+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員には、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン><参加者名簿>が支給される。
また、ランダムで選ばれた<武器>が1つから3つ、渡される。
<ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る。(FFUのポシェポケみたいなもの)
・生存者が一名になった時点で、主催者が待っている場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。
+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・放送時に発表される『禁止技』を使ってしまうと、爆発する。
・日の出放送時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
・なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
・たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止魔法が使えるようにもならない。
+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減します。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
・10-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
・ただし、スペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
・その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。
+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイヤルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章ではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
生存者リスト
FF1 1/4名:アルカート
FF2 3/6名:フリオニール、マティウス、レオンハルト
FF3 7/8名:サックス、ギルダー、デッシュ、ドーガ、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 3/7名:カイン、リディア、エッジ
FF5 5/7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、ギード、ファリス
FF6 8/12名:ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、エドガー、ロック、ケフカ、トンベリ
FF7 6/10名:ケット・シー、ザックス、ティファ、セフィロス、ユフィ、シド
FF8 5/6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア
FF9 6/8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、サラマンダー
FF10 1/3名:ティーダ
FF10-2 3/3名:ユウナ、リュック
FFT 4/4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス
DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 2/3名:ロラン、パウロ
DQ3 5/6名:オルテガ、アルス、セージ、フルート、ローグ
DQ4 7/9:ソロ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、ロザリー
DQ5 11/15名:ヘンリー、リュカ、パパス、ブオーン、デール、レックス、タバサ、ビアンカ、はぐりん、ピエール、プサン
DQ6 8/11名:テリー、イザ、サリィ、クリムト、ハッサン、バーバラ、ターニア、ランド
DQ7 3/5名:フィン、アイラ、キーファ
DQM 4/5名:わたぼう、ルカ、テリー、わるぼう
DQCH 3/4名:イクサス、スミス、ドルバ
FF 51/78名 DQ 43/61名
計 94/139名
■参加者リスト
FF1 4名:ビッケ、ジオ(スーパーモンク)、ガーランド、アルカート(白魔道士)
FF2 6名:フリオニール、マティウス(皇帝)、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:サックス(ナイト)、ギルダー(赤魔道士)、デッシュ、ドーガ、ハイン、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス
DQ1 3名:アレフ(勇者)、ローラ、竜王
DQ2 3名:ロラン(ローレ)、パウロ(サマル)、ムース(ムーン)
DQ3 6名:オルテガ、アルス(勇者)、セージ(男賢者)、フルート(女僧侶)、ローグ(男盗賊)、カンダタ
DQ4 9名:ソロ(勇者)、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン、リュカ(主人公)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、レックス(王子)、タバサ(王女)、ビアンカ、はぐりん、ピエール、マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー、ミレーユ、イザ(主人公)、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公フィン、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ
FF 78名 DQ 61名
計 139名
さっきのセージ達の戦いが恐ろしくてすぐに目が覚めた。
ハッキリと様子を見ていたわけではないのに、お腹のあたりがムカムカザワザワする。
戦いそのものには慣れているし、並の大人よりも長けている。
でも、人間同士が何の理由もなく殺し合う、そんな状況に居合わせていることが
未だに信じられなくて、気持ち悪いと思う。
だから、セージに止められたのに、迷惑や心配はあまりかけたくなかったけど、
最初で最後の無理を言って外の空気を吸いに出た。
「危なくなったら、イオラあたりを一発ぶちかましてくれればすぐにとんでくから」
そう言ってくれた。
ちょっとだけ、多感なお年頃だし、一人になりたかったというのもあったかもしれない。
撫でるように、タバサの頬を夜風が通り過ぎる。
――風がこんなに気持ちいいのに。
――空気がこんなにおいしいのに。
目の前の荒れた大地を見ると、さっきの戦闘が生易しいものじゃなかっただろうとわかる。
いくらセージでも傷を負っただろうけど、たぶん自分で治してしまったんだろう。
セージが呪文で頂点を極めていても、こんな状況が続いたら限界はいずれ来る。
――私もみんなを助ける呪文がもっと使えたらいいのに。
父や兄のように。
そうすればセージの負担も軽くなるし、多くの人の命を救えるかもしれない。
サンチョやピピンみたいな人を増やしたくないし、親しい人の死を知って悲しむ
自分のような人も増やしたくない。
「回復呪文はさ、相手をいたわる気持ちが大事なんだよ。
マヒャドなんか使ってる冷たいタバサにはそれが足りないんだろうね〜」
兄が冗談交じりにそう言う度に
「あれあれ?いいの、怒らせて。使っちゃうわよ、イオナズン」
なんて言ってやった。
父に相談したこともあった。
「人には向き不向きがあるからね。
お父さんやレックスが敵を引きつけてる間にお母さんやタバサが強力な
攻撃呪文で蹴散らして、もし怪我をしたらお父さん達が治す。
そうやってみんなでお互い協力して戦うんだよ。
それに、タバサのバイキルトはお父さんもレックスも大助かりだよ」
実際リュカの言う通り、それでうまくやってきた。
それにレックスの言うこともあながち間違いでもない。
タバサは人を守りたいと思うよりも、どちらかというと理解したいというか、
解り合いたいと思う気持ちが強かった。
だから動物達や、モンスターまでもお友達になれた。
レックスはそれを「絶対おかしいよ!」と言って、双子なのに早速解り合えなかったけど、
サンチョに「リュカ坊ちゃんやマーサお祖母様もそうだったんですよ」と言われると
誇らしさでいっぱいになった。
自分と同じような父が、人を守る呪文も得意なのが実はうらやましかったけど。
急に……今、何か聞こえて……タバサの顔が引き締まった。
ちょっとぼ〜っとしてたけど、確かに近くで音がした。
闇の中、陰に紛れるようにほこらから離れないようにして座り、
できるだけ身を縮めていた自分が誰かに見つかったとは考えにくい。
何よりセージがレムオルをかけてくれたし。
透明人間になれる呪文なんて初めて知った。
念のため、いつでも立ち上がって戦えるようにちょっとだけ腰を浮かせている。
また、今度はハッキリとすごく近くで草が動く音がした。
その方向を凝視すると、そこには、こちらの様子をうかがっている野ネズミがいた。
「おいで。ごめんね、ビックリさせちゃった?あなたをいじめるつもりはないのよ」
安心したタバサは元の縮こまった体勢に戻り、囁くように言う。
本当はビックリしたのは自分だったのだけど。
そろそろと野ネズミが不思議そうに近寄ってくる。
――お母さんやお兄ちゃんなら、汚いとか言って追い返しちゃうのかな……。
そんなことを考えて野ネズミを見ていると、暗くてよく見えないけど、
確かに火傷のような痕があった。
さっきの戦いにでも巻き込まれたのだろうか。
なんだか、こんな小さな命がちゃんとあることにほっとして、嬉しくて、
でもちょっと申し訳なくて、悲しくて。
「おいでよ。おねえさんがその怪我治してあげる。だからもっと近くにおいで」
ちょっと戸惑っていた野ネズミが、とっとっとっとっと近寄ってくる。
「ほいみぃ!〜〜〜ぃ?……ダメ?」
まあそうだろうと思ったけど、何の変化も起きなかった。
「そんなにすぐ出来るようになったら苦労しないよね」
野ネズミはタバサの伸ばした手に顔をすり寄せている。
「ごめんね、ちょっと期待させちゃって。やっぱり私には無理みたい」
突然、野ネズミが飛び跳ねた。
すごい勢いで。
そうかと思った瞬間には、すでにそこに野ネズミはいなかった。
タバサが目をパチクリさせる。
――いじめないって言ったのに。
――……そろそろ戻った方がいいかな。今度はお兄さんに寝てもらおっか。
――悟りの書もちゃんと読みたいな。
――そういえばお母さんの寝顔ってすっごい綺麗。
――どこかのお姫様みたい。あ、お姫様は私だっけ。
――ギルダーさん、だったかな?お母さんも起きたら私達に話したいことがあるって言ってたっけ。
野ネズミが消えていった闇を見つめて、静かに、ほこらの中へと戻っていった。
――魔女は恐いけど、こんなことに言いなりになるなんてやだし、
もっとお兄さんやお母さんの力になれたらいいな。
巣穴に戻った野ネズミは、先ほど感じた恐ろしい気配に身を震わせていた。
それは、人間の言葉で言えば、『魔王』。
自分の火傷の痛みが消えてかけていることに気付く余裕はなかった。
【タバサ(透明・すぐに解ける) 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
現在位置:いざないの洞窟近くの祠すぐ外→内部の部屋
第一行動方針:休息ついでに悟りの書を読む 基本行動方針:家族を探す】
※タバサが賢者に目覚めつつありますが、ほんの何日かで使い物になるほどではないでしょう。
セージに本格的な指導を受ければいくらか可能性はあるかもしれません。
※タバサはギルダーが奇襲をした張本人であることも、ピピン他を殺したこともまだ知りません
「助かったみたいだな…でも」
「ああ、なんか複雑だ」
二人は、アリアハンの方角から洩れる光を見て呟いた。
もう疲労は回復している。修羅場と化してしまったあの地に何があるのか…気になって仕方が無い。
でもやっぱり戦闘が始まったのだろうと…簡単に察することが出来てしまう。
「……ローグ、戻るか?」
「馬鹿言うなよ、村に行こうって言ったのはお前だろ?」
「だけどな…」
何故か良心が痛む。
自分達だけ、大きな問題から逃げるように走っていて良いのだろうか。
否。今は逃げているだけだろう。
そう考えていると、ローグが話しかけてきた。
「バッツ、あのな…」
「…なんだよ」
「俺たちが逃げた後に何か重大な事が起こるかもしれなかったのは重々承知してただろ?」
「ああ…」
「今の俺たちじゃお世辞にも役に立てない……。
それに、生きて誰かに会いたいんだろ?お前は」
「ああ……」
俺たちはまた走り出した。
レーベまではもうすぐだ。
もう、迷っているのは駄目だ。
切り捨てる力も必要だと、バッツは痛感した。
【バッツ 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式
第一行動方針:ラストスパート 第二行動方針:レーベの村へ 第三行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ローグ 所持品:銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド
第一行動方針:ラストスパート 第二行動方針:レーベの村へ 最終行動方針:首輪を外す方法を探す】
【現在位置:レーベの村近郊(東の方角)】
もう少しでレーベに到着します。
サラマンダーは背後から迫る気配に舌打ちした
もはや彼に後ろを振り返る余裕はない
なぜならその気配・・・殺気があまりにも恐ろしいから・・・とんでもないから・・・
ただ逃げた、しかし彼は思った
これはハッタリではないだろうか・・・?
なぜならさっき見たときサックスの仲間は弱そうな奴ばかりだったから
だからこそ彼は子供だが一番まともな剣士に見えるサックスを狙ったのだ
今頃はもうサックスは死んでるだろう、しかしそんなことは関係ない
今は逃げなくては・・・いきる為に
フルートはただ怒っていた、優しいサックスを殺す・・・そんなあいつに・・・
はっきりいって許せない・・・
しかしフルートはサラマンダーより強かった
怒っていたフルートはサラマンダーを一刀両断、ロランもろとも
フルートは元に戻ったあと生ききる決意をした
【サラマンダーとロラン志望】
19 :
試練 1/3:05/01/12 02:15:09 ID:WF3evOoq
「とりあえず…これでいいよね?」
アリーナは、クリムトの目を覆うように布を巻きつけていた。
細長くちぎったクリムトの服を巻き付けた簡易の眼帯だ。
慣れない作業だったが、それは不器用ながらに完成した。
「う、む。すまない」
クリムトは心底すまなそうに言う。それが、アリーナの心にまた罪悪感を与えて。
「ううん…あたしが、深く考えないで分裂なんてしちゃったから…」
「誰だってそういう事はある。…どんな賢者であっても」
クリムトは思う。
元の世界では全てを知っていたつもりであった。だが、ここに来て思い知らされている。
自分は何も知らなかった――
「眼が見えなくなることで、わからなかった事がわかるようになってくる…」
クリムトは呟き、アリーナは彼に視線を向ける。
「人間は五感があると言うのに…大抵は視覚をベースにして物事を判断する。それが失われた事を或いはチャンスと捉えることも出来る」
「チャンス?」
思わずアリーナは聞き返した。
「うむ。今までは視覚に頼って怠けていた聴覚や嗅覚等の本来の力を発揮するためのチャンスとな」
――或いは自分自身を戒めるチャンスだろうか。
大賢者とまで呼ばれた。少なからず自分は驕っていたのではないか。
自分を諌める為、自分の無力を感じさせるために用意されたこの状況を切り抜けてこそ、本当の大賢者と呼ぶに相応しいだろう。
嘗ての牢獄よりも闇が満ちているこの世界を、光を失ったこの目で切り抜けてこそ――
20 :
試練 2/3:05/01/12 02:15:46 ID:WF3evOoq
クリムトは急に、顔をアリーナに向けて、言った。
「さて、おぬしはあの分身を止めたいと思っているのであろう?ならば早めに行動を起こさねばなるまい」
「えっ?あっ、うん…」
「私は足手纏いだからここに残る事にする。…これを預けよう。絶対に死ぬでないぞ」
クリムトは、アリーナに腕輪を差し出す。
「え、でも…」
一瞬呆気に取られたアリーナは、それを受け取って、言葉を続ける。彼の言葉の本当の意味も、受け取って。
「…ありがとう。で、そっちはどうするの?」
「私は大丈夫だ」
威厳の有る様な、言い切った声を聞き、アリーナは頷いた。
「うん…わかったわ。あなたも絶対に死んじゃダメだからね」
クリムトが心配じゃないと言えば嘘になる。
でも、彼が何を望んでいるか、わかる気がするから。
彼は、あたしがあたし自身でケジメをつける事を望んでいるのだろう。
そして彼は、何か『自分一人で』したいことがあるのだろう。
クリムトは、口の端を歪めた。目を無くして表せる表情は、これが限界だった。
笑顔を表現したいのだという事は、アリーナにもわかった。でもそれはあまりに痛々しい笑顔で。
わかり過ぎて、辛い。
「じゃぁあたし、行くね。また、会えたらいいね」
一種、最も過酷な戦いが待っているのだ。自分との。
それでも彼女は、目の前の相手が見ることが出来なくても、満面の笑顔をして見せた。
「じゃあねっ!」
地面を蹴り、彼女は走り出した。
その足音が聞こえなくなるまで、クリムトはその口の端を歪めたまま、座っていた。
21 :
試練 3/3:05/01/12 02:16:27 ID:WF3evOoq
「さて…」
足音が聞こえなくなると、クリムトは立ち上がった。
「大自然よ。クリムトは眼が見えぬぞ。襲い掛かってくるがいい」
両手を広げて呟き、数十秒の静寂を楽しむ。
否、静寂ではない。風が木々を僅か揺らし、虫が鳴き、地面を小動物が駆け回っている。
その全てを、今の彼は感じることが出来るのだ。
それを感じることを妨害していた一つの能力を失うことによって。
「…さて、行くとしよう」
彼は、杖を片手に、木々の鬱蒼と茂る森を歩き出した。
数歩も歩かないうちに、木の根に躓く。
…だが、これでよいのだ。
これが試練なのだ。大自然を相手とする試練は始まったばかりだ。
躓くのは自らの感覚が未熟なだけなのだ。
自ら混沌とした危機の中に身を置けば、いずれはその全てを感じることが出来るかもしれない――
クリムトの姿もまた、森の奥に、消えた。
【アリーナ 所持品:プロテクトリング 行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【クリムト(失明) 所持品:力の杖 第一行動方針:視覚以外を鍛える 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在位置:レーベ南東の山岳地帯近くの、南の森から別々に移動中】
ほしゅ
夜風が闇の色に染まった森をさざめかせ、あたりには炎のはぜる音が響く。
思いのほか夜は冷えるようだ。焚き火の前に座るシンシアは、いくつかの枯れ枝を火の中に投げ入れた。
めまぐるしく過ぎていった一日が終わろうとしている。
既にここまで30人以上が死に、散らばって行った参加者たちの居場所はどこともしれない。
今現在ここにいるのはエドガー、デッシュ、シンシアの3名のみ。
焚き火をはさんだ向こう側でエドガーとデッシュが対人レーダーを調べると言って、
筆談を交えつつなにやら話し込んでいる。
あたりを見回りに行ったザックスとランドはまだ帰ってこないままだ。
(ソロはどうしているのかな…)
シンシアの頭にこのゲームに参加している唯一の知り合いの姿が浮かんだ。
小さい頃から何をするのにも一緒で、幼馴染というよりは兄妹のように過ごしてきた存在。
ちょっと生意気で、曲がったことが大嫌いで、超がつくほどのお人良しで…。
あいつはそう簡単には死ぬような奴じゃない。こんなゲームに乗るような奴でも。
炎のうちを見つめながら思案にくれる。と、この即席のキャンプ地を囲む茂みが、ガサッと音を立てて揺れた。
話し声とともに足音が近づいてくる。
現れたのはザックスとランドだった。
「ただいま、戻ったぜ」
「おかえりなさい、どうでした?」
尋ねるシンシアに、ザックスは首を振った。特に異常はなかったということだ。
ランドは皆の荷物がまとめてある場所へ歩いていき、皮袋に入っている水で喉を潤している。
ザックスは焚き火の傍に腰を下ろし、エドガー達のほうを見ながら口を開く。
「あっちはまだ時間かかりそうだなあ。シンシアもう寝たんか?」
「ザックスさん、あとは私が見張りをしてますから、休んでください」
「いや、まだ何が起こるか分からんし、いいよ。お前もメシ食っとけ」
シンシアは遠慮がちにしていたが、ザックスが微笑むのを見て、根負けしたように頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
会釈して、シンシアは荷物置き場へ立ち去る。
シンシアは荷物からアリアハンから持ち出した干し肉やパンなどを持って、
再び焚き火のそばへやってくるとザックスとランドが参加者名簿を開いてなにやら談笑していた。
「…で、このターニアって娘がすごくいい娘なんだよ。まだ片思いなんだけどさー」
「へぇ、かわいいじゃん。生きて帰ったら紹介してくれよ」
「やだね。ザックスは誰か好きな女の子はいないのかよ?」
──全くこの非常時に…。
そう思いつつもザックスの返答が気になり、シンシアは二人の後ろで立ち止まる。
「ああ、いたぜ」
「えぇっ!!?」
質問したランドよりも早く大声を上げてザックスの返答に反応するシンシア。
「な、なんだよいきなり!?」
「ザックスさん、好きな人って…!?」
「ああ、…でもシンシアにも好きな人がいるんじゃなかったっけ?
昼間に酒場で話してた時、何度も名前が出てたじゃないか。確かソロとかいう…」
「あ、あいつとは小さい頃から一緒だから兄妹みたいなものですっ!」
シンシアはなぜこんなにも自分は動揺しているのかと激しく戸惑いを感じた。
そしてそれと同時に違和感もおぼえた。先程のザックスの答え方がなにか引っかかったからだ。
「なあ、それでどんな娘なんだ?」
ランドが問うと、ザックスはおもむろに参加者名簿のあるページを開いて差し出した。
シンシアとランドは参加者名簿を覗き込む。
そして一瞬の間のあと、2人は表情を硬くして黙り込んでしまった。
ザックスが指し示した先には、「エアリス・ゲインズブール」という名の女性の写真と名前があったのだが、
その名の上には血のような朱い斜線が引かれていたからだ。
それを見た瞬間、シンシアは先程感じ違和感の正体を悟った。
違和感の正体、それはザックスが好きな人が「いた」と答えたことだ。「いる」ではなく…。
「ごめんなさい…」
「わ、わりぃ…」
シンシアとランドは同時に、口ごもりながら謝罪の言葉を口にする。
ザックスは軽く笑いながら二人に声をかける。
「どうしてお前らが謝るんだよ」
それから視線を目の前で燃え上がる炎に向けて、ザックスは独白するかのように語りだした。
「ま、確かにこのゲームが始まってからしばらくは無意識にあの娘…エアリスのこと探していたかもな」
「…もしかして、私やランドさんと出会ったことがその人を探すのを諦めさせてしまったんじゃ…」
ザックスの焚き火の炎を見るその目は、まるで遠くを見つめているかのような眼差しだった。
「だけど、酒場でシンシアと…それからランドと出会ったとき思ったんだ。俺、こいつらの事守りたいって」
「ザックスさん…」
「でも俺、2つのこと同時に出来るほど器用じゃないし、
それに守りたいと感じたお前らをオレのわがままで死なせるわけにはいかない。
結局、見捨てる形になっちまったエアリスには悪いけども、…悔いはない。俺はね」
相変わらず焚き火を見つめるザックスの横顔を覗き込んだシンシアはその瞬間、どきりとした。
ザックスの目は、真っ赤だった。
シンシアはこの時悟った。悔いが無いわけがない。わざと平気な演技している。
エアリスさんのために、考えて考えて苦しんで苦しんで、けれどそれを押し殺しているのだ。この人は……。
ザックスの心中を想い、思わずシンシアは泣きそうになった。
(ごめんなさい、ザックスさん……)
しばらくごそごそしていたが、じきに規則的な寝息が聞こえるようになった。
シンシアとランドは眠ったようだ。ザックスは目を見開いたまま、炎を見つめていた。
エドガーとデッシュはレーダーの解析に没頭しており、そんなザックスの様子に気づいていないようだった。
すっと一筋、ザックスの頬に光る物が線を引いたと思うと、
それは止めどなく溢れて冷たい地面を静かに濡らした。
【エドガー 所持品:バスタードソード 天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン
【デッシュ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる)
第一行動方針:対人レーダーを調べる 最終行動方針:ゲームの脱出】
【ザックス 所持品:スネークソード 毛布
【シンシア 所持品:万能薬 対人レーダー 煙幕×2 毛布
【ランド 所持品:オートボウガン 魔法の玉 毛布
第一行動方針:森で夜を明かす 最終行動方針:ゲームの脱出】
【現在位置:アリアハン北部の森奥地】
ほしゅ
27 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/17 10:05:01 ID:Encf7ioC
あげ
終わりのない暗闇の中に、一人で立ちつくしていた。
いや、正確には、少し離れたところにはよく見知った人たちがいたけれど。
そこにいる友人たちの表情を見て、ギルダーは悟った。
…この距離は、越えられない境目だ。
『こっちへ来るな! …ずっと仲間だと思ってたのに…見損なったよ!』
『俺やサリーナ、ほかの奴らも殺すつもりか!? ふざけんじゃねえぞ!』
『ギルダー…クリスタルに認められたあなたが、そんな…… 残念です』
『やはり、道を踏み外したのじゃな…』
『とんでもないことしてくれたねえ。許されると思ってるのかい!』
――サックスは、ほかの二人の仲間と、トパパとニーナを連れて。
――デッシュは、恋人であるサリーナと、シドやアルスを連れて。
――エリアは、俺の中にある風のクリスタルの力を奪って。
――ドーガが、俺の腕をつかまえて。
――ウネの爪が、俺の身体を貫いた。
みんなは、動けなくなった俺を忌々しそうに一瞥すると、闇に消えていく。
それでもなお、何とか立ち上がろうと必死でもがく俺に、今度は剣が突きたてられる。
『わかりましたか?あなたの罪の重さが』
『あなたはもっと苦しむべきなんだよ、僕たちのぶんも』
『あたしは助けようとしただけなのに! ひどい!』
『…お前は、アルティミシア以上の化け物だよ』
ガーネット、ピピン、エーコ、ラグナ。 俺が殺した人たち。
いつの間にか、四人が俺を取り囲むようにして立っていて。
それぞれが、怒りと悲しみと憎しみを込めて、俺を殴りつける。蹴りとばす。踏みつける。
意識が朦朧としてきたとき、四人もいなくなって。
そこには血にまみれた俺と、悲しそうに立ちつくすサラだけが残った。
『…サラ…… 助けて、くれ…』
俺は力を振り絞って、サラがいるであろう方向へと手を伸ばした。
けれども、サラはその手を取ろうとはしなかった。
ただ、悲しそうに俺を見下ろすだけ。
『サラ姫! そんなところにいたらそいつの血で汚れますよ!早くこっちに!』
その声に反応して、サラは後ろを振り返った。
みんなと同じように、足早に遠ざかっていくサラの背中に向かって、俺は叫んだ。
『サラ!! 俺は……俺はただ、お前を泣かせたくなかっただけなんだ!!』
それでも、サラは振り返ろうとは、しなかった。
「……ギルダー? ギルダー!」
「……?」
――次に気がついたときに見えたのは、真っ黒な暗闇でも、真っ赤な血でもなく。
セージの、鮮やかな薄い水色の髪だった。
「大丈夫? ほら、しっかりしなよ」
それで、ようやく現実に引き戻された。
俺は殺し合いに参加していて、セージに会って、見張りをして、いつの間にか眠っていて、それで…
「……夢?」
「見張りするとか言っといて、気がついたらうんうんうなされてるんだもんねぇ。 汗びっしょりだし」
「……すまない」
汗で額に張り付いた金髪を袖で拭いながら、ギルダーは苦しげに息を吐き出した。
それを見て、セージも軽くため息をつく。
「…まあ、きっとそうなるだろうとは思ってたけどね」
「…どういう意味だ?」
「そういう意味だよ」
「…………」
一度罪の意識を持ってしまうと、これほどまでに苦しいということを、ギルダーは初めて知った。
(…夢の通りかも、しれないな)
この罪は、仲間たちは誰も許してくれず。
血に汚れた自分には、サラさえも触ろうとしないで。
自分の殺した人たちは、自分が早く死ぬことを願っている。……
「ギルダー」
ふいに名前を呼ばれて、ギルダーは顔を上げる。 セージは真剣な表情で話し始めた。
「思いつめるなとは言わないよ。
けど、君が思いつめたって死んだ人は帰ってこないんだから。生きなよ」
「……本当に、俺は生きていていいと思うか?」
「命は軽くない。それを忘れないでいてくれるなら、僕はかまわないと思うよ。
それに、君が殺した人たちが、君が死ぬことを望むと思うの?」
「……」
まるで、見透かされたかのように、さきほどまでの考えを否定されたように思えた。
『ギルダー。 罪を償うってどういうことだと思う?』
『……いきなり、どうしたんだ?』
『…僕はね、目の前で本当の両親と妹を殺されたのに、泣いて逃げ出したんだよ。
父さんは死ぬ直前、僕に言ったんだ。『妹を守れ』って。
もちろん、僕はそのつもりだった。二人で逃げ出した。
それなのに、妹がモンスターにつかまったとき、僕は戦おうともしなかった。ただ、泣いて逃げたんだ』
『…無理もない。 そのとき、サックスはまだ5つだったんだろう?』
『そうかもしれないね。 でも、僕は妹を守るべきだった。それが使命だったんだよ』
『……』
『だから、僕は火のクリスタルに選ばれたとき、ナイトのジョブを選んだ。
今度こそ、使命を守りきれるように。旅の途中でも、たくさんの人を守れるように。
…けど、それが罪を償うってことになると思う?
僕、最近思うんだ。これは自己満足だ、って…。罪を償うことにはならないって…』
『……そんなこと…』
『僕は今、こうして生きてて幸せだよ。 それに、妹が僕を恨んでるってこともないと思う。
でも…だからってあのことを忘れちゃいけないと思うんだ。
そして、精一杯、妹のためになにかしてあげたい。 …だけど、何をしたらいいかわからない』
『サックス……』
(罪を、償う…)
セージの話を聞いて、サックスが昔、それをどういうことかと聞いてきたのを思い出した。
そのとき、悲しそうなサックスを見た自分も、その意味について真剣に考えたものだった。
結局、自分には到底答えは見つけられなかったのだけれども。
(今となっては……知りたいのは俺のほうだ、サックス)
もしも、あのあとサックスが答えを見つけられていたのだとしたら…。
今度はこちらから質問してみたいと、心から思った。
(だが…やはり、お前は教えてくれないのだろうな)
いや、それ以前に…セージが言う通り、この答えは自分で生きて見つけるべきなのかもしれない。
けれども…
階段を降りてきたタバサと、それを出迎えるセージを見ながら、ギルダーは思った。
――夢と現実と、どちらが事実なのだろうかと。
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:休息ついでに悟りの書を読む 基本行動方針:家族を探す】
【セージ 所持品:ハリセン・ファイアビュート・ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:見張り 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【ギルダー(MP消費) 所持品:なし
第一行動方針:見張り 第二行動方針:ビアンカとタバサに全てを説明する
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ビアンカ 所持品:なし
第一行動方針:睡眠 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】
僕は話した。自分のことを、仲間のことを。
魔女のことを。僕達に纏わる、全てを。
……けれど、僕が話した魔女はアルティミシアじゃない。
魔女イデア。――まま先生の方だ。
アルティミシアのことを言う気はなかった。
彼女と戦ったなどと知れたら、僕の望みから遠ざかるだけだろうだから。
必要であれば育ての親でも撃てる、恩知らずでサイテーの人間だと思われたかった。
その方が、ソロ達も殺しやすくなるだろうから。
それでも……僕にも守りたいものがあったのだということだけは、わかってほしかった。
ずっと昔に出会って、離れ離れになって、ようやく再開できた大切な友達のことを……知ってほしかった。
僕という弱い人間がいた証として――誰かに知って、覚えていてほしかった。
それで、話した。優しかったまま先生と、僕が狙撃した魔女イデアのことを。
さっきまで殺そうと考えていたはずの、友達のことを。
そして名前は出さなかったけれど――僕の大切な、彼女のことを。
話している間、何度もその頃のことを思い出した。
孤児院での日々。再会の日の光景。狙撃の時のこと。仲間達のこと。
辛い風景。悲しい記憶。――楽しかった、思い出。
今の僕には遠すぎて、まぶしすぎて、辛すぎて……あまりにも、痛すぎるものばかりで。
頭に浮かぶごとに、絶望は深まり――そして、死にたくなった。
やがて死への誘惑に耐え切れなくなり、自分で舌を噛み切ろうと考えた。
けれど歯を立てた瞬間、彼女の姿が脳裏に浮かび、思い止まって話を続ける。
話している間にまた思い出し、絶望感に苛まれ、自殺を考え、思い出し……
それを繰り返し。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も、同じ事を繰り返し。
自分でも嫌になるほど繰り替すうち……絶望とは別の何かが、心の中に芽生えていくのに気付いた。
ソレは次第に大きくなり、膨れ上がり……やがて妙に楽しげな、明るい声で囁き始めた。
――『コロそうよ』、と。
『ねぇコロそうよコロしちゃおうボクはもうイきるのにもシぬのにもキョウミないよぉぅだからコロそうコロしにイこう』
『シぬまでコロしてコロしてコロしツヅけるんだよそうしたらせふぃにまたアえるかもシれないじゃないかぁカノジョにまたアえるんだよぅ』
『そろもへんりーさんもえりあさんもさぁすこーるもぜるもりのあもさぁらぐなさんもさいふぁーもさぁみぃんなコロしちゃおうよぉ』
『サイショからシぬキならナニもコワいものなんてナいよねぇもうあのヒトだってコワくないよほらあはははははは』
『あははコロそうツラいコトなんかワスれてさぁコロすことだけカンガえてさぁカタっパシからコロそうよぉあははっあはははははは』
……冗談じゃ……ない。自分で自分に嫌悪感が走る。吐き気がする。
例の『アレ』と同等かそれ以上の狂気を、自分が抱えていることに……今まで以上の絶望を覚えてしまう。
僕が戦ったのは、帰り、会い、守る。そのためだ。
最後まで生き残り、元の世界に戻り――アルティミシアと刺し違えても、大切な人と仲間達を守るためだ。
好きで殺しているわけじゃない。殺したくて殺しているわけじゃない。
目的が達成できないなら、もう殺す必要も、生きる必要も無い。
僕は狂ってまで殺したくない。僕は堕ちてまで、生きたくない――
『でもせふぃにアいたいよねぇまだアキラめてないよねぇアキラめきれるわけないよねぇワカるよぉボクそのキモち』
『コロせばいいじゃんコロせばさぁカノウセイはまだアるんだしせふぃにアえるかもシれないよぉアキラめちゃダメだよぉ』
『マホウはまだツカえるよねぇそろをコロしてさぁブキをウバいカエすんだよそれでノコりのヒトもコロすんだあははははは』
『ねぇコロしちゃおうみんなみんなみぃんなコロそうボクイガイはみぃんなコロしちゃおうよねぇコロそうよぉあははっあははははは』
――嫌だ。『ナニがイヤなのさぁ』僕は絶対に嫌だ。『イマまでとベツにカわらないじゃないかぁ』
僕は狂いたくない。『イマさらタメラうヒツヨウもないよねぇ』生きたくない。『アキラめるなんてさぁボクらしくないよぉ』
壊れたくない。『がーでんでせふぃがマってるよぉぅ』殺したくない。『ほらぁそこのヤツからコロしてやろうよぉ』
嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……
「……話も終わったし、もう、いいだろ? 早く、僕を、殺せ」
「え?」
聞き違いかと思ったのだろうか。ソロはきょとんとした表情で僕を見た。
それで、僕は耐え切れなくなって叫んだ。
「僕を殺せって言ったんだよ! ソロでもヘンリーさんでもエリアさんでも、誰でもいいから!
早く、僕が殺したくなる前に! 壊れていないうちに! 狂ってしまう前に!
僕を殺せ! 殺してくれ! 頼むから殺せよ! お願いだから殺してよ!」
「お、おい! 落ち着け!」
ヘンリーさんが驚いて立ち上がる。エリアさんが怯えたように後ずさる。
騒ぎに気付いて、あの人とレナさんと、三角帽子の男の子が飛び起きる。
「もう生きてる意味なんかない! 生きてたくないんだ!
僕はもう会えない! それがわかってるのに、自分じゃ死ねないんだ!
これ以上生きてたって壊れて狂うだけなんだ! だからもういい! 早く殺してよ!」
僕はそれこそ狂ったように叫んだ。自分で耳を塞ぎながら叫んでいた。
「殺してくれ! お願いだから! 僕が狂って壊れて殺すことしか考えなくなる前に!
殺してよ! 僕はギルバートさんの仇で五人も殺してあんたたちまで殺そうとしたんだ!
殺す理由なんていくらでもあるだろ!? だから殺せ! 僕が壊れないうちに殺してくれ! 頼むから!」
ソロとヘンリーさんが必死に何かを言っていたけれど、もう、誰の言葉も聞こえなかった。
我を忘れて、頭を抱えて、ただ『殺してくれ』と繰り返し――
――そして、僕の中で何かが弾けた。
どこかから、闇色の何かが溢れ出し、全てを塗り変えていく。
奇妙な解放感と心地よさに包まれながら……僕は意識を失った。
――絶叫がぴたりと止まった。
同時に、涙を溢れさせていた瞳が色を失う。
比喩ではない。虹彩の色そのものが、青から漆黒に変じたのだ。
まるで、闇を流し込んだかのように。
「……おい?」
ヘンリーがおそるおそる、アーヴァインの肩に手をかける。
けれど次の瞬間、勢い良く振り払われ、数メートルほど弾き飛ばされる。
アーヴァインの腕ではなく――彼の腕から浮き上がるように現れた、カギ爪の生えた悪魔の手によって。
アーヴァインの身体が、ネジの切れた機械人形のように、ぐらりと傾いだ。
そして地面に倒れる彼から分離するかのように、半透明のソレが姿を現す。
――宿主が精神的に追い詰められたせいで、制御を失い暴走したのか。
――あるいは壊れかけた宿主を守るために、魔女の封印すら退けて、無理やり力を解放しようというのか。
不完全に実体化したG.F.ディアボロスは、蝙蝠に似た翼を広げ――咆哮を上げた。
「うわぁっ!?」
近くにいたソロとエリアが、上から押さえつけられるように体勢を崩す。
次にビビが転び、ピサロも片膝をついた。
「エリア!」
ディアボロスから一番遠くにいたレナが、慌ててエリアに駆け寄ろうとする。
しかしエリアは首を振り、叫んだ。
「私より、ヘンリーさんとターニアちゃんを……!」
レナははっと足を止め、すぐに「わかったわ」とうなずいて踵を返す。
そして眠っているターニアを背負い、よろよろと立ち上がったヘンリーに肩を貸して走り出した。
暴走を続け広がっていく力の波動が、絶対に届かぬ場所まで。
「ど、どうするの?」
地面に縫いつけられながら、ビビが目だけを動かしてディアボロスを見上げる。
「精霊の一種か? ……いや、幻獣のようでもあるな。
どちらにしても術者の制御を外れて暴走している以上……奴が力尽きるまで耐えるか、倒すしかあるまい」
ピサロが呟く。それを聞いていたソロが振り向いた。
「術者の制御って……もしかして、アーヴァインに意識が戻れば、どうにかなるのか?」
「普通はな。だが、先ほどの様子では……期待するだけ無駄だろうが」
「それでも、試す価値はあるってことだよな」
ソロは身をよじってアーヴァインに向き直る。
だんだん範囲を広げ、強くなっていく重力の中で、ソロは呪文を紡ぎ上げ――
「ザメハ!」
眩い光が散る。意思を呼び戻すための光が。
瞳を染めた闇が払われ、元の色を取り戻した虹彩にディアボロスの姿が映る。
そしてアーヴァインの右手が小さく動き、招くような仕草をした。
ディアボロスは今一度咆哮した。そして翼を折り畳みながら、宿主へ帰還するように姿を消した。
「……」
アーヴァインは身を起こし、ぱちぱちと目を瞬かせる。
それからきょろきょろと、落ち着かない様子であたりを見回す。
今までの張り詰めたような雰囲気は、微塵もない。
それどころか、有っていいはずの緊張感すらない。
「……大丈夫、なのか?」
ソロが声をかけた。先ほどが先ほどだけに、できる限り優しい声音を作って。
アーヴァインは振り返り、茫洋とソロを見る。
彼は少し不安げに首を傾げたが、ややあって、苦笑を浮かべながら答えた。
冷酷な殺人者のものではない。気楽で、少々場違いですらある、ごく普通の青年が浮かべる笑みを。
「あー、うん。僕は平気だけど〜。……なんか、とんでもなくメイワクかけたみたいだね〜。
ホント、ゴメンね〜」
――そして、彼は続けてこう言った。
「ところで……良かったら教えてほしいんだけどさ〜。
ここって、どこらへんなのかな〜? ガルバディア? トラビア? バラム? それともエスタ辺り?
それとさ〜、赤い飛空挺か僕の友達見なかった〜? スコールと、キスティスと、ゼルと、リノアって言うんだけど〜……」
【レナ 所持品:エクスカリバー
第一行動方針:ヘンリーとターニアを守る 基本行動方針:エリアを守る】
【ヘンリー(負傷、6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可)
第一行動方針:逃げる 第二行動方針:デールを殺す】
【ターニア(睡眠中) 所持品:微笑みのつえ
第一行動方針:不明】
【現在位置:レーベ北西の茂み(ソロ達とは少し離れている程度)】
【ピサロ(HP3/4程度、MP消費、睡眠中) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:不明 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ビビ(睡眠中) 所持品:スパス
第一行動方針:不明 基本行動方針:仲間を探す】
【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:不明 第二行動方針:サックスとギルダーを探す】
【ソロ(MP消費) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング グレートソード キラーボウ 毒蛾のナイフ
第一行動方針:状況の把握 第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【アーヴァイン(HP1/3程度、記憶喪失) 所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能)
第一行動方針:状況の把握】
【現在位置:レーベ北西の茂み、海岸付近】
*アーヴァインはバトロワ内での出来事(広間での説明含む)と、セルフィのことを完全に忘れています。
切っ掛けがあれば思い出すかもしれません。
39 :
>38修正:05/01/18 20:56:19 ID:2KMdO0R7
状態表記治すの忘れてましたorz
【レナ 所持品:エクスカリバー
第一行動方針:ヘンリーとターニアを守る 基本行動方針:エリアを守る】
【ヘンリー(負傷、6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可)
第一行動方針:逃げる 第二行動方針:デールを殺す】
【ターニア(睡眠中) 所持品:微笑みのつえ
第一行動方針:不明】
【現在位置:レーベ北西の茂み(ソロ達とは少し離れている程度)】
【ピサロ(HP3/4程度、MP消費) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:不明 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ビビ 所持品:スパス
第一行動方針:不明 基本行動方針:仲間を探す】
【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:不明 第二行動方針:サックスとギルダーを探す】
【ソロ(MP消費) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング グレートソード キラーボウ 毒蛾のナイフ
第一行動方針:状況の把握 第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【アーヴァイン(HP1/3程度、記憶喪失) 所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能)
第一行動方針:状況の把握】
【現在位置:レーベ北西の茂み、海岸付近】
寒い…、冷たい…、ココは…。
僕は、いったい、どうして…。
お父さん…。
「気分はどう?タバサ」
「ええ、だいぶいいみたい」
タバサが扉を開けたことで、すっと室内の温度が下がる。
「外は随分寒いみたいだねぇ」
セージがタバサの頬に触れると、とてもひんやりしている。
「夜が明けるまでまだあるから、もう少し温かくして寝ていなさい」
「でも、セージさん達も休まないと」
「僕たちは大丈夫。ちゃんと目を開けたまま寝ているからね」
そんなことが嘘であることは、タバサにも容易に想像できた。
かといってここで睡眠を強く勧めたところでセージは承知しないとも思う。
タバサは言われるままに、規則正しく寝息を立てている母の元へ向かった。
けれど。
「タバサ!!」
寝台まであと三歩とないところで、タバサは崩れるように倒れた。
セージが駆け寄り、抱き起こす。反応がない。
もう一度、頬に触れてみると、先程とは違い燃えるような熱さだ。
「う…ん、どうか、…タバサ!!!」
異変に気づいたのか、ぐったりと倒れるタバサを見つけ、悲鳴を上げる。
「すごい熱。とにかく、このベッドに」
「すみません。僕が、冷える外になんか行かせなければ…」
「いいえ、あなたの所為じゃないわ」
顔の熱とは真逆に、手足は凍るように冷たい。
ビアンカはメラを弱くした熱で冷えた体を温める。
同時に、セージはヒャドを制御して顔の熱を下げた。
「ただの風邪ならいいけど」
ベットに横たえられたタバサは、ピクリとも動かない。
いや、唇は微かに震えているが、そこにいる者達はそれに気づかない。
(お兄ちゃん…)
唇は、そう動いていた。
城を囲む堀に、彼はいた。
フレアスターの直撃を受け、その勢いでこんなところまで飛ばされたのだ。
そこは陰になっており、外部からは見えぬ闇の中だった。
ダメージは深い。指一本動かせない。回復の魔法を使おうにも、今の彼にはそれが出来ない。
レックスの喉には、太い木の破片が刺さっていた。
おそらく攻撃によって大破した木の欠片が、爆風によって飛ばされてきたのだろう。
たとえどれだけ魔力があろうと、言霊に乗せなければ魔法は発動されない。
堀には水が張られている。
レックスは腰まで水につかり、血を流す。体はどんどん冷えていく。
(寒い…、冷たい…、ココは…。
僕は、いったい、どうして…。
光…、光が見えて、そして…。
そうだ、向こうに、いたんだ、お父さん…)
フレアスターの光の中で、レックスは父を見つけたと思った。
本当に見たのか、それともただの思い込みなのかはわからない。
けれどこの状況で、レックスにとってそれは真実なのだ。
彼は、父を呼んだ。
(お父さん…。僕は、ここにいる…。僕を見つけて、お父さん…)
けれど、声は音にならず、届かない。
(お父さん…、お母…さん…、タバ…サ……)
タバサの頬に、一筋の涙が流れた。
そして、人々の希望を背負うはずの勇者は、誰に見取られることなく、闇の中で息を引き取った。
【タバサ(高熱、昏睡) 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:不明 基本行動方針:家族を探す】
【セージ (MP消費) 所持品:ハリセン・ファイアビュート・ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:タバサの看病 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【ギルダー(MP消費) 所持品:なし
第一行動方針:見張り 第二行動方針:ビアンカとタバサに全てを説明する
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ビアンカ(MP消費) 所持品:なし
第一行動方針:タバサの看病 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】
【レックス 死亡 残り93人】
異変に気づいたのか、ぐったりと倒れるタバサを見つけ、悲鳴を上げる。
↓
異変に気づいたのか、ビアンカはぐったりと倒れるタバサを見つけ、悲鳴を上げる。
です。
あと、二個目の2/4は3/4の間違えです。
「失敗作にしてはよくやったものだな」
セフィロスは瓦礫と化した街を見渡す。
「しかし、黒マテリアの力はすばらしい。ジェノバ細胞の治癒能力をもってしても傷を防ぐことができないとはな」
そう言うと、セフィロスは瓦礫の中を探り始める。
――もちろん、黒マテリアを探すために。
そのとき、武器防具屋のあった場所から微かに呻き声が聞こえてきた。
「クックック、まだ死んでないのがいるな」
セフィロスは黒マテリアを探すのを中断して、呻き声の主の元へと歩いていった。
「…ピ……サロ…さ……ま」
歩いていった先には祈りも虚しく、瓦礫の下敷きになっているロザリーの姿があった。
「まだ生きてるのか、止めを刺してやろう」
セフィロスは村正を右手に携えて、ロザリーに少しずつ近づく。
「これで終わりだ――」
その刹那、瓦礫の中からセフィロスに向かって太刀筋が走った。
間一髪でセフィロスはその斬撃を避ける。
「な〜にがあんたたちはここにいろだ、あのチョコボ野郎! あんなことしやがって! けじめのために俺らを犠牲にする気かよ」
瓦礫の中からサイファーが姿を現した。
サイファーは魔方陣のお陰で回復し、メテオの衝撃をまぬがれたのだった。
「とにかくよ、サイファーさんはな、か弱い人間の騎士なんだ! もしお前があの娘を殺す気なら、それは俺を倒してからだ」
サイファーはそう言ってロザリーの前に前に立ちはだかる。
「下らん、死ね」
セフィロスはサイファーに向かって突進した。
サイファーはセフィロスの第一撃を避け、セフィロスに渾身の一撃を放った。
セフィロスはその一撃を村正の柄を使って弾き、そしてサイファーの腹を村正で突き刺した。
サイファーは言葉にならない叫びを発する。
「雑魚が」
セフィロスは村正をサイファーから引き抜いてロザリーの方へ振り返る。
「次はお前の番だ」
「待て…よ、まだ決着はついてない…ぜ」
サイファーは腹から血を大量に流しながらも立っていた。
その姿は雄雄しく、まるでライオンのようであった。
「俺のな…ロ……マンティ…がはっ」
口から血がこみ上げて、言葉にならなかった。
だが、力強くセフィロスの頭上から剣を左肩に向けて振り下ろした。
そう、狙いをつけて正確に。
「お前ごときに…ぐうぉぉ…」
セフィロスの肩から勢いよく鮮血がほとばしる。
「頭に……乗るな……」
セフィロスはサイファーを村雅でなぎ払う。
サイファーはロザリーの近くに吹っ飛ばされる。
(風神、雷神…俺はもう…駄目みたいだ…
こんな俺の姿を見たら笑うだろ…?
まだ…この娘を逃がすまで…死ねないんだ…
最後に俺に力を…与えてくれ…)
サイファーは残った最後の力でロザリーの上の瓦礫を持ち上げる。
そして向かってくるセフィロスに一言。
「こ…の…黒…い……珠……を……見や…がれ」
なんとそれは黒マテリアだった。
そしてサイファーはその黒マテリアを遠くに投げつけた。
「くそっ、死にぞこないが…!!」
そういうとセフィロスは、左肩を押さえて黒マテリアの飛ばされたほうへ走り去った。
(これで…もう…終わりか…
ロ…ザリー…逃げろ…よ………
…意識が………………………)
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
現行動方針:セフィロスから逃げる 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【セフィロス(HP1/3程度、左肩負傷) 所持品:村正
現行動方針:黒マテリア確保 第二行動方針:城下町に居る参加者を皆殺しに 最終行動方針:参加者を倒して最後にクジャと決闘】
【現在地:アリアハン城下町】
【パウロ テリー(DQM) トンベリ(トンヌラ) 生死不明】
【サイファー 死亡 残り92人】
途中題名がおかしくなりました。すみません。
49 :
修正:05/01/19 17:32:33 ID:RIlWuGXd
【ロザリー(瀕死)所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
現行動方針:セフィロスから逃げる 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
50 :
作者:05/01/19 21:42:10 ID:t9NrYLZR
彼が、果報は寝て待つもんだぜ、と言ってからどのくらいが経つだろう。
彼は本当に寝てしまった。でも私には、眠れない夜。
闇がこんなに怖いなんて。夜がこんなに恐ろしいなんて。
…でもここは、静寂じゃない。
彼のイビキが、完全な静寂を防いでいる。
…少し、ありがたい。
寂しさに包まれることも防いでくれるから。
独りじゃない、と感じることが出来るから。
…姉さん、私、凄い弱虫かもしれない。
やっぱり、独りは耐えられないと思う。
いつだって姉さんが隣にいて、それに慣れてしまっていた。
今、彼がいなくて、本当に独りだったら。
――私、きっと、泣いている。
眠れぬせいで時間を持て余し、カンテラの明かりの下、参加者名簿に目を通す。
今まで開きもしなかったそれには、嘗ての仲間が幾人も載っていた。
――ブライとトルネコは、黒ずんだ赤い線によって名を消されていたけれど。
目を閉じる。
亡くなった仲間達に冥福を祈り。
姉さんが参加していないことを感謝し。
ソロや他の仲間達とともにこの狂気を打ち破ることを夢見て。
きっと、ピサロさんも仲間になってくれるはず。
彼は、抑え付けられるのを嫌うから。
強制的に参加させられたとなれば、プライドが許さないから。
あの日の仲間達が集えば、きっと…
「…?」
閉じているはずの瞼の裏に、一瞬何かがよぎる。
「…アリーナ?」
瞼の裏のアリーナは、いつもは見せない暗い表情をして。
自分の後ろを、指差した。
そこにいたのは、もう一人のアリーナだった。
ただ、普通じゃなかった。
その手は、服は、髪は、血に塗れて。
不気味な笑みを浮かべて。
「…!」
耐え切れなくなって、目を開けた。
相変わらず闇が辺りを覆っている。
「…何?」
占い師としての才覚が、私に見せたもの。
「アリーナが、二人?」
…血塗れのアリーナ。それはアリーナでは無いみたいで。
「…夢?」
額をちょっと右掌で押さえ、何度も瞬きをして。
「きっと、そうね…」
拭えない違和感をそのままに、自分への言い訳を口走ると、私は名簿を仕舞う。
自分の占いの才覚が不完全である事を、生まれて初めて祈った。
そして、血塗れのアリーナの姿も虚構である事を。
――彼のイビキは、いつのまにか聞こえなくなっていた。
【ハッサン(HP残り1/8+α、睡眠) 所持品:E奇跡の剣 E神秘の鎧 E爆発の指輪(呪)
行動方針:指輪を外す 最終行動方針:仲間を募り、脱出】
【ミネア 所持品:いばらの冠 嘆きの盾 悪魔の尻尾 行動方針:ハッサンの指輪を外す】
【現在位置:いざないの洞窟西の山岳地帯】
(…さん)
誰かが自分を呼んでいるみたいだ。
(みな…ん、私の声が聞…えますか…)
ぼんやりとした映像と、今にも消えてしまいそうな声が聞こえる。
(私はロ…リー。参…者の一人です)
何かの力に阻害されているのか、画質も音声も悪く、はっきりとは分からないが、綺麗な女の人が呼びかけてきている。
(私達…今、危機…陥って…ます)
映像が少し変わった。女の人の視点なのだろうか。知らない人が何人もいるが…あいつは…テリー?
(敵の……に遭い、何とか結界に逃げ……ことができまし…が、それもいつ破られ…か…)
また映像が変わった。大きなお城が映っている。そして、その城下町で絶え間ない爆発が起こっている。
(このまま…は、私達はみな……してしまい…す)
(無理を承知で…願いしま……どうか、私達…助けて…さい)
ますます映像がぼんやりしてきた。異世界のお城で見たモザイクみたいだ。
(私達…今、アリ……ンの城下町……)
もう音声もはっきりしない。
(どうか…助けて…)
最後だけ映像が鮮明に映り、向こうにいる全員の姿がはっきり見えたかと思うと、ぷっつりと映像は切れてしまった。
「竜王様…」
ドルバが、元は竜王であった黒こげの死体の前で悲痛な表情を浮かべている。
泣いているのだろう。だが、純粋な竜族に涙は無いのだろうか、目から液体がこぼれ出ることはない。
ドルバが竜王に触れると、その途端に、触れた部分から徐々に竜王の体全体が灰と化し、そして灰の山が築かれた。
もはや竜王の体は原型をとどめず、その名残は灰の山の中の頂上にある首輪だけであった。
「ドルバ…」
イザがドルバに声をかける。しばしの沈黙の空気が流れる。
「イザよ、心配は無用。我は大丈夫だ」
灰の山からドルバが首輪を取り出す。
「首輪がここに一つある。ギードとやらのところへ持っていけ」
「…いいのかい?」
「これも仕方のないことだ。ゲームの犠牲者を減らしたいのだろう?早く脱出の手がかりをつかめ。我も後で行く。
…ただ、今少し、今少しだけここにいさせて欲しい」
「…分かった」
イザは塔の中へと向かっていった。
竜の咆吼がし、塔の内部に木霊した。
イザが元の部屋に戻ろうとしていると、そこからルカが走り出してきた。
ギードが後を追っている。…意外と速い。
「ルカ!一体どうしたんじゃ!?」
「いいから、早く付いてきて!」
「ギードさん、どうしたんですか?」
「分からん、突然起きたかと思うと、ワシに付いてくるようにと言って飛び出して行ったんじゃ」
「とにかく、追いましょう」
ナジミの塔の入り口。ドルバがいたところからはちょうど反対側だ。
ルカは東の方角を見ながら呟いていた。町が赤々としている。
「やっぱりあの夢は本当なんだ…早く助けに行かなくちゃ!」
「いい加減理由を話しておくれ」
ルカは夢で見たことを話す。アリアハンがとんでもない状況に陥っていること、女性が助けを求めていたこと、
そして、友達であり、ライバルであるテリーがその場所にいたこと。
「夢、か。イザ殿、信用性はあるじゃろうか」
「多分、事実だと思います。僕らのいた世界では、夢の世界が実在していましたし、現実の世界と行き来することもできました。
夢に干渉できる人間が来ていてもおかしくはない」
「このままテリーにも死んでもらいたくはないんだ!ギード!早く行くぞ!」
ルカが魔法を使い、湖に大きな貝殻を出し、乗り込もうとした。
「待つんじゃ。お主はここに残れ」
「どうしてさ!?俺が行っちゃいけない決まりごとでもあるの!?」
「そんなものはないが、向こうの状況は、お主にはあまりに危険じゃ。助けに行って、逆に死んでしまっては元も子もない。
ここはお主のいた世界とは違って、相手はマスターであろうと、モンスターであろうと襲ってくるのじゃからな。
ワシらにまかせておけ。お主の言う友達とやらは無事に連れ帰って見せるわい」
「でも、マスターがいないと命令変更だってできないよ」
「…なら、こうしよう。僕がギードの一時的なマスターになる。向こうに着いたら、テリー君と合流できるはずだ。
そこで、さらにテリー君にギードのマスターになってもらう。これでいいだろう」
「マスターとモンスターは、信頼関係が一番大切だと言っておったじゃないか。
ワシらを信頼して欲しい。無事に連れ帰って見せよう」
「ここの反対側に、ドルバっていうドラゴンがいるんだ。僕たちが戻るまでは、彼に守ってもらうんだ」
「…命令を変更するよ。作戦はいのちだいじに。かならず生きて返ってこい!」
【ギード 所持品 不明 現在地:ナジミの塔東の湖】
【イザ 所持品:きんきらの剣、エクスカリパー、マサムネブレード、首輪 現在地:ギードの背中】
行動方針:アリアハンへ加勢
【ルカ 所持品 霜降り肉、ほしふりのオーブ 現在地:ナジミの塔の小島東 行動方針:待機】
【ドルバ 所持品:不明 現在地:ナジミの塔入り口 行動:竜王の墓を作っている】
最終行動方針:同志を集め、ゲームを脱出する
上
がらがらと音をたてて、家々が崩れてゆく。
クジャは、それを満足そうに眺めていた。
「あははは…素晴らしいよ…破壊のなんと美しいことだろう!
まさに最高のエンターテイメント、でも、これはまだ余興。
本当のお楽しみは、これからさ…恐怖に歪んだ愚かな虫を、
一匹、一匹、少しずつ、潰していく…原型もとどめないほどに。
甲高い絶叫をBGMにして、この舞台はひとまず幕を閉じる…」
クジャはなお自分の周りに炎をたて、その中にいる自分に陶酔していた。
しかし、それは遮ぎられる。
彼自身よくしった、かつて自分を葬り、助けた男の声。
劇は場面を進めた。
「クジャ!」
クジャは一瞬はっとした。名を呼ばれたのは、久しぶりだった。
しかしすぐに、目の前で自分を睨み付ける少年に目をやると、ふっと口元を緩めた。
「ジタン。また会えて、嬉しいよ」
白々しくそういうと、ジタンは拳を握りしめて、再びその名と疑問の声を投げかけた。
「クジャ…なんでだ?どうしてなんだ!?」
「なんで、だって?それはいったい、何について尋ねているのかな?」
ジタンは一瞬怯んだようだった。だが、目を見据えて、
「何に…何に?そんなの、決まってる…全部、全部だ!」
「全部?」
クジャは愉快そうに笑った。それにも関わらず、ジタンはさらに勢いこんで叫んだ。
「そうだよ…全部、全部だ!クジャ、なんでおまえが、ここにいるんだ…?
どうして、また、こんなことをするんだ?どうして…どうして、俺とおまえが?
なんで、なんでこんなことになってるんだよ!?」
それは、クジャの行為への疑問と言うよりは、いままでの思いを吐き出していたのかもしれない。
「…できるなら、僕がききたいね」
暫く、沈黙が流れた。二人はただ、互いに視線を交錯させた。
「…怒らないのかい?」
ふと、クジャが尋ねた。
「怒らない…だって?馬鹿言うなよ、怒ってるさ。おまえが想像もつかないくらいな」
「じゃあ、なぜ…トランスしない?」
「…しないんじゃない。できないんだ」
クジャは不思議そうな顔をした。
「できない?この状況でまだ、できないのかい?」
「…」
「ふふ…それはそれは、おかしなことをいうじゃないか。
君がその力を出し切れば、もしかしたら僕を倒せるのかもしれないのに?」
ジタンは、やり場のないような目をクジャに向けて、言った。
「クジャ…おまえは、ほんとうに、もう…」
右の手のひらを軽く広げ、ゆっくりと上へ持ち上げた。
「…それ以上のおしゃべりは、やめてもらおう」
その声と、上空の手のひらをはっきりと広げたのは、ほぼ同時であった。
手の中いっぱいに火球ができ、それは瞬時にして、幾重もの放物線状に連なった火の柱となり、轟音をたててジタンへ向かった。
ジタンは身をかがめ、タイミングを合わせて跳躍し、軽やかにその火をかわしてゆく。
目標を失った炎は、地面にぶつかると同時に、その凝縮されたエネルギーを放出し、大きな爆発音と共に散ってゆく。
爆風で舞い上がった破片を体に受けながら、ジタンは石を握ると、それをクジャに向けて投げた。
クジャほどのレベルのものを相手に、通常そんなことはほとんど意味をなさないが、今回に関しては功を奏した。
その理由はごく簡単だ。ジタンの狙った先は、クジャの顔面だったのである。
ナルシストな彼は、自分の顔に傷がつくのを恐れ、魔法の詠唱をいったん中止し、その石をよけた。
それを好機に、ジタンは一気に大地を蹴り上げると、クジャに向かって拳を振り上げる。
自分の間合いにジタンが入ってきたのを感じたクジャは、魔法を使うのをやめ、手刀でジタンの拳を受け止めた。
クジャはジタンの攻撃を避けると、下に向けて小さな魔法をうつ。
刹那、ジタンを粉々く砕けた粉塵がおそい、その隙にクジャは後ろへ飛ぶと、再び間合いをとり、
よろめくジタンに向けて、先までの魔法とは違う、大きな光の炎を放った。
埃をはらい目をこすりあげ、かつて戦った眼前の光を見ると、ジタンは横に避けようとした。だがそれは、遅すぎた。
もはや聞き慣れた爆音と共に、ジタンは自分が宙にいるのを知った。
視界には、不愉快な笑みを浮かべているクジャがうつっていた。
二
「この爆発を起こした犯人は向こうにおるんや。こんなとんでもないことをするやつや、エラい強いに違いありませんわ」
「それはわかるけど…これから、どうするの?」
周囲を見回して、不安げな声でリノアが言った。ジタンは一人敵の元へと行っているのだ。
あたりには、いまだ消えていない炎の柱が点在し、夜だというのに、街の中は嫌な暖かさに包まれている。
「一人でつっこむのは危険だね。といって、広範囲の攻撃手段をもつ相手に、固まって戦うのも危険だ。
2グループにわかれて、一斉に攻撃をしかけるのが、無難だと思うけれど。…あまり待っていたら、状況は酷くなるよ」
せわしなく目を動かしながら、やや早口に、リュカが言った。その目はなお、まだ見ぬ息子を捜し求めている。
そんなリュカの気持ちをしってかしらずか、ケット・シーは明るい声で相づちをうった。
「おっ、リュカさんええこといいますなー。たしかに、ここで考えてたってらちがあきませんわ。
それに、いくら相手が強いゆうても、みなさん戦えるんなら、協力すればきっと勝てます!」
「よし、決まりだ、行こう!」
いうがはやいか、足早にリュカはその場を去った。
「ちょ、ちょ、リュカさんそらないで!…あ、じゃ、ボク先いってますんで、おふたりさんも早くきてくださいよ!
…あーもう、リュカさん足早いですって!それじゃ一人で突っ込むような…」
ぺたぺたとリュカの後をいくケット・シーの姿は、少しコミカルで、
二人の張り詰めた空気は少し和らいだ。緊張を解く場面ではないのだけれど。
キーファとリノアは顔を見合わせて、ほんの一瞬だけ、くすっと笑うと、二人のあとを追いかけた。
下
どさっ
リュカの眼前に、放物線を描いて、金髪の少年がうつ伏せに倒れこんだ。
「く…くそ…」
「…レックス…レックス!?」
少年は顔を上げた。
15,6ほどのやや幼さの残る顔立ちに、毅然とした青い瞳がアンバランスに輝いている。
「あ…」
リュカは思わず気の抜けた声を漏らして、ジタンの顔を見つめた。
「…なんだ、あんた。ここは危ないぜ、怪我したくなかったら、早く逃げるんだ」
鋭いジタンの声に、リュカははっと目を凝らし、爆炎の向こうで佇む、銀髪の彼を見た。
「…ちょっと、リュカさん、待ってくれんと困りますわ…って、うわあ!誰ですかこの人!?」
やや遅れてやってきたケット・シーは、クジャよりも倒れている少年の姿に驚いたようであった。
「ふふふ…ジタン、なんとか、直撃は避けたみたいだね」
クジャの声が聞こえる。
「…避けた、だって?」
冗談じゃないと、ジタンは思った。
直撃を避けられたのは、自分自身の力ではなく、クジャの意図によるものだ。
(少しずつ、いたぶりながら殺す気か?)
相変わらず、不敵な笑みが、そこにはあった。
(いや…違う。待ってるんだ)
「おやおや、よくみてみると、新たなゲストがお見えのようだ。お城の中にいたのかな?
…ふふ、三対一、ジタン、よかったね、勝機が見えてきたんじゃないか?クックック…」
(待ってる…俺が、トランスするのを)
口の中に入った土をぺっと吐き捨てると、ジタンは再びその体を起こし、目の前の敵に対峙した。
「レックスは…レックスは、どこだ!?」
リュカが、余裕たっぷりに笑っているクジャに向けて言った。
「レックス?ああ…あの、無鉄砲で馬鹿な男の子のことかい?
さあねぇ…なにしろ、爆風でどっかにふっとんじゃったものだから…
僕のフレアスターを直撃で受けたんだ、果たしてまだ生きてるかな?
まあ、生きてるとしても、無様にそこらを這い蹲ってるだろうね。
…知り合いなのかい?愚かだよねぇ…機を見て戦えば、それなりに強かったんだろうに。クックック…」
堪えきれないように、クジャは肩をゆらした。
「き、貴様…!」
「リュカさん、駄目です、おこっちゃあきません…あきません…」
ケット・シーが、今にも飛びかかりそうなリュカを、必死になってなだめた。
この相手に、感情的になって無防備につっこむことは、すなわち死を意味する。
そのとき、クジャの目が上を向いた。
「え?」
つられて、ジタンたちも天上を見上げた。
ゴオオオオオオォォォッ!
「…隕石?」
ジタンが、ぼそっと呟いた。
次の瞬間、彼らから少し離れた場所で、凄まじい音と衝撃が起こった。
【ジタン 所持品:英雄の薬、厚手の鎧、般若の面
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【ケット・シー 所持品:正宗 天使のレオタード
第一行動方針:クジャを倒す 基本行動方針:リュカを守る】
【リュカ 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:レックスを探す
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【クジャ 所持品:ブラスターガン、毒針弾、神経弾
第一行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
以上 【現在位置:アリアハン城外】
【キーファ 所持品:攻略本 釘バット(FF7)
現在位置:クジャたちの傍
第一行動方針:戦闘に入る機を窺っている 第二行動方針:フィンと合流しゲーム脱出】
【リノア 所持品:賢者の杖 ロトの盾
現在位置:同上
第一行動方針:同上 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
三レス目 二→中です。わかるとは思いますが…。
ねえさんおれのねえさんネエサンねえさんネエさんねえさん
おれはまたねえさんをうしなうのか またまもれなかったのか
いやだよねえさんさきにいかないで。おれをおいていかないで
ねえさん、だいすきなねえさんおれのねえさん
おれはつよくなったんだ、ねえさんのためにつよくなったんだ
なのにねえさんは、おれをおいていってしまうのか?
うそだ。ねえさんはそんなことしない。おれをおいて、しんでしまったりするものか……
ねえさんは死んだりしない……おれをおいていったりしないんだ。
ねえさんはまだ、どこかで生きてるにきまってる……
そうだよ、あのねえさんはにせものなんだ……ほんもののねえさんは、まだどこかでいきてるんだ……
どこかで、きっと生きてるんだ……ああ、ねえさん、ねえさん。あいたいよ、ねえさん……
――……ねえ、さん?
……ねえさんだ。おれのねえさんだ……
ながい髪にきれいなかお。あのころと同じ、凛々しくてきれいなままのねえさんだ。
やっぱり生きていたんだ。さっきのあれは、偽者だったんだ。
そうだよ、本物のねえさんが死ぬわけない。俺を置いていくはずがない。
――ああ、大丈夫だよ、ねえさん。こんな怪我なんか、たいしたことないさ。
けれど心配してくれるなんて、やっぱりねえさんだ。本物の姉さんだ。
そうだ、ねえさんはきれいで優しくて、俺を見捨てるわけがない。
だからこうして手当てしてくれるんだよな?
そうだよ、本物の姉さんが俺を置いていったり、見捨てたりするはずがないんだ。
本物の姉さんは、絶対に俺より先に死んだりしない。死んだのは、偽者なんだ。
でも……なぜ髪の色が違うんだ? 姉さんの髪は、きれいな蜂蜜色だったはずなのに。
それに、どうして俺のことを知らないフリをする? なんで本当の名前を名乗らないんだ?
おまけに男みたいな服を着て、喋り方も男みたいで……
――ああ、そうか。ガンディーノのロクでなしどもから逃げるためなんだな。
髪の色が変えたのも、偽名を使っているのも、他人のフリをするのも、男の格好をしているのも。
全部、逃げるための変装なんだな。
わかったよ、姉さん。
俺も姉さんのことをファリスって呼ぶよ。姉さんって呼ばないようにするよ。
姉さんを危険な目に合わせるわけには行かないからな。
ファリス、ファリス……慣れるまで時間は掛かるだろうけど、きっと大丈夫。
頑張って練習するよ、ねえさ……ファリス。
ああ。大分痛みも治まってきた。やっぱり姉さ……ファリスはすごいな。
こんな強い回復呪文まで使えるなんて、俺、知らなかった。
ありがとう、……ファリス。手間かけさせて、ごめんな。
あれ? ファリス、どこに行くんだ?
――レーベへ? 誰かを、探してるのか?
なら、俺にも手伝わせてくれ。ファリスの力になりたいんだ。
ファリスのこと守らせてくれ。ファリスの傍に居させてくれ。
ファリス――姉さん。誰より大切な、俺の姉さん。
今度こそ、姉さんのこと守るから。必ず姉さんを生きて帰してあげるから。
姉さんの敵は俺が全部殺してやるから。姉さんの痛みは全部俺が引き受けるから。
――もう二度と、誰にも姉さんを傷つけさせたりしないから。
【テリー(DQ6)(左腕喪失、負傷(七割回復)
所持品:雷鳴の剣 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼
行動方針:『姉さん』(ファリス)の敵を殺し、命に代えても守り抜く】
【ファリス(MP消費) 所持品:王者のマント 聖なるナイフ
第一行動方針:レナとバッツを探しに、レーベへ行く】
【現在位置:レーベ南の森・中央部→レーベへ】
無数の隕石が地獄と化した街に轟音を響かせる。
隕石は夜の闇を照らし、惨劇を映し出す。
その惨劇の中心に不敵に笑うクジャの姿があった。
「……ク、ククク……向こうでも激しくやりあっているみたいじゃないか?
ジタン、聞こえてこないか? この大地に響く魂の悲鳴が……
数々の強い魂の力がさぁ!!
アハハハハハハハハ!!
親愛なる弟よ、考えてくれたまえ。
虫ケラのような人間たちが必死に抗う姿……
想像するだけでゾクゾクしてくる……そう思わないか?
この舞台はまるで僕のためにあるようじゃないか…
そして次はキミたちの番だよ…
特にジタン、キミには最高の尊敬の念をもってじっくりと殺してあげよう!」
クジャは右手の掌をリュカに向けて突き出す。
今までの陶酔とした表情とうってかわって、真剣な顔で。
「あかん、リュカさん!避けなは――『フレア!!!』
ケット・シーの言葉はクジャの詠唱によって遮られる。
そしてリュカを中心に、眩いばかりの閃光を伴って、爆発が誘発された。
『バギクロス!』
その爆発と同時に、リュカは叫ぶ。
すると、爆発の中心で一際大きな竜巻が巻き起こった。
クジャの放った魔法は相殺され、竜巻は辺りの土を巻き上げていき、
そして竜巻は徐々に勢いを落とし、術者であるリュカの元で消えていった。
「ケット・シー、僕は大丈夫だ。」
爆発が収まると、そこには怒りの形相でクジャを睨むリュカがいた。
息子を傷つけられたことへの怒りか、目の前に居た息子を助けられなかった自分自身への苛立ちか。
ケット・シーはリュカの様子に危うさを感じていた。
「リュカさん、ほんま凄いことやるわ。僕、リュカさんのことまた見直しましたわ。
でも、少し落ち着きなはれ。頭に血ーのぼってるさかい。
そのまま戦うのは――――」
リュカはケット・シーの言葉を遮った。
「ケット・シー。僕は今なら分かる気がするんだ。
子どもを目の前で殺されるくらいなら、自分が殺されるほうがマシだってことが!」
リュカは知らない。
レックスが既に息を引き取っていることを。
最期まで父に助けを求めていたことを。
ただ親の勘だろうか、リュカの目は涙で溢れていた。
しかしその一方で、生きているという望みを捨ててはいなかった。
(レックス…無事で居てくれ!)
そして、リュカは竹やりを右手にクジャに向かって走り出した。
「感情的になったらあかんってゆうとるやないか!しかもそんな武器で!」
ケット・シーはリュカに向かって叫んだ。
だが、リュカの耳にケット・シーの声はもう届かない。
「そこの金髪の兄ちゃん!あんたもこのまま見ているつもりなんか!」
ケット・シーは尻尾のはえた少年に勢いよく問いかける。
「…もう、あいつは……戻れないんだな」
ジタンはリュカと戦うクジャを見ていた。
(わからない。
もしかしたら、自分がクジャの立場にいたかもしれない。
だから、戦っていいのかわからない。
でも、すぐそこで戦っている人がいる。このままでは、彼の命も危ないだろう。
…だから、俺はこう言うんだ。)
――誰かを助けるのに理由がいるかい? って。
『盗賊の証!!』
クジャに向かって放つ。
俺はクジャとは違うという証を。
リュカの攻撃を弾いていたクジャはこのジタンの攻撃を受けて後方へと吹っ飛ぶ。
おそらくリュカとの戦いに気をとられて油断していたのだろう。
しかし、クジャは大切な自分が傷つけられたことに、怒りに狂うことも悲しむこともなかった。
ただ残酷な笑みを浮かべいるのだった。
「ジタン…ようやく僕を倒す気になったんだね…
それでこそ倒し甲斐があるよ…
ジタン、覚えているか?
僕はキミがいることで用済みになってしまったんだよ…
所詮、僕の存在はキミが成長するまでの代用品…
作られた生命、限られた生命の黒魔道士たちと同類だったんだ!!
ハハ…ハハハハ……
……だが、ここでは違う!!
用済みになることもない!
魂が尽きることもない!
だから、僕はキミを殺して永遠の王国をつくらせてもらう!」
上空の掌をはっきりと広げ、その上に火球をつくる。
「生き地獄を味わう程度にしてあげるよ。」
「ドロー『ホーリー!』」
そのとき、クジャは背後からの声を聞いた。
クジャはとっさに体を捻り、聖なるエネルギーを間一髪でかわした。
行き場のなくなったエネルギーは辺りの岩を砕き、地面を抉り、石を吹き飛ばした。
クジャが声の方に振り向くと、そこにはキーファとリノアが居た。
「クックック、これで5対1か。
面白い…
ならば、こっちも本気を出させてもらう!!!」
するとその瞬間、クジャの掌の火球が勢いよく増加して、
その火球一つ一つが幾重もの放物線状に連なった火の柱と変化した。
そしてその火柱は獲物を求めるようにあたり一面へと降り注いだ。
【ジタン 所持品:英雄の薬、厚手の鎧、般若の面
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【ケット・シー 所持品:正宗 天使のレオタード
第一行動方針:クジャを倒す 基本行動方針:リュカを守る】
【リュカ 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:レックスを探す
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【キーファ 所持品:攻略本 釘バット(FF7)
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:フィンと合流しゲーム脱出】
【クジャ(HP 6/7程度) 所持品:ブラスターガン、毒針弾、神経弾
第一行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【リノア 所持品:賢者の杖 ロトの盾
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在位置:アリアハン城外】
70 :
修正:05/01/21 23:52:07 ID:EeHd6+yQ
【リノア 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
G.F.パンデモニウム(召喚不能)はリノアの所持品の中にあり、戦闘に入る隙を窺っている際に手にしたものとします。
炎。
炎炎炎炎炎炎炎。
その視界の多くが、炎―――――
「キーファ…キーファ!しっかり!ねぇ!」
「おやおや、美しい愛だねぇ…」
倒れる者がニ人。
叫ぶ者が一人。
怒りを表す者が二人。
笑みを浮かべる者が一人。
「リュカさん……こっちはかすりおっただけですから大丈夫です。とにかくあいつを倒さへんと…」
「仲間を見捨てるわけにはいかないだろう…?」
倒れる者に癒しの光を与える者が一人。
それを見つめてまたも笑う者が一人。
悪夢が、その場を、支配した。
クジャの手から弧を描いて放たれた炎は、5人を確実に狙っていた。
その為、ジタンもケット・シーも少なからずダメージを受けていた。
しかし本人も言ったように「かすっただけ」であり、
ジタンはその盗賊の力を発揮してぎりぎり急所は避けることは出来た。その右足を焼かれてはいたが。
更にはリュカも、炎を呪文で相殺し、奇跡的にも無傷だった。
だが、問題は別の人物にあった。
「キーファ…キーファ!しっかり!ねぇ!」
キーファが倒れていた。
リノアを下敷きにして、護るようにして倒れていた。
自分へと降り注いだ炎とリノアを狙った炎を同時に受けて、そこに。
キーファに向かって叫ぶリノアを尻目に、クジャはリュカの方を見た。
視線の先で、リュカはクジャの動きを警戒しながらも回復呪文をケット・シーに、そしてジタンにもかけていた。
先ほどの咄嗟の行動からしても、クジャは少しリュカに対する不快感を覚えた。
仲間の事を一心に護り、かつ完璧に自衛を図ったリュカ。ある種尊敬するが、少し憎たらしい。
「僕は、息子を探さなくちゃならない。君に付き合っている暇は無いんだ」
手を止め、怒りを目に宿して、リュカはそう言った。
そして竹槍を構え、また相手へと突進した。
「……無謀な事は美しいこととは言えないよ。それくらい知ってるでしょ…『お父さん』?」
そう言ってリュカの方に手を翳したクジャの手から、目が焼けるような程の閃光が放出された。
そしてリュカが反射的に目を閉じた瞬間に爆発が起きた。
真っ直ぐ突っ込んでくる相手にカウンターを合わせる事など、造作の無いことだ。
クジャはリュカに発破をかけ、ボロ雑巾の吹き飛ぶリュカの姿を見た。
そしてまたジタンへと視線を移す。
「あそこの2人は動くつもりが無い様だし……さぁジタン、再開といこうか」
シニカルな笑みを浮かべて、そう言った。
一方リュカは、爆破の衝撃でかなりの距離を飛んでいた。
そして地面に落ちてもそのまま少し転がってしまった。
それほど衝撃のあるものだったのだ。普通の人間なら死んでいるところだ。
だが、リュカは立ち上がった。
まだ怒りは消えていない、息子にも会ってはいない。
まだ死ぬわけにはいかないのだ、死ねないのだ。
そこまで考えて、ふと周りを見た。
「……城の堀か」
そこは陰になっていて、他からは見えない場所。
水が張られ、外的からの侵入を防ぐ役割を持った堀だった。
しかし近くに攻めてくる軍もいないため、実際は子どものプールの様な深さにしか水は溜まってはいない。
………まぁ、そんな背景はリュカには知る由がないのだが。
そして、堀を眺めているうちに…リュカは見た。
否、見てしまった。
堀の中に、金色の何かが顔を覗かせているかの様に佇んでいた。
それは動かない。微動だにしない。そして、堀には全く馴染みはしない色だった。
見てはいけない気がした。
見てしまったら、自分が何か最悪な可能性も見てしまいそうで。
だがリュカは、皮肉にも好奇心は会ったし、
察しも早い人間だった。
―――ゲーム開始直後の日が昇っていた頃。
レーベの村で、ある青年が金の髪の少女を見つけた。
ただその少女の場合は…ちゃんと生きていたし、動いていた。
そして彼女はそのまま青年と今も行動を共にし今も生きている―――
だが、今回は違っていた。
同じ金の髪を持っているのに、同じ年齢なのに。
同じ親を持つのに。
「………レ……ック…ス?」
更に、少女と違っていることどんな事がわかるだろう。
金の髪を持つその子どもは…動きもせず、瞬きもせず、返事をする事もない。
笑う事もなく、泣く事も無く、悲しむ事も無かった。
だって、死んでいるのだから。
「レックス!答えてくれよ…レックス!」
リュカはすぐに堀に下り、レックスを抱き寄せた。
動かないレックスは、いつもよりもそれはもう素直に腕の中へ潜っていく。
何故、見つけられなかった。
何故、救えなかった。
冷たかっただろうに。
寂しかったのだろうに。
助けてほしかっただろうに。
自分がそうであるように、家族を探したかっただろうに。
あの光が、邪魔をした。
「くっ…う……あぁあああぁぁああぁあぁあぁぁぁぁあああ!!!!」
リュカの叫びは、誰にも届くことは無かった。
向こうにいる仲間にも届かない。
傍らの息子にも、もう届くことは無い。
【ジタン(右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【ケット・シー(かすり傷) 所持品:正宗 天使のレオタード
第一行動方針:クジャを倒す 基本行動方針:リュカを守る】
【キーファ(気絶・HP 1/7程度?) 所持品:攻略本 釘バット(FF7)
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:フィンと合流しゲーム脱出】
【クジャ(HP 6/7程度) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:まずジタンを殺す 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【リノア 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在位置:アリアハン城外】
【リュカ(HP 3/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:不明 第二行動方針:クジャを倒す
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【現在位置:アリアハン城堀】
フリオニールを連れて音の方へ急ぐと、すでに戦闘は終わっているようだった。
木に寄りかかっている人影と、その眼前にもう一人誰かが立っている。
もしや、今まさに殺害の瞬間が訪れようとしているのでは―
「待て!そこのお前!」
ロックが叫ぶと、立っていた男――目以外の一切を覆い隠した衣装が少し気になる――は、
こちらをみて少し驚いたような素振りを見せると、腕を大きく振って「違えよ!誤解だ誤解!」と叫び返す。
2人がその声を聞いて立ち止まると、男は暫く間をおき、続けた。
「あー…お前らもさっきの音聞いてここまで来たんだろ?
おれもおなじでさ。来てみたら誰だか知らねえけど女の剣士がこいつを殺そうとしてたんだ。」
「…あの女騎士の強さはかなりの物だ。しかし何かに操られているようだった。」
それまで木陰に座り込み、うつむいていた男が口を開く。
「恐らく、呪われでもした支給品をうっかり装備してしまったんだろ…う…」
言いながら顔を上げると、呆気に取られたように動きを止めた。
「…どうした?」とロックが訝しげに訊くと、彼は嬉しそうな、しかしどこか不安げな表情でこう言った。
「フリオニール…久しぶりだな」
それまで棒のように立っていたフリオニールが、ぴくりと動いた。
親友と再会して嬉しい気持ちがなかったと言えばそれは嘘だ。
しかしその反面に、罪悪感が心を抉った。
俺は目の前の親友を裏切った張本人だし、ほんの十数時間前も彼の悲痛な叫びを聞いても耳を塞いでしまった。
そんな思いを知ってか知らずか、フリオニールがゆっくりとレオンハルトを向く。
「…あ…久しぶりだな。本当に」
友はどんよりとした、死人ような瞳を向けながら、気の無い答えを返した。
「なんだなんだあ?こいつ、死んだ魚みたいな目えしやがって。」
首をかしげながら紅い衣装の男―ギルガメッシュと言うらしい―はフリオニールを見やるが、
それでも彼は心ここにあらずといった風貌だ。
「フリオ…ニ―ル…?」
怪訝な顔でもう一度友の名を呼ぶが、それでも彼はぼんやりとあさっての方向を見ているだけで。
いや、「見ている」と言うよりも「見えている」と表現した方が正しいだろうか。
困惑と動揺が重い沈黙となって4人にのしかかる中、バンダナを巻いた男が口を開いた。
「あー…あんたはフリオニールのお仲間さんかい?」
できるだけ明るく振舞おうとしたのか、声の調子がどこか気楽そうだ。
「そうだ。」
そうだ…本当にそうなのか?裏切り者の俺が?
「そうか。俺はロック・コールだ。あんたは?」
「レオンハルトだ。ところで…」
一旦区切り、ギルガメッシュに小突かれても微動だにしない彼をみやり、続ける。
「フリオニールは、何故こんなことに?」
ロックは少しためらうような仕草を見せたがやがて全てを話してくれた。
彼の今の状態、ここまで来た経緯…とにかく、全てだ。
「つまり、”死”という言葉を聞いたり、血を目にしたら突然暴れ出すと?」
「ああ、そういうことになる。だからしばらく、そっとしてやってくれ。」
ロックから一連の話を聞いて、レオンハルトは愕然とした。
感情を喪失している?ずっとこんな状態だ?なんてこった。
「ひでえ話だ。だが、俺も知ってる奴が一人死んでるからわからないでもねえな。」
気に寄りかかって腕を組みながら、ギルガメッシュ。
「俺もだよ。今日だけで一緒に旅してた仲間が2人も死んだ。」
ため息をつきながら、ロックも相槌を打つと、続ける。
「2人とも、こんな狂ったゲーム、さっさと抜け出したくないか?
いや、それよりも、このゲームそのものをぶっ壊してしまいたくないか?」
「いい方法でもあんのか?」
「何も。」
ギルガメッシュの問いかけに、ロックは肩をすくめた。
「でも、アルティミシアだって無敵じゃない。倒す方法はきっとあるさ。
それに3人集まれば文殊の知恵ってな。数が少ないよりは多い方が、これから生き残るにしても絶対に良い筈だ。」
どうだ、手を組まないか?と締めくくる。
「なるほど」
ゆっくりと立ちあがりながら、レオンハルトが頷く。
「同じ考えを持つ者もいよう。そうとも。同志を募えばきっと上手く行く。」
でもその前に――そういいながら、フリオニールの方へ歩み寄る。
「こいつをなんとかしないとな。」
言い終わるが早いか、彼は血のついた自らの手を友の顔に押し付けた。
ロックは最初、手傷を負った騎士が何をしたのか判らなかった。
数秒して、傷口を抑えていた手でフリオニールの顔を鷲掴みにしたことのはわかった。
「うわああああああ!やめろおおぉおおお!」
フリオニールは呆けていたように棒立ちしていたが、やがて口を大きく開き、金切り声のようなの絶叫を絞り出す。
「お、おい!いきなり何を…」
「黙ってろ!!」
静止しようとしても、彼は怒声を上げるだけで。
顔を掴んでいた手を一旦放し、脱兎の如く逃げ出そうとするフリオニールの首を掴むと、なおも叫ぶ。
「血だ!」
親友がヒッという小さな悲鳴を上げるのも無視し、続けた。
「マリアは死んだ!あの魔女に!マリアは殺されてしまったんだよ!!」
体をじたばたさせるフリオニールの耳に顔を近づけ、止めの台詞を言い放つ。
「お前も人を殺しかけた!わかるか?お前は魔女と同じ事をしようとしたんだよ!」
俺が…魔女と同じ?
怒りの形相をした親友の言葉に、顔にこびりついた彼の血に、
フリオニールは心を締め上げられるような錯覚を覚えた。
血、マリア、矢、殺された、魔女、俺、殺そうとした、魔女と同じ…
様々な単語が数珠つなぎに浮かび、次に忌むべき光景が脳裏に蘇る。
矢を受けて倒れるマリアが、首輪の機械音が、鞭を振るっていた女性が、床に落ちていた血の雫が。
あらん限りの声を上げて抵抗するが、異常に力の入った手が、次々にフラッシュバックする映像が彼を掴んで放さない。
やめろ。やめてくれ。頼む。俺は――
次の瞬間、フリオニールの意識は闇に包まれた。
「…なんてことすんだよ。あんた。」
レオンハルトを見つめながら、ロックが疑問符を浮かべて言う。
「何の事は無い。ちょっと現実を突きつけてやっただけだ。ショック療法ってやつだよ。」
糸が切れたように気絶した友を見下ろしながら、レオンハルト。
「ショック療法って…下手に刺激してどうすんだよ!そっとしておけばそのうち立ち直って――」
「そのうちだと!?」
反論しようとすると、目を血走らせて食いついてくる。
「そんな悠長な事を言っている間に、果たしてどれほどの人が死んでいくと思っている?」
「……」
「貴殿は言ったな。こんな狂ったゲームはさっさと破壊してしまおうと。
それなら、仲間は多い方が良いと。それなのに、フリオニールが元に戻るまで待つと?」
ロックは槍のように突き刺さる彼の言葉に、何も言えなかった。
「行動を起こすならば早い方が良い。早くなくてはならない。そうであろう?」
「…そうだな。悪かったよ。」
やっとの思いでそう言うと、騎士は初めて笑顔を作った。
「…自分の妹を失って初めて命の尊さに気づくとは、俺もバカだな。」
自嘲気味に続ける彼に、ロックは「え?」と首をかしげる。
「マリアは…アルティミシアに最初に殺されたのは、俺の妹だよ。」
「そうだったのか…」
「俺は、元いた世界では、彼等を…無二の親友や妹を平気で裏切ってしまったんだ。力に魅せられてな。」
続ける。
「力を得たときの気分は最高だったさ。
町や村を襲い、幾多の罪の無い人々を斬り殺してその返り血を浴びても、なにも感じなかった。」
ロックもギルガメッシュも、何も言わずに彼の話に聞き入っている。
「だが、殺された妹を、壊れてしまった親友を見て、やっと気がついた。
失う事が、奪われることが、こんなに苦しいって事がな。」
本当に愚かだよ、と言ってまた自嘲すると、レオンハルトは満月を見上げ、「だが、もう違うぞ」と続けた。
「もう2度とフリオニールを、仲間を裏切りはしないぞ。
そしてこんな腐ったパンみたいなゲーム、跡形も残らないほどに破壊してやる!」
そこまで言って2人をふりかえり、
「絶対に!!」と締めくくった。
暫くして、ギルガメッシュが「お、そうだ」と思い出したように口を開いた。
「それならよ、ここからちょっと離れた所に俺の仲間が居るんだ。
サリィとわるぼうって言うんだけどよ、先ずはそこへ戻ろうぜ」
【レオンハルト(負傷) 所持品:消え去り草 ロングソード
第一行動方針:ギルガメッシュについていく 第二行動方針:ゲームの消滅】
【現在位置:レーベ西の平原】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
第一行動方針:同上 最終行動方針:ゲームをぶち壊す】
【フリオニール(気絶、感情半喪失) 所持品:銅の剣
第一行動方針:不明】
【ギルガメッシュ 所持品:厚底サンダル 種子島銃
第一行動方針:サリィとわるぼうの所へ 第二行動方針:剣が鍛えあげられるのを待つ】
【現在位置:レーベ西の平原】
私は、部屋のドアを開けた。
そこにはレックスがいて、お父さんがいて、お母さんがいた。
私はさっきお花屋のお姉さんに貰った赤い赤い花を、お父さんたちに見せた。
お母さんはすぐにそれを花瓶に移してくれた。
綺麗なものを貰ったね、とお父さんが感動した様子で言った。
だけど、それをレックスが倒してしまって。
でもお父さんとお母さんは何故か気付かなかった。
「あら?いつの間に倒れたのかしら」
お母さんがそういうまで、時間は掛からなかったけれど。
それでもレックスが倒してしまったことに気付いていなかった。
―――――いや、
レックスにすら気付いていないんだ。
なんで気付かないんだろう。私は不思議に思ってレックスを見た。
レックスは何も言わずに、ドアを開けた。
そして、寂しそうな表情を浮かべて、「さよなら」と言った。
何故か声は聞こえなかったけど、私にはわかった。
そしてそのまま………レックスはどこか遠くに行ってしまった。
「セージさん…目が覚めたみたいよ」
「『セージ』でいいよ〜…って、本当だ……あー、良かった」
ふいに目を覚ますと、そんな声が聞こえてきた。
あれは…夢?私は少しぼーっとしてしまった。
「んー、まだあるねぇ」
お兄さんが、自分のおでこと私のおでこをくっ付けてそう言った。
そうだ、私は倒れちゃったんだ。凄く苦しくなって、なんだか判らないけど、苦しくなって。
風邪だったのかな?と思う。だけど、なんか違う気がする…。
「顔の火照りも少し引いたし、まずは一安心ね」
「そうだね…さ、タバサ。頑張ってもう一眠りだよ」
「頑張るものなのか?それは。まぁとにかく風邪は寝て治すものだ…安心して休むと良い」
お兄さんとお母さんとギルダーさんがそう言ってくれた。
でも、違うの。もっと何か…とっても苦しい気がするって言いたかったけど…。
言えなかった。
だって、言ったら心配すると思ったから。
みんな疲れてるのに、私なんかの事で心配して疲れたら大変だもの。
私はまた横になって、目を閉じた。
レックスは大丈夫かな…。
大丈夫、変な夢は見ちゃったけど…皆がいるから大丈夫。
大丈夫だから……。
タバサが眠りに付いた頃、ギルダーはストロスの杖の話をビアンカから聞いた。
実はタバサの支給品を聞くだけのつもりだったのだが、興味深い話がいろいろと出てきた。
おそらく選ばれた魔術師の…この場合タバサの魔力と杖自体に込められた魔力が重なり、
そして不思議な力を起こしたのだろう、という仮説が立てられた。
「………その杖が、鍵になるかもしれないな」
杖自体の魔力を行使すれば、このゲームを覆す何かができるのではないか。
ギルダーは、そんな可能性の低そうな仮説を立てるものの…、
「まぁ、杖一つで何が出来るわけでもなさそうだ…」
そう言って、また見張りへと行動を戻したのだった。
夜の闇の中、ストロスの杖が静かに輝いた気がした。
【タバサ(風邪、睡眠) 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:睡眠をとる 基本行動方針:家族を探す】
【セージ (MP消費) 所持品:ハリセン・ファイアビュート・ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:タバサの看病 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【ギルダー(MP消費) 所持品:なし
第一行動方針:見張り 第二行動方針:ビアンカとタバサに全てを説明する
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ビアンカ(MP消費) 所持品:なし
第一行動方針:タバサの看病 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】
これからどうしよう…。
リディアは、墓を作った後に静かに思案していた。
もう、このまま殺されても構わないとさえ思ってしまう。そこまで、ショックだった。
暫くあたりをぼーっと眺めていると、人影に気付いた。
それは近づいてくる。2人のようだ。
「お?」
「あ!」
バッツとローグは同時に声を上げた。
先ほど休憩し、そしてまたレーベの方角へと走っていたのだが…そこにはまたもリディアがいたのだ。
驚きを隠せず…だが静かに歩いてリディアに近づいた。
「よ、リディア。また会ったな…無事でよかった」
「あなた達は……」
そして話しかけた。
リディアは赤い目をごしごしと擦ってまた視線を2人に向けた。
泣いていたのだろう、ということは安易に想像できる。
「………あれは、墓か」
「……よく、わかったね」
「ああ、目には自信があるから」
ローグはそう言って、そのまま言葉をとめた。
他愛も無い返事より、相手自身が話しかけてくれることを期待したから。
しばらく黙っていると、リディアが口を開いた
「もう、どうしていいかわからない……」
そう言うと、また涙が頬を伝った。
流石に枯れたはずなのに、とめどなく出てくる。
「他の仲間たちも殺されて…カインはどっか行って……。
殺し合いって言われても、俺に構うななんて言っても…できない!」
頬を伝った涙が、地面を濡らす。
「ねぇ、どうすれば良いの!?教えて!私はどうすれば……いいの?
殺せば良いの?殺されれば良いの?信用して、弄ばれて、裏切られて…殺されて……。
そんな事をすればいいの!?お願い………教えてよぉ…………」
リディアの言葉を聞いたバッツが、相手の正面に立った。
そして、静かに囁くように言った。
「俺たちはレーベの村って所に行く」
「…レー、ベ?」
「カインって奴が…そういう人の集まる場所にいるかもしれない」
「ぇ…?」
「俺たちも人探しをしてるんだ。もし良けりゃ、一緒に行くか?」
ローグに「いいだろ?」と言うと、ローグは答えなかった。
ただ…頷いてはいたが。
それを見て、バッツはまたリディアへと視線を戻した。
「わかった、一緒に行く…。
カインがいるかもしれないなら……その可能性にすがりつきたい」
「よし、決まりだな。
俺たちも二人じゃ心細いし…お互い損は無いだろうしな」
そう言って、2人は少し離れた場所にいたローグの元へと歩いていった。
「終わったか?」とローグは訪ねると、バッツは静かに頷いた。
「あ…」
「ど、どうした?」
リディアが急に何かを思い出したような声を出した。
ローグが反射的に訪ねると、リディアはどこか遠くを見つめて言った。
「どこか遠くから…爆発が起こった様な音が聞こえたの」
「爆発?」
「うん…もしかしたら、このゲームに乗ってる人がいるのかもしれない」
ローグがその方角を見て、地図を開いた。
「方角からすると、レーベの村の南ってとこか…」
「俺らが通る場所じゃないか?」
「いや、その先の森と言う可能性もあるし…相手が平原にいたらこっちが森に入る作戦も有りだ」
「大丈夫かよ」
「地の利はこっちのが上だ。まぁ俺には爆発魔法を持ってる仲間もいるが…まぁ、ゲームには乗ってないだろ」
地図を閉じてローグはレーベの方を向いた。
そして言う。
「バッツ、リディア、覚悟は?」
「俺はいつでも準備万端だ!」
「私は大丈夫…」
「よし、じゃあそうと決まれば作戦会議だ」
「え゛?ちょっと待て!行くんじゃねぇのかよ!
そんなテンションだっただろ?今!」
「こういう事の積み重ねが大事なんだよ。覚えとけ」
【バッツ 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式
第一行動方針:作戦会議 第二行動方針:レーベの村へ 第三行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ローグ 所持品:銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド
第一行動方針:作戦会議 第二行動方針:レーベの村へ 最終行動方針:首輪を外す方法を探す】
【リディア 所持品:いかずちの杖、星のペンダント
第一行動方針:バッツ達に同行 第二行動方針:カインを止める(?)】
【現在位置:アリアハン南の平原】
>>70 リノアの所持品→キーファの所持品
に変更します
―――1st
「どうしたんだい?あの技のキレが、あの俊敏さがないじゃないか」
ジタンとクジャは、戦っていた。
リノアとケット・シーが「支援が邪魔になってしまいそうだ」と感じてしまうほどに、あの2人は鬼気迫っていた。
だがやはり足の傷がジタンの邪魔をする。暫くすると押され始め、ついには倒れてしまった。
駆け寄ろうとするリノア達……だが、後ろからジタンの元へと走ってくる人影が見えた。その正体を見て、足が止まった。
「こんな状態で僕を倒そうなんて…口にすることすら罪だよ」
それに気付かず、クジャは大袈裟にブラスターガンを構えた。
そしてしっかりとジタンを見据えて、言った。
「さようなら、ジタン」
―――その頃…リュカは、静かに息子の喉に刺さっている木片を抜いていた。
全て抜き終わると、レックスを傍らに寝かせて穴を掘り始めた。
本当に簡単で、みてくれも悪いだろうが…けれど墓を作らなければ、救われないと思ったから。
静かに地面を掘りながら、リュカは城にいた頃の事を思い出していた。
レックスはいつもタバサと一緒だった。
暴走気味のレックスをタバサは制するというのも最早お約束だった。
体を動かすことが大好きで、いたずらも大好きで、そしてあの国の人たちのことも大好きだった。
………タバサとビアンカは、今どうしているだろうか。
あっちはあっちで再会できたんだろうか、だがもしかすると……。
せめてあの2人は無事であってほしい。そして、この殺し合いから抜け出そう…。
「生きて待っていてくれよ…2人とも……」
―――2nd
「リュカとレックスは元気かしら…」
「大丈夫だよビアンカさん、きっと…いや、絶対生きてるさ。ねぇ?ギルダー」
「俺に振るのか……まぁ、俺も大丈夫だろうと睨んでいる」
「………セージさん、ギルダーさん…2人とも、ありがとう…」
アリアハンで戦いが繰り広げられている頃。
ビアンカは、不安に狩られていた。重い恐怖がのしかかっていた。
だが2人の言葉を聞いて、安堵するように溜息を付いて、そして微笑んだ。
ギルダーはそれを見て、少し顔をそらした。そして少し赤くなった顔を帽子で隠す。
何故そんな事をするのかとビアンカが首をかしげる……が、しかしギルダーにとってはその行動もある意味反則だった。
決して惚れたとか、そういう訳ではない。だが相手が単純に美しくて、鳥肌すら立ちそうで。
そんな人がこの自分等に微笑んだ事に、正直照れていたのだ。
だがギルダーは、そう思いながらもある事を決意していた
それは、自分のやって来たこと、そしてここに来るまでの自分の思いを言う事。
だが恐らく、それを言ったら彼女の顔からは…あの綺麗な微笑みは消えてしまうだろう。
自分のせいでそうなったら、この美しい人の夫に申し訳が立たない。
だがそんな事を言っていては始まらない。落ち着け、冷静に…冷酷になってでも伝えなければ。
「おい…いや、あの……ビアンカ…さん……」
「おいおいギルダー、何モジモジしてんのさ。それにあの威圧的な喋りができなくなってるし?」
「五月蝿いぞセージ!それにモジモジなどしてない!…というか威圧的とは何だ!」
そこまで反論して…彼は静かに溜息を付いた。そして肩の力を抜いて、ビアンカに視線を移した。
そして言う。静かに、あの事について。
「貴女に言わなければならない事がある。
貴女の仲間の、ピピンという男についてだ……」
――――3rd
「………何を…」
ジタンの目の前で、キーファが立っていた。
背中を焦がしたキーファが仁王立ちをしていた。
「ジタン…命拾いしたねぇ……いやぁ、不愉快だよ」
クジャはその光景を見て毒づいた。
そしてすぐに倒れたキーファを、睨んだ。
血が滴り落ちる肩口を気にせず…睨んだ。
――キーファは、ジタンを護っていたのだった。
本来ならジタンが受けるはずだった銃弾を、その身に受けて。
そして更に、釘バットでクジャの肩に一撃見舞わせて。
体力はもう既に限界まですり減らしているのに、気を失っていたのに。
ただ、生命力の全てを使ってジタンをかばったのだ。リノアとケット・シーが見たのは、そんな彼の姿だった。
「…っあ〜……さっきまで眠かったけど…完ッ璧に目ぇ冷めたぜ…やっぱ痛みは効くな〜……」
「キーファ、喋るな……」
「あー、でも折角…げほっ……目は冷めたけど…死ぬよなぁ…これじゃ」
「キーファ………なんで助けるんだよ…キーファ……」
「人を助けるのに…理由なんて要らないだろ?必要性なんか…無い」
そう言ってキーファは軽く笑った。
そして、血を吐いて…目が虚ろになっていく。
「一方的な頼み事だけどよ……がはっげほっ…あいつ、倒せよ」
『頼んだぜ』
そう言って、キーファは目を閉じた。何故か微笑んだままで、静かに横たわるだけになって。
―――Last
「嘘…冗談でしょ?」
「本当だ……」
「嘘はやめてよ!!」
「本当だと言ってるだろう!!」
ギルダーは、全てを話した。
自分が人殺しをしていた事から始まり…そして本題の、"ピピンを殺したのは自分だ"という事を。
ビアンカの瞳から涙が零れ落ちるのを見て、ギルダーは胸を痛める。
セージはその2人の姿を極力見ないように、タバサの寝ているベッドの方に視線を向けた。軽い気持ちで介入は出来ないが故に。
「怒鳴ってすまない……だが、本当のことなんだ。
様々な人間を手にかけて…そしてそのピピンという者も殺した」
「本当なのね…」
「ああ、本当だ。
ベッドに眠っている貴女の娘の目が覚めたときに…2人に一緒に言おうと思っていたが……。
だが、俺のほうが我慢が出来なかった…だから言った」
ギルダーがそう言うと、セージの袋を見つめた。
大量に入っている武器。殺傷能力は折り紙つきのものが沢山入っている。
「俺のことが憎いか?などと尋ねる様な真似はしない。
許してくれ、と懇願する様な真似はしない。
俺のことが許す事が出来ないなら…俺のことが憎ければ……俺を殺してくれて構わない。武器なら、ここにある」
そう言うとギルダーはセージの支給品袋をビアンカに渡した。
セージが苦笑しながら「勝手につつくなよ」と言った。が、その声は…悲しそうで、重い。
ビアンカは、両目を擦ってギルダーを見た。そして言う…。
「私には…復讐なんて真似は出来ない……殺せない。許せないけど…ここで殺したらあの魔女とやらと一緒だから!」
「だが俺は人を殺した…魔女と同じだ!貴女に怒りの意思があるなら…殺せ!!」
「殺してあげるよ!そんなに死にたいんだろう?君たちは。
だから楽に殺してあげるさ…僕の理想のために散れ!」
クジャの右手では、魔力の塊が渦巻いていた。
それはあのレックスを殺した光にも似ていた。違うかもしれないが、似ていた。
「俺を許すことなど、貴女には出来ないはずだ!
それに……貴女が永遠に苦しむ姿を見たい人間は…いないだろう?」
ギルダーはビアンカを見てそう言った。
そして静かに、死を受け入れるように目を閉じた。
「クジャ……お前を止めるために…俺はお前を……殺すよ。
…これ以上お前の好きにさせてたまるか!!行くぞ!!」
ジタンはただただ叫んだ。
そして右足の痛みなど忘れて、ゆっくりと立ち上がって、キーファの持っていた釘バットを構えた。
「ギルダーさん…私はあなたを殺さない。これからあなたは生きて、困っている人に手を差し伸べて。
私はあなたに意地でもそうさせて…"過去のあなた"を、"殺人者だったあなた"を殺すわ!」
支給袋を机に置いて、ビアンカはそう言った。
強い意志を瞳に浮かばせて、しっかりと前を見据えてそう言った。
2つの場所の間には、"許せるか許せないか"、それが違っているだけなのに…大きな差と隔たりがあった。
その隔たりの狭間で、青年は静かに家族の無事を祈っていた。ただ静かに、隔たりの狭間で。
【ジタン(右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7)
第一行動方針:クジャを殺す 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【ケット・シー(かすり傷) 所持品:正宗 天使のレオタード
第一行動方針:クジャを倒す(見守る?) 基本行動方針:リュカを守る】
【リノア 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:クジャを倒す(見守る?) 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【クジャ(HP 6/7程度) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:ジタンを殺す 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【現在位置:アリアハン城外】
【リュカ(HP 3/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:レックスの墓を作る 第二行動方針:クジャを倒す
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【現在位置:アリアハン城堀】
【タバサ(風邪、睡眠) 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:睡眠をとる 基本行動方針:家族を探す】
【セージ 所持品:ハリセン・ファイアビュート・ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:タバサの看病(ギルダー達の対話には介入せず) 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【ギルダー 所持品:なし
第一行動方針:ビアンカと対話中 第二行動方針:ビアンカとタバサに全てを説明する
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ビアンカ 所持品:なし
第一行動方針:ギルダーと対話中 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】
【キーファ 死亡 残り92人】
忘れていたので追記。
すみませんでした。
「クジャめ、派手にやっているな…」
天からふりそそぐ炎の矢を遠くながめ、セフィロスは独り呟いた。
あの子供一人にここまですることはあるまい。とすれば、城の中にでも他の参加者が潜んでいたのだろうか。
「まあ、あいつのことだ。簡単には死なないだろう」
言いながら、軒並み崩れた建物のなかで唯一原型を保っている武器防具屋を睨む。
割れた窓の隙間から、うっすらと赤いドームのような物が見える。
恐らく、バリア系マテリアのような現象だろう。
あの爆発と火災に耐えているのだから、その防御力は障壁魔法シールドをも上回っているかもしれない。
右手に握っている村正で突破するのは無理があるだろう。
クラウドが持っていた黒マテリアなら可能だろうが、
瓦礫の山から使えるかどうかもわからない代物を掘り出そうとする時間も余裕も今は無い。
ふと思い立って、左肩に背負った支給品袋の中を探る。
浜辺で大男に挑まれた時は刀を取り出す以上の時間がなく、それ以外の支給品を調べる暇がなかった。
やがて彼は、「火気厳禁」と大きく書かれた金属製のケースを取り出した。
ケースを開けてみると、そこには見なれた、緑色の球体――手榴弾――が収められていた。
この手榴弾であの魔法のドームを破れるかどうかはわからない。
それでもないよりはマシだろう。ケースの蓋を閉めて足元に置き、セフィロスは暫く武器防具屋の方を凝視した。
相手にはカンの鋭いモンスターがいる上にここは建物から20メートルと離れていない。多分もう気づかれているだろう。
最初に攻撃を仕掛ける時に見た参加者の数は8人。
その内一人はその場で殺し、もう一人は一人になった所を叩いて殺し、もう一人は今ごろクジャの餌食だ。
3人がその場を離れたのだから結界の中に居るのは5人だ。
5人…一度に殺すには少し多い。先程のように奇襲を仕掛け、混乱させながら全滅に追いやるか。
すると、まずはあの厄介そうな結界を消滅させてしまおう。
恐らく、あの手の魔法は術者が死ねば制御を失い、消滅してしまうはず。
確かクジャの魔法で都市が崩壊した時、彼らをいち早く結界の中へと避難させたのは華奢な女性だったな。
それを考えると、結界を作りだして制御しているのは彼女だろう。
「よし、決まりだ」
セフィロスはまた独りで呟くと1個目の手榴弾のピンを抜き、武器防具屋へと投げつけた。
パウロは床に転がっているセリスの死体をじっと見下ろしていた。
怯えて震えている僕に優しく接して安心させてくれ、僕の頬を思いっきり叩いて奮い立たせてくれたセリスさん。
そのセリスさんはもういない。
砂塵の中を走りぬける黒い影が一瞬で奪って行った。
あの時、何が起こったのかわからなかった。
いきなり雷が落ちて、目の前を黒い影が横切って行ったかと思うと、彼女はすでに死んでいた。
慌てて回復呪文を唱えても、もう何もかもが手遅れ、蘇生呪文ですら何の効果も無かった。
あんなに優しかったセリスさんを、一瞬で物言わぬ肉の塊に変えてしまった誰か…
許さない。
絶対に許せない。
絶対に許すわけにはいかない。
体を小刻みに震わせ、血が滲むほどに両手を握り締めていると、何処か遠くに隕石が落ちた。
「な…なんだ、一体?」
何か大規模な爆発が起こった跡を眺めながら、テリーが訝しげに叫ぶ。
それもその筈、突然空から岩塊が落ちてきたかと思えば、瞬時に周囲の建物を灰燼に帰してしまったのだから。
「メテオ…いや、それにしちゃあ少しデカ過ぎるぜ」
同じように巨大なクレーターを睨みながら、サイファー。
結界の外で、何かは知らないが大変な事が起こった。
そして、その危険が自分達の元に歩み寄ってくるような予感を、その場に居た全員が感じていた。
十数分して、それまで大人しく鎮座していたトンベリが、
ハッとしたようにきょろきょろと周囲を見渡すと、不安げな声を上げて暴れ出した。
「わっ!ちょっと、どうしたんだよ、トンヌラ?」
驚きながらもテリーがトンベリを落ちつかせると、魔物は彼に向かって必死に何かを訴える。
「え?危険?狙われてる?すぐ近く?わけわかんないよ。もう少し落ちつけって」
トンベリはやっと一息つくと、今度はゆっくりと「話し」始めた。
暫くして、銀髪の少年は蒼ざめた顔をあげた。
「…何なんだ?」
サイファーが訊くと彼は答える。
「真正面に誰か居る。サイファーさんとセリスさんを斬った奴だ」
「…マジかよ!?」
慌てた様子でサイファーが建物の正面から少し顔を出し、辺りを凝視すると、そいつはいた。
闇夜の中、しかも黒いコートを羽織っているのでわかりにくいが、
間違い無い、あの砂埃のなかで俺に襲いかかってきた奴だ。
風になびくコートは焼け爛れ、銀の髪はすこし焦げているが、ダメージその物はあまりなさそうだ。
「あんのチョコボ頭が…」
顔をしかめながらサイファーが呻く。
「なにが”俺一人でいい”だ。ただの犬死になんてロマンティックじゃねえオチつけやがってよ!」
死人の事を滅茶苦茶に言いながら破邪の剣を抜……こうとすると、その手は誰かに止められた。
パウロは剣を抜こうとするサイファーの手を抑えると、言う。
「サイファーさんはここにいて。そうしないと、ここを守る人がいなくなっちゃうから」
「…あ?」
「だってそうでしょう?もし結界を狙われたら――」
そこまで言かけると、建物の壁に何かがぶつかった。その次の瞬間、耳を劈くような爆音が響き、窓ガラスをその破片で叩き砕いた。
どうやらマーダーが本格的な行動に移ったらしい。見ると、刀を手にこちらに近づいてくる。
「ね?この結界が狙われたら、サイファーさんがここを守らないと。
城下町の外から誰かが助けに来るまでここは守り抜かないと。
それに…結界の中にいれば多分巻き込まれないで済むから。」
それだけを早口に言うと、サイファーが静止するのも構わず武器防具屋を出た。
「巻き込まれないって…何にだよ?」
「やはり破壊は出来ないか…」
少々抉られただけの壁を見ながらセフィロスは独りごちる。
刀を抜き、建物の方へ歩み寄る。
こうなっては下手に隠れるよりも、敵の眼前に姿を現した方が逆に動揺を誘える。
数歩近づくと、早速一人が建物から出てきた。
ただしその手には呪われた凶剣、破壊の剣が握られていた。
【サイファー(負傷、若干は回復) 所持品:破邪の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能)
現行動方針:結界を護るorパウロに加勢する 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【パウロ 所持品:破壊の剣、シャナクの巻物、樫の杖
現行動方針:武器屋内の人間を守る、結界の管理 第二行動方針:ロランを探す】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
現行動方針:祈り、呼びかける 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【テリー(DQM) 所持品:突撃ラッパ 行動方針:襲撃者に備える
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ
現行動方針:テリー達を守る 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【セフィロス(HP1/2程度) 所持品:村正 手榴弾×4
現行動方針:武器防具屋にいる参加者を殺す 最終行動方針:参加者を倒して最後にクジャと決闘】
【現在地:アリアハン城下町】
騒ぎから数十分後。
ソロたちは、アーヴァインには当たり障りの無い事情を説明し、怪我を理由に兎に角今は休む事を勧めた。
アーヴァインも最初は戸惑っており、納得させるのに難儀するかと思われたが、
最後は明日色々と話すと説明したソロの言葉に首肯した。
その後ヘンリーとエリアはレナと見張りを交代し、ソロもまた起きたピサロと今起きた事の討議と打ち合わせを済ませた後、交代で眠りに就いている。
レナは見張りをしながらも、じっと今は眠っているアーヴァインを見ていた。
「……アーヴァインを殺すつもりか」
微かに耳朶を打つ音を響かせるのは、銀色の魔王であった。
レナはちらり、とピサロに視線を走らせる。
この、恐るべき力を持つ男。それでも、レナとてクリスタルの戦士だ。落ち着きを取り戻せば、
眼前にいるのが例え圧倒的な力を持つ魔王であったとしても、ただ震え上がるだけ、などはありえない。
「いえ……ギルバートさんの事は、悔しいですけど……ソロさんと、約束しましたし……」
「そうか……」
暫し、沈黙。
そしてレナには予想外な事に再び沈黙を破ったのは魔王の側だった。
「……その男は大分殺していたらしくてな。確かお前も仲間が死んだと言っていたな。ティナ……マリベル……心当たりはあるか?」
レナはふるふると髪を揺らす。咽が、こくんと鳴った。嫌な予感が背筋を走る。
もう、止めて欲しい。そう言いだしたいのに、言い出せない。レナにはピサロが、不吉を告げる死神に見える。
「重たい剣を持ったオジサン、とやらに……金髪の女の子――これは大分幼い娘だったようだが」
レナの顔色がはっきりと変わる。それを見て、ピサロは言葉を継いだ。
「長めの髪を後頭部で結い、額を出していたそうだ」
この男が、クルルを殺した――そう、考えただけで手は聖剣の柄へと伸びた。
可愛かったクルル。優しかったクルル。レナにとって、幼い少女は、誰より殺されるべきではない娘であった。
彼女の金髪が陽光に煌き、そのひまわりのような笑顔を見る事は最早永遠に叶わ無い。
どす黒い情念が心を満たすべく、レナの最も深き所から湧き出してくるのを感じる。
だが、レナ自身にそれを抑える術は無い――。
先ほどまで起きて見張りをしていたソロ、ヘンリー、エリアの三人はレナと交代し眠っている。
ビビとターニアは本来起きているべきなのだろうが、小さなその身に今日の出来事は余程応えたのか、やはり夢の中だ。
後は――。
「その男を、殺すか」
「……」
再度同じ事を訊くピサロに今度は沈黙したまま応えない。
そんな彼女から視線を外し、ピサロは浅い眠りに就いているソロを見遣った。
「……。そこで間抜けな面を晒している男はな」
そうして、静かに語りだした。彼にしては珍しくも、饒舌に。
「嘗て、自分を取り巻く世界の全てを魔族に目の前で奪われた。
育ての両親を、剣の師匠を、仲の良かった幼馴染の娘を」
「…そんな話、決して珍しいものじゃないわ」
ピサロが何を喋ろうとしているのか解らないレナは、途中で反発を見せる。
それだけ、レナにとってクルルを殺した仇が目の前にいる、という事は大きな事だった。
だが、ピサロはレナの反発にも、彼女の心境にも頓着せずに話を続ける。
「男は滅ぼされた故郷の村を後に旅に出て、仲間を得、神と出会った。竜神だ。
だが、そこで待ち受けていたのは男から本当の両親を奪ったのは神の側だったという事実だった。
……竜神はそれらには直接触れず言った。この城からすぐに魔族の王の下へと向かい、ヤツを倒せと」
「……」
「だが、男はそうはしなかった。仲間達とともに、千年に一度咲く、奇跡を起こす花を手に入れ、
一人の娘を蘇らせた」
「それは…幼馴染の…?」
ピサロはゆっくりと、小さく首を振る。
「男と仲間達は、その娘と共に魔族の王の下へと向かった。
その魔族は元々人間を蔑んでいたが、本気で全ての人間を滅ぼそうと考えたのは、
美しいエルフの娘を、追い回し、泣かせ、富を得ようとする人間達から気紛れに助けたのがきっかけだった。
……結果的に、その娘は部下の裏切りから人間どもに殺されてしまうのだが」
ふっ、と微かな自嘲の笑みが漏れる。
「魔族は怒り狂い、理性を捨て、秘宝による進化を経て真なる化物に至った。人間どもを須く冥府へと叩き落す為に。
……だが蘇った娘の泪で意識を取り戻し、二度と戻れぬ筈の進化を逆行する――陳腐な話だ」
ピサロがソロを見詰める瞳の色は、レナには窺い知る事はできなかった。
それは、未だ不思議そうでもあり、憐憫の色が浮かんでいるようでもあり。全く別のものをも感じさせる。
「男は……ソロは、両親を奪った竜神を憎まなかっただけでなく、十数年を育ててくれた両親を始め、故郷の村をこの手で滅ぼした私をも救った。
……。見ていて、苛々する程のお人よし……だが、だからこそ――剣の腕や魔法の腕も十分に相応しいものだが――勇者、と呼ばれるのだろう。
勿論この男とて敵対する魔物を大勢倒してきてはいるがな。戦うべき所を戦っておきながら、戦いに呑まれずにいる。強い男だ」
「ソロさんが…貴方を許せたのは…貴方が奪ったものが、ソロさんにとって大事なものじゃなかったのかもしれないじゃない…」
「自分が一番悲しんでいる、他人の悲しみは自分のそれと比べれば大した事がないというのか?貴様も命以外の全てを失ったというのか?」
「そんな事は…!ない、けど…そうとでも考えないと…信じられないわ…」
「信じろ。私はこんな事で嘘はつかん。勿論、この男にも葛藤はあったのだろうがな…」
話がずれたな、と呟き緩く頭を振る。
「……アーヴァインを殺すなら、ソロが起きる前にやる事だ。でなくば、私も邪魔をしなければならなくなる
ソロが起きていれば、奴はアーヴァインを庇うだろう。こいつは、そういう男だ。だからと言って、お前を殺そうともしないだろうがな。
それで傷つき、死ぬ可能性があるとすれば、ソロだけだ。……ソロには借りがある。この男を死なせる訳にはいかん」
それはまた、ソロならばロザリーを決して殺しはすまいという打算だ、と考えて自分を納得させる。
決して、信頼などというものでは無い、と。
「アーヴァインは、例えここで死なずともいずれ酷い死に方をするであろう男だ。
殺した側が都合良く忘れたなどと言ったとて、殺された側の仲間がそれで簡単に済ませられる訳が無い。それは、貴様が良く解るだろう?
……だがな、小娘。アーヴァインを殺せば、貴様も碌な末路を辿れまい。……それが死の連鎖に囚われるという事だ」
人間を大勢殺し、その人間にロザリーを殺され、一度は己を失ったピサロの言葉がレナの心に直接響く。
レナはくっと下唇を噛み、小さく震えていた。じっとピサロを睨むように見ていたが、やがてソロへと視線を向ける。
「……それ以上に、ソロさんこそ長生きできないわ」
「その通りだ。だからこそ、この男には仲間が必要なのだろう。それは嘗て共に戦った者達と、そしてこれから出会う者たちと――」
ライアンの剛剣。ミネアの母性。そして、アリーナの存在。
そういえば、ソロがいつだったか今の自分がいるのはアリーナのお陰だと呟いていた事があった。
他の者のお陰じゃない、という訳ではないと慌てて言い繕っていた姿が印象的で覚えていたのか。
あのおよそ姫らしくないおてんば娘。あの娘が再び、ソロと出会えれば……。
「ピサロさんは……私に、どうしろと言うんですか……。
全てを忘れてへらへらと能天気に笑っていたあの男を許せと……!」
「それは無理な話だろう。私とて、人間への憎しみが無くなった訳では無い」
「ならば、尚更どうしろと――!」
「別に。私はアーヴァインが死のうと、貴様が死に囚われようと知った事では無い。仇討ちも否定しない。殺るなら、今殺れと言っているだけ……。
でなくば、本懐を遂げられなくなるのは小娘。貴様だと、な」
その割には、饒舌過ぎたとピサロ自身もそう思う。
それは恐らく……レナが、レナの髪の色が、ロザリーのそれに、彼女に少しだけ似ていたから――。
「……ソロはさっき私にこう言っていた。
『今、告げるべきなのかどうか解らないけど、だけどもし後に残して突然決断を迫られるような事になったら、レナはきっと辛いから。
だから、明日全て話そうと思う』
だが、それでは少々私には不都合なので先に伝えた。
……ヤツならこう続けたかもしれないな。全てを伝えた上で仲間になって欲しい、と。貴様を救う為に。
だが私は、貴様がどうしようと、どうなろうと知った事では無い」
ピサロとレナの視線が絡む。
「まだ、全てを失った訳では無いのなら……その者達の顔を思い出してから、貴様が、泪を流さずに済む選択をするが良い」
それきり、ピサロは視線を外し、口を開かなかった。
レナは聖剣を引き寄せ抱き締めて、ピサロを見、アーヴァインを見、そしてソロを見た。
碧色の髪をした、鋭い眼光の青年。
レナは先ほど、夜営の準備をしていた頃の一幕を思い出した。
ソロは支給された本のあるページを見るや否や顔面を蒼白にしたかと思えば、揺れる瞳をピサロに向けた。だが、何も喋らずに。
此処でブライやトルネコの事を知るのはピサロだけだったから、なのだろうが、ピサロはそこで気の利いた台詞を言う事は無かった。
言う気がなかったのか、言う事ができなかったからなのか。
眼を伏せ胸の辺りを力任せに掴み、すぐ戻ると言い残して皆から離れるソロを心配し、レナはそっと遠くから見守る事にした。
一本の木に力任せにぶつけられる拳。ブライさん……トルネコさん……。そう、微かに聴こえてきた言葉。
彼の肩は震えていた。そして、哭いていた。
ソロの過去を想うと聖剣を持つ手が震えた。
悲しくて、悔しくて。
何を選択しても、レナは泪を流さずに済むとは思えなかった。
「姉さん……バッツ……私……私ぃ……」
堪えきれず嗚咽が漏れる。
それを、ピサロは聴こえないかのように見張りを続ける。
レナには、それが有りがたかった。
ソロの――直接話した上で、修羅の道に行かぬよう手を引いて救おうとしてくれたであろう勇者の優しさと。
ピサロの――ソロが眠っている内に話してしまう事で、自分に選択の機会を与えた厳父の優しさと。
その二つの熱い想いがレナの心で螺旋を描いていた。
【レナ 所持品:エクスカリバー
第一行動方針:ヘンリーとターニアを守る・夜明けまでにクルルの仇であるアーヴァインをどうするか(場合によっては一時的なものでも良いので)決断する 基本行動方針:エリアを守る】
【ヘンリー(睡眠中、6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可)
第一行動方針:逃げる 第二行動方針:デールを殺す】
【ターニア(睡眠中) 所持品:微笑みのつえ
第一行動方針:不明】
【ピサロ(HP3/4程度、MP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:不明 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ビビ(睡眠中 所持品:スパス
第一行動方針:不明 基本行動方針:仲間を探す】
【エリア(睡眠中 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:不明 第二行動方針:サックスとギルダーを探す】
【ソロ(睡眠中 MP3/4程度) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング グレートソード キラーボウ 毒蛾のナイフ
第一行動方針:状況の把握 第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【アーヴァイン(HP1/3程度、一部記憶喪失(*バトロワ内での出来事(広間での説明含む)とセルフィに関する全ての記憶。睡眠中)
所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能)
第一行動方針:状況の把握】
【現在位置:レーベ北西の茂み、海岸付近】
(ソロとピサロのMPを休息と共に多少リカバリーさせました。
問題があれば修正します。
DQもFFも一晩休めばHPMP共に全快しますが、ここではどうでしたっけ。
HPはしなさそう、MPは全快はしないまでも結構戻りそう?
見落としてたら申し訳ないです)
ザザン…ザザン…
単調に波が打ち寄せる音を聞きながら、リディアは呆然とその場に座り込んでいた。
セシルとローザの死体を見つけた後、2人と、それに顔も知らない3人の人のために墓を作った。
墓といっても砂の地面に穴を掘って亡骸を埋め、そのうえに墓標代わりの大きめの石を乗せただけだが。
5人全員の墓を作り終えて泣くのにも疲れた頃、
対岸の搭のようなところから一人の剣士が小さなカヌーに乗ってきた。
彼はこちらを警戒していたが、やがて5人の支給品袋を素早く掴むと、何処かへ行ってしまった。
それから今まで、彼女は微動だにせずその場に座り尽くしている。
ふと、セシル達とともに旅をした時の記憶が蘇る。
その旅でも、かけがえのない仲間が犠牲になる姿を目にしてきた。
全滅の危機に瀕したドワーフの軍勢を救うために捨て身の覚悟で敵の攻撃を妨害したヤン。
敵の追っ手を振りきるため、爆弾を抱いて飛空艇から飛び降りたシド。
あの時も、自分はなにもせず、何も出来ずにただ泣いていた。
いや、あの時と今とでは決定的に違う点が一つある。
ヤンやシドはなんとか生きていてくれて、再会した時は本当に嬉しかった。
でも、今は違う。セシルもローザも、二度と動かない。二度と、逢えはしない…
ザザン…ザザァー…
とっくに枯れてしまったはずなのに、また視界が涙で滲んできた。
リディアはまたどうしようもなく、顔を手のなかにうずめて泣き出した。
ザザ…ザン、ザン…
なんだか波の音が変わってきた。
ザバッ、ザバッ、ザン…
……?
なんだろう、海の方へと腫れた眼を凝らすと、何かがまた対岸から近づいてきている。
それはやがて、リディアの目の前に漂着した。
「ふいー、やっと陸についたわい」
「ああもう、ビショ濡れ…」
浜辺から上がりながら、ギードとイザがほぼ同時に呟いた。
「て言うかギードさん、泳ぐの速過ぎですよ。ものの何分でこの距離を渡るって…」
「アリアハンまではまだ距離があるぞい。急がねば間に…ん?」
歩き出そうとして、やっと目の前に誰かが座っているのに気づいた。
顔立ちは端正だがまだ幼さを残しており、目は先程まで涙に暮れていたのだろうか、赤く腫れあがっている。
とりあえず、こちらに敵意はないようだ。身構える様子も無く、ただこちらをじっと見ている。
「…えーと、まず、貴方は誰?」
イザが訊くと、彼女は「リディア…」と小さな口を開いた。
「えー…そなたはこのゲームに乗ってはいまいな?」
「そんなわけないじゃない…」
ギードの問いに、どうも投げやりな返答が帰ってくる。
イザが少し首をかしげながら辺りを見まわすと、彼女の周りに妙に盛りあがった砂の塚に気がついた。
これはひょっとして…墓?
「もしかして、仲間が死んでしまったの?」
思いきって訊いてみると、泣きそうな眼でイザを見返し、両手を顔に当てた。
「ええ、そうよ…しかも、しかも私が仲間だって信じてた人が、人を殺そうとしているところも見たわ。
もうどうしていいかわからない。もう何も信じていいかわからない…
ねえ、教えてよ。私は何を、どうしたらいいと思う?
誰でもいいから教えて…教えてよぉ…」
少女の悲痛な嗚咽が、波の音と合わさった。
「泣くな、リディア」
泣いている所に、大きな亀がそう言いながら近づいてきた。
「私もな、顔を知る者を一人失った。イザ…彼も、頼もしき人を失ったと聞く。
行き場の無い悲しみを抱くはおぬしだけではない。よいか?おぬしは一人ではないのだ」
諭すような優しい口調に、彼の後ろで靴に入った水を抜いているイザも頷いた。
「だが、私達は2人とも全ての仲間を失ったわけではない。
おぬしもそうであろう?護るべき人がまだ居る筈だ」
その言葉に、リディアははっと顔を上げる。そういえば、エッジはどこでどうしているのだろう?
まだ死んではいないはずだ。少なくとも、日没までは。
それにカイン。彼のことを信じられるかと言えば首を横に振るしかないが、
どこかで彼は正気に戻ってくれると固く信じる自分もいる。
ギードがさらに続けようとすると、3人の頭上を巨大な岩塊がよぎった。
「なにあれ…流れ星?」
奇怪そうに真上を通り過ぎて行く隕石をみながら、イザが目を細めた。
炎に包まれた隕石はアリアハンの城に一直線に向かい、やがて巨大な火柱を上げた。
「もしやあれは…メテオ?」
ギードが火柱を見上げながら言うと、リディアも目を見開く。
「メテオって…あの封印された魔法?」
「知っているのか?」
「ええ。フースーヤに詠唱を教えてもらったわ。
もっとも、威力が強過ぎて上手く扱えなかったけど」
メテオの存在を知らないイザは首を傾げると、はっとしたように口を開いた。
「よくわからないけど、そのメテオって言うのはかなり強い魔法なんでしょう?
それを使えるほどの参加者がいるってことは、今の城下町、そうとうまずいんじゃあ?」
確かにその通りだ。メテオを扱えるほどの力をもった者が、
その力を実際に使うと言う事はつまり、かなり「まずい」状況にあると言う事だ。
「ああ、そうとも。急ぐぞイザ!」
ギードが以外に素早い動作で歩き出すと、リディアが「待って!」と呼びとめた。
「あなた達…これから城下町に行くの?」
「そうだよ。早く行かないと、手遅れになるかもしれない」
イザはそういうと、城下町に行く理由を手早く話す。
「それなら…私も行かせて」
話を一通り聞いた後、少しうつむきながら、リディア。
「危険だぞ?」
振り向きながらギードが言った。
「大丈夫よ。こう見えて黒魔法は得意だし、それに…」
「それに?」
彼女は決心したような目で賢者を正面から見据えた。
「もうこれ以上、人が死にそうになっている場面から逃げていたくないの!」
もう逃げたくない。もう、人や仲間の死からは逃げたくなかった。
リディアの決心を、ギードは頷きながら受け止めた。
「よく言ってくれたな、リディア。それでは急ぐとしよう!」
そういうと大きめの亀は、ふわりと宙に浮く。
イザもリディアも、一瞬遅れて重力の鎖から解き放たれた。
「わっ、なんだなんだ!?」
「え、何なのこれ?」
訝るような声も構わず、3人はアリアハン城下町めがけて一直線に「飛行」して行った。
【ギード 所持品:不明】
【イザ 所持品:きんきらの剣、エクスカリパー、マサムネブレード、首輪】
行動方針:アリアハンへ加勢
【現在地:ナジミの塔東の湖(イザはギードの背中の上)】
【リディア 所持品:いかずちの杖、星のペンダント
第一行動方針:泣く 第二行動方針:カインを止める(?)】
【現在位置:アリアハンへ移動中】
【アルガス(視覚聴覚向上) 所持品:カヌー、兵士の剣、5人分の支給品ザック(中身は未確認)
第一行動方針:多くのアイテムを集めておく。 最終行動方針:どんな手を使ってでも生き残る。もちろん、脱出に便乗もアリ】
【現在位置:東の方へと移動中】
セフィロスは奇妙な光景を見た。
発破をかけた直後に、人間が一人出てきたからだ。
一人で自分に勝てると思っているのか、それとも玉砕覚悟か。
「あのー…」
「なんだ」
緊迫感の無い声で、パウロは話しかけた。
「ここで僕が勝ったら、潔く下がってくれますか?」
「クク…下らない事を。…私に勝つというのか?」
「大丈夫です、どんな事をしてでも勝つつもりですから」
それは、自分に言い聞かせているようだった。
そしてパウロは破壊の剣を正眼に構えた。
少し体がぎこちなくなったのを感じたが、すぐにその呪縛は解ける。
金縛りにあう前に倒すか、または退けさせなければならない。一瞬でも硬直したら終わりだ。
「では、行きます」
「独りで往け」
パウロとセフィロスが、ほぼ同時に突進した。
それが、この戦いの始まり。
パウロの目が、変わった。
お互いの剣と剣がぶつかり合った。
火花が散らんかのように勢いよく競り合う。
セフィロスは微笑を浮かべた。
こうなれば主導権はすぐにこちらに移るだろうと睨んだのだ。
相手の剣を弾き飛ばし、そして一閃。それだけで終わる。
だが、破壊の剣はそうさせなかった。
「何!?」
信じられないが、剣を持ったまま前進し始めたのだ。
鍔迫り合いをしながらも、少しずつ後ろに押されていく。
このままではまずい。セフィロスは競り合いを止めようと一瞬力を弱める。
おそらく流して力を押し込めるつもりなのだろうが、それが不覚だった。
ずざざざざざぁ!!
なんと、先ほどは少しずつ押すのみだったパウロが走り出した。
勿論、剣と剣を重ね合わせたまま。
「なんだとッ!?…有り得ない、馬鹿な!」
故に、セフィロスはすごい勢いで押されていく。
地面と足を密着させているはずなのに、鍔迫り合いの体勢なのに。
何故この男はその華奢な体でこんな化け物染みたことができるのか!
「滅茶苦茶な事をしてく
言葉を言い終わる前に、後ろにあった建物に体をぶつけられた。
そしてそのまま、パウロががむしゃらに斬撃を起こす。
だが、そのときパウロの体が一瞬固まった。
「くっ…この私が……」
その間に、武器防具屋を背にして少し下がったセフィロス。
落ち着きを取り戻そうとするが、奇妙な感覚が襲う。
「恐怖しているというのか…私がこんな小僧に!」
パウロがまた立ち上がる。
そして、セフィロスを睨んだ。
その時…セフィロスはようやく気づいた。
あの男の目は最早、先ほど自分が女を殺したときに見たあの男の目ではない。
ただの…殺人鬼の目だ、という事に。
―――破壊の剣は、装備者に恐ろしい力を与える。
だが、その代償は時々襲い掛かる金縛りと、
「斬る…」
殺意の衝動が、その身に湧き上がること。
勿論セフィロスはそんな効果を剣が持っているという事を知る由も無い。
だが勿論パウロは知っていた。自分が呪われた戦士になることなど、百も承知だ。
「さぁ、逝って」
その言葉とともに、相手はあの武器防具屋の傍に立っているにもかかわらず、剣を振りかぶった。
セフィロスは全力で避けた。おかげで建物にも攻撃があたったが、バリアには支障は無かったらしい。
そしてセフィロスも完全に避けたわけではなかった。
左肩から、血が噴出すように流れていた。
「――――成程な」
サイファーが、建物の中からその光景を見ていた。
そして独り納得する。
『ね?この結界が狙われたら、サイファーさんがここを守らないと。
城下町の外から誰かが助けに来るまでここは守り抜かないと。
それに…結界の中にいれば多分巻き込まれないで済むから』
ようやくパウロの…あの言葉の意味がわかった。
パウロは今、あの剣のおかげか何かは知らないが力を持て余している。
制御が効かない部分があるのだろう。建物にまで斬りつけたのはその証拠。
だが、このバリアは支障が無かったらしい。大きく安堵のため息をつく。
「ん?トンヌラ…どうしたの?」
テリーの声が聞こえた。
どうやらあのトンベリが何かを言っているらしい。
サイファーが尋ねると、テリーは静かに答えた。
「今戦ってる二人は、自分にとってはどっちも魔物に見える…んだってさ」
「どっちも?」
確かに、さっきのパウロの目は普通じゃない。
理由はわからないが、違和感を感じる。先ほどここで見せていた姿とはかけ離れている。
嫌な感じがする。
「まあ…大丈夫だろ」
そう呟くと、またサイファーは戦況を見守った
セフィロスは剣をパウロ目掛けて薙いた。
だが、咄嗟に破壊の剣でふさがれる。
そしてそのまま、あの力でもってセフィロスは吹き飛ばされた。
地面にうまく着地するものの、数mは地面を滑っていく。
だが、休む暇は無い。
またパウロが肉薄で突進してきたのだから。
セフィロスはその姿を、数刻前の自分の姿をダブらせていた。
そしてそのまま自らもまた肉薄して村正を振りかぶった。
破壊の剣と村正がぶつかり合った。
またも同じような鍔迫り合い。悪夢が見える。
セフィロスはそのままパウロを吹き飛ばし、
パウロもまたセフィロスを吹き飛ばした。
セフィロスは気づかなかったが、背後には街を囲う城壁があった。
そしてそのまま気づかずに城壁に体をぶつけた。
レンガで組まれた壁が、先ほどの破壊の剣の会心の一撃によって崩れていく。
勿論自分の村正の攻撃の所為でもあるのだが。
そのレンガと共に、そのまま街の外へとセフィロスは吹き飛ばされた。
いくつもの崩れるレンガが体にぶつかった。セフィロスは流血し、意識を失いかける。
パウロも同じだった。村正の斬撃を受けて後ろへと吹き飛ばされていく。
破壊の剣とも言えど、村正の…ましてやセフィロスの全力の攻撃は完璧には封じられなかった。
斬られた腹部から大量に血が流れる。思いきり剣を振り回した自分の両肩も、もはや限界だ。
戦いが終わって戻ってくる自我と、自分を襲う金縛りの感覚に身を委ね、朦朧とした意識を、彼は手放した。
「クク…ククク……どうだ、私は立っているぞ…!」
笑みを浮かべて、セフィロスは血みどろで立ち上がった。
だが、正直分が悪い。こうなると退散するより他は無い。
自分にはジェノバ細胞がある。時間は恐ろしくかかるだろうが…傷は回復するだろう。
「体力は…保障できないが……な…」
セフィロスは自嘲した。
今回の敗因とも言うべきものは、自分の体力。
クラウドのメテオによって疲弊した体が、あの男の斬撃に着いてこれなかったのだ。
「いつに無く……無様なものだ…」
そのままゆっくりと、セフィロスは南へと歩いていった。
時々失いそうになる朦朧とした意識を、押さえ込みながら。
「クジャよ…すまないが暫く孤独に戦ってもらうぞ……。
約束が守れるかどうか…それが気掛かりでならないが…………」
吹き飛ばされたパウロは、そのまま地面へと落下した。
そしてそのまま勢い良く転がって、そして止まった。
血が大量に流れている。とても危険な状態だ。
だが暫くすると、なんとまた立ち上がったのだ…セフィロスの様に。
―――だが、その目は焦点が合っていなかった。
足も既にボロボロだ。立ち上がったはいいが、すぐにまた倒れてしまった。
「やっぱり……一人じゃキツかったか…」
パウロの目から涙がこぼれる。
「セリス…ごめん。結局僕も、死んじゃうよ……はは…」
意識が薄れていく。
もう駄目だ、自分は死ぬのだろうと悟った。
「ロラン…ムース……僕は―――――」
言葉が、最後まで紡がれることは無かった。
【サイファー(負傷、若干は回復) 所持品:破邪の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能)
現行動方針:結界を護る 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
現行動方針:祈り、呼びかける 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【テリー(DQM) 所持品:突撃ラッパ 行動方針:ロザリーを守る
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ
現行動方針:テリー達を守る 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【セフィロス(HP1/10程度) 所持品:村正 手榴弾×4
現行動方針:どこかに潜伏し、体力を回復する 最終行動方針:参加者を倒して最後にクジャと決闘】
【現在地:アリアハン城下町→南へ】
【パウロ 死亡 残り91人】
※破壊の剣はパウロが持っています
124 :
修正:05/01/29 17:18:43 ID:QPQ+T9KT
少し間違いがありましたので修正します。
>>112の上半分ほどを
セシルとローザの死体を見つけた後、2人と、それに顔も知らない4人の人のために墓を作った。
墓といっても砂の地面に穴を掘って亡骸を埋め、そのうえに墓標代わりの大きめの石を乗せただけだが。
6人全員の墓を作り終えて泣くのにも疲れた頃、
対岸の搭のようなところから一人の剣士が小さなカヌーに乗ってきた。
彼はこちらを警戒していたが、やがて5人の支給品袋を素早く掴むと、何処かへ行ってしまった。
に修正。また各キャラの所持品、行動方針もミスがあるので
【ギード 所持品:不明】
【イザ 所持品:きんきらの剣、エクスカリパー、マサムネブレード、首輪】
【リディア 所持品:いかずちの杖、星のペンダント
第一行動方針:泣く 第二行動方針:カインを止める(?)】
【行動方針:アリアハンへ加勢に行く】
【現在位置:アリアハンへ移動中】
【アルガス(視覚聴覚向上) 所持品:カヌー、兵士の剣、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、6人分の支給品ザック(中身は未確認)
第一行動方針:多くのアイテムを集めておく。 最終行動方針:どんな手を使ってでも生き残る。もちろん、脱出に便乗もアリ】
【現在位置:東の方へと移動中】
に修正します。なお、ダイヤアーマーはガーランドの死体ごと埋められた事にします。
125 :
修正の修正:05/01/29 17:22:19 ID:QPQ+T9KT
やべ、修正忘れてた。
リディアの行動方針の部分を
【リディア 所持品:いかずちの杖、星のペンダント 】
に直します。
アルスは倒れている女の子(バーバラ)を発見して駆け寄った。
「しっかりしろ。大丈夫か?」
返事はない……が、ただの屍ではないようだ。ちゃんと呼吸をしている。
アルスはいまだに煙の上がり続けている村のほうを見る。
あそこから逃げてきたのだろうか。
アルスとシドは、あのあと山を降りてレーベ南の森林地帯へと入り、
そのまま森の中を移動してレーベ付近まで移動してきた。
途中、レーベの村の方角から煙が上がっているのが見えたので、村で何かが
起こっているのは確かだろう。
夜に動くのは危険だというシドを説得し、アルスは1人で村を偵察に来た。
その途中で発見したのがこの女の子である。
見ると両足に怪我をしているらしく包帯から血がにじんでいる。
村で起きた騒動から逃げてきて、ここで力尽きたというところか…。
こんな足で逃げてきたのか。さぞ痛かったろうに。
アルスは包帯の上から足に手を当てホイミの呪文を唱える。
とにかくこの子を連れて一旦シドのところへ戻ろう。
目を覚ませば村で何かあったのかも訊けるに違いない。
「おい、起きろよ。こんなとこにいると危険だぞ」
しかし、少女は全く目を覚ます様子がない。
「起きろー。起きないとイケナイことしちゃうぞー」
アルスは少女の胸の上で手をワキャワキャと動かす。
しかし、効果はなかった。
フルートかセージがいればよかったのだが、アルスにはザメハの呪文は使えない。
しばらく考えたのち、アルスは思い切って大胆な行動に出てみることにした。
人目がないとなるとこういう行動に走るあたり、むっつりスケベと性格判断されただけのことはある。
ぷにっと胸をつかむ。あっやわらかい。いやそうじゃなく。
「起きろーー」
胸をつかみながら体を揺すってみる。
しかしまだ目を覚まさない。
「起っきろーーっ」
さらに大きく揺すってみる。
「う…ん」
さすがに起きたらしく少女の目が開いた。少女とアルスはしばし見詰め合う。
しかしこの体勢はまずかった。目が覚めたバーバラは混乱した。
気が付くと知らない男が自分に覆いかぶさっていて、しかもその片手は自分の胸を掴んでいる。
……となると。
「キャアアアアァァァーーーーーーッ!!」
「わっ。まずい。大声を出すんじゃない」
アルスは慌ててバーバラの口をふさぐ。
「む…むぐっ」
近くにゲームに乗った危険な参加者がいるかもしれない以上、アルスの行動は当然のことである。
しかし傍からみるとアルスがヤバイやつにしか見えない。
アルスから逃れようと暴れまくるバーバラ。
何とか落ち着かせようと必死で押さえつけるアルス。
そのまましばらくもみ合っているうちに、アルスは背後に殺気を感じて振り向く。
ガツンと頭に衝撃が走り、目から星が出た。涙がにじむ。
「てめー、なかなか戻ってこねーからと様子を見に来てみれば、何してやがんだ」
それはビーナスゴスペルを構えたシドだった。どうやら柄の部分で殴られたらしい。
「ま、待って。これには事情が」
「なにが事情だ。問答無用」
「だから違っ」
そのとき、アルスから開放されたバーバラはというと、槍を構えて殺気を放つ老人(シド)の姿を見た途端
またもや気を失ってしまっていた。
【アルス 現在位置:レーベの村の外れ
所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 ダーツの矢(いくつか)
第一行動方針:怪我してる女の子を保護して安全な場所へ 最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【シド 現在位置:同上 所持品:ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) ロープ
第一行動方針:女の子に不埒なことをしていたアルスに天誅を加える
第二行動方針:PKを減らす 最終行動方針:ゲームの破壊】
【バーバラ(両足負傷、また気絶) 現在位置:同上
所持品:ひそひ草、他に様々な種類の草たくさん(説明書付き) エアナイフ 食料一人分(マリベル)
第一行動方針:? 第二行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】
129 :
128訂正:05/01/30 19:02:39 ID:qSMfC0u6
殺気を放つ老人→殺気を放つ男
に訂正します。
130 :
洗脳1/5:05/01/31 04:42:24 ID:pwQ219pD
ここはアルティミシア城の大広間。アルティミシアのしもべのうち何匹かが集まり、ゲームの管理をしている。
それは膨大な数の参加者の監視や旅の扉の調整などの仕事、また展開の記述、少し異なるがアルティミシアへのもてなしなど、
多岐にわたっており、非常にハードである。もちろん、報酬とか特別ボーナスといったものはない。
12時間で交代、控え室に入る。そこも庭園だったり宝物庫だったり、運の悪い場合は牢獄だったりするのである。
現在、昼間担当であったティアマトとウルフラマイターが同じ部屋で休憩中である。
「全ク、ハード ナ 仕事ダ!参加者達ガ死ヌ前ニ コッチガ クタバッテシマウ。体ノ アチコチガ ギシギシト鳴ッテオルワ!」
「この程度の作業に音をあげるとは。だからアルティミシア様に、牢屋に追い入れられるのだ」
「俺様ヲ貴様ト一緒ニ考エルナ。竜族ノ貴様ト違ッテ、俺様ハ デリケート ナノダ!」
「耐久力だけがとりえのくせに、よくいうものだ」
「何ダト…」
ウルフラマイターとティアマトの間に気まずい空気が流れる。が、それも一寸の間。
「ヤメダ、今ココデ争ッタトコロデ、何ノ得ニモナラン」
ウルフラマイターが壁にもたれかかる。金属のこすれる、嫌な音がする。
「全ク、アルティミシア様ハ何ノ目的デ コノヨウナコトヲ シテオラレルノカ?」
「目的が何であろうと、関係ないことだ。私はアルティミシア様に忠誠を誓った身。ただ、役割を果たすのみ」
「時ニ ティアマトヨ。貴様、生キ残ルノハ誰ダト睨ンデイル?」
「分からぬ。初めはりゅうおうという者に目を付けていたが、まさかこうも早くも死ぬとは。あれでは竜族の恥曝しよ。
私ならば、あの5人など一瞬で灰にしてやるものを…。他の二体の竜族も見込みは薄い」
「ウン?ドルバ トカイウ ドラゴンガ イタノハ覚エテイルガ、他ニ竜族ナドイタカ?」
「見ていなかったか?スミスという者も、今一時的に姿を変えてはいるが、竜の一種だ。
もっとも、奴は様々な魔物に転生してきたらしいから、竜族としての誇りはもっておらぬだろうが」
会場の映像を見せる。巻物の効果が解除されそうなのだろうか、スミスの体から淡い光が発せられていた。
131 :
洗脳2/5:05/01/31 04:44:15 ID:pwQ219pD
高位の変身呪文、モシャス。これを使うには、相当の訓練が必要である。
なりたい姿をイメージするだけではいけないのだ。相当量の魔力も必要なのだ。
そして、呪文を使ったとき、解除したときに、自身の周りの環境への対応力が変化する。これに慣れなければならない。
変身の巻物、これは訓練も魔力も必要としない。どんな魔法の素人でも、変身できる姿は限られるとはいえ、モシャスを使えるのだ。
腐った死体。ゾンビ。元は、魔術師が召使いとするために死者に精霊を憑依させたものといわれている。
精霊が抜けて、肉体が空となってしまえば、周りの魂などがその抜け殻に憑依してくるのだ。
この系統はもともと自我も意志も必要とはしない。何より、それらがあろうとも、半分腐った脳のため完全には保てない。
意識を失っても、この状態ならば、よほど多くの魂等の影響を受けない限り、体を乗っ取られることはない。
では、これに化けて、そのまま意識を失い、その状態で変身を解いたらどうなるか。
まず、闇の中をふわふわと漂っていた意識が、変身の解除によって強引に肉体へと引き戻される。
その、戻ってきた意識に、抜け殻の時に集まった意志や魂が浸透する。
結果、それらが入り込んだ分だけ記憶が抜け落ちたり、また既存の意志と新たな意志が混ざり合い、
相当の精神的ショックを受けることになる。
そこから立ち直っても、体を乗っ取られるとまではいかずとも、それまでとは全く異なる考えを持つ別人となることがあるのだ。
このゲーム会場には参加者達の生への渇望、死者達の無念が渦巻くだけではない。
アルティミシアのしもべ達の忠誠心も、アルティミシア本人の、ゲームを成功させんとする意志も渦巻いている。
当然ながら、会場はアルティミシアの造ったもの。アルティミシアの意志は、会場のあちこちに潜む。
もし、その意志の影響を強く受けてしまったならば…かつてのティアマトと同じように、忠実な僕となってしまうことであろう。
132 :
洗脳3/5:05/01/31 04:49:18 ID:pwQ219pD
ところかわって、こちらはカインとフライヤ。
彼らは安全な睡眠場所を探してレーベから東の山脈の方へ移動中である。南に行くのはカインが渋った。
理由はもちろん、昼間の相手と鉢合わせる危険があったからである。その途中のことである。
「カインよ、お主も気付いておるか?先ほどから感じるこの気配」
「ああ、これは竜の気だな。それも俺たちと同じ竜騎士のものではないな。…本物の竜か」
カインとフライヤは辺りを見回す。竜騎士は、空中から相手に襲いかかる戦士。上空からでもターゲットを見つけられるよう、
目のよい者が多い。さらに、フライヤはネズミである。すぐ見つかった。
青い体色をした、小型の竜が倒れていた。念のため、武器を持って警戒しながら近づく。
「こやつ…飛竜ではないか?大分飼い慣らされているようじゃが」
「間違い無いな。仲間に加えることができれば何かと役に立つだろうが」
「が、何やらイヤな予感がするの」
あたりに漂う邪悪な気配。二人は再び周りを見回す。が、今度は何もいない。
気配が消えた。いつの間にか、その飛竜が意識を取り戻していた。
二人の顔をじっと伺っている。心の奥まで見透かされそうな目をしている。
一瞬フライヤはその目に何かを感じたような気がした。が、襲いかかってくるような様子も、殺気も無い。気のせいだろうか。
「ふむ、おかしな感じがしたのじゃが、思い過ごしか。お主も参加者のようじゃが、どうじゃ?一緒に来ぬか?
戦う気も無いようじゃし、どんな目的で行動するにしろ、仲間は多い方が心強い。」
フライヤが飛竜に手を差しのばす。
飛竜は起きあがり、鳴き声をあげる。承諾の合図のようだ。
「では、行くか。もう夜も更けてきた」
133 :
洗脳4/5:05/01/31 04:57:38 ID:pwQ219pD
(ねぇ、アンタ、ゲームに乗ってるんだろう?)
フライヤに付いていこうとしたとき、カインの頭の中に声が響く。
「な…」
突然脳内に響いた声、しかも自分の真の行動を言い当てられ、言葉に詰まる。
(あまり大きな声は出さないでくれよ。連れの方に聞かれたら厄介だから)
すぐにカインはこの声が飛竜のものだと気付く。
(さっき心の中を見せてもらったんだよ。色々混ざっちゃいるけど、人を殺して生き残ろうっていう心が感じられた。
なんて言うか、丸見えだ)
カインは武器に手をかける。
(おっと、早まらないでくれ。別に非難してるわけじゃない。ちょっと確認を取りたかっただけさ。
心を覗けるっていっても、かなり漠然としたことしか分からないからね)
カインが武器から手を離す。殺す以外の目的があるように思えたからだ。
「俺に何をして欲しいんだ?」
フライヤに聞こえないよう、少し距離を置いておき、非常に小さな声で話しかける。
(大したことじゃないんだ。ただ、ゲームを成功させたいだけさ。やる気満々のあんたと協力して、ね)
「だが、生き残れるのは一人だ。協力しても、俺かお前か、どちらかが死ぬことになるが」
(その時は、僕を殺せばいいさ。だって、さっきまで死ぬつもりだったんだから)
カインはその話に少し違和感を感じた。が、嘘を言っている様子も無さそうだ。話を続ける。
「いいだろう。手を組もう。が、最後にもう一つ聞く。お前は何者だ?」
(僕はスミス。アルティミシア様に忠誠を誓った者さ)
134 :
洗脳5/5:05/01/31 05:00:59 ID:pwQ219pD
会場に渦巻く、アルティミシアとそのしもべたちの意志に、スミスは洗脳されてしまっていた。
彼の心に入り込んだのは、ゲームを成功させんとする意志と、アルティミシアへの忠誠。
キャラバンでの思い出も、仲間のことも、マチュアのことも、記憶のどこかに追いやられ、
一度あの世へ旅立とうとしたことだけが、うっすらと残っていた。
【フライヤ 所持品:アイスソード えふえふ(FF5) 第一行動方針:カインと仲間を探す。まずは休めるところへ】
【カイン(HP 5/6程度) 所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手 第一行動方針:フライヤについていき、攻撃の効かない原因を探る
最終行動方針:フライヤを裏切り、殺人者となり、ゲームに勝つ】
【スミス(変身解除、洗脳状態、ドラゴンライダー) 所持品:無し 行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】
現在位置:レーベの村からずっと東
※スミスは普通にしゃべれます。色々と記憶を失っています。
※スミスは心に話しかけることはできますが、相手の心の内は漠然としか分かりません。
「クジャめ、派手にやっているな…」
天からふりそそぐ炎の矢を遠くながめ、セフィロスは独り呟いた。
あの子供一人にここまですることはあるまい。とすれば、城の中にでも他の参加者が潜んでいたのだろうか。
「まあ、あいつのことだ。簡単には死なないだろう」
言いながら、軒並み崩れた建物のなかで唯一原型を保っている武器防具屋を睨む。
割れた窓の隙間から、うっすらと赤いドームのような物が見える。
恐らく、バリア系マテリアのような現象だろう。
あの爆発と火災に耐えているのだから、その防御力は障壁魔法シールドをも上回っているかもしれない。
右手に握っている村正で突破するのは無理があるだろう。
クラウドが持っていた黒マテリアなら可能だろうが、
瓦礫の山から使えるかどうかもわからない代物を掘り出そうとする時間も余裕も今は無い。
ふと思い立って、懐に収めていたふういんのマテリアを取り出す。
セフィロスは生まれた時から、
いや正確には生まれる前から魔晄エネルギーによって強化された戦士、ソルジャーを造り出すための実験体にされてきた。
しかもニブル魔晄炉で一度クラウドに敗北して以来5年以上もライフストリームの中に閉じ込められていた。
そのためかどうかはわからないが、彼はマテリアが無くともある程度の魔法なら使えるようになってしまったのだ。
高度な魔法でもマテリアさえあれば武器や防具といった媒介も使わずに使うことができる。
しかし魔法を発動するには通常より少し時間がかかるため、
先のクラウドとの戦いでは満足に扱う事が出来なかった。
だが、このマテリアを使ってであの魔法のドームを破れるかどうかはわからない。
それでもないよりはマシだろう。淡いグリーンのマテリアを手に握り、セフィロスは暫く武器防具屋の方を凝視した。
相手にはカンの鋭いモンスターがいる上にここは建物から20メートルと離れていない。多分もう気づかれているだろう。
最初に攻撃を仕掛ける時に見た参加者の数は8人。
その内一人はその場で殺し、もう一人は一人になった所を叩いて殺し、もう一人は今ごろクジャの餌食だ。
3人がその場を離れたのだから結界の中に居るのは5人。
5人…一度に殺すには少し多い。先程のように奇襲を仕掛け、混乱させながら全滅に追いやるか。
すると、まずはあの厄介そうな結界を消滅させてしまおう。
恐らく、あの手の魔法は術者が死ねば制御を失い、消滅してしまうはず。
確かクジャの魔法で都市が崩壊した時、彼らをいち早く結界の中へと避難させたのは華奢な女性だったな。
それを考えると、結界を作りだして制御しているのは彼女だろう。
「よし、決まりだ」
セフィロスはまた独りで呟くと手に炎を宿らせ、武器防具屋へと放った。
パウロは床に転がっているセリスの死体をじっと見下ろしていた。
怯えて震えている僕に優しく接して安心させてくれ、僕の頬を思いっきり叩いて奮い立たせてくれたセリスさん。
そのセリスさんはもういない。
砂塵の中を走りぬける黒い影が一瞬で奪って行った。
あの時、何が起こったのかわからなかった。
いきなり雷が落ちて、目の前を黒い影が横切って行ったかと思うと、彼女はすでに死んでいた。
慌てて回復呪文を唱えても、もう何もかもが手遅れ、蘇生呪文ですら何の効果も無かった。
あんなに優しかったセリスさんを、一瞬で物言わぬ肉の塊に変えてしまった誰か…
許さない。
絶対に許せない。
絶対に許すわけにはいかない。
体を小刻みに震わせ、血が滲むほどに両手を握り締めていると、何処か遠くに隕石が落ちた。
「な…なんだ、一体?」
何か大規模な爆発が起こった跡を眺めながら、テリーが訝しげに叫ぶ。
それもその筈、突然空から岩塊が落ちてきたかと思えば、瞬時に周囲の建物を灰燼に帰してしまったのだから。
「メテオ…いや、それにしちゃあ少しデカ過ぎるぜ」
同じように巨大なクレーターを睨みながら、サイファー。
結界の外で、何かは知らないが大変な事が起こった。
そして、その危険が自分達の元に歩み寄ってくるような予感を、その場に居た全員が感じていた。
それから十数分して、それまで大人しく鎮座していたトンベリが、
ハッとしたようにきょろきょろと周囲を見渡すと、不安げな声を上げて暴れ出した。
「わっ!ちょっと、どうしたんだよ、トンヌラ?」
驚きながらもテリーがトンベリを落ちつかせると、魔物は彼に向かって必死に何かを訴える。
「え?危険?狙われてる?すぐ近く?わけわかんないよ。もう少し落ちつけって」
トンベリはやっと一息つくと、今度はゆっくりと「話し」始めた。
暫くして、銀髪の少年は蒼ざめた顔をあげた。
「…何なんだ?」
サイファーが訊くと彼は答える。
「真正面に誰か居る。サイファーさんとセリスさんを斬った奴だ」
「…マジかよ!?」
慌てた様子でサイファーが建物の正面から少し顔を出し、辺りを凝視すると、そいつはいた。
闇夜の中、しかも黒いコートを羽織っているのでわかりにくいが、
間違い無い、あの砂埃のなかで俺に襲いかかってきた奴だ。
風になびくコートは焼け爛れ、銀の髪はすこし焦げているが、ダメージその物はあまりなさそうだ。
「あんのチョコボ頭が…」
顔をしかめながらサイファーが呻く。
「なにが”俺一人でいい”だ。ただの犬死になんてロマンティックじゃねえオチつけやがってよ!」
死人の事を滅茶苦茶に言いながら破邪の剣を抜……こうとすると、その手は誰かに止められた。
パウロは剣を抜こうとするサイファーの手を抑えると、言う。
「サイファーさんはここにいて。そうしないと、ここを守る人がいなくなっちゃうから」
「…あ?」
「だってそうでしょう?もし結界を狙われたら――」
そこまで言かけると、何か赤い物が建物の壁にぶつかったと思うと耳を劈くような爆音が響き、窓ガラスをその熱風で叩き砕いた。
どうやらマーダーが本格的な行動に移ったらしい。見ると、刀を手にこちらに近づいてくる。
「ね?この結界が狙われたら、サイファーさんがここを守らないと。
城下町の外から誰かが助けに来るまでここは守り抜かないと。
それに…結界の中にいれば多分巻き込まれないで済むから。」
それだけを早口に言うと、サイファーが静止するのも構わず武器防具屋を出た。
「巻き込まれないって…何にだよ?」
「やはり破壊は出来ないか…」
少々焼け焦げ、抉られただけの壁を見ながらセフィロスは独りごちる。
刀を抜き、建物の方へ歩み寄る。
こうなっては下手に隠れるよりも、敵の眼前に姿を現した方が逆に動揺を誘える。
数歩近づくと、早速一人が建物から出てきた。
ただしその手には呪われた凶剣、破壊の剣が握られていた。
【サイファー(負傷、若干は回復) 所持品:破邪の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能)
現行動方針:結界を護るorパウロに加勢する 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【パウロ 所持品:破壊の剣、シャナクの巻物、樫の杖
現行動方針:武器屋内の人間を守る、結界の管理 第二行動方針:ロランを探す】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
現行動方針:祈り、呼びかける 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【テリー(DQM) 所持品:突撃ラッパ 行動方針:襲撃者に備える
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ
現行動方針:テリー達を守る 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【セフィロス(HP1/2程度) 所持品:村正 ふういんのマテリア
現行動方針:武器防具屋にいる参加者を殺す 最終行動方針:参加者を倒して最後にクジャと決闘】
【現在地:アリアハン城下町】
一人の男性が女性の胸に手を伸ばす。
その闇夜の中での行為は決して彼女の身を案じてのことではない。
そこにあるのは唯一欲望のみであった。
道化師ケフカ・パラッツオは、その行為を遠くから眺めていた。
そして吐き捨てるように言う。
「シンジラレナーイ!!! ぼくちんは、ああいう奴がいーちばん大嫌いだ!!!」
なんとも幼稚な台詞である。
大の大人がこんな言葉遣いをするべきではないと思うだろうが、実は彼は元々良識のある人間だったのだ。
そう昔、彼はガストラ帝国の優秀な戦士であった。
多くの人間から賞賛され、皇帝も一目を置く存在だったのだ。
そしてある時、皇帝が直々にケフカに命令を下した。
その命令とは、人体改造計画に参加せよという内容であった。
――人体改造計画
それはシド博士の理論によると、怪物から抽出した魔導の力を人体に注入するというものである。
そしてその目的は、魔導の力によって魔法を使えるようにするというもの。
しかし、ケフカが参加した当時は幾分、未完成な理論での試行錯誤の実験段階であった。
そしてケフカを用いた人体実験は行われた。
実験後、彼は魔導の力に拒否反応を示さなかったのだ。
シド博士を筆頭に、研究員の誰もが初の成功作を期待した。
…しかし、その実験は結局失敗に終わることになる。
確かに、彼の体は魔導の力を受け入れることができた。
しかしその代償として、彼は人の心を失ってしまったのだった。
そして今に至っている。
「ヒッヒッヒッ、どうやってあいつに痛い目にあわせてやろうか」
貴方がたは彼のことを可哀相に思うかもしれない。
しかし、彼自身は自分が狂ってしまったことを後悔はしているわけではないのだ。
むしろ喜ばしいことだと思っていた。
なぜなら、この狂気が身をもってこの世の真実を告げてくれたからだった。
どんな人間でも偽りの仮面を被っていること。
そして、その仮面を外すと中には歪んだ本性しかないということ。
だから、女性の胸を触っている奴のように醜い本性を持っているにも拘わらず、偽りの仮面を被って正義面しているのは許せなかった。
彼の言葉で言うなら、「いい子ぶるやつは、みんな死んでしまえー」といったところだろうか。
「キャアアアアァァァーーーーーーッ!!」
ケフカがあれこれ考えている間に女性の悲鳴があがる。
(…ちくしょう、ぼくちんの壮大な計画が無駄になったじゃないか)
そう、胸を弄られていた女の子が目を覚ましたのだった。
男は必死に彼女の口を塞ごうとする。
そして、その時槍を持った男が現れ、彼の後頭部を柄で殴る。
「ま、待って。これには事情が」
「なにが事情だ。問答無用」
「だから違っ」
(…どいつもこいつもいい子ぶりやがって……あいつは世界を救った勇者ってところか…あ〜腹が立つ!腹が立つ!腹が立つ!!)
ケフカの脳裏に先ほどのレオ将軍の顔が浮かぶ。
思い出すだけで吐き気がする。
(くっそーぼくちんを馬鹿にしやがってー…あいつらの化けの皮をはいでやる!!)
そしてケフカは行動に出た。
先ほど自分でつけた傷を両手で抑え、彼らの前に飛び出した。
「助けてください!!」
ケフカは腹の底から叫んだ。
突然の来訪者に驚いたのか、シドとアルスはやり取りを中断してケフカの方に振り向いた。
「どうしたんだ! そんな傷で!」
アルスはケフカに事情を問いただす。
「さっき男にやられたんだ! 金髪の男に!!」
もちろん真っ赤な嘘である。しかし、ケフカの傷は信じさせるには十分なものであった。
「とにかくだな、ちょっとここで傷を治していけ。おいアルス、回復効果のあるのはどれだ?」
シドが口を開く。そして周りに散乱していたありとあらゆる薬草を手に取る。
「これと、これと、これと、これだ。貴方は座ってくれ。話を聞こう。」
アルスたちはケフカの傷を治療しながら、ケフカの話を聞き始めた。
「ぼくち…、あ、いや私は半刻ほど前に3から5人くらいの集団を見つけたのです。
私は今まで一人ぼっちで寂しかったので、なんとか仲間に入れてもらえないかと思いました。
そこで私はその集団の中の一人の男に接触をはかったのです。
金髪の男、といっても暗くて顔ははっきりとわからなかったんですが、そいつが一人で集団を離れました。
多分用を足しにいったのでしょう。
そこで私が近寄って、仲間になりたいと申し出たのです。
すると男は快く引き受けてくれました。
しかし、実は私を油断させる罠だったのです。
私が男に背後を許すといきなり攻撃してきたのです。
私は必死に彼の攻撃を避けました。
そして尋ねたんです、どうしてこんなことをするんだ、って。
すると彼は、生き残るために決まっているじゃないか、って言ったのです。
彼の話によると、もう3人の命を奪ったというでした。
そして彼は集団の中に入って、油断させておいて一気に殺すつもりみたいでした。
私は恐ろしくなって、彼の攻撃をなんとかかわしつつ、急いで逃げ出しました。
そして今、貴方たちに会ったのです」
ケフカは口からでまかせに言った。彼の狂気が伝わらないように、出来るだけ丁寧に。
さて、ケフカがどうしてこんなことをするって?
なぜならケフカは知っていたのだ。
このゲームのように大勢の人が死ぬような異常事態にはデマが最も有効だということを。
金髪の男なんて実際どこにでもいる、3〜5人の集団だってかなりの数に上るだろう。
そう、デマは、出来るだけ抽象的なほうがいい。
そうすれば、デマは人から人へと伝わり、形を変えて人々に疑心暗鬼を起こさせる。
つまり不信感を蔓延させるのだ。
そしてそうなったら、ちょっときっかけを与えてやればいい。
仲間同士での殺し合いの出来上がりだ。
何も危険を冒して直接手を下す必要など無い。
ただ、各個人の正義のベクトルの方向を少しばかり変えてやればいいだけなのだ。
…そして反応は予想通りだった。
「そいつはゆるせねぇな!」
「ああ。」
(馬鹿どもめ。よく、こんなときに人の言ったことを鵜呑みにできるな!
悪に対して人一倍敏感な性格の集まりで、
どいつもこいつもガストラのポンコツみたいに愚かで役立たずで、レオのクソ野郎みたいに利用しやすい人間だ。
こいつらは、いつか取り返しのつかない過ちを犯して気づくんだ! そう、気づくんだよ!
自分は正義でもなんでもなかったってねぇ!!)
「傷を治してくれてありがとう。諸君のことは忘れないよ。
ただ、さっきも騙されたから、私はこれから一人で行動することにする。
それじゃあ、気をつけて」
ケフカはそう言ってアルスたちに別れを告げる。
(アヒャヒャヒャヒャ、滑稽、実に滑稽! これからはこのデマに翻弄されて醜い争いが起こるに違いない。
ぼくちん、ほんとに頭いーい!)
ケフカはまるで不吉を知らせる死神の如く夜の闇へと消えていった。
ところで一方残された二人はというと……
「金髪の男か、そいつは厄介だな。早く止めないと大変なことになる」
「しかしよぉ、てめー、なんか忘れてるだろ」
アルスは気絶しているバーバラに目を向ける。
「あっ、だからそれは誤…」
このあとアルスはまたシドに殴られることになる。
【アルス 現在位置:レーベの村の外れ
所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 ダーツの矢(いくつか)
第一行動方針:怪我してる女の子を保護して安全な場所へ 第二行動方針:金髪の男を探す
最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【シド 現在位置:同上 所持品:ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) ロープ
第一行動方針:女の子に不埒なことをしていたアルスに天誅を加える
第二行動方針:金髪の男を探し、PKを減らす 最終行動方針:ゲームの破壊】
【バーバラ(両足負傷、また気絶) 現在位置:同上
所持品:ひそひ草、他に様々な種類の草たくさん(説明書付き) エアナイフ 食料一人分(マリベル)
第一行動方針:? 第二行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】
【ケフカ 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール
第一行動方針:できるだけ多くの人にデマを流す 最終行動方針:ゲームに乗る】
――――2人の話は終わったようだ。
ギルダーが静かに「そうか…」と答えると、また階段の方へと戻った。
そして暫く、見張りを続行することにしたらしい。
ビアンカは、静かにギルダーを見ていた。
ピピンがギルダーに殺されたということが信じられないのか。
否、どうしても本当のことだとわかってしまうのが辛いのだろう。
気を落ち着かせるためにも、静かに深く呼吸をした。
そして、しばらくした後。
―――がっくん…ゆらゆら…がっくん…。
ギルダーは舟を漕いでいた。
「いい加減寝なよ」
「いや…見張りが……」
「僕がやるから」
「お前のほうこそ寝たらどうだ…」
「いいんだよ僕は。ザメハっていう目が覚める呪文あるし」
「だが…」
「寝 な よ 」
そこまで言うなら…と、ギルダーは椅子に座って倒れるように机に突っ伏した。
そして暫くすると規則的な寝息が聞こえてきた。よっぽど疲れていたのだろう。
そしてそれと同時に、タバサが目を覚ました。
「あれ…また起きちゃったんだ?」
「ごめんなさい…なんだか眠れないの。でもすっかり良くなったよ?」
「ふぅん……あ、本当だ」
セージがまた熱を確かめる。確かに熱は引いたようだ。
そしてタバサはそのままセージの隣に座った。
前を見るとビアンカがいる。彼女は、先ほどの悲しみを誤魔化して、タバサに訊いた。
「本当に大丈夫なの?辛くない?」
「心配しないで、お母さん。お兄さんやギルダーさんの言ってたとおり、寝てたらすっかり大丈夫になったから」
そう言って微笑んだタバサを見て、ビアンカは安心したらしい。
安堵の笑みを漏らすと、そのまま静かに何をするでもなく入り口を眺めた。
「あ、そうだ」
セージがタバサに向かって唐突に切り出した。
何?とタバサが聞き返す。そして軽く笑いながら言った。
「僕のこと『お兄さん』じゃなくて名前で呼んでくれたら嬉しいねぇ。
なんか他人行儀だし、ちょっとそんな柄じゃないから恥ずかしいんだよねぇ」
「……え?え?え?」
「ん?やっぱ駄目かな…。でもギルダーの事は名前で読んでるでしょ?」
「そ、それはそうだけど!なんか恥ずかしいしっ!恐れ多いといいますかっ!」
実はタバサはセージの事を名前で呼ぶ事に抵抗があった。
出会いがアレだったし、しかもずっとそう呼んでいるから定着してしまった。
だからなんだか子供心に恥ずかしいのだ。おかげで口調も混乱している。
「………で、でもお兄…じゃ、なくて……セー…ジさん、がそう言うなら…」
「お、やっぱそっちの方が慣れてるからしっくりくるよ〜。仲間内では皆名前で呼び合う仲だったからねぇ。ホント」
フルートは”さん”付けで呼んでたけど、とここに来る以前の事を思い出した。
そして横目でちらっとタバサを見てみると、なんか顔が紅潮している。
「ぅう〜、でも恥ずかしいよぉ」
「なんで?いいじゃーん、その方が自然で嬉しいよぉ?」
微笑ましく会話する2人を見て、ビアンカはくすくすと笑ってしまう。
「あれ?何で笑ってるの?」とこちらも笑いながらセージは訊いた。
「いや…なんだかタバサとセージさんが仲がいいなぁと思って」
「おっ…お母さん!」
「あら、悪いこと言っちゃったかしら?」
「え!?え、えー…そうじゃないけど……」
ビアンカの言葉で更に顔を真っ赤にするタバサ。
実はこれにはちょっとした理由があったのだ。
タバサがビアンカと一緒にグランバニアの本屋に出かけていた時。
なんとなく、ある1冊の本が気になったのだ。本当になんとなく。
その時にビアンカにその本のことを尋ねると、「まだタバサには早いわよー」と笑いながら返された。
そして次の日、どうしても気になってその本屋で…あの本を読んでみた。
その内容は、実はちょっと大人向けの恋愛小説だったのだ。
男の人と女の人が仲良くなって、いろいろする話…ということは理解はできた。
で、実はその中に主人公たちをからかう人物がいるのだ。
丁度先ほどの母のように、「ずいぶんと仲がいいんだな」という風に。2人がとても仲良しなのを知ってて。
そしてその光景を自分たちに当てはめてしまい………。
「………タバサ、そこは照れる所?」
「なんでここまで赤くなるのかしらねぇ…」
こうなった。
そうとは知らず、2人はタバサのその姿を見て疑問に思いながらも笑ってしまう。
「でもねぇ。やっぱタバサが近づいてくれた感じがして、嬉しいなぁ」
「……え?」
セージの次の言葉を待つように、タバサはじっとセージの瞳を見つめる。
父とも母とも…兄とも違う独特の瞳だと、タバサは思った。
いつでも何か面白いことを探しているようで、いつでも何かを背負っているようで。
そんな複雑な瞳だという事を、感じる。
「最初はホラ、ああやってタバサと出会ったけどさ。
でも…怖かったでしょ?僕がいつか君を裏切ったりしないかとかいう不安とかさ」
「………」
そうじゃないと言えば、嘘になるかもしれない。
信頼できるけど、でもそれで足元を見られたらという思いもあった。
でも、今は違う。
「でも、今はそうじゃない目で見てくれてる。僕を信頼してくれてる。
今まで僕が…一方的に連れ回しちゃってるだけかもしれないって不安になってた」
「そんな事……ない…。私は、私は自分で…セージさん、と一緒に行こうって思ったから…」
「そうか…。今までずっと距離を置いてる気がしたからさぁ…所詮他人だからとあきらめた部分もあったけど…」
そこまで言って視線を上に外し、セージはまた過去を思い出した。
自分のココロの荊を無くしてくれたのは…他人だった。
他でもない、あの仲間たちだ。あの仲間がいなければ、きっと自分は一歩が踏み出せない人間のままだっただろう…。
そこまでで考えを止めて、またタバサを見て、にこりと微笑んで、
「僕に一歩でも近づいてくれて、ありがとう」
と、言った。
タバサは答えられなかった。
今度は顔いっぱいを赤く染めて、頷くだけだった。
「まーた赤くなってる。今日はどうしたのさ、一体」
セージの笑みを見て、タバサは胸の音が鳴ったのに気づいた。
でもそれがなんなのかはよくわからなかったけど。
ごくっと咽を鳴らして、緊張したみたいになる…。
「だ…大丈夫っ」
声が上ずる。自分はどうしちゃったんだろうと考えようとした。
でも考えはまとまらず、またわけのわからない感情が生まれるだけ。
なんとなく素っ気無く答えてしまった。それでも胸のドキドキは消えなかった。
見ていたビアンカが微笑しながら、「成程」と呟いた。
気づいていないのは、寝ているギルダーと…ばっちり主犯格のセージだった。
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:会話 基本行動方針:家族を探す】
【セージ 所持品:ハリセン・ファイアビュート・ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:会話 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【ギルダー(睡眠)所持品:なし
第一行動方針:ビアンカと対話中 第二行動方針:ビアンカとタバサに全てを説明する
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ビアンカ 所持品:なし
第一行動方針:ギルダーと対話中 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】
151 :
訂正:05/02/02 21:28:45 ID:7tstleUk
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:会話 基本行動方針:家族を探す】
【セージ 所持品:ハリセン・ファイアビュート・ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:会話 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【ギルダー(睡眠)所持品:なし
第一行動方針:ビアンカと対話中 第二行動方針:ビアンカとタバサに全てを説明する
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ビアンカ 所持品:なし
第一行動方針:静かに見守る 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】
兄さん、と誰かが俺を呼んだ。
振り返ると、そこにアイツが立っていた。
「やっと見つけた……兄さん」
無骨なレンガの壁に、装飾用の剣や斧が掛けられた、何処とも知れない部屋の中で。
アイツは――デールは、微笑みながら片手を振る。
「探したんだよ。僕、ずっと一人で……心細かったんだよ」
大量の返り血がついたマントを羽織り。いつも見ていた、穏やかで、どこか気弱な表情を浮かべて。
「……どうしたの? 兄さん。そんな、怖い顔して」
首を傾げながら、デールは赤黒く汚れた手を差し出した。
「ねぇ。早く行こうよ……義姉さんを探しに行こう。みんなでラインハットに帰ろうよ」
――その一言で、俺の頭は真っ白になった。
ざぐっと鈍い音が響き、我に返る。
俺の手には、いつの間にか鈍く輝く飾り斧が握られていた。
斧の刃と俺の服は真っ赤に染まり、デールは呆然とした表情で俺を見つめていた。
「……にい、さん?」
何故? どうして? ――そう言いたげに、口をぱくぱくと動かす。
見開かれた緑色の瞳から涙が溢れ、頬を伝う。
「なんで……にいさん……どうして、ぼくを……? ……にい、さ……ん……」
助けを求め、手を伸ばそうとして、デールの身体はバランスを失い、崩れた。
――そこでようやく、俺は気付く。
デールの手が、汚れてなどいないことに。
マントにも、返り血などついていないことに。
そしてデールが……俺をずっと『兄さん』と呼び続けていたことに。
「たす、け……て……に、い……さ………」
言葉は、途中で聞こえなくなった。
手がゆっくりと降りるのを、血に濡れた身体が痙攣するのを、瞳に虚無が満ちていくのを、俺は呆然と見つめていた。
「……ちちうえ」
死の沈黙を破って、幼い声が響き渡る。
顔を上げると、いるはずのないコリンズが、ドアの近くに立って俺を睨みつけていた。
「どうしてだよ……なんで、おじうえを殺すんだよ!?」
瞳に涙と怒りを溜めて、コリンズは俺を殴りつける。
「ちちうえのバカ……どうしておじうえを殺したんだ! なんで助けなかったんだよ!!
死んじゃえ! ちちうえなんか死んじゃえ!! ――大嫌いだッ!!」
泣き叫びながら、コリンズは廊下へ飛び出した。小さな背中が、信じられない速度で遠ざかっていく。
「ま、待て! 待ってくれ、コリンズ!」
後を追おうとした俺の腕を、誰かが掴んで引き止めた。
「おいおい……何をやってるんだ?」
後ろを向くと、握られた腕の先に、一人の男が立っていた。
俺と同じように斧を持ち、同じように返り血を浴び、同じ顔で、同じ服で――
「そんなにガキが泣くのが嫌だってか? 昔のアイツを見捨てられない、ってか?
……未練がましいんだよ。マリアは奴に殺されたんだぜ、わかってるのか?」
俺と同じ姿をした男が、忌々しげにデールの死体を踏みつけ、蹴り飛ばす。
それから俺の心を見透かそうとするように、鋭く冷たい視線を投げかけた。
「……ああ、そうか。お前はマリアの仇を取る気は無いんだな。
奴を殺そうと考えているのは、奴がマリアの仇だからじゃない。
奴がこれ以上、人を殺めるのを止める。そのための手段でしかないんだ。
だからこんなに迷っている。弟を生きて救う方法があるんじゃないかと、まだ下らないことを考えている……」
男は言う。底知れぬ憎悪と殺意を秘めた声で。
「寝言ばかり言ってるんじゃねえよ。
愛する人の仇も討とうとしないどころか、あんなイカれた男を救いたいだなんてよ……!
お前にそんな力があるのかよ! 理想主義者のお人よしは、どっかのバカだけで十分だ!
マリアのためにも、奴を殺せ! ……それ以外にお前にできることなんざ無いんだッ」
男はそう言って右手を無造作に振った。血塗れた斧は、いつの間にか長大な剣に変わっていた。
「――もっとも、それも無理な相談だけどね。ねぇ、ヘンリー?」
くすっと笑う、男の顔も変わっていた。俺を『ヘンリー』と呼ぶ――狂ったデールがそこにいた。
「弟を永遠に失い、ただ一人残された息子をも傷つける……そんな覚悟、貴方には無いよね。
生き残り、戦いを止め、人を救う……そんな力、貴方には無いよねぇ。
だから、ヘンリー。貴方には何も出来ないよ。誰かの足手まといになるだけで、何一つ出来やしない」
長剣を器用に弄びながら、デールは喉を鳴らすように笑う。
「ククッ……いや、何一つって事は無いか。
一つだけ……貴方にでも出来る事が、たった一つだけあったねぇ」
デールは唇の橋を歪めた。昔のあいつなら絶対にしなかった、見下すような嘲笑を浮かべて言い放つ。
「そう、ヘンリー。無力で弱い貴方にできるのは――僕に壊されることだけだよッ!」
金属の輝きが宙を走り、冷たい感触が激痛と共に俺の身体を深く貫く。
「ククッ……ハハッ、アハハハハ、アーッハッハッハッハッハ!!」
狂気じみた哄笑を上げるデール、その足元にある死体の口が、わずかに動いた。
(……にいさんが……兄さんが悪いんだよ……)
すすり泣くように、責めるように。
(マリア義姉さんの傍にいてくれなかったから……僕がこうなってしまう前に、止めてくれなかったから……)
俺が殺した、『昔のデール』の死体が……確かに、囁いた。
――……ねぇ……どうしてマリア義姉さんを……僕を、助けてくれなかったの……?――
「――ッ!」
……… ………
……全身を伝う冷や汗に身震いしながら、俺は必死で呼吸を整えた。
息が苦しい。夢から覚めても、悪夢の中にいまだ取り残されているような感覚が残っている。
いや……この現実自体が、悪夢の続きのようなものか。
死なない限り永遠に覚めない分、夢よりもずっと性質が悪いが。
――ふと、俺は顔を上げ、眠っているアーヴァインを見た。
何となく……こいつが記憶を無くす前に叫んでいた言葉を思い出して。
『僕を殺せ……殺してくれ! 頼むから殺せよぉ……! お願いだから殺してよぉっ!! 』
あの時は、何がなんだかわけがわからなかった。
こいつは無神経でふてぶてしい奴で、ペラペラ喋り始めたのも自棄になったからだと思っていたし……
話している時も、逆にこっちが腹が立ってくるぐらいに、冷静で落ち着いていた……
……はずが、いきなり狂ったように泣き叫び始めたのだから。
だが、今になって思い返してみると……普通に喋っているように見えていた頃から、既におかしかったことに気付く。
――挑発するように殺した連中のことを話したくせに、理由を説明する時は、理解を求めるような語り方をする。
――自分のことを血も涙もない薄情者のように言い、その割には、仲間達やイデアとかいう魔女を過剰なまでに庇い立てる。
――饒舌に喋っていたと思えば突然押し黙り、俺たちを嘲けったと思えば、自虐的なことを口走る。
頭が冷めてきた今なら、わかる。
平然としていたのは表面上だけで、あいつがそう演技していただけなのだ。
アーヴァインは最初から死ぬことを望んでいた。殺されることを願っていた。
『これ以上生きてたって壊れて狂うだけ』だということを、自分自身で理解してしまったために。
……そう、今ならわかる。
あいつの殺しの動機は――好きな子への想いとやらは、俺達が考えているほど軽いものではなかったのだ。
自分から諦められるわけがなく、絶望に苛まれても捨てきれるようなものでなく。
あまりにも強すぎて、抑えることも出来ず、……自殺することすら選べない。
だから、俺たちに『殺してくれ』と懇願した。
あの時のアーヴァインにとって、それ以外に止まる方法はなかったのだ。
……はは、今ごろ気付くなって話だよな。
これがリュカとかだったら、確実に気付いて何とかしていただろうに。
脱出の策があるだとか、出任せでもそれっぽいこと言って、ベクトルを上手く逸らしてやるだとか……
自分の経験を話して、似たもの同士だと思わせて、同調するよう仕向けるとか……
実際、気付いてさえいれば、俺にだって打てる手はあったし……どうにか出来たかもしれない。
少なくとも、あの妙な悪魔みたいな奴を暴走させるほど追い詰めたり――記憶など失わせずに、済んだはずだ。
――ソロとエリアは気付いているだろうか。
アーヴァインが話した仲間は、幼なじみの四人組と依頼人の少女の、合わせて五人だというのに……
記憶を無くしたあいつが探そうとしたのは、四人だけだったということに。
そしてあいつが俺に尋ねてきた時……最初に呼んだ名前は、決して女のものではなかったということに。
人殺しとしての記憶だけじゃない。
多分、アーヴァインが命以上に失いたくなかったものを、失わせてしまった。
俺たちが……いや、俺が見誤って気付かなかったせいで。
奴の心情に気を配ろうともせず、ただ力ずくで押さえつけただけで殺しを止められると思っていたせいで……
不必要に追い詰めて、苦しませて、挙句に……何よりも大切だったはずの女の子との思い出を、忘れさせてしまった。
夢の中で言われた通りだ……俺は何も出来てない。
戦いを止めたいとか、皆で生きて帰りたいとか、犠牲を減らしたいとか思っていても……結局、何も出来てない。
それどころかソロには迷惑をかけるし、フリオニールを傷つけるし、
ビアンカさんは止められなかったし、アーヴァインはこんな結果にさせちまった。
……マリアの傍にいてやることも、デールがああなる前に止めることもできなかった。
何一つ……出来なかったんだ。
……俺は……このままずっと、何も出来ないのか……?
……ンなこと、ないよな。これからでも遅くは無いよな。
失敗は取り返せる。罪は償える。
失われたものが多くても、全てが戻らないと決まったわけじゃない。
取り戻そうとする限り、生きて足掻き続ける限り、何かをしようと努力する限り……
諦めなければ、必ず結果に繋がるはずだ。
なぁ、アーヴァイン……今まで、俺は何も出来なかったよ。
気持ちだけが突っ走って、誰も止められずに、誰かを傷つけて、誰かに迷惑をかけていただけだ。
でもな、それでも俺は止めたいんだ。力が無いのはわかっていても、やっぱり止めたい。
この下らない殺し合いも……変わっちまった弟も、止めたいんだ。
なぁ。もし、俺が……お前に記憶を取り戻させた上で……本当の意味で、新たな道を歩ませてやることができたら……
同じように、デールを止めてやれるかな……?
――そんなヒマ、ないか?
……まぁ、いいさ。どのみち、デールが一番殺したいのは俺なんだ。
そう遠くない日に、あいつは必ず俺の前に現れる。
その時まで俺は全力で探してやろう。あいつを殺さないで済む道を。
努力も何もしないで諦めて、ハナからダメだと決めてかかるなんざ、兄貴がすることじゃないからな。
でも、試すのは一度だけだ。それ以上悠長にやっていたら、あいつの犠牲者が増えてしまう。
一度だけだ。それでダメなら……もう迷わない。俺が必ず止めてやる。
………あーあ。いろいろ考えてたら、また眠くなってきちまった。
今度はあんな下らない夢、見ないで済むといいんだが……
【ヘンリー(睡眠中、6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可)
第一行動方針:アーヴァインのサポートをしつつ、弟を説得する方法を探す 第二行動方針:デールを止める(説得が通じなければ殺す)】
【ターニア(睡眠中) 所持品:微笑みのつえ 第一行動方針:不明】
【ビビ(睡眠中) 所持品:スパス
第一行動方針:不明 基本行動方針:仲間を探す】
【エリア(睡眠中) 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:不明 第二行動方針:サックスとギルダーを探す】
【ソロ(睡眠中、MP3/4程度) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング グレートソード キラーボウ 毒蛾のナイフ
第一行動方針:状況の把握 第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【アーヴァイン(HP1/3程度、一部記憶喪失(*バトロワOPから1日目深夜までの行動+セルフィに関する記憶全て)、睡眠中)
所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能) 第一行動方針:状況の把握】
【レナ 所持品:エクスカリバー
第一行動方針:夜明けまでにアーヴァインをどうするか(一時的にでもいいので)決断する 基本行動方針:エリアを守る】
【ピサロ(HP3/4程度、MP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:不明 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【現在位置:レーベ北西の茂み、海岸付近】
ほしゅ
ほしゅ
アルカートは北から城に近づくと、城下町を囲む城壁を回りこんで入り口へと向かった。
街はところどころが燃えあがり、時折大規模な爆発が起こっているが、
今の彼女にはどうでも良い事柄だった。
街にそびえる半壊した城の中に、彼がいるような気がして。
彼がまだ、生きてそこにいるような気がして。
不意に、入り口の近くで竜巻が起こった。次に、3回くらいの大きな爆発。
相変わらず死んだ眼でそれを見届けると、なおも城壁に沿って歩いた。
そうして城下町の正面、入り口へ回り込んだその時――黒いマントのような服を着た、血塗れの男と鉢合わせした。
セフィロスはよろめきながら、街の出入り口を目指していた。
武器防具屋から剣を手に追いすがる白コートの目をトルネドとフレアの連発でくらまし、
その隙になんとか逃げたはいいが、クラウドとあの魔物のような男から受けたダメージがそろそろ深刻になってきた。
傷口からの出血が止まらない。
吐き気がして視界が揺れ、意識がぐらつくなか街を出た時――黄色い奇妙な服を着た女と鉢合わせした。
目の前の男は全身が血に塗れている。
手にしている剣――厳密にいうと、剣ではなく忍者などが使う刀という武器だが――も血の色に染まっている。
…誰かを殺したのだろうか。
…この男は彼を、ジオをも殺したのだろうか。
そこまで思考が回ると、何か自分でもよくわからない感情が込み上げてきた。
「あなたが、ジオさんを、殺したんですか…?」
もちろん、そんなはずがない事は分かってはいた。だが、理性が押し留める間も無く体は次の行動に走る。
「許さない…」
それだけ言って、右手に握ったグラディウスを振り上げた。
いきなり振り下ろされた刃を寸でのところで避け、数歩後ろへ退く。
どうにも女は正気ではないらしい。死人のような目をしてこちらに迫ってくる。
最悪だ。
重症を負っている所へ、今度は狂人ときた。
どうしてこうも悪すぎる状況が続く?運のステータスならそれほど低くない筈だぞ?
そんな考えを巡らせていると、女の左手が淡く輝き出した。
攻撃魔法か――瞬時に予測し、セフィロスも手に蒼い光を呼び出す。
「ホーリー!」「フリーズ!」
二つの青色の閃光は激しくぶつかり合うと、威力に差が合ったらしい、彼はのけぞるようにして後ろに倒れこんだ。
(…ホーリー!?)
起き上がりながらまず考えた事は、彼女が使った魔法の名だった。
彼の知る限り、ホーリーとはメテオと対をなす究極の魔法だったはずだ。
それにしては威力が小さい気がする。ただ偶然に名が同じなだけか?
有無を言わさず、次の光が目の前に迫る。
それを今度はフレアで相殺するが、やはりダメージを負った体では威力が弱く、またも後ろへ吹き飛ばされる。
右手に持った村正で斬りかかろうにも、2人の間には少し距離があり、重症をひきずって接近するにはリスクが高過ぎる。
……このままではいつか直撃を受けて倒されてしまう。何とかして活路を見出さねば……
状況を打開する方法を模索していると、三度目のホーリーが詠唱され始めた。
アリアハンの赤々とした光がいよいよ近づいてきた。
宙を浮いて引っ張られる感覚にも慣れ、一部が崩れている城壁が目の前に迫った頃、リディアは二つの人影を見た。
一人は黒いマントのようなものを身に纏い、もう一人はリスのような一見かわいい着ぐるみを着ている。
どうも2人は争っているようだ。魔法の応酬を続けているが、怪我をしているのか、黒いほうが徐々に押し負け始めている。
やがて黒い人が魔法の直撃を受け、派手に吹き飛ばされた。
起き上がろうとしているが、ダメージがひどいのか、立てないでいる。
「ギード!イザ!」
「わかっておる!」
妙にりりしい顔をした亀は叫び返すと、赤い光をバックにたたずむ人影に一気に突っ込んだ。
「…カハッ…!」
腹に焼けるような痛みを覚えて宙を舞う。
あの女の魔法の連射についていけず、とうとう直撃を受けてしまったのだ。
セフィロスは腹から地面に叩きつけられ、女は不気味なほどゆっくりとこちらに近づいてきた。
立ちあがろうとしても、耐えがたい苦痛がそれを許さない。本格的な限界が来ているようだ。
(く…こんなところで…倒されるわけには…)
なんとか動こうと足掻く彼を見下ろし、アルカートは手に持ったナイフを高々と振り上げる。
と、彼女のわき腹に円の形をした何か大きな者がぶつかった。
まるで投げ円盤のような動きで、
今まさに人を殺そうとしていた女にギードが体当たりした。
彼女は一瞬避けようとする素振りを見せたが、その次の瞬間には棒きれか何かのように突き飛ばされ、城壁に叩きつけられた。
ギードは一先ずため息をつくと、すぐに倒れている男の方へ向き直る。
「おぬし、大丈夫か?」
「大丈夫なわけがないだろう…」
大地にうつ伏せに転がったまま唸る彼をイザが仰向けの姿勢に直す。
瞬間、その傷の深さにアッと目を見張った。
左の肩が大きく裂かれ、全身にレンガか何かで打ったような跡が認められる。
腹にある焼かれたような傷は今の魔法によるものだろうが、他の傷はあの妙な格好の女性がつけたものとは思えない。
城下町の中で、どれほど激しい戦闘があったかが伺えた。
とにかく、彼はとんでもない重症を負っている。なんとかして助けないと…
「ひどい傷じゃな」
言いながらギードが倒れている男に近づき、口に淡い光を宿らせる。
光は男の肩の傷口を少し塞ぐと、消えた。
「ケアルラ一回では無理か…イザ!リディア!お主らも手を貸してくれ!」
そうしてギードとイザは魔法と呪文で男を治療し、
黒魔法しか使えないリディアは彼の服の裾を破いて即席の包帯を作り、傷口を止血する。
数分間そうしていて、やっと男に回復の兆しが見えると、リディアはふとギードが突き飛ばした女性の方を見やった。
壁に叩きつけられた時の打ち所が悪かったのか、あれから倒れたまま微動だにしない。
それからすぐに、その後ろで燃えあがっている街が視界に入った。
ここに来る途中、誰かが助けを求めていたとギードが言っていた。
浜辺で見た隕石といい、赤々と燃えている建物といい、傍らに転がっている男の人といい、
この城下町で何かが起こっているのは確かだ。
一刻もはやくギードとイザの言う「仲間」を助けに行かなければならないが、
まずはこの黒い服の人を何とかしないといけない。
その時、後ろから「…助かった」と重い声がした。
大分軽くなった体を起きあがらせると、落ちていた刀を拾う。
「あ、気をつけて下さいね。まだ完全に治ってませんから」
「わかっている。だがまあ、戦うのに支障はきたさなさそうだ。礼を言う」
村正を鞘に収め、黒づくめの男は気遣うように念を押すイザに答えた。
「…お主、見たところかなりの使い手じゃな?」
ザックを背負いなおし、乱れた服を整える彼を見据えながら、ギード。
「…だったら、どうしろと?」
足元の亀――にしては随分大きいが――を見下ろしながら、セフィロス。
「短刀直入に言う。手を組まんか?」
なぜ?と言いたげな表情を作るセフィロスを前に、ギードが続ける。
「わしらは今このゲームから抜け出す方法を探っておる。
ここから西に行った所にある搭にも仲間がおるし、この城下町にも助けを求める者がおる。
この忌まわしいゲームから脱出しようと考えている者はそこら中におる…」
「…それで?」
「お主ほどの実力者が仲間になってくれれば心強い。
まず、城下町で危機に瀕している者達を救わなければ。
それにお主、先程まで街の中にいたのだろう?何が起こったかも詳しく…」
「――悪いがそれは出来ない相談だな」
「…?」
なぜと問おうとした瞬間、ギードはいきなり蹴り上げられて宙を舞った。
「何をす「ベイルホース!」
イザが慌ててザックからきんきらの剣を取り出した次の瞬間には、 男の左手から発した蒼い光に吹き飛ばされて自分もギードと同じように宙を舞っていた。
咄嗟に盾にした剣は粉々に砕けている。原型を保っているのは握られている柄だけだ。
やがて、背中から大地に叩きつけられた。
「く…」
呻きながら、ザックから新たな剣――に良く似た棒切れ――を取り出して起きあがる。
逆さまになってもがいているギードに手を貸して起こさせ、二人が反撃に転じようとしたその時、
「動くな」
と太い、あの男の声がする。
「…この娘の、命が惜しければな」
みると、男は城下町の方を見ていたせいで反応が遅れたリディアを羽交い締めにしていた。
「…なんと卑劣な…!」
セフィロスを睨みながら、ギードが唸る。
「”賢い”と言ってくれないか?」
左腕一本でリディアを押さえ、盾にするようにしながら、セフィロス。
当のリディアは体を押さえつけている腕を掴んだり体を揺すったりしながら脱出しようとしているが、彼女の細腕ではとても抗えない上に、首を締めつけられていて魔法で反撃することもままならない。
「…まあ、死にそうだった所を助けてくれた事には素直に感謝する。ありがとう」
じりじりと、2人からセフィロスが少しずつ離れて行きながら、続ける。
「一つ良い事を教えてやる。
私はな、このゲームを抜け出すつもりなどさらさらないのだ。
…運が悪かったな。襲われていた人間を助けたつもりが、まさかマーダーだったとは」
「じゃあ、街を燃やしたり隕石を落としたりしたのは…」
「おっと、それは違う。それは私ではない」
エクスカリパーを油断無く構えるイザの問いに、余裕の笑みを崩さず答える。
「なら誰が…」
「…城下町を火の海に変えたのは私の仲間、メテオを使って隕石を落としたのは私が殺した奴だ」
なんてこった。
イザは目の前の男を睨みながらそう思った。
こいつはもう人を殺している上に、話し方からして1人や2人じゃない。しかも城下町にはこいつの仲間がいる…
今すぐにでも肉薄して叩き斬ってやりたいが、リディアを盾にされているせいでそうもいかない。
セフィロスは少しずつ、彼等から離れて行った。
「嫌…放してっ…」
セフィロスの腕の中でリディアが抵抗しつづけているが、
血で黒く染められた腕の力には勝てそうに無かった。
「やめろ!リディアを放せ!」
ギードが叫んでも、「なら動くな」と冷たい声が帰ってくるだけ。
やがて、セフィロスは彼等から十分な距離をとると、再び口を開いた。
「少々口が過ぎたようだ。そろそろお暇させて貰おうか。
お前達は命の恩人だ。私も何もしないでおいてやる。
…お前達2人には、な」
セフィロスは言い捨て、それまで体を捩ってなんとか逃げ出そうとしていたリディアを、
――村正で一突きにした。
「な…」
言葉を失う2人。
その目の前で、リディアがドサッという音とともに崩れ落ちる。
「…放してやったぞ?」
とぼけるような様子で、セフィロスが不気味に立っている。
「それでは、私はこの辺で…」
「待て!」「縁があったらまた会おう」
イザが止める間も無く彼がそう残すと、突然目の前に巨大な竜巻が起こった。
周辺の瓦礫や小石、さらには生えていた雑草や土なども巻き上げられ、強い風圧で目を開けられなくなくなった。
ようやく竜巻が収まると、あの銀髪はもういない。
後には、胸から血を流して倒れたリディアが残されていた。
「なんということを…」「リディア!」
イザとギードが、倒れている少女に走り寄る。
傷はどうやら一つ。先程刀で刺されただけのようだ。
ただし、心臓が正確に、しかも完璧に狙われた物だが。
彼女の左胸からは血がとめどなく流れているし、2人が必死に治癒しようとしてもなかなか止まらない。
致命傷だ。
ギードは四回目のケアルガを唱えながら思った。
あの男と目を合わせたとき、嫌な予感のような物は感じた。
しかし、急ぎ過ぎていて意にも介さなかった。
「ごめん…私のせいで…」
「喋らない方が良い。それに君のせいなんかじゃないよ。僕達がもっと早…」
そこまで言って突然イザの顔が引きつり、腹のあたりを押さえてうずくまった。
「イザ!どうした!?」
「だ、大丈夫です。大した事は…」
ギードの問いにそこまで答えると、イザは一層苦しそうに腹を押さえる。
「大丈夫なはずがなかろう!見せろ!」
ギードが強引にイザの腕を取っ払うと、その手は血に塗れていた。
手だけではない。彼の腹や胸が、血で赤く染まっていた。
細かくなった金色の剣の破片が突き刺さっており、取り除く事は出来そうも無い。
先程までは状況が状況だけに痛みを忘れていたのか、かなり深い傷だ。
「こんなところで痩せ我慢してどうする。ルカに合わす顔がなかろうに」
「そう…そうでしたね」
そういって笑うイザをリディアの隣に寝かせてやる。
…しかしどうしたものか。ギードは内心頭を抱えていた。
どちらか1人ならまだしも、2人も治療するとなると話は違う。
魔法もこれ以上使うのはできるだけ避けたいが、一刻も早くなんとかしなければ二人とも死んでしまう。
2人に気を取られていたせいか、
ギードはその背後でリスの着ぐるみを着た女性が、まるで幽鬼のようにゆっくりと立ちあがった事に気づけなかった。
そして、彼女の左手に蒼色の光が宿っている事にも。
アルカートは虚ろな目で横たわっている2人の男女とその傍にいる亀を認めると、
蒼く光る手を彼等にかざした。
重傷を負った二人に気を取られ、ギードは背後から放たれる殺気に気づくのが遅れた。
攻撃を避けようとした時には、既にその場をまばゆい閃光が包み込んでいた。
離れた地点であの青の光が放たれるのを、セフィロスは岩に腰掛けながら眺めていた。
あのホーリーの使い手が3人を襲ったらしい。
見せしめ程度にレオタードを着た娘を刺してから逃げたが、それも功をそうしたようだ。
実に好都合だった。これで奴らが追ってくることもないだろう。
ザックからパンを一掴み取り出し、乱暴に咀嚼しながら喉の奥へと押し込む。
あのお人好し達のおかげで傷口は塞がったが、やはり未だ不完全だ。
血だ。失った血を、遅くとも夜明けまでには作り直さなければならない。
口の中に残ったパンを水で流しながら、セフィロスは岩に穿たれていた空洞の中へ入り込んだ。
姿を隠すには不充分だが、この暗い夜の闇、しかも黒い服を着ているのだから見つかる事はないだろう。
「まあ、今日はもう動かずにいよう…」
今後の行動、クジャとの約束、ホーリーを使う女…とりあえず、夜が明けてから考えよう。
彼は冷たい夜風を体に受けながら、徐々に肥大していく疲労と睡魔に意識をゆだねていった。
【ギード(MP消費、ホーリー直撃) 所持品:不明】
【イザ(重傷、MP消費、ホーリー直撃 所持品:きんきらの剣(柄だけ)、エクスカリパー、マサムネブレード、首輪】
【リディア(瀕死、ホーリー直撃) 所持品:いかずちの杖、星のペンダント】
【第一行動方針:不明 第ニ行動方針:アリアハンへ加勢に行く】
【アルカート(自我喪失)
所持品:ナッツンスーツ グラディウス 白マテリア(ホーリー)
第一行動方針:? 第ニ行動方針:ジオの元へ行く(?)】
【現在位置:アリアハン城下町入り口】
【セフィロス(HP1/5程度、睡眠中) 所持品:村正 ふういんのマテリア
現行動方針:潜伏し、体力を回復する 最終行動方針:参加者を倒して最後にクジャと決闘】
【現在地:アリアハンから少し南、岩陰に潜伏中】
170 :
黒 1/2:05/02/10 09:42:04 ID:PNzLDiJg
二人が倒れる。パウロとセフィロス。
その光景を前に、無防備に飛び出そうとするテリーを、サイファーは抑えねばならなかった。
「離して、離せよ!!」
「バカ野郎、あいつの意思を無駄にするつもりか!!」
飛び出したいのはサイファーも同じ、しかし彼は止めるほうに回っている。
何故だ?クラウドやパウロの意志を汲んだから?
(クソっ、これはビビってなんかねぇぞ…!)
目の前の化け物に臆しているわけではないと、自分に言い聞かせる。
額に、脂汗が滲んでいた。
そして、セフィロスがこちらに一瞥もくれず立ち去った後…。
パウロの頬から、熱がだんだんと奪われていく。
破壊の剣を手から外し、手を胸で組ませ、衣服を整える。
埋葬してやる余裕はない。
「仇を討ちにあいつを追うか?」
サイファーは、応と答えるのなら止めるつもりでいった。
しかしテリーの反応は違う。
「ううん。俺には力がないから、仇なんて討てっこない」
そこには、先程までの頭に血を上らせ、暴走しかけていた子供の顔はない。
驚くほど冷静に、テリーはパウロの死体を眺めていた。
「…そうだな、俺達には力がない」
一参加者も倒せずに、あの魔女を倒すことなどできようか。
サイファーは、パウロの横においた破壊の剣を手に取る。
「サイファーさん!!」
「制御できねぇっつったって、これも力には変わりねぇ。何、心配すんな。もしものとき以外は使わねぇよ」
そういって、ザックの中に入れる。
「とにかく、レックスを探そう。大丈夫、あいつならきっと無事だ…」
子供にしては暗すぎる闇色を瞳にたたえ、テリーはいう。
171 :
黒 2/2:05/02/10 09:43:19 ID:PNzLDiJg
ロザリーはそんな彼らを見て、胸に苦しみを覚えた。
かつて何か黒いものに追い詰められ、デスを名乗った優しい人を見ていたときと、同じ苦しみだった。
【サイファー(負傷、若干は回復) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能)
第一行動方針:レックスを探す 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
第一行動方針:レックスを探す 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【テリー(DQM) 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
第一行動方針:レックスを探す 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ 行動方針:テリー達についていく】
「はあ…」
丘の上から黒い海を見下ろしながら、ラムザはため息をついた。
あれからずっとアグリアスさんを探していたが、とうとう会えなかった。
というのも、彼の場合探す方向が悪い。
ゴルベーザと話した後、彼はよりによって東、つまりアグリアスが居る所とは真逆の方へと向かってしまったのだ。
そうして今、アリアハン大陸の東の森、その最果てから海を見下ろしているわけだが。
それにしても、あのアルティミシアと言う魔女は一体何者なのだろう。
僕らを突然この見知らぬ大地に送りこんで、殺し合いをしろとはどういうことだ?
それに、日が沈む直前に現れたときのあの顔。まるで人が死んでいく様を楽しんでいるような表情だった。
――三十一名…予想以上に良いペースだな。その調子で裏切りと殺戮を繰り返すが良い――
ふざけるな。何が「良いペース」だ。
こんな意味の無い争いを楽しむ魔女…狂っているとしかいいようが無い。
意味の無い争い…こう言うと、かつてイヴァリースで起こった戦乱を思い出す。
ラーグ公やゴルターナ公、教会の勢力、ダイスダーグ兄さん、それにヴォルマルフを始めとするルガヴィ達が起こした獅子戦争だ。
あれはそれぞれがイヴァリースの政権と力を欲した結果だった。
…アルティミシアも、何かを狙ってこんなことを?
いいや、魔女が何を目的としているかなんて関係は無い。
絶対に狂ったゲームは、そしてあの魔女は止めなければならないという事。今肝心なのはそれだけだ。
だが、そうは言っても自分一人では何もできない。
仲間が必要だ。同じ事を考える人達はきっといる。
それに、あの魔物なのか騎士なのかわからない人…ああいった人達も、人を殺そうとするには何か理由があるはずだ。
彼からも説得すれば協力してくれるかもしれない。
説得…そうすると、アレになるのが一番だ。
ラムザはその場に座り込み、ある一点に精神を集中させていった
三十分ほど経った頃だろうか、彼はゆっくりと目を開けた。
外見の大きな特徴はそれまでと変わらないが、風貌は見習い戦士の彼とは違う。
「話術士…戦闘には向かないけど、説得ならこれが一番得意だよね」
話術士。戦士が体得するジョブの一つで、戦いには向かないが敵の戦意をその饒舌さで挫き、
さらには仲間に引き込んでしまうある意味強力な特性を持っている。
剣の腕は劣化してしまうが、着ている鎧があるし、
もし説得に聞く耳を持たないマーダーが相手でも、ジャンプがあるから逃げる事だけはできる。
もっとも今日はもう夜が更けて動けないから、行動を起こすのは明日になるだろうが。
ラムザはそう思い、落ち葉が敷き詰められていて柔らかい地面に横たわった。
【ラムザ(話術士 アビリティジャンプ)
所持品: アダマンアーマー ブレイブブレイド
第一行動方針:今日の所はもう休む 第二行動方針:仲間を集める。
最終行動方針:ゲームから抜ける】
【現在位置:レーベ東の森の最東端】
hosyu
停止しました。。。:
176 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/15 21:43:15 ID:Bwyy39aD
844 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ sage New! 投稿日:05/02/15 17:43:21 ID:XcnYXXMg
フトO|Eトロト
874 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ sage New! 投稿日:05/02/15 19:22:18 ID:XcnYXXMg
ベホマンwwwwwっうぇwっうぇうぇwwwwwwww
その名の由来は、誰も知らない。
造りし者の名なのか。場所の名なのか。
扱う資格を持つ者の名なのか。かつて携えた者の名なのか――
誰も知らぬ、その名の意味はどうあれ。
その剣の持つ意味は一つ。
闇を切り裂く光を、天空の城へ誘うための道標。
だから、その剣は後に呼ばれる。邪悪を破る希望を……天空の勇者を導く剣。
――『天空の剣』と。
けれど魔王の手に堕ち、英雄の血を浴びて曇った白銀の剣は。
今や、希望とはかけ離れた場所に立つ男の手に握られている。
殺人者として生きる決意を固めたその男には、剣自体は手に余る代物であれど……
刀身に込められた魔力は非常に魅力的であった。
持つ者の力を倍増させる――男にとって、どのような武具よりも有用な魔力。
だから男は持ち去った。
己には扱いきれぬ剣を。
あらゆる魔を打ち払う、竜神の力を宿す器となるべき剣を。
未来の希望となるはずだった、血に穢れた剣を――
ロランがフルートに追いついたのは、数十分後のことだった。
「フルートさん!」
森の中でくずおれ、肩膝を着いていたフルート。
月明かりに照らし出された彼女の姿に気付き、ロランは駆け寄る。
「ちくしょう、あの野郎……小悪党らしく、逃げ足だけは早いってか……」
肩で息をするフルート。
その顔は青白く、抑えきれない苦痛が滲み出していた。
限界を超えた力を、長時間駆使した――その反動が彼女の身体を襲っていたのだ。
「フルートさん……早く戻ろう」
ロランの言葉に、しかしフルートは小さく鼻を鳴らす。
「フン、戻るだと? 冗談じゃねぇよ……あたしはまだ動けるし、さっき、ヤツの姿を見たんだ。
赤い髪の大男……あのクソッタレをぶっ飛ばすまで諦めるか。戻りたいならテメー一人でさっさと戻るんだな」
それだけ言い放つと、彼女は再び駆け出そうと立ち上がった。
その肩をロランが掴み、引き止める。
「サックスを死なせる気か?!」
『死なせる』という単語に、フルートの身体が一瞬硬直する。
「いくらリルムが回復魔法を使えると言っても、まだ子供なんだ……
魔力だって技術だって、フルートさんみたいな本職の人には遠く及ばない。
……早く、戻ろう。今ならまだ間に合うかもしれない」
フルートは大きく舌打ちした。
それから、突然近くにあった木を殴りつけた。
彼女の胴体より一回りほど太かった木は、鉛筆のようにバキッと折れて地面に倒れる。
呆気に取られるロランを余所に、フルートはよろめきながらも踵を返した。
「オラ、何ぼーっとしてんだよ。グズグズしてっと置いてくぜ」
「あ……ああ」
「くそっ……あんな悪党は、一秒だって野放しにしたくねぇのに……
まぁいい、顔は覚えた。次に会ったら容赦なくブチのめしてやる」
「……」
今までのフルートとかけ離れた言動に、ロランの中の疑惑は確信に変わる。
多重人格。フルートは、少なくとも二つの人格を持っているのだ。
おっとりのんびりした、サックス達も知っているフルートと。
竜王を倒した時の、粗暴だが正義感に満ちたフルートと。
そして今目の前にいるのは――後者の人格……
そこまでロランが考えた時、フルートがまたもや膝を着いた。
「大丈夫か?」
手を差し伸べるが、平手で払い退けられる。
「触るな! ガキじゃねえんだ、一人で歩ける……」
だが、それが単なる強がりでしかない事は明らかだった。
ただでさえ、洞窟を迷いながら歩いていたせいで体力を消費している。
そして正体不明の敵――フルート曰く、赤髪の男――の攻撃でダメージを負っている。
それでこの距離を、数十分間も全力疾走して……
これ以上回復もせずに身体を酷使すれば、間違いなく筋肉がイカれてしまう。
「変な意地張って身体壊してたら、意味ないだろ?」
ロランはもう一度手を伸ばし、立ち上がらせた。
そして有無を言う時間を与えずに彼女の身体を背負う。
「おい、ロラン! ふざけてんじゃねぇ、下ろせよ!」
「これ以上あなたに無理をさせるわけにはいかないし、休んでる暇も無い。
……大丈夫。これでも体力と持久力には自身があるから」
「そういう問題じゃねえ! 一人で歩けるって言ってるだろ!」
「こういう時ぐらい、素直に頼ってくれよな。
出会って一日でも、仲間だろ……僕達は」
「あたしに仲間なんていねぇよ!」
「僕にとっては仲間だ。
あなたも、もう一人のフルートさんも、サックス達も……パウロやムースと同じぐらい大切な仲間だ」
フルートは奇妙な生き物でも見るかのように、ロランに視線を注ぐ。
ややあって、肩を竦めて呆れたように呟いた。
「ケッ……バカ野郎が。
テメェみてえなお人よしは、いつか早死にするぜ……せいぜい気をつけるんだな」
そしてしばらく彼女は黙っていたが、ふと、何かを思い立ったように呪文を唱え始める。
首を傾げたロランの身体を包み込むように、淡い光が舞い上がる。
同時に、足の疲労が急激に薄れ、身体が軽くなっていくのを感じた。
「特別サービスだ……ピオリムみてーな補助呪文はガラじゃねぇが、ここでサックスに消えられても困るだろうからな」
フルートが呟いた。どうやら彼女が唱えたのは素早さを上げるための呪文らしい。
足に羽でも生えたかのように、楽々とスピードが出せる。
「ありがとう……フルートさん」
ロランは万感の思いを込め、呟いた。
だが……
「どういたしまして〜……ところで私〜、何かしました〜?」
返って来たのは、なんとも気が抜ける口調と言葉。
そう、本来のフルートの人格に戻ってしまったのだ。
少しだけ肩を落としながら、ロランは答える。
「いや、何でもないよ……それより、サックスが危険だ。
急ぐから、振り落とされないようしっかり掴まってくれないか」
「え? は、はい〜」
フルートは困惑しながらも、ロランにしがみつく。
それを確認して、ロランは全速力で走り出した。
ロラン達が元の場所まで戻ってこれたのは、襲撃を受けてからちょうど一時間後だった。
「ロラン!」「フルート!」
二人に気付いたゼルとリルムが、木々を分けて駆け寄る。
「無事だったんだ! 良かったぁ」
リルムがほっとしたように胸を撫で下ろした。
「ごめんなさい、迷惑をおかけして〜。
それより、サックスさんは〜?」
「あっ……」
フルートの言葉に、ゼル達は――表情を翳らせ、顔を見合わせた。
「どうしたんだ?」
「……その、な。言いにくいんだけどよ……」
ロランの問いに、ゼルは彼から視線を逸らしたまま、やけに歯切れ悪く呟く。
「サックスさん、どうしたんですか〜?」
フルートが不安げに尋ねる。
「その……」
幼い顔を曇らせて、リルムが言い淀んだ。
ゼルも、何か言い出し難そうに、ロランとフルートを交互に見つめる。
その様子に、ただならぬものを感じたロランは――
「……まさか!」
ゼル達を押しのけ、サックスが倒れた場所へ向かう。
まさか……まさか……間に合わなかった――?
脳裏に浮かんだ最悪の光景を打ち消そうと、木の葉を掻き分け……
「……!!?」
そして、ロランが見たものは。
見知らぬ、優しそうな女性の膝枕に乗っかって、シアワセそうな顔をしているサックスの姿だった。
「あ、ロランさん。すみません、心配かけて」
ロランの姿に気付いたサックスが、のんきに顔を上げる。顔色はまだ悪いが、それでも予想以上に元気そうだ。
「……えーと、サックス……大丈夫なのか?」
「とりあえず峠は越しました。もう生命の危険はありませんよ」
白いローブを纏った女性が、にっこりと笑って答えた。
その手から、暖かい癒しの光が溢れている。
「さすがにまだ、自力で歩けるぐらいに回復したわけではありませんが……
元々、白魔法は得意なんです。夜明けまでにはバッチリ治してみせます」
「ユウナさんはね、ジョブチェンジの力を持ってるんだってさ。
いやー、世界って広いんだね。僕とギルダー達しかそんなことできないって思ってたのに」
「……あ、そう」
ロランはがっくり肩を落とす。
ああ、急ぐ必要なんてなかったじゃないか。これならフルートが言った通り、襲撃者を追いに行くんだった……
ため息をつく彼を余所に、フルートがサックスとユウナに近づく。
「えっと、ユウナさんでしたっけ〜。私も回復は得意なんで、お手伝いします〜」
「あ、ありがとうございます」
「フルートさん! 無事だったんですね!
なんか襲撃者を追って行ったってんで、心配したんですよ」
「あれ〜、そうなんですか? 私、また記憶飛んじゃって、良く覚えていないんですけど……
でも、サックスさんも助かって良かった〜。ありがとうございます、ユウナさん〜」
「いえいえ、当然のことをしたまでですから」
何だかあっさりと打ち解け、和気あいあいと話している三人。
ロランはますます置いてけぼりを食ったかのように、呆然と突っ立っている。
そんな彼の肩を、ゼルと、見覚えのない中年の男性――プサンが叩いた。
「ま、色々言いたいこともあるだろうけどよ……」
「誰も命を落とさずに済んだのですから、これで良しということにしませんか?」
「……そうですね」
ロランは息をつき、苦笑を浮かべた。
確かに、一応誰も死なずに済んだのだから……これで良かったんだと思おうとした。
ちょっとした不満と、一抹の不安を押さえ込んで。
――彼らは知らない。
ロランとフルート、二人が焔色の髪の男を取り逃がしたことが、どんな未来をもたらすことになるのか。
神ですらも、まだ、知らない……
【フルート(MP減少) 所持品:スノーマフラー 裁きの杖 魔法の法衣
第一行動方針:サックスの治療】
【ロラン 所持品:ガイアの剣 ミンクのコート
第一行動方針:サックスの回復を待つ】
【リルム(MP減少) 所持品:英雄の盾 絵筆 祈りの指輪 ブロンズナイフ
【ゼル 所持品:レッドキャップ ミラージュベスト
第一行動方針:微力ながら治療を手伝う】
【サックス(重傷、行動不能) 所持品:水鏡の盾 草薙の剣 チョコボの怒り
第一行動方針:回復待ち】
【第二行動方針(五人共通):なるべく仲間を集める 最終行動方針(五人共通):ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】
【ユウナ(ジョブ:白魔道士) 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子
【プサン 所持品:不明
第一行動方針:サックスの治療/待機 第二行動方針:ドラゴンオーブを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ、困ってる人や心正しい人は率先して助ける 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在位置:岬の洞窟から北西の森(デュラン達とは離れた場所)】
【サラマンダー 所持品:ジ・アベンジャー(爪) ラミアスの剣
基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?) 】
【現在位置:岬の洞窟から北西の森(デュラン達がいた場所)→移動】
184 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/16 18:18:04 ID:uj+H3kg3
『お兄さんとてりは、れくすを探しに行くつもりでした。
ぼくはキケンだとおもいました。でも、なにも言いませんでした。
だって外からアブナイ感じがゆんゆんしてて、その人がこっちに歩いてきていて、ここにいるのもキケンだと思ったからです。
だから黙って、二人とろざりお姉さんに着いていくことにしました。
本当は、れくすはもういないんだってわかっていたけど……黙って、着いていきました』
仲間との別れ、最愛の人の死。ただでさえ、アルカートの心は壊れかけていた。
それに加えてギード達に受けた、(彼女にしてみれば)言われなき暴力。
銀髪の男が言い放った言葉と、事もなげにしてみせた行為……
どちらも、壊れかけた心を閉ざさせるには――十分過ぎた。
彼女は歩く。戦場と化した街の中を、警戒もせずに無防備に歩く。
崩れた建物も、炎も、閃光も、悲鳴も、戦場も。彼女の瞳には映らない。
今の彼女に見えるとすれば、蠢く人間の姿だけ。
炎と閃光と悲鳴の向こうで、戦い続けている四人だけ。
「……の……キ、を……」
彼女は呟く。呟きながら、彼女は歩く。
横たわる骸を、乾いた骨を踏みつけて。
足元にあるそれが、ジオの命を奪った者の馴れの果てだと知ることもなく。
ぱきり、という音にも。それを踏みつけたということにすら気付くことなく。
「ジオの、仇を……」
白い珠を握りしめ、誘われるかのように、彼女は歩く。
もしクラウドがまだ生きていたのなら、気付く事ができただろう。
幽鬼のように彷徨う女性が持つ球体と……彼女の手から零れる、淡い緑の輝きの意味に。
『歩いていると、お堀の方から、かなしい感じが伝わってきました。
ぼくは、れくすはこっちにいるんじゃないかなと思って、てりに伝えました。
それでぼくたちは、かなしい感じがする方に向かいました。
そっちは、お城の入り口から大分離れていました。
建物の影になってわかりにくいところに、紫の布キレをかぶった人が土を掘ってました。
お兄さんが「金髪の子供を見なかったか?」と聞いたら、その人は驚いたみたいにぼくたちを見つめました』
当の『金髪の子供』――レックスの墓を作っていたリュカは、突然現れた奇妙な四人組をまじまじと見た。
「なぁ、オジサン! 知ってたら教えてくれよ、そいつはオレの友達なんだ!」
レックスと同じぐらいの銀髪の子供が、威勢良く言う。
それから見たこともない魔物が、小さな手をじたばたと振り回しながらつぶらな瞳をぱちぱちと瞬かせた。
彼の言わんとしたことを理解したリュカは、子供=テリーに視線を移す。
「そうか。君と、この子が……レックスと一緒にいてくれたのか」
「!! おじさん、コイツの言葉がわかるの?」
「僕も魔物使いだからね……レックスに、聞かなかったかい?」
悲しげな呟きに、サイファーはあることを思い出す。
目の前にいるのは、自分と殆ど年の違わない青年だ。間違っても5歳以上の子供がいるとは思えない。
だが、その顔をよく見れば――レックスと出会ったときに尋ねられた、その時に見せられた写真と同じ……
「あんた、まさか……レックスの親父か?」
サイファーの言葉に、リュカはうなずく。
抑えきれない悲しみを、それでも見せまいとするかのように、両手を硬く握り締めて。
そして、ようやく三人は理解した。
リュカの手についた汚れと、彼の傍に盛られた土の意味に。
『りゅかさんが作っていたのがれくすのお墓だって知って、てりはわんわん泣きました。
ぼくもガマンできなくて、わんわん二人で泣きました。
泣きながらぼくは思いました。せりすさん、くらうどさん、ぱうろさん、れくす……みんなのうらみ、ゼッタイ晴らしてやるって。
そこまで思って、ぼくは急に思い出しました。
ここに来る前に感じた、ゆんゆんアブナイ感じのことを。
ぼくはてりに教えようとしたけど、てりは聞いてくれなくて、それでりゅかさんに言いました。
りゅかさんからそのことを聞いたお兄さんは、様子を見てくると、街の方に走って行ってしまいました』
怒りに任せ、釘バットを振るうジタン。そんな彼を翻弄しつつ、雷や炎を放つクジャ。
攻撃の余波に巻き込まれながらも、補助や回復の魔法でジタンを支援するリノアとケット・シー。
一進一退の攻防を繰り返し、双方ともに決め手を打てず――あるいは打たずにいる。
けれど、ケット・シーは考えている。
もう少しだ。もう少しで終わらせてやる、と思っている。
あれから結構ダメージを受けているし、何より頭に来ているのだ。興奮剤を打った後のように。
絶対に、なんとしてもキツイ一発をお見舞いしてやる。リュカの分も、リュカの子供の分も、キーファの分も。
だからあと少しだ。なんとか耐え切って、リミットブレイクして、一発かましてやる――彼は、そのつもりでいた。
一方、クジャもケット・シーと似たことを考えていた。
当初はジタンのトランスを待ち、それを起爆剤にするつもりでいたが……その必要はなかったようだ。
自分でもわかる。
セフィロスと共に歩きながら集めた、生きたいと足掻く魂達が叫んでいる。
自分の中に眠る、死へ反抗する力が噴出そうとしている。
あと少しだ。そうなるまでの、あと少しだけ……遊んでいてやるつもりでいた。
ジタンとリノアは、二人の思惑に気付くことはなかった。
ただ彼らは、クジャとケット・シーが気付かなかった『彼女』の存在に気が付いた。
ナッツイーターのきぐるみを着た女性――アルカートの存在に。
けれど……気付くのが、少しだけ遅すぎた。
『ぼくは不安でした。
お兄さんがいなくなるとは思わなかったけど、何か悪いコトが起こりそうな気がしました。
だから早く逃げたいと思いました。ろざりさんとてりの服を掴んで、引っ張りました。
でもてりは……ここにいるんだといって聞いてくれませんでした。
そうこうしているうちに、悪い予感はどんどん強くなりました。
そして……』
ケット・シーが叫ぶ。リミットブレイクの光に包まれて。
「よっしゃ、来た来た来たぁ! ボクの奥の手、見せてやりますわ!」
クジャが呟く。赤い輝きに包まれて。
「奇遇だね……僕もちょうどそうしようと思ったところだよ」
二人の力が解放されるのと同時に、アルカートが動く。
戦場から少しだけ離れた場所で。クジャと、ジタンと、リノアと、ケット・シーを睨みつけて。
緑の光に包まれた、白い珠を夜空にかざして、彼女は叫ぶ。
そして、魔力が解き放たれたその瞬間――
アリアハンにいた全ての者の視界が、白一色に塗りつぶされた。
確かに彼は見た。
その映像は酷く不鮮明で、まともに見ることが出来たのは一割ほどに過ぎなかったけれど。
確かに、見た。そして、聞いた。
助けを求める必死の叫びを。
美しい桃色の髪をしたエルフの少女の声を。
…どうか…助けて…
懇願するような表情の少女に手を差し伸べようとして、ハッサンは目覚めた。
――闇の中に彼は自分を見出した。先程の、少女の背景に見えたどこかの城下町のイメージなど微塵もない。
目の前に――といっても数メートル離れて――座っていた紫の髪の女性が、目が覚めたのですかと優しく聞いてきた。
おぅ、とだけ答えた。表情は引き攣ったままで、彼女が誰かを思い出すよりも先に。
…アレは夢とは思えなかった。
夢の世界は別に存在する、と言う概念があろうとなかろうと、関係ない。アレは真実を伝えているのだろう。
そして、助けを求める者を無視する、そんな概念は、彼には存在しなかった。
城は、ここから西のほうにあった筈だ。
行かなくては。
彼は立ち上がり、その足は一歩を蹴り出そうとして――
――彼の身体は、宙に舞った。
被ってしまった…スマソorz
お先にどうぞ。
を書くために規制対象になるところだった…
『ぼくが目をあけると、ものすごくおおきな光が、お城を包んでいました。
光は、柱みたいにぎゅーんと伸びて、お空の向こうに吸い込まれていきました。
なんだか、ぼくのトモダチが使ってた、ホーリーのマホウに似てたけど……
ぼくはお兄さんが心配になりました。
だけど怖いから、ここでお兄さんの無事を祈ることにしました』
「ふふっ、ふふふ……」
アルカートは泣いていた。泣きながら笑っていた。
光に飲まれる城を、戦いを、戦っている者達を。聖なる光に裁かれる、最愛の人の仇を見つめながら。
両の目から涙を流して、それでも楽しそうに、狂ったように笑い続けた。
ジオへの手向けが出来たという満足感と――
それでも彼が戻りはしないのだという喪失感にも似た悲しみが、アルカートの虚ろな心を満たしていた。
「ふふ……ははは、あっはははは、あーっはっはっははははは・……」
……彼女は果たして気付いたのだろうか。
背後に立つ男の姿に。
その男の持つ剣が、自分の胸を貫いた事に。
鈍く濡れた音とともに、真紅の液体が流れ出す。
けれど、心臓を貫かれて鮮血を吐きながら――それでもアルカートは笑い続けた。
彼女は果たして、己の死に気付いていたのか。
気付いたから、滑稽だと笑ったのか。
気付かなかったから、笑い続けていられたのか。
どちらにしても、彼女は笑っていた。
胸から剣が引き抜かれても、支えを失って倒れても、心臓の鼓動が止まっても――
その身体から生命が抜け落ちても、彼女の顔から笑みが消えることはなかった。
「キチガイ女が……」
サイファーは忌々しげに吐き捨て、城の方を振り向く。
いや……もはや、そこにあるものは『城』とは呼べなかった。
半分以上が倒壊した――瓦礫の山になっていた。
そして戦闘が行われていた場所より大分離れた――
アルカートから数メートルも離れていない地点に、スパークを撒き散らす黒ネコと巨大なヌイグルミが倒れていた。
おそらくは魔法の衝撃でここまで吹き飛ばされたのだろう。
ネコの方はまだしも、モーグリを模したらしいそのヌイグルミは、表面がズタズタに裂けている。
背中のチャックも壊れて弾け飛び、中身が完全に見えている。
そう。中身が見えていた。
金色の髪も、猫のような尻尾も。――スカイブルーのワンピースも、黒い髪も、見えていた。
「リノ、ア……?」
サイファーは駆けより、少女の身体を引きずり出す。
「おい、しっかりしろ! リノア……リノア!」
必死で名前を呼ぶが、反応は無い。
だが、ぐったりとしていたが――呼吸はあったし、脈拍もしっかりしていた。
金髪の男の方も同じ状態だ。
意識は無いが、生きてはいる……死んでいない。生きている、二人とも。
「なぁ……お二人さん、ダイジョウブ、ですか?」
ボロ雑巾のようになったネコ型ロボット――ケット・シーが、呟くように話し掛ける。
サイファーがうなずくと、ケット・シーは満足げに微笑んだ。
「良かった……ちょーどな、スロットで、デブモーグリ……揃いまして。
ギリギリで合体、できたから……直撃、受けずにすんだ、思います。
ホンマは、クジャってヤツ、ぶっ飛ばすつもりでやったんやけどな……狙い外れても、結果オーライってヤツですか」
電光が弾ける。壊れかけた機械は、それでも言葉を紡ぎ続ける。
「ああ……そういえば、リュカさん……ダイジョウブですかな。
あのヒト、さっき、吹っ飛ばされて……そのまんま、戻ってきてないんや。
それに、クジャと……ホーリー、唱えたヤツ……まだ、生きてはったり、します?」
「……レックスの親父なら、あっちでガキの墓を作ってたぜ。
クジャって奴は知らねえが、近くにはいないようだし……魔法を唱えたらしい女は俺が仕留めた」
彼の言葉に、ケット・シーは安堵したらしかった。
「さい、でっか……良かったわ。これで、安心.……て、……ますな」
急に声が小さくなり、耳障りなノイズが混じり始める。
「なぁ、兄さン。正直、ボク……ブチョウや、クラウド達の、気持……、ホントは……わから……ったんデス。
自分が……死ぬ……も、シレなイ……に、他人や、星のコと……救お……なんテなぁ……
……はは……ボクみたいな、キカイが……死ぬ、いう……も、変なハナシ、やけどな……」
バチバチと、スパークが激しさを増す。
それでもケット・シーは笑顔を崩さなかった。最期の時まで、崩さなかった。
「でモな、ニイさん……イマなら……みんなの気持ち、なんとナク……わかる気ィ、しま……す、わ……」
そして一際大きなノイズが響き――数時間ぶりに、アリアハンに静寂が戻った。
「あの……ネコ……は……」
停止したケット・シーを見つめていたサイファーの耳に、男の声が響く。
「モーグリに乗ってた、黒ネコは……どうした?」
朦朧とした意識の中、弱々しい声で呟くジタンに――サイファーは答えた。
「黒ネコなら……死んだぜ。
おまえらを救って――死んだんだ」
【ジタン(重傷、右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7)
第一行動方針:? 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(気絶、重傷) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:不明 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【サイファー(負傷、若干は回復) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能)
第一行動方針:リュカ達と合流し、リノア達を助ける 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:アリアハン城下町、城正面の通り】
【リュカ(HP 3/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:不明 第二行動方針:クジャを倒す
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
第一行動方針:サイファーを待つ 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【テリー(DQM) 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
第一行動方針:泣く 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ 行動方針:テリー達についていく】
【現在位置:アリアハン城堀の近く】
【クジャ(HP 6/7以下、ホーリー直撃) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:不明 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【現在地:アリアハン城近辺のどこか、詳細な位置は不明】
【アルカート 死亡】
【ケット・シー 死亡】
【残り 89名】
*アリアハン城は半分以上が倒壊。地下牢への階段が、瓦礫で塞がった可能性があります
>190
長々と失礼しましたorz
爆音が、揺れながら聞こえるのを感じた。
直後、激しく地面に叩きつけられ、身体が悲鳴を上げた。ハッサンは表情を歪める。
大丈夫ですか、というミネアの慌てた声が、遠くで聞こえた。
大丈夫だがあんたは、と出来るだけ冷静に返す。
私は大丈夫です、と返ってきた声を聞くと、彼は再び立ち上がった。
腕を上げると、身に着けている物の中で唯一傷一つ創る事無く存在している呪われし指輪が、鈍く光った。
彼は、吼えた。
自分の不運さに、否、自分の無力さに、吼えた。
――俺の生きている証明、正義さえ、奪おうとするのかよ。
――いや、奪わせてたまるかよ、ここにいる証明を。俺の正義を。
――死に至ることはねぇ。助けを求める者がいる。なら、するべき事はひとつじゃねぇか?
この身体が何度爆発しようとも、プライドを奪われるよりはマシに決まってる。
そう思った彼は、その足を再び前に進めようとした。
だが、すぐに止まった。
彼の腕を、近くに来たミネアが掴んでいたから。
「どうしたって言うんですか?」
「……」
「何かあったんですか!?」
ミネアの表情は真剣だった。
「…夢で、助けを求められたんでな」
先程までの、低いけれど親しみやすい声とは、一寸異質な声をしていた。
殺気すら感じる、暗い声の響き。
怒りが、自分への怒りが、彼の声をそうさせているのか。
「…それは?」
「…エルフの女の子がよ、夢ん中で俺に助けを求めて…」
エルフ、と言う言葉に彼女は瞬時に反応する。
このゲームに参加しているエルフは、一人しかいない筈だった。
「その人は、きっと、ロザリーです。私の仲間でした」
仲間、と言うと少し違うが、其処まで説明することもない。むしろ、共に邪悪に立ち向かったのだから、それは仲間だ。
「じゃぁ余計、助けに行かなきゃな」
彼は、ちょっと其処まで、という感じで吐き捨てるように言い、再び足を進めようとする。
だがミネアは、その腕を必死に掴んだ。
使命感、そして正義に固執する彼。
きっと彼にも、彼の生き方があるのだろうし、何かに導かれて正義を貫いてきたのだろうから、それも正しい。
だからこそ、止めなくてはいけないと、思った。
失わせることは出来ないと、思った。
「行くのなら行って下さい」
ハッサンの腕を掴み、まるで彼に寄り添うようにしてミネアは言った。
この距離でいれば、ハッサンの起こす爆発が、確実にミネアをも巻き込むだろう。
だからこそ、そこに身を置いた。
「ですが、傷ついた身体で助けに行っても力にはならないでしょう」
今、彼が目の前で傷ついて行く姿を見るのは、辛い。
「だから、今は耐えてください」
彼は正義の人間だ。だから、無理やり進むことが私を傷つけることになれば、それは出来ない筈だと思った。
ふぅ、とハッサンは息を吐いた。
「…わかった。この身体じゃあ、な」
彼はそう少し寂しげに言い、地面に腰を下ろした。
ミネアは、ようやく少し安心したように、微笑んでみせた。
「大丈夫です、ロザリーが呼びかけているのなら、他にも、もっと万全な状態の人が、助けに行くでしょうから」
――ピサロさんなら、きっと飛んでいくでしょう。
まだ晴れない表情をしているハッサンのすぐ横に、ミネアは同じように腰を下ろした。
朝になれば状況が改善するとも思えないが、今は耐えるしかなさそうだから。
彼が無理をして動き出さないように、常に傍にいることが自分の役目なんだと、納得して。
彼は、私がいないとだめだから――
頭をよぎったロザリーの顔を、振り払った。
【ハッサン(HP残り1/16+α) 所持品:E奇跡の剣 E神秘の鎧 E爆発の指輪(呪)
行動方針:指輪を外す 最終行動方針:仲間を募り、脱出】
【ミネア 所持品:いばらの冠 嘆きの盾 悪魔の尻尾 行動方針:ハッサンが動き出さないように彼に密着】
【現在位置:いざないの洞窟西の山岳地帯】
※今ハッサンが動けば爆発は確実にミネアを巻き込みます。
戦いはとっくに終わり、人気の無くなった村にやってきたアルスとシド。バーバラも背負われている。
本来は村の近くで野宿をするはずだったが、怪我をしているバーバラを外でそのまま寝かせておくよりは
屋内で休息させた方がいいと考えたためである。
バーバラを背負っているのは当然シド。アルスは案内役を務めている。
「ここがレーベ村ってところか」
「ひとまずここで休息を取ろう。宿屋が無事ならそこにしたんだが…」
宿屋はすっかり焼け落ちており、煙が立ち上っている。
「仕方がない、適当な民家を探そう」
大釜で何かがぐつぐつと煮込まれている。そのまわりには、乾いた粉や、液体の入った紫の小ビンが並べられている。
どれも、毒薬、睡眠薬といった類のものだ。
イクサスは村に入り、研究所を持つ大きな家を見つけた。
一通りの器具やデータがそろっていたので、彼はすぐに薬を作り始めた。
根や葉をすりつぶし、そのまま乾燥させたり、水に溶かしたりして、粉末、液体とバリエーションをそろえておいた。
もちろん、成分を分析しておくのも忘れない。万が一誤飲したとき、対処できるようにしておかなくてはいけない。
ラリホー草は分析できた。これを飲んでも眠らなくなる、そんな薬も作れるだろう。
一方、飛竜草は成分は分かったものの、強力すぎてすぐに解毒剤が作れるようなものではない。
特毒消し草とやらも持ってくるべきだった。いや、その他の、放置してきた草も使い方によっては有効かもしれない。
冷静になって考えてみると、惜しいことをしたと思う。
取りに戻ろうか、と思ったとき、窓から、二つの人影が見えるのに気付いた。
「この家、誰か中にいるみてぇだな」
「ああ、殺気は感じないけれど、僕らを警戒しているみたいだ。どうする、シド。交渉してみるか?」
シドはうなずく。
アルスがノックをして、扉の向こうの相手に話しかける。
「扉を開けて欲しい。怪我人がいるんだ」
中の人間の反応はない。
「俺たちに争う気はねぇ。ここで休ませてくれねぇか?」
二人は武器を置き、話しかけるが、やはり反応は無い。
「まぁ、この状況じゃ仕方ねぇな。別の場所、探すか」
諦めて、彼らが立ち去ろうとした時、ギィーと音がして、扉が開いた。
イクサスは、外の二人の様子をうかがっていた。多少冷静になったとはいえ、まだまだ他人に対する不信感は強く残っている。
鍵穴から覗いてみると、黒髪の男が扉の前にいるのが見えた。どうも、持っている盾のデザインが怖い。入れてくれと言っているようだ。
もう少し、様子を見ていると、今度は金髪の中年が扉の前に立っていた。
確かに、人を背負っている。武器をおいて話しかけてくる。嘘を付いているようには思えないが、やはり万が一ということもある。
このまま無視することにした。
「まぁ、この状況じゃ仕方ねぇな。別の場所、探すか」
どうやら向こうは諦めたようだ。後ろを向いて、男たちは去っていこうとする。
と、背負われた女の後ろ姿が見覚えのあったものだと気付く。
確か、村はずれで手当てをしてやった女のはず。足には、確かに包帯も巻かれている。
あの無防備な女にとどめをささず、わざわざ助けようとしている。少なくともこっちが襲われることはないはず。
むしろ、安全なのではないか。あの4人は絶対に殺さなければならない。正直疲れている。休みたい。
それに、あの薬草セットは魅力的だ。イクサスは、カギを開け、扉を開いた。
家の中で、シドとイクサスが色々と会話をしている。バーバラは二階のベッドで寝ており、アルスは外で見張り中だ。
本当はアルスも屋内に入ろうとしたのだが、バーバラがアルスを見ればパニックを起こすのは間違いないので、
少なくとも彼女が目覚めるまでは中に入れさせてもらえないのである。
「へぇ、坊主がこの嬢ちゃんを助けたのかい」
「本当は助けたくはなかったさ。でも、ラグナとリチャードがどうしても助けてやれって…」
「ちょっと待て。そのリチャードとラグナっつうのは誰なんだ?」
イクサスは名簿を開く。ところどころ、汚されている。そして彼が指さした写真には赤い線が引かれていた。
イクサスがこれまでに起きたことを話す。
リチャードのこと、ラグナ達のこと、オーブのこと、スミスのこと、
そしてカウボーイハットの男のこと、赤い羽根帽子の男のこと、スコールとマッシュのこと。
いつの間にか、イクサスの目から涙がこぼれ落ちていた。
「すまねぇ。悪りぃことを聞いちまったな」
「いいんだ、俺は絶対みんなの仇を取るんだ」
「…もう一つ聞いていいか?お前の仇って奴ぁどいつなんだ?」
イクサスはシドの名簿を取り出す。示した人物は、みなイクサスの名簿では汚されていた人間であった。
「やっぱりな…」
羽帽子の男が先ほどの道化師の男の言った特徴と一致する。それに、他にも彼の言うクソ野郎が何人もいるのが分かった。
「坊主、お前が危険を冒す必要はねぇ。そのクソッタレ野郎共は俺たちが成敗してやっからよ」
だが、彼らの中に、殺意を持っている者は、すでに一人もいないのであった。
201 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/20 06:20:59 ID:XZquTcWi
【イクサス(軽度の人間不信) 所持品:加速装置、ドラゴンオーブ、シルバートレイ、ねこの手ラケット、拡声器、紫の小ビン(飛竜草)、ラリホー草
第一行動方針:毒薬作り 第二行動方針:ギルダー・アーヴァイン・スコール・マッシュを殺す/生き残る】
【バーバラ(両足負傷、気絶) 所持品:ひそひ草、他に様々な種類の草たくさん(説明書付き) エアナイフ
第一行動方針:? 第二行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】
【シド 現在位置: 所持品:ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) ロープ
第一行動方針:朝まで待機
第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす 最終行動方針:ゲームの破壊】
以上、現在位置:レーベ村の魔法の玉があった老人の家。食料多。
【アルス 現在位置:レーベの村の老人の家の外
所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 ダーツの矢(いくつか)
第一行動方針:見張り 最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
飛竜草は粉末と液体、ラリホー草は粉末状態です。
「そういえば、サックスさん。そのギルダーさんって人はどんな人なんですか?」
ユウナがサックスに、ふとそう尋ねた。
それはロランへの状況説明のときに出てきた名前。
自分以外にジョブチェンジが可能な人間がいるということに少し興味を持ったのだ。
その問いに、サックスは少し考えて話し始めた。
「ギルダーはね、僕と一緒に旅をしてた仲間なんだ」
「へぇ〜、仲が良いんですね」
「そして…僕と同じように、孤児だったんだ」
「……え?」
それを聞いて、申し訳なさそうにするユウナ。
それを見てサックスは、「気にしなくてもいいよ」と微笑む。
「いいヤツだよ。なんだか僕たちより大人びてて、ちょっと威圧的で、そしてちょっと年上が好きらしくてさ」
最後の方は話しているサックスも笑ってしまった。
だがそれがサックスから見たギルダー像なのだから仕方が無い…のかもしれない。
「それに、赤魔道師の力も持ってて…正義感溢れてて…。
だから、こんな殺し合いには乗ってないだろうし…殺されて良い人間じゃない」
いつの間にか、リムルやフルートもその話を聞いていた。
結構女性ウケするヤツだな…という目でロランも見ている。が、そんな事には誰も気づいていない。
「あいつは…器用なところもあって、でも不器用で…。
誰か支えてくれる人がいる方がいいんだ。友人の様な存在でも、母の様な存在でも良い。
だから…早く、僕もあいつと会わないと。あいつと会って、話をしないと…」
そこまで言って、「なんだか僕の講演みたいになっちゃいましたね」と笑った。
「あの…変な事だって事はわかってるけど、訊きたい事があるの」
「良いよ」
リムルはそう言って、少し間をあけた。
その間に、少し俯いて、また視線を戻して、そして言った。
「そのギルダーさんが、自分の意思で誰かを殺してたら…どうするの?」
「………ギルダーが…か」
「もし私の仲間が…って思うと、とても怖くなるの…。そういう時は、どうすればいいかもわからなくて…」
「そうだね…やっぱり………」
サックスもまた間をあけて、そして静かに言った。
「1発…殴っちゃうかもしれない。そしてうんと話し合おうって言う」
「聞いてくれなかったら…?」
「聞いてくれなくても、聞いてくれるまで話す……かな?喧嘩になっても、そうすると思う。
まぁでも、君は大丈夫だよ。いい人の周りにはいい人が集まるものさ。こんなゲームに乗らない、いい人がね」
「そっか…。うん、ありがとう」
「どういたしまして」
その話を聞いて、フルートが身を乗り出してきた。
「いいですね〜、そういうの。仲間って感じがしますよね〜」
「フルートさんも、そういう仲間がいるんでしょ?」
「いるにはいるんですけど〜…サックスさんみたいに温厚じゃないですから〜」
「あはは、それでも大丈夫。魔王ってやつを倒したんでしょ?」
「まぁそうですけどね〜。う〜ん、機会があったらサックスさんの言った事、やってみようかなぁ〜」
「……な、殴るの?それは止めておいた方が……」
「え〜?そうですか?でも仲間の皆ってよくモメてますし〜…」
「シド…なんか嫌な感じがしないか」
「何がだ。ビビってんのか?」
「…別にビビってはいない。ただ、この世界から帰っても果たして平穏に暮らせるのか不安になってね」
「……はぁ?わけわからん事言ってんじゃねぇぞ」
「ああ、すまない」
「はっっくしゅん!!」
「あ、お兄さん大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと悪寒がしただけさ」
「風邪、移しちゃった?」
「いや、そう言うんじゃなくて…なんか、生命の危機を感じちゃってねぇ……」
「う…」
「ロ、ローグ…どうした?」
「いや、なんか救いようの無い未来が見えたような…」
「おいおいおい止めてくれよ。ヤなんだよそういうの」
「ああ、悪ィ悪ィ」
【フルート(MP減少) 所持品:スノーマフラー 裁きの杖 魔法の法衣 第一行動方針:サックスの治療】
【ロラン 所持品:ガイアの剣 ミンクのコート 第一行動方針:サックスの回復を待つ】
【リルム(MP減少) 所持品:英雄の盾 絵筆 祈りの指輪 ブロンズナイフ
【ゼル 所持品:レッドキャップ ミラージュベスト 第一行動方針:微力ながら治療を手伝う】
【サックス(重傷:話せるまでに回復、行動不能) 所持品:水鏡の盾 草薙の剣 チョコボの怒り 第一行動方針:回復待ち】
【第二行動方針(五人共通):なるべく仲間を集める 最終行動方針(五人共通):ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】
【ユウナ(ジョブ:白魔道士) 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子
【プサン 所持品:不明 第一行動方針:サックスの治療/待機 第二行動方針:ドラゴンオーブを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ、困ってる人や心正しい人は率先して助ける 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在位置:岬の洞窟から北西の森(デュラン達とは離れた場所)】
>>202-204 上記の文章の「リムル」を全て「リルム」に脳内変換してください…。
手数をかけてすみません_| ̄|○
「ねぇ…お兄さん……」
「あら、名前で呼んでくれないの?」
「やっぱり…恥ずかしいから駄目!」
「えー?そこまで否定するかなぁ」
「だって、初対面があんな恥ずかしい感じだったんだもん…」
「んー、残念だなぁ。でもまぁいいか…名前のほうが気楽でよかったけど」
ちょっと残念がるセージ。
でもまぁ…信じてくれてないとかいう問題じゃなさそうだしね…と無理やり納得させる。
そしてタバサはまたセージの方に視線を戻す。
現在の状況。
現在、タバサ達は見張りをしながら夜が明けるのを待つ形となった。
ついでに時間も持て余していたので、タバサに少しだけ魔法を教授することになった。
とは言っても派手なことはできないので、本当に簡単な座学の様な感じだったが。
しかもタバサが既に知っている事も多かったので、実は少し梃子摺っていたりする。
「そういえば…お兄さん」
「ん?どうしたの?」
「お兄さんの仲間が…もし殺し合いに乗ってたら……どうするの?」
「んー…考えたこともなかったなぁ」
「お兄さん…殺されたりしないよね?絶対そんな事ないよね?」
タバサが泣きそうな顔で問い詰める。それを見て、セージは微笑んでこう言った。
「大丈夫。君のお兄ちゃんも見つけないといけないしね、そうそう死なないさ、僕はね」
「うん!私もレックスと一緒に帰って…将来……って、私何言って…!」
「ん?今なんて?最後の方声が小さすぎて…」
「な…ななな何でもない!!何でもないの!!また機会があったらいうねっ!!」
耳まで赤くなって必死に何かを訂正するタバサを見て、セージは本気で困惑していた。
「ギルダー…か」
「全身赤尽くめか…目立つ格好の割に、大胆なことしてやがるな」
「まぁ…これなら早く見つかりそうだ。それには感謝しよう」
――――ここは、レーベ。
窓を開け、壁越しにアルスとシドは会話をしていた。
見張りとはいうものの、焼け焦げてここら一帯はボロボロ。
誰かが来れば一発でわかりそうなものだ。だからこうして余裕ができ、会話もできる。
「アルス、もしコイツに出会ったらどうする?」
「……なるべく危害は加えないつもりだったが…今回は仕方が無いな」
「………斬る、のか?」
「必要であれば」
「………もし、そいつがお前の仲間と手を組んでても、か?」
「急に何を…」
「可能性の話だ、可能性の。ありえない話じゃねぇだろが」
勿論俺にとってもな。と付け加えて、シドはそう言った。
アルスの顔が曇る。
「それでも、僕は斬る。場合によっては…だが」
「ほう…」
「悪党と手を組んでいるのなら…危険だ。必要であれば排除も厭わない」
「………覚悟はあるのか?」
「あるさ…」
暗い夜空を見上げ、そう言った。
そう、この地で同じ釜の飯を食べた仲間を…必要ならば切り捨てる、と。
このゲームが始まった瞬間の彼の思考とは、まるで正反対だ。
自分でも自覚はしていた。自覚するしかなかった。
イクサスの話を聞いて、残される人間の悲しみがわかったから。
「ちょっと、一人で考え事がしたい…いいかな?」
「ああ、わかった」
「すまないな…」
シドは静かに窓を閉めてくれた。
アルスは座り込んだ。夜空を見上げながら。
「もし…僕の仲間と行動していたとしたら…か」
今はただ…風の音が、聞こえるのみ。
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:魔法について勉強 基本行動方針:家族を探す】
【セージ 所持品:ハリセン・ファイアビュート・ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:魔法について教授 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【ギルダー 所持品:なし
第一行動方針:睡眠 第二行動方針:ビアンカとタバサに全てを説明する
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ビアンカ 所持品:なし
第一行動方針:見張り 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】
【イクサス(軽度の人間不信) 所持品:加速装置、ドラゴンオーブ、シルバートレイ、
ねこの手ラケット、拡声器、紫の小ビン(飛竜草)、ラリホー草
第一行動方針:毒薬作り 第二行動方針:ギルダー・アーヴァイン・スコール・マッシュを殺す/生き残る】
【バーバラ(両足負傷、気絶) 所持品:ひそひ草、他に様々な種類の草たくさん(説明書付き) エアナイフ
第一行動方針:? 第二行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】
【シド 現在位置: 所持品:ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) ロープ
第一行動方針:朝まで待機
第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす 最終行動方針:ゲームの破壊】
以上、現在位置:レーベ村の魔法の玉があった老人の家。食料多。
【アルス 現在位置:レーベの村の老人の家の外
所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 ダーツの矢(いくつか)
第一行動方針:見張り 最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
彼女は、不完全だった。
それはまるで、穴だらけの廃墟。
開けっ放しの、無防備な、廃墟。
…彼女は気づいていた。
この世界に満ちるアルティミシアの意志が、その穴を次第に埋めていくことを。
ゆっくりと、ソレが、自分の中に満ちていくことを。
彼女はそれを拒まない。困惑も恐怖も感じない。
ただ、喜んで受け入れるのである。
不完全な分裂による得体の知れない喪失感。
今、その隙間に侵入しようとする、邪気。
否、彼女は、それを邪気だとは感じていない。
不完全な自分を、埋めることが出来るのだから。
チカラ、で。
腕を伸ばせば、其処に邪気が集中する。
嘗ては理解できなかった文句を呟けば、炎が地面を焦がした。
得た。得るはずのなかったチカラを。
拒みはしない。ただ受け入れるのみである。
チカラ、を。勝つための、チカラ、を。
正義や気概の欠落したその心の廃墟は、次第に闇の牙城へ取って代わろうとしていた
【アリーナ2→ダークアリーナ 所持品:なし
第一行動方針:出会う人の隙を突いて殺す。但しアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する】
(時間に応じて魔力が増していきます。現在は低級魔法使用可能)
>>210は無効です。
詳しくは雑談スレ809参照。
静かな海を前に、ティーダは膝を抱えていた。
岩場の影で、ずぶ濡れの身体をぶるぶると震わせていた。
――と言っても、別に寒いわけではない。
薄着だし、海水で濡れているし、火にも当たっていないのだし、真夜中だし、確かに寒いことは寒いのだが……
彼にとってそんなことは大した問題ではないし、寒さなど気にしていられる状態ではなかった。
彼を震わせているのは、不安。
頼れる仲間も、知り合った人も、話し合える相手もいない……そんな孤独感。
殺されるかもしれない、逃げられないかもしれない……そんな恐怖感。
それらがない交ぜになって、彼を苛んでいた。
数時間前の話だ。
その頃、ティーダは一人で森を歩いていた。
さすがに真夜中に山越えをする気は無いし、見晴らしのいい平野で野宿をする気もない。
今日は適当な場所で休んで、夜明けになったらレーベの村にでも向かってみようか……
そんなつもりで南西方向に進路を取り、歩いていた。
そして彼は、木立の向こうに一人の少女の姿を見た。
栗色の髪が少しだけエアリスを連想させたけれど、彼女よりずっと若い……
自分よりも年下に見える少女を見かけた。
声を掛けようと思い、彼は片手を上げた。
けれど声を出す寸前、それに気づき――そのまま動けなくなった。
彼女の足元にあった、脳天を銃で撃ちぬかれた男の死体。それを見つけてしまったから。
少女はティーダに気付いた様子もなかった。
良い物を見つけた、と言わんばかりににこにこ笑っていた。
無邪気で明るく、純粋で愛らしい、太陽のような笑顔で笑っていた。
そして彼女は、死体の傍に落ちていた変わった鞭を手に取った。
ティーダは少女の挙動を見ながら考える。
(銃を持ってる様子もないし、あんな風に笑える子が人殺しだとは思えないッス……
あの子があのオッサンを殺したってワケじゃなくて、オレみたいに通りがかって死体を見つけただけなのかも……
うん、きっとそうッスよ。そうに違いないって。
心細くて、武器を漁ってるだけだって……うん、そうに決まってる)
だからティーダは、気を取り直し、改めて声を掛けようと一歩踏み出した。
――その時だった。
少女が鞭を振るって、死体を打ち据えたのは。
(くぇdfrtgyふじこpl;@d△j■ラg◎!?)
ティーダの、声に出ない悲鳴にも気付かず、彼女は手を振り続ける。
風を切る音、鈍い音、衣服が裂かれる音、肉が弾け骨が砕ける音。
死体の原型が無くなりかけたところで、少女は手を止め、鞭をまじまじと見つめた。
「この破壊力……やっぱり本物のグリンガムの鞭だわ! あたしってばラッキー!」
場違いな印象さえ受けるセリフ、喜びに満ちた声のトーン。
(あ、ああ……)
恐怖のあまり、ティーダは座り込んだ。
何が起きたかわからなかった。
彼女が何を言っているのかもわからなかった。
「それにしても……この鞭に、こんな便利な装飾品まであるのに殺されるなんて……
このオジサン、よ〜っぽど弱かったのね。
あーあ。オジサンみたいな人がこんな上等なモノ持つなんて、おかしいわよ絶対」
肉片と血のこびりついた鞭を巻き取りながら、少女は言う。
そして――無造作に片足を上げた。
「あたしね……弱いくせに身の程をわきまえない奴が一番嫌いなの」
陶器を砕くような、柔らかい何かを踏み潰すような音が響く。
雲の切れ間から差し込んだ残酷な月明かりが、少女と足元にあるものを照らす。
見たくない、と思った。けれど見えてしまった。見てしまった。
無邪気な微笑み ブーツについた血 地面に降りた片足 どろりと濁ったナニか
飛び散った白い破片 土の上に転がる眼球 草に撥ねた脳漿 赤黒く汚れたナニか――
「――ッぁああぁぁぁあああああぁぁああああああああああ!!」
彼は叫んだ。悲鳴を上げて走った。少女から逃げるために走り続けた。
彼の存在にようやく気付いた少女が何か叫んでいたけれど、彼の耳には聞こえなかった。聞くだけの余裕もなかった。
ただ、少女から一刻も早く、一メートルでも遠くへ離れたかった。
――頭に焼きついた光景を、一秒でも早く忘れたかった。
「ひッ……はぁ、はぁ……はぁ……」
どれぐらい走っただろう。
ティーダはようやく我に返り、少女が追ってきていないことを確認して足を止める。
そして適当な木にもたれかかり、ずるずると身体を預けた。
サディスト、人の心がない、イカれてる、悪魔のような――様々な単語が頭に浮かぶ。
「……冗談じゃ、ないッスよ」
人殺しには見えない。そう思った通り、確かに『男を殺した』わけではない。
死体を傷つけただけで、ティーダ自身もエアリスに同じ事をしたのだから、どうこう言う権利もないような気がする。
しかし、しかし、しかし――それでも彼女の行為は異常だ。
死者に対する尊厳の気持ち、道徳心や良心……そういった、人が持つべき精神が存在していないのではないか。
そうでなければ、あんな真似できるはずがない。
ティーダはしばらくうずくまっていたが、やがてよろよろと立ち上がった。
「もうイヤだ……早くスピラかザナルカンドに帰りたいッスよ……」
そんな弱音を吐きながらも、ふらふらと歩き出す。
数十メートルほど歩いて、その足がまたもや止まった。
視界の先に見つけてしまったものが信じられず、呆然と立ち尽くす。
木々の向こうに、俯いている少女がいた。
とんがり帽子を被った栗色の髪の少女がいた。
走って逃げてきたはずなのに、自分が進もうとした先にいた。
そして彼女は彼の方に顔を向けて、何かを呟いていた――
「……あたしの手で、必ず捕まえる……」
その言葉だけが、やけにはっきりと聞こえた。
それから一体どこをどう走ったのか、ティーダは覚えていない。
恐怖に駆られるまま、悲鳴すら上げられずに走り続けて――気が付いた時には、砂浜にいた。
打ち寄せる波に向けて、真っ直ぐ走っていた。
そのまま海に飛び込んで、水しぶきを上げながら水面に顔を出し、大きく息を吸い込んだ。
そうやって深呼吸を何度か繰り返して、やっと落ち着きを取り戻すことができた。
ティーダはしばらく波間に漂いながら、周囲に人影がないことを確認する。
そして身を隠せそうな岩場を見つけると、海から上がってそこにうずくまった。
夜風の寒さよりも、恐怖心と不安に身を震わせて。
「……ユウナ、リュック……ワッカ、キマリ、ルールー……」
みんな、今ごろどこで何をしているのだろう?
そんな思いから、ティーダは仲間達の名前を呼ぶ。
縋る者を求めて、大切な人の名前を呼ぶ。
見知らぬ場所で独りでいることが、誰の助けもないことが、こんなにも心細いものだとは思わなかった。
いや、一度だけこんな気持ちになった時があったような気がする。
そう……あれは初めてスピラに来た時。リュックに会う前、遺跡の中で消えかけた焚き火を見ていた時……
助けはない、ここがどこかもわからない、死ぬかもしれない、理不尽に……
あの時に似た、そしてあの時よりもはるかに強い不安が、自分の中にある。
「……ミレーユさん、ターニア……」
二人は無事なのだろうか?
叶うなら……二人ともう一度会いたい。敵ではないあの人たちに会いたい。
いいや、彼女たち以外でも……敵でなければ誰でもいい。
ただ、一緒にいてくれるなら。
あの恐ろしい少女に狙われてしまったという恐怖を、少しでも紛らわせてくれる相手なら。
言葉が通じなくてもいい。種族や世界の違いなんて気にしない。
ただ、この孤独と恐怖から遠ざけてくれる……そんな『仲間』が欲しかった。
――ティーダはついに気付かなかった。
少女が二人いたということに。
もう一人の少女の発言の真意と、彼女と話していた相手の存在に。
「あいつは……もう一人のあたしは、あたしの手で必ず捕まえる。
それがあたしの責任だから……だから二人の気持ちは嬉しいけど、一緒に行くことはできないの」
少女は――アリーナは言った。
木陰に寄りかかっている金髪の女性と、その足元に立つもこもこした魔物に向かって。
「そっか……頼りになる仲間を見っけたと思ったのに。ちょっぴし残念だな〜」
「ごめんね」
「仕方ないよ、そういう事情なら。
それよりこっちこそ、偽者の行方わかんなくてごめんね。
あ、でも……ナニか他に、あたし達でも出来そうな事があるなら遠慮なくズバッと言ってよ」
「そうだよアリーナ、ぼくも協力するから!」
「ありがとう……リュック、わたぼう。
……あの、それじゃあ、一つだけ頼みがあるんだけど」
「ナニナニ?」
「あたしの知り合い……ソロと、ライアンさんと、ミネアと、ピサロと、ロザリーさんって言うんだけど……
その人たちにあったら、偽者のこと伝えて欲しいんだ」
「ふむふむ……えーと、この緑髪の子と、こっちのオジサンと、この紫の髪の人と……」
「この男の人と、こっちの女の人だね?」
「そう。ミネアとピサロは、まだ大丈夫だとは思うけど……
ソロとライアンさんとロザリーは、間違いなくあいつに騙されちゃうと思うから」
「オッケーオッケー。
腕輪を着けてなくて、手袋を着けっぱなしなのが偽者だって伝えればいいんだね?」
「うん。あたしはずっと手袋外しておくから。
それと、あなたたちのことを知らないってことも付け加えておいて」
「りょーかい! 任せといてよ、バシッと見つけてビビッと伝えておくから」
「ほんと、ごめんね。迷惑かけちゃって」
「わたわた、迷惑なんかじゃないよ」
「そーそー。困ってる人を助けるのもカモメ団の役目です! なーんて言ってみたりして。
……だからね、ホント、アリーナも一人で無理しないでさ。
何か困ったことがあったら相談してよ。あたし達でよければいつでも力になるから」
「ありがとう、二人とも……」
リュック達は気付かなかった。
近くを走っていった青年の存在に。
ティーダは気付かなかった。
自分の勘違いに。
そして、お互いに気付かなかった。
すぐ傍にいた、仲間の存在に――
【ティーダ 所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔4〕 首輪×1
第一行動方針:しばらく身を潜めて休息 第二行動方針:レーベに移動し、仲間になってくれる人を探す
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在地:レーベ北東の森・海岸】
【アリーナ 所持品:プロテクトリング
行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【現在地:レーベ南の森(最北部・草原との境目付近)→移動】
【リュック(パラディン)
所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣 ドレスフィア(パラディン)
【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ
第一行動方針:アリーナの仲間を探し、アリーナ2のことを伝える
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在地:レーベ南の森(最北部・草原との境目付近)→移動】
【アリーナ2(分身) 所持品:グリンガムの鞭、皆伝の証
第一行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない 最終行動方針:勝利する】
【現在地:レーベ南の森(南部)】
「…死んだ!?」
「ああ、壊れたっつった方が正しいかも知れねえがな」
当惑の表情を浮かべる青年――自分とほぼ同じ年頃に見える――に、
なんとも言えない居心地の悪さを覚えながら、サイファー。
「あのでけえ魔法の事は覚えてるだろ?
この猫はなにをどうしたか知らねえが、
そこのボロボロになってる縫い包みの中にお前とリノアを突っ込んで庇って、自分はあの通りさ。」
言いながらズタボロになったケット・シーと、その傍らのデブモーグリをあごで指す。
「そうか…」
後ろで結った金の髪を風になびかせながら、青年は遠い目でケット・シーを見やった。
そして、そのすぐ近くで倒れている、黄色い着ぐるみを着た女性に目が止まる。
「…この人は?」
「そいつがさっきの魔法を使ったんだ。
あ、脈取ったって無駄だぞ。俺が殺したから」
そっと、死体に手を伸ばす彼に釘をさすように、サイファー。
すると、青年は少し敵意と軽蔑のこもった目でサイファーを見やり、「お前が?」と訊いてきた。
「しょうがねえだろ。気が狂っててどうしようもなかったんだ。
…安心しな。俺がゲームに乗ってたからとか、そういうんじゃねえからよ」
「…そうか…」
さっきよりも少し重そうな言葉。目には悲しさか憤りか、やりきれなさそうな光りが宿っている。
気が狂っていてどうしようもなく…恐らく、サイファーのこの一言が影を落としたのだろう。
何とかして救えなかっただろうか、と、そんな想いを背で語っていた。
だが、戦場にも等しいこのゲームでそんなことを考えるのは、世間知らずの甘ちゃんがすることだ。
世間知らずの甘ちゃん…そこまで思考が伸びて、彼は未だ気を失っているリノアの事を思い出した。
「そういや、リノアは大丈夫か?」
言って、サイファーは地面に横たわった少女に手を伸ばす。
「さっきから気になってるんだけど、なんであんたリノアの名前を知ってるんだ?」
「ああ、なんてったってこいつは俺の元カノだからな」
「………」
少し物悲しそうな青年を和ませようと冗談のつもりで言ったが、どうも意味はなさそうだ。
それから暫く体を揺すっていると、リノアがうっすらと目を開き始めた。
最初、彼女は目の前にいる男が誰なのかわからなかったようだ。
だが、暫くして目が冴え、意識がはっきりしてくると、昔からよく知った顔だと言う事に気づいた。
「サイファー!」
叫んで、首に抱きつかれる。
サイファーは少し狼狽しながら、「お、おい、なんだよいきなり」と言ってリノアを引き離す。
「あ、ゴメン。ここに来て初めて顔知ってる人に会えたから、つい嬉しくて」
そりゃ俺もだ、と笑いながら肩を叩くと、彼女は「そういえば」と口を開いた。
「ねえ、あの白い服着た、なんだかキミの悪い奴はどうなったの?」
「クジャならあの魔法に吹き飛ばされたのかなんなのか知らないが、何処にも見当たらない」
ジタンが頭を抑えながら立ちあがる。その蒼い瞳はやはりどこか暗い。
「傷を負ったはずだし、生きてたとしても襲っては来ないだろうな」
よかった、と薄い笑みを浮かべて、リノアはある事に気づいた。
一人、というよりも、一匹足りない。
トラビア弁に良く似た話し方をし、なんだか歩くだけで愉快そうな感じの喋る猫が。
「ねえ…あのネコちゃんは…?」
「ああ、そいつか…」
少し面倒そうな、気まずそうな顔をしながらサイファーが答える。
「…死んだよ。お前ら2人をあの光から庇ってな」
それからサイファーは、ジタンにした説明とほぼ同じような事を、リノアに話した。
巨大なホーリーから2人を護るようにしてケット・シーが壊れた事や、そのホーリーを使った者を自分が殺したことをだ。
一通り話し終えると、リノアは「そうなの…」と言ったきり、黙り込んだ。
彼女だけではない。
その場にいた3人の心にそれぞれ重い何かがのしかかり、暗い沈黙が辺りを包んだ。
ジタン………ケット・シーや、サイファーが仕方なく殺したと言う名も知らない女性を守れなかった悔やみ。
ケット・シーには逆に守られて死なれてしまったし、女性の方も狂う前になんとかしてやれなかったのか。
リノア………彼女は戦いと、それに人が死ぬ事に幼い頃から傭兵として育った外の仲間達と違って強い抵抗を覚える。
今も同じだ。機械とは言え、自分達の代わりに死んでしまったケット・シーを思うと、どうしても胸が締めつけられる。
サイファー…少年時代からエリート教育を受けた戦士、Seedとして育てられ、幾多の戦場を経験した彼にとって、
今さら誰とも知らない誰かが命を落とした所で、別にどうとも思わない。
ただ…戦友とも呼べる誰かが死んだときのこの重い雰囲気…嫌だ。苦手だ。いつまでたっても慣れない。
「…行こうぜ」
暫くして沈黙を破ったのはサイファーだ。
彼は女の手に持っていた短剣を本職の武器だ、
と言うジタンに渡し、妙な輝きを放つ珠をケット・シーが持っていたザックに入れながら続ける。
「死んだ奴の事はほっとけ。いくらウジウジしても取り返しがつかねえよ。
それより、まだ生きてる奴の事を考えた方がロマンティックってもんだぜ」
自分に言い聞かすように続ける。
「…城の堀ん所によ、俺と一緒に行動してる奴が居るんだ。
まずはそいつらに会いに行こうぜ。こんなところでウジウジしててもなんにもならねえよ」
その場にいた全員が、暗い悲しみに暮れていた。
なぜこんな幼い子供まで、命を落とさなければならない。
テリーにリュカ、それにトンベリまでもが声を上げて泣いていると、街のほうから足音が聞こえてきた。
「サイファーさん、どうでした?」
「5人いた」
ロザリーの問いに、サイファーがそっけなく返す。
「その内一人はさっきのでけえ魔法に吹っ飛ばされていねえ。
もう一人はその魔法で死んだ。あとの一人は俺が殺した」
「殺したって…」
「しょうがねえだろ!あの状況でそれ以外どうしろってんだよ!
人を殺して笑ってるような女をここに連れて来いってか!?冗談じゃねえ!」
つい怒鳴ってしまった。
ロザリーの驚いた表情を見て、はっと我にかえる
「わりいな。言い過ぎた。何カッカしてんだか」
何を苛立っている。どこかムカムカする頭を振り、話を続ける。
「…で、残った二人はゲームに乗って無さそうなんで連れて来た。
こっちの青い服来てるのがリノア、そっちの猫みたいな奴が…えー…ああそうだ。ジタンだ」
「おいおい、名前くらい覚えてくれよ」
「うるせえな、そんなすぐに覚えられるわけねえだろ」
そう言って軽く笑ってやる。まあ、軽口をたたけるぐらいにはなったか。
しかし、サイファーはすぐにその笑みを消すと、泣き崩れている2人と1匹に目をやった。
「…ここは安全じゃねえぜロザリー。今すぐにでも戻って結界を張り直さねえと」
「ええ…でも、もう少し、彼らにこうさせてあげては…」
「バカ言え。何時間か前の事を忘れたのかよ?またあんな風に襲われたらどうする気だ?」
敢えて容赦をなくしたサイファーの言葉に、相槌を打つ者がいた。
『そうそう、いつ襲われるかもわからない状況でただ蛆虫みたいに泣くなんて考えられないよね…』
それは勿論、紛れもない彼の声。
「どこだ!クジャ!どこにいる!」
ジタンは声を聞いた瞬間に目の色を変え、叫んだ。
『ククク…慌てなくてもいいよジタン。僕は君のすぐ傍だ…』
不気味なほどに冷たく、かつ何故か場違いにシニカルな声と同時に、瓦礫の山と化した地面が細かく揺れ始める。
『クク…ククククク…やっと手に入れたよ。全てを滅ぼす究極の力を…』
「ねえ、この声、さっきとは…」
「ああ、違うぞリノア。こいつはさっきまでのクジャじゃない」
リノアの疑問にジタンが応えると、地面の揺れが一層激しくなる。
『兄に向かって”こいつ”はないだろうジタン…もっとも、君の言う通りさっきまでの僕とは違うけどね…』
その言葉とともに揺れは頂点に達し、堀の横、かつて城壁があった地点の岩山が轟音とともに飛散した。
「危ねえ!」
墓の前でうずくまっている2人と1匹の背中を、サイファーとジタンが咄嗟に掴んで引っ張る。
呆気に取られるような顔を後ろに下がらせた次の瞬間、簡単な墓があった筈の地点が爆発に巻きこまれて吹き飛んだ。
リュカが息を呑むような声を出したが、そんな事に気を配っている暇は無かった。
リノアも先程までの揺れで足が上手く動かないロザリーの腕を引き、
降ってくる石の雨から逃れると、少し離れた所にある姿を見た。
優雅に風になびいていた白い衣はボロボロに破れ、変わりに深紅の鳥の羽根が体を覆っている。
髪は熱を帯びて逆立ち、肌は魔物のように蒼く、美しかった時の面影はない。
そして、ジタンのものとは似ても似つかない、しかし彼がジタンと同じく作られた生命であるという証の紅い尻尾…
死霊の魂を貪って力に変えた、トランス状態のクジャが不敵に浮いていた。
「…なんだ、こいつ…?」
最初に口を開いたのはサイファーだ。城下町の骸骨を遥かに上回る圧倒的な雰囲気に気圧され、それでも剣を構える。
「さあ、なんだろうね?」
異形の魔物に姿を変えても、軽い口調は以前のままだ。
誰も微動だに出来ない中、クジャはふと、目を見開いて棒立ちしているリュカのほうへと目をやる。
「”お父さん”、お探しの息子さんは見つかったかい?
さっき間に合わせで作ったようなみっともない墓を見かけたけど、一体誰のためのものだったのかな?」
そう言って、ククッと嘲るように笑う。
そして彼が殺気だった目で睨むのを感じ、狙い通りだとばかりにニヤリと笑った。
―さあ、早く猪のように飛び込んでおいで。僕のための最初の生け贄にしてあげるから―
だが、彼の行動はクジャが思い描いていた物とは少し違った。
――ガァン――
…一瞬の後、クジャは右手を顔の前に掲げていた。
その指の間には、火薬によって熱く熱された、鉛の矢。
「へえ…さっきみたいに怒りに任せて攻撃すると思ったら、飛び道具か」
「あたりまえだ」
デスペナルティに次弾を装填しながら、リュカ。
「そんな犬死にするような真似はしない。絶対にお前を倒す」
静かで冷静で、しかし灼けるような怒りがその瞳に湛えられていた。
つまらなそうに、クジャが指で受け止めていた弾丸を放り投げる。
やがて響くキィン、という音とともに、戦いの火蓋が切って落とされた。
銃声と金属音を合図にしたように、棒のように立ち尽くしていた6人が動き出す。
サイファーも気を取り直すように剣を握ると、怯えた目をしているロザリーとテリーを振りかえる。
「ロザリー、アンタはさっきの所まで戻って結界張りなおしてろ。あとで戻るからよ」
「ええ。さあテリー、あなたも」
頷きながら、恐怖と悲しみがないまぜになった顔を子供にした手を伸ばすと、
ロザリーは武器防具屋へ走り去った。トンベリもその後に続く。
「リノア、お前も…」「私なら大丈夫。ここで戦うわ」
言い終えない内に返される返答に、サイファーは少し面食らった。
「あの頃と同じだなんて思わないで。G・Fも持ってるし、ドローもできるから足手まといにはならないわ」
一年ほど前とは大分違う面持ちを見て、サイファーはハッと笑った。
「知らない間に随分肝っ玉が座ったな。上等だぜ」
眼前には銃撃を繰り返すリュカと短剣で斬りかかるジタン、
そしてそれらを防御魔法で一向に受けつけないクジャの姿。
サイファーは剣から炎を呼び出し、リノアも右手にフレアの炎を宿らせ、放った。
余裕の笑みを決めこんでいたクジャの表情が、面白く無さそうに歪んだ。
【リュカ(HP 3/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:なんとしてもクジャを倒す
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【サイファー(負傷、若干は回復) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 城マテリア
第一行動方針:クジャを倒す 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ジタン(重傷、右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(重傷) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【クジャ(HP 3/5、トランス状態) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:不明 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【現在地:アリアハン城堀の近く】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
第一行動方針:武器防具屋まで逃げる 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【テリー(DQM)(若干精神不安定気味) 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
第一行動方針:武器防具屋まで逃げる 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ 行動方針:テリー達についていく】
【現在地:アリアハン城下町、武器防具屋へ移動中】
【リュカ(HP 3/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:なんとしてもクジャを倒す
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【サイファー(負傷、若干は回復) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
第一行動方針:クジャを倒す 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ジタン(重傷、右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(重傷) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【クジャ(HP 3/5、トランス状態) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:不明 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【現在地:アリアハン城堀の近く】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
第一行動方針:武器防具屋まで逃げる 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【テリー(DQM)(若干精神不安定気味) 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
第一行動方針:武器防具屋まで逃げる 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ 行動方針:テリー達についていく】
【現在地:アリアハン城下町、武器防具屋へ移動中】
「すごい…」
ロザリーは武器防具屋まで下がって再び結界を張ろうとしていた。
しかし作業の手は一向に進まない、彼女は目を奪われたように戦闘を見つめていた。
素早い動きでクジャを翻弄するジダン。
それでも体勢を崩さないクジャの、僅かな隙を縫い銃撃するリュカ。
リノアの攻撃魔法。そして後ろで密かにチャンスを窺い、力をためるサイファー…
つい先ほど出会ったばかりなのに。
それぞれ住んでる世界も、次元さえも違うはずなのに。
彼らはまるで何年もいっしょに戦ってきた仲間のように、息の合った攻撃を展開していた。
それなのに私は―
彼女は自分の非力さを呪った。
ふと何かに服の裾を引っ張られる。
「トンベリ?」
彼は視線をある方向にむけている、その先には―膝を抱え俯くテリーがいた。
そしてこの小さな緑色の生き物はゆっくりと彼の傍に近付き、
優しくその肌と同じ色の、小さな小さな左手を彼の右肩に添えたのだった。
「あなた…」
そうだ、非力な私でも――出来ることが一つあったわ。
人間の私がモンスターに教えられた―本当は逆でなければならないのに。
彼女はそっとテリーを包み込むように抱きしめた。
「大丈夫よ、あの人たちなら必ず何とかしてくれる」
私も頑張るから。そう言い聞かせた、
自分に、そして何よりこの子達に。
これまで見てきた様々な惨状が鮮明にテリーの瞼の裏側に焼き付いている。
それはいくら黒く塗りつぶしても再び浮かび上がり、彼の思考を暗い方へと追いやっていた。
(もう…嫌だ…)
逃げ出したい、そう思った時右肩に何かが触れた。
「とんぬら…」
不安げな顔をしたトンベリが彼の顔を覗き込む、同時に暖かい何かが彼の体を優しく、柔らかに包み込んだ。
―ふと目を閉じる、瞼の裏に染み付いた光景は…もう無い。
ありがとう、もう…大丈夫だよ」
テリーは二人―否、一人と一匹の手を取った。
その顔には多少疲労が窺えるが、その目には明るさが戻ってきたように思える。
「この子がすごく心配してたわよ」
笑顔でそう言ってロザリーはトンベリの頭を撫でた
「そうか……ってどうした!」
突然彼は手足をばたつかせて暴れ出した。そう、セフィロスが攻めてきた時と同じように。
「ロザリー、早く結界を張って。何だか判らないけど…コイツが言うにはやばいらしいんだ」
「分かったわ」
(おかしい…、何か変だ)
短剣で切り込んでいったジダンはある違和感を覚えた。
弱すぎる。
単にさっきの魔法攻撃の直撃で疲弊しているだけなのか、あるいは何か別の―
「ガァン!」
瞬時に左側に回り込み放ったリュカの銃弾がついにクジャの左脚をとらえた。
彼の体が大きくふらつく。
「…今だ!」
後ろで機会を窺っていたサイファーがここぞとばかりに斬りかかる。
彼だけではない、銃から竹槍に持ち替えたリュカが、
リノアも出来るだけ至近距離で魔法を放とうと、一気に詰め寄る。
しかしジダンだけは逆方向に―逃げた、彼の恐ろしいまでにニヤリと歪んだ口許を見て。
半ば無意識だった、彼の本能がこう告げたのだ。
「逃げろ」と。
「おい、一体どうしたんだよとんぬら」
彼は一向に落ち着く気配を見せない、それどころかさっきよりも激しく何かを訴えようとしている。
落ち着かないのはロザリーもいっしょだった、言いようも無い不安感が胸の奥からこみ上げてくる。
(結界はもう張ったのに何なのこの感覚…………!)
「やはり君達は無能な蛆虫だよ、アハハハハ!」
クジャの体から先程の大破壊と同じ紅い閃光が発せられた、
大爆発が辺りを―そしてまんまとおびき出された三人の身体を一瞬にして飲み込んだ。
233 :
緋の稜線:05/02/22 22:44:26 ID:U/xtS9AK
【リュカ(HP 3/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:なんとしてもクジャを倒す
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【サイファー(負傷、若干は回復) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
第一行動方針:クジャを倒す 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ジタン(重傷、右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(重傷) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:クジャを倒す 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【クジャ(HP 3/5、トランス状態) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:不明 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
リュカ、サイファー、リノアの三人はフレアスターが至近距離で直撃しました、ジダンもほぼ直撃。
【現在地:アリアハン城堀の近く→上記の4名は吹っ飛ばされて移動】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
第一行動方針:武器防具屋まで逃げる 第二行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【テリー(DQM)(若干精神不安定気味) 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
第一行動方針:武器防具屋まで逃げる 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ 行動方針:テリー達についていく】
上記の三人は結界で守られています。
【現在地:アリアハン城下町、武器防具屋】
瞬間巻き起こった風を真正面から受け、リノアは後ろの方へと吹き飛ばされた。
成す術もなく宙を舞う体を、今度は炎の風が容赦なく叩きつける。
全身を灼けるような感覚が包む。
その時不意に、熱風と自分とを何かが遮った。
その何かは自分よりも一回り大きく、彼女だけでなくもう一人、誰かを腕の中にかばっているようだった。
やがて、灼熱の暴風が吹き去り瓦礫の散乱した大地に叩き付けられた。
するとそれまで自分ともう一人を庇っていた誰かが今度は盾からクッションに姿を変え、襲い来る岩の打撃から2人を護った。
ゆっくりと目を開ける。
少し火傷をしたのだろうか、体を動かそうとすると鋭い痛みが走る。
リノアの横には、彼女と同じくあの爆炎にしては火傷が小さいリュカが横たわっていた。
そして前には…自慢のコートはおろか白「かった」肌さえも、隙間なく黒く焦がされたサイファーが、
2人を未だ庇うように、2人の上に覆い被さっていた。
「サ…」
「結構、危、な、か…た、な」
苦しそうに口を動かして、やっとのことで言葉を紡ぎだす。
フレアスターの炎が襲い迫る時、サイファーはリノアとリュカを咄嗟に庇い、炎と落下の衝撃から護ったのだ。
もっとも、自分の身をも守る事は出来なかったが。
「サイファー、なんで…」
「なんで、て…」
リノアはそれ以上、何も言えなかった。
腕を地についていて、細かく震え続けている彼の姿があまりにも痛々しくて。
自分の身を犠牲にして誰かを守るなんて、あまりにも彼らしくなくて。
そんなリノアに、彼はこう続けた。
「一生、に、一度…く…らい、一度くらい…やって…みたって、いい、じゃ、ねえか…"魔女の騎士"…て…やつを、よ…」
そこまで言うと、サイファーの瞳の光が薄れ始めた。腕の力も衰え、リノアの方へと倒れこんでくる。
「だめ!サイファー!」
目が覚めたように叫び、慌てて彼を抱きかかえて地面に横たえ、持っている回復魔法を全て注ぎ込む。
それでも、意識を保つのがやっとだ。体を動かせるようには到底出来ない。
クジャが笑いながら歩み寄ってきたのは、丁度その時だった。
「おやおや、ウジ虫同士お美しいことじゃないか…」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、クジャがゆっくりと近づいてくる。
「心配する事は無いよ小娘。君もそのバーベキューか何かのようなお友達も、すぐに同じ所に送ってあげるから…」
言いつつ、右手にホーリーの光りを宿らせ、放つ。
しかし、それを眼前にした彼女の眼はクジャの予想とは少し違った。
涙を流しているが、怯えるような、許しを請うような惨めな瞳ではない。
逆に決然とした、静かな怒りを秘めている瞳がクジャを睨んでいる。
「…気に入らないね」
不機嫌そうに眉をしかめながら、ホーリーを放つ。
…が、その一撃はあえなく弾かれ、無力化されることとなる。
リノアの背から生えた、長大な純白の翼によって。
「許さない…」
今度はリノアが、訝るクジャに向かってホーリーを放つ。
反応すら出来ない攻撃だった。気がついたときにはクジャは魔法の直撃を腹に受け、十数メートル後方まで押し戻されていた。
サイファーが命懸けで守りぬいた”魔女”が、確かにそこに立っていた。
追い討ちをかけるように、リノアの右手に炎が宿る。
ええい、と呻きながら、クジャも魔法を放つ。
フレアとホーリー、二つの閃光が空中でぶつかり合い、互いに威力を無としあう、かに見えた。
リノアの放ったフレアの威力はいまだ死なず、まっすぐにクジャを目指して突き進む。
意表を突かれて避ける事も出来ず、またも後ろへと押し戻された。
この状態のリノアの強みは、ただ魔力が高まるだけではない。
魔法そのものの威力が、段違いに上がるのだ。それこそ、通常の魔法など比べ様も無い程に。
「おのれえええぇえぇ!!!」
半ば狂ったように怒りの雄叫びを上げながら、クジャは両手に魔法の光りを宿らせる。
リノアも迎え撃つように詠唱を始める。
それから暫くの間、常識外れに激しい魔法の応酬戦が続いた。
魔法と魔法は相殺しあい、辺りを夜が明けたかのように照らす。
トランスによって圧倒的な力を得たクジャと、ヴァリーによって無尽蔵の魔力を引き出したリノア。
どちらも全く譲らなかった。
だが、戦いの均衡は以外と簡単に傾いた。
眩しくて直視できない戦いを、リュカはサイファーの手当てをしながら見ていた。
2人ともありえない威力の呪文を次々と放って行く。
リュカは、数十メートル向こうにいるクジャの姿を見、自分のすぐ傍で戦っているリノアを見、
そして彼女の上空に、自然の物とは考えられない黒雲を見た。
雲はリノアの真上で渦巻き厚さを増し、黒雲の中には雷のような閃光が散見できる。
―――まさか。
「リノア!危険だ!避け…」
言うが早いか、魔女を天からの雷が射抜いた。
思わぬ攻撃を受け、仰け反るリノア。
その隙を逃すはずもなく、無数の閃光が彼女を襲う。
「…くっ!」
慌てて彼女の腕を掴み、間一髪の所で魔法の直撃を避ける。
「ごめん、リュカさん…」
「大丈夫?」
「動けない…」
雷の一撃がよほど効いたのか、白い翼は焦げ、痛みにひきつるような表情をしている。
「ふう…凄まじい物だね。トランスしたこの僕に、正面から魔力で張り合うだなんて」
不意に、あのシニカルな声が聞こえた。見ると、息を荒げながらあいつが近づいてくる。
「しかし力はあっても頭は無い。あんなありきたりな不意打ちで沈むだなんて、笑っちゃうよね」
ナルシストの言葉に、銃声が重なった。
「…無駄だよ」
目を細めながら、クジャ。
彼の目の前にはロザリーの結界にも似た、淡い色の障壁が張られている。
「そんなオモチャじゃ、僕の防御魔法は破壊できないよ…」
「黙れ!!」
ガァン、ガァン、ガァン…
何発撃っても、クジャの障壁は破れない。そうしている内に、彼我の距離は10メートルもなくなった。
しかし、20発ほど撃ちこんだその時、急に障壁にヒビが入った。
突然の事に、クジャだけでなくリュカも驚いた。
それまで全く通用しなかった銃撃が、突然彼の防御を崩し始めたのだから。
それには、彼の使う銃が持つ特性が大きく関係していた。
デスペナルティ…かつて凄腕の銃使いヴィンセントが愛器としていた最強の銃である。
この銃は、使い始めて間もないころは威力はあまり高くない。
ヴィンセントも始めの内はその禍禍しい外見と威力のギャップに戸惑ったが、彼はあることに気づいた。
この銃は、使っているうちに、徐々に威力が増している事に。もっといえば、敵を撃つ度に威力が上がっている事に。
そう、それこそがデスペナルティの最大の特徴である。
戦いに使えば使うほどに、撃てば撃つほどに強力な武器へと化けて行く…
勿論、この場合も例外ではない。
無駄に思われたリュカの足掻きは、決して無駄ではなかった。
何発も重ねて撃ちつづける事で、その破壊力はリュカもクジャも知らぬ間に徐々に上がって行き、 クジャの障壁をも傷つけるほどの威力を手にした。
「こんな…馬鹿な…!」
訝るクジャ。その間にも障壁はどんどん破壊されていく。リュカもこの好機を逃さず、次から次へと銃撃を続ける。
やがて障壁はガラスのような音を立てて割れ…クジャの左肩と右脚を銃弾が貫いた。
「ぐっ…!」
灼けるような鋭い痛みに仰け反るクジャ。
さらに追い討ちをかけようとするリュカを炎魔法で怯ませると、彼は宙に浮いた。
「よくも僕を傷つけてくれたね!その報いを受けるが良い!」
怒鳴ると、障壁を幾重にも重ねて防御体勢に入る。今度はリュカの銃撃でも破れない。
「震える僕の魂よ…」
周囲の瓦礫が、カタカタと音を立てて揺れ始める。
「僕に従う魂どもよ!」
彼の周りに、淡い魔力の輝きが集まり始める。
「今こそ僕に力を!あの虫ケラどもを滅ぼせ!」
魔力が空に高く高く放たれ、上空で一点に集中し、
「―――アルテマ!!!!」
無数の矢となって降り注いだ。
「―――グランドリーサル!!!!」
大地に襲いかかる魔力の紅い矢を迎え撃つように、
地上の、リュカ達からは少し離れた地点から蒼い矢が放たれる。
紅と蒼の閃光はアリアハンの上空で衝突し、昼のように辺りを照らす。
太陽が何個もあるような錯覚。
リュカもリノアもサイファーも、それにクジャもその眩しさに目を閉じる。
ようやく光が収まり、眼を明けると、そこには空中に浮かぶ、文字のような形の記号が数十と浮かんでいる。
そして蒼い矢が放たれた地点にはジタンがいた。
といっても先程までの彼とは外見が大分違う。
体はテラの光のように紅く、瞳はガイアの光のように蒼い。
ジタンがすんでの所でトランスし、クジャのアルテマを防いだのだった。
「おのれ…ジタン…!」
上からジタンを見下ろしながら、クジャ。
どうしてお前は、そうして後一歩の所で僕の邪魔をする…!
ギリギリと歯軋りの音を立てていると、ふと妙な事に気がついた。
体から、力が失われ始めている。
トランスの力が底をつきようとしている。
やはり魂があまり集まっていない状態で、魔法を使いすぎたか…
「…今はこれで引き下がってやる。だが…次はこうはいかないぞ」
「逃がすか!」
クジャの吐いた捨て台詞に、すかさずジタンが噛みつき、2発目の裏技の準備に入る。
リュカはデスペナルティの狙いを定め、リノアもよろよろと体を起こしながら魔法を詠唱する。
「…悪いね、君達の相手はこれ以上できなさそうなんだ」
クジャが吐き捨てるように言うと同時に、リノアを襲ったサンダガが雨のように降り注いだ。
「危ない!」
ジタンは叫びながら雷の雨を避ける。
リュカ達もサイファーを引きつつ手頃な瓦礫の下に潜りこんで攻撃を避ける。
雷の雨をやり過ごし、クジャがいた辺りを見ると…影も形も見当たらない。
その意味を、4人全員が同時に悟った。
…………逃がした。
ジタンは思わず地面に拳を叩きつけるが、すぐにリノア達のことが気にかかった。
「逃がしたな…」
歯軋りしながら呟くリュカに、ジタンがトランスを解きながら歩み寄る。
「おい、大丈夫か?」
「僕は大丈夫だ。でもこの2人が…」
答えられ、ジタンは傷を負った二人を見る。
リノアはフレアスターとサンダガのせいでところどころに火傷を負っているが、まあ問題は無さそうだ。
問題はサイファーだ。
リノアとリュカが治療したため顔辺りの火傷はなんとかなっているが、
それでも手や服の傷跡が痛々しい。
「全身がシャレになんないくらい痛えぜ。お前ら、あとでちゃんと治療してくれよ」
サイファーは軽口を叩いてみせる。それだけの元気があるならまだマシか。
「ね、ところでサイファー」
「あん?」
思い出すように、ヴァリーを解きながらリノアがサイファーに語りかける。
「あの女の人…ロザリーさん、だっけ?は何処に行ったの?」
「武器防具屋だ。そこが今は一番安全だろうぜ」
「よし、行こう」
ジタンが言うと、4人はゆっくりと歩き出した。
「ふう…少し危なかったね」
アリアハン城下町を遠くに眺め、クジャ。
その姿は異形の魔物ではなく、普段の優雅な白く輝く姿である。
…が、リュカに撃たれた傷から血がとめどなく流れ、彼の白い衣を汚す。
衣の裾を引き千切って即席の包帯を作り、傷口を止血する。
ダメージが思ったよりも酷い。今日の所はもう何処かに隠れて体を休めるのが良いだろう。
「セフィロス…君とは少し別れるよ。まあ、君のことだから、また会えるよね」
独りそう呟き、歩き去った。
【リュカ(HP 3/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:武器防具屋まで行く
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【サイファー(全身に火傷) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
第一行動方針:武器防具屋まで行く 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ジタン(重傷、右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:武器防具屋まで行く 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(重傷) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:武器防具屋まで行く 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在地:アリアハン城堀→武器防具屋へ】
【クジャ(HP 1/5 負傷) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:どこかに潜伏する 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【現在地:アリアハン城下町東→移動】
親を殺された――それは私の過去
戦いに身を投じた――それも私の過去
胸を突き刺されて死に絶える――それが私の現実
わかっていた。
セシルが死んだ、ローザが死んだ。
だから、次はきっと私の番。
光が何処からともなく降り注ぐ。
目の前が真っ白に染まる。
まるで、雪のように視界を段々と覆い隠していく。
ただ、綺麗で、美しくて。
なぜこんなにも心地がいいんだろう。
理由なんかいらない。
ただ、心地よくて。
エッジは今頃どうしているんだろう。
もしかしたら、女の子を引っ掛けてたりして。
そう、何回言っても、女好きだけは直らなかったよね。
いつもばかな事で喧嘩をして。
楽しかった。
うん、楽しかった。
本当に、楽しかった…
やだ…、涙が溢れ出てくる。
周りがゆがんで…
…ぃやだ
…やだ、いやだ、まだ死にたくない。
エッジ、まだ…私、死にたくないよぉ。
私はまだ……貴方に……
…だめ…意識が………
…い…やだ……
…ま…だ……死に……たくな…い……
―――私の死が、彼を苦しませることに、なりませんように
【リディア 死亡】
【残り 88名】
保守
ho
syu
246 :
殺意疾走:05/03/04 23:50:10 ID:EeouoAn9
アリアハン城外の攻防から時間は少し戻る。
少女は走っていた。
枝葉を掻き分け、ただ一心に。殺意だけを持って。
深い森の中を北へと向かう。
あの男は北へと向かった。彼女の姿を見たあの男は。
彼女が死体から武器を奪い、試し撃ちとしてその死体を破壊する様を目撃したあの男。
邪魔だ。
あの男はこれから自分が行うことの邪魔になる。
あの男が他人に私の情報を渡せば、隙を突くことが難しくなってしまう。
そうなる前に殺さねばならない。絶対に見つけ出して破壊しなければならない。
何が何でもそうしなければならない。
それだけを思い、ただひたすらに男を追う。
小一時間も走っただろうか、森を抜け平原に出る。
僅かに乱れた呼吸を整え周りを見渡すが、一つの影さえも見えない。
完全に見失ってしまった。
奪ったザックから地図を取り出す。北西にはレーベの村、北には海しかない。
東は山岳地帯。地図にはその奥に洞窟と泉、祠が記されている。
あの男はどっちに向かったろうか。普通に考えれば村である。
だがこの異常なゲームにおいて、人の集まる場所は逃げ込む場所としては不適切な気がする。
最初に助けを求めたその人が新たな脅威かもしれないのだから。
北は論外。海岸で行き止まりだ。確かに隠れ場所は多い。
しかし追われる人間が自ら追い詰められるような場所に行くだろうか。
247 :
殺意疾走:05/03/04 23:51:13 ID:EeouoAn9
なら……東か。東の山岳地帯に逃げられれば捕捉は不可能に近い気がする。
海岸線より遥かに隠れ場所が多い上、範囲も広い。
きっとそうだろう。そうにちがいない。
どうする。どうすればいい。
もうあの男のことは諦めて村へ向かうべきか。
山岳地帯へと逃げたのなら村にいる者たちに自分の情報が伝わっていることはないだろう。
もし村へと逃げていたのなら改めてその男を殺し、情報が伝わった者たちも隙を見て全て殺す。
できるか?
脳裏にピサロ・ソロ・ミネア・ライアンの顔が浮かぶ。
ソロとミネアは隙を突くことは可能だろう。
ミネアがもし自分のことを見破っても正面から戦って勝つ自信はあるし、
仲間がいるなら姿を見せずに暗殺すればいい。
ソロはもっと簡単だ。彼の性格なら絶対に自分を殺せない。
しかしピサロ・ライアン…彼らには隙がない。自分の情報が伝わっていたら尚更だ。
伝わってさえいなければ騙し討ちも可能だろうが。
それに自分が知っている以外にも手練がいるかもしれない。
その時ふとアリーナ……自分のオリジナルのことを思う。
彼女は大丈夫だろう。自分自身のためにやっていることなのだから。
自分の不利益になることをしようとする筈がない。
彼女はオリジナルと自分が別の存在とは考えていなかった。
どんどんと思考が逸れていっていることに気付き、頭を振る。
そしてしばらく考えてとうとう結論を出した。どうしようもない。
もともとオリジナルと同じく深く考えるには向かない性格である。
どんな仮定をだそうと確証など得られる筈もないのだ。ならば村へ向かおう。
今なら完全に夜が明ける前までに奇襲できると思う。
248 :
殺意疾走:05/03/04 23:52:19 ID:EeouoAn9
そうして、レーベの村へと足を向けたその時。
……ド……ォォォ…ン……
遥か遠くのほうで爆発音が聞こえた。
本当に微かな、鍛えられた耳を以ってしても集中して初めて聞こえるような音。
ともすれば世界音にかき消されていたかも知れないほどに。だが…確かに聞こえた。
方向は、東の山岳地帯。
考えるよりも先に身体が東へ向かって走り出す。何よりどう動けば正しいのか判断しようもない。
ならば一つのきっかけで動きを決めるのも悪くはないだろう。
この先には何が待つのか分からない。
だが願わくばその場にこの殺意の対象があらんことを―。
そして彼女は加速した。
【アリーナ2(分身) 所持品:グリンガムの鞭、皆伝の証】
第一行動方針:爆発音の音源を確かめる
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する
【現在地:レーベ東の平原→いざないの洞窟西の山岳地帯】
暗雲渦巻く昏き世界に重く静かに佇むアルティミシア城。
その一際高くそびえる塔の頂上にある玉座の間でアルティミシアは
虚空に浮かぶスクリーンに映し出されている
無数の絶望と悲しみと狂気のライブを楽しんでいた。
「フフフ……争いを望まぬものがどれだけいようと、結託しようとも
マーダーが数名もいればゲームは成り立ってしまう。
愚者たちが無駄に足掻く姿のなんと憐れで滑稽なことか…クククククク」
もう数時間もすれば夜明けだ。
その時の定時放送でまたどれだけの慟哭の声が聞けるのか……
彼女の期待は風船のように膨らんでいく。
生贄の数は日没までの死者と合わせてすでに50名を越えている。
存外に速いペースにアルティミシアは上機嫌だった。
その時、彼女の配下たる巨人ガルガンチュアが玉座の間に現れた。
「アルティミシア様。オタノシミノトコロヲ邪魔シテシマイ申シ訳アリマセン。
ゴ報告シタイコトガ」
「何事か。放送までにはまだ時間があるはずだが?」
アリアハン城外の戦いを観ていたところを邪魔され彼女は少し不機嫌になる。
「ハッ、放送ノタメニ死亡者ノ数を確認シテイタトコロ、参加者ノ人数ガ合イマセン。
ドウヤラ分裂ノ壷ヲ使用シ、増エタ者ガイルヨウデス」
それを聞いてアルティミシアは唇を吊り上げる。
中空に浮かぶ映像の一つが拡大して切り替わり、森を走る少女を映し出した。
「ああ、アリーナとか申す小娘のことであろう。捨て置いて構わぬ。
あれはなかなか有望なマーダーとなるであろうからな。
形的にはアイテムによって造られた自律行動型のアイテムだ。ルールにも抵触はしないだろう?」
「シ、シカシ!」
反論しようとしたガルガンチュアだが、氷のような魔女の視線によって射竦められてしまう。
「私の決定に何か不満があるのか?ならば申してみよ」
その視線によってガルガンチュアの魂は完全に凍りついた。その場に即座に膝を突き臣下の礼をとる。
「モ、申シ訳アリマセン!スベテハアルティミシア様ノ御心ノママニ……」
それを見て、アルティミシアはからかうような表情を浮かべる。
「まぁ問題が起きるようなら爆破すれば良かろう?
あれはご丁寧にも首輪までコピーしてくれたようであるからな」
「……承知…致シマシタ…」
震える声でガルガンチュアは答え、退室した。
そんな配下の様子を気にも留めずアルティミシアは視線を映像へと戻した。
こんなものは問題に入らない。全てが上手くいっているのだ。そう、全てが。
「フ、フフフ…フハハハハハハハハハハ…!」
彼女は気付いていなかった。自らが完璧とする計画に綻びが生じたことを。
その綻びをたった今、見逃してしまったことを。
分裂の壷は中に入れた物を 一 つ だ け 増やすアイテムだった。
そして壷は ア リ ー ナ を 増殖させた。
ならばアリーナが身に着けていた物はどうなったのか。
分裂の壷はアリーナの衣服もアリーナの一部として複製している。
しかし首輪は完全にはコピーされなかったのだ。
首輪の生命反応発信機構、盗聴機構は機械式のからくりによって造られている。
だが爆発の仕組みはデッシュが解析し、推測したように魔術式によって構成されていた。
そして他の装飾品と同じくアリーナの一部として複製された首輪は機械式構造は全て
完璧にコピーされたが、魔術式によるものまでは複製できなかったのだ。
これが首輪単体を壷に入れたというのならその魔術式構造も複製されたかもしれない。
しかしアリーナを複製対象とした壷は首輪の魔術式まで複製対象として認識しなかった。
アルティミシアの視線の先、スクリーンの中、森を疾走する少女。
彼女は気付いていなかった。自らがゲームの強制力から解放されていることを。
自分こそがこのゲームの破壊するための楔となれることを…。
「危ないぞみんな!離れろ!」
ジタンが叫ぶのとほぼ同時に、目の前の男の周囲から爆炎が吹き出る。
3人はかわす間も無く、その業火の中にとりこまれる、かに思われた。
「…まずいぜこりゃ」
吹き荒れる熱風の中に立ちながら、サイファーが呟く。
彼らと炎とを、淡い光の壁が隔てている。
3人の中で一番クジャから離れていたリノアが咄嗟に張ったシェルだ。
だがその彼らの命を繋いでいる壁は、その炎の勢いの前にあまりにも頼りない。
これじゃ今すぐにでも破られちまうぜ…サイファーがそう思った瞬間、ガラスのような音を立てて壁は崩壊した。
(危ねえ!)
迫り来る炎に、最初に反応したのは、3人の中で一番戦い慣れしたサイファーだ。
彼はリノアとリュカを咄嗟に抱え込むと、手頃な大きさの瓦礫が視界に入る。
文字通り火事場の馬鹿力を発揮し、人間2人を両腕に抱え、その岩陰に飛び込んだ。
「…大丈夫か?」
炎が収まって暫くすると、サイファーはほぼ倒れこむようになっている2人に声をかける。
「うん。ありがとう、サイファー」「僕も大丈夫みたいだ。助かったよ」
2人の答えに頷きながら身を起こそうとすると、サイファーは右脚に灼けるような痛みを感じた。
剣を構えて身を乗り出そうとしたサイファーが、急に呻き声をあげ、その場にガクンと膝をつく。
訝しげにリノアが彼の様子を見ると、その足がはいているズボンと区別がつかないまでに黒く焦がされていた。
赤黒く染まった脚は痛々しげに震え、血が流れ落ちている。
「サイファー!その脚…」
「しくじっちまったみてえだ…」
苦々しく言う。先程この岩陰に飛び込んだ時に、彼だけは炎から完全に逃れられなかったようだ。
「ま、待って!今なんとかするから!」
慌てて彼を横たえ、リノアが持っている限りの回復魔法を施す。リュカも呪文で治療する。
だが、いくら治療しても、回復の兆しはなかなか見えない。
戦う事はおろか 、歩く事すらもこれでは難しいだろう。
クジャが笑いながら歩み寄ってきたのは、丁度その時だった。
「おやおや、ウジ虫同士お美しいことじゃないか…」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、クジャがゆっくりと近づいてくる。
「心配する事は無いよ。静かにしていれば、3人揃って、楽に逝かせてあげる」
言いつつ、右手にホーリーの光りを宿らせる。
しかし、それを眼前にした彼女の眼はクジャの予想とは少し違った。
怯えるような、許しを請うような惨めな瞳ではない。
逆に決然とした、静かな怒りを秘めている瞳がクジャを睨んでいる。
「…気に入らないね」
不機嫌そうに眉をしかめながら、ホーリーを放つ。
…が、その一撃はあえなく弾かれ、無力化されることとなる。
リノアの背から生えた、長大な純白の翼によって。
「リュカさん、サイファーの脚をお願い」
今度はリノアが、訝るクジャに向かってホーリーを放つ。
反応すら出来ない攻撃だった。気がついたときにはクジャは魔法の直撃を腹に受け、十数メートル後方まで押し戻されていた。
アルティミシアと同等の力を得た”魔女”が、そこに立っていた。
追い討ちをかけるように、リノアの右手に炎が宿る。
ええい、と呻きながら、クジャも魔法を放つ。
フレアとホーリー、二つの閃光が空中でぶつかり合い、互いに威力を無としあう、かに見えた。
リノアの放ったフレアの威力はいまだ死なず、まっすぐにクジャを目指して突き進む。
意表を突かれて避ける事も出来ず、またも後ろへと押し戻された。
この状態のリノアの強みは、ただ魔力が高まるだけではない。
魔法そのものの威力が、段違いに上がるのだ。それこそ、通常の魔法など比べ様も無い程に。
「おのれえええぇえぇ!!!」
半ば狂ったように怒りの雄叫びを上げながら、クジャは両手に魔法の光りを宿らせる。
リノアも迎え撃つように詠唱を始める。
それから暫くの間、常識外れに激しい魔法の応酬戦が続いた。
魔法と魔法は相殺しあい、辺りを夜が明けたかのように照らす。
トランスによって圧倒的な力を得たクジャと、ヴァリーによって無尽蔵の魔力を引き出したリノア。
どちらも全く譲らなかった。
だが、戦いの均衡は以外と簡単に傾いた。
眩しくて直視できない戦いを、リュカはサイファーの手当てをしながら見ていた。
2人ともありえない威力の呪文を次々と放って行く。
リュカは、数十メートル向こうにいるクジャの姿を見、自分のすぐ傍で戦っているリノアを見、
そして彼女の上空に、自然の物とは考えられない黒雲を見た。
雲はリノアの真上で渦巻き厚さを増し、黒雲の中には雷のような閃光が散見できる。
―――まさか。
「リノア!危険だ!避け…」
言うが早いか、魔女を天からの雷が射抜いた。
思わぬ攻撃を受け、仰け反るリノア。
その隙を逃すはずもなく、無数の閃光が彼女を襲う。
「…くっ!」
慌てて彼女の腕を掴み、間一髪の所で魔法の直撃を避ける。
「ごめん、リュカさん…」
「大丈夫?」
「動けない…」
雷の一撃がよほど効いたのか、白い翼は焦げ、痛みにひきつるような表情をしている。
「ふう…凄まじい物だね。トランスしたこの僕に、正面から魔力で張り合うだなんて」
不意に、あのシニカルな声が聞こえた。見ると、息を荒げながらあいつが近づいてくる。
「しかし力はあっても頭は無い。あんなありきたりな不意打ちで沈むだなんて、笑っちゃうよね」
ナルシストの言葉に、銃声が重なった。
「…無駄だよ」
目を細めながら、クジャ。
その手には、まだ熱を持っている銃弾が握られていた。
「そんなオモチャじゃ、子供の仇討ちなんてできないよ…」
「黙れ!!」
ガァン、ガァン、ガァン…
何発撃っても、クジャは銃の攻撃をうけつけない。
そうしている内に、彼我の距離は徐々に縮まってきた。
「さて、覚悟はできたかな、”お父さん”?」
不気味な笑いを浮かべながら、クジャが右手に炎を宿らす。
「くそ…」
唸りながらデスペナルティの引き金を引くが、焼け石に水、全く効果が無い。
その間にも、クジャは瓦礫の山を踏みつつこちらにやってくる。
瓦礫の山…そこまで考えが及び、リュカは頭の奥に何か閃くような物を感じた。
瓦礫の山、瓦礫の山…そうか。そうすれば。
「さよなら…」
クジャがフレアを放つ瞬間、リュカは彼ではなく彼の足下の地面に銃撃を浴びせた。
突如巻き上がった砂埃に視界を覆われるクジャ。
そのせいで少し体勢が崩れ、フレアの狙いが大きく逸れる。
その僅かな隙を突き、背後に回…ろうとすると、砂塵の中から拳が突き出てきた。
クジャに顔面をしたたかに殴られ、倒れこむリュカ。
「この程度で不意を突けるとでも?甘く見ないで欲しいね」
クジャは彼を彼を容赦なく蹴りつけ、踏みつける。
そのクジャの背後に、剣を構えたサイファーがいた。
「!?」
「っらあああああ!!!」
それまで立つ事も出来ず座り込んでいたサイファーが、左足一本でクジャに跳びかかる。
その体は思ったよりも強い勢いでクジャに迫り――思ったよりも早く反撃を受けた。
「調子に乗るな!」
サイファーが突き出す剣の切っ先を掴むと、そのまま強引に投げ飛ばす。
次いで追い討ちをかけるように、倒れたサイファーめがけて火球を放つ。
サイファーも「クソが!」と毒づきながら、剣から炎を放って反撃する。
二つの炎は空中で激突し、熱風となって消えうせた。
「…おや?」
暫くして、クジャが訝しげに呟く。
「おかしいな。君ごときの魔法で僕の魔法を打ち消した?」
確かにおかしい。サイファーは魔力は強いと言っても到底今のクジャにかなうはずもなく、むしろかなり劣るはずだ。
…そんなザコが、僕の魔法にまともに対抗した…?
吹き荒れる夜風に肌寒さを覚える。さっきまでは全身が燃えているようだったのに。
ふと、自分の右手を見てみる。
その手の肌は氷のような蒼さが薄れ、所々がトランス前の白色に戻ってきている。
…ああ、そういうことか。
「運がいいね君達。この状態もそろそろ限界のようだ…」
ニヤリと不敵に笑い、再び宙に浮いて倒れた3人を見下ろす。
「まさかこんなにも早くトランスの力が尽きようとは…流石に一日で集めた魂ではこんなものかな?」
クジャのトランスは他とは違い、数百数千の生き物の魂の力を吸収して得た力だ。
半日死霊の魂をかき集めたからと言って、その数はたかが知れている。
吸収した魂の数が足りずに、トランス状態を維持しきれなかったらしい。
「まあ、それでも君達を葬るぐらいはできるかな…?
どうせだ。冥土の土産に僕のとっておきを見せてあげるよ…」
クジャは反撃する余力も無い3人に告げると、ある魔法を準備し始めた。
「震える魂よ…」
周囲の瓦礫が、カタカタと音を立てて揺れ始める。
「僕に従う死霊どもよ!」
彼の周りに、淡い魔力の輝きが集まり始める。
「今こそ僕に力を!あの虫ケラどもを滅ぼせ!」
魔力が空に高く高く放たれ、上空で一点に集中し、
「―――アルテマ!!!!」
無数の矢となって降り注いだ。
「―――グランドリーサル!!!!」
大地に襲いかかる魔力の紅い矢を迎え撃つように、
地上の、リュカ達からは少し離れた地点から蒼い矢が放たれる。
紅と蒼の閃光はアリアハンの上空で衝突し、昼のように辺りを照らす。
太陽が何個もあるような錯覚。
リュカもリノアもサイファーも、それにクジャもその眩しさに目を閉じる。
ようやく光が収まり、眼を明けると、そこには文字のような形の記号が数十と浮かんでいる。
そして蒼い矢が放たれた地点にはジタンがいた。
といっても先程までの彼とは外見が大分違う。
体はテラの光のように紅く、瞳はガイアの光のように蒼い。
すんでの所でトランスし、クジャのアルテマを防いだのだった。
「おやおや…あれだけしようとしても出来なかったトランスまでして何故この3人を?」
「言ってるだろ、クジャ…人を助けるのに理由なんか要らない…」
クジャの訝しげな問いに、短剣を構えながらジタンが答える。
トランスに必要な物は、つまりは感情の昂ぶりである。
ダメージに対する怒りだとか、敵に対しての憎しみなどに限った物ではない。
彼がトランスできた理由は、死に瀕した3人を救いたいという一心、ただそれだけだ。
実際、ジタンは今は亡きガーネットを魔物の手から救い出そうとした時も、こうしてトランスの力を発揮して見せた。
「僕への怒りではなく、仲間を助けようとする感情…得たばかりの仲間を失ってしまう環境への反発… まあ、君らしいと言えば君らしいね」
クジャの笑みからは、余裕の他に焦りも少し認められる。
「そんなことはどうだっていい!今とどめを刺し…」
言いながら次の裏技を繰り出そうとすると、ジタンは眩暈のような感覚を覚えて膝をついた。
体からみなぎる力が、急速に逃げていく。
トランスの力が、たった一回の技で尽きかけていた。
「…腐っててもアルテマと言う事か」
内心安堵したように、クジャ。
「僕がいくら弱っていたとしても、やはりアルテマを叩き落すのは容易ではなかったようだね?」
その通りだった。
アルテマの矢がアリアハンに迫る時、ジタンはとにかく渾身の力を込めてそれを迎え撃った。
その皺寄せが、もう来た。
いつのまにか、クジャはジタンの目の前に降り立っていた。
その姿は、もう魔物のような姿ではない。
彼もまた、トランスの力を使い果たしていた。
「僕も奥の手を使ってしまった後だが、幸い逃げる事ぐらいは出来そうだよ」
クジャの言葉と同時に、先程よりも大きな雷が近くに落ちた。
瓦礫が砕かれて粉塵となり、煙のように辺りを包む。
その光景は丁度、城下町でセリスやサイファーを奇襲した時の物と同じだった。
「くそっ!」
ジタンが毒づきながら彼がいた筈の地点をグラディウスで一閃するが、空しく空を切る。
「覚えておくといいよジタン!今は退いてやるが、最後に生きる権利を手にするのはこの僕だ!
それを忘れるな!」
そう遠くの方から叫び声が聞こえ、遅れてやっと煙幕がやんだ時には、クジャの姿はどこにもなかった。
…………逃がした。
ジタンは思わず地面に拳を叩きつける。
後少し、後少しでクジャを倒せたのに。
もう少しで、あいつを止める事ができたのに。
震える拳を握り締めていると、ふとリノア達のことが気にかかった。
「逃がしたな…」
歯軋りしながら呟くリュカに歩み寄る。
その顔は、まるで修羅のように険しかった。
当然だ。なんといってもクジャは、彼の息子の仇でもあったのだから。
「大丈夫か?」
「僕はなんとか。でもこの2人が…」
答えられ、ジタンは傷を負った二人を見る。
リノアはサンダガのせいでところどころに火傷を負っているが、まあ問題は無さそうだ。
問題はサイファーだ。
リノアとリュカが治療したため火傷の出血はなんとかなっているが、
それでも深く残る傷跡が痛々しい。自力では歩けなさそうだ。
「脚がシャレになんないくらい痛えぜ。お前ら、あとでちゃんと治療してくれよ」
サイファーは軽口を叩いてみせる。それだけの元気があるならまだマシか。
「ね、ところでサイファー」
「あん?」
思い出すように、ヴァリーを解きながらリノアがサイファーに語りかける。
「あの女の人…ロザリーさん、だっけ?は何処に行ったの?」
「武器防具屋だ。そこが今は一番安全だろうぜ」
「よし、行こう」
ジタンが言うと、4人はゆっくりと歩き出した。
「ふう…少し危なかったね」
アリアハン城下町を遠くに眺め、クジャ。
ダメージが思ったよりも酷い。今日の所はもう何処かに隠れて体を休めるのが良いだろう。
「セフィロス…君とは少し別れるよ。まあ、君のことだから、また会えるよね」
独りそう呟き、歩き去った。
【リュカ(HP 1/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
第一行動方針:武器防具屋まで行く
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【サイファー(右足負傷) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
第一行動方針:武器防具屋まで行く 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ジタン(重傷、右足負傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:武器防具屋まで行く 第二行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(重傷) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:武器防具屋まで行く 第二行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在地:アリアハン城堀→武器防具屋へ】
【クジャ(HP 1/5 負傷、MP大消費) 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
第一行動方針:どこかに潜伏する 第二行動方針:皆殺し 最終行動方針:最後まで生き残る】
【現在地:アリアハン城下町東→移動】
「そうですか…ハッサンさんも世界を救うための旅を…」
「ああ、辛く苦しい、でも楽しい旅だった。あいつらが一緒にいたからな。
それとハッサンさんはやめてくれ。あんたも言いにくいだろうしハッサンでいい」
「そうですか…そうですね。分かりました、ハッさん」
少しアクセントが気になったがハッサンは気にしないことにした。
状況が変わるまで動くこともできず、彼はミネアと共に雑談に興じている。
今こうしている間にも助けを求めている人がいるだろう。
消え行く命もあるかもしれない。しかし呪われしハッサンには今成す術がない。
夢の中で助けを求めていたエルフのことを思うと今にも感情が暴発してしまいそうになる。
そんなハッサンを気遣ってミネアは懸命に気を紛らわせようと話をしてくれている。
その懸命の献身は今のハッサンにはとても有り難く、
せめてこの人だけは守ろうとハッサンは固く決意するのだった。
ザシャ
突然の物音に二人は振り向く。そこには栗色の髪の少女がいた。
笑みを浮かべてこちらに手を振りながら小走りに駆け寄ってくる。
警戒して腰を浮かせかけるハッサンだが、ミネアはそれを見て喜びの表情を浮かべた。
「ミネアー!」
「アリーナさん!」
彼女の呼び声に立ち上がって喜色満面に答える。ああ、やっと頼れる仲間と出会えた。
「ハッさん、安心してください。彼女は先程話した私の仲間です。」
それを聞いてハッサンも安堵して再び腰を下ろす。
この時の彼は少し軽率だった。ミネアを守ると決意したばかりだったのにあまりの
ミネアの喜びように警戒を怠ってしまったのだ。
もし彼が腰を下ろしていなければ…すぐにミネアと少女の間に入れる体勢であったなら…
少なくともこの後の悲劇は避けえたかもしれない。
「いやーやっと知ってる人見つけたよー。良かったー」
「ええ、私もそうです。途中であちらのハッサンと一緒になったのですけど
少し事情があってここから動けなかったんです。アリーナさんは大丈夫でしたか?」
「ああ、うん。それよりもさ、金髪の男がこっち走ってこなかった?」
その時ミネアはふと目の前の少女に違和感を感じた。
彼女が「金髪の男」と口にした瞬間に、ざわり、と何か邪気のようなものを感じてしまったのだ。
「え?…い、いいえ。こちらには来ていませんが」
ミネアの中で少女に対する違和感が膨らんでいく。
私の知っている少女はこんなだったろうか?私は何か別のものと対峙しているのではないか?
ミネアの答えを聞いて少女はあからさまに落胆した。
「なーんだ、役に立たないなぁ。話しかける前に会話を聞いてたら
そっちの彼も呪われてるようだし…あんたたちやっぱ必要ないね」
ミネアは一歩退く。
チガウ…シラナイ…ワタシハコノショウジョヲシラナイ…
ナラバメノマエニイルノハイッタイダレナノダロウカ…
気付くと少女の手にはすでに先端が三本に分かれた鞭が握られている。
――グリンガムの鞭――
不穏な空気にハッサンはいぶかしみ、再び腰を上げる。
少女の目にはすでに殺気が宿っていた。
「ハッさん!逃げ――」
彼女は最後まで言う事ができなかった。
最初の一閃でミネアの左頬の肉がそげ、左鎖骨を砕かれ、肋骨を破壊される。
瞬時に二閃目が訪れ、ミネアの右手首をもぎ、左太腿の肉をそぎ、右耳が切断される。
三閃。ティアラが弾き飛び、髪が散る。左肩を砕かれ、左乳房も抉られてしまった。
四閃。一撃は空を切り、右のこめかみから左目までを抉り取られ、再び打たれた左肩から左腕が千切れ飛んだ。
死のダンスを強制的に舞わされたミネアは全てが終わった後、フラフラとよろけ、倒れた。
ビクビクと痙攣し、彼女の身体の下から血だまりが広がっていく。
そんな光景をハッサンは硬直したまま見つめていた。
「あれ〜〜、まだ生きてるよ。結構しぶといなぁ。
グリンガムの鞭も攻撃力は高いんだけど必殺には向いてないのかなぁ」
そんな無邪気な、しかし残酷極まりないセリフにハッサンは正気に戻る。
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
慟哭しながら奇跡の剣を抜刀し、少女へと斬りかかる!
そんなハッサンを少女は笑みと共に迎え、鞭を振りかぶった。
「遅いよ、おじさん」
一度に三箇所を攻撃できるグリンガムの鞭に加え、装備した者の攻撃を乱れ撃ちに変える
「皆伝の証」を持つ自分の速度にかなう者などいはしない。
彼もまた、自分の攻撃の前に崩れ落ちるはずだった。しかし……。
それは勘だった。戦闘センスに秀でる彼女は、野生の勘が送る警告音に迷わず従い、その場に伏せる。
何かの光が視界の端をかすめ……閃光。そして衝撃が来た。
遅れてきた轟音と共に吹っ飛ばされる少女。しかし伏せていたおかげで受けた衝撃は少ない。
接地とともに受身を取り、ごろごろと転がり事なきを得る。
しかし手にしていた鞭はどこかに飛んでいってしまったようだ。
ふと前を見ると彼もまた吹き飛ばされている。自爆したのだろうか?
が、彼が起き上がろうとしているのを見て、彼女は地を蹴り彼に向かって走り出した。
先の爆発が何なのか分からない以上、彼が起き上がる前に勝負をつけるつもりだった。
ハッサンは近づいてくる少女に気付き、剣をとろうとするが見当たらない。
どうやら爆発でハッサンもまた剣を手放してしまったらしい。
ならば…ハッサンは自分の右の指に装備された指輪を見る。
もう一度くらわせてやる!
最後の力を振り絞って起き上がり、少女に向かって指輪をはめた拳を突き出す!
それを見て、少女は確信した。爆発の前に視界の端で光った物の正体。
「その指輪ね!」
少女の気を込められて硬化した手刀がハッサンの右手首を斬りとばす!
「ぐがぁああああああ!」
ハッサンは斬り飛ばされた右腕を押さえて咆哮し、右手首は地に落ちると同時に小爆発。
指輪を残して消失した。
少女はその隙を逃さずハッサンの背後に回り両の腕で太い首を絡めとる。
「がっ…あ、ごあ」
ハッサンは呻き、残った左腕で少女を引き剥がそうとするがまともに力が入らない。
少女は躊躇せずに渾身の力を込めていく。そして…。
…メ…キ………ゴキンッ。
彼の首が有り得ない方向に曲がり、ハッサンは崩れ落ちた。
少女は両の手首をほぐすように上下に振る。
「ふぅっ、かったい首〜。結局砕けなかったや」
そしてブクブクと泡を吹くハッサンを見下ろす。
「あれ〜〜?また死んでない。タフだなぁもう!」
そういってハッサンを思い切り蹴飛ばした。
僅かに宙を舞い、ゴロゴロと転がっていくハッサン。
「ま、いいや。どうせすぐ死んじゃうだろうし、面倒だから止めはささないでいてあげるね♪」
そして彼女はもう気にも留めずグリンガムの鞭を捜し始めた。
まだ息がある二人を放って。
白い靄に包まれた何もない世界。
目覚めるとハッサンはそこにいた。周りを見渡すが何も見えない。
「オレは…何でこんなとこにいるんだ?」
キョロキョロと見回しながら訳も分からず歩いていく。
ふと靄の中からアモスの姿が浮かび上がってきた。
「アモっさん!?」
アモスはハッサンに近づき、ふと哀しそうな笑みをこぼして通りすぎていく。
すれ違いざまに一言、アモスはつぶやいた。
「頑張れよ」
なぜかハッサンは動くことも声を上げることもできなかった。
そしてアモスの姿は白い靄の中に消えていく。
次に現れたのはミレーユだった。
彼女は俯いて涙を流しながら歩いている。
そしてまた、彼女もハッサンの脇を通り過ぎていく。
同じように一言。
「テリーを…弟をお願いします」
消えていく彼女を見て、ハッサンは叫びたいのに声を出すことができない。
そして……次に現れたのは、ミネアだった。
彼女もまた、ハッサンへと近づき……目の前で止まった。
彼女を見てハッサンは全てを思い出す。それと同時に金縛りが解けた。
「うぉおおおおおおおおーーーー!!オレは!オレはぁああ!!」
地に手を着き、拳を地面に叩きつける。
「守りたかった!あんたを!仲間を!全ての弱い人たちを!!
守りたかったんだ!!なのに、なのに…ちくしょうっ!」
そんなハッサンの肩にミネアはそっと手を添えた。
それに気付いたのかハッサンは地を叩くのを止め、嗚咽する。
「畜生…何もできず…、オレは終わっちまった。ちくしょう…ちくしょう…」
ミネアは涙と鼻水でグシャグシャのハッサンの顔を愛しそうに触れ、抱きしめた。
「大丈夫。まだ、終わっていません。あなたは生きています」
ハッサンはミネアの腕の中、嗚咽を止める。
「嘘だ」
「いいえ、本当です。私があなたを生かします」
ハッサンはおずおずと顔を上げる。
「本当……なのか?」
ミネアはニッコリと微笑んだ。
「私はようやく分かったのです。あなたのもとに導かれたわけを。
私があなたにできることを。
私は…あなたを導くためにあなたの傍にいたのだということを…」
ミネアはゆっくりと立ち上がり、それを追うようにハッサンもまた立ち上がる。
「何を、する気なんだ?」
彼女はそれに答えず、右の指に光を灯し、自分の正面に十字を描いた。
呪文を唱え、祈りを捧げる。その呪文はまた、ハッサンも聞き覚えのある呪文だった。
瞬時にミネアの意図を悟る。
「いけねえ!そいつだけはやっちゃいけねんだ、やめてくれミネアさん!」
ハッサンはミネアの肩を掴み、声を張り上げるが彼女は目を閉じ詠唱を続ける。
そして…詠唱が終わった。
血だまりに付すミネア。彼女は残された命の全てを振り絞って言霊を風に乗せた。
「メ、ガ……ザル」
その小さな小さな音に鞭を捜し続ける少女は気付かない。
「ああ、ミネアさん…」
「ふふ、どのみち私は助からないほどの傷を負ってしまいました。
ならば私にできることは残された命を未来へと繋げること。姉さんもきっと褒めてくれます」
ミネアは空に向かって両手を広げ、金色の粒子をまき散らす。
その粒子はハッサンの身体を包み込み、身体を浮き上げていく。
「ミネアさん、約束するぜ!今度こそオレは望みを果たしてみせる!
見ててくれ!あんたの仲間も、おれが守る!」
ハッサンは親指を立ててミネアに向かって突き出す。
ミネアはハッサンを見上げ最後の言葉を贈る。
「フフ期待していますね、ハッさん」
そして――世界は光に包まれた――――
突如としてハッサンの身体から立ち上がった光の柱に驚愕して少女は振り向いた。
その巨大な光の柱は少女にも見覚えがある。正確には少女のオリジナルの記憶だが。
少女が咄嗟にミネアのほうを振り向くと、ミネアの身体は光の粒子となって分解され、
光の柱へと吸収されていく。ふと光の柱の中に影が現れた。
影は人の形をしていた。その人影はゆっくりと、しかし確実に光の柱の中を歩き近づいてくる。
光の柱もそれに呼応するように薄まっていき、影の正体がだんだんと見えてきた。
やはり、その影は…ハッサン。涙を流し、毅然と少女を見つめながら力強く歩いてくる。
右手首も健在で首も折れてはいない。気付くと少女は無意識のうちに後ずさっていた。
「ミネアさん…ありがとう。この命、この腐ったゲームをぶっ壊すその時まで借りておくぜ。」
『ハッサンはミネアと同等の危機感知能力を手に入れました』
【ミネア死亡 所持品:いばらの冠 嘆きの盾 悪魔の尻尾 はその場に放置】
【ハッサン(HP MAX:) 所持品:E神秘の鎧 奇跡の剣(現在行方不明)
行動方針:アリーナ2を倒す 最終行動方針:仲間を募り、脱出】
【現在位置:いざないの洞窟西の山岳地帯】
【アリーナ2(分身) 所持品:皆伝の証 グリンガムの鞭(現在行方不明)】
第一行動方針:ハッサンを倒す
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する
【現在地:いざないの洞窟西の山岳地帯】
小鳥のさえずりが聞こえはじめ、夜行性の虫達の鳴き声がやみはじめる。
それと同時に水平線の向こうから一筋の光が伸びてくる。
「ぁ…?」
このステージを出るまで地獄耳の巻物と目薬草の効力は続く。
偵察には便利だが、休むには多少不便。寝ている間中、生き物の「音」が聞こえるし、
朝になれば目を閉じていても光が入ってくる。
「朝か…?正直、あまり眠れなかった…。放送はまだ無いようだが…」
辺りを見回す。東の方の海は明るくなってきているが、西の森にはまだ闇が広がっている、そんなところだろうか。
北に目を向ける。城下町の方角は常に明るく、賑やかだったのだが、今は静寂に包まれている。
戦闘は終わっているのだろう。あそこには色々なアイテムが転がっているに違いない。
…まるでハイエナ。まるで、骸旅団のような、薄汚い盗賊共と同じだが、ここではこの姿が正しい。
この世界に王侯貴族農民騎士商人奴隷盗賊その他一切の身分はない。あるのは勝者と敗者だけだ。
勝者になるためならどんなにずるくとも、せこくとも、汚くとも、使える手段はすべて使わなければならない。
道具はその手段を広げるためのもの。いくらあっても困ることはない。
そういえば、安全に休める場所を探していたというのもあり、まだ支給品を見ていなかった。
1つの支給品袋をのぞき込む。…ハズレだ。インクに羽ペン。袋整理に使うくらいか。
他。なにかの尻尾のアクセサリーがある。使い方が分からない。自分の支給品には説明書が入っていたのだが。
まさか。嫌な予感がする。次々に袋をのぞき込む。砂、宝石、指輪…
使い方が分からないものだらけだ。しかも、武器がない。
ほとんどの支給品に説明が付いていると思っていた。または、すぐに使えるアイテムばかりだと思っていた。大誤算だ。
そもそも拾う物には説明が付いているはずもない。
使い方を模索せねばならない。使い方が分からなければ、意味がない。
やはり彼はまだまだ未熟な見習い剣士であったのだ。
…ちなみに、彼の手に取ったアイテムの中には、未識別ではあるが、インパスの指輪が含まれていた。
【アルガス(視覚聴覚向上、旅の扉をくぐるまで) 所持品:カヌー(縮小中)、兵士の剣、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、パオームのインク
妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ、聖者の灰、クラン・スピネル、インパスの指輪、他2人分の支給品、武器ではない。
第一行動方針:多くのアイテムを集めて、使い方を知る。とりあえずアリアハンでアイテム集め。
最終行動方針:どんな手を使ってでも生き残る。もちろん、脱出に便乗もアリ】
【現在位置:アリアハン南の森、岩山と海岸の境目あたり】
宝条…聖者の灰、クラン・スピネル、インパスの指輪
ローザ…パオームのインク、妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ
サンチョ…?
ジークフリート…?
彼の時間軸は夜明け直前です。
インパスの指輪はプラスチックの指輪。
【ミネア死亡】
【残り87名】
いざないの洞窟から南の山岳地帯に身を隠し浅く眠っていたピーエルだが、
ふと何かの気配を感じ目を覚ました。
見ると北の方角から光の柱が立っているのが見える。
「あれは……?」
見覚えがある。あれは……メガザルの光。
おそらくあの場で戦闘があり、劣勢なほうが使用したのだろう。
これで確実に一人、ゲームから脱落したことになる。
様子を見に行くべきか?
使いすぎにより祈りの指輪は全て壊れてしまったが、
そのおかげでベホマの連唱により傷はほぼ塞がっている。
アモールの水の効果と短いが睡眠を取ったことで体力にも不安はない。
ならば、いこう。リュカ様の敵は減らせるときに減らしておかなければならない。
彼は決意し、北に向かって走り始めた。
いざないの洞窟近くの祠。
「う〜ん、そろそろボクたちにもチーム名が欲しいところだね〜」
「あ、それじゃあタバサ世直し団っていうのはどう?」
「よし、決定!」
呪文の教授を行いがてらタバサとの雑談に耽っていたセージだが、ふと大きな魔力の波動を感じた。
見るとタバサも北のほうに目をやっている。
「お兄さん、何だか向こうの方から強い力が…」
セージは彼女のセンスに内心驚嘆しながら、不安がらせないように答える。
「ああ、誰かがとても大きな魔法を使ったみたいだね。
でも位置は結構離れている。心配することはないよ」
トン、トトン、トトン、とリズムに乗って扉がノックされた。
見張りを行ってくれているビアンカからの合図だ。
「何事だ?」
流石に熟練の冒険者だけ会ってギルダーも異変には敏感だ。
数時間しか眠っていないだろうに疲労も感じさせずにベッドから起き出して来る。
「それをこれから確認するのさ」
いってセージたちは扉を開け、外に出た。
「セージさん、あれを」
外に出るとビアンカが険しい顔をして北の方角を指さす。
そこには黄金の粒子に包まれた光の柱が天高く聳え立っていた。
「お母さん、あの光は」
「ええ…」
「メガザル、だね」
タバサの震える声にセージがこたえる。
「何だ。そのメガザル、というのは。あの光を生み出した魔法なのか?」
一方、自分とは全く違う系統の魔術の知識に乏しいギルダーがたずねる。
セージは光から目を逸らさずにその疑問に答えてやった。
「そうだ。あれは僕達の世界の中でも超高難度の呪文でね。
自らの命と引き換えに仲間全員の傷を癒し、死者をも蘇生させる効果があるんだ」
それを聞いてギルダーは驚愕し、そしてすぐに声を落とした。
「なっ、それほどの術か……そうか、だがこの世界では…無駄死にかもしれんな…」
この世界では回復呪文の力は著しく制限されている。
傷を完全に癒すベホマの呪文さえこの世界ではホイミと同等、あるいはそれ以下の力しか持たない。
ましてや蘇生呪文など発動するはずがないではないか。
だが、セージはそれとは別の見解を持っていた。
「いや〜、そうでもないかもしれないな」
「どういうことです?セージさん」
今度はビアンカが尋ねる。
「うん、とりあえず根拠薄弱なんだけどね。
まずこの世界では蘇生呪文は効果がない。これは絶対の法則だと思うんだ。
そうでないとゲームが成り立たないし、あの魔女がそれを許すはずもない。
にも拘らず発動したということは、あのメガザルは瀕死の人に対し使われたものだとボクは推測する。」
タバサたちは黙って聞いている。
メガザルの光はだんだんと薄く細くなって来ていた。
「そしてその回復効果なんだけどね。実はメガザルの効果は他の回復呪文とは少し違うんだ。
他の回復呪文は対象の生命力を増幅することで疲労と傷を癒すけど、メガザルは違う。
術者の生命エネルギー全てを粒子に変換して対象の欠損、負傷部分を補い、再構成する
物質干渉系の奥義なんだよ。これは逆に対象を分解し消滅させるメガンテと並んで
使える人間なんかほんの一握りしかいない最高難度の呪文さ」
『ボクを含めてね』
と、セージは一人ごちる。
絶句する一同。しかしタバサだけは強い瞳で消えていく光の柱を見つめ、つぶやいた。
「良かった。それじゃあかけられた人は助かったんだね」
そんなタバサを優しい目で見つめ、セージは答える。
「うん、多分ね」
だが、楽観はできない。
おそらくあの場所で戦闘が起き、メガザルは劣勢なほうが使用したのだろう。
自分の命を捨ててまで仲間を救おうと考える人間とその仲間が
ゲームに乗っているとは思えない。ならば、敵はゲームに乗った人間か。
いささか短絡的だが、今の情報量ではここまでの推測が限界だ。
そしてメガザルによってその術者の仲間は復活したであろうが、
その前にいる脅威は依然健在だろう。彼、あるいは彼らの危機は去ってはいない。
目測では問題の場所はここから徒歩で一時間ほどの距離だ。
走ってもタバサを守りながらでは40分がいい所。それでは恐らく戦闘には間に合うまい。
だが、自分ひとりならば。ピオリムを連唱すれば15分ほどで到着できる。
それならば自分も戦闘に参加できる可能性は高い。ゲームに乗っていない人間があそこにいるなら…
いや、乗っていたとしてもできるだけ救いたい。だが…。
タバサを見る。ビアンカもギルダーも強い。臆病だがタバサ自身も戦いなれているようだ。
それでも離れることに抵抗がある。現実がもたらす理不尽な残酷さは充分に理解しているつもりだった。
間に合わないのを承知で全員で向かうか…しかし。
彼には珍しく判断に迷った。そんな時タバサと目があう。
「お兄さんなら、間に合う?」
少し、ゾっとした。心を読まれたのかと思ったのだ。だが、違う。
「命を捨ててまで救おうとした人が悪い人なわけないよ。
お兄さんなら助けること、できるよね」
タバサはセージを完全に信頼しきった目で見つめている。
「私とお母さんなら大丈夫だよ。私結構強いんだよ?」
そんなことを言ってニッコリと笑うタバサを見てセージは苦笑した。
この子は本当に聡い。
このまま迷っていたずらに時間を無駄にするよりは、この子の強さに賭けてみようか。
セージはギルダーの方を向き、ライトブリンガーを差し出した。
「ギルダー。君をタバサ世直し団、護衛隊隊長に任命する!」
「どこに部下がいるんだ。…ではなく!」
思わず間髪入れずに突っ込んでしまうギルダー。
タバサの視線を気にして、セージを引き寄せ耳打ちする。
「正気か!?何故俺をそこまで信頼する!
俺の抑止たるお前がここから去れば俺はこの母子を殺して逃げるかも知れんのだぞ!?」
セージはニヤリと笑う。
「大丈〜夫。君はもう人を殺せないよ。君が殺していたのはある人と再会するためなんだろう?
それだけを思い、心を闇で閉ざしていたからその人の声が聞こえなかった。
でも君はそのの闇から抜け出して声が聞こえるようになってしまった。その人の声が。
どうだい?その人は君が他人を殺してまで自分に会いに来ることを喜ぶような人かな?
その声を無視できるほど、君は悪人に為りきれるかな?」
それを聞いてギルダーは舌打ちする。
「何が賢者だ。そこまで来ると呪いの言葉にしか聞こえんぞ」
「知らなかったのかい?だから賢者なんだよ。
普通の言葉を呪いの言霊に変えることができる。それが賢者なのさ」
「糞くらえ」
ギルダーはセージを放し、ライトブリンガーを受け取った。
呪いの言霊に自らの罪の証である聖剣。全く自分に相応しい。
「もういい。お前と問答するよりしばらく離れていたほうが気が楽だ。
とっとと行ってしまえ。その代わり、彼女達は……俺が護る」
「OK、契約成立」
セージはタバサとビアンカの方を振り向いて敬礼のポーズを取った。
「それではタバサ団長殿、ビアンカ副団長殿、
タバサ世直し団・斥候隊隊長セージ、件の場所の調査にいって参ります!」
『だから何で隊長なんだ…』
ギルダーは心中で突っ込む。タバサは嬉しそうにセージの敬礼を真似た。
「うむ、くるしゅうない!」
「タバサ…少し違うわ…」
ビアンカは呆れたように額に手をやった。そしてセージからファイアビュートを受け取る。
「気をつけてくださいね。私達もすぐに後を追います」
その言葉にセージは手を振り、北に向かって駆け去っていった。
そしてセージがタバサ達の下から離れた直後。
ピエールはかつて自分が仕えていた王妃と王女の姿を補足していた。
そして護衛と思わしき赤衣の剣士が一人。
『なんと…これほど早く遭遇することになろうとは』
どうする。ここは見逃して後に回そうか。
いや、彼女達はまだリュカと合流してはいないようだ。
一緒になってしまえば今よりも遥かに殺害が困難になってしまう。
『リュカ様に王妃様たちが殺せない以上、私がしなければならないというのに
なんと弱気な。心を殺せ、ピエール。リュカ様のために全ての罪を背負うのだ!』
そして彼は隙を窺うべく気配を殺しながら静かにタバサたちへと近づいていった。
「さあ、私達も向かいましょう。よろしくお願いするわね、ギルダー」
「あんたまで俺を信用するのか」
その言葉にビアンカは少し厳しい表情になる。
「いいえ。残念だけど、私はあなたを信用していない。
でもね。セージさんは信頼できる人よ。彼があなたにまかせたのならその判断を信頼するわ」
ギルダーはそれを聞いて何も言わずに帽子を目深にする。
ビアンカのその力強き言葉に、その凛々しい表情に思わず見とれ、赤くなってしまったからだ。
「もー何やってんのー!早く行こうよー」
早くセージに追いつこうと急かすタバサの声にビアンカは苦笑し、歩き始めた。
ギルダーも周囲を警戒しながらそれに続く。
しばらくは何事もなく過ぎた。
そして北に向かい始めて15分ほどが過ぎた時。
「そろそろお兄さん、到着したかなー」
「さあ、どうだろうな」
こんな気のない相槌しか打たないのに何故かギルダーはタバサに気に入られてしまったらしく
いろいろと話しかけられてしまっていた。
『何故だ』
彼女に話しかけられるたびに心に重石が積み重なっていくようだ。
彼女が親しかったというあの兵士を殺した自分。それを知らないタバサ。
いっそ全てをぶちまけてしまいたい気分に駆られる。
だがそれは許されない。母であるビアンカが許しはしないだろう。
彼女は今、どういう瞳で自分に話しかけるタバサを見ているのだろうか。
許されはしない。それは分かっていたことだ。罪を背負い続けることが私の贖罪だ。
そんなことを考えながら歩いている。
そして…ふと、立ち止まった。
「どうしたの?ギルダーさん」
タバサが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
ギルダーはそんなタバサの額に人差し指を当てて、小さく呟いた。
「スリプル」
完全に気を抜いていたタバサは瞬時に眠りに落ち、倒れこむがビアンカが咄嗟にそれを支えた。
「ギルダー!あなた!?」
ギルダーは叫ぼうとするビアンカを手で制する。
「術は浅くかけた。恐らく5分もしないうちに目覚めるだろう。
今のうちにタバサを連れてセージの下へ急げ。ここは俺が食い止める」
その言葉に一瞬でビアンカは事態を飲み込む。
彼は凄惨な戦闘をタバサに見せたくなかったのだ。
「大丈夫なの?タバサを起こして三人で戦った方が…それに説得はできないのかしら」
「そんな甘い考えは捨てた方がいいだろうな。それに会ったばかりのあなたたちと
上手く連携がとれるとも思えない。敵は単独のようだしなんとかなるだろう。
それに…俺はもう殺さない」
ビアンカが押し殺していた最大の懸念に答え、ギルダーはライトブリンガーを抜刀した。
「行け!」
その言葉と共にギルダーは駆け、山道脇の林の中に突っ込んでいく。
ビアンカはタバサを背負い、北へ走り出す。
それを確認して慌てたのか林の中の気配も動き始めた。
「逃がさん!サンダー!!」
基本三属性の中で最も速射性に優れる雷の術を気配に向かって放つ。
狙い通り、気配の足を止めた。
気配はビアンカたちを追うことをより、こちらを先に排除する気になったようだ。
ギルダーが追いついてくるのをその場で待っている。
そして現れたのは…。
『魔物!?』
スライムに騎乗した騎士のモンスターだった。
すれ違いざまに剣を一合あわせる。
ギィン!
その一撃でギルダーは実力差を悟った。
剣そのものの威力はこちらが上。しかし癪なことに膂力と技量は向こうが上だ。
魔術で翻弄し、隙を突くしかないだろう。瞬時に戦術を組み立てる。
一方、対峙する魔物は少なからず動揺しているようだった。
「何者だ。私の気配絶ちを察知するとは…これほどの手練がいたのか」
その言葉を聴いてギルダーは苦笑する。
相手は騎士。ならばこちらも騎士のように名乗ってやろうか。
「私はギルダー、……いや」
名乗ろうとして思い返す。
「ギルダーさん…私はあなたを殺さない。これからあなたは生きて、困っている人に手を差し伸べて。
私はあなたに意地でもそうさせて…"過去のあなた"を、"殺人者だったあなた"を殺すわ!」
そう、だったな。
「ギルダーなる男は死んだ。今は、そう」
しっかりと相手を見据え、名乗る。
「タバサ世直し団の護衛隊長らしいぞ」
【セージ 所持品:ハリセン・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:メガザルの光が起こった場所に行く 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟西の山岳地帯・ハッサンたちのすぐ近く】
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:睡眠 基本行動方針:家族を探す】
【ビアンカ 所持品:ファイアビュート
第一行動方針:タバサを護りながらセージの後を追う 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟西の山岳地帯・セージよりも祠寄り】
【ギルダー 所持品:ライトブリンガー
第一行動方針:ピエールとの戦闘 第二行動方針:タバサとビアンカを護る
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ピエール(HP4/5程度)
所持品:鋼鉄の剣、ロングバレルR、青龍偃月刀、魔封じの杖、ダガー、死者の指輪
第一行動方針:ギルダーを倒し、タバサたちを殺す 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】
【現在位置:いざないの洞窟西の山岳地帯・山道脇の林】
レーベの村から南西の山岳地帯に身を隠し浅く眠っていたピエールだが、
何かの気配を感じ目を覚ました。
ふと見ると脇を小動物が駆け去っていくのが見える。
ため息をつき、夜空を見上げた。
ここで眠ってしまうつもりはなかったが想像以上に疲労が溜まっていたらしい。
星を見るとあれから約3時間ほどが経過しているようだ。
夜明けまではまだ数時間あり、このままここにいるのは得策とは言えないだろう。
傷は塞がり、体力も半分以上戻っている。
少しでも眠ったおかげで意識もハッキリとしている。移動に不都合はない。
ザックから地図を取り出し眺めた。現在の位置は大陸西端の山脈南部。
ここから南の森に囲まれた岬に洞窟がある。
洞窟内は発見される危険があるかもしれない。
だが、その周囲の森は身を隠すには好都合に思えた。
今の状態でも戦闘はできるだろうが、やはり完全に回復するまでは大事をとりたい。
そこならば例え、集団に出会ったとしても接触しようとしなければ撒くことは容易だ。
ピエールは決心し、南へ向かって歩き始める。
いくらかもしないうちに山岳地帯から森に入った。
しかしまだ浅い。もっと深く森に沈まなければ。
旅慣れていたせいか移動しているうちに荒れ気味だった呼吸も整ってきている。
やはり森はいい。野生の魔物だったときを思い出す。
全身で森の臭気を吸っていると、それに紛れて血臭が漂ってきた。
『なんだ?気配は感じない…が、近い。何者かの死体か?』
死体ならば何か有用なアイテムを拾得できるかもしれない。
囮、罠の類ならそんな手段を使うのは集団のものではないだろう。
今の体力ならば返り討ち、それができなくとも逃走はできる。
警戒さえ怠らなければ対処は可能だ。
ピエールは駆け出し、ほどなくして二つの屍を発見することができた。
老人の戦士と…魔物の戦士。二人とも完全に事切れている。
しばらく周囲を警戒し、気配がないことを確認すると今度は死体を観察する。
罠は…ない。ザックも放置されたままだった。
臭気から恐らく息絶えてから半日と経っていまい。
自分は本当に神に導かれているのかもしれない。
魔物戦士のほうのザックを開く。中には…腕輪と説明書。それだけである。
説明書を読むとその腕輪こそはメガンテの腕輪だった。
「クッククク…ハッハッハッハッハ」
思わず笑い出してしまった。何と、何と今の自分に相応しい道具なのか。
これならば志し半ばで息絶える瞬間も相手を道連れにできる。
ひとしきり笑った後腕輪を装備し、今度は老人の方のザックを確認する。
二つあった。一つは分厚い本、『世界結界全集』。
もう一つは桃色の毛に覆われ、兎の耳のような装飾のついた奇妙な靴だった。
どちらにも説明書はない。結界全集の方は後々何かの役に立つかもしれない。
ザックの中に放り込む。靴の方は、見覚えがあった。
確か、なにがしかの魔力を持っていると思ったがどうも思い出せない。
主であるリュカがそれを使って何かをしたような記憶があるが靄がかかったようにあいまいだった。
まあいい。呪われたものではないことは確かだ。
実際に履いてみれば分かる、と騎士型の足に靴を履かせてみる。
すると途端に身体が浮かび上がった。
「な、何っ?」
アリアハン大陸が一望できるほどの上空まで舞い上がり、靴はピエールをどこかに
連れて行こうとする。上空の強風に煽られながらピエールは思い出していた。
『こ、これは空飛ぶ靴か!?』
かつてビアンカが攫われたときに魔物が残していったアイテム。
自分はその時城外を捜索していて、後にリュカに呼ばれ合流したため
主がその靴を使用した現場に立ち会っていなかった。だから記憶が薄かったのだ。
これは靴に記憶された任意の場所に履いた者を連れ去る魔法の靴。
その靴はピエールを遥か大陸の東方まで運んで行ってしまった。
【ピエール(HP3/5程度)
所持品:鋼鉄の剣、ロングバレルR、青龍偃月刀、魔封じの杖、ダガー、死者の指輪
祈りの指輪(半壊)、メガンテの腕輪、世界結界全集、空飛ぶ靴
第一行動方針:靴に身を任せる 第二行動方針:身を隠し休息する 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】
【現在位置:岬の洞窟北西の森→大陸東方のどこか】
「おい、ストップ」
「ローグ?どうした」
「人がいるんだ、人が」
「本当か」
休憩も程ほどにし、またレーベへと向かっていたバッツとローグ。
そして2人は2人の人間を見つけたのだ。
「ローグ、どうする?接触するか?森を迂回する方法もあるけどよ…」
「俺が見た限り…殺気は無いな。お互いバレても問題はなさそうだ。」
「だったら大丈夫か?でも接触して長話でもしたらレーベに着くのに時間が掛かるな」
「ああ、それに確かに殺気は無いんだが……何か妙な緊張感があるんだよな」
少し様子を見ようというバッツの提案で、まずは静かに様子を見る事にした。
「で、これからどうしよっか」
「そうだな…どうやら街と村があるようだな……」
「あー、でも微妙に遠いわね…」
エッジとユフィは地図を片手に難儀していた。
月明かりの下で必死に、これからのルートを考えているのだ。
何せここは平地。森に戻るのも良いが、街で潜伏するのも意外に効果があるのでないかという考えもある。
と、その時…微かな気配を感じた。
ユフィもそうらしかった。アイコンタクトで確認しあう。
「どうやら相手も、こっちの様子を見ているようね」
「……殺気は感じられないな…。ここはすんなり通して…こっちも敵意が無いことをアピールしとこう」
「あの人たちと行動するとか、どう?」
「止めとこう、不確定要素が高いからな……まぁ、後々の為に良い顔しとくのもアリかもな
ローグの目は、静かに二人を捕らえていた。
バッツもまた、闇に目が慣れて同じように捕らえた。
男はご健在のようだが、女のほうは片腕が無い。
戦いを仕掛ける様子も無いだろう、と考えを張り巡らせるうち。
「おい!」
話しかけられた。
男のほうがこっちを見て話しかけている。
成程…バレていたか。バッツは観念して言葉を返すことにした。
「なんだ?」
「俺はエッジ。で、こっちの女がユフィだ……お前らは?」
「ああ、俺はバッツ。んでこいつがローグだ」
「そうか。お前らはゲームには乗ってなさそうだし……よし、通れ」
「…え?」
あっという間に流れる会話。
素っ頓狂な返事を、バッツはつい返してしまった。
エッジのため息が聞こえる。
「ここを通れって言ってんだ」
「いいのか?俺、遠慮はしないタイプだぜ?」
「ああいいぞ。お互い敵意が無いのにピリピリ会話するのも癪だしな」
心を見透かされたようで、バッツは少し驚く。
精神的にも肉体的にもかなりの手練のようだ。
まぁ、相手は忍者なのだ。当然といえば当然だが。
「とりあえず、エッジの気が変わらない内に行ったほうが良いわよー?」
「だな、んじゃ…またどっかで会おう」
「ああ。ま、次に俺の名前を聞くのは放送かもしれないけど…な」
「そんな寂しい事言うなよ。じゃあな…行くぞローグ」
「ああ」
そしてバッツとローグは、またレーベへと走り出した。
それを静かに見送るエッジとユフィ。
「……さって、と。またどこに行くのか考えないといけないわね」
「そうだな。出来る限り俺たちの仲間が集まりそうな場所が良いんだが……」
【エッジ 所持品:風魔手裏剣(10) ドリル 波動の杖 フランベルジェ 三脚付大型マシンガン
第一行動方針:どこに行くか考える 第二行動方針:マリアの仇を討つ 第三行動方針:仲間を探す】
【ユフィ(傷回復/右腕喪失) 所持品:風魔手裏剣(20) プリンセスリング フォースアーマー
行動方針:同上】
【現在位置:アリアハン北の橋から西の平原】
【バッツ 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式
第一行動方針:レーベへ行く 第二行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ローグ 所持品:銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド
第一行動方針:レーベへ行く 最終行動方針:首輪を外す方法を探す】
現在位置:アリアハン西の橋の更に少し西→レーベへ
284 :
放送1/2:05/03/09 14:05:35 ID:Ms5XkWAa
闇は去っていく。失われし多くの魂を抱えて。
光が訪れる。新たなる絶望を携えて。
朝日は希望の光だ、などと誰が言った。
それならば、これは、何だと言うのか。
ただ絶望を告げるだけの、この光は。
大地が鳴動する。全ての者に恐怖を与えるかの如く。
そして朝焼けの空が、裂けた。
同時に魔女の姿がゆっくりと空に映し出される。
「夜が明けた。定刻だ」
何も変わらぬ、地をも震わす声で魔女は告げる。
「夜の闇に魂を彷徨わせた者達の名を告げる。
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」
「ラグナ」「エーコ」「マリア」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」
「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」
以上、20人だ」
地上で悲鳴が上がろうと、怒号が聞こえようと、アルティミシアの声は変わらない。
相変わらずの絶望を、休む間もないままに全ての生存者に与えるだけだ。
285 :
放送2/2:05/03/09 14:07:14 ID:Ms5XkWAa
そして、新たに告げる。
「これより二時間を『変革』の時とする。
御主等は新たなる舞台にて殺戮を続行してもらう。
そこで、これから二時間の間、大地に次の舞台への扉を用意する。
時間内に扉を抜けるか、この地の崩壊と共に魂を擲つか――よく考えるのだな
では、扉の位置を告げる。二度は言わぬ。
『アリアハン城下町』
『ナジミの塔』
『海底通路』
『岬の洞窟』
『西部砂漠』
『レーベ南の森』
『レーベの村』
『東部山脈』
『いざないの洞窟』
『アリアハン大陸最東部』
以上、10箇所だ。詳しい場所については自分で探すが良い」
あまりにも明るい朝日を背景に、闇を纏ったアルティミシアの姿は薄れていった。
大地の鳴動が収まり、参加者が悲嘆にくれるのを見下ろしながら。
【旅の扉が出現しました】
286 :
正義1:05/03/09 19:15:48 ID:zuR8ui5R
(良かった…アグリアスさんは生きてるんだ)
放送によって眠りから覚めたラムザは胸を撫で下ろした。
(さてと…)
全身を丸め、間髪入れずに一気に伸び上がった。
次の瞬間彼は空へと舞い上がっていた。
滞空時間中、出来る限りの周囲を見渡した。
地面に降り立ってラムザは一人で呟いた。
「民家が連なっていた…レーべの村だな…」
放送によるとその村にも旅の扉は開くらしい。
扉の周辺をうろついていれば仲間になってくれる人が見つかるかもしれない。
(一先ずそこを目指そう)
アグリアスにもそのうち会えるだろう。
アグリアス…オヴァリア王女…ディリータの顔が浮かんだ。
(ディリータならどうするかな…)
彼なら、恐らくどんな手段を使ってでも生き残るだろう。
もし、それが盟友のラムザであっても、ディリータは躊躇い無く殺すに違いない。
彼をそのような人格に豹変させたのはラムザ自身の所為でもあると、
ラムザは未だにそれを引きずっていた。
287 :
正義2:05/03/09 19:16:50 ID:zuR8ui5R
ゲームが始まって結構な人数の人が死んでいる。
こんな狂った行為何としてでも止めてやる、ゲームに乗っていない人も
僕が守ってみせる。
自らの正義ゆえに歴史の影に葬り去られた彼は、再びその正義に自分を支配された。
(マーダーもなるべくは殺したくは無い…しかし悠長な事も言ってられないからな)
獅子戦争を潜り抜けた彼はもう“甘ちゃん”ではなかった。
交渉が出来る状態であれば、話術によってマーダーすら仲間に引き込む
事は出来るだろうが、その前に殺されてしまっては元も子もない。
ジャンプで逃げるか…或いは殺す。
それに、戦闘を続けながらでも話術は展開できる。
イヴァリースで身に付けたリアクションアビリティの“白刃取り”は狙撃すら受け止める。
自分はそうやすやすと死にはしない。
仲間を探すにあたって
この期に及んで単独行動をしているのは、マーダーと勘違いされるかもしれないという
不安があったが、その不安を話術によって取り除く自信はあった。
仲間に出来るほど戦闘能力の秀でた者でなくてもいい。そういう場合は
彼らを守る。
何にせよ動かなくては。
彼の腕のブレイブブレイドの刃が輝き始めた。
【ラムザ(話術士 アビリティジャンプ)
所持品: アダマンアーマー ブレイブブレイド
第一行動方針:レーべに行く 第二行動方針:仲間を集める。マーダーも一応説得するが
話が通じなければ殺す
最終行動方針:ゲームから抜ける、若しくは壊す】
【現在位置:レーベ東の森の最東端→レーベへ】
「あのさ、帰ったら何したい?」
ギルダーが目を覚まし、そしてもうすぐ朝日が昇るという頃。セージは3人にこんな事を尋ねた。
「帰ったら…か。とりあえず、寝る」
「将来的な事を訊いたんだけどねぇ…」
「将来?なら当然、仲間と静かに過ごせればそれでいい」
ギルダーはそう言って椅子に凭れる。
そして少し気だるそうに、今度は自分が尋ねた。
「セージ、そういうお前はなんだ?」
「僕?僕はねぇ…世界征服☆」
「…嘘だろうな?絶対に嘘だと言え」
「嘘に決まってるじゃないか。本当はね…君と大体同じ。あとは勇者のみに許された呪文を習得!だねぇ…」
『ギガデインとか…あ、でもアストロンとかも結構…』
と悦に入っているセージを無視し、ギルダーはビアンカの方へと視線を移した。
それは夜明けの絶望の声が響く前に起こった出来事だった。
「失敗しちゃったなぁ…まさかメガザル唱えられるとはねー。
ホント、しぶといったら」
「彼女を侮辱するな」
ハッサンは涙を流しながら憤怒の表情でゆっくりと少女へ近づいていく。
「何故、殺した。あんたはミネアさんの仲間じゃなかったのか!」
「仲間だったよ。でもあたしが勝利するのに邪魔だから。
少しでも役に立つようだったら生かしておいたんだけどねー」
あっけらかんと答える少女にハッサンの顔はさらに険しくなる。
「一応、聞いておくけどおじさん逃げないの?
さっきやりあって勝てないのわかったと思うけど」
『逃がすつもりなんかないけどね』
胸中でそう呟いて戦闘体勢をとる。
「勝てるさ。今ならな」
そう言ってハッサンの筋肉が膨れ上がっていく。
視界を遮る涙を拭った時、瞬時に間合いを詰めた少女の蹴りが腕ごと顔面にヒットした。
そのまま右肩、左脇腹、左腿に蹴りを入れられる。
「ぐぶぶっ!」
「その割には隙だらけなんだけど」
舌打ちして腕を振るうが、少女は咄嗟に彼の腕を足場にしてバック宙し、再び間合いを取る。
「それじゃ無理そうだねー。お・じ・さ・ん」
「黙れ!おれはおじさんじゃねえ!おにいさんだ!!」
その場の石を拾い、少女に向かって投げつける。
だが少女はかわしもせずに全ての石つぶてを受け止めた。
両手が塞がった隙を逃さずハッサンが間合いを詰める。
そして今度は少女がハッサンに向かって受け止めた石を投げ返した。
ハッサンもまた避けはしない。顔だけをガードしてあとは鎧に当てるがままだ。
「貴女は…?」
「私も一緒。家族や仲間の皆と一緒に…国を見ていける事ができれば……最高ね」
「家族か……良い夢だ」
ギルダーは、孤児の自分にはなかった物を持っている彼女らが羨ましいと思った。
微笑を浮かべるギルダーを余所に、散々独りで語っていたセージはタバサに尋ねた。
「タバサはどんな夢がある?」
「あのね…私ね、レックスと…結婚するの。皆は無理だって言うけど――」
成程、前に言いかけていたのはこれか。とセージは察した。
『可愛い夢だね』とセージは言って、そして続けた。
「大丈夫、きっと叶うよ」
「ありがとう…うん、絶対レックスと一緒に元の世界に帰るの!」
にっこりと笑ってそう言うタバサを見て、セージの顔に微笑が生まれた。
と同時に、絶対に家族を探さねばと力が入る。
けれど、あれが希望を打ち砕いた。
この小さな少女と一人の母の、その夢ごと。
それは放送。亡くなった人間の名を呼ぶ放送。
死者の名が一人一人呼ばれていくその中で…、
それは聞きたく無かった。
聞きたく無かったのに。
「レックス」
あの魔女の不気味な声が、確かにそう言ったのが聞こえた。
聞こえてしまった。
「レックス……レックス…」
―――それから暫くして。
ビアンカが何度も、その名を呟いていた。
一方…セージは怒りをぶつける様に、壁に一撃拳をぶつけていた。
そしてタバサは、じっと黙っていた。
ギルダーはその姿を静かに見て、そして視線を外した。
自分は人殺しで、出会ったばかりで、敵だ。
そんな人間が口出しできるはずも無いことは知っていたから、彼は黙っていた。
そんな時、セージにタバサが話しかけた。
「お兄さん…」
タバサの声が震えている事が容易に判った。
セージは答えなかったが、そのまま彼女は話し続ける。
「私って、悪い子ね……皆に叱られちゃう…」
「――急にどうしたんだい?」
「本当…本当……私…ダメ」
ビアンカは、静かにその光景を見ていた。
タバサの肩が震えているのがわかった。
「『何回も何回も挫けてたらダメだ』って…自分でも……言ってたの…に」
「タバサ…君は……」
「泣い…ちゃダメだって……言っ…た、のに…」
君は正しいよ。
涙を流すタバサに、セージはそう言いたかったけれど、言えなかった。
何が正しいのか、正しくないのか。今それを決めるのは自分じゃないと悟ったから。
安っぽい言葉で人の悲しみを癒せるほど、自分ができた人間ではないことは知っていたから。
「…お兄さん、これから…も、私に…呪文を、教えて…。
いっぱい…いっぱ…い……教えて!
私、みた…えぐっ…私みたいな、人……増やしたくないから…っ!
悲しんでる人…助けたいから……教えて!」
『わかったよ』とセージは答えて、そっとタバサの髪を撫でた。
「ありがとう…。サンチョや…ピピンさんみたいに…殺される人…見たくないから……ありがとう」
その時、タバサのその言葉を聞いたギルダーの顔が曇った。
そう、ピピンを殺したのは自分なのだから。
そしてタバサは、そのギルダーの様子に気がついてしまった
「ギルダー…さん?」
「いや、なんでもないんだ」
「何か…何か知ってるの?ねえっ!」
「俺は――――いや……」
嘘はつけないな、とギルダーは呟いた。
そしてそのまま間を起き、今までの事を伝えた。
ビアンカの時と同じように、正直に伝えた。
タバサは、静かに俯いてしまった。
そして…また涙が床に落ちて、暫く時を置いた後――。
ギルダーの首元に、ライトブリンガーが突きつけられた。
彼がその刃を辿って視線を移すと、そこにいたのはタバサ。
今でも流れ落ちている涙を拭いもせず、わざわざ袋から取り出し、子どもには重いであろうその剣を突きつけていた。
だがその手はとても震えていた。躊躇う様に震えている。
「仲間の仇の…俺を殺すか……」
「…………」
「いい子だ」
するとギルダーのその言葉の後に、ガラン…と音が聞こえた。
そして足元を見ると、それは落ちていた。タバサの手にあったライトブリンガーだ。
タバサを見ると、先程と変わらず大粒の涙が流れている。
「私……私…できない…よ……できない!できないっ!
ピピンさんは…死んでいい人じゃなかったっ!優しくて……いつもっ…楽しい話をしてくれて!
でも私…ギルダーさんが……憎いはずなのに…憎いはずなのに……できないよぉ…」
「タバサ」と、ビアンカが呼んだ。
タバサが振り向くと、後ろでビアンカがしゃがんでこちらを見ていた。
「タバサ…ほら」
そう言ってビアンカは、タバサにこちらに来るように促す。
それを見て、タバサはビアンカの体に顔を埋めた。
「タバサ…無理しなくていいのよ」
「ムリ……してないよぉ……」
「いつからそんな嘘つきな子になったの?我慢しなくても、いいのよ……?」
「……うっ…く……お母さん……お母…さ……ぅ…うああぁあああぁあぁあああぁあぁぁぁああ!!」
泣き叫ぶタバサを見たのは、当然セージは初めてだ。
だが母であるビアンカすらも、こんなタバサの姿を見たことは無かった。
どんな苦しい旅でも、一度も泣かなかった強さを持っていたタバサのこんな涙は知らなかった。
ビアンカは、彼女がまだ子どもだという事を忘れたことなど一度も無い。
けれど彼女は心が強すぎて、繊細な心を持っていて、今は耐え切れないほどの重圧を抱えていることは忘れそうになる。
泣き叫ぶタバサの姿を見て、ビアンカの頬でもまた…静かに涙が伝った。
「……何が『賢者』だ…何が『悟りの境地』だ…。
ただただ人を悲しませるだけで……。ごめんタバサ……最低だな、僕は…」
守りたかった。
セージは、タバサの家族にだけでも再会させてあげたかった。彼女を悲しみから守りたかった。
自分ならできると思った。自分は賢者だ。人を守るために存在するのだ、悪を断ち切るために存在するのだ。
それができなかった。いくつ呪文を知っていても、いくつ闇を払っていた実績を持っても、できなかった。
肝心なときに、自分は何もできなかったのだ。自信が崩れてしまいそうになる。
「アルス……やっぱり君みたいに、上手くいかないか…。
いや、君みたいになろうと思っていることが…傲慢なのか……?」
まだ見ぬかつての仲間の姿を浮かべ、落ちたライトブリンガーを片付けながら、セージはそう呟いた。
ただ静かに、悔しさと哀しさをその表情に浮かべながら。
そしてその隣で、ギルダーが呟くように言った。
「もうすぐ……次の舞台への扉とやらに向かった方が良いだろう。
武器を渡してくれ。そしてビアンカさんにもだ。時間が無い……」
「ああ、ぐずぐずしている暇は無いからね。でも…せめて」
「わかっている―――。あの子を待つさ、俺の責任だ…」
タバサの声が、響いていた。
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:泣く 基本行動方針:家族を探す】
【セージ 所持品:ハリセン・ファイアビュート・ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×2・ミスリルボウ
第一行動方針:会話 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【ギルダー 所持品:なし
第一行動方針:不明
基本行動方針:セージと行動し、存在意義を探す/自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【ビアンカ 所持品:なし
第一行動方針:タバサと泣く 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】
一気に少女の眼前に躍り出て豪腕を繰り出す。
カウンターで回し蹴りを合わされた。
首筋にヒットしたが、固く太い首はなんとか持ちこたえる。
ハッサンが体勢を整える前に少女は彼の肩を足場に飛び、高く上空に逃れる。だが。
「待ってたぜ!」
なんとハッサンは地面に貫手を食らわし、そのまま岩盤をくり抜き持ち上げたのだ!
そして少女に向かってぶん投げる、その間実に0.7秒。バトルマスターの大技「岩石落とし」である。
空中にいる少女には逃げ場がない。
が、少女は少し驚いたようだが、冷静に飛来する岩に足を合わせて力の方向を逸らし、受け流した!
あらぬ方向に飛んでいく岩石。
そして少女は力の方向を計算したのか、偶然か、真っ逆様にハッサン目掛け急降下してきた。
『馬鹿目!狙い撃ちだぜ!』
拳を腰溜めに構えて狙い済まし、必殺の急所突きを放つ!
しかし少女は身を捻り、それさえも回避してしまう。
ハッサンの首にすがりつく様にぶら下がり、そのまま首を支点に回転して
遠心力を加えた膝蹴りをハッサンにの顔面にぶち込んだ!
咄嗟に額で受けるものの流石に吹っ飛ばされるハッサン。
一転、二転し、何とか身を起こして勢いを止める。
しばし対峙する二人。
『つ、強えぇ。覚悟はしていたがこれほど実力差があるとは思わなかったぜ。
これでも魔王討伐を成功させた身なんだが…あいつ一体何匹のメタルを狩ったんだ?』
眼前で悠然と立つ少女を見つめる。
『武器はない。探している暇もない。
俺が持つ技で奴に通用するのは何だ。バトルマスター、レンジャー。二つの上級職。
それらの下級職を合わせて奴の異常な素早さに対抗する術は…』
ハッサンは今までの戦闘経験を照らし合わせ、戦術を組み立てる。
『一か八か、賭けるしかねぇ!』
ハッサンは裂帛の気合を入れると、少女に向かって駆け出した!
「懲りないなぁ、そろそろ飽きたし終わらせちゃお!」
そう言って猫足立ちに構え、ハッサンを迎え撃つ。
「爆・烈・拳!!」
ハッサンが放つは岩をも砕く高速四連突き。武闘家職の奥義だ。
「止まって見えるよ!」
それでも少女は襲い来る全ての拳を紙一重で回避する。
「パンチってのはさぁ、こう打たなきゃ!」
ハッサンの踏み足に合わせるように踏み込み、足首、腰、肩、腕と回転を伝え遠心力を最大に生かす。
そして気によって硬化された右拳が充分な速度とともに撃ち出された。
それはまさに会心の一撃。恐らくは分厚い鉄板でさえ撃ち抜くであろう威力を持った一撃。
それを証明するかのようにその一撃は神秘の鎧を砕き、寸分たがわずハッサンの腹筋に撃ち込まれた。
ドン、と鈍い音がしてハッサンの喰いしばった歯の間から鮮血が飛び散る。
そして、上がった悲鳴は…少女のものだった。
「あぁああああぁあぁぁあああああ!!!」
何が起こったのか…少女の一撃はハッサンの腹筋に撃ち込まれた瞬間、衝撃を跳ね返されたのだ。
手首と肘、肩を順に衝撃が貫き、少女は絶叫する。
それはハッサンの奥の手。レンジャーの特技「だいぼうぎょ」による効果だった。
大自然の力を借り、通常の防御とは比較にならない防御力を発揮する特技。
爆烈拳が回避されることを見越し、空ぶった瞬間にハッサンは行動を切り替え大防御に入っていた。
それにより少女の一撃は一割ほどの威力しかハッサンに伝わらず、残りの九割の反動をまともに食らい
少女の右腕は破壊されたのだった。
「ご丁寧にパンチのレクチャーありがとうよ。早速実践させてもらうぜ」
少女と全く同じモーションで突きの体勢に入る。
右腕を破壊され、その場に硬直していた少女は慌てて口を挟む。
「ちょ、ちょっとタンマッ」
「タンマなし!」
少女は咄嗟に防御体勢を取ったが、ハッサンの正拳突きはそんな薄っぺらな盾ごと少女を撃ち貫いた。
目覚めると地面の上に大の字で寝ていた。
冷静に自分の状態を確認する。右腕は脱臼していたようだが、すでにはめ込まれていた。
動こうとすると胸に激痛が走る。しかし、それは胸筋打撲によるもので
骨折の類や、内臓の損傷によるものではないようだ。
つまり、五体満足だった。
『何故?』
彼の膂力、あのタイミング、速度。自分の胸には風穴が開いていてもおかしくない。
何故自分は無事なのか?その理由は……明白だった。
手加減、されたのだ。
屈辱に涙が溢れそうになる。
「よう、起きたのか。あれから三分もたってないってのにたいしたもんだ」
首を回して声の方を見やると、そこにはすでに剣と鞭を回収したハッサンが立っていた。
「なんで、殺さないの」
息を吸うのも億劫なので最低限の言葉で尋ねる。
彼は真剣な表情で少女を見下ろした。
「あんたが、ミネアさんの仲間だったからだ。だから助けた。
アリーナ、あんたはそこでしばらくミネアさんにしたことを後悔するんだ。
思い出せ。ミネアさんの言葉。表情。思いやりを。
仲間だったなら自分が何をしでかしてしまったのか分かるはずだ。
…彼女は、メガザルを唱えたとき笑っていたよ。
あんたを許していたんだ。その優しさを、噛み締めるんだ。
今度会うときはあんたと仲間になれると、俺は思っているぜ。」
それだけを言ってハッサンは少女に背を向けた。
彼女があれほど信頼した仲間だったのであれば、それだけで分かってもらえると信じた。
本当ならば彼女を抱えて行きたいところだが自分にはやらなければならないことがある。
夢で見たエルフの呼び声に応えなければならないのだ。
夜明けも近い今ではすでに遅いかもしれない。
しかし行かないという選択肢はハッサンにはなかった。
少女は彼の言葉を聴き、涙を流し後悔した。己がしでかしたことを思い知った。
自分の間違いを猛省した。そしてある思いを噛み締める。
嗚呼…自分はなんということをしてしまったのだろう。
そう、今度呪文使いと戦う時は真っ先に喉笛を噛み千切ろう。。
歯を砕き、舌を引き抜き、顎を割って忌々しい呪文など唱えられないようにしてから引き裂こう。
そう少女は決意する。そしてあの男もこのままでは済まさない。
生きている限り勝負は続いている。最後に勝利するのは自分しかいないのだ。
そうだ、呪いをかけてやろう。とびっきりの呪いを。
私が勝利するための呪いを。
その為にもう一人のあたしには囮になってもらうのが良い。
彼女の思考は急速に活性化していく。
自分を有利にする、それだけに特化した思考。
それは悪魔の計画を生み出した。
「待って」
男を呼び止める。
ハッサンは走り出そうとした矢先だったが、特に警戒した様子もなく足を止めた。
「どうした?」
「話したいことがあるの…実は、あたしはこのゲームの参加者じゃないわ」
ハッサンの目が驚愕に見開かれる。
「んなっ!?」
「あたしはオリジナルのアリーナから分裂したコピーといえる存在。
あたしと全く同じ外見をしたオリジナルが本当の参加者よ。
最も、首輪までコピーされてしまった以上、あたしも他の参加者と変わりはないけどね」
ここまでは真実だ。男は疑った様子もなく絶句したまま聞いている。
「オリジナルのアリーナはとびっきりの邪悪よ。
そう、あたし以上のね。ミネアもまた彼女に最後まで仲間と騙され続けていたのよ」
「そ、そんな筈はねえ!ミネアさんが騙されていたなんて…」
「それができる人なのよ。本当のアリーナは。
世界を救ったのだって彼女の国が世界の覇権を握るためにしたことだしね。
彼女は慎重で狡猾よ。あたしみたいに正面から襲うのではなくて
必ず標的に取り入ってから絶妙のタイミングで裏切るわ。
あたしはあなたに説得されて目が覚めた。ミネアを手にかけた事を心から後悔しているわ。
そうさせてくれたあなたに彼女の毒牙に掛かって欲しくない。だから気をつけて。
多分、彼女がこのゲームの参加者の中で最も危険な存在だわ」
ハッサンは黙って考え込んでいる。
もう少しだ。もう少しで呪える。あと、一押し。
「今、彼女に騙されているのはあなたの仲間かも知れないわよ」
ハッサンはハッとして顔を上げた。ギシリ、と歯を食いしばる。
「あんたと区別をつける方法は?」
呪った。
少女は胸中で唇の端を吊り上げた。
「いいえ。あたしと彼女の外見は全く同じよ。
見分けるのは難しいと思う」
「そうか、目印をつけておいて良かったな」
その言葉に少女はいぶかしむ。
『目印?』
彼女は気付かなかった。自分のお尻につけられたあるアクセサリー。
ミネアのザックに入っていた悪魔のしっぽ、というアイテムの存在を。
「心配してくれてありがとよ。それじゃあ行くぜ。
ゆっくり養生しな」
『冗談。そんなことできる状況だと本気で思ってるのかしら』
そしてハッサンは今度こそ走り去っていく。
ハッサンもまた気付かなかった。少女の高速攻撃の正体。
皆伝の証、というアイテムの存在に。
ハッサンの姿が見えなくなりしばらくして、少女は身を起こそうとした。
途端に激痛が走り、すぐに断念する。
『あの筋肉ダルマッ!こんな状態で襲われたらひとたまりもないじゃない!』
しかしどうしようもない。少女は諦め、眠りにつくことにした。
目が覚めた頃には動けるようになっているかもしれない。
大丈夫。私は今日、生まれたばかり。生まれたばかりの命は神様に祝福されるんだって
ちょっと顔がおぼろげだけどあの頼りない若い神官は言っていた。
ならばあたしも祝福されているはずだ。次に目が覚めたときには…あたしは…
そうして少女の意識は闇の中に沈んでいった。
自らに自我が芽生え始めたことに気付かずに。
…そして、絶望の朝が来る。
【ハッサンはその場にあったアイテムを悪魔の尻尾と皆伝の証以外回収しました】
【アリーナ2はオリジナルと自分の区別がついていませんでしたが
今はだんだんとオリジナルより自分の優先順位が高まってきています】
【ハッサン(HP 2/5程度) 所持品:E神秘の鎧(半壊) E奇跡の剣 爆発の指輪
いばらの冠 嘆きの盾 グリンガムの鞭
第一行動方針:アリアハンへ行く
第二行動方針:オリジナルアリーナと仲間を探す
最終行動方針:仲間を募り、脱出】
【現在位置:いざないの洞窟西の山岳地帯→寄り道せずにアリアハンへ】
【アリーナ2(分身) (HP 1/10程度) 所持品:E皆伝の証 E悪魔の尻尾】
第一行動方針:睡眠
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する
【現在地:いざないの洞窟西の山岳地帯】
――あの戦いから八時間ほどが過ぎた。
僕は今、アリアハンの武器防具屋にいる。
傷ついた僕達を見つけてくれたのは、テリー君とトンヌラというモンスターだったらしい。
……『らしい』というのは、その時僕は気を失っていたから、詳しい事がわからないのだ。
ただギードさんが僕を運び、テリー君が何かを喋っていたことは何となく覚えている。
やがて完全に意識を取り戻した時は、僕はもう武器防具屋の中に……
正確に言うなら、ギードさんとロザリーさんが作った救護用結界の中に運び込まれていた。
そして、そこで――リディアの死を伝えられた。
結界の中には、僕らとロザリーさんたち以外に四人の男女がいた。
誰もがひどく傷ついていて、ここで行われた戦闘の激しさをどんな言葉よりも雄弁に語っていた。
四人のうち、金髪の剣士――サイファーは僕達を睨みつけ、こう叫んだ。
「あのクソ野郎をみすみす逃したどころか、回復までしたんだってな!
……何考えてるんだテメェ等は! 甘ちゃんなのも大概にしやがれ!
セリスとクラウドとパウロにどう顔向けするつもりだ、ああ?!」
セリス。クラウド。パウロ。
犠牲になった人。ヤツを倒すために命を散らせた人。
僕らがしてしまったことは、彼らの死を踏みにじる以外の何者でもない……
それなのに……僕に出来たのは「すまない」と頭を下げることだけで。
あの男を助けてしまった事。
魔道士の女性を止められなかったこと。
リディアを死なせてしまったこと。
銀髪の人間は危険だというアルガスの忠告を真摯に受け止めていれば、きっとどれも防げていたのに。
彼の言い方が少しだけ気に食わなかった――そんな些細な事で、話半分に聞いてしまっていた。
いくら頭を下げたって、どれほどの言葉を尽くしたところで……許されるはずも無い。
僕の犯してしまった過ちは、あまりにも大きすぎた。
それでも――リノアとジタンは、僕達にこう言ってくれた。
「過ぎたことは仕方ないだろ。
だいたい悪気があってやったわけじゃない。
こいつらだって、リディアって子だって、セフィロスって奴の被害者なんだ」
「二人とも私たちを助けようとしてくれたんでしょ?
謝ったりしなくていいから、今は早く傷を治す事を考えよう? ね?」
リュカさんとロザリーさんは言ってくれた。
「結果はどうあれ、君たちの志そのものが間違っていたわけじゃない。
この戦場で人を助けようとする勇気を、捨てないでくれ」
「あなた方を危険な目に合わせてしまったのは、私のせいです……
頭を下げなくてはならないとすれば、それは私のほうですわ」
そして――最後に、サイファーが言ってくれた。
「ったく、どいつもこいつも甘ちゃんばかりだな。
まぁいい………お前らのせいでセフィロスは生き延びちまったんだ。
その落とし前はきっちり着けてもらうぜ」
彼は、そう言ってくれたのだけれど……
罪悪感で一杯だった僕の頭は、言葉の意味を理解する事さえできなかった。
多分、間抜けに首を傾げていた――そんな僕に、彼は一振りの剣を差し出す。
「自称勇者のガキが使っていた剣だ。
下らない玩具やナマクラ刀よりかは、数倍役に立つだろ」
「どうして……僕に?」
ここまで言ってもわからないのか、と彼は呆れるようにため息をついた。
見かねたリノアが、苦笑しながら説明を挟む。
「サイファーはね。これから先、セフィロスとクジャを倒すのに協力してくれって言いたいのよ。
私たち四人だけじゃ、戦力的に不安なところもあるしね。
……ホント、もう少し素直に言えばいいのに。そういうところは相変わらず子供なんだから」
僕はサイファーを振り返った。彼はつまらなそうに鼻を鳴らし、呟いた。
「ガキで悪かったな」と、小さな声で。
でも、みんなしっかり聞こえていたようで、どこからともなくクスクスという笑い声がこぼれた。
その後――といっても、数時間後の話だ――ある程度傷が塞がったところで、僕も他の人の治療の手伝いを始めた。
あの、ホーリーという魔法を喰らった時は、もうダメかと思ったけれど……
僕達の時は、何故かそれほど威力を発揮しなかったようだ。
ギードさん曰く、本来効果範囲の狭い魔法を無理に全体化したから
効果が不安定になっていたのではないか、ということらしい。
直後に、サイファーとジタンから同じ魔法が城を丸ごと吹き飛ばしたのだという話を聞いて、背筋が寒くなった。
僕はよっぽど運が良かったのだろう。
「今、こうして生きてるって事が信じられないよ」
僕が呟くと、ジタンも「奇遇だな、俺もだ」と笑った。
その表情が寂しく見えたのは……決して、僕の気のせいなどではなかった。
話を聞けばもう一人の襲撃者――クジャにも、三人もの仲間が殺されてしまったらしい。
テリー君の友人でリュカさんの子供、レックス君。
リノアとジタンの仲間だった青年、キーファ。
それからリュカさんと一緒に行動していた猫(?)のケット・シー。
彼らのことを一通り話し終わった後、ジタンはぽつりと呟いた。
「俺はクジャを止めたい。……止めなきゃいけないんだ」
「止めなきゃ……いけない?」
その言い方が気に掛かって、思わずおうむ返しに言ってしまう。
ジタンはひどく思い詰めた顔でうなずいた。
「ああ……俺も一度、あいつを助けてしまったからな」
「え?」
「サイファーじゃないけど、落とし前はキッチリつけるべきだろ?
だから俺が……俺がクジャを止めなきゃいけないんだ」
僕は何と言えばいいのかわからなかった。
そのせいで何となく気まずい沈黙が流れ……やがて、ジタンが無理矢理な作り笑いを浮かべて言った。
「ま、今日はとりあえず休んでおこうぜ。
クジャもセフィロスってヤツも、しばらくの間はこっちに戻ってこないだろ。
あんただって怪我人なんだし、いくら結界の力があったってゆっくり休まないと疲れちまうぜ?
ほらほら、さっさと寝た寝た。当面は俺が見張ってるからさ」
笑いが止まらない。
口ごたえした結果、こうなるとは。
なんだそのざまは。
受け止めてくれる人がいるのではなかったのか?
全てのものはいずれは滅ぶ。
なのに、大切なのは結果ではないと言った。
では、このざまは何なのだ?
「アーヒャッヒャッヒャッヒャヒャ、アーヒャッヒャッヒャ」
ケフカは放送が「セリス」の名を告げた瞬間、辺りに人の気配がしないのを確認して、笑った。
笑わずにはいられなかった。
可笑しいとしか言いようがなかった。
しかし、その一方で「レオ」の名前が呼ばれなかったことに多少腹が立った。
放送はケフカが笑っている間にも流れ続ける。
ケフカは扉に関する放送を聞いて、どうも腑に落ちないことを感じた。
それは、『次の舞台への扉』と魔女が呼んだものは、十個程度しかできないということである。
つまり、単純計算で一箇所につき九人が通るということになる。
そうなると次の舞台ではいきなり出発点で大勢と鉢合わせることになるのではないのか。
これはどういうことだろうと。
主催者としては、大勢が集まるという事態をできるだけ避けるはずではないか。
――そうして僕は眠りにつき、夜が明けた。
大きな揺れに目を覚ませば、聞こえてきたのは魔女の声。
セリス、クラウド、レックス、キーファ、パウロ、ケット・シー、リディア……
このアリアハンという小さな町で散っていった人々の名前が読み上げられる。
それから――何故か、ミレーユの名前も、あった。
横を見れば、ジタンが険しい表情で虚空を睨んでいる。
リノアは誰かの名前を呼び、サイファーは壁を叩きつけている。
リュカさんは泣いているかのように、ロザリーさんは祈るかのように目を閉じている。
僕は――呆然と天井を見上げた。頭の中で、ミレーユとの思い出が走馬灯のように浮かんでいた。
「お主の……知り合いがいたのか?」
ギードさんの問いに、僕はうなずいた。
「元の世界での仲間です。強くて、優しくて――素敵な女性でした」
「そうか……」
ギードさんは僕と同じように天を仰ぎ、ややあって目を伏せる。それから、ゆっくり扉の方に歩き出した。
「どこか行くんですか?」
「うむ……ルカが心配じゃ。放送で名が呼ばれぬとはいえ、誰も戻ってこなければ不安になるじゃろ。
それに……リュカ殿とロザリー殿に頼まれたしの」
「頼まれた?」
僕が首を傾げていると、ギードさんは扉の方を指差す。
目をやると、そこにはテリー君とトンヌラが立っていた。
「この子達を、危険な戦いに巻き込むわけにはいかんからの。
それにルカの友人でもあるし、ワシがナジミの塔まで連れて行くことになったんじゃ」
「オレだって……オレだって、本当は兄ちゃん達と一緒に行きたいんだ!
でも、ロザリー姉ちゃんは結界を張ったりできるけど……オレは何も出来ない。
足手まといにしかならないってわかるから……だから……」
テリー君は拳を握り締め、唇を噛みしめる。僕は彼の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫……僕に任せてくれ。君の分まで戦って、みんなの仇を取ってみせるよ」
テリー君は涙を見せまいとするかのように帽子を目深にかぶりなおしながら、小さくうなずいた。
「ここに戻ってくる時間はないようじゃ。じゃから、再会できるまでワシらは首輪について調べておく。
……死ぬなよ、イザ」
僕がうなずいたのを確かめて、ギードさんはテリー君たちを背に乗せる。
三人の姿は、あっという間に崩れた街の向こうに消えていった。
【ギード 所持品:首輪、不明
第一行動方針:ルカ達と合流 第二行動方針:首輪の研究】
【テリー(DQM)(若干精神不安定気味) 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
第一行動方針:ルカ達と合流 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ 行動方針:テリー達についていく】
【現在地:アリアハン城下町→ナジミの塔へ移動中】
【イザ(HP2/3程度) 所持品:ルビスの剣、エクスカリパー、マサムネブレード
基本行動方針:同志を集め、ゲームを脱出】
【リュカ(HP4/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【サイファー(右足軽傷) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ジタン(HP2/3程度、右足軽傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
基本行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(HP2/3程度) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
基本行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
基本行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【第一行動方針(共通):旅の扉を探す 第二行動方針(共通):セフィロスとクジャを倒す】
【現在地:アリアハン城下町・武器防具屋の結界内部】
*ギードとロザリーが作り直した結界は、内部にいる者全員にリジェネの効果があります。
ただし防御力は前の結界より数段落ち、ステータス上昇効果もありません。
ケフカは少し考えて納得する。
そういえば、この殺し合いが始まるときも、出発点は同じであった。
ということは、時間によって辿り着く先はランダムということなのか、と。
――このことを利用しない手はない
ケフカの顔からまた笑みがこぼれた。
放送の後、朝日が地平線の木の影から姿を現す。
そして辺りの暗闇が漸く晴れてきた。
「レオしょうぐん、この朝日をお前の見る最後にしてあげましょう」
彼の恨みは深い。
朝日によって消え失せた夜の暗闇よりも。
昨日顔に受けた痛み。
そう、顔の傷は消えても、恨みは消えないのである。
ここで、何を思ったのかケフカは参加者名簿をザックの中からおもむろに取り出した。
そして、名簿の白紙のページを破り取り、十枚の切れ端をつくる。
同様にレオのページも破りとった。
破った紙を片手に、ケフカは笑いながら自分の尖った爪で指先に傷をつけた。
指先から真っ赤な血が流れ落ちる。
そしてその血を使って、白紙の紙切れに「キンパツニキヲツケロ」と一枚ずつ書き込む。
レオのページもまた顔写真を血で丸で囲み、白紙のほうとは違う筆跡で「キヲツケロ」となぞってゆく。
いったい彼は何をしているのだろうか?
ケフカの算段はこうである。
次の舞台への扉に、これらの紙を投げ込む。
そうすれば、広範囲に渡ってこの紙を散りばめることができる。
こうして、デマの蔓延を次の舞台で完成させるのだ。
後は、誰かがレオの紙に気づけばいい。
誰かがレオを殺してくれるのを待つのみだ。
言い換えれば、この紙を投げ込むことでレオへの『死の宣告』は完成するということになる。
(僕ちんが直接手を下すなんて、簡単!そう簡単だ!
所詮カス以下の存在だからなのだ!!
昨日は油断したけれど、体に微かに眠っているすーばらしい三闘神の力をちゃんと引き出せば、必ず殺せるのです。
でも、カスなんかを殺して敵をつくるのは避けたほうがいい。
強大な力を持っていても大勢で卑怯にかかってきたら負ける事だってあったってことは、よくわかってるのです。
だから、
だからこそ!僕ちんはまだ一人も殺していないのだ。
殺してないことでくだらない!実にくだらない『信用』というものを利用させてもらいます。
僕ちんが手を下すのは事態が混乱してから。
そうです、混乱してからですよ!
それまでは、僕ちんは隠れていろいろとやらせてもらいましょう。)
ケフカは扉を求め、東の山脈に向かって歩き出す。
怪しい笑みを浮かべ、目を光らせながら。
【ケフカ 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール 紙切れ10枚+破りとったレオのページ
第一行動方針:紙切れを旅の扉に投げ入れる 第二行動方針:できるだけ多くの人にデマを流す 最終行動方針:ゲームに乗る】
【現在位置:レーベ東部】
レーベでの宴から、何時間が経っただろうか。
遂に夜が明けた。
勿論放送は聞いた。
マリアという名が出たその瞬間に、彼の顔には微笑が生まれていた。
自分が壊したのだから、名を連ねたのは当然だ。彼女の最期の姿を思い出す。
しかしそれ以上に興味ある事があった。
それは、あのレックスの死だ。
思い出してみれば、この地に呼ばれる前に何度も会った事がある。
剣術の才能に溢れ、妹のタバサとも仲がよく、そしてあの目がリュカとビアンカに似ていた。
そんなレックスが死んだのだ。恐らくは修羅場を潜り抜けることに失敗したか。
――しかしどうやらタバサの方は死んでいないようだ。
それにリュカもビアンカも…そして何故かこの地にいるパパスの方も。
「そしてメインディッシュも死んでいない……幸運だな。そう思うだろう?ヘンリー」
そう呟くと、デールは笑った。
哄笑していた。朝というには不自然すぎることこの上ない、が。
今一番壊したいと思っているヘンリーと小娘が死んでいない事に大きな喜びを感じたから。
だから彼は笑うのだ。素直に、またもや起こる感情の昂りを覚えて。
その姿は魔界に生きるモノにも似ていたし、
ソレにも似つかない恐ろしいモノにも見えただろう。
そして今度は思慮深く考えることにした。
これからの方針に付いてだ。大切なことである。
ヘンリーと小娘を殺すのは当然として、その後の方針のこともある。
まずは銃弾を奪わなければ話にもならないだろうし、潜伏や襲撃のタイミングもある。
とりあえず、次の世界への扉とやらに行くのが正解か。
この世界の技術力では無理でも、次の世界とやらでは大丈夫かもしれない。
この近くで出現する扉……レーベか。またはその南の森。
暫く迷った後、彼は東へと歩き出した。
レーベの村で扉を探すことにしたのだ。
「次こそは必ず……」
彼の瞳には、また殺意が宿っていた。
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/3)、アラームピアス(対人)、
ひそひ草、アポカリプス+マテリア(かいふく) リフレクトリング
第一行動方針:レーベの村の扉を探す 第二行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在位置:レーベの西の山間部付近→レーベの村へと移動中】
ミッドガルの七番街スラムで経営していたBAR「セブンスヘブン」。
そこに置いてあった骨董屋から手に入れたジュークボックス。
デザインが気に入って、お値段もお手頃で、思わず視聴もせずに購入してしまったオンボロボックス。
17曲入りでお気に入りの曲は最後の方なんだけど最初は必ず一曲目の途中で最初に戻っちゃう。
何度も何度も一曲目の頭から繰り返す。そんな時は軽く蹴ってやると直るのだ。
なんとなくそんなことを思い出した。
あのジュークボックスは蹴っ飛ばして直ったけれど、今回のこれはどうやったら直るのだろう。
「夜が明けた。定刻だ…夜の闇に魂を彷徨わせた者達の名を告げる。
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」
「ラグナ」「エーコ」「マリア」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」…」
「夜が明けた。定刻だ…………リス」「クラウド」…」
「夜が明け…………クラウド…」
「夜が…………クラ…」
何度も何度も繰り返す。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…。
心という名の盤に現実という針が突き立てられる。心が擦り切れるほどに。
壊れるまで繰り返し続けて、やっとその音は止まってくれた。
「ああああァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
何も聞こえない。当然だ、壊れているのだから。何も聞こえる筈はない。
私自身の悲鳴でさえも…私には聞こえない。
「うああああああああああ」
愛していた。私の幼馴染。強がりで、でも弱さを隠せなくて。
弱くて、でもとっても強い人。愛していたのだ。
「あああッあああアアアあああ」
愛してくれた。臆病で本当のことを言い出せなかった自分。
強気に、懸命に偽っていた自分。そんな私を受け入れてくれた。
「アアアアアアアアアアアアアアア」
エアリスを殺した私。それを隠そうと、見ていた少女に銃を向けた私。
炎に炙られ、醜く爛れた私。
でもクラウド。私治ったよ?キレイな顔に戻れたんだよ?
それなのに、何で。何でよ!
エアリスなの?私に殺されたから、それでクラウドを連れていっちゃったの?
そんなのズルイよ。あなたは死んでたのに。
あなたを殺したのはセフィロスだったのに。
あなたもセフィロスも死んで、私とクラウドは幸せになれるはずだったのに。
なのに何であなたが生きてるのよ?
一瞬、思考が止まる。
……どうしてだろう。死んだはずのエアリス。死んだはずのセフィロス。
何だか羽虫がうるさい。
……今考エ事しテるんだから邪魔しなイデ……
魔女アルティミシア。あの魔女も死んだはずだと誰かが言っていた。
羽虫が耳元で怒鳴っている。
……うルさイ。
それなのに彼女達は蘇っている。
羽虫が私の肩を掴んで揺さぶる。
……ヤメテ。
そうしたのは、魔女の仕業?あの魔女の魔力が自らと死者を蘇生させた?
三匹の羽虫が私を取り囲む。
……黙レ。
だったら、だったらクラウドも生きられるはずじゃない。
アルティミシアの力ならそれができるはずじゃない。
アルティミシア様なら私のクラウドを助けてくれる。
アルティミシア様にあってクラウドを生き返らせて貰おう。
『今日は貴様等に殺し合いをしてもらう。逆らうことは許されない』
――ワカリマシタ、アルティミシアサマ――
『想以上に良いペースだな。その調子で裏切りと殺戮を繰り返すが良い』
――ワカリマシタ、アルティミシアサマ――
『隣にいる者を殺さなくては、いずれ殺される事になるということを…忘れぬようにな』
――ワカリマシタ、アルティミシアサマ――
『…期待しておこう。次の放送時間には、貴様の殺めた者の名を読み上げられる事をな…』
――ワカリマシタ、アルティミシアサマ――
――ナンデモイウコトヲキキマス。ダカラ、クラウドヲタスケテクダサイ――
覚醒する。
目の前には三人の男女。
ああ、あなたたちだったの。さっきからうるさかったのは。
羽虫だなんて思っててごめんなさいね。
ちょうど良かったわ。ああ、本当にちょうど良かった。
アルティミシア様の為に――『クラウドノ為ニ』――(ワタシノタメニ)――
死ンデチョウダイ
そして…手元から響き渡った銃声を彼女は人事のように聞いていた。
【ティファ 所持品:コルトガバメント(予備弾倉×5)、エアナイフ
第一行動方針:目に映るものを全て殺す 基本行動方針:魔女にクラウドの蘇生を乞う】
【現在位置:東山脈中央部の森・川辺付近】
俺はまた守れなかった。
離れるべきではなかったのに。
俺は……俺は同じ事を………
また…守ってやれなかった………
ロックの目から涙が溢れ出す。
俺はレイチェルを守れなかった。
そして、セリスも守れなかったんだ。
辺りが霞んで見える。
この世の全てが絶望に覆われたように感じる。
心の底で危惧していたことは現実になった。
ギルガメッシュが俺の異変に気づいたのか、声をかけ続けているように見える。
「ダイジョウブカ!?モシカシテオマエノシリアイガ…」
何を言っているのかがよくわからない。
わからない。
言葉が意味を持ってないみたいだ。
いや、単に俺が理解しようとしていないだけか。
太陽の光が美しく大地を照りつけている。
絶望というのはこれほどまで、目に映る光景を綺麗にするものなのだろうか。
そして俺は今、フリオニールと同じ顔をしているのだろう。
ああ、きっとそうに違いない。
(俺は…
そう…俺は…………)
ギルガメッシュが俺に何度も問いかけてくるのが見える。
その視界の隅で、レオンハルトがギルガメッシュに黙っておいてやれと諭しているのが目に映る。
「俺は…」
誰かがまた声を出したのだろうか。
…いや、今の声は俺自身が出したもの…だ。
俺は自分が声を出したという事実に驚いた。
まるで俺とは別の人間が話しているようで。
「俺は……俺は探さなければ…いけな……い。決して手を…離さ…ないって約束したから…」
(そう…か、そう…だ…
俺は…セリスを……離さないと…決めたんだ…
…そうか…セリスの………………死体を…探さなきゃ……
生き返らせなきゃ…
レイチェルの…ように例えわずか…な時間でも…)
ロックはうつろな顔で自分の荷物をおもむろに纏めてゆく。
「おい、お前は腐ったパンのようなこのゲームを破壊するって言っただろ!!」
無表情のロックを見て、ギルガメッシュが耐え切れず叫んだ。
「ああ…そう…俺はこのゲームをぶち壊す…つもり……………だった」
ロックはギルガメッシュに背を向けながら微かな声で答える。
「何だよ、オイ!知り合いが死んだのは別にお前だけじゃ――」
待て、とレオンハルトはギルガメッシュの言葉を遮る。
「…そうだな、俺達はそのままギルガメッシュについていく事にしよう。
あんたは好きなことをしたらいい。
腑抜け野郎はフリオニールだけで十分だ。二人もいらない。
かえって一緒にいられたら迷惑だ。
後追いでもなんでも勝手にしてくれ」
レオンハルトは突き放したように言い放つ。
「おい、それはちょっと言い過ぎ――」
ギルガメッシュの言葉を今度はロックが遮る。
「…そう…だな。俺は…今は戦えそうにも…ない。
約束したのに…悪かった…」
ロックは荷物を纏め終わり、一人立ち去ろうとする。
当てもないが、セリスがどこにいるのかは今なら分かる気がしていた。
その去り行くロックにレオンハルトは呼びかけた。
「心の整理がついたら、また会おう」
「……ありがとう」
ところで一方、気絶していたフリオニールは先程の放送で意識を少し取り戻していた。
そして闇の中で聞こえた「マリア」という名前に心を大きく揺さぶられていた。
(…マリアは、また殺されてしまった…のか?
……魔女…に?)
「うわぁぁああぁああああああああ!!!!!!!!!!!!」
ロックが立ち去った後、辺り一帯に大声が響き渡ることになる。
【レオンハルト(負傷) 所持品:消え去り草 ロングソード
第一行動方針:ギルガメッシュについていく 第二行動方針:ゲームの消滅】
【現在位置:レーベ西の平原】
【フリオニール(感情半喪失) 所持品:銅の剣
第一行動方針:叫ぶ】
【ギルガメッシュ 所持品:厚底サンダル 種子島銃
第一行動方針:サリィとわるぼうの所へ 第二行動方針:剣が鍛えあげられるのを待つ】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
第一行動方針:セリスの死体を捜す 最終行動方針:?】
【現在位置:レーベ北の平原】
320 :
修正:05/03/11 21:00:00 ID:NE4VewB2
>>319 現在位置はレーベ北の平原です
レオンハルトの下のものは無視してください
朝。
レーベの村の入り口で、ある意味死にそうになっている人間が2人いた。
そう、ローグとバッツだ。
「あ〜…疲れた……バッツ、お疲れ」
「俺たちの仲間が放送で呼ばれることも無かったし…ラッキーだったな……」
「ああ、そうだな………でも、これは有りだと思うか?」
「……………無しだろ」
やっと辿り着いたというのに、2人の目の前に広がるのは瓦礫くらい。
凄惨な状況だ。まぁ奥はまだマシらしいが。
「火事でも起こったのか?」
「…だと、思うけどな……」
「人もいないみたいだし……もしかして、無駄足?」
「いや、それはねぇだろ………俺の仲間がいた」
「な、本当か!?」
バッツがキョロキョロと辺りを見回す。
そしてローグがある一点を指差して、やっと気づいた。
「おお、本当にラッキーだな!接触しようぜ!」
「いや、ちょっと待てバッツ!確かに俺の仲間だが…」
「あ………そうだよなぁ…殺し合いに乗ってるかもしれないよな」
「まぁでも…様子を見ながら近づくか……いざとなったら逃げるぞ」
寝転んでいた2人は、静かに起き上がって近づいていった。
一方、民家前。
そこにアルスは一人立っていた。
「”…そして彼女の部屋の鍵を、後ろ手に閉めた。
『ど…どうしたの?そんな顔をして……』
何か嫌な予感が過ぎっているのか、声が震えている。
それを見て、溜息をつきながら彼はこう言った。”」
何かの本を真剣に音読している。
見張りはどうしたのだろうか。
「”『すまない。もう俺の欲望は止められないんだ!』
『な…何を言ってるの!?やめてギルダーさん!大声を出すわよ!』
『それでもかまわない!…貴女のその甘美な声が聞けるなら……幸せだ』
そしてギルダーは恐怖の表情を浮かべる彼女の服に、獣の如く手をかけ―――”
―――くだらないな。展開が唐突過ぎるわ男の名前が不吉過ぎるわで……はぁ…」
官能小説のようだ。しかもダメ出しまでしている。
それでいいのかお前は。勇者だろ?勇者なんだろ?
「まぁ…こんな民家から取ってきたんだから贅沢は言えな……って、誰だ?あれは」
しかしそんなアルスだが、何かの異変に気が付いた様だ。
奇妙な構図の中でも注意力を棄てないのは、流石は勇者といった所か。
見ると2人の人間がまっすぐこちらに向かっている。
建物に隠れるなどといった行動は起こしていない、敵意は無いのだろうか。
しかし不用意に近づくわけにも行かない。さて…どうするか。
そこまで考えて、アルスは窓を叩いた。シドを呼ぶためだ。
「シド、どうやら客人のようだ!………おい、シド!…シド!……シド?」
窓から覗くと、落胆している姿が見えた。
成程、恐らくさっきの放送か…知り合いがまた殺されたのか。
アルスは呼びかけるのを止め、静かに近づいてくる2人を見ていた。
「………ローグ?ローグか?誰か一緒にいるな…」
ようやくアルスも、近づいてくる人間が誰なのかがわかったらしい。
しかし油断はできない。金髪の男のようにゲームに乗っているかもしれない。
そんな嫌な考えが過ぎるのも嫌な話だが、仕方が無い。
とりあえずは相手が近づいてきたら行動を起こそうと、アルスは様子を見た。
しばらくして、2人はアルスの目の前で止まった。
睨み合うアルスとローグ、そして手持ち無沙汰にも似た感覚を感じるバッツ。
暫くしたところで、アルスが口を開いた。
「敵意が無いという証拠が欲しい。その袋を落とすように置いてくれ」
「………OK。俺もそうさせるだろうな」
「…これで、いいのか?」
バッツとローグが支給品袋を足元に置くと、アルスは溜息をついた。
そして静かに座り、こう言った。
「すまない、気が立っているからな……悪かった」
「いや、普通だろ。こんな状況滅多にない……久しぶりだな、アルス」
「…ああ、久しぶり。で、ローグ…隣の奴は誰だ?」
「こいつはバッツだ。なかなかのやり手だぜ」
「お前がアルスだな。ローグも言ってたが、バッツだ。宜しく」
「宜しく」
そして3人は、自分たちの周りで起こったことを話した。
大切な人間が死んだこと、そして今からどうするつもりなのかということ。
因みに「ここに人はいるのか」「首輪の呪いを解く魔法を知らないか」という2人の問いに、アルスは横に首を振った。
「とりあえずはシドと共に次の世界へ行くことを目標にしたい。そしてギルダーと言う奴を探して、場合によっては斬る」
「そうか。じゃあ俺たちはお前と一緒に行動しないほうが良いな。俺たちが邪魔になりそうだ」
「すまないな。お詫びといってはアレだけど、このダーツをあげよう。
僕はこういうのは得意ではないし、お前くらい器用なら武器にもなるだろうしな」
ダーツの矢を貰って、ローグは黙った。
そして今度はバッツが問いかける。
「その…ローグは俺と行動してるからアレだけどな、他の仲間が一緒に行動してたらどうするんだ?」
「それでも必要であれば斬るし、自分から手を組んでいたのだとしたら……仲間ですら僕は斬ろう」
バッツは、アルスの意志の強さに負けたようだ。
止めるということはせず、ただ短く相槌を打った。
「だけど…見誤るなよ。お前の仲間ってのも、そのギルダーって奴も、今とこれからの事をどう思っているのかが重要だ。
俺にも、かつて敵だったけど…最期に俺たちを守ってくれた誇れる仲間ができたんだ……ま、何故か今いるけど」
「その誇れる仲間とやらは……昔は人殺しだったりしたのか?」
「……え?」
「人殺しだったのか?遺された人が悲しむ事を知っていても、他人を殺せる様な奴だったのか?」
「………それは…」
「…いや、いい。悪かった……言うとおり気をつけよう。忠告有難う」
そういうと、アルスはある一点を指差した。
「あそこのレーベ中央部…そこに扉はある。先程開いたのを確認した」
「あ、本当だな。疲れてて気づかなかった。注意不足だな…」
「色々とありがとうな。俺たちは先に行くぜ」
「そうか、また会おう…ローグ、バッツ」
「ああ………死ぬなよ。あ、セージとフルートに会ったら宜しく言っといてくれ」
「勿論だ。お前も死ぬなよ?……じゃあな」
そしてバッツとローグは、レーベの村の中央部へと歩いていった。
―――村は意外と狭い。すぐに扉の目と鼻の先に来た。
「なぁ」
「…なんだ?」
「あれで、良かったのかよ」
バッツが不意にローグに尋ねた。
ローグは静かに首を振った……横にだ。
「そんな訳あるか…アイツが、アイツがセージやフルートを斬るところなんて見たくも無い」
「………じゃあ」
「止めねぇよ。あいつ、頑固な所あるし…無駄だ」
「だけどよ!」
「それに…俺の仲間がそんな奴と手を組んでるなんて、ありえねぇよ。
乱暴で怒るかもしれないけど…バッツ、お前の仲間のほうが心配なんだよ」
俯いて、ローグは逆にバッツに尋ねた。
バッツの仲間も良い奴なんだろうと思う。だが、アルスはそれでも斬るつもりでいるのだ。
それにローグはバッツの仲間に会ったことが無いし、どうしても不安があったのだ。
「大丈夫だ。俺はそんなことで怒らない。そんでもって、仲間も大丈夫だ。
後……もしアルスが襲い掛かることがあっても…俺が守ってやれば良いだけだ」
「ははは、そこまで悪者にされちゃ…アイツの方が怒るか……」
「ああ、襲い掛かるとかは…言い過ぎたな」
2人が苦笑して、アルスの方を向いた。
それに気づいたのか、軽く片手を振っていた。
2人も手を振って返した。それを少しの時間だが、続ける。
「ま、そうだな!お前の前向きな答えでわかったよ!」
「ああ、俺たちは仲間たちと会わなきゃいけないんだ!後ろ向きに考えても仕方が無い!」
「そういう事だ!よっし行くぜ!!」
2人はそのまま、旅の扉へと入っていった。
そして青い光に包まれ、異世界へと運ばれていった―――――。
「行った…か」
『だけど…見誤るなよ。お前の仲間ってのも、そのギルダーって奴も、今何を思っているのかが重要だ』
バッツの言葉が嫌にアルスの頭に響く。過去の自分が語りかけているようにも錯覚する。
「未来を見据える…か。そうだな、そうやって…俺は悪人を許したこともあった。
……でも、今は違う。こうでもしなきゃ駄目なんだ……そうじゃないと………」
頭では整理できていないことはわかっている。強がりにも似ていることは知っている。
けれどやらなければならないのだ。自分がやらないと、死人が増えるだけなのだ。
「でも僕は………殺したくなんかないんだ……!
父さん…母さん……皆……僕は……僕は………っ!」
【アルス 所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘
第一行動方針:葛藤 最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在位置:レーベの村の老人の家の外】
【バッツ 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式
第一行動方針:新フィールドへ 第二行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ローグ 所持品:銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド ダーツの矢(いくつか)
第一行動方針:新フィールドへ 最終行動方針:首輪を外す方法を探す】
>>326 『だけど…見誤るなよ。お前の仲間ってのも、そのギルダーって奴も、今何を思っているのかが重要だ』
バッツの言葉が嫌にアルスの頭に響く。過去の自分が語りかけているようにも錯覚する。
を
『だけど…見誤るなよ。お前の仲間ってのも、そのギルダーって奴も、今とこれからの事をどう思っているのかが重要だ』
バッツの言葉が嫌にアルスの頭に響く。過去の自分が語りかけているようにも錯覚する。
に脳内変換してください_| ̄|○
ゴゴとマティウス、この2人に出会って暫く経った。
この私アグリアスは生かされ、今はこの2人と行動を共にしている。
そしてレーベ南の森に扉が現れたと聞き、急いで東に向かっているのだ。
「しかし……何故私を助けたんだ?」
ふと、私は気になったことを尋ねてみた。
すると相手…ゴゴは何か迷っているようだった。表情はわからないが。
「俺は物真似師ゴゴ…物真似をして生きてきた……」
「いや、それはさっき聞いた」
「私はこのマティウスの物真似をしているだけ…詳しいことはこの男に尋ねるが良い」
流された。
とりあえずそれくらいのことは悟ることができた。
「ゴゴの代わりに答えるが…」
するとマティウスが話し出した。
これはありがたい。掴み所の無いゴゴよりは良い答えがもらえるかもしれない。
「貴様が実に興味深かったのだ。どこが興味深かった等、詳細は言うつもりは無いがな」
「……は?」
「故にこやつが代わりに助けに入った、それだけだ」
成程、私は興味だけで生かされたのか。
興味を持たれなかったら私は死んでいたのか。
………自分がそこまで強運だとは思わなかった。
と、ここまで考えを張り巡らせて気が付いたことがある。
それはこの至急品袋だ。すっかり忘れていた。
確かもう1つ何かが入っているはずだ。
私は2人に一旦足を止めて貰い、袋の中を確認した。
そして取り出したものを見て、ゴゴとマティウスが興味深そうに呟いた。
「おお……なんとも美しい…」
「では私もそう思う真似をしようか…」
中に入っていたのは、すらりとしたスマートな服。
説明書には「男性用スーツ上下セット(タークス印)」と書かれてあった。
「しかしその無駄を省いたスタイル……美しいすらりとしたフォルム…実に興味深い……」
マティウスは何故か感動している。興味深いとまで言った。
男性用なら私は着る事ができないし…ここまでいうならプレゼントにでもしよう。
「おお、真か。有難い……また機会があれば着用してみるとしよう………」
マティウスがこの服を着た姿を想像して、私は少し吹き出してしまった。
まぁその様子を本人に見られてしまい、すぐに笑みを堪えたが。
そしてまた淡々と東に向かった。
「ところで、だ」
しばらくしてマティウスが話しかけてきた。
私が短く返事をすると、彼は言った。
「我々はこれからゴゴと共に、次の世界でも一応は魔女討伐の為に行動するが……貴様はどうする?」
「そうだな…こちらはラムザも探したいし、いつかそちらとも道を違うかもしれないな……」
「いっそここで別れるか、それとも次の世界でも行動を共にするか……どちらにするのだ?」
「成程………」
さて困った。
確かに私と彼らは違う。互いの目的を達成しようとして双方が邪魔になる可能性は多い。
しかし今の私の実力では…奴にもかなわなかったのだ、恐らくこのままでは私は……。
「まぁ…我々はどちらでも良いのだが。貴様を迷惑とも思わぬしな」
マティウスが、こう続けた。
あちらに迷惑が掛からないのなら、共に行動をとってもいいかもしれない。
……ここで別れるか、共に行動するか。
迷った私は、一つ提案をすることにした。
「少し時間をくれ…扉が見つかるまでで良い」
「その間に答えを決めると…?」
「すまないな」
「いや、悪くはあるまい。思い切り迷うが良い」
そしてマティウスはくすりと笑みを零した。
このような状況でここまでの余裕……今私と話しているこの男は、なんて大きいのだ。
私は言葉に甘え、思い切り迷うことにした。
【マティウス 所持品:ブラッドソード 男性用スーツ(タークスの制服)
第一行動方針:アルティミシアを止める 第二行動方針:アグリアスの観察
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ 所持品:ミラクルシューズ ソードブレーカー
第一行動方針:マティウスの物真似をする】
【アグリアス 所持品:クロスクレイモア、ビームウィップ
第一行動方針:答えを決める 最終行動方針:生き延びる(意味合いが異なっているかもしれません)】
【現在位置:レーベ南西の山岳地帯→レーベ南の森に移動中】
>>330の
マティウスは何故か感動している。興味深いとまで言った。
男性用なら私は着る事ができないし…ここまでいうならプレゼントにでもしよう。
という文章を
マティウスは何故か感動している。興味深いとまで言った。
しかも仮面まで外してまじまじと見つめている。こんな一面もあったのか。
男性用なら私は着る事ができないし……ここまでするのならプレゼントにでもしよう。
と変更してください。
私が目を覚ましたのは、夜が明けるより少し前の事だった。
森の中にいた記憶がある。柔らかいベッドの中で寝ていたような気もする。
けれど……今いるここは、どちらでもない。
潮風の匂いがうっすらと漂う茂みの中で、私とビビ君は眠っていた。
驚いた私は、慌てて辺りを見回した。
見覚えのある銀髪の男性の姿を焚き火の傍に見つけ、ほっと息をつく。
だが、不安を完全に拭い去きれはしなかった。
なぜなら、知らない男の人が私の隣で眠っていたから。
そしてやはり見知らぬ人が二人、焚き火の近くで何か話していたから。
けれど、ピサロさんは彼らを警戒する様子もなく、暁の空を静かに眺め続けていた。
私は首を傾げながら、二人組に視線を戻した。
片方は私よりずっと年上の、緑髪の男性だ。
ごく普通の布の服を着ている……が、よく見れば上着以外のものは、それこそお城の方々が身に付けるような品ばかりだ。
そして片方は、ティーダさんと同じぐらいの年代の、若い男の人。
髪型と髪の色が、どことなくエアリスさんを思い出させる。
でも、ひどく元気がなさそうで……青ざめた顔を辛そうに歪めて、緑髪の人の話を聞いていた。
会話を聞く限り、どうやら二人はヘンリーさんとアーヴァインさんというらしい。
ヘンリーという名前には、何となく聞き覚えがあるけれど……やはり詳しくは思い出せない。
いったい、今までに何があったのだろう?
膨れ上がる疑問に、私は身を起こしてピサロさんに話し掛けようとした。
けれど……起き上がろうと手をついた時、突然、右腕に鈍い痛みが走る。
「……っ」
うめきながらうずくまった私に、アーヴァインさんがびっくりしたように駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫!? どこか痛いの?」
私が右腕を抑えながらうなずくと、彼はますます顔を蒼白にさせる。
「僕のせいだ……ごめん、今すぐ治すから」
そう言って、彼はそっと右手をかざした。
回復の魔法なのだろうか。
「ケアル」という掛け声と共に柔らかい緑の光が輝いて、それで、痛み自体はすぐに消える。
でも……ほんの一瞬だけ、嗅いだような気がした。
鉄錆びに似た、それでいて生臭い匂いを。
そして何故か彼の姿に重なって見えた。
血染めのマントに身を包んだ、残忍な光を瞳に宿す男の幻を――
「いやぁあああっ!」
――気が付けば、私は彼を突き飛ばしていた。
彼は目を見開いて、驚いたように私を見つめていた。
「あ……」
我に返り、自分が何をしたのかに気付いて、私は謝るつもりで口を開きかける。
ところが。
「ご……ごめん。ごめんな」
――そう言ったのは、彼の方だった。
「嫌に……決まってるよな。こんな…………から奪った魔法なんか使われても……
僕みたいな…………に近寄られるのだって……
ごめん、傷つけてばかりで……最低だ、僕は……」
自分を責めるように唇を噛みしめながら、アーヴァインさんは頭を下げ続ける。
私がおろおろしていると、背後から声が響いた。
「……あの、今度はどうしたんですか?」
目をこすりながら、隣で寝ていた男の人が二人を交互にを見やる。
「ああ、ソロ……起こしちまったか」
ヘンリーさんは複雑な表情で言った。
「いや、な。早く目が覚めちまったし、放送で知り合いの名前が呼ばれたら混乱するだろうと思ってよ。
こいつを起こして、今までの事情を説明したんだが……」
「ソロ……ごめん。本当にごめん……
散々迷惑かけといて、ひどい事しておいて、全部忘れたなんて……そんなんじゃ済まされないのにな。
バカだ。僕は。最低の大バカだよッ……ごめん。ごめんな、本当に」
向き直って土下座しだしたアーヴァインさんを見て、ソロと呼ばれた人はたじろぐ。
「い、いや……そんなに謝らなくていいよ。別にそこまで怒ってるわけじゃないからさ」
しかし、アーヴァインさんは首を横に振った。
「君が怒ってなくたって、僕がしてしまったことは変わらないだろ?
他にできることがあればいいけど、僕には……何も思い付かないから……
許してくれなくていい。でも、せめて……勝手かもしれないけど、謝らせてくれ……」
「………えーと」
ソロさんは『誰コレ? 何やったの?』とでも言いたげな表情で、ヘンリーさんを見る。
「言っとくけど、俺は現在の状況とこいつがやった事をそのまま説明しただけだからな?
それ以外のことは何もやってないからな」
「そ、そりゃそうでしょうけどね……」
ソロさんは困ったように頬を掻いた。
「えっと、とりあえず、君の気持ちはわかったけどさ……僕より先に、レナさん達に謝った方が……」
――レナさん?
誰のことだろう? 私が首を傾げていると、ピサロさんが言った。
「小娘達ならとうの昔に発ったぞ」
「――え?」
「お前の気持ちを踏みにじる真似はしたくないが、アーヴァインを許す事も当然出来ぬそうだ。
こんな男の傍になど、いつまでも居られないと言ってな。
エリアとかいったか……片割れの娘を起こして、話し合った末に二人で行った」
「俺が起きた時にはもういなかったぜ。
こいつも謝りたがったけどな……流石に追っかけるわけにはいかないだろ。
ま、あのお嬢さん達ならしっかりしてるし、二人でも上手くやっていくと思うぜ」
「そう、か……行ってしまったんだ……」
ソロさんは少しだけ悲しそうな表情でうなだれた。
東の空を見やったまま、ピサロさんは淡々と語る。
「小娘からの伝言だ。
『いつか泪を流さずに済む強さを身に付けることができたら、その時にもう一度会いたい』――とな。
ずいぶん一方的な約束だが……あの小娘なりの、決意というものなのだろう」
「そうか……」
ソロさんはピサロさんと同じように、ほの白く染まる空を見つめた。
――その人達が歩いているのだろうか。二人の視線の彼方で。
「……また、会えるといいな」
ソロさんがそう呟いた時だった。
夕暮れ時と同じように、大きな地震が起こり――あの恐ろしい魔女の姿が空に浮かび上がる。
『定刻だ。夜の闇に魂を彷徨わせた者達の名を告げる……』
冷酷な言葉と共に、次々と読み上げられていく名前。
そこには……あの、ミレーユさんの名前があった。
「エ、エーコが……!? ウソだ、そんなの!」
愕然としていた私の傍で、激しい揺れに飛び起きたビビ君が叫ぶ。
「天空の勇者が……あの子が死んだだと……? ふざけるな……!」
ヘンリーさんが歯軋りしながら魔女の幻影を睨みつける。
「ミネア……」
ソロさんは涙を堪えるように唇を噛みしめ、ピサロさんは静かに天上の幻影を見据える。
そして――
「ラグナ……ラグナ・レウァール……」と、ひどく虚ろな声でアーヴァインさんが呟いた。
「知り合いか?」
ヘンリーさんの言葉に、彼は首を縦に振る。
「友達のお父さんだ……ずっと会えなくて………つい最近、やっと……」
呟きの最後は、かすれて聞き取れない。でも、次に言った言葉は――はっきりと聞こえた。
「……僕が……殺したのか?」
一瞬、私は自分の耳を疑った。
けれど空耳などではない証拠に、「えっ?」とソロさんが声を上げる。
ビビ君も、ヘンリーさんも――ピサロさんでさえも彼を見つめる。
「……もしかしたら、僕が殺したのかもしれない。スコールを裏切って……
そうだ。きっと、そうだ……他の人たちも、きっと僕が殺したんだ……
あんたたちの仲間も、きっと……僕が、この手で……」
アーヴァインさんはゆっくりと自分の手に視線を落とし、震える声で呟いた。
まるで、その手が鮮血で濡れているかのように――そんな幻が見えているかのように。
ソロさんは慌てて、彼をなだめようと声をかける。
「ちょ、ちょっと待ってよ。君が殺したのは五人のはずだし、ラグナさんって人やミネアは……」
「そんなの、僕がそう言ったってだけだろ!? 本当に五人だけだって証拠はどこにもない!
僕が言わなかっただけで……僕が覚えてないだけかもしれないんだ!
現に、あんたたちまで殺そうとしてたんだろ? 罪の無い女の子を殺人者に仕立て上げたりしたんだろ!?
五人どころか、もっと――もっとたくさん殺してたっておかしくない!」
人殺し? 五人も殺した?
彼が? さっきから謝り続けているこの人が?
混乱する私を余所に、彼の叫びは続く。
「僕がみんなを殺したんだ……そうに決まってる!
僕は人殺しだ! アルティミシアの脅しに屈した人殺しなんだ!
自分の手だけじゃない! 他人の手まで汚させて、仲間さえも裏切って、アルティミシアに尻尾を振ったんだ!!
どれほど謝ったって……死んだって償えない罪を犯した最低の人間なんだ、僕は!!」
パァン、と威勢のいい音が響いた。
殆ど張り倒すような勢いで平手打ちを見舞ったヘンリーさんは、アーヴァインさんに向かって怒鳴りつける。
「大バカ野郎が……何を一人で勝手に思い詰めてるんだ、お前は!
謝ったって死んだって償えないだと!? 当たり前だ、バカ!
そんな後ろ向きな行動がいったい誰のためになるってんだ!! 寝言ばかり言ってんじゃねえよ!」
彼はアーヴァインさんの襟首を掴み、正面から睨み据えて言葉を続けた。
「ああ、確かに俺は知らないね! お前が何人殺したかなんて、神様とあの魔女以外にわかるわけねえよ!
だがな、ソロもビビも、人殺しとわかっててお前を生かしたいと思った!
エリアも、一番辛いはずのレナでさえ――結局、お前を手にかけないことを選んでくれたんだ!
誰を殺したとか殺さないとか勝手に思い込んでウダウダ言う前に、その意味を少しは考えろ!!」
それだけ一気に言い放つと、ヘンリーさんは手を離した。
呆然とするアーヴァインさんの肩に、ソロさんがぽん、と手を置く。
「……確かに、罪を償うことは難しいかもしれない。
死んだ人は戻ってこないし、過去は書き換えられない。それは事実だしさ」
ソロさんは少しだけ目を閉じた。
ややあって、再び静かな声で語りかける。
「けど……人を傷つけたなら、今度は守ってみせればいい。
誰かを殺めてしまったなら、その人達以上の人々を生かしてみせればいい。
そうしていけば、いつかはきっと赦される時が来るはずだよ。
……だから一緒に行こう、アーヴァイン。僕らで、みんなが助かる道を探そう」
「そうだよ、お兄ちゃん……」
ビビ君が言った。
大きな目を瞬かせながら、自分の気持ちを伝えようと一生懸命に言葉を紡ぐ。
「人殺しの為に生まれたボク達だって、人を助ける事ができたんだもの。
クジャについて行っちゃった仲間達とだって、後で仲直りできたもの……
だからきっと、今からでも遅くないよ。いっしょにがんばろうよ」
アーヴァインさんは黙ってビビ君の言葉を聞いていた。
けれど、力なくうなだれたまま、首を横に振る。
「ダメだよ……行けないよ。一緒になんて……
僕が一緒にいたら……それだけで、みんなまで僕みたいな人殺しだと思われる……
それに、僕を恨んでる人だって……仇を討とうとする人だって、いっぱいいるはずだ。
これ以上、迷惑なんてかけられない……できないよ、そんなの……!」
そこまで彼が言った時、唐突にピサロさんが呟いた。
「――貴様のような人殺しを野放しにするのも、十分迷惑な話だがな」
アーヴァインさんははっと顔を上げる。
ピサロさんは表情一つ変えぬまま、冷酷に言った。
「記憶喪失など、その気になれば幾らでも演じることができよう。
それでなくても、貴様は人を欺き利用することが得意のようだからな。
真に心を入れ替えたのだという証拠が無いに等しい以上――監視がいなくては話にもならんわ」
「……ま、ピサロの意見はともかく、僕だって君が言ったようなことは覚悟してるさ」
突き放すようなピサロさんの言葉を遮って、ソロさんが話し掛ける。
「それでも僕は誓ったんだ。誰も殺させないし、誰も死なせないってね。
だから……僕のこと、信じてくれないかな?」
アーヴァインさんは黙っていた。
表情は見えない。うつむいたままだったから。
「……あ、あの」
意を決して、私は口を開く。
「さっきは……ごめんなさい」
言ってあげたい、伝えたい気持ちがあった。
でも、いい言葉が中々見つからない。
「事情は良くわからないけど……今までのあなたがどんな人なのか知らないけど……」
どういう風に言えばいいのか、迷って悩んだ末に――私はやっと言う事ができた。
「でも、今のあなたは……あなたが言うほど酷い人には……
……人殺しには、見えません」
――私の気持ちは、上手く伝わってくれたのかどうか。
彼はまた、自分の手のひらを見つめたようだった。
その肩は小刻みに震えていた。
「……ごめん」
すすり泣くようにか細く呟いて、彼は手を握り締める。幻影を振り払おうとするかのように。
そして両目を何度か拭って、彼は顔を上げた。
「迷惑ばっかりかけて、ごめん――ありがとう。本当に」
そう言った彼の表情は、絶対に人殺しのものなどではなかった。
【レナ 所持品:エクスカリバー
第一行動方針:エリアを守る】
【エリア(睡眠中 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:サックスとギルダーを探す】
【現在位置:レーベ北西の茂み、海岸付近→東方面に移動】
【ヘンリー(6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可)
第一行動方針:デールを説得する方法を探す 第二行動方針:デールを止める(話が通じなければ殺す)】
【ターニア 所持品:微笑みのつえ
第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:イザを探す】
【ピサロ(HP3/4程度、MP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:旅の扉がある場所へ移動 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ビビ 所持品:スパス
第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:仲間を探す】
【ソロ 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング グレートソード キラーボウ 毒蛾のナイフ
第一行動方針:旅の扉がある場所に移動 第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【アーヴァイン(HP2/3程度、一部記憶喪失(*ロワOP〜1日目深夜までの行動+セルフィに関する記憶全て)
所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能)
第一行動方針:ソロ達についていく 第二行動方針:罪を償うために行動する】
341 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/15 23:09:44 ID:/ofXQp2X
age
吹き抜ける風の中、
リュカとリノアが、武器防具屋の外にいた。
――――話は、少し前に戻る。
放送を聞いたリュカは、静かに考えていた。
それは優先順位。自分のしたい事と全員がしたい事、その優先順位だ。
この武器防具屋内では、セフィロスとクジャの討伐が最優先という流れになっていた。
それは当然の事だろうし、リュカもそうしたかった。
だが、まだ見ぬ家族の姿が頭を掠める。
ビアンカの微笑む姿、タバサのはしゃぐ姿、ピエールの勇む姿、はぐりんの走り行く姿。
そして更に、パパスのあの大きな背中が……瞼に写った。
決めた。
今のこの迷いのある自分ではきっと足手まといだ。
そうでなくとも、妻や子どもたちの事となれば自分は絶対に暴走してしまう。
こんな事ではいけない。彼らの足枷となってはいけない。
だから決めた。
「ごめん、皆……僕は一旦抜けるよ」
「……家族がらみの事、か?」
すぐにサイファーが心を読んだかのように言った。
その事にリュカは少し戸惑ったが、すぐに続ける。
「あの殺人者達の事も先決だけど……僕はその前に僕の家族に会いたい。だから、これ以上は無理だ」
「だから抜けるってのか?お前の子どもの敵討ちはどうすんだよ!」
「放棄するわけじゃない!ただ…僕が今思っている事で君達の足を遅くさせる訳には行かないから…。
家族に会えたら、君達と再会してまた一緒に戦うよ。これは絶対の約束だ。だから……ごめん」
サイファーの反射的な反論とリュカの消えそうな声で紡がれたその言葉の後、静寂が室内を包んだ。
そしてその静寂から全員を解放したのは、リノア。
「じゃあ私、リュカさんに着いて行っていいかな?…リュカさんが良ければだけど、さ」
「てめェまで……っ!」
「私も『一旦』よ。これだけの人数でかかっても勝てない相手なんだし……仲間が必要でしょ?」
サイファーはそれ以上何も言わなかった。
否、言えなかったのか。
そしてリノアは続ける。
「リュカさんの仲間がいる場所に私の求める仲間がいるかもしれないし…。
大丈夫、絶対あなた達の味方になる様な人だから!だからリュカさん…良いかな?」
「君が探したい人よりも僕が探したい人の方を優先するけど……それでもかまわないなら良いよ」
「OK!じゃあ決まりね。私はリュカさんの手助けを、あなた達はあの敵を倒す!お互い、頑張ろう」
サイファーは面白くない顔をしながらも、頷いた。
ロザリー達も静かに頷いた。止める理由が無いのだろう。
そして二人はそのまま、部屋から外へと出ていった。
ロザリー達が、静かにその後姿を見ていた。何も言わずに、何も言えずに――――
そして、今に至る。
「う〜〜ん、久々のシャバの空気ぃ〜〜……って、これじゃ悪い事した人みたい」
「まずは次の世界への扉…とか言うのを探さないとね」
二人はそう言うと、目ぼしい場所を探し始めた。
何かしら判りやすい物などは無いのだろうかと目を凝らす。
そしてそのまま注意深く視線を色々な方向へと向けていると…蒼い光が漏れているを見た。
「旅の扉…?井戸の中からか」
「タビノトビラ?それが次の世界への〜ってやつ?」
「多分そうかもしれない。見てみよう」
急いで見てみると、確かにあった。
井戸の底で蒼い光が渦巻いている。
「じゃあ行こう…と言いたい所だけど……」
「残った皆に場所を伝えないと、よね。私が行ってこようか?」
「お願いしようかな」
そしてリノアは皆のいる建物へと走っていった。
それを見ながら、リュカは1人考えた。
レックスとサンチョとピピンとマリアさんが死んで、ものすごく悔しい。
悔しくて悔しくて悔しくて、けれど悲しくて…崩れ落ちそうになる。
けれど、一緒に来てくれた彼女は、明るく振舞っていた。
いや……かなり無理していたのかもしれない。
でも無理してでも…自分を元気付けてくれているのが判った。
生き物は全て、目を見ればわかる。喜びも、悲しみも。善も、悪も。
そして彼女の目は…間接的にだけれど、この暗い影を削ぎ落とそうとしている目だ。
ならばこんな所で腐ってはいけない。前向きに行かなければ。
まだ、全てを失ったわけではない。これからは絶対に失ってはいけないんだ……。
リノアが走ってくる。
少し遠くにあるその姿をその目で見ると、ふと気づいた。
それは、彼女の後ろの影。片足を少し引き摺りながら近づいてくるあの姿は……。
「ただいま、伝えてきたよ」
「あとついでに…俺も来ちゃったんだけど……さ」
「君は……」
少しはにかみながら、ジタンはそこにいた。
どうやら彼もリュカに着いていきたいらしい。
「ジタンも仲間を探したいって言うからさ。思い切って誘ったのよ」
「まぁ俺もそういう事だし、リノアの言う事にも賛同できる部分あったしさ……」
「サイファーに怒鳴られちゃったよね、『場に流されんな阿呆!!』って」
「まぁそれは良いんだ…で、俺もリノアと同じ考えだ。リュカのしたい事に協力したい……いいかな?」
2人の明るい声に、リュカはつい笑ってしまった。
さっきまでの空気を払拭してくれた二人に感謝しながら、笑ってしまった。
そして、リュカは言う。
「じゃあ宜しく、ジタン」
「おう、宜しく!……ありがとう」
そしてその後、「この中でいいんだよな?」とジタンが井戸の底を見る。
そして光を確認すると振り返った。
「じゃ、もう行くのか?」
「そうしよう……いや、その前に」
「その前に?」
「まずはこれだ……ベホマ」
リュカが呪文を唱え、ジタンの右足にその癒しの光を当てた。
すると足の傷は見る見る内に…という訳ではないが、マシにはなって行く。
そして暫くそれを時間をかけて続けると、普通に歩ける程度まで回復した。
「おお、凄いな!」
「回復魔法が制限されているのか…?ちょっと治りが甘いけど」
「いやいや、助かった助かった」
「よし、それじゃ行こうか」
そしてリュカ達は飛び込んでいった。
次の世界で仲間達に会えるよう、そう祈りながら……。
「もう、行った頃か?」
「恐らくそうでしょうね……」
一方、室内にはまだサイファー達がいた。
だが先程とは空気が違う。目に光が宿っている。
「よし!じゃあもう一回確認するぞ。イザ、今後の行動方針は?」
「この街を襲った殺人者の討伐」
「そうだ。その為に俺たちは積極的に行動する。そして……」
そして一呼吸おいて、サイファーは井戸の方向を見た。
彼らの姿は見えない。予想通り行ってしまった後のようだ。
「あいつらの言葉を信じて、新たな仲間を見つけたあいつらと再会する…だ」
「ではもう少し休んでから私たちも行きましょう。まずはサイファーさんの回復が先決ですしね」
「余計なお世話…と言いたいところだが、文句言えねぇな」
ふとサイファーは、窓から空を見た。
透き通るような蒼が眩しい。
この空の下で、また必ず再会してやる。生きて再会してやる。
「それまで待ってろよ……てめェら」
「おや、何か言いましたか?」
「……なんでもねぇよ、気にすんな」
【リュカ 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【ジタン 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
基本行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
基本行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【第一行動方針(共通):リュカの仲間を探す】
【現在位置:新フィールドへ】
【イザ(HP2/3程度) 所持品:ルビスの剣、エクスカリパー、マサムネブレード
基本行動方針:同志を集め、ゲームを脱出】
【サイファー(右足軽傷) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
基本行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【第一行動方針(共通):体を休め、新フィールドへ 第二行動方針(共通):セフィロスとクジャを倒す】
【現在地:アリアハン城下町・武器防具屋の結界内部】
349 :
海 1/5:05/03/18 18:16:19 ID:wmAY6vuH
ふらふらと、一人の青年が平原を歩いていた。
それは歩くというより、風に押されてといった方が正しいかもしれない。
この大地では草木すらほとんど動くこともなかったくらいだから、
彼の歩みがいかに緩慢なものだったかは想像がつこう。
青年はただ動くことにのみ専心していた。
目的地も、時間も、死の予感さえも、今の彼には無意味だった。
それでも、ここに着いたことを漫然な動作の集積からきた偶然だと言い切れるだろうか。
平原をぬけたそこは、地平線まで一切の障壁がない海岸であった。
雄大に、果てしなく青く、陽の光が爛然と移り輝く海であった。
「海…」
塩の臭いが鼻につくのを感じながら、海岸に佇立して、下に緩流する波を眺めた。
いつか見た海も、同じようにゆっくりと流れていた。
この海の先、地平線のずっと向こうには、まだ見ぬ大地があるのだろうか?
「ないだろうな…」
ぽつりと呟く。
昔、船酔いをして海中にもどしたことがあった。
ここには船すらないだろう。ある意味もない。
「聞こえるだろ」
何もない空間へ呼びかける。
―――何もない? …あるさ。
この海は彼を見ている。映している。
「ロック=コール!おまえは狂ってるぜ!」
稜威の叫びが、あたりに響いた。
そして青年に――ロックに、一筋の涙が流れた。
「セリス…どこにいるんだ」
涙を拭う。手についたそれを舐めると、口中に塩辛さが広がった。
海は苦手だ。特に、希望のない海は。
レーベの村。
ローグと再会して暫くした後、アルスは暫く空を眺めていた。
正直、アルスはまだ迷っていた。
バッツの言葉も、シドの言葉も、自分には大切なことだと思える。
だが判っているはずだ。正義を救い悪を斬らなければならない、それだけの事。
それだけだが、この状況では形容しがたい迷いが生まれてしまう。
アルスはそう思い、考え、悩んでいた。
「おい、出発だ。用意しろ」
ふと気づくと、隣にシドがいた。
彼の言った言葉に、アルスは少し違和感を覚える。
「彼女は…どうする?」
「あいつはイクサスに任せることにした。俺らといてもメリットあると思うか?」
「確かに戦力としてはあまり有難くは無い印象だったが……」
「つーかお前と一緒に行動するのが苦痛だと思うぞ」
確かにそうだ、と納得する。寧ろ納得せざるを得なかった。
アルス達には専門的な薬の知識があるわけではない。
だからここは双方に不利益のないようにする事を重点に置いた。
その結果が、アルスとシドの2人だけでの出発なのだ。
ふと、アルスはここで気になったことがあった。
それは先程のシドの落胆振りだ。
放送を聴いてから、かなり落ち込んでいた。
今はそんな素振りすら見せないが……。
351 :
海 2/5:05/03/18 18:17:48 ID:wmAY6vuH
ガサッ
背後から聞こえたその音はやけに不用意だった。
「誰だ?」
ロックは振り返ることもなく、相変わらず揺れる波の様を望んでいた。
返事はないが、仄かに息づかいを感じる。
警戒の見えぬ無遠慮な闖入者に、微かな不快感と安心を覚えた。
「いつから見てた」
相手はやや逡巡したようであった。
「その…なにか、叫んでたところから…」
少し強張った、男の声。
「それで、俺に何か用なのか」
これに対する応答は聞かれず、再び沈黙が起こった。
奇妙な静寂の中で、ロックは気怠そうに振り返った。
ブロンズの髪、焼けた肌、整った眉に端正な顔立ち。
黄色や薄い紫の組合わさった珍妙な服。
左足の裾は右足のそれより短かく、両裾からは引き締まった足がのぞいていた。
「変わった格好だな」
「…よくいわれるッス」
男はそう答えた後、躊躇いがちに言った。
「…でも狂ってはないッスよ…」
ロックは自嘲気味に笑った。
「セリスって女を知らないか?綺麗な金色のロングヘアーで、目つきのちょっと鋭いヤツだ」
「セリス?…エアリスなら知ってるけど、違うみたいッスね…。
でも、どこかで聞いたような気がする」
「ああ、それはきっと、さっきの放送でだ」
男は一瞬、はっとしたようにロックを見つめた。
「…探してどうするんすか」
ロックは黙ったまま、答える素振りを見せなかった。
「ほら、扉が消えねぇ内にさっさと行くぞ」
「あ、ああ…わかった」
アルスの考えを途中で堰き止めるかのようにシドが歩き出した。
そしてそれに続くように、アルスも村の中心へと向かっていった。
「あ、これやるよ。お前の為にあの家から2冊くらい取ってきた…どうせ好きなんだろ?」
「フッ…この僕が官能小説で喜ぶと思ったのか?全く、くだらないな……まぁ、貰うけど」
「貰うのかよ」
少しして、そんな無駄話をしていた時だ。
アルスは村の入り口に誰かがいるのを見た。
一見貴族風の男。少し疲れているのか、座って休んでいる。
だが相手もこちらに気づいたようだ。
男はすぐに立ち上がって、何かを構えた。
そして奇妙な音が聞こえると、シドがすぐに左肩を抑えた。
苦しがっている。あの男が何かをしたのか。
「おい、シド!?」
「チ……ッ!拳銃か……」
「けんじゅう?けんじゅうとは何だ!?」
「遠くから相手を殺すために作った武器だ!逃げたほうが良い、急いで扉に入るぞ!」
確かに今の彼らの武器では無理だろう。
それに今の解説でアルスが拳銃を完全に理解したとは言えない。
大規模な戦闘になる前に逃げるのが得策だ。
そうしている間に男は、今度は剣を持ってどんどん近づいてくる。このままではマズい。
――――少し時間が前に戻るのだが。
デールは思いのほか早くレーベに辿り着いた。
そして村の入り口で休憩をしていると、あの2人に気づいたのだ。
壊せるときに壊しておかなければ、このゲームでは生き残れない。
デールはマシンガンを構えた。そして照準を合わせ、引き金を引く。
狙い通り、相手の肩に当たったようだ。
そして一気に仕留める為、これを期にデールは走った。
アポカリプスを構え、更なる追撃を狙う――――
そして今に至る。
アルスはドラゴンテイルとドラゴンシールドを構え、デールの斬撃をシールドで受け止めた。
よく見てみれば、剣での戦闘に慣れていないのか攻撃が稚拙だ。
まともに接近戦でやり合えば勝てるかもしれないが、相手の未知なる武器のこともある。
そして隙を突いてドラゴンテイルで距離を取った後、すぐにアルスは叫んだ。
「今だ、いくぞ!」
そしてそのままアルスとシドは扉へと飛び込んだ。
取り残されたデールは、してやられたと悔しがる。
だが、間髪入れずに自分も扉へと入っていった。
そして光に包まれて、3人は消えていった。
【アルス 所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊
第一行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす 最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【シド(左肩負傷) 所持品:ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) ロープ
第一行動方針:同上 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:新フィールドへ】
【備考:食料多】
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/3) アラームピアス(対人) ひそひ草 アポカリプス+マテリア(かいふく) リフレクトリング
第一行動方針:新フィールドでも虐殺 第二行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在位置:新フィールドへ】
355 :
海 3/5:05/03/18 18:22:58 ID:wmAY6vuH
「…狂ってるってわけッスね」
「……」
しばらくして、続けた。
「大丈夫ッスよ。そんなの、狂ってるうちに入らないって。
俺、見てきたから…。悪魔のようなヤツ、何人も見てきた…。
本当に狂ってるのは、あいつらなんだ!」
男は少し上気していた。その語気があまり強いのに、ロックは驚いた。
「今度の放送で、また知り合いが一人呼ばれたッス…。
それで俺、どんどん怖くなって…レーベの村に行こうと思ってたけど、
人に会いたくなかったから、迂回してここを通ったんだ」
話を聞いていたロックは、へえと相槌を打った。
「よく俺に近づく気になれたな」
「感じたんだ。なんていうか、あんたの、悲しみとか、なんか、そういうのを」
「ふうん…」
「それに…たしかにあのときはもう、誰にも会いたくないと思ったッス…
でも、一人でいるのも怖いんすよ…」
「ああ。今にも泣きそうな顔をしてる」
そういうと、男は少しむっとして唇を引き締めた。
「なんだよ!そっちなんか、もう泣いてるっつーの!」
涙はまだ、乾いていなかった。
ティーダは視線を遠くにやった。
「…ほんとは、ここにきて、しばらく海をみていたんだ。
そうしたら、あんたの声が聞こえたんだよ」
「海を…?」
「なんだか、懐かしくって」
「懐かしい…懐かしい、か。そうだな、そうなんだ」
「え?」
356 :
海 4/5:05/03/18 18:24:52 ID:wmAY6vuH
ロックは目を細め、広漠たる海を見渡しながら追想した。
そのときのことをセリスは笑いながら話してくれた。
かつて彼女が孤島で見た絶望の海はどんなだったのだろう。
それでも諦めなかったのだ、セリスは――
「いや…希望、か。希望があったから、生きられたんだ。
あいつは、俺のバンダナを受け取った。あるのか?俺に、希望が――」
―――だから、死体を探し出して、生き返すんだろ?
「それが、それが希望なのか…」
「お、おい!あんた、どうしたんだよ、急に独り言なんて…」
ロックはティーダに視線を移した。
「…おまえの名前は?」
「俺…?俺は、ティーダ。あんたは?」
「…ロック。ティーダ、おまえは恋人が死んで…失ったことがあるか?」
ふと、男――ティーダは口を噤んだ。何か考えているようだった。
「…あるッスよ。正確には、ちょっと違うかもしれないけど」
「生き返そうと、思ったことはあるか?」
「…生き返す?」
ティーダは訝しげにロックの目を見つめた。
「…ないッスね。一度も」
一つ、息をついて、
「あんたの考えてること、わかってきたッスよ。むしろまんまっつーの?
でもあんた、そんなことじゃ何も変わらない。ただの誤魔化しッスね」
やけに熱っぽく話していた。その言葉を、ロックは無表情に復唱した。
「誤魔化し…」
ティーダは少し視線を逸らした。
「…まあ、何があったのか知らないけどさ…」
「……」
357 :
海 5/5:05/03/18 18:25:47 ID:wmAY6vuH
ロックは目を閉じた。波の音、幽かな風の音…
「ここにいると、落ち着くな」
ふと、つい先のフリオニールたちとのやりとりを思い出した。
あのとき、俺は俺を制御することもできなかった。
今、ここに自分がいる。こうして会話を交わし、考えることができる。
それを取り戻したのは記憶だろうか。
海の臭いが、この見かけぬ風貌をした男の言葉が喚起した、セリスの記憶だろうか。
ならばセリス、おまえは俺に何を望むんだ。
…レイチェル。今の俺を、おまえは嘲笑うだろうか…。
「じゃあ俺…いくから。時間、ないし」
ぼうっとしているロックに、ティーダが気まずそうに声をかけた。
草原に向かい、草は踏み分けられて小気味よい音を鳴らす。
そしてすぐに、その音は止まった。
「…俺も行こう、レーベに」
ティーダの耳に、ロックの落ち着いた声が聞こえた。
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
行動方針:とりあえずティーダについてく。死体探しなどの方針は不明】
【ティーダ 所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔4〕 首輪×1
第一行動方針:ロックと共にレーベに移動
第二行動方針:仲間になってくれる人を探す
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:レーベ北の海岸】
358 :
海 6/5:05/03/18 18:28:35 ID:wmAY6vuH
ホシュシュ
誘いの祠の前にある地下室。
そこから少し東に行った所に、セージ達はいた。
「でね、お母さん!私今お兄さんに回復呪文を教えて貰ってるの。
もし習得できたらお父さんみたいにお母さんをうんと癒してあげるね!」
「それは楽しみね。そうなったら、タバサに頼っちゃおうかな〜」
「ビアンカさん、この子結構やる気あるから本当に習得するかもしれないよ?」
放送から少し時間が経ち、彼等はあれから歩いていた。
悲しみを振り払うかのように楽しそうに笑いながら話をするタバサを見て、ビアンカは微笑む。
そうしなければタバサや皆の歩みを止めそうな気がして。
そしてセージも後ろ向きだった心を振り払うように、いつもの調子でタバサの話を聞いたりしている。
そしてギルダーは黙っていた。
黙って考え事をしていた。
小鳥が鳴いている。
青空を泳ぐように飛ぶその姿を見ると、平和そのものなのだが。
生憎素直にそう受け止めることができそうに無いな、とセージは苦笑する。
「あ、ちょっと皆ストップ」
そのまま、セージは何かに気づいて言った。
「何なんだ急に……」
「いや、結構致命的な事かと思ってね」
「なら早く言った方が良い、勿体ぶらないでくれ」
今まで黙っていたギルダーが抗議をした。
タバサとビアンカも不安そうにセージを見ている。
そして、その"致命的なこと"に気づいた張本人は喉をごくりと鳴らして言った。
「誘いの洞窟ってさ……地味に階層がある訳だよ」
「まぁ洞窟だろうしな…………ん?まさか…」
「そのまさか。もしかしたらその洞窟の最深部に扉が出来てたりなんて事が起きるかもしれない」
それを聞いて、ギルダー達は冷や汗を流す。
そうだ。もしも深い場所にあったら扉を探すのが大変だし、時間オーバーにも繋がりかねない。
あの魔女はただ「誘いの洞窟」と言っただけで、詳細は何も話していない。
「大丈夫よ、お兄さん」
「………何がさ」
しかし、タバサは何も動じずにごく普通の調子で言った。
現状がわかっていない訳じゃないだろうとも思うが、この調子は何なのか。
「この小鳥さんがね、旅の扉が近くにあるよ、って言ってるの」
「………小鳥さんが…」
「うん」
ギルダーが頭を抱えて苦笑する。
乾いた笑いまで聞こえてくる、正直怖い。
そんな調子のギルダーを諭すようにビアンカは話しかけた。
「でもギルダーさん」
「ん……貴女は年上だろう、呼び捨てでいい。慣れないんだ」
「おや、そんな事言っちゃって…本当はそうやって呼ばれたかったんじゃないの?愛を込めてさ」
「ちょっと待てセージ!それでは俺がそういう趣味だと思われるだろうが!!」
「あら、そういう事だったのね。でもまぁ、可愛いあなたの為なら呼んであげようかしら、ギルダー♪」
「ほら誤解された!誤解されただろう!」
「いいじゃないか、終わりよければ全てよし、結果オーライだしねぇ」
「というか茶々を入れるな!話が反れる!!」
「君が関係ないこと言い始めたんじゃないか」
そして延々と言い争いをする2人。
ビアンカが大きく咳払いをすると、すぐにそれは止まったが。
「まぁとにかく…あなた達の疑問は確かだと思うわ」
「当たり前だ。鳥と会話などと……」
「でもこの子不思議な力があって、動物や魔物とも話が出来るそうよ」
「そりゃ凄いねぇ。僕の世界では魔物はただの畏怖の対象だし」
「"犬さんは嘘つかないから好き"とまで言ったわ」
「うわ、悟ってるなぁ……人生」
「何かトラウマでもあったんじゃないのか?それは」
そして3人が一度にタバサの方を見るが、タバサは気づいていないようだ。
また小鳥の話を聞いているようだ。最初は胡散臭いと思ったが、何か自然な風景に感じてしまう。
しばらくすると小鳥は空を飛んで行き、タバサは視線にようやく気が付いた。
そしてさっきの会話(と思われる)事を話し始めた。
「誘いの洞窟の入り口と泉が旅の扉になっちゃったんだって」
「ふーん……まぁ有り得ない話じゃないしね…行ってみようか」
そこまで真剣に言うなら間違いないだろうと、3人は納得した。
いや、このまま足を止めても仕方ないが故に納得せざるを得ない状況になったというかなんというか。
「お兄さんが元の世界に戻ったら、さっきの小鳥さんにお礼言わなきゃ駄目よ?」
「あはは、同じ種類の鳥は見分けつかないからなぁ」
「えー?そんな事ないよ。小鳥さんだってスライムさんだって一人一人顔違うし」
「そ………そうなの?」
セージは初めて、今まで倒した多数のスライムの顔を必死に思い出し始めた。
二度とこんな事はしないんだろうな〜と苦笑しながら、忘れず東へ歩いていた。
―――そしてしばらくして、誘いの洞窟。
「……言った通りだし」
「だから言ったでしょ?小鳥さんが話してくれたって」
「ここまで的確に当たっていれば……疑う余地はないな」
目の前の2つの旅の扉を見ながら、セージとギルダーはため息をついた。
「で、各自もう既に荷物の配布は済んでいる……出発は今すぐにでも出来るようだな」
「そうだねぇ」
「だが、ここで俺の我侭を聞いてくれるか?」
「…我侭?」
ギルダーがまた大きくため息をつく。
そして少しだけ間をおいて、口を開いた。
「一旦俺は一人で行動したい」
「理由は何?」
すかさずビアンカが問う。
それを待っていたとばかりにギルダーは続ける。
「探したい人間がいるからだ。それに、俺は既に人を殺している……。
下手に行動を共にしていると、俺を狙う人間がお前たちも巻き添えにするかもな」
「その探したい人って言うのは?」
「まず一番に探したい人間はサックスという男だ……騎士の姿をしている。
そしてエリア……こちらはおしとやかな女性、と言ったところか」
ビアンカが名簿に印をつけていく。
セージとタバサはそれを静かに見ていた。
「…………………とまぁ、最終的にはこれくらいの人間と知り合っている訳だが…」
「この人たちに全員に会うの?」
「いや、そういうわけじゃない。最初にいったサックスとエリアに会えれば十分だ」
「そう……会った後は?」
「貴女と再会する事を前提にはしておこうと思う……俺が生きていればの話だがな」
そこまで聞き、ビアンカは傍観している2人の方を向いて同意を求めた。
セージはタバサと顔を見合わせ、そして言った。
「異論無し」
「私も文句ないわ」
ギルダーはそれを聞いて、礼をいった。
そしてビアンカにあるものを渡す。
「これを持って行くといい。俺よりも貴女の方が有効に使えそうだ」
「これは?」
「雷の指輪といって、サンダーが…簡単に言えば雷を出す能力があるらしい」
「これを私に?なんだか悪い気が…」
「気にするな、俺は既にサンダーは使える。俺には無用なものだ」
「そう、じゃあ有難く貰っておくわ。有難う、ギルダー」
そしてギルダーは、元は泉だったであろう扉を見た。
蒼い光が幻想的だ。あれに入れと言うのだろう。
「また会おう」
「ああ、気をつけてね」
「ギルダーさん…死なないでね」
「お前たちの方こそな」
そして光の中心へと入る刹那、最後にビアンカを見た。
彼女は静かに微笑んでいた。やはり笑顔が似合うな、と素直に思う。
「また会いましょ、ギルダー」
「………ああ」
そうだ、この笑顔に俺は救われたのかもしれない。
手を伸ばしたのはセージだが、奴などとは天の地の差だ。無論、セージが地。
この何かわからない高貴な、神秘的なオーラに魅せられたのかもしれない。
あの全てを包み込む様な……例えるなら…あの蒼い天空の様な………。
「お母さん、ギルダーさん行っちゃったね…」
「そうね」
「相手にするならああいう徹し切れてない人間が嬉しいんだけどねぇ」
「そうも行かないわ。私たちもいつか危険な場所に踏み込むかもしれない」
しばらく旅の扉を見つめた後、ビアンカが一歩前に出る。
「行きましょう、これ以上いても仕方ないわ」
ビアンカの言葉に2人は頷いた。
そして、3人で同時に扉へと入っていった。
そして光に包まれ、先程の赤魔道師の様に次の世界へと誘われていった。
【ギルダー 所持品:ライトブリンガー 手榴弾×2 ミスリルボウ
第一行動方針:サックスとエリアを探し、ビアンカ達と再会
基本行動方針:自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【現在位置:新フィールドへ】
【セージ 所持品:ハリセン
第1行動方針:タバサ達と共に行動する 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第1行動方針:セージ達と共に行動する 基本行動方針:同上】
【ビアンカ 所持品:ファイアビュート 雷の指輪
第1行動方針:2人と共に行動する 基本行動方針:同上】
【現在位置:新フィールドへ】
>>362 × そしてさっきの会話(と思われる)事を話し始めた。
○ そしてさっきの会話の内容(と思われる事)を話し始めた。
すみません……。
訂正お願いします。
――自惚れていたのだろう。
私が彼女を正しい道に案内したのだと。
私が彼女を狂気から救ったのだと。
そうやって私は彼女の信頼を得たのだと。
彼女の叫びと共に、疑った。
銃声と共に、気づかされた。
左肩を走る激痛と共に、思い知らされた。
二人の男性の叫びで、確信した。
彼女にとって、私は、クラウドという人とは比べられないほどに軽い存在だったのだと。
保護者を気取って、そのくせ彼女の発した警告に気づけなかった。
…私は、あまりにも、不甲斐無い。
確かに先程は、彼女の目に人を愛する心を見た。
ティナだって、彼女は正しい道を生きられると信じた。
彼女は確かに人を愛することを知っていた筈だった。
彼女は確かに正しい道を歩いていけた筈だった。
こんな状況でさえなければ。
こんな狂気の中にさえ身を置かなければ。
悪いのはアルティミシアだけ。
再度の銃声と共に、彼女の肩を掴んでいた腕から、力が一気に抜けていった。
身体が、後方に傾いた。
揺れる視界の中で、彼女は右手で銃を構えたまま、左手でスコールを突き飛ばしていた。
更に、右足でマッシュの顔面を蹴飛ばす。
モンクとしての一流の実力をもつ彼でさえ、戦いの中に躊躇や恐怖を感じなくなった彼女の前では、為す術が無く後方に弾かれた。
彼女は、銃を再び構えた。
誰を先に撃つべきか、其処に一瞬の迷いがあった。
私はその隙に、体勢を立て直した。
他の二人と比べて、私は大きくは後ろに下がっていない。
今、自分が動くしか、ない。
彼女が私の行動に気づく前に、私は彼女に飛び掛かった。
私は、彼女が咄嗟に構えた銃の銃身を掴んだ。
肩の激痛に気を遣っている心の余裕は無かった。
彼女にこれ以上誰かを殺させたくはなかった。
銃をもぎ取ろうと力を入れて――
ドゴッ、と嫌な音を立てて、腹に激痛が走った。
彼女は、その長い脚を咄嗟に振り上げていた。
身体が、大きく後方に捻れる。
思わず再び手を離し、身体を後方に泳がせる。
そして直後に、どこか遠くで、耳障りな、音が、鳴り響いた。
私の身体を貫く何かが、彼女の手で、発射された音だった。
「アイラ!」
マッシュとスコールの声。
それに重なるように、それをかき消すように、何度も、何度も、耳障りな銃声が、響いた。
体中を撃ち抜かれた。
もう、痛みも感じない。
このまま、苦しみも、悲しみも、何一つ、感じなくなってしまうんだろう。
でもその前にやらなくちゃならないことが、ある。
最後の力を振り絞って、彼女の肩に手を掛ける。
彼女の構えた銃は、再び引き金が引かれると共に、カチャリという空虚な音を立てた。弾切れだった。
彼女が慌てて脚を振り上げようとする。
――そんなことをしなくても、どうせもう私には何も出来ない。
――あなたを正しい道に戻すことも。
だからこそ、彼女の目を見て、言ってやった。
血塗れた顔を、彼女に見せ付けて、言ってやった。
「死んでも、あなたの傍にいるから」
一瞬、彼女の表情は硬直した。
その唇から、一種恐怖を帯びた声が、漏れた。
呪われた過去が、重なって、彼女は、呟いた。
「エア、リ、ス?」
それでも彼女の身体の動きは止まらなかった。
振り上げた脚が、私の身体を空へと投げ出す。
ほんの一秒ほどの筈なのに、それは何秒にも感じた。
自分の身体が地面に堕ちるまでの、空虚な時間。
目を閉じて、思う。
マッシュ、スコール。
命に換えても彼女を止めようなんて、思わないで。
あなた達を愛している人を、彼女みたいにしないように。
生きて。生き残って。
フィン。
あなたに、後は任せるわ…
きっと、この理不尽な戦いを、止めてくれるわね?
ティファ――
あなたが背負った悲しみのほんの一部でも、私に背負わせてくれればよかったのに。
そうすればきっと、仲のいい友達にだってなれた――
回想は途切れ、地面に叩きつけられた感覚を最後に、永遠とも思われた時間に終焉が訪れた。
【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石】
【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)】
【第一行動方針:? 第二行動方針:ゲームを止める】
【ティファ 所持品:コルトガバメント(予備弾倉×5)、エアナイフ
第一行動方針:目に映るものを全て殺す? 基本行動方針:魔女にクラウドの蘇生を乞う】
【アイラ 死亡 所持品:ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ】
【現在位置:東山脈中央部の森・川辺付近】
【残り86名】
373 :
待機:2005/03/23(水) 20:33:24 ID:HMFsaQkL
また一人、逝ってしまった。
いくら手を伸ばしても届かないところで、
いくら目を凝らしても見えないところで、
堕ちてしまったのか。
運命に導かれし者達が、運命に弄ばれ、運命に立ち向かい、運命に捨てられていく。
悲しい現実に、仲間の死に、自分の無力に、思わず嘆息し、
戦士は、冥界の戦友達のために、目を閉じ暫し合掌した。
今まで戦士――ライアンは、誰一人として出会うことはなかった。
或いはそれは、運が良いのかもしれない。
だが、一人では、誰かを護ることも出来はしない。
そして、それは、彼にとって苦痛でしかないのだ。
「うん?」
目を開けると、視界の端に、僅かに蒼い渦の存在が見て取れた。
「旅の扉…」
これに入れば、次のフィールドに移動できるのだろう。
だが、彼はその傍に腰を下ろし、暫しの時を待つことにした。
誰かが。自分の護るべき誰かが、その場に現れるのを待って。
そして、憎むべき――殺す事すら厭わぬ様な者が姿を現すのを待って。
【ライアン 所持品:レイピア 命のリング
現在位置:レーベ南の森中央
第一行動方針:扉前で待機し、仲間を探す&マーダーを減らす
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
374 :
保守マン:2005/03/26(土) 17:00:45 ID:DUSzxzov
保守
俺たちは走っている。西へと向かって走っている。
(忘れたい)
耳の中で、様々な音が反響している。
無機質に鳴り響く電子音が。迸る炎と、肉が焦げる時の異質な音が。
正確なリズムで打ち出され続ける銃弾の音が。
ぽたぽたと地面に落ちる、涙のしずくの音が。
そして……コルク栓を抜くようなやけに軽い音が、耳から離れない。
(あの音が、耳から離れない)
何が悪かったのか、俺にはわからない。
疲労や眠気が集中力を妨げてしまったのかもしれない。
マシンガン男のような狂った襲撃者の存在が、神経をすり減らせてミスを誘発させてしまったのかもしれない。
……そうじゃなくて、他に理由があるのかもしれない。
俺にはわからない。
(……きっと、最初からバレてたんだ)
俺は後ろを走っているエドガーとデッシュを見る。
二人はずっと、徹夜で対人レーダーの研究を続けていた。
だから俺も二人を信頼する気になれた。
きっと、この二人ならなんとかできるんじゃないかと。
(期待なんか、するんじゃなかった)
希望は絶望の裏返しなのだと、誰かが言った。
今ならわかる。その通りなのだと。
思い出す。今までのことを。
夜明けの放送を聞いた俺たちは、砂漠の旅の扉に向かう事にした。
アリアハンでは待ち伏せされる可能性が高いと、ザックスとエドガーが言い出したからだ。
それで俺たちは小走りで西に向かい……見つけた。
土の塊のような、小さな墓を。
(エドガーが掘り返し始めて、俺も手伝った……止めておけば良かったのに)
中には見慣れない女の遺体があった。
徹底的に切り刻まれて、内臓さえはみ出しているような無残な死体が。
エドガーは顔をしかめながら、それでもガチガチに硬くなった遺体に手をかけた。
首輪の研究をするためには、そうすることが必要だってことぐらい俺にもわかる。
デッシュはもちろん、シンシアもザックスも何も言わなかった。
俺を含めて、めいめいが顔を背けた。
エドガーがコトを終えるまで、誰もが明後日の方向を見つめていた。
――そして、音が聞こえた。コルク栓を抜くような、軽い音が。
(……不注意だって? あれが?)
俺は振り返った。焦げ臭いにおいが鼻についた。
真っ赤な血が撒き散らされていた。
シンシアが悲鳴を上げた。モミジの葉に似た肌色の物体が、俺のすぐ傍に落ちていた。
エドガーが右の手首を抑えてうずくまっていた。
そして、その先にあるべき『モノ』が無くなっていた。
不幸中の幸いというべきか、エドガーの命に別状はなかった。
ザックスとシンシアの手当ても適確だったし、エドガー自身がある程度の回復魔法を使えたってことも幸運だった。
そして、当たり前だが誰かの首輪が爆発させられることもなかった。
(当たり前だって? 本当に?)
そして、こんな『事故』があっても、エドガーとデッシュは首輪の解析を続ける気を無くさなかった。
(事故だって? 本当に?)
エドガーは笑って言った。
今回の事故で逆に確信を持てたことがあると。
爆発の仕方からしても、使われているのは爆薬と起爆装置とかではなくて、やはり魔法的なギミックなんだとか……
爆破条件は掛かった負荷の大きさではなく、負荷を掛け続けた時間で判定されているようだ、とか……
俺にしてみれば、そんなことが分かってもどうしようもない気がするのだが。
しかし本人たちがやる気だっていうのに、俺がとやかく言っても仕方がない。
(……そんなんだから、目を着けられたんじゃないのか?)
シンシアはずっと押し黙っている。
いくら芯が強いといっても、この光景はさすがにショックが強すぎたのだろう。
逆にザックスは、怯むどころかますます打倒主催者の気持ちを高めたようだ。
元々の性格もあるだろうし、あくまで主催に立ち向かおうとしたエドガーの姿勢に影響されてるのかもしれないし……
そう、さっきの放送で、親友とやらの名前が呼ばれたせいも入っているのかもしれない。
だから今も先頭を走りながら、絶対に一泡吹かせてやるのだと意気込んでいる。
(……あんたがそんな事を言い続けていたから、手を出してきたんじゃないのか?)
――死後硬直で死体が固くなってたから、外すのに手間取った上に力を加えすぎた?
――本当にそれだけの、ただの事故だっていうのか?
――そうじゃないかもしれないとか、考えたりしないのか?
思い出す。
エドガー達は言った。俺らの会話は全て主催者に筒抜けなんだと。
考える。
本当は会話だけじゃなくて、行動自体が全部バレてるんじゃないかと。
(だから、魔女に目を着けられたんだ。きっとそうに決まってる)
けれど、俺は思い出す。
アリアハンで殺しあってた奴らや、銃を乱射した姿もわからない襲撃者を。
あの、女の遺体の惨状を。
(嫌だ……俺は死にたくない)
(殺されるなんて嫌だ。切り刻まれて死ぬなんて、絶対に嫌だ)
俺はまた、思い出す。
先ほどの放送を。
そしてザックス達や、エドガー達と出あった時の事を。
(ターニアも、イザの兄貴も呼ばれてなかった……)
(……嫌だ)
(イザの兄貴やターニアを手にかけるなんて絶対に嫌だし)
(ザックスやシンシアと殺しあうなんて考えたくもない)
そしてまた、考える。
ザックス達といてどうなるかを。
(……こいつらと一緒に、魔女に刃向かったとして首を吹き飛ばされる?)
(それも嫌だ。ゴメンだ。冗談じゃない)
俺は考える。
(ザックスは強いし、エドガーとシンシアも俺よりかは戦えるだろう)
(四人と一緒にいた方が、心強い事は確かだ)
(でも、俺だって……魔王の手下から村を守る程度には戦える)
(それにこっちにはオートボウガンがあるんだ。
銃弾ってヤツと違って、矢は回収すればまた使えるし、材料さえあれば自作もできる。弾切れの心配はほとんどない)
(レーダーがあれば、死角から襲撃される心配もない……)
俺は考える。
(打倒主催者を公言してるザックスとシンシア、首輪の研究をしてるエドガーとデッシュ……)
(どいつもこいつも、いつ首を吹き飛ばされてもおかしくない。それだけの行動をしてる)
(そんな連中と一緒に居る、俺も……)
考える。俺が取るべき道を。
(なぁ……ゲームに乗ってない人間が、こいつら以外に果たして何人いるっていうんだ?)
(そりゃあ、確かにイザの兄貴やターニア、ザックス達を殺すなんて無理だ。俺には出来ない)
(でも、俺はまだ、死にたくない)
(そう……イザの兄貴達や、ザックス達じゃなかったら……)
(ゲームにもう乗ってる奴だったら……俺の知らない、赤の他人が相手だったら……)
考える。俺が生き延びる術を。
(あのレーダーがあれば、襲撃から身を守ることができる)
(あのレーダーがあれば、相手に気付かれる前に位置を知ることができる)
(あのレーダーがあれば……俺一人でもやっていける……)
(レーダーがあれば……レーダーさえあれば……)
レーダーは今、デッシュが預かっている。
このメンツの中で、唯一俺より弱いと言えそうな奴だ。
(………)
考える。考える。
考えなくてはいけない。誰も助けにはならない。
イザの兄貴も、ターニアも、ここにはいない。
ザックス達も、エドガーも、頼りにするにはあまりにも危険だ。
だから考える。
上手い方法を。
レーダーを手に入れてこいつらから離れるための、上手い方法を。
【エドガー(右手喪失) 所持品:バスタードソード 天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン
【デッシュ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 対人レーダー
【ザックス 所持品:スネークソード 毛布
【シンシア 所持品:万能薬 煙幕×2 毛布
第一行動方針:西部砂漠の旅の扉に急ぐ 第二行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【ランド 所持品:オートボウガン 魔法の玉 毛布
第一行動方針:ザックス達についていく/レーダーを入手して、ザックス達から離脱する
第二行動方針:生き延びる(殺人も辞さないが、知り合いは殺さない&戦わない)】
【現在位置:アリアハン北の橋から西の平原→西部砂漠へ】
岩陰に隠れて眠っていたセフィロスは、閉じた瞼の向こうから眩い光が差しこんでくるのを感じた。
あまりの眩しさに目を開くと、その光の正体が朝日の陽光だと気付く。
…もう夜明けか。
誰にも聞かれない呟きを漏らしながら、重い体を起こす。
体の具合を確かめて見ると、まだ昨夜受けたダメージが完全に回復してはいないようだ。
しかし、残っているのは、傷跡で疼く小さい痛みと肩にのしかかる疲労感だけ。
この程度なら慣れているし、今後の行動に支障は無いだろう。流石はジェノバ細胞と言ったところか。
荷物を背負いなおし、そこから歩き出そうとすると――激しい地鳴りに続き、魔女の声が天から降り注いだ。
(死人が20人、昨日の日没までの数を合わせると51人…クジャの名は無かった…)
ザックから参加者名簿と地図を取り出し、素早く耳にしたばかりの情報を整理する。
昨日一日で51人が死に、残っているのは自分を含めた88の参加者だ。
この様子で行くと、ゲームがどんな形であれ終焉を迎えるのは1週間ほどかかるだろう。
ここで恐れなければいけないのは、参加者同士が団結する事だ。
おそらく、自分のようにゲームに乗って生き残ろうとする者はむしろ少数派だろう。
最初の部屋で他の参加者を観察した限り、殆どが確かな実力を持つ戦士だった。
また、これまた殆どが魔女や魔女に従う龍に敵意の視線を投げかけていた。
とすれば、その力を用い、魔女を倒す事でゲームを脱出しようと考える参加者が大多数を占める筈だ。
そのためには仲間を募って大所帯で行動するだろうし、何より自分のような考えのマーダーを許しはしないだろう。
だとすると、昨夜アリアハンで遭遇したような実力者の揃った集団と多勢に無勢の戦いを強いられる可能性が高いわけだ。
参加者がますますまとまって行動し始めると考えられるこの二日目以降は、
そんな不利な戦いを覚悟しなければいけないだろう。
そこまで考え、セフィロスは他の問題点に思考を移した。
それは、「旅の扉」の存在である。
「扉」そのものはゲームの最初に通った物と同じと考えて良いとして、問題はその位置だ。
魔女が話した扉の位置と地図とを合わせて見る限り、
これから2時間以内に行けそうな所が約1キロほど北にあるあの城下町しかないのだ。
昨日自分がそこで致命傷を負いながら辛くも逃れてきた事を考えると、あまり戻りたくない。
しかし、他の扉ではどうも間に合わなそうだ。
ナジミの搭とやらには海を越える手段が無いと行けそうに無いし、東部の山脈は険しい上に広すぎる。論外。
西部にある砂漠も考えたが、走っても間に合うかどうかという距離だ。
他の所へは遠過ぎて2時間という短か過ぎる時間内に辿りつくのはどう考えても無理だ。
では、どうする?
すぐに行ける距離にあるが、待ち伏せを受ける可能性が極めて高い城下町か。
上手くすれば他の参加者に会わずにすむが、辿りつけるか分からない他の扉か。
どうする?
セフィロスは迷った末、半壊したアリアハンの城下町へと歩を進めた。
クジャは私が去った後も派手に暴れたようだし、城下町ならもしかするとそのクジャと再会できるかもしれない。
【セフィロス(HP3/5程度) 所持品:村正 ふういんのマテリア
現行動方針:アリアハンにある旅の扉から新フィールドへ 最終行動方針:参加者を倒して最後にクジャと決闘】
【現在地:アリアハンへ移動】
383 :
黙祷 1/2:2005/03/29(火) 00:58:09 ID:PTSBQVk4
朝の日が闇を振り払う。
それと同時に騎士の指にはめた指輪が、小さな音を立てて崩れ落ちた。
ピエールは、すでに空となっているアモールの水のビンと共に、それを適当な岩陰に隠した。
どのような跡から危険が迫るか分からないこの状況で、用心に越したことは無い。
すでにそこは、そこにピエールがいるという事実のみを除いて、何者かがいたという形跡をものの見事に消し去っている。
そこまでの工程を終えたと同時に、それはやってきた。
−−放送。
それをピエールは、驚きをもって迎えた。
無論リュカは呼ばれていない。けれど…。
(…レックス様!!)
驚きに悲しみはない。己がこの手で殺すことさえ覚悟していたのだから。
けれど、一度もまみえることなく、己の全く関与しない場所で死に至ってしまうことの覚悟を、果たしてしていたのだろうか?
目を閉じる。
死者に黙祷を捧げるその時間は、何秒ともなかった。
かつても平穏な日々。魔王を倒し、失うことの危険もようやくなくなった、あのわずかな時間。
ピエールはその瞬間に、その日々を思っていたのだろうか。
それは違う。
感傷に浸るのは全てが終わってからでいい。
全てが終わり、己が死ぬそのときでいい。
だから今は、あの小さな金の髪の少年の思い出を、深い、とても深いところに仕舞い込む。
384 :
黙祷 2/2:2005/03/29(火) 00:59:43 ID:PTSBQVk4
朝日を右手に、ピエールは歩き出した。
砂漠の砂は夜の冷気によって、程よく冷たい潜伏場所となるだろう。
旅の扉を目的とする参加者達をどう狙おうか考えているピエールの眼差しは、放送前と変わらず、どこまでも冷徹なままであった。
【ピエール(HP4/5程度)
所持品:鋼鉄の剣、ロングバレルR、青龍偃月刀、魔封じの杖、ダガー、死者の指輪
第一行動方針:西部砂漠の旅の扉へ向かう 第二行動方針:旅の扉の近くで砂に紛れ潜伏し、参加者を襲う
基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】
【現在位置:レーベ南西の山脈地帯最南部→西部砂漠】
385 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:皇紀2665/04/01(金) 23:16:57 ID:Vu/VKbbW
保守〜
魔女に与えられたタイムリミットを半分以上残して、エドガー、デッシュ、ザックス、シンシア、ランドの五人は、
ようやく砂漠の中ほどにあるたびの扉を見つけた。
しかし、扉を目前に五人の足は止まった。
正確にはデッシュによって止められた。
彼の持つレーダーが、一見して砂しかない自分達と扉の間に、何者かの存在を警告してきたのだ。
「…また墓とかじゃないのか?」
「その割には死臭がしない」
ランドの疑問を一蹴し、ザックスはスネークソードを構えその地点に近づく。
残り時間を考えると戦闘をしてでもこの扉に入るべきだと判断したのだ。
だいたい、わざわざ扉の目前で砂に隠れて隙をうかがうような乗り乗りな奴が、そう易々とここから退却させてくれるとも思えない。
「ちょっと待ってくれ」
呼び止めたのはエドガーだ。
「私にはもう使えそうにないからな。これを君に渡しておく」
そう言って、ザックからバスターソードを取り出す。
バスターソード程の大剣を、使い慣れてもいないものが左手一本で扱うのは確かに無理がある。
「ありがたい。じゃああんたらは下がっててくれ。シンシアもだ。ランド、みんなを守るんだぜ」
「ん、ああ」
ランドは多少身を硬くして答えた。
その視線が、デッシュの持つレーダーをチラチラと覗き見ていることにザックスは気づいたが、
敵を警戒しての行動だと思い、特に気にしなかった。
砂に身を沈めると、周りの気配が良くわかる。
視界から得られる情報を遮断してはいたが、ここに何者かが近づいていることはわかった。
砂を踏みしめる足音からして、四、五人だろう。
殺気を消しつつも手に持つ鋼鉄の剣に力が入る。
だが、彼らの足は止まった。
(…気づかれたか?)
そんなはずはないとも思う。
気配を完全に殺し、あの暗殺者の男をつけていたときのように動いてもいない。
しばらく様子を伺おうと、さらに彼らのほうへ意識を向ける。
(何か話しているな…)
十メートル以上距離がある所為か、内容までは聞き取れない。
すると、何故か一人だけがこちらに近づいてきた。
その者は、ほのかに殺気を漂わせている。
(…これは、まずいな)
どういう訳か、彼らは自分の居所を察知したようだ。
互いに位置を把握した状態で殺りあうなら、身動きがとり難いこちらが不利である。
そうこう考えている内に、距離は詰められ殺気は大きくなるばかり。
(ええい…!!!)
ピエールは、己に被せた何億何兆という砂粒を一気に振り払い、向かってくる男に一撃を浴びせた。
これは相手の隙をつくための行為ではなく、己の身を守るために必要な行為である。
故に、ザックスはこの攻撃がくることを容易に想像していた。
鋼鉄の剣は巨大なバスターソードに受け止められ、
重量に物を言わせた薙ぎにより宙を舞い、二十メートル近く離れた砂に突き刺さった。
砂の中から現れた潜伏者が魔物であったことに、五人は僅かな驚きを覚えた。
だがそれは本当に僅かなもので、人間同士の殺し合いの舞台の上ではむしろ、
敵が容赦する必要のないものであったことへの安堵が含まれている。
間髪いれずザックスはバスターソードを振り下ろす。
ピエールは何とかそれを避け、体勢を立て直しつつザックから青龍偃月刀を取り出す。
足場の悪い砂場であって弾力のあるスライムボディは、ともかく機動力の面では勝っているようだった。
一旦距離をとる。
バスターソードより長い青龍偃月刀の間合いを測り、そこで相手を見据える。
ピエールは、このまま距離をとって戦いたかった。
だが、本体であるスライムのすぐ傍の地面をえぐる、銃弾。
「ザックス、そいつの本体は下のスライムだ!!」
マテリア『みやぶる』によって弱点を検索したデッシュが叫ぶ。
釣られてランドもオートボウガンを打つ。
ウインチェスターもオートボウガンも、使い手が人並みだが有能でない以上避けきることは可能だが、
飛び道具に気を使ってはザックスと互角には渡り合えない。
ピエールは決断も行動も早かった。
すぐさま青龍偃月刀をなおしダガーを構えてザックスの懐に飛び込む。
接近戦に持ち込めば敵の援護射撃も止めざるを得ないだろう。
ピエールの思惑は図に当たった。
デッシュもランドも、ザックスに当たることを恐れ援護を止めたのだ。
だが、状況は決して好転したわけではなかった。
ピエールの得意武器は鋼鉄の剣などの中型片手剣である。
ダガーは短剣。
扱ったことがない訳ではないが、もともと好んで使う戦闘スタイルではない。
一方のザックスのバスターソードは接近戦には向かない大剣ではあるが、ザックスはこの手の剣を最も得意としていた。
得意武器というものは、戦士の能力を最大限生かす。
ピエールは致命傷を避けつつも、劣勢に追い込まれていた。
(作戦を変えねばならないな…)
リュカのことを思えばここで全員殺すべきなのだが、今はまだ、無理をすべきときではない。
バスターソードがピエールの腕を打つ。
衝撃に耐え兼ねダガーを取り落とす。
けれど、ピエールはダガーを拾おうとはしない。
もちろん青龍偃月刀を取り出そうともしない。
ザックスが次撃を構える。
ピエールは、魔法の言霊を紡いだ。
「イオ」
爆発の魔力は誰を襲うことなく周囲の砂を舞い上げる。
(しまった!!)
ザックスは、己の手の先さえ見えぬ砂煙のうちに残された。
急いで敵の気配をさぐっても、もうすぐ傍にはいないということしか分からなかった。
ザックスと敵とを包んだ砂煙に、四人は一様に警戒を強める。
そして煙の内より出てきたのはザックスではなく、青龍偃月刀を構えた…。
デッシュがウインチェスターを、ランドがオートボウガンをそれぞれ構え、
エドガーはとにかくイエローメガホンを手に取り、シンシアは魔力を高める。
しかしピエールは四人が次の行動をとる前に、もう一度同じ言葉を紡ぐ。
「イオ」
結果も同じ。
四人は視界の利かぬ煙に飲まれた。
デッシュは砂色の闇の中で動く光を捉えた。
己の外からではなく、中から。
対人レーダーが、自分に向かって急接近する『人』を捉えていた。
鈍い、青い閃光が走った気がした。
さっきまでデッシュがいた空を、すっぱり切り取っている。
間一髪だ。
そして煙が晴れる。
騎士の目と、スライムの目。
四つの眼が自分を睨んでいた。
(また、居所を知られた…?)
視界は完全に塞いでいたはず。
人間である相手が、嗅覚だけで二度も正確に当てることができるだろうか?
ピエールは考える。
そしてデッシュの手に大切に握られているものを、視界に捉えた。
右手にはウインチェスター、左手には対人レーダー。
「「デッシュ」」
視界を回復させたザックスが、エドガーが、同時に叫ぶ。
ザックスは駆け出し、エドガーはイエローメガホンを振り上げ襲い掛かる。
ピエールはエドガーを軽くいなし、もう一度デッシュと対人レーダーを見る。
(何故そんなに大切そうに抱えている)
(戦闘に関係ないものなら、ザックの中に入れておけばいいだろう?)
スライムが、笑った。
ザックスは間に合わない。
エドガーは力が及ばない。
ピエールは青龍偃月刀を下から薙ぎ上げ、それを宙に飛ばした。
対人レーダーを、抱えていた腕ごと。
「貴様!!」
バスターソードを掲げたザックスが、一撃を放つ。
ピエールは受け止めずに避け、そして。
「イオ」
またしても。
「みんな動け。標的を定めさせるな。見えないのは一緒だ!!」
ザックスはあらん限りの声で叫びつつ、全身の神経を研ぎ澄ませる。
自分に襲い掛かるなら返り討ちにする自信がある。
けれど相手の狙いは戦闘能力の低い奴等の掃討だ。
そして今一番危ないのは、五体不満足なエドガーとデッシュ。
「うぅ…」
デッシュはウインチェスターを持ったまま、右手でもぎ取られた左腕を押さえていた。
ザックスが何かを言っている。
痛みが、脳みその集中力を削いで言葉の理解を放棄してしまっているようだ。
デッシュは、立ち尽くしていた。
危険を知らせるレーダーを、持たないまま。
ふと、ザックスは後ろに気配を感じた。
振り返ると、誰かの影が見える。
影は、片腕のない男だ立っているものだ。
「デッシュか?絶対に俺から離れるなよ」
影は答えない。
そして、煙が収まりかかる。
完全ではないが、肩から上位は見える。
「キャアアァァァーーーー!!!!」
悲鳴が上がった。
シンシアが、こちらから目をそらしている。
ザックの足に何かが当たった。
丸い、何か。
まだ足もとは砂が待ってよく見えない。
だから、影のあったほうを見る。
デッシュの首が、なくなっていた。
そして糸の切られたマリオネットのように、首のないデッシュは崩れ落ちた。
ランドは二度の砂煙を、とにかくシンシアの手を引いて煙の外に出ることに努めた。
煙の外で視界を確保すれば、オートボウガンでの反撃もできる。
シンシアだけを連れたのは、デッシュやエドガーとは多少なりとも距離を置いていたことと、
彼ら二人とシンシアを天秤にかけたからであった。
結果的に、ランドはシンシアを守り、デッシュを見捨てた。
シンシアの悲鳴が、そのことを糾弾している。
ランドにはそう聞こえた。
(お、俺はそんなつもりじゃ…)
(あいつだって銃を持っていたじゃないか。自分のみぐらい守れるだろ!?)
煙のむこうに敵を見出す。
ザックスは駆ける。
ランドは茫然と、視線を落とした。
腕があった。
腕の先には手があり、あれを握っていた。
対人レーダー。
デッシュの腕が、こんなところまで吹き飛ばされている。
「これさえ、あれば…」
呟いた。
ランドに、もう周りは見えていなかった。
対人レーダーに手を伸ばす。
それで終わった。
ピエールのロングバレルRに硝煙が上がっている。
シンシアは、先程まで自分を守ってくれていた人が、物言わぬ骸になった瞬間を見てしまった。
ランドは、自分が撃たれたことに気づかず逝った。
ゆっくりと、身体は求めていたレーダーに覆いかぶさるよう崩れた。
ザックスはその間の出来事をどれだけ目端で捕らえ、理解していただろうか?
確実に言えることは、ピエールがランドを撃ったことで、そこに隙が生じたこと。
ザックスの攻撃に対する防御も、回避もできなくなったこと。
けれど元から、ピエールは防御も回避もするつもりはなかった。
むろんここで死ぬつもりはない。
ザックスの攻撃は届かないのだ。
奴まで後三歩とない場所で、ザックスは青い光に包まれた。
それが何なのか判断できぬまま、光は強まり飲み込む。
ザックスは跡形もなく消え失せてしまった。
だが何故?
くどくどと膝下あたりにまだ舞っていた砂がようやく完全に晴れて、エドガーはその理由を理解した。
ザックスが消えた場所には、青い渦を巻く、旅の扉があったのだ。
三度目のイオの新の狙いはこれである。
砂煙によって扉を隠し、自分を囮に最も厄介なザックスを、この場から退場せしめたのだ。
しばらく、ピエールはシンシアとエドガーに注意を払いつつ、その場を動こうとはしなかった。
確認を取っているのだ。
最初に集められた広間からこの地へ来るとき、その扉は一方通行だった。
だがこれもそうとは限らない。
タイムリミットの二時間だけ行き来が可能なのか、それとも一方通行なのか。
扉をくぐった先はランダムなのか、ある特定の場所なのか。
くぐった先のことはともかく、最初の疑問には答えが出た。
ザックスは、戻って来ない、来れない。
ピエールは動き出す。
武器を持たないエドガーとシンシア。
エドガーに至っては右手もない。
ザックスほどの戦闘力はないはずだ。
五人中四人。
皆殺しを諦めたピエールの、最良の結果だ。
魔物の姿をした『死』が近づく。
傍らには親しい人の骸。
あの山奥を思い出す。
(ソロ…。私は…、諦めない!!)
あの時は自分がソロの姿をして死ぬことで、魔物を引き上げさせねばならなかった。
けれど今、死んではいけない。
生きるのだ。
ザック自体を盾に、シンシアが猛進する。
ピエールは青龍偃月刀でザックごと真っ二つに切った。
ザックには言っていた毛布が、一瞬だけピエールの視界を遮る。
シンシアは、避けていた。
手に持つ煙幕用の丸を落とす。
今度は、ピエールの視界が奪われるばんだった。
「エドガーさん!!」
女の声を聞き、右手のない男のいた辺りを闇雲に薙ぐが、手ごたえはない。
数秒後煙は引き、二人の姿はどこにもなかった。
取り落とした武器と死者のアイテムを回収しながら、ピエールは己の慢心を恥じた。
一人はともかく三人も逃しては、やはり穴埋めをせねばなるまい。
この地での回復が困難なようにできているのは、昨日いやというほど思い知っていた。
べホイミもそこそこに、ピエールはイオラを放つ。
イオより大きな爆発は、そこに残る血を、死体を、砂の中に沈めてゆく。
旅の扉だけをアンコウの堤燈のように目立たせて、ピエールはまた砂に身を隠した。
次の獲物を狙って。
もうすぐ、制限時間が半分をきる。
【ザックス(HP9/10程度) 所持品:バスターソード スネークソード 毛布
第一行動方針:??? 最終行動方針:ゲームの脱出】
【エドガー(右手喪失) 所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン
【シンシア 所持品:万能薬 煙幕×1(ザックその他基本アイテムなし)
第一行動方針:??? 第二行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【現在位置:新フィールドへ】
【ピエール(HP3/5程度) (MP1/2程度)
所持品:鋼鉄の剣、ロングバレルR、青龍偃月刀、魔封じの杖、ダガー、死者の指輪、オートボウガン、魔法の玉、毛布、
ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 対人レーダー
第一行動方針:砂に紛れ潜伏し、参加者を襲う 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】
【現在位置:西部砂漠の旅の扉近くの砂の中】
追加文:
【デッシュ 死亡確認】
【ランド 死亡確認】
【残り84名】
修正文:
1/12(本当は1/13)二行目
たびの扉→旅の扉
12/13 十一行目
は言っていた→入っていた
他にも誤字があるかも…
こんな時間だから勘弁してくれ、眠い。
「アグリアス!アグリアス・オークス!!」
「そう大声を出さなくても聞こえているッ!なんだ?」
「扉と思わしきものを見つけた」
「何?」
マティウスの予想通り、それは旅の扉だった。
マティウス達が森に到着してから数十分。彼らは扉を探し続けていた。
扉といっても、想像できる形は不可思議なものから現実的なドアの様なものまで千差万別。
旅の扉の存在を知らない彼らは手間取っていた。
そしてマティウスは服に葉っぱや枝をくっ付けてしまいながら、
必死に扉と思われるものを探し続け、そして目の前に広がる光の渦を見つけた……。
「アグリアス!アグリアス・オークス!!」
「そう大声を出さなくとも聞こえているッ!なんだ?」
「扉と思わしきものを見つけた」
「何?」
マティウスの予想通り、それは旅の扉だった。
青く光る渦が美しい。この不可思議なものは、このゲームが始まった時にも見たものだ。
ならば間違いない、これが次の舞台への扉という奴だ。3人は一安心する。
「ようやくか……」
「マティウスッ、アグリアスッ、ご苦労だったなッ」
「ああ、ゴゴも……って、なんなんだその口調は」
「今は"興奮したアグリアス"の物真似をしているッ」
「な……馬鹿にしているのかッ!?」
「誤解だッ」
溜息をつくアグリアス、そしてその真似をするゴゴ。
それを見て静かにマティウスは微笑した。そして問う。
「答えは決まったか?アグリアス」
「ああ、決まった」
「ならそれを聞かせてもらおうッ」
アグリアスに一発小突かれ、ゴゴは物真似を止めた。
そして咳払いを一つすると彼女は静かに答えた。
「魔女討伐に私も乗った。どこまで協力できるかわからないが、私も同行しよう」
「………私が最も理想的と考えた答えを弾き出してくれた事に感謝しよう、アグリアス」
そして2人はまたクールに微笑した。
ゴゴも微笑した………様に見えた。
「さてアグリアス、そろそろ行こうか」
「そうだな。だがその前に……」
「何だ?」
「その小汚い格好をどうにかしたほうが良い。滑稽だ」
アグリアスに指摘されようやく思いだした。
葉っぱや枝まみれになっていた自分の姿にだ。
すぐにそれらを払う。そして今度こそ。
「行くぞ」
「ああ」
「私も行く物真似をしよう」
森の中で3人は扉へと飛び込んだ。
それを見ているのは、幸福なことに小鳥達のみであった。
【マティウス 所持品:ブラッドソード 男性用スーツ(タークスの制服)
第一行動方針:新フィールドへ 第二行動方針:アグリアスの観察
基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ 所持品:ミラクルシューズ ソードブレーカー
第一行動方針:マティウスの物真似をする】
【アグリアス 所持品:クロスクレイモア、ビームウィップ
第一行動方針:マティウスに同行する 最終行動方針:魔女討伐に乗る】
【現在位置:レーベ南の森にある旅の扉から新フィールドへ】
403 :
騎士の面前:2005/04/06(水) 22:07:41 ID:UKJ55bol
マティウスは気づいていなかった。
彼の存在に、彼のその眼光に。
それは幸いだったのか、それとも不運だったのか。
マティウス達が扉を発見する直前、
ライアンは彼らの存在にいち早く気づき、そして何故か木の上に上った。
今冷静に考えれば馬鹿なことをしたと、ライアンも思う。
だが、今更に冷静になるとその理由はわかった。
それはマティウスの覇気。
ただならぬ、御稜威をも射していると思えるその覇気。
彼から感じたそれが、ライアンを遠ざけたのだ。
だがそれだけではない。
マティウスから、更に感じ取ったものがあったのだ。
それは、闇。
かつて、マティウスのいる世界を暗黒に染めようとした者がいた。
その者がまさにマティウス張本人だった。まぁライアンがそれを知る由も無いのだが。
だがライアンはその二面性に無意識に気が付いたのだ。
何かがおかしい。何かに違和感を感じる。
そう、それは自分のかつての敵であるピサロに似ている。
今はまだそう易々と近づくべきではないのだと体が言った気がした。
だが、すぐに光へと消えていった彼には仲間がいた。
それに「魔女討伐」という単語も聞き取った。彼は正義側の人間だろう。
色々勘繰っている間に去られたのは惜しいが、仕方が無い。また誰かを待とう。
ライアンは木から飛び降り、辺りを眺め、そして呟いた。
「臆病になったものでござるな……拙者も」
404 :
騎士の面前:2005/04/06(水) 22:08:44 ID:UKJ55bol
【ライアン 所持品:レイピア 命のリング
第一行動方針:扉前で待機し、仲間を探す&マーダーを減らす
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:レーベ南の森中央】
保守
保守
その昔 暗黒に満ちた世界があった
もはやその世界は魔王の懐 希望は無く 絶望のみ
その世界を光に満たさんと 四人の人間が天より舞い降りた
その中の一人が かの勇者ロトである
そして彼は魔王を打ち払うその時に 聖なる武具を手にした
それは人の産物ではない それは人の空想ではない
神の手によって造られし希望の証
光の鎧
勇者の盾
そして 王者の剣
聖なる力により 護られるべくして護られた聖なる武具
伝説の鉱物の力と神の息吹によって造られた聖そのもの
そう それは常人には扱うことなどできはしない
神に選ばれし者すら辿り付く事の無い領域
唯の人がそれを扱おうとも その重みに全てを潰されるのみ
その聖なる光は 天に選ばれし者の為の光
その聖なる輝きは 天に選ばれし者の為の輝き
勇者はそれらを羽の様に軽く天に掲げ 闇を切り払うことだろう
大地の精霊ロトよ
勇者にその名を与え 聖なる光の祝福を与えよ
勇者に 光あれ
「助かった…のか」
マッシュとスコールは、ティファの毒牙から逃れることが出来た。
いきなり襲い掛かってきた彼女に戸惑い、不意打ちに手間取ったものの幸運にも無傷で逃亡できたのだった。
そしてアイラの支給品も、スコールが袋ごとしっかりと持っていた。
「………彼女は、」
「死んだだろうな…くそっ!」
スコールの呟きを遮り、マッシュは怒りに打ち震えた。
仲間を護れなかった自分に腹が立っているのだ。
だが今は冷静になるときだ。あくまでもここは戦場だ。
悔しがるのは後で良い。
「ところでスコール。お前、この剣を使えるか?」
「これは……?」
「説明書みたいな紙にはロトの剣って書いてたんだけどよ。重いんだよ、凄く」
「重い?あんたが持ち上げられない程か?」
マッシュは、相手の持っていたアイラの袋から剣を落とすように出して言った。
スコールもそれを先程からずっと見つめていた。
スコール自身の得意戦術は大型の剣での斬撃。
どうせなら両手剣であって欲しかったが、ナイフや鞭よりはロトの剣のサイズの方が使いやすい事は確かだ。
マッシュがそれに気づいたのかは知らないが。
そして彼はマッシュから説明書と剣を受け取ると、ロトの剣を天高く持ち上げ……!!
られなかった。
「……くっ!」
「どうした?」
「さっきから重過ぎて………全然持ち上がらないんだが」
「お前みたいなのにも無理なのか……」
「信じられないが……な。腹が立つな、全く」
「信じられない、かな?」
「いや、僕は信じるよ。そういう伝説は僕の世界にもあったし」
一方こちらはロラン達。
今度こそ本当に、アリアハンを目指そうと四苦八苦していたのであった。
朝の放送でショックに襲われていたが、今は悲しむ時ではないと皆は知っていた。
だから今はこうして、笑っている。悲しみに押し潰されない様に、笑っている。
「で、そのロトの剣って言うのが伝説の聖剣だというのはわかりました」
「うん。それで、その聖剣さえ手に入ればいいんだけど……」
ロランとすっかり回復したサックスは先頭に立って、こうして話をしながら歩いていた。
単純な防御力や咄嗟の行動等に長けた2人がその役目を志願したのだ。
そして他の皆は後ろで固まって歩いている。いくつもの明るい声が溢れていた。
それを確認すると、ロランは話を続けた。
「あれは他の人間には扱えない。勇者の血が流れていないと、常人にはとても重過ぎて持ち上げられないんだ」
「そりゃ凄い」
「どんな悪人が持とうがただの飾りと化す。あれはそういう剣なんだ」
「じゃあ大丈夫じゃないですか。ロランさん以外には使うことが出来ないんでしょう?」
その言葉を聞いて、ロランは溜息をついた。
相手の言葉に対する呆れでは無い。現状に対しての呆れだ。
しばらく名簿をパラリパラリと捲るロラン。
「実はこの殺し合い、僕のご先祖様である勇者ロトが参加しているらしい」
「え?そうなんですか……」
「パウロも死んだ今、ロトの剣を使えるのは僕とそのロト本人だけだ。あまり考えたくは無いけど……」
「考えたくないけど?」
「彼以外の人間が、その剣を見限ってどこかに捨てるという可能性もある」
そうなってしまっては正直凹む。
ただの鈍らの剣に用はない、そう思う人間は数多くいるはずだ。
「まぁ、そうならない事を祈るだけだけど」
「そうですね……っと、ロランさん!前前!」
「あ……おーい、皆!森を抜けたぞー!」
後ろの中間達に振り返り、ロランは言った。
するとゼルやフルート達が我先にと平原に姿を出した。勿論辺りを警戒しながらだが。
「やった!ついに抜けたのね!」
「久々な気すらしますなぁ、この照りつける太陽は」
「やっぱこれくらい射してないとなんか変な感じだよなー」
「そうですね〜、まぁ私は慣れっこですけど〜」
「とにかく、まずはこれで一安心ですね」
各々が喜びを口にする中、サックスとロランは笑みを浮かべた。
「地図によると、ここから東に行けばやっとアリアハンらしい」
「あともう少しですし、この調子でアリアハンに行きましょう!」
「「「「「おー!!」」」」」
「今すぐに移動か。確かに一理あるな」
「ああ、まだ襲撃が終わったとは言い切れないしな」
「それにこの剣の重さでは…話にならないからな」
「……俺にも重過ぎて何がなんだかって感じだったしな」
「そんなものを持たせようとしていたのか……」
そしてまたスコール達。
どうやらマッシュがここからの移動を提案したらしい。
スコールも同意し、彼が示した方角へと移動することにしたのだ。
「ところでスコール、お前その剣はどうするんだ?」
「そうだな……ここで捨てても良いが、何か特別な力が宿っているかもしれない。持っておこう」
「意外と物好きだな、お前も。ま…あいつの形見みたいなもんだし、な……」
「………ふん」
そして2人がかりでようやく剣を片付け、歩き出した。
こうして、仲間を目の前で失った者は動き出した。
こうして、かつての仲間がどこかで散ったことを知った者は動き出した。
次の世界へと行く為に。
いつか魔女を倒す為に。
時も、彼らと共に動き出す。
【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石】
【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3)
ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
アイラの支給品袋(ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ)】
【第一行動方針:マッシュの示した方角に移動 第二行動方針:ゲームを止める】
※彼らがどの方角に移動したかは、次の書き手さんに任せます。
【フルート 所持品:スノーマフラー 裁きの杖 魔法の法衣】
【ロラン 所持品:ガイアの剣 ミンクのコート】
【リルム 所持品:英雄の盾 絵筆 祈りの指輪 ブロンズナイフ
【ゼル 所持品:レッドキャップ ミラージュベスト】
【サックス 所持品:水鏡の盾 草薙の剣 チョコボの怒り】
【第一行動方針(五人共通):アリアハンへ向かう
第二行動方針(五人共通):なるべく仲間を集める
最終行動方針(五人共通):ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】
【ユウナ(ジョブ:白魔道士) 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子
【プサン 所持品:不明
第一行動方針:フルート一行についていく 第二行動方針:ドラゴンオーブを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ、困ってる人や心正しい人は率先して助ける 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在位置:アリアハン西の平原(アリアハン西砂漠から東にある平原)】
えらい事になった。
いや、本当にこれは凄い。
「最初から支給品は確認しとけっての!こんな良いモン入ってたんだろ!?」
「いやぁ、うっかりといいますか。まさかこんな奇妙なものが入っているとは」
ゼル達は目標を変え、アリアハンではなく砂漠の旅の扉へと爆走していた。
文字通り、爆・走!
きっかけはアリアハンに向かおうと意気込んでいた最中。
ユウナがプサンの支給品が未だに謎な事に気が付いたのだ。
もしかしたらとても凄いアイテムが眠っているかもしれない。
そう期待する彼らを尻目に、袋から無造作に放り出したそれはなんと!!
「はっはっはァ!!まぁでも確かに軽トラが入ってるなんて思うわけ無いぜ!!」
軽トラでした。
鉄で作られたそれは大体の障害にも耐えられる。
そうそう時間が無いこともあってか、彼らはそれを使う事にした。
そしてアリアハンではなく、少々無理をしてでも近場である砂漠の旅の扉を目指すことになったのだった!
そして車に一番詳しい(はずの)ゼルが運転しているのだ!
しかし慣れていないのか、確実に中心部には走っているものの、砂煙を撒き散らして暴走状態!!
じゃんけんに勝ったプサンを助手席に、そして残りの負け組共を後ろの荷台に乗せて走る走る走る!!
ゼルのアドレナリンは大爆発だ!すげぇ!!
そして砂煙が巻き起こるこの状況に、メンバーが文句を言いまくる!
「げほっげほっ!これもうちょっとスピード落とせないの!?」
「目に砂が入りそうですよ〜」
しかしゼルは無視だ!
頑張れゼル!負けるなゼル!後で絶対皆にボコられるから!!
「む?」
一方こっちは砂に隠れているピエールである。
対人レーダーが大勢の人の塊を感知したことに気づいたのだ。
しかもやけに早い。さながら大勢の馬の塊のようだ。
「珍妙な……だがこれはチャンスだ」
立て続けに現れる大人数の参加者。どうも自分は運が向いているらしい。
今度こそ絶対に仕留めてやる。そして意気込んだピエールはそっとレーダーの感知した方向を見た。
凄い勢いで何かが迫ってくる。
ピエールの世界での文明レベルではありえないし、理解できないものが襲ってきている。
だが、何か嫌な予感だけはしていた。あれの直線上にいてはいけない気がしていた。さぁどうしようか。
「狙撃か……」
たどり着いた答えを、ピエールは袋から取り出して表現した。
そう、ロングバレルRだ。あれを狙撃しようというのだ。
砂煙に隠れて相手の姿は見えない。仕方が無いので直線上からは離れた。
そしてまた砂に隠れ、狙撃した!!
ズドォン!!
ゼル達の耳に銃声が届いた。
「うわ!何ですか今の!」
「今のは…銃!?私たちを狙っているんでしょうか。でもその割にはこちらには掠りもしなかったけど……」
「まぁ…つまりやばいんだね!おーいゼル!目の前に青い光があるだろ?アレに急いで突入してくれ!」
「おっしゃあ!皆捕まれよ!!」
だが、どうやら掠りもしなかったらしい。
相変わらず爆走する何かを見て舌打ちするピエール。
そしてまだまだ近づいてくる不思議な物に銃を構えた。