1 :
名無しさん@ピンキー:
2 :
1の続き:2007/05/07(月) 15:52:48 ID:iwhSzWOX0
3 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 22:20:42 ID:3cWDvMRQ0
4 :
manplus:2007/05/07(月) 23:37:59 ID:oxCY9ltJ0
すれたて感謝致します。
前スレを昨日の続きで埋めてから、こちらにその続きを投稿します。
5 :
manplus:2007/05/07(月) 23:38:42 ID:oxCY9ltJ0
ヒ:「だって、私は、大人しく、しかも、ビアンのお店じゃ隅っこで震えていた・・・。」
ヨ:「何が大人しくだっ!何が震えていたただっ!聴いて呆れるわ。マリアだけじゃなく、瞳も、店内本番は迫るし、
店外連れ出し禁止だって言うのに、お持ち帰りしちゃうし、そのままホストクラブで暴れて、瞳は、ホストに
迫って店内本番をしようとするし・・・。こいつら、最低っ!」
ヒ:「そういう好恵だって・・・。一緒にノリノリだったんじゃないの・・・。オカマバーじゃ、ニューハーフと
本番やっちゃおうとするし、人のこと言えないよ。」
ヨ:「まっ、まあ・・・。でも、マリアと瞳はひどすぎだよ。こいつら、手脚が切り落とされて自由に動けなくなったことで
世界のどれだけの人間が救われたことか。」
ヒ:「そこまで言うか?」
瞳と三咲の白熱バトルにエマが冷静で無邪気に割って入った。
エ:「三咲さんは、バイなんですね。バリバリのビアンで、ミストレスなのかと思った。」
ヨ:「エマちゃん、私は、基本的にビアンのミストレスよ。でも、たまには男を抱いて、ノーマルの気分を
味わいたくなるものなのよ。フレンチばっかり食べているとたまにはエスニックが食べたくなるでしょ。それと同じよ。」
ヒ:「でも、好恵は、男を抱くって言うところが、ミストレスだよね。男との関係でも、優位を保ちたいと言うことの表れだよ。
私は、男に抱かれたいんだもん。」
ヨ:「瞳〜〜〜っ!ブリッコするんじゃないよ。おまえは、抱かれながら、男をリードするタイプだろうが、いずれにしても、
主導権を握らないと承知しないタイプだろうが。」
ヒ:「ヘッヘッ!」
6 :
manplus:2007/05/07(月) 23:39:16 ID:oxCY9ltJ0
ヨ:「笑ってごまかすんじゃないのっ!」
ヒ:「はい・・・。」
ヨ:「わかればよろしい。」
ツ:「ところでご主人様、新宿と六本木のドタバタで、マリアさんの居場所が分かったのなら、妻川監督の関与が
薄いのではないかと・・・。」
ヒ:「つぐみさん、刑事の尋問のようなことはやめてっ!お願いしますっ!ゲロしますから・・・。」
ヒ:「よろしいっ!それじゃあ、供述してもらおうか。」
ヒ:「うっ、つぐみさん、本当の刑事みたいな迫力だ。私と、マリアは、日本に来た日が、好恵と六本木でしょ。
それから、新宿でしょ。次の日は、マリアが、海が見たいって言うから、横浜に行ったんだ。横浜は、観光ルート通りに
年末の港を見て、中華街で食事をして、元町を歩いて、お茶して、港の見える丘で、夕日を見て過ごしたんだ。」
エ:「瞳さん、たぶんそこまではマリアさんと瞳さんの二人も普通の人と同じだと思いますよ。
でも、たぶん、横浜の夜が大変だったんじゃないかと・・・。」
マ:「瞳様とマリア様のことだから、このままで済むはずがない。」
ヒ:「エマちゃんも真理子さんも、嫌だなあ、そんなことなくて、その日は、港にほど近いレストランで食事をして、
スタンドバーで飲んで、東京に帰ってきたんだよ。」
ツ:「それはおかしい。ご主人様、ひょっとして、マリアさんと一緒に遊んでるところをファンに見つかって
追いかけられましたね。」
7 :
manplus:2007/05/07(月) 23:49:19 ID:oxCY9ltJ0
ヒ:「うっ!いやだなあ、つぐみさんには、お見通しなんだよな・・・。そうなんだ。ファンに見つかっちゃって、
中華街のレストランを出た時から、たくさんのファンと一緒に歩くハメになっちゃったんだよ。」
ツ:「やっぱり・・・。」
ヒ:「衆人環視のもとで夜までだから、さすがの私とマリアも夜更かしするわけに行かなくて・・・。
そのまま、東京の私のマンションにマリアと早めに引き上げたというわけ。」
ヨ:「でも、瞳とマリアは、普通のF1ドライバーのファンにプラスしてアイドル並みの追っかけがつくからすごいわよね。」
マ:「何せ、瞳さまもマリアさまもアイドル並みというか、そんなレベルじゃないほどの美貌の持ち主ですものね。
羨ましいです。」
エ:「ホント。瞳さんとマリアさんが羨ましくて仕方ないです。」
ヨ:「エマちゃんも、瞳やマリアに負けない美貌の持ち主よ。私が保証する。でも、まだ、エマちゃんの場合、
表現することがうまくできないだけなの。私が、表現の仕方を教えてあげるね。」
エ:「うわ〜〜〜い。三咲さん、よろしくお願いします。」
ツ:「でも、ご主人様とマリアさんの場合、天然の生来の人間を引きつけるための本能を持っているような気がします。」
ヨ:「森田さんの言うこと解るわ。瞳とマリアは、ハエ取り紙のようなものだものね。」
ヒ:「好恵、ちょっと、表現が適当じゃないよ。」
ヨ:「そうかな・・・?他の表現が見当たらない・・・。」
ヒ:「・・・。私は、虫取りの道具か・・・。まあ、いいや、それだけ人気者と言うことだと思うことにするわ。」
8 :
manplus:2007/05/07(月) 23:49:55 ID:oxCY9ltJ0
瞳の周りの全員が、瞳の立ち直りの早さというか、脳天気さに呆れている中、瞳は構わず話を続けた。
ヒ:「翌日はちょうど大晦日だったのよ。朝、食事をして、テレビを見ていたら、富士山からの初日の出が映ったの。
マリアがそれを見て、“日本の新年といえば、Mt.フジヤマの日の出だ”と言い出したのよ。絶対に見たいといったから、
天気予報を調べたの。そしたら、元日の朝は、晴の予報だったもので、二人で夜年越しそばを食べて、紅白を見てから、
私の車で河口湖に出発したの。」
マ:「瞳さま、まるで暴走族の元日暴走と同じじゃないですか?」
ヒ:「私は、安全運転だから、そんなこと無いと思うけれど・・・。」
ヨ:「瞳、嘘言っちゃいけないよ。職業柄なのは解るけれど、暴走族よりひどいじゃないの。あなたの運転。」
ツ:「三咲さんの言うとおりですよね。ご主人様の運転は、さすがに“プリンセスヒトミ”と言えるだけの技術があるんですが、
公道上でも時としてサーキットと勘違いしたような運転をしますからね。この間もアメリカのフリーウェイで
パトカーとカーチェイスをしてましたからね。最終的に振り切ったんですけれど、後からナンバーでバレちゃって、結局、
FBIに出頭する羽目になったじゃないですか。その時は、たまたまFBIの担当の捜査官が“プリンセスヒトミ”フリークで
スーパーF1の大ファンということで何とかなりましたけれど、私は、SA級のライセンスを取り上げられるんじゃないかと
思ってハラハラしちゃいました。」
エ:「瞳さん、つぐみさんをあんまり心配させちゃいけないですよ。つぐみさんに見捨てられちゃいますよ。」
ヒ:「う〜〜〜ん・・・。それを言われるのが弱いんだよね。つぐみさんは、私にとって大事な人だもの。
そんなつぐみさんがいない生活なんて考えられないもん。」
ヨ:「だったら、マリアと二人でお転婆するのやめなさいよ。いい年なんだから。」
ツ:「三咲さんもエマさんもありがとうございます。私、ご主人様にもしもの事かあったらって、それが心配なんです。
だから、レースもほとんど見てられないんです。ご主人様が最後のご主人様と思っているんです。
今度最愛の人を失ったら・・・。」
9 :
manplus:2007/05/07(月) 23:50:58 ID:oxCY9ltJ0
ヒ:「つぐみさん、大丈夫だよ。スーパーF1は、絶対に安全なスーパーF1マシンと絶対に事故で命を失わないように
安全重視のサイボーグに改造された私たちスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの世界だから大丈夫だよ。」
エ:「瞳さん、私は、瞳さんの普段の運転の方をつぐみさんは心配していると思いますよ。瞳さんもマリアさんも巧すぎて、
かえって公道じゃ危なっかしく見えちゃいますよね。」
ヒ:「エマちゃん。それはないよ〜〜〜。ひどいよ〜〜〜。」
ヨ:「瞳、エマちゃんのいう通りよ。少し自重しなさいっ!あなたもマリアもスーパーF1界の至宝と
言われているドライバーなのよ。」
マ:「大体、瞳様とマリア様のことだから、河口湖に元日の初日の出を見に行くなんて言っても、
警察に暴走族と間違えられて検挙されたんじゃないんですか?」
ヒ:「・・・・・・・・・。」
ツ:「ご主人様。ひょっとして、真理子が言ったことは、図星なんですね。」
ヒ:「・・・・・・・・・。」
ヨ:「森田さん、そうだよ。きっと立川さんが言ったことが図星だから、瞳のヤツ、黙っちゃったんだよ。」
ヒ:「ちっ、違うよっだっ!」
エ:「瞳さん、どう違うんですか?明らかに動揺してますよ。レースでは見せたことのないような動揺の色が、
顔に出てますよ。」
ヒ:「ちっ、ちがわぁ〜〜いっ!私が運転した車が、暴走族の徒党を組んだ運転の集団に捕まっちゃって、
前に進めないから、暴走族の集団の前に出ただけだよ。」
10 :
manplus:2007/05/08(火) 00:01:52 ID:oxCY9ltJ0
エ:「横に広がって集団を組む暴走族の集団をよく抜けましたね。」
ヒ:「そりゃ、エマちゃん、私だって、当時、F1レーサーの端くれだよ。どんなに車幅を詰めたと言っても、
そこは素人集団のやることだから、私とマリアには、車一台分が余裕で通れる隙間が空いているように見えるんだ。
だから、100台でも200台でも抜くのなんて簡単なものなんだ。」
ヨ:「呆れたっ!私と飲んだくれた翌々日に、そんな武勇伝をやっていたんだ。私は、元日の日本を味わうこともなく
飛行機の中でお仕事してたのにさ。あんたとマリアは、危険暴走行為をしていた訳ね。当然、警察に
検挙されたんだわよね。」
ヒ:「違うもんっ!暴走集団を抜ききったところで、暴走族の特攻隊の連中に、F1フリークがいて、
私の車のナンバーで乗っているのが私だって言うのがバレちゃったんだよ。
それで、暴走族が、『速水瞳だっ!』といって騒ぎ出しちゃったんだよ。特攻隊の連中が私の前に出てバイクと車で
必死に道を塞いで停めたもんだから、私たちは、前に進めなくなっちゃって、中央高速の大月辺りの下り線が
駐車場状態になっちゃったの。」
エ:「それで、暴走族の子たちはどうしたんですか?まさか、瞳さんとマリアさんをボコボコにはしないと思うけれど・・・。」
ヨ:「ボコボコにされるのは、暴走族じゃないの?マリアがキレたら、何百人掛かっても止められないし・・・。瞳だって、
可愛い子ぶっているけれど、結構強いから、そこいら辺の男が何十人掛かっても敵わないからね。」
ヒ:「好恵、それはないよ・・・。さすがに大衆の面前だからね。でも、エマちゃんの言う通り、
ボコボコにされることはなかったけれど、その後が一大サイン会の会場になっちゃったんだよ。
暴走族の子たちだけじゃなくて、後続の一般車のドライバーや同乗者の人も、私たちのサインを
欲しがっちゃって大変だったの。」
マ:「でも、瞳さま、高速道路上でしょ?そんなことしたら警察が来ませんでしたか?」
ヒ:「来たよ。大渋滞の先頭が暴走族だと聞きつけて交通機動隊が大挙してきたの。」
11 :
manplus:2007/05/08(火) 00:03:07 ID:oxCY9ltJ0
ヨ:「瞳、当たり前でしょ。それで、検挙されたんだ。」
ヒ:「正確には、検挙されそうになったんだけれど、マリアがドイツ語で捲し立ててくれたお陰で、
警官が辟易して来ちゃったし、暴走族のリーダーの子が、『お巡りさん、お巡りさんも“プリンセスヒトミ”と
マリア=リネカーを見たらサインを求めたくならないかい?二人にサーキット以外でまとめて会える機会なんて
そんなに無いんだよ。そんなチャンスに巡り会ったら、どんなことしてもサインをねだるに決まっているでしょう。』って言う、
訳の分からない言い訳をしたら、一般ドライバーも『この子たちが、サイン会のきっかけを作ってくれたんだから、
俺たちも貴重な機会が得られたんだし、正月なんだから、許してやろうよ。迷惑を帳消しにするぐらいのラッキーに
巡り会えたんだからさ。』なんて言うフォローを入れてくれたの。だから、私とマリアが、暴走族に危険な行為を
しないように私の車の後を大人しくついて、初日の出を見に行くようにさせるから、この場を納めて欲しいって、
お巡りさんに頼み込んで、私の後を一列に大人しくついて河口湖まで行くことと初日の出を見て一段落ついたら、
富士吉田署に私とマリアが出頭して、調書にサインすることで決着がついたんだよ。」
ツ:「相変わらず、ご主人様とマリア様のやることは、超法規的ですよね。この二人が一緒にいると二人のすることが
合法になるような気がする・・・。“テロリストレーサー”という異名は伊達じゃない気が・・・。」
ヨ:「森田さん、本当よね。瞳とマリアのやることが許されるのなら警察は要らないと言えるぐらいのことばっかりだもの。」
ヒ:「好恵も、つぐみさんも、お黙りなさい。集団暴走行為を食い止めた功労で、富士吉田署で、
調書にサインしたのと引き替えに、警視総監賞をもらったんだからね。それに、富士吉田署が警察官の
サイン会場になっちゃったんだよ。『あそこでは、サインを求められなかったもので・・・。』なんて、お巡りさんが
何十人も詰め掛けてね。」
ツ:「呆れました。ご主人様・・・。今度は、誰から脅してもらったんですか?」
12 :
manplus:2007/05/08(火) 00:03:44 ID:oxCY9ltJ0
ヒ:「この時は、滅茶苦茶なことをしたことについては、あなたたちも危険暴走行為だから気をつけろと怒られたけれど、
ケガの功名で初日の出暴走が止まったことの方が大事だと、警察は言ってくれたんだよ。」
ヨ:「まあ、瞳とマリアだから出来る止め方だよね。でも、違法は違法だよ。解ってんでしょうねっ!」
ヒ:「そんなに怒らなくったっていいじゃない・・・。好恵は友達でしょ。それに、警察にも言われたんだよ。
さすがにF1ドライバーですね。500台以上の道路通行料を全て払うなんてって・・・。」
ヨ:「呆れたっ!あんたたち、暴走族の道路代まで払ったの?調布から川河口湖までで、一体いくらの支払いをしたのよ。」
ヒ:「う〜〜〜んとねぇ。200万円ぐらいだったような気が・・・。」
ヨ:「まったくっ!スポーツ選手のトップクラスの人たちの金銭感覚は理解できないわ・・・。」
ヒ:「だって、可哀想だったんだもん。みんな、車が好きで走っているのよ。その行為は確かに悪いかもしれないけれど、
走りたいという純粋な気持ちに変わりはないと思うんだ。しかも、純粋に走りたい気持を満足させられるような
サーキットが日本には完備されていないんだもの。若い子たちが可哀想に思えちゃって・・・。
私は、たまたま、サーキットの中で自分の走ることに対する願望を幸運にも実現できたけれど、
そんな幸運に恵まれた人間なんてそんなにいないんだよ。」
ヨ:「それはそうだけれど、瞳の金銭感覚がずれていない?」
ヒ:「そうかなあ・・・。」
ヨ:「だって、見ず知らずの他人に、200万円もの大金をポンとくれてやっているみたいなものでしょ。」
13 :
manplus:2007/05/08(火) 00:15:10 ID:nlAMrPyR0
ヒ:「でも、可哀想じゃない。それに、お金なんて持っていても使い切れないもん。」
ヨ:「可哀想か・・・。瞳らしいといえば瞳らしいんだよね。瞳は、姉貴分のところがあるもんね。
ところで、当時の年俸はいくらだったの?」
ヒ:「う〜〜〜んとね。その時の年俸は、確か・・・、スーパーF1に乗ってから5億円ぐらい増えた気がするから、
15億円ぐらいだと思った。
マ:「ぐらいだと思うって・・・。瞳様覚えていないんですか?」
ヒ:「真理子さん、マネージャーに管理を任せていたからね。」
マ:「でも、私の金銭感覚からすると、覚えているものですが・・・。」
ツ:「ご主人様は、かなりそう言うところに無頓着だもの。」
ヨ:「じっ、十五億円・・・!マリアも同じくらいなんでしょ?」
ヒ:「そうだね。」
ヨ:「二人で30億円か・・・。それじゃあ、80万円なんて端金だよね。」
ヒ:「そんなこと無いよ。お金は大事だよ。でも、ここぞと言うときには使わなくっちゃ。」
ヨ:「金持ちの言うことは違うよ。」
エ:「やっぱり、F1のトップドライバーは違いますね。私なんか、今でも、3億位ですもの。」
14 :
manplus:2007/05/08(火) 00:15:46 ID:nlAMrPyR0
ヨ:「えっ、エマちゃんは、そんなに低いんだ。ちょっと、瞳っ!貰いすぎじゃないの?」
エ:「三咲さん、そんなことありません、私だって、貰っている方なんですから、下のカテゴリーのレーサーの中には、
持ち出しなんて言う人もいるんですから、それに、瞳さんとか、マリアさんとか、ロッキネンさんとかは、
別格中の別格ですもの。私が早く追いつけるように努力すればいいだけなんです。それに、私でも恵まれた方
なんですから。瞳さんたちは、貰って当然なんです。」
ヨ:「やっぱり、モータースポーツの最高峰の一握りの選手って凄いのね。」
エ:「三咲さん、瞳さんたちは、それだけじゃないですよ、収入は・・・。」
ヨ:「えっ!瞳、何か他に収入があるの?」
ヒ:「うん。広告料収入・・・。」
ヨ:「どれだけ貰えるの?」
ヒ:「年俸の三倍くらいは年間に入ってくるかな・・・。」
ヨ:「私の常識が変になる・・・。それじゃ、来年は、瞳に収入として入ってくるのは、一体いくらなの?」
ヒ:「総合優勝のボーナスと優勝ボーナスを加えて、来期の契約は年俸が、42億円でしょ。広告のスポンサーからの
収入が、152億円と、特別外交官収入が、13億で、後・・・。」
ヨ:「もういいわ・・・。聞いてると嫉妬で気分が悪くなる。世界的ヒロインはすごいんだね。瞳と
友達として付き合ってきたけれど、瞳の収入を聞くのは、これが初めてなんだけれど、驚くと言うよりも呆れてしまうわ。」
15 :
manplus:2007/05/08(火) 00:16:17 ID:nlAMrPyR0
エ:「三咲さん、瞳さんの収入は特別だから気にしちゃダメですよ。それに、モータースポーツ界にも、
化け物のように収入を稼ぐ人がいないと、底辺が上がっていかないんです。だから、瞳さんは、そう言った意味でも、
もっと頑張ってもらわないと、私の収入も上がらないんです。こういういい方は失礼かもしれないけれど、私の年俸は、
つぐみさんより低いんですから。サポートスタッフより、収入の低いスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーなんて
言うのは、恥ずかしいんです。」
ヨ:「えっ、森田さんの収入って、そんなに高いの?!!」
ツ:「エマさん、あんまり、サポートスタッフを引き合いに出されても・・・。」
ヨ:「それで、森田さんの収入はいくらなの?」
ツ:「はい、約5億円です・・・。」
ヨ:「森田さんの年俸にも嫉妬を感じてしまう・・・。」
マ:「三咲さん、つぐみの年俸は特別です。サポートスタッフとしての経験や、実績、それに“プリンセスヒトミ”の
サポートスタッフとしての重圧からしてもそれくらいもらって当然なんです。モータースポーツ界の至宝を
世話するんですから。ちなみに私たちは、つぐみ以外は、多くて、せいぜい、1億いくかいかないかです。
ちなみに私は、3千万と言ったところです。」
ヨ:「立川さんだって、私から言わせたら、沢山もらっているのよね。でも、今日の離陸前の仕事ぶりを見ていると、
それぐらいはもらって当然に思えるけれどね。それに、森田さんは、瞳という世界一の我が儘で馬鹿な娘の世話を
するんだから、当然という気がする。」
ツ:「すみません・・・。」
ヨ:「森田さんが恐縮することはないの。」
16 :
manplus:2007/05/08(火) 00:28:21 ID:nlAMrPyR0
ヒ:「そうだよ。好恵の言うとおりだよ。つぐみさんは、スーパーF1界で一番スキルの高いサポートスタッフなんだから
当然だよ。でも、私の我が儘に付き合っているから当然年収が高いという好恵の言葉は、傷つく・・・。
それに、私が馬鹿娘というのも・・・。」
エ:「瞳さんをみんながそう見ているという証拠ですね。」
ヒ:「あっ、エマちゃんまで、ひどいよ〜〜〜。」
エ:「瞳さん、ごめんなさい、言い過ぎました。」
ヒ:「判ればいいよ。エマちゃんだから許しちゃう。」
ヨ:「話がそれちゃったけれど、その初日の出暴走で、マリアの所在が完全にばれちゃったんだね。」
ヒ:「そうなんだ。調書を取られたことでばれたんじゃなくて、その話が新聞にデカデカと出ちゃったんだよ。
それに、通信社が世界にニュース配信しちゃったのがきっかけで、マリアが日本で私と遊んでるのがフェラーリに
ばれちゃったんだよ。それも、暴走したり、御乱交だもんね。キンバリーがカンカンになって、
マリアを捕まえにフェラーリのスタッフを日本に急行させたんだよ。こんな大騒ぎになったんだから、
マリアもおとなしく帰ればいいのに、マリアの性格からして気分を良くしたから新宿で飲むんだと言うことになっちゃったの。
そのことを恵美さんにいったら、止めるのが普通なのに恵美さんも一緒になって飲み歩くと言い出しちゃったわけ。
それで、貫徹を二日して、徹底的に飲み歩いたんだよ。新宿の居酒屋を15軒ハシゴしたの。
そして、最後の店で3人が酔いつぶれたところをフェラーリのスタッフに見つけられて捕獲されたというわけなの。
そこで、マリアは強制的に連れ戻されて行ったというのが全てなんだ。」
エ:「15軒・・・。瞳さん、凄まじすぎます。本当に二人に妻川監督が加わってしまうと修羅場になると言う
スーパーF1界の噂は本当だったんですね。」
17 :
munplus:2007/05/08(火) 00:30:06 ID:nlAMrPyR0
ヒ:「・・・・・・・。何にも言えない。でも、後日談があって、その場で、フェラーリのスタッフに見つけられた
私と恵美さんの罪は当然だけれど、パパに関しては、本当だったら、バレなかったんだけれど、パパは、
恵美さんのことを愛しているもんだから、変に恵美さんをかばったんだよ。そのパパに嫉妬を燃やして、
キンバリーは徹底的に私とパパがこの事件にどの様に関わったかを調べさせたの。そうしたら、
パパの口利きでトミタが、外務省に働きかけてマリアの入国を合法化させた工作がばれちゃったの。
キンバリーも実はそのころ、恵美さんを愛していたから、パパへの嫉妬とパパと恵美さんの仲を変に疑って、
パパとトミタはキンバリーにとって敵の存在になったし、恵美さんは、そんなパパをかばうもんだから、
キンバリーは嫉妬に狂って、恵美さんがマリアをどの様にして日本に連れてきて、マリアと何をしたのかを
徹底的に調べたの。そして、日本にマリアを拉致した主犯が恵美さんだと言うことが解って、更に激怒したのよ。
18 :
manplus:2007/05/08(火) 00:30:37 ID:nlAMrPyR0
もともと、恵美さんと、パパとキンバリーは、微妙なバランスの上に成り立っていた三角関係だったものだから、
恵美さんをかばうパパと、嫉妬に狂うキンバリーの関係になるとバランスが大幅に狂ってしまい、キンバリーと
恵美さんの関係は破局を迎え、パパに恵美さんが泣きついたものだから、もともと、優しいパパの包容力に
恵美さんが完全に引きつけられてしまい、パパとの関係が今も続いているって言うわけなの。キンバリーは、
それが面白くないのと、マリアの監督不行届をフェラーリ本社から責められて、チームをお払い箱同然で
追い出されたことで、パパと恵美さんを恨むようになったの。だから、もちろんカンダとトミタとフェラーリの
チーム自体も憎むようになっちゃったんだ。それから、事件に絡んでいる私は、恵美さんの秘蔵っ子的存在
と言うこともあって目の敵にされているわけなの。更に、キンバリーは、その時に進んでいたカンダとフェラーリの
業務提携の話を壊そうと画策し、私とマリアの御乱交を全ての通信社に事細かにリークして、
首謀者は恵美さんであることもリークしたの。それも、あることないことを付け加えたないようなんだけれど、
通信社が、そのゴシップに乗っちゃったんだよ。だから、恵美さんが一枚噛んでいることが業務提携の話に
マイナスに働くと考えた溝口社長が、フェラーリの社長と協議した上で、今回のことの顛末の中で、恵美さんの
存在を消し去って、ドライバーである私とマリアが勝手に暴れ回ったと言うことにして、
二人だけの御乱交事件にしちゃったんだよ。」
エ:「そう言う経緯があるんですね。まあ、瞳さんとマリアさんが初日の出暴走なんてしなかったら局面が
変わっていたかもしれないですが、キンバリー監督が執拗に瞳さんを憎む理由もわかりました。
でも、マリアさんはなぜ処分されなかったんですか?」
19 :
manplus:2007/05/08(火) 00:43:24 ID:nlAMrPyR0
ヒ:「それはね、単純な理由なんだけれど、マリアほど、フェラーリの当時のマシンをうまく操れるドライバーは
いなかったんだよ。暴れ馬のロゴがまさに車に乗り移ったと言うほど速いんだけれど、暴れやすいマシンなんだよ。
それに、私と対抗できるドライバーは、マリアしかいなかったんだよ。だから、マリアは、何のお咎めもなく、
チームの正ドライバーで残れたんだ。そのことも、キンバリーの復讐心に火を付けちゃったんだよ。だから、
キンバリーは、私とマリアに対するレースでの刺客を養成しているというのは、その時の復讐なんだよ。
エマちゃんも、御乱交なんてしちゃダメだよ。私とマリアの二の舞になるからね。」
ツ:「ご主人様、エマさんはまじめな娘なんです。ご主人様やマリアさんとは違います。一緒にしちゃいけません。」
ヒ:「つぐみさんの突っ込みが鋭すぎる・・・。」
森田の突っ込みにたじろぐ瞳に救いの手を差し伸べたのは、三咲である。
ヨ:「さあ、お待たせしました。デザートのザッハートルテの登場です。」
エ:「うわぁ〜〜〜!おっきい〜〜っ!瞳さん、凄いです〜〜〜〜っ!」
ヒ:「どう?気に入ってくれた?エマちゃんのために作ってもらったんだよ。」
エ:「私のために?」
ヒ:「うん。好恵、エマちゃんに見せてあげて。」
ヨ:「了解っ!エマちゃん、よく見てごらん。」
エ:「これ、ひょっとして、ゴディバのチョコを使って作らせたザッハートルテですか・・・。あっ、何か書いてある・・・。」
ヒ:「そうだよ。ゴディバのチョコなんだよ。気に入ってくれた?」
20 :
manplus:2007/05/08(火) 00:44:25 ID:nlAMrPyR0
エ:「・・・。瞳さん、うぇ〜〜〜ん!」
マ:「エマ、なに涙流してるのよ。誕生日なんでしょ。おめでとう。」
エ:「真理子さん、知っていたんですか?」
マ:「ええ、知っていたわ。瞳さまから電話があって、エマを驚かせようって言われて、打ち合わせていたのよ。」
エ:「真理子さん、非道いですぅ〜〜!去年は、あんなに盛大にお祝いしてくれたのに、今年は、誕生日のたの字も
言わないから、見捨てられちゃったのかと思っていたんですよ。」
マ:「私が、エマの誕生日を忘れるわけないでしょ。忘れようとしても体内サブコンピューターから、
人工視覚内にエマの重要情報としてディスプレイされるんだし、私はあなたの手脚なのよ。忘れるはずないじゃない。」
エ:「うぇ〜〜〜ん!真理子さん、やっぱり、真理子さんだ〜〜〜!」
ツ:「何かエマさん、言葉が意味になっていないんですけれど・・・。」
エ:「つぐみさん、だって、嬉しいんだもんっ!」
ツ:「ひょっとして、エマさんは、誕生日がクリスマスと近いから、子供の頃は、クリスマス会で
誤魔化されていた人なんじゃないですか?」
エ:「つぐみさん、その通りです。完全に誤魔化されていました。」
ツ:「私たちは、ちゃんと、お祝いしますからね。安心してくださいね。」
21 :
manplus:2007/05/08(火) 00:44:57 ID:nlAMrPyR0
エ:「瞳さん、つぐみさん、真理子さん、ありがとうございます。」
ヨ:「確かに、12月23日なんて誕生日じゃ、クリスマス会と一緒にされちゃうよね。
エマちゃんの親も経済的な負担の少ないときに産んだものね。」
ヒ:「好恵、エマちゃんが誕生日で悦びに噎び泣いているんだから、いじめるんじゃないのっ!」
マ:「でも、エマにとっては、三咲さんの言葉は最高の祝福かも・・・。エマ、感じてるんじゃないかと・・・。
だって、あそこが濡れちゃってるんですもの・・・。」
エ:「真理子さんっ・・・。あんまり大きな声で言わないでください。恥ずかしくて、また濡れちゃいました。」
マ:「まったく、エマって、ホントにどM娘なんだから・・・。ちょっと厳しい言葉だけで、
言葉責めと同じになっちゃうなんて・・・、本当に安上がりなMだよね。私も、つぐみも我慢しているんだから、
エマも我慢しなきゃ。」
エ:「はい。がんばります。」
ヒ:「・・・。やれやれ・・・。本当に私の周りには、どうしてMのビアンが集まるようになっちゃったんだか・・・。
スーパーF1界に入るまではノーマルだったんだけれど・・・。」
ヨ:「瞳、何言っているのよ。確かに、今みたいにバイじゃなかったかもしれないけれど、立派などSだったじゃないの。
最初からノーマルなんて言わせないわよっ!」
ツ:「三咲さん、やっぱりそうだったんですか。私、ご主人様に出会ったときに確信したんです。
この人は、最高のミストレスだって。」
22 :
manplus:2007/05/08(火) 00:54:55 ID:nlAMrPyR0
ヨ:「さすがに、つぐみさんの嗅覚は鋭いわね。だって、瞳のビアンの部分を見つけ出して、
開花させたのつぐみさんだものね。」
ツ:「はい。私、こう見えても、人を見る目があるんです。」
ヒ:「どんな人を見る目じゃっ!そんなことよりつぐみさん、あれを出して、エマちゃんに渡してあげて。」
ツ:「あっ、そうでした。えっとえっと・・・。」
森田が、自分の鞄の中をまさぐって、小さな袋を取り出した。森田が、袋を開けると、
中から可愛いラッピングが施された箱が出てきた。
ヒ:「これ、エマちゃんに、私とつぐみさんと真理子さんから。ウィーンでは、エマちゃんの年間ランク入りのお祝いと
クリスマスパーティーだから、お誕生会は、空の上でって決めていたんだ。真理子さん、開けてあげて。」
エ:「瞳さん、つぐみさん、いいんですか。ありがとうございます。
真理子さん、なんで、こんなことまで黙っていたんですか?」
マ:「だって、最初から話をしていたら、感激が薄れるでしょ。やっぱりサプライズじゃなきゃ。
誕生日おめでとうっ!中身は、瞳さんの発案だから、きっと、エマも喜ぶと思うよ。」
エ:「真理子さん、開けてくれますか?」
マ:「オッケイ。」
エ:「あっ!ティファニィの包み紙だ。装飾品ですね、きっと。」
23 :
manplus:2007/05/08(火) 00:55:28 ID:nlAMrPyR0
ヨ:「エマちゃん、実際に本店に取りに行ったのは私よ。ウィーンからニューヨークのフライトの時に取ってきたの。
今度の誕生日の時は、私も一枚加わらせてもらうわね。」
エ:「えっ!三咲さんが取ってきてくれたんだ。」
ヒ:「航空便で送らせようと思ったんだけれど、オーストリア航空に相談したら、日本人のキャビンアテンダントが、
ニューヨークに直近にフライトがあるから、ニューヨークで取ってきて機上で渡せるように責任を持つと
言ってくれたのでお願いしたら、それがたまたま好恵だったのよ。さあ、中身を気に入ってくれるかなぁ?」
エ:「瞳さんの選んだものだったら、絶対に気に入ります。」
マ:「エマ、そんなこと言い切っちゃっていいの?」
エ:「いいんですっ!私は、瞳さんの僕なんです。瞳さんから頂いたものに不満なんて言うことは出来ません。」
マ:「まあ、それもそうだね。瞳さまの見立てたものなら、私も何でもオッケイだものね。」
エ:「真理子さん、そうですよね。早く開けてください。楽しみだな。」
立川が、その小さな包みの水色の包装紙をほどき、箱を開けると、中から、金色のペンダントが出てきた。
エ:「あっ!」
ヒ:「エマちゃん、私の見て好いなっていっていたでしょ。」
エ:「はいっ!瞳さん、覚えていてくれたんですか?嬉しいですっ!」
24 :
manplus:2007/05/08(火) 00:56:01 ID:nlAMrPyR0
ティファニーのペンダントは、小さな純金で出来たカンダのスーパーF1マシンをかたどったものであった。
ヒ:「カンダKSG−5を忠実にデザインしたものなんだ。」
エ:「えっ!」
ヒ:「エマちゃんが、初めて7位でチェッカーを受けた記念すべきレースのレプリカなんだよ。ちっちゃいけれど、
ちゃんと鈴木エマ仕様になっているんだよ。」
カンダは、瞳とエマのドライビングテクニックの根本的な違いや技能の違いを考慮して、
同じ型式のマシンを二人の使い方に合わせて微妙に変えて与えているのだ。
スーパーF1マシンでの微妙なチューニングや設定の違いは、全く違った車を二台作るようなものであるが、
カンダスーパーガールズは、妻川と柴田の決断により、ドライバーの安全を守るためと二人のドライビングの特徴を
最大限に生かすために決断したことであった。
その決断が、最初の頃は瞳に対するエマの嫉妬を産む原因になったのだが、
今となってはカンダスーパーガールズにとって最良の結果を生み出す原動力となっていたのである。
ちなみに、二人のマシンは、外見上で解るようなチューニングの違いもあるので、瞳の乗るマシンはHモデル、
エマの乗るマシンはEモデルとして区別されているのである。
エ:「本当だっ!私のマシンです。普通のレプリカモデルだと、専門のショップでもEモデルといいながら、
Hモデルでカーナンバーが違うだけなんていうものがほとんどなんで、少しヘコんでいたんですが、
こんなちっちゃな首飾りが、自分のモデルを忠実に再現しているなんて感激ですっ!私・・・、これに乗って、
入賞したんですね・・・。そして、その夜、瞳さんにカミングアウトして、私の全てを受け入れてもらえたんですよね。
こんな記念すべき日のものをもらえるなんて嬉しいです。」
ヒ:「ちゃんと、ペンダントヘッドと一緒に今年のチェコグランプリの開催日や
予選と決勝のタイムも入っているタグもついているんだよ。」
25 :
manplus:2007/05/08(火) 01:05:39 ID:nlAMrPyR0
立川が、エマの目の前ににペンダントを持っていってやった。
エマは、そのペンダントに付いたタグがもう一枚あることに気がついた。
エ:「あっ、もう一枚、タグがあるんだ。真理子さん、読ませて。」
立川は、もう一枚のタグをエマが見える位置にかざした。その時、エマの瞳から一筋、頬に涙が流れた。
エ:「感激です〜〜〜〜〜っ・・・・。」
マ:「エマ、何涙なんかこぼしてるのよ。」
エ:「だって、だって、真理子さん、こんなタグが付いたネックレス見せられて、感激しない娘なんていませんよ。」
ツ:「エマさん、大袈裟だよ。」
エ:「そんなこと言ったって、つぐみさん。“Happy Birthday To Dear Ema.From Double H,T.M and M.Tですよ。
一生忘れられない贈り物ですぅ〜〜〜〜〜っ。」
ツ:「あれあれ、ご主人様、どうします?」
ヒ:「感激しているんだから、好いじゃない。これからも、私は、エマちゃんのいい人であり続けるし、
つぐみさんも真理子さんも好き理解者であり続けることに変わりないんだから。それに、真理子さんは、
エマちゃんの手脚の代わりになってくれる大事な人なんだから。」
ツ:「まあ、それもそうですね。ご主人様。」
エ:「瞳さん〜〜〜〜っ!つぐみさん〜〜〜〜っ!感激です。」
ヨ:「エマちゃん、瞳にしても、森田さんと立川さんにしても、優しいお姉さんに囲まれて幸せだよね。
私もその仲間に加えてね。」
26 :
manplus:2007/05/08(火) 01:06:30 ID:nlAMrPyR0
エ:「三咲さん、ありがとうございます〜〜〜〜ぅ!」
マ:「エマ、そろそろ、泣きやもうよ。ねっ!良い子だから。」
エ:「は・・・い・・・。ヒックヒック・・・。」
立川が、やっと泣き止んだエマの首にネックレスをかけてやった。エマの顔がみるみる笑顔に変わっていった。
三咲は、エマの首に掛かったネックレスを改めて手にとって、
ヨ:「しっかし、特注でしかも純金製の特注のティファニィーって、一体いくらなの?」
ヒ:「ヘッヘッヘッ、好恵、秘密だよ。ねっ、つぐみさん。」
ツ:「はい。三咲さん、聞かぬが華と言うこともあるじゃないですか。」
ヨ:「う〜〜ん。瞳、今度、私にもちょうだいよ。」
ヒ:「そうだね。好恵が、私の臣下の最下層の奴隷になるんだったら考えてやっても好いよ。」
ヨ:「瞳〜〜〜っ!私が絶対無理な条件を出してきたよね。悔しいけれど、それじゃいらないわ。」
エ:「でも、高いんですよね。」
ツ:「エマさん、プレゼントで値段のことを気にしちゃダメですよ。」
ヒ:「そうだよ。つぐみさんの言うとおりだよ。プレゼントは心おきなく受け取るのが礼儀だよ。」
マ:「そうよ。エマ、値段なんか気にしちゃいけないのよ。」
エ:「はい。真理子さんの言うとおりですよね。ありがとうございます。大事に使わせていただきます。」
27 :
manplus:2007/05/08(火) 01:07:06 ID:nlAMrPyR0
ヨ:「エマちゃんそれがいいよ。ところで、これで今日の食事が終了したのですが、この先はどうしましょうか?
映画にします?それとも休みます?どうするの?」
ヒ:「好恵、私たちは、眠るなんて言う選択肢はないからね。」
ヨ:「瞳、どういう意味?」
ヒ:「だって、悲しいことかもしれないけれど、私たち四人は、サイボーグなんだよ。機械と電子部品と生体の
共生体なんだよ。」
ヨ:「それは解るけれど、だから?」
ヒ:「私たちの生活パターンは、起きている時がライブモード、寝ている時をスタンバイモード、
スーパーF1サーカスで移動する時にカプセルの中に納められている時の半覚醒状態を移動モードといって、
3つの生活パターンから成り立っているんだけれど、これらのパターンを制御しているのは、
体内の補助コンピューターであって、体内時計をコントロールしているのは、体内の電子機器なんだよ。
それは、私とエマちゃんのスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーはもちろんだし、
つぐみさんや真理子さんのようなサポートスタッフも国際自動車連盟公認のサイボーグだから
体内時計コントロールシステムは一緒なの。」
ヨ:「うん。そこまでは解る。でも、瞳たちが眠らないのとどう関係するわけ?」
ヒ:「好恵、コンピューターによって、体内時計をコントロールされているっていうことは、
生物学的な時間感覚とは別の世界にいるということなんだ。そして、私たちの体内コンピューターは、
時差ボケを防止するために、標準時の子午線を越えるごとに、1時間ずつ、私たちの体内時計を勝手に調整してくれるの。
だから、私たちの時間感覚は、常に一番近い標準時の子午線に合わされ続けているということなの。
だから、この便でヨーロッパに行くときは、昼を追いかけていくから、標準時の子午線を一つ通過するごとに、
1時間ずつ時間が遅れていくのよ。だから、私たちにとってはウィーンに着くまでライブモードのままで、
ウィーンに着いたときの時間感覚は、ピッタリ現地時間の15時になるようになっているのよ。
サマータイムまで自動調整してくれるんだから、嫌になっちゃうよ。」
28 :
manplus:2007/05/08(火) 01:50:03 ID:nlAMrPyR0
ヨ:「それじゃ、自動的に時差ボケが解消されているという訳なのね。サイボーグって、便利なのね。私なんか、
時差ボケの積み重ね状態で時間感覚が麻痺しちゃっているというのに・・・。私もサイボーグになりたいな。」
ヒ:「そうでもないよ。サイボーグにされると、スイッチが入ったように起きる感覚や、
スイッチを切る感覚と同じに意識がスタンバイモードに切り替わる感覚は、本当に自分が
アンドロイドと同じになってしまったんだという、そして、人間とは違っちゃったんだという悲しさを覚えるものだよ。
そんなことは解りきって、覚悟の上で、サイボーグになったんだけれど、
人間の感傷に支配された寂しさは何とも言えないんだよ。」
ヨ:「そう言うものかな。森田さんもそうなの?」
ツ:「はい。一抹の寂しさはありますね。人間じゃなくなったことに対する罪悪感みたいな感情もあったりして。
私もご主人様と一緒で、サイボーグになることは納得済みなんですが、生体だけではなくなったことによる特別な
感情があるんです。真理子や、エマさんも同じだと思います。」
エマと、立川が、頷いているのを三咲は、確認して、
ヨ:「そう言うものなんだね。サイボーグになったら、そう言った感情に嘖まれることがあるんだね・・・。
生身を捨てた人間にしか解らない感情か・・・。」
ヒ:「うん。でも、そのお陰で、こうして、みんなに愛されているんだし、
ファンに夢を与えてあげられるんだから後悔はないけれどね。」
ヨ:「・・・。やっぱり、瞳たちは、凄いな・・・。さてと、映画のプログラムを置いていくし、呼んでくれれば、
すぐに来るからね。私は、人間なので、ちょっと控え室で待機しているからゆっくり空の旅を楽しんでね。」
29 :
manplus:2007/05/08(火) 01:50:37 ID:nlAMrPyR0
三咲は、そう言い残して、映画の仕度をして、スクリーンには、飛行中の地上の風景がライブで映るようにして、
控え室に消えていった。
瞳は、三咲との間に少し壁が出来たような気がした。
やっぱり、自分がサイボーグという存在であることのコンプレックスでもあるのだ。
まだ、生身の人間で自分がありたいという、潜在意識が自分の中にあることに気がついたのだった。
そんな、瞳の心を素早く察してか、いつの間にか、森田が瞳の身体をしっかりと抱きしめ、胸に顔を埋めていた。
ヒ:「つぐみさんの身体柔らかくて、暖かいね。」
ツ:「ご主人様、何も言わなくていいです。私、ご主人様の温もりだけ感じていたいんです。」
ヒ:「私、一人じゃないんだ。」
ツ:「三咲さんは、ご主人様の身体の構造のことが羨ましいんですよ。標準人体の人で、超人願望のある人なら、
サイボーグに興味と憧れを持つのは当たり前です。でも、なってしまった私たちの苦悩や不都合なんて、
サイボーグになってみないと解らないんですから・・・。三咲さんに敵意を持っちゃダメですよっていっても、
ご主人様は、人を恨むことなんて知らない人ですもんね・・・。」
ヒ:「うん・・・。つぐみさん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう・・・。」
そこまで言い終えた瞳の唇を森田の唇が塞いだ。森田の瞳から涙が流れてきていて、瞳にとって、
この時の森田との口づけは、ちょっとしょっぱい味のものになった。瞳は、森田の身体を感じたくて、
森田の口を強く吸い寄せて、舌を絡めるのであった。その永遠に感じられるような甘い口づけを見て、
エマと立川は、息を飲み、股間を濡らすのだった。
30 :
manplus:2007/05/08(火) 01:53:30 ID:nlAMrPyR0
今日はここまでです。
やっと、パーティー会場のあるウィーンに着きました。
保守(メンテナンス)
32 :
manplus:2007/05/13(日) 21:18:36 ID:6STdsi/90
三咲(以降、ヨ):「瞳、エマちゃん、そろそろ飛行機が着陸態勢に入るから、シートのフードをしめてもらうわよ。」
雪が降りしきる成田新東京国際空港を11時に飛び立ったオーストリア航空126便は、定刻の現地時間、
15時にウィーンへ向けての最終着陸態勢に入ろうとしていた。瞳とエマが置かれている特別なシートが、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用の保護カプセルに変貌する時が再びやってきたのである。
森田(以降、ツ):「三咲さん、了解しました。真理子、二人のシートのカバーを閉じるよ。」
立川(以降、マ):「オッケイ。」
森田と立川は、瞳とエマの特別シートのカバーを閉じる前に最後のケアーをおこなうのだ。森田は、
瞳のおむつを素早く外し、瞳の股間を清潔に拭き取った上で、新しいおむつに交換した。
ツ:「ご主人様、だいぶおむつを濡らしていますね。」
瞳(以降、ヒ):「これ・・・、オシッコだけじゃないからね。あんなにつぐみさんが愛してくれちゃうんだもの・・・。」
ツ:「ご主人様、解っています。ご主人様がオシッコをおむつをこんなに濡らしてしまうほどたくさんしているなんて
思っていません。でも、ご主人様と愛を確認できて嬉しいです。」
ヒ:「・・・。ところで・・・。」
ツ:「なんですか?ご主人様。」
ヒ:「不満なんじゃが・・・。」
ツ:「何が不満なんでごぜえますか?ご主人様。」
ヒ:「なんで、同じサイボーグなのに、離着陸の時、私たちだけ物扱いになって、つぐみさんや真理子さんは
人間として扱われるの?不満じゃ〜〜〜〜っ!」
33 :
manplus:2007/05/13(日) 21:20:03 ID:6STdsi/90
ツ:「ご主人様、そんな我が儘言っちゃいけませんっ!ご主人様やエマさんは、万が一のことがあってはいけないから、
安全のため仕方ないのです。そんなこと分かりきっているじゃないですか。」
ヒ:「でも、でも、でも〜〜〜。なんか、不合理だよ。手脚がないダルマ人形にされた上に、
何で私たちだけカプセルに閉じこめられなくちゃいけないんだよ〜〜〜っ!」
ツ:「ご主人様は閉じこめられるのが怖いんですよね。いつも、
移動用カプセルや特別シーの蓋を閉める時に愚図りますよね。」
ヒ:「こわくなんかないもんっ!」
ツ:「そうですか・・・?だったら我慢してくださいね。ご主人様に万が一のことがあったら、
何万人のファンが悲しむか判らないんですよ。速水瞳の身体は、もう、ご主人様のものであって、
ご主人様だけのものじゃないんですよ。さあ閉めますよ。」
ヒ:「イヤじゃぁ〜〜〜っ!・・・・・。」
瞳の言葉が、カプセルの中に飲み込まれていった。
マ:「やれやれ、いつも、つぐみは、瞳さまをカプセルに入れるときは苦労しているわね。」
ツ:「本当だよ。真理子。カプセルに入れるときに愚図るのを除けば、こんな素敵な女性はいないんだけれどね・・・。
本当にこのことが玉に瑕といったところだよね・・・。フゥ〜〜〜ッ!」
ヨ:「さすがの森田さんが、苦労しているわね。」
ツ:「はい。」
34 :
manplus:2007/05/13(日) 21:20:52 ID:6STdsi/90
ヨ:「瞳は、小さいときから人一倍寂しがり屋だからその影響よね。いつも、人の真ん中にいる娘だったから、
一人になれていないのよね。」
ツ:「三咲さん、三咲さんの言われていること、解るような気がします。ご主人様は、
一人になったことがあまりないから・・・。ドライバー仲間からも慕われているし、
どんな人からも可愛がられているから・・・、カプセルに封入されているときと
スーパーF1マシンに乗っているとき以外は一人になることないですからね。
スーパーF1マシンに乗るときは、好きなことで、仕事であるので寂しさを感じないのでしょうけれど、
カプセルは、強引に閉じこめられるという観念が強く働くから愚図るのかもしれませんね。」
ヨ:「きっとそうでしょうね。それに、コイツは、森田さんに甘えているのよ。こんなスティディーがいるなんて
果報者なんだから・・・、我が儘を言ったらいけないのにね。」
ツ:「そんなこと無いです。」
ヨ:「森田さん、謙遜しちゃダメよ。パートナーとして最高の資質を持っているのがあなただもの。特に瞳にとっては、
最高のパートナーだものね。瞳が羨ましい・・・。」
ツ:「ありがとうございます。三咲さん。」
ヨ:「どういたしまして。さあ、森田さんもシートベルトを着けてね。間もなく最終着陸態勢にはいるわ。
ウィーンのクリスマス会を楽しみましょうね。」
ツ:「はい。」
森田は、三咲に促されてシートについて、シートベルトを締めた。
オーストリア航空126便は、定刻通り、ウィーンのマリアテレジア国際空港に着陸した。
35 :
manplus:2007/05/13(日) 21:34:37 ID:6STdsi/90
“皆様、オーストリア航空126便をご利用くださり、ありがとうございました。当機は、定刻通り、ウィーン、
マリアテレジア国際空港に着陸いたしました。現地の時間は、12月23日15時ちょうどです。地上温度は、
摂氏マイナス5°、天候は雪です。当地気象台の予報ですと、今夜から明後日にかけて、低気圧の通過により、
場所によっては吹雪になる予想が出ております。皆様におかれましては、くれぐれも天候にご注意ください。
それでは、皆様、よいご旅行になりますことを乗務員一同心よりお祈りしております。
本日は、オーストリア航空をご利用いただきましてありがとうございました。またのご搭乗を心よりお待ちしております。
なお、飛行機が完全に停止するまで安全のため、お立ちにならないようくれぐれもご注意ください。最後になりましたが、
皆様がよいクリスマスを迎えられますことを乗務員一同心よりお祈り申し上げます。メリークリスマス!”
到着の機内放送が流れ、吹雪の中を切り裂くようにエアバスA−420は、滑走路から誘導路を
専用スポットへ向けて移動を始めた。
つぐみは、シートベルトをほどいて、瞳のシートのカバーを開けて、シートベルトをほどき、毛布を取り、
排尿用におむつに取り付けられた採尿ホースと瞳の肛門バルブに接続された排便ホースを外してあげた。
その上で、専用の低刺激性アルコールティッシュで下半身を丁寧に拭き、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用に作られた袋状のパンティーを素早くはかせ、
服を手早く着せると、瞳を抱き上げて、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用移動用台車に瞳の身体を
据え付けた。
その間、瞳は、森田の作業に安心しきったような表情で身を委ねているのだった。隣では、エマも立川によって、
同じような作業が行われていた。
ヒ:「やっと、ウィーンに着いたね。台車に据え付けられているだけだから、実際には、
普通の肢体切断障害者とは全く違うのかもしれないし、台車というだけに物扱いには変わりないかもしれないけれど、
この状態になると人間に戻れたように私には思えるから不思議だよ。」
36 :
manplus:2007/05/13(日) 21:35:25 ID:6STdsi/90
ツ:「何を言っているんですか、ご主人様。私たちはサイボーグであっても、生体脳が身体を支配する限り、
人間であることに変わりないんですよ。」
エマ(以降、エ):「でも、四肢を取り外されて、その切断面を外部電子機器とのコネクターターミナルにされている自分を
まじまじと見るとやっぱり、生体コンピューターという立場にされてしまったと思えちゃうんですよね。
私も瞳さんの気持ちはよく解ります。」
ヒ:「エマちゃん、そう思うよね。自分が人間じゃなくて、マシンの制御専用機器なんだと思うことがたまにあるんだよ。」
ツ:「ご主人様もエマさんも、そんなこと言わないでください。そんなこと言ったら、私だって、
身体改造率が97%を越えているんですよ。ただ、ご主人様とエマさんと違うのは、
人工器官の手足がついているだけなんですから、私だって、アンドロイドっていわれてもおかしくないんですよ。
でも、自分でそう思ってしまったら、生体脳が心を閉ざした状態になって、本当のロボットになってしまうから、
凹まないようにしているんだけなんです。たとえ、サイボーグボディーを持つ者になっても、生身の標準人体であっても、
心を閉ざしてしまって、他人との交流を拒絶してしまった人が本当のロボットになってしまった人だと思っているんです。
いくら、生体率100%でも、心を閉ざしてしまったら、ただの生体反応があるだけのロボットだと思うんです。
私・・・、そんな人を何人も見てきているから・・・、自分は、いくら機械の身体になっても心を閉ざさないようにしようって、
それが、人間である証になるんだって、ずっと思って今まで生きてきたんです。
ご主人様もエマさんも、ポジティブな考え方をされる方たちだから、当然、
そのように思っていらっしゃると思っていたんです。」
ヒ:「つぐみさんの言う通りだね。私も、エマちゃんもそう思って生きてきていることは、つぐみさんと一緒だよ。」
エ:「そうです。つぐみさん、私たちも、その一線を越えないようにしているんです。」
ヨ:「瞳とエマちゃんの負け〜〜〜ッ!」
ヒ:「うっ!何時の間に聴いていたんじゃ、好恵・・・。本当に、影のように会話に入ってくるところなんかは、妖怪のようだ。」
37 :
munplus:2007/05/13(日) 21:37:04 ID:6STdsi/90
ヨ:「瞳ッ!うるさいよ。魔女に妖怪といわれたくないわいっ!」
ひ:「私は、魔女じゃないもんっ!」
マ:「どうでしょうかね・・・。」
ヒ:「真理子さんまで、何を言い出すのよっ・・・。」
マ:「瞳さまは魔女で、エマが魔女の弟子といったところかもよ。」
エ:「ひっ、非道いです。真理子さんがそんなこと言うなんて・・・。」
ヒ:「エマちゃん、世間の迫害に二人で肩寄せ合って耐えていこうね。」
エ:「はいっ、瞳さん。」
ヨ:「こいつらの被害妄想ときたら・・・。呆れてしまう・・・。そうじゃなくて、森田さんの思いを
受け取ってやりなさいっていっているのよ。」
ヒ:「解っているよ。つぐみさんの言ったこと充分理解しているし、私もそのつもりだよ。」
ヨ:「そう、それならいいんだけれど・・・。森田さんの心を開いた状態にし続けられるのは瞳だけなんだからね。
瞳が後ろ向きなこといっちゃダメだよ。それに、瞳には、暗い考えや後ろ向きの考えは似合わないでしょ。」
マ:「そうですよ。瞳さまには、暗い、ジメジメした考えは向いていません。」
ヒ:「解ったわ。みんなの言うとおりだね。ところで、好恵、もう、私たちも降りていいのかしら?」
ヨ:「そうだった。もう、全乗客が飛行機を降りたから、みんなも降りられることを案内に来たんだった。」
38 :
manplus:2007/05/13(日) 22:28:03 ID:6STdsi/90
ヒ:「ちょっと、好恵〜〜〜〜ッ!しっかりしてよ。」
ヨ:「ごめんごめん。マリアたちも迎えに来ているよ。」
ヒ:「好恵は、どうするの?」
ヨ:「一緒に街に出ようよ。待っていて欲しいんだ。」
ヒ:「いいけれど・・・。マリアは、到着ロビーでずっと待っているんでしょ。好恵がブリーフィングを終えるまで待っていると、
きっと、マリアのことだから、立ったままは辛いとか、寒いとか我が儘言い出すに決まっているよ。」
ヨ:「その点なら、ご安心ください。到着ロビーの貴賓待合室にオーストリア航空のグランウンドスタッフがマリアとアンネを
案内しているわ。今頃、マリアとアンネは貴賓待合室にいるはずよ。みんなも、そっちにこれから案内しますからね。」
ヒ:「さすが、好恵。ちゃんと手配してくれていたんだ。」
ヨ:「あったりまえじゃない。でも、実を言うと、マリアが、空港のロビーで無防備にもボーッとして突っ立っていたんだって。
というか、アンネが何も考えずにマリアをロビー中央の人目につく場所に置いておいたんだって。
それで、自分は、無責任にもトイレに行っちゃったらしいの。マリアをロビー中央に置いておいたら、
どんなことになるか解っているのにね。動けないマリアの周りをたまたま通りがかったお客様が囲んじゃって、
収拾がつかなくなったらしいのよ。それで、グラウンドスタッフが、瞳たちがそこに合流しちゃうとさらにパニックになると
判断して、貴賓室に移動させたの。」
ツ:「う〜〜〜ん。アンネは、たまにボケをかますんですよね。でも、天然ボケだから仕方ないんですが・・・。」
ヨ:「つぐみさんのようにしっかりしているサポートスタッフで、瞳はよかったね。」
マ:「三咲さんの言うとおりですよ。つぐみは、しっかり者ですもの。」
39 :
manplus:2007/05/13(日) 22:29:44 ID:6STdsi/90
ヒ:「みんな、騙されちゃいけないよ。つぐみさんは、こう見えても、意外と大きなドジをすることがあるんだよね。
この前も、外出しようとして、シャワーを浴びさせてもらったまではいいんだけれど、身体を拭いてもらって、
自分だけ着替えて、私を裸のままで連れ出そうとしたのよ。」
マ:「えっ・・・!?そんなことしたの?つぐみ・・・。」
ヒ:「『つぐみさん、私、裸のままで何処行くの?』って言ったら、『すみません!』って叫んで、こんどは、
私をスーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用メンテナンスベッドに寝かせようとするんだよ。
だから、私、『つぐみさん、私たち、今、起きたばかりなんだよね。』って言って突っ込んだら、やっと気がついて、
私に服を着せてくれたんだけれどね。」
ツ:「ごっ、ごっ、ご主人様・・・。そんな昔のこと、何も、こんなところでばらさなくっても・・・。」
ヒ:「つい三日ぐらい前の話だけどなぁ。」
エ:「つぐみさん、顔がまっ赤ですよ。」
ツ:「ごっ、ごっ、ご主人様の意地悪ッ!」
マ:「つぐみも、しっかりしているようで、以外とボケかますんだね。」
ツ:「真理子もやめてよ・・・。恥ずかしいっ・・・!」
ヨ:「瞳も、だんだんミストレスとしての自覚が芽生えてきたな。知らん顔でやらせるだけやらせておいて最後で恥を
かかす。言葉責めの基本ね。」
ヒ:「よっ、好恵っ!そうじゃないんだからっ!あまりの突然の奇行に呆気にとられていただけだよ。」
40 :
manplus:2007/05/13(日) 22:30:22 ID:6STdsi/90
ヨ:「そうか〜〜?」
マ:「まあ、どっちにしても、サポートスタッフにとっての朝は戦場ですから、突然、頭が抜けちゃうこともあります。
つぐみに同情しちゃいます。エマだから、何もエマは言わないでくれるから、落ち着いて対処していますけれど、
つぐみみたいに、最愛の瞳さまを誰よりもよく見せようなんて考え始めたら、私だって、きっとテンパッちゃいますよ。」
ツ:「そっ、そうだよね。真理子もそう思うでしょ。」
エ:「どうせ・・・ッ、どうせっ、私は、どうでも言い存在ですよ・・・。」
ヒ:「エマちゃん、そこでいじけないっ!真理子さんは、エマちゃんがどうでも言い存在なんて思っているわけないじゃない。」
エ:「そうでしょうか・・・。モナコグランプリの決勝後もガレージで私を独りぽっちに残して、自分は瞳さんの表彰式を
見に行っちゃったんですよ。私、ガレージに一人で1時間以上も取り残されて・・・。寂しかったんですから・・・。
それに、瞳さんのスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとしてのモナコマイスターの姿。
絶対に見たかったんですよ。F1とスーパーF1の2階級でのモナコマイスターは、瞳さんだけですもんね。」
マ:「だから、あの時のことはゴメンって、謝ったじゃない。私がプロバンスのレストランおごったじゃないの。」
エ:「でも、確か、瞳さんは、モンテカルロラリーも勝ったことがあるって聴いたけれど・・・。」
ヒ:「エマちゃん、さすがだね。そうだよ。ちょうど、スケジュールの関係でモンテカルロに出場できたとき、
総合優勝しちゃったんだ。だから、三冠なのよ。」
エ:「凄いな。瞳さんの表彰式見たかったな。」
ヒ:「エマちゃん、何を言っているの。今度は、一緒に表彰台に立つんだよ。いいね。」
エ:「はい。解りました。そうできるようにがんばります。でも、本当にそうなりたいな。頑張らなきゃ。」
41 :
manplus:2007/05/13(日) 22:41:02 ID:6STdsi/90
マ:「そうだよ。エマ。エマは、今度は、瞳さまを従えて表彰台の中央に立つことも可能なんだよ。」
エ:「真理子さん・・・。そんなこと、私にできるのかな?」
マ:「出来るわよ。一緒にがんばろう。」
エ:「はい。」
ヨ:「瞳。サポートスタッフの人って、可愛いのね。それに、なんだかんだ言っても、スーパーF1マシン専用
サイボーグドライバーはサポートスタッフを完全に信用しているんだね。」
ヒ:「まあね。私たちにとって、サポートスタッフは、自分の手脚、そして、大事なパートナーだからね。」
ヨ:「そうか・・・。パートナーか?瞳は、これからどうするの?」
ヒ:「あっ、そうだ。つぐみさん、真理子さんに私の部屋の鍵を渡してあげて。」
ツ:「そうでした。」
森田は、自分のショルダーポーチの中をまさぐって、鍵を取り出し、立川に渡した。
ツ:「真理子、ウィーンのご主人様の部屋は知っているよね。」
マ:「うん。知っている。」
ツ:「今日は、エマさんと二人で、ご主人様の部屋を使って。カンダのテクニカルセンターに泊まるよりもいいでしょ。」
マ:「まあ・・・。そうだけれど・・・。どうしたの?」
42 :
manplus:2007/05/13(日) 22:42:22 ID:6STdsi/90
エ:「そうですよ。瞳さんとつぐみさんは、ご自分たちの部屋に泊まらないんですか?」
ヒ:「エマちゃん、ゴメンね。私とつぐみさんは、行くところがあるんだよ。好恵もついでだから、私の部屋に泊まりなよ。」
ヨ:「だって・・・。」
ヒ:「ホテルにステイするよりいいでしょ。」
ヨ:「まあ、そうだけれど・・・。瞳がいないんじゃな・・・。エマちゃんと立川さんに悪いわ。」
エ:「いいんですよ、三咲さん。私も真理子さんも、二人でいるより、三咲さんが居てくれた方が楽しいです。でも・・・。
瞳さんとつぐみさん、何処に行くんですか?」
ヒ:「うん、ちょっと行くところがあって・・・。明日の昼過ぎには戻ってくるから、そうしたら、一緒にウィーン観光して、
その後で一緒にクリスマス会の会場のレストランに行こうね。」
エ:「はい・・・。」
ツ:「エマさん、真理子、三咲さん、ごめんなさい。よろしくお願いします。」
マ:「つぐみが謝ることないよ。瞳さまと水入らずのデートでしょ。ちょっと妬けちゃうけれどね。エマと三咲さんの3人で
大人しく待っているからね。」
ツ:「ありがとう。真理子。あっ、三咲さん、飛行機を降りないといけませんね。」
ヨ:「あっ、あっ、そうだわね。案内するから、ついてきて。」
43 :
manplus:2007/05/13(日) 22:43:51 ID:6STdsi/90
三咲に案内され、飛行機を降りてボーディングブリッジを通り、到着ゲートを抜け、パスポートコントロールを抜けると、
VIP専用の通路から、貴賓室に瞳たちは、案内された。
ヨ:「瞳、私、到着ブリーフィングを済ませて着替えたら合流するから、マリアたちと一緒に待っていて。
速攻で戻ってくるから。」
ヒ:「解った。」
貴賓室の中に瞳とエマが運ばれると、お冠のマリアがサポートスタッフのシュタイフに当たり散らしていた。
マリア=リネカー(以降、リ):「まったくっ!アンネ。あんたはいっつもドジなんだから。」
アンネ=シュタイフ(以降、ア):「だって・・・。急にお腹が痛くなっちゃったんです。」
リ:「当たり前じゃない。牛乳ダイエットだとか言って、朝から、牛乳を2リットルにヨーグルトをあんなに食べるから・・・。
お腹が痛くなって当たり前よっ!もっと、身体を大事にしなくちゃいけないでしょっ!」
ア:「だって、だって、大事にしようと思ってダイエットを始めたんです・・・。」
リ:「あれじゃ、逆効果よ。アンネは、いつもやることが限度を超えちゃうんだもの。自殺行為もいいところだわ。」
ア:「マリアさま・・・。そこまで言わなくったって・・・。」
ア:「だって、あなたのやることは、いつも度が過ぎて、自分を苦しめることばっかりだもの。」
ア:「だって、だって、いつも綺麗でいて、マリア様に相応しい、女性でいたいんですぅ〜〜〜。」
リ:「そりゃ、嬉しいけれど、それが度を超しちゃうのが考え物って言っているのよっ!」
44 :
manplus:2007/05/13(日) 22:53:22 ID:6STdsi/90
ヒ:「マリア、もう許してあげなよ。アンネだって反省しているんだから。」
ア:「ヒトミさ〜〜〜〜んっ!。助けてください〜〜〜〜。マリア様のお怒りがおさまらないんです〜〜〜〜っ!」
ヒ:「マリア、もう許してやりなよ。アンネ、半べそだよ。」
リ:「おっ、ヒトミ、着いたね。待っていたよ。だってさ、空港の到着ロビーのど真ん中に私を置き去りだよ。
人だかりが出来ちゃって、空港関係者に迷惑は掛かるわ、ただでさえクリスマスでごった返しているロビーが
大混乱になっちゃったんだから。」
ツ:「マリアさん、アンネを責めないでください。アンネだって一生懸命なんですから。だいたい、
マリアさんが浮気ばっかりするから、アンネは必死にマリアさんの心を引き留めようとしてあがいているんです。
マリアさんが、アンネのことをもっと愛してあげないからですよ。アンネの性格を知っているくせに、裏でコソコソ、
可愛い女の子に声掛けまくっているんだから。少しはアンネの気持ちも考えてやってくださいっ!」
リ:「はい・・・・・・。ヒトミ、ツグミの怖さに磨きが掛かったみたいだね。ヒトミも苦労しているんじゃないの・・・。」
ヒ:「うん、そうなんだよ。最近はどっちがご主人様なのか判らないんだ・・・。」
ツ:「二人ともっ!いい加減にしてくださいっ!私は、まじめな話しをしているんです。」
ヒ・リ:『はい・・・。』
ツ:「まったくっ。アンネの気持ちをもっと大切にしてやってください。」
ア:「つぐみ〜〜〜〜。もういいよ〜〜〜〜〜〜。あんまり言うと、マリア様に嫌われちゃう・・・。だから・・・。
捨てられたくないの・・・。」
ツ:「こいつはっ!白人の女のくせに女々しいんだからっ!だいたい、あんたが、そんなにウジウジしているから、
マリアさんが、飽きてつまみ食いしたくなるんでしょ。サポートスタッフなんだから、もっとどっしり構えるのよ。判ったっ!」
45 :
manplus:2007/05/13(日) 22:54:55 ID:6STdsi/90
ア:「はい・・・。」
マ:「マリアさま、つぐみのやつ、だんだんヒトミさまに似てきましたよね。これほどウリなサポートスタッフと
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、珍しいんじゃないですか?」
リ:「真理子。そうだよね。二人とも、怒らせると怖いもんね。」
マ:「そう言えば、この間、二人で怪しげな黒い液体を煮込んでいるのを見ましたよ。あれは、
きっと何かの好からぬ薬ですよ。」
ヒ・ツ:『こら、マリア(さん)、真理子(さん)!私たちは、魔女じゃない。』
リ:「あらあら、、好いハーモニーだこと。」
エ:「でも、たまに、つぐみさんの性癖が解らなくなることがあるんです。」
リ:「エマ、つぐみは、結構、芯が強いからね。だいたいね。あんたたちが、なかなか出てこないから、
私がアンネを怒らなくちゃなんなくなったのよ。」
ヒ:「おっとっと、今度は、私たちに八つ当たりですか、マリア・さ・ん。」
ア:「マリアさま、あんまり、瞳さんと喧嘩しないでください。マリアさまのこと、一番、解ってくれているのは
瞳さんなんですから。その瞳さんが離れていったら、マリアさまは孤立するんですよ。それでも好いんですか?」
リ:「アンネ。いつも、そうまじめなことを言うなっ!私とヒトミはじゃれているんだからね。真に受けないのっ!」
46 :
manplus:2007/05/13(日) 22:55:37 ID:6STdsi/90
そうこうしているうちに貴賓室に着替えを終わった三咲が入ってきた。
ヨ:「お待たせ、あっ、また、ヒトミとマリアが喧嘩していたね。」
ヒ:「そんなこと無いよ。マリアとアンネを仲裁していたんだよ。」
ヨ:「そっちか・・・。瞳、修羅場だった?」
ヒ:「うん。好恵に見せたかったよ。」
ヨ:「見たかったな。」
リ:「私とアンネは、見せ物じゃないっ!」
ヨ:「見せ物じゃないって言うなら、マリアもアンネもあんまりみっともないことをしないのっ!」
リ・ア:『はい・・・。』
エ:「三咲さんに掛かると瞳さんもマリアさんも大人しくなっちゃうんですね。」
ヨ:「エマちゃん、こいつらが暴れたら、私に言ってね。すぐに、大人しくさせて上げるから。」
エ:「はい。お願いします。」
ヒ:「ぶ〜〜〜〜〜っ!私とマリアの人権はどうするんじゃ。」
リ:「そうだっ!ヒトミの言うとおり。」
ツ:「あの〜〜〜。ご主人様。もう4時なんですが・・・。」
47 :
manplus:2007/05/13(日) 23:06:21 ID:6STdsi/90
ヒ:「あっ、いけない。あんまり遅くなっても悪いよね。つぐみさん、行こう!」
ツ:「はい。」
リ:「ヒトミ、ツグミ、本当に行くの?外は吹雪だよ。」
ヒ:「でも、向こうで、レミのご両親とフランツの許嫁が私たちが行くのを待っているからね。」
リ:「そうか、気をつけて行くのよ。ヒトミ、あんまり飛ばすんじゃないよ。」
ヨ:「瞳、今日は、かなり危険だからね。アウトバーンも除雪が追いつかないって言っていたわ。今日だけ60キロの
速度規制が掛かっているみたいよ。それに、チェコに入ったら除雪設備が貧弱になるから、さらに路面が悪化するわ。」
リ:「そうだよ。いくら、ヒトミがWRCでも何勝かするぐらいの実力を持っているとしても・・・。」
ヒ:「大丈夫だよ。今日は、私がドライブする訳じゃないから・・・。国際自動車連盟のロイド会長が、
オーストリア陸軍山岳特殊部隊の輸送隊の兵士を運転手にするようにオーストリア政府に頼んでくれたし、
オーストリア陸軍が特殊ジープを提供してくれているから大丈夫だよ。それに、つぐみさん一人で
行かせるわけにはいかないでしょ。」
ア:「つぐみ、瞳さんのお世話なら私が、マリア様と一緒に私が見るから大丈夫だよ。」
リ:「アンネ。そういう事じゃないのよ。レミのご両親は、ツグミがヒトミと一緒に来ることを望んでいるんだよ。
瞳に会うこともレミのご両親は、楽しみにしていられるの。」
ヒ:「そうなんだ。レミのご両親を安心させたいし、フランツの元許嫁のアンヌも、私と会いたいだろうしね。」
48 :
manplus:2007/05/13(日) 23:07:03 ID:6STdsi/90
リ:「そうだよね。それに二人が揃わないと追悼ミサが始まらないんだったね。」
ヒ:「そうなんだ。マリアの言うとおりで、追悼ミサを牧師さんが待っていてくれるからね。今からなら、
夜の7時までには向こうに着けると思うんだ。」
リ:「そうだね。ヒトミ、見送らせてね。」
ヒ:「うん、いいよ。」
空港の玄関には、オーストリア陸軍が差し回した車が待っていた。
森田が瞳をスーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用移動用台車ごとジープに乗せ、
指定の場所に固定してから、自分もその隣のシートに腰掛けると、
待っていたかのように運転を担当する兵士がドアを閉めた。
リ:「ヒトミ、レミのご両親とアンヌによろしく伝えてね。」
ヒ:「分かった。それじゃ、明日の昼には戻ることが出来ると思うから待っていてね。」
ア:「ツグミ、ヒトミさん、本当に気をつけてくださいね。ヒトミさんに万が一のことがあったら、マリア様の悲しむ顔なんて、
私は見たくありませんもの。」
ヒ:「アンネは、心配性なんだから・・・。大丈夫だよ。心配しないでね。そんじゃ、ちょっくら行って参りやす。」
瞳がおどけてシュタイフにウインクをした。
49 :
manplus:2007/05/13(日) 23:07:46 ID:6STdsi/90
瞳たちを乗せたジープを見送るとマリアが、
リ:「さて、私たちも行きましょうか。身体の温まるウクライナ料理の美味い店で晩餐しようよ。エマの誕生祝いを兼ねてね。」
エ:「マリアさん、私の誕生日覚えていてくださったんですか?」
リ:「当たり前でしょ。私はヒトミと違って友人には気を使う・・・。あれッ!ヒトミのヤツ、生意気なことするのね。
さすがに自分のスレイブに対してはこまめだこと。」
リネカーが、エマの首にかかったペンダントを目聡く見つけた。
エ:「はい。瞳さんと真理子さんとつぐみさんにいただきました。私の新しい宝物です。」
リ:「お〜〜おぅ、陶酔した表情になっちゃってからに。」
リネカーの言葉にエマの顔が赤らんだ。
エ:「前から欲しかったんです。感激なんです。」
リ:「はい、はい、はい。お熱いことで。こんな小さいのに、カンダスーパガールズのEモデルをレプリカしているものね。
かなり気合いの入ったプレゼントだこと・・・。」
エ:「はい、本当に嬉しいんです。ところで、瞳さんがWRCで勝ったのは、モンテカルロだけなんですか?」
リ:「おっ!話しを切り換えるのが巧くなったな。F2時代にバイトでやっていたのさ。何故かトミタの契約ドライバーで
やっていたっけ。年間5勝挙げた年があったよね。モンテカルロとノルウェイとスゥエーデンとアイルランドと英国で
勝っていたっけ。アルバイトの域を超えてるよね。」
50 :
manplus:2007/05/13(日) 23:16:23 ID:6STdsi/90
エ:「だから、凍った路面や雪道も平気なんですね。そう言えば、ウェットのスリッピーな路面でも、瞳さんは
平気ですもんね。」
リ:「ウェットを平気で走れるのは意味が違うぞ。それが、あいつが魔女の証拠さ。」
ア:「マリアさま。ヒトミさんに悪いから、その言い方は止してください。」
リ:「アンネ。ヒトミは・・・。」
ア:「マリアさま、冗談も程々にしないと・・・。」
リ:「解ったわよ。アンネにへそを曲げられてしまうと私も困るから、ここは真面目に話すか・・・。」
マ:「そうですよ。マリアさまにとってアンネさんは大事な存在なんだから、たまにはアンネさんの言うことを
聞いてやってください。」
リ:「マリコに言われるとその気になるから不思議ね。実のところ、ヒトミに対しては、悔しくて認めたくないけれど、
本当にヒトミは天才だもの。あんなスリッピーな路面で、平気でマシンをコントロールしきるんだからね。
最初にヒトミのドライブをみた時は本当に悪魔に魂を売り渡しているんじゃないかと思ったもの。ラリードライバーに
聞いても、舌を巻くドライビングテクニックなんだって言っていたわ。もっとも、バイトで5勝もサーキットドライバーに
勝利を持っていかれたら、悔しいと言うよりも脱帽だよね。それも、ぶっちぎりで全SS完全制覇なんだもの。
呆れてしまうだけだったみたいよ。」
エ:「そうかもしれませんね。私たちがラリードライバーにサーキット上で歯も立たずに完敗したら、
苦笑いするしかないですものね。」
リ:「そうなんだよね。その道のプロドライバーなんかよりも、遙かにテクニックが上なんだから。」
エ:「本当に、ヒトミさんは魔女かもしれませんね。」
51 :
manplus:2007/05/13(日) 23:17:06 ID:6STdsi/90
リ:「エマもそう思うでしょ。」
マ:「エマっ!瞳さまのいないところで、滅多なこと言っちゃいけないよ。ハムスターにされたらどうするの。」
エ:「あっ、あっ、そうでした。瞳さん、どこで聞いているか分かりませんからね。」
リ:「・・・。こいつら・・・、完全にヒトミワールドに嵌ってしまっている。」
エ:「でも、マリアさん、瞳さんとつぐみさんは、本当に仲がいいんですね。今日も、二人でデートですか?」
リ:「・・・・・・。エマ、何を言っているの。いくらヒトミの行動のこととは言え、たかがツグミと水入らずのデートで、
国際自動車連盟が、オーストリア政府に無理を頼んで護衛の兵士を出したりするわけないでしょ。
それに、あれでも、ヒトミは、みんなに解らないようにしているけれど、ツグミに相当の気を遣っているんだからね。」
エ:「へぇ〜〜〜。そうなんですか。つぐみさんが、もの凄く気を遣って、献身的に振る舞って、本当に
愛し合っているように見えるんですが・・・。」
リ:「もちろん、ツグミはヒトミを溺愛しているし、ヒトミもツグミを深く愛しているのは確かだけれど、未だにお互いに
変な遠慮があるんだよね。ヒトミは、ある意味、今日もツグミのお供みたいなものだもの。」
エ:「マリアさん、どういう事なんですか?さっきも三咲さんが瞳さんとつぐみさんは、特別な関係だって言っていたし、
瞳さんとつぐみさんの間に過去に何があったんですか?」
マ:「私も聞きたいです。瞳さまとつぐみの関係の本当のことを・・・。」
52 :
manplus:2007/05/13(日) 23:17:48 ID:6STdsi/90
リ:「そうか・・・。エマもマリコもツグミがヒトミのサポートスタッフになったいきさつを知らなかったんだね。ヒトミとツグミの
事情を二人は知っておく必要があるだろうね・・・。いい機会だから話してあげよう。」
ヨ:「マリア、その前に空港を離れようよ。」
リ:「あっ!そうだったね。一度ヒトミの部屋に荷物を置いて、美味しい物でも食べながら、話そうよ。」
エ:「マリアさん、賛成です。真理子さん、瞳さんの部屋に移動しようよ。」
マ:「オッケイ。それじゃ、瞳さんの部屋に移動しましょう。マリアさまとアンネさんも一緒に行きますか?」
リ:「そうだね、その後のレストランの場所を案内しなくちゃいけないから、一緒に行って、ヒトミの部屋で待たせてもらうわ。」
リ:「ヨシエ、エマ、マリコ、ここのウクライナ料理は最高なんだよ。」
ヨ:「こんなところがあるなんて知らなかった。やっぱり地元の人間には敵わないわね。」
ア:「ヨシエさんは、地元エアラインのキャビンアテンダントだから知っているのかと思った。」
ヨ:「シュタイフさん、そんなこともないのよ。地元のエアライン勤務といっても、仕事柄、ウィーンにいる
時間なんてそんなに長くないもの。」
エ:「そうかもしれませんね。ところで、瞳さんとつぐみさん、もう着いたのかな。」
53 :
manplus:2007/05/13(日) 23:27:00 ID:6STdsi/90
リ:「そうだね。ヒトミたち、もう着く頃だと思うよ。どんなにアウトバーンが速度規制がかかっていても、
山岳部隊の連中は、かなり余裕を見て出発しているはずだから。」
エ:「ところで、マリアさん、瞳さんたち何処まで行ったんですか?」
リ:「そうだね。何処へ行ったかも含めて、エマとマリコに話さなくちゃいけないんだけれど、どこから話をしようかな・・・。」
ア:「ねえ、マリアさま、若いスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとサポートスタッフは、
あの事件のことさえ知らされることがないんですから、本当に最初のことから話をしないと・・・。
たぶん、エマちゃんだって、ツグミの年齢も知らないはずです。」
エ:「つぐみさんの年齢って?」
リ:「エマは、知らないのか・・・。」
ア:「マリアさま、そうですよ。」
リ:「そうか、それじゃ、本当の最初から話してあげるか。」
マ:「マリアさま、お願いします。私とエマに分かるように話してください。」
リ:「まず、私たち、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、現役のレーサーを引退するまでは、
手脚のないダルマ状態で過ごさなくちゃいけないことは知っているよね。その理由も。」
エ:「はい。現役引退の時のために、手脚の人工器官が国際自動車連盟の専用保管庫に保存されていて、
私たちが現役を引退するまで厳重に保管されて、むやみに持ち出して私たちが勝手に手脚を取り付けることが
出来ないようになっていますよね。理由は、レースの時に、制御システムとして、スーパーF1マシンに
接続されているのに、レースを離れたときは、手脚を取り付けて標準人体としての生活をするということを
何度も繰り返していると生体脳が混乱してしまって、最終的には、生体脳の許容の限界を超えてしまい精神に
異常をきたしてしまうからだと聞いています。」
54 :
manplus:2007/05/13(日) 23:27:42 ID:6STdsi/90
リ:「エマ、その通りよ。それじゃ、何回ぐらいその繰り返しをしたらスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、
気が狂っちゃうと思う?」
エ:「そんなこと・・・、マウスとかで実験したデーターしか残っていないはずだから、誰も、
正確なことは解らないんじゃないですか?」
リ:「それが違うの。実際に、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーで、精神に異常を来すまでの期間の統計を
とったデーターの平均が残っているの。」
マ:「マリアさま、どういうことなんですか?」
リ:「人間の脳なんて脆いものだし、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、スーパーF1マシンの
制御システムとして機能しているときに脳とマシンを行き来する情報量といったらもの凄いものがあるから、
いきなり、脚や手が元通りになって人間として歩いたり、手を使ったりすると、人間としての手足の使い方と
制御システムとしての役割としてのケーブルコネクターの使用の繰り返しをせいぜい、10回も行えば生体脳が
その二通りの制御情報の量の多さと質の違いのギャップの大きさに耐えられなくなって、生体脳が完全に
崩壊してしまうのよ。普通に言うところの気が狂った状態になってしまうの。人間の脳って、その刺激の多さが
限界を超えると情報を受け付けなくなってしまうのよ。苦しみから逃れる方法としてね。」
エ:「10回ですか?でも、どうして、そんな具体的な数字が残っているんですか?」
55 :
munplus:2007/05/13(日) 23:30:33 ID:6STdsi/90
リ:「それが、スーパーF1界の封印された歴史なんだけれど、国際自動車連盟にスーパーF1というカテゴリーの
開催を迫ったカンダとトミタは、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーという、サイボーグという存在の
ドライバーでのマシンコントロールを考えついて、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの手術方法を
開発したときには、マウスでの実験データーから、スーパーF1のコントロールユニットとして乗せる
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが、現役でいる間は、手脚を付けたり外したりすると精神障害を起こして、
人間としての精神的な崩壊を招くことを把握していたの。だから、マリコやアンネのようなサポートスタッフという、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの手脚の代わりをする専用の特殊用途サイボーグを並行して開発し、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー一人に一人ずつ付き添わせ、手脚の代わりから、サポートスタッフが
感じた性感も含めた間隔を共有できるシステムを開発したの。だから、カンダやトミタは、最初から、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの徹底した管理を行っていたのだけれど、ヨーロッパやアメリカの
ワークスやメーカーは、人間の感覚を甘く見ていたために、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが、
レースとレースの合間に手脚のないダルマ状態で、サポートスタッフに食事の世話から、排泄の世話まで行ってもらう
生活に反発して、人工四肢を取り付けて欲しいという我が儘をサポートスタッフに強く要求してきたの。そのときに、
一部のメーカーが、その強硬な要求に屈する形で、人工四肢をスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに
取り付けることをサポートスタッフに指示を出したの。サポートスタッフ自身は、徹底的な教育を石坂ドクターを
中心とするスーパーF1運営医師団からの教育を受けているから、強行に反対したんだけれど、
56 :
manplus:2007/05/13(日) 23:42:21 ID:6STdsi/90
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを
甘やかしているワークスの言いなりに結局はならざるを得なかったの。それも、サポートスタッフの身体メンテナンスを
ワークスでは一切行わないといった脅し文句でね。定期的なメンテナンスをサイボーグが受けることが出来なかったら、
それは死をしみすることだから、サポートスタッフは、従わざるを得なかったの。しかも、国際自動車連盟に
対するサポートスタッフの報告義務まで禁じることを強要したの。」
マ:「確かに、マリアさまの言うとおり、サポートスタッフは自分の身体のことも含めて、サイボーグに関する基礎的な
知識を全てデーター供与され、体内コンピューターにデーター蓄積を行われた上で、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーのサポートに必要な全知識を徹底的にデーター蓄積された上に
実地訓練を行われますからね。でも、実際は、高額の契約金と年俸をワークスが払っているスーパーF1マシン専用
サイボーグドライバーと比べると同じサイボーグでも、サポートスタッフは、使い捨てに近い扱いを
受けなくてはならないこともありますからね。」
ア:「マリコの言うとおりだよね。所詮、サポートスタッフは弱い立場なんだよ。マリアさまの浮気を指を
くわえてみていなくちゃいけないし、浮気相手とのセックスを代わりにやらされて、その性感を尽くマリアさまに
捧げているのに、私を振り返ってもくれない・・・。」
リ:「アンネ・・・。私は、アンネを愛しているし、大切にして・・・。」
ア:「ヒトミさんのツグミに対する愛情を見習ってください。あんなすごい無償の愛を私も受けてみたいです。
ツグミが羨ましい・・・。」
リ:「アッ、アンネ、私だってアンネに対する感謝と愛情は、ヒトミに負けないわ。」
ア:「そうでしょうか・・・?この前も・・・。」
リ:「アンネ、今日は、ヒトミがツグミに対する愛情に負けないくらいの愛情をこれからあげることを約束するから・・・。
ここは、機嫌を直してくれないかなぁ?」
57 :
manplus:2007/05/13(日) 23:43:35 ID:6STdsi/90
ア:「マリアさま。本当ですね。ここに証人が3人もいるんですからね。約束は果たしてくださいよ。」
ヨ:「やれやれ・・・・。マリアも、アンネには形無しだよね。どっちがミストレスだか解らないわ。」
エ:「本当です。私も、真理子さんを怒らせないように気をつけなくっちゃ。」
マ:「エマは大丈夫だよ。本当に好い子だもの。」
リ:「孤立無援になってしまった。ヒトミ、ツグミ、早く戻ってきてくれ〜〜〜〜っ。」
マ:「でも、たしか、今は、絶対にサポートスタッフが不当な扱いを受けないように、スーパーF1運営医師団が、
サポートスタッフ保護のために必要があれば、チームやメーカーへの立ち入り検査も出来るし、
定期的にサポートスタッフとのコミュニケーションをとるようにしていて、サポートスタッフに異常があれば、
国際自動車連盟が介入できるようになっているじゃないですか。だから、私たちは、国際自動車連盟に
守られていることになっているから、身分的にもある程度しっかりしていますよね。それに、近い将来、
サポートスタッフの労働組合も結成されて、身分保障がしっかりとした形で確立されると聞いています。」
リ:「そうね。真理子の言うとおり、今は、そうなっているけれど、そのようなサポートスタッフの身分保障も、
ツグミたちの一件から制度改革が行われたのよ。」
エ:「マリアさん、そんなに大きな事件だったんですか?」
58 :
manplus:2007/05/13(日) 23:45:20 ID:6STdsi/90
リ:「そうさ。重大で忌まわしい事件だったんだ。だって、レースの度に、手脚をとったり外したりしていたら、
さっきも言ったとおり、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーがすぐに精神異常を来してしまうんだ。
そんな無茶なことを複数のメーカーが、3年間にわたって行い、何人もの有能な
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを廃人同様にしたんだ。しかも、廃人になってしまった
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを精神障害治療施設に入れることをしないで、薬殺してしまった
ワークスやメーカーも何社かあったの。その上さらに、そのような状況やドライバーの処分も国際自動車連盟に
練習中の事故で即死したとか、精神障害を起こしたスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの移動中の
飛行機をワザと落として、事故死に見せかけたりして、徹底的に隠蔽したの。だから、ワークスによっては、
3年間に6人ものスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが、変死してしまったワークスのケースもあったの。」
エ:「そんな・・・。惨すぎます。」
59 :
manplus:2007/05/13(日) 23:53:52 ID:6STdsi/90
リ:「エマの言うとおりだよね。本当に惨たらしいよね。でも、国際自動車連盟も馬鹿じゃないから、ロイド会長が、
再三にわたって、事故調査を詳細にレポートを提出するように迫っていたんだけれど、なかなか、
提出を迫られたメーカーが提出を拒んでいたもので、真実が日の目を見るまでには至らなかったの。
その状況に業を煮やしたスーパーF1運営医師団の団長でもある石坂ドクターが、意を決して事故死した
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー担当のサポートスタッフの体内補助コンピューターのデーターの調査と、
他のドライバーへの担当替えをしたときにデリートしたデーターのサルベージを強制的におこなったの。
サポートスタッフ自体も、自分がしたことの重大さに精神的に嘖まれて、精神障害で引退してしまった
サポートスタッフもいたんだけれど、大部分のサポートスタッフは、新しい担当のスーパーF1マシン専用
サイボーグドライバーの担当についていたから、新しいドライバーの担当になるために一度デリートしたデーターの
サルベージは、かなりの苦労を要するものだったの。でも、石坂ドクターは、さすがに
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとサポートスタッフサイボーグのシステムを開発した人だけあって、
ブラックボックスの開放に成功したのよ。たぶん、石坂ドクターがいなかったら、ワークスチームの不正は
明らかにならないままだったわ。」
マ:「石坂ドクターがいなかったらって、マリアさん、そんなにデーターのサルベージは大変なんですか?」
リ:「エマや私のようなスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーも同じなんだけれど、データーの記憶領域の
ブラックボックスは、個人にとって明かしたくない記憶の補助領域だから、ブラックボックスを他人が開けようとすると、
生体脳に対する防衛システムが働き、強引に開けようとすれば、そのサイボーグの生体脳が壊れてしまう可能性が
あったり、記憶の全てがデリートされてしまう可能性があるのよ。だから、補助コンピューターのブラックボックスの
領域には普通では絶対に侵入できないようになっているの。」
60 :
manplus:2007/05/13(日) 23:54:32 ID:6STdsi/90
エ:「そう言うことなんですか。でも、だったら何故、石坂ドクターは、データーを見ることが出来たんですか?」
リ:「簡単に言うと、私たちを設計した張本人だからということかな。でも、それだけでは、開けることは出来なかったと
思うから、プライベートな記憶領域の開放には、石坂ドクターの天才的な頭脳による閃きと技術によるところが
大きかったの。サイボーグという機械と電子機器に制御される身体になっても個人のプライバシーを守るために
誰にも開けられないように設計されているんだから、通常では、設計者にも絶対に開けられないって言うことなの。」
エ:「さすが、石坂ドクターですね。」
リ:「エマの言う通りかな。本当に凄いわよね。その石坂ドクターが、不自然な理由で引退したドライバーや、
手足の付け外しを行っていると噂されている現役ドライバーのサポートスタッフの全ての記憶データーを
国際自動車連盟の運営医師団の権限で調査した結果、手足の付け外しを行っている事実をサポートスタッフの
記憶データー領域から強制的にデリートしていたり、保護エリアに書き込みしている事実と証拠が出てきたの。
でも、石坂ドクターの苦労は並大抵のものではなかったと思うわ。」
エ:「でも、記憶の一部が、サポートコンピューターに保管されているなんて、やっぱり私たち機械仕掛けの
人形なんですかね。なんか、そんな風に思えてきちゃった。」
リ:「エマ、そんなこと無いよ。私たちは、自我がある以上は人間なんだよ。ちょっとばっかり意匠形体を
変えられちゃっているけれどね。機械仕掛けのロボットじゃないのよ。」
エ:「そうですね・・・。」
マ:「そうだよ。エマ、変なこと考えちゃダメ。あなたは、思い詰めると悪い方向にばかり考えちゃうんだから・・・。
瞳さまとのこともそうだったし・・・。」
リ:「そうだよ、エマ。ヒトミとのことじゃ、私やジャンヌだって、どうしようかと悩んじゃったもの。
物事を悪く考えるのも時と場合よ。」
61 :
manplus:2007/05/13(日) 23:55:16 ID:6STdsi/90
エ:「は〜〜〜い。」
リ:「うん。よい返事だ。さてと、それでもって、調査の結果、ヨーロッパのメーカーを中心にかなり多くのチームに
在籍しているか在籍していたスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが精神障害を引き起こしていて、
その事実を隠蔽するために、その全てのチームが、精神障害を起こしたスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを
精神病院の秘密病棟に幽閉していたり、事故を装って殺害していたんだ。そういったスーパーF1マシン専用
サイボーグドライバーを担当したサポートスタッフの記憶は、事実を封印して、スーパーF1マシン専用サイボーグ
ドライバーが失踪していたり、事故死という嘘の記憶に書き換えたり、実際に故意の事故死を見せた上で、
保証金を払った上で解雇したり、記憶データーを更新して、他の新しいスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの
担当につけていたりしていたの。事故死等の特別な事情で担当のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを
失ったサポートスタッフは、新たなスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの性格等のデーター記憶を書き込み、
今まで担当していたスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに関するデーターを削除して、リフレッシュさせた上で
担当替えをさせることは、認められているでしょ。その制度を悪用したんだ。」
エ:「真理子さん、そんなことがあるの。サポートスタッフに対する人権侵害なんじゃ・・・。」
マ:「そうなんだけれど、例えば、私が何らかの理由で、エマの担当から外れたとするでしょ。
その時に、新しく担当するスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに付くことの妨げになる記憶があると
困ると言うことで、サポートスタッフ本人とのカウンセリングを行った上に、前のドライバーの記憶を
全て削除するか一部削除の上で、新しい担当のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーにつくことになっているの。」
エ:「どうしてですか?」
62 :
manplus:2007/05/14(月) 00:03:59 ID:6Qfn1TFx0
ア:「エマさん、例えば、私が、マリアさまを事故で失ったとして、次の担当のスーパーF1マシン専用サイボーグ
ドライバーの担当に、マリアさまの記憶をそのまま残した上で担当したらどういうことになると思いますか?」
エ:「私なら、過去を引きずるサポートスタッフからのサポートを受けるのにわだかまりを感じてしまうわ。」
ア:「そうですよね。前に担当したスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを、今現在担当している
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに面影を重ね合わせてしまったりといったことがあったら、
お互いに不幸な結果になるからなんです。」
リ:「アンネの言うとおりなの。だから、国際自動車連盟は、サポートスタッフの記憶を弄ることを認めているのよ。
でも、それを悪用したチームがたくさん存在していた。しかも、事故死に見せかけたり、精神病棟に
幽閉したりという隠蔽工作をしたチームは、実は、まだマシなほうだった。」
エ:「もっと酷いことをしたチームがあるんですか?」
リ:「残念ながらそうなの。精神異常を来したスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを事もなげに
秘密精神病棟の一角で薬殺処分したチームが存在したの。それも、行方不明になったとだけ発表してね。
その中でも、特に酷いチームは、サポートスタッフに精神制御の薬品を投与してマインドコントロールをした上で、
自ら担当するスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに毒薬を注射させて殺害させたのよ。
愛するスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーをサポートスタッフ自身で楽にしてやれということを
威しに近い形で強要した上でね。」
マ:「マリアさま、酷すぎます。私が同じ立場だったら、エマを自らの手で手にかけられません。」
63 :
manplus:2007/05/14(月) 00:04:43 ID:6Qfn1TFx0
リ:「みんな、サポートスタッフは、そうだったらしいわ。でも、半ば拷問と言っていいほどの脅迫と薬物による
精神制御をしてね。石坂ドクターから聞いたけれど、そのサポートスタッフたちは、泣きながら震える手を押さえて、
サポートスタッフがしくじらないようにサポートスタッフの腕を強引に押さえつけられて、自分の担当する
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの身体に注射器を押し立てたという記憶が残っていたそうよ。」
三咲の嗚咽する声が聞こえてきた。エマと立川は半ば放心状態で、リネカーの話を聞いているようであった。
リ:「その結果、担当ドライバーに自ら手を下したほとんどのサポートスタッフが、精神異常を来して病院送りになったの。
そのサポートスタッフも酷いチームは、極秘裏に薬殺処分にしてしまったし、そこまでされなくても、病室に幽閉されたわ。
しかし、少しだけ、精神的に強くて、精神に異常を来さなかったサポートスタッフは、全ての今までの
サポートスタッフとしての記憶を初期化された上で、新しいスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの
担当に仕立て直されたのよ。」
マ:「私だったら・・・、たぶん、エマを自分が手に掛けたら、心が壊れてしまうと思います。」
ヨ:「真理子さん・・・。・・・。」
マ:「私には・・・、どんなに脅迫されても・・・、出来ない・・・。」
リ:「マリコ、その時のサポートスタッフの心は、マリコと一緒よ。みんな、サポートスタッフは、猛然と抵抗したそうよ。
でも、抵抗できないほどの脅迫と薬物の投与を受けたということなのよ。」
マ:「一体・・・、どれほど・・・酷い・・・脅迫を・・・受けたん・・・でしょうね・・・?」
リ:「詳細については、さすがに石坂ドクターも酷すぎて話せないって言って話してくれなかったわ。
でも、かなりの酷い仕打ちを受けたはずよ。だから、自分の意志に関係なく、
仕方なくやらなくちゃならないほど追い込まれた状態にされていたんだって、ドクターが言っていたわ。
真実を本当に知っているのは、スーパーF1界でも、石坂ドクターとカンダとトミタの幹部、それに、
ヒトミとツグミぐらいかも・・・。」
64 :
manplus:2007/05/14(月) 00:06:01 ID:6STdsi/90
マ:「想像が出来ない・・・。瞳さまとツグミは知っている・・・。二人はどれほどの十字架を背負っているんだろう・・・?
私なら、耐えられないと思います・・・。でも、マリアさま、何で心が壊れなかった人がいるんですか?」
リ:「精神崩壊をしなかったサポートスタッフには、みんな共通点があるの。」
マ:「共通点ですか?」
リ:「そうなんだ。それはね、心が壊れなかったサポートスタッフは、みんな、極端に仕事に対する意識が強い事、
仕事に対する責任感が異常に強いこと、それと、愛する人に対しての思い入れが強く、愛する人に対して献身的な
心が強い人なんですって。」
マ:「でも、マリアさま、愛する人に対する思い入れが強かったら、その人を殺すことが出来ないんじゃ・・・。」
リ:「その反対。愛しすぎると、その人の惨めなところをみたくなくなると言うことなんだって。」
マ:「そう言うものなんでしょうか?」
65 :
manplus:2007/05/14(月) 00:15:44 ID:6Qfn1TFx0
リ:「いずれにしても、その立場になったサポートスタッフは、心が細い糸一本で繋がっているようなもだったそうよ。
そして、その糸が切ていたら心が壊れちゃったに違いないわ。さらに、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーと
そのサポートスタッフにここまでの仕打ちをしたチームの首脳は、そんなギリギリの状態でいるサポートスタッフたちを
許してくれなかったの。チームはさらにもう1人新しい、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを担当させ、
そのスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが、精神的に異常を来して壊れてしまうと、また、
そのスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの処分をサポートスタッフにさせたチームがあるんだ。
さすがに、ほとんどのサポートスタッフは心が壊れてしまったの。無理もないわよね。いくらサイボーグとして、
電子領域的には、データーを消去して、生体記憶分野の記憶や意識を押さえつけてしまうようにコントロールしても、
潜在意識の部分に、自分が自分の担当するスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを殺したときの恐怖や
悲しみや苦しみが残っているからね。それに、潜在生きの中の罪悪感は相当強いものがあったらしいんだ。
更に最悪なのは、その心の壊れてしまったサポートスタッフを行方不明と言うことにして、殺害処分をしてしまったんだ。」
エ:「本当に惨すぎます。マリアさん・・・。私、怖くなっちゃった。」
リ:「エマ、現在は、絶対にそんなことにならないから安心しなよ。それに、カンダにいる限りは、絶対に大丈夫だし、
第一、メグミとヒトミが許さないから大丈夫だよ。この時にヒトミがシートに座っていたら、どんなにか事態が
変わっていたか判らないよ。あの、不正を憎む心、そして、不正に対して、自分に厳しい心があるドライバーが
トップに立っていたら、辞退は、絶対に違っていたし、こんなことが起こらなかったと思うんだ。トップドライバーが
自分を律しているところを周りが見れば、その見ている周りも、それにならうはずだからね。」
66 :
manplus:2007/05/14(月) 00:16:27 ID:6Qfn1TFx0
エ:「はい・・・。私もそう思いました。瞳さんがいたら・・・。ドライバーが我が儘を言えなかったでしょうね。」
リ:「エマの言うとおりだと思うんだ。あっ、ほらっ、ヨシエも、泣き止まないと、綺麗な顔が台無しじゃないの。」
ヨ:「うん・・・。でも、こんな事が許されていいの?この話を瞳とマリアから最初に
聞いたときもそう思ったんだけれどね・・・。」
リ:「許されるわけないじゃないの。全ての事実を石坂ドクターからの報告で知ったロイド会長は、
事件に関わったチームの首脳を全て殺人罪で国際司法裁判所に告訴し、さらにその首脳の母国の
警察機構に殺人罪で告訴するとともに、事件に関わったチームを程度に応じてレース界からの永久追放も
含めた厳重な処分を決定したの。そして、事件で犠牲になったスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーと
サポートスタッフサイボーグの家族に対する手厚い補償を行ったのよ。」
エ:「マリアさん、それじゃなきゃ浮かばれないですよね。」
リ:「本当だね。でも、事件の処理はそれだけじゃ終わらなかったの。」
マ:「えっ!どういう事なんですか?それがつぐみと関係あることなんですね。」
リ:「ああ。さっきも言ったように、自分が担当したスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに対して、
二人も自ら手を下したサポートスタッフがいると言ったけれど、その全てが心が壊れて、闇から闇に葬られて処分された
訳じゃないのよ。唯一、1人だけ、心が壊れなかったサポートスタッフがいるの。」
マ:「それが、つぐみなんですね。」
67 :
manplus:2007/05/14(月) 00:17:10 ID:6Qfn1TFx0
リ:「そうよ。ツグミだけが、何とか精神が崩壊せずにギリギリのギリギリの状態で、二人目の薬殺を終えたところで
石坂ドクターが保護したらしいんだけれど、心が壊れる寸前だったらしいの。」
エ:「つぐみさん、よく持ちましたね?」
リ:「ツグミの心をこっちの世界につなぎ止めていたものは、サポートスタッフとしてのプライドと、
2人のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーへの愛ゆえの、この悲惨な事件を自分が
伝えて行かなくてはいけないという生き証人として生きなくてはという執念みたいなものだけだったらしいわ。
普通なら、一度全ての過去をデリートされているから、2度目も1度目と同じく精神的に持ちこたえられると
考えられるかもしれないけれど、やっぱり、さっきも言ったけれど、潜在的に生体脳に残る恐怖心とか罪悪感によって、
精神的な崩壊を招くんだけれど、ツグミの場合は、優秀過ぎるほど優秀なサポートスタッフだったために、
生き残ってしまったのよ。他のサポートスタッフと同じように、精神的に崩壊してしまった方が
幸せだったかもしれないけれどね。事実、ツグミは、その後、地獄を心の中に引きずってしまうことになるの。」
マ:「そうですね。つぐみ、サポートスタッフとして、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーへの献身という点、
その他のスキルにおいても、瞳さまのサポートスタッフに相応しいほど優秀ですものね。」
ア:「そうだよね。どう考えても、ヒトミさんをサポートできるほどの優秀なサポートスタッフは、ツグミしかいないもの。
それに、もともと、伝説的なサポートスタッフとしてスーパーF1界で敬意を払われていたんだ。
私も、ツグミみたいになりたいと思って、ツグミを目標にしてきた一人なんだ。」
マ:「ツグミは、瞳さまのサポートスタッフだから、“伝説のサポートスタッフ”といわれていたんじゃないんですか?」
68 :
manplus:2007/05/14(月) 00:26:43 ID:6Qfn1TFx0
ア:「確かに、ツグミのサポートスタッフとしての働きぶりは、もの凄いもので、サポートスタッフ仲間からも
別格として扱われる存在なんだけれど、もともとのスキルの高さ、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーへの
献身的な愛情は、もの凄いものだったんだから、逆に、ヒトミさんが、スーパーF1に入ってきたとき、
ツグミが色々な事情でパートナーを探していた状況だから、ヒトミさんにとってもスーパーF1界にとっても、
好かったことなんだ。」
リ:「そうなんだよね。まあ、この事件で犠牲になったサポートスタッフは、全てが、スキルも心も最高峰のものを
持つ最高のサポートスタッフばかりなんだもの。スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの担当として、
サポートスタッフの最高のスキルを提供しようとしているサポートスタッフを国際自動車連盟は、尽く失う結果になったし、
もちろん、前途有望なスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーも全てと言っていいほどに失う結果になったのよ。
優秀なスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーには、優秀なサポートスタッフをチームは、当然のことながら、
担当させたがるからね。だから、この事件の報告を受けたときのロイド会長の怒りと落胆は凄いものだったみたい。」
エ:「そうでしょうね。ロイド会長は、私のような新人のドライバーにも気を使ってくださいますし、
可愛がってくださいますものね。」
69 :
manplus:2007/05/14(月) 00:27:26 ID:6Qfn1TFx0
リ:「ロイド会長は、誰にも負けないくらいモータースポーツが大好きだからね。だから、絶対にこの時のような惨事が
起こらないように私たちスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの人工四肢を国際自動車連盟の
サイボーグパーツセンターで一括保管するようにしたの。それならば、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの
我が儘に振り回されることはないし、それによって、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが
危険なことにならないし、優秀なサポートスタッフが苦しみ抜かなくて済むでしょ。でも、問題はツグミの処遇だった。
ツグミをどうするのかでロイド会長は悩んだそうよ。手厚く補償をして現役から引退させることは簡単だった。
でも、それじゃ、ツグミの心が開かないままになってしまうし、この忌まわしい事件の生き証人が
全ていなくなってしまったら、また、同じようにレギュレーションの盲点を突いてくるチームが出てくるかもしれない。
更に、ツグミという、スーパーF1界の最高峰中の最高峰のサポートスタッフを失うことは、将来的な、
サポートスタッフの教育を考えても損失が大きすぎる。そして、何よりもツグミという存在がスーパーF1界に
残っていてくれていれば、人権を無視した事件を起こすことをどこかのチームが行えば、ツグミを見て、
他のチームが止めるように動くかもしれない。事件を知っている世代の誰もがこの事件を記憶に留めておいて、
風化しないようにしていれば、相互監視をしてくれる可能性があると思ったらしいの。
それは、ツグミにとっては辛いことかもしれないけれど、心が壊れる寸前で刻が止まり心を閉ざして生きていくよりも、
新しいパートナーに付けて、心をもう一度開いてくれて、サポートスタッフのお手本として、活動してもらった方がいいと
決断されたのよ。そこで、ロイド会長は、カンダとトミタにツグミを引き取ってくれないかと頼み込んだの。」
ヨ:「マリア、森田さん、可哀想すぎない?」
リ:「ヨシエ、泣きすぎだよ。化粧がとれて、誰だかわかんない。」
ヨ:「しょうがないでしょ。瞳の側で、ヒトミに健気に尽くす彼女を10時間以上も見てきて、
その後でこんなとんでも無い話をまた聞くことになったのよ。」
70 :
manplus:2007/05/14(月) 00:28:45 ID:6Qfn1TFx0
リ:「まあ、そうだよね。でも、この時にカンダもトミタもツグミを引き取らないと言ったら、
話が本当に終わっちゃったんだけれど、トミタは、CEOのトミタとミノダが、カンダは、
社長であるナオコとメグミがツグミを引き取ろうと思って懸命になってくれたんだよ。
ライバルであるはずの2社がお互いに連絡を取り合って、ツグミの引き取り方を検討したの。
それで、ここでラッキーだったのが、カンダが、セカンドワークスを次のシーズンから参戦させることを
正式決定していたことなの。」
エ:「そのワークスが、カンダスーパーガールズなんですね。」
リ:「エマ、その通りよ。トミタもカンダも、カンダスーパーガールズで引き取ることが出来るんじゃないかという判断を
下したんだけれど、問題なのはドライバーとの相性なのよね。しかも、ツグミの状態が、過去の二人の体内データーを
完全にデリートできずに一部の記憶が残っているくらいの状態ならまだ良かったんだけれど、一度消した最初の
ドライバーの体内データーも復活させない限り、ツグミの精神が完全に壊れてしまうことが解ったのよ。
しかも、ツグミのサイボーグ体の改造率も引き上げて、ツグミの精神的な安定を図るために体内補助コンピューターを
大型のものに入れ替えないと容量が足りないし、体力的にも憔悴しきったツグミの身体を強化するための人工器官を
生体部分に補完してやらなくちゃいけないし、精神を安定させるための人工ホルモン等の特殊な体内物質の
精製システムも移植して、再整備というよりも、完全に作りかえてしまうほどの
再改造を施さなくちゃ即戦力にならなかったの。だから、サポートスタッフなのにツグミの手足は、
71 :
manplus:2007/05/14(月) 00:38:08 ID:6Qfn1TFx0
軍用サイボーグと同じ生体機械融合型の特殊タイプの人工器官に置き換えられているし、表皮も張り替えが
必要だったため、サポートスタッフでは例を見ない100%人工皮膚、それも、宇宙開発用サイボーグでよく使用される
ラバーメタルスキンの生体皮膚融合型の特殊皮膚になっているのよ。さらに、ツグミは、外的に憔悴しきっていたために、
年寄りも老けてしまっていたため、初心に戻す意味も込めて、スーパーF1の世界にツグミが入ったときの20歳の
外観を再現されることになったの。でも、その時、実際には23歳だったんだけれどね。でも、石坂ドクターが、
ツグミを保護した時は、とても23歳に思えなくくて、老婆が身体を丸めているぐらいに老けて見えたんだって。」
エ:「一瞬にして老けてしまうほどの精神的な負担がかかっていたことの証明ですね。」
リ:「そうだな。辛いことがあると、人間は一瞬にして年老いてしまうと言うからな。」
マ:「ところで、ツグミがカンダに所属する時に23歳ということは・・・、瞳さまよりも一つ年上なんですか?
マリアさまも瞳さまと同い年だから、ツグミよりも年下なんだ・・・。」
リ:「そうだよ。」
エ:「でも、つぐみさんは、童顔の美少女タイプの美人だし、人工皮膚に守られているから歳を感じませんね。
その上、瞳さんのお姉さんタイプの美形といつも一緒だから、瞳さんより年下かとず〜〜っと思っていました。」
マ:「エマが言うとおりです。瞳さまの隣にいると、つぐみがず〜〜っと年下に見えちゃいます。」
リ:「ヒトミだって、あいつ、自分が18歳の時の外観データーでの改造手術をリクエストしたんだよ。だから、あいつは、
永遠に十代の美しさのままなんだ。本当に厚かましいったらありゃしないんだから・・・。」
72 :
manplus:2007/05/14(月) 00:39:02 ID:6Qfn1TFx0
ア:「確かに、ヒトミさんは、人工皮膚のつやが十代ですもんね。でも、その設定年齢で大人の色っぽさを
兼ね備えている飛び切りの美人で、しかも、老若男女を問わずに好かれるルックスと性格の持ち主なんだから
羨ましい限りですよね。マリアさまのようにツンとすましたアイスドールタイプの美人じゃないですもの。」
リ:「アンネッ!余計なお世話よっ!あいつは、そんなインチキをしているから人間を籠絡する魔女なのよ。」
マ:「まあ、いいじゃないですか。マリアさまには、マリアさまの良さがありますもの。」
リ:「さすがマリコ、私の良さを解ってくれるのは、マリコしかいないね。」
エ:「マリコさん、ちょっとゴマの擂りすぎじゃないの?」
リ:「エマッ!マリコは、可愛いヤツなのっ!いいわねっ!」
エ:「はい・・・。石にされないようにっと・・・。」
リ:「完全にヒトミの影響を受けてる。去年まではあんなに憎んでいたのに・・・。変わり身の早い奴め・・・。
でも、エマ、ツグミはおまえの担当になるかもしれなかったんだよ。」
エ:「そういえば・・・。私、真理子さんのような引っ張っていってくれるようなお姉さんも好かったけれど、
つぐみさんのように包み込む優しさを持ったお姉さんにも憧れちゃいます。」
マ:「それって、私じゃダメってこと?」
エ:「そういう意味じゃなくって・・・。」
73 :
manplus:2007/05/14(月) 00:39:53 ID:6Qfn1TFx0
リ:「エマもマリコもやめなさいな。あんたたち二人は、総合的に検討された結果、最良のカップリングであると
判断されてカップリングされたスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとその手脚としてスーパーF1マシン専用
サイボーグドライバーをサポートするサポートスタッフなんだからね。マリコも、お姉さんなんだから、
変なやきもちやかないの。」
マ:「はい・・・。」
エ:「マリアさん、若くてきれいな娘が自慢できるお母さんみたいです。瞳さんのように親戚のおばさんというか親戚の
お姉さんといった魅力と違った魅力があります。お母さんじゃなかったら、たぶん、
担任の美人の先生といった魅力があるんです。」
リ:「私が、お母さんか担任の先生でヒトミがおばさんか親戚のお姉さんね・・・。まあ・・・、いいか・・・。」
ア:「マリアさまでも、エマさんには怒らないんですね。何を言っても許すなんて、エマを可愛がっているんですね。」
リ:「あのねぇ・・・。アンネ・・・。」
ア:「いいじゃないですか、マリアさまが慕われているって言うことで。」
リ:「アンネの言う通りか・・・。まっ、いいか。」
エ:「でも、マリアさん、つぐみさんが、瞳さんやマリアさんよりも年上だったなんて、知りませんでした。」
74 :
manplus:2007/05/14(月) 00:49:21 ID:6Qfn1TFx0
リ:「そうだろうね。ヒトミにじゃれつくネコのようなといっても、本当にビアンのネコなんだけれど・・・、
そんなツグミがヒトミより年上なんて思えなくて当たり前だよね。でも、事実なんだ。そして、もうひとつの事実は、
総合的に判断したの結果、ヒトミとツグミは完璧なベストカップルだったということなの。当時、ヒトミは、
私も瞳がバイの気があると気がつかなかったくらいノーマルだったから、ツグミの性癖なんて受け入れられないはずだと
思っていたんだけれど、データー的には、ヒトミがビアンの性癖とS性を潜在的に持っているところまで、
解っていたんだから、スーパーF1の運営医師団の精神分析とそのデーター活用による判定は凄いよね。」
マ:「つまり、つぐみは、瞳さまのサポートスタッフとしての適性がバッチリだったって言うことなんですね。」
リ:「トミタとカンダが石坂ドクターの助言を受けて、そう判断したと言うことなんだ。だから、エマ、残念ながら、
つぐみを瞳に取られてしまったと言うことさ。」
エ:「そうだったのか・・・。つぐみさん・・・、瞳さんとの相性が完璧によかったのか・・・。」
マ:「何か・・・、私・・・、外れクジみたいで惨めです。」
リ:「マッ、マリコ、そんなこと無いんだからね。マリコとエマもベストカップルということなんだから、気にしちゃダメだよ。」
マ:「なんか複雑・・・。」
エ:「真理子さんを信頼していることに変わりないんですから、気にしないでください。」
マ:「解っているわ・・・。でも・・・。」
リ:「まあ、エマとマリコも仲がいいんだからケンカしないでね。」
75 :
manplus:2007/05/14(月) 00:50:33 ID:6Qfn1TFx0
ア:「ケンカの原因になるようなことを言ったのは、マリアさまですからね。」
リ:「・・・。」
ア:「笑ってごまかさないでください。マリアさまは、都合が悪くなるとすぐに話題を変えるとか、
笑ってごまかすとかですものね。そんなところも、ヒトミさんと似ているんですよね。親友同士で共通点が、
マリアさまとヒトミさんには多いんですよね。」
リ:「へっへっへっへっ!アンネ・・・。最近鋭すぎるんだよね。まっ、いいか、そんでさ、瞳との相性がいいという結果が
出てから、ロイド会長とトミタ、カンダの見解は微妙に違う事になったんだ。ロイド会長はその結果を手放しで喜び、
トミタはツグミを自社のドライバーに付けるのが適当ではないとわかり、少し落胆しながらも、ヒトミにツグミを
付けることを歓迎したんだ。でも、カンダはちょっと違った。ツグミがヒトミとの相性がいいことを歓迎しながらも、
ヒトミのサポートスタッフが、ツグミでいいのか少し躊躇したんだ。なぜなら、言い方は悪いけれど、天下の速見瞳に
セコハンの、しかも、過去の記憶が残っているサポートスタッフを付けることが本当に適当なのか迷ったらしいの。」
エ:「相性が好いんだったらいいって思わなかったんですか?」
マ:「エマ、それは違うわ。いくらツグミのスキルが卓越していると言っても、
瞳さまのサポートスタッフと言うことになれば別なのよ。」
76 :
manplus:2007/05/14(月) 00:51:36 ID:6Qfn1TFx0
リ:「マリコの言うとおりなの。カンダとしては、ヒトミは、もともと子飼いのドライバーなんだけれど、
スーパーF1にステップアップさせる時には、エマのようにツベコベ言わずにカンダのマシンに座れというクラスの
ドライバーじゃなくなっていたものだから、ツグミとのつり合いを考えてしまったの。
もちろん、ツグミにしても、サポートスタッフとしては、伝説のサポートスタッフといわれて、
超がつくほどの別格といわれるほどのスキルを持っていたので、スーパーF1界では、
卓越した存在のサポートスタッフなんだけれどね。何も、セコハンのサポートスタッフを
女王陛下に付ける必要はないんじゃないかという意見が役員会の中にあったんだ。
でも、ナオコとメグミが、新人を付けるよりもツグミの安定感を選択したい、その方が女王陛下にふさわしいと言って、
役員会で頑張ったんだ。そして、石坂ドクターが、データーをもとに説得して、カンダとしてツグミを
受け入れる方向に向かうことになったんだ。でも、最終的に、カンダの役員会とカンダの株主を動かしたのは、
ロイド会長の強い想いだったの。」
エ:「マリアさん、ロイド会長の強い想いってなんですか?」
リ:「ロイド会長は、決して、小さくとも不正を許さない強い意志を持ったドライバーとカップリングさせて、
ツグミに辛い思いをさせないようにすることと、忌まわしい事件の最大の被害者の不正を許さない象徴となりうる
ドライバーと一緒にさせて、スーパーF1界が不正を認めないという態度を明確に社会に示したいという想いなの。
その想いを実現させるには、ヒトミがこれ以上ないほどの最適な
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーになるはずだったの。」
エ:「そうですよね。瞳さんの女帝としてのポジションにつぐみさんがついているなら、社会的にスーパーF1界が、
間違いを正したという象徴になるのに充分ですよね。」
リ:「ヒトミの場合、モータースポーツ界の女王陛下あるいは、王女さまというだけじゃないのよ。
潔癖なほどにどんな小さな不正も嫌がるのよ。」
77 :
manplus:2007/05/14(月) 01:00:02 ID:6Qfn1TFx0
マ:「だって、瞳さまとマリアさまは、人間治外法権と言われるほど無茶苦茶をする・・・。」
リ:「マリコッ!お黙りっ!」
マ:「ヒッ!」
ア:「マリアさま、何も本当のことだから、核心を突かれたからって、マリコさんを恐喝しなくったって・・・。
マリコが怯えちゃってますよ。」
リ:「ごっ、ごめん。マリコ。」
マ:「うえ〜〜〜〜〜〜んっ!マリアさまが怒った〜〜〜〜〜ッ!お許しください・・・。」
ヨ:「ほら、マリア、立川さんが怯えちゃったじゃないの。もっと調教は、優しく・・・。」
リ:「あのねえ。ヨシエも・・・。私は、ヒトミの女に興味はないの。ちょっとムキになっちゃった。マリコ、ゴメンね。」
マ:「はっ・・・、はい・・・。」
リ:「確かに、ヒトミと私は、無茶苦茶はするけれど、レースでの不正は許さないよ。特にヒトミは、自分が知らないで、
しかも、故意ではなく犯した不正に対しても絶対に許さないのよ。」
エ:「マリアさん、不正を絶対に許さないことに関して、瞳さんの有名な話しを聴いたことあります。
確か、瞳さんがF2時代でしたよね。全然、誰も気がつかないで、メカニックがレギュレーションにねじ山の
ピッチが合わないネジを一本使ってしまって、レース中にそのネジによる異常をラストラップの時に瞳さんが感じて、
車検場もパスしたんだけれど、ガレージでメカニックに再点検させて、そのレギュレーション違反を見つけて、
それを自己申告したんだけれど、オフィシャルが協議の結果、誤差の範囲と言うことで、瞳さんの優勝が決まったのに、
表彰式を辞退して自宅に帰っちゃったというエピソードがあったんじゃなかったでしたっけ。」
78 :
manplus:2007/05/14(月) 01:00:45 ID:6Qfn1TFx0
リ:「そうなの。いくら私でも、連盟のオフィシャルの協議で問題なしというなら、表彰台に上がっちゃうのに、ヒトミは、
それが許せないで優勝を辞退しちゃったんだよ。」
ア:「それで、マリアさまが、繰り上げで甘い汁を啜ったというのも事実なんですよね。」
エ:「マリアさん、そうだったんですか?」
リ:「アンネッ!余計なことを・・・。」
ア:「でも、事実ですもの。それに、同じネジをマリアさまもそうですが、そのレースに参加したマシンの全てが
使用していたんですからね。」
「まあ、そうなんだよね。私も含むレースに参加した全てのチームが使用していたんだからいいじゃないのってヒトミを
みんなで説得したんだけれど、違反は違反だからって、ガンとして優勝の辞退を撤回しないんだよ。それで、
みんな、説得をあきらめて、私の優勝が決まったんだ。でも、あいつのキザなところは、その後でガレージで
涙をボロボロ流して、メカニックが折角頑張ってくれたのに、自分の我が儘で、優勝を辞退して、メカニックの努力を
無駄にしてしまって申し訳ないって、頭を地面に擦りつける位に謝って、次回は、みんなのために絶対ブッチギリで
優勝するって言っていたよね。しかも、普通のドライバーなら、次回は何とか勝つぐらいでも美談になるのに、
アイツと来たら本当にポールトゥウィンで、しかも、30秒近くもの大差をつけて勝っちゃうんだから、嫌になっちゃうよ。
その時のカンダのガレージなんてさ、今度は、メカニックが誰一人としてあふれ出る涙を
拭こうともしないでヒトミにすがりついて泣いていたっけ。あの光景を見たとき、私、コイツが将来、
伝説のドライバーになるって確信したもん。」
エ:「瞳さんは、もうすでに伝説を越えてますよね。」
79 :
manplus:2007/05/14(月) 01:01:38 ID:6Qfn1TFx0
リ:「ああ。もう完全にね。私、アイツの親友で好かったって思っている。私、“あのプリンセスヒトミ”の親友なんだよって、
胸を張って言えるもの。」
エ:「でも、ロイド会長は、そんな瞳さんだからこそ、つぐみさんを大事にしてくれるだろうって思ったんでしょうね。」
リ:「その通りだと思うよ。そんなエピソードを持つヒトミだから、ロイド会長は、ヒトミとツグミをカップリングさせて、
これからのスーパーF1界の透明性の象徴にしたかったんだと思う。そして、スーパーF1の将来を
ヒトミに託したかったんだろうね。」
マ:「瞳さまとツグミの関係にそんな経緯があったんだ・・・。知らなかった。」
リ:「でも、過去を引きずらなくちゃならないツグミとヒトミが本当にうまくいくかを確かめるために、トミタが、
カンダとロイド会長にF1最終戦のブラジルグランプリでヒトミとツグミを合わせてあげて欲しいと提案したんだ。」
エ:「でも、レギュレーション違反ですよね。事前にサポートスタッフが、ドライバーに会う行為は・・・。」
リ:「エマの言う通りなんだけれど、ツグミをつけることで、ヒトミに何かあった場合、モータースポーツ界全体の
損失になる可能性があるとトミタが判断して、ロイド会長にツグミと同伴するメグミの全ての渡航費用から、
ヒトミと会うための現地の経費まで全てをトミタが持つから、特例を認めてくれと頼み込んだらしいの。
さらに、ツグミとヒトミが会うことによる責任をトミタは全て負うと言うことも条件として提示したらしいんだ。
カンダは、ヒトミに万一なんてないから大丈夫だって、辞退したらしいんだけれど、スーパーF1を牽引していく責任の
一端はトミタにもあるから、申し出を受けてくれとトミタが強引にセッティングしちゃったんだよ。
トミタの殺し文句が、“プリンセスヒトミ”はカンダだけのものじゃないというものだったみたいだよ。」
80 :
manplus:2007/05/14(月) 01:13:43 ID:6Qfn1TFx0
エ:「その年のブラジルグランプリと言えば、瞳さんがF1サーカスの年間完全制覇の偉業を完結したレースですよね。」
リ:「あの年、ヒトミは、荒法師も教授も皇帝も神童も、そして、あの貴公子さえも越えたと言われた年なんだ。
だから、祝勝会も含めるとトミタはかなり莫大な出費をしたという噂なんだけれどね。」
エ:「あの時の瞳さんの走り、テレビで見てました。トラブルに見舞われながらも、ブッチギリの走りをする瞳さんを
見ていて背筋に寒いものが走りました。でも、レースが終わってヘルメットを取ったときの瞳さんの美しさ、
それにあの悪戯をしたくてしょうがない女の子の目、女の私がビクッてしちゃうほど美しくて可愛いんですよね。」
リ:「エマのヒトミを想う目を考えると、ヒトミに嫉妬を覚えちゃうよ。でも、最初は、私でいいのかと尻込みしていたツグミが
エマと同じ理由で、ヒトミにぞっこんになっちゃったんだ。ヒトミも何故か惹かれるものをツグミに感じて、ツグミが
サポートスタッフになることを受け入れたんだ。それで、ヒトミは、メグミから、そして、ツグミ本人、さらに、
石坂ドクターから、今までの経緯と、ツグミの記憶がリセットされていないどころか、完全に復活している事実を
聞かさ胆だけれど、ヒトミは、そのことを承知で、事実の全てを受け入れることも含めてツグミと
付き合っていくことを決めたんだ。」
ヨ:「瞳は、私が心配すると想ったのか、あえて十字架を背負うのも私の役目だからとだけ私には言っていたけれど、
あんまり詳しいことは教えてくれなかったのよ。だから、マリアから聞いて、改めてその重さを痛感したわ。」
リ:「ヨシエ、瞳の十字架はそれだけじゃなかったんだよ。」
ヨ:「どういうことなの。」
リ:「ツグミは、ヒトミと共通点が多いとツグミが思う、過去に自分が担当した二人のドライバーとヒトミを無意識に
重ね合わせてしまう日々が続いたんだ。ヒトミにとっては、相当きつかったと思うよ。」
ヨ:「そうよね。瞳にとって、森田さんの中で美しく昇華している故人と比べられるほど辛いことはないよね。」
81 :
manplus:2007/05/14(月) 01:15:05 ID:6Qfn1TFx0
リ:「それに、ヒトミは当時ノーマルな性癖だけしか顕在化していなかったから、メグミは、ツグミに、
ヒトミの隠れた性癖が顕在化するまでは、絶対にカミングアウトしちゃいけないと釘を刺されていたにもかかわらず、
ノーマルな性癖だけしかないヒトミに告白しちゃったんだ。」
エ:「あっ、それって、参戦初年度のオーストラリアの時だ。」
リ:「そう。まあ、そのお陰でヒトミは開花しちゃって、ヒトミの毒牙にかかるヤツが後を絶たないんだけれどね。
でも、不思議なのは、ヒトミがコクると言うよりも、周りの女がヒトミに詰め寄ってコクるパターンが圧倒的に多いんだよ。
エマだろ、マリコだろ、紫乃だろ、明日美だろ・・・。」
ヨ:「そういえば、そうかもね。瞳から告白した娘はいないような気がするわ。」
リ:「それが、ヒトミの人格の凄さかもしれないけれどね。最初にツグミに告白されたときとエマに告白されたときは、
ヒトミ、目が点になっていたもんね。」
ア:「マリアさま、そうですよね。私もあの時の瞳さんの目が忘れられません。」
リ:「ツグミでさえ、心の重荷なのに、その上に重しを乗せた馬鹿娘がいるしね。」
マ:「それって、エマですね。」
エ:「どうしてですか?」
リ:「どうしても何もあるかっ!エマっ、おまえは、ツグミとの関係をより安定させようとして、
故人の面影を演じようと必死になっているヒトミに対して、拗ねて、逆恨みして、ヒトミを困らせただろ。」
82 :
manplus:2007/05/14(月) 01:16:02 ID:6Qfn1TFx0
エ:「・・・・・・・。ごめんなさい・・・。」
リ:「ヒトミに謝れよ。ヒトミ、憔悴し切っちゃった時期もあったんだよ。人に囲まれて、周りに誰かがいて、
その周りが笑いを絶やさない中にいるヒトミは、本当は、人一倍寂しがりで、気にやむタイプなのに、拗ねて、
敵意をあらわにするヤツがいるかっ!?しかも、同じチームで、ヒトミが人間関係に困り果ててる時を狙ったんだからな。」
エ:「だって・・・。瞳さんが遠くにいるようで寂しかったんだもん。」
リ:「エマ、お前の気持ちは解っているさ。だから、これからは、ヒトミを大事にするんだよ。ヒトミは、縋りつけば、
必ず抱いてくれるし、胸の中に簡単に入れてくれるんだから・・・、自分から離れるようなことをしちゃダメだよ。いいね。
特にレーサーとして、ヒトミほど何でもあけすけに人に与えてくれるレーサーはいないからな。ヒトミに教えを請えば、
必ず親身に教えてくれる。それがヒトミなんだよ。」
エ:「はい、身に染みています。でも、瞳さんの側にいて気がついたんですが、瞳さんに教えてもらっても、
次元が違い過ぎちゃって・・・。」
リ:「まあ、それも一理だね。私でもたまに、ヒトミの走りが理解できないことがあるからね。
でも、必ず、エマの将来にとって役に立つから・・・。」
エ:「それも身に染みています。」
リ:「良い心がけだ、エマ、可愛いよ。」
エ:「はい。」
83 :
manplus:2007/05/14(月) 01:24:59 ID:6Qfn1TFx0
リ:「さて、ヒトミに告白して、ヒトミを強引に振り向かせた関係になって、ツグミも、
もともと誰からも愛されるタイプだったし、ツグミの記憶がある以上、ヒトミもツグミが担当したドライバーの遺族とも、
ヒトミは付き合うことになり、遺族の両親や恋人とも付き合う嵌めにヒトミはなっちゃったんだ。だから、
悲しみや影を引きずる人たちと何人も付き合い、元気づけるはめにヒトミはなっちゃったんだよ。
ツグミの悲しみだけじゃなく、たくさん人のの悲しみを背負って、勇気づける役割をすることになっちゃったんだ。
レースでは、いつも追われる存在で、私生活では、ツグミだけじゃなく、何人もの、
悲しみを和らげなくちゃならなかったから、ヒトミの精神的な負担はかなりだったと思うよ。それに、ツグミの心から、
二人の故人を追い出せないから、ヒトミは、長い間、ツグミは自分のサポートスタッフなのに、
他人のようなツグミの部分も見ていかなくちゃならなかったんだ。」
エ:「そんな・・・。瞳さん、辛すぎます。」
リ:「だから、エマは、マリコで好かっただろ。」
エ:「はい。」
マ:「なんか、複雑な私・・・。」
リ:「マリコ、拗ねるなよ。」
マ:「はい・・・。」
ア:「マリアさま、焚き付けないでくださいね。」
ヨ:「そうよ、マリア、シュタイフさんの言う通りよ。」
リ:「済みません・・・。」
84 :
manplus:2007/05/14(月) 01:25:48 ID:6Qfn1TFx0
エ:「ところで、マリアさん、今日は瞳さんとつぐみさんは、何処に行ったんですか?追悼ミサとか・・・。
あっ!その亡くなった二人のですね。でも、そうだとしたら、どうして一緒の場所なんですか?」
リ:「エマ、その通りだよ。今日は追悼ミサに2人は出席しているんだ。ツグミが担当した
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、一人がフランツ=クリアノフ、そしてもう一人が
レミ=ネミドリノフと言うの。」
マ:「えっ!フランツ=クリアノフって、初めてのリトアニア出身のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーで、
スーパーF1の司法官と言われるほどの良識と知性を持ち合わせた最高のドライバーですよね。」
リ:「マリコ、よく知っているわね。」
マ:「私、あの物静かなフランツの発言に対して、誰もが敬意を払う姿や、不正を許さない正義感と紳士的な風貌の
ファンだったんです。マシンテスト中に水素イオンエンジンが爆発して死亡したって雑誌で読んで、
ショックで夜眠れないほどのファンだったんです。でも、事故なんて嘘だったんですね。」
エ:「そして、もう一人は、スーパーF1初の女性ドライバーですよね。明るくって、人懐っこくて、確か、いつも、
彼女の周りには人の輪ができている・・・って・・・。」
リ:「エマ、どうしたの?」
エ:「マリコさん、瞳さんのようだなって感じたもんですから・・・。」
マ:「そういえばそうね。それに、クリアノフも、レースに対する姿勢がストイックで、
誰からも一目置かれるところが瞳さまみたいですね。」
85 :
manplus:2007/05/14(月) 01:27:20 ID:6Qfn1TFx0
リ:「そうなんだ。ヒトミは、クリアノフの威厳と、ネミドリノフの明るさを併せ持っていた。
というか、ヒトミはそれを越えるものを持っていて、二人の面影をダブらせるのには充分だったんだ。
だから、ツグミも故人の家族もヒトミは、最愛の人を重ねるのに充分すぎる存在だったんだ。だから、
ネミドリノフのご両親は、ツグミが、自分のしたことを包み隠さず話して、謝罪し、その後でヒトミを紹介したとき、
ツグミを自分の娘の最愛の恋人であると認め、ともにネミドリノフを思い続ける肉親として迎えると同時に、
ヒトミを自分たちの娘同然に扱おうとしてしまったし、クリアノフの許嫁は、
ツグミとヒトミを永遠の理解者として扱ってしまうようになったんだ。ツグミの想いと、クリアノフの許嫁の想い、そして、
ネミドリノフのご両親の思いをいきなり背負い込むことになったヒトミは、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーになったばかりで、サイボーグという機械と生体の協調体である
新しい肉体の扱いに戸惑う中での出来事で悩み苦しんだんだ、本来は、その解決のためのパートナーであるツグミの
心には、ヒトミ以外の男と女が同居していて、その二人にヒトミは遠慮しながら、
ツグミに頼らなくちゃいけない状態だったので、ヒトミは、本当に大変だったんだ。でも、ヒトミは、
その重い十字架を背負いきってここまで来たんだ。」
エ:「知りませんでした・・・。」
リ:「エマは、知っていたら、決してヒトミに対して拗ねていなかったよね。」
エ:「ごっ、ごめんなさい・・・。」
リ:「いいんだよ。ヒトミは、エマとの関係を姉妹と同じように想っているから、エマの一連のことも妹がちょうど、
大人になるときに、親姉妹に反発する反抗期だと思って見守るから大丈夫だって言っていたよ。でも、ヒトミは、
とっても苦労していたな。」
エ:「・・・・・・・。瞳さん・・・。」
リ:「泣くな、エマ。」
86 :
manplus:2007/05/14(月) 01:37:31 ID:6Qfn1TFx0
エ:「だって・・・。マリアさん・・・。そんな瞳さんのことを知っていたら・・・。」
リ:「ヒトミは、決して、エマに同情されることを望むことは、ひとかけらも考えていなかったよ。
自分がもっとしっかりすれば、エマが振り向いてくれるってね。それに、ヒトミの性格からして、
同情されるのを潔く認めないに決まっているだろ。」
マ:「瞳さま・・・。」
ヨ:「瞳らしいよ。」
リ:「ヨシエ、そうだよね。瞳らしいよね・・・。決して、弱音を吐かないで、人の想いを受け止める瞳らしいよね。
でも、だから、“プリンセスヒトミ”であり、悔しいけれど、ヒトミは、モータースポーツ界の女王様という特別な存在なんだ。
誰もヒトミのスカートの裾を踏めないんだ。」
ア:「踏めるのは、マリアさまぐらいのものですよね。」
リ:「おいっ!アンネッ!お願いだから、そんなところで食いつかないでよ。」
ヨ:「マリア、最近、マリアがシュタイフさんに冷たいからだよ。もっと、愛情を注いでやりなよ。」
リ:「ヨシエッ・・・!」
ヨ:「はっはっはっ。ゴメン・・・。」
リ:「・・・・・・・。」
エ:「ところで、ネミドリノフって、チェコ人でしたよね。」
リ:「そう、プラハ郊外の小さな町、クルゼンで生まれたんだ。」
87 :
manplus:2007/05/14(月) 01:38:17 ID:6Qfn1TFx0
エ:「クルゼンって、クリスタルサーキットがあるところですよね。」
リ:「そうだよ。そして、そこには、ツグミがクリアノフとネミドリノフを手に掛けさせられた場所。
つまり、二人が収容された秘密病棟があった場所でもあるんだ。」
エ:「ネミドリノフは、クルゼンで生まれて、クルゼンで不幸な生涯の幕を閉じたんですね。」
リ:「エマ、そうだよ。そして、ご両親もそこに住み続けていられたんだ。だから、ご両親にとっては、
チェコグランプリで、ネミドリノフが凱旋したことを誇りにされていたんだよ。」
エ:「マリアさん、ネミドリノフのご両親にとっても、つぐみさんにとってもきついですね・・・。」
リ:「そうだね。」
ア:「でも、ヒトミさんは、だからこそ、クリスタルリンクで勝つ必然性を神様はくださったんだと思うわ。」
リ:「そうかもしれないね。アンネの言うとおりだわ。ヒトミは、何時でも勝てた。でも、パースでも、
クライストチャーチでも何故か勝てなかった。でも、プラハでは、全てがヒトミに味方したんだ。
神の思し召し以外に考えられないほどにね。」
エ:「そうだったんだ。瞳さん・・・。ゴメンナ・・・サイ・・・。」
リ:「エマ・・・。泣いたらヒトミは喜ばない。」
エ:「はい・・・。それで、瞳さんとつぐみさんは、そのクルゼンに行ったんですか?」
88 :
manplus:2007/05/14(月) 01:46:52 ID:6Qfn1TFx0
リ:「そうだよ。ネミドリノフとクリアノフがいたクルゼンの秘密病棟があった場所にほど近い教会で、追悼ミサがあるんだ。
それも、奇しくも、ネミドリノフとクリアノフをツグミが手に掛けさせられた2人の命日が、今日、12月23日なんだ。
だから、その忌まわしい過去を忘れないために、クルゼンで関係者が追悼ミサを毎年行っているんだ。」
エ:「二人っきりの思い出の旅じゃなかったんだ・・・。むしろ辛い過去を掘り起こすための旅だったんだ・・・。」
リ:「エマ、そうだよ。ツグミにとっては償いの旅、そして、ヒトミにとっても、自分を娘同然に扱ってくれる老夫婦と
最愛の人を忌まわしい事件で失った女性でヒトミ自身を理解してくれる人への1年間の報告の旅なんだ。
だから、あえて、女性スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーだけのクリスマスパーティーをウィーンで開いて、
その前の日にヒトミとツグミをクルゼンに行かせるのに都合がいいように設定しているんだ。」
エ:「そうだったんですか・・・。」
リ:「私とヒトミの馬鹿騒ぎの話は聞いたと思うけれど、その為に、クリスマスパーティーをウィーンでやることを
モータースポーツ界全体が、禁じていたんだけれど、事情をロイド会長が理解してくれて、ウィーンに女性ドライバーが
集まってパーティーをすることを許可してくれたんだよ。」
エ:「そういうことか・・・。」
リ:「さてと、この分じゃ、明日は、本当のホワイトクリスマスだね。ジャンヌが仕事でニューヨークに行っていて、
明日の午前中にこっちに到着するから、空港にみんなで迎えに行って、それから、ヒトミの部屋でヒトミとツグミが
帰ってくるのを待つことにしよう。」
エ・マ:『はい。』
12月23日の夜は、降りしきる雪の中で更けていくのであった。
89 :
manplus:2007/05/14(月) 01:51:36 ID:6Qfn1TFx0
こんばんは。
今日はここまでです。
今回は、少し、悲しい過去の話なのですが、
つぐみが、殺人罪に問われなかったかとか、
細かいところは追求しないで、物語として読んでください。
もし、皆さんからリクエストがあれば、
つぐみの過去の話をもう少し詳しく書いてみる機会を
作ろうと思っています。
今回の外伝1は、もう1〜2回の投稿で終わると思います。
P.S.祝!! 佐藤琢磨選手、スーパーアグリ、スペイングランプリ入賞
90 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 08:23:03 ID:99saErcF0
91 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 09:27:21 ID:aGLRxfpL0
>>90 @人工内耳はもう使われてるし、音質向上と集音は金次第ですな。問題はこのごろオーディオ産業の景気が悪くて優秀なアナログ技術者が育たないことです。
A背筋痛めたりぎっくり腰になるのでボディ補強が課題ですが、大工事になるし臓器が邪魔で難しいかも。
B平坦で開けた場所でないと交通事故を起こします。発進停止の加速が急だと骨盤剥離骨折の恐れもあります。航続距離は電動バイク程度です。
Cよほど脚のサスが良くならないと骨盤剥離骨折の恐れがあります。
ところで、咳が酷くて外出できないので平日の昼間だというのに新作投下します。
wwwげほげほ。
オプションパーツ未来編「ケンタウリ」発進!
wwwげほげほ。
92 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 09:29:13 ID:aGLRxfpL0
オプションパーツシリーズ未来編「ケンタウリ」
(1)プロローグ
皇紀195年。帝國は執拗な氷隕石投下の継続によって金星可住化、即ち地球外素体生産地の獲得に成功した。
しかし、その成果は必ずしも満足なものではなかった。焦熱地獄を解消した後に現れた新世界は硫酸地獄であった。
そこは、耐酸外装を施したサイボーグにとっては可住惑星だが、素体にとってはあまりにも危険な住処である。
依然として高い気圧、低い酸素濃度、硫酸分と抱き合わせの水資源、遅い自転...。
そして最大のリスクは地球から近すぎることである。
金星は地上の大国にとって手の届かない世界ではない。
ただ、非サイボーグには環境が厳しぎるから手を伸ばさないだけのことである。
地上の巨大民主国家・北米連は相変わらず生活水準の維持という衆愚の我が儘を至上の価値として資源収奪に邁進するばかりであった。
もう一つの地上大国・満漢人民共和国は一人っ子政策、達磨ッ子政策、小惑星戸籍等あらゆる人口抑制策を採りながら、なお膨張する人口に苦しんでいた。
既に月面ではヘリウム3採取拠点が満杯になっており、新たなエネルギー資源の要求とは即ち外惑星開発か戦争の2者択一を意味する。
いや、今も根強いサイボーグへの宗教的否定にとり憑かれた人々にとっては1者択一なのだろうか。
93 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 09:30:11 ID:aGLRxfpL0
そして大国どうしの戦争は直ちに地球周回軌道がデブリに覆われ本国の支援なしに成り立たない金星素体生産拠点が破綻する事を意味する。
それでもデブリによる往来遮断だけなら少しは望みがあるが、核保有国がやけを起こせば惑星間核攻撃だってありうるのだ。
諸外国よりはいくらかましな帝國の軌道警備戦力も暴発した大国が打ち上げるであろう無数のミサイルには無力である。
金星可住化とは、所詮そんな薄氷の上の成功に過ぎなかった。
過酷な任務に堪え続けた往年の部下達は、櫛の歯が抜けるように一人、また一人と脳血管障害のため現役を去っていった。
好きでもない政務に縛られるが故に、Gに晒される機会の少ない私にはそれすら羨ましいことだった。
特異ミトコンドリアDNAを持つ私の生体脳は、いまだにサイボーグ自律行動限界の基準を超えるIQが残存していた。
ああ、もうこんな時間だ。とうとう呆けたのかしら?。
それでも体内CPUは容赦なく頭の痛い議題が待ち受ける御前会議の刻を告げている。もう勘弁して欲しい。
上級皇族SNS・皇帝朝子10世のブログより
94 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 09:52:10 ID:aGLRxfpL0
(御前会議)
外務大臣・新月:「毎度聞き苦しい報告で申し訳ないのですが、氷隕石販売の方はろくでもない引き合いばかりです。」
皇太子兼宙軍大臣・華子4世:「またですか。」
新月:「ええ、特に満漢人民共和国、汎印度連合、六芒星共和国の3件は明確に拒否したのに再度の要請です。
私でらちがあかないのなら首相が訪問するから直接皇帝と談判させろと言っています。」
華子4世:「困ったわね。核保有国からそこまで強硬に言われたら会いもせずに断るのは難しいかな。」
新月:「満漢は黄河上流の遊牧民居住地域、汎印度連合は旧首都一帯、六芒星は死海を落下地点とするものです。
どれも有人地帯をクレーター湖にしろという無茶苦茶な要求ですからいずれ断るしかないのですけどね。」
華子4世:「恐らく住民には退去命令を出すという建前を言ってくるのでしょうけど嘘に決まっているわね。
形だけ退去命令を出して移動手段は用意せず、間に合わずに大量の死者が出た原因は私らのせいと言うのね。」
新月:「私の読みもその通りです。彼らの真意は水資源確保でなく大量虐殺による直接的人口削減ですよ。
そして手を下したのは血も涙もない機械娘らであると言って、民衆の怒りを逸らす気でしょう。」
華子4世:「断るしかないけれど、訪問だけは受け入れざるを得ませんね。宜しいですか陛下?。」
朝子10世:「厭なところから先に片づけましょうか。最悪なのは六芒星ですね。
死海沿岸は全てが彼らの領土というわけではありません。おそらく、自国民だけ待避させる気でしょう。
そして壊滅した他国の沿岸を奪うつもりなのでしょう。最初は六芒星に会ってきっぱり断ります。
あそこは核保有国と言っても大国ではないから逆切れされて攻撃を受けても構いません。」
95 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 09:53:37 ID:aGLRxfpL0
民部大臣:「お言葉ですが、六芒星商人は世界の貴金属市場に大きな力を持っています。
敵対しますと、水銀の調達を妨害されて核パルス推進艦の運航に差し支えるやも知れません。」
華子4世:「水銀資源の地球依存率は40%まで低下しています。この際仕方ないです。
水銀のために憲法を侵して事実上の戦争行為に加担することは避けるべきですよ。
満漢と汎印度連合については如何致しましょうか?。大国ですから攻撃されたら保ちませんね。」
朝子10世:「代替案を示して説得するしかないでしょう。ス連への工作は何とかなりそうですか?。」
新月:「ス連を巻き込んで旧アラル海を再水面化し周辺地域の水資源を賄うという件ですね。
ス連は元々アラル海復活に前向きですが、真意は単独もしくは旧大ス連系の衛星国だけでの実施です。
満漢や汎印度連合に水を分け与える気は全くありません。財政が苦しいから応じるふりはしますがね。」
華子4世:「それでは仮に話がまとまっても後で水を巡る紛争の火種が仕込まれることになるわね。」
朝子10世:「それで紛争になってもス連と満漢、汎印度の問題だから我々は戦争当事者にならないわ。
満漢と汎印度の要請をそのまま引き受けて大量虐殺犯人に仕立て上げられるよりはましね。」
華子4世:「どっちにしてもとほほですねぇ。もう逃げ出したくなりますよ。」
96 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 09:55:16 ID:aGLRxfpL0
朝子10世:「逃げ出すと言えば、太陽系外素体生産地確保の研究はどこまで進んだの?。」
華子4世:「結論から言うと不可能ではないが成功の保証も無いというのが現状です。
まず基本的問題として候補地の選定をどうするかで研究専門会議の意見が2分されています。
第一案は、目的地を地球型惑星581cの存在が確認されている天秤座Red dwarfとするものです。
既知の系外惑星としては最も地球に似た温度と重力を有し液体の水の存在がほぼ確実です。
重力が1.6Gとやや大きいですが、かえって素体の耐G性向上に資するかも知れません。
到達さえ出来れば金星より優良な素体生産地となりうる可能性が高いでしょう。
しかし、距離が20.5光年ですので早期に実現できる技術では1世代で到達するのが困難です。
そもそも世代船が実現できるなら宇宙艦自体が素体生産地になるので行く意味も無くなります。」
朝子10世:「惜しい距離ねえ。不可能でなく困難というならどうにかならないの?。」
華子4世:「唯一の可能性は推進機関の比推力向上によって航行速度を高めることです。
星間航行では最高速において目的地での減速に必要な推進剤が残っていないとダメです。
無人探査機によるフライバイのように加速だけ考えれば良いわけではありません。
減速も考慮する場合はここ数年で実現できる機関の最高速は光速の13%程度です。
これでは相対時間圧縮効果による乗員の寿命延伸もごく僅かしか期待できません。
1パルス当たりの衝撃を小さくし間隔を縮められれば点火位置を船体に近くできます。
これにより地道に核パルス推進の効率を高めれば比推力はいずれ向上するでしょう。
また衝撃が小さくなれば船体強度が下げられるので軽量化の効果も得られます。
しかし、開発を待てば待つほどその前に戦争で帝國が破滅するリスクが増すわけです。」
97 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 10:24:58 ID:aGLRxfpL0
朝子10世:「目的地の第二案はもっと近くなの?。」
華子4世:「すぐ隣のアルファ・ケンタウリが第二案です。」
文部大臣:「惑星が見つかっていないじゃないですか。」
華子4世:「太陽系内からの観測で地球型惑星を確認できるのは特殊な条件に限られます。
581cが発見されたのは母星が矮星で公転軌道が水星より近いという好条件だったからです。
もし母星が太陽級だったら同じ軌道に同等の惑星があっても見つからなかったでしょう。
おまけに恒星が大きいほど可住惑星が存在できる公転軌道は遠くなるのです。
つまり、あっても見つからない確率の方が圧倒的に高いわけですよ。
宇宙塵の分布に関する統計上、連星系には惑星が出来やすいと言うのが定説になっています。
連星におまけの伴星まで付いたアルファ・ケンタウリに惑星が全くない方が不思議なんです。
でも、ケンタウリAとケンタウリBはともに太陽級ですから可住惑星の観測は無理でしょう。
ならば行って確かめることにして、見つかったらそのまま開発するというのが第二案です。」
文部大臣:「ケンタウリC別名プロキシマは矮星だから可住惑星が無いのは確実でしょう。
すると可能性は主星だけに絞られますね。近接連星では安定した惑星軌道が限られます。
可住惑星の存在しうる内惑星圏は確かに安定軌道領域ですが外惑星圏は不安定領域です。
仮に内惑星を見つけても金星や火星のような星だと改良に小惑星資源が必要ですよね。
外惑星圏が不安定だと小惑星資源が乏しくて惑星改良も難しいのではありませんか?。
サイボーグが暮らせる惑星すら無かったときは乗員が困窮するでしょう?。」
華子4世:「アルファ・ケンタウリまでなら片道40年ですから往復飛行も可能です。
最悪でも調査結果を持ち帰ることだけは出来ますよ。」
98 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 10:25:40 ID:aGLRxfpL0
文部大臣:「往復できると言ったって20代の乗員がほぼ全人生をかければってことですね。
全人生をかけて飛び続けて、何も見つかりませんでしたでは悲惨すぎませんか。
実際問題、そんな若手だけで難しい飛行をこなすのは無理だから幹部は片道でしょう。
皇族や貴族の士官に艦内か未知惑星で人生を終える前提の任務に行く方が居られますか?。」
華子4世:「志願者は多いですね。ポストを代わってくれる者がいれば私も行きたいですよ。
今の世界情勢では地球で政務に就いている方が余程窮屈だしリスクも大きいんです。
首尾よく行けば地球と向こうの2箇所に子孫を残せるというのは魅力的ですよ。」
文部大臣:「シビリアンの私にはそういうお気持ちは理解できないなあ。」
華子4世:「核パルス艦に乗れる体を持ちながら性能が全く活かせない方が辛いですよ。」
朝子10世:「気の毒だけど貴女はダメよ。私のIQが基準割るのは時間の問題なんだから。」
華子4世:「ということで、私もチャンスがないのは文部大臣と一緒ですか。ははは。
私の儚い妄想は横に置いて、いくら確率を計算したって確実な未来を知ることは不可能です。
結局、最終的な方針決定は陛下のご聖断に依るしかないですね。」
朝子10世:「非難を引き受けろってのは構わないが、根拠になる情報はもう少し欲しいな。
航行に関する見通しは判ったけど、政治判断をと言うなら他にも詰めるべきことがあるわ。
まず、極長期の航行中に乗員の生活をどうするかと、多様な状況を想定した現地行動計画ね。
それから居住可能環境があった場合には超遠距離の植民地をどう統治するのかも要検討よ。」
99 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 10:30:02 ID:aGLRxfpL0
華子4世:「航行中の乗員生活に関しては既に相当な検討を行いました。
素体生産地における育児に支障がないよう乗員は地球の生活習慣を維持する必要があります。
つまり、任務中は消化機能を搭載しないといった従来の運用方式が通用しなくなります。
すると強固な耐加速性を持ちながら地上用ボディに近い機能を有する新型ボディが必要です。
これについては近々試作機が出来ますのでその結果を踏まえて詳細に報告します。
統治方法については腹案ならあるのですが、まず制憲会議に諮る必要があります。」
朝子10世:「それもそうね。当然、皇室や公家の制度に関わってくるからね。
解ったわ。元老院議長に召集依頼を出しておきましょう。」
文部大臣:「改憲は陛下の一存で出来ないのでしたっけ?。」
朝子10世:「そうよ。普段は意識する機会がないけど我が国は専制君主制ではないのだから。」
華子4世:「ということで、本件の次回報告は制憲会議を通してからとします。」
100 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 10:50:03 ID:aGLRxfpL0
(地球静止軌道 第七工場衛星・造機本部)
華子4世:「大叔母上、一寸お邪魔するわよ。」
本部長・知子3世:「あらあら、東宮様がわざわざこんな所に。意外と暇なのね。」
華子4世:「暇じゃないですよ。貴女に来て貰ったら恒星間機関の試作が遅れるでしょう。
で、どこまで出来ているのですか?。取りあえず会議では5年後に運行と言っておいたけど。
先日いただいた資料
http://pinksaturn.fc2web.com/cen/enjine1.htm から考えたらそう外れてはいないでしょう?。」
知子3世:「5年後かぁ。もちろん、近い方で良いのよね?。」
華子4世:「ええ。さすがに20.5光年は無理でしょう。」
知子3世:「近い方って言うけど往復可能でとなると難しさは大差ないのよ。
どっちにしたって、根本的問題はプルトニウム爆弾では臨界量が大きすぎることでしょ。
そのために点火位置を相当離さないと衝撃がきつすぎて船体も乗員も保たない訳ね。
爆風をかなり逃がした上に、核物質の過半が爆発に使われないため燃費が悪いわけだ。
で、核融合爆弾なら1発が小さくできるから点火位置を近くできるのね。
おまけに元々核燃料の重量当たり出力エネルギーも大きい。一見良いことづくめだね。
ところが、核融合の点火に必要な高温高圧をどうやって作るかってのが難問なのね。
北米連なんかの核融合炉はこれをレーザーでやるけどプラズマを閉じこめての話でしょ。
爆風出してなんぼの推進用だと全ての燃料ペレットをレーザーで狙い撃てってことね。
ところがアイデアが出た当時はレーザーが普及していなくて肝心なことが抜けてたんだ。
つまり、レーザーってのは光の定在波だから強い戻り光があったら安定しないのよ。
で、爆炎が消えないうちに次を点火するような連射は無理って事なの。
間隔を開けて点火するのでは1発を大きくしないとパワーが出ないからダメなんだな。」
101 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 10:51:23 ID:aGLRxfpL0
華子4世:「それであの資料の方法になったんですよね。」
知子3世:「そう。1発目をプルトニウム爆弾で点火して順次爆炎に撃ち込む方法。
これの難しさは初弾が遠い位置で点火した後、滑らかに点火位置を寄せることなの。
燃料ペレットの間隔を詰めすぎたら誘爆が早すぎて射出部で自爆してしまうわ。
一方、開けすぎれば爆炎が拡散しすぎた後に届いて不発、プッツンorzなわけ。
つまり、ペレットの発射間隔はあまり自由度が無くて推進力の調整が難しいのよ。
で、1発当たりの燃料の量とかヘリウム3と重水素の混合比とかが微妙なのよ。
ここまで延々とシミューレーションしてきて、ようやく実験という段階よ。
次の問題はエンジン実験の場所ね。自爆の恐れありでは艦で試すわけに行かないわ。
逆に不発だって加速してしまってから陥ったら帰れなくなるでしょ。」
華子4世:「そんな艦には誰だって乗りたくないです。艦長時代いつも考えていました。
加速後に残りの推進用弾頭が不良品ロットで減速不能になったらあぼーんだなって。」
知子3世:「艦が使えないとなると惑星か衛星でやるしかないでしょう。
で、実験にフォボスを使いたいのだけど政治的な問題は無いかしら?。」
102 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 10:52:11 ID:aGLRxfpL0
華子4世:「条約上は推進用核実験が許される空域ですが、ちと引っかかることもあるか。
最近、火星では外国の連絡船を使って富裕層向けの観光が行われていますよね。
西から昇る月が結構人気なので、自然保護派の耳に入るとうるさいことになるかも。
帝國自体が自然保護大国を標榜してることでもあるし、うまい言い訳が欲しいわ。」
知子3世:「そうか。あ、こういう名目はどうかしら?。観光資源の保護ってこと。
つまりね、フォボスって放っておくといずれ潮汐力で火星に落ちちゃうでしょ。
それで、軌道維持のために推進実験をするって事で。」
華子4世:「なるほど名案ですわ。外国でも似たような例はありますね。
観光名所の滝が崩れるのを遅らせるためにダムで夜は水を止めるとか。
そういうことで、有名な巨大クレーターの景観には十分配慮して実験して下さい。
では、私はもう一つ寄るところがあるので失礼。」
知子3世:「ごきげんよう、東宮様。」
103 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 11:33:23 ID:aGLRxfpL0
(地球静止軌道 第四工場衛星・特殊身体開発室
http://pinksaturn.fc2web.com/cen/rimikaihatusitu.htm )
特殊身体開発室長・理美:「東宮様、よくお越し下さいました。」
華子4世:「例のもの、準備できているわよね。」
理美:「もちろんです。直接お試しになりたいと仰せでしたから食事の用意もしました。」
華子4世:「よしよし。でわ早速見せて頂戴。」
理美:「こちらです。」
華子4世:「なるほど。胴だけメタリック外皮ってこんな感じかぁ。」
理美:「強度と消化器、生殖組織の耐放射保護のため金属層が厚くなりますので。
この上に人工皮膚を貼るとかなり太めになり、却って見苦しくなってしまいます。
肩や首筋、胸の上半分は人工皮膚貼りですのでレオタードを着ければ隠れます。」
華子4世:「ハイレグはOKのようだけど、Tフロントは無理か。」
理美:「新世界に持ち込む風俗習慣としてTフロントはいかがなものかと。」
104 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 11:34:23 ID:aGLRxfpL0
華子4世:「そうかしらねぇ。私としてはどこでもこういうの
http://pinksaturn.fc2web.com/cen/t-front.htm 流行らせたいわ。
とにかく試させて貰いましょうか。」
理美:「首の着脱機構は従来通りの互換性がございます。」
華子4世:「うん。それなら慣れてるから一人ですげ替えられるわ。
四肢制御経路変更、頭部トランスポンダから手足直通無線パス設定。
頭蓋内生命維持装置スダンダロンモード、首中間液コック閉鎖。
首関節ロック解除。切り離し準備チェックモニタオールグリーン。
よし捻って...ん、抜けた。で、差し込み位置よし。逆回し、入ったな。
首関節ロック。接続設定、四肢有線制御、中間液循環再開。気泡アラーム消灯。
頭蓋内生命維持装置ディペンドオンボディモード。OK、首が繋がったわ。
どれ、うーん姿見で見ると向かい合ってみたときより格好いい希ガス。
いや、気のせいかな。単に私の首が乗ったお陰かも知れないな。
このボディは外性器が無いから服着なくても気にならないわね。」
理美:「生活習慣の維持という観点からは好ましくないのです。
ただ、強度や耐圧性能の要求から開口部を局限する必要があってやむなくです。
皮肉なことに生殖器官の搭載で安全性が重視されたため外性器が無くなったのです。
とりあえず食堂に参りましょう。ご報告すべきことも多いですし。」
105 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 11:35:27 ID:aGLRxfpL0
(隣接する食堂)
華子4世:「ほお、まるで高級レストランね。よく工場衛星内にこんなの作ったわね。」
理美:「星間航行用ボディのテストの内でも食習慣維持の確認は期間が長いですから。
それにいずれ東宮様がお試しに見えると予想していましたので恥ずかしくない調度に。」
華子4世:「お気遣いどうも。ところで、調度はすばらしいけどこの献立はどういうこと?。
貴女、いつからベジタリアンになったの?。無宗教を旨とする帝國人らしくないわね。」
理美:「カツ丼理美の異名を持つ私としては甚だ不本意ですが、報告すべき事の一つです。
実は、非人を使った肉食実験で事故が起きまして、非人1体が廃非人になりました。」
華子4世:「ぎょっ。今から食事というのに不吉なことを言うのね。」
理美:「菜食での安全性は私が身をもって確認して参りましたので自信があります。
ご承知の通り、耐G性確保のため生体パーツの搭載を必要最小限としております。
そこで耐環境上ネックとなる腸を短くするために人工膜による吸収を併用しています。
この人工膜は脳維持のため糖類吸収を優先した仕様なのでプリオンがすり抜けるのです。
非人に牛肉を食べさせる実験を数日続けたところ狂牛病を発症してしまいました。」
華子4世:「えっ?。数日食べただけで発症?。いくらなんでも酷すぎるわ。
そもそも帝國は汚染地域からの牛肉輸入は一切行っていないはずよ。」
理美:「私もそう思っていましたが、残った肉のDNAを追跡したところ北米連産でした。
悪質な流通業者による巧妙な産地偽装が行われていたことは間違いないと思います。
非人に贅沢なものを食べさせてはいけないと思って安い挽肉を使ったのも失敗でした。
産地偽装だけでなく、危険部位の混入も行われていたと考えています。」
106 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 12:10:55 ID:aGLRxfpL0
華子4世:「私が知る限り告訴がされていないようだけど、何故?。」
理美:「被害が非人だけでしたので物損ですよね?。非人のため公安を動かすのもどうかと。
まあ、亡き父が再改造した貴重な非人でしたので悔しい気持ちはありましたけど。」
華子4世:「それは違うわ。非人が食べることを前提に納入したのなら確かに器物破損よ。
でも卸業者ならば人が食べるか非人が食べるかなど区別せずに販売したはずでしょうが。
帝國法では危険性のある食品を産地偽装して売ったら、詐欺や器物破損で済まないでしょ。
牛肉の場合は、1食につき0.001人を未必の故意で殺したとして換算殺人罪になるわ。
卸業者なら1000食は売っているでしょうから1人以上殺した扱いになるのは確実ね。
換算殺人でも1人殺していれば、立証されたら即人権削除刑の重罪になるのよ。」
理美:「済みません。そこまで思い至りませんでした。」
華子4世:「すぐに告訴状を作成して頂戴。私が預かっていって陛下に直訴します。」
理美:「え、直訴!。それはやり過ぎではないですか。私が公安に出しますよ。」
華子4世:「被害の出た時と場所が問題なのよ。北米連の破壊工作も視野に入れなくてはね。
重要なプロジェクトを進めているときは蟻の一穴というのに注意を払わないといけません。
無理を言って研究開発を急がせておいて申し訳ないけど、コンプライアンスも重視してね。」
理美:「なんと!。北米連工作員が故意に汚染牛の危険部位を入れたと言うことですか?。」
華子四世:「あくまでも可能性だけど、捜査の前提に入れるべきだと思うわ。
さて、いきなりがみがみ言って悪かったけど、この料理はなかなか美味しいわね。」
107 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 12:11:51 ID:aGLRxfpL0
理美:「それも報告すべき事の一つです。このボディは味覚干渉システムが入っています。
プリオンのリスクもですが、核パルス推進艦内では牧畜が一切出来ません。
どうしてもと言うなら加速終了後の巡航中に凍結受精卵から一応動物を作れます。
しかし、牧畜のために船体を重くして航行が遅くなるのはまず許されないでしょう。
また、それを前提にしていて失敗した場合、栄養失調に陥るリスクも大きいですし。
そこで、このボディの消化吸収系は菜食のみで恒久的生命維持が出来るようにしました。
しかし、根っからのベジタリアンでない者が40年も菜食を続けるのは辛いでしょう。
その辛さを緩和するために、消化装置と連動して味覚に干渉する仕組みを設けたのです。
見ての通りの献立で、平素宮中料理をお召し上がりの方が美味く感じるなら完璧ですね。」
華子4世:「まったく恐れ入ったわ。さすがに伝説のマッドサイエンティストの娘ね。
最優秀操舵員だった貴女を強引に艦から降ろして父上の跡を継がせたのは正解だったわ。
カイパーベルト輸送作戦本部からは、この人事で艦が難破したら呪ってやると言われてね。
でも、これで恒星間航行船が難破する確率がうんと下がるから私の勝ちだわ。
ところで、一つだけ気になることがあるのだけど、排泄はどうなるのかな?。
こんなに繊維の多いものばかり食べていたら、やっぱり大便を出す必要があるの?。
いまどきサイボーグが大便なんてちょっと厭よね。それにボディには肛門が無いわね。
変なところから出す構造になっているようなら、ますます嫌がられるわよ。」
理美:「大便は出ませんよ。消化吸収後の残滓はまずエタノール生成に使います。
その絞りカスは加圧して完全に脱水炭化されて固形燃料の形で蓄えられます。
酸素呼吸が可能な環境にいると自動的に燃焼されて炭酸ガスが排泄されるのです。
その廃熱はマイクロスターリングエンジンで発電に使用されるので無駄は出ません。
長時間酸素が得られない場合に限り余った固形燃料を摘出する必要があるのです。
後は、僅かに残る不燃性のカスをたまに除去するだけですね。
燃焼用の吸排気口は腰の側面に目立たないように設けられています。
動作していても、おならと紛らわしくなる恐れがないよう静音化されています。」
108 :
pinksaturn:2007/05/17(木) 12:13:35 ID:aGLRxfpL0
華子4世:「ますますGJね。この完成度なら誰も文句を言わないわ。
このボディは気に入ったからこのまま借りていきたいけど、良いわね?。」
理美:「肉食だけ避けていただけるなら。それからせめてレオタードを着用願います。
東宮様の御体面を考えていただかないと、後で侍従長から抗議されてしまいます。
機器類の信頼性はそもそも長期間メンテナンスに不自由する前提で高めてあります。
また、胴体部の外皮強度は重装甲ボディに匹敵するので暗殺防止能力も十分です。
脚は標準航宙足が付いていますので、地上帰還後は地上用に換えて下さい。
しかし、試用後に即日お持ち帰りとは随分お急ぎなのですね。
元々1体献上する予定でしたが、専用メッキも出来ずにお渡しするのは想定外でした。」
華子4世:「降りたらすぐ制憲会議に出なくてはならないのよ。
このプロジェクトを実施するには憲法改正が必要になるからね。
憲法改正となると通常はかなり慎重な審議が必要になるでしょ。
急がせるには元老院議員達にこのボディを披露して進捗を見せつけるのが効果的だわ。
貴女の方は、2年以内にこれを量産できるよう準備を進めて頂戴。
それから、貴重な非人のカタキが取れたら連絡するわね。今日はご馳走様でした。でわまた!。」
(オプションパーツ未来編・”ケンタウリ”に手を着けてみました。
かなりハード志向になりそうなので板違いに陥る心配もありそうですが、恐る恐るやってみます。
次回予定(2)制憲会議)
pinksaturn様
新シリーズ、乙です。
ハード志向、問題ないんじゃないですか。
結構好きかも・・・。
楽しみにしています。
続編キター!
恒星間飛行、いいですね。
宇宙船の最高速度が光速の13%なんて相変わらずリアルな設定ですね。
> かなりハード志向になりそうなので板違いに陥る心配もありそうですが、恐る恐るやってみます。
この板はSFファンも多そうなので問題ないのではないでしょうか?
ハードな内容、期待しています!
111 :
3の444:2007/05/22(火) 01:56:14 ID:sVQyR4EG0
112 :
3の444:2007/05/22(火) 01:57:11 ID:sVQyR4EG0
入舸浦の市内に入ったところで車は国道を左に折れて埠頭へ向かう脇道に入った。埋立地特有の定規で引いたみ
たいに真っ直ぐな道が伸びる倉庫街。入舸浦の中心からほんの少し離れただけのトコロだっていうのにここは車通りも
人影もない。明かりといえば、港まできっちり等間隔に続いている街路灯の放つ白くて冷たい光と、こんな時間に買う人
なんているはずないのにそれでも律儀に働いているジュースの自動販売機だけ。どっちも、物寂しさを引き立たせるため
の小道具にしかなってない。いっそのことないほうがましって思えるくらいだ。
「あ、あの・・・病院に行くんじゃなかったの?」
自分の身に何が起こっても驚かないよう覚悟は決めたつもりだけど、タダナラヌ周囲の雰囲気に飲まれて、生まれた
ときから私の中に住み着いて離れない臆病の虫がむくむくと頭をもたげはじめた。でも彼女、相変わらず私の問いかけ
なんかまるで無視。その代わり今まで一杯に踏み込んでいた車のアクセルをこころもち緩めたみたい。
てことは、そろそろ目的地につくってことで、だけど、もちろんこんなところに病院なんてあるはずなくて・・・。じゃあ、彼
女、一体何をどうするつもりなんだろう?
いくつかの路地を折れたあと、車はちょうど道の行き止まりにある半分倒れかかって自然に開いてしまっている黒塗
りのゲートを抜けると、その先の廃工場とおぼしき荒れ果てた建物の前に止まった。
工場は窓ガラスという窓ガラスが破れ落ちていて、しかも蜘蛛の巣がまるで窓ガラスのかわりにたいにびっしり張られ
てるのが私の義眼からは丸分かり。トタン製の壁は錆だらけで、おまけに極彩色の落書きだらけ。それも、テレビで照会
されるウォールアートなんていう洒落た名前がつけられているような芸術センス抜群の落書きじゃない。ち●ことかま●こ
とかS●Xとか動物的本能をそのまま原色のスプレーで書きなぐったような、下劣極まりない内容のものばかり。工場前
の空き地の片隅には、ドアもタイヤももがれたスクラップ状態のトラックや、倉庫代わりに使われていたと思われる路面
電車が廃材類と並んで放置されている。
113 :
3の444:2007/05/22(火) 01:58:12 ID:sVQyR4EG0
一見して、なんだか刑事ドラマかでよく出てくるマフィアの麻薬取引場所みたいな、いかにもデンジャラスな雰囲気。少
なくともいたいけな少女が決して一人で来ちゃいけないトコロなのは確かだ。
そんな場所だっていうのに、彼女は臆するそぶりを毛の先ほども見せずに車を降りると、私の座る後部ドアを開け
た。そして相変わらず無言のまま指先だけちらちら動かして私にも外に出るよう促した。
(あー、なんかこれ、ちょっとやばいかも)
機械だらけの私の中にもほんのちょっとだけ残っていると思われる動物的本能ってやつが危険を察知して私の頭に
警戒信号を送ってきた。その証拠に肩が緊張で強張り、拳がひとりでにぎゅっと固く握り締められる。もし生身の身体な
ら握りこぶしの中は汗でぐっしょりだったかもしれない。私はさっき勇気を出して車から飛び降りなかったことをちょっとだ
け後悔した。
(でも・・・たぶん大丈夫)
私は理性を総動員して、恐怖心の奥底にムリヤリ押さえ込んだ。
私の身体は頑丈なことだけがとりえの義体なんだ。彼女が何をたくらんでいるのか知らないけど、たとえ私に危害を
加えようとしたってできっこないよ。いつもけなしてばかりいるような気がするけど、私の機械仕掛けのパートナーさん、頼
りにしてるからね。
私は自分自身と、自身ではない身体に強くそう言い聞かせながら、のろのろと車から降りた。
じゃりっ、じゃりっ。
地面に敷かれた砂利を、私が120kgの体重をのせて踏みしめる乾いた音が、静まり返った倉庫街に響いた。
荒れすさんだ廃墟の工場の前で向き合う二人の女。ううん、そのうちの一人は外見は女じゃなくて女の子で、中身に
至ってはただの機械なんだけどさ。でも目の前に立つホントのオトナの女に気持ちで負けないように真正面から彼女の
目を見据えて、彼女が口を開くのを待った。
114 :
3の444:2007/05/22(火) 02:06:11 ID:sVQyR4EG0
「ハイ」
意外なことに彼女っは驚くほど柔和な笑みを顔に浮かべながら右手を差し出した。
いったいどんなコトバで罵倒されるんだろう?そう思っていた私は思わず拍子抜け。
「握手」
彼女はそう言いながら、棒立ちのまま目を白黒させている私の右手を握り締めた。
「うー」
私は、愛想よく振舞うべきか、それとも、病院に行くなんてデタラメを言った彼女をとがめだてして睨みつけるべきか
迷ったあげく、結局どっちつかずのあいまいなつぶやきを漏らしながら、それでも一応彼女の手のひらを握り返した。で
も、この握手が仲直りを意味するものじゃないことくらい、笑顔とはウラハラな彼女の冷たい瞳を見ればよーく分かる。い
ったい何をたくらんでる?
彼女、今度はおもむろに左手を伸ばして、私の着ているチュニックの裾をまくり上げて私の二の腕に触れる。そしてス
ーパーで野菜か果物でも品定めするみたいに撫で回したあげく、
「よく、できてるよね」
って感心したようにつぶいたんだ。
よく、できてるだって?何が?
私は反射的に自分の腕を引っ込めると、おびえた子犬みたいに上目遣いに彼女の様子をうかがう。
「こうしてみると人間とまるで見分けがつかないよね。機械人形のくせしてさ」
「ああ」
私は俯いてため息を漏らした。
「やっぱり私の身体のこと知ってたんだね。はは」
なんとなくそんな気がしてたけど、やっぱり自分の身体の正体を当てられるのは気分がいいもんじゃない。私は内心
の動揺を悟られまいと意識して笑い顔を作りながら、肩から提げていたバックをぎゅっと身体の前に引き寄せて両手で
抱え直した。そんなことしても意味ないって分かってるけど、私と彼女の間を隔てる何かがほしかった。そうでもしなけれ
ば機械のつまった私の身体の中をまるでレントゲン写真みたいに彼女に透視されちゃうような気がしたんだ。
115 :
3の444:2007/05/22(火) 02:07:38 ID:sVQyR4EG0
「サトシはね、機械人形とはもう会いたくないってさ。もう飽きたってさ」
「ああ・・・そうなんだ。まあ、そうかもね」
私は足元に転がっている小さな石ころをパンプスででたらめにじゃりじゃりいじったあと、バックを抱えている自分自身
の機械の手のひらを見つめる。それから、目の前に仁王立ちしている彼女の、女の私でも赤面(もし顔色が変わるなら、
だけどね)しちゃうくらい豊かな胸にゆっくりと視線を移す。
(機械人形とは会いたくない。もう飽きた・・・か)
ふう、と私は一つ大きなため息をついた。
本当にサトシがそう言ったのか、それとも彼女の作り事なのか、それは分からない。だけど、もし本当のことだとしても
別にどうってことないんだ。そんなのいつものことだもの。義体化障害者と興味半分に関係を持ってみたいけど本気で付
き合うのはごめんだって面と向かってはっきり言われた経験だってあるし、そろそろサトシからもそんなふうに思われる
頃合かなってある程度予想はついてたからね。機械人形って言われることももう慣れっこだし、もうこんなことでいちいち
傷なんかつかないよ。そもそも相手を利用したってことに関しては私もお互いさまだしね。
「じゃあ、サトシが交通事故で入院っていうのは?」
「あなたも鈍いね。嘘に決まってるじゃない。ああ言えばあなたは絶対についてくるって思ったけど案の定うまくいった。知
らない人についていっちゃ駄目だよって躾けられませんでちたかー?」
私を馬鹿にする気満々の、彼女のちゃかすような声色。
彼女は、バックから取り出したメンソールのタバコに商売女っぽい手馴れた仕草で火をつけながら話し続ける。
「あのね。サトシは私のものなの。もうずーっと前から決まってることなんだから。それなのにあなたみたいなのが横から
しゃしゃりでてきて、こっちはホントいい迷惑なわけ。しかも話を聞いたら、機械人形だって言うじゃない。まあ、サトシも興
味半分だったっていうし、奴のことは許してやろうと思う。ケド、フツーの女の子ならまだしも、彼氏の浮気相手が機械人
形だったって知ったときの私のみじめさ、あなたにわかるかなあ」
116 :
3の444:2007/05/22(火) 02:08:27 ID:sVQyR4EG0
そこまで言うと、彼女は、ドラマの悪役がよくするように、ふーっと、私に向かってタバコの煙を吹きかけた。その煙を
手で払いながら私は彼女を睨み返す。もし、これが漫画なら、きっと二人の視線の間に火花がばちばち飛び散ってること
だろう。
「サトシにあなたみたいな婚約者がいるなんてハナシ、私は一言も聞いてないよ。もし知ってたら付き合ってない」
「だから私は悪くないって言いたい訳ね。まあ、あなたが聞いてるとか、聞いてないとか、そういうことはこの際たいして重
要じゃないの。問題なのはズタズタに引き裂かれた私のプライドなのね。機械人形のくせにサトシを誑かしたこの落とし
前、どんなふうにつけてくれるのかしら?」
「そ・・・そんなこと言われたって・・・」
全くひどい言いがかりだ。よくある三角関係のこのシチュエーション、誰が悪いかって聞いたら百人が百人とも一番悪
いのは二股をかけたサトシって即答するに決まってる。責めるならサトシを責めればいいのに、サトシは許されて私は駄
目なわけ?私が機械女だから?機械のくせに生意気だっていいたいの?そんなのっておかしいよ。
唇をかみ締め、拳を握り締め、視線を宙に彷徨わせながら私は次に言うべきコトバを探した。
彼女は、そんな私に向かって、豊かな胸の谷間を貧乳の私に見せつけるかのように腕組みをしながら、一言。
「ねえ、八木橋さん、どうするのかしら?」
「え、えと・・・」
彼女のコトバの中にありえない単語が混じっているのを聞いた私。頭の中が靄がかかったみたいにまっ白けになっ
て、次に言うべき事をきれいさっぱり忘れてしまう。その代わりに心の奥底に押し込んだはずの臆病の虫が、また頭の中
を這い回りはじめるた。
「うふふふふ。ね、八木橋裕子さん。いったい何をしてくれるの?」
彼女は、もう一度、私の反応を確かめるようにやけにゆっくりと口を動かしてから、くすりと笑う。もちろん笑ったのは
口だけで、相変わらず目はゼンゼン笑ってない。
なんで、この人、私の名前を知ってるわけ?
117 :
3の444:2007/05/22(火) 02:14:19 ID:sVQyR4EG0
この人がサトシの婚約者っていう話がホントなら、この人が私の偽名を知っているのは分かる。私が全身義体障害者
だってことも、サトシに隠していたわけじゃないから、ヤツの口が軽ければ人にしゃべりもするだろう。でも、私、自分の本
名をサトシに言った覚えはない。なのにどうしてこのひと、八木橋裕子っていう私のホントの名前を知ってるわけ?
「永康5年生まれ。21歳。住所は東京都菖蒲区。星修大学教育学部在籍。全身義体障害者。等級は一級。義体操縦免
許は一般。特定の異性との付き合いは、今のところなし。特に交友の深い友人は、教育学部、佐倉井さやか。同じく教
育学部、李莉。昔好きだった食べ物はたこ焼きで、嫌いだった食べ物はきゅうり。苦手なのは車・・・」
芸能レポーターよろしく次々に私のプライバシーを暴き立てていく彼女。彼女が知っているのは私の
名前だけじゃなかった。私の義体の性能も、交友関係も、趣味趣向も、全部彼女に筒抜けだ。
「な、なんでそんなことまで知ってるのさ・・・」
「このくらいは探偵を雇ったらすぐ分かるでしょ。高校のときのあなたのお友達、それはそれはペラペラとあなたのことを
よく話してくれたそうよ」
猛獣に食べられる前の小動物みたいに恐れおののく私を満足げに眺めながら、彼女は言った。
探偵を使って私のことをここまで調べ上げている以上、彼女の今日の行動は一時の感情にまかせた無計画な行動な
んかじゃないっことが、よーく分かる。きっと彼女、私を陥れるために周到に準備を重ねているに違いない。そして、そうと
も知らず、私は彼女の誘いにのって、のこのこ、こんなひとけのない工場に連れてこられてきたってわけだ。
「お友達はあなたの身体のこと知らないんだってね。もしあなたが機械人形って知ったら、どう思うかしらね?」
「私を、脅迫するつもり?」
「そんな怖い顔しないでよ。私の要求はひとつだけ。これ以上サトシに近づかないこと。そのことさえ守れるなら、お友達
にあなたの身体のことを話すなんて野暮な真似はしないから安心して」
(なんだ、そんなことか)
どんな無理難題を突きつけられるかと内心びくびくしていただけに、私はほっと胸をなでおろした。
118 :
3の444:2007/05/22(火) 02:15:07 ID:sVQyR4EG0
「別にいいです。もうサトシには一切近づくつもりはないです」
「ありがとう。ずいぶん物分りがいいのね。OK。じゃ、言うことを聞いてくれたゴホウビにあなたにいいコトをしてあげるね」
「いい・・・コト?」
彼女の口ぶりに不振なものを感じて、私の背筋にぞくっと寒気のようなものが走る。もう、寒さなんか感じるはずない
のに・・・。
ごくり。
自分が息を飲み込む音がずいぶん大きく聞こえた。
「もちろん、あなたの大好きなコト、よ」
彼女は、右手を高々と振り上げると、ぱちん、と指を鳴らした。
119 :
3の444:2007/05/22(火) 02:20:24 ID:sVQyR4EG0
今日はここまで。
ですが、後ろも全部じゃないですけどある程度は出来上がっているので
しばらくは短い間隔で投下できるのではないかと思います。
久々の更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
ヤギーには悪いけどこれから先どうなるのか激しく気になる。
常連神の方々、再起動ですね。
いつも読ませていただいています。
新展開、わくわくしながら、待っています。
GoodJob!!
122 :
3の444:2007/05/23(水) 02:02:21 ID:FZ9SYHfo0
それが合図だったんだろう。私の背後で、ごろごろと、重いものでも引きずるような耳障りな音がした。
あわてて後ろを振り向く私の目に飛び込んできたのは、倉庫代わりに置いてある古いぼけた路面電車の引き戸を開
けて中から出てくる男たち。ひとり、ふたり、さんにん・・・全部で四人!
身の危険を感じた私がこの場を逃げ出そうとするより早く、男たちは統制の取れた動きであっという間に私の周りを
取り囲んだ。
(どどど、どうしようどうしよう)
右を見ても左を見ても、私の行く手には、街中では絶対会いたくないような、粗暴を絵に描いたようなツラがまえの男
が立ちふさがってる。そして、金属バットの固さを確かめるみたいに、ぽんぽんとバットの太いところを自分の手の平をた
たいてる。どうみても世界で一番スポーツとは縁がなさそうな連中なんだもの、そのバット、野球のボールを撃つために
持ってるなんてとても思えない。どんなふうに使うのかなんて考えたくもないっ!
「八木橋さん」
彼女は、いつの間にか自分の車のボンネットに腰掛けて、男どもに囲まれてパニくってる私のことを面白そうに眺め
てる。
「あなた機械人形のくせにえっちが大好きなんだって?そんなあなたの願いをかなえてあげる。サトシとしてたみたいに
思う存分楽しんでいいんだよ。サトシに聞かせたような哭き声、私にも聞かせてよ」
口調だけは穏やかでやさしげ、だけど、このうえなく残酷なコトバを口にしながら、うふふふふ、とサディスティックに笑
った。
私はこんな所に来てしまった事を本気で悔やんだ。でも、もう遅すぎたかもしれない。
123 :
3の444:2007/05/23(水) 02:03:07 ID:FZ9SYHfo0
「なんだ、まだガキじゃねえか」
「本当にやっちゃって大丈夫なのかね」
男たちは、その場にボーゼンと立ち尽くす私を、品定めをするように頭の上から足の先までねっとりした目つきで舐め
回したあと、指示をあおぐように彼女のほうに視線を向けた。
「大丈夫。大丈夫。全身義体に強姦罪も暴行罪も適用されたためしがないから好きにしてちょうだい。でも、余りお金は
払いたくないから、派手に壊しちゃだめよ」
やっちゃって大丈夫。全身義体に強姦罪は適用されたためしがない。余りお金は払いたくないから派手に壊しちゃだ
め。私のまわりを飛交う物騒な言葉。
―――犯されて、壊されて、捨てられる・・・。
自分の哀れな末路をリアルに頭に思い浮かべてしまった私は、あわてて頭を振って嫌な妄想を振り払った。でも、膝
頭のがくがくは止められないし、助けを呼ぼうにも口がうまく動いてくれない。
もうサトシと会わない。その程度の約束で彼女が私のコトを許すはずはないって思っていたけど、まさかこんなことを
考えていたなんて。いや、私が全身義体だって知っていて、義体に暴行罪が適用されないってことも知っていたとしたら、
一番カンタンに私を辱めて屈辱を与える方法はこれしかない。それに思い当たらなかった私がとんだ甘ちゃんだったん
だ。
「くくくくくくく」
私を取り囲む男どもの耳障りな笑い声。うろたえ、おびえ、取り乱す私の姿を眺めるのが心底楽しくてしかたないんだ
ろう。こんな人の皮をかぶったケダモノたちには法律の縛りなんか全然関係なさそう。たとえ目の前にいるのが機械仕掛
けの人形なんかじゃなく生身の女の子だったとしても、自分たちが、逮捕される、なんてことにはおかまいなしに容赦なく
犯すだろう。
124 :
3の444:2007/05/23(水) 02:04:14 ID:FZ9SYHfo0
「たたた、助けてっ!誰かっ!」
やっとのことで、私は喉の奥のスピーカーが壊れてしまうくらいの大声を搾り出すことができた。でも、スピーカーの性
能を限界ギリギリまで使った精一杯の叫びも、私を囲む男たちの顔をちょっとばかりしかめさせた程度で、空しく夜の暗
闇に吸い込まれて空しく消えてしまう。
こんな時間、こんなところ、私たち以外に誰もいるはずがない。用意周到に計画を進めてきた彼女のことだ。コトがは
じまる前に人に見つかってしまうような場所をショーの舞台に選ぶはずがない。せっかくの叫びも、そのことを嫌というほ
ど思い知らされただけだった。
もしも義体のリミッターが解除できれば、こんな奴らなんて・・・。
そう思ってもむなしいだけ。ぎゅっと拳を握り締める今の私の握力は70kgかそこら。女の子としてはとんでもない力持
ちかもしれないけど、男四人を相手に大立ち回りを演じるには力不足もいいとこだ。
悔しさに唇をかみ締めながら、取り囲む男どもをみつめた。男どもって言ったけど、よく見ればみな案外若い。私と同
じか、いや、それより年下か。一見して未成年者って分かる。制服を着ていればひょっとしたら高校生でとおる年頃かもし
れない。
でも、逆にそれが怖い。いくらワルでも分別あるオトナなら加減ってものを知ってるはずだ。でも、コドモは違う。なん
のためらいもなく蟻をぶちぶち踏み潰していくような残酷さがコドモにはあって、そこには躊躇いなんてものはないんだ。
そして今、私の目の前にいるのは、コドモの残酷な部分だけを純粋培養したようなワルども。もし歯向かえばきっとなん
のためらいもなく私に金属バットを振り下ろすだろう。
「じゃあ、とっととヤるか」
私の正面に立っていたリーダー格とおぼしき、ひときわ背の高い男がバットを地面に投げ捨てた。
からん。
乾いた金属の音が、廃工場の暗闇に響く。それが、ショーの開始を伝えるゴング代わりだったのか。
からん、からん、からん。
125 :
3の444:2007/05/23(水) 02:15:30 ID:FZ9SYHfo0
他の三人はバットを投げ捨てると一斉に私に襲い掛かってきた。私の右手と左手をそれぞれ一人づつが抱え、後ろ
にいた男は私を背中から羽交い絞め。ついでにチュニックの上から生地を破らんばかりの勢いで私の胸を握りつぶすよ
うに荒々しくもみしだいた。あらかじめ役割分担を決めていたかのような手際のよさだ。あとは、目の前の男が私のスカ
ートに手をかけるだけ。
このまま私はこいつらに犯されるんだろうか。彼女の望みどおり、彼女の前で悲鳴をあげることになるんだろうか。い
や、悲鳴ならまだいい。この融通のきかない機械の身体は私がどう思うかなんておかまいなしに、ありったけの快感信号
を私の脳みその送ってくるかもしれない。そして、私は本当に「サトシに聞かせたような哭き声」を彼女に聞かせることに
なるのかもしれない。
そんなの、嫌だ。嫌だ。絶対に嫌っ!
「わっ、私の身体は機械なんだ。私が本気を出せば、アンタたち、死んじゃうよ」
追い詰められてとっさに口をついて出る脅し文句。でもそんなの口からでまかせ。確かに私の使っているCS-20型義
体の最大出力は150馬力。だけど、そのチカラを自由に使いこなせるのは特殊義体操縦免許を持ってる人だけ。私みた
いに一般免許しかもってなければ、義体は生身の人と同じくらいの力しか出せないようにリミッターが働くようになってる。
もちろん、フツーの人と同じくらいっていっても、重い義体を動かすわけだから、並みの男性よりはちょびっとだけ力は強
くなるように調整されてはいるけど、でも、そんな程度じゃこのピンチを脱出するのになんの足しにもなりはしない。
でも、ここで怯んだら最後、こいつらにやられちゃうのは眼にみえてるんだ。だから、嘘でもなんでも、ここはハッタリを
効かせるしかない。このいかにも脳みその足りなそうな連中だって、全身義体の人たちが特殊公務員として、フツーの人
間ではとてもこなせないような任務についているっていう一般常識くらいあるだろう。そして私だって、特殊公務員たちと
身体だけは同じなんだ。
どうだ。私は機械仕掛けの怪物なんだ。びびれ、びびれ、びびれ。
126 :
3の444:2007/05/23(水) 02:17:10 ID:FZ9SYHfo0
私は義眼カメラを撮影モードに切り替えて真正面の男をじいっと見つめた。夜の暗闇の中、奴の目には私の義眼は
真っ赤に光ったところがはっきり見えたはず。
「眼から4000度のビーム光線が出るのは知ってる?もし、当たったらあんたたち黒焦げになって一発であの世行きなん
だ」
恐怖に半分顔を引きつらせながらも、私は自分にできる限りの不気味な表情を作ってダメ押し。でも、これだって所
詮ただのこけおどし。眼からビームだなんて、そんなアニメの主人公みたいな真似できるはずがない。眼が光ったからっ
てどうなるってわけでもない。だけど、少しは効果があったみたい。
正面の男は、化け物でも見るようなぎょっとした表情を顔に浮かべて横に飛び退る。私の手を身体を万力のように締
め上げていた男たちの手も、リーダー格の心の動揺が伝わったのか、ちょっとだけ緩んだ。
(今だっ!)
その一瞬の隙を逃さず私は駆け出した。
こうなれば補欠だったとはいえ元陸上部の経験が生きてくる。正しいランニングフォームってやつは頭が覚えてるし、
何より私はいくら走っても疲れることのない機械の身体なんだ。最初に20メートルも差をつけてしまえば、あとはこいつら
がいくら頑張っても私に追いつけるはずがない。国道まで出ちゃえば、あとはムリヤリ車を止めるとかして誰かに助けて
もらえばいい。なんとかなる。助かる。私はそう思った。
127 :
3の444:2007/05/23(水) 02:22:47 ID:FZ9SYHfo0
以上、本日投下分でした。
128 :
3の444:2007/05/26(土) 11:28:25 ID:H67fZ8IL0
だけど・・・甘かった。
私が履いているのはデート専用の、普段は滅多に履くことのないパンプス。なのに、ついうっかり履き慣れたいつもの
スニーカーのつもりで足を運んじゃったもんだから、
(あああああっ!)
どすん。ずさあ。
走り出してたったの二、三歩で、ヒールを地面からぴょこんと飛び出したでっぱり引っ掛けて派手に砂ぼこりを巻き上
げながら転んじゃった。転んだひょうしに眼鏡があさっての方向に飛び、大切なチュニックは砂まみれ。ホントなら、正し
いランニングフォームで、私の後ろを必死こいて追いかける男たちをぐんぐん引き離してくはずだったのに・・・なんで私っ
ていつもいつも肝心なときに失敗しちゃうんだろう。ああっ、このドジっ!間抜けっ!
悔しまぎれに握り拳で地面を思いっきりたたいて悪態つく私。でも、そんなことしても何の解決にもならないよ。早くこ
こから逃げなきゃ。早くっ!
でも・・・でも・・・眼鏡が見つからない。
私の眼鏡が見つからないんだよう。
四つんばいのカッコで、あわてて手探りで手当たり次第に近くの地面を探る私。眼鏡は転んだひょうしに顔から滑り落
ちただけ。よーく探せばゼッタイ私の近くにあるはずなんだ。なのに、ド近眼なせいと、ひたひた私に迫りくる足音に気ば
かり焦っているせいで、私の両手のひらは何度も同じ場所をかきむしっては小石を掴むばかり。
(いっそのことこのまま逃げ出してしまおうか)
少しだけ、そんな考えが頭の片隅をよぎる。でも・・・駄目だ。だめだめ。そんなことできるわけない。私の眼鏡は、両
親が私にくれた最後のプレゼント。何より大切な私の宝物。そんな大事なものを置きっぱなしで、逃げ出すわけにはいか
ない。
129 :
3の444:2007/05/26(土) 11:29:10 ID:H67fZ8IL0
どこ。私の眼鏡はどこにあるんだよう。早く見つかってよう!早く!
こんなとき、私に憑いてる運命のカミサマは大体の場合私を見放すんだけどさ、
(あった!)
私の右手がようやくのことで眼鏡の柄を探り当てる。
カミサマ、珍しく今回は私の味方をしてくれた。でも・・・所詮私に憑いてるカミサマだよ。ほんのちょっぴりの幸運と引
き換えに、私に大いなる受難を与えてくださいました。
私が眼鏡を掴んで、心の中でガッツポーズをしたのと、
「ぎゃっ!」
背中にひどい痛みを感じて苦痛の呻き声を上げながら、踏み潰されたカエルみたいな格好でべちゃっと地べたに這
いつくばったのと、ほとんど同時。せっかく探し当てた眼鏡が手のひらからするりとこぼれ落ちるのにもおかまいなしに、
私はあまりの痛さに背中をおさえて不自然なカッコでのたうちまわった。
そのひょうしに頭が空を向き、私の義眼に遠い夜空に浮かぶ輪郭のぼたけたお月サマがぼんやりと映しだされた。
そして、そのずーっとずーっと手前、月明かりに照らし出された、何かこん棒のようなものを振り上げる男の黒いシルエッ
トも・・・。
(ああ、私、金属バットで殴られたんだ)
苦痛に霞む頭で、ぼんやりそう現状認識するまもなく、二撃目が振り下ろされた。
とっさに腕上げて身体をかばおうとする私。だけど恐ろしい勢いで振り下ろされたバットは私の細っこい両腕のガード
なんかカンタンにはじき飛ばして正確に私のみぞおちに突き刺さる。
がつん。
義体の表面を覆う軟らかい緩衝素材では衝撃を吸収しきれず、緩衝素材を間に挟んでチタン合金製の義体フレーム
と金属バットがぶつかって、私の義体は人間ではありえないような金属質の音をたてる。
130 :
3の444:2007/05/26(土) 11:30:09 ID:H67fZ8IL0
「ぐぅ!」
今度は身体をくの字に折り曲げて必死で痛みを堪えた。
私の使っているCS-20は宇宙でも深海でも活動できるっていわれている万能義体。だから、金属バットで力任せに殴
られたところで、その程度で壊れてしまうほどヤワなつくりじゃない。それに、ほとんど呼吸しない私には、みぞおちなん
か急所でもなんでもない。
でもそれも良し悪し。義体の受けた衝撃を感知したセンサーは、そのデータをサポートコンピューター送って、そこで、
よせばいいのに生身だったなら身体が感じたはずの痛みを忠実に再現して、最長で15秒間、私の脳みそに痛覚データ
を送り続けてくれる。普通なら気を失ってしまうようなひどい痛みでも、機械の身体の私は気を失うことさえ許されず、痛
覚信号が消え去るまで作り物の痛みにじっと耐えるしかないんだ。
どんなに殴られても身体は物理的にはいくらでも耐えられて、でも痛みだけは忠実に再現され、気を失うこともできな
いとしたら・・・?永久に続く痛みに耐えられず、私にただ一つ残された生身の脳みそがおかしくなっちゃうよ。そんなこと
になる前に・・・
(痛覚を消さなきゃ)
私はぎゅっと目をつぶると、サポートコンピューターの設定画面を義眼ディスプレイに表示させる。
全身義体の私にとって痛覚を消すのは実はカンタンなこと・・・のはず。サポートコンピューターの義体設定画面を呼
び出して、ちゃちゃっと痛覚設定をオフにさえすればいいだけなんだもの。
でも・・・必殺技を繰り出すまで悪役が攻撃を待ってくれるのは、子供向けのアクションヒーローものくらいだ。
がつんがつんがつん。
サポートコンピューターの膨大なメニュー画面から肝心な痛覚に関する設定を探し当てるのに四苦八苦している私
の、背中に、腕に、加えられる情け容赦ない打撃。そんな中で意識を集中して正しい画面を呼び出すなんて、厳しい訓練
を受けた特殊公務員でもなければとても無理だよっ!
131 :
3の444:2007/05/26(土) 11:31:13 ID:H67fZ8IL0
「ぎゃあ!ひいっ!」
『性感設定モード』『バッテリー設定モード選択されました』『節電モードにしますか?『放電モードにしますか?』
痛覚を伝える電気信号が義体の中をびりびり駆け巡るたびに私の思考はかき乱され、全く関係のないウィンドウ画面
がまるで花が咲くみたいに次から次へと義眼ディスプレイ上に展開され、私の視界を埋めつくしていく。
“自分の身体は自分でちゃーんと管理して下さいっ。そのためにも義体の取扱説明書はしっかり読んでおくように”
痛みで朦朧とする意識の中に走馬灯のように浮かんだのはぷりぷり怒ったケアサポーターの松原さんの顔。毎月毎
月、定期検査で顔を合わせるたびに松原さんに、まじめな学級委員みたいな顔つきでそんなことをちくちく言わていたこ
とを思い出す。いつもいつも適当に生返事をしてごまかしていたけど、やっぱり説明書くらいちゃんと読むべきだった。ご
めんなさい。
“いつ、どんな機能が必要になるか分かりませんっ!そのためにサポートコンピューターはしっかり使いこなせるようにな
ってください。そのときになって後悔しても知りませんからねっ”
ハイ。松原さんの言うとおりです。私は今、激しく後悔しています。でも・・・今、後悔したところで、もう、とてつもなく遅
いよね。
今まで私を殴っていたのとは違う男に、髪の毛をわしづかみにされて身体を無理やり引き起こされたかと思うと、グー
で思いっきり頬を殴られた。目の前を真っ赤な火花がチカチカ飛んでいく。痛いと感じる間もなく、さらに別の男が、ど真
ん中にきた絶好球を打ち抜くホームランバッターみたいな鋭い振りで、金属バットが私のわき腹を打ちすえる。打たれた
私はまるでスタンドインするボールみたいな勢いで地面を転がった。
(もう駄目・・・)
私を支えていた何かがポッキリ折れそうになる。
どうせ私は臆病者の弱虫だ。頑丈な機械の身体に不釣合いな虚弱な心しか持ち合わせていない。万に一つも勝てる
見込みのない状況の中で、いつまで続くか分からない拷問に耐えられるような強い心の持ち主じゃない。
132 :
3の444:2007/05/26(土) 11:37:33 ID:H67fZ8IL0
(どうせ、この身体は冷たい機械。所詮私の本当の身体じゃない。だから犯されたって、いいじゃないか。あなたが犯され
るわけじゃないんだから)
心の中のもう一人の私が、私に向ってそう囁く。
そうだ。よく考えれば、私のホントの身体は義体の頭部のチタン脳殻の中に収まっている脳みそだけだった。こんなモ
ノはさ・・・
私は金属バットで力いっぱい叩かれたばかりの右脇腹をさする。そう。これは身体じゃない。ただのモノ。その証拠に
指先から伝わってくるのは人間の肌とは全く異質なかたーい感触。私の右脇腹にはシールをはって目立たなくしている
けど小さなハッチがある。ハッチの中に納まっているのは充電用のコンセントプラグ。私の身体はここから取り入れた電
気で動く電気仕掛けの人形にすぎないんだ。
って、えーと、コンセント?電気だって?
抵抗することをあきらめかけた私の心に再び灯るかすかな希望の光。
私には何一つ武器はないって?そんなことないよ。150馬力の怪力は出せないけど・・・目からビーム光線も出せない
し、オッパイミサイルもないけど、そんな、私にだって立派な武器があるじゃないかっ!
痛む脇腹をさするふりして、そおっとカムフラージュシールを引き剥がす。そして手探りで小さなハッチを開けて中から
充電用のコンセントプラグの頭をつかんで引き出す。もちろんこの間、手はチュニックの長い裾の下に隠したまま。きっと
男たちは、私が痛みに苦しんでるだけだと思っているだろう。
今度は、私の視界の半分近くをふさいでいるサポートコンピューターの設定画面の中から、さっき殴られたショックで
偶然に開いたバッテリーの強制放電モードを選んだ。これで準備完了。
あとは・・・。
「へえ、これだけ痛めつけてもまだ動けるのか。義体ってえのはずいぶん頑丈なんだな」
痛みにふらつきながらもよろよろ半身を起こした私を見て、リーダー格は感心したようにつぶやく。そして、面白いおも
ちゃができてもう楽しくてたまらないといった風情でサディスティックな笑みを浮かべながら、金属バットの先で私の胸をこ
づこうとした。
133 :
3の444:2007/05/26(土) 11:46:02 ID:H67fZ8IL0
今だっ!
(えいっ!)
ばちん。
私はだしぬけに腕を伸ばして、ぴと、と金属バットにコンセントプラグの先端を当てる。瞬間、派手な火花が周囲を明
るく照らし出す。
「ぐわっ!」
私の身体を動かしていた100ボルトの電圧が私の憎悪を乗せてそのまま男の身体に襲いかかる。男はバットを取り
落として、大きく背中をのけぞらせながら悲鳴を上げた。
電撃を受けた男は、ぺたんと尻餅をついて、信じられないものを見たかのように口をあんぐりあけて私のことを見つ
めてる。その様子にびびった他の男たちは、まるで波紋が広がるみたいに私を包囲する輪っかを広げた。バッテリーの
電気を全放出する強制放電モード。定期検査でバッテリーのメンテナンスをするときよく使うモードだけど、まさかこんなと
きに役に立つなんて思ってもみなかった。
しばらく時間が稼げたおかげで、機械の身体から擬似痛覚がきれいさっぱり消えうせた私は、何事もなかったかのよ
うに涼しい顔をして、眼鏡をかけなおし、髪をかき上げながら立ち上がる。まだ男共に取り囲まれているっていうヤバイ状
況には変わりがない。でも、男たちの顔にさっきまでの余裕がなくなり、その代わり怯えの色が広がるのがはっきりと見
て取れた。
「いっ、今のは手加減してやったんだっ!ホホホホントはもっと強い電気だって出せるんだからね。そしたら、あんたたち
なんか今度こそ黒焦げだっ!」
私はコンセントプラグの先を、まるで銃口みたいに男たちに見せつけながら叫んだ。
髪の毛も、頬も、おまけに自慢の服も砂だらけ。情けないへっぴり腰で、相変わらず膝頭の震えはとまらない。かっこ
いい決め台詞もつっかえつっかえ。お世辞にもカッコイイなんて言えたもんじゃない。そんなの自分でも分かってるよ。ど
うせ私はテレビの中のスーパーヒロインみたいにスマートに美しく戦うことなんかできやしない。
もっと強い電気が出せるだって?そんなの、ただのハッタリだよ。100ボルト以上の電圧をコンセントプラグから放電
することはできない。こんなの武器なんて言うのも恥ずかしいくらい貧弱なシロモノだ。
134 :
3の444:2007/05/26(土) 11:51:48 ID:H67fZ8IL0
でも男どもは間違いなくびびってる。私だって恐いけど、こいつらだって何が飛び出すか分からない機械人形を相手
にするのはきっと恐いはずなんだ。そうに決まってる。
義眼ディスプレイの片隅に表示されたバッテリーの残り電力をあらわす棒グラフの背丈が、じりじりと目に見えて低く
なっていくのが分かる。強制放電モードはいちかばちかの賭け。このまま電気切れで私が力尽きてしまうか、それともそ
れまでになんとか隙を見つけて、今度こそ逃げ出すことができるか。
じゃりっ。
邪魔っけなパンプスを脱ぎ捨てた私の足が砂利をつかむ。
(負けるもんか)
私はぎゅっと唇をかみ締めて、男たちをにらみつけた。
おじいちゃん。私に勇気をください。ほんのちょっとだけ、臆病な私に強い心をください。
135 :
3の444:2007/05/26(土) 11:57:41 ID:H67fZ8IL0
今日はここまで。
あんまりヤギーっぽい話ではないでしょうか?
戦うヤギーもたまには書きたくなるのです。
136 :
adjust:2007/05/26(土) 16:38:22 ID:31SqTTrs0
お久しぶりです
しばらく、書き込みできる状況ではなかったんですが
みなさまお元気でしょうか。
3の444 様
ちょっとブラックな世界観に精一杯戦うヤギー、震えながら戦うヤギーの心理描写がリアルです。
なけなしの反撃手段がちょっときゅんときますね
短編&BBSPINKを目指してチャレンジしてみました。いままであまり色気が無く
心苦しかったので、そっち方面を目指してみました。でも失敗したかも
内容のほとんどが不慣れな内容なので、皆様の鑑賞に堪えるものになって
ないと思われます。お叱りを受けるかもしれませんが、それについては
真摯に受け止めさせていただきますので、ご容赦ください
ヤギーを出してしまいました。社会人になってからという設定です。3の444様すみません。
137 :
adjust:2007/05/26(土) 16:40:26 ID:31SqTTrs0
ここは、ある都市のオフィス街の裏通り。ちょっと高級なレストランやファッションホテルが並ぶ、ほんのちょっと
上品な、そしてこれから起こることを期待させる、そんな一角である。
「えーと、リブレット本館から噴水のほうへ曲がるんだよね。あ、あった、その反対側のこのビルかな」
時折、談笑しながら行き交うカップルに混じり、一人で、いかにも仕事中ですよとばかりに大きなかばんを抱えてき
ょろきょろと周りを見回すケアサポーター。目的の建物を見つけ、少し入るのに躊躇して、改めてその建物を見上げる。
「ここでいいんだよね。コアシティ3階レイランドオフィス」
シックな雰囲気で客を不快にさせない落ち着いたたたずまいの建物は、この街の雰囲気を壊さずに、静かに客を待っ
ている。
イソジマ電工義体ケアサポーター八木橋裕子、彼女自身も全身義体使用者であり、義体ユーザーとの義体使用経験を
共有できる稀有な存在である。目的の義体ユーザーとは、普段はメールによるやり取りが多く、数回の顔合わせの場所
は主に病院であったため、義体ユーザーの仕事場に直接向かうのははじめてであった。
エレベータを降り、小さくステンレス板でレイランドオフィスと上げられているドアの前に立つ。自分の身だしなみ
が変でないかを確認して、心を静め、少しの間を取って、インターホンのボタンを押す。
ぽーん、という音と共に赤いランプか光り、しばらくして、返事が返ってくる。
「はい、ああ、八木橋さんね、少し待っててね」
まもなく、カチッと電子ロックの外れる音がして、目的の義体ユーザーが顔を出す。
「ようこそ、待ってたわ。どうぞお入りください」
ジーンズにTシャツというラフな格好の女性、九条明日香はヤギーを穏やかな微笑で迎え入れた。
「よく片付いているんですね」
迎え入れられ、応接室というか待合室のような部屋に通される。ヤギーにいすを薦め、自分もテーブルに着く。そし
て微笑のままやわらかくヤギーに応える。
「おどろいた?、それともめずらしいかな?」
「いえ、そういうわけではないんですが、もっと、その」
ヤギーの視線が部屋の奥のドアに吸い寄せられる。
138 :
adjust:2007/05/26(土) 16:41:44 ID:31SqTTrs0
「ここは、仕事場ですからね。お客さんの夢を壊さないようにシンプルにしてあるわ。あっちのほうはまあ、ご想像
のとおりの部屋だけどね」
いたずらっぽく目を向ける。
「まあ、八木橋さん、今日は私のお仕事の実態調査でしょ。お仕事まではまだ時間があるから、ゆっくり見て行って
いいわよ」
「はい、ええと」
あらかじめメモしてきた紙を取り出し、一通り目を通す。出来るだけ目を合わせないようにしながら、ビジネスライ
クにことを進めようと、質問項目を読み上げる。
「じゃ、ちょっと教えてください。えー、その、月に何回くらいあの機能を使われますか?」
落ち着かないヤギーを見つめながら、明日香は落ち着いて答える。
「そうねえ、一晩で大体2組お客さんを迎えるから、一日に3〜4回よねえ。月に20日お仕事すると、60回から
80回と言うところかしら。じゃあ、その間を取って70回ということにしておきましょう。」
「そんなに!」
思わず書き込む手を止めて絶句する。おそらくはヤギーの今までの全ての使用回数を足しても、その回数には達しな
い。
「あのあのあの、耐久性とかは大丈夫なんですか?故障とかは」
「ああ、イソジマ電工じゃないけど、時々点検しているわよ。そういうことしてくれるところはあるから。ま、少し
お金はかかっちゃうけどね」
「えーっ!!、それって正規品じゃないってことですか?」
「まあ、そういうこと。さすがに消耗は激しいからね。人工性器と人工皮膚は特別に点検修理をしてもらっているわ」
「そ、それっていったいどこが?」
「うふ、内緒、でも、修理は大丈夫みたい。見かけも性能も全く変わっていないし」
「イソジマ電工以外で?」
「うん」
139 :
adjust:2007/05/26(土) 16:51:45 ID:31SqTTrs0
しばらく、会話が止まり、なんとも奇妙な時間が流れる。このことは一応報告しておかなければならないはず。なん
と報告しようかメモを前に悩みまくる。笑みを浮かべたままヤギーの苦吟を見つめていた明日香は不意に立ち上がった。
「八木橋さん、ちょっと見せてあげようか、そのほうが報告しやすいでしょう?」
「はい?」
何を言われたのかわからず、間の抜けた返事を返すヤギー、その意味が理解できても、どのように対処すべきかとっ
さには思いつかない。
「どうぞ、こちらへ」
手を引かれ、思考停止のまま、奥の部屋に連れ込まれる。
「ようこそ、八木橋ケアサポーター、いつもはここに来ていただくときは有料なんだけど、今日は、特別に無料ね」
明日香はヤギーのほうを向き、ボタンに手をかける。
Tシャツを脱ぎ、ジーンズのボタンを外す。ボリュームのある胸がブラジャーごとぶるんと現れ、ショーツでは隠し
きれない張り切った尻と下腹部が、その中身を主張する。
ヤギーは目を見開いて、明日香の肢体を見つめた。本当に義体なの、と、つっこみを入れたくなるほどである。
明日香は続いてジーンズを降ろし、そっと足を抜き取る。ほんのりと赤みを帯びた色白の肌があらわになり、グラマ
ーなプロポーションと相まって、ひとつの美が構築されていく。
明日香はヤギーに向かって、ちょっと恥ずかしそうに、にっ、と笑った。
「いつもはここからお客さんにしてもらうんだけどね」
ちいさくパキッという音がして、ブラの谷間が外される。それと共に、大きな胸がゆさっとあふれた。
「うわあ、すご...」
思わず自分の胸に手をやるヤギーである。同年代の女と比べて小さくは無いはずだが、明日香と比べれば迫力は違っ
た。
「そして、こっちね」
ショーツに手をやり、ゆっくりと降ろしていく。むっちりとした下腹部があらわになり、薄い茂みと共に局部があら
わになっていった。
「よいしょ」
140 :
adjust:2007/05/26(土) 16:53:02 ID:31SqTTrs0
すとんと豪華なベッドに腰掛け、薄い絹の布切れを足から外していく。脱ぎ終えたショーツを器用にくるくると巻い
てベッド脇のテーブルに載せると、ベッドに片ひざを立てて、明日香はヤギーをじっと見つめた。
「さあ、来て、...じゃないわね。ええと、これが人工性器よ。良く見てね」
「よ、よくみてといわれても...」
片ひざを立てているので、茂みの奥があらわになっている。そのさらに奥にある人工性器はむっくりと盛り上がった
唇の間で小さく顔を出している。
「八木橋さん?」
「はい?」
「非正規品の人工性器の確認をするんでしょ?」
「そうでした、は、は」
突然オールヌードを見せられ、自分のやるべきことを完全に忘れていたヤギーは、これはお仕事なんだと自分に言い
聞かせ、あらためて明日香の人口性器を見た。薄いピンク色の肌と少し緑色が入った薄い茂み。その奥の鮮やかな赤い
唇が自己主張して、その唇の間から人工性器が垣間見える。
「いいですか?」
「どうぞ」
ヤギーは明日香の太ももに手を添え、少し股間を広げて顔を近づける。
少なくとも、ヤギーが知っている限りの知識では人のものと寸分の違いもない。自分のものはどうだったかなと考え
て、良く考えてみれば、自分のものをそれほど精巧に観察したことは無いことに気づく。
「少し中を見たいんですけど、触っていいですか?」
「いいわよ。やさしくお願いね」
やさしく、と言う言葉に今も感じるんだということを意識して、恐る恐る唇に指を当ててみる。
「んっ」
触ったとたんに、明日香の口から小さな吐息が漏れる。指先でそっと割れ目を広げると、そこだけ妙に明るいピンク
色の柔らかいものでふさがれた丸いものが見えてくる。
141 :
adjust:2007/05/26(土) 16:55:35 ID:31SqTTrs0
これが人工性器なんだ、と感心しながら、藤原との行為が脳裏によぎる。ここにあれが入っていくんだ、などと考え
ながら、人差し指をその柔らかいものの中に飲み込ませていく。
「あふ」
明日香の声が漏れると共に、とろりとした液体がどっと分泌され、ヤギーの指に絡みついた。
「ああっ、ごめんなさい」
ヤギーがあわてて指を引き抜く。
「はふ、あ、謝るほどじゃないけど、も、もうこれくらいでいいかしら、これ以上やったら感じちゃう」
「申し訳ありません。ごめんなさい」
「だから、謝らなくてもいいわよ、で、どう、大丈夫だった? 人工性器?」
「は、はい、とってもきれいでした」
「ほとんど区別つかないでしょ」
正規品と区別がつくかどうかは正規品と比べてみなければわからない。ここまで良く出来ていると両方を並べて観察
しなければヤギーの目では区別できないと思われる。
緊張から開放され、ヤギーは周りを見渡した。今にして気づいたが、この部屋が客と体を共にするところであること
に思い至る。広い部屋に豪華なベッドと大き目のクローゼットそして深いじゅうたん。
「ずいぶん豪華なんですね」
「ここは、少し高級なお店だから、お偉いさんもいるわよ」
「わたしも、こんなところでしたいかも」
「いま、してみる?」
明日香がヤギーの前に回りこんで、目を見つめる。はい、といいそうになって、かなりあわてて、プルプルと顔を振
る。
「ぷるぷるぷる、とんでもないです。というか勘弁してください」
「ああん、残念」
まんざらでもなさそうに、明日香はヤギーを開放した。その引き込みの魔力に、改めて明日香のこの仕事における実
力を垣間見る。
142 :
adjust:2007/05/26(土) 17:05:21 ID:31SqTTrs0
「あ、そうだ、九条さんに聞かなきゃいけないことがもうひとつありました。今日これだけは教えてください。」
「何でしょう?」
「九条さんは、十分に魅力的です。でも、義体目的で来ているお客さんは居ないんですか?」
「ああ、そういう質問ね」
明日香は柔らかく微笑んだ。
「いるわよ、むしろ、ほとんどのお客さんは義体目的ね。なれたお客さんなら、手を外して見せたり、外装を外して、
体の中を見せることもあるわ。もちろん、変なことをしないお客さんにだけね」
「変なことをする...危ないお客さんとか居るんですか?」
「ここは高級なお店だから、本当に危ない人はほとんどこないわ。それに、もと締めの紹介のところで危ない人はお
断りしているから」
「だから、変な人は来ないということですね」
「まあね、でもたまにはそういう人もいるわよ。ずっと普通のお客さんだったのに、突然豹変したりしてね」
「うわあ、そういう時はどうやって対応するんでしょうか」
「そんなときは、ぎりぎりのところまで言いなりになって、落ち着くのを待っているかな。癒してあげて、包んであ
げればほとんどの人は落ち着くものよ」
明日香はまだ明るさの残る窓の外を見た。そろそろ、夜の時間、明日香のお仕事の時間である。
「それで、落ち着かない場合は?」
「興奮したり、暴れまわったりするのも本人は結構大変なの。しばらく自由にさせてやることやったら自然に落ち着
くわ。それにね」
明日香は部屋の隅を指差した。
「あそこにカメラがあるのわかる?」
「あ、ほんとだ」
「一応、もと締めのところで時々は監視しているはずよ。入り口の応接室でも、見られるようになってます。えっと、
あとは、枕元のこのボタンを押せば、人を呼べるようにはなっているわ」
「はあ、一応防犯対策はしているということですね」
143 :
adjust:2007/05/26(土) 17:06:14 ID:31SqTTrs0
「まあね、役に立ったことは無いけどね、あ、そうだ!」
明日香はヤギーの両肩をつかんだ
「八木橋さん、私がしている間、お客さんの様子を見ていかない?」
「え、それはどういう...」
「私とお客さんがしているとき、このモニターで人口性器の運用状況を調べていてくれればいいの」
「ち、ちょっと待ってください。それって覗けということですか」
「うん、それなら万一、変なお客さんでも助けに来てくれるでしょ、よし決まり!」
「ででで、でもでも他人が居たらお客さんも不審に思うんじゃないでしょうか」
「応接室に居るだけなら、ただの受付よ、お客さんが来たらにこりと笑ってこちらの部屋へ案内するだけでいいわ、
だれも不審に思う人はいないわよ。ね、お願い!」
「それでも、ちょっと、その、あんまりです」
明日香は視線をわざとヤギーから外し、にやりと笑った。
「そう?、ふふふ、奥の手を出すわよ」
「え、なんですか、それって...」
「義体ユーザーからケアサポーターに対して要請します。お仕事における義体の使用状況を監視すること、以上、ち
なみに、この申し出を断った場合、本社のサポートに八木橋さんのことを直接報告しますのでよろしく」
「そんなの、要請じゃありません却下ですーーーーーーー」
と、いうわけで、2組の客のあの様子を監視させられたヤギーであった。そしてその報告書はイソジマ電工の男性社
員に対して非常に重要な報告書であったそうである。
PS
後日の藤原君のデートはとても刺激的であったそうな。藤原君は天国を味わったとか地獄を見たとかいう書き込みが
某HPの掲示板にあったとかなかったとか...
144 :
adjust:2007/05/26(土) 17:09:06 ID:31SqTTrs0
以上でおしまいです。ありがとうございました
今回は短編&Hネタにチャレンジしてみました
読めるものになっていればいいのですが...
つまらなければ、ごめんなさいです
adjustさん
お久しぶりです。相変わらずGJ
九条明日香とは、またずいぶん懐かしい名前の登場ですね。
通常の義体はだいぶ重たいですけど、こういう商売用の義体は軽量化も進んで
いるのでしょうか?そっち目的の義体なのに体位が制限されちゃうのはよろしく
なさそうな気がしますが。
146 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 00:15:09 ID:i4GZ97bp0
ハード路線で新編発進した直後に、突如とんでもない妄想にとり憑かれてしまいました。
これを吐き出してしまわないと、帝国憲法改正案の考えが纏まりそうもありません。
ということで、突然の寄り道となってしまいました。
(臨時増刊 単発妄想@オプションパーツ時代末期)
−−ボディ・ア−ティスト−−
(経済特区 酉山科学研究所)
美肌:「ごめん下さい。所長さんにアポを取らせていただいていた者ですが。」
酉山:「ああ、お待ちしていましたよ。なるほど、大したものですね。
最近は人工皮膚にさまざまなプリントを施すというのが流行っていましてね。
こういうアート関係は西欧連や北米連が断然強いでしょう。
当研究所の主力商品である能動義肢があちらの製品に押される状態になっています。
これまで外見を天然外皮に近づけることに注力してきたのが仇になるとはね。
性能で負けることはないのでファッション性を兼ね備えて巻き返したいのです。
貴女からの売り込みの手紙を見たときは天の助けかと思いましたよ。
貴女の入れ墨アートを採用した義肢なら世界中どこでも売れることでしょう。」
美肌:「あの、まず所長さんに謝らなければならないことがあります。
ここに就職したいというのは、私の本心ではありません。
実は、他にお願いしたいことがあって、会っていただくために嘘をついたのです。
口実がないと、なかなか先生のような高名な科学者には会っていただけないでしょう。」
酉山:「え?、就職希望って嘘だったの?ガクッ_| ̄|○。」
147 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 00:16:49 ID:i4GZ97bp0
美肌:「本当にご免なさい。でも、どうか私の話を聞いて下さい。
私の全身を覆う入れ墨は、私が原画を描いて私の一番弟子でもあった夫が仕上げたのです。
その夫が仕事で些細なミスをして客であった暴力団幹部に撃ち殺されてしまいました。
それで、夫と共同で新たな作品を生むことはもう出来なくなってしまったのです。
ただ一つの不幸中の幸いは私の体の入れ墨が全て完成していたことでした。
しかし、この貴重な入れ墨もいずれ私が歳を取れば失われてしまいます。
どれほどダイエットに気を付けていても皮膚に弛みが出来て台無しになってしまうのです。
それはとても耐え難いことなので、いまのうちに全身の皮膚を剥製にして保存したいのです。
こちらでなら、入れ墨を傷つけずに全身の皮膚を剥ぐ手段があると思うのですが。」
酉山:「そんなことをしたら氏んでしまいます。私はそんな恐ろしいことに手を貸せません。」
美肌:「最初は死を賭してもと思い詰めたのですが、帝國の技術なら生きたまま出来ませんか?。
顔面と首の前面は空いていますので、ここを切り取れば入れ墨を傷つけずに脳摘出が出来ますね。
つまり、私は酉山先生のお力を借りて全身サイボーグになりたいんです。」
148 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 00:17:51 ID:i4GZ97bp0
酉山:「なるほど。仰るとおりそれは可能かも知れません。しかし難しい問題が3つあります。
第一は、私が独力で全身サイボーグを作ることが出来ないと言う問題です。
確かに、当研究所は帝國から仕事を受託して特殊目的サイボーグの再改造なども行っています。
しかし、それは帝國から生命維持装置を初めとする必須機材の提供を受けてのことです。
仮に装置を模倣したとしても、運用に必要な消耗品を供給出来るのは帝國の宇宙産業だけです。
そして帝國は宙軍が採用した素体にしか生命維持装置や運用に必須の消耗品を提供しないのです。
ここ経済特区の住民はもちろん、帝國の一般シビリアンですらダメなので外国人は無理です。
これをクリアするには、貴女が帝國臣民になった上で素体に採用されるしかありません。
第二の問題は、外国人が帝國臣民に帰化することが非常に厳しく制限されていることです。
帝國は、帝國が苦手とする分野を補うため特別な人材を招聘する以外に帰化を認めません。
これまでに招聘された外国人は、たいてい帝國外交官がスカウトした科学者か技術者です。
貴女は芸術家ですね。芸術家が招聘された例は極めて少ないそうです。
素体訓練のコーチとしてバレエ関係者を招いたという例以外には聞いたことがありません。
自推で貴女が招聘されうるのかどうかは皇帝陛下次第ですが、かなり難しいでしょう。
第三の問題は、帝國の標準サイボーグ製造工程
http://pinksaturn.fc2web.com/kouteihyou.htm が貴女の希望に合致しないことです。
帝國では素体に採用されたものは、所定の訓練後まず四肢を根元から離断されます。
次に、開頭手術でBCI用デバイスを取り付けられ感覚の調整後に運動制御訓練を受けます。
最後に、この映像
http://pinksaturn.fc2web.com/syujutusitu.htm のように頭頂から背骨にかけて切り開きます。
いわゆる背割り解体をダルマ状態でやって水中で脳と脊髄をまとめて持ち上げるんですね。
これに側索インタフェースを付けて一体ケースに収めたのがサイボーグのコアになります。
この通りに改造手術を実施したのでは大切な入れ墨が切り刻まれてしまう事になります。」
美肌:「脳だけ取り出してサイボーグ化するのは不可能なのですか?。」
149 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 00:36:56 ID:i4GZ97bp0
酉山:「原理的には可能ですが、素体から直接改造した実績は全くありません。
特殊目的のため大脳だけを搭載する場合は、サイボーグ化から3年以上経った者を再改造します。
このように
http://pinksaturn.fc2web.com/noutekisyutu-toriyama.htm 既存サイボーグコアを分解して小脳を機械に置き換えるのです。
BCI訓練や通常型サイボーグでの順応を省くと身体制御の調整が難しく障害を負い易いのです。
一旦身体制御障害者になると克服して制御を再確立するのに最悪一生かかるかも知れません。
体が不自由になったら入れ墨師を続けることも困難になりますよ。」
美肌:「あまりにも困難が多いのですね。諦めた方が良いのかしら。」
酉山:「事情はよく解ったので、可能性は少ないですが一応つてを当たってみましょう。」
美肌:「本当ですか?。でも望みは薄いのでしょう?。」
酉山:「帝國から請け負う再改造の関係で懇意にしていただいている貴族がおられます。
その方なら宙軍研究所の幹部ですから人材招聘の推薦をお願いできるかも知れません。
それに脳摘出手術法の開発を統括する立場でもあるので技術的検討も頼めるでしょう。
前例を幾重にも破るのだから時間はかかるでしょうが絶対無理とは限りませんよ。」
美肌:「少しでも可能性があるのでしたら、ぜひお願いします。」
酉山:「その代わり、私のお願いを3つ聞き入れて下さい。」
美肌:「何をすればよいのですか?。」
150 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 00:38:00 ID:i4GZ97bp0
酉山:「一つ目は、帝國の結論を待つ間ここで働いて欲しいと言うことです。
うちの製品のために人工皮膚プリントデザインの仕事をして欲しいのです。
口実とはいえ、元々就職面接に来たのだからこれは請けて貰えますよね。
二つ目は、もし帝國の素体に採用されても、休暇時はここでアルバイトして下さい。
帝國のサイボーグは、たいてい副業をやるのだからこれも問題ないでしょう。
三つ目は、貴女の剥製が首尾良くできたら所内に設ける施設で展示させて下さい。
これは、貴女が手がけることになる製品の販売促進に必要だと思うのです。
当所で貴女の仕事が順調なら、いずれ専用ギャラリーを設けることになります。
そこに来訪するバイヤーのための目玉展示が欲しいということですね。
これは多数の来訪者に自分の全裸を晒すということだから恥ずかしいかな?。
しかし、当研究所は帝國の援助を受けているとはいえ、民間企業なんです。
できた製品は、1点でも多く売って所員や出資者に還元しなくてはなりません。
貴女もプロの芸術家なのだから、ここはビジネスとして割り切って下さい。」
美肌:「最後の条件は二番目を担保するための人質ですか?。」
酉山:「貴女は頭がいい。そう解釈されても構いません。
その代わり、仕事の成果に見合ったギャラはお出ししますよ。」
美肌:「承知しました。元々無理なお願いをするのだからこれくらい当然です。
お願いの件の成否に関わらず、仕事には全力を尽くします。
改造前にバイヤーを迎えたら、このまま裸でギャラリーに立つのも厭いません。
そもそも入れ墨師とは人体を素材とする芸術家なのです。
好きこのんでその作品素体となった以上は裸を人目にさらすのが道理なんです。」
酉山:「気持ちよく請けて貰えると私も口利きのし甲斐がありますね。
精一杯、帝國側を説得してみます。では早速明日から出勤して下さい。
デザイナー職は裁量労働制ですので、働きやすい時間に来て下さい。」
151 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 00:40:10 ID:i4GZ97bp0
(経済特区の料亭”星雲海”)
漣:「珍しいこともあるわね。酉山先生から誘っていただけるなんて嬉しいわ。」
酉山:「申し訳ないが下心あってのことです。漣大佐のお力を借りたいのです。
実は、うちで採用した人工皮膚プリントデザイナーの娘がですね、...」
漣:「その娘、年齢は?。」
酉山:「まだ25なんですよ。その若さで夫を亡くしたら思い詰めるでしょう。
私も事故で妻を亡くした上で娘と長年生き別れだったので身につまされます。」
漣:「なるほど、泣ける話じゃないの。できれば希望を叶えてあげたいわ。
性別も問題ないし、25なら素体として年齢的な障害は少ないわね。
うーん、そうだなぁ。まず招聘外国人の推薦については合理的な理由が肝心ね。
それこそ、酉山先生ご自身がこっちに来たいというのなら一発OKなんだけど。」
酉山:「ははは、それは色々と支障がありましてね。」
漣:「冗談ですよ。経営者として部下を放り出すわけに行かないのは当然です。
そもそも、あなたみたいな父性愛の強い人は、性転換がNGだから無理無理。
で、真面目な話ですが、サイボーグ外装のファッション性向上は重要課題なのよ。
サイボーグのメンタルヘルスにかなり有効だから軍の士気高揚に繋がるわけ。
だから人工皮膚研究部に工芸官のポストを用意して貰うことは難しくないわね。
芸術家の招聘をバレリーナに限定するような規定なんてどこにもないわ。
たまたま過去に需要が多くて供給もその分野でしかなかったというだけなのよ。
まあ、素体志願者ならバレエができないと後で辛いことになるけど別問題ね。
ただ、あくまでも仮に外国から招聘するほど価値のある人材が来ればの話だわ。
つまり、その娘の芸術家としての力量次第って事になるわけですよ。
その判断は、まず人工皮膚研究部長を同伴して面接し、作品を見ないとね。
その上で、我々の所感を陛下に上奏して御聖断を仰ぐことになります。」
152 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:00:55 ID:i4GZ97bp0
酉山:「私の感想としては自社で使いたい程なので十分いけると思いますよ。」
漣:「うん。そこは酉山先生を信じるとして、次の問題は素体適性かな。
特別な能力が認められたとしても、素体失格だとどうにもならないでしょ。
これは素体調査官が判断することで、私が口を挟めないの。
招聘外国人には緩和基準が適用されるけど無闇に甘くはできないのよ。
恣意的に合格させたら、素体失格になった一般シビリアンに不満が出るでしょ。
実際、障害者の特例志願ですら宙軍兵として通用しない人は却下されるのよ。
あちらは福祉費用削減という経済効果が目に見えるけど、やはり限度があるの。
素体適性評価には、最低六ヶ月の観察期間があるから心証を上げるのも大切よ。
今からできる対策としてはバレエのレッスン受けさせておくくらいかしらね。
酉山研に勤務しているなら、使用者であるあなたのレポートも参照されるわ。
その書き方によっては多少弱点をカバーできることもあるかな。
酉山研の警備に派遣されている外務省出向工作員にアシストを頼みましょうか。」
酉山:「私の努力も関係するのですか。承知しました。」
漣:「最後に手術方法だけど、これは私の頑張りどころね。
変則的な手術をすること自体は私の権限で、新技術を開発という名目で良いわ。
顔は壊しても構わないと言うことなら、その娘の言うとおり脳摘出は可能ね。
首も正面が切開できるのなら血管を確保して血流を切り換えることは出来るな。
考えどころは、事前のBCI用デバイス設置をどうするかよね。
開頭できないとなると口から入るしか無いけど。顔はどうなっても良いのか。
そうか、それなら上顎を切除して中から頭蓋骨を少しずつ掘り出せばどうかな。
どうにかマイクロボディが通れる穴が後頭部まで掘れれば視聴覚は繋げるかな。
上顎がない状態でBCI訓練になるけど、流動食で幾らでも保つからね。」
酉山:「四肢はどうするのです?。」
153 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:01:50 ID:i4GZ97bp0
漣:「首が開けられるから人工呼吸器を付けて頸椎を麻酔ブロックすればいいわ。
切断しなくても動かせなく出来ればBCI訓練には差し支えないのよ。
難しいのは眼、鼻、舌の神経を傷つけずに通り道が開けられるかどうかね。
そこの安全性は立体構造シミュレーションで十分検討する必要があるかな。
非人で実験してからかかるのが理想的だけど、その娘だけのためそこまでは一寸。
シミュレーションでそれなりのマージンが確認できると良いのだけど。
まあ、その辺りは私の本業だし、時間も十分あるからやってみるわよ。
あとの気がかりは、BCI訓練中の辱創かしらね。皮膚痛めたら元も子もないから。
実験のためと言うことで、人手をかけて24時間介護すれば大丈夫なはずだけどね。
脳摘出後も生体パーツに必要な各部位を首から入って取り出すから時間がかかるわ。
生殖器が劣化しないように冷やしつつ皮膚は絶対痛めずにと言うのが難しいわね。」
酉山:「人海戦術になるようなら、うちの手術室でしたら何とかしますが。」
漣:「そうして貰った方が良いですね。最後の脳摘出は大脳単体になるでしょ。
となると、いきなり人工小脳って事だからそっちでやる方が後の調整が楽だわ。」
酉山:「サイボーグ順応無しでいきなり人工小脳と言うのも心配ですが。」
漣:「BCIデバイス設置の時ついでに頭蓋底と頸椎にピックアップを置くのよ。
その状態で一通り運動時の信号データを収集してあればどうにかなると思うわ。
上顎切り取られて流動食の状態で色々な運動を繰り返すのはきつそうだけどね。
後の調整も通常の場合よりはしんどいだろうけど障害者での成功例はあるのだし。
私ならそんな経験はしたくないけど、あとはその娘の根性次第ね。
うーん、色々想像して考えていたら萌えてきたわ。この件やれると良いな。
よーし、帝國内の根回しは精一杯やってみるから、吉報を待って下さいな。」
154 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:02:41 ID:i4GZ97bp0
(約半年後 酉山科学研究所)
酉山:「皆さん既にお揃いのようですね。」
漣:「人工皮膚研究部長と素体調査官2名、これで全員です。」
吹雪:「はじめまして、宙軍研究所人工皮膚研究部長の吹雪です。
私にとって酉山先生は良きライバルですわ。
こちらの人工皮膚のリアルな感触には注目しております。」
酉山:「滅相もない。私のところなど地上一般生活用だけですからね。
私の娘も宙軍兵です。先日帰ってきたとき白雪姫を着けていました。
やはり、そちらの極低温対応人工皮膚はすごいですね。見た目も良いし。
地上だけでやっていて極限環境の実績がないうちなんか目じゃないですよ。」
マオ:「素体調査官のマオです。」
ミキ:「素体調査官のミキです。」
酉山:「お二人には見覚えがありますよ。ええ、そちらの耳とか。
あと、こちらの口元とか印象的でした。酒の席だったような気がしますが。
確か、真理亜侯配下の宇宙艦乗組員の懇親会ではなかったですか?。
そうだ、あの後、理美に再会したのだった。どうりで印象深いわけだ。
あ、そういえばその後理美が何かとお世話になっていたようですね。
あらためてお礼申し上げます。艦を降りられたのですか?。」
マオ:「人事ローテーションで半年ほど素体調査官をやらされているんです。」
ミキ:「結構退屈な仕事ですよ。今日みたいな面白い調査は少ないですからね。
まあ、素体確保の仕事が重要なのは解るんですけど。で、本人は?。」
155 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:23:36 ID:i4GZ97bp0
酉山:「実は、デザイン義肢のバイヤー対応中でして、ギャラリーに居ます。
そこで自分自身を展示している最中でして。如何致しましょう?。」
マオ:「それは却って好都合です。本人は私たちの顔を知らないですよね。
我々が新たに訪れたバイヤーだと言うことにして、そこに案内して下さい。
日常の振る舞いを観察できた方が、より正確な評価が下せますので。」
ミキ:「まあ、私らもバイヤーの一種ですから、嘘にはなりませんよね。
品定めするのは、作品じゃなくて作者本人の方ですけれど。」
吹雪:「いきなり噂の作品を丸出しで拝めるのですね。wktkしてしまいます。」
酉山:「目玉展示の効果もあるのでしょうけど、販売実績はなかなかのものです。
一層のこと不合格になってくれた方が、うちでフルに働けて有り難いくらいです。」
漣:「今さらそんなこと言わないで下さいよ。手術するのが私の生き甲斐なのに。」
156 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:24:17 ID:i4GZ97bp0
(所内ギャラリー)
酉山:「美肌さん、こちらのお客様にも作品のご紹介をお願いします。」
美肌:「はい所長。いらっしゃいませ。私、アート義肢外装担当の美肌と申します。
当所のアート義肢の特徴は、入れ墨の手法を取り入れた装飾外皮にございます。
こちらに展示しておりますのは、いずれも不肖わたくしが作画したものになります。
私は元々入れ墨師でございまして、この全身を覆う入れ墨もまた自らの作品です。
こちらに参る以前に信頼の置けるパートナーを得て手の届かぬ部位まで彫ったのです。
こちらの製品は、私の左手を原画として量産用タトゥーマシンで仕上げました。
その隣は、無地の人工皮膚に手彫りで彫り込みましたカスタムタイプでございます。
当研究所が得意とする天然皮膚に近い感触の人工皮膚を引き立てるよう考慮しました。
母材となる無地人工皮膚がこちらです。お時間があれば手彫りの実演もいたします。」
マオ:「製作者から見た入れ墨の魅力について伺いたいのですが、宜しいですか?。」
美肌:「入れ墨は絵画の一種でありながら、立体芸術であるという側面があります。
また、彫るべき立体曲面は素体ごとに異なる与えられた面であって選択が利きません。
そのような制約において、アートとして成り立つよう作画を計画するのは難しいです。
また、素体はキャンバスと違って生きて動くものなのです。
ですから、動いたときの見栄えを想像し、デザインを最適化する予測力が必要です。
難しいが故に入れ墨師のセンスが厳しく問われ、優劣がはっきりと見えてしまいます。
それから、彫ったら後戻りが効かないため失敗の絶対ない計画性が求められます。
そして、立てた計画を一分の狂いもなく仕上げる集中力も欠かせません。
顧客の時間にも制約がありますから、すべてを限られた時間で行うことが必要です。
これらを総合した難しさ故に、誰でも手がけられるわけでないところが魅力です。」
ミキ:「なるほど、その集大成が貴女の全身を覆う1曲面の絵になるのですか。
しかし、髪を剃って頭まで全面に彫るというのは随分思い切ったものですね。
元々スキンヘッドだったのですか?。」
157 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:25:17 ID:i4GZ97bp0
美肌:「私はスキンヘッドフェチではありません。頭まで彫るか迷いはありました。
実は彫り始めるとき、首から下までで止めても良いよう2重に計画を立てました。
彫り進めるうちに、何ごとも徹底したくなる性分が勝ってしまい髪が無くなりました。
一度頭に彫ってしまうと、職業上作品を披露する機会が多くて剃り続けているのです。
日に焼けるとまずいので外出を避けたり、なかなか大変なのですが仕方ないですね。」
マオ:「もう一度全体を鑑賞したいので、くるーっと回って頂けますか。ほおほお。
済みません、そこで片足を高く上げて下さい。出来る範囲の高さで結構です。
体、柔らかいですね。姿勢も綺麗だしバレエのご経験がおありですか?。」
美肌:「芸術好きの親が小さいときに習わせたのです。結局今も少し続けています。
まあ、作品を守るために体型が変えられないのでやむなく続けているのが実情です。
発表会に参加するほどの技量も熱意もありません。」
ミキ:「ご謙遜を。相当出来るようですね。職場のロッカーにポアント置いてるでしょ。
ちょっと、取ってきて軽く踊って見せて頂けませんか。」
美肌:「え、お客様???。所長、宜しいのですか?。」
マオ:「もう隠す必要もないでしょう。私たちは作品より貴女を品定めに来たのです。
私と、そこのミキは帝國の素体調査官です。抜き打ちになってご免なさい。
正確な調査のために、出来るだけ自然な状態で観察する機会を窺うことになっています。
バレエの技量は素体適性を見るのに格好の材料なので、あらためてお願いします。」
美肌:「解りました。用具を取って参ります。」
吹雪:「あの、身につけるのは、なるべくポアントだけにしてくれませんか。
私は、まだまだその見事な入れ墨を鑑賞したいのです。」
158 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:45:03 ID:i4GZ97bp0
ミキ:「調査の支障にはなりません。むしろ全裸の方がごまかしが利きませんね。
本人が踊りやすい方でやっていただくのが良いので、いまの希望は無視でも良いですよ。」
美肌:「いえ。全裸の方が慣れていますから、そちらの方のご希望のようにします。」
漣:「吹雪はかなりお気に入りのようだけど、調査官の第一印象はどうなの?。」
マオ:「基本的にはよさげですね。まあ講評は、後ほど本人を前にしてやりますよ。
例え今回却下されても1年経てば再申請が出来ますし、年齢も若いです。
今後のために率直なアドバイスを差し上げるのも、私どもの任務なのです。」
美肌:「お待たせしました。それではやらせていただきます。」
ミキ:「はい、アン・ドゥ...良いわね。うんうん。よし、マオあれやってみようか。」
マオ:「禿同。美肌さん、白鳥の湖のパ・ド・キャトルは経験ありますよね?。
今からミキと私がポアント履いて、貴女の両側に付くので一緒に踊って下さい。
よいしょ。しっかりリボン巻いて準備よしと。では、やりましょうか。はい...」
吹雪:「あら、素体調査官は名手なのね。いいもの見せて貰ったわ。」
ミキ:「私たちが確認したかったことは全て済みました。小会議室をお貸し下さい。
簡単に講評をさせていただきます。」
吹雪:「もうお終いか。名残惜しいわ。」
マオ:「また次の機会をお楽しみに。アイスショウも宜しく。」
159 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:46:16 ID:i4GZ97bp0
(小会議室)
ミキ:「まず美肌さんのお仕事ぶりですが、かなり良い素質を垣間見ることが出来ます。
与えられた多様な曲面に自らのデザインをはめ込む能力は、宇宙の航路設定にも通じます。
また、動きを予測した設定の能力や、やり直しがきかない状況での集中力も同様です。
限られた時間で限界までこなす能力や目標貫徹への執着ぶりも我々が求めるものです。」
マオ:「次に身体能力ですが、バレエをかなりやり込まれているようのなので十分です。
帝國では汗くさいタイプの娘は好まれないので、汗一つかかない鍛錬ぶりも好適です。
素体には運動神経が必要ですが、本来なら機械化するのだから体力は要りません。
ただ、あまり脚力が劣ると素体訓練の際に辛い思いをすることになります。
美肌さんの評価は、素体訓練の短縮繰り上げ卒業も可能なレベルだと思います。」
ミキ:「以上の評価は素体としての基本条件を満たすという意味です。
貴女の場合は、前例のない人工小脳型サイボーグへの直接改造を志願条件にしています。
人工小脳型は、本来核パルス推進艦の加速衝撃に耐えるため開発されたものです。
改造手術のリスクが高く、使用部品も高価になので初期費用・維持費も高くなります。
皇帝は、そのコストと工芸官として貴女がどれ程貢献できるかを秤に掛けて判断されます。
したがって、私どもが基本条件につき合格と判断しても結論が却下となる場合もあります。」
マオ:「皇帝の判断は、貴女に関わりのない帝國内の事情全てを加味して下されます。
したがって、却下されても1年後に再申請したら通るという可能性はいつも残ります。
貴女の場合は、基本条件が恵まれていますから却下されても落胆する必要はありません。
私どもは今回却下されても次を目指して精進していただくことを希望します。」
160 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 01:46:59 ID:i4GZ97bp0
吹雪:「厳しいのね。私としては採って欲しい人材なんだけどなぁ。」
漣:「断然やる気で方法を考えたんだから手術させて欲しいなぁ。」
ミキ:「お二方ともよくご存知ですよね。陛下は公的判断に私情を挟みません。
例え彼女の作品を個人的に気に入っておられても、ダメならダメと仰せになります。」
吹雪:「ダメだったら今年は酉山研に外注する形で仕事頼もうかな。」
漣:「あ、今のは私の個人的感想。私だって公務の判断は機械人間らしくやりますよ。」
美肌:「好意溢れるご講評ありがとうございました。もう1年頑張る覚悟は出来ました。」
161 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 02:07:29 ID:i4GZ97bp0
(1ヶ月後 酉山科学研究所)
漣:「こんにちは。」
酉山:「あ、漣大佐。貴女が見えたと言うことは許可が下りたのですか?。
却下なら手術の打ち合わせが必要ないから、調査官さん辺りが見えますよね。」
漣:「その通りです。素体訓練があるから改造手術は9ヶ月後の予定です。
ただ、いきなり人工小脳型となると、やはりここの施設を使うことになります。
しかし素体からですと、こちらも今の再改造施設では機能的に不十分です。
それで、持ち込まれる機材が入るように手術室の新設か大改装が必要になります。
大工事になりますので早々に着工しても完成は直前でしょう。あまり余裕はないですよ。
酉山先生にもかなり働いていただかなくてはなりません。」
酉山:「科学者としては新しい取り組みに加われて嬉しいけど経営者としては辛いですね。
複雑な気分です。しかし9ヶ月という素体訓練期間はずいぶん半端ですね。」
漣:「彼女の場合、身体訓練はほぼ不要で卒業審査のみで済むと評価されたのが大きいです。
工芸官というポストも決まっているので軍事教練も後日暇なときに研修すれば良いのです。
配属先の関係で身体整備実習もOJTで良いという話になって省略と決定されました。
あと、経歴や学生時代の成績を裏付け調査した結果、座学が9ヶ月弱必要と認定されました。
結果通告をして、事務手続きをする必要があるので小会議室に本人を呼びだして下さい。」
162 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 02:08:44 ID:i4GZ97bp0
(小会議室)
美肌:「失礼します。」
漣:「帰化申請及び素体採用志願の審査結果について通告します。貴女は許可されました。
条件につきましては、まず、入れ墨を傷つけずに改造手術をすることが認められました。
同時に所要生体パーツ摘出後は身体の所有権を特別に返還することも認められています。
それから、貴女の能力を審査した結果必要な素体訓練期間は約9ヶ月と認定されました。
処遇について、招聘外国人は経歴や能力を考慮して相応の階級とするのが原則です。
ただ、貴女の場合、自推であるうえに、高コストの改造手術を特別に求めています。
改造後に身体制御障害を負うリスクが高いこともあって特例志願兵相当とされました。
したがって、素体訓練時4等兵、改造後初任時3等兵という最低の処遇になります。
配属予定は、宙軍研究所人工皮膚研究部の部付き工芸官となります。
但し、宙軍の配置最適化や経験の多様化を目的として他の任務を命ぜられる事があります。
なお、結果的に身体制御障害が軽度だったり克服されたときは2等兵に自動昇級されます。
また、業績によって特に最低在級期間の制限無く昇級も可能となっています。
処遇に不服なら辞退も可能ですが、一年間は再申請が出来ず以後の合格も保証されません。
条件については承服できますか?。」
美肌:「はい。それで結構です。」
漣:「では、この取り決め書正副2部にサインをして下さい。」
美肌:「はい。では...これで良いですね。」
163 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 02:10:09 ID:i4GZ97bp0
漣:「結構です。素体訓練場所となる臨時素体養成所への入所は7日後になります。
それまでに現在の住所を引き払い職場を退職するようにして下さい。
家財等は宙軍基地の私物保管庫が割り当てられるのでそちらに送って下さい。
7日分の一時滞在費をこの場で現金支給するのでホテル代等に充てて下さい。
それから、これが経済特区と帝国本体間の越境許可証になります。
貴女の場合は、改造手術場所が酉山研の特設手術室になるので往来許可となっています。
堅苦しい事務的な話は以上です。」
美肌:「難しいお願いを受け入れていただき、ありがとうございました。」
漣:「いえいえ、こちらこそ久々に面白い手術が出来るので萌えまくってますわ。
くれぐれも素体訓練で落第なんかしないで、必ずここに帰ってきて頂戴ね。
それから、座学に偏った変則訓練になるので、体型崩さないように気を付けなさい。
一応身体訓練用の用具類一式も用意されるから休み時間に自主トレすると良いわよ。
その後の改造手術は一般に比べてかなり辛い方法になるから覚悟しておいてね。
なにしろアクセスが顔面からだけだから顔じゅう壊しまくるようになるのでね。」
美肌:「自分で求めた条件のせいで辛くなるのは自業自得ですから。」
漣:「よしよし。では、9ヶ月後に手術室で会いましょう。」
164 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 02:31:59 ID:i4GZ97bp0
(そして9ヶ月後、酉山科学研究所 特設手術室)
美肌:「よろしくお願いします。」
漣:「この手術台は座位と臥位の転換、水中手術への移行が乗ったまま出来る新型よ。
改造工程の中間で行うBCI訓練もこれに乗ったまま可能になっているわ。
表面は小さなバルーンのが敷き詰められていて加圧状態を操作できるのよ。
支持点を入れ替えたり脈動させてマッサージ効果も得られるようになっていてね。
長期戦でも管理さえミスらなければ確実に辱創の発生を防止できる仕組みがあります。
貴女の入れ墨の保護に万全を期して開発したものだから、安心して身を任せなさい。」
美肌:「作品保存へ幾重もの配慮、ありがとうございます。」
漣:「前半の予定を言っておくわね。最初は手伝いの歯科医に歯を全部抜かせます。
私が小人になって口からはいるときに痙攣して噛み潰されたらトラウマになるのでね。
そこからは全身麻酔で上顎を全部取り除き、さらに中から頭蓋骨を掘って進みます。
そして口から脳の左右上部に達する通路を確保してBCIデバイスを設置します。
ついでに頭蓋底部と頸椎、声帯に神経信号ピックアップを配置します。
後で神経信号と運動のマッピングを採るためと口の利けない貴女と意志疎通する為ね。
ここまでの前半手術は各神経の損傷を避けながら慎重に掘るため長時間になります。
正確な所要時間は予測が難しい状態です。場合によっては休止・再開もあり得ます。
収集する運動マッピングというのは通常なら再改造の準備として行うものです。
今回設置できるピックアップではサイボーグの神経システムほどは情報が取れません。
したがって、情報量確保のため体を動かしながらの測定に半月前後はかかるでしょう。
その間は流動食しか取れず、顔面から口内にかけて保護具が付いたままになります。
そんな状態でかなり激しい運動までするというのはかなり辛いと思います。
しかし、そこで手を抜くと後で人工小脳の初期化の際に困ることになります。
ここが、身体制御障害の有無や程度の分かれ道となるので、頑張って下さい。
質問はありますか?。」
165 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 02:32:46 ID:i4GZ97bp0
美肌:「想像通りです。疑問はありません。」
漣:「では始めましょうか。葉梨先生取りかかって下さい。」
葉梨:「ども。これだけまとまった抜歯なんて開業以来初めてですよ。
今どき歯は再生させるもので、抜くって事自体少ないからねぇ。麻酔行きます。
以前、マイクロボディでピンチを救ってくれた漣侯の依頼でなきゃやりませんね。
効いてきたかな。でわ1本目えいっ、お、久しぶりの割にスカッと抜けたな。
よっしゃ。どしどし行きますよ。2本目、.........」
美肌:「ふにゃ、はにゃにゃい。へも、へひいへひい。」
漣:「やっと全部歯が抜けたわね。そしたら、下あごに足場着けて頂戴。」
葉梨:「こんな位置で良いですか?。2,3_なら高さ調整できますが。」
美肌:「はも。うういいえお、へひいへひい。」
漣:「うん、この位置で良いわ。ご苦労様でした。」
葉梨:「どういたしまして。抜いた歯はご指示通り加工して納品します。
でわ、お先に失礼します。」
漣:「さて、中に取りかかるかな。吹雪侯、入って頂戴。」
吹雪:「どうですか?。調子は。」
漣:「今のところ落ち着いているわね。しかし貴女も物好きね。
動員で改造手術は慣れてるにしても、わざわざ助手を買って出るなんて。
麻酔番なら宙軍兵の実習生にも出来るし酉山研のスタッフも居るのに。」
166 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 02:33:49 ID:i4GZ97bp0
吹雪:「いくら新開発の機材とはいえ、不注意が有れば辱創が出来ますわ。
他人任せにして有望新人を気落ちさせるような事故があったら困ります。
手足に一切針が刺せないせいで血液調整管も胃に穴開けて取るんでしょ。
経験の浅い奴が途中で行き詰まって針刺すようじゃ苦労が水の泡ですよ。」
漣:「なんだかんだといって貴女も変わった手術が好きなのね。」
吹雪:「それも否定しませんが。貴女のマイクロボディ技も見物だし。
それじゃ、ガス管入れますね。」
漣:「足場の下の溝ならどこ通しても邪魔にならないからね。」
吹雪:「気道に届きました。足場に固定しますよ。んじゃガス注入。」
美肌:「はふにゃ、すかー...」
吹雪:「意識消えたな。呼気成分問題なし。血液調整管降ろしましょう。」
漣:「リモートボディリンク接続。マイクロボディ起動...(硬直)。」
漣(小人):「吹雪侯、持ち上げて口に入れて頂戴。」
吹雪:「はい、ここで良いですね。じゃ、管の先、渡しますよ。」
漣:「管の先に掴まったまま下りるからゆっくり送り込んでね。」
吹雪:「2本いっぺんに持っていくんですか?。」
漣:「大丈夫よ。あまり時間かけたくないし。」
167 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 03:04:07 ID:i4GZ97bp0
(美肌の胃の中)
漣:「吹雪侯、届いたからこの位置保っていてね。さて血管はどっちかな。
体内ジャイロで方角を確認...ん、ここらへんか。造影できないからなあ。
音だけが頼りか。うん、聞こえた。一気に行くわよ。超音波手刀起動。
よし、ここ。よっしゃ、一発で動脈お出ましだわ。これで後始末も楽だな。
道具箱から針出して、一寸法師の剣!。入った入った。吹雪侯、管繋ぐわよ。」
吹雪から無線:「血、上がってきました。」
漣:「静脈は...居た居た。もう一丁一寸法師の剣!。よししっかり入った。
吹雪侯、リターン流して頂戴。...来た。気泡無し。接続。固定はどこにしよう。
うん、ここにクリップしておけば10日ぐらいかかっても良さそうね。よし終わり。
吹雪侯、モニター問題ないかしら?。」
吹雪から無線:「大丈夫です。」
漣:「サンキュー。じゃあ、口まで這い上がって次にかかるわね。」
168 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 03:05:41 ID:i4GZ97bp0
(美肌の口の中)
漣:「吹雪侯、マイクロチェーンソーと脚立入れて頂戴。」
吹雪:「はい、まず脚立です。場所良いですか。じゃ、チェーンソーね。」
漣:「さて、まずは天井の取り外しね。チェーンソー始動、チュイーンと。
ふん、ふん、お、骨当たったな、じゃ、この深さまでは安全だね。
下からだと、だいぶスプラッタシャワーになるかな。まあ仕方ないか。
吹雪侯、ドレイン入れて。よし、一旦止血だ。ドワーフビーム発射!。」
吹雪:「ありゃ、びしょ濡れですね。ま、血圧は問題ないです。」
漣:「血は止まったけどアイビームかなり撃ったから充電しなくちゃ。
洗浄プール口元に寄せて頂戴。」
吹雪:「どうぞ。」
漣:「電源容量の少なさがマイクロボディの泣き所なのよね。」
吹雪:「場所柄、原子力や燃料電池は使えないですしね。タオルどうぞ。」
漣:「ここまで1時間か。先は長いなぁ。とにかく充電休憩ね。出るわよ。
今は安全だからモニターを酉山研のスタッフに代わって貴女も休んでね。」
169 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 03:07:03 ID:i4GZ97bp0
(再び美肌の口の中)
吹雪:「足場宜しいですか?。では、マイクロ削岩機入れますよ。」
漣:「良いわよ。さーて、いよいよトンネル工事か。まずこの辺りから掘るか。
こんなこと初任時ローテーションで隕石鉱山に入ったとき以来だなぁ。
削岩機始動、ガガガガっと、おー気持ちよく掘れるじゃないの。
骨の中は出血少ないし、たいして固くないから結構早く進みそうね。
あ、切り歯の温度気を付けないと。ここはもう頭皮のすぐ下だったんだ。
腫れ上がって頭皮が伸びたらアウトだったわ。冷やさないとだめだわ。
吹雪侯、酉山研のスタッフに滅菌した冷やしタオル一山持ってこさせて頂戴。
頭蓋骨の掘削位置に合わせて外から当てて冷やさせるのよ。
冷たすぎてしもやけになってもダメだから、ぬるいのをどんどん換えてね。
それから、内面にハシゴの付いた保護チューブ入れて頂戴。長い方ね。
よし、チューブを...お、重い。なにくそ、ここだわ。う、入った。
粘性保護ジェル注入チューブ入れて頂戴。よし来た、ここの隙間に。ふう。
吸引機入れて頂戴。足場に溜まった骨のくずを片づけなくちゃ。
掃除が済んだら、一旦出るわ。掘った位置を正確に確認しないとね。
じゃあ、つまみ出して頂戴。よっと。リモート解除。」
漣(本体):「スタッフさん、移動式X線CT用意して。」
スタッフ:「お待たせしました。この位置で宜しいですか。」
漣:「トンネルは完全に入りそうね。すぐ撮影始めて。」
スタッフ:「映像出始めました。urlはこれ
http://pinksaturn.fc2web.com/mihada-ct.htm です。」
漣:「我ながら正確に掘れてるわね。ここからカーブして後5aで視神経末端だわ。
これだけの腕前があれば脳手術より土建屋やった方がいいかも。気楽だし儲かるし。」
170 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 03:31:39 ID:i4GZ97bp0
(美肌の頭蓋骨内トンネル先端)
漣:「重い。まるで地雷担いだ兵隊だわ。BCIデバイス担いで上るのがこれ程きついとはね。
ああ、やっと着いた。で、そこに彫った窪みに本体置いてリードをここから。よし、硬膜開くぞ。
んで、視覚拡大。赤外モード。見えた。軸索誘導剤の蛍光に間違いないわ。視神経末端はここね。
まず1束目だ。そーっと。うん、これでよし。次ここかな。スケール。ピッチは合っているわね。
じゃ、続けるかな...。ふう、これで視野の右側は出来たはずね。吹雪侯、半覚醒にして。」
吹雪:「麻酔濃度下げます。ショック波送信。」
美肌:「ふひゃ、もごもご。」
漣:「美肌さん、漣です。いま、貴女の頭蓋内、耳のそばにいます。今から視覚のテストです。
貴女はいま口が利けないから、吹雪侯の指示に対して右手のグー、パーで答えて下さい。」
吹雪:「テストパタン送信します。最初はグーで、文字が見えたらパーにして下さい。
見えたようですね。では、この字が”ね”ならグー、”ぬ”ならパーを出して。”ぬ”ですね。
では、次、”る”ならグー、”ろ”ならパー、次、”は”ならグー、”ぽ”ならパー。
もう一度、最初から確認します、”ぬるぽ”でしたか?。合っていればパー。良いんですね。」
漣:「やったわ。視覚片側設置成功だわ。」
吹雪:「麻酔戻します。一休みしましょう。」
171 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 03:32:57 ID:i4GZ97bp0
(手術開始から48時間目 美肌の頭蓋底)
漣:「上部ピックアップはここらで良いかな。吹雪侯、半覚醒お願い。」
吹雪:「レベルどうします?。最低の運動なら簡単ですが感覚が難しいですよ。
あんまり上げると、口回りや両側頭の激痛で錯乱する心配もありますよね。
ベルトで拘束しておいても押さえたところの皮膚に傷が付く可能性高いし。」
漣:「確かに暴れられたら元も子もなくなるわね。まず最低レベルにしてみて。
取りあえず運動が拾えることを確認できればいいから出たらすぐ止めましょう。」
吹雪:「それでは、濃度10%ダウンから始めます。行きますよ。」
漣:「美肌さん、美肌さん、聞こえる?。BCI音声ラインから呼んでいます。
聞こえていたら右手をパーにして。」
美肌:「...」
吹雪:「微かに動いたようだけど、浅いですね。あと5%下げましょう。」
漣:「美肌さん、聞こえる?。漣よ。聞こえたら右手を開いて。」
美肌:「ふもご。」
吹雪:「あ、右手開きました。ピックアップ出力も変化しています。」
漣:「レベルそのままね。美肌さん、今度は左手開いて。」
吹雪:「はっきり波形見えました。もう良いんじゃないですか?。」
172 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 03:33:45 ID:i4GZ97bp0
漣:「そうね。位置決めといってもそう選択の余地はないし。麻酔戻して。
次は、頸椎か。鼻腔奥側を切り開くから転落防止ザイル入れて頂戴。」
吹雪:「入れます。反対端はどうしますか?。」
漣:「万一動いたときに備えて、足場に固定するから全部入れちゃって。
よし、ハーネス装着。ロックよし。ここは特にぬるぬるしてるからなぁ。
気道に転落して奥の方にはまったらやばいし、用心用心。ん、準備良し。
吹雪侯、超音波薙刀入れて頂戴。はいどうも。さて、足を踏ん張って。
狙いはここだな。えいっ。もう一息。ふう。超音波止めて先端オープン。
あ、見えた見えた。頸骨の頂上部だわ。吹雪侯マニピュレータ入れて。」
吹雪:「ピックアップデバイス挟んだままで良いですね。」
漣:「そう。足場悪いからこのまま一発で骨に接着させるわ。
こっちは付け方に選択の余地がないから感度悪くても仕方ないのよ。」
吹雪:「テストはどうしますか。」
漣:「どうせ修正困難だし、半覚醒のリスクが大きいから止めておこうよ。
じゃ、貼り付けるわ。よしここ。骨セメント注入。よし付いたわ。
薙刀先端フラップ閉鎖。縫うのもきついからアイビーム軽く撃っておくか。
ドワーフビーム。弱出力、ミシン撃ち...。ん、焼き付いたな。
さて、残るは声帯ピックアップだけね。こっちは簡単だからなぁ。」
吹雪:「疲れてませんか?。声帯なら切開でやっても良いのでは?。」
漣:「切らずに中からの方が、すぐに使えるから後が楽だわ。
部品入れて頂戴。このままザイル延ばして下りるわ。」
173 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 04:04:41 ID:i4GZ97bp0
吹雪:「どうぞ。どうにか前半ゴールが見えてきましたね。」
漣:「さあ最後いくわよ。するする、行きはよいよい帰りは辛い...。
さて、ここだ。このピックアップは小さいし定置針付きだから楽だな。
ぐさっと。んで、ロックリング閉じて、これで良し。さあ帰ろう。」
(美肌の口元)
漣:「終わったわ。疲れたから上あごの仮蓋やっておいて下さいな。」
吹雪:「いいですよ。この後どれくらい寝かしておきますか?。」
漣:「72時間経ってからなら激痛も耐えられるレベルでしょう。
あんまり急いで暴れられたら、おじゃんだからね。」
吹雪:「そうですね。その予定で辱創防止体制の手配をしておきます。」
174 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 04:06:19 ID:i4GZ97bp0
(72時間後)
漣:「さて、起こそうか。ゆっくり麻酔落としてね。」
吹雪:「毎分5%で抜いていきます。始めます。...」
美肌:「...ふもご。」
漣:「醒めてきたようね。美肌さん聞こえる?」
美肌:「ぼそ、くもご...いひゃい。」
漣:「声帯ピックアップをスピーカーに繋ぐから口動かさずに喋って。」
美肌:「ぼそ、あ、あーあー、さすがに、やっぱり痛いです。」
漣:「手術から72時間経ったから、これでもましなのよ。
真に辛いのはこれから始まる測定と訓練だから、早く痛みに慣れなさい。」
175 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 04:08:38 ID:i4GZ97bp0
美肌:「わかります。でも痛いです。口の辺りがずきずきという感じで。」
漣:「日が経てば退いてくるけど、その頃には次の手術だからね。」
吹雪:「麻酔完全に抜けました。気道とモニタの管外して良いですか?。」
漣:「抜いたら口元の保護具で止めて、血液はループさせておいて。
次に手術に要るし、状況によっては点滴入れるのに使うからね。
美肌さん、今から配管を切り離すと、取りあえず動けるようになります。
ただし、長時間寝た後だからよろけると危険です。まだ起きないように。」
美肌:「わかりました。空腹とだるさも酷いので、まだ寝ておきます。」
漣:「いいわよ。少し流動食を入れてみましょうか。それで力が出るわ。」
176 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 04:29:42 ID:i4GZ97bp0
(小一時間後)
美肌:「いくらか手足に力が戻った気がします。起きてみて良いですか。」
漣:「転ぶと危ないから、今日は動くとき必ず介助を受けるように。
貴女は体型を守らないといけないので、明日からはなるべく動いてね。
支え無しで歩けるようになったら、すぐ運動信号測定にかかります。
但し、今は頭蓋骨の強度が落ちているから転んで頭打ったら簡単に死ぬわ。
非常に危険なので、対策が用意できるまでバレエはバーレッスンにして下さい。
勘が戻ったらすぐにバレエを主体に各種運動時の信号を入念に測定します。」
美肌:「わかりました。」
吹雪:「バレエとなると、流動食だけで持ちますかね。」
漣:「痩せすぎても肌に悪いから、様子を見て点滴を加えます。」
177 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 04:30:54 ID:i4GZ97bp0
(3日後 所内特設スタジオ)
マオ:「こんにちわ。調子どうですか。」
ミキ:「どうやら、測定できる状態になったみたいですね。」
美肌:「あ、調査官、わざわざお見舞いありがとうございます。」
マオ:「ただのお見舞いではないわ。貴女の身体運動測定の手伝いよ。
それから、調査官の任期はもう終わっていて、今日はアルバイトなんだ。」
ミキ:「バーレッスンだけの動きでは十分な運動測定が難しいのよ。
それで、測定が済むまで我々が両側から挟んで一緒に踊るのです。」
美肌:「なるほど。そうして頂けばバー無しでも安全ですね。」
酉山:「早速始めます。マオさん、ミキさんお願いします。
演目は毎度なので飽きるかも知れませんが白鳥の湖にして下さい。」
マオ:「測定に適切なのは判ってます。それに何度やっても進歩はあるわ。」
ミキ:「クラシック・バレエは、まさに人体を鋳型に填める感覚だからね。
巧い人ほど動きが標準に近づくから、運動神経信号の個人差丸見えだがや。」
酉山:「基本はその通り。但しこの場合はピックアップの誤差も込みです。
まあ、巧い人ほど型に填るというのだって群舞に限ってですよね。
オデットやオディールなら、それなりのオリジナリティはあるのでしょ?。」
178 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 04:31:56 ID:i4GZ97bp0
マオ:「そうですが、主役をやらせて貰うまでの過程は鋳型一筋ですね。
じゃ、始めるわよ。アン、ドゥ...」
酉山:「おおさすがに3人ともやり込んでいるから見事な再現性だ。
相応のゆらぎはあるから、誰も動作のディジタイズは使っていないよな。
生体脳支配でこれほどの反復再現が出来るとは恐るべき練習量だよ。
5分やったら映像の3次元変換をやるので一休みして下さい。」
マオ:「了解...はい5分ね。では一旦止めます。」
酉山:「結構です。美肌さん、疲れませんか?。」
美肌:「足の方は大丈夫ですが、空腹感がきついですね。」
酉山:「やはり流動食のエネルギー不足でしょう。補給して下さい。
測定自体は順調ですが、相当な量をこなさなくてはなりません。
体内に残置された仮設物の耐用安全期間という制約もあります。
当分の間、最低一日4時間は正味で運動しないと間に合いません。
追いつかないようなら漣大佐に別の手を打って貰いましょうかね。」
179 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 06:13:30 ID:i4GZ97bp0
(半月後 酉山研会議室)
酉山:「...ということで、データ量の推定カバー率は90%です。
重視した刺青作業やバレエに必要な動きには漏れが少ないと思います。
但し、前例のない仮設ピックアップによる測定には未知要因があり得ます。
このまま次の段階に進んだ場合に障害が軽度で済む確率は約62%です。
もっとデータを採るには再手術で体内仮設物を更新する必要があります。
再手術にも当然リスクはあり、その見積もりは漣大佐が行っています。」
漣:「現状で運動を繰り返していると衝撃で仮設物のずれが生じます。
頭蓋内トンネルや胃の血管接続部が破損した場合、死亡率は高いです。
しかし、再手術にも一定の危険性はあり、成功しても疲労が残ります。
再手術の事故率自体は1%以下ですが、疲労は最初の2割増しでしょう。
計画している脳摘出方法も負担が大きく、余力を残したいところです。」
吹雪:「ぎりぎりで成功したのでは皮膚の劣化が避けがたいのでは?。」
漣:「それもあり得ますが、個人差が大きく定量評価ができません。
結局、改造後の障害程度と目の前のリスクを本人が選ぶしかないのです。」
美肌:「気持ちは決まっています。このまま改造を進めて下さい。」
酉山:「元々の動機からすれば仕方ない選択でしょうね。
私の立場からすると痛い結論ですが、反対はしません。
後は改造後の人工小脳調整に全力を挙げるだけです。」
美肌:「酉山先生にしわ寄せして申し訳ありませんが、お願いします。」
180 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 06:14:32 ID:i4GZ97bp0
(特設手術室)
漣:「これから行う頸椎脊髄ブロック処置の説明をします。
本来BCI訓練は四肢が無い状態で行いますが、貴女は切断が出来ません。
この訓練の目的は、人体に相当する器官が無いものを制御することです。
これを効率よく行うため、手足に頼らずリモート機器だけで暮らすのです。
切断が出来ないなら、動かなくして生活すればよいのです。
このため、首に侵入して内側から麻酔剤を注入しブロックします。
首から下が麻痺すると呼吸も止まるので気道を人工呼吸用に処置します。
声帯の神経はブロック箇所より上なので無線の会話は可能なはずです。
この処置を行うと、首から下が二度と動かないことがかなり多いのです。
したがって、注入時の姿勢のまま永久に固まると想定しておくべきでしょう。
貴女の体は最終的に展示物となるので、その姿勢で固めなくてはなりません。
したがって、人工呼吸器を付けた後、しっかりポーズを取る必要があります。
そのポーズは、立った状態で安定するものである必要があります。」
美肌:「いわゆるバレエ立ちなら、自然体ですから安定すると思います。
展示したときの見栄えの点でも問題ないと思います。」
漣:「判りました。ではそのポーズでやりましょう。
まず気道を切開するので、一度手術台に寝て下さい。」
美肌:「これで良いですか?。」
漣:「はいそのまま。首に麻酔打ちます。効いたな。じゃ、ざっくり行くか。
気道引き出して...アダプタの位置はここで良いな。固定、漏れもなし。
それでは尿道にBCIバルブ付きの排出管を着けます。ん、よし入った。
アナルには便漏れ止めのためアナルプラグを差し込んで置きます。ぷにゅっ。
これは排便処理装置に行って処理装置側をBCI操作すると着脱できます。」
181 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 06:15:23 ID:i4GZ97bp0
美肌:「ひゅー、ふしゅー...」
漣:「人工呼吸器のホース繋ぐわ。ホースの届くところなら移動できるわよ。
ただし、絡まったり踏んだりしないように気を付けること。
ではBCI訓練にかかりましょうか。とりあえず私がリフターを呼び寄せるわ。
通常の訓練用リフターは達磨ッ子の胴を鷲掴みにするような機構なの。
それだと肌に傷が付くことがあるので貴女用にフォーク式のを作りました。
持ち上げは脇の下と股間をフォークで支えるようになっています。
それでは、両脇と股間がフォークにかかった状態でポーズを決めて頂戴。」
美肌:「これでいいてすか。股間は殆ど当たっていませんが。」
漣:「股間のフォークは排便のため独立に動かせるの。ほら、これでどお?。」
美肌:「両脇と均等に当たりました。」
漣:「では今から小人になって貴女の食道に侵入し脊髄をブロックします。
吹雪侯、首のブロック始めるから来て頂戴。リモートリンク接続。」
吹雪:「持ち上げますよ。口のカバー開けます。ここで良いですね。」
漣(小人):「極細針付きチューブを付けた残置注入器を入れて頂戴。」
吹雪:「注入器どうぞ。」
漣:「では注入器本体はここに固定して、ん、掛かったな、降りるわ。
よいしょ、おっと滑るな。吹雪侯、痰吸引お願い。掴まってるから。」
吹雪:「吸引やります。」
182 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:10:44 ID:i4GZ97bp0
漣:「5_奥の右側も掃除して頂戴。OK。じゃ、降ります。
今度は大丈夫ね。そろり、そろり、ここで良いかな。針先を傾けて、ここっ。
どれ、この手応えは軟骨、ならこれが硬膜か。よし届いたわ。
美肌さん、今からはしっかりポーズ崩さないように気を付けるのよ。
吹雪侯、注入器のスイッチ入れて感覚があるか確かめて。つねっちゃダメよ。」
吹雪:「注入開始。美肌さん手足の感覚は消えたかしら?。」
美肌:「脇の下の圧迫は感じなくなりました。他は判りません。」
吹雪:「つねっちゃダメと言ってもねえ。どうしようか。あ、そうだわ。
ちょっとクリトリスをつついてみようか。クリクリ、どう?。」
美肌:「なんにも感じません。」
漣:「ブロック成功のようね。ポーズ崩れなかったかしら?。」
吹雪:「ばっちり、バレエ立ちで固まっています。」
漣:「よしよし。じゃあ出るわよ。吹雪侯は3時間ごとに薬液補給お願いね。
よいしょ、えと、ここに脚を掛けて。上がったわ。吹雪侯、つまみ出して頂戴。
リモートボディリンク解除。」
183 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:11:52 ID:i4GZ97bp0
漣(本体):「BCI訓練の目標はリフター他の機器を操作して自力で介護する事よ。
貴女の場合は人工呼吸器の管のため行動範囲がこの部屋の中に制限されています。
そのため食事と排泄に必要な設備が全部この手術室内に設置されています。
まず食事は流動食だからリフターでディスペンサーの前に立って起動するだけね。
排尿は、座れないのだからあそこに設置してある朝顔の前に立ってバルブ操作よ。
排便は、まずあっちの処理装置に背を向けて立ち、股間のフォークを除けること。
次に、処理装置を起動してツールを肛門に近づけ、画像を見ながらプラグを抜くこと。
抜いたプラグは自動的に回収されて洗浄されるから放って置いて良いわ。
次に、浣腸吸引装置のノズルを肛門に差し込んで洗浄してから吸引するのよ。
それから、供給装置を操作して洗浄済の新しいアナルプラグを差し込むこと。
で、最後に股間のフォークを戻して移動する。良いわね?。」
美肌:「手順は解りました。昨日少しカーソルを動かしてみたので出来そうです。」
漣:「そう、処置前からカーソルが掴めているのなら早く済みそうね。」
美肌:「早くこの危険な状態を脱して、入れ墨を保存してしまいたいですから。」
漣:「では次に睡眠だけど、手術台をベット代わりに使うようにしてね。
寝るときはBCIで手術台も操作して45度以上に傾けてから体を置くのよ。
服は着れないから、寒いときは手術台自体を温度調整すること。
辱創防止のため、時々マッサージ機能を働かせることも忘れてはダメよ。
完全に寝るときはタイマーを掛けて定期的にマッサージを働かせること。
移動の際は、人工呼吸器のホースが捻れないように気を付けなさい。
つまり、方向転換のときに同じ向きにばかり回ることは許されないのよ。
3日連続して、誰の助けも受けずに過ごせたら合格よ。では頑張ってね。」
184 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:12:40 ID:i4GZ97bp0
美肌:「だいぶ髪が伸びてしまったので一度剃りたいのですが。」
漣:「頭の入れ墨がまだ無事か確かめたくて、気になるのね。」
美肌:「BCIでシェーバーを使えるように出来ませんか?。」
漣:「傷を付ける心配もあるから、バリカンだけなら良いわよ。
それで良いなら、あの洗面台にマニピュレーターを付けましょう。」
美肌:「丁寧に刈ればいいのでそれでお願いします。」
185 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:33:15 ID:i4GZ97bp0
(1週間後)
漣:「よく頑張ったわね。これでいよいよ脳摘出にかかれるわ。
今からやることは、まず首の血管を確保して外部生命維持装置の繋ぐの。
それから、顔面を完全に取り去って水中摘出手術に掛かります。
私が小人になってPETで大脳と小脳の境界面を確認しながら切り離します。
そして血管が繋がった大脳をそっと持ち上げて浮き上がらせます。
で、硬膜を縫い縮めて行って断面を閉じ、人工小脳をはめ込みます。
そして脳ケースを閉鎖したら以後脳の世話は酉山先生の仕事ってことになります。
体の方は、私が首の穴から入って必要な生体パーツを切り出します。
生体パーツが出た後、余った身を適当に除去して保存のための処理をします。
その辺りの工程は私に任せておいて頂戴。殆どは全身麻酔でやります。
ただ、切り離し面を決める際には麻酔を浅くして苦痛信号を与えます。
このときにかなり苦しいけど心配しないように。」
美肌:「苦痛には既に十分慣れましたので自信があります。」
漣:「よろしい。では始めましょうか。吹雪侯、全身麻酔開始よ。」
吹雪:「ガス注入始めます。口の血流管からも入れます。」
漣:「首開くわよ。よし開いた、止血、タイタンビーム、よしクリップもだ。
血管はこことここか、呼吸バルブ邪魔で余長長すぎか、後で修正だな。
分岐管4個頂戴。ピンチコックもよしまず動脈上、せーので押さえて切る。
分岐入ったな、次、動脈下、仮に直結、放して、よし通じた。1秒以内だね。
漏れ止めジェル押し込んで動脈分岐準備完了。」
吹雪:「呼気成分変化無しです。」
漣:「よっしゃ、静脈行くわよ、上押さえて下押さえて切ってつっこむ。
で、上下連結。ピンチ取る、よし0.95秒か。ジェル詰めて、終わり。」
186 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:34:00 ID:i4GZ97bp0
吹雪:「当然異常なしです。」
漣:「外部生命維持装置2基とも起動して。」
吹雪:「脳側優先で順次やった方が良くないですか?。」
漣:「いつもと違うのは脳が出た後の臓器維持時間が極めて長いってこと。
何しろ、本来なら素体訓練入りで採っておく生殖器官までまだ入ってるのよ。
しかも、全部中で解体して首から出さなきゃならないわけでしょ。
ここで鮮度落としたくないわ。冷やすのも皮膚優先で遠慮しながらだしね。」
吹雪:「なるほど。いつもの常識が通じないことが多いなあ。」
漣:「なんたって、今回の費用は科学研究費から出てるんだし、実験なのよ。
そういうことで、2基起動して血流管は4本いっぺんに頂戴。」
吹雪:「承知です。では起動します。1号リターンループ流速上昇、成分よし。
2号もよし。原液量いずれも満タン。予備電源充電率97%。管渡します。」
漣:「よしきた、接続、エア抜き良し、コックせーので切換!。流れたわよ。」
吹雪:「成分変化、許容範囲です。追加麻酔流します。」
漣:「一安心だわ。じゃあ、顔取っ払いますか。丸鋸頂戴。」
吹雪:「はいどうぞ。しかし、切れるところ狭いですね。」
187 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:35:13 ID:i4GZ97bp0
漣:「まあね。入れ墨の縁からきっちり8_プラマイ1_にしないとアウトね。
遠いと出口が狭くて脳が通らないし、近いと止血クリップが入れ墨に当たるわ。
ま、視覚に計画線をオーバーレイすればその程度は精度出るでしょう。
じゃ、行くわよ。丸鋸始動。オーバレイデータ投影。で、一気にチュイーン。
視線合致、タイタンビーム...どうだ。」
吹雪:「お見事。その感じなら、骨もきっちり切れていますよ。」
漣:「へへ。じゃ、クリップ掛けながら顔剥がすわよ。」
吹雪:「ヘラは私で良いんですか?。」
漣:「この場合、クリップのズレの方が怖いからね。よし上から入れて。」
吹雪:「お、軽く持ち上がりましたね。骨の切り残しはないな。」
漣:「さあて、脳ご対面成功ってとこで水槽に移すわよ。」
吹雪:「手術台移動開始します。維持装置追従設定良し。」
漣:「酉山先生、水中に移行しました。作業カプセルに入って下さい。」
吹雪:「漣侯、このまま行きますか?。それともマイクロボディで?。」
漣:「今日は貴女が一緒だから、マイクロで持って貰ってはいるわ。」
188 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:56:18 ID:i4GZ97bp0
(手術水槽内)
吹雪:「麻酔レベル下げました。線源投与します。」
酉山:「PET映像は出ましたが、どこから刺激を加えるのですか?
いつもなら、リモートリンクに繋ぐだけですがこの状態だと不可能です。」
漣:「のどの奥を針で突くしか無いですわ。始めますよ。一寸法師の剣!。
電撃かけます。」
酉山:「反応出ています。この娘は大脳領域が小脳側に食い込んでますね。
絵とかバレエをやり込んでいるので運動と思考の一体化が進んでいるのかな。
スポーツ脳ってやつの一種だな。人工小脳のスペースがきつめになりますね。
曲面出してみると、うーん、どうにか入るけどクリアランスが少ないな。」
漣:「なるほど。切断面の許容誤差が小さいですね。慎重に進めないと。
でも一応プラスマージンだから何とか障害の出ない範囲で切れますよ。
それでは、頭蓋内トンネルから横穴を開けて小脳に侵入します。」
吹雪:「削岩機入れますか?。」
漣:「薄くなっているところから入れるから要らないわ。超音波手刀オン!。
えいっ、きええぇ、よし開いた。硬膜はここからで良いな。さくっと...」
酉山:「位置捉えています。境界面の頂点は3a前方の直上4aです。」
漣:「頂点手前につきました。基準点群オーパレイ画像送って下さい。」
酉山:「送信しました。現在位置は合っていると思います。
ご覧のように境界面と人工小脳の想定位置がほぼ密着しています。」
189 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:57:03 ID:i4GZ97bp0
漣:「ええ、でも硬膜を挟んでも最低0.5_はクリアランスが取れます。
これなら何とかなります。切断時の運動NCデータを構築してみましょう。
超音波手刀の軌跡はこのようになります。どう思いますか?。」
酉山:「なるほど。このシーケンスなら周囲の位置ズレを最小化できますね。
想定誤差を見積もりましょう。最大で0.47_と出ました。行けますか?。」
漣:「数値さえ収まっていれば再現には自信があります。では、切断します。
超音波手刀オン、身体制御NCモード、切断プログラムスタート...。
終わりました。これで、大脳を引き上げられるはずです。吹雪侯お願い。」
吹雪:「吸盤アーム4基降ろします。大脳表面の硬膜に吸着しました。
負圧平方aあたり0.7cに維持します。」
漣:「まず0.5_だけ極低速で引き上げてみて。うん、この方向で良いわ。
生食注入チューブを頭蓋内トンネルに入れて頂戴。私が先端を下に差し込むわ。
後頭部の隙間に少しずつ生食を注入して押せば無理なく引き上げられるでしょ。」
吹雪:「そうですね。眼球はどうしますか?。」
漣:「大脳ごと引き上げて外で切除した方が楽だわ。じゃ私は血管を再処理します。
まだ小脳側に行く分岐が繋がっているから切り離して塞がないとね。
え−と、あったここだわ。道具箱...クリップこれで良いな。よし、切断。
吹雪侯、後5_ゆっくり引き上げてみて。はいOK。うまく行ってるな。
では次2a上げてみて。これで後頭部に潜り込めるから分離を確かめます。
よいしょ、うん、うまく浮き上がっているわね。じゃまた、2a上げて。」
吹雪:「かなり出てきましたね。顔面は引っかかる恐れがありません。」
190 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 08:57:57 ID:i4GZ97bp0
漣:「待って、後ろ側で硬膜の縁を完全に切り離す処理が残っているわ。
後で塞ぎやすいようにこの段階で整形もしてしまうから。
ライン取りは...これで良し。超音波手刀、やっ...よし。できた。
あと2a上げてみて。止めて、これで硬膜がめくりあげられるな。
このまま前に回して切り口を閉じてしまうわよ。髄液バルブ入れて頂戴。」
吹雪:「はいどうぞ。針と糸も要りますね。」
漣:「お願い。バルブの置き場所はここでよし、では硬膜を縫いつけて。
ん、ん、ん、ほい塞がった、バルブの脳圧ゲージはどうかな。」
吹雪:「モニター繋がりました。じわじわ低圧から正常圧に向かってます。」
漣:「一安心ね。じゃあ今度は3a引き上げて。」
酉山:「かなり大脳が顔を出してきましたね。摘出成功ですよ。」
漣:「一応です。まだ血管の余長が大きいので繋ぎ換えがあります。
後の脳容器への収納は私らで済ませますから先に出ていて下さい。
人工小脳を仮セットして脳容器に生命維持装置を付けるまで2時間です。
その間に獄門台室で人工小脳の調整準備をお願いしますね。」
酉山:「承知しました。では一足お先に。」
191 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 09:16:28 ID:i4GZ97bp0
(獄門台室)
酉山:「脳容器が揚がってくるまでの時間は短い、準備を急いでくれ給え。
顔面メカと眼球、内耳、嗅覚、舌の個別動作試験は終わったかね。」
頭部機構担当者:「感覚器は全てすぐ使えます。顔面はあと少しです。
この娘は表情パターンデータが豊富すぎるものですから。」
酉山:「ちょっと採りすぎたかな。優先順位付けは出来ているかね。」
頭部機構担当者:「喜怒哀楽基礎パターンはアップロード済です。」
酉山:「ご苦労様。獄門台の豚臓器DNA照合は済んでいるかな。」
獄門台担当者:「全てオーダー通りでした。」
酉山:「了解した。さすがに帝國が手配した資材にミスはないようだな。
顔面と頭部の外装パーツ検品は良いかね?。」
頭部外装担当者:「頭皮パーツについて一つ疑問点があります。
素体はスキンヘッドだったのに、ロングで植毛されてきています。」
酉山:「ああ、それは手違いではないよ。済まん、事情を伝えてなかったな。
実はそれが本来の髪型だったのだが、入れ墨のために剃っていたそうだ。
改造手術後は全身無地の人工皮膚から再出発することになるだろ。
また入れ墨を彫るにしても全身を埋めるには相当時間が掛かる。
宙軍に入れば当分は研修などもあって忙しくなると言うことだ。
それで、頭まで入れ墨を彫る暇が無さそうなので本来の髪型を希望したのだ。
それに、無脊髄型サイボーグだと首外しの機構が付くから継ぎ目があるだろ。
切り離し時を考えたらデザイン的にも頭まで続けて彫る気はしないだろうね。」
192 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 09:17:56 ID:i4GZ97bp0
頭部外装担当者:「そうでしたか。了解しました。」
酉山:「ロングヘアだから獄門台接続時に咬まないよう気を付けてくれよ。」
獄門台担当者:「承知しました。注意します。」
吹雪:「脳容器収容完了しました。1時間で覚醒する予定ですので宜しく。」
酉山:「解りました。1時間あれば組みあがった状態で覚醒できますね。
ところで、漣大佐は?。」
吹雪:「胴体内の生体パーツ使用部分摘出を続けています。当分掛かりきりです。
あと60時間は掛かるかも。私も脳をお渡ししたらすぐ手伝いに戻ります。」
酉山:「そうですか。ご苦労様です。だけどそんなに長引いて鮮度は大丈夫かな。」
吹雪:「なにぶん、首からしか出入りできないので手間が掛かります。
生殖器や肝臓、小腸の鮮度が落ちるとまずいので2台目の維持装置を繋いでいます。
大出血で維持装置が効かなくならないよう慎重にアクセストンネルを掘っています。
ボディ搭載の一次生命維持装置用に必要な骨髄はあと2時間で採れる予定です。」
酉山:「この娘は獄門台での調整に時間が掛かるからそれなら十分早いですよ。」
吹雪:「では、無理せずゆっくりやらせて貰いますね。」
酉山:「よし、全員頭部パーツの組み付けに掛かるんだ。」
193 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 09:19:10 ID:i4GZ97bp0
(1時間後)
酉山:「うむ、セッティングは良いな。人工小脳管理ブロックをブートさせる。」
美肌:「ぴぽっ。ITARON−Nオペレーティングシステム起動しました。
人工小脳システム検出、起動中、起動完了、生体脳意味信号検出。覚醒確認。
ボディ接続インタフェースにエラー発生、ボディ未検出です。
制御を生体脳に継承します。継承手続き中...うっ、あ、やめて、組長。
落ち着いて、きゃーーっ、あんた、あんたーーーぁ。」
酉山:「美肌さん、落ち着いて。脳摘出手術は成功しましたよ。」
美肌:「え、あ、ここは、ああそうだった、今のは一体?。」
酉山:「やはり、悪夢にうなされていたようですね。これが人工小脳の欠点でして。
手術後の覚醒時に今までで最も怖い目にあった記憶が呼び出されてしまうのです。
小脳と大脳を切り離すときに境界面を出すため苦痛信号を加えたのです。
多くの場合、その刺激で厭な記憶が呼び出されて悪夢になってしまうのです。」
美肌:「お騒がせしました。もう大丈夫です。」
酉山:「いま貴女は、首だけが出来上がって獄門台に乗っている状態です。
人工小脳調整に時間が掛かるのでしばらくはここで我慢して下さい。
それから、ボディのほうも、まだ生体パーツの摘出待ちです。」
美肌:「ここで時間が掛かるのは承知していました。漣大佐に宜しくお伝え下さい。」
194 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 09:40:53 ID:i4GZ97bp0
(4日後 特設手術室)
漣:「漸く全て終わるわね。しんどいけど面白い手術だったわ。」
吹雪:「さすがの我々も人間の剥製を作るのは初めてですし。だけど顔どうします?。
他がこれだけ綺麗に傷一つ無いと、ぽっかり穴の開いた顔が目立ちますよね。」
漣:「まもなくそこに付けるものが届くのよ。」
葉梨:「どうも。漣侯、仰せの通り加工して持参しました。お確かめを。」
吹雪:「げえっ、これはリアルな。」
漣:「歯が実物だしね。画龍点靖よ。さて、顔を張り付けて立てるわよ。
葉梨先生ご苦労様。お代は例の口座で良いわね。」
葉梨:「ありがとうございます。でわ失礼。」
吹雪:「おおぴったり。いつの間に型どりしたのですか?。」
漣:「型どりじゃなくて私の視覚データから変換したのよ。大したものでしょ。」
吹雪:「おみそれです。付いたから立ててみましょうか。おお、安定も良い。」
漣:「そりゃそうよ。胸から上はヘリウムバルーンを詰めてあるのだから。
逆に脚には重い金属骨格を入れてあるし、地震があっても倒れないわ。
早速、ギャラリーに飾りましょうかね。」
195 :
pinksaturn:2007/05/27(日) 09:50:47 ID:i4GZ97bp0
(ギャラリー)
漣:「この位置で良いわね。それじゃあ美肌を呼び出しましょう。」
吹雪:「ちょうど1人で歩けるようになったところのようです。」
美肌:「どうもお世話になりました。体の方も順調...ぎゃっ、顔!。」
漣:「ちゃんと約束通り入れ墨には一切傷を付けなかったわよ。何か?。」
美肌:「ごもっともです。でも、顔は想定外でした。ただの蓋でも付くものと。
こんな事なら酉山先生に展示を約束するのでなかったわ。とほほ。」
漣;「あら?。どういう想定だったの?。」
美肌:「顔が無くて誰だか判らない状態で展示されると思っていました。
誰だか判る状態で永久に全裸を人目に晒す事になるとは。どうやって?。」
漣:「私の視覚データを使ってNC加工で彫刻したのよ。
歯は抜いた本物を使わせて貰ったわ。この程度の徹底精神は当然よ。」
美肌:「恐れ入りました。」
漣:「貴女は色々わがままを言ったのだから、しっかり働いて貰うわ。
工芸官だって宙軍研究所の仕事は甘くないのよ。これがその証ね。」
美肌:「はっ。美肌三等兵は以後その気で頑張ります。宜しくお願いします。」
(入れ墨は人体改造の第一歩としてポピュラーなものです。しかし、全身を覆う入れ墨を保存しようとすると改造手術は困難を極めます。
ところで、どうして突然こんないかれた妄想にとり憑かれたのだろう。ワケワカランorz。
以上、長大臨時増刊おわり。)
196 :
adjust:2007/05/28(月) 19:33:25 ID:X5fclbSP0
>145 様
>九条明日香とは、またずいぶん懐かしい名前の登場ですね。
ご指摘ありがとうございます。まあ、こういうお仕事ですから、どこかにありそうな名前を
付けてみました。本名かどうかは不明です(爆)
>通常の義体はだいぶ重たいですけど、こういう商売用の義体は軽量化も進んで
>いるのでしょうか?そっち目的の義体なのに体位が制限されちゃうのはよろしく
>なさそうな気がしますが。
うわあ、またやってしまったか!、120Kgは健常女性の倍以上ですね。
軽量化も考えていいと思いますが、この文章を各時点ではあまり意識していませんでした。
言い訳するなら、明日香自身がちゃんとフォローすればたいていの体位で何とかなるかもしれませんが
客が明日香を持ち上げるような体位は絶対に無理ですね。
この業界当方には経験が無いので、イメージは今まで見た雑誌やなにかがソースになっております。
もし、そういう経験がおありであればご教授くださいませ。
しかし、必ず大ぼけをかましてしまいますね。修行が足りず申し訳ありません。
m( _ _ )m
>>195 ブラックジャックのやくざの親分さんの手術の話を思い出したですよ
刺青を傷つけないように真下の病巣を手術する話
筋肉の流れに沿って切開すると治癒後に跡が残らないって話だったけど、
あれってほんとなのかな
198 :
pinksaturn:2007/05/29(火) 23:57:28 ID:Vw+dw0mP0
>197 もちろんその話も思い出しながら書いてました。手塚治虫は医師だったけど皮膚科とか形成外科が専門ではなかったようなので正確さは謎ですね。
仮に正しかったとしても、改造手術後の抜け殻は自然治癒が無いので条件が違い、その手は使えないと思っています。
199 :
pinksaturn:2007/06/04(月) 11:50:41 ID:xIazoJeh0
>>145 >>196 そういえば、あっちの九条明日香さんはどうなってしまったのだろう。
再教育に逝ったきり... その後の小林博士の暴挙も気になります。
で、こっちの九条さんだけど軽量化するとしたら何処から手を着けますかね。
モバイル機器だと蓄電池→燃料電池という方向性が見えてきてますが。
この場合、プルトニウム電池はダメそう(でも昔はペースメーカーに使用!)だし。
200 :
adjust:2007/06/04(月) 20:55:38 ID:zeSYuVQL0
>>199 >で、こっちの九条さんだけど軽量化するとしたら何処から手を着けますかね。
全身義体の重量割合が知りたいところですね。
重量に占める割合が大きいのは構造部材なのかバッテリーなのか。
既存のロボットやバッテリーをもとにすると破綻間違い無しなので、どんな根拠で計算しましょうかね
既存のロボットの場合(腕型多関節ロボット)の出力重量費は大雑把に言って1/10程度、
つまり1キロ持ち上げるロボットは10キロ以上の重さがあります。ただし、これは精度を確保している
ために重くなるので、たわんだりしてもよければ2倍位まであげられそうです。また、速度が遅くても
よければ、ギヤ比を高くすれば力自体は何とかなります。アシモ等の歩行ロボットは棒を立てて、その
バランスをとるような制御をするため、モーターのトルク自体は、歩行が安定している限りそれほど
必要としません。といっても立ち上がりや曲がりの際の反力のためかなり強力なモーターを使用して
いるとは思いますが。
構造部材はカーボン成型樹脂等でしょうか。人重量から考えると金属系材料よりプラスチック系材料
のほうがいいと思いますが、外骨格にはしたくないような気もします。引っ張り強度ならばそれなりの
値を持つ材料はありますが、剛性を考えると、鉄系材料か立体成型のカーボン樹脂材料かな。
それとも、ある程度の弾性変形を許容する設計にしておいたほうが無難でしょうか。(塑性変形は却下)
バッテリーの容量については、リチウムイオンで150wh/Kg位が現実の数値になりますが、10kgくらい
バッテリーを積んでいるとして、1.5Kwh、義体世界での進歩をどれほど取るかで変わってきますね
150馬力(110Kw)だと49秒しか出せません。通常の運動を1馬力と仮定すると(歩行、その他機器の電力消費量)
約2時間が活動時間になります。技術の発展で10倍から20倍くらい容量があると仮定したほうがいいですね。
かなり適当にお叱りを受ける覚悟で内訳を考えると、体重120kgに対して、構造材料40kg、バッテリー
20kg、生命維持装置、サポートコンピュータ等補機20kg、手指首等20kg、皮膚センサその他20kg、
という感じでしょうか。
特殊公務員対応を考えなくていいなら、構造部材やバッテリーは半分くらいに
軽量化できませんか?それでも義体総重量90kg。まだまだ重い。
リチウムイオン電池は危ないので使われてないかも…。
なんか自動車方面でも、有力視されていたけれど結局安全性が確保できずに当面採用を見送る動きがあったような。
まあヤギー時代ほど遠い未来になれば何とかなってるかもしれませんが(ってその頃にはもっといいのが出てたりして)
実はバッテリーは外部にあってワイヤレスとか…恐過ぎ
いや最近「ついに電源もワイヤレス」なんて恐い記事を某雑誌で読んだものでorz
203 :
adjust:2007/06/05(火) 01:12:00 ID:HiQ7wUF90
>201
>特殊公務員対応を考えなくていいなら、構造部材やバッテリーは半分くらいに
>軽量化できませんか?それでも義体総重量90kg。まだまだ重い。
持続時間と150馬力も出さなくていいという前提ならばそれもありだと思います。
あとはそれぞれの部分でちまちまと削っていけばトータル60kg台に収まるかなとも思います
>202
>リチウムイオン電池は危ないので使われてないかも…。
>なんか自動車方面でも、有力視されていたけれど結局安全性が確保できずに当面採用を見送る動きがあったような。
リチウムイオンが危険という情報が結構あります。確かに危険なのは否定しませんが、それは小サイズで大容量の
エネルギーを蓄えるものすべてにいえるものではないかと考えます。何しろそれだけのエネルギーを簡単に取り出せる
形で蓄えているわけですから、何かのトラブルで放出されればそのエネルギーは熱になったり、爆発力になったり
するわけです。
ワイヤレスも恐ろしいですね。電磁波や何かで結局は空中に”存在する”わけですから。
>>204 あ、それも印象深く記憶に残ってるんですが(懐かしいな…)、日経エレクトロニクスだか何だったかに、マジで電源がワイヤレスになっていくという記事が載ってたんです。
数年前の冗談が冗談にならなくなったとガクガクブルブルしながら読んでました。
三方式くらいが紹介されてましたが、その中の一つは「IHクッキングヒーターと同じ原理のため、安全対策をしっかりしないと異常加熱を招く」なんて恐ろしすぎる記述がありました。
リチウムイオン電池どころでない恐さですね。
>>203 もちろん「大量のエネルギーを蓄積=危険大」なのは言うまでもないのですが、リチウムイオン電池は原理的に特に危険度が大きい方式の様です。
小さな電子製品に使われているようなのも厳重に安全対策を入れまくる事で何とか安全を確保しているそうで、ちょっと製造工程をミスったら爆発事故が起きます。
(起きてましたよね…ソニー製電池搭載のパソコン爆発多発事件が)
206 :
adjust:2007/06/05(火) 19:24:07 ID:bpm+RxKc0
>205
過充電によるリチウム析出でショートしたのがソニーの例でしたね。
金属粉から成長したリチウム結晶が振動でセパレータを突き破って発熱、発火したように
記憶しています。
たしかにリチウムイオンは過充電に対して極端に弱く、容易にショートしてしまう欠点がありますね。
安全対策としては、セパレータを強化する。結晶が成長しないように陰極をポリマーで包んでしまう
などの開発がされていましたが、改良版は出ているのでしょうか?
後、電子回路で過充電を防ぐのは普通にソニー製品のリチウムイオンバッテリーモジュールで
やっていたように思います。原理的には解決できそうなんですが、難しいのかな
>204
信じかけてびびりました。こんなもん作ったら、会社追い出されます(かなりマジ)
マグネトロンて、あんた、電子レンジやないかー!!!
1Wも出そうもんなら、そりゃ怖いお上がおしよせてくるわ!!
念のために言っておきますが、日経エレクトロニクスの方の記事は、うおっちと違ってマジ記事ですからね。
マルローとピションを空港に出迎えた5人は、ヒトミの部屋にマルローとピションと共に戻って、
瞳と森田の到着を待つことにした。
その日の昼は、サポートスタッフのシュタイフ、立川、ピションによる、さながら、
料理の競演といった豪華ランチになっていた。
三咲好恵(以降、ヨ):「マリア、さすがにスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの担当サポートスタッフが
3人集まると一流レストランでも味わえないほどの料理の競演といった感じだね。
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが羨ましいわ。こんな美味しい料理を毎日食べさせてもらっているんでしょ。」
立川真理子(以降、マ):「三咲さん、私たちの腕だけとは限りません。
ここにおいてある食材のすばらしさもあると思います。」
マリー=ピション(以降、ピ):「本当ね。さすがにヒトミさんとツグミだわ。
食料保管庫に一流食材が山積みだものヒトミさん、本当にグルメだもんね。」
アンネ=シュタイフ(以降、ア):「マリー、意外な事にヒトミさんは、いつもは質素な食事なんだってツグミが言っていたわ。」
マ:「アンネ、私もつぐみから聞いるわ。瞳さま、つぐみが気をつけて献立を考えないと、
下手をすると味噌汁をご飯に掛けただけで好いとか、お新香とご飯だけで好いとか言って、
栄養バランスを無視して困るって言っていました。」
ジャンヌ=マルロー(以降、ジ):「ヒトミさんのそんなところが、気取らないっていって魅力の一つになっちゃうんだから、
不思議だよね。」
ピ:「でも、ジャンヌ、ツグミが嘆いていたよ。ヒトミさんみたいに塩分を取ったら、
サイボーグ体の内部機器がさび付くんじゃないかってね。」
ア:「マリー、そこが、ツグミがベテランなのに何も知らないというか、天然なところだよね。」
マ:「そうそう、アンネの言うとおりだよね。そんなことでサイボーグ体の機械システムが錆びるわけないのにさ。」
マリア=リネカー(以降、リ):「まあ・・・。ヒトミもツグミもいないんだから、居ない人の悪口は・・・。」
ア:「マリアさま、だって、ツグミはナイーブだから、こんなこと面と向かっては冗談でも言えないですよ。」
リ:「アンネ。そんなものなんだ・・・。」
ア:「はい。マリアさま、気を遣っていえないこともあるんです。いくらサポートスタッフ同士の仲が良くても、
面と向かって言わない方がいいこともあるんです。マリアさまとヒトミさんみたいに、
何でもあけすけにしゃべってしまうような関係は珍しいんです。」
リ:「そう言うものなんだ・・・。」
鈴木エマ(以降、エ):「あっ!みんな、2人が帰ってきた。」
エマが耳ざとく、玄関のドアが開く音を聞きつけた。
速水瞳(以降、ヒ):「ただいま〜〜〜っ!みんな待った?」
森田つぐみ(以降、ツ):「マリアさんが言われたとおり、チェコに入ったら、急に除雪が行き届かなくなって、
アウトバーンが、朝方の冷え込みで凍結しちゃっていて速度規制や通行止めで、大変でした。」
エ:「瞳さんもつぐみさんも大変でしたね。向こうでは、ネミドリノフのご両親の実家に泊まられたんですか?」
ヒ:「マ〜リ〜ヤ〜ッ!よ〜し〜え〜っ!ア〜ン〜ネ〜ッ!エマちゃんとマリコさんにしゃべっちゃったの?」
マ:「はい。瞳さま。マリアさんに瞳さまとつぐみのことを詳しくお聞きしました。」
エ:「瞳さん、私なんか泣いちゃいました。」
ヨ:「私、瞳と森田さんのことを話したり聞いたりすると涙が止まらなくなっちゃうの。」
ヒ:「あのね〜〜〜っ!私とつぐみさんのことは、封印された国際自動車連盟の忌まわしい記憶が
かかわることなんだから、若いドライバーやサポートスタッフが、引いてしまうような話になるんだよ。
もう、あの過去には触れないって・・・。」
ツ:「ご主人様・・・。エマさんや真理子は、チームメイトとして、いずれは知らなくちゃいけないんですから、
話してもらって好かったんだと思います。」
ヒ:「だって・・・。つぐみさんが・・・。」
ツ:「もう大丈夫ですよ。昨日のミサの後、ご主人様が私にとっての最後で最高の恋人なんだと言うことが解ったし、
レミもフランツも遠い思い出の中だけの人になったように思えたんです。そのくらい、昨日の夜のご主人様は、最高でした。
それに、いつかは若い世代に話さなくちゃいけない練って話していたばかりじゃないですか。」
ヒ:「そうか・・・。そうだったね、つぐみさん。」
ツ:「はい。そうですよ。」
リ:「ヒトミ、ツグミと完璧に結ばれたんだね。おめでとう。」
ツ:「はい、本当の意味で、私は、ご主人様専用のサポートスタッフであり、愛人であり、僕になれた一夜だったんです。」
ヒ:「ゴホッ!ゴホッ!つぐみさん・・・。恥ずかしいよぅ・・・。」
エ:「なんか妬けちゃいますね。昨日の夜何があったんですかね?気になっちゃいます。」
マ:「エマ、それは詮索しないのよ。ヒトミさんとツグミさんのプライベートだよ。」
エ:「でもね、ヒトミさんに愛を誓った女として・・・。」
ツ:「エマさん、大丈夫ですよ。何も今までと変わりません。私は、ご主人様の手脚としての役割を
今まで以上にこなすことが出来る自信が付いただけで、ご主人様とエマさん、真理子、そして、
紫乃さんや明日美さんの関係が薄くなると言うことはありません。」
マ:「そうよ。エマ、今まで以上に瞳さまとの愛が私たちだって深まるはずよ。だって、つぐみという瞳さまの手脚であり、
私たちとの愛を仲介する触媒が、より深く瞳さまの一部になったんだから、かえって今までよりも私たちも、
瞳さまに近づけることになるのよ。」
エ:「そう言うものなんですか・・・?何か複雑だな。」
ヒ:「エマちゃん、安心して。私もつぐみさんも今までと変わるはずはないんだから。
エマちゃんや真理子さんとの関係も今まで通りだよ。」
エ:「それなら好いんですけれど・・・。なんか、瞳さんとつぐみさんの顔がすっきりしているように感じちゃいます。
でも、それが、みんなのためによいことなら、私、嬉しいです。」
ヒ:「ありがとう。エマちゃん。」
瞳は、エマに満面の笑顔を作って見せた。そして、その横で森田もにっこりと笑っていた。
ア:「みんな、喜んであげて欲しいわ。昨日、ヒトミさんとツグミに何があったかは想像できないけれど、
二人が幸せになれば、ここにいるみんなも幸せになれる。ヒトミさんは絶対に一人だけを幸せにするような人じゃないもの。
ねっ、マリアさま。」
リ:「アンネ。ヒトミのことを知っている風に言うね。」
ア:「はい。私、ヒトミさんのファンですから。」
リ:「アンネ。私のことは・・・。」
ア:「私は、マリア=リネカー様のサポートスタッフです。」
リ:「ねえっ、ねえっ!アンネ。それだけなの・・・?」
ア:「はい。そう思わなかったら、マリアさまのサポートスタッフが務まらないことに今日のヒトミさんを
見ていて気がついたんです。私を見ていてくださいという方が間違っていたと・・・。
ヒトミさんの持つ聖母マリアのような包容力は、マリアさまにはないことを痛感しました。
このように思わなかったら、私の心が幾つあってもたりません。」
リ:「ねえっ、ねえっ!アンネっ!機嫌を直してよ。私には、アンネしかないんだよ〜〜〜〜〜ぅっ!
ねっ、アンネッ!機嫌を直してっ!お願いっ!ヒトミも何とか言ってよ〜〜〜〜ッ!ツグミからも何とか取りなして。
お願いっ!」
ツ:「ご主人様、マリアさん、かなり取り乱していますよ。」
ヒ:「アンネが離れないと思ってほったらかすからだよ。アンネの性格を知っていれば、
普通はあんなにほったらかしにしないよ。アンネに甘えすぎているのよ。どこかの国の古い世代の男の人と一緒だよ。
【釣った魚にエサをやらない】からああいうことになるんだよ。それでいて、可愛い娘を見つけると腰ふるんだから・・・。
アンネにしてみれば面白くないんじゃないの。」
ツ:「のべつ幕無しに腰を振るのは、ご主人様だって一緒じゃないですか・・・。」
ヒ:「そっ、それは・・・。」
ツ:「同じ穴の狢だと思ったら、そのお友達の狢を助けてあげてください。あれじゃマリアさん、ちょっと可哀想です。」
ヒ:「つぐみさん、そうだね。」
ツ:「ご主人様、よろしくお願いします。それから、昨日の夜に約束したじゃないですか?
私は、ご主人様の持ち物ですから“つぐみ”と呼んでくださって結構ですからと・・・。“さん”付けはいらないって。」
ヒ:「私、つぐみさんを呼び捨てには出来ないよ。」
ツ:「それじゃ、嫌なんです。ご主人様の所有物になりたいんです。」
ヒ:「・・・。」
ツ:「ご主人様ッ!」
ヒ:「・・・・・・。」
エ:「マリアさんとアンネさんのところも、瞳さんとつぐみさんのところも愛が深いだけに大変なんですね。」
ジ:「でも、エマ。ツグミさん嬉しそうだよ。ニッコニッコしちゃっている。」
ピ:「でも、ジャンヌ。きっと、ヒトミさんは大変よ。また、ツグミが自分の愛を受け入れてくれと迫った時みたいに
追いかけ回されるんじゃないの?ツグミは、こうと決めたら一途だからね。」
ヒ:「マリー、脅かさないでよ。」
ピ:「だって、ヒトミさん。ツグミの顔を見てくださいよ。昨日、何があったんですか?」
ヒ:「・・・・・・。マリー、本当だ・・・。手があったら頭を抱えたいよ。」
ジ:「ヒトミさん、Mの女は怖いんですよ。」
ヒ:「ジャンヌっ!脅さないでってばっ!」
ピ:「ジャンヌは脅していませんよ、ヒトミさん。」
ヒ:「マリーまでッ、何よっ!」
ピ:「ジャンヌだって、思い詰めると本当に一途なんですから。本当に怖いぐらい・・・。」
ヒ:「解った・・・。でも、私も最後まで抵抗するから・・・。」
ツ:「ご主人様、どうしてもダメですか?でも、私は諦めません。あの時も、ご主人様を振り向かせましたもの。
今回だって・・・。だって、だって、“つぐみ”と呼び捨てにしてくださるだけですもの。」
ヒ:「それが最後の防衛線だもの・・・。今度は、私だって・・・。」
ヨ:「意外に押しには弱い瞳が、何処まで抵抗できるかは疑問だけれどね。」
ヒ:「フンっ、だっ!好恵、私頑張るもんッ!」
ヨ:「せいぜい、頑張りなよ。それよりも、そろそろ、レストランに、クリスマスパーティーに繰り出そうぜっ!
マリアもね。せいぜいアンネちゃんを大事にしなよ。」
リ:「うっ!ヨシエ・・・、冷たいんじゃ・・・。」
ヨ:「さあ、瞳とマリアは無視して、パーティーに行こうッ!」
エ・マ・ツ・ア・ジ・ピ:『賛成ッ!いざ、クリスマスパーティーへっ!!』
ヒ:「ちょ、ちょっとっ!好恵もみんなも冷たいよ〜〜〜〜ッ!」
ヨ:「二人とも、ごねてないでさっさと着いてくるッ!」
ヒ・リ:『は〜〜〜い。』
瞳たちのクリスマスパーティーの会場は、ウィーン市内の旧市街にある小さなレストランが今年の会場だ。
ヒ:「これで、何件目になるのかなぁ?お出入り禁止になる店は?そのうち、ウィーンのレストランで、
私たちが入れるところがなくなっちゃったりして・・・?」
リ:「お黙りっ!ヒトミッ!おまえが馬鹿騒ぎするから、私たちが入れるお店がなくなっていくんでしょうが?」
ヒ:「あのねぇ〜〜〜。マリア。自分のこと棚に上げてよく言うよっ!あんたが、キンバリーと
喧嘩してお店を破壊しなかったら、他のレストランからもマークされることはなかったんだよ。」
リ:「違うわっ!ヒトミが、ルカやマルコなんかと乱交パーティーをしなかったら・・・。」
ヨ:「二人とも、やめなさいっ!みっともない。二人がそんな子供みたいな喧嘩をするからいけないんじゃないのっ!」
ジ:「ヨシエさんの言うとおりです。毎年、二人がつまらない喧嘩を繰り返すから・・・。」
ヒ:「ジャンヌッ!私とマリアは喧嘩なんてしていないよ。」
ジ:「そうでしたか・・・?」
マ:「ジャンヌ。マリアさんとヒトミさんの二人は、自分たちがじゃれているんだとしか思っていないのよ。
ライオンだって自分たちはじゃれ合っているつもりだけれど、周りは、喧嘩して暴け回っていると思うのと一緒よ。」
リ:「マリー、私とヒトミを猛獣のように言わないでッ!」
エ:「お二人が猛獣じゃなかったら、誰が猛獣なんですか?お二人の前では、ライオンもベンガルトラも豹も
大人しいネコのように感じるんですけれど・・・。」
リ:「エマに冷静に言われると心にグサッとくるのが・・・。ヒトミは、この冷たい仕打ちに1年以上耐えていたんだから・・・。
本当に我慢強いというか・・・。」
ヒ:「マリア、そう思うでしょ。」
エ:「あのですねぇ、瞳さんもマリアさんも、もう一度、私、拗ねちゃいますよ。」
ヒ・リ:『そっ、それだけは・・・。』
ツ:「ご主人様もマリアさんも、よほど、エマさんが拗ねていたあの時のことが堪えているんですね。」
ヒ・リ:『そりゃ、もう・・・。』
ア:「マリアさまもヒトミさんも、普段は悩むなんて言う言葉を知らない二人が、ヒトミさんの人間関係で
悩んでいましたよね。」
ヒ:「アンネ。マリアと私を鈍感な馬鹿娘みたいに言わないでよ。」
ピ:「あれっ?そうじゃなかったんですか?」
リ:「マリーッ!!お黙りっ!」
マ:「その“お黙りっ!”という台詞、マリアさまが言うとピッタリはまるから不思議よね。」
ア:「マリコ、それはそうよ。ここまで女王様らしい女王様は、マリアさまだけだもの。
それが私が惚れているところなんだけれどね。マリアさま、私を裏切らないでくださいね。
いくらでもご奉仕しますから、私のマリアさまでいてください。」
リ:「アンネ。私が、何時あなたを裏切った?私は、何時でも、あなたのことを忘れたりしないわ。
あなたが唯一の僕であり、スティディーの関係なのよ。」
ヒ:「本当にそう?この前の東京グランプリで、レースクィーンに執拗に声かけていなかったっけっ?
あの娘、フランス人ハーフの日本人で可愛い娘だったよね。そういえば、電話番号とメアドを交換して、
文通しているみたいじゃないの?」
ア:「やっ、やっぱりっ!!!マリアさまのお気持ちが解らないッ!私ッ私ッ・・・!」
リ:「そっ、そんなことないよ。私はアンネ一筋だもん。最近は声をかけることや浮気なんてしてないよっ!
だから、機嫌を直して、ねっ、アンネ・・・。」
ヒ:「へっ、へっ、へ。」
リ:「瞳ッ、この野郎ッ!ギタギタにしてくれるわっ!コイツ、人の弱みにつけ込んで根も葉もないことを・・・。
あっ、そういえば、この間のオランダ人と中国華僑と日本人のミックスはどうした?」
ジ:「ヒトミさん、また臣下を増やしたんですか?もういい加減にしないとツグミさんも、アンネ同様に心がねじれちゃいますよ。
そうなったら、知りませんよ。アンネみたいにいつも跳ね返っている娘と違って、
ツグミさんのように耐えるタイプのM女性は、一度キレると何でもしちゃうんですよ。気をつけないといけませんよ。
毒を飲まされて無理心中なんて事だってあり得るんですからね。」
ヒ:「ジャンヌッ!脅かさないでよ。」
エ:「本当のことです。瞳さんもマリアさんも、自分のサポートスタッフであるということを理由にして、
つぐみさんとアンネに甘えすぎです。」
ヒ:「エマちゃんまで・・・。」
マ:「瞳さま、M女性である私たちは嘘を言っていません。瞳さまもマリアさまもいい加減にしないと、
本当に命を落としかねませんよ。」
ヒ・リ:『真理子さん(マリコ)まで・・・。』
ヨ:「二人とも、声を揃えたってダメよ。アンネと森田さんを大事にしないと。みんなは脅しているんじゃないんだからね。
M女性としての本心を言っているだけなのよ。」
ヒ・リ:『大事にしているもんっ!好恵(ヨシエ)に解らないだけよっ!』
マ:「だから、二人で可愛く声を合わせないでくださいっ!」
ヒ・リ:『うっ〜〜〜。マリーにも言われた〜〜〜〜ッ!』
ツ・ア:『そろそろ、許してあげてください。』
ヨ:「あらっ?森田さんもアンネも、もういいの?」
ツ・ア:『だって、ここまでみんなに言われれば、二人とも反省しているはずです。』
ヨ:「二人とも、優しいこと。でも、マリアも瞳もこの二人を裏切っちゃダメよ。好いっ!?」
ヒ・リ:『は〜〜〜〜い。好恵(ヨシエ)さま』
ヨ:「二人とも、揃いも揃って、気の抜けたヤツ・・・。」
ヒ:「だって、私にとってつぐみさんはつぐみさんだし、マリアにとってもアンネはアンネもの。」
ヨ:「瞳、意味になっていないよ。」
ヒ:「・・・・。」
リ:「そうだよ、ヒトミ、私にとって愛しているのはアンネだけ・・・。」
ア:「マリアさま、その言葉に嘘はないんですね?主の御前で誓えますか?」
ヨ:「さすが・・・。敬虔なプロテスタントであるアンネの迫り方は違う・・・。」
ツ:「三咲さん、私も、クリスチャンなんですよ。フランツのサポートスタッフになったときに洗礼を受けたんです。」
ヒ:「そうなんだよ。つぐみさんは、クリスチャンなんだよ。」
ヨ:「瞳、知っていながら・・・。」
ツ:「でも、瞳さんの前で、主(しゅ※1)を持ち出さないことにしているのです。だって・・・、
ご主人様との関係は、宗教的には微妙ですもの。」
※1:ここでは、キリストの意味。森田が敬虔なプロテスタントであることから、主イエス=キリストのことを言っている。
マ:「ツグミ、そう言われればそうよね・・・。私も、ジャンヌとの関係は・・・。」
ツ:「違うの、そう言う意味じゃないのマリー。そんなこと言ったら、アンネとマリアさんだってそうだし、バチカンから、
名誉市民の称号を受けているご主人様も厳密に言えばアウト。でも、その辺は、カソリックもプロテスタントも
ピューリタンも現在は、その辺の性倒錯は大目に見てくれているところがあるんだけれど、私は、
ご主人様が3度目のパートナーだからね。それに、ご主人様には、マルコという異性のスティディーがいるところなの。」
エ:「う〜〜〜ん。つぐみさんの場合は複雑ですね。」
ツ:「エマさん、そうなんだ。だから、あまり、主(しゅ)を持ち出したりしないようにしているの。
でも、敬虔な信徒であることに変わりないわよ。」
ヨ:「そうだったのか・・・。森田さんの場合、そういうことがあるのか・・・。
でも、瞳は、バチカンの名誉市民にいつからなっているの?」
ヒ:「うん、最初にF1でモナコで勝ったとき、おじいちゃんが、洗礼を受けないまでも、ヨーロッパで成功したいのなら、
洗礼と同じ効果があることをしておく必要があるって言って、勝手にペテロ=ルカ16世に交渉してくれちゃったんだよ。
それで、名誉市民の称号をもらっているの。」
エ:「マリアさん、瞳さんが言う“おじいちゃん”って、誰なんですか?知っていますか?」
リ:「エマ、ヒトミが言う“おじいちゃん”というのは、モナコ公国大公のレーニエ4世のことよ。」
エ:「えっ!!瞳さん、レーニエ4世とも親しいんですか?」
リ:「コイツ、じゃじゃ馬だから、破天荒な大公殿下と類は友を呼ぶ状態で、もの凄く可愛がられているのよ。
ヒトミをモナコの正式な女王様にしたいと本気で思っているんだから。」
エ:「つまり、養女と言うことですか・・・。」
リ:「エマ、そうだよ。大公殿下は、今の王子を廃嫡してもいいとまで真剣に思っているみたいよ。
でも、ロイド会長が反対しているの。ロイド会長にとっても、ヒトミは可愛い秘蔵っ子でモータースポーツ界の象徴だからね。
将来は、自分の後を引き継いでもらいたいみたいなのよ・・・。コイツッ!本当に羨ましいくらいにヨーロッパの
社交界のアイドルなんだよ。ドイツ人の私なんかよりもヨーロッパの社交界で有名だし、可愛がられているんだよ。」
エ:「何か、瞳さんの交友関係を聞いていると凄いと言うよりも、怖いと言いたくなります。」
ジ:「そうだよね。エマの言うとおりだよね。ヒトミさんとマリアさんは、何でこんな人と親しいのっていう人との
交友があるものね。特にヒトミさんは、王様系に強いからな・・・。そう言えば、産油国の王子がヒトミさんに
言い寄っていましたよね。あの人どうしました?」
ヒ:「ジャンヌがいっているのって、サリドのことね。うん、あんまり興味がないから、適当にあしらっているけれど・・・。
ジャンヌが、男に興味があるのなら紹介してあげるんだけれど・・・。ジャンヌも女の人にしか興味がないものね。
かなり変態だから、むしろマリーが男に興味があればお似合いなんだけれどね・・・。」
ピ:「私は、女の子にしか興味が生憎、無いものですから・・・。ヒトミさんの申し出を受け入れるわけには・・・、それに・・・。」
ヒ:「それに・・・?」
ピ:「はい、ヒトミさん、今は、ジャンヌが私にとっての最高の恋人なので、
それ以外の人間に興味を示すこと無いものですから・・・。」
ジ:「うわぁ、マリー、ありがとう。私も愛しているわ。これからも私の女王様でいてね。」
ピ:「もちろんよ。私は、ジャンヌを生涯のパートナーとしているんだからね。ジャンヌの方こそ、
これから、私を失望させるようなことしないでよ。」
ジ:「わかっているわ。どんなことがあってもマリーと一緒よ。よかった。マリーが浮気するんじゃないかと思って、
いつも、冷や冷やしてたんだ。」
ピ:「私は、どこかのお二人のように浮気性じゃないから大丈夫よ。」
ヒ・リ:『それって、私たちのこと・・・・・・?』
ヨ:「その通りみたいね。中国の諺に『英雄、色を好む』というのがあるけれど、マリアも瞳も酷すぎだものね。
ところで、瞳、その、オランダ人と華僑と日本人の混血って、どんな娘なの?」
ヒ:「ごめん、ちょっと事情があって、今は言えないんだ。でも、来年のクリスマスパーティーには
参加することになったりして・・・。」
リ:「ヒトミ、どういうことなの?」
ツ:「マリアさん、事情を察してください。私も知っていますし公認なんです。そのうちにマリアさんには、
ご主人様が詳しいお話をすると思いますよ。」
ヒ:「そうだよ。マリアと違ってコソコソしないんだから。私は、マリアと違ってコソコソとして、
後でバレて、つぐみさんを悲しませるようなことだけはしないよ・・・。」
リ:「話を蒸し返さないでくれ〜〜〜〜〜っ!」
ヒ:「わかったわ。だから、この話も少しお蔵入りということで・・・。」
リ:「ヒトミと取引せざるを得ないのが悔しい・・・。」
ツ:「マリアさんもご主人様もいい加減にしてください。でも、言えることは、
ご主人様じゃなきゃ受け入れることの出来ない娘だったんです。」
エ:「瞳さんしか?」
ツ:「そうです。エマさん。そのうちにわかります。」
エ:「瞳さんのまわりがどんどん複雑に・・・。」
リ:「複雑にしたのは、エマとマリコもだからね。」
エ・マ:『マリアさん(さま)、そうでした・・・。』
娘たちの会話は何時しかお互いのパートナーとの絆がいかに深いものかになっていった。
リ:「アンネ。ヒトミとちょっと外を見に行きたいんだけれど・・・。」
ア:「あっ、はい〜〜〜っ、ちょっ、ちょっと、つぐみっ!身体をはなしてっ!」
ア:「いっつも、酔っぱらうと素っ裸でだきつくんだからっ!」
エ:「そう言うアンネだって、裸じゃないですか?」
ヒ:「エマちゃん、この二人は、いつも酔っぱらうと裸になって抱き合う癖があるんだよ。
マリアと二人で困っているんだけれどね。好恵、お願いっ!この二人に服を着せてあげて。」
ピ:「ヨシエさん、アンネとツグミの世話は、私とマリコにまかせておいてください。」
マ:「三咲さん、瞳様とマリアさまを連れて、外の見えるガラステラスの方に行ってください。
3人だけで話したいこともあるんでしょ。この二人は、まだまだ引き離すことが難しいから・・・。」
ツ:「アンネ。離れなさいよ。ご主人様のお世話をしないと・・・。愛している・・・。」
自分たちのサポートスタッフである、シュタイフと森田の醜態を見て、リネカーがため息をついた。
リ:「どうして、いっつも、あの二人酔っぱらうとああなっちゃうんだろうね。」
ヒ:「そうだね。私とマリアの御乱交で潰した店より、あの二人のストリップで潰して店の方が実際には多いかもね。」
ヨ:「そんなになの・・・?!あれじゃ、まったくのレズショーじゃない。」
リ:「ヨシエ、だって、あの二人ビアンだもん。それに、強度のMで、強いネコ同士ときていれば、
結果はおのずとああなるんだよ。」
ヨ:「だって・・・。森田さんを放っておいていいの?」
ヒ:「う、うん・・・。ちょっと、放っておけないかも・・・。」
リ:「ヒトミ、甘やかしすぎだよ。アンネとツグミには、マリコとマリーが付いていてくれるから大丈夫。
ちょっと、好恵と3人でガラステラスで話しない?」
ヒ:「うん・・・。」
ヨ:「さあ、いくわよ二人とも。」
三咲は、二人の返事を待たずに二人の固定されているスーパーF1マシン専用
サイボーグドライバー専用移動用台車を押しはじめた。
ヒ:「つぐみさんとアンネの抱き合う姿を見て、エマちゃんが顔を引きつらせていたね。」
リ:「ヒトミ、それは当たり前だろう。いくら、エマがビアンでも、あんなに平然と全裸で抱き合うことは
手脚があったとしてもしないのに、それをいとも簡単にやってのけるヤツが二人も目の前に現れたら、
当然のことながらビビるに決まっているよ。」
ヨ:「それもそうよね。本当に森田さんもアンネの大胆よね。」
ヒ・マ:『それが・・・、あの二人、示し合わせたかのように、その時のことを覚えがないと言い張るんだよ。』
ヨ:「瞳とマリアが、声をそろえるなんて・・・。でも、それだけ普段のストレスが溜まっているんだろうね。」
ヒ・リ:『そんなにストレスあたえていないもんっ!』
ヨ:「気持ち悪いから、声をそろえるなっていったろうがっ!」
ヒ・リ:『・・・・・・・。』
ヨ:「まったくっ!二人とも・・・。」
リ:「ところで、ヒトミ・・・。クルゼンはどうだったんだ?」
ヒ:「うん、何とか追悼ミサに間に合ったよ。」
ヨ:「瞳、マリアが聞いているのは、そう言うことじゃなくて・・・。」
ヒ:「好恵、解っている。好恵とマリアしか聞いていないから、ゆっくり、噛みしめながらしゃべらせてよ。」
リ:「ヨシエ、瞳の涙を拭ってやってくれるか?」
ヨ:「あっ、ああ、ごめん・・・。」
リネカーに言われて、三咲は慌てて、瞳の頬に伝う涙を自分のハンカチで拭ってあげた。
ヒ:「マリアも好恵もありがとう。」
ヒ:「悪いけれど、順を追って話すね。でも、こういう時にさ、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーになった
身体って、つくづく辛いって思うんだ。自分で涙が拭けないのって最低だよね。」
ヨ:「瞳・・・。」
ヒ:「でも、そのためにつぐみさんがいてくれるんだけれどね・・・。やっぱり、一人っきりで
泣きたい時があるのにそれが出来ないなんて辛いよね・・・。」
リ:「そうだな。」
リネカーが瞳の言葉をかみしめるようにしてつぶやいた。三咲は、為す術もなくただその場に立ちつくしていた。
自分には手脚があるが、今、目の前の親友二人には手脚がないのだ。
この二人は、スーパーF1マシンに接続されて、スーパーF1マシンの制御システムとして、
マシンと一体化した状態でレースを行うために身体を作りかえられ、自分の意志のとおりに何もすることが、
通常の生活では出来ない身体になってしまっているのだ。
いくら友達とはいえ、その手脚のない身体にされたことによる辛さや悲しみ、
不自由さを解ることは三咲には出来ないことにやるせない気持ちでいたのだ。
そんな三咲の心を察して瞳が三咲に声をかけた。
ヒ:「好恵、ごめんね。私とマリアに気を遣わないでね。私たちは、望んでこの身体になったんだから・・・。
親友しかいないから、つい、愚痴を言ったまでだからね。それに、私に涙は似合わないよね。」
ヨ:「瞳、ありがとう・・・。」
リ:「瞳の気遣いは一級品だよね。これだから、私より人気があるわけだよ。悔しいけれどね。」
ヒ:「そんなことないよ。マリア。」
リ:「ヒトミ・・・。でも、ツグミに気を遣っているから自然と口をついて出た愚痴なんだろうな?」
ヒ:「うん。でも、それも昨日までのことかもしれないよ。」
リ:「昨日、何があったんだ?」
ヒ:「ちょっと、そこまで話がいくのに時間がかかるかもしれないけれど、いい?」
リ:「いいさ。クリスマスの夜は長いんだから。」
ヨ:「それに、ここのレストランの鍵、借りて来ちゃった。」
リ:「ヨシエ・・・。どういうことなんだ?」
ヨ:「うん、店のマスターが、片づけが終わったら先に帰るから、チェックも明日でいいし、
勝手に戸締まりして帰ってくれって言って、私に鍵を渡してくれたの。マリアの実家は知っているから、
請求書はそっちに回せばいいからって・・・。」
リ:「・・・・・・・。」
ヒ:「マリアは、こっちじゃ有名人だもんね。」
リ:「・・・。知り合いのマスターの店だと、こんな仕打ちを受けるのか・・・。」
ヒ:「マリアの上をいくご主人がいるんだよね。これはひとつの発見だ。」
リ:「ヒトミっ!」
ヒ:「エヘッ。ところで、昨日のことを話すね。昨日のミサは本当にしめやかに行われたんだ。
ロイド会長も溝口社長や富田会長も来てくれたしね。でも、どんなに追悼をしても、つぐみさんにしても、
レミのご両親にしても、フランツの許嫁のアンヌさんにしても悲しみが消えることがないんだと言うことを痛感しちゃった・・・。」
ヨ:「本当に痛ましいというか、凄惨な事実を伴う事件だもんね。」
リ:「ヨシエ、そうだよな。」
ヒ:「でも、レミの実家に移動して、ご家族と毎年のようにお話をした時、
今年は、レミのご両親もアンヌさんも本当に私の優勝を喜んでくれたんだ。
特にレミのご両親なんか、クリスタルリンクに足を運んでくれていたんだよ。
そして、日章旗を振っていてくれたんだって。」
リ:「そうなのか・・・?」
ヒ:「うん。最初は、私のウイニングランを見て、レミの在りし日の姿と重ね合わせて涙が止まらなかったそうなんだ。
でも、私が表彰台に置かれた時、私がレミじゃないと思うことが出来るようになったって。
それから、私のチェコ以降のレースを冷静に見られるようになったそうよ。アンヌさんは、私が優勝したことで、
フランツの面影を消せることが出来て、私のことを純粋で熱狂的なファンとして見ることが出来るようになったって
言ってくださったの。」
リ:「よかったな。少しは肩の荷が下りたんじゃないのか?」
ヒ:「うん。そうかもしれない。私としては、ちょっとホッとした気分なんだ・・・。」
ヨ:「そうだよね。でも、瞳。自分一人で何でも背負い込まなくてもいいんじゃないの?」
ヒ:「そうかもしれないよね。でも、私は、つぐみさんをサポートスタッフとして受け入れた時に全てを
背負うことを覚悟しているんだ。」
ヨ:「瞳・・・。学生の時から、変わっていないよね。責任感が強くてさ、何でも背負い込む性格・・・。」
ヒ:「そうかもね。でもね。今回は、レミのご両親もアンヌさんもつぐみさんに対して、
いつまでも娘や恋人の思い出を引きずらないで、早く私のものになってあげてくれって懇願されていたんだよ。」
ツ:「森田さんとしては、かえって辛いわよね。」
ヒ:「そうなんだ。でも、レミのご両親が、つぐみさんが時間が止まったままだと、
自分たちも時間が動き出さないって仰ってくれたの。それにアンヌさんが私たちと
一緒に歩き始めようって仰ってくださったの。」
リ・ヨ:『・・・・・・。』
ヒ:「3人ともつぐみさんが前を向いて歩き始めてくれることを望んで、しかも、
つぐみさんの止まった時計が動いてくれるのを望んで、ご自分たちが辛いのに心に鞭を
打つようにしてつぐみさんを叱咤してくれたんだよ。つぐみさん、大泣きしちゃって大変だった。
でも、もうフランツやレミを見るよりも、私だけを見てやって欲しいって仰ってくださって、しかも、
アンヌさんは“ヒトミの人生だけをしっかりとサポートしてくれることをフランツが望んでいる”と思っていると思えるから、
もうフランツを振り返っちゃダメだとアドバイスを送って下さったの。つぐみさん、さすがに凹んだけれど、
ちょっと吹っ切れたみたいだった。その後で、レミのご両親が、私に対して、私をレミだと思っているって言ってくださって、
私のことを抱いてくださったうえで、レミはちゃんとここにいるんだから、その生きているレミだけを見ていなさいって
言ってくださったの。私・・・、レミのかわりになれるかどうか解りませんけれど、ご両親がそう仰るなら喜んで、
レミのかわりにお二人の娘になりますって言ったんだ。ご両親も本当に心から喜んでくれたよ。
レミのご両親のこの言葉でつぐみさんの心の重りが少し軽くなったように思えたんだ。」
リ:「ヒトミ・・・。」
ヨ:「それで、森田さんは?」
ヒ:「うん、ちょっと、心の荷物がおりた気分だったんだろうね。安心したのか大泣きしちゃって・・・。
本当に幼い女の子が迷子になって見つけられたときに安心して泣きじゃくる時みたいな大泣きだったんだ。
でも当たり前だよね。強要され、薬を使われて精神制御されたこととはいえ、二人のサイボーグを
自らの手にかけたんだもの。人を殺してしまったこと。その心の十字架は大きいものだと思うんだ。
私は、つぐみさんの重荷を一緒に背負えたらいいなと、ず〜〜っと思ってきたんだけれど、やっぱり、
悔しいけれど背負いきれなかったのかもしれない・・・。」
リ:「ヒトミは、そんなことない・・・。充分過ぎるほどにツグミの荷物を背負ってきたじゃないか・・・。」
ヒ:「マリア、そんなことないよ。やっぱり、背負い切れていなかったんだよ。
つぐみさんを楽にしてやれていなかったんだね。」
ヨ:「瞳、そんなことないと思う・・・。」
ヒ:「好恵も・・・、ありがとう・・・。でも、今までは、一人で空回りしていたのかもしれない。
少しでもつぐみさんの重荷を一緒に背負おうとしてね。でも、今回の私の優勝を心から喜んでくれて、
自分の愛する人と完全に重なり合わせてくれたアンヌさんやレミのご両親と本当の家族になれたような気分だったんだ。
そして、そこにいた5人がみんな私と同じ気持ちを共有してもてたんだよ。やっと同じ家族みたいなものになったんだよ。
やっと、本当に同じ時間と空間を共有出来るようになったんだよ。恨み辛みもなくね・・・。
そして、その場の雰囲気がつぐみさんの心を一歩前に踏み出させるのには充分だったんだ。」
ヨ:「そう・・・。瞳、よかったね。」
リ:「ヒトミの心の重荷も減ったんだな。」
ヒ:「うん。それに、私には3人の新しい家族が出来たしね。レミのお母さんが、その時、熱々のポトフを出してくれて、
みんなでそれを飲んだんだけれど、その味ときたら、涙が混じってしまって、しょっぱいの何のって。
でも、暖かくておいしかったよ。」
リ:「そうだろうね。」
ヒ:「その夜、つぐみさんと愛し合ったんだけれど、お互いの心のわだかまりがひとつ溶けたみたいで、
今までとは違った感覚を二人で共有したんだ。とっても新鮮だったよ。
まるで心の中の氷が溶けたみたいで新鮮だったんだ。」
リ:「心が、さらにひとつになった証拠だな。よかったなヒトミ。」
ヒ:「マリア、ありがとう。つぐみさんとこれから新しい関係が作っていけそうなんだ。私、それを昨日強く感じたんだ。」
リ:「・・・・・・・。そうか・・・・・・・。」
ヨ:「瞳、マリア、飲み直さない?瞳と森田さんのさらに深い絆に乾杯しない?」
リ:「ヨシエ、良いアイデアだね。酔いも覚めたし、飲み直すか?」
ヒ:「なんか照れるね。でも、二人ともありがとう。」
その夜、雪が降り続く中で三咲を真ん中に三咲の両手で飲ませてもらう瞳とマリアの姿があった。
その3人の影は、夜がさらに更けるまで降り止まぬ雪の雪かげに揺れているのであった。
この夜の雪は、瞳と森田の新しい門出を祝うため、過去の忌まわしい記憶を
真っ白にするかのように間断なく降り続くのであった。
すみません。
皆さんの話が盛り上がっているところで、断ち切るような投稿をしてしまいました。
ちょうど、書きためていた部分が仕上がったものですから・・・。
あと一度の投稿で、今回の外伝も終了すると思います。
気がつけば本編と同じくらいの外伝になってしまいました。
後もう少し、今回の外伝の馬鹿騒ぎにお付き合い下さい。
全身義体の重量ネタ、皆様の投稿を楽しく、そして、自分のSSの参考にと、
興味深く読ませていただいています。
文系出身者が考える軽量化は、スーパーF1世界では、重要なものだと
考えています。軽量化のことも考えてダルマ状態のサイボーグを考えつきました。
骨格に関しても、金属系の特殊軽量合金ということにしているのですが・・・。
あくまで、合理性に欠ける世界かなと思いながら書いている次第です。
それでは近いうちに残りの部分を投稿します。
よろしくお願いします。
軽量化なら、いっそ四肢だけじゃなく下半身も省くとか。
下半身は着脱式にしておけば車に乗っている時の軽量化と降りている時のQOLが両立できるかと。
人間が乗れる最小の車でのレースということで、生首(ソケットマンみたいなイメージ)+生命維持装置付き車輛なんてのを考えた事もある。
車載生命維持装置はレースの間だけもてばいいという事でかなり機能削減するという事で。
(もちろんレース終了後はまともな生命維持装置につながれる)
あくまで人間が実際に乗れる最小限の車体でのレースが目的だから、クラッシュした時の安全性を考えると速度はとても遅いものになりそうですが。
>>236 >人間が乗れる最小の車でのレースということで、生首(ソケットマンみたいなイメージ)+生命維持装置付き車輛なんて
>のを考えた事もある。
>車載生命維持装置はレースの間だけもてばいいという事でかなり機能削減するという事で。
レーシングガールの世界を設定する時に、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの
構造として私も考えたことがあるのですが、やはり、サイボーグ女性としての身体だけはレース中も
付けていないといけないんじゃないかと思い、四肢切断までにしています。やっぱりボディーがないと
スレ的に萌えないと思ったのですが・・・。
マシンから取り出されると一人では何も出来ないサイボーグという設定の方が、物語的に萌えると思ったのです。
238 :
adjust:2007/06/06(水) 21:09:53 ID:c4G2TXD00
>207,208
見させていただきました。電磁誘導はごく普通の方式でよくわかるんですが
電波受信は効率悪すぎないでしょうか。離れたところの微量エネルギーで済む
用途に使うのでしょうね。あと、電波の周波数領域も人体や機器に影響が無く、
かつエネルギー受信が困難ではないところを選ぶのでしょうが、興味ありますね。
電場、磁場共鳴法については、全くわかりません。共鳴というからには原子レベルの
分極現象を用いるのだと思いますが、エネルギーをまともに送って、受信できるのか
よくわかりません。回路レベルの場合は共振と言う用語を使うと思いますが、あえて
共鳴を使っている以上、プラズマとかイオンの分極現象を使っているのが、それとも
強誘電体の誘電率の変化を使っているのでしょうか。
ううむ、世の中から遅れてしまってますね。勉強してみます。
239 :
3の444:2007/06/07(木) 00:40:17 ID:JpRw3SsV0
私とDQN男どもの睨み合いは、一分、二分。ううん、もっと長く続いたかも。
―――ごくり。
いま、私を取り囲む四人のうちの誰かが生唾を飲み込んだ。
一瞬の体力勝負ではとてもこいつらにはかなわないかもしれない。でも、持久力勝負になれば疲れを知らない機械の
身体の私のほうが有利。先にネをあげるのは間違いなく奴らのほうだ。集中力勝負だって、こうして意識を研ぎ澄ましさ
えすれば瞬きを止めることだってできる私のほうがずっーと上のはずなんだ。
(しばらく、この状態が続けばいい)
真正面に立ちはだかる男の額から汗が一筋つーっと伝い落ちるのを見つめながら私は思う。今はまだこいつらも隙
を見せてくれないけど、あと何分かすれば、必ず奴らの集中力が途切れるときが来るはず。そのときが逃げ出すチャン
スだ。
でもね・・・やっぱりそう上手くはコトは運んでくれなかったよ。
「きゃははははははっ!」
ぴんと張り詰めた空気を引き裂くような、女性のカン高い笑い声。
ちらりと、声の出所を横目で追う。車のボンネットの上で、例の彼女がおなかを抱えて笑ってる。
ふうっ。
張り詰めていた空気が少しだけ緩み、誰からともなくため息をついた。
「きゃははははははっ!あー、オカシイ、オカシイ」
「おいっ!」
「うるせえっ!」
なおも嗤い続ける彼女に対して、苛立ち気味に悪態をつく男たち。
「だって、八木橋さんが一生懸命頑張ってる姿、とってもかわいいんだもん」
女の子は悪びれるふうもなく、すとん、と両足をそろえて車から飛び降りた。
「そして、ふふふ、あんたたちはとっても間抜け。ビーム光線なんて嘘に決まってるじゃない。おまけにこの程度のショボ
イ武器でびびってるし。あんたたちのブザマなカッコ、見てるだけで面白いよ」
図星をつかれて悔しそうに唇をかみしめる男どもには一瞥もくれず、彼女は平然と私に近づいてきた。
240 :
3の444:2007/06/07(木) 00:41:02 ID:JpRw3SsV0
「でもね、私、そろそろ、もっと面白いショーが見たいんだよね」
「そそそ、それ以上近づいたらっ、あなただって容赦しないよっ」
きゅんっ。
掃除機から電源コードを引き出すような音。
私は左手で、コードを掴んで身体の中か勢いよく限界いっぱいまで引きずり出した。そして、右手に掴んだコンセント
プラグを威嚇するように彼女の鼻先につきつける。今の私にできる精一杯の警告。でも、彼女にはまるで通じなかった。
「あ、そう。じゃ、やってみれば?」
彼女は、私の本心を見透かすように、コンセントと私の目を見比べつつ、嘲り笑いを浮かべるだけ。
「義体のひとが、義体に内臓されている武器で、一般人を傷つければどうなるかってことくらい、もちろんあなたもご存知
よね」
「う・・・」
私だって、そんなことくらい知ってる。義体化手術を受けてすぐの講習で、タマちゃんからいやというほど頭に叩きこま
れたんだもの。
もしも義体に内臓されている武器で一般人を傷つけてしまったら・・・義体操縦免許停止…だよね。
義体は法律的には所有者が操縦する自動車のようなもの。だから、義体を動かすには車の運転と同じようにトーゼ
ンのことながら資格が必要。それが、義体操縦免許。
もし違反をすればクルマの運転免許と同じように点数が引かれていく。そして、点数がゼロになればもちろん免停。私
がこうして外を自由に歩けるのは操縦免許があればこそ。免停になるってことは、つまり、運転免許を持っていない人が
教習所の中でしか車の運転ができないのと同じように、病院の敷地内の決められた場所以外への移動は禁止されるっ
てことなんだ。違反の程度によって引かれる点数はさまざまだけど、もしも義体の力を使って一般人を傷つけたことばが
れたら、もちろん一発免停だ。
241 :
3の444:2007/06/07(木) 00:42:10 ID:JpRw3SsV0
で・・・でもさ。義体操縦免許が取り消されるのは、あくまでも義体に内臓されている特殊公務員用の武器で、一般人
を傷つけちゃったらってハナシでしょ。私が使ったのはただの電源コンセントだよ。確かに義体に内臓されているものだ
けど、こんなのは、こんなのは・・・
「こんなの武器じゃないっ!」
「そう思うなら、私にさっきみたいな真似してごらんなさいよ。でもね、一つだけ言っておくと、それが武器かどうか判断す
るのは、あなたじゃなくて裁判所だからね。裁判所でもう一回お会いしましょうか?」
両手を後ろに組んだまま、彼女はこれ見よがしに上半身だけ、くい、と私のほうに傾けた。
「ずるい。そんなのってずるいよ・・・」
私は、四人の男に取り囲まれて、金属バットで殴られたんだよ。身を守るために仕方なくコンセントを使ったんだよ。
私は何も悪いことはしていない。私のしたことは正当防衛に決まってる。そう思いたい。
でも、もしも、私の主張が通らなかったら・・・?
毎月私のもとに送られてくるサイボーグ協会の会報誌には、全身義体ユーザーとフツーの人との間で起こった裁判沙
汰の顛末なんかも紹介されている。だから、こういったケースでは、ほとんどの場合義体ユーザー側に不利な判決が下さ
れているということも知っている。
義体を金属バットでいくら殴ったところで致命傷どころ傷一つつけることができないのは明らか。痛みを感じるといって
も、痛覚をカットさえすれば苦痛はなかったはず。よって、男たちの行為は傷害とは認められない。
そして、いかなる理由であれ、義体に内臓されているモノを使って相手に傷をつけるのは、義体法違反。
もし、裁判なんかになったら、そんな判決が私に下されるに決まってるんだ。
噂では、義体操縦免許剥奪者の再教育施設というのは病院っていうのは名ばかりの牢屋みたいなところらしい。そ
れに教官はイソジマ電工のケアサポーターみたいに優しくはないらしい。そんなところに何ヶ月も閉じ込められて、イチか
らリハビリのやり直しをさせられるなんて、そんな酷い扱い、耐えられるわけ、ないよ・・・。
242 :
3の444:2007/06/07(木) 00:53:49 ID:JpRw3SsV0
「ずるいかどうかは・・・」
呆然と立ち尽くす私に向かって彼女は右腕を伸ばした。そして、コンセントのコードを掴むと、にいっと笑った。
「私じゃなくて政府に言ってよね」
力任せにコードを引っ張る彼女。
ぱきん。
乾いた音をたてて何本かのネジや小さな部品を地面に撒き散らしながら、充電用コードが身体からすっぽり外れた。
“警告:充電用ケーブル断線”
私の義眼ディスプレイ一杯に流れる義体の異常を警告する真っ赤な文字。
「あらららら、とうとう最後の武器もなくなっちゃった。可哀想にね」
彼女は、電気の通わなくなったプラグの先っぽの金属部分をつんつん突きながら、嬉しそうに目を細めてみせる。
彼女の言うとおり、これで私の身を守る手段は何一つない。今の私は、お腹を空かせたライオンの群のど真ん中に
放り込まれた肉のカタマリみたいなもの。あとは美味しく食われるのを待つばかり。
ぼすん。
反射的に後ずさりした私の背中が何かにぶつかる。
私の首筋に当たる獣じみた荒い鼻息。振り向かなくても、後ろに何がいるのかよーく分かった。
「殴るのはもういいから、このお人形さんをさっさと犯っちゃいなさい。そのためにあんたたちを雇ったんだからね」
猛獣使いの命令を待つまでもなく、人の皮をかぶったケダモノどもは一斉に金属バットを地面に投げ捨て私に襲い掛
かってきた。
たちまちのうちに、私は両腕をつかまれ、羽交い絞めにされ、四人がかりで地面に突き倒され、蹴飛ばされ、仰向け
に転がされて地面に身体を押さえつけられた。はいていたショーツは無理やり身体から剥ぎ取られてボロ切れのようにな
って、砂利だらけの地面に捨てられた。
243 :
3の444:2007/06/07(木) 00:54:51 ID:JpRw3SsV0
でも、泣き叫ぶような真似はもうしない。
ちょっと強がってはみたけれど、正直なところ私だって、たった100ボルトの電撃なんて貧弱な武器だけで男四人を撃
退して逃げられる、なんて本気で思っちゃいなかった。でもね、物理的な逃げ場は封じられても、機械の身体の私にはも
う一つ逃げ場所があるんだ。私がバッテリー強制放電した真の目的は、そこに逃げ込むため。電撃なんて柄にもない真
似をしたのは、逃げ場をつくるためのただの時間稼ぎなんだ。
私は上にのしかかってくる男を真っ直ぐ見据えて、にやっと笑ってあげた。
あんたたちが、ちんけな電撃にびびってくれたおかげで、じゅうぶんに時間がかせげたよ。
ほら!
“バッテリー残量50%。節電モードに移行”
義眼ディスプレイを横切る真っ赤な文字の警告文。
ずーっと放電モードにしていたバッテリーの残量が、とうとう半分を切って節電モードになったんだ。
これで私はチタン脳殻に守られたゼッタイ安全な場所に逃げ込めるんだ。ははは。
節電モードになってしまえば、機械仕掛けの義体を温かい身体のように見せかける擬似体温維持機能とか、人工性
器からもたらされる性感信号みたいな人間らしさを装うためのお飾り機能はカットされて脳みそに伝わることはない。つ
まり、どんなテクニシャンの手にかかろうが、どんなすごい道具を使われようが、もう私の身体は何も感じないってこと。
いってみれば厳重にガードされたゼッタイ安全な場所に隔離されるのと同じなんだ。これで彼女に、ケダモノに犯されて、
よがり狂う私の痴態を見られる心配は、なくなった。
あとは、アンタたちの好きにすればいい。
どうせ、この身体は作り物の人形なんだ。人形が何をされようが、私はへっちゃらだ。
ざまあみろ。
244 :
3の444:2007/06/07(木) 00:55:44 ID:JpRw3SsV0
結局私は身動きできないように手足を押さえつけられたまま、四人にかわるがわる犯された。いわゆる輪姦ってやつ
だ。
えーっと一人二回づつ。四人だから八回かな。いや今M、やっているやつは確か三回目だ。だから都合九回、私の
中に精液をぶちまけられた計算。それだけ犯され続けたらフツーの女の子なら、心も身体も壊れちゃたとしても何の不
思議もないよね。フツーの女の子ならね。
だけど私はゼンゼンへっちゃら。だって、私自身が犯されてるわけじゃないもん。人形が犯されてるだけだもん。節電
モードになったこの身体は、いくらクリをなぶらようが、あそこにアレを乱暴に突っ込まようが、私自身に快感も、苦痛すら
伝わってこない。さすがに口の中で出されたら、防水機構のない内部機械の故障の原因になってヤバいから、フェラを
強要されたらどうしようってヒヤヒヤものだったけど、連中も見ず知らずの機械女にそこまでする勇気はなかったみたい。
だから、男どもが鼻の穴を膨らませた間抜け面を晒しながら必死こいて私のあそこ出し入れしている姿を冷静に眺める
ことができたし、誰が何回イッた、なんてこともまるで他人事みたいに数えることができた。
「つまんねーな」
私の中に三度目の精を放った男は、無遠慮に私の上に体を落としながらつぶやいた。
そのつぶやきを聞いて、表情は変えないけど内心ほくそ笑む私。
いくら四人がかりっていっても、所詮は生身の肉体。永遠に私を犯し続けられるわけじゃなし、いつかは体力の限界
が来る。欲望を吐き出して興奮が冷めてちょっと冷静になった頭で考えれば、節電モードになって苦痛も快楽も感じるこ
となく、人間らしい体温さえ失われた私の機械の身体を抱くってことの虚しさに気がつくはずだ。結局自分たちがやってる
ことは女の子を輪姦してるってことじゃなく、ただダッチワイフを使った公開オナニーをしてるだけだってことをね。
「これで気が済みましたか?それともまだ続けますか?」
私は極力感情を抑えたひくーい声で男の耳元でささやく。相手に極力ロボットみたいな印象を与えるように。
「ちっ!うるせえ」
私を犯したばかりの男は身づくろいをすませると、腹立ちまぎれに私のおなかを蹴飛ばした。
245 :
3の444:2007/06/07(木) 01:04:54 ID:JpRw3SsV0
でも、あいにく、私の身体は痛みを感じないんだ。犯されている間、することがなくて暇だった私はこうなることを見越
してサポートコンピューターを操作して痛覚を消しておいた。だから、いくら蹴飛ばされても、本当の人形みたいに瞬き一
つせず、じぃっと私を蹴飛ばした男の顔を見つめてられるってわけ。
「なあ、もう終わりにしようぜ」
「反応のない人形を抱いてもちっとも面白くねえよ」
のろのろ上半身を起こした私は、すっかり力を使い果たして気の抜けたコーラみたいになった男どもの会話を、ぼん
やり聞いていた。もしも私が泣き叫んで抵抗したり、男どもに突かれるたびに快楽のあえぎ声を漏らしたりしていたならま
だしも、何をされても何の反応もしないお人形さんをこれ以上犯すのはうんざりってことだろう。
彼女はといえば、さっき私をさんざんからかい続けたときの元気はどこへやら。乗ってきた車のタイヤの横にしゃがみ
こんで、退屈な映画でも見ているみたいな浮かない顔で私のほうを見てる。
全体に漂う、弛緩した白けた空気。
男どもは、そんな空気に追い立てられるように、黙りこくって金属バットをだるそうにずるずる引きずりながら、工場の
片隅の目立たない場所に止めてあったバイクのほうに向かう。
それを見て、慌てて立ち上がる彼女。
「ちょ、ちょっと待ってよ。まだ、もう少し・・・」
「うっせえなあ。あんたもよ、これで気が済んだろ。頼まれたぶんの仕事はしたし、俺ら、これで、帰るから」
歯切れ悪くもごもごそんなことを呟きながら、一人、また一人と男たちはバイクに跨り、立ち去っていった。
「気は済んだ?」
私は静かに立ち上がって、一人取り残された彼女に向かってにこっと微笑んであげた。
「まだ足りないなら、もう少し付き合ってあげてもいいけど」
「ふ、ふん。機械人形のくせに意気がちゃってさ。こんなの相手にムキになって、私もバカみたい」
彼女は気まずそうに私から視線をそらすと、そんな捨てゼリフを残して、さっさと車に乗り込んでしまった。
遠ざかっていく車の赤いテールライト。
246 :
3の444:2007/06/07(木) 01:06:18 ID:JpRw3SsV0
(お・・・終わったあ・・・)
身体の中でぴんと張りつめていた緊張の糸が解けて、そのままぺたんと地面にへたり込む私。
しばらくの間、放心したように仰向けに寝そべったまま星空を見上げていた私だけど、まるでみみずみたいなぬるぬ
るしたものが太もものあたりを這いずりまわっているような気持ちの悪さを感じてふと我に返る。節電モードになって性感
は無くなっちゃったといっても皮膚感覚まで失うわけじゃない。あわてて股間に手をやって、その不快の元凶、私のあそこ
からこぼれて太ももを伝い落ちる、やつらのぶちまけたせーえきを指で掬い取った。
(あーあ、こんなに出してくれちゃってさ)
私はため息をつきながら、雑草に半分埋もれながら転がっている私のバックからハンカチを取り出して、ねばつく指
先や股間を念入りに拭いた。でも指はともかく、股間のほうは拭いても拭いても汚れが取れた気がしない。それに、私に
は嗅覚がないから分からないけど、やつらのぶちまけた体液の、生臭い、饐えたようないやーな臭いが身体の芯にまで
染み付いてそうで不愉快極まりない。
幸いやつらが変に気を回さずに中出ししてくれたおかげで、服には汚らしい体液はつかず、ちょっと泥で汚れている
程度で済んでいる。あとは身体についたこの汚いものを洗い流せばキレイな体に戻れるはず。
近くに公衆トイレがあるといいんだけど、こんな倉庫街の外れに、そんな都合のいいものがあるはずない。
(駅のトイレにでも行って洗わなきゃだめだな)
汚れて使い物にならなくなった安物のハンカチをぐしゃぐしゃに丸めて握り締めると、私はのろのろ身体を起こした。
こんなとこ来たことないから土地勘なんてまるでないけど、真っ直ぐもと来た道を引き返して、国道も突っ切ってさらに先
に行けばたぶん武南電鉄の踏み切りに当たるはず。線路に突き当たったら右でも左でも、どっちでもいいから線 路沿い
に歩いていけばどこかの駅には辿りつけるだろう。それに、家に帰るにはどのみち駅に行かなきゃいけないんだしね。
ぼろ雑巾のようになったショーツや、身体から外れて地面に落ちている電源コードをハンカチと一緒にバックに押し込
めると、私は駅があるはずの方向にとぼとぼ歩き始めた。
247 :
3の444:2007/06/07(木) 01:07:13 ID:JpRw3SsV0
本日はここまで。
お疲れ様です。ヤギーの精一杯の抵抗...。
気の毒ですがナルホドと感心(納得)しました。
この後、ヤギーは器物破損で訴えたりするんでしょうか?
そのくらいの反撃はさせてあげても・・・。でも裁判費用が・・・・。(涙)
249 :
pinksaturn:2007/06/07(木) 19:36:59 ID:C8c5Hv5E0
>>248 刑事裁判で原告に当たるのは検察官です。よって、裁判費用は国家持ち。
但し、被害届を出しても起訴するかどうかは検察官の判断であり、不起訴に不服な(自称)被害者が起訴を強制するには付審判請求という行政訴訟のような手続きが必要なので、その場合は弁護士代自腹。
民事の賠償請求は、有罪が決まってから付帯私訴にすると証拠固めの費用が要らないので訴えやすい。
なお、刑事で有罪でも、民事で賠償請求が通るとは限らない。もちろん、逆もありえます。
ところで話は変わりますが、
今週はバカなニュースのネタに取り憑かれて苦しんでいますた。
その結果、こんなしょーもない落書きが出来てしまったorz。
お題 I-バック@アイスショウ
http://pinksaturn.fc2web.com/maomiki-iback.htm
250 :
3の444:2007/06/10(日) 03:26:59 ID:Oc2jZ6h00
ごしごし、ごしごし。
今、私がいるのは落書きだらけの薄汚れた駅の公衆トイレ。そして今、私が手にしているのは自分の身体から取り外
した人工性器ユニット。あちこちひび割れた古ぼけた洗面台についたステンレスの蛇口をいっぱいにひねって性器ユニ
ットの奥にたまった白くてねばねばする汚らしい液体を洗い流しているところ。
身体から外した自分自身の性器の割れ目に自分の指を差し入れてごしごし、なんてハタみたらきっと滑稽だろうね。
それとも不気味なスプラッターショーのように見えるかなあ。どっちにしても、こんなことしてる姿、とても人には見せられ
そうにないよ。終電間際の小さな駅のトイレなんて人なんか滅多に来ないんだろうけど、それでもやっぱり人目が気にな
って電車の音がするたびにバックの中に人工性器を隠して、あわてて外の様子を伺う今の私は見ようによっては立派な
変質者だ。はは。
こうして身体から外した自分の性器の中に溜まった精液を洗い流すっていうフツーじゃ考えられない異常行為にも、も
う慣れっこになっちゃった。別にセックスしなくても身体が欲情すれば勝手に分泌される愛液だって人工合成した作り物
だから、溶液タンクが空になれば、まるで空になったシャンプーの中身を詰め替えるみたいに自分で性器を取り外して補
充しなくちゃいけない。セックスなんて機械とはイチバンかけ離れた人間的、というか動物的な行為だと思うんだけど、そ
ういう行為の後でも、この身体は、いくら見かけは生身の肉体と同じでも所詮は機械のカタマリでしかないってことを、ち
ゃーんと私に思い出させてくれる。でも、それにももう慣れた。
251 :
3の444:2007/06/10(日) 03:27:39 ID:Oc2jZ6h00
ここが人工小陰唇でしょ。そしてここが人工大陰唇。ここが人工クリトリスでここが人工膣。女性の性器そっくりに作ら
れたこれ、当たり前だけど実はぜーんぶ作り物。どんなに本物そっくりに精巧に作られていても、ただ形だけ真似たまが
いもの。オトナのおもちゃに毛が生えたようなもんだ。それは人工性器を裏返しにすれよーくわかる。性器の裏側は、ち
ょっとグロテスクで軟らかそうな外見からは想像もつかないような細かい機械がぎっしり。細い筒状の人工膣をぴくぴくそ
れっぽく動かすための小さなモーターだとか、人工愛液貯蔵タンクだとか、人工性器が受けた感覚を脳に送るための光
ファイバーケーブルだとか、その他、私の頭ではとうてい理解できないような複雑なメカがそれこそカバーを開けた電化
製品みたいにびっしりつまってる。
で、膣の一番奥はどうなってるかというと体内に吐き出された精液が逆流しないように一時的に貯めておくだけの金
属製の小さなタンクがあるだけ。女性器の中でもいちばーん大切な子宮なんてものは、私の作り物の身体にはついてい
ない。でもその代わり、さっきみたいに、いくら中で出されたところで、生理が来ないことに怯えたり、最悪望まない妊娠を
してしまう、なんて心配をしなくてすむのが人工性器のいいところ。こんなふうにタンクを裏側から開けてさ、中に溜まった
汚らしいものをぜーんぶ水で洗い流せば何事もなかったかのようにホラ元通り。この汚れた服と同じで洗えば全部きれ
いになるんだから。
あの女、こんなことで私を辱めたつもりかもしれないけど、残念でした。私はフツーの身体じゃないんだから、こんなこ
とされたってどうってことないんだ。私が義体だってことを知ってるなら、そんなこともトーゼン知ってなきゃいけないだろう
にさ。ホント、ばっかだよね。ははは。
蛇口からジャージャー流れ落ちる水の音に混じって、トイレに乾いた私の笑い声が響いた。
ひとしきりお腹をかかえて笑った私は、水洗いの終わった人工性器を拭くために洗面台と鏡の境目に置いたバックか
らハンカチを取り出した。その拍子に、ふと鏡に映った自分の顔と眼が合う。
252 :
3の444:2007/06/10(日) 03:28:22 ID:Oc2jZ6h00
――鏡の中の私、今にも泣き出しそうな顔をしてる。
変だよね。あの高慢ちきな女の鼻っ柱をへし折って愉快な気分のはずなのにね。何も悲しいことなんかないのにね。
ハンカチで丁寧に表面を拭いた人工性器ユニットをもう一度義体に接続するために右手でそっと掴む。あとは、この
人工性器ユニットをもう一度義体に接続し直すだけ。それで、私の体は何もかも元通りだ。
・・・でも、性器ユニットを掴むその手が、なぜだかかすかに震えてる。ううん、手だけじゃない。身体全体がおこりにか
かったみたいにぶるぶる震えはじめる。膝が身体を支える力を失って、そのままへなへなと崩れ落ちるようにその場にし
ゃがみこんでしまう。
どうして?どうして?どうして?
この身体、ただの機械なんだよ。だから、生身の身体みたいに怒りに震えることはないし、電気さえ通っていれば膝
が力を失うことなんか、ゼッタイないはずなのに。
なのに、どうして?
私の両手が、私の意思なんておかまいなしに勝手に動いて、化粧が剥がれ落ちて泥だらけの私の顔を覆う。節電モ
ードになって体温を失った私の顔は、まるで氷みたいに冷たい。もし、生身の身体なら夜風にあてられただけでは決して
こんなに冷たくなりはしないよね。私の触っているこれは私の顔のようでいて、そうでない。ただの機械なんだ。
それなのに、私は、いったい何やってるんだろう?これ、ひょっとして泣いてるつもり?こんなことしたってもう涙なんか
一滴も出ないんだよ。冷たい、血の通わない機械の身体のくせに泣こうとするなんて、一番バカなのは私じゃないか。
(バカみたい)
私は、そうつぶやこうとした。でも、口からでたのは
「うっ」
っていう変なうめき声だけ。
違うって。今の私が言うべきコトバは、「バカみたい」。
それなのに・・・ダメだ。私のカラダ、まるで私の言うことを聞いてくれないよう。
253 :
3の444:2007/06/10(日) 03:42:59 ID:Oc2jZ6h00
「うっ、うっ、うっ」
しゃがみこんで、身体を抱えてうずくまり、一生懸命泣いてるフリをする私。そう、こんなのただの泣きまねだ。私は涙
なんて流せないから、鼻水と涙で顔がぐしゃぐしゃになることもないし、嗚咽にしゃくりあげるようなこともない。ただ単に喉
の奥のスピーカーから泣き声みたいな、あくまでも「泣き声みたいな」電気合成音が流れるだけ。
なんなんだ私は。こんなことしたからって、いったい何になるんだ。別に私は悲しいわけじゃないし、泣きたいわけでも
ないんだ。だって、どうせこんな身体、ただの機械じゃないか。私のホントの身体じゃないじゃないかっ!人形じゃないか
っ!だから何されたって平気なんだ。
ずーっと昔、小学校のとき、私が大切にしていたお人形さんをいじめっ子に取り上げられてどぶに落とされたことがあ
った。その時は人形は洗えばちゃんと元通りになって、むしろいじめっ子をひっぱたいて泣かした私のほうが悪いってこ
とになってお母さんにこっぴどく叱られた。
これだって、それと同じ。作り物の身体なんかいくら汚されようと大したことじゃない。法律でも、ホラ、義体は本人の
所有物であって、身体そのものではないってちゃーんと決まってるじゃないか。モノは洗えば綺麗に元通りになるんだ。だ
から、なんてことないんだよう。何をされてもへっちゃらなんだよう。
身体が全部機械なら、私の感じ取ることだって全部機械を通したものだ。作り物の身体が受けた刺激を頭の奥に入
っているサポートコンピューターがそれらしい身体信号に作り変えて脳みそに流し込んでいるだけ。つまりはサポートコン
ピューターの作り出したリアルで大掛かりな映画を延々と見せられ続けているのと同じことなんだ。いくら、映画の中でひ
どい扱いをされたからって、そんなの所詮は幻想だもの。だから、どうってことないんだ。
――それなのに、どうして私こんな悲しくてみじめな思いをしてるんだろう・・・。
そう、正直に言うよ。自分が情けないよう。みじめだよう。悲しいよう。心が痛いよう。苦しい、苦しい、苦しい、苦しい
っ!
254 :
3の444:2007/06/10(日) 03:44:10 ID:Oc2jZ6h00
こんな身体になってしまっても私だって人間なんだ。機械じゃないんだ。見ず知らずの男に代わる代わる殴られて、犯
されて、蹴飛ばされて、ホントは平気なはずないじゃないかっ!いくら機械の身体でも脳みそと繋がっていて、感覚だって
ちゃんと私に伝わってくるんだ。だから、この身体はホントの身体と同じ、そう思いたいよ。
でも・・・私だけがそんなふうに思ったところで、そんなこと誰も認めてくれやしない。だったら、この身体は人形だか
ら、何をされてもヘイキなんだって無理やりにでも自分を納得させるしかないじゃないか。
ごとん。
人工性器ユニットが右手からこぼれ落ちて、金属特有のかたーい音をたてて床に転がった。
こんなの性器じゃない。ただの大人のおもちゃ。そして私はリアルなダッチワイフの中に入ったただの脳みそ。私にで
きるのはしょせんセックスの真似事だけ。
タマちゃんは、ギガテックスの義体には特殊な用途のものを除けば基本的には性器はついていないっていってた。義
体化手術のときに脳もいじって、性欲も感じないようにするから、性器なんかなくても平気なんだってさ。タマちゃんは、そ
れがさもひどいことのように言っていたけど、今になって思えばギガテックスのやり方は間違っていないんじゃないかって
気がする。イソジマ義体に性器がついているっていっても、しょせん形だけ真似たニセモノ。性器がついてくから赤ちゃん
を生めるってわけじゃない、あくまでも、ただの機械でしかない。
どうせどこまでいっても形だけ似たニセモノっていう扱いにしかならないなら、はじめっからこんなものないほうがいい
よ。なまじっかこんなものがついてるから苦しい思いをしなきゃいけないんだよ。
(だったら、いっそのこと)
私は性器ユニットをわしづかみにして立ち上がると、性器を掴んだ右手を高々と振り上げた。
(こんなもの、こんなもの、こんなものお)
このまま腕を振り下ろして人工性器ユニットを勢いよく床にたたきつけて、120キロの全体重を乗せた足で踏みつけて
バラバラに壊してやる。そう思ったんだけどさ。
255 :
3の444:2007/06/10(日) 03:45:04 ID:Oc2jZ6h00
でもね、やっぱり、やっぱり・・・
がっくり肩を落としてうなだれる私。
そんなこと私にはできないよ。できるわけない。
今は10月。蒸し暑かった夏が過ぎ、夜は肌寒くセーターが手放せなくなる季節。でも、私には関係ない。私の身体に
ついた貧弱なセンサーでは季節の移り変わりなんて分からない。ただ朝の天気予報で最高気温最低気温を確認して、
それらしい服装と言動をしてるだけ。
おいしいたこ焼きのトロリとした舌触り。小麦粉の焼ける香ばしい匂い。今の私にはそんなこととも無縁。友達とどこ
そこの何が美味しいなんて話になったときは、話題の輪に加わらずこっそりその場を立ち去るか、年々怪しくなっていく
昔の記憶を頼りにそれらしい話をでっちあげるだけ。
親も兄弟を奪われ、肉体を奪われ、ふつうの人よりちょっとだけ頑丈な機械の身体を与えられたかわりにニンゲンら
しい感覚の大半を奪われて、そんな私がこれ以上何かを自分から捨てる勇気なんかあるはずない。
いや、違うね。嘘ばっかり。
ニンゲンらしい感覚を失いたくないって?性感がなくなればロボットみたいになっちゃうから嫌だって?そんなのぜー
んぶ嘘。自分への言い訳。こんな感覚、電気信号の生み出すただのまやかし。そんなもののどこにニンゲンらしさがある
っていうのさ。
私が人工性器を捨てられないのは単に私がえっちが好きなだけ。男に抱かれることも、一人でするあれも、全部好
き。友達の前ではすました顔してるけど、ホントの私はとんでもない淫乱女。自分が気持ちさえよくなれれば、それが電
気信号だろうが何だろうが一向に構わない。
256 :
3の444:2007/06/10(日) 04:04:12 ID:Oc2jZ6h00
こんなものがついているから、つらい思いをした。そしてこんなものがついてるおかげで、これからも間違いなくつらい
思いをする。そんなこと分かりきっている。でも、私は情けないことに、このおもちゃみたいな人工性器が産み出す快楽を
失うのが恐くてたまらないんだ。だから、私はこれからも、こりもせず、好きでもない男と寝て、自分の心さえも偽って、人
工性器のもたらす快楽にすがって生きていくだろう。人として間違っているなんてこと、自分でもよく分かってるよ。でも、
セックスしたところで、何を産み出せるわけでもない私。だからといって、性器を捨てる勇気もない私が、他にどうやって
生きていけばいいのさ。
私は、目をぎゅっととじると、手探りで人工性器を元の場所に持っていく。
ぱちん。
金属同士が触れ合う硬い音とともに、右手に感じる確かな手ごたえ。
暗い視界の中に浮かぶ“人工性器接続OK”という緑色の文字とともに、私の性器の表面に右手が触れている感覚が
蘇る。
性器の洗浄のあとは、泥だらけになった顔の洗浄。
それから―――
私は、サポートコンピューターにアクセスして義体のメンテナンスモードの中から、髪型の初期化を選ぶ。目が一瞬赤
く光ったあとで、バラバラに乱れていた髪が、まるで気をつけするみたいに、ぴん、と真っ直ぐ伸びて肩に落ちる。
性器は洗って元通り。服はしょうがないけど、顔も髪もこうして綺麗に元通り。
あとは―――頭の中を消毒するだけ。
私は、ハンドバックの中から、カプセルケースを取り出すと、その中から、黄色に塗られたアルコール入りカプセルだ
けを選び出して、貪るように数個、口の中に投げ入れた。
忘れよう。今日の起こったことは、何もかも、ぜーんぶ忘れてしまおう。
257 :
3の444:2007/06/10(日) 04:06:02 ID:Oc2jZ6h00
今日はここまでです。
ヤギーの心情の描写がいつも以上に細かくてすごい…乙です
259 :
pinksaturn:2007/06/10(日) 11:33:27 ID:VYyYkwsv0
>>256 こんなところで酔っぱらっている場合じゃないのに...
またですか!。
髪型リセットは高電圧かけるからたくさん電力使うって義体マニュアルに書いてあったでしょ。
コンセント壊して電池切れの恐怖!って、ネジ工場のときに経験したはずよね。
全くこいつはどこまでみんなを心配させたら気が済むのかしら。
鬼のような学習能力の低さ萌え。
ヤギー、お願いだ〜〜〜っ!
アルコールの世界に逃れる前に、擬態のメンテナンスをしてくれっ!
また、ケアサポーターに怒られちゃいますよ。
でも、よく、これだけ無茶なことをして、その無茶の尻ぬぐいをしている、
義体メーカーのイソジマ電工に入社できたのが不思議なんですが・・・。
やっぱり、研究材料として、入社というよりも、悪質ユーザーを引き取る
と言う意味合いが強かったりして・・・。
明け方近くまで、レストランでの思い思いの会話を楽しんだ9人は、そのまま、瞳の家になだれ込んみ仮眠をとった。
もっとも、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの4名は、日常のルーティーンであるサイボーグ体の
メンテナンスのため、瞳は専用のメンテナンスベッドに寝かされ、残りの3名は瞳の部屋に用意されている簡易の
メンテナンスベッドに寝かされることになった。
瞳もリネカーもエマもマルローも飛行機の移動などでサイボーグ体のメンテナンスを行っていなかった時間から考えて、
メンテナンスを行わなくてもすむギリギリの時間に近づいていたのである。
サポートスタッフ4人が、それぞれの担当のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーをメンテナンスベッドに横たえ、
その後、好恵も併せて5名が二つのゲストルームに分かれて仮眠をとることになった。
みんな、旅の疲れとクリスマスパーティーでの飲み過ぎが合わさり、会話をするものもなく、
すぐにみんなが眠りに落ちたのであった。
三咲好恵(以降、ヨ):「あ〜〜〜〜〜〜〜っ!一体今何時なの?あんたたちは体内の機械時計で
管理されているんじゃなかったの?」
森田つぐみ(以降、ツ):「三咲さん、どうしたんですか・・・?うっそでしょっ!もう10時を回っているじゃないですか?」
ヨ:「森田さん、みんなどうしたの?」
ツ:「すみません、昨日は、体内時計のライブモードとスタンバイモードの切り替えをマニュアルに
してしまったものですから・・・、寝過ごしてしまいました・・・。たぶん、マリーもアンネも真理子も一緒だと思います。
早くみんなを起こさないと・・・。ところで三咲さんは、何時までに会社に行かないといけないんですか?」
ヨ:「今日は、みんなの乗る東京行きに搭乗だから、19時の3時間前に行けばいいから楽勝で大丈夫だよ。」
ツ:「よかった・・・。それじゃ、ちょっと遅いランチを食べてから、みんなで空港に行きましょうよ。」
ヨ:「森田さん、いいの?」
ツ:「なにがですか?」
ヨ:「瞳と二人だけの時間がとれじゃないんじゃないかって思って・・・。」
ツ:「三咲さん、気を遣っていただいてありがとうございます。でも、ご主人様には、
二人だけのしんみりとした休日の過ごし方は似合いません。
それに、私もみんなと一緒にわいわい騒いでいた方がいいし、みんなに囲まれて、
楽しそうに話しているご主人様が大好きなんです。それから・・・、
チェコでご主人様との充実した時間を過ごせたから満足です。」
ヨ:「それはそれは、ごちそうさま。」
ツ:「あっ、そうだ、ごちそうさまと言えば、お昼は、私の手料理のランチでいいですか?」
ヨ:「えっ!森田さんの手料理を食べられるの?嬉しいっ!」
アンネ=シュタイフ(以降、ア):「ツグミ、おはよう。寝坊しちゃった。私たち、サイボーグじゃないよね。
寝坊するなんて・・・。」
ツ:「アンネ。いいよ。私も寝坊だもの。だから、うちでランチを食べてからみんなで空港に出発しようよ。」
ア:「いいね。ツグミのプロの料理を食べられるんでしょ。最高に幸せッ!!」
マリー=ピション(以降、ピ):「えっ!アンネ。ツグミの手料理が食べられるの。楽しみにしていなきゃ。」
立川真理子(以降、マ):「マリー、そんなことより、私たちの担当しているスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを
起こしに行かなきゃ。」
ツ:「マリコの言うとおりだよ。アンネも、マリーも担当しているドライバーを起こして来なきゃいけないんじゃないの?
私たち同様に、安心しきって、モード切替システムのオートコントロールをみんな外しているはずだからね。
シーズンオフはこれだもの・・・。ご主人様やマリアさんでさえ、だらけちゃうんだから・・・。」
ア:「いっけない。そうだった。マリアさまを起こすの時間がかかるものね。寝起きの悪さは天下一品だからね。」
マ:「アンネ、そんなことないよ。エマなんか絶対に起きないもの。こんな時に起こすのは大変なんだから。」
ピ:「ジャンヌだって大変よ。鞭、持ってきたかな?専用鞭でたたかないと起きないんだから・・・。」
ツ:「ちょ、ちょっと、マリー、朝から鞭でシバクの?」
ピ:「ツグミ、そうだよ。朝から鞭でたたかれると、あの娘、喜ぶし、一日が調子いいんだって。」
ツ:「本物のマゾだよね。あの娘。」
ピ:「ツグミ、実はそうなんだ。でも、ここまで変態だと思わなかったから、なんか複雑なんだ。」
ヨ:「マリー、すごすぎない?森田さんとアンネも変態だと思ったけれど、それ以上なんだ。」
ツ:「三咲さん、私とアンネのどこが変態なんです。」
ヨ:「公衆の面前で若い女が素っ裸で、抱き合うのを変態といわないの?」
ア:「私とツグミは、そんな、恥ずかしい事していません。」
ツ:「そんな覚えは無いわ。三咲さん、何時誰と誰がそんな破廉恥な子としたんですか?」
ヨ:「瞳が言っていたとおりだ・・・。二人とも、酔っぱらうと記憶が飛ぶんだ・・・。」
マ:「そうなんですよ。この二人、記憶が飛ぶんですよ。あっ、エマを起こさなきゃ・・・。」
ア:「マリコ、待ってよ。私もマリアさま起こしにいくから・・・。」
ツ:「ちょ、ちょっと待って!私もご主人様起こすからね。アンネ。マリアさまと二人の身支度を頼める?」
ア:「いいよ。ツグミは、食事の支度に専念して。ヨシエさん、ツグミの料理は本当に三つ星レストランのシェフ並みです。
楽しみにしていて下さいね。」
ヨ:「そんなに上手いの?」
マ:「もちろんです。瞳様は、いつも、ツグミの料理を食べられて幸せだと思います。」
ツ:「真理子・・・。褒め殺しをしないで・・・。三咲さん、シャワーを浴びていてください。タオルは用意しておきましたから。」
ヨ:「森田さん、ありがとう。遠慮無くシャワー使わせてもらうからね。」
ピ:「ツグミ、マリコ、アンネ。みんなを起こしにいこうよ。」
ツ:「鞭あったんだ?マリー。」
ピ:「うん。ツグミ、さあいくよ。」
ツ:「あっ、待ってよ。」
森田は瞳を起こすと、手際よく、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用移動用スタンドに据え付け、
瞳の唇に軽く唇を合わせた。
速見瞳(以降、ヒ):「つぐみさん、朝からキスされるなんて照れちゃうよ。」
ツ:「ご主人様、何を言っているんですか、いつものことじゃないですか。」
ヒ:「そうなんだけれど、つぐみさんと私の関係が違うものになったからなのか、何かいつもの気持と違って、
恥ずかしい気持でいっぱいになっちゃうんだよ。」
マリア=リネカー(以降、リ):「ヒトミ、それは、つぐみを本当に受け入れたという証だと思うよ。」
鈴木エマ(以降、エ):「マリアさんの言うとおりですよ。今日の瞳さんとつぐみさんを見ていると妬けてきちゃうんですよね。
今までは、簡単に見過ごせたことなのに・・・、今は、何故か妬けちゃうんだよね。」
リ:「エマ、それは、ヒトミとツグミの関係が、真の恋人になったということかも。二人が一つになった証なんだよ。」
マ:「瞳さまとつぐみの関係の変化を、エマは女の子としての勘が鋭いから敏感に感じているだけなのよ。
でも、私たちにとっては、つぐみが瞳さまと一つの関係になったことは、歓迎するべきことなんだよ。
瞳さまとつぐみの関係が何があっても揺るがないと言うことは、私たちと瞳さまの関係がおかしくなったときに、
つぐみが今までよりもいっそう良質の潤滑剤になってくれるということなのよ。私も、ちょっと寂しい気もするけれど・・・。」
ツ:「マリアさんもエマさんも真理子もやめてください。本当に照れちゃいます。」
リ:「でも、ヒトミとつぐみの間の壁みたいなものが無くなったことは、我々みんなが望んでいたことだからね。
お互いが好き理解者であるカップルを見ているのは楽しくなるものだからね。」
ア:「マリアさま、私たちも、ヒトミさんとツグミにあやからなくちゃ。」
リ:「・・・。アンネ・・・。ところで、昨日もおまえは、つぐみと全裸で愛し合っていたんだぞ。覚えているのか?」
ア:「マリアさま、イヤですね。そんなことを私が、絶対にするはずが無いじゃないですか。
マリアさま以外への身持ちは完璧に堅いんですよ。」
ヒ:「マリアの言うとおりだよ。つぐみさんも覚えていないとは言わせないよ。
あんなに二人でよがり声を上げていたんだからね。」
ツ:「私が、そんな、いやらしいことをご主人様がいないところで見せるはずがありませんっ!」
ヒ:「あ〜あっ。マリア、このふたり完璧に覚えていないよ。」
リ:「そうだな。こいつらの酔い方は、自分たちに都合が悪いことは一切覚えていないんだからタチが悪いよ。」
ヒ:「本当に・・・。」
リ:「お互いに、この十字架を背負っていこうな。ヒトミ。」
ヒ:「そうだね、マリア。今度は、飲み会の様子を録画しておこうよ。動かぬ証拠を突きつけてみたいよ。この二人に・・・。」
ピ:「ヒトミさん、マリアさん、そんなことしたら、きっと大変なことになりますよ。」
ヒ:「マリー、どういう事?」
ピ:「ヒトミさん、私が言いたいのは、そんなものがこの世に存在してしまったら、
流出してしまった時に厄介だって言っているのです。」
ツ:「マリーの言う通りね。もし、流出した時、ご主人様、マリアさん、エマさん、
ジャンヌさんの4人のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが全員入っていて、
それも、完全なプライベートで、普段のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーで
スーパーF1マシンに取り付けられている時ではない表情の映像なんて、マニア垂涎の一品だものね。
きっと、ネットオークションでもの凄い値段が付くに決まっているわ。」
ヒ:「よしてよ、つぐみさん。」
ピ:「ヒトミさん、ツグミが言っていることは、冗談じゃないんですよ。それぐらい、
ヒトミさんとマリアさんの映像はマニアの間では価値があるんです。それに、ツグミの人気も、
マニアの間では高くて、最近は、ヒトミさんを凌ぐと言われているんです。寄りつきやすい感じがするけれど、
よくよく考えてみると高嶺の花と判断せざるを得ないヒトミさんよりも、下町に咲く可愛い花で、
近寄れる可能性の高いツグミ狙いが増えているみたいですよ。だから、4人の映像にツグミの全裸が入っているとすると、
もの凄いお宝映像になるでしょうね。さらに、ユダヤ系ドイツ人の純然たる血が流れているアンネの裸体は、
もの凄いんじゃないかつて評判なんですから・・・。アンネの裸体を見たいという声もちまたに強いんですよ。
そんな映像まで入っているビデオなんて、一体いくらの値段で取引されるのか想像が付きませんよ。」
ツ:「マリー、やめてよ。私は、裸でアンネとなんか抱き合っていないもの。それに、私が人気あるわけ無いでしょっ!
ご飯を作っているから、早くみんなでシャワーを浴びてしまってちょうだい。ご主人様たち、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの朝のメンテナンスも手を抜いちゃダメよ。今日は、また、
みんな飛行機で移動なんだから。」
森田は、そう言うと、キッチンに向かって部屋を出て行ってしまった。
リ:「・・・。ツグミのヤツ、怒っちゃったぞ。マリーどうするんだ?」
ヒ:「そうだね。つぐみさん、つぐみさんにしてはかなりムッとしていたよ。あんなに怒るつぐみさんはそう無いからね。
でも、絶対にアンネとの醜態を毎度さらす事実は認めないんだよなぁ・・・。頭が・・・。」
ア:「ヒトミさん、鎮痛剤持ってきましようか?マリアさまも、お飲みになりますか?さっき、頭が痛そうだったですからね。」
ジャンヌ=マルロー(以降、ジ):「ヒトミさん、マリアさん、本当に頭が痛いよね。ツグミとアンネのあのお酒の飲み方、
何とかして欲しいよね・・・。」
ヒ:「ジャンヌ・・・、ホントだね。」
ア:「お酒の飲み方のことで、ヒトミさんとマリアさまにとやかく言われたくありませんっ!」
ヒ・リ:『・・・。』
エ:「お酒の飲み方に関しては、さすがのマリアさんも瞳さんも何にも言えないよね・・・。大体、マリアさんと瞳さんが酔っぱらうと、法律という概念が変わってしまうものね。」
リ:「お黙りっ!エマっ!私とヒトミの何処が酒癖が悪いというのっ!」
エ・ジ・ア・マ・ジ:『全て!!』
ヒ:「マリア、私たちの負けかもよ。全員に言われちゃね・・・。」
リ:「そうかもしれん・・・。不満はあるが・・・。負けを認めざるを・・・。」
その時、キッチンから森田が戻ってきて、
ツ:「みんなっ!!何しているの!!?料理が出来ちゃうでしょっ!!
無駄口たたいていないでさっさとシャワーを浴びてくださいっ!!」
ジ:「ヒトミさん、ツグミさんって怖いんですね。」
ヒ:「ジャンヌ、そうなんだよ。怒ると半端じゃ・・・。」
ツ:「だからっ!無駄口言ってないで、シャワーを浴びてくださいっ!!!」
ヒ:「・・・。」
森田の言葉にみんなは時間が早送りで動き出したかのように動き出したのだった。
ツ:「みんな、可笑しかったですよ。まるでDVDを早送りにしたみたいにみんな動くんですもの。」
マ:「あのねぇ〜〜!つぐみ〜〜〜。つぐみが一喝するもんだから、みんなが速攻で動いたんでしょ。」
リ:「いざとなると、ツグミが一番怖いかもしれん・・・。」
ヒ:「マリア、人ごとみたいに言わないでよ。私は、いつも、その被害にあっているんだから・・・。」
ツ:「ご主人様、被害って何ですか・・・?」
ヒ:「・・・。」
ツ:「私は、何も、皆さんを叱っているわけではなく、暖かいものは暖かいうちに、
冷たいものは冷たいままでいただいて欲しいから・・・。」
ヨ:「そうよ。森田さんの言う通りよ。せっかくの森田さんの手料理がさめちゃったら台無しでしょ。」
ヒ:「好恵だけ、つぐみさんのフォローに回っちゃって・・・。ずるいよ〜〜〜っ!」
ヨ:「へっ、へっ、へっ。そうか・・・。」
ツ:「三咲さんは、皆さんのためを思っていってくださっているんですよっ!ご主人様っ!マリアさんっ!
それを裏切り者みたいに言うんじゃありませんっ!」
ヒ・リ:『はい・・・。』
エ:「つぐみさん、こわ〜〜〜〜っ!」
ヒ:「エマちゃん、そう思うでしょ。つぐみさんが一番怖いんだよ。」
エ:「そうかもしれませんね。でも、私、今は、つぐみさんの味方です。
だって、つぐみさんのお料理美味しそうなんだもん。」
マ:「瞳さま、エマは、つぐみの料理に身を売り飛ばしてしまいました。私は、・・・。」
リ:「マリコ、じゃあ、美味しいと有名なツグミの料理をおまえは食べないんだな?」
マ:「えっ!!??マリアさまで裏切っている・・・。私も裏切っちゃおうっ!」
ツ:「みんな、裏切るとか、裏切らないとかというものじゃありません。みんなで楽しく、冷めないうちに食べましょう。
それに、私は、ご主人様の喜ぶ顔が見たいから、一生懸命に料理を作るんです。」
ヒ:「わ〜〜〜い。つぐみさん。つぐみさんのお料理だ〜〜〜ッ!」
ツ:「はい。これをみんなで食べて空港に出発しましょう。」
ア:「ツグミ、気合いはいっているね。私も、マリアさまだけなら、これぐらい気合いを入れられるけれど、
9人分の料理をしかも、こんな短時間に作るなんて・・・。さすがにツグミだよね。
伝説のスーパーサポートスタッフの本領発揮といったところだよね。」
ツ:「アンネ。おだてても何にも出ないよ。」
ピ:「ツグミ、そんなことないわ。私は、ジャンヌと二人の時でも、こんなにこったものを作れないもの。
もっと勉強しなくちゃ。」
マ:「つぐみの料理はプロのコックが作るよりも旨いって評判だよね。それにここでお目にかかれるなんて・・・。
いつも食べさせてもらって、勉強になることばかりだもの。私も、エマのために頑張らなくっちゃって気持ちになるよね。」
ツ:「みんな、褒めすぎだよ。私は、何も大したものを作っているつもりはないのよ。」
ヨ:「そんなことないわ。あんまり謙遜をしないで。森田さんは、どこの一流レストランの料理長に
スカウトされてもおかしくないほどだもの。ヒトミは、こんな料理をいつも食べることが出来て幸せだね。」
ヒ:「うん。と言いたいところだけれど、私の身体のことを気を遣ってくれているから、
いつもいつもこんな豪華版を食べさせてくれるわけじゃないんだ。」
ツ:「ご主人様には、申し訳ないのですが、手脚のない身体では、素体部分の筋肉などに脂肪が付きやすいので、
いつもは、脂肪燃焼効率のいいもの、ヘルシーなものをご主人様の体内検知モニターの個体消費カロリーメーターの
数値をもとに算出して献立を考えていますから、豪華な食事にするのは大体週一回程度にしているんです。
今回も、飛行機の移動や外泊で、EMSシステムと接続する時間が充分でなかったのと、
暴飲暴食状態で過ごさせたので、ご主人様の日常消費カロリーが、あまり満足いくような数値になっていませんので、
こんな料理を食べさせたくなかったのですが、幸い帰りの飛行機では、時差調整機能の関係で、
時間がたつスピードが私たちは速く感じますので、生体部分の混乱を避けるために、食事の時以外は、
半覚醒状態の移動モードでの移動で過ごしてもらいますので、その間にEMSと接続しっぱなしにしておけば、
カロリー消費とトレーニングの足りない分を解消できると思っていますので、思い切って、
皆さんもいらっしゃることなので、豪華な食事にしてみたんです。」
ヒ:「ブ〜〜〜〜ッ!!それじゃ、私、ウィーンから成田まで、強制的筋肉プルプル状態になるわけ?」
ツ:「そうですよ。」
ヒ:「つぐみさん、事もなげに言うけれど、それって、結構きついんだよね・・・。イヤじゃあ〜〜〜〜〜ッ!!!」
嫌がる瞳に対して、森田がその耳元で囁いた。
《ご主人様、マリアさんと年末の新年会で、何も食べることも飲むことも出来なくていいんですか?》
ヒ:「・・・・・・・。」
エ:「あれっ?!つぐみさん、何を瞳さんに囁いたんだろう?急に黙っちゃった。」
リ:「エマ、きっと、ツグミにヒトミはニューイヤーは絶食だとか何とか囁かれたのに違いないさ。」
エ:「マリアさんの言うとおりだと思います。」
その時、アンネもマリアの耳元で囁いた。
《マリアさまも瞳さんと一緒で、暴飲暴食が続いていますし、トレーニングをしていませんから飛行機の中では、
EMSに繋ぎっぱなしにしますから覚悟していてくださいね。そうしないと、
マリアさまも寂しいニューイヤーを迎えなくちゃならないですよ。》
リ:「・・・・・・。」
エ:「あれ??!マリアさんも黙ってしまった・・・。」
マ:「エマ、あなたもトレーニング不足よ。瞳さまとマリアさまの横で、同じようにEMSに繋ぎっぱなしにしておくわよ。
それも、あなたはトレーニング量がシーズンオフに油断して落ちているから、この機会に、
瞳さまとマリアさまよりも一段階きつい電気刺激を流して、こってり絞ってあげるからね。」
瞳とマリア、それに、エマの3人が口を揃えて叫んだ。
ヒ・リ・エ:『私たちのサポートスタッフって、ひょっとして本当はサディスト??!!』
ヨ:「3人とも、違うわよ。それだけ愛されているということよ。」
ヒ:「好恵・・・。人ごとだと思って・・・。」
リ:「そうだよ、ヨシエ。十数時間の間、強制的に筋肉を動かされた状態にされ続けるって言うのは辛いものなんだぞ。
電気信号によって機械的にプログラムされたとおりに勝手に筋肉が動き続けて、
それを自分の意志で止められないんだから、体力の限界を過ぎても、
永遠にトレーニングが続く拷問を受けているようなものなんだからね。」
ヨ:「だって、自分で、きついと思ったらEMSの電源を切ればいいじゃない・・・。あっ!ゴメン・・・。」
ヒ:「好恵、そうなんだよ。私たちには、どんなに辛くてもスイッチを切るということが自分自身で出来ないんだ・・・。」
ヨ:「瞳も、マリアも、エマちゃんも、それに、ジャンヌもゴメン!!謝る・・・。」
エ:「三咲さん、いいんですよ。気にしなくて。」
ヨ:「エマちゃん、ありがとう。でも、みんなと何の違和感もなく付き合っているから、つい・・・。
それに、瞳とマリアなんか、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーになる前からの付き合いなんだけれど、
その頃とちっとも変わらないように思えちゃうから、つい・・・。」
ヒ:「だから、いいって言ってるじゃないの。好恵にとって、私たちが手脚があるみたいに
錯覚してしまうほどサポートスタッフのみんなが、私たちの身体の一部になっているって言うことなんだから。」
リ:「そうだよ、ヨシエ。でも、実際には、私たちは、アンネたちサポートスタッフがいなければ日常の生活が送れないし、
自分の身体にさえ触れることが出来ない身体のサイボーグなんだからね。私たちは、
スーパーF1マシンを動かすためのコントロールユニットでしかないんだからね。
その目的で標準人体から作り替えられたサイボーグだもの。」
ヨ:「本当に、みんな、ゴメンっ!」
エ:「三咲さん、私たち、そんなことは気にしていませんからいいんです。」
ヒ:「そうだよ。好恵。私たちは、このような身体になることを納得した上で、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーになるためのサイボーグ改造手術を受けているんだもの。
だから、サポートスタッフという手脚になってくれる存在に依存して日常生活を送ることも覚悟の上なんだから、
気にしなくていいよ。でもね、つぐみさんは仕事だと感じて、割り切ると厳しいんだから・・・。」
リ:「それは、アンネも一緒だよ。嫌になっちゃうよ。普段の立場が逆転するんだから・・・。」
エ:「真理子さんだって、普段は、優しいお姉さんで、しかも、私のビアンのパートナーなのに、
仕事だと割り切ると怖いんだから・・・。」
ジ:「私の場合は、普段もマリーが女王様だから、この時が怖いと言うことはないんですが、
仕事モードにはいると妥協をしてくれなくて・・・。」
ツ・ア・マ・ピ:『私たちは、仕事なんですっ!仕事モードに入ったら、
絶対にスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに妥協しちゃいけないって教えられているんですっ!』
ピ:「だから、ジャンヌにもいつも以上に意地悪になっちゃうし・・・。」
ヒ・リ・エ・ジ:『・・・・・・・。』
ヨ:「瞳たち4人も、いつもは、主役なのに立場が逆転することもあるんだね。」
ア:「それに、ある一定以上のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの我が儘は、
心を鬼にしてでも拒絶するようにみんな教えられているし・・・。」
ツ:「アンネの言うとおりだよね。でも、私は、それが出来なかったために2人のドライバーを
不幸な結果に終わらせてしまった・・・。だから、ご主人様だけは、瞳さんだけは、どんなことがあったって、
私が原因で不幸にさせたくもないし、ご主人様に万が一のことがあったら、今度こそ、
この身を犠牲にしても守って行かなきゃいけないんです・・・。もう、誰も不幸にしたくない・・・。
しちゃいけないんです・・・。サポートスタッフの役割は重いと思っています・・・。」
ヒ:「ほらっ!みんなが我が儘なこと言うから、つぐみさんが泣いちゃったでしょっ!」
リ:「我が儘を言ったのは、ヒトミ、お前だろっ!」
ヒ:「そうか・・・。」
ツ:「ご主人様、私のために道化をしなくってもいいです。私は大丈夫です。だって、私には、ご主人様がいるんだから、
史上最強の魔女がきっと私を守ってくれるはずです。」
ヒ:「魔女って、誰?」
ヨ:「瞳、あんたよ。」
ヒ:「そうか・・・。つぐみさん、大丈夫だよ。魔女は死なないんだから・・・。」
ツ:「そうですよね。約束ですよ。」
ヒ:「うん。」
ツ:「もう一つ、約束してくださいね。」
ヒ:「何を・・・?」
ツ:「トレーニングを嫌がらないで受けてくださいね。ご主人様は、いくら機械化率の高いサイボーグ体で
構成されたスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとは言え、筋肉などの生体部品や内臓器官に
脂肪が付くと取り返しのつかないことになります。それに、人工血管に脂肪が付着するのが、
サイボーグ体にとっては致命的なダメージに繋がることがあるんですから。生体血管でさえ、
付着しやすいコレステロールや脂肪は人工血管では、尚更なのを自覚してくださいね。
脂肪による血管収縮を抱えたご主人様を見ていたくありませんからね。」
ヒ:「わっ、判っているって・・・。」
ツ:「そうですか・・・?去年みたいに、テストの前に体重が増え過ぎちゃって、急激な減量をしなきゃならなくなったら、
容赦しませんからね。」
ヒ:「つっ、つぐみさん、それだけは勘弁してよ〜〜〜〜っ!あれは辛かったんだから・・・。」
ツ:「それなら、駄々をこねないでくださいね。」
ヒ:「はい、反省します。」
ツ:「よろしいっ!それじゃ、ご主人様、お食事にしましょう。何を取りましょうか?」
ヒ:「まず、つぐみさん特製のコンソメがいいや。」
ツ:「好かった。私も、ご主人様が真っ先にスープと言ってくれると思っていたんです。」
ヨ:「マリア、もう、仲直りしちゃったの?あの2人・・・。」
リ:「そうみたいね。今までなんかよりも、かなり上手くいっているみたいだな。今まで以上に仲が良くなっている・・・。」
マ:「マリアさま。おとといの出来事が、つぐみとヒトミさんをより太い絆でつなぎ合わせてくれたんですよ。
いいことじゃないですか。つぐみには幸せになって欲しいもの。」
エ:「そうですよ。瞳さんとつぐみさんには、私たちの理想のパートナーであって欲しいですもの。」
リ:「エマも、大人の発言をするようになったな。」
リ:「マリアさん、からかわないでください。」
ジ:「そうですよ。マリアさん、エマをからかっちゃ駄目ですからね。」
リ:「はい、はい。ジャンヌとエマの仲の良さもスーパーF1界で有名だからな。」
ピ:「私もマリコも、2人のサポートスタッフなんですが、あの仲の良さには呆れます。
でも、ヒトミさんとマリアさんの仲も本当にいいじゃないですか?」
リ:「そうか〜〜〜〜〜っ?」
ア:「そうですよ。マリアさまとヒトミさんは、ケンカ仲間ですけれどね。」
マ:「きっと、マリアさまは、瞳さまがいなくなったら寂しく思いますよ。
日本の諺に“ケンカするほど仲がいい”って言うのがありますからね。」
ヒ:「真理子さん、それは、夫婦の関係の言葉じゃなかったっけ?」
マ:「瞳さま、聞いていたんですか?恥ずかしい・・・。」
ヒ:「うん。でも、私とマリアは、本当に腐れ縁って言うやつだから、これでどっちかがいなくなると、
本当に寂しく思っちゃうと思うよ。だから、マリア。引退する時は一緒だからね。」
リ:「そうだな。でも、私よりも、この世界には、瞳が少しでも長くいてもらわないといけないんだからな。
私が引退するからと言ってお前が引退したら、この世界の恨みを一身に私がかってしまうことになるだろ。
お前は、スーパーF1界、いいや、モータースポーツ界の頂点に君臨する女王陛下であり続けなくてはいけないし、
それがお前の使命なのさ。」
ヒ:「そうかなあ・・・。でも、マリアがいなくなったら、張り合いがなくなるかもね。」
エ:「ヒトミさん、マリアさんの言うとおりです。マリアさんにも引退して欲しいなんて思わないけれど、
ヒトミさんには、マリアさんになんか関係なく走り続けて欲しいです。
いつまでも、私たちに影すら踏ませてくれない“プリンセスヒトミ”であり続けて欲しいんです。
いつまでも、大きな目標であり続けてください。」
ジ:「私も同感です。ヒトミさんには、私たちの目標として走り続けていてもらいたいんです。」
ヒ:「それは、出来ないよ。いくら私だって、このスーパーF1マシンという、
史上最強のモンスターマシンを制御するのには、神経組織の老化が大敵なんだよ。
その老化は30を過ぎてから急速に進んでしまうから、そのあたりが、
スーパーF1マシンの制御ユニットとしてのスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの寿命なのよ。
私だって例外じゃないもの。」
エ:「・・・。そんなことないです。瞳さんは、魔女で女王様ですから、きっと人間とは違っていますもの。」
ヒ:「オイ、オイ、エマちゃん、私を妖怪みたいに言わないでよ。」
リ:「だって、そうだろ。エマの言うことは本当だもの。第一、お前には影がないからな。」
ヒ:「おのれ〜〜〜っ!メデューサが何を言う。お前の後ろに何人の石の柱が立っているか解らんだろうがっ!!」
ア:「マリアさまも、ヒトミさんも、止めてください。マリアさま、早くつぐみの手料理を食べないと、
ヨシエさんがブリーフィングの時間に間に合わなくなります。」
リ:「そうか・・・。ヨシエ、オーストリア航空に言って、出発の時間をずらしてやろうか?
そうすれば、そんなこと気にせずにご飯を食べられるだろ?」
エ:「マリアさんの本領が・・・。」
ヒ:「ねっ、エマちゃん、アングロサクソンの女は怖いでしょ。それに比べて、私たち、大和撫子はお淑やかだもんね。」
エ:「はいっ、瞳さん。」
リ:「あのね〜〜〜っ!ヒトミもエマも、よく言うよっ。ジャンヌ、私たち、ヨーロッパ人同士で仲良くしような。
東洋人の迫害に耐えような。」
ジ:「わっ、私は、フランス人です。日本人なんかに負けないくらいお淑やかな貴婦人なんです。ドイツ人とは・・・。」
リ:「おのれ〜〜〜〜っ!どいつもこいつも石にしてくれるわっ!」
ヒ:「マリア、本性が出たね。」
リ:「・・・。」
ヒ:「あっ、そろそろ、本当に急がないと、飛行機にも間に合わなくなっちゃうよ。」
ツ:「ご主人様の言うとおりです。少し、おしゃべりが過ぎましたね。ちょっと急ぎましょう。」
ア:「マリアさま、食べてから、少しおかないと、移動の時に苦しくなります。
それに、移動中のEMSトレーニングがもっと辛いものになっちゃいますよ。」
リ:「やっぱり、受けなくちゃダメ?」
ア:「ダメですっ!ヒトミさんに勝ちたくないんですか?」
リ:「それは・・・。」
ア:「ヒトミさんは、ツグミはあんなこと言っていますけれど、ちゃんと影でトレーニングをしているんですよ。
今朝、寝る前だって、ツグミにEMSトレーニングシステムに僅か30分だったけれど繋いでもらっていたんですよ。
ヒトミさんは影で努力をしているんですからね。天才に努力されちゃったら、どうするんですか?」
リ:「・・・・・・。」
ア:「だから、マリアさまも、遊ぶ時間を削っても、トレーニングをしてください。
それに、ヒトミさんのトレーニングの横で、それを見ながら、それ以上のことが出来るチャンスなんですよ。」
リ:「ヒトミのことを引き合いに出されると、ぐうの音も出ん。ヒトミっ!天才は努力しちゃいかん!」
ア:「ヒトミさんのことを責めるのは筋違いですっ!反省してください。」
リ:「はい・・・。」
ア:「解ればよろしい。」
リ:「・・・。」
ヨ:「立川さんもマリーも目が点になっているわよ。」
マ:「はい・・・、正直に言ってビックリです。ツグミもアンネも、先輩2人は、やっぱりすごいなって、
自分の担当のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーをいい方向に持っていくのなら、
我が儘なんて受け付けない毅然とした態度を持ち続けられるし、その上に、愛情がこもっているんですよね。
私には、あそこまで毅然として、ジャンヌに接することが出来るだろうかと考えちゃいました。」
マ:「私も・・・。エマを甘やかし過ぎちゃいないかって思っちゃいました。」
ツ:「そんなことないわ。ちゃんと、バランスを保って、サポートスタッフとしての職務をこなしているもの。
2人とも優秀だと思うわ。」
マ:「つぐみに、そう言われると自信が湧いちゃうな。」
ツ:「私は・・・、毅然となんて・・・、本当の意味で出来ないわ・・・。本当は・・・、私、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーのサポートスタッフ失格の烙印をとっくに押されているんだもの。
ご主人様にお慈悲をもらってここまできているだけなのよ。」
ヒ:「つぐみさん、そんなことないよ。私は、つぐみさんがいてくれなかったら、今頃どうなっていたか解らなかったもん。」
ツ:「でも、私は、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの我が儘を・・・。」
ヒ:「つぐみさん、それは、もう言わないって言う約束でしょ。」
エ:「そうですよ。つぐみさんは、不幸な事件に巻き込まれた被害者です。
でも、今は、瞳さんというパートナーと巡り会えて、これからじゃないですか。」
ツ:「エマさん、どこまで知っているの?」
リ:「ツグミ、ゴメン。私が全てのことを話した。何故、ツグミがヒトミのサポートスタッフになったのか。
そして、あの忌まわしい、モータースポーツ界にとって消し去ろうとしても消し去れない事件の全てを
エマとマリコに話したの。それに、ヒトミとツグミの間に今までは遠慮が少しあったこととその理由もね。
ヒトミと一緒にツグミが、追悼ミサに行くのは何故かをふたりも知る権利があると思ったからね。」
ヒ:「マリア、ありがとう。私、エマちゃんと真理子さんには、いつか機会を見て全てのことの話しを
してあげなくちゃいけないと思っていたの。若手のドライバーとスタッフにもあの事件を伝えていくのが、
私たちの役割じゃないかって、つぐみさんと話していたんだよ。」
ツ:「そうなんです。事件に直接関係した人間である私や、詳細を知っている立場で
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーであるご主人様が、
積極的に若手のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーやサポートスタッフに事件の真相を語って、
二度とこのような不幸な事件が起こることがないようにするための伝道者になろうって話していたんです。
それが、私たちに課せられた役割なんだと思うんです。」
ア:「でも、ツグミ、つらい思い出に、ツグミが押しつぶされるのが心配。」
ツ:「アンネ。大丈夫だよ。私には、ご主人様というよき理解者であり、私の最高のパートナーで、
しかも庇護者の方が、私に付いているんだもの。大丈夫だよ。泣きたくなったら、ご主人様が慰めてくれる。」
リ:「ツグミ、変わったな。」
ツ:「マリアさん、私、過去を引きずらないように思うことが出来る自信がつきました。
もう、ご主人様しか愛する人は見えない。私の心の中には、“速水瞳”以外のご主人様はもういません。」
リ:「そうか・・・。ヒトミのものにツグミが完全になったんだな。そう思ってもいいんだな。」
ツ:「マリアさん。完全というのは自信はないんですが、私の心の中には、レミもフランツも、もういません。」
ヒ:「つぐみさん、レミもフランツもいなくなることはあり得ないよ。思い出は、つぐみさんの中にとっておくべきだし、
私がそれを忘れ去れという権利はないよ。」
ツ:「ご主人様・・・。ありがとうございます。でも、そうじゃないんです。私は、今まで、ご主人様に甘えていたんです。
もっと、私がしっかりしなきゃ、本当の意味でのご主人様の僕になれないし、サポートスタッフとしても失格だと思います。
私、頑張りますから・・・。」
ヒ:「うん。つぐみさんとこれからも二人三脚だよ。」
ヨ:「瞳、二人三脚っていっても、あんたに脚はないんだから、2人2脚だよ。」
ヒ:「ひど〜〜〜いっ!好恵、人のあげあしをとらないでよっ!」
ヨ:「ごめんごめん。」
ツ:「さて、ご主人様、それに皆さんも食事が終わったようですから、空港にみんなで移動しましょうよ。」
ヒ:「そうだね。」
リ:「ヒトミ、ツグミたちは、片付けもあるだろうから、1時間後に
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用移動バスを手配しておいた。」
ヒ:「さすが、マリア。それじゃ、日本に向けて出発と行きますか。」
ア:「そうですね。マリアさま。私、マリコとマリーとツグミと一緒に後片づけをしてきちゃいます。」
リ:「そうだね。ジャンヌとマリーはパリに帰るんだったよね。」
ジ:「マリアさん、違いま〜〜す。昨日、みんなと同じ便の東京行きをとっちゃいました。
だから、東京で新年会で〜〜〜す。飛行機のキャビンは、みんなと同じ個室で一緒にしてくれって、
オーストリア航空に頼んでオッケーをもらっています。東京の新年会楽しみだな。」
ヒ:「ねえ、ジャンヌ、年明けのFMの新車のテストでインディアナポリスに行くんじゃないの?」
ジ:「ヒトミさん、大丈夫です。それに間に合うように、3日の東京からインディアナポリスの手配もしちゃってますから。」
リ:「ヒトミ、嫌な予感が・・・。」
ヒ:「マリア、私も同じなんだ・・・。ジャンヌにサービスするとか言って、恵美さんが調子に乗らなきゃ好いけれど・・・。」
ピ:「私も、心配なんです。ジャンヌは、おっとりしていて、人の誘いを断れないから、
ツマカワ監督の誘いに引きずられるんじゃないかって・・・。」
ジ:「大丈夫よ。マリー。私は、そんなに優柔不断じゃないもの。」
ピ:「嘘言わないのっ!つい最近、FMの社長の誘いを断り切れなくて、飛行機に乗り遅れかけたばかりじゃないっ!
それも、ついふ2日前の話なのよっ!」
ジ:「マリー、大丈夫だってばっ!。あの時は、FMの社長のお誘いだったんだもの。私の契約主だから、
気を遣ったけれど、ツマカワ監督は違うもん。」
ピ:「そうだと好いけれど・・・。」
ヒ:「でも、このメンバーで日本で新年が迎えられるのは好いことだよ。たっぷりと、日本流の新年を楽しんで、
来期の鋭気にしてね。」
リ:「ヒトミ、フォローになってない・・・。」
ジ:「はいっ!ヒトミさんっ!ありがとうございますっ!」
エ:「わ〜〜〜いっ!ジャンヌと一緒だ!楽しもうね。」
ジ:「うん。エマ。よろしくね。」
ヒ:「マリー、本当にいいの?」
ピ:「ヒトミさん・・・、実は、ニューヨークからこちらに向かう飛行機の中でも話をして、言い争いになったんですが、
ジャンヌは、あの天真爛漫な性格で、しかも、マリアさんとヒトミさんのお二人の新年会が久方ぶりに
東京であると聞いたら、絶対行くって言って言い張るんです。エマとも、ゆっくり話がしたいんだって譲らないんです。
私、根負けしちゃって・・・。」
ツ:「ご主人様、カンダとFMの関係は、ご主人様とマリアさんが問題を起こしたときのように微妙な関係じゃありません。
それに、ジャンヌさんなら、ご主人様とマリアさまのような問題を起こすほど、無茶苦茶な娘じゃありませんから、
大丈夫だと思いますよ。」
リ:「ちょっと〜〜〜っ!私と瞳のどこをとって無茶苦茶というの?ツグミ、教えて頂戴ッ!?」
ツ:「はい。全部です。」
ヒ:「あれっ!?つぐみさん、あっさりと言うね。」
リ:「そうだよ、ツグミ、あっさり肯定しすぎじゃないの?」
ア:「私もツグミの言うことはその通りだと思います。マリアさまとヒトミさんのどこをとって、
無茶苦茶な人生じゃないって言うんですか?どこをとってごく普通の人生だって言えるんですか?教えて欲しいです。」
リ:「・・・。」
ヒ:「マリア、一緒に耐えようね。」
リ:「うん・・・。瞳、強く生きよう・・・。」
ヨ:「マリアも瞳も人間治外法権なんて言われちゃうんだから仕方ないよ。東京では、自粛しなきゃね。」
ヒ・リ:『好恵(ヨシエ)、あんたも一緒だよ。せいぜい、今の職場を追放されない程度にしなよ。』
ヨ:「おまえたちに言われたくない。」
ジ:「エマと一緒のお正月・・・。」
エ:「うん、ジャンヌと一緒だよ。」
ヒ:「二人ともウキウキなんだけれど・・・。」
リ:「マリコ、この二人、いつからブリッコになったんだ?」
マ:「不思議ですよね、マリアさま。二人の会話になると、幼児性が前面に出るんですから・・・。」
ピ:「そうなんですよ。エマと二人だけの時の会話を聞いたら、
あのサーキット上のきつい性格がどこから来るんだろうって思いますよね。」
マ:「マリー、そうだよね。きっと、ファンも引くはずよ。」
エ・ジ:『マリー(さん)もマリコ(真理子さん)も、私たちはいつも可愛い娘なのっ!』
マ・ピ:『ど〜〜こ〜〜がじゃ〜〜〜っ!』
エ:「絶対、醜いカエルにしてやる〜〜〜ッ!」
ジ:「絶対、石にしてやる〜〜〜ッ!」
ア:「やれやれ、エマさんは、ヒトミさんの世界の人間になっているし、
ジャンヌは、マリアさまの世界の人間になっちゃっているし・・・。
もう一組のマリアさまとヒトミさんが出来上がっちゃったみたいで頭が割れそうに痛いです・・・。」
ツ:「アンネ。本当だよね。マリアさんとご主人様は一組だけでも手に負えないのに、それが2組なんて・・・。
地球人類の滅亡に繋がる問題だよ・・・。」
ヒ:「なっ、なんてことを言っているの?つぐみさんもアンネも・・・。私とマリアは怪獣でも、怪人でもないもんっ!」
リ:「そっ、そうだよ。アンネもツグミも何を言っているの・・・。」
ヨ:「魔女とメデューサじゃないの?こいつらが二組になったら、確かに地球が滅びるかもしれないわよね。」
ヒ・リ:『好恵(ヨシエ)まで、よしてよ。』
マ:「瞳さま、マリアさま、三咲さんもツグミもアンネも決して冗談で言っているんじゃないですよ。
地球の未来を心配しているんです。」
リ:「マリコッ、石にするぞっ!」
ヒ:「いいや、ブタにしてやるっ!」
マ:「ひっ!」
ツ:「本当に、もう・・・。マリアさん、ご主人様、それじゃ、自分たちが魔物だと言うことを認めたようなものじゃないですか。」
ヒ・リ:『そうか・・・。』
ツ:「それより、片付けと出かける仕度も出来ましたし、空港までの足も到着したようですよ。そろそろ、出かけましょうよ。」
ヨ:「さすがにスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーのサポートスタッフが4人で掛かると早いよね。
もう終わっちゃったんだ・・・。」
ツ:「三咲さんの身の回りの物も仕度しておきました。洗濯物は、洗濯して乾燥させていますから、
乾燥出来次第、カンダスーパーガールズのスタッフに三咲さんの自宅に送る手配をさせますし、
化粧品とか下着とか消耗品は、補充して鞄に入れておきました。出過ぎたことをして申し訳ありません。」
ヨ:「ちょ、ちょっと・・・。森田さん・・・。」
ツ:「ごめんなさい・・・。余計なことして・・・。」
ヨ:「違うの・・・。感心しちゃったの・・・。こんな短時間で・・・、
私の好みから使用品の銘柄まで把握して用意するなんて・・・。
凄いと思って。それに、こんな短時間で全て用意できるなんて凄いと思ったの。」
ヒ:「だって、つぐみさんは、スーパーAランクのサポートスタッフだよ。これぐらいは当たり前だよ。
私は、つぐみさんに助けてもらいっぱなしだもの。」
ツ:「ご主人様、止めてください。私は、サポートスタッフとして当たり前のことをしているんです。
それよりも、出発しますよ。」
三咲は、この数日間で、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーにとってのサポートスタッフの重要性と
そのサポートスタッフの優秀さを再確認する想いであった。
特に、森田の優秀さ、そして、瞳と森田の信頼と愛の深さを痛感するのだった。
彼女たちは、社会的地位を補償され、莫大な報酬を補償されているとはいえ、手脚を取り除かれ、
不自由な日常生活と、いつも誰かに見られて、助けをかりて生きていかなくてはいけない生活にも、
瞳たちがストレスを感じ無いどころか、排泄の管理やセックスまで森田たちに身を委ねて、
安心して生きていけることを理解できたのだ。
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーにとって、サポートスタッフの存在は、単に恋人でもパートナーでもなく、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの分身であるという意味が本当に理解できた数日間であった。
三咲は、自分の恋人であるリカルド=ポンテとそのサポートスタッフのルカ=メネンコフとの関係をより深く理解でき、
自分がその二人との良好な関係が完全に築けるヒントをこの8人からもらったように思えた。
三咲の心には、リカルドとメネンコフの二人を生涯一つの人格としてみていける自信のような物が湧いてきたのであった。
ヒ:「つぐみさん、今回のウィーンは、最高だったね。一面が真っ白な街を見られたのと、
つぐみさんの愛をもっと身近に感じられて、最高だった。」
ツ:「はい。ご主人様、大好きです。」
空港へ向かう車の中でも、お互いの愛を確かめ合う瞳と森田の姿は印象的であった。
瞳にピッタリと寄り添う森田の姿に、いかに瞳が自身の愛を受け入れてくれたとはいえ、エマも立川も、
さすがに二人の間に入り込むことは不可能なことなのだと言うことを感じずにはいられない思いだった。
しかし、エマも立川も、瞳と森田のそのような関係が築かれることが、自分たちと瞳の関係を阻害するものではなく、
むしろ、さらに好転させる要素になることを感覚的に感じ取っていた。
だから、瞳と森田の姿を好意の目で見つめていられたのだ。
そして、瞳と森田の関係の根底にあるつらい過去を理解したことが、今後の瞳との関係の中で自分たちにとって、
大きな宝物になったことも理解できていたのだ。
特にエマは、このクリスマスの出来事全てが瞳という女性の本当の魅力、そして、
森田の女性としてのすばらしさを知るという、人生最高のプレゼントをもらった思いだった。
エマは、今、改めて、瞳とその分身である森田を大事にして、掛け替えのない関係を構築しようと誓ったし、
それが可能なことなのだと確信していたのだ。
エマは、この旅で一つ大きく成長し、次のシーズンで精神的安定から来る、
次の次元の走りを見せることが出来ることになるのだが、この時点では、
エマに自分自身に芽生えた自覚を感じ取れることはなかったのである。
一方の瞳は、もちろん、森田との愛を深める旅になったのだが、森田との関係が安定することにより、
“プリンセスヒトミ”としてのスーパーF1での地位を確固たるものにするシーズンを迎えることになり、
現役引退の年にスーパーF1史上での伝説を作ることになるのである。
また、私生活においては、森田、エマ、立川、河田、木村という美女のハーレムに更なる新たなメンバーが
加わることになるのだが、そのへんの話は、また後日と言うことになる。
そんな、スーパーF1の女子選手とそのサポートスタッフを乗せたオーストリア航空125便の東京行きが、
一昨日降り立ったマリアテレジア空港を離陸し、東京へ向けての順調なフライトをしていくのであった。
この後、年末年始の東京で、瞳とリネカーを中心とした馬鹿騒ぎが繰り広げられるのだが、その一週間後、
カンダの社長である溝口が、ニューヨークのFM本社ビルに出張している事実は、
この9人と一緒に馬鹿騒ぎの先頭に立った妻川にも報告されることはなかったのであった。
しかし、親友であるはずの妻川と溝口は、その後、パースのシーズン開幕まで、
溝口は会話をしようとしなかったことも事実なのである。
〜(完)〜
やっと、レーシングガール外伝1を完結させることができました。
クリスマスパーティーという副題なのに、いつの間にか夏になってしまったのは、
ご愛敬として、お許し下さい。
次回は、レーシングガールの外伝の別の話題になるか、まったく別の新作になるか、
まだ、決めてはいませんが、もう、次のSSの構想はいくつもできあがっています。
投稿を決めるのは、私の頭の中での主人公の暴れ方次第になると思います。
でも、未だに、ヒトミが、頭の中を暴れ回っているので、外伝2ということになるんじゃ
無いかと・・・。
いずれにしても、今回も、つながりのない話を最後まで投稿させていただいて、
ありがとうございました。
…ここ、何人見てるのかな?
ほ
一人目!
2人目!!
3人目!!
4人目!!
5人目!!
302 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 23:45:35 ID:gTqm4SwJ0
五人そろって、
8れんじゃ
(^o^)ノ 8人目!!
>>302 「ジュウレンジャー」十人だと思ってた漏れガイルorz
305 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 01:48:44 ID:hPDPgWxs0
9人
カクレンジャーを核レンジャーと思っていた友人をもつ俺ザンギエフ
307 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 09:52:41 ID:2NTkoBIj0
核パルス艦に乗って居ないはずの11人目が来ましたよ。
>>294 そう言えばまだクリスマスだったっけ?。時の経つのは早いもので達磨娘祭り1周年が目前ですね。
こちらは暫く首外し路線に走っております。
ということで久しぶりの続きです。
(”ケンタウリ”の続きです。)
−−(2)制憲会議−−
今日は、東宮が試作品の恒星間航行要員用ボディを着けたまま工場衛星から降りて来た。
明日は制憲会議だというのに随分はしゃいでいるようだ。
若いのだからはしゃぐのも仕方がないが、少しは皇家の体面も考えて欲しいものだ。
まあ、本当は自ら恒星間艦隊を率いたいところを我慢させているのだから悪いのは私なのか。
適任者さえいれば、本来なら東宮にはもう少し年長の者を充てるべきかも知れない。
だが、最初の恒星間航行にあたっては送り出した宙軍大臣が初めに帰ってくる艦を出迎えるべきだ。
それを遂行できる者は華子4世しか居ない。気の毒だが、それがあの娘の巡り合わせである。
皇族はみな、帝國の発展段階に間に合わせるべく選ばれた遺伝子を持って生まれてくるのだ。
私だってそうだった。だが、私は冥王星1番乗りの栄光に浴しただけ幸せだった。
上級皇族SNS・皇帝朝子10世のブログより
308 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 09:53:26 ID:2NTkoBIj0
(帝都 宮殿)
亜依羅:「東宮様、ただいま戻りました。」
華子4世:「公家邸に寄る暇もなく呼び出して済まなかったわね。
実は私も工場衛星の開発部門を回ってきて地上に降りたばかりなのよ。
明日には制憲会議でしょ、その前にどうしても貴女と相談しておきたくてね。
まずは無人航路標識艦の放出成功ご苦労様でした。」
亜依羅:「成功と言いましても航路標識としては甚だ心許ない代物ですよ。
なにしろ目一杯加速したところで放出時の速度は光速の1%にすぎません。
まだイオンエンジンで加速を続けていると言っても殆ど誤差ですからね。
5年後では、オールト雲の障害物すら余程大きな物しか検知できないでしょう。
恒星間飛行艦はすぐに追い越してしまいますよね。」
華子4世:「まあ、発進したら半年で追い越すことにはなる罠。
それでも初期加速中の核パルスノイズがきつい期間だけはカバーしてくれる訳だ。
それに、アレを飛ばした主目的は追い越した後の通信中継だったでしょうが。
もちろん、元老院に対しては航路の安全確認が進んでいるという既成事実になるがね。」
亜依羅:「乗員の立場からは先行艦が障害物を検知してくれる安心は大きいですよ。」
華子4世:「もう自分が行く気で居るようね。でも選考はこれからなのよ。」
亜依羅:「有栖公の内諾は得てありますから余程のことがなければ落ちませんよ。」
309 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 09:55:55 ID:2NTkoBIj0
華子4世:「希望者は多いのよ。それに各公家の意向と能力だけでは決まらないわ。
単に飛行の安全だけを考えたら優秀な航宙士ばかり集めれば済むでしょう。
でもね、最終目的は技術と文化、風俗習慣を含めた地球の待避所を作ることなのよ。
それには雑多な趣味や能力のある者をバランス良く集める必要があるわけ。
それに、通信に片道何年もかかる以上、そこには皇帝の直接統治が及ばないでしょ。
だから、送り込まれる皇族や分公家の勢力バランスだって考慮しないといけないわ。
いくら体を機械化したって地縁血縁のような人間の本能は抑えようがないんだからね。
つまり、現地の政治バランスを保つために優秀すぎる人が除かれる余地もあるのよ。」
亜依羅:「私でしたら十分遊んでますからそのような観点からも相応しいかと。
で、ご相談ごとは何でしたっけ。」
華子4世:「今の話とも関わるのだけど、今日、青の公家廟を訪ねておきたいのよ。
おたくは経験の蓄積を重んじて早くから廟のシステムを整備してきたでしょ。
婚姻によってシビリアン上がりの一代貴族を編入する取り組みも熱心だったしね。
つまり、あそこは帝國で最も雑多な経験が蓄積されていることになるわ。
それに、桃子たちと共同でES細胞を用いた残留脳補修実験もやっているわね。
桃子の話だとIQが30以上残っている残留脳は相当多いんじゃないの?。
それなら聞き出せる経験もかなりあてに出来るわ。実験結果自体も重要だし。
もし、現役の者に適用できる成果があれば遠距離航行限界の概念も変わってくるわ。」
亜依羅:「廟をお訪ねいただくのは一向に構いませんがお役に立つかどうか。
IQ30と言いましても脳のどこが生き残っているかで反応はまちまちです。
ES細胞による脳修復だって元に戻るのではなく新たな神経回路が加わるだけです。
どんな機能が加わるかも残留脳の気まぐれ次第でして、コントロールは出来ません。
若いとき計画的に採取されたES細胞ではないから活性もいまいちなんです。
ご多忙の折に無意味で聞き苦しい戯言ばかり聞かれるのは如何なものかと。」
華子4世:「制憲会議で議員に何を言われるか前例がないから予想もできないわ。
今は、戯言のお告げにでも頼りたい気分なのよ。」
310 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 10:28:11 ID:2NTkoBIj0
(青の公家邸)
亜依羅:「有栖公、ただいま戻りました。」
有栖:「お疲れさま。あ、東宮様!。どういうこと?。何か失敗をしでかしたのかい?。」
華子4世:「中将、ご心配なく。私の勝手な用件で憑いてきたのです。」
亜依羅:「東宮様は、廟のご視察を所望されております。」
有栖:「どうぞご存分に、そうだわ、小間使い、お供え物にアレを用意して頂戴。」
小間使い:「お持ちしました。5本で宜しかったでしょうか。」
亜依羅:「十分よ。どうせ、すぐ覚醒できるのは多くて4,5柱でしょう。」
華子4世:「アメリカンドック!?。変わったお供え物ねえ。」
亜依羅:「最近入った先祖に好きな者が居て、伝染したのです。理由は見れば判ります。」
311 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 10:29:27 ID:2NTkoBIj0
(地下 青の公家廟)
廟守:「頻繁なお参りとは殊勝ですね、亜依羅侯。あ、そちらは東宮様。」
亜依羅:「今日は東宮様がご視察をお望みでね。調子いいの何柱か居るかな?。」
廟守:「先ほど桃子侯が実験のためお入りに。桃子侯の方がお詳しいですから。」
亜依羅:「解ったわ。桃子に聞いてみましょう。東宮様、こちらからどうぞ。」
桃子:「亜依羅、3柱で脳細胞残存率が増加できたわよ。あ、東宮様!一体?。」
華子4世:「どうやら良いところに来たようね。1つは貴女の実験に興味があって。
後は、明日の制憲会議に備えて、ここの亡霊達の意見も聞いておこうかと思ってね。
廟のシステムはここのが最も歴史が長く、亡霊の数や種類も揃っているでしょう。
前例のないことに取り組むときは雑多な経験がヒントになることも多いからねえ。」
桃子:「興味を持たれる意図はよく解りますが、まだ実用出来る状況ではないです。
5柱に培養ES細胞を注入したところ、3柱で明らかに脳細胞生存数が増加しました。
しかし、その3柱で増えた脳細胞が意味のある回路を構成したとも言い切れません。
現役サイボーグの寿命延長に使うには相当長期間のデータを取らないと無理です。」
華子4世:「その長期間というのが5年弱か10年以上かで随分話が違うのよ。
もし、200年を超える寿命が得られたら可住惑星が発見済の星系が狙えるわ。」
桃子:「単に生命に関わる安全性だけを評価するなら3年で出来るでしょう。
しかし、サイボーグ自律行動基準を超えるIQを維持出来るかはわかりません。
いや、その点はここの亡霊と話されれば幻滅なさるでしょうね。」
亜依羅:「とにかく覚醒させてみましょうか。実際知能が上がったか話せば判ります。」
312 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 10:31:12 ID:2NTkoBIj0
桃子:「一番条件が良いのは、新しい方の2柱ですので、それにしましょう。
えと、生命維持装置睡眠モードから通常モードに、代謝モニターは...
代謝量に基づく脳細胞残存率が67%と63%、これは入廟時に対してです。
ES細胞注入前の値が62と60でしたから、増えた分が新規の神経細胞です。
但し、その間も死滅する分があるので実際の新規分はそれ以上になるわけです。」
真理亜:「むっ、誰もおらんのか。奴隷はどこだ。逃げたな。お仕置きしてやる!。
誰か、奴隷を捕まえてこい。それから電気鞭をもてい...。」
マサ:「ううう、どこかにいい鴨は居ないかなあ。えへへ...くんくん。あっ。
そこの親切な人、フェラ焼き持ってきてくれたのね。お願い、ねえってば、クレクレ。」
亜依羅:「お供えを求めているわね。与えても良いかしら?。」
桃子:「マサ侯の方は危険性が無さそうですので、腕の動作を許可してみましょう。
どうぞ。先代公の方は危なそうなので落ち着くまで止めておきましょう。」
亜依羅:「ご先祖様、フェラ焼きですよ。」
マサ:「おお、ありがたや、レロレロ、べろんべろん太い太い...」
華子4世:「なるほど、お供えにアメリカンドックが必要なわけだね。」
亜依羅:「いつもこんな調子なのです。今日はいくらか欲求が激しいように見えますね。」
桃子:「実際そうでしょう。生着した新規神経が既存部分の強い箇所に誘導されるのです。
この2柱は亜依羅の先祖のうちでも最も欲望のおもむくままに生きてきた方だったそうね。
したがって、既存部分の強い箇所が明瞭で新規神経が憑きやすいのでしょう。
そのために比較的老いたES細胞でも生着が進んだのだと考えられます。」
313 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 10:51:10 ID:2NTkoBIj0
華子4世:「なるほど。脳細胞は容易に増やせても有用な方向に導くのは難しいかな。」
桃子:「そういうことです。そして脳自体より教育や生活環境の問題になります。
廟の亡霊や非人で実験したのでは有用な方向への刺激が少なくて成果が上がりません。
また、まとめて注入するより毎日少しずつ補充するほうが生着率も上がるでしょう。
したがって、ある程度安全性を確認後は長期航行中の艦で実験するしかないと思います。
艦内なら常時任務をこなすため刺激もあり、閉鎖環境なので状態管理もし易いのです。」
華子4世:「痴呆症のシビリアン向け施設で被験者を募るというのはダメかしら?。」
桃子:「無理でしょうね。一旦すぐ効果が判るほど脳細胞が減ったら脳幹が機能しません。
サイボーグは生命維持を脳幹に依存していないから大脳に生き残る部分が存在するのです。
この2柱は有脊髄型なので下位機能の老化状況も追えますがやはり一部を除き死んでいます。」
華子4世:「生き残る下位機能ってどこなの?。」
桃子:「この2柱では外性器対応部の残存率が高いです。再生も比較的盛んな部位ですね。
まあ、そのせいで投入したES細胞がそちらに喰われてしまってIQが戻らないのかも。」
華子4世:「それで、人工小脳型ばかりが揃い、緊張の連続で閉鎖環境な艦で実験したい?。
なんだか、恒星間航行艦乗員への自推を正当化したくて言っているようにも聞こえるわね。
貴女は元老院議員に選ばれたばかりで任期があと6年あるからかなり厳しいわよ。」
桃子:「所詮互選だから代わりは居ますよ。明日の制憲会議は目一杯協力しますから。」
華子4世:「ふふ。ではとりあえずこの2柱がもう少しまともに口を利くようにしてね。」
桃子:「おやすいご用です。身体制御CPUの覚醒パルス振幅を上げてみますよ。はい。」
314 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 10:53:14 ID:2NTkoBIj0
マサ:「れろれろ、がぶっ、あ、ご免、食いちぎっちゃったよ。あれ?。あら有栖!。」
亜依羅:「亜依羅ですが。」
マサ:「亜依羅だったの。そっくりだから判らないわ。えと、そちらの方は?。」
亜依羅:「頭部外装パーツを同じ職人にやらせていますので仕方ないですね。
今日は東宮様がご視察にお見えです。ご先祖様から長期航行の経験を引き出したいと。」
マサ:「え?。一体今は何年なの?。私の知ってる東宮様は...ダメ思い出せない。」
亜依羅:「皇紀195年です。現皇帝は朝子10世陛下、現東宮は華子4世殿下です。」
マサ:「もうそんな時代だったっけ。で、何でしたっけ?。」
華子4世:「長期航行中の生活で困ったことについて知りたいのよ。
最近は人工小脳型サイボーグが充足し、カイパーベルトに農産施設付き工場も配置されたわ。
それで火星以遠の航行が核パルス推進艦ばかりになって任務期間が短期化してる訳ね。
貴女が現役の頃は旧式のイオン推進艦で冥王星に行っていて4年間とか当然だったでしょ。
最近は補給地で手軽にボディをすげ替えて地上並みの生活するのが当然になっているしね。」
マサ:「長期任務で辛かったのは、繁華街がない事かな、あとブランドファッションとか。
一体どこまで行くのですか?。カイパーベルトの先に惑星でも見つかったのですかね。」
華子4世:「近隣の恒星を目指すのよ。近々出来る機関だと最短片道40年ね。」
マサ:「それって殆ど一生じゃ!。一生繁華街に行けないなんて気が狂いそうorz。」
真理亜:「繁華街より奴隷が必要よ。思い切り苛め甲斐がある奴隷がね。」
315 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 10:54:23 ID:2NTkoBIj0
亜依羅:「あ、先代公、落ち着かれたのですね。」
真理亜:「とっくにね。つっこみ入れるタイミングを待っていたのよ。40年か、長いな。
反抗的な非人を揃えておくが良いわ。すぐにめげる奴では飽きてしまうわよ。」
華子4世:「繁華街に非人か。かなり荷物が増えてしまうわね。」
桃子:「実験用に非人は必要ですが、繁華街はそもそも無理でしょう。」
華子4世:「都市型とまでは行かぬが増結コンテナの直径と長さは100m以上になる。
1個増やせば、耐G性に問題がない造りは難しいが街を再現するのは不可能でもないな。
着陸に適当な天体がない場合に備えて、基地衛星を築く資材は積まねばならないしね。
街に男が居ないのが問題かな。ダッチアンドロイドの利用も考えなくてはいけないかも。」
マサ:「眠くなってきたよ。その前にお供えもう一本おくれ。」
真理亜:「藻前は廟に入っても相変わらず怠け者だな。ふああ、だるい、あっ、いかん。」
桃子:「覚醒パルスの効きが落ちているようです。もうじき限界ですね。」
華子4世:「十分だわ。いまいち確信がなかった部分がはっきりして良かった。
帰ろうか。桃子、明日の制憲会議では宜しく協力頼むわよ。」
亜依羅:「でわ、ご先祖様、ごきげんよう。お供え置いていきますのでごゆっくり。」
316 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 11:18:00 ID:2NTkoBIj0
(翌日、制憲会議@帝國議事堂・元老院議院議場)
元老院議長:「第1回制憲会議を開会します。皇帝趣旨説明。」
朝子10世:「では召集要請の主旨を話します。今般の要請は恒星間植民計画に伴うものです。
他星系に領土が拡がった場合、最も近いアルファケンタウリでも通信に片道4.3年を要します。
これを皇帝が直接統治するのは不可能です。このため、皇室や公家の制度改正が必要なのです。
お手元の素案
http://pinksaturn.fc2web.com/cen/teikokukenpou.htm 後半が改正条項になります。
素案の作成は東宮を座長とする恒星間植民検討委員会がまとめた物です。
したがって、本日の質疑に対する答弁は主に東宮が行います。誤解のないよう言っておきます。
帝国憲法は、厳密には欽定憲法ではありません。この制憲会議に発議権があります。
したがって、ここで十分な討議を行って皆さんの責任で発議を行って頂くことになります。」
元老院議長:「では、衆議院選出議員団より代表質問をどうぞ。」
衆議院代表:「えー、改正素案を拝見しますに、改正条項は私どもへの影響は無いようです。
私ども衆議院は民生に関わる制度および予算につき責任を負う議院であります。
事の本質が、軍事外交案件に属するならば元老院主体で話を進めればよい気もいたします。
シビリアンに関わりのある要素があれば教えていただきたいのですが。」
元老院議長:「答弁者、壇上に。」
(答弁映像1
http://pinksaturn.fc2web.com/cen/hana-seikenkaigi1.htm )
317 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 11:19:48 ID:2NTkoBIj0
華子4世:「確かに、本改正案で帝國におけるシビリアンの地位が変わることはありません。
ただ一つ、元老院議院定数表の帰還者枠にシビリアンの割り当て分も加わるというだけです。
しかしながら、この改正案はそもそも恒星間航行の開始を前提としたものです。
恒星間航行という前例のない巨大プロジェクトを行えば帝國経済への影響も甚大です。
幸い、カイパーベルト資源を独占している現状では民政予算の減少は予想されません。
しかし、これが諸外国を刺激して新たな宇宙軍拡競争を呼ぶ可能性もあります。
また、経済に重大な影響が生じなくとも宙軍シビリアン出身兵には大いに影響があります。
計画開始時の搭乗員は志願者を充てる事になりますが、将来もその通りとは約束しかねます。
状況によっては、異星系への渡航を強制的に命じられ、そこで人生を終える者も出るのです。
帝國宙軍は終身兵役制を採用してはいますが、今まで十分な地上休暇が保証されていました。
また、サイボーグ兵の死亡事故も少なく、諸外国の軍に比べ気楽な面も多かったのです。
未踏の星系への渡航となれば、このようなQOLは一切保証できません。
現時点でこの冒険に参加する利点はただ一つ、他星系に子孫を広げる可能性だけです。
植民地から資源がもたらされる可能性が少しはあるとしても、100年以上先のことです。
このような将来のリスクと可能性も込みで議論に臨んでいただきたい。」
衆議院代表:「金星のように一般シビリアンが入植する余地はあるのでしょうか?。
帝國はまだ良い方ですが、資源枯渇により地球の暮らしは年々窮屈さを増すばかりです。
シビリアンの生活圏も広げられるなら一時苦労してでもと言う者も多いと思いますが。」
318 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 11:22:11 ID:2NTkoBIj0
華子4世:「一般シビリアンの星間航行は凍結受精卵で運ばれる形でしか実現しません。
現存の者は素体適性と耐G特性がなければ行けません。現地出生者の帰還も同様です。
財政面からは、単に地球滅亡に備えたリスクヘッジにいくらかけられるかという話です。
費用は、星間航行艦と積み込まれる燃料・資材の調達費、人員の育成費が殆どです。
発進時には想定される全てのケースに必要な物資を揃えて持っていくようになります。
星間航行艦の発進時重量は100万d前後、人員は50名ほどを想定しています。
人員以外は殆どが宇宙資源から生産でき、1隻の質量が年間資源収集量の5%相当です。
重量比では発進時重量の90%が核融合燃料とそれを包む弾体で占められます。
この重量比を抑えるため途中で船体中間の貨物コンテナを解体して弾体の素材とします。
それでどうにか現用カイパーベルト航路艦の2倍ほどの有効ペイロードとなります。
単艦だと大きな事故があればお終いなので5隻程度の艦隊を組むことになります。
発進してしまえば太陽系からの支援は出来ないので通信を除くサポート費はありません。
狙い通りに開発可能な天体が見つかれば後続艦の運航という追加費用が発生します。
人員については現地で素体が生産できるようになれば流出と流入を均衡させられます。
現地の資源状態により後続艦の積む物資は変わるので、今は見積もりが出来ません。」
衆議院代表:「大きな事故というのは何を想定しているのですか?。
高速航行中に艦の間を行き来することは可能なのでしょうか?。」
319 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 11:42:37 ID:2NTkoBIj0
華子4世:「最も恐ろしいのは物体との衝突です。対策は早期発見と回避に尽きます。
惑星規模の物体なら数時間前からレーダーに映るし、余程黒くなければ光学的に見えます。
一番怖いのは、発見が遅れやすい100キログラム程度の石質小隕石です。
見つけてから0.1秒で側面バーニアに点火して回避しないと間に合いません。
これより小さければビームで破壊できるし当たっても緩衝区画で食い止められます。
艦どうしの行き来は、核パルス推進中でなければ精密に速度を合わせられます。
ただし、艦外活動中の物体衝突が怖いので、やむを得ないとき以外はやりません。
衝突以外にありうる事故としては核パルス推進装置が故障し修理困難となることです。
爆風受け自体は強度が大きいですが、燃料弾の射出装置が故障することはあり得ます。
半数が故障しても航行できるよう余分に搭載しますが、絶対と言うことはないので。」
衆議院代表:「艦載原子炉の暴走事故は想定されませんか?。」
華子4世:「艦載炉は点火用核分裂物質生産を兼ねた重水炉になるので事故率は低いです。
これも絶対はないので、緊急時には数分以内で1基毎独立に投棄できるようにします。
乱暴なようですが、地上と違って投棄さえ成功すれば誰にも迷惑が掛かりません。
投棄後も半数までなら失っても航行に差し支えないよう十分な台数を搭載します。」
衆議院代表:「事前に無人艦を飛ばして航路の障害を確認したほうが良いのでは?。」
華子4世:「一応既に行っていますが、無人艦で核パルス推進を行うのは困難です。
このため、既存の核パルス推進艦から無人化した旧式艦を射出する方法で行いました。
この方法ですと速度が光速の1%程度しか出ないため、先行できる期間が限られます。
いずれ恒星間航行艦に追い越され、以後は航路確認から通信中継に役目が変わります。
この先行期間は、核のノイズでレーダーの働きが低下する発進加速時をカバーします。」
衆議院代表:「減速時も同様に危険性が高まるのではないですか?。」
華子4世:「減速時は核パルスの爆風が前方の小物体を吹き払うので比較的安全です。」
320 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 11:43:32 ID:2NTkoBIj0
衆議院代表:「艦の規模に関してですが、100万dと言えば工場衛星なみの規模です。
現在核パルス艦は全て火星軌道で建造していますが、遠いため作業員の稼働率が劣ります。
この体制で、5隻もの巨艦を建造するならもっと徴兵が増えるのではありませんか?。
シビリアンからの素体供出はもはや限界だと思うのですが?。」
華子4世:「恒星間航行艦はイオンエンジンだけで星系内航行が出来る仕様になります。
したがって、建造場所は核パルスが使えない地球軌道上でも良いことになります。
もちろん今後とも優良素体の供出に努力していただくようお願いすることにはなります。
しかし、素体適性を度外視した無理な徴兵をするつもりは毛頭ございません。」
衆議院代表:「これ以上詳細を伺っても私どもには話が難しすぎるようですね。
判ったことは、非常に予測困難なリスクが多く参加する者は覚悟が求めらることです。
それから当面は私どもの暮らしに無理なしわ寄せが来ないだろうと言うことですね。
これでは衆議院の態度をまとめられません。各自の価値観で票決するしか無いでしょう。」
華子4世:「肝心なことが判って頂けて幸いです。」
元老院議長:「では、元老院議員団代表質問をどうぞ。」
元老院代表:「我々元老院は皇族、貴族が主体でシビリアン議員も宙軍兵が多いです。
一般シビリアン議員も閣僚経験者や学界、財界から選ばれているので事情を知っています。
したがって、宇宙資源の獲得状況を直に見た者が多く、財政的懸念はあまり出ていません。
むしろ、身辺に恒星間飛行要員を志願する者が居るため生活上の問題に関心があります。
恒星間飛行中は生命維持物資生産に家畜が使えないということが最大の関心事ですね。
となると、サイボーグのボディが家畜に依存しない機能を備えうるのかまず確認したい。」
華子4世:「既に試作機が完成しており、菜食のみで生活可能なことを確かめました。」
元老院代表:「人柱なら玄米で生存可能でしたが人間型で消化装置が収まったのですか?。」
321 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 11:44:37 ID:2NTkoBIj0
華子4世:「昨日、工場衛星に出向いて実物を試用し問題がないことを確かめました。
そのまま借りてきたので、お見せしましょう。ぬぎぬぎ...この通り完成しています。
(答弁映像2
http://pinksaturn.fc2web.com/cen/hana-seikenkaigi2.htm )
核パルス推進時の被曝から消化装置を護るため胴の下半分が厚い金属外骨格です。
最下部には生殖組織が搭載できる専用生命維持装置も組み込まれています。」
議員一同:「うおお、(一部の者:ラッキー、こんなところで東宮様の裸が拝めるとは)。」
元老院議長:「お、おっほん、あー東宮様、議場で全裸はいかがなものかと。」
華子4世:「このボディは耐圧強化のため開口部が局限され乳首や外性器がありません。
見た目はチュ−ブトップのレオタードと変わりませんから道徳上の問題はないでしょう。」
元老院議長:「御意。質疑を続けていただいて結構です。」
元老院代表:「外性器がないと精神衛生や生活習慣の維持が難しいのではありませんか?。
また、生殖組織の搭載が可能と仰せですが、そのボディで出産が可能なのでしょうか?。」
華子4世:「このボディは現用の人工小脳型向けボディと首ソケットの互換性があります。
したがって手軽にボディをすげ替えられます。艦の安全な区画には休養エリアを設けます。
よって核パルス推進を停止する巡航中ならば交代で地上用ボディにすげ替えて暮らせます。
休養区画には世界各国の繁華街を模した施設を設け、地球全体の風俗習慣を持ち込みます。
もちろん、有害な宗教的思想に基づく習慣が持ち込まれないように内容は十分吟味します。
出産についてですが、航行中は絶対不可能ですから現地の素体生産可能環境が前提です。
このボディはメンテナンスのために金属外骨格部を前後に分割切り離し出来る構造です。
したがって、可住環境でなら妊娠出産のために前面を弾性素材へと交換できるのです。」
元老院代表:「飛行に40年以上かかったら搭載する生殖組織が老化しすぎませんか?。」
322 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 12:04:43 ID:2NTkoBIj0
華子4世:「頭部と独立した生殖用生命維持装置は低温冬眠状態で生命維持を行えます。
ただ、子宮の搭載は搭乗員の1/4だけになるので産む機械が足りない問題もあります。
予備として任意の動物の受精卵を引き受けられる遺伝子組み替え豚の子宮も使用します。
本来は家畜を現地で再生するための資材ですが、あぶれた人間の受精卵も引き受けます。」
元老院代表:「なぜ半数でなく1/4だけ?。それに豚子宮だって劣化しませんか?。」
華子4世:「恒星間航行艦の乗員は片側の精巣か卵巣を搭載し反対側は地球に残します。
旧性が女の者全員が子宮を持っていくと地球の生殖バンクで子宮が逼迫してしまいます。
運悪く素体生産地を獲得できないリスクを考えると恒星間航行要員を優遇は出来ません。
豚子宮劣化の恐れもありますが、多めに積んでいって調子の良いものを人間に使います。」
元老院代表:「精巣の搭載によって男性帰りを起こし精神的に破綻する危険性は?。」
華子4世:「生命維持装置が完全に分離しているので技術的に危険性はありません。
ただ、気分的な問題というのは未知の要因です。絶対安全とは言えないでしょう。」
元老院代表:「生殖組織を個体搭載せず、艦載生殖バンクを設けたらよいのでは?。」
華子4世:「事故で全滅するリスクも考慮し、分散して各自で護らせることにしました。」
元老院代表:「現地生産素体間で出生子宮による差別が発生する恐れはありませんか?。」
華子4世:「そういう事が無いよう搭乗員の選抜や教育に際して十分配慮を行います。
但し、憲法改正案では現地の統治組織が殆ど全権を委任された独立性の高いものです。
ですから憲法を共有していても立法や行政の実務における解釈には幅があります。
我々が差別と考える行為が、現地の環境によっては合理的な区別になりうるのです。
即ち、差別の定義自体が不確定なので、そのような懸念は無視するしかありません。」
323 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 12:05:48 ID:2NTkoBIj0
元老院代表:「皇家や貴族による統制が崩壊することもあるのでは?。」
華子4世:「世代間参勤交代制によって現地出生者がそのまま支配することを回避します。
特に統帥権を持つ副皇帝と副皇太子の地位に就く者は地球からの渡航者に限られます。
本国との依存関係を保つため定期便による支援物資は渡航者に対する員数割りとします。
つまり、現地出生者が本国の援助を受けるのは、渡航者を通してのみ可能とするのです。
したがって、本国と極度に異なる価値観による統治が行われる可能性は少ないと思います。
現地出生者のうち特に優れた者は地球に向かう艦に乗り組んでしまうので競合しません。
帰還者の処遇を保証し現地の意見を政策に反映させるため元老院の定数を配分するのです。
現地で出生し素体適性が無かった者の立場は地球における一般シビリアンと同じです。
また、全ての渡航者は片側の生殖器官を地球に残すので本国との血縁が維持されます。
よって、シビリアン兵の子孫で渡航能力が無かった者もある程度の血縁は続きます。
地縁血縁は本能に根ざす感情ですから、地縁が薄い分を血縁で補うということです。
参勤交代と血縁の維持によって決定的離反は起きないものと考えています。」
元老院代表:「なるほど、生殖と参勤交代制の関わりが漸く理解できました。
質疑が長くなって恐縮ですが新型ボディについてもう少し確認させて下さい。
従来も手足用のファッション外皮や特殊な趣味の者向けに金属外皮はありましたね。
しかし、最重要部位を覆い外性器や乳首も無しとなるとかなり感覚が違うでしょう。
限られた休息時間を除いてこれが標準となると精神的影響が気になるところです。」
華子4世:「まだ48時間ですが、私が試した限りではさほど違和感はないですね。
ただ、首ソケットが互換だから誰でも同じように感じるという保証は無いです。
こればかりは、それぞれ自分で試していただかないと、判りません。」
元老院代表:「なるほど。ぜひ試してみたいものですね。」
華子4世:「宜しければ、どなたかこの場ですげ替わってみますか?。」
元老院代表:「そうしたいところですが、あいにく私は有脊髄型です。
そうだな、誰か若手で...桃子侯どうです?。」
324 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 12:06:43 ID:2NTkoBIj0
桃子:「望むところです。では、早速。」
華子4世:「こっちに来て首を外して下さい。そのまま持ち替えましょう。」
(答弁映像3
http://pinksaturn.fc2web.com/cen/hana-seikenkaigi3.htm )
桃子:「はい、じゃ、首交代ですね。制御入れ替え良いですか?。」
華子4世:「いいわよ、せーの、無線リンク交換。OKOK。」
桃子:「よし首差し込んで...繋がった。ああ、特に変わった感じはないかな。
ちょっと、体動かしてみましょうか、うん背を丸めるときは微妙に違うかしら。」
華子4世:「胴の上半分の柔軟性は通常型より大きく取ってあるのよ。
だから、全体的な姿勢は全く同じにとれるけど、曲がる位置が高めになるのね。」
桃子:「宙軍は背筋の伸びた姿勢のいい人ばかりだから普段は関係ないですね。
お辞儀をするときは股関節で角度を取った方が格好いいから、問題ないですよ。
このまま今日の閉会まですげ替わっていて良いですか?。」
華子4世:「他人用でも2時間は大丈夫だから存分に互換性を確認して下さい。
骨髄や肝組織は胴体搭載だから交換中は循環が中間液による透析式になります。
したがって、安全に首をすげ替わっていられる時間の制限は従来と同じです。
ごらんの通り、一般的な行動における違和感は少ないと思います。
外性器の欠如等の問題に関してはVRの活用と休養施設で補えるでしょう。」
元老院代表:「新型ボディの完成度についてはよく解りました。
あと一つ、恒星間飛行の目的地について確認したいと思います。
太陽系から近く可住惑星らしき天体としては、Red dwarf系 581c星が有名です。
あと10年もあれば核パルス推進システムを改良してこちらを探査できそうです。
皇紀200年という政治的意味を除けば急がず確実な方にと言う気もします。
アルファケンタウリを想定した計画の妥当性についてお答え下さい。」
325 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 12:44:49 ID:2NTkoBIj0
華子4世:「仰るような推進システムとは、レーザー核融合を指すのでしょう。
造機部門の見解では起動時のみレーザーが働く融合炉より相当難しいのです。
2発目からは強い戻り光のためレーザーが不安定になるという問題があります。
10年待てば解決できるというほどには改良の方向性が定まっていないのです。
開発過程で核実験を繰り返せば外国との宇宙軍拡競争が激化するかも知れません。
その結果、10年以内に太陽系が安全な場所でなくなる可能性だってあるのです。
また機関の強化が実現し巡航速度が速くなると衝突事故の回避が難しくなります。
私が調べた限りでは機関強化よりも乗員の寿命延伸が解決に繋がると思います。
それとて寿命さえ延びれば片道200年近い飛行が出来るとも言い切れません。
一桁短い飛行期間での実績なしにいきなり踏み切るのは無謀でしょう。
その実績となりうる適当な距離にある有望な星系はアルファケンタウリだけです。
ここは、近い上に3重星系ですから、統計的に未発見惑星がある確率も高いです。
しかし主星が太陽級のため可住惑星があっても太陽系からは観測が難しいのです。
2番目に近い重星系はシリウスですが、青色巨星と白色矮星の組み合わせです。
つまり過去の超新星爆発によって惑星が荒廃している可能性が高いでしょう。
シリウスより近い他の恒星は赤色矮星なので可住惑星がある確率はごく僅かです。
つまり、行けそうな範囲に他の有望な候補星系は無いということになります。
もちろん、観測技術の進歩に伴う可住惑星発見があれば、目標変更も考慮します。
そこで、資材が許す限り無人標識艦だけは各星系に向けて射出しておく予定です。」
元老院代表:「技術と計画面での準備状況については一通り了解できました。
ご提案のように計画実行のため制度を整備したいというのはごもっともです。
まだ私見ですが、元老院の考えを取りまとめるのは数日で出来るでしょう。」
元老院議長:「質問が一巡したようですので一旦散会したいと思います。
両院内の意見集約には48時間あれば宜しいでしょうか?。異議は無いですね。
それでは、3日後に制憲会議を再開します。」
(国会中継を終わります。次回予告(3)核実験)
>>325 懐かしい顔が死人として扱われちゃっていますね。
でも一応自我も欲求もあるようですが、この世界で生きている人と死人を
分けるものって何?
327 :
pinksaturn:2007/06/16(土) 22:27:28 ID:2NTkoBIj0
>>326 これは帝國だけの問題ではなく現実界においても真剣に議論されています。
脳死移植の解禁に際して、脳死判定基準に採用された自発呼吸がないなど脳幹の不可逆的機能喪失はいずれ必ず心臓死に至るという考えには疑問を唱える専門家も居ます。
つまり、人口脳幹が出来れば救命できるのだから脳死移植は殺人罪にあたるという考えがあるのです。
これが脳死移植に対する反対論の一因となっています。
また、小児の脳死移植が禁じられているのは臓器提供意志表示能力の問題以外に、子供は再生能力が高いので脳幹も回復するのではという可能性が否定しきれない事も背景にあるようです。
どこで読んだかソースは忘れました。
当然ですが、完全な生命維持装置が開発された帝國においては現実界の脳死判定は殺人になります。
完全な死とは大脳の細胞が全部死滅した状態を指します。
社会的には、大脳の生存領域が減少してIQが「サイボーグ自律行動基準」を下回ったら死人に準じた扱いになります。
将来、脳再生技術がさらに進んだ場合は生き返りを想定した法改正が必要になるでしょう。
全部で9人、か。小説スレみたいになっちゃって書き込みにくいから人が減ったってのもあるだろうな。
>>328 作品を投下する立場からすれば、投下された作品とは関係なく雑談もしてほしいなあと
思うのですが、ROMする側としては雑談しにくい雰囲気になっちゃってますかね。やっぱり。
ここは作品投稿スレだと思っているので雑談なんて想定外の提案です。
最初の頃はモロ雑談スレだったのに…。
さらには、どうも初代1は画像スレにしたがってたみたいだし…。
まあ賑わっている以上、現状に不満があるわけではないが。
作品投下してくれるのはいいことだけど、以前よりかなり過疎ってるとは思う。
でも329さんみたいに言ってくれると気が楽になるね、
過疎気味になっちまってるのは事実だろうなぁ
初期はイラストもチョイチョイあがってたけど、最近は全然だから
イラスト目当ての人は来なくなってるんじゃないだろうか
長編ばっかってのも一因だろうね
何スレも跨いでるような作品だと、まとめサイトがあっても読もうとするのはなかなか気力がいる
誰かサイト作ってくれ
…って、そういえばまとめサイトあったっけ。
url知らんけど。
337 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 09:30:04 ID:fRMaiFUJ0
補完庫のファイルだけでも莫大な量だな。
管理人のヤギー関係も加えればしばらくは楽しめる
管理人さん乙です
338 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 16:35:05 ID:eH6Qi4bpO
確かに莫大になるよね。15スレ目だもんね。過疎ってると言っても続いてるよね
このくらいでノンビリ回しているのが幸せだと思う今日この頃。
少人数でゆったり楽しむのが大人の楽しみってぇもんじゃあるまいか?
実際にこのスレの住人は、年齢層が高いように思うのだが。
だから、のんびり回している方がいいんだと思う。
>>340 SSのネタ元も古いの多いよね。スレの平均年齢ってひょっとして30超えてる?
会社に行けば部下もいる、家に帰れば妻も子もいるいい年したオッサンが
夜な夜なこんなところで何をやっているのかとw
俺もだけどね。
342 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 08:35:11 ID:pNJHljn5O
点呼の時見てなかった…
一人追加で。
ところで皆さんおすすめの作品ってありますか?
344 :
続き:2007/06/21(木) 12:59:53 ID:iDlJCbcm0
イラストのサイトならこことか
ttp://www.meganemusume.com/ あと息止めフェチの書いたサイボーグ娘(サイボーグメインというよりも息を止めて苦しむ
女の子の姿を描写するのがメイン)のネット小説が、確かこのスレで紹介されていたような
気がするがURL忘れた。世の中にはいとんなフェチがあるものだと(人のことは言えないが)
衝撃を受けた覚えがある。どなたかURLを覚えていたら紹介ヨロ。
他にも思い出したらメモ代わりに挙げていこうと思う。
保管庫から2リンク以内にたどり着くようなところは挙げなくてもいいよね。
345 :
続き:2007/06/21(木) 18:22:11 ID:iDlJCbcm0
346 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 22:18:14 ID:6pE2ToCp0
>>346 これは有料なんですよね。
読んだ方、どんなものでしょう。面白かったですか?
属性的に満足いくシーンはありましたか?
>>347 あ、そうそう。
ここの「武装銀妖精レイピア」だ。
ありがとう!
349 :
pinksaturn:2007/06/22(金) 01:15:06 ID:xTd8jEl90
感想
>>343 上 非人間型ながら拉致や徴兵、人身売買によらない改造という状況を成り立たせたところが面白い。
下 国連軍に拉致改造され人権を訴える途が完全に閉ざされているという救いの無さが萌えツボ。
サイボーグ体の表現はさすがに獣医(執筆時は学生)が書いたものらしく緻密。但し、テレポーテーションとワープは私的には受け入れがたい。なまじっか物理なんか知らなければ楽しめるかも。
(逆に私の書いたものは生命維持資源を豚に頼りすぎだと叩かれるかなwww。)
>>346 第一部は無料。有料の第2部も昔は各章のプレビュー版が公開されていた。
女子高生サイボーグが好きならとりあえず第1部は読むべし。第2部は敵が機械化改造でなくバイオ改造になるので私的にはパスで、有料版は読まなかった。
>>その他
http://w2422.nsk.ne.jp/~y.kita/zn_no06.html は結構気に入っていて読み返した。
>>保管庫
メタロリとウォータークーラーは印象強烈。自分で長いの書いていて言うのもなんだけど、短編の方が高視聴率というのは禿同。
352 :
続き:2007/06/22(金) 10:16:15 ID:Igs9Lyst0
353 :
adjust:2007/06/22(金) 13:40:40 ID:QQqS8yJr0
>>354 そのあたりは、このスレの住人にとっては既知だろう。
サイボーグ娘フェチの輪は狭いからね。
もっと隠れたオススメはないの?
>>355 確かに漏れも常連。さんざ探したが、やはり他には無いんだろうな orz
359 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 13:43:59 ID:4AEb5AXF0
>>341 いや、もっと上じゃない?
オレも昔の書き手だけれど50代、
妻子持ちw
追加点呼応答
>>343 下
の作者はブログで甲殻の義体を例に出し
「仕事等で義体を導入しなくてはならなくなったら、
多分あまり抵抗もなく今の体を捨ててしまえると思う。」
とおっしゃっている。
素体が一体見つかりました?
361 :
360:2007/06/23(土) 20:57:48 ID:0v0D0vwe0
誤字があるし・・・
知っている物ということで・・・
365 :
pinksaturn:2007/06/24(日) 11:44:19 ID:Qh7CRBlq0
>>343 下
>>359 こんな事態になればあるいは...
−−宮城県立宇宙防衛軍−−
20XX年、20.5光年を隔てたRed dwarf系 581c星より長躯来寇した豚型宇宙人ポーク人の大宇宙船団は問答無用で地球への侵攻を開始した。
大重力惑星で育った強靱な耐G能力といくらでも戦死者を補充できる凄まじい繁殖力を兼ね備えたポーク人の攻撃は凄まじく、地球各国の軍には歯が立たなかった。
豚を忌み嫌っていたイスラム諸国は真っ先に攻撃を受け、ことごとく壊滅した。
唯一の救いは、ポーク人の目的が可住惑星・地球の獲得にあり、居住不能となるような核・生物兵器を投入してこないことだった。
産油国の壊滅により追いつめられた人類は、国連に絶対統帥権を委ね、人類の技術を結集してポーク人に対抗するための新兵器開発が進められた。
だが、既に時遅く世界の主要都市はポーク人の超大型気化爆弾搭載降下艇による自爆特攻を受け、ことごとく壊滅させられていた。
首都・東京はじめ太平洋ベルト地帯の工業都市を全て失った日本では、北海道、東北、南九州、四国など豚の餌の生産地域のみが攻撃を免れていた。
政府は首都とともに事実上消滅し、いまや、機能している大都市は仙台だけであった。
戦前より厳しい警察への統制をしいていた宮城県知事・深山五郎は、警察への支配力を背景に東北地方の実効支配権を握り、県立宇宙防衛軍の創設を宣言した。
宇宙防衛軍の主力として動員されたのは、豚対策のプロであった県食肉センターの職員らであった。
総司令官を兼務した深山は日本の代表者を名乗り、国連本部に軍事援助を要請した。
しかし、国連から送られてきたのは援軍ではなく、新兵器の資料を収めたDVDと新兵器の部品を収めたコンテナだけであった。
事務のおばちゃん:「栃宮先生、総司令部からこんなものが送られてきました。」
栃宮:「司令部からの伝言はないの?。」
事務のおばちゃん:「”なんとかしろ”だけです。」
栃宮:「やれやれ。仕方ないわ。ものを見るしかないか。うーんこれは...。
なるほど、これを使えば豚に体力負けする事は無くなるわね。これを使って自分らの手でで豚を退治しろと言うのね。」
おそまつでした。栃宮先生の新作キボン。
なんかむちむちポークだな…。Caved?
ttp://www.geocities.jp/hokuman_hailaer/hokanko/index.htm 輪の中の作品もかき集めてみました。これで目下のところ日本一のサイボーグ娘リンク集になったでしょうw
それでもこの程度の数しか集まらないのですからやはり少ないですね・・・。ロボ娘系だったらこの十倍は
軽く集まるだろうに。
あと補完するとしたら、商業二次作品厳選リンク、男性モノ、医療技術系、海外モノといったところでしょうか。
>>360 これは知ってる?
メタリックエンジェル 中里融司 ファミ通文庫
メタリックエンジェル〈1〉虹色の少女
メタリックエンジェル〈2〉鉄氷の戦姫神
メタリックエンジェル〈3〉戦乙女(ワルキューレ)義勇軍
メタリックエンジェル〈4〉生命ある者たちへ
絶対ずれると思いますが…
このように分類するとどれが好きですか?
志願改造
(manplusゾーン) ↑ ・銀鉄(pinksaturenゾーン)
|
|
・リミット | ・銃夢
日常←―――攻殻―――→非日常
|
|
(人形姫ゾーン) | ・ガンスリ ・009
↓ ・サイカノ(M.I.Bゾーン)
強制改造
これでどうだ!
志願改造
(manplusゾーン) ↑ ・銀鉄(pinksaturenゾーン)
|
|
・リミット | ・銃夢
日常←――――――攻殻――――――→非日常
|
|
(人形姫ゾーン) | ・ガンスリ ・009
↓ ・サイカノ(M.I.Bゾーン)
強制改造
>>368 その分類だとヤギーがどこにも入らない罠…。
誰も望んでないのにサイボーグにならざるを得ない(病気やけがなどで)というのは
志願とも(いわゆる)強制改造とも違うだろう。
…本当はリミットちゃんもヤギーと同路線のはず…。
もういっちょ!
志願改造
(manplusゾーン) ↑ ・銀鉄(pinksaturenゾーン)
|
|
・リミット | ・銃夢
日常←――――――攻殻――――――→非日常
|
|
(人形姫ゾーン) | ・ガンスリ ・009
↓ ・サイカノ(M.I.Bゾーン)
強制改造
>>370 志願でも強制でもない場合は真ん中ゾーンなのです。
リミット、攻殻、銃夢あたりがそう。
なるほど、この表では真ん中になると。
(でも本来なら明らかに別次元の問題として存在する気もする。
志願改造も強制改造も、「誰かが望んだ改造」という意味では同じ側のものだし。
「本人が望んだものか」という点では不可抗力改造も強制改造も同じということにもなる。
でも重病になったのをきっかけに「それならいっそサイボーグになっちゃうか」というパターンだって存在しうるし…難しいな)
銃夢の方はなんでサイボーグになったのか明かされてなかったような…。
>>373 ただサイボーグ系作品を語る上で改造を受ける側の意思によるものか、誰かの強制に
よるものかで全く違った作品になってしまうのでタテ軸はこれでいいかなと思っています。
言い換えれば上に行くほど自発度が強く、下に行くほど他発度が強くなるってわけです。
むしろ横軸が問題で、自我のありなしとか、外見が人に近いか遠いかとか、能力が人を超える、
人より劣るとか、いろんな分類ができそうな気がしましたが、一つのゾーンに集中せず、一番
各作品をバランスよくふりわけられるのが日常非日常の区分けだと思うのですがいかがでしょう。
志願改造
(manplusゾーン) ↑ ・銀鉄 (pinksaturenゾーン)
|
|
・リミット | ・銃夢
日常←――――――攻殻――――――→非日常
|
|
(人形姫ゾーン) | ・ガンスリ ・009
↓ ・サイカノ(M.I.Bゾーン)
強制改造
>>368 はいどうぞ
志願改造
(manplus.ゾーン) ↑ ・銀鉄 (pinksaturenゾーン)
|
|
. ・リミット | ・銃夢
日常 ←――――─――攻殻――――─――→ 非日常
|
|
(人形姫ゾーン) | ・ガンスリ ・009
↓ ・サイカノ(M.I.Bゾーン)
強制改造
376 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 21:35:43 ID:fFqwUO/s0
TS少女の方に男の子が女の子型サイボーグに改造される話があったな
377 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 22:47:28 ID:enGwWvWA0
このスレのmanplusさんの作品なら星へ往く人なんかは一部を除いて強制改造に近いと思うけど
ん〜?エロのベクトルはどうした!?
エロのベクトルは!!
380 :
pinksaturn:2007/06/25(月) 00:19:14 ID:gQj6HP6J0
徴兵制を採用してない民主主義国は存在するから、民主主義=徴兵とは思わないがなあ。
日本も少し前までは徴兵制度が無かったんだし。(今は一部職業の人間に限り徴兵制度あり)
>363様
乙です!!リンクしてもらったのを見ると、自分はまだまだ知らないものがあったんだと実感しました。いろいろ見てみます。
ベクトル図を見て、自分はどこにも属さないのかも知れないと思った。
自分の萌えは、強制的に改造され、それに苦しみ続けるシチュエーション。
つまり強制は外せないが、人形姫みたく自我が無いのは萎え。そんな自分はどこに属するのかな?
>383
M.I.Bゾーンがそれじゃね?
385 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 03:13:59 ID:aDBc1lzMO
コブラのレディがそうではないか
>>383 自我のあるなしはYESorNOの二元論になっちゃうからベクトル式には向いていないかもしれないね。
横軸はサイボーグが一般的に認知されている存在かどうかという区分けもありだと思うがどうだろう。
ベクトルの一番左は、サイボーグは一般的には存在しない世界。
リミットちゃんとかサイカノなんかがそれ。正体バレが重要な要素になるね。
真ん中はサイボーグは認知されているけどそれほど一般的でもない状態。
ヤギーなんかがここ。ここは異形のものへの差別や迫害がテーマになりやすいと思う。
一番右がサイボーグであることが当たり前の世界。
銃夢とか銀河鉄道あたりがここ。ここは人と機械の境界がテーマになるんだろうか。
なんて考えてみました。
結局二次元空間に収まるわけもなく、多次元(多分三次元じゃすまないので図示できない)になっちゃうんだろうな…。
390 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/26(火) 01:52:27 ID:jqcW6gQ/0
蜂女の館と言うのが特撮系であったな
改造手術全般が多いが
そういえば「腐りかけの希望」とかいう名前の小説がどこかにあったな…。
もうサイトが消えたと思うけれど。
主人公達一行の中に猫耳サイボーグ娘がいる話。
393 :
pinksaturn:2007/06/26(火) 08:10:33 ID:OZM+F6sz0
>>390 仮面ライダーで蜂女の回を見逃したためか(当時ビデオなんて一般家庭に無い)ひょうきん族に出た榎本美枝子の方が印象強いorz。
仮面ライダーの強制改造のSM感に興奮したのが、サイボーグ萌えの原点。
というヤシの数↓
俺の原点は銀鉄の機械化人のおねえたま達だもん。
396 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/27(水) 23:40:54 ID:z7omZzXF0
残念だが、仮面ライダーは萌えの原点にはならなかったな。
燃えの原点にはなったが
漏れのサイボーグの原点はジャッカー電撃隊である。
打ち切られた情けない原点だが
燃える闘志と悲しみは、冷たく硬いメカの中
誰も知らないおれたちの、これがこれが秘密の
秘密の切り札さ
幼稚園児の俺はこれで何かが壊れたらしい
仮面ライダーそのものではないが、スカイライダーのエピソードで
さらわれた美人女子大生が強制改造されるシーンがあって
園児の頃の俺はむちゃくちゃ興奮したな
全裸(に当時の俺には見えた)で手術台に拘束されて
「やめて!やめて下さい!改造人間なんてイヤです!」と泣き叫びながら
レーザーで身体を切開されてゆくシーンだった
実写で女性が改造されるシーンは未だにレアだから
いい幼児体験をさせてもらったものだ
>>396 ジャッカー電撃隊ってサイボーグ化された悲しみなのか?それは興味あるな。kwsk!!
>>397 それは萌えるな!!どこかで見れないものか。
399 :
pinksaturn:2007/06/28(木) 03:41:52 ID:qCM76zpX0
リアルな義手義足人工器官の技術のたぐいの記事を科学雑誌で読んでるうちに
この道にはまった人がここに居ますが何かw
(人工心臓とか人工内耳とか…)
だから根本的に「失ったものを補うもの」という意識があるので、ヤギー方面は
まさにツボだったりするわけで。
>>398 397の改造シーンだが、以前は写真を掲載してたサイトもあったが今は無くなってるな
レンタルビデオを探すか。東映特撮BBでの配信を待つしかないと思う
スカイライダー(新・仮面ライダー)の第4話「2つの改造人間・怒りのライダーブレイク」だ
強制改造のシーンだけでなく、無表情で操られるシーンや、意識を取り戻した後で
改造された自分の身体を嘆くシーンなどがあって、その筋の人には垂涎ものだと思う
ちなみに改造手術を施される女子大生・上村美也を演じていた里見和香氏は当時21歳
ググれば容姿はわかるだろうから、気に入れば映像を探してみるといいだろう
402 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 09:28:54 ID:/+iNPfiUO
DVDで発売してないの?
>>400 ロボット工学に片足突っ込んでると、いやでもその業界の情報にさらされてしまいます。
マニピュレータは基本だし、2足歩行ロボットはチェックくらいはしとかないと遅れてしまうので。
センサ関連は画像処理系&人工網膜、音声処理系&人工内耳、この業界の皆さん、いろいろ
されてやがるので、ついていけねえです。
でも、話くらいは理解出来ないと注文が来ないです。
疲れた電気電子屋より
405 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:41:13 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(まえがき)】
約50字×30行×36レス、一気に投下します。
義体整形外科医が主人公ですが、手術シーンは僅少で、ほぼ全編が会話劇。
登場人物は、ほぼ「生身」です。
唯一、まともじゃない「改造手術」を施される娘は、最初から最後まで眠らされたままです。
《登場人物》
・医師免許を剥奪された義体整形外科の女医(手術する人)
・執事姿の謎の娘(手術する側の人らしい)
・海老ちゃん(手術される人)
・謎の男(手術をそそのかす人)
・元女子校生の表人格(手術されたらしい)
・元女子校生の裏人格(手術されたらしい)
そんなお話で、よろしければどーぞ m(_ _)m
406 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:42:26 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(1)】
前夜の雨でぬかるんだ道は、ジャガーを走らせるには不向きだった。
それでなくても未舗装の林道だ。
週に一度の「この仕事」のために四輪駆動車を買うべきか、本気で考えなければならない。
それだけの報酬は得ているのだから……
右の前輪が大きな水たまりを踏み、泥水がボンネットまで撥ね上がった。
ジャガーのハンドルを握る女――緑川薫は舌打ちして、腹いせにクラクションをひっぱたいた。
警笛が鳴り響き、鳥たちが木々から飛び立つ。
薫はショートヘアで、スレンダーな肢体を黒いスーツに包んだ、女優かモデルばりの美女だった。
だが、彼女の本職――「表向き」の――は、義体整形外科医だ。
渋谷で個人医院を開業し、十代や二十代の若者相手に手指や四肢の「プチ義体整形」を手がけている。
もっとも、そこでの彼女は「医学博士・野原裕美」を名乗っているのだが。
薫自身の医師免許は、二年前に剥奪されていた。
林道の先に大きな山荘があった。
元は白塗りだったろうが、いまは煤けた灰色で、ところどころに蔦の這う廃墟のような建物だ。
玄関前の、まばらに砂利の敷かれた半ば草むらと化している広場に、ジャガーを停める。
薫が車を降りるのと、玄関の扉が開き、タキシード姿の――男ではなく、若い娘が姿を現すのが同時だった。
「お待ちしておりました、緑川先生」
美也という名の――本名か偽名か、薫は知る由もないが――娘がにこやかに言って、薫に会釈する。
二十歳そこそこだろう。栗色の長い髪をポニーテールに結んだ、表情豊かな大きな眼が印象的な娘だ。
なぜいつもタキシード姿で「執事」を自称しているか、薫にはわからないが。
407 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:43:35 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(2)】
「相変わらず酷い道ね。どこからもクレームは来ないのかしら」
皮肉を込めて薫が言うと、美也は悪戯っぽく眼を細めて答えた。
「ここに『お客様』が訪ねて来られることは、稀ですから」
――私は「お客」のうちに入らないのね。
薫は肩をすくめ、美也に導かれて建物の中に入った。
二階まで吹き抜けのエントランスに、明かりは灯されていない。
だが、高窓からの日差しに照らされた床を見れば、ぴかぴかに磨き上げられているのがわかる。
ここは外見通りの廃墟ではなく、「生きた」建物なのだった。
帆船や風車を描いた絵画、壁際に置かれた甲冑などの調度品は、いずれも西洋的な趣味である。
どれだけの価値があるのか、薫にはわからないけど。
自分が訪ねる毎週水曜日以外、この山荘は何に使われているのだろう。
何度か美也に探りを入れてみたが、彼女が口を滑らせることはなかった。
自称「執事」のあとについて、廊下を進む。
「お送りした『レシピ』は、ご覧いただけましたか」
半ば振り返りながら美也がたずねて、薫はうなずいた。
「ええ。今回のテーマは『エビ』ね」
「新鮮な『素材』をご用意しております」
美也は微笑む。
――あるいは「犠牲者」ね、と、薫は胸の内でつぶやく。
薫が案内されて行った先は、浴室だった。
「ごゆっくりどうぞ」と言い残し、美也は立ち去った。
この山荘で風呂に入らされるのは、初めてではない。
408 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:48:18 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(3)】
最初の頃は、どこかに隠しカメラでも仕掛けてあるのではないかと警戒したが、自意識過剰だと思い直した。
三十路手前の女の――それも、ほぼ「生身」の――裸など、この山荘の関係者は興味を持たないだろう。
この場所には自分よりも十歳前後若く、その分だけ美しい娘たちが毎週、連れて来られているのだ。
彼女たちの肉体にメスを入れるのが、薫の「仕事」だった。
合法的な「手術」ではないことは、医師としての資格を喪った自分が手がけていることで明らかだ。
それに、施される手術の内容も――
風呂で身体を洗い、それから浴室の奥に設けられた「滅菌室」で全裸のままエアシャワーを浴びた。
薫がかつて勤務していた大学病院にも用意されていなかった、先進的な設備だ。
何しろ全身でドライヤーを浴びるようなものだ。タオルで身体を拭く必要がない。
それは入浴者に楽をさせるためではなく、せっかく洗った身体にタオルから雑菌がつくことを防ぐためだ。
滅菌室のさらに奥にはクリーンルームとしての設備を備えた更衣室があり、薫は、そこで白衣を着込んだ。
下着なしで直接、白衣を身に着けることにも慣れた。
この山荘は徹底して合理的だ。つまり、下着を滅菌処理する手間を省いているのだ。
そして、更衣室の奥へ進むと、そこが「手術室」だった。
広さは大学病院のものと同等。設備の質はそれ以上で、用意された医療機器はどれも最新式である。
これほどの環境を、全く「実用性」のない「嗜虐的」な手術のために用意できるのは何者か。
薫は、自分の「雇い主」の正体を知らなかった。個人か、複数人のグループかもわからない。
よほど「力」のある存在であろうことは、想像がついたけど。
無駄な思考を頭から追い払い、薫は、これから手がける手術に意識を向けた。
手術室の中央に、裸の娘と、彼女に与えられる義体の部品を載せたストレッチャーが一台ずつ置かれていた。
409 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:50:20 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(4)】
薫はストレッチャーに歩み寄り、薬品で眠らされている娘を見下ろした。
二十代前半。くっきりした顔立ちに、ゆるやかに波打つ栗色の髪がよく似合う。
長身で均整のとれた体つき。つんと上を向いた張りのある乳房、すらりと伸びた腕と脚。
モデルかタレントと言われて納得できそうだ――「生身」のままならば。
目覚めたとき、自分が「どんな姿」になっているか、彼女は承知しているのだろうか。
――私の知ったことじゃない、か。
「正規」の義体整形外科手術ならば、術後のリハビリに執刀医が立ち会うケースが多い。
必要に応じて義体の調整や再手術の判断を下すためだ。
だが、この山荘では、薫は最初から最後まで眠ったままの被験者を相手にメスを振るうだけだった。
目覚めた被験者と顔を合わせる機会はない。
もちろん、己の技量には自信がある。義体さえ設計通りの性能を発揮すれば、手術は確実に成功だ。
だが、その義体の性能こそが、いささか薫には不安だった。
何しろ「特殊」すぎるオーダーメイド品なのだ。
その点を考えると、執刀医が術後の経過観察を行なうべきだと思う。
それとも――「リハビリ」専門の担当医が、自分とは別にいるのだろうか。
「特殊」な義体を与えられた娘に、どんなリハビリが行なわれるか、まるで想像つかないが。
薫は、義体の部品に眼を向けた。
全てが銀色に輝くそれは、両腕と下半身、それに若干の付属品で構成されていた。
「被験者」となる娘の上半身は、ほぼ生身のまま残される。
それが、ここで行なわれる手術の通例だ。
ならば――毎回、同じ趣向を求める「雇い主」は、やはり特定の個人だろうか?
再び浮かんだ無駄な考えを追い払うように、薫は首を振った。
>>401 情報サンクス!スカイライダーにそんな萌えなシーンんがあったのか!!やはり石ノ森章太郎はサディストだなww
漏れも奴に釣られてそういうフェチになってしまったわけだがw
ライダーの話自体には興味無いが、その話だけ見たいな。
411 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:52:19 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(5)】
自分の仕事は「手術」、それだけだ。
眠り続ける娘のために用意された、およそ「非実用的」な義体――
下半身は、全体の形状が人魚のものに似て、尾びれまで備えている。
だが、よく見れば複数の体節に分かれ、そこに短い脚が生えた構造は、むしろ節足動物だ。
そして、両腕は肘から先のみ義体に換装されるが、それは大きなハサミの形である。
美しい娘は、肉体の半分を甲殻動物――「海老」を模った機械に置き換えられるのだった。
たとえ被験者が同意の上だとしても、それが「まともな手術」であろうはずがない。
薫がこの山荘で「手術」を手がけるようになったのは、一年半前からである。
だが、全ての始まりは二年前、薫が医師免許を喪う原因になった、ある事件だった。
当時、薫は京都の大学病院の勤務医だった。
その夜の義体整形外科の当直は、薫ひとりだった。それ自体は珍しいことではない。
義体整形外科の施術は、事故や病気で失われた身体機能を、機械装置で代替させるものである。
(近年は「プチ義体整形」と称し、ファッション目的で健康な肉体にメスを入れるケースも多いが。)
本来、リハビリテーションの一環として行なわれるものであるから、緊急に対処が必要な事態は稀なのだ。
その稀な事態が、起きてしまった。
午前一時過ぎ、府の消防本部から病院に、救急患者の受け入れ要請があった。
患者は四十代の女性で、残業帰りの夫を迎えに行くため自家用車を運転中、トラックに追突されたという。
救急救命担当の医師は了承し、外科の当直医と、義体整形外科の当直の薫が応援に呼ばれた。
412 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:53:53 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(6)】
搬送されて来た患者は、まだ生命があるのが不思議な状態だった。
大破した車から救出される際に四肢を切断され、残った肉体も臓器を含めて著しい損傷を負っていた。
緊急に義体への脳移植を行なうべきだと薫は提案し、他の二人の医師も同意した。
四時間がかりの手術は薫が執刀した。脳移植を伴う全身義体化手術の執刀は初めてだが、不安はなかった。
それは自信というよりも、患者の命を救うことへの使命感だった。
手術は無事、成功した――筈だった。
だが、直後に患者は容態を急変させて、死亡した。
法の手続きに則って解剖が行われ、死因が明らかになった。
細菌感染による脳細胞の壊死――
あり得ないことだった。滅菌措置は完璧に行なったのだ。
薫にとって不幸なことに、患者は著名な弁護士の妻だった。
夫の専門は企業法務だが、政財界に広く顔が利いた。その圧力が働いたのかもしれない。
薫は、業務上過失致死罪と医師法違反の容疑で逮捕された。
過失と決めつけた容赦のない取調べで、薫の医師としてのプライドはズタズタになった。
刑事たちは執拗に、技術も無いのに無謀な手術に踏み切ったのは名誉欲のためだろうと詰問した。
さらに、接見に訪れた病院の顧問弁護士は、過失を認めなければ実刑は免れないだろうと薫に告げた。
その場合、自分が弁護を引き受けることはできないとも。
それは病院側が、全ての責任を薫に負わせる意向であることを意味していた。
自暴自棄になった薫は容疑を認め、裁判の結果、執行猶予付きの有罪判決を受けた。
薫は控訴せず、刑の確定とともに医師免許を喪った。
413 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:55:27 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(7)】
追い討ちをかけるように、死亡した患者の遺族から、慰謝料を請求する民事訴訟を起こされた。
原告は周到なことに、病院への訴訟と、薫個人への訴えは別々に提起した。
おそらく、原告の企業法務弁護士は、最初から病院と争うつもりはなかったのだ。
医学界の重鎮である大学の教授連中は、原告となった弁護士の顧客である企業経営者たちの親しい友人だ。
病院は、すみやかに和解した。
未熟な医師の暴走を許した監督不行届をお詫びしたいと、病院の幹部は記者会見で謝罪した。
病院を解雇されていた薫は、自分の味方となる弁護士を探すところから始めなければならなかった。
薫の父親は歯科の開業医だったが胃癌を患い、娘の医学部入学を見届けて亡くなった。
母親はそれよりも前、薫が中学生のときに、交通事故で亡くなっていた。
父親の死亡保険金は、薫の学費と、父親自身の借入金の返済で消えた。
父親は癌が見つかる直前に、歯科医院の大掛かりな改装で借金を作っていたのだ。
勤務医となって四年目の薫に、財産と呼べるものはなかった。
所持品で換金できるものは、ほぼ全てお金に換えて、弁護士費用を工面した。
弁護士会の法律相談を通じて、依頼を受けてくれる弁護士も見つけた。
その弁護士からは、原告と和解できたとしても相当の和解金の支払いは覚悟しろと最初に忠告された。
原告に薫との和解の考えはなかった。
医療過誤訴訟で患者側を救済する先例を作るのだと、原告はマスコミ向けにコメントを発表した。
病院とは和解していることとの矛盾を指摘する者はいなかった。
414 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:56:58 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(8)】
原告は法曹界の親しい友人で、いずれも著名な弁護士五名からなる弁護団を仕立ててきた。
本人は高校生の娘とともに、あくまで遺族の立場で裁判に臨むかたちだった。
それはマスコミの同情を誘う戦術として効果的だった。
いまや、薫は社会の敵だった。
マスコミによれば、薫は医師としても人間としても未熟で傲慢な殺人者だった。
人を殺して執行猶予は甘すぎる、刑事裁判をやり直せと主張する評論家さえいた。
「元恋人」は薫のサディスティックな性癖を週刊誌に暴露した――その男に薫は全く心当たりがなかったが。
患者の死から半年後に、民事裁判は始まった。
第一回の口頭弁論で、薫はあらためて医療技術、職業倫理、人格まで含めて徹底的に攻撃された。
だが、そもそも被害者の車に追突したトラックは盗難車だった。
運転していた若い男は現場から逃走し、現在まで身元不明のままだった。
被害者の死について、第一義的な責任は逃亡した運転手にある。
たとえ医師の過失がなくても、危篤状態で搬送された患者は助からなかったのではないか。
薫の側の弁護士はそう指摘したが、相手方の鋭い舌鋒に比べて、効果的な反論とはいえなかった。
薫はボロボロに傷ついて裁判所から帰宅した。
医師時代のマンションは家賃が払えなくなり、彼女は六畳一間のアパートに引越していた。
薫以外の住人は外国人ばかりだった。
彼らならば、新しい隣人がマスコミを騒がせている殺人女医だと気づく心配はなかったけど。
415 :
【】の人:2007/06/28(木) 23:58:23 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(9)】
部屋の前まで来ると、ドアの下の隙間に白い封筒が差し込まれていた。
郵送されたものではないようだ。
嫌がらせの手紙だろうか。
薫は新しい住所を誰にも知らせたくなかったが、執行猶予中の身でそれは叶わなかった。
何人もの司法関係者が薫の住所を知っていた。そのうちの誰からか、住所が外部に漏れても不思議はない。
封筒を拾って部屋に入る。
表書きを見ると、『緑川薫先生』と、万年筆の丁寧な字で記されていた。
嫌がらせの印象は受けなかった。薫は封筒を開けてみた。
中に便箋が入っており、こう記されていた――
『前略 緑川先生
先生のメスは、いままで何人もの患者に希望を与えました
医師としての誇りを取り戻したいとお考えになりませんか
090−XXXX−XXXX 滝まで』
差出人はマスコミ関係者だろうと、薫は思った。取材の申し込みというわけだ。
これまで原告寄りの報道ばかりだから、そろそろ目先を変えて被告の言い分も取り上げてみよう。
そうマスコミが考えても、おかしくはない。
だが、いまさら泣きごとを言って、裁判の行方が変わるとは思わなかった。
薫自身が刑事裁判で、己の罪を認めたのだ。
あとは、どこまで慰謝料がハネ上がるかの話だ。
それがいくらであれ、医師の職を失った薫には、一生かかっても払えない金額だろう。
416 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:00:11 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(10)】
大学病院の顧問弁護士に言いくるめられて過失を認め、実刑は免れた。
しかし、その結果がいまの生活では、刑務所に入るのと変わらなかった。
いや。プライドを捨てずにいられた分、容疑を認めず刑務所に行ったほうがマシだったろう。
けれども、いまさら違う道を選び直すことはできない。
自ら命を断つのでなければ――それも考えないではなかったが――薫はこの道で、生きるしかなかった。
そして、生きるためには現実問題、差し当たっての金銭が必要なのだ。
薫は今夜の夕食代にも事欠いていた。朝食も昼食も抜いていた。
社会の敵として顔を知られすぎた薫は、アルバイトさえできないのだ。
マスコミの取材に応じれば、いくらか謝礼がもらえる筈だった。
浅ましいとは思ったが、選り好みできる立場ではなかった。
財布に一枚残ったテレホンカードで、薫は近所のコンビニの前の公衆電話から、滝という人物に連絡した。
使いかけのテレカは換金できず、手元に残っていたのだ。
滝は手紙の字から受けた印象にふさわしく、落ち着いた喋り方をする男だった。
今夜、食事をしながらお話ししませんかと言われては、断る気になれなかった。
医師時代には、そう言って薫を誘う男は何人もいて、断る口実を探すほうが苦労したのだが。
薫を招待する店として、滝は、芸能人がよく訪れることで有名なダイニングバーの名を挙げた。
客のプライバシーを何より尊重する店なので、落ち着いて話ができるのだという。
店までの足は、ハイヤーを迎えに寄越すということだった。
ただの取材でそこまでVIP待遇するのか、訝しくはあった。
だが、いまの薫には電車賃の二百円さえ貴重で、ありがたく申し出を受けるほかなかった。
417 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:01:50 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(11)】
店に着いた薫は、奥の個室に案内された。
そこは座敷だったが、ガラス張りのテーブルが青を基調とした照明に映え、小洒落た印象である。
先に席に着いていた男が立ち上がり、薫を迎えた。
「緑川先生、よくお越しくださいました」
男は四十前後だろうか、細身で眼鏡をかけ、スーツ姿で、一見するとビジネスマン風だった。
製薬会社か義体メーカーの営業マンと言われれば、信じてしまいそうだ。
男は「お電話でお話しした滝」と名乗り、薫に席を勧めた。
あらかじめ言いつけられていたのだろう、すぐに店員が酒と料理を運んで来た。
「さあ、お一つ」
青いガラスの盃に、同じ色の徳利からよく冷えた酒を注がれ、軽く一息に干す。
半年ぶりの酒の辛さが、眼にしみる。
まだ、滝という男が味方と決まったわけではないのに。
「もう一つ、いかがですか」
もう一杯、注がれた酒を今度は、ゆっくりと干した。
滝は微笑を浮かべ、その様子を見守っている。
「……あ、すいません。私ひとりだけ」
薫が盃を置き、徳利に手を伸ばすと、
「いえいえ、先生がお客様ですから」
滝はそれを遮り、盃に自ら酒を注いだ。そして、茶目っ気のある笑みを見せ、
「でも、ここからは、それぞれ手酌ということでよろしいですか?」
418 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:05:59 ID:K9AXw5oy0
【義体整形外科医 緑川薫(12)】
「ええ」
薫は笑って頷いた。笑うのも半年ぶりのことだった。
それからしばらくは、当たり障りのない話をした。この店のことや、店を訪れる芸能人たちのこと。
「滝さんも、この店によく来られるんですか?」
薫は訊いてみた。
「ええ」
滝は頷いて、
「京都では、ここが馴染みですね」
「普段のお仕事は、東京ですか?」
「まあ……日本中を、飛び回ってます」
滝は苦笑する。
薫は、箸を置いた。仕事の話が出たところで、切り出すべきだと思った。
「……正直なところを、お話ししたいのですが」
「はい」
滝も盃を置く。
薫は姿勢を正して、
「私は、お金に困っています。でも、だからこそ、自分を安売りするつもりはありません」
「それは当然です」
「滝さんは、何か仕事の件で、私を招待してくださったのでしょう。それは、どういったお話ですか?」
「緑川先生に、ある医師の代わりを務めて頂きたいのです」
「医師の代わり……?」
「ええ。『彼女』は、我々にとって貴重な存在でしたが、事情があって仕事を続けられなくなった」
419 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:07:53 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(13)】
「でも……ご承知と思いますけど、私は、もう医者ではありません」
「その点も含めて、緑川先生ならばお願いできると思ったのです、『我々』としては」
「我々……?」
薫は、滝と名乗る男の顔を、じっと見た。
相手は微笑を浮かべ、薫を見つめ返している。
薫は口を開いた。
「……つまり、免許を喪った医者じゃなければ引き受けないような、非合法な仕事?」
「そう言うと語弊がありますね。そもそも合法、非合法とは何ですか。何がそれを決めるのです?」
穏やかな口調も表情もそのままで、滝は言った。
「法律それ自体ですか? 違いますね。人を裁くのは人間です。それも『力』を持った人間です」
手酌で酒を注いで、盃に口をつけ、
「裁かれるのは、弱い者ばかりだ。今度の裁判で、先生も思い知らされたでしょう?」
薫は黙って、滝を見つめる。
この男は、いったい何者なのか。マスコミなどでないことは、確かだろうけど。
滝は言葉を続けた。
「先生が巻き込まれた、あの事件ですが、そもそもの原因は被害者の車にトラックが追突したことです」
「私の弁護士も、そう主張したわ。でも、患者が助かると思ったから手術したのだろうと反論された」
薫は自嘲の笑みを浮かべる。
「脳移植など考えないで、通常の外科的措置で終わらせておけば、私の責任にならなかったのでしょうけど」
「その話は、ひとまず置いておきましょう。トラックを運転していた若い男は、その場から逃走した」
滝は、盃に口をつけ、
「ですが、何人かの目撃者が、男の顔を見ていた。車内には指紋も残されていた」
420 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:09:02 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(14)】
「でも、前科のある犯罪者と指紋は一致しなかった。その男が別の犯罪で捕まらない限り、身元は不明のまま」
薫が言うと、滝は眼を上げて、射抜くような視線を彼女に向けた。
「身元は、ほぼわかっていました。警察がそれを発表しないだけで」
「え……?」
薫は愕然とした。
「……どういうこと、それは?」
「被疑者は十五歳の少年でした。トラックを盗むところを、知人に目撃されていた。相手が少年ですから、
警察は当然、慎重に捜査を進めるべきでした。しかし不手際があった」
「不手際?」
「間の抜けた話で、警察は事件当夜の少年のアリバイを、彼の友人たちから訊いて回ったんです」
薫は言葉もなかった。トラックを運転した加害者が明らかなら、なぜ自分ひとりが責められるのか?
加害者が少年なら、その親に対して、被害者の遺族は慰謝料を請求できるのではないか?
滝は言った。
「少年は自分が疑われていることを知った。そして、逃げきれないと思い自殺した」
「自殺したとしても、民事の責任は、その両親が……」
「無理ですね。警察は捜査を打ち切った、自分たちの不手際を隠蔽するために。加害者は永遠に不明のままだ」
「…………、そんなこと……」
「だから、裁かれるのは弱い者ばかりと言ったのです。緑川先生、あなたのことです」
薫は言葉が見つからず、黙って首を振る。
みじめさに泣きたくなった。自分は警察の――国家権力の生贄にされたのか。
医師として患者を助けようとしただけの自分が、全てを喪ったのは、権力による陰謀だったのか。
だが……待て。冷静になれ。相手の話が真実である保証はない。
421 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:12:51 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(15)】
「……あなたは、どうしてそんなことを知っているの、警察が隠蔽したのなら?」
たずねる薫に、滝は答えて言った。
「私が、力を持つ側の――そうした『力』に奉仕する人間だからです。私個人には、何の力もありませんが」
「つまり、あなたが仕える『主人』は、法律を超越する権力を持っていると?」
「そう思って頂いて結構です」
「そんな突拍子もない話を信じろというの? 自殺した少年のことも、あなたの作り話じゃないと?」
「お疑いになるのは、もっともです。私が奉仕する『力』がどのようなものか、お確かめください」
滝は、携帯電話を薫に差し出した。
「先生の弁護士に連絡してください。原告が訴えを取り下げたと教えてくれる筈です」
「訴えを……まさか」
「電話一本で答えが出ますよ。さあ」
薫は携帯を受け取り、これまで何度も掛けたので暗記していた弁護士事務所の番号に電話した。
「――ああ、緑川さん! ちょうど、こちらから連絡しようと思ってたんです……!」
弁護士の声は興奮していた。原告側の代理人から、訴えの取り下げの連絡があったという。
近日中に裁判所から正式な書面が送達され、被告である薫が同意すれば、裁判は終わるということだった。
「こんなことは滅多にありませんよ。明らかに相手が有利な裁判で……!」
まくしたてる弁護士の言葉を遮り、薫は明日、事務所を訪ねると伝えて電話を切った。
そして、黙って滝に携帯を返す。
滝は穏やかな笑みのまま、薫に言った。
「理解していただけましたか? 私たちの『主人』に、どれだけの『力』があるか」
「でも、どうやって……? 脅迫したの、原告を……?」
「彼は『大きな敵』を作りました。それは先生とは関係のないところで起きたことですが」
422 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:16:11 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(16)】
「政治家や財界に顔が利く有名弁護士でも、屈服させることができるの、あなたの言う『力』は?」
「それだけでは済みません。彼は、二度と立ち直れないほどの破滅を味わうことになります」
表情も変えずに冷酷な言葉を、滝は口にした。それが、この男の本性だったのだろう。
「その話の前に、もう一つ『我々』の知る事実をお教えします。あの夜、先生が行なった手術は成功した
筈でした。それなのに、患者は容態を急変させて死亡した。警察はもちろん、病院も、それを先生のミスと
決めつけた。だが、そうではないことは、先生自身がご存知でしょう」
「いまとなっては、自信がないわ」
薫は眼を伏せ、自嘲した。
「死因は細菌感染による脳細胞の壊死。司法解剖の結果まで警察が操作したわけじゃなければ、執刀医である
私の責任は免れない」
「いいえ、責任はありません。感染は意図的に引き起こされたからです。先生を陥れようとした者の手で」
「なっ……!?」
薫は眼を剥いた。
「そんなこと、いったい誰が、なんでっ!?」
滝は微笑んだ。その穏やかな笑みは、しかし――薫に事実を突きつけることを愉しんでいるかのようだ。
「先生は優秀な医師だ。それに、お美しい。一方的に思いを寄せてくる男性は、いくらでもいたでしょう。
たとえば、同僚の中にも」
「……まさか……」
薫の表情が凍りつく。心当たりはあった。
あの事件の夜の、当直の外科医だ。それまで何度も交際を申し込まれ、そのたびに断っていた。
事件の数日前には、薫は上司である義体整形外科部長に、外科医の行為はハラスメントに当たると訴えた。
問題の外科医は、所属する臨床外科の上司から叱責を受けた筈だった。それを逆恨みして……
423 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:19:10 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(17)】
滝は言葉を続けた。
「先生に有罪判決が出た直後のことです。その愚かな男は、自分の行為が緑川先生を破滅させる結果になり、
なけなしの良心の呵責に耐えかねて、全てを上司に告白した。助かる筈のない患者だと思った。だが、その
生命を救ったとき、緑川先生は英雄になる。自分は同じ医師として、それに嫉妬したのだと――綺麗ごとの
動機を並べ立ててね」
「それで、その上司はどうしたの!?」
答えは想像がつく。しかし、薫は訊かずにいられなかった。
滝は穏やかな笑みのまま告げた。
「病院の幹部同士、協議した上で、その男を依願退職というかたちで病院から去らせました。口止め料として、
多額の退職金を支払って。結局、その男は自ら生命を絶ちましたが」
「……なんで……」
あまりのことに、薫は言葉が出ず、口をぱくぱくさせる。
何の罪もない自分が犠牲になり、患者を死なせた実行犯は病院から守られていたなんて。
「生贄は緑川先生ひとりで充分だからですよ。いまさら真犯人の存在が明らかになれば、病院にとって、
大きなスキャンダルだ」
薫は、熱いものがこみ上げてきた眼を隠すように、額に手を当てる。
ところが、実際に出て来たのは涙ではなく、笑いだった。
「……まるで、この世の中の悪意が全て、私に向けられているようだわ」
薫は笑いながら言った。
「でも、滝さん。そんな話を、いまさら私に教えてくれて、あなたは私にどうしろというの?」
「先生が、いま置かれている『弱者』の立場を抜けて、『力』の側に立つきっかけを差し上げたいと思います。
具体的には――先ほど申し上げた通りです。緑川先生には、ある医師の代わりを務めて頂きたい」
424 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:21:29 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(18)】
「免許を喪った私に? それはおかしいわ」
薫は乾いた笑いを、滝に向けた。
「あなたが言うほどの『力』を持つ――個人かグループか知らないけど、そんな存在なら、言いなりで働く
医者はいくらでもいるでしょう、私みたいに免許を喪った犯罪者を使わなくても? それとも、私が忠誠を
誓えば『御主人様』は、刑事裁判をやり直して、私に医師免許を取り戻させてくれるのかしら?」
「緑川薫として免許を取り戻すことは、簡単ではないです。一度下った有罪判決を取り消すのは」
滝は言って、手酌で注いだ酒をあおる。視線をそらすためのような、芝居じみた仕草だ。
「不可能ではないですよ。だが、そのために再び、緑川先生が社会の注目を集めることになるのは困る。
ある『仕事』を先生にお任せしたい『我々』としては」
「なら、お話はこれで終わりね。私は、とっくに破滅した人間。喪うものは何もないわ。喪ったものは山ほど
あるけど、それを取り戻させてくれるわけではないとおっしゃるし」
「私の説明が悪かったですね。先生は、医師の仕事に戻れるのです。ただ、名前だけは変えて頂きます」
「別人に成りすませと言うの? 『ある医師の代わり』って、そういう意味?」
薫は、あきれて笑うしかなかった。
「そんなの、無理に決まってる」
「どうしてですか?」
「私は日本中に顔を知られているわ、殺人女医として」
「そんなこと、すぐに忘れますよ、世間の人たちは。あるいは覚えていたところで、どうだと言うのです?」
滝はもう一杯、手酌で酒を注ごうとして、徳利が空であることに気づき、肩をすくめた。
「お酒、追加を頼みますね」
テーブルの端にセットされたチャイムを押してから、言葉を続ける。
「誰かが、先生を告発したとします。偽名を使って開業したと。しかし、そんな告発は受けつけられません」
425 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:28:34 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(19)】
「あなたの『主人』の『力』で?」
訊き返す薫に、滝は頷くように顎を引き、
「先生には新しい名前の医師免許、戸籍、住民票、パスポート、運転免許そのほか必要なものをご用意します。
開業資金も用立てましょう」
「――失礼します」
と、店員が来て、やはり事前に言いつけてあったのか、先ほどと同じ徳利を、薫と滝、それぞれの前に置く。
店員が出て行くのを待ってから、滝は言葉を続けた。
「別人に成りすますという話ですが……先生には、これまで存在したことのある誰かを演じて頂くわけでは
ありません。ご用意するのは、全く架空の新しい名前です。彼女がどんな性格でどんな趣味の人間になるかは、
先生次第。緑川薫とほぼ同一人物であっても構わない。ただし、その緑川薫の名前だけは捨てて頂きますが」
「簡単に言ってくれるわね。名前を捨てろなんて」
薫は眼を伏せ、ため息をつく。
「緑川の家は、祖父の代から医者よ。たった一人の娘であり孫娘が医者になることを、父も祖父も望んでた」
「そうして医師になった先生から、全てを奪った相手がいるのです。報復したいと思いませんか?」
「報復って……」
薫は、あきれたように口を半開きで、滝の顔を見つめる。
滝は相変わらずの穏やかな笑顔で、言った。
「残念ながら、警察や大学病院への報復は叶いません。彼らは組織であって、個人ではない。しかも、組織
全体としては『力』に近い側だ。まだ役に立ってもらう必要がある。とはいえ、ご希望なら、何人かの関係者を
生贄として、先生の前に引き出しても構いませんが」
「警察でも病院でもないなら、私は誰に報復できるの?」
「『我々』の共通の敵、先生を民事で訴えた、例の弁護士です」
426 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:32:41 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(20)】
薫の顔つきが変わった。感情を抑え、無表情を装っているが――膝に置いて拳を握った手は、震えている。
しかし、言葉を発しないままの薫に、滝は微笑みながら話を続けた。
「それには義体整形外科医としての、緑川先生の腕が必要なんです。いささか事情がありましてね。報復の
方法が、すでに指定されているのですよ、我々の『主人』から」
「……私に何をさせようというの?」
再び眼を伏せ、薫は言った。
投げやりな態度を装っているが……彼女の心の底には、滝の言う「報復」への興味が湧いていた。
自分のプライドをズタズタにしてくれた、あの企業法務弁護士への怨みは忘れられるものではない。
滝は傍らに置いていたアタッシュケースを開け、写真の束を取り出して、テーブルの上に一枚ずつ並べた。
「法廷でお会いになったでしょう。水城涼香――あの弁護士の娘です」
望遠レンズで隠し撮りしたものらしい。
長い黒髪のセーラー服姿の少女が、学校の門を出て、通学路を歩いて行く様子を追ったものだ。
「何よ、これ……写真を撮ったのはストーカー?」
「いいえ。こういった仕事専門のプロですよ。最後の一枚、いま現在の彼女の姿が、これです」
それは明らかに、ほかの写真と違った。
隠し撮りも犯罪を匂わせるものだが、その写真は犯罪の証拠そのものになり得た。
涼香という少女が、全裸で眼を閉じ、手術台らしいものの上に横たわっている。
「……私に何をさせる気!?」
薫は叫び、滝のほうへ写真を押し返した。
「これが、あなた方の言う『報復』? 父親の弁護士が何をして『御主人様』の機嫌を損ねたか知らないけど、
こんなに若い子を誘拐して、義体整形外科医を連れて来て……だから免許を喪った医者が必要なのね?
まともな医者なら、まだ喪うもののある人間なら、躊躇するようなことをさせたいんでしょう!」
427 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:36:49 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(21)】
「報復ですよ」
滝は、その言葉を繰り返した。
「見せしめといってもいい。一度は『力』の側に立ちながら、『主人』に刃向かった者がどうなるか、皆に
思い知らさなければなりません」
「皆というのは誰? 世の中みんな?」
「一般大衆など眼中にありません。『力』に近い位置にいる、ほかの者たちのことです」
「わけがわからない」
薫は笑いを引きつらせて言った。あまりに荒唐無稽で、薫が滅多に読まない漫画のような話だ。
「法律を超越するほどの権力者が、女の子を誘拐して無理やり義体化するようお命じになると? あなた方
の『御主人様』はどんな趣味? ちなみに訊くけど、どういう義体にするの?」
「鳥かごです」
「鳥……かご?」
「最低限の生命維持機能だけ備えさせて。その中に、彼女の生身の頭部を収めてやります」
「……そんなこと……」
薫は、あきれて言葉を失う。
生命維持のためだけの機械装置に、意図的に胴体から切断した人間の頭を繋げる。
外国では例がないわけではない。ただし、それは重犯罪者への刑罰としての措置だ。
十代の少女に、そのような手術を施すのでは、執刀医こそ罪に問われるだろう。
滝の「主人」の持つ権力は法律上の立件を妨げるだろう。だが、人間としての倫理が執刀医を糾弾する筈だ。
「……どこの、どんな医者が、そんな手術を引き受けるというの? まともな神経じゃ執刀できないわよ」
「先生がお受けにならなければ、ほかを当たるだけのことです。人間は意外としぶといし、欲深いんですよ。
金銭か、権力に擦り寄ることか、目的は様々ですが、『我々』の意に沿おうとする者はいくらでもいます」
428 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:40:20 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(22)】
「そして……あなた方の秘密を聞かされながら、手術を拒んだ私も、無事では済まないのかしら?」
たずねる薫に、滝は穏やかな笑みで「いいえ」と首を振る。
「失礼ながら、いまの緑川先生は、全くもって無力で無害な存在です。仮に、この写真を証拠として、
水城涼香が拉致された事実を警察に通報したとします。だが、警察は動きません。マスコミも同様です」
「あなたの『御主人様』が、それを許さないと?」
「水城弁護士も、娘の涼香という少女も、もはやこの社会からオミットされた存在です」
「弁護士の父親だけならわかるわ。でも、彼の娘まで、どうしてそんな……」
「それが水城弁護士にとって最大の痛手となるからです。彼からは、何もかも奪わなければならない。
娘の無残な姿を眼にすることで、彼は、もはや自分に何も残されていないことを思い知るでしょう」
薫は、テーブルの上の写真にもう一度、眼をやった。
手術台に横たわる少女。そして、下校途中の同じ少女――
「……私は、この涼香という子に悪魔と呼ばれたわ。刑事裁判の法廷で、情状証人として出廷した彼女から」
薫は顔を上げた。まっすぐに滝を見た。
「でも、だからといって、私が本物の悪魔に成り下がっていいのかしら?」
「それは先生次第です。この『仕事』をお受けになるのも拒むのも」
「父親に思い知らせるためでしょう? なら、彼女を一生、鳥かごに閉じ込めておく必要、ないと思うの。
娘の変わり果てた姿を、父親に見せつける。その目的が済んだら、この子……水城涼香を、私に引き渡して
頂けないかしら?」
「ほう?」
穏やかな笑みのまま、滝は片眉を上げる。成り行きを愉しんでいるようだ。薫は言葉を続けた。
「もちろん、私には何の交渉材料もない。これは私の我がままでしかない。でも、聞き入れて頂けるなら私は、
あなた方に忠誠を誓う。ええ……悪魔に魂を売り渡すわ」
429 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:43:50 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(23)】
「水城涼香をかばおうと、そういうことですか?」
たずねる滝に、薫は首を振る。
「違うわ。それが私なりの復讐。あの事件の前まで、私は自分で言うのも恥ずかしいけど、使命感に燃える医者
だった。その私のプライドを、彼女は踏みにじったのよ。だからね、あんなことさえなければ、私がどれだけ
立派な人間だったかを、でも、彼女が私を本物の悪魔に変えてしまったことを、思い知らせてやりたいの」
「先生が何をなさるおつもりか、わかりませんが……実に興味深い計画ですね」
滝は満足げに頷いて、言った。
「水城涼香の扱いについて、この場ではお返事できませんが、先生のご希望は、私の『主人』に伝えます」
「なら、私の返事も、また後日でいいかしら?」
「結構です。こちらからのお返事は、それほどお待たせしないと思います。早ければ、明日にでも……」
そして、薫は大きな「力」に仕える者の一人として、メスを振るうことになったのだ――
最新鋭の外科手術装置は、大きなアームチェアのかたちをしていた。
そこに腰掛けた薫は、首の後ろ――盆の窪に埋め込んだ電極を介して、装置と自分の脳を直結している。
いまの時代、外科医の大半は、自分の肉体に電極を埋め込む最低限の義体化手術を受けていた。
それによって装置を自らの腕として操り、複雑高度な手術を成功させることができるのだ。
だから、外科医がメスを手にするとか、メスを振るうというのは、今日では比喩的な表現に過ぎない。
薫自身の両手は肘掛けに置かれたまま、装置のマニピュレーター群が、被験者の肉体を切り裂く。
そして、剥き出した神経組織や筋肉繊維を一本一本、義体に繋げる。
モデルかタレント並みの美形であった娘の肉体は、いまや半分が銀色の金属部品に置き換わっていた。
それも、実用性はカケラもないような――「海老」を模った義体に。
430 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:48:26 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(24)】
短く不恰好な節足では、彼女は床の上をのろのろと這い回ることしかできないだろう。
水中では、義体は巧妙にくねる仕掛けで、それなりの速度で泳げる仕様だが、慰めになるとは思えない。
髪の間からは、銀色の触覚が突き出している。
それは脳幹に埋め込んだ補助電脳に直結して、水中や暗闇でも立体的な空間認識力を与える仕掛けだ。
不器用にしか活動できない「非実用的」な義体の彼女にとって、意味のあることかは不明だが。
美しかった両脚と、両腕の肘から先は、身体から切り離されて医療廃棄物扱いだった。
(最終的に、どのように処分されるか、薫は知らされていないが。)
ただし生殖器だけは廃棄物扱いを免れて、海老型義体の腰に「移植」されている。
それは彼女にとって救いかもしれない。
再度の手術で「まともな」人間型の義体を与えられる機会があれば、生身で残った生殖器は役に立つだろう。
もっとも――彼女を、いまのような姿に変えた側の意図は、単に「凌辱」のためかもわからない。
――莫迦ね。これが何人目の「犠牲者」と思ってるの。私の手は、もう汚れきってるのだから。
考えることは自分の仕事ではない、と、薫は自らに言い聞かせた。
見ず知らずの娘たちの肉体を、指示された通りの義体に造り変える。
それが、悪魔に魂を売り渡した薫の仕事なのだ。
執刀を終え、薫は手術室に入ったときのルートを逆戻りして、最後はシャワーを浴びて、浴室を出た。
美也が、にこやかな笑顔で待っていた。
「お疲れ様でした、緑川先生。お茶をご用意しています」
美也のあとについて、薫は広い応接室に入った。
窓辺のソファに案内される。窓の外は、いささか物寂しい山林が拡がるばかりだが。
431 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:52:41 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(25)】
席に着いて、すぐに美也が紅茶とクッキーを運んで来た。
薫は男装の娘の顔を見上げて、言った。
「たまには、あなたもご一緒にいかが、自称『執事』さん?」
「わたしは先生をお迎えしたホストではなく、あくまで執事ですから」
笑顔を崩さず答える美也に、薫は眉をしかめてみせ、
「一人でお茶を飲んでると、落ち着かないのよ。本音はさっさと帰りたいけど、手術のあとの高ぶった神経で
車を運転したら、事故のもとだもの」
「わかりました。では、おしゃべりだけ、おつき合いさせて頂きます」
美也は薫の向かいのソファに腰を下ろし、抱えていたお盆を脇に置いた。
薫は言った。
「あなたはメイド姿のほうが似合いそうだけど。執事として男装の麗人を演じるなら、ポニーテールは変だし」
「パンツルックが好きなんです。なんだか、きりっとした印象じゃないですか。ボトムがパンツのメイド服が
あれば、着てみてもいいですけど」
「自分のファッションを選べるくらいには、あなたは自由な立場ということ?」
「ええ、まあ……」
美也は苦笑して、
「私は、ただの『執事』ですよ。隠している正体なんてありません。先生はお疑いのようですけど」
薫は紅茶に口をつけて、カップを置き、上目遣いで相手の顔を見る。
「あなたほど若くて可愛らしければ、ここで『手術』される側にいても、おかしくないと思ったの」
「それはどうでしょう? お声がかかったことはないですけど。きっと、ご趣味に合わないんだと思います」
「どなたのご趣味に?」
たずねた薫に、美也は、にこにこと微笑むばかりで答えない。
432 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:55:56 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(26)】
薫は、大きく息を吐いた。
「もしかして……もしかしてよ。長いものに巻かれろというのが、いまの私の座右の銘。私は『大きな敵』など
作りたくない。でもね、一つとても気になることがあって、その答えがどうであれ、私は立場を変えるつもり、
ないのだけど……」
「何のお話ですか?」
「私が仕えている『主人』って、もしかして、あなた?」
「……え?」
美也は、眼をぱちくりさせて、それからくすくす笑い出した。
「どうして、そんな風に思うんですか、緑川先生?」
「あなたが、ただの執事である筈ないから。毎週、この山荘で自分と同じ年頃の女の子たちが、生まれも
つかない姿の義体に変えられていくのに、自分が同じ目に遭わされることはないと確信しているようだから」
「確信なんてないですよ。それに、この執事の服の下は、とっくに義体かも知れないでしょう?」
「それはないわね」
「どうしてですか?」
「人間型の義体が『御主人様』の趣味に合うとは思えない」
「そんな」
美也は、くすくす笑って、
「でも、わたしが先生の『雇い主』だとして、架空の名前で医師免許を用意したり、毎週、この山荘に
女の子を一人ずつ、誰にも疑われることなく連れて来させたり……そんな『力』があるとお思いですか?
お金の力だとしたら、それは無理です。わたしが世界一の大金持ちの跡取り娘だったとしても、それだけで
権力は手に入りません。親から受け継いだ財産イコール権力だとしたら、横取りするのは簡単だもの。
周囲の人間が示し合わせれば、小娘ひとり、どうにでも始末できるでしょう?」
433 :
【】の人:2007/06/29(金) 00:58:26 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(27)】
「あなた自身が財産を生み出せる、それだけの才能があるとしたら?」
薫は、美也の顔を、じっと見つめた。
「例えば、あなたは天才科学者で、一日一件ずつ有用な発明を生み出せるとか」
「それはかなりの才能ですけど、権力に結びつくほど有用な発明って、どんなのです?」
「半導体とか、ソフトウェアとか、現代の産業の根幹分野。あるいは、一番可能性あるのは軍事目的」
「すごい人間ですね。もし、そうだとしたら、わたしって」
美也は軽く肩をすくめてみせた。
「きっと『手術』に使う義体も、わたし自身の設計で、それは単に趣味だけど、普段は軍事用サイボーグの
研究なんかしちゃってるんだわ。この山荘の近所には専用の『動物園』があって、そこには先生に『手術』
させた動物型の義体の女の子たちが飼われているのね」
「女の子――メスだけ? 動物園ならオスも、つがいで飼えばいいのに」
薫は何げなく言って――そんな自分自身に驚いた。
冗談のつもりでも、冗談にならないだろう。自分が手がけてきた「手術」を考えれば。
だが、いまさら罪悪感などなかった。むしろ滑らかに次の言葉が出て来た。
「男の子を『手術』する『仕事』があるなら、それもぜひ私に任せてほしいわね」
「残念ですけど先生、男の子は、わたしが自分で『手術』してあげるんです」
美也の言葉に、薫は笑って、
「そちらこそ残念だけど、その話には無理があるわ。ポニーテールのおかげでわかるけど、あなたの首には
『電極』がないじゃない?」
「首の後ろでは目立ちますから、手術装置とのコネクタは腰椎に作ってあります、わたしの場合」
にこにこしながら、美也は言う。
「でも……驚きました。先生、よくそこまで推理なさいましたね。ほとんど正解ですよ」
434 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:01:17 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(28)】
「え……ちょっと待って」
薫は苦笑いした。当てずっぽうで言ったことなのに、それが事実だと認めようというのか。
美也は立ち上がり、薫に向かって深々と会釈した。
「先生も、とうとう『こちら側』の人間になってしまったみたい。近いうちに招待状を送らせて頂きますね。
今度は、きちんと『お客様』として」
「招待状?」
訊き返す薫に、顔を上げた美也は頷いて、
「『動物園』へのです。そちらの道は、この山荘の周りと違って綺麗に整備してますから安心してください。
それと、母にもお引き合わせできると思います」
「お母さん……あなたの?」
「先生の推理で違っていたのは、天才なのは、わたしではなく、わたしの母だということ。わたしも母に教育
されて、趣味の域での義体の設計は手がけてますけど、実戦投入レベルの軍事用の義体を開発するには、
もう少し勉強しないとなりません。幸い、才能は認められていて、母の財産を横取りされる心配はないですが」
薫は、ぽかんと口を開けて、美也の笑顔を見つめる。
「……きょうの『海老』は……いえ、その前の動物型の義体もみんな、あなたの設計?」
「わたしの趣味で、わたしの設計です」
「驚いたわね……」
薫は、大きく息を吐いた。あまりの成り行きに、どきどき心臓が高鳴っている。
「つまり、あなたと、あなたのお母様が、この世の中を支配する『力』の中枢にいると」
「この世から戦争がなくなることはありませんし、それであれば軍事技術は国家の最大の関心事でしょう?
ちなみに、わたしたちのクライアントは、この国の政府じゃありません。それでいて、この国に影響を及ぼせる
と言えば、どこの国かはお分かりと思いますけど。そもそも、この国で戦争はビジネスにならないんです」
435 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:10:27 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(29)】
「それは、きっと幸せなことなのだと、平和ボケした私は思ってしまうわ」
もう一度、ため息をついた薫に、
「ええ……わたしだって、身勝手な言い分でしょうが、自分が暮らす国が戦争に巻き込まれるのはごめんです。
だって、そうなったら『動物園』も続けられないでしょう?」
美也は言って、にっこりとした。
薫自身、見ず知らずの娘たちへの嗜虐的な義体化手術を繰り返すことで、罪悪感など麻痺していたが……
美也は母親の「英才教育」のおかげで、そもそも罪悪という観念を持たないのだろうと、薫は思った。
薫が「野原裕美」の名前で開業している義体整形外科医院は、東京の渋谷にあった。
三階建てのビル一棟が丸ごと彼女の持ち物で、一階は医院の診察室、二階は手術室で、三階は自宅だ。
隣近所にも同業の医院のほか、ピアス屋やタトゥー職人の店が軒を連ねている。
通りを行く若者の大半は、BM――ボディ・モディファイング(肉体加工)の愛好者だった。
ピアス、タトゥー、肌をオレンジや紫に染める《スキン・ダイ》、指や腕や脚を機械化した《メタラー》。
ゴーグル型の装置を眼窩に埋め込んでいるのは《ダイバー》だ。
彼らは補助電脳を脳髄に組み込み、日常生活との並列処理で、常時ネット接続を愉しんでいる。
夕刻――薫は近所に借りている駐車場にジャガーを停めて、医院を兼ねた自宅に歩いて戻った。
山荘での「仕事」に出かける毎週水曜は医院の休診日である。
それを承知しているシルバーアクセサリーの出店が、やはり毎週水曜に必ず、医院の玄関前に出ている。
店主の娘はゴシックロリータと《メタラー》が結びついた、いわゆる《メタロリ》だ。
両耳と左腕を黒い金属部品に換装した彼女は、悪びれた様子もなく笑って「御機嫌よう」と挨拶してきた。
薫は苦笑するしかなかった。相手は向かいにある別の義体整形外科医院の常連なのだが。
436 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:12:07 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(30)】
薫はビルの脇に設けてある、直接自宅の三階へ行ける階段を上っていった。
玄関のドアをノックして、薫は「ただいま」と声をかける。
「――はーい」
中から、明るい少女の声で返事があり、しばらくしてドアが開いた。
水城涼香だった――いまは野原霧香と名乗らせているが。
涼香は、親しい友人や家族に向ける笑顔で、薫を迎えた。
「お帰りなさい、先生。ちょうどカレーができたとこ」
「カレー? いいわね」
薫も、にっこりとする。
涼香は若草色のカーディガンと白いシャツにジーンズという普段着の上に、ピンクのエプロンを着けていた。
長い黒髪は、頭の後ろで髪留めでまとめている。
大人びて見えるが、まだ十八歳だ。しかし高校には通わず、薫の家で家政婦代わりをしている。
ダイニングのテーブルには二人分の席が用意してあった。スプーンとフォークと生野菜サラダ。
薫が席に着くと、涼香はすぐに盛りつけたカレーライスを運んで来た。
「可愛いエプロンね」
「あっ……これ? きょう買って来たんです」
涼香はエプロンを両手で広げてみせた。左右のポケットにトマトのアップリケが縫いつけてある。
「お揃いで先生のも買ってありますよ。紫でアップリケが茄子なの」
「私が料理しないの知ってるくせに」
苦笑いする薫に、涼香は「えーっ」と不満げな顔で、
「先生、お料理上手じゃないですか。あたしが初めてここに来た日に作ってくれたリゾット、すごい美味しかった」
「料理が苦手なわけじゃないの。ただ忙しくて作る暇がないってこと」
437 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:14:25 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(30)】
「あたし……先生と一緒にお料理したいのになあ」
そう言って涼香は、上目遣いに薫を睨む。
「わかったわかった」
薫は笑って、
「とりあえず、美味しいカレーを頂きましょう」
「一緒にお料理するって、約束してくれないんですかあ?」
口をとがらせる涼香に、薫は素知らぬふりでスプーンを手にとり、
「さあって、きょうのカレーは、ポークとチキン両方入ってるのね。私、これ好きなんだ」
「ずるいですよう、先生ってば」
「霧香ちゃんも冷めないうちにどうぞ。いただきまあっす」
薫はスプーンを持ったまま両手を合わせ、食べ始める。
「……もうっ!」
涼香はふくれ面をしてみせたが、すぐに笑ってしまい、「いただきます」と手を合わせて食べ始めた。
食後は、涼香が皿洗いをしている間、薫はリビングのカウチに寝そべり、テレビのニュースを観た。
遠い国の戦争の話題だ。この国とは関わりがない。
美也と、その母親にとってはビジネスの対象であるらしいが。
皿洗いを終えた涼香が、薫のそばに来た。食事中とは違った、暗い表情でうつむきながら、
「……先生、あの……きょうも検査、なさるんですか……?」
「そうよ。霧香ちゃんのために、必要なことだもの」
「せめて一日おきとかに、できないんですか? あたし……」
438 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:22:12 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(31)】
「……霧香ちゃん」
薫は立ち上がり、涼香の両手をとった。
「いまは健康な人と変わらない生活を送っているけど、あなたの肉体は一年半前、大きな損傷を負ったの。
それこそ……頭と身体の神経が切り離されるような損傷よ。自由に手足を動かせるようになったのは、脳幹に
埋め込んだ補助電脳のおかげ。その調整は可能ならば毎日、続けなくちゃならないの。私は、あなたの主治医
として……それ以上に保護者として、責任があるのよ」
「でも……」
涼香はうつむいたままで、
「検査が終わったあと、あたし……いつも酷い気持ちで眼が覚めるんです。検査の間のことなんか、何も
覚えてないのに。覚えていたとしても、先生が、あたしに酷いことをする筈ないのに。それなのに、あたし
……先生を自分の敵みたいに思ってしまってるんです。一年半より前の記憶のない、どこかに家族がいるのか
いないのかもわからない、あたしを引き取って、実の家族みたいに良くしてくれている先生を……」
「霧香ちゃん」
薫は微笑み、少女の頭を撫でた。
「それは、あなたのつらい経験が見せる悪夢。記憶を失くしても、肉体に損傷を負った経験が、どこかに
染みついているのね。でも、霧香ちゃん自身には責任のないことよ。検査のあとの霧香ちゃんが、私を
怨んだり憎んだりしても、それは悪夢のせいとわかってるから、私は怒ったり傷つかない。だから……ね?」
「……はい」
涼香は、こくりと頷いた。
医院の手術台に、薫は涼香を寝かせた。
439 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:24:18 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(32)】
涼香の枕の下に手を入れ、首の後ろのコネクタに、薫は検査装置のケーブルを繋ぐ。
「先生……」
不安げな顔の涼香に、薫は微笑んで、
「大丈夫」
と、少女の手を握ってやった。
「霧香ちゃんが眠るまで、この手を繋いでいてあげる。眼が覚めたときも、手はそのままよ」
「本当にずっと繋いでいてくれるわけじゃ、ないんでしょう?」
微笑む涼香に、薫は笑って、
「それは仕方ないわ。でも、あなたが眼を覚ますときには、必ずそばにいる。だから安心して。悪い夢を見た
なら泣いてもいいし、どんな我がままを言っても許してあげる。私は、霧香ちゃんの味方だもの」
「ありがとう、先生」
「じゃあ、おやすみなさい、霧香ちゃん」
薫は空いている手を伸ばし、検査装置の動作ボタンを押す。
「おやすみなさい、先生……」
涼香は微笑みながら眼を閉じ、すぐに眠りに落ちた――
そして、薫が繋いでいた手を離すと、本来の「水城涼香」が眼を覚ました。
薫に向けた眼は、敵意、怒り、憎悪――あらゆるマイナスの感情に満ちていた。
「……悪魔……悪魔! 何が、あたしの味方よ……!」
薫は鷹揚な微笑みで応えた。
「私は間違いなく『野原霧香』の味方よ。あなたから敵と見られていることは残念だわ、『水城涼香』さん」
440 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:27:40 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(33)】
「あなたは、あたしの、あたしのパパの、あたしのママの敵よ!」
涼香は叫んだ。薫は微笑みのまま首を振り、
「あなたのママに関しては違うと、何度説明してあげたら理解するの? それに……あなただって、本当は
いまごろ、鳥かごの中。この首を……」
と、人差し指で、怯えて表情を歪めた涼香の首を、横一線に切り落とすようになぞり、
「胴体から切り離されてね。ちゃんと元の身体に繋いであげたのは、私よ。あそこまでの措置を受けて、
ほぼ生身の肉体に戻れたなんて幸運だわ。手も足も自由に動かせて、日常生活に支障はないでしょう、
『野原霧香』でいる間は?」
「悪魔……悪魔よ、あなたは!」
涼香は眼に涙を浮かべて叫んだ。
「それもこれも、あたしを嬲り者にするためでしょう!」
「それは違うわ」
薫は答えて言った。
「私は、あなたに知ってほしいだけよ。私が、本当はどんな人間か……どんな人間だったか。私が悪魔だと
すれば、そうなるように仕向けたのは、あなたとあなたのパパ。『野原霧香』の前にいるのが、本当の私」
「あなたの言う『霧香』に、教えてやりたい!」
涼香は泣きながら言う。
「『野原裕美』が、本当は人殺しのニセ医者の『緑川薫』だってこと!」
「教えたところで、霧香ちゃんは信じないと思うけど」
「だったら試させて! あたしに『野原霧香』に宛てた手紙を書かせてよ!」
「そんなこと、よく思いつくわね」
薫は、あきれて苦笑いする。
441 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:30:36 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(34)】
「補助電脳にインストールされた、ただの『コピー人格』のくせに」
薫の言葉に、涼香は表情をこわばらせた。
「あたしは、本物の『水城涼香』よ!」
「この肉体に宿る本物の人格と呼べるのは、すでに『野原霧香』ひとりよ。まあ、彼女は一年半より以前の
記憶を持たないだけで、本来は『水城涼香』と同一の人格なのだけど」
「あたしが……あたしが、本物の『水城涼香』よっ!」
「その点に関する司法の判断は、分かれているわ。脳に重大な損傷を負った患者が、補助電脳の埋め込み
手術によって一命をとりとめた。ところが、意識が戻った彼は、以前とは全く違う人格に豹変していた。
それが補助電脳にインストールされた《思考補助プログラム》のせいだとしたら、彼を元と同一人物として
扱っていいのか……日本での判例はないけど、アメリカでは一部の州で、元とは別人として新しく市民権を
与えるべきだとした判例がある」
「あたしは最初から『水城涼香』じゃないのっ!」
「でも、その人格は、いまは補助電脳にインストールされているだけなのよ。仮に補助電脳を交換したら、
残るのは『野原霧香』だけ」
薫は涼香の髪に、そっと触れた。涼香は表情を歪め、
「さ……触らないでっ!」
「あなたが『水城涼香』として私を憎む感情が、『野原霧香』を苦しめているの。『霧香』でいる間のことは、
あなたもちゃんと記憶しているから、わかるでしょう?」
「ええ、おぞましいことに『霧香』が『野原裕美』を信頼してるのは知ってる、彼女の正体を知らないから!」
「信頼というより、恋愛感情じゃないかしら? 中学、高校と『水城涼香』には同性の恋人がいたそうだし、
彼女と本来的には同じ人格である『野原霧香』が、同居人の女性医師に恋をしても不思議じゃないわ」
「へ……変なこと言わないで!」
442 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:34:22 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(35)】
「べつに変じゃないでしょう。あなたの嗜好じゃないの」
薫は、涼香に笑いかけた。「野原霧香」の前では見せることのない、嗜虐的な笑み。
「私自身は恋愛に関してノーマルだけど、ゲイのカップルを否定する気はないし。それに……もしもだけど、
霧香ちゃんが自分から気持ちを打ち明けてくれたら、私は応えてあげてもいいと思ってるの」
「ふざけないで……」
涼香は、ぼろぼろと涙をこぼした。
「そんな、おぞましいこと、絶対に……」
「それは、だから霧香ちゃん次第よ。彼女に、その勇気があるかどうか。ちなみに、中学高校時代の恋人とは、
どちらから先に告白したの、『水城涼香』さん?」
「ああああああっ!」
涼香は号泣した。身体を動かせたら、両手で顔を覆っていただろう。
「悪魔っ! この……悪魔っ! あたしを、あたしのママとパパを、どこまでも苦しめて!」
「莫迦な子。どこまでも意地を張って」
薫は手を伸ばし、涼香の頬の涙を指で拭う。
「さ……触るなっ! 悪魔っ!」
「霧香ちゃんの前にいるのが本当の私だと、何度も教えてあげてるのに。私だって、あなたみたいな小娘を、
いつまでも苛めて面白がるほど幼稚じゃないわ。だから、ひとことでいいのよ。いまさら謝罪なんて求めない。
ただ、あなたが私に屈服したという、ひとことが欲しいだけ。簡単な言葉よ――『もう赦して』、それだけ」
「悪魔! サディスト! 変質者! あなたの言いなりになるものですか!」
「残念だわ。霧香ちゃんは、また悪夢の余韻を抱えて目覚めることになるのね」
薫は機械装置のボタンに手を伸ばす。
「おやすみなさい、涼香さん。また明日の検査の時間にね」
443 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:38:12 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(36・完)】
薫は装置のスイッチを入れ、「水城涼香」は強制的な眠りに落ちた――
そして「野原霧香」が目覚める前に、薫は彼女の手を握ってやった。
「……っ」
しゃくり上げるような声を漏らし、涼香は眼を開けた。頬が涙に濡れたままだった。
「先生、あたし……」
「大丈夫。私は、ちゃんとそばにいて、手も繋いでたでしょう?」
「ええ……」
涼香は微笑んだ。
「でも、あたし、また酷い夢。内容は覚えてないのに、嫌な気持ちでいっぱいで……」
「霧香ちゃん」
薫は腰をかがめて、涼香の泣き濡れた頬に、そっとキスをした。
唇を離した薫に、涼香は困惑気味に、
「え……、先生……?」
「なあに、そんなびっくりした顔で。泣いてる子には、一番のクスリだと思ったんだけどな。子供の頃、
よく近所の仲良しのお姉さんがしてくれたの」
屈託なく笑ってみせる薫に、涼香は恥ずかしそうに赤くなりながら、微笑み、
「クスリ……効きました。もう泣きません。だって、一番のお医者様の先生がくれたおクスリだもん」
「霧香ちゃん……」
薫は空いている手で、涼香の髪を優しく撫でた。今度は涼香は拒まなかった――
【完】
444 :
【】の人:2007/06/29(金) 01:40:36 ID:DMNsiHPO0
【義体整形外科医 緑川薫(あとがき)】
終わりです。
さあ、これから寝て、五時半に起きて出勤だ……
446 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 01:55:43 ID:p8hjZJ05O
サソランジンいいねぇ
447 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 23:51:03 ID:rLbXvv/0O
無理やり改造されるのはいいねぇ
448 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 08:59:53 ID:YFAZLgok0
Googleで【】の人のホームページというのがヒットしたけど開けなかったorz
451 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/08(日) 23:41:16 ID:rRkOUj4PO
何か面白い話しはないの?
だからどれが【】の人のホームページなのですか?