【機械化】サイボーグ娘!六人目【義体化】

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1名無しさん@ピンキー
サイボーグ娘に萌えるスレです。
人工皮膚系・金属外骨格系どちらも(それ以外も)OKです。
事故や病気で体を失って機械化した娘、特殊な作業に特化した体を得る為に機械化した娘、萌えるじゃないですか!
自分の機械の体で悩む娘も、能天気な機械化娘も、萌えるじゃないですか!
そんな趣旨のスレです。

アンドロイド娘とはかなり方向性が異なるので別スレにしてみました。
アンドロイド娘は完全人工な娘、サイボーグ娘は生身だったのを機械に改造した娘です。
区別の目安としては、脳味噌が生身か造り物か、という事になります。

前スレ
【機械化】サイボーグ娘!五人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1115785525/
前々スレ
【機械化】サイボーグ娘!四人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1109861097/

【機械化】サイボーグ娘!三つめのパーツ【義体化】
ttp://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1082827604/l50
【機械化】サイボーグ娘!二回目の手術【義体化】
ttp://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1064515330/
【機械化】サイボーグ娘!【義体化】
ttp://wow.bbspink.com/feti/kako/1062/10626/1062698217.html
2名無しさん@ピンキー:2005/07/04(月) 12:23:21 ID:XK5pwGPF
3虞祭坊:2005/07/04(月) 20:09:05 ID:N58k4Ecq
>>1
お疲れ様です。このスレもいろんな方々の投稿が増えてきて、ますます充実してきました。また今後ともよろしくお願いします。
4M.I.B.:2005/07/04(月) 21:57:47 ID:YvpxXJXT
>1
乙です。

以前は半年以上かかったの、2ヶ月もしないうちに新スレとは・・・
皆さんの盛んな投稿が続きますように。
5名無しさん@ピンキー:2005/07/05(火) 00:09:21 ID:kBkOK77B
6名無しさん@ピンキー:2005/07/05(火) 00:46:14 ID:WJFbHO+7
>>1
スレ立て乙〜
7manplus:2005/07/05(火) 02:28:04 ID:ty9SSe2w
「えりかさん、お疲れ様。今日の仕事は、どうでしたか?」
「いろいろな勉強になりました。皆さんの経験を肌で感じられ、満足しています。」
「明日も、早いから、あなたのモードも切り替えて、早く、休めるようにしてあげます。
明日からも大変な作業をしないといけないですから、そっちのリクライニングシートがえりかさんのものです。
席に収まって。今日はもう作業を終了しましょう。」
そんな声が次第に遠ざかっていった。まりなさん、えりか、明日もよろしくね。


 新しい1日の始まりが、バックパックによって、私にもたらされた。
身体をアクティブモードに切り替えられ、私のアクティブポートが開始された。0時、時間通りの起床だ。
まりなさんと、えりかが、傍らから私のリクライニングシートをのぞき込んでいる。
「はるかさん、今日は、いよいよ、新しい身体の知識教育がカリキュラムに加わります。トレーニングの後、
エデュケーションルームに入ってください。」

私は、いつものようにみんなとトレーニングをこなした。少し違っているのは、6名に新につけられた薄緑色の
ラバーフィットスーツを装着されたサポートヘルパーたちも一緒にトレーニングをしていることだった。
83の444:2005/07/05(火) 03:08:09 ID:VBY9LLE7
「はいはい、 分かりました。 可愛い管理人のアニーさん。 今日は、 お客さんを連れてきたから、空い
てる部屋を見せて欲しいの」
  佐倉井さん、 ニコニコ笑いながらも自身に満ち満ちた表情の女の子を見て、 このままじゃ埒があかな
いって思ったんだろうね。 あきれ顔で、 話を先に進めた。
「お客さん?」
  今まで笑顔で佐倉井さんと話していたアニーは、 なぜだか表情を曇らせて、 私のことを上から下まで
じぃっと眺めた。 そして、
「お客さんって、 コレのことですか?」
  って、 佐倉井さんに聞きながらも、 箒の先っぽでぞんざいに私を指すんだ。
  コレってなんなのさ。 コレって。 このガキんちょ、 佐倉井さんに対する態度と私への態度があから
さまに違うじゃないか。 なんだよ、 私を物扱いしてさ。
  私、 ついカッとなって頭に血が上りかけたけど、 所詮中坊のたわごとじゃないか。 私はもう大学生
なんだよ。 ガキ相手に本気で腹をたてるなんてみっともないよって思い直した。
「私は八木橋裕子。 人を呼ぶときは、 ちゃんと名前を呼ばなきゃだめでしょ」
  そう言って、 大人の余裕を見せてアニーをたしなめた。 そう、 たしなめたつもりだったんだよ。
でも・・・。
「あら、 変わった名前なのね。 で、 どこのメーカーなの? 製造番号は?」
  アニーは悪びれる様子もなく、 さらりと私にそう聞いた。
「メーカー? 製造番号?」
  一瞬返す言葉も失って、 鸚鵡返しにアニーの言葉を繰り返したっきり固まってしまう私。
この子は何を言ってるんだろう。 まさか、 私は、 イソジマ電工製です、 とでも言わなきゃいけな
いんだろうか? まさか、 まさか私の身体が機械だって見抜いたっていうんだろうか? 嘘だ。 嘘だ。
そんなことあるはずないよ。 よっぽどのことがなければ、 外見だけで、 私のことが分かるはずがない
んだ。
93の444:2005/07/05(火) 03:10:41 ID:VBY9LLE7
「あら、 どうしたの。 びくびくしちゃって。 感情表現はたいしたものじゃない? いいのよ。 二流メ
ーカー製でも、 私は差別なんかしないから正直にいえばいいのにね。 ふふふ。 今日から来るって聞い
てたけど、 まさか、 こんなふうにやって来るとはね。 機械のくせに人間のふりして、 眼鏡なんかか
けて、 一丁前に私を試してるつもりかしら?」
  怯えて立ち尽くす私に、 美しい少女の口から吐き出される言葉の槍がぐさぐさ突き刺さった。
  どうやって私の身体が義体だって知ったのかしらないけど、 アニーの言う通り、 私の身体は機械
だよ。 それは、 認める。 眼鏡を掛けているのは、 機械の身体に見られたくないからっていうことも
ある。 それも認めるよ。 でも、 それでも私は人間なんだよ。 そんな私を機械扱いするなんて、 物
扱いするなんて。 それも佐倉井さんの前で・・・。
  私の身体の事、 馬鹿にされた。 機械だって馬鹿にされた。 それも、 こんな年端もいかないガキ
んちょに。
  怒りと屈辱で身体が震えた。 顔色は変わらないかもしれないけど、 私の心は、 今この瞬間、
まっ赤に染まったよ。
「あー、 そういう反応をしてくれると、 私も躾がいがあって楽しいな。 さてさて、 あなたには何を
やってもらおうかしらねえ。 やってもらうことは山ほどあるんだから。 まずは、 今干してある洗濯
物を取り込んで、 アイロンがけね。 それが終わったら夕食の用意ね」
  アニーは涼しげな表情で、 さらに私を煽った。
  ゴメン。 もう駄目。 私には大人の対応はできません。 躾だって? 洗濯しろ? 掃除しろ? アイ
ロンがけ? 食事を作れ? 思い上がるのも、 いい加減にしろっ! 私がアンタに口の聞き方を教えてやる。
  私は、 つかつかとアニーに歩み寄って、 右手で思いっきり平手打ちを見舞ってやろうとした。
  だけど・・・、 アニーは中学生とは思えない身のこなしで、 平手打ちを見舞うはずの私の右手首を
がっちり掴んだ。
103の444:2005/07/05(火) 03:11:32 ID:VBY9LLE7
「あらら、 反抗しちゃうんだ。 随分面白いプログラムをされているんだね」
  アニーは、くすくす笑いながら、 私の手首を掴んだ左手にぐっと力を込めた。 私の義手がみしっと
きしんだ音をたてた。
「い、 痛いっ、 痛いっ! 何するんだよう。 離してよう」
  痛みに耐えきれず、 私は情けない悲鳴をあげた。 かっと血が上っていた頭から一瞬で血の気が引い
ていくのが分かった。
「あらあ。 ちゃんと痛みは感じるようにできているじゃない。 躾がやりやすくて助かるわあ」
  アニーは、 まるでお気に入りのおもちゃをおもちゃ屋で見つけたみたいな、 無邪気な笑顔を私に向け
た。 でも、 そんな彼女のきゃしゃな左手は、 私の右手首をがっちりと、 ものすごい力で握って離さない
んだ。
(このままじゃ、 私の右手がこわされちゃう)
  焦った私は必死でアニーの手を振りほどこうとした。 でも、 腕はびくとも動かない。 私だって、
義体なんだから、 なまじっかな男の子よりはよっぽど力持ちなんだよ。 その私が、 本気でアニーの手
を振りほどこうと頑張ってるんだ。 なのに・・・、 なのになぜ、 こんな見るからに弱っちい細腕が引き剥がせないのさ。
それどころか、 アニーは私の反応を見て、 おもしろい動きをする人形か何かを見るみたいに楽しそうに
笑ってる。 この子は、 この子は、 ただの中学生じゃないね。 私と同じ全身義体? でも、 それも違う
ような気がする。 この子は一体何者なんだろう。
「さて、 じゃあ、 アイロンがけ。 できるでしょ。 今すぐ取り掛かって」
  私が、 すっかり抵抗することを諦めて大人しくなった頃合を見計らって、 アニーは、 まるで子供に
言い聞かせるみたいに、 ゆっくりと私に言った。
「うー、 やだよ。 私、 絶対にそんなことしないからね」
「ふーん、 まだ私に逆らうんだ。 じゃあ、 ロボットの性能の差が、 身分の決定的差だってことを、
この際きっちり教えてあげるよ」
113の444:2005/07/05(火) 03:14:43 ID:VBY9LLE7
  ばちん。 
「ぎゃっ!!」
電気がショートする鋭い音とともに、 私の右手を掴んでる女の子の手のひらから火花が散った。 同時
に、 私の右腕の先から頭まで、 激しい痛みとショックが突き抜けた。 余りの激痛に、 私はみっともない
悲鳴を上げてその場で尻餅をついてしまった。
 ロボットの性能の差が身分の差だって? この子、 ロボットだっていうの? それで、 私のことロボット
だって勘違いして、 私のこと教育しようとしているわけ? ロボットのくせに。 機械のくせに。 私は人間
どころか、 機械以下だっていうの? そんなのひどい。 ひどすぎるよ。
  倒れた私を勝ち誇ったように上から見下ろしている、 女の子の形をしたロボット。 ホントなら人間様に
は決して逆らえない従順な機械のはずなんだ。 佐倉井さんに対する時にはそうだったように、 きっと、
普通の人にとっては、 見た目どおりの可愛らしい存在なんだろう。 でも、 私にとっては血も涙もない凶暴
な悪魔の手先にしか見えないよ。
「八木橋さん! 大丈夫、 大丈夫なの? 一体何をされたの?」
  今まであっけにとられて私達のやりとりを見ていた佐倉井さん。 我に返って、 はじけたように私のと
ころに近寄った。
「うー、 大丈夫です。 自分で立ち上がれます」
  機械の身体だもん。 私の身体から痛みはもう引いているんだ。 佐倉井さんに心配をかけまいと何事も
なかったかのように、 立ち上がる私。 でも、 心はガクガク震えている。
「ちょっと、 何をしたか知らないけど、 ひといんじゃない? 八木橋さんに謝りなさい」
  佐倉井さんは、 すごい剣幕でアニーを睨み付けた。
「佐倉井さん。 心配しないでください。 軽く1500Vの直流電圧を流しただけです。 普通の人間なら死んじゃ
うかもしれませんけど、 ロボットにはこれくらいなんて事ありませんから。 甘やかすと癖になりますから、
ちょっと躾をしただけです。 気に触ったらごめんなさい」
123の444:2005/07/05(火) 03:18:33 ID:VBY9LLE7
  相変わらず、 佐倉井さんには殊勝な態度のアニー。 佐倉井さんは人間だからってわけだ。 でも、 私は?
私だって人間なのに・・・。
「ロボットですって? 八木橋さんが? あなたもなの? ロボットは、 嘘をつかないっていうけど、 ああ、
なんだか信じられないんだけど」
  佐倉井さんは、 困ったように私とアニーを交互に見比べた。
「違う! 違うんだ! 佐倉井さん、 それは絶対違うからね。 この子は、 何か勘違いをしているんだよ。
ロボットなのはこの子だけ。 私はれっきとした人間なの。 八木橋裕子なの。 八木橋裕子なんていう名前の
ロボットはいないし、 ロボットが大学に受かるわけないんだよう。 戸籍だってちゃんとあるんだよう」
  私は、 こんなこと必死で訴えなきゃいけない自分が悲しかった。 ロボットだっていうアニーと、 全身
義体の私とでは何が違うっていうんだろう。 身体の構造なんて、 きっと、 ほとんど同じだよ。 でも、
佐倉井さんと私は、 同じ人間っていいながらも、 ほとんど同じところなんてありはしない。 脳みそがつい
ているっていう、 わずかな共通点にしがみ付いて、 人間なんだって自分に言い聞かせるみたいに声高に主
張する私。 きっと、 端からみたら滑稽だよね。
「ふーん、 まだ人間なんて言い張るんだ。 いい加減しつこいね」
  アニーは、 あきれたようにそう言うと、 箒を投げ捨てて、 すばしこいで私に抱きついた。 そして、
私の脇腹をさぐって、 カムフラージュシールを剥がして、 小さな収納フタを開いて、 あっという間に
ずるずる充電用のコンセントプラグを引き出したんだ。
「ねえねえ。 これは何かしら。 何で人間のあなたにこんなものがついてるのかなあ?」
  私の目の前で、 コンセントプラグを勝ち誇ったようにひらひら動かすアニー。
  私にとって、 人前に、 人間ではありえないような機械の部品を晒されることが、 どんなに屈辱的なこ
とか分かるだろうか? こんなことされるくらいなら、 菖蒲端の駅前で裸踊りをしたほうがどんなにましか
分からないよ。 でも、 もう今更、 アニーの手からコンセントプラグを奪い返す気も起こらない。 そんな
ことしたって、 どうせ佐倉井さん、 私の事人間なんて、 信じてくれっこないもの・・・。
133の444:2005/07/05(火) 03:19:45 ID:VBY9LLE7
「ほら、 佐倉井さん。 見てください。 コレは、 ロボットなんですよ。 人手が足りないから、 応援を呼
んでいたんです。 いつ来るのかなって思っていたんですけど、 こんな風に人間のふりをしてやってくる
なんて思いもしませんでした。 変な騒ぎを起こしてしまって本当に申し訳ないです」
  ただただ唖然としている佐倉井さんに向かって、 アニーは馬鹿丁寧にぺこりと頭を下げた後で、 わざ
とらしくため息をついた。
「これにさっきみたいな電気加えたら、 どうなると思う? ふふふ」
  アニーは、 今度は私のほうを向いて、 コンセントプラグの先っぽをいじりまわしながら言った。
「もう・・・、 やめてよ。 私は機械女です。 それでいいんでしょ。 それで満足なんでしょ」
「質問でーす。 これに電気をばーん、 ってするのと、 大人しく洗濯物を取り込んでアイロンがけをする
のとどっちがいい? ねえねえ。 答えてよ」
  電気をばーんってされたらどうなるかだって? 考えたくもないよ。 悔しいけど、 屈辱だけど、 答え
なんか、 決まってるじゃないか・・・。
「アイロンがけ・・・です」
「あらあ、 ようやく分かってきたじゃない。 ここは全自動住宅なんだからね。 機械が人間の代わりに
全部やってあげなきゃ駄目なんだよ」
  アニーは、 満足そうに笑うと、 コンゼントのプラグを私に放り投げた。
143の444:2005/07/05(火) 03:33:32 ID:VBY9LLE7
>>1
スレ立て乙です。

新スレで気分も新たに頑張ります。今回はヤギーには珍しく鬼畜な
展開にしてみました。と、いってもこの程度ですけど。

前580様
アニーはこんな人でした。ていうか人ですらないという…。

manplus様
訓練シ−ンなど、やたらとリアリティある描写でいつも驚かされてばかり
です。こういったSF的な風景描写って、どうやって創作するのでしょうか?

虞祭坊様
以前、特撮と申し上げましたが、過去話も交えて、まるで映画のような
スケールの大きな展開になってきました。人物描写が上手くて、キャラが
生き生き動いているので、楽しいです。
15名無しさん@ピンキー:2005/07/05(火) 14:16:45 ID:FcRBx2DW
アニーVSさや
16名無しさん@ピンキー:2005/07/05(火) 14:36:19 ID:gnQXj02y
ロボットと認識した対象を他人の所有物かもしれないのにいきなり損壊するロボットってまずくないか?
17名無しさん@ピンキー:2005/07/05(火) 22:08:35 ID:5j+mMr2z
ていうか、全身義体もあたりまえのこの時代に、相手が全身義体かロボットかというのを判断できないロボットってのも・・・


ヤギーが人間だと知った時の、アニ−の狼狽ぶりが楽しみですw
18名無しさん@ピンキー:2005/07/05(火) 23:40:34 ID:qV3z6xpD
ヤギーの正体ばれシーンは、いつもながら萌えます。
義体の人が人間だと証明するには、脳みそを見せるしかないか?
19名無しさん@ピンキー:2005/07/06(水) 00:07:00 ID:bNjhKzap
どうでも良いがまとめてるサイトのURLもテンプレに追加したほうが良いような・・・
20名無しさん@ピンキー:2005/07/06(水) 04:36:30 ID:qFpPN3Wv
ところでヤギー世界だとロボットの犯罪はやっぱり所有者が責任を負うんでしょうか?>作者様
21manplus:2005/07/06(水) 22:05:24 ID:4T+lKBOL
 そして、トレーニングを終えるといよいよ、エデュケーションルームで新しい教育訓練の課目である
このプロジェクトで使われるサイボーグの身体の勉強であった。私たちにとって、自分の将来の姿と構造を
学ぶことは、最も重要なことの一つであった。なぜなら、孤立した火星の環境で自分や仲間を修理するのは、
ドクターのいない世界だからこそ、必然性のあるものであったし、重要なことであった。
 しかも、治療とは言わずに修理とかメンテナンスという言葉を使うのだそうである。ますます、自分が人間でなく、
機械に近い存在になることを認識づけられる。
 エデュケーションルームに9名の第1期被験者候補メンバーと第2期メンバーのうちえりかたち6名が集合した。
 私たちのバックパックが付いたラバーフィットスーツで包まれた身体をピッタリ包み込むような形の
エデュケーションチェアに座ると全身が包み込まれるように拘束され、エデュケーションチェアの背もたれが傾き、
全身が斜めの状態でしかも楽な姿勢の位置でホールドされた。そして、バックパックにエデュケーションチェアから
エデュケーショナルケーブルが伸びだし自動的に接続された。このとき私のフェースプレートが遮光率0%となり、
まったく何も見えなくなった。しばらくすると長田部長の姿の映像が、私たちのフェースプレートに映し出された。
私は、エデュケーションチェアに座るときいつも、私の視覚が一瞬途切れて何も見えなくなる時間が
長く感じられた。エデュケーションチェアの特徴は、ラバーフィットスーツの視覚機能と
コミュニケーションサポートシステムと連動して、訓練教育を受ける人間に対し、教育映像以外の視覚と聴覚を
遮断し、意識を集中させる機能を持っているのである。もちろん、ここでエデュケーションチェアに座っている
人間にそれぞれ違ったカリキュラムを受けさせることも可能であるし、個人に合わせたプログラムを受けさせる
ことも出来るシステムなのである。もちろん、身体データを管理されているので、睡魔が襲ったり、
注意がそれるたり、カリキュラムを受けることに反抗的だったりすると体罰システムが機能するので、
訓練教育プログラムに集中することを強制されるシステムでもあるのだ。
22manplus:2005/07/06(水) 22:08:36 ID:4T+lKBOL
 フェースプレートに映し出された長田部長がしゃべり出した。
「今日から、いよいよ、皆さんにとって、一番重要なカリキュラムの一つである今回の火星植民地化プロジェクトで
使用予定のサイボーグについてのプログラムが始まります。このプログラムは、自分たちがミッションの間中
生き続けるためにもっとも必要な知識となるのです。なぜなら、自分たちの身体のことなのですから。
このカリキュラム全体をとおしての教官の水谷美雪ドクターです。彼女は、今回のサイボーグ計画の人工器官の
開発から、医学的処置に至るまで、全ての開発の統括責任者をお願いしています。
火星探査・開発用サイボーグ、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの全てにおいて、最高の知識を持っています。
水谷ドクター、どうぞこちらへ。」
長田部長の映像が、水谷ドクターの映像に切り替わった。彼女は、技術スタッフの薄い黄色の
ラバーフィットスーツを装着していた。透過率100%にしてあるフェイスプレートとゴーグル越しに顔を見ることが
出来た。どちらかというとかわいいタイプの女性だった。「皆さん。こんにちは。はじめまして。水谷美雪と申します。
今日から、我々が我が国の将来を託す皆さんの近未来の身体についての詳しい情報を与えます。
皆さんは、情報を受け取ることにより、自分たちが置かれている状況を冷静に分析することと、
自分たちの身体の修理とメンテナンスが間違いなく行えるようにしてもらうことを目的としたカリキュラムです。
実際の人工器官の模型を見てもらったり、実地訓練も行ってもらいますが、火星探査・開発用サイボーグと
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの身体の全ての知識を習得してもらうため、バーチャルの教育システムである
エデュケーショナルシステムをフルに使ったカリキュラムが中心となると思います。
23manplus:2005/07/06(水) 22:10:06 ID:4T+lKBOL
実際の身体のメンテの習熟訓練は、皆さんがサイボーグ手術を受けてから、自分やチームの仲間の身体で
行ってもらうことになると思います。特に、第1次火星探査の正規チームは、緊急補充用バックアップチームの
身体を使って確実に技術を習得してもらうことになります。正規チーム自身の身体を使っての訓練もあると
思いますが、正規チームの3名は、何事もなく、火星に送り込まれるための重要な機材ですから、
故障の原因になる可能性のあることをサイボーグ体に行うことは出来ないためです。
その為にバックアップチームに正規チームと同様の処置を施してあるのです。バックアップチームの3名は、
そのことを忘れないでください。」
 かわいい顔をして水谷ドクターは、きびしいことを言う。でも、それが私たちに与えられた運命なのだ。
それにしても、修理、故障、機材なんて言う言葉が私たちが人間ではなくなることを端的に示す言葉なのだと
痛感した。
水谷ドクターは続けた。
「残りの4名の第1期プロジェクト用ドナーメンバーも第2期の中でここにいる6名のプロジェクト用ドナーメンバーも
人ごとではないのです。第1次メンバーが旅立ってから、1年以内には、サイボーグ手術を受けてもらい、
火星に行く準備と訓練を開始してもらいます。何故なら、第1次探査チームより、
第2次探査チームの方がより長い期間火星に留まることになりますし、その後に出発する火星開発チームの
メンバーは、火星からの帰還を想定せずに火星に送り込まれることになりますから、
訓練することがたくさんありますので、長期の訓練と耐久試験でのサイボーグ体の信頼性を確認してから
出発させる必要があるからです。だから、ラバーフィットスーツを装着されて人間としての生活期間は、
余り無いのです。いいですね、皆さん。」
私は、「ハイ。」と答えた。
24manplus:2005/07/06(水) 22:17:33 ID:4T+lKBOL
水谷ドクターが続けた。
「皆さんに厳しいことを言っていますが、現実として受け止めて欲しいの。そして、皆さんに火星で何かのトラブルに
巻き込まれないようにして欲しいの。だから、厳しい言葉を吐くかもしれないけれど、勘弁してください。
それから、これから、私たちサイボーグ開発チームがみんなを出来る限りサポートしていきます。
みんな、頑張ってね。」
水谷ドクターは、最後の言葉を話したとき口元がほころんだ。本当に心配してくれているのだ。
水谷ドクターの優しさが伝わってきたように思った。
 水谷ドクターの映像が消え、またしばらく真っ暗な状態になった。しばらくすると、映像ビデオが流れはじめ、
視覚に映る物体があった。水谷ドクターの説明が入る。
「これが、美々津少佐と橋場少佐の2名そして、6名の第2期プロジェクト用ドナーの何名かのサイボーグ手術の
完成イメージになります。」そこに映し出されたのは、まさに無数のケーブルに繋がれた物体でしかなかった。
「惑星探査宇宙船操縦用サイボーグは、基本的に、手脚という地球上で地球上で必要な器官が、
このタイプのサイボーグにとっては、宇宙船ということになるため、手脚という器官を除去してあります。
だから、手脚のとれたアンドロイドという形状になっています。そして、切断面には、宇宙船の
操作用コンピューターと接続するためのコネクターが付いています。
身体は、特殊合金製のメタルスキンとなっています。身体の内部は、内臓は全てほとんど全て取り除かれ、
空いた空間に補助コンピューターが組み込まれています。脳と一部に残った本来の肉体部分の栄養補給は、
外部からの供給に頼るようになります。宇宙船に接続されている場合は、惑星探査用宇宙船の場合、
半無限供給型有機栄養液生成システムから胸部のバルブに接続中部によって供給されます。
それを人工心肺システムにより、生体部分に運ぶのです。宇宙船から切り離されて、生活する場合は、
本体の右にイメージ映像が示されている交換型栄養液供給、老廃物貯蔵システムカートリッジを
フロントパックにいれて、胸のバルブ部分に固定取り付けを行います。
25manplus:2005/07/06(水) 22:18:17 ID:4T+lKBOL
ですから、宇宙船では気にしなくてもいい栄養液カートリッジの補充と老廃物の貯留カートリッジの交換を
定期的に行ってもらう必要があります。そして、人工心肺に関しては、液体呼吸液が人工血液として
直接生体部分を流れるようになっていて、酸素と二酸化炭素の交換は、バックパックで行われ、酸素を呼吸液に
供給し、二酸化炭素を除去するシステムがバックパックに内蔵されています。
心臓機能は、ロータリーポンプ型人工心臓システムになっています。このシステムのメリットは、
常に人工血液でもある呼吸液を途切れることなく、一定の圧力で供給し続けられることなのです。
バックパックには、酸素発生システム、二酸化炭素処理システム、補助コンピューター、
コミュニケーションサポートシステム、データ記録装置、データ送受信システム、機械部分駆動用蓄電池などの
機械類が納められます。蓄電池に関しても、宇宙船では自動充電ですが、地球上では、1日に1回、
必ず充電処置が必要になります。頭部は、やはりメタルスキンで覆われていて、目は、ゴーグル型の
人工眼球になっています。人工眼球下部からロケットの外部モニターと接続するためのコネクターが付いています。
口や鼻といった知覚器官は不必要ですから取り除いていて、それらのあったところの空隙部分に
永久エネルギー作成、蓄積、供給システムが取り付けられます。そして、脳の部分は、脳を包み込む形で、
補助サポートコンピューターがおかれます。これで船内の音を聞いたり、船外の情報をリアルで収集を行い、
必要な情報を脳に送るようにしています。
彼女と他のサイボーグたちや我々と話す際に使われるコミュニケーションサポートシステムと
脳のサポート補助コンピューターと接続されています。そして、惑星探査宇宙船と接続され、
シートに取り付けられ、固定されて任務を行うのです。」
26manplus:2005/07/06(水) 22:18:51 ID:4T+lKBOL
 私は、息をのんで、その映像を見つめた。金属光沢を放つボディー、戦隊物のヘルメットを被ったような頭部、
そして、ボディーと同じ素材で出来たバックパックが、ボディーと一体化されていて、どう考えても取り外すことが
出来ない。もう、人間の肉体に機械の人工器官を移植したサイボーグというよりもアンドロイドに人間の脳と
最低限の臓器を取り付けたという表現が正しかった。人間性というよりも、宇宙船の頭脳としての
特殊用途サイボーグの機能を最優先された姿であった。脳以外は、余分な器官という意識で、
デザインされていた。説明は続いた。
「主要部品に軽量化金属を多用しているのと、手脚という余分な器官を考えなくてよくなったこと、
電子部品の素材も軽量素材が使われていることもあり、重量を20Kg前後に抑えることが出来ています。
宇宙服込みで通常の宇宙飛行士のオペレーターを乗せると200Kgに近い重量になることを考えると、
この部分で、90%の軽量化がはかれたことになり、その分火星に降ろせる機材を余計に積むことが出来るように
なったのです。それに、手足の動作を使ってのオペレーションと違い、宇宙船と脳及び神経組織がダイレクトに
繋がっているため、反応速度が大幅に速くなっています。まさに、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグは、
宇宙船をオペレーションするための決定版といったところね。ここまでで、質問はありますか?」
 質問する気力すらなくなってしまう。もう、完全な物扱い、私たちは、火星に降ろす機材であり、人間ではないし、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグも、宇宙船のメインシステムの一部でしかないのであった。
何か、気分が滅入ってしまうような感覚に襲われた。それでも、サイボーグの説明は続く。
27manplus:2005/07/06(水) 22:27:03 ID:4T+lKBOL
 フェースプレートが再び、真っ暗になった。しばらくして、違ったタイプのサイボーグの映像が
フェースプレート内にモニターされた。
「次ぎに、皆さんに見てもらっているのが、火星探査・開発用サイボーグです。皆さんの大部分の人が手術を
受けて、この姿になってもらうサイボーグです。まず初めに如月大佐、望月七海中佐、渥美大佐、望月未来中佐の
4名が約30日後にサイボーグ改造手術を受けてもらうことになっています。
彼らの処置が成功すれば、順次、ここにいるプロジェクト用ドナーである皆さんも、
ここにいない第2期プロジェクト用ドナーメンバーも大部分の人がこのタイプのサイボーグになっていくのです。
だから、ここにいるメンバーには、何度も何度もひつこく言うけれど、自分たちのこれからの運命として、
冷静に受け止め、身体の構造学を自分の物にしてください。決して、目をそらさないで欲しいし、
そらすことは出来ないのです。」
 私が、ラバーフィットスーツを装着されていて、身体を部分的に変更されているけど、人間としての感触のある
今の状態でいられる期間は、もう30日ぐらいしかないのか。計画が予定より遅れて、
少しでも長くこの体でもいいから、人間でいたい。現実のタイムリミットが近づくとそんな思いがこみ上げてくる。
事実を突きつけられれば突きつけられるほどそう言う感情が強くなる。覚悟は出来ているはずなのに・・・。
他の5人はどう考えてこの映像を見ているのだろう?
「如月大佐、考え事をしていないで、映像に集中してください。」
 水谷ドクターの声が聞こえた。
「すみません。」
 ハッとして、また、映像を見ることに神経を集中する。
28manplus:2005/07/06(水) 22:28:20 ID:4T+lKBOL
「これが、我が国が開発する火星探査・開発用サイボーグです。つまり、あなた達の近未来の姿になります。」
 私の前に現れた映像は、特撮映画の女怪人といった雰囲気だった。濃くて深い緑色をしたラバーフィットスーツの
ようなゴム感がある金属光沢を持った身体、頭部は、同じ色をしたヘルメット上の硬質感を持っていた。
そして、その頭部の顔に当たる部分は、大きなゴーグル状の形をした鈍く赤く光る物が多分目だと思う。
そして、口や鼻という器官は痕跡すら見当たらなかった。耳の部分は、四角形の形に少し出っ張っていた。
背中に映像が移るとその部分は、バックパックぐらいの四角形をしたこぶが付いており、
そこから金属製の柔軟性のありそうなチューブがでていて、それが身体に続いていた。
もうここまでスタイルを見ても、人間ではないと思えたが、性能を聴いたら、もっと期待通りの物であろうと思えた。
 水谷ドクターの説明が始まった。
「基本的には、ラバーフィットスーツを着たシルエットに近いと思います。しかし、実際の身体の寸法は、
内部に詰め込んだ機械の関係で多少大きめになっています。頭部は、火星の微弱な光の中や夜の暗い中でも
視覚を確保できるようにした低温光線可視型人工眼球です。そして、映像を動画及び静止画にて保存することが
出来るような高性能デジタルカメラにもなっています。画素数換算では、人間の肉眼以上の性能になっています。
頭部側面にあるのが外部集音機になります。耳に相当すると同時にコミュニケーションサポートシステムの
通信アンテナになっています。また、デジタルレコーダーになっていて、高性能のデジタル音源データを
録音保存できるようになっています。口は、不用の器官であるため、デザインされていません。
臭いというデータは重要なので、人工眼球のすぐ下の部分に感臭装置が付いていて、臭いの成分が瞬時に
分析され、脳にデータを送ると同時に視覚データとして人工眼球の中の視覚に成分表が表示することも出来ます。
29manplus:2005/07/06(水) 22:29:34 ID:4T+lKBOL
また、蓄積データとして、デジタル保存されるようになっています。サイボーグの神経システムは、
バックパックと身体内の補助コンピューターと脳が連動して、身体の最適に生体部分をコントロールできるように
なっていますし、神経細胞の結節部分には、伝達速度を速くする神経システムアシストシステムの電子部品を
取り付けます。この装置のもう一つの目的は、機械部分の制御用ケーブルを分岐させ、神経組織を通じて
生体部分と機械部分の両方を脳と神経が制御できるようにすることです。それによって、本来の生体脳が、
もちろん、補助コンピューターとの協調によるものですが、自分の身体として、
サイボーグ体全体を完全制御できるようにしているのです。」
 火星探査・開発用サイボーグの頭部は、データ取得のための装置と指令を実行するための
メインシステムである脳の収容装置としてだけ考えられているようだった。
「つぎに身体部の説明をします。サイボーグを覆う表面部分は、強化人工皮膚なのですが、金属とゴムと
プラスティックの強化複合素材から出来ています。柔軟性伸縮性に富んでいて、なおかつ、耐薬品性、
耐衝撃性に優れ、強度も高くなっています。一方で、サイボーグを覆う皮膚のための重量に関しても、
考えられた素材の中では、性能比で最軽量のものになっています。大事な探査機材としてのサイボーグを
外的危険から守る能力が非常に高くなっています。そして、この人工皮膚の特徴は、人工葉緑素と
エネルギー吸着素材、酸素吸着素材を含んでおり、火星では、二酸化炭素とごく微弱な太陽からの光線を使い、
酸素とエネルギーを作り出すことを可能にしていると共に、火星と宇宙空間や宇宙船内で少量の酸素や
空気中の元素エネルギー、太陽光エネルギーを吸収できるようになっています。
30manplus:2005/07/06(水) 22:30:10 ID:4T+lKBOL
そして、人工皮膚でつくられたエネルギーや酸素は、背中部分の一体型バックパックと腹部に作られた貯蔵システムに
蓄えられます。下腹部にあるポーチ状のふくらみの部分が貯留システムです。そして、人工皮膚は、
本来の皮膚と完全溶着融合され、本来の皮膚として機能します。それにより、皮膚に損傷があった場合でも
自己修復が可能となっています。そして、もとの皮膚に戻すことは、不可能な処置となっていることを
認識してください。それから、その内部の筋肉に関しては、柔軟性と人間の能力をはるかに上回るパワーを
持たせることを、皆さんの本来の筋肉と人工筋肉を一本ずつ編み合わせていく作業を行うことにより可能に
しました。人工筋肉の素材は、特殊金属とセラミックの複合体です。これも不可逆的な処置となります。」
 ここまで聴いただけでも、もうすでにもとの人間らしい身体には戻れないことを理解しなくてはいけない状況に
なっていたのに、これから先の水谷ドクターの説明は、更にそのことを強く認識するものになった。
「更にその内部にある消化器官は、ほぼ全てを除去し、そして、高濃度液体栄養液を人工心肺システムで
直接人工血液に供給します。老廃物は、人工腎臓と僅かに残した排尿管で体外に排泄されます。
僅かに残った生体部分の健康維持システムとして、自分の胆嚢、脾臓、肝臓の細胞から造られた
人工肝臓システムに置き換えます。栄養液の供給、老廃物の排泄に関しては、バックパックの
循環リサイクルシステムに依存します。呼吸器官に関しては、肺も心臓も除去して、
人工心肺システムに交換されます。このシステムでは、ハイに代わる器官は必要なくなり、
酸素を含んだ人工血液がバックパックから直接人工心臓システムに供給され、二酸化炭素を含む人工血液が、
バックパックへ排出されます。バックパックでは、酸素貯留システムと酸素発生装置により、
人工血液に酸素が取り込まれ、二酸化炭素吸着システムにより、人工血液から二酸化炭素を吸着します。
31manplus:2005/07/06(水) 22:36:36 ID:4T+lKBOL
そして、吸着された二酸化炭素は、酸素と炭素に分解され、酸素は、再び人工血液に供給され、炭素は、
栄養液の中に溶け込ませて生体部分の維持に使うと同時に、機械部分のエネルギーとして
変換するようになっていて、完全クローズシステムとなっているのです。生体部分の老廃物に関しても、
機械部分のエネルギーに変換されるようになっています。そして、身体の空いた部分には、
火星のデータをデジタルで蓄積させるための超大容量ハードディスクや補助コンピューターが収まるスペースに
なります。ちなみにこの大容量ハードディスクの容量は、火星探査開発用サイボーグが20年間見たり聞いたり
臭いをかいだり、感じたりしたデータや会話データ、身体データなどの全てが記録できるものなのです。
そして、屋台骨である骨格に関しては、金属物質置換装置を使って、カルシウム成分をチタンの合金成分と
金属特性を持つ樹脂成分に置換されます。それによって強度と粘りをもつ骨へと生まれ変わるのです。
そして、関節部分には、間接倍力モーターでサポートします。筋肉の改造と、この倍力モーターによって人間の
数百倍にもなる運動能力を持つことが出来るのです。機械部分のエネルギーは、生体部分で芙蓉になった物質、
人工皮膚で生成されたエネルギー、などを使いながら、足りない部分は、バックパックに収められた、
永久エネルギー生成循環再生システムから供給します。このような構造の身体を持つことにより、
どの様な環境においても、完全に独立した個体として存在することになるのです。しかも、火星上においては、
火星独特の大気を最大限に生かしての活動を可能にしています。」
 私をめまいが襲ってくるような気にさせた。何故なら、完全に私のオリジナルな生体部分は、脳と
一部の内臓だけになってしまうし、生体部分を基礎に造られることで、生体部分があった痕跡が残るのは、
皮膚と骨・筋肉ぐらいかもしれない。大部分の組織は、機械のパーツに完全に置き換えられたり、
付け加えられたものになってしまう。そして、地球上で生活するより、火星での生活が最適な
身体になってしまうのであった。水谷ドクターの解説はまだまだ続く。
32manplus:2005/07/06(水) 22:37:16 ID:4T+lKBOL
「まあ、言うなれば、火星専用人類の誕生といったところかしら。つぎに、火星探査・開発用サイボーグの性能を
お話しします。火星探査・開発用サイボーグは、骨格部分を軽量金属に置き換えたりしたことにより、
100Kgそこそこの自重に抑えることが出来ています。そして、5トンの重量のものを持ち上げ運ぶことが出来る
能力や、時速120Km/hのスピードで、1日ぶっ続けで走ることも可能になっています。
そして、跳躍力も信じられないものになっています。その他も考えられる火星での活動に必要な性能が
備わっています。今までに経験したこともないような聴力、どんなに暗くても見ることが出来、遠くのものも、
小さなものも見ることが出来、視覚に関するあらゆる能力を負荷させた人工眼球、どんな小さな音も、
遠くの音も判別できる人工聴覚などといった、火星での任務を送るのに考え得る全ての能力を持たせることに
成功させたのが、火星探査・開発用サイボーグなの。」
 火星探査・開発用サイボーグになる手術を受けたら、確実に人間とはまったく違った存在になってしまう。
水谷ドクターは、火星人の誕生とか、神に近い存在になるという言葉を使ったが、これでは、
怪物に変えられてしまって生き続けるという表現が正しいのだと思った。
33manplus:2005/07/06(水) 22:37:27 ID:4T+lKBOL
「一通りのサイボーグの性能についての説明を終わりました。みんなにとって、
自分の運命なのだから辛いこととは思いますが、任務に付くことを指名されたメンバーなのだから、
早く現実として自分でかみしめてください。あっ、一つ重要なことを説明し忘れていたわ。それは、
性器についてのことです。性器は、火星探査・開発用サイボーグにとって完璧に不要な組織なので完全に
除去され、男性には、男性としての意識を維持するのに必要なホルモンを供給するシステムが、女性には、
女性の意識を維持するのに必要なホルモンを供給するシステムがつけられます。さして、睾丸、前立腺、膣、
卵巣などといったものは除去されます。その事実も早く受け入れること。今日はこれで講義を終了します。
明日からは、細かなメカニズム、使い方、修理の仕方といったプログラムを順次学んでもらいます。
自分が今説明した身体の持ち主になるのだから、明日からのカリキュラムは、今までのカリキュラムにも増して、
完璧に自分のものにしてください。それが、あなた達の唯一の生きる道なのです。それでは今日は終了です。」
 再び、フェースプレートが暗くなり、しばらくして、明るくなって、視力が戻った。
そして、エデュケーションチェアの拘束が解かれた。しかし、私は、しばらく立ち上がれなかった。
それは、他のメンバーも一緒だった。私たちは、受け入れなければならないことが多すぎたのだ。
 私たちは、自分の居住エリアへ向かう足どりは最悪に重かった。
 しかし、私たちに知らせられなかったサイボーグの機能がまだあったことを知ったのは、私たちが、
サイボーグに改造される手術を受けた後のことだった。それは、本当はかなり重要なことなために機密扱いとして、
我々にもこの時は、明かされることがなかった。
34manplus:2005/07/06(水) 22:55:36 ID:4T+lKBOL
いよいよ、如月はるかがサイボーグとしての処置を受けることになるのですが、
彼女の身体に施される処置の全貌を書いてみました。
詳しい部分は、手術の段階で書いてみようと思っています。
妹のえりかが、見守る中の手術というシュチュエーションを表現しようと思っています。
自分の姉妹が機械に変えられていく、それを見ているどころか、
その処置を手伝うというつらさが書けないかと思っています。
ちょっと表現に自信がないけれど、頑張ってみます。

3の444様
> 訓練シ−ンなど、やたらとリアリティある描写でいつも驚かされてばかり
> です。こういったSF的な風景描写って、どうやって創作するのでしょうか?
お褒めにあずかり光栄です。
こんごも出来る限りの表現をしていきす。
よろしくお願いします。
35名無しさん@ピンキー:2005/07/07(木) 00:38:07 ID:afuSjK0p
あまりにも鬼畜なお話。でも必然性があって無理がなく
納得しながら読めました。
マンプラスというより、マンマイナス?
36名無しさん@ピンキー:2005/07/07(木) 02:05:04 ID:j8lR6LEY
>>manplus様
いやあ、素晴らしい!!いつも萌えながら読んでいます。
サイボーグ手術が楽しみです。
373の444:2005/07/07(木) 20:20:07 ID:MSEX6axW
>>34
素朴な疑問なんですけど、ここまで身体を機械化するなら
生身の肉体の時に、体力トレーニングは必要ないと思うのですが
何かトレーニングをしなければならない理由があるのでしょうか?
38名無しさん@ピンキー:2005/07/07(木) 21:35:15 ID:WitAZOi5
>>37
「本来の筋肉と人工筋肉を一本ずつ編み合わせていく」工程のためでしょうか?
確かにここまでするなら完全に義肢と置き換えたほうがいいような気もしますね。
39名無しさん@ピンキー:2005/07/08(金) 00:44:34 ID:U8mSajnt
ハードなトレーニングは、改造される女の子たちをいたぶるっていう意義があるからいいじゃん。
40manplus:2005/07/08(金) 03:12:15 ID:iJfUTdbE
 居住エリアに帰るまで、私は、えりかとも、まりなさんとも、声を交わさなかった。居住エリアに着いて、
3人は方を抱き合った。普通の人間なら、ここで、3人が大声で心いくまで泣けるのだが、私たちには、
もう涙を流すための器官がなかった、私たちはなく自由すら既に奪われていたのである。3人は、
しばらく肩を抱き合い、身を寄せ合って、お互いの感情を沈め合うことしかできなかった。
私が、話し始めた。
「私たち、本当に人間じゃなくなるのね。」
「お姉ちゃん、最後の人間としての期間を堪能して。私も少し長いけど、状況は変わらないから、
一緒に堪能しようね。」
「はるかさん、えりかさん。私は、出来る限りのサポートをします。訓練は厳しいけど、余暇の部分は
楽しんでください。」
 みんなでそう言い合うのがやっとだった。
 そして、私は、リクライニングシートに着いて、休息に入ろうとすると、水谷ドクターが、私の居住エリアの外に
立っていた。
「はるかさん、えりかさん。少しお話ししてもいいかしら。」
私が、
「どうぞ、お入りください。」というと水田ドクターが入ってきた。
まりなさんが、席を外そうとした。それを水谷ドクターが制して、
「高橋さんも一緒にいてください。」
41manplus:2005/07/08(金) 03:15:19 ID:iJfUTdbE
そして、4人で向かい合う状態になったところで、水田にドクターが話し始めた。
「今日の話は、もともと、このプロジェクトにサイボーグ手術用被験者として参加させられたときから、
覚悟していたことだと思うけど、改めて、実際の姿形を見てしまうとあらためての恐怖心がでて当然だと思うわ。
みんなを恐怖と絶望のどん底に落とし込んじゃってごめんなさい。それが言いたかったの。
他のメンバーにもいって回るつもりよ。でも、あなた達には、もう一つ知っておいてもらいたいことがあるの。
それは、第2期メンバーのことなの。」
42manplus:2005/07/08(金) 03:15:46 ID:iJfUTdbE
「第2期メンバーが何か?」
えりかが聴いた。
「実は、第2期メンバーは、あの日任務を言い渡された16名だけじゃないの。実は、後4名の第2期メンバーが
いるのです。そのメンバーというのは、火星開発計画が進むと同時に火星に居住するサイボーグが
増えることになるのはわかるよね。そこで、宇宙開発事業局の首脳は、火星に早めに、
サイボーグに関与した医療スタッフと技術スタッフ、それに、サポートヘルパーのチームをメディカルケアを
目的として火星に送り込むことを決めたの。そして、第2期メンバーとして、極秘に4名のスタッフを
サイボーグ候補にしたのです。その中の一人が、実は、私なの。そして、長井ドクターとサポートヘルパーの
前川さんと、望月七海中佐をサポートしている田中さんが選出されることになったの。
私たちも自分が開発した機械の身体にならなきゃいけなくなったって言う訳なの。だから、
恐怖と絶望の感情を持っているのはみんなだけじゃなく、私も同じなの。だから、かえって、
包み隠さずにサイボーグについて話をして、みんなが早く置かれた立場への理解をして欲しいという気持ちに
なったの。だから悪気がなかったの。許してください。」
「いいんです。そんなこと、私たちは、いずれ改造手術を受ける身ですから。とうに覚悟は出来ています。」
「はるかさん。ありがとう。そう言ってくれると気が楽になる。それに、私も、火星に怪物として、火星に送られ、
決して地球へは帰ることが出来ない身の上にあるから、同じ立場の人間として接してくれたらと思います。
はるかさん。えりかさん。よろしくお願いします。」
そう言うと、水谷ドクターは、次の居住エリアに行ってしまった。
 私は、水谷ドクターの心の葛藤もわかるような気がした。だからこそ、第1次探査チームとして、
頑張らなくてはいけないのだ。早く強く意志を持ち直し、精神的なブレがないようにしなくてはいけないと
心に誓った。
 私は、もうも泥道はどこにもない、たとえ異形の身体になっても、頑張らなくてはいけないし、
頑張って当然なのだと心に誓った。
43manplus:2005/07/08(金) 23:19:46 ID:ziKMDEEX
 翌日は、教育プログラムは、私たちがサイボーグへの改造手術後に火星に旅立つまで訓練を受ける施設を
見学することになった。専用エレベーターで更に地下に降りるとそこにあったのは、本当に巨大なプールであった。
高さが30mで縦横が500mにもなるプールで外壁は全て透明な強化樹脂となっていた。
この中には、私たちがサイボーグになったときの比重をニュートラルにするような密度に設計された超微粒子
樹脂が水の代わりに入っている。この樹脂は、液体の特性を持っているのが特徴なのだそうである。
 私たちがこの中に入って宇宙空間での作業の訓練を行うことになるのだ。
 そして、プールの傍らには、惑星探査宇宙船のシュミレーターが2つ置いてあった。このシュミレーターは、
船室の部分が忠実に再現されていて、この中で、第1次探査チームと緊急補充バックアップチームのそれぞれが
船内作業の訓練や惑星探査宇宙船操縦用サイボーグになった2名が操縦訓練を行う場所であり、
緊急補充用バックアップチームにとっては、第1次探査チームの宇宙船での時間を地球上で
シュミレートする場所であった。
 そして、その更に地下には、火星環境標準室があった。ここは、火星の大気や地表面を忠実に再現していて、
火星の気候と昼と夜などまで忠実に再現している空間であった。重力の再現が出来ないことをのぞいては、
火星とまったく変わらない空間であった。この部屋の大きさは、1km四方の大きさを持っていて、火星環境での
火星探査開発用サイボーグの訓練を行うスペースであった。
44manplus:2005/07/08(金) 23:20:54 ID:ziKMDEEX
この部屋に入るには、低圧馴化エアーロックを2つ通り徐々に気圧を低くしていき、初めて入室が
出来るようになっていた。そして、メインに火星環境標準室の傍らに低圧居住室が付いている。ここは、
火星探査・開発用サイボーグたちが通常の場合、火星着陸船の中と同様の作りにしてあり、眠ったり、
僅かに与えられる自由時間を過ごすところである。そして、居住エリアのもう一方の壁には、エアーロックの扉が
あり、そこを開けると、火星探査・開発用サイボーグを宇宙船まで移動させたり、記者会見などのため、
移動するためのカプセルであった。
このカプセルも全体が透明で、移動中のサイボーグを外から見ることが出来るようになっていた。まるで動物園の
動物の移動のようなものであった。
これらの施設で、火星に旅立つまでの間の訓練を行うことになっていた。この部屋も、第1次火星探査メンバーが
旅立った後、緊急補充バックアップチームが火星の模擬生活を送る場となるのである。
そして、低圧居住室に隣接して、トレーニングマシンが置かれた部屋も存在していた。
 そして、第2次探査メンバーやその後の開発メンバーが訓練を積むため、宇宙空間再現プールや宇宙船の
シュミレーター、それに、火星環境標準室とそれに付随する設備がそれぞれ2つずつ存在していると聞いて、
驚きと同時にこの施設は、いったいどのくらいの深さまでフロアーがあるのだろうと思った。
 これらの施設は、歩き回るだけでゆうに1日はかかった。その為、この日の訓練は、
施設見学だけに終わってしまった。
 そして、次の日から、近々自分の身体になるであろうサイボーグについて実際の修理の方法から何から、
全ての知識データをたたき込まれて、28日が過ぎていったのである。 この間に、サイボーグについての多くの
知識データを自分のものにしていったのである。
45名無しさん@ピンキー:2005/07/08(金) 23:41:21 ID:8U+FWXNV
おしい・・・
× シュミレート、シュミレーション、シュミレーター
○ シミュレート、シミュレーション、シミュレーター
46manplus:2005/07/09(土) 01:22:23 ID:grr55h9i
 そして、運命の日を迎えることになった。その日は、意外と早くやってきた。私たちがラバーフィットスーツを
装着されてから360日、宇宙開発事業局に着任してから、430日目のことであった。
 その日も、私は、バックパックによってレストモードから、アクティブモードに切り替えられて覚醒した。
時間は0時。今日も時間ピッタリの目覚めだ。もう完全に機械に寝起きは支配管理されているのだ。
私が、機械との共生体となりつつあると感じる一瞬だった。まりなさんとえりかを確認して、いつものように挨拶を
交わす。
「おはよう、まりなさん。えりか。」
「おはようございます。はるかさん。」
「お姉ちゃん、おはよう。」
そして、えりかが続けた。
「今日から、いよいよ始まってしまう。悲しいけどとうとう始まるのね。お姉ちゃんが機械にされる日なんだね。」
 私は、そう言われて、かえって開き直りに思えるほど覚悟が決まった。もう、わかっていたことだし、
ここにいる以上いずれは、被験者の立場として、サイボーグに改造されるのだ。それが早いか遅いかなのだ。
そして、私は、紛れもなく、栄誉ある第1号としての立場なのである。
「何言ってるの。どんな身体にされても、私は私なんだから。そんなこと言わないの。」
えりかを諭すように私は言葉にした。
「でもでも。」えりかは言葉にならなかった。
それでも、涙を流すことが出来ない私たちであった。その事実の方がどんなに辛いのだろうか。
「もう時間なので、悪いけど、はるかさん。処置室に移動しましょう。」
「わかっているわ。行きましょう。えりかも、行くわよ。」
「ハイ。」
えりかはそう短く言って、私とまりなさんの後に続いた。
47manplus:2005/07/09(土) 01:23:15 ID:grr55h9i
処置室に続く通路では、浩、七海、未来の3人と一緒になった。それぞれのサポートヘルパーに前後を囲まれて、
12人の集団での移動であった。みんな緊張しているのか、終始無言だった。第1期火星探査・開発プロジェクトの
サイボーグ候補の6人が立っていた。
「みんなに会うのが、これが最後じゃないんだよ。」
 その中に、台車に乗せられたみさきと、まだ手脚の残っている最後の姿の望もいた。
「私たちは、みんなの後からの手術になるそうよ。一足お先に行って待っていてね。」
「お互い頑張ろうね。」
私が答えた。
ルミが言った。
「生ありながら、神となりに往くものへ敬礼。」
みんなが敬礼した。その中を私たちは、処置室に向かった。改めて、自分の置かれた立場を痛感した。
そして、もう戻ることの出来ない現実があるのだった。
「みんなありがとう。見送ってくれて。頑張って処置を受けてくるわ。そして、任務を完璧に成功させてみせる。
だから、みんな、協力と応援よろしくね。」
心の中でつぶやいた。
4人がそれぞれの処置室にはいるために分かれた。私の処置室には、前田ドクターと佐藤ドクターが待っていた。
佐藤ドクターが、口を開いた。
「さあ、いよいよ、火星に行く本格的な準備段階に入ったね。機械の身体になるということは、精神的に
辛いことだから、せめて、私たちのスキルの全てを注いで楽に改造処置をするようにするから、頑張るのよ。」
 あまり励ましになっていないような励ましを受けて、私はラバーフィットスーツ着脱処置台に乗った。
そして、完全に固定された。
48manplus:2005/07/09(土) 01:23:57 ID:grr55h9i
 佐藤ドクターが私に行われる最初の処置を説明してくれた。
「まず、ラバーフィットスーツを脱いで、元々の身体に戻す処置を行います。とにかく、180日前に経験したように
苦痛を伴うから、全身麻酔で少し意識を失っている間に処置を進めます。いいですね。」
「お願いがあります。麻酔で意識がない状態で、ラバーフィットスーツから出されるのではなく、少しでも、
人間としての感触を長く味わいたいので、麻酔なしで、ラバーフィットスーツを脱ぐ作業を
経験させてもらいたいのです。苦痛を味わうのも、人間として最後の経験のうちですから耐え抜いてみせます。
どうかお願いします。」
私は強い決意を持ってお願いをした。
「わかりました。そこまで決意が固まっているなら、如月大佐の望み通りにします。ただし、身体的、精神的に
危険と私が判断した時点で、麻酔を投入します。いいですね。」
前田ドクターが答えた。
「お願いします。」
私が答えた。前田ドクターが再び口を開いた。
「それでは、処置を開始します。高橋さん、如月中尉、如月大佐のラバーフィットスーツと皮膚との剥離剤を
投与してください。苦痛を軽減するために剥離剤の濃度をギリギリまで上げて、量もギリギリまで多めに
投与した上で、ラバーフィットスーツの揉みほぐし作業をしてください。揉みほぐし方を念入りにすることで
剥がれやすくしたいのです。」
「了解しました。」まりなさんとえりかが同時に声をそろえた。
49manplus:2005/07/09(土) 01:32:39 ID:grr55h9i
 バックパックの側面上部のカバーが開けられ、チューブとコードの束が接続された。ラバーフィットスーツを
脱ぐための剥離剤を注入する装置が接続それた。そこから、バックパックを経由して、ラバーフィットスーツと
皮膚の剥離剤が注入されていった。前に注入された時より濃度が濃く、強力な剥離剤であるため、
全身を痛みが走る。ラバーフィットスーツと皮膚が剥離するために化学反応が身体のそこら中で
起こっている証拠である。でも、我慢できない痛みではなかった。そして、剥離剤が全身にまんべんなく効くように、
2時間半にわたってまりなさんとえりかが全身をマッサージしてくれた。丁寧に揉みほぐしてくれたので、かなり、
ラバーフィットスーツと皮膚の間がグニョグニョしてきた感覚がある。つぎにバックパックの切り離し作業に入った。
バックパックからラバーフィットスーツに接続されているケーブルやチューブが手早く取り外された。そして、
背中に完全に固定されたバックパックが4人がかりで取り外された。つぎに、慎重に肩の部分にあるジッパーが
専用の機械で熱処理によりはずされた。そして、ヘルメットと私を繋いでいるのケーブルやチューブが慎重に
私の身体からはずされていき、ヘルメットがはずされた。私の頭上にあるモニターに毛髪が完全に除去された
ツルツルの頭部が現れた。外耳もなくなっているため、ヘルメットを取ってもヘルメットを装着されているのと
変わらないように思える。でも、外気が頬に当たってやっと人間の感覚が戻ってきた。
これもつかの間の喜びなのだ。次は、ラバーフィットスーツの上に装着されたブーツが取り外された。
圧迫感が少し薄まっていくのを感じた。そしてついに、ラバーフィットスーツが脱がされるときがきた。
「如月大佐は、今回は、麻酔処置をしていないから、ゆっくりと無駄なく脱がせるようにしてください。」
 前田ドクターの指示が聞こえた。
 ジッパーを専用の機械で熱処理により、はずしていき、肩から脚に向けてラバーフィットスーツが
脱がされていった。そして、私の毛髪の何もない全裸が現れた。
「さあ、急いでケーブルとチューブを付けていかないと生命維持に支障をきたすわよ。気を抜かないでね。」
佐藤ドクターの厳しい言葉が聞こえる。
50manplus:2005/07/09(土) 01:33:11 ID:grr55h9i
全部で8本の手が、魔法のようにチューブやケーブルを私の身体に接続した。また、操り人形状態に逆戻りだ。
でも、ラバーフィットスーツを脱がされた身体に外気が気持ちいいし、開放感を謳歌できた。しかし、
やはり皮膚に痛みがきた。ものすごい痛みである。
「お姉ちゃん大丈夫?」
えりかの声だ。
「我慢しなくていいのよ。ただ、身体に付いた剥離剤を洗い流すと痛みが治まるはずだから、これから、
洗浄室で身体を洗うようにするけど、呼吸液の更新をしないと呼吸液の吸排液チューブを付けた状態に
しておかないとチューブ類、ケーブル類をはずしての洗浄が出来ないから、人間の姿を満喫したいなら、
1時間は我慢できれば我慢してね。」
前田ドクターが言った。
 私は、もちろん、ラバーフィットスーツ着脱処置台に固定されていて動くことが出来なかった。
私はその状況で、痛みをこらえながら、
「まだ我慢できます。」
「わかりました。でも、無理はだめですよ。さやかさん。」
まりなさんが声をかけた。佐藤ドクターが続けた。
「呼吸液の更新の間に口や鼻の充填剤を取り除きます。そう言うと、歯医者のドリルのような機械で、
口に詰まった充填剤や鼻に詰まった充填剤を大まかに取り除いた。そして、最後に充填剤溶解液を噴射する
ノズルを口と鼻にいれて、完全に充填剤を取り除いていった。何か、顔の真ん中が、ポッカリと穴の空いたような
感覚になった。
「これで完全に、ラバーフィットスーツから如月大佐は解放されたわけね。どうかな。気持ちいい?」
佐藤ドクターの問いに痛みに耐えながら、
「ハイ、とっても気持ちがいいです。」
と私は答えた。
51manplus:2005/07/09(土) 01:33:29 ID:grr55h9i
佐藤ドクターが続けた。
「よかったわ。短い自由を満喫するのよ。それから、目のゴーグルは、はずせないから悪しからず。というのは、
もうあなたには、涙腺がないから、ゴーグルをはずすと眼球に酸素を送れなくなっているからなの。
それに、まぶたを閉じることを長くやっていなかったし、眼球が乾いてしまっているため、瞬きもうまくできない
可能性が非常に高いので、失明の危機があることも理由の一つです。完全な健常者の身体を使って造ることが、
今回のプロジェクトのサイボーグの条件なの。だから、無用にあなたの身体を傷つけてはいけないのよ。
わかってちょうだいね。」
充分に理解できる説明だった。ゴーグルは、もう私の目の一部となってしまっているのだ。このゴーグルを
取り外すとき、イコール、人工眼球への変換の時だと言うことだったのだ。
この処置の間に1時間が過ぎ、私は、ケーブルやチューブ類を再びはずされ、洗浄室に移された。
そして、まりなさんと、えりかが私の身体を洗浄液で丁寧に洗ってくれ、精製水で綺麗にすすいでくれた。
 痛みがだいぶん改善されたようである。辛いが我慢できる状態になった。それをえりかに言うと、
えりかとまりなさんが喜んでくれた。
「お姉ちゃん。ラバーフィットスーツを着ていない、地球上の空気に触れる短い期間を満喫してね。」
「ありがとう。まりなさん、えりか。」
私は、ラバーフィットスーツ着脱処置台から解放され、普通の処置台に移され、居住エリアに運ばれた。
そして、まりなさんとえりかによって、チューブ類とケーブル類を手早く繋がれて、今日の処置は終わった。
えりかとまりなさんに痛み止めと皮膚再構築促進の薬を全身に丹念に塗られて、痛みもかなり落ち着いてきた。
「お疲れ様でした。処置台に拘束されてはいますが、ラバーフィットスーツの無い、開放感を今日は味わってください。
明日は、1日かけて検査を受けてもらいます。ですから今日はゆっくり休んでください。
何かあったら、私か、えりかさんを呼んでください。」
まりなさんに言われた。
「わかりました。」そう言うのが精一杯で、我慢できない痛みが引くと同時に睡魔に襲われ、なすがままに眠りに
落ちてしまった。
52名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 01:10:00 ID:oBQpPL7k
533の444:2005/07/10(日) 03:07:07 ID:gHosGTRr
「八木橋さんて、 やっぱりロボットだったの?」
  佐倉井さんは、 私の脇腹から伸びる黒い電源コードを不思議そうに見つめながら言った。 私は、
あわてて地面に転がったコンセンプラグを拾うと、 コードを着ているセーターでなるべく見えない
ように隠しながら、 自分の脇腹の中に収めた。 もう、 今更隠したってどうしようもないんだけどさ。
「あ、 あの・・・」
  違うんだって言いたかった。 もう、 私が全身義体だってばれたってかまわない。 例え、 私の
障害者手帳を見せてでも、 私はれっきとした人間ですって言い張りたかった。 ロボットだって思われ
るくらいなら、 例えどんな眼で見られようとも、 そっちのほうがどれだけましか分からないよ。 でも、
アニーが横目で、 じぃーっと見つめているのに気がついた私は、 言いかけた言葉を、 全部飲み込
むしかなかった。
  もしも、 私は人間なんだ、 なんて、 もう一度言ったら、 今度こそ、 この基地外ロボットに何
されるか分からない。 普通のロボットだったら、 例え私をロボットだと思い込んでいたとしたって、
私のことを平気で傷つけるような真似なんかするはずない。 でも、 さっき、 私を苛めるアニーは
心底楽しそうだった。 機械のくせに、 まるで感情があるみたいにね。 アニーなら、 私のコンセント
プラグに電気ばーん、 なんて、 冗談じゃなく、 本気でやりかねないよ。 もしも、 そんなことされ
たら・・・、 私の身体は滅茶苦茶だ。
  佐倉井さんの眼の前で、 全身から煙を吹き出してバッタリ倒れて動かなくなる自分の姿を思い
浮かべて、 思わず身震いする私。 そんなことになる前に、 今すぐにでも、 ここから逃げ出したかっ
た。 でも、 万が一逃げ損ねてアニーにつかまっちゃったとしたら、 私、 どんな仕打ちをされるん
だろう? そう思ったら、 恐くて足がすくんだ。 ああ、 情けない! この私が、 人間さまが、
なんで機械なんかに怯えなきゃいけないんだよう。 機械に支配される人間なんて、 見てて笑える
のは、 B級SF映画の中だけ。 実際にこんなふうに自分の身にふりかかったら、 そんなのギャグとし
ては全然面白くないんだ。
543の444:2005/07/10(日) 03:07:53 ID:gHosGTRr
「ロボットの八木橋さんの、 家探しのお手伝い。 どうやら無駄足になっちゃったみたいね。
でも、 八木橋さんとお話できて楽しかったわ。 もう、 大学生だなんて、 私の事、 からかわないでね」
  佐倉井さんは、 結局何も言えずに、 口をつぐんで、 口惜しさに拳を固く握り締めて俯いていた
ままの私に向かって微笑んだ。 もう、 すっかり私がロボットなんだって思い込んじゃってるよ。
「全自動化住宅って一体何かと思っていたけど、 アニーみたいなロボットの女の子が掃除から、洗濯
から、 食事から何から何まで全部面倒見てくれるからってことなのね。 全く、 進んでいるというか、
ある意味、 原始的というか・・・」
 全自動住宅の言葉の意味がわかって思わず苦笑いの佐倉井さん。 私の気持ちなんかおかまいなしに、
なおも興奮して話し続ける。
「それにしても、 アニーちゃんとか、 八木橋さんとか、 本当に人間そっくりな反応をするのね。
私、 ちょっと驚いちゃった。 八木橋さんなんて、 会った時からずーっと人間だと思っていたもの。
大学に行くなんて作り話までしちゃうし、 すっかり騙されちゃった」
  佐倉井さんは、 照れたように笑うと、 私とアニーを交互に見比べた。 目の前の女の子みた
いなロボットと、 ロボットみたいな女の子に感心することしきり。 もっとも、 佐倉井さんの目
からは二人ともロボットに見えるんだろうね。 はは。
  佐倉井さんの言葉に、 アニーは満足そうに微笑んで、 また頭を下げた。 きっと、 人間そっ
くりな反応なんて、 自分が評価されて嬉しいんだろう。 ロボットなんて単純だよね。 あんたは、
それでいいのかもしれないよ。 でも、 でも、 私は人間なんだ。 例え身体のほとんどが機械で
できていたとしても、 あんたとは違うんだ。 それなのに、 機械と間違われるなんて。 ロボッ
トだって思われるなんて。 私にとってはことほど悔しくて、 情けないことはないよ。
553の444:2005/07/10(日) 03:08:43 ID:gHosGTRr
 丁度その時だよ。 はるにれ荘の壁よりも濃い青色に塗られているけれど、 所々ペンキの
剥げかけた、 古びたドアが、 きしんだ音をたてて半分くらい開いたんだ。 ドアの中から、
お婆さんたちが三人、 恐る恐るといったていで、 顔を半分だけ出して、 私達を見つめている。
きっと、 ここに住んでいる人達だ。
「アニーちゃーん、 どうしたんだい?」
「何かあったのかい?」
  きっと、 さっき、 いきなり電撃を食らった私の悲鳴を聞きつけたんだろう。 おばあちゃん
たちは、 不安げな面持ちでアニーに向かって、問いかけた。
  視界におばあさんたちを認めたアニーの表情は、 たちまち、 年相応の少女のそれに早代わりする。
機械なだけに人間に対して尻尾を振ることだけは、 上手いんだ。 全く憎たらしいよ。
「あらあ、 みなさん。 いいところに来ました。 丁度、 前々から浩一さんに頼んでいた新しいロボッ
トが、 やってきたんですよ。 せっかくだからご紹介しましょう。 ほらほら、 ご挨拶、 ご挨拶」
  アニーに押し出された私は、 つんのめるように、 玄関先のお婆さん達の前に出た。
  新しいロボットって何だよ。 浩一さんって誰だよ。 私、 そんな奴知らないよう。 やっぱり、
アニー、 私の事、 何か他のロボットと勘違いしているに違いないんだ。 その浩一さんって人に会え
れば、 私がロボットじゃないって分かってくれるに違いないよ。
「うー、 アニー。 その、 浩一さんって人はどこにいるの」
  そう思った私は、 軽い気持ちでアニーに聞いたんだ。
「浩一さん?」
  さっきまでの可愛らしい少女の顔はどこへやら。 アニーは、 私のことを馬鹿にしたようにあざ
笑うと、 私の腕を掴んだ。
  ばちん。
「きゃっ!」
  火花が飛んで、 悲鳴が上がる。 もちろん私の。
563の444:2005/07/10(日) 03:18:56 ID:gHosGTRr
  アニーの手のひらで生み出された1500ボルトの悪魔が、 私の身体の中で電気信号に姿を変えて、
脳みそに襲いかかる。 ひどい痛みとショックに、 思わず、 腕を押さえてうずくまる私。 全身義体
は、 感電事故ですぐ機能停止ってことにならないように、人工皮には完璧な絶縁処理が施されてい
るっていうから、 命にかかわることはないんだろうけど、 感電の痛みと衝撃だけは忠実に再現して
くれる。 今の私には有難迷惑なだけだけどね。
(何だよう、 私が何をしたって言うんだよう)
  もう訳が分からなかった。 どうも、 アニーは私が浩一さんて呼んだことが気に食わないら
しい。 じゃあ、 私なんて呼べばいいのさ。 浩一さんって人、 アニーの持ち主なんだろうか?
だったら、 ご主人様とかマスターとかいえば満足するんだろうか? きっと満足するんだろうな。
冗談じゃないよ。 私はただの学生で、 召使やメイドじゃないし、 無論ロボットでもないんだ。
それなのに、 それなのに、 ただの機械人形なんかに馬鹿にされて・・・。 私っていったい何
なんだろう。
「と、 いう風に、 今、 新しくきたロボットを躾けていたところなんです。 見ていて、 気持
ちがいいものじゃないかもしれないですけど、 皆様に失礼がないように働くにためには必要な
ことですから」
  目の前のお婆ちゃんたちに向かって、 得意げに解説するアニー。 今度は、 可愛らしい
外見には似つかわしくない荒っぽい仕草で、 無理やり私を引きずり起こして、
「浩一さん、 なんて、 あなたが、 そんな口を聞くのは百年早いの。 それよりも、 ほら、
ご挨拶でしょ」
  なんていって、 背伸びして私の頭をポンと叩いたんだ。
 「うー・・・」
   にこやかに見つめる三人の、 目じりに皺の目立つけれども、 子供みたいに無邪気で
好奇心旺盛な六つの目を前にして固まってしまう私。 自己紹介だって? 今度、 皆さんの
家事手伝いをします、 新しいロボットです、 とでも言わなきゃいけないの? そんなの嫌
だよう。 私、 ただ、 家探しに来ただけなのに、 どうしてこんな目に遭わなきゃいけない
のさ。
573の444:2005/07/10(日) 03:19:43 ID:gHosGTRr
「アニーちゃん、 これで、 だいぶ楽になるんじゃないの。 ホント良かったねえ。 アンタ
も頑張るんだよ」
「ウチの孫みたいな年頃の女の子に見えるけど、 でもロボットなのかい? 最近のロボット
はすごいねえ。 本当に人間そっくりだねえ。 眼鏡なんかもかけちゃってるし」
「ねえねえ、 ロボットのお嬢ちゃん。 あなた、 お名前はなんていうの?」
  三人のおばあちゃんは、 私が黙っていても、 おかまいなしに次々に話しかけたり、
私の手を握ったり。 みんな、 表情だけは少女みたいにあどけなくって、 とっても楽しそう。
そうだよね。 誰だって、 人間みたいに動いたり、 おしゃべりできるお人形さんを与えら
れたら、 嬉しくて、 年なんか関係なく、 子供みたいにはしゃいじゃうよね。
  私は、 自分のことを、 こんな風に無邪気な眼で見つめられたことがないから、 ちょっ
と驚いた。 だって、 私は全身義体の身体障害者。 自分の持ち物は脳みそだけで、 身体を
全て失ってしまった可哀想な人。 身体のほとんどが、 ロボットみたいな機械仕掛けのくせ
に、 それでも人間だっていう不気味な存在。 世間的には、 そんなふうに見られているんだ。
だから、 私が全身義体だって知ってしまった人はいつも、 なんだか触れてはいけないもの
に触れたみたいに、 私の身体に触れた手をあわてて引っ込めちゃうし、 態度も、 なんだ
かよそよそしくなる。 それから、 哀れみとか蔑みとか嫌悪感とか、 いろんなネガティブな
感情が一緒くたになったような、 なんとも嫌な眼つきで、 私を一瞬チラッと見ては眼を
そらしちゃうんだ。 そして、 面と向かっては言わないけど、 陰でみんなで、 私の事を
お人形さんって言って嗤うんだよ。
  その点、 ロボットなら、 単なる機械。 人間の姿をかたどった、 愛らしくて、 素
直で従順で便利な道具っていう明るいイメージがあるもんね。 だから、 みんなこんな風に
楽しげに私に話しかけてくれるんだ。 きっと。 ロボットと全身義体。 同じ機械の身体
なのに、 脳みそがついているか、 人工知能で動いているかで、 人の態度なんて、 こん
な簡単に変わっちゃうんだ。 不思議だよね。
583の444:2005/07/10(日) 03:30:19 ID:gHosGTRr
>>15
八木橋ワールドでは、アニーはアッカと並んで、強いほうでしょうけど、
全身武装したさやにはとても敵わないでしょうね。て、いうか、さやは
再開されないのかなあ。
>>16-17
疑問はごもっとも。作中で上手い回答が出せればいいなあ。
>>18
正体バレシーンは私にとって萌えなので力が入ります。本当の意味で
正体がバレた訳ではないですけどね。
>>20
どうなんでしょう。余り深く考えていませんでしたが、人間そっくりの
ロボットがいるとなると、当然ロボットに関する法律も整備されている
ことでしょうね。
59名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 04:13:03 ID:VIoNe+1z
えーと、この後、すべてまるく収まるんですよね?
婆さまたちにも、不動産屋の人にも、憎きロボ(笑)にも、人間である事をわかってもらう事になるんですよね?
てことは、これからメカバレならぬ「人間バレ」があるわけですね。
なんかとっても斬新です。凄いです。期待です。
60名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 04:22:43 ID:VIoNe+1z
しかし、毎回毎回本当に頭が下がるばかりです。
「メカバレ」はありがち(でも必須萌え要素)だけど、逆に「人間バレ」とは…。
毎度着眼点がすごいです。ツボ突かれまくりです。激萌えです。
サイボーグ萌えは、「常人と違うところ」だけじゃなくて、逆に「常人と同じところ」(=「違い」の中で見いだされる「同じ」、人間性)も萌え要素として重要ですね。
悲哀シュチュエーション萌え的な要素があるので。
61名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 05:56:14 ID:Co3grL5h
>>59
バカ息子に性処理ロボットとして使われるとかの鬼畜キボンヌ
62名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 06:41:16 ID:nlsAaHPM
なぜだろう、ほかの小説で主人公がひどい目に遭ってても平気なのにヤギーがひどい目に遭ってるのはなんか心が痛む
63名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 21:14:49 ID:/FcbKWpU
1500Vの直流電圧…!

電車走れるぞ電車(゚∀゚)
64名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 23:11:00 ID:VIoNe+1z
600Vでも走ることは走ると思いますがW

…サイボーグ萌え属性と鉄属性って、共有ビットなんですかorz
65manplus:2005/07/10(日) 23:46:06 ID:b5Gi28Ix
「おはようございます。今日は、皮膚再構築のための日となります。ゆっくり休んでください。」
まりなさんの声が聞こえる。私は、今日も、0時に意識が回復した。やっぱり機械からの支配というのは、
ラバーフィットスーツを脱ぐことが出来ても変わらないのだ。
「お姉ちゃん、おはよう。最後の人体の皮膚感覚を満喫してね。痛みは治まった?」
えりかに聴かれて、痛みが治まっていることに気が付いた。
「ええ、おかげさまで。大丈夫みたい。」
「さすがに、昨日の薬は効きますね。皮膚再構築率も、95%まで再構築されていますし、前田ドクターの
言うとおり、今日一日を皮膚再構築期間にすれば、次の処置がはじめられそうですね。」
まりなさんの言葉には意味があった。
「まりなさん、ということは、順調なら、明日から火星探査・開発用サイボーグへの手術処置が
開始されると言うことなの?」
「はるかさん。そう言うことになります。生身の肉体で少しでも長く過ごしてもらいたいという気持ちは
スタッフ全員が持っているのですが、新しい身体になれてもらう時間を少しでも長くとってもらわないとミッションが
開始されてからが大変になりますし、数多くの訓練が予定されているため、訓練期間は少しでも長い方がいいと
言うことから、残念ながら、皮膚再構築養生期間は、最小限にとどめるという判断をいたしました。」
まりなさんの言葉をえりかが受け継いだ。
「お姉ちゃんには辛いかもしれないけど、ミッションを滞りなく進めていくことを優先すると言うことなの。
私たちは、ミッションを進めていくための駒の一つに過ぎないんだからしかたないのよ。それに、お姉ちゃんたちは、
皮膚再構築期間が、36時間以上あるけど、私たちは、第1次探査チームの処置データを使っての処置を
受けるから、これだけ回復が早いのを考えると、薬物の改良によって、この期間は、
12時間になってしまうかもしれないもの。お姉ちゃんがうらやましいと思う。」
66manplus:2005/07/10(日) 23:48:21 ID:b5Gi28Ix
「覚悟は出来ているから大丈夫よ。せいぜい今日一日、最後の時間を楽しませてもらうわ。」
悲しい気持ちになっていることは確かだった。普通の人間だったら、涙が止まらないのだろうが、
今の私には涙を流す期間が存在していないのだ。悲しい気持ちを表すことは私たちにとって不可能なことなのだ。
私の気持ちに関係なくプログラムは進んでいく。もう実験台としての存在でしかないからしょうがないのだけれど・・・。
私は洗浄室に移され、まりなさんとえりかが本当に丁寧に私の身体を洗浄してくれた。
そして、再び居住エリアに移され、私の全身に痛み止めと皮膚再構築促進の薬を二人が丁寧に塗ってくれた。
「起用の処置はお終いよ。あとはゆっくりしていてね。」
まりなさんにそう言われたが、身体はぴくりとも動かすことが出来ないほど完璧に処置台に拘束されていた。
大の字の形で全裸をさらし、ケーブル類やチューブ類に繋がれいる姿は、やっぱり操り人形にされているように
しか見えなかった。
それでも、圧迫感の全くない感触は、本当にうれしかった。そんな感触をひたすら楽しんでいるうちに、
身体を支配する機械にアクティブモードから、レストモードに切り替えられる時間になってしまう。機械が、
私の意識を徐々に奪っていった。
まりなさんとえりかから「おやすみなさい。」と声をかけられたようだった。
こうして、生身の身体で過ごした最後の一日が終わった。ほんのつかの間の幸せな一日だったのだ。


67manplus:2005/07/10(日) 23:49:02 ID:b5Gi28Ix
 本当の運命の処置開始の日のアクティブパートが始まった。私は、いつものようにアクティブモードに身体を
切り替えられ、0時ちょうどに意識が覚醒した。
 私が映ったモニターがいつもと違った部屋にいることを気づかせた。よく見るとここは、処置室だった。
「おはよう。如月大佐。今日から火星探査開発用サイボーグへの改造手術に入ります。
私たちも全力を尽くして手術を行います。火星へのミッション遂行のため、頑張ってください。」
佐藤ドクターの声が聞こえた。その隣には、前田ドクター、まりなさん、えりかの姿があった。
「おはようございます。如月大佐。お気づきのようにあなたは処置室にレストパート中に移されています。
映像で確認してもらいますが、洗浄室にて身体の洗浄処置、腸、膀胱、性器の洗浄処置も完了しています。
モニターに洗浄処置中の私の姿があった。これだけのことをされていながら、私は、生命維持管理装置という
機械によって睡眠状態に置かれているため、気づくことがなかったのだ。自分の感覚なども支配されているから、
何も知らずに今を迎えたのだ。
「さて、まず最初の処置は、性器を取り外す前に最後に卵子の採取を行うから、ラバーフィットスーツを
着る処置を行ったときのように排卵促進用特殊ホルモンを投与します。今度は30分に一度生理が来るし、
まだ、麻酔処置をしないから、生理痛の苦しみが限りなく続くようになるけど、人間としての苦しみも最後だから
ここまでは、麻酔処置なしでいいわよね。」
前田ドクターの言葉に私は答えた。
「もちろんです。耐える覚悟は出来ています。よろしくお願いします。」
「それじゃ処置開始、高橋さん、ホルモン注入開始して。」
「了解しました。」
まりなさんはそう言うと、操作パネルを操作した。それから、私は、30分に一度という頻度の生理に苦しんだ。
その間、性器のバルブに接続された卵子採取装置と性器洗浄装置が休み無く働き続けた。
68manplus:2005/07/10(日) 23:56:25 ID:b5Gi28Ix
そして、私が貧血気味の症状になるとまりなさんは、その都度操作パネルをいじって即効性造血促進剤を投与した。
人工血液にすぐに変えられるので、この前のように輸血を行うことはなかった。
 それでも、今は、この生理痛という苦痛が人間としての尊厳を感じて楽しくてうれしくてしかたなかった。
私は、マゾになってしまったのかしら。でも、このプロジェクトの主役としての立場に耐えていると言うことは、
十二分に真性マゾの素質があるということなのだろう。
この処置は24時間ぶっ通しで行われた。そして、最後の採卵が終わり、洗浄室に移され、身体を再度洗浄され、
再び処置室に移された。
 そして普通の処置用寝台から4人がかりでサイボーグ手術用処置台に移された。この処置台は、大の字で
完全に拘束されていることに変わりはないのだが、身体を反転させなくても身体の前後の処置が行えるように
身体が中空に浮いているような格好で特殊身体固定棒により拘束されるようになっていた。
 その傍らには、私の身体にやがてなる人工器官などのサイボーグ部品が人の形になってここに
パッケージされた状態で置いてあった。
私の身体を、まりなさんとえりかが再度殺菌剤を含ませたウエスで念入りに拭いてくれた。
「さあ、いよいよ身体の感覚をゼロにします。残る感覚は、いつものように視覚と聴覚だけとなります。
それから、もちろんコミュニケーションサポートシステムは作動状態にしておきますので、
私たちとの会話も可能です。ただし、視覚と聴覚の処置中はそれらの器官に付随するシステムを
停止させますからあらかじめ理解しておいて。もちろん、サイボーグ手術の一部始終は、
あなたに全て見ていてもらいますが視覚のサイボーグ手術中は視覚が働きませんのでこの部分は、
術後に映像にて確認してもらいます。それでは、これから時間をかけて身体感覚をフェードアウトしていきます。
如月中尉、処置を開始して。」
前田ドクターの指示にえりかが操作盤に向かい操作を開始した。
「身体感覚除去処置開始します。」
それから徐々に視覚と聴覚をのぞいた身体感覚が、徐々にしかも確実になく何って行った。
その状況を報告したり、会話が出来るのが不思議な感覚だった。そして、レストモードに身体が切り替わり、
意識が遠のいていった。
69manplus:2005/07/10(日) 23:56:57 ID:b5Gi28Ix
 時間が0時になり、いつも通り、私の身体組織が活動を開始させられたが、いつもとは少し様子が違った
目覚めだった。身体の感覚が、視覚と聴覚以外ない。そうであった、身体感覚除去処置を受けたのだった。
身体全体が、感覚がないだけでなく、拘束されているだけの問題ではなく、動かすことが出来なかった。
「お目覚めは如何?如月大佐。」
前田ドクターのいたずらっぽい声が聞こえた。
「今日から、如月大佐の身体にメスが本格的にはいって、次々に隣に置いてある人工器官が大佐の体内に
入っていくのよ。火星へいくための準備の始まりね。楽しそう。」
佐藤ドクターの声がなぜか楽しそうである。やっぱり、佐藤ドクターは、サドかもしれない。いや、
絶対サドに違いない。
「まどかさんが何を思っているか知らないけど、処置にはいることに変更はありません。」
まりなさんが冷静な口調で言った。
「お姉ちゃんの皮膚の再構築率は、100%に達しました。従って、今日から、貸せた探査・開発用サイボーグへの
改造手術が可能になりました。」
えりかもいつもよりはるかに冷静に答えた。
佐藤ドクターが最初の処置の内容を私に告げた。
「今日は、骨格部を金属物質置換装置を使って、カルシウム成分主体の組織からチタンの合金成分と金属特性を
持つ樹脂成分に置換します。それによって強度と粘りをもつ骨へと生まれ変わらせます。
そして、骨と骨の関節部分や背骨の椎間板などのクッション部分は、シリコン樹脂に置き換えていきます。
それにより、腰痛などの痛みを永久に感じることがないほどの骨格が完成します。
そして、この骨格と人工筋肉の能力によって人間では考えられないパワーを引き出すことが出来るのです。
さあ、処置をはじめます。高橋さん、如月中尉、準備に掛かってください。」
 いよいよ、始まってしまった。心の中が動揺している私がいた。そんなことにはみんな構わず、
私に対する処置の準備に掛かっている。
 まりなさんとえりかが私の傍らに大きな機械を運んできた。そして、私と生命維持管理システムとを
繋いでいるチューブの一本である薬液注入用チューブに機械から伸びるチューブを接続した。
そして、私の腰部に注射針を刺した。そして、手先と後先に機械から伸びる電極を取り付けた。
70manplus:2005/07/10(日) 23:58:49 ID:b5Gi28Ix
「この装置は、如月大佐の骨の主成分であるカルシウムをイオン化元素交換により、チタン合金と
メタルプラスティックに置換すると共に骨と骨の間のクッション部分や腱、靱帯などをシリコン樹脂や
メタルラバーに変換するための装置です。変換までの時間は、約36時間です。それだけの時間をかけて、
丁寧に如月大佐の小粒とその付随部分を人工物に変えていくのです。高橋さん、準備が出来たら、作動させて。」
佐藤ドクターの指示で、まりなさんがスイッチを入れた。
 私は、身体の感覚がないので、自分の身体にものすごい大きな変化が起こっているという自覚がなかった。
しかし、実際には、想像を絶する痛みや疼きといったものがおそってきているのだそうである。
モニターの骨格人工化状態のデータを見ているだけである。少なくとも、今の私には、
それしかできないのであった。
71manplus:2005/07/10(日) 23:59:02 ID:b5Gi28Ix
 前田ドクター、佐藤ドクター、まりなさん、えりかが私のまわりをせわしなく動き回り続け、時折、誰ともなく、
私に「気分はどう?」とか「大丈夫?」とか「痛みはない?」などの声をかける。そんな36時間が過ぎていった。
モニターの人工化率のデータグラフが、100%になった。それを佐藤ドクターが確認すると、
簡易型体内分析機で骨が今までのものとは違った素材になっているか慎重にチェックされた。
確認が終わると装置が私の身体や付随しているチューブからはずされた。
「おめでとう。如月大佐、まずあなたの骨が金属と樹脂の複合素材に完全に置き換わりました。
これで、宇宙空間で骨が脆くなるということもなくなったし、強靱なサイボーグのパワーを充分に支えられる骨に
なると共に、人間の骨にはない柔軟性やねばり強さと強度を併せ持ったものになったのです。」
佐藤ドクターが少し得意気に説明してくれた。そして、前田ドクター、まりなさん、えりかに向かって、
「これから、6時間の休憩に入ります。今、18時だから、0時に如月大佐に対する
火星探査開発用サイボーグ手術を再開します。それでは一時解散。」
みんなが、「了解」と答えて、処置室を出て行った。私は一人の処置室に残された。
処置室で一人になると私の身体の生命をコントロールしている生命維持管理装置の駆動音が大きく聞こえている。
それ以外に聞こえる音はなかった。そして、私のモードがレストモードに切り替わって、意識が遠のいていった。
72名無しさん@ピンキー:2005/07/11(月) 00:47:19 ID:6WP+HeTm
>>manplus氏

お疲れ様です。 いよいよ手術ですね。楽しみです。
「性器を取り外す」ってさらっと部品扱いしちゃうところが非人間的でいいなあ…。

毎回気になるのですが、ここまでで本日の投稿終わりのレス(もしくは文末に「つづく」とか)
を付けていただけると雑談や他の作者さんが投稿のタイミングをはかれると思うんですが
いかがでしょうか?
73manplus:2005/07/11(月) 01:01:04 ID:8LtF08wj
72様
その通りと思います。
次回から、投稿の終了の方法を考慮いたします。
とりあえず、本日はここまでということになります。
手術の部分は、なるべくしっかりと出来る限りの詳しい表現にしていきますので、
ご期待に添うようにいたします。

ご指摘ありがとうございました。
74名無しさん@ピンキー:2005/07/11(月) 01:26:28 ID:uoGLCraB
>>manplus様
改造手術ですね!改造される前まででこれだけすさまじかったので、これからはさらに期待してます。
75manplus:2005/07/11(月) 22:42:32 ID:Le/iCgl6
 気がつくと、前田ドクター、佐藤ドクター、まりなさん、えりかが処置台の横に立っていた。えりかが、声をかけた。
「おはよう、お姉ちゃん。」
「おはようございます。みんな、いつの間に。」
前田ドクターが答えた。
「もう、0時も過ぎたから当然よ。あなたがアクティブモードになるのを待っていたの。」
「そうだったんですか・・・。」
佐藤ドクターが待ちきれずに話に割り込む。
「お話中悪いけど、今日の処置も盛りだくさんだから時間がないの。」
「サイボーグ手術のことになると急に元気になるからね。絵里ったら自分の腕の見せ所だけに張り切る張り切る。」
前田ドクターがからかった。
「緑、鋭いわね。その通りよ。さあ、処置開始よ。今日は、人工呼吸システムの構築よ。その前バックパックと
フロントパックの調整よ。高橋さん、如月中尉手伝ってください。」
「絵里、私は、如月大佐の心臓と肺のチェックにはいっていいわね。」
「お願いします。」
佐藤ドクターの許可を取って、前田ドクターが、私の身体から、心臓と肺のデータをチェックしはじめた。
 バックパックの中には、酸素発生装置、人工血液更新装置、栄養供給システム、
機械部分エネルギー供給システム、排泄・廃棄物処理システムなどの重要器官や
コミュニケーションシステムなどといったサイボーグ体の内部と連動して生命維持や管理の重要機器が
納められている。
 フロントパックには、エネルギー貯留システム、補助生命維持管理機器、
データシステム補助ハードウェアなどバックパックと同様に重要器官が納められている。
「バックパックとフロントパックのチェックと調整が終わったら、サイボーグ用人工心肺システムの調整を
私と高橋さんで行います。前田ドクターと如月中尉は、手術中使用する外部据え置き型人工心肺のチェックに
入ってください。」
76manplus:2005/07/11(月) 22:43:02 ID:Le/iCgl6
佐藤ドクターの言葉に3人が答える。
「了解!」
 私の身体と今日使用する機器が念入りにチェックされると、佐藤ドクターが声を出した。
「さあ、オペを開始します。切開をお願いします。」
人工血液が輸血用パックを使い輸血されるよう身体に輸血パックが繋げられた。
前田ドクターが、メスを取り、執刀が始まった。
前田ドクターが私の胸部にメスを入れ、手早く、心臓に繋がる動脈と静脈を心臓から切り離し、
外部据え置き型人工心肺に繋ぎ変えた。
メスで切った皮膚に素早く止血がされた。そして、人工心肺に白色の人工血液が流れ込み、赤い血液が
人工心肺に回収されていった。
「心臓と肺を切除して、火星探査・開発用サイボーグ専用に開発された人工心肺システムに交換します。
じっくり自分が機械の身体に改造されていく姿を確認してね。」
 前田ドクターの言葉に
「はい、じっくり見させていただいています。でも、身体の感覚はまったく剥奪されているのに、
視覚と聴覚が生きていて、処置の全容が見えるようになっていて、しかも、前田ドクターや佐藤ドクター、
まりなさん、えりかと会話が交わせるのって、何か不思議な感覚ですね。」
「まあね。普通の麻酔を使用しているなら、これだけの大手術だったら、意識が完全にないはずだけどね。
ラバーフィットスーツを装着されたときと同じ状態でしょ。でも、このように、我々も、あなたの意識があった方が、
状況を把握しやすいからいいの。ただし、ラバーフィットスーツを装着したときの感覚剥奪とは、
基本的に違っています。それは、今回は、生命維持管理装置によって、完全に如月大佐の感覚や意識を
コントロールさせていることです。ですから、薬物使用だけではない感覚コントロールが出来るため、
副作用が少なく、感覚管理が容易に出来ることです。」
77manplus:2005/07/11(月) 22:43:26 ID:Le/iCgl6
佐藤ドクターが説明してくれた。通常の生活でも既にラバーフィットスーツ装着時点から意識が
生命維持管理装置のコントロール下に置かれているから、もう驚きもしなくなった。慣れというのは本当に
恐ろしいものだ。それよりも驚いたのが、前田ドクターがメスを使い切開したのは、胸部だけではなかった。
首からまたの部分まで、一直線に切開され、骨格と内臓が完全に見えていた。そして、皮膚と筋肉は、
広げられ、サイボーグ手術用処置台に貼り付けられていた。腕や脚も骨格が見える状態で皮膚と筋肉が
切開され、広げられていた。そして、身体に繋がれているケーブルやチューブ類は、それぞれの内臓器官と
直結された。まるで、標本になった気分だ。
えりかにからかわれた。
「さしずめ、お姉ちゃんの今の状態は、あじの開きみたいなものね。裸よりもすごいヌード状態ね。」
「でも、はるかさんの体力を考えて、これから、何日も連続オペになります。私たちも、はるかさんも、
これから大変になりますよ。」
まりなさんの言葉を前田ドクターが、会話を遮った。
「心臓と肺を除去します。」
その言葉と同時に、メスや鉗子を使い、私の肺と心臓を私の身体から取り去った。そして、取り去った臓器は、
臓器移植を待つ人に移植されるために保存液に入れられ運び出された。
もう、火星から帰ってきても、自分の臓器は保存されていないから、もとの身体に戻ることが出来ないように
なってしまっていた。本当に一生火星探査・開発用サイボーグの姿でいることになるようであった。
もう元には戻れないのだ。

78manplus:2005/07/11(月) 22:53:10 ID:Le/iCgl6
 そんなことを考えているうちにも処置は進み、肋骨の下に肺や心臓がない状態で、
外部据え置き型人工心肺でのガス交換が私の生命を維持している。外部据え置き型人工心肺は、
白色の人工血液を供給し続け、本来の血液が完全に人工血液に入れ替わってしまった。この人工血液は、
酸素の供給量が、赤血球の5倍となっており、サイボーグになっても残る脳や一部の器官の働きを劇的に
引き上げることが出来るのである。そして、前田ドクターが、首の部分の気管と食道を除去し、
そこに佐藤ドクターが神経補助のための光ケーブルそして、データ保存用ハードディスクへの
感覚システムからの光ケーブルを通すための金属複合樹脂製のケーブル防護管と
コミュニケーションサポートシステム、火星で使用することも出来る発声用外部スピーカーが取り付けられた。
 そして、内蔵型永久人工心肺システムが、肋骨の中に納められた。
そして、外部据え置き型人工心肺に繋がれていた血管が内蔵型永久人工心肺に繋ぎ変えられた。
この人工心肺は、肺に相当する部分がなく、バックパックの酸素発生・貯蔵及び二酸化炭素処理システムと
直接ガス交換が出来るようになっていて、それをロータリーポンプシステムで連続的に体内の生体部分に
人工血液を送り込むようになっている。肺を介さないで直接血液の酸素・二酸化炭素交換が可能な器官である。
そして、ロータリーポンプシステムで体内に人工血液を連続的に効率よく送ることが出来るようになっている。
その為、心拍というものや脈拍というものがなくなっている。ドキドキという音が消えて、
グイーンという音が聞こえるような気がした。実際には、僅かなモーター音しかしないため、
ロータリーポンプシステムの駆動音は、気にかける必要がないほど静かであった。
79manplus:2005/07/11(月) 22:53:46 ID:Le/iCgl6
佐藤ドクターの説明が入る。
「バックパックとフロントパックとの協調で人工心肺システムが駆動し始めたわ。これであなたの生命維持器官は、
完全に、外部から独立したものになったわ。火星では、二酸化炭素を分解して使用することを併用するけど、
宇宙空間や月などの大気のない世界でも、如月大佐は、半永久的に外部の支援なしに生きることが
可能になったの。ラバーフィットスーツ装着者みたいに定期的に、外部からの補給がなくても生きていけるように
なったので、外部の補給排気チューブに繋がれることもなくなったの。うれしいでしょ。」
「ますます、人間でなくなってきたのですね。嬉しいというより、やっぱり、ちょっと悲しいです。」
「この様なシステムを取り付けられた人間、つまり、火星探査・開発用サイボーグになって火星で任務を
行うために宇宙開発事業局に配属になった人間だから、それはしょうがないことだよね。これから、如月大佐は、
変わり続けることになるわ。自分の変わる姿を認識することだけに専念してもらうことね。」
佐藤ドクターがとどめのような言葉を口にした。
 傍らで、えりかが、あまりにすごい光景に立ち会って、固まっていた。そして、やっとの思いで言葉を
私にかけてくれた。
「お姉ちゃん、呼吸システムのサイボーグ手術は、成功したわ。一番デリケートな手術が成功に終わって、
ホッとしてる。でも、お姉ちゃんは、機械の身体に変わり続けるんだね。」
「えりかだって、いずれは、この状態になるんだから、その時の心の準備を今の私を見てして置くんだよ。
いいわね。」
「うん。わかっている。でも、やっぱり悲しいよね。まさか、お姉ちゃんが機械の身体に変えられていくのを間近で
見なきゃならないなんて。」
まりなさんが、えりかを慰めた。
「えりかさんも、はるかさんも、頑張るのよ。私は、そうとしか言えないし、今、えりかさんがショックを受けていたら、
はるかさんの処置でミスが起こるかもしれない。そうしたら、もっと悲しいことになるから、今は、頑張るのよ。」
80manplus:2005/07/11(月) 22:55:15 ID:Le/iCgl6
そうなのだ、前田ドクターも佐藤ドクターもまりなさんも、はるかさんも、えりかも私の処置を長時間にわたって
ぶっ通しで行うためにラバーフィットスーツのバックパックに供給排泄チューブと電源などのケーブルを
繋ぎ続けて、長時間活動に耐えれる状態で処置を行ってくれているのだ、ラバーフィットスーツの
連続活動モードを使い、何日も睡眠や休息を必要としないモードでの作業をしてくれているのだ。
 もっとも、私の今の解剖されたカエル状態を速く解消しなくては、私がまいってしまうのだった。
私は、このプロジェクトにとって大事な実験材料であるから、その意味で、失うことは出来ない存在であった。
「機械部分の調整は終わったわ。全て順調に動いているわ。」
と佐藤ドクター。
「生体部分にも、今のところ異常はないわ。順調に機能しています。機械部分との協調についても、
生体部分の拒絶反応も認められないし順調だわ。さすがに空軍のありとあらゆるデータから選び出された
被験者の中でも、ピカイチの被験者だというデータ通りね。サイボーグになるために生まれてきたという表現が
ピッタリね。」
何か複雑な気持ちになる一言を前田ドクターに言われた。私は、機械人間になるために
生まれてきたんじゃないはずなのに、この施設で暮らし始めてからというもの、自分は、
機械人間になることが生まれる前から決まっていたように思えてくるから驚いてしまう。
81前82:2005/07/11(月) 22:56:34 ID:cXP18wdQ
不安と憂鬱さの中で医用電子室に向かった。
医用電子室にはいると熊沢さんと堂本さんの他、もう一人背の高い男の人がいた。
「内田です。清水さんですね。私もあなたと一緒にアクアノートになります。」
「清水美咲です。どうぞよろしく。」
この人が第2期で一緒に研修を受ける人らしい。
「内田さんは清水さんより1ヶ月半先に入所したから、いろいろ教えてもらってください。
内田さんはあなたと違って、アクアノートになることを熱望して、積極的に研修に励んでいるから見習うのよ。」
熊沢さん、相変わらずきつく攻めてきた。追い打ちをかけるように、
「これから始める研修の第1段階では、装着した電極の大まかな働きを調べていきます。
検査の時は電極からの信号をこちらでモニターするだけでしたが、
この段階ではこちらから電極に信号を送って、
あなたの反応をチェックすることが中心になります。
脳の大まかな位置ごとの働きはわかっているから、変なことにはならないはずだけど、
もしかしたら、痛みを感じたり気分が悪くなったりするかもしれないから、
そのときは早めに教えてください。」
82前82:2005/07/11(月) 22:57:00 ID:cXP18wdQ
「最初は体中痙攣したり、頭の中が騒音みたいに、わんわんいったり大変ですよ。」
内田さんも脅してくる。
「お手柔らかにお願いします」というのが精一杯だった。
「今日は初日だし最低限の確認だから心配しなくて大丈夫です。あちらの部屋のディスプレーの前に座ってください。」
堂本さんに促され、コンピュータディスプレーの前に座った。
ポーチから電極ケーブルが抜かれ、コンピュータにつながれ、
耳を完全に覆うヘッドホン、口元にマイクを取り付けられた。
「こちらから声をかけるから、その直前の気分や感覚を答えてください。」
頭の中にざわざわしたような音が聞こえる。声なのか、機械か何かの音なのかわからない。
「音がしますが何かよくわかりません。」
「はい、じゃ次ー」
また同じ感じ、これを何回も繰り返された。
そのうち、心臓がどきどきしたり、肩や膝がぴくぴくしたりいろんな信号を送られてきた。
83前82:2005/07/11(月) 22:59:27 ID:cXP18wdQ
さらに、・・・体の芯がうずくような感覚がしてきた。
なに、これ・・・・・。
下腹部に手が伸びてしまったが、
そこには体内洗浄用のチューブ取り付けプラグがあり、
プラスチックのカバーで覆われていて、さわることはできない。

「何か、もぞもぞするんですけど。」
堂本さんに聞かれるのは恥ずかしいが、そう答えるしかなかった。
堂本さんも、何事もなかったように「はい、じゃ次ー」と答えて別の信号を送ってきた。

84前82:2005/07/11(月) 23:01:49 ID:cXP18wdQ
今日は初日だしこれくらいにします。あなたも装備的には完全にアクアノートになりましたから、
今夜からゲストルームや回復室ではなく、あなた専用の部屋を使ってもらいます。
部屋に戻ったら20時30分就寝なのでその15分前にはベッドに入っておく事ね。」
熊沢さんに案内され、部屋に入ると、ベッドとコンピュータがあり、
さらに壁にはいくつかのプラグ取り付けパネルがあった。
「眠るときはポーチをはずして、マリンアンビリカルとこのパネルのジョイントをつないでおくこと。
脳からの信号ケーブルもこっちのプラグに接続してね。」
一人部屋に残され、ここが当分の居場所かといろいろ眺めてみた。窓も飾りもない殺風景な部屋だ。
早く訓練を済ませ水中活動に出たい。その希望を胸にベッドに入った。
20時30分になったら、スイッチが切れるように意識がなくなり、眠らされるのだろうか?
不安な気持ちでそのときを待った。

何か体がもぞもぞしてきた。
昼間感じた、あのうずくような感じがもっとソフトに心地良くしてきた。

軽く、しかし恍惚とした快感に身をゆだねているうちに、眠りに入らされていた。
85manplus:2005/07/11(月) 23:02:10 ID:Le/iCgl6
前田ドクターが次の指示を出した。
「如月大佐の様態は安定していますので、次の手術にはいるまで、4時間の休憩を許可します。それでは解散。」
 みんなが20時間にも及ぶ私の手術を終え、つかの間の休息をとりに処置室をでたものと思っていた。
「お姉ちゃん。」
不意にえりかの声がして気づくと、私を見ているえりかの姿があった。
「とうとう、始まってしまったね。」
「そうだよ、この任務に就いたときから私は、今の状態を覚悟していたの。」
「でも、お姉ちゃんの身体が徐々に機械に変わっていくんだよ。今は、骨が金属質のものに変わって、
心臓と肺が機械に変えられた。最後は、ラバーフィットスーツの発展版みたいなシルエットになるんだから。
見てると悲しいよ。」
「私は大丈夫。それに、あなたもいずれはこうなってしまうのだから、今のうちに自分の時に冷静になれるように
今の私を見ておくことが大切だと思うわ。僅かな時間の休息だから、あなたも疲れているから、休息にはいって。」
「でも・・・。」
「あなたがミスしたら、私の命にかかわるのよ。さあ、考え込んでないで、休息に入りなさい。」
「わかった。それじゃ、休息に行ってくる。お姉ちゃんが一番疲れてるんだから、休息するんだよ。」
私は、えりかの後ろ姿を見送った。私もレストモードに入れられたようだ。私の開封された身体を保護する装置が
働くのを見ていたら意識が遠ざかっていった。私本来の物がだんだん無くなっていく・・・。
 (つづく)
86manplus:2005/07/11(月) 23:04:41 ID:Le/iCgl6
前82様
私の今日の最終のスレが横スレになり失礼しました。
いよいよよ、再開ですね。
楽しみに読ませていただきます。
87前82:2005/07/11(月) 23:09:56 ID:uJGTpLvS
manplus様

82ゲトにこだわりおじゃまして申し訳ありません。

ウェットスーツ様の皮膚
男性器切除のショック
火星のわずかな光からもエネルギーを得る生命維持システム


小説のマンプラスをうまく取り入れますます期待が盛り上がっています。

883の389:2005/07/12(火) 01:37:01 ID:7DAGk28x
8−1
 
 携帯の目覚まし音が、ゆっくりと私の眠りを覚ました。
 ベッドに深く沈みこんだ身体を起こす。
「あ…」
 身体の感覚が、元に戻っている。
 昨日、全身の骨を金属にされてしまった私は、重い身体をひきずってようやく家に帰り着いた。
 それから一晩のうちに、もう身体が順応してしまっている。 確かに山根さんの言った通りだった。
「これなら…」
 なんとか自分を誤魔化せるかもしれない、今までの身体の変異と同じように。
 ベッドから降りて、ブレザーの制服に着替える。 また胸がすこし窮屈になっている気がした。
 
 
 放課後、私は昨日訪ねたばかりの山根さんの家に向かった。
 昨日の山根さんの言葉がずっと頭の中にひっかかっている。 その真意を確かめるつもりだった。
  
「何の用?」
 実験時以外の私には興味はない、と言いたげに、机上の機械をいじりながら、山根さんは言った。
「ねえ…山根さんは、本当に魔法使いなの?」
 私は山根さんが超常現象を起こすのを散々見ている。 愚問のはずだった。
「………」
 なのに、山根さんは押し黙ったまま、機械いじりの手をぴたりと止めた。
893の389:2005/07/12(火) 01:39:03 ID:7DAGk28x
8−2
 
「山根さんのお父さんとお母さんは、どうして山根さんを置いて出て行ったの?」
 さらに質問を畳み掛ける。
「黙って。 沢木さんはただの実験台なの。 余計な事に…」
「それと、前にも聞いたけど、私の身体を使って実験しているソーサレスエンジン、完成したら誰の身体に
埋め込む気なの?」
 もし、これらの事が関連を持っているとしたら、たぶん答えは一つ。
「…そうよ。 私は両親とも魔法使いの家に生まれながら、常人に毛の生えた程度の魔力しか持たない欠陥魔女。
呪文の一つも唱えられない、せいぜい魔法機器の起動と作成が出来る程度のね。 だから両親は私を捨てたのよ」
 視線をそらすように、機械いじりの姿勢のまま、山根さんはぼやくように告白した。
「だから、私は私自身の技術力を以って、私自身を一人前の魔女に改造するの」
「それは駄目! そんな事しないで!」
 両手で机を叩く。 派手な音とともに、机の天板にヒビが走った。
「あ…ご、ごめんなさい」
 忘れていた、私の両手は鉄棍も同然だということを。
「…私の身体をどうしようと、私の勝手でしょう」
 山根さんが煩そうに答える。
「そんな事言わないで! 私は、もう誰にもこんなロボットか人間か分からないような身体になって
欲しくないの。 もちろん山根さんにも」
「そう…なら沢木さん、私のために、私の物になってくれる?」
 今日初めて、山根さんが私のほうへ向き直った。 
「え…?」
903の389:2005/07/12(火) 01:42:09 ID:7DAGk28x
8−3
 
「沢木さんが、ハーフゴーレムとして私の使い魔になるのなら、それで丸く収まるわ」
「ハーフゴーレム?」
「そう、半分人形、半分人間。 こっちの用語で、今の沢木さんみたいな存在を指す言葉よ」
 山根さんは、とっくに私を人間として認知していなかった。
「人形の汎用性と人間の知性を併せ持つハーフゴーレムは、使い魔としては最高級の部類。使い魔の力は
その主人の力とみなされるから、沢木さんが契約に応じるなら、私はソーサレスエンジンの開発を続ける必要が
無くなるわ」
 山根さんが、私の心中を探るように表情をうかがっている。
「どう? それとも、やっぱり私のしもべになるのは嫌?」
「それは…考えさせて…」
「決断するなら、早めにね。 沢木さんの身体はもう大分いじっちゃって、出来る実験も限られてきたから、
今、二人目の実験台を探しているところよ」
913の389:2005/07/12(火) 01:44:48 ID:7DAGk28x
9−1
 
 それから一ヶ月。
 
 真夜中。 深い眠りに落ちていたはずの意識が、まるでスイッチをONにされたように唐突に目覚めた。
 同時に、
『沢木さん、来て。 仕事よ』
 意識内に直接、主人の声が響いた。 否やは許されない。 
 群青色の闇に満ちた自分の部屋の景色が、白く霞んでいく。
 
 視界が戻ると同時に、裸足が砂利を踏みしめる音が聞こえる。
 私が召喚されたのは、町の外れの河川敷らしかった。
「山根さん…」
 目の前に、闇に溶けてしまいそうな紺色の三角帽とローブを纏った山根さんが立っている。
「戦闘よ。 相手はあの魔法使い二人」
 山根さんが杖で指し示す方向、土手の上に、二つの人影が寄り添うように立っている。 その仕草から、
二人は夫婦のように見えた。
923の389:2005/07/12(火) 01:47:29 ID:7DAGk28x
9−2
 
 山根さんが、私のノースリーブパジャマの裾をめくり上げる。 素肌が生暖かい夜風に触れた。
 私の背中には、銀色の金属で縁取られた、こぶし大の穴がぽっかりと開いている。
「全力でね。 プログラムは“ケルベロス”を使うわ」
 山根さんの手には、赤黒い輝きを放つ、こぶし大の水晶が。
「えっ!? 待って、そんな凶暴なのは…」
「贅沢言ってられる相手じゃないわ。 手を抜けば、逆にあなたが殺されるわよ」
 言いながら、山根さんは、私の背中のソケットへ、魔犬のデータを封じた水晶をはめ込んだ。
「あっ…」
 ───カシャン───ドクン
 胸の機械が、心臓が、大きく脈打つ。
 魔法金属の骨格を伝い、魔力の流れに乗ったケルベロスの情報が全身に浸透する。
「あ…あ…ぁ…」
 私を構成する情報が組みかえられ、全身の骨格が変形していく。
 ───パキ、パキ…
 両手足の指先から爪のように鋭利な銀の骨が、上顎から銀の牙が八重歯のようにとび出す。
 背と腰の骨が歪み、姿勢が獣のような前屈みになっていく。
 尾てい骨が伸び、銀の蛇となって鎌首をもたげる。
 蛇の尾。
 頭蓋骨が頭上に銀の犬耳を形成し、両肩から犬の顔をかたどった銀のアーマーが盛り上がる。
 犬の顔が、三つ。
 頭蓋骨の内側に、魔犬の戦闘本能と凶暴性が書き込まれ、私の脳に投影される。
「あ…ガ…ゥゥ」
 口から低い唸り声が漏れた。
 この瞬間から、私は擬似的に人間ではなくなる。
 満月を仰ぎ、高々と吠えると、土手の上にたたずむ二つの人影に向かって突進した。
933の389:2005/07/12(火) 01:50:17 ID:7DAGk28x
9−3
 
 一跳びに土手を登り、ススキの叢に立つ二人を、爪で横薙ぎに切り裂く。
 が、手ごたえは無い。 夏草の切れ端が空しく舞い散った。
「…後ろ!?」
 夜風に混じる人の臭いに、身体が本能的に反応する。 振り返って人の影を目視するより早く、脚が地を蹴る。
 しかし、またもや二人は爪が届く寸前、煙のように姿を消した。
「この、ちょこまかと…」
 血を求める魔犬の本能が、私を苛立たせる。
 なら、逃げ場を断つまで。
『我、関守の権を以って、冥府の扉を此処に開かん…』
 魔法使いですら決して唱える事ができない、あの世の番犬にのみ許された呪文が、私の口から迸る。
 私を中心に、巨大な魔法陣が地面に刻まれ、
『此方へ溢れ出でよ、灼熱の業火!』
 爆音。 同時に魔法陣全体を底面とする巨大な火柱が天を焦がした。
 陣の描かれた領域が一瞬で灰燼に帰し、燃え得る物が全て焼失してなお、炎は一面に溢れ続ける。
 魔法使いとはいえ、所詮人間でしかない二人は無力に立ち尽くすしかない。 身を守るための結界が、同時に
二人の反撃手段も奪ってしまう。 
「もらった…!」
 その首を結界ごと両断するべく、炎の中を一直線に駆ける。
 が、間合いに踏み込む寸前…獣の勘が危険を知らせた。 足の爪を焦土に食い込ませ、身体を強引に停止させる。
「…!」
 あり得ない筈の反撃が、鼻先を掠めた。
 二人を包む結界が長く鋭利に変形し、力学的斥力を備え、大剣のように機能していた。
94名無しさん@ピンキー:2005/07/12(火) 01:52:05 ID:9Atqy5ZF
皆様乙です。
953の389:2005/07/12(火) 01:52:44 ID:7DAGk28x
9−4
 
 夫婦と思しき二人組みの魔法使いは、私の放つ人外の殺気を受けても全く怯む事無く、次の隙を窺っていた。
 炎に照らされ、浮かび上がる二人の顔。
 それを見て、思わず息を呑んだ。 二人のうち女のほう、顔に見覚えがある。
 小柄な身体、長い前髪から僅かにのぞく切れ長の目。 まさに、山根さんに生き写しだった。
(ということは、まさか、この二人は、山根さんの!?)
 私が思いをめぐらせた隙を突き、半透明の大剣が斜めに振り下ろされた。
「……っ!」
 地を滑る蛇の如く水平に跳び、刃風をかいくぐる。
 理性が、再び戦闘本能に塗りつぶされた。
 幾度も振り回され、突き出される刃をかわし、切り払い、半透明のドームに包まれた二人に肉薄する。
「これで、終わりよ!」
 魔力を込めた銀色の爪を振り下ろす。
 結界がガラスのように砕ける音が響き渡り…
963の389:2005/07/12(火) 02:34:54 ID:7DAGk28x
えー、本作はとりあえず、ここで休止しようかと思います。 打ち切りみたいですが。
「背中にぽっかり開いたソケットに水晶をはめ込まれて、いろんな魔獣に変形させられる使い魔少女」の話が、
果たしてサイボーグ少女モノとして認知されるものかどうか自信が無いもので。

>>1さん乙です

manplus氏
いわゆるマッドサイエンティスト的キャラがいるわけでもないのに、どんどん鬼畜な方向に…
もし逆上するような事があっても、怒りのやり場が無いでしょうね。

82氏
外部からの信号で心拍数が変化するシーン、いいです。
さりげなく、エロい部分も。

444氏
ロボットの人格プログラムも高度になっている時代ですか。 
ヤギ−さんが態度や行動でプログラムとの相違を示せないくらい高度なのでしょうか

虞祭坊 氏
>Dr.ボーグ
レインボーマンですか。 30年前ですね…名前しか知らない世代です。
新しい改造シーン考えてみても、絶対に何らかの作品に先を越されてるんでしょうね。
意外と昔から改造はメジャーな萌えシーンだったんでしょうか。
97名無しさん@ピンキー :2005/07/12(火) 22:06:14 ID:0IyJMEgK
>3の389氏

なんか、普通のラノベとして十分通用するような気がする。伝奇モノの。
構成なんかを練り直してやれば、おもしろくなるような。
ここでは、スレ違いになるだろうけど。
どこか別の場所で見てみたいもんですな。
98名無しさん@ピンキー:2005/07/13(水) 00:36:13 ID:4daZBlzb
>>3の389様
無理矢理醜い機械に改造されてしまったり実験されたり人権軽視の扱いされたりと、サイボーグもののツボをついてて萌だッたんですが。うちきりですか。残念です。
99manplus:2005/07/13(水) 01:57:52 ID:SXKAjVMe
「気が付いたようね。」
前田ドクターの声が聞こえた。
「これから、心肺器官以外の内臓の処置に入ります。この処置で、胴体内部の臓器が除去されるか機械に
置き換わるわ。もう内臓組織の見納めよ。如月大佐覚悟は出来ているわね。もっとも、
元に戻してくれとここでいわれても、もうどうしようも無いけどね。」
佐藤ドクターの言葉に、
「覚悟できています。オペを続行してください。」
私はそう言った。
前田ドクターが指示を出す。
「それでは、オペを続行します。私が消化器官の除去手術をしている間、佐藤ドクターは、
高濃度栄養液供給システムと老廃物管理システム及び生体機能維持システムの最終チェックと作動テストを
行ってください。高橋さんと如月中尉は、脚の筋肉組織の改造を行ってください。
人工筋繊維と筋繊維を一本ずつ編み込む処置だから、根気よく、細心の注意を払って行ってください。
注意力を切らせたら絶対だめよ。それでは皆さん、作業に掛かってください。」
 私の胴体部分には、前田ドクターが、処置を開始し、両足の部分では、まりなさんとえりかが作業を開始した。
 前田ドクターは、本当に素早いスピードで内蔵を除去していった。まず、十二指腸や胃が切除され、
保存液に入れられ、移植用に運び出された。肝臓、胆嚢、脾臓などの臓器は、切除された後、
生体機能維持システムの装置の中に納められ、再び私の身体に戻すため、佐藤ドクターの手に渡され、
生体機能維持システムの一部となった。そして、小腸、大腸、直腸が切除されると同時に人工肛門が
取り外された。そして、腎臓や膀胱が取り外され人工尿道も取り外された。
100manplus:2005/07/13(水) 01:58:39 ID:SXKAjVMe
 そして、佐藤ドクターによって調整された高濃度栄養液供給システムが、人工心肺システムのすぐしたに
取り付けられ、システム同士が管により接続された。これにより、高濃度栄養液がロータリーポンプシステムを
使って直接身体中の生体部分に人工血液で供給されるようになった。高濃度栄養液供給システムは、
バックパックのシステムと仮接続された。そして、つぎに生体機能維持システム、老廃物管理システムが、
それぞれ体内に納められ、血管と接続された。これで、私の身体の中は、
機械以外の物がほとんど無くなってしまったことになる。
そして、その空隙部分の全てにデータ管理保存用ハードディスクが入れられた。
そして、光ケーブルが人工感覚器と繋げられるように光ケーブルが喉を通って頭部にのばされた。
そして、老廃物管理システムとバックパックを結ぶ管が背中のバックパック取り付け位置までのばされていった。
老廃物管理システムと生体機能維持システムにより、人工血液の浄化作業が行われることになる。
そして、バックパックのリサイクルシステムと老廃物管理システムと生体機能維持システムが仮接続された。
そして、私の生命を維持する体内内蔵型人工器官が全て、私の身体の中に固定され、
そこから伸びるバックパックとの接続ケーブルやチューブが背中の腰と肩胛骨の下あたりから体外に出され、
バックパックと接続された。バックパックは、私の処置台の傍らに置かれ、私の身体の一部になる処置まで、
そこに仮置きされることになった。そして、私の臍あたりに背中を貫いてバックパックから伸びるチューブや
ケーブル類がフロントパックと接続された。そして、フロントパックも私の身体の一部になるのを待つだけの状態と
なった。


101manplus:2005/07/13(水) 01:59:07 ID:SXKAjVMe
 そして、前田ドクターが、私の身体のオペとしては、最後となる性器の処置へと入った。
「如月大差、あなたの胴体部分の最後の処置に入ります。」
「それは、性器の切除ですか?」
「残念ながら、その通りです。でも、安心してください。あなたの女性らしい人格や、女性らしさに必要なものを
維持するだけの必要性を確保するため、性器は除去されても、ホルモン等の分泌物を人工的に合成して体内に
送り出すシステムを取り付けるし、切除した性器は、冷凍保存して、万が一計画が変更され、
あなたが人間の姿に戻れることになったときは、自分の性器だけは、元通りの場所に納められるように
しておきますから。ただ、冷凍保存時の事故で再移植後に正常に機能するかは保証できないし、
大元のプロジェクトが変更になって、あなたを人間の姿に戻すことは100%ないと思うけど。」
女性としての快楽や喜びの源の性器を完全に失ってしまった悲しみは、格別であった。
ラバーフィットスーツを装着されたときから機能は失っているのだが、現実に股間に何もなくなってしまうと
心の痛み方が違うものがあった。
 私の脚の筋肉を調整していたえりかが股間をおさえている姿が印象的に映った。
「ありがとう、えりか、自分のこと私のことと二重の心の痛みを体験してくれたんだね。」そう心でつぶやいた。
 そんな感傷に浸る間もなく、前田ドクターがオペを開始する。
 性器は卵巣、子宮、膣などの女性器が取り除かれ、その部分に女性用ホルモン分泌システムとして、
女性としての尊厳を保つための金属のボックスが取り付けられた。そして、性器を閉塞していた弁が
取り除かれ、そこにエネルギー外部供給用コネクターとデータ管理保存用ハードディスクと外部コンピュータを
接続するためのコネクターが取り付けられ、金属製の開閉カバーが取り付けられた。取り除かれた私の性器は、
えりかが素早く液体窒素の入った保存カプセルに入れてくれた。こうして、私の胴体部には、
私の生身の部分は何も無くなってしまった。
102manplus:2005/07/13(水) 02:12:23 ID:SXKAjVMe
 私の股の部分に取り付けられたコネクターは、私が作り出したエネルギーを外部機器対応可能型エネルギーに
変換するシステムが私のバックパックと腹部に分けて納められていて、バックパックとフロントパックの
貯留装置に貯められるようになっていて、私自身の機械部分が必要とするエネルギー量よりはるかに多くの
エネルギーが生成されるため、火星や宇宙空間に於いて使用する機材へのエネルギー供給が出来るように
設計されている。その供給用のコネクターというわけである。もちろん、サイボーグの他のメンバーの緊急時の
エネルギー補給もこの股のコネクターを直接接続し合うことにより可能となっている。セックスの時のような
格好になるのだが・・・。少し恥ずかしい格好であることも確かだが、緊急時での対応なので仕方のないことだと
説明された。これが私に可能なセックスなのだという諦めの気持ちもついて回った。
これから、このような奇妙な格好になることに違和感が無くなる訓練も嫌というほどやらされるのだろう。
ちょうど、空軍士官学で長時間の飛行訓練の一環として、おむつをでの排泄を違和感なく行えるように何日も
おむつを連続装着させられておむつでの排泄以外禁止されて、おむつになれる訓練をしたときのように、
今回も何回も何回も違和感の消えるまでやらされるに決まっているのだ。うんざりするほどにだ。
103manplus:2005/07/13(水) 02:13:14 ID:SXKAjVMe
 そして、佐藤ドクターが、私が教育訓練で習ったことのない機器をいくつか、私の喉元に組み込んだ。
「佐藤ドクター、今の機器は何ですか?」
「ああ、これね、説明はされていないと思うけど、指揮命令系統維持システムと胸部光子ビーム砲用
エネルギー貯蔵タンク、それから、胸部光子ビーム砲制御装置よ。」
「それって、佐藤ドクターどういう物なんですか?」
「いいわ、説明します。指揮命令系統維持システムとは、我が国のこのプロジェクト上の倫理規定や、
指揮命令系統に対して、著しい反抗をした場合に身体の動きが自分の考えた行動ではなく、命令された行動が
優先されるようになるのです。それと同時に脳に対して、懲罰のための刺激をくわえるシステムなの。
つまり、命令には絶対に従わなくてはいけなくなる装置なの。でも、通常では働かないから大丈夫よ。
それに、如月大佐の場合は、このプロジェクトで集められた被験者の中で、指揮命令順位1番となっているから、
あなたの命令に誰も従わないということは出来ないことになっています。
ただし、あなたも、プロジェクト本部の指示には従うようになりますから、そこは注意してね。
104manplus:2005/07/13(水) 02:22:34 ID:SXKAjVMe
でも、このシステムが作動するには、本部や如月大佐といった命令権者が複数以上必要と判断し、
特殊コードが付いた命令信号を発したとき以外は、絶対に作動しませんから、現場であまり暴君的な態度は
とらないで、チームワークをはかってください。あくまでも、特別な極限状態での上下関係を示すものなのです。
それから、胸部光子ビーム砲は、あなたの胸に2門取り付けられることになっています。今取り付けた機器は、
その関連機器です。光子ビーム砲は、化成という未知の環境では何が起こるかわからないので、
チームリーダーであるあなたにだけ取り付けられ、使用を認められた物なのです。あなたの脳からの直接制御に
よって使用できる銃で破壊力は抜群です。
将来は、火星永住型サイボーグには、その用途に合わせて取り付けられていくことになりますが、今回は、
統制をとることやあなたのリーダーシップの強さを判断して、あなただけの機能として取り付けています。
光子ビーム砲本体は、腹部を閉じた後、あなたの胸に装着処置を行う予定です。如月大佐の胸も今よりもう少し、
グラマラスになると思いますよ、楽しみにしていてね。」
どんどんとメカという存在に近づいている私だった。
(つづく)
105manplus:2005/07/13(水) 02:31:11 ID:SXKAjVMe
いよいよ、はるかの内蔵と性器が完全になくなり、
ますます機械らしくなるような手術を展開してみました。
次回も身体の各部分がどんどん機械に置き換えられていきます。
火星に往くに相応しい身体になっていきます。

3の389様
確かにマッドサイエンティスト的なキャラは出てこないですが、
国家の政策自体が、巨大なマッドサイエンティストになっているという
設定になっています。
彼女たちは、人間であるときも、国家の歯車の一つとして、
国家の政策に無条件で従うという悲哀を持って生きていたという設定になっています。
そして、その最大で最悪の命令が、サイボーグになるということなのです。

今後のハルカを初めとした候補者の活躍をご期待ください。
そんな期待させるような文才もないですが・・・。
ごめんなさい。
106名無しさん@ピンキー:2005/07/13(水) 03:42:15 ID:MTa/ShQI
性器を冷凍保存しているということは、もう生身の体に戻ることはできなくても、
例えば任務が終わったり中断したときに、一気圧環境で生活することになれば、
性器だけ元の生身のものに戻したりする事ができるようにするわけですか。
エネルギー供給のために機械化性器を使う場合、望めば性感も得られるんでしょうか。
望まないときにまで強制的に性感があったらイヤですが・・・w
・・・女の子同士のセックスも可能なのかな。どきどき。←ぉぃ
107名無しさん@ピンキー:2005/07/13(水) 08:07:41 ID:1WBFqDNo
>96

3の389 殿

>「背中にぽっかり開いたソケットに水晶をはめ込まれて、いろんな魔獣に変形させられる使い魔少女」の話が、
うわー、こんな隠し球みたいな面白い設定があったとは…
本当に本編はこれからじゃないですか。ぜひ続きが読みたいですよ、つーか
漏れが欲しいよ、この設定。どんどん想像がかき立てられるもの。
空中戦なら「ハーピー」とか水中戦なら「スキュラ」とか、ちょっと禍々しい
感じのヤツがインストールされるとイイ感じですな。

>果たしてサイボーグ少女モノとして認知されるものかどうか自信が無いもので。
漏れは新しいサイボーグ像として「有り」だと思いますよ。

というわけで
           打 ち 切 り 大 反 対

を漏れ一人だけでも表明しておく。いろいろ事情はあるかも知れんけど、あえて。 
108名無しさん@ピンキー:2005/07/13(水) 21:41:28 ID:4mVhO3tA
そうですね〜
ここにうpしなくともどこかHPなどで公開する機会などあってもよいかと
109名無しさん@ピンキー:2005/07/13(水) 23:41:25 ID:D2Uvx28m
>>108
同感です。
110名無しさん@ピンキー:2005/07/14(木) 00:17:51 ID:XrhVH8dP
私も同意
111名無しさん@ピンキー:2005/07/14(木) 00:29:18 ID:o38Mi925
ID変えれることが出来る人はこの状況を一人で造ることが出来てしまう・・・
112名無しさん@ピンキー:2005/07/14(木) 00:37:15 ID:79iP71qG
>>111
なぜそんな悪意を持って見てしまうのか
親兄弟、または友達に裏切られた経験でもお持ちか?
113名無しさん@ピンキー:2005/07/14(木) 00:50:18 ID:o38Mi925
そんなことはないただ事実を書いただけだ。
ちなみに109は私です。
1143の444:2005/07/14(木) 01:43:55 ID:HlL9RKDj
「あら、 あなた、 どうして何もしゃべってくれないの? それに、 なんだか、 とても悲しそうな顔してる。
いったいどうしたの?」
 ウェーブがほどよくかかった雪みたいな白髪頭をした、 ふっくら顔のおばあちゃん。 何を聞かれても、
うんともすんとも答えずにじっと黙ったまんまの私を気遣ってくれたんだろう。 じっと黙り込んでいる私に
向かって、 子供に話しかけるみたいに優しげな口調で、 そう言ったんだ。
  どうして何もしゃべらないのかって? どうして悲しそうな顔をしてるかって? そんなの決まってじゃ
ないか。 私だって、 ホントは、 みんなにちゃんと挨拶したいんだ。 みなさん、 はじめまして、 今度、
はるにれ荘に住むことになりました、 四月から星修大学の一年生になります、 八木橋裕子です。 好きな
ことは、 走ること、 自転車に乗ること。 それから骨董集めです。 嫌いなことは、 水泳と料理かな?
何かとご迷惑をかけることもあるかと思いますが、 どうかヨロシクお願いしますってね。
  でも、 そんなこと言おうものなら、 この意地悪ロボ子に何されるか分かったもんじゃない。 私には、
とても言えないよ。
  たかがの機械のくせに、 私のことを電撃で脅迫するなんて、 絶対許せないよね。 でも、 アニーに
コンセントプラグを握られた時の恐怖が私の頭の中に染み付いちゃって、 その、 たかが機械に逆らうこと
ができないんだ。 悔しいよ。 情けないよ。
  私は全自動化住宅の名に恥じない機械として皆さんの為に一生懸命頑張ります、 なんて答えがきっと、
ロボットとしての模範解答なんだろう。 でも、 そんなこと、 私にはとても言えない。 だって私は人間
だもの。 身体のほとんどが機械だったとしても、 誰が何と言おうと私は人間なんだもの。 その私が、 何
が悲しくて、 そんなこと言わなきゃいけないのさ。 そんなの私の人間としてのプライドが許さないよ。
  人間らしくふるまうのも駄目、 ロボットらしくふるまうのも嫌。 八方塞がりの私は、 どうすること
もできなくって、 結局、 ただ黙っているしかないんだ。
1153の444:2005/07/14(木) 01:44:59 ID:HlL9RKDj
「山下さん、 ごめんなさい。 コレ、 まだ自分の立場が認識できてないみたいなんです。 使えるように
なるまで時間がかかるかもしれないですけど、 私がきっちり躾けますから、 ちょっとの間我慢してくだ
さい。 申し訳ないです」
  アニーは、 黙りこくっている私の頭を、 箒の柄で軽くコツンと叩くと、 山下さんっていうさっきの
綺麗な白髪頭のおばあちゃんに向かって、 馬鹿丁寧に頭を下げた。 アニーの「躾」という言葉に、 思
わずビクっと身体が反応してしまう私。 もう犬みたいに、 条件反射してる。 私、 機械に条件付けされ
たってわけ? 悔しいっ!
「あらー、 はじめは誰だってうまくできないわよー。 気にすることないわよー。 ロボットの人も人間と
一緒なのね。 ねえ、 可愛いロボットのお嬢ちゃん。 私達だって、 いつもアニーちゃんのこと手伝った
りしてるんだから、 はるにれ荘のことなら何でも知ってるのよ。 困ったことがあったら、 どんどん聞い
てね。 アニーちゃんも、 同じロボットの人同士なんだからね。 彼女に、 あんまりひどい事しちゃ駄目よ」
「はーい!」
  上品な口調でアニーをたしなめる山下さんに対して、 口だけは素直なそぶりを見せるアニー。 だけど、
「じゃあ、 すぐアイロンがけね」
  って、 こっそりと誰にも聞こえないように、 私に耳打ちすることも忘れない。 それも、 有無を言わ
せぬ強い口調でね。
  ふん。 調子に乗っていられるのも今のうちなんだ。 浩一さんって人が来てくれれば、 きっと私が人間
だって分かってくれるはずなんだ。 その時に後悔しても遅いんだからね。
「あらら、 もうこんな時間。 じゃあ、 そろそろ私は失礼させてもらおうかな? 八木橋さん、 頑張ってね。
アニー、 全自動化住宅はるにれ荘。 応援してるからね」
1163の444:2005/07/14(木) 01:46:00 ID:HlL9RKDj
  おばあちゃん達に囲まれた私を、 ちょっと離れた場所から面白そうに眺めていた佐倉井さん。 ちらっと
腕時計を見たかと思うと、 私達に手を振って、 今しがた私達が乗っていた車に向かって歩き始めたんだ。
  ちょ、 ちょ、 ちょっと待ってよ。 私を置いて行っちゃうの? 今、 佐倉井さんに置いていかれたら、
私、 どうなっちゃうんだよ。 ケアサポーターの松原さんなり、 青森のおじいちゃんなり、 誰かが私に気づ
いて助けに来てくれるだろうから、 ずっとこのままロボット扱いってことはないにしても、 それまでは、
この意地悪ロボの「躾」に怯えながら、 過ごさなくちゃいけないなんて、 最悪だよ。
  私はメイドじゃないし、 ましてやロボットでもないんだ。 四月から大学生なんだよ。 こんなところで
機械扱いされながら家事をやるなんて、 冗談じゃないよ。 行かないでよう。
  でも、 今の私はみんなにロボットだって思われているんだもの。 行かないで、 とか、 行っちゃ嫌だ、
なんて、 とても口に出すことなんかできない。 そんなこと言おうものなら、 忌々しいアニーに、 機械の
くせに人間に意見するなんて生意気、 とか言われてまた「躾」られちゃうに決まってるんだ。
  佐倉井さんは、 そんな私の気持ちになんか気付くはずもなく、 車のドアノブに手をかけた。
  ちょうどその時だよ。 赤くて小さくて丸い車が、 はるにれ荘の門を潜り抜けて、 じゃりをみしみし
踏みしめながら、 私達の立っている小さな庭に入ってきたんだ。
  赤い車は、 ぴーって、 小さな車にお似合いの甲高いクラクションを鳴らしながら、 私達の横を通り
過ぎて、 佐倉井さんの車の横にちょこんと止まった。
117名無しさん@ピンキー:2005/07/14(木) 01:54:21 ID:GC8h3Alu
うあああああ


続き、続きを・・・・・・


ヤギーが不憫で寝られませんorz
1183の444:2005/07/14(木) 01:56:16 ID:HlL9RKDj
今回はここまで。余り話が進みませんでした。
>>3の389様
話が佳境に入ってきたところじゃないですか。ここで打ち切りなんて
そんな殺生な。生殺しですよ。
でも、ガジェットの新作も読みたい気がするし、正直迷います。
次回作の構想があったりするのでしょうか?
119manplus:2005/07/14(木) 02:25:44 ID:fJDhMUHZ
「さて、内蔵部分のサイボーグ手術の処置は終了よ。高橋さん、如月中尉、そっちの方の進捗状況は?」
佐藤ドクターの質問にまりなさんが答える。
「やっと脚の筋繊維全体の98%を編み終わったところです。もう少しで脚の部分の複合筋繊維化処置は
終了します。」
 それでも両脚の人工筋肉化は順調に進んでいた。
私の本来ある筋繊維に特殊金属とセラミックの複合素材の人工筋肉が一本一本丁寧に編み込まれていく。
私の筋肉組織が金属光沢を持つ組織に変わっていった。
「わかりました。それでは、その終了を待って休憩に入りましょう。手術をする側はもちろんだけど、
される側も疲労の限界にきているようだから。」
もう40時間ぶっ通しの処置を行っていた。みんな疲れるはずであった。
「両脚の複合筋繊維化強化処置は、終了しました。」
まりなさんからの報告がある。
「わかりました。それでは8時間の休息の後処置を開始します。それでは解散。如月大佐の体力回復処置を
お願いします。」
前田ドクターの指示によってまりなさんが生命維持管理システムではなく、バックパックの操作盤をいじった。
私はもうバックパックとの共生に入り始めているのだった。今は、まだ頭部などが生身で残っているので、
生命維持管理システムとバックパックが繋がれている状態だが、手術が終わるとバックパックと
生命維持管理システムが切り離され、完全に環境から独立した存在になってしまうのだろう。
120manplus:2005/07/14(木) 02:27:28 ID:fJDhMUHZ
 みんなが処置室を引き上げた。えりかが残って私に話しかけてきた。
「お姉ちゃん、苦しい?」
「それはもちろんだけど、がんばれない苦しさじゃないわ。」
「我慢してね。切開状態での処置は、もう半分以上過ぎたんだって。」
「わかってるわ。440日前にこの任務に入ったときからね。」
「私のことより、えりかがサイボーグになることを考えるのが辛いことね。お父さんやお母さんは
今頃どうしているのだろうか?こんな身体にするために二人を産んだんじゃないっていうだろうな。
でも、そのうち、火星に打ち上げられる前にプレス発表されたら、判ってしまうのよね。」
「それを思うと、私も複雑だわ。」
「えりかごめん、もう、機械に休むように命令されてるから、意識がなくなってきた。えりかもゆっくりレストモードに
入って休むのよ。明日から、また大変な処置をしてもらうんだから。」
「わかった。お姉ちゃん行くね。お休み。」
そう言って、えりかが出て行った。私の意識もフェードアウトしていく。
121manplus:2005/07/14(木) 02:33:31 ID:fJDhMUHZ
今日は、機能の書きかけを書き上げました。
今日は筆が進まず申し訳ありません。

3の389様
私もあのような物語があってもいいと思います。
打ち切り残念です。


3の444様
この先、どの様なクライマックスが待っているのか楽しみです。
他の方のスレでの意見ではないですが、八木橋さんがいじめられていると
何か、心が痛むのはなぜでしょうか。
1223の389:2005/07/14(木) 03:04:40 ID:VTBOCugc
ありがとうございます。 期待してもらえるというのは本当に嬉しいです。
自分のサイト(メ欄)で、続きを書かせていただきます。

3の444 様
機械に躾けられてますよ、機械としての作法を。 
このシチュエーションは、かなりきます。
>ガジェットの続編
構想はあるんですが…

manplus 様
筋肉そのものも有機と無機の複合体になるのですか。
筋繊維の束が次第に光沢を放つようになっていく様子は、
想像するに、かなりの萌えシーンです。
123名無しさん@ピンキー:2005/07/14(木) 21:12:28 ID:Jw7HTBqq
>>manplus乙
124manplus:2005/07/14(木) 23:37:26 ID:fJDhMUHZ
 8時間後、再び、佐藤ドクターの声が、アクティブモードに切り替わった私に聞こえてきた。
「さあ、まず最初に筋繊維の編み込みをみんなで行い、首から下の筋繊維の複合化を完成させます。
みんな気を張りつめる作業ですが、頑張っていきましょう。機械の身体に変えられる処置を受けている
如月大佐の方がはるかに精神的にも、肉体的にも辛いことを頭の中に入れて手早く処置を行ってください。
我々の集中力が、火星開発プロジェクトの成功を握っていると言っても過言ではありません。
それでは、処置を開始してください。」
 その言葉を待っていたかのように、前田ドクター、佐藤ドクター、まりなさん、えりかの4人が、一斉に
人工筋繊維を持って筋肉の間に1本ずつ編み込んでいく。そして、人工の腱に繋げていく。この作業は、
非常に根気のいる作業であり、みんなが集中力をかなりたかめて作業している姿が有り難いと思えた。
しかし、筋肉がこんなに細かく、人工的に手を入れられることにより、人間とは程遠いほどの驚異のパワーの
源になるのが不思議に思えた。
 それに、この作業に関しては、ただ、自分に行われている光景をただ見ているしかない私にとっては、非常に
単調な光景であるため、今までの疲労と相まって、脳に対しての警告信号が流れることが何回も起こった。
ただ、見るだけの身はつらいのだが、そのたびにえりかに怒られた。
「お姉ちゃん、私たちが一生懸命やってるのに、警告信号が流れるような状態になっちゃって、
みんなに悪いでしょ、警告信号が流れなかったら、ねてることになるんだよ、みんなに謝らなくちゃ。」
いやはや、何にも言えないとはこのことであった。
20時間近く掛かり、首から下が全て複合型筋繊維組織に改造され、全身の筋肉組織が金属光沢で
鈍く光っている。
125manplus:2005/07/14(木) 23:38:13 ID:fJDhMUHZ
 そして、佐藤ドクターが骨の関節に稼働補助用関節倍力モーターが取り付けをおこなった。この装置と
人工筋肉の協調により、超人的、いや、怪物のようなパワーを出すことが可能になった瞬間であった。
「次は、神経アシストシステムの部品の取り付けよ。前田ドクター、私と一緒に取り付けをお願いします。
高橋さん、如月中尉、部品のチェックと調整をお願いします。少しスケジュールが押しているから、
手際よくやりましょう。もう少しの辛抱よ。如月大佐。」
佐藤ドクターと前田ドクターによって手際よく、神経細胞の結節点や分岐点、体内に取り付けられた機械機器との
結合点の神経組織の重要地点に神経システムアシストシステムの電子部品が取り付けられ、
神経細胞や人工器官と接続されていった。このシステムにより、生体脳による人工器官のコントロールを
スムーズに行え、しかも、神経伝達速度の向上も可能になるし、生体脳のバックアップとしての
補助コンピューターの連携性もアップすると同時に体内に設置されたハードウェアのデータも有効に生体脳で
活用できるようになった。そして、身体データもハードウェアを通じて蓄積されたり、
地球上のプロジェクトオペレーションセンターにデータをいつでもすぐに送ることができるのであった。
 つまり、このシステムの電子部品が、サイボーグのマンマシンシステムの中心的役割を担う重要部品の
一つなのである。
「よし、全部取り付けが終わったわね。これで、胴体部分に施すサイボーグ手術のすべての処置が完了したわ。
どう。如月大佐、自分の身体が、グレードアップした人工器官や機械装置に置き換わった気分は?」
佐藤ドクターにいわれて、モニターに映った自分の姿を見ると筋肉の中や体内のシステムの間を無数の電線や
ケーブル、チューブ類が所狭しと走り、フロントパックやバックパックと背中や腹部を通して内部機械類とが
接続した光景を見ることが出来た。もう、見る限りオリジナルの私の肉体は何一つ無くなり、火星や宇宙空間で
人間が外部支援なしで活動するために開発された機械組織に取り替えられてしまったのが理解できた。
126manplus:2005/07/14(木) 23:38:57 ID:fJDhMUHZ
前田ドクターが、
「さあ、胴体部分最後の仕上げよ元通りに縫合します。佐藤ドクター、高橋さん、如月中尉サポートお願いします。
如月大佐、腹部が元通りに皮膚と筋肉に包まれるまで、待っていてね。」
「了解。」
かけ声と共に、前田ドクターを中心に私の開かれてしまった皮膚と筋肉が生体接着剤と特殊縫合糸を使用して、
元通りにされていった。両脚、両腕、胴体部、首が次々と縫合されていった。特殊縫合糸は、つなぎ合わされて、
生体接着剤が乾く頃になると生体接着剤として、皮膚に解けてしまうようになっている。
つかの間の元通りの身体がモニターに映った。見慣れた、毛のないツルツルの身体がモニターに現れた。
この皮膚とも頭部の手術を終わった後、新しい皮膚に変わってしまうのだった。
 そして、佐藤ドクターが、私の胸の部分に細工を加えた。それは、胸部光子ビーム砲本体の取り付けだった。
手際よく胸の筋肉をかき分け、ケーブルやコード類を内部から引き出し、胸部光子ビーム砲本体と接続し、
胸に完全に納められた。私の胸がかなり大きくなり、つんと立った形のよいものになった。本来の胸で
こんな形だったら、自慢してもいいのであろうが、兵器となってしまったことで嬉しさより、落胆が先に立つ。
そんな思いを抱かせて、処置が終了していった。
「みんな、ここまでは何とか何事もなく処置を行うことが出来ました。如月大佐の皮膚組織や筋肉組織が
定着して落ち着くまで、しばらく休憩します。」
前田ドクターの言葉を佐藤ドクターがついだ。
「前回の休息から今まで、48時間が過ぎていますから、24時間の休息をとりますが、その間も如月大佐の
容態を監視する必要がありますから、6時間づつ交代でモニター監視をすることにしましょう。」
127manplus:2005/07/14(木) 23:44:41 ID:fJDhMUHZ
まりなさんが私に声をかけた。
「はるかさん、よく頑張ったわね。24時間はゆっくり休んでください。これから、レストモードに変換します。
いいですね。」
「私は、何ともないわ、少し疲れただけです。」
私の答えにえりかが、
「お姉ちゃんは、今、感覚剥奪処置中なのよ、これだけの大手術をされて、大丈夫なはずはないわ。
首から下の全ての器官を機械組織に改造されているのよ。ゆっくり休んでちょうだい。」
そうだった。私は、首から下の全てをいじられているのだ、感覚がある状態だったら、こんなに平静を
装っていられなかっただろう。みんなのいうとおり、休息を受け入れることにした。私の意識がまた遠のいていく。
「まず私から、監視に入ります。皆、休息してください。」
そう言って、前田ドクターが、監視用モニターの前に付いた。他の3人は、居住エリアに引き上げていった。


128manplus:2005/07/14(木) 23:45:06 ID:fJDhMUHZ
 24時間の休息の後、私の頭部のサイボーグ手術が開始された。
「今から、頭部の処置を開始します。視覚や聴覚が一時切断されることがあるけれど、すぐに回復するから、
心配しないでね。」
佐藤ドクターがいった。
「それでは処置を開始します。よろしくお願いします。」
佐藤ドクターの指示によって処置が始まった。まず、強化プラスティック製の頭皮カバーが、脳に刺された
電極ごとはずされ、頭皮と頭蓋骨が、真上からと側面から切断された。組成がカルシウムではなく、チタンを
中心とした特殊複合金属でできているため、高速ダイヤモンドカッターによる切断のため、ものすごい金属音が
処置室内に響き渡った。今までのサイボーグへの処置の中で一番うるさいものであった。そして、頭蓋骨の
上半分が左右に分割される形ではずされ、脳がむき出しになった。前田ドクターが電気信号ケーブルの
つながれた電極を無数、私の脳に埋め込み固定した。機械との強調システムのための補助コンピューターとの
結節ケーブルや脳のデータをハードディスクに送ったり、オペレーションセンターに送るためのものである。
まるで脳がハリネズミになったかのように電気ケーブルが取り付けられた。そして、電気ケーブルは、
後頭部をはわせて、首の部分にからバックパックと体内の機器からの電線と接続された。このとき、
体内からのケーブルも首の後ろを通してバックパックと接続された。これで、神経組織、
電気信号伝達システムが感覚器の接続をのぞいて完成された。
 取り外された頭蓋骨は、頭皮カバーによって開いた穴を用意された同じ素材の人工骨を溶接され塞がれた上で、
機密保持パッキンを張られて開閉式のするための蝶番が両脇に付けられ、頭頂部に開閉用ロックが付けられた
形態で頭蓋骨が戻された。開閉式にしたのは、複合金属の骨になったため、点検の時に必要だと
考えられるからである。
そして、頭皮が元通りに生体接着剤で接合された。
129manplus:2005/07/14(木) 23:45:37 ID:fJDhMUHZ
 佐藤ドクターは、続いて耳の部分の改造に取りかかった。もっとも耳の部分に関しては、三半規管も
宇宙空間用に変更されているので、変更の必要はなかった。そして、コミュニケーションサポートシステムの
端末と小型高性能外部集音機、通信アンテナ、デジタルレコーダーの端末が取り付けられた。
そして、コミュニケーションサポートシステムや外部集音機、デジタルレコーダーのメインシステムがある
バックパックへとケーブルがのばされ接続された。外部集音機は2Km先の小さな音まで拾うことが
出来るほどの高性能の物になった。そして、いよいよ、視覚システムの改造にはいる。少しの間は、
視覚が無くなったが、補助視覚システムにより、手術の内容を見させられた。今まで慣れ親しまされてきた
ゴーグルが取り外されるとあらかじめ呼吸液が抜かれているため、見開かれた自分の眼球が現れる。
佐藤ドクターは、手早く眼球を両方とも取り出し、視神経から切り離した。
眼球は、移植希望者のもとに送られるはずである。そして、人工眼球の形に皮膚がはぎ取られた。
視覚システムは、大きな楕円形をした大きなゴーグルのような形をしており鼻は必要ないため、
鼻骨は全て削られ、目から鼻のあったところ全てをカバーするほどの大きさで取り付けられた。
人工眼球がその位置に接着され視覚が補助視覚システムから人工眼球の視覚システムに切り替わり、
視覚が戻った。低温光線可視型のため、かなりの暗い環境下でも赤外線可視システムにより視界を
確保できるようになっている。しかし、その為、鈍い赤色に光るように外部からは見えるのであった。
そして、デジタル画像をとらえられるような高性能デジタルカメラとしての機能もあった。3〜4Km位の
10Cm角の物を見ることも出来れば、近くの本当に小さな物まで見ることの出来る視覚を持つことになった。
これらの機械は、口の部分の空き空間があるため、口の部分にいくつかの機器が収納されていった。
130manplus:2005/07/14(木) 23:50:00 ID:fJDhMUHZ
そして、臭気分析システムが取り付けられるのだが、これは、視覚システムの下に臭気を集めるためのカバーの
付いた小さな穴が取り付けられることになった。視覚や臭覚も聴覚同様、バックパックと接続されるための
ケーブルが繋がっていた。そして、バックパックの補助コンピューターで人間本来の脳への刺激が
強くないようにするための調整を行うようなシステムになっており、その一次調整装置が口のあった場所に
納められている。そして、頭部の形状を全体的にフルフェイスヘルメットを被ったような形状に調整された。
「ふぅー、やっとここまで終わった。これで後は、人工皮膚を貼り付けてバックパックとフロントパックを固定すれば、
火星探査・開発用サイボーグの第一号の完成ね。如月大佐、もう少しだから、頑張るのよ。」
佐藤ドクターが、楽しそうな声で言った。前田ドクターが、
「ここまでで、私たちも、48時間の連続活動だったから、6時間交替のモニター監視を行うことは続けるけど、
また、ここで、24時間の休息に入ります。如月大佐のライフモードをレストモードに切り替えてください。
如月中尉お願いします。お姉さんが一番疲れていると思うから、早く切り替えてあげてください。」
えりかが
「わかりました。お姉ちゃんに万一のことが起こったらいけないからね。」
といって、急いで、バックパックの調整装置を操作した。そして、私は、24時間のレストモードに入っていった。
131manplus:2005/07/14(木) 23:55:31 ID:fJDhMUHZ
 最後の処置が始まる日がやってきた。この処置を終えると私は、完全に人間ではなくなることになるのだ。
「よく休めたようね。モニターの数値が、疲労度を示すものがなくなっているわ。如月大佐、よく頑張ってきたわね。
今日で最後の処置になります。この処置が成功に終われば、あとは、火星に往くのを待つだけということに
なります。はれて火星人になれるのよ。それでは処置をはじめましょう。」
佐藤ドクターの声で今日も始まった。相変わらず、サイボーグになった私を見て、自分の開発した人工器官に
満足しているようなうれしそうな声で話していた。
「人工皮膚のチェックをしてください。」
濃い緑色をした人工皮膚がまりなさんやえりかの手で入念にチェックされていた。その間に佐藤ドクターと
前田ドクターが人工皮膚完全融合用接着剤を私の皮膚に塗り始めた。それはもう丹念に丹念になで回すように
塗られていった。そして、人工皮膚のチェックが終わり、体温維持、体内冷却システムの人工皮膚側の
ケーブルがバックパックと接続された。このシステムは、体温調節維持機能のケーブルが、バックパックの
制御システムと連結された。これで、私の体内の温度調節機能が人工皮膚とバックパックにより
行われることになった。そして、まるでラバーのドライスーツのような質感をした、私の改造された身体の
寸法通りに設計された人工皮膚が裏返され、人工皮膚完全融合用接着剤をこちらにも万遍なく塗りつけられた。
そして、ラバーフィットスーツを装着された時のように、今度は、頭から、位置を合わせるかのように頭部、両手、
胴体、脚というように、接着されていった。そして、この人工皮膚は、膝下までのものだった。
132manplus:2005/07/14(木) 23:55:59 ID:fJDhMUHZ
そして、その下は、ゴム質と金属光沢を持った人工皮膚と同じ組織で作られたかかとが
それほど高くないブーツ型の人工皮膚を接着されていった。そして、これによって、私の身体は、完全に
人工皮膚で包まれてしまった。40時間もすると人工皮膚が、完全に私のオリジナルの皮膚と癒着し、そして、
融合し、私の皮膚と同じ機能を果たすようになると同時にどんな厳しい環境でも、私の機械化された身体を
守ってくれる存在になったのだ。そして、最後に、脚の膝下の部分の皮膚が接着された。そこの部分は、
4cm位のヒールが付いた白のブーツのような形状になっていた。この脚の部分に取り付けられた人工皮膚は、
どの様な地面でも確実に蹴ることが出来るようにスパイクや磁石、吸盤などの身体をケースバイケースで
安定させられる機能を持っているし、ジャンプしたときの着地の衝撃を完全にゼロに近づける機能も持っている。
足も皮膚化した靴を履かせられたような状態になってしまった。そして、進化した足という機能を果たすことになる。
そして、フロントパックとバックパックが所定の位置に固定され、こちらも、身体の一部として、
取り外すことがほぼ不可能な状態になってしまった。そして、体内との連絡チューブ、ケーブルが金属樹脂の
配管ガードで何系統かに分けられてバックパックに再接続されていた。
そして、最後に、私の人体の非常時の手動調整装置及び、視覚データや身体データなどのいろいろな確認が
出来るシステム、レスト・アクティブのモード切替など手動で通常も行う操作の操作パネルなどが、私の両腕に
腕時計のように取り付けられた。こちらも取り外すことは出来ないように設計されていた。
「これで完成ね。素晴らしい出来だわ。如月大佐、皮膚が落ち着けば、いつでも火星に行けるわね。
皆さんご苦労様でした。」
133manplus:2005/07/14(木) 23:59:17 ID:fJDhMUHZ
佐藤ドクターは、満足そうな声で話した。
「高橋さん、如月中尉、皮膚が安定するまで、2日ぐらいかかるから、如月大佐の様態をモニターすることを
継続してください。それから、48時間の処置が今回も続いたから、48時間の休息に入りましょう。交代の監視は
続けることにします。如月大佐、本当によく頑張ったわね。48時間レストモードにしますので、
ゆっくり休んでください。今度如月大佐がアクティブモードにはいったら、身体の検査をした上で、
身体の感覚剥奪処置を解除し、本格的に身体を活動状態にします。
素晴らしい身体を使えるようになるまでもう少しこのままで我慢してください。高橋さん、如月大佐の
バックパックに接続している体外コントロールケーブルの接続確認をお願いします。」
「接続確認、OKです。えりかさん、コントロールパネルで、はるかさんのモードをレストモードに
強制操作してください。」
「判りました。レストモード、オン。ゆっくり休んでね、お姉ちゃん。お疲れ様。」
「そう言っても、機械にコントロールされたまま、意識がなくなっているから、
ゆっくり休めないことはもう無いんだけどね。」
まりなさんの言葉が、私が機械人形になったことを改めて認識させられる。悲しい気持ちで意識がなくなる。
でも、そんなことも関係なく、意識が剥奪された48時間になるのであろう。
134manplus:2005/07/15(金) 00:02:45 ID:iYREGkOQ
今日は、サイボーグ手術の最後まで書き上げました。
これから、火星への打ち上げの日までの生活や訓練を
描いていくつもりでいます。

その中で、少し横道にそれて番外を書こうかとも思っています。
135前82:2005/07/15(金) 00:22:50 ID:YgYkThwr
ぱちっとした目覚め、さっき快感のうちに眠りについたのにもう朝の起床時間なのか。
マリンアンビリカルのプラグと、脳からの信号ケーブルをポーチに付け、
昨日の部屋に行きまた脳への刺激と応答を繰り返す1日が始まった。
昼になると、
「今日から体力維持と気分転換をかねて、ジムでのトレーニングや、
プールでのスイミングもやってもらいます。
今日はジムでトレーニングをします。」
と検査の時に使った、ランニングマシンなどのある部屋へ連れて行かれた。
「ポーチは運動の邪魔になるし、1、2時間ぐらいならはずしても平気です。」
身軽になってのランニングやマシントレーニングは久しぶりに気晴らしになった。
リフレッシュして、また刺激反応調査が続いた。
1日を終え部屋に戻ると、睡眠前の快楽刺激を待っている自分に気づき、少し恥ずかしさを感じた。

136前82:2005/07/15(金) 00:24:13 ID:YgYkThwr
翌日も同じような調査が続いたが、昼のリフレッシュタイムはプールだった。
ウエットスーツ生地で出来た水着を着て、訓練用プールを泳いだ。

このプールの底へ降り、過ごした体験研修のことを思い出した。
誰かアクアノートが下にいないかと見たが誰も見えなかった。
早くあちらへ行って水中活動に馴染みたい・・・・・

研修への意欲も少し増している自分に気づいた。

137前82:2005/07/15(金) 00:24:50 ID:YgYkThwr
脳の部位ごとの機能調査が一段落付くと、音声認識トレーニングへと入った。
「最初は脳に与える音声信号レベルの調節です。まずヘッドホーンを通して音が聞こえます。
次にその音に相当する、音声信号で直接脳を刺激します。
音量が耳に聞こえた大きさと合うようにコンピュータディスプレーのパネルを操作して調節してください。」
堂本さんは熊沢さんと違って紳士的に説明してくれる。
「ピーッ」と言う電子音が聞こえた。次に聞こえた音は、ガーッと言う騒音のような音だ。
コンピュータパネルで音量操作する以前に、違った感じの音に聞き取れてしまっている。
堂本さんに
「ピーッと言う音の後にガーッと言う雑音のような感じに聞こえるんですが。」と答えると
「信号を与える電極を変えてみましょう。」と言って刺激を繰り返してくれた。
何回かやっていくうちに、ちゃんとピーッと言う音が聞こえるようになった。
さらに、高い周波数から低い周波数、やっと聞こえるような小さな音から、
耳を押さえたくなるような大音量まで聞かされながら調節を進めた。

そんな繰り返しだけで1週間近くかかってしまった。
138前82:2005/07/15(金) 00:29:43 ID:+ABtsOQz
「次のステップは言葉の聞き取りです。まず、あ、い、う、え、お
の母音を完全に聞き取れるようになってください。
つぎにカ行やナ行と言った子音のある1音の認識です。
さらに2文字、3文字と単語を聞き取れるようになってください。
そして文章を聞き取れるようにならないといけません。」
耳を通さず脳で直接音声を認識するステップは結構長い。

そんなステップが進む中、「今日からは、あなたのしゃべった声を咽頭に付けてもらった
筋電位電極から信号として取り出して、他のアクアノートへ伝えたり、
地上にいる人にはあなたの声とわかるような音声にする
音声信号変換テーブルの作成も合わせて行います。
コンピュータの画面に表示された言葉をゆっくりしゃべってください。」

こちらも1音から始まり、単語、文章とだんだん長い言葉をしゃべらされるようなステップを踏んでいった。
なんかオウムになったような気分になりながらトレーニングを続けた。

139前82:2005/07/15(金) 00:42:06 ID:nUlghLXe
manplus様乙です。

改造の詳細が明らかになるにつれ、
萌えが高まり こちらは投稿がためらわれるほどです。

佐藤ドクターのサイボーグになると言うことががすばらしいことであるという意識、
サイボーグ化への情熱はすごいと思います。
こういう意識の人がいないとこのプロジェクトは成り立たないと思います。

アクアノートシリーズはこういうサイボーグ化へ前向きの意識の人々の物語です。

清水美咲も基本的に頭ではそういう意識ですが、
感情的にはまだ完全に吹っ切れていない状態です。


140名無しさん@ピンキー:2005/07/15(金) 02:18:53 ID:s2dVvn8p
>>61
スーパーロイド愛でも読んで炉yp!
141manplus:2005/07/16(土) 00:01:42 ID:iYREGkOQ
 意識が戻った。私の目の中に文字情報が浮かんでいる。その文字が時間であることが確認できた。
表示が0Y450D00H00M51Sとなっている。火星探査・開発用サイボーグへの改造手術が始まった日から
20日が経っていた。ものすごく長い間身体をいじられ、徐々に機械人間へとの変更がされてきたのだと実感した。
そして、改めて、自分の身体を見るとラバーフィットスーツを装着されていたときより二回りぐらい大きく身体が
なっていて、しかも、少しごつごつした感じになっていた。濃い緑色をした人工皮膚は、ゴムの感覚と
鈍く光る金属光沢を併せ持いた。これが私の新しい皮膚なのだ、もう、ラバーフィットスーツのように脱ぐことは
出来ないのだった。胸の部分には、識別のために、MARS1 HARUKA KISARAGIという文字が
書かれていた。文字の下にリーダーとしての赤いラインが引かれていた。同じ文字が、バックパックの部分にも
大きく書かれていて、誰なのかがすぐに判るようになっていた。みんなほぼ同じ姿になるということなのだ。
そして、音が今までより多くのものが大きく聞こえるようになっていた。人工聴覚システムのためであろう。
しかし、心臓の鼓動がやはり聞こえることはなかった。
やはり、人工心肺がロータリーポンプに変わっているためであることがわかる。
 よく見ると、処置室の光量が最低に抑えられていることに気が付く、私の視覚は、
暗いところでもものが見えるようになっていることを実感した瞬間であった。
「お姉ちゃん、これから二日ぐらいで徐々に新しい身体に慣れてもらうからね。
それで、処置台を離れて普通に活動できるようになってもらうからね。いいわね。」
えりかの声が聞こえる。
「感覚剥奪処置を徐々に解いていきます。それに部屋の明かりを徐々に強くしていきます。
徐々に慣れていってもらいますよ。はるかさん。」
まりなさんの声が聞こえる。
「これから2日間かかって、サイボーグとしての人工器官が正確に作動するかをテストしていくわよ。いいわね。」
142manplus:2005/07/16(土) 00:02:44 ID:iYREGkOQ
佐藤ドクターの指示が聞こえる。
「本当にわずかになったけど生体部分の機能が維持されているか、機械部分と協調が順調かを
調べていきます。いいですね。」
前田ドクターの声が聞こえた。
「わかりました。みんな、私のまわりで作業しているんですね。早く、起きあがりたいです。」
あれ?私の声が機械的で抑揚が無くなっている。
「何か、私の声が変なんですが・・・。」
「如月大佐は、今、発声用外部スピーカーにより声を出しているのです。火星で外部に対し緊急時に音声を
発すること意外に使うことがないので、音声の抑揚なんて必要ないの。
普段の会話はコミュニケーションサポートシステムでおこなえばいいしね。
でも、発声用外部スピーカーの使い方も知っておいてもらいたかったから、
音声システムを発声用外部スピーカーに切り替えておいたの。コミュニケーションサポートシステムに
切り替えたいと思ったら、その様に脳が思うことによって切り換えが出来るはずよ。やってみていてくれない。
感覚剥奪処置を解くのに少し時間がかかるから、その間音声システム切り替えのシステムの使い方を
覚えておくのよ。」
佐藤ドクターが、指示を出した。
「はい。わかりました。システムを使いこなせるようにやってみます。」
「ほら、如月大佐、切り替えられたでしょ。呑み込みがやっぱりいいわね。さすがにサイボーグになるために
生まれてきた試験体ね。」
前田ドクターに褒められているのか何かわからない言葉を投げられた。
でも、今度は確かに私の声で抑揚のある声で話せていた。コミュニケーションサポートシステムを使って会話を
している証拠である。その後何度か切り換えの経験をして、使いこなせるようになってきた。
でも、私としては、普段は、抑揚のある私の声を使いたいから、コミュニケーションサポートシステムを使って
会話をすることをおもに考えていこうと思った。
143manplus:2005/07/16(土) 00:03:13 ID:pGCqLa0y
そうこうしている内に、普通の明るい処置室の室内の光度になってきた。
私の人工視覚システムもこの明るさになれてきた。まりなさんが、
「感覚剥奪処置が完全にとけました。」
と報告を入れる。
佐藤ドクターが、
「部屋の明かりを地球赤道標準晴天光度に上げてください。これから、人工皮膚のエネルギー及び
酸素生成システムの起動状態のテストです。サイボーグ個体内のエネルギーが不足しているので、
作動テストの前に、エネルギー補給も必要なのです。今現在は、セーブモードで何とか各器官が活動している
状態ですから、充分に動けないと思いますが、これからの作動テストは、通常に近い作動モードで
行いたいですからね。そうじゃないと意味もないし、如月大佐だってはやく自由に動き回ることが出来るように
なりたいでしょうから。」
「了解しました。部屋の光度を地球赤道標準晴天光度に上げていきます。」
えりかが処置室の照明コントロールシステムを操作した。処置室がどんどん明るくなっていった。
そして、私は、赤道上の真昼を思わせる照明の中で、6時間かけて、身体のエネルギー貯蔵量を
フルパワー状態にすることが出来た。
「もともとの生体の皮膚だったら、火ぶくれ状態の日焼けだったのに、今は、強い太陽光に当たることが
何ともないどころか必要なことっていうの、どういう心境?」
えりかに質問され、
「心境としては、複雑だけど、最高に気持ちいいし、エネルギー貯蔵インジケーターがどんどんフルに
向かっていくのが楽しく思えちゃう。」
「それは、私にとっても複雑かな?だって、お姉ちゃんがどんどん機械の身体に馴化していることだもん。
悲しいのと嬉しいのが半々だよ。」
そう言って悲しい声になるえりか。えりかに悲しまれるのを見ることが私にとって拷問のようにつらい。
妹の悲しむ姿を見る方が、自分の悲しみより悲しいものなのだ。

144manplus:2005/07/16(土) 00:16:41 ID:pGCqLa0y
エネルギーがフルになると今まで身動きがとれなかったが嘘のように身体中にパワーがみなぎるように思えた。
実際には、生体の感覚とは違うので錯覚なのかもしれないと思った。
しかし、佐藤ドクターの言葉でそれが錯覚ではないことがわかった。
「身体中にパワーがみなぎったような感覚があるでしょ。それは、脳に補助コンピューターを通して、
機械部分の器官の状態を感覚的に送信するシステムが正常に作動しているからです。決して錯覚ではないのよ。
機械と生体がうまく協調しだしている証拠よ。喜ばしいことです。」
私の身体が順調に機械と生体の共生システムが順調に私の生命活動を支配してきていることの証であった。
「さあ、サイボーグシステムが順調に作動しているかのチェックから始めましょうか。
前提として、視覚と聴覚、コミュニケーションサポートシステムが作動していますね。」
佐藤ドクターの問いかけに私は、「ハイと答えた。」
「よしよし、それらの部分はOKだね。みんなも今の如月大佐の声が聞こえたね。」
みんなが「OKです。」と答えた。佐藤ドクターが、動作確認を続けた。
「それじゃあ、まず手からいきます。指を握ることから始めましょうか。握ってみて」
最初はぎこちなかったけれど二回三回とおこなう内にスムースになってきた。
「優秀優秀。すぐに機械の身体に対応したようね。さすがに特に今回のプロジェクトの被験者として
選抜された素体だわね。卵を握ったり、鉄の玉をつぶしたりという力加減の違いに慣れることは第二段階だから、
後でじっくり訓練していきましょう。」
壊れやすいものを持つ対応から、強い力を使うための対応といったパワーの使用程度の使い分けを意識せずに
行うまでには、まだまだ訓練が必要なことだし、それができるまでは厳しい訓練が行われるはずであった。
「如月大佐たちの場合は、そんなに苦労はしないはずよ。機械との強調適正が並はずれて高い人たちが
今回のプロジェクトで選ばれた人たちなんだし、その中でもずば抜けて適性が高い被験者の一人が
如月大佐なんだから。」
前田ドクターが勇気づけるような言葉を発した。
145manplus:2005/07/16(土) 00:17:09 ID:pGCqLa0y
そして、指の次は腕、脚の関節、首、その他関節を動かし、身体が私の本来の生体脳によって
コントロールされていて、私の意志で作動することがチェックされ確認された。そのときの生体部分のストレスや
負荷などが、前田ドクターによってチェックされ、多くのデータを採られていった。
一通りの身体の部分が自分の意志でコントロールできることがわかって、私としては一安心していた。
「この程度でホッとしている場合じゃないんだよ、お姉ちゃん。」
「そうですよ、はるかさん。」
二人から叱咤が飛ぶ。
「サポートヘルパー二人は。如月大佐の性格をより熟知しているから手厳しいわね。」
前田ドクターが冷やかしてきた。
本当に二人とも人には厳しいんだから。
「それじゃ、如月大佐にホッとさせる余裕を与えないためにも、次の動作チェックを始めましょうか。
如月大佐、処置台から上半身だけ起こしてみましょうか。」
「わかりました。トライしてみます。」
「はるかさん、ゆっくり動作を起こしてね。」
まりなさんの声に押されるようにして、動作にチャレンジした。
非常にスムーズに上半身を起こすことができた。今までの身体に比べて、より簡単にこの動作を行うことが
できた。関節に取り付けられた稼働補助用関節倍力モーターや、人工筋肉により、私の身体を
起こすことぐらいは、それほどの負荷を必要としない作業になってしまったのであろう。上半身を起こす動作が
自分の持っていた感覚より楽に行えることに私自身新鮮な衝撃を受けた。
「どうしたの。生体部分も順調に機能しているし、サイボーグ器官の動作も正常だし、
マンマシンシステムも負荷なく強調しているけど、何か変わったことでもあるの。」
前田ドクターの質問に私は、
「何か、今までより楽に動作できるのでかえって面食らった状態なんです。」
146manplus:2005/07/16(土) 00:17:52 ID:pGCqLa0y
私の答えに、佐藤ドクターが、
「それが、あなたの新しい身体の能力のほんの一部なのです。慣れてしまうと様々な行動の可能性が
広がって楽しくなるはずよ。サイボーグの身体の能力をこれから余すところなく身につけていってね。
何も面食らう必要はないし、新鮮な衝撃を当たり前のように受け止めていくこと。これからもそんな衝撃の
連続になるはずだから。」
「わかりました。そんな心の持ち方で、これから望んでいきます。」
これだけ機械だらけの身体になって、「こころ」は、どこにあるのだろうかとも思ったが、
脳がオリジナルで残っている限り、私の意志がある限り、「こころ」があるのだと私は思い直した。
本当に新鮮な驚きと衝撃が次々に私をおそった。
「次は、処置台を離れて立ち上がってみようか。」
佐藤ドクターに促され、私は処置台から上半身を再び起こし、身体の方向を変え、処置台から、脚を床に移し、
立ち上がった。本当にスムーズに驚くほど軽々と動くことができた。
サイボーグの身体の力強さを感じた。今までに行った動作は、サイボーグの身体の能力の本当の
氷山の一角でしかない。今まで教育訓練で学んだ能力を自分のものにすれば、とてつもない超人になることが
できるのだ、その能力を発揮できるということは、人間という範疇ではなくなることになるかもしれないのだ。
「次は処置台のまわりを歩いてみて。」
私は、佐藤ドクターの支持するままに行動をした。
「次に人工皮膚の動作チェックを行います。」
「人工皮膚になったら、人間の時のような痛いとか冷たいといった感覚がなくなってしまっているのでは
ないんですか。」
147manplus:2005/07/16(土) 00:26:17 ID:pGCqLa0y
「訓練教育中の時は、そういう説明を受けたかもしれないけど、少し、改良されて、通常感じている感覚は、
データとして、蓄積されると同時に人工眼球に外部刺激データとして、表示されるようになり、
サイボーグとしての許容値を超えると視覚と聴覚にアラームが出されると同時に直接感覚として、
人間と同様の痛みだとか熱さといった皮膚感覚を感じることができるようなシステムに改良が加えられ、
装備されています。今後も、どんどんハードウェアやソフトウェアの更新があったら、
最新版に変えていくことになります。常に最新のサイボーグ体の状態で火星に送り出しますから、
安心して任務を遂行してください。火星に送り出した後でも、できる限り最新版の身体に更新していくことも
約束します。皮膚感覚というのも重要な判断データの一つです。みちのせかいでなにもかんじない、
何もデータがとれないと言うこと自体が、危険であるという判断を下からです。
如月大佐は、痛みもなにも感じないロボットではなく、あらゆる感覚が存在するマンマシンシステムの
発展系であるサイボーグになったのです。」
 そして、佐藤ドクターにより皮膚を叩かれたり、火を押しつけられたり、冷凍液をかけられたりして、
皮膚感覚の動作を確認された。もちろん、生身の人間であったときより着ようかされた皮膚なので、
限界値が高いため、熱いとか冷たいとかといった感覚は、人間だったときよりはるかに大きなレベルでないと
感じることが出来ないが、それまでの間は、皮膚への負荷データとして、補助コンピューターで処理され、
人工眼球にディスプレーされていた。そして、データベースとしてハードディスクに蓄積されると共に、
プロジェクト本部のメインシステムに逐次送信されるようになっていた。
「よし、よし、感覚器官も順調に作動するわね。それから、如月大佐、重要な機能を試してみてもらうことを
忘れていたわ。目のスイッチをOFFにしてみて、目を閉じると言うことなんだけど、
目を閉じるようとしてみてもらえば起動するはずよ。」
佐藤ドクターに言われて、その動作を試みた。何回か試みて、やっと出来るようになった。
148manplus:2005/07/16(土) 00:26:53 ID:pGCqLa0y
「よし、ここまでで、動作異常はなし。如月大佐のサイボーグ体への適応性はものすごいわ。高橋さん、
如月大佐のバックパックと外部生命維持管理システムの切り離しを行います。ケーブルをバックパックから
はずしてあげてください。」
「了解しました。」
そう言うと、まりなさんが私の背中のバックパックに繋がっているケーブルをはずしてくれた。
「如月大佐、これで、あなたは、完全に外部支援なしでどの様な環境でも永久に活動できる存在となりました。
あなたとのデータ交換は、通常、マイクロウェーブ無線システムにより行われますので、これからは、
何の制約もなく行動できるようになります。おめでとう、手術は成功です。
火星探査・開発用サイボーグ「MARS1」の誕生です。
これからは、この名前で呼ばれることも多くなりますのでこの呼び方にも慣れておいてください。」
佐藤ドクターがいった。そして、
「久しぶりに居住エリアに戻って休息してもらいます。処置台から起きあがるのにまるまる
2日かかってしまったわね。明日からに備えて、休息すること。いいわね。」
「わかりました。佐藤ドクター。」
気が付くと人工眼球内の時間表示が、0Y452D15H00M51Sになっていた。いつの間に、
時間がめまぐるしく過ぎていく。
149manplus:2005/07/16(土) 00:27:13 ID:pGCqLa0y
前田ドクターの指示が飛ぶ。
「高橋さんと如月中尉は、如月大佐を洗浄室に連れて行って、ボディーの洗浄をしてください。その後で、
居住エリアで休息をとらせることにしてください。
如月中尉、居住エリアに火星探査・開発用サイボーグ「MARS1」用のメンテナンスチェアの用意を
してくれていますか。」
「了解しました。」まりなさんが答える。
「了解です。それから、火星探査・開発用サイボーグ「MARS1」用メンテナンスチェアの運び込みは
完了していて、セッティングも完了しています。如月大佐が休息をとる用意が完了しています。」
えりかが答えたえた。
「了解です。それでは明日は、0時に如月大佐の居住エリアに集合です。それではお願いします。如月大佐、
MARS1の身体の使い心地を楽しんでね。」
そして、まりなさんのエスコートで、洗浄室に行き、新しい身体を万遍なく洗浄してもらい。まりなさんとえりかが、
メンテナンスウエスで身体を拭いてくれた。そして、居住エリアに移動し、私は、メンテナンスチェアに落ち着いた。
「この2日間、やっと動けるようになったけど、新しい身体のアビリティーの高さに驚かされてしまうわ。
早くこの身体に慣れなきゃいけないね。そうしないと、任務に就いたときに100%の実力を発揮できないよね。」
「はるかさん、その通りです。明日からまた頑張りましょう。」
まりなさんがそう言い終わった頃、私の身体の中でチャイムが聞こえた。レストパートの始まりのチャイムだった。
レストモードへの身体の切り換えは、マニュアルで行うため、私は、腕に取り付けられたコントロールパネルの
モード切替をレストモードに切り替えた。そうすると徐々に眠くなっていき、自然に休息睡眠状態になっていった。
150manplus:2005/07/16(土) 00:44:40 ID:pGCqLa0y
今日は、はるかのサイボーグ体の動作機能のチェックを書いてみました。
そして、いよいよ、サイボーグとしての任務に就いていくと言うことになります。

前82様
> 改造の詳細が明らかになるにつれ、
> 萌えが高まり こちらは投稿がためらわれるほどです。

その様にご評価いただき、ありがとうございます。
今後も、期待に応えられるように話を展開していきます。

この物語の主人公たちは、清水美咲さん程の前向きさはないかもしれませんが、
自分が任務を命じられて避けることが出来ないサイボーグへの道なのですが、
自分の中で事態を消化し、ひたむきに任務に向けて突き進んでいく姿にしていきたい
と思います。

ただ、元の身体とは違った形になったとき、人間のどうしょうもない悲しみを味わうことに
なると思って、そう言う状況の主人公の心の変化を書いてみたいと思っております。

どこまで、書けるかわかりませんが、トライしてみます。


151名無しさん@ピンキー:2005/07/16(土) 01:21:35 ID:YjF6gnbL
manplus様。これからどうなって行くのか、楽しみにさせていただいてます。
惑星探査ものなので、当面の手術の外道さは、あるものの、悪の組織的な話しにはならないんでしょうが、
寿命等はどうなるのでしょうか?軍人は定年早そうだけど、メンテに旧型が予算掛かるようになる頃、火星の殖民も一段落、
新型宇宙船はペイロード充分で、普通の体で火星殖民が可能になり、探査部隊は現地で除隊とか可哀相な末路に…
なっては欲しくないですが?
冷凍保存された、卵子や精子もどういう使い方になっていくのか。遠大な構想も在るらしいし、楽しみです。
ほぼ毎晩の精力的な更新には、頭が下がります、これから暑い時期なので、睡眠不足などにならないよう
頑張ってください。
152名無しさん@ピンキー:2005/07/16(土) 09:21:44 ID:Ij3B7A5a
>151
舌を噛み切って自殺を図っても脳だけ使って半生体兵器にするなんて
悪の組織でもそうそうしないぞ
153名無しさん@ピンキー:2005/07/16(土) 13:34:35 ID:iCoHZWhV
>152
まあ登場人物の名前を見る限り20世紀前半の戦争では、人間爆弾やった国の空軍だし…
戦争する組織は、”正義”の闘いを標榜するわな…
時間が経って、組織が硬直化して官僚仕事になっていくと凄い気がする。
取りあえずトップが先に、ラバーフィットスーツ着てたり、サイボーグ処理してる医師もサイボーグ化して火星
行くって云うのも凄いと思うが、関係者殆ど基地に引きこもっているし。
この無茶な宇宙計画が納得される国際情勢なり、歴史的な経緯を考えちゃうと凄そうな話。
環境の悪化で地球に住めなくなる危機感でもあるのだろうか?
154前82:2005/07/16(土) 14:02:04 ID:SVVqhN1s

manplus様 乙です。

>151
サイボーグの老後と言ったことも考えてみました。

389氏のガジェツトシリーズ、444氏のヤギーの様な完全義体だったら、
ボディーは何回か交換して若さを保ち脳が老化してきたら
遥遥亭の様な仮想現実を味あわせて養老院代わりにできそうです。
ヤギーは南の島シリーズで1回10万円取られていましたが、
ある程度ぱたんかすれば安く出来そう。
manplus氏の火星サイボーグもこの方法で何とかなりそうですが、

アクアノートは生体部分が多いので困難です。
どうするか、今後の課題として考えています。
1553の444:2005/07/16(土) 14:40:11 ID:2M1GlWTM
話をどう展開させるか、オチをどうするかは、もう決まっている
こんなに筆が進まないのは何故なんだ!
創作に煮詰まってプギャーな状態になったので雑談に参加します。

manplus様
連夜の投稿、本当にお疲れさまです。創作スピードの速さには
本当に驚くばかりです。書きながら、アイディアが次々湧いてくるような
状態なのでしょうか。
サイボーグ体に慣れていく過程の描写、本当に見事です。身体を起こすが
楽で新鮮な感覚。確かに、機械で駆動しているのであれば、そう思って
不思議はないかもしれません。そんな描写をヤギーにも付け加えれば
よかったと思ってしまいました。
今は、どちらかというと人間を超えた能力を持ったことに喜びを見出して
いるところみたいですけど、これから、人として失ってしまったものの
多さにだんだん気付かされていくということでしょうか。
人間でありながら、人間とは違う存在に悲しみを覚えるところが私的には
サイボーグ萌えの真骨頂なので、どう描かれるか楽しみにしています。
>>154
全身義体用の老人ホームですか。機械の中に入った脳みそが、いくつも
並んでいるのでしょうか。なんだかSFチックですね。仮想空間内では
みんな子供の姿になって、毎日楽しく遊んで人生の黄昏を楽しみ、
ある日ふっと神隠しにあったみたいに掻き消えてしまう。そんな光景を
想像してしまいました。
156名無しさん@ピンキー:2005/07/16(土) 20:03:53 ID:YJ7YPAHS
>>manplus様乙です。
萌えますヌヶます。実質強制的にサイボーグ化されてていいですね。醜い機械然とした姿なのもいいです。
157名無しさん@ピンキー:2005/07/17(日) 04:03:55 ID:cifATESr
>>155
仮想空間、それも現実と全く接点の無い完全な仮想世界に閉じ込めるのは、
倫理上ものすごく問題があるので、きっと禁止される法律ができてそうな
気がする…。

殆どの感覚が仮想空間に乗っ取られる場合、必ず何かの手段で現実と通信する
手段が確保されていることが厳しく義務づけられると思う。
生身の体が残っていなくて全ての感覚が完全に乗っ取られる場合は特に。

逆に言えば、それを奪われる鬼畜ネタがいくらでも書けそう。
1583の444:2005/07/17(日) 22:42:24 ID:riEI6ar0
 一番反応が早かったのはアニーだった。
  さっきまで私の頭を小突くのに使っていた箒を投げ捨てると、 まるで磁石が鉄に引き寄せられるみたいに
一目散に車に駆け寄っていったんだ。
  車の中から出てきたのは、 茶色のゆったりしたシャツを着こなして、 サングラスをかけたおじさん。 いや
いや、 おじさんって言ったら失礼なくらいの年恰好のお兄さん。 それから、 アニーと同じ水色のワンピースを
着た、 でも見た目はアニーよりちょっと年上の、 たれ気味の大きな目が可愛らしい丸顔の私と同じくらいの
年頃の女の子だった。
「浩一さーん!」
  アニーは、 そう叫ぶと、 小さな車を運転していて疲れたんだろうね、 車から下りて、 背伸び運動をしていた
お兄さんの腰に抱きついたんだ。 腰に抱きついて、 お兄さんの身体のまわりをふざけてぐるぐる回るアニーの仕草
は、 私に対する時の意地悪な態度とも、 佐倉井さんや、 おばあちゃんに対する時の礼儀正しい振る舞いとも違った。
何も知らなければ、 まるでお父さんが帰って来て、 甘えているようにしか見えないよ。 アニーはいったいくつの
顔を持っているんだろう。
「浩一さーん。 お帰りなさい」
「アニー、 お待たせ。 お待たせ」
  まとわりつくアニーを捕まえて、 頭をぐしゃぐしゃ撫でるお兄さんの態度も、 まさに父親のそれ。 決して、 機械
や人形を扱うときの態度じゃない。 それに、 はるにれ荘のおばあさん達も、 自分たちもアニーの仕事をよく手伝うと
か嬉しそうに言っちゃって、 アニーのことを、 まるで自分の孫みたいに可愛がっているみたいだった。 ここの人達と、
アニーの関係って一体なんなんだろうね。 みんな、 たかが、 機械人形なんかを人間扱いしちゃってさ。 馬鹿みたい
だよ。
  このお兄さんが、 アニーの言ってた新しいロボットを連れてくるはずの浩一さんなんだ。 てことは、 浩一さんの
横にいる女の子は、 やっぱり・・・。
  私が聞く必要はなかった。 お兄さんは、 手をたたいてみんなの注目を集めると、 後ろでもじもじしていた丸顔の
女の子に向かって、 みんなの前に出るように促したんだ。
1593の444:2005/07/17(日) 22:43:08 ID:riEI6ar0
「アニーに頼まれてた新しいロボットを、 やっとまわしてもらったよ。 さあ、 みなさん、 紹介しましょう。 今日から、
はるにれ荘で働いてもらうクララベル。 ギガテックス製の最新型ロボットだ。 あとで歓迎会をするぞ」
「クララベルです。 宜しくお願いします」
  クララベルと呼ばれた女の子ロボットは、 ちょっとはにかんだような笑顔を浮かべてお辞儀をした。 ロボットが
照れたり、 はにかんだり。 変なの。 彼女の照れ具合もプログラムされたものなんだろうか? 最近のロボット用の
AIは、どんどん進化してますなんて、 ニュースでよくやってるけど、 アニーやクララベルを見ていると本当に人間に
そっくりなんだなあって改めて思ったよ。
  クララベルはロボットといっても、 決してマネキン人形みたいな血の通ってない美人顔じゃなくって、 むしろ可愛
らしい、 味噌汁をすくうお玉で子供の頭をコンコン叩いて叱っている姿が似合いそうな、 どこにでもいる近所の
お姉さんみたいだった。 ロボットも、 あまり綺麗すぎると人に親しまれないから、 わざと人目を惹く容姿には
しないって聞いたことがあるけど、 本当なんだね。 だったら、 名前もクララベルなんてやめて、 洋子とか涼子
とかにすればいいのにさ。 どこからどう見ても日本人顔のくせに、 アニーとかクララベルなんて言われたら笑っ
ちゃうよ。
  私はいっとき、 自分の置かれている立場も忘れて、 クララベルを見ながらそんなことを考えてたわけなん
だけど、 気がついたら、 佐倉井さんも、 あばあちゃん達も、 アニーも、 まるで顔全体がはてなマークにでも
なったみたいな珍妙な顔つきで私とクララベルを見比べていたんだ。 分かってる。 みんなが思ってることは、
痛いほどよく分かるよ。 クララベルが新しいロボットなら、 私は一体何なのって思ってるんでしょ。
  だから私は人間なんだってば!!
「ところで、 あなた方は?」
  場違いな会社の制服姿で、 生活感丸出しのはるにれ荘の雰囲気から、 まるで浮いちゃってる佐倉井さん。
それから、みんなの不思議そうな視線を一身に集めている私。 浩一さんから見れば怪しさ満点だったのかもしれない。
彼は見知らぬ私達二人組をいぶかしむように、 かけているサングラスをちらっと上げた。
1603の444:2005/07/17(日) 22:43:52 ID:riEI6ar0
「あ、 失礼しました。 あの、 私、 城口ウランの佐倉井と申します」
  車のドアノブに手をかけつつも、 帰るタイミングを失って、 コトの成り行きを見守っていた佐倉井さん、 あわてて
名刺を浩一さんに手渡した。
「ああ、 城口さんね。 いつもお世話になってます。 私はここの家主の須永です」
  浩一さんは、 佐倉井さんの名刺に目を落とすと、 やっと警戒を解いて口元をほころばせる。 そして、 今度は
逆に、浩一さん、 えと、 須永さんが、 佐倉井さんに名刺を手渡したんだ。 おばあちゃん達の派手な色合いの洋服が
ぶら下がっている物干し竿の横で、 名刺交換だってだってさ。 変なの。
「ギガテックス? 有名なロボットメーカーの、 あの、 ギガテックスですよね?」
  佐倉井さん、 須永さんの名刺に書かれている会社名を見て眼をまんまるに見開いて驚いている。
「須永さんって、 すごい企業にお勤めなんですね。 A I研究室? AIって人工知能のことですよね。 じゃあ、 須永さん、
ロボットのプログラムをしているんですか? すごい、 すごい」
  興奮して子供みたいにはしゃぐ佐倉井さん。
  はしゃぐ佐倉井さんの気持ち、 分からなくもない。 だって、 ギガテックスっていったら、 日本で最大手のロボット
メーカーだよ。 「こんにちは、 皆さん、 はじめまして・・・」で始まる「新しいトモダチ」っていうギガテックスのロボットの
コマーシャルソング、 日本人だったら知らない人はいないんじゃないかな。
その会社のAI研究室だってさ。 ロボットのことは、 よく知らないけど、 AIってロボットを動かす要のプログラムのこと
でしょ。 大げさに言えば、 ロボットの心を作るのが仕事ってことだよね。 ひょっとして、 アニーの私に対する常軌を
逸した意地悪ぶりも、 クララベルの人前でもじもじする仕草も、 みんな、 この人が作ったものなんだろうか? だと
したら、 須永さん、 掛け値なしに天才だよね。
「はは、 すごい企業ね。 まあ、 有名ですよね」
  佐倉井さんのはしゃぎっぷりに、 苦笑いの須永さん。 話題を変えようとしたのかな。 今度は、 私のほうを向いて言った。
1613の444:2005/07/17(日) 22:52:32 ID:riEI6ar0
「じゃあ、 君は、 今日は、 佐倉井さんに連れられて、 はるにれ荘を見にやってきた入居希望者。 そういうことだね」
「うー・・・」
  何て話を切り出そうか迷っていたら、 佐倉井さんが先に口を挟んじゃった。
「そのはずだったんですけど・・・、 私、 人間と間違えてロボットを連れてきちゃったみたいなんです。 でも、 変ね。 この
ロボットの女の子、 須永さんはご存知ないのかしら?」
  佐倉井さん、 ちらっと私を見ながら、 不思議そうに言った。
「浩一さん? コレは一体何なんですか? ロボットのくせに眼鏡なんかかけて人間のふりしたり、 いくら躾けても言う
ことを聞かなくて反抗的で、 そのくせ感情表現だけは無駄に豊かで、 とても実用的とは思えないんですけど」
  今度はアニーが私を指差して唇を尖がらせる。
「佐倉井さんも、 アニーも、 この子がロボットだって言うのか? 僕が連れてきたって思っているのか? 僕が今日
連れてきたのはクララベルだけだよ。 こんな子は、 知らないぞ」
  今まで人間だと思いこんでいた女の子がロボットだなんて聞かされて驚く須永さん。 佐倉井さんも、 おばあ
ちゃんもみんな戸惑ってお互いの顔を見合わせている。
須永さんは、 私の顔や、 身体を、 上から下まで見回した。 なんといっても、 須永さんはロボットのプロなんだ。
その須永さんに、 身体をよく観察されたら、 私の身体が作り物だってことが分かっちゃうかもしれない。 そう思っ
た私は、 須永さんの視線に気おされたみたいに、 無意識のうちにニ三歩後ずさりして、 身体をぎゅっとこわばら
せた。
  驚く須永さん、 戸惑う佐倉井さんや、 おばあちゃん。 緊張する私。 みんな、 黙ってしまって、 風で洗濯者が
揺らめくパタパタって音だけが、 妙に大きく聞こえた。
  一番狼狽していたのはアニーかもしれない。 今まで、 はるにれ荘のロボットだと思っていた私が、 実はそうじゃ
なかったってことに気がついて、 バツの悪そうな笑みを浮かべた後、 ちらっと須永さんの表情を伺いつつ 「さて、
掃除の続きをしなくっちゃ」 なんてわざとらしくつぶやいて、 その場を立ち去ろうとしたんだ。
「アニー、 お前、 躾って、 いったい何をやったんだ」
1623の444:2005/07/17(日) 22:54:18 ID:riEI6ar0
  恐る恐るアニーに聞く、 須永さん。 地面に落ちた箒を拾おうとした、 アニー、 そのまま中腰の姿勢でびくっとして
固まってしまった。
「ちょっと・・・、 その、 軽く電気を流しただけです」
  アニーは箒を小脇にかかえると、 困ったように両手の人差し指をつんつんした。 そんな風にうろたえる仕草も
人間そっくりだ。
「軽くってどれくらい?」
「せ、 1500ボルトくらい・・・かな? ははは。 駄目だったかなあ?」
  つかつか近寄ってきた須永さんを上目使いに見上げて、 びくびく甘えるような口調でそう言うアニー。
「バカっ! この子は、 人様の持ち物かもしれないんだぞ。 そんなことして壊して、 器物損壊で訴えられたらどうするんだ」
  須永さんに怒鳴りつけられたアニーは、 親に叱られた子供みたいに、 下を向いて俯いてしまった。 私、 まだロボット
扱いされていることは気に食わないけどさ。 でも、 須永さんに怒られてしょんぼりしている意地悪ロボを見て、 さっきの
鬱憤が晴れていくような気がしたよ。 ざまあみろって、 心の中でほくそ笑んでる私って、 嫌な女かなあ。
「だって、 だって、 浩一さん、 新しいロボットが来るって言ったもん。 だから・・・、 だから私、 この子がそうだって勘違い
しちゃって。 でも、 でも、 ロボットだったら、 別に1500Vくらい、 内部まで電気が流れなければ壊れることなんてない
から大丈夫だよね」
  アニーは、 蚊のなくような声で、 なおもいい訳めいたことを口にした。
「バカっ! そういう問題じゃないんだよ。 君、 大丈夫かい? 怪我はなかったかい? ウチのアニーが申し訳ないことを
した。 すまない」
  私のことを機械だって思い込んでるくせに、 それでもこうして頭を下げてくれる須永さん。 きっといい人に決まってるよ。
私は、 この人に好感を持った。 ロボットの不始末は持ち主の責任かもしれないけど、 でもいいや、 今回のことは水に
流してあげるよ。 そんなことより、 もっと大事なことを伝えなきゃ。 私はロボットじゃありませんって言わなきゃ。
1633の444:2005/07/17(日) 22:55:30 ID:riEI6ar0
「あ、 あの、 いいです。 そんなことはいいんです。 それよりも・・・みんな、 私のこと勘違いしてるんだ! 私は、 ロボット
じゃないんです! 人間なんです。 私、 ただ部屋探しに来ただけだったのに、 それなのに、 このアニーが私のことを
新しく来るロボットって思い込んで私にアイロンがけをやらそうとして・・・」
  私が、 そう言いかけたところで、 アニーが須永さんの後ろからひょっこり顔を出した。 反射的に口をつぐんでしまう私。
アニーは、 私に向かってロボットとは思えないような悪魔じみた笑いを浮かべた。
「浩一さん。 そんなに訴えられるのが恐かったら、 この子の記憶を書き換えて全部忘れてもらえばいいんだよ。 それか
ウイルスでも流してコンピューターを真っ白けにしちゃえばいい。 ふふふ」
  アニーが、 私に向かって人差し指を立てた。 その人差し指と爪の間から、 ぬーって、 細い金属の棒が姿を現した。
  それは、 まさか、 コンピューター接続端子? 私のコンピューターをいじろうっていうの?
  狂ってる。 このロボット、 本当に狂ってる。
「い・・・嫌っ!」
私は、 反射的に、 両手で自分の首筋を掴んでいた。
「あらあ。 接続端子は、 そこにあるんだぁ。 分かりやすい反応をしてくれて助かるなぁ」
  しまった。 私何やってるんだろう・・・。 自分の間抜けさに後悔したけど、もうおそかった。
  アニーは、 肉食動物みたいな顔つきで舌なめずりをすると、 私に向かってラグビーのタックルみたいに、 身を沈めて
飛び掛ってきた。
  あっという間に倒される私。 アニーは、 私の上に馬乗りになると、 すごい力で、 首筋を掴んでいた私の両手を引き
剥がして、 両膝で地面に押さえつけた。 それから、 端子を目立たないように隠しているカムフラージュシールも乱暴に
引き剥がす。
「こんなもので、 端子なんか隠して人間にでもなったつもりかしら」
  アニーは肌色のシールを見て、 あざ笑いながら私の鼻の頭に貼り付けた。
「アニー、 やめるんだ」
  須永さんが、 後ろから羽交い絞めにしてアニーを私から引き剥がそうとしたけど、 アニーは言うことを聞かない。 持ち主の
言うことを聞かないロボットなんて、 そんなのアリなの。 おかしいよ。 このロボット、 本当におかしいよ。
1643の444:2005/07/17(日) 23:09:52 ID:riEI6ar0
「機械のくせに、 人間のふりなんかして。 自由に一人で動き回って。 くそっ。 くそっ。 お前なんか。 お前なんか」
  どうして、 アニーは私をそんなに眼の敵にするんだろう? こんなふうに悪態をついて、 私を睨みつけるアニーは、 本当に
ただの機械なんだろうか? このむき出しの悪意も、 それから私に怒りをぶつける合間に一瞬だけ見せた悲しげな眼つきも、
全てプログラムされたものだっていうの? 違う、 絶対違う。 このロボットには感情がある。 心がある。 そして、 自分の中で
うまれた悪意で、 嫉妬心で、 私を消し去ろうとしているんだ!
  アニーは、まるで人間みたいなむき出しの感情を私にぶつけた後、今度は機械らしい冷静さで私のサポートコンピューター
接続端子の蓋を開くと、 自分の人差し指の金属の棒を接続端子に突き刺したんだ。 その瞬間、 私の視界が、 不正アクセスを
警告する真っ赤な文字で埋め尽くされた。
「あせdfgyふじこlp;」
  サポートコンピューターが不正アクセスされたからだろうか? 私の口が勝手に動いて変なことを口走った。 頭の中を犯され
る恐怖に、 叫び声を上げようとしたけど、 意味をなさないでたらめな言葉しか吐き出せなかった。 どうしよう、 サポート
コンピューターにウイルスなんか流されたら私、 どうなっちゃうんだろう! 
(こ、 殺される。 私、 この基地外ロボットに殺される。 私はただ家を探しに来ただけなのに。 なんで、 なんで、 なんで)
「mj89ふぉ位pうぇrl;f」
「へぇー! 生意気にずいぶん厳重なプロテクトなんだね。 でも、 もう少しだからね。 そうすぐ全部忘れられるよ。 ぜーんぶ」
  アニーは、 私に顔を近づけて、 にこやかに微笑むと、 カムフラージュシールを貼られた私の鼻の頭に軽くキスをした
1653の444:2005/07/17(日) 23:18:57 ID:riEI6ar0
今日はここまでです。
なんだかレイプだな。こりゃ。
166名無しさん@ピンキー:2005/07/17(日) 23:52:04 ID:5IjY3gu5
アニーまじ外道。
展開が読めなくてハラハラしますね。
167名無しさん@ピンキー:2005/07/17(日) 23:56:56 ID:YneCUOYM
アニー大暴走。
「アイ、ロボット」を思い出しました。映画の。
168名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 00:05:51 ID:oluoU2M7
うむぅ・・・ここまでやっちゃうと、解体刑は免れない気がしますな、アニーさん。(´Д`;)
169名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 03:35:41 ID:L7SmJvqn
というか…かなりマズいでしょ、これ(汗

ヤギーたんがとびきりの善人でないかぎり、刑事告訴はまぬがれないかと。
人間の刑法がロボットに適用されないならアニーたんは完全破壊(AIも危険プログラムとして完全消去)
たとえ刑法が適用されても傷害罪その他で数年はムショ逝き
ついでに須永さんも刑事罰(しかも懲役刑)は免れないかと(汗
それだけで済めばいいけど、暴行を傍観してた不動産屋とか住人とかも刑事告訴になったあげく
アニー製造メーカーまでもが責任問題で地獄を見そう…(汗

本当にこれからまるく収まるのか、注目ですね。
170名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 08:04:32 ID:oluoU2M7
ヤギーのことだから、「生活笑百科」の仁鶴に相談したりして(笑)

171名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 10:36:39 ID:uZJhYG4b
>人間の刑法がロボットに適用されないならアニーたんは完全破壊(AIも危険プログラムとして完全消去)

シチュエーション的には萌えるかもしれないけど、実質数日後別のアニーになるだけの話じゃないですかね
データを初期化されるだけでリサイクル。
172manplus:2005/07/18(月) 11:17:26 ID:DsSQIx1Z
いや〜。これだけ暑いと筆が・・・。
仕事に少し追われている状態なので、雑談に少しだけ参加させてください。
私の方の続きは、夜にでも・・・。

3の444様のヤギーさん。
自分の登場キャラに対しては、鬼畜といわれようが、任務のためにいろいろなことを
してきているのに、こと話がヤギーになると、ヤギーのされた仕打ちに鬼畜さを感じ
憤る自分がいるのは、なぜ?

きっと、ヤギーの愛すべきキャラによるんでしょうね。
ヤギー、がんばれ。

ところでアニーは、これだけのことをしたのだから、初期化の上、別人格のコピーが適当では?
当然、所有者も制作者も罰せられるでしょうね。


3の444様
今度は、どの様な結末になるのでしょうか?
早く続きが読みたいです。
173名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 12:59:41 ID:ahZL087B
某○菱自動車みたく、欠陥の場合はメーカーの責任が重そうな気もしますが。
ロボットが家電品なみか、車並みに定期検査制度があるかによって責任の所在が違うと思うけど。
ファームウエアのソフトにユーザーからの簡単な命令で、この事態だとアニーの為起きてるのかな?
訴えても、最高裁の結審まで十数年はかかったりして…
某タイヤ脱落事故みたく、最初は須永さんだけスケープゴートで、同様の事故が増えてからメーカー
袋叩きとか、見ていた住人や不動産屋は数年後にワイドショーで、ヤギ-が酷い目にあって、みてられな
かったとか証言してたり…
長期の裁判に、義体の会みたいなのが裁判支援してもらいみたいな展開で知り合いが増えたりとか

技術的には義体とロボットって近そうだけど、行政は縦割りでイソジマ電工みたいに義肢から入った
メーカーは厚生労働省の覚えがいいとか、ロボットメーカーは通産省よりとかもあるのかな。
産業ロボット系からの参入メーカーも有りそうだし

法廷闘争のあげく、野党系の議員になってくヤキーたんとか
174名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 16:39:53 ID:ML47oCVt
大悪司に、「尊厳破壊」という攻めがあることを思い出した。

しかしアニー、今まで一体どんな扱いを受けてきてたんだろ。
175名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 20:16:13 ID:XaVMQsyz
通常はサポートコンピュータに異常があっても生命維持には問題が生じないようになっていると思うけどねぇ。
さらに義体メーカーのサポートセンターと場合によっては警察に緊急通報がいくよねぇ。
どうなるのかねぇ。
176名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 21:18:29 ID:FVJ0gf/N
さすがにアニーも不正アクセス中に人間だときずきそうなものだがどうなるのかな?
177manplus:2005/07/18(月) 23:08:27 ID:DsSQIx1Z
 アクティブモードに自動で切り替わった。0Y453D00H00M00Sの時刻表示が人工眼球に浮かぶ、
メンテナンスチェアから起きあがる。居住エリアには、前田ドクター、佐藤ドクター、まりなさん、
えりかが集まっていた。
「皆さんおはようございます。さあ、行きますよ。」
前田ドクターに促されて、ブリーフィングルームに移動した。そこには、私と同じ姿をした
火星探査・開発用サイボーグが3体待っていた。胸の番号の「MARS2」が七海、「MARS3」が浩、
「MARS4」が未来であった。
私が話し始めた。
「みんな、サイボーグ手術が成功したんだね。よかったね。でも、これからが本当の試練が
数多く待ってるのだから、みんなで頑張ろうね。」
「そうだな、我々4名が力を合わせて、このプロジェクトを成功させることが、自分たちの生きていくことに
なるんだからな。」
浩の言葉が力強く感じた。
 そこに、木村局長、長田部長、水谷ドクターの3人がやってきた。
 木村局長が、
「みんな久しぶりね。何事もなく手術が完了したようで安心しました。これから、第1次火星探査チームと、
緊急補充用バックアップチームとして4人には、慣熟訓練を行ってもらうことになります。
このプロジェクトの今後が皆さんの肩に掛かっていると思って、気を更に引き締めて任務に当たってください。
人間とは少し違った立場になったことによる戸惑いやプレスリリース後の好奇の目に晒されることになると
思いますが、プロジェクトにかかわっている我々全員で、あなた達を守ります。
決して、孤独感に陥ることがないようにしてください。あなた達は、我が国を救うために作り替えられた英雄に
なるんだという自負のもとに生きて、任務を全うしてください。」
178manplus:2005/07/18(月) 23:17:49 ID:DsSQIx1Z
 アクティブモードに自動で切り替わった。0Y453D00H00M00Sの時刻表示が人工眼球に浮かぶ、
メンテナンスチェアから起きあがる。居住エリアには、前田ドクター、佐藤ドクター、まりなさん、
えりかが集まっていた。
「皆さんおはようございます。さあ、行きますよ。」
水谷ドクターが言葉を続ける。
「みんな、新しい身体の使い勝手はどう?戸惑いや使いにくいところがあったら遠慮なくスタッフにいうこと。
遠慮して対処が遅れると致命傷になりかねないからね。でも、よく出来上がっているわね。
人間機械化工学の専門家としては、満足しています。なにせ、私の研究材料であり、私の将来の姿なのだから、
何かのトラブルがあったら困るのよ。でも、手術が成功してよかった。あと二人の手術がこれから行われるから、
それが成功して初めて、私たち技術者はホッと一安心というところなんだけれど。」
長田部長が続けた。
「あなた達4人に集まってもらったのは、サイボーグ手術が成功したことを受けて、
木村局長に報告したかったこともあるし、今後は、火星環境標準室やその他の訓練施設がある
サイボーグ訓練エリアから出ることが出来なくなると、低圧馴化室や殺菌処置室やセキュリティーロックを
抜けるなど、環境管理が今いるエリアより更に厳しくなって、いくら、ラバーフィットスーツを装着していても、
簡単に直接あえなくなるから、その前にあっておきたかったからなの。
それから、もう一つ今後のスケジュールについて指示があったかになの。今後のことに対との指示というのは、
あなた達が訓練に入る前に、美々津みさき少佐と橋場望少佐の手術に立ち会ってもらいたいということです。
あなた方も知っているとおり、この二人に施されるサイボーグ手術は、あなた達と少し違い、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグという形態にする手術になります。彼女たちは、宇宙船内でのサポートは、
宇宙船内の機械とあなた達がしてあげなくてはいけません。決して、どんな些細なことでも、あの二人が自分で
行うことが不可能な身体にしてしまうことは理解してくれていますよね。だから、彼女たちの身体の
構造を訓練教育だけではなく、実際の手術に立ち会ってもらって、熟知してもらうことなのです。
179manplus:2005/07/18(月) 23:18:21 ID:DsSQIx1Z
ただし、望月七海中佐と望月未来中佐には、手術室控え室で、観察と手術の後方バックアップを
行ってもらいます。如月大佐と渥美大佐には、手術室で手術に直接参加してもらいます。
彼女たちの故障に的確に対応してもらうための対応です。プロジェクトのオペレーションの進行途中で
彼女たちに万が一のことがあったら、火星にみんな行くことが出来ないのですから、真剣に彼女たちの構造を
理解してもらうための処置なのです。そして、いついかなる時にでも対処できるようにしてもらうためなのです。
それに、あなた達サイボーグは、休息の必要がほとんど実際には必要ないから、連続作業の時に、
絶対必要な存在なの。彼女たちは、あなた達以上に電子機器を取り付けることになるから、集中力を
手術チームが切らすことが出来ないのよ。その為にも、サイボーグ体が有利というわけなの。」
 長田部長の言われることは充分にわかるし、そうする必要があると私も同意できる。しかし、心情的に仲間の
機械人間にされる手術に荷担することがいやなのである。
でも、命令と必要性に逆らうことが出来ない。私は答えた。
「はい、了解しました。どの様に行動すればよいでしょうか?」
水谷ドクターが解説した。
「実は、あなた方が、サイボーグ手術を完了した日に、ラバーフィットスーツを脱がせる処置をしました。
そして、橋場少佐の手脚を切除する処置をあなた達がサイボーグ体の動作テストをしている間に完了しています。
そして、今、二人は、それぞれの処置室で身体の組織安定のために処置台に拘束されています。
もっとも、二人は、自分で動かせるのは、首ぐらいだから首の部分を固定しておけば、あとは拘束しなくても、
ぴくりとも動けないんだけどね。皆さんには、彼女たちが機械化のためのサイボーグ手術を受ける前の段階の
介護される姿も見ておいてもらいます。」
介護と言っても、導尿も何もかも自動だし、チューブやケーブルが付いているから、
ただ見ていればいいとこの時は思ってたかを括っていた。
180manplus:2005/07/18(月) 23:18:47 ID:DsSQIx1Z
「それでは、如月大佐と望月七海中佐は、美々津少佐の処置室に、渥美大佐と望月未来中佐は、
橋場少佐の処置室に行って下さい。
「わかりました。」
そう言って私たちは、それぞれの惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの処置室に分かれて入った。
私が入った時、みさきの処置室でのみさきの人間としての姿は、私の時の状態とはかなり違っていた。
みさきの身体はもちろん全裸で寝かされていた、そして、胸部が透明のハローベストを着せられ首を完全に
固定されていた。唯一動かすことの出来る首の自由も完全に剥奪されていた。
彼女はサイボーグになっても首を動かす機能は付いていない。つまり、身体を自由に動かすことは、
これからも与えられていないのだ、私たちのように外観が違っても、いろいろと普通の人間並みに動かすことが
出来るサイボーグ体とは明らかに違うのだ。
そして、液体呼吸液の吸排出チューブが生命維持装置と繋がれ、自動的に呼吸管理されいいること、
ケーブル類で脳や身体の大部分がコントロールされていること、ゴーグルがはずされずに
装着されたままになっていることなどは、私たちのつかの間の人間生活体験の時と変わらなかった、
でも、もちろん手脚がないことは違いとしてもちろんあるのだが、液体栄養液供給管、排尿管、排泄物処理管、
性器カバーが生命維持システムと繋がれていないことが大きな違いであった。つまり、彼女は、栄養供給と
排泄処理がマニュアル処理となっているのであった。
これは、二人からの要望で、最後に自分のリクエストによる処理を希望したのだそうである。手脚が使えないが、
人間らしく、機械に支配されないことを楽しみたいという希望を宇宙開発事業局が聞き入れたのであった。しかし、
組織が安定するのが、二人とも、私たちより長く、7日ぐらいはかかると言うことなので、その間は、
世話をしないといけないのだった。大変なわけである。
その他の違いというと、切断面のケーブル接続コネクターにケーブルが接続されていることだった。これだけでも
四肢の切断面で処置台に固定されているのと同じ状態になっていた。
181manplus:2005/07/18(月) 23:35:07 ID:DsSQIx1Z
もう既に完全に機械の一部になっているような状態だった。これでは、栄養補給と排泄は、
せめて最後はマニュアルにしたいという気持ちも充分に理解できた。
処置室には、薄い桃色のラバーフィットスーツを装着された清水美雪ドクター、薄い黄色のラバーフィットスーツを
装着された徳永あゆみドクターとサポートヘルパーの白いラバーフィットスーツを装着されている清川渚さん、
薄い緑色のラバーフィットスーツを装着された山田クリス少尉が立っていた。そして、その横には、えりかもいた。
「えりかが何でここにいるの。」
「私も、美々津少佐の処置のお手伝いとお姉ちゃんと望月七海中佐のサポートヘルパーとしての仕事の
二つの命令を受けています。まりなさんはじめサポートヘルパーはみんな待機しているのよ。
お姉ちゃんと望月七海中佐に何かあったときの対処のため、」
そうだったのか、まだ私たちも慣熟訓練を受けていないのだから、
まだ完璧にこの身体に慣れたわけじゃないものね。もしも万一の時は、大事な実験材料がいなくなることだから、
それは、このプロジェクトにとっての痛手だもの。そうならないために万全の体制を引いているわけなのだ。
さすがに重点国家プロジェクトの中心試験体になってのを実感せざるを得なかった。
 清水ドクターに、
「如月大佐、望月七海少佐よろしくお願いします。美々津少佐の世話も処置も大変なものになると思いますが、
力を合わせて頑張りましょう。」
「わかりました。」
そう言ってから、みさきに話しかけた。
「みさき、私も全力でサポートするから、頑張ろうね。私は、一足先に機械の身体であるサイボーグに
なったからね。みさきも頑張るんだよ。」
「ありがとう。はるか、私、頑張る、でも我が侭言うかもしれないし、迷惑翔かもしれないからよろしくね。」
182manplus:2005/07/18(月) 23:35:31 ID:DsSQIx1Z
私は答えた。
「そんなこと気にしないで、私と七海は、みさきと一緒に火星に行くためのチームだよ。
とことんサポートするからね。」
「そうだよ、みさき、私とはるかがあなたの処置で、サポートしていくからね。」
「ありがとう。はるか、七海。」
みさきが答えた。それからみさきが恥ずかしそうに清川さんを呼んだ。
「清川さん、処理をお願いしたいんですが。」
「みさきさん、サポートするメンバーがふえてまだ要領がわからない人がいるのだから、具体的にいうようにして。
恥ずかしいのはわかるけど、そうしなければならないのよ。いいわね。」
みさきは、恥ずかしそうに、消え入りそうに言った。
「排泄処理をして下さい。膀胱が、パンパンなんです。それに、排泄バルブを開けて、排泄物を処理して、
洗腸をして下さい。人工肛門の方も我慢できません。よろしくお願いします。」
そして、さらに、
「はるか、お願い助けて!」
私は、自分がえりかにラバーフィットスーツの装着時に性器と人工肛門の洗浄をされたのを思い出し、
みさきの恥ずかしさが痛いほど伝わってきた。
「今、楽にしてあげるからね。」
ゴーグルの中からすがるような視線が私に突き刺さる。私は、清川さんに教えてもらいながら、
みさきの下半身の処置を開始した。排尿カテーテルの先のバルブに排尿パックを接続しバルブを開ける。
排尿パックがみるみるうちに満杯になる。排尿パックを取り替えた。そのパックも満杯になった。
限界以上まで排尿を我慢させていたようである。そして、人工肛門の接続バルブに洗腸機のパイプを取り付け、
洗腸を開始した。排泄促進剤を流動食に入れられ、腸洗浄を促進する処置を行われているため、
腸洗浄機におびただしい量の排泄物が流れ出た。これだけのものを貯めていたのだったら苦しんで当然だ。
我慢していたのが不思議なくらいだった。
183manplus:2005/07/18(月) 23:42:31 ID:DsSQIx1Z
なぜこのような状態になったのかというと、みさきの羞恥心がこの状態まで我慢させていたと言うことがわかった。
自分でも、同じ立場なら、少しでも、恥ずかしい処置を先送りにしたいから、みさきと同じようにしたに違いなかった。
でも、結果的に恥ずかしいのに変わりないのである。私たちの置かれた立場では、
恥ずかしいなどという言葉はないに等しかった。私は、もうサイボーグにされてしまったため、
恥ずかしいだとか、悲しいだとかという感覚を封印してしまっていた。
「みさき、楽になった。」
「ええ。楽になったわ。」
「みさき、一つだけアドバイスがあるの。それは、私たちには、実験用ドナーとしての立場しか生きる道が
なくなっているの。
だから、もう、恥ずかしいとか、悲しいとか、ネガティブな感情を表現することが許されていないし、
ここにいるのは、その立場を共有する仲間とその立場を考えてくれる人しかいないから、
何でも我慢せずに言うのよ、絶対に機械の身体になっても生き抜いて自分がここにいる意味をこのプロジェクトに
参加した意味を残しておきたいの。みさきも一緒にこの考え方で生きていって欲しいの。私たちは、仲間だよ。
いいわね。」
「はるか、ありがとう。忠告に従うわ。これから遠慮しないからサポートよろしくお願いします。」
「こちらこそ、困ったことがあったら何でもみんなに言うのよ、みさきは、感覚剥奪処置を受ける前でも、
動くことが出来ないような身体にされているんだから、私たちが手脚になってあげる以外生きる道が
ないんだからね。」
「はるかの言うことは充分わかっているつもりよ。私を託します。リーダーよろしくお願いします。
そして、七海隊員よろしくお願いします。」
「どういたしまして。世話の焼けるみさきちゃん。」
七海がおどけてみせる。
私たちが動くことの不可能なみさきを介護してのみさきの人間としての最後の7日間が終了した。
184manplus:2005/07/18(月) 23:43:24 ID:DsSQIx1Z
本日はここまでです。
少し長いサービス番外編にする予定です。
185名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 23:57:36 ID:TMqn8PU7
>>manplus様。
手足切除のサイボーグ材料の話にも萌えました。可哀想でいいですね。
186名無しさん@ピンキー:2005/07/19(火) 22:25:05 ID:2cDyRfJA
地球上から出発するならペイロードは1グラムでも軽いにこした事は無いけど、有人火星飛行で地球上から出発ちゅうのも段階として変な話だし。
衛星軌道上から出発するんなら手足の2,3本は微々たるもんだと思うんだけど。
他に仕事のあるチームメンバーの手を煩わせるくらいなら、義手義足付けた方が効率いいんじゃないですか?

 どうもこういう設定だと萌えモードよりもSF読みモードに入ってしまう。…あんまりレベルは高くねぇ読み手だけども。
187名無しさん@ピンキー:2005/07/19(火) 22:50:53 ID:RxigiqHI
それよりも、ずっと操縦席に据付になるほうがかなりくるわけで
手足を切断するくらいだから、当然台車も搭載しないわけですよね
交代要員もいないし、これは残酷でしかもかなり萌える
188名無しさん@ピンキー:2005/07/20(水) 01:20:28 ID:YJ77mVco
大人の時間板のフェチスレで、えろネタが出ないもんだ。
ここはSF板か?
という展開がつづきますね。
ヤギ-世界のロボットは例の三原則はないのでしょうか。
189名無しさん@ピンキー:2005/07/20(水) 01:36:21 ID:w6Lrxe4/
>>188
わざわざ直球エロじゃなくても女性達が機械的に扱われるだけでハアハアですよ?
1903の444:2005/07/20(水) 03:31:48 ID:qJLuYpcA
「ほらほらほらぁ。もうプロテクト破っちゃったよ。すごいでしょ」
  私の鼻にキスをしたアニー、 そのまま顔を私のほっぺたにくっつけると、 そんなことを耳元で
ささやくんだ。 まるで、 逆上がりができたことを褒めてもらいたい子供みたいにね。 って、 冗談じゃ
ないよ。 プロテクトを破っただって? 何が、 サポートコンピューターは不正に設定を変えられること
を防ぐために、 パスワードを知らない第三者はアクセスできない構造になっています、 だ。 嘘つき。
松原さんの嘘つき。
  アニーの言うとおり、 私の義眼ディスプレイには、 サポートコンピューターのパスワードが破られ
たっていう警告文が、 目がチカチカするくらい大きな文字で、 これ見よがしに表示されている。 この
期に及んで警告だってさ。 はは。 バカみたい。 私のサポートコンピューターは、 もう服を全部剥ぎ
取られて、 素っ裸で、 アニーに犯されるのを、 だた待ってるだけの状態なんだよ。 もう今更警告し
たって、 どうしようもないじゃないかよう。
「じゃあ、 さようなら」
  もう一度、 顔を上げたアニーは、 私の目を見つめて、 可愛らしい顔でにっこり笑った。 本当に、
コンピューターのプログラムを消すつもりなんだね!
「sqっうぇrrtd:gk」
  駄目だ。 悲鳴を上げようにも、 助けを求めようにも口から出るのはヘンテコな機械音だけ。
両手はアニーの膝で腕の付け根からがっちり押さえられちゃってびくともしないし、 両足をバタバタ
させても、 アニーは微動だにしないんだ。 須永さんはアニーを止められないし、 佐倉井さんも、
おばあちゃんたちも遠巻きに私達を眺めているだけ。 クララベルは? クララベルは、 どこに行った
の? 何で助けてくれないのさ。 ロボットなんて、 ちっとも私の役に立ってくれないよ。 一人は基地外、
もう一人は恥ずかしがりや。 ホント、 バカみたい。
  ああ、 私、 本当にもう、 駄目だ。 サポートコンピューターが死んだら、 私は身体の感覚を全て
失って、 身じろぎ一つできないお人形さんになっちゃうんだ。 そして、 私の心は、 真っ暗闇に、 真っ
逆さまに落ちていくしかない。 永遠に、 どこまでも、 どこまでも。
1913の444:2005/07/20(水) 03:33:19 ID:qJLuYpcA
  私は、 感覚遮断の恐怖に身を固くして、 ぎゅっと目をつぶった。
  でも・・・。 何も起こらなかった。 目をつぶったままの真っ黒な視界には不正
アクセスの警告文がいつまでたってもひらひら踊ってる。 アニーが私のお腹の上に乗っている感覚
はあるし、 グェーグェーって、 私を馬鹿にしているみたいなカラスの鳴き声も聞こえた。
(あれ・・・)
  私は、 恐る恐る、 薄目を開けてみた。
  アニーは相変わらず私の上に馬乗りになったまま。 けれど、 さっきまでの追い詰めた鼠をいた
ぶって遊ぶ猫みたいな余裕は、 いつの間にかなくなってた。
「なに・・・これ。 あんたのプログラムって、 たったこれだけなの? こんなちゃちなプログラムで、 あれ
だけの反応をしてたってこと・・・。 あんた、 いったい、 なんなの」
  アニーは、 信じられないものが目の前にいる、 そう、 まるでお化けでも見るかのような目で私を
見つめたんだ。 顔に浮かんだ感情は、 恐怖、 怯え。 きっと、 私のサポートコンピューターに侵入して、
そして、 プログラムの構造が、 ロボットとはまるで違うってことに気が付いたんだろう。 私は、 アニーや
クララベルみたいな人工知能じゃない。 コンピューターでものを考えているわけじゃない。 コンピュー
ターはあくまでも、 私の心を補助する道具にすぎないよ。 だからプログラムなんて、 コンピューターの
プログラムといったって、 ロボットのそれよりずーっと簡単なはずなんだ。 アニーからしてみれば、
こんな簡単なプログラムで動いている私は、 一体何者ってことなんだろう。
  残念でした。 私はニンゲン。 決してプログラムで動いているお化けじゃありません。 私に言わせ
れば、 機械の癖にそんなふうに怒ったり、 怯えたりするアンタのほうがずっと化け物じみているよ。
1923の444:2005/07/20(水) 03:34:04 ID:qJLuYpcA
  ふっと身体が軽くなった。
  私の上にのしかかっていたアニーが、 何者かに服の腰のところをひょいっと掴まれて、 丁度宙づり
みたいな格好になった。 同時にアニーの私のサポートコンピューターへの不正アクセスも解除された。
「あっ! コラ! 何するんだ」
  空中に吊り上げられたまま、 手足をジタバタさせるアニー。 と、 思ったら、 ひょいと放り投げられて・・・
「うわうわうわうわ!」
アニーは、 ボールみたいにきれいな放物線を描いて宙を舞うと、 はるにれ荘の壁に頭を下にして
背中から叩きつけられたんだ。 「ぎゃっ」 と情けない悲鳴を上げると、 そのままずるずる下にすべり
落ちるアニー。
  アニーが叩きつけられたのは、 ちょうど窓と窓の間の幅が50センチもないような、 壁面。 ちょっと
でも横にずれたら、 ガラスが割れて大変なことになっちゃうトコだ。 ずいぶん正確なコントロールだなっ
て、 私、 変なところに感心して、 アニーを投げた主を見た。
  クララベルが、 自分の成果に満足そうに両手をはたいている。 アンタかい!
「あ、 あの、 私は、 あなたを人間と認識しましたよ」
 クララベルは、 人を安心させるような、 柔らかい笑顔でおずおずそう切り出すと、 私に手を差し伸べ
てくれた。
  やっと、 私のことを人間ってわかってくれる人がいた。 クララベル! 偉いよ、 あんたは偉い。 機械
仕掛けの女神様だ。
「あ、 ありがとう、 クララベル」
  クララベルに助け起こされて、 何度も何度もお礼を言う私。 身体はさっきの恐怖が染み付いて、
義体のくせにみっともなくガクガク震えちゃってるけど、 ひとまず、 私、 助かった、 のかなあ?
  でも、 周りの人の反応を見てると、 そうとも言えないみたいなんだよね。
1933の444:2005/07/20(水) 03:47:04 ID:qJLuYpcA
今日はここまで。
ちなみに八木橋ワールドでは、義体の損壊は器物損壊にしかなりません。
義体はモノ。全身義体の人にとっての身体は脳だけってことで。
つまり、傷害罪が適用されるって時はヤギーが死ぬときということに
なっちゃいます。
訴えても、労多くして実り少なく、修理代+αの示談で終わっちゃう
ケースが多いみたいですよ。車同士の事故みたいに。サイボーグ協会も
待遇改善を求めて頑張っているみたいですけど、なかなか世の中うまく
いかないものでして・・・。
>>188
確かに仰るとおり。
じゃあ、次回の話は久々(本当に久々)にエロネタにしてみましょうか?
丁度ネタも思い浮かんだので。でも、あっしの書くエロなんであんまり
期待しないで下さい・・・。
194名無しさん@ピンキー:2005/07/20(水) 04:32:05 ID:w6Lrxe4/
アニーとクララベルのネーミングにニヤっとしてしまったですよ。ええ。
195名無しさん@ピンキー:2005/07/20(水) 12:51:55 ID:aQ6849zE
>>188
アニー見てると、
「持たない」、「作らない」、「持ち込ませない」
の方の三原則が適切な気がするな。

3の444様。
以前は息子が大変お世話になりました。
また宜しくお願い致します。
196名無しさん@ピンキー:2005/07/20(水) 21:05:06 ID:Fka+rhKk
>189さん

直球と変化球の両方が会って緩急自在のピッチングかと。
例として
manplus さんの星へ往く人なんかは、確かに楽しく読ませて頂いてますが。
妹のえりかちゃんも良いキャラだけど、はるかさんと大谷大佐あたりが直球に恋人どうしか
なんかだったら、もっと機械化処置の残酷さが際立たないかな?
ラバーフィットスーツ装着時の男性のペニス切断も人事じゃなくなるし。

3の444 さんのヤギ-ちゃんのほうだったら、義体化しての仕様説明で人工性器の消耗品、潤滑剤の補給とかを
ケアサーポータさんに教わったりとか。

ピッチングの組み立てに幅がでるかと。


>じゃあ、次回の話は久々(本当に久々)にエロネタにしてみましょうか?
>丁度ネタも思い浮かんだので。でも、あっしの書くエロなんであんまり
>期待しないで下さい・・・。

いえいえ期待しちゃいます。

197?名無しさん@ピンキー:2005/07/21(木) 01:04:55 ID:aKnc4Q/a
>アニーは、 信じられないものが目の前にいる、 そう、
>まるでお化けでも見るかのような目で私を見つめたんだ。
ロボットにもひかれるヤギー。不憫です。
ヤギーは、犬にも吠えられてしまうのでしょうか? ターミネータみたいに。
198ペインキラ:2005/07/21(木) 23:30:36 ID:Ujia+25U
「さや」再開する・・・。
199前82:2005/07/22(金) 01:07:57 ID:+ahx2OOG
2ヶ月近くこんなトレーニングを続けて、「どうやら最低限の音声受信と発信は出来るようになったから、
コンピュータとあなたの脳とが直接やりとり出来るようなトレーニングを始めます。
第1ステップとしては文字入力を除く、マウスやカーソル操作を脳波だけでできるようになってもらいます。」

ヘッドホーンや口元マイクのないすっきりした格好でコンピュータに向かい、
脳からの電極ケーブルをコンピュータに取り付けた。
「最初はカーソル操作の訓練です。画面の中央にカーソルが現れますから、
まずは練習と言うことでカーソルを真横に動かしてください。そして、次は垂直ね。
それが出来たら、画面の上下の端にある8カ所のうち赤くなっているところまで移動させてください。」
熊沢さんずいぶん無理な注文を出してくれる。

どうやってマウスもキーボードも使わないでカーソルを動かせるの。
200前82:2005/07/22(金) 01:08:29 ID:+ahx2OOG
の前のコンピュータ画面にカーソルが現れ、次いで目的地となる赤いエリアが右上に表示された。
仕方なくカーソルを見つめながら赤いエリアを見つめ、あっちに進めと念じてみる。
するとカーソルが少しだけ上へ移動した。さらに念じると、またすすんだ。

考えただけでカーソルが移動していく。何度か繰り返してカーソルは赤いエリアに到達した。

「15秒で出来たわね。まあ最初はそんなモンだけど、0.5秒ぐらいで移動させられるようにならないとだめね。」
熊沢さんらしい言い方だ。
画面が変わり、今度は左下が赤くなった。
念じるとカーソルはふらつきながらも移動を始めた。
何日も繰り返していくうちに少しづつカーソルのスピードが上がってきた。

すると、今度は目的エリアの大きさを小さくされ、操作の正確さが要求されるようになった。
さらにカーソルがエリアに到達して、もう一押し念じるとそのエリアが点滅するステップも追加された。
なんだかゲーム感覚で楽しいと言えば楽しく、すごいと言えばすごいのだが少し飽きてきた。
201前82:2005/07/22(金) 01:09:33 ID:bJ0J6Mu5
「だいぶ操作も早くなってきたからこの操作の目的がわかるように
画面構成を本番に合わせて変えてみましょう。」
熊沢さんがやっと次のステップへのゴーサインを出してくれた。

次の瞬間画面上部に四角だけ表示されていたエリアに、
基本、ボディ、スーツ、通信、ポッド、母船・・・・
各エリアがメニュー項目になっている。

「各メニューの下に何段階もサブメニューがあるから
しばらくいろいろ選んだりして慣れてみて。
どれを選択しても今はまだ実際の操作にはならないから大丈夫。
後でマニュアルを読んでメニュー項目は頭にたたき込んで
無意識に操作出来るまで練習してもらうけど」

熊沢さんからの厳しいノルマは増える一方だ。
202前82:2005/07/22(金) 01:14:23 ID:NUUfCQuf
とりあえず此処までにします。


昨夜の夕刊に火星探査機公開の写真が載っていたが
作業員というか、見学者というか20人以上の人が
全身を覆う無塵衣と、フルフェースマスクのような格好で
回りを取り囲んでいて
思わずmanplus氏のラバーフィットスーツを想像してしまいました。
203manplus:2005/07/23(土) 00:58:06 ID:P6HQ8rwt
 0Y460D00H00M00S。みさきにも運命の日がやってくる。私たちは、彼女がアクティブパートになる前に
事前に処置室に移し、サイボーグ手術処置用処置台に移し終えていた。サイボーグ手術処置用処置台は、
彼女を中空に固定するようになっていた。私たちの処置に使われたものと基本的には同じなのだが、
全体の長さが短くなっていたし、中空固定を行うワイヤー類が非常に少なくなっていた。
身体の自重が軽いからなのか使われるワイヤーが少なくてすむようである。
「美々津少佐、気が付きましたね。」
清水ドクターがみさきに声をかける。
「今日は、サイボーグになり、性器のない身体になる前に、再度、採卵を行います。」
私と一緒の処置である。
「みさき、覚悟はいい?」
私のかけた言葉に
「もちろん。」
みさきの力強い答えが返ってきた。
「それでは、排卵促進用特殊ホルモン投与開始します。」
清川さんが操作パネルに向かって操作を開始した。
みさきが30分に一度の生理に耐え、小刻みに身体が震え、苦しみと快感に必死に耐えているのがわかった。
この処置を24時間受けた後で、洗浄室で、私と七海、クリス、えりかの4人で丁寧にみさきの身体をウェスで
拭いてあげた。心を込めて丁寧にじっくりと拭いた。これが最後の人間としての身体洗浄になるからだ。
「気持ちよかったよ、ありがとう。」
みさきが何度も言った。私と七海も一緒の気持ちだったよ。クリスやえりかも自分の時のことを考えて感慨に
ふけっていた。
204manplus:2005/07/23(土) 00:59:12 ID:P6HQ8rwt
「明日から、もっとつらい目に遭うと思うけどがんばるんだよ。私と七海も通った道だから、何でも相談してね。」
「ありがとう、はるか、七海。」
七海が清水ドクターに切り出した。
「私も控え室でのサポートではなく、処置室でみさきの手術のサポートをさせてもらえませんか?」
「本当にいいのですか。私と徳永ドクターとしては、サイボーグが二人いると非常に集中力を要する作業が
続くから楽なんだけど。疲れることが少なくなった身体の人のサポートは、非常に心強いのです。
よろしくお願いいたします。」
清水ドクターは、快諾した。
「ありがとうございます。みさき、私も直接サポートするからよろしくね。」
「私は、これでとっても安心よ。ありがとう七海。」
みさきが安心しきって、レストモードに入っていった。


205manplus:2005/07/23(土) 00:59:43 ID:P6HQ8rwt
 0Y461D00H00M00S。
 みさきの身体に身体感覚除去処置が清川さんによって施されていく。
身体の感覚が徐々になくなっていく不思議な処置で視覚、聴覚、コミュニケーションサポートシステムは、
生きているのである。
「何か不思議な感覚だわ。身体の感覚で視覚と聴覚だけ生きていて、話もこうやってできるのに、
それ以外の感覚が全くないなんて。」
みさきの言葉に、清川さんが、
「変な感じでしょうね。私には、がんばってと言うしかないけど、はるかさんと七海さという経験者がいてくれるから
心強いわ。」
「いいえ、前川さんの献身的サポートがあったからここまでみさきはこれたと思うの。前川さんとみさきの
サポートができれば私たちは光栄です。」
「ありがとうございます。如月大佐。あなたは、火星で生きるため本来の身体を廃棄され、
大部分を機械にされた身体になってつらい思いをしているのに私にまで思いやりを持ってもらうなんて
うれしいことです。是非ともみさきさんの手術の成功に向けてご協力よろしくお願いします。」
私と、七海、クリス、えりか、前川さんそして、清水ドクターと徳永ドクターの7人は誓いを新たにした。
清水ドクターが指示を出す。美々津みさきのサイボーグへの本格的な第一歩であった。
「それでは、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグへの美々津みさき少佐の改造手術処置を開始します。
みんな、本当に長時間の手術でしかも気を抜くことができない手術になりますが、精神を集中しきって処置に
あたってください。決して失敗は許されない手術だと言うことを改めて認識しての手術をお願いします。」
「了解しています。」
みんなが答えた。
206manplus:2005/07/23(土) 01:01:18 ID:P6HQ8rwt
徳永ドクターが、清水ドクターに、
「美雪、美々津少佐の身体の切開をお願いします。」
「歩み、了解よ。」
「前川さん、メスを用意して。」
「清水ドクター、メスの用意ができました。」
前川さんから、メスを渡されると清水ドクターは、流れるようなメスさばきでみさきの身体を正確に躊躇なく
切り開く。前田ドクターといい、清水ドクターといい、この宇宙開発事業局の医療チームのドクターの技術の
高さには本当に感心する。
「如月大佐と望月七海中佐の時は、骨の処置をしてから身体を切開しましたが、美々津少佐における処置では、
骨の変化する状態を確認してもらうため、身体の切開を先にしています。火星探査・開発用サイボーグの手術で
みんなの体力が、身体を切開解放された状態がもう少し長くても大丈夫だと分かったから、確認しやすい状態で
骨格の処置をさせてもらいます。」
清水ドクターはそういいながら、切り開いた皮膚と筋肉を処置台に止めていった。
みさきの開き状態のできあがりである。」
クリスが
「みさきさん、とってもセクシーですね。」
と冷やかすとみさきが、
「宇宙飛行士のヌード写真集として売れるかしら?」
とおどけて見せた。
少し、みさきの心にみんながサポートしているという安心感による心の余裕が出てきた証拠であろう。
これぐらい余裕があれば、サイボーグ手術の処置を乗り切れるよ。がんばれ!!
207manplus:2005/07/23(土) 01:08:22 ID:P6HQ8rwt
「さて、美々津少佐のこつ組織に、金属成分置換装置を接続してください。」
徳永ドクターの指示に、
「了解です。」
と答え、私とクリスが金属成分弛緩装置のコードをみさきの骨組織に接続していった。
そして、前川さんが金属成分弛緩装置操作パネルを操作する。えりかが、コードの接続を再確認して、
そして、みさきの骨格の主成分が、カルシウムからシリコンチタニウムファイバーに変わっていった。
シリコンチタニウムファイパーは、チタンとシリコンの高密度複合体で、そこそこの強度を持っていながら、
かなりの軽量であるという特性を持っている。私たち火星探査・開発用サイボーグは、強度が優先されるが、
惑星探査船操縦用サイボーグは、重量の軽量化が優先されるため、置換金属が私たちとは違っているのである。
そして、絶縁処置がなされていることが特徴である。これは、彼女たちの身体が電子機器の中に組み込まれると
言うことの使用目的及び環境によるもので、新しい身体の各所に絶縁処置が施されていた。電子機器と共に
共生するため、殊の外、配慮されている機能であった。
208manplus:2005/07/23(土) 01:10:00 ID:P6HQ8rwt
 実際はものすごい苦痛を伴う処置なのであろう。その証拠に、みさきの身体が小刻みに震えているが、
体を解放された状態で固定されているため、処置台から動くことはなかった。
それから、心臓の心拍数が高くなっており、身体への負荷があるのも確認できた。
みさきの骨組織は、18時間に渡って変わり続けた。金属元素交換が順調にすすんでいるのが、骨組織の色が
白から黒に近い色に徐々に変わっていくことで確認できた。そして、シリコンの特性を持つ樹脂光沢を持つように
なった。ちなみに私たちの骨組織は、チタンの色であるグレーで金属特有の光沢があるそうである。
「骨組織変化率が100%に達しました。処置は成功です。」
前川さんの報告にみんながホッとしているように感じた。私や、七海は、もう感情を表現することが
コミュニケーションサポートシステムを通じての言葉でしか表現できないし、ほかの5人もフェースプレート越しに
わずかな顔の表現しかできないから、ホッとした表情と判断できるのかは疑問が残るのだが・・・。
少なくとも、みさきはホッとしているはずである。
「みんなご苦労様。美々津少佐よく頑張りました。それでは、次の処置まで休憩に入ります。如月大佐、
望月七海中佐、あなた達も休息をとるのよ、いくらサイボーグだと言っても基本的には、脳の休息は人並に
とることが大事ですから。火星に打ち上げられる前にストレスを貯めることは禁止されていますから。
休息をとるのよいいわね。それでは6時間後に集合。それまで解散にします。」
清水ドクターの指示にみんな従って、みさきの栄養液補充パックと排尿処理パック、排泄物処理パックの交換を
前川さんと私が行い、みんなで休憩エリアに引き上げて、ラバーフィツトスーツ装着者専用リクライニングチェアと
私と七海それぞれの専用のサイボーグ用メンテナンスチェアに収まった。
そして、私は、自分の身体をレストモードに切り替え、アクティブモード復帰を5時間30分後にセットして、
休息に入った。機械部分の管理により、正確なレストモードの状態が5時間30分続くのである。
209manplus:2005/07/23(土) 01:13:31 ID:P6HQ8rwt
今日はここまでにしておきます。

直球勝負ですか・・・。
そう言う物語の構成も考えさせてください。

でも、私としては、機械の身体に改造されていく姿だけでも、
萌えるものですから・・・。

ご要望検討して書くほどの表現力がありますか心配です。
210名無しさん@ピンキー:2005/07/24(日) 19:53:19 ID:2Sw5G5r4
むう


ホシュっとこ
211名無しさん@ピンキー:2005/07/25(月) 02:48:17 ID:nwHJKyko
うむ。サイボーグに改造されるだけで十分萌える。しかも加虐的だったらなお萌え。
2123の444:2005/07/25(月) 03:17:39 ID:4YgGhvkx
  一見大人しそうな女の子の姿をしてるくせに、 須永さんがいくら押しても引いてもびくともしなかったアニーを
軽く放り投げちゃうなんて、 やっぱりクララベルもいっぱしのロボットなんだ。 一瞬の出来事に、 佐倉井さんも、
おばあちゃんたちもびっくりして、 まるで酸欠状態の金魚みたいに口をぱくぱくさせながら、 私を助け起こすクラ
ラベルと、 壁からずり落ちてパンツ丸見えで地面にずっこけてるアニーを交互に見比べるだけ。
  でも、 アニーや、 須永さんの様子は、 他のみんなとは違ってた。 アニーなんて、 ホントだったら、 真っ先に
クララベルに食って掛かりそうなものなのに、 そのクララベルには見向きもしない。 かわりに、 さっき私のサポー
トコンピューターを覗き込んだ時と同じように、 お化けか幽霊でも見ているみたいな、 怯えた眼つきで私のことを
凝視して、 それから救いを求めるように須永さんを見つめた。 その須永さんはというと、 私が髪をかきあげて、
首筋にあるサポートコンピューター接続端子の蓋をパチンと閉めているところをちらっと見ながら、 胸のポケットを
探ってタバコを取り出したんだ。 タバコでも吸って、 気持ちを落ち着かせて、 平静を装おうとしたんだろう。 でも、
間違ってフィルターのほうに火をつけちゃって、 苦笑いしながら、 使えなくなったタバコ地面に投げ捨てた。 須永
さん、 あからさまに動揺してるね。
「クララベル、 お前、 今、 何て言った?」
  須永さんは、 驚きを隠し切れない、 かすれ気味の声でクララベルに聞いた。
「この人は人間ですって言ったんです。 ロボットは人間に危害を加えてはならない。 また、 その危険を看過する
ことによって、 人間に危害を及ぼしてはならない。 私達にとって一番大事なこと。 決して破ってはならないこと。
そうですよね?」
  クララベルは、 力強くそう言い切ると、 同意を求めるように、 私のほうを振り向いた。 曖昧にうなづくしかない私。
  気がついちゃった。 須永さんもアニーも、 私がロボットじゃなく全身義体の人間なんだってことに気付いちゃった。
2133の444:2005/07/25(月) 03:18:48 ID:4YgGhvkx
  アニーは、 私がロボットだと思い込んでいたからこそ、 私に対してやりたい放題だったんだよね。 でも、 その
私が人間だったとしたら、 どうなる。 ロボットが人間様に危害を加えたってことになるんだよ。 もしも、 私が訴えた
としたら、アニーのAIは危険プログラムとして完全消去。 須永さんもロボットの持ち主として何らかの責任は当然
問われることになるんだろうか? だから二人とも、 びびって、 焦っているんだね。
  だけど、 それは私が生身の身体を持っていたら、 の話。 今の私の身体は、 法律的にはあくまでも脳だけ、
私の身体は、 身体じゃなくて、 あくまでも私の持ち物ってことになっているんだ。 私は、 義体なしに生きることなん
てできないのに、 それでもただのモノ扱いなんて、 変な話だけどね。 だから、 私が須永さんやアニーを訴えたとこ
ろでせいぜい器物損壊にしかならない。 自動車事故と同じだね。 ううん、 今回は別に義体を壊されたわけでもない
から、器物損壊ですらないよ。
  だから、 私が今回のことを警察なりサイボーグ協会に訴えても、 今のところはかえって自分が惨めになっちゃう
結果にしかならない。 そんなこと、 よく分かってる。 それに、 もしも仮に訴えが通ったとしても、 アニーみたいな、
いかにも人間らしい反応をするAIを消すなんてことは、 私にはとてもできないよ。 怒ったり、 悲しんだり、 楽しんだり、
人間と同じような感情を持つプログラムを消すのは、 なんだか、 人を殺しちゃうのと同じ気がして後味が悪すぎる
もんね。 だから、 私には訴える気はないよ。 安心してよ。
  でも、 アニーに機械扱いされて、 このまま泣き寝入りっているのもなんか悔しい。 ちょっとくらい意地悪して、 脅
かしてやったって、 罰は当たらないよね。

「君は・・・、 君は完全義体なんだね・・・」
  須永さんが、 私に向かって、 恐る恐る聞いた。
  完全義体って全身義体のことだよね。 ふーん。 ギガテックスではそういう言い方をするんだ・・・。 そう、 その通り
だよ。 でも、 「義体なんだね」じゃなくて、 「人間なんだね」って聞いて欲しいかったな。
「そうです・・・。 だけど、 そんな言い方しないで下さい。 こんな身体だったとしても、 私は人間なんだから。 ねえアニー」
2143の444:2005/07/25(月) 03:19:57 ID:4YgGhvkx
  私は、 わざと意地悪っぽく、 ふてくされて答えて、 アニーのほうを向いた。
「すみません。 すみません。 すみませんでした」
  さっきまでの元気はどこへやら。 アニーは、 スカートのすそが汚れるのも構わずに、 床にぺたんと座り込んで、
俯いて、 学校で悪さをして先生に叱られる生徒みたいに、 すみませんを繰り返すばかり。 私が人間だって分かった
とたんにこうだもんね。 アニーには、 心があるのかもしれないけど、 所詮ロボットなんだ。 決して人間には逆らっちゃ
いけないってプログラムされているんだろうね。 私は、 身体は機械だけど、 心まで檻に嵌められているわけじゃない。
でも、 アニーの心は檻でがんじがらめにされてちゃってるんだ。 もしも、 機械にも心があるとしたら、 そんな状態って、
かえって辛いのかもしれないよ。 すみませんってひたすら繰り返すアニーを見てたら、 なんだか可哀想になって、
怒りも萎えちゃったよ。
「ちょっと、 須永さん、 かんぜんぎたいって何ですか? 八木橋さんはロボットじゃなくて人間だったの? 私、 なんだか、
全然飲み込めないんだけど」
  ロボットだ義体だ人間だって単語が次々に飛び交う私達のやりとりについていけなくなったんだろう。 佐倉井さんが
口を挟んだ。
「うん」
  須永さんは、 軽くうなずくと佐倉井さんや、 おばあちゃんたちに説明をはじめた。
「アニーは、 さっき彼女のことをロボットだと言い張ったね。 でもクララベルは人間だと言った。 アニーは、 体温パター
ンで相手が人間かロボットか識別するシステムなんだ。 でも、 クララベルは、 アニーと違って相手の脳波を読み取っ
て識別している。 相手の感情を本当に理解して、 正しい反応をしてもらうためには、 そっちのほうが都合がいいからね。
つまり、 それはどういうことかと言うと、 彼女、 八木橋さんっていうのかな、 八木橋さんは、 体温パターンはロボットと
同じかもしれないけど、 脳はちゃんとあって、 れっきとした人間ってことなんだ。 体は機械でも、 頭は人間だってこと
だね。 そういう人のことを完全義体って呼んでいる」
2153の444:2005/07/25(月) 03:34:02 ID:4YgGhvkx
  どうして、 アニーが私のことを、 一目で機械の身体だって見抜いたんだろうって、 ずっと不思議だったんだけど、
須永さんの話を聞いてやっと分かったよ。 そうだよね。 私の身体は、 体温なんかないもの。 機械から発生する排熱を
利用して擬似的な体温を作り出す装置はあるけど、 そんなのまがいもので、 普通の人の体温とはやっぱり違うもんね。
アニーにかかったらすぐ見破れちゃうってことなんだろう。 でも、 そのアニーも、 私の身体が機械ってことは分かっても、
人間の脳みそがついているところまでは分からなかった。 だから私のことをロボットと思い込んだ。 そういうことだね。
  須永さんの話は当事者である私以外には、 きっと難しかったんだろう。 おばあちゃんも、 佐倉井さんも、 まるで
外国語をまくしたてられている見たいな、 よく分かりませんって顔で須永さんの話を聞いていたけど、 身体が機械でも
頭は人間ってところで、 ピンときたみたい。 みんな、 一瞬びっくりして、 ぎょっとした顔で私のことを見たんだ。 そうだ
よね。 今までロボットだって思いこんでいた私が、 ほとんどロボットと同じ身体のくぜに実は人間なんだって聞かされ
たら誰だって驚いちゃうよね。
「須永さん。 それ以上言うのはやめてください」
  クララベルが、 相変わらず自信なさげに、 おずおず切り出した。
「だって、 あの・・・、 この人、 とても悲しそうなんです」
  クララベルの声に、 須永さんは、はっとして、 私の表情を見て、 口をつぐんでしまった。
  クララベルの言う通り、 私は悲しかったよ。 泣くことはできないけど、 きっと泣きそうな顔をしていたと思うよ。 自分
の体のことが、 みんなにばれてしまって、 そしてみんなの私を見る顔つきが変わるときほど私にとってつらい瞬間は
ないもの。
  ああ、 クララベル。 須永さんが言ったように、 人の感情を理解して正しい反応をする機械の女の子。 貴女はほんと
うに優しいんだね。 有難う。 でも、 いいんだ。 須永さんも、 私に気を遣わなくてもいいんだよう。 だって、 全部本当の
ことだもん。
  須永さんが黙り込んでそれ以上話さなくなちゃったから、 私、 代わりに自分で話すことにしたよ。 自分自身の身の
上を全部ね。 この期に及んで隠したってしょうがないもんね。
2163の444:2005/07/25(月) 03:35:15 ID:4YgGhvkx
「私、 二年前に交通事故に遭ったんです。 ひどい事故でね、 親も兄弟もみんな死んじゃって、 私の身体も滅茶苦茶に
なっちゃったんだ。 運よく私だけは助かったんだけど、 その代わり私の身体は脳みそ以外、 全部機械になっちゃった。
だから、 みんなが見ている、 私のこの身体は、 人間そっくりにできた、 ただのお人形さんなんです。 外見だけじゃな
いよ。 この身体の中には、 コンピューターとか機械部品がいっぱい詰まってるんだ。 だから、 佐倉井さんが、 私のこ
とをロボットと間違っちゃったのも無理ないんです」
  そこまで一息に話すと言葉を切った。 みんな、 じっと黙って私の話に聞き入っている。 須永さんも、 佐倉井さんも、
おばあちゃん達も。 私の悲しみを痛いほど感じているだろうクララベルや、 私のことが憎くてたまらなかったはずの
アニーでさえも。
「私は、 こんな身体でも、 自分のことを人間だと思っています。 みんなと同じだと思っています。 でもね、 他の人から
見れば、 やっぱり違っていたんです。 よくて、 身体障害者。 みんなと同じ食事をすることもできない、 女なのに子供を
作ることもできない可哀想な人。 悪ければ、 人と違う不気味な存在。 生きている人形。 ただの機械女。 高校生の時は、
周りの人はみんな、 機械の身体になった私を見て、 そんなふうに思っていたんです。 私の心は、 心だけはみんなと
同じはずなのに・・・。 だから、 私、 誰も知らないところで新しい暮らしをはじめたかった。 自分に嘘をついてでも、 この
身体のことは隠して大学に通いたかったんだ。 新しい友達と普通の付き合いをしたかったんだ。 こんなによくできた
身体だもん。 黙っていたら普通の人と変わらないもん」
   そう、 私は、 逃げてきた。 高校のときのかかわりなんか全部断ち切って、 私の過去を誰も知らないところに逃げ
てきたんだよ。 こんな、 不気味な機械人間の私のことを人間扱いしてくれるところなんて、 どこにも、 ありはしないんだ。
だったら、 私ことを誰も知らないところで、 私の身体のことはひたすら隠して、 生身の人間のふりをして生きていこう。
私はそう決めたんだ。 みんな、 そんな私のことを弱い人間だと思うだろうか? 臆病者の負け犬って思うだろうか?
2173の444:2005/07/25(月) 03:36:18 ID:4YgGhvkx
「佐倉井さん。 佐倉井さんの妹さんと私は同じ大学の同じ学部で勉強することになるんだよね。 だったら、 お願いだよう。
私の身体のこと、 私と佐倉井さんだけの秘密にして下さい。 妹さんには内緒にしてください。 もしも、 私の身体のことが
ばれて、 高校の時と同じことになったら、 私は生きていく自信がなくなっちゃうよ」
  ひょっととしたら、 私、 とても失礼なことを言っているのかもしれない。 これじゃあ、 まるで、 佐倉井さんの妹さんが、
私のことを馬鹿にするって決め付けてるみたいだもんね。 佐倉井さんの妹さんは、 本当は、 私の身体のことなんか
気にしない、 とても優しい子なのかもしれないよ。 でも、 私には、 そんなふうに考える余裕なんかなかった。 私の身体
のことを知った人はみな、 私のことを蔑んで、 哀れんで、 馬鹿にする、 そんなふうにしか思えなかったんだ。 悲しいこと
だけどね。
「う・・・うん分かった。 分かったわ。 清香には、 あなたの身体のことは絶対に言わない。 このことは、私と貴女だけの
秘密。 約束するわ」
  膝をついて佐倉井さんにすがりつくように懇願する私に気おされたんだろうか。 佐倉井さんは、 私の手を握ってそう
約束してくれて、 私はちょっとだけ救われた気分になったよ。

  私のまわりに、 いつの間にか、 はるにれ荘のおばあちゃん達が集まっていた。
「八木橋さん」
  ウェーブのかかった真っ白な髪のおばあちゃん、 山下さんが、 そっと私の背中に手を置いて優しく声をかけてくれた。
「八木橋さん、 まだ若いのに、 ずいぶん辛い目にたくさん遭ってきたんだろ? だから、 人が信じられなくなっているん
だろ? だからって、 そうやって、 これからずーっと自分に嘘をついて暮らしていくっていうのは、 きっと辛いことだと思うの。
ストレスだってたまるよ。 ありのままの自分を曝け出して生きる場所も、 きっと貴女にとって必要。 そうよねえ」
  山下さんは、 他のおばあちゃんに向かって同意を求めた。
2183の444:2005/07/25(月) 03:51:07 ID:4YgGhvkx
「そうそう。 あなたも私達と一緒にここで暮らさない? ここに住んでいるのは、 みんな一人暮らしの寂しい人ばっかり。
夫と死に別れたり、 妻と死に別れたり。 そんな私達年寄りが肩を寄せ合ってくらしてるところさね。 あなたみたいな、
若い女の子が来てくれたら、 はるにれ荘も華やかになって、 きっとみんな喜んで、 元気がでると思うよ」
「機械とか人間とか、 そういうことは、 ここでは余り関係ないよ。 アニーちゃんは、 世間様ではロボットなのかもしれない
けど、 私達にとっては可愛い孫みたいなものだもの。 あなたの身体がさっき言ったみたいに半分機械だからって、 私
達は気にしないよ。 ほら」
  私の手に飴玉が置かれた。
「これでも食べて元気出しなさいよ」
  なんだよ。 このおばあちゃん、 変だよ。 全身義体の私が飴なんか食べられるはず、 ないじゃないかよう。 なんだよ、
こんな、 飴なんか、 飴なんか・・・。 なんで、 そんなに優しいんだよう。
「あら、 八木橋さん。 泣いてるのかい?」
  山下さんは、 飴玉をぎゅっと握ってうつむいたままの私の顔を覗き込んでいった。
「そんなことない。 私の身体は泣けるようにはできていないもの。 ただの機械だもの。 涙なんか流れないもの」
  あわてて、 顔を上げる私。
「あら、 違うわよ。 誰だって、 泣くわよねえ。 泣くことなんて、 決して恥ずかしくないよねえ」
「そうそう、 アニーもよく泣くわね。 涙は流さないけど、 アニーは泣き虫さんだよね」
  おばあちゃんたちは、 そういっていつまでも可笑しそうに笑いあっていたんだ。

「さっきはアニーが、 君を人間とは気がつかずにひどい事をした。 アニーのやったことは、 私の責任でもある。 謝って
すむ問題ではないかもしれないけれど、 許して欲しい。 このとおり」
  突然須永さんが、 私の前で土下座した。 須永さんの様子を見て、 楽しそうに笑ってたおばあちゃんも笑い事じゃない
と思ったんだろう。 みんな黙りこくって私達をみつめた。
2193の444:2005/07/25(月) 03:52:18 ID:4YgGhvkx
「もしも君が訴えたら、 人間に危害を加えた危険プログラムということで、 きっとアニーのAIは消されてしまうかもだろう。
でも、頼む、 このとおりだ。 虫のいいお願いかもしれないが、 それだけはやめてくれ。 君も気がついたかもしれないけど、
アニーには心があるんだ。 ただの機械かもしれないけど確かに心があるんだよ。 もちろん、 ただで許してくれとは言わ
ない。 その代わりに、 君が望むのであれば、 ここで自由に暮らして欲しい。 もちろん、 家賃はいらない」
   額を地面にこすりつける須永さんの姿に私はびっくりした。 私は人に土下座までされて何かを頼まれたことなんて
ないもの。 何かの冗談かと思ったよ。 いくら私が危害を加えられたっていっても、 私自身ではなく、 私の所有物、 義体
に危害が加えられただけなんだ。 それも、 未遂で終わっているから、 大した罪にはならないはずだよ。 私としては、
謝ってくれたら、それで終わりだと思ってた。 まさか、 はるにれ荘にただで住まわせてくれるなんて思ってもみなかった。
   須永さん、 そこまでしてアニーを守りたいと思っているんだ。 アニーは、 須永さんにとって、 そんなにも大事なもの
なんだ。 須永さんは、 アニーには心があるっていっていた。 それは、 私も感じていたこと。 アニーは、 クララベルみたい
な普通の従順なロボットとは、 どこか違う。 須永さんに見せた無邪気な子供の姿、 私に見せた悪魔の顔。 おばあちゃん
たちはアニーのことを泣き虫さんって言っていた。 普通のロボットが、 そんな沢山の感情を持っているはずがない。 アニー
には、 いびつかもしれないけど、 確かに心が宿っているのかもしれない。
  だから、 須永さんにとってアニーのAIを消すことは、 人を殺すことと同じことなんだ。 きっと、 自分の娘を殺すみたい
なものだろう。 そんなこと、 できるはずないよね。 そんな、 須永さんの気持ち、 私には痛いほど伝わってきたよ。
「え? でも、 須永さん。 どうしよう、 そんなこと言われても、 私、 困っちゃうよう」
  ただで家に住むことができる。 そして、 周りには、 こんなにも優しい人達がいる。 私が、 こんな身体でも受け入れて
くれる人達がいる。 とてもいい話だよね。 どうして、 私、 こんなオイシイ話、 素直に二つ返事で引き受けないんだろう。
2203の444:2005/07/25(月) 03:53:03 ID:4YgGhvkx
  どうして、 こんな風に言葉を濁しちゃうんだろう。
   分かってるよ。 アニーがいるからだ。
  私は、 身体は機械かもしれないけど、 心がある。 だから、 ロボットとは違う。 私はずっとそう思ってきた。 そう思う
ことで自分自身を慰めていた。 でも、 もしも、 機械にも心が宿るとしたら、 私の立場はどうなるんだろう。 心があるから
人間だ、 なんてとても言い切れなくなっちゃうじゃないか。
  だから、 私には、 アニーのことを認めることができない。 アニーと一緒に暮らすことなんかできない。 私は心が狭い、
嫌な女なんだよ。
「私がいるからでしょ! 私がいるから、 はるにれ荘に住みたくないんでしょ! 私、 あなたに、 人間のあなたにとんでも
ないことをしちゃったんだもの。 所詮ロボットにすぎない私のことを許すことなんて、 できないんでしょ!」
  黙って私の様子をじっとみていたアニーが、 まるで私の心を見透かしたみたいに言った。 アニーの言葉の一つ一つが、
私の心にちくちくっと突き刺さる。
「私が消えれば須永さんにも迷惑はかからないし、 あなたの怒りも収まるよね。 だからね。 こうすることにしたの。 こう
するのが、 一番いいんだ。 ふふふ」
  アニーの指先から、 また例の接続端子がにょっきり姿を現した。 アニー、 今度は何をするつもりなんだろう。 自分を
消すって一体どういうことなんだろう。
「アニー! 馬鹿な真似はやめろ!」
  須永さんが、 はじけたみたいにアニーに向かって走った。
  アニーは端子をもうかたっぽの手で掴んで・・・。 このとき、 ようやくアニーが何を考えているのか分かった。 アニー、
自分の端子に向かって1500Vの電気を流すつもりなんだ。 さっき、 さんざん私を脅かしたみたいに。 そんなことしたら、
そんなことしたら、 アニーのAI、 この世から消えちゃうじゃないか!
  ばちん。
  電気がはじける音がして、 アニーの手から火花が散った。
  須永さんがアニーのもとに近寄るのと、 アニーが壊れた操り人形みたいに地面に倒れるがほぼ同時だった。
2213の444:2005/07/25(月) 04:13:08 ID:4YgGhvkx
今日はここまで。もう眠くて文章よれよれ。

をを。エロに期待してくれる人、いらっしゃいますか。
息子さんの期待に応えられるものが書けるといいなあ。
>>194
じゃあ、次はヘンリエッタを登場させてみましょうか?
 
222名無しさん@ピンキー:2005/07/25(月) 20:56:49 ID:zgudD1D3
>>3の444氏

Σ(゚Д゚;)




#まさに衝撃の展開。
#うまく言葉がみつからないので・・・お察し下さい
223名無しさん@ピンキー:2005/07/25(月) 22:44:35 ID:Xcr04Esz
アニーたん三原則の自己保存に反してる。
心あるロボットか…
224名無しさん@ピンキー:2005/07/25(月) 23:45:33 ID:NI5FSlKt
444さん、すばらしい話です。
自殺する機械、心を持つ機械。
人間と同じ心を持つのに、物扱いされるロボット。
八木橋さんより辛いかも知れません。
225名無しさん@ピンキー:2005/07/26(火) 22:43:40 ID:KLUrv7lb
ヤギー同様、アニーも自分の立場にコンプレックスを抱えているらしいことは分かった。
しかしアニーには悪いが、人間に手出しを出来ない憂さを「人間以外」で晴らした上に、
自分のしでかした事を反省もせず、更に、親近憎悪の対象の目の前でこれ見よがしに
自殺を図るような性悪女には、これっぽっちも同情は出来ん。

と言うか、はるにれ荘での彼女の扱われ方を見ると、ここまで心に闇を抱える理由が分からんのだが。
須永さんの所に来る前は、文字通り「中古品」で人間不信に陥っていたとか、
実は「利用価値の無くなった脳改造済み全身義体のリサイクル品」だったとか、
単に須永さんやおばあちゃん達に愛想を振りまくのに疲れたとかでもない限りは。
226名無しさん@ピンキー:2005/07/27(水) 01:06:49 ID:l++i13fa
バックアップ戻せば直るんでないの、バックアップから当日までの記憶は無くすだろうけど…
227manplus:2005/07/27(水) 01:30:14 ID:xe+PJCUq
 0Y461D23H30M00S。みさきがアクティブモードになる前に処置室に向かう。
処置室には、魚の開き状態のみさきが意識なく横たわっている。あと30分もすれば、アクティブモードに
生命維持管理システムによって切り替えられるはずである。私たちの睡眠サイクルは、完全に機械に
支配されているのである。
清水ドクター、徳永ドクター、前川さん、七海、クリスそして、えりかも処置室に入ってきた。
0Y462D00H00M00Sにみさきの意識がアクティブモードに切り替わった。
「みさきさん、目覚めは如何ですか?」
えりかの質問に、みさきは、
「うーん。残念ながらいつも通り、身体の感覚がないのをのぞいては。」
そう言っているみさきの身体に取り付けられた栄養液補充パックと排尿処理パック、排泄物処理パックの交換を
手際よくクリスがおこなった。
「自分の栄養補給も、排泄処理も自分では出来ないのだから嫌になるわ。」
みさきの言葉に、七海が、
「分の身体に起こるすべてを素直に受け入れなきゃって言ってるでしょ。」
とお説教をしている。
「はい、先生。」
とおどけながら、みさきがその言葉を忠実に受け入れていた。いいチームワークが出来そうである。
「今日は、心肺システムの機械化を行います。清水ドクターは、美々津少佐の生体のチェック、如月大佐と
望月七海中佐は、バックパックのチェックと充電を、如月中尉と山田少尉は、外部据え置き型人工心肺の
動作チェック、清川さんは、私と人工心肺システムのチェックをおこなって下さい。それから、如月中尉と
山田少尉は、人工血液のパックの用意もお願いします。それでは作業に取りかかって下さい。」
しばらくして、全ての人工機械器官の部品や生体部分のチェックが終わり、みさきに対する
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ手術が再開された。
228manplus:2005/07/27(水) 01:31:53 ID:xe+PJCUq
 まず、心臓に繋がる動脈と静脈が外部据え置き型人工心肺に繋ぎ変えられて、その間に人工血液への血液の
入れ替え作業も行われた。程なくするとみさきの身体を流れる血液が白い人工血液に全て入れ替えられた。
そして、生体肺や生体心臓が切除され、人工心肺システムを胸に納められ、バックパックからロータリーポンプ型
人工心臓に直接チューブが繋げられ、人工血液が呼吸液の役割を果たし、直接酸素と二酸化炭素のガス交換が
行われるようになっている。人工心肺システムの基本的なところは、私の身体と変わりがないのだが、
酸素発生装置や二酸化炭素除去再生装置は、定期的に、システム内の触媒や処理しきれない
二酸化炭素排気体回収カプセルを惑星探査宇宙船内では、宇宙船のハードウエアが自動処理再生し、
地球上では、カートリッジごと交換しなくてはいけないようになっており、酸素発生装置の触媒カートリッジも
宇宙船内は、自動処理再生を宇宙船のシステムで行い、地球上では、定期的なカートリッジの交換が
必要であり、完全に周囲から独立した存在になっていないことが大きな違いであった。宇宙船から離れると
自分一人で生きることが出来ないことを認識させるということで、宇宙船に組み込まれ、繋がれることが自分の
生きる意義なのであることを認識させる意味を持っているのだそうである。宇宙船から降ろされたら、
完全にサポートヘルパーなしには生きていけないようになっているのである。私たちのように完全に環境から
切り離されて半永久的に生き続けなければならないのも残酷なことではあるが、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグのように、宇宙船から降ろされての休養期間は、
誰かに四六時中世話されなければ生きることが出来ないというのも残酷なことであると思えた。
229manplus:2005/07/27(水) 01:34:47 ID:xe+PJCUq
 首の部分は、食道も気道も取り除かれ、脳や首筋に設けられたバックパックの補助コンピュータやその他の
ハードウェアと胴体部分のコンピュータやハードウェア、そして、生体脳を繋ぐためのケーブル類や脳や
神経システムを最大限に機能させるために、人工血液を大量に送るための通常より太めの人工血管、
神経システムと神経システム強化補助装置といった、彼女の存在意義とも言える生体脳電子頭脳協調システム、
宇宙船操作管理システムのケーブル類が数多く通るように首の太さの全てをケーブルが通るための
ケーブル防護管にされた。そして、簡単には切断できないように防護管の外部にも強化保護管が取り付けられた。
生体コンピュータシステムとしての彼女の重要部分となるのだ。
 私たちに取り付けられた外部発声用スピーカーシステムなどというものは必要なかった。
会話は、コミュニケーションサポートシステムだけで充分と言うことであった。
「さあ。呼吸システムのサイボーグ手術が終了したわ。40時間の長い手術に美々津少佐はよく耐えてくれたわね。
お疲れ様。そして、みんなも、ご苦労様。8時間の休憩に入りましょう。」
「ハイ。了解しました。」
徳永ドクターの声に、みんなが声を合わせて答えた。
「それでは解散にします。」
徳永ドクターはそう言って処置室を出て行った、清水ドクターもそれにつづいて出て行った。
「呼吸器官がサイボーグ化されたわね。これで宇宙空間でも生きれる身体になったということよ。山場は過ぎたわ。
今日はゆっくり休んでね。みさき。」
そう言って、七海とクリスが出て行った。
230manplus:2005/07/27(水) 01:35:33 ID:xe+PJCUq
清川さんは、生命維持管理装置のパネルを操作して、彼女をレストモードにする操作をしてから出て行った。
私とえりかは、みさきの顔を見て声をかけた。
「みさき、つらいことばかりだと思う。でも、私もついこの間このつらさを経験してきたばかりなの。
もうこの事態を受け入れるしか私たちには、残された選択がないの、一緒に頑張ろうね。」
「うん、ありがとう。」
みさきが答えた。
えりかが、
「私もお姉ちゃんやみさきさんに続くことになると思います。どう考えても、私のサイボーグ化手術の順位は、
かなり高いんだもの。この気持ちを大事に持って、サイボーグ化手術に望むつもりです。
だから、みさきさんのことを精一杯思って、サポートします。頑張って下さい。」
「あら、はるか、妹の方が、しっかりしているかも。」
「みさき、冗談を言わないで、この子のどこがしっかりしているのよ。」
「だって、姉を探すため、自分もこの処置を受けることを決意したなんて相当の覚悟よ。」
「えりかは、無鉄砲なだけよ。」
「はるか、感謝しなきゃだめよ、こんな姉思いの妹を持って。」
「みさきさん、私、みさきさんも、私の姉と思ってサポートします。頑張って下さい。」
そう言って、えりかが出て行った。
そして、私だけ残された。
私は、みさきと見つめ合い、言葉には出さないが、一緒にこのミッションを成功させようという意志を交わしあった。
もう後戻りできない立場にあるのだ。


231manplus:2005/07/27(水) 01:44:27 ID:xe+PJCUq
0Y462D00H00M00S。
次の処置が始まる時がきた。
 徳永ドクターが、今日の術式の説明を開始する。
「今日は、入ります。まず機材のチェックを行ってもらいます。如月はるか大佐と如月えりか中尉は、
体内埋め込み型補助コンピューターと体内埋め込み型ハードディスク、周辺機器、
腹部取り付け外部操作用補助操作パネルといった美々津少佐に取り付ける電子機器類すべての
動作チェックと初期化作業を行ってください。宇宙船の制御機器類の最重要機材の一部ですから、
入念に行ってください。望月七海中佐と山田少尉は、フロントパックのチェックと調整。
人工老廃物除去サポートシステムの部品のチェック、人工肝臓システムの部品チェックをお願いします。
清水ドクターは、ドナーである美々津みさき少佐の生体部分の処理手術をお願いします。前川さんは、
清水ドクターのサポートにまわってください。私は、その間に、女性ホルモン分泌システムの動作チェックと、
両手両脚切断面に新たに取り付けられる外部機器接続用ケーブルコネクターの動作チェックを行います。
各自の作業を開始しましょう。」
 徳永ドクターの指示で各自が指定の仕事に着く。清水ドクターがみさきの身体の処置手術に取りかかった。
傍らで前川さんが、臓器保存液の入ったパックを用意したり、外部据え置き型老廃物除去装置のチェックを
行っていた。そして、清水ドクターが、メスの用意を前川さんに指示した。
232manplus:2005/07/27(水) 01:44:59 ID:xe+PJCUq
清水ドクターは、ものの見事に、次々と内蔵を切除していった。胃や小腸、大腸といった消化関係臓器が
切除され、移植臓器として、臓器保存パックに丁寧に封入された。そして、肝臓や膵臓、胆嚢といった臓器が、
肝臓周辺臓器代替システムの生体部品として、徳永ドクターに渡され、人工臓器の一部としての生体部品という
存在でシステムに組み込まれ、移植作業を待つ状態にされた。次に腎臓や膀胱、ょうどうが除去され、
移植用に運び出されていった。そして、外部据え置き型老廃物除去装置に血管がつながれた。そして、
性器の除去が行われた。卵巣、子宮、膣などの女性器が取り除かれた。私自身の処置を含め、
この処置を見るのは二回目になるが、何回見てもいやなものだった。人間の大切な部分がなくなってしまうのは
とてもつらいことである。みさきが、悲鳴なのだろうが、コミュニケーションサポートシステムを通して異音を
出しているのが分かった。清水ドクターは、それでも淡々と手術を進めていた。
もちろん、前川さんも何事もないようにサボートを続けた。そして、みさきの性器も前川さんの手により、
素早く液体窒素に漬け込まれ、冷凍保存された。そして、切り開かれた胸の中央部の位置に
外部装置接続バルブが取り付けられ、そこにチューブが接続され、チューブのもう一方が、
人工心肺システムに直接接続された。この手術により、酸素の供給、二酸化炭素の除去、
高濃度栄養液の供給が、ロータリーポンプ型人工心臓の働きにより、直接おこなわれるような
人工心肺システムが完成した。
「心拍音がしないので静かに感じますね。それに、内臓の空隙ってこんなに大きかったんだ。
実際に体験するとわかっていても驚くことばかりね。」
みさきがそういうと、徳永ドクターが、
「そうだと思うわ。でもこれからもあきれるほど驚くことの連続よ。ね。そうだったでしょ、如月大佐も
望月七海中佐も。」
私とみさきは、思わず同時に、
「本当にそうだった。辛さを通り越して、呆れるぐらい驚きっぱなしだったわ。みさきがんばって。」
そう、励ましていた。
そんな中でも、清水ドクターと徳永ドクターの手が休まることはなく、次の処置を二人でおこなっていた。
233manplus:2005/07/27(水) 01:47:33 ID:xe+PJCUq
 外部据え置き型老廃物除去装置を取り外し、肝臓周辺臓器代替システムと老廃物除去システムを所定の
位置に取り付け血管を人工血管に取り替えた上で、肝臓周辺臓器代替システム、老廃物除去システムに
つないでいった。そして、老廃物除去システムからでているチューブをへその部分に開けられたバルブ弁に
取り付けた。そして、高濃度栄養液供給用バルブと老廃物除去用バルブにフロントパックから伸び出した
チューブを接続した。そうすると、老廃物貯留カートリッジに老廃物が流れ出した。そして、次に性器のあった
空間に女性ホルモン分泌システムの金属の箱型のユニットが取り付けられた。そして、大きく空いた内臓を
除去した空間に体内埋め込み型補助コンピューターと体内埋め込み型ハードディスク、周辺機器といった
電子機器がセッティングされ、そして、補助エネルギー貯蔵供給装置が取り付けられ、
電子機器とケーブル接続された。そして、それぞれの電子機器が背中の部分から、バックパックの
補助コンピューターに接続されたり、生体脳と接続するためのケーブルが首を通ってケーブルでつなげられた。
そして、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルとケーブルで接続された。
また、補助エネルギー貯蔵供給装置とバックパックの機械部分駆動用蓄電池とケーブルでつなげられた。
しばらくすると電子機器類が作動を開始した。これで、みさきの胴体部分に納められるべき人工器官や
電子機器類は、すべて納められた。そして、股間の部分のカバーが取り外され、エネルギー外部供給用および、
受給用コネクターとデータ管理保存用ハードディスクと外部コンピュータを接続するためのコネクターが
取り付けられ、金属カバーで覆われた。みさきの股間のコネクターは、私たちとの情報データ交換にも使うことが
できるし、地球上で許可されたときには、バーチャルセックスの感覚コネクターとしても使用できる機能が
ついている。ただし、ミッション中は、この機能が使用されることは禁止されているし、元々、性欲自体を我々は、
バックパックから供給される薬物やホルモンで抑制されているので、残念ながら使う機会は当分ないのである。
234manplus:2005/07/27(水) 01:48:30 ID:xe+PJCUq
ひょっとしたら、機能チェックで感覚を少し味わえるかもしれないという程度だし、その感覚に浸るような意識は
剥奪されているサイボーグの我々にとっては、股間がもぞもぞするぐらいにしか脳が感じないのであった。
「さあ、これで、胴体を閉じるわよ。あじの開き状態おしまい。」
清水ドクターがそういって戯けながら、みさきの胴体を生体接着剤と特殊縫合糸を使って元のように
とじ合わせていった。
 そして、徳永ドクターにより、腹部に腹部取り付け外部操作用補助操作パネルが仮付けされた。
続いて、両手両脚の切断面に今まで取り付けられていた外部機器接続用ケーブルコネクターを取り除いた上で、
新たな外部機器接続用ケーブルコネクターが取り付けられた。
今までの外部機器接続用ケーブルコネクターよりも新しい外部機器接続用ケーブルコネクターは、接続端子が
5倍以上になっていた。取り付ける前に、内部からの神経やケーブルが無数に内側に接続されていた。
いよいよ、本格的な接続端子が機能するようになるのである。
「これでやっと終わったわね。美々津少佐の状態もここまでは順調だし、無事に胴体部分の
処置が完了といったところかしら。皆さん、72時間の連続処置ご苦労様でした。美々津少佐、よく頑張ったわね。
それでは、美々津少佐の表面組織が落ち着く時間もあるから。24時間の休息に入りましょう。それでは解散。」
清水ドクターの指示により解散して、処置室をでようとして振り返るともうみさきは、
前川さんの手でフロントパネルを操作され、レストモードに入って、意識を失っていた。
「ゆっくり休むんだよ、みさき。」
そう声をかけて処置室を後にした。


235manplus:2005/07/27(水) 01:58:06 ID:xe+PJCUq
 0Y466D00H00M00S。
 24時間ぶりの処置の開始の時間である。今日は頭部のサイボーグ改造手術を行う予定である。
「みさき、気分はどう?」
私の問いに、みさきは、
「気分というか、やっぱり最悪だよ。胴体部分には、私が生まれたときからのものがなんにも
なくなっているんだもん。本当に機械だけといった感じだし、自分一人では生きることさえ許されないんだから。
常に外部からの支援を受けて生きることになるのは、自分の意志がままならないところがジレンマを
感じてしまって悲しい気分になったわ。」
「私たちがサポートする。頑張って。」
七海が、フロントパックの高濃度栄養液供給用カートリッジと老廃物貯留カートリッジの交換を行いながら
激励した。
「うん。はるかと七海がこれから一緒だから頑張れると思う。」
みさきは、そう言って気をたかめていた。
「さあ、今日は頭部の処置を行います。頑張っていきましょう。」
徳永ドクターがみんなに声をかけた。
「それでは、清水ドクター切開処置をお願いします。その間に、補助サポートコンピューター、人工眼球、
永久型補助エネルギー作成供給装置、内蔵タイプコミュニケーションサポートシステム、
船内船外集音システムの作動チェックを残りのメンバーで行います。それでは作業にかかりましょう。
ここまで機械になってしまうと美々津少佐を人間としてみる感覚が麻痺してしまいますが、
れっきとした人間という生ものであるのは事実です。失敗しないように正確に迅速にサイボーグ手術を
進めましょう。」
「私は、人間だよ。決して機械やロボットじゃないよ。」
みさきの言葉が、私たちのコミュニケーションサポートシステムに響いた。
236manplus:2005/07/27(水) 01:59:09 ID:xe+PJCUq
「その通りだよ。みさき、私や七海も人間だという自負を持ってるよ。たとえ、みんなが機械仕掛けの
人形としか見てくれなくても、私や七海はあなたを人間として扱う。私たちも、みさきは人間として扱ってね。」
「ありがとう、はるか。」
「お姉ちゃんの言うとおりです。私やクリスもみさきさんを人間と思っています。」
「ありがとう。えりかさん。」
清水ドクターが、
「感傷に浸る閑はないよ。如月大佐、サポートよろしく。」
「了解。」
という私の言葉を待ちきれないように清水ドクターは、みさきの頭部のサイボーグ手術を開始した。
 頭皮カバーを取り外し、頭蓋骨を上半分取り外す。金属を切る甲高い音が響き渡る。骨組織が金属に
なっている証拠である。
そして、生体脳がむき出しになった。
「補助サポートコンピューターを取り付けます。」
補助サポートコンピューターは、脳にそのまま被せられるような形をしていた。そして、脳と接する部分に無数の
電極が取り付けられていて、生体脳と直接接続できようになっていた。補助サポートコンピューターを生体脳と
接続し、補助サポートコンピューターを固定できる人工頭蓋骨が補助サポートコンピューターの上に被せられ、
頭蓋骨の下半分に特殊金属ボルトで固定された。後頭部に空いた穴から、胴体の電子機器やバックパックの
補助コンピューターと接続するケーブルが出ていて、それぞれと接続された。ケーブルは、
カバーが取り付けられ防護した。補助コンピューターの駆動動力となる永久型補助エネルギー作成供給装置が、
口腔部に設置され、補助サポートコンピューターと接続された。そして、ゴーグルがはずされ、
人工眼球が視神経と繋げられ、顔面前部の大部分を占める位置に取り付けられた。
237manplus:2005/07/27(水) 01:59:41 ID:xe+PJCUq
そして、側頭部の耳だった穴のところに、内蔵タイプコミュニケーションサポートシステム、
船内船外集音システムと、宇宙空間対応型人工三半規管が、取り付けられた。
宇宙空間対応型人工三半規管に三半規管が取り替えられることにより、宇宙空間での自分の位置が正確に
把握できるようになる。そして、目の下には、宇宙船外部観察システムと船内観察システムとの接続コネクターが
取り付けられた。
 非常にデリケートな部分の手術は、思いの外時間を要し、60時間の時間を費やした。
徳永ドクターが12時間の休憩を指示した。これによって、みさきの身体は
全てサイボーグ体機械生体協調システムに置き換えられたことになる。私たちの身体も凄まじいほどの
機械化状態だが、みさきの身体は私たちを遙かに上回った機械化状態である。
みさきがふさぎ込みたくなるのもわかる。しかし、私や七海、みさきには、ふさぎ込むことも許されていない。
考え込んでいる時間はないのである。火星探査のためのプロジェクトのために私たちの時間は、
全てを捧げざるを得ないのであった。
「がんばれ、みさき、そして、がんばれ、プロジェクトの全サイボーグ手術候補者たち。」そう心の中で私は
つぶやいた。


238manplus:2005/07/27(水) 02:07:08 ID:xe+PJCUq
 0Y469D00H00M00S。
「きょうは、皮膚の改造をおこないます。美々津少佐の人工皮膚のチェックをみんなでして下さい。」
徳永ドクターが指示を出す。
 私たちは、みんなでみさきの新しい皮膚を異常はないかと入念にチェックした。
そして、みさきの身体から、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルがはずされ、みさきの身体に丁寧に
人工皮膚完全融合用深部溶解型接着剤が塗布された。そして、金属の光沢を持った人工皮膚である
メタルスキンにも人工皮膚完全融合用深部溶解型接着剤がまんべんなく塗られていった。みさきの皮膚になる
メタルスキンは、シリコンとチタンとラバーの複合体で、ラバー的な質感のする金属光沢で鈍く光る人工皮膚で、
人工皮膚完全融合用深部溶解型接着剤により、表皮から筋肉組織にいたるまでの部分を融合させた皮膚組織と
なるようになっており、ちょうど甲虫類の堅い外皮のような構造になるようになっていた。その為、胸の部分や
腹部の腹部取り付け外部操作用補助操作パネルの取り付けられる部分の下、首、頬、腰部などに
点検用の開閉式パネルが開けられることになっている。
手脚のない身体が金属製の鎧の中に入れられたような感覚なのである。
概骨格形式人工皮膚にみさきがなるのは、内部の電子機器や生体脳という惑星探査宇宙船にとっての航行を
コントロールする重要な機材であるためである。
「メタルスキンは、慎重にしっかりと生体に取り付けてね。」
徳永ドクターからの注意がとんだ。
「了解です。」
みんなが答え、二人ずつになって、パーツごとになっているメタルスキンをみさきに取り付けていった。
頭部のメタルスキンは、ヘルメットのようになっていて、より強度があるようになっていた。
チタン独特の鈍く光る金属光沢にみさきの身体がなった。そして、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルや
バックパック、フロントパックが取り付けられて、みさきが完全に、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグに
生まれ変わった瞬間だった。
239manplus:2005/07/27(水) 02:14:24 ID:xe+PJCUq
胸には、「SHIP.OP1 MISAKI MIMITSU」という文字が書かれていた。
もちろんバックパックにも同じように書かれている。
「おめでとう。惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ SHIP.OP1の誕生です。この呼び方にも慣れておくこと、
コードネームで呼ばれることもかなりの機械であると思って下さい。40時間かかっての処置がすみましたので、
8時間の休息の後、新しい身体が正常に機能するかをチェックします。そして、先に改造手術を受けた、
火星探査開発用サイボーグの4人と共に慣熟訓練に入ります。今日から2日間は、皮膚の定着のため、
意識をレストモードに保ちます。清川さん、美々津少佐のレストモードへのモード変更をお願いします。」
清水ドクターが指示を出した。前川さんが、みさきの腹部の腹部取り付け外部操作用補助操作パネルを
操作するとみさきの意識が突然なくなった。レストモードへ移行したのだ。
「それでは、0Y473D00H00M00Sまで解散します。各自ゆっくり休息をとって下さい。」
清水ドクターが続けた。
「それでは失礼します。」
そう言って、徳永ドクターと清水ドクターが処置室を出て行った。
私、清川さん、七海、えりか、クリスの5人は、SF映画に出てくるアンドロイドのように金属光沢を放つみさきの
皮膚を触って、感傷に浸って、処置室を一人ずつ出て行った。
240manplus:2005/07/27(水) 02:17:11 ID:xe+PJCUq
今日はここまでです。
みさきが手脚のないサイボーグであり、宇宙船を操縦するためだけに
存在する惑星探査宇宙船操縦用サイボーグに対になったところまでです。

今後は、訓練を中心に話を進めていくことになります。
241名無しさん@ピンキー:2005/07/27(水) 14:02:02 ID:bQNitR3K
ここはそういう趣向のスレらしいからいいんだけど、
現実的にはロボ・コップみたいな方が現実的だよね。
242名無しさん@ピンキー:2005/07/27(水) 22:30:33 ID:4lbiY9yA
俺としてはボーグに拉致られドロンに改造されたセブン・オブ・ナイン
みたいな話のほうがいい。
243名無しさん@ピンキー:2005/07/28(木) 02:42:51 ID:qu3WaP1r
>>225
とあるハカセの亡くなった子供に似せて作られたが身長が
成長しない事にハラを立ててロボットサーカス団に売り
飛ばされたところを拾われた過去があるので人間不信とか(w
244名無しさん@ピンキー:2005/07/28(木) 04:55:07 ID:lkGbJBzw
機会の体になったものの、その後自分のエネルギー源が人間の魂を吸い取って作られていることを知って絶望するサイボーグ娘とか
245名無しさん@ピンキー:2005/07/28(木) 07:35:15 ID:jShw6Jqc
999か
ここ見てる人って意外と平均年齢高そうだな
246名無しさん@ピンキー:2005/07/28(木) 11:45:48 ID:T4h9VRTR
manplus様いつも乙です。みさきさん惨めで萌えますね。これからもがんがって下さい。
247名無しさん@ピンキー:2005/07/28(木) 23:18:03 ID:fYKBzdxw
>>223

第二原則には則ってないか?
「危険を看過することで人間に危害を加えてはならない」ってやつ。

自分が「存在している」と須永さんが所有者責任を問われる
                    ↓
              人間に危険が及ぶ
                    ↓
              自分が消えればウマー
248名無しさん@ピンキー:2005/07/28(木) 23:34:29 ID:d+BodD1z
民事上の責任問題の危険と、この場合の危害は意味的にも別では?
249名無しさん@ピンキー:2005/07/29(金) 01:25:17 ID:RYOXW5k1
実際ロボット三原則を実装しようとするといろいろ大変そうだ
曖昧すぎて
250名無しさん@ピンキー:2005/07/29(金) 01:58:41 ID:edbckX16
ロボット三原則なんてものが実際に適用されたら、矛盾に苦しんで自壊するロボットがあちこちで出そうだ・・・

むしろ、常識や良識をプログラムして、アホな命令をする人間を穏やかに諌める、ぐらいの権利を認めたほうがいい気がする。
最近のDQNどもを見てると、人間様のどこが偉いねん、とか思ったりして。

うわ、我ながら暴言 orz
251名無しさん@ピンキー:2005/07/29(金) 19:15:18 ID:YCHwKZix
>>250
人間同士が常識の違いで殺し合うような状態なのに、
ロボットにどうやって矛盾の無い常識を植えつけるというのだ?
252名無しさん@ピンキー:2005/07/29(金) 20:21:35 ID:ZVi3shUt
>>ロボット三原則なんてものが実際に適用されたら、矛盾に苦しんで自壊するロボットがあちこちで出そうだ・・・

て、三原則は努力目標であり、破ったらペナルティでは?安全運転義務違反じゃないけど、事故が起きたら罰則
の規則だと思う。ロボットが多岐にわたる以上三原則を守らせるプログラムは機種の数だけあるだろうし、
バグとりもしていくもので、常に改善してくものであるはず。ウィントウズみたいに、パッチあてはかかせない。
こんかいのアニーの様に、ソフトがあっても検証手段がなく人間が認識できないのも、システムとしては当然
欠陥だし…
253名無しさん@ピンキー:2005/07/30(土) 05:01:33 ID:VlMQIMBi
まぁ、色々言いたいことはあるが、結局三原則って、
「安全」・「便利」・「長持ち」という意味な訳で。
254名無しさん@ピンキー:2005/07/30(土) 05:19:08 ID:2HS/K8xb
>>245
サイボーグが流行ったのも70年代〜80年代だと思うし。

そういう俺は21wワカゾーデスヨ
バイオテクノロジーがサイボーグに取って代わった世代かな。
255名無しさん@ピンキー:2005/07/30(土) 06:54:39 ID:lcOr28pE
ロボット普及三原則=「うまい」「早い」「安い」。

安い=手頃な価格

早い=仕事の手際がよい




うまい=夜のお相手gあqwせdrftgyふじこlp;:「」
256名無しさん@ピンキー:2005/07/30(土) 12:54:45 ID:b150Nd7K
>255、何があったんだ!>255!!
257名無しさん@ピンキー:2005/07/30(土) 14:14:51 ID:vv3UCNfX
VC2のちさと以降これはというサイボーグキャラがいない・・。
258名無しさん@ピンキー:2005/07/30(土) 14:54:58 ID:cmhcrBNb
>>257
ちさとのためだけにサターンとFMタウンズを買ったぜ!!

…ってのはウソ。でもソフトのほうはマジでちさとのためだけに買ったよ。

メインキャラじゃないから絵や話が少ないのがちょっと残念だった。
もっと残念だったのが、ちさとの生活にふれるところまで深くかかわる描写がなかったこと。
ちさとのメンテシーンとか、ちさとをメンテする人たちがどんな人柄なのかとか、ちさとがどんな生活してるのかとか、もっともっと見てみたかった。
まあ、そんな不満がでるのも、ちさとが超萌えサイボーグ娘だからなんだけど。
259名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 00:17:12 ID:T3nBOvCK
>>258
わしも、ちさとのためだけにもう1台、旧式のパソを購入したやつです。

たしかに、どういう事故に遭い、手術を受けたのかをもっと、出してもらいたかった。
でも、なによりもうれしいのが、ちさとが赤子が産めるということ。
たしか、セリフの中で普段は、女性ホルモンの働きを抑えるために、ピルを飲んで経血
を止めている、というセリフが出たので、思わず熱くなった。
260manplus:2005/07/31(日) 01:28:23 ID:QGViWxJY
 0Y473D00H00M00S。
 みさきがアクティブモードになった。それを確認して、彼女のサイボーグ体の動作テストに入る。
私は、毎日の日課となっている、みさきのフロントパックの高濃度栄養液供給用カートリッジと
老廃物貯留カートリッジの交換を行う。この作業は、モードの変わり目に必ず行う処置である。
そして、バックパックの酸素発生装置の触媒カートリッジと二酸化炭素排気体回収カプセルの交換をおこなった。
この処置は、1日1回の日課となっている。そして、バックパックに接続してあるケーブル類、チューブ類の
接続の確認を行った。サイボーグ体の動作チェックが終われば、これらのチューブやケーブル類は、
地球上にいるときは、レストモードに入るときに接続し、アクティブモードが始まるときに外してあげるようになる。
もちろんこれらの日課は、宇宙船内では、宇宙船に繋がれているので、これらの日課は自動的に宇宙船の
コンピューターが維持管理してくれるので、手動ですることがなくなるのだが、みさきが地球上にいるときは、
常に必要とされるようになるのである。
 徳永ドクターが指示を出した。
「みんな、おはようございます。美々津少佐、本当に辛かったでしょうけれど、よく頑張ったわね。
サイボーグ手術の処置自体は成功しました。ただし、これから行う、サイボーグ体の機能動作チェックで
異常がないことが確認されて、初めて完全に成功ということにはなりません。もうすこし我慢してね。」
「ハイ、わかっています。正常に私のサイボーグになった身体が機能して、如月大佐や望月七海中佐たちと
一緒に火星探査のための完熟訓練に入れることを望んでいます。
もう、後戻りできない道を歩いているのですから、早く前に向かって歩き出していきたいです。といっても、
歩く脚が私にはないのか。」
気丈な答えの中に悪戯っぽいジョークを入れてみさきが答える。
261manplus:2005/07/31(日) 01:30:20 ID:QGViWxJY
「わかりました。それでは、清川さん、山田少尉美々津少佐の感覚剥奪処置の解除に入ってください。
清水ドクター、彼女の生体部分と機械部分のデータの取得と管理をお願いします。如月大佐は、私と一緒に、
如月大佐は、前川さんのアシスト、望月七海中佐は、清水ドクターのアシストにまわってください。それでは、
行動を開始します。みんな、気を引き締めて、頑張りましょう。分かっているとは思うけど、ここまで来ると感覚が
鈍ることがあるから、あえて忠告するけど、私たちが扱っているものは、生体部分がほんのわずかで、
標準体とは違いますが、私たちと同じ人間であることを忘れないでください。機械とは違うのよ。」
 徳永ドクターの言葉にみんな心の中で頷いた。私たちは、ラバーフィットスーツ装着者と
サイボーグ体となったものだけなので、首を実際に動かして頷くという行為のできるものは誰もいないのだった。
そういう意味では、みさきを機械として扱うという行為は、自分自身の人間としての存在を否定する行為なので、
誰も、間違っても、みさきに対してそのような感覚で接しようというものはここにはいるはずがないことは確実で
あった。でも、あえて、徳永ドクターは、自分たちが研究材料という目を持ってしまうことへの
自戒を含めていることは充分に理解できた。
 前川さんが、その感傷による沈黙を破るように、
「感覚剥奪処置の解除処置を開始します。」
そう言うと腹部取り付け外部操作用補助操作パネルと外部生命維持管理システムの操作パネルをクリスと
二人で操作し始めた。
「美々津少佐、徐々に感覚が戻ってくるはずです。その間に身体データを取り始めます。」清水ドクターが
そう言って、操作パネルでみさきの身体を分析し始めた。
262manplus:2005/07/31(日) 01:30:56 ID:QGViWxJY
徳永ドクターが、みさきに話しかける。
「私の声が聞こえますね。」
「ハイ、聞こえます。でも感覚が元に戻ると言ってもそう言った実感がないのですが。」みさきの言葉に、
徳永ドクターが答える。
「コミュニケーションサポートシステムは、順調のようね。それじゃ、感覚剥奪処置が完全に解除されるのをまって、
船内船外集音システム、宇宙船外部観察システムへの接続、船内観察システムとの接続といったシステムが
正常にコネクティングされるかをチェックします。皮膚の感覚に関しては、美々津少佐の場合、今、
どの様な負荷がかかっているかが、人工眼球に視覚的に示されると同時に、データとして、生体脳と生体脳を
中心とする補助コンピュータ群や、船内コンピュータに送られ、適正な処置をされるようになっています。
また、データ自体は、宇宙開発事業局のメインコンピュータシステムに転送されるようになっています。
そう言う意味では、もう元の生身の身体のような感覚を味わうことは、美々津少佐には、不可能になります。
もっとも、美々津少佐自体の身体の直接感覚は、宇宙船内では、もう必要ないと言うことも出来るのです。
逆にバックパックを通して、宇宙船の内外の情報が、感覚として、脳や人工眼球に情報が伝えられ、
視覚情報として、人工眼球内に表示されるし、宇宙船内外の事態の異常が、美々津少佐の場合、痛いとか、
熱いとか、寒いとか言った具体的な人間の感覚情報として、限界情報として、生体脳に伝えられるように
なっています。そのシステムの動作チェックも後ほど行います。」
前川さんが報告した。
「感覚剥奪処置が完全解除になりました。」
263manplus:2005/07/31(日) 01:39:21 ID:QGViWxJY
徳永ドクターがみさきに向けて質問をした。
「人工眼球内のディスプレイ情報に感覚情報が表示されるようになっていない?」
徳永ドクターの質問にみさきが答える。
「ハイ、感覚情報が表示されました。0Y473D07H00M00Sという時刻表示の他に、体外情報として室温22℃、
湿度23%なんていう文字が表示されています。」
「感覚剥奪処置が完全に解除された証拠です。
本格的な惑星探査宇宙船操縦用サイボーグSHIP.OP1 MISAKI MIMITSUの動作確認を開始します。」
徳永ドクターがいった。
 私たちは、徳永ドクターと清水ドクターを中心にみさきのサイボーグになってしまった身体の動作確認に
かかった。まず、感覚器官がチェックしていく。船内船外集音システム、宇宙船外部観察システム、
船内観察システムとの接続動作チェック、ケーブルから伝達される感覚が確実にディスプレーされているか、
脳などにデータとして送られているかがチェックされていった。そして、皮膚感覚が、データの伝達が正確に
行われるのか。そして、宇宙船内外の状況の感覚化システムの作動が正確に行われているのかといった
動作確認が行われていった。みさきの動作確認は、動きの確認ではなく、情報が正確に
伝わるのかどうかというものを確認していく、どちらかというと地味な動作チェックだけである。
そして、最後に、手脚のコネクターの作動を確認して、2日間にわたる動作の確認作業を終えたのである。
264manplus:2005/07/31(日) 01:40:01 ID:QGViWxJY
「美々津少佐、お疲れ様。あなたの身体は正確に作動しています。安心して下さい。これを持って、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグSHIP.OP1 MISAKI MIMITSUの完成ということになります。
24時間の休息をとった後、いよいよ、火星への探査飛行に向け、慣熟訓練に入ります。如月大佐も
望月七海中佐も力を合わせてミッションを成功させて下さい。一人も欠けることなく、生き続けて、
順調にミッションの消化をすることを期待しています。そして、如月中尉と山田少尉は、先輩のサイボーグの
出発を見送った後、あなた達も手術の準備にはいることになると思います。
先輩たちの生き様をしっかり頭にとどめておいて下さい。それでは、これで解散します。ご苦労様でした。」
徳永ドクターの言葉に全員が、ご苦労様と口々に言うと共に、私や、七海、そして、みさきに「がんばれ!」
という言葉を掛けてくれた。
清水ドクター、徳永ドクター、清川さん、本当にありがとうございます。
そして、みさきのケーブルやチューブ類をバックパックから外し、七海と二人で、みさきを洗浄室に運んで、
3人で身体を洗浄した。
そして、みさきの居住エリアのみさき用に作られたメンテナンスチェアにみさきを清川さんと一緒に寝かせ、
バックパックにケーブルやチューブ類を接続した。そして、フロントパックの高濃度栄養液供給用カートリッジと
老廃物貯留カートリッジの交換、バックパックの酸素発生装置の触媒カートリッジと
二酸化炭素排気体回収カプセルの交換という日課のサポートを行った。
「ありがとう、はるか。」
「何を遠慮しているの、ここにいるのは、みんな、火星に行くためのサイボーグへの改造手術を受けた人間か
手術を待つ人間しかいないんだよ。変な気を遣うのはやめようよ。」
私の言葉に、七海もえりかもクリスも同意した。
265manplus:2005/07/31(日) 01:40:33 ID:QGViWxJY
「ありがとう、みんな。でも、前から、自分では何も出来ない身体になっていたけど、それに加えて、
こんな金属の皮膚で、しかも、その中身は、脳とごく一部の臓器が残っているだけで、それ以外は、
全てが機械や電子機器になっちゃったんだから、ため息しか出ないね。その上、サポートヘルパーに
世話してもらうか、宇宙船のオペレーター生命維持管理システムの世話にならなかったら、生命維持の
基本活動も出来ないなんてね。人間だった頃の私だったら、涙が止まらなかったよね。
でも、こんな強化樹脂ガラスのゴーグルのような人工眼球に変えられて涙も出ないしね。」
「でも、みさきは、両脚のコネクターと接続して、自分の意志で自由に動き回れる台車や両腕のコネクターに
接続できる義手のようなものを宇宙開発事業局に作ってもらうことで、自分での行動が可能に
なるんじゃないかな。」
私の提案に、みさきが、
「私もそう思って、長田部長に話したことがあるんだけど、地球に待機している状態の時は、
自分の意志で動けるようにしておいて、万一施設から逃走されるという場合を想定して、その様な台車や義手は
貸与せず、サポートヘルパーによるサポートを必要としなければならない状態にしておくんだって。
私たちは、もう、国家予算を使用して作り替えられたサイボーグだから、帰属は、
国家や宇宙開発事業局のものになるんだって。
私たちは、国家財産であることを認識しないといけないといわれたの。
もちろん、はるかや七海も同じなんだと説明された。だからハルカや七海たちには、地球上では、
このエリアを出るときには、常時追尾システムが付けられて、何かあれば、サイボーグ体のコントロールを
宇宙開発事業局が行えるシステムが取り付けられているそうよ。ラバーフィットスーツ装着者も
ラバーフィットスーツ自体も、それを装着するために受けた処置で取り付けられた機材も含めて国家予算が
使用されているため、ラバーフィットスーツを脱がない限り、この施設からは特別なことがない限り、
木村局長や長田部長も含めて二度と出ることが出来ないんだって。私たちみんな、
行動が完全に制限されていることを認識して欲しいと言われたわ。」
266manplus:2005/07/31(日) 01:48:49 ID:QGViWxJY
 みさきの言葉が私たちに重くのしかかった。囚人のように行動を完全に制限されていかなければならない
なんて。しかし、このプロジェクトが火星に私たちが旅立てる状態になるまでは、極秘扱いになっているから
仕方ないし、その後もどの様な人間がかかわっているのか、私たちの身体の技術、その他の技術が他国に
流出してしまうことはあってはならないことだった。まして、私たちが、不用意に外に出て、他国に連れ去られたら、
分解されて、命を失う可能性だってあるのだ。火星を植民地化するためのプロジェクトは情報に置いて慎重に
進められなければならないのだ。私たちは、存在自体が国家機密であるということであった。
「みさき、わかったわ。あなたの手脚を私たちがしてあげるからね。」
七海がいった。
「ありがとう。」
みさきが答える。
えりかが、
「そろそろ休んだ方がいいと思います。みさきさん、レストモードに切り替えさせて下さい。」
そう言って、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルを操作した。
「みさきさん、ゆっくり休んでください。」
クリスがそう言って出て行った。そして、私たちも出て行った。
私と七海も、明日から、火星に行くための本格的な訓練が始まる。
身体を休めておく必要があるので、それぞれの居住エリアに戻っていった。
私は、えりかと一緒に、私の居住エリアに戻った。この居住エリアで私が迎える最後の
レストパートになるのである。私は、メンテナンスチェアに収まり、自分の身体を腕の操作装置をいじり、
レストモードにした。
「えりか、お休み。」
そう言って、私の意識は、遠のいていった。
267manplus:2005/07/31(日) 01:56:09 ID:QGViWxJY
今日はここまでです。
少し眠くて、文章もよれてるかもしれませんが、
お許しください。
2683の444:2005/07/31(日) 03:40:36 ID:ksVtrHyA
  アニーは、 うつぶせに倒れたまま、 身体のあちこちから煙を上げて、 びくとも動かない。
  ああ、 どうしよう。 どうしよう。 どうしよう。 アニーが壊れちゃった。 ううん、 壊れただけなら、 まだいい
んだ。 身体なんか修理すれば、 いくらでも元通りになるよ。 私の身体と同じようにね。
  でもコンピューターに1500Vの電気が直接流れたとしたら、 どうなる。 AIなんか、 完全に消し飛んじゃう
よね。 須永さんは、 アニーに心があるって言っていた。 その心が消えちゃったら、 例えアニーの入れ物は
残ったとしても、 それは死んじゃったのと同じことじゃないだろうか?
  もしも、 本当にアニーのAIがかき消えていたとしたら、 それはやっぱり私のせい? 違うよね。 アニーが
勝手に私を憎んで、 勝手に自殺しただけだよ。 私は悪くない。 悪くない。 私を勝手にロボットと勘違いして、
私のことを消そうとして、 私が人間だと分かったら、 私にあてつけるみたいに自殺。 そんなの全部、 アニー
の自業自得でしょ。 だいたい、 機械に心なんかあるはずないよ。 あるとしても、 所詮、 取替えのきく、 心の
ようなもの、 でしょ。
  私は、 「躾」と称して私のことを電撃で痛めつけたり、 あろうことか、 私のサポートコンピューターをハッキ
ングまでした悪魔のようなアニーの姿を思い浮かべて、 ざまあみろって思い込もうとした。 でも、 やっぱり
駄目。 さっきの須永さんとアニーの親子のようなやり取りを見ちゃったもの。 はるにれ荘のおばあちゃん達
が、 アニーをまるで本当の孫みたいに可愛がっていることを知ってしまったもの。 もしもアニーが本当に
悪魔のようなロボットだとしたら、 あんなにはるにれ荘の人達に親しまれているはずがないもの。
  はっきり言って、 最初ははるにれ荘の人たちが、 アニーをまるで生きているみたいに扱っているなんて、
変だと思ったよ。 馬鹿みたいって思ったよ。 だってアニーはただのロボット。 例えアニーと私の身体が同じ
機械だったとしても、 脳みそがあるか、 AIで動いているかで、 アニーと私の間には絶対越えられない壁が
あると思っていたよ。
2693の444:2005/07/31(日) 03:41:58 ID:ksVtrHyA
  でもさ、 ここの人達にとっては、 アニーはただのロボットじゃないんだ。 みんなと一緒に暮らしている
かわいい女の子ってことなんだ。 きっと、 ロボットとか、 人間とか、 そんなことは、ここではとても小さな
問題なのかもしれないよ。 だってさ、 はるにれ荘の人達は、 私のことも受け入れてくれたんだもの。 身体
のほとんどが機械になっちゃって、 人間かどうかあやふやな私のことだって、 気味悪く思わないで、 一緒に
住まない? なんて言ってくれる人達なんだもの。 きっと、 そうに決まってるよ。
  だったらさ、 みんなが私のことを受け入れてくれたように、 私もアニーのことを受け入れなきゃいけな
かったんじゃないの? どうして、 私、 須永さんが一緒に住もうって行った時、 アニーのことも受け入れて、
素直に一緒に住みますって言わなかったんだろう。 私がアニーのことを否定するってことは、 機械の身体の
私をただのお人形さんとしか見てくれない人と同じことを私がしたってことじゃないか!
  ごめん、 アニー、 貴女には確かに心があるよ。 私に心があるように、 貴女にもきっと心がある。 だけど、
もしも、 心があって、 でも決して人間には逆らえないようにプログラムの檻でがんじがらめにされちゃって
いるとしたらどうだろう。 私は、 人形の中に閉じ込められたちっぽけな脳の塊かもしれない。 でも、 いくら
他人に気味悪がられようと、 蔑まれようと、 私の心は自由だよ。 よしんば、 人を傷つけちゃったとしても、
自殺するまで追い込まれないよ。 ましてや、 私の身体は、 形だけ人間に似せた、 ただの機械なんだ。
アニーが傷つけようとしたのは、 私じゃなくて、 ただの私の持ち物。 私にしてみたらとても悔しいことだけど、
アニーがやったことは、 ちょっと私の持ち物を壊そうとした、 ただそれだけなんだもの。 決して死ななきゃ
いけないほどの罪じゃない。 でもさ、 アニーのプログラムは、 それを許さなかったのかもしれない。 人間
に逆らったら、 死ぬしかない、 きっとそんなふうにプログラムされているんだよ。 心があって、 でも、 その
心に自由がない。 だとしたら、 私なんかよりずっと辛いよね、 苦しいはずだよね。
2703の444:2005/07/31(日) 03:42:46 ID:ksVtrHyA
  なんでそのことに早く気付いてあげられなかったんだろう。 ああ、 馬鹿だ。 私は大馬鹿者だ。
  私、 気がついたら、 アニーに駆けよって、 うつぶせに倒れたまま、 まだ身体のあちこちから煙を出し
ているアニーを抱き起こしてた。 そして、 必死でアニーの身体を揺り動かしたり、 頭を叩いたりしたんだ。
壊れかかったテレビじゃあるまいし、 そんなことしたって、 アニーが目を覚ますわけない。 馬鹿だよね、
私って。 でも、 そうせずにはいられなかったんだ。
「アニーは、 アニーは助かるんですか?」
  私は、 真っ先にアニーに駆け寄ったはずの須永さんに聞いた。 須永さんは、 AIの専門家なんだ。 須永
さんなら、 なんとかしてくれるかもしれない。 そう思ったんだ。 でも、 私の視線の先に須永さんはもういな
かった。 須永さんは、 私のほうなんか見向きもしないで、 アニーもほったらかして、 はるにれ荘の中に
走っていっちゃったんだ。 須永さん、 どうしてそっちに行っちゃうのさ。 須永さんだけが頼りなんだよ。 須永
さんに見捨てられたらアニーはどうなっちゃうんだよう。
「ア、 アニー。 お願い、 目を覚ましてよう。 これじゃあ、 まるで私が殺したみたいじゃないか」
  私は、 必死にアニーに向かって呼びかけた。 でも、 アニーはお人形さんみたいに、 目を見開いたまま。
最後に私に向かって、 あざけるように笑った時の表情のまま、凍りついたように動かない。
「アニーが死んじゃったらみんな悲しむじゃないか。 おばあちゃん達も、 須永さんも、 もちろん私だって。
アニーが死んじゃうことに較べたら、 私の身体のことなんて大したことじゃない。 私はもう、 あなたのこと
なんか何とも思ってないんだよう。 だから・・・、 だから、 お願いだよう。 アニー、 生き返ってよう。 もしも、
生き返ってくれるなら、 私、 貴女のためにどんなことでもしてあげるよ。 お願いだよう目を覚ましてよう!」
  虚しい呼びかけかもしれない。 決してアニーには伝わらないことなのかもしれない。 でも、 それでも
アニーに聞いていてほしかった。 私の気持ちがアニーに届いてほしかった。
2713の444:2005/07/31(日) 03:55:26 ID:ksVtrHyA
「あらぁ、 本当にそう思ってるの?嬉しいな」
  私の後ろで、 聞き覚えのある女の子の声がした。
  え? え?
  恐る恐る、 そーっと後ろを振りかえる私。
  見覚えのある水色のワンピース。 透き通るような真っ白な肌と、 それとは対照的な黒髪。
箒を持って、 胸を反り返らせて、 そこにアニーが立っていた。
  私の腕の中で、 死んだように動かないアニー。 でも、 私の後ろに立っているのもアニー。 アニーが、
アニーが、 二人いる? これっていったいどういうこと?
2723の444:2005/07/31(日) 03:56:52 ID:ksVtrHyA
今日はここまで。
ちょっと話作りに苦労していて、なかなか先に進まず
申し訳ないです。
273名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 04:12:01 ID:mYK4DeP3
つまり本体は家の中のサーバってことか
274名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 04:25:37 ID:eAMrjguw
>273
てことは、二人とも端末か。

ところで、ふと思ったんだが、ヤギーん家って、「築70年のボロアパート」という記述はあったけど、
外観には一切触れていなかったよなぁ?・・・確か。
275名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 07:28:04 ID:mYK4DeP3
部屋は四畳半で押し入れにキノコが生えたりして管理人室には壁一面の松本メーターとか
276名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 09:38:15 ID:hKfhPUfQ
>>275

ミライザーヤギーか?
277名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 10:13:10 ID:hIeo32F9
なんつーか、本当にココの平均年齢かなり高そうだなw

278名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 11:15:18 ID:HU/l8y/F
男おいどんを松本ファン以外で普通に知ってたら怖いな
279名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 11:22:44 ID:jkMrpC3d
平均年齢下げてる自身あるのだが・・・
280名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 12:56:37 ID:hKfhPUfQ
>>279

無駄だよ。俺が引っ張り上げてるから。



orz
281名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 15:31:26 ID:K+ONj+TO
俺なんか実年齢40過ぎの妻子持ちだが、ここの雰囲気や内容、みんなの投稿にはとっても共感できるぞ。
実年齢なんか関係ないよ。多いに盛り上げよう!
松本ワールドは俺の同世代ではそんなに珍しくもなかった”普通”の世界だった。下の世代にも知って欲しいと切に思う。
282名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 23:04:37 ID:eAMrjguw
>>281
禿同。
しかし、昔はともかく、今の松本ワールドは(ry

ところで。
鋼鉄ジーグ・・・は、古いのかタイムリーなのかどっちなんだろ?
現在、月面上にて合体原種と交戦中なのだが。
283manplus:2005/08/01(月) 00:30:36 ID:FEK3ThhJ
 0Y475D00H00M00S
「おはようございます。はるかさん。」
まりなさんの声が聞こえる。
「いよいよ、火星へ行く、本格的な訓練が始まるんだね。」
えりかの声だ。
「おはよう。まりなさん。えりか。本当にいよいよだね。火星の地を踏む人類第一号になってみせるわ。
若干は補正改訂版の人類だけどね。これからも二人の協力をお願いします。」
「私もえりかさんもはるかさんのサポートをより一層力を入れて行います。任せてください。」
「私は、お姉ちゃんが訓練している間、自分の訓練も入ってくるようだから、まりなさんほどは協力できないけど、
お姉ちゃんのために一生懸命さぽーとをしていくつもりです。」
まりなさんとえりかの答えが力強く聞こえる。これからの不安を補うサポートが得られそうだ。私の心に火星の
探査に絶対行くんだという強い決意がみなぎった。
「はるかさん、そろそろ、ブリーフィングルームに行く時間です。木村局長と長田部長が待っています。」
そう言うまりなさんに対し、
「それでは、行きましょうか。」
私は力強く答えた。

284manplus:2005/08/01(月) 00:32:31 ID:FEK3ThhJ
 ブリーフィングルームには、もう浩、七海と未来が集まっていた。
「はるか、遅いぞ。」
浩の声だ。
「浩、未来、久しぶりだね。望の処置は順調に終わったの?」
私の問いに、未来が答える。
「順調に終わったわ。望も、元気だよ。みさきはどうだった。」
七海が答える。
「みさきも順調だよ。申し分なく、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグへの改造手術の処置が終了したわ。
私たち、2チームのすべてのメンバーがサイボーグとして、これから活動を開始するということになるのね。」
 そんな話をしているところへ、みさきと望が、サポートヘルパーの前川さんと望のサポートヘルパーの
田中恵さんが惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車付きスタンドに固定されてやってきた。
 二人の姿は、本当にアンドロイドのようだった。みさきの手術に立ち会い、見慣れているものの、金属光沢を
持った全身は、機械の身体という表現がまさに正しかった。私たちの姿のラバー光沢を持った全身をラバーの
キャットスーツに覆われたようなラバーフィットスーツに覆われた身体のイメージとは明らかに違っていた。
「おはよう、みさき、望、サイボーグ手術の処置を受けて初めての処置室以外の場所の感想は?」
私の問いかけに望が答えた。
「ひさびさの違う風景で新鮮に映ったわ。いつも処置室の内部風景だけの視覚データだけだったからね。
気持ちいいわ。」
視覚データという言葉を望は使って自分が惑星探査宇宙船用サイボーグという機械人間になったことを
精一杯の表現で表したのだろう。望なりの前向きの表現なのだった。
285manplus:2005/08/01(月) 00:33:50 ID:FEK3ThhJ
「望と同様にとても新鮮よ。任務に向かうのに迷いなしと行ったところね。」
みさきが続ける。望もみさきも二人とも、強い意志を感じる言葉だった。
 そんな会話をしていると、木村局長と長田部長がブリーフィングルームに入ってきた。
「みんな、決められたブリーフィングチェアに座ってください。」
前列には、向かって右から、MRAS1、MARS2、SHIP.OP1という名札がブリーフィングデスクに置いてある。
そして、その後に、右から、MRAS3、MARS4、SHIP.OP2という名札が並んでいる。
私たちは、指定されたところのブリーフィングチェアに向かった。よく見ると、いつの間にか、私たちのサイボーグ体
がそれぞれ座りやすいように加工されたブリーフィングチェアに交換されていた。
さすがに私たちを火星に送り込むための施設といった感じである。
 みんなが所定のブリーフィングチェアに着くと木村局長が話を始めた。
「皆さん。おはようございます。やっと、6人の火星探査のために生まれ変わったサイボーグアストロノーツが
揃いましたね。みんなの手術が成功したことをうれしく思います。これからは、火星探査・開発用サイボーグと
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグという特殊任務用サイボーグアストロノーツとして、慣熟訓練に耐えて、
第一次火星探査飛行を成功させることを願っています。前列の3名が第一次火星探査の正規チーム、
そして、後列の3名が緊急補充用バックアップ要員となります。常に横の3名のチームワークを意識すると
同時に6名のチームワークも正規チームに万が一の時に備えて、確立しておくこと、我々にとって、
皆さんの身体は、データのない初体験の実験であるのです。残念ながら何が起きるか予測がつきません。
286manplus:2005/08/01(月) 00:43:58 ID:FEK3ThhJ
あなた達の生態がそのままデータとなるのです。みんなが何が起こっても正規チームの代わりになるように
しておくことです。もちろん、地上バックアップメンバーも第一次火星探査チーム、緊急補充用バックアップチーム
に何かがあったときは、すぐにサイボーグに生まれ変わるための手術を受けなければならないので、
心の準備をしての待機を命じてあります。しかし、ここにいる6名が欠けることなく、そして、正規チームの3名が、
火星に飛び立てることを、そして、探査活動を終えて無事に帰還できることを願うと共に、その為のバックアップを
宇宙開発事業局の全てを懸けておこなっていくつもりです。私たちも全力を尽くします。ここにいる、サイボーグに
なった皆さんも頑張ってくれることを願っています。」
木村局長の言葉の中の意味を私は考えた。私たちが火星に行けないということは、今の身体の構造からして、
体調を崩してバックアップメンバーと入れ替わることは考えられないから、生態脳の停止、つまり死亡することを
意味することなのだ、サイボーグアストロノーツに改造されたのが、私たちが初めてなため、
私たちが生きていること以外のデータはないのだから、何かが起きても、それが初めての経験データになるのだ。
私たちの存在は、データ的に全て手探りの状態なのであった。そう言う意味で、常に死と隣り合わせの
存在になってしまったことを木村局長の言葉は物語っていた。でも、覚悟は出来ている。この身体で生き延びて、
火星探査を成功させ、再び、この地球の大地を踏みしめてやるのだ。たとえ、身体は、普通の血が通った生身の
人間に戻れなくても、地球上で再び生活できるまで生き延びてやるのだ。私は、そう心に誓った。
 長田部長が、木村局長の言葉を受けて、
「これから、ここに集まってもらった6名には、下層階の訓練エリアに移動してもらい。
訓練をおこなってもらいます。それから、出発の日にちが決まりました。1Y000D00H00M00S。
ちょうどに打ち上げとなります。190日余りの訓練期間を持ってもらうことになります。
慣熟訓練期間としては充分な時間があります。火星への飛行が恙ないものにしてください。
それでは、下層階に移動してください。健闘を祈ります。」
287manplus:2005/08/01(月) 00:44:41 ID:FEK3ThhJ
 私たちは、長田部長の言葉を受けて立ち上がり、部屋を出た。
私がみさきの台車を押し、浩は、望の台車を押した。
部屋の外には、美紀、はるみ、ルミ、直樹の4名が待っていた。
美紀が、
「頑張ってね。私たちもバックアップとして、サポートするからね。」
そう言って励ましてくれた。


 私たちが、訓練エリアの下層階に到着すると白いラバーフィットスーツを着た、サイボーグ訓練担当の
白井節子課長が待っていた。
「私が、皆さんサイボーグの訓練全般を管理運営していく、サイボーグ訓練課の課長の白井節子です。
よろしくお願いします。皆さんが、今度のミッションを滞りなく行えるように導くためのお手伝い係と思ってください。
皆さん、頑張りましょう。」
そして、訓練全般をサポートするために清川さんやまりなさん達が待っていた。
サポートヘルパー全員集合といったところである。その中には、えりかやクリスがいた。」
「お待ちしていました。火星標準環境室内部以外では、基本的に私たちが、サポートさせていただきます。」
まりなさんが代表して答えた。
「私が、代表して応じた。よろしくお願いします。このミッションを必ず成功させて見せます。
その為に力を貸してください。」
まりなさんが、
「それでは、惑星探査宇宙船のシミュレーターに美々津少佐と橋場少佐のふたりを接続します。
ふたりは、惑星探査宇宙船を自由に動かすためと接続された状態に長期間慣れるように、今から、
接続して訓練をおこなってもらいます。今から、模擬惑星探査宇宙船の管理下に生命維持システムの全てが
おかれます。」
そう言うと清川さんやクリス達が、みさきと望を台車から降ろし、惑星探査宇宙船のシミュレーターに
運んでいった。
シミュレーターには、薄い黄色のラバーフィットスーツを装着された技術スタッフが数名ずつ待機していて、
みさきと望をそれぞれのシミュレーターの中に運び込んでいき、私たちにもシミュレーターに入るように指示をした。
288manplus:2005/08/01(月) 00:45:28 ID:FEK3ThhJ
 私たちがそれぞれのシミュレーターの中に入っていた。
 私が入ったシミュレーターでは、薄い黄色のラバーフィットスーツを装着されている技術スタッフの中川主任が、
みさきをシミュレーターに接続する前に説明をしてくれた。
「これから、美々津少佐を惑星探査宇宙船のシミュレーターに据え付け固定します。
順調にいけば、出発時に操縦スペースに据え付け固定されて、帰還までそのままの状態となりますが、
大きな故障が発生した場合、如月大佐と望月七海中佐は、美々津少佐を操縦スペースから取り外して、
故障箇所の修理と身体の調整をおこなってあげないといけないこともあるので、その時のために接続手順を
実際に見ておいてもらうことにしました。もちろん、慣熟訓練の訓練項目に惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの
操縦スペースからの取り外し及び、再据え付け処置の実習訓練がありますので、実地の訓練は後で
してもらいますが、その時に困らないように見ていてください。」
そう言うと、みさきを彼女の形に作られた斜めになっている操縦席に据え付けた。そして、シートベルトで、
みさきの身体をがんじがらめに拘束した。まるで縄に拘束されている光景を見ているようだった。
それから、両脚、両手の切断面のコネクターに無数のケーブルを20のコネクターセクションになったものを脚に
各10グループ、手に各5グループを慣れた手つきで接続していった。
コードケーブルが接続するたびにみさきは、
「あーん」
というような喘ぎ声を出した。
中川主任が、
「このコネクターは、各接続グループごとに色分けしてあって、違った場所に差し込むことが出来ないように
コネクター形状が全てのグループごとに微妙に違っています。
だから、誤接続はないと思いますが、たまたま何かの拍子で、誤接続された場合、
腹部の腹部取り付け外部操作用補助操作パネルの、コネクター接続状況のランプが赤く点滅し、
誤接続があった場所が、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルに示されると同時に警報ブザーが
鳴るようになっています。」
289manplus:2005/08/01(月) 01:20:47 ID:FEK3ThhJ
私が質問した。
「みさきが喘ぎ声を出しているのはなぜですか。」
中側ドクターが答えた。
「コネクターにケーブルが差し込まれることは、体内に何かが挿入されることになります。
従って、性的行為をとれないサイボーグに性的刺激を与えてあげようと言うことになりました。
それが、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグのストレス軽減になるという研究結果が出たため装備された
システムです。彼女は、自分から興味の示すものに対する行動をとることが出来ないから、
このぐらいのことはしてあげたいという技術者の気持ちです。」
そう言いながら、股間の部分のコネクターに太いケーブルが差し込まれ、接続時防護カバーがその部分を
覆うように取り付けられたときであった。
みさきが、突然、
「ああーーん。イヤーーん。」
という喘ぎ声を出した。
「この股間の部分のコネクターも同じような構造になっていて、ここに外部コンピュータと内臓ハードディスクとの
接続ケーブルを差し込んだり、エネルギー外部供給用および、受給用コネクターにケーブルを差し込むと快感が
得られることになります。このシステムは、如月大佐と望月七海中佐の股間も同じような構造になっていますが、
ふたりは、快感を感じるシステムをオフにしてロックしてあるので、感じることはないし、ふたりは、
完全に性欲中枢の機能を停止させていて、性的快感システムは地球帰還後でないと作動させないことに
なっています。地球帰還後に股間のコネクターを感じるようにして、快感中枢の機能回復もおこなうから、
それまでは我慢してください。といっても、もう、ラバーフィットスーツ装着から、
性欲は機能しないようにされているから、性的快感と言うこと自体、もう、みんなにとって死語のようなものですね。」
みさきは四肢を失ったことと引き替えに少し別の人間性を持たせてもらったと言うことなのだった。
何だか少し寂しい話かもしれないと私は思った。
290manplus:2005/08/01(月) 01:21:54 ID:FEK3ThhJ
 そんなことを考えているうちにケーブルの接続が全て終了していた。そして、バックパックやフロントパックに
生命維持系統やエネルギー供給系統のチューブやケーブルが次々と接続されていった。
 そして、頭部のコネクターにケーブルが次々に接続された。
そしてついに、みさきは、シミュレーターの中央部に据え付けられ、シミュレーターの一部になってしまったのである。
もちろん、実際の惑星探査宇宙船においては、みさきは、この状態になることにより、宇宙船の最重要の
制御システムのなっていくのである。
「とうとう、訓練が始まって、惑星探査宇宙船の一部になっていっちゃうんだよ。何かわくわくする自分と不安な
自分が同居してる。二人が火星に無事にいけるように訓練を私、頑張るから。」
みさきの声に、私が応える。
「惑星探査宇宙船のコントロールは任せたわ。私たちは、火星探査用の訓練を行ってミッションが
成功するようにするから。」
これから、彼女たちの孤独でつらい、神経をすり減らすような訓練が始まっていくのであった。
 中川主任が、如月大佐と望月七海少佐も今日は、惑星探査宇宙船の中で、大部分の時間を過ごしてもらう、
火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルに入る体験をしてもらおうと思っています。
私たちは、中川主任の指示に従い、私たちは、みさきが据え付けられた操縦スペースの両脇におかれた、
私たちの身体に寸分違わない寸法に作られた内部を持つ火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルに
横たわった。薄い黄色のラバーフィットスーツを着た技術スタッフが、私たちの身体を固定用ベルトで
固定していった。
291manplus:2005/08/01(月) 01:22:28 ID:FEK3ThhJ
「この状態で火星に向けての旅が始まります。カプセルの右の壁には、固定ベルトをリリースしたり、
セットしたりするためのスイッチがあります。惑星間飛行中は、美々津少佐の故障を
修理しなければいけないときやその他必要に応じてカプセルを離れてもいいことになっています。
ただし、出発や帰還、火星への着陸、発進時は、火星探査・開発用サイボーグという一番貴重な機材を
保護するため、火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルに入っていなければなりません。
万一、あなた方が故障したり破損した場合、ミッションのスケジュールに及ぼす被害を考えてのことなのです。
今日は、この状態で、訓練を終了してもらいます。火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルに
少し慣れてください。それでは、オートの時間管理システムを作動させ、今日の訓練はお終いです。」
私たちは、時間管理システムをオートにした。こうすると一日のアクティブパートが0時に始まり、
16時に終わるのに合わせ、0時には、アクティブモードになり、16時には、レストモードにモードチェンジが
自動的におこなわれるようになっている。私たちの意志でそのリズムを崩す必要がある場合は、
マニュアルモードに切り替えればいいようになっているし、緊急事態の判断が本部で下された場合は、
本部からの強制制御が出来るようになっていた。いずれにしても、睡眠や覚醒が、機械部分に
管理されていることに変わりはないのである。
292manplus:2005/08/01(月) 01:36:11 ID:FEK3ThhJ
私たちは、アクティブパートの残りの1時間を3人のコミュニケーションに使った。
「みさき、気分はどう?」
私の答えに、みさきが答える。
「今は、機械に据え付けられているだけだけど、明日から訓練に入れば、宇宙船の制御システムの一部に
なってふたりを安全に火星に運び着陸させて、地球に戻ることに全力を尽くすために何をするのかを身を以て
学ぶことになるわ。」
「みさき、よろしくお願いね。私とはるかは、みさきがミッションをおこなう星に運んでもらうことになるから、
そこで、ミスのないように出来る限りの任務を遂行するようにしないといけないよね。」
「そうだね。必ず、成功のうちにたくさんの情報をこのプロジェクト本部に持ち帰るのよ。」
「みんなで誓おうね。」
私が言うと。ふたりが、
「体調よろしくお願いします。」
そう答えた。私たちは、その後も自分たちの置かれた立場を3人で話し合い、みんなの考え方の方向性が
一つになっていくような気がした。
 みさきは、明日から、常に、視界は、24分割の違った映像を同時に見ることが出来るし、
その中で1つからいくつかの画像に集中することも出来るようになるし、宇宙船内の全ての機器を動かすことが
出来るようにもなるし、いろいろな場所の音の情報を分析できるようになるのであった。
そして、それを加工して、宇宙船の運航に必要な情報として活用できるようになる訓練を受けのであった。
もちろん、宇宙船の動力を自由にコントロールし、宇宙船を自由に操ることも可能になる訓練も
受けることになるのであった。
 みさきは、孤独な訓練を受け続けることになる。ただ、火星着陸訓練と、火星での待機状況訓練をのぞいて、
ほとんど一人での訓練が続くのであった。
293manplus:2005/08/01(月) 01:43:14 ID:FEK3ThhJ
今日はここまでと言ったところでしょうか。

ココの平均年齢が話題になっていますが、私も、
平均年齢を上げているのは確実と言ったところでしょうか。

でも、ココを楽しく利用させていただいています。
投稿も、読者としても楽しんでいます。

擬体という言葉より、サイボーグという言葉になじみがある世代かと・・・・。
松本ワールドを楽しんでいました。
それに、サイボーグが主題となったSFも読みふけった世代でしょうか?

レトロな世代になるかもしれませんが、
これからもよろしくお願いします。
294名無しさん@ピンキー:2005/08/01(月) 03:10:35 ID:70mArnvd
松本ワールドの「機械の体」をサイボーグと言っていいのかどうかちょっと判断に迷うところ、
あれは「脳を機械に移植」というより「魂を機械に移植」だし
295名無しさん@ピンキー:2005/08/01(月) 22:44:27 ID:NBimbunP
8マンも頭脳データだけ移植だし。
296名無しさん@ピンキー:2005/08/01(月) 22:47:39 ID:NBimbunP
あ、8マンは松本氏の作じゃないけどね、念のため。
297名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 00:01:08 ID:uLpUv+i0
そういえば、「キカイダー」はロボットだけど「ハカイダー」ってサイボーグ?
「ブリアレオス」はサイボーグで「キューティーハニー("F"は除外)」はロボットだよね。
こりゃあ、アニーじゃないけど外見上の識別は無理だわ。
298名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 00:15:24 ID:TucEofuY
>>297
「ハカイダー」は人質として博士の脳を積んでいるだけで基本的にはロボット。
「ギルハカイダー」はサイボーグだったかな。

なんにせよ古い作品だと曖昧だったりしますね。
299名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 00:45:51 ID:dKXQe2sg
♪俺はロボット サイボーグ〜♪

・・・なんて、ようわからん挿入歌もあったしな。
なんだったっけ?
300名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 02:47:40 ID:Gohp0zlj
ちがうよ、僕はアンドロイドだよ〜
なんてのも好きだったけど。
まあこれは新しいほうかな?
301名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 02:55:09 ID:oTf8nwU+
>294

原作だと機械伯爵は鉄郎に撃たれる時に、「脳だけは撃たないでくれ」
って言ってるけど、連載後期の話だと巨大なトリさんに食われて
体を消化されて、電子脳だけ残った機械の体の盗賊とか出てくるし、
やっぱり曖昧だよなぁ
302名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 00:16:52 ID:Pl45crMN
「ロボット?」
「ノォー!イッツア・サイボーグ!」

ターミネーターがサイボーグなのにロボコップがロボットとはこれいかに
303名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 00:40:05 ID:JX2cK48C
>>301

元の(人間の)脳は処分しちゃって、機械の脳はバックアップがないってところなんでは。

攻殻のゴーストじゃないけど、AIだからといってバックアップがかならず取れるとも限らないし。
304名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 22:08:24 ID:13Ip2wEE
だがサイボーグの俺にだって、真っ赤な熱い血は流れているんだ!
305名無しさん@ピンキー:2005/08/04(木) 01:47:46 ID:9eZHs9x/
みさきさんやはるかさんの立場のなくなることを…
306名無しさん@ピンキー:2005/08/04(木) 20:39:52 ID:OOFneVu2
>288 289
以前から宇宙船操縦者になるためにダルマ状態にされる(された)美々津みさき少佐には
注目していましたが、コネクターの挿入でアヘアヘ(年齢がバレる表現)とは、
まったく萌えです。
前の部分ですが、任務のために泣く泣く四肢切断というのはいいシチュエーション
ですねえホント。

つい昨年 アン・マキャフリー「歌う船」創元SF文庫 という本を買って
読まずにつんどくしてあったのが気になって家の中探してるんですが出てきませんわ。
307名無しさん@ピンキー:2005/08/05(金) 22:38:06 ID:MsNFdxc6
障害者を宇宙船にって設定だった。宇宙戦艦ヤマモトヨーコも初期プロットではその可能性有ったって
たしか後書きにあったけど。
マンプラスさんの作品毎回楽しませて頂いてます。脳だけ取り出して、残りの体はは無線端末にして基地においといてやればいいのに、でも火星との距離で
電波が届くのに20分も掛かるようになると無茶か…

308manplus:2005/08/05(金) 22:49:00 ID:AumK+Dsn
 0Y476D00H00M00S。火星への出発予定日まであと194日になった。
 私と七海が、本格的に火星探査・開発用サイボーグとして、余すところなく、機能を発揮させて行くことが
出来るようになるための訓練が始まった。
 もう慣れてしまったのだが、機械部分の制御によって、時間通りに意識が戻り、アクティブモードになる。
私のアクティブパートの生活が始まるのである。自分が機械との共生システム体になってしまったことを痛感する瞬間の
一つであった。
 私たちは、火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルの右の壁の手が動く位置にある、拘束リリースボタンを
押した。すると、固定用シートベルトがみるみるうちに、火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルの内側に
格納されていき、私たちは自由になった。私と七海は、みさきに、
「おはよう。みさき、私たちも今日から頑張るね。」
と声を掛け、惑星探査宇宙船シミュレーターをでた。訓練エリアに降りると浩と未来がやはり、
惑星探査宇宙船シミュレーターから出てきていた。
 白井課長が、薄い黄色のラバーフィットスーツを装着された技術スタッフを連れて、やってきて、
「今日から、皆さんにサイボーグとして、火星探査計画用サイボーグアストロノーツとして生きていく上で
困ることのないように、また、ミッションが滞りなく実行できるようにするための訓練を受けてもらうことになります。
ここにいる4体の火星探査・開発用サイボーグの皆さんには、一人にもし万が一の事態が発生した場合を想定し、
ロケットに搭載されるまでは、チームの隔たりなく、全て同じ条件で、行動してもらいます。そして、皆さんの訓練を
担当するのは、私の隣にいる中島友恵主任が担当します。中島主任どうぞ。」
309manplus:2005/08/05(金) 22:51:22 ID:AumK+Dsn
課長にそう言われ、中島主任が話を続けた。
「火星探査・開発用サイボーグの皆さん。始めまして。私が、皆さんの訓練を担当する中島です。皆さんの真の力を
引き出すような訓練をおこないます。皆さんにとっては、肉体的につらいという感覚はもうないものと思っているでしょうが、
警告領域ギリギリまでか、それを超えた、皆さんの新しい身体の限界を知ってもらうことも大事だと思いますので、
皆さんに付与されている警告のための疑似肉体身体感覚が働くことが多くなりますから、覚悟してください。とはいえ、
精神的に辛いということは、日常茶飯事なのだと思います。頑張ってください。それではよろしくお願いします。」
もう、4体とか疑似身体感覚とか、機械人形であるといわれているような言葉に抵抗がある。そんな私の心とは関係なく、
中島主任の説明が続く。
「まず、皆さんにおこなってもらう訓練は、自分の身体になれることです。例えば、柔らかなものをつぶすことなく
掴んだすぐあとにものすごく堅いものをつぶすというようなことや、ジャンプの高さの調節、力仕事のあとで生身の人間と
握手といった微妙なパワーコントロールなど、人間と機械が協調している身体の無限の可能性や使い方を自分のものに
してもらうことです。現在は、サイボーグ改造手術前のデータを元に生身の肉体だった当時の普通の生活が
送れるだけのパワーしかでないようにパワーセーブリミッターを作動させているのが皆さんの現状です。
もっとも、そこまでも今は自分の火星探査・開発用サイボーグとしてのボディーを使いこなせていないのも事実なのです。
そこで、今からパワーセーブリミッターを完全に解除しますから、早く新しい身体に慣れ、十二分に使いこなせるように
するための訓練を開始します。サポートヘルパーのみんなは、サイボーグのパワーセーブリミッターを外してください。」
いつの間にか、私のところにまりなさんがやってきて、バックパックにあるパワーセーブリミッターのコントロール装置を
操作してくれた。
「はるかさんなら、すぐにサイボーグとしての能力を全て自分のものに出来るはずです。頑張ってくださいね。」
そう声を掛けられた。4人に付いていたサポートヘルパーが操作を完了し私たちから離れた。
310manplus:2005/08/05(金) 22:52:07 ID:AumK+Dsn
 中島主任の声がコミュニケーションサポートシステムを通して聞こえてきた。
「これでみんなはサイボーグとしての持てる機能を全て出し切ることが出来ますが、一方で、その能力を
コントロールすることを覚えておかないと、大変な事態を引き起こすこともあるのです。
例えば、普通の人間と握手したりすると相手の腕を簡単にへし折ってしまったりなんていうこともあり得るのです。
だから、サイボーグとしての機能を完璧にコントロールできるようになることが、
機械の身体を与えられたあなた達にとって最初にして、大きな課題となるのです。この課題を克服しなければ、
安全な状態で皆さんは新しく生まれ変わったサイボーグの身体を使いこなすことが出来ないのです。」
中島主任はそう言って私たちの身体の正しい使い方を徹底的に私たちに教えることを始めた。
 まず、ものをつかむことから始められた。卵をつかんだり、テニスボールをつぶしたりといった、手の力の入れ方などの
手や腕の使い方を教えられた。そして、つぎに歩くことや走ること、跳ぶことといった脚の使い方。
そして、人工眼球の使い方。暗いところから急に明るいところに連れて行かれたり、その逆のこと、
遠くのものを見たと思えば、ごく近くのものを見せられたり、いろいろな形や色、材質の分析や解析を行ったりもした。
そして、人工聴覚の使い方、人工嗅覚の使い方といったことを次から次へと教えられた。そして、私たちは、
自分の火星探査・開発用サイボーグの身体の機能をフルに自分の意識化や無意識のうちに使えるようになるまで、
訓練を続けられたのであった。
 これによって、歩いているときに急に時速120qの速さで走ることが出来るようになったし、その状態から、
急激に止まることも可能になった。また、5トンのものを持ち上げたあと、卵を不意に優しく持つことも出来るようになったし、
10メートルのジャンプも飛べるようになった。
311manplus:2005/08/05(金) 23:02:21 ID:GrOY8hGL
 私たちは、このような基礎的にして最も重要な訓練を30日間に渡って受け続けた。
単調で辛い訓練の日々を過ごしたのである。
 私たち4人は、お互いを励まし合い、この基本訓練期間とも言うべき訓練期間を耐え続けていった。
そして、誰一人、落ちこぼれることなく、サイボーグとしての身体の機能を発揮できるようになった。そして、私たちは、
ついに火星探査・開発用サイボーグとして本当に活動できるようになることが出来たのであった。


0Y500D00H00M00S。私たちが火星に旅立つ日まで170日となっていた。
 この日から、火星標準環境室で火星での探査活動の訓練や宇宙空間再現用シミュレーションプールでの宇宙空間に
おける作業の訓練に入っていくことになる。
 「3日間の休息はどうでしたか?たぶん、皆さんは、身体の使い方の復習で気分転換をする閑がなかったと思います。
この30日間でものすごい量のマニュアルの訓練をしたことになりますからね。そして、今日から、宇宙空間や
火星表面での活動習熟訓練には入ります。いよいよ、火星探査・開発用サイボーグの本来の目的の為の訓練を
行ってもらいます。」
中島主任の言葉にみんながこれからいよいよなんだという感情を持っているに違いなかった。
でも、みんな、もう表情に表すことも肯くという行為を起こすことも出来ない身体になっていた。
サイボーグという機械の身体で、首を動かす必要がないと言うより、首を稼働させることによっての電子機器と
電子機器や生体脳を結ぶ重要なケーブル類を守ることを守るためだからしょうがないのだ。
312manplus:2005/08/05(金) 23:04:29 ID:GrOY8hGL
「みさきと望の訓練は順調なんでしょうか?」
私の質問に中島主任が答える。
「順調に進んでいるという報告を受けています。惑星探査宇宙船の操作や、彼女たちの身体と惑星探査宇宙船との
連携の取り方などを順調に訓練をこなして、順調に操船技術を身につけていますし、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグとしての身体の使い方も充分に覚えているようです。
もうすぐに、合同訓練を行うことも可能になるでしょう。みんなの訓練の消化次第といったところですが、
みんなの方が遅れ気味かもしれないから、気を引き締めて訓練に当たってください。」
「わかりました。とにかく頑張ります。」
私が代表して答える。
「それでは、まず、プールを使用して、宇宙空間での作業訓練から初めて、それから、火星標準環境室に移って、
本番の火星探査訓練を行うというスケジュールで訓練を行っていきます。」
中島主任の指示に従って、超微粒子樹脂が入れられたプールでの惑星探査宇宙船の外部での緊急作業の訓練から
始められた。私たちのバックパック部分に命綱を付けての作業を実際には行うことになる。惑星探査宇宙船の補修の
方法を訓練によって学んだ。この訓練に30日の日数を費やした。惑星探査宇宙船に何かがあった場合は、
私たちは永遠に火星に行くことが出来ないどころか地球に帰還することも不可能になるから、いろいろなことを
想定した訓練が行われた。
ここまでは順調に訓練が進んでいったのであった。私は、七海とみさきと3人で火星に行けると思っていた。
信じて疑わないほどに。
313manplus:2005/08/05(金) 23:10:55 ID:GrOY8hGL
今日はこんなところでしょうか?

307さん。
ありがとうございます。
確かに脳を地球に残して、身体を遠隔操作するというのは、惑星開発では、
伝播の速度の問題でちょっと無理な設定だと思います。

ただ、地球上での兵器としての発想なら、その考え方は可能ではないでしょうか?
戦争のゲーム化などという発想になってしまうでしょうが・・・。
実際に実用化されると怖いです。
314名無しさん@ピンキー:2005/08/06(土) 15:38:46 ID:pD0h4UTw
最後の1文が期待を膨らまさせますね。どれか1体が壊れてしまうんでしょうか?楽しみです。
315名無しさん@ピンキー:2005/08/06(土) 19:28:54 ID:Uz3U4HBI
>>314
生体脳の性能が悪いので廃棄処分とかも萌
316名無しさん@ピンキー:2005/08/06(土) 19:30:43 ID:Uz3U4HBI
>>314
火星計画自体なくなり、3体とも維持予算もつかず見せ物小屋に払い下げとかも萌
なんのためにこんな姿に・・・とか
317名無しさん@ピンキー:2005/08/07(日) 18:54:44 ID:SsG2g4sB
保守しつつ3の444氏を待つ俺。
318manplus:2005/08/08(月) 00:59:18 ID:RoSIIsLd
 0Y530D00H00M00S。
 火星探査ミッション出発まで140日。
 いよいよ、火星標準環境室での訓練が始まるのである。私、浩、七海、未来の4人は、下層階にある火星環境標準室に
連れて行かれた。最初の低圧馴化エアーロックに入ると分厚い扉が後から閉められる。
外からしか開閉すること出来ないようになっていて、扉の内側には、開閉用ハンドルがない構造になっていた。
私たちは、火星に行くか、身体が故障することによって緊急搬出用カプセルを使ってのみ、この火星標準環境室を
でることは出来ないし、ましてや自分の意志では火星環境標準室をでることが出来ない構造になっていた。
次の低圧馴化エアーロックに移動すると自動的に後の扉が閉まりロックされた。そして、火星標準環境室内部と
等圧化され、自動的に最後の扉が開くと、そこには、火星の表面と同じ光景が広がっていた。
みんなは、火星標準環境室に足を踏み入れ、暫し立ちつくしていると、後でエアーロックの扉が完全に閉められ
密封された。
 これで、完全にこの火星環境標準室から出ることが出来なくなったのであった。
惑星探査宇宙船の火星着陸状態を燃して創られたシミュレーターが、私たちの居住エリアである。
少し違うのは、4人がこの中で一緒にいれるようにするための設備になっていることである。
中にはいると4人が休息がとれたり、メンテナンスが行えるように火星探査・開発用サイボーグ用のメンテナンスチェアが
置かれていた。私たちがまず中島主任から指示された訓練内容は、火星表面で日常のミーティングを
行ったりする部屋を創ることであった。私たちは、協力して、一つ一つの部材を確認しながら、組み立てを行った。
そして、部屋や機材の動力供給装置をおろし、セッティングした。そして、火星面活動用バギーを調整する訓練に入った。
このバギーは、自転車と同じ構造になっていて、私たちが一人一人別々に乗れるように一人用になっていて、
私たちの脚力により、時速250q以上で走れるようになっていた。火星探査の効率を高めるための機材であった。
319manplus:2005/08/08(月) 01:00:14 ID:RoSIIsLd
そして、中島主任が次の訓練の指示を出した。
「みんな、次の訓練は、股間部のカバーを開けて、専用ケーブルを使い、お互いにエネルギーを供給しあったり、
火星で使う機材にエネルギーを供給するためのケーブル接続訓練です。お互いの股間のカバーを開いてケーブルを
接続してもらいます。最初は恥ずかしいと思う格好だけど緊急時に必要なことだから、これから毎日当然の動作として
認識されるように必ず訓練の最初と最後にこの動作を行ってもらいます。」
そう言われ、私たちは、股間のカバーを開き、専用の少し太いケーブルでパートナーの股間同士を接続した。
私は七海とパートナーとなって、ケーブルで接続しあった。私たちの人間だった頃の感覚で、レスビアンのプレイを
しているようであり、生身の人間であれば、性的快感を感じるようになるのであろうが、機械と機械の接続として、
人間的性感を奪われた存在なので、心の恥ずかしさに実感を伴わない不思議な感覚が私たちの中に存在したのである。
そして、この訓練は、私たちが火星環境標準室で暮らす間毎日2回必ず訓練として行われたのである。
 そして、私たちの頭の中で、レストパートの時間の開始を告げるチャイムが鳴った。
私たちは、各自の火星探査・開発用サイボーグ用メンテナンスチェアに戻り、レストモードにモードを切り替えるように
指示され、その指示に従って各々のメンテナンスチェアに入り、レストモードに入っていった。


320manplus:2005/08/08(月) 01:03:20 ID:RoSIIsLd
 0Y531D00H00M00S。
 この日から、アクティブモードにアクティブパートになると同時にモードが切り替わり、まず、股間のカバーを開いて、
ケーブル接続訓練を行い、その後、バギーの使い方や探査機材の使い方、火星の探査のデータサンプルの
採取方法といったものを訓練で確実に使いこなせて、探査が行えるように反復的な訓練を行うことになった。
そして、もう一つの大事な訓練である、火星探査・開発用サイボーグである私たちの身体の故障に関しての修理、
メンテナンスの訓練も私たちが確実に行うことが出来るように、訓練過程を行うことになった。この場合の訓練は、
私たち第一次火星探査正規チームのサイボーグが、緊急補充用バックアップチームのサイボーグの身体を使い、
分解したり、補充部品に付け替えたり、生体部分をチェックしたりと言うことを訓練として繰り返し行った。
私は、浩の身体を使い訓練を受けた。仲間の身体を使用しての訓練は、仲間を生きたまま解剖する生体実験と
変わりがないように思え、非常に精神的にも辛い訓練の一つであったが、もし、火星で、万一、
私や七海の身体の故障があった場合に備え、万全の知識と技術が必要であり、正規チームの身体を使うことは、
万全を期す意味からも使うことが出来ないので、浩や未来の身体を使うことになっているのであった。
私は、浩の身体を分解しては、組み立て、また、分解し、組み立てるという訓練を繰り返した。


321manplus:2005/08/08(月) 01:14:23 ID:jEm4BTEf
 0Y570D00H00M00S。
 ここまで順調に私たちは、訓練日程を消化していった。そして、ついに火星出発まで100日となった。
私たちの訓練は終盤を迎えていた。もうすぐ、火星探査・開発計画の全貌がマスコミを通じて発表され、
火星探査・開発用サイボーグと惑星探査宇宙船操縦用サイボーグが周知されると共に、
この宇宙開発事業局のプロジェクト本部の存在が、大衆に明かされるのを待つばかりの状況を迎えることになる。
 誰しもが、もうすぐ火星に出発という気持ちになっていた。全てが順調に進んでいたのである。
 この日の訓練は、火星での探査機材のメンテナンスを行い、その後、基礎訓練としての時速80qでの
継続ランニングをこなしていたときのことだった。

322manplus:2005/08/08(月) 01:14:55 ID:jEm4BTEf
0Y530D09H25M12S。
私の人工眼球の時刻表示が示したときだった。事態が急変したのだった。
 七海が、時速80キロを維持できなくなり、身体が左右にふらつきだした。
「はるか、私、まっすぐに走ることが出来ないの。何故かしら。それに、速度をコントロールできないの。
補助コンピューターの故障か、脚部コントロールシステムの故障かしら。」
そんな七海の声が聞こえた次の瞬間だった。七海が声を上げた。
「痛い!頭が割れるようにいたいの。」
そう言ったと同時に深い緑色の人工皮膚の七海の身体が、頭から崩れ落ちた。
 それは、まるでロボットが動力を切られて倒れるようだった。
「七海!どうしたの。誰か、早く、七海を火星標準環境室緊急搬出用カプセルを用意して。」
私は、そう叫ぶと時速80qの継続ランニングから緊急停止して、七海に近づき、七海の身体を抱きかかえた。
 七海の担当の薄い桃色のラバーフィットスーツを装着された春川瞳ドクターと薄い黄色のラバーフィットスーツを
装着された百瀬ミハルドクター、それに白いラバーフィットスーツを装着されたサポートヘルパーの熊川智子さんの3人が
火星標準環境室緊急搬出用カプセルを大急ぎで運び込んできた。浩と未来が火星標準環境室緊急搬出用カプセルを
開けるのを待って、私が七海をカプセルに寝かせた。カプセルが閉じられると私たち6人は、カプセルを緊急処置室に
運んでいった。この時、七海の名前を呼んだが、七海はもう答えることがなかった。
 緊急処置室について、七海を処置台に移したときは、既に七海の生体反応は消えていた。春川ドクターと
百瀬ドクターが救命処置を施したが、もう既に手遅れの状態であった。
 動かなくなった七海は、機械の固まりでしかなかった。
323manplus:2005/08/08(月) 01:15:40 ID:jEm4BTEf
 この日の訓練は中止され、緊急で、七海の死亡の原因を究明するために分解解剖処置が行われた。
一つ一つ、七海に使用された機械装置が分解され、次々に洗浄メンテナンスをされていく。
七海に使われた部品はほとんど、つぎにサイボーグ改造手術を受けるリザーブ順位1番の美紀に
使用されるということである。美紀にとってこの事実は、どう感じるのであろうかと思った。
同期の友に使用されていた機械体を使用されるのである。きっと複雑なのだと思う。
 七海の身体の分解解剖処置が進んでいったが、どこにも、不具合が見つからない。
機械部分も、生体部分も正常であった。そして、ついに脳の部分の解剖が始まり、原因が明らかになった。
七海の死因は、生体脳の脳内出血が原因であった。赤い血ではなく、白い人工血液が、脳内から大量にあふれ出した。
七海は、機械部分からの情報を処理しきれなくなっての生体脳の過負荷が原因ではなく、火星探査のミッションに
対する極度の精神的負担やストレス。それに、訓練とはいえ、仲間であり、双子の姉妹である未来の機械の身体を
分解したり、組み立て直したりするという、いくら機械体になったとはいえ、姉妹の身体を弄ぶ行為の罪悪感とストレスに
生体脳が耐えられなくなったのである。
 七海の数少ない生体部分は、研究材料として、保存液につけられ宇宙開発事業局の宇宙医学研究室に
保管されるために運び出されていった。そして、機械部分は、再び使用されるための緊急メンテナンスのために
運び出され、七海がここにいたという痕跡は跡形もなく消えてしまった。
 私と浩、それに未来の3体の火星探査・開発用サイボーグは、その場に立ちつくした。
しかし、私たちは、その状態をいつまでも続けることは許されていなかった。
すぐさま、ブリーフィングルームに呼び出されることになった。
324manplus:2005/08/08(月) 01:24:56 ID:SC2x4xRA
 ブリーフィングルームには、木村局長、長田部長、水谷ドクター、そして、多くのプロジェクトメンバーとともに、
リザーブメンバーの未来、はるみ、ルミ、直樹とともに、第2期サイボーグ手術予定メンバーのえりか、
クリスをはじめとした全員が集合していた。
 私たちに長田部長が気づいて、席に着くように指示された。私たちが前列の火星探査・開発用サイボーグ専用チェアに
着席すると、そこに、みさきと望が、シミュレーターから取り外され、ブリーフィングルームに運び込まれ、
専用チェアに据え付けられた。ふたりの姿は、もう完全に人間ではなく、マネキン人形というものでしかなかった。
そして、木村局長が話を始めた。
「皆さんに緊急に集まってもらったのは、望月七海中佐、コード名、MARS2の急死の件です。
ご存じのように、死体解体解剖処置の結果、火星探査・開発用サイボーグシステム上のトラブルではなく、
望月七海中佐の性格上におけるストレスによる脳内出血による死亡と確認されました。望月中佐の死亡は、
本当に不幸なことだと思いますが、この故障による死亡原因が、他の3体の火星探査・開発用サイボーグに共通して
起こるものではないことが不幸中の幸いといったところではないでしょうか。望月七海中佐については、
任務中の殉死となりますから、少将へ二階級特進扱いとなります。ご冥福をお祈りします。全員起立の上、黙祷!」
木村局長の号令でみんな立ち上がり、黙祷をした。二十数年人間として生きてきて、この短い間に機械と人間の
中間的な存在にさせられた上での死というのは、私たちも人ごとではないし、七海の健気ながんばりを思うと本当に
悲しみを覚えるのだが、もう、私には、泣くことは出来ない行為であった。ここにいるみんなが、涙腺のない身体に
なっているから、みんな悲しくてもなく事が許されていなかった。本当に悲しいのに泣けないということのつらさを
みんな噛みしめていた。そして、七海は、脳とごく限られた生体部分だけの存在として人生を終えたのである。
325manplus:2005/08/08(月) 01:25:50 ID:SC2x4xRA
 木村局長が黙祷を終えて、続けた。
「そして、今後のプロジェクトの進行についてを話します。今日、上層部と話し合った結果、打ち上げ日程を現段階では、
現段階では変更せずに対処することとします。そして、第一次火星探査チームの正規メンバーへの補充は、
望月未来中佐を任命します。望月未来中佐を緊急補充用バックアップメンバーに指名したのは、望月七海少将と
一卵性双生児の姉妹であり、性格的にも酷似しているため、望月七海少将に何かあった場合、
正規チームに入ったとき、如月大佐と美々津少佐とのチームワークがすぐに築けるというメリットを
考えてのことだったのですが、まさか、本当に、その様な自体が来ることは予想を超えていました。
望月未来中佐頑張ってください。ただし、この姉妹の場合、正確などの全てにおいて酷似している姉妹だったので、
任務に入る前に、分析室で、精神的なストレス分析を行って、問題がないかどうかを確認した後、
サイボーグの修理スキーム等の正規チームしかデータリングしていない訓練の経験データは、データ送受処置室で、
望月七海少将が蓄積したデータを、股間のデータ送受用接続コネクターを通じて取得してもらいます。それにより、
経験レベルは、望月七海少将のものを共有することが出来るのです。サイボーグになって便利になったところです。
お姉さんの経験記憶データを使うのは辛いと思いますが、あなたにとって最善のことなのです、
拒否する権利をあなたは持っていないので、我慢してください。
つぎに、緊急補充用バックアップ要員の補充は、リザーブ順位の1位になっている、高橋美紀中佐になってもらいます。
つまり、「MARS5」としての人生を送ってもらうことになるのです。もっとも、サイボーグ手術を受ける日にちが
繰り上がっただけですから、覚悟を繰り上げて行ってもらうことになります。そして、医療スタッフと技術スタッフ、
サポートヘルパーの皆さんにお願いしますが、「MARS1」、「MARS3」、「MARS4」の手術で与えられた期間は当然、
与えることが出来ません。3体のサイボーグに費やされた23日間の改造手術期間を大幅に短縮してもらい、12日で、
行ってください。」
ブリーフィングルーム内にどよめきとため息が同時に起きた。
326manplus:2005/08/08(月) 01:26:55 ID:SC2x4xRA
その反応を木村局長が制し、
「皆さんの反応はよくわかります。でも、高橋中佐に出来る限りの可能な範囲での火星探査・開発用サイボーグとしての
身体になれてもらう時間を付与したいのです。無理を承知でお願いします。」
水谷ドクターが反論した。
「ドクター、スタッフとして、無理なスケジュールでの改造手術期間でのサイボーグ化手術は、結果的に高橋中佐の
サイボーグ体の不具合に繋がり、高橋中佐が動作不良に陥り、望月七海少将のような悲劇的な最後を
迎えさせる結果になる可能性があり、私としては、反対です。」
木村局長が答えた。
「そのことも、私と長田部長で検討しました。医療スタッフと技術スタッフ、サポートヘルパーを交代で配置し、
手術を行うことで、長時間の手術が可能になると判断しました。超スピードでのサイボーグ改造手術に耐えられる体制を
スタッフのローテーションという形で補ってください。それでも、ミスによって、高橋中佐を失う結果になっても、その為に
補充要員がいるのですから、順次補充をしていくことで対処します。サイボーグ手術被験者の皆さんには
辛い言い方かもしれませんが、上層部では、消耗品としての被験者の位置づけでオーソライズされています。
その現実を受け止めてください。」
「木村局長と長田部長がそこまで覚悟されているのであれば、無理とも言える限られた時間で、ミスなく、高橋中佐を
火星探査・開発用サイボーグに改造して見せます。我々の技術力を集約して見せます。」
水谷ドクターが吹っ切ったようにそう言った。
私たちは、何かあれば、すぐに代替品が存在する使い捨ての実験動物でしかないのであり、重要なのは、
サイボーグの身体に使われる機械部分であるということを再度思い知らされた。でも、私たちも、七海のためにも、
ミッションを完璧にこなすなければいけないのだ。そのことを心に誓う。
327manplus:2005/08/08(月) 01:35:53 ID:TmlWnOIF
木村局長が、続けた。
「水谷ドクターよく言ってくれました。高橋中佐も厳しく辛い手術を経験することになりますが、頑張ってください。」
「わかっています。亡くなった七海のためにもがんばり抜いて見せます。」
美紀の言葉に木村局長が、
「高橋中佐、よく言ってくれました。ありがとう。それから、今後のことを考えて、サイボーグリザーブリストを増やします、
今から発表します。第一順位は、神保はるみ少佐、第2順位が、進藤ルミ中佐、第三順位に大谷直樹少佐。ここまでは、
繰り上げで順位が上がったサイボーグ改造手術被験者候補です。そして、新に第四順位に如月えりか中尉、
第伍順位が、山田クリス少尉、第六順位に沢田美花中尉の3名を指名します。
正規チームと緊急補充用バックアップチームに何かあったとき、緊急増員が必要なときには、速やかに
サイボーグ改造手術を受けることになりますから、常に、火星探査・開発用サイボーグや
惑星探査船操縦用サイボーグの行動を自分のこととして、バックアップ作業をしてください。
もちろん、他の第2期ミッション用サイボーグ手術被験者もいつでも自分の番が来てもあわてないように心の準備を
しておいてください。」
みんなが、
「わかりました。」と答えた。
328manplus:2005/08/08(月) 01:36:55 ID:TmlWnOIF
長田部長が、
「それでは、各自、自分の持ち場に戻ってください。それから、高橋中佐は、処置室に移動してください。
すぐに火星探査・開発用サイボーグへのサイボーグ改造手術が始まります。それでは解散してください。」
私たち3人が席を立ち火星標準環境室に向かった、その後をみさきと望がサポートヘルパーに運ばれてついてきた。
そして、6人のリザーブメンバーも、今日から、訓練会にあるオペレーションルームに入ることになったのでついてきた。
「お姉ちゃん、私も、リザーブメンバーにされてしまった。」
えりかが、私に話しかけてきた。私は、
「えりかのサイボーグ手術が少しでも遅い方がよかったのに。ちょっと悲しい。」
そういうと、えりかは、
「私も、いつかは、改造された上で、ひょっとしたら、永久に地球に帰れなくなる可能性があるんだから、もう、
とっくに覚悟を決めていたの。だから、お姉ちゃん心配しないで。私、お姉ちゃんのミッションの成功を待っている一人なの。」
そう言って私を元気づけてくれた。
そうこうしている内に、私たちは、シミュレーターのある階に到着し、みさきと望を再び、シミュレーターに据え付けた。
その時、みさきが、
「七海の分まで、私、頑張るね。ハルカも落ち込む暇なんてないからね。未来と一緒に最高のミッションにするよ。
いいね。」
そう言った。
私に首を横に振る理由などなかった。頑張るだけだ。
 未来には、辛い処置が待っていた。股間のデータ送受信コネクターに、ホストコンピューターからのデータ授受用
ケーブルを接続され、七海が訓練で経験したことの全てのデータが送信された。双子の姉のデータを生で
受信することの辛さは並大抵ではないだろう。でも、未来は、この仕打ちに耐えるしかないのだ。
私たちは、どんなことをされようとも、耐えるしかない存在なのだ。
未来のデータ受信処置が終了するのを待って、私と未来、そして、浩は、再び、火星標準環境室に戻り、
何事もなかったように慣熟訓練を再開した。
 こうして、火星出発まであと100日という日が過ぎていった。
329manplus:2005/08/08(月) 01:38:27 ID:TmlWnOIF
今日はここまで。

七海さんに不幸があり、その善後策を描いてみました。
このような苦難を乗り越えて、火星へ旅立つようになります。
330名無しさん@ピンキー:2005/08/09(火) 14:41:22 ID:B7h+b0pa
>>manplus様乙
331manplus:2005/08/11(木) 00:30:38 ID:rvtc/Y59
0Y590D00H00M00S。
火星標準環境室に高橋さんが到着した。胸の「MARS5 MIKI TAKAHASHI」の文字が誇らしげに見えた。
「私、ついに、火星標準環境室の住人になったわ。これから、先輩の皆さんよろしく。」そう明るく言った。
「もう、身体に慣れた。」
私の問いに、高橋さんは、
「ええ、充分に慣れたわ。みんなの経験したことをわずか20日で経験してきたの。密度の濃い、
辛い手術と訓練であったけど、みんなとこうして同じ身体になって会えたのが嬉しい。改めて、よろしくね。」
「こちらこそ、よろしく。さあ、慣熟訓練の再開よ、みんな頑張りましょう。」
私がみんなに声を掛け、再び訓練が始まった。
「高橋さん、私たちのここまでの訓練体験データは受信したの?」
私の問いに高橋さんは、
「はい、受信しました。みんながどの様な訓練を積んで、どの様なデータを収集して、どの様な体験をしてきたかを
全てデータで受け取っています。みんなと、早くなじめるように努力もします。みんなと一緒に訓練をさせてください。」
美紀が答えた。浩が、
「高橋さんは、今日に関しては、少し調整を考えての訓練でいいと思う。何故なら、僕らよりはるかに辛いスケジュールで
火星探査・開発用サイボーグにされる手術を受けたんだからね。無理をすることはしないでくれよ。」
「大丈夫。」
美紀がきっぱり言った。
332manplus:2005/08/11(木) 00:32:37 ID:rvtc/Y59
 この日の訓練は、火星探査用バギーの操縦訓練を行った。そして、火星での人工眼球の使い方や人工聴覚の使い方、
人工嗅覚の使い方といった、探査のデータ収集という大切な部分の訓練を行った。
そして、レストパートを告げるチャイムが鳴ったため、居住エリアのメンテナンスチェアに戻った。
「高橋さん、私たちの半分以下のスピードで身体を機械に変えられるのは本当に辛かったでしょう。」
「身体をいじるスピードが速いのは、あんまり辛くなかった。でも、厳しい状態があったことは確かだけれど…。
でも、もっと辛いことは、七海の身体に使われた部品がほとんど再利用されていることなの。
七海を思い出して、それが辛いわ。」
私の問いに高橋さんが答えた。高橋さんの身体の部品は、ほとんどが七海の身体に使用された機械部品であるのだ。
確かに辛いことであるが、緊急事態で、ほとんどがオーダーメイドで造られる火星探査・開発用サイボーグ用の
機械部品であり、新しいものを作ったのでは間に合わないということもあるのだが、私たち一人を造り出すのに
使われるお金は、尋常な金額ではないため、コストを考えると機械部品や電子機器の再利用が理想的なのであった。
ましてや、七海のサイボーグ体については、何も問題がないため、ほとんどの機械部品や電子機器が
再利用可能であったのだ。私は、どういう言葉を掛けようか迷った末、「高橋さん、あなたの身体が七海のものを
再利用したということは、確かに辛いともとれるけれど、七海と一緒に高橋さんも私も浩も、そして、未来もミッションを
行っているということでもあるのです。七海と一緒に7人でこのミッションを成功させましょう。」
未来も賛同した。
「美紀、はるかのいうとおりだよ。辛いと思わないで、七海がいつも側にいて私たちを励ましてくれるように
見守っていてくれるんだと考えようよ。頑張ろう。」
「ありがとう、未来。そう思って頑張るから。」
浩が、
「それでいいんだよ。さて、いくら機械の身体が疲労知らずとはいえ、生体部分のためにそろそろ、レストモードに
切り替えよう。」
その言葉で4人がレストモードに自分たちの身体を切り替えた。


333manplus:2005/08/11(木) 00:33:16 ID:rvtc/Y59
0Y640D00H00M00S。
私たちが火星に打ち上げられるまで、あと30日となった。
 私たちの訓練は七海を失って以後、何事もなかったかのように順調に消化された。
そして、昨日の訓練で全てのプログラムを消化し、それは、火星へ旅立つ準備が完了した事を意味した。
 私たちは、この日は、火星環境標準室内の居住エリア標準モジュール内の火星探査・開発用サイボーグ専用
メンテナンスチェアで待機を命じられていた。
 私たちの人工眼球内に本部の映像が映し出された。視覚もサイボーグになったときから自分ののではなくなっている。
このように、自分の見たいものではなく、強制的な映像を見せられることもあるのだ。
 このときは、私たちに指示を与えるために木村局長が現れた。
「火星探査・開発用サイボーグのみんなおはようございます。皆さんのミッション開始まで、あと30日となりました。
地球上の社会では、あと一ヶ月になったと表現する日数になりました。そろそろ、マスコミを通じてこのミッションの内容と
あなた方の存在を発表するときが来たようです。このプロジェクトを国民の元に発表すると同時に火星の
植民地化における我が国の既得権を世界に示す意味を持ちます。発表後から、あなた達は、第一次火星探査チームも
緊急補充用バックアップチームも、そして、第二次探査以降のサイボーグ手術被験者も含め、程度の差こそあれ、
注目される存在になってしまいます。記者発表を境にして、あなた達は、ヒーローとヒロインになるのです。
覚悟していてください。そして、その前にあなた方の親兄弟恋人といった身近な人たちにあなた達のことを
お知らせすると同時に保護しなければなりません。記者発表で間接的に知らせるよりも直接お知らせすることが最善と
判断しました。そして、保護をするのは何故かといえば、あなた達の身近な人たちが他国のテロ行為にあう可能性が
あるからです。もし、交換条件にプロジェクトの内容を渡したとき、あなた達火星探査・開発用サイボーグや
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグが危険にさらされると国家の威信に傷が付くことになるからです。
334manplus:2005/08/11(木) 00:42:51 ID:aXco7yet
そのようなことを防ぐため、あなた方の大事な近親者は、この宇宙開発事業局周辺のコスモタウンで
生活してもらうことになります。でも安心してください、皆さんの身近な方々の不自由のない暮らしは国家が
責任を持って保証します。そして、希望があれば、記者発表前にあなた達との面会の時間も作ります。」
それは、事実として、火星植民地化プロジェクトミッションに直接的、間接的に関わっている人間を国家が完全に
管理下に置くということだった。確かに、何不自由ない生活が保障される代わりに行動の制限や間接的、
直接時な行動監視下に置かれることになるのである。私たちがこのミッションの主役として指名されてしまったために
両親や恋人、兄弟、姉妹が待遇の良い囚人生活を送ることになるのであった。本当に申し訳ない気分になったし、
今の私の怪物になってしまった姿やえりかの永久に脱ぐことのできない宇宙服に入れられた姿を見たら父や母は
どう思うのかを考えると悲しい気持ちになってきた。みんなも同じ気持ちを持っているに違いないのだ。
もちろんこのプロジェクトにかかわっている人たちも同様に思うことであろう。
なにせ、このプロジェクトにかかわっている人間は全員が、永久に脱ぐことを許されない特殊な宇宙服を
装着されているのだから、普通の人間とはまったく違う境遇にいるからである。
木村局長が続けた。
「あなた方の身近な人たちのリストは、人工眼球下部にリストがあります。
もし、追加したい場合は申告してください。もっとも、かなり多めのリストアップだから問題はないと思いますが。」
本当によく調査してある。私の場合、こんな人まで、行動規制をされるのかと言うほどであった。
軍の調査部の資料だと思うが恐ろしいほどの調査力である。
335manplus:2005/08/11(木) 00:43:24 ID:aXco7yet
 木村局長の言葉はさらに続く。
「それから、あなた達は、首相と面談を行う予定も入っていますし、記者会見の予定も入っています。
火星に出発する日まで、国家の広告塔としての役割も果たしてもらいますから覚悟していてください。」
私たちは、火星に向けて出発するまで、さらし者としての役割も追加されるようだった。
もっとも、帰還後も、さらし者として生き続ける役割を私と未来、みさきは背負っているはずであった。
 人工眼球から、木村局長の姿が消えて、通常の視覚に戻った。
 待機命令がとけ、居住エリアのメンテナンスチェアの拘束が解かれたが、私たちは、引き続き、身体のチェックに入った。
久しぶりに、火星探査・開発用サイボーグとしての身体が、正常に機能しているのか、生体部分に異常がないかが、
入念にチェックされていった。長い時間をかけたサイボー体のチェックが終わった。
 そして、私たちは、居住エリアの外に出るように命令を受けた。
私たちが、居住エリアを出ると、そこには、みさきと望が待っていた。惑星探査宇宙船シミュレーターから取り外され、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車に据え付けられ、火星標準環境室に移動させられてきていた。
「みんな久しぶり。火星着陸訓練以来だね。私と望も順調に訓練をこなして、もう、惑星探査宇宙船の操縦は完璧だよ。
いつ出発しても大丈夫だよ。」
みさきが自信を持って話した。
「ずいぶんな自信だね。期待しているよ。必ず、ミッションを成功させて見せようね。」私が答える。
 再び、木村局長が私たちの視覚を占領する。
「今日は、首相が、火星植民地化プロジェクトの進行状況の視察に見えるわ。火星探査・開発用サイボーグと
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの完成品をはじめてみることになるの。あなた達の力を存分に見せてあげてください。
その為に、会見室にこれから移動してもらいます。サイボーグ搬送用カプセルに各自乗り込んでください。
美々津少佐と橋場少佐のサイボーグ搬送用カプセルへの積み込みを先におこなってあげてください。」
336manplus:2005/08/11(木) 00:51:18 ID:aXco7yet
 0Y640D3H30M00S。地球時間で11時30分に首相が宇宙開発事業局の正面玄関に到着した。
木村局長の出迎えを受け専用車を降りた。
この国の現在の首相の名前は、澤田瑞穂。この国初の女性首相になったのが、5年前の事である。
そして、彼女の持論であった領土を宇宙に向け拡大することが、人類にとっての種の存続に向けての最大の
キーポイントであるという事であった。もちろんその政治手腕やキャラクターもあるが、火星植民地化計画を政策として
国民から圧倒的な支持を受け若くして首相になると同時に、この火星植民地化プロジェクトの開始を密かに
命令していたのである。彼女は、総選挙のタイミングを計り、このプロジェクトを講評することを狙っていた。
支持率からしても今度の総選挙では勝てるという調査が出ていたが、その事実を盤石にするためにも、
火星に人類を住まわせるというイベントの開始日の後に選挙を実施する予定でプロジェクトのタイムスケジュールを
進行させていた。彼女にとって3期目の再選のカードである火星植民地化計画の大事な駒が死亡したという知らせは、
自分の計画にないものであった。タイムスケジュールの延期を進言する者もいたが、選挙スケジュールと
合わせているため、スケジュールの変更を許可しなかったという経緯があった。
その為、今回の訪問が実現できたということイコール、計画が順調にいっていることである為、彼女自身、
内心安堵していたのである。
 木村局長は、澤田瑞穂をサイボーグとの会見室に案内しながら、施設の全容を案内した。
「私は、宇宙開発事業局に何度も来ているけど、火星植民地化プロジェクトの施設を初めて見せてもらいました。
一度見ておかなければと思っていたのですが、外交や内政で就任以来難しい局面が展開していたものですから時間が
とれなくて。報告は全て聴いていますが、木村局長に任せっきりにしていて、申し訳ないことをしてしまいました。
でも、プロジェクトが順調にきたのも、木村局長を初めとするスタッフのがんばりと聞いています。感謝しています。」
337manplus:2005/08/11(木) 00:53:11 ID:aXco7yet
澤田の言葉に木村局長は、
「ありがとうございます。宇宙開発事業局を代表してお礼を申します。」
「他人行儀な言葉はここまで。玲子と私の仲じゃないの。ここには、側近の秘書以外は、中に入っていないもの、
プライベート感覚にさせてもらうから、玲子もそのつもりでしゃべって。
もちろん、サイボーグたちも気楽にしゃべってもらうように伝えてね。
あの怪物たちが、今回の最大の重要な荷物であり、私にとっての政権維持の大事なカードなんだから、
あの人間とはかけ離れた姿の人間も私の重要な仲間ということにしたいの。」
「瑞穂の考えはわかったわ。でも、あくまでも、火星探査・開発用サイボーグと惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの
前では、彼らを好奇の目で見ないでね。それから、私も含めて、この施設内にいるスタッフも永遠に脱ぐことの
出来ない宇宙服を身体に取り付けられている、ある意味ではサイボーグだから、特別な目で見ることはしないでね。」
「わかっているわ、玲子。」
「だって、瑞穂は、昔から、自分のカードだと思うとその役割としての価値手しか見ない癖があるから、念を押したのよ。
何年のつき合いだと思っているの。性格はお見通しだからね。」
 木村局長と澤田首相は、中学時代からのつき合いであり、大学も専攻こそ違ったが、この国の最高学府に一緒に
通っているほどのつき合いであり、政治の道と宇宙科学を通じて軍の道にと方向は違ったが、ずっと友情を温め続けた
仲なのである。今回のプロジェクトの責任者に木村局長を据えたのも、澤田にとって、一番任せて安心な相手が、
都合よく、宇宙科学の権威に有人の木村玲子がいたことで、迷わず彼女を局長にしたという経緯があった。
そして、プロジェクトのリーダーである長田静香部長は、彼女たちのやはり中学時代からの後輩であり、
信頼の厚い人物だったのであった。
338manplus:2005/08/11(木) 00:54:03 ID:aXco7yet
 このプロジェクト実施に当たって、澤田瑞穂は、自分の信頼の置けるスタッフを中心に据えたのであった。
「ところで、望月七海少佐が死亡した事による影響は本当に大丈夫なの。」
「瑞穂、それに関しては、大丈夫よ。彼女たちは、望月七海の死を乗り越えているわ。」「火星探査・開発用サイボーグの
他の個体に同じエラーが起きるということはないの。」澤田瑞穂の質問に、木村局長は冷静にいった。
「大丈夫よ。彼女の死の直後にあのエラーは、彼女特有の症状であったことがわかっています。
精神的ストレスに弱いタイプの生体脳だったの。今後のサイボーグかでは、脳のデータ取得を事前に行い、
望月七海と同じタイプの生体脳を持つ個体に関しては、ストレスを和らげるような処置と精神的環境を制御する
システムも確立しています。今後はあのような事故は起こらないような対処をしてあるわ。」
「そうなの。安心したわ。今後は、改良型の火星永住型サイボーグの生産も開始されるし、私たちだって、
火星へ為政者として移住するスキームも計画中なのよ。火星の環境は、人間にとって受け入れることが難しいことが
多いし、永遠の為政者として君臨するには、自分たちの身体をサイボーグ化することも考える必要があるのよ。
私たちがサイボーグになった場合は、絶対に私たちの身に危険があってはならなのよ。それから如月はるか大佐と
望月未来中佐は、私たちの大事なパートナーよ。火星に為政者としてはいるときの大事な腹心なのよ。
だから、彼女たちを危険にさらしてはならないの。」
「瑞穂、解っているわ。彼女たちには、望月七海中佐のようなトラブルは起こらないという調査データが
医療部から上がっています。必ず無事にミッションを成功させて帰還できるわ。
帰還後のバージョンアップ手術のための機械機材、電子部品もオーダーしてあるもの、失敗させるようなことは、
全力で防ぐわ。それから、基礎的なシステムは、私も含めて、ここのスタッフがラバーフィットスーツを装着されて
実験しているから、信頼性も実証済みよ。」
339manplus:2005/08/11(木) 01:06:18 ID:aXco7yet
「玲子、やっぱりさすがだわ。そこまで危険管理を出来る人材は、私の人生の仲で会った人間で、玲子だけだった。
信頼しています。この計画が、我が国の国民を火星で現在の指導体制で新しくて無限の可能性を持つ土地で長期的に
政権を維持することに必要なことだからね。本当によろしく。」
「瑞穂の発想って相変わらず凄いものがあるわ。普通の人間じゃそこまで考えられないもの。」
「玲子、お褒めいただきありがとう。ところで、如月姉妹のリーダーシップはどうなの。」
「やっぱり素晴らしいわ。さすがに誰かさんと同じ血脈を持つ人間ね。この計画になくてはならない存在よ。
それに、機械との協調性も抜群だわ。まさにサイボーグになるために生まれてきた姉妹だわ。」
「如月はるか大佐に会うのが楽しみよ。」
「そろそろ時間だわ、会見室に火星探査・開発用サイボーグの4人と惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの2人が
運ばれてくるころよ。私たちも会見室に行きましょう。案内するわ。」
そう言って、木村局長は、澤田首相を会見室に案内した。

340manplus:2005/08/11(木) 01:06:48 ID:aXco7yet
 そのころ、私たちは、みさきと望を彼女たち専用のサイボーグ搬送用カプセルに
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車に据え付けたまま移動させ、所定の位置に据え付け固定した。
そして、私たちがそれぞれのサイボーグ搬送用カプセルに入った。サイボーグ搬送用カプセルは、思ったよりも小さく。
私たちは身を丸めるような格好で押し込まれた形になっていた。
ただ、今の私たちの身体は、どの様な格好をしようと辛いということはなかった。
私たちがサイボーグ搬送用カプセルに入ると自動的にハッチが閉まった。
そして、サポートヘルパーによって今日の目的地である会見室に運ばれていった。
途中で、宇宙開発事業局の火星植民プロジェクトのラバーフィットスーツを装着されたメンバーとすれ違った。
みんなの視線が集中するように思えて恥ずかしさを覚えた。本当にこのサイボーグ搬送用カプセルで、
外を移動するようになったら、一般人の奇異の目が刺さるようになるのであろう。
本当に見せ物の怪物になってしまうのだろうと思った。
 程なくして、会見室に到着した。会見室でも、私たちは、サイボーグ搬送用カプセルを会見のために作られたカプセルに
接続され、ハッチが開き、会見用カプセルに移動した。惑星探査宇宙船操縦用サイボーグのみさきと望を
サイボーグ搬送用カプセルから、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車ごと取り出して、
会見用カプセルの彼女たちの所定の位置に固定した。そして、私たちも、定められた会見用チェアに身体を固定した。
そして、会見用カプセルの外側のブリーフィングチェアを見ると木村局長と澤田首相が座っていた。
ちょうど昼食の時間のため、澤田首相のブリーフィングチェアにだけ食事がのっていた。
341manplus:2005/08/11(木) 01:08:31 ID:aXco7yet
 木村局長と澤田首相の会話が、コミュニケーションサポートシステムを通じて聞こえてきた。
「玲子、いつ来ても、ここの食事はまずいわね。」
「しょうがないでしょ。私たちこの施設の人間は、口から栄養を摂ることをしていないのよ、食事なんて必要ないからね。
味がうまいとかまずいなんていう人間としての感覚を無くしてから随分経つのよ。そんなわがままを言わないでよ。
サイボーグ手術被験候補者たちやラバーフィットスーツ装着前の職員は、この食事でも、
みんなおいしいといって食べてくれているの。」
「そりゃ、最後の晩餐なんだから、どんな食事でも思い出深く食べるからおいしいに決まっているわよ。
それにしても、今度はもう少しまともなものを食べさせてあげなさいよ。」
また、瑞穂さんわがままを言っている。首相となっても飾らないあの性格が私は好きなんだけれど・・・。
 澤田首相が、私たちが、会見用カプセルに入ったのに気がついた。
「火星探査・開発用サイボーグと惑星探査宇宙船操縦用サイボーグのみんなが入ってきたわね。皆さん、
素晴らしい身体を与えられて、使い心地はどうかしら。もう完全にサイボーグの身体に慣れたという報告を
受けていますが。」
「ハイ、みんな、トレーニングの結果、自分の身体の能力を十二分に発揮できるようになりました。
最初は、生身の身体と機械の身体の性能の違いに戸惑いましたが、今は完璧になれることが出来ました。」
「今の声は、はるかね。よく頑張ってくれたわね。必ずミッションを成功させてね。」
澤田首相が私に声を掛けた。彼女は、実をいえば、私とえりかの年は離れているが、従姉妹になるのである。
このプロジェクトに参加させられることになったからには、彼女のためにも頑張る必要があるのだった。
「美々津少佐と橋場少佐は、人間とは少し違う身体になりながらもその仕打ちによく耐えてくれました。
あなた方の重要な任務に取り組む姿勢、本当に感謝しています。
渥美大佐と高橋中佐は、緊急補充用バックアップメンバーとしてよく耐えてくれました。
342manplus:2005/08/11(木) 01:18:33 ID:T9UQedxQ
今後も、順調にプロジェクトが進めば、地球上の訓練施設の狭いところに閉じこめられて生きていかなければならない
立場にいるのに、その処遇を理解してくれていて感謝しています。
望月未来中佐は、お姉さんの悲劇を乗り越えてよく頑張ってくれていますね。感謝しています。」
澤田首相は、サイボーグの私たち全員に声を掛けた。そして、
「私は、皆さんの今回の任務が成功して、再び、地球に帰還して、私に出迎えさせてください。
あなた方を二度と元の状態に出来ないような改造手術をした責任は私が負います。
あなた方のしよう雷の全てを私たち国家が責任を持って面倒を見ます。このミッションでの皆さんの活躍に期待と
心からの敬意を表します。」
澤田首相は、こう言い残すと、次のスケジュールのため、席を離れ、会見室を出て行った。
 私たちは、再び、サイボーグ搬送用カプセルに乗せられて、火星標準環境室に戻された。
そして、居住エリアのそれぞれの火星探査・開発用サイボーグ用メンテナンスチェアに戻った。
みさきと望も、この居住エリア内にある惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ据え付け用設備に据え付けられた。
そして、このままの状態で、この日は、待機を指示されたのであった。
343manplus:2005/08/11(木) 01:19:14 ID:T9UQedxQ
 木村局長の映像が、私たちの人工眼球に移る景色を占拠した。
「今日はお疲れ様でした。澤田首相も皆さんが順調に仕上がっているのを見て、大変満足して変えられました。
明日は、皆さんの肉親や恋人に対し、あなた方の任務と置かれた状況を説明することになっています。
その後、希望者に対しては、面会を行います。久方ぶりに親しい人に会うことが出来ると思います。
ただし、スケジュールから言って、これが最初で最後の面会になると思ってください。
それでは今日はゆっくり休息をとってください。」
そう言うと、木村局長の映像が消えた。
 私たちは、レストパートの始まりと同時にモードをレストモードに切り替え、休息に入っていった。
火星で必要とする訓練などのハードで厳しい訓練を受けるより、生身の人たちの前に自分たちの姿を
晒すことの方がどんなに辛いことかを今日から嫌と言うほど味わうことになるのだろう。
限られたメンバーとしか会話することを許されずにこの任務に配属されてからずっと来たために、
他の人と会話をすることに再び慣れることは、かなりの苦労を要する作業になりそうであった。
それに、生身の身体を身近で見ることは、私たちのように機械の身体であるサイボーグ体になったものにとって
ものすごく辛いことであった。自分の置かれた境遇に対しての恨みや後悔の念はなくなっているし、
任務のためにこの身体になったことの誇りすら感じているが、生身の身体を見ることの何とも言えない辛さというものは
消えないものだった。明日は、特に親しい人との会話をしなくてはならないというのは、
私たちも相手も特別な感傷の上での会話になるものと思われた。
明日はどんな気分でいるのかを思いながら、意識が消えていった。

344manplus:2005/08/11(木) 01:20:30 ID:T9UQedxQ
今日はここまで。

新キャラクターも登場して、いよいよ、
火星への旅立ちが近づいてきます。
345名無しさん@ピンキー:2005/08/11(木) 23:05:22 ID:ubxyOiRx
鬼畜なプロジェクトの黒幕登場で話に厚みが出て来ますな
346名無しさん@ピンキー:2005/08/13(土) 00:25:04 ID:CN6+3QG/
manplus様乙です。
やはりサイボーグ達は人間としては扱われないんですね。いいですね。萌えます。
347名無しさん@ピンキー:2005/08/13(土) 03:33:53 ID:rlUgGnZo
手足を取られた二人、マスコミの前に出てくる時だけ義手と義足をつけるとか。
でも能動(動力付き)で無いばかりか、他人に曲げてもらう事すら不可能な、可動する関節が一つもない本当にただのお人形さんの手足とか。
宇宙船のパイロットとかコンピュータのオペレータとか、そういう組み込まれ系の少女の完全ダミーな義手義足(着脱可能)って萌え。
348前82:2005/08/14(日) 23:31:26 ID:Vym4/iH2
画面に表示されたメニュー項目を脳波だけで変えて確かめてみる。
まず、基本メニューにカーソルを合わせ選択してみると、
時刻、水深、水温、流速、

ボディメニューを選ぶと、
体温・・・、心拍数、呼吸数、血圧、起床・・・、就寝・・・

スーツメニューには
酸素残、栄養液、尿容器、ライト・・・、ライフバッグ・・・、脱着・・・

通信メニューは
最寄り、特定・・・、水中全員、全員、地上・・・、

そしてポットメニューを選ぶと
画面は一転して変わりいくつかの同心円と縦横の十字線
まるで照準器のようだ。
その右には垂直のバー
 速度調節のレバーだろうか。
これで横森さんはポッドを自由に操っていたんだ。
すごい! 私もやってみたい。前にも井上ドクターに説明はされていたけど、
実際の操作画面をみると興味が高まった。

349前82:2005/08/14(日) 23:32:20 ID:Vym4/iH2
熊沢さんに、声を弾ませ
「早くマスターして海に出て、ポッドを操縦したくなりました。
脳波だけでこんないろんな事が出来るんですね。」
熊沢さんも
「清水さん、やっと積極的になってくれたのね。
あなたは適性や素質はあるけど、トレーニングに積極性があまり無くって、
井上さんや事務方とも何度か話し合って対策を考えてきたけど、
これからは遅れも取り戻せそうね。
これからの訓練はアクアノートとしての具体的な活動に直結したものだから、どんどん楽しくなるわ」

マニュアルを渡され、メニューやその操作の詳細説明を見ると、
アクアノートとしての生命維持から活動までの殆どのことが
脳波操作で出来るようになっている。

朝起床時のセルフチェック、各種水中活動を想定してのイメージトレーニング等を
画面上のメニューを使って繰り返した。
チェックリストを一つづつ埋めていくようにスムーズに画面選択が出来るようになるには、1か月近くかかった。
350前82:2005/08/14(日) 23:33:01 ID:Vym4/iH2
さらに水中活動用のスーツを手に取り各部分の構造や機能の学習も始まった。
保温用のスパゲッティースーツ、呼吸液や栄養液、尿採取ボトルのジョイントの付け方と
画面操作との関係、実際の活動イメージと近くなってくる。
しかしどんな操作を画面でしても何も起こらない安心感と不満が交錯している。
「次のステップとして、ゴーグルを付けて、コンピュータ上の画面と、
実際の目の前の光景とを同時に見て活動出来るようにしましょう。」
熊沢さんの指示でゴーグルを付けると、
体験研修の時のゴーグルは呼吸液対応で空気中ではよく見えなかったが、
これは訓練用か、素通しで目の前のものもよく見える。しかし部屋の中の機器や椅子と、
ゴーグルに映し出されたメニューバーや文字がごっちゃになってしまい、頭が混乱してきた。

「だめです、頭がくらくらして操作どころではありません。」
「まず実際の風景みてください。そして今何をしなければならないかを考えて、
ゴーグルの情報へ意識を移してみてください。」
堂本さんがアドバイスしてくれた。
でも堂本さんは此処にいないはず・・・
351前82:2005/08/14(日) 23:35:40 ID:70lVuymy
もしかしてこの声は直接脳へインプットされてきた音声?

堂本さんにお礼をしよう、意識を画面に集中し、通信、特定、堂本・・・とメニューをたどる。
「堂本さんありがとうございます、少し落ち着きました。」と答えてみた。
「清水さんうまく操作出来てきましたね、ゆっくり落ち着いてやってみてください、
こちらでモニターしていますがいろいろトライしてみてください。
それに水中では紙の書類を使うことは出来ませんから、各種情報やマニュアルも、
画面に出して読めるようになって下さい。そのとき周囲の状態が把握出来ていることも当然必要です。」
丁寧だが厳しい返事が返ってきた。

いつのまにか脳波での音声通信が出来るようにされている。
「1ヶ月程度この状態で安定した操作ができるようになったら、一度スーツを付け
液体呼吸をしながら水中でのトレーニングをやってみましょう。」と堂本さん。


此処に初めてきて何もわからないまま体験研修で、装備をつけられ不安の中、
海に入ってからもう1年半以上たっている。
そうだ、もうすぐ海に出て、あの自由な感覚を味わえる。
その希望が励みになり、コンピュータ画面操作と、
実際に目の前にあるものとの、切り替えが無意識に出来るようになってきた。
352前82:2005/08/14(日) 23:38:30 ID:70lVuymy
久しぶりの投稿になって申し訳ありません。
いよいよ訓練で海に出られるところまで来ました。

manplus様のパワーに負けないウニとは思うのですが

いずれにしてももうすこしで仕上げたいと思っています。
353manplus:2005/08/15(月) 01:22:57 ID:7OD1lenf
 0Y641D00H00M00S。
レストモードから強制的にアクティブモードに意識と身体組織が切り替わった。もう慣れたが、
機械によって意識が完全に支配されているのが今の私たちなのだ。
起きるときのまどろみといった曖昧な意識レベルを持つことはもう私たちには出来ないことの一つであった。
機械に支配されたことを実感する瞬間である。
 木村局長が、私たちの視界に再度現れる。
「今日は、昨日お話ししたとおり、皆さんの親しい人に、このプロジェクトについて、そして、あなた方の身体のこと、
このプロジェクトが極秘で進められたのかをお話しして、コスモタウンに移住してもらう作業を一日で完了します。
そして、あなた達に面会したい人たちに対し、昨日首相と話をした会見室で対面してもらいます。
それまで、あなた達は待機をしていてください。」
 私たちは、メンテナンスチェアに縛り付けられたまま、みさきと望は、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ据え付け用設備に据え付けられたままの時間が過ぎていった。

 何時間が過ぎたのだろうか?アイドルモードで過ごす時間を突如中断され、アクティブモードに
切り替えられたときに、人工眼球内の時刻表示が5時間の時間が過ぎていた。
木村局長の映像が入ってきた。
「みんなにそれぞれの面会があります。サイボーグ搬送用カプセルに移動してください。」
私たちは、指示されるままに、まず、みさきと望を惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ据え付け用設備から
取り外して惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車に据え付けてサイボーグ搬送用カプセルに
移動させ、私たちも、サイボーグ搬送用カプセルに移動した。ハッチが閉まって、昨日も入った会見室に
運ばれた。そして、会見用カプセルの所定の会見用チェアに入った。みさきと望も所定の位置にセットした。
しばらくすると私の横にえりかもやってきた。
そして、カプセルの向こう側に何人かの人間が入ってきた。そして、まりなさんが、会見の細かいルールを
説明していた。
354manplus:2005/08/15(月) 01:25:14 ID:7OD1lenf
 この会見は、一人が10分以内にとどめること、集団会見のみで、個人同士の会見は行わないことなどを
説明していた。
 会見希望者は、浩の婚約者、未来の両親と恋人、私とえりかの両親、私の婚約者、高橋美紀の両親と弟、
みさきの妹と両親、そして、恋人、望の姉さんと両親が来ていた。
 それぞれが、コミュニケーションサポートシステムの個別回線を使い個々の関係者とのみ会話を
交わすようにセッティングされた。
 私とえりかは、父や母、それに私の婚約者と言葉を交わすことが出来た。
母は、
「はるかも、えりかも任務中に行方不明になったと聞かされて、気が狂うほどだったんだよ。でも、会えてよかった。」
といって泣き崩れた。
「私のこと聴いたと思うけど、こんな火星で生きるために都合がいい機械の身体になっちゃったし、
えりかもいずれは、このような身体になってしまうの。
それに、えりかは今の状況でさえ、二度と脱ぐことの出来ない宇宙服を着せられているから、
普通の生活にふたりとも戻ることが出来ないの、ごめんなさい。」
「お姉ちゃんの言うとおり、お姉ちゃんは地球に帰還することを条件とした任務に最初に就くけれど、私は、
火星から帰ってくることを前提にしていない任務に就くことになるの。それに、私も、今の状態でさえ、
ラバーフィットスーツという宇宙服をもし脱いだとしたら、皮膚が温度調節もすることが出来ないし、
太陽光に対しても、脆弱な状態になってしまうの。今、装着されているラバーフィットスーツが、
私の皮膚になっているの。脱ぎたくても脱ぐことも出来ないし、脱いだとしたら、私は危険な状態になってしまうの。
お父さん、お母さん、私の立場を解ってください。そして、ごめんなさい。」
355manplus:2005/08/15(月) 01:26:09 ID:7OD1lenf
「木村局長からこの計画の全貌とはるかのの立場、そして、はるかの身体に施された
サイボーグ手術というものの全容を伺っている。それから、えりかの身体に今現在どのような処置が
施されていて、今後、はるかと同じような手術が施されること、そして、はるかとえりかが、
生涯サイボーグという後天的に与えられた身体で活動し続けなければならないのかも聞いているよ。
でも、もう二人とも死んだと思っていたのだから、たとえ姿が変わっても生きているということは嬉しいことだと
思っている。それに、二人の行動は、ニュースなどで見ることができるし、必要があれば、会話をすることも
可能だと聞いている。死んでしまって、会うことも話すこともできないというよりはどんなにか良いと思っている。
私も、母さんも二人の活躍を楽しみにしているから。」
父の言葉に母が、涙をこらえて、
「私も、納得しているのよ。二人とも任務がうまくいくように頑張ってね。コスモタウンにいるんだから、
二人が私たちの声を聞きたくなったら、いつでも宇宙開発事業局に行けるから。」
えりかが、
「ありがとう、お父さん、お母さん。」
そう言った。私も、
「ありがとう。火星に人間の改訂増強版だけど、人類として、初めて降り立つ光栄を手にしているんだから
頑張るね。私もえりかも自分本来の声帯や目がないから泣くことも悲しいという意志も表現しにくいけど、
悲しいんだからね。でも、頑張るから、見ててね。」
「わかった。恵一君、君もはるかをずーと一緒に探してくれていたんだよね。何か声をかけてやらないか?」
父が答えた。そして、私の婚約者であった木下恵一がしゃべり出した。
356manplus:2005/08/15(月) 01:34:06 ID:7OD1lenf
「はるか、探していたよ。君が行方不明になったと聞いて、ショックだった。だから、こうしてあえて嬉しい。
俺も、今は、研究者として何とか頑張っているよ。君がいなくなってショックだったから、
少しでも君のことを知りたいと思って宇宙開発事業局の仕事に就こうと考えて、今度の春から、
コスモタウンに住むことになったんだ。こんな形であえて嬉しいよ。君は火星にいってしまったあとになるけど、
この場所で俺も待っているよ。」
私は、恵一がそこまで思っていてくれたことを知り、今更だけれど、自分の運命を呪った。
「恵一、ありがとう。火星に行ってくるね。恵一の研究に必要なデータもたくさん持って帰るから。」
「ああ、俺は、君とえりかちゃんの分まで、お父さんとお母さんの世話を受け持つから。」
「ありがとう。恵一さん。」
えりかがそう言った。
そして、時間が来て、面会者は、会見室を出て行った。
残された私たちサイボーグたちは、一様に複雑な想いを胸に、火星標準環境室の居住エリアに
運び返されていった。

357manplus:2005/08/15(月) 01:36:51 ID:7OD1lenf
 居住エリアに着くと、浩が、口を開いた。
「ミチルが、俺と一緒の身体になりたいと言い出して、今度の第三次メンバーに応募したそうなんだ。
俺を思う気持ちは嬉しいけど、自分と同じ身体にしたくないんだ。
脳以外がすべてに近いほど機械にされたこの身体にミチルがなるかと思うと何ともいえない気持ちだ。
一緒に入れる可能性が出てきたことは嬉しいけど、本当に何ともいえないよ。」
 結城ミチルは、浩や私たちの同期生で、空軍士官学校の時に浩と出会い、婚約をしたのだ。
はじめは、浩は、自分が特殊任務に就く可能性があるため、婚約に踏み切れなかったのだが、
空軍の同じ部隊に配属されたことで、二人の心の火が燃え上がり、婚約を決意したのである。
まさか、男としての機能もない機械中心の身体にされるような任務とまではそのころは築かなかったから
仕方ないのだが、自分の最愛の婚約者と肉体で愛し合うことができない身体になったことに、
ラバーフィットスーツを装着された当初、浩の心に葛藤があったことは聞いていたが、ミチルが、浩が行方不明に
なったと知らされてもなお、一途に待ち続けていたとは浩にとってもショックだっただろうし、浩のことを聞いて、
えりか同様に、自分の身体を機械の身体にしてまで、添い遂げたいという意志は凄いものがあった。
彼女の身体能力なら、第三次メンバーに必ずなれるに違いなかった。
「ミチルと火星でカップルになるのも良いと思うよ。私たちは、人間としての心は失っていないのだから、
心の結びつきで、添い遂げるなんてすてきよ。」
私がそう言うと、浩は、
「そう思って割り切っているんだが、男として、心だけの結びつきということが良いのかどうかがわからないという
気持ちもあるんだ。でも、火星で初のカップルを目指しても良いかもしれないな。」
そう言って自分を勇気づける浩がけなげに思えた。そして、つぶやくように、
「男性器の無くなってしまった男なんて、やっぱり男じゃないんだよな。
ラバーフィットスーツを装着されたときからこのジレンマがあったんだ。」
358manplus:2005/08/15(月) 01:37:56 ID:7OD1lenf
みさきが口を開いた。
「でも、浩は、人間の姿をしているからまだいいと思う私と望は、もっと深刻だよ。
完全にアンドロイドの機械人形みたいな身体になった上に、手脚がなくて、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車に据え付けられているんだよ。家族も恋人も、この姿を見て、
変わり方の凄さに言葉を失っていたよ。そして、恋人には、もう、俺と一緒に歩くことも手をつなぐことも
出来ないんだと言いながら、泣かれたの。任務から帰るまで待っていると言われたけど、任務から帰ったら、
いきなり完全介護を受けなくちゃならない人工身体障害者になっちゃうんだから、どうしょうもないよね。」
望が言った。
「両親が、任務が終わったら、元の身体に戻れるのかって聴かれて、言葉に詰まったの。あの顔を見たら、
このままの状態で、地球では、生命を維持して、人間的に機能できるとしたら、サポートヘルパーに
24時間世話をしてもらわなくちゃいけないなんて言えなかったよ。でも、栄養液や呼吸液のカートリッジ交換、
老廃物カートリッジの交換、機械体部分の維持のためのエネルギー補充、その他諸々のサポートを受けないと
私は地球上では生きられないことを教えてあげなくてはいけなくて、それを話したら、みんなに泣かれちゃったし、
姉さんには、彼女がサポートヘルパーの代わりになると言われちゃった。嬉しかったけど、こんな姿のままで、
家族と暮らしたくないとも思っちゃった。」
359manplus:2005/08/15(月) 01:45:13 ID:7OD1lenf
高橋さんが、
「本当に、覚悟はしていたけれど、家族でさえ、見る目が違ってしまうのが辛かった。
みんな、やっぱり好奇心と恐怖心で腫れ物のように見ていた部分も感じたの。家族でさえ、そうだから、
一般の人に私たちの姿を公開されたら、きっともっと凄い奇異の目で見続けられるんだろうね。
動物園の動物の気分を味わうんだろうね。」
みんなが、沈んだ会話になってくるのが分かった。私は何とかしなくてはいけないと思った。
「私たちは、それでも、火星へ行くため、そして、そのサポートのため、覚悟を決めて任務に就いたんだから、
この位の悲しみは乗り越えていかないといけないのよ。辛いのはここにいるメンバー全てが一緒なの。
この悲しみを乗り越えて、任務を成功させよう。いいわね。私たちは、前に進むしかないのよ。」
みんなが思い直したように意を強くしたように思えた。みんなに新たな決意が生まれたように感じた。
こうして、サイボーグとして最初で最後の家族との対面が終わった。家族や縁者もコスモタウンで
制限された生活を送らなければならないことを考えるとなおさら、頑張ってスーパーヒロインに
ならないといけないと思ったのだった。


360manplus:2005/08/15(月) 01:46:30 ID:7OD1lenf
 0Y642D00H00M00S。
 私たちの存在を全世界に知らせるときがとうとうやってきた。
 この日は、私たちの火星標準環境室での訓練風景や、みさきのシミュレーターでの訓練シーンが映像として
撮られた。
 そして、このVTRが全世界に配信された。このVTRは、全世界に反響を呼ぶと同時に全人類の地球以外の
惑星の植民地化に対する期待と希望をふくらませることになった。そして、全人類の期待が、私たちに集まった。

私たちは、火星への出発までは、スーパーヒロインとヒーローになったのである。
月の衛星軌道で組み立てられていた惑星探査宇宙船の映像が共に公開され、私たちが機材と共に
月面の基地に移動されて、惑星探査宇宙船に積み込まれるまで、全世界の注目を宇宙船と共に一身に
集めることになる。極秘の計画だったため、惑星探査宇宙船の組み立ても、月の裏側で
組み立てられていたのである。他国の目に触れないように建造されてきたのである。
ものすごく用心深く計画が遂行されてきたのであった。
 そして、火星への出発日の日程が同時に発表された。
 マスコミの取材依頼が、首相はもとより、家族に殺到することになった。
何故なら、宇宙開発事業局の関係者は、取材に一切応じることが出来ない場所にいるし、私たちサイボーグは、
極秘の場所であるこの施設で暮らしているため、人目に触れようがないからであった。
 私たちの会見は、惑星探査宇宙船に積み込まれるために月面基地に移動する直前になると言うことであった。

361manplus:2005/08/15(月) 01:47:05 ID:7OD1lenf
 澤田は、火星植民地化計画の発表と同時に絶大な支持率を得ることとなった。
人間を火星に適応させるため、宇宙船を確実に操縦するためと言う目的で、生身の人間に
手を加えるという行為に対して、批判があったことも事実である。しかし、澤田は、この計画で、
人間を修正することは、火星自体を修正することよりもはるかに効率よく、
火星を人類のものにする道なのであるとアナウンスすることにより、修正増強版の人類の存在と
火星での活動とを世論に認めさせることに成功したのであった。
 澤田は予定通り、火星にサイボーグが出発した直後に議会を解散し、総選挙により、自分の地位を完全に
確保するという青写真が、完成しようとしていたのである。
 澤田は、公邸でニュースを確認しながら呟いた。
「これで、今度の選挙も私が首相としての地位を維持できることになりそうね。
そして、火星植民地計画区を不動のものにして、火星植民時の相当に私が収まれることになりそうね。
次期の首相後継者も決めているし、機械の身体になることは、少し怖さがあるけれど、普通の人間や、
普通のサイボーグよりも優位な支配階級として、火星に乗り込む計画が、遂行できそうだわ。地球上の
複雑な各国の利権争いによって、全面戦争が20年以内に起こると予想されているから、その前に、私は、
火星で新たな政権を確立することを我が国の存続の鍵として、遂行できるわね。」
澤田は、自分たち支配層が、火星に植民し、第二の祖国を火星で建国し、地球上の破滅的な戦争に
対応しようとしていたのだ。その際に、自分たちの支配を長く維持していくため、支配者が
自ら火星生活適応型サイボーグに改造されて、寿命の延長と絶対的な優位を築いて行くことが
計画されていたのであった。そして、その計画の中心にいるのが、澤田であった。
そして、政権与党だけでなく、現在の野党もこの計画を密かに指示しているのであった。
362manplus:2005/08/15(月) 01:55:05 ID:7OD1lenf
澤田はさらに呟いた。
「この計画は、火星に移住するという平和的な人間のサイボーグ実験じゃないことは
まだ誰も気づいていないわね。」
そのことは、火星探査・開発用サイボーグと惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの手術と生存実験の成功は、
ロボット兵士ではとうてい対応できない戦闘への対応を人間の脳だからこそ出来、しかも、
生身の人間よりもはるかに強い兵士としてのサイボーグ兵士実用化のめどもついたと言うことであった。
どんな環境でも生存でき、人間としての対応が出来る機械体兵士が誕生することになるのである。
そのことは、核兵器を最初に持った20世紀のアメリカ合衆国と同じくらいのアドバンテージを他国に対し
持つことが出来るのであった。
しかし、この時は、このような野望が澤田を初めとする政権与党にあることは、火星探査・開発用サイボーグや
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグたちやサイボーグ手術ドナー候補、そして、宇宙開発事業局のスタッフも
知らないことであった。
 水面下で極秘中の極秘事項として、計画が深く静かに進行していたのであった。
363manplus:2005/08/15(月) 01:59:13 ID:7OD1lenf
次は、火星に向けていよいよ旅立つことになります。
はるか、未来、みさきの火星へ向けての旅立ちです。

前82様
待っていました。
久しぶりの投稿ですね。
清水さんが一人前のアクアノートになっていくのを楽しみにしています。
364名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 02:28:26 ID:Ef1v2bEr
戦争サイボーグ化計画がコケて戦争が回避されて、火星プロジェクトのサイボーグたちが人間扱いされるようになるが、
そのかわり悪の計画が世間にバレた首相タンがサイボーグにされてひどい目にあう展開キボン
365名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 02:36:14 ID:Ef1v2bEr
首相タンが、最初自分の望んだサイボーグになれて喜んでたけど、
そのうち自分の理想とのいろいろなズレがおきて、どんどん自分の望まない方向に事態が動いて、
じわじわと実験台にされた火星プロジェクトのサイボーグたちの苦労・苦痛を思い知らされたりして、
戦争計画をたくらんだ者(もちろんこいつらも改造)どもと一緒に世間のさらし者にされていくとか。
366名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 02:41:03 ID:Ef1v2bEr
自分の望んだ機能と実際の体の機能とのズレが徐々に明らかになっていって、
生身の時は思いもしなかったサイボーグ体の苦労(大変なメンテを自分でやらなきゃならないとか)を負って、
少しずつ自分の思い通りにならなくなっていって、
そのうち世間の批判と攻撃にさらされるようになっていって、
最終的には全ての自由を奪われてしまうように、
じわじわとなっていくとかだと萌え。
367名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 08:30:22 ID:vodgTbwW
火星行きのサイボーグたちは、家族との交流に辛くても支えられ、戦争でも皆を守りたい一身で頑張る。
サイボーグ化の技術者たちもサイボーグ化されていて、戦争でその大部分が失われ。そして生き残ったサイボーグたちは
尊敬はされても、孤独な状態でサイボーグを増やすことも、自分の体のメンテも碌にできなくなり様々の最後を迎えていく…
そして澤田は脳Jだけを行政用コンピュータの一部として、残りの人生を過ごすことになる。
更に月日は流れ、クローン技術がすすみ、大戦の英雄たちは人間にもどれ、澤田のみは偉大な指導者として、コンピュータのまま
一生を送る羽目になる。なんてのが萌える。l
368名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 20:44:34 ID:1OGNPeLy
そういえばサイカノのOVAでちせとミズキ中佐の手術シーンがいっぱいだった
このスレ的にはどうだろう。
369名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 21:43:43 ID:CQM8/WHg
>>368
あれの手術シーンってどんななの?
機械を埋め込むようなシーンはチト想像できんのだが・・・

それ次第では買おうかな。
サイカノの不満は、ちせのサイボーグ関係の扱いがいまいちだったとこだから。
370名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 23:38:45 ID:OzedzznK
高橋しんに何を求めてるんだか
371前82:2005/08/17(水) 01:24:15 ID:JRP0PQWy
やがて、
「どうやら水中トレーニングに入っても大丈夫なレベルまで来たわね。
スーツの着脱トレーニングをしましょう。
今度の水中トレーニングは2週間程度だけれど、
本番の活動時はスーツを着たままの活動で地上に戻るのは3ヶ月に1度くらいになるから
ちゃんとスーツを着てなじんでおかないと、活動中に不具合が起きたり、
命に関わることが起きるとも限らないので
スーツをきちんと自分で着て確認しなければなりません。」
熊沢さんはいつも脅しが混じったものの言い方で苦手だ。

ついたての中で普段はいていたスパッツを脱ぎ全裸になり、
マリンアンビリカルと下腹部に取り付けている体内洗浄用のカテーテルを
水中活動用の長いものに取り替える。
最初は抵抗があったこの格好もなんか当たり前って感じだ。
372前82:2005/08/17(水) 01:24:48 ID:JRP0PQWy
新しいスパッツをはき直したところでついたてから出ると熊沢さんと堂本さんが
スパゲッティースーツを持ってスタンバイして着せてくれる。
しわやムラにならないように丁寧に手足を通す。着たら脱ぐ、また着る・・・
何度も繰り返して体にスーツの感覚を覚えさせる。
そのステップが終わったらソックスをはいた上で、ダイビングスーツの下半分を着る、脱ぐ、また着る・・・
さらにダイビングスーツの上半分、グローブ
その繰り返しだけでも体力を消耗してしまった。

だけど1週間近くそんなことを繰り返すうちに
スーツを着ていることが普通のように思えてきた。
そしてマスクやゴーグルを付け、頸部やゴーグルからのケーブル、そしてカテーテルを
胸元のジョイントに接続する、またはずす・・・。
ライフバッグの着脱も何度も何度も繰り返し、感覚を確かめる。

あのSとイニシャルの書かれたヘルメットもかぶってみる。
あのときすでに私はここに来ることが運命づけられているのに気づいた・・・
さすがにフル装備では身動き出来ない。
373前82:2005/08/17(水) 01:25:28 ID:JRP0PQWy
各種装備を正常に取り付けられて接続が出来ている時の感覚を身につけ、
違和感を感じたら何か装備に問題があることがわかるようになってください。」
熊沢さんの注文は厳しい。

ヘルメットまで付けても熊沢さんの声が聞こえるっていうことは
スーツの機能がすでに起動してるということだ。実際に海に行くまでもうすぐ・・・、楽しみだ。

全裸でのカテーテル装着からヘルメット装着までを繰り返すと
2時間以上かかるが、目標が見えてきた今は苦にならなくなってきた。

「もう一度着脱してみる、それとも・・・」
いたずらっぽい声が脳内に響いた。井上ドクターだ。

「ええっ、もう良いんですか、それなら行きます。」
374前82:2005/08/17(水) 01:26:56 ID:xnMsuF6S
ヘルメット、マスクとライフバッグだけはずし、おぼつかない足取りで隣の部屋に移動すると
井上ドクターを始め何人かのスタッフが待っていた。
「ではこの水中降下チェアーに座って準備をしましょう。」
マスクのホースを壁の機械からの長いものに替え装着する。
「ゆっくり息をして」井上さんが指示してくる。
一度経験しているので緊張はするが不安はない。
肺全体に呼吸液が回り30分ほど呼吸をした後、
「胸の操作パネルの内側からのホースに替えてください。」
熊沢さんまたいつもの調子で厳しく指示をしてくれる。
スーツとグローブを着て動かしにくい手を何とか動かし、ホースを取り替えた。
ゴーグル次いでヘルメットが取り付けられた。

今度のゴーグルは液体呼吸用で視野がぼやけたが、コンピュータの表示はよく見える。
「通信メニューで"相手"を"全員"にしてください、それから各画面をチェックして
準備してください。」熊沢さん次々指示をしてくる。
心拍数、血圧など自分の体の状態、子機有益、栄養液の残量・・・
殆ど意識せずチェック出来た。画面もスーツも自分のものになってきた。
「OKでーす」弾んだ声で返事してしまった。
375前82:2005/08/17(水) 01:27:46 ID:xnMsuF6S
「スーツにも呼吸液を満たしていきますよー。清水さん!!」
やっと熊沢さんも明るく答えてくれた。
スーツと体の隙間が下半身から無くなってきた。重くて身動き出来ない。
だけど今度はスーツが体の一部だっていう感覚が出来てきたので苦にならない。
呼吸液が目の高さまで来て視野もはっきりした。
井上ドクターや熊沢さんの顔もにこにこしているのがみえた。

「清水アクアノート、ゴー! !」
井上さんが声をかけると同時に椅子が下がり始めた。
ふっと体が軽くなった。もう水中だ。
376前82:2005/08/17(水) 01:30:39 ID:xnMsuF6S
アクアノートとしての基礎訓練を終え
ようやく清水は水中へ再び入ります。

ようやく吹っ切れて楽しみに潜行開始です。


manplus様
政治情勢まで出てきていよいよ混沌としてきました。
原作は政治混乱が始まりでしたが
こちらはどうなるのでしょう。
377名無しさん@ピンキー:2005/08/17(水) 20:23:30 ID:jGMfZgs9
>>369
ちせはなんかカプセルみたいなのに入れられている。OVAのキャラの「ミズキ中佐」
は腕のスペア交換や足を失った描写あり、改造シーンではロボットアーム?のような
物(先端が尖っていて電気火花がとぶ)手術等、ミズキ中佐のほうがサイボーグ描写
が描かれている。物語自体も「ちせ視点」をうたっているがどちらかというと「ミズキ視点」
になっている。
3783の444:2005/08/18(木) 03:36:22 ID:bYP1SWgw
「今、 あなた、 私のために、 どんなことでもしてくれるって言った?」
  もう一人のアニーは、 私の背中にそっと右手を置いて、 耳元でささやく。
  アニーはロボットなんだ。 だから、 同じ外見をもつロボットが、 他に一人、 二人いたとしたって、
別におかしくはないよね。 でも、 可愛らしく澄み切った、 有無を言わせぬ迫力のある口調は、 確
かに私の知っているさっきまでのアニーそのものなんだ。 外見だけじゃない、 このロボットは心も
アニーそっくりだよ。 こんなロボット、 世界に二人といるはずないよね。 じゃあ、 私の望みどおりに
アニーが生き返ったってこと?
  ううん、 そんなはずはない。
  私はびくっと身震いすると、 振り向いた顔をもう一度ゆっくりと元の位置に戻したまま固まってし
まった。 だってさ、 アニーは、 私の目の前にいるんだ。 私の腕の中で死んだみたいに動かないん
だよ。 だとしたら、 私の後ろにいるもう一人のアニーは一体何者なの? まさかアニーの幽霊? ロ
ボットにだって心があるとしたら、 死んだら幽霊になってもちっともおかしくないよね。 もし、 幽霊だ
としたら、 きっと、 自分が死ぬ原因になった私のことを恨んでいるに違いないよね。 そう思ったら、
恐くなって、 私、 後ろを振り返れなくなっちゃったんだ。
「あ、 あなた、 本当にアニーなの? まさか、 幽霊じゃ、 ないよね」
   私は前を向いたまま、 後ろに立っているはずの、 もう一人のアニーに恐る恐る聞いてみた。
もう、 私は顔が蒼ざめることも、 心臓がばくばく動くことも、 生唾を飲み込むようなこともないけど、
それでも、 私の後ろになんだか得体の知れないものがいるっていう恐怖感から、 胸がきゅっとしめ
つけられるような感じがして、 思わず機械仕掛けの身体をこわばらせた。
   ふふんって、 私の後ろでアニーの馬鹿にしたように軽くせせら笑う声がした。 きっと私のおびえっ
ぷりがおかしかったんだろうね。
「あらぁ、 そんなに恐がらなくてもいいじゃない。 私、 アニーだよ。 幽霊なんかじゃないから安心してよ」
   アニーは、 そう言いながら、 私の背中から顔だけぐっと突き出して、 真横から私をちらっと見る
と唇の端っこだけ軽く吊り上げてにやっと笑った。
3793の444:2005/08/18(木) 03:37:34 ID:bYP1SWgw
「なんなら証明してみせようか?」
   わざとらしく、 私に見せ付けるように人差し指を立てるアニー。 また、 私のサポートコンピュー
ターにアクセスする気だね! アニーが幽霊じゃないかっていう恐怖はなくなったかわりに、 今度は勝手
にサポートコンピューターをいじられるっていう、 さっきの生々しい記憶が頭のなかに蘇った。 こんな
ことをするロボットなんて、 アニーの他にいるはずないよ。
「ややや、 やめよう。 ね。 分かった。 あなたはアニーだ。 アニーだよう」
    接続端子を隠すために反射的に両手で自分の首根っこを押さえてしまう私。 立派な人間様だっ
ていうのにさ、 ロボットに怯えるなんて相変わらず情けないったらありゃしないよね。
「冗談だよ。 冗談。 すぐ本気にするんだから」
   そう言って、 アニーは立てた人差し指をそのままぱくっと口に咥えると私を見ながらにやにや笑う
んだ。 冗談だなんてアニーは言うけどさ、 さっきサポートコンピューターを乗っ取られかけた私から
すれば、 アニーが指を立てる仕草は、 死神が鎌を振り上げるみたいなものだよ。 冗談なんて言葉、
額面どおりに信じられるわけないじゃないか。 ホントにアニーは意地悪だ。 さっきは、 サポートコン
ピューターを乗っ取られかけて、 今度はこうして、 からかわれて、 ロボットのアニーに振り回される私っ
て一体なんなんだろうね。
  でも、 アニーが生きていてくれてよかった。 どんなに私がひどい目にあったとしても、 どんなにから
かわれたとしても、 目の前で、 アニーが死ぬのを見ることに較べたらずーっとましだもの。 そう思ったら、
なんだかほっとして、 身体から力が抜けちゃったよ。 どうやら、私のこと恨んでいるふうでもないしね。
だけど、 私をからかったアニーが確かに本当のアニーだとしても、目の前で壊れて横たわっている
アニーだってアニーってことには変わらないよね。 そこには、 どんなからくりがあるんだろう。
「でも、 あなたがアニーだったら、 この子は一体何なのさ」
「あなたの前で壊れて倒れているのも私。 それから、 今、 あなたに向かってしゃべっているのも、 おん
なじ私。 でも、 どっちも私だけど、 どっちも本当の私じゃないってね」
3803の444:2005/08/18(木) 03:38:23 ID:bYP1SWgw
アニーは妙に真面目くさって、 なんだか不思議なことを言った。 えと、 私の腕の中の壊れたアニーも、
私の横でぴんぴんしているアニーも、 どっちもアニーだけど、 でも、 どっちもホントのアニーじゃない?
それって一体どういうことだろう。
   それに、 もっと変なことがあるんだ。 アニーが二人いるっていう世にも不思議な光景が目の前で
展開されているっていうのに、 それに驚いているのは私と、 それから、 さっきから目をまんまるにして
いる佐倉井さんだけ。 はるにれ荘のおばあちゃんたちは、 あきれたようにアニーを見ているけれど、 決
して驚いているふうじゃない。 そういえば、 今までアニーにばかり気をとられていたけど、 さっきアニー
が自殺めいたことをしたと時だって、 おばあちゃんたちはあわてたそぶりも、 悲しんだりする様子もみせ
なかった。 おばあちゃんたちにとっては、 アニーは孫も同然のはずなのに・・・。 おかしいよね。  
「アニー、 何言ってるの? 一体、 何がどうなっているの? 私、 なんだかよく分からないよ」
「ふふふ、 そんなことよりもさ、 私のために何でもしてくれるんでしょ。 あなたに何をやってもらおうかな。
みんなのお食事でも作ってもらおうかしら?」
「それは、 そのう・・・」
   思わず口ごもってしまう私。 そう、 確かに私は、 そんなこと言っちゃった。 アニーのためになんでも
するって言っちゃったよ。 アニーがこんな形で生き返ったのはちょっと意外だったけど、 アニーのために
なんでもするっていう私の気持ちに嘘はない。 でもさ、 よりによって食事を作れだなんて、 味気ない栄養
カプセル以外は何一つ口にできない、 食べ物の味も分からない私とっては、 一番苦手なことじゃないか。
味見もできない私の事だから、 きっと砂糖と塩を間違えるとか、 黒酢と醤油を間違えるとか、 とんでもな
い失敗をやらかしちゃうよ。 どうしよう。 どうしよう。
「うー、 私、 料理はあんまり得意じゃなんだ。 その代わり、 買い物に行くよ。 それで、 どうかなあ。 アニー
は、 何を作るつもりなの? 私、 来たばかりで、 この近くのことはよく分からないからさ、 アニー、 一緒に
買い物に行こうよ」
3813の444:2005/08/18(木) 03:45:39 ID:bYP1SWgw
  うまく料理作りっていう拷問から逃れるために、 とっさに口にした私のあまり上手いとはいえない提案。
でも、 それを聞いたとたん、 アニーの様子がおかしくなちゃった。
「買い物かあ」
  なんだか、 外国にでも行くみたいに遠いところを見るような目つきでアニーはつぶやく。
「ごめん、 私、 買い物には付き合えないよ。 私には他の用事が山ほどあるからね」
  そう無理やり作ったような笑顔でそう言ったっきり、 下を向いてしまった。 いったいどうしたっていうの。
一緒に買い物に行こうっていっただけで、 どうしてそんなに寂しそうな顔をするの? 私、 全然分からないよ。
3823の444:2005/08/18(木) 03:47:03 ID:bYP1SWgw
ちょっとスランプ気味でだいぶ間が空いてしまい
申し訳ないですが再開しました。ラストに向けて突っ走りたいと
思います。
383名無しさん@ピンキー:2005/08/18(木) 04:24:25 ID:nEb/gWw4
待ってました!
楽しみにしてますよ。
384?名無しさん@ピンキー:2005/08/19(金) 01:37:46 ID:NaKH4AgY
444さん、待ってましたよ。
フレンドリーな文体と、めりはりが効いていて
先が読めないところがよいです。
3853の444:2005/08/21(日) 13:29:46 ID:/Us9Bhim
「アニー、 なんでそんな顔をするんだよう。 買い物に一緒に行けないなんて、 私のことが嫌いなの?
やっぱり、 私みたいな機械人間は、 人間として認められないのかなあ?」
  どんな形であれ、 アニーが生きていてくれたことは素直に嬉しい。 でも、 それとは別のところで、
ただの人工知能のはずなのに、 まるで人間みたいな心を持つをアニーを見て、 私は自分の存在が
揺らいじゃうのを感じていた。 私は、 例え身体のほとんどが作り物の機械の身体でも、 心を持って
いるから人間なんだって思っていたけど、 でも、 身体が全て機械仕掛けのロボットでも心を持ってい
たとしたら、 心を持っているから人間だって必ずしも言い切れなくなっちゃうもの。 ちょっとだけだけど、
アニーを見ると自分が人間だってことを否定されているような嫌な気分になっちゃうのも事実。 ああ、
私って嫌な女だよね。
   それと同じで、 アニーも今まで、 同じ心を持っていたとしても人間とロボットでは、 身体の構造か
らして全然違うから、 全く別の存在だって思って自分を納得させていたのに、 私みたいな、 アニーと
ほとんど同じ機械の身体のはずなのに、 でもやっぱり人間っていう半端者が現れたら、 人間とロボッ
トって何が違うんだろうって思っちゃうかもしれないよ。 アニーにとってみたら、 私はロボットとほとんど
同じ機械の身体のくせに、 でも人間。 アニーが決して逆らうことのできない相手。 心があるロボットに
とっては、 なかなか素直に納得できることじゃないよね。 だから、 アニーは、 私のことが嫌いで、 一
緒に買い物に行きたくもないし、 顔もみたくない、 そうじゃないかと思ったんだ。
  でも、 アニーは何も答えてくれない。 俯いて、 寂しそうに、 無言で箒の柄をくるくると回しているだけ。
さっきまでの元気なアニーは、 どこへ行ってしまったんだろう。 これじゃあ、 アニーがアニーじゃない
みたいだよ。
「アニーちゃんは、 あなたが嫌いだから、 一緒に買い物に行かないんじゃないの。 アニーちゃんはね、
買い物に行きたくてもいけないの。 だって、 アニーちゃんはこの家そのものだもの。 この家の守り神
様だもの。 家から動くわけにはいかないでしょ」
3863の444:2005/08/21(日) 13:30:40 ID:/Us9Bhim
  黙りこくっているアニーの代わりに、 今までずっと私達のやりとりをきいていた山下さんが、 私に
近づいて、 変わらず優しそうな笑顔を浮かべたまま、 私にそんなことを言った。 ここに住んでる人達の
言うことは相変わらず不思議なことばかりだ。 アニーは、 「どっちも私だけど、 どっちも本当の私じゃ
ない」 なんて言ってたし、 今の山下さんも「アニーちゃんは、 この家そのもの」だってさ。 アニーは、 た
だの女の子の形をしたロボットでしょ。 どうして、 それが、 「この家そのもの」で「家の守り神」なんてこと
になるんだろう。
「来て!」
  山下さんの言葉の意味が分からず、 ぽかんとしている私を、 突然アニーが引っ張った。
「ちょ、 ちょっと、 アニー。 どうしたの?」
  アニーは、 私の問いかけに何も答えないで、 私の手を掴んで、 つかつかと早足ではるにれ荘に向
かって歩いていく。 何がなんだか分からないまま、 引きずられるような格好で、 アニーについていく私。
一瞬アニーに何をされるのか不安になって、 ちらっと後ろを振り向いたら、 おばあちゃんたちが、 アニー
に引っ張られる私の姿がおかしいのか、 顔を見合わせてくすくす笑っているのが見えたから、 どうやら、
ひどいことをされるわけじゃないんだって、 気を取り直した。
「八木橋さん」
  いつの間にか、 佐倉井さんが私と並んでバックを勢いよく振り上げながら、 早足で歩いていた。
「ここに来てからまだいくらもたってないのに、 なんだか不思議なことばかりよね。 短い間にいろんなこと
がありすぎて、 目がまわりそう」
  佐倉井さんは、 興奮して息を弾ませている。
  佐倉井さんにとっては、 私みたいな全身義体の人間を見るのは初めてだろうし、 アニーみたいな、
感情豊かなロボットを見るのだって、 きっとはじめてだよね。 しかも、 私が人間だと思っていたら、 ロボッ
トだってことになって、 今度はロボットだと思っていたら、 実は全身義体のサイボーグってことになって、
アニーにしても、死んだと思っていたら、 別のアニーが出てきたりして、 短い間に常識外れのことが、
山のように起きたもの。 目がまわりそうっていうのも、 あながち大げさじゃないよね。
3873の444:2005/08/21(日) 13:31:28 ID:/Us9Bhim
「いよいよこれから、 全自動住宅の中に入れるのね。 中はどうなっているんだろう。 あー、 楽しみ。 この
ことが妹に話せないなんて、 なんだか勿体無いなあ」
  佐倉井さんは、 そう言って恨みがましい目で私を見た。
「うー、 佐倉井さん。 私の身体のこと、 絶対話さないでね。 約束だよ。 お願いだよ」
「分かってる。 女と女の約束でしょ。 私、 こうみえても口は固いのよ」
  唇を尖らせて抗議する私をなだめるように、 佐倉井さんは真面目くさった顔で口にチャックをする仕草
をした。 それがおかしくて、 私はついクスリと笑ってしまう。
  何事もないだろうとは思っても、 ついさっきまで、 私のことをにひどい目に遭わせようとしたアニーに
引っ張られるがままについていくのは、 やっぱりどうしても不安。 そんな中で、 私の身体が機械仕掛けの
お人形さんだって分かった後も、 こうして城口ウランで初めて会った時と何も変わらずに接してくれる人が
横についてくれるってことは、 私にとってはずいぶん心強いことだった。

 驚いたことに、はるにれ荘の古びた青いドアは、アニーが何も手を触れていないのに、 きしんだ音をた
てて、 まるで私達を向かいいれるかのように開いたんだ。 アニーの顔を盗み見たけど、 相変わらず、 さっき
までの何か思いつめたような険しい表情のまんま。 特に特別なことをしたという様子もない。 このドア、 アニー
が開いたんだろうか。 さっき、 山下さんが言っていた、 アニーはこの家そのものってことと何か関係がある
んだろうか。
  奇妙な自動ドアを抜けると、 はるにれ荘の玄関だった。 足元に住民のものらしい、 カラフルなサンダルや
靴が、 まるで定規で測ったみたいに、 きちんとかかとの部分で揃えられて等間隔で玄関の端っこに並んで
いた。 傘たてには、 きっちり大きさ順に学校の体育館で生徒が整列するみたいに傘がたてかけられている。
きっとこういうこともアニーの仕事なんだろう。 アニーがせこせこ靴や傘を並べているところを想像して、 ふと
口元を緩めてしまう私。
3883の444:2005/08/21(日) 13:41:06 ID:/Us9Bhim
「こんにちは」
  佐倉井さんは、 大きなゲタ箱の上の水槽の中で、 ひらひらした尾ひれを揺らしながら、 気持ちよさそうに
泳いでいる丸っこい金魚に向かって、 水槽をつつきながらご挨拶。
  アニーに続いて玄関先で、 履いてきた運動靴を脱いで、 使い込んだ黒ずんだ色合いの木の床を踏みしめ
る私と佐倉井さん。 それから、 おばあちゃん達や、 壊れたもう一人のアニーの抜け殻を背負ったクララベルが
後ろに続く。
  木の床と、 むやみに太い黒光りする柱と、 年月を得て黄ばんだ白い漆喰の壁。 古い家独特の静謐な空気
が漂っていそうな感じだ。 なんだか、 青森のおじいちゃんの家に似ているなあと思った。
   そのくせ、 天井の壁には、 ところどころはげかけているけれども、 きれいな幾何学文様の彫刻がされて
いたり、 玄関脇から二階に向かって伸びる階段の柵とか、 天井からぶら下がる電球の外套が、 凝った欧風の
デザインだったりして、 ハイカラな洋風建築なんだぞと、 そこだけ声高に主張しているかのよう。 やっぱり、 こ
こは変なところだよ。 住んでいる人もおかしければ、 家もなんだかおかしな変テコなんだ。
   玄関からは、 真っ直ぐ長い廊下が続いていて、 廊下の両側は部屋になっているんだろうか。 ドアが等間
隔で並んでいる。 廊下の突き当たりまで、 窓がないからなんとなく薄暗い感じだ。
「ここが、 私の部屋」
アニーはぶっきらぼうにそういうと、 玄関に一番近い部屋の前で立ち止まった。 部屋の前のドアには
        管理人室/ANNIE
って紺色のプラスチック板に白い字で書かれた札がぶら下がっていた。
「本当の私は、 この中にいます」
3893の444:2005/08/21(日) 13:41:56 ID:/Us9Bhim
今日は、ここまで。
全自動化住宅もいよいよ大詰めです。
390manplus:2005/08/21(日) 21:22:17 ID:fHXvdOzd
 0Y645D00H00M00S。
 あと15日で惑星探査宇宙船に乗り込んで火星に向けて出発となった。
 今日、私たちは、宇宙開発事業局から月面基地連絡船打ち上げ基地に移動する日が来たのである。
 私たちの人工眼球に木村局長が映し出された。
「皆さん、とうとう、地球を出発するときが来ました。あなた方を首都沖合150qに創られた人工島の
秘密打ち上げ基地に移動してもらいます。久しぶりの施設以外の地球の風景を充分に味わってもらいます。
第1次火星探査チームのサイボーグのメンバーにとって、最後の地球の景色となるのです。
緊急補充用バックアップチームのサイボーグのメンバーも正規チームの3名が、惑星探査宇宙船に
乗り込むまで、行動を共にしてもらいます。そして、月面基地で、第1次火星探査正規チームのサイボーグの
メンバーの出発を見送った後、この施設に戻り、正規チームと同じ生活をこのシミュレーション施設で生活を
送ってもらい、データ収集用被験体になってもらいます。緊急補充用バックアップチームの役割も事前に
火星にいるメンバーに起こるかもしれない故障のデータを把握できる為、非常に重要な任務になります。
それでは、サイボーグ搬送用カプセルの中に入ってください。搬送を開始します。」
 私たちは、言われるままに、まず、みさきと望の栄養液や呼吸液のカートリッジ交換、
老廃物カートリッジの交換、機械体部分の維持のためのエネルギー補充を行ってから
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車に据え付け、移動させる状態にしたあと、彼女たちを
サイボーグ搬送用カプセルのなかに惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車ごと固定した。
そして、私たち4人の火星探査・開発用サイボーグがサイボーグ搬送用カプセルの中に入り、
長距離移動用固定装置によってかがみ込むような形で固定された。そして、サイボーグ搬送用カプセルの
ハッチが閉まり、私と未来とみさきの約6年に及ぶ旅行が始まったのである。
391manplus:2005/08/21(日) 21:25:17 ID:fHXvdOzd
 私たちが一人ずつ入ったサイボーグ搬送用カプセルが、宇宙開発事業局の地下出入り口から、
サイボーグ搬送用カプセル搭載用特別輸送車に積み込まれた。
私たちは、月面基地連絡宇宙船打ち上げ基地のある首都沖合100qに浮かぶ人工島に向けて出発したのだ。
 宇宙開発事業局のスタッフや、はるみ、ルミ、直樹、えりか、クリス、美花を始め、サイボーグ手術の
ドナー候補者の全てが、見送りに来ていた。私たちを見送るために集まってくれたのであった。
私や、未来、みさきはもちろんだが、浩や高橋さん、望も基本的にシミュレーターや火星環境標準室で
本番さながらに生活させられるために、私たちの期間までは、直接会うことは不可能となるのであった。
だから、みんなは、6人のサイボーグ全てと再び会える6年後までの別れを惜しんでくれているのであった。
もっとも、私たちが帰還するまでの間に第2次火星探査チームが打ち上げられるので、そのメンバーとは、
火星で会えることになるのである。順調なら、火星で会えるのは、はるみとルミと直樹であるはずであった。
 私のサイボーグ搬送用カプセルに向かってえりかが声を掛けた。
「お姉ちゃん行ってらっしゃい。健闘を祈っています。お姉ちゃんが帰ってくるときには、
私も火星探査・開発用サイボーグになって訓練を受けていると思う。私も頑張るから、
私の火星探査・開発用サイボーグとして頑張る姿を見れるように無事に帰ってきてね。」
「えりか、ありがとう。えりかの人間としての顔を見られるのはこれが最後と言うことだね。
しっかりと人工眼球に記憶させておくからね。きっと帰ってくるから、あなたの火星探査・開発用サイボーグ姿を
見せてちょうだいね。」
 そう言っているうちに、私たちの固定されて動けない姿が入ったサイボーグ搬送用カプセルを乗せた
サイボーグ搬送用カプセル搭載用特別輸送車が出発した。みんなが私たちが見えなくなるまで見送ってくれた。
私たちは、このプロジェクトのために作られた地下通路を通り、地下にある、
海中潜水艦型サイボーグ搬送用カプセル搭載用特別輸送船の秘密港湾基地へと運ばれていった。
392manplus:2005/08/21(日) 21:25:53 ID:fHXvdOzd
ここで、私たちサイボーグアストロノーツの6人が入れられたサイボーグ搬送用カプセルは、
サイボーグ搬送用カプセル搭載用特別輸送車から、海中潜水艦型サイボーグ搬送用カプセル搭載用特別輸送船に
移し替えられ、月面基地連絡宇宙船打ち上げ基地のある首都沖合100qに浮かぶ人工島に運ばれていった。
この月面基地連絡船打ち上げ基地で、地下ロケット打ち上げサイロに係留中の
月面基地連絡宇宙船にサイボーグ搬送用カプセルごと私たちは、積み替えられ月面基地連絡宇宙船に
積み荷として固定され、打ち上げを待った。月面基地に送られる第一次火星探査の機材としては、
最後の荷物が私たちだったのだった。月面基地では、私たちの積み込みを待っていたのである。
特にみさきを据え付けないことには、惑星探査宇宙船が機能しないのである。惑星探査宇宙船の完成は、
みさきの月面基地到着待ちと言った状態なのであった。


393manplus:2005/08/21(日) 21:42:37 ID:fHXvdOzd
 0Y645D17H00M00S。
 地球時間では、深夜の午前1時を回ったところであった。
 夜陰に紛れて、月面基地連絡宇宙船は打ち上げられた。月面基地連絡宇宙船が地下サイロから
発射していき、地球を離れていった。私たちサイボーグアストロノーツは、地球を離れていったのであった。
ラバーフィットスーツを装着された宇宙開発事業局のアストロノーツが、地球周回軌道上に達したとき、
私たちのサイボーグ搬送用カプセルのチェックにやってきた。彼らは、見たことのない、
薄いグレーのラバーフィットスーツが全身を覆っていた。初めて、通常型アストロノーツのラバーフィットスーツを
目にすることが出来た。
「こんばんわ。如月大佐、少し窮屈だと思いますが、月面基地まで、少し辛抱してください。
私は、月面基地連絡宇宙船乗組員の田中美晴といいます。空軍大尉で、宇宙開発事業局へ
アストロノーツとしての任務を命令されて配属されています。火星探査・開発用サイボーグと
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの6体のサイボーグの皆さんの月面までの3日間の管理を任されています。
何かあったら、何でもおっしゃってください。」
「田中大尉、ありがとう。私より、美々津少佐と橋場少佐の生命維持のためのケアをしてあげてください。」
「大丈夫です。如月大佐。美々津少佐と橋場少佐をお乗せするために、この月面基地連絡宇宙船には、
簡易型の惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ用生命維持管理装置が搭載されています。
そして、お二人のサイボーグ搬送用カプセルと惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車に
付いている惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ生命維持システムと連結されていますので、
地球上のように栄養液や呼吸液のカートリッジ交換、老廃物カートリッジの交換、機械体部分の維持のための
エネルギー補充のサポート作業をしなくても、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグを数日間の間、
生命維持させることが可能になっています。ですから、美々津少佐も橋場少佐も快適に月まで、
移動してもらうことができるのです。」
394manplus:2005/08/21(日) 21:43:13 ID:fHXvdOzd
 私たちにとっての快適という概念は何なのだろうか?そう強く思ってしまう。
人間だったら、とうてい長時間耐えることのできない格好でサイボーグ搬送用カプセルの中に固定された
囚人護送状態でも、何の苦痛もなく耐えることができる身体のシステムを持った身体に作り替えられた上に
積み荷として月まで搬送されるなんて、とても、ヒロインやヒーローじゃないなと思ってしまう。
田中大尉が、話しかけてきた。
「如月大佐たちは、サイボーグという身体をどうお感じになっているのでしょうか?私たちアストロノーツ仲間では、
うらやましく思っているんですよ。」
 私は、その言葉を不思議に思って聞き返した。
「田中大尉。どうしてなの?こんな身体のほとんどすべてを機械の部品や電子機器に
置き換えられてしまっているサイボーグという存在が、うらやましい訳ははないと思うんだけど。」
「如月大佐、おっしゃることは、その通りだと思います。アストロノーツでも、従来型の生身の人間のままの状態で、
宇宙服を着て活動している人の中には、身体の大部分を機械の部品や電子機器に置き換えられることを
拒絶する人がほんの少しいることも確かです。
でも、多くの従来型のアストロノーツは、自分たちの職業に対する意識の中で、
宇宙船という限られた生命維持環境から、自由に解放され、宇宙空間や月面、
惑星といった人類にとって限りなく広がる宇宙の開拓スペースを自由に動ける存在にあこがれているのです。
私たち、ラバーフィットスーツを装着された新型のアストロノーツに対しても、あこがれを持っていて、
ラバーフィットスーツ装着処置希望をほとんどの従来型アストロノーツたちは、
宇宙開発事業局に提出しているくらいなのです。ですから、従来型アストロノーツたちは、
宇宙空間を自由に動き回れたり、宇宙船を自分の意のままに操れるサイボーグアストロノーツに羨望と
憧れのまなざしを送っています。だって、彼女たちは、長いミッションが終了すると地球環境に戻るのにも苦労するし、
宇宙空間に行けば、様々な宇宙空間での生身の人間特有の生理傷害に悩まされ続けているのですから。
395manplus:2005/08/21(日) 21:43:46 ID:fHXvdOzd
そして、私たち、ラバーフィットスーツ装着者は、従来型アストロノーツたちよりも進化した存在なのですが、
如月大佐たちも装着処置を受けてご承知と思いますが、一日に一回は、生命維持のために
生命維持管理システムに接続され生命維持をしていくか、もしくは、今の私のように、
生命維持管理システムからのびるチューブ類やケーブル類を胎児のへその緒のように繋がれていないと
生命維持できない、しかし、身体自体はラバーフィットスーツを装着されるため、ラバーフィットスーツを
装着しやすいような外科的処置や身体変更処置が行われている中途半端な存在ですから、自分が完全に
自由に宇宙空間に適応して、自由になれる存在に憧れているのです。だから、アストロノーツはほとんど、
如月大佐たちサイボーグアストロノーツに対し、憧れと敬意を持っております。
そして、私は、ここで実際に出会うことができて、短い間でもお世話ができ、お話ができたことに
感激しているのです。」
「ありがとう。田中大尉」
396manplus:2005/08/21(日) 21:52:41 ID:fHXvdOzd
 私は、短く答えた。確かにそう言う考え方もあるのだと思った。私たちは、空軍パイロットから、突然、しかも、
短い間にこのような機械と電子機器がほとんどの身体に改造されてしまったから、とまどいが先に立ったが
宇宙での仕事が長いと宇宙で自由に何の制約も受けずに行動できる存在になりたいということなのだ。
彼女たちの期待が一心に集まっているのだ。期待に応えるべくの責任感と充実感が私の中に生まれた。
頑張らなくっちゃ。「如月大佐たちのようなサイボーグになれるように、私も、宇宙開発事業局に希望を出しています。
私は、宇宙空間作業用サイボーグへの改造のウェーティングリストに載せられています。
火星植民計画が第三段階に入ったときに大型宇宙船の建造等で宇宙空間での作業の優位性を
確立するために使用されるサイボーグアストロノーツとして、計画されているということです。
美々津少佐や橋場少佐のように宇宙空間で不必要な脚を切除して代わりに宇宙空間推進装置が取り付けられ、
腕は、宇宙空間作業用マニュピレーターに取り替えられるそうです。
宇宙空間での作業性を高めているということです。私は、そのような身体で、
宇宙空間で活躍できることを楽しみにしているのです。
だから、この計画の第一歩である第一次探査チームの皆さんに頑張ってほしいのです。」
「もちろん、大成功をさせて帰還するつもりです。田中大尉たち、アストロノーツのサイボーグ候補のためにも、
頑張るわ。でも、田中さん、サイボーグアストロノーツになったら、もう、地球上での生活は、しにくくなるのよ。
特に、田中大尉の改造されるタイプは、地球上では生活自体が不可能になる可能性もあるのに。」
397manplus:2005/08/21(日) 21:53:34 ID:fHXvdOzd
「如月大佐。私は人類の宇宙進出のためなら、そのような身体になっても良いと思っていますし、
自分の仕事に都合がよく、憧れがかなうのなら構わないという覚悟ができています。
だから、手術を受けるのが楽しみでさえあるのです。さあ、そろそろ、レストモードに切り替えます。
如月大佐、ゆっくり休んで下さいね。気が付くと月面の周回軌道上で着陸態勢に入っているはずです。
少しの間の宇宙のゆりかごを満喫して下さい。」
 私の生活モードが強制的にレストモードに切り替えられ、意識が遠のく。
「田中大尉、ありがとう。ゆっくり休むね。お休みなさい。」


398manplus:2005/08/21(日) 21:54:05 ID:fHXvdOzd
 0Y648D15H45M00S。
 私たちのサイボーグ搬送用カプセルを搭載した月面基地連絡宇宙船は、月面の周回軌道に入っていた。
そのとき、私たちの生活モードがアクティブモードに切り替わった。
「サイボーグアストロノーツの皆さん、アクティブモードに切り替わっていますね。
現在、月の周回軌道上に月面基地連絡宇宙船はあります。まもなく月面基地に着陸します。
皆さんの着陸の用意を行います。ご気分はいかがですか?」
「みんな、問題ないようよ。田中大尉。」
私が代表して答える。
「わかりました。順調な飛行を続けていますので、着陸の用意をしていて下さい。」
そう言い残すと、田中大尉は、操縦席に戻って自分の着陸態勢を整えにいった。
私たちは、田中大尉に着陸態勢にはいるように言われたが、元々固定された体勢にあるので、
何もすることがなかった。間もなく、月面基地連絡宇宙船は、月面に向けての着陸軌道に入っていった。
チコクレーターにある月面基地に月面基地連絡宇宙船が着陸した。
 私たちは、サイボーグ搬送用カプセルごと運び出され。
月面基地内に作られた火星植民計画用サイボーグ待機カプセルにサイボーグ搬送用カプセルを連結され、
サイボーグ搬送用カプセルから出されて、火星植民計画用サイボーグ待機カプセルに設置された
サイボーグメンテナンスチェアに据え付けられた。私たちには、ここでも自由というものはなかった。
惑星探査宇宙船に積み込まれるまで、固定されたままの状態で四六時中待機することになる。
 いよいよ、ここまで来たのだ。火星に本格的に旅立つまで、あと少しとなったのだ。
もう、何事も起こることなく、火星に旅立ちたいと思った。
399manplus:2005/08/21(日) 22:04:33 ID:fHXvdOzd
今日はここまでにします。
いよいよ火星に向けてはるかたちが出発するのが近づきました。
もうすぐ旅立ちです。
彼女たちが、火星で苦労している間、地球上でもいろいろなことが起こることになります。

前82様
いよいよ、水中での活動開始ですね。
展開を楽しみにしています。


3の444様
私も待っていました。
全自動化住宅、どの様な結末を迎えるのか楽しみにしています。
400名無しさん@ピンキー:2005/08/24(水) 12:34:45 ID:h7LPy8/3
400get!
4013の444:2005/08/25(木) 02:27:21 ID:txCEzXke
  管理人室のドアは、 はるにれ荘の入口と同じように、 アニーが手も触れないのに、 私の目の前で
ひとりでに開いた。 まるで私を食べるためにお化けが口をあけたような気がして、 恐くなった私は、 思
わず横にいる佐倉井さんの腕を掴んでしまう。 生身の人間よりずっと強い、 機械の身体のくせに情け
ないって思うかもしれないけど、 臆病なのは生まれつきの性格だもん。 直しようがないよ。
  それにしても、 本当のアニーって一体どんな姿をしているんだろう。 まさかとは思うけどさ、 妖怪と
か怪物の類じゃないよね。
  佐倉井さんの後ろに隠れるようにしながら、 私はこわごわと部屋に入った。
  なんだか異様な部屋だった。
  部屋自体は絵に描いたような六畳一間。 簡単な流しがあって、 押入れがあって、 間取り自体は私
がさっき城口ウランで佐倉井さんに見せてもらった写真と全く同じ。 部屋自体は至ってフツー。 でも、
流しと押入れの以外の壁一面に、 ちょうどロッカーみたいな大きさの白い鉄の箱が、 いくつもいくつも
並んでいるんだ。 部屋には窓もあるみたいだけど、 せっかくの窓も、 この箱が塞いじゃっているから、
外はまだまだ日が高いっているっていうのに、 部屋にはほとんど光が差し込まなくって、 薄暗い。
  壁に並ぶ白い箱からは、 まるでタコかイカが触手を伸ばすみたいに、 いろんな色に塗られたコード
が伸びていて、 畳の上をでたらめに這い回って、 部屋の真ん中の、 天井まで届きそうなひときわ大き
なグレーの箱に繋がっていた。 灰色の大きな箱には、 その大きさに釣り合わない小さなモニターディス
プレイがついて、 箱の前には椅子やキーボードもあるから、 どうやらコンピューターらしいってことは分
かった。 それにしたって、 こんな大きなコンピューターは見たこともないよ。
「やあ、 来たね」
  壁際に並ぶ白い箱の一つを開けて、 なにやらごそごそ作業をしていた須永さんが、 私達に気がつい
て、 ドライバーを持ったままの右手を軽くあげた。 そして、 そのまま立ち上がると、 ひょいひょいと身軽
に足元のコードをよけながら、 呆気にとられて立ち尽くす私と佐倉井さんの前までやってきた。
4023の444:2005/08/25(木) 02:28:02 ID:txCEzXke
「はるにれ荘の管理人室にようこそ」
 須永さんは、 額の汗を腕でごしごしこすりながら、 にこやかに笑った。、

「うー。 アニー、 本当のあなたって、 いったいどこにいるのさ。 ここには須永さんしかいないじゃないか
よう」
  私は、 背中で手を組んでドアのへりによっかかっているアニーに向かって、 いかにも不満そうにほっ
ぺたを膨らませた。 どんな姿のアニーを見ることになるのか、 心臓がなくなっていることも忘れてどきどき
していたのに、 この部屋にはコンピューター以外には見事に何もないんだ。 拍子抜けだよね。
「ちゃんと、 あなたの眼の前にいるじゃない」
  アニーは、 私のほうを見向きもしないで、 なんだか元気なく、 そうつぶやいた。
  眼の前にいるだって? アニーの意外な回答に、 思わず顔を見合わせる私と佐倉井さん。
「眼の前にいるって言ったって、 私の前には、 須永さんと、 おっきなコンピューターしかないじゃないか・・・。
え? おっきなコンピューターって、 これってまさか・・・」
「やっと気がついた? そう、 そのコンピューターが私の本当の姿だよ。 この身体はただの義体。 遠隔
操作の端末なんだ。 だから壊れようが何しようが実は私にはなんの影響なし。 まだまだ予備の端末は
あるよ。 大きいのとか、 小さいのとか、 その押入れの中にいくつか入ってる。 驚いた?」 
  アニーはそう言うと、 唇の端を自嘲気味に吊り上げた。
  眼の前の大きなコンピューターがアニーの本体。 で、 部屋の入口で不貞腐れている女の子は、 ただ
の端末。 いくら壊れても取替えのきく道具にすぎないってわけだ。 私は、 ただの端末相手に、 死なない
でって必死に祈っていたんだ。 そう思ったら怒りが、 喉の奥からこみ上げてきた。
「そんな。 じゃあ、 アニー、 あなた、 ただ私にあてつけるためだけに自殺するふりしたっていうの? ひど
い! そんなのひどいよ! 私、 本気であなたのことを心配したのに、 あなたは冗談半分で私に嫌がらせ
してただけなんだね」
4033の444:2005/08/25(木) 02:28:52 ID:txCEzXke
  つい頭に血が上って、 さっきアニーにひどい目にあわされて、 力じゃとてもかなわないって知りながらも、
みさかいなくアニーの肩をつかんで、 横にいた佐倉井さんや、 須永さんがびっくりするくらいの声を張り上
げてしまう私。 私は交通事故で、 自分の身体を失っただけじゃない。 両親も弟も亡くしている。 だから、
人の死に対しては人一倍敏感なつもり。 それだけに、 命をネタに私をからかう真似をしたアニーのことが
許せなかったんだ。
  でも、 アニーはおしだまったまま。 私に怒鳴られるがまま。 何も言わず、 ただ悲しそうな顔をするばか
り。 はじめは、 いろんな言葉でアニーを罵っていた私だけど、 アニーの悲しげな表情にだんだん勢いを
なくして、 とうとうアニーの肩に手をおいたまま、 黙り込んでしまった。
  そんな私を上目使いに見ながら、 アニーは静かに口を開いた。 そして、 ロボットとは思えないくらい訥訥と、
時折言葉に詰まりながらも、 自分のことを話し始めたんだ。
「私、 はじめ、 あなたのことが憎かった。 私は、 見たとおりの、 ただのコンピューターだから自由に動くこと
なんてできないの。 この義体端末だって、 電波の関係で、 そんなに遠くにはいけないんだ。 行動範囲は、
せいぜいはるにれ荘を中心とした500m四方。 だから、 浩一さんから、 遠くまで自由に動ける新しいロボッ
トを連れてくるって聞いたとき、 やっぱり私じゃだめなんだ。 私じゃみんなの役に立てない欠陥品なんだって
思って悲しかったよ。 どんなに人間と同じ心を持っているって須永さんに言われても、 人間の役に立てない
ロボットに存在価値なんてないもの。 でも、 新しく来るロボットは、 ただの市販品で私みたいな心や感情を
持っていないって聞いていた。 だったら、 たとえ自由に動くことができなくても私のほうが優れたロボットなん
だって自分に言い聞かせていたの」
  みんな黙ってアニーの話に耳を傾けている。 静まり返った薄暗い部屋に、 ただコンピューターの単調な
唸り声だけが響いていた。 そのコンピューターが、 アニーだって知ってしまった今、 私には、 その音は、
なんだかアニーの心の叫びのように聞こえた。
  アニーはなおも言葉を続ける。
4043の444:2005/08/25(木) 02:39:15 ID:txCEzXke
「そこにあなたがやってきた。 私ははじめ、 あなたのことを新しくやってきたロボットって勘違いしていたから、
私と同じように、 まるで人間そっくりの心を持っていて、 それでいて私なんかと違って自由に身動きできるロ
ボットがやってきたと思ったんだ。 はっきり言って、 悔しかったよ。 負けたと思ったよ。 だから、 私は必要
以上にあなたにきつくあたった。 私のほうが上なんだって自分に思い込ませるためにね。 あなたが、 浩一
さんの連れてきたロボットじゃないって分かってからは、 あなたのことを消そうと思った。 私以外に心を持っ
たロボットがいちゃいけない。 そしたら、 私を作った浩一さんの名誉も汚されるって思ったんだもの」
  クララベルがはるにれ荘に来たわけ。 アニーが私を憎んだわけ。 アニーが話を進めるごとに、 少しづつ、
私の知らなかった事実が明らかにされていく。
  私は、 アニーの話を聞きながら、 アニーが私にのしかかって、 無理やり私の接続端子に指を突っ込ん
だ時のことを思い出していた。 確か、 あのとき、 アニーは私に、 機械のくせに、 人間のふりなんかして。
自由に一人で動き回ってって言っていたんだ。 なんでそんなことを言うんだろうって、 恐怖に怯えながらも
不思議に思ったんだけど、 今ならその理由が分かるよ。 アニーは、自由に動けないんだ。 アニーにとっ
ては、 はるにれ荘の周りたった500m四方、 それが生きる世界の全てなんだね。 アニーは私のことが羨
ましかったんだね。
「でも、 あなたは人間なんだって分かって、 もっとびっくりしたよ。 あなたが人間だったとしたら、 私のした
ことなんて、 とても許されることじゃないもんね。 ひょっとしたら、 私ばかりじゃなく、 浩一さんにも迷惑を
かけてしまうかもしれないって焦ったよ。 でも、 それと同時に、 今まで以上に悔しくなったんだ。 私にとって
は、 あなたは私と同じ機械の身体。 私にはロボットとしか認識できない存在。 でも、 あなたは人間で、 私は
ただの機械だっていう。 私はあなたには決して逆らえないんだもの。 ほとんど同じ身体なのに、 どうしてこ
んなに違うんだろう、 そんな、 あなたと一緒に住むなんて、 耐えられないって思った。 だから、 私は死んだ
4053の444:2005/08/25(木) 02:40:18 ID:txCEzXke
ふりをすることにしたの。 私が死んだことにすれば、 万事うまく解決するし、 立場をなくしたあなたを追い出す
こともできる。 そう思ったの。 でも、 あなたは私のために本気で悲しんでくれた。 こんな私のために何でも
してくれるって言ってくれた。 私は、 あなたを騙したのに・・・。 そんな、 あなたの姿を見ていたら、 申し訳ない
気分でいっぱいになったよ。 ごめんなさい。 あなたをからかうような真似をして、 本当にごめんなさい」
  アニーは、 長い告白を終えて、 最後に私に向かって深々と頭を下げた。

  アニーは、 私に電撃を加えて、 強制的に私を服従させようとした。 私のサポートコンピューターを乗っ取っ
て、 サポートコンピューターのプログラムを消そうとした。 その上狂言自殺までして、 私の心を弄んだ。
アニーが私にしたことを考えれば、 例えアニーにどんな事情があったにせよ許すべきじゃないって、 人は言う
かもしれない。 例え私が全身義体で、 アニーが私にしたことについて、 器物損壊未遂程度の罪にしか問え
なかったとしても、 罪は罪として追求して、 しかるべき罰を受けさせるのが正しいことなのかもしれない。
アニーが、 どんなに自分を取り繕ったもの言いをしても、 わがままで、 自分勝手な理屈で、 私を傷つけよう
としたことに間違いはないのだから。
  でも、 おかしなことに、 私はアニーの告白を聞くうちに、 自分の怒りがすうっと引いていくのを感じいていた。
それどころか、 アニーに対して奇妙な仲間意識さえ感じはじめていたんだ。
  私の身体は、 まだ生身の身体を持っていた頃の私に似せて作ったお人形さん。 本当の私は、 この人形の
中のケースに収まった、 ただの脳みその塊にすぎないんだ。 いくら私が人間だって言い張ってみたところで、
このことだけは動かしがたい事実だよね。
  アニーだって同じ。 色白の可愛いらしい女の子は、 取替えのきくただの端末。 本当のアニーは、 この部屋
にすえつけられたまま身動き一つできない、 大きなコンピューター。
4063の444:2005/08/25(木) 02:41:37 ID:txCEzXke
  私たちは、 ともに同じ偽りの身体を持ち、 そのせいでいつも劣等感に苛まれている、 機械仕掛けの人間と、
心を持った機械。 私も、 アニーも、 機械と人間の狭間でゆらゆらゆれる、 あやふやな存在。 だからこそ、
アニーの苦悩、 悔しさが、 私には、 まるで自分のことのように感じられたんだ。
  私だって、 アニーを見たら悔しい。 心は人間だけのもの。 私の身体のほとんどが機械でも、 誰からも人間
扱いしてもらえなかったとしても、 私には人間としての心がある。 八木橋裕子が、 今、 ここで確かに生きている
ってことは、 私自身が知っている。 それは自分をささえるたった一つのよりどころだったんだ。 でも、 心なんて、
人間だけのものじゃない、 ただのプログラムにさえ宿るんだって知ってしまった今、 私は、 こんな機械だらけの
身体で、 何を根拠に人間って主張したらいいんだろう。 アニーなんていなきゃいいのに。 そんなふうに一瞬でも
考えた私に果たしてアニーを責める資格があるだろうか。 アニーが自分をたった一つだけの特別な存在じゃな
きゃいけないと思って、 私を消そうとしたことを責める資格があるだろうか。 ほとんど同じ機械の身体で、 同じ
心を持っていて、 なのに、 私だけ人間扱いされる理不尽も甘んじて受け入れろって言う資格があるだろうか。
  私は何も言えなかった。 アニーに叱ったり責めたりすることも、 許すこともできず、 ただ、 アニーを見つめ
ながら黙っていることしかできなかった。
「私、 浩一さんから言われたんだ」
  アニーは今にも泣き出しそうな表情で、 でも、 私を真っ直ぐ見つめて言った。
「ここで暮らす以上、 あなたに私の正体を明かしたほうがいいって。 私のこと死んだんだって誤解させたまま
じゃ、 あなたがかわいそうだって。 だから、 あなたをここに連れてきたの。 これが、 私の、 本当の姿。 あなた
には、 どんなふうに映った? 変でしょ。 おかしいでしょ。 醜いでしょ」
4073の444:2005/08/25(木) 02:50:09 ID:txCEzXke
  ただのコンピューターが、 自分のことを変だとかおかしいとか醜いとか言う。 よくよく考えたらこんな滑稽な
ことはないよね。 でも、 アニーの心が女の子のそのものだったとしたら、 これってアニーが人前に自分の裸を
晒していることとと同じことかもしれないよ。 ましてや、 自分のことを人間と同じような存在って思い込んでいる
んだとしたら、 こんな人間とはかけ離れた姿を見られるのは、 恐ろしく恥ずかしいことに違いないんだ。
  私だって、 人前で、 身体が機械仕掛けだってばれたらどんなに恥ずかしいだろう。 私の本当の姿、 機械の
中に埋もれるようにケースの中に納まった脳みその塊を見られたら、 どんなに嫌だろう。 きっと、 それと同じ
ことだよね。 そう思ったら、 なんだか悪いことをしている気分になって、 アニーの本体をまともに見れなくなって
しまった。 ましてや、 佐倉井さんみたいに、 部屋を歩き回って、 面白半分にアニーの本体に触ったりすること
なんて、 私には出来るはずがないよ。

「ごめんな、 アニー。 恥ずかしい思いをさせて悪かったよ。 でも、 やっぱりいたずらにしてはやりすぎだ。 八木
橋さんを悲しませたままでいるのはよくないぞ。 ひょっとしたら、 これからずっと一緒に住むことになるかもしれ
ない人なんだ。 きちんと説明してあげなきゃな」
  須永さんは、 がっくり肩を落としてうなだれてしまったアニーに向かって、 まるで父親が娘を諭すみたいに、
優しく声をかけた。 それから須永さんは、 私と佐倉井さんに向かって、 アニーどうやって生まれたのかを語り
はじめたんだ。
「ここは、 もともと学生時代の私の部屋だったんだ。 ここで、 学生のじぶんにAIのプログラムをしていた私が、
プログラムをいろいろいじっているうちに、 偶然に作り出してしまったもの、 それが、 アニーのAIの原型。
アニーは、 私の知らないうちにどんどん成長して、 プログラムも自己進化を繰り返して、 いつしか自分の
意思というものを持つようになった。 そして、 自分自身で、 ネットから情報を拾い上げて、 どんどん知識を
蓄えていったんだ。 それに伴って、 メモリも増設に継ぐ増設を重ねて、 とうとうこんな大きなコンピューターに
なってしまったというわけだ」
4083の444:2005/08/25(木) 02:50:59 ID:txCEzXke
  そこまで言うと、 須永さんは、 いとおしそうに、 アニーの本体の、 つるっとした外板をなでたんだ。 きっと、
須永さんの頭のなかには、 遠い昔、 この部屋でコンピューター相手に格闘していた自分の姿が浮かんでいる
んだろう。 昔を懐かしむような、 遠い眼をしていた。
「ハイ! ただのプログラムが生き物みたいに自分の意思をもつなんて、 そんなことがありうるんですか?」
  全身が好奇心の固まりのような佐倉井さんは、 出来のいい生徒よろしく、 須永さんのほうに身を乗り出して、
手を指先まできっちり上げて、 正しくハイのポーズをとった。
「うーん、 いい質問だね」
  佐倉井さんの勢いに須永さんは思わず苦笑い。
「私だって、 ただの数式の羅列にすぎないものが、 意思や心を持つなんて、 そんな馬鹿げたことがあるはず
ないと初めは思ったよ。 でも、 アニーが、 プログラムの中だけの存在だったとしても、 まるで人間みたいに
笑ったり、 怒ったり、 悲しんだりするのを見ているうちに、 私はプログラムが意思や心を持っても不思議は
ないと考えるようになったんだ。 よくよく考えてみれば地球上にいる生物だって、 もともとはただの有機物の塊。
それが、 何かの偶然の力が働いて生命になり、 40億年かけて、 心まで持つようになってしまったわけだから、
それを考えれば、 ただのコンピュータープログラムでも何かの偶然の力が働いて意思が発生しても何らおか
しくはないよね」
  佐倉井さんが優秀な生徒なら、 須永さんも優秀な先生だ。 私でも分かるように言葉を選びながら、 佐倉
井さんの質問に答えてくれた。
「すごい! 須永さんすごい! コンピューターが意識を持つなんて、 ノーベル賞ものの発明じゃない。 アニー、
あなたはすごいのよう」
  須永さんの言葉を聞いた佐倉井さんは、 ポニーテールをゆさゆさ揺らしながら興奮したようにアニーのとこ
ろに駆け寄って、 アニーの手をとりながら、 すごいすごいと連呼している。 落ち込んでいたアニーも、 佐倉井
さんの様子に、 ちょっと戸惑いながらも照れたようにはにかんだ。
4093の444:2005/08/25(木) 02:52:21 ID:txCEzXke
「そう、 佐倉井さんの言うように、 ただのプログラムに心が発生するなんて、 確かにノーベル賞もの発明かも
しれないね。 なぜ、 心が発生したのか、 その仕組みさえ解析できればね。 でも、 アニーのプログラムは、
偶然にできたものなんだ。 それに自己進化し続けているから、 いまプログラムがどんな状態になっているのか、
製作者の私でさえもよく分からない。 不思議なことは、 まだあるぞ。 アニーのプログラムはコピーを受け付け
ないんだ。 たとえコピーできたとしても、 何故かそのプログラムは起動しないんだよ。 それに、 このコンピュー
ターを他の場所に動かしてもだめ。 この場所を離れたら何故かプログラム自体が止まってしまうんだ。 つまり、
アニーのプログラムは、 私でも分からないほど謎だらけだってこと。 その謎が解明できない限り、 ノーベル賞
は無理だなあ。 残念ながら」
「いろいろ難しいのね」
  佐倉井さんは、 心底残念そうに、 つぶやく。
「コピーもできない。 コンピューターを移動させることもできない。 だから、 私は、 このはるにれ荘を買い取った。
買い取りさえすれば、 この建物が家主の都合で取り壊されることもなく、 永遠にアニーを守れるからね。 そし
て、 この家を改造して全自動化住宅にしたんだ。 この家は、 アニーの意思で、 ドアを開けたり閉めたり、 電
気をつけたり消したりできる、 義体端末と同じ、 アニーの身体そのものなんだ。 アニーは、 この家の守り神に
なったんだよ。 アニーには、 このはるにれ荘とともに、 いろんな経験をつんでもらって、 あるときは住人の世話を
し、 あるときは住人に教えてもらいながら成長してほしい。 私はそう思っているんだ」
  須永さんの静かな話しぶりの端々に、 アニーに対する深い愛情を感じた。 おばあちゃん達が、 アニーに対して
単なるロボットじゃなくて、 孫娘のように接したり、 アニーははるにれ荘の守り神だって言っていることにも納得
できたような気がする。 ちょっと、 おっちょこちょいで、 たまに失敗もする頼りない守り神だけどね。 ふふふ。
4103の444:2005/08/25(木) 02:59:17 ID:txCEzXke
「アニーは、 今のところ世界でたった一つの心を持ったロボットなんだ。 いつの日か、 アニーのプログラムを
解析して、 市販のロボットに反映させること、 それがAI技術者である私の目標であり夢なんだ」
 最後に須永さんは力強くそう言ったんだ。
4113の444:2005/08/25(木) 03:04:16 ID:txCEzXke
今日はここまで。
全自動化住宅、長々と続きましたが次回が最終回となります。
412名無しさん@ピンキー:2005/08/26(金) 00:19:46 ID:7S7BqfNn
AIとサイボーグの苦悩。とても興味深く読ませていただきました。
本当にプログラムが心を持つようになるかもしれませんね。
有機物が心を持つようになる確率より、プログラムの方が高いかも。
413名無しさん@ピンキー:2005/08/26(金) 18:25:17 ID:xrRYdrHI
脳の半分はAIというのはどうだろう?
活発すぎて事故にあって体をなくした娘の為に、
物静かでおとなしくなるようにするように思考に介入するAIを
付けられたら彼女は苦悩するだろう。
414名無し:2005/08/27(土) 00:50:24 ID:xl1e68pn
人間より人間らしいAIができたりして(笑えない・・・)
415sister:2005/08/27(土) 02:28:56 ID:AM+zoNSk
「ただいま」
 そう言って帰ってきた由美は以前とはまったく別の姿になっていた。
 真夏には似つかわしくない長袖にフード付の上着、足元まで隠れるパンツ。だが、そこから僅かに覗く肌は銀色の光を放っていた。
 玄関まで来ると、ほとんど無かった表情が困ったようなものへと変わる。
「足、どうしよう?」
 銀色に輝くヒール付の足を見て言う由美に、
「そのまま上がって」
と、促す事しかできなかった。

 全ての襖を閉め、窓にカーテンをかけ、一番奥の部屋まできて由美は口を開いた。
「それじゃあ、服を脱ぐね」
 手始めに取った手袋の下からは銀色の金属製の手が現れ、フードを外すと銀色の髪が広がり、上着の下からは銀色の豊満な女性体型の機械が姿を見せ、ズボンを脱ぐとスラリと伸びた銀色の足から直にヒールが生えていた。
 胸の上にD1というプレートがあるのとヒール状の足以外は、ほぼ人間と同じ姿をしていた。ただ銀色の金属であるという事を除いて。

「一応、1等兵器っていう階級が新設されて、扱いは少尉待遇ってことになるみたい。まあ、それ以外に色々制約があるみたいだけど」
 はにかみながらそう言う由美の姿に胸が痛んだ。
416sister:2005/08/27(土) 02:29:57 ID:AM+zoNSk
【Dプロジェクト試作機】
 そんなメールが父のアドレスに送られてきたのは半年ほど前だった。
 だが、そんなメールは四菱重工社長である父の目に止まる事は無く、閲覧すらされることなくパソコンのデータの片隅に仕舞われてしまった。
 そして、そこに添付されたデータの重要性に気付く者は誰もいなかった。

 妹の由美が誘拐されたのはそれから10日後の事だった。

 大袈裟な送り迎えを嫌がる由美の性格が災いした。
 下校時、いつも一緒の友人が呼び出され独りになった時、攫われたのだ。
 後の警察の捜査で友人を呼び出したのは犯人の工作だった事が明らかになった。

 大企業の社長令嬢の誘拐。その日のうちに警察は動き出した。
 だが、これと言って有力な情報が見つからないうちに犯人からの連絡があった。

 フリーのアドレスからのメール。
 そこには由美を使ってDプロジェクトを再開するとの言葉と、手術台に拘束された由美の姿の画像ファイルだけだった。
417sister:2005/08/27(土) 02:31:03 ID:AM+zoNSk
 Dプロジェクト、それは父が以前に闇に葬った兵器開発プロジェクトだった。
 軍と太い繋がりのある四菱重工が今までと全く異なる兵器を開発しようとしたもの。
 その非人道的なプランゆえ一切の日の目を見ることなく、開発責任者の解雇と共に抹殺されたものだった。
 それは戦場における画期的無人兵器と言う触れ込みであった、しかしそれは決して無人などではなかった。
 いやそれが最早人で無いとするなら、無人と言えなくも無いだろう。
 人間を改造しサイボーグ兵器に作り変えるというものだった。

 工藤という開発責任者は解雇された後、行方をくらませた。
 データは全て破棄され、二度と口に上がる事はなかった。
 ただ、社長室を出て行く工藤が発した「私はDプロジェクトを諦めない」という言葉のみを残して…

 この後、10日前に送られてきたメールが発見される。
 そこには、Dプロジェクトの試作機、D1ーYUMIの設計図と手術方法が掲載されていた。
 それはその名の通り、由美を素体として使用することを前提としており、身長や3サイズなど体型や体質などが正確に記されていた。
 全身を機械に置き換え、残っているものは脳の一部と神経系のみだった。
 皮肉か出来上がりの予想図は生身の由美の体とほぼ変わらない体系になっていた。

 それを見た父の狼狽は信じられない物だった。常に慌てずどっしり構えていた父がこの世の終わりかという慌てぶりだった。
 母は気を失い、病院へと担ぎ込まれた。
418sister:2005/08/27(土) 02:38:35 ID:AM+zoNSk
 1週間後、一枚のDVDが送られてきた。
 再生された動画は由美が改造されるシーンを映した物だった。
 解体されていく生身の体が、金属製の機械で再構成されていく。
 捜査官がそのスプラッタな光景を目にしてトイレに駆け込む。
 僕は父とその光景に立ち竦んでいるだけだった。

 さらに1週間経つと、新たなDVDが送られてきた。
 そこには、目を開けた由美の姿が映されていた。ご丁寧に初起動とのテロップ付で。
「元に戻して」と懇願する由美に「無理だ」と言い放ち、自分に従い兵器D1として動く事を強要している姿が映し出され、戦闘訓練をさせれる姿が映し出された。

 2週間後、送られてきたDVDにはD1−YUMIと称し、最高の無人兵器だと自らパフォーマンスする由美の姿があった。

 しかし、この時点で警察は工藤の居場所を発見する事に成功した。
 様々な工作をして身元がばれないようにしていた工藤だが、運悪く警官に見つけらてしまう。
 工藤のアジトを強襲した警官隊は由美を確保したが、工藤を射殺してしまう。その過程で10人以上の死傷者が出たという。
 
 こうして、事件は幕を下ろした。
 機械化された由美を残して。
419sister裏:2005/08/27(土) 11:32:17 ID:AM+zoNSk
「ただいま」
 門を潜り帰宅の挨拶をする。最後に家を出てからどれくらい経ったのだろう。
 そして、自分は以前の自分とどれだけ違うものになってしまったのだろう。
 あの時とは全く違う身体で、全く違うものを感じている。
 玄関に入ると靴を脱がねばならない。でも、私は脱ぐ事など出来ない。
「足、どうしよう?」
 思わず、横を歩いていた兄に尋ねる。
「そのまま上がって」
 そんな答えしかない事など分かっていたはずなのに、少し悲しかった。

 家中の襖やカーテンが閉められ、奥の間は外部から完全に遮断された。
 センサー類でその事を確認した私は第一の任務を実行する。
「それじゃあ、服を脱ぐね」
 現状では私の身体は防衛軍内でもトップシークレットになっている。
 家族でも許可無く見せる事は許されない。
 だが、数ヶ月の研究を経てやっと許可が出た。私が、警察に確保され軍に送られるまでの短い間以来だ。
 手袋から外し、上着、パンツと脱いでいく。下着をつけることは許可されていない。
 銀色のボディが数刻ぶりに外気に触れる。恥ずかしくは無かった。研究所ではこの姿でいることが当たり前だった。

 悲しそうな表情の父、泣き出しそうな母、困惑している兄、3人の様子がなんだか懐かしく感じた。研究所では私は研究材料として好奇心の目でしか見られなかった。
 時間が無い。次の任務に移らねばならない。
「一応、1等兵器っていう階級が新設されて、扱いは少尉待遇ってことになるみたい。まあ、それ以外に色々制約があるみたいだけど」
 自分の待遇を説明する。私はどんな顔をしていたのだろう?
 少尉待遇なんて、表向きのものに過ぎない。
 士官しかいない研究所では、命令権は一切無いし、全ての人に服従しなくてはならない。さらに戦時下では、兵器として完全に自由を失う。
 また、身体はトップシークレットとなっており研究所から出る事も許されない。
 全ての研究に身体を奉げることも誓わされている。
 最早軍所有の【兵器】なのだ。
420sister裏:2005/08/27(土) 11:33:54 ID:AM+zoNSk
「目が覚めたかい?」
 白衣の男がそう言って来たのは、薄暗い研究室だった。
 体を起こそうとして、全身が拘束されていることに気付く。それに服も一切着ていない。
(襲われる!)
 そう感じて身を竦ませる私を、男は冷ややかに見下ろし口を開いた。
「襲いはしないよ。だが君には生まれ変わってもらう」
 そう言ってモニターに電源を入れると、銀色の身体をした人型が写し出される。だがその顔や身体つきに見覚えがあった。
「私…?」
「その通り、君が生まれ変わるD1−YUMIの完成予想図だ」
「何を言っているの?」
「次に目が覚めたら、君は最強の兵器として生まれ変わっているだろう」
 その声と共に降りてきたマスクから漏れ出したガスが人間最後の眠りに私を誘った。

 闇の中に赤い文字が次々と浮かび流れていく。
 最後に>D1start-upの文字が大きく浮かぶと、周囲が急に明るくなった。
 見慣れない天井と違和感がある身体、とりあえず起き上がることにする。
 今まで感じた事が無い感覚が脳を支配する。
 金属製の床に足を着くと高い金属音がする。
(え? 素足のはずなのに?)
 靴を履いていないはずの足と床の感覚に戸惑う。さらにヒールの存在すら感じられる。
(どうなっているの?)
 覗きこんだ足は銀色で覆われていた。
(靴履いてるじゃない)
 そう思うが、違和感がある。脱ごうと思って膝に向けて視線をスライドする。
 しかし、銀色に切れ目は無い。
 あっという間に膝を通り越し、胴体との付け根を越え、銀色は全身に広がっていた。
421sister裏:2005/08/27(土) 11:35:03 ID:AM+zoNSk
「なにこれ?どうなってるの!」
 思わず大きな声が出る。
 そこへ見覚えのある白衣の男が現れる。いや、データベースにマスター登録されている。工藤博士だ。
(データベース?マスター登録?)
 理解できない単語が脳内に浮かぶ。それがさらに私を混乱させた。
「落ち着きたまえ」
 マスターの言葉に混乱した頭が静まる。
「気分はどうかね?」
「わかりません。混乱ばかりして…」
「仕方ないだろう。これを見たまえ」
 マスターはカバーを取り外し、大きな姿見をこちらに寄越した。

 そこには銀色の金属で作り上げられた身体を持つ少女が写し出されていた。
 それが私である事は否定する事ができなかった。
「君はDプロジェクトの試作機、D1として生まれ変わったんだ」
 マスターがそういって私の肩に手をかけた。

 しばらく、凍りついたように眺めていた私にさらにマスターが声をかけた。
「新しい身体は気に入ったかい?」
「元に戻してください」
 自然と口から言葉が出た。私の感じていた思いそのものだった。しかしマスターの答えは非情だった。
「無理だ」
「嫌、こんな身体嫌。元に戻して」
「君の元の身体は完全に解体してしまって再利用は出来ない」
 涙を流す事ができない私の懇願をマスターは冷たく遮り、私の意識は闇の中に沈んでいった。
422名無しさん@ピンキー:2005/08/27(土) 11:37:12 ID:e/ph/bPB
乙。いいですね、少女を誘拐して無理矢理改造、惨めな兵器化。もっとも萌えるシチュエーションです。
期待しています!!
423sister裏:2005/08/27(土) 11:50:13 ID:AM+zoNSk
 カプセルのような中で目が覚める。
「ここは…?」
 分からない。だが、先程までの研究室の一部だろう。同じような天井や壁が見える。
 Eチャージ完了の文字が視界に浮かぶのに気付く。さらに、お尻に違和感がある。
(何か入っている?)
「充電は完了したかい?」
 マスターの声がして、カプセルの蓋が開く。
 身体を引き上げられて、肛門に刺さっていたコネクタが抜ける。
(ああ、これが入っていたんだ)
>チャージコネクタOFF
 文字が浮かぶ。
(まさか、ここがエネルギー補給用のコネクタなの?)

 連れ出された部屋には様々な武器が置かれており、大型の機械が置かれていた。
「お前にはこれから戦闘訓練をしてもらう」
「戦闘訓練?」
「お前は兵器としての基礎スペック、運動能力や対弾性などは十分だ。
 武器の使用に関する知識もデータベース内に登録されている。
 しかし、習熟度が低すぎる」
 そう言って、私に大型の拳銃を放り投げた。
「撃ってみろ」
 さらに的を指し促した。

 警察が持つようなものに比べて遥かに大きい。2キロ以上もある。
(これを撃つの?)
 両手で構えると、すんなりと姿勢が定まる。
 ドン、という大きな音と共に弾が打ち出される。
 的のど真ん中を貫いた。
「全然反動が無い…」
「次は片手で撃ってみろ」
 マスターがそう促した。
424sister裏:2005/08/27(土) 11:50:51 ID:AM+zoNSk
 それからは2日ほど拳銃を中心とした射撃訓練、その後は部屋に置かれていたシミュレータに繋がれ、大型火器の訓練と実戦形式の訓練を続けた。

「お前は何だ?」
 マスターの言葉に私は答える。
「Dプロジェクト試作機、D1−YUMIです」
 こう答えなければ激しい痛みが襲い、期待通りの答えをすれば絶頂を味わう事ができた。
 これにより、少しずつ心の壁がはがされていった。

 機械的なエネルギー補給と戦闘訓練、さらに兵器である事を意識させるマスターの言葉、そして機械仕掛けの身体。
 そんな日常は私の心を容易に塗り替えていった…

「私はD1−YUMI。Dプロジェクト試作機です」
 数週間後には由美という少女は姿を消し、D1−YUMIという兵器がそこにいた。
 機械仕掛けの身体を誇らしげに解説し、兵器としていかに優れているか説く。
 そこには良家の令嬢の面影は無かった。

 そんな壊れた日常は唐突に終わりを告げた。
 警官隊が突入してきたのだ。
 しかし、機動隊といえYUMIにとっては素人の集団に過ぎなかった。
 素手で50人以上を行動不能にし、10人以上を打ち殺した。
 だが、100名を越す機動隊はマスターを撃ち殺してしまう。
 その瞬間、YUMIに戦闘続行の意志は無くなった。

 こうして、由美は保護される事になる。
 全身を機械化された身体で…
425M.I.B.:2005/08/27(土) 11:56:28 ID:AM+zoNSk
リハビリを兼ねて、ちょっと実験作。
2つの視点で書いて見ました。

(P.S 連投規制がきついよ〜)

manplusさん
色々と裏側でキナ臭いですが、無事に火星につけるんでしょうか・・・

3の444さん
コンピューターの人格ですか・・・
難しい問題ですよね。将来そんな事が実際にあるんでしょうかねぇ

前82さん
ついにアクアノートとして活動開始ですね。
どんな活躍が待っているか楽しみです。
426名無しさん@ピンキー:2005/08/27(土) 16:42:27 ID:e/ph/bPB
M.I.B. さんだったんですか!さすがですね。さっそくぬきました。
427manplus:2005/08/28(日) 02:31:13 ID:+TNmdQxu
 0Y650D00H00M00S。
 私たちが火星に出発するまで、20日となった。私たちを除く、機材が順調に積み込まれていく。
火星探査の準備が着々と整っていく。地球上では、澤田首相が議会を解散し、再選に向けた勝負をかけていた。
投票日は、私たちの火星探査への出発の翌日に決定された。私たちの打ち上げの正否が、
地球上の我が国の運命を決めるのであった。澤田首相が勝てば、火星植民地化計画とサイボーグプロジェクトは、
多くの移民者を送り出すことが、順調に軌道に乗るのであった。
私たちの今までの苦労を無にしないためにも、澤田首相に勝って欲しいと私は思った。
 今日から、私たち、火星探査・開発用サイボーグには、月面を自由に歩くことを許された。
火星に旅立つまでの間、完全に固定されて、自由のない生活を送らなければならないと思っていたのだが、
火星でのミッションに向けての火星探査・開発用サイボーグのサイボーグ体が、完全にトラブルなく
火星でのミッションを消化できるようにするため、月面でしかできないサイボーグ体の最終調整の
意味があるのだと言うことであった。みさきと望の惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの二人は、
惑星探査宇宙船のコントロールシステムとして、私たちより先に惑星探査宇宙船に積み込まれ、
操縦スペースへの据え付けがあるため、最終調整とチェックを行われていた。
私は、未来と二人で月面基地の二重エアロックを通って、チコクレーターをはじめとして、月面を散策感覚で
歩行してみた。私たちには、不自由な宇宙服はいらないので、地球上の野山を歩くような感じで
月面を歩くことができる。月面の気温は、夜間が−200℃、昼間は、100℃近くになる過酷な環境であるのだが、
私たち火星探査・開発用サイボーグにとっては、地球上の外気温で活動するのと何ら変わらないのだ。
このような体験をすることで、私の身体が、もう生身の人間の身体とは、完全に違うものになってしまったのを
再認識することになる。
そして、火星探査・開発用サイボーグの身体が完全に機能していることが証明されているということであった。
428manplus:2005/08/28(日) 02:32:34 ID:+TNmdQxu
 私は、未来に、
「本当に素敵だよね。昔は、重くて動きにくい月面探査宇宙服を着て、僅かな時間の月面探査を行うのが
限界だった私たち人間が、今は、このように自由に無制限に月面を歩き回れる人類である私たちが
ここにいるなんて。」
「でも、はるか、私たちもつい220日前は、ラバーフィットスーツを装着されて、少し不自由な人類だったし、
650日前までは、重くて不自由な月面探査服を着けなければ月面活動できない人類だったんだよ。そう思うと、
不思議な感覚だし、私たちの存在自体が、不思議な存在なのだと思うわ。」
「そうだね。でも、私たちは、やっぱり人間でありたいし、たとえ、機械と電子機器がほとんどの身体になろうとも、
人間としての心を失わない限り、人間の改訂増強版であり続けたいと思っているの。」
「そうだね、はるか。私もそう思っている。」
「未来、そろそろ、月面基地に戻る時間だよ。月面基地に向けて帰ろうか。」
「はるか、まだ、規定の行動を消化していないわ。」
「そうだったわね。サイボーグアストロノーツに許されるセックスだったね。」
私たちが、サイボーグアストロノーツのセックスと呼んでいるのは、股間のエネルギー受け渡し用コネクターを
股間カバーを開いて露出させ、サイボーグアストロノーツ同士の股間をケーブルで繋ぎ、エネルギーの
相互供給を行う作業のことである。セックスといっても性的な感覚があるわけではないのだが、お互いの股間を
繋ぐのが、セックスをするようだと言うことで、私たちが、自棄的にこう呼んでいるのである。
 私と未来は、股間カバーを埃が入らないように注意深く開き、ケーブルをお互いの股間の
エネルギー受け渡し用コネクターに接続した。
「今日は、私の方がエネルギー消費量が多いから、私がもらう側ね。」
私がそう言うと、未来から、エネルギーが、お互いのチャージ量が同じになるまで、エネルギーが送られてきた。
そして、人工眼球にエネルギー量が二人とも同量になったことを示すデータが浮かんだ。
429manplus:2005/08/28(日) 02:33:40 ID:+TNmdQxu
 私と未来は、コネクターからケーブルをはずし、私の側から出したケーブルだったので、
ケーブルを私の股間に収納した。そして、股間のコネクター部の自動洗浄装置が自動的に作動したあと、
股間のカバーが自動的に閉じられ、股間のコネクターシステムが、密閉された。股間のコネクター部分が
埃などから本当に守られるかの実験であった。
この作業を終えて、私たちは、月面基地に向けて帰っていった。そして、月面基地の外部エアロックをあけて、
第一エアロック内に入るとエアシャワーを浴びて、月面の埃を吹き流した。
そして、身体が完全にきれいになったところで、内部エアロックをあけて月面基地内部に帰ってきた。
地球からの交信が私たちの人工眼球であるフェースプレートに水谷ドクターが映った。
「みんな、月面を歩いたあとの調子はどうだった。砂漠での訓練の時にチェックしたんだけど、月面の埃は、
本番の火星より細かいから、ここで異常がなければ、火星探査・開発用サイボーグの身体の防塵機能や
埃による傷への耐性も合格と言うことなの。自分に自覚症状がないと思ったら、メンテナンスチェアーに
座ってもらえるかしら、細かなチェックを行うから。」
 私たちは、水谷ドクターの指示に従って、メンテナンスチェアーに着いた。そうすると自動的にバックパックに
コードがつなげられ、身体にも、コードがつなげられて、身体の隅々までのデータをとられ、
隅々まで異常がないかチェックされた。
 水谷ドクターから
「よし、みんなの身体はすべて合格だわ。月面作業でも何の異常も起こっていない。
もう何日か、月面テストを行うけど、このままで行けば、安心して、火星に送り出せるわ。」
そのような満足げな言葉が聞こえて来た。
 私たちも、いろいろな訓練や試験、実験を地球上で行われたので、色々なシミュレーションデータが
得られていたが、月という、宇宙空間の中でのデータ取得は、私達が火星で生きていくための重要なデータに
なるのであった。そして、そのことが、宇宙開発事業局と火星探査・開発用サイボーグとしての私達自身に自信と
勇気を与えるものであった。
430manplus:2005/08/28(日) 02:41:58 ID:+TNmdQxu
 私達は、私と未来、浩と高橋さんが組になってお互いの身体の清掃整備を行った後、私と未来がみさきを、
浩と高橋さんが望を整備清掃をそれぞれ行った。
 そして、再びメンテナンスチェアーに入るとレストモードに切り替えて明日に備えることになった。
 意識がこの日も自動的に薄れていったのだった。

 このような月面訓練が、10日間続いた。
 そして、火星に行くために作りかえられた私達の身体がより実践的なテストを終え、私達自身も、
宇宙開発事業局のスタッフも火星での活動により自信が増していったのである。
また、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの機能が、惑星探査宇宙船との接続が順調に行われる状態で
あることも確認されたのであった。


431manplus:2005/08/28(日) 02:46:22 ID:+TNmdQxu
 0Y660D00H00M00S。
とうとう火星に私達、火星探査・開発用サイボーグと数多くの火星探査機材が、火星に向かい出発するまで、
10日に迫った。
 この日のアクティブパート最初に私達に与えられた任務は、地球上のマスコミに対しての記者会見であった。
 私達は、月面基地に作られたプレスルームに待機カプセルからサイボーグ搬送用カプセルで移動した。
プレスルームでは、みさきと望の惑星探査宇宙船操縦用サイボーグが
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車のままプレスルームの所定の位置に固定され、私達、
火星探査・開発用サイボーグが所定の火星探査・開発用サイボーグ用に作られたサイボーグアストロノーツ用
レストチェアに座らせられた。
 私達の様子は、地球上の宇宙科学省内のプレスルームのモニタースクリーンに映し出されているはずであった。
私達は、地球上の宇宙科学省内のプレスルームの様子を人工眼球内に映像処理されて知ることが
できるのであった。私達が所定の位置に付いたとき、地球上の宇宙科学省のプレスルームは、
各国の記者とテレビクルーがすし詰め状態になっていた。この火星植民計画のミッションと私達、
サイボーグアストロノーツの存在が、全世界の注目の的であることを意味していた。
 地球上では、計画のあらましを木村局長と長田部長が説明し、サイボーグアストロノーツについては、
水谷ドクターが説明した。また、水谷ドクターが装着させられいるラバーフィットスーツについても、
富田主任から説明があった。
 進行役の白井課長が、私達の紹介を始めた。
432manplus:2005/08/28(日) 02:46:56 ID:+TNmdQxu
「今回、火星に実際に旅立ち、火星探査を行うのは、真ん中の三人のサイボーグアストロノーツです。
右から、隊長の如月はるか大佐、MARS1。望月未来中佐、MRAS4。美々津みさき少佐、SHIP.OP1。
そして、バックアップ部隊の火星探査・開発用サイボーグが、右隣にいます。右端から、渥美浩大佐、MARS3。
高橋未来中佐、MARS5。そして、バックアップ部隊の惑星探査宇宙船操縦用サイボーグが、
左隅の橋場望少佐SHIP.OP2。となっています。真ん中の三体のサイボーグアストロノーツが実際の
ミッションをこなし、端の三体のサイボーグアストロノーツが宇宙開発事業局内でデータを採るため、
火星や宇宙空間と同じ環境のシミュレーションを使っての生活を送ることになります。何かご質問があれば、
地球スタッフだけでなく、月面にいるサイボーグアストロノーツへも、ご質問願います。」
 私たちの実際の姿を見るのが始めてである集まったプレスの興味津々の視線が地球上のモニターに
注がれるのがわかった。
 プレスの質問は、まず、地球側のスタッフにそがれた。
あるプレスから、私たちの視覚機能に関する質問が飛んだ。
「火星から送られる映像や音声は、火星探査・開発用サイボーグが、実際に見たり聞いたりしたものをライブで
送られたり、記録され、期間後に再生されると聞きましたが、どのようなものなのでしょうか?」
白井課長が間をおいてから、ゆっくりと答えた。
「それでは、皆さんがごらんになっているメインモニターをマルチ画面に切り替えて、右上に如月大佐の
視覚映像を、右下に望月中佐の視覚映像を、左上に美々津少佐の視覚映像を、そして、左下に現在の状態の
月面基地のプレスルームのモニターカメラの映像を映し出すようにモニター画面を切り替えます。」
そう言うと同時に、地球上のモニターが私たちの見ている視覚映像が映し出された。私たちの視覚はこのとき、
地球のプレルームの後ろ側と前からの映像、そして、白井部長と質問者のアップの四つの映像が映っている
状態だった。
 その映像が地球上のモニターに映し出された瞬間、プレスたちのどよめきがプレスルームを覆い尽くした。
433manplus:2005/08/28(日) 02:55:53 ID:+TNmdQxu
質問したプレスが、
「こんな、視覚を与えられているなんて・・・。」
といって絶句した様子が私の視覚を通じて地球上のモニターに映し出されていた。
水谷ドクターが、
「サイボーグアストロノーツたちは、一度に視覚上に火星探査・開発用サイボーグは、16の違った視覚を、
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグは、24の違った視覚を一度に見ることが可能なのです。
そして、その内の一つ若しくは、いくつかの視覚画像に集中することも可能になっています。
もちろん、皆さんと同じように単一の視覚にすることも可能です。
その選択は、サイボーグアストロノーツの意志によります。ただし、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグは、常に、
データとして、24の視覚データが内臓ハードウエア上には記録されているのです。
それが、惑星探査宇宙船の各部の現況画像データだからです。」私が、月面から答える。
「最初は、視覚を調整するのに苦労しましたが、訓練を重ねて、今では、自分のものになっています。
また、拡大、望遠も自在に行えるようになりました。」
他のプレスが、みさきに質問をした。
「美々津少佐に質問があります。獅子がない状態にならないといけないとわかったとき、どう思われたのですか?
また、今現在不自由なことはありますか?」
434manplus:2005/08/28(日) 02:56:28 ID:+TNmdQxu
みさきが答えた。
「ハイ、確かに四肢の切断によって、ダルマのような姿にならないといけないと言うことに最初はとまどいましたし、
私と、望だけ何故こうならなきゃいけないのかとも思ったのも事実です。
でも、今は、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグとしての使命を全うすることに充実感さえ覚える自分があるのです。
それから、不自由なことですか、地球上でのすべての生活が不自由です。
でも、サポートヘルパーがいるし、惑星探査宇宙船の操縦空間に据え付けられると、
自分の意のままに宇宙船をコントロールできるので、不自由なんてことはなくて、かえって楽しいくらいです。」
このような質問が会場からひっきりなしに続き予定の時間の一時間では終わらず、四時間に及んだ。
そして白井課長が、
「予定の時間を大幅に延長してプレスの皆様の質問にお答えしましたが、時間もなくなってしまいました。
ここで火星探査チームの隊長である、如月大佐からの言葉で、締めくくりとさせていただきます。
如月大佐、一言プレスの皆さんにお話しして下さい。」
「今後火星に行く途中や火星での映像が届くと思います。
人類のために、このミッションを成功させますのでよろしくお願いします。」
私の言葉で、記者会見が終わった。
 プレスのみんなが、サイボーグアストロノーツに驚嘆の感情と経緯の念を持ったまま、会見が終了した。
 この会見以降、全世界の注目がさらに高まっていった。
 全世界が、私たちの火星への出発を待ち続けることになった。

435manplus:2005/08/28(日) 02:57:03 ID:+TNmdQxu
 この日は、記者会見の後、みさきが、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの宿命なのであるが、
惑星探査宇宙船の惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ用据え付け場所に据え付けられ、
第一次火星探査が終了し、地球に帰還するまで、地球時間で5年の間、
惑星探査宇宙船のコントロールシステムの一部となるのであった。
 みさきが惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車に乗せられ、居住エリアを出て行く、
「はるか、未来、一足先に惑星探査宇宙船に乗っているね。宇宙船の機械システムのチェックをして、
みんなで安全に旅立てるように準備をして待っているから。」
そう言うのを待ったかのように、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車が、月面基地スタッフの手で、
居住エリアを出て行った。そして、サイボーグアストロノーツ運搬用シャトルに乗せられ、月周回軌道上の
惑星探査宇宙船に運ばれていった。
 みさきを乗せたサイボーグアストロノーツ運搬用シャトルが惑星探査宇宙船とドッキングすると、
みさきは運び出され、コックピット内の惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ用据え付け場所まで運ばれ、
据え付けられ、完全拘束用システムで、完全に動くことがないようにがんじがらめに固定された。そして、両脚、
両手の切断面のコネクターに無数のケーブルを30のコネクターセクションになったものを脚に各10グループ、
手に各5グループが接続されていった。コードケーブルが接続するたびにみさきは、例によって、
「あーん」
というような喘ぎ声を出した。
惑星探査宇宙船操縦用サイボーグのストレス軽減のための性感システムなのだが、ケーブルを
接続されることでしか性的興奮を得られないのが悲しいことだと思った。
次に股間の部分のコネクターに太いケーブルが差し込まれ、接続時防護カバーがその部分を覆うように
取り付けられたときであった。
436manplus:2005/08/28(日) 03:12:34 ID:+TNmdQxu
みさきが、
「ああーーん。イヤーーん。」
という喘ぎ声を出した。
股間の部分のコネクターも同じような構造になっていて、ここに外部コンピュータと内臓ハードディスクとの
接続ケーブルを差し込んだり、エネルギー外部供給用および、受給用コネクターにケーブルを差し込むと
快感が得られることになっているのだった。そしてケーブルの接続が全て終了し、バックパックやフロントパックに
生命維持系統やエネルギー供給系統のチューブやケーブルが次々と接続されていき、そして、
最後に頭部のコネクターにケーブルが次々に接続され、みさきの宇宙船との同化作業が終了した。
みさきにとって、もう七年間、宇宙船としての感覚しか味わえない生活が始まったのであった。
そして、みさきは、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグとしての任務に入っていった。惑星探査宇宙船の全体の
機械チェックに入ったのだ。この作業は、私たち火星探査・開発用サイボーグが搭乗する直前まで続けられ、
完全に惑星探査宇宙船が異常がない状態になって、初めて、火星探査・開発用サイボーグの搭乗が
許可されるのであった。つまり、火星出発の三日前まで続けられる過酷で孤独な作業なのである。
みさきの過酷で孤独な作業は、もう始まってしまったのである。シミュレーションでも孤独に
続けていた作業であるので慣れていると言えばそうなのだが、みさきの作業の一部始終を人工眼球内の
モニターで観察し、みさきの心の強さを感じた。
「とにかく安全な宇宙航海ができるようにするから待っていてね。」
というみさきの言葉がコミュニケーションサポートシステムに入ってきた。
 そして、このとき、月面基地内の惑星探査宇宙船のシミュレーターに同じように、望が接続されていった。
緊急補充用バックアップチームも常に同一の模擬経験を積むことになっているのであった。望もみさきと同様に
ほぼ地球時間で5年間シミュレーターと一体化した状態で過ごさなければならないのだ。月面基地から地球上の
施設に移される際に少しの間はずされることがあるかもしれないだけ、みさきよりはましな状態と言うだけである。
437manplus:2005/08/28(日) 03:13:08 ID:+TNmdQxu
「私とみさきは、これから生涯自分で動くことができない身体にされてしまっているんだから、こういう形で
機械と一体化して、任務をこなしている方が、気が紛れるからいいんだ。みんなが思うのと違って、今の状態に
私とみさきは、満足しているんだよ。」
望の声が聞こえてきた。なんとポジティブな考え方になったのだろう。望とみさきを私は見習わないといけないと
思った。私は、まだ、自分が、残りの生涯を機械と電子機器の身体で送らないといけないと言うことに
ネガティブな感情を捨てきれないでいるのだから。あと10日もすれば、火星へ旅立っていくことになるのだから、
しっかりしなくてはいけないのだ。


 0Y668D00H00M00S。
 いつも通り正確にレストモードからアクティブモードに移行して、覚醒の時間を迎える。いつもながら正確で
嫌になる。機械としての身体の性能が発揮されているのだ。
 私たちが、火星に旅立つまであと2日となった。惑星探査宇宙船の整備とチェックが終了すれば、私と未来も
惑星探査宇宙船に積み込まれて、出発を待つことになるのである。
惑星探査宇宙船内のコックピットで、火星探査・開発用サイボーグ惑星間搬送用保護カプセルに完全に
固定されて月周回軌道上で、火星への旅立ちの秒読みを迎えることになるのである。
 私たちは、惑星探査宇宙船へ積み込まれるのをひたすら待っている状況なのだ。みさきから、準備が整えば、
連絡が入ることになっていた。

438manplus:2005/08/28(日) 03:14:06 ID:+TNmdQxu
 0Y668D12H00M00S。
みさきからの連絡が届いた。
「はるか、未来、惑星探査宇宙船の準備が整ったわ。地球の宇宙開発事業局とも確認を取り合ったの。
火星に旅立つ準備は万全よ。今現在は、私の身体の一部として、完全に掌握していて、万全な状態よ。
万全な飛行を約束できるわ。惑星探査宇宙船へのはるかと未来の搭乗をお待ちしています。」
 みさきからの連絡のあと、木村局長からの指示を受けた。
「美々津少佐から聞いたと思いますが、惑星探査宇宙船の準備が整いました。これから、如月はるか大佐と
望月未来中佐は、速やかに月軌道上の惑星探査宇宙船に移動してもらいます。それと同時に渥美浩大佐と
高橋美紀中佐は、惑星探査宇宙船シミュレーターに移動して下さい。いよいよ、旅立つときが来ました。
惑星探査宇宙船の船名を澤田首相からいただきました。今日から、「希望一号」と名付けられました。
我が国の、いいえ、地球人類全体の希望を乗せてのミッションです。すぐに行動を起こします。
心の準備を整えておいて下さい。成功を祈ります。」
 いよいよ、そのときが来たのである。
 私たちは、サイボーグ搬送用カプセルに入るように指示され、指示に従って、再び、あの狭苦しい
サイボーグ搬送用カプセルに入った。この狭苦しいカプセルに乗るのも最後になる。
今度は、帰還後の運搬まで、地球時間でいう5年間は、押し込まれなくて済むのである。
サイボーグ搬送用カプセルへの搭乗前に、浩と高橋さんから、
「成功を祈る。俺と美紀、それに、望は、地球上で、はるかたちと同条件で生活を送ってはるかたちに起こる
可能性のあることを事前にデータをとられることでのサポートをしていくことになる。三人が、無事に地球に
帰還できるようにサポートしていく。だから、このミッションを成功させて欲しい。」
 私と未来は、「ありがとう。」
そう答えて、サイボーグ搬送用カプセルに入って、拘束ベルトを締め、身体を固定させ、安定させた。
サイボーグ搬送用カプセルのハッチが、自動的に閉じられ、サイボーグアストロノーツ運搬用シャトルに
搭載された。
439manplus:2005/08/28(日) 03:28:08 ID:+TNmdQxu
 私たちを搭載したサイボーグアストロノーツ運搬用シャトルは、月面基地を飛び立ち、月周回軌道上の
惑星探査宇宙船とドッキングした。
 惑星探査宇宙船の内側から、エアロックがあけられ、惑星探査宇宙船内で作業をしていたスタッフが、
私たちのサイボーグ搬送用カプセルをサイボーグアストロノーツ運搬用シャトルから、
惑星探査宇宙船「希望一号」の船内に運び込んだ。いよいよ、惑星探査宇宙船「希望一号」に私と未来が
搭乗した瞬間だった。同じ頃に、浩と高橋さんが、惑星探査宇宙船シミュレータに運び込まれていることであろう。
地球上のシミュレーターや火星標準環境室に閉じこめられ、地球時間の5年間、私と未来、みさきと
同じような生活をシミュレートしていくことになるのだ。
 私と未来は、惑星探査宇宙船の船内作業職員により、コックピット内の火星探査・開発用サイボーグ惑星間
搬送用保護カプセルまで運ばれ、サイボーグ搬送用カプセルのハッチが開けられた。私と未来は、拘束ベルトを
はずし惑星探査宇宙船「希望一号」の床に第一歩を踏み出した。私の脚で、惑星探査宇宙船に搭乗した
瞬間であった。機械になってしまったあとでも、感触は人工神経を通じて感じることができた。何かワクワクした
気持ちになった。
 惑星探査宇宙船の船内作業職員に促され、火星探査・開発用サイボーグ惑星間搬送用保護カプセルに
収まった。右手の近くにある拘束ベルト自動装着ボタンを押すように指示され、ボタンを押すと自動的に
拘束ベルトが私と未来をグルグル巻きにしていき、サイボーグアストロノーツの力を持ってしても、
完全に動くことができなくなってしまった。そして、火星探査・開発用サイボーグ惑星間搬送用保護カプセルの
カバーが自動的に閉じられて、火星探査・開発用サイボーグ惑星間搬送用保護カプセルの中に
パッキングされてしまった。すべてが順調ならば、約七ヶ月間の間、この動くことができない状態で火星までは
積み荷として運ばれ、火星に着陸した直後に火星探査・開発用サイボーグ惑星間搬送用保護カプセルから
解放されることになるのだった。来る日も来る日もコックピット内の決まった風景しか見れないようになって
しまったのだった。
440manplus:2005/08/28(日) 03:37:52 ID:+TNmdQxu
 私のコミュニケーションサポートシステムにみさきの声が聞こえてきた。
「はるかと未来、惑星探査宇宙船「希望一号」の船内にようこそ。火星探査ミッションへの出発まで
しばらくお待ち下さい。惑星探査宇宙船「希望一号」は、順調に準備が行われており、はるかと未来の積み込みで、
すべての準備作業が終了しました。火星への旅立ちの最終準備に入ります。」
 みさきがおどけたようにすました口調で話しかけてきた。
「みさきはどこにいるの。」
「へへ、はるかと未来が積み込まれるのを待っていたよ。
私は、二人の火星探査・開発用サイボーグ惑星間搬送用保護カプセルの上の方に据え付けられているよ。」
 そう言われて、私は、カプセルの上方に視線を集中した。私たちサイボーグアストロノーツの視覚は、
360度を視線を移さずにカバーしているので、意識をその方向に集中させるだけで、視野を維持できるのである。
首を動かす必要がないので、私たち、サイボーグアストロノーツは、首の部分に重要なケーブルや神経が
通っているために動かすよりも、稼働できないようにして、強化する必要が設計上あるために視野の確保を
人工眼球に行わせた設計のためであった。
 果たして、みさきが指示した場所にみさきが据え付けられていた。ケーブル類やチューブ類が身体と
宇宙船内の機器類や装置類に連結された状態で、まるで宇宙船の壁に貼り付けられているような状態の
みさきがいた。自分の身体もそうだが、惑星探査宇宙船に貼り付けられたみさきを見て、一昔前のSF映画を
見ているような気分になった。
「みさき、見付けたよ。火星到着まで火星探査・開発用サイボーグ惑星間搬送用保護カプセルの中で、
ゆっくりさせてもらうからね。」
「はるかと未来、二人を安全に火星まで運ぶから安心して、退屈な七ヶ月を過ごしてね。」みさきはそう言って
私と未来をからかった。
「みさき、私とはるかはせいぜいくつろいでいるから、無理をしないで私たちの手を煩わせないで、私とはるかを
火星に降ろすのよ。」
441manplus:2005/08/28(日) 03:39:38 ID:+TNmdQxu
未来が応戦した。
「はーい。中佐。」
みさきがおどけて対応した。
そんな一時を過ごしていると私たちの身体が、レストモードに切り替わる時間になった。
みさきが、
「二人の意識をアクティブモードから、レストモードに切り替えるよ。」
そう言った。この惑星探査宇宙船「希望一号」での私と未来を含めてのすべてのものをコントロールする
通常権限はみさきにあった。私が必要と認めた場合と地球上の宇宙開発事業局のコントロールセンターが
必要と認めた場合のみ、私か、若しくは、コントロールセンターに権限が移ることになるのであった。非常権限の
指揮コントロール権限は、隊長である私に与えられていた。しかし、通常は、みさきが指揮コントロールを
行うことがルールになっているのであった。
 私と未来は、意識がなくなっていった。しかし、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグであるみさきだけは、
レストモードが惑星探査宇宙船に据え付けられて任務を遂行している間は、二時間しか与えられないのであった。
それも、半覚醒状態で、いつ何が起きても対応できる状態で過ごすことになっている。
サイボーグアストロノーツには、基本的に睡眠は必要ないといいながらも、過酷な任務遂行の七ヶ月を
過ごすことになるのであった。
「みさき、頼んだよ。」
そう私は心でつぶやいた。


 0Y669D00H00M00S。
 火星への旅立ちを24時間後に控えたアクティブパートが幕を開けた。
この日は、もちろん、私たちには、レストモードに切り替えられることがない。最初のメインエンジン点火や
月周回軌道を離脱するときなど気を抜けることはないため、私たちは、非常事態に備え、安定航行で火星に
向けて飛行するまでの間は、休息することは許されていないのである。
 長い長い一日が続くというわけであった。
 もちろん、みさきにとっては、長い長い一日が、延々と七ヶ月続くのである。
442manplus:2005/08/28(日) 03:50:05 ID:+TNmdQxu
 惑星探査宇宙船内で作業をしている船内作業職員が、すべての作業を終了し、
惑星探査宇宙船「希望一号」からの退船を命じられ、対戦していった。最後の惑星探査宇宙船の
船内作業職員が退船したのを確認して、みさきが、惑星探査宇宙船「希望一号」の船外へ通じるエアロックを
閉じて密閉した。惑星探査宇宙船の船内作業職員を乗せた連絡用シャトルが惑星探査宇宙船「希望一号」から
離れ、月面基地に戻っていった。
「船内作業員、退船終了しました。出発へのカウントダウンを開始して下さい。」
みさきがコントロールセンターと交信している。
私と未来は、今はただ見守るだけで、何もすることができない積み荷でしかなかった。


 0Y669D12H00M00S。
 私たちのコミュニケーションサポートシステムに交信が入ってきて、人工眼球の視界に木村局長を
はじめとする地球の宇宙開発事業局のメンバーの映像が現れた。
「如月大佐、望月未来中佐、美々津少佐。頑張って下さい。」
という応援をみんなから受けた。
そして、木村局長の横に澤田首相が現れた。
「如月大佐、望月中佐、人類で初めて火星の地面を踏みしめることになりました。任務の成功を期待しています。
美々津少佐は、このミッション全体の安全で確実な運行を支える重要な任務です。期待しています。
我が国の将来が、あなた達3人のミッションの成功にかかっています。必ず成功することを祈っています。」
 澤田にとっても、議会を解散し、総選挙の投票日をサイボーグアストロノーツの火星出発の翌日に設定して、
勝負を賭けている以上、3人のサイボーグアストロノーツと運命を供にしていると言っていい状況なのだ。
ただし、澤田は、今回の選挙の勝利は、信じて疑うことは何もないほど、自信を持った選挙戦を戦っていた。
443manplus:2005/08/28(日) 04:00:32 ID:+TNmdQxu
もちろん、選挙戦の中で、禾生植民計画がものすごくよい選挙戦の道具になっていることも確信することに
なっていたのだった。それで、ここで、出発直前のサイボーグアストロノーツの健闘を祈るためのセレモニーを
行い、サイボーグアストロノーツたちの出発を見送ることが、澤田の最高の選挙戦終盤での勝利への切り札に
なることが解っていたのだ。
つまり、今、澤田がこの場所にいて、そのことをプレスを通じて国民にアピールすることは、
選挙戦の勝利を不動のものにする最高の道具であったのだった。
 そして、澤田は、このミッションの順調な遂行に満足していたのであった。従姉妹を隊長とする
火星探査・開発用サイボーグと惑星探査宇宙船操縦用サイボーグという2種類のサイボーグアストロノーツに
よるミッションの順調さは、この上ないものであった。
「サイボーグアストロノーツの皆さんは、不在者投票をされたのですか?」
澤田には、そのような冗談を言えるほどの余裕も現在はあったのである。
「いいえ、任務に就くために厳しい訓練を行っていたために不在者投票をこれから行って、火星に旅立とうと
思います。」
私は、そういって、澤田首相の冗談に答えた。
「分かりました。よろしくお願いね。冗談はともかく、がんばってください。たくさんの収穫をもって地球に
帰還することを待っています。」
 澤田首相は、そう言って選挙戦に戻っていった。

444manplus:2005/08/28(日) 04:01:09 ID:+TNmdQxu
 地球の宇宙開発事業局のコントロールルームは、いよいよ慌ただしさを増していった。
みさきとのシステムチェックのための交信の量も増えてきた。惑星探査宇宙船「希望一号」のメインエンジン点火、
そして、火星への旅立ちまで、1時間を切っていたのであった。
 いよいよ、5年間にわたる人類初の長期旅行の開始されるのであった。
 秒読みが順調に進み、残りわずかになってきた。
10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,0。
1Y001D00H00M00S。
 運命の時間が刻まれる。
「メインエンジン点火!姿勢制御エンジン全開。」
みさきの声とともに、メインエンジンに火が入り、もの凄い轟音の中、月周回軌道を離れ、火星に向けての飛行が
開始された。
みさきから、コミュニケーションサポートシステムを通じてメッセージが入る。
「私たちは、火星に旅立ちます。今、順調に飛行を開始しました。私たちは、火星に往くのよ。」
 我が国にとって、人類にとっての何もかもが初めてのミッションが始まった。人類の未来への希望を乗せて、
惑星探査宇宙船「希望一号」が、火星へ向けて飛び立ったのだった。私たち、全身を機械部品と電子機器に
置き換えられた人類の改訂増強版に人類の未来が委ねられたのだ。もう、後戻りできないミッションの始まりで
あった。
 人々の希望と思惑を乗せたミッションとなることだろう。任務の重さに改めて、決意で、身震いがする思いであった。
 私は、こころでつぶやいた。
「私たちは、往くんだ!」
445manplus:2005/08/28(日) 04:08:33 ID:+TNmdQxu
やっと、火星に向けて旅立たせることが出来ました。
これで、「星へ往く人」の第2部が終わりました。

次は、地球での計画がどうなるのかというお話と火星に旅立った
3人の運命はどうなるのかの2本立てで進ませるつもりです。


M.I.B様
楽しく読ませていただきました。
本当に連投規制がきついですね。

3の444様
AIが人格を持つというお話、ありそうでなさそうといった感じでしょうか?
446名無しさん@ピンキー:2005/08/28(日) 04:48:30 ID:qFDnO2zO
みさきが宇宙船に組み込まれている間、宇宙船としての感覚しかなくなるとあるけど、
顔についてる目の視覚とか胴体(義体)の触覚とかはそのままあるのでしょうか?
それとも、遮断されてしまうのでしょうか?

「宇宙船パイロットには視覚は不要」として、最初から視力のある目がついてない(単なる受信装置としてだけの眼球が収まっている)と萌えかも。
プライベートが存在するようなパイロットだと、自由時間は四肢も視力も無い状態ですごすことになるので萌え。仕事中とのギャップも含めて。
いざというときに会話ができないと困るから、聴覚だけは残しておく必要がありそうだけど。
その場合は触覚もある方が萌えかな。
4473の444:2005/08/30(火) 03:41:37 ID:COtg/sRb
 自分の正体を明かしてからは、 まるで別人みたいに大人しくなっちゃったアニーだけど、 佐倉井
さんに褒められたり、 須永さんに守り神って言われたりしているうちに、 だんだん元気を取り戻した
んだろうか。 須永さんの話に聞き入っていた私のところに、つかつか歩み寄ると、 私のセーターの
すそを軽くつまみながら、
「ねえねえ・・・あなた、 さっき、 私のためになんでもしてくれるって言ったよね」
なんて、 甘ったれた声で私に言うんだ。 ああ、 やっぱり、 アニー、 さっき私が思わず口走ってし
まったこと、 忘れてなかったんだね。
アニーの言葉に思わず顔をしかめてしまう私だった。
「そんな、 ずるいよ! 確かにアニーが生き返ってくれるなら、 私は何でもしてあげるって言ったよ。 でも、
アニーは私を騙してたんでしょ。 だったら、 あのことは・・・」
  無効だよって言おうとした。 でも、 そんな私の声を打ち消すような大声でアニーは言ったんだ。
「ここに住んでよ!」
  え?
  どんな無理難題を言われるんだろうって内心びくびくものだったから、 アニーの口から飛び出した
余りにも意外なセリフに、 私は毒気を抜かれたみたいに黙り込んじゃった。
「ねえ、 八木橋さん。 ここに住んでよ。 私、 あなたのこと嫌いじゃないよ。 私のために本気で悲しんで
くれた人のこと、 嫌いになれるわけないよ」
  アニーは、 もう一度、 照れくさそうに、 そう繰り返した。
「アニー・・・」
  アニーにとって、 同じ機械の身体のはずなのに人間扱いされている私の存在なんて、 認めたくない
ものに違いない。 なのに、 そのアニーが、 私にここに住んでほしいって言ってくれた。 私のことが嫌い
じゃないって言ってくれた。
4483の444:2005/08/30(火) 03:42:18 ID:COtg/sRb
  アニーの言葉を聞いて、 私は、 自分のちっぽけなプライドを守るためにアニーを否定しようとした
いままでの自分がなんだか恥ずかしくなってしまった。
「八木橋さんは、 アニーにあれほどひどいことをされたにも関わらず、 アニーを許し、 アニーのために
悲しんでくれた。 八木橋さんの、 その人間らしい暖かい心は、 アニーがこれから成長していくのに、 きっと
必要なもののはずなんだ。 私からも、 もう一度お願いするよ。 頼む。 ここで、 アニーと一緒に暮らして
くれないか」
「あなたみたいな明るい子が入るだけで、 きっとはるにれ荘の雰囲気も変わるねえ。 私達にも、 あなたの
元気をくださいな」
「須永さん、 山下さん・・・」
  今まで、 私の身体のことを知った人は、 みな、 私のことを哀れんだり、 気味悪がったり、 蔑んだり、
そんな反応ばっかり。 私のことを必要だって言ってくれた人だって、 みんな、 私の、 この機械仕掛けの
身体を必要としただけ。 人間としての私を必要としてくれたことなんて、 今まで一度だってなかったんだ。
  なのに、 なのにアニーも、 須永さんも、 山下さんも、 私と暮らしたいって言ってくれた。 こんな、 とても
人間なんていえないような身体の私なのに、 人間らしい心を持っているっていってくれた。 明るい子って言っ
てくれた。 こんな私を必要としてくれたんだよ。
  余りにも嬉しすぎて、 私、 こんなときどんな顔をすればいいのか分からなくなっちゃった。 どんなこと言っ
たらいいのか分からなくなっちゃった。 ただ、 口を開きかけたり、 閉じたりして、 ぎこちなく口をぱくぱくさ
せるだけ。 何かしゃべろうとしても、 口からうまく言葉が出てこない。
「八木橋さんどうしたの。 何ぼーっとしてるの? どうするの? はるにれ荘に住むの?」
  見かねた佐倉井さんが、 私の軽く肩をたたいて問いかける。 それで気持ちが落ち着いた。
  私が、 どうするかって? はるにれ荘に住むかって? 答えなんか、 決まってるじゃないか!
  AI技術者、 須永さんの見る夢。 心を持ったコンピューター、 アニーの見る夢。 二人の夢が合わさって、
この、 はるにれ荘がある。 はるにれ荘は、 二人の夢がいっぱい詰まった大きな揺り篭。 ここで、 私はこれ
から、 どんな夢を思い描くんだろう?
4493の444:2005/08/30(火) 03:43:15 ID:COtg/sRb
  人の苦しみも、 悲しみも、 喜びも理解できるクララベル。 私の身体が機械仕掛けでも、 偏見なく接してくれ
た、 ありのままの私をさらけ出して構わないって言ってくれたおばあちゃん達。 私は、 この心優しい人達と、
どんな物語を紡いでいくんだろう?
私は全身義体のサイボーグ。 人としての身体や感覚のほとんど全てを失い、 作り物の身体と感覚を与え
られた身体障害者。 私みたいな日陰者が、 なんの引け目もなく暮らしていけるほど、 この世の中は甘くない。
これからも、 今までのように、 自分の体のことで傷ついたり、 くじけそうになったりすることがきっとある。
生きていくのが辛くなってしまうときがきっとある。
  でも、 そんなとき、 私には帰る家があるんだ。 私のことを暖かく迎えてくれる場所があるんだ。 それだけで
も、 どんなに嬉しいだろう。 どんなに心強いだろう。
「ありがとう。 須永さん、 アニー、 クララベル、 はるにれ荘のみなさん。 本当にありがとう。 そして、 今後宜しく
お願いします」
  私はせいいっぱいの笑顔で、 みんなに向かってお辞儀をしたよ。 それからもう一言。念を押すのも忘れ
なかったよ。
「須永さん。 家賃、 ただにしてくれるですよね」

  アニーの案内してくれた私の部屋になるっていう206号室は、 二階の、 ちょうど廊下が90度曲がるところ
にある角部屋だった。 だから、 さっきまでいたアニーの部屋と違って、 窓が二箇所についていて、 それだけ
でもぐっと明るい雰囲気で、 私は一目で気に入ってしまった。 畳は、 かなり古いものなのか、 白っぽく色あ
せていた。 ところどころ、 四角い形に鮮やかな黄色が残っているのは、 その上に家具が置いてあったから
だろうね。
  黒茶けた柱のあちこちに、 大きさもまちまちの、 いくつもの穴が開いていた。 きっと、 この家ができてか
ら、 たくさんの人が、 この部屋に住んで、 いろんな柱に穴を開けて、 お気に入りの絵をかけたり、 カレン
ダーをぶら下げたりしたに違いないんだ。 いったいどんな人達が、 この部屋に住み、 そして出て行ったんだ
ろう。 どんな出会いと別れをこの部屋は見守ってきたんだろう。
4503の444:2005/08/30(火) 03:54:49 ID:COtg/sRb
  私は、 自分のおじいちゃんみたいな年齢のこの部屋に敬意を表して、 ひんやりした黒い柱をそっとなでて
みた。
「どう、 気に入ってくれたかな?」
  須永さんの言葉に、 私は大きく、 元気よくうなづいた。
 
私を部屋に案内した後しばらくどこかに姿を消していたアニーが、 白いプラスチック製の大きな籠を抱えて
戻ってきた。 籠が大きすぎて、 アニーが籠を抱えるというよりは、 まるで籠に足が生えて、一人で歩いている
みたいだった。アニーは部屋の真ん中に籠をおきながら、 ふう、 とわざとらしく大げさにため息を吐いた。
  籠の中を覗き込むと、 服がぎゅうぎゅうに詰まっていた。 これって、 さっきまで外で干していた洗濯物だよ
ね。 アニーってば、 なんで、 こんなモノをここに持ってきたんだろう。 ひょっとして・・・ひょっとして・・・。
「うー、 まさかとは思うけどさ。 アニー、 私に、 アイロンがけをやらそうと思ってる?」
「あらぁ。 よく分かったね。 はるにれ荘での初仕事よ。 ヨロシクね」
アニーの表情を伺いながら恐る恐る聞く私に向かって、 アニーは軽やかに答えてくれた。
「アニー、 私に命令するってわけ?」
「あらぁ、 誤解しないで。 命令じゃないよ。 お願いよ、 お、 ね、 が、 い。 あなたは人間なんでしょ。 心優しき
人間さまなら、 毎日忙しくて目の回る思いをしてる私を見捨てることなんてできないと思うんだけどなぁ」
  アニーは、 上目づかいに私を見ながら両手を合わせてお願いのポーズをした。 ずるいよね。こ んな可愛い
らしい女の子の姿で助けを求められたら、 女の私だって、 断ったら悪いことをした気分になっちゃうじゃないか
よう。
くそう。 アニーの奴め。 どんな頼みかたをしたらいいか、 よく分かってるよ。 「人間のあなたに」 とか 「心優
しいあなたに」 なんて言って、 微妙に私のプライドをくすぐって、 私が断れないようにしてるんでしょ。 なんてず
るいAIなんだろうね。 しかも、 実際、 アニーの手の内で踊らされているのかなって気がついていても、 人間
扱いしてもらえて、 ちょっと嬉しい気分になっちゃってる自分がいるから始末に負えないよ。
4513の444:2005/08/30(火) 04:00:32 ID:COtg/sRb
「手伝ってあげればいいじゃない。 どうせ家賃はただにしてもらったんでしょ。 それくらいしてあげたってバチは
当たらないわよ。 私なんて、 家賃がただになっちゃうってことは、 仲介料をもらえないってことなんだよ。 結局
今日はただ働きになっちゃったんだからね。 私にくらべたらずーっとマシでしょ」
佐倉井さんは、 にやにや笑いながら、 乾いた洗濯物の一塊を、 私の腕に押し付けた。 あーあ、 佐倉井さん
まで、 アニーの味方になっちゃったよ。 確かに、 佐倉井さんの言う通り、 家賃はただにしてもらったけどさ、 こ
んなふうに、 はるにれ荘の手伝いをさせられるなんてね。 ただより高いものはないっていうけど本当だよ! は
はは。
「分かったよ。 やればいいんでしょ。 やれば。 今日だけだからね」
覚悟を決めた私は、 ぶつぶつ不平を言いながらもセーターの袖口を肘までまくり上げた。 結局アニーの思い
通りに働かされてる私。 なんだか、 さっきまでと上下関係はまるで変わっていないような気がするんですけど・・・。
「有難う。 私、 とっても嬉しい。 アイロンがけが終わったら、 服をきちんとたたんで、 みなさんの部屋に配ってね。
お願いね」
  いつの間にか、 私と出会ったばかりの時のような威勢のよさを取り戻したアニーは、強引に話を進める。
「そんなこと言ったって、 私はここに来たばっかりで、 はるにれ荘の人達の名前も、 誰が何号室に住んでるか
も知らないんだよ。 そんなことできるわけないじゃないかよう」
「いい? じゃあ、覚えてね。 101号室小寺さん。 小寺さんの洗濯物はこれね。 102号室山下さん。 山下さんは、こ
れとこれ。 103号室西浦さん・・・」
  アニーはつらつらと、 はるにれ荘の住人の名前と部屋番号を言いながら、 てきぱき手際よく服をよりわけていく。
籠の中に大量にあった洗濯物を、 たちまちのうちに、 持ち主ごとの十個ほどの塊に分けてから、
「分かった? もう、 覚えたね」
  と、 こともなげに私に向かって言うんだ。
ええ? えと、 101号室は誰だっけ?
駄目だ、 全然思い出せないよ。 どうせ、 こんな短時間で覚えきれるほど、 私の頭は冴えてないよ。 意地悪、
アニーの意地悪。
4523の444:2005/08/30(火) 04:01:16 ID:COtg/sRb
「私はコンピューターじゃないんだ。 そんな、 一度にずらずら言われても覚えきれるわけないじゃないかよう」
「ふーん。 こんな簡単なことが一回で覚えられないなんて、 人間って不便だね。 仕方ないなあ、 じゃあ、 覚えるまで
何度も繰り返し復唱だね」
額をおさえて困り顔の私を鞭を打つように、 アニーはまくしたてた。 機械のくせに私のことを馬鹿にしてっ! 悔
しいっ!
でもさ、 アニーが私に向かって人間って不便だなんて言うってことは、 こんな私でも人間って認めてくれたことに
ほかならないよね。 全身機械仕掛けの私なのにね・・・。 だから、 変かもしれないけど、 私はアニーに馬鹿にされて、
ちょっと嬉しかったよ。 さすがに、 覚えるまで何度も繰り返し部屋番号を言わせられるのはぞっとしないけどね。
「アニーの奴、 すぐ調子に乗るんだからな。 クララベル、 止めてやれよ」
アニーを見かねた須永さんは苦笑いをしながら傍らにいたクララベルを促した。 よかった。 クララベルなら、 きっ
と、 さっきみたいにアニーをうまくたしなめてくれるよ。 はるにれ荘に来て早々にアニーにこき使われるなんて、 冗
談じゃないんだからね。
 でも、 クララベルの反応は、 私が期待していたものと、 まるで違っていた。
「でも、 八木橋さん、 嬉しそうですし、 今は、 別に止める必要はないと思います」
  だって。
ク、クララベルの馬鹿っ。 あんた、 なんてことを言うさ。 私、 確かに、 アニーに人間って言われて嬉しかったけど
さ、 うきうきしたけどさ、 そんな感情は読み取らなくていいんだからね!
「あらぁ。 こんなことで楽しんでくれるなんて、 随分勉強熱心なのね。 私も教えがいがあるわぁ」
  クララベルのお墨付きをもらったアニーの目がいきいきと輝く。 アニー、 これじゃあ、 まるでスパルタ家庭教師だ。
「ち、 ち、 違うんだよう。 別に嬉しくなんかない。 誤解だよう」
「違くありません。 もう一度復唱しましょう。 覚えるまで、 ずっとやるからね。 101号室小寺さん、 102号室山下さん、
103号室西浦さん・・・」
「えー、 101号室は誰だっけ・・・」
もう嫌っ!
佐倉井さんも須永さんも、笑ってないでアニーを止めてよう。

  おしまい
4533の444:2005/08/30(火) 04:18:07 ID:COtg/sRb
長らくお付き合いいただいて有難うございました。
これにて、全自動住宅は終了です。
ちょっと重めの話になりまして、書くのもそうですが、読むのも疲れたことと思います。
なので次回は、思いっきり気楽に、予告どおりエロネタでいきたいと思います。
よろしく。
M.I.B様
復活まっておりました!
これからも、けなげで、かわいそうなサイボーグ兵器の女の子
のストーリーを紡がれることを期待しております。
manplus様
ようやく一区切りですね。お互いに万歳。
第三部でようやく目的地の火星に到着ですか。とうとうここまで来ましたね。
火星でどんな出来事が待ち構えているか、楽しみです。
454名無しさん@ピンキー:2005/08/30(火) 18:05:06 ID:lVo4kvNg
仕事は完璧
顔もかわいい
容姿端麗
たまの失敗もまたよろし

ただ…

誰がメイドで、誰が大家で、誰が店子やら・・・。

ともあれ、3の444様。お疲れ様でした。
455?名無しさん@ピンキー:2005/08/31(水) 00:17:52 ID:AgP8nd+5
とてもよく練られた話で、3の444さんの良心を感じます。
AIがすねたりする八木橋さんの世界は、本当に楽しそう。
456名無しさん@ピンキー:2005/09/01(木) 02:33:28 ID:KfmPLMQz0
ちんこ・・・
457名無しさん@ピンキー:2005/09/04(日) 02:52:19 ID:BHG3vwlI0
保守。
今471KBみたいだし、そろそろ次スレが必要かもね。
458検体:2005/09/04(日) 23:00:26 ID:NCkYilrn0
「それじゃあ、合図があったら出てきて」
 工藤チーフがそう言い、会議室へと入っていった。

 改めて自分の姿を見る。
 人の形をした金属の人形。
 そうとしか表現しようが無い。
 服を着ることも許されず、銀色の肢体は剥き出しになっている。
 関節の部分からは、中の機工が覗くことすらできる。
 顔だけが生身の頃のものを精巧に再現し、短く切り揃えられた髪と共に以前の面影を残していた。
 だが、それ以外は女性のものを模しているとはいえ剥き出しの外装と相まって、機械そのものだった。

「それでは紹介します。わが研究室の開発した全身義体HR3です」
 工藤チーフの声が耳に付けられた通信装置から聞こえる。
 出番だ。
 会議室に入る。
 部屋中の視線が私の全身を貫く。
 鼓動が速くなったような気がした。
 だが気のせいだ。最早私の体には心臓など存在しない。
 コンピューター制御された動力炉と生命維持装置があるだけだ。

 演壇に登ると工藤チーフが説明を始める。
「これがHR3です。
 一般市場向けとしては最高水準の女性型全身義体です」
「みなさんよろしく。HR3です」
 プログラムされた笑顔で笑いかけながら挨拶をする。
 おおー、という驚嘆の声が上がる。
 確かに現在の技術では、この義体の表情パターンは難しいらしかった。
 さらに工藤チーフの説明が続いた。
459検体:2005/09/04(日) 23:01:42 ID:NCkYilrn0
「それでは質疑応答に移りたいと思います。
 なにかございませんか?」
 工藤チーフの声に最前列の男性が手を上げる。
「こちらの義体は現在コンピュータ制御なのですか?」
「いえ、当社に検体契約を結んだ女性が使用しています」
 その答えに会場から驚きの声が上がる。
「コンピューターで制御するのと、実際に人間が使用するのではどうしても違いが出てしまいます。
 当社ではよりリアルに理解していただくため、検体契約を結んだ方が使用している所を見ていただくのです」
 会場からの視線に熱い物が混ざった様な気がした。

「手で触れても構いませんか?」
「はい。この後、実際に触れていただく時間を設けます」
 会場からは期待に満ちた声が漏れた。
460検体:2005/09/04(日) 23:02:35 ID:NCkYilrn0
「それでは、これで質疑応答は終わりにして義体に触れていただく時間としたいと思います」
 工藤チーフの声に前列の男性が殺到した。
「ふむ、見た目と違って硬くないんだな」
 にやにやと笑いながら私の胸を鷲掴みにしながら言う。
「あっ、は、はい。特殊な金属を使う事である程度の弾力と、あん、強度を維持できました」
 快感が走り上手く説明できない。
「こっちはついてないのか」
 本来なら女性器がついてる部分を弄りながら、別の男性が言う。
「そちらは別オプションになります。
 また、そういう用途専用の義体もございます」
 見かねた工藤チーフが声をかける。
「そうなのか…」
 残念そうに答えをきいた男性だが、気を取り直したように私の体を触り始めた。

「それではそろそろお触りタイムは終了とさせていただきます」
 10分以上にわたり体中至る所を触りまわした男性達は、残念そうに席に戻って行った。
 発表会は終了し、私は保管場所へと戻ってきた。
 現在の私の立場は会社の備品扱いなのだ。
 SM(specimen material)3と書かれたカプセルに入る。
 目を閉じるとすぐに意識は闇の中に沈んでいった…
461名無しさん@ピンキー:2005/09/06(火) 01:00:55 ID:nTbUCRIo0
検体乙。
462名無しさん@ピンキー:2005/09/06(火) 01:11:59 ID:rVmlYq1Y0
>>458
話、これだけじゃないですよね。
彼女がどうして身体を失って、義体メーカーと検体契約をするに
至ったのかとか、そのあたりのエピソードも書いていただけるん
ですよね。
て、いうか知りたいです。すごく。
人間離れして金属製の義体('・ω・) カワイソス
463名無しさん@ピンキー:2005/09/09(金) 03:20:37 ID:I7I+wFB80
464名無しさん@ピンキー:2005/09/09(金) 05:47:00 ID:ry+DatIj0
>>462
検体 だから、体は金持ちに借金のかたにされたとか
465名無しさん@ピンキー:2005/09/10(土) 23:01:59 ID:BMG70rSC0

hoshu
466名無しさん@そうだ選挙に行こう:2005/09/10(土) 23:25:05 ID:EG3wld4o0
すんまそん。小説貼付けたりして構わないでしょうか?
467名無しさん@そうだ選挙に行こう:2005/09/10(土) 23:31:01 ID:5v9rOBE80
>>466
どんな小説か分からなきゃ答えようないし…。
スレ違いでなければ、お願いしますとしか言えない。
468新人:2005/09/10(土) 23:45:28 ID:EG3wld4o0
>>467
とりあえず冒頭貼ってみます。
---------------------
 事の始まりは桜坂学院高等部の入学説明会の日に遡る。
 あの日、ぼくは桜坂学院の特異なシステムの説明に頭がパンクしそうになりながら、教科書や副教材のディスクなどが
詰まった重い手提げ袋を両手にぶらさげて、幼馴染みの美由紀と共に家路を急いでいた。
 桜坂学院は想像以上に自由で、その代わりに厳しい学校だった。
 厳しいというのは校則が多くて不自由だとかそういうのではない。目的意識も無くただなんとなく学園生活を送る。そんな
事は不可能な学校だということだ。自由を保障する権利には責任が伴う。社会の時間に習う当たり前の事だけど、それを
実際に体得しているかどうかが問われる。そんな学校だった。
 ぼくにとっては最高の環境だ。
 充実したものになるはずに違いない学校生活についてあれこれ考えながら、上の空でぼくは帰り道をショートカットして
横断するために車道に侵入した。一応、左右の確認はしたつもりだった。左から迫るトラックはゆっくりだったし、右からは
車が来ていない。余裕を持ってぼくは道を渡り始めた。
 一瞬の出来事だった。
「宏道! あぶない!」
 背後から美由紀の悲鳴のような叫び声が響き肩に衝撃が加わった。バイクの爆音が背後を通り過ぎる。美由紀がバイ
クに轢かれそうになったぼくを突き飛ばしたのだと気づいたのは、路面に倒れこみ転がってからだ。
「宏道! また考え事でもしながら歩いていたんでしょ?」
 呆れたような美由紀の声がする。
 ぼくは美由紀のほうを振り返り、苦笑しながら起き上がろうとする。その時、クラクションが鳴り響いた。
 車線を外れたバイクを避けたトラックが、真っ直ぐに美由紀の方へ向かっていった。悲鳴のようなブレーキ音が響くが、
間に合わない。美由紀はピンポン玉のように弾き飛ばされ、ガードレールにぶつかった。
 心が真っ白になった。立ち上がって美由紀の傍に向かった。ガードレールは美由紀の腰に食い込んでいた。鮮血ととも
にピンク色の肉の塊が美由紀の腹からこぼれている。
「ひろみち、やだっ……痛い……いたいよ……、助けて……」
 美由紀の絶望したようなつぶやきを聞いたそのとき、ぼくの記憶は途切れた。
469名無しさん@そうだ選挙に行こう:2005/09/10(土) 23:56:51 ID:EG3wld4o0
「ぼくの責任です。ぼくがみんな悪いんです。ぼくが、ぼくが悪いんです」
 幸次郎さんに呼び出されたぼくは、事故当時の状況を説明したあと、うわ言のようにそう繰り返していたらしい。
 幸次郎さんは美由紀の父親だ。四十台前半の若さでTHIE……立花重工ヨーロッパ本社の副社長を務めている。
ベルリンのTHIEから駆けつけてきた彼は長時間のフライトの疲れを感じさせない毅然とした表情でぼくをみつめた。
「これは事故だ。君が責任を感じる必要は無い」
「ですけど! 彼女はぼくのせいで」
 未だ取り乱すぼくをさえぎって幸次郎さんは言葉を継いだ。
「美由紀は死んでいない。命はとりとめたよ」
 思いもかけなかった事実を聞いてぼくは呆けたような表情で幸次郎さんに問い返す。
「ほんとう、ですか?」
 信じられなかった。記憶に残る最後の光景がフラッシュバックする。美由紀の腹は無残に潰れ、内臓がはみ出していた。
あの状態で命を取り止める事は現在の医学では不可能なはずだ。
 ぼくの疑念を見て取ったのだろう。幸次郎さんは苦笑しながら返答する。
「本当は機密なんだが、君には話しておこう。美由紀は大石博士の開発した新しい治療法によって、命を取り止めることに
成功したんだ」
「大石……博士、ですか!?」
 大石俊太郎。ロボット工学や宇宙開発といった工学系から、バイオテクノロジーや薬学といった生物化学系にいたるまで
多岐にわたる分野で活躍し、エジソンの再来、レオナルド・ダ・ヴィンチの生まれ変わりとも呼ばれている世界的に有名な
科学者だ。彼の名前を聞いて、ぼくの心に希望が生まれた。
 小学生の頃まで何の取柄も無いと思っていたぼくが、中学生になってロボット部に入部し、ロボカップの世界大会のジュ
ニア部門で入賞するまでになったのは、人型工作機械を発明した大石博士に憧れたからだ。もし、大石博士が居なけれ
ば、ぼくは何の取柄も無く目標も無いただの落ちこぼれになっていただろう。
 大石博士なら確かに、美由紀を救うことができるかもしれない。
「そうだ。しかも、一週間後には傷ひとつ残っていない元気な姿を君に見せられると、担当医の綾子くんも保証してくれた」
470新人:2005/09/11(日) 00:02:40 ID:EG3wld4o0
 一週間で、瀕死どころかほぼ即死状態だったはずの美由紀が元気になる。信じられないけど、あの大石博士が関わって
いるとなると事実なのだろう。
 しかし、どんな手段を使うのだろうか? 臓器移植など常識の範囲に収まる手段では一週間なんて短期間では、美由紀
を傷ひとつ残って無いの状態に戻すのはどう考えても無理だ。ぼくの思考はSF的な方向へ向かっていった。
「もしかして美由紀はサイボーグ化されるんですか?」
 もっとも有り得るのではないかと予測した推論を、幸次郎さんにぶつけてみる。
「やはり君は頭がいい。私が見込んだとおりだな」
 ぼくの質問を聴いた幸次郎さんはそう言って重々しく頷いてみせる。
「詳細は私も知らない。だが会長の紹介で、秘密裏に人間と機械を組み合わせた存在を作り上げる研究を行っているとい
う機関の人間が、向こうから私に接触してきた。その存在は正式にはサイバーサイバロイドと呼ばれているらしい。まあ、
一般的にサイボーグと呼ばれている存在と大差無いと思っていいと思う」
「向こうから接触って、どういうことですか?」
 ぼくの質問に幸次郎さんが返答する。
「美由紀の主治医の綾子くんとは君は会ったかね? 彼女のフルネームは大石綾子。大石博士の従妹にあたる。彼女が
動いてくれたらしい。実は私もたった今、事後承諾で話を聞いたところなんだ」
 そう言って幸次郎さんは苦笑した。一瞬彼の表情に疲れがよぎる。
「実は次は君を呼んでくるようにと言われたんだ。例の機関から来たという人物も待っている。どうやら、美由紀が学校生
活を送るにあたって君のフォローが必要になるらしい」
 申し訳ないが引き受けてくれるか? そう言って頭を下げた幸次郎さんをぼくは慌てて止める。
471新人:2005/09/11(日) 00:06:50 ID:aA9SF5aw0
>>470の十行目以下の通り誤記がありました。
サイバーサイバロイド→サイバーアンドロイド
×機関の人間が、向こうから私に接触してきた。その存在は正式にはサイバーサイバロイドと呼ばれているらしい。
○機関の人間が、向こうから私に接触してきた。その存在は正式にはサイバーアンドロイドと呼ばれているらしい。
472新人:2005/09/11(日) 00:08:08 ID:aA9SF5aw0
「そんな! ぼくにできることならなんでもします! ですから頭を上げてください」
 頭を上げた幸次郎さんは真剣な表情でぼくをみつめた。
「美由紀を頼む。私は明日にも向こうに戻らなければならない。娘が大変な事になってるというのに、父親失格だな」
 そう言って幸次郎さんは自嘲した。高い地位には責任が伴う。今、この場に幸次郎さんが居たところで、美由紀の治療に影響がある訳ではない。だけど、副社長である幸次郎さんが居なければTHIEは多大な損失を被ることになる。
「わかりました」
 ぼくは頷くと、幸次郎さんに教えてもらった美由紀の主治医の個室へと向かった。
473新人:2005/09/11(日) 00:14:16 ID:3ghR3jmU0
 手術室や検査室が並ぶブロックからさらに奥に入ったところに、医師の個室が並んでいた。教えられたとおり手前から
数えて三つ目の部屋の前に向かう。ネームプレートには、大石綾子、と書かれていた。この部屋だ。
 ぼくは深呼吸すると、ゆっくりとドアをノックした。数秒後、ドアが開き、中から白衣を着た女性が現れた。
「あなたが都築宏道くんね。私は大石綾子。上原美由紀さんの主治医よ。さあ、いらっしゃい」
 そう言って綾子さんはぼくを手招きする。彼女に続いて部屋の中に入ると、綾子さんは椅子を指し示してぼくに座るように
勧める。部屋の中央のテーブルの傍には椅子が四つ並べられている。そのうち二つの席には、ぼくがこの春入学する桜坂
学院高等部の制服を着た女生徒と、二十台半ばくらいに見える落ち着いた雰囲気の女性だった。ぼくが部屋に入ってきた
ことに気づいた彼女たちは立ち上がるとぼくに向かって自己紹介を始めた。
「はじめまして、都築宏道さんですね? 私は藤馬佳美です。桜坂学院高等部の数学教師でロボット研究部の顧問を務め
ています。そして彼女は……」
「桜坂学院高等部二年二組。坂崎響子よ。あなたの先輩ってことになるわね」
 おっとりと丁寧な言葉使いの藤馬先生に対して、制服姿の坂崎先輩は活発な感じだ。対照的とも言える二人だが、タイプ
は違っても二人とも結構な美形だという点で共通していた。
 でも美由紀ならこの二人を相手にして勝るとも劣らない。そんなことを思わず考えてぼくは思わず心中で苦笑した。
「ぼ、ぼくは一年五組の都築宏道です。よろしくお願いします」
 そう言ってぎこちなく頭を下げる。どもりながら喋るぼくの慌て具合がおかしかったのか坂崎先輩がくすりと笑い声をもら
す。
「コーヒーしかないけど、構わない?」
 そう告げて、返事も聞かずに綾子さんがコーヒーをぼくの席の前に置いた。
474新人:2005/09/11(日) 00:17:57 ID:3ghR3jmU0
「あっ、ありがとうございます」
 また、どもってしまった自分を情けなく感じつつも、ぼくはゆっくりと席に着いた。
「上原さんからは、どこまで話を聞いてるのかな?」
 前置きも無く、おもむろに綾子さんが話を切り出した。眼鏡の奥の瞳が、ぼくを探るように揺れる。
 この場で隠し事をしても仕方ない。ぼくは正直に幸一郎さんとの会話の推移を話した。
 大石俊太郎博士の開発した治療法によって美由紀を治療することが可能だと聞いたこと。だけど、ぼくは美由紀の怪我
が致命傷であることを実際に見て知っていたので、その治療法が通常では有り得ない方法、サイボーグ化手術なのでは
ではないかと推測したこと。その推測はほぼ正しく、既に美由紀はサイバーアンドロイドという存在へ改造されるべく手配
が進んでいること。そして、美由紀が今後学院生活を送るには、ぼくのフォローが必要であると幸一郎さんから伝えられ、
ここにその詳細を聞きにきたことを手短に告げた。
「そこまで聞いているなら話は早いわね。佳美さん、響子ちゃん、彼への残りの説明ははまかせたわ。私はちょぉっと野暮
用があるから、このへんで帰らせてもらうことにするわね。この部屋は自由に使ってかまわないから」
 綾子は佳美の手にバトンタッチするかのように触れると、ハンドバックを肩にかけて、足早に部屋を去っていった。
「気を利かせてくれたのでしょうか?」
 坂崎先輩は、藤馬先生に向かってそう言うと、苦笑するように笑った。
「そうでしょうね。上原さんには私の腹部のハッチを開いて見せるだけで済んだけれど。宏道さんには私たちサイバロイド
の特性について、きちんと把握してもらわないとならないから」
 藤馬先生はそう言って、坂崎先輩からぼくに視線を移すと、くすりと楽しげに笑った。
「サイバーアンドロイド、略してサイバロイドと私たちは呼ぶことが多いのだけど……は、機械で構成された人工の身体に
人間の脳を組み込んだ存在です。サイボーグとは似ているけど違います。どこが異なるかわかるかしら?」
475新人:2005/09/11(日) 00:23:50 ID:3ghR3jmU0
 ぼくを試すつもりなのだろうか? 藤馬先生の微笑に隠された意図を探りながら、ぼくは慎重に言葉を選んで答えた。
「ベースになっているものが違うということですか?」
 一般的にサイボーグと言えば、人間の身体に人工の臓器を組み込んだ存在のことを言う。極端な話、豊胸手術でシリ
コンを胸に入れたり、歯科治療のためにインプラントを埋め込んだとしても、定義的にはサイボーグの範疇に入る。
「ご名答、そのとおりです。サイボーグとは人間をベースに改造を加えた存在のことをさします。対してサイバーアンドロ
イドとはアンドロイドをベースに人間の脳を組み込んだ存在のことをさすんです」
 そう言い切った藤馬先生に、ぼくはあえて反論してみる。
「脳以外の部分を全て改造したと考えれば、サイバーアンドロイドもサイボーグの一種だと言えると思うんですけど」
 少なくともSFの世界ではそう定義されているはずだ。ぼくは藤馬先生にそう告げた。
 いきなり反論なんかして生意気に思われなかっただろうか? 緊張しながら藤馬先生の反応を見る。藤馬先生は不快
に感じるどころか、逆にぼくの反論を聞いて嬉しそうに微笑んでいた。
「そのような考え方がこれまでは一般的だったようですね。でも大石俊太郎博士はサイバロイドを試作して、サイバロイド
とサイボーグは別種の存在だと定義するべきだと判断したそうなんです。そして、実際にサイバロイド化された私は大石
俊太郎博士の定義が正しいと確信しています」
 さらりと藤馬先生はそう告げた。だがその言葉には重大なメッセージが込められてることに、ぼくは気づいた。
 サイバロイドがアンドロイドをベースにした存在であるという定義を、サイバロイドである藤馬先生自身が認めているとい
うことは、藤馬先生は自分の事を人間だと思っていないということだ。
476新人:2005/09/11(日) 00:28:21 ID:3ghR3jmU0
 驚きの表情が顔に出たのだろうか、藤馬先生はぼくの顔を真剣な表情でみつめた。
「宏道さん。私たちサイバロイドはあくまでも機械であって人間ではありません。あなたにはまず第一に、そのことをきっち
りと認識してもらいたいんです」
 藤馬先生の真剣な表情に気圧されながらも、ぼくは反論を試みた。
 サイバロイドが人間で無いなら、サイバロイド化されて回復した美由紀も人間では無いと言う事になる。それを認めること
は、この時のぼくには難しかった。
「人間の脳を持ち、人間と同様の感情を持つ存在を、人として扱うなというのはおかしくありませんか? それとも、サイバ
ロイドには感情が存在しないんですか?」
 思わず厳しい口調になったぼくの問いかけに藤馬先生は冷静に返答する。
「他の研究者の開発したサイバロイドの中には、感情に手を加えられたり、自我を抹消されたものも存在するらしいですね。
少なくとも私たち、大石俊太郎博士の構築した基礎理論を元に製作されたサイバロイドは、人であった頃と変わらない感情
を備えています」
 淡々と、藤馬先生はぼくに告げる。対してぼくはさらにヒートアップして藤馬先生に反論した。
「人であった頃と変わらない感情を備えているなら、人間だと考えるのが妥当ではないですか? どうして、自分達が人間
で無いなどと、言えるんですか?」
477新人:2005/09/11(日) 00:31:58 ID:3ghR3jmU0
「人間であるか無いかなんてそんなに重要なことなの? あたしは人間では無くサイバロイドである自分という存在に納得
し、誇りを抱いているわ。それじゃだめなの?」
 ぼくと藤馬先生の論争に横から割り込んだのは坂崎先輩だった。冷静な藤馬先生と違って彼女の瞳には明らかに怒り
の炎が灯っていた。素早く椅子から立ち上がるとポニーテールにまとめた髪を揺らしてぼくに詰め寄る。
「あたしは機械人形よ。毎日エネルギーを補給してもらって、三日に一回は検査してもらって、週に一回はパーツ交換して
もらう。そうやって存在を続けている機械仕掛けのお人形よ。その事実を変えることはできないわ」
 ぼくの目を真っ直ぐに見詰めながら、坂崎先輩はさらに言葉を継いだ。
「自虐して言っているわけじゃないのよ? 人間であろうと、機械人形であろうと、あたしがあたしであることには変わりが
ないわ。あたしには肉と脂と骨できた身体よりも、合成樹脂とセラミックと金属でできた身体のほうが性に合っていたって、
たったそれだけのことだもの」
「そこまで」
 藤馬先生の凛とした声が部屋に響いた。
「響子さん。落ち着きなさい。私たちは、サイバロイドという存在について説明し、その実態を宏道さんに理解してもらうため
に、ここに来ているのよ。肝心な部分をまだ説明していないのに、理解してもらえて当然だと思うのは虫が良すぎないかし
ら?」
 藤馬先生に諭されて坂崎先輩は口をつぐんだ。うつむけた顔から怒りの色が消えていく。
478新人:2005/09/11(日) 00:38:11 ID:3ghR3jmU0
「宏道さん。質問は後で受け付けます。とりあえずは私の話を聞いてください。サイバロイドという存在の実態について、どう
してこの技術が社会に公開されていないのか、その理由も含めて今から簡単にですが説明します」
 藤馬先生はそう前置きをすると、解説を始めた。
「サイバロイド開発の詳細な経緯は私も残念ながら知りません。しかし、アンドロイドの研究から派生したことは確かです」
 アンドロイドというのは外見を人間そっくりに似せた人型のロボットのことを指す。おおまかに人の型に似せた通常の人型
ロボットとは違って、人間そっくりであることを第一条件とした存在だ。
 土木重機や兵器として広く普及した人型工作機械と違って、人間そっくりなアンドロイドの活躍する舞台はとても限られて
いる。
 アンドロイドが表舞台で活躍しているのはテーマパークなどの娯楽施設だけだ。
 しかし、裏の世界では急速な普及を果たしていると言っていいだろう。性欲処理の道具であるダッチワイフアンドロイドは
ここ二十年ほどで驚くほど進化したらしい。今ではインターネットの通販を利用すれば数万円のチープな普及型から数千
万円の高級機種まで簡単に購入できる。
「十数年ほど前、大石俊太郎博士は、感情を備えた本物のアンドロイドを研究していました。人間そっくりで人間と同等以
上の運動機能を備えたボディの開発までは簡単に進みました。ですけど、感情を備えたAIの開発はいくら大石俊太郎
博士といえ不可能だったのです」
 そこで大石博士は、開発したアンドロイドのボディに人間の脳を組み合わせることを思いついたのだという。しかし、倫理
上の問題からそのプランを実際に実行に移すことは難しいはずだった。
 普通に考えて、そんな人体実験に志願する人間がいるはずないし、誘拐して改造したりしたらそれこそアニメの悪役の
マッドサイエンティストになってしまう。
「当時、大石俊太郎博士は桜坂学院の高等部に在籍し科学部の部長を務めていました。副部長として彼の補佐をしてい
たある女性が、そのプランについて知ってしまったことで事態は急展開しました」
 その女性の名前は簑島藤香。彼女は自分から実験素材となる事を志願したのだという。
479新人:2005/09/11(日) 00:49:57 ID:3ghR3jmU0
「その方って大石藤香女史ですよね? 大石博士の奥さんの?」
 質問は後回し、という約束も忘れてぼくは思わず声を上げて藤馬先生に問い掛けた。
「その通りよ」
 藤馬先生はそう答えてぼくに微笑み返し、話を続けた。
「実験素材となる志願者を得て、サイバロイドの研究は進みました。しかし、人の脳という素材は大石俊太郎博士をもって
しても手に余るものだったんです」
 藤香女史がサイバロイドに改造された後、さまざまな問題が頻出したと言う。結果としてサイバロイドの開発には成功し
たが、それは偶然に支えられた薄氷を踏むようなものだったと藤馬先生は言う。
「私は一度、大石俊太郎博士にお会いしたことがありますが、人生最大の不覚だとおっしゃっておりました。まかり間違え
ば藤香さんという有能な研究者を失うことになって科学の進歩に対する損失となったと。しかし、難産ではあったもののサ
イバロイドの研究自体は順調に進み、数年で大石俊太郎博士は基礎理論を完璧に構築することに成功したのです」
 続いて藤馬先生は、サイバロイド開発にあたって最大の問題となった部分について解説を始めた。人間の脳のうち、サ
イバロイドの素材として必要な部分は限られているのだとまず藤馬先生は告げた。
「サイバロイドに組み込まれるのは、脳の中でも感情や記憶、感覚などを司る大脳の一部分だけです」
 サイバロイドの製作はマイクロマシンを用いた脳改造からスタートするのだと言う。マイクロマシンによって脳の神経回路
のうち必要な部分は機械と融合しやすい無機物質に変換される。後は無機化された脳の必要部分と補助コンピュータを
結合し、あらかじめ用意しておいた機械仕掛けのボディに組み込めば完成だ。
480新人:2005/09/11(日) 00:58:32 ID:3ghR3jmU0
「ここで第一の問題が発生しました。それは、性欲に関する問題だったんです」
 藤馬先生はそう言って、サイバロイド試作機である藤香女史に生じた問題を淡々と告げた。性欲をコントロールするはず
のコンピュータ回路を無視して性的反応を繰り返し、それがだんだんとエスカレートしていったのだと言う。ついには人工
女性器が壊れるまで自慰行為を繰り返すモンキーオナニーと名づけられた現象まで認められるようになったのだと告げた。
「このような話題、ご不快ではないですか?」
 そこまで説明して、藤馬先生はぼくを気遣うように問い掛けてきた。
「いえ、不快だなんてそんなことは!」
 ぼくは雑誌のインタビュー記事に掲載された藤香女史の写真を見たことがある。写真を見る限りかなりの美人だったと
記憶している。そんな藤香女史のあられもない姿を想像して興奮していたなんて絶対言えない。
「実はサイバロイドに関連する問題の多くは性に関連しています。健康な男性なら、そのような話題に対して性的な欲望を
抱くのは正常なことです。ですから気になさらないでくださいね」
 そう言って藤馬先生はウィンクしてみせた。ぼくの内心はお見通しだと、そういうことらしい。おっとりした外見に似合わず
手強い女性なんだと、ぼくはこの時思い知った。
「これは女性の性欲の仕組みが、当時はきちんと解明されていなかったことから発生した問題でした」
 男性と女性とでは性欲の発生する仕組みが根本的に異なるのだと藤馬先生は告げた。
 男性の場合、性欲の発現は本能によってほぼ完全にコントロールされているのだという。しかし、女性の性欲は本能に
根ざしてはいるものの、その発現の条件は、感情や思考といった脳の中でも高レベルな部分に左右される割合が男性
とは比較にならないくらい高いのだという。
「女性の性欲は恋愛感情や性的な嗜好による妄想がトリガーとなって発生する場合のほうが圧倒的に多いんです」
 だからサイバロイド化され本能が排除されると、恋愛感情や性的な嗜好に直結して逆に欲情し易くなってしまうのだという。
481新人:2005/09/11(日) 01:11:33 ID:3ghR3jmU0
「この問題の対処は簡単なはずでした。適切にセックスや自慰を行うことで性欲を処理すればいいのですから」
 しかし、事は単純には済まなかった。試作機である藤香女史の場合、四六時中自慰に耽ってようやくなんとか精神の
平衡を保てるという不安定な状況になったのだという。
「精神の維持のために要求される快楽が、予測よりもずっと大きかったのです。大石俊太郎博士は脳と性器を直結し、
自慰行為をサイバロイドの標準動作とするなどの改良を加えました。この前、一度お会いしたときにはそのことについて
質問しましたら、人間に食事と睡眠が必要不可欠なように、サイバロイドには自慰行為が必要不可欠なのだ。と仰って
いらっしゃいました」
 こうして当初は問題視されていた性欲過剰は、研究が進むについれてサイバロイドの維持に不可欠な要素であること
が明らかになり、対策が施された。
 さらにサイバロイドの性的反応の研究を進めることによって、大石博士に人生最大の不覚と言わしめた新事実が明ら
かになったのだ言う。
「サイバロイドとして存在を維持していくためには被虐的な性的嗜好を持っていることが必要不可欠であることが判明し
たんです」
 言葉の意味が理解できずぼくはきょとんと藤馬先生を見返した。
「端的に言えばマゾでなければサイバロイドになれないと、そういうわけです」
 無条件にサイバロイド化されて精神を維持できるのは全女性のうち二割程度、条件付け処理を施してようやく五割を越
える程度なのだと藤馬先生は続けた。
 マゾヒスティックな嗜好を持っていなければ、性欲過剰が継続して四六時中自慰動作を実行し、他者に身体を委ねて
制御され、メンテナンスを受けなければ存在を続けて行くことができない状況に精神が耐えられないのだという。
482新人:2005/09/11(日) 01:21:21 ID:3ghR3jmU0
ちょっと待ってください。それでは美由紀は!?」
 その時のぼくには美由紀がマゾであるとは到底思えなかった。ぼくに対する態度などを見れば、逆にサドっ毛のほうが
あるのではないかとさえ思えてくる。ぼくは美由紀が、サイバロイド化に適さない残りの五割弱のほうに分類されるのでは
ないかと思ったのだ。
「安心してください。あなたたちは入学試験に伴って性格診断試験を受けていますよね?」
 焦るぼくとは対照的に藤馬先生は淡々と、言葉足らずのぼくの疑問に答えてくれる。
「その試験の結果、美由紀さんは条件付きですけど、サイバロイド化に適する性的嗜好を持っていることが判明しています」
 それを聞いてぼくは半分納得した。高度な性格診断テストは、人の性質をかなり深い部分まで分析することができる。
だからこそ、現在ではプライバシーの侵害を防ぐために入試や採用試験の際に性格診断テストを強要し、その結果で合否を
判断することは法律で禁止されている。
 桜坂学院高等部の性格診断テストは生徒会主催の任意参加のイベントという形式で行われていた。合否には関係無いと
強調していたけど、あの状況で試験を拒否するのは受験生という立場では難しいだろう。
 二日目の入学試験の終了後、生徒会執行部の人が性格診断テストについて説明し、受験を促しているのを聞いてずるい
やり方だなあとぼくは思った。
483新人:2005/09/11(日) 01:22:45 ID:3ghR3jmU0
 そう思ったのはぼくだけではなかったらしい。ぼくの右斜め後に座っていた女生徒は、嫌味の混じった質問をして生徒会
執行部の人を黙らせるとさっさと帰ってしまったのだ。結局、同じ教室で試験を受けた中で性格診断テストを受けなかった
のは彼女だけだった。
 あの女生徒は桜坂学院に受かったのだろうか? 幼いころからかなりの美少女だった美由紀を身近に見て育ったぼくが
見ても、あの女性徒はとても印象的に見えた。格が違うというか身に纏っているオーラが違っていた。
 藤馬先生も坂崎先輩も、そして美由紀もかなりいい線行っているというか、三人とも誰もが美人と言うであろう容姿を持っ
ている。
 しかしあの女生徒は違った。女の人の美しさを形容する言葉にもランクがあって、美人の上に麗人、佳人という言葉があ
るそうだけど、美人を越えるそれらの言葉を適用してもいいんじゃないかと思ったのはあの女生徒が初めてだった。
 ぼんやりとそんなことを考えていたら、藤馬先生がじっとぼくの事を伺っていることに気付いた。
 いつのまにか、思考が美由紀から離れていたことに気付き、ぼくはちょっと自己嫌悪した。
484新人
「とにかく、美由紀は条件付きですけど、サイバロイド化適性を備えているということですよね?」
 気まずさを隠しながら、ぼくは慌てて藤馬先生にそう問い返した。どうやら藤馬先生はぼくが混乱していたと思っている
らしい。ぼくが質問を返すと気遣うような笑みを浮かべながらよどみの無い口調で説明を続けた。
 藤馬先生は、サイバロイドの精神安定に必要なシステムとしてマスター登録という仕組みがある事をぼくに告げた。
マスターというサイバロイドの全てを管理、支配してくれる存在を設定することで精神の安定性を飛躍に向上することが
できるのだと言う。
「美由紀さんのサイバロイド化に必要な条件とは、あなたをマスターとして登録することなんです」
 話の流れから予想していた事だったので、ぼくは驚かなかった。本当に驚いたのは次の一言だ。
「美由紀さんは、あなたに恋愛感情を抱いています」
 晴天の霹靂とはこのことだろう。呆けたような表情でぼくは藤馬先生をみつめた。
 正直、ぼくは美由紀にそういう感情を抱いたことは一切無い。美由紀もそうだと思っていた。
 ぼくにとって美由紀は姉弟のように育った幼馴染で、それ以上でもそれ以下でもない。大切な存在であることは確かだけ
ど、だからこそ逆に恋愛対象として見たことは全く無かった。
「美由紀が、ぼくに恋愛感情を?」
 考えを巡らせて、ぼくは進退窮まった状況に陥ってしまったという事実に気付いた。
 正直、もし美由紀に恋人としてつきあわないかと告白されていたとしたら、ぼくはノーと答えただろう。だけどこの状況で
美由紀を受け入れなければ、ぼくは人非人になってしまう。
 運命のあざとさに、割り切れない思いを感じながらぼくはため息をついた。ふと性格診断試験の受験を拒否したあの女
性徒のことが思い浮かぶ。あんなふうにこの場から去ることができたらとさえ考えてしまう。