ドラクエの小説スレッドパート2

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1296 ◆kYB5EDmqco
これは連作短編ゲームブック方式の小説です。書き手は固定されていませんので
いつもはROMの方も書き手になってみてください。

1)主人公は旅の扉を使って新しい町へゆき、冒険し、また次の町へ 旅の扉から旅立ちます。
冒険中の行動を全て書き手さんが決めても、途中にゲームブック風選択肢が登場しても構いません。
ただし、冒険の最後の旅の扉の行き先だけは複数の選択肢を用意してください。
2)次に書く人は、どの選択肢を選んだか明記して進めてください。
書き手以外の人が希望を書き込む事も可能ですが、その希望に沿って進むかどうかはわかりません。
3)書き手は選んだ選択肢以外については、書く事ができません。以前の選択肢に出たのに選ばれなかった場所を再び選択肢に出す事は可能ですし、過去に行った場所の事を思い出す、等はOKです。
例:A、B、Cの中からAに行ったとしたら、B、Cに行った場合の話をAの中で書くことはできません。
4)基本的にはひとつの冒険をひとりで書いた方がやりやすいように思いますが、
  途中で書き手が交代してもOKです。
5)旅の扉が出た時点で、次の書き手さんに交代します。書き手希望者がいない場合は続行もOKです。
6)ドラクエ世界の中なら、どこへ行っても構いません。アリアハンの次にフィッシュベルへ飛ぶ等もアリです。
☆簡単Q&A☆
Q:短編って何レスまで使っていいの?
A:今の所、レス数制限は特にありません。
Q:エロはなし?
A:話の流れ次第ですが、エロで続けるのは禁止です。1レスでやめてください。
Q:これ、いつ終わるの?
A:皆で書きながらエンディングを考えましょうw
Q:感想とか希望とか書き込んでいいの?
A:是非書いてください。皆で楽しく進めようYO!
Q: トルファの出ないSSをこのスレに書いてもいいの?
A:ぜひぜひ!ただし、混乱するので、最初にタイトルを決めて、明記しておいてください。
 現在、『華龍光臨』のみが連載中。
2296 ◆kYB5EDmqco :03/10/22 21:23 ID:8v+XUaVL
前スレ ドラクエの小説スレッドパート1
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1029930091/

■プロローグ

旅の扉。特殊な魔法で2箇所をつなぎ合わせた、トンネルのような移動手段だ。今では旅の扉を作れる者は
いないと言われ、既にあるものを利用するしかないが、旅をする者には1つの道として重宝されている。
旅の扉がどこにあるのかは、多くの冒険者によって世界中から報告され、数年前からその地図も売られており、
旅行感覚で旅をする者も増えてきた。今や「冒険者」と言えども命を賭した戦いの場などない。それは平和の
証だが、冒険者にとってひどく退屈な事でもあった。
 暇を持て余す冒険者の間に、最近流れ出した噂がある。赤い旅の扉。一見すると色が違うだけの旅の扉に
見えるが、入り口と出口はつながっておらず、入ったが最後引き返す事はできない。世界のどこにもつながって
おらず、どこにでも行けるがどこに行くかはわからない、そんな物があると言うのだ。噂を聞いた冒険者達は
久しぶりの未知に沸き立った。君も冒険の旅を夢見るならばわかるだろう、どこにでも行けるがどこに行くかは
わからない、その危険がどれほど心を震わせるか。多くの冒険者が旅先でその話をし、瞬く間に噂は世界を駆けた。
 多くの冒険者が旅立ったが、その幻の旅の扉を見つけたという話は全く無い。やはり噂に過ぎなかったのだと
言う者も多く、流行りが過ぎて人々の関心が薄れても、トルファはまだ探し続けていた。彼がそこまで探し続ける
理由は誰も知らず・・・いや、もとより冒険者にとっては旅に理由など必要ないのかも知れない。今夜は宿を
取れず、野宿していたトルファが夜空を見上げていると、目の前の空間が赤く裂けた。驚いて剣を構える
トルファの前に、赤い亀裂の中から一人の男が現れ言った。
「これがお前の探している旅の扉だ。一度これを通れば、時が来るに従い扉の方からお前のもとに現れるようになる」
 呆然と見ていたトルファが我に帰ると、男は既に姿を消していた。
 あの男が何者なのか、何故自分にこの扉を届けにきたか解からないが、求めていた旅の扉がここにあるのだ。
トルファは赤い旅の扉に飛び込んだ。直後視界がゆがみ一面が赤一色になる・・・
頭の中に響く声に従って扉を抜けたとき、トルファの前に見知らぬ世界が広がった。
3296 ◆kYB5EDmqco :03/10/22 21:31 ID:8v+XUaVL
■これまでのあらすじ

第一の扉 〜レヌール城の宴〜

扉を抜けたトルファの目の前に、荒野に寂しくそびえる古城の姿があった。
そこで、トルファはブーンと名乗る一人の魔法使いと出会う。『光の玉』を求める
この不気味な男に、何故か共感をもったトルファは、男に協力して城内の探索を
開始した。次々と襲いくる亡霊の妨害、鎧の騎士との死闘を経て『光の玉』を
手にしたトルファを待っていたのはブーンの裏切りであった。
 ブーンこそが真の魔物だったのだ。気が付けば、呼び笛に導かれた魔物の軍団が
レヌール城を囲むように迫り、逃げ場はない。魔物の手助けをしたことを歯噛みして
悔しがるトルファに向けてブーンの必殺の呪文が放たれる。
 虚を突かれた形となったトルファ救ったのは、王妃ソフィアと国王エリック。
二人の亡霊であった。王妃ソフィアが身を挺してトルファをかばい、国王エリック
が、『光の玉』を自分たち夫婦の墓所に隠す。全てを見届けた後、
トルファは迫り来るモンスターの集団から逃れるべく、テラスに身を躍らせた。
自嘲の笑みを浮かべて大地に叩き付けられるのを待つトルファを、赤い渦が飲み込んだ。
4296 ◆kYB5EDmqco :03/10/22 21:33 ID:8v+XUaVL
第二の旅の扉 〜アッテムト〜

アッテムト。そこは、かつて死と荒廃に満ちた鉱山町であった。
町を覆うように鉱山から噴き出すガス。毒の沼地の毒気。
 しかし、今この町を覆うものは人々の陽気と幸せそうな笑顔。
そこで、トルファは一人の男の懺悔を聞く。
5296 ◆kYB5EDmqco :03/10/22 22:44 ID:8v+XUaVL
>>4 ×第二の旅の扉 ○第二の扉に訂正。

 第三の扉 〜ラダトーム “竜の一族”〜
赤い旅の扉を抜けた先にそびえるは、ラダトームの城。
地下世界アレフガルドを治める大国の首都だ。「竜王の島に異変有り」との報に
国中が恐怖に涌くなか、トルファは訪れた。探索隊で出会った頼もしい男達、
イシュタル島に新たな魔王となるべく天界から降臨した成竜の息子。数奇な縁に
導かれて出会った人と天界の住人の結束を前に、竜王二世は地に伏した。
探索隊の面々が勝利の喜びと興奮にかられるなか、呼び止める声を軽くいなして
トルファは一人背を向けて歩き始めた。竜王の島から虹の橋へと一歩踏みだしたとき、彼を
おなじみとなった赤一色の空間と、友誼を結んだ竜族の若者が待っていた。

 精霊の加護に守られたこの地で繰り広げられた冒険は、トルファが体験した数多い
冒険のなかで、代表的なものの一つとして数えられている。
6296 ◆kYB5EDmqco :03/10/22 23:04 ID:8v+XUaVL
 第四の扉 〜 ルプガナ “丘に咲く曼珠沙華の花” 〜

赤一色の空間をわたって、人となった竜族の若者は旅立っていった。
竜の血をひくことになる自分の子孫のために街を作ると言って……。
また一つ小さな別れを繰り返し、トルファは港町ルプガナに立った。
そこで出会ったスイと名乗る謎の美少女を通して、トルファはアレフガルドに
残る悲話の体験者となる。野望のために魔物にまで成り下がったスイの父・ムーンブルクの
国王を討ち果たした後、トルファはスイと別れ、血のような花を咲かせる曼珠沙華の丘から
新たな見知らぬ地へと旅だった。

以下、第五の扉 〜イシス 風と砂の狂想曲(仮)〜 へ
7296 ◆kYB5EDmqco :03/10/22 23:08 ID:8v+XUaVL
 というわけで、適当に>>3->>6の間で、これまであったストーリーに題を入れたり
粗筋を書きましたが……できれば、ストーリーを担当した方に修正してもらいたいと
思っています。まだ見ておられるなら、是非ともやっていただきたい。
8諸葛亮スラリソ\ ◆5VrxCs/8kA :03/10/23 00:24 ID:XFuxHWim
乙ですた。
9諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :03/10/23 00:28 ID:XFuxHWim
…あれ?
何で名前に…

兎にも角にも乙でした。
10296 ◆kYB5EDmqco :03/10/23 01:56 ID:YF6/2mnD
題は下記の書き方の方がいいね。これに変更。

■トルファの冒険の書
第一の扉 〜レヌール城〜 “古城の宴”
第二の扉 〜アッテムト〜 “古代遺跡の街(仮)”
第三の扉 〜ラダトーム〜 “竜の一族”
第四の扉 〜ルプガナ〜  “丘に咲く曼珠沙華の花”
第五の扉 〜イシス〜   “風と砂の狂想曲”

■華龍光臨
7ベースの物語で現在フォロッド。


>>9
どもです。お互い頑張りましょう。
11296 ◆kYB5EDmqco :03/10/23 02:22 ID:YF6/2mnD
1.赤色の扉

トルファは赤色の扉を開いた。部屋の中は不気味に静まり返り、水滴が石の床を
叩く音だけが反響している。机の上には水のつまった瓶とメダルの入った袋が無造作に
置かれていた。ポウッと天井に青い光がともり、先程の風の精が降りてきた。
「机の上に置かれたメダルと瓶は私からの報酬です。どちらか片方をお持ちください」
袋の中に入ったメダルの数は合計二十一枚。これだけでは何の役に立つのかまるで
わからない。確実に言えることは、水のつまったガラス瓶は、この後に控えた砂漠の鬼との
戦いで重宝するだろうということだけだ。

1.小さなメダルにする
2.瓶をもらう。
1269 ◆Qz0e4gvs0s :03/10/23 10:50 ID:bltZL+X6
2. 青色の扉

トルファはうんこを漏らし、
その味を存分に味わった。
ーーーーー終了ーーーーー
ドラクエの巻
>>11
とくれば、もちろん1

遅ればせながらスレ立て乙です
14296 ◆kYB5EDmqco :03/10/23 20:38 ID:JyY3OGZA
1.小さなメダルにする

トルファのメダルの入った袋を選んだ。
メダルのずっしりとした重みが掌に伝わってくる。
「それでは、御武運をお祈りしています」
トルファ達は赤い扉の間を後にした。
15296 ◆kYB5EDmqco :03/10/23 21:02 ID:JyY3OGZA
青い扉を開けると、中は真っ暗だった。
「灯りをつけましょうか?」
そう尋ねようとした少女は、緊張した面もちで足を止めるトルファの姿を見た。
少女は目を凝らして闇の中を見たが、何も感じ取ることはできなかった。
「いるんですか?」
シードが緊張しているのは、モンスターの気配を察知したからに他ならない。
「ああ、それも結構な数じゃないかって気がするよ」
「残念だが、それは君の検討違いだ」
突然第三者の声が割り込んできた。恐ろしいまでに澄んだ声音。
パッと部屋の中が明るくなり、豪華な応接間の様相を映しあげた。
>>15の訂正。すみません。間違って投稿してしまいました。

青い扉を開けると、中は真っ暗だった。
「灯りをつけましょうか?」
そう尋ねようとした少女は、緊張した面もちで足を止めるトルファの姿を見た。
少女は目を凝らして闇の中を見たが、何も感じ取ることはできなかった。
「いるんですか?」
トルファが緊張しているのは、モンスターの気配を察知したからに他ならない。
「ああ、それも一人じゃない。闇の向こうから猛獣の群れが伺ってくるようなプレッシャーだよ」
「残念だが、それは君の検討違いだ」
突然第三者の声が割り込んできた。恐ろしいまでに冷ややかに澄んだ声音。
パッと部屋の中が明るくなり、豪華な応接間の様相を映しあげた
17296 ◆kYB5EDmqco :03/10/23 21:45 ID:JyY3OGZA
_| ̄|○ 今度はトリップ書き忘れだぜ。主人公の名前を別小説のやつとごっちゃに
してしまったし……寝ぼけながら書くもんじゃないですね。この失敗のおかげで
目が覚めたけど。

>>16の続き
大きなテーブル、金の燭台、豪華な家具、今すぐにでもパーティーが開けそうだ。
しかし、声の主はテーブルについておらず、先程空間を覆うように占めていた魔物の
気配も嘘のようになくなっている。
「お初にお目に掛かる。風の精が選んだ人よ」
部屋の四隅から砂が立ち上り渦を巻くようにして一点に集束する。
現れたのは白いローブで全身を覆った人間型の魔物だ。
先程上の階でトルファが倒した魔物によく似ているが、身に纏う気配は比べ物に
ならない。優雅な物腰で椅子に腰を下ろすと、魔物はトルファ達にも席を進めてきた。
18296 ◆kYB5EDmqco :03/10/23 22:01 ID:JyY3OGZA
「遠慮することはない。罠など椅子にも卓にも仕掛けていない」
「結構だ。遠慮させてもらう」
トルファの反応はにべもない。気を悪くした風もなく魔物は、言葉を続けた。
「そうかね。せめて交渉が決裂するまでは友好的でいたかったのだがね……」
「交渉?」
「そうとも。女王の友人……イーシャと言ったかね。条件さえ飲んでくれるのならば
 我ら砂の眷属は、風の眷属の領地より去ることに依存はない。君の王国からさらった
 人間達もお返ししよう」
「……嫌に友好的なんだな。目的はこの地を砂で鎮めることだとばかり思っていたが」
「それは副次的なものだよ。我々には十二個ほど欲しい物があってね。そのうちの
 三つがこのイシスの地に眠るということまでは掴んだのだが……そこからが大変でね」
もったいぶるように魔物が肩をすくめておどけてみせる。
「一つは砂漠の流砂の底にうずもれているのを、同胞が見つけた。
 二つ目は砂漠を横断する隊商のリーダーが持っていた。
 しかし、最後の三つ目だけはどこを探しても見つからなかった。我らの力の通じぬ
 水の底か、はたまた二つ目を見つけたときのように、人間が持っているのか……」
19296 ◆kYB5EDmqco :03/10/23 22:07 ID:JyY3OGZA
そこで魔物は一端言葉を区切ると、意味ありげにトルファの顔を見て笑った。
「近しい者は惹かれあわずにはいられないとはよく言うが、実際その通りだったよ。
 トルファ君、私が欲しいのは君が持っている三つの宝石だ。赤い門のマークが刻まれたね。
 それを私に渡してくれれば、我々はここから立ち退こう」

1.渡す
2.渡さない 
2
2
22296 ◆kYB5EDmqco :03/10/26 22:25 ID:ddx5pNG2
2.渡さない 

「悪いけど、無理だね」
「ほう、予想された解答ではあるが……何故だね」
「1つ、俺は三個もその石を持っていない。一個は財布ごと盗まれてしまった。
 2つ、俺は強盗が嫌いだ。理由は以上。納得したか?」
語気を強めてトルファが理由を言い放ったとき、うなり声のような音をあげて
部屋が揺れ始めた。
「いいだろう。できれば君も連れてこいとの仰せだ」
テーブルと椅子、そして家具が一瞬で砂となって崩れ落ちる。
ローブを突き破るようにして現れた巨大な砂の塊が部屋の中央に立ちはだかる。
本性を現した砂の王が、不気味に姿を変えながらトルファ達に迫ってくる。

1.ルカニを唱える
2.ガラス瓶の中の水を使う
3.斬りつける
1
アイテム活用で2
ほしゅ
26 ◆QtFWWohQxQ :03/11/02 02:17 ID:lnxugemx
ここか小説スレって。
全然関係ないけど、とりあえず296さん乙w
27ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/03 03:42 ID:hZUTjafq
今、ドラクエ5とドラクエ6の長編小説を書いています。
かなりオリジナルが入っています。
それと恋愛も。
>>27
大期待してみやう
29ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/03 03:56 ID:hZUTjafq
でも、>>1を見てみるとゲームブック方式になっているみたいだけど・・・
大丈夫かなあ。
>>29
最後のQ&A読んでみそ
31ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/03 03:59 ID:hZUTjafq
まあ、ダメになった時は途中で止めたらいいし、大丈夫だろう。
小説はかなり素人だけど頑張ります。

というわけで、最初はDQ6の小説から行きます。
32ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/03 04:19 ID:hZUTjafq
DQ6長編小説

1.目覚めの朝

ここは喉かな村、ライフコッド。

少女「お兄ちゃん、お兄ちゃん起きてよ、もう朝だよ」
イザ「んん・・・ふあ〜・・・タ、ターニアおはよう」
ターニア「もう、お兄ちゃんったらいつも起きるのが遅いんだから」
イザ「ハハ・・・、ごめんターニア」
ターニア「そうだ、今さっき村長さんが来て、お兄ちゃんに用事があるから起きたら村長さんの家に
     来てくれって」
イザ「え、村長さんがあ・・・何の用事だろ」
ターニア「そういう事だから早く村長さんの家に行かないと」
イザ「そうだな、とにかく行ってみるか」
そういうとイザは服に着替え、村長さんも家に向かった。
33ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/03 04:22 ID:hZUTjafq
早速間違った。
村長さんも→村長さんの
ごめんなさい。
>>31
ちょい待ち!
投稿する前に、メール欄にsageを入れることを覚えませう
この板このスレは、素人の自称小説家さんは大歓迎ですが、2ちゃん素人さんは面倒みられません
また、荒れやすい板のため、2ちゃんねるブラウザを導入することをオススメします
35ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/03 04:28 ID:hZUTjafq
>34
ごめんなさい、ついsageるのを忘れていました。
小説はまだ素人ですが、2ちゃんは素人ではないので。
36ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/03 05:20 ID:hZUTjafq
2.精霊の冠

早速村長さんの家に向かった。
そして、村長さんの家に着くと、ドアと叩いた。
「トントン」
イザ「村長さん、いますか?イザですけど」
村長「おお、イザか入って来なさい」
イザ「失礼します」
そういうと、イザはドアを開け家の中へ入る
村長「遅かったなあ、ずっと待っていたんじゃぞ」
イザ「スミマセン、ちょっと・・・、ん?」
イザはテーブルに大きな袋を見つける
村長「ああ、そうじゃった今年はお前の妹のターニアが精霊の使いの役だから
   兄であるイザに精霊の冠を買って来て欲しいと思ってな・・・どうじゃ、行ってくれるか」
イザ「はい、行ってきます」
村長「そうか・・・良かった。それでは、早速シエーナに行って精霊の冠を買って来てくれ。
   お金は、この大きな袋に入っている村の民芸品を売れば足りるはずじゃ。
   それでは、頼んだぞ」
イザ「はい」
そういうと大きな袋を持ち、村長さんの家を後にした
37ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/03 07:04 ID:hZUTjafq
3.旅立ち

イザ「まあ、とにかく家に戻るか。いきなり行ったらターニアが心配するからな」
とりあえず、ターニアの家に戻ることにした。
イザ「ターニア、ただいま」
ターニア「あ、お兄ちゃんお帰り・・・。ところで村長さんの用事って何だったの」
イザ「ああ、ほら今日の夜祭りがあるだろ。それで精霊の冠を買って来るように村長さんに頼まれた
   んだよ」
ターニア「そうなんだ・・・、ちょっと心配だなあ」
イザ「ハハ、そんなに心配しなくても大丈夫さ」
ターニア「そうだね、お兄ちゃんなら大丈夫だよね」
    「そうだ、お弁当も作らないといけないね、ちょっと待っててね、すぐ作るから」
イザ「頼むよ・・・、そうだちょっと出かけてくるから」
そういうと、ターニアの家を出た。
イザ「やっぱり、何も持って行かないで旅に出たら、死んでしまうよな」
  「と、とにかく武器屋に行って装備を整えないと」
そういうと、武器屋に向かった。
イザ「え〜と・・・、どうのつるぎと・・・」
  「よし、装備はこれで良いかな、さてそろそろ家に戻るか」
イザ「ただいま、ターニア」
ターニア「あ、お兄ちゃんお帰り、もうお弁当できているよ」
はいっとイザにできたての弁当を渡す
ターニア「お兄ちゃん、本当に無理しないでね・・・」
イザ「大丈夫だって、相変わらず心配性だな・・・(ターニアがそんな事言うから俺まで心配になってきた)」
  「それじゃあ、行って来るから」
ターニア「う、うん・・・本当に気を付けてね、お兄ちゃん」
心配そうにイザを見つめる。
イザ「ああ、それじゃあ行ってきます」
  「ま、まあ大丈夫だよな・・・俺」
38ロト ◆t5n7z.5zzY :03/11/04 08:34 ID:Gn4xqrXZ
4.シエーナ

早速イザは、山はだの道に向かった。すると、そこに一人の男が寝そべっていた。
ランドだ。
そして、ランドは俺に気が付くと、こちらに近づいて来た。
ランド「よお、誰かと思ったら兄貴じゃないか、こんな格好で何をしに行くんだい?」
イザ「やあ、ランド。今からシエーナに行って精霊の冠を買いに行くんだよ」
ランド「そういえば、そんな時期だよな。確か今年の村まつりはターニアちゃんが神の使いをやるんだろ?
    楽しみにしてるって伝えておいてくれよ。ア・ニ・キ!」
イザ「ああ、伝えておくよ。(俺、あんまりランドの事好きになれないんだよな)
   それじゃあ俺、行くから」
そういうと、ランドと別れ、シエーナに向かった。
始めはぶちスライムやファーラットに苦戦するが、なんとかシエーナの町に着くことができた。

シエーナという町はとても活気があり、年に一度バザーがあるということで有名だ。
イザ「相変わらず賑やかな町だよな。そ、そうだ俺は精霊の冠を買いに来たんだよな。
   確かビルデさんって人だよな」
キョロキョロと探していると、一人の女性を見つけた。
イザ「あの人に聞いてみるか。すみません、ビルデさんの家はどこですか?」
女性「え、ビルデは私の父ですが・・・、もしかしてライフコッドの使いの人ですか」
イザ「そうなんですか、それは良かった。ところでビルデさんは?」
女性「それが・・・、父は西の森に精霊の冠の材料を探しに行ったきり帰って来ないんです。どうか父を探して下さい」
イザ「西の森の方ですね。分かりました、ちょっと行ってきます」
そういうと、イザは西の森に向かった。
39 ◆kYB5EDmqco :03/11/04 11:02 ID:WJKdJ3O9
新しい人頑張ってるね。俺も頑張らないといけないなぁ。
じゃぁ、俺の投票もいれて2にするか。
40華龍光臨:03/11/04 21:29 ID:v5p9NzZH
戦闘は程なく終わった。
からくりの兵は工作活動する技術はあれど一度動きを止めた衝車を再び動かせるようにすることはできなかったようだ。
もと来た道を戻ってゆく。
衝車はここに放置していくようだ。
「後をつけてみますか?」
「いや、危険だろうからやめておこう。」
からくりの兵を見送って草むらから姿を現す。
町のほうは敵が撤退したのを確認して城門が大きな音を立てて開かれる。
それと同時に工夫たちが城門から現れる。
護衛の兵隊も一緒だ。
からくりの兵以外にも魔物の姿は見られる。それを考慮したものだろう。
「これはどうします?」
アルスが衝車に指をさす。
「放っておいて問題はないだろう。偵察の兵が向けられることだろうからな。」
「兄者。行きましょうぞ。」
「うむ。」
ゆっくりと城門へと向かう。
城門の兵士がこちらに気付きゆっくりと向かってくる。
簡単な問答の後に一行は門を潜る。
41華龍光臨:03/11/04 21:30 ID:v5p9NzZH
「宿は取れました。」
「うむ。ありがとう。」
宿屋の女性は久しぶりの客といっていた。
ここ数年戦争のせいで客足がめっきり遠のいてしまったそうだ。
戦争はかなりの劣勢であるようだ。
敵の本拠はすでにどこかはわかっているようだがどうしても手が出ないといっていた。
それでも、ここから程近いフォロッド城の諸将のおかげでここまで堪えてこれたということだ。
「敵の本拠が知れても攻撃が加えられないとはな。」
「あのからくりの兵相手ではさぞかし攻めがたいことでしょうな。」
なるほど、からくりの兵相手では通用しない戦法がある。
兵糧攻め、心理戦…なるほど。からくり相手では全く通じないことだろう。
「技師…が必ずいるはずですが。」
誰かの手で作られたのなら故障を治す、または作り出す技師がいるはずだと。
もし捕らえればどうにかなるとは思うが…表に出てくることはないだろう。
42華龍光臨:03/11/04 21:32 ID:v5p9NzZH
町を見回すと町のあちこちに動きを止めたからくりの兵が見られる。
宿屋の女性がこの城壁ができたのはちょうど半年前の冬と言っていた。
それまでは町の中心部にある砦に篭っていたがそれでも一般民の被害は甚大であった。
それを危惧した一人の将軍が冬の寒さを利用して城壁を建造する時間を稼いだとのこと。
それでもこの壊れたからくりの兵のようにすばやく侵入するものがいるのだろう。
町中から悲しみの声が聞こえてくる。
倉庫らしい場所から少女の泣き声が聞こえてきた。
中の少女を刺激しないように中の様子を見る。
中には少女と壊れたからくりの兵と、小さめの棺。
泣いている少女が手に持った棒で必死にからくりの兵を叩いている。
…ゆっくりと倉庫から離れた。推して知るべし。である。
「所詮、からくり。…人の悲しみなんてわからないのだわ。」
くっと握り拳に力が入る。
「兄者。如何なさいますか。」
「…ひとまず砦へと向かおう。」
「そうですな。まだ指揮官がいるはずですしな。」
ゆっくりとその足は砦へと向いた。
必ずやこの悲しみを晴らしてみせると心に誓う一行だった。

43 ◆kYB5EDmqco :03/11/08 17:03 ID:gEzyzDXv
2.ガラス瓶の中の水を使う。

 狙いすましたトルファの左手からガラス瓶が飛んだ。
フタを抜かれた瓶は、中身の水を振りまきながら相手の砂の身体にめり込んでいく。
恐ろしい悲鳴が部屋の中に響き渡る。後には、ただの砂の山が残った。
「……やったのか?」
拍子抜けしたようなトルファの言葉に答える者がいた。
「蜥蜴の尻尾という言葉をご存じかな?」
魔物の言葉が背後からした。
44 ◆kYB5EDmqco :03/11/08 18:02 ID:gEzyzDXv
突如として巨大な石の腕がトルファめがけて飛んできた。
背後からの奇襲。あまりの速さに痛みで声をあげる暇もなかった。
反応できずにトルファはしたたかに壁へと打ち付けられた。
慌てて駆けつけた少女がトルファにベホイミを唱える。
「ぐ、ぬ……」
幾分呼吸が楽になった身体を必死の思いで立て直して攻撃の主を睨み付ける。
「しぶといね……どこまでがあんたの身体なのか聞いてもいいか」
飛ばした腕を納めた石の集合体が天井より降りてきた。
巨大な体躯をもつ<ゴーレム>と呼ばれる魔物の姿。
のっぺりとした顔は何の表情も見せることもなく、トルファを静かに見つめている。
「目の前に転がっている砂の山は、まぎれもなく私の肉体だ。核が水の浸食を受ける
 まえに切り捨てたのだ。おかげで、こんな不完全な姿に変化せざるを得なかったよ」
そこで一端言葉を切ると、魔物は右腕を天井一杯にまで振り上げた。
「だが、この姿でもお前達を葬るには充分よ!」
部屋を振るわせるほどの風の流れを生み出して腕が振り下ろされる。
「イオ!」
空気の放電する輝きが室内を照らし、トルファの視界を赤くフラッシュさせる。
爆風を纏った腕が振り下ろされる直前、石の腕を光の網が覆い尽くす。
一瞬、砂の王の体が震える。勢いのついた手は、そのまま惰性でトルファの構えた剣を、
叩いたが、拳自身はその一撃で崩壊してしまった。
   
45 ◆kYB5EDmqco :03/11/08 19:40 ID:gEzyzDXv
「やるな! では、次の攻撃をさばいてみせろ!!」
魔物がその巨躯に似合わない滑るような動きで間合いを取ると、
砕け散った右拳の石の塊が、拳大の大きさとなって魔物の左手と砕けた右腕に集う。
砂の王の両腕が前へ突き出すように動くと、矢のように無数の礫が飛んだ。
 飛礫だ!
上の階で白いローブを纏った魔物が見せたものと同様の攻撃。
しかし、今度は規模が違う。
拳大の岩の塊が間隙を埋める雨のように容赦なく殺到してくる。
「イーシャ、任せた」
「はい」
かけ声を合図に、ひるむこともなくトルファは石の雨へと突っ込んだ。
同時に、少女の手から白い冷気の奔流が放たれる。
駆け出すトルファを追い抜いて、吹雪が空間を白く霞ませて荒れ狂う。
飛来した石の矢は、吹き付ける氷の粒にからめ取られ、次々と力無く床へと転がり
落ちていった。
46 ◆kYB5EDmqco :03/11/09 11:32 ID:Ne5AmnFO
氷の塊が舞い落ちるなかを、砂の王目指してトルファが駆け抜ける。
少女は軽く溜息を吐くと、雪粒にまみれたマントのフードを払った。
「その技でしたら、先程見せていただきました」
「その程度の児戯をしのいだくらいでこざかしい!」
怒号をあげた魔物が、ランスのように変化させた砕けた右腕をトルファにむけた。
猛々しい威力を誇る右腕が飛んだ。
その瞬間、トルファのスピードがピオリムを受けたように爆発的にアップする。
足が床を蹴るたびに、衝撃波を生んで空気をかき乱す。
衝撃に耐えかねた石がガラスのように砕け散り、まとわりついた氷の粒が光を
乱反射させて舞い上がる。
ほとんど床を這うような前傾姿勢で走るトルファの姿は、人間のものとは思えないシルエットだった。
魔物の右腕が虚しく上空を通り過ぎていく。
「馬鹿なっ!」
47 ◆kYB5EDmqco :03/11/09 11:34 ID:Ne5AmnFO
 高速で走るトルファの両手に青い輝きが生まれる。
砂の王は拳に力を込めて、トルファめがけて打ち下ろす。
トルファは突きの体勢だった。両手に宿した青い輝きを、全身のバネを使って突き込んでくる。
砂の王はその一撃が、自分の胸部にある核を狙ってくるものと思った。
一撃で自分を倒すためには、それしか無いからだ。その拳でトルファを打ち据える
覚悟を決めた。 仮に相打ちになったとしても、核が浸食を受ける前に抜け出す事が
できる。砂の王はそう確信した。

しかし、次の瞬間、拳が感じたのは肉を砕く感触ではなかった。
現在このスレで連載中の小説。

■トルファの冒険の書
>>2   プロローグ
>>3-6   あらすじ
>>10    目次
>>11-22  本編(イシス)
>>43-47 本編(イシス)

■DQ6長編小説
>>32 >>36-38

■華龍光臨
>>40-42
ほしゅっておこう…
50華龍光臨:03/11/17 21:11 ID:SMIxTb0k
砦へは一旦屋上に上りその入り口から入る。
敵に容易に侵入できないようにしたため入り口はここ一つだけである。
入り口には兵士が二人。
こちらの姿を確認すると多少は警戒しつつもすんなりと通してくれた。
扉の中にいる人に合図をしてゆっくりと扉が開く。
ちょうどその時城門のほうから大きな音がしてきた。
ふと見やるとあの衝車が内部に運ばれてくるではないか。
「無事、見つけたようですな。」
「そのようだ。」
この世界ではこのようなものを見ることがないのだろう。
珍しげに眺める民衆の姿が見える。
「とりあえずは大丈夫だな。」
「うむ。」
衝車がゆっくりと砦に近づいてくる。後ろで必死に兵士が押している。よく見ると車輪が動いていない。
「む。車輪が動いていないな。」
「うまくあれを止める手段がわからなかったので落ちてた枝を適当な歯車に挟んだのですが。」
といわれても、歯車がどういうものか、よくわからない。
「そうか。」
「とりあえず、中に入りますぞ。兄者。」
「うむ。そうしよう。」
振り返り砦への入り口を潜る。

…城門の上から一行を見つめる暖かい視線があったのを彼らは気付いていない。
51華龍光臨:03/11/17 21:13 ID:SMIxTb0k
入ったそこは教会であったがすぐ近くの階段が内部へと通じている。
階段を下りていくとちょうど会議が終わったのか各将軍が立ち上がり階段へ向かっていた。
「む。この町が雇った傭兵か?」
将軍の一人が話しかけてきた。
「?」
「おぬしらのような猛者が我が軍に入ってくれれば戦局は有利になるに違いない。…急いでいるので失礼。」
将軍たちが階段を上っていく。どの将軍も疲れた顔をしていた。
砦の中は油の匂いで充満していた。
どうやら、外から流れ込んでいる小川が破壊されたからくりの兵の油が浮いているのだ。
ここから侵入されることはないのか?と聞くと。
「あやつらは水が苦手なのよ。」
と武器の手入れをしていた老婆が言ってくれた。
老婆だけではない。小さな子供たちも手入れをしている。
皆、文句のひとつも言わずに手入れをしている。
「兄者。」
「腹は決まっている。この場合は雇われたほうがいいやも知れぬな。」
「へへっ、さすが兄者だぜ。」
目の前に鎮座している机を眺める。
地図が広げられていて…ひときわ大きな印がつけられている。周囲の表現からしてそれが指し示しているものがこの町だろう。
その遥か東に大きなバツ印。「からくり」とかかれたそれは恐らく敵の拠点。
そして。
「間違いなく城ね。」
城の絵が地図上に描かれている。その下にフォロッド城と書かれている。
部隊を模したチェスの駒が辺りに散乱している。
「よし。フォロッド城へ行って傭兵志願だ。」
「今から行くの?」
宿は予約を取ってある。今から行くとなると予約をキャンセルしなければならない。
「…そうだな。宿で食事をしたら、にしようか。」
とりあえず宿へ行って、食事をしながらこれからのことを話し合うことにした。
52296 ◆kYB5EDmqco :03/11/20 01:02 ID:hIhU+sjW
>>47の続き 
 魔物の予想は外れた。トルファの狙いは、攻撃を仕掛けたことで無防備になった右腕だったのだ。
気付いたときにはもう狙いを修正するのは不可能だった。
一瞬の焦りと驚愕、そして違和感が彼の心を捕らえる。その一瞬が、目標とのあいだにほんの小さな誤差を生んだ。
目標を見失った豪腕が虚しく空を振る。 魔物の予想は外れた。トルファの狙いは、攻撃を仕掛けたことで無防備になった右腕だったのだ。
 気付いたときにはもう狙いを修正するのは不可能だった。
一瞬の焦りと驚愕、そして違和感が彼の心を捕らえる。その一瞬が、目標とのあいだにほんの小さな誤差を生んだ。
恐ろしい速さで左にステップを踏んだトルファが、両手に宿した青い輝きを魔物の右肩に叩き込む。
 突き刺さった輝きは、人間で言う鎖骨に当たる部位に命中し弾けた。
目標を見失った豪腕が虚しく空を振る。振り下ろされた拳は、トルファの服に
触れるか触れないかのところを逸れていった。 根幹を破壊された影響で、
魔物の右腕が砂となって崩れ落ちる。
53296 ◆kYB5EDmqco :03/11/20 02:38 ID:hIhU+sjW
ゴメン。52の訂正。なんで、こんなごっちゃになってしまったんだ。

>>47の続き 
 魔物の予想は外れた。トルファの狙いは、攻撃を仕掛けたことで無防備になった右腕だったのだ。
気付いたときにはもう狙いを修正するのは不可能だった。
一瞬の焦りと驚愕、そして違和感が彼の心を捕らえる。その一瞬が、目標とのあいだにほんの小さな誤差を生んだ。
恐ろしい速さで左にステップを踏んだトルファが、両手に宿した青い輝きを魔物の右肩に叩き込む。
目標を見失った豪腕が虚しく空を振る。振り下ろされた拳は、トルファの服に触れるか触れないかのところを逸れていった
突き刺さった輝きは、人間で言う鎖骨に当たる部位に命中し弾けた。
根幹を破壊された影響で、魔力を絶たれた魔物の右腕が後方で砂となって崩れ落ちる。
54剣士 ◆QWzUF/wj3. :03/11/24 22:16 ID:DIibotdn
1レスで終わるくっだらない話書いていいですか?
そろそろ保守の予感

>54
щ(゚Д゚щ)カモーン
56剣士 ◆QWzUF/wj3. :03/12/01 01:01 ID:VWdA/L2O
>>55
すみません、1レスの話は危険な気がしたのでやめといて別の話にしました。


甘いぶどうのような匂いが立ち込める。
甘い甘い粘液をべとりと垂らす、それは地獄へと誘う鋼鉄のように固いアゴ。
暗い洞窟に潜むコウモリを思わせる、鈍い赤光を放つ瞳の数。
そこへ、ひっそりとトラバサミ。
「うおおっ、足が」
周りを見渡すのが恐ろしいほどのラリホーアントの数に囲まれ、トルネコはたまらずリレミトを唱えたくなる。
「いかん、ここで帰るわけにはいかんのです! 今度失敗したら一体何度目になる!」
56回。もっと不思議のダンジョンに挑んで百階到達ができず、涙を飲んでリレミトの巻物で脱出した回数だ。
モンスターに袋叩きにされて、ダンジョンの外に有無を言わさず追い出された回数を含めれば、
既に攻略失敗数は二百回を超えている。
「今回こそは完全制覇するとネネとポポロに約束したんだ、絶対あきらめるものですか」
しかし、ダメージの蓄積が予想以上に多い。回復の壺の回数はかなり余裕がある、使うべき、いや……
――まてまて、この魔物はこちらが手を出さなければラリホーを唱えることはないはずです
しかし合計八体はあまりに不利――
この状況を打破するには、この絶対絶命の危機から無事脱出するには……
「そうか、あれですよ」
トルネコは胸ポケットから腕輪を取り出した。ラリホーアントの軍勢を前に不敵に笑う。
「爆弾岩になった気持ちです。さあ、いきますよ」
腕輪を右腕にはめた。

爆発が起こった。ダンジョン全体が揺れた。トルネコの脂肪もリズミカルに揺れた。
「べ、べんりな腕輪ですねこれ、ゲホッゲホッ」
爆発の腕輪の力でラリホーアントたちはすべて消しとんた。
57剣士 ◆QWzUF/wj3. :03/12/01 01:02 ID:VWdA/L2O
爆風はやがておさまり、一変してまわりには静寂がおとずれた。
トラバサミもはずれ、トルネコはほっと一息ついて座りこむ。とりあえず持ち物の確認ということで、
背中の雑嚢に手をかけようとする。
「ん?」
なにもない。袋がなくなって紐だけが残っている。
茫然と後ろを振り向く。思わず目を覆いたくなるような光景が拡がっていた。
そこには焼け焦げた袋とその中でくすぶっているアイテムがころがっていた。
「やってしまった……」
燃えかすになった巻物やら変形した盾やら、それらはもはや遺品だった。
だが最もショックを受けたのは、
「パ、パンが!」
トルネコは黒ずんだハムの切れ端を見たときだった。いそいでその辺りをかき集めて震える手で掴む。
手のひらの上にはお焼香のようになったパンがあった。
「なんということだ」
ネネの愛情のこもった大きなパンが無惨にも黒炭に。トルネコは嘆き悲しんだ。
「ああ、ひどい」
ここまでずっと残しておいたのに。もう食べられないなんて。……いや!
トルネコは首を左右に振った
「しかし、これでもネネの愛は残っているはずなんです」
トルネコの想いが手の上の黒炭をさらに熱くする。
「これは美味しいんです!」
炭を無理やり口の中へ押しこんだ。
「ぐわーーー!」
あまりの熱さに口から耳から火を吹いた。


記録 もっと不思議なダンジョン79F   57回目

  炭になったパンを食べて火を吹いてたおれる
58 ◆kYB5EDmqco :03/12/01 21:58 ID:pLbqSiLa
>>56
乙! 確かに満腹度は大事だよな。
頑張って俺も続き書きます。
59 ◆kYB5EDmqco :03/12/01 22:49 ID:pLbqSiLa
ちっくそ、途中でブラウザが落ちちゃったよ。

>>53の続き
疾風の勢いでヒャドを撃ち込んだトルファは、その反動を利用して高く宙を舞う。
わずか一秒にも満たないタイムラグの後、横一文字に空を斬った魔物の豪腕がトルファのいた場所を襲っていた。
「逃がすか!」
床を蹴った石の巨体が、宙に逃れたトルファに追撃をかける。
その瞬間、トルファの第二の呪文が完成した。
「イオ!」
空間の歪みとともに生じた光球が、激しい放電を繰り返して敵の視界と動きを制限する。
「雑魚ならいざしらず、この私に何度も同じ手が通用すると思うてか―――!!」
巨体を震わせた砂の王が、事も無げに呪文の妨害をうち破ってみせる。爆裂する時を
見失った光が、力無く左右に分かれて虚しく散る。爆風と閃光で白一色に染まった視界
のなか、勢いを増した魔物の姿が床へと舞い降りていくトルファに肉迫した。
「捕らえたぞ」
標的を捕らえた魔物の左腕が、横合いから首を刈り取るように振り下ろされた。
60 ◆kYB5EDmqco :03/12/01 23:12 ID:pLbqSiLa
 刹那、破裂音と供にトルファの体が風船のように弾け飛んだ。
またもや肉を砕いた実感を得ることなく豪腕が振り抜かれた。
「くそ、マヌーサか……」
腕にまとわりついたトルファの肉体の残骸を一振りして払ったとき、
他者を幻惑する魔性の霧が部屋一杯に広がっていた。
砂の王の瞳には、トルファ達の姿が幾重にも重なって映っている。
(逃げ場の少ない空中に逃れたのも、イオの呪文も、全てこの瞬間をお膳立てするためか)
「ちょこざいな真似を……あぶり出してくれる」
うっすらと笑みを浮かべた魔物が、口を裂くように醜く大口を開けた。
その中から、灼熱する溶岩の塊が凄まじい勢いで吐き出された。
61剣士 ◆QWzUF/wj3. :03/12/02 22:00 ID:ComxjKvb
>>57のラスト
間違えてた……  57回目じゃなくて157回目でした

それと、もっと不思議「の」ダンジョンでした。
お詫び申し上げます
62華龍光臨:03/12/03 01:02 ID:Y725p8jL
宿へ戻って食事を取る。
宿屋の女性は食事後に宿を出ることに少し残念そうであったが温かい笑顔でまた来てくださいと言ってくれた。
食事を終え、いざ城へ向かおうとすると女性はバスケットをくれた。
久しぶりのお客さんなので。サービスですと手渡してくれた。
バスケットは返さなくてもいいですと。相当久しぶりのお客だったのだろう。
断るのも何か悪いので受け取ることに。
フォロッド城の場所は地図に従うとここから西。
こちらの世界に来て町までたどり着く距離よりかは遥かに短いだろう。
町の西門を潜る。
工夫たちがひっきりなしに出入りしている。
顔には明らかに疲労の色。怪我をしているものも。兵士として出撃したものもいることだろう。
だが、文句の一つ言うものはない。
確かに生きるためともいえるけど指揮官の人望も伺える。

西門を出てすぐに城が見えた。遮る物のない平地に立てられたそれは防衛には向いていないのだろうと思わせる。
だからこそ前線基地であるこの町に堅牢な城門を建築したのだろう。
恐らくは城と町とが抜け道で通じていていざとなれば城を捨てて町へ、町を捨てて城へ速やかに撤退できるようにしてあるのだろう。
先ほどの将軍は恐らく抜け道を通ったのだろう。姿は見えない。
63華龍光臨:03/12/03 01:04 ID:Y725p8jL
城に着くとそこは傭兵志願者で溢れていた。
「思った以上に多いわね。」
「うむ。これほどの志願者がいるとは思わなかったぞ。」
城門は閉じられていてその前の広場に傭兵志願者は集められていた。
城壁に背を預けゆっくりと座り込む。
向かいの城壁の上に子供や女性がもの珍しげに見下ろしていた。
聞くところによると金銀財宝、この城に蓄えられているありとあらゆる財宝を傭兵に分け与えるとのこと。
そのため、武者修行の戦士のみならず財宝目当ての冒険家の姿も見られるとのこと。
一国の宝物庫を開くとあればかなりの額になろうがそれだけこの戦の激しさを物語るに違いない。
「傭兵志願者の諸君!」
城門の上から声が降ってきた。
ふと顔を見上げるとそこにはこの国の王と思わし人物が現れていた。
まだ若い王だ。
「この度は…」
王の演説が始まる。
劉備はゆっくりと立ち上がる。
横ではつまらなさそうに大欠伸する張飛の姿が。
そんなに長くはなかっただろうか。
「だが、誰でも我が軍に入れるわけではない。」
周囲がどよめく。
「…この戦いは過酷を極める。数多くの傭兵たちが我が軍に志願し、そのほとんどが今までに戦死している。」
王の言葉が続く。
「故に、我々が認める実力を持つもののみ我が軍に入る許可を与える。」
さらに周囲がどよめく。
「兄者。要すんに、自分が強ぇことを示せばいいのか?」
「そうだろうな。」
城門前の広間は適度に広く城門と水路に囲まれていて簡単な武術大会なら開けそうだ。
「へへっ、腕が鳴るぜ。」
張飛はぶんと腕を回した。
64諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :03/12/03 02:51 ID:Y725p8jL
現在テストが差し迫っているため更新が滞りがちで申し訳ない。
テストが終わったらまた更新を行いたい…
そろそろ保守のよかん?

スラリソさん、自分のペースでじっくり書いていってくださいませー。
66296 ◆kYB5EDmqco :03/12/06 18:40 ID:wkppA+aH
相変わらずまったりとしたスレですな。

こっちは風呂敷のたたみ方で迷っています。
67名前が無い@ただの名無しのようだ :03/12/16 23:47 ID:26x4P+Wc
保守
68戻りついた年史:03/12/17 16:41 ID:fLPRGQ2J
南西に位置する、マウントスノー宗教自治区。
その大陸は、台地が雪山と谷が占める、閉鎖された経済圏なため、ムドー乱世に交易が途絶えてしまった。
独自の宗教文化が民族を束ね(ゲント自治区と共通する形態に見える)、圏内は狩猟と加工の分業が、
神官による公定歩合で調律されていた。
だが50年前の雪害で、現在は壊滅している報告が、レイドック圏サンマリーノ領にも届いていた。

さすらいの剣士テリーは、マウントスノー経済中枢を支えた、伝説の剣信仰を調査していた。
この人物は最強の剣を求め。アークボルトから雷鳴の剣を謙譲させたソードマスターとして、一帯に記憶されている。
情報を集め、サンマリーノ漁港からの、マウントスノー近海マグロ漁に便乗することで、この大地に降り立つことができた。

寒波が強い、マウントスノー沿岸に漁船がたどりつく。
「すまないね。」
漁師に別れを告げ、桟橋に飛び降りた。
「5日に来ねーと置いてくかんな」
漁船の船員に別れを告げたテリーは、山岳にあるマウントスノー自治区を目指した。
3時間ほど国道を登り(50年近く修繕が行われず、寒害で粉砕していた。)、
夜になってから教会のある民家の集落を見つけ1段落ついた。

「こんな事するの?」「フェラチオ知らないのかよ」
便所のある離れで、気の合ったカーリーと遊んだ。
「硬くならないから温めろよ。」
テリーをよそに、部屋の温度は低かった。
生まれて初めての雪国に、テリーは頭をかいて観念するしかない。
「ホールないか?」
テリーに、カーリー(女)が、聞き返し答える。
「年会費払ってないと遊べないよ。立たないわけ?」
テリーは答えた。
「ビアホールでいい。   寒くて立たないな・・これじゃ。」
そういうのっていいのw?

まあ結構好きだけど
70華龍光臨:03/12/22 00:43 ID:5PB4Tu+Z
「どりゃああああああ!!!」
張飛が対戦相手を投げ飛ばす。対戦相手は派手に城壁に叩きつけられる。
重厚な鎧を着てはいるが、かなりの衝撃が襲ったことだろう。
相手は起き上がれない。どうやら気を失っている模様だ。
「勝者!張飛!」
「へへっ、他愛もないぜ。」
対戦相手は担架で運ばれていった。
ちょっとやりすぎたか?と思うがまあ、大丈夫だろう。
あれから簡易武術大会が開かれた。
アルスたちは団体戦で、劉備たちは個人戦で勝利を収め傭兵になることができた。
「さすがだな、翼徳。」
「兄者も無事に傭兵になれてよかったぜ。」
「うむ。」
張飛はどっかりと劉備の横に腰を落とす。
そして手渡されたバスケットを開け、豪快にサンドイッチにかぶりついた。
劉備もまたサンドイッチを食べ始めた。

日が落ちるころ、武術大会は終了を告げた。
全希望者の四分の三ほどが傭兵に選ばれた。
晴れて傭兵になることができた人々は先ほどと同じように城門前の広場に集まっていた。
大きな音を立てて城門が開かれる。兵士が出てきて一人ずつ中に入るように促す。どうやら一人一人謁見を許すとの事。
71華龍光臨:03/12/22 00:47 ID:5PB4Tu+Z
「それで、最初の仕事は見張りってことですな。」
城の東の見張り塔に劉備兄弟は配属された。
西の見張り塔には孫尚香とアルスたちがいる。
「そういうことだ。」
「ちぇっ、大暴れできると思ったんだがな。」
「まあ、いいではないか。他の傭兵には仕事が与えられなかったようだから、我々の力を高く評価してくれたということだ。」
他の傭兵は待機命令を出されている。
「しかしこれでは敵の接近がわかりづらいな。」
辺りはすっかり夜の闇に包まれている。
からくりたちに昼も夜もない。
それに魔物は夜のほうが動きは活発である。
だが前線には拠点であるフォーリッシュがある。
何かあればそこから兵がやってくることだろう。
「しばらくしたら見張りの交代もあろう。そうしたら少しその辺を偵察しよう。」
「そうですな。」
差し入れられたホットミルクを飲む。
戦時中というのに静かな夜であった。
どのくらい経っただろうか。
からくりの兵の姿は見当たらない。あくびを噛み殺して外を眺めていると背後から声をかけられた。
どうやら、交代の時間のようだ。
72華龍光臨:03/12/22 00:53 ID:5PB4Tu+Z
騒がしい食堂が一瞬静かになる。
城のコックも一瞬作業を止めて何事かと見る。
「むう、何か某についているのか?」
「雲長ほどの背丈の持ち主はそう多くはないからな。珍しいのだろう。」
2mを超える大男はそうはいまい。それにとても長い髭をたくわえているとなると珍しいことだろう。
「ふむ。」
空いている椅子に腰掛ける。
アルスたちや孫尚香はいない。どうやら先に休んでいるようだ。
「トラッド殿に偵察の許可をいただいた。食事後に行くぞ。」
「うむ。」
トラッド。彼は先のフォーリッシュで出会った将軍のことである。
彼は兵士長であり最初は軍を率いる立場ではなかったが、長引く戦争で数多くの将軍が戦死してしまい、今現在ではフォーリッシュを支える支柱である。
それだけではないにしろ今ここまで戦ってこれたということは彼の手腕が非凡なるものを証明している。
今まで城壁がなかった町を戦火に晒される中で城壁を作り出したのだ。
会心の策があったのだろう。
もし自分が…と思って考えるのをやめた。
自分は軍略家には向いてはいない。もちろん戦場を渡り歩いた(明らかに敗戦が多いのだが)経験はある。計略を弄せよといわれればできないことはない。
しかし、兵法を専門に学んだ者…徐庶、孔明などには到底叶うわけもない。
とはいえ、雲長や翼徳のように特に武に優れているわけではない。
…アルスやマリベルが使っていた「呪文」とやらを習ってみようか。自分にその素質があるかどうかはわからないが。
それにあの、遥かなる故郷の事も記しておきたい。
いつか帰る場所。それはいつのことになるか。
となると呪文の勉強はその合間合間にすることになろうな。
運ばれた食事を食べながら、そう思っていた。
73戻りついた年史:03/12/22 17:55 ID:TTBz8yhN
冷え込んだ雪国の朝に、目を覚ましたカーリーはストーブを灯火し。
1人な事に違和感を感じ、一緒に寝ていたはずのテリーを探した。
「テリー起きてる?」
外で風の音と、鳥の声が響く。
カーリーは歩き回る、部屋は床が軋む音だけしなる。
首を上げて唸り、あくびをした。空気が寒く・・・テリーはどこにいるかわからなかった。
帰ったのかしら。カーリーは不安になった。

アパートの裏階段に出て、冷え込んだ外にジャケット姿で彼女が降りてきた。
曇っていて、雪が薄く積もる裏道から、表通りに出る。教会の方向から人が歩いてきた。
「テリー!」
カーリーがテリーに気付き呼んだ。
「セックスだけして逃げたのかとおもった」
「あんたの事好きなのにそんなわけないだろ」
テリーは棺おけを引いて、カーリーの方に歩いてきた。風で冷え震えたが、健やかな朝になった。
そういえばなに引いてるんだろう。
「なに引いてるの?」「ソリにする」
返事をしたテリーが、目の前に来た。
「もう少し、あんたとスケベしたいけどな」

暖房がつけたままのアパートで、スナックを食べながらテリーが出発を切り出した。
剣をベルトでとめ、帽子をかぶり直す。
外からは音楽が聞こえてきた。
「パワーランドか」
外では街頭ラジオがメタルを流し始めてきた、田舎の時報ラジオ局が放送しているようだった。
「あばよ、帰りに時間が余ってたら寄るよ」
街道で棺おけを引きずり、テリーが出発していく。
「また来て」
しばらくオナニーはテリーとのセックスでしようか。あいつのおちんちんも好きになったし。
カーリーはテリー見送ると、階段を登り自室へ戻った。
天候は曇り空に太陽が透け、晴れてくる。
74戻りついた年史:03/12/23 11:50 ID:zWUve4ui
彼女は部屋の片づけを始めようと思った。
カーリーは部屋に戻り、ベッドのシーツを外し始める。
部屋の空気はじわじわ温まっていて、広げたシーツの精液の臭いがぬくい風をおこした。
「テリーのペニスの匂い、だね」
仕事まで日記でも書いてみようかと思った。羊の味つき干し肉を解かしてスープを作る。
ストーブは紅く燃えている。
空気はだいぶ暖かくなってゆき。外では通行人や馬車の音がよく聞こえるようになってきた。

日記の出だしが思いつかず。いらいらしてきたカーリーの前で、突然タンスが開き、何かが飛び出した。
わたぼうが現れた。
カーリーがはたきで襲い掛かる。
「なにしにきたのよ、ドラ猫!」
「やめろ!テリーを探しに来たんだ」
わたぼうが強烈な攻撃で袋叩きにされるなか、テリーがドアから入ってきた。「時計忘れたんだけど」
カーリーとわたぼうが同時に「テリー?!」
わたぼうにテリーが驚く。
「わたぼう?!どうしたんだ、会いたかったんだぜ!」
わたぼうが飛び込んできて、一気に喋った。
「テリーの妖気を探って来たんだ! だけどこのねーちゃんに」
テリーが察して、カーリーに説明した。
「こいつはわたぼうで。タイジュにいた精霊なんだよ」
しかし、カーリーには上手く伝わってないようだ。わたぼうが喋る。
「テリー!タイジュにもう一度来てくれないか?!テリーのちからがもう一度必要なんだ!」
「タイジュに?星降りの夜でもないのに、なにかあるのか?」
まってましたと、わたぼうが喋る。
「実は、いま夜がなくなってしまったんだ!!話は後で、さぁ行くぞ!」
タンスがグルグル回る、
テリーはわたぼうが、異次元が開いたタンスの中に吸い込まれて消えてしまった。
「テリー!」
巨大な木の根の中で、テリーは異世界から到着した。
意識がハッキリする、わたぼうがどこかわからないので外に駆け出した。
木の根の中の部屋をドアから出ると。そこには誰もいない部屋があった。
「懐かしいな、誰もいないのか?」

テリーは幼い記憶を探り。そこに生えている木の枝から、タイジュの屋上にある牧場へ登った。
どうなってるのか、気にかけながら枝を登る。
そこを抜けると、牧場の広い空が見えてきた。
「なんだ?!」
登りついた牧場では、ミルドラースゾンビの大群が破壊を繰り広げている。
枝から飛び降り、巨大な木の上の牧場に着地する。
「テリー来たんだな!」
「わたぼう!」
ゲレゲレに乗ったわたぼうが応戦していた。そこではテリーの育てたモンスターが、
ミルドラースの大群と戦っている。
仲間を応援していた、青い鳥がテリーに気付いた。
「待ってたぞテリー!」
「ファンキーバード!!」
「背中にのれぇ!」
テリーを乗せたファンキーバードが、ミルドラースゾンビの炎で燃える牧場を飛び立つ。
「キースドラゴン!おいら達も乗せてくれ!」
わたぼうとゲレゲレ達を乗せると、ドラゴン達もテリーに続いた。
テリーがどうすればいいのか尋ねる、わたぼうは空を越えてマルタの彼方へと怒鳴った。
「ここはもう滅ぼされる!」

残されたタイジュはミルドラースの大群に食い荒らされていこうとしている。
76296 ◆kYB5EDmqco :03/12/23 22:28 ID:wvym33fe
>>60の続き
明後日の方向を、砂の王が吐き出した赤く輝くマグマが、舌で舐めとるように
幻影を焼き払っていく。すでにマヌーサの幻夢は半分ほど効力を失っていた。
「トルファさん、そろそろ動いた方がよくないですか? 私達」
少女は戦々恐々としながら柱の影から横目を覗かせて魔物を観察する。
柱の裏に座り込んだトルファは、背嚢の名から水筒を取りだしてから答えた。
「こういう場合はじっとしていた方が見つからないぞ」
「なんだか、やぶ蛇をつついた気分。あのときヒャダインで一気にけりをつけて
 おいた方が良かったんじゃありませんこと?」
「はは、それだと、多分仕留め損なったさ。まぁ、俺のこの手が駄目だったら、
 次は君が矢を放つ番だよ。一の矢が駄目なら、二の矢を。二の矢が駄目なら三の矢を!」
そう言い残すと、トルファは水筒を片手に柱から飛び出した。
魔物は、いまだ幻霧から解放されておらず、めくらめっぽうに灼熱の火線を吐き出していた。
77296 ◆kYB5EDmqco :03/12/23 23:20 ID:wvym33fe
 柱から飛び出したトルファが、よぎる火線のなかを、猿のように飛び跳ねてかいくぐる。
無音のうちに着地したトルファが占めた位置は魔物の背後だ。一足で飛び出せるまで間合いを詰めたトルファの
手から、空になった水筒が飛んだ。突き出された左腕から投じられた筒は、放物線を描きながら壁に向けて落下、
音をあげて跳ね返った。反応した魔物が壁に火を噴いた。次のトルファの攻撃に気付いたとしても、物音に反応した
魔物の全身は若干のタイムラグを生む。それこそが魔物の隙。トルファの狙いはその隙をつくことだ。
 飛来する鷹のように、トルファが幻霧のなかに突っ込んだ。抜き放たれた鋼の剣が寒々とした光となって魔物の背中めがけて
振り下ろされる。抜剣の瞬間生じた殺気を鋭く感じ取った魔物が、健在する左腕を体ごと回転させてトルファの攻撃を受けて立つ。
打ち合った剣が折れ飛んだとき、勝利を確信した魔物がうっすらと口を開けた。魔物の口腔が赤く輝く。たぎるマグマ
の塊が撃ち出されようとした刹那、トルファが口を飛沫かせた。たった一滴の水でも魔物を恐れさせるのには充分だった。
ましてや、視界を覆うまでに飛来する水飛沫。身の毛もよだつ雄叫びをあげた魔物の顔面を、トルファの指剣が
突き刺さった。人の顔面に鍵裂きをつくるように、突き立った指剣が胸部近くまで振り下ろされる。
剣すら跳ね返す鋼鉄の体も、水を浴びた今となっては紙以下だ。トルファの指に心臓部のコアをえぐり取られた
砂の王は、絶命の言葉すら残せず崩れ落ちた。後には残ったのは巨大な砂の山だけだった。
78296 ◆kYB5EDmqco :03/12/23 23:52 ID:wvym33fe

 トルファが砂の魔物との戦いに勝利をおさめたとたん、部屋の中にどっと一陣の風が吹き荒れ、残った砂の山を
跡形もなく運び去ってしまった。
「ありがとうございました。これで、私達風の民も救われます。お礼の言葉もありません」
何時のまに現れたのか、風の女王が側に立っていた。彼女はトルファの手を握って感謝の意を表し、同時に
側にいた少女を押しのけて、何人かの部下が周囲に集まってきた。
「お礼にピラミッドに眠る財宝を探してみたのですが、砂の精が持ち去ったせいか、何も見つかりませんでした。
代わりにといっては何ですが、細工師が打ち治したあなたの剣をお持ちください。きっと役に立ちますから」
彼女が側の従者に合図して、白い鞘に納まった剣を持ってこさせた。引き抜いたトルファに、剣は新たに
生まれ変わった姿を見せた。ガラスのように透明な刀身は、常に冷ややかな冷気を噴き出す。「氷の刃」だ。
「うわぁ、良かったですね。トルファさん」
「はは、お前のおかげでもあるんだけどな。山分けできない褒美で悪いな」
「あはは、私は彼女達に褒美だのねだるような関係じゃないですから。友達ですし」
風の精を押しのけてトルファの傍らに戻ってきた少女が、嬉しそうに話しかけてきた。
笑いながらぐしぐしと少女の頭を撫でると、トルファは風の女王に用件を切り出した。 
「これはこれでありがたくもらっておくけれども、俺が知りたいことはちゃんと教えてくれるんだよな?」
トルファの問いに女王が答えようとしたとき、赤一色の世界から使者が来た。
「風の女王よ、悪いが、続きは中でしてくれたまえ。ルールでは、その少女に聞かせてはならない事になっているのでね」
「彼」、いや、「彼女」が現れた。なぜなら、風の精と同じ姿で現れたからだ。
溜息をつくと、女王は少女に申し訳なさそうに微笑みかけた。
79296 ◆kYB5EDmqco :03/12/24 00:02 ID:S2lBH+XI
「御免なさい、イーシャ。秘密にはしたくないのだけれども」
「いいです。ゲイルさんと仲良くおしゃべりしてますから、トルファさんへの用が済んだら迎えに来てくださいね」
こまっしゃくれたことを言うと、少女は部屋から出ていった。何人かの風の精が、俺に深々とお辞儀した後、彼女にお供
していった。
「そういえば、あの娘、一体何者だったんだ」
「また、ここにくればわかるさ」
風の精の姿をした彼が、興味なさげに呟いた。そうして、トルファの体を赤い渦が包む。
赤い通路の先に赤い扉が3つ。
「今回はやけに長いね」
「短くされたら君は怒るだろう。では、手短にな」
それだけ言うと、「彼」は消えた。
「では、時間もあまり残されていないようですし……」
訥々と風の女王が語り始めた。

80296 ◆kYB5EDmqco :03/12/24 01:42 ID:S2lBH+XI
  ──煌びやかに星々が輝く夜の空。
おぞましき異形が疾走していた。……なにかから逃げるように。
 それは突然のことだった。
夜の闇を凌駕する真黒き竜が現れ──
二体の異形の激しいぶつかり合いは、十二個の流れ星を生んだ。


風の精が色っぽい
82戻りついた年史:03/12/24 16:14 ID:L+A6MDmY
大地の草の根からファーラットが飛び跳ねる。
「タイジュが大変だ!逃げろ!」
グシャ、と牧場の難民をミルドラースゾンビが踏み潰す。
このままではタイジュが壊滅だ。
怪鳥で空を飛ぶテリーは乗馬のように反転した。
「ファンキーバード!何か来るぞ!」

その時と同じくタイジュの王座には、美しさと残虐さを秘めた女王ジハードマーサが、略奪的な戴冠を終える。
「パパス、まだ精子をよこさない気かい?ダーマの滅んだ今、モンスターマスターの誕生に
お前の遺伝子が欲しいんだよ」
地下牢で拘束されている戦士は、過度の虐待に耐え抵抗する。
「モンスターを狩る力で、人間の世界を攻めるのか・・・」
女王の配下の妖術師が語り始めた。
「いま現実の世界から、全ての生き物から夢が消えているのです。人間に猟奇心を与えなければ、
殺意というエネルギーは復活しない。」
「あたしたち魔族の妖気は、狂気の利潤なしに蓄えられないのさ。」
彼ら魔族の力は、人間の世界に妖気の需要価格が高騰する事でしか発揮されないのだ。
この世界から悪のモンスター使いを誕生させなければ、人間の世界から殺戮の原動力は減少するだろう。
人間と魔族の欲望と野心が、無理に支配されなければ起こらなくなってしまったのだ。
空気が強張る、「殺せ、殺せ、」と。

「幸いタイジュに存在した最強のモンスター使いに、助けを求めに行った精霊がいたようだね。」
パパスはこの女王に恐怖する。妖術師を従えた悪女は、夢の世界から現実を破壊しにいく気だ。
「妖術師アダムス、早速テリーの味調べだ。」
妖術師は了解したが、女王のファックを見れない事に気付く。
「畜生、」と階段を登りながら愚痴をこぼした。しかし仕事だ。

「ホークブリザード、出撃するぞ。」
「皆殺しだぜ」

ファンキーバードが叫んだ。「テリー、ホークブリザードが来るぞ!!」
83北風:03/12/25 22:49 ID:RtSseeTR
書き手の皆さん、お疲れ様です。
このスレを訪れるのは久しぶりですが、面白い話を読むことが出来て楽しいです。
84戻りついた年史:03/12/28 12:13 ID:ieXxsUpt
日の灯りがテリーに光をかざす。
懐かしい空気が子供時代に来たタイジュを思い出させ、歩く速度を速めさせた。
「懐かしいなぁ!」
鳩が時計台やビルを飛び交い、光の反射が空を輝かせている。異世界の鳥の鳴き声はピャーと奇声だ。
テリーは平和な街に着き、豊かな気持ちになっていく。街道は瀬戸物の馬車のベルが大きく響く、盛んな交通量である、
俺はいままでタイジュの事は忘れてたのに、ここに来れて良かったとテリーは思った。
ホルンの楽団演奏が聴こえる街広場、「よぉ」とテリーが移動に使ったファンキーバードがたこ焼を食べている。
快晴の空、群衆の行き交う交差点でタイジュ国王とテリーが歩いていく。
花壇のある歩道を進み、高級マンション街へ移動する途中だ。
ミスタードーナッツにそっくりなドーナッツチェーンや、マルタの証券会社のビルが目立つ通りだ。オフィスウーマンが多い。
ジハードマーサが占領したタイジュを逃れたテリー達は、国王の避難したマルタ遠方の街に昨晩到着した。
タイジュ国王がある要人との密談を用意していて、その滞在先へと案内されているのだ。
国王は高級ジャケットとジーンズで軽装姿だ。
「王さま、俺がいないあいだに情勢が悪くなってたんだな」
国王が含みを秘めながら会話に応じた。
「テリーや、妖魔の強権政府最高総裁は秘密があるのじゃ」
「なんだそれは」
この王様はよく理解できないんだと、テリーは思い出した。
通行人達が二人を通り過ぎる中。国王にかわされ、テリーはマンションまで黙って歩かされる。
思惑を秘めた人間とは無関係に、空と鳥たちは無心に平和を称えていた。

先ほどの広場では、ファンキーバードとわたぼうが喋っていた。
「テリー、ここは夢の中でも、僕達には君の力が必要なんだ・・。」
「たこ焼うめぇ。」
平和な光景が流れる。

窓の漏れ日だけが照らす高級マンション内部、来場した国王が一室のドアをノックした。
「マーサ殿、救世主をお披露目に参りますぞ。」
「マーサ?」
85戻りついた年史:03/12/28 22:10 ID:jSiJq74M
「あ、ああブライ、アナルゥ!アナルゥ!」
「ウヒヒッ姫さんが肛門にアナルフィストされていいのかよ!」
「!!」
テリーと国王の入った部屋は、別の住人が情事の最中であった。
「肛門がひくひくしてるぞ姫様、・・・ん?テ、テメーら!なに見てやがる!!!!」
「失礼致した!」
あわててドアを閉めた。
「あれがマーサ?」「馬鹿を言うな!」

そして、ようやくテリー達は要人との会談を開始した。
「テリーさん、私とジハードマーサは正邪の対比です」
黄金の光の包む洋室にて、テーブルの向うの重要人物が語りだした。
国王は既に事情は知っているため、テリーが聞き入っている。
「岩永姫とコノハナサクヤみたいだ。」
「そうですね、現実世界が狭間の魔王によって引き裂かれ。魔界までもが危機に陥ったのです。」
この要人は、エルへブンの巫女だった。しかし、魔界の供物として分裂したマーサの片割れなのだ。
マーサは語る、魔界の恐慌に乗じた経済学者の新種の社会実験。魔物使いによる共産妖魔政策を。
客観的基準のみで魔物の生態を操作できると妄信する、その政権こそがジハードマーサ。
生きる目的もなしに、魔物が無意味に殺戮の輪廻を繰り返せる物か。テリーはその政権に反撥し発言した。
「ですが、魔族を滅ぼす事のみで、今回の独裁政権は打ち倒す事など不可能です。この世界の年史はいつまでも引き裂かれたままです。」
「怨念は決して費えない。」
テリーが意思を固める。
「そうです、歪んだ社会思想は融合によって消化する事でしか消えないのです。」
「国王、タイジュには国民は残っていないんだよな?」
ん?ああ、そうだと国王が答える。
この少年は救ってくれるのかも?と、マーサは希望を感じる。
「いまは、ただ。冷静な自分に戻らないければ。王さま、俺は戦うよ。」
そのセリフの直後、壁の奥から先程の喘ぎが響いてきた。
「いいわーー!!ブライーーーー!!!!」
「いい加減にしてよ!」マーサが怒鳴り、王とテリーは驚いた。

マンションから出たテリーは、一人の少女と再会する。「・・サンチ」
86華龍光臨:03/12/31 21:56 ID:wALtXSG/
「静かだな。」
「ですな。」
許可を得て偵察に出た三兄弟。
魔物の姿はないわけではないが明らかに少ない。
からくりの兵の邪魔になりうるのだろうか。
とりあえず、朝になるまで自由に偵察はできるが遠くに行くことはできない。
まずは城を出てフォーリッシュまでやってきた。
しかし門は閉まっていた。夜の間は何人たりとも入れるわけにはいかないようだ。
「どうする?兄者。」
「仕方あるまい。そういうことなら引き返すか。」
「明日出直しってわけか。」
そしてまさに城に戻ろうとしたそのとき。
扉がかすかに開かれた。
「?」
「お入りください。」
「夜は締め切るのではないのか?」
「特別です。支持がありましたから。」
兵士がこちらに小声で話しかける。
「そうか、それはありがたい。」
急いで中に入る。
87華龍光臨:03/12/31 21:57 ID:wALtXSG/
「いやはや、よかった。」
「そうですな。これである程度の情報は集めることができよう。」
まずは町のあちこちに放置されている壊れたからくりの兵を調べるのが目的である。
敵を知るのは最重要であるからだ。
これで作戦が立てられる。
「それにしても、誰が俺たちを入れてくれたんだ?」
確かに普通なら顔見知りはいない。
だが。
「…もうすぐ会える。」
確信に満ちていた。
恐らく城壁の上にいたのだろう。
静かな夜とはいえ兵士たちは絶えず動き回っている。
それでも聞き取れる足音。
それだけ別の空間にあるような。
はっきりと聞き取れる。
そして現れる一つの影。

「殿!お久しぶりでございます。」
「久しぶりだな。趙雲。」
また一人、龍が集う。
88華龍光臨:04/01/02 14:01 ID:xt5FWrRa
扉を出るとそこは油くさい匂いが鼻を衝く。
「申し訳ありません、殿。」
「いや、構わぬさ。」
会議室ではこれからの作戦について話し合っていた。
最も趙雲曰く何もいい案が出ていないとの事。
そのため、外れの扉より外に出た。
外と言っても水路と壁に囲まれているため、対からくりには十分である。
そういえばからくり兵は弓を扱っていなかった。
どうやら飛び道具は使えない構造であるようだ。
「しかし、何でここにいたんだ?」
張飛が食堂で貰ってきたワイン樽を開ける。
なかなか古いものらしいが飲む人は気にするはずもなく。
「それが、気付いたときには…」
気付いたときはこの町から南東にある森に一人で倒れていたという。
青スの剣は手元にはなかった。
「そうか。それは大変だったな。」
今、彼の手に握られているのは一般の兵士に配給される鉄の槍である。
鉄を泥のように切る青スの剣は対からくり戦に絶大な威力を発揮したことだろう。
それだけに残念である。
「ここにたどり着いたときは凄惨たる状況でした。」
あらゆる家という家は破壊しつくされてあるのは砦のみであったという。
その砦もいつ破壊されてもおかしくはないそんな状況であった。
「して、そこからどのようにここまで復興させたのだ?」
様子を聞くと城壁など存在しなかったようだ。
ではどうやって城壁を作り上げたのか?それは興味があることであった。
89華龍光臨:04/01/02 14:15 ID:xt5FWrRa
「ちょうど、ここには厳しい冬がやってきていたときです。」
「ふむ。半年前と、聞いている。」
「この寒さを利用できまいかと考えたのです。」
「寒さを利用する?」
「まず、この町を大きく包み込むように泥の山を築きました。丸一日ほど時間を要しましたが幸運にも敵襲はありませんでした。」
この町を囲んだということは外との接触を遮断したということだ。恐らくその間の食料等の供給は地下通路を使ったことだろう。
「その夕方と夜にかけて泥には十分の水を染み込ませます。」
「なるほど。そうして一晩経てば凍りついた泥が防壁の役割をする、というわけですな。」
そういえば馬超が帰順する前に曹操に抵抗したのだがその際に曹操軍は「氷の城」というものを作り上げたと聞く。
それを実践したということか。言うほど簡単ではないだろうが。
「あとは城壁を築き上げるというわけってか。」
ワイン樽を一つ空にした張飛は立ち上がった。
「だが、春までの間に城壁を作り上げるとなると相当な苦労があったことだろう。」
もちろんその間もからくりの兵の襲撃はあったはずだ。
彼のことだ、如何なる時も様々な策をめぐらせたことだろう。
「ええ。実はまだ未完成な場所があります。」
「でしょうな。」
「一箇所、かなり城壁が脆い所がございます。そこを攻撃されると恐らく容易に崩壊されてしまうでしょう。急ぎ補強をしているのですが。」
外見ではそう見えないのだが。らしく見せるのも大切ではある。
「流石だな、趙雲。」
素直に感嘆した。ここの民を守る為の術を自分の中で構築し、実践できるとは。
行動はできようとも、結果に導くのは難しい。
「趙雲。ここでは君の方が詳しい。是非、我らに道を示してくれ。」
「もちろんであります。殿。」
おお、趙雲。名軍師の誕生だ
91剣士 ◆QWzUF/wj3. :04/01/05 00:28 ID:jWxky5B3
また失礼します。 長い話は書けそうになので、ほんのわずかばかりの他愛もない話を。

夜おそく、姉と弟の悪ふざけ、戯れあいが続いた。
「こうなったら姉さんにいろんなこと教えてもらおうかな」
「なに言ってるの」
伸びてきた弟の手をミレーユは軽くあしらってソファーに腰かけた。
「ふう、あまりふざけたこと言ってると怒るわよ」
「姉さんだってその気だったくせに」
テリーはその正面に座る。
「バカ」
ミレーユは肩にかかった髪をはねのけてまるで興味なさげに窓の方を見やった。
外はよく晴れていた。空気が澄み渡って雲ひとつない星夜だった。
町の家並みはほとんど明かりも落ちて、町全体が眠りにつく直前といった様相を帯びている。
明日も晴れ日和になるだろうと思ったとき、ふと言葉がぽつりと洩れる。
「明日、出かけようかな」
肘かけに腕を置いて頬づえをつき、遠くを見る目をしたミレーユ。
それをうかがうテリーの表情はいつになく真剣だった。
「どこへ?」
「イザに会いに」
ミレーユの横顔に憂いが含れていたような気がして、テリーははっきり言った。
「嫌なら会いになんかいかなきゃいいのにさ」
ミレーユはわけもわからず、なじるような視線をテリーに投げかけた。
「会うのが嫌なんて誰が言ったのよ」
「なんかさ、悲しそうな顔だったんだよ、さっきの。イザとなにかあったのかよ」
ミレーユはため息をつく。
「何もないわよ、わかった風なこと言わないで」
「俺、姉さんのことなら何でも相談に乗るよ。困ったことがあるんなら言ってくれって」
「何を。いや、だからね……勝手に言ってなさいよ」
ミレーユはソファーから立ち上がった。
92剣士 ◆QWzUF/wj3. :04/01/05 00:29 ID:jWxky5B3
テリーは身を乗り出してミレーユにすがる。
「本気で姉さんの力になりたいんだよ」
ミレーユは舌を出してテリーのおでこを指でぴんと弾いた。
「わかったからうるさいったらもう」
テリーはよろよろと後ろに退がりだし
「いってぇ」
テーブルに足をひっかけて倒れた。
「やれやれおばかさん、私のことそんなに気にかけてくれるなら、たまには掃除片付けくらい手伝って
 くれてもいいのに」
ミレーユは部屋の隅の戸棚に向かい、埃がこもっていたところを手で払った。
テリーはぽかんと口をあけて、それからむっとして顔をそむけた。何か小言を言われるのは勘弁してほしいと
思ったから。
ミレーユはそろそろ自分の部屋に戻ろうと、向きを変えそっとドアノブに手をかけた。
弟にそっぽを向かれたままだとわかっていたけれど、やっぱり一度振りかえる。
「おやすみ」
ぱっとミレーユは出て行った。テリーは開け放されたドアを横目で見送るしかない。
廊下の奥で姉のちょっとした笑い声がした。
「なんだよ……」
ドアが閉まると急に静まり返った部屋の中にテリーはひとり取り残された。
これはまさか、ボーイズラブ?
94296 ◆kYB5EDmqco :04/01/05 14:27 ID:6ia0hgVs
最悪でも8日にならないと続き書けない。ネタはあるんだが。すまないが、待っててくれ。
マイペースで頑張って、ファイト!
96戻りついた年史:04/01/05 21:35 ID:L/u8XHg5
新年あけまして

ジャミラスの雛、
鳴き声は「ギャアア」。生息地は深い山林樹木をくり抜いた木造城。人間を食し、
カッコウの様に魔族に卵の子育てを任せる。
複数の配合を繰り返し、独自の特徴別に繁殖され。鳥類の魔王からエビルホークと種類は多い。

鳥類形、4mサイズのモンスターが闊歩する王宮内部。
魔族たちが妖気を高め、肉体変化した攻撃を実験していた。
財務官の指示で、セー率いる数人の妖術師たちが王座に機械を移送していく。
占拠されたタイジュの僭王、ジハードマーサ・ドミナに謙譲される機械。それが王座へ到着した・
「セー、修繕が完了したか」
禍々しい女帝(この国では特殊な戴冠形式を持つため、ドミナ等と呼ばれる経緯がある)が両腕を大仰に上げ、
この世界を闇に染めかねない「???」を感じさせた。

外からは、相も変わらず奇声の叫びが響き渡る。

セー 「コミュニズン・ケインズ(魔王メカ)のご説明を開始致します、ドミナ。
この球体の中の測量機の器で、世の気脈を操作可能と先日実証されました。
大地の脈を広げ人間の生活形式が硬直し、文民へと物流を流す事で情勢が大きく流動するようです。
これは一例に過ぎませぬ。しかし時への組み合わせ次第で、無限の操作が予測可能な究極のレートグラフです。」

学者が腰の高さの機械に手で触れるだけで、球体の中の光の粒が操作された。
今は光は中間より高い位置で回転し、隔たっている。
ジハードが王檀から機械の前に降り立つ。妖術師たちは畏敬を払い迎い入れる・

セー 「年史の扉の奥に隠されており。秘密の古代遺産でしょうか、タイジュの祖先が恐ろしさに封印したのでしょう。
不変の共和を望む者に、この球戯は手に余りまする。ドミナ、これは夢の世界だけが使用可能な兵器でしょうが、
夢が繋がった集団意思体のこの世界なら、人間の世界への効能も十分期待可能でしょう。」

ジハードの表情は悪笑が占め、リアクションが起こった。
97戻りついた年史:04/01/05 21:40 ID:L/u8XHg5
マルタのパン屋について。
ここでは元締めが小麦を供給していたが、上で大きな取引が起こった。
急に豊作になった小麦が、買い人気で高騰し小売に回らなくなったのだ。
飢饉で人食いと化した魔族に、国が不可侵条約を結ぶため、食料供給の対象に小麦が大量に買収されたからだ。
主人の声 「国がせっかく豊作の小麦を独占して、こっちは商売に、なんねぇだ。なんでぇあんな事すんだがわがらねぇ」
元締めは国との取引に満足して、小売を手放してしまい。魔族さまさまだと言う。

タイジュに住んでいた少女、サンチの家族は離散してしまい、彼女は正少女育成の会の出資するボランティア寮に収容されていた。
だが、そこの責任者の資金源である製粉工場が倒産し、サンチは遠くの孤児院に送られるかという瀬戸際に立っていた。
いっそ体でも売り生きる覚悟はない。
流されるまま租界を続けようかとも思っていた。そこで再会したのがテリーだ。
「テリー。おまえどこいってたんだよ!」
街で再会したサンチにテリーが驚いた。ここに来ていたとは予想できるが、気がつかなかった。
「久しぶりだな、サンチ。10年ぶりくらいだ」
「お前、きどってんじゃねぇぞ。こっちは大変なんだぞ!」
全然昔のままだったサンチに、テリーは驚く。夢の中でサンチは昔のままなのが、良い事なのか悪い事かはわからない。
話は積もる、

夕方、サンチは正少女育成の会の寮にて、身の支度を整え、旅立ちの準備をした。
同室の友達が声をかけて来る。
「戦争に同行して無事で済むわけないじゃん、サンチ死んじゃうよ」
「イル、もうボランティア生活はまっぴらって思わない?。早く離れないと、いつか上の事情で思わぬトラブルが来るよ」
帽子が似合う友人に握手して、別れた。
98剣士 ◆QWzUF/wj3. :04/01/05 22:47 ID:LdrEbaaQ
>>93
ち、違います。
でもそう思われたということはそういう素地があったんだろうか・・・
多分セリフとか言葉選びで間違いや拙いところがあったのだと思います
というかあんな短い文章じゃ何をやりたいんだかわかりませんね、
別の話でもう少し頑張ってみることにします。
モーホー(・∀・)
テリー受けで801来そう
101戻りついた年史:04/01/07 18:14 ID:w25mKV1F
テリー:バトルマスター
HP258MP045。
特技:はやぶさ切り、魔神切り。ジャンクション:イオラ。

サンチ:魔物使い
特技:甘い息、ひゃくれつなめ、おたけび。ジャンクション:マホトーン。
===================================================================
タイジュ亡命軍が駐屯する、サウスマルタ都市部21時。
臨時本部となっている国営ホテル内にて、講堂玄関に居たテリーとサンチがモンスターに襲撃された。

「シャチョーさん手形切ってくださいよ!、ウチたくさん女の子いるから潰れちゃ困るんですよ!」
「うるせぃ!農地が国有化すんのにパン屋とやってられるかっ!麦は国の配給制になるんだよ馬鹿が!」
「シャチョー、ウゲェ!ギャッ・・・」
中年の太った人好きのいい男が蹴り飛ばされて、雑道を渡る通行人達に奇異の目で見られながら倒れていった。
渋滞の馬車のベルが鳴り響く中、騒音の中にマルタ国民たちの人生が流れていった。
そのような騒音とは無縁の暗黒の地下水路。
ドリル音が鳴り響き、爆風と共に地下道の壁が外から吹き飛ぶ。
鉄の塊のモンスターが大量に流れ込んだ。機械音が響き、侵入者たちが地下水路を走破した。
浮浪者「だ、だれだ?!」
地下に住む浮浪者の集団が、謎の音に警戒する。音だけが不気味に音量を増し。
浮浪者「ギャ、ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
無言の機械兵団に4秒経たず切り刻まれた。

ホテル内にいたテリーとサンチは情報を集めていた。
「サンチも急に麦が豊作になって、魔物の地方が飢饉で荒れた事を聞いたんだな」
シャンゼリアを背後にサンチが答える。
「今はどこもそれでマルタにリスクが集中した。急に高騰しすぎて。
タイジュだってそれで受け入れて貰いにきたんだろ!」
テリーは考え込んだ。
地下水路中央ジャンクションにて。
衛兵「震動凄いぞ、おい!」「緊急警報!中央0−0水門、パイプ繋げ!!」
強い灯りが水路の奥から輝く。メラゾーマの炎が水路を焼死体と灼熱で埋め尽くした。
102戻りついた年史:04/01/07 21:21 ID:Ul9xGBJR
急襲に見舞われたマルタは厳戒警報が敷かれる。
マルタはモンスターの養成に盛んな国柄のため、さまよう鎧などの下級モンスターを俊敏に警護に回す。
住人全ての避難など不可能であり、各団地の避難壕への退避指示と、繁華街の臨戦体制が限度である。
国営ホテルに居たテリー達は警護団に参加して、内庭で控えていた。そこに襲われる事になる。
サンチ「テリー!お前の下から来てるぞ!」
地下から飛び出したキラーマシン2の軍団を、雷鳴の剣で打ち払い。テリー達は乱戦を迎えた。
タオドラキーの群れを、雷鳴の閃光で焼き払い。警護団が応戦した。
「???」聞き取れない罵声が響く。
隊員の移動支持の罵声を受け、テリーは内部へ侵入したキラーマシンを追った。
サンチは甘い息を吐き、空中のドラキーを落とした。だが、正面からフレイザードに羽交い絞めにされる。
そばで戦っていた隊員が絶望的な目でサンチを見た。「逃げろ!!」サンチの肌はフレイザードの炎と氷の体に焼かれていった。
だがサンチは抵抗し、ひゃくれつなめでフレイザードを舐め回す。
体を舐められ守備力が低下したフレイザードは、もう一人の警護団の攻撃で死亡した。
「ちくしょー、いてーよ!」サンチが一人で火傷に涙を流した。

廊下を駆け、キラーマシンを追うテリー。「サンチをおいてきたか・・・姉さん、まずい事したか」
魔神切りで背後から切りつけるが、そこで大物に出くわした。
「はん、アンタが将軍か?」
テリーが雷鳴の剣を構え、腰を落としたが。敵は名乗りを上げた。
「フム、お前は強いな。」
2m半の大男が姿を現した。
「私はデスタムーア様の四天王、天空の魔王デュランだ。」
103戻りついた年史:04/01/07 21:23 ID:Ul9xGBJR
生硬な肉体を持つ巨漢、睨まれたテリーは情けなくすくむ。
紅い絨毯の廊下で、手に負えそうもない獲物に出会ってしまったからだ。
この巨漢は次元の狭間に住む大魔王の四天王だが、現在はこの世界に潜入していた。
ジハードマーサの採掘した考古遺産と情勢に関心があったのと、テリーという剣士を追ってだった。
「お前は強い、もっと強くなるのだ。・・お前はオレから離れられん。いまお前にオレの呪縛を刻んでやる。」
「気持ち悪いりぃオッサンが、アンタが親玉なら死んで貰う。」
しかし、間合いはつまらない。テリーは動けなかった。
デュランが若干笑った後、テリーに向かう足を速める。
「        」
テリーは声も出なくなった。目の前のデュランに襟を掴まれ、ネコの死骸のようにあっさり抱きかかえられる。
「お前の体内にオレの妖気を贈ってやる。それでお前はもっと強くなれ、そして常にオレの犬となれ・」
テリーはデュランの口から吐き出された妖気を口に入れられ、全身を暗黒の闘衣に包まれる。
館内の奥にまで響き渡る絶叫。
数時間後、
戦闘が収まった事後処理時に、倒れていたテリーは救助された。

サンチ「テリー、起きたかよ」
白い部屋のベッドでテリーは目を覚ます。
隣には看護婦とベッドに寝たサンチがいる。
「・・・サ・・ン・・チ、・・か。」
目が痛い。吐きそうだった。
「おまえ、乳首焦げてるぞ。」
サンチの剥き出しの胸の火傷を見て、嘔吐物の代わりに軽口を吐いた。
「このスケベヤロー、見んじゃねーよ・・・」
胸の皮がパリパリ破れる火傷にサンチは泣いた。
104華龍光臨:04/01/08 14:22 ID:/JcPnMaJ
翌日。
朝一番で兵舎にて作戦会議が開かれる。
議論内容は昨日フォーリッシュで話し合っていたことと同じ、からくり戦に対する良策はないか…ということだ。
「しばらく時間を取る。皆、考えてくれ。」
トラッドが傭兵たちを椅子に腰掛けた。
あたりがざわめき始める。
「…ふむ。」
昨日聞いた趙雲の情報を整理する。
敵の規模はわからない。
ただ、気付かれないように印をつけたからくりの兵を泳がせたところ、そのからくりの兵が幾度となく攻め入ってきた。
複数のからくりの兵に同様の印をつけたところ次の戦で印をつけた個体の大半が再び襲い掛かってきた。
どうやら同じ個体を何度も出撃させているらしい。
次に立地条件の整理。
からくりの兵たちの拠点は東の山地にあるということはわかっているが、知っているのはそれだけであった。
趙雲が偵察に赴いたところ拠点を構えているのはちょうど山頂付近でかつ、その場所は擂り鉢状になっているとの事。
「水攻めは使えぬようですな。」
「うむ。もしかしたらと思ったが、甘くはないか。」
そして様々な情報や目撃証言から推測するとからくりの兵たちの拠点ではからくりの生産は行っていないというらしい。
「あれほどの性能を持つからくりともなれば生産にもかなりの設備が必要となるはずです。」
アルスが説明する。オルゴール一つでさえかなりの時間を食うのだから、からくりの兵はいうまでもない。
それに設備だけではなく、相当な資源も、である。
それほど大事なものであるならば万が一のことが想定されて然るべき。
そして趙雲が一ヶ月かけて突き止めた事実はからくりの兵の拠点ではからくりの兵の生産は全く行っていないということだ。
月に一度、相当な警護の元にからくりの兵が船で送られてくるのが確認されたのだ。その数、およそ五百。
105華龍光臨:04/01/08 14:34 ID:/JcPnMaJ
情報はとりあえずこれだけである。
「俺は、とにかく戦いまくるしかねぇんだと思うんだけどよ。」
「申し訳ない。いい案が思い浮かばぬ。」
「からくり故の欠点はないのだろうか。」
劉備たちにはお手上げである。
「ちょっと、アルス。何かいい案がないの?」
「一体や二体ならともかく。あんな数相手じゃあ、すぐには思い浮かばないよ。」
「俺も張飛殿に同感だぜ。」
張飛の肩の上でガボが大欠伸をしている。どうやら難しすぎてよくわかってないようだ。
「からくりの兵に対抗するならやはり、こちらにも技師が必要ですね。それも、かなりの技術の。」
そしてしばらく経った後、部屋の一角より声が上がった。
「兵士長!」
「なんだ?いい案があったのか?」
「ここから西の庵に住んでいるゼボット殿はからくりの技師であるらしいのですが、協力を要請できないのですか?」
おお!と歓声が上がる。
「…残念ながらそれはできん。」
「何か問題でもあるのか?」
別方向から声が上がる。
「以前、王様が直々に庵へと向かったが、協力を拒否した。それ以降、何度も協力を得ようと向かったがやつは首を縦に振ろうとはしなかった。」
兵舎がまた沈黙に包まれる。
「…良策はないか。これで一旦、会議を終了する。解散だ。」
トラッドは立ち上がり兵舎を出て行った。
多少何か言っている声もあったが聞こえていない、聞こうとはしていなかった。
106まあくん@どうやら管­理人:04/01/08 18:40 ID:nZP5XZyL
ttp://jbbs.shitaraba.com/study/2270/
↑の掲示板から逮捕者が
アルスたちが目立ってきたぞ!
アルスガンバ
109戻りついた年史:04/01/09 22:30 ID:TBAGDgte
緑木が風でしなり、空を野鳥が飛んでいく。
サウスマルタ・モンスター襲撃事件から1週間。
このマルタの領土で報道記者カール(40)は、モンスター専門公社の批判を大きく展開した。

その記事は国防であるモンスター養育を、中間企業に任せる非合理が焦点になっている。
機関が設立された歴史は、あまりにも分布の異なるモンスター採集と、各牧場主との配合取次業務の多忙さからであり。
モンスター専門公社は牧場主に債券を切り、借り入れたモンスターの配合・育成・売買の代行業務を行う。
その利益を元の牧場主と公社に分配される仕組みを取っていた。
しかし、公社の商業体質。今回の戦闘体験で配合だけ機械的にこなし、中身のない育成の実態が明らかとなった。
国債を利用した、上級モンスターの強引な養殖。
それによるアウトサイド企業への裏取引による隠し収支経路など、金権主義の空洞的な国防体制が白日に晒される事となる。
モンスター関連株は大暴落し、マルタ財政事情は平常な機構を完全に失っていた。
今は不可侵条約で、国産作物の敵側への投入で国を守っていた。

ルンペンに落ちぶれた、タイジュ国の牧場主プリオ。彼は疎開したマルタ国で肉の裁断の仕事で食いつないでいる。
不出来なモンスターを肉に潰すのが彼の収入源だった。今、肉は最も信頼されている商材になっている。
新事業を興した業者が乱獲をし、モンスター狩が一大ビジネスになった。作物がないので長くは続かないだろう。
国民に食料がないから、こういう結果になる。
この現象はなにが原因だったのか。
それはジハードマーサのコミュニズムケインズ(魔王の世界征服マシーン)による、地下水脈の軌道操作が根源である。
その機械の原理は、操作した星降りの惑星引力による、地下水脈の異常現象がタネであり。
大地の養分が変化し、作物の不作・豊作コントロールはそれが原因になっていた。
そして、マルタの水脈が乾いた時。モンスターと人間の生存を賭けた殺し合いが始まるだろう。テリーはそれを阻止する。
110戻りついた年史:04/01/09 22:32 ID:TBAGDgte
精肉シュレッダーの機械音が左右に流れる。湿った個室で肉を刻む青年が、肉の臭いに鼻水をかむ。
点灯したランプに蝿が飛び交っている。
ドアを開け、支配人が休憩だと告げる。青年プリオが水で濡れた廊下を歩いて外の食堂へ出た。
そこに居たのがテリーだった。

「テリー久しぶりだ!オラんとこ聞いてきたか」
テリーは座ってた椅子から立ち、プリオと手を交わし喋る。
「病院に来てくれてたってな。サンチに聞いた。サンチ、火傷治ったぜ」
「ひでぇ怪我だった、かなり上位のやつに襲われちまって可哀相だ。あ、時間ねーから豚汁貰ってこねーと」
無料豚汁をすするプリオとテリーのテーブルに、プリオの職場のシフトメンバーが来た。
「プリオのダチ?ちわ」
「こんちわ。ここ景気いいだろ?」
「儲かりまくりってるよ。午後もダンボール40箱以上残ってんし」
テリーが笑った。
「荷馬車凄い量だな。あれ全部さばくのか?」
「毎日20kgの肉100箱さばいてるよ。テリーも雇ってもらうか?」
「死ぬだろうが。あの肉の多さじゃ」
笑った後、夜にプリオがあがる時間に会う約束を取り次いで、余りすぎでタダで貰えた豚汁をすすりながら帰った。
表の雑道は肉を運ぶ行商人が多かった。
闇流通で小麦や作物を堂々と売る人間が居るほど、マルタの治安は崩壊していた。
だが、遠方の傭兵学校SEED学生兵が出動し、大捕り物の乱闘になった。
「ゼル、殴り殺すなよ!」「スコール、安心しろって!ほい、ヘイストドローだ」
子供に警察のマネをやらせる国の赴任部隊か。さわがしいだけだとテリーは眺め、去っていった。

「アーバイン、てめぇどこでサボってた!」「すまねぇ・・・手が震えちまって・・・」
111戻りついた年史:04/01/09 22:38 ID:TBAGDgte
灯りのない道のアパート前で、テリーとプリオは再会する。
安アパートなので外の釜戸を燃やし、夕飯の肉を鍋でスープにした。
仕事上がりの住人たちが通り過ぎ、野菜を持って来てくれた。
テリーは人間界で最後にセックスしたカーリーを思い出すが、すぐ忘れ。話を打ち出す。
「プリオ、タイジュ潜入戦でお前に参加して欲しいんだけど」
「オラに?!ハハ、魔物ならしに慣れてるオラなら上手くいきそうだな!オラも行くぞ。タイジュの牧場を取りケースンダ」
テリーはプリオの協力が嬉しかった。作戦は内部からの元首誘拐という単純な物だが、
モンスターの大群とまともに戦い、負ける事が明らかだと先日思い知らされた。
ここに3人のタイジュ潜入パーティーが結成された。

修復工事の進む半壊したホテル。
亡命しているタイジュ国王の部屋へ来た三人。
これから出征する予定を話に来たのだが・・・・・、国王は
タイジュ国王「フン、お前らのような弱い者に何が出来る!惨敗した分際が偉そうな口を叩くな!」
側近のピエロが慌ててなだめる「そ、それいいすぎ・・・」
サンチ「な、なんだと!ジジィ」

テリー「確かに俺は負けたよ。」

3人はホテル前の噴水広場に移る。
テリーはタイジュのチャンピオンだった頃の面子を失い、気まずい立場になってしまった。
姉に続いて、またも大切な物を失っていくのかと、テリーは精神的に病んだ。
そこに噴水の台に腰掛けたプリオが喋る。
「あの王様、何様だ!テリー、いますぐタイジュに行こうぜ!」
「ああ、名誉挽回なんざ興味ない、が今度は負けない。すまない、プリオ、サンチ。」
サンチ「おう、俺たちで天下をとろうぜテリー」
プリオが空気を盛り上げてくれ、テリーはこの勢いを大切にし、志を固める。
二人に深く感謝した。テリーは惨めな気持ちを闘志で棄てられる。
青臭いテリー青年の器は「失敗できない。」と念じた。
112戻りついた年史:04/01/09 22:44 ID:TBAGDgte
苦い黒茶の瘴気、呪われたタイジュ。玉座には未来の哀しみと、涙の象徴になると思われるジハードマーサがいる。
その部屋の背後は悪魔の機械、コミュニズム・ケインズ(破壊への片道切符となった兵器)の球体が静かに揺れる。
彼女は、マルタに居るマーサと交信していた。
「マーサ、何故わたしたちは分離したのかしら?わたしは何故欲望に包まれたのかしら?」
「ジハード、私たちには役割があるのです。私たちは世の混乱を象徴する、人身御供の精霊。自分の意思で心を持ってはいないわ。」
「そんな哀しい生き物に、何故生まれたのか?何故二つに分かれたのか?何故、」
「それは棄てきれぬ希望が、人間に、いま、テリーの夢がどんどん大きく、。私たちが哀れな生き物をやめられるきっかけを、」

空の雨粒が大地に落ちるなか、テリーと仲間は閉じた樹海を開き進んだ。
はるか大気の彼方から、風が届き、時を歩み。
海底の底から、水の雫が天へと帰還を果す。
多くの命の生死が流れた時、勇者たちがタイジュへと戻りついた。

テリーは確信した、時を止めないでくれと、この崩れる時の老いのなかにしか、愛した時への新しい再会はないからだ。
木が枯れる時の中に、戻りついた年史への記憶が甦ろうとしている。

テリーはコミュニズムケインズに変えられる前の世界を、記憶の中に取り戻すのだった。後はそれを再興させるだけだった。
しかし、何故コミュニズムケインズは世界を変えたんだろう?
それはある人間に秘密が隠されている。
113華龍光臨:04/01/12 03:06 ID:eAqIKZKT
「どうする?兄者?」
兵舎の外へ出た一行。兵舎内は先ほどのことでざわついているため話し合える状態ではなかった。
「ふむ。」
どうやらトラッド氏にはあまり触れてほしくはない話題であっただろう。
何か隠しているだろうがそれを聞くわけにもいかない。
「劉備殿、こちらにいましたか。」
「ん、なんでしょうか。」
確か、トラッド氏の補佐をしている副将的存在の兵士だ。
「お願いがある。今からここから西の庵に行ってゼボット殿を説得していただきたい。」
「…それは兵士長の指示なのですかな?」
「いや、私の独断だ。責任は私が取る。」
「劉備。どうする?」
どのような事情であろうとも、もし助力が得られたら戦争は速く終わることだろう。
だが、フォロッド王が自ら会いに行ってそれでも断られたのだ。
「わかりました。すぐにでも参りましょう。」
…それでも、自分にできることがあればやっておきたい。後悔はしたくはない。
「ありがたい。今すぐにでも向かってくれ。馬を手配する。」
人里から遠く離れた森の中。
かつては活発に人が行き来していただろう荒れた道を馬の背の上で揺られながら思い出に浸ってみる。
「兄者。そろそろ着くのではないのですかな?」
「そうだな。」
関羽の声に我に返る。
「どうだ、アルス。馬に乗ってみた感想は?」
「…正直、怖いですね。」
おっかなびっくりといった具合か。一緒に乗っているマリベルがじっとアルスの背にしがみついている。
キーファは王族の嗜みか。多少は乗りこなしている。
ガボは定位置張飛の肩の上だ。
しばらく進むと風雨に晒され朽ちた石像があった。
それは草むらで倒されて下手したら見落としかねないものであった。
「これは…」
ふと足を止める。
「親愛なる…とまでは読めますね。」
アルスが馬を止めてそれを眺める。
特定の人に対しての贈り物と容易に想像できる。送り先は恐らくこれから出会うだろうゼボットであろう。
形からして一組の男女を模しているのはわかるのだが。
「でも、雨風に晒されているとはいってもここまで壊れることはないと思うけど?」
その石像は明らかに人の手によって壊された跡が見受けられる。
「誰かが壊したようだな。」
張飛がその辺の草むらを蛇矛で掻き分けると破片らしきものが草むらの中に散在していた。
「劉備、庵が見えているわよ。」
ふと前方に目をやる。木々の合間にすでに庵が見えていた。
「行こう。」
悲しげな風が吹き過ぎていった。
エリー登場まですぐだな
116華龍光臨:04/01/15 06:35 ID:6ZchHk2F
そこは外界との接触を遮断していた。
辺りの空気がそれを語る。
荒れ果てた庭には雑草が伸び、入り口のアーチは倒れていた。
「かつてはここも人で賑わっていたということか…」
雨ざらしになっているベンチに目をやる。
人一人が住むにはあまりにも大きな庭であった。
しばらくの沈黙の後、小屋の裏手のほうから物音が聞こえてきた。
「ん?」
しばらくすると裏手から何かががたがたと音を立ててやってきた。
「なんだぁ?」
人…ではない。
確かに上半身だけ見ると人であるが下半身には車輪がついている。
「からくり…ですね。といっても敵ではないようですが。」
からくりの手には何か持っている。
すっと劉備が馬から下りて向かい合う。
「ふむ。」
からくりの手にはパネルみたいなものが握られている。
“現在外出中。”
「なんだ、いねぇのか。」
「残念だ。」
ふむと考え込む。
「このからくりは喋ることはできないようだな。」
「からくりを喋らせるなんてかなりの技術を要しますから…」
それでもかなりの技術とアルスは言う。
117華龍光臨:04/01/15 06:43 ID:6ZchHk2F
からくりの兵は呪文のように何か言葉らしきものを呟いていた。
はっきりとは聞き取れなかったが。同じ言葉を繰り返し呟いているようだった。
何のためのだろうか。
「…そうだな。これから一筆認める。」
思考を中断しとりあえず劉備はペンとインクを取り出した。

「では、これをゼボット殿へお届け願いたい。」
しばらく近くにあった椅子に腰掛けて手紙を書いた。
その簡素のからくりは劉備の側を離れることなく側にいた。
関羽たちは馬を下りて一息吐いていた。
ここでかつては茶会でもしたのだろうか。
茶会でなくとも、論者が集まってああでもないこうでもないと議論を交わしていたのかもしれない。
ふと、そのようなことが頭をよぎる。
そのからくりは喋れなくともこちらの言葉がわかるのかその手紙を手渡すとそれを受け取り元来た道を戻っていった。
「仕方あるまい。一旦フォロッドに戻ろうか。」
「そうですな。いつまでもここにいるわけにもいきませぬからな。」
118華龍光臨:04/01/19 05:44 ID:l2n3oNq/
劉備たちが去って、辺りが再び静寂に包まれたとき。
「フン、単純なやつらだ。」
男が庵から現れる。ゼボットである。
いつものことだろうと思い居留守を使っていたようだ。
軽く伸びをする。
「…」
手紙を受け取ったからくりがゼボットに手紙を渡す。
さっと手紙を一読する。
「…反吐が出る。」
手紙をゴミ箱に投げ捨てた。

「残念でしたな。兄者。」
「そうだな…噂になるほどのからくり技師だ。もしかしたら引手数多なのやも知れないな。」
ゆっくりと馬の背で揺られて草原を城に向かっていた。
居留守を使っていたとは微塵も思ってはいない。
孫尚香が苦笑いを浮かべる。
もう少し、疑うことをすればいいのに、とは思うけど。
一国の皇帝にだった者にしてはあまりにも優しすぎる。
義のために乱世に名を上げ漢王朝を再興せんがため戦ってきた男。
それもすべては民の永遠の安らぎを与えんが為。
その為かどうかはわからないがどうにも疑うことが苦手というか、いらぬ苦労を背負ってしまうとか…
「嫌いじゃ、ないんだけどね。」
才能の無い人間ほど
得意気に文章を書きたがる。
>>119
じゃ、あんたが書いて見本を見せてみろぉ。
太宰や三島を読め、の一言で済ますのは無しで。
それにこのスレの誰も得意気なんてなってないよ

121名前が無い@ただの名無しのようだ:04/01/23 12:42 ID:Kigs24/I
>>120
見本みたいなら太宰や三島を読むといいかとw
122名前が無い@ただの名無しのようだ:04/01/23 23:48 ID:NhSN8oIQ
アレフガルドの大地に一人の救世主が降り立った。
その名は才竹洋次。
彼はオリハルコンのパンツをはいていた。
他に、身に着けているものはない。帽子さえ、彼はかぶっていなかった。
だから、彼がまず最初におこなったのは、落ち葉と小枝で、
どうにか帽子らしきものを拵えることだった。
散々苦闘したが、なんとか彼はそれを成し遂げた。
鳥の巣のようなその物体を頭に乗せて、彼はようやくまわりを見回す余裕が出来た。
「無い!」
洋次は愕然とした。


つづく。
123名前が無い@ただの名無しのようだ:04/01/24 18:44 ID:V4wXnYYr
「称えん」とか「高き」とか「歌いし」とかはもう
オタク語になっちゃったよね。
「その勝利を称えんが為、高き声で歌いし男」とかモロ。文的にあってるかわからんが。
でもこうしてみると「高き」はまだギリでセーフくらいか。
124華龍光臨:04/01/25 12:46 ID:ypyQKFpE
「…それは残念だったな。」
城に戻ってまずは報告する。
副長の兵士は広間で兵の訓練を行っていた。
トラッド氏の姿は見えない。フォーリッシュにいるのだろうか。
「申し訳ありませぬ。」
「ご苦労だった。…と、言いたいところだが、申し訳ないが今すぐフォーリッシュに向かってはくれまいか?」
綺麗に整列した兵士たちが掛け声にあわせて槍を突き出している。
号令と共に一糸乱れぬ統率で槍を突き出す風景にしばし見入る。
「何か、問題が起こったわけ?」
いや、そうではないと副長が手を振る。
「フォーリッシュに駐在している将軍の知り合いだと聞いているのだが。違うのかね?」
「それなら某らのことでございますな。兄者。」
「うむ。」
アルスたちは何のことやらさっぱりだが劉備の知り合い…と言う事で、とりあえずは安心したようだ。
「そうか。是非とも作業に協力してほしいと言ってきたのでな。作業については恐らくわかっているだろうということだが。」
城門前でそれまで、という声が聞こえてきた。これから昼食なのだろう。
賑やかな時間になる。
「そういうことなら、今すぐにでも出発しましょう。」
「それと、特別に今後のそなたらの一切の指示は将軍を通じて伝えることにする。よろしく頼むぞ。」
「わかりました。」
125華龍光臨:04/01/25 12:51 ID:ypyQKFpE
「長い付き合いなのですか?」
「うむ。兄弟…ではないが、それと同然の付き合いだったな。」
徒歩でゆっくりとフォーリッシュに向かう。
その将軍って誰?ということでマリベルが言い出した。まあ、当然のことだろう。
関羽や張飛と武術の腕はほぼ同等。
兵を率いればたとえ負ける戦であっても大敗はしない。
名将の中の名将である。
とりあえず、劉備たち自身も兵を率いた経験はあるということは伝えてはいるが、じゃあ、誰のために戦っていたというという問いには、
「私は王朝を復興するために戦っていたのだ。…結局、負けてしまったのだがな。」
悔しそうな表情にアルスたちはこれ以上聞くことはしなかった。
事実、この世界にいるのは敗れたため…
「俺たちは今、再起をかけて旅をしているんだ。」
「そうだな、翼徳。生きてさえいればいつでも再興の機会はあろう。」
暗くなった空気が少しだけ明るくなる。
横ではマリベルが頭を抱える。どうにも彼のイメージが浮かんでこないようだ。
比較対象がどうにも人間離れしているのが原因か。
「もしかして、関羽殿よりでかいのかもしれないな。」
キーファがあれこれ想像する。
マリベルがこうでもない、ああでもないとそれに反応する。
「はは、まあ、出会えばすぐにわかる。驚くやも知れぬな。」
126諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :04/01/27 22:56 ID:GHGGXSfj
前スレのミラーサイトを作ってもらった。

http://ruku.qp.tc/dat2ch/0401/25/1029930091.html
作ってくれたルクダル氏に感謝。
127諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :04/01/28 13:52 ID:GaIoC45J
「お待ちしていました。」
フォーリッシュの城門前で趙雲が出迎えてくれていた。
「わざわざすまない。」
「いえ、気になさらずに。…こちらの連れが話にあったアルス殿でございますか?」
「うむ。」
アルスたちに向き直って一礼をする。
「趙子龍と申します。宜しくお願いします。」
「こ、こちらこそ。よろしくお願いします。」
イメージとはかけ離れた実際の姿に声を出すことも叶わなかったマリベル。
張飛や関羽のような巨漢をイメージしていたのだろう。
確かに体は大きいことは大きいが関羽はもちろん張飛より低かった。劉備とほぼ同じくらいである。
それでもアルスたちに比べるとやはり大きいわけだが。
「ここで立ち話もなんでしょうから中へ入りましょう。」

「久しぶりだな。城壁の修理なんてな…」
「そうですな。」
あれからしばらく雑談をして過ごし、それから仕事に取り掛かった。
仕事は城壁の脆い箇所の修理。目の前には大きな穴。
「切り出したといっても人手が圧倒的に足りないためかなり雑になってしまったのですが。」
張飛が切り出した巨岩を持ち上げて穴に埋め込む。
「この辺でいいか?」
「ああ。後は隙間をなくすようにしなければな。」
人の頭ほどの大きさの岩を隙間に設置していきそれを包むように煉瓦を組む。
そして、どうしてもできる微かな隙間には泥を流し込み隙間を埋める。
流し込んだ泥を呪文ですぐさま乾かして再び泥を流し込む。隙間が完全に埋まったらまた石と煉瓦を組む。これの繰り返し。
128華龍光臨:04/01/28 13:54 ID:GaIoC45J
とりあえずの応急処置である。
その間にも大急ぎで煉瓦を焼いてはいるが追いつかないのが現状である。
昼から始まった作業は日が沈むころになっても完成させることは叶わなかった。

「申し訳ありません。兵舎が溢れかえっている状況なのです。」
負傷者で、である。
現在進行形で増え続ける負傷者で兵舎はパンク寸前。
神父やシスターがあちこち駆け回っている。
「いや、構わないさ。雨風が凌げればそれで十分だ。」
それでも孫尚香とマリベルは気をきかせてくれたか、空きのベッドで休むことになった。
壁に寄りかかり一息つく。
そして兵士たちの武器の手入れをしていた老婆からホットミルクを受け取る。
「ありがとうございます。」
「いやいや、あんたたちのような豪傑がいてくれるだけで我らも安心できるというもの。このくらいお安いことさ。」
しばらくすると腰が冷えるのか絨毯を借りてきた関羽が戻ってきて床に広げる。
そこに張飛がどっこらせと横になる。そして数刻もしないうちに鼾をかき始める。
なれない作業で疲れ果てていたアルスたちも絨毯が敷かれるとすぐに横になって眠りだした。
しばらくして劉備も趙雲も夢の中に落ちようとしていたとき…

「て、敵襲です!」
それは引き裂かれた。
129 ◆pS0vE63oPg :04/01/29 05:55 ID:Wvb0ae/L
スラムダンク32巻発売決定キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
ttp://unyuu.yoll.net/dq.html
130 ◆Fb4PhAII/U :04/01/29 06:50 ID:fkOb3FID
スラムダンク32巻発売決定キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
ttp://unyuu.yoll.net/dq.html
こっちのゲームブックの更新はまだでせうか・・・
132華龍光臨:04/02/06 03:18 ID:EBVwO8za
闇の中を風が行き過ぎる。
空には瞬く星がない。どうやら雲行きはよろしくないようだ。
伝令の話だともう少しで見えてくることだという。
先の戦いで工作されただけとはいえ打撃を負ってしまった城門の修理が追いつかず、堅陣を敷くことに。
「夜襲か…」
「夜も昼も関係がないということですね。」
敵襲の声にびっくりして目が覚めたアルスたちも最前列にいる。
「趙雲、敵の数はどれほどかわかるのか?」
こちらの兵士は傭兵含めて500ほど。
「伝令の話だとからくり兵は100ほどですが。怪物たちとの連携を執ってきますので確実な数はわからないのが現状です。」
その為、西門にもある程度の兵を配置している。もちろん、フォロッド城は厳戒態勢だ。
「ですが、からくり兵の部隊を撃破できれば散るのは間違いありません。まずは罠を仕掛けてありますので、罠の発動を確かめた後攻撃をしてください。」
「うむ。」
辺りを静寂が包む。だが、砂山を少しずつ崩していくように足音が聞こえてきた。
「見えてきたぞ。」
張飛の肩の上でじっと暗闇を見つめていたガボが小声で言った。夜目が聞くのだろう。
趙雲の横にあれこれ成功したという知らせを持ってくる兵士が絶え間なくやってくる。
そして、しばらくの沈黙の後。
ゴォォッ…!
ズドォン!
「!?」
前方の平地から激しい爆発音と共に突然出火した。
133諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :04/02/06 03:20 ID:EBVwO8za
「どうやら、成功したようだな。」
成功を確認さして趙雲が槍を掲げて大声を上げる。
「これより突撃する!ここの防衛を行う者以外は皆、某について参れ!」
馬上の趙雲が駆け出す。兵士たちも駆け出す。
「火計ですな。」
「うむ。この空ならすぐに雨が降ろう。それまでに決着をつけるぞ。」
赤々と燃える炎が天を焦がす。
周囲には爆発によって破壊されたからくりの兵が横たわっている。
そして爆心地には大きな穴が開いている。
「すさまじい威力だ…」
「以前諸葛亮が作っていたっていうやつよりすごい威力じゃねぇか?」
辺りを見回す。
前方から炎を切り裂いて爆発を逃れたからくりの兵が迫る。
「来るぞ!」
凄まじい斬撃を雌雄一対の剣で受ける。
どうやら狙いを劉備に定めたようだ。
「雲長!翼徳!今のうちだ!」
「装甲の隙間を狙うのですな。」
相手の斧の間合いから外れて狙いを定める。
狙いは…左の肩の装甲の繋ぎ目。
次の瞬間、からくりの兵の腕は宙を舞った。
そして次にからくりの兵の背中から張飛の蛇矛が襲う。
張飛の目には多分よくわからないごちゃごちゃしたものと見えていただろう。そこに突き刺す。
134諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :04/02/06 03:22 ID:EBVwO8za
「こいつめ、黙れってんだ!」
突き刺した次の瞬間バチッと火花が舞う。
「なんだぁ?」
そして、爆発音を立てて倒れた。
「…どうやら、やつらの弱点らしい場所かも知れぬな。」
張飛がからくりの兵の武器の鉄の斧を拾い上げる。
そして拾った斧を背を向けているからくりの兵に投げつける。何かの破片が飛び散り軽い爆発音を立てる。間違いなさそうだ。
「弱点がわかればこっちのもんだぜ。」
「そうだな。そうすれば戦いようもある。…アルス!やつらの弱点は背中だ!背中を突け!」
「わかりました!」
アルスの声が聞こえる。どうやら大丈夫だろう。
マリベルのサポートの元に多様な戦い方をしている。
呪文も効くのだろうか。からくりの兵が撹乱されている。
「劉備、趙雲は何処にいるのかしら。」
周囲を見回していた孫尚香がふと声を上げる。そういえば見ていない。
「あそこだ。」
ちょうど燃え上がる炎を挟んで向こう。
馬上の趙雲はからくりの兵の頭部を槍で突き刺し相手を倒す。
「流石に慣れていますな。」
「うむ。」
また一体からくりの兵を倒す。
「大丈夫そうね。」
「ああ。」
この戦いで劉備たちの名前は広く知られることになった。
が、戦い自体は決して快勝とはいえなかった。
135華龍光臨:04/02/10 02:00 ID:RbQ+GAvL
滝のように降り注ぐ雨の中、戦死者の回収が行われた。
火はすっかり消えて焦げ臭い匂いも流された。
からくりの兵は雨は苦手なのかすっかりいなくなっていた。
「錆び付いてしまいますからね。」
とアルスが言う。
確かにさび付いてしまうと動けはしないだろう。
戦場となった場所では皆無言で作業していた。
アルスに聞いた話だと死者蘇生の呪文はあることはあるらしい。
そして、この町にその使い手…すなわち、神父…が、いる。
だが、彼一人ではとても追いつかない。それに状態がひどいと蘇生できないとのこと。今回で言うならば倒された後炎に巻かれてしまった場合である。
それでも、神父は寝る間も惜しんで戦死者の蘇生を行わなければならなかった。
それほど、兵が足りなかった。
そして、戦死者を回収する理由がもう一つあった。
「将軍、また、持ち去られたようです。」
「また、か。」
「…どういうことだ?」
作業をしていた兵がすべて戻ってきた。行方不明になっているものはいない。
「からくりの兵ではありませんが、他の魔物たちが死体を運んでいくのです。何処に運ばれていくかはわかりませんがまともなことではありませんでしょう。」
泣き崩れる女性の声が聞こえる。
連れ去られた死体の中にどうやら想い人がいたようだ。
「力、及ばず、か。戦は自分ひとりで行うものではないが…不甲斐なさを痛感する。」
「…確かに。」
アルスたちは疲れきってしまったのかふらふらと戻ってきて城門の休憩室で横になっていた。
肉体的にはもちろん精神的にも相当疲労していることだろう。
136華龍光臨:04/02/10 02:20 ID:RbQ+GAvL
「見回り終わりました。異常無しです。」
「そうか。ご苦労。」
遠慮がちに兵士は言葉を続ける。
「少しお休みになられたら如何ですか?何かあればすぐに知らせに参ります。我々は先の戦いではほとんど戦ってませんので。」
「…そうか。それでは、少し休ませていただこうか。」
その言葉を聞き、相当疲れているようであるということが痛いほどわかる。
それをその兵士もわかっているのだろう。
「将軍のご友人かと存じますが、お休みになられてはどうでしょうか。」
「ご好意痛み入る。ですが、この程度の戦では我らにとっては戦ったうちには入りませぬ。」
「暴れ足りないってやつだ。…そういや、兄者。からくりの兵の拠点とやらは見たことねぇな。偵察がてら見てきたいんだが。」
張飛がドンと胸を叩く。確かにこれっぽちも疲れてないようだ。
「…そうだな。彼を知り己を知れば百戦危うからずと、孫氏にも言われている。偵察してくる価値はあるだろう。」
聞くだけではなくこの目で見ることも必要である。
からくりの兵はこの雨のため、これ以上出撃はしないであろう。
「賛成ね。情報は多いほうがいいわ。」
決まりのようだ。
「そうですか。劉備殿。くれぐれも無茶をなさらずに。」
趙雲が兵士に指令を伝える。
兵士がすぐさま飛び出していく。
「すぐに馬を連れてきます。よい報告をお待ちしています。」
「ありがたい。準備でき次第すぐにでも行くぞ。」
書き手がやる気ないので終了
クソコテのクソ小説よりトルファの続きまだ?チンチン(AA略
>138
まぁ、そういうでない。みんな精進してるんだから。
140名前が無い@ただの名無しのようだ:04/02/19 17:34 ID:J3WNnW/Y
age
141名前が無い@ただの名無しのようだ:04/02/19 17:49 ID:wSgDjFss
「・・・トルファ・・・フォトルファラさん!」
蛍原は跳ね起きた。なんてことだ。いつのまにか眠ってしまうなんて。
「フォトルファラさん、おきたのね?」
「フォト・・・いや俺の名前は蛍原だ。まあトルファと呼ぶ奴もいるがな」
蛍原、いやトルファは答えて、そして戸惑った。
こいつは誰だ?いや、まて。そもそもここは・・・いや。
俺は・・・何をしようとしていたんだ?

すまん力尽きた。だれか続きよろ。
142名前が無い@ただの名無しのようだ:04/02/20 03:50 ID:2hyUD0go
。。。o・:*:・(* ̄ー ̄* )。・:*:・ 。。。
http://chance.gaiax.com/home/gr31
143296 ◆kYB5EDmqco :04/02/22 22:30 ID:BuC3NqyG
>>138
何十回と書き直してるんだが、ダメなんだ…
俺ほど続きを書きたいと思っている人はいないのに……
>>143
そういうこともあるさ。
職人さんおつかれさまです。
このスレだけにかぎったことじゃないんだけど、どの物語を読んでも内容がわかりにくいというか
何をしようとしてるのかがさっぱりわからなかったです。頭の悪い俺にとっては
まるで辞書を片手に持って読まないと内容がつかみにくいような物語ばかりでした

でも情景描写や表現がとっても面白く、人それぞれ表現のしかたがすごいなと思いました。
今のところ一生懸命読んでそれくらいしか自分として面白かったところがなかったです。
ごめんなさい、正直に感想を書いたほうがいいなと思ったので。

でもどの職人さんも学のありそうな文才に長けた人ばかりですごいと思いました。
ただ、DQネタを使った小説は自分も理解できますが、客観的にもうすこし
大衆的なわかりやすい物語が読みたいなあとちょっと願ってます。
世界観は練りこんでいても、そこに存在するストーリーはシンプルみたいな。

頭が馬鹿でごめんなさい。どの物語も決してつまらなかったってことはないです。
俺みたいな低脳にでもわかりやすいような物語も読んでみたいです。
これからもがんばってください。楽しみにしています。
humu...素晴らしい感想だ。
素直な文章かける人はちょっと尊敬する。
 まあ、このスレの作品は大作が多いし、物語が深く作られてるし
わかりやすいものじゃないかもね。あと、長篇ってのは、結局最後
まで書かれてみないとどんな物語だったのかわからないんじゃないか
とも思うしなあ。
 ぱっと読んでわかりやすい、ってのは短編だと思ってるんで、それは
この板の他のスレでも書けるし、ここはこれでいいような気もするよ。

 145が他にどんなスレを読んであの感想を持ったのか気になるけど。
FFの恋する小説スレとかかな。あそこも長篇多いからなあ。完結してから
まとめ読みしないと何を伝えたいのか難しい作品もあるよね。
このスレではないけど、自分の場合、不特定多数の人が見てる場に
SSを晒してしまえば(実際誰も読んでなくても)それだけで気が済んでしまうような、
SS描いてる人間の中で最低ランクのどうしようもないものなので、
ただ感想があっただけでももうけものだと思ってしまいます。

145さんは善意の人のレスを誘う力のある書きかたをする人です、きっと
ふみゅ
150華龍光臨:04/03/03 14:29 ID:YkoWAOZl
明かりになるようなものが一切ない闇と雨の中を駆け抜けていく影。
「ますます雨が強くなりますな。」
「うむ。だが、この雨のおかげで将兵は休めるだろう。」
この雨は恵みの雨となるだろう。
戦続きの将兵にとっては敵が来ないということが約束されている。
いつかはこの雨が悲しみをすべて洗い流してくれるのだろうか?
今は、考えるときではない。
「そろそろ山に入るころだろうけど…」
「この辺に偵察の兵がいるって言ってたな。」
風雨に晒され、もはや何が書かれているかがわからない立て札がある。
とりあえずここで足を止める。
先に出立した兵士が連絡を取り付けてあるということ。
ここで待っていればいいということだが…
「こちらです!」
茂みの中から声が聞こえた。こちらの声が聞こえたのだろう。

偵察兵の先導によって先を急ぐ。
雨が降っているとはいえもしかしたらからくりの兵はいるやも知れない。
周囲に気遣いながら山を登る。
フォーリッシュがあるであろう方向に目を向ける。
が、間に岩山があり、フォーリッシュを望むことはできない。
「陣が丸見えということはねぇようだな。」
「ああ。これは幸運だったな。」
陣が筒抜けならばさらに苦戦は免れなかっただろうし、土塁を築くこともままならなかっただろう。
「しかし、結構この山でかいな。」
「そうだな。山上に陣を引くと普通は水が切れて士気が振るわなくなるが常だが…」
「必要ないわけですな。」
「それより拠点に水を補給できる場所があると考えたほうがいいと思う。からくりの兵だけではないと思うから。」
「ふむ。なるほどな…」
もうしばらく歩くと開けた場所に出た。どうやら山頂に着いたようだ。
151華龍光臨:04/03/03 16:06 ID:YkoWAOZl
そこは確かに擂鉢状の土地だった。
鉱山か何かだったのだろう。そこを乗っ取ったと考える。
広さは…暗いためよくわからないがもしここが鉱山だったとすると狭いわけではないだろう。
見張りのからくりの兵はいない。まあ、当然だが。
身を屈めて拠点内部の様子を伺う。拠点内部には火がくべられていてとても明るい。
「これ以上近づけねぇのかよ?」
「無理だな。雨が降っているとはいえからくりの兵が出てこないとは限らない。それにこの雨では我らの視界も危うい。」
内部から漏れる光に何かの影が映る。
…からくりの兵ではない?何か慌しい様子が伺える。
「なんだ?一体中で何が起こっているんだ?」
雨の音で物音はかき消されているが敵の技師だろうか。動き回っている様子が影で見られる。
「くそっ!もう少し近づけりゃあなあ。」
張飛が舌打ちをする。流石に実際に見に行くということは考えてはいない。
言い出しそうでひやひやしたものだが。
「ねえ、あれ。」
背後で周囲の警戒をしていた孫尚香が何かを見つけたようだ。
「どうした?何か、見つけたのか?」
指差している方向をじっと見つめる。
…何か、ちかり、ちかりと明かりが見える。
「雲長。この東には何があった?」
「…?山を降りればすぐに海のはずですが。」
関羽も眺める。関羽もまたそれの存在を認めたようだ。
「…もしかしたらとてつもない情報を手に入れられるやも知れませぬな。」
「ははん。もしかしたらあの戦闘はおとりだったかもな。」
妙に鋭い。
「よし。もっと近づくぞ。少しでも情報を集める。」
「わかったぜ、兄者。」
そうと決まればここに用はない。急ぎ山を下る。
執筆お疲れ様です。
頑張って続きをお願いしま〜す。
hosyu
154こんばんは:04/03/09 20:49 ID:7zNwu/Nj
第1回

ここは何処だ?
僕は誰だ?
疑問に思いつつ、慌てて剣を抜く。
しっくりと手になじむその感触は、たしかに自分の得物であることを教えてくれた。
僕は混乱していた。記憶がないのだ。
そして、周りに広がる惨劇の後。
焼け崩れた家の様子を見ると争いがあったのは一目瞭然だ。
焦げ臭い煙が消えきっていないのは、それほど時が経っていないからだろう。
「・・・魔物の仕業か?」
とりあえず剣を収める。落ち着いてきた。

僕は村の中心である広場にいるようだ。
しかし、これだけの損壊であるのに拘わらず人の姿がない。遺体すら無い。
目前の毒の沼地(元は違ったのだろうが)を越えると色々と物が落ちている。
剣に・・・帽子?
羽根で装飾された質素だが小洒落た帽子だ。
ん?人の気配。
僕は・・・

1 気配のする方へ
2 気が付かない振り
1で。
156こんばんは:04/03/10 21:15 ID:JEnPOZhg
ありがとうございます。
155さんは1を選択されました。
・・・もしかして人少ないのかなぁ。

>1 気配のする方へ
 2 気が付かない振り
157こんばんは:04/03/10 21:17 ID:JEnPOZhg
第2回

「おい、おまえ!」
 声を掛けてきたのは女性だった。年齢は僕と同じくらいだろう。
「な、なんでしょう」
「何で此処にいる!何処から来た!」
 随分と語気が荒い。この村の者だろうか。
 しかし、結構整った顔立ちだ。・・・スタイルも良い。
 ぴっちりとした水着のようなものを着ている。ふむ眼福。
「何処から来たかと訊いている!」

 何処から来たと言われてもなぁ。なにせ記憶がないのだ。
 自分の格好を見てみると・・・
 旅行用の丈夫な服、なかなかの装飾がされていながら実戦向きの剣。
 そこから導かれる答えは
「あー、道に迷った旅人?」
「うそだ!」
 即、嘘吐き扱いかよ。どうしたものかね。
「!」
 お?無意識に弄っていた羽根帽子を見たとたんに表情が変わった?
「これ?さっき拾ったんですけど・・・」
「返せ!」
 彼女は今にも泣き出しそうな顔をして手を突き出した。
 僕は・・・

1 素直に渡す
2 少しからかってみる
2で。
イイヨイイヨー。
>156
どーでしょぅ。まあ毎日見てるって人はそういないだろうし、一週間もたてばもう少し反応が増えるのでは?と言ってみる。
160こんばんは:04/03/11 23:31 ID:1fBdhgPz
ありがとうございます。
158さんは2を選択されました。
>159 そうですね。のんびりと行きましょう。

1 素直に渡す
>2 少しからかってみる
161こんばんは:04/03/11 23:35 ID:1fBdhgPz
第3回

「さて、どうしようかな〜」
 僕は意地が悪そうに笑った。
「ただではやれないなぁ」
 もちろん嘘だ。彼女が「おねがい」してくればすぐにでも渡すつもり。
「っ!」
 だが、彼女は思いも寄らない行動に出た。
 腰の物を抜刀、そのまま横一文字に抜き付けたのだからたまらない。
間一髪、慌てて飛び退いて
「いきなり何をするんだ!」
「うるさい!」
 だめだ、目は血走り憤怒の形相。まともじゃない、話を聞く余裕もないようだ。
 最初の一撃をかわしたものの二撃三撃の連続攻撃を避けるのは難しい。
 それにしてもなかなかの剣筋、あきらかに訓練を受けているだろう。
 だが・・・
「まだまだ経験が足りないね」
 ましてや冷静さを欠いていては。
 僕は剣を抜き刃を受け止める。そのまま鍔迫り合いになった。
「まぁ、落ち着きなよ」
「おまえも魔物の仲間なんだろ!」
 魔物?やはりこの村は魔物に襲われたのだろうか。
 しかし、魔物の仲間などと暴言を吐かれるのは我慢がならない。記憶が無いと言うのになぜだろう。
 僕は・・・

1 いったん剣を引く
2 反撃を開始する
ここは1でしょう。

文章も上手くて、話運びも(・∀・)イイ!!
ただそろそろタイトルを決めてほすぃ。
163華龍光臨:04/03/12 13:47 ID:eAqIKZKT
闇の中に浮かび上がる姿。
いくつかの明かりに包まれてそれは姿を現す。
「…闘艦。」
海上に聳え立つ要塞。闘艦。
一つや二つではない。かなりの数だ。
そしてその付近をせわしなく動き回る小舟も見られる。走舸に違いない。
「正直。呉の船団以上というしかないわね。悔しいけど。」
木々の合間から海を見やる。夜陰と雨でこちらの姿はまず確認できないだろう。
ぽつぽつと海の向こうから明かりが見える。まだあるのだろうか。
「これほどの軍勢が押し寄せてくるとなりますとフォーリッシュではとても耐え切れませぬぞ。兄者。」
「確かに。」
見えるだけの闘艦、走舸だけでも千はくだらないだろう。
百ほどで相当苦労しているのだ。とてもじゃないが耐えれるはずもない。
しばらくの沈黙の後。
「申し訳ない。フォーリッシュへ報告をしてきてほしいのだが。」
「わかりました。すぐにでも行ってきましょう。」
偵察の兵は姿を消した。
「我らはもう少し近づいて情報を集めるぞ。」
雨と泥で足をとられないよう慎重に先へと進む。

164華龍光臨:04/03/12 13:49 ID:eAqIKZKT
山を降りると陣が見えた。
警護の兵は見当たらない。
「ずいぶんと警戒心がないな。」
「恐らくここには兵は出してこないと考えているんじゃねぇか?」
「確かに。」
事実注意はからくり拠点に向けられてそれ以外の場所に兵を向ける余裕はない。
「趙雲が言っていた輸送部隊なのだろうな。」
「恐らくはそうではあるのでしょうが…」
あんな呉の船団も真っ青な大部隊でくる必要はない。
からくりの兵を送るのなら…
「多くてもあの闘艦三隻ってところかしら?」
彼女の言うことのほうが正確だろう。とにかく大層な船団を率いる必要はない。
それに陣を構える必要はない。雨で足が止められるとしても船の中にいればよい。
輸送部隊はからくりの兵ではないだろう。(潮風や波しぶきによって錆付く危険性が大きいため。)
そもそも、からくりの兵は輸送されてくるものだ。変に潮風に当てて錆びさせたら目も当てられない。
いくらある程度の整備はできるとはいえ、手間は少ないに越したことはないだろう。
あれこれ考える。色々な考えが頭をめぐる。
「考えるより動いたほうが早いんじゃないか?」
まあ、確かではある。百聞は一見に如かずとはいえるのだが。
「今は待とう。」
「ふむ。そうですな。」
「…そういうことか。ならもうすぐというとこだな。」
一人取り残された孫尚香がいぶかしげに三兄弟を見つめていた。
165華龍光臨:04/03/12 13:58 ID:eAqIKZKT
直にそれはやってきた。
趙雲が自ら馬を駆って劉備たちの元にやってきたのだ。
なるほどと孫尚香が手を打つ。
偵察の兵が大抵の場所は伝えたにしろこうも正確に見つけるとは驚くばかりである。
「アルスたちも来たのか。」
「ええ。話を聞き飛び起きました。」
マリベルは半ば眠そうだが、キーファたちは興味で眠気も飛んでいるようだ。
「あの船が敵の船、ということですか。」
「うむ。趙雲はどう見る?趙雲の言っていた輸送部隊とすると明らかに多いわけだが。」
海の上の複数の明かりを見る。
しばらくの沈黙の後。
「そうですね。精々三、四隻でした。明らかにこれは何かあるということです。」
「そうか。…ならば、もう次の行動は決まったようなものだ。」
「忍び込むのか!?」
キーファが思わず大声を上げる。慌ててアルスが静かにするようにと促す。
「…大丈夫だ。相手は相当注意が散漫している。それにこの雨でかき消されているだろう。」
ちらりと陣を見やる。気付かれてはいない。
「今から敵陣に潜行する。できる限り情報を集める。騒ぎが起きたらすぐに逃げ出すこと。」
「待ってましたぜ。」
「翼徳。間違っても殴りこみに行く訳じゃないぞ。」
「わかってらぁ。」
笑い声が起こる。
そういえば敵陣に忍び込むのは初めてだな。
流浪していたときに他人の家畜小屋に忍び込んで勝手に眠らせてもらったということはあるが明らかにこれとは別物だ。
果たしてうまくいくだろうか…
いや、なんとかしなければなるまい。それが自分の役割なのだから。
166こんばんは:04/03/12 22:22 ID:URTVdfkd
ありがとうございます。
162さんは1を選ばれました。
タイトルですか、う〜む。
あと、選択肢は先着より多数決を優先しますので気軽にご参加下さい。

>1 いったん剣を引く
2 反撃を開始する
167こんばんは:04/03/12 22:25 ID:URTVdfkd
第4回

「やっ!」
 鍔迫り合いの状態から肩を入れ相手を弾き飛ばす。
 不意を突かれたのだろう、彼女は背中から倒れ込んだ。その隙に十分な距離を取り剣を
収めた。
 うめき声を上げなかなか立ち上がらない彼女を後目に、例の羽根帽子を拾い上げる。
「ほらよ」
 僕はいまだ睨み付ける彼女の方へ帽子を放り投げた。なかなかのコントロールだ。
「僕は敵じゃない。魔物の仲間なんかじゃない」
 きっぱりと断言する。記憶がないので「今のところ」は、だけどね。
「・・・シンシア」
 彼女は帽子を手に取ると泣き崩れてしまった。まいったなぁ。
 シンシア、僕の記憶の中では女性の名前だ。あの帽子の持ち主だろうか。
 だとすると・・・からかったのは不謹慎だったかもしれない。
「魔物に襲われたのかい?」
 彼女はうなずく。
「他の人は?」
 泣きながら首を横に振った。最悪、一人残して全滅という線もありえるわけだ。
「ここは離れた方が良いよ」
 魔物がまたやって来ないとは限らない。
 無人の村に響く剣戟の音、よほど響いただろう。
 僕は・・・

1 女性を立たせる
2 泣きやむまで待つ
3 この場を離れる
2ですな
1とか。

「こんばんは」

第1回 >>154
第2回 >>157
第3回 >>161

レスアンカーつけてくれるとありがたいんだけど>「こんばんわ」の作者さん
1かな
なんだこりゃ。
記憶喪失の主人公と女勇者?
2MBのもろパクリじゃん。
出直せよカス。
1でしょ。
まあパクリでも分かりやすくて面白いなら別にいいし。
これだけ本とかまんがとかが氾濫している時代に、全くのオリジナル物語なんて相当作りにくいだろうし。
>>172
本とかまんがでかぶろうがそりゃ量は膨大だからどうでもいい。
だが同じネットドラクエ小説というジャンルで、無意識にかぶるか?
このジャンル量もまだ大してないのに。
ってか無意識のパクリとは次元が違うっつーの。
あからさまにパクらなきゃこんだけかぶるかボケ。
2MBってなんだ?
知らんけどあんまりパクリだ何だと騒ぐなよ
175こんばんは:04/03/13 22:51 ID:P5e3MZti
 すみません、2MBとは何ですか?
 話の内容から作品名か作者の方とは思いますが・・・

 なお、主人公を記憶喪失としたのはゲームブック形式にしたためです。
 ゲームブックやビデオゲーム、もちろん小説も主人公の記憶障害(程度の差はありますが)は珍しくありません。
 ゲームにおいてプレイヤー=主人公の場合、自己投影しやすいように主人公のキャラクター性を消してしまうことがよくありますね。
 主人公が喋らない、姿を見せない等、ゲームブックでは「君は・・・した」など。
 私はそのパターンのひとつ。
 キャラクター性を残しつつ記憶喪失とすることで、主人公の行動を選択されるプレイヤーの方々があまり違和感を持たないようにしたかったのですが。大失敗だったようで。
 ごめんなさい。
 恥かきついでにお願いが。「2MB」のことを教えていただけるとありがたいです。
>>175
やめないで続けて欲しい。
面白いから。
結局2MBってなんなの?
結局イチャモンづけがしたかっただけか?
なにはともあれ続き希望。
171=173さんはもう見てないのかな?
ひたすら続き希望。
このスレにはどんな小説を書いても良いんですか?
例えばDQを主体にしてFFのキャラが出てくるのもありですか?
それでも良いのならちょっと書いてみたい小説があるのですが。
こんばんはさん再開きぼん。もちろんトルファの先生がたも

>>182
ここは一応ドラクエと冠してあるので。こっち↓が適スレかな
FF・DQ千一夜物語 第413夜
http://game5.2ch.net/test/read.cgi/ff/1048322547/
>>183
そんなスレがあったとは知らなかったです。
そちらのスレにいってきます。
185華龍光臨:04/03/27 01:40 ID:GHGGXSfj
陣の入り口へとたどり着く。
見回りの兵は…警戒感がなさそうだがいることはいる。
まず張飛が柵を飛び越えて辺りを見回す。
大丈夫だ。
しばらくの間を置いて劉備たちも飛び込む。
「手はずどおりに頼むぞ。」
「わかりました。」
アルスたちが駆け出す。
近くのテントに潜り込むのを確認してこちらも行動を起こす。
「アルスたちには負けられぬぞ。やるか。」
劉備たちも他のテントに潜り込む。もちろん敵がいないことを確認して。
目的は敵の物資の強奪。敵の新たな動きに対応するためにどうしても情報が必要だ。

油臭さが鼻をつく。
どうやらここは…
「からくりの置き場であろう。からくりの兵ではないようですが。」
「むう。これはたまらんな。」
普段嗅ぎ慣れない匂いに思わず声を上げた。
大小さまざまなからくりが台座の上に鎮座している。
「兄者、これなんかすごそうだぜ。」
張飛がやっと抱えることができるくらいの巨大な大きさのからくりを指差した。
これは一体なんなのだろうか。
「どれもこれも用途が見当もつかないな。」
「どうしますかな?兄者?」
「いっそのこと持てるだけ持ってちゃおうか?」
持てるだけ…といっても馬車でもない限り全部を持っていくことは到底無理だ。
張飛の指差したからくりを一つ持っていくのがやっとだろう。
「馬はあるのだから荷車さえあれば問題はないのだが…」
ここまで来るときに乗ってきた馬は森の中に繋いである。荷車さえあれば運び出すことも可能だ。
「問題は荷車があるかどうか、そしてそれを運び出すまでか。」
「今すぐにでも探してきましょうか。」
「そうだな。頼むぞ、趙雲。」
186諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :04/03/27 01:42 ID:GHGGXSfj
テントを出た趙雲は海の上に聳え立つ闘艦を睨めつけた。
…ついに光を見た気分だ。
もちろん、闘艦を見て、ではない。
何もわからずこの世界に来て全く自分とは異なる生活の中、頭の整理のつかないまま戦争に向かっていった。
迷いはなかった。
間違いなくここに劉備がいたら起こしていただろう行動を起こしたまで。
事実、今一緒に戦っている。
…迷いがなかったとはいえ先は見えなかった。
話を聞くと封印された土地を復活させるためにこの世界を回っていると聞いた。
この土地も封印される定めにあったという。
それは何を意味するかは想像に難くない。
だが、今は違う。未来を変えるべく劉備たちはやってきている。
成すべきことは決まった。
この身、刃となりて、悪を立ち払う。
「その為にはまずは今を切り裂かなければ。」
闇へとその身を投じていった。

187こんばんは:04/03/27 21:23 ID:M8X7k1qN
どうやら「2MB」の正体は判明しないようですので再開させていだだきます。
なお、私はDQにそれほど詳しくありませんので矛盾点などはご容赦ください。
ゲームブック形式としてその場のノリでのんびり進めて行きますね。
それでは、ネタ被り覚悟で冒険の書のつづきから・・・

ありがとうございます。
多数決で1番に決定しました。

第4回>>167 の選択肢
>1 女性を立たせる
2 泣きやむまで待つ
3 この場を離れる
188こんばんは:04/03/27 21:26 ID:M8X7k1qN
第5回

「ほら、立ちなよ」
 僕は、泣き崩れている女性を立たせようと近づいた。
 いつまでもここに居る訳にはいかない。魔物が徘徊していないとも限らないから。
 だけど、女性は帽子を抱いたまま立ち上がる気配はない。やれやれ。
「ほら、立ちなってば」
 もう一度言う。駄目か。
 僕が彼女の腕を取ろうとした時だった。向こうの方からヒョコヒョコと歩いてくる者が
いる。子供だろうか、妙に背の低いそれはなぜか魔法使いのような格好をしていた。
「なぁ、誰か来たみたいだけど」
 村の生き残りがいたのか?
彼女は振り向き・・・みるみる表情が険しくなってゆく。
「みならいあくま!」
 なんだそりゃ、とよく見てみる。なるほど納得。そいつの顔には大きな目玉がひとつ。
「魔物か」
 僕の知識では魔物と言えばスライムなのだけれどね。
 彼女はやる気満々。剣を持ち、今にも飛びかかろうと身構えている。
 しかし僕には気になることがひとつ。この魔物が現れてから背後に邪悪な気配、それも
殺気を感じるのだ。さて、どうしますか。
 女性を横目に見ながら僕は・・・

1 目の前の魔物に飛び掛かった。
2 背後の気配へ攻撃する。
189名前が無い@ただの名無しのようだ:04/03/29 21:51 ID:UU8jsW78
2でいいかな?
sage
おぉ復活している…待ってたよ(・∀・)!!

漏れも2で。
192華龍光臨:04/04/01 14:34 ID:ikAMTlM7
孔明の右腕となって如何なる計略をも成功に導いてきた彼にとって、この程度は造作もなかった。
ほとんど待つことなく荷車を三台も持ってきた。
「やつらの慌てる顔が見ものだな。」
「違いねぇ。」
とはいえ、これは時間稼ぎ。
早急に次の手を打たねばなるまい。
「アルスたちも戻ってきたな?」
荷車に物資を急いで乗せる。
重量を考えないと荷車のほうが壊れてしまうやも知れない。
慎重にかつ素早く。
「はい。」
なにやらやつれたような顔のアルスが力なく答える。
どうやら首尾は上々だ。
…何か首飾りやら貴金属など余分なものが混じっている気がするが、まあ、問題はないだろう。
キーファたちにはそんな様子が見られないことからマリベルがなにかやらかしたことだろう。
当のマリベルは嬉々とした顔で荷車に乗り込む。
「準備はよろしいですか。劉備殿。」
「うむ。急ぎフォーリッシュに戻り次の作戦を立てなければ。」
劉備が手綱を引く。
雨の音に全てはかき消された。
193華龍光臨:04/04/01 14:37 ID:ikAMTlM7
フォーリッシュについたときは夜が白々と開けてきていた。
しかし、雨は降り続いたままだ。
ずぶ濡れとなったいつもの服の代わりに服をくれた心優しい女性がいた。
使ってくれるとうれしい、と。
彼女はこの戦争の中で婚約相手を失ったと聞く。
感謝の意を伝えて今、食堂にいる。
長い間雨に打たれて体温と体力を失っていたアルスたちは再び死んだように眠りこけた。
趙雲も相当心労が重なっていたのだろう。今、食堂の長椅子に横になって眠っている。
自分も趙雲の隣で横になりつつも寝付けなかった。
「兄者、寝付けませぬか。」
「ああ。何か策をめぐらしていたところだ。」
今頃、奪ってきた物資をめぐってああでもないこうでもないと話し合っていることだろう。
どのような代物との知れぬからくりを前に、敵の新たな動きを色々想像していることだろう。
「…雲長。やはりこの戦局を覆すには孔明のような知恵物が必要だと思う。」
ゆっくりと体を起こす。
「しかし、必ずしも軍略に通じている必要はない。」
机に腕を置き、横になっている関羽に目をやる。
張飛は酒樽を抱えてその横でいびきをかいている。
「行くのですか?兄者。」
「ああ。今一度ゼボット殿の元へ行って、協力を仰いでこよう。」
「…わかり申した。お付き合いします。…ですが、今は少しでも体を休めることが先決ですぞ。」
「そうだな。」
そして再び横になりゆっくりと目を閉じる。
しばらく待つと夢の世界への扉が開いたのだった。
194こんばんは:04/04/01 21:41 ID:HAayaHlP
ありがとうございます。
それでは2番に決定いたしました。
今回、魔物の名前はお遊びです。
名前と言えばそろそろ「女性」の名前を決めたいですね。
小説版のユーリルで良いでしょうか。

第5回>>188の選択肢
 1 目の前の魔物に飛び掛かった。
>2 背後の気配へ攻撃する。
195こんばんは:04/04/01 21:45 ID:HAayaHlP
第6回

 僕は目前の魔物に構わず、背後の殺気の元へと飛びかかった。
 どんぴしゃ。同じ種族であろう魔物が呪文の詠唱を始めていた。
「せいっ!」
 掛け声と共に魔物の腹部へと剣が突き刺さる。ただ、問題は・・・
「兄貴ー!」「ウーチョ!」
 魔物は3匹だったのだ。かん高い叫び声を上げる2匹。一匹はもう虫の息だ。
 女性がもう一匹を牽制している間に、僕は体勢を整え剣を構える。
「うう、我らの策が見破られるとは!」
 やはり、最初に現れた魔物は囮だったようだ。
まさか自分たちが気付かれていたとは思わなかったらしい。あんなに露骨に現れたらバ
レバレのような・・・。ちなみにこの女性は気付いていなかったようだけどね。
しかしこれで、とりあえず数の不利は免れた。
 僕は女性と背を合わせるような形で魔物と向かい合う。
「大丈夫、やれるかい?」
 声をかける。彼女は頷いた。よし。
「気を付けて。奴らは炎の魔法を使うから」
 へぇ、心配してくれるのか。
「ヨクトー、男は天空人かもしれん。村の生き残りを優先するのだ!」
「了解です、兄者!」
 かん高いキイキイ声で魔物も戦闘態勢を整えた。
 僕は・・・

1 1対1で戦闘開始
2 女性と共に各個撃破
196名前が無い@ただの名無しのようだ:04/04/02 12:30 ID:ZwZ/xpx9
三馬鹿登場・・・・w
2で。
2。
保守。
保守ろうか。
200こんばんは:04/04/08 21:38 ID:ZGA0IF+x
ありがとうございます。
それでは2番に決定いたしました。
さてさて三馬鹿の行く末やいかに。

第6回>>195の選択肢
 1 1対1で戦闘開始
>2 女性と共に各個撃破
201こんばんは:04/04/08 21:40 ID:ZGA0IF+x
第7回

 ここは彼女と協力して1匹づつ倒して行くしかないな。
 僕は横目で女性の方を見た。彼女も頷く。
 さて、どちらから攻撃しようか・・・
「村の生き残りを討ち取り、我等の手柄とするのだ!」
「応!ピサロ様に奴等の首を届けてやりますぜ」
 ピサロ?何者だろうか。
しかし、考えている暇はなかった。
ピサロという名が出た途端、女性が魔物に斬りかかったのだ。
 ったく。僕は彼女のサポートにまわる。
 片方の魔物には背を向けることになるが、仕様が無い。
 見ると魔物は彼女の剣を長めの杖で捌いている。
・・・魔法使いの格好なのに、なかなか様になっているじゃないか。
「や!」
 彼女の剣は大振り。疲労も溜まっているのか動きが鈍い。
 魔物は飛びのいて避ける。今だ!
「ぎゃ!」
 剣一閃、体勢の崩れた魔物を切り伏せる。これで2対1だ。
「ヨクトー!」
 最後の一匹が叫ぶ。まずいっ!呪文の詠唱を終えている。
「我が炎の魔法を喰らえい、メラー!」
 おいおい、狙いは村の生き残りじゃなかったのかよ。
 火球は僕の方へと向けられた。避けきれるだろうか。
 僕は・・・

1 なんとしても避けてみせるっ!
2 剣で防御、ダメージ減少をねらう
よけたら彼女にあたるかも・・・・
2.
203296 ◆kYB5EDmqco :04/04/11 11:14 ID:/B7jcTly
>145
他の人のはともかく、自分のは何も考えずに書いているので貴方の感想は正論です。
……だから、最後で詰まってるんだよな……いっそ投げるか(ぉぃ

そうそう、遅レスですまない。
204こんばんは:04/04/11 20:36 ID:3yi/kOtN
ありがとうございます。
202さんは2を選ばれました。
女性にあたらないように、ですね。
ちょっと選択肢とニュアンスが違うかも知れませんが・・・
と、私もこのような感じです。出たとこ勝負で良いのではないでしょうか。だめ?

第7回>>201の選択肢
1 なんとしても避けてみせるっ!
>2 剣で防御、ダメージ減少をねらう
205こんばんは:04/04/11 20:39 ID:3yi/kOtN
第8回

 火の魔法が僕に向かって放たれた。
 まずいな。ここで避けたら彼女が・・・
 ええいっ。
 僕は剣を強く握った。しっくりと手に馴染み、不思議な装飾と輝きが心を落ち着かせる。
記憶の無い僕の、記憶に無い愛剣。
 やはり女性は疲労のため、もたついていた。
 うん?彼女がなにかを叫んでいる。
 メラの火球がいやにゆっくりと近づいてくる。まるで時が先へ進むのを躊躇っているよ
うに。
 もう、何も聴こえない。僕は――
「うおおおおおおお!」
 気合。目の前に近づいた火球を薙ぎ払った。
 防御ではなく集中、一閃。だって「今までも」そうしていた筈だから。
 僕の頼りになる相棒は、いとも簡単に魔法の炎を切り裂いた。
 火球は僕と女性を中心に左右に分かれ地面に落ちる。
「そんな馬鹿な!我が最強魔法がー!」
「・・・魔法の剣なの?」
 女性がボソッと呟いた。
 魔法の剣?いや、だけど魔力は感じない。
 いまはそれよりも・・・

1 間を置かずに攻撃
2 体勢を整えよう
206K ◆6VG93XdSOM :04/04/12 00:31 ID:/hIMF7DI
名乗っても意味がないと思って名無しにしたけど、こないだこの板に久しぶりに
SSを投稿した手前やっぱり名乗ることにしる。名無しで意見するのはやっぱ後味わるいや。

>>145は自分です。
たまには他人の書く‘読まされる楽しみ’を味わいたくて読んでみた。
ごめんなはい、感想は正直に書きました。

>>147
最後まで読まないと楽しめないってのは途中で読むの断念しちゃうよ。
いつの間にか‘読まされている’って感じのわくわく感がなかったんです。
どれも仕方ないから‘読んでやってる’って感じの物語ばかりで。
でもほんとごめん、生意気でした。

>>203
投げないで最後までがんばってください。
久しぶりってことは、前にこの板のどこかで書いてたんですか?
どこ?
2ちゃんブラウザでタイトルソートかけるとトップにくるスレ・・・ですな
を筆頭に、ギャルゲスレとかでも活躍されてました。
>>205
隙は逃さない。1.
まあ殺すのはちょっと可哀想だけど。
211K ◆6VG93XdSOM :04/04/13 12:16 ID:xkcu7EDE
どのスレのこと??208
晒してもいいからスレ名だけでもおしえてくんないかな
スレ名がないスレのことでしょう。たぶん。
乗っ取りした時のヤツ。たぶん。
213剣士 ◆QWzUF/wj3. :04/04/14 22:24 ID:cYEVc+EO
もしかして前DQ4スレで書いてた?
214K ◆6VG93XdSOM :04/04/15 01:50 ID:lAgW52jt
書いてたけどどの過去ログのこといってんおかわからないなー
SSタイトルをおしえてください
もしくは過去ログおしえて
215剣士 ◆QWzUF/wj3. :04/04/16 12:36 ID:+oZfq3Xv
探してみたらいつのまにかdat落ちしてた。
DQ4総合萌えスレ?みたいなところ
216K ◆6VG93XdSOM :04/04/16 18:30 ID:FEdtONlW
書いてない
こんばんわさんの続きは・・・?
過疎化が進んでるけど続いた方がいいのか?
219剣士 ◆QWzUF/wj3. :04/04/22 22:05 ID:NxE07+f3
>>216
吐血しそうなショック。
すみません、勘違い
>>218
いいのではないですか?

そういえばこのスレ感想があまりないね。
それで賑わうことがないのかもしれない
221こんばんは:04/04/24 05:59 ID:HjrS98qY
・・・おはようございます。
とりあえず一区切りまでは続けようとも思うのですが。
来週から再開したら参加してくれますか?

>>218
確かに感想等は少ないですね。
と、言うか見向きもされて無い模様。
トルファの冒険の書は参加しようにも前スレが見れないのが痛いかな?
リレー形式で進めて行ければ書き手の負担も減るのでしょうけど。
なかなか難しいものですね。読ませる文章となればなおさら。
>218じゃなく>220ですね・・・
223諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :04/04/24 07:45 ID:5ZWgXNRb
前スレのミラーは
>>126
224華龍光臨:04/04/24 12:43 ID:5ZWgXNRb
鼻を擽るいい匂いに目が覚めた。
そろそろ正午か?とりあえず身を起こす。
目の前にはいい匂いに釣られて先に目が覚めた張飛が腹を鳴らしながら机に突っ伏していた。
「翼徳、起きていたのか。」
「おう、兄者。あまりにも腹が減ったんでな。」
「あら、もう起きたのかい?」
厨房の奥から女性の声が飛んでくる。
劉備たちが来る前は食事がのどを通らない兵士も多く、作り甲斐がないと嘆いていた。
やはり作る側とするならば食べてくれないというのは悲しいことだろう。
「翼徳。食事をとったらもう一度ゼボット殿の元へと行くことにした。」
「ん、そうか。兄者。」
食事が運ばれてきた。
寝起きにしてはちょっと多い気がしたが、張飛なら問題はないだろう。
それにしばらくすれば関羽や趙雲が起きて来るだろう。
225華龍光臨:04/04/24 12:50 ID:5ZWgXNRb
「雨は少し弱まってきましたぞ。」
食事の匂いに釣られたかすぐに関羽と趙雲は目を覚ました。
趙雲は軽く食事を取ってすぐに会議室へと向かっていった。
そして、入れ違いになるように孫尚香、キーファたち…
「む?アルスはどうした?」
「今、倉庫に篭っているみたいだけど。」
アルスの姿が見えない。一人だけ外れて…というのは始めてみる光景だ。
「からくりをいじくっているけどアルスにわかるのかしら?」
キーファが起きたときには既にアルスは起きていて倉庫であれこれいじっていたようだ。
「ふむ。それではアルスに伝えておいてくれ。今からもう一度ゼボット殿に会いに行く、とな。」
張飛が豪快にステーキを噛み切る。そして横のワイン樽を抱える。
「…翼徳、それくらいにしておけ。これから出かけるというのに。」
「ん、悪ぃ。」
「キーファたちはここにいてくれ。何があるかわからないからな。」
「わかったぜ、劉備さん。」
「おう、それじゃあ、俺がお代わり食い終わったらいくとするか、兄者。」
空になった皿を持って席を立つ。
「翼徳、食いすぎも自重しろ。」
すかさず、その皿を取り上げる。
「そりゃないぜ!兄者!」
本気で辛そうに張飛が叫ぶ。さらに手の届かないところへ皿を持っていく。
食堂に笑いが巻き起こる。久方ぶりに笑ったものが多く、しばらく笑いが収まらなかった。
>>221
参加します。ノ
しかし人が少ないね。過疎化したのかな。
2271234567890 ◆6VG93XdSOM :04/04/26 23:29 ID:vR/CXR1x
あのね ちょっと頼みがあるんだけど223
人大杉だったり、移転したり鯖がとんだりで
おかしくなってるからねー。たまにはあげてもいいかもよ。

といいつつ下げたままw
書き込めるかな〜?
あsage味噌汁
みんな生きてる〜?
ノシ 生きてる…。
ノシ
このスレどうなるんだろうな・・・
234華龍降臨:04/05/11 00:37 ID:h/QHdF4n
前いた所から引越しして未だネットに繋げない環境です。携帯からでまじでスマン














(-_- ;))
とりあえず始めます?
237華龍光臨:04/05/14 17:35 ID:XPWRm/7f
鼻を擽るいい匂いに目が覚めた。
そろそろ正午か?とりあえず身を起こす。
目の前にはいい匂いに釣られて先に目が覚めた張飛が腹を鳴らしながら机に突っ伏していた。
「翼徳、起きていたのか。」
「おう、兄者。あまりにも腹が減ったんでな。」
「あら、もう起きたのかい?」
厨房の奥から女性の声が飛んでくる。
劉備たちが来る前は食事がのどを通らない兵士も多く、作り甲斐がないと嘆いていた。
やはり作る側とするならば食べてくれないというのは悲しいことだろう。
そんなときにいつ如何なるときにも豪快に食事を平らげる張飛は厨房の英雄となった。
「翼徳。食事をとったらもう一度ゼボット殿の元へと行くことにした。」
「ん、そうか。兄者。」
劉備の食事が運ばれてきた。
寝起きにしてはちょっと多い気がしたが、張飛なら問題はないだろう。
それにしばらくすれば関羽や趙雲が起きて来るだろう。
「兄さんもたくさん食べてくださいな。」
「忝い。」
焼きたてのパンを一口、口に運んだ。
238華龍光臨:04/05/14 17:39 ID:XPWRm/7f
食事を終えて食後のミルクをいただく。
張飛はあれからいまだに食べ続けていた。
「雨は少し弱まってきましたぞ。」
食事の匂いに釣られたかすぐに関羽と趙雲は目を覚ました。
趙雲は軽く食事を取ってすぐに会議室へと向かっていった。
そして、入れ違いになるように孫尚香、キーファたち…
「む?アルスはどうした?」
「今、倉庫に篭っているみたいだけど。」
アルスの姿が見えない。一人だけ外れて…というのは始めてみる光景だ。
「からくりをいじくっているけどアルスにわかるのかしら?」
キーファが起きたときには既にアルスは起きていて倉庫であれこれいじっていたようだ。
「ふむ。それではアルスに伝えておいてくれ。私たちは今からもう一度ゼボット殿に会いに行く、とな。」
張飛が豪快にステーキを噛み切る。そして横のワイン樽を抱える。
「…翼徳、それくらいにしておけ。これから出かけるというのに。」
「ん、悪ぃ。」
「キーファたちはここにいてくれ。何があるかわからないからな。」
「わかったぜ、劉備さん。」
「おう、それじゃあ、俺がお代わり食い終わったらいくとするか、兄者。」
空になった皿を持って席を立つ。
「翼徳、食いすぎも自重しろ。」
すかさず、その皿を取り上げる。
張飛のフォークが思いっきり机と突き刺さる。
「そりゃないぜ!兄者!いくらなんでも机は食えないぜ!」
本気で辛そうに張飛が叫ぶ。さらに手の届かないところへ皿を持っていく。
食堂に笑いが巻き起こる。久方ぶりに笑ったものが多く、しばらく笑いが収まらなかった。
>>247-248ツマラン。消えろ
>>247-248に期待。
厨コテ氏ね
242華龍光臨:04/05/21 11:42 ID:Fv08b3LZ
雨の中、ゼボットに会うべく、城門を出る影が四つ。
そんな劉備たちを城門の上から見送る。
「趙雲将軍。そのような場所にいられますと風邪をひきますぞ。」
「うむ。」
城門の上に建てられた簡易の見張り小屋から声が聞こえる。
いまだ、目だけは衰えておらぬと言ってずっと見張り小屋にて見張りを続けている老人だ。
「…あの者たちが着てから様子が変わりましたな。」
「わかるのですか。」
タオルを受け取って髪を拭く。
「ずっと難しい顔をしていたんじゃが、あの者たちが来てから思い出したかのように笑うようになったのじゃからな。」
「…まさかこのような場所で会えるとは思いもよらなかったですから。」
何もかもが違う世界。出会えたらいいだろうとは思っていたが、本当に出会えるとは。
「ところであの者たちは一体何者なのじゃ?将軍なら知っているのじゃろう?」
「劉備殿は…」
一旦言葉を止めて、
「様々な思い、志が集まることで「龍」になることができるのです。」
「竜?」
「ええ。「龍」です。」
しばらく沈黙が包む。
「ふむ、わしの言う「竜」とはニュアンスが違うようだが…。」
聞くと老人は竜の絵を描いてくれた。
こちらも龍の絵を描く。絵を書くことなんかはない。
ただ、自分の感じたままに龍を描いていく。
「ああ、聞いたことがあるぞ。御伽噺に出ていた「神龍」という龍と似ている。」
「神…龍。」
髪を拭き終わりタオルを老人に返した。
そして噛み締めるようにその言葉を呟いた。
243華龍光臨:04/05/22 00:49 ID:TJbgR7YJ
日が暮れようとしたとき劉備たちは帰ってきた。
様子からまた会えなかったらしい。
「不在だったようだ。長期の不在だろう。しばらくは帰ってこれないといわれてしまった。」
恐らくそれは嘘。
後ろで孫尚香が苦笑いを浮かべている。
「そういえば、アルスはどうしているのだ?」
「見てませんね。恐らくまだ倉庫にいるものだと思われます。」
「だいぶ時間が経っていることですし、一度様子を見に行かれてはどうかと。兄者。」
手渡されたタオルで髪を拭き、自慢の髭も拭きながら関羽は提案をした。
「そうだな。闘艦のこともある。もしかしたら我らがわかりそうなこともあろう。」
「そうね、アルスたちが知らないことでも私たちが知ってたり、その逆もありえるわね。」
「倉庫は何処にあるのだ?」
「こちらです。劉備殿。」

倉庫には敵陣から奪ってきたからくりが置かれ、大勢の兵士がああでもない、こうでもないと議論していた。
アルスは…
いた。
奪ってきた巨大なからくりを前に集中して細かい作業をしていた。
周りがうるさいだけにかなり緊張しているだろう。
キーファたちもその光景を緊張した面持ちで見つめている。
しばらくは声をかけないほうがよさそうだ。
「将軍、先日奪ってきた物資の中に何かの設計図のようなものがありましたが。」
「見せてくれ。」
一旦アルスたちの側から離れ、兵士から巻物を受け取る。
244名前が無い@ただの名無しのようだ:04/05/26 11:04 ID:k7D2XYdq
>>242-243のようなクソコテじゃなくてトルファの冒険まだ〜チンチン(AA略
245こんばんは:04/05/30 06:31 ID:uD4mxtXn
人大杉のハズなのに。。。(´・ω・`)
厨房はこんなとこあんまし読まないから。
面白いじゃん、ちゃんと嫁
248華龍光臨:04/06/01 04:04 ID:S1LkGyRD
「ふむ。」
ゆっくりと眺める。見覚えはある。
「これは井欄の設計図だな。我らがよく知るものと細部は違うが井欄には違いない。」
「セイラン?」
「城壁の上にいる兵士を直接攻撃する攻城兵器だ。細部は我らがよく知るものとは違うが。間違いはないだろう。」
劉備が大まかに絵を描く。
「なるほど。」
「普通のならば火矢で射掛けるなりすればいいのだが…」
そこはからくり、容易にはいかないことだろう。
第一、こちらの井欄は木でできているとは限らない。
「これは雲梯という。単純に言えば、城壁に上るための巨大な手押しできる階段、もしくは梯子だ。」
「こちらは…」
「ああ。これは摺疊橋と言って…」

「ありがとうございます。」
兵士、副将たちが立ち上がって礼をする。
「いや、構わないさ。」
巻物を閉じる。簡単な攻城兵器の解説は終わる。さて、アルスは…と言うと、
「作業の手は休めているようだ。声をかけに行こう。」

249華龍光臨:04/06/01 04:09 ID:S1LkGyRD
アルスはからくりの前で大きく溜息をついていた。
ちょっとしたオルゴールの修理とかならマリベルによくやれといわれるんだけど…
自分の範囲を超えている。
「とりあえずわかったことがあるからいいんだけど。」
このからくりには見覚えがあったからこの役割を買って出た。
何処で…
あの、「衝車」である。あの時は戦いのさなかだったがはっきりと覚えていた。
「アルス。ご苦労だった。何かわかったか?」
「あ?劉備さん。帰ってきていたのですね。」
劉備が水を手渡し、一気に飲み干す。
「とりあえず、これはどういうからくりかはわかったのか?」
「ええ。設計図みたいなものがありましたからいくつかバラバラにしてみてみたりしたのですが。」
分解した部品を綺麗に並べられているところが彼らしいところか。一体いくつもの部品からできているのか想像もできない。
孔明が見たらまさに三日三晩寝ずに、食事もせずに向かい合うことができるだろう。
「自分の知識じゃ、限界が見えています。どのように動いているか、どうやって動く力を生み出しているかわかりません。」
人間だってそうですよね、お腹がすいては動けません。とアルスは言う。
ちらりと横に目をやる。
つまらないのかわからないのか、あるいは両方か。
張飛とガボが床に寝転がって高いびき。
なるほどよくわかる。
「オルゴールならゼンマイ式…という様に力を生み出す何かがあるんですがちょっとそれはわかりません。」
大小さまざまな部品…少なくともゼンマイらしきものはない。
「ですが、このからくりがどういう働きをするかはわかりました。なぜなら、このからくりはあの衝車に使われていたものと同じものでしたから。」
アルスが指差した方向にはバラしたからくりと同じものが四輪の荷車に乗せられている。よく見ると所々で荷車とからくりが繋がっている。
「…正直、怖いですね。このようなものを作れる技術があるなんて。」
250華龍光臨:04/06/01 04:11 ID:S1LkGyRD
さっと飛び乗ってからくりをいじくっている…様に劉備には見える。
アルスは前にあるスイッチをいれ、ぐっと力を込めてレバーを引く。
轟音を立てて激しく左右に揺れる。
騒がしかった兵舎が一瞬静まり返る。
鼻提灯を立てて寝ていた張飛とガボも思わず飛び起きた。
「キーファ、それ貸してくれる?」
「おうよ!」
じっと黙って説明書を読みふけっていたキーファが投げて説明書を渡す。
「ええと、ここからは足元のペダルを使って…」
ガタガタ激しい音を立てる。誰もが息をのむ瞬間。
徐々に前に動き出した。歓声が上がる。兵舎をゆっくりと動き回るそのからくりはまるで馬のない馬車のようだ。
「驚きましたな、兄者。」
「うむ。まさにこれほどとはな。」
しばらくして劉備たちの元に止まる。
「このからくりは単体では意味を成しません。このような荷車に繋げて、操縦するものが必要なのです。」
「結構制約があるのね。…あれ?じゃあさ、あの衝車に誰か乗っていたということ?」
まじまじとからくりを見つめる孫尚香が声を上げた。確かに今のアルスの説明だと誰かがいたことになる。
「衝車の内部に操縦するだけのからくりがいましたからそれも調べようと思ったのですけど…ちょっとこれは手に負えません。」
奪ってきたからくりの横に衝車と操縦していたと思われるからくりが。
よく見るとからくりの兵にそっくり、いやからくりの兵そのものである。
「なるほど。」
「衝車に積まれていたのはこれだけではありません。城門をつく鉄柱を操作するからくりもありました。」
衝車に乗っていたからくりの兵はこれも操作していると思って間違いはないだろう。
「よくやったな。アルス。」
「はい、何とかなりました。」
何処からともなく拍手が沸き起こる。みな、アルスを褒め称えていた。
>>248-250 ツマラネーんだよ。氏ね
何人ぐらいいるのかな?
253諸葛亮スラリソ ◆5VrxCs/8kA :04/06/05 00:59 ID:lLii3c1+
ノシ
ノシ
このスレでは2年間ROM住人

>>253
華龍シリーズ毎回邯鄲しながら読ませていただいとります
荒らしやアク禁に負けずがんがってください
ノシ
前スレができたときからのROM住人だす。
ノシ
はげしく受験生ですが。
ノシ

こんばんはさんのゲームブック小説も好き。
最近見ないね。
258こんばんは:04/06/08 04:20 ID:INVFSMYB
むむ、ありがとうございます。
前スレ読んだりしているのです。
再開してみようかなとも思うのですが・・・
いっそのこと、完全にゲームブック形式にしちゃいましょうか?
>>258
 .     ,.、    _ _
   〃゙ミ'彡ヽ)  .,'´==、ヽ
  (ソ(リ-Oリゞ) 〈リノハヾi l
 .  (从^ヮ゚ノソ  从゚ー^.iフ八 期待をこめてsage
   とメ⌒)⊃  (つニイづ
    i`Y┤    Li_ゝ
    じ'i_ソ    .じ`J
260華龍光臨:04/06/09 12:07 ID:8kX09B3+
とはいえ、状況が好転はしない。
あのからくりの正体はわかったがあれ自体はなんら攻撃力はない。
それに相手の弱点を見つけているわけでもない。
すぐに次の対策を立てねばならなかった。
「明日は晴れると思われます。物資を奪取したことにより、敵は警戒していると思われますので…」
兵舎から作戦会議をする声が聞こえる。
兵舎の入り口付近で見張りがてら体を休めている。
外の雨はすっかり小ぶりになり雨が止むのにもう時間がかからないだろう。
「アルスたちはもう休んだか?」
「向こうで休んでいます。兄者。」
兵舎の奥のほう、と言ってもやはり廊下。
毛布一枚だけ敷いた廊下に寝転がっている。
疲れているだろう。朝からあれだけのことをしたのだ。
「明日からまたからくりの兵の襲撃があろう。明日に備えてもう休むぞ。」
「わかりました、兄者。」
明日からどのような戦になるか。
頭の中で策をめぐらせる。
そのうちに夢の中に落ちていった。

辺りの喧騒にふと目が覚めた。
というか、兵舎の中なので人々が動き出すと自然と騒がしくなる。必然というべきか。
「天気は…」
雨は止んでいる。晴れだ。
兵舎近くの井戸の周りには兵士が集まり水を浴びている。
劉備もそれに混じって水を浴びる。
今日も長い一日が始まる、か。
261華龍光臨:04/06/11 07:47 ID:WOPv/DYq
「趙雲。」
会議室から出てきた趙雲に声をかける。
「今日は壕を掘ろうと思います。敵は摺疊橋を有しているとはいえ守るには有効に違いありません。」
「わかった。すぐに雲長たちに伝えてくる。」
壕を掘ろうと決めたのは昨日である。
偵察に出た兵士の一人が水脈を見つけたという報告を聞き即決したのである。
ここに古くから住んでいる老人の助言に従い地下水を掘り出す作業と城壁の回りに壕を掘る作業をこれからやろうというのだ。
劉備たち傭兵は作業員を守るためややからくりアジトに近い場所に陣を敷く。
指示はトラッド兵士長がやるとのこと。作業の間だろうから多少やっつけ仕事でもいい。
どうせ奴らが攻めてきたら放棄する予定だからだそうだ。
「劉備殿は物資の確認をしてください。…極簡単なものですからそれほどでもないでしょうが。」
「わかった。」
単に柵で一定地域を囲い、留まるためのテントを張るだけである。必要があれば櫓を立てるかもしれないが。
「これくらいの陣ならすぐにでもできそうだな。」
受け取った巻物を眺めて言う。
262華龍光臨:04/06/11 07:47 ID:WOPv/DYq
「どうだ?雲長?そっちの出来は?」
「問題ありませぬ、兄者。」
「こっちも十分だぜ!」
午前中にフォーリッシュを出て陣を作り出すのに必要な物資を予定場所にまで運ぶ。
予定地点はフォロッド城北に東西に広がる山脈とからくり味とに南北に広がる岩山とがちょうど迫っているやや狭い場所。
劉備たちはまず、からくりアジト付近にまで偵察し敵襲に備える。
フォーリッシュから聞こえる午後の鐘を合図に引き上げ、役割を他の兵士たちと交代する。
陣作成予定地点に着いたらまずは邪魔になる巨大な岩を運び出す。
防衛につかそうな岩は気休めだが陣の前方に置く。
やっつけ仕事ではあるが雨でぬかるんだ大地を固め、杭を打ち込んでいく。
そして、寝泊りをするためのテントをこればかりはしっかりと建てる。
「もうすぐ終わりそうですな。トラッド殿。」
日が沈みかけてくるころにはほぼ完成し、寝泊りする分には問題はなくなった。
「うむ。経験者がいて助かったぞ。」
「有難きお言葉。」
松明を焚いて夜襲に備える。
趙雲の指揮する壕の作成もなかなか好調である。
アルスたちが壕の作成に奮戦し、マリベルも知恵を出してなかなか高評だったようだ。
「それほど深くは掘らないようだから、早く終わるだろう。」
一日二日で終わるものではないがこのペースで行けば一週間以内には終わることだろう。
「それでは、トラッド殿。これより我らは偵察に参ります。」
「うむ。気をつけてな。」
263名前が無い@ただの名無しのようだ:04/06/11 09:06 ID:6R9It10w
>>260-262 氏ね
面白い面白くないは置いといて、氏ねはひどいよ
>>264
そういう言い方もあまりよくないと思うが。

何にせよ、書き物をするというのは、並大抵の努力ではできないんだ。
その上、定期的に書くとなったら非常に困難なこととなる。
尊敬に値すると思うが。
266華龍光臨:04/06/15 22:41 ID:jntFVbFD
陣を作って早一週間。敵襲もなく兵士は休むことが出来た。
壕つくりも滞りなく進み今朝方には完成した。いま、アルスたちは兵舎で休んでいることだろう。
兵士たちはいい休暇だった。
最も、あまりにも不気味すぎて劉備たちは緊張の糸を張り詰めていた。
「不気味なほど静まりかえっているな。」
「そうね。」
からくりアジトには見張りのからくりもいない。
そして海上には物資を運ぶ闘艦の姿も見えない。
撤退したとは考えられない。
兵を伏せている…?
「だが、そのような様子は微塵も感じられませぬぞ。」
念の為に偵察の兵が辺りを捜索してもからくりの兵がいない。
伏兵を忍ばせるほどの機能があるとは…思いたくない。
だが、現にいないのならその心配は杞憂だろう。
「と、なると、敵は出てきてねぇってことか?」
擂鉢上の大地を見下ろす。不気味な静けさだ。
「何か策を弄しているに違いはないだろう。」
「からくりの…策。」
「もしかしたら我らがここに来る前に、からくりの兵たちが本格的に攻撃を開始する前に張り巡らせていた策があるのやも知れぬ。」
そういえば、聞いた情報は戦闘になってからのこと。戦闘以前の話がない。
期待薄だろうが聞いてみる価値はある。
「よし、交替の知らせが来たらトラッド殿に聞いてみよう。」
からくりアジトは静まり返っている。
嫌な予感がする。
267華龍光臨:04/06/15 22:42 ID:jntFVbFD
「ふむ…。あそこは鉱山だったのだが、からくりの兵が来るずっと前に閉山したのだ。」
三十年位前の事と言っていた。鉄鉱石を産出していたが枯渇したらしい。
「あれ以来あのような場所に行く理由がなくてな、あそこからここまで、今ほどではないが魔物も出現していた。危険を冒してまで閉山した鉱山を有しているほどの余裕は国にはなかったのだ。」
山賊がいないものなのか?と問うと。
「基本的に魔物が山賊みたいなものだ。」
まあ、確かに。
「それ故、敵が領地に入り込む隙を与えてしまったのだな。悔やんでも悔やみきれんな…」
領土巡回はしていたものの山の頂上まで毎回行っているわけではなかった。
巡回のための兵力の余裕がなかった…ということだろう。
「劉備殿。貴殿の役に立つだろうと思ってここに鉱山内部の地図を用意しておいた。」
埃を被っている箱を取り出した。箱の埃を払い、中から二枚の地図を取り出す。
「このようなことを申すのは失礼とは思いますが、戦慣れしている様子。戦闘経験の乏しい我らより何かいい知恵を持っているとお見受けします。」
知恵…自分にいい知恵を出せるのだろうか。
「まずは地図を見てみましょうぞ。兄者。」
「そうだな。」
268華龍光臨:04/06/15 23:04 ID:jntFVbFD
少なくとも自分たちの常識は通用しない。
そういうものをかなぐり捨てて策を案じないといけない。
第一、鉱山に拠点を構えた軍勢なんて聞いたこともない。
考えるんだ。
…地図は大分古いものだがこれをそのまま利用しているに違いはあるまい。
利用するものは利用してきているだろう。
なだらかな坂で階層を三つに分けている。
地下水脈を掘り当てたのか水で溢れている場所。
固い岩盤に当たって掘ることをあきらめた箇所。
落盤事故が頻出して、かなりの補強を施した箇所。
作業員が疲れた体を休ませる小部屋。
…違和感。
何だ?
「兄者。何かを掴みましたな。」
「ああ。だが、まだ弱い。」
関羽も奇妙な点を見つけたようだ。
「某の思いついた奇妙な点を申し上げましょう。兄者。」
「うむ。」
269華龍光臨:04/06/15 23:05 ID:jntFVbFD
「からくりのアジトは絵で表すとこうなりますな。」
絵を描く。
「そしてここから多数の攻城兵器が出撃している模様ですな。」
「…そうだが、何か変なところがあるのか?」
トラッドは関羽の描いた絵を眺める。
確かに…変なところは…
…違和感。
「…!そうか!」
机を派手に鳴らして絵を覗き込む。
「ここから攻城兵器が出撃しているなんてありえない…!」
「?」
擂鉢条になっている台地。
雨の中、自分の目で見た光景を思い起こす。
「からくり兵のアジトへと続く通路は人一人通るのがやっとだ。井欄はおろか衝車すら通れるはずもない。」
270華龍光臨:04/06/15 23:07 ID:jntFVbFD
本来攻城兵器は現場に材料を持ち寄り、いよいよ攻めるというときに組み立て、攻城戦に突入する。
しかし、からくりの攻城兵器は形こそは自分たちの知る物と同じとはいえ、現場で組み立てる代物ではない。
組み立てていたらそれこそ敵に隙を見せてしまう。
恐らくはアジトからそのまま出撃しているに違いない。
だが…入り口から出撃しているとは思えない。
何処だ?何処から出撃している?
…違和感!
そうだ、この違和感が正体だ。
「…トラッド殿!兵をお貸しいただけたい!」
「うむ!五百の兵を貸し与える!」
「尚香、まずは趙雲に手紙を認める。すぐにでも届けてくれ。」
「わかったわ。」
すぐさまあいている巻物にペンを走らせる。
「雲長はこの地点に…」
ペンの腕は止まらない。
文鎮で手紙を押さえつつ、開いている片腕で地図を示す。
「わかりました。兄者。トラッド殿、余っている物資を使用の許可を頂きたい。」
「よし、関羽殿にも兵を分け与える。」
「翼徳は今すぐ偵察に出てくれ。この地点だ。」
「わかったぜ、兄者。」
いよっしゃあと言う掛け声と共に張飛が立ちあがる。
「私はすぐに兵を編成する。劉備殿、くれぐれも気をつけて。」
「快諾に感謝します。トラッド殿。」
急がねばならまい。
>>266-270 消えろチンカス
272華龍光臨:04/06/17 02:35 ID:mcqg1IO1
闇の中を駆ける軍勢。戦いのためではないがその気迫は戦いのそれ。
地図からするとこの辺になる。
「兄者ー!」
「翼徳!様子はどうだ!?」
偵察にいった張飛が現れる。
「この辺には敵はいないようだぜ。」
「よし、急いで調査せよ!」
場所はここから山に入るだろう場所。しかし、そこだけ崖になっている。
ずばり疑問に感じたのは地下水。
水脈を引き当ててしまうと下手したら何十人物の命が奪われかねない事故に繋がることも。
「ならば何処かにその地下水を抜く場所があるはずだ。」
当時働いていた老兵の話を聞きつけた。
当時地下水が溢れないように地表に通じる排水路を作り出したという。
ただ、この排水路、急場凌ぎのために作られたものであるため、落盤が絶えなかった。
よって、整備できるよう人一人分は通れるようにしていたという。
その水路のたどり着く先は…
「ここって訳か。」
「うむ。地下水の部屋から伸びている妙な線が気になってな。これが違和感に通じたんだ。」
暗闇の中、松明の明かりに移りだされた劉備が指示を出す。
老兵たち曰く、閉山したときも水が残っていたそうだ。
「水はからくりの天敵だからな。完全に水を取り去ったことだろう。」
崖に鶴嘴を打ち込む。それを取り囲むように全方位を警戒する。
もし仮に目の前で敵兵が現れたのなら、すぐさま撤退命令。
ある意味、作戦は成功である。
そして、別の場所から攻撃を仕掛けてきても撤退命令。
ここで兵を失うわけにはいかない。
もし、見当が違ったなら。
…いや、今は、自分を信じるまでだ。
273華龍光臨:04/06/17 02:44 ID:mcqg1IO1
静かに黙々と作業を進めるうち、何かを掘り出したとの声が。
「どうだ!?」
松明を掲げて掘り出したそれを見る。
「何か鉄板のようだぜ。」
松明の光が映し出されたそれは鈍い光を放っていた。
少なくとも自然物ではない。
「…これだけでは断定はできんな。鉄板内部への刺激を避けて作業を再開するのだ。」
とはいえ、これでここに何かがあるということだ。
ここからは鶴嘴は使えない。
丁寧に仕事をしなければならない。
井欄が丸々入る大きさとして…ちょうど崖頂上…
劉備自らも作業に加わった。
そして土を手に取ると妙なことに気がついた。
「この土、元々ここにあった土ではないな。」
「何だって?兄者?」
「いや、この地域の土ではあろう。だが、恐らくこの山地のどこかから持ってきた土だ。若干土の匂いが違う。」
確かめるように平地まで戻って手に土を取る。
「…間違いない。あそこの土だけ盛られている。」
何故、よそから持ってきた土を盛るようなことをするのか。
「この近辺の土を使うと不自然になる、ということか?」
確かにこの界隈の土を使って盛られたならあまりにも不自然な穴があちこちにできてしまうだろう。
そんなもの、趙雲が見逃すはずがない。
予想は確信に変わった。
274華龍光臨:04/06/17 02:45 ID:mcqg1IO1
「劉備殿。」
「なんだ?何かあったのか?」
背中から声がかかった。
「趙雲将軍がこちらに来ています。」
馬車を率いて趙雲が自ら手綱を引いてやってきた。
部下に命じ荷物の積み下ろしを始めさせる。
「劉備殿。作業のほどは?」
「うむ。このようなものを掘り当てた。」
松明の光を鉄板に当てる。
少しずつその姿を現すそれ。
兵に命じ崖の上からも光を当てる。
鋼鉄の扉が闇の中から浮かび上がった。
「扉というより、蓋といったものか。」
こちらから開けられるような場所はない。敵の侵入を防ぐためだろう。
「…む。そういえば尚香はどうした?」
「現在、穴罠の作成をしてもらっています。今私が来たのは孔明殿から授かった技術を仕掛けるほかはないと思いました。」
「…孔明のか?!」
「はい。今運び出しています。」
死道軍の軍勢の広がりを案じていた孔明は公務の合間に様々な新兵器の開発を行っていた。
その大半が戦闘に使われることなく死道勢によって壊されていったという。
「これだけで大局は覆せるわけではありませんが、確実に打撃を与えれましょう。」
ゆっくりとそれが地面に並べられていく。
「…これは。」
「孔明殿でさえ、人に使われるのは躊躇われました。ですが、今は。」
見覚えが、ある。
自分が知る限りでは使用されたことはないものではあったが。
275名前が無い@ただの名無しのようだ:04/06/19 14:40 ID:vTAcwpjD
チンカスさらしあげ
276華龍光臨:04/06/19 22:12 ID:14sm3RV0
翌日。朝日が陣を照らす。
作業を終えた兵士たちは体を休め、そうでない兵士たちは特訓、武器の手入れ。
決戦が近いということだった。
この戦いが未来を決める。皆わかっていた。
劉備たちはトラッドとともに作戦会議。
劉備たちが中心となってこれからの作戦を練る。
趙雲はすぐにフォーリッシュへと戻っていった。
「雲長。頼むぞ。」
「わかりました。兄者。万事準備は完了しています。」
関羽が岩山に建設させた櫓に向かう。
「…」
趙雲にあの兵器は何かと聞いておいた。
…やはり、記憶に狂いはなかった。
「孔明でさえ、人間相手には躊躇われたもの。だが、今は守るために使わせてもらうぞ…!」
しばらく、沈黙が辺りを包む。
一秒が永遠のときだと感じた。
そして、

闇を切り裂く鐘の音。一瞬で陣内が慌しくなる。
「来るか…!」
戦いが始まる。皆武器を取り、勝利を願った。
277華龍光臨:04/06/19 22:16 ID:14sm3RV0
がらがらがらと音を上げて跳ね橋のように扉が開く。
闇の中から現れる、井欄、衝車、投石器。
からくりの兵も続々と現れる。
ゆっくりと進軍していく鉄の軍団。
目の前には柵がある。
しかし、止まらない。
衝車を前面に押し出しなぎ倒していく。
「…やるわよ!」
進軍経路の横の岩山に彼女はいた。弓腰姫・孫尚香である。
昨日急ぎ足場を作りあげた少し不安定な足場に彼女はいた。
矢を番えてこれからからくりが進軍するだろう地点を狙う。
敵を十分にそこに引き付けてただ一矢に決めなければならない。
「頼むわね。」
「わかったわ。…メラ!」
隣で身をかがめていたマリベルがメラで鏃にくくりつけていた布切れに火を点す。
「ありがとね。後は任せて。」
「そっちこそ狙われないでね。」
火をつけた後、マリベルは再び身を屈める。
狙いは…敵の進軍途中にある旗。
旗を突き刺している地面にそれはある。
風はない。射るのに邪魔になる障害もない。
そして心を決めて、ただ一息に、

射る。
278こんばんは:04/06/19 22:17 ID:LYMvQ7wW
そろそろ復活しようと思うのです。
仕切り直しと言う事で主人公=プレイヤー形式で再開しようかと。

1 あなたは冒険の書を手に取った。
2 きみは冒険の書を手に取った。

こんな感じでどうでしょうか。
279名前が無い@ただの名無しのようだ:04/06/20 16:10 ID:An19PQ9j
>>276-277糞コテ死ね。氏ねじゃなく死ね。
>>278
復活ですか期待しまつ!
DQなんで、1で
>>278
2も捨てがたい…。
282296 ◆kYB5EDmqco :04/06/22 23:11 ID:UeaYeQj+
>>80の続き

風の女王の語りが今まさに始まろうとした瞬間、軋むような音をあげて深紅の空間に亀裂が走った。
「こ、これは一体……」
(急げ、トルファ……)
狼狽するトルファの耳、いや、頭の中に男の声が響く。
「おい、どういうことだ。一体なにが起こっている?!」
声を張り上げて問いただす者の、返答は返ってこない。トルファがそうこうしているうちに、彼のすぐ下、
足場となる場所が崩れ落ちた。トルファと供に……
トルファ続きキタ━━━━━━━━ d(゚▽゚)b ━━━━━━━━!!!!!!!!!

って、トルファに何が!?
284華龍光臨:04/06/26 20:38 ID:OKK2JKCY
彼女にとって一瞬が永遠のことと思ったことだろう。
放たれた矢は狙いを誤らず旗へと命中。
見る見るうちに旗は炎に包まれた。
からくりの兵は関係ないといわんばかりに進軍する。
その刹那。
二人の目を激しい光。一瞬遅れて爆音と爆風が二人を襲った。
身をかがめて、爆風から身を守る。
そして二度目、三度目の爆発。
パニックを起こしそうになる理性を押さえ込む。
「何?一体何が起こったって言うの?」
爆音が収まったためつぶった目を開ける。
そこはまさに地獄だった。
大地に大穴が三つ。焦げ臭い匂いと立ち込める黒い煙。
破壊しつくされた井欄、からくりの兵の残骸。
「何が起きたというの…?」
見る限りもはや動き回るからくりの兵はいない。
しかし。
「あれ…!」
埃が立ち上った先にマリベルの指差すのは。
からくりの兵団。今しがた壊滅したのは先鋒隊なのだろうか?
ぐらりと足場が揺れる。やっつけ仕事ではあったが先の爆風で危うくなったか?
「もうここは限界よ。マリベル。戻って報告するわ。」
「そうね、悔しいけどここにいてもできることはないね。」
二人はさっと姿を消す。
それと同時に足場は崩れ去った。
285華龍光臨:04/06/26 20:42 ID:OKK2JKCY
「作戦は上々、一個部隊を壊滅…」
「流石は尚香だな。」
だが、状況は良くない。
「二人はどうした?」
「例の地点から撤退したとの報告があります。無事です。」
まずは安心だ。
「雲長。頼むぞ。」

陣前の狭路。
陣では劉備が兵に撤退の命令を出している。この陣では抑えきれないと判断。
それを見送る関羽と張飛。
「兄者は撤退したようだな。」
「うむ。翼徳、お前も持ち場に着け。」
岩山を揺らす轟音が既に聞こえてきている。編成は衝車中心だ。
「ある程度第一波で主兵の数を散らして城壁を攻撃する策のようだな…」
しかし第一波は壊滅した。
あの爆音はここまで聞こえてきている。
岩山の上からもはっきりと見えたあの巨大な穴。あれが孔明が趙雲に残した技術…
すさまじい威力だ。一体何を使ったのか見当もつかない。
「来るぞ。」
姿が見えてきた。
目印はわかるように立ててある。
目印に標的がたどり着いたら合図を送る。
10メートル…5メートル…1メートル…
「…よし!合図を送れ!」
側の兵が赤旗を振る。
「翼徳!そこの綱を思いっきり断ち切れ!」
「おうよ!」
関羽と張飛が縄を断ち切る。もう一つの轟音が辺りに響いた。
286こんばんは:04/06/28 21:20 ID:7RYLHioX
トルファ復活記念で再開なのです。
今回の選択は同数でしたので先着の1番とさせてもらいます。
>>280 やはり1番のほうがDQっぽいですか。
>>281 大事な選択なので迷ったのですが、1番でやってみます。
とりあえず、こんな感じになりましたけど・・・どうでしょう?

2−1

 あなたは今、木々に囲まれた湖の前に立っています。
 周りに人影は無いようですね。
 小鳥のさえずりと、爽やかな風に揺れる葉音だけが聴こえ、優しい木漏れ日が辺りを照
らし、とても清らかな雰囲気を感じます。
 湖畔を見ると一つのテーブルに二つの椅子が揃えられてありました。
 質素なテーブルには一冊の本が置いてあるのが見えます。
 あなたは近づいて行き・・・

 あなたは本を手に取りました。
 「冒険」と題されたその表紙を開くと女性の肖像画が描かれています。
 女性ながら剣を携え、どこか遠くを見つめている。
 凛々しく、それでいてどこか憂いを帯びた瞳を観ながら、あなたは・・・

1 決してあきらめない強き心を感じた。
2 まるで母親のような優しさを感じた。
1.
赤き炎の心を持った女の子は好きです。
288296 ◆kYB5EDmqco :04/06/30 22:52 ID:4pRy/GBI
 砕け散った空間の隙間から、三体の影が飛び出してきた。
影は空間内部を把握するようにぐるりと旋回すると、落下するトルファへと目標を定めた。
三体の影が風を切る速さでトルファに迫り来る。
「チッ!」
鞘から抜き放たれた氷の刃と、敵の爪が火花を散らしてぶつかり合う。
 押し負けたのはトルファの方だ。打ち合った衝撃で、そのまま更に真下へとはじき飛ばされる。
影はトルファに体勢を整える間を与えない。第二、第三の影が、落下するトルファの前後を併走して取り囲む。
先ほど打ち込んできた敵は、こちらを睥睨するように上空で待機したままだ。
(左右の攻撃は弾ける。だが、上空は……)
こちらの逡巡を隙と見て取った敵が止めに入ろうとした瞬間、赤一色の空間を更に染め上げるような深紅の
閃光が、トルファの足下から沸き起こった。
「な、何だぁ?」
 迸る閃光の勢いが、トルファの身体をエレベーターのように押し上げる。
トルファの目前には、突然の事態に対応しきれない影の姿があった。
上段から振り下ろされた透き通るような白刃を受け止めそこ無かった影は、左右に両断されて粉々に飛び散った。
「さて、次はどいつだ」
光を足場にして振り返ったトルファがみたものは、風の女王の手にした風の檻にとらわれた二体の影の姿だった。

ほしゅり
290華龍光臨:04/07/11 11:30 ID:2h8YCC7w
陣を作るときの余った資材が、岩や土砂が勢いよく流れ出した。
押さえ込まれた力が動き出した瞬間。
雨雪崩となってからくりの兵たちに降りかかる。
皆無言でその様子を見守った。
巨木が衝車を貫き、土砂がからくりの塀を押し流し、巨石がすべてを押しつぶす。
「やったか?」
しんと辺りが静まる…
「まだ、動いているものもいるか…」
目ぼしい攻城兵器は粗方巻き込んだ。
だが、難を逃れたからくり、もしくは停止するまでに至らなかったからくりも多い。
「射手を二手に分けよ!交互に矢を射掛け、連射の体勢だ!」
不安な足場の上で弩兵が構える。
「高みから打ち下ろすは易き。矢の雨を食らわせてやれ!」
関羽が自身で拵えた弓を引き、放った。
それが合図となり、次々と矢が放たれる。
矢が突き刺さり、又は弾かれる。
「くっ…!」
さらに動きを止めないからくりの兵がゆっくりとフォーリッシュへと向かう。
数事態は何てこともないがそれでも被害はかなりのものになる。
撤退すべきか否か。しかしその決断はできないうちに次の報告が来る。
「関羽どの!新たな部隊が接近しています!」
接近する新たな敵兵…今叩いた部隊のと同じくらい、いや、それ以上はいる。
「どうする、兄者?」
少し苦い顔をする。
「…ここで少しでも敵兵を減らすことに専念する!弩兵再び構え!」
猛一度大声を張り上げる。今度は井欄もいる。決して無事というわけにはいかないだろう。
「翼徳は今すぐにでも兄者の元へ行け!某はここで少しでも敵兵を減らす!兄者を守れ!」
「おう!雲長兄者も気をつけろよ!」
再び轟音を響かせてからくりがやってくる。
「矢が尽きたら機を見て脱出する!皆、死力を尽くせ!」
291華龍光臨:04/07/11 11:33 ID:2h8YCC7w
「…そうか、雲長は。」
張飛は突破したからくりより先に劉備たちの元にたどり着いた。程なくその突破したからくりの兵はやってくるだろう。
「ああ、ここが最後だぜ、ここでどれだけ敵を減らせるかでフォーリッシュの命運は決まるぜ、兄者。」
城内にトラッド率いる千の兵。アルスたちも控えている。
そして城外には劉備たち含む趙雲率いる千の兵。
敵は…
「確実に千以上はいる。一対一では普通の奴には勝ち目はねぇ。相当厳しい戦になるぜ。」
俺が半分蹴散らせりゃ、まあ勝てるだろ。と冗談に聞こえないように張飛は言う。
「…来るか。」
からくりの兵が来る。数は極僅かだ。
「あれだけのからくりを罠に陥れるのは些かもったいないな。」
「よし、俺に任せろ!」
張飛が前に出る。
「あいつらは斬ったり刺したりでは効果が薄い。だったら、衝撃でぶっ潰すってのはどうだ?」
「いい案があるのか?翼徳?」
「いい案も何も、俺の最も得意なことじゃねぇか。」
蛇矛を地面に突き刺して森へと向かう。
「何やるつもりかしら?」
「まあ、翼徳の手並み拝見、ってとこだろうな。」
森から鳥たちが飛び立つ。
その直後大地を揺るがす怒号が聞こえた。
「ぬおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
誰もが張飛の咆哮に驚き森を眺める。
しばらくした後森から出てきた張飛の肩には…
「非常識な怪力ね、ホント。」
引っこ抜かれた巨木が担がれていた。皆、呆然と眺めていた。
「じゃあ、ちょっとばかり蹴散らしてくるぜ、兄者。」
「張飛どの、景気付けに酒を一杯どうだ?」
馬を下りた趙雲の手には杯に注がれた温かい酒が。
「今はいらないぜ、帰ってきたら貰うとするか。」
そう言って敵の元へと向かって行った。
292華龍光臨:04/07/11 11:34 ID:2h8YCC7w
軽々とまでには行かないが巨木を振り回し、次々とその馬鹿力でからくりの兵を粉砕していく。
渾身の力でフルスイングした巨木に当たったからくりの兵は数メートル吹き飛び、もしくは上半身を吹き飛ばされ二度と動き出すことはなかった。
渾身の力で振り下ろした巨木の下敷きになったからくりの兵は粉々に粉砕された。
ちょっとした隙に迫ってきたからくりの兵に浴びせられた渾身の拳は鉄の体もなんのその、一撃の下に破壊した。
「てめぇで、最後だな。」
いつの間にか張飛の周りには動くからくりの兵はたった一体のみになった。
逃げようとせず、向かってくるからくりの兵に最後の仕上げとばかりに巨木をまるで手投槍のように。
「喰らいやがれ!」
投げつけた。

味方から歓声が上がった。
たった一人の人間が少ないとはいえ二十体はいたからくりの兵を粉砕したのだ。
「おう!趙雲!さっきの酒をいただこうか!」
「ああ、…まだ、温かいな。」
杯を手渡す。
「へへ、じゃあ、一息に。」
くいっと一気に飲み干す。
「うめぇ。やっぱ、最高だぜ。」
再び歓声が上がった。
しばらく陣内に歓声が沸き続けた。
しかし、それもつかの間だった。
趙雲が手で制すると歓声がぴたりと止んだ。
…敵本隊の到着だ。
劉備はごくりとつばを飲んだ。
このスレ、人いねぇな
全体的にこの板が寂れてきてる。
このスレ終わったな
話を一つ書いてみたんでこのスレに投稿しようかな、と思います。
DQ5のヨシュア(マリアの兄貴)が主人公で、少し長めの話です。
オリキャラが大量に登場して、設定なんかも自分が少し作ってしまった部分がありますが、
それでもいいやって思ってくださる方がいたら、良かったら読んでやってください。
297ヨシュア伝:04/07/20 22:43 ID:KvIsvFpX

 ヨシュア伝  〜生命の証〜


プロローグ

どこまでも高く青い空。吹き抜ける風が木々を揺らす。
いつもと変わらぬその自然の姿が逆に少年に世の無常を感じさせた。
畑で汗を流し、友と語り合い、家族とその日の糧を分かち合う、
そんな生活を彼はおくっていた。昨日までは。
これからもずっと続くはずであった日常。
ほんの少しの退屈を感じながらもおくっていた平凡な日々の幸せの重さを
少年は失って初めて痛烈に感じていた。

彼の幸福を奪ったのは魔物の突然の襲撃。
ここ数年来、魔物が出没するようになってきてはいたが
人里を群れをなして攻めてくるなんてことはなかったはずであった。

彼は今となっては廃墟となってしまった村をふらふらとさまよい歩いた。
何らかの目的があったわけではない。生存者を求めても無駄であることは
彼は十分に分かっていた。ただ何かをしていないと
自分が自分でいられないような気がしていたのである。
298ヨシュア伝:04/07/20 22:47 ID:KvIsvFpX
自分をかばって魔物をひきつけようとした父、魔物の襲来を告げ、目の前で息絶えた友人。
死ぬその最期のときまで亡き夫の思い出の残る我が家を離れようとしなかった
隣の家の婆さん。いろんな人の顔がうかんでは消え、うかんでは消えた。

結局自分はその誰一人も助けることができなかった。
ただ逃げまわることしかできなかったのだ…
それを思うと彼の目に涙が溢れてきた。
昨夜さんざん泣き腫らしたはずなのに。 涙に限りというものはないらしい。

「俺もいっそのこと死んでしまおうかな…」

彼は自嘲的な笑みをもらしながらつぶやいた。そのとき後方から足音が聞こえた。
思わず振り向くとそこには涙で頬を濡らした幼い少女が立っていた。

「お兄ちゃん… そんなこと言わないで… やっと、やっと会うことができたのに…」

「マリア… 生きていた? そうか、生きてい……」

少年は少女の姿を確認すると戸惑ったように微笑み、そして地に崩れおちた…
299ヨシュア伝:04/07/20 22:49 ID:KvIsvFpX

第1章,別れとの出会い
 
紅蓮の炎が狂気の叫びを伴って村を覆う。
魔物たちの雄叫びがあたりに響き、地面は人間の鮮血で赤く染まって
炎の真紅をさらに引き立てていた。

少年は走っている自分を見た。手には折れて使い物にならなくなった銅の剣が
しっかりと握られている。
(どうして逃げているんだ!?)
少年は走っている自分に叫んだ。しかしその声は届いていない。
恐怖に歪む自分の表情を真横から見て、少年は情けなく、
そして叫びたい衝動にかられた。
(俺は逃げることしかできないのか!?)
その叫びも目の前を走る自分には聞こえていない。
その走る少年の前に巨大な魔物が立ちふさがる。
慌ててバランスを崩し、倒れそうになる自分を見て、少年は悲鳴を上げた。
魔物の瞳が残忍な色に輝き、その腕が振り下ろされた―――


「っ!!!」
少年はベッドの上で目を覚ました。
「さっきのは…… 夢… か」
意識が急にはっきりとしてくる。どうやら廃墟で倒れたあとここまで運ばれたらしい。
あまりにもリアルだった先程の夢の、恐怖と自分に対する情けない気持ちが
混ざりあい、一つの大きな波となって彼を襲う。少年はブルッと震えた。
彼は立ち上がろうと試みたが、体が思うとおりに動かせず床に倒れてしまう。
300ヨシュア伝:04/07/20 22:51 ID:KvIsvFpX
「まだ起きてはいけませんよ。あなたはひどいケガをしていたにも関わらず
 ろくな治療もしないで歩き続けていたようですからね」
いきなり声を掛けられて思わず顔をあげるとそこには見知らぬ女性が立っていた。
濃紺のローブに異国風の若草色のショール、首からは何かの紋様をかたどった
銀色のペンダントをさげている。年は二十歳を少し過ぎたくらいだろうか。色白の顔で
豊かな黒髪を頭の上で結い上げている。その美しい女性の穏やかな微笑を正面から
受けて、少年は人知れず顔が赤くなるのを感じ、思わず目をそらした。
 

「だいぶ頭を打っていたようですけれども… 自分の名前と、あと年とか言えますか?」
少年は一瞬考え込むような表情をしてからしゃべった。
「ぶっ倒れていたとこを助けてくれてありがとう。俺の名前はヨシュア、年は十四歳…
 …!! そうだ! マリアは、妹は!? まだ小さい六歳の女の子なんですけど…」
いきなり肩をつかみ、不安げな表情でまくしたてるヨシュアを見て女性は驚いたが、
またすぐに元の穏やかな笑顔にもどった。

「大丈夫、マリアは元気よ。あの子が倒れているあなたを助けて欲しいって
 私に声をかけてきたのだから… そうよね、マリア」

 女性が振り向いた方へ視線をやると、物陰から愛しき妹が顔を覗かせた。マリアは
兄が無事に目を覚ましたのを確認すると、溢れんばかり笑顔を広げてヨシュアの胸に
飛び込んできた。その衝撃でまだ癒えていない傷が痛んだがかまわずヨシュアはマリアを
抱きしめた。しばらくしてマリアが彼の胸から顔を離し、口を開いた。

「お兄ちゃんはもう四日も眠り続けていたんだよ。イラサが助けてくれなかったら
 もしかしたら… もしかしたら助からなかったのかもしれない…」
そういうとマリアは大粒の涙を流した。ヨシュアはそれを人差し指ですくった。
声をたてずに泣く妹を見て、胸を締め付けられるような感覚を覚える。
どうやら、イラサというのはここにいる女性のことらしい。そちらを見ると、
イラサは微笑んだまま頷き返した。
301ヨシュア伝:04/07/20 22:55 ID:KvIsvFpX
妹の無事を確認し落ち着きを取り戻したヨシュアはあたりを見回した。
何か見覚えのある場所だなと思っていたが、どうやらここは村長のティアルの家らしい。
話を聞くと比較的損壊の程度が少なかったのでここを仮の宿にしているようだ。
被害が少ないとは言っても壁にはところどころに大穴があいているし、
ティアル自慢の骨董品コレクションの破片が床に散らばっている。

(あれ?) ヨシュアは突然この部屋に対して何か違和感のようなものを感じた。
あの惨劇によって部屋の様子が様変わりしているのは百も承知。
しかし、その事実を差し引いても何か納得いかないのだ。今まで当然のように
そこにあった何かが無くなっている、そんな気がするのだ。(何なんだ? この感じは?)
心の真ん中にぽっかりと大きな穴が開いてしまったかのような喪失感がヨシュアを襲う。

この感情が、彼にまた別なことを思い出させた。それは彼にとって最も重要なこと。

「村のみんなは? 他に助かった人はいないのですか?」
その問いに対してイラサは、悲しく、やりきれないといった表情をしてうつむいた。
ヨシュアはできることなら聞きたくなかった答えを悟り、拳を握り締めた。
もはや、違和感の正体などどうでも良かった。
302ヨシュア伝:04/07/20 22:57 ID:KvIsvFpX
次の日、ヨシュアは日が昇る前に起き出して外にでた。ひんやりとした空気が傷口にしみる。
村の中央広場があったところに大小さまざまな墓が並んでいる。
どうやらイラサやその連れの人間、そしてマリアが協力してたてたものらしい。
ヨシュアはその一つ一つに手を合わせて祈った。彼らが惑うことなく天へ昇れるように。

その墓の一つのところによく使い込んだであろう鋼鉄の剣が立てかけられていた。
ヨシュアの父が使っていた剣だ。ヨシュアは父の形見の剣を手に取った。今まで自分が
使っていた銅の剣とは段違いに重い。かつて父が練習でそうしていたように剣を構え、
父がそうしていたように素振りを始めた。在りし日の父の姿を決して忘れないように。
何度も。 何度も。

「まだ動いてはいけないと言ったでしょう。」

振り返るとイラサが立っていた。どうやら近くの川に水を汲みに行っていたらしく、
両手に水の入った桶を持っていた。ヨシュアは苦笑して返事を返した。
「みんなの墓をたててくれてありがとう。これでみんな安らかに眠れると思う。」
「話をそらさないの。今のあなたは無茶できない体なんだから」

ヨシュアは肩をすくめて小声ですんません、と謝った。
イラサはよし、と頷き水の入った桶を足下に置き、ヨシュアのすぐ近くに腰を下ろした。
ヨシュアも慌ててそれに習う。二人とも無言のまま時間だけがとうとうと流れていく。
空が白んできた。結局沈黙を破ったのはヨシュアだった。
303ヨシュア伝:04/07/20 23:01 ID:KvIsvFpX
「イラサは何人かの人と一緒に旅をしているみたいだけど、どうして旅をしてるの?」
イラサは一瞬間を置いてから答えた。
「私は光の教団の使徒なんです。世界の危機をみなさんに伝えるため、そして
 共に光の国を築くべく友を探して旅を続けています。」
「光の教団?」
聞いたことのない団体だった。新興宗教の一つであろうか。しかしその響きにヨシュアは
ある種の不吉のようなものを感じ鳥肌がたった。

「私達がもう少し早くこの村に着いていれば、あるいはこんなことには
 ならなかったのかもしれないのに…」
イラサはそう言って目を伏せた。ヨシュアは立ち上がって不機嫌そうに鼻をならした。

「誰があの場にいたって同じさ。人が増えたとしても、あの魔物の群れに対抗なんかできやしない。
むしろ死者が増えるだけだった。イラサは何かの宗教の伝道師みたいだけど、
悪いが今の俺には神様の存在なんてのは信じることはできない。だってそうだろ!?
神様がいるなら何で俺たちはこんな目にあわなければいけないんだ?
俺たちがいったい何をしたっていうんだ? くそっ!!

近くに落ちていた木片を蹴飛ばし、ヨシュアはうつむき黙り込んだ。
そんなヨシュアをイラサは気の毒そうな目で見つめる。
「そう… やはりあなたはまだ知らなかったのね…」
予想外のイラサの言葉を受けてヨシュアは戸惑った。
「…知らないって何をさ?」

304ヨシュア伝:04/07/20 23:03 ID:KvIsvFpX
イラサは一呼吸おいてから言った。

「神は… 神はもう死んだのよ?」

ヨシュアはだらしなく口を開き絶句した。イラサは何を言っているのだ?
古今東西様々な宗教があり色々な流派があるということをヨシュアは知っていたが、
それらはすべて絶対的な存在、つまり神の存在を前提とするものであった。
神の存在を否定し、ましてや死んだなどという罰当たりなことを真顔で説く
宗教など聞いたことがない。
イラサは邪教を信じているのか? そう考えヨシュアは青ざめた。

「けど… 遙か天空、雲の上には空を翔る城があって、そこには巨大な龍の神様がいて…」
ヨシュアは幼い頃母が聞かせてくれた天空城の伝説をつぶやいた。
ヨシュア自身天空城はもちろん龍の神もみたことはなかったが、
それはヨシュアの中では絶対の事実であった。
先程のイラサの言葉に反発して思わず神を否定するような発言をしたが、
心の底では、彼は神にすがりたいのである。

「確かに天翔る城も、龍の神も存在したと聞きます。 少なくとも数百年前までは。」
歌うようにイラサは続ける。
「しかしある日突然龍の神がその姿をお隠しになり、そして城も
 地に墜ちた、と聞きました。私も最初は信じられませんでしたが…」

イラサがこちらに向きなおった。
「そうでもなければ、なぜ今こんなにも人々を襲う魔物が増えているのです?
 なぜ信心深かったあなたの家族は死ななければならなかったの?」

305ヨシュア伝:04/07/20 23:05 ID:KvIsvFpX
ヨシュアは言葉に詰まった。だが…
「それなら、イラサは… 光の教団は何をしようとしているのさ?
 光の国っていったいなんなんだよ?」
「光の教団の教祖様であるイブール様は予言をなさいました。
 近い将来魔界より王がやってきて、世界は闇にのまれるであろう、と。
 しかし教祖様と共に光の国を築いた者は救われる…」

光の教団とは魔界に抗する力を蓄えるために作られた一種の共同体のようなものか?
ヨシュアは疑問に思ったが、あえて問いはしなかった。
その存在意義に感銘を受けたのではない。ある種の虚しさを感じていたのである。

「その教祖様は随分と偉大なお人なんだな。
見ず知らずの人間を助ける余裕があるなんてさ」
日が昇り始めてきた。イラサはヨシュアを見つめる。彼の肩は震えていた。
「俺は… 俺は大切な人すら守ることができなかった。
いや、守るどころか俺は逃げたんだ」

ヨシュアの碧空色の瞳が憤怒の色に燃える。それは自分に対する怒りなのか、
それとも魔物に対する怒りなのかはヨシュア自身にも分からなかったのだが。
まるで空気の流れが止まってしまったかのような沈黙があたりを支配する。
イラサはヨシュアにかけるべき言葉が見つからず、下を向いて黙り込んでしまった。

306ヨシュア伝:04/07/20 23:07 ID:KvIsvFpX
「……さぁ、そろそろ戻ろうか。もうマリアも起きだす頃合だ。
目覚めて俺たちがいなかったら、あいつにまた心配かけちまう」

ヨシュアは薄く微笑み、父の形見の剣と、水の入った桶を持ち上げた。
 「あっ、その桶は私が…」
 「いいよ、イラサは命の恩人なんだ。このくらいさせてくれって」
 そう言うだけ言って、ヨシュアはさっさと歩き出してしまった。
 
「まだ無理をしてはいけない体だと言っているのに。
 あの子は自分が怪我人であるという自覚がないのかしら?」

イラサは腕を組んでため息まじりにつぶやいた。
昇りきった太陽の光があたりを照らす。雲ひとつないさわやかな朝。
その中にありながらもヨシュアの内にはギラギラと光る刃のようなものが潜んでいる。
イラサはそう感じていた。


307ヨシュア伝:04/07/20 23:08 ID:KvIsvFpX

 「マリアをあなたたちに預けたいんだ。」
光の教団の一行に分けてもらったパンをほおばりながらヨシュアは言った。
イラサは笑顔でそれに答えた。
「私達はもちろん歓迎するわ。ねぇ、ゴードン」
 「あぁ、もちろんだ」
 ゴードンと呼ばれた中年の男も笑いながら頷く。
彼はイラサと同じ光の教団の使徒の一人である。身の丈2mを越す大男である彼は
荷の詰め込みなどの力仕事を担当するのとともに、道中で遭遇する魔物を
撃退するという役目も担っている。厳つい顔をしてはいるが根は優しい男であるようだ。

「しかし、マリアちゃんを預けるっていうがおめぇさんはどうすんだい?
 俺達とは一緒に来ないのかい?」
マリアは黙って兄の顔を見つめ、彼の服をつかむ。
ヨシュアはそんな妹の頭を優しくなでてから答えた。
「俺は… 俺は、一人で旅に出ようと思うんだ。
 自分が何をしたいのか、何が出来るのかを見極めるために」

マリアの目が潤む。それを見て眉をひそめたイラサは黙ってヨシュアの目を見つめた。
ヨシュアは目をそらさなかった。
たぶん… とイラサは考えた。ヨシュアは口では自分が何をしたいかを見極めたいと
言っているが、それはあくまで建前。本当は村を襲った魔物に対して復讐をしたいと
思っているのに違いない。
死んでしまった村の人々のために。そして何も出来なかった自分自身のために。
けれども――――
308ヨシュア伝:04/07/20 23:10 ID:KvIsvFpX
「一人旅をしたいですって?あなたにはそれをするだけの技術があるのかしら?」
「それは…」
「事前にある程度の準備をすすめていたというのならともかく、あなたのは昨日今日の
 思いつきなんじゃない?ろくな知識も経験もない人間が一人旅できるほど
 今の世の中甘くないわよ。どこかで野垂れ死にするのがオチだわ」

イラサにまくしたてられ、そして痛いところを突かれたヨシュアは言葉に窮した。
だからといってこのまま引き下がるわけにはいかない!
「でも、俺はもう決めたんだ!結果として死ぬことになったとしても俺はかまわない!」
「分かってるわ」
イラサはさらりとそれを受け流し、微笑んだ。
「私にはあなたをとめる権利はない。でもね、私も、そしてマリアもあなたが
 死んでしまったら悲しいわ」
「……」
「だからね、これは提案なんだけど…… あなたも私達としばらく旅をしてみない?」
「え…?」
「その旅を通して、技術とか経験を積んで… 一人で旅に出るのは
 それからでも遅くはないと思うんだけど。どうかしら?」
「そりゃいいな!ヨシュア。俺たちがいろいろ教えてやるぜ?」
ゴードンも笑いながらいう。
「お兄ちゃんも一緒に行こうよ!!イラサ達と! ね?」
潤んでいた先ほどとはうって変わってはしゃぐマリアを見て、
ヨシュアは天井を仰ぎ見ながら、うーん、と唸った。
「…もう一晩。考える時間をくれないか?」
309ヨシュア伝:04/07/20 23:13 ID:KvIsvFpX
次の日の早朝、光の教団の一行を乗せた馬車が滅びた村を後にした。
その中にはヨシュアとマリアの兄妹の姿もあった――

朝まで悩んだ。けれども自分が一人旅をする、と言ったときのマリアの悲しげな顔が
彼に光の教団と同行することを決心させた。マリアにとって、そして自分にとっても
お互いがたった一人の家族であるのだから。
「行ってくるよ… 父さん、母さん、みんな……」
故郷の村が段々と遠く小さくなる。
村が見えなくなってもヨシュアとマリアはその方向をいつまでも見続けた。
もう、ここには戻って来ないのかもしれない――― 
そう思うと胸に何か熱いものがこみ上げてくる。
ヨシュアは父の形見の剣の柄をぎゅっと握り締めた。

彼らの新しい日々が今まさに始まろうとしていた。
>>296-309
(゚д゚)ウマー…。
神殿建設現場に行くもっと前…光の教団に入る前の話か。
オリキャラが不自然でなくて(・∀・)イイ!!
311華龍光臨:04/07/21 02:00 ID:6kkbd73U
>>296-309
乙。

更新したいが文が出てこない…
312ヨシュア伝:04/07/22 18:58 ID:4x34cznA
第2章,魔物の親子

「今、まさに魔界より王がやってきて世界が闇に包まれようとしています…
 ですが恐れることはありません。私達とともに光の国へゆけば
 きっと救われることでしょう…」

ここは世界有数の港町。世界中から毎日さまざまな人が訪れては去る。物もまた然り。
その町でもっとも賑わっている広場で光の教団の使徒イラサは布教活動を続けていた。
しかし町の人々は胡散臭そうな目をしてひそひそ話をするか、イラサと目を合わせない
ようにしてこの場を立ち去ろうとするものばかり。中には罵声を浴びせるものまで
いる始末。

そりゃそうだよな。と少し離れたところからその様子を見ていたヨシュアは思っていた。
年々増えてきている魔物にかすかな不安を感じている人は少なからずいるはずだ。
そのかすかな不安を煽るようなことを言えば聞く人はどうしても身構えてしまう。
かすかな不安が大きな不安に変われば話はまた別なのかもしれないが。
だが、それはそれとして、普段親しくしている者が
他人に罵声を浴びせられるのを見るのは嫌な気持ちがするものだ。
ヨシュアが思わず目を吊り上げたとき、不意に背中を叩かれた。

「ようヨシュア。なんか面白くなさそうな顔しているな」
「ケホッ… ゴードン。もうちょっと手加減してくれよ…」
ゴードンは力仕事は得意だが口はうまくない。まだ信徒ではないヨシュアと並んで
布教中は指をくわえて見ているだけ。
「ハハハ! わりぃ、わりぃ。ところでマリアちゃんの調子はどうだ?」
「大丈夫。今はだいぶ落ち着いているよ。」

光の教団の使徒と共に旅に出てから二週間。マリアは毎日のように夜唸らされ続けて
いた。村が魔物に襲われ、家族や友を失った衝撃に今も苦しめられている。
それはもちろんヨシュアにもあてはまることなのだが、マリアの方が心配でそれどころ
ではないのであった。
313ヨシュア伝:04/07/22 19:01 ID:4x34cznA
「それにしてもさ、この町は随分と人がたくさんいるんだね。
 俺は故郷の村から出たことがなかったから世界にこんなに人がいるなんて
 知らなかったよ」
ヨシュアは話題を変えた。
「んぁ? あぁ、確かに田舎に比べれば人多いよな。けどよ、
 昔と比べたらこれでもかなり人減ったんだぜ」
ゴードンは頭を掻きながらヨシュアに教える。
「魔物が増えているせい… か?」
「あぁ、おかげで港に来る船の数が減っちまってな。だから顔には出さないけど
 みんな不安なんだよな」

で、それを煽るような布教活動をするのか? というセリフが喉まで出掛かったが
ヨシュアはそれを飲み込んだ。言えばたぶん平手ではすまなさそうな気がしたので。
彼の知る限り町で布教活動をした結果新たに信徒になったという人はまだいない。

しかし。 もし本当に神が死んだというならば… 
      もし本当に魔界の王がこの世界に現れるというならば…

 世界が光の教団を必要とする時代がくるのかもしれない―――
314ヨシュア伝:04/07/22 19:04 ID:4x34cznA
「お疲れさま」
その日の夕方、布教活動を終えて宿に戻ってきたイラサに水の入ったグラスを渡しながら
ヨシュアはねぎらいの言葉をかけた。
「ありがとう」
イラサは水を一口飲んでヨシュアに笑いかける。どうやら今日も成果は薄かったらしい。
それでもイラサは笑っている。ヨシュアには泣き言一つ言わない彼女が不思議だった。
どうしてイラサは見ず知らずの人のためにここまで一生懸命になれるのだろう。
例えば自分やマリアのような孤児を救ったところで金銭的にも物質的にも
何の得にもならないというのに。

「あのさ、イラサは……」
「だ、誰かーーーーーーー!! た、た助けてくれーーーーー!!」

突然宿の外から何者かの叫び声が聞こえてきた。
瞬間的にヨシュアとイラサは声の聞こえた方角の窓を開けて外を見た。
肩から血を流した中年の男が走ってくるのが見える。
          ドクン
ヨシュアの心臓が強く脈打つ。自分でもそれをはっきりと意識できるほどに。
彼の碧空色の瞳に炎が宿る。

「大変だわ… あの傷は魔物にやられたのかもしれない!
イラサが外に向かって走りだした。ヨシュアも剣をもって急いでそれに続く。
 
315ヨシュア伝:04/07/22 19:05 ID:4x34cznA
外にはすでにゴードンや他の野次馬たちが集まっていた。
「どうしたんだ!?何があった?」
男が震えた声で答える。
「お、俺と仲間の二人で南の森に、か、狩に出掛けたんだ…
 そしたら、途中で魔物にあっちまって… 俺は何とか逃げてきたけど、
 あいつはまだ…」
 
          ドクン
ヨシュアの脳裏によみがえるは浮世の地獄絵図。
親しかった人々が魔物どもになぶり殺しにされてゆくあの光景。

ゴードンはすぐに判断を下した。
「イラサ、その人を俺らの部屋に連れていって手当てをするんだ!
 俺はそのもう一人を助けに行ってくるからよ! 誰か腕に覚えのあるヤツ、
 ついてきてくれ!!」
「おお!!」
何人かの町の若者が名乗りをあげる。ゴードンはニヤっと笑いながら頷いて
話を続けようとした。
「ヨシュア、おめぇはイラサについてこの人の手当てを… あれ?」
ヨシュアがいない。イラサもそれに気づいて青くなった。
「まさか…… あの子!!」
316ヨシュア伝:04/07/22 19:08 ID:4x34cznA


ヨシュアは走っていた。何も考えずにひたすらと。もはや理性など働いていなかった。
          
                     ドクン

『どうしたんだ、トーマス! その怪我は!! 山菜とりに行ってただけなんだろ!?』
『ヨ、ヨシュア。 大変…なん、だ… 西の、森に魔物ども、が、集まってやがる…』
『なんだって!?』
『は、早くみんなに… このことを…』
『わかった、わかったからもう喋るな!!  ? トーマス? おいトーマス!!』

   俺は親友が死ぬのを黙って見ていることしかできない男なのか!?
          
                     ドクン

『マリー婆さん、何をしているんだ!? 早く逃げないと魔物にやられるぞ!?』
『あたしはいいんだよ、ヨシュア。今更この家を離れることなんてできるかい』
『でも……!!』
『それよりも、あんたには他にも守るべき人がいるんだろう?早くそっちへ行っておやり。
なーに、あたしはまだまだ死にはしない。また後で必ず会えるさ』
『……わかったよ。 また生きて会おう!』

何が生きて会おう、だ。年寄りを一人残していったら
どうなるかなんて分かりきっていたはずじゃないかよ…!
317ヨシュア伝:04/07/22 19:12 ID:4x34cznA
                  ドクン

『ヨシュア! ここは俺にまかせて早く逃げるんだ!』
『何言ってんだ、父さん! 俺はまだ戦える!』
『馬鹿野郎! そんな折れた銅の剣で何ができる!?足手まといだ!
長くはもたねぇ、とっとと行け!!』
『くそーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!』

『生きろよ、ヨシュア…』
         
違う!あの時俺はまだ戦えたはずなんだ! 剣が折れたのを口実に逃げたんだ、俺は!!
そう。俺は逃げ……

「グガァアアアアア!!!」

突然、耳をつんざくような咆哮があたりに響いた。ヨシュアはハッと我に返る。
夢中で走っているうちに彼は森の中にいた。
「あ… 俺は何をしていたんだ?」
自分がなぜこんなところにいるのかが分からずにヨシュアは戸惑った。
そして咆哮の聞こえた方を見て彼は息を飲んだ。人が魔物に襲われている!
318ヨシュア伝:04/07/22 19:14 ID:4x34cznA
毒々しい赤紫の体毛、ヨシュアの二倍ものの背丈を持つ大きな体にたくましい二本の腕。
その先で鋭く光る爪からは血がしたたっている。
一見すると熊にも見えるその生物であったが、顔はなんとフクロウのそれであった。
モーザ…!! ヨシュアは瞬時に悟った。見たのはこれが初めてだがゴードンから話を
聞いたことがある。呪文をも使いこなす豪腕の合成獣。
大昔に生物を使って、進化にまつわる実験をする過程で生み出された負の遺産。

襲われている男は深手は負わされていないものの
体中のいたるところから血を流している。彼の腹に走る三本の赤い筋を見てヨシュアは
思わず身震いをした。そうしてから、ようやっと彼は自分の目的を思い出したのである。
(あの男もかなりの使い手だとは思うけれどモーザ相手にすでに劣勢。
 今ここで誰かが行かなければ確実に殺される!)

「はぁああああああ!!!
ヨシュアは剣を鞘から抜くのと同時に魔物に突進をしかけた。



319ヨシュア伝:04/07/22 19:16 ID:4x34cznA

港町ではイラサの手によって町に逃げ帰ってきた男の治療が行われていた。
幸い彼女が癒しの呪文を習得していたため、傷はすでにふさがり、
顔色も良くなってきている。男がベッドの上で穏やかな寝息をたて始めたのを確認して、
宿にかけつけた彼の妻と三人の息子、そしてイラサはほっと、息をついた。

「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったら良いものか…」
彼の妻がイラサに何度も頭をさげる。彼女の目は真っ赤だった。無理もない。
つい先ほどまで彼の肩は血にまみれ、へたをすれば
使い物にならなくなっていたのかもしれなかったのだから。

「困ったときはお互いさまですよ。とりあえず意識が戻るまで無理に体を
 動かさないようにしてください。呪文をかけたので傷は2、3日安静にしていれば
完治するはずです。それではまた何かあったら呼んでください」
イラサは婦人にそっと笑いかけ、子供たちの頭を撫でてから部屋の外にでた。

イラサは扉を閉めて、そこにもたせかかった。笑顔だった顔がとたんに曇る。

もう一人の男はまだ無事でいるのだろうか? そして彼を助けるべく(?)
町を飛び出したヨシュアはどうなったのだろう? 
ゴードン達が間に合ってくれればいいのだけれど… 
イラサは深いため息をもらした。誰も死なせたくはない。
人は遅かれ早かれいつか必ず死ぬ。その自然の摂理にあらがうことはできないとは
分かってはいるけれども、それが救うことのできる命であるのなら救いたい…
それが自分に課せられた使命であると信じているから。
イラサはもう一度ため息をついた。
320ヨシュア伝:04/07/22 19:18 ID:4x34cznA
「あの、イラサ…さっきの人は大丈夫そうなの?」
イラサが顔を上げるとそこにはマリアが立っていた。イラサは慌てて笑顔を作る。
「ええ、手当てをするのが早かったから… あの人は大丈夫よ」
「ふ〜ん」
マリアもイラサと同じように壁にもたせかかった。

「…あのとき、イラサたちがいてくれたら、お父さんもお母さんも村のみんなも
死なないですんだのかな…?」
イラサは胸がずきりと痛むのを感じた。マリアは苦しんでいる。
ヨシュアがそうであるように。
「ねぇ、イラサ?お兄ちゃんはもう一人のおじさんを助けにいったんでしょ?
 お兄ちゃんは大丈夫だよね?ゴードンたちも一緒だから大丈夫だよね?」
「マリア…」
 
イラサはマリアに、ヨシュアはゴードンたちと一緒にいると伝えていた。
まったくのウソを伝えるのも考え物だし、あまりに不安にさせるようなことは
今のマリアには言わないほうがいいだろう、と思っていたので。
しかし今になってその判断が正しかったのかどうかイラサはわからなくなっていた。
「もう、誰にもいなくなってほしくないの。お兄ちゃんはもう世界でたったひとりの
 家族だから… お兄ちゃんがいなくなったら今度こそ私は一人になっちゃうから…
 だから… だから…」
イラサは膝をつき無言のままマリアを抱きしめた。
それしかこの少女にしてあげることのできない自分を情けなく思いながら。

321ヨシュア伝:04/07/22 19:20 ID:4x34cznA

一方森の中ではヨシュアとモーザの死闘が繰り広げられていた。
もう一人の男は最初こそ加勢をしてくれていたが、今は地に伏している。
早く勝負を決めなければ手遅れになる!ヨシュアは焦った。

モーザは巨体であるがゆえ、攻撃がひどく重い。そのくせ恐ろしく速いのだ。
なんとか避けてはいるが一撃でも食らえば戦局は一気に不利になる。
逆にヨシュアの斬撃はほとんど的確にはいっているはずだった。
しかしモーザは一向に倒れる気配を見せない。

「体がでかいと体力も無駄にあるのかよ!?」
ヨシュアは戦いの最中であるにも関わらず独り言をもらした。
もう何時間も戦っているような気がする。決して倒れることのない悪魔を相手に。
そのときモーザがこちらに向かって突進をしかけてきた!
「くっ!」
下手に避けようとすると逆に追い詰められかねない。ならば…!
ヨシュアは自身も魔物に向かって突進をはじめた。まともにぶつかれば勝ち目はないが
自分にはスピードがある!!

二つの生命が交差する瞬間、ヨシュアは時間がまるでコマ送りのようにゆっくりと
流れているような感覚を覚えた。魔物と目が合う。狂気に満ちて血に飢えた目。
まわりにいるものをすべて滅さんと欲する目。ヨシュアの心蔵が憎しみで高鳴る!
(魔物… 魔物…!! 消えろ!!)
モーザの爪がヨシュアの肩を切り裂く。しかしそれと同時に彼の剣はモーザの腹部に
叩きつけられていた! 
322ヨシュア伝:04/07/22 19:23 ID:4x34cznA
ヨシュアの肩から、そしてモーザの腹から鮮血が飛び散る。
「ガァアアアア!!」
魔物の叫びがあたりに響く!
「やったか!?」
思わず叫んだ瞬間にヨシュアは肩の痛みを感じ、うっと呻いた。

しかし、モーザは倒れない。
怒りにかられた魔物の体が妖しく光った。
「な、なんだ? これはまさか―――」

真空の呪文バギ

魔力で生み出された空気の渦が刃となってヨシュアの体を切り裂く。
「うわぁあああああああ!!」
頼みの綱である剣が空中に高々と跳ね上げられた。
(しまった…!!)
体中から血が溢れ出てくる。目の前が白熱し、目が霞む。
モーザが近づいてくる音が聞こえる。もはやヨシュアに対抗する手段は
残されていなかった。
(なんで、こんなとこに来ちまったんだろうなぁ)
ヨシュアは薄く笑い目をつむった。戦意が遠のく。己の死を覚悟した。
(みんな、ごめん……)

323ヨシュア伝:04/07/22 19:25 ID:4x34cznA
しかしそれ以上待っても何もおきなかった。いぶかしんで目を開けると
そこには前のめりに倒れたモーザの姿があった。その頭には深々と父の形見の剣が
刺さっている。ヨシュアは口をぽかんと開けたまましばらく動けなかった。


「いや、あんた強いねぇ。最後はちょっと危なかったけどな」
倒れていた男が体を起こしながらヨシュアに声をかける。ちょっとどころじゃないけどな、
とヨシュアは思ったが、とりあえずは黙って彼が立つのを手伝ってやった。
「助けてくれてありがとうな少年! さぁ、もうこんな所に用はない。町に帰ろうか」
「あっ…でも俺は町までの道を覚えていないですよ」
肩で息しながらヨシュアは答えた。
「なに、俺が案内してやるよ、ついてきな! で、悪いんだが今の俺はこんなだから
 今日の獲物を運ぶのを手伝ってくれんか」
男が指さした方向を見てヨシュアは頭を石で殴られたかのような衝撃を覚えた。

そこには赤紫色の体毛に、フクロウの顔をした熊のような生物の子供
二体が横たわっていた。その瞳に生気はなく、ここではないどこかを見つめている。
「いやぁ、こいつらの毛皮は都会じゃいい値でさばけるんだ。んで、
 親モーザがいない隙をねらってこいつらを殺ったんだけど、親が戻ってきちまって。
 いやぁ、死にかけた、死にかけた」
男は豪快に笑う。ヨシュアは黙ったまま自分が葬った親モーザの亡骸を見つめていた。
あれほどまでに憎く思ったはずなのに。
あれほどまでに恐ろしく思ったはずなのに。
ヨシュアは心の中に黒インクでもぶちまけられたかのような
黒い悲哀で満たされて何も言うことができなかった―――

324ヨシュア伝:04/07/22 19:27 ID:4x34cznA

「しかし、面白くねーなー」
ゴードンが頭を掻きながらぼやく。彼と町の若者の有志が森に駆けつけたときには
すべてが終わっていた。町に戻ってきた彼らは拍手と歓声で出迎えられたが
本日の英雄ヨシュアはニコリともせずに宿の自室にひきこもってしまったのである。
「なにか辛いことでもあったのかしら…」
イラサは心配そうにヨシュアの部屋の方を見る。
「まぁ、今はほっとくのが一番」なのかもしれないがな…
 しかし、明日の朝には俺たちもこの町を発つんだろ?早く寝ようぜ…」


その日の夜ヨシュアは眠れないでいた。宿のテラスに出ると、そこにはゴードンもいた。
「よう、ヨシュア。今日は随分と無茶やらかしてくれたじゃねぇか。
 あえて責めはしないが、頼むからマリアちゃんを泣かすようなコトだけには
 ならないでくれよ」
「あぁ…ごめんよ。 本当に今日の俺はどうかしていたみたいだ」
「……」
「……同じだったんだよ。俺とあの魔物は。
 大事なものを失って何かを滅ぼしたがっていた。
 そして俺は、あいつを何のためらいもなく殺したんだ。
 俺のやっていることは、結局俺の村を襲ってきやがったやつらと変わりやしない…
 俺は自分がなんなのかわからなくなってきたよ…」
ヨシュアの目からせきを切ったように涙が溢れ出る。
ゴードンはそんなヨシュアを見て頭を横に振った。
325ヨシュア伝:04/07/22 19:30 ID:4x34cznA
「よく聞けよ、ヨシュア。何かを守るためには何かを犠牲にしなければいけない、
 そんなこともあるんだ。何が正解なのかは誰にもわからない。それでも答えを
 探し続けなければならない。それが生きるってことだと俺は思っている。
 ただ一つ確かなのはあそこで誰かが行かなければ、あの男はあそこで死んでいた、
 それだけだ」
ゴードンがヨシュアにニッと笑いかける。
「精一杯あがけよ、ヨシュア。きっとお前の両親もそれを望んでいる」
ヨシュアは泣き笑いのような変な顔になった。
「ゴードン、ありがとな…」
「まったく、お前にしろイラサにしろ世話が焼けるやつだぜ」
「イラサも?」
ゴードンは一瞬、しまった、と渋い表情になったが真っ直ぐに彼の
瞳を見つめるヨシュアを見て観念した。

「イラサには弟がいたんだ。けど、流行病にかかって死んだ。あいつには医学の心得が
 多少あるんだが、それは何の役にも立たなかった。あいつはそのことで今も
 自分を責め続けている。自分にもっと力があればってな。そんなこんなで両親の反対を
 押し切って、光の教団に入団して一人でも多くの人を助けようとしているんだ。
 だから自分がどんなに疲れていようともあいつは笑顔を絶やさない。
 傍から見ていて痛々しいくらいに。けど、それがあいつの選んだ生き方だからな。
 俺はそれをとめようとは思わない」
326ヨシュア伝:04/07/22 19:32 ID:4x34cznA

ヨシュアはイラサの笑顔の理由を聞いて天を仰ぎ見た。みんな苦しんでいる。
それが今という時代なのだろうか。星空は幸せだった昔も今も変わらずに輝いているのに。

「イラサをとめようなんて俺も思わないけどさ、
 "支える"っていうのならありなんじゃないか?」
「あ?」
ヨシュアの言葉を聞いてゴードンはポカンと口を開けた。
「いや、何も一人で頑張る理由なんてないだろ。
 俺なんかでもイラサの支えになることが出来るかもしれないだろ?」
「…まぁ、そりゃあな」
こいつ、まさかイラサに惚れているのか?とゴードンは気づいた。
やれやれ、若いっていいねぇ… 妙に厳粛な気持ちになる。
そして急に目を輝かせ始めたヨシュアから目を離し、彼に聞こえないように
ポツリとつぶやいた。

「まぁ、イラサの"心の支え"ってやつは既にいるんだけどな…」

夜が更けていく。ゴードンはこれからの展開を思いやって深くため息をついた。


327ヨシュア伝:04/07/24 12:03 ID:RQKpZO/U

第3章,邂逅

光の教団の一行が港町を発って一週間が過ぎようとしていた。
彼らを乗せた馬車は今、進路を西にとっている。

「ねぇ、お兄ちゃん、次の町はどんなところなのかなぁ?」
マリアがヨシュアの肩に両腕を回して聞いてきた。
旅を続けているうちにマリアは生来の明るさを取り戻してきていた。
それが手に取るようにわかるので
ヨシュアの顔からは知らず知らずのうちに笑みがこぼれる。
「ゴードンに聞いたところによると、町が迷路みたいに複雑な作りになっている
 面白いところらしいよ。風車なんかもあるらしいぞ」
「ホント? 私、風車見てみたいな!」
マリアがはしゃぐ。そのとき外からゴードンが声をかけてきた。
「町が見えてきたぞ、降りる準備を始めてくれ!」

その町はまさに迷路と形容するにふさわしい町だった。道と道のつながりが複雑で
近く見える場所に行くのにも思わぬ遠回りをさせられることもある。高低差を巧みに
利用していて、町の建物それ自体が迷路の壁の役割を果たしている。
「こりゃ、うっかりするとすぐに道に迷うな。はぐれないように注意しないと…」
ヨシュアはマリアの手を取って町の中に入っていった。
328ヨシュア伝:04/07/24 12:04 ID:RQKpZO/U

「宿がとれたわよ、みんな中に入って!」
イラサが叫ぶ。しかしヨシュアたちが宿に入るのと同時にイラサは外に出た。
「どこに行くの?」
「とりあえず、この町の町長さんにご挨拶をしてくるわ。
 あなたはマリアをお願いね」
「ああ、わかったよ…」

町長。集落の長。その言葉がヨシュアの頭の中で響く。
故郷の村が襲われた後、ヨシュアはイラサたちに助けられて、
村長のティアルの家で目を覚ました。そのときに感じた
違和感をヨシュアは思い出していた。気にしなければ何でもない程度のものであったが
一度気にしだすと夜も眠れない。あの違和感の正体はなんなのだろうか?
それが実は何か重要な意味を持っているような気がして、
その正体がわからない自分にヨシュアは焦れた。

「どうしたの? お兄ちゃんなんだか凄く怖い顔をしているよ?」
手をつないでいたマリアが心配そうにヨシュアの顔を見上げる。
「あ、いや、なんでもないんだ」
ヨシュアは笑って誤魔化した。今ここで深く考えこんでも仕方が無い。
みんなに心配をかけるだけだ。そう思ったとき、宿に若そうな男が一人入ってきた。
329ヨシュア伝:04/07/24 12:07 ID:RQKpZO/U

腰に剣を帯びているところを見ると、どうやら旅の戦士らしい。
身長はヨシュアよりも頭一つ分高いくらい、肩のあたりまで伸びている金髪を
首の後ろで束ねている。彫りの深い整った顔立ちは一見すると優男風であったが
灰色の瞳は油断無く光っている。彼と目があった瞬間、ヨシュアは
背筋がぞくりと寒くなるのを感じた。
この男は物凄く強いに違いない!ヨシュアの勘がそう叫ぶ。

「おう、マレック! もう着いていたのか!」
ゴードンが男に親しげに声をかけた。ゴードンの両手を馬車から降ろした荷物が
ふさいでいるのを見て、ヨシュアは彼を手伝いに走り寄った。
「お久しぶりです、ゴードンさん。この少年たちは新しい信徒ですか?」
ゴードンを手伝うヨシュアを見て男が問いかける。

「まぁ、正式な信徒ってわけじゃないけどな。こいつがヨシュアで
 あっちの娘がこいつの妹のマリアちゃんだ。今は俺たちと行動を共にしている」
ゴードンの紹介をうけて男は初めて笑顔を見せた。
「僕はマレック。光の教団の守り手として剣の腕を磨いている。
 ヨシュアにマリア。よろしくね」
「あぁ、よろしく…」
330ヨシュア伝:04/07/24 12:08 ID:RQKpZO/U

「マレック!」
ヨシュアがマレックと握手をしようとしたとき、町長宅から戻ってきた
イラサの声が響いた。イラサがマレックの元へと駆け寄る。

「無事だったのね!」
「あぁ、君も元気そうで安心したよ」
親しげに、そしてヨシュアが今まで見たことないくらいに嬉しそうに話す
イラサを見て、ヨシュアはゴードンにそっと耳打ちをした。

「あの二人もしかして付き合ってるの?」
「あー、まぁ、そんなもんかねぇ…」
ゴードンが居心地の悪そうな表情をして返事をかえす。
「へぇ〜、そ、そうだったのか」
ヨシュアは必死に冷静な自分を取り繕おうとしていたが
動揺をしているのは誰の目にも明らかであった。
「わかりやすいヤツ…」
ゴードンは苦笑した。
331ヨシュア伝:04/07/24 12:11 ID:RQKpZO/U

「で、マレック。例の件はどうだったの?」
その日の夕刻、宿の食堂でイラサが尋ねた。それまで楽しげな雰囲気で
談笑していた一行(ヨシュアを除いて)であったが途端に重苦しい空気が流れる。
マリアはこの場にいる人の顔を一人一人伺って首をかしげた。
「…例の件ってなんなんだ?」
沈黙を破って、低い声で尋ねたのはヨシュア。それに答えたのはマレックだった。

「…最近、世界中で裕福な家や身分の高い家を中心として子供たちがいなくなる
 という事件が多発しているんだ。子供は未来への大きな希望。
 僕たち光の教団としてはこの事態を放っておくことはできない。
 そこで、多少は戦闘能力のある僕が、先遣隊としてこの町でその事件について
 調査をしていたという訳なんだ。世界でその事件がもっとも頻発しているのは
 この町らしいからね」
「もっとも教団の上層部は俺たちの行動を快く思ってないらしいけどな」
ゴードンが舌打ちをする。どうやらそのことが彼にはおもしろくないらしい。
「そんなことをするよりも、信者を集めることに力を入れろって、うるせぇんだ。
 まぁ、言いたいことはわからなくも無いんだけどよ」

「…そんなことが世界で起こっていたのか… それで、マレックさん。
 この町の調査で何かつかめたんですか?」
「マレックでいいよ、ヨシュア。 それじゃあこの町での調査結果を報告するよ」
マレックはワインを飲んで唇を湿した。

「この町で子供がいなくなる事件が多発しているのは本当みたいだ。
 今年に入って既に三件起こっているらしい。金持ちが主に狙われている、
と聞いていたから身代金目当ての誘拐の線を疑ってみたんだけど、
そういう要求がまったく無いことから金目当ての犯行ってのは可能性が薄いと思う」
「じゃあ、一体何が目的なのかしら? それにどうやって犯人は子供をさらっているの?」
イラサが首をかしげる。マレックは神妙な顔をして頷いた。
332ヨシュア伝:04/07/24 12:13 ID:RQKpZO/U
「そこなんだ。目的もさることながら手口も謎に包まれている。
 この町の複雑な構造からして外部の人間がそう簡単に犯行を行えるとは思えない。
 かといって、世界中で似たような事件が起こっていることからこの町内部だけの
 人間でやったっていうのも考えにくいと思うんだ」
「確かに」
「今わかっているのは子供がいなくなるのは夜であるということ。
子供が何かの用事でちょっと外に出たその直後に煙のようにいなくなるらしい。
だから今では親は何があっても夜に子供を家から出そうとはしない。
昼間でさえも、母親がずっと子供に付き添っているくらいだから」
マレックはここで息をついた。ゴードンが頭を掻きむしる。
「ったく、わからねぇことばっかじゃねぇか。一体誰がこんなことをしているんだ?」

「それ、調べる方法あるよ」
それまで、大人しく話を聞いていたマリアが突然口を開いた。
皆の視線がこの幼い少女に集中する。マリアは照れくさそうに笑った。

「どんな方法があるっていうんだい?」
代表してヨシュアが聞いてみた。嫌な予感がしていた。
「難しいことよくわかんないけど、子供が夜に外に出ると狙われるんでしょ?
 だったら、私が今晩外に出てみるよ。そしたら犯人出てくるんじゃない?」
マリアの大胆な発言に、その場にいた全員が目を丸くした。

333ヨシュア伝:04/07/24 12:15 ID:RQKpZO/U
「何を言ってるの? マリア! あなたがさらわれるようなことでもあれば
みんなが悲しむのよ? お願いだからそんなこと言わないで頂戴」
イラサはマリアの肩をつかんで説得をする。しかしマリアはイラサを真っ直ぐと見つめて
目を逸らさない。その瞳には力強い光が宿っていた。
「でもさ、イラサ。さらわれた子も、そのお父さんやお母さんもやっぱり悲しいんだよ?
 私たち世界の人を助けるために旅してるんだよね。イラサたちに助けてもらった
ときから私は決めていたの。いつかみんなの力になりたいって。
今がそのときだと私は思うの。それに」
マリアがヨシュアの方に向き直った。
「もし危なくなってもお兄ちゃんが守ってくれるもんね!」

その言葉を聞いてヨシュアは目頭が熱くなった。
自分の知らない間に妹はこんなにも成長していたのだから。
死んだ両親が今の彼女を見たら、どんなに喜ぶことだろう!

しかしマリアの作戦には大きな危険が伴う。ヨシュアは兄として妹を危険にさらすような
まねはしたくなかった。しかし同時に妹のこの勇気を尊重してやりたい、という気持ちが
湧いてくるのもまた事実であった。ヨシュアはマレックの方をちらりと見た。
マレックは腕組みをして何かを考え込むように眉間にしわを寄せる。
そしてしばらくしてから口を開いた
334ヨシュア伝:04/07/24 12:17 ID:RQKpZO/U
「マリアちゃんの案はすごく有効なものだと思う。うまくいけば犯人をあぶり出すことが
 できるかもしれない。だけど… 同時に物凄くリスクも大きいんだ。
下手をすれば君は命を落としてしまうかもしれない」
マレックはマリアの顔を正面からじっと見た。
「…今、苦しんでいる人たちのことを僕たちは直接知っているわけではない。
 悪く言ってしまえば赤の他人だ。
マリアちゃん。君は見ず知らずの人のために命をかけることができるのかい?」

マリアは大きくそして力強く頷いた。それを見てマレックは柔らかく微笑む。
そして真顔に戻ってきっぱりと言った。
「今夜この作戦を実行に移そう!やってみる価値はかなり高い」
「何を言っているの!?マレック!! 
そんな危険なことマリアにさせていいわけないじゃないの!」

イラサが立ち上がって抗議する。マレックはゆっくりと切り替えした。
「マリアのことは僕が責任を持って守るよ。命にかえてもね」
「その… 俺にも手伝わせてくれないかな。マリアは俺の妹だから」
ヨシュアも言う。イラサは諦めたように首を横に振った。
「…あなたたち。心配しながら待たなくちゃならない私の身にも少しはなってみてよ?」

335ヨシュア伝:04/07/24 12:18 ID:RQKpZO/U

かくしてその日の夜中、作戦は実行に移された。
町の中央の広場をマリアがぐるぐると歩き回る。
身には金持ちが好みそうな豪華なフリルのついたドレスをまとっていた。
そこから少し離れた木の影にヨシュアとマレックが待機しているのであった。
もはやこの時間には誰も歩いていない。満月が出ているのが救いではあるが
それでも夜の闇は人を恐怖の渦に陥れる。
何も聞こえない。ただマリアの足音のみがあたりに響いていた。
延々と変わることのないこの環境の中でヨシュアはだんだんと不安になってきた。
果たして、子供をさらう誘拐犯などというのは本当に現れるのだろうか?
そのことをマレックに小声で囁くと、彼は声をたてずに笑った。

「来ないならそれはそれで構わないさ。少なくともマリアちゃんが
危険な目にあうことはないわけだからな。けど、あの子を守るって言った君が
そんな弱気でどうする?マリアちゃんは今一人で必死に頑張っているんだぞ」

マリアは眠そうな目を何度も何度も擦りながら歩き続けていた。
無理もない。普段ならとっくにベッドの中にいるはずの時間なのだ。
ヨシュアは少し反省をした。本当は自分以上に怖いのに違いない。
それでも、マリアは気丈にもそれを全く表に出していないのだから。

「けどな、ヨシュア。はっきり言って敵さんは今夜必ず現れると僕は思っている」
「えっ…? なんで…?」
「…今まで子供が夜に外に出たとき、たった数分の間にすべてが終わっていた。
 そんなこと家の外か何かを逐一見張っていなければできない芸当だ」
「でも、子供のいる家の前にいちいち見張りをつけるなんて
 それこそ無理があると思うけどな」
336ヨシュア伝:04/07/24 12:22 ID:RQKpZO/U
「いや… これはさっき気付いたことなんだが。
おそらく犯人の中には離れた場所にいながらして、他の場所の様子を
 垣間見ることのできる力をもつやつが複数いるのだと思う。
 もし金持ちがターゲットなら、子供のいる家すべてを監視する必要なんてない。
 名家なんて一つの町ではたかがしれた数しかないわけだから」
「……だとしたら、どうして今いい身なりをしているマリアは狙われないんだよ?
 俺たちがここに来てから大分時間が過ぎているはずなのに!?」
「だから、それは……!」

「お前たちがそこに隠れている、ということを我々が
すでに見通していたからだ。小僧」
「!!」
声の聞こえた方に二人が振り返ると、そこには四肢の生えた鷹の戦士「ホークマン」が
二体立って… いや、浮いていた。その体から発せられる静かで冷たい殺気を
真正面から受けてヨシュアは息を飲んだ。
「何をしている、ヨシュア! お前は早くマリアちゃんのところへ急げ!」
マレックが叫ぶのを聞いてヨシュアはハッと我に返った。マリアを守りにいくため、
走ろうとしたがすぐにホークマンに回りこまれてしまった。
「お兄ちゃん!!」
マリアが悲鳴を上げる。
(動きが滅茶苦茶に速い!)
ヨシュアの背を一筋の汗が流れていった。
337ヨシュア伝:04/07/24 12:23 ID:RQKpZO/U
「まさか、魔物が絡んでいたとはな…」
マレックがスネークソードを鞘から抜き放つ。ヨシュアも鋼鉄の剣の切先を相手に向けた。
なるほど、翼を持つ魔物なら、町の構造が多少複雑でも問題ないだろうし、
むしろ物陰が多いぶん犯行も行いやすいに違いない。この町がよく狙われる理由が
ヨシュアには分かったような気がした。

「ふん、お前たちはさっきからずっとここで張っていたようだが、
 我々は、一時的に高価な服を身に着けただけの卑しい貧乏娘には興味はないのだよ」
ヨシュアの頭にカッと血がのぼる。
「貴様…!!」
「挑発だ、ヨシュア! 冷静になれ!!」
ホークマンは可笑しそうにニヤニヤしている。
「本当に興味があるのはお前らのほうなんだ。我々の邪魔をしようとする
 存在があるのは気に食わん。 何者だ…?」
「光の教団の使徒マレック…」
ホークマンたちは虚をつかれたような表情をして、互いの顔を見合わせた。
「おいおい、こんなやつらに名乗っていいのかよ!?」
ヨシュアがマレックにつっかかる。しかし魔物たちはヨシュアの言葉など意に介さない。

〈なんで光の教団の信者が俺たちの邪魔をしようとしているんだ?〉
〈ふん、信者といってもどうせこいつらは何も知らない下っ端だろう。
 中途半端な正義感で、上層部の命令を無視して動いているのに違いない〉
「おい、何をこそこそと話しているんだ! 来ないならこちらから行くぞ!」
〈それじゃあ…〉
〈あぁ、殺ってもかまいやしない。たまには人を斬らなくては腕もなまるだろう?〉
ホークマンたちはニタリと残忍な笑みを交し合った。そして戦闘が始まった。
338ヨシュア伝:04/07/24 12:25 ID:RQKpZO/U

「ったく、また俺は蚊帳の外かい」
ゴードンはマリアの頭を撫でてやりながらぼやいた。
彼はヨシュアたちとはまた違う場所に控えていたのである。
「二人とも大丈夫かな…」
マリアが心配そうにつぶやく。
「あぁ、心配する必要はねぇさ。それよりも今日は良く頑張ったな。偉かったぞ」
 ゴードンが優しく笑いかける。
「でも、あの人たち結局私には興味無かったんでしょ? 卑しいとか何とか言って」
マリアが拗ねたように言った。結構気にしているらしい。
「いーや、お前はちっとも卑しくなんかないね。むしろ、聖女みたいな感じだってしたぜ!」
「そんな見え透いたお世辞なんていらないよ…」

別にお世辞でもなんでもないんだけどなぁ、とゴードンは苦笑いをする。
実際、己の身を危険に晒してまで他者のために行動しようとするマリアの健気な姿に
彼は感動すら覚えていた。
しかし元来口下手な男なのでそのあたりを上手く表現できないでいるのであった。

「さて… あいつらはどうなっているのかなっと」
このわずか一、二分足らずの間に戦局は大きく変動していた。
339ヨシュア伝:04/07/24 12:28 ID:RQKpZO/U

「ば、馬鹿な…」
ホークマンが地に崩れ落ちる。マレックは息一つ乱していなかった。
「次からは相手の力量をしっかり見極めてから喧嘩を売るんだな」
事も無げにさらりと言いながらスネークソードの切先をホークマンの首元に突きつける。
次などもう二度とないであろうに。彼の皮肉はなかなかに痛烈だ。

「さて、誰の差し金でこんなことをしているのか答えてもらおうか」
「ククク…そう言われて答えるヤツがいるとでも思っているのか?
 けどな、いずれお前も必ずその答えを知ることになるよ…」
マレックの表情が硬くなる。
「…どういう意味だ?」
「さぁな… …グァッ!」
そこでホークマンは絶命した。自分の舌を噛み切ったのだ。
マレックは舌打ちをしたが、死んでしまったものは仕方がない。
ホークマンの最期の言葉は何か不吉めいた予感を感じさせるが、
今はヨシュアの助太刀に行くのが先だ。
そう彼は判断して、闇の中一人走りだした。
340ヨシュア伝:04/07/24 12:30 ID:RQKpZO/U
ヨシュアとホークマンの力は互角。しかしホークマンの機動力には恐るべきものがあった。
前後左右だけでなく上下からも攻撃が放たれる!
なんとか直撃は避けているものの全身は小さな刀傷だらけ。
何より防御をするだけで反撃できないならば勝つことは不可能なのである。
「くそッ!」
ヨシュアは体勢を崩しながらも反撃の突きを試みた。しかし、剣は虚しくも空を切る。
「なってないな、そんな小手先の技で俺を倒せるとでも思っているのか!?」
ホークマンの一閃がヨシュアの右足の太ももを切り裂く!
ヨシュアは短く悲鳴を上げて膝を地につけてしまった。
「これでちょこまか動き回ることは出来ないだろう」
ホークマンはいやらしく笑う。ヨシュアはそんな魔物の目をぎらりと睨み付けた。
それを見た魔物は不快そうに顔を歪ませた。
「何だその目は。お前この期に及んでまだ抵抗する気なのか?
 お前に勝機は万に一つも無いんだぞ? 命乞いとかしてみたらどうなんだ。
 一ヶ月前に滅ぼした村の連中はお前のような不愉快な目はしなかったのだがなぁ」
ヨシュアの肩がピクリと動く。彼はもう魔物を睨みつけてなどいなかった。
薄くせせら笑っていた。悪魔をも凍りつかせそうな凍てついた笑みで。
「そうかい… そいつは偶然だな。俺の知っているある村も丁度一ヶ月前に
 滅ぼされたばかりなんだ… 痛かったろうな、苦しかったろうな。
 こんなカスみたいなやつにいいようにされて」
「!?」
ホークマンはこのヨシュアに何か危険なものを感じて知らず知らずのうちに
後ずさりをしてしまった。後ずさり…?自分が? 魔物は焦る。
実力は自分の方が遥かに上。既に相手はいくつもの傷を負っている。
圧倒的優位に立っているはずなのに、何なのだ? この気持ちは?
まさか、こんな小僧を相手に俺が恐怖しているとでもいうのか? 俺が恐怖を……
「お前が襲った村と俺の知っている村が関係しているかどうかは判からないが…
 その村人たちに代わって俺がお前を殺してやるよ…」
ヨシュアがボソリとつぶやく。そして反撃が始まった。
341ヨシュア伝:04/07/24 12:32 ID:RQKpZO/U

マレックは焦っていた。ヨシュアがそれなりにレベルの高い戦士であることを
彼は初めて会ったときに見抜いていたが、それでもホークマンが相手では
苦戦を免れることはできないだろう、と思っていたのだ。
「ヨシュアー!! どこにいるんだ!?」
マレックが戦闘を終えてから既に五分以上の時間が過ぎていた。
急いでヨシュアを見つけなければ手遅れになる危険もある。
「おい、マレック。こっちだ!!」
ゴードンの声だ。マレックが走り寄ると、そこにはゴードンに肩を貸してもらって
立っているヨシュアがいた。全身傷だらけだが命に別状はなさそうだ。
「あいつ、逃がしちゃったよ… ごめん」
ヨシュアは力なく笑った。
「いや、とりあえず無事で良かったよ…」
マレックはホッと胸を撫で下ろす。ゴードンも笑った。

「まったく、マリアちゃんが疲れて寝ていてホント良かったぜ。
 こんなボロボロなヨシュアを見たらまた泣きかねないからなぁ」
マレックも笑ったがすぐに真面目な顔つきに戻る。
「とりあえず、早く宿に戻ってイラサに診てもらおう。
 それとゴードンさん。報告しておきたいことがあります」

自分たちの知らないところで何かが動いている。
それに自分たちが知らず知らずのうちに巻き込まれているのを彼は感じていた…

342ヨシュア伝:04/07/24 12:35 ID:RQKpZO/U

「ほう、これはまた手痛くやられたものだな…」
全身に強力な武具をまとう獣戦士がニタニタと笑った。
「も、申し訳ございません、ゴンズ様…」
ホークマンは切り裂かれた腕を片手で押さえながら謝罪をする
その声は任務を失敗したことによる罰を恐れて震えていた。

「で、いったい誰にやられたというのだ?」
ゴンズと呼ばれた魔物が聞いた。
「それが… 光の教団の信徒と名乗るものに邪魔をされたのです…
 恐らくは何も知らない下っ端でしょうが…」
「ほう? それはまた奇妙な巡り合わせだな」
「傷を治ししだい、すぐにでも奴らの首を獲って参りましょう。
 で、ですから何とぞお許しのほどを…」
「いや、そいつらは生かしておこう。光の教団の信者にして
 強い戦士であるというのならば色々と使い道がありそうだ」
「で、ですがそのような人間を生かしておくのはいささか危険ではないでしょうか?」
「ふん。いかに強くとも所詮は人間。やつらには心という脆い弱点がある。
 そこを突けばいつでも楽に始末できるさ」
「…どういうことでしょうか?」
343ヨシュア伝:04/07/24 12:37 ID:RQKpZO/U
ゴンズは自分の胴当てを外してみせた。彼の腹には大きな傷の跡が斜めに走っていた。

「これは半年前にある戦士につけられたものだ。その男は俺とジャミの二人で
 挑んでも倒せないほどに強かった」
ホークマンは驚愕のあまりに言葉を失った。ゴンズにしろジャミにしろ
魔界でその名を知らぬ者はいないというほどの歴戦の雄だ。その二人をもってしても
倒せない男がこの世にいるということ自体が彼には信じられなかったのである。

「…その男は結局どうなったのでしょう?」
「死んだよ。自分の子供を守るためにな。ククク…
 馬鹿な男だよ。自分だけなら生きて帰ることもできただろうに…
 わかるか?所詮人間なんてのは弱い生き物なんだ。例えどんなに体が強くても
 心を少し揺さぶればもろくも砕け散る。フフフ、なんて滑稽なんだ。
 ハーッハッハッハッハッハ!!!」

獣戦士の笑い声があたりに響く。
ホークマンは恐れおののいてまたかすかに震えた―――
344華龍光臨:04/07/25 14:57 ID:B9LsJoAO
>>292の続き

軍が接触し、乱戦になり、次第に味方の姿が見えなくなり、そして劉備と肩を並べて戦っていた傭兵が斃される。
「まずいな。」
からくりの兵の斧の一撃を雌雄一対の剣で受け、反撃を試みるも熱い装甲に弾かれる。
戦っている合間にも衝車が横を通り過ぎていく。
井欄からの矢の雨が降り注ぐ。
流石の趙雲、張飛も矢の雨の前に流石に下がらざるを得ない…
「一体、敵は何を使っているというのだ。これほどの矢を放つとは…空を覆う勢いではないか…!」
からくりの射手とは一体?
ふと思った。からくりに矢を射ることができるのか。
「趙雲!」
趙雲が敵に囲まれつつも奮戦している。既に彼の周りには生きている仲間はいなくなった。
「もはやこれまで…というところです。」
趙雲が赤い旗を振る。
ジャーン…ジャーン…
「引き上げの合図を出しました。劉備殿も撤退しましょう。」
「…うむ。翼徳!尚香!引き上げるぞ!」
どれだけ兵が生き残っているのだろう。
馬を翻して趙雲を戦闘に敵部隊を突破していく。
今は西門にまで逃げ延びることのみ考えた。
345華龍光臨:04/07/25 14:58 ID:B9LsJoAO
西門にたどり着いた兵は数えるほどであった。
恐らくまだ生きていた兵はいたことだろう。しかし、あの混戦の中、脱出できなかったというものもいる。
西門が重々しく開かれる。
そこにはトラッドの指揮下にて物資、負傷者を運び出す作業が行われていた。
アルスがからくりを操縦して負傷者をフォロッドに運び出そうとしている。
取り付けられた荷台には負傷者に混じって女性や子供の姿が見える。
「すまん。アルス。どうやら持ちこたえれそうにない。」
「いえ、まだ、負けたわけではないですから。とにかく無事でよかったです。」
アルスの背後では手押し車を引いているキーファの姿がある。
もはや已む無し。フォロッドに籠城をするほかない。
「トラッド殿、申し訳ない。」
「いや…十分耐えられたと思うぞ。将軍がいなかったらここはとうの昔になくなっていたに違いあるまい…」
空気が重い。
「将軍、申し訳ないが時間を稼いでもらえないか?これから一般民や負傷兵を地下道と西門を使って脱出させる。からくり兵が向かわないよう釘付けにしてくれまいか?」
「わかりました。一人でも多く逃がせるよう時間を稼いでまいります。」
「趙雲、私も行こう。」
346華龍光臨:04/07/25 14:59 ID:B9LsJoAO
城門には衝車、城壁には井欄。
衝車の行動を妨害しようと試みるも井欄からの矢玉の前に城壁に上ることすら叶わない。
井欄から乗り込んでくるからくりの兵はいない。ただ、睨みつけているかのごとく別のからくりが置かれているのである。それは劉備たちも見聞きしていたものだった。
「くそっ。なんということだ…」
「連弩、ですね。」
諸葛亮が開発していた連弩。死道軍に対して幾度か使われたことがある。それが城壁の上だけでなく、城内まで猛威を振るっている。
幸いなことに井欄から乗り込んでくるからくりの兵はいない。
だが、城門を叩く音が次第に大きくなる。城門が破られるのは…もはや時間の問題だ。
「打つ手…無しだな。」
「ええ。残念ですが。」
その声と同時に城門が吹き飛ぶ。
ついに、陥落したのである。

雲長は無事か。翼徳と尚香はフォロッドに無事たどり着いたのか。
いろいろ頭をめぐるが今は一人でも多くの民を逃がさなければならない。
街中に侵入した衝車が建物を破壊しつつ砦へと向かってくる。
残った兵士たちが応戦するも混乱気味。
「私たちがここを通って非難した後、ここを利用されないように埋めるわね。」
マリベルが砦からの地下通路で残った住民たちを送ることになった。
住民たちの列の殿を勤め全員の避難を確認した後、何がしかの手段を用いてこの通路を埋めるのだろう。
「我らは時間稼ぎのためにもう少し戦う。マリベル、頼んだぞ。」
「任せといて。使えないって聞いたけど、これさえあれば何とか私だけでやれるわ。」
マリベルの腕にはあるものが握られていた。
趙雲曰く、湿ってしまって使えなくなってしまったものを詰め込んだ壷だという。
華龍光臨久々だ!なんか嬉しい。
長編大変だろうけど応援してるんで頑張ってくださいね!
348華龍光臨:04/07/25 20:27 ID:B9LsJoAO
「音を立てることくらいは可能ね。これなら。」
何とか使い物になるということを確認。これなら何とかやれる。
呪文はこの世界では広く知られてはいるが、実際の使い手はいるか。というとそう多くはない。
いつの時代になっても呪文は人々の憧れであり、その使い手は尊敬される対象である。
「この辺でいいかしら。」
壷を通路の真中に置く。
「お嬢ちゃん、何やってんのじゃ?」
最後尾の老人がマリベルに気づいて足を止める。それにつられて数人が足を止める。
「おじいちゃんたちは先に行ってて、私は何とかここを埋める作業をするわ。」
「それじゃあ、工夫を…」
「いいの、一瞬で終わるから。ちょっと危険だから先行ってて。急がないとからくり兵が来るわよ。」
何かを汲み取った老人たちは再び足を進める。
見送ってそこに座り込む。
劉備たちから聞いた話だと既に城門は破られて。からくりの兵が侵入している。
「7分、…ううん。5分。時間を稼ぐ必要があるのかしら…」
一瞬、一秒が長く感じた。
そして。
「やるしか、ないのね。」
目の前にはからくり兵が一体、迫ってきていた。
349華龍光臨:04/07/25 20:29 ID:B9LsJoAO
彼女には斧を受ける力がない。それに彼女の武器は鞭だ。
それでも、前に出る必要があった。時間を稼ぐため、そして先ほど置いた壷という計略を潰させないためにも出ざるを得なかった。
「メラ!」
彼女の指先に火が灯る。そしてそれを放つ。
しかし、厚い装甲に弾かれ消えた。
そして。
「来る!」
体中を激しく回転させて切り込んでる五月雨剣。じり、じりと迫ってくる。
今、これに賭ける。
自分の腕を信じ、鞭を振るう。
二度三度はじかれて、そして、はじかれなく、吸い込まれていくように引き込まれる。
鞭を持つ手に強く引っ張られる力が加わる。
マリベルはすぐに手を離した。鞭がものすごい勢いでからくり兵へと巻き込まれる。
からくり兵を油断なく見つめながらゆっくりと後ろへ歩を進める。
すさまじい勢いで回転していたと思ったからくり兵の勢いが止まってくる。
茨の無理が絡まってそのうちに動きを止めた。
激しくからくり兵が動くため弱いところに茨の鞭が入り込み、傷つけたのだろうか。
「…」
マリベルは駆け出した。そして。
「総仕上げと行くわよ!メラ!」
からくり兵ではなく、壷に向かって。
そして一目散に出口へと駆け出した。
350華龍光臨:04/07/25 20:32 ID:B9LsJoAO
もう駄目だ。誰もがそう思った瞬間。
「そこどいて!!」
小石や岩の雨の中からマリベルが飛び出してきた。
大地にヘッドスライディング。ぜーぜーと息を荒立てる。
「生きてる?もしかして。」
「…大丈夫じゃよ。嬢ちゃん。ここはフォロッド城じゃよ。」
通路は激しい轟音の後崩れた。出口には人一人通れるくらいの隙間はあるがもはや危険であり、完全に通路が埋まってしまったところがあることだろう。
羽交い絞めから説かれた老人の声を聞いてはぁ〜と溜息をつく。
「よし!次行くわよ!たしか、アルスたちが避難民を連れているって話ね。迎えに行かないと。」
がばっと立ち上がり城の方角へと走っていく。
皆、呆然とその様子を見送った。
「全く…あの嬢ちゃんを見習わんか!」
老人の喝が響き渡った。


>ヨシュア伝
不自然さもないいい文章でした。
お互いがんばりましょう。

>>347
少し、凹んだことがあり文に手がつかなかったのですが何とかここまで仕上げられました。
ありがとう。
351華龍光臨:04/07/25 20:34 ID:B9LsJoAO
一拍遅れて、背後から鼓膜を破りかねない轟音と衝撃が彼女を襲った。
置いた壷は湿ってしまった火薬であった。
湿ったとしていても大きな音を立てることくらいはできる。
よろめいたが転ぶわけには行かない。
激しい地鳴りと揺れが始まっている。
動きを止めたからくり兵を見ることなく出口へと駆け出した。
「うまくいったわね。後は私が生き埋めにならないことね。」
すいません。
>>349>>350間にこの文章を入れ忘れました。


出口付近では避難民が彼女を助けに行こうという人たちが集まっていた。
しかし、先の爆発音、地鳴りが鳴り響いた瞬間、呆気に取られて一歩とも動くことができなかった。
皆、怖かった。
闘って死ぬ覚悟はあっても生き埋めになる覚悟はなかった。
呆然としていた。
そして、祈った。
「いかん!崩れだしたぞ!」
「何をやっとるかぁ!お前たち!ここで震えていることしかできんのか!」
最後尾を歩いていた老人が大声を張り上げる。
しかし、いまだ、他の者たちは足がすくんでいる。
「もうよい!わしが行く!」
「やめなって爺さん!もう無理だ!」
「ええい!離せ!」
老人が羽交い絞めにされる。それを解こうと激しく暴れる老人。
そうこうするうちにもう一つ地鳴りが…
出口が崩れ始めた。
352華龍光臨:04/07/25 20:37 ID:B9LsJoAO
…駄目だ、グダグダだ…
>>350-351
間の文章をやり直します。

>>349より。

一拍遅れて、背後から鼓膜を破りかねない轟音と衝撃が彼女を襲った。
置いた壷は湿ってしまった火薬であった。
湿ったとしていても大きな音を立てることくらいはできる。
よろめいたが転ぶわけには行かない。
激しい地鳴りと揺れが始まっている。
動きを止めたからくり兵を見ることなく出口へと駆け出した。
「うまくいったわね。後は私が生き埋めにならないことね。」

出口付近では避難民が彼女を助けに行こうという人たちが集まっていた。
しかし、先の爆発音、地鳴りが鳴り響いた瞬間、呆気に取られて一歩とも動くことができなかった。
皆、怖かった。
闘って死ぬ覚悟はあっても生き埋めになる覚悟はなかった。
呆然としていた。
そして、祈った。
「いかん!崩れだしたぞ!」
「何をやっとるかぁ!お前たち!ここで震えていることしかできんのか!」
最後尾を歩いていた老人が大声を張り上げる。
しかし、いまだ、他の者たちは足がすくんでいる。
「もうよい!わしが行く!」
「やめなって爺さん!もう無理だ!」
「ええい!離せ!」
老人が羽交い絞めにされる。それを解こうと激しく暴れる老人。
そうこうするうちにもう一つ地鳴りが…
出口が崩れ始めた。
353華龍光臨:04/07/25 20:39 ID:B9LsJoAO
もう駄目だ。誰もがそう思った瞬間。
「そこどいて!!」
小石や岩の雨の中からマリベルが飛び出してきた。
大地にヘッドスライディング。ぜーぜーと息を荒立てる。
「生きてる?もしかして。」
「…大丈夫じゃよ。嬢ちゃん。ここはフォロッド城じゃよ。」
通路は激しい轟音の後崩れた。出口には人一人通れるくらいの隙間はあるがもはや危険であり、完全に通路が埋まってしまったところがあることだろう。
羽交い絞めから説かれた老人の声を聞いてはぁ〜と溜息をつく。
「よし!次行くわよ!たしか、アルスたちが避難民を連れているって話ね。迎えに行かないと。」
がばっと立ち上がり城の方角へと走っていく。
皆、呆然とその様子を見送った。
「全く…あの嬢ちゃんを見習わんか!」
老人の喝が響き渡った。
354ヨシュア伝の作者…:04/07/26 23:51 ID:x95vgzW4
>華龍光臨
更新お疲れ様です!いよいよフォロッド編も佳境って感じですか…
毎回楽しく読ませてもらってるんで、次の更新楽しみにしています!
355ヨシュア伝:04/07/26 23:54 ID:x95vgzW4

第4章,光の教団第二支部にて

その建物は緑深き地に、まるで世界から忘れ去られたかのように
ひっそりと建っていた。光の教団第二支部――である。
ヨシュアが故郷を離れて約三ヶ月。彼らはこの地に到達していた。

「何でこんな分かりにくい不便な場所にあるのさ?
これじゃ入団希望者がいても自力じゃ来れないんじゃないか?」
ヨシュアが馬車の荷を降ろしながら言う。イラサが悲しそうに答えた。
「まだ光の教団は世間ではあまり認められていないの。
 だから、ほら。目立つところにあると色々と揉め事が起こったりするから、ね…」
控えめに言ってはいるが、実際には弾圧に近いようなものを受けたのであろうことが
ヨシュアにも想像できた。
「人間同士でいがみあっている場合では無いはずなんだけどな」
ゴードンは力なく笑った。

それでもこの旅で教団はヨシュアとマリアを除いて23名の信者を
新たに獲得することに成功していた。この時勢を考えればかなりの成果と
言っていい。
356ヨシュア伝:04/07/26 23:56 ID:x95vgzW4

「お帰りなさい。光の子供たちよ」
建物の中から一人の老婆が現れて、優雅に微笑む。
「第二支部長のジェーンさんだ」
ゴードンがヨシュアに耳打ちする。ヨシュアは慌てて背筋を伸ばした。
「楽にしていいですよ。皆さん。今、世界は闇に包まれつつあります。
けれど私たちはこの光の教団で共に闇の時代にあっても幸せに生きていきましょう…」
それだけ言って、老婆ジェーンは建物の奥に引っ込んでいった。
ヨシュアは自分たちだけ助かれば構わないと言わんばかりの彼女のセリフに
少し腹が立った。それに気付いたイラサが寂しそうに笑う。
「どうも上層部と私達って意見が合わないみたいなのよね。
 教団はできれば財力のある人を中心に信者を集めたいみたいだし。
 でも私はお金あるとか無いとかそんなの関係無く
みんなが幸せになれたらいいなって思うのだけど…」
イラサがこちらに向き直る。ヨシュアは力強く頷いて見せた。

「ところでヨシュア。僕たちの旅はこれで一区切りつくわけだけれど
 君はこれからどうするんだい?」
マレックが尋ねてきた。
「あぁ… そのことなんだけどさ。俺とマリアも光の教団に
正式にいれてもらえないかな?」

ヨシュアが光の教団に入ることを決意したのは約二ヶ月前。
子供を誘拐しようとする魔物たちとの接触を果たしたその直後のことである。
あの後、結局逃げたホークマンの行方は分からなかった。
あの魔物は自分の村を滅ぼしたやつの仲間に違いない。確信があるわけではないが
ヨシュアはそう信じていた。
マレックは「そのうち絶対にヤツらは僕らを消しに来る」と断言していたが
結局それらしき魔物が襲ってくることは無かった。しかしヨシュアもまた
「光の教団に関わっていれば、いつか必ずあの魔物どもと対峙する日が来る」
と思っていた。根拠は何も無い。それは一種の信仰にも近い思いであった
357ヨシュア伝:04/07/26 23:59 ID:x95vgzW4
「そうか。嬉しいよ、ヨシュア。改めてよろしくな!」
ニカッと笑ってヨシュアとマレックは、がっちりと腕を組んだ。

こうしてヨシュアとマリアの光の教団の信者としての生活が始まった。
午前はイラサたちに教団の教典「イブールの本」を使って思想を教えてもらい、
午後は、それぞれが思い思いの時間を過ごす。
ヨシュアはマレックと剣の稽古をしたり、マリアと遊んであげたりしていた。
最初は戸惑っていた彼らだが一ヶ月も過ぎる頃には、ここでの生活も慣れてきた。

だが。そんなヨシュアに一つの別れが迫ってきていた。

その日もいつものように裏庭でヨシュアはマレックと剣の稽古をしていた。
素振りなどの基礎練習。そしてそれを終えた後の実戦形式の手合わせ。
「そりゃっ! うりゃっ!」
ヨシュアの剣がマレックを襲う!しかしマレックは極めて冷静にそれを捌いてみせる。
「くっ!」
「腕の振りが甘いぞ、ヨシュア!そんな無理な体勢で攻撃をしようとするからだ!」
次の瞬間マレックはヨシュアの剣を薙ぎ払った!ヨシュアの手から剣がすっぽ抜ける。
「また、僕の勝ちみたいだな」
ヨシュアは悔しそうに舌打ちをして地面に仰向けに寝転がる。
体中から流れる汗がひんやりとして気持ち良かった。
「まったく、いつになってもマレックには勝てる気がしないよ」
「まぁ、確かに僕も今のお前には負ける気はしない」
マレックがカラカラと笑う。
「でも、ヨシュアは恐ろしい早さで成長している。もっと自信を持っていい。
 僕に追いつくのも時間の問題さ。後は… そうだな、
 もうちょいキチンと戦況を見極めることのできる冷静な目があればいいんだけどなぁ。」
358ヨシュア伝:04/07/27 00:01 ID:0YvwdNkD
ヨシュアも笑った。そうしてから気付いた。
自分はここに来てからよく笑うようになったということに。
魔物に対する復讐の念が消えたわけではない。むしろそれは日増しに強くなっていく。
しかし、それと同時に今までとは何か違う、まるで太陽のような暖かいものが
心の中を照らしているような気がしているのだった。
ヨシュアはだんだんと変わってきていた。

風が吹き、木の葉がそれに流されるように青空を横切る。
「もう… 秋なんだ。早いもんだね」
ヨシュアがほう、とため息をつく。
「なんだ、ヨシュアは秋が嫌いなのか?」
マレックがヨシュアの傍に腰を下ろした。
「嫌いってわけじゃないよ。ただ夏にあんなに茂っていた葉が
 秋にはあっさりと散っちゃうのを見ているのがなんだか切ないんだ。
 変わらないものは何も無いんだなって思い知らされるみたいでさ」
「…そうだな。例えどんなに幸せであったとしてもそれはずっと続くわけではない。
 いつかは必ず終わってしまう」
「…光の教団は本当に、不幸になってしまう人を減らすのに役立てるのかい?」
「それは僕たちのこれからの活動次第さ。もしかしたら報われないことに
 なってしまうかもしれない。それでも… 一緒に頑張っていこうな!」
「…あぁ」
ヨシュアは真面目な顔をして頷いた。と、そのとき。
359ヨシュア伝:04/07/27 00:02 ID:0YvwdNkD

「マレック! マレック!! ちょっと来てください」
声の主は第二支部長のジェーンだった。彼女は普段は自室にこもっているばかりで
滅多に姿を現さない。そんな人がわざわざ裏庭まで自ら出てくるのを
彼らはいぶかしんだ。
「何か御用でしょうか?」
「えぇ。実はつい先程教団の本部からある要望がきたのです」
本部? ヨシュアとマレックは顔を見合わせた。もっともヨシュア自身は本部が
どこにあるのかさえ知らなかったのだが。
「本部の要望とは何だったのですか?」
ジェーンはにっこりと微笑むとしゃがれた声で続けた。
「今、本部にある大神殿の建設が順調に進んでいます。
 ですが、さすがに大きな建物なので警備のための人員が不足しているそうなのです。
 だから第二支部からも一人兵士を寄越してくれないかと言われました。
 私はそれにマレック、あなたを推薦したいと思います」
一瞬だけマレックの表情がこわばるのをヨシュアは見逃さなかった。
「誇りに思いなさい、マレック。大神殿へは選ばれた者のみが行けるのですから…」
「…出立はいつですか?」
「一週間後に本部から迎えが来ます。そのときまでに準備をしておいてください」
「わかりました…」
マレックは一礼した後、遠くを見つめるような目をして横を向いた…
360ヨシュア伝:04/07/27 00:05 ID:0YvwdNkD

「マレック!本部の兵士に選ばれたんですってね!おめでとう!」
その日の夜イラサの明るい声が部屋に響いた。
「あぁ、ありがとうイラサ。これで僕もだいぶ出世できるかな?」
マレックも笑っていた。ヨシュアはそんな二人の顔を交互に見比べた。

「ねぇ、マレック。マレックが兵士さんになるのはすごく嬉しいんだけど。
 いつになったら帰ってこれるの? その… やっぱり、マレックが
 いなくなるとすごく寂しくなっちゃうでしょ?」
マリアが横から口を挟んだ。マレックたちは一瞬ギクッとしたような
顔をしたが、またすぐに笑顔に戻る。
「いつ戻れるかは分からないよ。けど手紙とかちゃんと出すしさ。
 それにヨシュアやイラサたちがいるから寂しくなんかないだろう?」
マリアは「う〜ん?」と首をかしげる。
「さて、と。私そろそろ眠くなってきちゃった…
 それじゃあ、お休みなさい!」
そう言ってイラサは自室の方へ行ってしまった。
それを見たヨシュアは眉をひそめた。
何か彼らは自分に隠し事をしている、ヨシュアはそう直感したのである。
361ヨシュア伝:04/07/27 00:06 ID:0YvwdNkD
「ゴードン、ちょっと来てくれないか」
ヨシュアはゴードンの腕を無理矢理引っ張って外に連れ出した。
「な、何だよ、ヨシュア。怖い顔しやがって」
「俺の顔なんてどうでもいい。それよりも教えてくれ、ゴードン。
 どうして、マレックが兵士になるって知ったとき皆、あんな辛そうな顔を
 していたんだ?兵士といっても別に戦争の最前線に行くわけじゃないんだろ?」
ゴードンは奥歯を噛み締めてうつむく
「……」
「答えてくれ、ゴードン……」
「…わからないんだよ」
「わからない? わからないってどういうことだよ…?」
「そのまんまだ。上は警備のためだと言ってはいるが、その実態がどうなのかは
 誰にもわからない。なんたって兵士になってから帰ってきた人間が
 一人もいないんだからな」
「なっ…」

ヨシュアは口を開けたまま絶句した。みるみるうちに顔が紅潮する。
もうマレックには会えなくなってしまうのか?
そうしたらイラサとマレックはこの先、一生涯引き離されてしまうのか?
本当にそれでいいのか? いや… 
ヨシュアは走りだした。
「おい、コラ待て、ヨシュア! だぁーーっ、お前は頭に血が登ると
 どうしていつもそうなんだ!」
362ヨシュア伝:04/07/27 00:08 ID:0YvwdNkD

「マレック!!」
荒い息をつきながらヨシュアが叫ぶ。マレックは既に自室に戻っていた。
部屋の扉を開けた途端、目に飛び込んできたヨシュアの鬼のような形相に
マレックはギョッとした。
「ど、どうしたんだヨシュア?そんな顔をして?」
「俺の顔なんか本当にどうでもいい!それよりも兵士になった人間が
 一人も帰って来ていないってのは本当なのか?」
「…ゴードンさんにでも聞いたのか?」
余計なことを…とでも言いたそうな表情でマレックは苦々しげに呻く。
「…確かに僕の知る限りでは、兵士になってからここに帰ってきた人はいない。
 だけど教祖様も世界のために働いているんだ。
 兵士の仕事が忙しくて帰れないくらいで文句は言えないさ」
「どうしても… 絶対に行かなきゃいけないのか?」
「それが僕の使命なんだ。行かないわけにはいかない」
ヨシュアとマレックはお互いの瞳を真正面から見据える。
「…イラサはどうするんだよ?よくは知らないけど、あんたが心の支えなんだろ?
 あんたがいなくなればイラサがどんなに悲しむか簡単に想像できるだろ?」
マレックは目を逸らした。
「光の教団を守り、そして世界を平和へ導くことが
 結果としてイラサを幸せにすることにつながるはずだよ。
 僕がいない間、イラサのことをよろしく頼む…」
「…人一人幸せにすることが出来ない人間が世界なんて救えるのかよ…?」
マレックの瞳がカッと熱くなる。そして次の瞬間、彼はヨシュアの
胸倉をつかんで叫んでいた。
363ヨシュア伝:04/07/27 00:11 ID:0YvwdNkD

「わかったような口を聞いてくれるなよ、ヨシュア!!
 僕だってイラサと離れ離れになんかなりたくはない!
 けど、自分のわがままだけのために僕が任務を放棄したら教団はどうなる!?
 それに… そのせいでまた別の誰かがこの気持ちを味わわなければいけない
 ことになるんだ! …こんな気持ちを味わうのは僕一人で十分だ」
「それでも… それでもマレックがいなくなったら駄目なんだよ…」

自分では駄目だから。イラサを支えることが出来るのはマレックしかいないのだから――

マレックは手を離し、悩ましげに顔を歪ませて何かをつぶやいた。
しかしあまりにも声が小さすぎてヨシュアはそれを聞き取ることは出来なかった。

すべて今という時代のせい、と言ってしまえばそれまでなのかも知れない。
時代を切り開き、人々を幸せに導くべく誕生したはずの教団が、
結果として人の幸せの一つを奪ってしまうという現実の皮肉にヨシュアは押し黙った。

「悪かったよ、マレック。俺、あんたの苦悩をちゃんと考えていなかった。
 でもさ、イラサを悲しませるようなことだけにはならないでくれよ」
ヨシュアはいつかゴードンに言われたセリフをそのままマレックに言った。
「いや、僕も取り乱してすまない…お前の言いたかったことは
 これでもわかってるつもりなんだ。いや、言い訳しても仕方ないか」
二人はお互いに痛いような微笑を交し合った。
364ヨシュア伝:04/07/27 00:12 ID:0YvwdNkD

彼らの互いに別れがたいという思いとは裏腹に、時は無情にも過ぎていく。
一週間。マレックが教団の本部へと旅立つ朝がやってきた。

教団の信者たちが彼を見送るために外に集まる。
本部からの迎えはすでに来ていた。
漆黒の外套がゆったりと全身を覆い、頭にも黒のフードを目深に被っているので
顔はよく見えない。しかし雰囲気から年配の男であろうことが想像できた。
男は第二支部長ジェーンと何かを話した後にマレックの方へ進みでてきた。
「君がマレックか。噂どおりなかなかの実力を持っていそうだな」
マレックが男に軽く一礼をする。
「もう、別れの挨拶は済ませたのか」
「いえ、もう少し待っていただきたいのですが…」
そう言ってマレックは横を見やる。まだイラサと話していなかった。
「あまり時間はないのだがな」
男は憮然とした表情でつぶやいた。マレックは申し訳ないです、とだけ言って
イラサの元へと歩み寄る。

「それじゃ… 行って来るよ」
「ええ、体には気をつけてね!」
二人とも笑っていた。どこか寂しげな感じのする悲しい笑顔。
それでも決して泣きはしない。泣けば別れの辛さが増してしまうだけだから。
イラサがふと思いついたように自分の首に下げられていた銀色の
ペンダントを外し、それをマレックの首に下げた。
365ヨシュア伝:04/07/27 00:15 ID:0YvwdNkD
いつもイラサが肌身離さずつけていたヤツだ――そうヨシュアは気付いて
何か胸がつまる思いがした。
マレックは一瞬とまどったような顔をしたが、すぐまた笑顔に戻った。
「ありがとう。大切にする」
最後にもう一度だけ笑みを交し合ってからマレックは男にしっかりと向き直った。
「行きましょう、本部へ!」

男と、そしてマレックがゆっくりと、しかし確実に第二支部から離れていく。
ヨシュアはそれを追いかけたくなる衝動に駆られたが、ぐっと堪える。
大きな決意と覚悟をマレックはいだいている。今さらそれに水をさすような真似は
したくはない。そう思っていたはずなのに、次の瞬間ヨシュアはマレックに向かって
叫んでいた。
「俺も… 俺もいつか必ずそっちに行くからな!
 本当にマレックが世界を闇から救うために闘っているのか
 どうかこの目で確かめてやるからな!
 もしイラサ泣かせるようなことしてたらぶっ飛ばしてやるからな!!」
マレックは振り返らなかった。しかし確かに微笑んだ。
ヨシュアはそう感じた……

いつかまた… また、必ず会おう。
そしてそのときまでに俺はあんたに認められるような男になってみせるから……!

ヨシュアは拳を強く握り締めた。

366ヨシュア伝:04/07/27 00:17 ID:0YvwdNkD


そして月日が流れた―――


季節は夏。灼熱の太陽がギラギラと照りつける。
「ふぅ… 疲れた疲れた」
日に焼けて健康的な小麦色の肌をした青年が額の汗を拭う。
鍬を持つその腕は筋肉で太く盛り上がりたくましい。
「兄さん、お疲れ様」
金髪を肩の先まで伸ばした愛らしい少女が笑いながら青年に手拭いと水を差し出す。
「サンキュ、マリア」
そう、この二人はあのヨシュアとその妹のマリアであった。
マリアから手渡された水を一気に飲み干そうとしたヨシュアは途中でむせてしまう。
それを見たマリアがクスクスと笑った。
「慌てて飲もうとするからよ。誰も取ったりしないわよ?」
ヨシュアも苦笑した。どうも落ち着きのない所は昔からなおらないなぁ、と思う。
そうしてからヨシュアは急に遠くを見るような目をした。

「もう… あれから八年か…」
マレックが兵士になるために第二支部を離れてから八年。
「そうね…」
マリアも感慨深げに頷く。そんな彼らにも第二支部との別れが迫っていた。
367ヨシュア伝:04/07/27 00:19 ID:0YvwdNkD

「二人とも、本部に行くっていうのにそんなに暗い顔をしないの!」
ヨシュアとマリアが振り向いた先にはイラサが立っていた。
マリアは教団の信者として本格的に教義を学ぶために、
ヨシュアは兵士として働くために、それぞれ本部に向かうことが決まっていた。
「私はできればイラサやゴードンたちとも一緒に行きたかったわ」
マリアが寂しそうに言った。
「私もあなたたちと別れるのは辛いんだけどね。まぁ、事情が事情だしねぇ」
イラサは腕を組んで諦めたように笑う。二年前に第二支部長のジェーンが
老衰で死んだ。その代わりにイラサが第二支部長になったのだ。
ここを離れることはできない。
「マレックにもよろしく言っておいてね」
あの後マレックからは何の連絡も無かった。
生きているのかどうかさえ判らないでいる。
「元気だといいわね、マレック」
とマリアがつぶやいたそのとき、ゴードンが地響きをたてながら走ってきた。

「ここにいたのか! マレックから書簡だぜ!!」
「!!」
「今まで何で送ってこなかったんだ、遅すぎだよチクショウ!」
「見せて見せて!」

イラサが皆を代表して封筒から紙を出して広げる。その両脇からヨシュアとマリアが
そして後ろからゴードンがそれぞれ覗き込むという形になった。
イラサが書簡を読み始めた。
368ヨシュア伝:04/07/27 00:21 ID:0YvwdNkD


みんな、元気だろうか?

        
 きみたちに会えなくて寂しいが充実した日々を僕は送っているよ。
 てがみを出すのが遅れてしまって本当にすまない。
 はたらき手が足りなくてなかなか時間がとれないんだ。
 
 イラサ、君のペンダントが今の僕の心の支えだ。大切にしている。ヨシュアにマリア、
 ケンカなんてしていないだろうな?大切な家族なんだからお互いに
 なかよくするんだぞ。ゴードンさん、そして第二支部のみんな。
 いつかまた会える日を心から楽しみにしている。

             
                             教団本部より願いをこめて マレック

369ヨシュア伝:04/07/27 00:24 ID:0YvwdNkD
「これだけか? 短いなぁ…」
「忙しくてあまり時間がとれないみたいね… 
 でも、元気でやっているみたいだから安心したわ」
イラサがホッとしたように言う。
「…っていうか俺の扱い軽すぎじゃねーか?」
ゴードンが口をへの字に結んでぼやき、マリアが笑った。
「ゴードン、俺が向こうで、きっちりマレックに文句言っとくよ」
ヨシュアも笑った。イラサもそれにつられるようにして笑い出す。
何はともあれマレックが元気でいることが分かったのだ。
長年抱えていた不安の一つから解放されて喜びもひとしお大きい。
彼らの笑い声を聞いて、他の信者たちが何事かと集まって来た。
そしてただひたすら笑っているヨシュアたちを見て、彼らも
何かは分からないけども自然と笑顔になる。

朗らかな笑い声、希望に満ち溢れる笑顔。
それはどこから見ても幸せそうな風景だった。

本部への旅立ちを三日後に控えた夏の昼下がり。

それはヨシュアにとって生涯最後の安らぎの時間であった。

370ヨシュア伝:04/07/28 18:33 ID:RKgrO3R1

第5章,神が死んだ日

暗く、じめじめとしたカビ臭い空間の中、大勢の人間が重労働に従事させられている。
ある者は岩を運び、またある者は岩を砕き、そしてある者は洞穴を掘り進めるため
つるはしを振るっている。やっている作業自体は人それぞれであったが
彼らには共通点があった。皆、一様に生気を失った目をしている。

ヨシュアは呆然としてこの様子を眺めていた。
(俺は何か悪い夢でも見ているのか?)
彼の隣に立っていた兵士がつまらなさそうにヨシュアに言った。
「ここのフロアがお前の持ち場な。ここで奴隷どもが逃げないように
 見張っておくんだ。歯向かってくるヤツがいるならその剣使っても
 構わないけどあんまり殺りすぎるなよ、労働力減るからよ」

奴隷。確かに兵士はそう言った。これが光の教団の実態だというのか?
ヨシュアは吐き気を覚えた。しかし何とかしてそれに耐える。
これは何かの間違いなのだ、と頭の中で何度も何度も考えようとした。
ビシィイイ!! 何か大きな音がヨシュアの耳の中で響いた。
ハッと顔を上げて音のした方向をみるとなんと監視員の男が
奴隷の一人を鞭で痛めつけていた。
「ゆ、許してください… もう、体が… う、動かんのです」
「バカヤロ、喋る体力あるんじゃねーか、
てめーらは四の五の言わずに働きゃいいんだよ、オラ立て!!」
そう言って監視員はさらに鞭を振るった。ヨシュアは瞳をカッと見開く。
しかし隣の兵士はそれを見て可笑しそうにへらへらと笑っているのであった。
「やれやれ、下級信者出身の監視員は羨ましいねぇ、やりたい放題で。
 俺たちは仮にも兵士だから、ある程度の節度は要求されちゃうんだよねぇ」
とても節度ある人間の言葉とは思えないようなセリフを吐いた後、
彼は自分の持ち場に戻ろうと歩き出した。
371ヨシュア伝:04/07/28 18:34 ID:RKgrO3R1
そしてその途中で何かを思い出したように振り返る。
「一応、言っとくけどもうお前もう一人称『俺』とか使うなよ。
 これからは『私』な。兵士なんだから自覚持てよ!」
自分のことは棚に上げて、兵士は去っていた。

その兵士が見えなくなるのを確認してヨシュアは小さくため息をついた。
そんなヨシュアの様子を見ていた一人の老人の奴隷が彼に近づいてきた。
「お前さん、見ない顔じゃな。新入りの兵士なのか?
 ふん、お前さんのような青二才にこのワシが使われるなど世も末じゃ」
彼は自嘲するように笑った。
しかしヨシュアは聞いてはいなかった。茫然として一人呟く。

「…光の教団は世界が闇に包まれたときに、その闇から人々を守るために
 作られたはずではなかったのか? そんな教団がどうして奴隷を使うような
 マネをする?」
それを聞いた老人は、ヨシュアの目を覗き込むようにして見る。
そうされて初めて老人の存在に気付いたヨシュアは驚いて飛びのいた。
「ホッ、光の教団が闇から人々を救う。確かにそんな話も
 聞いたことはある。だが実際はこの有様じゃ。人を人とも思わぬような
 輩が教祖をつとめる教団が本当に人を救えるとお前さんは思うのか?」
372ヨシュア伝:04/07/28 18:36 ID:RKgrO3R1
ヨシュアは黙り込むしかなかった。むしろヨシュアの心の内を彼が
そのまま代弁してくれたと言ってもいいくらいだ。
物憂げにしかめつらをするヨシュアを見て老人は笑った。
「お前さんは今、ワシらのことを気の毒だとか、他の兵士や監視員の
 仕打ちを許せないとか考えているんじゃろ。そして例え自分が兵士の立場に
あったとしても心だけはワシらの味方でありたい、とか考えているのかな?」
ヨシュアは意表を突かれたような表情をした。
「当たらずとも遠からずってところか。だがこれだけは言っておくぞ。
 お前さんが心の中で何を考えていようが、所詮は教団の犬。
 ワシらにとっては憎むべき敵以外の何者でもない。
 むしろ自分だけは良心的ないい人間だ、みたいな顔をするお前さんには怖気が走るわい」
ヨシュアは頭を金槌で殴られたかのような衝撃を覚え、頭がクラクラした。
そんなヨシュアに老人はさらに追い討ちをかけるように続けた。
「お前はただの偽善者じゃよ」

「コラーーー、何をやっとる! 早く岩を運ばぬか!」
監視員の一人が老人に鞭を叩き込む。老人は不敵な笑みを浮かべて
あぁ申し訳ないね、と小さく呟いてノロノロと岩を押し始めた。
監視員はヨシュアに言う。
「もう、こういうときはガンガンやっちゃっていいですからね!
 遠慮は無用ですよ! 特にあのジジィは生意気なことこの上ないですから!」
「……あぁ」
ヨシュアは短く答えた。その後は、もう何も言わなかった。いや、言えなかった。
373ヨシュア伝:04/07/28 18:38 ID:RKgrO3R1

「ここが兵士の宿舎だ。神殿が完成するまでの仮住まいだがな」
その日の夕刻、ヨシュアは先輩の兵士に本部の施設について色々と
案内をしてもらっていた。この日ヨシュアはすでに精魂も尽き果てたような
状態だったが大人しく先輩の兵士についていく。
「これで一通り見たわけだが、何か質問はあるか?」
「一通りって… 本部では私の妹が教義を学んでいるはずなのですが
そういうところへは我々は行けないのですか?」
「ほう… お前の妹は相当優秀なのだな。本部で教祖様のもとで学べるのは
 選ばれた一部の者だけ。教祖様が滞在しているところの警備も上級兵士で
 なければすることは出来ないのだ。まぁ、だから残念だがお前は
 当分妹には会えないだろうな」
「そうですか…」
ヨシュアは落胆した。

部屋は六人の相部屋だった。同じ部屋の者が話しかけてきたが、
何を聞いてもヨシュアはうわの空。
しまいには彼らは鼻白んで話しかけるのをやめてしまった。
ヨシュアはベッドの上で仰向けになって寝転んだ。
こんなはずでは無かった、と考える。今まで信じていたものが硝子の様に
脆くも崩れ去って行くのをヨシュアは感じていた。イラサやマリアがこの現状を
知ったら何を思うのだろうか?ここで兵士として働いている自分を見て彼女たちは
何と言うだろう?マレックはこの地獄の中で何を感じていたのだろうか?
そもそも光の教団の教祖は、本当に世界のため人々のために
動こうとしているのだろうか?
様々な疑問が頭の中をグルグルと回る。
自分は八年以上ものの長い間、教団に騙されていたのではないか、
そういう考えが頭をよぎったときヨシュアは悔しく、そして情けなくて胸が詰まった。
374ヨシュア伝:04/07/28 18:41 ID:RKgrO3R1
そのとき部屋の扉をノックする音が聞こえた。部屋にいた兵士の一人が
応対に出る。彼は少し話をした後、ヨシュアの方へ振り返った。
「おい、そこの新入り。お前と話をしたいと言っている方がいるから
 ちょっと、こっちへ来い!」
ヨシュアはうんざりとした表情をしながらもノロノロと起きだす。
そして扉の前まで来たときヨシュアの目は驚きのあまり大きく見開かれた。
「よっ、久しぶりだな。元気… そうではないな。まぁ、無理もないか」
「…マレック?」
そう、それは八年前に第二支部から旅立ったマレックだった。


「そうか…マリアちゃんもここに来てしまったのか。
 出来ることならお前たちにはこんな現実を見せたくはなかった」
「これが… これが俺たちが信じてきたものの正体なのか?」
ヨシュアはうつむく。マレックはそんな彼を悲しそうに見つめた。
「…あぁ。信じたくはないがこれが現実であり、真実だ。
 僕は今まで世のため人のため、そして何より自分のためにと必死になって
剣の腕を磨いてきた。けど… 無力だった。そんな力はここでは人を傷つける
ことにしか役立ちはしなかった」
「…その剣で人を斬ったのか?」
マレックは一瞬ヨシュアの方を見てから、諦めたように小さく「あぁ」と言った。
しかしヨシュアは彼を責めることはできなかった。だがそれとは別の怒りが
こみ上げてくる。
「奴隷なんてものが許されていいはずが無い!
 何とかできないのか!?」
マレックは慌ててヨシュアの口を押さえて周りの様子を伺う。
幸いなことに誰も聞いてはいないようだった。
375ヨシュア伝:04/07/28 18:43 ID:RKgrO3R1
「あまり大きな声を出しちゃいけない。誰が聞いているかも分からないんだ。
 もし僕たちがこんな話をしているということを密告でもされれば
 それこそ命の保障は無いんだぞ」

ごめんとヨシュアが目顔で謝るのを確認してから、マレックは言った。
「…残念だけど僕にはどうにもできない。すまない…」
ヨシュアは黙り込むしかなかった。昔の自分だったらこういうときは
さらに食ってかかり反論するのだろうな、と考える。しかし今の彼には
それができなかった。マレックもまた理想と現実の間で板挟みになり
苦しんでいる。それがヨシュアにも痛いほどに分かるから。
二人はまるで言葉を忘れてしまったかのように黙りこくった。
ただ気まずい空気だけが流れてゆく…
「…俺、この状況何とかしてみせるよ」
ヨシュアがポツリと言った。マレックも黙って頷いてみせた……



そして。

ヨシュアが兵士になってから一年の時が過ぎた。


この間に多くの人が病と過労で倒れて死に、多くの人が世界のどこかから
この地獄へと連れてこられていた。
毎日繰り返される理不尽な暴力と、それをどうすることもできないでいる自分。
376ヨシュア伝:04/07/28 18:45 ID:RKgrO3R1

感情というものを捨ててしまえばどれほど楽であっただろうか。
何も考えない人形なら毎日苦しむ必要はないのに。そういう考えが時々頭をよぎる。
その度にヨシュアはそんなことを考えてはいけない、と自分に
言い聞かせるのである。マレックはまだ諦めてはいない。それならば自分も
やはり諦めてはいけないのだ、と思うのである。
もしマレックがいなかったらヨシュアは既に廃人になっていたかもしれない。
狂気と絶望のみがこの空間を支配する中、彼ら二人は事態の打開を
目指して毎日のように動いていた。

そしてある日の晩、その努力がついに実を結ぶこととなった。

皆が寝静まる夜。建設中の大神殿の中を二つの影が動いていた。
無論、ヨシュアとマレックである。
「う〜、昼はもちろんだけど、夜はことさら冷えるなぁ…」
ヨシュアが全身を震わせて両手にハァ〜、と生暖かい息を吐いて擦り合わせる。
「大神殿は世界で最も高い山、セントベレスのてっぺんにあるからな」
マレックは小さく笑った。彼の吐く息もまた白い。
「…こんな夜に呼び出すってことは、もしかして何か見つかったのかい?」
「あぁ… 今日の昼間の休憩時間中にちょっとした隠し通路みたいなものを
 見つけたんだ。一般の兵士も知らない何かがそこにはあるのだと思う」
マレックが兵士になって既に九年。元が優秀な男なので実は兵士の中でも
かなり階級は高い。そんな彼も知らなかったということは、それこそ教団の
幹部クラスしかその存在を知らない極め付けの通路なのだろう。
「ついてこい、ヨシュア」
377ヨシュア伝:04/07/28 18:47 ID:RKgrO3R1

そこは一見ただの壁にしか見えなかった。兵士のみが立ち入りを許されている
旧地下倉庫の奥。古くなって使い物にならなくなった道具があちこちに
転がっていたが肝心の通路らしきものはどこにも見当たらない。
最近は誰にも使われていないため見張りの兵士もおらず、比較的楽に進入できた。

「どこに通路なんかあるんだ?ボロ道具と壁しかないじゃないか」
「馬鹿、そう簡単には見つからない所にあるから隠し通路っていうんだろ!」
そう言ってマレックが壁の一部に手を触れて力強く押し始めた。
そこがスイッチにでもなっていたのかマレックの立っていたすぐ近くの壁が
ゴゴゴゴ…と音をたてて動き始める。そして壁に人一人がやっと通れそうな
小さな通路が出現した。

「…こんなのよく気付いたな、マレック」
「今日、ここに来てみたときに何か風が流れるような音がしたんだ。
 それで調べてみたらこのスイッチを発見したというわけさ」
「ふ〜ん、ていうことはキチンと扉を閉めていなかったってことか?」
「多分ね。恐らく、何者かがこの通路を頻繁に利用しているんじゃないかと思う」
ヨシュアはゴクリと唾を飲み込んだ。もし誰かに見つかってしまったら
どうなるだろう、と考えたのである。
「実は僕も通路を発見はしたものの中に入ったわけではない。
 だからどんな危険が待ち受けているかは全くわからない。
 …もし怖かったら君は帰っても構わない」
「そんなこと言われたら行くしかないだろ?」
先程感じた不安を忘れようとヨシュアはワザとおどけてみせた。
378ヨシュア伝:04/07/28 18:49 ID:RKgrO3R1

先頭を、ランプを持ったマレックが、その後ろをヨシュアがついて行く。
狭く暗い通路は足元が不確かで、とてつもなく歩きにくかった。
そして何よりも恐ろしい。
「怖いか? ヨシュア」
「こ、怖くなんかあるものか!」
まるで自分の心を見透かしたかのような言葉にヨシュアはついムキになってしまった。
「ハハハ、そうか」
マレックは笑ったがすぐに表情を引き締める。
「僕は怖い」
ヨシュアはそれを聞いてビクッと肩を震わせた。確かにマレックの言葉からは
張り詰めた緊張感が漂ってくる。
「…引き返したほうがいいかもしれない」
そうマレックが呟いたとき、遠くの方からボソボソと話し声がするのが聞こえた。
二人は思わず顔を見合わせた。

やはり誰かが奥にいた。その事実がヨシュアの恐怖を煽るのと同時に
冒険心を刺激してもいた。確かに危険は大きいが、もしかしたら奥で人々を解放
するための糸口になるようなものが見つかるかもしれない。
相手に見つからないに越したことはないが仮に戦闘になったとしても
何とか切り抜けることは出来るだろうと、ヨシュアは考えていた。
何せマレックはもちろん自分も兵士の中ではかなりの使い手だ。
ヨシュアはマレックにそっと目配せをした。マレックは少し考えた後、頷いてみせた。
ランプの灯りを消し、足音をたてないようにゆっくりと近づく。
379ヨシュア伝:04/07/28 18:51 ID:RKgrO3R1
心臓の鼓動が高鳴る。手にはじっとりと汗がにじむ。
角をいくつか曲がったとき、奥から光が漏れてきた。どうやら終着地点らしい。
ヨシュアとマレックは壁に隠れてそっと奥を覗く。
ヨシュアは思わず「アッ!」と叫びそうになってしまったが、慌ててそれを
喉の奥にしまいこんだ。

そこにいたのは人間ではなかった。鋼鉄の鎧をまとい、巨大な盾、鋼鉄の剣で
武装した真紅の巨大爬虫類。
〈竜戦士…!!こんな魔物がなぜこんなところに?〉
マレックの背を汗が伝う。竜戦士は地上の魔物の中でもかなりの高位に位置する
存在である。その実力は計り知れない。その魔物がなんと四匹も固まっていたのである。
〈さすがに、マズイな… まさかこんな奴らがいるとは思わなかった。
 戦うにしろ退くにしろ一筋縄ではいかないぞヨシュア。 ……? ヨシュア?〉
ヨシュアは聞いていなかった。彼は目を大きく開けたまま小刻みに震えている。
彼の目には竜戦士などうつっていない。その視線の先にあったのは
魔物が囲んでいるその中央にある神々しい光を放つ鎧―――

〈どうしたんだ、ヨシュア!?〉
ヨシュアは低い声で呟いた。
〈あの鎧… 俺は見たことがある〉
〈!?〉
〈俺の故郷の村… そこの村長ティアルの骨董品コレクションの中でも
 一番のお気に入りがあの鎧だったんだ……!!〉
380ヨシュア伝:04/07/28 18:53 ID:RKgrO3R1

ヨシュアの記憶の底にあったしこりのような謎が
湯に溶けた角砂糖のように、一気に解けていくのを彼は感じていた。
九年前。イラサたちに助けられ、ティアルの部屋で目覚めたときに感じた
あの疑問。あの違和感。その答えはすぐ目の前にあった。
そう。ティアルの家に飾られていたはずの鎧はあの日を境に
村から消えてしまったのだ。そしてその鎧がここにある――
なぜ今まで自分は思い出せずにいたのか? ヨシュアの目から涙が溢れる。

光の教団の本部でこの鎧が厳重に管理されているとするならば答えは一つ。
過去に故郷の村を襲ったのは光の教団に付随する魔物。
村が襲われた理由は、村にあの鎧があったから…!!
ヨシュアの心臓がドクンと強く脈打った。

「ほう、これがあの天空の鎧か。
 伝説の勇者とやらしか身につけることを許されないという」
竜戦士の一人が目の前の鎧を手の平で叩きながら言った。
「らしいな。伝説の勇者本人の存在は未だ確認されてはいないが…
 まっ、仮にそんなのがいるとしてもこの鎧がここにある限り
 勇者はその真の力を出すことは出来まい」
381ヨシュア伝:04/07/28 18:55 ID:RKgrO3R1

〈マレック、行こう! すぐに殺してやる!〉
マレックは横目でヨシュアを見た。並々ならぬ殺気が溢れ目が血走っている。
〈…あぁ、このまま野放しにはできない。だから闘おう。だが…〉
〈だが? !! うわっ!?〉

ヨシュアの体が突然後方に激しく吹き飛んだ。マレックがヨシュアに
強烈な体当たりを仕掛けたのである。
「マレック…? なんの… つもり だ…」
頭をしたたかに打ったヨシュアはそこで気を失ってしまった。
マレックは無言のまま手の平に意識を集中させる。そこに赤い炎が生じた。
閃光の魔法ギラ、である。
「さよならだ、ヨシュア」
マレックが一瞬寂しげな表情をする。
しかし次の瞬間彼は百戦錬磨の冷徹な戦士の顔に戻っていた。



そして。ギラが放たれた。


382ヨシュア伝:04/07/28 18:57 ID:RKgrO3R1

世界最高峰のセントベレス山、その山頂にある大神殿よりもやや標高の
低い位置に光の教団仮本部があった。教祖イブールの現在の滞在先であり
マリアが教団の教義を学んでいる場所でもある。
その日マリアは夜遅くまで、毎月一回行われる教団の儀式の準備をしていた。
彼女は教義にしろ作法にしろ、まわりが感心するほどに覚えが早かった。

その日の作業も手馴れた様子で順調に進めていたが、マリアはふいに
今まで感じたことも無かったような奇妙な不安に襲われめまいがした。
「い、今のは何かしら? 何なのこの感じは? …怖い」
マリアの頬を一筋の汗が流れる。頭からつまさきまで全身がカタカタと震える。
そのとき、マリアが手に持っていた儀式用の絵皿が彼女の手からするりと
抜け落ちた。「あっ」と思う間もなく皿は派手な音を立てて砕け散る。
「マリア、あんた何やってんの? それ大事な皿なのに!!あーー、もう! 
あんたと一緒に仕事してたあたしまで大目玉食らっちゃうじゃない!」
マリアの同僚がキー、キーと喚きたてるがそれはまるで耳に入らない。

このときマリアははっきりと悟った。今確実に兄たちに良くないことが起こっている…!
383ヨシュア伝:04/07/28 18:58 ID:RKgrO3R1

狭い通路に轟音が響いた後、砂煙があたりに舞った。
竜戦士たちがその先を見つめていると、砂煙の中からゆっくりとした足取りで
マレックが姿を現す。

「天井を崩すとは、たかが兵士風情が舐めた真似をしてくれる。
ここは半地下。確かに瓦礫をどかさなければここを出ることは出来ない。
 瓦礫の向こうにいるお前の連れが逃げるのには十分な時間稼ぎが出来るだろう」
「やはり僕たちがいることに気付いていたのか」
マレックは苦笑した。ヨシュアがあれだけ剥き出しの殺気を発していたのだ。
気付くな、というほうが無理な話なのかもしれない。

「なぜお前はここに残った? その気になれば
お前も逃げることはできたんじゃないか?」
マレックは不敵に笑うだけで何も答えない。
「フン、瓦礫だけでは時間稼ぎが長くできないと踏んだんだろう。
 そして、自らを犠牲にしてまでヤツを助けたかった、そうだろ?」
別の竜戦士が笑う。
「お望みどおりすぐにあの世に送ってやる、なぁ人間さんよ?」
384ヨシュア伝:04/07/28 19:00 ID:RKgrO3R1
マレックは最後にもう一度だけフッと笑った。次の瞬間マレックは
竜戦士たちの視界から消えた。
「なっ!?」
魔物たちは呆気にとられる。ヒュン!と風を切るような音がしたかと思うと
魔物の一体がそのまま腰を境に体を上下に両断されて地面に倒れ伏した。
目の前にいたはずのマレックはいつの間にか彼らの背後にまわっていた。

「い、今のは何だ? 捨て身か!?」
「いや、一撃必殺にすべてをかけるという魔神斬りじゃないか?」
竜戦士たちの間にざわめきが走る。ニコリともせずにマレックは言った。
「あえていうならばその二つの合わせ技か。
 捨て身の突進から剣技魔神斬りに連携する。僕の最強の技だ」
魔物たちから余裕の表情が消える。
彼の気に気圧されてじりじりと後ずさりするものさえもいる。
「お前たちは一つ勘違いをしているようだから教えておこう。
 未来あるヨシュアを死なせないことは最低条件、当たり前のこと」
マレックはゆっくりと剣を構えなおす。

「そして、僕とてこんな所で果てるつもりなど毛頭無い!!」

死闘が始まった―――

385ヨシュア伝:04/07/28 19:02 ID:RKgrO3R1

次の日の早朝、光の教団の兵士団の幹部クラスに緊急の召集がかかった。
突然の事態にどの顔からも緊張の色が見え隠れする。
兵団長が憔悴しきった顔で話を切り出した。
「…すでに聞いている者もいるかもしれないが、
 昨夜、ゴンズ様より派遣された竜戦士の精鋭四体がたった一人の
 人間により全滅させられた」
その瞬間、全体にざわめきが走る。

「下手人は我が兵士団に所属するマレックという男だ。この男は例の鎧が
 安置されている部屋で竜戦士たちと共に死んでいるのが発見された。
 どうやら相打ちだったらしいな」
「ですが目撃情報によりますとマレックの他にもう一人
 あの通路に侵入した者がいるらしいとのことですよ…?」
「そんな馬鹿な…!!」
兵団長は狼狽し、目をあちこちにキョロキョロさせた。

この混乱の中、会議室の末端に座っていた男が一人声を立てずに笑っていた。
彼は終始冷静だった。その男が兵団長に向かって口を開く。
「やれやれ、部下の造反も見抜けぬ、兵の管理は行き届かず、結果として
 ゴンズ様より派遣された精鋭は犬死。あまつさえ、もう一人の男も特定できずに
 うろたえているばかりとは、兵団長もヤキがまわっちまいましたかね。
 責任とって腹かっさばいた方がいいんじゃねぇんですかい?」
兵団長は顔を紅潮させて、拳をわなわなと震わせた。
「何だ、貴様は? 偉そうな口を叩きおって。 
 ならお前は既にもう一人の男を特定できているとでもいうのか?」
386ヨシュア伝:04/07/28 19:04 ID:RKgrO3R1
男はニヤリと笑ってみせる。
「貴様は無いでしょう。俺にはサディルという名がある。
それはさておき死んだ男がマレックとかいう男なら、もう一人の男は
 あいつと共に不穏な動きをしていたというヨシュアの野郎に間違いねぇでしょう。
 兵士団の中ではマレックと並んで二強と呼ばれるほどの剣の使い手。
 残念だが俺たちじゃ束になっても敵わないだろうよ」
「…怪しい動きをしている者がいると知っているならなぜ言わなかった?」
「失礼だな、俺は何度もあの二人にゃ注意したほうがいいって上司に進言したぜ?
 それをどう受け止めたかは俺の知ったことではないがな」
そう言って横にいる男をちらりと見る。彼は途端に血の気が失せたような蒼ざめた
顔になった。兵団長は忌々しげに顔を歪めて続けた。

「…そのヨシュアとやらが関わっていたかどうかは定かではないが、
 マレックと親しいというのであれば始末しておいたほうがいいかもな。
 早速、暗殺部隊に連絡をいれておこう」
しかし皆一様に顔が暗くなる。ヨシュアはかなり強い。ニ、三人は必ず犠牲者が
出てしまうだろう。仮に寝込みを襲うにしても、今頃彼は教団に強い不信感を
持っているだろうから、隙をつくのは難しいのではないか、
そんな議論があちこちから飛び交う。
387ヨシュア伝:04/07/28 19:06 ID:RKgrO3R1
「いくら隙が無いとは言っても、何日もたてば疲労するだろう?
 その後ゆっくり殺せばいいじゃないか!」
兵団長が叫ぶ。それに対して別の兵士が大声で反論した。

「そんなにヤツに時間をやったら奴隷たちと結束して反乱を起こすかもしれない
 じゃないですか! あいつは兵士の中では割と、奴隷の評判はいい男なのですから。
 あいつを始末するにはもう一刻の猶予もないんですよ!」
兵団長はその兵士の気迫におされて思わず首をすくめた。
「なら、なら、どーしろっていうんだ!?」

「ククク… ハハハハハハハ!!」
突然例のサディルが笑い出した。騒がしかった会議室が急にしんと静まる。
「お前ら、馬鹿だな。いや、ホント馬鹿だよ」
室内の全員の視線が彼に集まる。
「…何か良い策でもあるのか?」
「何も危険を冒してまで肉体的な死をあたえる必要は無いわけさ」
サディルの目が危険にギラリと輝く。

「ヤツの心を殺せばいい。それだけだ」

388ヨシュア伝:04/07/28 19:08 ID:RKgrO3R1

ヨシュアは自室のベッドの上で目覚めた。自力で帰ってきたのか
それとも誰かに運ばれたのかは分からない。
ただ確かなのは自分がまだ生きているということ。
ふと、自分の手に何かが握り締められていることに彼は気付いた。
見てみると、それは少し黒ずんだ銀色のペンダントだった。
イラサよりマレックに贈られたもの。マレックが肌身離さず持ち歩いてたペンダント。
ヨシュアは悟った。マレックが既にこの世にはいないということを。
自分がいなければマレックは助かったのではないか?
結局自分はマレックの足手まといでしかなかったのではないか?

ペンダントを握り締めながらヨシュアは声を立てずに泣いた。
今はもういない人のために。
最後まで何もできなかった自分のために。


「おい、ヨシュア。ちょっとこっちに来い」
そのとき上官がヨシュアを呼びに部屋までやってきた。
いつもとは様子が違う。ヨシュアはすぐにピンときた。
教団の秘密を知ってしまった自分を殺そうというのか。しかしそれでも
ヨシュアは素直についていく。とは言っても大人しく殺されるつもりなどない。
マレックにもらった命なのだ。おいそれとは無駄にできない!
ヨシュアの瞳に炎が宿る。それを見た上官は肩をゾッと震わせた。
「ここだ」
389ヨシュア伝:04/07/28 19:10 ID:RKgrO3R1
案内された場所は教団に歯向かった者を始末するための処刑場だった。
「ヨシュア、お前は昨夜教団の隠し通路に勝手に侵入したらしいな」
やはりきたな、と思いながらもヨシュアはとぼけることにした。
「知りませんね、何のことでしょうか」
言いながら気付かれぬように剣の柄に手をかける。
「早まるな。本来ならお前は死刑だが教祖様は、お前が改めて
 忠誠を誓い、こんな愚行を二度としないと言うなら今回のことは不問にすると
 仰ったのだ。感謝するのだな」
ヨシュアは耳を疑った。ならなぜ処刑場に向かう必要があるのだ?
この謎の提案にヨシュアはさらに警戒心を高める。

そのとき処刑場に一人の老人が連れこまれた。ヨシュアは彼を知っていた。
「お前さんか、懐かしいのぉ。相変わらず偽善者やっているそうじゃないか」
老人がヒッヒッヒ、と笑う。そう、彼はヨシュアが初めて大神殿にやってきた
その日に出会った老人であった。
「このジジィを殺せ。それでお前は晴れて無罪放免だ」
「なっ… この人が何かしでかしたのですか?」
「別に。確かに日頃から鼻持ちならないヤツではあったが
 特に問題行動は犯してはいない。強いて言うなら労働力としては
 全く役に立たないというところか?」
ヨシュアはたじろいだ。全く予想だにしなかった展開だった。
「何も罪のない人を殺すなんてことは私にはできません…」
「…お前馬鹿か? こいつを殺さなければお前が死ぬんだぞ?
 こんな分かりやすい二択がどこにある?」
ヨシュアの額に脂汗がにじむ。
「ククク。お前さんがワシを殺してくれるとはな… 嬉しいのう。
 どうした、早くやれよ。偽善者」
390ヨシュア伝:04/07/28 19:11 ID:RKgrO3R1

どうすればいい?
自分が生きるために罪のない人間を殺すのか?
そんなことをするために今自分は生きているのか?

ヨシュアは目の前の老人を見た。小さく痩せて今にも折れそうな体。
その顔は皮肉をいっぱいに込めた目でこちらを見つめている。

マレックは自分を逃がすために死んだ。
それはつまり自分にどんな手段を使ってでも生きろというメッセージなのではないか?
生きなければマレックの魂は救われないのではないか?
こんな枯れた老人のために自分が死ぬ必要がどこにある?
イラサ、ゴードン、みんな、また会いたい。生きて会いたい。
マリア、お前の幸せそうな笑顔をもう一度見たい。もう一度会いたい。
生きたい、会いたい、生きたい、会いたい、生きたい、いきたい、イキタイ…

死にたくない……!

凍てつくヨシュアの感情。歪みゆく心。碧空色の瞳が青く冷たく燃える。
それは既に先程までのヨシュアとは全く別の人間の物になっていた。

391ヨシュア伝:04/07/28 19:13 ID:RKgrO3R1
突然のヨシュアの変貌に老人は戦慄した。
その心に初めてヨシュアに対する恐怖が生まれる。

「おい、どうした。若僧。お前は自分の正義を貫くのではなかったのか?
 結局はただの偽善者なのか、おい、よせ、やめろ!剣を収めてくれ!」
それを見ていた他の兵士も息を飲む。奇妙な静寂のなか老人の
必死の叫び声だけがあたりに響く。ヨシュアは剣を鞘から抜き正眼に構えた。

「ククク、我が天命ここに尽きる、か。
 結局神はワシのことを見捨てなさったようだのう!」
「いや、それは違うな。別に神はあなたを見捨てたわけではない…」
ヨシュアは言いながらゆっくりと剣を振りかぶる。

「神は… 死んだんだ」

剣が振り落とされた―――


392ヨシュア伝:04/07/28 19:16 ID:RKgrO3R1

遠く離れた影からこの様子を見ていた男――サディルがニタリと笑った。
ことは予定通りに進んでいる。
後は最終段階に入るのみ。
サディルはゆっくりとした足取りでこの場を後にした。

ヨシュアはその後何時間もその場所を動かなかった。
目からは涙が、父の形見の剣からは赤い血がしたたり落ちる。
ヨシュアは一人うつむいて奥歯を食い縛っていた。
上官の一人がそっとヨシュアの肩に手を置いて彼を慰めた。
「気にすることはない。人間誰でも最後は自分の命がかわいいもんだ」
確かにそうかも知れない。だがマレックは己の身を挺してまで
ヨシュアのことを助けたのだ。上官はさらに続けた。
「それに、どの道神殿が完成すれば奴隷は皆口封じのために消される
 可能性の方が高いんだ。死ぬのが早いか遅いかそれだけの違いさ」
だがそれはヨシュアの心を慰めるというよりも、
さらに憂鬱にするものでしかなかった。

激しい喪失感がヨシュアを襲う。
どういう形であれ何の罪みも無い無抵抗な人間の命を奪ってしまった。
もう引き返すことはできない。
ヨシュアはそう思った。

この日、ヨシュアの中の神は死んだ―――


393華龍光臨:04/07/30 00:28 ID:7hZjY5L/
フォーリッシュは地獄だった。
からくりの兵が放った火によってたちまち町は炎に包まれ熱風吹き荒れる灼熱地獄となった。風がないことが幸いか。
「くそっ。」
あの砦は崩壊してしまった。
皆無事に抜けただろうか。確認する術はない。
衝車によってほとんどの建物は崩壊してしまった。
「もう限界です。劉備殿。もう、生存者はいないことでしょう。」
「…うむ。」
たくさんの人が死んでいった。
まだ若い兵士、教会のシスター…
「…この子を弔う時間もないというのか。」
まだ年端も行かない女の子。戦乱で両親をなくし、兄をなくし、そして、彼女自身の命を奪った。
劉備はその亡骸を空いていた棺に入れ、釘を打ちつけていた。
「すまん。」
ただ、一言言ってその場を後にした。

「東門はからくりの兵。西門は炎の海、地下道はマリベルに指示して既に埋まっている。」
「なんとかしてここを脱出しなければなりません。」
西門には油を染み込ませた薪や枯れ草を積んだからくりが集まって道をふさいでいる。
既に火が燃え移って火達磨になっている。ここを通るのは無理だ。
だからと言って敵中突破もできない。もう、二人だけなのだ。
まだ、侵入してくるからくりの兵がいる。このままではまずい。
「趙雲。あの修復が進んでいない城壁の所に行こう。」
「…なるほど。わかりました。」
迫ってくるからくりの兵を牽制する。
動きが一瞬止まったのを確認して駆け出した。
394華龍光臨:04/07/30 00:30 ID:7hZjY5L/
「さすが、劉備殿…」
「やはり、わかってくれたのか。」
城壁の上に登った劉備たちを待っていたのは。
「兄者!趙雲!」
「今梯子をかけるぜ!」
軍を引き上げさせていた関羽とフォロッド城を飛び出してきた張飛がやってきていた。
「尚香はどうしたのだ!?」
「山間の布陣していたわが軍を率いて陽動を仕掛けています。直に引き上げることでしょう。」
「そうか。それでは引き上げよう。」
こうして、二人は窮地を脱したのである。
しかし、フォーリッシュは陥落し、フォロッドは丸裸にされてしまった。
395華龍光臨:04/07/30 00:31 ID:7hZjY5L/
生き残った兵たち、市民が立てこもるフォロッド城。
趙雲の指揮下、それは堅牢な城塞となっていた。
しかし、数々の攻城兵器を有するからくり兵団にそれはどれほどの障害になるだろうか。
そして兵も民も疲れきっていた。
いつかは耐えられない、そう薄々感じていたがその時が来たとは思いたくもなかった。
…休まねばならなかった。
からくりの兵がすぐにやってくる様子はない。夜の闇が辺りを覆う。
ならば劉備のすべきことは一つだった。
「劉備、何処行くの?」
「今一度、ゼボット殿の元へ行く。」
劉備の腹は決まっていた。
「やはり、ここはゼボット殿の力なくしてはこの状況を打破できない。知識がない我らだけでは駄目だ。」
「兄者。行くのですか。」
「うむ。雲長たちも行くか?」
「おうよ。アルスたちには既に出かけてくると言ってきたぞ。」
「手早いな。」
よっと馬に乗る。先の戦いで失った軍馬も多い。
「趙雲、行ってくるぞ!」
「わかりました。劉備殿。…このような時に言うのもあれですが。まさに、あの時、ですな。」
「…そうだな。」
過去の記憶が過ぎる。
あれから時は過ぎて変わりすぎた環境。
瞼を閉じる。
「行くぞ。皆。」
>華龍
改めて読むと、割と文章の書き方も上手だし、結構良い感じですね。
途中で連載放り投げてしまわないところも凄いと思いました。
397ヨシュア伝:04/07/31 00:12 ID:W7+QRZIY

最終章, 記憶の還り道

ヨシュアには彼らの目が不快でならなかった。
生きることを諦めていない目。
どうにかして希望を掴み取ろうと必死にあがこうとする目。
それはマレックが生きていた頃、昔の自身の影と重なって写る。
例え、どんなにあがこうとも結局は無駄な徒労に終わるというのに。
この大きな組織の中で個人の力がどれほど小さく弱いかを彼らは
分かっていないのだ。
ヨシュアがマレックを失って早二ヶ月。彼は今までとは違う現場に
勤めることとなった。そこでヨシュアは二人の若者の奴隷に出会った。

一人は豊かな黒髪を長く伸ばし、無造作に後ろで束ねている少年。
彼は、監視員の嫌がらせにも決して屈しようとはしなかった。
牢につながれても、拷問を受けてもその度に彼は耐え抜くのである。
鞭を受けるたびにキッと漆黒の瞳を監視員に向けて逸らさない。
しまいには監視員は気味悪がって鞭を振るうのをやめてしまうのだ。
何事にも全力投球でぶつかる、ある意味不器用な純粋さを持つ少年であった。
もう一人はエメラルドを思わせる鮮やかな緑色の髪をした少年。
生きた目をしているという点では黒髪の少年と同じだが彼の方が遥かに
要領が良く、さりげなく仕事の手を抜くのもうまいものであった。
だがしかし彼は疲れて動けない人間を見つけると、その者の分まで黙って働き出す。
自分のことだけでなく常に周りに気を配り、努めて明るく振舞う。
黒髪の少年が無事でいられるのも彼のフォローがあってこそのものだった。
398ヨシュア伝:04/07/31 00:14 ID:W7+QRZIY
恐らく、とヨシュアは考えた。彼らはごく最近連れてこられたばかりなのだろう。
だから、そこまで生きた目をしているのだ。彼らの目はこの場ではとてつもなく
尊く失いがたいものではあったが、後一、二ヶ月もすれば他の奴隷と同じように
希望も生きる意志も全て失うだろう。
ヨシュアは彼らを見てあざけるようにして笑った。全ては無駄なのだ。
頑張れば頑張るほど後になって辛くなるだけなのに。
心を捨ててしまえば、少しは楽になるだろうに。

そのとき上官から呼び出しがかかった。
「おいヨシュア。新入りの奴隷だ。ここで働かせるからあとは頼んだぞ」
また、新入りか。とヨシュアは少しうんざりしたような気分になったが
とりあえずその新人とやらの顔を拝んでみようかと思い、顔を上げた。
そこでヨシュアの心臓は凍りついた。顔から血の気が失せ真っ青になる。
目の前に立っていたのは、彼が最も愛する妹、マリアであった。
「マリア…? なぜお前がこんなところにいるんだ?
 教祖様のところで教義を学んでいたのではなかったのか?」
「教祖様の大事にしている儀式用の絵皿を割ってしまったの。それで…」
「そんな、馬鹿な…!! たかだか皿一枚でなぜ!?」
ヨシュアがいきりたったが、マリアはそれを手を上げて制す。
「いいのよ、兄さん。最近の教祖様のお考えにはついていけないところがあったし…
 それに教団のためにこんなに大勢の人が働かされているなんて、
 私今までまったく知らなかった…」
「でも…!」
「ここにある岩を向こうに運ぶのでしょう?大丈夫頑張ってみるから!」
マリアは、悲しさや辛さに耐えるような痛々しい笑顔をヨシュアに向けた。
戸惑うヨシュアをよそにマリアは現場へと走って行った。
399ヨシュア伝:04/07/31 00:15 ID:W7+QRZIY
光の教団の兵士になってからヨシュアは毎日マリアに会いたいと願い続けてきた。
だがそれはマリアが幸せな生活を送っていることを前提としたもの。
こんな形での再会など望んではいなかった。
先程のマリアの笑顔からひどく大人びた雰囲気をヨシュアは感じていた。
一年前まではあんなにあどけなかったのに、
いつからあんな顔をするようになったのだろう、とヨシュアは考える。
そのマリアもいつかは他の奴隷と同じように死んだ目になってしまうのだろうか。
そこまで考えて、ヨシュアは全身をビクリと震わせた。

『神殿が完成すれば奴隷は口封じのために殺される―――』

それはもちろん教団の信者であるマリアとて例外ではないだろう。
ヨシュアは頭の中が真っ白になった。心臓の鼓動が早くなる。
焦りと不安が空回りするばかりで物をまともに考えられない。
早く何か手を打たなければ… それだけが頭の中で響く。
そうしなければ自らの手で妹の命を奪うことにもなりかねない……


何もいい手を考えることができないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
その日、ヨシュアは奴隷宿舎の番をしていた。
奴隷が仕事に出ている間は特にすることは何も無い。

ヨシュアは椅子に座って一人頭を抱えて考え込んでいた。
「具合悪いんですか? なんなら誰か呼んできましょうか?」
不意に頭の上から声が響いた。ヨシュアがゆっくりと顔を上げると
そこには若い奴隷が立っていた。黒髪に漆黒の瞳のあの少年。
400ヨシュア伝:04/07/31 00:17 ID:W7+QRZIY
「…なぜ奴隷のお前がこんなところにいるんだ? あぁ、そうか。休憩の時間か」
ヨシュアは一人納得すると同時に、内心驚いていた。
大抵の奴隷は休憩時間中はその場で座り込むか、
せいぜい水を飲みに行くくらいでしか動こうとはしない。

「そんなことよりも顔色悪いですよ、本当に平気なんですか?」
少年は重ねて問いかける。自分たち兵士のことはさぞ憎いだろうに
おかしなヤツだ、そう思って初めてヨシュアはこの少年の瞳を覗き込んでみた。
少年の瞳は涼やかで、どこか懐かしく不思議な感じがした。
「…私自身には特に問題はない。だが私の妹のマリアが奴隷にされてしまったんだ。
 何とかしたいが、だからといって教祖様には逆らえないし…」
そこまで言ってヨシュアは慌てて口を閉じた。
なぜロクに知りもしない少年にこんなことを話してしまったのだろうか、と
後悔の念がこみ上げてくる。
「とは言っても奴隷のお前にこんなことを話しても仕方なかったな」
そう付け加えてヨシュアはそっぽを向いた。

「…何とかしたいと思っているだけでは何も始まりませんよ?」
少年が小さい声で、しかしはっきりと言った。
ヨシュアは少年の方に向き直った。
その顔は見る者をゾッとさせるような氷の笑顔で歪んでいた。
401ヨシュア伝:04/07/31 00:19 ID:W7+QRZIY
「お前は若いな。人間の力の限界にまったく気付いていない。
 こんな大きな組織の中で一個人が何をできるというんだ?」
「力が及ばないと思ったら妹さんを放置するのですか?」
「……」
「僕には分かりますよ。あなたはまだ諦めてはいない。だから悩んでいるんだ」
「……お前は、本当に思ったことを平気で口にするんだな」
ヨシュアは泣きそうな顔で笑った。この少年の瞳は人の心の奥に入り込んで来る。
「一つ忠告しておくが、もう少し遠慮して物を言わないとお前本当に死ぬぞ?」
「僕は目的を果たすまでは死にません。死ぬわけにはいかないんだ。
 必ず生きてここを出てみせますよ」
少年は柔らかく微笑む。不思議なヤツだ、とヨシュアは思った。

その瞳は鋼の不屈の意志と、底知れぬ慈愛の両方を併せ持っている。
その瞳で見つめられると、自然と彼を信じてみたくなってしまう。
ヨシュアは心に一筋の光が射すのを感じた。
「それじゃ、失礼しますよ」
少年はその場を後にした。結局彼が何をしにここへ来たのかは皆目検討もつかなかった。
後に聞いた話によると、彼は視界に入った人に話しかけずにはいられない性分らしい。
やっぱり変なヤツだな、とヨシュアは思った。

402ヨシュア伝:04/07/31 00:22 ID:W7+QRZIY

次の日目覚めたとき、ヨシュアはいつもよりも体が軽いと感じた。
この日は何かが起こりそうな予感を彼は感じていた。

手早く準備をすませて持ち場へと向かう。フロアの奥が何やら騒がしかった。
恐らく監視員がまた奴隷を鞭で打っているのだろう、と思いヨシュアは
眉をひそめる。マリアが無事でいるかどうかが心配になってきた。
様子を見に行こうと歩き出したとき、奥から若い兵士が顔を引きつらせて
駆け込んできた。
「ヨシュアさん、大変です!!」
まだ新米の彼は悲鳴のような声をあげる。
「何だ、騒々しい。少しは兵士らしく落ち着いたらどうなんだ?
 どうせタチの悪い監視員が奴隷を痛めつけているのだろう?」
そういうヨシュアも実は落ち着いていない。急ぎたい気持ちが彼を早口にさせる。
「い、いえ、詳しいことは分かりませんが二人の奴隷が
 監視員に対して殴りかかったとのことです! とにかく来てください!」

ヨシュアは傍らに控えていた兵士と、報告に来た兵士の二人を連れて
急ぎ足で現場に向かっていた。監視員に殴りかかるなどという
無茶をしそうな人間をヨシュアは二人しか知らなかった。
現場に着き、その光景を目にしてヨシュアの目は思わず大きく見開かれた。
403ヨシュア伝:04/07/31 00:24 ID:W7+QRZIY
やはりというか、予想通りというか二人は黒髪の少年と緑髪の少年だった。
だが、彼を驚かせたのは予想とは違って、
鞭を操る監視員をその二人が翻弄していることだった。
どんなに鞭を受けても二人は怯みもせずに真正面からぶつかっていく!
ヨシュアは彼らの周りに薄いオーラのようなものが見えることに気がついた。
守備力増強の魔法スカラだ、とヨシュアは気付く。多少の傷も黒髪の少年が
ホイミの魔法でたちどころに癒してしまうし、鞭の届かない遠距離から彼らは
バギだの、メラだのを投げつける!監視員が怯んだその瞬間に緑髪の少年の
回し蹴りが決まって、監視員は地面に倒れ伏した。

ヨシュアは思わず唸った。兵士ほどではないにしても監視員はかなりの
戦闘能力を持ち合わせている。それを重労働で疲れきっているはずの二人がいとも簡単に
倒して見せたのだ。彼らは恐ろしいほどの闘いの才能に恵まれている!
戦闘を終えた二人は地に崩れ落ちていた一人の少女を抱きかかえた。
それを見たヨシュアの顔がサッと青ざめる。
(マリア―――!!)
ヨシュアは駆け出したくなる衝動に駆られたが、上辺はあくまでも冷静に
歩き寄って行く。
「これは一体何事だ!?」
倒れていた監視員は慌てて起き上がって背伸びをした。
「はっ、この男たちが反抗的だったもので」
「…この女は?」
「はっ、あの、この女も反抗的だったもので…」
いい加減なことを言うな、とヨシュアは苦々しげに思ったが
それでも顔色を変えずに言った。
「まぁ、いい。この女を手当てしてやれ。それからこの男たちを牢にぶちこんでおくんだ」
「えっ? 今なんと?」
「…二度言わせる気か?」
「いえいえ、とんでもない!」
傍らに控えていた二人が慌てて動き出す。監視員に歯向かった二人も
あえて逆らう気は無いらしく、大人しく兵士についていった。
それを見たヨシュアは一人頷いた。
404ヨシュア伝:04/07/31 00:25 ID:W7+QRZIY

マリアの治療を終えた後、ヨシュアは事情聴取をするという名目で
彼女を取調室に連れていった。ここなら誰の邪魔も入らない。
兄妹は実に一年と数ヶ月ぶりにゆっくりと話をする時間を手に入れたのだった。
「怪我は… あぁ、とりあえずは大丈夫そうだな、良かった」
ヨシュアは安心して胸を撫で下ろす。
「確かに私は大丈夫だけど、それよりもあの方たちの怪我を治療してあげて!
 あの方たちは私をかばってあんな無茶をしたのだから…」
マリアは非難めいた声をヨシュアにぶつけた。
「彼らは回復の呪文を使える。あの程度の傷なら自分たちでなんとかするだろう。
 それよりも、聞きたいことがある」
「聞きたいこと…?」
「今日お前を助けてくれたあの男たちは、いったいどういう人間なんだ?」
「どういう… って言われても困るけど…」
マリアは少し顔を赤らめた。
「すごく優しい人たちよ。まわりの方々を元気付けようといつも明るく振舞っているし、
 疲れて動けない人たちを一生懸命にフォローしようとするし…」
「あぁ」
ヨシュアは頷いた。それは彼も知っていた。
「…もう十年もここで働かされているみたい。アベルさん、あの黒髪の方だけど…
 あの人は光の教団にお父様を殺されてしまったの… そのときのお父様の最期の
 言葉を信じて行方不明になったお母様を捜しだしたいのだそうよ」
「……」
ヨシュアは言葉を失った。つい最近どころではない。十年もの長きに渡って
彼らはここで生きてきたのだ。十年前といえば丁度自分たちが光の教団に入団した頃。
その間彼らは、この地獄の中で生きる希望を失わずにひたすら前を向いてきた…
405ヨシュア伝:04/07/31 00:27 ID:W7+QRZIY
「兄さん、あの方たちを牢から出してあげて!でないと殺されてしまうわ!」
ヨシュアは首を横に振った。
「牢から出したところで、結局彼らは教団に消されるだろうな。
 彼らの存在は教団には危険すぎる」
「そんな…! 兄さんはいつからそんな冷酷な人間になってしまったの!?
 あの人たちには力がある。強い意志もあるわ。無駄死にさせては駄目よ!」
ヨシュアは薄く笑った。

「早とちりするなって。俺だって、彼らをこんなところで死なせる気などない。
 もちろんお前もだ」
「え…?」
「さっき思いついたんだ。ここから生きて逃げることの出来る方法を。
 明日になれば彼らは殺されてしまう可能性が高い。だから今日中に全てを終わらせる。
 マリア、ついてくるんだ」
そう言うなりヨシュアはさっさと歩きだす。
「ちょっ… 待ってよ兄さん!」
マリアは慌てて駆け出した。

取調室を出たヨシュアはゆっくり、堂々と牢のある部屋に向かって歩き出す。
「ヨシュアさん、お疲れ様です!その女は結局どうするのですか?」
ヨシュアの後輩にあたる兵士が話しかけてきた。
「あぁ、とりあえず牢に入れておくことにしたよ」
それを聞いたマリアの顔に不安げな色がうかぶが、「心配するな」とでも言うように
ヨシュアは片目をつむってみせた。
406ヨシュア伝:04/07/31 00:30 ID:W7+QRZIY
しばらく歩いて牢のある部屋の目の前にたどりついた。
思ったよりも順調にことが運びそうだな、とヨシュアは安心したように
微笑んだその次の瞬間、物陰から男が一人現れた。
その装いから上級兵士であることが分かったのでヨシュアの頬を汗が流れる。
上級兵士が普段こんな所にいることはありえないからだ。
彼は兵士の秘密会議でヨシュアの心を壊そうと提案した張本人サディルだった。

「よう、ヨシュア。その娘をどうするつもりだ?」
「は、はい監視員に対して不逞な行動を働いた罪を問うため牢に入れておきます」
「ふ〜ん、とてもお兄さんのする行動とは思えねぇなぁ、あー?」
ヨシュアはビクリと肩を震わせた。
「逃がしてやるんだろ、死体を流すための樽でも使ってよ」
バレている!ヨシュアはサッと剣の柄に手をかけて身構えた。
小声でマリアに下がっていろ、と囁いた。マリアは祈るように手を組んで、
蒼ざめた表情のまま後ずさりをする。
「あのジジィを殺させるまでは順調だったはずなんだがねぇ、
 やはりあの二人のいる現場に配置したのがマズかったかな?
 まぁ、あれは俺の責任じゃねぇし」
「ベラベラとよく喋る…」
ヨシュアが小さくつぶやくも彼は全く意に介さない。
「逃がさねぇよ、俺のオモチャ。絶望して狂いまくって、
 心ぶっ壊れたいい顔俺に見せてくれよ…」

サディルも自慢の愛刀を鞘から抜く。みなごろしの剣。
世界に数本しかないと言われる曰く尽きの魔剣。
407ヨシュア伝:04/07/31 00:31 ID:W7+QRZIY
「いくらいい剣を持っているとはいっても、あなたが私に勝てますか?」
「そりゃ、俺のセリフだ。俺ははっきり言って強いぜ。あのマレックよりもな。
 まわりにほどほどの実力しかないように思わせているのは、単にその方が楽だからだな」
サディルは刀身をベロリとなめた。
彼の全身から異様な気が流れ出すのをヨシュアは感じた。
剣の魔力にのみこまれているのか、それとも魔剣を従えているのかは分からない。
ただ、その言動がハッタリでないことだけは分かった。

「時間があまりない。こちらから行かせてもらいますよ…」
ヨシュアは低くつぶやくと剣を振りかぶった。
「ハッ!」
ヨシュアの打ちおろしが鋭く唸る。だがその一撃をサディルは楽々と受け止めた。
「この程度か?」
サディルは笑いながらヨシュアの剣を押し返して、剣を振り回した。
次の瞬間みなごろしの剣から邪悪な衝撃波が発生する。
ヨシュアはそれを受けて剣を落としそうになったが何とか耐えた。
広範囲に広がる衝撃波は壁に大きなヒビをいれる。
「なんて技だ…」
「技じゃねぇよ。これがこの剣の力だ。振るだけで周り全て破壊出来るんだぜ」
ヨシュアの心に焦りが生じる。闘いが長引けば他の兵士が駆けつけかねない。
それにこの衝撃波にマリアが巻き込まれてしまう危険もあるのだ。
408ヨシュア伝:04/07/31 00:33 ID:W7+QRZIY
そんなヨシュアの胸の内を見透かしたかのようにサディルが笑った。
「安心しな、闘いはすぐに終わらせてやるよ。これは俺の独断による闘いだからな。
 ただし、俺の狙いはお前ではねぇ、お前の妹の命だ…!!」
「なっ!?」
「言ったろ、俺はお前の絶望する顔が見たいんだ。
それが娯楽の少ねぇこの神殿での俺の唯一の楽しみさ」
「……狂っている。お前のようなヤツにマリアは殺させない!!」
「守ってみな、お前が必死になればなるほど俺の楽しみは増す」

二人の剣が激しくぶつかりあい、火花が散る。
速さはヨシュアの方が、状況判断能力と武器の性能はサディルの方が上だった。
筋力は互角。総合能力ではサディルに分がある。

ヨシュアはサディルの斬撃を受けきるも、
そこから発生する衝撃波がヨシュアの全身に傷を刻む。
ヨシュアが切り込もうとしてもその度にサディルは間合いをはかって
それをさせてくれない。そして遠距離から衝撃波を放ってくる。
このままではなぶり殺しだ、とヨシュアは思った。しかしどうすることもできない。
衝撃波を食らってヨシュアの体がグラリと揺れたが、すぐに体勢を整え剣を構える。
遠くから見守っていたマリアが両手で目を覆った。
409ヨシュア伝:04/07/31 00:35 ID:W7+QRZIY
「なかなか頑張るじゃねぇか、そうでなきゃ面白くないがな」
「…負けるわけにはいかないんだ。マリアを含めて彼らの目は死んでいない。
 彼らは必ずやこの世界を変えてくれる。それだけの力を持っている!
 だから俺は彼らを死なせやしない。未来への希望を繋ぐことが今の俺の使命だ!」

―――そうだろ、マレック?

「へぇ、妹だけでなくあの二人も逃がす気でいたのか。
 自分の出来なかったことを他人に押し付けようなんざ手前勝手もいいところだぜ!」
「押し付けるんじゃない、彼らは自分の意志で何かを成し遂げる。
 俺にはそれが分かるんだ。だから… だから今は俺が闘う!」
ヨシュアは剣を構えてサディルに向かって突進を仕掛けた!

「…うぜぇな。本当に諦めの悪いヤツだ。
 それがお前の面白いところだが度が過ぎるとマジでうぜぇ!」
サディルが剣を振り回す。衝撃波が乱れ飛び、ヨシュアの体に無数の傷がつくが
ヨシュアは怯まなかった。怯まずにサディルの懐に入った。
「なっ…!?」
渾身の力をこめた強烈な体当たりを食らわせ、サディルを後方に吹っ飛ばす!
「やっと攻撃が当たったな」
ヨシュアが荒い息をつきながら言う。サディルは苦痛に顔を歪めながらも立ち上がった。
「一発当てたくらいでいい気になるのは早いぜ…」
「いや、さっきあんたはマレックよりも自分が強いだなんて言っていたけど、
 あんたはマレックには絶対に敵わない。そして俺にも勝つことは出来ない」
「なんだと?」
サディルは憤怒の表情を浮かべてヨシュアを睨みつける。
「分からないか?俺とあんたとではこの闘いに懸ける物の重さが違いすぎるんだ」
「そんな、お子様思考の野郎に俺を倒せるか?」
言葉は強気だが、しかしサディルは肩で息をしていた。
410ヨシュア伝:04/07/31 00:37 ID:W7+QRZIY

みなごろしの剣。持つ者に絶対の破壊の力を与えてくれる剣。
だが剣は持つ者に大きな代償を強いる。防御能力の剣への献上。
それは攻めに徹しているときには無類の強さを発揮するが、
一度でも攻撃を受けてしまうと、大きな痛手を受けるという弱点を持っていたのだ。

ヨシュアは右足を強く踏み切り、一足飛びでサディルの間合いを制圧した。
「…もう、終わりにしよう」
「グッ…」
そしてヨシュアの渾身の一撃が放たれた―――


411ヨシュア伝:04/07/31 00:39 ID:W7+QRZIY


「マリア、大丈夫だったか?」
「いえ、私よりも兄さんの方が… ごめんなさい…」
ヨシュアは笑ったが、マリアは辛そうにうつむいた。
「…時間がない、早く行こう」
ヨシュアがマリアの手を取って歩き出そうとしたその時。

「待て!! お前は俺をこのままにしておくのか!?」
後ろからサディルの声が響いた。彼は太ももを切り裂かれ、地に倒れ伏していた。
ヨシュアがゆっくりと振り返る。
「なぜ俺を殺さねぇ? 俺を生かしておけば、
 密告されてお前は今度こそ死ぬことになるぞ…?」
マリアはハッとしたように顔を上げてヨシュアの横顔を眺めた。
「あんたを殺そうが殺すまいが結果は変わらないさ、きっと」
「どういうことなの、兄さん?私たちは一緒にここを出るのではなかったの?」
マリアがヨシュアに詰め寄る。その顔は今にも泣き出しそうであった。
「いや、それは…」
ヨシュアは口ごもった。
「何だ、妹には話していなかったのか。 お嬢さんよ。
 もし、そいつが死体遺棄水路を使う気なら、脱走する人間の他に
 外から操作をする人間が必要になるんだ。つまりヨシュアは逃げることは出来ねぇ」
「そんな…」
余計なことを、と言いたげな表情でヨシュアはサディルを睨みつけた。
412ヨシュア伝:04/07/31 00:40 ID:W7+QRZIY
「どうだ、ヨシュア。また俺を殺したくなってきたろう?」
サディルが声を立てずに笑ったが、ヨシュアは首を横に振った。
「俺はもう無意味に人の命を奪うのは御免さ」
口ではそうは言ったが、本当のところはどうなのか彼自身もよく分からなかった。
人を殺したくないという気持ちがあるのは事実であったが、
同時にサディルに対して抑えようもない憎しみがあるのもまた事実。
ただ… 自分が人を殺すところをマリアには見られたくなかった。

ヨシュアはまた牢に向かって歩き出した。
サディルは何かを考え込むような顔をしていたが、ふいにポツリとつぶやいた。
「牢屋の脇に倉庫がある。そこにあの黒髪の男の荷物が保存されているはずだ」
「何?」
「なぜかは知らねぇが、上の連中があいつの荷物だけは入念に
 チェックしていたみたいだからよ」
「……」
「勘違いするなよ、俺はお前のことが大嫌いだ。けど、お前の言うところの希望が
 どこまでやれるのか少しだけ興味が湧いた。それだけさ」
少し間を置いてから、ヨシュアはサディルに一礼をした。

413ヨシュア伝:04/07/31 00:43 ID:W7+QRZIY

じめじめした牢獄を歩いていると、自然と気が滅入る。
いくつか角を曲がり、彼らが収容されている牢にたどりついたとき、
既に彼らは油断無く身構えていた。そんな彼らを見てヨシュアは微笑んだ。
「そう警戒するな。妹のマリアを助けてくれたそうで本当に感謝している。
 私はマリアの兄のヨシュアだ」
そう言ってヨシュアは牢の鍵を開けた。
二人は驚いたような顔をして顔を見合わせる。
ヨシュアの後ろからマリアがおずおずと前に出てきた。

「先程は助けていただいて本当にありがとうございました。
 …兄からお二人にお話があるそうです。どうか聞いてください」
緑髪の少年が両手を頭の後ろで組んで笑った。
「人を牢屋にぶち込んでおいて話を聞いてくれも何もないと思うけどな。
 まっ、おかげで楽が出来たし、マリアさんの頼みだからな。
 いいぜ、話だけは聞くよ。ちなみに俺はヘンリー。こっちはアベルだ」
「ヘンリーにアベル」
ヨシュアはその名をしっかりと頭に刻み込むように繰り返す。
「単刀直入に言おう。これはまだ噂だが、神殿が完成すれば奴隷たちは
 秘密を守るために皆殺しにされるかもしれないんだ」
「フン、連中が考えそうなことだな」
ヘンリーは顔をしかめた。アベルの瞳にも怒りの炎が宿る。
414ヨシュア伝:04/07/31 00:46 ID:W7+QRZIY
「お前たちは他の奴隷とは違う。生きた目をしている。そのお前たちを見込んで頼みたい。お願いだ、妹のマリアを連れてここから逃げてくれ!」
「兄さん…」
「…だとよ。どうするアベル。お前に任せるぜ?」
「逃げてくれって言いますけど、方法はあるんですか?」
ヨシュアは頷いて脇にある水路のようなものを指差した。
「この水路は奴隷の死体を流すためにあるもので、海につながっている。
 そしてここに浮かべてある樽は死体を入れるために使うものだ。
 気味が悪いかもしれんが、その樽に入っていればたぶん生きたまま出られるだろう」
ヨシュアは樽を手の平で叩きながら説明した。
「…確かにまたと無いチャンスですよね。
 でも他の人たちを置いて、本当に僕たちだけで逃げていいのだろうか」
アベルは思いつめたような表情でつぶやいた。

「…もし、自分たちだけ逃げるのを申し訳ないと思うなら
 ここを出た後、仲間を集めて準備を整えてからまた来てくれ。
 お前がどうしようが、結局奴隷は消されてしまうんだ。
 それなら、お前という希望に全てを託して逃がした方が残る皆のためにもなる。
 私はそう信じている…」
「アベル。お袋さんを捜したいんだろ? 俺たちは生きなきゃいけないんだろ?」
「アベル。頼む!」

目を閉じ何かを考え込んでいたアベルはしばらくして顔を上げた。
その瞳にはもはや、一片の迷いも無かった。
「わかりました。僕とヘンリーで責任を持ってマリアさんの命をお預かりします!」
「…ありがとう!」
四人はがっちりと握手をした。
415ヨシュア伝:04/07/31 00:48 ID:W7+QRZIY
樽にアベルとヘンリーがまず乗り込む。
そのときにヨシュアはアベルの昔の荷物を手渡した。
「さぁ、マリア。お前も早く…」
言いかけて止まる。マリアは泣いていた。
「兄さん。本当にここで… お別れなの?」
「あぁ…」

急がなければならないのに、時間が無いはずなのに二人は固まってしまう。
ヨシュアは急に思いついたようにポケットから古ぼけた銀色のペンダントを出して
マリアの首に下げた。
それはイラサがマレックに渡した物であり、マレックの形見でもある物だった。
「このペンダントがきっとお前を守ってくれる」
「そんな形見分けみたいなこと言わないで… これは兄さんが持っていてよ!」
ヨシュアは苦笑した。樽の中の二人も唇をへの字に結んで兄妹を見守る。
「そうだな。じゃあ、次に会ったときに俺に返しておくれ」
ヨシュアはそこで後ろを向いた。まぶたの裏が熱くなり、ギュッと目を閉じる。

「兄さん! 私は兄さんの妹で本当に良かったと思う! だから… だから…」
そこでマリアは言葉に詰まった。ヨシュアは振り返って妹を
抱きしめてやりたくなる衝動に駆られた。 
……しかし出来なかった。
それが別れの決意を鈍らせてしまうことは明らかだったので。だから言う。
416ヨシュア伝:04/07/31 00:53 ID:W7+QRZIY
「あぁ… 分かってる。だから… 行くんだ。
 行ってお前自身の手で幸せをつかみ取れ! それが俺のお前への願いだ…」
『最後の願い』とはあえて言わなかった。
マリアは何も言わずにヨシュアの後姿を見つめていたが、
しばらくして大きく頷きゆっくりと樽に乗り込んだ。
それを確認してヨシュアは樽にしっかりとフタをする。

―――この先、自分に待ち受けるのは死

「よし、固定終わったぞ、中は大丈夫か?」
「えぇ、少し狭いけど問題ないと思います」

―――自分を生かそうとして闘いの中に散った父やマレックは
   死を覚悟の上で行動する自分を見たら怒るだろうか、それとも
   一人の男として認めてくれるだろうか

「それじゃあ流すぞ、一度流れたら海に出るまでにとてつもない圧力がかかる。
 しっかりと歯を食いしばっていてくれ」

―――だが、誰が何と言おうとも、俺の心に後悔はまったく無い。
   俺がやれることは全てやったのだから。
   だから、三人とも… どうか強く生き抜いてくれ……!


             ヨシュアは タルにからめられた
             クサリの鍵を外し 願いをこめて
             タルを流れに押しだした!


417ヨシュア伝:04/07/31 00:54 ID:W7+QRZIY
エピローグ




 そして十数年の月日が流れた―――







418ヨシュア伝:04/07/31 00:56 ID:W7+QRZIY

狭い通路を三つの影が走りぬく!
悪魔神官やエビルスピリッツ、その他大勢の屈強な魔物が
この影の主に襲いかかった。
しかし次の瞬間、魔物は巨大な氷柱に閉じ込められ、
強烈な電撃に焼き尽くされ、唸りをあげる竜巻にその身を刻まれた。
騒がしかった通路が急に静かになり、静寂があたりを支配する。
ふぅ、と溜息をつきながら影の主が姿を現した。
紫紺のターバンを頭にまとう涼やかな瞳の青年アベルと、
その子供たちであろうか、勇気と優しさを併せ持つ顔立ちをした愛らしい少年少女。
男の子の方は、あの天空の鎧を身につけていた。

互いの無事を確認しあい、彼らは通路の奥に進もうとしたが、
アベルが途中ではたりと足を止めた。
「お父さん? どうしたの?」
二人の子供が不思議そうに尋ねる。青年は何も言わずに黙りこくっている。
子供たちが彼の視線を追い、ある一点を見てアッと声を上げた。

そこには何者かの白骨死体が転がっていた。
アベルは片膝をついて、その骸骨の脇の壁に書かれてある文字らしきものを見た。
かすれて読みにくかったが、かろうじて読めないこともない。
419ヨシュア伝:04/07/31 00:57 ID:W7+QRZIY

         マリア… 兄さんはもうダメだ。
         せめて… せめてお前だけでも幸せになってくれ…

アベルはうつむき、拳を握り締めて床を殴った。奥歯をギリッとかみ締める。
「……ヨシュアさん」

「…この人、お父さんの知り合いなの?」
横から男の子が震えた声で青年に問いかけた。
そんな彼に気付いたアベルは、痛いような泣きたいような笑顔になって
二人の子供の頭を順番に撫でた。
「この人はな、お父さんの命の恩人なんだ。この人がいなかったら
 もしかしたらお父さんは、お前たちに会えなかったかもしれないんだ」
二人は言葉を失った。しばらくして女の子がアベルに寄り添うようにしてつぶやいた。
「お父さん、生きていてくれてありがとう…」
アベルは二人の子供を抱きしめた。小さい体ではあったが、二人の体は温かかった。
二人は確かに彼に心の温もりを与えてくれた。

「さぁ、行こう。この人のためにも僕たちは負けるわけにはいかない」
「おぉーー! お母さんが待ってるんだもんね!」
男の子が走りだす。女の子はそれを慌てて追いかけて行った。
アベルは何かを誤魔化すように笑いながら二人の後を追う。そして途中で振り返った。

「ヨシュアさん、マリアは今ヘンリーと幸せに暮らしています。
 そして、あなたの無念は今日僕たちが必ず晴らす。だから安心して眠ってください…」
紫紺のマントをひるがえし、キッと前を見据えてアベルはその場を後にした…


この日、諸悪の根源である光の教団は教祖イブールと共に崩壊を迎える。
その僅か数ヶ月後には彼らによって魔界の王は滅ぼされることになるのであった。

420ヨシュア伝:04/07/31 01:00 ID:W7+QRZIY

人生とは単なる偶然の繰り返しなのだろうか、
それとも何か大きな存在によって導かれることでなされる運命なのだろうか。
ほんの些細なきっかけ、大きな転機が人の人生を二転三転させてしまう。
ヨシュアがイラサたちと出会い、光の教団に入団したこと。
大切な人たちを失い、また奪ったこと。そしてアベルやヘンリーに出会ったこと。
その全てが重なることがなければ、世界に平和が戻ることは無かったのかもしれない。

この激動の時代の中、幾つものの命が生まれそして土に還っていった。
生きるということは、その生きた証をこの世に残すことそのものを指すのかもしれない。
程度の差はあっても人は必ずその生きた証をこの世に残す。
それは時には人々の記憶に残ることもあるかもしれない。
また歴史から忘れ去られることも数え切れない程にあるだろう。
だが、今ある世界の姿そのものが、全ての命の生きた証といえるのではないだろうか。

ヨシュアは死んだ。

しかし、魂が天に召され、歴史がヨシュアを忘れようとも世界の姿は彼を忘れない。
滅びの恐怖から解放されたことで人々の顔に溢れる笑顔と希望、
紡がれていくささやかな日常の日々、その全てが
ヨシュアがこの世に生を受け、精一杯生き抜いた "生命の証"だった―――


                                                  (完)
と、いうわけでヨシュア伝はこれで終了です。
この短い期間に大量に貼ってしまってすみませんでした。
職人様方の次の更新を楽しみにしつつ、
また、一読者に戻りたいと思います。

そして、もしこの話を読んでくださった方がいたら
本当にありがとうございました!
>>421
乙でした。
すげーですよアナタ!!あの姉妹だけの話をここまでいい話に膨らませて、しかもGJ!な話にしてしまうんですから。
知られざる伝説を読みあさった漏れとしては感動モノでした。
会話も地の文もぞっとするほど巧いし、キャラクターもしっかり息してるし……減点材料が見つかりません。
次回作にも期待いたします!!
>>421
 乙でした! 激しく面白かったです。ヨシュアの最後の戦いを
描かずにあのシーンに持って行くのが良かったです。他にもうまい
なあと思うシーンは沢山あるのですが、終わりへの流れが一番ぐっと
来ました。
 良い作品を読めて幸せでした。
424華龍光臨:04/08/01 23:13 ID:Oh+bHsJ2
>>421
乙です。
こちらも負けてはいられんな。
425ヨシュア伝の作者…:04/08/03 01:31 ID:Jg6/9IO8
おぉ… 読んでくれた方いたんですね。
いや、マジで感謝です!ありがとうございます!
というのも、貼っているときは読んでくれている方がいるかどうか
メチャクチャ不安だったもので…
書き手にとってのレスの大きさというものを
身をもって実感しました。

>>華龍光臨
更新楽しみにしてますよ!
426華龍光臨:04/08/04 01:00 ID:MFnh4eYQ
ゼボットは迷っていた。
森中をめぐらせているからくりから既に劉備たちがやってきていることはわかっている。
やり過ごすことはできよう。いくらでも。
ただ、恐らくそのたびに不在だと信じて疑わない手紙が送られてくるだろう。
「…」
いつものようにやり過ごすのならばからくりを発信させればいい。
しかし、彼の中で何かが語りかける。
「出会ってみても、面白いか。」
なんとなくそう思った。
なんとなく、なのか?これは必然なのか?
彼自身、よくわかっていない。

「どうやら、在宅中のようだ。」
ほっと胸を撫で下ろす。
「面会に応じてくれればよろしいのですが。兄者。」
「そうだな。」
相手が面会に応じる意思がなければ問題にならないのである。
馬を下りて庵へと歩み寄る。
入り口にはいつものあのからくりが番をしていた。
「む。」
からくりにはいつものボードが握られていた。
「なんて書いてあるんだ?」
松明を近づける。
"劉備殿 お待ちしていました。自分、ゼボットはただいま研究の最中です。"
ボードをそのまま読み続ける。
"私の寝室にてお待ちください。研究の合間を見てそちらにからくりを贈ります。"
「…ふむ。」
ボードに空きがある。故意に開けてあるのだろう。
からくりがペンとボードを差し渡す。
どうやら、ゼボットは何か試しているのだろう、とそこにいた劉備以外は思ったことだろう。
427華龍光臨:04/08/04 01:02 ID:MFnh4eYQ
図面を眺めるゼボット。二足歩行の技術はかなり高度であり、彼の力を持ってしてもなかなか理解しがたいものだった。
現に様々な理論を組み立て、図面に表現しようとすると別の問題にぶつかる。
軽く伸びをする。
そのとき外の様子が目に入った。
じっと扉の前で立っている劉備の横顔が見えた。
…どうした?入らないのか?
怪訝そうに接客をしたからくりに問う。
からくりはボードを差し出した。
"研究の最中ということを露知らずに勝手に参った次第であります。寝室でお待ちになられるようにと申されましたが、それには及びません。貴殿の研究がひと段落着くまでここでお待ちいたします。"
寝室はプライベートの空間だ。
そこで待つということはたとえ許可があったとしても気が引けるというものか。
「フン、ならばいつまで待てるのか観察させてもらおうか。」
しめたものだ。どのように追っ払うか考えていたところだ。
相手の意思によって引き返してくれるのならそれのほうが都合がいい。
一時間でも二時間でも振りをしてやろう。

428華龍光臨:04/08/04 01:04 ID:MFnh4eYQ
どれくらい時間が立ったのだろう。
夜はすっかり更けてランプの光とからくりによる光が辺りを包む。
茶を飲んで設計図から目を離す。
「どれ、そろそろ帰った頃だろう。」
少し、カーテンを開けて外の様子を伺う。
我が目を疑った。
先ほど見た位置と一歩違わずに扉の前に立っているではないか。
連れのものはベンチに座っているというのに。
劉備だけは扉の前で待ち続けていた。
「おい。」
からくりを側にやる。
「どのくらいやつはあそこにいるのだ?」
からくりがペンを走らせる。
五時間と。あの位置から微動だにせず、待ち続けていた。
「…しつこいやつだ。」
からくりにいまだ研究は難航して時間がかかるということを伝えて追っ払おうか。
思い立ったら即実行。
適当に書いてからくりに渡す。内容など覚えてはいない。
429華龍光臨:04/08/04 01:06 ID:MFnh4eYQ
…馬鹿な。
劉備の返答を受け取ったゼボットの顔には驚愕の色が。
"からくりの研究は私たちの知恵では及ぶところではございません。貴殿が納得のいくまで研究に打ち込んでください。それまでいくらでも待ちましょう。"
あからさまな嘘を信じて五時間も待っただと。
そしてあからさまな嘘も信じて待ち続けるだと。
自分はとうの昔に捨てた、信じる心を劉備は持っていた。
信じて、信じて、裏切られて、悲しんで、それでもまだ人を信じて。
それが、劉備だった。
これ以上の時間稼ぎは無駄だ。そう悟った。
それからまもなくゼボットは劉備を庵の中に入れた。

関羽たちは外で待たされることとなった。
「よくもあそこまで待つ気になるわね。」
はぁ、と溜息をつく。いや、それが彼だと重々承知なのだが。
「諸葛亮殿を迎えたときもそうでしたな。」
「ああ、ただ、あいつみたいに敵意は持ってはいなかったんだけどな。」
あからさまな敵意を相手はむき出している。
だが、それならば彼は「待て」と言ったのだろうか。
すぐさま追い返せばよかったものの。
敵意はある。しかし、彼なりに何かあるようだ。

「ならば、今、出て行けといったならば出て行くのか?」
「…民を思えば心苦しいですが、立ち去ります。」
まただ、為政者でもないのに「民」「民」と。
その次の言葉が出ない。
そのようなまっすぐな瞳を向けるな。
ああ、混乱してきた。
なぜだ、何故だ。ナゼダ。
「今の私たちでは知略に足りず、守ることすらままならずにいる有様です。…民は安寧を願っています。ゼボット殿の力をお貸しください。」
…そうか。思い出したぞ。
430華龍光臨:04/08/04 01:18 ID:MFnh4eYQ
「ゼボット様、私はこの世界が平和であるように願っています。」
遠い安らぎの記憶。
「エリー、それは難しい問題ですよ。」
馬を駆って海岸まで散歩に行ったときの事。
「わかっています。ですが、つい先日ダイアラックという町が魔物の襲撃によって滅んでしまったという話を聞きました。一体どれほどの人たちが犠牲になったことでしょう。」
「人づてに聞いた話ですと、マーディラスとラグラーズとの戦争が勃発したとのこと。嘆かわしいことです。」
「ええ、いつも苦しむのは国民というのに…。既に和睦を勧めるよう使者は出してあります。こんなことはやめさせなければなりません。」
ゆっくりと瞳を閉じる。
「ゼボット様、貴方の力、私に貸してください。」
「もちろんだよ。」
結局和睦を勧める使者はマーディラス王によって切り捨てられた。
エリーは泣きに泣いた。
それならば今度は自身自らが和睦の使者となった。
周囲の大反対を押し切っての決断だった。
さすがに斬られはしなかったが和睦を勧める声は届かなかった。

「…」
「…」
いつの間にかゼボットは元の世界へ戻されていた。
「…それだけか?」
劉備は何か喋っていたことだろう。
しかし、自分は聞いていなかった。
「はい。」
自分が聞いていなかったとは思っていないことだろう。
重い空気が辺りを包む。
「外が騒がしいようだ、見てくるぞ。」
ゼボットが立ち上がる。確かに何か声が聞こえる。
「兄弟たちが?何があったんだ?」
抑え役の関羽がいるのに、この騒ぎよう。何が起こったのだ?
劉備も立ち上がる。
劉備がすごくいい感じですね
スレ的には大長編より短編(中編)集形式の方が面白いかもね。
数日おきですが楽しく読ませてもらっています。
作者の皆さん、ありがとうございます。
434華龍光臨:04/08/06 20:48 ID:tgFPH9xq
「三人とも、何が起こったというのだ?」
「あ、兄者!」
戦闘が起こっているわけじゃないようだ。
「それが、いきなりからくりの兵がやってきたのよ。」
それを聞き劉備の表情が険しくなる。
「このようなところまでやってきているというのか。」
「だけどよ、兄者。動きがトロくてよ、二、三歩迫ったかと思うと動かなくなってしまったんだ。」
三人に囲まれて動きを止めたからくり兵がある。その手に握られていた武器は関羽たちによって取り除かれている。
どうやらあちこち錆付いている模様だ。
「なんだ。一体。」
「ゼボット殿。」
劉備の背後からゼボットが顔を出す。
皆、声の主のいる方向へと向き直る。
「これがフォーリッシュに攻めてきたからくりです。風雨に長い間晒されたのか錆付いているようですが。」
「どれ。」
ゼボットがからくりの兵を観察する。
「フン、錆付いているだけのようだな。」
それだけ言うと、踵を返して小屋に向かう。
「…からくりも被害者であるということだ。ただ、操られているだけだ。」
435華龍光臨:04/08/06 20:50 ID:tgFPH9xq
「…」
「一般大衆はおろか、王ですらそれに気づかずに、ただ、憎むだけだ。」
歩を止めて向き直る。
「とっととそれを私の研究室に運べ。風雨に晒されて朽ちてしまっては叶わんからな。」
「なんだと!」
カチンと来た張飛を劉備が宥める。
「よい、張飛。」
四人がかりで丁寧に研究所内部に運ぶ。
「くれぐれも間違えるな。これ以上来られると迷惑だから、とっとと終わらせたほうがいいのでな。」
劉備の顔が明るくなる。
「それでは!」
「ああ、行ってやるよ。フォロッド城に。」
劉備はぐっと両の手でゼボットの手を握った。
保守
437名前が無い@ただの名無しのようだ:04/08/09 22:50 ID:dt+Vsj7e
たまにはage
このスレの存在を新参者にも知らしめたい。
とは言っても二大連載のうち一つは
最近とまっちゃてるわけだけど
ヨシュア伝読ませていただきました。
なるほど、チョイ役の彼にもこのようなエピソードがあったのですね、と妙に感動しました。
トルファこないなぁ…
クソコテのクソ小説よりトルファの続きまだ?チンチン(AA略
保守
443名前が無い@ただの名無しのようだ:04/08/17 10:38 ID:oEzC66tm
クソコテのクソ小説よりトルファの続きまだ?チンチン(AA略

よくこんな奴のいるスレで書く気になるな。
正直凄いよ
俺は華龍光臨に期待します!
気がつけば
高屋敷久美土門スレが落ちていた
難民避難はここでいいの?
>>446
 あまりに主旨の違うスレなんじゃないかと思うけど。
落ちたなら、新しくスレたてればいいだけじゃないの?
448華龍光臨:04/08/22 02:20 ID:aAFYWW2k
ゼボットの協力は約束された。
あのからくりの兵を、修復をして人間を襲わないようにし、対からくりの兵に対する対策を施すと言っていた。
帰る途中でトラッドと出会った。どうやら彼も説得に行く途中だったようだ。
協力を約束されたことを伝え、別れる。
どうやら、どっちにしても会いに行くつもりだったようだ。
「後はゼボット殿の到着まで我らが耐え切ればよい。」
明確な期日はわからないが、なるべく早く来ると聞いていた。
後は信じて待つだけだ。

主なき王の間で卓を囲んで現状について話し合う。
といっても、トラッドはいなく、他の指揮官もフォーリッシュ陥落の際に負傷、もしくは死亡して、趙雲と劉備たちだけである。
椅子などない。絨毯の上に座り込んで話し合う。
国王は地下室へ非難して王としての執務を今、そこで行っている。
「兵士たちに支給される兵糧については申し分ありません。」
「それはよかった。アルスのおかげだな。」
あの運転できるからくりを利用してフォロッド城、フォーリッシュ間を何度も往復。
通常より少ない人手、時間でほぼすべての食料を運べたのは大きい。
駄馬や軍馬さえも欠乏しているこの状況。
普通に運んでいたらとても運びきれるものではなかっただろう。
「その他の薬や装備品といった物資に関しても問題はありません。」
戦と聞いてやってきていた商人たちに声をかけて徐々に薬草などを買いだめしてきた甲斐がある。今も商人たちがここに駐在している。
国の未来に投資すると言って大量の薬草を提供してくれた。
いつか聞いた言葉、物に投資するのも商い。そして、人に投資するのも商い、と。
449華龍光臨:04/08/22 02:28 ID:aAFYWW2k
「ですがさすがにこの落ち込みようは問題です。」
士気はすこぶる低く城の兵士にはあきらめの空気が漂っている。
城の兵舎は負傷者と避難民で溢れかえり、まさに足の踏み場のない状況。
「うむ。兵舎を見回ったが誰も彼も士気が落ち込んで戦どころではない。」
どうしたものか。フォーリッシュを奪い取ったからくりの兵が攻めてこないなんてことはない。遅かれ早かれ来る。
「翼徳が戻ってくるのを待とう。」
フォーリッシュがどうなったかわからない。まずはそれを確かめる必要があった。
「兄者!」
張飛が階段を駆け上がってきた。
「どうした。何か動きがあったのか?」
「フォーリッシュにからくりの野郎が全く見当たらないぜ!」
「なんと!?」

すぐさま城を飛び出し、偵察に行った。
町を囲んでいる城壁は修復が行き届かなかった箇所以外は健在。
西門を潜って城壁内部──
砦は崩壊。
壁が崩れた家屋。
倒れた櫓。
なんとか家としての機能を果たせそうなものはまさに数えるほどしかなかった。
「…恐らくここまで破壊させてはからくりの兵を置くような場所がないということでしょうか。」
「確かにここまで破壊しつくされると風雨をさえぎるものはないな。」
そして。
「兄者、あれを見てくだされ。」
関羽の指差した先には。
「もう使わないつもりか?」
放置された数々の衝車。東門に取り付いたままの井欄。
持ち帰るような気配は全くない。
450華龍光臨:04/08/22 02:39 ID:aAFYWW2k
ふと気づいた異変。何者かが視界の隅でうごめいた。
「…?何だ?あの影は?」
町外れの倉庫。
そういえば、少女の亡骸を棺に入れたのは…
「趙雲、急ぐぞ。雲長たちは見回って魔物がおかしな動きをしていないか確かめてきてくれ。」
「わかりました兄者。」
それだけ言うと劉備は駆け出した。

劉備がたどり着くと魔物たちが棺を運び出そうとしている最中だった。
「魔物たちめ、何をするつもりか…!」
踏み込んでスライムベスを両断する。返す刃でテールモンキーも切り裂く。
「劉備殿!」
援軍が来たと察した魔物たちは棺を放置して逃げ出した。
「ああ、趙雲、あの程度なら問題ない。」
「恐らく既に、こちらの死体をかなり運び出してしまったのでしょう。」
「うむ。だが、これ以上の魔物の動きを食い止めねば。」
よくよく見ると魔物の影がちらほら。
からくりの兵ではないのは幸いか。
遠くで張飛の怒声が聞こえてきた。魔物を見つけたようだ。
451華龍光臨:04/08/22 02:41 ID:aAFYWW2k
あれから昼になるまで魔物の討伐に明け暮れた。
統制は取れていないがひたすら数が多い。
アルスたちも途中で加わり、その後続々と城の方から兵がやってきて掃討を行った。
すべては奪い返せなかったが一部取り返した。
「…死体を何に使うというんだ?あいつらは。」
奪い返した棺を埋葬しようと張飛が深く穴を掘る。
「さあな。だが、奪われた人たちには気の毒だが…少しでも取り返せてよかった。」
劉備は小さな棺を下ろす。子供のものだ。
掃討が終わった後趙雲の指揮下においてフォーリッシュに陣が敷かれた。
それは偵察部隊のための陣であり、敵の足止めも図ったものだった。
「そういえばアルスたちはどうした?」
「井欄やら衝車を見て回っているって話よ。使えそうなものを探すんだって。」
「そういえば、連弩があったな。使えたらよいのだが。」
なんにしろ、アルスならば取り返しのない失敗は絶対に起こさない。
その言葉が届いたのか、まもなく劉備たちに敵方の井欄や連弩の作動に成功したという知らせが入ってきた。
保守
453華龍光臨:04/08/30 11:35 ID:uhoQf+xt
その夜。それほど強くはないが雨が降り出してきた。
櫓代わりに井欄、壁代わりの衝車を配置して──もちろん、からくりはできる限り取り除いて──守りを固める。
井欄には作動する連弩を配置する。結構な数が集まったはずだ。
連弩の矢も集まった。
本来なら罠を作って相手を待つ…はずだが、雨の日では作業はできないし、何より気力がない。
この雨は恵みの雨になるだろうか…?
「兄者。休まねぇのか?」
元気な兵たちが休んでいる王の間ではなく食堂でホットミルクを飲みながら所在無く虚空を見つめていた劉備に声をかける。
「翼徳こそ。今日は兵士が十分な数、見張りについている。眠ったらどうだ?」
「できねぇな。…今日はたとえ酒をかっ喰らったとしても眠れる気配がしない。こう、鼻の奥がむずむずするんだ。きっと雲長兄者も起きているだろうぜ。」
「呼んだか?翼徳?」
「ほらな。」
関羽が劉備の隣に座る。
「兄者が起きている…ということは。」
「思うことは一緒だろう。私も少しだが闘いの中に実を置いたから、感覚が蘇ってきた。」
ぐっと握りこぶしを作る。
454華龍光臨:04/08/30 11:36 ID:uhoQf+xt
「敵は何らかの動きを起こす。この雨の中を。」
「からくりではないだろうぜ。」
うむと頷く。
「だが、普通の魔物が統制されているとは思えない。昼のあれを見る限りでは自由に動いている。」
「奇襲を仕掛けるなら統制がとられていないと無意味。…となると、相手は何らかの駒を持っているのではないだろうか?兄者。」
関羽が持ってきた地図に駒を並べる。
「まさに、命令を確実に実行するまさに手足となるような駒が。」
からくり以外で…だ。
…?頭の中がザラつく。
「…引っかかる。自分はどこかで見た。確実に見た。でなければ違和感は生じない。」
「兄者、何かわかったのか?」
「ああ。そんなに遠くない過去だ。今日、今日の出来事内にその"駒"はあった。」
何かとても嫌な予感がする。
そんな時だった。
「敵襲―――!」
城が一気に目が覚めた。
455華龍光臨:04/08/30 11:38 ID:uhoQf+xt
「敵の数は?」
「二百ほどです。」
報告を受けた趙雲が考え込む。雨で多少確認がし辛かったがおおよその数はこれくらいだろう。とのこと。攻城兵器はなし、らしい。
こちらは一般市民含めた戦力ならばたとえからくりの兵といえども軽くあしらえる。
含めなくとも勝利は可能だ。
五百かそれ以上の兵力なら…危ないことだろう。
アルスたちもなれない連弩を構える。
アルスたち射手は敵が城に近づくまで射続け、劉備たちは白兵戦を行う。
後は城壁に取り付いたり城門に迫ろうとする敵を撃破していくとのことだ。
「…引っかかりますな。ここを落とせば敵対勢力はなくなるとはいえ、敗色濃厚な戦をするものであろうか。」
「単にいたぶるのがやつらのやり方、というのもあるだろうな。」
「それはあるな。絶望のうちに滅ぼす。恐らくは。」
絶望、そして恐慌、混乱。恐らく相手の狙いはこのようなものだろう。
こちらがもし勝ったとしても絶望的に士気を萎えさせる…
もう逃げる場所はない。
やるしかない。
「連弩射手!斉射の構えだ!射よ!」
趙雲の号令が響く。
闇夜に矢が放たれていく。
456華龍光臨:04/08/30 11:39 ID:uhoQf+xt
「…?どうした、兵の様子が変だ。」
明らかに動揺している。
先ほどまで整然としていたが突如陣が乱れ始めた。
撹乱を喰らったか?
「アルス!一体どうしたというのだ!」
劉備が大声を上げる。
城壁右翼からアルスが顔を出す。
「相手は…!」
くっと唇をかむ。
「相手は奪っていった死体を怪物として繰り出してきたのです!」
アルスは個人の判断で連弩を扱えないガボに偵察に向かわせた。
それで判明したのだ。
腐った死体たちの軍勢が迫る。
今まで共に戦ってきた仲間、生活してきた家族、結婚の約束をしていた恋人が敵として襲い掛かる。
城は大恐慌に陥った。

なんだか切ない展開ですね…
続きがものすごく気になります。頑張ってください!
クソコテ死ね
459クソコテ撲滅委員会:04/09/05 07:06 ID:lWBoVg+k
クソコテ死ね
460華龍光臨:04/09/08 12:20 ID:Rxn0QvR/
迷いはない。
剣を振るい、矢を放つ。
一月前親しくしていたものが敵味方に分かれて剣を交える。
悲しいことだがよくあることであった。
だが、これとはわけが違う。
守るべき人を守って戦った人が、守るべき人に襲い掛かるのだ。
一般民はもちろん、鍛え抜かれた兵士でさえ動揺してしまう。
それでも、剣を振るう。
…こんなこと望んでもいないことだろうから。
武器なぞ持っていない。若い兵士の腐った死体を斬る。
「雲長は戦ったことがあるのか。」
「はい。兄者。新野を攻めたときに。」
「…そうか。すまなかった。」
辛かったことだろう。兵士も、自身も。
恐慌が恐慌を呼び城中がパニックに陥る。
城門は開きっぱなしで中に腐った死体たちが雪崩れ込む。
一部は城壁に上ってしまい、武器を持てない女性や子供たちが逃げ惑っている。
「…兄者。打開策はございますぞ。」
「何?雲長。何かいい案はあるのか?」
「新野を攻め取ったとき、しかとこの目で見ましたぞ。」
461華龍光臨:04/09/08 12:22 ID:Rxn0QvR/
戦場から離れたところ。
四つの影が遠目からフォロッドを眺めていた。
「うひょひょ。多少梃子摺ったが結局勝ち戦じゃな。」
「この姿になってからは毎日が勝ち戦。全く、ハーゴン様様だな。」
腐った死体ではあるだろうが何か様子が異なる。
「ある程度知恵があったようだが、無限に繰り出される兵の前では勝ち目はないわ。」
「わしらが出て行ってもよさそうだったな。」
見覚えがある服。この世界の物ではない。
「何者か!御主等があの軍勢の武将であるか!」
怒声が響く。
そこの腐った死体四人は声の主を見る。
「そうだとも、我が名は金旋。」
「余は趙範よ。」
「ワシ、韓玄だけど。」
「そして俺は劉度様だ。」
知る人ぞ知る。
泣く子も笑う、荊州弱四英傑のなれの果ての姿だった。
462華龍光臨:04/09/08 12:23 ID:Rxn0QvR/
「…金旋、韓玄、劉度、趙範…死道について、人の道を外したか。」
「ひょうえ?聞き覚えのある声!」
「な、何者だ!」
四人の背後からさらに大きな影が。
「おい!お前らがあれを操ってるんだな?」
「そ、それがなんだ?おまえらごとき、この金旋様が…」
「ほう、御主等ごときが某を討てるとでも思ったのか。」
最後に現れた巨漢。
その姿に思わず韓玄はしりもちはついた。
その姿と声はいかに腐った脳みそであっても見覚えはあった。
「げぇっ!!関羽!」
「な、何でこんなところに…」
関羽がずいっと前に出る。
「我ら兄弟、世の民の平穏を脅かすものあれば何処にも現れる。桃園の誓い、たとえ死を以てしても、断ち切るなどできはしまい。」
「へ?」
間抜けな声が重なる。
「ということは…もしかして。」
きゅるっと四人は振り返る。
463華龍光臨:04/09/08 12:29 ID:Rxn0QvR/
「この張飛様に勝てるなぞ思っているのか?」
指をバキボキ鳴らし四人に迫る。
「ひ、ひええ、もしかして!」
最初の声の主を見る。
「劉元徳。ここにあり。覚悟されよ。」
剣を構えて突き出す。
「人の道に背いた罪、地の底で悔いるがいい。」
「へへ、こいつらをぶっ飛ばせばフォロッドは収まるわけだな。しかし、こんな奴らがこんなことができるとは思えねぇが。」
「大方、やり方だけを教えてもらっただけだろう。だが、それもここまで、ということだ。」
三人で囲いその輪を縮める。
数で勝っている韓玄たちではあるが実力が雲泥の差。月と鼈。ピンクパールと馬の糞。
いや、馬の糞に失礼だろう。
「操られているものたちのためにも手早く倒す。」
「覚悟はよいな!」
戦場に四人の弱弱しい叫び声が響き渡った。
もちろん、フォロッドの戦闘の音にすべてはかき消されてしまった。
フォロッドを襲っていた腐った死体の軍団が動かなくなったのはそれからしばらくした後のことだった。
464クソコテ撲滅委員会:04/09/11 07:56:28 ID:O3GU6GKl
クソコテ死ね
465一之瀬:04/09/11 09:17:15 ID:gc6l3FuL
その後の世界

神をも超えたミルドラースを倒し世界は平和を取り戻したかの様に見えた・・・・
しかし、平和は2年余りしか続かなかった・・・
ラインハット兵[大変です!ヘンリー様]
ヘンリー[ん?どうした?]
大慌てで兵が謁見の間に駆け込んで来た
ラインハット兵[神聖サンタローズ軍と名乗る武装団体が領内のオラクベリーを襲撃しているとの事です]
ヘンリー[サンタローズ・・・・確か焼き払われた・・・あそこか・・・・]
ラインハット兵[・・・10数年前・・・命令により我々が焼き払いました・・・]
ヘンリーは深刻そうな感じでうつむいた
ヘンリー[・・・・その生き残り・・・か、しかしなぜ今頃?]
ラインハット兵[魔物が消滅したため容易に移動ができるようになったためでしょう。]
ヘンリー[・・・我々にも責任がある、何か要求があれば答えるしかないだろう・・・]
ラインハット兵[要求は・・・王の首と国民全員の命・・・と]
ヘンリー[何だその要求は!]
無差別虐殺が要求と知ったヘンリーは本当に人の仕業か疑わしくなった
ラインハット兵[いかがなさいましょう・・・]
ヘンリー[沈静部隊を結成した後オラクベリーに突撃させろ!]
ラインハット兵[ハッ!かしこまりました。]
ラインハット兵は、また駆け出して行った
466一之瀬:04/09/11 09:30:37 ID:gc6l3FuL
オラクベリー戦

沈静部隊結成後、カジノで有名な娯楽都市オラクベリー周辺にテントを
作った・・・
ラインハット兵[失礼します]
指揮官[入りたまえ]
ラインハット兵[では・・・敵総数は50人・・その中にはメラミを使える者もいると・・・]
指揮官[なるほどそれなりの強さのようだな]
ラインハット兵[どう攻めましょう?]
指揮官[うむ、あの町は後ろにも出入り口がある・・・そこから一気に押せ]
ラインハット兵[殺さずにとの事ですかが・・・]
指揮官[・・・気にするな、死体は森にでも捨てておけ]
ラインハット兵[かしこまりました]
467名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/14 16:59:05 ID:1BgFxFqP
このスレの奴ら、キモスギー
小説家になれない落ちこぼれどもめー。

自殺したほうがいいと思うよ。
468名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/18 11:25:17 ID:3k1pB3eh
保守します!
469クソコテ撲滅委員会:04/09/18 13:05:46 ID:l8QhqTKP
クソコテ死ね
470クソコテ撲滅委員会:04/09/20 02:43:00 ID:rGwW+tiU
クソコテ死ね
471名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/23 20:10:10 ID:IGKoet5r
小説書くのは、本職ではなく副業が基本。
4725勇者 ◆kRQJPvbZZQ :04/09/23 21:11:26 ID:Pz57yGbz
>>467
このスレで小説家めざしている人なんていないと思うよ
473クソコテ撲滅委員会:04/09/26 12:45:59 ID:dHtSzf7V
クソコテ死ね
474名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/26 23:29:17 ID:EqtSellO
僕の名前はユーシャ。勇者だからユーシャ。安直だ。
それは、僕が16歳になる誕生日の出来事だった。
眠っている僕を、母が優しく起こしてくれた。
おかしいな、普段だったら「いつまで寝てんだよ、このボンクラがッ!」
ぐらいの勢いで、枕を顔に押し付けられるのに・・・。
まあ、いいや。今日は何かいいことが起きそうな予感だよ。

「今日はとても大切な日、ユーシャが初めてお城に行く日だったでしょ」
「え、聞いてないよ。お城なんかより、僕、学校に行きたいなぁ・・・」
「そ、それはね、お前の頭が・・・ゴホゴホッ、と、とにかくいいのよ」

え、僕の頭がどうしたの?
僕は普通の男の子と違うの!?
475名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/26 23:30:00 ID:EqtSellO
立派なお城だ。
きっと市民の血税が惜しみなく使われているのだろう。
玉座に座った王様が、進み来る僕を見つける。

「誰?」
おいおい、話が違うぞ。
しばらく噛み合わない会話をした挙句、父の名前を出したらやっと思い出してくれた。
「ああ、オクデラの息子ね」
「オルテガです」
「そうそう、オクラホマ」
もういいや。『オ』しか合ってねぇし。

「君のおとーさんは、大ナメクジとの激戦の末、肥溜めに落ちて亡くなったそうだね」
初耳だよ。だとしたら我が家の恥だ。『父さんはお星様になった』って母さんは言ってたのに。
「父の仇を討つため、大ナメクジ退治に出たいそーだね」
何ですか、その地味なクエストは。僕、そんな事、一言も言ってないんですが。
「まあ、頑張れや」
投げやりですね。
476名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/26 23:56:58 ID:tcKQW3hM
僕は旅の仲間を探すため、ルイーダの酒場へと入った。
薄暗い店内はガランとして人気はなく、カウンターにただ一人、厚化粧のオバさんが立っている。
「あら、珍しいわね」と、彼女は僕を見てタバコをふかす。

「すみません、友達が欲しいんですが・・・」
「・・・ハァ?」
いけない、いけない、つい本音が出てしまった。

「ごめんなさい、仲間です。仲間が欲しいんです」
「今さらDQVかい、やめときな。住人の連中に馬鹿にされるよ」
すみません、僕もやりたいワケじゃないんです。

「昔は繁盛してたんだけどねぇ、今じゃこの通りさ。
 PS2でリメイクでもされれば、いくらか活気も出るんだろうけど・・・」
何を言ってるんですか、この人は。僕、16歳なのでわかりません。
477名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/26 23:58:00 ID:tcKQW3hM
「まあいいさ、久しぶりの仕事さね。どんな仲間が欲しいんだい?」
「そうですね、強い人がいいでしょうか」
「それなら空手3級の、元気のいい遊び人がいるよ」
「・・・・・・」

「や、やっぱり、魔法の使える人が・・・」
「魔法使いになるのを断念した、ちょっと内気な遊び人なんかどうだい?」
「・・・・・・」

「商売の上手な人・・・」
「結婚詐欺から足を洗った、ちょっとキザな遊び人」
「・・・・・・」

・・・遊び人しかいないんですね。
478名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/30 18:24:51 ID:x/38JWyU
続き期待保守
479名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/30 21:40:43 ID:2E1YhgMb
僕は仕方なく、遊び人を仲間に加えることにした。
「ミネア、マーニャ。お仕事よぉ〜!」
「はぁ〜い」という声がし、ギシギシと階段を鳴らしながら、例のコスプレをした中年女が2人現れた。
・・・勘弁してくれ。

「やめます」という僕に、2人は「ええー!」と非難の声を浴びせる。
若干太り気味のマーニャが言った。
「坊や初めてなんでしょ、それなら経験豊かなお姉さんがいいと思うけどなぁ〜」
黙れ。僕が頼んでるのは、そーいう仕事じゃない。
そもそも、お前は『お姉さん』という呼称が通用する年齢なのかと小一時間(ry

ルイーダに聞いたところ、僕と同年代の奴は一人しかいないということだった。
「アムロちゃん、いらっしゃ〜い」
そのネーミングに、僕は再び寒いものを感じる。
降りてきたのは、想像通りのチャパツ、ルーズソックスのアムラー女だった。

「アムロ、18歳でぇ〜っす!」
いや、明らかに違うから。少なくとも20代後半なのはわかってるから。
でも、仕方なく彼女を仲間に加える。

「あー、コムロファミリー入りてー」
背後でしたその声に、僕は若干の殺意を抱いた。
ああ、そのファミリーなら、もう崩壊してますよ。
480名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/30 21:41:46 ID:2E1YhgMb
日が暮れてきたので、僕は実家へと帰る。
アムロを連れた僕を見て、母さんは顔面蒼白になった。

「ユーシャが、ユーシャが生まれて初めて、家に友達を連れて来たわっ!」
うるさい、黙ってください。この小屋、放火しますよ。

その夜、食卓に出された豪華な食事に、アムロは明らかに引いていた。
食卓には僕とアムロ、母さん、そしておじいちゃんが座っていた。
おじいちゃんは点滴をつけながら、プルプルと体を震わせている。
母さん、いくら歓迎してるからって、家族総出というのはどうなんでしょう?
よだれ垂れ流しのおじいちゃんは、どう考えても逆効果だと思うんですが。

「嬉しいわぁ、やっとユーシャにも友達ができたのね。しかも女の子だなんて!」
引きつった笑いを浮かべたアムロは、明らかにそれを否定している。

「そうよね、おじいちゃん」
おじいちゃんはプルプル震えながら、「かッ・・・!」と詰まるような声を出す。
そして、ひと呼吸置き、高々と叫んだ。

「看護婦しゃァァ〜〜〜ん!!!」

そして倒れた。

家の前に止まる救急車。
何事かと、次々に集まってくる野次馬。
おじいちゃんを乗せた救急車は、サイレンを鳴らしながら走り去った。
野次馬で混雑する中、アムロが僕に告げる。

「ごめん、もう、限界だから」

アムロがパーティーから外れました。
481名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/30 21:43:12 ID:2E1YhgMb
すまん、ここまでが限界だ。
この先はストーリーがわからん。
482名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/01 00:17:44 ID:wGsR67Nb
幸薄いユーシャと、もはや存在自体を忘れられている大ナメクジに乾杯!
483名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/01 18:18:24 ID:sX2mZKCh
はーい、今日はお疲れでした!
またよろしくね。それではっ(^_^)/~

送信ボタンを押して、ベットに寝転がる。
今日の合コンは最悪だった。
いくら行き遅れのあたしでも、あんな連中と付き合う気はない。

手を伸ばして、留守電をチェックする。1件。
『姉さん、どうしてるの? たまには連絡してよ。
 ちゃんとご飯食べてる? 部屋の掃除もちゃんとしなくちゃ・・・』

ブチッと再生を停止させた。
うるさいなぁ、わかってるよ。そんなの。

妹のミネアは、5年前に結婚した。
今は一児の母。子育ては大変だっていつもぼやいてる。
旦那はマイナーな占い師。
夫婦そろって占いマニアか。おめでてーな。

一方のあたしといえば・・・、聞くなよ。
ええ、そうです。いまだに独身でございますよ。
はいはい、今年で三十路に入りますが、何か?

あたしの名前はマーニャ。
かつて一世を風靡したDQWの、導かれし者たちのひとりだ。
484名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/01 18:19:46 ID:sX2mZKCh
あの頃は楽しかった。
あたしは人気者だったし、何より若かった。
今ではとてもじゃないけど、あんな水着みたいな服は着れない。

いや、プロポーションが崩れたワケじゃないのよ。
その辺は努力してるから。でも、ちょっと横腹のお肉が気になるかな。

最近、DQWがリメイクされたけど、あれに出てるのはあたしじゃない。
新しいマーニャ。いわゆる2代目のマーニャちゃんだ。
確かに可愛い娘だけど、当時のあたしほどじゃないね。

鏡を見ながら、口紅を塗る。
今日はエンドールで同窓会。
初代FCの、導かれし者たちの同窓会だ。

みんな元気かな?
あれからどれくらいたったのだろう。
ふと、あたしは勇者のことを思い出した。
エメラルド色の綺麗な髪と、キラキラとした希望に満ちた目。

ちょっと、好きだったよ。
クリア後の打ち上げで、そっと電話番号を渡したけど、あなたは連絡してくれなかったね。

ちょっと胸が痛んだ。これが、ときめきってやつだったっけ?
ときめきがどんなものだったかなんて、もう、忘れちゃったよ。

よし、決まった!

口紅を置き、鏡の前で、思いっきりの笑顔を作る。
まだまだ衰えてない。可愛いよ、マーニャ。

あたしは外に出て、キメラの翼を大きく空に投げ上げた。
485名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/02 02:06:48 ID:YaiGNkf5
エンドールの酒場の2階。そこを貸し切って同窓会はおこなわれた。
ちょっと緊張しながら扉を開けると、そこにはミネアとトルネコさんの姿。
トルネコさんの髪や髭には、若干白いものが混ざっている。老けたねぇ・・・。

トルネコさんはメンバーの中でも、一番の出世頭だ。
何てったって、『トルネコの大冒険』でソロデビュー。しかもそれが大当たりしたんだから。
この会を開いてくれたのもトルネコさん。メンバーとの連絡も、マメに取っているらしい。

「おお、マーニャ。久しぶりだねぇ」
「はい、お久しぶりです」
「珍しい、遅刻しなかったのね」
「うっさいよ、ミネア!」

ミネアはちょっと太っていた。
幸せ太りってやつかしら。ちくしょう。
それからしばらくは、メンバーの話題で盛り上がる。

「ええっ、アリーナとクリフトは来ないの?」
「ああ、あの二人は離婚調停中だからね・・・、いろいろと忙しいようだよ」

原因はクリフトの浮気らしい。
当時はアリーナにぞっこんで、浮気なんてしなさそうに見えたけど・・・。
まあ、結婚すると変わるものなのね。
486名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/02 02:07:42 ID:YaiGNkf5
そこで扉が開き、小太りの男性が入ってきた。
まるで見覚えがない。部屋でも間違えたのかしら?
「どちら様で?」トルネコさんが聞くと、彼はペコリと礼をして答えた。

「僕、ホイミンです」
「ああ、ライアンの・・・」

そういえば、ライアンの仲間でホイミスライムがいたっけ。
人間になれたのよね、確か。

「ライアンさんが来れなくなってしまったので、僕が代理で来たんですが」
「おや、ライアンはどうしたんだい。病気かね?」
「いえ・・・」

ホイミンはしばらく沈黙し、覚悟を決めたように言った。
「ライアンさんは・・・、幼女に悪戯をしようとしちゃいまして、今、服役中なんです・・・」

部屋の空気が白くなり、しばし一同は固まった。
情けない。導かれし者たちの中から、犯罪者が出るとは・・・。
487名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/02 02:09:14 ID:YaiGNkf5
ホイミンを加え、あたしたちはしばし語らった。
すると突然、扉が開く。勇者かしら、と期待したが、入ってきたのは酒場の主人。
主人は抱えたテレビモニターを机に置き、その電源を入れる。
そこに映ったのは、ベットに横たわるブライさんだった。

「すまんのぅ、入院中なもんで、こういった形で参加させてもらうわい」
鼻に管を通したブライさんが、モニターの向こうで言った。

「それは初耳ですな。大丈夫なのですか?」
「ふむ、昨日急に倒れてしまってのう、年は取りたくないもんじゃて・・・」
「お年なんですから、体は大事にしませんと」
「そうなんじゃ、そうなんじゃが・・・」

ブライさんの額に血管が走る。
「あのクリフトめがッ、姫様を裏切るような真似をしくさってからに。
 どれだけワシが苦労して、二人の結婚を取り持っ・・・もッ、も、もおおぉぁおぁぁッ!!」

モニターの奥から『ブライさん、落ち着いて!』『誰か先生を!』という声が聞こえた。
そしてモニターがプツリと消える。

大丈夫かしら、天国に導かれることがなければいいけど・・・。
488名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/04 00:44:03 ID:z0b+9Fg6
騒然とする中で、再び扉が開いた。
店員のようなので、あたしは彼にお酒の注文をする。
すると彼は慌てた様子で言った。

「やだなぁ、マーニャ、僕だよ。僕、勇者」

髪の色は確かにエメラルド。でも、その頭頂部はかなり薄い。
牛乳ビンの底のようなメガネをかけている。
何より、体重が倍増したかのように太っていた。

「えーと、ビール4本と・・・、あと、サラダを・・・」
「だから僕だって、勇者だよっ!」
すみません、言っている意味が理解できません。

「ああ、勇者じゃないか。久しぶりだね、こっちにどうぞ」
トルネコさんが彼を招き入れ、その勇者は椅子に座った。

「いや〜ごめんなさい。仕事があって遅れちゃって・・・」
ハンカチを取り出し、勇者は脂ぎった額の汗を拭い始める。
やめてくれ、あたしの思い出を汚さないでくれ・・・。
489名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/04 00:45:24 ID:z0b+9Fg6
出席者もそろい、乾杯の音頭がとられた。
みんなそれぞれ、思い思いの話を始める。
そんな中、あたしはいたってローテンションだった。

気をつかったのか、ミネアが話し掛けてきた。
「姉さん、どうしたのよ?」
「別に・・・」
「期待してたの? 勇者に」
「べ、別に・・・」
「まあ、何と言うか、アレじゃあね・・・」
アレ言うなよ。確かにアレだけど。

「でも、性格は変わってなさそうよね。純粋そうだし」
「・・・・・・」
あたしはホイミンと楽しそうに会話する勇者を横目で見た。
確かに、素振りや仕草は変わっていない・・・ような気がする。
それに素材はいいのだ。痩せたら男前なのだ。
頭頂部だって、マープすればどうにか・・・なる。

ならば、あたしがダイエットさせてやる。地獄のスペシャルメニューで。
てか、あの状態で生き長らえるくらいなら、いっそのことあたしが殺す。
死んでくれ、あたしの美しい思い出のために!
490名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/04 00:46:15 ID:z0b+9Fg6
会話に入り込むきっかけを掴もうと、二人の会話に聞き耳を立てた。
「勇者さんは今、何されてるんですか?」
「ああ、フリーターだよ」
フリーター・・・、ま、まあいい。まだ若いんだし。
「休みとかは何やってるんですかー?」
「う〜ん、外にはあんまり出ないよね。部屋でゲームとか?」
・・・ギ、ギリギリだな。ここはインドア派ってことにしとこう。
「どんなゲームですか?」
「エロゲー」
・・・・・・。

二人は同趣味らしく、以後は大いに盛り上がっていた。
○○タソとか、萌えーという単語が盛り込まれた会話は、正直読解できない。
ねえ、君たち、何を言っているの?
わかんない、わかんないよ。
君たちは、どこに導かれてしまったの?

あたしは脳内のお花畑で、そこを飛ぶちょうちょをひたすら追いかけた。

「きゃあぁー、姉さん、姉さん、どうしたの!?」
いつの間にか、あたしは倒れていたらしい。
涙が頬を伝っている。

誰か、あたしの心臓を止めてくれ。
491名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/04 22:56:09 ID:7TDL2lKO
楽しいす、続きカモン
492華龍光臨:04/10/05 17:35:16 ID:w2kfS7bY
悲惨な状態だった。
何処からかすすり泣く声が聞こえる。
─戦いは終わった。
残ったのは操り糸が切れた腐った死体。
皆、疲れ果てていた。
だが、操られた死体を葬ろうと次々と動き出した。城の目に届く場所に所に葬れば、二度と同じ事態にはなるまい。
個々の墓を作る時間はない。
共同墓地として、葬られるはず…だった。
唯、一つを除いては。
「ん?」
「どうかしましたか?劉備殿。」
「いや、あの墓は誰のもの、かと思ってな。」
共同墓地の隣に個別の墓が立てられた。
アルファベットで名前が書かれており、劉備たちには読むことができない。
凝った物であるが恐らく、この墓石は戦闘前に作ったものではないだろうか?
ただ、どちらにしろ、この状況でこの待遇。
普通の身分の人間ではないということが推測できる。
民に慕われた為政者か将軍…といったところか。
「誰かは存じておりませぬがこの御方は海岸側に墓があったと聞いています。民に慕われ、善政を心がけたと。」
「ふむ…」
魔物によって利用されたのだろう。
劉備たちは墓の前に跪き祈りを捧げた。
493華龍光臨:04/10/05 17:37:38 ID:w2kfS7bY
「限界が近い。」
「悔しいけど、な。」
張飛も少し暗い顔をする。
兵士たちに士気の欠片もない。
城門を守るはずの兵士もいない。
王の間に怪我人全員が集められ、入りきらない者たちは通路に眠る。
望みは今いないトラッドとゼボット。
彼らの切り札を信じて待つほかない。
劉備たちは兵士の代わりに城門に立ち警備の任についた。
今日はこれ以上の敵襲はなかった。

翌日。
雨は止み、まぶしい限りの日の光が地面を照らす。
張飛は偵察に行っている。関羽は兵の鍛錬中。
そして自分は趙雲と二人で来る時を控えての罠の作成。
──最も、人手が圧倒的に足りないためと遅々して進まないわけではあるが。
日が頂点に達した頃張飛が戻ってきた。
…からくりの兵が集結している。
日が頂点に達する頃にはここにやってくることだろう。
その知らせを聞いて城中が震え上がる。
もう防げない。
もう駄目だと言う声も上がる。
「待つしかない。ゼボット殿が来るまで…」
「…そうですな。どれほどの兵力を投入してくるかわからない以上こちらも迂闊には動けないですな。」
今度は紛れもない、からくりの兵。攻城兵器は一切ないと張飛から聞いた。
もはや正攻法で押しつぶせるだろうとわかっているのだろう。
「正門を死守する。趙雲にそう伝えてくれ。」
「わかりました。兄者。」
494名前が無い@ただの名無しのようだ:04/10/05 19:06:42 ID:Ck5B+ZaJ
>>483-490
ハゲワロタ。
パラレル(・∀・)イイ!!
マーニャに幸あれ…続き読みたい。
495クソコテ撲滅委員会:04/10/05 20:52:44 ID:8GasEFPL
いい加減首吊って死ね
496DQVwithW:04/10/05 21:51:20 ID:bvHh7ZX+
>>474-490の続き

どこからか、ロマンスの神様が聞こえる。
・・・ってか、あたしの着メロだな、これは。
目を開けると、頭痛がした。

いつの間に帰ってきたんだ?
ちゅーか記憶ねぇや。昨日の。
今、血まみれの勇者のビジョンが浮かんだけど、どーでもいいよね。
何か血痕のついたバットが部屋の隅に転がってるけど、見なかったことにしてね。
あたしはとりあえず電話に出てみた。

「はーい」
『すみません〜、こちら、ルビス人材派遣会社ですが〜』
「ハァ?」
『マーニャさん、また冒険に出る気ないですかぁ?』
「冒険・・・、ですか・・・」

もう、そういう年じゃないのよね。
そういう世界に出るのは、現実逃避なのよね。
わかってる、わかってるけど・・・
あたしは断れなかった。
497DQVwithW:04/10/05 21:52:18 ID:bvHh7ZX+
『仲間を作れない勇者がいまして〜、良かったらマーニャさんにお願いしようかと』
「はい・・・、う〜ん、でもねぇ・・・」
『お願いしますよ〜。あ、ちなみに世界はVなんですが』

Vかよ!
あれって、3秒で仲間が作れるやつじゃなかったっけ?
どんな奴なんだ、そこの勇者は!?
ひょっとして、営業不振で潰れたか? ルイーダの酒場。

「考えておきます。はい・・・後日連絡を」
あたしは電話を切る。
そして、ぼんやりする世界の中で考えた。

とりあえず、埋めとこう。あのバット・・・
498DQVwithW:04/10/05 21:55:00 ID:z8DsHwoT
こんにちは、勇者のユーシャです。
王様に会ってから、1ヶ月がたちました。
ええ、冒険になんか出てません。大ナメクジって何ですか?

こないだ、ルビス様って人から電話がありました。
『いい加減、ストーリー進ませてくださいよ』って言ってましたが、
僕は『うんこ』と言って切ろうとしました。

そしたら『仲間を派遣する』とか言うんです。しかもWのマーニャちゃんらしいんです。
あのエロカワイイ人ですよね、水着みたいな服着た。僕は即OKしちゃいました。

で、今僕の目の前にいる人がマーニャちゃんらしいんですが。
面影はあるけど明らかに年増なんです。
水着じゃなくて、ローブに三角帽子の魔法使いルックなんです。
はっきり言って、年齢的にその魔法使いルックも痛いです。
そのお姉さんは、僕を見て言いました。

「ねえ、この家にユーシャさんって人いるかな?」
「僕ですが」
「えーとね、君の仲間になるように言われて来たんだけど」
「チェンジ」
僕はドアを閉めました。
すぐさまドアが蹴破られました。
499DQVwithW:04/10/05 21:56:08 ID:z8DsHwoT
そんなわけで、僕は正座してます。
目の前には、腕組みをしたマーニャさんが立ってます。
「あたしね、OL辞めて来たのよ。もう戻れないワケよ。
 大人しく冒険に出てくんないかなぁ〜? そうするとお姉さん嬉しいんだけど」
「その年で冒険か。おめでてーな」
マーニャさんのハイヒールが、僕の顔面を踏みつけました。

「どう、冒険に出る気になった?」
「はい、前向きに善処していきたい今日この頃です」
「もう一発喰らっとく?」
「出ます」

僕は引きずられるようにして、外へと連れ出されます。
これって拉致ですよね?
誰か、ポリスメン呼んでください。
500DQVwithW:04/10/05 22:00:00 ID:kANx+47V
GBのDQV探してるけど、どこにも売ってない・・・
どっかにストーリーのわかるサイトってないですかね?

>>492-493
三国志ですか。意外な発想ですね。
暇を見つけて読んでみますねー。
501DQVwithW:04/10/07 20:55:49 ID:8uZd/J1K
僕たちはアリアハンの町から外に出ました。
そういえば、町の外を歩くなんて何年ぶりのことでしょう?
普段、家からすら滅多に出ない僕にとっては、少々レベルの高い行為です。

でも、マーニャさんはさすがですね。
出現するスライムをずんずんと踏み潰して進んでいきます。
さすがはレベル50だけのことはあります。

「でも君、根暗そうだよねー。彼女とかいないでしょ」
「僕、16歳ですから」
「何言ってんのよ。最近の子供は進んでるのよ。
 童貞が許されるのは小学生までよね。キモーイ、キャハハハ」
「未婚が許されるのは25歳までらしいですね。あはははは」

「メラゾーマ!」
僕は豪快に炎上しました。

目を開けると神父さんの顔が見えました。
「おお、ユーシャよ。死んでしまうとは情けない・・・」
はい、僕もまさか仲間に殺されるとは思いませんでしたよ。
502DQVwithW:04/10/07 20:56:49 ID:8uZd/J1K
ネットカフェから出てきたマーニャさんが言いました。
「ユーシャくん、すごい情報よ!」
「何ですか?」
「ナジミの塔にね、盗賊の鍵があるんだって。
 それを取ると、扉が開けられるようになるらしいのよ!」
オバサン、どっかの攻略ページ見ましたね。

僕たちは情報収集しました。
「ああ、ナジミの塔なら数年前に取り壊されて、
 今はナジミランドっちゅー遊園地になっとりますがのぅ」
「・・・・・・」
僕たちはアリアハン観光委員会事務局で、パンフレットを貰いました。
どうやら、アリアハン付近の波止場から、船で10分程度らしいです。

で、到着したんですが・・・、折りしも今日は日曜日。
ナジミランドはお客でごった返していました。
僕たちは風に吹かれながら、その光景を呆然と見守ります。

しばらくして、マーニャさんが言いました。
「・・・ねえ、ユーシャくん」
「はい?」
「あの群集の中に、メラゾーマ打ち込んでいいかな?」
「やめてください。捕まりますよ」
「お姉さんね、幸せそうな家族やカップルって、だいっ嫌い」
「不本意ながら、僕も同意見です」

僕たちは付近の売店で、盗賊の鍵を買って帰りました。
ちょっと虚しかったです。
503DQVwithW:04/10/07 22:42:23 ID:6gKx5BAy
盗賊の鍵を手に入れた僕たちは、レーベの村を目指しました。
ここに魔法の玉を持つ人がいるらしいんです。

あ、あの家みたいですね。
確かにドアには鍵がかかってます。
僕はポケットから盗賊の鍵を出そうとしたんですが・・・
マーニャさんは針金を使って鍵穴をガチャガチャし始めます。

「開いたわ」
アジア系窃盗団も真っ青な腕前ですね。
考えてみれば、盗賊の鍵も似たようなもんだし、ノープロブレム。
僕たちはその家にお邪魔しました。

どうやら留守のようです。
あ、マーニャさん、勝手にあちこち物色するのはやめた方が・・・
何か僕たち本物の窃盗団みたいですよ。

「ちっ、しけてやがんなぁ」
札束を数えるマーニャさんは、もはや盗っ人モード全開です。
本職の人ですか、あなたは。

僕はタンスの中から、それっぽい玉を見つけました。
「マーニャさん、これじゃないですか?」
「ああ、いいんじゃね、それで」
適当だな、オイ。

「じゃ、ずらかりましょう」
マーニャさん、専門用語はやめてください。
504DQVwithW
僕たちは、いざないの洞窟という場所にいます。
ここからアリアハンの外に出られるらしいんですが、
何か壁が邪魔して先に進めないんです。

あ、ここで魔法の玉を使うんですね。
でも、どうやって使うんでしょう。この玉。
僕は思い切って玉を壁に投げつけたら、玉は粉々に砕け散りました。
マーニャさんと僕は、しばらくその場に固まります。

「しょうがないわね」
そう言うと、マーニャさんは壁に近付き、何かを仕掛けました。

「ほら、離れて離れて!」
数秒後、凄まじい爆発とともに、壁は崩れ落ちました。

「マ、マーニャさん、それは・・・?」
「ネットで調べた」
いつか捕まるぞ、あんた。