から切り替わった一覧の中から、リーブの名前を選び出す。
「そう言えば、おっちゃんに直接電話かけてなかったな……」
アタシってばなんて冴えてるんだろう! そんな風に言いながら通話ボタンを押した。呼び出し音が聞こえて
きた。1回、2回、3回……。
「あははは〜。出るワケない、よねえ?」
それでも未練がましく携帯を離せずにいたユフィの耳に、別の音が聞こえた。
エレベーターが目的階に到着し、扉が開かれる。開かれた扉の先には、真っ直ぐに伸びる通路が見えた。
「おろ〜一本道だ」
電話を切るか否か迷った末、一度耳から携帯を離すとエレベーターから出て周囲を見渡した。ユフィの
背後でエレベーターの扉が静かに閉まる以外には何の気配も感じなかったので、聞こえてくるのは相変わらず
コール音ばかりだったが懲りずに携帯を耳に当てながら道を進んだ。
部屋らしいものは見あたらず、通路には照明すらついていない。ただ真っ直ぐに伸びた通路の先は
仄明るかったのでそれを目指して歩を進めた。屋上があるのならそこへ通じているのだろうかとも考えたが、
とにかく行って確かめてみるのが一番だ。
やがて、通路の先にある部屋にたどり着いた。開けっ放しにされたドアの先には照明と、たくさんのモニタに
囲まれた部屋の様子が見えた。通路に漏れていた光の正体が室内の設備だと分かる。
周囲を警戒しながらユフィが室内に足を踏み入れると、部屋の奥の方から声が聞こえてきた。反射的に
ユフィは扉の横に身を隠し、声のする方向に注意を向けた。
「我々W.R.Oは、“星に害をなすあらゆるものと戦う”ための組織である。私はこの組織の設立者として
この理念に従い、通信を経由して飛空艇師団に次の通り正式要請をするものとします。
建造中のW.R.O本部施設の破壊と、現局長の抹殺……。
尚、作戦の実行は今から1時間後。作戦への参加は各隊員の自由意思を尊重するものとします。
……以上、通信を終了します」
ユフィは我が耳を疑った。だけどどう考えたって聞き間違うはずがない、この声は――。
それから、耳に当てていた携帯電話から聞こえてくるコール音が途切れ、ようやく相手と繋がった。
『ユフィさん、話は聞いていましたね? 早く建物から避難してください』
こうしてユフィはもう片方の耳を疑う事になる。
それから、かつんと硬質な音がしたかと思えば。
「わっ!?」
突然、視界が陰ったので顔を上げようとすると青い衣が目に飛び込んできた。驚いた拍子にバランスを崩し、
尻餅をつきながら見上げてみれば、携帯電話を片手にリーブが立っていた。笑顔を浮かべるでもなく、ユフィを
見下ろしながら、もう一度言った。
「ユフィさん、聞いたとおりです。この建物は間もなく破壊されます。早く建物から離れてください」
----------
・
>>165を超える妄想を自分が実現(どっちかって言うと表現)できるか分かりませんが、次から
エライ妙な展開になりますので、お手元に石をご用意してお待ち下さい。(でも、できれば投げないでw)
…ここまででも充分妙な展開ですが。
今年もお世話になりました。毎度妙な方向に突っ走ってる拙文ではありますが、お付き合いいただいた方、
レスを下さる方、生暖かく見守ってくださる方、みなさん本当にどうもありがとうございます。
どうぞ良いお年をお迎え下さい。
GJ!
193 :
【ぴょん吉】 :2007/01/01(月) 21:02:25 ID:EdatnYEaO
今年もいい作品が読めるのを楽しみにしてます。
>>191 ついに本物のリーブキター?
今更だけど
>>191氏の小説は情景が脳内再生しやすくておもしろい
今後の展開と続きマターリ期待してます
まったりワクテカ
前話:
>>187-191(場面は
>>109-113からの続き)
----------
***
「ティファ!」
彼女の名は、悲痛な叫び声によって紡がれた。呼ばれたティファの耳は聞き慣れた声を確かに捉え、彼に
自分の名を呼ばれたと言う事も理解している。けれど首を締め上げられている状態では、満足に返事をする
ことも出来ない。
「何してるティファ! 逃げろ!!」
その言い草は、まるで彼女を責めているように聞こえた。事実、クラウドは反撃せずにされるがままでいた
ティファを責めている。エレベーターホールの隅に追い詰められた彼女を助けに行こうにも、際限なく沸いて
出てくる射撃装置に行く手を阻まれ、思うように身動きが取れなかった。この無数の射撃装置は自分たち3人を
引き離すための罠だったと言う事に、今さらながら気付いて唇を噛んだ。
エレベーターホールとはほぼ対称の位置にいたヴィンセントはクラウド同様、無数の機械群を相手にしな
がらも様子を見かねて引き金を引いた。重々しく響き渡る銃声は1発、フロアにひしめき合う射撃装置の
合間を縫ってティファの首を締め上げていた男の手元に命中する。
力がゆるんだ隙に、ティファは男の拘束から逃れると、すぐさま男と距離を置くためにフロア中央に向かって
飛び退いたが、着地に失敗して片膝をついた。そのまま体勢を立て直せずにがっくりと項垂れ、乱れた呼吸を
整えようと肩を大きく上下させた。
クラウドは剣を振りながら後方のティファに言い放つ。
「ティファ、躊躇うな! ……あれは人形だ」
「……わ、分かってる。だけど……!」
呼吸を整えながら、ティファは呼吸以上に乱れた精神を落ち着かせようとした。だが、上手くいかない。
追い打ちをかけるようにヴィンセントの声が飛ぶ。
「それはリーブによって造られた、リーブという人形だ。見た目に惑わされているとこちらが殺られるだけだ!」
ふだんは冷静沈着なヴィンセントにしては、珍しく強い口調だった。恐らく、言っている本人にも心の動揺は
少なからずあったのだろう。
彼らに言われなくたって、そんなこと頭では分かってる。冷静さを欠いた様子で、呼吸が完全に整わない
うちにティファは顔を上げて叫ぶように反論した。
「分かってる……でも、でも! ……できないよ」
整わない呼吸のためか、どうしても語尾が掠れる。そんな自分の声がとても頼りなく聞こえた。
同時に、顔を上げたティファの視界の中央に男の影が映った。彼は何も語らずに、無表情のままでティファを
見下ろしていた。
彼の身のこなしは、ティファ達にも引けを取らない程のスピードを備えていた。だが、ティファが抵抗を示せ
なかったのはその為だけではない。ティファが驚く表情を作る間も与えず、男の手は容赦なく彼女の首に伸びた。
反射的に身を引こうとしたが、回避するにはあまりにも遅すぎる。
こうしてティファは再び呼吸と、身動きを封じられる。
「い、くら……人形でも……」
こんな状況下でもちろん余裕など無かった。にもかかわらずティファは反論の続きを口にしながら、ようやく
差し出した両腕は、しかし残念ながら申し訳程度の抵抗にしかならなかった。再び首を絞められながらも、
ティファは男の顔を見つめてさらに言葉を続けた。
「……彼、には。……命が、あるんで……しょう?」
震える声も、目尻に浮かぶ涙も、その多くはティファが肉体に受けている苦痛への身体反応によるものだった。
だがその中の一部には、彼女自身の動揺――間接的であれ、かつての仲間に自らの命が奪われようとして
いる現状への悲嘆や疑問――がもたらす影響もあった。
「それは……」
文字通り、ティファからの必死の問いかけを受けたヴィンセントは声を詰まらせた。定めていた照準がぶれ、
発射した銃弾は見当違いな方向へと逸れていく。
――インスパイア。
それは“無機物(モノ)”に“生命”を吹き込む異能力。
つまり、ここにいる“彼”には……。
ヴィンセントにはそれを否定することが出来なかった。いや、むしろティファの言う通りなのかも知れない。
だからといってこのままで良いはずはない。横殴りに叩きつける雨のように降り注ぐ銃弾を避けながら、もう
いちどエレベーターホール側に銃口を向ける。
答えが出ないまま、それでも引き金を引かねば逆にティファが殺される。
しかし迷う者が銃を手にしても、照準が定まるはずはなかった。
ティファの首を絞める男は無表情のままだった。
「あな、た……は。……生……きて、……?」
まるでティファの声を遮ろうとするように、男の手に力がこもった。ティファの首を絞めながら、その身体を
持ち上げる。男の手と、自身の体重によって気道をふさがれ声が出なくなってしまう前に、すべて言い終え
ようとしたが、どうやら間に合いそうもない。
ティファは力の入らない腕をなんとか持ち上げて、自分の首を絞めている男の手に添えた。
そうして、彼女は精一杯微笑んだ。声が出せなくなってしまっても、目を逸らさずに伝えようとした。伝わる
と思った。想いを伝えられるのは言葉だけではないと、彼女は今でもそう信じている。
(あなたは……生きてる)
彼女の頬を伝う涙は、身に受けた苦痛による生理現象ではない。
紛れもなくそれは、感情によって流された涙だった。ただ今は、その感情の正体を探すことができない。
もはや限界だった。男の手に添えていた自分の手が重力にさえ逆らえずにだらりと垂れ、目に見える景色は
徐々に色を失い始めていた。苦しさよりも、体中が酷く重たかった。
抵抗する力と術を失ったティファは、まるで人形のようだった。
「ティファーーー!!」
クラウドの叫び声と、ヴィンセントの放った銃声がフロア内に同時に響き渡る。その声と音が、幾重にも反響
していた。
薄れ行く意識の中ティファはそれを聞きながら、目の前の男が「笑った」のを見た。
――あなたは、生きてる。
次の瞬間、男はティファをエレベーター横の壁面に叩きつけた。ティファの目にはまるでスロー再生された
映像のようにゆっくりと景色が流れていく。やがて、全身に走る激痛を最後にティファの視界から全ての色が
失われ、意識は途切れた。
壁を突き破りさらにその奥に広がった闇の中へ投げ出されたティファを救える者は、このフロアには誰も
いなかった。
----------
・都合で申し訳ないのですが、投下が今まで以上にまちまちになる可能性が大きいです。どうもすみません。
2週〜月1ぐらいでなんとか。(…とは言え話はこんな方向で突っ走りますが)
今年も沢山の作品が読めますように。
>>199 無印でもそうだったけど、ティファの優しさは時に歯がゆいです
続きまったり期待してます。ぜひぜひ最後まで完走してください
乙!
各シーンの脳内再生がスムーズに行くので、とても読みやすくて助かります。
手にとって見えるような描写、GJです。
∧_∧
( ´・ω・) 皆さんお茶ドゾー
( つ旦O
と_)_) 旦旦旦旦旦旦旦
続きをマターリとお待ちしてます。
まったりwktk
ほ
ぼ
|
ぼ
2ちゃんが無くなったら続き読めなくなっちゃうのか!?
移動先ってしたらばでいいのかな?
そこでよければ立ててみますがどうでしょう?
閉鎖ってマジで?
したらばは待ってください。千一夜さんがログ保管に動いてるし、まずは静観が一番かと。
970 名前:TAKASHI報告人 ★[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 00:40:45 ID:???0
忙しかったので今知った。
閉鎖は無いよ!
ドメインなんて住所です。
引っ越ししたら住所はかわります。
そんなもんでしょ。
たぶん変わらないでしょうけど。
動揺したり、この債権者に嫌がらせは止めましょう。←これ重要
213 :
210:2007/01/15(月) 20:39:55 ID:hsU0yUUh0
>>212 了解しました。
もしもの事が無い事を祈りつつ、
あったらあったで動ける様にしておきます。
ほ
ぼ
前話:
>>196-199 ----------
「お前は」
エレベーターホール脇の壁に空いた穴の前で立ち尽くすリーブに向けて、ヴィンセントが問おうと口を開いた。
だが、さすがにこの場所からでは遠すぎると思い直して、自分の耳にさえ聞こえないほど小さなため息を吐くと
彼はフロアを蹴った。
跳躍で得た浮力と推進力を活かして射撃装置の銃弾をかわしながら、一方で装置そのものに向けて発砲し、
あるいはその身をもって破壊して行く。まるで装置を破壊する毎に加速度を得ているような速さで、リーブの背に
迫った。
ヴィンセントの表情も声も、普段の落ち着きを取り戻しているように見える。しかし、彼の破壊行為は凄まじい
勢いと恐ろしいまでの正確性でもって遂行され、銃口から放たれた弾も、動作にも一片の無駄はなかった。
その中に彼の確かな怒りを垣間見た気がしたが、敢えてクラウドはその事には触れずにいようと思った。自分は
サポートに徹するべく、もう一度フロアにひしめく射撃装置に大剣を向けると、その破壊に意識を集中させた。
鈍い音を立てて装置の残骸を踏みつけると、ヴィンセントは再びフロアに降り立った。一歩を踏み出すのと
同時に、銃を持った右手をあげる。
「お前は、どういうつもりでこの状況を作り出した? 答えろ」
壁の穴を見つめ続けているリーブの後頭部に銃口を突きつけて、ヴィンセントは静かに、だが聞けば誰からも
それと分かる怒りを込めて問いただす。
「……さすがはカオスを身に宿しただけの……いえ、元タークスと言った方が正しいでしょうか? とにかく
素晴らしい身のこなしです。作り物にはここまで柔軟な動作は実現できませんよ」
状況を正確に把握しながらも無防備に、まったく動じた様子も見せないでリーブは応じた。その上で、相手
からの問いに対しては何一つもまともに答えない、その飄々とした態度は相変わらずリーブらしいと言えた。
だからこそヴィンセントは言葉を連ねるでもなく、黙って銃口を向けるだけだった。
リーブにとって沈黙こそが一番の追及であることを、彼はよく知っている。
「……だって」
ややあってリーブが口にした言葉に、ヴィンセントは妙な違和感を覚え表情を曇らせた。
「『だって、私は人を殺すためだけに生まれてきたのだし 他には何も自由は無かった』……覚えていますか?」
逆に問われて思い出したのは3年前の出来事。ミッドガル中央塔で出会ったある女性が語った言葉だと気付く
までに少し時間を要したが、それと分かるとヴィンセントは明らかに表情をゆがめて問い直す。あの場にいたのは
自分だけのはずだった。だからリーブがその事実を知る術はない。
「……それをどこで?」
「もちろん中央塔ですよ。残念ながら引き上げたデータの中にオリジナルは残っていませんでしたが、それでも
あなたとの会話と交戦の記録ぐらいは拾えました」
プレート都市として設計されたミッドガルにおいて、中央塔はプレートの上層と下層を結ぶだけでなく、ID検知や
対侵入者用の監視システムなどを制御する役割も担っていた。それらは6年前のメテオ飛来の衝撃にも耐えた
のだろう。そう考えれば、彼が言うのも何ら不思議なことではない。
納得するのと同時に嫌な予感がした。そして、ヴィンセントが口に出すことの無かった予感が正しかったことを、
リーブは冷淡に告げた。
「“私”はその記録を元に再構成されています。もっとも、拾えたのは地上で交戦した彼女のデータぐらいですがね。
もし仮に他のツヴィエート達のデータ引き上げに成功したとしても、アスールやネロの変異能力まで組み込むなんて、
いくらリーブにも不可能です。彼は科学者でもなければ超人でもない、ただの人間です。
……無機物に命を宿す、その異能力を除いての話ですが」
「リーブ!」
思わずヴィンセントが声をあげる。それを遮って、リーブは淡々と語り続けた。
「ヴィンセントさん、あなたの問いに答える前に、まずこちらの質問に答えていただけますか?」
そう言って、ゆっくりと振り返る。ヴィンセントが決して引き金を引かないことを確信しているのだろう、リーブの
動作には危機感のかけらも見あたらない。
こうしてヴィンセントと正対したリーブは、眼前に向けられた銃口を払い除けることもせずに、彼の目を真っ直ぐ
見つめてこう問うのだった。
「……彼女も、私も。自分を“人間ではない”と認識している点については共通しています。
しかし彼女は自らのことをこう言いました。
『歪んだ人間によって作り出され、強さのみを求められる存在。だからその通りに生きる』と」
度重なる人体実験の末、ディープグラウンドソルジャー――中でもツヴィエート達は常人離れした能力を身に
つけた。好奇心という名の狂気に取り憑かれた科学者達が、人として決して失くしてはならないモノを差し出した
結果、得られたのが彼らだった。
ロッソは――少なくとも彼女は、置かれた境遇を理解していた。強靱な肉体を持つ一方で、脆すぎる心と、現
実を理解できる頭を同時に持ってしまった――元は人であるはずなのに、人であることを捨てなければ生きて
行けないと知っていた。それこそが彼女にとって一番の悲劇だったのかも知れない。彼女の悲痛な叫びは
ヴィンセントに向けられ、戦いによってしか訴えることができなかったその思いを、ヴィンセントは差し向けられた
刃と共に受け止めた。恐らくは彼にしかその役は果たせなかっただろうし、彼もまたそれを見事にやってのけた
のだ。
目の前にいるリーブを見ていると、3年前に中央塔で戦った彼女とどこか重なって見える気がした。それは
基礎データを元に作られていたから、なのだろうか。
しかし、ここにいるのは彼女の“コピー”ではない。それだけははっきりしている。
「では。……彼女と私の違いはどこにあるのでしょうか?
人体実験を施され『作り出された』存在である彼女は生きているのに、
人工物に生命を吹き込まれ『生み出された』存在である私は……」
ヴィンセントが引き金を引けない理由。それをリーブは見透かしたように語る。
ただ淡々と、まるで口に出す一言一言が相手に向けられる鋭い刃であるかのように。
しかし、その言葉が向けられているのはなにも対峙する相手だけではなかったのだ。
「彼女が羨ましいのです。強さを求められる存在として、それでも“生きる”事を望まれた。
しかし武力を持たないケット・シーなどは、死ぬことを前提に生み出された生命です。
それではなぜ、私は今ここにいるのでしょう? なぜ……」
――生み出されてしまったのでしょう?
まるでその一瞬、フロアにあった全ての機械と人間の動きが停止し、その声だけが響き渡ったような気がした。
現実と錯覚の狭間に立たされたような、不思議な心地の中でリーブの言葉は続く。
「この世に生まれた以上……生き続けたいと思うのは生命の持つ本能、それは人間ではない私も同じなのです。
もちろん、ケット・シーにも言える事です。
ご理解いただけますか? 我々は……生きているのです。あなた方と同じように」
“インスパイア”――無機物に生命を吹き込み操る能力。
生命を狩り取るカオスや、生命の箱船オメガとはまるで異なる存在。
破壊を伴い、星と生命を終焉へと導く力ではないはずのそれは、果たして。
生み出された命と、生み出した能力者に何をもたらすのだろうか?
「それは……」
相手に向けた銃は意味を成さず、逆に答える事のできない問いを向けられて。
それでもヴィンセントは銃を下ろすことも、その場を退くこともできなかった。
そしてこの時、彼の携帯に必死で呼びかける者の存在に気づけないまま、時間はただ過ぎていくのだった。
----------
・「戦闘中はマナーモードに設定の上、通話はお控え下さい」というアナウンスがあったり無かったり。
・たぶんロッソはこんな湿っぽい事考えないはずなんですが、そこは単なる書き手の力不足ですすんません。
でも8章中央塔ロッソ戦は死ぬほど燃える、そして実際死ねる。それを表現したかった。
・ところでDCFF7第8章の中央塔って FF7Disc2で宝条戦直前に走り抜けたあの場所の事なのかが分からない。
・あたたかいレスとお茶、どうも有り難うございます。
閉鎖騒動も含めた話ですが、個人的にはここで書き遂げたいという希望。
各停だろうが急行だろうが魔列車だろうが、一度乗った列車は途中下車(ry言う意気込みで。
静かに激しく怒るヴィンセントがGJ!(日本語が変なのは脳内変換でおk)
電話に気づかず気が利かないヴィンセントwが、はがゆくも“彼らしい”感じで(・∀・)イイ!
キャラの特徴のつかみ方・表現の仕方が絶妙で、ホント素晴らしいです。
最後までワクテカマターリと続きをお待ちしてます。
冒頭のジャンプしたヴィンセントが射撃装置を破壊する所は
DCのムービーが目に浮かびました。
この二人の対峙が(・∀・)イイ!!
更にロッソの名前が出て来るとは…続きwktkしてます。
上手い言葉が出て来ませんが、局長の胸の内ってどうなんだろう、と思いました。
大切な人の死や、大勢の命を預かり、傍らで全う出来ない命を生み出す…
FF7の中で一番人並みな幸せに遠いのは彼かもしてないですね。
お忙しいとは思いますが、続きがんがって下さいませ。
魔列車に乗ってしまったのは自分もであります。押忍!
途中下車どころか、降りろと言われても降りない心意気で投下。
「おぉ、待っておったよ、二人とも。」
久しぶりに顔を出したヴァンとパンネロを見つけると、
ミゲロは両手を広げて二人を迎えた。
ラバナスタのミゲロの店は相変わらず繁盛しているようだ。
たくさんの人が出入りしているのに、ミゲロは二人が来るとすぐに気付くのだ。
「なんだよ、珍しいな。いつもなら“盗賊の分際で堂々と正面から入ってくるな”って怒るのに。」
言いながらヴァンは地方で手に入れた珍しい酒をミゲロに手渡す。
「これ、旨いんだってさ。」
「おぉ、いつもすまんな。ありがとうよ。丁度いい、今夜頂くとするか。」
ヴァンはいつもミゲロの店を訪れる時には必ずなにかしらの土産を持って来る。
パンネロを連れて空賊となってしまったのを“親不孝”とでも思ってくれているのだろうか。
ともあれ、ヴァンにしては珍しい気遣いがミゲロにはうれしかった。
「それよりミゲロさん。私たちを待っていたって?」
目を細めて手に持った酒瓶を眺めていたミゲロは慌てて顔を上げる。
「そうだった、そうだった。実は二人に相談というか…頼みがあるんだ。」
「頼み?」
「俺たちに?」
ミゲロは堅気の商売人だ。それが空賊である自分たちに頼み事とは?
「立ち話もなんだし、今夜家に来てくれんか?会わせたい人が居るんだよ。」
パンネロはどうする?という風にヴァンを見る。
「う〜ん、そうだなぁ…」
一応、悩む振りをしてみるが、ヴァンの答えは決まっている。
「分かったよ、じゃあ今夜!」
「ありがたい、お前達の好物を用意して待っとるよ。」
マーケットやダウンタウンで時間を潰してからミゲロの家に行くと、
店での言葉通り、二人の好物でテーブルが埋め尽くされていた。
ヴァンは目を輝かせ、視線は何度もテーブルを往復する。
「すっげぇな、これ!全部食べていいの?」
「もう、ヴァンったら…子供みたいだよ。」
「なんだよ、パンネロだって楽しみにしてて、屋台でお菓子も果物も我慢してただろ?」
あの旅を経て少し大人びたと思っていた養い子だったが、
キャンキャンと子犬の様にじゃれあう所は変わらないようだ。
ミゲロはうれしさ半分、呆れるのが半分で二人を座らせると、
「実はな、わしの古くからの友人が訪ねて来ておるんだが…」
その友人が大変困っていて、二人に相談したがっている。
ここに通しても良いか?というミゲロの頼みに二人は快く頷く。
「ありがたい。おい、ダンチョー!」
呼ばれて入って来たのは小太りのヒュムの中年男性だった。
金色の髪が耳の横で不自然なくらいクルクルに縦ロールしている。
「この子達だよ、例の空賊と知り合いなのは。」
「おぉ、あんたらか。頼むから、あの空賊をなんとかしてくれんか?」
よっぽど切羽詰まっているのだろう、ダンチョーと呼ばれた男は
挨拶も自己紹介もなく、いきなり用件を切り出してきた。
ヴァンとパンネロは思わず顔を見合わせる。
「あの空賊って…?」
「おい、ダンチョー、あれを見せた方が早い。」
ダンチョーがポケットから取り出したのは白い封筒。
「これって…?」
ヴァンの肩越しに手紙を覗き込んだパンネロが訝しげに首を傾げる。
「見て分からんかね!ウチの看板女優を誘拐に来ると大胆にも予告しとるんだよ!」
「…バルフレアが?」
「そこにそう書いとるじゃないか!」
ダンチョーはイライラと答える。
「この国の最も高貴なご婦人…って、アーシェ…陛下のこと?」
ダンチョーはどこか誇らしげに大きく頷く。
「もちろん、決まっとるじゃないか。明後日に帝国とダラマスカの親善イベントがある。
劇場にはアーシェ陛下と、帝国の若い皇帝の…」
「ラーサー様。」
「そう!そのラーサーと…それと、砂漠の国からナントカという王様が
ひと回りりも歳の離れた許嫁を連れて来るんだよ!
そんな時に騒ぎを起こされたらわしの劇団は…劇場は…!」
騒々しいダンチョーを横目に、封筒と手紙をマジマジと見つめていたヴァンがぽつりと呟いた。
「違う…」
喚いていたダンチョーも、ミゲロも、そしてパンネロも思わず口を噤んだ。
「偽物だよ、これ、バルフレアじゃない。」
*******************
以下、チラシの裏。
・◆Lv.1/MrrYw 氏の心意気に感動して投下。自分もここで書き遂げられる様に頑張りますです。押忍。
・ダンチョーの見た目はうろ覚えです。金髪で横がカールしてたような…
・砂漠の国の王様はエドガーで婚約者はリルムですが、話には出て来ません。
投稿人、年齢差があるカップルにものすごく弱いみたいで、意地で出したかっただけです。ごめんなさい。
この二人のお話もいつか書きたいので2ch存続を祈って今夜も願掛けして参ります。
>>222-224 人さらい予告キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!! 中の文面には「よめさん」とか頭悪そうな事
書いてある予告状なんですかねそれ、差出人は傷だらけのギャンブラー。それで偽者掴まされた挙げ句
賠償問題で飛空艇が差し押さえられる、と。…しかし元ネタは、さらうはずの女優が偽者なんですが、
今回は差出人が偽者? ポーションを使いまくるおせっかい野郎ではないわけですね?(それはガンビット)
今後の展開期待sage。よく分からない勢いで応援してます。何なら画面の前で踊りながら待ってます。
ライフストリーム総動員でメテオさえ退けて見せる、そんな勢いで。
…妙なテンションで申し訳ないです、ちょっと愁い無く星に還っておきます。
>>219 リーブ人形ってDCの時に量産されてたんですか?
自分の存在意義や出生の理由を知るために行動を起こすのはわかるけど、
人を傷付けるような方法しか選べなかったのが悲しい
人形と創造主のアイデンティティってなんだろう……とか思いながら
続きまったり待ってます。
>>224 設定ワロタwww乙です!
パンネロかわいいよパンネロ
どちらもGJ!
乙
ほ
前話:
>>216-219(場面は
>>25からの続き)
----------
***
あれからどれぐらい経っただろうか。窓から見える雨雲は時間と共に色濃く厚みを増して、今にも雨が降り
出しそうな空模様だった。
デンゼルはなんとか会話のきっかけを作ろうと何度か言葉を発してみたのだが、マリンは心ここにあらず
といった様子で気のない返事を寄越すばかりだった。腕には相変わらずケット・シーをしっかりと抱いている。
(どうしたんだろう? マリン)
マリンがケット・シーの事を気にかけているのは見れば分かる。けれど、それを口に出す勇気がデンゼル
には無かった。こう言うのを「胸騒ぎ」と言うのだろうか? とにかく触れてはいけない、そんな気がしたのだ。
――そう言えば、ケット・シーが動かなくなってしまったのはいつ頃からだっただろう?――デンゼルはふと、
そんなことを考えた。昔は毎日のように言葉を交わしていた様な気がするのに、だとしたらなぜ気付かな
かったんだろう?
もしかしたらマリンも、同じことを考えているのかも知れない。デンゼルは何となくそう思った。
薄暗い室内の静寂を破ったのはセブンスヘブンの扉が荒々しく開かれた音だった。マリンとデンゼルは
同時に視線を階下に向けた後、互いの顔を見合った。
店の外には準備中の札を出しているのに、それを無視してまで入ってくるなんて――もしかしたら強盗の
類なのだろうかと不吉な考えが頭を過ぎる。
しかし次の瞬間、そんなはずないと内心で自分を励ましながら、大きく首を振って嫌な考えを追い出そうとした。
それから「ちょっと見てくる」と言って立ち上がると、デンゼルは部屋のすぐ目の前にあった階段を降りて店の
カウンターへと出て行く。その途上、目についたモップを手にしたのは一応の用心だった。
「すみません、まだ……」
両手でモップを強く握りしめながら、言葉では平静を装いつつも恐る恐る入り口の方へ顔を向けたのと同時に、
店に入ってきた大柄な男が声をあげた。
「よぉデンゼル! ティファは留守か?」
いきなり声を向けられて思わず肩を竦めたが、よくよく聞いてみれば自分の名を呼ばれていると気がつくと
緊張は解け、途端に体中から力が抜ける。握っていたモップを思わず取り落としそうになって、慌てて柄の
先端を掴んだ。それから顔を上げると、目に映った男の姿を落ち着いて見直した。
「おっ……おじさん!?」
その男はセブンスヘブンの常連客の一人で、デンゼルやマリンも見知った顔だった。ふだんはエッジの再建
作業に携わっている彼は、とても気さくな人柄でここの皆からも慕われていた。
店を訪れたのが知り合いだと分かりホッと胸をなで下ろすと、ひとまず用済みになったモップを流し台の横に
立てかける。それからデンゼルはカウンター越しに事情を話そうと口を開いた。
「すみません。ティファ今ちょっと出かけてて、店はまだ開けてないんです」
「なんだ、こんな時に買い出しか? ……ってまあ、仕方ないか。それじゃあデンゼル、ティファが帰ったら
すぐに、これを渡してくれるか?」
なにやら興奮しているらしい男は早口で言うと、デンゼルの話もよく聞かず押しつけるようにして数十枚の
紙片を手渡した。
事情が飲み込めずにいたデンゼルは、渡された紙片を手にとりあえず頷いてから、大柄な男を見上げて
こう尋ねた。
「おじさん、そんなに慌てちゃってどうしたんですか?」
「『どうしたんですか?』……ってデンゼル、お前ニュース見てないのか?!」
「ニュース……?」
この日の朝以来、デンゼルはニュースを見ていなかった。
配達から戻ると連絡をして来たクラウドの帰りを待ちながら、ティファ達と3人で開店の準備をしている最中、
誰かからの電話を受けた直後に慌てて「ちょっと留守番お願いね」とだけ言い残して店を飛び出して行った
ティファの戻りを、マリンとふたりで待っていたところだった。
電話を受けたティファの慌てようから考えると、もしかしたらクラウドが事故にでも遭ったのかも知れない。だと
してもクラウドのことだ、そう簡単に大ケガはしないだろう。だからそれほど心配はしていなかった。デンゼルに
分かったのは、少なくともティファが買い出しに出掛けたのではない事ぐらいで、行き先に心当たりはなかった。
マリンの口数がいつも以上に少ないことを除けば、少々慌ただしいが平穏な日常だった。朝食時にニュースを
見たぐらいで、最近は取り立てて見たくなるほど気になる出来事も無かった。だから特に見ようとしなかっただけだ。
そんなに驚かれるようなことでもないはずなのに。
「説明するよりテレビつけてみろ、大騒ぎだ! ……すまんが俺はこのまま現地へ飛ばなきゃならないんで
時間がないんだ。だからそれ、ティファが戻ったら必ず渡してくれよ。頼んだぞ!」
男はそれだけ言い残すと、入って来たときと同じように騒がしい音を立てて出て行ってしまった。
「なんだよ、もう……」
ほとんど事情も説明しないまま、一方的に捲し立てて去って行った男に文句を言いながらも、デンゼルは
階段を上がった。心配そうに顔を向けているマリンと目が合い、「いつものおじさん」と言って笑って見せた。
しかしマリンは気のない声で返事をすると、また黙り込んでしまう。
(……本当にどうしたんだろう、マリン)
デンゼルの心中としては、今ニュースで流れている情勢よりも目の前のマリンの様子の方が気がかりだった。
とはいえ、直接訊いてもマリンは「なんでもない」と言うだけだし、だけどどう見たって「なんでもない」はずが
ないのは明かだった。それでどうして良いのか分からなくなって、また言葉を見失ってしまう。
デンゼルはテーブルの上にあったリモコンを手に取り、気を紛らわす目的でテレビの電源を入れた。
それにこうしていれば、室内が沈黙に戻ることもない。情けない話だがデンゼルにはこれ以上、あの空気に
耐える自信はなかった。
スイッチを入れた途端、スピーカーからは先ほどの男と同じような興奮気味の声が流れ出してきた。
『……です。繰り返します、今からおよそ1時間後、W.R.O本部施設への空爆を行うことが正式に発表されました。
声明はW.R.O局長リーブ=トゥエスティ氏による物であり、飛空艇師団によって……』
「えっ? ……ええ?!」
デンゼルは思わず手に持ったリモコンの音量ボタンを押していた。ディスプレイの向こうで喋り続けるレポーターの
言葉を全て聞き取れなかったものの、「W.R.O」「空爆」「リーブ」の単語だけで彼の注意を引きつけるには充分
すぎる要素だった。同時に、先ほど男から受け取った紙片への意識は薄れ、デンゼルの手から逃げるように
滑り落ちていく。
「空爆、って……どういう事だよ!?」
ディスプレイにつかみかかるような勢いで問いかけると、まるでその問いに答えるようなタイミングでレポーターの
声が聞こえてきた。
『声明によれば現在、建造中のW.R.O新本部施設内に異常が発生。……具体的な内容は明らかにされていま
せんが、事態の沈静化の最終手段として、飛空艇師団による空爆を決定したとの事です』
レポーターの声に重なるようにして、様々な声が飛び交う。それだけでも混乱の大きさが伝わってきた。
『不可解です。発表された“異常”の内容が不明瞭ですし、なぜ飛空艇師団が出てまで大規模な空爆まで行う
必要があるのかが理解できません』
『……まさか新種のウィルスやモンスター?』
『憶測だけで議論を進めるのは危険です、もう少し冷静……』
『憶測? W.R.Oが報道規制を敷いているのは確実でしょう? 3年前の集団失踪事件だってそうだった、
いつでも重要な事実は隠蔽されている』
『それは無用な混乱を避けるためであって……』
『大体にしてW.R.Oになぜそんな物騒なものが?』
『兵器開発を行っていたと言うことか?』
『確かにW.R.Oには治安維持を担う部隊も存在しますが、いくらなんでも本格的な兵器開発までしているとは
思えない』
『治安維持部隊に兵器開発……それじゃあ、まるで神羅だ』
『……、しかし。W.R.Oの局長は神羅カンパニーに所属していたと聞きます。彼らの研究データがW.R.Oに持ち
込まれていても不思議じゃない』
『元神羅重役と言っても、都市開発部門じゃなかったでしたっけ?』
『しかし神羅カンパニーと言えば、情報操作はお手の物でしたね』
『資金源も旧神羅の収益からという噂もあります。兵器開発、魔晄の独占使用権で得た利益は莫大なもの
でしょう』
『だからそれが憶測だと言うのです』
『しかし憶測にしても、“旧神羅”なら充分実現可能だと思いませんか?』
『…………。』
それまで騒々しく飛び交っていた言葉が急に途切れた。画面の向こうで好き勝手に言葉を交わしていた人々も、
部屋でそれを見ていたデンゼルも、固唾をのんで次の言葉を待っていた。
『……では、本当に……』
ディスプレイの前に立ったまま、食い入るように見つめて動かないデンゼルの後ろで、マリンが床に散らばった
紙片の一枚を手に取った。
そこに書かれた文字を目で追うのと、デンゼルが見ているテレビから流れてくる音声が重なり、こう告げた。
これはジェノバ戦役の英雄、リーブ=トゥエスティの起こした不祥事であると。
----------
・WROを巡る疑惑が一気に噴出する様ですが、なんて言うかWRO閉鎖騒動というノリですw
・「3年前の集団失踪事件」に関してはDCFF7第2章-1を参照のこと。正確には3年と少し前?
(それにしてもどうやって「1200人」を「十数名」にまで圧縮したんだ?w)
・月末から月初にかけて投下が難しいと思うので、書けるときに投下させてもらいます。いつもどうもです。
乙です。まったり待ってます
GJ!
wktk
ほ
ぼ
ぴ
ちょ
ん
その一文字保守の意味ワカンネw ほぼぴちょん って何なんだよwwと言いつつ保守。
工事復旧記念パピポ
よし保守だ
ほ
ね
っ
で
前話:
>>230-234(場面は
>>187-191の続き)
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***
ユフィは全力で来た道を戻りもう一度エレベーターに飛び乗ると、迷わず1階のボタンを押した。すると音も
なく扉が閉まり、ごく小さなモーターの稼働音と共にエレベーターが動き出す。
壁に背を当てて大きく息を吐き出すと、収まらぬ胸の鼓動を聞きながらここへ来る直前までの会話を思い
出していた。
「ユフィさん、聞いたとおりこの建物は間もなく飛空艇師団によって破壊されます。ここへは他の皆さんも来て
いますね? でしたら急いで戻ってこのことを伝えてください。そして、一刻も早くこの建物から離れてください」
耳に当てていた携帯電話をしまいながら、リーブは確かめるような口調でユフィに語る。
「ちょっと待ってよおっちゃん!?」
「待てません。事態は一刻を争います」
「そーじゃなくて!」勢いよく立ち上がると、それでも尚リーブの顔を見上げて反論を続ける。
「……納得いかないよ。どうしてここが破壊されるのさ?!」
「理由でしたら先ほど申し上げた通り、『W.R.Oは“星に害をなすあらゆるものと戦う”事を目的とした組織』だから
です」
それは分かっていますよね? と問われ、もちろんと言う代わりにユフィは首を大きく縦に動かした。今さら
問われるまでもなく、3年前のオメガ戦役以前――設立当初から変わらないW.R.Oの理念だった。ユフィが未だに
協力し続けている理由は他にもあるにしろ、少なからずリーブが言っている事を理解しているのは間違いない。
だからと言って、どうしてここが破壊されなければならないのか? という問いに対する答えにはなっていない。
そう思ってユフィがさらに反論しようと口を開いたその時、ようやくリーブの本意に思い至った。
「……え? そ、それじゃあ」
かけられる声を置き去りにして、リーブはユフィに背を向けて歩き出す。部屋の奥に並んだモニタの前で立ち
止まり、それらに視線を向けながら手元のパネルで操作を始めると、振り返らずにこう告げる。
「ユフィさん。やがてこのフロアの隔壁が作動します。そうなればこの部屋からエレベーターまでの通路には
5枚の隔壁が降りる事になりますが、この隔壁は特殊な素材を使用して作られています。通常の攻撃で破る
ことはもちろんですが、仮にアルテマを撃っても一発で穴を空ける事はできません。それほど強固な物です。
……ですから、あなたも早くここを離れてください」
それはとても穏やかな声でなされた、最後通告だった。
「待って!! じゃあ、おっちゃんは『W.R.Oが“星に害をなす敵”』だって言いたいの?!」
「……正確には少し違いますが、概ねその解釈で間違いありません」
「何でさ!?」
ユフィが疑問を叫ぶのと同時に、やや高めの短い機械音が室内に響いた。どうやら操作が完了した事を知ら
せているようだった。それを確認したリーブは振り返ると、質問には答えずに改めて告げた。
「ユフィさん、あと3分でフロアの隔壁が作動します」
「おっちゃんっ!!」
それからもう一度、ユフィに向けて歩き出す。やや早足で近づいて来たかと思うと、リーブはユフィの両肩に
そっと手を置いた。
「私は、あなた方をこんな場所で死なせたくありません。
ですから皆さんにこのことを知らせて、一刻も早く建物から避難して下さい。……頼みましたよ」
言い終えた直後、肩に置いた手に力を込める。それからユフィの意思とは関係無しに肩を強く押して体を
反転させると、部屋の入り口に向き直らせた。
「待てっ! おっちゃんは……!?」
突然のことに驚きながらも、力に逆らって無理やりにでも振り返ろうとするユフィを制してから、リーブは彼女の
耳元で小さくこう囁いた。
「“この星に害をなす存在”とはもちろん、W.R.Oではありません」
「じゃあ!」
さらに声を張り上げたユフィの言葉を遮ったのは、とても小さく穏やかで、どこまでも落ち着いた声。
「……私自身なのです」
そう告げた声はまるで全てを悟った者か、あるいは諦めた者であるかのようだった。果たしてリーブがどちらに
あたるのかは分からない。後ろを振り向けなかったユフィには、こう語った彼の表情を見ることはできなかった。
「えっ?!」
告げられた言葉の持つ意味と、発言者の意図を計りかねて半ば呆然としていたユフィは、背中を信じられない
力で押され部屋の外へと追い出された。バランスを崩しながらも振り返った彼女の目に映ったのは、扉が閉まる
寸前になにかを口にしたリーブの顔だった。その様子が、ユフィの目にははっきり映った。しかし何を言ったのか
は聞き取れなかった。
「おっちゃん……?」
直後、全てを拒むようにユフィの目の前で部屋の扉が勢いよく閉ざされる。
遅かった。
無駄とは分かっても扉を叩きながら、リーブの名を呼んだ。そんな必死の叫び声とは対照的に、フロア内には
機械的な音声が流れた。
『隔壁作動まで、60秒』
それを聞いて最後に一度、ありったけの力で扉を叩いた。それでもびくともしない扉を前に、「必ず戻って来る
から!」と誓うように言い残して、ユフィはエレベーターへと通じる一本道を全速力で走り抜けたのである。
こうして、間一髪で乗り込んだエレベーターだった。ユフィはエレベーターの扉が閉まるまで、ここから5枚の
隔壁が次々に通路を塞いでいく様子を見届けた。
「この星に害をなす存在……それがリーブのおっちゃんだって、どういう事なのさ」
混乱する頭で状況を整理しながら、最後に聞いた言葉の意味を必死で考えた。だけどいくら考えたところで
答えは一向に見えてこない。
手にした携帯電話を見つめると、ユフィは頷いた。
「いくら考えたって埒があかない!」
まるで自分に言い聞かせるようにして呟いてから、リダイヤルボタンを押す。耳に当てれば先ほどと同じように
規則的なコール音が聞こえてきた。1回、2回、3回……。
「お願いだから出てよおっちゃん!」
今し方つながったのだから、これで応答がなければ意図的に出ないという事になる。焦りのような苛立ちのような、
そんな感情を抱え込みながらユフィはコール音が途切れるのをひたすら待った。じっとしているのは性に合わない、
けれど待つしかなかった。
辛抱強く携帯を握りしめていたユフィの耳に、別の音が聞こえた。
エレベーターが目的階に到着して扉が開かれる。開かれた扉の先、エレベーターホールのさらに奥には巨大な
噴水が見えた。 建物に入って最初に見たエントランスホールだ。
行きとは違い、帰りはとても早く感じた。
「…………」
エレベーターを降りるとユフィは立ち止まって考えた。相手が出る気配の全くない電話を切るべきか否か。
しかし、ゆっくり悩んでいられるほど時間にもあまり余裕はなかった。
じっとしているのは性に合わないし、じっとしていても始まらない。
ユフィは電話を切ると、まだこのフロアにいるはずのバレットとシドに合流すべく走り出した。
----------
保守、毎度どうもありがとうございます。
エレベーターは乗り物酔いの対象なのかが分かりませんが、とりあえず今は酔ってる場合じゃありませんw
いつもGJ超GJ!確かに酔ってる場合じゃないw
いつも楽しませていただいてます、ありがd!
リーブ、リーブううううううう!
こんな所で死んじゃやだよおおお!
扉を叩くユフィが切なくて泣いちまったじゃまいか!
続きwktk
wktk
260 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/09(金) 16:36:53 ID:EqfaXBBB0
これは保守します。
保守
ほ
エボンの姫ユウナレスカ様が下着でうろついていることについて語るスレ
33 :名無しさん
これは大問題だなあ
ザナルカンドの発情姫とか、後世に伝わってまさに国辱ものだな。
61 :名無しさん
ベベルと戦争中だってことわきまえてんのか、
このバカ女はw
68 :名無しさん
しかし、この後この人どうすんだろうね・・・・
もう嫁の貰い手もないだろうに・・・ こんな露出狂、
ぼ
ひ
前話:
>>251-254(現在位置は
>>141-145と合流/本部施設内1F)
----------
***
エレベーターを降りたユフィがバレットとシドを見つけ出すまでに、それほど時間は掛からなかった。
視界のはるか前方に彼らの姿を見出すやいなや、通路の端からユフィはありったけの声でふたりの名前を
呼んだ。一刻も早く、このことを他の仲間に知らせたいと言う思いが、彼女の声に表れている。
「バレット! シド! 大変なんだ、おっちゃんがっ!!」
携帯電話を片手に振り返ったバレットと最初に目が合う。それから、その奥にいたシドが億劫そうに振り返った。
「……なんだずいぶん早ぇな、ユフィ。なんかあったのか?」
「シド! そんなのんびり構えてる場合じゃないよ緊急事態な……」
彼らの方へ走り寄りながら、ユフィはシドの声に応じて言葉を返す。そのとき視界の端――シドのさらに奥――
に人影を見出して、自然とそこへ意識が向いた。
やがて人影の正体に気付くと、ユフィは思わず立ち止まる。
「……おおおおおおおおおおっちゃん?!」
わざとらしいぐらい大袈裟な仕草で驚いてから、ユフィはさらに混乱した頭で言葉を続けようとした。
「待って! だって、だって今おっちゃんが……!! 私おっちゃんと会って」
「いいからちょっと落ち着けってユフィ。……コイツはリーブに見えるがリーブじゃ……いや、リーブなのか?」
状況を整理しようと説明を試みたシドだったが、どうやら彼にも状況をうまく伝えられないようだった。バレットは
耳に当てた携帯電話を離さず首を横に振るとこう言った。
「本人曰く、“人形”だと言ってやがる」
「に……人形……?」
その言葉で幾分か落ち着きを取り戻したユフィは、彼らの近くまでやって来るとリーブを見上げた。
目の前に立っているのはどう見てもリーブだった。しかしつい今し方、上の階で会ったのも間違いなくリーブ
だった。
ユフィにしてみれば、何がどうなっているのか状況がさっぱり分からなくなってしまうのも無理はない。隔壁が
作動した後、どうやってリーブはここへ来たのだろうか? 他にも稼動しているエレベーター、あるいは別の通路が
あるのだろうか?
「あまり見つめられると、穴が空いてしまいそうですよ」
笑顔もなくそう言ったリーブに、ユフィはためらいがちに問う。
「おっちゃん……?」
「先ほど彼らにもお話ししたばかりですが、私は実戦用に配備された“人形”です。
とは言え感覚が掴みづらいと思いますので、形を変えたケット・シーだと思って頂いて支障はありません。
我々はリーブによって人形に命を吹き込まれた存在です。あなたも、先ほど上で会っているはずですよ?」
まるで日常会話でもしているような、何気ない口調でリーブは返答する。
一方のユフィは、一言一句聞き漏らすまいと直立不動で彼の話に耳を傾けていた。それでも、声を言葉として
認識するまでには時間がかかったのだろう。妙な間を置いて、ようやく口を開く。
「えっ!? ま、まさか……」
――あそこにいたのは人形?――ユフィが目を丸くして、自らを「人形」だと言う目の前のリーブをじっと見つ
めていた。飽きもせず、それこそ穴が空くほど見つめ続けた。だけどどこからどう見たってリーブだ。しかし上の
階で会ったリーブも、どこをどう見てもリーブだったはずだ。
聞いた言葉から状況を整理し受け入れることだけで手一杯で、それを良くできた人形だなと感心する余裕は
なかった。
「……でっ、でも! アタシおっちゃんに電話したんだよ! ホラ」
そう言って携帯電話を掲げて見せた。それからリダイヤルボタンを押すと、直前にかけたリーブの端末番号へ
呼び出しを試みた。すると間を開けずに聞き慣れた規則的なコール音が聞こえてきた。1回、2回……。
その姿を見守っていたリーブは、ポケットから携帯電話を取り出しながらこう言った。
「やはり感覚は掴みづらいと思いますが……」
これから手品を披露しようとする手品師のように、大きな動作で携帯電話を開くとリーブはそれを耳に当てた。
途端に、ユフィの耳に聞こえていたコール音は途切れ、スピーカーからは紛れもなくリーブの声が聞こえてくる。
『リーブは我々を遠隔操作することも可能です。実際に着信を受けているのが……あなた方の言う“本体”で
あったとしても、こうして“私”は、あたかも着信を受けた様に振る舞えば、たとえ着信がこの端末でなかったと
しても、そう簡単に見分けはつかないでしょう?』
そもそもユフィが発信した番号で繋がる端末を持っているのが、リーブ本体ではない可能性も考えなければ
ならない。
その上さらに、リーブが遠隔操作で彼ら人形を操っていたとすれば、実際にその端末への着信履歴を確認して
みなければ、“どのリーブと会話したのか”を特定する事はできない。
『ですからユフィさん、あなたの言う方法では“本体”を特定する材料にはなりませんよ』
そう言って、やはり不自然に思えるほど大きな動作でリーブは携帯電話を耳から離して見せる。同時に通話は
切断され、ユフィの耳にはノイズ音が流れ込んできた。
そのままリーブは手にしていた携帯電話を――手品の種明かしとでもいった風にして――ユフィに差し出した。
電源は、切れている。
言われてみれば目の前で携帯を取り上げた時、着信を示す変化はどこにも見られなかった。
つまり今、リーブは語ったことを実演してみせたと言うわけだ。
「だ、騙してたって事……かよ?」
怒りに自然と声が震える。だがリーブは、そんなユフィを目の前にしても特に動じる様子もなく佇んでいた。
それから、ユフィの言葉を否定するように首を横に振ってからこう言った。
「先ほど上で会ったのがリーブ本人であるという確証もなければ、人形だと判断する根拠もありません。
私はあくまでも、可能性を示しただけに過ぎないのです」
果たしてユフィからの着信を受けたのは誰だったのか?
そもそも、本体はどこにいるのか?
そして――
リーブが彼らをここへ呼んだ目的は何なのか?
とにかく分からないことだらけだった。
しかし今、目の前に立っているのがリーブ本体だろうが、そんなことはどうでも良かった。仮に上で会ったのが
リーブ本体だろうと人形だろうと、ユフィにとってもっとも重要な、聞いておかなければならない問いはまだ他に
ある。重要なのはその答えだ。
「おっちゃん答えて! ……『この星に害をなす存在が、私自身』ってどういう意味!? どうして飛空艇師団が
この施設ごと破壊しなきゃならないの!? アタシ達は……っ」
しかし、言葉の先はシドによって遮られた。
「……ちょっと待て! 今のはどういう意味だ!? 『飛空艇師団がこの建物を破壊する』だと!? そんな事ぁ
あり得ねぇ!!」
言うまでもなく飛空艇師団の長はシドだった。しかし、空爆の件は今この場で初めて聞かされる。
彼の言うとおり、師団長シドの命令無しに空爆を実施するなどという事は絶対にあり得ない。しかも、その
標的がこの施設だとなれば尚更、シドが取り乱すのも当然だった。
その様子を見かねたリーブがぽつりと語り出す。
「……まずユフィさん」
その声に、三人の視線と意識は一瞬にしてリーブに集中する。
「『この星に害をなす存在と戦う』というのがW.R.O設立当初からの理念です。彼が言った『私自身』というのは、
この能力そのものを意味しています。少なくともこの能力……インスパイアが、星にとって有害であると判断した
ために、今回の作戦が立てられ、あなた方がここへ呼ばれたのです」
インスパイアと称された『能力』というのが、ケット・シーや、目の前の人形を遠隔操作する力を指している事は
分かった。しかし何故それが、“この星に害をなす存在”なのだろうか?
回答を得たユフィが次の問いを口に出す前に、リーブは視線をシドに向けると先を続けた。
「それからシドさん。飛空艇師団への空爆要請は先ほど……察するところユフィさんがそこに立ち会われた
様ですが、通信を経由して完了しています。空爆開始時刻は今からおよそ1時間後、日没とほぼ同時に行われる
予定です……ですから皆さん、速やかにここを離れてください」
淡々と、恐ろしいことをリーブは語る。
しかしその様子は、ユフィが先ほど上で会ったリーブと同じ事を言っている。脳裏に蘇るのは今し方、上の階で
会ったリーブの声と、穏やかな表情。
――「私は、あなた方をこんな場所で死なせたくありません。」
「それでおっちゃんはここに残るってのかよ?!」
「オレ様の許可なしに勝手なことしやがって!!」
ユフィとシドが同時に叫んだ。それでもリーブは表情一つ変えずに、それぞれの声に返答する。
「その為にあなた方をここへ呼んだのです。……あなた方の命を奪うことが、私の目的ではありません」
「その為……って」
「それから。作戦は各隊員の任意参加によるものとしています。あなたの意思を蔑ろにしているという事はあり
ません。……しかしながら『星の危機には協力する』というのが、私からの出資条件でしたね?」
「お前……!」
まるでシドの足元を見ているような、どこか狡猾にも思える口ぶりがしゃくに障った。けれどシドには反論の
術がない。リーブの言っていることは確かに事実だからだ。
では、星の危機とはどういう意味なのか? 今まさに、建造中の本部施設内に星の危機があるというのか?
リーブが言っていることを理解する為には、まだ何かが足りないと思った。
----------
・描写にも何かが足りないような気がします。
これ(携帯電話とリーブ遠隔操作人形の件)、うまく伝わってるでしょうか? ワケワカランとかあったら遠慮無く
言って貰えると大変有り難いです。…毎度すみませんです。
・性質上、携帯電話が頻繁に登場しますが別にD○C○M○の回し者じゃありませんよと念のため。
GJ超GJ!!
星に害をなす敵がリーブ…?まだまだ目がはなせませんね。
クラウド一行は何の為にW.R.O.に呼ばれたのでしょう?
リーブの真意を知らせる為?シドがいない隙に飛空艇師団に空爆要請を出す為?
>インスパイアが、星にとって有害
リーブはこの能力をどのように使うことを思いついたのかが気になります。
能力を自分の欲望のために使ってみたくなったとか
考えるほどwktk
〈携帯電話とリーブ遠隔操作人形の件〉はわかりやすく書かれてると思いました。
続きまったり期待しています
GJ!
ほ
け
き
ょ
早春か!
>>266-270 そそそそんな、局長、無事と思わせておいて人形なんてorz
最後は仲間達が無事に局長を救い出してくれますように。
まだまだ星に還らないで、局長〜・゚・(つД`)・゚・
と、勝手に期待sage
※本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が大好きだし放っておけないけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
>>222-224から続きます。
「それは…偽物って事か?」
ヴァンが頷く。パンネロはヴァンの手から予告状を受け取る。
文面は、
『この国の最も高貴なご婦人が観覧される日に
看板女優のマリアを頂きに参上する。 バルフレア』
と、それらしく書かれて入るが、
(確かにこれはバルフレアさんが書いた物じゃないわ…)
以前、バルフレアがヴァンにシュトラールの操縦法を教えていた時、
パンネロはそれを横で見ていた。
飛空艇の操縦はチョコボに乗るのとは違う。
精密機械を扱うのだから驚くほどたくさんの数字が出て来る。
バルフレアはヴァンにそれを丁寧に、根気よく教えてやっていた。
燃料の計算、方向、位置の割り出し、計器の見方…
それらをバルフレアは紙に書いて説明していた。
少し癖があるが、はっきりとした読み易い字だった。
(こんな、ミミズが這ったみたいな字じゃなかったわ。)
バルフレアを騙るならもう少し似せればいいのにと思う。
パンネロはバルフレアの事がちょっぴり好きなので、なんだかとっても不愉快だ。
それにしても、他にもツッ込みどころが満載だ。
よくぞヴァンがそれに気付いてくれたが、
(ちゃんとダンチョーさんに説明出来るかしら?)
パンネロの懸念は見事に的中する。
「しかし、なんで偽物なんて分かるんだい?
VIPが勢揃いの劇場でヒロインを誘拐なんて
派手好みのあの空族がいかにもやりそうな事じゃないか?」
「違うって!確かにバルフレアのやり方は目立つけど、
派手にしようと思ってそうしてるんじゃないんだって!」
ヴァンは何故だか得意そうに人差し指で鼻を擦りながら答える。
「訳が分からんな。」
ダンチョーはふん、と鼻で笑う。
こんな子供の言う事なんぞという気持ちがありありと見てとれる。
やっぱり、とパンネロは小さくため息をついた。
あーだこーだと懸命に説明しようとするが、
今ひとつ的を得た説明が出来ないヴァンをパンネロは控えめに遮る。
「あの…」
ダンチョーがじろりとパンネロを睨むが、ここで汚名挽回をしないと
自分達を頼ってくれたミゲロさんに申し訳ない。
「字が…違うんです。バルフレアさんの字はもっと線が細くて、
でも、はねる部分やはらう部分はしっかりしていて、とても読み易い字です。」
「ほう…」
ダンチョーの表情が変わる。
「それに…あの人はこんな安っぽい便せんは使いません。
身の回りの物にもちゃんとこだわりがあって、
いつも質の良い物を身に付けたり、使ったりしていました。」
「確かにパンネロが言う通り、これはどこででも買える安物だな。」
目利きのミゲロさんが口を挟む。
「まだあります。バルフレアさんは確かに目立ちますが、
それは私たちみたいな街に住む普通の人たちを困らせる悪い商人や
お役人を狙うからヒーロー扱いをされているだけで、
こんなたくさんの人の注目を集めるような劇場型犯罪を企む人ではありません。」
理論整然と説明するパンネロの言葉に、ダンチョーはう〜ん、と唸る。
「な?分かったろ?バルフレアじゃないって!」
ダンチョーはじろり、とヴァンを睨むと、
「じゃあ…それを出したのがバルフレアじゃないとして、犯人は誰だ?
それに、マリアが狙われている事に変わりはないんだぞ?」
「だから、俺に任せろよ、おっさん!」
「おっさん!?」
ダンチョーが目を三角にして怒っているが、
今の所頼りになるのが目の前の若造しかいないので
ぐっと堪えているのがパンネロには分かる。
「どんな考えか聞かせてもらおうか?」
ダンチョーの声が心なしか震えているのをパンネロはハラハラしながら見守る。
「囮を立てるんだよ。」
「…どこかで聞いた話だな。」
「パンネロをマリアの代わりに舞台に立たせるんだ。
そこに賊がやって来た所を俺が捕まえる。」
ダンチョーは手の平で顔を覆ってしまったし、
ミゲロは早速抗議の声を上げる。
「ワシは反対だぞ。パンネロにもしもの事があったらどうする。」
「パンネロなら大丈夫だって!な?パンネロ!」
確かに、自分だって空賊の一人なのだから危ない仕事を避けて通る気はないが、
こうもあっけらかんと言われると、パンネロは何か引っかかりを覚えてしまう。
でも、パンネロにも他にいい方法が思い付かない。
だが、囮になるのはいいとしても、
「でも…ヴァン?ラーサー様やアーシェにはすぐバレちゃうと思うよ。
それに…あんな大きな舞台に立つのって私には無理だよ。」
「大丈夫だって!砂漠の国の王様にバレなきゃいいんだろ?
それにさ、きっとラーサーもアーシェも驚くぜ!」
「どうするね?パンネロ?」
心配そうに伺うミゲロさんとダンチョーを見るとパンネロは嫌とは言えなくて。
まるでいたずらでも企む様にはしゃぐヴァンに若干の不安と
うまく口に出来ない不満を押し隠し、パンネロは大丈夫!と笑顔で応えたのだった。
つづく。
*******************
以下、チラシの裏。
すいません、個人的にすごく忙しくなりました。
話の筋は出来ているのでまったりゆっくり書かせて下さいませ。
ほ
>280-283
GJ!パンネロガンガレ
乙。今後の展開に期待してます
乙
ほ
し
の
あ
し
た
>>280-283 優しい眼差しでありながら、鋭くい洞察力を発揮するパンネロの描写がとても良いです。
彼女の魅力が良く出てます。
オペラ公演はみんなが揃う大舞台の幕開け! になるんでしょうか。
続きワクワクしながらお待ちしてます。
時間軸はFF7/Disc1
----------
ミッドガル六番街スラム。
様々な事情を背負った私でも、この街は何の疑いもなく受け入れてくれる。
私がここへ来るときも、煩わしい手続や護衛を付ける必要もない。なぜならこの街全体が他人に興味を
示さず、それぞれが己の欲望の赴くままに動いているからだ。ここは、言ってみれば街そのものが巨大な
迷宮だった。システムとして見れば醜いながらも、機能は完璧に近いと言って良い。
自分の設計した街の中で、皮肉にも設計外だったものが私を守ってくれる一番のセキュリティシステム
として稼働している現実を目の当たりにすると、妙な気分になった。
無論、それは不穏分子にとっても絶好の隠れ蓑だと言うことも理解した上での話だ。
どんな仕事にしても、最終的に結果を評価するのは自分自身ではない。
ただ私にできる事は、自分が良いと思った方法でこの都市を作り上げていくことのみ。それが結果を生み
評価に繋がる。
少なくとも現時点で私は、自らの行動を間違っているとは思わない。
魔晄炉を軸とした理想都市、魔晄エネルギーこそが人々の豊かな生活を実現できる唯一の手段なのだと
確信している。
***
決して陽の光が届かないプレート下にあって、それでもこの街は昼夜を問わず光に溢れていた。まるで
雑草のように無秩序に立ち並ぶ建物の隙間を縫うようにして作られた道路は、どこも狭く入り組んでいた。
そんな場所を沢山の人々に混じって歩く。肩が触れ合うほど間近ですれ違う通行人の誰一人とも、目が合う
ことはなかった。ここへ来る前、別に暑くはなかったが上着を脱いでネクタイを緩めたのは、少しでもこの街に
溶け込めればと言う気遣いからだった。スラム街――それもこの六番街で、スーツをきっちり着込んだ人間が
歩いている姿は不自然だと考えたからなのだが、この分だと取り越し苦労に終わりそうだ。
こうして目的地までの道のりを順調に進んでいた時、不意に背中に感じた異物感に足を止めた。正確に
言えば「止めざるを得なかった」。振り返ろうとした私を、ひどく威圧的な声が制した。
「振り向かずにそのまま前進しろ。それと両手は常に私から見える位置に」
声を聞けば女性だと言うことはすぐに分かった。口調と、言っている内容からして自分が置かれている状況が
穏やかではない事にも察しはつく。背中に凶器――拳銃でも突きつけられて、脅されている。スラムでは良く
ある恐喝の類だと思った。視界の及ぶ範囲を注意深く観察してみるが、どうやらこの事態に気付いているのは
我々だけのようだ。となるとこれは、単独犯か。
しかし女性一人に恐喝されるとは――こんな事を言うと失礼かも知れないが、我ながら情けないと少々落ち
込んでしまう。私はそんなに軟弱に見えるのだろうか?
「デートのお誘いにしては、少々強引ですね」
「……黙って指示に従え」
「おやおや、ずいぶん元気なお嬢さんだ」
それから私は彼女に指示されたとおり、六番街の狭い道をひたすら歩き続けた。あいにく重火器に関する
専門知識の持ち合わせは少なかったが、おそらく背に当てられているのは女性にも扱いが容易な小型拳銃
だろう。
どれほど歩き続けたのか、やがて街外れの路地裏にたどり着く。ここまで来るとさすがに中心部の繁華街と
比べて極端に人通りも少なく、おまけに薄暗い。さらに前進を促され歩を進めたが、塗装も剥がれ数ヶ所に
大きく亀裂の入った壁面には、すでに自分の影が映っていた。もうこれ以上、進む道はない。
仕方なく立ち止まろうとした直前、背後にいた彼女が口を開いた。
「……リーブ・トゥエスティだな?」
「こんな人気のない路地に連れ込んでおいて、いきなり何かと思えば」
そんな風に返せば、銃口をさらに強く押し当てられて。
「質問に答えろ」
「『はい』……と言ったら、あなたはどうしますか?」
申し訳ないが女性一人ぐらい容易に振り切る自信はあった。しかし、私の正体を知っていると言うことは
単なる恐喝ではない。その点から考えても油断は即、命取りだ。
彼女の目的を聞き出すのと同時に、彼女が何者なのかをまず知る必要があった。だから質問には答えずに
わざと問い返した。
……と、そこまでは良かったのだが。
「ミッドガルの設計図面を渡してもらおうか」
あまりにも突飛な要求に、思わず言葉を失った。
残念ながら神羅カンパニーに恨みを持つ者は多い。そのほとんどが、自身に起因する貧困を神羅のせいだ
と逆恨みするような性質で、そんな物いちいち取り合うまでもない。一応は私も、世界全体に影響を及ぼすよう
な巨大企業に籍を置き、都市開発部門の統括責任者という肩書きを持つ身である。こういった手合いには一般
市民よりは耐性があると自負している。
しかし手段もさることながら、なにより要求が妙だと思った。通常であれば彼らはもっと即物的な要求をして
くる。金銭、保有する機密情報など文字通り金目の物や換金しやすい物に目がいくはずだ。それに設計図面
なんて、ある程度の知識がなければ入手したところで読むことすらできない。言ってみればには何の価値も
ないのと同じだ。
「私がこんな事を言うのも何ですが、ミッドガルの設計図面になんて何ら金銭的価値はありませんよ」
背後からの返事はない。その様子から察するに、彼女の目的は金銭ではないようだ。
(……とすると、一体?)
「設計図面からミッドガルの構造を知ったところで、あなたに何のメリットがあるのです?」
素直に応じるとは思えなかったが、試しにそう尋ねてみた。すると素っ気ない声で答えが返ってくる。
「あんたには関係ないだろう」
次に私の脳裏に過ぎったのは、つい数日前に起きた悪夢のような惨劇だった。もしその予測が当たっている
とすれば、最悪の事態だ。
「また魔晄炉爆破テロでも起こそうと言うんですか? 悪いことは言いません、そんなことはしない方が良い」
「勘違いするな。私はテロにも魔晄炉にも興味はない」
彼女はきっぱりと言い切った。ますます分からない。
ならばミッドガルの設計図面を要求する目的は何だ? それを探るためにも話を引き延ばそうと思った。
「大体、ミッドガルの設計図面なんて簡単に言いますけどね。そんなものをこの場で突然要求されたところで、
一体どうやってお渡しするのです? あんな膨大なデータ……」
「ではお前達が誘拐した人々をどこへ隠した? その場所を教えろ。それで良い」
「……『誘拐』ですって?」
彼女の言うことはまったく支離滅裂だ。
「ああそうだ、誘拐だ。連れ去った人々をどこへ隠している? このミッドガルの、どこに」
「ちょっと待ってください」
「聞いているのは私の方だ」
彼女の言葉に、私は明らかに気分を害した。職業柄、様々な暴言や罵倒を耳にすることにも慣れてはいた。
しかしこうも一方的に悪者呼ばわりされた挙げ句、恐喝まがいの詰問を受ける謂われはない。
「知りませんよ。大体なんですか、いきなりこんな……」
今度こそ振り向いて顔を確認しよう頭を動かした途端、後頭部に鈍い痛みが走った。
「それはこっちの台詞だな。いきなり他人の日常に土足で踏み込んできて、その上家族をさらう。やってる事は
テロリストと同じか、それ以下だ」
耳のすぐ後ろで不気味な金属音がした。話の真相は別としても、拳銃を持った彼女は本気だ。
このとき私は、恐いという思いを上回る“何か”に従って言葉を発した。
「もしもあなたの言うことが事実であるなら、喜んで協力しましょう。……しかし、そんな事実ある筈がない」
それを聞いた彼女はしばし無言になったあと、後頭部に突きつけていた銃を離すとこう言った。
「……良いだろう。その根拠を見せてやる」
彼女の言葉に導かれるように振り返ろうとした、その瞬間。
「部長!」
遠くで声が聞こえた。聞き覚えのあるような声だったが、誰かまではすぐに思い出せなかった。
帰社予定時刻を大幅に過ぎていたせいで、心配した同僚の誰かが私を探しに来たのだろうととっさに考えた。
「また会おう」
振り返ったとき、そこに彼女の姿はなかった。
これが、私と彼女の最初の出会いだった。
―Fragment of Memory1<終>―
----------
・DCFF7が前提にあってFF7の余話って言うノリでひとつ。ちなみに「繁華街」はウォールマーケットのつもり。
・2があるかどうかは微妙。
・一応「ラストダンジョン」にも関連して…たらいいな。
姉(*´Д`)ハァハァ
完結乙です
カコイイ!
イイヨイイヨー
でもなんで六番街にいるんだろ?
GJ!
ほ
う
前話:
>>294-298 ----------
閉ざされた闇の中で、私はその音を聞いたような気がする。
それは酷く耳障りな音だった。轟音に混じる悲鳴のような、あるいは都市そのものの断末魔のような。
私はこの先も一生、鼓膜を通し脳裏にこびり付いたこの音を忘れることはできないだろう。
……現に、その音の中には人々の悲鳴や断末魔――彼ら自身も、平穏な日常も、命もろともすべて
呑み込んでいたのだから、そう感じるのは自然なことなのだろう。
***
あの日。まるで私を労うようにして提案された“休暇”は、プレジデントの発した言葉とは裏腹に強制的に
与えられたものだった。社長室を出て乗り込んだエレベーターには、私を“休暇”へと誘うべく、スーツを
着込んだ使者達が待ち受けていた。
プレジデントは私の性格をよく把握しておられる。その意図するところはさておき、これから起きる出来事
から私を遠ざけるための措置だと言うのは理解できた。表向きには休暇とされているものの、実態は軟禁だ。
七番街プレート支柱破壊作戦が完了するまでの間、私はこの部屋から出ることを許されない。ありとあらゆる
通信機器を取り上げられ、こうしてビル内の一室に押し込められている。
「事が終われば、すぐさま開放される手筈になっている」この部屋まで私を連れてきた人物は、短く
そう告げると部屋の扉を外側から閉ざした。この後、恐らく彼は仲間と共に七番街プレート支柱へと
向かったのだろう。確か実行部隊は彼らだとハイデッカーは言っていた。
扉が閉まり光源を失った室内を一通り見回してみる。広さは4,5名規模の応接室程度で、テーブルと
椅子が設置されている。格子こそないが窓はずいぶん高い位置にあり、雲の流れを伺える程度の幅しか
ない。簡素を通り越して何もない部屋だった。
目が薄闇に慣れて来た頃、改めてドアを確認した。どうやってもロックを内側から解除することはできない。
となるとこの部屋は、もともと「こういう用途」に使われるために用意されていたのだろうか? 案内に応じて
降りた階は――治安維持部門に割り当てられたフロアだった。治安維持の者達は一体何のためにこんな
部屋を?
いくら考えたところで他部署の内情は分からない。ただ1つだけ言えるのは、われわれ都市開発部門が
設計し、建造までを一貫して行ってきたこの神羅本社ビルの内部にさえ、当初の設計段階には無かった
機能が加えられているという現実だ。
溜め息と共に、開かないドアに背を凭せかけた。その瞬間、脳裏に蘇ったのは六番街で出会った奇妙な
女性の言葉だった。
――「連れ去った人々をどこへ隠している? このミッドガルの、どこに」
もし、彼女の言葉が真実だとすれば。
ミッドガル内部には、都市開発部門ですら知り得ない空間がある。
(……この部屋のように?)
――「いきなり他人の日常に土足で踏み込んできて、その上家族をさらう。
やってる事はテロリストと同じか、それ以下だ」
表向きには休暇扱い。しかし実際はこうして軟禁されている――日常生活から忽然と姿を消したと言う
人々の存在――それはまさに、今の私そのものだ。
(ここは……私が想像している以上に恐ろしい場所なのかも知れない)
背中に汗が流れ落ちていく気味の悪い感覚、しかし今はそんな感覚にさえ縋り付いていたい気分だった。
「恐ろしい場所なのかも知れない」などと言っている状況ではない、それも分かっている。なのに。
全身から力が抜けていく。立っていることすらも出来なくて、床に座り込んだ。
そのまま俯くと、さらに目を閉じた。
(報告が正しければテロ組織の本拠地は七番街スラム。……どちらにせよ支柱破壊で七番区画には上下
ともに被害を免れない……)
ここへ連れてこられたとき、時計も取り上げられてしまった。作戦決行の予定時刻まで後どれぐらいある
だろうか。
仮にそれを知ったところで、私に何が出来るという事もないのだが。
(……六番街に避難させておいた両親は、まず心配ないだろう)
――「また会おう」
(しかし彼女は……)
そこまで考えてはっと顔を上げた。視界には薄闇の室内だけが映る。
今、もしも鏡で自分の顔を見ることが出来たのなら、どんなに酷い顔をしていただろうと思う。額に手を当て
れば、べったりと大粒の汗がへばりついた。
幸い、顔と違って心は鏡があっても見る事はできない。そんな、誰にでも分かるありきたりな現実を、今ほど
幸甚に思った事はない。
(恐らく、まともに見れたものじゃないでしょうね)
誰よりも何よりも、自分自身に腹が立った。都市開発部門統括という役職にありながら、身内や自分の知り
得る人物のことを真っ先に心配した――醜くさらに不甲斐ない自分自身の心に。
守りたい、あるいは救いたい人々がそこにいるというのに、私は何をしている?
こうして拘束されていなければ……。
(違う)
たとえ拘束されていなかったとしても、私には。
(なにもできなかった……)
込み上げてくる様々な思いが、はけ口を求めて体中を駆けめぐる。それは食道をせり上がってくる嘔吐感にも
似た感覚。いっそ胃の内容物もろとも吐き出してしまえたら楽なのにと思う。
私は口元に手を強く押し当てて、それら全てを飲み込んだ。
***
どれほどの時間そうしていただろうか。扉のロックが外側から解除される電子音を聞いた私は、のろのろと
顔をあげた。廊下の照明すら今の私の目には眩しく感じられる。そんな中、さらに場違いとも思えるような
真っ赤な色が目に飛び込んで来た。声を聞かなくても、それがスカーレットだという事はすぐに分かった。
「さあ、時間よリーブ」
容赦も抑揚もなく彼女は告げた。こうして彼女がここへ来たと言うことは、作戦は既に完了したのだろう。
それでも動けないでいた私を見下ろして、スカーレットは浴びせるように言葉を続けた。
「心配しなくてもあんたがここでぼんやりしてる間にね、ちゃんと作戦は完了したわ。無いとは思ったけど、
あんたに妙な気でも起こされてせっかくの作戦を台無しにされたら堪らないからね。
プレート破壊は私もビルから見てたけど、そりゃあ壮観な眺めだったわよ! プレートが落っこちる瞬間
なんか見ててゾクゾクしたわ! 建物も、人も、何もかもがぼろぼろ落っこちていくの! しかもプレート
下じゃあ逃げ惑う人々が虫けらみたいに潰されてるのよ? 最高ね」
薄笑いさえ浮かべながら、スカーレットは声高にしゃべり続けた。目を閉じ耳を塞いで私が背を向けた現実を
目の当たりにした彼女は、それを娯楽映画か何かと同じように鑑賞し、その様子をさも楽しげに語って聞かせた。
彼女の精神は、私にはとうてい理解できそうもない。
しかし、そんな彼女の口調が不意に変わった。
「……リーブ、あんたにとっちゃこうして『拘束されていた』って立派な大義名分もできた訳だし、それで充分よね?
だったら後始末ぐらいしっかりやってちょうだい」
その言葉に顔を上げた時、私を見下ろすスカーレットと目が合った。
彼女は心の底から侮蔑するような表情で、私を見下ろしていた。
犯した過ちが取り返しのつかない物だと知るのは、いつでも後になってからなのだ。
―Fragment of Memory2<終>―
----------
・FF7/Disc1
(六番街コルネオ邸地下下水道〜列車墓場経由で七番街支柱攻防戦へと至る間に、
本社で起きた遣り取りを妄想)
・ひとまずFragmentはここで終了。
・「ラストダンジョン」内の余話だと思っていただければ幸い。後の本文中で説明できたらいいな。
・拙文は語るスレの572に触発された結果です、スレ違いですがこの場を借りて感謝させて下さい。
・ロッソの源流はスカーレットにあると思っている。こちらは根拠ないですがw
GJ!町が…
乙
ほ
ぼ
ア
ー
メ
ン
※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
>>222-224 >>280-283から続きます。
食事のあと、マリアとパンネロの身代わり作戦が練られた。
意外にもヴァンはダンチョーにオペラ座の見取り図を要求し、
賊の出入りしそうな場所の見当をつけると、
ダンチョーにそこに人を必ず置く様に指示を出し、それから自分の待機場所を決めた。
漸くダンチョーもヴァンを信頼するようになり、
積極的にオペラ座内の様子を詳しく話してくれるようになった。
「このオペラ座の地下には大きな空洞があると言われていてな。
長い間にそこに水が溜まって大きな池みたいになっとるんだ。」
「へぇ…」
と、感心した様にヴァンが呟く。
真っ暗な地下にある巨大な溜め池を想像しているのだろう。
「と!そこから忍び込まれたり出来ないんだろうな?」
「危ないからな。全部蓋をして塞いでおるよ。レンガを積んで塞いだから
そこから入り込もうとすると…まぁ、レンガが崩れて大騒ぎになる。」
「そっか…でも、明日、見てみるよ。そういう所って却って危ないしさ。」
「なんでそう思うんだね?」
「もし俺が忍び込むなら、そういう所から入る。それだけさ。」
ダンチョーは面食らったようだが、明日、ヴァンをそこに案内する事を約束してくれた。
「あのぉ…」
控えめにパンネロが尋ねる。
「何かね?」
「舞台の本番…っていつなんですか?アーシェとラーサー様のご観覧の日。」
「まだ言ってなかったかね?」
「はい。」
ダンチョーは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「すまんすまん。ラバナスタに居るもんなら皆知ってるもんだからつい…」
そして、不安げなパンネロに向かってニコニコしながら、
「明日の夜だよ。明日は朝一番で衣装合わせとリハーサルだな。」
パンネロはその瞬間、身代わりを引き受けてしまった事をひどく後悔した。
そのオペラは戦争前に両親に何度か連れて行ってもらった事もあるし、
曲だってほとんど覚えている。
とは言え、一語一句、音符の一つ一つまで正確に覚えているわけではないし、
オペラとなると芝居の部分だってある。
そして、賊はいつ出て来るか分からないのだ。
ひょっとして舞台の最後、クライマックスで漸くお出ましかもしれない。
賊を警戒しながら、まだまだ未熟な自分があの大舞台を
演じきらなければならないのかと思うと、胃の辺りがずっしりと重くなった。
(だめ…暗い顔しちゃ…)
パンネロは気丈にもそう言い聞かせると、
「分かりました、よろしくお願いします。」
笑顔でダンチョーに答えたのだった。
作戦会議終了後。
その夜はミゲロが屋敷内に部屋を用意してくれたので、
飛空艇には戻らずそこで休ませてもらう事になった。
部屋に引き上げるヴァンの背中にパンネロはいつもの調子で声を掛ける。
「ねぇ、ヴァン。」
「ん?」
「犯人…誰かなぁ?」
「バルフレアを恨んでる奴だろ。だったらアイツに決まってるさ。」
「うん。私もそう思う。」
「汚いマネしやがって…絶対取っ捕まえてやる。」
ひょっとしてヴァンは兄貴分の汚名を自分で晴らそうと意気込んでいるのだろうか?
だとすると、それはパンネロにとってもうれしい事だし、頼もしい。
「…バルフレアさん、来るかな?」
ヴァンが振り返る。と、その表情は苛立っている様に見えた。
なんとなくそれが自分に向けられた様に思え、パンネロは言葉に詰まる。
「自分が騙られてるのを知らないのに、来るわけないだろ。」
もし知ってたとしても、バルフレアは偽物なんかいちいち相手にしないだろ。」
「そっか…そうだよね。」
突き放した様な言い方はいつものヴァンらしくない。一体どうしたというのだる?
「で…でもさ、ヴァン、見直したよ。」
「何がだよ。」
「手紙もちゃんと偽物だって見破ったしさ。それに…」
「それくらい俺だって分かるさ!子供扱いもいい加減にしろよな。」
冷たく言い放つと、ヴァンは乱暴に扉を閉めてしまった。
残されたパンネロは呆然と立ち尽くす。
最初はワケが分からず、頭の中が真っ白になったが、
ヴァンが怒っているのはやはり自分に対してだったと漸く気付いた。
だが、その怒る理由が分からない。
「な…なによ、ヴァンのばかっ!」
小さく叫ぶと、パンネロは用意された自分の部屋に駆け込んだ。
あんな無理難題を自分に押し付けて、
更に不機嫌になるヴァンが理解出来ない。
が、怒りが少し落ち着くと、今度は不思議に思えてくる。
あんな風にヴァンがイライラしていたのは、
(レックスが亡くなった、あの戦争の後くらいだわ…)
あの旅以来、元の朗らかなヴァンに戻ったのに。
(きっと、犯人に対して怒ってて…
ちょっとイライラしただけ…だよね…)
ヴァンはバルフレアを尊敬し、慕っている。
だから心底怒っていたのだとパンネロは自分に言い聞かせた。
(そうよ、いつもの様にふざけたつもりが、
あんな言い方になっちゃっただけ…)
無理矢理自分を納得させるとパンネロはベッドに潜り込んだ。
が、その夜はなかなか眠る事が出来なかった。
翌朝。
パンネロは朝から大変だった。
夜が明ける前から起こされ、寝不足のまま劇場に連れて行かれた。
楽屋に通されると、待っていたのは6人の衣装係。
6人はパンネロを楽屋の真ん中に立たせ、あっという間に下着姿にすると、
絹の靴下を履かせ、白いサテン地に色とりどりの花が刺繍された靴を履かせた。
きれいな靴だが、サンダル履きに慣れたパンネロの足を締め付ける。
次に白いコットンのシュミーズを着せ、ドロワーズを履かせた。
「そ…それを着けるんですか…?」
パンネロは衣装係が持って来たコルセットと
ボーンの入ったパニエを見て思わず後ずさった。
「もちろんですよ。」
衣装係はパンネロにコルセットを着けると、
左右から思い切り紐をひっぱり、ウエストを締め上げた。
息苦しくて窮屈な下着と靴で舞台に立たなければならないのかと思うと
パンネロは目眩がしたが、次に運ばれて来たドレスを見て歓声を上げた。
「きれい…!ブルーのドレスの上にもう一枚ドレスが重ねてあるのね…」
ブルーのシルクタフタのドレスの上に白いオーガンジーの
オーバースカートが付いており、そこにはドレス本体と同素材の生地で
作られた小さな花が一面に散りばめてある。
「もちろんですよ。」
衣装係はパンネロにコルセットを着けると、
左右から思い切り紐をひっぱり、ウエストを締め上げた。
息苦しくて窮屈な下着と靴で舞台に立たなければならないのかと思うと
パンネロは目眩がしたが、次に運ばれて来たドレスを見て歓声を上げた。
「きれい…!ブルーのドレスの上にもう一枚ドレスが重ねてあるのね…」
ブルーのシルクタフタのドレスの上に白いオーガンジーの
オーバースカートが付いており、そこにはドレス本体と同素材の生地で
作られた小さな花が一面に散りばめてある。
「そうですよ、陛下の御前ですから特注したんですよ。」
パンネロの腕に袖を通しながら衣装係が得意げに答える。
オーバースカートの後ろ裾は長く引き、
パニエので膨らんだウエストの上に大きなリボンが飾られた。
着付けが終わると、今度は大きな鏡の前に座らされた。
ドレスの上からケープを着けられると、大きな刷毛で顔全体に白粉をはたかれ、
目尻に色をさし、眉を整え、口紅を塗られ…
それが終わると髪を熱したコテでくるくるにカールされ、高く結い上げられた。
髪を留めるのにピンをいくつ使うのか数えていたパンネロだが、
あまりにもの数に頭がずきずきと痛み出し、鏡の中で目まぐるしく変わっていく
自分の姿をただただ見つめるだけだった。最後に耳飾りや首飾りを着けられ…
これらも重くてパンネロの頭痛をますますひどくしたが、
「さぁ、出来ましたよ。」
衣装係の声で我に返ったパンネロは改めて鏡の中の自分を見た。
「これ…本当に私?」
衣装係達は皆満足げに頷いた。
「良くお似合いですよ。」
「帝国の皇帝も、きとパンネロさんに夢中ですよ。」
「…ラーサー様が?」
窮屈な靴で小指が痛いし、高いヒールで足下も覚束ない、
ウエストを締め付けられて呼吸もままならないし、ピンで針山にされた頭も痛いけど、
(けど…なんだか…私…お姫様みたい…)
あの小さな皇子様も、きれいだと言ってくれるだろうか。
(それに、ヴァン…ヴァンは何て言うかな?)
夢心地のパンネロだったが、衣装係の一言で一気に現実に引き戻された。
「それでは、明日の本番までそのままで居て下さいね。」
「え…?」
「本番前は楽屋裏は大わらわでして。」
「肝心要のヒロインの着付けに不手際があっては困るので
いつも前日から衣装で過ごして貰ってるんですよ。」
「どうか破ったり汚されたりなさらないで下さいね。」
「ご心配なさらなくても本番前にお化粧と御髪は直しますので。」
「あ、これ、ダンチョーに頼まれていた楽譜と台本です。」
衣装係達は事も無げにそう言うと、言葉も無いパンネロに
飛空艇のマニュアルよりも分厚い楽譜と台本を手渡し、
忙しげに楽屋を出て行ってしまった。
「あ…あの…!」
パンネロが何か言いかけた時、ドアは無情に閉じられた後だった。
パンネロはため息を吐くと、ずっしりと重い楽譜と台本に目を落とした。
「…どうせこれを覚えるのに…寝てる暇なんかないよね。」
それに、明日はラーサーが観に来るのだ。
おそらくはジャッジとして彼の側に侍るバッシュ、そしてアーシェも。
「みんな…来るんだもん。頑張らなくちゃ。」
その時、扉がノックされた。
「…どうぞ。」
ひと呼吸置いて扉が開いた。
気まずそうに目を伏せたヴァンが入って来た。
「…パンネロ…その、昨日は…ごめん…」
「ヴァン…」
パンネロは手に持った楽譜と台本を鏡台に置くと、ヴァンに駆け寄った。
そこで初めてヴァンは顔を上げ、パンネロを見た。
「ううん、私もつい、いつもの調子で……ヴァン?」
ヴァンの様子がおかしい。じりじりと後ずさり、
一刻も早くこの部屋を出たいと言わんばかりだ。
「お…俺っ、ダンチョーさんに呼ばれてんだっ、後でまた来る!」
そう言い残すと、逃げる様に楽屋を出て行ってしまった。
ヴァンにしたって、いつもと違う自分に照れているだけだなのだろう。
それは分かるが、今日はなんだか、誰からも置き去りにされている様な気がする。
「…ヴァンのばか…」
呟いた声は昨日の夜と比べると、随分と小さな物だった。
パンネロが重装備の鎧や兜より辛い出で立ちで
舞台のリハーサルを終えたのはもう深夜の事だった。
心配げにリハーサルを見ていたダンチョーも、これならば大丈夫だろう
と言ってくれ、パンネロは胸を撫で下ろした。
ダンチョーと一緒に見ていたミゲロが帰って休む様にすすめてくれたが、
「歌詞もまだ完璧に覚えてないの。明日、失礼があっちゃいけないでしょ?」
そう言って先に帰らせた。
深夜とはいえ本番に向けて劇場は煌々と明るく、団員がたくさん残って作業をしており、
パンネロもこれなら危険はないだろうと、残る事にしたのだ。
パンネロは楽屋に戻ると、楽譜を開いた。
「愛しい貴方は遠い所へ…かぁ…」
豪奢な鏡台に肘を付き、パンネロはぼやいた。
(…いいじゃない、遠くに居ても愛し合ってるんだもの。)
後でまた来ると言っていたヴァンは一度も顔を出さず終いだった。
乱暴に楽譜を閉じると、鏡台の隅に置いてあった何かが
小さな風に煽られてふわふわと床に落ちた。
(何…?)
拾ってみると、それはあの旅で得た貴重なアクセサリーの一つだった。
「…ヴァン…」
どうやらヴァンはパンネロの居ない間にここに来たようだ。
パンネロはそれを手に途方に暮れてしまった。ヴァンの気持ちはうれしいが、
(今は…側に居て欲しいのに…)
涙が溢れそうになるのを堪え、パンネロはそれを目立たない位置に身に着けた。
その時、不意に灯りが消えた。
パンネロはすぐに息を殺し、身構えた。
音を立てない様に静かに鏡台の引き出しを開け、
中から隠し持っていたダガーを取り出す。
それを後ろ手に隠し、気配を消して暗闇に目を凝らす。
何度か視線を往復させている内に、漸く目が慣れて来た。
(…誰か…居る…)
パンネロは深呼吸をすると、部屋の左側からゆっくりと視線を巡らせる。
と、部屋の右側の衣装が収められているチェストの前に
黒いマントに黒いフードを目深に被った人物が立っていた。
パンネロと同じ様に息を殺してこちらを伺っていたが、
やがてゆっくりとパンネロに向かって足を踏み出した。
パンネロは隠し持っていたダガーを持つ手に力を込めた。
(だめ…まだ遠い…)
いつもなら相手より速く踏み込み、相手ののど笛に得物を突きつける事なぞ簡単なのだが、
今はドレスや靴が邪魔で大きな動きが出来ない。
(もっと…近くまで…あと…一歩…)
パンネロはもう一度深呼吸をする。と、持っていたタガーを振り上げた。
暗闇でダガーの刃が鈍く光った。
その瞬間、フードから見える口元が少し笑った様に見えた。
パンネロははっと動きを止め、手を下ろした。
そしてまじまじと黒衣の人物を見つめ、にっこり微笑むとこう言った。
「驚いた…どうしてここに来たの?バルフレアさん。」
つづく。
*******************
以下、チラシの裏。
殿方には分かりにくいかと思いますが、ピンをたくさん頭に留められると、
だんだん頭が痛くなってくるんですよ。
あと、いくらなんでも舞台前日から衣装のままって事はないですし、
更にはセリスがマリアの身代わりをしたのは二人がそっくりさんだったから。
マリアの身代わりをするパンネロはマリアとそっくりさん。
てことはセリスとパンネロもそっくりさんなの?というつっこみはナシでよろしこです。
すいません、投下ミスです。
>>322の後半9行が次とかぶってます。
ごめんなさい。
乙です。続き期待
>>318-327 大舞台を前にした緊張、着付けされていくパンネロの女の子らしい感情、
それにしても着付け後のパンネロを前にしたヴァンの反応が初々しいw
ドレス姿でダガー構えるパンネロとか想像しただけで惚れる。
ところで控え室にこっそり置かれていた貴重なアクセサリーってもしかして…?
と、あらぬところに期待sage。
細やかな心の動きが描かれてるのが印象的、…と言いたかった。
>>330の1行目
イイヨイイヨー
パンネロ可愛い!
前話:
>>266-270。(参照:
>>305-309)
----------
「よく……分からねぇけどよ」
クラウドへの連絡を諦めたバレットは携帯をしまうとリーブに向き直る。
「まだ時間があるって事だよな? それまでにリーブ本人を見つけて、俺ら全員がここを出れば良い……
そういう事だよな?」
その言葉にシドとユフィがはっとして振り返る。バレットと目が合い、ユフィは思い出したように笑顔を作った。
「バレットの言うとおりだよ! 考えるより行動あるのみ、ってね!」
そう言ってユフィは体を反転させる。
「どちらへ?」
彼女の背中に向けてリーブは問う。すると振り返らずにこう答えた。
「……上にいるのが人形かどうか分かんない、って言ったのはアンタだろ? だからアタシは上に行くよ。
それで、直接おっちゃんに聞いてみる」
「徒労の果てに再会したのが、人形である可能性を承知の上で?」
「そしたら……アタシの負け。だけどね」
ユフィはもう一度リーブに向き直ると、少し言いづらそうに――それでも、顔を上げて堂々とこう言い放った。
「なんかよく……分かんないけどさ、アタシは上にいたおっちゃんに聞いてみたい。どうしてアタシ達をここへ
呼んだのか? その理由を」
声も姿も、どちらも本物のリーブだった。けれど、ユフィはこの両者に違いを見たと言う。
それからシドが頷いたように語り出す。
「悪いがユフィ、オレ様は一度飛空艇へ戻るぜ。……そのかわり空爆はさせねぇ、絶対だ!」
「そんじゃそっちはよろしく!」
ユフィが右手を挙げて返答する様子を背後に確認したシドは、槍を担ぎ入口に向かって走り出そうとした。しかし
不意に、何かを思い出したように立ち止まって振り返るとリーブに言い放った。
「約束通り『星の危機には協力する』……だが、オレ様はオレ様が思う通りにさせてもらうぜ」
それだけ言い残すと、今度こそふたりは別々の方向へと走り去ったのである。
「……分かりませんね」ふたりが去ってしばらくすると、リーブは顔を上げて天井を見つめた。その先には
恐らくもう1体の人形がいるであろう場所に視線を向けると、溜め息と共に吐き出した。「我々は所詮、同じ
人形のはずなんですがね」
その声に振り返り、バレットが尋ねた。
「そいつは、リーブ本人が言ってるのか?」
彼の問いかけに、自らを人形だと語った目の前のリーブは無言で顔を向けた。そのまましばらく黙って
いたが、やがて口を開くとバレットの質問には答えず逆に問い返す。
「あなたは、どうされるんですか?」
「……分からねぇ」
質問から逃げるように視線を逸らして答えたとおり、バレットは自らの行く先を決めあぐねていた。
一方的に呼びかけるだけで繋がらない携帯は、地下に向かったクラウド達の身に起きた異変を告げていた。
空爆を知り、それを阻止するべく飛空艇に戻ると外へ向かったシド。
リーブから聞いた言葉を確認しに行くと、再び上へ向かったユフィ。
走り出した彼らの背中を見ていたバレットは、分からなくなった。確かに「日没までにリーブ本人を見つけて
全員がここを出ればいい」とは言ったものの、具体的な方策があるという訳ではなかった。情けない話だが
向かうべき場所もするべき事も分からないから、ここに立っているのだ。
「おや、バレットさんらしくないですね」
「俺らしくない?」
ええと頷いてから、リーブは続ける。
「昔は、悩む前に行動していた様な印象がありますが」
「そうか? ……昔も今も、考えるのが苦手なのは変わっちゃいねぇよ」
言いながら、それがくせなのか頭を掻くと苦笑気味にバレットは呟いた。
その言葉を聞いて、いっそう深いため息を吐く。
「……もちろん、皮肉に決まってるじゃないですか」
それからひどく落胆した様子で、リーブは言葉の先を続けた。
「星命学だか何だか知りませんけど、後先考えずに魔晄炉を破壊しようなんて安易な結論を出す様な人を、
お世辞にも思慮深いとは言えません。……今は過去の反省を生かして、短絡的なモノの考え方をやめた
という事については感心できますがね」
その言葉にバレットは目を見開いた――驚きと僅かな恐れ、なにより強い戸惑い――それらの感情が喉を
塞ぎ、口からは掠れた声しか出てこない。
「……リーブ?」
「まだ根に持ってるのかと呆れて頂いて構いませんよ? 事実、根に持ってますからね」
表情一つ変えずに淡々と返すリーブの姿が、恐ろしく無機質な物に見えた。
反神羅テロ組織アバランチ。その最後のリーダーを務めた男こそがバレットである。
6年前、壱番魔晄炉と五番魔晄炉を爆破し、罪のない多くの市民を死傷させたテロの首謀者。
そんな彼が、リーブに糾弾されるのはこれが初めてではない。やはり6年前、飛空艇ハイウインドに乗り
合わせていたケット・シーにその態度を叱責された。
ミッドガルで過去に犯した罪も、あの時の言葉も、どれもバレットにとって強く心に刻まれた記憶。忘れられる
わけがなかったし、忘れたいと望んだこともなかった。
ジェノバ戦役の終結以降、魔晄エネルギーに代わる新資源の発掘作業に身を投じ、その活動によって
W.R.Oと共に各地の復興に尽力してきたのは、それが自分に出来るせめてもの償いだと――バレットなりに
考え、出した答えだった。言葉にこそ出さないがリーブはそれを理解していた。だからあれ以来、その件に
ついて触れることはなかったし、バレットの活動も支援してくれた。
しかしこれこそが、あるいはリーブの“本心”だったのかも知れない。理解と感情は別物だ。
「バレットさん、申し訳ありませんが私は今でも――魔晄炉爆破を許す事はできません。考えたことが
ありますか? 長年にわたって築き上げてきた物を目の前で壊される側の心境を。
……6年前。あなたは故郷を神羅に滅ぼされた腹いせに、同じ苦しみをミッドガルの人々に与えたのです。
あの事件で死んだ人間、傷ついた人間……一体その中の何人が、あなたの故郷を滅ぼした事件に関与
していたと言うのです?
仮にそうだったとしても、他人の故郷を奪う権利が誰にもある筈はない」
リーブの口調こそいつもと変わらないが、言っていることは辛辣だ。バレットは黙って彼の話に耳を傾けていた。
どれだけ責められても反論する事はできないと、そう思った。
どれだけ時が経っても反論する事はしないと、そう決めた。
それにリーブの立場や思いに対してだけではない、どう取り繕ったところで自分の罪が消えるわけではない
のだ。バレットは充分すぎるほどそれを知っている。だからリーブの顔を見ることができなかった。それに、
今さらどんな顔を向けろと言うのだ?
しかし、リーブの言葉は思わぬ方向に続く。
「……だからこそ、あなたは生き続けなければならない」
それはとても穏やかな声だった。バレットははっとしてリーブに視線を戻す。
「私もあなたと同じです。自分で作った都市の破壊に……何もしない、という形で荷担した。
『何も出来なかった』のではなく『しなかった』。それは明かな加害行為です。だから両方の苦しみを知って
いる。少なくとも私はそのつもりでいます」
崩れゆく七番街プレート支柱。バレットはそこで沢山の仲間達と掛け替えのない物を失った。がれきの山を
前に絶望し、それ以上に神羅カンパニーを憎んだ。それはバレットにとって生涯二度目となる惨劇だった。
「そして間接的であるにしろ、あなたにとって大切な物を奪ったのはこの私です。……そうでしょう?」
バレットにとって最初の惨劇の舞台は小さな炭坑の街、コレルだった。神羅カンパニーによって建造された
コレル魔晄炉。そこで起きた事故の隠蔽のために、焼き払われたコレル村。そこはバレットの故郷でもある
――他人の故郷を奪う権利が誰にもある筈はない――先ほどの言葉は、バレットに対するものではなかった
のだ。
魔晄都市ミッドガルの建造にもっとも深く携わったのは、他でもない神羅カンパニー都市開発部門の統括
責任者であるリーブだった。魔晄がもたらす繁栄と影。その影はリーブが思っていた以上に深く、大地と
人々を傷つけていた。リーブがそれを知ったのも6年前、彼らと旅路を共にする中での事だった。
「ですからあなたには、私を恨む権利がある。……魔晄炉の件は今でも許せませんが、その暴挙に至った
心境を、私に否定する資格はありません。私が責めているのは、あなたのとった『魔晄炉爆破テロ』という
手段についてです。……あんなことをする必要性はまったく無かった。少し考えれば分かった事でしょうに」
いっそのこと、魔晄炉破壊ではなく私自身を殺しに来れば良かったのだ――まるでそう言っているように
聞こえた。
魔晄炉爆破テロと、神羅による報復――もしも最初から、彼らの凶器が私自身に向けられていたとしたら
――ミッドガルに住む多くの人々が犠牲にならずに済んだのかも知れない。魔晄炉がもたらした癒えない傷を、
都市開発責任者だった自分の命で弁済できたのだとすれば、なぜ、そうしてくれなかった? その行為が
間違いであるとしても、代償として支払う命の数は最小限で済んだはずだ。
決して口に出されることのない言葉や思い、聞こえるはずのない声が、バレットの耳には確かに聞こえた。
「今さらですけどね」
こうなるともはや誰が誰を責めているのか、分からなかった。過ぎたことを悔いたところで何も始まらない。
しかしながら、時の経過と共に置き去りにされた思いは、やがて心に暗い影を落とすのだ。
彼らは、それを知り過ぎていた。
「違う、俺は……」
零すように言葉を発したバレットを無視して、リーブは続ける。
「つまり私も、あなたも。……お互いを恨む動機は充分ある、という事です」
言い終えてからゆっくりと、右手を挙げる。握られた拳銃は、真っ直ぐにバレットへと向けられた。
「……バレットさん、これは私から最後の警告です。この建物から速やかに撤退しなさい。でなければ」
引き金を引く事も辞さない。
たとえ仲間であったとしても、そうする理由が互いにはあるのだとリーブは静かに告げた。
「もしもあなたが私の警告を無視してこの建物への進入を望むのであれば、私を退けることです。仮に、
かつての仲間に銃を向ける事を躊躇っているのであれば、その必要はありません。
……もっとも、“私”を壊したところで“本体”にはさしたる影響もないでしょうが」
最後の言葉が恐ろしく人間味のないもののように思えた。
確かに目の前のリーブが人形だと言うのなら、人間味が無いのは当然かも知れない。しかし、語られる
言葉の端々に見え隠れする矛盾や葛藤は、明らかに人間の持つそれだった。
「リーブ、教えてくれ。
この人形を遠くからでも操れるって言ってたな? ならお前の言葉は……どこまでがお前自身の思い
なんだ? 今まで俺に話した事は、お前自身の思いなのか? それとも」
それとも、の後に続く言葉がバレットの口から出ることはなかった。
バレット自身、抱いた思いを表現するのに相応しい言葉を探していたが、けっきょく見つからなかったのだ。
無機物に命を吹き込み、意のままに操る――『インスパイア』と名付けられた異能力。
それが星に害をなすと言ったのは他ならぬリーブ自身だと、リーブによって作られた人形は語った。
その全てが、リーブの意思だとするのなら……。
「バレットさん」
銃口を向けたまま、静かにリーブは問いかける。
「たとえば仮に、物に命が宿るとすれば。“物”と“命”を別つ物は何だと思いますか? “命”、つまりそれが
“生きている”とする定義はどこにあると考えますか?」
銃を持つ右手ではなく、声だけが僅かに震えていた。
バレットは答えるべき言葉が見つからず、拳を握りしめる。
「……私には……分かりませんでした」
----------
・エピソード増やしすぎの感は否めませんが、でもこのふたりの対峙は絶対に書いておきたかった。
・
>>305-309は、今話では誰の口からも語る事ができないので余話扱いとしたものですが、リーブが根に持つ
理由というか背景を書いておきたかった。長々どうもありがとうございます。
・On the Way to a Smileのリーブ編出してくれ、という心の叫びも含みでw
乙!
乙!続きに期待
無印でもバレットの過去編好きなので、それに関わる話が読めておもしろかった。
豪胆な性格の影に隠れがちだけどバレットの背負う過去は半端無く重いし
リーブが背負うものもまた然り。そんな中年の二人の心底にある
理屈だけで済ませられない感情のぶつかり合いややり取りが興味深かった。
リーブ人形の思惑も気になる。続きwktk
◆WzxIUYlVKU
◆Lv.1/MrrYw
どっちもいい!
文章を読んで画が頭に浮かぶ
GJ!
>>333-338 星を救ってみんなが幸せに…という願いは同じだったはずなのに、
対極にあった二人の対峙が骨太に書かれていて狂おしくGJ!です。
自分もケット・シーがバレットに対して怒っているシーンがすごく好きなので、
このエピソードはとてもうれしいし、色々と考え去られました。
続き期待sage
※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
>>222-224 >>280-283 >>318-327から続きます。
「驚いたな。」
バルフレアはフードを取り、顔を見せた。
「どうして俺だと分かった?」
「分かるよ。」
パンネロが部屋の灯を点けると、そこには懐かしい人物が立っている。
「来ないって思ってたわ。だから会えてとてもうれしい。」
「そりゃ光栄の至り。ところで、お邪魔だったかな?」
「ううん。全然。」
「じゃあ聞きたい事がある。」
バルフレアは恭しく椅子を引き、パンネロは手に持っていたダガーを元の引き出しに片付け、
ドレスがシワにならない様に広げてちょこんと座る。
「何かしら?」
「分からない事だらけだ。どうしてお嬢ちゃんがここに居る?」
パンネロはここに居る経緯をバルフレアに説明した。
「なるほどねぇ…」
「あ!でも、手は出しちゃだめよ。」
「…お嬢ちゃんにか?」
「違うわ。これはヴァンと私が受けた仕事だってこと。」
「ご立派なことで。」
バルフレアは手近な椅子を引き寄せると、パンネロの正面に座った。
「で、どうして俺だと分かった?」
「バルフレアさんの香りがしたもの。いつものコロン。偽者にはなかったけど。」
「会ったのか?」
「ううん、予告状だけ。ヴァンは犯人が誰か分かってるみたい。予告状も偽物って見抜いたし。」
「ほめてやりたい所だが、お嬢ちゃんに危ないマネさせるようじゃまだまだだな。」
「もうお嬢ちゃんじゃないわ。」
バルフレアは大げさに驚いた表情を作る。
「おかしな勘違いしないで。私だって自分の飛空艇を持つ立派な空賊って事よ。」
立派どころか、一生懸命背伸びしているひよっ子としか思えないが。
「分かった、邪魔はしない。ヴァンとお嬢ちゃんに任せるさ。」
「約束する?」
「なんなら剣にでも誓おうか?」
「素敵。でも、持って来てないのにどうやって誓うの?」
バルフレアは側に立てかけてある自分の銃に目をやり、肩をすくめる。
「バルフレアさんはどうしてここに?」
「…俺の偽物が出たって聞いてね。」
「嘘。」
手厳しいパンネロの言葉に、バルフレアは眉を顰めた。
「ヴァンが言ってたわ。“バルフレアは偽物なんか相手にしない”って。
それに、だとしたらどうしてマリアの楽屋に来たりするの?」
バルフレアは答えず、少し気まずそうにそっぽを向いてしまう。
その様子にパンネロは吹き出してしまう。
「付き合ってるの?マリアと?でないと、隠し通路なんか知ってるわけないもね。」
「昔の話よ。」
不意にクロゼットの方から声がした。
パンネロが振り返ると、そこにはもう一人の仲間が立っている。
「フラン!」
パンネロは立ち上がる、と、ついいつもの調子で勢い良く立ち上がった所で
バランスを崩してフラついてしまう。それをバルフレアが慌てて支える。
「お行儀よくしてないと、ひっくり返るぞ。」
「ありがとう。」
パンネロはバルフレアに微笑むと、注意深く裾を手に持ち、フランに歩み寄る。
「久しぶりね、パンネロ。よく似合ってるわ。」
「ありがとう、フラン。」
パンネロはスカートの裾を広げ、膝を軽く折り、かわいらしく礼をする。
言われた通り、お行儀よくしているつもりなのだ。
「フランまで来てくれてうれしいわ。ねぇフラン、それっていつ頃のお話なの?」
取り残された様な気持ちで心細かったパンネロだったが、
思いがけない懐かしい仲間との再会で本来の調子を取り戻したようだ。
「あなた達と出会うずっと前の事よ。それが彼女から久しぶりに手紙が来たの。
“おかしな予告状を送って来てどういうつもり?”って。」
「俺は関係ないって返事をしたが、それっきり音沙汰なしだ。
なのに舞台は開催される。それで気になって様子を見に来たってわけさ。」
「昔の恋人にも優しいのね。困ってるみたいだから助けに来たのね?」
「…まぁな。」
「たとえフラれた相手でも?」
「…さっきから俺を困らせて楽しいか?」
バルフレアは立ち上がると、銃を担ぐ。
「フラン、これ以上余計な話をさせられ前に引き上げるぞ。」
「…帰っちゃうの…?」
「ああ。お嬢ちゃんも早くお家に帰るんだ。睡眠不足は肌に悪いぞ。」
「…帰れないの。」
急に沈み込んだ声になり、バルフレアは驚いて顔を上げる。
さっきまではしゃいでいたパンネロが目を伏せ、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「まだ…歌詞を覚えないといけないの。
それに…今はヴァンと顔を合わせたくないの。」
また取り残されてしまうような寂しさを覚え、
パンネロは思わずヴァンとのすれ違いを話してしまう。
「…私が…悪いのかなぁ?ついお姉さんぶっちゃうの。」
クロゼットの扉から帰りかけたバルフレアとフランは思わず顔を見合わせ、
同時に小さくため息を吐いた。
「…コルセットが少しきつそうね。」
フランは優しくパンネロの肩に手を置く。
「いらっしゃい、少し緩めてあげる。」
フランは着替え様の衝立ての陰でドレスを脱がせてやり、
きつく結わえられたコルセットの紐を少し緩めてやる。
「ありがとう、フラン。」
パンネロはホッと息を吐く。
優しくされると、それはそれで涙が出そうになってしまう。
バルフレアは鏡台の上の楽譜の束を手に取る。
ページを捲ると、ペンで何か書き込んであったり、印が付けられている。
「まだ覚えてないのはこの印が付けてある場所か?」
衝立ての中のパンネロに声を掛ける。
「そうよ。半分まで覚えたんだけど。」
衝立ての中から顔だけ出してパンネロが答える。
「手伝ってやるさ。これくらいの手出しなら構わないだろ?」
「本当?」
パンネロの表情が一瞬にして輝く。
背中のボタンを留めてやると、フランはパンネロの手を取って椅子に座らせてやる。
「お茶を入れるわ。」
「うん、ありがとう…」
バルフレアもパンネロの正面に座り直す。
「あのね、ここまで覚えたの。」
パンネロは少し腰を浮かせ、バルフレアが持っている楽譜のページを捲る。
「短い時間でよくここまで覚えたな。」
うれしそうに笑っていたパンネロだが、緊張が緩んだのだろう、
瞳から涙が溢れて頬をつたう。
「ど…どうした?」
「ごめんなさい…なんだかほっとして…本当は怖かったの。
だって、あんな大きな舞台…」
バルフレアはパンネロの頭に手を置くと、身体を屈めて瞳を覗き込む。
「お嬢ちゃんなら大丈夫だ。前にガリフの里で踊ったろ。
あの時、あそこに居た男どもはみんなお嬢ちゃんに恋してた。」
「…嘘…」
パンネロは少し寂しそうに笑った。
バルフレアはその表情に何か引っかかりを覚えたが、
「嘘じゃないさ。明日はラバナスタ中がそうなる。」
「…ありがとう…ねぇ…バルフレアさん?」
「うん?」
「どうしてマリアさんと別れちゃったの?」
「…舞台に立って歌う事の方が大事だとさ。」
バルフレアの答えにパンネロは何やら考え込んでいるようだ。
「お喋りはここまでだ。さっさと始めないと夜が明けちまう。」
これ以上余計な事を聞かれては…とバルフレアはパンネロを促した。
そうして空が白々と明るくなる頃には漸く最後のページが終わり…
「これで終わりだ。よく頑張ったな、お嬢ちゃん。」
見ると、パンネロは鏡台に突っ伏して、すうすうと寝息をたてている。
「…疲れていたのね。」
フランは痛々しげにパンネロの髪を撫でる。
「ガリフの里で踊った後で、この子が真っ先になんて言ったか覚えてる?」
「さあな。」
「“ヴァンはどこ?”…って。」
バルフレアは思わず天井を仰ぎ見た。
そして、うたた寝をしているパンネロに目をやる。
フランに言われて思い出した。
さっきの寂しげな笑顔…あの時、ヴァンはアーシェと話し込んでいて
パンネロが踊った歓迎の宴に居なかった。
星が降って来そうな空の下で踊るパンネロは幻想的で可憐だった。
ラーサーはもちろん、バッシュやガリフ族の戦士長や長老達まで大絶賛だった。
(…だけど、お嬢ちゃんが一番見てもらいたかったのはヴァンだった…って事か…)
バルフレアはパンネロにマントを掛けてやると、
眠っているパンネロを起こさない様に静かに楽屋を後にした。
*******************
以下、チラシの裏。
ガリフの里で踊った云々の記述は投稿人のねつ造です。
でも、きっとみんな踊るパンネロに恋してたと思います。
パンネロのダンスシーン追加のインタ版を出せという願いを込めまして。
乙!続き期待
352 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/20(火) 23:08:41 ID:0PlxZRDaO
ほ
乙乙乙!
ちゃんと読んでるよー
どっちもマジでイイヨイイヨー!!!!
>>350 あのシーンはCMに使われてましたよね残念無念
>>345-350 衣装を直す描写の中に垣間見えるフランの包容力というか、問題に対して直接的に
触れる方法ではなく、それでも相手を安心させる気遣いの出来る大人の女性な印象です。
(「優しくされると、それはそれで〜」の件もパンネロらしい純粋さが出てて良かったです)
穏やかな場面描写の中に見えるこういう心理がたまらない。GJ!
前話:
>>333-338(場面は
>>154-158の続き)
----------
呼出ボタンを押してからかなり時間が経っていたものの相手からの応答は一向になく、シェルクはやむを得ず
通信を切断した。これ以上待っていても無駄だ、諦めるしかない。
そもそも確証があったわけではないし、その行為自体はシェルクにとって賭けだった。
発信先のヴィンセントが、応えてくれればそれで終わる――祈るような気持ちで呼出ボタンを押した。しかし、
彼は着信に応じなかった。あるいは「応じられなかった」可能性ももちろんあるが、シェルクにとって結果は
どちらも同じだった。
『直通通信』で呼び出す端末の特定は出来ても、現時点の持ち主と所在地まで特定する事はできない。
それに通信回線が繋がっている環境でも、相手が応答しなければ意味はない。
どれだけ発達したネットワークであっても、所詮は遠隔地にある“端末”同士を結ぶ繋がりでしかない。そんな
ことは誰よりも一番よく分かっている。だからこそ賭けだった。
そしてその賭けに、シェルクは負けたのだ。
(やはりSNDしか方法は……)
そこまで考えてから、何かに気付いたようにシェルクは目の前のディスプレイを見つめた。無意識にキー
ボードの上で拳を作ると、小さく首を振る。
(違う。最初から私には……これしかなかった)
――SNDで意識ごと直にネットワークへ潜り、端末にアクセスして操る能力しか無い。
その方法しか……知らないから。
頼るべき人の存在も、方法も。3年前に姉を失ったシェルクは知らないままだった。
彼女の失ったもの、取り戻すべきものは「10年」という時間だけではない。
***
2年前。魔晄依存症がある程度の回復を見せるとシェルクはW.R.Oから離れ、行方不明だった姉を捜すために
単独で行動するようになった。リーブなどは最後までシェルクを引き留めようとしていたのだが、結局はシェルク
本人の意志を尊重して送り出してくれた。
もちろんシェルク自身、ディープグラウンドから自分を救い出してくれたヴィンセントやリーブ、彼らの仲間達や
W.R.Oの人々の恩に報いたいとは思った。その一方でW.R.Oに身を置き保護されている立場にある自分は、単に
彼らの好意に甘えているだけで、このままの生活を続ければやがて彼らに依存するのではないかと恐くなった。
だから身体機能が回復したら一刻も早く、この場所から離れようと決めた。今にして思えば、子どもの強がりや
焦りにも似た動機だった。
彼らから離れて改めて気付いたのは、その存在の大きさと有り難みだった。同時にシェルクは、人を頼る術を
知らなかった。彼女を心配して時折リーブから送られてくるメールに、どれほど救われ支えられたことか。
余談にはなるがリーブからのメールには励ましの言葉だけではなく、「仕事」の依頼も混じっていた。どれも
シェルクのネットワーク技術を活かしたものばかりで、成果に応じて報酬も支払われる。それは地上での生活に
慣れていないシェルクにとって、文字通りの支えになった。
感謝しているのは事実なのに、それをどう伝えて良いのかが分からず、伝えられないままでいる自分に苛立ち
を募らせていた。
この時になってようやく、シェルクは自分が何も知らないのだと痛感した。だからといって自分から出てきた
手前、何も果たせないまま戻るわけにも行かない――せめて、姉と再会するまではと躍起になっていた。しかし、
地上に残された痕跡を辿っても、姉と再会することは出来なかった。
こうして姉の消息も不明のまま月日は過ぎ、何一つ手がかりも掴めず途方に暮れていた頃。シェルクは半ば
自棄になって世界中のあらゆる機関のネットワークにアクセスを試みた。なんでも良い、とにかく姉に関する
情報が欲しかった。自分を探すために地上で活動していた10年間の記録だっていい、どこかに手がかりが
残されているのではないか? そんな小さな可能性にすがる思いで。
その中にはもちろん、W.R.O<世界再生機構>も含まれていた。メインのデータバンクにアクセスし、そこから
更に中枢へと向かった。暗号化や防壁、幾重にも施されたセキュリティ網を無我夢中でかいくぐりたどり着いた
先には――結局、手がかりになるような物は何もなかった。それに、もしも姉に関する情報があればリーブの
ことだ、真っ先に教えてくれるはずだ。その程度のことは冷静に考えればすぐに分かったはずだった。
落胆の中、帰途を忘れたシェルクがデータバンク内で偶然見つけたのがデータの廃棄エリアだった。不要と
され断片化されたファイルが無秩序に散乱するこの場所は、一定期間ごとに行われる全データ抹消作業まで
の間、一時的にデータが集まる場所のようだった。たとえば、W.R.O<世界再生機構>新本部施設建造に関する
データ――これは、シェルクが先ほどからアクセスを試みている物の草案だと思われる――があった。ここには
内部の基本構造や工程、予算など細かに設けられた項目についてそれぞれ記された計画書らしい。とにかく
そこいら中に沢山の断片が散らばっていて、それだけでも作成者の苦慮が見て取れる。その数に圧倒され
ながらもひとまず目を通しては見たが、さすがに姉に関する情報は見あたらなかった。
そんな中で1つの断片データが目にとまった。見たところ何かの報告書にも思えたが、まったく意味が分から
ない。新本部施設建造に関連した記述ではないし、W.R.Oの運営に関するデータでもなさそうだ。まして姉に
繋がりそうな要素はかけらもない。
しかしそのデータに触れたとき感じたのは、それが単なるデータではないという妙な感覚だった。まるで――
ルクレツィア・データを体内に埋め込まれたときの様な――データに残された作成者の意思や感情のような、
とても抽象的なもの。しかもあの時とは違い、自分の肉体に直接埋め込まれている訳でもないのに。
不可解な現象に最初こそ戸惑ったが、なによりもこのデータに興味を持ったのは、それが意図的に“分解”
され“破棄”されているという点だった。
断片化という点では、かつてルクレツィアがネット上に残したデータも同じだったが、彼女の場合はそれを
“残し”、後に“再統合”させるための手段としていた。しかしこれは――言ってみれば書き損じた物を破棄した
結果生じた――本当の断片だった。
例えるならば二度と再現されないようにと細かく裁断された紙屑を拾い上げたシェルクの目には、それを記した
人物の書き残した文字が見えた。とても丁寧で読みやすい文字は、その人柄を反映しているとでも言うように
――これがデータ作成者の意思や感情が、シェルクに伝わるという原理だ――また念入りに、復元不可能な
ほどに細かく破り捨てた点から見ても、用心深い性格なのだろうと推測できる。
しかし、捨てる物になぜこれほどの思い、あるいは意思が残されているのだろうか? シェルクはそれを
不思議に思った。やむを得ず捨てたのか? それともデータ作成者の意思とは関係無しに破棄されたのか?
だとしたら誰が? 何のために? そして、このデータはそもそも何だったのか?
姉に辿り着く情報ではないと知りながら、シェルクは自らの好奇心を満たすためだけに断片化され散らばった
情報をかき集めた。それでも既に残されているもの自体が少ないらしく、原文を再現するにはほど遠かった。
『システムの星還』
唯一、断片からまともに読み取れた言葉はこれだけだで、しかもまったく聞き覚えのない言葉だった。『星還』
と書いて『せいかん』とでも読むのだろうか? 『システム』とは何を示しているのだろうか? 結局データから
得られたのは疑問ばかりだった。
しかしいくら考えたところで、それ以上は何も分からなかった。
ただ、断片化されたデータに残された強い思いと、それに触れたシェルクが抱いた不安を取り除くためだけに、
彼女はその後、独自にデータを追い続けた。
その途上、自分とは別の経路でこのネットワークに侵入する者の存在に気付いたのは、最初のデータ発見
から数ヶ月後の事だった。シェルクに比べれば劣る物の、手口を見ればこういった事に慣れた者だと言うのは
分かった。どうやらこの『第二の侵入者』も、ここにあった何かのデータに興味を持っているらしく、頻繁に
アクセスする様になった。
そんなことを数回繰り返すうちに届いたのが、半月前の差出人不明メールだった。正体こそ分からないが、
それが『第二の侵入者』から届いた物だと言うことをシェルクは察知した。しかも、彼らの方から接触を図って
きたのである。
シェルクが彼らの要請に応じてここへ来た目的の1つは、この謎のデータの正体を突き止めることでもある。
自分を呼んだ彼らの思惑はどうあれ、この機を逃す手はない。
誰かを頼る方法は知らなくても、利用することならできる。彼女はそう思っていた。
----------
・シェルクという人物像が著しくズレていたら申し訳ないです、一応書いた人の印象がうまく表現できてれば幸い。
・やっぱり姉捜索のために動いて欲しいというのは一個人の希望であり捏造。
乙!
乙です!続きに期待
GJ!
乙
>>309 亀レスだけどスカーレットもロッソも同義語だしね
ほ
し
ゅ
ヴ
ァ
最後に聞いたのは、部下が自分の名を呼ぶ声だった……ような気がする。
建設中の魔晄炉の視察を終え炉心部から出ようとしたときに、足場が崩れそのまま落下した――のだと思う。
正確なことはよく分からない。
「……もし、……」
あれから私はどうなった?――なんて、問うまでもない。その認識が正しければ、私は魔晄炉の炉心に落ちた
ことになる。あそこに落ちて無事な人間などいない。
するとここは、俗に言う死後の世界か?
死、というのは肉体が滅ぶことを指すのだと思っていた。肉体と、そこにに備わった機能を――生存を維持
するために存在していた痛覚すらも――失う事を意味している。今でもこの認識が間違っているとは思って
いなかった。しかしこうして死んでも尚、これほどの苦痛を伴うものだとは思わなかった。
「……もし、しっかりするんじゃ」
声がした。最初は気のせいかとも思ったけれど確かに声が聞こえた。その声は私を呼んでいるのだろうか?
いつも通りに声が出せるか分からないが、とにかくやってみるしかない。いつもどおり、口を開けて、息を吸い
込んで……。
「ここ、は……?」
声が出た、辛うじて自分の発した声を、耳で捉えることができた。
「サ……マ……という小さな村じゃ、さあ、しっかり!」
目を開けようとするが、瞼が開かない。
いや、もしかしたら目は開いているのかも知れない。分かるのは、目の前に闇が広がっている事。その中で
かすかに、黄色い羽のような物が揺れている姿を見たような気がする。
とても心地の良い声に誘われるようにして、私の身体から力が抜けていく。
もしかすると私は……まだ、生きているのだろうか?
***
次に気がついた時、最初に視界に飛び込んできたのは天井だった。むき出しの木目は、素朴だが暖かみが
あって美しい。かすんだ視界とあいまいな意識の中で、そんなことを考えていた。
徐々に意識がはっきりしてくると、この場所がどこなのかと本格的に考え始めた。とりあえずベッドに身を
横たえて、天井を見ているという状況だけは理解できた。しかしどう思い返してもこんな天井に見覚えがなかった。
本社ビルはこんな構造ではないし、幼い頃に住んでいた家とも違う。
「……あっ、起きた。……だいじょうぶ?」
思考を遮ったその声をたどるようにして顔を動かしてみた。私が横たわっているベッドの隣に、女の子が立って
いた。年の頃は10代前半か、半ばと言ったところか。
それにしても不思議な格好をしている。肩を大きく露出して、頭にはなにやら変な物をかぶっている。故郷でも、
ミッドガルでも、こんな奇抜な格好をした女性を見たことはない。思い当たるとすれば、ゴールドソーサーの
舞台に出演する女優さんぐらいのものだ。さながら、おとぎ話に登場するランプの精とでも言えようか。
「あなた、どこの人? ずいぶん変な格好だけど」
物珍しそうに私を見つめてくる少女の瞳は、純粋な好奇心に満ちていた。
(え?)
それはこちらのセリフだと言おうとしたが、上手く声が出せなかった。
「今、おじいちゃん呼んでくるから待っててね」
「…………」
ぱたぱたと足音が遠ざかっていく。やがて部屋には沈黙が訪れた。
横たえられたベッドの上で体を動かそうとしてみたが、その度に鋭い痛みが走った。思わず声をあげそうに
なるのをどうにか堪えてもう一度、天井を見つめた。
(……ここは一体……)
すがる思いでおぼろげな記憶をたぐり寄せて、ようやく思い出す。闇の中で、ここはどこかと尋ねて返って
きた声は「サマ」と、確かにそう言っていた。しかし「サマ」と付く地名に思い当たる節がない。しかも黄色い羽の
様な物が見えた気がしたが、あれは一体何だ?
(まいったなあ……)
そんなことを考えているうちに、足音が再び室内に響いた。もう一度首を横に向ければ、先ほどの少女が
戻ってきたようである。手にはなにやら大きな荷物を抱えている。
彼女は荷物を下ろして、寝台の横の椅子に腰掛ける。そして、申し訳なさそうにこう告げた。
「ごめんね。……回復魔法、使えないんだ」
「…………」
声が上手く出せなかったので、言いたいことが伝えられない。だから目を細めて笑って見せた。うまくできたか
は分からないが。どうか謝らないでほしい、謝らなければならないのは、こうして介抱してもらっている私の方だ
と、そう伝えたかった。
すると彼女の表情が笑顔に変わった。それを見て、こちらの意図が伝わったのだとホッとした。
「そうだ名前! 私ね、リルムって言うの」
「…………」
口を開きかけた私を見て、リルムと名乗った少女は困惑した表情を浮かべた。そしてまた「ごめん」と小さく
呟いた。
私は返答のかわりに笑って見せた。彼女の手にしていた荷物の中に、小さなペンや絵筆が見えた。辛うじて
動かせる手を、それに向ける。
「……あ!」
こちらの意図をくみ取ってくれた少女が、ペンとキャンバスを差し出す。右手にペンを握らせてもらって、
真っ白なキャンバスの端に自らの名を記した。
おぼつかない動作でつづられて行く文字を追って、彼女の声が私の名を紡いだ。
「……“リ”……“ブ”? “リーブ”って言うの? ふーん名前はふつうなんだ」
(おおきに……って、名前だけやのうて典型的なサラリーマンなんやけど……)
内心で苦笑しつつペンを置こうとした手を遮って、少女はさらに尋ねる。
「どこから来たの?」
その問いに答えるように、私は続けてその文字を書き込んだ。白い紙の上には、文字通り這うような字が
現れているのだろう。
「……ミ、ド、ガ……?」
少女はつづられていく文字の通りを発音し、怪訝そうな表情を向けた。
「ミッドガル? そんな街、聞いたことないよ……」
別に自分が神羅の、それも都市開発部門所属の社員だからと言うわけではないが、ミッドガルも今や
世界に名の知れた大都市だと思っていたのだが、単なる自惚れだったのだろうか? ……都市開発部門の
人間としては、少し寂しい反応ではある。
(ここは、どこなんやろうか?)
紙には単語だけを書いて指し示す。少女はそれを見てこう告げた。
「ここはサマサ。とても小さな村だけど……」
それから顔を近づけて、少女は私の耳元で声を小さくしてこう続けた。
「この村はね、魔法の村なの。ナイショだよ」
(魔法?)
マテリアを媒介として魔法を使える事自体は、さして珍しい現象ではない。声を潜めて語ることでも無ければ、
口外を憚られるような性質のものでもない。だから少女の態度が気にかかった。それに「魔法の村」という
形容は聞いたことがない。
天然の魔晄泉でもあるというのだろうか?
私はペンを取り、少女にこう質問してみた。
『マテリアは?』
その文字を見て少女は首を傾げる。
「マテリアって?」
(!?)
マテリアのことを知らないのだろうか? それとも名称を知らないのだろうか?
『魔法を使う時に持つ、結晶のようなもの』
形状を完結に書くと、少女は腕を組み考え込むような仕草をしている。心当たりでもあるのだろうか?
やがて、少女が口を開いた。
「うーん、……魔石の事かな?」
(ませき?)
地方によって呼び名が違うのだろうか? しかしマセキという単語は聞いたことがない。
傾げようとした首が動かず、視線だけを少女に向けて話の先を促そうと試みた、その時だった。
「クェーッ!!」
部屋の中に響き渡る鳴き声。……聞き覚えがある。
(チョコボや、間違いない、どっからどう見たってチョコボやで!)
ぱたぱたと羽音が聞こえる。
そして、闇の中で見た黄色い羽のような姿の物がチョコボの一部であった事に思い至った。
(わいを助けてくれたんは、チョコボやったんか……?)
しかし妙だ。
あの時「ここはどこだ?」と尋ねて確かに返答があったのだ、「サマ」と。それは明らかに人の言葉だった。
それとも意識が混濁していたために幻を見たのだろうか?
「クェ! ……っじゃない、目が覚めて良かったゾイ! 大丈夫か?」
(し、しゃべった!? チョコボがしゃべりよった!!)
悪い、とても悪い夢を見ている。
私は自分にそう言い聞かせて、再び眠りに就いた。
----------
・エイプリールフールに便乗(してるのかどうかも微妙ですが)ネタ。
・アビリティで気になってた事をまとめてみようとして、うっかりリーブinFF6という無謀な話。(単発です)
・今回のテーマは「DCFF7第1章のアレと各種スーツの共通点」。お粗末様です。
「だーっ! こらジジイ、この人また気絶しちゃったじゃないか!!」
少女が驚いて立ち上がると、声を張り上げてそう叫んだが、彼の祖父も負けじと反論を試みる。
「わっ、ワシのせいじゃないゾイ! まだ体調も回復しきっとらんのに、リルムがあれこれ尋ねるからじゃろ」
それから少女が真剣なまなざしで――と言うよりも冷たい視線を――向けながら、更にこう指摘を加える。
「……リルム思うんだ。たぶん、そのスーツのせいだよ」
「へっ?」
黄色の羽、鋭いくちばし、愛らしい姿のそれは、まさしくチョコボ。
この『チョコボスーツ』を着れば、見た目も気分も、もうすっかりチョコボなのである。
----------
・ここまででした。
ワロタwGJ!
>・ここまででした。
ここまでなんですか?残念。
この後はかわいい絵描きさんと自称普通(実は特命管理職)サラリーマンとの
ほのぼの交流が…と思っていたのですが。ヒソカニツヅキキボンヌ。
目覚める瞬間は詩的な事を考えるのに、局長はモノローグになると
地元なまりが出られるんですね。ギャップが微笑ましい。
乙!思わぬプレゼント
ho
ぼ
な
前話:
>>357-361 ----------
気付かれぬよう小さく溜め息を吐いた後、シェルクは横で作業を見守ってくれていた女性に顔を向けると短く
礼を言った。彼女が何かを言おうと口を開きかけたちょうどその時、後ろにあった扉が開かれ席を外していた
男が部屋に戻ってくるのが見えた。シェルクはもう一度ディスプレイに顔を向けると、画面上に流れる文字から
目を離さず男に告げた。
「得られたデータから、本部内の構造はある程度まで把握できそうです。解析作業にあと1時間程度、時間を
頂ければ内部構造をほぼ完全にこちらで把握することが可能です」
「ご苦労様です。では、引き続き解析をお願いします」
返されたのはシェルクを労うと言うよりも、どこか事務的に聞こえる言葉だった、しかしシェルクは意に介した
様子もなく本題を切り出した。
「ただ、別の問題があります」
「と言うと?」
「こちらへの侵入者の件です」
その言葉に、スーツを着たふたりは互いの顔を見合った。それから今度は、女性の方が問いかける。
「侵入者の正体は分かったの?」
「大凡の見当はつきますが……」
そう言ってシェルクは隣の端末を指さした。男はそれに従い、シェルクの横にあった端末画面に目をやった。
すると画面上には、今し方シェルクが得てきたW.R.O新本部施設内の構造図が表れた。何十にも引かれた
線によって建物の輪郭が描かれ、それらが交わり形を成していく。一本一本はどうやら電気系統あるいは
ネットワーク回線を示しているらしい。建物内部には隙間無くそれらの回線が張り巡らせてある様子が分かる。
その線がもっとも集中しているのは、建物の最下層に近い部分だった。
「どうやらこの施設のメインコンピューターは地下にあるようです。ですが、実際に侵入してきたのは施設内の
別の場所からでした」
「端末の特定は?」
「できました。……が、たいした意味はないでしょう」
画面内の構造図は建物の最上階にズームするとある一点で止まり、そこで点滅を繰り返した。恐らくはここが、
侵入に使われた端末のある場所だと言うことを示しているのだろう。それを裏付けるようにシェルクの説明は続く。
「侵入に使用した端末を特定できても、何の解決にもなりません。そのうえ既に、通信は向こうから切断されて
います」
通信そのものが切断されてしまった以上、W.R.O新本部施設内のネットワークは外部と完全に遮断され独立
した状態にある。こうなると端末を使った通常の侵入方法は不可能だった。
しかし、ここで注目すべきは侵入者や侵入経路ではない。シェルクがそう付け加えると、男はすぐさま反応した。
「侵入されここから持ち去られた情報が何であるか、着目すべきはそこだと?」
シェルクは彼の言葉に頷く。そして、別の画面に切り替えた。
「ネットワーク上には既に、ここから盗み出されたと思われる情報が流れているようです。ログを辿ると、どうやら
ここへの侵入も、ネットワーク上への情報流出も、1ヶ月ほど前から始まっていたと考えられます」
1ヶ月前――ちょうど、シェルクがW.R.Oメインデータバンク内で『第二の侵入者』と遭遇した時期と一致する。
やはり、侵入経路を逆に辿られてここから情報が抜き取られたと考えて間違いない――敢えて口には出さな
かったが、恐らく背後に立つこの男ならば言葉の真意を見抜いているはずだ。シェルクの読み通りならば、
彼こそが『第二の侵入者』だからだ。
シェルクの言葉に促されるようにして女性が端末の前へと腰を下ろし、ネットワーク上に流されたという情報を
追いかけていく。最初のデータ流出から既に1ヶ月以上が経過しているだけあって、公開されている件数も
相当数に上り、場所も広範囲に及んでいた。
ひとまず一番大きなものを追って行くと、やがてネットワーク上のある場所にたどり着いた。そこは特に
アクセスが制限されているという事もなく、どちらかというと一般市民が気軽に利用できる場所で、主に各地の
情報交換――主要都市を結ぶ定期便の運行状況、気象概況やモンスターの発生情報など――といった用途に
使われている。
その中の1つに『各地の復興状況』という項目があった。そこに書かれていた記事を、女性は声に出して
読み上げ始めた。
「――『W.R.Oの資金源は旧神羅カンパニーからの援助を受けたものであり、軍備、兵器開発における研究
データも旧神羅カンパニーから引き継がれているようだ』、この記事が書き込まれたのはつい数十分前ですね。
時間は数日前に遡りますが、別の場所には『W.R.Oの軍拡化に伴う弊害』なんて記事もありますよ……
なんですか? これ」
さらに文章を読み進めていく毎に、女性の声には不快感とも苛立ちとも取れぬ奇妙な響きが混じってくる。
内容はそのどれもがW.R.Oの運営方針を批判するものばかりで、彼らの活動実績については一切触れられて
いないのが特徴だった。
記事を読み上げる女性の声を聞きながら男は腕を組んでじっと何かを考えていたが、やがて顔を上げ納得した
ように頷いた。
「こちらへの侵入者とネットワークへ情報を流した人物は同一……君が言いたいのはそう言うことか?」
ネットワークに流されている情報の全てが真実ではなかったが、中には確かに内部でしか知り得ない情報も
含まれていた。局長であるリーブの経歴は別として、W.R.Oへの“姿無き出資者”という存在、それが神羅に
直結しているものだと断定した記述。憶測にしては良くできているし、何よりもタイミングが良すぎる。ここへ
侵入して得た情報を元に記事が作成されていると考えて不自然はないだろう。
(……?)
男の推測はもっともで、シェルクも同じ意見だ。しかし、こうして考えてみると何かが引っかかる。
記事を読んでいた女性はディスプレイから目を離して振り返ると、背後に立つ男に向けて反論をぶつけた。
「ちょっと待って下さい! ここへの侵入がW.R.O本部からのもので、私達から盗み出した情報を流布している
張本人もW.R.Oって……仮に内部告発だったとしても、おかしくないですか? これを見ている限りだと、W.R.Oを
陥れようとしている者の悪意がある様にしか見えません」
それに内部告発ならば、なにも危険を冒してまで外部のネットワークへ侵入してまで情報を盗み出すなんて
手間をかけなくてもいい。元々ばらまく情報は自分達の手元にあるのだから。女性はそう言った。
「あるいは陽動――我々にそう思わせるのが目的という事も考えられるが」
男の言葉に女性ははっとした表情で黙り込んでしまう。しかし、続く言葉の先は彼女の意見を否定するもの
ではなかった。
「……だが、どちらにしても確かに不自然だ」
そもそもW.R.Oは『星に害をなすあらゆるものと戦う』という信念の元に創設された非営利団体だ。メテオ災害と
オメガ戦役で傷ついた各地を復興させるための活動は、どれも営利を度外視で行われて来た。さすが「都市
開発部門」にいただけあって、復興事業に限って言えば儲けはないまでもW.R.Oの復興活動を維持するだけの
採算は取れていた。
問題は治安維持に使われる軍事費だ。飛空艇師団、武器類の調達、治療用設備、各施設の維持管理――
それらの活動資金を支えているのが、表向きにはリーブ自身の私財。しかしそれだけでは不足する分を、“姿
無き出資者”からの援助でまかなわれていた事は、一部の者のみしか知らない事実だ。出資者の正体は
W.R.O内部、局長のリーブですら実態を正確に掴めていたかと言えば、そうではないだろう。
なぜなら“姿無き出資者”からの支援は、多用で複雑な方法を用いて行われていたからだ。それは出資者
本人の意図するところなのだが、むしろリーブはその事を口に出そうとはしなかった。ネットワーク上に見た
記述に頼る事になるが、オメガ戦役前後から肥大する軍事費により、W.R.Oの懐事情は芳しくなかったとする
説もある程だ。厄介なのは、内情を知る者からすればこの説はあながち的外れな当て推量と否定できない
事である。
「あの、あんな事を言っておいてなんですけど……。私は、できれば内部告発なんて理由であって欲しくない
んですよね」
独り言のように小さくぽつりと語った女性の言葉に、シェルクはほんの少し躊躇ってから頷いた。
「そう……ですね」
発足の経緯から考えても、W.R.Oの基盤となる各地の復興活動に自らの意志で参加する者達の間に諍いが
あるとは考えづらかったが、組織が内部分裂を起こしているという可能性をゼロと言い切る根拠はない。けれど
極端に低いと言える。
財政を圧迫する軍事費についても、オメガ戦役では犠牲も強いられたが一定の成果を上げている。活動予算
について、どこに比重を置くかの議論はあるだろうが、それでも内部分裂を起こすほどの禍根とするには、いま
ひとつ決定的な要素に欠ける。
こういう手段で内部告発を行えばW.R.Oそのものが瓦解する可能性が高まるだけだ。W.R.O構成員にとって、
それは一番避けたい事態のはず――それらの点からシェルクは、この一件が外部の人間によって引き起こ
された物だと推察した。その中には、彼女自身の「内部告発なんてあってほしくない」という希望に基づいた
観測が多分に含まれている事も承知の上での推論だった。
恐らく、シェルクの横にいた女性も同じ結論に至ったのだろう。
「W.R.O新本部施設内からの侵入という事実は変わらなかったとしても、このままW.R.O内部の者が今回の
事態を引き起こしたと考えるのは、私にはどうしても……」
事実であるにしろ、そんなことを公表するメリットは少なくともW.R.O側にはないはずだ。彼女の言うように
――ひとまず内部、外部を問わず――W.R.Oを快く思っていない何者かによる工作だと考えた方が理に
かなっている。
――W.R.Oを快く思っていない者で尚かつ、ごく限られた者しか知り得ない資金の情報を知る立場にあった者。
つまりそれが、この事件を引き起こした張本人だ。
----------
・どっかで経営難に陥った中小企業の話みたいになったw…でもたぶん経営難なのは間違いないんですが。
・こんな展開ばっかで書いてる人の頭がもげそうwなので、一旦区切らせていただきます。すんません。
・一応これも「ラストダンジョン」の一部です。
GJGJ超GJ!読んでるこっちの頭ももげそうw
いつもワクテカと読ませていただいています、お疲れ様です。
リーブはWROを「必要だけど壊したい」ように見えますね。
一体どんな真意があるのか、今後もまったりワクテカお待ちしています。
乙華麗保守!
GJ!内部告発の謎が気になります
うんこスレ
静かに保守
前話:
>>384-388 ----------
(それにしても……)
シェルクは隣の端末に表示されたネットワーク上の記事を見つめながら、改めて考えた。
(データバンクへの侵入と時を同じくして始まった情報流布……やはりタイミングが良すぎます)
漏洩した機密情報を知り得る立場にいたのは、W.R.O側では局長のリーブ自身と、彼に近い一部の人間。
外部ではデータバンクにアクセスできたシェルクと、『第二の侵入者』しかいない。
その中でもW.R.O側には情報公開のメリットがないことに加え、内部告発の線も限りなく可能性は低いと
結論づけた為に前者は除外される。
次に考えるのは外部の人間による犯行の可能性だ。当然、シェルク自身は選択肢に含まれない。となると、
該当する条件から消去法で残るのは『第二の侵入者』しかいない。
では逆に『第二の侵入者』自身が、この状況を作り出した張本人であるなら?――全て辻褄が合う。W.R.O
メインデータバンクから情報を持ち去り、それを世間に流布する――不可能ではないし不自然でもない。
先ほどの侵入の件も、本当に侵入されたのではなく、侵入されたと見せかける為の演出を施せばいいだけだ。
導き出された結論を裏付けるようにして、シェルクの脳裏にはこれまで耳にした男の言葉が過ぎった。
――「決して誇れたことではないが、このシステムには以前にも何度か侵入した事があったのでね。」
間違いなく彼が『第二の侵入者』だ。こうして自ら侵入したことを打ち明けているのが何よりの証拠だ。
それに。
――「W.R.Oへの“姿無き出資者”、その代理人を務める者」
彼は名前の代わりに自身の立場についてそう語った。間違いない、彼は機密情報を知り得る立場にいた
数少ない中の一人だ。
――「神羅カンパニー都市開発部門統括リーブ=トゥエスティ。
このシステムには彼の社員コードでアクセスできるんですよ」
さらに男が神羅カンパニーと関わりのある者だと言うのも、この発言から察することができた。特に「旧」という
言葉を使っている点からみても、神羅との関わりが長くまた深かったことが伺える。リーブの経歴が積極的に
公表されている訳ではなかったが、神羅カンパニー都市開発部門統括という地位にいた事実は世間にも広く
知られている。しかし、神羅カンパニー在籍中の「社員コード」まで知る事ができた者はそういない。
(それに彼ら……第二の侵入者の正体が神羅の関係者となれば、情報を持ち去る必要性もない)
W.R.Oメインデータバンクから情報を持ち去るのではなく、侵入することそのものが目的であったとしたら?
つまり、彼らの真意こそがW.R.Oの組織破壊、という事になる。
(では彼らは一体?)
彼らの正体は――旧神羅カンパニーの関係者で、W.R.Oを快く思わない者――シェルクには心当たりが
まるでない。というよりも、判断に必要な情報が少なすぎた。
(違う)
はじめからシェルクには情報など与えられていなかった。自らの名前を名乗ろうとしなかった男の意図も、
こうして考えてみれば納得がいく。
この推測が当たっているとするならば、この男がシェルクを呼んだ理由は?
(……SND……)
脳裏にその単語が過ぎった時、シェルクは全身から血の気が引いていくような感覚を覚えた。
利用していると思っていた自分の方こそ、単に利用されていたと言う事実。
それはシェルクにとって、ディープグラウンド時代と何一つ変わらない現実に他ならない。
「やっぱり不自然ですよ」
横に座る女性の声でシェルクは我に返った。
先ほどから見ているとこの女性の反応は自分と似ている、口に出すことはなかったがシェルクはそう感じて
いた。彼女も男の仲間だとすれば、何らかの形で神羅カンパニーに関わりを持つ者なのだろう。しかし事ある
ごとにとても素直に驚き、それをストレートに表現している。少なくとも彼女はW.R.Oに敵意や反感を抱いている
ようには見えない。あるいは、彼女は何も知らされていないだけなのか? それともシェルクにそう思わせる
ための演技なのか?
疑い出せばきりがない。周囲の人間、風景にまで神経をとがらせ欺かれまいと振る舞う。気分が良いとは
言えないが、シェルクはこの感覚に懐かしさに似たものを感じた。
疑うことをやめた者はその瞬間に殺される――それこそがディープグラウンドだった。そんな場所で10年も
生きていれば、嫌でも自然と身についてしまうのだ。
しかし今は、身に染みついた習性に感謝したいとすら思った。
(断片化ファイルの収集作業は、ひとまず後回しですね)
シェルクが顔を上げたその時、男の胸ポケットで携帯が鳴った。小さな声で「失礼」と言ってから、端末の
前に座るシェルク達に背を向けて電話を取る。
それから電話の声に急かされるようにして、男は室内にあった別のモニタの電源を入れる。途端に、聞き覚え
のあるようなヒステリックな声が室内にこだました。
『……との事です。
繰り返します、今からおよそ1時間後、W.R.O本部施設への空爆を行うことが正式に発表されました。
声明はW.R.O局長リーブ=トゥエスティ氏による物であり、飛空艇師団によって……』
「ちょっ……どういう事ですか!?」
画面に映し出されたW.R.O旧本部施設の映像とレポーターの伝えてくる情勢を目の当たりにした女性は、
慌てて椅子から立つと驚きの声をあげた。男性はこちらに背を向けたまま、片手を挙げると無言で女性を
制した。それから短く会話を交わしてから電話を切った。
どうやら相手はこのことを知らせるために、男に電話を寄越したのだろう。
「飛空艇師団が……W.R.O本部施設を? それを命じたのはW.R.Oの局長自身……。ネットワークへの情報
流布。……分からない、いったい何が起きているの?」
呆然と立ち尽くし、モニタを見上げながら女性が独り言のようにして呟く声に、シェルクは俯くと小さく呟いた。
「まだ何も起きていません。……いえ、恐らく」
横にいた女性にすら聞こえていないはずの声。その後を引き継いだのは、あの男だった。
「まだだ、まだ何も起きていない。……起きるのはこれからだ」
まるで言い聞かせるようにゆっくりと呟いてから、男は電話をしまうと未だに騒がしく情勢を伝えてくるモニタを
背に振り返る。
「……そうだな? シェルク=ルーイ」
ここへ来て初めて名を呼ばれ、シェルクは思わず男を見上げた。すると男は右手を差し出しながらこう告げた。
「まず断っておくが君の推測は間違っている。
確かに私は、君が考えているとおりW.R.Oネットワーク内に侵入した。そしてW.R.O資金運用についても知り
得る立場にいる。W.R.O内のデータバンクから情報を持ち出したのは事実だが、外部に漏らしてなどいない」
まるでシェルクの考えていることを見透かしているとでも言うように、男は自身の立場とこれまで行って来た
ことを打ち明けたうえで、かけられた嫌疑については真っ向から否定した。
「……それに、我々の目的はW.R.Oを潰すことではない。今さら潰すような真似をするなら最初から出資など
しない。情報を流すにしても、侵入直後に事を起こすようなヘタは打たない。そんな事をすればすぐに疑いの
目を向けられかねないだろう? やるならもっと効率的に立ち回る」
「侵入と流布のタイミングが良すぎる……そう言うことですね?」
「なるほど。つまり君も同じ事を考えていた、と言うわけだ」
(…………)
差し出された男の手には、彼の身分証明書が握られていた。
「私はツォン。旧神羅カンパニー総務部調査課、通称タークスと呼ばれる部署に所属していた。故にこういった
事も多少はこなせる」
シェルクは示された身分証とツォンと名乗った男の顔を見比べ、納得したように頷いた。顔立ちはあまり変わって
いないが、身分証に添付されている写真はどうやら昔の物らしい。なるほど、彼ならば神羅カンパニーが健在
だった頃の情報にも通じているわけだ。
「そもそも我々がW.R.Oのメインデータバンクにアクセスを試みたのは、出資先――つまりW.R.Oの資金運用に
ついて不明瞭な点があったからだ。最初こそ半信半疑だったが……実際に侵入してデータを閲覧した事で、
疑惑は確信へと変わった。だから君をここへ招いた」
彼らはW.R.Oへ出資をしている以上、少なくとも組織を潰す事が目的でないと語った男の話には信憑性が
ある。では……乗っ取ろうとしているのだとすれば? どちらにせよ、そんな思惑の片棒を担がされるのは
ご免だった。
「あなた方の目的は一体なんですか?」
不信感をあらわにしたシェルクの問いに、ツォンは静かにこう答えた。
「『システム星還論』というファイルの復元と解析――そして今起きている事態の全容把握と終結こそが、
我々の目的だ。しかも厄介なことに、我々が考えている以上のスピードで事態は進展しているらしい」
ツォンが背後のモニタを指し示しながら語る言葉の意味を、シェルクは理解した。
「しかも、とても悪い方向に。……」
モニタから流れ続ける報道を見つめていた女性はシェルクに顔を向けると、男の言葉に付け加えるようにして
言った。
それから女性は手元の端末と背後のモニタを交互に見つめながら、誰にというでもなく独り言のように、彼女は
言葉の先を続けた。
「ネットワークに流布された情報、今回のマスメディア報道……見てるととても嫌な感じがするわ」
「嫌な?」
女性を見上げてシェルクが問うと、彼女は顔を向けると眉をひそめ苦笑を浮かべた。それからもう一度、
モニタを見上げる。
「情報操作による民衆の扇動、あるいは洗脳……昔、同じような手法をとった人物がいたの」
「そしてその人物は軍事力という後ろ盾に加え民衆の支持を得て、巨万の富を揺るぎない物とした。
その繁栄の象徴こそが、魔晄都市ミッドガル」
そう語る彼らの声や表情は、一様に沈んでいた。それは、彼らの口に上った人物に対する畏敬なのか、
かつての繁栄を懐旧しているのかはシェルクの知るところではない。
ただ、彼らの語るその人物はシェルクも良く知る者だというのは分かった。
プレジデント神羅――魔晄文明の申し子として繁栄を享受するミッドガルと、その影とも言えるディープ
グラウンドの生みの親にして、絶対的な支配者として君臨した存在。神羅カンパニーの最高経営責任者
だった人物だ。
そしてプレジデント神羅を唯一、別の名で呼称する者の声によって室内の様相は一変する。
「……親父の再来、か。それこそ悪夢だ」
----------
・頭がもげそうになりながらも、ようやく辿り着きました。読みづらい文章にお付き合い頂きありがとうございます。
・もしかしたらDCFF7で本格的に登場する「WRO」ってのは企業統治の延長上に存在する物なんじゃないか
…と思ったんだ、言ってる意味が自分でもよく分からないけどw
・もはや作者はFF7の誰に・何に萌えてるのか、いっそこの話の主旨g(ry
乙!続きに期待
Fragment of Memory 番外編
――『捕捉対象を確認後、速やかに身柄を確保し本部へ帰還せよ』
それが、彼らに与えられた任務だった。
渡されたのは簡単な地図と、メモ書き程度に特徴の記された『捕捉対象』に関する情報、たったそれだけ
だった。しかし何も珍しいことではない、これも日常的に与えられる任務の中の1つで、不満や拒否を口に
する権利は彼らに与えられていなかった。
彼らは命令に従い任務を遂行し、捕捉対象を捉えた。作戦自体は大した苦労もなく完了した。確保した
捕捉対象は、まだ年端のいかぬ子供だった。
「こんな子供、一体なんの為に連れて行くんだ?」
「我々の任務は対象の身柄の確保だ。それ以外は考えるな」
部下の疑問を耳にした男は、現場を取り仕切る立場にあった。彼は質問に答えることなく短く言い捨てると
アクセルを踏み込んだ。まともに舗装されていない砂利道を、土煙と轟音をあげながら車は走り出した。
決して心地の良くない揺れと、騒音に紛れて、ハンドルを握った男はぽつりと呟く。
「……お前自身のためだ」
サイドミラーの中、徐々に小さくなっていく家の前で泣き叫んでいる少女から逃げるように、男は視線を
前方へと向けた。
身についた傷は痕を残しても、痛みまでは残らない。
しかし心についた傷は、いくら時間を経ても癒えることなく痛みを与え続ける。
願わくば助手席に座る部下と、彼の手に抱かれた少女がこの先、自分と同じ痛みを知らずに生きて行ける
世界であるようにと――叶わないと分かっていても、胸に去来する思いを捨てることは出来なかった。
***
いつもお姉ちゃんばっかりだった。
走るのだって、勉強だって、私はいつもお姉ちゃんの後なんだ。
着る物も、おもちゃも……みんな。いつも。
「だって、シャルアは『お姉ちゃん』だから」
そんなお姉ちゃんがうらやましかった。私もお姉ちゃんみたいになりたかった。
だけど、どうしたって勝てないんだ。
走るのだって、勉強だって、私はいつもお姉ちゃんの後なんだ。
「いつもお姉ちゃんばっかり……ずるいよ……」
私も“おねえちゃん”になりたかった。
“おねえちゃん”になったらきっと、走るのだって、勉強だって、もっと上手にできるようになる。
……お姉ちゃんみたいに。
だけど、私達のお母さんはもういない。
だから私は、お姉ちゃんにはなれない……。
だけど、“おねえちゃん”になりたかった。
妹が欲しいんじゃない、“おねえちゃん”になりたいだけ。
どうしたら“おねえちゃん”になれるかな?
一生けん命考えた。
私とお姉ちゃんの違いって、なんだろう?
どこが違うのかな?
……。そうだ!
お姉ちゃんは持ってるのに、私は持ってないものがある。
たぶん、それを持てば“おねえちゃん”になれるんだ。
私はそう思った。
***
突然、シェルクにめがねを貸してくれとせがまれた。
私と違ってシェルクは目が良い、だから別にめがねをかける必要はない。そう言ったがシェルクは聞かな
かった。
「どうしてめがねをかけたい?」
そう聞いたけど、シェルクは答えなかった。
だけど貸してとせがむことは止めなかった。いい加減に腹が立った。
「目が悪くないんだから、シェルクには要らないんだ」
いやだいやだと首を振り、駄々をこねるだけのシェルク。意味が分からなかった。
どうして? 理由があるならハッキリ言ってほしい。ただ駄々をこねられても分からない。
「シェルク、いい加減にしろ!」
思わず怒鳴りつけてしまった。大人げないなと自分でも思う。だけど、分からないんだ。ちゃんと説明しない
シェルクが悪い。
「ずるいよ……お姉ちゃん、ばっかり」
目にいっぱいの涙を溜めて、頬を膨らませながら、出てくる嗚咽を必死で堪えて言葉を吐き出す。そうして
シェルクは私を見上げていた。
「ずるい? 何がずるいんだ?」
「もういい!」
部屋から出ようとしたシェルクの手首を掴んで、もう一度聞く。
「良くない! ちゃんと説明しないと分からないだろ!? 何がずるいんだ?」
「はなして!」
思い切り振り切ろうとするシェルクの腕を強く引く。思わず口調が強くなるが、別に怒っているんじゃない、
意味が分からないだけだった。だから腹が立つんだ。
「良いかシェルク? シェルクは目が悪い訳じゃない。だからめがねはかけなくても良い。お姉ちゃんは目が
悪い、だからめがねが必要なんだ。分かるな?」
「違うもん……シェルクも……」
ああ、しまった。とうとう泣き出した。
こんな時、母さんがいてくれたら泣かしたりしないでシェルクの気持ちを聞いてあげられるんだろうな。
「ごめん、ごめんなシェルク。分かった、めがねをかけたいんだな? ほら、お姉ちゃんので良いんだな?」
めがねを外すと途端に視界が霞む。それでも、シェルクが手を伸ばしてめがねを受け取った。今シェルクが
笑顔だというのは顔を見なくても分かる。
私のめがねだと、そんなことを言っている。今さらめがねが物珍しいという訳でもないだろう、やっぱり分から
なかった。
それからしばらく部屋の中を走り回っていたらしいシェルクに声をかける。
「なあ、シェルク。もうそろそろ……」
ぼやけた視界の中、聴覚ははっきりと危機を捉えた。
家の扉が蹴破られる音と共に入ってきた、招かれざる客の存在。そして、彼らが口にした恐ろしい言葉を。
「いました! 捕獲対象者を室内で確認!」
「子供がふたり……? 聞いてないぞ」
「捕獲対象者は視力を矯正する為に眼鏡を着用している」
――違う! それは私だ!! シェルクじゃない!!
とっさに何かを叫んだ、内容までは良く覚えていない。それから、声を頼りにシェルクの元へ駆け寄った。
私がもう一度、シェルクの腕を掴もうとした瞬間に聞こえてきたのは悲鳴だった。それから間を開けずに
銃声が室内に響いた。
それは本当にあっという間の出来事で、ここで何が起きたのかを理解するのにしばらく時間が掛かった。
正気を取り戻したのは、車のエンジン音だった。その音を聞いて立ち上がると、開け放たれた扉をくぐって
家の外に出た。
「待てシェルク! ……シェルク!!」
走り続けた。声の限り叫んだ。だけど届かなかった。
――違う、違うんだ。
どうして? どうして私じゃないんだ? どうしてシェルクなんだ!?
「シェルク……!!」
***
……なあシェルク。
お前に会ったら、真っ先に謝りたかった。
人さらいが人違いなんて笑えない。この先一生、奴らを許すつもりはない。
『適性者』として連れて行かれるのは本来、私だったんだ。
だから私の命を賭して、必ずお前を見つけ出す。それまでは絶対に死ねない、どんなことがあっても絶対に。
それにもう1つ。あの時のことを訊きたいんだ。
今でも分からないんだ、ごめんな。
だからあの時の事を訊かせてほしい。どうして眼鏡をねだったのか。
***
そうしてやっと会えた。
10年もかかった。
言いたいことが沢山あったはずなのに、出て来たのは涙だった。お前は表情一つ変えずに私を見下ろして
いた。
変わっていない、……でも変わったな。
それでも良かった。
生きてて良かった、ただそれだけだった。
私のせいだ、あの時……。
何も理解してあげられなかった、私のせいなんだ……。
時間がない。あの時のことは訊けず終いになりそうだ。
ごめんな、今になっても分からないよ。……妹のことなのにな、情けないな。
「シェルク。私ぜんぜんお姉ちゃんらしいことしなかったな」
とっさに挟み込んだ作り物の腕に亀裂が入る。この強度ではもう耐えられそうにない。
とにかく今、告げなければ。
「今まで助けられなくてごめんな」
もう託せる相手はお前しかいない、後は任せた。
それから最後に。
……いや最期に。
「シェルク、生きててくれて良かった。今でも……大好き……だよ」
扉に押しつぶされる義手と同じように、背後から身体を叩きつけられても尚、不思議と痛みは感じなかった。
―Fragment of Memory 番外編<終>―
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・とりあえずシャルアの出番をもっと増やして欲しかったという魂の叫びw
・次回投下までしばらく空くかも知れません、すみません。
乙!
GJ
ほ
ぼ
ぼ
※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
>>222-224 >>280-283 >>318-327 >>345-350から続きます。
パンネロが衣装係に起こされたのは開演の1時間前だった。
化粧を直し、折角緩めてもらったコルセットを再びきつく締め上げ、
慌ただしく楽屋を出て行ってしまった。
疲労と緊張のピークで、パンネロは立っている事が出来ず、
背もたれに顔を埋める様にしてぐったりと椅子に座り、
進行係が自分を呼びに来るのを待っていた。
今頃劇場の前はたくさんの観客が並び、平和主義の若い皇帝と、
救国の女王陛下を迎えさぞ賑やかな事だろう…とパンネロは思った。
(でも、ここは静かだわ…)
夢だと分かって見ている夢の様な、そんな奇妙な感覚にとらわれる。
幕が開くまであと30分ほど…という時、扉がノックされた。
きっと進行係だろうと思い、のろのろと立ち上げり、
扉を開くとそこにはヴァンが立っていた。
ヴァンは相変わらずパンネロがまともに見られない様だ。
小さく「行くぞ。」とだけ言うと、先に立って歩き出した。
パンネロはバルフレアとフランがここに来た事を話そうかと思ったが、
何故か躊躇われてしまい、黙って後に続いた。
進行係ではなく、ヴァンが来たのはおそらく護衛の為だろう。
だが、二人の間に気まずい空気が流れ、押し黙ったまま舞台の袖口までやって来た。
「ここで待ってろってさ。」
漸くヴァンが口を開き、パンネロに向き直る。
そして、何かを言おうとして俯き、やっと顔を上げたかと思うと、
「…ちゃんと、最後まで歌えよな。」
「分かってるよ…仕事だもの。」
「そうじゃなくて…!」
ヴァンが言葉を続けようとした時、客席から割れんばかりの拍手が起こった。
「…アーシェとラーサーが来たんだ。」
ヴァンの言葉に、パンネロが心を動かされた様子はない。
どこか上の空で遠くを見ている様なパンネロに、ヴァンは不安になる。
「…大丈夫か?」
「大丈夫だよ、歌詞も全部覚えたもん。」
「だからそうじゃなくって…!」
「大きな声出さないで。客席に聞こえちゃうよ。」
何かを言おうとして言葉が続かず、ヴァンは唇を噛み締める。
「ねぇ…ヴァン?」
ヴァンは黙ったままパンネロを見つめ返す。
「ヴァンは…見ててくれるの?」
縋る様な瞳に見つめられ、ヴァンは気まずげに俯いてしまう。
「…そんな暇、あるわけないだろ。」
冷たく言い放つとそのまま踵を返し、どこかへ立ち去ってしまった。
パンネロもその背中に何か言葉を掛けようとして果たせず、
その後ろ姿を黙って見送った。
(…なによ、あの言い方…)
言われなくてもちゃんと務めはは果たすつもりだ。
今までいい加減に役割を放棄した事はない。
なのに何故、今回に限ってヴァンはあの様な言い方をしたのだろう。
パンネロがヴァンがどこかおかしい事に気付いたのはその時だった。
いつものヴァンなら決して言葉に詰まったりしない。
良くも悪くも思ったままを口にする。
(ミゲロさんの所でダンチョーさんと会った時はそんな様子はなかったのに…?)
だが、考えようとすると、胸が痛んで思考を邪魔する。
(見てて…くれないんだ…)
ヴァンが引き受けた依頼はこの公演を恙無く終わらせる事だ。
のんびり舞台を観ている暇などない事はパンネロは充分承知している。
承知してはいるのだが、何故こんなに不安になるのだろう。
舞台の袖でどうしようもない孤独感に苛まれていると
オーケストラの演奏する静かな序曲が流れて来た。
(私の気持ちなんかお構いなしに、舞台は始まるのね…)
ふとバルフレアの言っていた言葉が思い浮かんだ。
“…舞台に立って歌う事の方が大事だとさ。”
「舞台に立って歌う事ってそんなに大事なのかな…」
今のパンネロにはどうしても理解出来そうにない。
(だって、ヴァンが見ててくれないんだもの…)
ここに至って、パンネロも漸く気が付いた。
(私…ヴァンが居ないと何も出来ないんだ…)
それでも幕は開くのだ。
パンネロは深呼吸をすると、舞台に足を踏み出した。
*******************
以下、チラシの裏。
投稿人、ミュージカルは観た事があるのですがオペラはありません。
その辺の描写は適当です。ごめんなさいよ。オペラにもovertureはあるのかな?
RW発売までにはなんとか終わらせたいと考えておりますがまた長くなりそうな予感。
どうぞ最後までお付き合いよろしこです。
乙です!
引き続き期待してます!
乙!
>>414 プレイ期間とかで間があいてもいいので
気にせずどんどん長くなって下さいw
「ユウナレスカぁッー!」
アーロンは刀をふりかざしながら叫んだ。
アーロンの目はユウナレスカの秀麗な顔にすえられている。
際どいビキニをつけただけのあられもない体には決して視線をさげようとはしない。
酒も女も近づけず、模範的な僧兵として暮らして来たアーロン。
その彼からすると、ユウナレスカはいかにも眩しい。
「どうしたのです。ナギ節が訪れたではないですか、これ以上なにを求めるのですか?」
男の哀しいサガで胸の谷間に視線を奪われ、アーロンは慌てて目を閉じて首を振り、ユウナレスカの顔を凝視した。
自分自身が何より許せない。
まさにこの場所で二人の親友が命を落とし、いざ自分は女の体なんかに反応しているのだから。
ユウナレスカはゆっくりと歩みよってくる。
(美人だ・・・)
耳まで真っ赤にしながら最初の決意もむなしくユウナレスカのナイスバディにみとれてしまうアーロン。
「ゆ、ゆ、ユウナレれスっカあ!」
声が震える。
歩くたびに揺れ動く胸にもはや釘付けになりながら。
ユウナレスカがアーロンの正面にたった。
痛いほどに鼓動が早い。
(ジェクト、ブラスカ、す、すまん、オレは・・・・)
元凶は口を開いた。
「なにをのぞむのですか?」
精神力で目をユウナレスカからひきはがし、アーロンはさけぶ。
「た、た、ただの、気休めではは、はなぃいか!」
>>412-414 舞台裏の静けさと、舞台前の緊張感とふたりの気まずさがさらに読んでて緊張する、上手いなー。
大観衆の喝采よりも、たった一人に見て貰いたい舞台、ってパンネロ個人の心情と、
マリアの代役を立派に果たそうとする思いの間に立っているパンネロが愛おしいですね。
読み手としては完結さえすれば時期は気にせずで良いと思います、楽しみに待ってます!
でも長い話だと書いてる途中に他のゲームやると書く姿勢が変わるのが恐いですね。(関連作ならいいかも?)
前話:
>>394-399(場面は
>>230-234からの続き:現在地エッジ)
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建造中のW.R.O新本部施設の空爆開始まで、後およそ1時間。その報を耳にしてからもうどれぐらいの
時間が経っただろう? 日没が近いことと、分厚い雲に覆われているせいで外はもう薄暗かった。
マリンは膝の上のぬいぐるみを見つめたまま、デンゼルはTVから流れてくる映像を見つめながら、街の
喧噪を遠くに聞くこの部屋で、クラウド達の帰りを待ち続けていた。
(……けっきょく俺、何にも出来ないんだ……)
デンゼルは拳を握りしめる。とにかく悔しかった。何も出来ない自分が悔しかった。画面の向こうで情勢を
伝えるべく話し続ける人々の声が、どこか他人事のように聞こえた。
誰かを守りたい、守れなくても力になりたい。あの日、自分の入隊を拒んだリーブの横顔が忘れられなかった。
ミッドガル七番街の崩落、デンゼルが両親を失った元凶を作り出した事を認め、それでも尚。
(あの人は……)
――「憎ければ、私を好きにしていいぞ」
自分が恨まれても構わないと、身を差し出したのだ。
最初はずるいと思った。こっちが恨む前にそんなことを言われたら、それ以上恨みようがないと。だけど
今さらリーブを殴ったところで、死んだ両親は戻ってこない。デンゼルの中には誰かを恨む気持ちはなかった。
そのかわり、誰かを守りたいと強く思った。もう二度と、大切な人と別れてしまうのは嫌だったから。
両親に始まり、ルヴィさん、ガスキンさん――もうあんなツライ思いをしたくなかったから。
けれどその思いをリーブは拒んだのだ。「子どもには他にやるべき事がある」とデンゼルに言い残し、
席を立つとそのまま姿を消した。
――「大人の力を呼び起こせ」
(あの人は……)
ひとり残されたデンゼルはショックを隠しきれなかった。子どもの自分にはまだ何も出来ないと、リーブに
認めてもらえずに入隊を拒まれた事が、自分に対する否定以外の何物でもなかったから。
だからどこかで、リーブを見返してやろうと思っていた。子どもだってバカにしたリーブを見返してやろう。
子どもにだって出来ることがあるんだ! そう思っていた。けれど。
(けっきょく、あの人の言うことが正しかったんだ)
作った拳を強く握りしめる。鼻の奥がつんとした。現にこうして何も出来ないでいる自分に腹が立った。
「……泣いてるの」
背後で呟くマリンの声に、どきりと身を震わせた。泣いてるなんて分かったら格好悪い。デンゼルは天井を
見上げた。溢れてくる涙がこぼれないようにと、必死で天井を見上げた。
「ねえ、デンゼル」
「何だよ」
発した声が震えているのがバレてしまうのが恐くて、だから短くしか答えられなかった。突き放すような声だと、
自分でもそう思う。
「……泣いてるの」
「泣いてない!」
デンゼルは否定したが、マリンがそれを更に否定した。
「違うよ」
「え?」
マリンの発した否定の句に初めて振り返った。視線の先にいた彼女の姿を見て気付く。
「……この子、泣いてる」
「ケット・シー?」
膝の上に抱えたケット・シーを見つめながら、マリンはそう呟く。けれどデンゼルの目には、ただの
ぬいぐるみにしか見えない。
「『痛いよ』って、……だけどそれを堪えてる。『ボクが泣いてる顔は誰にも見せられない』って言ってる
……ううん、聞こえる」
マリンの言葉が、デンゼルの脳裏にあの日の光景を蘇らせる。
――「憎ければ、私を好きにしていいぞ」
そう言って横を向いたリーブの顔を、今でも良く覚えている。
(悔しかった……)
何も出来ない自分が、今もこうして、見ている事しかできない自分が。
(でも)
――「大人の力を呼び起こせ」
(どうして?)
「デンゼル!」
マリンに名を呼ばれ、デンゼルは頷いた。
(どうして悔しいんだろう?)
自分の力が足りないからだと言われたから? ――違う。
誰かを守りたい、力になりたい。――誰の?
自問自答を繰り返すデンゼルの耳に、マリンの声が届く。
「こんなの……間違ってるよ」
「俺もそう思う」
(そう、間違ってる。間違ってるんだ……俺は……)
――誰かを守りたい、力になりたい。
それから、もう一度TV画面を見つめた。
「……行こう、マリン」
今、どこへ向かうべきなのかはまだ分からない。だけど、ここでじっと待っているだけなんて、できっこない。
そうしてデンゼルが踏み出した力強い一歩を阻んだのは、自分の名を呼ぶ小さな声だった。
----------
何年ぶりかに聞く声だった。
部屋を飛び出そうとしたデンゼルは振り返る。小さかったけれど、その声は確かに聞こえた。自分の名前を
呼ぶ小さな声。その声を聞き間違うはずはなかった、ずっと聞きたかった声だから。でも。
同じ声をマリンも聞いていた。振り返ったデンゼルと目があって、それからふたりは声の主を見つめた。
マリンの膝の上で、ケット・シーがゆっくりと顔を上げた。間違いない、やっぱりあの声はケット・シーだ。
それを見たマリンは嬉しそうに呼びかける。
「ケット・シー!」
『……すん、ません。なんや、みなさんに心配かけてもうた……みたいや』
それからゆっくりと手を振ろうとしたものの、上げかけた手はそれ以上動くことはなかった。口調にも動きにも、
精彩に欠けた様子のケット・シーを覗き込んでマリンは心配そうにもう一度名を呼んだ。
「ケット・シー?」
『……すんません。機体の耐用年数はとうに……超えとるんですわ。リーブはんは、ボクを、そう“作って”
おったんや……』
高性能マシンを積み込んでいるとはいえ、元はただのぬいぐるみだった。定期的なメンテナンスを施さな
ければ、ぬいぐるみが耐えられるものではない。ただでさえ4年前の戦闘で無理をさせてしまった事もあり、
蓄積された疲労によってケット・シーの動作機能は著しく低下している。
とても痛々しいその姿を目の当たりにして、マリンは今にも泣き出しそうな声でケット・シーに語りかける。
「ケット・シー。今、私達がここで話したらリーブさんにも聞こえる? 直してもらおう?」
医者でもなければ技師でもない、今のケット・シーに何をしてあげれば良いのか、マリンには分からない。
願いのようなマリンの声に、小さく首を横に振る。
『ボクの、呼びかけに……答えて、くれへん』
ひときわ小さな声で、絞り出すようにして答えたきり俯いてしまうケット・シーを、マリンは優しく抱きしめた。
マリンの手に伝わってくる温もり。ぬいぐるみなのに、確かにあたたかい。ケット・シーを抱いている自分の
体温ではない、別の温もりだった。
紛れもなく今この瞬間も、ケット・シーは生きている。
腕の中でケット・シーが顔を上げ、『おおきに』と小さく微笑んだ。それから振り返ってこう言う。
『デンゼル……、頼みがあるんや』
「なに?」
歩み寄ってきたデンゼルから視線を逸らし、もう一度マリンの顔を見上げるとケット・シーは頷く。それから
マリンはデンゼルを見つめた。
『この家に、ネットワークに繋がる端末、あるか?』
「うん……。ちょっと型は古いと思うけど」
『そこに連れてってくれるか?』
それからふたりは部屋を出て、階段の向かいにある部屋に入った。窓際にある机の上に置かれた荷物と
一緒に、それが並んでいた。
「……あんまり使わないから」
照れたようにデンゼルが笑う。
その横でケット・シーは無言で端末を見つめていた。しばらくしてから顔を上げる、どうやら結論が出たようだ。
『デンゼル、ええか?』
ケット・シーが手を伸ばすと、マリンは察したようにケット・シーから手を離してデンゼルに渡す。
『ボクの背中にチャックがあるねんけど、それ開くとな、接続端子があるねん。たぶん番号が振ってあるから、
それを教えるとおりに接続してくれへんか?』
その言葉にデンゼルは不安げな表情を返す。ケット・シーは微笑んで『大丈夫や』と言ってから、小声で
こう告げた。
『それにな、さすがに女の子にそんなん頼めんて。……恥ずかしいやろ?』
それを聞いてデンゼルは一瞬、驚いた表情を向けたが、すぐに笑顔に変わった。
「うん。やってみるよ」
----------
・パーティー分割して仲間達全員でダンジョンを攻略するという基本には忠実…だと思う。
場面の切り替えが多くてすみません。
・ひとまずエッジ編を投下し終えたので満足です。(作りはOn the Way to a Smile前提です、はい)
乙!続きに期待期待
>『それにな、さすがに女の子にそんなん頼めんて。……恥ずかしいやろ?』
萌 え た 。可愛いざねーかwww
いつもGJです、続きをマターリお待ちしてまつ。
乙!
ほ
し
ぶ
ど
う
は
た
>>421-425 チュートリアル編といい、ケット・シーってなんでいじらしい…
どうか局長にケット・シーと子ども達と仲間の声が届きます様に…
期待sage
※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
>>222-224 >>280-283 >>318-327 >>345-350 >>412-414から続きます。
話は少し戻って。
劇場の入り口にはチョコボに引かれた豪奢な車が次々と停まっていた。
ダラマスカの著名人や政界の有力者が次々と車から降り立ち、
その様子を見物に来た民衆に手を振って応えている。
その中でひと際大きな歓声に迎えられたのは女王、アーシェと
アルケイディアの新皇帝、ラーサーの乗った車だった。
新皇帝はダラマスカの民衆に概ね好意的に迎えられていた。
それというのも、この新皇帝が摂ったナブディスとダラマスカに
償う事を前面に押し出した平和的な政策と、復讐心を捨て、
共に手を取り未来に向かって歩こうというアーシェの訴えのお陰である。
しかし、憎しみの火が完全に消えたわけではない。
中には二人の政策を良く思わない輩も居る。
特にダラマスカの騎士や貴族の中には依然、アルケィディアを敵視し、
二人の君主の志に反する運動を密かに行っている者達も存在した。
しかし、ラーサーはそれを知りつつ、敢えて護衛の数を減らし、
付き添うジャッジ達もいかめしい鎧姿ではなく、礼服にあらためさせた。
その事に感謝し、また心配をするアーシェにラーサーは、
「私は陛下と、陛下の国民を信頼しています。」
と、笑って答えたのだった。
ラーサーは街中の民衆の一人一人に応えるかの様に手を振り、
憎しみの視線を送る者には丁寧に会釈をし…と細やかな心配りを見せる。
「ダラマスカの街は本当に美しいですね。」
人混みが途切れた隙にラーサーは正面に座るアーシェに微笑みかける。
「それに侵略国家だったアルケイディアの皇帝にも歓迎の意を示してくれます。
大らかで、心の広いお国柄なんですね。」
「ありがとうございます。」
アーシェが礼を言うと、ラーサーはうれしそうに尚も続ける。
「でも、こうして街の中を見ていると、そこからヴァンさんや
パンネロさんが出て来そうな気がします。」
ラーサーのたっての願いで、車の中に居るのはアーシェとラーサー、
そしてジャッジ・ガブラスの3人だけだった。
誰にも聞かれないだろうという安心感からそんな事を言い出したのだろう。
「パンネロさんは時々手紙をくれます。でも、返事を書いても届けるのが難しくて。」
「私も同じです。戴冠式まではよく顔を見せてくれたのですが、今は…」
かつて共に旅をした仲間だったが、今では立場が違う。
空賊志願の少年少女が気安く一国の君主に会う事は難しい。
ラーサーは分かります、と大きく頷き、
「私も同じです。陛下の戴冠式でお会いしたのが最後です。
あの時、パンネロさんは正装でとても美しくおなりでした…」
最後の言葉はうっとりとした表情で、アーシェは少し面食らって
ラーサーの隣に座るジャッジ・ガブラスの表情を見る。
と、かつてはアーシェの臣下だったこの男が
小さくため息を吐いたのをアーシェは見逃さなかった。
徹底した帝王学と英才教育の為か、年齢の割には大人びている…
というより老成していると言った方がしっくり来るようなラーサーだが、
夢見がちな部分はまだまだ健在らしい。
アーシェと目が合ったジャッジ・ガブラスが困った様な、
それでいてどこかうれしそうな表情を見せたのに、
アーシェは危うく吹き出しそうになった。
「そのご様子だと、ジャッジ・ガブラスに随分ご苦労をお掛けの様ですね。」
ラーサーは悪びれる様子もなく、少しはにかんだ表情をし、
「陛下の仰る通りですよ。手紙の返事を偽装して
投函してくれるのはジャッジ・ガブラスです。」
「これが元老院や議会に知れたらと思うと、どんな強敵よりも恐ろしく思います。」
それを聞いて遂にアーシェが笑い出し、ラーサーがそれに続き、
車内は和やかな空気が流れてた。
車はやがて劇場に到着し、正面玄関に横付けされた。
まずはラーサーがアーシェの手を取って車から降り、それにアーシェ、ガブラスが続く。
大歓声の中、ガブラス―バッシュ―は抜かりなく周囲を見回した。
かつての汚名を着せられたままのダラマスカでイヴァリースの平和の象徴である
二人の護衛の任に就く事は彼自身にとって名誉な事だった。
(誰も知らなくとも構わん…このお二人こそ私が守るべき方々だ。)
そしてそれは亡き弟…ガブラス本人との違える事の出来ない約束でもある。
(平和な歓迎ムードでも、気を抜いてはならない…)
無事に二人が中に入ったのを確認すると、バッシュはその後に続いた。
二人は先に到着していた砂漠の国王と、その婚約者に挨拶をし、
少し歓談してからそれぞれ仕切られたボックス席に着いた。
アーシェとラーサーは同じボックスだ。
ここに居るのもアーシェ、ラーサー、バッシュの3人だけなので
2人は存分に思い出話や他愛のない話を楽しむ事が出来た。
やがて、舞台に盛装したダンチョーが立ち、両陛下をお迎えして云々の
挨拶の言葉を告げると、静かに前奏曲が流れ出し、場内が暗くなった。
*******************
>>415-417 ありがとうございます。
>>417 >>420 実はまだ入手していないんですよ。
発売日を過ぎると読み手さん達がプレイしている内容と全然違う物になってしまうのでは…と心配になりまして。
お言葉に甘えさせて頂いて、まった続けさせて頂きますのでどうぞよろしこです。
GJ!
>>437-439 この2名が頭なら、ダルマスカもアルケイディアも良い国になりそうだと心から思った。
OPの結婚式〜葬儀のアーシェから考えると、感慨深い。
なにより誰よりガブラス(バッシュ)GJ!! この3レスだけでも浸っていたいあたたかさがあるなあ…。
ところでガブラス、どんな偽装するんだ?もしかして変装もするのか?!
そんなガブラスへの慰労も兼ねて、続き期待sage。
>>439 その点リーブは続編なさそうだから楽なんですよ…って書いてて淋しくなってきたw
前話:
>>421-425(現在地エッジ)
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途中、接続ケーブルの本数が足りずに家中を探し回ったりもしたが、ようやくケット・シーの背中の接続
端子とネットワーク端末を繋ぐことができた。ケーブルが届く範囲というと、どうしても机の上になってしまう
のでケット・シーはディスプレイの横に座ると、デンゼルに端末の主電源を入れるように指示をする。
この家に置かれていた端末は使用頻度こそ少ないが、ケット・シーが見込んだとおり性能はそこそこ良い
物だった。主電源を入れると、その後しばらく真っ黒な画面上には次々に何かが表示されては消えてを忙しなく
繰り返す。その様子をデンゼルとマリンはじっと見つめたままでいた。そんなふたりの様子を見てケット・シーは、
こう説明した。
『このボディがよう動かんってんなら、代わりのボディを探せばええ。すまんけどこの端末、しばらく借りるで?』
ふたりが頷いたその時、ちょうど画面上の表示が止まった。どうやら入力を待っているようである。
「接続先……ナンバー……?」
デンゼルが画面上に表示されている文字を読み上げる。どうやら「接続先ナンバーを入力してください」と
言っているらしい。
『ダメ元でやってみますわ』
言うと同時に画面上には数字が入力される。それから新たに加わった文字を再びデンゼルが読み上げる。
「“接続を開始します”……。“呼出中”……?」
「電話みたいだね」
マリンの言葉に頷くと、ケット・シーは続けた。
『せや、早い話がこの端末から電話かけとるんや。ボク単体ではネットワークには繋がれへんから、この端末を
経由してるっちゅー寸法や。……そんでこの番号は、リーブはんのやけども……たぶん……』
画面上はそれから数分間“呼出中”の文字が点滅するだけで、それ以上は動かなかった。ケット・シーが
思っていたとおり、リーブは応答しなかった。
呼びかけには応じない――分かっていたが、ケット・シーは俯くと小さなため息を吐いた。画面の表示は、
“呼出中”から“切断”に切り替わる。
「なあ、ケット・シー。これって他の番号にもかけられる?」
『接続先さえ分かればオッケーやで。この端末のキーから接続先ナンバーを入力してみ?』
言われるまま、デンゼルは慣れない手つきでキーボードを操作すると、自分の知る番号を思い出しながら
慎重にキーを押す。全桁入力が終わるとケット・シーが告げる。
『ほな、接続しますで……』
画面上には先ほどと同じように“接続を開始します”との表示が現れた。しかし、それから画面表示はずっと
止まったまま動かなかった。
「……どうしたんだろう?」
『なんや、……通信状況が良くないらしいで? 繋がらん』
「誰の番号だったの?」
「ティファ」
デンゼルが入力したのは、ティファの番号だった。開店準備をしている途中に慌てて店を飛び出したティファは、
今どこにいるのか? ずっとその事が気になっていたので試しに番号を入力してみたのだった。
『せっかくや、通信状況の詳しい分析もしとくで』
うまくすれば居場所が分かるかも知れないからと、そう言ってケット・シーは別のプログラムを起動すると、
さっそく解析に取りかかる。
「あっ! ねえケット・シー、私も試して良い……かな?」
『ええで。ほな、ナンバー』
デンゼルにかわって今度はマリンが端末のキーボードに触れる。どうやら番号を暗記しているらしく、一度も
躊躇うことなく入力を終えた。その様子に思い当たったデンゼルは、マリンの方を向いてこう尋ねた。
「もしかして……?」
「父さん」
マリンが真っ先に思いついた番号がこれだったというだけで、それ以外に根拠はなかった。よくよく考えて
みれば、バレットは相変わらず油田発掘に勤しんでいるはずだった。
端末からは小さな機械音がした。と同時に、ケット・シーが嬉しそうに告げる。
『おっ! 今度は呼出成功やわ。あとはバレットはんが応答すれば通信できるんやけど……』
画面上には最初の時と同じように、しばらくの間“呼出中”の文字が点滅していた。その間に、ケット・シーは
ある事に気付いて顔を上げる。
『……デンゼル、それにマリンちゃん。ふたり共どうやら大当たりらしいで』
「大当たりって?」
「なんの事?」
ふたりが同時に問うと、ケット・シーは俯いた。同時に画面上には待機画面とは別の作業画面が開かれ、
真っ黒の背景に白い実線で大陸を象っただけの、簡単な世界地図が映し出された。
『さっき、デンゼルがティファにかけよった時の通信状況の分析結果が出たんや。コレ見てみ』
地図上にはエッジを起点として黄色い点線が描かれていく。
『通信するために経由する基地局と、着信を受ける通信機の位置を追跡してみたんや。そんで、最後に通過
した基地局がここ……仮にA地点としとくで』
しかし、結局ティファには繋がらなかった。エッジから海を越えた場所へ到達した経路を白い点線で示した
あと、終着点付近には円が描かれた。恐らくはこの円内に、ティファはいるのだろう。
それから今度は、同じくエッジを起点として別の色で線が上から加えられる。
『そんでこれが、マリンちゃんのかけとる通信経路の記録や。……どうや、何か気付かんか?』
黄色い点線と寸分違わず、まるで色を塗り替えるようにして示される通信経路を見れば、言わんとしている
ことは何となく想像がついた。
「あれ? 最初のと道筋がまったく同じだ」
「でも、父さんは油田にいるはずなのに?」
ふたりの会話を聞いて満足そうに頷くと、ケット・シーはさらにこう続けた。
『さらに驚くで? 最後はコレや』
画面上にはまたも別の色の点線が示される。3つ目の通信経路の記録だ。
「まさか、これって……?」
デンゼルの言葉にケット・シーは頷く。そう、彼が最初にかけたリーブへの通信経路だ。
『細かい原理は省くねんけど、最終的には指定した端末に一番近い基地局を通じて通信が行われるんや。
そんで、端末にアクセスできんかったティファはんのは別やけど、少なくともボクとマリンちゃんがかけた
別々の端末番号の所在を示す地点……つまり、画面上の点線の到達点は一致しとる』
さらに2つの到達点は、ティファがいるであろうと予測した円内のほぼ中心付近にあった。
ここまで示されれば、いやでも考えたくなる。
「もしかして、みんな」
「同じ場所にいるの?」
『そう考えるんが自然やな』
でも、どうして?――デンゼルが口を開こうとしたとき、画面上の文字が“呼出中”から“通信中”に変わった。
『来たで!』
「父さん!?」
マリンが叫ぶが、応答はない。ただ、室内には端末を通して音声だけが聞こえてきた。それを耳にした彼らは、
息をのんだ。
――『そして間接的であるにしろ、あなたにとって大切な物を奪ったのはこの私です。
……そうでしょう?』
スピーカーから聞こえてきたのは、間違いなくリーブの声だった。
つまり、バレット――あるいは彼の携帯端末を持っている人物――は今、リーブと対峙している事になる。
これで、少なくともリーブとバレットの携帯端末への通信経路と到達点が同地を示している事には納得がいく。
しかし、これは一体どういう事だろう?
映像がないので聞こえてくる声から状況を推測するしかなかったが、どうやら会話をしていると言うよりも、
一方的にリーブが話している様に聞こえた。
――『ですからあなたには、私を恨む権利がある。
……魔晄炉の件は今でも許せませんが、その暴挙に至った心境を、
私に否定する資格はありません。
私が責めているのは、あなたのとった『魔晄炉爆破テロ』という手段についてです。
……あんなことをする必要性はまったく無かった。少し考えれば分かった事でしょうに』
その言葉を聞いて、デンゼルの脳裏にはリーブと会った時の光景が蘇る。
神羅は、魔晄炉爆破テロの報復として七番街プレート支柱を破壊し、七番街スラムを潰した。その一件が、
結果的にデンゼルから両親を奪うことになった。それを打ち明けてくれたあの日の光景だ。
――「憎ければ、私を好きにしていいぞ」
脳裏に光景が蘇った後、悔しさのような感情までもが一緒に思い出された。
あの時デンゼルに向けられた言葉に隠されたリーブの苦悩は、ほんの一部に過ぎない。七番街プレート
支柱の破壊を行うに至った経緯を、あの時すべては語らなかった。いや、語ろうとしなかった。そこにどんな
理由があろうと、デンゼルにとって両親を失ったという事実が変わらないと言うことを知っていたからだ。
そして、それが変えようのない事実であることも。
(リーブさんは……)
すべての真相を打ち明けることによって、デンゼルが余計な感情を持たないようにしたと、そう思えた。
事情は良く分からない。でも、その話しぶりを聞けばバレット――反神羅テロ組織アバランチのリーダーと
して――が行った魔晄炉爆破テロが、七番街プレート支柱破壊を招いたという経緯には察しがつく。そして
更に以前、バレットが反神羅テロ活動に身を投じる原因に、リーブは間接的に関わっていた、という事になる。
(自分を恨むかわりに……バレットさんを恨むな……って、言いたかった、のか?)
その結論に思い至って、デンゼルの口から思わず言葉が零れた。
「なっ、なんだよ……それ……」
『…………』
デンゼルは俯くと両手の拳を強く握りしめる。零す声が震えていた。
ケット・シーは無言のまま、その様子を机の上から眺めていたが、やがて顔を上げてこう言った。
『言い訳に、聞こえるかも知れんけどな。あれでリーブはん、悩んどったんや……』
「そんなの……分かってるよ」
『許して欲しい、なんて虫の良いことは言えんのは分かってる。せやけど……』
「違うよ」
「デンゼル!」
マリンが何かに気付いたようにデンゼルの腕を掴んで言葉の先を遮ろうとする。しかし、デンゼルはそれを
受け付けなかった。
「俺が怒ってるのはそんなことじゃない! どうして……どうしてあの人は誰も頼ろうとしないんだ?!
どうして自分一人だけで抱え込んでるんだよ?! 意味分かんないよ!!」
「子どもには子どものやれる事をやれ」そう言ってデンゼルのW.R.Oへ入隊を拒んだリーブの姿が目に
浮かんで、さらに悔しさが込み上げてきた。
「デンゼル違う!」
「何が違うんだよ?!」
思わず語気を荒くして問い返したデンゼルは、マリンの顔を見て我に返った。ここでマリンに八つ当たり
しても意味がない。しかし、マリンは物怖じせずにこう切り返す。
「そんなの……デンゼルが言わなくてもみんな分かってるよ。……ケット・シーがツライって事だって、
分かってるでしょ?」
それでようやく、デンゼルは今さっきこの部屋で見た光景を思い出した。
――『ボクの、呼びかけに……答えて、くれへん』
一番近くで見ていたのは他でもないケット・シーだったのだ。
呼びかけても答えてくれない、それはどれほど悔しかっただろう? どれほど悲しかっただろう?
その事に気付いたデンゼルは、気まずそうにケット・シーを見やった。
「ごめん……」
『気にせんといてーな。デンゼルの気持ち、ボクもよぉ分かるで。それにな……なんや嬉しいんや』
ケット・シーはデンゼルの顔を覗き込むようにして見つめながら、ゆっくりと手を振って首を傾げて見せた。
『リーブはんを心配してくれる人がおるの、なんや嬉しいんや』
照れたように呟いたケット・シーに、マリンはにこやかな笑みを浮かべてこう言った。
「リーブさんだけじゃない、ケット・シーだって心配なんだよ」
『そらもっと嬉しいな! おおきにマリンちゃん』
「マリンだけじゃない、俺だって!」
『ホンマか? なんや人気者はツライなぁ〜』
にこにこと笑いながら手を振るケット・シーは何だか楽しそうだった。
ケット・シーと過ごす時間はいつも笑顔が絶えない、動かなくなってしまうまでは、留守番中によくこうして
3人で過ごした。そんな懐かしい時間が戻ってきたようで、とても嬉しかった。
しかし、そんな彼らから笑顔を奪ったのは、スピーカーからもたらされたリーブの声だった。
――『つまり私も、あなたも。……お互いを恨む動機は充分ある、という事です。
……バレットさん、これは私から最後の警告です。この建物から速やかに撤退しなさい。
でなければ、私は引き金を引きます』
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・この場合、ケット・シーはデバイス扱いですw
・一応説明をさせていただくと、エッジから
>>337-338と通信ができたって状況です。
(この際バレットはいつの間にボタン押したんだとかその辺のツッコミはご容赦下さいw)
GJGJ!
状況がそれどころじゃない、ってのもあるだろうけど
バレットはうっかり通話ボタン押してて、その事に気づいてないに違いないw
いつも乙です。
まさにGJ!
続きが気になってしょうがない!
乙!
お二人ともいつも心打つ作品を乙です!
フラッと来てはじっくり読ませてもらってますよ。まじで。
おつおつ
ほ
ここの保管庫ってないの?
ぼ
ま
す
つ
|
る
>>455 スレの作品保管庫はありません。今のところ長編は自主保管という方針の様です。
保管する側には負担が大きいし、それが最良だと思う。その一方で、過去ログ内の良作も、
未完結作品の結末も、非常に気になってるからこの際まとめてしまいたい思いはあるけど。
…力及ばず申し訳ない。
前話:
>>442-448(参照:
>>182-185)
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「えぇっ!!」
「父さん!!」
デンゼルとマリンが同時に叫ぶ。しかし、スピーカーから返答はなかった。こちらの声が聞こえていない
――聞こえていたとしても、返答できる状況ではない――のかも知れない。いずれにせよ、エッジにいる
彼らにはただ、スピーカーを通して成り行きを見守ること以外、何もできなかった。
「……どうして……?」
胸の前で手を組んで、まるで祈るような格好でぽつりとマリンが呟いた。彼女は知っている、なぜ自分には
母親が居ないのか。そのために父・バレットが過去に何をしてきたのか。6年前、住み慣れた七番街スラム
から逃げなければならなかった理由も。それは同時にデンゼルの両親が死んでしまった出来事だという事も。
「……父さん……?」
周囲の皆がたくさんの悲しみを背負っていた。マリンはそれを知っている。そしてマリン自身にも、口には
出さず抱えているたくさんの思いがあった。
けれど、マリンが誰かを恨んだりしたことは一度もなかったし、今だってそうだった。
父バレットが娘のマリンをなによりも大切にしていたのと同じように、マリンもまた父を誰より大切に思って
いる。不器用で、ちょっと乱暴なところもあるけれど、ずっと父がいてくれたから、だから誰かを恨まずに済んだ
のだと思う。父だけではない、ティファやクラウド、アバランチの人達……優しい彼らの笑顔がいつも傍に
あったから。きっとそうだとマリンは思っていた。
そんなマリンにとって6年前。父と、セブンスヘブンと、アバランチと、七番街――慣れ親しんだ場所と
人々からひとり離れて心細かった時、一緒にいてくれたのがエアリスだった。
最初は理由も分からずエアリスに手を引かれるまま、逃げるようにして七番街スラムを後にした。不安に
駆られ「どこへ行くの?」と聞けば、「私の家だよ」とエアリスは笑顔で言った。その笑顔と、繋がれた手が、
孤独と不安にあった幼いマリンを救った。
道すがら、教会に咲く花の事を教えてもらった。いつかもう一度、ゆっくり来ようねと言ってくれた。今でも
忘れない、あの時のエアリスの優しさと、笑顔。
こうして連れてこられたのは、五番街スラムの奥にある大きな一軒家だった。そこでエルミナと出会い、
入れ替わるようにしてエアリスがいなくなった。その後リーブと会ったのもこの家だった。
七番街スラムを離れてから短い間に、色んな出来事があった。父さんや、ティファやエアリスが戻って
きたら、いっぱい話をしたいと思った。
だけど結局、エアリスは二度と帰ってこなかった。
ずっと帰りを待っていたエアリスが、ここから遠くの場所で死んでしまったと聞かされたときは本当に
悲しかった、毎晩泣いた。でも、だからといって誰かを恨む気持ちにはなれなかった。
マリン達にエアリスの死を教えてくれたのは、他ならぬリーブだった。だからといってリーブを
嫌いになる理由にはならなかったし、それ以上に悲しい報せを口にしたリーブの背中が忘れられなかった。
彼はエアリスの死について言葉少なに語った後、マリン達に背を向けてずっと空を見上げていた。
あまりに突然の事だったせいもあって、エアリスの死を知らされても最初は信じられなかった。けれど
彼の後姿を見て、この人はきっと涙を堪えているのだろうと思った。それでようやく、エアリスがいなくなって
しまったのが現実なのだと知った。
父と同じおひげのおじさんは、父に似てとても不器用な人だった。それが、幼いマリンの目に映るリーブの
姿だった。
そんな人を、恨んだり嫌いになったりできるはずがない。
みんなが好きだった。だから、分からなかった。
「どうして、そんなことを言うの? どうして……? どう……」
だから、悲しかった。
呟くマリンの声は震え、視界が揺れていた。言葉の最後は掠れて消えた。
――「ありがとう、マリンちゃん」
直後、マリンの脳裏に蘇ったのは4年前のミッドガル、伍番街スラム跡地で最後にリーブを見たときの
光景だった。
笑顔でマリンの言葉を遮り、その後姿を消したリーブと、こんな形で再会するなど夢にも思わなかった。
夢でも思いたくなかった。今になって考えれば、それは。
「……リーブさん? まさか、こうなるって分かって、いたから?」
別れの挨拶だったのだろうか? 辿り着いてしまった考えを必死で否定しようと、マリンは頭を振った。
(いや!)
顔を知らない母親も、大好きだったエアリスも、アバランチの人達も、七番街スラムのご近所さん達も、
優しかったエルミナさんも……。
「……やだよ、もう嫌だよ」
これ以上、大好きな人達がいなくなってしまうのは、嫌だった。なにより――恐かった。
「父さん、父……っ」
バレットに聞こえるまで、マリンはスピーカーに向けて何度も呼びかけ続けた。そうすることしか出来な
かった。
そんなマリンの姿を見ている事ができなくて、デンゼルは視線を逸らす。しかし、逸らした視線の先には、
ケーブルに繋がれ俯いているケット・シーがいた。デンゼルだけではない、この部屋にいる誰もがやり場の
ない思いを抱えながら、どうすることも出来ずにいた。
――『もしもあなたが私の警告を無視してこの建物への進入を望むのであれば、私を退けることです。
仮に、 かつての仲間に銃を向ける事を躊躇っているのであれば、その必要はありません。
……もっとも、“私”を壊したところで“本体”にはさしたる影響もないでしょうが」
『……なっ、なんやて!?』
再びスピーカーからもたらされたリーブの声に、ケット・シーは弾かれたように顔を上げて、さらに声を
あげた。
『ま、まさか……そう言う……事、やったんか……』
「ケット・シー?」
驚きと不安の入り交じる声で恐る恐る問うデンゼルの前では、何か重大なことに気付いた様子の
ケット・シーが、小さな腕を組んで思慮を巡らせていた。横に置かれた端末画面に目をやれば、それを
反映しているように目まぐるしく表示が切り替わっている。何度か呼びかけても反応せず、暫くしてようやく
デンゼルの方を向いたケット・シーは、奇妙な表情を浮かべていた。
そして、彼の口から語られたのも奇妙な話だった。
『この……リーブはんは多分、ニセモノ……いや本物なんやけどニセモノなんですわ』
「本物なのにニセモノ……って?」
デンゼルがケット・シーに向けた質問に答えたのは、スピーカーから聞こえてくるバレットの声だった。
――『リーブ、教えてくれ。
この人形を遠くからでも操れるって言ってたな? ならお前の言葉は……
どこまでがお前自身の思いなんだ?
今まで俺に話した事は、お前自身の思いなのか? それとも』
・エレノアさん、マリンちゃんはとても良い子に育ちましたよ
……ってのを、母の日にリアルタイムで投下したかった。だけど間に合わなかったw
よくよく考えるとエアリスとマリンは会って間もないのに色んな話してるんだよな。
「ティファはクラウドが好きなんだよ、エアリスが言ってた」みたいな事をエルミナの家で言ってた(様な気が)。
ちょっとこの先は主題が移るので、一旦ここで区切らせてもらいます。
どうしてもエレノアさんへのコメントを書きたかった。こんな蛇足で1レス消費すんません。
続きキタ!GJ!
マリンええ子や… ダインもエレノアも喜んでるでしょう
乙です!こういうのも好きです!
続きに期待
GJ!
乙
おもしろいなー
473 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/22(火) 23:41:41 ID:kQaAH84GO
あげてみる
保守
ほ
前話:
>>463-466(現在地:エッジ)
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「父さん? ……人形、って?」
端末の前で呆然と立ち尽くすマリンが、スピーカーの向こうの父に問いかける。けれどその声は届かな
かった。ケーブルに繋がれディスプレイの横に座っていたケット・シーは、バレットの代わりにこう答えた。
『リーブはんにはな、機械やマテリア無しでも物を操れる力があるんや。バレットはんが言うとる「人形」って
のは多分、その事なんやと思うけど。……その原理自体はボクにもよぉ分からん。
でもボクはこの通り“操作されなくても”動いとる。たしかにボディは作り物やし、中に積み込まれてるんは
マシンやけど、単なる機械仕掛けのぬいぐるみとはちゃうねん。
痛みも感じれば、楽しいと思てはしゃぎもする……。喜んだり落ち込んだり、そらみんなと変わらんのや』
マリンにもデンゼルにも、ケット・シーの動いている原理や仕組みは分からない。リーブの持つ能力に
ついては、それが何かすら分からない。彼らに唯一分かっているのは、ケット・シーが単なる――リーブに
よって遠隔操作されているだけの――ぬいぐるみではない、と言う事だった。
「だとしたら、父さんが言ってる『人形』って……?」
『バレットはんの前におるのは、ボクと同じような人形っちゅー事やな。しかもそいつ、話聞いてる限りやと、
ちゃんとリーブはんの“形”しとるみたいやな』
ケット・シーの言葉を聞いた直後から、ふたりの脳裏にはバレットに銃口を向けているリーブの姿が鮮明に
映し出された。音声通信のみで、実際に向かい合っている彼らの姿は見えないはずなのに、エッジにいる
デンゼル達はまるで目の前で見ているかのようだった。
「どうして、そんな?」
再びデンゼルの問いかけに答えたのは、スピーカーから聞こえてくるリーブの声だった。
――『たとえば仮に、物に命が宿るとすれば。
“物”と“命”を別つ物は何だと思いますか? “命”、つまりそれが
“生きている”とする定義はどこにあると考えますか?
……私には……分かりませんでした』
語っているのが、たとえ作られた人形であったとしても。苦渋に満ちたその声と思いの持ち主がリーブ本人
であると言うことは、疑いようも無かった。
そして誰も――実際にリーブと対峙していたバレットも、この部屋にいたデンゼルとマリンにも、あるいは
他の仲間達も――この問いかけに対する答えを持っていなかった。
そんな中で、ケット・シーが小さな声で反論した。
『定義なんて難しいハナシは分からん。せやけどリーブはん……ボクは、誰が何と言おうと胸張って言うたるで』
――こうして今も、生きてるんや。
生きている――それはリーブによって吹き込まれた生命。
何をもって生命とするのか? そんな話をしたいのではない。
ケット・シーの願いはただ1つ。
『リーブはんのお陰でボクはここにおるんや、そら間違いない。なら……アンタを全力で助けたいって思うんは、
自然な事や』
ケット・シーは自らに問いかけ、そして答えた。
リーブによって作られ、生み出されたケット・シーは今、リーブの意志を介さずに自ら判断し決断を下そうと
している――もしも仮に、ケット・シーの願いがリーブの意志に反していたら?――出ない答えに不安は残った。
けれど、その不安を上回ったのはケット・シー自身の願いであり思いだった。
改めてそれを確かめるようにして、ゆっくりと言葉を紡いだ。その先に続く結論は変わらない。
『……せや、たとえ誰が反対しよったってやりまっせ!』
そう言って小さく首を動かして、頷いた。まるで自分に言い聞かせるように。
しかし。
「……そんな勝手、許さない」
意気込むケット・シーの頭から、冷水を浴びせるような言葉を口にしたのはデンゼルだった。驚いて仰ぎ
見れば、彼は笑顔もなく真っ直ぐな目を向けていた。そんなデンゼルの横顔を心配そうに見つめながら、
マリンが口を開きかけた時、デンゼルはこう続けた。
「そんな勝手な事させないよ、ケット・シー。だってここは俺たちの家だ。……だから」
そう言ってゆっくりと右手を差し出しながら、ケット・シーの座っている机に歩み寄る。
「俺にもできることを、教えてよ」
それはデンゼルにとっての決意だった。
――子どもには、子どもにしかできないことがある。君にはそれをやってほしい――あの日、デンゼルの
W.R.O入隊を拒んだリーブの言葉をもういちど思い起こす。悔しかった、今でも悔しいと思う。
だけど今は、それだけじゃない。
「俺は、俺の出来ることをやりたいんだ。それで、リーブさんを救いたい」
たとえどこにいようと、どんな立場にあろうとも、自分が思うのなら行動を起こせばいい。それがデンゼルの
出した結論だった。
デンゼルの言葉に、今度こそ困惑しながらケット・シーが反論する。
『…………。確証なんてあれへんねん』
「それでも、ケット・シーはやるつもりなんだろ? そんなのずるいよ」
『…………。イチかバチかや。ボク自身かて、ホンマはどこまでできるか見当もつかん』
「じゃあなおさらだ、俺にも手伝わせてよ。俺にはその、『リーブさんの能力』っていうのが分からないから、
ひとりじゃ何もできないかも知れない。だけどケット・シーだってそうだろ? ひとりじゃ何もできない。さっき
そう言ったよね?」
ケット・シー単体ではネットワークに繋がれない、だからこうして端末を借りている。それと同じだよと言って
デンゼルは笑った。始める前から口論の結果は明らかだったが、いざ反論を封じられるとケット・シーは
しょんぼりと項垂れた。
「だから教えてほしい、俺には何ができる? どうしたらいい?」
デンゼルの言葉を横で聞いていたマリンの表情が、見る間に明るさを取り戻して行く。それから加勢する
ようにしてこう言った。
「ねえケット・シー? 私達はみんな同じ事を考えてるんだよ」
今、やれる事をしたい。そして――大切な人々を救いたい。救えなくても、助けになりたい。
マリンの言葉に頷いて、引き継ぐようにデンゼルが語る。
「子どもとか、大人とか、そんなの関係ないんだ
やれる事もやらないままで、ただ見てるだけなんて嫌だ。だから……」
どこまでやれるのかは分からない。
なにができるのかも分からない。
それでも、ここにいる彼らは同じ事を考え、願っていた。
『……よっしゃ分かった! いっちょボクらでやったろやないか!!』
それぞれが歩んで来た別々の道を経て、辿り着いたのは同じ場所――たった1つの“願い”だった。
建造中のW.R.O新本部施設からは遠く離れたエッジの街の片隅で、武器を持たない彼らの小さな戦いが、
こうして幕を開けたのである。
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・FF7ゲーム中に描かれた魔晄炉爆破→七番街プレート支柱破壊は、後々まで尾を引くテーマだと思う。
リーブとバレットの様な立場による捉え方の差もそうだけど、世代間での差というのを描く続編作品に
個人的には期待してたりする。そんな希望も込めてみた。
GJ!ついに100話超えしますたねw本当に乙でございます。
ちびっこ達の決意にワクテカw
GJ!子供たちとケット・シーの活躍に期待!
他の面子のその後も気になるし、続き待ってます!
GJ!
おつおつ
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ま
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も
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ば
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ば
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じ
ゃ
ん
く
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前話:476-479(場面は
>>394-399からの続き)
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「……親父の再来、か。それこそ悪夢だ」
部屋の扉が開いても、声の主は姿を現さなかった。苦笑とも自嘲ともつかぬ声が紡ぎ出す言葉の意味を、
シェルクは考えようとした。この男はなぜ、わざわざそんなことを口に出す? 一体何を考えている?
男の声と重なるようにして聞こえてきたのは小さな機械音だった。近づいて来る音が、電動車いすのもの
だと分かったのは、扉の前にようやく現れた男の姿を視界がとらえたからである。
よく見れば端整な顔立ちの若い男で、ゆったりした作りの白いスーツを着崩していた。身につけている物や
言葉遣いから察するに、何不自由のない豊かな生活を送ってきたのだろう。彼にとって唯一の不自由と言え
ば、歩行機能ぐらいだろうか。
自分の足下を見つめていたシェルクの様子に気が付くと、男は応えるようにして言った。
「6年前の災害で負傷して以来こんな生活をしているが、慣れてしまえばそれほど不便は感じないものだ。
……私は、君のように熱心にリハビリに励まなかった怠け者なのでね。もっとも、私にはそうしなければ
ならない理由も、必要性もなかった」
そう言った男に対し、不快感の様なものを感じたのはなぜだろう? シェルクは言いしれぬ感覚に戸惑った。
理由も分からないまま男の顔を見つめる目は、自然と鋭さを帯びていた。明らかに好意的ではないと分かる
声で、目の前の男に問う。
「あなたは?」
「これは失礼。私はルーファウスだ。こうして実際に会うのは始めてになるが、君のことは資料を通して知って
いた。……歓迎するよ、元ディープグラウンドソルジャー、シェルク=ルーイ」
口元に笑みさえ浮かべてルーファウスと名乗った男は言葉を返す。仕草や物言いこそ品のあるようには
見えるが、そこには常に相手への威圧を含んでいる。浮かべた笑顔は、決して友好の類で作られたものでは
ない。
それも男の名を聞かされた今となっては、彼の言動すべてに納得がいった。ディープグラウンドにとって
彼は、言わば「神の子」だった。つまりシェルクにとっても彼はまったくの初対面ではなかった。
とは言え、シェルクにとって「神」は神でも疫病神に他ならない。彼らのお陰で自分と姉が、とんでもない
人生を歩まされる事になったからだ。そんな神の子を目の前にして、機嫌が良いという訳にもいかない。
不快感の正体に思い当たったは良いが、だからといって機嫌が直るかと言えば答えは否だ。
「好んでなったのではありませんが」
「しかし間違いではないだろう? 君の持つ優れた能力を見込んで、今回の依頼を出したのは私だ。そして
君は、その依頼を受けてここへ来た――」
「正確に言えば半ば強制的に、ですが」
男の言葉をわざと遮ってシェルクは反論する。
彼らは一方的にメッセージを寄越して来た挙げ句、連れ去るようにしてここへ招かれた。シェルクにとって
は、自ら積極的に取った行動の先に辿り着いた場所ではない。よりにもよって依頼主がこの男だと打ち明け
られて、シェルクの不快感はさらに増したのは言うまでもない。
一方、男はシェルクの主張をつまらなさそうに聞いていた。実際のところ、シェルクの反応がやや期待はずれ
であった事は否めない。もう少し歯ごたえのある会話を楽しめると考えていたからだ。そんな落胆を隠さずに、
ルーファウスは大きなため息を吐き出した。
「『仕方なく』……か? そうやって自分でしてきた行為の責任を誰かに転嫁するのも一つの生き方、と言う訳か」
あからさまにシェルクの不快感を煽るような言い方に、口を挟もうとする女性をツォンが制止した。そんな
ふたりの遣り取りを尻目に、ルーファウスは先を続ける。
「君の言うように、確かに我々からのメッセージは一方的だった。しかしそれを受け取り、実際に話を聞いて
お前はここへ来た。そう判断し行動に移した時点で、お前自身の意志で依頼を引き受けると承諾した、
あるいはお前自身の目的があるからに他ならないはずだ。……それを『半ば強制的に』と言うのは筋違いも
良いところだ。それとも……」
そこまで言うと肘掛けの上で右手を挙げ、手の甲に顎を乗せるとルーファウスはさらに言葉の先を続けた。
「いつまでも被害者気取りか?」
「社……っ!」
どう見ても挑発的な態度を取るルーファウスに、思わず声をあげた女性の前に無言でツォンが立ちはだかる。
背後での遣り取りには気付かずに、シェルクは立ち上がると真っ直ぐ前を見つめていた。
「……! そんなつもりは……」
「本人にそのつもりが無かったとしても、行動に対する結果への責任は常について回る。
……親が残していった莫大な負債について、その弁済責任は子が負わなければならない事と理屈は同じだ。
私は親を選べない、しかし親の子として生まれた以上、その生存とそれを維持する行為についての全責任は
私自身にある。それが嫌なら生を手放せばいい、それが出来ないなら生き続ければいい。常に、行動を選択して
いるのは自分自身であって他の何者でもない。故に」
「私はここにいる? ……確かに、その通りですね」
彼の言うとおり、ここへ来たのはシェルク自身の目的を果たすためだった。気付きさえすれば、単純な動機だ。
「シェルク……」
背後で心配そうに名を呼ぶ女性の事を気にかけながらも、シェルクは男の方へと足を向けた。その行動を、
文字通り歩み寄りと取ったのか、ルーファウスは続けて語りかける。
「当面のところ我々の利害は一致している」
「……W.R.Oメインデータバンクへの不正侵入者の特定と追跡、建造中の新本部施設内の構造解析、メディア
に流された情報に端を発する騒動の終結……」
ルーファウスの言葉を補うようにして、ツォンが語る。彼の横に立ったシェルクはいったん足を止め、ツォンを
見上げるとこう言った。
「そうですね。……ですが、その先はどうでしょうか?」
「…………」
問いかけられたツォンは口を噤んだ。シェルクは、ツォンが答えられないことを分かった上で訊いている。
ツォン自身もそれを承知の上で尚、返す言葉を見出せずに無言のままでシェルクを見つめた。
ツォンの沈黙それ自体を、彼からの返答であると納得したように頷いてから、シェルクは小さくため息を
吐いた。それでも彼がシェルクから視線を逸らそうとしなかったのは、彼女に対する誠意なのか、負け惜しみ
なのか、彼自身にも正確なところはよく分からなかった。ただ、とにかく視線を逸らしてはならないと思った。
そんなツォンの視線を振り切るようにして顔を背け、無言でシェルクは再び歩を進めると正面にいる
ルーファウスに言葉を向けた。
「確かに私がここへ来た目的は、SNDの実行に耐えうる設備を使用する為です。それ以外には興味がありません」
「そう。我々がこの騒動の先になにを実現しようと、君には関係のない事だ」
ツォンとは逆に、ルーファウスはあっさりとそれを認めた。依頼主と請負人の間には、当座の利益という
結びつきしか存在しない。互いの意志や信念、思惑などは二の次だと。しかし一方で、それだけあれば
契約を成立させる要件は充分に満たしていると言うことを。
なによりもそれは、つい先程までシェルク自身が考えていた事だった。ルーファウスの言葉はためらわずに
同意できる理屈のはずだった。
しかし、シェルクの口から出たのは否定の句だった。
「……いいえ」
そう言って脇からスピアを取り出すと、およそ3年ぶりに起動させた。小さなノイズと共にオレンジ色の輝きを
湛えた凶器を差し向けながら、彼女は続けた。
「状況によってはこの場であなた方を始末します。私の目的はあくまでも設備であって、あなた方の存在など
最初からどうでもいい。……それに、先ほどあなたはこう言いましたね? 私が『被害者気取り』だと」
武器を眼前に突きつけられても尚、動揺一つ見せずに男はシェルクを見上げた。それから先を促すように
顎を引く。その態度に僅かな驚きと、それ以上の不快感を込めてシェルクは言葉の先を続けた。
「では望み通り、私は最後まで被害者を気取りましょう。そしてあなたの父親が残した負債の一部を回収する
ことにします。……もちろん、要求するのは金銭などではありません、あなたの命です」
シェルクの脳裏には13年間の様々な記憶が蘇る。あらゆる恐怖、苦痛、孤独を見てきた彼女が作り上げた
のは、あたたかみのない笑顔だった。
「私自身が奪ってきた命の数からすれば、とうてい足りませんがね」
今さら目の前の男を殺したところで、得られるものは何もなかった。自己満足すら得られないだろう。確かに
この男の父親が、ディープグラウンドを創設したことによって自分と姉の人生は大きく狂うことになった。しかし、
この男の命と引き替えに自分達の過去を取り戻せるわけでもない。
ましてやこんな。
(……こんな)
そこまで考えてようやくシェルクは不快感の正体に辿り着く。それはプレジデント神羅の息子であるに対する
恨みとか憎しみといった強い感情ではなく――落胆だった。シェルクもまた、ルーファウスに何らかの期待を
抱いていたのだろう。少なくとも、車いす生活に満足しているような男が「神の子」であるはずはない。
(殺す価値もないような男に武器を向けるだけ無駄というものでしょうか)
そんな男を手にかけたところで、無駄な体力を消耗するだけだ。今はそんなことよりもSNDに集中したかった。
自分のしたいことを遮られている苛立ちと、遮っている者に対する不満が、不快感をさらに増大させていた。
そう思うと無性に腹立たしくなった。
しかし結果的にはそれで良いのかもしれない、多少でも満足を得られるのならばこのまま――ルーファウスの
言葉を借りれば、最後まで被害者を気取って――殺してしまえばいい。楽になれるのかも知れない。
スピアを持つシェルクの手に一瞬、力がこもった。
----------
・ルーファウスとシェルクがやけに屁理屈キャラになってるのは書いた人のせいです、深く陳謝し(ry。
・ちょっと退っ引きならない事態に陥ってたため、投下が遅くなっててすみません。しかも屁理屈ばっかの(ry。
保守して下さる方、さらに拙文にお付き合い頂けてます方、ありがとうございます。
506 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/12(火) 19:46:08 ID:xeAp77OA0
FFキャラをスターシステム的に起用したオリジナル小説を考えたんだけど
もし公開するならここでいいのかな?
ラストダンジョン待ってましたよー
一気に読んでしまいましたよ… 続きが気になる〜
いつまでも待ってますので頑張ってください
>>506 スターシステムって一概に言っても色々解釈が違うしね
もっと具体的じゃないと何とも…
>505
GJ!更新乙。
>506
FF関係なら構わないんじゃね?と思うのだが。
GJ!!
乙!
GJ
前話:
>>501-505 ----------
「ところで君は、自分の置かれている状況を理解しているかね?」
車いすに座ってシェルクを見上げたまま、みじんの動揺も見せずにルーファウスは問う。皮肉にも彼の
言葉でシェルクは我に返った。そして、やはりこの男を殺しても意味がないと同じ結論に落ち着いた。
シェルクにとって第一の目的がSNDの実施である以上、ここで無駄な体力を費やすのは得策とは言えない。
そうなれば今、相手に向けるべきはスピアではない。
「私もずいぶんと低く評価されたものですね。……ここにいる人間を皆殺しにするぐらい、大した作業にも
ならないでしょう」
本意ではないにしても、シェルクが口に出した言葉に女性は顔を上げると、目の前の小さな背中を見つめた。
けれど、いざ口を開こうとしてもなんと声をかけて良いのかが分からなくなった。助けを求めるようにツォンに
視線を向けてみたが、彼は首を横に振るだけだった。
彼らの心配をよそに、両者の舌戦は続いていた。見方によっては二人とも、いつの間にか弾む会話に夢中
だったらしい。
「これはこれは、ずいぶんと物騒な物言いの被害者だな」
「……そうでしょうか? あなたの言う『被害者』を充分に気取っていると思いますが?
加害者への憎しみや復讐心を、忠実に再現している……違いますか? ルーファウス神羅」
その問いかけに、ルーファウスは涼しげな顔でこう返した。
「ここにいる限り、君が『被害者』でいられる場所と時間はまだ残されている。せいぜい楽しむことだ」
それだけ言い残すと車いすごと方向転換してシェルク達に背を向ける。それは武器を向けられている者の
取る行動にしては、あまりに無自覚で無防備だった。だが、武器を向けていたシェルクは黙ってその背中を
見送ることしかできなかった。結局のところ彼女の心理――少なくとも殺意がない事――は見透かされて
いたのだ。
部屋の扉が閉められると、今度こそ室内は重苦しい静寂で満たされた。
向ける者も去ってしまった室内で、役目の無くなってしまったスピアを振り下ろすとシェルクは溜め息を
吐き出した。ルーファウスと名乗った男は、話せば話すほどつくづく腹の立つ男だと思った。その一方で、
そう感じる理由が彼の個性だけではないと言う事についても、薄々だが気付き始めていた。
「……ありがとう、シェルク」
不意に背中から聞こえてきた女性の声と、唐突な言葉にはっと顔を上げた。動揺している事を悟られまいと、
そのまま振り返らずに答える。
「あなたに礼を言われる覚えはありません」
「シェルクに覚えが無くても、私が言いたいから言ったのよ?」
「そうですか」
気さくに声をかけてくれる女性の顔を見る事ができなかった。自分を心配してくれている彼女には感謝して
いるのに、なぜだか気まずかった。成り行きとはいえ、心にもないことを――ここにいる人間を皆殺しにする
ぐらい、大した作業にもならない――口にしてしまった事に対する罪悪感と、そんなことを平気で口にできる
自分自身に対する嫌悪感。気まずさの原因はこの辺りだろう。
「気分を害したか?」
シェルクの横にいつの間にか立っていた男に問われ、シェルクは首を振った。
「……問題ありません。ただ、あの男は面白い事を言いますね。
だいたい、この格好で『被害者』と名乗ったところで、説得力に欠けると思いますが」
そう言って身につけていたソルジャースーツを示してシェルクは自嘲するように笑う。このスーツを着た
者達が、各地を襲撃したのは3年ほど前の出来事だ。それに、確かにシェルクも3年前まではそこに属して
いた、その事実は今さら覆せない。
そんなシェルクに向けて、ツォンは意外なことを口にした。
「彼も、あなたと似たような事を言います。『外に出れば私は紛れもなく加害者だ』とね」
「『被害者で居られる時間』……そう言うことですか」
心の中に湧き起こる不快感の正体、その中心を成すものが何であるかを垣間見た様な気がした。
彼も、自分も、結局は同じなのだ。絶対的な加害者であるという立場も、それ故に現実に背を向けようと
する思いも。だからこそ余計に腹立たしい。
今となっては殺す――殺される――価値もない。それは、自分も同じであるのだから。
----------
・短いですが保守がてら。
GJすぎるほどGJ!ルーファウスがめっちゃ憎たらしいw
続ききてた!GJ――――っ!
本当にルーファウスがらしいくてイイ!
ルーファスは一応世界復活の為に動いているのに、
いまひとつ信用出来ない所が感じがイイ!
登場人物達がぞくぞく集まって来て、
どういうラストになるのかとてもwktkです。
すいません、「オペラ座〜」書いている者です。ご無沙汰しております。
どなたか、セリスがマリアの身代わりになった
あの舞台の登場人物とストーリーを教えて頂けないでしょうか。
調べてみたのですがそれらしい記述が見つけられず、
質問スレで尋ねるのもスレ違いだし…と悶々としております。
ここもスレ違いで大変申し訳ないのですが、続きが書けないでおります。
どなたか、どうぞよろしくお願い致します。
>>519 早速のレスありがとうございました。ようつべは盲点でした!
お陰で続きを書く事が出来ます。思い切ってお尋ねしてよかった…
近々、投下に参りますねノシ
本当にありがとうございました。
ガンガレ
前話:
>>512-514 ----------
「……シェルク」
名を呼ばれて見上げれば、思い詰めたような表情のツォンと目が合った。やがて彼は重い口を開くとこんな
事を言った。
「君の指摘したとおり、確かにこの事態が収束を迎えた後の利害までは一致していないかも知れない。しかし、
社長と私の目的も同じところにあるとは限らない。……つまり、私にもまた“ここにいる”目的がある」
どうやら彼は、先ほど答えられなかった問いの事を言っているらしかった。律儀というか生真面目というか
――ディープグラウンドでは生きて行けないような性格の持ち主だと、シェルクは今さらながら思うのだった。
ツォンはいったん言葉を切ると、椅子に座ってこちらに顔を向けていた女性の方を振り向いて先を続けた。
「今回はすまないな、意図せずここまで君を巻き込む事になってしまった。しかしこれは任務ではない、任意だ。
だからこれ以上、無理をする必要はない」
向けられた言葉に最初こそ言葉を失っていた彼女だったが、やがて笑顔を浮かべるとこう切り返す。
「先輩がそうであるように、私もここにいる目的があるんですよ」立ち上がると、ふたりの方へ近づきながら
さらに続けた。「少なくとも私は、このままW.R.Oが無くなってしまうことを望んでません。それに、ここまで首を
突っ込んだからには最後まで見届けなきゃ、気が収まりませんよ」
任務ではなく任意だと言うのなら、なおさらだと付け加えて彼女は笑った。
そしてふたりの前まで来ると足を止め、それぞれの顔を見つめて言う。
「私は今回の騒動の真相を知りたい。一体誰が、何のために、こんな事を起こしたのか?
……自分が所属する組織が無くなって、いちばん戸惑うのは誰だと思います?」
彼女の顔から、笑みは消えていた。
今からおよそ6年前――社長の暗殺、ウェポンの襲来、幹部の暴走――神羅カンパニーを立て続けに襲った
災厄は、まるで魔晄エネルギーの代償とでも言うように、ひとつの都市もろとも神羅自身を破滅へと追いやった。
それは過去に行ってきた非道の報い、あるいは過ちに対する償いだったとしても、多くの善良な社員やミッドガル
住民にとっては拠を失う結果となった。
それは神羅が星や人々から奪った物が多かった一方で、同じだけの物を生み出してきた事を意味している。
たとえばそれは、人々が望む豊かな生活を支える魔晄エネルギー利用技術であり、都市住民の秩序。
彼女は――当時の神羅カンパニー総務部調査課構成員として――拠を失う苦しみを知る、多くの者の一人
だった。
「ごめんなさいシェルク。あなたに協力したいって思うのは私の個人的な感情からよ。この先どうなるかなんて
分からない。だけど今、私はあなたに協力したい……こんな理由じゃ、ダメかしら?」
思いがけず問われて、今度はシェルクが返答をためらった。だいたい、彼女が謝らなければならない理由
など何もない。
「いいえ」
短く言って、シェルクは首を横に振る。
こんな時、なんと言葉を返したらいいだろう? 頭の中で必死に考えながら。
「私も似たようなものです。『SNDの実施に耐えうる設備を利用する』……それがここへ来た目的です。
ですが、SNDで果たそうとしている事は……」
そこまで言ったシェルクの言葉を遮るように、ツォンが首を振る。
「……回り道をしたが、これから我々の取るべき行動ははっきりした。今はそれで充分だ」
「そうですね!」
明るい笑顔で頷いた女性につられるように、シェルクもまた小さく笑顔を浮かべた。
「まず我々が目指すのは、現状起きている騒動を収束させること」ツォンの言葉に女性が続く。「とにかく
飛空艇師団の空爆を阻止する事、これが最優先事項ですね」
女性の言葉にツォンが頷く姿を見届けてから、さらに彼女はこう続けた。
「次に、この騒動の原因を突き止める事ね」今度はシェルクがそこに続く。「そこには少なからず『システムの
星還』という謎のデータが関係しているはずです。その正体も重要な手がかりになるでしょう」
シェルクの言葉に女性が頷く姿を見届けてから、さらにシェルクは続けた。
「……その為のSNDです」
SND、正式名称をセンシティブ・ネット・ダイブ。要するにユーザー自身の意識と感覚を保ったままネット
ワークに接続、潜行できるという特殊能力だ。この能力を獲得するために、シェルクは本来手にするべき
多くの平穏な時間と、正常な身体機能、そして心からの笑顔を失った。
生きるために、あるいは必要に迫られて使っていたこの能力を今、ようやく自らの意志で求めた。こんな
日が来るなど、夢にも思わなかった。
「まずはSNDでネットワークに潜行。ここから各地域の中継基地を経由して、全世界のネットワーク端末に
アクセスします。原理としては不可能ではありませんが、本格的なSNDと違い精神レベルへの干渉は恐らく
不可能でしょう」
その言葉に男は納得したように頷いてから、手近にあった端末の前に座ると新たな画面を呼び出した。
もちろん、シェルクの申し出にはリスクが皆無という訳では決してない。SNDで相手の端末を強制的に
オンラインにした上で自身を潜行させる、つまりネットワーク上で起きた現象をダイレクトに、ユーザーが
感覚として得る事は変わらない。何らかの原因で回線が強制的に切断された場合、そこに潜行している
シェルクの身の安全――命の保証はない。魔晄を使用した回復手段がない以上、1つの選択ミスが文字通り
命取りになる危険性をはらんでいる。
「ちょっと待ってシェルク。あなたはそれで大丈夫なの?」
心配そうな表情で問いかける女性に向けて、シェルクは平気だと言う代わりに淡々とこう答えた。
「100パーセントの確証はありませんが、まったく見込みがないものを提案などしません。現状、この方法が
最も有効な手段と考えています。それに」
「……それに?」
言葉の先を促されてシェルクは僅かにためらいながらも、自嘲するように小さく笑んでこう告げた。
「全世界のネットワーク端末を強制的にオンラインにする事で、私の目的の一つが達成できます。
こんな機会、もう二度とないでしょうから」
「目的って……?」
呟きながらシェルクを見下ろす。ほんの少し前まで、その手に握られていた携帯電話の事を思い出すと、
彼女の脳裏には1つの憶測が浮かんだ。それが正しかったのだとシェルクは言葉を続ける。
「一度も返信を寄越さなかった姉の居場所が、端末番号から特定できるかも知れません」
「……あなた、やっぱり」
シェルクが、3年前に死んだはずの姉に送り続けていたメール。しかし一度も“返信がなかった”と彼女は
言った。
通常、使われなくなってしまったアドレスは一定期間を置いてネットワーク上から抹消される。もし仮に、
シェルクの言う通り3年前に宛先人が死亡しているとすれば、送信先メールアドレスは存在しないものとして
差出人の元に“宛先不明”としてメッセージは返信されるはずだった。
一度も返信がない――つまり、宛先のアドレスは今も存在し、そのアドレスの所有者もあるいは……。
その結論に至り、女性の表情が見る間に明るくなった。本当に素直な人なのだろうとシェルクは思いながら、
同時に少しだけ気まずくなって、視線を逸らす。
「……安心してください、私自身の目的はあくまで副次的なものです。第一の目的は侵入者の特定と断片化
ファイルの検索と収集、そして関係者との交信にあります」
それはシェルクの急ごしらえの言い訳だった。その言葉に女性ははっとして振り返る。横にいた男の背中に
慌てて視線を向けたが、彼はモニタを凝視したままでふたりの会話を気に留めていないようだった。
その姿に安堵したように、女性はもう一度シェルクに向き直る。
「バックアップは私達に任せて」
彼女の言葉に圧倒されるようにして頷いたシェルクに、画面から目を離したツォンが見計らったようにこう告げる。
「各地の中継基地の所在地と、仕様リストは揃えてある。飛空艇師団中央管制への侵入経路は今のところ
検索中だ。他にも必要な物があったら言ってくれ」
彼らの手際の良さには付け入る隙がない。
「どう? 私達の仕事、少しは信頼してもらえたかしら?」
誇らしげな表情で問いかける女性を前に、今度こそシェルクは大きく頷くと改めて告げた。
「よろしく……お願いします」
その言葉を口にしたシェルクの身の内から湧き起こる――魔晄とは別の――エネルギーは、これまでに
感じたことの無いほど強いものだった。その正体を探ろうとするよりも先に、シェルクは端末に向かっていた。
----------
・SNDの原理とかその他諸々はもちろん勝手解釈ねつ造の集大成です。
・ここにこんな事を書くと反則かも知れませんが、この『ラストダンジョン』に挑む各人のクリア条件は、
それぞれ別に設定されています。表現しきれるかは分かりませんが、もう暫く続きますです。。。
GJ!いやいや暫くと言わず長く続いて欲しいですよ
頑張ってください!
GJ!
乙
更新乙!
ワクテカ
ほしゅ
ほ
前話:
>>522-526 (場面は
>>216-219/現在地:W.R.O新本部施設地下7階)
----------
周囲を取り巻いていた無数の射撃装置が、まばゆい光の帯と塵を纏いながらフロアタイルもろとも吹き
飛んで行く。その有様を目の当たりにした者は、まるでそれが映画のワンシーンのような、非現実的な
光景を見ることができたはずだ。
放射状に広がった光の帯の中心には、大剣を床に突き刺すクラウドの姿があった。
「……いい加減にしろ、リーブ」
怒りを抑えるようにして告げたクラウドは、ゆっくりと顔を上げる。見据える先にはリーブと、彼に銃口を
向けたまま立ち尽くすヴィンセントがいた。
「俺がやる」
銃口を向けたまま動けずにいたヴィンセントに短く告げた後、クラウドはもう一度リーブに視線を向けた。
ふだんは感情をあまり表に出すことのないクラウドの、明らかな敵意が込められた瞳を向けられても尚、
リーブは顔を背けようとはしなかった。
それどころか、「やれやれ」とでも言いたげに両手を挙げてみせると。
「ようやく重い腰を上げて頂けたようですね。少しばかり時間が掛かりましたが安心しました」
と言った。
「ふざけるな!」
「ふざけていられるほど、私も暇ではないんです」
クラウドの怒りをあっさり受け流して、リーブは首を傾げながら言葉を返す。かつての仲間とはいえ交戦を
宣言したにもかかわらず、隙だらけに見える彼の動作が少し妙に思えた。
それでもクラウドは突き立てた大剣の柄を再び握ると、今度は床を切り裂くようにして振り上げた。
「クラウド!?」発した言葉とほぼ同じタイミングで、ヴィンセントは反射的に床を蹴って飛び上がる。その直後、
彼が立っていた地点に衝撃波が到達すると瞬く間に壁面まで亀裂が入った。巻き上げられた埃が視界の
一部を遮っている間に、クラウドはリーブとの間合いを一気に縮めエレベーターホール前に立つ。
クラウドにしては珍しく――いや、状況から考えればごく自然な行動だったが――怒りに我を忘れている。
宙を滞空する間に、ヴィンセントはそんなことを考えていた。眼下のフロアを見渡しながら、ここまでの状況を
改めて振り返る。
最初、エレベーターでこの階に到着した3人を分断したのは数で勝る射撃装置だった。ヴィンセント以外の
2人はどちらも接近戦向きだから、迎え撃つ方はまず間合いを取ることを考えるだろう。ホールの周囲に配置
された射撃装置の狙いは、恐らくそこにあった。
それからリーブが最初にティファを襲ったのは、こちらの手数を減らすことが目的だと思えた。しかし、
一方でこうなることを事前に予測していたのだろう。クラウドに対する先ほどの口ぶりを聞けば、リーブの狙い
が後者だったように思えてならない。
(リーブ、お前は何を考えている?)
少なくとも今のクラウドは本気だ。たとえ相手がかつて旅路を共にした仲間であったとしても、自分にとって
最も大切な者に危害を加えられたとなれば本気で剣を向けるのは当然だ。その程度のことを、リーブが
考慮に入れていない筈はない。
(……まさか)
片膝をついて静かに着地すると、すぐさま立ち上がりマントを翻して振り返った。数瞬前まで自分が立って
いたエレベーターホール付近には、無惨にも切り刻まれたフロアタイルが積み上がっている。
その横でリーブは僅かに体勢を崩しながらも衝撃を凌いでいた。さらに彼の隣には、大剣を構えたクラウドが
切っ先をリーブに向けて佇んでいた。
(最初からこれが狙いだったと言うのか)
クラウドが剣を持ってリーブと相対すること、その状況を作り出す事こそが彼の狙いだったとしか考えられ
ない。これも憶測の域は出ないが恐らく間違いないはずだ。しかし、そうなるとリーブの目的が分からない。
答えに辿り着いた瞬間に次の疑問が立ちはだかる、まるで複雑な思考迷路に迷い込んだ気分だ。だからと
言って立ち止まる訳にもいかない、このまま動かずにいれば相手の思惑どおりになってしまう。些か強引で
はあるが、力ずくでも現状を打破し迷路の綻びを探すのが脱出への近道だ。
ふたりの立つエレベーターホール前へ向かおうとしたヴィンセントを阻むようにして、射撃装置が四方から
襲いかかった。
とっさに差し向けた銃口からは、肉眼で照準を定めるよりも早く弾丸が放たれる。それらは一発も外れる
事無く襲いかかった射撃装置に命中し、機体は火花を散らしながら機能を停止すると、いくつもの残骸が
音を立ててフロアに散らばった。
それから改めてヴィンセントがエレベーターホールに視線を向けたとき、信じられない光景が目に飛び
込んできた。
----------
・短いですが保守がてら。
うわーーーGJ!
気になってたクラウド・ヴィンセント・ティファ組きたよ!
ティファの安否も気になるがヴィンセントが見た信じられない光景ってナニーー!?
GJ!
乙!
おつおつ
テカテカ
ほ
し
ぞ
ら
の
し
た
で
の
前話:
>>535-537 ----------
「……こうなった以上、やむを得ません」
剣を向けられているとは思えないほど落ち着いた口調で言いながら、リーブは懐に手を入れる。銃でも取り
出すのかと身構えたクラウドだったが、その予測は一部外れた。
彼が取り出したのは銃ではなかったからだ。
「銃とはあまり相性が良くないんです。かといって剣を振るえる訳でもありませんからね」
僅かだが変化した表情からクラウドの内心を察し、彼の疑問に答えるようにしてリーブが告げる。その右手
には黒く細長い物体が幾重にも巻かれていた。形状だけで言えば、電源コードのようにも見えた。プラグらしき
物は見あたらないが、もしかしたら本当に電源コードなのかも知れない。しかし実際はどうあれ、この状況で
取り出された事を考えれば間違いなくコードではなく武器としての用途を果たす物だと判断できる。
「みなさんにお披露目するのは、今回が初めてになりますね。そう考えると少し緊張もしますが――」
先端を右手首に2回ほど巻き付けて固定すると、後は無造作に手を離すとばらり、とそれが床に落ちた。
(鞭か?)
身近に鞭使いこそいなかったが、鞭という武器自体が珍しいとは思わない。ただ、それをリーブが扱うという
のが意外だった。と言うよりも、リーブが戦闘場面に立っているという事自体に違和感があった、という方が
大きいのかも知れない。
「では、時間も迫っていますので始めましょう」
律儀にも宣言してからリーブは小さく右手を動かす。応じるようにしてクラウドも大剣を構えた。
鞭での攻撃――真っ先に思いついたのは、こちらの剣の動きを封じる意図だった。魔法を交えた戦法ならば
話は違ってくるものの、見たところマテリアを装備するような箇所も見あたらない。ならば、剣よりも破壊力で
劣る鞭には分が悪い。しかし敢えてそれを使うメリットがあるとすれば、こちらの武器封じが目的であると考え
るのが妥当だろう。
クラウドは剣を構え直すと、グリップを押し込んで2つ目の剣を取り出すと左手に握った。武器封じが目的で
あるのなら、大剣による一撃の破壊力よりも機動性を重視した方が得策だ。
「……行きます」
言うと同時にリーブは右手を振り上げる。その動きに従って鞭が大きくうねったかと思うと、先端は一直線に
伸びてクラウドに迫る。
思い描いたとおり、それはクラウドの動きを封じるために右手と握られていた剣に絡みつく。リーブが右手を
大きく手前に引くと、両者の間を結ぶ鞭が一直線に伸びた。
こうしてクラウドの動きを封じた一方で、リーブ自身の動作も制限されることになる。クラウドはこうなることを
狙っていた。動かない右手に代わって左手の剣を構え直すと、床を蹴って真っ直ぐにリーブへと向かった。
「本当に素晴らしい運動能力ですね」
リーブは迫り来るクラウドの動きに感心しながらも、どこか他人事のように呟きながら無造作に右手を引き
下ろした。
「っ!?」
その途端、剣を持った右手に走る強烈な痛みに顔をゆがめ、クラウドは失速した。自分の身に何が起きた
のかを理解する前に、目の前のリーブが屈んだことに気付く。
直後、視界に映る景色が半回転した。この不自然な体勢のまま、壁面に叩きつけられる。とっさに受け身を
取ろうとしたが、後頭部を壁面に打ち付けたらしく痛みと共に視界が揺らぎ、そのまま壁の一部と共に床に
崩れ落ちた。
意識こそ失わなかったものの、すぐに立ち上がることができなかったクラウドの拘束された右手から鞭が
引き抜かれるのと同時に、手にしていた剣までも奪われてしまう。それを拾い上げたリーブは「見た目に思う
よりは軽いんですね」と感想を述べてから、手にした大剣をその場に捨て置いた。この時、クラウドはあまりに
も繊細な鞭の動きに気が付く余裕はなかった。
「……残念ですが、あなたの負けです。クラウドさん」
そう告げるとリーブは一度手放した鞭を、天井に突き出たダクトに向けて放り上げた。重力に従って再び
右手に収まった鞭を、次はクラウドに向けた。その気配に気付いたクラウドが顔を上げた瞬間、ようやく気が
付いた。
この鞭は武器封じでもなく、叩きつけるために振るわれているわけでもないのだ。
「……っ!」
空気を切り裂く小さな音が聞こえたかと思うと、それはクラウドの首に絡みついた。確実に相手の急所を
仕留めるようにうごめく、まるで蛇が捕らえた獲物の首を絞めているような――そう、まさにそれは単なる
鞭ではなく、意思を持って動く蛇だ。
そこまで考えたクラウドの脳裏に、ティアの言葉が過ぎった。
――「あな、た……は。……生……きて、……?」
「!?」
鞭があまりにも不自然な動きだと気が付いた頃には、首を庇う為にとっさに挟み込んだ右手もろとも天井
から吊されている状態だった。支点となるダクトが、まるで重みに耐えかねて悲鳴を上げたように軋んでいた。
「ま、さ……か」
そうですと頷いてから、リーブは答えた。
「私の持っているインスパイアという能力には、無機物を意のままに操れるという特性があります。これを
活かすためには、柔軟性に優れた武器が最適なのではないかと考えました。残念ながら銃や剣で、それは
実現できませんからね。ですから私と一番相性が良いのは、これだったのです」
持ち主の言葉に呼応するように、クラウドの首に巻き付いている鞭がゆっくりと波打つ。自らのことを「実戦
用に配備された“人形”」だと語った目の前のリーブには、迷いや躊躇いとは無縁なのかも知れない。表情
ひとつ変えずに淡々と語りながら、かつての仲間を手にかける。
その一方で、この人形を操作しているのがリーブ本人であるとしたら、どうしても分からない。
「……な、ぜ?」
こんな事をするのかとクラウドは問う。いくら考えても、リーブ本人の意図が見えて来なかった。
クラウドにとって彼は6年前、ジェノバ戦役と呼ばれる戦いの中で旅路を共にした仲間だった。厳密に言えば
一緒に旅をしたのはケット・シーでありリーブ本人ではなかった。しかし、そのケット・シーを操り行動を共に
してきたのはリーブ自身の意志だったのだと信じている。
最初こそ卑劣だと罵ったマリンを人質としての同行交渉も、後になって考えてみれば負傷者を出さずに場を
切り抜ける周到な手段だったのだ。さらに、当時神羅カンパニーの重役だったリーブがマリンを「人質」だと
言えば、神羅側もマリン達には容易に手を出すことができない。反神羅テロ組織アバランチのリーダー、
バレットの娘という立場にあったマリンの身を、リーブは人知れず守っていたのだ。
その後ティファが神羅に捕まってしまった時も、脱出の手助けをしてくれたのはケット・シーを操るリーブ
だった。彼の誘導がなければ、ティファはあのまま助からなかっただろう。
ついにはミッドガルを救いたい一心で、神羅の重役連中と袂を分かち救援を求めたことも。
北の大空洞に赴くあの日。リーブが立つことを選んだのは飛空艇ハイウィンドではなく、ミッドガルの大地
だった事も。
こうして考えてみると、仲間達の中で最も読めないのはケット・シーの向こうにいるリーブの意図だった。
一見するとちぐはぐに見える彼の行動には、すべてに目的という終着点が存在する。そして彼の目的の多くが
――マリンやミッドガル住民がそうであったように――その場では見えない“誰か”を救うためのものだった。
となれば今のこの状況も、リーブが考える「目的」の為の手段なのだろう。自分達に武器を向けている理由、
まして建造中のW.R.O新本部施設へわざわざ招いたほどだ、リーブの真意は全く別のところにある。クラウドは
そう確信していた。
しかし、その目的が何であるか? 残念ながらまったく見当も付かない。だから直接訊くしかなかった。
それに対してリーブが真意を明らかにするか否かは別として、クラウドにはそうすることしかできなかった。
言葉での返答を期待できないとなれば、こうするより他に方法を知らなかった。だから答えを聞き出すまでは
――仲間である以上、もしかしたら聞き出したとしても――リーブの言ったとおりクラウドの「負け」は最初から
決まっていたのだ。
右手が痺れて徐々に感覚が失われていく。だからといってこの手に込める力を緩めれば、感覚どころか
意識を失いかねない。苦痛に耐えながら、どうするのが最良の方法なのかを必死で考えようとした。
そんなクラウドを見つめながら、リーブは表情を変えないままで答えた。
「最初に申し上げたとおり、私の本意をみなさんにお伝えしたところで、みなさんの理解や納得を得られるとは
思っていません。なにより、それが目的でもありません」
そう言ってから、ほんの少し間を置いて。
「……もし、私の本意を知りたいのならばお教えします。
少なくともそれは、今あなたの考えている様な事ではありません。
その逆こそが、あなたの求める答えであり私の本意です。ですが、それは」
言うのと同時にリーブはさらに右手を引くと、負荷に耐えきれなかったのか巨大な金属音と共に天井の
ダクトが割れた。クラウドの拘束が解かれるのと同時に支えを失い振り落とされる。割れたダクトの破片が
降り注ぐ中、体が床面に触れる直前、今度は床が大きく歪んだように見えた。
----------
・文中で伝え切れたかが不安なので添え書きすると、今回のクラウドは
∧||∧
( ⌒ ヽ
∪ ノ
∪∪
…こういう状態だったわけですね。
・これ、たぶん相手がティファなら間違いなくセクハラです。
・書いた人はダリル(FF6)が大好きです。
GJ!
ヴィンセント、クラウド助けてやれよw
GJ!
乙!
おつおつ
ワクテカ
ho
ぼ
ま
り
も
FF5の小説考えたんでうpしようかと来たんだがすでに別の職人さんが現行中のようで(´・ω・`)
1作品/作者の単独スレじゃないから書いたら投下すればいいよ。
前もそんな話が出てた気がする、次スレ立てるときテンプレに加えといた方が良さそう?
>SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
いつでもどうぞー
570 :
567 ◆cAvkfxtviQ :2007/07/19(木) 23:13:56 ID:UpYCgZwq0
理解した
じゃあとりあえずコテ鳥つけて準備だけしときま
sage進行であげちまったスマソ
予告みたいなもんだけ作ったのでうp
光の戦士達が暗黒魔道師エクスデスを打ち倒し、世界とクリスタルを救った戦いからおよそ五十年。
英雄として崇められた戦士、バッツ・クラウザーの拾い子として彼に育てられ、力を受け継いだ青年ケリーは、旅の途中であるレジスタンス組織に拾われる。
その組織のリーダーは、かつての光の戦士であり、タイクーンを納めていた女王レナ・S・タイクーンの孫にあたるメアリーという少女だった。
王族を暗殺し、国民を騙して影から国を支配する謎の集団、「タイラント」から国を奪還すべく、力を蓄えていた。
そんな中、突如クリスタルが異様な光を放ち始める。クリスタルの中に写り込んでいたのは、謎の男の姿と無数の魔物達であった。
世界の危機を察知したケリーは、父代わりであった師匠バッツの志を受け継ぎ、光の戦士の血を受け継ぐメアリー・マリア・タイクーン、ウェアウルフと人間の混血児である親友ケルヴィン・ウォルフガンクと共に、原因究明のために動き出す。
クリスタルと世界、そして神々をも巻き込む戦いが始まる──。
余談だけど、俺はOVAのFFやDS版のFF5やってないのでその辺りの設定は完全無視です。
簡単な人物設定紹介
・ケリー(ケリー・クラウザー)
バッツが旅の途中で拾った捨て子。二十歳。
バッツの戦闘技術と志を受け継いだ唯一の人物。彼と同じくあらゆる武器を使いこなすが、普段は刀を得意としている。
普段の軽い言動とは裏腹に、世界を救った父を誇りに思っており、また非常に仲間を思いやる。
なぜかダンスが得意だが、これは「王族の女と踊れるくらいにはなっておけ」という意味不明なバッツの言葉のもと(無理矢理)練習させられた賜物。
全てを見ようとする探究心、いいのか悪いのかわからない女運もしっかりと受け継いだ模様。
・メアリー・マリア・タイクーン
レナの孫に当たる少女。十八歳。
母と祖母が暗殺され、謎の組織に利用されているタイクーンを取り戻すために奮闘する。
祖母譲りの美しさと、幼少期の育ての親であるファリス譲りの気の強さを併せ持ち、なおかつワガママというじゃじゃ馬。
しかしその奥に秘められた慈しみと思いやりに惹かれるものは多く、人望は厚い。
彼女もまた、世界を救った光の戦士を尊敬している。
・ケルヴィン・ウォルフガンク
ケリーが旅の途中で出会った青年。二十一歳。自らの肉体を駆使して戦う。
普段は人間の姿そのものであるが、「獣化」することにより、ウェアウルフの姿となり、真の力を発揮できる。
獣のような柔軟性と野生の勘を持っていて、たとえ相手が武器を持っていてもそれをかわし、一撃を叩き込める接近戦を得意とする。
荒々しい闘い方や見た目と反比例しておちついた性格。しかし田舎者扱いされることを嫌い、無理してハイカラな話題を振ろうとしては墓穴を掘る。
・バッツ・クラウザー
世界を救った光の戦士の一人。
大戦後は相変わらず世界を放浪していたが、ケリーを拾った直後に足を悪くし、その後は故郷のリックスの村で隠居生活を送る。
ケリーに戦い方と志を教え、テストと称した彼との一騎打ちの後に死亡。老体に鞭打ってまで尚、「次の世代」に大切なものを残すために生き抜いた。
・レナ・シャルロット・タイクーン
世界を救った光の戦士の一人。
大戦後はタイクーンの女王の座についた。
一人の男性との間に娘を設けるが男性は病死。以後は一人で国を治めた。
五年ほど前、謎の集団「タイラント」に、レナの孫にあたるメアリーを残して王族は皆暗殺され、彼女も殺されてしまった。
・ファリス・シェルヴィッツ(サリサ・シュヴィール・タイクーン)
世界を救った光の戦士の一人。
一時期レナと共にタイクーンに戻ったが、城での生活が称にあわなかったため国を抜け、トゥールで造船業を開業、発展させた。
それでもタイクーンやかつての海賊達との交流はあったようで、追われてきたメアリーやタイクーンの人々を受け入れ、メアリー達の組織はかつてのファリスのアジトを拠点にしている。
メアリーの戦い方は彼女譲りで、ダガーや剣を武器に闘う。
乙
ガンガレ!
>>567 ◆cAvkfxtviQ
バルデシオンとサーゲイト(両方とも王家だった…はず)が絡んできたら面白そう。(サーゲイトは君主不在か)
FF5ED後の勢力図にも個人的には興味がある。
…と、予備知識無しにギルガメに遭遇後1時間半かけて全滅して以来FF5を起動してない根性無しが申しておりますw
完結目指して頑張れ。
前話:
>>552-556 ----------
音もなく床面が大きく隆起したかと思うと、中心には巨大な穴が現れた。そこら中に散らばった射撃装置の
残骸や、積み上げられたフロアタイルの破片もろとも、次々に穴の中へと吸い込まれていく。その光景を例える
なら、海面に現れたクジラが大きく口を開けて周囲の海水ごと小魚を飲み込み捕食する姿に似ている。
こうしてクラウドは文字通り床に開いた口に飲み込まれて行った。
瞬きをする間もなく、その口は再び音もなく閉じられフロアから跡形もなく姿を消した。後に残された
ヴィンセントの目に映ったのは、何事もなかったかのように広がるエレベーターホールの風景だった。見る
限りフロアタイルも、ここへ到着した当初と同じ元の整った状態に戻っている。
それはほんの一瞬の出来事で、恐らく床に飲み込まれたクラウド自身、自分の身に何が起きたのかを理解
する暇は無かっただろう。こうして一部始終を目の当たりにしたヴィンセントでさえ、状況を把握――あまりにも
想像を絶する現実を前にして、理性でそれを認識――するのに、時間を要したほどである。
「ただ見ているだけで……クラウドさんを助けなくても宜しかったんですか?」
半ば呆然とするヴィンセントに向けてリーブが問う。確かに彼の言うことも尤もだったが、今し方目の前で
展開されたとんでもない現象について気にしている様子はなかった。察するところ、この“仕掛け”もリーブの
仕業なのだろう。その原理について考えを巡らせる気も問いただす気も起きなかったので、ヴィンセントは
素直に質問に対する答えだけを返すことにした。
「お前の目的はクラウドに剣をとらせる事であって、命を奪うことではなかった。少なくとも私にはそう見えたが?
ならば手を貸す必要はないだろう」
もっともあの状態でクラウドは実力の半分も出し切れていない、しかも防戦どころか正面からまともに攻撃を
受けるばかりだった。一時の感情にまかせ剣を向けたところで、クラウドが本気でリーブに危害を加える動機には
足らなかったのだ。
その一方でリーブは、クラウドに刺せるとどめを刺さなかった。その結果を見ればリーブの側にも殺意どころか
戦意がない事は考えるまでもなかった。
「ご明察の通りです」そう言ってから、ヴィンセントの方に顔だけを向けるとリーブはこう続けた。「このフロアに
配置された射撃装置も、私が最初にティファさんに仕掛けた事も。あなたはこちらの狙いにすべて気付いて
らっしゃるのでしょう?」
「…………」
ヴィンセントは答えなかった。それを肯定と取ってリーブは彼の方に向き直ると話の先を続けた。
「おふたりから頂いた質問にお答えしておきましょう。私の目的は他でもない、みなさんの力をお借りする事です。
それも“全力”をお借りしたいのです。その為に、もう少しだけ本気になって頂く必要がありました」
「……全力、だと?」
リーブの口から出たその言葉にようやく納得がいった。クラウドに剣をとらせる――本気、と言うよりは彼の
怒りを煽る――最も効果的な方法をリーブは心得ていた。そして、それを忠実に実行したのだ。
「いったい何を企んでいる?」
その質問に答える代わりに、リーブはエレベーターに身体を向けた。
「下で皆さんがそろい次第、私自身の口から直接お話し致します」言いながら、ヴィンセントにエレベーターへ
乗るようにと手で促す。明らかに何かを含んだ物言いが腑に落ちなかったが、ティファとクラウドの事が気がかり
だったのも事実だ。この場合、ひとまず下のフロアへおりるという選択肢は妥当だと判断し、ヴィンセントは
エレベーターへ向かって歩き出した。
途中、リーブとすれ違いざま足を止めずにヴィンセントが告げる。
「……望まれたから……」
「はい?」
注意して耳を傾けなければ聞こえない、そんな小さな声が紡ぎ出した言葉の断片を拾ったリーブは、
ヴィンセントの背中に向けて問い返す。エレベーターの前で立ち止まると、足下を見つめながらヴィンセントは
改めてこう言った。
「どんな形であれ世に生まれ出ることを望まれた。そしてどんな目的であれ、存在することを本人が望んだ。
その結果として、すべての生命は地上に在る」
――「死ぬことを前提に生み出された生命。
それではなぜ、私は今ここにいるのでしょう? なぜ生み出されてしまったのでしょう?」
「それに死が前提となっているのは……一部の例外を除けば皆同じだ」
唐突にリーブから問われてとっさに答えが出てこなかった。ただそれだけで、答えが分からなかった訳では
ない。リーブ同様、フロアを去る前にヴィンセントも質問に対する自らの答えを示したのだ。
「反論があるなら、後で本人の口から直接聞くとしよう」
どんな経緯であれ、望まれずに産まれる命はない。それは感情を持たなくとも生物に等しく備わった本能と
して機能する。本能の他にさらに感情を持つ生物であれば尚更、望むからこそ命が産まれる。それがたとえ
実験であったとしても、取り返しのつかない過ちを発端にしていたのだとしても。形はどうであれ、あるいは
ほんの一時であったとしても子の誕生を親が望んだからこその結果なのだ。そしてその子は、世を恨むという
動機であっても自らの生を望んだからこそ、この世に存在していたのだ。そんな者達の姿を、ヴィンセントは
自身の目で見てきた。
なにより、たとえその身に異質な生命を宿したのだとしても、そこに「生きて欲しい」という願いが込められて
いた。彼女の願いに応じて、今ここに立つまでに至った――それが、ヴィンセントが身をもって知った答えだった。
エレベーターの扉が開く間際、言葉に出すことの無かったヴィンセントの思いを打ち消すようにしてフロアに
二発の銃声が響き渡った。ほぼ同時に放たれたうちの一発が、エレベーター横の壁に弾痕を作る。
火薬の炸裂音を聞くよりも早く右腕は銃を掲げ、指は引き金を引いていた。自分の背中に向けて引き金を
引こうとした対象めがけて、放たれた弾丸は寸分の狂いもなく目標の額を撃ち抜いた。それは厳しい訓練と
生死をかけた実戦に長年身を置く中で、もはや思考とは別に肉体に染みついてしまった習慣だった。それは
幾度となくヴィンセント自身を救って来た一方で、今回ばかりは染みついた習慣を呪わずにはいられなかった。
エレベーターの扉が開き、フロア到着を知らせるべく場にそぐわない機械音が鳴った。しかしその音を気に
留める者は誰もいなかった。
「リーブ!」
駆け寄ろうとするヴィンセントに、リーブはぎこちなく首を動かすと無表情のままの顔を向けた。額から流れて
いたのは血よりも鮮やかな色の液体だった。やがて支えきれなくなったのか右手に握っていた銃が床に落ちる。
これほどの深手を負いながらも表情一つ変えずに直立したままの様相を前にして、僅かだが戸惑った。
その様子を察し、リーブはこう言った。
「最初に……言いました私は『人形』です」
「なぜだ? なぜ撃った!?」
「私がインスパイアの制御下から外れるためにはこの方法しかない」
何かを言いかけたヴィンセントを遮って、リーブは一方的に話を続ける。
「ヴィンセント時間がない今まだ私の意識があるうちに伝えたい。
この下で待っているのは“私”ではない“私”の望んだ事とリーブの望みは違うどうか」
「リーブ?」言葉の中にある違和感に気付いてヴィンセントが声をあげた。直後、リーブはバランスを崩し
フロアに倒れた。言いようのない鈍い音と共に、側頭部が変形し醜い姿を晒す。それでも尚、人形は語り続けた。
「彼を救、てほしい。それ、ガ……ワタシの、ノ」
すべてを言い終えないうちに声は途切れ、口元が痙攣するように何度か動いてから横たわったリーブは
やがて完全に機能を停止した。
「……望み、だと?」
すべてを聞けなかった言葉の最後を問いながら、ヴィンセントは無意識に肘をついて額に手を添えると
黙祷を捧げる。目の前に横たわるのが人形であり当人は別の場所にいるのだとしても、目の前の死には
変わりない。
リーブによって生命を吹き込まれた人形、その人形が望んだものが何であるのか?
能力者であり自分を生み出したリーブとは異なる望みを、ヴィンセントに託した意図はどこにある?
今は見えないその答えと、仲間達の後を追ってヴィンセントはさらに地下深くへと向かうべく、待機していた
エレベーターへと乗り込んだ。最下層を示すボタンを押して扉が閉まりきるその瞬間まで、彼は横たわった
リーブの姿を見つめていた。
----------
・ジュノンにはイルカがいたからクジラもいる…よなあ。
・建造中のWRO入り口の表札下に書かれてる成分表には、
「この建物は100%無機物でできています」って書かれてるという噂(そんなアホなw)
・こんな展開でごめんw
GJ!!
怒涛の展開でGJ!
「この建物は100%無機物でできています」ってことは建物全部をインスパイアですかw
リーブの不思議なダンジョンinWRO新本部を、クラウド達は無事クリア出来るのか。
GJーーーーーッ!!!
相変わらず続きが気になってしょうがない
古の時代、この世界は二つに分けられていた。
千年ほど前に世界に出現した暗黒魔道師エヌオー。彼の者が手中に収めようとした膨大な力、全てを飲み込む「無」の力を次元の狭間に封印するためであった。
エヌオーは十二の武器と呼ばれる武具を以ってして打ち倒されたが、残された「無」の力は世界を飲み込み続けたのである。
世界を支えていた四つのクリスタルをそれぞれ二つに分かち、分断された世界の狭間に無の力を押し込めることによって平和は取り戻された。
そしてその脅威は、一本の木から発生した暗黒魔道師エクスデスによって再現されることになる。
二つの世界のクリスタルを砕くことにより世界を真の姿へと戻し、無の力を手に入れて世界を脅かした。
しかし、クリスタルの光に導かれた戦士達の活躍によりエクスデスは倒れ、二度にわたる無の脅威から世界を救ったのである。
エクスデスが消滅してから五十年経った今も、彼ら「光の戦士達」の活躍は英雄譚として世界に広まり、語り継がれている──。
造船の街トゥール。
かつては静かで小さな村だったが、ここ数十年で造船産業を発展させ大きな町になった。町の東に広がる内海だけでなく、今や世界中の海でトゥール製の船が使用されている。また、近年では冒険者達の憩いの場としても有名になり、貿易や情報交換の中心になりつつあった。
そのトゥールの町に、とある青年がたどり着いたのが、丁度今朝方のことになる。綺麗な黄金色の羽を有したチョコボに騎乗し、腰には一振りの刀を携帯していた。
「なんだなんだ?」
「でっけー鳥だなあ……」
「街中でチョコボなんか走らせるんじゃねえよ」
「朝からお急ぎなこった」
町の住人が様々な言葉を交わす中、青年は宿屋の前まで走り、チョコボを停めた。
「チョコ、ここで待っててくれ」
チョコと呼ばれたチョコボはその大きな嘴を、先ほどまで背中にまたがっていた青年の胸にに擦り付け、クルクルと鳴いた。
「いらっしゃいませ」
一階が酒場になっているその宿屋は、村だった頃からここに建っている古い宿だった。近頃改装でもしたのか、どうして店の歴史の割には小奇麗な内装になっている。
まだ酒場が開店していないせいもあって、朝早くから酒を飲んでいるものはみかけないが、それでも朝食を摂るレストラン代わりに利用している客がちらほらとみられる。
「おや、あんた確か」
入ってきた青年を見てカウンターで酒場の準備をしていた男性が青年に声をかけた。
「ようジーンのおっさん、久しぶりだな」
青年は気さくに右手をあげ、挨拶を振る。
「ああ、よおく覚えてるぞお前のことは。なんせ店をめちゃくちゃにしてくれた男だからな」
ジーンと呼ばれた男性は、口の周りのヒゲを触りながら笑う。
「それで俺は一ヶ月雑用にこき使われたんだっけな」
二人してゲラゲラと笑う。
「あっ!ケリーだ!」
笑い声を聞きつけてひょっこり顔を出したのは、小さな女の子だった。
「おっ、エマじゃねえか、でっかくなったな。俺の名前覚えててくれたのか」
青年──ケリーは駆け寄ってきた女の子を抱きかかえて微笑む。
「いっぱい久しぶりだねっ!」
「ああ、いっぱい久しぶりだ」
エマは顔全体で笑顔を作る。ケリーはエマの長くて綺麗な髪をくしゃりと撫でた。
「今日は泊まりか?」
「ああ、知り合いとの待ち合わせがあるんだよ。二、三日厄介になる」
「もしかしてそいつって」
「その通り」
ケリーとジーンはにやにやと笑いあう。
「ねえケリー、チョコは?チョコは?」
ケリーの腰をくいくいと引っ張りながらエマが尋ねた。
「表にいるよ。あいつもお前と会うのを楽しみにしてた筈だ、会いにいってやってくれ」
「わあっ」
とことこと元気に走っていくエマの後姿を、ケリーがみつめる。
「今年で六つさ。半年前二番目が生まれてしっかり者になってきたよ」
「一年前からしっかりしてたじゃないか。雑用の俺の尻をひっぱたくくらい」
「ちげえねえ。で、おめえさんの部屋は一年前と同じでいいか?」
「ああ、空いてるならあそこでいい。それと厩も借りたいんだけど」
「わかった、そっちはサービスしといてやる」
その時、扉のところからエマの声が飛んできた。
「ちょっとなにすんのよ!」
「うるせえ!朝からガキがチョロチョロしてんじゃねえよ!」
どかどかと入ってきたのは、いかにもという感じの男が四人ほど。四人とも顔が赤いところを見ると酒が入っているようだ。
ケリーがジーンに目配せする。
「よくいるんだよああいうのが、者が多くなってきたからな。儲けも増えたが、厄介ごとも増えたってことだ」
──難儀なことだな。
ケリーがそうつぶやくと、ジーンはセールス・フェイスを作りながら男達に近寄る。
「あの、娘がなにか粗相をしましたでしょうか?」
「いやなに。扉の前で汚ねえチョコボなんかとあそんでやがったから、ね。客としては出入り口の前なんかで遊ばれてちゃ通行の邪魔になるわけで」
「しかも客にたいしてなんの挨拶もなしにねえ」
「ちょっと通るときにどいてもらっただけさ」
不機嫌そうに、だがどこかわざとらしくて嫌味に笑いながら、男達はエマを見下ろす。
エマはジーンの後ろでズボンにしがみつきながら男達を睨んでいる。
「申し訳ございませんお客様。娘にはよく言っておきます」
ジーンが深々と頭をさげる。
「……違うもん」
エマが泣きそうな声でつぶやいた。
「……確かにあそんでたけど、あたしどいたもん。いらっしゃいませってちゃんとお辞儀したもん」
「エマ、話ならあとで聞くから、お客様に謝るんだ」
ジーンは困った顔でエマに言うが、エマは頑なに謝ろうとしない。ただジーンの後ろで泣きそうな顔をするだけだった。
勿論ジーンも、自分の娘が嘘をついているとは思ってない。おおかた朝から酔っ払った四人組が、幼いエマをからかっただけなのだろう。だが目の前の男達が客である以上、商売人は下手にでなければならない。
「こりゃあ、躾がなってないお子様だ。どれ、俺達がちょいと躾けてやるか」
四人組の一人がエマの頭に手を伸ばす。
「う」
男の首筋には白銀の刃がピタリとつけられていた。
「子供にいちいち気をたてるもんじゃないぜ」
いつのまに移動したのか、四人組の後ろには抜き身の刀を手にしたケリーが立っていた。
「なんだ貴様ぁ」
「他人様はひっこんでろ!」
他の三人が拳や手に握りこんでいた隠し武器を振り上げ、ケリーに立ち向かう。
酔っ払いとはいえ、その一撃が凶器であることには変わりない。この者達とて、街の外に蔓延る魔物達相手に生き残り、街まで辿りついた冒険者達。それは男達の体格を観察したケリーもジーンも分かりきったこと。
だがその三人の一撃も、ケリーという青年にとっては何の意味もなかった。
男達の頭を刀の腹で打ち据え、彼らの攻撃が降り注ぐ前に落とした。そしてまた再び残った男の首筋に刀をつきつける。
「昔ここで暴れた時に店をめちゃくちゃにしちまったからな。出来ればここじゃ暴れたくないんだが……あんたも寝るか?」
ふるふると男は首をかすかに横にふった。
男達は引き上げ、ケリーは抜いていた刀を鞘に納める。
「怪我ないか?」
ケリーはしゃがんでエマの頭をなでる。
「うん、ないよ」
ややこわばった顔でエマが答える。
「……ふう。一時はどうなることかと思ったが」
ジーンは額にかいた冷や汗を拭いながら言った。
「ありがとよケリー。すまねえなケリー、商売柄理不尽だと分かっててもこっちが頭をさげなくちゃいけねえ」
「謝る相手が違うんじゃないのか?」
「ああ──そうだな。ごめんなエマ、父ちゃんおまえが何にも悪くないのは分かってたんだ」
ジーンはエマを抱き上げて微笑む。
泣きそうな目をぐしぐしと擦り、エマはうんと頷いた。
「貴方、やるじゃない」
突然、店内の端で朝食を摂っていた女が立ち上がり、ケリーのところまで歩いてきた。
声をかけられて、ケリーは女を見てはっとした。
四肢は細く、だが引き締まった体つき。歩き方からして無駄の少ない動き。相手を射抜くような強い意志を秘めた瞳。そして何よりもそのまだあどけなさを残した整った顔立ちは世辞抜きに美しい。
だがケリーがおどろいたのはそこではなかった。
(似ている──)
女は初対面のケリーを品定めでもするかのように見る。
(似てはいるが──)
まさか。話に聞いている女性はもっとしとやかだ。この女はたしかに外見こそ似てはいるが……雰囲気からして女性らしくない、がさつだった。
「男四人のうち三人を一瞬で仕留めて、残った奴を凄みと睨みだけで追い払うなんて。貴方傭兵か何か?」
「いいや。むしろ冒険者とか旅人と言って欲しいな」
「そう」
女はまだ品定めをやめようとはしない。
じろじろと見られてはあまり気分のいいものではない。業を煮やして、ケリーから質問をした。
「あんた何者だ?」
「女性に向かってあんた、はないでしょ?失礼だと思わない?」
思わずケリーはため息を漏らす。
どっちが失礼だ。
「いいわ。貴方ちょっとその剣の腕、私に売らない?」
さりげなく、女はとんでもないことを言い出した。剣の腕を買う、つまりケリーを雇うということ。
「……どういうこった?」
「ここじゃ多くは話せないわ、場所を変えて話をしたいんだけど?」
どうやら厄介ごとに手招きされているらしい。ここで断っておけば妙なことに首を突っ込むことにはならないのだが。
「──いいぜ。話を聞こうじゃない」
面白そうなことに首を突っ込むのが好きなこの男は首をかしげながらも承諾した。
女は満足そうにうんうんと頷く。
「貴方名前は?」
「俺はケリー。ケリー・クラウザー」
「あたしはメアリー……、メアリー・マリアよ。あんたの剣の腕、期待してるからね」
まだ事が決まっていないにも関わらず、女──メアリーは自分の中で勝手に進めているようだった。
------------------------------------------------------------------------------------
・酒場での小競り合い 王道を通り越してベタなシチュだけど個人的に大好き。
・エマが泣きそうになる表情を妄想しながら書いてたらなんか萌えました(*´∀`)
・拙い文章ですが、どうかよろしくおねがいしますm(-ω-)m
おつおつ
続き待ってるよー!
テカテカ
ほ
ぼまりもんば
る
ふ
>>587-593 酒場と言えば出会い!ワクワクする展開で良いですね。続き期待sage。
エマの「いっぱい久しぶりだね」が可愛くて仕方ないw
前話
>>305-309 時間軸はFF7Disc1
----------
私は動かしていた手を休めると、画面上に整然と並んだ文字の羅列をぼんやりと目で追っていた。
ある規則性に従って割り当てられたアルファベットと数字を組み合わせて作られたこれらの文字列は、
1つ1つがミッドガルの住民に割り当てたIDだった。プレート上の住宅区画とプレート下のスラム街、居住
している場所を問わず、この都市に住むすべての住民がこのIDを所有している。逆に言えばこのIDは、
所有者をミッドガル住民であると証明するものだった。
目の前の画面上に並べられているIDは、先日の重役会議での決議――七番プレート支柱破壊――以降、
ID検知システムが追跡できずに『消息不明』と判定したIDだった。
消息不明とはしているが、実質的にあの状況では恐らく生存は絶望的だろう。一方で我々には、彼らの
死亡を確認する手だてさえ無いに等しかった。
――「しかもプレート下じゃあ逃げ惑う人々が虫けらみたいに潰されてるのよ? 最高ね」
スカーレットの高笑いと共に、彼女の語った言葉が鮮やかに脳裏に蘇った。凄惨な光景を目の当たりに
しながらも、その様子を楽しげに語って聞かせたスカーレットに対し改めて嫌悪を抱くのと同時に、自分の
陋劣さに嫌気がさした。
私は目の前の画面上で作業をしていた。それは七番街プレート支柱爆破によって被ったあらゆる損失を、
数値化するという作業だった。並べられたIDには本来、それぞれの所有者が存在した。それはつまり、1つ
1つが失われた尊い命であり、本来であればここにはIDナンバーではなく所有者――生命の持つ名が
記されるべきだった。画面に並んだIDは相当数あったが、検索システムを使えばIDと所有者名の照合は
容易にできた。にもかかわらず、私はそれをしなかった。
作業の効率や目的から考えて、「必要がない」と判断したからだった。
文字列に置き換えられた命の数をかぞえ、それを金銭に換算する。
それが今の私にとって急務だったからだ。同時に、そんなことを平然とこなしている私は鬼畜だ。形こそ
違えど、今やっていることは瓦礫と死体の山を前に値踏みしているのと同じなのだから。あれだけ嫌悪して
いた筈のスカーレットの方が、よほど人間味があると思えた。事実、私は既に人間ではないのかも知れない。
それでも私にはそうする事しかできなかった。失われた命が再生する訳ではないと知りながら、
七番プレート再建のための費用見積と再建案を、この次の重役会議までに提出しようと躍起だった。償い
には遠く及ばない、それどころか私の気休めにしかならない行為であったのだとしても、私にはそれしか
できなかった。
「それしかできない」――それすらも、自分を納得させるための言い訳にしようとしていた。
***
こうして作成した七番街の再建案を携えて臨んだ重役会議だったが、それを出す事は最後までなかった。
発見された古代種の身柄を確保したとの報告を受けたプレジデントの打ち出した方針は、七番街の再建では
なく、ネオ・ミッドガル計画の再開だった。
この方針転換は、ミッドガルの完成が永久に失われる事を意味している。
古代種――話を聞けば生存が確認されている最後の一人だと言う――が導く『約束の地』に、我々はより
豊かな都市を築こうとしている。計画の実現性は別として、今以上の豊かさを求めることには何ら疑問はない。
むしろその考え方は自然なものだ。
約束の地が見つかり次第、計画は次の段階へと移行するだろう。順調にいけば、ミッドガルに代わる新しい
都市の建造に着手する事になる。それが何年先になるのか現時点では見当も付かないし、私が生きている
うちに実現できるのかすらも分からない。ネオ・ミッドガル計画の実現には科学部門が大きく関与している
こともあって、都市開発部門――統括責任者であったとしても、私の一存ではどうすることもできなかった。
なによりもまず、古代種から『約束の地』について聞き出さなければならない。そもそもこの計画が凍結され
たのも、十数年前に科学部門が聴取に失敗したためである。
正直なところを明かせば、実在するのかも定かでない『約束の地』に期待を寄せる気にはなれなかった。
残念ながらその方面の話に精通しているというわけでも、特別な興味を持っているという訳でもなかった。
たとえここが『約束の地』でなかったとしても、豊かさを求める方法は他にもある。どちらかと言えば私は
そう思っていた。
それに、立場上どうしても――これまで開発を手がけてきたミッドガルに背を向ける事には抵抗があった。
迂闊にもそんな本心を口に出そうものなら、「そんなものは個人的な問題だ」などと、またハイデッカー
あたりに揶揄されるのだろうが。私の本音としては、このままミッドガルを完成させたかった。今現在も建造
作業を進めている六番区画の竣工を迎えれば――都市開発部門の誰もが、ミッドガルの完成を目指して
尽力してくれていた。
……だと言うのに。
完成どころか、自らの手で破壊している現実を、私はどう部下に伝えれば良いだろう?
いいや、そんなことは口が裂けても言えない。
言えないけれど、彼らに真相が露呈するのはもはや時間の問題だった。プレート支柱が簡単に崩れる
ような構造ではないことは、誰よりも我々が一番良く分かっている。それに、何らかの方法で――社外秘
どころか部外秘扱いの――施工図面を見れば、予め組み込まれていたプレート破壊装置の存在にだって
気が付くだろう。いや既に、現場で施工にあたっていた者の中には気付いている者がいてもおかしくない。
私は、はじめからこうなる可能性を知りながらも、設計段階で組み込まれたその“欠陥”を“システム”に
すり替えたのだ。今回の件は、『緊急用プレート解除システム』が実行されただけに過ぎない。
こうして私は部下を欺き、都市住民を裏切った。
結果として、沢山の人々の命を奪った。
さらにその事実から目を逸らそうとした。
都市開発責任者として、これが正しい選択だったとは思えない。
そうと知りながらも、抗えなかった。術を知らず、ただ従う事しかできなかった。しようとしなかった。
――「やってる事はテロリストと同じか、それ以下だ」
六番街スラムで向けられた彼女の言葉は、そのまま私の真実となった。
あの時、彼女が向けていた銃の引き金を引いて私を撃ち殺してくれていれば――結果は変わっただろうか。
いやいっそ、今からでもアバランチにこのことを告白すれば、彼らが私を殺しに来てくれるのかも知れない。
そうすれば少しは楽になれるだろうか?
私の命で済むのなら、さっさと差し出してしまいたかった。そして、早く楽になりたかった。
一刻も早く、楽に。
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・暗い話てすみません。(一応、これもラストダンジョンの余話扱いで)
・やっぱりFF7本編での描かれ方に、多少の物足りなさがあるのは本音だったりする。
偶然とは、まるで気まぐれな風の如く唐突に遭遇する。
その時メアリーは軽い気分転換の気持ちで寄り道をした。
ゆっくりと朝のコーヒーを飲んでみるのもいいかもしれないと、そんな軽い気分。
そして立ち寄った店で、立てたばかりの予定通りにコーヒーをメアリーが楽しんでいる時にそれは勃発した。
店の主人の女の子に酔っ払いが難癖をつけていた時、そこにいた若い男が一瞬で連中を鎮めたのだ。
ただそれだけだったのだが、メアリーが驚いたのは連中を一瞬で押さえ込んだ男だった。
──強い。
ただそれだけを感じたのだ。
なら、引き入れたほうがいい。
相手は見たところただの旅の者、素性はこの際どうでもよかった。
大きな戦力となりうるなら、引き入れたほうがいい──。
砂が混じった風が時折吹いてくる。生ぬるさを感じるほどの暖かい風だ。
この時期南の海から流れてくる湿った暖かい空気が流れてくる。
トゥールの南東に広がる山々を通って、内海に辿りつき、そこに溜まって空気の塊りを生み出す。
やがてそれが大きな低気圧となり、内海に大雨を降らせるのだ。
トゥールからさらに南西に進むと、この辺りの地方を統括するタイクーンの城がある。
森の中を切り取られたように城下町があり、高山を背に城がそびえる。
タイクーンの王族は代々、風のクリスタルを管理してきた。
一年中おだやかな風が吹く地域の中心に城が建てられていて、名実共に「風の国」の二つ名にふさわしい。
そのタイクーンから、幾分離れた内海に面した山には、かつて大海賊がアジトに使っていた洞窟があった。
ケリーはメアリーに連れられて、今その洞窟を目指している。
「で、そろそろ話してくれてもいいだろ?」
切り立った岩山を進んでいくメアリーの後ろからケリーが言葉を投げかける。
「何?」
「なぜ俺を雇ったんだ?」
「向こうに着いたら話すわ」
「……事情も聞かされずにこんなところを歩かされてる側としてはたまったもんじゃないんだけどな」
「まだ貴方を正式に雇ったわけじゃないの。向こうについてから判断するわ」
「……無茶苦茶だ」
この女、もしかしたらとんでもなく自分勝手なんじゃねえか?
ケリーは面白半分についてきたことを後悔した。
「……ついたわ」
メアリーはある高台で足を止めた。
内海が一望出来るそこは、潮の香りが風に乗って飛んでくる。
そこにはぽっかりと穴をあけた、小さな洞窟への入り口があった。
「けったいな所に連れてこられたな」
「知ってるでしょ?このあたりの海は海賊がいっぱいいたの。ここはその海賊のアジトだったところよ。さあついて来て
、暗いからはぐれないようにね」
メアリーは器用に小さな入り口に身を滑らせる。後に続いてケリーも中に入る。
中に入ると、そこは以外にも広かった。
鍾乳洞のような洞窟内の空気はひんやりして湿っぽい、地下水でも流れているのだろう。
同時に、潮の香りもかすかにしてくる。
「すごいな……こんな空間が山の中に……」
「さあついて来て」
何処に持っていたのか、メアリーは松明に火をともすとずんずんと進みはじめる。
暗く広い洞窟内には、ちらほらと魔物も紛れ込んでいた。
最もこの辺りの地方に生息している魔物は大したことはない。
海賊達のアジトだった場所なら、外敵からの侵入を防ぐ目的でも、あえて魔物を放置していたのだろう。
しばらく進むと、洞窟に扉が出現した。
メアリーは扉の前に立ってノックをする。
「私よ。それとオマケが一人」
『メアリーか、待ってろ』
扉から男の声が返ってきて、すぐに扉が開いた。
「おうメアリー、お疲れさん。で、そっちのオマケさんは?」
扉から出てきた男はケリーを訝しげに一瞥する。
「町で雇った旅人さん。腕が立ちそうだから。とりあえずおばあさまに会わせてみるつもり」
「ふぅ〜ん。本当に大丈夫か?」
「あんたたちがしっかりしてれば、こんな男を雇う必要もないんでしょうけど」
「う……」
「さあついて来てケリー。会って貰いたい人がいるの」
状況がよくわからないケリーは、とりあえずうなづいてメアリーについて行く。
扉をくぐると、そこはまさしく秘密基地【アジト】だった。
人が住めるほどに整備され、実際何人も人の姿が見られる。
洞窟内だというのに、目立たぬ所から外の光が取り入れられ、さらに向こう側は海に面していた。
海賊が潜むにはもってこいだったのだろう。
メアリーに案内された扉をくぐる。
そこには一人の老婆が本を読んでいた。
「おばあさま。町で腕の立ちそうな人を連れてきたんだけど」
「町で……?」
老婆が顔を上げてケリーを見る。
ぞわり、とケリーの体に鳥肌が走った。
ただの老婆ではない。生気に満ちた顔つきと目、そしてオーラ。
横にいるメアリーも只者ではないが、この老婆は尋常ではない。
そしてこの雰囲気、誰かに似ていた。
「……なるほど、確かに元気そうだね。若い頃の彼奴を思い出す」
老婆はにやりと微笑むと、メアリーに目配せをする。
その目配せを受けると、メアリーは突如体を沈めて突進してきた。
すぐさまケリーは腰の刀を抜刀する。
右から飛んできたダガーの一撃を刀で払う。
さらにメアリーは左からもダガーを抜き、突きを出した。
ダガーの二刀流を払うと、ケリーは横薙ぎに刀を振るう。
それをかわし、さらにダガーを繰り出す。速度は初撃よりも早い。
またそれを刀で受け止め、返し、反撃を繰り出す。
そのたびにメアリーはダガーで受け、かわし、斬撃を繰り出す。
打ち合って八合目、なおも両者の速度は上がる。
片やダガーの二刀流、片や刀の技。両者とも全く引けをとらない競り合いだった。
十八合目でメアリーがケリーから離れる。
メアリーは少し息を乱してはいたが、傷はない。
「息一つ乱さず、か。メアリー相手に大したもんだね」
「……まるで試されたような言い方だな」
「試したのさ。私達は本当に強い者を必要としている。……それにしてもおどろいた」
老婆がケリーに近づいて顔をしげしげと眺める。
「あんた、名前は?」
「ケリーだ。ケリー・クラウザー」
「クラウザー?……伝説の英雄と同じ名だね」
「それなら、俺のオヤジさ」
老婆の目つきが目に見えて変わった、その色はひたすらに驚き。
「まさか……」
「父親はバッツ・クラウザー。俺はその拾い子」
「そんな……」
メアリーも驚いている。
バッツ・クラウザーといえば、かつてエクスデスを打ち倒した光の戦士の一人だ。
大戦のあと、行方が分からなくなっていたバッツの息子を名乗る男が現れれば、この世界の人間ならば誰だって驚くだろう。
「どうりで剣技がよく似ているわけだ。雰囲気も似ていたが剣技も似ていたのでもしやとは思ったが……」
「親父を知ってるのか?あんた」
「……この人は」
メアリーが老婆の後ろから声をかける。
「この人はファリス・シェルヴィッツ。現在生き残っている唯一の光の戦士よ」
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・まだ序章?と言われそうですが、まだ序章です。
・序章、とは書いてるけど、一応サブタイは決めてある。後にこれはまとめた時に。
・遅筆でスマソ(´・ω・`) 実生活の合間合間にやってるもんで……。
>>602-605 本作序盤のミッドガルのあの閉塞感がまざまざと思い起こされました。
それと、局長…お願いですから、
そんなにご自分を責めないで下さい…
>>606-610 ファリスキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
長いお話になりそうですね。wktkして続き待ってます。
ところで、ケリーが“けったいな”って言ってたのは関西弁…?
※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ
>>222-224 >>280-283 >>318-327 >>345-350 >>412-414 >>437-493から続きます。
ドラクゥ役の歌手が舞台の中央に立ち、客席から拍手が起こる。
そこで故郷に居るマリアを想い、その独唱から始まる。
最初の間奏でパンネロ演じるマリアがしずしずと登場し、
ドラクゥの隣に立つ。
いつもならここで拍手が起こるのだが、今日は違っていた。
マリアに似せているが、マリアではない。
観客はすぐにその事に気が付いた。
そしてその動揺は瞬く間に場内に広がり、
もちろん、貴賓席にもそれはすぐに伝わった。
「パンネロさん!?」
ラーサーは思わず立ち上がり、
最初はまさかと笑っていたアーシェも
目を見張って舞台を見下ろして固まり、
バッシュも二人の背後から身を乗り出す様にして舞台に見入る。
(やだ…やっぱりバレてるんだ…)
舞台の上のパンネロは今すぐにでもこの場から逃げ出したいと思うが、
(でも…約束したもの。)
もう幕は開いたのだ。
ショーは続けなければならない。
ドラクゥの独唱が終わり、マリアのパートになった。
パンネロはドラクゥとの幸福な日々、突然の出征…
喜びから悲しみのどん底へと突き落とされた
マリアの悲哀を朗々と歌い上げた。
客席のざわめきは次第に治まって来た。
確かにマリアとは違うが、いつものマリアより幼い感じがして、
そこが初々しくて良い。
ドラクゥを見つめる仕草、立ち居振る舞いの端々から
ドラクゥの事が好きで好きで溜まらない…
それがひしひしと伝わってくる。
それは幼い日の初恋とか、思春期の片想いとか、誰もが必ず持っていて、
心の奥底にしまっておいた切ない感情を呼び起こし…
パンネロが歌い終わる頃には、バルフレアの言う通り
客席は皆、パンネロに恋をしていた。
もちろん、貴賓席の若い皇帝も例外ではない。
柵に手を付き、身を乗り出さんばかりにして舞台に見入っている。
アーシェやバッシュの声も耳に入らないようだ。
アーシェとバッシュも突然の仲間の登場に驚きを隠せない。
「バッシュ…」
「は。何が起こったか探って参ります。ですが…」
「心配せずとも、自分の身は自分で守ります。」
そして、夢見る様な瞳で舞台を見入るラーサーを横目でちらりと見て、
「ラーサー殿もね。」
ラーサーを信頼しての言葉だと思うのだが、
事がパンネロとなると暴走しがちな所があるのだが…
「陛下にお任せ致します。」
そうして一礼すると静かに貴賓席を後にした。
舞台からは音楽が聴こえて来る。
どうやら舞台は無事に進行しているようだ。
ヴァンは劇場の地下に向かう。
ダンチョーから聞いていた地下にある大空洞への入り口を塞いだ場所だ。
それは劇場の地下にある鉄の扉を開けて、
そこから更に長い長い石の階段を降りた所にあった。
10メートル四方ほどの真四角の部屋があり、
壁の一面に何かを塗り込めた跡がある。
ヴァンはそこに手を当て、そして、壁に耳を押し当てる。
「…やっぱりな。」
壁の向こうからカツン、カツンという壁を崩す鎚の音がするのだ。
「悪いけど、ゆっくり待ってらんねーんだ。」
ヴァンは背中に背負っていた大剣を抜くと、
気合いと共に壁を斬りつけた。
バラバラと壁が崩れ、その向こうに居たのはヴァンの予想外の者達だった。
「…なんだ、おまえら!」
崩れた壁の向こうに居たのは武装した男達だった。
突然壁が崩れ、その向こうに居た少年に怒鳴られ、
何が起こったのか分からず、呆然とヴァンを見つめている。
「予告状を送ったのはお前等かよ!」
「予告状…?」
一人が呟き、リーダーらしき男が漸く我に返る。
「小僧、貴様の方こそ何者だ。」
「…ここを守る様に頼まれた。」
「では、我らの敵だな。」
「なんだと!?」
「我らは侵略者と売国奴二人に鉄槌を下すべくやって来た。」
言いながら男達は次々と剣を抜いた。
ヴァンは歯痒さに奥歯をぎり、と噛み締めた。
あの二人がどれ程の想いを乗り越えて
平和への道を歩もうとしているのか…
誰よりも知っているからこそ、目の前の男達が許せなかった。
「お前ら…!」
頭に血が上った。
怒りで身体が震えた。
「…分かるのかよ…お前らに…アーシェの、ラーサーの気持ち…
忘れるわけないだろ…自分の事より…自分の大事な物より…
前に進む事を選んだんだ…なのにどうして…」
絞り出す様に、それだけ言うのがやっとだった。
気持ちが昂っているため、上手く言葉が綴れない。
唇を噛み締め、頭を軽く振ると、キッと侵入者達を睨む。
賊がフンと鼻で笑ったのが癪に触る。
(クソッ…!子供だと思ってんな…)
バルフレアやバッシュだと余裕で煙に巻く事が出来るのかなとふと思った。
男達の中で一番身体の大きい者が斧を振りかざして襲いかかる。
ヴァンは上半身だけ左に逸れてそれを避けると、
男達の固まりの中に大きく踏み込み、大剣を横に払う。
と、リーダー格の男が吹っ飛び、壁に叩き付けられた。
男達はぎょっとして飛ばされたリーダーを見、
そして改めてヴァンを見る。
「どうした…?来いよ!お前ら!この部屋から一歩も出さないからな!」
ヴァンを袈裟懸けに切ろうとした男は剣ごとへし折られた。
得物が大きい割にヴァンの構えは小さく、
動きも素早いため隙がない。
子供だと舐めてかかった男達はパワー戦でも押し切られ、
リーダーと同じ様に次々と壁に叩き付けられた。
ヴァンは床に転がり、うめき声を上げている
男の胸ぐらを掴んで引き起こした。
「おい、予告状を送ったの、本当にお前らじゃないんだな。」
「予告状など知らん。」
男は吐き捨てる様に言った。
「事が成就した後で発表する声明はあるが、
予告など出してはおらん。」
賊の狙いはアーシェとラーサーだ。
マリアではない。
(パンネロが…危ない!)
しかし、アーシェとラーサーを狙う賊をここに置いてはいけない。
途方に暮れていると、入り口で声がした。
「見事だな、ヴァン。」
見ると、黒いアルケイディアの礼服に身を包んだバッシュが立っている。
「バッ…」
バッシュはヴァンがまた自分の本名を叫びそうになったのを、
笑顔で制した。
ヴァンも目を白黒させながら言葉ごと息を飲み込み、
辛うじて堪えた。
「…なんでここに?」
「舞台で突然パンネロが歌い出したんだ。
何かがあったと思うのは当然だろう。」
バッシュは倒れている男達を一瞥する。
「こいつら…アーシェとラーサーを狙ってたんだ。」
「君もこいつらを追っていたのか…?」
するとヴァンは、この少年にしては
珍しい不機嫌そうな表情で黙り込んでしまった。
不意に舞台の方から歓声が上がり、
ヴァンははっと顔を上げる。
「なぁっ!舞台…まだ終わってないよな!」
「あぁ…今、幕が降りたが15分の幕間を挟んで二幕が始まる。」
「バッシュ!コイツらを頼む!俺、行かなきゃ…」
言うが早いか、ヴァンは駆け出し、
あっという間にその姿が見えなくなった。
呆気にとられていたバッシュだが、
ふと、人の気配がしたので、素早く剣の柄に手をかけた。
「おぉっと…俺だよ。」
現れたのは、バルフレアだった。
「よお…久しぶりだな。」
「君か。」
「相変わらず、ご活躍のようで。」
バルフレアはひっくり返っている男達を見て言う。
からかう様な口調は相変わらずだ。
「これはヴァンだ。ずっと見ていたのではないのか?」
バルフレアは答えない。
「ヴァンの目的はこの賊ではないようだが…君は何か知っているのか?」
「……いいや。」
「パンネロが舞台に立っている理由も?」
あらぬ方向を向いていたバルフレアだが、
正面からバッシュの顔を見据え、きっぱりと答える。
「知らないね。」
「…そうか…では、後でパンネロを連行せねばならない。」
バルフレアはぎょっとして顔を上げる。
「アルケィディア、ダラマスカの両陛下の御前舞台で
主演女優の名を騙ったんだ。
悪意はなくとも、お二人を守るのがつとめの私としては
話を聞かない訳にはいくまい。」
「おい、ちょっと待てよ!」
「君が何か知っているのに嘘を吐くからだ。」
「どうして俺が嘘を吐いてると分かる。」
「君がここに居る事が何よりの証拠さ。」
バルフレアは小さく舌打ちをして、顔を歪めた。
「知ってるが…言えないんだ。お嬢ちゃんとの約束でな。」
「あの子はこんな大それた事はしない。」
「ご名答。話ならヴァンに聞いてくれ。
お嬢ちゃんはどっちかってぇと、被害者なんでね。」
「ふむ…」
バッシュは何か考え込むと、顔を上げ、
「ヴァンの後を追う。すまんがしばらく賊を見張っていてくれ。」
「おい、俺はどうなる…!おいっ!」
バルフレアは立ち去るバッシュの背中に慌てて叫ぶ。
バッシュは一度振り返り、
「すまんな。」
と、言ったきり、階段を上って行ってしまった。
「…ったく、相変わらずだぜ。」
バルフレアは忌々しげに床に転がる男達を見て、
億劫そうに男達の防具のベルトを取ると、
「お子様達のお陰で、とんだ貧乏くじだ…」
どうせ縛るなら男よりも女の方がいいな、
「それも、とびきりの美人だ…」
などと嘯きながら、一人一人を縛り上げていった。
今回はここまで。つづきます。
*******************
以下、チラシの裏。
・まずは
>>519氏に感謝。もう一度頭からプレイしなきゃいけない所でした。
(いえ、時間が許せばいくらでも再プレイするのですが( TДT)ゴメンヨー)
・ヴァンに大剣持たせたのは個人的に一番似合うと思うため。
・“前に進む事”という言い回しはどうしてだか使ってしまいます。
DC内で一番印象的だったのでしょうか。
・投稿規制に引っかかってましたが、やっと解除来ました。
また投下させて頂きますので、これからもよろしこです。
皆さん乙!そしてGJ!
投下ラッシュキテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
何この盛り上がり!GJ━━━━!そして続きwktk━━━━!
GJ!もうそれしか言えない。とにかくGJ!
続きが気になる連載ばかり
乙!
テカテカ
ワクワク
おつー
ワクテカ
ほ
>>606-610 > 現在生き残っている唯一の光の戦士
クルルはどうした!? なぜ殺した!? 誰が殺したッ!!
…と、自分の中のおじいちゃんの叫びはさておきw、過去(FF5)から作中の時代へ
50年でどう移り変わったのかが気になるところ。続く展開期待sage。
>>612-618 なんて楽しい変態なんだバルフレア!w(褒め言葉です)
個人的にはバッシュは本当に良い味出してます、自分の目的のためと少々引け目を感じつつも
立派に周囲を振り回す辺りが、オンドール侯爵邸での光景を彷彿とさせます。
(…たしか「すまん」はここで聞いた気がする、間違ってたらすまん)
前話:
>>602-605 ----------
「神羅本社ビルに部外者、それもアバランチの侵入を許した挙げ句、社長が殺された。」
その報を耳にしたとき、私は強い罪悪感に襲われた。――彼らが私を殺しに来てくれるのかも知れない
――そんな思いが現実を招いたのだろうか、しかも殺されたのは私ではなく社長だった。だとしたら私が
殺したのも同じなのではないか?
冷静に考えればそんなことはあり得ない。頭ではそうと分かっていても、一刻も早く楽になりたいと自ら
死を望んだ事実は隠せなかった。それだけで、自分を責め苛むには充分な根拠となるのだ。
次々ともたらされる情報によって、社長殺害の全容が明らかになっていく。しかしその度に、混迷の度は
深まっていった。唯一の目撃者だったパルマーの話によれば、社長を殺したのはビルに侵入してきた
アバランチでは無かったのだと言う。いずれにしても突然もたらされた訃報に、社内はどの部署も混乱に
陥っていた。
今し方ここでも、新体制移行に向けての方針を確認し合うため名ばかりの会議が終了したばかりだった。
社長交代とその混乱によって、ミッドガルの都市開発計画は完全に暗礁に乗り上げた形だ。この先
ミッドガルがどうなるのかは分からない。都市開発責任者として、向かい合わなければならない懸案は
山ほどあった。それなのに、頭が働かない。社長刺殺という前代未聞の事態を前にして冷静さを失って
いるせいもあったが、理由はそれだけではなかった。
会議で渡された資料を前に、私はまだ席を立てずにいた。
「……『殺して欲しい』、とでも言いたそうな顔ね」
ヒールの音が止むと同時に、頭上から聞こえてきた声には覚えがあった。顔を上げなくても、声の主は目に
浮かぶ。だから顔を向けることはしなかった。すると彼女は、煽るようにしてさらに言葉を続けた。
「護身用の拳銃の引き金すらマトモに引けないんだから、それを自分のこめかみに向けて撃つなんて度胸、
アンタに無いのは当然よねぇ」
甲高い笑い声を上げて彼女は私を見下ろして揶揄する。会議以外で彼女と顔を合わせれば、こうなる事は
分かりきっていた、だから顔を上げなかった。それに悔しいが、彼女の指摘は的を射ているから反論すること
ができなかった。彼女――スカーレットは重役の中でも特に切れ者だった。その上に残忍性を併せ持った
性格の彼女に、私は少なからず苦手意識を持っていたことは否定できない。
私は何も言わず、机上の書類に目を向けたままでいた。へたに反応を返せば、スカーレットを喜ばせる
だけだと言うことも知っている。今は不運にも遭遇してしまった俄雨をやり過ごすように、その場でじっとして
いるのが得策だ。
「今回の計画、そんな臆病者のアンタにぴったりじゃない」
言いながらスカーレットは、私の目の前に置かれていた書類を叩いた。それは、アバランチ掃討作戦の
一環として計画された諜報活動計画書であり、先の会議で決議された案件だった。もともとこの原案は彼女の
アイディアで、当初の計画ではタークスを派遣し潜り込ませる予定だったが、それでは却って目立ってしまう
との懸念から、次に候補としてあげられたのが私だった。
私がここからケット・シーを操作して彼らと合流し動向を探る、それが今回の計画の全容だ。彼らとの接触
地点はゴールドソーサー。あそこになら、他の土地に比べればケット・シーが紛れ込む隙がある。
諜報活動と言っても私自身での接触はないし、ケット・シーも戦闘に備えて別の機体と組ませてあるから
戦力面でも問題はないだろう。スカーレットの言うとおり、拳銃の扱いさえままならない私には打って付けの
作戦計画だった。
しかし正直なところを言えば、この計画について積極的に取り組む事には抵抗があった。そんな私の背を
押したのも、スカーレットの発言だった。
――「ミッドガル市民の命を無差別に奪ったアバランチに対する、あなたの意志を行動として示すべきじゃ
ないかしら?」
私は彼女の口車に乗せられたのだと思う一方で、彼女が言っている事も決して間違いではなかった。こう
して私から反論材料を取り上げた上で、あくまでも私自身の口から計画参加の意思表示をさせるのが発言の
狙いだった。
好く好かないはともかく、やはりスカーレットは切れ者だった。
唐突に、書類の上に一枚の写真が滑り込んで来た。どうやらスカーレットが投げて寄越した物のようだ。
写真の中にはまだ幼い女の子が映っているが、見覚えはなかった。この子は誰だと聞こうと顔を上げるよりも
先に、スカーレットが告げる。
「タークスからの報告書に添付された写真、写っているのは件の古代種が連れていた娘だそうよ。……この子、
今回の計画に使えるんじゃない?」
古代種が連れていた娘――幼い彼女の身の安全を保障することを条件に、古代種は神羅へ来る事を承諾
したと聞いた。つまり、彼女は何らかの形で古代種の弱みとなっていると言うことだ。
(保険、と言うわけか)
再び写真に目を落とす、写っているのはまだあどけない女の子だ。写真を手にする事さえ躊躇われた。この
子に罪はない、まして我々とは何の関係もないのだ。私が今考えている事は、人の弱みにつけ込んだ卑劣な
手段ではないか。
困惑する私の肩に手を置いたスカーレットは、耳元でこう囁いた。
「良いことを教えてあげる。
呵責は何も生み出さないわ、無駄な感情よ。あなたは素晴らしい能力を持っている、なのにその能力を出し
切れていないなんて勿体ないわ。私はあなたを見込んで言ってるのよ? あなたが本気を出せばもっと素晴
らしい仕事ができる、私はそれに期待しているの」
自分以外の他者に向けた期待――思いも寄らないスカーレットの言葉に、驚いて顔を上げた。その直後、
そうした自分を後悔した。
間近にあったスカーレットの顔は、笑っていたからだ。彼女の笑顔が歪んでいるように見えたのは、気の
せいだろうか。
彼女は嬉しそうにこう続けた。
「ミッドガルという素晴らしい兵器を開発し、作り上げたあなたの才能は賞賛に値するわ。
一瞬であれだけの人数を殺せるんだもの、ミッドガルは都市なんかじゃない、立派な都市型兵器よ」
――お前は歴とした人殺しだ。
今さら何を躊躇する必要がある?
それがスカーレットの言いたいことだとは、すぐに察しが付いた。同時に、私はスカーレットの言葉に反論
する術を持っていない事にも気が付く。彼女の言っている事は正しかったのだ。
さらに追い打ちをかけるように、スカーレットは続ける。
「今さら思い詰めたところで仕方がないわよ、リーブ。
……楽になりたいんでしょう? じゃあ誰かを憎めば良いわ。すぐ楽になるから。
きっとこの子、あなたの役に立つんじゃないかしら」
スカーレットは言い終えると、こちらの話を聞こうともせず会議室を後にした。もっとも、私は返す言葉を
持っていなかったのだが。
部屋には待ち望んでいた静寂が訪れる。だが、いつまでもここに座っていても仕方がない、私も席を立つと
会議で渡された資料を手にエレベーターへ向かった。数歩進んで立ち止まると、先程まで座っていた席を振り
返る。机の上の写真を持ち帰るか暫し悩んだが、最後に聞いたスカーレットの言葉がどうしても引っかかった。
結局、写真を持ち帰る事にした。
その足で部署へ戻ると、すぐに住民のID検索システムで写真の子の正体を知った。その時、スカーレットが
最後に残した言葉の意味も同時に知ることになった。
マリン=ウォーレス。
反神羅テロ組織アバランチの現リーダーであり、壱番魔晄炉および伍番魔晄炉爆破テロの首謀者、
バレット=ウォーレスの娘として登録されている。彼女自身はまだ4歳だ、なによりも彼女に罪はない、たまたま
父親がテロリストというだけなのだ。
私が憎むべき相手は彼女の父親、バレット=ウォーレスなのだ。間違っても彼女ではない。
――誰かを憎めば楽になる――楽になりたいと庶幾う私にとって、スカーレットの言葉はまるで悪魔の
ささやきだった。
―Fragment of Memory4<終>―
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・きっと兵器開発部門は社内で幅を利かせていたんだろうなと言う妄想。
・「ケット・シーの方があやしまれるだろー、常識的に考えて」と突っ込む人がいないぐらい
混乱してたんだと思います。思いたいです。
・とりあえず
>>366が自分の中では今年の重大ニュースの1つになることは確実だと分かったw
スカーレットにしろロッソにしろ、赤い人はドSですねwGJ!
乙!
連載始めたばっかでスマンが、仕事が妙に忙しくなりこっちに時間を割きにくくなってきたので続きはしばらく待ってほしい。
代わりといっては何だけど、本編のネタバレを含まない程度にいろいろ書いてみる。
・光の戦士の生死について
バッツは病死、ファリスは健在。この辺りはこれまでの話でおもいっきり書いてる。
クルルはバッツと同じく病死、だがバル城は健在。現在の王様は秘密(それほどのもんでもないから明かしても問題ないだろうけどあえて)。
レナも既に死亡、人物紹介にて書いてある。今思うと思いっきりネタバレだな……orz
・主人公ケリー・クラウザーについて
バッツが旅の途中で紆余曲折を経て育てることになった。
実力的には(かなりアウェーな表現だけど)全盛期バッツの半分から四分の三くらいの実力。
バッツは剣が得意という勝手な俺の妄想により、直弟子にあたるケリーも剣の扱いが上手いとの設定。
ちなみにバッツが彼を育てることになった経緯は、後に外伝的な話として書いてみようと思ってる(余裕があればね('A`))。
・ラストはどうなる?
あえて最大のネタバレに抵触してみようと思う(ちょ
流石にストレートに触れるわけにもいかないのでちょっとだけヒント的なものを。
エヌオーやエクスデスが手に入れようとした「無」の力は全てを飲み込む力。今回のラスボスキャラはその逆、つまり全てを生み出す力を手に入れようとする。
その理由、その力の真実、そして(俺が妄想で勝手に捏造した)クリスタルに隠された秘密なんかは本編で明かしていく予定。
保
健
体
操
ま
り
容量450近いので次スレの準備した方が良いかと。
475KB前後まで待ってもいいかな?
SS1レスが約1.5KB弱、投稿に10レス使うとしてもう一作品と半分、
5レス使うなら三作品ぐらい投下できるとオモ
ほ
ぼ
ま
り
門
ば
ん
ご
前話:
>>578-583(現在地:WRO新本部施設1F/
>>333-338)
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しばらくして顔を上げたバレットは、向けられた銃口を見つめながら笑っていた。噛み殺そうとしたが
堪えきれず喉を鳴らすバレットに、リーブは無表情に問い返す。
「何かおかしな事を言いましたか?」
抑揚もなく、不機嫌と言うよりいっそ無機質な声を耳にしたバレットは、「違うんだ」と言って首を振った。
「……昔な、今のお前とは反対に、『生きながらにして命は捨てた』とかぬかした野郎がいてな。そいつも
今みたいにオレに銃口を向けてたんだ」
やってる事は同じくせして、言ってることは正反対なんて不思議じゃねえか? バレットはそう言うと力なく
笑った。リーブは頷くでも否定するでもなく、バレットの姿をただ呆然と見つめているだけだった。
――「そうかいバレット。だが俺は、あの日から命は捨ててるぜ」
バレットの脳裏によみがえるのは、悲嘆に暮れる親友の姿。無意識に下ろした右腕に視線を落とす。
先程までの笑顔は影を潜めていた。過去の記憶を辿っているのかゆっくりと、だがはっきりとした言葉で
話の先を続けた。
「……コレルが焼き払われたあの日まで、そいつとは親友だった。
あの日から4年が経って、そいつと再会したときにオレは親友を殺したんだ、この手でな」
――「……俺はあのとき片腕と一緒に……かけがえのないものを失った……。
どこで……食い違っちまったのかな……」
最期に呟いた親友の言葉は、自分自身に向けられた物なのか? それともバレットへの問いかけだった
のか。
「オレは今でも分からねえ。自分や、周囲の世界を壊してしまいたかったと言っていたヤツの気持ちが」
右腕のギミックアームに左手を添える。それは親友を失うことで得た物であり、かつての親友を葬った凶器。
同時に、戦いの中に身を投じる事を選んだバレットと運命を共にし、マリンを守り続けてきた武器。
「だってよ、オレはどんな状況になっても生きることしか考えられねえんだ。マリンがいる、それに今は、
あいつとの約束を破るわけには行かねえんだ」
だからここで殺されるつもりはない、バレットはそう言って再び顔を上げるとリーブを見据えてこう言った。
「なんでだろうな? オレには今のお前も、あの時のダインと同じように見えるんだ」
掛け替えのないものを失い、苦しみ抜いた末に辿り着いた絶望の世界に生きた親友の姿。コレルプリズンで
再会した彼の姿と、目の前に立っているリーブの姿が重なって見えた。
それはリーブ自身が今、ダインと同じように苦しみ抜いた末に辿り着いた場所に立っていると言う事なの
だろうか? 自ら作り出したはずのこのW.R.Oが――彼にとって監獄だったとでも言うのだろうか? 考えた
ところで分かるわけが無かった。
だが、バレットには1つだけ分かっている事がある。
「それにオレは、親友さえも殺したんだ。……さっきのが脅し文句だとしたら、オレには通じねえよ」
――「与えられるのは銃弾と不条理。残されるのは絶望と無の世界……」
「オレは、あんたの掛け替えのないものを奪った張本人だ。恨まれても文句は言えねえ。だけどよ、オレは
必ず生きて返るぜ、マリンのためにな。オレにはそうしなくちゃならねえ理由がある。あんたも知ってるよな?
オレは親友どころかマリンの――」
そこまで告げたバレットに向けて、リーブは何も言わずに引き金を引いた。かわいた銃声がフロアに響き
渡り、バレットの声は途中で途切れた。
----------
・短いですが保守がてら。明日持って来れたら続き持ってきます。
GJ!
切なくなった
GJ!!
それにしても、なんというところでお預け…
wktkで明日が待ちきれない。
引き金引いても致命傷にはならないんだろうな・・・それがリーブクオリティ。
職人さん方いつもGJ!
前話:
>>655-657/現在地:エッジ(
>>476-479)
----------
自分達の声を届けるにはどうすればいいか? 彼らは必死になって方法を模索していた。たとえば
デンゼルは、家中をひっくり返して手当たり次第に使えそうな物をかき集めている。一方のマリンは、
デンゼルが部屋の奥から見つけて来たらしい端末の取扱説明書を広げて、細かい文字にもめげず隈無く
目を通していた。何をすればいいのかが分からないながらも、彼らは自分達に出来る事を見つけ、手探りの
状態でも懸命に取り組んでいる。
一方、端末とケーブルで繋がれていたケット・シーは通信回路の検索と共に、スピーカーから聞こえてくる
会話に耳を傾けながら、考えを巡らせていた。
(遠隔操作された人形、建造中の本部ビル……なんや、どうも引っかかるで)
飛空艇師団による建造中のW.R.O本部ビル破壊を指示した局長声明。油田採掘場にいるはずのバレットが
なぜここに居合わせたのか? 開店準備中に電話を受けて突然店を飛び出していったティファ――すべての
点を結んだ先には、建造中の本部ビルがあった。不自然すぎるほど、何もかもタイミングが一致している。
(せや、まるで事前に用意されとったみたいな。……)
まさかと思う、これはすべて仕組まれていた事なのかと――だったら裏で糸を引くのは誰だ? いったい
何のために?――疑問をあげ出したらきりがない。とにかく今は情報を集めるのが先決だ。材料が揃わない
状態で先を急いでも、正しい結論にたどり着くことはできない。そうと分かっていても、気ばかりが焦る。
スピーカーからもたらされる音声が事態の急変を告げたのは、そんな時だった。ひときわ大きく響き渡った
破裂音に、ケット・シーだけではなく、室内にいたふたりも端末に顔を向けた。
聞こえてきた破裂音、恐らくは銃声だ。その後スピーカーから流れてきたのは、誰かの声ではなく激しい
ノイズ音だった。携帯電話が地面に落ちたのだろう――映像の無い中、聞こえてくる音だけを頼りに向こうの
状況を探る。
『ば……バレットはんを……撃ちよった?』
「父さんッ!!」
広げていた説明書を放り出して、マリンは端末に駆け寄った。何度も画面に向けて叫び続けるが、
相変わらず応答はない。
ノイズに混じって聞こえていたコツコツという硬質な音が徐々に大きくなって来た。誰かが近づいて来る
足音だと思った。最後に一度大きなノイズ音がしてから、音声はクリアになる。スピーカーからは何も聞こえ
なくなった。
「父さん! 父さん!! ……返事をして父さん!!」
必死に叫ぶマリンの声だけが、室内にこだましていた。
(場面はWRO新本部施設1F:
>>655-657)
----------
リーブの放った銃弾は、バレットの着ていた服のサイドポケットをかすめた。
思いがけず尻餅をついた格好になるバレットの横まで歩み寄ると、リーブはポケットから投げ出された携帯を
無造作に拾い上げ、ディスプレイを見つめて首を傾げた。それから無言のまま耳に当てると受話口からは
悲痛な叫びが聞こえて来た。
その様子をしばし呆然と見上げていたバレットに、リーブは携帯電話のボタンを操作した後、通話口に指を
宛がうとディスプレイを向けた。画面には見慣れた番号と、登録した「マリン」の文字が映し出されている。
『父さんッ!』
スピーカーから聞こえてきたマリンの声に、バレットは驚きを隠せずにいた。
「マ……マリン……? どうして」
誰にでもなく問うバレットの言葉に答えるようにして、少し声を潜めてリーブは返す。
「バレットさん、どうやら先程からマリンちゃんがあなたを呼んでいる様です。
……出てあげてください、『お父さん』」
そこまで言われて、バレットはようやく気が付いた。あの場でリーブが発砲していなければ、知らずに
恐ろしいことをマリンに告げようとしていたのだ。
6年前のコレルプリズンで再会したかつての親友、同時にマリンの父親だったダインを殺したのが自分である
と打ち明けたところで、マリンの中にダインはいない。記憶どころか存在すら無いのだ。だから今さらマリンに
語るべき事実ではないし、何が起きても口に出すべきではなかった。自分が大変な過ちをしでかそうとしていた
事に、今さらながらバレットは動揺する。
「あんた……まさか気付いて……」
その問いには答えずに、リーブは通話口から指を離した。同じタイミングで、再びマリンの声が聞こえてくる。
『父さん! 父さん!! ……返事をして父さん!』
「おっ……おおマリン! どっ、どうしたんだ? な、なっ何かあっのたか?」
ひときわ大きな声を張り上げてバレットなりに取り繕ったつもりだろうが、その効果は残念ながらまったく
見られない。縺れる言葉でようやく返事をしてみたものの、電話から聞こえてくる大きな溜め息にあっけなく
流されてしまう。
『……良かった。“どうしたの?”はこっちのセリフ! 父さん、今どこにいるの?』
「えっ……こ、こっここか?」
すでに声がうわずっている事に、どうやら本人は気が付いていないらしい。マリンに問われて改めて思い
返してみれば、ここへ来る事を告げずにいたままだった。だからマリンにとって自分は今もまだ油田の採掘
現場にいる事になっている。動揺する頭をフル回転させて、バレットは返すべき答えに辿り着くと慌てて口を
開いた。
「おう、今さっきちょうど採掘が終わ」
『父さんは、リーブさんのことを恨んでいるの?』
不器用な父の吐く下手なウソには取り合わず、マリンは単刀直入に問いを向けてきた。呆気にとられている
バレットに代わり、携帯電話を手にしていたリーブが口を開いた。
「……いつから聞いていましたか?」
『少し……前から、です。父さんに電話をかけたらリーブさんの声が聞こえてきて……何度も呼びかけたけど、
聞こえていなかったみたいで』
ためらいがちに答えるマリンに、リーブは頷いた。
「そうですか」
『リーブさん』
名前を呼ばれてはいと返すと、不自然な間が空いた。どうやら聞くべきかと躊躇っているのだろう、電話の
向こうにいるマリンの様子が、声からだけでも手に取るように分かった。
『……リーブさんは……父さんの事を、今でも恨んでいますか?』
ようやく聞こえた小さな声が問いかると、今度はリーブが返答に窮する番だった。「そうですね……」しばらく
空中に彷徨わせていた視線を下ろすと、こう告げる。
「アバランチのリーダー、バレット=ウォーレスは今でも好きにはなれません。ですが、あなたのお父さん、
バレット=ウォーレスは……とても勇敢な人だと尊敬しています」
そんな言葉にはっとしてバレットは顔を上げた。しかし携帯電話を手に佇むリーブに、表情はなかった。
それを見て改めて思い知らされる、目の前に立つリーブは“人形”なのだ。
----------
・マリンにとって父親は1人、でもバレットにとってマリンの父親は2人いる
…事になるんだとずっと思ってるんですが、この辺はOn the Way to a Smileバレット編で
語られてるんでしょうか? 個人的にもの凄く興味がある。
・リーブが引き金を引いた動機はこれ(父=ダインを殺したという言葉)をバレットの口から語らせない為です。
>>660で「致命傷には至らない」と、まんまと見抜かれてますがw
本文中の描写だけで伝わるかが不安だったことと、ダイン=マリンの父という描写を入れると蛇足になるかなと。
個人的には非常に悩んだ末の本文でした。
さて、ここいらで461KB?
480KB〜500KBあたりで次スレ立てるにしても、スレ立て後の事の保守もあるのでどうしたものかと
GJ!
あの状況でマリンに聴かせない為に
冷静に判断→行動出来る局長が素敵すぎます。
GJ!!
乙!
おつおつ
乙
ほ
保
穂
帆
補
舗
歩
哺
前話:
>>661-665(場面は
>>333の続き/ユフィ編)
----------
バレットやシドと別れエレベーターに飛び乗ったユフィは、再びこのフロアに降り立った。
薄暗いホールの先には、灰色の隔壁がフロアの奥へ続く唯一の通路を塞いでいる。受けていた忠告通り
それはとても頑丈で、ユフィは手持ちの武器で何度か隔壁の破壊を試みたものの、表面に僅かな傷がついた
程度でびくともしない。こうなると「たとえアルテマでも一撃で穴を開けることはできない」というリーブの話も、
がぜん真実味を帯びてきた。
いちど武器を下ろして隔壁の前まで近づくと、何も映し出さない無機質な灰色がユフィの視界いっぱいに
広がった。近くで見ると光沢のない表面には細かな凹凸がある様にも見えたが、手で触れてみると思いの
ほか滑らかだった。
「アタシの武器じゃ歯が立たない、アルテマなんか使えないし」
もっともアルテマどころか、マテリアを持っていないユフィには魔法を撃つことすらできない。
「ちぇ〜っ。やっぱあの時、クラウドのトコからマテリア1個ぐらい失敬しとけば良かった」
ここで「借りる」という発想にならないのが相変わらずユフィらしいと、バレットがこの場に居合わせたなら
横合いから口を出していたのかも知れない。もう少し言えばユフィなら、あのマテリアはクラウドに「預けて
いる」だけだから所有権は自分にあると主張しバレットと正面から対立して話はさぞ盛り上がっただろう。
しかし残念ながらバレットもいない今、この発言を問題視する者はいなかったし、状況としてもそれどころ
ではない。
ユフィは目の前の隔壁を忌々しげに見上げた。隔壁に接する天井、側壁、フロアのどこにも隙間は
見あたらない。それを確認したユフィはもう一方の手も隔壁に宛がうと両腕を伸ばし、フロアに着いた両足を
広げて踏ん張った。それから顎を引いて全身の力を隔壁に向けたが、やはりびくともしない。押してダメなら
引いてもみたいが、どこにも凹凸がないので手前に引っ張る事ができない。仮にできたとしても、ユフィひとりの
力で巨大な隔壁を動かせるとは考えにくい。たとえ無駄だと分かっていても、できる事はすべてやってみなければ
気が収まらなかった。
(くっそー! やっぱアタシひとりじゃムリか)
感情まかせに勢いで飛び出しここへ戻って来たまでは良かったが、結果この有様だ。俯くと、フロアタイルには
ぼんやりと映り込んだ自身の姿があった。まるで不甲斐ない自分の姿を見せつけられているようで、悔しさの
ような恥ずかしさのような、それらの入り交じった言いようのない感情が込み上げて来て、伸ばしていた腕や踏ん
張っていた足から力が抜けた。ユフィは身体を反転させて隔壁に背を預けると、万策尽きたと言わんばかりに
大きなため息を吐き出す。ふと見上げると、視線の先には乗ってきたエレベーターが見えた。
「だけど……」
ここまで来て、簡単に諦められなかった。
――「“この星に害をなす存在”とはもちろん、W.R.Oではありません。
……私自身なのです。」
諦めるわけにはいかなかった。だからこそ、こうして戻って来たのだ。
ここを去る前に聞いたリーブの声を思い起こしながら、ユフィは預けていた背を離してゆっくりと歩き出した。
歩きながら、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
「武器じゃ歯が立たない、魔法も使えない。でも……!」
立ち止まって振り返る。ユフィはもう一度両足を広げて背筋を伸ばすと、顔を上げて目の前の隔壁を真っ
直ぐ睨み付けた。記憶に残ったリーブの声が、まるで語りかけてくるように蘇る。
――「私は、あなた方をこんな場所で死なせたくありません。」
(アタシだって)
目を閉じ両腕を広げ、大きく息を吸い込む。やがて足下からせり上がってくる血液と、心の底からわき出る
思いが全身を包み込む。
すると今度は、ユフィの周りの空気だけが渦を巻き始めた。生じた気流は風を生み出し、彼女の黒い髪を
激しく揺らした。
(こんな場所でおっちゃんを死なせたくないんだっ!!)
ユフィの中にある全ての思いと、全身の力を、左手に集中する。周囲の空気を掴むように拳を作ると、一瞬
だけ空気が流れを止めた。その瞬間、左足を大きく引いて拳を地面に叩きつけた。
拳を振り下ろした場所から亀裂が走り、乾いた音を立てて一直線に目の前の隔壁めがけて伸びていく。
拳に感じる痛みをはるかに上回って、思いが勝っていた。
めりめりと音を立てて次々と砕け散るフロアタイルは、行く手を阻んでいた隔壁との接地面に歪みができた。
たとえ隔壁そのものが破壊できなかったとしても、土台が崩れてしまえば意味を成さない。ユフィの狙いは
そこにあった。やがて通路の中央部分が陥没した状態でフロアタイルの崩壊が収まると、ユフィの前には
小さいものの道が開けた。見たところ少し窮屈そうだったが、これをくぐれば隔壁の向こう側に出られる。
(よしっ!)
ユフィはひとり勝ち誇ったような笑みを浮かべると、すぐさま駆け出した。この調子でいけば、通路を塞ぐ
5枚の隔壁はなんとかなりそうだ。
(おっちゃん待ってろよ〜)
陥没したフロアを這うようにして進み、隔壁との間にできた僅かな隙間をくぐり抜けたところでユフィは立ち
上がる。すぐ目の前には2枚目の隔壁が待ち構えていたが、突破法が分かれば臆することはない。
(この調子であと4枚!)
ユフィはポケットから携帯を取り出すと、ディスプレイの時刻表示に目をやった。予告された空爆開始の
時刻――日没までは、まだかなり間があった。
「シドの方は心配しなくても平気だよね」
自分の言葉に頷いてから携帯をしまうと、ユフィは2枚目の隔壁に向かった。
(シド編)
----------
バレットやユフィと別れてから、シドはひたすら走り続けた。エントランスホール中央の噴水を横目に、入り口
へと続く長い通路も一息に駆け抜けた。最初、仲間達とここへ足を踏み入れたときは感じなかったが、いざ
走ってみると相当の距離があるように思われた。
ようやく建物の入り口に辿り着いたシドは、外の風を浴びながら息を整えるのもそこそこに文句を吐き出す。
「……だーっ、チクショウ! 入り口にこんな長い通路作るなってんだ!」
ひとまず疲労の原因を生み出したリーブに憤りをぶつけながら、膝に手をつくと深呼吸を繰り返す。どこかで
設計者本人がこの言葉を聞いていたとしたら、そもそもこれだけの距離を休み無く走ったのだから、いくらシド
とはいえ息が上がって当然ですよ。と至極まっとうな反論を返してくるに違いない。
それどころか、リーブならばきっと。
「ついでに煙草の本数も控えた方が良いですよ」
などと要らぬ事を言い出すのは目に見えている。リーブ相手に不用意に論戦を挑めば、いつの間にかシドが
劣勢に立たされている様子が目に浮かんでしまうから困る。
「ってちょっと待て」
今の声は空耳か? シドは慌てて周囲に視線を向けた。人影どころか気配すらない。あるのはW.R.O新本部
施設の建物の入り口だけだ。
(
>>682の下2行を今回の冒頭に訂正させて下さい)
----------
確かに今、声が聞こえた。……いや空耳か?
それと確かに目には浮かんだが、瞼は閉じていない。シドは幾度か瞬きをした後、慌てて周囲に視線を
向けた。人影どころか気配すらない。あるのはW.R.O新本部施設の建物の入り口だけだ。
(『この新本部施設はリーブが設計したんだ』って……確かユフィのヤツ、そんなこと言ってたよなぁ)
建物へ入る前にここで交わされた遣り取りを思い出し、シドは首を捻る。
――「我々はリーブによって人形に命を吹き込まれた存在です。」
さらに、つい今し方リーブが言っていた言葉を思い出しはっとして振り返る。やはり、周囲には誰もいない。
ふと、『壁に耳あり障子に目あり』そんな言葉がシドの脳裏をかすめた。人形を動かせるのなら、いっそ建物
ごとだって不可能ではないのか? いやまさか。答えのでない自問自答を延々繰り返した末、シドが辿り着い
た結論は。
「……そんじゃ『床には口がある』、ってか?」
呟いてから後悔した。はあと盛大なため息を吐いてシドは手をかざして空を仰ぎ見た。日没が近いとは言え、
空はまだ眩しいほどの青色に満たされていた。
地上にシドの姿を見出した飛空艇が着陸態勢に入ったらしい。聞こえてくる音と肌に感じる風でそれを悟った
シドは、手をかざして雲間に目をこらす、遠くにはいくつもの機影が点々と見えた。
「まさか本気で空爆するってんじゃねぇだろうな……」
一刻も早く飛空艇へ戻りたい、はやる気持ちを抑えてシドはハッチが開かれるのをその場で待った。
----------
・物理攻撃→魔法→リミットブレイク。は、FF7のオーソドックスな戦法なんじゃないかなと個人的に。
・「壁に耳あり障子に目あり床には口まであるんだよ」って言わせたかっt(ry。
・投下ミスで読みづらくなりました、すみませんー。
GJ!
激しく乙!
乙
ほ
ボ
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
=======================================================================
※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
※sage推奨。
※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================
前スレ
FFの恋する小説スレPart7
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162293926/ 記述の資料、関連スレ等は
>>2-5にあるんじゃないかと思います。
【参考】
FFDQ板での設定(game11鯖)
http://game11.2ch.net/ff/SETTING.TXT 1回の書き込み容量上限:2048バイト(=2kb)
1回の書き込み行数上限:32行
1行の最大文字数 :255文字
名前欄の文字数上限 :24文字
書き込み間隔 :45秒以上
(書き込み後、次の投稿が可能になるまでの時間)
連続投稿規制 :3回まで
(板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
1スレの容量制限 :512kbまで
(500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そろそろ次スレテンプレ案を貼ってみる。追加・修正あったら適宜よろ。
ここで475KBぐらい。次スレ移行時期には宣言して立ててもらえると重複防止で助かります。
乙です。
保守
ほ
ぼ
ま
り
お
る
と
ろ
す
ふ
い
あ
ー
論
現在512kb。
そろそろ次を立てた方がいいか?
>>709 ?専ブラで見たら477KBなんだが?
次スレはまだ少し早い気もするが、職人さんが快適に投下できるように
環境を整えておくのも大事だとも思った。どうなのかな?
専ブラだと477KB、ブラウザで見ると478KB
もう少し後でもいいとオモ
ほ
ごめん。
ファイルをローカルに落として情報で重さ見たら
512kbだったんだよ。
dat見たら480くらいだった。( TДT)ゴメンヨー
ぼ
前話:
>>372-377 (リーブinFF6という奇妙な設定です。苦手な方は回避推奨)
----------
***
……と、言うわけで。
ケアルを施され、ようやく体調も回復した私は改めて礼を述べると、目の前の見るからに人の良さそうな
老人と、好奇心旺盛な少女は、屈託のない笑顔で応えてくれた。
聞けば老人はこの家の主で名前をストラゴス、少女はその孫娘でリルムと言う。私達はお互いに簡単な
自己紹介を終えた後、早速この奇妙な現象について検討を始めるのだった。
互いの認識をまとめると、どうやらここは私の知っている世界ではないらしい事が分かった。
なるほど。……話の輪郭が、ぼんやりとではあるが見えて来た。
魔晄炉の炉心部に落ちた私は、そのままライフストリームの奔流に乗って「この世界」に流れ着いたの
だろう。無論、ライフストリームは星の中を循環する精神エネルギーとする説から考えれば、実際にこの
身が別の世界へ転送されたのではなく、ライフストリームに溶け込んだ様々の意識(記憶)に影響を受けた
結果、引き起こされた現象なのかも知れない。もし仮にそうだとすれば、これは私の意識が見ている“夢”と
言えなくもない。
またこの場合、私自身の肉体の存続について確証をもった回答は出せない。
しかしこの辺を追究していくと恐ろしい結論にたどり着きそうだったので、この先は敢えて考える事を
やめておく事にした。
もちろん、こうして出た推測を彼ら2人に話して聞かせるつもりはなかった。少なからず彼らは「この世界」で
生きている。彼らにとって「ここ」は夢でも虚像でもないのだから。
郷には入れば郷に従え――私はしばらくの間、この「夢」の世界の住民となることにした。夢ならばいつか
覚める時が来る。そう割り切ってしまえば、なにも悲観するような事態ではないだろう。
***
「ワシらは、封印されていた古の神の復活を阻止するために旅立つことを決めたんじゃ」
古の神の名は『三闘神』。それはこの世界に存在する魔法を生み出した神なのだと、老齢の魔導士は
語ってくれた。もちろん、私の知る限りではそんな神は存在しないし、それを信仰するような思想があると
いう話も聞いたことがない。
しかし「この世界」の中では紛れもない事実だった。それは、目の前にいる彼らの表情を見ていれば
明らかだった。
「だからしばらく家を空けるの、留守番に誰かいてくれた方がいいし。どうせおじさん行くところないんでしょ?
良かったら使ってよ」
その後に続いて少女が申し出る。正直、彼女の提案はとても有り難かった。なにせ神羅カンパニーの
存在しないこの世界で、私は住所不定無職という身分である。ここは素直に彼らの好意に甘えることにした。
それにしても、話を聞いていて不思議に思った。
老人と幼い少女が、なぜそんな危険な旅に出るのかと。彼らの内情に立ち入った事を聞くのは憚られたが、
それでも聞かずにはいられなかった。
「危険を承知の上で、なぜ?」
その言葉に、老齢の魔導士ストラゴスは眉をひそめながら、絵筆をもった幼い少女リルムは、同時にこう
反論する。
「ワシを老人だと思って甘く見とるじゃろ?」
「リルムがまだ子どもだからって甘く見てるでしょ?」
彼らに対して不謹慎ではあるかも知れないが、真剣な表情で反論するふたりの姿が微笑ましく思えた。
「まだまだ若い者には負けんゾイ!」
「見た目で決めたら痛い目みるよ!」
そんなふたりの姿に、思わず笑みがこぼれた。私は気を取り直してこう尋ねた。
「いえ……そうではないんです。ただ、危険だと知っているのに、どうしてそこへ行こうとするんです?
誰かに頼まれたんですか?」
その言葉に少女は首を横に振る。
「じゃあ、何か目的があって?」
ストラゴスさんは少し唸ってから、ぎこちなく首を縦に動かした。
「良かったらその目的を教えていただけませんか?」
命を懸ける理由があると言うなら、それを知りたかった。
「……この目で……見届けたいと思ったんじゃろうな」
「この目で、見届ける? そのために自分の命が危険にさらされても?」
死んだら全てがお終いだというのに?
「そうじゃ」
「それだけの価値があるものなのですか?」
その問いに、ストラゴスは腕組みをして考え込んでしまった。それから顔を上げ、何かを決意したように語る。
「ワシの……ルーツじゃ」
その後ストラゴスさんがそれ以上を口にすることはなかった。
***
彼らの出発は明日なのだという。明朝、彼らの仲間と共にこの村を発つのだと言った。そんな事情を知って
しまった以上、こう言わずにはいられない。
「そんな日に押しかけてしまってすみません」
意図するしないに拘わらず、彼らにとって私が突然の訪問者であることには変わりない。
「いーよ別に。それに、賑やかな方が楽しいじゃん」
対照的に、少女はあっけらかんと答えてみせる。
スケッチブックを挟んで正面に座る少女は、楽しそうに筆を動かしている。どうやら絵を描くことの方に夢中
らしい。私は彼女の求めに応じてここに座っていた。
「……ところで、私なんてスケッチしても面白くないと思いますけど」
「いーよ別に。それに、面白いか面白くないかはおじさんが決めることじゃないよ」
とても利己的な考え方だとは思うが、実際は少女の言うその通りだった。隠し立てせずストレートに語って
いるせいか、不思議と嫌な気にはならなかった。むしろ、そうと知りながらも本心を悟られまいとして振る舞う
自分の方こそが利己的なのだとすら思えてくる。
「絵を描くのが趣味なんですか? ……ええと」
「リルムでいいよ」
素っ気ない答えを返す少女――リルムの視線は、スケッチブックの上と私の間を忙しなく動いていた。
集中が途切れるから話しかけない方がいいのかと発言を差し控えていると。
「リルム様の絵は趣味なんかじゃないよ、立派なジツエキ」
「実益、ですか?」
「そ」
どうやらスケッチが完成したようだ。モノクロの陰影だけで描かれた肖像画が向けられる。
「……これは……」
紙であるはずなのに、まるで鏡を見ていると錯覚するほどの――紙の中に描かれた私は、まるで生き
写しのようで――その絵に見とれていると、くるりとスケッチブックをひっくり返され、たちまち白紙が目に
飛び込んできた。
リルムは手を休めることなく2枚目の絵を描くべく、手を動かし始めた。
「……おじさん面白いね」
「はい?」
実は先程から気にはなっていたのだが、私は既に「おじさん」と呼ばれるほど歳を取っていただろうか?
脳裏に止まる疑問を、けれどどうしても口には出せなかった。いや、まだ幼い彼女から見れば充分「おじさん」
なのだろう。そうだ決して私の容貌的な問題ではないのだ、そう思っておくことにしよう。よし、それがいい。
必死に結論を導き出している私の心中は知る由もなく、リルムはこんな感想を呟いた。
「服だけじゃなくて……見てる物も面白い。リルム、こんな物見たこと無いもん」
「えっ?」
私には、目の前の少女の言っていることの意味がさっぱり分からない。それを承知しているといった風に、
リルムは問いかけてきた。
「ここが魔法の村だって言ったの、覚えてる?」
「はい」
私が頷くと、さらにこう続けた。
「リルムね……回復魔法は使えないけど、絵が描けるんだ」
「そのようですね。とてもお上手でしたよ」
それにしても絵なら、誰にでも描けると思った。上手い下手は別として、絵が描けること自体はそれほど
特別視する能力ではないと。
しかし、その予想とは違った言葉が少女の口からもたらされる。
「リルムが描く絵は、何も目に見えている物だけじゃないんだよ」
「心象風景、ですか?」
「……そう、それもホンモノの心象風景」
その言葉に首を傾げていると、リルムは再びスケッチブックを翻す。その中身を見て、私は今度こそ息を
のんだ。
「……これは……」
それは、恐らく私でさえこの短時間で描き出すことは難しいだろうと思われる設計図面。それも、まだ完成
していない魔晄炉の精巧な図面だった。図面と言うよりも、どちらかというと外観を描写したものに近い。
「リルムはね、心を描き出す絵師――ピクトマンサーなんだ。どう? すごいでしょ」
そう言ってリルムは誇らしげに胸を張った。
驚きのあまり開いたままの口をようやく動かす、出てくる言葉を選んでいる余裕などなかった。
「すごい! ……一体どうやるんですか?」
何かの手品かと思った。いや、手品ではないことは分かっていても理屈が分からない。
もし、これは自分が見ている夢だとすれば、自分の記憶を元にこの世界が作られている。夢から覚めて
冷静に考えればそんな結論が出たのかも知れない。しかし今は、そんなことを思いつく余裕も材料も無かった。
「名前」
「……名前?」
リルムの口から出た思いがけない言葉に、私は確認するように問い返す。
「そ。絵を描くときに相手の名前を聞くの。そうするとね、その人の心を支配できるの。つまり心が見えるんだよ。
リルムはその絵を描く」
「なるほど!」
そうかと思った、これはたとえ話なのだ。
「確かに。親しい間柄である事を示すために、私も相手の名前を口に出す事が良くあります」
部下と話をするとき、取引先と話をするとき、それはいつも心がけている事だった。相手の顔を見て、相手の
名を口にする。
「相手に名前を呼ばれると安心……というのも変かも知れませんが、落ち着く感じがしますよね」
私の言葉にリルムは首を横に振った。それから顔を上げると真剣な眼差しを向けてこう言った。
「だけど相手に名前を知られるとね、完全に心を支配されちゃうの。だからうかつに教えたらダメなんだよ?」
少女の発したこの言葉には参った――心を支配、とは少し大袈裟にも思えたが上手い表現だ。彼女は
私などよりもはるかに立派な交渉術を身につけているのだろう。
だとすれば、とんでもない少女だ。
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・時間かかってすみません。これまだ続くんですが息抜きがてら。忘れた頃にやって来ますw
・FF6とFF7に共通(?)するアビリティとアイテムのお話が主題。
・一部表現がおかしいところ(
>>716の真ん中あたり)すみません…。たぶんリーブ一人称で作りたいんです。
・新スレ立てて頂いたとして、今のところ手元に保守投下用のストックが無いのでお役に立てないかも
知れません。ごめんなさい。
G−−−J!FF6知らないけど、リルムスゴスw
>いや、まだ幼い彼女から見れば充分「おじさん」なのだろう。
>そうだ決して私の容貌的な問題ではないのだ、
>そう思っておくことにしよう。よし、それがいい。
このへんで吹いたw
新スレ立てるなら乙レスでかせげばいいですよ
別に謝る必要なんてさらさら無いし。マターリ行きましょうや。
GJ!
おつー
乙
ほ
よし保守だ。
ぼ
ま
り
730 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/01(月) 00:24:08 ID:Tsp01z3oO
もしかしてわりと真面目にFFを小説化するスレって落ちた?
も
ん
も
ん
前話:
>>679-683 ----------
こうも立て続けとなると、さすがに息が上がった。
過去に経験してきたモンスター相手の実戦でさえ、これだけの短時間に大技を連続して放つ機会もそう
滅多になかった。それはユフィ自身が、身軽さを活かした戦術を得意としているせいもある。クラウドやシドの
ような重量武器は扱えない、だから一撃のダメージで仕留める事を狙うよりも、敵の目を攪乱させながら
不要な戦闘を回避しつつ、最小限の交戦で目的に辿り着く。それが彼女の戦闘スタイルだった。
しかし文字通りに立ちはだかる壁は行く手を阻み、回避することはできなかった。5枚目の隔壁をくぐった
ユフィは呼吸を整えるのもそこそこに立ち上がると、正面を見据えた。
――「必ず戻って来るから!」
あの時の宣言通りにここまで戻って来た。
この扉の先に、リーブがいる。自分のことを「星に害をなす存在」だと告げてユフィの背を押すと部屋から
追い出し、この隔壁を作動させたリーブが。その言葉の意味を聞くために、何よりも彼を助けるために、
ユフィはここまでやって来た。
「これで……最後っ!」
大きく息を吸い込んで、うっすら血のにじんだ左の拳を全力で床面に叩きつける。これが6度目だったが、
もはや痛みは感じなかった。
床面を走る亀裂が扉まで達すると、室内から漏れ出た光が薄暗い通路に差し込んだ。やがて亀裂が
広がって最後は扉ごと真っ二つに砕くと、太い光の帯が通路を照らし出した。亀裂の行方を目で追いながら、
威力は衰えていないようだと安堵する。
すぐに立ち上がる事ができずに片膝をついた体勢のままだったユフィは、差し込む光の眩しさに思わず
目を細めたものの、顔を逸らそうとはしなかった。
視界いっぱいに溢れる光の中、崩れた扉の向こうに佇んでいたリーブの影を見つけたからだ。
重々しい響きを伴って、砕かれた扉の断片が粉塵を巻き上げながらフロアに横たわる。扉の前に立って
いたリーブは特に驚くでもなく、その様子を眺めていた。
やがて砕け散ったフロアタイルの残骸を踏みしめて室内から一歩踏み出すと、リーブは改めて周囲に
目をやった。隔壁は確かに無傷だが、フロアタイルは見るも無惨に砕かれている。これでは“侵入を阻む”
という隔壁の機能を果たしているとは言えない。
「……『力山を抜き気は世を蓋う』とは、よく言ったものです。あなたなら必ずここへ戻って来ると思って
いましたが、正直なところもう少し時間を稼げると考えていました。……お見事です、私の負けですね」
目の前の光景を見つめながら感心した様に呟くと、組んでいた手を下ろして頷いた。それからユフィの
前まで来ると、リーブは屈んで回復薬を差し出した。
「技の名前なんて深く考えたことないよ」
こうも正面切って褒められるとどこか照れくさい。そもそも抜山蓋世と命名されたこの技の名前の由来も、
自分ではあまり理解していないし。と、そんな言い訳じみた言葉がなぜかユフィの脳裏を過ぎる。回復薬を
受け取ると、視線を逸らして短く礼を言った。
「ここでお待ちしていた甲斐がありました。ですが本音としては、あなたには戻って来てもらいたくなかった
んですよ」
リーブの言葉に思わずユフィは顔を上げた。
「なんかさ、言ってる事おかしくない?」
真っ直ぐに向けられた視線と指摘を、リーブは否定しなかった。
「そうですね。しかし理屈と感情は別物です。頭で理解していても感情で納得できるとは限らない、
ユフィさんにもそういう経験、ありませんか?」
それは人としてあって当然の揺らぎであり、矛盾だとリーブは言った。
だからユフィは期待を込めてこう返す。
「! じゃあ、やっぱりおっちゃんは……」
しかし期待に満ちた声は、あっけなく否定された。
「“人形”ですよ。あなたが下で会った『リーブ』と同じです」
「……!」
あまりにも簡単な否定。ユフィは思わず手にした回復薬を握りしめた。リーブは立ち上がると言葉を続ける。
それは疑問というより、避難の色が強い口調だった。
「ユフィさん、忠告は何度も受けていたはずです。なのにどうしてここへ戻って来たんですか?」
下で会ったリーブは確かに言っていた――「上で会ったのがリーブ本人であるという確証もなければ、
人形だと判断する根拠もありません」――だからこうなる事も、頭の片隅では分かっていた。それでもここへ
来たのは、明らかにユフィの感情だ。根拠や確証と聞かれたところで、そんなものはどこにもない。
なぜなら彼らは皆、『リーブ』だったからだ。姿や声、言葉遣いも、立ち居振る舞いも。なにもかもがユフィの
知るリーブのそれだった。しかし彼らの言うとおり、彼らが“リーブによって作られた”のなら、それも頷ける。
作り主が自分の特徴を人形に組み込んだのだろう。しかもそれを本人が操作しているのだとすれば、似ると
言うよりもそのものだ。
しかしユフィをここへ向かわせた動機となるものが、まったく無いわけではない。
「理由って聞かれても、うまく説明できないよ。でも……違う気がしたんだ」
僅かに揺れる身体を支えようと両足に力を入れて、ユフィはゆっくり立ち上がった。それから、リーブの顔を
真っ直ぐ見上げて断言する。
「下で会った『リーブ』と、おっちゃんは、違う。だから……!」
戻ってきた。そう言い切ったユフィを見下ろしながら、自らを人形だと言ったリーブは考えた。
自分達は同じ人形であるはずなのに、同じようにしてインスパイアの制御下にあって操られているはず
なのに、どこが“違う”のか。なぜ“違う”のか。実際は彼女の思い過ごしだとしても、彼女はどこにその違いを
見出したのだろうか? いくら考えたところで、人形である自分にその答えは見つけられないだろう。
だから考えることを諦めた。
「ありがとうございますユフィさん。“人形”である私のこともそんな風に思い遣っていただけるなんて、
なんだか少し嬉しいですね」
そんな場合ではないと分かっていても、面と向かって礼を言われるとやっぱり照れるのだと、ユフィは
気まずくなって視線を逸らした。
「あっ、あのねえ当ったり前じゃん! ……仲間なんだからさ、そうだ当然だよトーゼン!」
言っていること自体は本心だったが、改めて口に出すとなるとどうも気恥ずかしい。居ても立っても
いられずに、無意味に腕など振り回しながらそう言った。そんなユフィの姿をじっと見つめていたリーブの
視線に気付いて、ユフィは恐る恐る顔を向けた。
すると、当然だがリーブとまともに目が合い、お互いを見つめ合う格好になる。
「…………」
「な、……なんか言えよ」
ちょっと恥ずかしい。
「…………」
「こらっ、無視すんな!」
ユフィの抗議は気にせずに、そのままリーブは背を向けた。その後を追おうとして慌てて踏み出した一歩が、
散乱するフロアタイルの破片を踏み外してバランスを崩した。とっさに両手をついて顔面強打は免れたものの、
非常にみっともない体勢を取らざるを得なかった。
さすがに恥ずかしい。
しかし幸いなことに背を向けているリーブは、こちらの状態には気付いていない様子だった。それはそれで
恥ずかしいが、気を取り直して立ち上がると今度は慎重に歩き出した。足下がおぼつかないのは、先ほどの
無理が影響しているせいだろうか。隔壁破壊に意識を集中していた事もあったが、ユフィが思っている以上に
身体に負担をかけていたことを今になって知った。扉が開いて真っ先に回復薬を手渡してくれたリーブの
判断は、正しかったのだ。
だからといって、もらった回復薬を使う気にはなれなかった。おかしな話だが、ちょっと悔しいのだ。「負けた」
とか言っておきながら実際に負けてるのは自分のような気がする。ユフィはそれを認めたくなかった。もらった
回復薬をしまうと、ユフィは室内に足を踏み入れた。
部屋に入ると、壁面に並んだたくさんのモニタがユフィを出迎えた。しかし先ほどとは違い、その多くは何も
映し出していない。
「我々W.R.Oは……『星に害をなす、あらゆるものと戦う』事を目的として存在しています。しかし、発足当初は
戦うことよりも傷ついた土地と人々の復興に重きを置いていました。もちろん、その理念は今でも変わりません、
むしろその目的を達成するための手段として、我々は『戦うこと』を選びました。それが今のW.R.Oです」
何も映し出さないモニタを見上げながら、リーブは語り始めた。
「我々“人形”は、そのために生み出されました」
----------
・こんなに必死になるユフィの動機付けが文中ではちゃんと示されずに曖昧だった気がしますが、
この辺の補完用SSができたら貼らせてもらいたいなと。(どうなんでしょう?)
・ここで500kbだったとしたら、次スレ立てさせてもらいますね。週末だし頃合いかなと。
更新キター!
スレ立てした人も乙。
744 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/07(日) 13:01:14 ID:phsUC1k00
>うっすら血のにじんだ左の拳を全力で床面に叩きつける。
ユフィ…(´;ω;`)
一人一人の言動を見ていると、古代種の神殿でケット・シーが
犠牲になった時からメンバーの認識はインスパイヤで創造されたケット・シーも、
リーブも、リーブ人形もみんな“仲間”なんだなーと。
ユフィが真っすぐで一生懸命になればなるほど、
なんだか局長に踊らされている感じがして、
もどかししうて、じれったくて、たまりません。
次スレに誘導も兼ねまして、期待age
×もどかししうて
○もどかしくて、
失礼しますた。
ほ
前話:
>>736-740 ----------
3年前、ディープグラウンドとの交戦によって破壊された本部施設に代わる新しい施設の建造を提案した
のは、局長であるリーブ自身です。また、この建物の設計はすべてリーブが担当しています。実際の建造
作業には一部W.R.O隊員の協力もありましたが、ほとんどの部分はリーブだけで行っています。
これだけの規模の建造物ですから、一部に協力を得られたとは言えかなり大がかりなものになるのは
想像に難くないでしょう。それを「ひとりで」となると不思議に思われるかも知れませんが、リーブの持つ
異能力を用いればそれを実現することが可能です。異能力……インスパイアと呼ばれるこの能力は、
無機物を自在に操ることが出来るものなのです。これは、マテリアを使った魔法の類とは原理が違います。
先ほど下でも聞いたかと思いますが、リーブは6年前、このインスパイア能力を使ってケット・シーを遠隔
操作していました。そもそもケット・シーは小型コンピュータを内蔵したぬいぐるみです、インスパイアで
補えない一部の動作を内蔵コンピュータが補っていますが、あくまでも補助的なもので基本的にはリーブに
よる“直接操作”で動いています。
またご存知の通りケット・シー自体は戦闘向きではありません。ですからインスパイアで動いている
ケット・シーは、さらに別の機体を操って戦いに臨んでいました。この施設の建造方法も原理はこれと同じ
です。この建物を建造する際、リーブはインスパイア能力を使って様々な機械を操り、建造作業を進めて
来た……と言うわけです。
……それではなぜ、「ひとりで」作業を進める必要があったのか?