【機械化】サイボーグ娘!三つめのパーツ【義体化】

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787444:05/02/23 01:39:29 ID:9cz5CYXn
茜ちゃんドス黒すぎ。
ということで茜ちゃんには悪役的な役割を担ってもらおうと思っております。
>>769
じゃあ、次は夏休みキャンプ編にしますか。ストーリー考えてみよう。
>>770
茜ちゃんは、本当の肉体の記憶のない義体使用者ってどんな感じなんだろう
と思って、ヤギーと対比するために考えてみましたが、悪役ってほどでも
ないな。小悪魔的存在か。今後の展開でどうなるかは分かりませんが。
>>772
幼少時からの義体は、一年くらいしか使用しないわけで、
顔以外は基本的には使いまわしのレンタルです。それにひきかえ
大人や成長期が終わったくらいの未成年の義体は使用者買い取り。
なんじゃないですかねえ、多分。
すみません<描き直し
>>774
連載再開キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
私も気になってた伏線の回収ですか。
例の女がだれぞに連れ去られたり、カズヒロ技官が
妙なことをつぶやいたり、ガジェットワールドに
のっけから引き込まれました。
389氏の軽快な流れるような文体が作品とマッチしてて
すごく好きなんですよね。真似したい。
>>777
でもって777さんの銀猫。自分以外の作品が二本も読めるって幸せったら
ないです。ボクって人間なのか?とか飼い主って誰?とか読むほどに
疑問がフツフツ湧き上がります。なんとも不思議な世界ですね。
788名無しさん@ピンキー:05/02/23 01:58:25 ID:fk92bdit
>>389
>かわいそうな目に遭う新キャラ視点で話を進めようと思います。
とても期待できそうですね。楽しみにしております。
789389:05/02/23 02:42:54 ID:osA7Y+VO
B−1
 
 その日、私は昼ごろから妙な腹痛を感じていた。 夜になってもおさまる様子はないし、何だか食欲もない。
 でも、それほど気には留めなかった。 だって、私くらいの女の子が「月のもの」でいろいろと
身体が変になるのはよくあることだったから。
 
「ユカリ、お願い。 来週の地区予選だけでいいから、出てくれない?」
 受話器の向こうで、水泳部の友人が私の説得に必死になっている。
「ほら、ユカリって泳ぐの速いし、プールは好きだっていつも言ってるじゃない」
「で、でも…私が好きなのは、水に潜ったり浮いたり、のんびり泳ぐ事だし…
それに、私は大会のプレッシャーとか苦手だから…」
「お願い、そこをなんとか! ここは一つ、人助けだと思って…」
 友人がケータイ片手にベッドの上で土下座している姿が手に取るように分かる。
「…わかったわよ。 地区予選だけだからね」
 大きな溜め息を一つして、私はしぶしぶ依頼を引き受けた。
「やったーっ、ありがと! 恩に着るわ!」
 大袈裟に喜ぶ友人の声を聞いて、もう一つ溜め息が出た。 また上手く丸め込まれてしまったみたいだ。
 時々、自分の人の良さが嫌になる。
「それじゃ、明日の放課後から早速練習に加わってね。 よろしく!」
 私の気が変わらないうちに、だろう。 必要事項をすばやく伝達すると、友人はそそくさと電話を切った。
790389:05/02/23 02:43:55 ID:osA7Y+VO
B−2
 
 ともあれ、引き受けてしまったものは仕方ない。
 タンスの奥から競泳用の水着を引っ張り出す。
「去年の水着、まだ着れるか確かめておかないと…」
 これでも私はまだ成長期だ。
 ところが、いざ服を脱いで着替えてみると、私の身体は小さなポリエステルの服の中に
すっぽりと納まってしまった。
「………?」
 なんか変だ。 去年から全然成長していない身体の事じゃない。
 昼から感じていた腹痛が急に強くなってきている。 額に脂汗がにじんでいくのが分かった。
「痛……っ」
 耐え切れずに、タンスの前にしゃがみ込む。
 その激痛は、お腹の右下から発せられていた。
 
 私はその水着姿のまま救急車に乗せられ、近所の大学病院に運び込まれることになってしまった。
 診断は急性虫垂炎。
「大丈夫、必ず治るよ。 虫垂炎なんてよくある病気だから、心配しないで」
 救急外来のお医者さんは、そう言って鎮痛剤を打ってくれた。
「虫垂炎って、やっぱり手術するんですか?」
「場合によっては薬で散らせるけど、君の場合は手術しないと無理だね」
「そうですか…」
「手術は今夜のうちにやる事になったから、心の準備をしておいてね」
「えっ、今夜!?」
 心の準備なんて、とても間に合う筈なかった。
 
791389:05/02/23 02:47:00 ID:osA7Y+VO
B−3
 
 私の寝かされたベッドは、手術室と一般病棟の境目の引継ぎ室に運び込まれた。
 この先は清潔区域で、廊下の先にいくつもの手術室があるらしい。
 時刻は深夜。 この部屋で私のほかに手術を待っているのは、私と同じくらいの女の子一人しかいなかった。
(この子も、急患なのかな?)
 そっと隣のベッドを覗いてみると、その子は安らかな顔でスースーと寝息を立てていた。
 包帯や点滴もないし、顔色も悪くない。 素人目には病人に見えなかった。
 
 そのとき、手術室側の扉が開く音がした。
(来た…!)
 思わず目をつぶる。 死刑囚って、こんな気分なんじゃないだろうか。
(私の番かな、それとも隣の子が先かな?)
 少しの間があった後、動き出したのは私のベッドだった。
 緊張が心臓の動きを速めていく。
(落ち着いて…落ち着いて…)
 ぎゅっと目を閉じたまま、私は祈るように自分自身に言い聞かせ続ける。
 私を乗せたベッドのキャスターの音だけが、静か過ぎる廊下に響いていた。
792389:05/02/23 02:58:53 ID:osA7Y+VO
>>787,788
応援どうもです。
>軽快な流れるような文体
そう言って貰えると、推敲の度にガリガリと文を削った苦労が報われます。
793580:05/02/23 21:47:26 ID:UovXzLYJ
>>773-776,>>779,>>789-792
冒頭のハツミ警部のさりげないセリフに、優しさと絆の深さを感じました。最初の
会話から、作品世界に引き込まれました。続いて、たたみこむように展開していく
シナリオ…。またハツミ警部達の活躍する姿が見られるのですね。さらに伏線回収
の上に、新キャラまで! 素晴らしいです。萌えが凝縮された389氏の作品を読むこ
とができて、とても嬉しいです。
あの、ユカリさん、水着姿のままってことは、ないですよね…。前回のブルマー姿に、
激しく萌えたのですけれど…。
ハツミ警部とカズヒロ技術官の仲も、進展するといいなぁ。普段はハツミ警部に押
されっぱなしのカズヒロ技術官が、どうやってハツミ警部との関係を進めていくか、
気になります。

>>782-786
北崎がこんなところで出てくるとは。いつものことですが、意表を突かれました。
茜ちゃんの黒さにまぎれてますけど、八木橋さんピンチじゃないですか…。一体、
どうなるんだろう。そんな時でも、茜ちゃんの事を気遣っているところが八木橋さ
んらしくてイイです。萌えます。
茜ちゃんも、義体じゃなかったら、こんな性格にはならなかったかもしれないし、
根っこまで黒くはないと思いたいです…。

>>787
お答えありがとうございます。つまらない質問ばっかりですみません。

>>777-778,>>780
機械の手足とはいえ、裸の女の子と一緒の部屋。とてもHな状況なのに、その一方
でそれを意識させない不思議な雰囲気のお話ですね。どんな展開になるか、とても
楽しみです。

作者様がたに、感謝の意を捧げます。この至福の時が、いつまでも続きますように…。
794名無しさん@ピンキー:05/02/23 23:33:41 ID:Kn6gLtU4
ヤギーさんには悪いけど、生身の体のふりをしていて
ばれそうになるところが、とってもとてっも萌えです。
795389:05/02/24 02:43:49 ID:nZlL6/Dc
C−1
 
 扉の閉まる音が聞こえた。 どうやら手術室に着いたみたいだ。 
(いよいよ…始まるんだ)
 そっと薄目を開けて、まわりの様子を見てみる。
(…?)
 何か、変だと思う。
 漫画やドラマで見るようなベッドや手術灯があるから、たぶんここが手術室で間違いないと思うけど、
部屋の中にいるのは、若い女の人と私の二人だけだった。
 手術って何人ものスタッフでやるものじゃなかったのだろうか…
 
「…はい、既に実験体は搬入されました…」
 お医者さんらしき女の人は、内線電話で何か話している。
「…年恰好に矛盾はありません。 本人に間違いないと思います」
 その女医さんは、横顔だけでもそうと分かるくらいの美人だった。
 けれども、女医さんの話す言葉には、感情というものが感じられない。 無表情なまま、受話器に向かって
淡々と答えている。
 そう、まるで機械のように。
「…はい、眠っています。 睡眠薬がまだ効いていると思われます」
 睡眠薬で眠ってる…というのは、まさか私のことだろうか。
 私は目をつぶっていただけで 眠ってなんかいないし、睡眠薬も飲んでない。
 ひょっとして、何か手違いがあったんじゃないだろうか。
796389:05/02/24 02:44:51 ID:nZlL6/Dc
C−2
 
「では、これから作業を開始します」
 そう言って女医さんは電話を切った。
 そして傍らのテーブルから注射器を取り上げ、それを手にゆっくりと私のベッドへ歩み寄ってくる。
「あ、あの、ちょっと待ってください!」
 直感的に身の危険を感じた私は、思わず声をあげた。
「…目が覚めていた?」
 女医さんは少し怪訝そうに呟いただけで、その行動を止めようとしない。
「あの、ひょっとして、私を他の患者さんと間違えて……きゃっ!」
 不意に、女医さんは無言のまま仰向けの私に覆いかぶさり、私の肩を押さえつけた。
「い、痛い、放してください! 一体何を…!?」
 女医さんは片手で私を組み敷いたまま、まるで私の言葉など聞こえていないかのように、
その注射器を私の首筋に突き刺した。
「あっ!?」
 鋭い痛みが走る。 それと同時に、全身の感覚がだんだんと鈍り始めた。
「っ…ちょっと…待っ…て…」
 舌が麻痺して、言葉にならない。
(一体…何が、どうなって…)
 そこで私の意識は途切れた。
797389:05/02/24 02:46:07 ID:nZlL6/Dc
C−3
 
(痛い、痛い…!)
 私の意識を引き戻したのは、激痛だった。
 それはさっきまでの腹痛とは全く別の、まるで全身を内側から引き裂かれるような痛みだった。
 
 痛みで朦朧とする意識の中で、知らない男の人が、低い声で話しているのが見えた。
「それはつまり、この失敗はもう取り返しがつかないということかね?」
「はい」
 それに答える無感情な声。 さっきの女医さんに違いなかった。
「なら、仕方あるまい。 そうと分かった以上、こんなモノは早急に院外に廃棄したほうが得策だのう」
「………」
「県北に産廃処分場があったな…あそこがいい。 悪臭とゴミの中なら発見される事もあるまいしな。
…木を隠すなら森の中、屑鉄を捨てるのは産廃の中、とな」
 
 このとき、まだ私は自分の身に何が起こったのか分からなかった。 ただ、“屑鉄”に例えられたモノは
私なんだと、男の視線が言っていた。
 
 台車が用意され、私の身体は乱暴にベッドから台車へと下ろされた。
(きゃあぁっ!!)
 ガシャン、という音とともに全身を襲う激痛。
 それで、かろうじて保たれていた私の意識は再び吹き飛んだ。
798389:05/02/24 02:47:46 ID:nZlL6/Dc
C−4
 
 次に気がついたとき、視界にあったのは、一面に広がるゴミの野だった。
 雨が降っている。 大きな雨粒があたりのゴミを叩いていた。
(身体が…動かない)
 指の一本さえピクリともしてくれない。 なのに、あの全身の痛みだけは断続的に私を苦しめる。
 この産廃処分場に満ちるザーという雨音は、壊れたテレビのノイズ音を思わせた。
 
 結局、私に何があったんだろう。
 突然お腹が痛くなって、突然手術する事になったと思ったら…
なぜか身体が痛くて、動かなくて…こんな所に捨てられて…
(夢…だよね…こんなの)
 だって、こんなにわけが分からないこと、あるはずない。
 
 雨音が遠くなっていく。
 雨が止もうとしているのだろうか、それとも私の気が遠くなっているのだろうか。
 視界が暗くて、もう区別が付かない。
 
 眠るように、私の意識が消え入る寸前、誰かの声が聞こえた気がした。
799389:05/02/24 03:02:07 ID:nZlL6/Dc
>>793
感想どうもです。 また頑張らせて貰います。

彼女が手術室に着くまでずっと水着だったかどうかは、ご想像にお任せということで…
競泳水着でも、裸に薄い手術着一枚でも、萌えるほうでどうぞ。
800444:05/02/25 02:10:49 ID:K0Qn/pk5
  義体診察室から松原さんが戻ってきた。 ああ、 いよいよだ。 私達を呼びに来たんだ。
もうすぐ北崎に私の身体のことバレちゃうんだ。 もうすぐサポートコンピューターの接続が
切られちゃうんだ。 私は緊張して思わず身体を強張らせた。まるで死刑執行を待つ囚人の気分。
でも、 私の推測は半分当たっていたけど、 半分はずれ。 松原さん、 私が思ってもみなかった
意外なことを口にした。
「はい、 では準備ができましたので更衣室で着替えてください。 でも、 その前に、 二人に
嬉しいお知らせがあります。 今月から、 サポートコンピューターと脳の接続が切られている間に、
弊社の新製品『癒しの大地』シリーズが作り出す仮想空間内で生身の身体の感覚でお寛ぎいただく
ことができるようになりました。 今回は第一弾、 南海の孤島。 どうです八木橋さん、 西田さん、
体験してみませんか?」
  松原さんが製品パンフレットを私と茜ちゃんに手渡した。
“イソジマ電工が自信を持って送り出す、 バーチャルリアリティの決定版”
“失われた感覚が今蘇る“
“暗闇にさようなら“
  パンフレットには仰々しいキャッチコピーが踊っている。 このコンセプト、 これって遥遥亭
じゃない? そうか! 遥遥亭がようやく製品化されたんだ。 遥遥亭での夢のような出来事、
今でもはっきりと思い出すことができる。あの時の杏仁豆腐、 美味しかったなあ。 あの時の身体の
感覚、 懐かしかったなあ。 あの遥遥亭みたいな体験がもう一度できるんだ。 時代は私が知らない間に
どんどん進んでる。 南海の孤島だってさ。 じゃあ、 海に入れるってこと? 義体になってから、
身体が錆びるってことで海水に入ることは固く禁止されている。 だから、 私はもう何年も海なんて
行ってないよ。 その海にもう一度入れるんだ! 私は北崎のことなんて一瞬忘れて興奮した。
でも、 世の中そんなに甘くない。
801444:05/02/25 02:14:09 ID:KAb6DjjE
「今はお試し期間中だから、 検査費用にたった十万円追加するだけで、 こんな体験ができます。
ねっ、 ねっ、 すごいでしょう。 同じプログラムを使う義体使用者同士で仮想空間を共有するから、
当然二人とも中で話ができるし、 退屈しませんよ」
  松原さんは、 五十円追加するだけでアップルパイがつくみたいにサラリと言ったけど、 十万円
ですか? じゅうまんえん・・・しろくま便で何日アルバイトすればいいんだろう。
「検査中はサポートコンピューターと脳の接続はいっつも切られるっしょ? これ使ったら、 本当に
お姉ちゃんと話ができるの?」
  茜ちゃんは派手なパンフレットと松原さんのセールストークに早くも心奪われ、 『癒しの大地』
とやらに興味深々だ。
「サポートコンピューターと脳の接続を切っている間は、 この病院の中央制御コンピューターが、
サポートコンピューターの代わりを勤めることになります。 癒しの大地プログラムも、 サポート
コンピューターを介さないで中央制御コンピューターから脳に流れてくるわけです」
「ふーん、 じゃあ、 アタシお願いしようかな。 生身の身体の感覚なんて別に興味ないけど、
お姉ちゃんと、 もっといろんな話してみたいっけさ」
  あ、 茜ちゃん。 そんな十万円なんて大金、 親と相談しないで決めちゃっていいわけ。
お姉ちゃんと話してみたいって言ってくれるのは嬉しいけど、 私、 まだ使うかどうか決めてないよう。
「茜ちゃん、お買い上げ有難うございます。で、八木橋さんはどうするの?」
「お姉ちゃん、 もっとさっきの続き話そうよ。 ねえ、 ねえ」
  セールスマンがもう一人増えた・・・。
802444:05/02/25 02:16:30 ID:KAb6DjjE
「うー・・・」
  十万円かあ。 古堅部長! いくら商売だからって、 イソジマ電工が営利企業だからって、
十万円なんて高すぎると思いませんか。 藤原とのデートとか、 ジャスミンや佐倉井達との
遊びを何回断って、 アルバイトを何日増やせばいいんだよう。 頭の中で、 ちょっと計算
してみた。 でも結論は決まってるんだ。 遥遥亭のすごさを身をもって知っている私は、
その誘惑にとても勝てなかった。 真暗闇で一日を過ごす生き地獄に比べたら十万円なんて安い買い物だ。
そう思うことにした。 今月はアルバイト月間だあ! 頑張るぞ!
「松原さん、 私もお願いします」
  貧乏学生の私にとっては、 陳腐な表現かもしれないけど、 清水の舞台から飛び降りるような気持ちで
搾り出した言葉だったよ。ホント。
「あれま、 八木橋さん、 ずいぶん決断が早いですね。 八木橋さんのことだから、 もっと渋るかと思って
いたんだけど。 有難うございます。 お陰で、 これで私も今月のノルマ達成です」
  なんだよ、 松原さん。 それって、 私がケチって言ってるのかよう。 まあ、 間違ってないけどさ。
  嬉しそうに受注伝票を記入してる松原さんを見て、 地獄の沙汰も金次第って言葉が思い浮かんじゃった。
イソジマ電工もずいぶんいい商売してるよね。
803444:05/02/25 02:34:49 ID:KAb6DjjE
800ゲットー!
遥遥亭、とうとう実用化されたようです。イソジマ電工の大事な商売道具として。
>>793
北崎君、いつか再登場させてやろうと思っていたのですが、出番が大分遅く
なっちゃいました。私としては追い詰められてからがヤギーの真骨頂だと
思っていますから、こういうキャラはヤギーを引き立てるために是非欲しかった
のです。茜ちゃんは・・・どうなんでしょうねえ。
>>794
そうそう、それが私の萌えでもあります。
>>795-798
どんな風にかわいそうな目に遭うんだろうと思っていたら
ただの盲腸手術のはずが、人違いでサイボーグに改造されたうえ
廃棄処分ですか。うーん、そう来ますか。一体どうなるんだろう。
激萌えっす。
804名無しさん@ピンキー:05/02/25 20:45:25 ID:Ox2fEEhb
>>389
いい雰囲気で始まりましたね。無理矢理手術され、産廃場に捨てられる・・・なんと哀れで萌えな話でしょう!可哀想なサイボーグ少女、、楽しみでつ。応援しまつ。
805名無しさん@ピンキー:05/02/26 12:49:34 ID:4puTLaM7
廃棄されたのを拾われるところから始まる銃夢のような話もあると
言ってみるテスト
806389:05/02/26 21:55:58 ID:wV4F+mCH
●D−1
 
 最初は、錯覚だと思った。
 刑務所から拉致された“あの女”の手がかりを捜し始めて、すでに一ヶ月。 降りしきる夕立の中、
たまたま近道のために横切った産廃処分場で、私はゴミの山に埋もれる私自身を見た気がした。
(気のせい…よね)
 これだけのガラクタがあれば、偶然どこか一箇所くらい、遠目には全身義体に見えるような
構図が生まれてもおかしくないだろう。 雨で視界が水煙にぼやけていればなお更だ。
 でも、私はやっぱり見間違いの一言で片付けられず、ゴミの山を振り返った。
 
 ゴミの群れを走査する私の視線が一点で止まる。
「…!!」
 泥土と廃油にまみれ、廃棄物に同化しつつある小柄な少女が、確かにそこに存在した。
「ちょっと! ねぇ、あなた人間でしょう!?」
 私はその子に駆け寄ると、重い金属の身体を助け起こした。
「生きてる!? 生きてるなら返事をして!」
 私の呼びかけに、その子は何も反応してくれない。 うっすらと開かれた義眼は死んだように動かなかった。
(とにかく、早くこの子をカズヒロさんの所に!)
 いまにも壊れそうなその子の身体をしっかりと抱いて、私は背中のブースターの出力を限界まで引き上げた。
 
 人をサイボーグ化する技術を持っているのは、技術捜査部のカズヒロさんを除けば世界にただ一人、
刑務所から拉致され、私達が捜している“あの女”しかいない。
 私の刑事としての初手柄は、とても悲しい手がかりの発見だった。
807389:05/02/26 21:58:16 ID:wV4F+mCH
●D−2
 
 捜査会議が終了した後、私と警部さんは真っ直ぐに技術操作部へ向かった。
 カズヒロさんに、あの子の応急処置の結果を聞くためだ。
「サチさんの発見した少女ですが…」
 説明するカズヒロさんの顔が暗く沈んでいく。
「彼女をサイボーグに改造した人物は、やはり…刑務所から拉致された、“あの女”かと思われます…」
 
 一月前、カズヒロさんがあの女のことを「姉さん」と呟いたのを、私は聞いてしまった。
 それが本当なら、少女をあんな姿にした挙句にゴミのように捨てたのは、カズヒロさんの姉ということになる。
もちろん、私から人の身体を奪ったのも。
 
「カズヒロ技術官、結論を先にお願い。 あの子は生きてるの? 助かるの?」
 腕を組んだ警部さんが先を促した。
「あ、すみません……とりあえず命に別状はありません。 ですが、身体に何らかの異常があることは確かです」
「だから、捨てられたっていう事でしょうか。 使い物にならないからって…まるで道具のように」
 あの子は助かるんだと安堵した途端、私は怒りがこみ上がってくるのを感じた。
808389:05/02/26 21:59:13 ID:wV4F+mCH
●D−3
 
 一通りの打ち合わせが終わり、捜査に戻ろうと席を立ったとき、
「ああ、そうだわ、カズヒロ技術官。 一つ言っておきたい事があるの」
 警部さんが、さりげなく口を開いた。
「確か、あの女は記憶喪失になっていたわね。 にもかかわらず、あの女は少女を一人 機械にしてしまった。
つまり、女の記憶は戻ったと考えるべきね」
 そう言いながら、警部さんは真っ直ぐにカズヒロさんを見つめている。
「あ、あの、それが何か」
「つまり、今度こそ判明するかもしれないという事よ。 あの女の氏名とか、家族関係とか、ね」
 カズヒロさんが息を呑むのが、分かった。
 数秒の沈黙。
「結論を先に言うとね、カズヒロ技術官。 あなたは何も心配しなくていいわ」
 不意に、警部さんの顔が優しくほころんだ。
「え…?」
「私は前から知っていたんだから。 今後 何が判明しても、私は今まで通りあなたの味方でいてあげるってこと」
 それだけ言うと、警部さんは私の手を引いて技術捜査部を後にした。
 
 
「サチ、あなたには話しておかなければならないんだけど」
「知ってます。 あの女はカズヒロさんのお姉さんなんですよね。 本人の独り言が聞こえちゃいました」
「そう…彼も迂闊ね、自分で作った聴覚センサーの性能を忘れるなんて」
 警部さんと私は顔を見合わせて苦笑した。
「…で、どう? もう彼とは今までのように親しく付き合えない?」
「いいえ、そんな事無いです。 その肉親が誰であっても、カズヒロさんはいい人です」
「よかった…サチ、ありがとう」
 警部さんは私の手をとり、自分のことのように喜んだ。
809389:05/02/26 22:16:42 ID:wV4F+mCH
>>803-805
応援どうもです。
やっぱり毎晩うpは無理でした。 不定期にいきます…
810580:05/02/27 00:26:46 ID:+hX3O2FF
>>795 >>806
不用品として産廃処分場に打ち捨てられたユカリさん…雨の降る産廃処分場の
暗い雰囲気と、彼女の運命の悲惨さがあいまって、とっても萌える情景です。
そんな暗い面と、D−3の3人のやりとりの優い面とが、両立しているところ
が素晴らしいです。カズヒロ技術官の姉の“あの女”も、今回は悪役というよ
りは、道具として操られる被害者の立場なのかな…。

>>800
イソジマ電工様、天国か地獄かの二者択一なんて阿漕すぎます。10万円なんて
価格設定、ぼったくりです。開発陣の想いは、どこへ行ってしまったのですか。
汀さんや深町さんの言う通り、現実は厳しいです。
このまま、八木橋さん視点で南海バカンス編になるのでしょうか。水着姿の
八木橋さんが拝めるのでしょうか。どきどき。藤原君とのデートも諦めるくら
いだから、現実の世界では体験できないくらい、素晴らしく楽しい思いができ
ますように。それとも、茜ちゃんと一緒なので、またひと波乱あるのかな…。
10万円が「たった」とは、今回の検査費用って、いくらぐらいなんでしょうね?
もしかして7桁いくのかな?…すみません、質問じゃないです。でも、いろいろ
と気になります。

>>803
八木橋さんファンの敵意を一身に集めていませんか?損な役回りですね。>北崎君

811シリアルナンバー00:05/02/27 01:13:24 ID:kdeRxz5V
>>810
>八木橋さんファンの敵意を一身に集めていませんか?
物言えば唇寒し秋の風、ってね。
不用意な一言で人生棒に振ったあげく、後世までいぢられまくるヤツもいるしさ。
812名無しさん@ピンキー:05/02/27 02:26:16 ID:6PxpqHLR
>>389
サイボーグに改造された上に捨てられた少女が今後どんな可哀想な目にあうのか・・・楽しみです。ハァハァ・・・
813名無しさん@ピンキー:05/02/27 22:22:39 ID:xpwMW7oy
>>802
10万円払う代わりに、10分毎にイソジマ電工のCMを2分間見せられる、とか(w
814444:05/02/28 00:51:32 ID:tXbwJjrN
「で、 お姉ちゃん、 どうするの?」
  私達二人は今、 狭っ苦しい更衣室の中にいる。 で、 二人並んで、 身体をぶつけぶつけしながら着替えをしている
最中なんだけど、 茜ちゃん、 身につけてたなんだかゴテゴテ金属製の飾りのついたキュロットスカートを脱ぎながら
言った。 そうだよね、 南国でバカンスなんて浮かれてる場合じゃなかったよね。
「どうするって、 北崎のこと? もうどうしようもないよう。」
  本当に、 もう今更どうしようもないんだけどさ、 北崎に機械の身体を見られて、 ジャスミンや佐倉井や研究室の
みんなに、 私の身体の事がバレされたらどうなっちゃうんだろう。 ジャスミン達のことだから、 今までと同じように
接してくれるって思いたいけど、 でも、 やっぱり変に気を使って、 私の前ではお菓子の話とかしなくなっちゃうん
だろうか。 今まで見たいに普通に接してくれればいいのに、 私の前では話題も選ぶようになっちゃって、 自由に話せ
なくてつまらなくて、 それでなんとなく疎遠になっちゃうんだろうか? 高校の時の友達みたいに・・・。 そんなの
耐えられないよ。 今まで、 私の前で食べ物の話をされることほど嫌なことはなかったのに、 いざ機械の身体ってことが
ばれて、 変に気を使われるのはもっと嫌だ。 北崎にどう思われようがかまわない。 でも友達にだけは言わないで欲しい。
奴にそう頼むしかない。 お願いするしかない。 私は唇をかみしめて覚悟を決めた。
「まあまあ、 お姉ちゃん、 どうしようもないなんて言うんでない。 生身の人間のくせに、 私達のこと機械女だとか
人形だとか言うような奴にはお仕置きして口封じしないと駄目っしょや。 お姉ちゃんがサイボーグって人に言いふら
されたら困るんだったら、 言いふらされないように協力してあげよっか?」
815444:05/02/28 00:52:32 ID:tXbwJjrN
「ホント。 何かいい方法があるの?」
  私は着替える手を休めて、 下着姿のみっともない格好のまま茜ちゃんを見た。 口封じなんて物騒な言葉が飛び
出してるとこがちょっと引っかかるけど、 取り合えず茜ちゃんにすがるしかない。 さっき茜ちゃんの力は十分に見せて
もらった。 ひょっとして、 茜ちゃんならなんとかしてくれるかもしれない。
「にゃはは、 まあまあ、 アタシに任せておいて。 お姉ちゃんはアイツに挨拶でもしておけばいいっしょ。 あとは私が
うまくやってあげるっけさ」
  私より先に検査用の真っ白い服に着替え終わった茜ちゃんは、 早速ノートパソコンを自分の身体に接続して、
なにやらブツブツつぶやきながらキーボードをたたき始めた。 何をするかってことは、 うまくはぐらかされて教えて
もらえなかったけど、 でも何でもいいや。 茜ちゃん、 うまくやってね。 あなただけが頼りなんだからね。
  下着を脱いで、 端子を隠してるカムフラージュシールも全部剥がして、正真正銘すっ裸になった私は、 あらためて
自分の身体を見て憂鬱になった。 両脇腹にある電源の入出力端子とか、 両首筋のサポートコンピューターの接続端子とか、
両肩についてる各種検査用の端子とか、こういう私の身体のあちこちについてる端子を覆うカバーはもちろん肌と同じ
色に塗られてるけど、 やっぱり人工皮とは材質が違うし、 人工皮との継ぎ目もどうしたって目立っちゃう。 だから、
普段はシールを貼ってできるだけ目立たなくしているんだ。 シールを貼るのが義務ってわけじゃないけど、 一目で自分の
身体が普通の人間の身体じゃないって確認できちゃうのは、 やっぱりとても恥ずかしいことだし、 外見だけでも生身の身体
そっくりにしておきたいもん。 たとえ、 皮の下は冷たい機械の固まりだったとしてもさ。
816444:05/02/28 00:53:15 ID:tXbwJjrN
 でも、 検査の時は、 身体中の接続端子を全部使うから、 カムフラージュシールを全部剥がすことになってる。 だから、
毎月、 検査の度にこんなふうに端子の継ぎ目だらけの機械の身体なんだって嫌でも思い知らされるんだよね。 で、 この身体で、
端子の蓋を全部開けられて、 全身コードでぐるぐる巻にされてる姿を北崎見られちゃうわけだ。 もっと言えば今日は入院検査
だから、 そのうち手も足もバラバラに分解されちゃうはず。 機械の身体を軽蔑しているような人に、 人間じゃとてもあり
得ないような姿を見られるなんてぞっとするよね。 サポートコンピューターと脳の接続が切られてるから、 私自身が、 私の
身体を見てる北崎を見なくてすむのが唯一の救いだよ。 私はかっこだけのため息をついて、 検査用の白くてぶかぶかの不恰好な
服を身につけた。
  長いこと更衣室に入りっぱなしの私達が気になったんだろう、 松原さんが時計と睨めっこしながら更衣室に入ってきて、
熱心にパソコンに向かっている茜ちゃんを見つけて不機嫌そうに唇をとんがらせた。
「西田さん、 もう準備はいいかな。 友達へのメールは後でしてね」
「準備終わり。 ぎゃは!」
  茜ちゃんが私に向かってウインクした。 松原さんは、 それが自分に向けた言葉だと思い込んでにっこり。
817444:05/02/28 01:18:54 ID:tXbwJjrN
>>806-808
そうか、ガジェットワールドは八木橋ワールドと違って、サイボーグ技術は一般的
なものじゃなかったんですね。そんな世界で、望んで機械の身体になったわけでも
ないのに、短い期間とはいえ昔の友達や両親と暮らしたサチさん。しかも記憶喪失。
余り語られてはいませんが、相当辛い思いをされたものとお察し致します。
ユカリちゃんもこれからどうなっちゃうんだろう。
>>810
値段を決めるのは営業部の判断でしょう。そこには古堅部長や、開発課の皆さん、
総務部の汀さんや宣伝部の深町さんの意図は入っていませんから、と先に言って
彼らの名誉を守っておきます。
あ、深町さんは宣伝部だけにパンフレット作成には携わったかもと妄想。
>>813
おお、いいアイディアですね。面白そうだ。どこかで、そのネタ使ってみたいです。
イソジマ電工というよりも、他社企業の宣伝が入るってことでどうでしょう。
すでにイソジマの義体を使ってる人にイソジマの広告を見せるというのも
変な話なので。
818名無しさん@ピンキー:05/02/28 01:50:20 ID:8wXbSWh8
444さん、話の続きがとても気にります。
義体100%肯定派の茜ちゃんと、否定派の北崎君との関わりで
ヤギーも自分の体への気持ちがかわっていくのでしょうか。

萌えどころのヤギーの秘密が北崎君ばれて、どうなるかも
気になります。

茜ちゃんの方言は北海道弁でしょうか。
819580:05/02/28 03:07:06 ID:BbloZBDN
>>817
よかった。それでは、汀さんが言っていた、「結局は会社に利用されて
いるだけ」ということですね。古堅部長は、さぞかし不機嫌そうな顔を
したのでしょうね。

描き直してはみたものの、あまりいい構図にできませんでした。
脇腹って、色っぽい位置だと思うのですけれど…。
ttp://akm.cx/2d/img/12141.jpg

八木橋さんの一人エッチって、描いたらまずいでしょうか?
820580:05/02/28 20:29:34 ID:BbloZBDN
>>814-816
悩む八木橋さんの内面からの描写、すごく萌えました。こういう作品を読めて幸せ
です。ありがとうございます。
相手を気遣っているのに、かえって相手を苦しめたり傷つけたりしてしまう…難し
いです。義体の事を知っていて、それでも八木橋さんの負担にならないようにつき
あえる藤原君を尊敬します。
816みたいなシーンを、八木橋さん視点じゃなく見たい気もしますけど、こればっか
りは無理だろうなぁ。
821389:05/03/02 01:52:18 ID:Frtn5KNn
E−1
 
「あ、あれ?」
 ここはどこなんだろう。
 病室に似た質素な内装だけれど、床にはスパナとかドライバーとか、工具が散らばっている。
 私は夏の日が差し込む窓際のベッドに寝かされていた。
「あ、身体が…動く」
 上半身を起こして、部屋をぐるりと見渡してからようやく気が付いた。
(一体なんで動けなかったんだろ…)
 その答えを求めるように、自分の身体へ視線を落とすと、
「……え? なに、これ……?」
 私の身体が、真っ青に染まっていた。
 胸も、手も、足も、指先まで青い金属光沢を放っている。
「えっ…えっ…!?」
 その青い指で、全身をまさぐる。 返ってきたのは、無機質な金属の感触だった。
 ちょっぴり膨らんでいた胸も、水泳で引き締まった脚も。 私の全てが硬い金属になってしまっていた。
「なにが…どうなって…」
 ふと、私はあの記事を思い出した。
 何の罪もない少女を機械の身体へと改造し、窃盗行為を強要していた女が刑務所から消えた事件。
 そう、この私の身体は…数年前にガジェットという名で盗みを働いた少女の身体と、そっくりだった。
「まさか、そんな…私が、ガジェットに…!?」
 
 不意に、隣の部屋から女の声が聞こえた。
(まさか…)
 扉から犯人の女が現れて、お前は私の道具になったのだ、と告げる…その恐怖に耐えられなくなった私は、
 逃げ出そうとベッドから跳ね起きた。 その瞬間、
「!!」
 あの痛みが全身を駆け巡った。 まるで鉤爪が内側から身体を引き裂くような感覚。
 身体がベッドに倒れこむ。 身体が動かないんじゃなくて、痛くて動かせない。
 その音を聞きつけたのか、声の主がドアを開けて部屋に入ってきた。
「どうしたの、大丈夫!? どこか痛いの!?」
 それは、真っ黒い、私とそっくりな身体の少女だった。
822389:05/03/02 01:53:57 ID:Frtn5KNn
●E−2
 
 廃棄されていた少女、ミズサワ・ユカリさんが意識を取り戻した事で、事件は一気に解決に向かうと思われた。
 ところが、ユカリさんは、全身の激痛でほとんど証言が出来ない状態だった。
「その原因は、金属部と生体部のサイズ不一致と分かりました」
 カズヒロさんがホワイトボードを前に解説している。
「私のサイボーグ技術では、脳以外を全て機械に置き換えてしまいますが、あの女の技術では、補助的な
動力源として、全身の要所要所に人間としての筋肉を利用しています。 
 つまり、体内に主動力源や機械類、体表に金属外骨格、その間に筋肉がサンドイッチされた構造なんですが…
これらのサイズが不一致なために、全身の筋肉が金属パーツに圧迫され、痛みの原因になっているのです」
「う…わ…」
 身体の中に埋め込まれた機械の突起が筋肉に内側から食い込み、外からは金属の殻がその筋肉を内側へと
締め付ける。
(あの女に改造された私も、一歩間違えればそうなっていたのだろうか)
 想像するだけでぞっとしてしまう。
 
「カズヒロ技術官、なぜその手違いが生じたか、分かる?」
 警部さんが勤めて冷静に質問する。
「おそらく人違いかと、思われます。 本来改造されるはずだった少女の身体に合わせてパーツを製造したものの、
手術するときに、間違えてユカリさんにそのパーツを埋め込んでしまった、という事かと…」
「そんな…」
 理不尽だ、人違いなんて。 そんなの、拉致されて無理矢理 改造されてしまった私と何も違わない。
823389:05/03/02 01:56:21 ID:Frtn5KNn
●E−3
 
「となると、事を急がなければならないわね」
 警部さんが立ち上がり、カズヒロさんに代わってホワイトボードの前に立つ。
「急がないと、人違いのおかげで助かった少女まで、本当に改造されてしまう事になるわ」
「あ…確かにそうですね」
「でも、犯人やその少女の居場所は…」
「目星は付けたわ、県内のJ大付属病院よ。 改造手術が出来るだけの技術と設備を備え、かつ、
ここ一ヶ月間に“ミズサワ・ユカリ”という名前の子が救急車で搬送された記録があるのはここだけよ。
…もっとも、この県内と限っての話だけど」
「ちょ、ちょっと待ってください、それじゃ捜査令状は取れませんが…」
「責任は私が取るわ。 少女一人の肉体が失われてからでは遅いのよ」
 慌てるカズヒロさんをよそに、警部さんは一人でJ大付属病院に乗り込む気だ。
 
「警部さん、私が一人で行きます」 
「サチ…?」
「私なら、警察の介入と覚られないように隠密捜査することが出来ます」
「でも…」
「私がこの身体に…盗人であるガジェットの身体に戻ったのは、そのためです」
824389:05/03/02 02:06:14 ID:Frtn5KNn
>>817
>八木橋ワールドと違って、サイボーグ技術は一般的なものじゃなかったんですね
そういえば、説明してませんでしたね…
私の文章は時々説明不足になりますが、努力しますので皆さんよろしくお願いします
825444:05/03/02 04:16:16 ID:AYtx80Dr
  私達は松原さんに導かれて診察室に入った。 診察室っていっても全身義体用の診察室だから、 普通の診察室とは
似ているようで、 まるで違う。 診察台はもちろんあるけど、 診察台の横には大きなコンピューターらしき機械が、
でーんと置いてあって、 むしろ診察台よりその機械のほうが目立つくらい。 この機械と身体を接続して、 いろんな
検査をするんだよね。 診察台の上には大きなライトとか、 重い部品を交換したり取り付けたりする時に使う細長い
鉄製のアームがぶら下がっていて、 どう見たって診察台っていうよりも作業台だ。 たいして広くもなく、 窓もない
圧迫感のある部屋に、 そんな診察台が二台もあるうえに、 私と茜ちゃんと吉澤先生と助手らしい人が二人、 それに
松原さんと北崎、 そしてもう一人女子学生の計八人もの人がいて、 ずいぶん息苦しい。 いや、 息はしてないんだけどさ。
「八木橋さんも、 茜ちゃんも久しぶりだね。 今日は星修大学から研修生が来ているから、 申し訳ないけど脳とサポート
コンピューターの接続を切った後、 二人の身体を見ていろいろ説明することになると思う。 毎度すまんが宜しく頼む」
  私達の前に座った吉澤先生、 私達に向かって両手を合わせて許しを乞うしぐさをした。 全身義体化の技術は、 だいぶ
普及してきたとはいっても、 まだまだ東京でさえ対応できる施設は限られているし、 海外ではなおのこと。 だから、
毎月の検査で、 日本全国、 世界各国からの研修生を受け入れるなんてことは日常茶飯で、 それについては驚くことでも
珍しいことでもない。 別にお医者さん相手に自分の身体を恥ずかしがっても仕方がないことだし、 それより早く世界中で
義体の技術が一般化して、 私もジャスミンみたいにいろんなところを旅行できればいいなあ、 なんて思ってるくらいだから、
協力できるものは協力したいよ。 でも・・・でもね。 知り合い、 それも同じ大学の人に見られるなんて思いも
しなかったよ・・・。
「彼らが、 今日研修することになる星修大医学部の学生だ」
  吉澤先生が手を差し伸べた方向、 部屋の隅っこのメインコンピューターの横に、 北崎と女子学生が緊張気味に固まってた。
私は覚悟を決めて彼らに無言で会釈をした。 どうせ、 すぐばれることだからね。
826444:05/03/02 04:17:44 ID:AYtx80Dr
  案の定私を見た北崎の顔色が変わっちゃった。やっぱり私って分かるよね。
「や、や、八木橋さん。なんでここにいるの?」
「はは、 北崎君こんにちは。 私は、 その・・・見てのとおり全身義体のお人形さんなんだ。 機械女でした・・・。 今まで
隠しててごめんなさい。 今日検査入院するのは私なの。 それから彼女が茜ちゃん。 札幌から来たんだって」
  私は今できるせいいっぱいの笑顔を浮かべて、 つとめて明るく言ってみた。 本当は泣きたかったんだけどさ。 泣く
こともできないし、 しょうがないよ。 だったら、 明るく、 何も感じていないように振舞うしかない。
「さっきはドモー」
  茜ちゃんはノートパソコンのケーブルを首筋に差し込んだまま学生達に挨拶。 そのまま脇にノートパソコンをかかえて
立ち上がると、 学生達の近くの診察台にちょこんと腰掛けた。
「そ、 そうなんだ。 えと、 あの・・・」
  北崎は、 私と茜ちゃんを交互に見て、 しきりに額の汗をぬぐった。 北崎と同じ義体科だろう白衣の女の子は、 そんな
北崎を不思議そうに見ている。
「あのね、 北崎君は、 実際に全身義体の人と話したことはあるの?」
  我ながら怖いくらいやさしい口調だ。
「いや、 その、 検査入院に立ち会うのは今日が初めてだから・・・」
「そうなんだ。 じゃあ、 お願い。 これだけは覚えておいて。 私たち、 こんな身体でもあなたと同じ人間なんだよ。
私たちだって生きてるんだよう。 だから機械とか人形とか言わないで。 それが私たちが一番傷つく言葉だからさ。
それから大学の友達には、 このことは絶対に言わないで。 私たちだけの秘密にして。 約束して。 お願い」
「・・・分かった。 言わないよ。 うん、 言わない」
  北崎は自分に言い聞かせるようにそういったっきり、下を向いてうつむいた。
(お姉ちゃん、 そんなんでいいわけ。 それじゃあ甘すぎるよ。 コイツ絶対お姉ちゃんのこと、 しゃべるよ。
私がお姉ちゃんの代わりにお灸をすえてあげるから、 見ていてごらん、 ぎゃはっ!)
827444:05/03/02 04:19:24 ID:AYtx80Dr
  頭の中で茜ちゃんの声が響いた。 まさかまさかまさか、 また私の身体乗っ取るの?茜ちゃん、そんなこと
考えてたわけ?お願い、 それだけは やめてよう。 私は必死で叫ぼうとしたけど、 声が出せない。 その場を
逃げ出そうとしたけど、 身体がゼンゼン 言うことを聞いてくれない。 私のサポートコンピューターはあっさり
私を裏切って、 茜ちゃんについちゃった。
  私の身体を乗っ取った茜ちゃん、 立ち上がって北崎と向かい合った。 両手を腰にあててなにやら挑戦的なカッコ。
私の意志とは関係なく、 視線が北崎の全身を舐めるように動いた。
(茜ちゃん、 冗談でしょ! 私の身体で何する気だよう。 怒るよ! ホント)
  私は叫んだけど、 茜ちゃんは私を無視。 悔しいっ。 この糞ガキめ。 あとで、 あとでとっちめてやるから覚悟
しろよう。
「さて、 北崎君とやら。 これから、 私の力を見せてやるよ。 誰かにチクろうなんて気を二度と起こさ
ないように、 ね! ぎゃは」
  私の手が動いて指をパチンと鳴らした。 それが合図のように、 部屋の蛍光灯が突然切れて、 窓のない部屋は
真っ暗になっちゃった。
  次の瞬間、 私の背後の診察台に装備されてるライトが三つ、 パン! パン! パン! 耳障りな音をたてて
まぶしく光ったかと思うと、 ライトの支柱が、 まるで生き物みたいにゆらゆら揺れながら、 北崎達のほうに
伸びていって、 強く彼らを照らした。 真っ暗の部屋で、 強い光に照らされた北崎達の後ろにだけ、 はっきりと
黒い影が伸びた。 光は呼吸するみたいに、 微妙に暗くなったり明るくなったり、 不気味にまたたいてる。
北崎やもう一人の女の子の私を見る目、 恐怖で凍り付いてる。 額から油汗が流れてる。 ・・・まるで化け物を
見ているみたいな目で私を見ている。
(茜ちゃん。 お願い。 出て行って。 誰か、 助けて。 助けてよう。 松原さん! 吉澤先生! この身体を動かし
てるのは私じゃないっ。 誰か気付いて!)
  その化け物の中に閉じ込められている私は、 さっきから必死で叫んでるのに誰も気付いてくれない。
吉澤先生も松原さんも、 あまりの出来事に呆然と立ち尽くすだけ。
828444:05/03/02 07:58:16 ID:QNwtmvrP
>>818
茜ちゃんの方言は多分札幌と函館の言葉が混ざってると思います。
このしゃべり方には一応モデルがいます。
>>819-820
ヒャッホウ!新作ですね。すみません、お手を煩わせてしまって。
いや、十分色っぽいと思いますよ。有難うございます。
>八木橋さんの一人エッチって、描いたらまずいでしょうか?
これはまたすばらしい。相変わらず神のようなご発言です。
もう、ぜひ宜しくお願いします。
視点を変えるのは難しいなあ。ずーっと八木橋視点で進めちゃって
ますからねえ。これは統一したいと思ってます。だから
やるなら外伝って形になるんでしょうね。
>>821-823
ユカリさん、なんで痛がってるのかと思ったらそういうわけ
でしたか。文章読んだだけで痛さが伝わってきます。可愛そうに・・・。
829名無しさん@ピンキー:05/03/03 00:13:13 ID:5l6XxDmk
ヤギーさんがカミングアウトするところ、萌えました。
「同じ人間なんだよ」で泣けました。
感情を押さえて笑顔で秘密をばらすところは、ほんと切ないです。
大魔人にようになったヤギーさん、どうなるんでしょう。どきどきです。
830444:05/03/03 02:28:13 ID:O4LgacUY
「さて、 北崎君とやら。 これから私の力を見せてやるよ。 誰かにチクろうなんて気を二度と起こさ
ないように、 ね! ぎゃははははははー」
  私の身体を借りた茜ちゃんの笑い声に合わせてライトはピカピカとついたり消えたり。 とうとう
恐怖に耐え切れなくなった女の子が悲鳴をあげて部屋から逃げ出した。
  私の身体を乗っ取った茜ちゃん、 いったい今どんな顔で笑ってるんだろう。 周りからは私、
どんな風に見えてるんだろう。 もう・・・考えたくもない。 調子に乗った茜ちゃんは、 今度は
検査台の上の、 天井から垂れ下がってる作業用のアームを三本、 するすると北崎に向かって伸ばした。
あっさり壁際に追い詰められた北崎のまわりで、 からかう様にアームをぐるぐるまわしたかと思うと、
奴の鼻先でアームの先に取り付けられた爪を閉じたり開いたりしてカチカチと鳴らした。 私は、
義体の人だって同じ人間なんだってさっき北崎に言ったばかりなのに、 私の身体でこんなことされたら
まるで説得力がなくなっちゃうよう。 これじゃ、 私は機械か、 妖怪か、 そうじゃなきゃ悪魔じゃないか。
「ひいいいっ!」
  北崎はとうとう腰を抜かして、 悲鳴を上げてその場にへたりこんじゃった。 ごめん、 ごめんね、 北崎。
私はそこまでするつもりなんてなかったんだ。 ただ、 北崎にも義体の人だって、 ちゃんと生きてるし
心だってあるんだって事を分かって欲しかっただけなんだ。 それなのに、 それなのに・・・。 私は
茜ちゃんに事を任せたことを後悔するばかり。 でももう遅い。 私の身体は茜ちゃんのいいなりで、
私の意識は身体の片隅に追いやられちゃっている。 茜ちゃんが操ってる私の身体は、 油汗を流して白痴みたいに
目と口を大きく開いたままの北崎のところに悠然と近寄ってしゃがみこむと、 上目使いに北崎と目線を合わせた。
「私たちはサイボーグはこんなことだってできるんだ。 舐めんなよ。 ふふ、 例えば、 そうだねえ、
車のコンピューターをのっとってお前をひくことだってカンタンなんだ。 もしも、 アタシのこと、 誰かに
バラしたらねえ、 ひょっとしたら、 偶然、 車がお前を跳ねちゃうかもしれないっけさ。 そう、 偶然にね。
831444:05/03/03 02:30:13 ID:O4LgacUY
ぎゃは! ひょっとして運が良かったら命だけは助かるんでないかい? 私たちと同じ身体になっちゃうかも
しれないけどね。 くっくくくく」
  茜ちゃんが私の身体を使って嬉しそうに笑う。 まるで悪魔みたい。 いや北崎には私が悪魔そのものに
見えてるに違いないよ。 茜ちゃんはひとしきり笑った後で、 アームを操って北崎の頭をコンコンって軽く
叩いた。 そうしたら、 北崎
「ひっ!」
って悲鳴をあげたかと思うと失神しちゃった・・・。 怖かったんだよね。 そりゃそうだよね。 私だって、
怖い。 でも、 私は逃げることも隠れることもできないんだ。 だって恐怖の源は私の中にいるんだもの。
「八木橋さんの電源落としますっ! 伊藤さん! 中村さん! 八木橋さんを抑えてくださいっ!」
  ようやく我に帰った松原さんはそう叫んで助手の人達に指示を飛ばすと、 私の目線をチラッと掠めて
部屋の隅に置いてあるメインコンピューターのほうに走っていった。
(お姉ちゃん、 これだけ脅かせば多分やつは誰にも話さないよ。 良かったね。 ぎゃはは)
  茜ちゃんが笑い声とともに私のサポートコンピューターから立ち去って、ようやく私の身体に
自由が戻った。 同時に煌々と北崎を照らしていたライトは力を失ってだらんとぶら下がって、
アームは・・・私の頭に落ちてきた。
「痛ったーい!」
  私が頭を抑えてうずくまるのを見計らって助手が二人がかりで私に飛び掛ってきて、 私を
床に押し倒した。
「ちょっとまってよ。 今のは私じゃないんだよう。 本当だよう」
  いくら私が義体だっていっても大の男二人の力に適うはずもなく、 なすすべもなく押さえ
込まれて、 往生際悪く手足をジタバタさせるだけ。 助手の一人が半ば強引に私の首筋に制御
プラグを突き刺した。 そして・・・次の瞬間、 全身の力が抜けていった。 松原さんが私の
主電源を落としたんだ・・・。
832444:05/03/03 02:31:23 ID:O4LgacUY
「八木橋さん、 まだ起きてますね? 聞こえてますね? あなた自分のした事が分かってるの?
今からサポートコンピューターの接続を切ります。 しばらく暗いところで反省してなさい!
言い訳は、 検査が終わった後で聞いてあげます」
  お人形さん状態になって目を見開いたまま床で伸びてる私を見下ろす松原さん。 目が釣り
あがってる。 顔だって真っ赤だ。 半端じゃなく怒ってるよう。 なんで、 なんで、私は何も
悪くないのに。 サポートコンピューターの接続を切るって? 冗談じゃないよ。 やめて。
お願いだよう。
  松原さんが視界から消えるのと入れ替わりに茜ちゃんが現れて、 私の頭の横でしゃがみこんで
面白そうに私の顔を覗き込んだ。 私は茜ちゃんを睨みつけようとしたけど、 もう義眼も自由に
動かせない。 焦点の合わない目をぼんやり天井に向けてるだけだ。
「お姉ちゃん。 なかなか面白いものを見せてもらったよ。 ありがとう。 ぎゃは!」
  こ、 このチビ悪魔め。 あとで、 あとで、 たっぷり苛めてやるから覚悟しなさい! なんで、
なんであんたのせいで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。 悪いのは全部茜ちゃんじゃないかっ!
悔しいっ! 悔しいっ!
  プツン。
  テレビを消したみたいに義眼に映ってる画像が綺麗さっぱり消え去った。
  真っ暗。
833444:05/03/03 02:47:10 ID:O4LgacUY
黒茜トップギアで全開です。
おかげで白ヤギさんが黒ヤギさんに化けちゃいました。
出だしのセリフは間違えました。サイト転載時に変えておきます。
>>829
義体だって人間ですと言ったそばから、この変わりよう。
この落差が書きたかったのです。

834580:05/03/03 03:03:28 ID:KPYsOAoK
>>821-823
あいかわらず、捜査となると一人で突っ走るハツミ警部がいいです。
忌わしい記憶を乗り越えて、敢えてガジェットの身体に戻ったサチ
さんの決意もいいです。サチさん、どんな活躍を見せてくれるの
でしょう…。

ところで、前回のお話の時の“あの女”のボディカラーは、何色だった
のでしょう? また、普通の白衣だと、襟元等に露出部分がありますが、
白衣の下に何か身につけていたのでしょうか?
一応、ボディカラーは赤、白衣は露出部分のない特殊なデザインと思っ
ていますが、作者様の想定がありましたら、お教えください。

>>825-827
うぅ…また間に合わなかった…。思ったことはお伝えしたいので、この
まま書き込みます。830-832の方の感想は、後ほど。

普通の女の子なら、こんな時、羞恥で顔を真っ赤にするのでしょうか。
大粒の涙を流すのでしょうか。でも八木橋さんは、そんなことも許さ
れない。いつもと同じ顔色で、笑みを浮かべて、相手の善意を頼りに、
お願いするだけ…。北崎なんかに…北崎なんかに…。切ないです。
ちょっと部屋の隅っこで泣いてきます…。えぐえぐ・°・(つД`)・°・

茜ちゃんって、ほんとに八木橋さんと対極のキャラクターですね。ピン
チどころではない状況になってきましたが、この先、一体どうなるんで
しょう…。北崎君も、茜ちゃんが言うほど、悪い人ではないような気も
してきました。

>>828
ありがとうございます。後で色も塗っておきますね。お許しをいただけ
たので、エッチシーンの方も、頑張って描いてみます。
外伝ですか…。見てみたいシーンではありますが、作者様のスタイルに
反するようなことは、望んではいけませんでした。すみません。
835389:05/03/03 22:58:22 ID:9l5KMBnj
●F−1
 
 夜が更けたにもかかわらず、日中の蒸し暑さが和らぐ様子はなかった。
 といっても、機械になってしまった私は、自分の汗や体臭で煩わしい思いをすることがない。
「それじゃ警部さん、行ってきます」
「サチ、気をつけてね」
 見送る警部さんの顔は、不安に曇っていた。 
「大丈夫ですよ。 だてに十一回も警部さんを出し抜いてませんから」
「確かに…それもそうね」
 ちょっとだけ口惜しさの混じった警部さんの笑顔。
「じゃ、無事と成功を祈ってるからね」
 そう言って、警部さんは私のほっぺに軽くキスをした。
 
(警部さん、ちょっと変だったな)
 自分が捜査の陣頭に立っているときは、あんなにキリッとしているのに、私を見送るときは、
(なんか心細そうな顔をしてたような…)
 そんなことを思いながら、J大付属病院へと家々の屋上を駆けた。
 
 
 
 J大付属病院は、県内でも最大の病院だ。 のどかな田園風景の中にそびえる白い巨大なビルは、
遠くからでもよく目立つ。
 病室の明かりはほとんどついていない。 患者は充分寝静まってしるようだった。
 
 塀を難なく乗り越え、庭の植え込みを伝って、病棟の壁に張り付く。
(久しぶりね…この感じ)
 緊張と興奮、そして見つかる事への恐怖。
 でも、以前とは違う。 人を救うためだという確かな意思がある。
 今の私には、身のこなしだけでなく、心にだって隙はない。 
836389
●F−2
 
 機械の身体という私は、誰がどう見ても不審者だ。 かといって、光学迷彩の常時使用は
エネルギーの無駄使いになる。
 そこで、更衣室から看護服を一着、こっそり拝借する事にした。
「…と、これならパッと見バレないわよね」
 ロッカーの隣の鏡に自分の姿を映してみる。
 裾とニーソックスの間や、袖と手袋の隙間からチラリと黒い金属の肌がのぞいてしまうけど、
夜のうちは問題ないと思う。 頭のカチューシャ型のパーツは、ナースキャップでそこそこ隠れたし。
 
 変装を終えてまず向かったのは、院内のコンピュータールーム。
 誰もいないのを確認して、手袋を脱ぐ。 手首からプラグ付きコードを引出し、サーバーマシンに差し込んだ。
「管理の人には悪いけど…」
 体内のメモリに保存しておいた、特製ウイルスをサーバーマシンにインストールする。
 カズヒロさんが言うには、これはトロイの木馬という種類のウイルスで、感染したパソコンは
簡単にハッキングされるようになってしまうらしい。
『警部さん、聞こえますか? 任務その一、完了です』
 無線で成功を報告する。
『私は引き続き、看護婦に変装して院内の探索を続けますね』
『了解よ。 こちらはすぐに病院のパソコンに侵入して、データを引き出すわ。 何か分かり次第、連絡するわね』
『はい、早めにお願いします。 それじゃ、また』
『サチ、大丈夫? 怪しまれたり正体ばれたりしてない?』
『大丈夫ですって。 ちょっと不届きな物を見つけちゃいましたけどね』