1 :
名無しさん@ピンキー :
>1 乙!
3 :
前389:2005/05/11(水) 22:26:30 ID:5LDJY/bv
>>1
乙です。 ありがとうございます
前スレでも運良く389を踏んだので、
引き続きこの名でいきます。
4 :
前444:2005/05/12(木) 01:27:00 ID:BjdE6P1N
どんなに恐くても泣けない。 どんなに泣きたくても泣けない。 そんな感覚って分かるだろうか。 泣くことで
楽になるってよく言うよね。 昔は、 私もよく泣いたもん。 泣いて、 つらいものを全部洗い流して、 すっきり
して気持ちを切り替えたりしてたもん。 でも、 それができないんだよ。 どんなに恐くても泣けないものだから、
恐怖はいつまでも身体から出ていかないで、 頭の中でぐるぐる回りながら、 どんどん大きくなっていくんだ。
私、 もう耐えられないよ。
この身体は私のものじゃない。 鏡で見慣れた本当の私はここにはいない。 私は、 今の私は一体誰なの。
私は何者なの。 恐い。 私、 恐いよ。
(お父さん、 お母さん、 隆太、 どこにいるの。 助けて、 私を助けて。 このままだと、 私、 おかしくなっ
ちゃうよう)
家族を探してやるなんて息巻いていた、 さっきまでの私はどこにもいなかった。 私はもう、 洗面所の
床に崩れ落ちて、 頭をかかえてうずくまることしかできなかった。
「八木橋さん、 ここにいたのね! 八木橋さん、 八木橋さん」
いったい、 どれくらいの時間、 そうやって恐怖に苛まれていたんだろう。 どこかで誰かが私を呼んで
いる。 ずいぶん遠いところから声がしたような気がしたけど、 ふと顔を上げたら、 目の前に、 さっきの看護婦
さん、 汀さんが、 蒼ざめた顔で立っていたんだ。 きっと、 私のためだろう。 彼女、 空の車椅子を押してきて
いた。
「鏡、 見ちゃったのね・・・」
汀さんは私の様子を見て、 全てを悟ったんだろう。 肩を落としてうなだれた。
「私の顔が、 私の顔がなくなっちゃったよう。 どうして。 どうしてなの。 こんなの私の顔じゃないよう。 ねえ、
私、 どうしてこんな顔をしているんだよう? 私は本当に八木橋裕子なの? 私がお人形さんって、 どういうこと。
答えてよ。 ねえ、 答えてよ」
私がお人形さんって言ったところで、 汀さんの表情があからさまに変わったんだ。 はっとしたように口を押さ
えて、 そして今にも泣き出しそうな顔で私のことを見ている。 なんで、 お人形さんって言葉に、 そんなに動揺
するんだよう。
5 :
3の444:2005/05/12(木) 01:27:46 ID:BjdE6P1N
「お人形さんだなんて・・・、 いったい誰がそんなことを・・・」
汀さん、 しばらく黙っていたけど、 かすれた、 やっと聞き取れるくらいの声で、 ようやく、 それだけ言った。
「佐々波さんだよう。 私、 佐々波さんにここに連れて来られて鏡を見せられたんだ。 そしたら、 私、 佐々波
さんと同じ顔をしてたんだ。 なんでなのって聞いたら、 佐々波さんが、 私達がお人形さんだからって言ったん
だよ。 お人形さんってどういうことなのさ。 私の身体、 どうなっちゃったのさ。 看護婦さん、 知ってるんで
しょ。 ねえ、 どうして? 教えてよ! 教えてよ! 教えてよ!」
自分でも気がつかないうちに、 私は、 汀さんの足元で、 汀さんの膝を掴んでいた。 そして、 汀さんを見
上げて、 非難めいた口調で詰問していたんだ。 もし、 私が自分で立ち上がれたとしたら、 きっと喧嘩ごしに、
肩をつかんで揺さぶっていたに違いない。
「そうなんだ・・・、 佐々波さん、 そんなこと言ったんだ・・・」
汀さんは悲しそうにそうつぶやくと、 しゃがみこんで、 そっと私を抱いた。 そうして、 汀さん、 私が
落ち着くまで、 何も言わずに黙ってくれたんだ。 小さな肩だったけど、 今の私にはとても大きく感じられた。
そうして、 しばらく私を抱いてくれたあと、 汀さんは、 私の眼をみつめて、 そっとやさしく私の肩に
手を添えて、 穏やかに、 でもきっぱりと、 こう言ったんだ。
「八木橋さん、 落ち着いた? あなたは確かに八木橋裕子さん。 それは間違いないです。 あなたは人形な
んかじゃないし、 ちゃんと生きてる人間です。 もちろん、 あなたが会ってしまった佐々波さんだって人形
なんかじゃない。 あなたの顔が変わってしまった理由は、 佐々波さんと同じ顔をしてる理由は―――、
その理由をこれから説明しなくてはいけないの。 今、 あなたの病室に今回の手術を担当した吉澤先生が待っ
てます。 そこで、 全てを話しましょう」
6 :
3の444:2005/05/12(木) 01:30:20 ID:BjdE6P1N
>>1 スレ立て乙です。
まだ、途中でしたが、取り合えず保守する意味で、出来上がっている
ぶんだけ、うpします。
7 :
前389:2005/05/12(木) 01:59:55 ID:UNEC8mvs
では、新作をやらせていただきます。
ガジェットとは全くの別物ですが、どうぞよろしく。
8 :
前389:2005/05/12(木) 02:01:58 ID:UNEC8mvs
1−1
その子は、たぶんクラスの中で一番目立たない子だった。
昼休み、ほとんどの生徒が親しい友人と校庭で遊んだり、雑談している中、
ぽつんと一人 窓際の席で本を読んでいる。 そんな子だった。
「山根さん、今日は無断欠席みたいだけど…誰か山根さんの家に行った事のあるお友達いない?
プリントを届けて欲しいんだけど…」
だから、先生がこう呼びかけたとき、教室が気まずい沈黙に包まれたのも当然だった。
「誰もいないの? 山根さんのお友達…」
新任の先生は、何か見てはいけないものを見てしまったように戸惑った後、
「じゃあ、日直の沢木さん、お願い。 山根さんの住所はメモして渡すから、よろしくね」
その役目を、私に託した。
山根さんの家は、ごく普通の住宅街の、ごく普通の一戸建てだった。
呼び鈴を押す。 でも、返事がない。
ひょっとして留守かも、と思ったとき、
『…はい、どちらさまですか?』
山根さんの眠そうな声がインターホンから聞こえてきた。
「あ、同じクラスの沢木ですけど…」
玄関のドアを開いた山根さんは、寝起きのようなぼーっとした顔をしていた。
「えーと、先生からプリントと連絡をいくつか伝えて欲しいって頼まれたんだけど」
「わかったわ。 上がって」
山根さんは、嫌がるような様子でもなく、私を居間に案内してくれた。
9 :
前389:2005/05/12(木) 02:04:25 ID:UNEC8mvs
1−2
「これがプリントで…それで、今日決まったグループ分けが、こうなったの」
テーブル上のプリントを指差しながら、向かいに座る山根さんの顔をチラリと見る。
低い身長のせいか、目もとが長い前髪に隠れて、表情がよく分からない。
おまけに、私の言葉に対して淡々と相槌を打っているだけなので、なんとなく気まずかった。
「ところで山根さん、今日はどうして欠席に?」
必要な連絡を終えた後、さりげなく聞いてみる。
「別に。 昨日徹夜しちゃったから、ずっと寝てただけ」
山根さんは、プリントに目を落としたまま、そっけなく答えた。
(徹夜って…山根さん何に徹夜したんだろう…)
気になったけれど、山根さんの機嫌を損ねるような気がして、聞けなかった。
「あの、山根さん…トイレを貸して欲しいんだけど、いい?」
「ええ。 廊下の突き当りよ」
そこは女の子同士、事情は察してくれた。
「でも、他の部屋には絶対に入らないでね。 特に私の部屋には」
10 :
前389:2005/05/12(木) 02:08:58 ID:UNEC8mvs
1−3
トイレで用を済ませた後、私は妙な音に気が付いた。
何か、機械が動いているような音が、隣のドアから漏れてくる。
(何の音だろう…)
「他の部屋には入らないで」と言われたけど、ひょっとしたら、あの山根さんが徹夜するほど夢中になる
ものの正体が分かるかもしれない。
もし、それで共通の話題が見つかれば、山根さんと友達になれるかもしれない。
好奇心に駆られ、良心に言い訳をして、私はそっとドアを開いた。
(えっ……!?)
そこはまるで、別世界だった。
カーテンの閉められた薄暗い部屋。 うず高く積まれた古書。 大きな壷。 何の動物か分からない頭蓋骨。
それは、魔女の部屋と呼ぶにふさわしかった。
ただ、魔女には不似合いな物が一つ、机の上に置かれている。
大きめのマグカップほどの、銀色をした、謎の機械。
───ガシャン、ガシャン、
ゆっくりと歯車が回り、突き出た二本のピストンが交互に上下している。
(さっきの音の正体は、これだったのね)
まるで魅入られたように、銀色の機械をじっと見つめていると、突然、
「その機械に興味があるの? 沢木さん」
耳元でささやく山根さんの声がした。
「…っ!?」
さっきまでと同じそっけない声なのに、何故か私の背筋は凍りついた。
11 :
前389:2005/05/12(木) 02:30:21 ID:UNEC8mvs
いろいろと、サイボーグものらしからぬ要素が多いですけど、
よろしくお願いします
おお、新スレが立ったばかりだというのにもう2作品も投下されてる!
>>4-5 ヤギーはこの次あたりで一番悲しい事実に直面するのか…
>>8-10 何やら変わった様子の作品。これからも楽しみです。
13 :
前389:2005/05/12(木) 22:10:17 ID:UNEC8mvs
2−1
「や、山根…さん?」
おそるおそる振り返ると、いつの間にか山根さんが私の背後に立っていた。
「それ、今朝完成したばかりなの。 さわってみる?」
そう言って、山根さんは銀色の機械をテーブルから取り上げ、私に持たせた。
ずしり、と両手にひびく金属の重量感。
「山根さん、この機械は何? それにこの部屋、まるで…」
「“ソーサレス エンジン”…魔力を生成し、人体に供給する事で、一般人でも魔法が使えるようになる機械よ」
「魔法…」
「そう、この部屋を見て分かるでしょう?」
突然、山根さんの身体が眩く輝いた。
(!?)
光の中で、山根さんの服がほどけるように消え、その裸体の輪郭が一瞬浮かんだかと思うと…
「…私、魔女なの。 この通り」
鍔広の三角帽に紺のローブ、手には樫の杖。 山根さんは、まさしく魔女の姿となっていた。
「や、山根さん…?」
呆気にとられ棒立ちになっている私に、山根さんが杖の先端を向ける。
次の瞬間、私の身体が宙を飛び、後ろの壁に叩きつけられた。
「んあっ!」
背中を打つ鈍い音に、がちゃりと施錠の音が混じる。
「……えっ、いつの間に!?」
両手首と両足首の四か所に金具がはめられ、私の身体は壁に固定されていた。
揃えられた両足と、水平に伸ばされた両腕。 まるで、十字架に貼り付けられた罪人のような姿勢だった。
「な、何これ、放して!」
「…こんな一目で魔女と知れるような部屋を見られたら、普通は生かして帰さないのよ。 私の部屋には
入らないでって、あんなに念を押したのに…」
「ひっ…」
14 :
前389:2005/05/12(木) 22:12:06 ID:UNEC8mvs
2−2
「でも、沢木さんには実験台になってもらうことで、許してあげる」
無感情な山根さんの口調が、僅かに緩んだ。
「実験台…?」
「そう、そのソーサレス エンジンの。 ちょうど今朝完成したばかりで、誰で実験するか決まってなかったし」
いつの間にか、あの銀色の機械は机の上に戻っていた。
「実験台って…私に何をするの…!?」
「それを沢木さんの身体に埋め込むの。 あとは、定期的にデータを採取させてもらう。 それだけよ」
「埋め込む…って、それを、私の中に? 嘘でしょう!?」
───ガシャン、ガシャン、
縦横に噛み合う無数の歯車、クランクの回転に同調し上下するピストン。 時計のように単調な運動を
繰り返す金属のカタマリ。
あれが、あんなものが私の中に入ってくるなんて、考えたくない…
「そんなに嫌? 運がよければ、沢木さんも私と同じ魔法使いになれるのに」
「…運が悪かったら、どうなるの?」
「さあ、分からないわ。 だから実験するんじゃない」
山根さんがゆっくりと歩み寄ってきた。
「い…いやぁぁ!」
山根さんが、私の制服に手をかける。
ブレザーのボタンを外し、首のリボンを解き、ブラウスの前をはだける。
私のまだ未熟な胸を覆う、女の子の下着があらわにされた。
「これも、邪魔ね」
「ひっ」
冷たい手がブラウスの内に滑り込み、背中のホックを外した。
「いやぁ…」
容赦なくブラが上にずらされ、膨らみかけの乳房が顔を出す。
「これで準備は完了…それじゃあ、始めるわね」
そう言って、山根さんは前髪の下から覗く口元をほころばせた。
15 :
前389:2005/05/13(金) 20:40:02 ID:SYfeo/dl
2−3
山根さんが、手にした杖で銀色の機械を軽く叩き、私の胸を指し示す。
「さあ、行きなさい。 ターゲットはあの娘よ」
機械がふわりと浮き上がり、宙を滑るようにゆっくりと私に向けて動き出した。
「い、いや、来ないで…来ないで!」
機械が、肌をさらけ出された私の胸に迫ってくる。
必死に身をよじったけれど、全く無駄な抵抗だった。
「ひっ!」
胸に押し付けられる冷たく重い金属の感触。 そして、
「っ…!?」
ぐにゅ、と、私の皮膚を切り裂くのでもなく、突き破るのでもなく、その機械は
まるで泥沼に沈むようにずぶずぶと私の中に侵入を始めた。
「ぁ…ぁ…」
大きな異物が体内に食い込んでいく感覚。
胸の内部を圧迫されて、思うように息ができない。
(何これ、気持ち悪い…いや、助けて!)
ゆっくりと、私の肉と臓器を押し分けて、私の奥深くへ入り込んでくる機械。
やがて、その本体が完全に私の中に埋没しても、機械の侵入は止まらない。
もっと奥、私の中枢へ。
蹂躙される臓器が悲鳴を上げた。
(いやあぁぁ)
そして、その質量の位置が私の胸の一番奥、身体の中心に達したとき、ガチンという金属音とともに、
心臓が砕けたかのような衝撃が走った。
「…あ…ぁ…!!」
それが、私と機械が一つになった瞬間だった。
16 :
前389:2005/05/13(金) 20:41:53 ID:SYfeo/dl
2−4
その日の夜、私は自分のベッドに腰掛けながら、ぼんやりとしていた。
あの後、私がどうやって山根さんの家を出て、自宅に帰りついたのか、ほとんど覚えていない。
(本当に、現実の出来事だったのかな…)
パジャマの前をはだけて、自分の胸をそっとなでてみる。
何の痕も残っていないし、痛みがあるわけでもない。
埋め込まれた直後はあんなにひどかった胸の奥の異物感も、今は消えてしまっている。
(うん…そう、きっとあれは夢…)
明日、また山根さんに会えば、はっきりしてしまう事だけど、せめて今夜眠るときだけでも、
あのことは夢だったと自分に言い聞かせる事にした。
部屋の明かりを消し、布団にもぐりこんで、目を閉じる。
(………)
───トクン トクン
夜の静寂の中、自分の心臓の音が聞こえてくる。
───カシャン
(えっ!? 今の音…)
確かに聞こえた。 あの機械の音が。
(一体どこから…)
───トクン カシャン トクン カシャン
(あ……)
考えるまでも無かった。
音源は私の中。
心臓と交互に音を発しながら、あの機械は確かに私の中で稼動を続けていた。
17 :
前389:2005/05/13(金) 20:45:13 ID:SYfeo/dl
このシチュエーションをやるには、魔法という設定がいいかと思った次第です。
どうでしょうか?
すばらしすぎです。「トクン カシャン」に萌えた。
保守しておこう
20 :
3の444:2005/05/15(日) 02:27:58 ID:EoXE38ud
結局、 私は汀さんに半ば強引に車椅子に乗せられて、 自分の病室まで連れていかれたんだ。 中ではすでに白衣姿の
お医者さんが私たちの到着を待っていた。
「こちらが、 今回、 あなたの手術を担当した、 吉澤先生。 タヌキに似ているけど、 腕は確かなのです」
「こら、 タヌキは余計だ」
汀さん、 おどけた調子でお医者さんを紹介してくれた。 タヌキ呼ばわりされた吉澤先生は、 口調ほどには怒っている
わけではなく、 私に向かって大きな口を左右に広げて、 にいっと笑った。 私、 とてもそんな気分じゃなかったはずなのに、
つい、 くすりと笑っちゃったよ。
吉澤先生、 汀さんのいうとおり、 失礼だけど、 タヌキそっくりなんだ。 それも、 動物のタヌキじゃなくて、 飲み屋
なんかに置いてある瀬戸物の狸ね。 小太り体形で、 眼はまんまるで人懐こそう。 多分四十は越えているんだろうけど、 そ
の割に肌はつやつやしてなんだか年齢不詳。 白衣姿よりもどっちかというと、 笠かぶって釣竿でも持ってるほうが似合いそ
うな風貌の人だ。
「元気そうで何より。 八木橋さん、 ちゃんと握手はできるかな?」
吉澤先生はおもむろに手を差し出した。
「は、 はじめまして」
いきなり握手を求められて、 ちょっとびっくり。 おずおずと吉澤先生の手を握る私。
「ホホウ、 強すぎず、 弱すぎず。 ちゃんと握れてるね。 まずはよし、 よしだ」
先生は、 私の手の感触を確かめるように、 何度も握り返すと満足そうに眼を細めた。 さっきの汀さんといい、 今の
吉澤先生といい、 私ができて当たり前のことをこなすだけで、 やけに嬉しそう。 いったいなんなんだよう。
「私はイソジマ電工という会社から派遣されたケアサポーターの汀です。 これから、 あなたのリハビリを担当することに
なります。 あらためてはじめまして」
汀さんって名前だけは、 さっき佐々波さんから聞いて知っていたけど、 その他のことははじめて聞くことばかり。
汀さんって、 看護婦さんだとばかり思っていたけど、 どこかの会社から来た人なんだ。 つまり、 キャリアウーマンって
いうやつなんだろうか。 ちょっと意外だった。
21 :
3の444:2005/05/15(日) 02:29:04 ID:EoXE38ud
「ちなみに、 下の名前は環。 だから私は、 タマって呼んでいる。 本人は猫じゃなくて鼠だけどな」
タヌキ呼ばわりされた仕返しだろうか。 吉澤先生は汀さんを鼠呼ばわりだ。 鼠はひどいけど、 汀さん、 確かに、
動物に例えたらリスみたいな可愛い顔をしているよ。 タヌキとリスかあ。 いいコンビだよね。 ははは。
「体の具合はどうだろう? 何かおかしいところはあるかな?」
私の緊張がちょっとほぐれたところで、 吉澤先生は椅子に座って、 車椅子の私と向かい合う格好になった。 いよ
いよ診断開始だ。
「おかしいところって、 全部おかしいよう。 おかしいところだらけです。 先生。 私の身体、 どうなっちゃったんですか?
私の顔、 まるで別人です。 声だって、 私の声じゃない。 涙も出ないし、 眼はよくなっているし、 足は思い通りに動きま
せん。 身体の感覚もなんだか今までとは違うみたいです。 どこがどう違うかは上手く言えないけど、 でも、 私の身体が
私のものでなくなったような、 なんだかものすごい違和感を感じるんです。 教えてください。 私の身体、どうなっちゃった
んですか?」
お医者さんを目の前にして、 私の口から、 今までに感じた疑問の全てが堰を切ったように溢れた。
「それだけ話せる元気があってよかった。 とりあえず手術は成功だな。 安心した」
吉澤先生は、 しきりにうなずきながら、 私の話に聞き入って、 最後にそう言って笑った。 私も、 先生にそう言われて、
なんだか分からないながらもホッとしてしまう。 だけど吉澤先生、 いままでの柔和な表情から、 急に真剣な顔つきになった
んだ。
「八木橋さん。 これから私は、 八木橋さんにとって、 とてもつらい話をしなくてはなりません。 この話が、 先ほど、 八木
橋さんが聞いた全ての疑問の答えになります。 最後まで落ち着いて、 よく聞くこと」
いよいよだ。 いよいよ、 私が、 今まで感じ続けてきた自分の身体についての疑問が明らかになるんだ。 でも、 つらい
話って、 なんだろう。 私は緊張で身を硬くした。 手をぎゅって握り締めた。
22 :
3の444:2005/05/15(日) 02:29:56 ID:EoXE38ud
「交通事故に巻き込まれた八木橋さんは、 瀕死の状態でここ、 府南病院に運び込まれました。 全身の数十箇所を骨折、 内臓
も七割が破裂、 正直なところ、 病院に運び込まれた時点でまだ息があるのは奇跡としかいいようがありませんでした。 それ
くらい、 八木橋さんの体は、 もう手の施しようがない状態だったのです」
「そうだったんですか・・・」
私、 顔が別人のように変わってしまっているし、 足が思い通りに動かなかったり、 他にもうまく言葉にはできないけれど、
まるで私の身体が別人になったみたいな、 ものすごい違和感を感じていたので、 私の身体の怪我は見た目以上にひどかったの
かなとは、 薄々気がつき始めていた。 だけど、 そこまでひどい状態だったなんて・・・。 死に掛けていたなんて、 今、 初
めて知った。
でも、 おかしいよね。 もしも、 私の身体がそんなふうに滅茶苦茶で手の施しようがない状態だったっていうのなら、 今、
曲がりなりにも五体満足で、 身体に痛みもないし、 ぴんぴんとはいかないけど、 ちゃんと動き回れるのはどうしてなんだろう。
私の疑問に答えるかのように吉澤先生は言葉を続けた。
「そんな状態だった八木橋さんの命を救うには、 義体化手術以外に方法はありませんでした」
「ぎたいか手術?」
私の知らない言葉だった。 ぎたいかってなんだろう?
一呼吸置いてから、 再び吉澤先生は話始めた。 その口から語られたのは、 私にはとうてい認めることができない、あま
りにも残酷な事実だった。
「手足を失った人のために、 人工的に作った手や足を義手とか義足といいますね。 同じように身体を失った人のために人工
的に作った身体を義体といいます。 そして、 何らかの理由で、 肉体を失った患者に、 義体を与えるための手術を義体化
手術というのです。 八木橋さんに施した義体化手術は、 その中でも全身義体化手術といって、 もっとも高度なものでした。
具体的には、 あなたの脳を機械の身体、 義体に移植する手術だったのです。 いいですか、 ショックかもしれませんが、
落ち着いて聞いてください。 あなたの身体の中で、 あなたのもとのままの部位は脳だけです。 他は全て、義体に置き換わっ
ています」
23 :
3の444:2005/05/15(日) 02:44:10 ID:EoXE38ud
汀さんが、 吉澤先生のあとを受けて話を続けた。
「八木橋さんの新しい身体はイソジマ電工で用意させてもらいました。 緊急で手術が必要だったから、 八木橋さんの義体を
用意する時間がなくて、 とりあえず、 今のところは出来合いの義体を使ってもらっています。 八木橋さんの顔が別人になっ
ちゃったのは、 そのせい。 佐々波さんがあなたと全く同じ顔をしているのは、 彼女にも、 あなたと同じタイプの既製品を
とりあえず使ってもらっているからなの」
脳を機械の身体に移植した? 一瞬、 吉澤先生と汀さんが何か悪い冗談を言っているんじゃないかと思った。 私の肌は
ぱっと見には人の身体そのままだし、 手触りだって軟らかいんだよ。 そんな私の身体が、 全部作り物だって言われても、
そんなの信じられるわけないよ。
機械の身体って、 つまり吉澤先生、 私をサイボーグにしたって言ってるわけだ。 でも、 サイボーグなんて警察とか
自衛隊とか宇宙開発事業団で働いている特殊な、 自分とは住む世界が違う人達のことだと思っていた。 だから、 いきなり、
こんなありきたりな、 なんのとりえもない女子高生の私がサイボーグになりました、 なんていわれても、 余りにも現実
離れしていて、 冗談にしか聞こえないよ。
でも、 でも、 自分の身体が機械になっちゃったとしたら、 全てのことが説明できるんだ。 私の眼が突然よくなった
ことも、 声が変わっちゃったことも、 私の顔が別人になっちゃったことも、 佐々波さんが、 お人形さんって言ったことも、
泣きたくても涙が一滴も流れなかったことも、 そして、 この身体が、 別人になってしまたような例えようもない違和感も、
全部。 でも、 まさか、 そんな・・・、 そんな・・・。
「この身体、 全部作り物だっていうの? 私の脳が入っているだけの、 ただの入れ物だっていうの? 佐々波さんのいう、
お人形さんってこういうことだったの・・・。 嫌だっ! そんなの嫌だ。 私は信じないよ。 絶対信じない。汀さん。 嘘で
しょ。 嘘なんでしょ! 先生、 嘘っていってよう。 私の身体、 返してよう。 戻れるんだよね。 私、 元の身体に戻れる
んだよね」
24 :
3の444:2005/05/15(日) 02:46:34 ID:EoXE38ud
「残念ながら、 君の本当の身体はもう存在しない。 元の身体に戻ることはできない」
吉澤先生の口から出たのは死刑宣告等しい冷酷な事実だった。 もう身体がないなんて、 脳だけしか残っていないなん
て、 そんなの生きているなんてとても言えないじゃないか。 そんなの死んでるのと同じだよ。 いや、 このまま、 機械
仕掛けの人形の中に魂を押し込められて一生を過ごさなければならないのなら、 いっそ、 死んだほうがまだよかったかも
しれない。
私の、 もとの血の通った暖かい身体。 胸だって大きいわけじゃなし、 足もすらっと長かったわけじゃなし、 おせじ
にもモデル並の体形なんて言えた身体じゃなかったけど、 でも、 やっぱり自分の身体が大好きだ。 だって、 かけがえの
ない、 たった一つの私の身体だよ。 決して才能に恵まれなかったけど、 それでも頑張って、 頑張って頑張りぬいて補欠
であっても二年生で選手の座を掴んだ私の身体だよ。 その身体に、 もう二度と戻れないんだ。 もう二度と・・・。
「私に、 これから一生この人形の中に入って暮らせっていうの? こんなの私の顔じゃないし、 私の声じゃない! どんな
に綺麗な顔でも、 どんなにスタイルのいい身体でも、 所詮ただの人形じゃないか。 ただの機械じゃないか。 嫌だ。 そん
なのあんまりだ。 勝手に人の身体を機械に換えちゃうなんて、 ひどいよ、 ひどいよ、 ひどいよ」
私は、 思わず自分の身体の状態も忘れて立ち上がって、 握り拳で吉澤先生の胸を叩こうとしたんだ。 そして、 案の
定バランスを崩して床に倒れてこんで、 みっともない四つんばいの格好のまま床に突っ伏して、 吉澤先生の足を、 ひどい
よ、 ひどいよって言いながら叩き続けたんだ。
25 :
3の444:2005/05/15(日) 02:47:54 ID:EoXE38ud
「八木橋さんの言うように、 義体化手術は、 本来であれば本人の同意なしには行うことはできない。 しかし、 今回のよ
うに、 患者に意識がなく、 すぐにでも義体化しなければ、 命が危ない場合に限ってのみ、 本人の同意がなくとも、 医師、
つまり私の判断で義体化できることになっている。 八木橋さん、 すまない。 勝手に八木橋さんの身体を機械に換えたのは
私だ。 全部、 私の判断で行ったことだ。 目の前で失われようとしている命を見殺しにすることは、 私にはとてもできな
かった。 八木橋さんを救うにはこうするより他に方法はなかった。 すまない、 許してほしい」
吉澤先生は、 私に叩かれるがまま、 私を怒りもしないし、 なだめたりもしない。 ただ、 静かに、 そう言って頭を
下げた。
「今の義体はあくまでも緊急的なものなの。 これから、 イソジマ電工で八木橋さんのもとの身体そっくりの義体を作りま
す。 それができたら、 また改めて身体を交換してもらうことになっているの。 声だって、 ちゃんとデータを収集して
昔のあなたの声を再現する。 だから、 今あなたが感じている違和感はだいぶなくなると思うの。 それまで、 ちょっとだけ
我慢して。 お願い」
そう言って、 汀さんは、 吉澤先生を叩き続けていた私の手をぎゅっと握り締めた。
吉澤先生は、 私を機械にしたくて手術したわけじゃない。 私を救うために仕方なくしたことなんだ。 汀さんだって、
私のショックをできるだけ和らげようとして、 慰めの言葉をかけてくれている。 みんな、 私の命を救うために、 一生懸命
だったんだ。
26 :
3の444:2005/05/15(日) 02:51:04 ID:EoXE38ud
でも、 そんなことは後で冷静になってはじめて分かること。 このときの私は、 私の身体を勝手に機械にした吉澤先生が
憎いとしか思えなかった。 汀さんの慰めの言葉も私にはただの嫌味としか聞こえなかった。 だから、 私の手を握り締めて
いた、 汀さんを乱暴に跳ね除けて、 睨みつけたんだ。
「汀さん、 嘘ついたね。 さっき、 私の事人間だって言ったばかりじゃないか。 人形なんかじゃないって言ったじゃないか。
身体を交換するだって? 私そっくりの身体を用意するだって? それだって結局機械仕掛けの人形ってことには変わらないん
でしょ。 結局、 私は人形のままなんでしょ。 こんな身体になって、 私どうすればいいんだよう。 これからどうやって生
きていけばいいんだよう。 答えてよ。 答えてよ」
「八木橋さん、 落ち着いて。 いくら身体が機械でも、 八木橋さんには心があるじゃない。 どんな身体になっても、 八木橋
さんは八木橋さんなの。 あなたは決して人形なんかじゃないんだよ。 そんな悲しいこと言わないで」
「そんなこと言ったって、 私だけこんな身体になって、 お父さんやお母さんにどういえばいいんだよう」
そうだ! 私のお父さんは、 お母さんは、 隆太はどうなったの? 今どこにいるの?」
そう、 私、 自分の身に降りかかったことの大きさに、 家族のことを忘れていた。 私のお父さんは、 お母さんは、
隆太は、 一体どこにいるんだろう。 私が、 自分の身体を失うくらいの大事故だったんだ。 みんな無事だろうか。
ううん、きっと無事に決まってるよ。 そして、 別人みたいな顔になって、 機械の身体になっちゃった私でも暖かく迎えて
くれるよ。 そうに決まってる。
27 :
3の444:2005/05/15(日) 03:01:23 ID:EoXE38ud
>>17 とうとう新連載がはじまりましたね。
山根さん、魔法使いというよりもマッドサイエンティストって感じですね。
無理やり魔法使いに改造された沢木さん、これからどんな事件に巻き込まれ
るんでしょうか?わくわくしますね。
ところで、この話、題名はあるのでしょうか?
手術もイイですが、徐々に変化していくっていうのはイイですね。
ナノマシンを使って、徐々に変化していくとか書いてみようかな。
29 :
ナノマシン:2005/05/15(日) 23:48:17 ID:fIyTEeQz
目が覚めると、視界が違うことに気付いた。
メガネをかけないと足元も見えなかった筈なのに、今では遠くの物もはっきりと見える。
(もう、時間がないわ…)
自分が徐々に別の存在に変わっていくことが分かる。
既に、身体の中につまっているのが、肉ではなく機械であることも。
パジャマをめくると下腹部を中心に金属質の部分が表皮まで侵食している。
(なんで私がこんな目に会うの?)
あの日、あんな目に会わなければ私もこんな身体にならなかったのに…
気が付くとそこは手術台のような場所だった。
裸で手足を拘束され身動きできない。
口には猿轡がされており、声を上げることも出来ない。
(なに? ここは何処?)
恐怖に震える私は、以前のことを思い出した。
コンパの後、終電を降りて最寄り駅からの帰り道。暗い道で口元にハンカチのようなものを押し付けられて気を失ったのだ。
(誘拐?)
私はどうなってしまうんだろう?
不吉なイメージばかり浮かぶ。
しかも、この手術室。何をされるのだろう?
30 :
ナノマシン:2005/05/15(日) 23:49:46 ID:fIyTEeQz
数分とも、数時間ともとれる時間が過ぎた。
恐怖で気が狂いそうな私に一つの変化が訪れた。
ライトがついて私を照らしたのだ。
(何が起きるの?)
その変化にまたしても恐怖を感じる。
(解剖されちゃうの?)
そんなことを考えていた時、音も無く部屋の隅の扉が開いた。
そこからは、白衣の男が2人入ってきた。
一人は無針注射器のようなものを抱えていた。注射器の中身は奇妙な虹色に輝く物だった。
「目が覚めているようだね」
注射器を持った方の男が語りかけてきた。
私はとりあえず首を縦に振る。
その間、もう一人の男は私の下腹部をアルコールの付いたガーゼで拭いていた。
アルコール消毒特有のスーッという感覚がした。
「これから、君の身体にこのナノマシンを注入する」
男は宣言するように言った。
「君の身体は徐々に内側から改造されて、約2ヶ月かけてサイボーグになるんだ」
「んー!んー!(嫌!止めて!)」
必死に抵抗するが、手足の拘束は全く外れなかった。
そのまま注射器が押し当てられ、プシュッっという音と共に虹色の物が身体の中に流れ込んでいった。
31 :
ナノマシン:2005/05/15(日) 23:51:18 ID:fIyTEeQz
目が覚めると、そこは自室のベットの上だった。
「夢… だったの?」
思わず、パジャマをめくって確かめる。
何も無い。
「ふう、嫌な夢だった」
声に出して言う。心臓が落ち着くのを待つ。
ふと、時計を見ると8時を指していた。
学校へ行かなきゃ。
急いで準備をしつつ、パソコンを立ち上げる。
メールチェックをしなくちゃ。
メーラーを立ち上げると、いくつかメールが届いている。
由美子と久美から1通ずつ。
あと一つ、差出人doormaster?何これ?
メールを開く。
そこには、フレームワークの人型と下腹部に虹色の塊が映し出されていた。
そして短い文章が続いていた。
inside … 1%
skin … 0%
君の身体の改造状況だ。毎朝データを送る。
なお、一定値まで改造が進んだら回収する。
文面はそれだけだった。
(夢じゃない!)
絶望が再び私を包んだ。
32 :
名無しさん@ピンキー:2005/05/16(月) 19:45:26 ID:+jLRpy+l
ナノマシン乙。サイボーグ化手術を宣告され、嫌がりながらも無理矢理改造されてしまうところに萌えました!これからもがんがってください!
33 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 00:11:16 ID:QabtZQnE
22XX年、12月28日。
東京湾を埋め立てて作られた「新都心ランドコア」
150年前に日本を巻き込んだ世界大戦が起こり、東京をはじめとする日本の各都市も空爆、テロなどで破壊された。
世界大戦は結局、戦争を起こした東アジアの某軍事大国の内乱により、その大国が分裂し、独裁政党は壊滅し、一応の終息をみた。
その終息までの期間、約4年間。
その間に、東京はその軍事大国の放った核ミサイルによって、ビルも何もない焼け野原になった。
だが、戦後復興にかける人々の思いは強く、放射線の影響の強い旧都心とは別に、東京湾にもう一つの都心をつくった・・・
そして、150年ほどの月日が経った。
その店の中には退廃した空気が充満していた。30人もの若い男女が様々な痴態を繰り広げていた。
カウンターの上でセックスにふける者、アルコールで真っ赤になった顔で素っ裸になってわめき散らしている者、店の片隅で裸のままで雑魚寝している男女・・・
タバコの煙で視界もままならない不健康な空間で、その30人もの若者たちの表情には、ある共通した恍惚感があった。
34 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 00:12:30 ID:QabtZQnE
店の店長はこういった地下にもぐった怪しげな店にふさわしく、人目でその筋の人物とわかる男だった。
その店長の前も多くの若者がたむろし、その中の一人の男がカウンターから店長に呼びかけた。
「ねえマスター、『ブルーローズ』の高純度のやつ、あるんだろ?こんな混ざり物じゃないやつ」
クスリでラリッているその表情は若者とは思えないくらいにひからびて、光のない死んだ眼が意味無くへらへらと笑っていた。
「・・・いっとくが、今時これほどの純度の高い奴は、ランドコアでも滅多に入手できねえぞ。
当然、それだけの銭は持ってきているんだろうな」
「へへへ、俺をみくびるない。ほれ」
若者はふところからカードのようなものを取り出した。
一種の電子マネーである。
店長はその電子マネーに表示された金額をみて、納得したようだった。
「ふっふふ、これだけの金が入るんなら文句はねえぜ。おまえさんの廃人行きは決定的だが、まあみせてやるよ」
店長はいったん店の奥に下がり、やがて袋に何かをつめて戻ってきた。
「へっへっへ、これが純度100%の『ブルーローズ』か」若者は、袋から青い結晶のような物を取り出し、舌で舐めてみた。
35 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 00:13:32 ID:QabtZQnE
「下手をすると死ぬぜ。それとも他で売りさばく気かい?」
「へっへっへ、それは秘密だ」
「ふふ、聞くだけ野暮だったな。せいぜい取り扱いに気をつけるんだな。そのブツが別名『地獄への片道切符』と呼ばれているんだぜ」
「知っているよ・・・マスター、これであんたも地獄行きだ!!」
「・・・・な、なんだって!?」
突然、その若者の死んだような眼に強い光が差したかと思うと、大きな声で叫んだ。
「今現場を押さえた。踏み込め!!」
36 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 00:26:13 ID:QabtZQnE
それから十分もしないうちに、全てのことは片付いていた。
店は突如踏み込んだ警察部隊によって制圧され、店のマスターはあの若者によっていつの間にか後ろ手をとられ、冷たい電子手錠がガチャリとかけられた。
その若者の動きは、とても麻薬でラリッている者とは到底思えない俊敏な動きであった。
「よう、翔也、ご苦労さん」
50半ばのごま塩頭の刑事が若者に呼びかけた。
「宮下さん、今回は苦労しましたよ。すぐにヤクの解毒カンフル用意してくださいよ」
翔也はふらつきそうな足をなんとか安定させて笑った。おとり捜査とはいえ、自ら麻薬中毒者になるのは結構体にこたえる。
「しかしほんとに危険な綱渡りが好きだなあ、お前・・・下手すりゃ死ぬぜ」
「へっへ、あの極悪マスターにも同じことを言われましたよ」
「お、解毒カンフルがきたよ、ほれ」
「サンクス!」
37 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 00:38:08 ID:QabtZQnE
「ちくしょう!!はなせよ、この犬!!」
「てめえ、よくも騙しやがったな、覚えてやがれ!!」
警察によってしょっぴかれていく男女が口々に悪態をついていたが、警視庁麻薬取締り捜査官、美剣翔也は何処ふく風とすましていた。
警察の手によって高純度の麻薬「ブルーローズ」は押収された。この「ブルーローズ」によって、最近多くの若者が命を落とすことも多い。
宮下刑事はランドコアの若者たちの退廃ぶりに大きなため息をついた。
「麻薬、フリーセックス。ほんとよく崩壊しないなあ、この国は」
「宮下さん、あんまり悲観しないほうがいいよ。俺みたいなやつもいることだし」
「まあな・・・」
宮下は翔也の生い立ちを思い、ふと表情を曇らせたが、当の翔也はそんなことを全然気にしていないそぶりで微笑んだ。
38 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 00:56:37 ID:QabtZQnE
捜査がひと段落ついたあと、翔也は宮下の車で自宅のアパートに向かった。解毒カンフルを飲んで幾分体調は回復したものの、まだ車を運転できるような状態ではない。
「感謝しますよ、宮さん」
「ハハハ、毎度のことだ」
「・・・夜景がこんなに綺麗なものとは思わなかったな」
「どうした、今日はやけにセンチだな」
「似合わないスか?」
「あっはっは、全然」
車は首都高を離れ、あまり人気のないビル街を通った。
「ところで、5年ほど前から続いている、若い男女の失踪事件、まだ解決の糸口は・・・」
「まだだよ。この五年間に1000人以上行方不明になっている。もっとも、1000人というのは確認できた数字で、実際はもっと多いのかもしれんが」
「最初は女性の失踪が異常に多かったけど、最近は男性の失踪も多くなったとか」
「うむ、背後に巨大な人身売買のシンジケートでもあるんだろうが、その組織がさっぱり解明できていない」
「まあ麻薬捜査官の俺にとっては畑違いかもしれ・・・あっ!!」
突然、車の進行方向に黒い影が飛び出してきた、一体どこから飛び出してきたか、見当もつかなかった。
「危ない!!」宮下は急ブレーキを思いっきり踏んだ。
ドン!!
39 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 01:07:25 ID:QabtZQnE
「大丈夫か、君?」
翔也と宮下は車から降り、道に倒れている人影に近寄った。
すると人影は、まるで何事も無かったかのように、道路から起き上がった
「・・・・・・!?」
翔也と宮下は相手を見た。髪の長い、若い女性だ。ミニスカートにオーバーニーのロングブーツ、かなりいいプロポーションをしている。
「お、追われているの・・・早く、車に乗せて・・・」
「追われているって?」
宮下は周りを見渡した。道路の向かい側に暴走族と思われる若者たちが騒いでいるが、女性を追いかけている様子は全然ない。
「早く・・・『奴ら』がくるわ!!」
「・・・わかった。乗れよ!!」
翔也が促した。
宮下は車に乗る前に、車の前面部分が異常にへこんでいるのに気がついた。この女は一体・・・?
「行くぞ!!」
翔也と宮下、そして謎の女を乗せた車は急発進した。
40 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 01:44:02 ID:QabtZQnE
翔也たちが乗った車が発進してまもなく、その道路にビルの陰から、二人の女性が現れた。二人ともサングラスをしていて、一人はポニーテール、もう一人は金髪、あの謎の女と同じくミニスカートとロングブーツをしていた。年齢も謎の女と同じく、20代前半だろう。
二人の女は、翔也の車が走り去った方向を見ていたが、すぐに道路にたむろしている暴走族に近寄った。
「ちょっと、このバイクもらうわよ」
暴走族は虚を突かれ、ぎょっとしたように二人の女を見ていた。言葉の意味がしばらく理解できないといった感じだったが、やがてその中の一人が笑いながら近づいてきた。
「俺達のバイクをもらうだと?本気で言っているのか、ねえちゃんや」
暴走族は下品な声を上げて、一斉に笑った。
男は女たちのまぶしい太ももをいやらしい視線でなめまわし、ニヤニヤと笑いながら顔を近づけていった。
41 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 01:44:34 ID:QabtZQnE
「あんたたちの相手している暇はないわ。さっさとバイクをもらうわよ」
「まあ待てよ、いい体してんじゃねえか。俺と一発・・・」
男の言葉は最後まで続かなかった。金髪の女が突然、男の顔面に手をかけたからである。
そして次の瞬間、暴走族たちは信じられないものを見た。
金髪が片手で男の体を持ち上げたかと思うと、まるでりんごでも潰すかのように、男の頭部を握り潰したのだ。
「・・・・・!!!!!」
血と肉片が散らばり、金髪の足元には、首のない男の死体が横たわっていた。
「ひ、ひいいぃぃ!!」
暴走族たちはあまりの凄惨な光景に、逃げようとした。だが、次の瞬間、ポニーテールの女の姿が消えたかと思うと、暴走族たちは、自分の心臓が胸から突き出るのを認めた・・・・・
42 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 02:07:56 ID:QabtZQnE
「翔、なにか追ってくるか?」
「一台・・・バイクみたいなのが」
後部座席に謎の女と二人で乗ることになった翔也は、車の後ろを一台のバイクが近づいてくるのを認めた。バイクには、先ほどの金髪がハンドルを握り、ポニーテールがその後ろに乗っている。
「なんなんだ?あいつらは?」
バイクは猛スピードで翔也の車に近づき、横付けになった。
「・・・・・何!?」
次の瞬間、金髪の女は片手をハンドルから離し、翔也の車に向けた、と思う間もなく、その袖口から鋭い3本の剣が飛び出した。
「うわぁ!!」
宮下のとっさのハンドリングでかわしたものの、車体には3本の引っかき傷、いや、そんな言葉では表せないほどのえぐれがついた。鋭い刃物だ。
「こ、この!!」
翔也は拳銃で応戦した。だが、信じられないことに、何発か命中したはずなのに、女たちはびくともしない。
「ど、どうなっているんだ、こいつら・・・」
「ムダよ・・・銃なんて通用しないわ、人間じゃないから・・・」
「え?なんだって?」
翔也には女の言っている意味がわからなかった。
43 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 02:44:20 ID:QabtZQnE
「もうこれ以上、体内のエネルギーを消耗したくないけど・・・あたしと替わって」
「え、一体、何を・・」
翔也が聞く間もなく、謎の女が席を替わるために近寄ってきた。まぶしい太もも、黒いレザーのオーバーニーロングブーツの臭い、ミニスカートから少し白いパンツも見えた。それにかなりいい形のバストだ。翔也は一瞬、この女の色香にドキッとした。
だが、その美しい女の顔を見た瞬間、翔也は眼を皿のようにして見張った。
「ピピピピピ・・・・・ウィィィィィ・・・・・ン」
奇妙な電子音のような音がしたかと思うと、女の両眼の、白目の部分に斜めに4つの切れ目が走った。
そしてその切れ目の部分が光ったかと思うと、まるで秘密基地の入り口が開くかのように、白目の部分が4分割され、眼球の後ろの方へ後退していった。そしてその後に、白目であった部分は、透明アクリルのような覆いの下に、様々な電子部品が発光しながら露骨に覗いている。
44 :
虞祭坊:2005/05/17(火) 02:45:18 ID:QabtZQnE
「あ、あ、き、君は・・・」
翔也は機械でできた女の両眼の異様さに言葉が出てこなかったが、その次の瞬間、
ビィィィィィーーーーーーーーー!!
女の両眼の瞳が光ったかと思うと、その瞳からまぶしいほどの鋭いビームが発射された!!
「な、なに!?」
運転していた宮下も、あまりの出来事にハンドル操作を狂わせそうになった。
ビームはバイクの女の横をかすめたが、金髪の運転を誤らせて車から遠ざけることには成功した。が・・・
「ふふふ、『メタルアイ』、そのエネルギーの消耗度では何度もビームを撃てまい。ならば、わたしも・・・」
金髪は急にサングラスをはずした。こちらはごく普通の眼・・・と思う間もなく、その金髪の両眼からもビームが発射された。
「避けて!!」
女が翔也をかばうように押さえ込んだ。間一髪、金髪のアイビームはその上を通り過ぎていった。
「このぉ!!」
謎の女は再びアイビームを放った。今度はバイクのエンジン部分にあたり、バイクは粉々に爆発した。
「・・・・・やったのか・・・?」
翔也が過ぎ去っていくバイクの爆発跡を見ながら言った。あの女二人は地面に転がっているようだ。
「この程度でやられる奴らじゃないわ。でもまあ、なんとか一時回避はできたわ・・・」
翔也は女の顔を見つめた。女の両眼はいつの間にか、元の白目に戻っていた。
「・・・君は、一体、何者なんだ・・・?」
45 :
3の444:2005/05/17(火) 08:05:15 ID:RLDE71/v
でも、 汀さんも、 吉澤先生も何も答えてくれない。 私の家族の事、 知らないはずないのに、 何も教えてくれない。
何故なの?
「なんで黙ってるんだよう。 黙ってたら分からないじゃないかよう。 どうしたの? お父さんは、 お母さんは、 弟は、
無事なんですか!」
思わず私は、 汀さんの小さな両肩をつかんで揺さぶっていた。 でも、 汀さんは、 やっぱり何も言ってくれない。
ただ、 くりっとしたまつげの長い眼で私を見つめるだけ。 私を見つめる彼女の眼に涙がどんどんたまっていく。 そし
てとうとう両目からポロポロポロポロ涙がこぼれおちたんだ。
吉澤先生は、 そんな私と汀さんの様子を蒼ざめた顔でただ黙って見ている。
私は、 汀さんの涙の、 先生の沈黙の意味に気がついていた。 もしも、 みんな無事だったとしたら、 真っ先に私
のことをお見舞いに来てくれたはずだもの。 汀さんだって、 私を元気づけるために、 喜んでそのことを私に知らせて
くれたはずだもの。 でも、 誰も私にそんなこと言ってくれなかったってことは、 きっと・・・。 私だって馬鹿じゃ
ない。 自分も死にかけてたあげくに身体を全部失っちゃうくらいの大事故だったんだ。 みんなだって無事で済むはず
はないんだ。
ホントはみんな無事でいて欲しい。 お父さんに「裕子、大丈夫だったか」って、 抱きしめてほしい。 でも、 神様。
私、 贅沢はいいません。 お願いです。 一人でも無事でいてくれれば、 それでいいんです。 お父さん、 お母さん、
隆太。 誰でもいいんだ。
お父さん、 お母さん、 もう、 私のことを娘と思わなくてもいいよ。 娘とは違う、 ただのお人形さんと思って
くれても、 いいんだよう。 それでも、 お父さん、 お母さんが生きていさえいてくれれば、 それだけで私どんなこと
にでも耐えられる。 私の事を暖かく迎えてくれなくてもかまわない。 機械だって蔑んでくれてもかまわない。 隆太。
私を醜い機械仕掛けの幽霊だって思ってもいいよ。 気味悪がってくれてかまわない。 それでも隆太が生きてさえいて
くれれば、 私はそれでいいよ。 それでいいんだよう。 お願い、 誰でもいい、 生きていて。 お願いだよう。
46 :
3の444:2005/05/17(火) 08:06:57 ID:RLDE71/v
私は祈った。 地球にいる全ての神様に。 神様だけじゃない。 家族が助かるなら、 悪魔に魂を売ったってかまわ
ない。 身体を失った私の魂なんてたいした価値はないかもしれないけどさ。
ドア越しに誰かが楽しそうにおしゃべりをする声が部屋の中に響く。 でも、 今の私には現実感のない別の世界か
らの声みたいに聞こえた。 まるで、 時間を止められたみたいに、 私達三人はしばらくの間、 黙りこくっていた。
汀さんが、 何か強い決心をしたみたいに、 唇をかみしめた。 そして、 ようやく小さな肩を震わせながら、 口を
開いたんだ。
「事故で生き残ったのはあなただけなの。 あなたのお父さんも、 お母さんも、 弟さんもみんな、・・・即死だったそ
うです」
一番知りたかったこと、 でも一番知りたくなかったこと、 知らなければよかったこと。 でも知らなければならな
いこと。 全てが、 一瞬のうちに分かってしまった。
嘘だ。
嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。
「お父さんも、 お母さんも死んだ・・・、 隆太も死んだ・・・。 みんな死んだ・・・」
私は、 病院で目覚めてから今まで、 家族が死んじゃったかもしれないなんて、 考えないようにしてた。 家族は
みんな無事なんだって自分に言い聞かせて、 くじけそうな心を支えていたんだ。 まだ生きているって自分を信じ込ま
せて、 みんなを探そうとして病室を抜け出したりもした。 心のどこかで無駄なことかもしれないって思っていたけど、
でも、 私、 やっぱり認めたくなかった。 みんな死じゃったのかもしれないなんて思いたくなかった。 みんなとは言
わないよ、 せめて、 誰か一人くらい、 無事でいてくれれば・・・、 少なくともそう思っていた。
なのに、 なんでみんな死んじゃうんだ。 なんで私を一人ぼっちにするんだ。
私は、 認めない。 みんな死んだなんて、 私は信じない。
47 :
3の444:2005/05/17(火) 08:07:37 ID:RLDE71/v
「嘘だよね。 汀さん、 嘘なんでしょ。 お父さんが、 お母さんが、 隆太が、 みんな死んじゃったなんて嘘なんでし
ょ。 お願い、 嘘っていってよう。 みんなが無事でいてくれれば、 私、 自分がどんな姿になっても我慢する。 お人
形さんって言われてもかまわない。 だから、 ねえ、 お願いだよう。 嘘っていってよう」
不自由な身体で汀さんにしがみつく。 お願いだっていう声が裏返る。 汀さんに嘘でしたって言わせたかった。
力づくでも言わせたかった。 でも、 そんな無様な真似をすることで、 かえってはっきり気がついちゃうんだ。 汀さ
んが嘘突くわけない。 これは夢でもない。 私にはもう家族もいない、 身体もない、 だだの脳みその固まりだってい
う動かしがたい現実に・・・。 私、 これからどうすればいいんだろう? 一人でどうやって生きていけばいいんだろ
う?
「八木橋さん。 つらいかもしれないが、 家族のぶんまで頑張って生きていくのが、 これからの八木橋さんの務めなん
だよ。 天国で親御さんも、 弟さんも、 きっとそう願っているはずだよ」
いままで黙っていた吉澤先生が私に優しくそう諭した。 汀さんも、 まるで吉澤先生の言う通りだというように
しきりにうなずく。 確かに、 吉澤先生の言うことは正しいのかもしれないよ。 いくら嘆いていても、 もうみんな
還ってはこない。 だったら、 未来に向かって前向きに生きていくことが正しい生き方なのかもしれないよ。 でも、
そんなふうに吹っ切れるのは心が強い人だけだよ。 私みたいな、 臆病者の甘ったれにできるのは、 自分の身にふ
りかかった不幸を嘆くことだけ。 どうして私ばかりこんな目に遭わなければならないんだって運命を呪う事だけな
んだ。
どうして私だけ、 こんな目に遭わなきゃいけないんだろう。 私が何か悪いことをしたっていうの? 不公平だ
よ。 神様は不公平だ。
48 :
3の444:2005/05/17(火) 08:19:02 ID:RLDE71/v
私は憎い。 幸せな人が憎い。 妬ましい。 汀さんの顔も吉澤先生の顔を見たくない。 誰にも会いたくない。
誰とも口を聞きたくない。 汀さんだって、 吉澤先生だって、 どんなに口では同情してたって、 所詮他人だよ。
私の気持ちなんて分かるはずがないんだ。 どうせ、 汀さんだって吉澤先生だって、 何不自由なく幸せに暮らして
いるんでしょ。 五体満足な暖かい身体を持ってるんでしょ。 そんな人達に突然家族全員を失った私の気持ちが、
人形の中に一生閉じ込められることになった私の気持ちが分かるはずないんだ。
「出て行って・・・」
自分でもびっくりするくらい刺のある声が口をついた。 そして汀さんを、 吉澤先生を、 親の敵みたいに睨み
付けていた。
「すみません、 出て行ってください。 出て行って! 出てったら出てってよ! みんなこの部屋から出ていけ!」
私は、 たががはずれたみたいに狂ったように叫ぶと、 ベッドに突っ伏して泣こうとした。 なんだか、 悪い夢を
見続けているみたいに、 頭の中がふわふわして、 現実感がない。 ぜんぶ、 悪い夢であってほしかった。 でも、 ど
んなに泣きたくても涙の一滴も溢れてこない、 この機械仕掛けの身体が、 いままでの事は全て逃れられない真実だっ
てことを何よりはっきり物語っていた。
「今は何を言ってもいいよ。 どんなに取り乱しても恥ずかしくないよ。 そうね、 いろんなことがありすぎたもんね。
それを全ていっぺんに受け入れるなんて、 無理な話だよね。 ごめんね。 つらい話をたくさんしちゃってごめんね。
しばらくの間、 一人にしてあげるね」
汀さんは私の耳元でそうささやくと、 吉澤先生と一緒に私の病室から出て行った。
49 :
3の444:2005/05/17(火) 08:41:35 ID:RLDE71/v
いきなり二作も新作が発表されてしまい、驚いています。これで連載
六作体制ではないですか!こんな時代が来るとは・・・(感涙)
>>29-31 サイボーグ手術っていうよりも病気みたいな感じですね。機械化病。
徐々に機械化度を%で示していく描写が切迫感があっていいです。
最後に回収するとのことですが、どのような目的で行われたのでし
ょう。そういう謎を残したまま、事態が進行するので、続きが気に
なってしまいます。
>>33-44 テレビの特撮モノの一シーンを切り取ったみたいですね。のっけから
スリリングな展開でどきどきしています。普通の男性が主人公という
のも、このスレでは珍しい視点なので新鮮です。
やっぱりヒントはレインボーマンからですか(私は見た事ないですけど)
50 :
名無しさん@ピンキー:2005/05/17(火) 18:52:36 ID:TV/i6ax9
>>虞祭坊さん乙。期待してまつ。
51 :
虞祭坊:2005/05/18(水) 09:13:23 ID:lozXuqlW
3の444さん、TV/i6ax9さん、レスどうもありがとうございます。
アイビームを発射するくだりとかは、やはりレインボーマンのサイボーグ軍団編からですね。サイボーグ化された死ね死ね団の女幹部の描写にゾクゾクするものを感じました。
まああまり文才のない私ですが、これからもなんとか書いていけたらと思っています。行き当たりばったりみたいな展開になると思いますが(笑)
これからもよろしくお願いします。
保守
53 :
虞祭坊:2005/05/20(金) 04:24:34 ID:iGCF0wM4
謎の女によって爆破されたバイクの傍らで、バイクから投げ出された二人の女がようやく起き上がった。
金髪の女は車が走り去った道路を悔しそうに見やった。
「・・・くそっ、あともう一息だったのに!!」
金髪は口汚く叫ぶと、バラバラになったバイクの残骸を、黒いロングブーツで蹴り上げた。
「いや、それどころか、あたしらの存在自体を一般人に知られたことが・・・」
「・・・ちくしょう!! おい『シャドーフォックス』、あんたあの車のナンバー見ているんでしょ?」
「え、ええ」
「シャドーフォックス」とよばれた、ポニーテールの女が答えた。
「一応、あたしの目の中のメモリーに記録してあるわ、これから各情報端子に接続して調べてみる」
「それからついでに、『スィーパー』の連中に、あの珍走団の死体の始末を・・・」
「あ、それはすでに知らせたわ。あんな死体いつまでも置いておけないでしょ。
今頃はもう到着して処理しているんでしょ」
「シャドーフォックス」の物言いが事務的で皮肉に聞こえたのか、金髪はむっとしたように、
「・・・ちょっと、なにかあたしが余計なことしたみたいに・・・」
「だって『スティールアーム』がただバイクを奪うのに、無駄な殺人をするから、余計な後処理を・・・」
「うるさい!!」
「スティールアーム」とよばれた金髪が顔を真っ赤にしてかみついてきたが、シャドーフォックスはいたって冷ややかな表情で受け流し、おもむろにサングラスをはずした。
情報端子にアクセスしているのか、彼女の両眼の瞳がチカチカと光っている。
54 :
虞祭坊:2005/05/20(金) 04:28:05 ID:iGCF0wM4
「・・・だいたいあんたがバイクに乗れないから、あいつらを取り逃がしたんじゃないの!!」
スティールアームはシャドーフォックスの冷静な表情にますます頭に血がのぼった。
「・・・だって、バイクなんて重いの乗ったことないし、人に乗せてもらうのってラクチンだし、
あいつらを逃がしちゃったのは、あんたのミスでしょ」
しゃあしゃあとフォックスは答えた。
「・・・このぉ!!」
「ちょっと待って・・・え、やばい・・・あいつら警視庁の連中だよ!!」
「え、な、なんだって!?」
それを聞くと、さすがにスティールアームもさっと顔が蒼ざめた。
「早く、そいつらの居場所を突き止めて、口封じを・・・あっ」
突然、スティールアームがよろめいて片膝をついた。そしてしばらく自分の胸や腹を手で撫で回した。
あの若者が発砲した銃弾が被弾して、胸や腹から幾筋か血が流れていた。
体内の止血システムにより、改造血液はとうに止まっていたが、スティールアームは上着を脱ぎ上半身裸になった。
腹部に散発、胸の真ん中に一発、左乳房に一発。
「・・・ぐっ!!」
スティールアームが体に力を込めると、なんと銃創から銃弾が飛び出してきた。
「ふふふ、特殊チタン合金の外郭フレームと、薬によって加工された弾力性と修復機能にすぐれた改造皮膚に銃弾なんて通用しないわ。
けどなんか、あたしも体内エネルギーを消耗しちゃったみたいだ・・・どこかで充電しないと・・・」
「そうね、あの女だってエネルギー使い果たしているんだし、しばらくは動けないはずだわ。
ここでこちらの態勢を立て直して出た方がいいわね。」
フォックスは相変わらず冷静に意見を述べた。
「ああ、それに警察や刑事の住所の情報端子にアクセスして、
何かあの二人の刑事が動き始めたら殺っちゃっても遅くないし・・・」
スティールアームはなるべく楽観的に考えようとした。
「ふふふ、ついでに、どこかイイ男を見つけて一発やりたいわ。
あんな珍走団のブサイクどもじゃなくて。ここのところ男日照りだし・・・」
スティールアームがいやらしそうな笑みを浮かべて言った。
55 :
虞祭坊:2005/05/20(金) 04:30:12 ID:iGCF0wM4
車はそれから30分ほど走り、ようやく翔也のアパートについた。
アパートは一世紀ほど前にはやった建築様式の、どこか懐かしい感じのアンティークな雰囲気をもっていた。
「とにかく、こんなSFチックな出来事、本部でもまともに取り上げてくれるかどうか・・・」
「そう思って、この娘がぶつかってきた所や、バイクが大破した所を本庁に残っている連中に調べさせたんだが、
今入った連絡だと、何の痕跡もなかったそうだ・・・」
「え・・・!!」
「そう、バイクの残骸も、またバイクを盗まれたと思われる暴走族の存在も、
まったく何もなかったそうだ・・・」
翔也はため息をついた。結局はこの謎の女が唯一の「証拠品」なのだが、
敵はたぶん、口封じのためにこの女のもとにやってくるだろう。
「じゃあ翔、今夜は俺もお前の部屋へとまるよ。
相手は銃が通じないようだが、一人でも護衛が多い方がいいだろう。」
宮下刑事は若い二人をまぶしそうに眺めながら言った。
翔也の部屋は5階の中ほどにあり、かなり広いリビングに6畳ほどの和室が2つ、
男一人が住むのには寂しいくらいに広かった。
宮下は和室の一つに泊まることにした。あとは二人でお好きに。
若い二人に気遣ってのことだろう。
広いリビングルームには、翔也と謎の女が、ちょっと何から話していいものか、困惑しているようだった。
56 :
虞祭坊:2005/05/20(金) 09:28:49 ID:Y8Bzukqw
「・・・それで、君は人間じゃなく、『サイボーグ』だというんだね・・・」
「・・・そうね、正しくは『サイバゾネス』というんだけれど」
「サイバゾネス・・・」
「そう、コードネームは『メタルアイ』・・・」
「メタルアイ・・・」
翔也は疲れ切った様子の「メタルアイ」の体を見渡した。階段を上るときも足がふらついていたっけ。
あの二人の女サイボーグとの間に激しい戦闘があったのだろう。命がけの逃走。一体彼女はいかなる組織に属していたのだろうか?
「・・・俺、はっきり言って未だに信じられないんだよ。君がサイボーグだなんて・・・」
「・・・そうね。普通は皆そう考えるわ・・・」
「サイボーグなんて、SF映画や漫画の世界でしか知らないし、ましてや現実に俺の目の前にいるかと思うと・・・」
「・・・現実よ、ほら」
メタルアイは少し微笑むと、「ピピピピ」と電子音をさせて、両眼の白目を先ほどのように機械の部分に変えた。
サイボーグ技術・・・この世紀になって、そのような医学、生体工学技術も確かに日進月歩の進化をとげた。
だが、それは飽くまでも、「事故や病気などによって、体の一部が欠損したのを補うためのサイボーグ化」であり、
各メーカーによって現在開発されている、たとえば義手、義足、義眼、その他一部人工臓器にしても、所詮は無くなった体の部分の「代用品」でしかなかった。
ましてや、この「メタルアイ」や、あの二人の女サイボーグのように、軍事目的のために身体を兵器にかえる技術が開発されたなどという話は、翔也たちが知る限りでは一度も聞いたことも無かった。
「この眼には先ほどのアイビーム発射装置のほかに、赤外線、サーモグラフィ、メモリー機能、さらに各情報端末にアクセスできる機能とかがついているの。」
「・・・まじで驚いたよ、急に眼からあんなビームだすんだもんな・・・いや、それよりも・・・」
翔也の視線が、メタルアイの足元に止まった。
57 :
虞祭坊:2005/05/20(金) 09:51:07 ID:Y8Bzukqw
「そのブーツ、脱いでくれない?ここ一応土足禁止だし」
それを聞くと、メタルアイは少し困惑したような表情で、オーバーニーの黒いロングブーツを見つめた。
レザーの光沢を放つセクシーなブーツを手でさすりながら
「脱げないのよ、これ・・・」
「え?」翔也には、またしてもメタルアイの言っている意味がわからなかった。
メタルアイは両手で右足のブーツをコキコキとゆらしていたが、やがて奇妙な電子音がしたかと思うと、そのブーツを下の方に引っ張った。
「・・・・・!!!???」
翔也は一瞬、目の前の出来事が信じられなかった。
なんとメタルアイの足は膝から下が切断されているかのようにスパッと無く、ブーツはその足を離れメタルアイの眼前に掲げられた。
よくみると、膝の切断口には金属のアタッチメントが取り付けてあるらしい。
「面白いわよ、このブーツ」
メタルアイがいたずらっぽく笑うと、ブーツのジッパーを下に引き下ろした。見ると、ブーツの中には金属で出来た人工骨や電子部品、駆動モーターや改造血液の流れる血管などがあった。
どこをどういじくっているのか、メタルアイがブーツの中に手を入れてごそごそやっていると、ブーツのつま先から突然ナイフが出てきたり、
6センチはあるハイヒールの先から鋭い剣が出てきたり(後にこれはビルなどの垂直な壁を登るためのものと判明した)、
そして一番翔也を驚かせたのが、ふくらはぎの外側側面、つまりジッパーのついている内側側面とは反対のほうの側面が、「同」の字の「けいがまえ(部首名)」のようにパカッと開き、
中からなにやら棒のようなものが飛び出したことである。
「それは・・・一体?」
「これ?一種のレーザーブレードみたいなものよ」
メタルアイはそう言って、棒のスイッチのようなものを押した。
ブォン!!
剣状に伸びたレーザーブレードは青白く、怪しく輝いた。
翔也は一昔前のSF映画にこんな武器を駆使して戦うヒーローがいたことを思い出した。
58 :
虞祭坊:2005/05/20(金) 09:52:52 ID:Y8Bzukqw
「正しくはレーザーじゃなくて、超電磁波素粒子体、物質の分子を破壊することのできるほどの強力な電磁波を帯びた特殊素粒子を剣状に集合させ形成させているの」
「・・・ひょっとして、さっきのアイビームも、同じような・・・」
「まあ原理は一緒だけど、アイビームのほうは媒体が特殊素粒子じゃなくて光子なのね。
簡単にいえば、一昔前の電子レンジのように電磁波が物質の分子とかを激しく動かすことによって熱を出すことが出来る、あれを殺傷力があるほどに強くして一点集中させたのがアイビームと思えば」
「ちょっと振り回すなよ、そんな物騒なものを」
メタルアイは、レーザーブレードを手慰みに振り回していることにハッと気がつき、バツが悪そうに舌を出した。
「ごめんなさい」
「わかったわかった。今日は土足解禁だ」翔也が優しく、メタルアイに声をかけた。
メタルアイは、ブーツを元通りに足にはめた。
「あたしたちを心理的に組織から抜け出せなくさせるためでもあるわ・・・これじゃシャワーも浴びれないし・・・」
メタルアイは少し表情を曇らせた。翔也はそんな彼女を気遣うかのように、
「・・・とりあえず、俺シャワー浴びてくるよ。その間にこれで体でも拭けよ」
翔也は風呂場から大きな洗面器に熱いお湯を入れ、タオルとともにメタルアイに渡した。
「・・・ありがとう」
メタルアイは翔也の優しさが嬉しかったのか、少し頬を赤らめた。
59 :
虞祭坊:2005/05/20(金) 10:18:19 ID:Y8Bzukqw
・・・翔也が風呂場でシャワーを浴びている間に、メタルアイは着ているものを脱ぎ、裸になって(もちろんブーツは履いている)、お湯に浸ししぼったタオルで体を拭いていた。
「体も拭けたことだし、ちょっとエネルギーを充電しちゃうか・・・」
メタルアイは左足のブーツの外側側面をごそごそとやっていたが、すぐに先ほどのレーザーブレードを取り出したときみたいに側面がパカッと開き、
その中からコンセントのプラグのようなものがついた器具を取り出した。
メタルアイはそのプラグを電気のコンセントに差し込んだ。プラグの長いコードのさきには一種のアダプターのようなものがついていて、そのアダプターからはさらに2本の細いコードが伸びていて、
それぞれのコードの先に太さ2ミリ、長さ3.5センチくらいの金属の棒のようなプラグがついている。
メタルアイは自分の右の乳房をつかみ、乳首の先端を指先でなにやら捲るようなしぐさをしたかと思うと、その捲れた乳首の先端から金属の小さい穴の差込口のようなものがキラリと見えた。
メタルアイはプラグの金属棒をその乳首の差込口に近づけ、その穴の中へ金属棒をつっこんだ。
カシャカシャン!!
乳首の中でちゃんとプラグがはまったことを確かめ、メタルアイは左の乳首にも同じくプラグの金属棒を差し込んだ。カシャン!!
メタルアイはアダプターのスイッチをいれた。
カチャン!!
ビビビビビビビ・・・
「あ・・・ああん、あ、あああ、あああ・・・」
電気エネルギーが、アダプターのコードから、プラグが差し込まれた乳首から、あたしの体内に入っていく・・・
60 :
虞祭坊:2005/05/20(金) 10:19:33 ID:Y8Bzukqw
「ああ・・・いい、気持ちいい、あ・・・」
メタルアイは身悶えした。エクスタシーを感じてきたのか、その右手は自分の性器をまさぐっていた。指でクリトリスをクリクリと弄んだ。
クリトリスは改造手術によって電子性感装置が埋め込まれ、生身の時よりも感度が最高によくなっている。
「ああ、あ・・・」
メタルアイの身悶えはますます激しくなった。指は大陰唇をまさぐり、やがて膣口に挿入した。もちろん、膣の中もサイボーグ化され、性感度はパワーアップしている。
膣口から愛液が、止めどもなく溢れ出した。
「ハアハア、あ、あ、あああああ!!」
「なにやってんだ?おまえ?」
メタルアイがハッと気がつくと、いつの間に風呂から上がったのか、翔也が唖然とした表情で、メタルアイのオナニー、もとい充電の様子をながめていた・・・
61 :
3の444:2005/05/21(土) 12:05:29 ID:DfarV5Op
部屋に一人残された私は、 しばらくベッドでうつぶせの姿のまま、 頭だけ起こして、 じぃっと
自分の手を、 腕を見ていた。 ほっそりした、 白い指。 とっても綺麗。 そっと、 右手で左手の
手のひらや、 腕をなでてみる。 暖かくて、 すべすべしてぱっと見た目には、 普通の人の肌と何
もかわらない。
身体を起こして、 恐る恐る、 白い入院服のボタンを胸元まで外す。 ブラはしてなかったから、
私の胸の膨らみがそのまま、 目に入ってきた。 私の元の身体についてたものより、 ちょっと大き
めの、 桜色の乳首が可愛らしい、 整った形のおっぱいだった。 でも、 あまりにも整いすぎてい
て、 人間の胸というよりも、 むしろマネキン人形のそれみたいしか思えなかった。
腕だって、 胸だって、 どんなに人間そっくりで、 どんなに見た目が美しくても、 所詮作り
物の機械なんだ。 きっと、 指の長さも、 おっぱいの形も、 全部コンピューターで計算して出し
た、 理想的なサイズなんだろう。 ひょっとしたらきっちり左右対称なのかもしれないよ。 見た
目が綺麗だからこそ、 かえって、 この身体、 作り物なんだって思いしらされてしまう。 私は、
こんなに胸が大きくなくていい。 肌だって、 こんな人形みたいに透き通るような白さじゃなくて
いいんだ。 もとの、 温かい私の身体がほしいよ。
でも、 この身体を見ている私の目だって作り物だし、 指と肌が触れ合う感覚だって、 機械
が作り出したものなんだ。 私に残されたのは、 今こうして物を考えている脳みそだけ。 本当の
身体はもうどこにもないんだ。 もう元に戻れないんだ。
62 :
3の444:2005/05/21(土) 12:07:17 ID:DfarV5Op
こんな身体、 やっぱり見たくない。 私は、 そう思って、 入院服のボタンを締めた。 ボタ
ンを締めながら、 自然と深いため息が出ていた。 それで、 気がついた。 私、 今まで息もほと
んどしていなかった。 思い出したように一分間に一回くらいするだけ。 それでもゼンゼン苦し
くないんだ。 そうだよね、 今の私は機械の身体なんだもの。 私に残されたのは脳だけなんだも
の。 息をする必要だってあまりないよね。 全然トイレに行きたくならないのも、 さっきカプ
セルを口に入れたっきりだっていうのにお腹がすかないのも、 眼が覚めてから水の一滴も喉が
かわかないのも、 全部私の身体が機械になっちゃったからなんだよね。 私の身体が機械仕掛け
だとしたら、 もう生理もないだろうし、 赤ちゃんもできないんだろう。 はは、 もう私は女
じゃないよ。 それどころか、 人間ですらない、 ただの機械仕掛けのお人形さんなんだ。
こうして私、 嫌でも機械の身体なんだって気づかされていく。 自分が人間じゃなくなった
ことを時間を経つにつれて思い知らされていく。 きっと、 これから先もずっと。 そして、
そんな時、 私の心の支えになってくれるはずの家族はもういない。 私、 自分の肉体だけじゃ
なく、 たった一つのかけがえのない家族まで失った。 優しいお父さんも、 いつも明るかった
お母さんも、 生意気な弟も、 もうこの世界のどこにもいない。 私の想い出の中にしかいない。
せっかく命だけは助けてもらったけど、 私、 一人で生きていく自信なんかないよ。 汀
さんは、 私の事を人間なんだって言っていたけど、 こんな、 前の私とは似ても似つかない
姿になった私を見て、 友達はどう思うんだろう。 世の中の人たちは、 どう思うんだろう。
こんな私でも人間として受け入れてくれるんだろうか? 私は恐い。 この世界で生きていく
のが恐い。
63 :
3の444:2005/05/21(土) 12:07:53 ID:DfarV5Op
どうして私だけ生き残っちゃったんだろう。 どうして、 私だけ助けたのさ。 私は、
こんな身体になってまで助かりたくなかった。 こんな身体になって、 みじめったらしく生
きるより、 みんなと一緒に死んだほうがどれだけ幸せだったかもしれないよ。 ごめんなさ
い。 お父さん、 お母さん、 隆太。 私だけ助かってごめんね。 一緒に死ねなくてごめんね。
みんな今頃どこにいるんだろう。 仲良くやっているのかなあ。 私もそっちに行きたか
ったなあ。 私だけで、 この世界にいてもしょうがないよ。 きっと、 向こうの世界に行け
ば、 また家族みんなで楽しく暮らせるよ。
そうだ、 どうして、 今まで気がつかなかったんだろう。 この世界が気に食わなければ、
私、 この世界にいなければいいんだ。 この世界から私の存在を消してしまえばいいんだよ。
だいたい、 本来私はこっちの世界にいちゃいけない人間だもの。 ホントは死んでるはずなの
に、 機械の力で無理やり生かされているだけだもの。 ちゃーんと、 本来行くべきところに
行かなきゃいけないよね。
私は、 ふと頭に浮かんだ、 悪魔じみた考えを実行に移すことにした。 裸足のまま、 思
い通りに動かすこともおぼつかない足をやっとのことで操って、 なんとか壁伝いに窓際まで
進んだ。
窓を開けてみた。
いつの間にか夕暮れ時になっていた。 鳥の群れが、 茜色に染まった空を、 ぐるぐる飛
びまわっている。 目の前に建ち並ぶ愛想のない高層ビル群からは、 明かりがちらほらつき
始めている。
ここは、 地上何階なんだろう。 眼下の通りを走る車はミニカーみたいに小さく見える。
道を行きかう人もとても小さくて、 どんな表情をしているのか、 ここからだと読み取れな
いけど、 それでも今の私にはみんな楽しそうな顔をしているように思えた。 私の身に起こ
ったことになんかまるでおかまいなし。 何事もなかったかのように世の中は動いている。
この世界に私は必要とされていないし、 私もこの世界を必要としていない。
ここから飛び降りたら、 死ぬことができるだろうか。 もとの生身の身体だったら、
間違いなく死ねる。 でも、 今の身体でも、 ちゃんと死ぬことができるだろうか・・・。
64 :
3の444:2005/05/21(土) 12:21:33 ID:DfarV5Op
>>53-60 敵のサイボーグもなんだか人間臭くていい感じですね。身体は機械でも
きっちり自我をもっている。好きです、そういうの。
裸になってもブーツだけは履いているっていうのは、鉄腕アトムが元ネタ
ですか?萌えシーンの連続で息をつく暇もありません。
エロシーンもこのスレならでは、ですね。
65 :
3の580:2005/05/21(土) 15:36:04 ID:FfFKr9lU
>>63 死んじゃ、駄目です…
汀さん…吉澤先生…誰か、誰か…止めてください…
こっちの世界にいちゃいけないなんて、悲しい考えを否定してあげてください…
…でも、今の八木橋さんに、辛くても生きていけなんて、どうやって言えば
いいんだろう…°・(つД`)・°・
66 :
M.I.B.:2005/05/22(日) 00:53:24 ID:FXqLewo7
<明日香SIDE>
私、九条 明日香は常に最高を目指していた。
九条と言う家、日本でも有数の名家に生まれ、全てにおいて最高を求められた。
そして成績、スポーツ、芸能、全ての分野で素晴らしい成績を修めていた。
そんな私に、運命の転機が訪れた。
「サイボーグ? 何を言ってるの。そんな物が実用化されているはずが無いじゃない」
目の前の男の戯言を聞き流し部屋を出ようとした私は、全身を貫いた衝撃に意識を失った。
[ ヴァルキリー02データ確認… ]
[ OS… OK ]
[ 動力炉… OK ]
[ ボディー制御プログラム… OK ]
[ 音声入力プログラム… OK ]
[ 画像入力プログラム… OK ]
[ 機体起動… OK ]
様々な文字が浮かんでは消える。
次の瞬間、激しいライトが視界を白く埋めるが、
[ 光量修正… OK]
と、文字が流れ視界が開ける。
「ヴァルキリー02、完成だ」
そんな声が投げかけられた。
67 :
M.I.B.:2005/05/22(日) 00:54:02 ID:FXqLewo7
そこにいたのは、真紅のボディーをした機械だった。
長かった髪もボディーのカラーと同じ真紅に染め上げられていた。
顔だけが、元の姿と変わらないのがおかしかった。
「君の処置については、君の両親からも許可を得ている」
軍服の男がそう言って、一枚のディスクを手渡してきた。
「九条家の人間が素材となっているのだ。最高のスペックを示せ」
「家は妹の鏡花が継ぎます。貴女は戦果を挙げることだけを考えなさい」
モニターに映る人型がしゃべっている。
(この人達は何を言っているの?)
言葉の意味を理解できない…
ただ、もう九条の家には、いや、この世界には、九条 明日香という人間の居場所は存在しないと言うことだけおぼろげに分かった。
なら、最高を目指そう。今の私の出来る最高を…
兵器としての最高を…
最強の兵器に…
(嫌な夢だ…)
3年前、私が今の身体に生まれ変わった頃の、最強の誓いを立てた頃の夢だった…
68 :
M.I.B.:2005/05/22(日) 00:54:39 ID:FXqLewo7
<さくらSIDE>
予想時間まで6時間を割った。
最後の休息時間を終え、待機室に入ると綾さんと明日香さんの2人とも既に待機中だった。
「遅いわよ03。30秒の遅刻よ」
明日香さんの厳しい叱咤の声が上がる。
部屋の中は緊張感で満ちていた。
前回ジェネラル級が襲撃してきたときも、明日香さんはいつも以上にピリピリしていた。
だが、今回はそれ以上だ。
「02、もっとリラックスしなさい。戦場で必要以上に気負い過ぎると、危険よ」
「うるさい。別に緊張なんてしてないわ」
綾さんの言葉にも取り付く島がない。
ミミールの予測した時間まで30分を割った。
待機室のみならず、基地全体が緊張感に包まれていた。
外部では完全にシェルターへの避難が完了しているはずだ。
ジェネラル級の戦闘力は通常のアザーズの非ではない。一般の軍ではまったく歯が立たない。私たちヴァルキリーシリーズでも複数で相手をしなければ勝利するのは難しい。
以前に出現した日本、アメリカ、ドイツでは、自国や近隣国の所有するサイボーグたちが全てぶつかることで対処していた。
今回も、厳しい戦闘になるだろう。
69 :
M.I.B.:2005/05/22(日) 01:01:22 ID:FXqLewo7
残り5分を割った頃、レーダーを監視していた観測員が声を上げる。
「成層圏に機影あり、3機です」
その声に、司令室の動きが一瞬止まる。
「日本への落下が予想されるのは1体です。到達予想地区はS県S市付近です」
即座に、状況が待機室に伝えられヴァルキリー達は出撃体制に入った。
「私が先に出るわ」
明日香が綾を押しのけて言った。
「フォワード無しでバックが飛び出してどうするの?」
綾も引かない。
「狙撃ポイントを確保するだけよ。少しでもいい場所が欲しいの」
一応は筋が通っている。まあ、上空で調整すれば問題も無いだろう。
「分かったわ」
綾が道を譲る。
私はその光景をただ眺めているだけだった。
「03出るわ」
ブースターが唸りを上げ明日香を打ち出していった・・・
70 :
M.I.B.:2005/05/22(日) 01:10:05 ID:FXqLewo7
久々のジェネラル編第3話です。
ジェネラル編は次で終わりにするつもり・・・ 終わるよなぁw
虞祭坊さん
謎の組織に改造されて、抜けれないように処理しておくとは・・・
中々萌える展開です。頑張ってください。
前389さん
今後ソーサレスエンジンがどんな変化をもたらすか楽しみです。
M.I.B. 様待ってました!!未来ある少女達が無理矢理改造されて兵器にされてしまう。禿萌えです!M.I.B. さんのは戦闘シーンもどこかサディスティックで萌えるので、次も楽しみです。
72 :
名無しさん@ピンキー:2005/05/22(日) 21:09:44 ID:cKI/1QLC
百畳くらいある大きな部屋で何十人もの全く同じ顔と体格のイソジマ標準型義体の女の子が一同に会して・・・・・・。
ああ、そんなところを見てみたい。
姿かたちが全く同じだけに、かえってそれぞれの性格の違いとかがめだって見えるんだろうか。(性格の違いが服とかに反映されてそう)
そこがまた良し!!!
うわ、sage忘れとる・・・・・・。
スマソ
>>72 その中に、見た目は標準型でも中身は超高性能なサイボーグが混じっている。
公安9課所属、草薙素k(ry
機械に組み込まれる前提で設計されたために手足がない義体の少女。
が、日常をその体で暮らすのを慣れるための訓練として、その体でいろいろな運動をする体育の授業で何人も集まってる光景。
もちろん半ソデ体育着や短パンやブルマから断端(切ってるわけじゃないけど)がチラリですよ。
当然断端にはハードポイントが仕込んであるわけですが。(ここで機械と合体する)
いままでにない高性能なサイボーグをかんがえた。
構造‐金属製骨格に人工筋肉、人工臓器を組み込み人間に限りなく近い構造を実現。
動力‐食事によって得るカロリーを動力炉で燃やす方式と電気駆動の併用。
外観‐ナノマシン製表皮により通常時は生身の体とかわらない外観を実現。戦闘時はナノマシンの配列をかえ外骨格装甲に。
武装‐ナノマシン式武器システムの搭載により複数の武器の体内同時搭載を実現。
メンテナンス‐軽度の損傷なら自己修復が可能。年数回のオーバーホールだけであとはメンテナンスフリー。
ヴァルキリーシリーズを凌駕する四号機として本編でつかってやって下さい...。
M.I.B.さん乙。
80 :
3の444:2005/05/23(月) 22:02:50 ID:gtlRLPKW
>>78 人間に限りなく近い理想的なボディ。何でもアリの無敵の存在。
考えるのは楽しいかもしれないけど、実際お話にしてみると
案外つまらないものですよ。やっぱり、何がしかの制約なり
弱点がないと、感情移入したり萌えたりできないものです
(ま、私の場合は、ですけど・・・)。
せっかく高性能ボディを持っていても、肝心の頭が相当悪いとか
性格が破綻しているとかで、いつもやられてばかり。自分より
低性能の味方にまで罵られ、とかだったら面白いかも。
81 :
前82:2005/05/23(月) 22:28:10 ID:CYkOlJVd
4月も半ば、私は海洋技術研究所の門をくぐった。ここをもう出ることはないだろうとの予感を持って・・・。
研究所からの指示で、細々した荷物は研究所宛に送り、家族や研究室には、
ほとんど海洋調査に出ずっぱりになるので、連絡は取りにくいだろうと言っておいた。
入所時期は3月始め、4月半ば、5月末のどれかから選ぶように言われたので、真ん中を選びこの時期になった。
佐藤課長と高橋室長のコンビが迎えてくれ、いくつかの書類にサインやハンコをさせられた。
その中には給与振り込み口座届けもあった。アクアノートがどうやってお金を使うのだろう。
「詳しくは井上ドクターや熊沢さんが面倒見ますからエレベータで、下の階に降りて」と応接室を出された。
エレベータを降りると見慣れた青いツナギ服を着た井上ドクターと熊沢さんが迎えてくれたが、
その頭を見てびっくりしてしまった。二人とも頭は服と同じ青色のフードで覆われている。
「あの・・・・。」口ごもった私を笑いながら見て、
「そう私たちも含めここの青服組は、みんなアクアノートの処置を受けているの。
でも体験研修の時この姿見せたら、ショック大きすぎるでしょ。だからカツラを着けていたの。」
と笑いながら井上ドクター。
82 :
前82:2005/05/23(月) 22:29:25 ID:CYkOlJVd
「まあこれから長いつきあいだから、ゆっくり行きましょう。
今年アクアノートになる人は3人です。あとで話しますが、手術や訓練の都合で1月半ぐらいづつあけてきてもらうことになりました。
あとの二人とは手術が終わって訓練が軌道に乗り始めた頃合流してもらいます。
さてこれからのあなたの大まかなスケジュールを説明しましょう。
明日から約1週間は、あなたの身体や運動能力について徹底的に検査させてもらいます。
そして検査の翌日に第1回目の手術を受けてもらいます。
ここでマリンアンビリカルの取り付けと、外陰部と肛門の整形をします。
傷の回復に4,5日かけて、そこから完全にここの生活に入ってもらいます。
それから2週間ほどかけてあなたの脳の働きを部位ごとに調べます。
その結果を基に第2回目の手術で、脳の的確な位置を何カ所か選んで電極を取り付け、
咽頭部にも電極を取り付けます。外科的処置はそれでお終いです。」
と井上ドクター。
83 :
前82:2005/05/23(月) 22:30:57 ID:CYkOlJVd
「それからがあなたとコンピュータをつなぐ訓練よ。
最初のステップは、あなたのしゃべった声を咽頭部の筋電位の変化から音声信号に変換するプロセス。
反対にコンピュータからのメッセージや、
他の人の声等の音声信号をあなたの脳で音として聞き取れる
脳波刺激に変換するプロセスの確立ね。
いろんな単語や言葉をしゃべってもらったり、聞いてもらったりして
そのとき出る信号をこっちでモニターしながら信号変換システムを作るわ。
お互い根気のいる仕事よ。」
熊沢さんは的確だが厳しい言い方だ。
84 :
前82:2005/05/23(月) 22:32:10 ID:hYxFdJqh
「次のステップはコンピュータの画面を見ながら、キーボードやマウス、ジョイスティックなどを操作してもらうわ。
音声信号と同じように、そのときの脳波から直接コンピュータへ命令が出せるようにするシステム作りね。
これが基礎訓練と言うことで最短10ヶ月、長い人だと1年半かかった人もいるわ。」
熊沢さん事務的に1年半と言ってくれた。
「基礎訓練のあとシミュレータを使ってポッドやスーツの操作訓練ね。
ここまでで1年半から2年、覚悟してね。」熊沢さんはズバズバ言ってくれる。
「そんなにですか。私ついて行けるかしら。」
「清水さんは体験の時から見て、最短に近いコースでいけると思うわ。」井上ドクターがフォローしてくれた。
しかし続けて、
「それともう一つ、この前契約書の説明の時もしたけどアクアノートである間は生理を止めないといけないから、
どうしても卵巣に負担がかかるの。だから今度の手術の時、
卵子をいくつか採取して、保存しておくけど承知してください。」
ときっぱりいわれた。
私、いままで結婚とか子供を作るとか具体的には考えてもいなかったので
「おまかせします。」と答えるのが精一杯だった。
やっぱりすごい世界に足を踏み入れてしまったんだ。
85 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 22:33:30 ID:cH/YhRiM
真夜中も1時は過ぎたであろうか、人気のないビル街はますます静寂の観を増していた。
元々この一帯は15年前まではいくつもの証券会社や特殊法人などで賑わっていたものだが、アメリカのウォール街の株価暴落危機、いわゆるブラックチューズディの波を一番まともに受け、
倒産した企業や、倒産しないまでも土地などの資産を投売りして夜逃げ同然の企業などが続出し、ほとんど買い手もつかないゴーストタウンと化していた。
そのゴーストタウンの一角の、廃屋となった一つのビルのガレージの暗闇の中で、4つの赤く光るものがうごめいていた。
「ハァハァ、あ・・・もうすぐ、充電完了ね・・・フォックス、あんたはどう?」
「あ、あたしも・・・というか、よく電源を止められていなかったね、ここ」
「まあ、最近の電気会社のやることなんかルーズだから・・・あ・・・でも、おかげで命の充電ができたわ、あ、あ、ああん」
この4つの赤い光源の正体はもちろん、あの二人の女サイボーグの赤外線アイだった。
彼女らはメタルアイと同じように、乳首の先に充電アダプターのプラグを差込み、廃屋ビルの電源コンセントから充電用の電気を拝借していたのだった。
充電中はやはりメタルアイと同じくエクスタシーを感じるのか、二人とも自慰行為にふけっていた。
暗闇の中で二人の女サイボーグが、両眼を赤外線で赤く光らせながら性器や乳房をまさぐり「あん、あん」と悶えている姿は一種異様な光景であった。
「・・・よし、充電完了!!」
スティールアームはプチプチンとプラグを乳首から離した。シャドーフォックスもプラグを抜き、二人は形のいい乳房を服にしまって身繕いをした。
86 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 22:37:28 ID:cH/YhRiM
「しかし、ほーんと、人っ子一人通らないねえ・・・」
スティールアームがガレージの扉の隙間から、外の様子をしばらく窺っていたが、何を見たのか、その表情がニヤニヤと笑みにくずれてきた。
「見てよフォックス、男よ、男・・・二人とも酔っ払っているようだけど、なかなかイケテるわ、アハ!」
「ちょ、ちょっとお、スティールアーム・・・また余計な事を考えて・・・さっさと『メタルアイ』と二人の刑事を始末しないと、『ホーネット』たちになんといわれるか・・・」
「ああ、旧都心にある『Rジャーナル』の連中を始末しに行っている、あの三人ね・・・地下に潜った裏ジャーナリストの分際で、あたしたちの組織のことをかぎまわっているドブネズミの駆除をやっているんでしょ。
どこにいるのか、居場所の捜索に手間取っているみたいだけれど・・・」
「『プラズマイール』と、『ヘッジホッグ』もいるんだから、『Rジャーナル』の居場所のつきとめ、壊滅なんてあっという間よ。そんなことしている暇は・・・あっ!!」
フォックスの言葉もまったく耳に入らないかのように、スティールアームは外に出て行った。
87 :
前82:2005/05/23(月) 22:39:26 ID:rz7pGyIp
サイボーグアクアノート第2部、手術をどう表現するかで迷い、
遅くなってしまいました。
一応決心し吹っ切れたとはいえ清水の迷い、悩みは続きます。
しかし、サイボーグアクアノートになることで得られる
パワー、能力への期待も大きくなってきました。
その当たりを書いて行きたいと思います。
:82ゲトをねらっていたので遅くなってしまいました、 笑)
88 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 22:52:11 ID:cH/YhRiM
前82さんとかぶってしまいました。前82さん、どうもすみません。そして、はじめまして。アクアノート、がんばってください。
>3の444さん
もともと僕がブーツフェチなもんで、ブーツが脱着可能にしたんですが、たぶん鉄腕アトムも無意識に取り入れているのでしょうね。
身体を失った八木橋さんの悲しみ、胸にこたえます。いったいこれからどうなるのか、ドキドキしています。
>M.I.B.さん
はじめまして。ヴァルキリーシリーズのヒロイン、戦闘シーンがなかなか萌えそうです。がんばってください。
>
89 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 22:57:04 ID:cH/YhRiM
人気のないビル街を千鳥足で歩いている二人の男は、20歳前後の、服装から言ってもどこかの大学の学生のようだった。
彼らはときどき、何か大きな声で叫んでは、ゲラゲラと笑っていた。二人ともすらりと伸びた身長に、端正な甘いマスクと、いかにも女の子とよく遊びそうないでたちをしていた。
「ねぇえ、足元ふらついているよ。大丈夫?」
スティールアームはおもむろに二人に近づき、声をかけた。
「・・・なんだ、君は・・・ヒック!!」
「結構酔っ払っているようね。どう、酔い覚ましにあたしとどう?」
「え、お、おまえと・・・?」
「ちょ、ちょっと、スティールアーム・・・」
シャドーフォックスが慌てて駆け寄ってきたが、スティールアームはますます調子付いて、
「えっへっへ、ただでこんないい女とやらしてあげるって言っているのよ。それとも、怖いの?坊やたち」
「怖いよ、なんでおまえら、両眼が赤く光っているんだ?」
それを聞いてスティールアームは、赤外線アイをつけたままにしていることに気がつき、ハッとした。
フォックスも慌ててスティールアームを追いかけてきたからか、自分の赤外線アイに気付かないままであった。
学生二人は、二人の女の異様な姿に、逆に酔いが醒めて怖気づいていた。
「くっ、何怖がっているんだよ!!おっと、逃げようたって逃がさないわよ。おとなしく、あたしたちの性奴隷になりな!!」
「ひぃっ!!た、助けて!!」
叫び声を上げようが、ここは人気のない真夜中のビル街。二人の学生は抵抗らしい抵抗も出来ず、哀れ女サイボーグたちの餌食となった・・・
90 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 22:59:02 ID:cH/YhRiM
スティールアームたちが学生を毒牙にかけようとしていた同じ時刻、旧都心のとあるビルの地下で、凄惨な光景が繰り広げられていた。
そのだだっ広い一室は机やイス、各種の安物の情報ディスプレイ機器、多くの書類が散乱し、20人くらいの人間の死体がその雑然とした室内のあちこちに斃れていた。
その死体たちはどれも目を背けたくなるほどむごたらしい様相を呈していた。あるものは全身に無数の穴が開いて、そこから大量の血液が流れ出し、ほとんどミイラと化していた。
またあるものは全身が真っ黒焦げになっていて、いまだにプスプスと煙が立ち昇っている死体すらあった。
そしてもう一種類の死体は、まるで相撲取りのように全身がブクブクと真っ赤に腫れ上がっていた。
「フ・・・こいつらの居場所を突き止めるのに、ほんとに手間取ったわ。」
「神出鬼没な連中だからね。ネットワークの検索でもひっかからないような。」
「あちこち本拠地を変えていたようだけど、今となってはそれも虚しい努力ね。ウフフ。」
闇の中で3人の女の話し声がした。見ると書類と死体の散乱するなかに、闇に3人の女の姿が、しかも3人とも赤外線で眼を光らせながら浮かび上がっている。
どうやらスティールアームの言っていた「ホーネット」「プラズマイール」「ヘッジホッグ」とかいう女サイボーグ達らしい。
「スィーパーの連中、ここに到着は?」
「もうすぐ来るらしいよ。なんでも、スティールアームが殺した暴走族の死体処理とかしていたようだし・・・」
「・・・ったく、あのバカ、本来の任務忘れて何をやっているんだか。さっさとメタルアイの始末をつけているのかどうだか。」
「連絡してみたら?」
「そうするわ。あんまり期待してないけどね。」
91 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 23:02:37 ID:cH/YhRiM
「ああ、いい、いいわ・・・す、すごい!!あ、あ、・・・」
「・・・もう、もうやめてください・・・ああ、あああああ・・・」
先ほどの廃屋ビルのガレージで、スティールアームとシャドーフォックスが、学生二人相手に痴態を繰り広げていた。
学生の太いイチモツがサイボーグの電子ヴァギナを突付き、電子ヴァギナから送られてきた電気信号が特殊チタン製の背骨を通り、脳髄を刺激してエクスタシーはますます絶頂を迎えた。
「ああ、いい、いいわ・・・」
シャドーフォックスのほうも、最初は乗り気ではなかったものの、やはりそこはサイバゾネスの性なのか、もうひとりの学生相手に淫乱の限りを尽くしている。
学生に馬乗りになり、乳房をつかまれながら喘ぐその姿は、とても先ほどの冷静沈着なフォックスとは思えない。
「ああ、イク、イク、いっちゃう・・・!!」
「ああ、ぼ、僕も・・・ああっ!!」
闇の中で4匹の野獣が、同時に頂点まで達した。ペニスから溢れる白い液が電子ヴァギナをドクッドクッと満たしてゆく・・・
「あああああ・・・・・・あ」
4人はぐったりとガレージの床に伏した。
92 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 23:04:37 ID:cH/YhRiM
ピー、ピー、ピー
突然、スティールアームの耳元で電子音がなった。いうまでもなく、サイバゾネスたちの電子聴覚装置には仲間同士や組織本部からの通信機能もそなえている。
「・・・え、ホーネット、え、え・・・ま、まだよ、予想以上にあのメタルアイのやつ、抵抗しやがって、今見失って・・・え、これから合流するって・・・ああ、わ、わかったわ。」
通信を終えたスティールアームの顔は当然のように蒼ざめていた。と、ふところから何やら電子装置のチップのような物を取り出した。そして怯えきっている学生の首筋にいきなりズボッとそのチップを打ち込んだ。
「ふふふ、これで一体、セクスレイヴが完成したわ。」
謎のチップを打ち込まれた学生は、もはやただの人形のように無表情になっていた。このチップによりこの学生はスティールアームの性奴隷となり、スティールアームの言うことなら何でも聞く存在となった。
「フォックス、あんたもさっさとそいつをセクスレイヴにしちゃって、メタルアイを追うわよ。」
「やーよ。あたしは。」
「な、なんですってぇ!?」
「あたしはもう少し、この坊やと楽しくやっているわ。行くならあんた一人でいってよ。」
「・・・あんたって、意外と淫乱だったのね。」
「何言っているのよ。さっさとメタルアイの始末に行こうとしている時に、勝手に男を引っ張り込んで暴走しちゃったのはどこの誰よ。もうあたし知らない。自分の不始末は自分でカタつけてよ。」
スティールアームは怒りに拳を震わせたが、そういわれると一言もない。
「ふん、まあいいわ。メタルアイぐらい、あたしがカタをつけてやるわ・・・」
93 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 23:06:26 ID:cH/YhRiM
「・・・眠れないのか?」
「そうね。でも、あたしは大丈夫だよ。翔也こそ眠りなよ。昨日のおとり捜査の疲れがたまっているんだから。」
「そんなわけにはいかないよ。君を護衛するのが僕の・・・」
「・・・ほら、船こいじゃっている。あたしは自分で身が守れるから、いいわよ・・・」
メタルアイは半分睡魔に襲われている翔也を見て、ふふっとやさしく微笑んだ。
翔也の部屋は真夜中の静けさがいっそう体に染み入るような感じだった。でも、メタルアイは神経を尖らせ、電子アイと電子聴覚装置の感覚を研ぎ澄ませていた。いつ、どこから奴らは襲いかかってくるのか。
と、そのメタルアイの聴覚になにか反応するものがあったのか、鋭い視線を窓の外の、多く立ち並ぶビル街の、一つのビルの屋上に定めた。いる、確かに。さっきの奴だろう。
「ごめんね翔也、あなたの気持ちは嬉しかったわ。でも、この戦いにあなたたちを巻き込ませるわけにはいかない。」
翔也は疲れに耐え切れなくなったのか、完全に眠りに落ちていた。隣の和室の宮下も同じように寝ているのかもしれない。メタルアイは足音を忍ばせてそっとドアを開き、部屋からでていった。
94 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 23:07:53 ID:cH/YhRiM
そのビルの屋上に、スティールアームがたたずんでいた。彼女はそのアパートの5階あたりから、メタルアイとおぼしき人影が出てくるのを認めた。
メタルアイははっきりと、スティールアームのいる位置を把握しているようだ。メタルアイの鋭い視線がこちらに突き刺さってくる。上等だわよ。相手にしてやるよ。上がって来いよ、メタルアイ。
「ふふふ、あたしが何故『スティールアーム』というコードネームか、教えてやるわ。」
と、スティールアームの両腕の袖からあの「鉄の爪」が凄い勢いで出てきた。同時に両方の手の皮膚がモコモコと盛り上がり、やがて皮膚を突き破ってその中から金属で装甲された手が現れた。
95 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 23:30:57 ID:cH/YhRiM
「ふふふ、どうやら自ら死にに来たようね。メタルアイ」
メタルアイの電子聴覚装置に、スティールアームの冷酷な声が響いてきた。
「シャドーフォックスの姿が見えないようだけど・・・」
「ふん、あいつは今、お楽しみの最中だよ。あたし一人にカタを付けに行けとぬかしやがる。」
「そう、じゃあ今ここにいるのは、あんただけってことね・・・」
メタルアイは改めて周囲を見渡し、シャドーフォックスがどこにもいないことを確認した。
「今ここで殺してやるよ・・・・・死ね、メタルアイ!!」
スティールアームは突如、そのビルの屋上から飛び降り、メタルアイのいるアパートめがけて跳躍した。サイボーグならではの、おそるべきジャンプ力だ。
「あたしは・・・・・翔也を守る!!」
メタルアイも超人的な跳躍でアパートの5階からスティールアームめがけて突進した。その右手にはいつのまにか、右足のロングブーツから取り出したレーザーブレードが握られている。
ガキィィィィィィン!!
メタルアイの剣とスティールアームの鉄の爪が、空中で火花を散らした。二人はビルの壁を蹴って再び跳躍し、空中で剣を交えた。
「くっ!!」
96 :
虞祭坊:2005/05/23(月) 23:32:14 ID:cH/YhRiM
二人はやがて、道路に降り立った。二人の距離は20メートルはあろうか、しばらく、緊張した間合いが続いた。お互いに踏み出せない状態、一歩踏み出せない状態、相手の出方をうかがっている状態、そこに長い時間が流れた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
実際は2分間は経ったろうか、しかし、メタルアイたちには1時間にも2時間にも感じられた長いインターバルだった。
と、メタルアイは何か意を決したように、両眼の白目部分を機械に変えた。ピピピ、ウィィィィィン!!
「アイビーム!!」
メタルアイの機械眼からビームが発射された。と、同時にスティールアームの両眼からもビームが発射され、お互いのビームが空中で衝突し、激しい爆発音が孤独なビル街に響いた。
その爆発音が合図だったのか、メタルアイとスティールアームは激しく突進してきた。
「バラバラに切り刻んでやるわ!!メタルアイ!!」
「負けられないわ、この戦い!!」
97 :
3の444:2005/05/24(火) 02:19:01 ID:sK4eJihX
(ちょっと胸騒ぎがしたから戻ってみたら、 案の定だね。 変なこと考えちゃ駄目だよ)
突然誰かが私の耳元でささやいた。 ちょっと怒ったような、 女の子の声。私以外に誰もいないはずの部屋で
突然声をかけられたこと。 自分の考えを見透かされたこと。 二重にびっくりした私は、軽く悲鳴を上げるくらい
うろたえて、 自分の病室を見回した。 でも、 やっぱり誰もいない。 おかしい。 今、 確かに私は誰かの声を聞
いたはずなのに。 空耳だろうか? それとも耳の故障かなんかで、 聞こえないはずのない音が聞こえちゃったんだ
ろうか? それとも、 考えたくないけど、 私に残された最後の人間としての部分、 脳みそまでおかしくなっちゃ
ったんだろうか?
(そんなところから飛び降りたぐらいじゃ、 今のあなたは死ぬことはできないよ。 かえってみじめな思いをする
だけだよ。 やめなよ)
まただよ。 またさっきの声が聞こえた。 声の主の女の子、 やっぱり、 ちょっと怒ってる。 怒っているだけ
でなく、 どことなく物寂しげだ。
今度は、 私は窓じゃなく部屋のほうを向いていたんだ。 だから、 部屋には私以外に誰もいないことは確認済
み。 でも、 部屋には誰もいないのに、 私は、 はっきりと彼女の声を聞いたんだ。 いや、 聞いたんじゃない。
彼女の声を感じているんだ。 耳で聞くんじゃなくて、 頭の中に直接響いてくる。 なんだか、 とても不思議な感覚。
誰もいないはずの部屋で、 誰かの声がする。 頭の中に誰かが居座って、 私に話しかける。 普通だったら、
恐怖ですくみあがっちゃうような体験だよね。 でも、 私は何故だか恐さを感じなかった。 それどころか、 声だけ
の得体の知れない誰かと一緒にいることで、 今まで、 理不尽な出来事が積み重なって自暴自棄になっていた私の気
持ちがすーっと落ち着いていくような気さえしたんだ。 姿は見えない声の主は、 なんだかずーっと昔からの知り合
いのような、 それこそ幼馴染よりも、 もっと身近な友達以上の存在のような気がしてならない。 私は、 あなたの
事をとてもよく知っている。 そして、 あなたも私の事をよく知っているはずだ。 私はそう確信した。 何故だろう。
何故、 そう思うんだろう。
98 :
3の444:2005/05/24(火) 02:22:03 ID:sK4eJihX
そうだ、 私、 あなたの声を知っている。 うまく思い出せないけどあなたの声を聞いたことがある。 だから、
そう思うんだ。 あなたは、 一体誰なの?
「誰! あんた、 いったい誰なのさ。 隠れてないで、 出てきてよう」
あなたに会いたい。 声だけのあなたに、 とても会いたい。 私は、 そう思った。 だから、 誰もいない部屋
なのに、 思わず大きな声で叫んでしまったていた。
(ごめんね。 私は隠れてなんかいない。 あなたのすぐそばにいる。 あなたが私を見ることができなくても、 私
はいつでもあなたのことを見ている。 あなたの幸せを願っている)
私の頭のなかに、 彼女の声が直接響く。 声が聞こえるだけじゃないよ。 私の事を誰よりも愛しいと思う気持ち、
私にこれからも強く生きて欲しいと願う彼女の思いやり、 私と離れ離れになる寂しさ。 そういった、 彼女の抱いて
いる感情の全てが、 私の中で溢れかえったんだ。 だから、 私は彼女が誰なのか分かった。 そして、 私は事故で意
識を失い、 生死の境を彷徨っていた時に私が見ていた夢の内容の全てを思い出したんだ。
「あなたは・・・、 あなたは私だ。 私自身だ。 そうでしょ。 そうなんでしょ」
そう、 あなたは私だ。 世界で一つしかない私の大切な身体なんだ。 あなたの声は、 まだ生身の身体を持って
いた時の私自身の声なんだ。 あの時見た夢、 自分が自分に別れを告げる、 とてもヘンテコな夢だった。 でも、 今
になってみれば、 あの夢の意味が全て分かる。 あれは、 夢なんかじゃない。 あれは私の身体が、 永遠に身体と
切り離されてしまった私自身に贈ったお別れのメッセージだったんだ。
(やっと思い出してくれた? そう、 私はあなた。 あなたは私。 あなたは自分のことを一人ぼっちになってしまった
と思っているかもしれない。 でも、 それは、 間違い。 私とあなたは、 直接はあえないかもしれないけど、 あなた
は私のことが見えないかもしれないけど、 私はいつだってあなたのことを見ている。 私だけじゃない。 お父さんも、
お母さんも、 隆太も、 あなたのことを見守っている。 目には見えないかもしれないけど、 とても遠くにいるのかも
しれないけど、 でも、 とっても太い糸で、 繋がっているんだよ。 あなたは決して一人ぼっちなんかじゃないよ。
99 :
3の444:2005/05/24(火) 02:24:16 ID:sK4eJihX
だから、 お願い、 そんなに悲しまないで! 死のうなんて思わないで! あなたは助かったじゃない。 せっかく助かっ
た命を粗末にしないで。 そんなこと、 私達は望んでない!)
「でも、 でも、 私は、 助かったんじゃない。 機械の力で無理やり生かされているだけなんだ。 こんなの助かった、
なんて言えないよ。 私はあなたが欲しい。 こんな冷たい機械の身体じゃなく、 あなたと一緒にいたいよ・・・。
私は、 とても寂しいよ」
(あなたが助かったのは、 お父さんが、 お母さんが、 隆太が、 あなたにだけは生きて欲しいと強く願ったから。
そして、 あなたにはみんなの願いを受け止めるだけの強さがあったから、 何よりあなた自身が生きたいと強く望んだ
から、 だから、 あなたはここにいるんだ。 あなたは決して機械に生かされているんじゃないよ。 あなたは自分自身
の意志で生きているんだ。 この先、 どんなに苦しいことがあっても、 決して逃げちゃ駄目。 私達のところに来たら
駄目。 それは、 私達の願いを踏みにじること。 そんなことしたら、 私も、 家族のみんなもあなたを許さない。 本
当は、 私だって、 あなたと一緒にいたかった。 あなたと一緒に、 これからもいろんな喜びも、 苦しみも分かち合え
ていけたらどんなに素晴らしかっただろう。 でも、 私にはそれは無理なんだ。 もう、 この世界には私の居場所はな
いもの。 でも、 あなたなら一人でも、 この世界で立派にやっていける。 そして、 幸せを掴むことができるんだ。
あなたが私達の分まで幸せになってくれること。 それが、 私達のただ一つの願いなんだよ)
100 :
受験生@ピンキー:2005/05/24(火) 02:32:13 ID:sJFqdN6E
「第三事新潟紛争鎮圧」
夏休みあけ、新聞にはそんな見出しがおどっている。
半島の某国が新潟県に侵攻した紛争に高二の俺は夏休みを利用して民間軍事会社のアルバイト社員として参加していた。
「フーン。しかし三回目か。こりねぇな・・・。」と思いつつ新聞を置くととなりの席に幼馴染みの「さや」が声をかけてきた。
「おはよう〜!シュウスケちゃん夏休みどっかいった?あたしは入院してたけど・・・。」
「ああ。新潟でバイトしてた。それよりからだはもういいのかよ?すげー心配したんだよ。」
101 :
3の444:2005/05/24(火) 02:38:38 ID:sK4eJihX
そうだ。 吉澤先生は何て言っていた? 病院に運び込まれた時点でまだ私が生きていたのは奇跡としかいいようが
ないって言っていたよ。 そう、 確かに奇跡が起きたんだ。 家族みんなの私に生きていてほしいという願いが、 家族
の絆が、 私の身体に奇跡を起こしてくれたんだね。 私、 分かったよ。 私が今生きていること、 それ自体が、 私達
家族が生きていた確かな証なんだ。 弱音を吐いてごめんなさい。 せっかく皆に助けてもらったのに、 簡単に死のう
としてごめんなさい。 みんな、 見ていてね。 この先、 どんな苦しいことがあっても、 私は乗り越えてみせる。 耐
えてみせる。 だって、 私は一人じゃないもの。 みんなが私を見守ってくれているんだもの。
(分かってくれたかな。 もう大丈夫かな。 じゃあ、 これで私は行くけど、 その前に、 あなたに二つ贈り物があるの。
私たちからあなたへの最後の贈り物だよ。 気に入ってくれるといいな)
もう一人の私は、 さっきの厳しい口調とはうって変わった、 安心しきった穏やかな話し方で、 私にそう言ってか
ら、 いたずらっぽく笑った。 贈り物って何だろう。 いったい、 何をくれるというんだろう。
「えっ?」
突然私の瞳、 つくりものの機械の眼から、 一筋の涙が流れたんだ。 本当は涙なんか流せるはずないのに・・・。
私は、 びっくりして、 眼をこすった。 私の指は確かに涙で濡れていた。
「これは?」
(ふふふ。 それがあなたへの一つ目の贈り物。 気に入ってくれたかな? その涙は作り物じゃないよ。 あなたが流し
た本当の涙だよ。 私達、 これで本当にお別れだもの。 私だけ泣いて・・・、 あなたが・・・泣けないなんて、 不
公平でしょ・・・だから・・・)
もう一人の私は、 最後まで言い終わらないうちに声を詰まらせた。 私の頭のなかで彼女の泣き声が響く。 同時に、
もう、 これで話すのも最後なんだっていう、 彼女の深い悲しみも私の心に痛いほど伝わった。
「有難う。 今まで・・・有難う。 これで、 本当にお別れだね。 私、 頑張るよ。 あなたも元気でね。 みんなに宜しくね」
102 :
3の444:2005/05/24(火) 02:39:34 ID:sK4eJihX
ようやくのことで、 そこまで言うと、 私も泣いた。 声にならない声を上げてむせび泣いた。 ひょっとしたら、
これが私がこの世で流す最後の涙かもしれないんだ。 だから、 今は、 どんなに泣いたって恥ずかしくないよね。 ここ
で、 今、 流す涙の分だけ、 私は強くなれるよね。 ねえ、 お父さん、 お母さん、 隆太・・・、 そうだよね。
(二つ目の贈り物はねえ、 これからすぐ分かるよ。 楽しみにしててね。 じゃあまた、 いつか会うその時まで、 しば
らくの間、 御機嫌よう。 さようなら)
もう一人の私の声がだんだん遠ざかっていった。 小さくなっていってやがて何も聞こえなくなった。 行かないでっ
て言う間も無く、 彼女の存在は消えちゃったんだ。 どこへ行ったんだろう。 行き先はねえ・・・、 私は後ろを振り向
いた。 空は、 さっきと同じ夕焼け空だ。 彼女が行った先は、 あの空の上。 遠い、 遠い世界。 でも、 とても近い世
界。 きっと、 そうに違いないんだ。
「さようなら、 さようなら、 さようならー」
私は窓の外に向かって、 声の限りにさけんだ。 もう一人の私に届けとばかりに。
愛想のない高層ビル、 ぐるぐる空を旋回する鳥の群れ、 眼下を行きかう車と人。 窓の外の景色はさっきと同じ。
でも、 私にとってはゼンゼン違う景色のように感じた。 私は一人じゃない。 みんなとは住む世界が違ってしまったか
もしれないけど、 私達は繋がっているんだ。 そう思ったら生きる勇気が湧いた。 世界の色が、 さっきとは違って見
えたんだ。
103 :
受験生@ピンキー続き:2005/05/24(火) 02:56:51 ID:sJFqdN6E
さやは丁度夏休みまえ事故にあって入院した。かなりの重傷だってきいたけど元気そうじゃん。
「うん!もう全然元気だよ!」
明るくこたえてくれたので俺は安心した。そして彼女の体をもういちどみた。血管が透き通るほど白い肌、黒目の大きい目、Iカップはあろうかというはち切れんばかりにでかい胸。しかし身長は150ないのだ・・・。
「どうしたの???」
さやは黒目の大きい瞳で不思議そうに覗き込む。
駄目だ。好みストライクだわ・・・。
もう幼稚園からの付き合いになるが最近ドキドキするようになった。
「き、傷がのこってないか気になったんだ。」
「うそー!おっぱいみてたでしよー!フフフフ。」
「ち、ちがう。」
「ダメだよぉー。バレバレだよー!」
そんなとりとめのない話をしながら一日が終ると思ってた。けどそのときは放課後に死ぬほど怖い思いをするなんておもいもしなかった。そしてさやの秘密をしるなんてけとも・・・。
104 :
3の444:2005/05/24(火) 03:04:08 ID:sK4eJihX
えーと、やっぱり夢のことは最初の段階では忘れていることにしました。
お恥ずかしい・・・orz
天からの贈り物、そろそろクライマックスです。
>>65 ヤギーを立ち直らせたのは、自分自身です。そして、家族の愛と絆、でした。
>>72 それに近いネタとしては義体展示会というネタを暖めていたりします。
>>66-69 いけ好かないと思っていた九条さんにもそんな悲しい過去があったんですね。
家族に捨てられて、でもプライドの高さからそれを認めることができず、兵器
としての最高を目指すなんて言って、自分を無理やり納得させているなんて。
悲しくも萌える話です。
>>81-84 いよいよ第二部ですね。肉体的な改造はそれほどないけれど、それだけに
訓練のほうが大変そうです。十ヶ月ですか・・・。先の長い話ですね。
ここをもう出ることはないだろうと思いながら、やっぱりアクアノートに
なる夢を捨てきれない。清水さん、相変わらず一途です。
>>85-96 いよいよ最初の敵との戦いですか。盛り上がりまくりです。本当にテレビ
の特撮モノを見ているかのような臨場感溢れる描写には驚かされます。
セクスレイブとかサイバゾネスとか、時折でてくる造語もいい味出しています。
>>100 ああ!またもや新作が!
間を割ってしまってスマソ。でもリアルタイムで読めてラッキーです。
今のところ明るく元気なさやちゃんなので、ほのぼの系の雰囲気なのですが
民間軍事会社なんて物騒な単語が飛び出すところを見ると、きっとこのまま
では終わらないのでしょうね。
105 :
受験生@ピンキー解説:2005/05/24(火) 03:33:21 ID:sJFqdN6E
みなさん。お疲れ様です。少し解説させてもらいます。
本作品では第三事新潟紛争中に某国サイボーグ特殊部隊を殲滅したサイボーグ少女「さや」と某国サイボーグ特殊部隊残党の闘いをえがかせてもらいます。半島の某国とはあの国のことなので作中には旧ソ連製兵器が多数登場する予定です。
もちろんさやちゃんのセックスも拝めます。
ピンキー様、保守も兼ねて上げられているのでしょうか?
いいですね女子高生サイボーグ!
108 :
前389:2005/05/25(水) 20:18:56 ID:Y6+01auG
3−1
次の日、山根さんは何事も無かったかのように登校してきた。
いつものように、休み時間でも誰とも話すことなく、一人で本を読んでいる。
「あの子がどうかしたの? 沢木さん」
山根さんの背中を見つめている私に、友達の川田さんが声をかけてきた。
「昨日 山根さんの家に行ったとき、何かあったの?」
「あ、ううん。 別に…」
言えるわけない。 山根さんが魔女だった事、私の中に埋め込まれた機械の事。
「あの子、無断欠席しておいて、言い訳が寝坊でしょ。 登校拒否ってヤツじゃない?」
「そうかなあ…」
「違うの? 玄関先で『クラスメイトに会いたくないから欠席したのに、なんで来たのよ』
って顔されて、それで腹立ててるのかと思ったんだけど」
「ううん、別に…」
生返事しか出来ない私。
「そう…なら、いいんだけどね」
少し不審そうな顔をされたけど、川田さんはそれ以上は尋ねてこなかった。
放課後、昨日言いつけられた通り、私は山根さんの家に向かった。
109 :
前389:2005/05/25(水) 20:20:59 ID:Y6+01auG
3−2
「いらっしゃい、沢木さん。 待ってたわ」
抑揚の無い声が、わずかにはずんでいる。
「早速、データを取らせてもらうわ。 昨日の部屋に来て頂戴」
友達としてではなく、実験台としての私を、山根さんは待っていた。
がちゃり、と鉄の輪が私の手足に嵌められる。 昨日と同じ姿勢で、私の身体は壁に固定された。
「……また、昨日みたいなことするの…?」
山根さんは私の質問には答えずに、長く太いチューブの束を取り出した。
「それは…?」
「沢木さんの体内のエンジンと直結して、データや“燃料”のやり取りをするコードよ。 さ、口を開けて」
そう言って、山根さんはリコーダーよりも太いチューブの先端を、私の口元に突きつけた。
(い、いや! やめて…)
口を堅く結んで、先端のプラグから顔を背ける。
「…嫌なら、胸を切り開いて差し込むまでよ。 口から入れるのと、どっちがいい?」
「う……」
かすかにうめき声の漏れた私の口へ、すかさずプラグがねじ込まれた。
「んっ!? んふううううっ!」
塩ビのようなチューブの感触が口腔を占領し、硬い金属のプラグが喉を下っていった。
110 :
前389:2005/05/25(水) 20:23:43 ID:Y6+01auG
3−3
───トクン カシャン トクン カシャン
喉をチューブに塞がれ、身体が驚いているせいか、それとも魔法の力なのか、
機械と心臓の鼓動がうるさいくらいに大きく聞こえる。
(やめて! もうやめて!)
ずるずると蛇のように進むチューブと、それをなすすべも無く飲み込んでいく私。
やがて、胸の奥からカチリという音が聞こえ、同時にチューブの侵入が止まった。
「…? もう接続できたのかしら」
それを確認するように、山根さんは、私の口から垂れ下がったチューブを引っ張った。
「んんんんっ!?」
内臓をわしづかみにされるような感覚。 そのまま引き抜かれてしまうかと思った。
「ちゃんと繋がっているみたいね」
山根さんは一人頷いた。
机の上に、大きな水晶の原石が置かれている。 山根さんは、チューブのもう片方の先端を、
その原石に突き刺した。
淡く輝きだす水晶。 その直後、私の中の機械が異音を発し始めた。
───ヴィィン カタカタカタ カシャン
(何、まさか、故障!?)
「別に異常じゃないわ。 身体データ採取と、水晶からの燃料吸引をするときの作動音よ」
山根さんは私に背を向けたまま、何かを読み取るように水晶の光を見つめている。
───ガリガリガリ ヴィン ギュウウウン
私の中心でとめどなく発せられる、狂ったような機械音。 それは、まるで私がロボットになったような
錯覚を引き起こした。
111 :
前389:2005/05/25(水) 20:25:56 ID:Y6+01auG
4−1
「ん……ぷはっ」
数分後、ようやく私の口から体液でぬめったチューブが引き抜かれた。
「…はぁ…はぁ…」
───トクン カシャン トクン カシャン
体内の機械音は、いつの間にか規則的なものに戻っている。
「沢木さん、いくつか質問があるんだけど」
「な…何?」
私の呼吸が整うのを待たず、山根さんはノートに向かいながら私に問いかけた。
「今日になってから、身体に何か変わったことはある?」
「ううん、べつに…」
「そう… じゃあ胸の奥の異物感は、まだ続いてる?」
「あ、それは…昨日の夜にはほとんど無くなった、みたい…」
淡々と問診のようなやり取りが続いた後、
「ふうん、なら肉体との同化は順調みたいね」
山根さんが、何か不吉な単語を呟いた。
「同化…? ちょっと待って! 同化って一体…」
「つまり、ソーサレスエンジンは、既に沢木さんの身体と不可分なものになっている、ってことよ」
さらりと、山根さんは当然の事のように言った。
「そ…んな…」
目の前が、真っ暗になる。
「もしかして、実験が終われば機械を摘出して、普通の身体に戻れると思ってた?」
前髪の下から覗いた山根さんの目が呆れている。
「………」
「そうね、沢木さんの体内がどうなっているか、一度見て自覚してもらったほうがいいわね」
112 :
前389:2005/05/25(水) 20:28:26 ID:Y6+01auG
4−2
壁に固定されている私の前に、一枚の鏡が引き出された。
洋品店の試着室にあるような大きさで、私の足から頭までが映っている
「沢木さんの中がどうなっているか、この鏡に映してあげる」
「えっ?」
山根さんが、手にした杖で鏡の縁を軽く叩く。
すると、鏡に映る私の姿に異変が起こった。 制服が透け始めたかと思うと、たちまち私の裸体が現れ、
さらに皮膚、肉が剥ぎ取られるように消えていく。
「いやああ!」
ほどなく、理科室の人体模型のように、内臓がむき出しになった私の身体が映し出された。
「ほら、鏡に映った胸のところ、よく見て」
「………」
見たくなんてないのに、魔法にかかったように視線が吸い寄せられていく。
「ひっ!」
赤くぶよぶよと蠢く臓器の中に、明らかに異質な物体が見えた。 銀色の光沢を放つ、あの機械。
その機械から一対の鉤爪が伸び、隣で脈打つ赤いボール…私の心臓に深々と食い込んでいた。
───トクン カシャン トクン カシャン
上下するピストンにきっかり半拍子遅れて、鉤爪が私の心臓を圧迫し収縮させる。
もう、私の心臓は自分の意思で動いていたのではなかった。 機械に管理され、機械の求めるままに
脈動するポンプに成り果てていた。
「分かった? もう沢木さんの代謝機構は、ソーサレスエンジン抜きでは成り立たなくなっているの」
「………」
「これから週に二回、ここでデータ採取と“燃料”の補給をするわ。 もし、“燃料”の補給無しで
一週間以上経過したら…命の保障はしないから」
113 :
前389:2005/05/25(水) 20:30:24 ID:Y6+01auG
4−3
(なんで…どうして…)
自宅に帰り着いた私は、力無くベッドに突っ伏した。
『つまり、ソーサレスエンジンは、既に沢木さんの身体と不可分なものになっている、ってことよ』
山根さんの言葉がよみがえる。
単に、怪しい機械が身体の中で音をたてているわけではなかった。 あの無機質な稼動音も、無数の歯車の
回転も、みんな 私という営みの一部になっていたのだ。
(…もうイヤ!)
胸の中に巣食った異物を嫌悪する事が出来ればどんなに楽だろう。 それが異物ではなく、私の一部だと
いうのなら、変質した私そのものを嫌悪しろというのだろうか。
そんな、自分を否定するなんて、出来るわけない。
「ひとみー、ご飯できたわよー」
階下から、お母さんの声が聞こえる。 気が付くと、もうとっくに日が暮れていた。
「…はーい」
あの機械が制御した結果なのだろうか。 こんなに気分が落ち込んでいるのに、何故かお腹は空いていた。
114 :
受験生@ピンキー放課後:2005/05/25(水) 22:18:18 ID:HdTmtVG8
放課後。俺はさやといっしょに帰る。彼女は気付いてないみたいだが俺は彼女が心配でしかたない。頼まれたら断れない性格で面倒みがいい手前見知らぬ男達に輪姦されたりしないかと・・・。
彼女の真っ白い肌にみとれていたら急に恥ずかしくなったので空をみてみたりした。
「アレ。ハインドじゃん。」
さやは「ハインドってなぁに?」ときいてきた。旧ソ連製の武装強襲輸送ヘリだと答えるまえにハインドから6人の人影がとびおりた。
「???(゜Д゜)!」
その直後搭載している四発の対戦車ミサイルをこちらに向けて発射した。
115 :
受験生@ピンキー放課後2:2005/05/25(水) 23:27:48 ID:HdTmtVG8
ミサイルが飛んでくる・・・。
「もうだめぽ。お父ちゃんお母ちゃんお姉ちゃんお爺ちゃんサヨウナラ・・・。」
そんなことが頭をよぎったがミサイルは空中で爆発した。迎撃ミサイルが発射されたようだ。迎撃ミサイルが発射された方向をみるとすごく見慣れない「さや」がいた。
「 (゜Д゜)!!」さやの制服の背中は破け、そこからつや消しブラックの金属の肌が露出していた。さらにその背中には10本以上のミサイルが放射状に装備されさらに耳はアンテナ状の部品で覆われていた。
116 :
前389:2005/05/25(水) 23:39:45 ID:Y6+01auG
前回からだいぶ間隔をあけてしまい、すいませんでした。
>>18 >>27 >>28 ありがとうございます。 このスレ的に初めての要素が多いので、
応援が嬉しいです。
タイトルは、「ウィッチズ インプラント」、
少女の身体をいろいろ弄り回すのがコンセプトです。
>>444氏
こんなに悲しい目に遭っていたとは。 それを考えると、八木橋さんのなんと気丈なことか・・・
>>前82氏
いよいよ、身体にメスが入りますね。 手術の後で、清水さんがどんな感想を抱くのか、気になります。
>>MIB氏
本格的戦いですね。 戦いに放り込まれる少女はMIB氏の得意分野なので期待してます。
>>虞祭坊 氏
これからよろしくお願いします。 これからメタルアイは孤軍奮闘という展開なんでしょうか
>>受験生 氏
えーと、受験生で放課後とか…あの、ひょっとして未成年の方ですか? ここ、21禁ですけど…
117 :
受験生@ピンキー:2005/05/25(水) 23:47:25 ID:HdTmtVG8
誤解を招いてもうしわけありません。当方自衛隊に落ち秋入隊を狙っている広義の「受験生」であります。
さすがに「ミサイルをぶっぱなす女子大生」は違和感ありまくりなため高校時代にタイムスリップしますた。甘酸っぱいッス・・・。
頼むから自分のサイトでやってくれ。
ウザ過ぎてかなわん・・・
>受験生さん
sageることからはじめましょう。スレの性格的にsage進行が望ましいと思いますし。
それと前後の流れを見てから書き込んだほうが切れ切れにならなくていいですよ。
御指導に感謝致します。修行します。
なんつーか、アレだ。
サイ○ノを思い出した。
アレは途中からサイボーグの粋を超えちゃった気がするが。
最後は地球脱出とかヤバいw
むしろサ○カノまんまだと思った
これからの展開に期待
123 :
前82:2005/05/28(土) 01:50:47 ID:8ayPVV+S
その翌日からは文字通り検査漬けの毎日が始まった。
朝起きると何も取らずに、採血と採尿。
軽い食事のあと、ここまで測るかと言うほど細かいサイズの測定。
ウエットスーツを初めて作ったときの採寸箇所の多さにも驚いたが、
ここまで測れば、全身機械にするパーツが作れるのではないかというほどの箇所を測られた。
当然整形されカバーを取り付けられるという陰部や、お臍は念入りに測られた。
さらに心電図のセンサーを取り付けられての20分以上の自転車こぎ、
マスクを着けられ吐いた息を全部回収しながらのランニングマシン走。
そのあとも採血、何かの注射。夜はくたくたになってそのまま寝てしまう毎日が続いた。
そして7日目の昼過ぎ「検査は終わりました。今日はゆっくり休んで明日の手術に備えてください。」
「手術は井上先生がやるんですか。」
「まさか。共同研究をしている大学病院の先生がチームを組んでしてくださるから安心してね。
もちろん私も立ち会いますが。それから、今から絶食してください。」
さっき何も気にせず食べたお昼のサンドイッチ、
それが当分の、もしかしたら、いや多分一生の食べ納めになってしまった・・・。
不安はある。しかしここまで来たんだという期待を何とか保つようにしてベッドに入った。
124 :
前82:2005/05/28(土) 01:52:06 ID:8ayPVV+S
ついにその日が来た。
指示されていた部屋にはいると井上ドクターと熊沢さんが待っていた。
「充分準備はできているから大丈夫よ。手術の準備をするから手術台に仰向けに寝てね。」
といわれ横たわった。
まず体験研修の時の準備と同じように肛門からカテーテルを入れられ、
お腹の中を念入りに洗われた。2度目という事もあるし、それほど苦痛とは感じなくなっていた。
次いでお臍の少し上から、太ももの真ん中まで剃毛された。
仰向けにされ、背中側も同じように剃られた。
もちろん大事な場所は特に丁寧に。
それが終わるとシーツを上に掛けられベッドごと別の部屋、そう手術室に運ばれた。
125 :
3の444:2005/05/28(土) 02:23:37 ID:bGgftTfK
しばらくの間夕焼け空を見上げて夢心地に感傷に浸っていた私だけど、 ドアをノックする音で、 いきなり
現実に引き戻されてしまった。 同時に今まで瞳いっぱいに溢れていたはずの涙は、 まるで魔法が解けたみたい
にきれいさっぱり消え去ってしまった。 ノックの主は大方、 汀さんか吉澤先生だろう。 何か用事があるから
部屋に来るんだろうけど、 お陰で、 せっかくのセンチな気分が台無しだ。 だから、 私は、 これから入って
くるに違いない、 無粋な闖入者を睨みつけてやろうと膨れっ面で、 ドアのほうを振り返ったんだ。
でも、 ドアを開けて入ってきたのは、 私が予想もしなかった人だった。 そして、 私のとてもよく知って
いる人だった。 年はとっているけど、 年の割りにがっしりした身体つき。 太陽の光で自然に焼けた浅黒い肌。
そして肌の色とはまるで正反対の真っ白な髪。 風貌とは全く見合っていない借り物みたいなスーツ。
「おじい・・・ちゃん?」
おじいちゃん。 青森のおじいちゃんだ。 私の大好きなおじいちゃんだよ。 お盆の時には、 毎年遊びに
いってたよね。 弟とおじいちゃんと裏のりんご園で一緒に遊だよね。 近くの川で、 釣りを教えてくれたよね。
いつも、 いつも暗くなるまでおじいちゃんの家に帰らなくって、 よく心配かけたよね。 毎年、 美味しいりん
ごを箱一杯、 私の家に送ってくれたよね。 おじいちゃんの、 がさがさだけど、 とても大きくて優しい手。
私、 大好きだった。 おじいちゃんを一目見て、 昔の楽しかった想い出が胸いっぱいに溢れかえった。 私は
すぐにでも、 おじいちゃんのところに駆け寄りたかった。 そして、 昔みたいに抱きしめてもらって、 頭を
撫でてもらいたかった。
126 :
3の444:2005/05/28(土) 02:26:05 ID:bGgftTfK
でも、 壁伝いに二三歩、 歩いたところで、 私、 それ以上足を進められなくなってしまった。 足が動か
ないから歩けないんじゃないよ。 私は、 今の自分の姿を思い出してしまったんだ。 昔の私とは似ても似つか
ない、 変わり果てた機械仕掛けの私の身体。 こんな私を見て、 おじいちゃんはどう思うだろう。 私の事裕
子だって分ってくれるだろうか? 裕子だって認めてくれるだろうか? もしも、 お前は裕子じゃない、 本当
の裕子はもう死んでいる。 お前はただの機械人形だ、 なんて言われたら、 私、 どうしたらいいんだろう。
そう思ったら、 足がすくんじゃったんだ。 おじいちゃんの眼を見るのが恐くなってしまったんだ。 私は、
棒立ちに壁にへばりついて、 ただうつむくことしかできなかった。
「裕子、 本当に裕子なのか?」
おじいちゃんは、 私の顔を見るなり、 ぎょっとしたように表情を強張らせて、 入り口に立ち尽くした。
こうしてわざわざ青森からお見舞いに駆けつけてくれている以上、 おじいちゃんだって私の身体に起こった
ことは全てお医者さんから聞かされているだろう。 外見が、 昔の私とはゼンゼン違うマネキン人形まがい
の作り物の身体になってしまったことも、 今の私に残されているのは脳みそだけってことも、 全部知って
いるはずなんだ。 そして、 きっと、 覚悟を決めて、 ドアを開けたはずなんだ。
それでも、 実際に私を目の前にしたら、 ぎょっとしてしまう。 部屋に入るのを躊躇してしまう。 お
じいちゃんの反応は仕方がないことなのかもしれないけど、 でも、 おじいちゃんの驚きの表情を見ること
で、 自分の身体が、 以前の私とは似ても似つかないお人形さんになってしまったことをあらためて思い
知らされて、 まるで、 もうなくなってしまった心臓に太い針を突き刺されたような気分になってしまった。
127 :
3の444:2005/05/28(土) 02:27:15 ID:bGgftTfK
私のことをずっと可愛がってくれたおじいちゃんでさえも、 私のことが分からない。 私は、 八木橋
裕子は、 ちゃんとここにいるのに。 おじいちゃんの目の前でちゃんと生きているのに・・・。 私がどんな
姿をしていても私なんだって分かってほしかった。 この人形の中に入っている魂は確かに私なんだって知っ
てほしかった。 体のほとんどが機械でも、 やっぱり私は人間なんだもの。 心は生きているんだもの。 私
だって、 肉親からの無条件の愛情が欲しい。 小さい頃みたいに、 やさしく私のことを抱きしめて欲しいよ。
「おじいちゃん・・・。 私、 裕子だよ。 裕子なんだ。 本当だよう! こんな姿してるけど、 裕子なんだ
よう!」
悲しくて、 悲しくて、 私はそう叫んだ後で無意識のうちに拳をぎゅっと握り締めて、 唇をかみしめて、
涙をこらえていた。 そんなことしなくても、 もう涙なんか出ないのに、 涙をこらえる必要もないのに、 頭
は昔の身体の事を覚えていて、 反射的にそんな仕草をしちゃうんだ。
「裕子!」
ずーっと黙りこくって私のことを見ていたおじいちゃんの表情が変わった。 はじめに驚いたように目を
まんまるにして、 次に顔をくしゃくしゃの皺だらけにして嬉しそうに笑いながら、 私のところに駆け寄って
きたんだ。 そして、 ガサガサした大きな手で頬っぺたを撫でてくれた。 昔、 同じ事をされたときによくそ
うしていたみたいに、 私は、 思わず眼をつむっちゃった。 目を閉じて、 そうやって肌の感触だけで、 お
じいちゃんの手の平を感じていると、 遠い昔の記憶が頭の中で鮮やかに蘇って、 胸が一杯になった。
「目をあけて、 顔を上げてごらん」
おずおずと顔を上げる。 私のすぐ目の前におじいちゃんの顔があった。 今度は、 おじいちゃん、 さっ
きの見ず知らずの人を見るような、 不安そうな顔つきじゃなかった。 私がまだ小さかった頃、おじいちゃん
の膝の上で甘えた時に見せたのと全く同じ、 孫を見る優しそうな眼で私のことをじいっと見つめていたんだ。
そして、 静かに、 でも力強くこう言ってくれんだ。
「見た目は変わってしまったかもしれないが、 間違いなくお前は裕子だ。 私の可愛い孫娘だ。 裕子! 生き
ていたんだな! 生きていてくれたんだな!」
128 :
3の444:2005/05/28(土) 02:36:08 ID:bGgftTfK
「おじいちゃん、 私が裕子だって分かるの? 裕子だって信じてくれるの?」
「お前はおじいちゃん子だったんだぞ。 私は小さい頃から、 お前のことをずっと見ていたんだぞ。 それこそ、
お前がまだ覚えていないくらい小さい頃からずーっと。 泣き出しそうなときの顔つき、 しゃべり方、 頬っぺ
たを触ったら目をつむるところ、 髪をかきあげる時のしぐさ。 私のよく知ってる裕子そのものじゃないか!
どんなに姿が変わったとしても、 どんなに声が変わっていても自分の孫娘のことを間違えるはずがない!」
私は嬉しかった。 おじいちゃんは、 私の外見じゃなく、 私の仕草を見てくれたんだよ。 そして、 私の
事を分かってくれたんだよ。
例え機械の身体になっても、 私の心はこうしてちゃんと生きている。 だから、 私のちょっとした癖や
仕草は、 昔と同じ。 それは、 私がやっぱり八木橋裕子なんだっていう確かな証なんだ。 どんな機械にだっ
て、 私の心まで変えたり、 支配したりすることはできない。 おじいちゃんは、 この、 私に人間として残
された最後のよりどころ、 私の心そのものを見てくれたんだ。 そして、 眼の前の女の子は、 姿かたちが
変わっても、 確かに私なんだって認めてくれたんだ。 機械なのか人間なのかよく分からない、 あやふやな
存在の私にとって、 こんなに嬉しいことはないよ。
「こんな姿になっても、 私のこと、 おじいちゃんの孫だって思ってくれるの?」
「当たり前じゃないか! 裕子、 生きていてくれてよかった。 本当によかった・・・。 おじいちゃんな、
事故の話を聞いた時は、 本当にショックだった。 みんな死んでしまったなんて、 そんな馬鹿な話があるかっ
て思った。 おじいちゃんは、 お前のお父さんをずーっと男手一つで育てたんだぞ。 そのおじいちゃんの自慢
の一人息子が、 可愛いお嫁さんをもらい、 裕子や隆太という子供ができて、 そして裕子や隆太がすくすく育
っていく。 おじいちゃんは、 幸せだった。 おじいちゃんは、 お前たちがごく普通の、 ありきたりな、 でも
幸せな家庭を築いているのを見るだけでも充分満足だったんだ。 そんな、 幸せな家族の命が一瞬でなくなって
しまったなんて・・・、 みんな死んでしまったなんて・・・、 おじいちゃんにはとても信じられることじゃなかった
129 :
3の444:2005/05/28(土) 02:38:29 ID:bGgftTfK
だから、 裕子だけは生きていると聞いた時、 おじいちゃんどんなに嬉しかったか分かるか? 裕子に
どんなに会いたかった分かるか? どんな姿になろうと関係ない! 裕子はいつだって、 これからもずーっと私
の可愛い孫だ!」
おじいちゃんはそう言って、 私の頭をわさわさとちょっと荒っぽく撫でてくれたんだ。 私の頭を撫でる
おじいちゃんの両目に涙が溢れてくるのが分かった。 おじいちゃん、 涙を見られるのが照れくさかったのか
なあ。 あわてて私の頭を両手で掴んで、 ぎゅっと大きな胸に押し付けたんだ。 でも、 どんなに泣いてるのを
隠したって、 おじいちゃんの肩も腕も細かく震えているもの。 私にはバレバレだ。 おじいちゃんが泣くとこ
ろ、 私ははじめて見たよ。 おじいちゃん、 いつも隆太のことを男は簡単に泣くもんじゃないって叱っていた
よね。 そんなおじいちゃんだもの、 私の前で泣くなんてプライドが許さなかったのかもしれない。 でも、
こんなときは、 例え大の男でも、 泣いても恥ずかしくないんだ。 私はそう思うよ。
「おじいちゃん! ありがとう、 ありがとう!」
私のこと裕子だって分かってくれてありがとう。 私、 おじいちゃんの孫でよかった。 本当によかった。
私も、 もしも生身の身体だったら、 おじいちゃんと一緒にポロポロとめどなく涙を流していたに違いな
いよ。 私もおじいちゃんと一緒に泣きたかった。 でも、 私の作り物の機械の目から涙なんか流れない。 お
じいちゃんと一緒に泣けないことが、 口惜しい。 でも、いいんだ。涙を流せない悔しさより 、おじいちゃ
んに会えて、 おじいちゃんに認められた嬉しさのほうがずっと大きいんだもん。 お父さん、 お母さん、 隆
太、 そしてもう一人の私は、 向こうの世界で私を見守ってくれている。 おじいちゃんは、 こっちの世界で
私を支えてくれる。 こんなにも沢山の人と、 私は見えない糸で繋がっている。
130 :
3の444:2005/05/28(土) 02:39:30 ID:bGgftTfK
寂しくないっていったら嘘になる。 泣かなくてもいいっていったら嘘になる。 だけど、 泣きたくても
泣けない身体を嘆くくらいなら、 笑顔でいよう。 私が、 明るく前向きに生きて、 幸せになること、 それ
がみんなの望みなんだもの。 涙を奪われた私でも嬉しいときに笑うことはできるはずだよ。 だったら、 ど
んな涙よりも素敵な笑顔を手に入れればいいんだ。 私はおじいちゃんに抱きしめられ、 おじいちゃんの嗚
咽を聞きながら、 そんなことを考えていたんだ。
131 :
3の444:2005/05/28(土) 02:53:01 ID:bGgftTfK
ご愛読有難うございました。
「天からの贈り物」は次回で終わりの予定です。
前389様
山根さんは予想以上にSですね。表情も変えずに冷酷なことをズバズバ
言ったり、沢木さんをただの実験道具としか見ていないあたり、なんだか
あくの魅力を感じます。
受験生様
「ハインドってなぁに?」ってのんびりした感じで聞くさやちゃんが
ミサイルを迎撃するなんて想像つきません。そのギャップに萌え。
前82様
とうとうここまで来ましたね。長い道のりでしたね。いよいよ手術ですか。
ある意味では、ここからがはじまりですね。
>>75-77 何かの機械やパーツとの接続のために、人間としては不完全な体、いいですね。
尻子田にう子(もサイボーグ。実は。)とか大好きです。
>>72,
>>104 不自然にステロタイプ的美人な、不自然に整いすぎた顔、不自然につやつやの肌、不自然にきれいな声、不自然に理想な体型の女の子!!
それも全くおなじ姿かたちがたくさん!!
だからこそしぐさの違いとかが目立って際立つ個性!!
イイ!!実にイイ!!激萌えですよ。
で、そんな女の子がいっぱい展示されちゃうんですね。
そんな会場で、大事故以来音信不通の行方不明になってしまっていた彼女と偶然再会!
もちろん姿も声も生身のころの面影すら残っていないのに、愛の力(と偶然)で見つけてしまう!
なんて話が読んでみたいものです。
前スレが512kbを超えたのでこっちに続きを書きます。
映し出されたのは、由美=サイバーエンジェルだった。
マスクを取り、素顔を晒した由美はぎこちない笑顔をこちらに向けて話し出した。
「雄二、驚いたでしょ。話題のサイバーエンジェルの正体は、実は私だったの」
知っている。そう入力したのは俺自身だ。
「暴走ロボットは機械帝国っていう連中の破壊兵器なの。じつはあれ以外にも様々なタイプがいて、私を所有している組織はそれと戦ってるの。
あ、所有っていうのはもう私は人間じゃないの。組織に選ばれて、改造手術を受けてサイボーグになったの。
ほら、別にアーマーとか着てるわけじゃないんだよ。金属製の外骨格が私の肌。その下もびっしり機械がつまってるんだ」
それも知っている。リアルタイムにデータが更新され、由美の状態は誰よりも詳しいんだ。
ぎこちない笑顔はさらに無理があるものになっていく。
「それでね、この体を維持するには定期的に整備が必要なの。戦闘後にもダメージを受けた部分を修理する必要があるし、そのままにしておくわけにいかないの。
だから、整備や修理ができるこの組織のお世話になるしかないの。でも、規則で組織の所有物以外には整備や修理ができないから、私はこの組織の所有物になったの。
でも安心して、私が所有物になる書類にサインした後みんな歓迎してくれたの。整備もきちっとしてくれるし。戦闘後も優しく迎えてくれるし、いつも私のことを気にしてくれているの」
嘘だ。書類は強制されて書かされたし、戦闘後も優しく迎えたりなどしない。効率が悪い詰り、命令拒否があれば容赦なく懲罰コードが打ち込まれる。
「それで本題だけど、私がサイバーエンジェルだって事は、本当は極秘事項だけど、一人だけに教えることが許可されたの。それで選んだのが雄二だったの。
本当は許可されないことだけど、私が素体に選ばれて回収された時、誰にも伝えなかったでしょ。だから一人だけでもってお願いしたら、連続戦闘の報酬だって特別に許可が出たの。
あ、もう時間が無い。
最後に一つだけ言わせて、雄二… 好きでした。
でも、もう私は人間じゃないの。組織所有のサイボーグCyberAngel01。機械の身体で、恋愛の自由も無いの。
だから、私の事は忘れてください。さようなら。大好きでした」
画像ファイルはそこで終わっていた。
しばらくの間、動くことは出来なかった。
ただ、涙だけが流れた。
さらに、時間が経つと不意にCyborgSimulatorを思い出した。
アイコンをクリックすると、ウィンドウが開く。
> β版では、CyberAngel01のシミュレーションこれ以上続ける事は出来ません
> 製品版をお求めください
製品版?もともと、このプログラムはアングラサイトのチャットで貰ったものだ。製品版なんてどうやって手に入れればいいんだ?
俺は、PCのまえで立ち竦むしかなかった。
それから様々なタイプのロボットが現れたが、俺には由美の応援をする以外に出来る事は無かった。
あれから1年ほど経ったある日、多摩の山奥の採石場跡地で大規模な爆発事故があった。
そのころになると、機械帝国の存在やサイバーエンジェルの正体がサイボーグであろうなど、情報が漏れ始めていた。
そして件の爆発事件以来、謎のロボットの出現がピタリと止んだことにより、機械化帝国が滅んだのでは?、という憶測が叫ばれていた。
そんなある日だった。
「宅配便です」
そう言って、男が持ってきたのは巨大な箱だった。
俺宛の書類に判子を押すと、男達は箱を運び込むと言った。
とりあえず、自室に入れるよう頼むと、見事な技術で部屋の中に入れてくれた。
包装をはぐと、そこには巨大なカプセルと手紙が1通入っていた。
カプセルの中身を気にしながらも、手紙を開く。
内容は思いもしないものだった。
「シミュレーション過程が全て終了しました。
三井 由美さんは返却します。
ただし、契約によりシミュレーション期間中の不可逆な改造は保障しません
また、現在の身体は1ヶ月に1度のメンテナンスが必要です。
詳しい事は彼女に尋ねてください」
驚いてカプセルを開ける。
中には由美が眠っていた。
「由美!」
身体は白と青のメタリックなサイボーグのままだったが、間違いなく由美だ。
「由美!」
叫びながら身体を揺すると、うっすらと目を開けた。
「CyberAngel01。起動しました」
機械的な口調でそう言う由美を抱きしめる。
「もういんだよ。由美。君は三井由美に戻ったんだ」
俺の言葉に呆けた様にしていた由美だったが、目に光が戻る。
「あれ?私… でも、どうして? 皇帝との決戦で大破して廃棄が決まったはずなのに…」
「廃棄なんてされない。君は由美に戻ったんだよ」
「雄二? なんで雄二が? それにここは雄二の部屋?」
「そうだよ。由美は帰ってきたんだよ」
「夢じゃないよね? もう戦わなくてもいいの?」
「そうだ。もう戦わなくてもいいんだ」
微笑みかけて、由美の身体を抱き起こす。
由美はその時気付いたように自分の身体を見る。
「あ、でもこの身体のままなんだ…」
悲しそうに俯く。
それでも、ここに由美がいることが俺にとっては大事だった。
「大丈夫。きっとなんとかなるよ」
そして由美と唇を重ねた。
由美の唇は暖かかった…
その後は色々と大変だった。
由美の両親に由美の姿を見せたら気絶させてしまった。
サイボーグとして生活するのは様々な困難が付いて回った。
目立つ外見、定期的なメンテナンスetc、それらもなんとか解決していった。
外見こそ以前のものと同じだったが、戦闘能力をオミットしてあった代わりに、姿を人間そっくりにカモフラージュする機能があり、それを用いた。
由美の組織に関するデータはほとんどが消されていたが、メンテナンス用の施設を1箇所だけ記憶していた。そこにはメンテナンス用の道具全て残されており、それを使うことでまかなった。
ただ、子供を作ることだけは出来なかった。
性行為機能自体はあるが、それは楽しむためのものであり、子供を作るためのものではなかった。
それでも、由美は泣き言を言ったりしなかった。
最後に、あのシミュレーターについて語ろう。
あの後、ひと段落付いてPCを調べたら、プログラム自体が消えていた。
あれが、結局何だったのか分からない。
もしかしたら、全くの偶然で同時期に、全く関係無い組織が由美を改造したのかもしれない。
だが、どう考えても関係無いとは思えなかった。
あなたも同様のプログラムを見つけたら、気をつけて欲しい。
やっと終わりました。
気まぐれで始めたものですが、無事完結してよかったです。
しかし、途中で別のものが書きたくなるのは悪い病気ですなw
次はメタルバルキリーの続きをしっかり書きます。
>>140 >Cyborg Simulator = M.I.B.
ハゲワロス&超乙!
楽しませてもらったですよ。
何気にIDが神になってないか?俺
>>138 なんか逆パターンっぽいな(w
イソジマ義体娘たちの笑顔はプログラムされたものじゃないから、あんな同じ表情はできないだろう。
顔もよくよく見るとそれなりに違うし。
144 :
3の444:2005/05/30(月) 01:27:50 ID:AZU1bEG0
おじいちゃんは、 しばらくの間私を胸に抱いて泣いていたんだけど、 私が顔をあげると、 照れくさ
そうに顔を赤くして、 私から眼をそらして涙をぬぐった。 それから、 しばらく無言のまま、 持って来た
バックの中を探って、 茶色の小さなプラスチック製のケースを取り出すと、 私の右手に押し付けたんだ。
「事故のあと、 車の中から出てきたものだそうだけど、 これは裕子のものだろう? 家族で眼鏡をかけて
いたのは裕子だけだったもんな」
おじいちゃんに渡されたケースを開けると、 見覚えのあるフレームなしの眼鏡が入っていた。 そう、
これは私のもの。 間違いない。 私は、 眼鏡をケースから取り出して、 試しにかけてみた。 でも、 案
の定ぼやけて何も見えなかった。 眼鏡なんて、 今の私には、 必要がないもの。 私、 自分があれほど望
んでいた眼鏡いらずの新しい目を手に入れたんだよ。 良かったじゃないか。 それなのに、 それなのに、
こんな悲しい気持ちになってしまうのは何故だろう。
この眼鏡は、 あの事故の直前に、 両親がデパートで私のために買ってくれたもの。 でも、 私、 本
当はコンタクトレンズにしたかったから、 眼鏡をかける事が嫌で嫌でたまらなくって、 このケースに入れ
っぱなしにしていた。 そして、 一人でふてくされていたんだ。 あれが、 私が家族と過ごした最後のひと
ときだったというのに・・・。 私はなんて我侭だったんだろう。 なんて馬鹿なことをしたんだろう。 あ
れっきり、 もう家族と二度と会えないって分かっていたら、 もっと、 もっと話したかったことがたくさん
あったのに。 お父さん、 お母さん、 隆太。 ごめんね。 せめて、 あと一回だけでいい。 みんなと会って
話がしたい。 最後に、 みんなにごめんなさいって謝りたい。
神様、 お願い、 最後に一回だけ、 家族の声を聞かせて欲しい。 それが無理なら、 家族からの手紙で
もいいんだ。 お願い・・・。 でも、 もう取り返しがつかないよね。 分かってるよ。 過ぎた時間は二度と
戻せないもんね。 そんなこと思うのは、 もうやめよう。 所詮かなわない願いだもの。 みんなが、 どこか
で私の事を見守ってくれている、 私はそれだけで充分だよ・・・。
145 :
3の444:2005/05/30(月) 01:29:47 ID:AZU1bEG0
(きっと、 この眼鏡、 もう二度と使うことはないだろうな)
私はそんなことを考えながら、 眼鏡をもう一度ケースにしまおうとした。 眼鏡と一緒に、 昔の家族
との楽しかった想い出もすべて、 ケースの中に仕舞い込んでしまうような気がして、 胸がひどく苦しかった。
眼鏡をケースにしまおうとした私は、 ケースの中に小さな紙切れが入っているのに気がついた。 きっと、
眼鏡の説明書か、 保証書の類だろう。 ふつうは、 読まずにすぐ机のなかに放り込んで、 いつしか、 そん
なものがあったことさえ忘れてしまうような、 取るに足らない紙切れ。 そのはずだった。 だけど、 私は、
その小さな紙切れが、 なんだかとても気になった。
ケースに眼鏡をしまいこんで小脇に抱えると、 私は早速、 二つ折りにたたまれた、 その小さな紙片を
開いてみた。
え? え? え?
そこに書いていた言葉、 私は、 一瞬、信じられなかった。 だから、 顔を上げて、 眼をこすってから、
もう一度見直したんだ。 でも、 やっぱり同じことが書いてあった。 そこに書かれていたのは、 私が望ん
で、 でも結局無理なんだって自分に言い聞かせて、 諦めていたこと。 お父さんから私への、 最後の言葉
だったんだ。
__________________________________________
裕子へ
父さんも、 母さんも、 隆太も元気でやっている。 安心してほしい。
結局、 この眼鏡が裕子のために買った最後の贈り物になってしまったな。 裕子はコンタクトにした
がっていたけど、 それは無理だった。 残念だったな。 そのあと車の中では珍しくふてくされていたな。
コンタクトが着けられないことなんて、 大した事じゃない、 なのに、 何故あんなにぶすっとした顔を
したんだ? それは裕子が、 今、 恋をしているからだろう? 図星かな。 否定したって、 駄目だぞ。 裕
子は隠し事が本当に下手なんだから。 親の目から見たらバレバレだ。 隆太だって気付いていたぞ。大方
恋のお相手から眼鏡は嫌いだ、 なんてことを言われたんだろう。
146 :
3の444:2005/05/30(月) 01:31:26 ID:AZU1bEG0
青森で、 山や川を走り回っていたお転婆娘も、 そうやって異性のために、 着飾ったり、 自分の外見
を気にするようになったりするような年頃になったんだと思うと、 本当に感慨深い。 裕子も、 もう16歳
だもんな。 でも、 一つ言っておくぞ。 女の子の顔が眼鏡かどうかなんて気にするような男は、 私から言
わせれば大した男じゃないな。 私に言わせれば眼鏡をかけた裕子だってわが子ながら、 とても可愛らしい
と思うぞ。 まあ、 それは父親としての愚痴だ。 気にしないでくれ。 ああ、 16年か。 長いようで、 今
こうしてみると、 ほんの一瞬の出来事だったような気がするな。
残念だけど、 私達とは、 これでいったんお別れだ。 私の意志を伝えることができるのも、 これが最
後だと思う。 これからは、 裕子は一人で生きていかなきゃいけないんだぞ。 大変だろうけど、 しっかり
しなきゃいけないぞ。 裕子が生きていく道のりは決して平坦な歩きやすい道じゃない。 時には挫けそうに
なることもあるだろう。 でも裕子なら乗り越えられる。 私はそう信じているよ。 でも、 どうしても、 挫
けてしまいそうなときは、 時々は私たちの事を思い出してほしい。 同じ場所にはいないけれど、 お互い話
したりすることはできないけれど、 私たちはいつでも、 裕子のことを見守っているんだ。 裕子は決して一
人じゃない。 それを忘れないで欲しい。
裕子、 お前は私達の誇りだ。 私達の太陽だ。 今まで16年間家族を明るく照らしてくれて有難う。 今度
は、 明るく世の中を、 周りの人達を照らす番だ。 大丈夫。 裕子ならきっとできる。 裕子ならきっと幸せ
になれる。 そして裕子なら周りを幸せにできる。 私達はそう信じている。 裕子がいてくれてよかった。 裕
子が私たちの娘でいてくれて本当によかった。 今まで、 たくさんの思い出を、 本当にありがとう。
さようならとは、 言わない。 またいつか、 必ず会おう。 会って、 お前が、 このあとの人生の中で見
てきたこと、 感じたこと、 楽しかったこと、 辛かったこと、 嬉しかったこと、 全てのことを私達に話して
聞かせて欲しい。 いつか来る、 その日を楽しみに、 気長に待つことにするよ。 じゃあな。
147 :
3の444:2005/05/30(月) 01:37:21 ID:AZU1bEG0
お父さんより
__________________________________________
お父さん!
お父さん!お父さん!お父さん!お父さん!お父さん!お父さん!
私は決して機械じゃない。 私には親がいるんだ。 こんなにも立派な親がいるんだもの。 そんな私が、
血の通わない、 ただの機械のはずがない。 大好きだったお父さん。 私はあなたの娘です。 私はあなたの
娘だったことを決して忘れない。 そして、 どんなことがあっても、 挫けず、 強く、 誇り高く生きていく。
だから、 空のどこかで、 私の事をずーっと、 ずっと見守っていてください。 お母さん、 隆太。 私、 み
んなと暮らせて幸せだったよ。 あなたたちの家族でよかったよ。 私達、 いつまでも、 これからもずーっ
と、 ずっと家族だよね。 たとえ離れ離れになっても、 心は繋がっているよね。
みんなありがとう。
私もさよならは言わない。
いつか、また、会おうね。きっとだよ。
「裕子、 どうしたんだ、 裕子」
おじいちゃんの声に、 はっと我に返った。
「眼鏡の保証書なんか眺めて、 いったいどうしたっていうんだ? 何が書いてあるんだ?」
おじいちゃんは、 訝しげにそう言った。
「えっ? 保証書?」
私は驚いて、 自分の見つめていた紙片に眼を落とす。
眼鏡の保証書だって? 嘘、 そんなはずはないよ。 これは、 お父さんから、 私にあてた最後の手紙
だよ。 おじいちゃん、 そんなことも分からないの?
私は、 もう一度、 手に持った紙片に書いてある文字を眼で追った。
えと、 お客様各位。 この度は、 弊社の眼鏡をお買い上げいただきまして、 誠に有難うございます・・・。
あれ??? これやっぱり、 ただの眼鏡の保証書じゃないか。 じゃあ、 さっき私が読んだのは何なの?
ただの幻? それとも義眼の故障で、 ありえないものが見えたっていうの?
148 :
3の444:2005/05/30(月) 01:41:48 ID:AZU1bEG0
違う。 あれは、 幻なんかじゃない。 あれは、 私にしか分からない、 親から私への最後のメッセー
ジ。 さっき、 もう一人の私が言っていた「もう一つの贈り物」ってこれのことだったんだね。 この世界
にはいない、 私の親から私への言葉。 どんなにお金を積んでも決して買うことができない、 かけがえの
ない贈り物。 この世で一番高価な宝石だって、 こんなに美しくはない。 こんなに輝いてはいない。 あ
りがとう。 私に生きる勇気をくれて、 ありがとう。
私は、 もう一度、 眼鏡をケースから取り出した。
なぜだろう。私、今、この眼鏡がかけたくてしょうがないよ。 あんなにも、 眼鏡をかけた自分の顔が
嫌だったのに。 コンタクトにしたかったはずのに。 今となっては、 私には必要のないもののはずなのに・・・。
でも、 今は眼鏡をかけたくて仕方がないんだ。 分かってるよ。 答えなんか分かってる。 この眼鏡は、
私と家族が、 これまで16年間培ってきた絆の象徴。 そして、 私が人間なんだってことの確かな証。 そう
だよね。
翌朝、 私がベッドの上で身体を起こして、 ぼんやりと朝のニュース番組を見ていたら、 汀さんが昨日
と同じ白衣姿で私の病室にやってきた。 ああ、 汀さん。 私はあなたが来るのを待っていました。
「八木橋さん、 こんにちは。 今日は元気そうね。 おじいさんに会ったからかな? ちょっと安心しました」
汀さん、 食事代わりの、 小さなピンク色のカプセルを私に手渡しながら、 小鳥みたいにほがらかに
笑った。
「昨日は、 あの・・・、 ひどいこと言ってごめんなさい。 私、 どうかしてたんです。 本当にごめんな
さい」
「いいのよ。 いろんなことが、 ありすぎたもの。 取り乱して当然よね。 でも、 あなたは強い子ね。 今
日は、 すっかり落ち着いているじゃない。 あなたみたいに、 事故で義体になっちゃった場合はね、 自分
の状態を受け入れて、 ちゃんと会話ができるようになるまでには普通は少なくとも一週間近くかかるんだから」
149 :
3の444:2005/05/30(月) 01:44:03 ID:AZU1bEG0
私は強い子か・・・。 そうじゃない。 私は弱い子だよ。 私、 昨日は死のうとしたんだよ。 現実に眼
を背けて逃げようとしたんだ。 そんな私を立ち直らせてくれたのは、 もう一人の私、 おじいちゃん、 それ
から、 お父さん、 お母さん、 隆太。 みんなの励ましのお陰なんだよ。
そんな、 嘘みたいな話、 きっと汀さんに言っても信じてもらえないだろう。 だから、 私、 そうなんだっ
て軽く相槌を打っただけ。 そんなことより、 汀さん、 私、 あなたに頼みたいことがある。 とても大事なお願
いなんだ。 だから、 昨日からずっと汀さんが来るのを待っていたんだよ。
「あの、 汀さん、 お願いがあるんだけど・・・」
おずおずと上目づかいに本題を切り出してみる。
「何でしょう? 私にできることかな? そんなに照れくさがらないで、 もっと遠慮なく聞いていいんだよ。 私は、
あなたのケアサポーター。 もっというと、 あなたのお姉さんでもあり、 友達でもある。 汀さんなんて他人行儀
じゃなく、 もっと気軽にいきましょう。 私の名前は環っていうの。 だから、 吉澤先生は私の事タマって読んで
る。 八木橋さんもタマちゃんって呼んでくれていいよ。 そのほうが、 親しみやすいでしょ」
「じゃあ、 タマちゃん。 あの、 私の視力って、 自由に変えられるのかなあ?」
「ああ、 そんなこと? 簡単にできまーす。 ちょっと、 眼が見えづらかったの? もう少し、 視力をよくしてみる?」
「ううん、 そうじゃないんだ。 そうじゃなくて、 今よりもっと眼を悪くできないかなあ?」
「え? わざわざ、 眼を悪くしちゃうの? できないことはないけど・・・、 そんなの聞いたことない。 何でそんなこと
しようと思ったの?」
タマちゃんは目を丸くして驚いている。 当然だよね。 眼が良くなりたいって思う人はたくさんいるだろうけど、
わざわざ眼を悪くして、 なんていう人はいないよね。
「タマちゃん、 笑わないでね。 私、 眼鏡がかけたいんだ」
「はぁ? 眼鏡をかけたい? 何言ってるの。 ふふふ、 八木橋さんって面白い子ね」
150 :
3の444:2005/05/30(月) 01:45:00 ID:AZU1bEG0
タマちゃんは大きな目を細めて、 歌うみたいに笑った。 私は、 笑わないでって言ったのに・・・。 私、 ギャグ
のつもりで言ったんじゃないよ。 第一、 そんなのギャグとしてもちっとも面白くないじゃないかよう。
「うー、 汀さん、 笑わないでよう。 可笑しくなんかないんだ。 私は本気だよう」
私は、 ちょっとむっとして、 膨れっ面をした。 それを見たタマちゃん、 笑うのをやめて、 急に真面目
な顔つきになって、 私にこう言ったんだ。
「八木橋さん、 あなたは生身の身体の時は目が悪かった。 だから、 その時の感覚を少しでも取り戻したいん
でしょ。 気持ちはよく分かりまーす。 でもね、 厳しいこというようだけど、 そんなことをしても、 昔の身
体に戻るわけではないんだよ。 あなたは、 これからは、 今の新しい身体で生きていかなきゃいけない。 そ
のためには、 そんなことをするより、 今の新しい身体に一日も早く慣れるようにリハビリトレーニングをしな
きゃ。 そうじゃない?」
「タマちゃん。 分かってる。 そんなこと、 分かってるんだ。 私は、 新しい身体に慣れるように努力します。
リハビリもちゃんとやります。 タマちゃんの言うこと、 なんでも聞きます。 だから、 お願い。 眼鏡だけは、
私から取り上げないで。 お願いだよう」
私の気持ちに嘘はない。 私は、 もう自分が機械の身体になって、 二度と温かい生身の身体に戻れないっ
てことは、 よく分かっている。 この新しい身体を一生のパートナーとして生きていかなければならないってい
う覚悟も決めた。 それでも、 ううん、 だからこそ、 私は、 自分の身体がまだ生身だったときの、 ほんのわ
ずかな痕跡でも大事にしたい。 眼鏡は、 私と、 私の家族が確かに繋がっていることを示す確かなあかしなんだ。
私が強く生きるための象徴なんだ。 だから、 これだけは、 譲れないよ。私は、 頑張った。 タマちゃんから
何を言われても聞き入れなかった。 そして、 とうとうタマちゃんは、 私に根負けして、 渋々だけど、 私が
眼鏡をかけることに同意してくれたんだ。
151 :
3の444:2005/05/30(月) 01:49:09 ID:AZU1bEG0
タマちゃんは、 部屋に片隅に置いてある大きなコンピューターから、 黒いコードを引っ張ってきた。
「八木橋さん、 いい? 今から、 あなたの視力を変えるために、 コンピューターと、 あなたの身体にあるサポ
ートコンピューターを接続します」
「さぽーとこんぴゅーたー?何それ」
「サポートコンピューターっていうのはね、 あなたの脳と身体を繋ぐ仲立ちをするコンピューターなの。 あなた
の脳から出るいろんな命令を身体が受け取りやすい信号に変えたり、 逆に身体が受けた刺激をあなたの脳が受け
取りやすい信号に変えたりする、 まだ役割はいろいろあるけど、 まあ、 分かりやすくいうと、 神経回路の翻
訳機みたいなものかしら。 このサポートコンピューターを使って、 八木橋さんの義体の様々な調整もするのね。
ま、 詳しいことは、 あとで、 おいおい教えていくとして、 これから視力の設定をいじるからね」
タマちゃんは、 そういうなり、 私の首の横っちょをなにやらゴソゴソいじったかと思ったら、 手に持った
コードを私の首根っこに突き刺したんだ。 反射的に眼をつむっちゃったけど、 ゼンゼン痛くない。 あわてて、
自分の手で、 首のところを探ってみると、 小さな蓋が開いているみたいだった。 蓋の中に指をすべらすと金属
みたいな手触りで、 いくつか小さな穴が開いていることが分かった。 その穴の一つに、 さっきのコードがしっ
かりと接続されている。 昨日ベッドで眼が覚めたときも、 確か、 同じ場所に管みたいなものがささっていた。
あの時は点滴か何かだと思っていたけど、 そうじゃなかった。 私の体の中のコンピューターと、 外に置いてあ
るコンピューターを繋いでいたんだ・・・。
外見は人間そっくりでも、 こんなふうに一皮向けば機械の固まり。 そのことを、 日がたつにつれてどんど
ん思い知らされていくんだろう。 この身体で生きていくんだって覚悟はできているけど、 それはやっぱり悲し
いことだった。 タマちゃんは、 私の気持ちを察しているのか、 余計なことは何一つ言わず、 コンピューター
のキーボードを叩いている。
と、 視界が、 急にうすぼんやりしたものになった。
152 :
3の444:2005/05/30(月) 01:50:07 ID:AZU1bEG0
「終わったよ」
タマちゃんは、 私に向かってにっこり微笑んだ、 と思うんだけど、 彼女の顔の輪郭も 二重にも、 三重
にもなってぼやけて、 表情がはっきりと分からない。 なんだかまだるっこしい。 でも、 懐かしい感覚。 私は、
戻ってきた。 視力0.1の世界に戻ったんだ。 これで、 やっと私も眼鏡がかけられる。
私は、 傍らにおいてあったプラスチックのケースから眼鏡を取り出して、 眼鏡をかけたんだ。 その瞬間、
私に、 きれいな世界が蘇る。 タマちゃんは、 私のほうを向いて、 可笑しそうに笑っていた。
ボタン一つで視力が良くも、 悪くもなる、 機械仕掛けの身体。 それが、 今の私。 そんな身体のくせに、
眼鏡がかけたいなんて、 やっぱり私って変? おかしい? 笑いたければ、 笑って構わないよ。
でも、 眼鏡姿の私だって、 捨てたものじゃない。 そうでしょ?
ふふふ、 お父さん、 そうだよね!
世にも珍しい、 全身義体のめがねっ娘、 八木橋裕子は、 こうして生まれたんだ。
おしまい
153 :
3の444:2005/05/30(月) 02:01:12 ID:AZU1bEG0
「天からの贈り物」これにて終了です。お付き合いいただきまして
有難うございました。今回は、私のほとばしる眼鏡っ娘への情熱を
文章にぶつけさせてもらいました。
次回は、大学編の第一話をやろうと思います。
お題は「全自動化住宅」。ご期待ください。
>>132 >そんな会場で、大事故以来音信不通の行方不明になってしまっていた彼女と偶然再会!
>もちろん姿も声も生身のころの面影すら残っていないのに、愛の力(と偶然)で見つけてしまう!
おお、面白そうですね。連載の暁にはそのアイディアを取り入れてみます。
ネタ出し、有難うございました。
>>140 由美ちゃん、悲しくもけなげですね。画像ファイルが、届いて、雄二を
安心させようと無理やり嘘をつくくだりは、私の萌えの琴線にドンピシャ
でした。
で、M.I.Bさんが作者だったとは、何にもまさる驚きのオチ。
バラされてみると、文体はM.I.Bさんそのものなんですけど、リアルで
読んでいるときはすっかり騙されました。私もやってみようかな。
154 :
前82:2005/05/31(火) 00:37:38 ID:VVtmTVy0
部屋には、緑色の手術気を着た人が5,6人いた。
「清水さんですね。ゆったりした気分で行きましょう。」紳士的な感じの先生だ。
看護師らしい女性が胸に電極を付けたり、血圧計を腕に巻いたりし始めた。
「横向きになって膝を抱えて背中を丸めてください。」と指示された。
先生が背骨を腰の当たりから、上の方にたどっていき、場所が決まったのか注射を打たれた。
痛い!!。「動かないで!!」
背中から腰が重い感じになってくると仰向けに寝かされた。
点滴を付けられ、股を少し開かれ少し高い位置に固定されてしまった。
噂に聞いていた、婦人科の診療姿勢。恥ずかしい・・・。
全身麻酔されて意識が無くなつてあっという間に手術は終わると思っていたのに、
このまま<
いろんな事をされるのだろうか。不安になってきた。
155 :
前82:2005/05/31(火) 00:38:49 ID:VVtmTVy0
「採卵から行きます。」
下腹部をごそごそ触られているのがわかる。痛みと言うより引きつるような感じだ。
お腹の中に何かが入ったり出たりしている鈍い感覚はある。
しばらくするとお臍の辺りを、・・・
メスで切られている感覚はあるが痛くない。
お臍から何かが入れられている感じははっきりわかった。
「膀胱内に来ました。バルーンお願いします。」
「口を開いて。」
先生たちが確認し合っているのかと思ったら、私のこと。
口をこじ開けられてしまった。
何かスプレーを喉にされたあと、喉の方に何か入れられたと思ったら
そのまま長い管をどんどん入れられる。口を塞がれ胃の中に空気が溜まってきた。
またお臍の辺り何か入れられている感じ。
「胃内、来ました。ゆっくり入れて・・・、幽門当たりました・・・もうすこし・・OKです。」
「臍部のプロテーゼ付けてここはお終い。」
お臍の辺り引いたり、押されたりしているのがわかる。これがマリンアンビリカル取り付けなのだろう。
口に入れられていた管はゆっくり抜かれた。
156 :
前82:2005/05/31(火) 00:39:48 ID:VVtmTVy0
「じゃぁ外陰部と肛門、口を3つともよく開いて、プロテーゼをきっちり合わせてー。」
大事なところもメスが入れられているのがわかる。
痛みがないだけ何をされているのかわかってしまう。
開かれたり、ぐっと押さえつけられている感じ・・・。
性体験の有無までわかっちゃうんだろうか。
「ドレイン付けてお終いだなー」
井上ドクターがのぞき込んで
「おめでとう。無事終了よ。そのままゆっくりしててね。」と声をかけてきた。
しばらくして「回復室に移動します。麻酔はこのまま続けるので、
明日の晩までは寝返りはできないけど我慢してください。」といわれた。
緊張が切れたのかそのまま寝てしまっていた。
>>Cyborg Simulator
イイ!!萌えるじゃないですか!!手術台にハリツケにされ、いやがる少女を改造!勃起。
158 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:05:24 ID:IRLl0bMA
人気の全く消えた真夜中のビル街の道路に、メタルアイの剣とスティールアームの鉄の爪とが激しく叩き合う音が鳴り響く。空中に火花が飛び、お互いにギリギリのところで相手の攻撃をかいくぐり、また打ち合う。
ガキッ!!
打ち合った剣と鉄の爪がそのまま重なり合い、二人はそれぞれの剣を押し合いへし合い、膠着状態が続いた。
と、スティールアームがニヤッと笑ったかと思うと、突然その両眼が光った。
「!!」
メタルアイはとっさに体を反らして、スティールアームのアイビームを間一髪かわした。そのままバク転をうちながら、後ろへ後退した。スティールアームはそれにおかまいなく、アイビームを2度ほど発射してメタルアイを攻撃した。
メタルアイはその2度のスティールアームのアイビームをバク転の連続でかわし、地面に着地すると、今度はメタルアイがアイビームを発射した。
スティールアームはそれを見ると、何故かアイビームの発射された方向へ両手の平を向けた。
「電磁波シールド!!」
すると、スティールアームの両義手から何やら薄く光るシールドのようなものが円状に広がり、メタルアイのアイビームははね返された。
「くっ、」
メタルアイはもう一度、アイビームを放ち、力づくでシールドを突破しようとした。だが、シールドは思ったより強靭で、ビクともしない。
159 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:10:10 ID:IRLl0bMA
EBE残量:アト15%
メタルアイの機械眼の中で、電子文字が表示された。アイビームは電気エネルギーをかなり消耗するので、機械眼の後ろ、眼窩のあたりにアイビームのエネルギーを充電する「エナジーチャージャー(以下EC)」という装置が組み込まれている。
アイビームを発射するときはそのECに電気エネルギーをチャージして100%の満了にしなければならない。つまり、アイビームはエネルギー残量からいって、2,3度撃つと、ECが充電を終えるまでビームが撃てないことになる。短いスパンで何度も撃つことはできないのである。
「くっ、」
メタルアイはアイビームを撃つのをあきらめ、後ろに引いた。スティールアームは得意そうに義手を見せびらかしながら、
「うっふっふ、『あの時』からあたしは、この強靭な義手にさらに改造を施し、シールド機能を取り付けたのよ。シャドーフォックスと一緒にあんたを追いかけている時は、こいつを使う必要もなかったけどね。もはや勝負は見えたわ!!」
「・・・・・ふん、あんたって、やっぱりバカだわ。」
「・・・な、なんだって!!」
「バカに強力な武器を与えても、使いこなさなければ意味はないっていっているのよ。『あの時』と同じようにね。」
「畜生!!あたしをコケにしやがって!!」
頭に血が昇ったスティールアームは猛然とメタルアイに向かって突進した。スティールアームが振り下ろした鉄の爪をメタルアイはレーザーブレードでがっしりと受けとめた。
「『あの時』はこの鉄の爪を大振りしすぎてあんたにその隙をかいくぐられて、両義手を切断されたけど、もう同じ轍は踏まないわよ。」
「果たして、そうかしら?」
「そのためのシールド機能よ。思い知るがいい!!」
と、次の瞬間、メタルアイの両眼が光った。この至近距離でアイビームを発射してシールドの突破を図ろうという考えね。しかし、あたしのシールドは至近距離で突破できるほどヤワじゃないわ。
「電磁波シールド!!」
スティールアームは強力なシールドを張った。と、思う間もなく、突然、星の瞬く夜空を仰いだ。
160 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:15:03 ID:IRLl0bMA
「・・・え?」
一瞬、何が起こったか、わからなかった。が、スティールアームは、メタルアイのアイビームがただのフェイントであり、自分の注意をそちらに向けるために過ぎなかったこと、
そしてスティールアームがアイビームに気をとられている間に、メタルアイは思いっきりスティールアームの足を引っ掛けたことを悟った。
メタルアイのアイビームのフェイントで反射的に足の重心が後ろに下がり、不安定になった。そこにメタルアイのロングブーツの足払いがものの見事に決まったのだ。
こんな、単純な手に引っかかるなんて、最悪〜〜!!
「ぐぎゃああああああ!!」
足を引っ掛けられて思いっきりのけぞったスティールアームに、メタルアイの剣が閃き、彼女の自慢の両義手は、無残にも肘から下を切断されてしまった。
地面にころがり、切断口から改造血液と火花を吹き散らして蠢いている金属の義手。
地面に倒れたスティールアームに、メタルアイはゆっくりと近づいてきた。
「ひいいいい!!」
スティールアームは悲鳴を上げて後ずさりした。切断された両腕から火花と血液を飛ばし、みっともなくパンティをメタルアイに見せながら逃げようとするスティールアームは、自分のこの姿が屈辱的で情けなく思った。しかし、なんとか態勢を立て直さなければ・・・
「くっ!!」
ステールアームはアイビームを発射した。メタルアイがそれを避けている隙に、スティールアームはジャンプして、あっという間にビルの屋上へ逃げた。
メタルアイもその後を追い、ビルの屋上から屋上へと追跡劇が始まった。
161 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:18:09 ID:IRLl0bMA
「宮さん、起きてください!アイが、メタルアイがいないんです!!」
翔也の大きな声に、宮下刑事はハッと眠りから醒めた。部屋の時計を見ると、2時を過ぎていた。
宮下は和室の障子をガラッと開け、後悔の念に苦渋を滲ませた翔也の顔を見た。
「すみません、宮さん。つい、うっかりと眠りに・・・」
「そんなことは後でいい。あの女を追跡するぞ!!」
「あいつ・・・・・ひょっとして、俺達を巻き込ませたくないために・・・自分一人で決着をつけに・・・」
二人は飛ぶようにアパートの階段を降り、車に乗った。
「本庁に応援を頼んだよ。とにかくこの辺一体を虱潰しに回るぞ!」
宮下の厳しい声とともに、車は当てもない捜索に発進した。
162 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:36:24 ID:QAMDbLfi
スティールアームはビルからビルへ飛び移りながら、電子聴覚装置の通信機能で、「スィーパー」と呼ばれる連中に連絡をとっていた。
「こちらスティールアーム、こちらスティールアーム・・・『スィーパー』・・・今すぐランドコアF-12地区甲A534ポイントの道路上に、新たな強化アームユニットを頼む・・・」
「・・・ただいま旧都心にて「Rジャーナル」の事後処理を遂行中・・・終わり次第そちらに・・・」
「それじゃ遅すぎんだよ!!今あたしは大・大・大ピンチなんだよ!!いいからアームユニット置きに来い!!命令だ!!」
「スティールアームじゃないのぉ?うっふっふ」
聞き覚えのある声がスティールアームの電子聴覚装置から聞こえてきた。それを聞いたスティールアームの表情は屈辱にどす黒く染まった。
「ホ、ホーネット!!」
「あははは、その様子じゃ、苦戦しているみたいねぇ、メタルアイごときに。」
「う、うるさい!!」
「なぁによ、その口の利き方。アームユニット、送ってやんないぞぉ〜」
「あたしは今生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ。悪質な冗談はやめてよ!!」
「うーん、どうしようかな?あたしらも一刻も早く、ここの『証拠隠滅』、したいんだけどなあ・・・」
ホーネットの声があざ笑うかのように、スティールアームの聴覚装置に響きわたる。スティールアームは悔しさに歯軋りをしながら、
「こういうこともあると思って、スィーパーの車に新たなアームユニットを積んだのよ。頼むわよ、スィーパーに命令して、アームユニットを・・・」
「・・・はいはい、わかったわよ。F-12地区に置けばいいんでしょ、置けば・・・・・もっとも、新アームユニットつけたところで、勝てるとは思えないけどね・・・」
その後に、スティールアームを嘲笑するかのような笑い声が響いた。
「畜生・・・・・みんなあたしをバカにしやがって・・・メタルアイを始末したら、どうするか覚えていろ・・・」
スティールアームはなんとか怒りの気持ちを抑え、F-12地区に向かった。
163 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:37:52 ID:QAMDbLfi
F-12地区はランドコアの、どちらかといえば旧都心寄りにあった。夜の2時半ともなると、公園などがあって昼間は賑やかなこの一帯も、ほとんど人の気配もなく寂しかった。
と、そこへ物凄い勢いで走ってくる車があった。
この時代の車は電気エネルギーのものがほとんどで、当然音も無く静かなのだが、この黒い不気味な車は地面から1メートルほどの空中に浮かんで走っているのである。電磁エネルギーか、そんな技術を使っているのだろう。
と、その黒い車が急に公園内で止まった。車の大きさは小型バスくらいの大きさで、多分このなかには「スィーパー」と呼ばれる連中と、隠滅された証拠品や人間の死体を処理した物があるのだろう。
と、その黒い車のドアが音も無く開き、中から黒いジェラルミンケースのようなものを持った黒い腕が現れ、ケースを公園の地面に置いた。
そして黒い車は再び、元来た方角へ音も無く、猛スピードで去っていった。
164 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:38:50 ID:QAMDbLfi
「義博、今何か、車みたいなのが来たようだけど・・・」
「・・・みたいだな。でもすぐに去ったようだけど。」
「・・・ねえ、続きやろうよ。もっと、もっと・・・」
「直子〜、ほんとおまえって淫乱だな、へへへ。」
公園内の茂みの中に、こんな夜遅くまでいちゃついているカップルがいた。ほかにも何組かのカップルがこの公園に夜這いに来ていたのだが、こんな遅くまで残っているのはこのカップルだけであった。
男女は他に人がいないことを幸いに、ますます燃え盛った。男の凄い性戯に「あん、あん」と女のよがり声が響く。
と、何かの気配に、女のほうがハッと身を起こした。男は怪訝そうに、
「どうした?直子・・・」
「誰か・・・誰か来たようよ。」
「え?」
男も身を起こして女の指差した方角を見ると、今まで黒い色で闇にまぎれて気がつかなかったが、ジェラルミンケースのような物が置いてある。と、そこへよろよろとミニスカートにニーハイロングブーツを履いた女が近づいてきた。
「・・・・・・!!!!???」
カップルがその女を見たとたん、あまりのことにガタガタと震えだした。その女には両腕が無かったからである。
165 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:43:46 ID:QAMDbLfi
スティールアームは公園に到着すると、「スィーパー」が置いていったジェラルミンケースをブーツで思いっきり蹴った。ケースはいとも簡単に開いて、中から新たな義手が転がり出た。
「ふふふ、メタルアイの奴、どうしてくれようか・・・」
スティールアームは新たな義手を両腕のアタッチメントにはめた。ガチャン!!
両腕にはめた義手の感覚を試すように、関節や指をコキコキと鳴らして動かしてみた。なかなかしっくりくる、これなら大丈夫だ、さて、こいつの機能は・・・
スティールアームは近くにあった公園の木に義手を向けた。と、その義手から1.5メートルはあろうかという長さの剣が8本、まるでから傘の骨のように出てきた。
そして次の瞬間、その8本の剣がミキサーのように高速回転し、その樹木をいとも簡単に木屑にしてしまった。
「きゃあああああ!!」
突然、公園の茂みの中から、女性の悲鳴が響いた。スティールアームがその悲鳴のした方向を見ると、若い男女のカップルがお互い抱き合いながら、スティールアームを恐怖の表情で凝視していた。
「ちっ、見られたか・・・」
カップルは本能的に身の危険を感じたのか、一目散に茂みから逃げた。
166 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:53:37 ID:ngG5Ioxx
「アイビーム!!」
スティールアームの両眼から強烈なビームが発射された。と同時に、男女二人の首はアイビームによって胴体から切断され、地面に転がった。
「スティールアーム!!」
公園内に怒りに満ちた叫び声が響いた。スティールアームが振り向くと、メタルアイが拳を震わせて立っていた。罪のないカップルが殺されたことに対する憤りなのか、その表情は怒りと憎しみで真っ赤に紅潮していた。
「よくも・・・・・罪のない人たちを・・・・・許せない!!」
「ふん、まずいところを見られたから口封じをしたまでのことだ。当然だろう」
「ひどい・・・・・許せない・・・・・」
「許せない、だって・・・・・てめえもあたしと同じ、殺人機械だろうが!!」
「殺人機械・・・・・」
「もっとも、てめえはそれが嫌で、組織を抜け出したんだろうけどね・・・・・」
「違う・・・・・あたし、殺人機械じゃない!!」
「あたしにしてみりゃ、てめえのそういう中途半端なへたれっぷりが大嫌いなんだよ!!」
メタルアイの表情に怒りとともに、悲しみの色が浮かび上がってきた。
「『あの時』もそうだった・・・てめえが変な義侠心なんか出して、あたしのセクスレイヴをかばってあたしと喧嘩になり、そしてあたしの両腕を切断した・・・・・」
「あ、あなたがあまりにも、あの子を虐待していたからじゃない!!全身傷だらけで、それでも飽きずにあなたは殴ったり蹴ったりしていたじゃない・・・」
「あたしのセクスレイヴに何しようが、あたしの勝手だろう。あのセクスレイヴ、性戯がヘタクソだから、いいように調教してやったのよ。文句ある?」
167 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:56:07 ID:ngG5Ioxx
「・・・・・まるで命を、ゴミのようにしか考えていないのね・・・・・」
「その偽善ぶりが鼻につくって言ってんだろ!!じゃあてめえ、組織になんのために今までいたんだ!?」
「そ、それは・・・・・」
「・・・・・答えられないのか。だから中途半端って言ったんだよ。もうこれ以上話すつもりはないわ、こいつで決着をつけてやる!!」
スティールアームは両義手についている、茶筅のような剣をギュルルルと回転させた。
「・・・・・確かに、あたしはただの殺人機械だわ。もう普通の人間でも、ましてや正義の味方でもない・・・でも、これだけは言っておくわ・・・・・あなたを生かしておくわけにはいかない!!」
「ぬかせ!!」
スティールアームは高速回転する剣の付いた義手を巧みに操り、メタルアイに波状攻撃を仕掛けた。メタルアイはレーザーブレードで応戦するも、スティールアームの凄まじい攻撃に防戦一方だった。
「オラオラオラ!!どうした、さっきの勢いはぁ〜〜!!」
スティールアームは調子に乗って攻めに攻めた。と、メタルアイが急に後ろの方へ後退し、スティールアームとの距離を広げた。
そして、何故かレーザーブレードを、ロングブーツの中に納めた。
「・・・・・一体、なんのつもりよ、それ?」
「かえって邪魔なのよ。ブレードがあってはね・・・・・あんたには、素手で十分だわ。」
「な、なんだって!!」
舐めやがって!!これほど自分をバカにした行為はないわ!!スティールアームは一気に沸点にまで達した。
168 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 10:57:28 ID:ngG5Ioxx
「このっ、このっ、このおっ!!こいつが避けられるか、てめえに!!」
スティールアームが回転する鉄の爪を滅多やたらに振り回すのを、メタルアイは冷静にかわし続けている。
と、一瞬の隙を見つけたのか、メタルアイの両手がスティールアームの回転義手の肘をつかみ、その鉄の爪をもう一方の回転している義手に向けた。
「ぎ、ぎぐわわわわわ!!」
両義手の回転している鉄の爪はお互いに絡み合い、とうとう両義手を無残にも破壊した。バラバラにされた鉄の爪、電子部品、外郭フレームなどが地面に散乱した。
「うわあああうわ、あ、あたしの、あたしの腕があああああ!!」
「言ったはずよ。バカに強力な武器を与えても、使いこなさなければ意味はないってね。これであなたも最期ね・・・・・」
「や、やめろぉ〜〜!!」
ブーツから再び剣を握ったメタルアイは、なんの躊躇も無くスティールアームに切りつけた!!
「ぎゃあぎゃあぎゃあ!!あああああ!!」
レーザーブレードの切っ先が、スティールアームの胸を、腹を、太ももを、顔面を容赦なく切り裂いてゆく。切り裂かれた肉体からは、鮮血とともに電子部品が覗き、火花を散らし、そして傷口から散らばっていく。
ピピピピピピ!ウィーン、ウィーン。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
スティールアームの顔半分はすっかり内部メカが露出し、機械部分があらわになった両眼は赤外線アイの狂った点滅を繰り返している・・・
スティールアームの動きはもはや、故障で調子の狂ったロボットのようにギクシャクしてきた。
169 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 11:03:22 ID:ngG5Ioxx
「とどめよ・・・・・あのカップルに、地獄で詫びるといいわ!!」
メタルアイのとどめの一撃が、スティールアームの強化心臓を貫いた!!
「・・・が、あ、あ、メタ、ル、アイ、よ、よくも・・・・・もう、あん、たは、ひ、引き返せ、な、いわ!!」
スティールアームの内部メカが露わになった部分から突然、電光火花が猛烈に吹いた。メタルアイは剣を抜き、素早い動きで断末魔のスティールアームの体から離れた。
と、スティールアームの体が大爆発を起こした!!
ドグォォォォォォォン!!!!
「ぎゃあああああああああああ!!!!」
バラバラに引き裂かれたサイボーグの肉体。あたり一面に飛び散る血潮と肉片と鉄骨と電子部品。
グチャグチャに潰れメカが覗いている黒いロングブーツ、特殊チタン製肋骨などの外郭フレームが爆発によって内側からこじ開けられたかのように破壊され動力炉や強化心臓、人工臓器がはみ出している胴体部分、
股の付け根から引きちぎられ人工大腿骨や伝染が切断口から覗いている太もも、メカの眼球が眼窩から飛び出したスティールアームの首などが地面に転がった。
バラバラになったスティールアームの各パーツから煙がプスプスと立ち上っている。両足が引きちぎられた胴体の股間から電子ヴァギナがはみ出ていて、その電子ヴァギナからは先ほどセックスをした学生の白い精液がトロリと流れ出している・・・
「ア、アウ、アウ、アウアウアウアウアウアウアウアウアウアウ・・・・・」
スティールアームの生首が狂ったように口をガクガクと動かしながら、人工音声装置の断末魔のうめき声を上げていたが、突然「パァン!!」という爆発音とともに下顎が上顎から外れ、煙を上げて静かになった。
はみ出した脳みそ、電線やファイバーなどで眼窩から繋がれた電子義眼、もう「スティールアーム」は二度と起動しなかった・・・
「・・・・・殺人機械、か・・・・・」
メタルアイの機械の眼は、勝利に酔うこともなく、暗い憂鬱な影を落としていた・・・・・
170 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 11:37:43 ID:ngG5Ioxx
171 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 11:38:37 ID:ngG5Ioxx
172 :
虞祭坊:2005/05/31(火) 12:04:55 ID:ngG5Ioxx
あれ、ちょっとミスってしまった。すみません。
ちょっと修正します。
>>162 「今すぐランドコアF-12地区甲A534ポイントの道路上に、新たな強化アームユニットを頼む・・・」
道路上→公園内
3の444様
ヤギーさんとおじいさんの再会、そして義眼を近視に設定してまでのメガネへのこだわりがジーンときました。大学編もがんばってください。
前389様
こちらこそよろしくお願いします。沢木さんの肉体と融合する機械部分、ゾクゾクきます。山根さん、恐るべしです。
前82様
剃毛したり、脊椎注射したりとアクアノートへの改造過程がリアルでツボにきました。下腹部をいろいろといじくられている主人公に萌えます。
M.I.B様
Cyborg Simulator のお話、楽しませてもらいました。戦闘機械から普通の日常に戻った由美さんに幸あれ!!バルキリーの話も期待しています。
Cyborg Simulatorいいですね。
次は、[研究のため][借金の形として][合意の上で][新商品として][改造される]とかできませんか?
小隊は M.I.B様だったんでつね!さすが。萌えました。
175 :
M.I.B.:2005/06/02(木) 22:02:55 ID:UdKuwGTO
「02速過ぎるぞ。速度を落せ」
司令室から命令が飛ぶ。
たしかに明日香さんの速度では、私たちが追いつくことは出来ない。
「速過ぎます。速度を落して」
こちらからも呼びかける。フォワード無しで勝てるほどジェネラル級は甘くない。
「あなた達は見ていなさい。私一人でも十分戦えます」
そう言うと、明日香さんは通信を切ってしまう。
「さくらさん、急ぐわよ」
綾さんの言葉にこちらの速度も最大まで上げた。
176 :
M.I.B.:2005/06/02(木) 22:03:16 ID:UdKuwGTO
<明日香SIDE>
予想地域内に到達する。
周囲の避難は完了しているはずだ。もし不完全で被害が出て文句を言われても困る。
動体センサーに感あり、長距離狙撃用システム起動。
望遠カメラに切り替えると、ビルの上からこちらを眺めている白い機体を確認できる。
「ターゲット捕捉」
手持ちの火器の中で最大出力のものを構える。
「消えろ!」
αタイプなら数十体まとめて消し飛ばすエネルギーが、ただ一体の敵に集中する。
(獲った!)
そう思った瞬間だった。
いくつもの光の幕が浮かび射線を遮った。
「そんなもの!」
エネルギーは1つめの幕を貫き2つめを襲う。
「無駄よ」
だが、ジェネラルが笑うように答える。
それに答えるように、エネルギーは4枚5枚と貫くたびに減衰し6枚目の前に霧散する。
「そんな馬鹿な!」
最大の攻撃である。それを無効化されるなんて。
さらに幕がいくつも浮かぶ。先程のデータから考えれば、これだけの数を貫くのは無理だ。
「なら、近づいて零距離で撃ち込んでやる」
背中のブースターをパージし敵に向かって襲い掛かる。
「待って明日香さん!」
177 :
M.I.B.:2005/06/02(木) 22:04:37 ID:UdKuwGTO
<さくらSIDE>
「追いつけない」
綾さんが焦りを隠せず叫ぶ。
ブースターを全開で飛ばしているが、明日香さんの機影を掴むことは出来なかった。
S市上空に入るとオペレーターも焦りをあらわに通信してきた。
「02が戦闘に入った。単独では危険だ。急げ」
それと共にデータが届く。
予想される敵タイプは近・中距離型。
その時だった。激しい光が目的ポイントの方から放たれた。
あれは明日香さんの最大出力の攻撃?
あれが当たれば、敵もただでは済まないだろう。
しかし、送られてきたデータは敵が無傷であることを示し、新たなデータを示す。
幾層ものフィールドで遠距離攻撃を無効化し、中距離以内で敵を殲滅すると予想される。
「まずいわ。明日香が最も苦手なタイプよ」
同じくデータを確認した綾さんが苦々しい口調で言う。
視界に捕らえた明日香さんは、ブースターをパージし敵に踊りかかっていた。
「待って明日香さん!」
おもわず叫ぶが遅かった。
華麗な抜き打ちで放たれたエネルギー弾は、明日香さんの右腕を打ち抜き、吹き飛ばしていた。
「ぎゃーー!!!」
悲鳴が響き渡った。
178 :
M.I.B.:2005/06/02(木) 22:08:22 ID:UdKuwGTO
「遅いわ」
静かな声が響き渡った。続けて鈍い射撃音が響き明日香の片足が吹き飛んだ。
「性能が低い兵器ね」
腕を押さえ倒れ付した明日香を見下ろして敵は言い放った。
「私はγ25−2。これから貴様らを破壊する」
γ25−2と名乗った敵はこちらを見上げて続けた。
続けて降下したさくらと綾に銃口を向け、静かににらみ合った。
二人は動くことが出来ず、にらみ合いが続いた。
風で捨てられていた新聞が舞い、γ25−2の視界を遮るように横切った。
それがきっかけだった。
動けない明日香を除く3体のサイボーグが一斉に動き始めた。
弾丸と剣の残像がいくつも煌く。
だが、全てが効果を示すこともなく周囲の破壊が広がるのみだった。
「早い!」
2対1という状況なのに全く攻撃が当たらない。
当たる、と思ったものは全て輝く幕に吸収されたり、逸らされたりしてしまう。
179 :
M.I.B.:2005/06/02(木) 22:09:50 ID:UdKuwGTO
「それではこちらの攻撃だ」
その発言の直後、弾の雨が降り注いだ。
「嘘!」
「くっ」
シールドを展開するが受けきれない。
全身を激しい痛みが襲う。
[バランサー異常]
[右脚部出力低下]
[シールド過負荷により停止]
赤文字で異常部分が表示される。
出力を下げて乱射したためか、致命的なダメージは無い。だが、またあの攻撃を受ければ無事ではないだろう。
「さくら!」
綾さんもそう思ったのだろう。即座に攻撃に移った。
「無駄な行為だ」
だが、やはり攻撃は当たらない。
「さあ、次はお前だ」
γ25−2がハンドガン状の武器を綾さんに向けた。
その時だった。
何かに引っ張られ、γ25−2の動きが一瞬遅れる。
「無視をするな!」
怒りの形相の明日香さんが、片手でγ25−2の足を掴んで叫び声を上げた。
「邪魔をするな。壊れぞこないが!」
明日香さんの足を蹴り払った時、完全に私たちを意識の外側に追いやっていた。
180 :
M.I.B.:2005/06/02(木) 22:10:23 ID:UdKuwGTO
(今しかない!)
右足の出力異常の警告を無視して全力で駆け出す。
「ちっ」
標的をこちらに向けるが、その手に綾さんの撃った弾が襲い掛かる。
「五月蝿い!」
再度、片手を綾さんに向けようとする。
至近距離でのその行動はあまりにも不用意だった。
打ち出されたエネルギー弾が私の身体を襲うが、避けること無く左半身で受ける。
大量のダメージ報告が視界を真っ赤に染める。
(邪魔だ!)
全てを無視し即座に視界から消す。今は目の前の相手だけを見なくては。
ほとんど零距離まで詰め、右腕のサーベルを振り抜いた。
普通なら避けれたであろう攻撃は、敵の身体を深々と切り裂いていた。
「馬鹿な…」
蹴り飛ばされた明日香さんが、ハンドガンを抜き撃ちで放っていたのだ。
背後からの衝撃に回避が遅れ、致命傷を負うことになったのだ。
181 :
M.I.B.:2005/06/02(木) 22:16:02 ID:UdKuwGTO
「痛い! 痛いよ」
先程までの冷徹な声とはまったく別の声が聞こえた。
「栞。どこなの? お母さん、お父さん、助けて…」
か細い声で助けを求める。
そこにいたのは、冷徹な殺人兵器ではなくどこにでもいる少女だった。
「まさか記憶が戻ったの?」
近寄ろうとした瞬間だった。
DANGER DANGER
警告が視界を埋める。
思わず怯んだ次の瞬間、火柱が彼女を包んだ。
「助けて! いやー 栞ー!」
その声を最期に彼女は動かなくなった。
182 :
M.I.B.:2005/06/02(木) 22:30:04 ID:UdKuwGTO
ということで、ジェネラル編は終わりです。
わき道にそれたりしたためかなり時間がかかってしまいました。
けど、結構評判がいいからまたやってみようかな>Cyborg Simulator
虞祭坊さん
戦闘シーンがかっこいいですね。
殺人機械という言葉が重いですね・・・
3の444さん
ご苦労様です。
しかし、メガネをかけたサイボーグにはこんな訳があったとは・・・
前82さん
ついに手術が始まりましたね。
リアルな改造が、私のとは違い雰囲気がでてますね。
前389さん
徐々に変化していく身体。怖いですね。
この先、どんなになっていくか興味深々です。
受験生さん
さやちゃんが、どうして、どのように改造されたか、とても興味があります。
その辺を書いてもらえないでしょうか?
M.I.B.さん待ってました!敵側に兵器化された少女、破壊されてしまって、哀れで萌えます。
Cyborg Simulatorもよかった。拉致されて無理矢理改造、しかも兵器にってのは萌える。廃棄処分(;´Д`)ハァハァ
足のかわりに浮遊装置がついたサイボーグ少女の視察をしに来て
「この少女、足が無いな」
「足なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。」
186 :
前82:2005/06/05(日) 00:40:01 ID:TP4zAmAE
ふっと目覚めたり、夢を見たり意識がぐるぐる廻っている。
私なにしているんだろう。まだ起きあがれない。手も押さえられていて動かせない。
手術は終わったようだけど・・・。私の体どうなったの、意識の混乱は続いている。
次に目覚めたとき、目の前に白い液体の入ったバッグがぶら下げられていて、チューブがふとんの中に続いている。
手が動かせるようになっている。手でチューブをたどっていくとお臍のあった辺りにつながっている。
そうか、点滴からマリンアンビリカルでの栄養に切り替わったのかとわかった。
一歩アクアノートの世界に近づいたのかと思い、身が引き締まった。
栄養補給と排尿が機械で管理されているということは、手術後の回復には効果があった。
3日もすると自分で栄養液ボトル、尿回収ボトルの交換もこなせるようになり、
少しだけだが歩けるようになった。
回復とともに研究所内を自由に歩き回れるようになり、何人かの所員ともあいさつした。
熊沢さんと同じ医用電子工学部の堂本さん、潜水調査艇やポッドのメンテをする機械部門の等だ。
みんな水中作業が必要なので、アクアノートの処置をうけているが、
私が海中調査担当の候補と聞くと
花形ですねと、うらやましがって激励してくれた。
どうやら私もここで、何とかやっていけそうな気がしてきた。
187 :
前82:2005/06/05(日) 00:41:43 ID:tju/xG3p
手術から、ぼほ回復したある日、熊沢さんがやってきて、
「脳に取り付ける電極の位置を決めるための調査を始めます。
頭皮に検査用の電極を付けるから、まず頭髪を剃らなければなりません。
一晩寝て頭皮が落ち着いたら、電極付きのフードをかぶってもらいます。」
別室へ連れて行かれ、バリカンで丸刈りにされ、脱毛クリームで、完全な丸坊主にされてしまった。
部屋に戻っても、なんか情けなくなって鏡だけは見ないようにして一晩を過ごした。
翌朝、医用電子室へ行った。熊沢さんが堂本さんを連れてやってきてフードを付けられた。
耳をのぞいて頭がぴったり覆われるフードからは、細いケーブルが何百本もでていて、
先は束ねられていて、コネクタが付いていた。
「これから10日間ぐらいかけて検査し、その間は付けたままになるからがまんすること。
ここで検査している間は、コネクタを直接測定器につないだままになります。
夜寝るときは小型発信器をコネクタに付けて、データを集めるから、そのまましてください。」
最初の数日間はヘッドホンを付けコンピュータ画面の前に座って、指示に従って声を出したり、
しゃべったり、黙ってヘッドホンから聞こえてくる音声を聞いたりの、聴覚や発声に関する検査だった。
その後は、パソコンを操作したり、手足を動かしたり、
ランニングマシンで走ったりと運動中枢関係と思われる検査をされた。
熊沢さんはデータ収集端末の画面を見てばかりで、あまり声もかけてくれない。
うまくデータが集まっているのかしら、私の脳って変なところ無いのかしらとか不安になってしまう。
ティータイムや、トイレ休憩がないというのは、便利なようでストレスが溜まる。
体を動かす検査はストレス解消になるけど、その他の検査は結構ストレスが溜まってしまう。
夜もフードを付けたままで寝苦しかったりで少しいやになってきた。
188 :
前82:2005/06/05(日) 00:42:43 ID:tju/xG3p
そんなある朝、井上ドクターに医務室に来るよう指示された。
「今日は脳の検査は一休みして、この前の手術の回復チェックと体のメンテナンスをします。」
ベッドに横になると、お臍のマリンアンビリカルとウエストポーチのボトルをつないでいたチューブがはずされ、
直接ベッドサイドの装置につながれた。そして、肛門、膣、尿道口のあったところにもチューブが取り付けられた。
下半身のいろんな所に液体が入ったり出たりしているのがわかる。
「栄養液は固形分が殆どないとはいえ、ごく少量の大便はたまるし、
尿の成分が結晶になって膀胱やカテーテルに付着します。
だから2週間に1回の割りで、大腸と膀胱、それに膣を洗浄します。
アクアノートとして海に出てからも、これはずっと続けなければなりません。」
ほんとにメンテナンスという言葉が納得できる処置だ。
自分の頭といい、体といい、機械と一体化としていく事を実感した。
2時間ほど機械につながれたままで過ごし、釈放された。
翌日からはまた脳の検査が延々と続いた。
そしてついに「データも大体集まったから、3日後に脳に電極を付ける手術をします。
今度は全身麻酔ですから体調を整えないといけないし今度が一番大変よ。」
熊沢さん相変わらずきつい調子で検査終了の宣言をしてくれた。
189 :
前987:2005/06/06(月) 00:14:05 ID:pLyO4UUU
5−1
私の身体に機械が埋め込まれてから二週間。 その日は、五回目のデータ採取が行われる日だった。
「………」
部屋に入った私に、山根さんが目くばせする。 私は頷いて、自分から壁の金具に身を預けた。
もう、私は慣れてしまったらしい。 実験の手順にも、身体の奥深くまでプラグを差し込まれる苦痛にも。
毎週火曜と金曜の放課後、何も言われなくても、この部屋に来て、黙って自分から壁に拘束されて…
(やだ…! これじゃあ私、本当に機械みたいじゃない…)
思わず愕然となった私は、何か自ら声を発せずにはいられなかった。
「ねえ、山根さん」
「……?」
山根さんの、チューブを持つ手が止まる。
「えっと……この実験、何のためなの? この機械は何のために作っているの?」
「………」
山根さんは答えない。
「普通の人を魔法使いにする機械ってことは、山根さんは誰かを……あっ、んんっ!?」
質問を遮るように、私の口にプラグがねじ込まれた。
「そんなの、沢木さんには関係ないわ。 いい? 二度とその質問はしないで」
私の中にチューブを押し込む山根さんの手つきは、いつもより乱暴だった。
190 :
前389:2005/06/06(月) 00:16:43 ID:pLyO4UUU
5−2
計測とそれに続く問診が終わった後、山根さんは、ノートを前に難しい顔で首をひねっていた。
「山根さん…私の身体、何か問題があるの?」
壁に金具で固定された姿勢のまま、私は尋ねた。
「沢木さんの身体から検出される魔力の量が、一向に増えないのよ。 このままだと、いつまで経っても
魔法を行使できるレベルに達しない…」
「それって、何か危ない兆候なの? 私の身体は大丈夫なの!?」
実験台にされた私にとって、魔法が使えるかなんてどうでもよかった。 もし実験に失敗したら、
私の身に何が起こるか分からない…ただその事だけが気がかりだった。
「エンジンの生成する魔力量は、規定値をクリアーしている…ということは、魔力が体外に漏れているか、
体内のどこかに沈殿しているか、このどちらかね…」
山根さんは自問自答した後、
「…とりあえず、ソーサレスエンジンの出力を高めに設定し直すことにするわ。 それで経過を観察すれば、
原因も判明するはずだし…」
そう言って、山根さんはさっき引き抜いたプラグを、また私の口元に突きつけた。
数分後、再びチューブから開放されたとき、身体の中から響く作動音は、少し大きくなっていた。
たぶん、出力が上がったせいなんだろう。
(大丈夫なのかな…)
様子がおかしいときに出力を上げるなんて、普通は危険な事じゃないのだろうか。
その心配をよそに、私の身体に特に変化は現れなかった。 いえ、正確には自覚する事が出来なかった。
異変は三日後、次のデータ採取の日に現れた。
191 :
前389:2005/06/06(月) 00:19:05 ID:pLyO4UUU
5−3
その朝、ちょっと他人に言えないような夢から覚めた私は、パジャマがぐっしょりと
寝汗で濡れている事に気が付いた。
(…何? 身体が熱い…)
昔、何度か体験したような、身体の冷える寝汗とは違った。
まるで、たった今まで運動していたみたいに、身体が火照っている。
(なんだか手足もだるいし…風邪かな…)
枕元の体温計に手を伸ばす。
ここ数日、何の異常も無かったせいか、あの機械のせいだとは思わなかった。
「ん…ん…」
何度目かの寝返りを打つ。
学校には欠席届を出したし、お母さんが出掛けに置いていってくれた薬も飲んだ。
あとはゆっくり眠るだけ、なのだけれど、どういうわけか、一向に寝付く事が出来なかった。
「はぁ…はぁ…」
何かおかしい。 ようやく、身体の不調が風邪じゃない事に気付いた、そのとき
───ゾクッ
「!?」
胸の奥、あの機械の位置から下腹部へ、熱い衝撃が奔った。
「…ひゃ…んっ」
反射的に股が閉じる。
その感覚が何なのか、分かる間もなく、
───ゾクッ
二度目の衝撃が下半身を襲った。
192 :
前389:2005/06/06(月) 00:21:16 ID:pLyO4UUU
5−4
───ゾクッ カシャン ゾクッ カシャン
「あっ……あっ…!」
稼動音と交互して、下半身が激しく疼く。
まるであの機械がポンプとなって、熱湯を下半身に流し込んでいるような感覚。
体内を駆けた熱湯は、子宮のあたりで溶け広がり、下半身を熱くしていく。
下着が、汗以外の液体で湿っていくのがわかった。
(これって…まるでエッチな事してるときの…)
そう…例えるならブルマの上からアソコを擦っているような、ほのかで、じれったい快感。
「だ、だめ…もう、我慢できない…!」
私の右手が、パンティの内側へ滑り込んだ。
「あっ…ああっ…!」
身体が大きく仰け反り、恍惚の声が漏れる。 もう何度目の絶頂なのか覚えていない。
一体、どのくらいの時間が経ったのだろう。 胸の機械は、淡い快感の供給を、一時も休んでくれない。
絶頂の余韻が冷めないうちに、私は再び自慰行為へと駆り立てられる。
(もうイヤ…助けて…止めて…!)
私に平静でいることを許さず、しかも上りつめるには足らない、ギリギリの快感。
(機械が…私にオナニーを要求しているの…? どうして!?)
私の意思とは無関係に、股間に添えられたままの指が再び動き始めた。
193 :
前389:2005/06/06(月) 00:24:01 ID:pLyO4UUU
5−5
(なんで、何でこんな事に…まさか、機械の故障なの!? とにかく早く山根さんに診てもらわないと…
で、でも、こんな状態で山根さんの家まで行けるわけないし…一体どうしたら…)
「ああっ…ダメっ! また…」
身体がビクビクと痙攣する。
「…イっちゃ…う…」
考える事を放棄し、快感に全てをゆだねようとしたそのとき、
「お楽しみのところ悪いけど、ちょっと中断してもらうわ」
「…え…?」
私の部屋にいるはずのない、山根さんの声が聞こえた。
「は…あふっ!」
口の中に侵入する太いチューブの感触。
「んんぅー!!」
それを引き金に、私の意識は真っ白になった。
次に気が付いたとき、あのチューブはもう私の口から引き抜かれていた。
「あ…れ?」
いつの間にか、あの下半身の疼きもおさまっている。
「今日のデータ採取なら、もう終わったわ。 沢木さんが学校に来ないから、もしかしたらと思ったけど…」
「山根さん… 教えて、私の身体、どうしちゃったの…!?」
「その前に、いろいろすることがあると思うけど、着替えとか」
「あっ…」
今更、顔が真っ赤になる。
パジャマとシーツには、おねしょのようなシミが残り、絶えず陰部に触れていた右手の指は、
愛液でふやけていた。
194 :
前389:2005/06/06(月) 02:02:20 ID:pLyO4UUU
>>189 自分の名前を間違えてしまった…
3の444 氏
眼鏡。 当初から萌えつつ気になっていましたが、こういう理由でしたか…ええ話や
やっぱり眼鏡は萌。
M.I.B. 氏
Cyborg Simulator よかったです。 以前に構想だけ読んだときの予想よりずっと萌えます。
さすがです。
前82 氏
改造シーン、えろいです。 SFみたいなメカ要素が無い分、
現実感があります。
虞祭坊 氏
スティールアームとの会話で、組織の話が出ましたね。
どんな組織でどんな改造が行われているか…と、想像が広がります。 楽しみです。
私たち10名は、宇宙開発事業局に着任した。それはある計画のためである。
私たちが、この計画の主人公になったのは、昨日、空軍の司令官室での司令官からの命令であった。
そして、その命令が、私たちを普通の人間ではないまったく別の存在にするものであった。
やべえ…今日の攻殻、全身義体の少女が出てきて激萌えたよ!
お肌の継ぎ目たっぷりなところといい、日常生活には困らなくても折り紙が折れないくらいには不自由なところといい、実にイイ!!!!!
腕や脚が固くてツルツルしてそうな質感なのもポイント高杉。
どうやら幼き日の草薙タンっぽいんだけど。
ミリタリ属性はマイナスな漏れなのに、サイボーグ萌えネタ探しにあのアニメを観ているんだが、これがあるからやめられない…
>>195 また面白そうな新作でつね!!
結果的に割り込んでしまって(ほぼ同時書き込み)スマソ
惑星開発を主題にサイボーグ宇宙飛行士として改造される女性を欠いてみようと思います。
遅筆になるかもしれませんがよろしくお願いします。
「如月はるか、入ります。」
「ご苦労さん、みんなと一緒にそこに並び給え。今日は、ある任務についてもらうためにここにきてもらった。」
そこには、私の同期の空軍パイロットが並んでいた。
そこには、私の同期の空軍パイロットが並んでいた。
司令官は、続けた、「君たちには、明日から、宇宙開発事業局に行ってもらうことになった。任務に関しては、
向こうで詳しく聞いてもらうことになるが、君たち士官は聞いたことがあると思うが、我が国が進める領土拡大政策
の一つとして、地球上の領土を拡張するのではなく、惑星開発として、火星に人間を送って調査する計画が正式
にスタートすることとなった。その栄光の候補者として個々にいる10名が選ばれたのだ。」
私も含めて、そこにいたみんなが一様に複雑な表情になった。
しかし、司令官は続けた。「これは、我が軍の士官になるときに交わした契約条項上の命令として、断ることの出来ないものである。この任務は、名誉なことである。君たちの成功を祈る。」
私たちの顔が曇ったのには理由がある。
その理由は、その計画の噂を聞くときに必ず聞くあることによるのである。それは、この計画にアストロノーツ
として参加する人間は、惑星開発用に作り替えられるかもしれないと言うことだった。そして、その技術は秘密裏
に開発され完成しているというものである。それがただの噂なのか本当のことなのかは、この時点ではわからな
かった。
その夜、自分が、生身の体でなくなるかもしれないという不安感と宇宙飛行士として、火星開発に加われるかも
しれないという期待感でなかなか寝付けなかった
ある程度まとめて書き込みをしたらどうでしょう?
このままこのペースで書き込みをすると、あっという間にスレを使い尽くしてしまいます。
だな。
>>199-203ならまとめても16行、1レスに入る量だ。
何か意図があってあえて分けて書いてるので無ければまとめてしまった方がいい。
すみません。パソコンのネット環境の関係であまり大きなデーターが遅れないものですから。
原因をを調べて改善した上で、1レスの量を増やすようにします。
しばらくはご勘弁下さい。
それから、タイトルは、「星へ往くひと」でどうでしょうか?
翌朝、宇宙開発事業局に行くため、私たちは、点呼を受けた、「如月はるか大佐、渥美浩大佐、進藤ルミ中佐、
望月七海中佐、望月未来中佐、高橋美紀中佐、大谷直樹少佐、神保はるみ少佐、橋場望少佐、美々津みさき少佐、
以上10名整列。これから、任地へ移動する。バスに乗るように。」
私たちは、見送りに現れた司令官に激励されて、希望と不安をふくらませながらバスに乗った。
出発してから一時間で隣町にある宇宙開発事業局の敷地内にある本部ビルでバスを降りた。
ビルの建物は、5階建てのかなり大きい建物で、私たちは、最上階の局長室に通された。
局長室で、局長から、この計画の詳しい概要を聞くことになった。
「皆さん、着任、ご苦労様。私が宇宙開発事業局の局長の木村玲子です。これから、あなた達10名の上司となります。
よろしくお願いします。」
背の高くて、すらっとした女性の局長が話し始めた。
「あなた達が参加するプロジェクトは、正式には、「火星植民地化プロジェクト」と言います。このプロジェクトは、
将来的には、火星を人類が生活できる環境にすることを目的にしています。その先駆けとして、火星の有人探査、
開発基地の建設が必要となります。
そこで、問題が起こったの。それは、普通の人間を火星に送るには、ものすごく大がかりな機材が必要になってくること、
そして、その機材を地球の軌道上で建設したとしても、現在の技術では少し不可能だということ。その問題を解決しない
限り、このプロジェクトは成り立たないのです。しかし、我が国の環境悪化や地球規模の環境のことを考えるとなんとして
もこのプロジェクトを早期に開始しなければならなかったの。そこで、発想の転換を行って、火星へ行く機材に乗り組む
人間を火星の環境に適応するように改造し、機材を動かすパイロットは、機材と同一化できるように改造することで
問題解決を図ったの。
そして、そのプロジェクトに必要な空軍パイロットを10名選考することにしました。
それが、あなた達というわけです。」
やっぱり、そうだったのか、私たちはサイボーグになるためにここに集められたというわけだったのだ。
みんなの顔にある程度覚悟していたことではあるが、驚きの表情が浮かんでいた。
木村局長は続けた。
「あなた達は、これから、地下20階にあるプロジェクト本部にいってもらいます。そこが正式な配属先になります。
そこに、長田部長が待っています。部長の指示に従って下さい。長田部長が直属の上司です。逆らうことは出来ない
と思って下さい。それから、付け加えていいますが、あなた方は、我が国の期待を背負っていると同時に大事な実験台
でもあることを忘れないで下さい。辛いことをいったかもしれませんが頑張って下さい。私も出来る限りの応援をします。
それでは移動して下さい。」
木村局長は、冷静に私たちの置かれた立場を解説してくれた。わかっていることとはいえショックを隠せなかった。
全員佐官以上の高級将校だけで構成された部隊...。皆すさまじいまでのエースパイロットなんでしょうな。・ω・
それともサイボーグ化に伴う二階級特進かなんかでつか?
210 :
名無しさん@ピンキー:2005/06/11(土) 09:57:40 ID:1XNoGEcj
確かに。階級が実在するものだけに、そこに目がいってしまう。
企業で言ったら部長・次長クラスだけで構成された組織・・・・。
ちょっとしたミスで死ぬことなど許されませんな。
今後の展開に期待ムンムン。
ageてしまった。スマソ
212 :
前82:2005/06/12(日) 17:10:50 ID:r3b/t8FY
当日朝準備は淡々と進んだ。
腸洗浄も肛門のあったところのプラグに
チューブをを取り付けるだけだし、
栄養や排尿はすでに機械が管理してくれている。
手術室に運ばれ、フードをとられ、マスクを付けられた。
2、3回変な臭いのするガスを吸った。
麻酔が効き、そのあとは全く覚えていない。
意識が回復した。
それも<
まるでスイッチが入ったようにパッチリと。
手術は終わったのだろうか。
ふっと思い出し、頭に手をやった。つるつるのプラスチックになっている。
首筋の方へ手を動かすと、途中で普通の皮膚の柔らかさになっている。
そしてその境目から、ケーブルが・・・伸びている。
213 :
前82:2005/06/12(日) 17:12:07 ID:r3b/t8FY
どうやら手術は無事終わったようだ。
「お目覚めね。」井上ドクターが目の前に現れた。
「あなたに必要な、当座の処置は終わりました。
今度の手術であなたの脳とコンピュータシステムが、どのようにつながったかを
手術のビデオを見ながら説明します。」
起きあがるが、手術後だというのにふらついたりしない。
頭からのケーブルは例の腰のポーチにつながっている。
井上ドクターに促され部屋を移動した。
スクリーンには、手術台で頭部をベッドの外に出し固定されている、
私の姿が映し出されていた。
「どうもリアルなのは苦手なんですけど、見なくてはならないんですか。」と私。
「だめです、脳に取り付けた電極の説明だけは知っておかねばなりません。」
横たわっている私の頭部にメスがはいり、頭皮が切り取られる。
ドリルで何カ所も丸い穴が開けられていく。
その穴をつなぐように、電動カッターで頭蓋骨が切られ、
そして持ち上げられ、はずされた。
さらにメスで脳を覆っている膜が切り取られていく。
グロテスクで目を背けそうになる。
画面が切り替わり、画面いっぱいに真っ赤な固まりが映し出された。
214 :
前82:2005/06/12(日) 17:13:46 ID:9ugNRpBw
「頭皮、頭蓋骨、硬膜が除去されたあなたの脳です。
これから電極を取り付ける処置になります。」
真四角の半導体のようなチップに信号ケーブルが付いたようなものが大脳に乗せられた。
「あのチップには10×10計100個の電極が出ています。
この電極が大脳皮質の表面から約1.5mmの深さまで挿入されます。
これを左耳と左目上の間の部分に5つ程、同じく右側に2つほど付けました。
あと後頭部の小脳近くにも2つほどです。」
画面は進み、大脳の上に次々とチップが置かれていく。
ケーブルは後頭部、首の方に這わせるように配置されていく。
少し冷静に画面を眺められるようになってきた。
「言語の中枢や運動関係の中枢の大部分は脳の左側にあるのが普通です。
清水さんも検査の結果左側にありました。
そこで左側に言語、音声認識と、運動関係を管理する電極を付け、
右側には運動機能を補助する電極が取り付けられました。
後頭部の電極は、生命維持に関する中枢とのインターフェースになります。」
緊張して、ただ画面を見るのが精一杯の私。
チップの上から膜が掛けられ、さらにプラスチックのカバーがかけられ、固定された。
脳の処置は終わったようで、咽頭にも電極が取り付けられていく。
こちらのケーブルも首の方まで皮膚の下に埋め込まれていった。
215 :
前82:2005/06/12(日) 17:16:46 ID:WmJIfCvk
「以上で手術は終了よ。
いよいよアクアノートとして機械と一体化して能力を発揮してもらわねばなりません。」
「ずいぶん大変な手術だったんですね。その割りにもう気分も悪くなく、
充分回復しているみたいなんですけど」と私。
「それはそうよ。手術が終わってもう2週間も経ったからね。
その間あなたはずっと寝ていたの。脳に取り付けた電極から睡眠中枢を刺激すれば、
いくらでも意識無く眠り続けるのよ。
それから、さっき意識を取り戻したとき、ちょっと違った感じしなかった。」
「ええ、なんかスイッチが入ったみたいに目が覚めました。
・・・と言うことは私、機械みたいにスイッチのオンオフで
寝たり起きたりしないといけないんですか。」
想像以上の処置をされている。これじゃロボットだと感じ、強い調子で聞いてしまった。
216 :
前82:2005/06/12(日) 17:17:02 ID:WmJIfCvk
「アクアノートとして水中でコンピュータと一体化して活動するには、当然必要な機能です。
この他にもいくつか、コンピュータからあなたの脳に信号を送り、体調管理などする機能もあります。
アクアノートが水中で活動する場合、自分の体の面倒を見ることに
あまり多くのパワーをさくことは現実的に不可能です。
基本的な生体機能の維持はコンピュータにゆだね、調査や作業にエネルギーを注がないと
何もできなくなってしまいます。
もっともあなたが訓練終えてアクアノートとして、ひとり立ちしたときには、
あなた自身がコンピュータを通して、あなた自身を管理することになるから、
単なる機械とは違うと思うけど。」
まだ納得いかない。といって今の私にはどうすることもできない。
「まず訓練を始め、コンピュータを使いこなす事ね。
そうすると、こういった機能が自分の能力をどれほど広げているかわかるから。
明日からはまた熊沢さんと堂本さんが面倒見るから挨拶して説明を聞いておいて。」
井上ドクター強い調子でとりつくしまもない。
217 :
前82:2005/06/12(日) 17:30:05 ID:mq2a693F
manplus様乙です。
フレデリック・ポールの小説をハンドルにされていて、
あの小説と比べて読め楽しみます。
前389氏
萌えます。山根さんいったい何をねらっているのか謎なところも楽しみです。
このスレの皆様の要望に応えるため、
脳に電極を取り付ける手術をどう書くかで苦心しました。
後は、訓練編とか独り立ち活動開始になりますが
量的にはそう多くない予定です。
前82様
ありがとうございます。
私もあの小説の主人公を女性にしてみたいと思って構想してみました。
淡々とサイボーグになっていく過程をかけたらと思っています。
フレデリック・ポールのようなどんでん返しがある構想にはとうてい無理ですが・・・。
それから、サイボーグ手術を受けるまでの訓練過程で半永久的に
宇宙服を着るようなシュチュエーションを書くつもりです。
前82様の作品に登場する処置に似通ってしまうかもしれませんがその節はお許し下さい。
少し先の構想まで創っています。
続きをまもなく投稿させていただきます。
私たちは、局長室のと同じ階のセキュリティーエリアに極秘裏に作られた直通のエレベーターに乗って、プロジェクト
本部のある地下20階に降りていった。
もう、後戻りできないことになっていることを私は痛感していた。
プロジェクト本部では、長田部長が待っていてくれた。
「おはようございます。私が、長田静香です。このプロジェクトの全体を任されています。あなた達と一緒に任務が遂行
できることを嬉しく思っています。」
型どおりの挨拶のあと部長は続けた。
「何を暗い顔をしているの。みんな。あなた達は、士官学校での適性試験に合格して卒業時に特殊任務に将来つくため
のエリートとして、周りの同期のエリート士官よりも昇進や待遇で特権を与える代わり、どの様な任務にもつつくという
覚悟を示す契約条項にサインしているのを忘れたの。」
みんなが「はっ」とした表情になる。
「この任務は、我が国の将来の発展につながる重要な任務なのよ。失敗が許されないプロジェクトだから、あなた達が
選ばれたのです。それを忘れない様にすると同時に光栄なことと胸を張ってください。」
光栄なんだけど、やっぱり、今まで活きてきた人間としての姿を変更することへの恐怖感が私の心にあることは確かで
あった。
突然部長の声が聞こえてきた。
「みんな返事は?」
みんな驚きながらも「はい。」と答えた。
「その気持ちは私たちも同じなの。理由はあとで判るけど。」
部長がくぐもった声で意味深な言葉をはいた。しかし、部長は気を取り直したように続けた。
「さて、あなた達の今後のスケジュールをお話しします。よく聞いておいてください。実際にあなた達が経験することなの
ですから。」
いよいよ、私たちがどの様な経験をすることになるのか、それをみんな聞き逃すまいという姿勢になる。
「あなた達は、これから少なくとも第一陣が火星に出発するまで、この地下施設で火星に行くための処置や訓練も含めて
全ての生活を送ってもらうことになります。
あなた達の体は、今日から我が国の財産となると考えて下さい。そして、24時間モニター監視され常に研究材料として
管理されると思って下さい。」
私たちは、今日から、自由とはほど遠い生活が始まることを強く認識させられた。
「そして、このプロジェクトでのあなた方のスケジュールですが、まず、あなた達がほかのプロジェクトの人間からの
不必要な細菌の感染を防ぐためと宇宙空間の環境へすぐにでも行っての訓練が出来るように永久装着型の宇宙服を
着て生活をしてもらいます。そして、宇宙への環境に訓練施設を使い順化してもらいます。サイボーグ手術の
第一段階というわけです。また、サイボーグ手術に耐えることの出来るからだと精神を造る訓練も行います。
それから、この期間、火星や宇宙の基礎的、専門的教育を受けてもらいます。それからこの期間重要な知識教育と
訓練として、サイボーグについての詳細のメカニズムを知ってもらうことがあります。そして、その適正を見極めた上で
第1陣として出発するチーム3人と緊急補充用のバックアップの要員のチーム3人を選出し、
その6人にサイボーグ手術を施します。そのうちの4人は、火星探査・開発用サイボーグとして、二人はロケットを
操縦するためにロケットと一体化するための改造手術となります。そして、残りの4名は、
地上でのバックアップ部隊となってもらいます。もちろんバックアップ部隊は、第2陣、第3陣での出発に合わせて
改造手術を受けることになります。いずれはサイボーグになると思って下さい。」
やっぱり、いずれにしても私たちは、機械の体になる運命にあるんだ。
それに、サイボーグにならないと永久に宇宙服すら脱ぐことが出来ないのだった。
部長の説明は更に続いた。
「打ち上げまでの期間、火星探査・開発用サイボーグの4名は火星環境標準室で訓練を続けてもらい、
ロケット操縦用サイボーグの2名は、ロケット操縦シュミレーターに接続されての習熟訓練を行ってもらいます。
それが打ち上げまでのスケジュールです。」
進藤ルミ中佐が質問をした。
「ロケットに搭乗する3名は火星で探査を行い帰還するのは解りますが、その他のメンバーは、
打ち上げ後はどの様なスケジュールになるのですか?」
「今の質問についての説明をします。一緒に改造手術を受けた残りの3名は、ロケットシミュレーターと火星環境標準室を
使い火星探査に向かった3名とほぼ同じ生活を行ってもらいます。理由は、任務に就いている3人に起こりうることを
地上である程度把握出来るようにするためです。
そして、残りの4名の予備人員は、新に追加される計画参加者と共に次のミッションに参加する準備にはいることになる
と思って下さい。それから、第一次ミッションのメンバーは帰還後、地球上で、この計画のパイオニアとして取材を
受けることになると思います。ただし、元の人間の姿に戻ることはなく、火星探査・開発用サイボーグの姿で、
データー収集のサンプルとして最後まで地球上で過ごすことになります。その他のメンバーは、火星に永住するか、
地球と火星を定期的に往復することになると思います。」
そこまで、話をして、部長は再度質問を求めた。
私は、少しおずおずしながら質問した。
「今から、ミッションを終了して、地球に帰還するまでのタイムスケジュールを教えて下さい。」
「それを説明していなかったわね。お答えします。まず、サイボーグ手術を受ける前段の基礎訓練期間は1年から2年、
サイボーグになってから打ち上げまで、1年から2年。地球から火星まで、7ヶ月ぐらい、火星でのミッションが、
3年から4年といったところです。合計で、第一次ミッションの終了までは、6年から9年間といったところです。」
気の遠くなるような時間を過ごすことになるのだ。何か聞いているだけで、ため息が出た。
「ほかに質問がありますか?」部長が切り出した。でも、事態の整理にみんな気が行っているのか、それ以上の質問が
出なかった。
「質問がないようでしたら、ミッションの第一段階の準備に入ってもらいます。あなた方それぞれにミッションの間、
世話をしてくれるサポートヘルパーがついてくれます。その人達があちらにいます。如月大佐から、サポートヘルパーの
指示に従って、予備訓練遂行エリアにそこのエレベーターで向かって下さい。如月大佐のサポートヘルパーは、
胸番号1番の服を着た人です」
「解りました。」
そういって、胸番号1番のサポートヘルパーのもとに向かった。サポートヘルパーは、体に密着したラバー生地の
ウェットスーツのようなフルフェースヘルメット付きの白い宇宙服を着ていた。やはり、訓練空間でどの様にも
サポート対応できるようにするためなのだろう。
何か、ラバーフェチの開設しているホームページに出てくる様な姿をしていた。ヘルメット部分のスピーカーから声が
聞こえた。
「如月大佐、これからしばらくあなたのお世話をさせていただく高橋まりなといいます。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。それから、ここでは、私のことをはるかと呼んでください。だって、
元々、このミッションに参加することによって2階級、階級が上がったんですもの。私も、あなたのことをまりなさんと
呼ぶから。」
「解りました。でも、空軍のエースパイロットの選抜チームの皆さんであるのも事実ですし、
このミッションの中心になるメンバーですもの私は、尊敬しています。でも、サポートヘルパーとして、
近くでお世話することになるので、信頼をしていただく意味でも「はるかさん」と呼ばせていただきます。それでは、
はるかさん、あそこのエレベーターで、あなたの部屋にまずご案内します。そこでしばらく休んでいただいた後、
私が着ているような永久装着型宇宙服「ラバーフィットスーツを着るための予備処置を受けてもらいます。
それがこのミッションのはじめの一歩になります。」
彼女が着ているのが、これから私がサイボーグ改造手術を受けるまで閉じこめられる宇宙服だった。
かなり機能的に出来ているのと、ほとんど体のラインがそのまま見えてしまうのに恥ずかしさを覚えた。
それに、2階級特進ということは、人間として死んだということになるのかと考えると自分の立場が、複雑なものであり、
特殊なものであるということなのだ。
そうこう考えているうちに、本部のある階層の一つ下の階層の基礎訓練エリアに着いた。
そして、その階にある個室に案内された。個室といっても常に水族館の魚が入っている水槽のような観察することが
出来るように透明のアクリルの壁で2面が出来ているし、モニター用のカメラが4台ついている。
本当に自由とプライベートのない人生が始まることを感じることが出来た。
しばらくするとまりなさんが私を呼びに来た。
「まず、処置まで、今の服を脱いで、この服を着て下さい。下着もパンティー以外は脱いでもらいます。」
それは、薄緑色のつなぎのような服だった。言われるとおりに服を着替えると、
「これから、検査室で、検査と採寸を行います。、ついてきてください。」
萌え。これからモノとして扱われる彼女たちが哀れでハァハァ。
226 :
名無しさん@ピンキー:2005/06/13(月) 21:32:56 ID:l1QCR3Tj
>>225 政権が変わって火星探索予算がつかず中止。サイボーグ改造後のメンテ費用も予算がつかず。。。
ってのはどう?
>>226 どこぞの宗教団体が政権握ったら、さらに面白い事になりそうだな。
「ひとりでに口を利く機械人形の存在を許すな」とか。
228 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 00:37:57 ID:Xvx83huG
スティールアームがメタルアイに惨殺される少し前、真夜中の2時過ぎのこと、あの廃屋ビルのガレージでは、シャドーフォックスが学生相手にいまだに淫行の限りを尽くしていた。学生はフォックスに精液を搾り取られるだけ搾り取られ、ほとんど生ける屍と化していた。
傍らには、もう一人の学生が痴呆じみた顔で、ご主人様であるスティールアームの帰りを待っていた。
「はぁ、はぁ、あ、あ、あ、まだ、まだまだいくわよ・・・・・あ・・・・・」
シャドーフォックスのセックス欲は飽くことを知らないようであった。彼女の電子ヴァギナにペニスを入れたまま長時間の激しい腰の動きに揺さぶられてきた学生の体は、血の気も無く蒼ざめていた。もう、言葉をしゃべる力さえ残っていないのかもしれない。
と、彼女の電子アイに、ある情報端末からの反応が表示された。
「ナンバー 東京R TQ ○○―6○ 警視庁刑事部捜査第一課宮下刑事の車両より本部へ連絡 、刑事部及び各警察署に残っている人員を手配し、手分けして件の女性の捜索を手配されたし。女性は年齢20歳前半、両目が機械の義眼、黒いオーバーニーのロングブーツ・・・」
シャドーフォックスの電子アイの内部で次々と情報が表示される。あの刑事二人が車から警視庁本部に応援を頼んでいることは明らかだ。メタルアイは一人でスティールアームとの決着にいったのだろう。
フォックスは懐からあの電子チップを取り出すと、下になっている学生の首筋に打ち込んだ。
「さーて、とりあえず、あの刑事二人から始末してやるわ・・・・・」
シャドーフォックスの赤外線アイは、邪悪な色に染まっていた・・・
229 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 00:39:00 ID:Xvx83huG
メタルアイは、あのカップルの死体に近づいた。首のない男女二人の亡骸。そのそばに転がっているカップルの生首。二人とも恐怖の表情をその顔に凍り付かせたまま、虚空を凝視しているかのようだった。
「かわいそうに・・・・・怖かったのね。」
メタルアイの機械の眼から、涙がぽろぽろとこぼれた。
彼女はカップルの首無し死体を茂みの奥へ並べ、彼らの首を切断された切り口に元通りにつけて、凝視している眼のまぶたを閉じさせた。カップルの死体からは恐怖の表情は消えて、安らかに眠っているかのようだった。
次にメタルアイはあの黒いジェラルミンケースを開け、バラバラに散らばっているスティールアームの死体を無造作にぶちこんだ。
「これでスィーパーに証拠隠滅されずにすむわ。あたしの体と、このスティールアームの死体が奴らの悪逆を暴く証拠よ。」
カップルの死体は茂みの奥で完全に隠れているし、何よりスティールアームがカップルを殺害したことをスィーパーに報告したこともない。無事に警察が発見してくれるだろう。
と、突然、ジェラルミンケースの中から、女の声が聞こえた。
「こちらシャドーフォックス、こちらシャドーフォックス、あの刑事二人が動き出したわ・・・・・メタルアイはあんたにまかせるから、あたしはあの二人を抹殺する・・・」
フォックスの声は、スティールアームの首の電子聴覚装置から聞こえている。翔也と宮下が危ない。
メタルアイはジェラルミンケースを持ったまま、公園から猛スピードで去っていった。
230 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 00:40:59 ID:Xvx83huG
「宮さん、他の捜査陣の手配は?」
「今出ているパトカーは3台だけだよ。それでもよく出ている方だよ。今現在、G-5地区で南米麻薬シンジケートの一斉取り締まりに出払っているのがほとんどだからね。事件はまだ雲を掴むような状態であることを考えると。」
「・・・・・」
翔也は厳しい眼を車の外に投げかけている。このまだ暗いビル街のどこかで、メタルアイは戦っているのだ。いますぐ、お前のところに行く。彼はビルの陰の隅々まで視線を凝らしてメタルアイの姿を追っていた。
「とにかく、あのサイボーグ達を放置していては、一般市民に甚大な被害が及ぶ。一刻も早く、見つけないとな。」
宮下刑事も運転しながら、メタルアイの姿を捜していた。相手はバイクを盗まれた暴走族の存在をすぐに消してしまうほどの連中だ。いままで相手にしてきた犯罪組織とは比べ物にならないくらい手強い奴らだろう。今までにない緊張感が車内を包んでいた。
「・・・・・なんだ?あれは・・・」
宮下は突然、前方に人影がゆっくり歩いてくるのを認めた。女だ。髪をポニーテールにして・・・・・って、あの殺人サイボーグの片割れではないか!?
「あ、あいつは!?」
翔也も拳銃を取り出し、前方のシャドーフォックスを見据えた。
シャドーフォックスはゆっくりと、その濃い茶色のニーハイロングブーツをコツコツと道路に響かせ、右手の指をパチンパチンと鳴らしながら車に近づいてきた。
と、シャドーフォックスの両眼から鋭いビームが発射された!!
ビィィィィィィィィィィィィ!!!!
アイビームは車の前方エンジン部分に当たり、大爆発を起こして車は急停止した、と思う間もなく、ダッシュで車に駆け寄ったシャドーフォックスは車体の下に両手を入れ、恐ろしいことに重量のある車をみるみる持ち上げて引っくり返してしまった!!
231 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 00:42:34 ID:Xvx83huG
「う、うわあああああ!!」
拳銃を撃つ暇も無かった。車内で逆さまになった刑事二人。と、窓ガラスを突き破ってシャドーフォックスの腕が翔也の襟首をつかみ、とんでもない勢いで車外に放り出した。
「しょ、翔也!!」
宮下の叫びも虚しく、翔也はみじめにも地面に背中を叩きつけられ、苦痛にのた打ち回った。その姿をあざ笑うかのように、シャドーフォックスは赤外線アイを光らせ、唇の端に笑みを浮かべ、指をパチンパチンと鳴らしながら、ゆっくりと翔也に近づいてきた。
「く・・・・・くそ・・・・・」
翔也はなんとか立ち上がり、拳銃をサイバゾネスに向けた。宮下もなんとか引っくり返った車の窓から脱出し、拳銃を構えて翔也を援護しようとした。
「・・・・・うっふっふ、どうしたの、坊やたち。しっかり撃たないと、お姉さんあなたたちを殺しちゃうわよ。」
銃弾の通用しない相手だとはわかっていても、翔也と宮下は銃を一斉にシャドーフォックスに向けて発砲した。
だが、何と信じられないことに、シャドーフォックスは目にも止まらない素早い適確な動きで、銃弾の弾道を見切りこれをことごとく避けてしまったのだ。
「ふふ、あたしはスティールアームのようにトロくはないわよ。遊んでいる暇はないし、今すぐあなたたちの心臓、もらうわよ。覚悟はいい?まずはハンサムな刑事さん、あなたからね・・・」
シャドーフォックスは右手を構えた、と、その右手の爪が青白く光りだした。メタルアイのレーザーブレードのような原理なのだろう。
そして次の瞬間、シャドーフォックスの姿が音もなく消えた!!
「え!?」
「翔也――!!」
翔也も宮下も、シャドーフォックスの姿を見失ってしまったのだ。どこだ、どこから来るんだ?
「ここよ、おバカさん。」
シャドーフォックスは翔也の背後に突然現れ、あの爪の光る手刀を翔也の背中にぶち込もうとした。心臓が盗られる!!翔也は死を覚悟した・・・・・
232 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 00:53:19 ID:CWtfOCCH
バシュッ!!
シャドーフォックスの手刀はいつまでたっても翔也の背中に突き刺さる気配はなかった。翔也がゆっくりと肩越しに背後を見ると、そこに忘れられない姿を認めた。
「メ、メタルアイ・・・・・」
メタルアイは間一髪、シャドーフォックスの手刀を掴んで、翔也のピンチを救ったのだった。
「ふう、なんとか間に合ったみたいね、翔也・・・・・」
「アイ・・・・・生きていたんだね。」
翔也と宮下の表情に、安堵の色が少し戻った。
「く・・・・・メタルアイ、くたばっていなかったのね。」
「シャドーフォックス・・・・・その素早い動きで常に人の背後から襲い、心臓を抜き取る・・・・・『影狐』とはよくいったものね・・・・・」
「う、うわあ!!」
メタルアイは手首を掴んだシャドーフォックスを、力任せに道路上に放り投げた。シャドーフォックスはミニスカートからパンティをのぞかせながら、地面に転がった。
「おのれ・・・・・ス、スティールアームはどうしたのよ!?」
「こいつのこと?」
メタルアイが放り投げたのは、スティールアームの無残な生首だった。
「ひ、ひいい!!」
脳みそが頭蓋プロテクターからはみ出し、メカの眼球が電線で眼窩から繋がれたまま飛び出ていて、顔面半分がメカ露出なスティールアームの首は、シャドーフォックスをたじろがせるには十分だった。
233 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 00:54:13 ID:CWtfOCCH
「くっ!!いい気になるなよ、メタルアイ。あたしが地獄へ送ってやるわ・・・・・」
ようやく立ち上がったシャドーフォックスは再び右手の爪を光らせ、一瞬のうちにフッと姿を消した。
メタルアイは右手にレーザーブレードを握り、どういうわけか、その機械の眼を閉じた。
「・・・・・そこよ!!」
メタルアイは自分の左斜め後ろに向かって剣を切りつけた。そこにシャドーフォックスが現れた。シャドーフォックスは間一髪、メタルアイの剣を爆転で避けた。
「うっふっふ、危ない危ない。なるほど、眼を閉じてあたしの気配と音とで、あたしの来る方向を見切ろうとしたわけね。まあ、あたしにしてみれば想定の範囲内だけれどね。」
「・・・・・じゃあ、あなたの本気を見せてみなさいよ。」
「いいわよ。恐怖で顔が引きつらないようにね・・・・・あと、勇ましい刑事さんたち、メタルアイをなぶり殺しにしたら、次はあんたたちをたっぷりいじめて・あ・げ・る。うっふっふ。せいぜいおしっこもらさないようにね。臭いのあたし嫌だから。」
シャドーフォックスは余裕綽々の表情で、ボクサーがやるようにポンポンとロングブーツで軽く飛び跳ねてみせた。
234 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 00:57:00 ID:CWtfOCCH
メタルアイとシャドーフォックスが対峙しているその光景を、とある高いビルの屋上から見下ろしている3人の人影がいた。3人とも両眼を赤く光らせ、興味深くこの対決を見ている。
「ねえホーネット、助けに行く?」
膝下まである長いロングコートを着た女が尋ねた。ロングコートの下は暗闇でわかりにくいが、どうやら他の二人と同じく、ブーツみたいなものを履いているらしい。
黒い髪の毛を丸く卵形にして顔を包んでいるような感じで、その表情にはどこか少女っぽい幼さが残る。
「ふふふ、まさか。どうやら警察の連中も、あの二人の刑事の乗った車に起こった異変に気がついて、ここを目指しているようね・・・・・面倒くさいことには巻き込まれたくないわ。」
この女が「ホーネット」というコードネームのサイバゾネスらしい。髪の毛は少し茶色がかった黒、顔は物凄いほどの美人だが、その目には冷酷な、残忍な色が濃く浮かぶ。
黒を基調としたミニスカートのスーツに、黒いオーバーニーのロングブーツ、ただ、スーツには、スズメバチを連想させる黄色と黒の縞々のデザインをところどころに配置し、ブーツの側面にもその縞々があった。
235 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 00:58:22 ID:CWtfOCCH
「ええ〜、『ザナドゥ』本部はなんて言ってきているのよ?」
ホーネットにこういってきたのは、髪の毛を青く染めた女だった。青い髪の毛を傘状にしてその先端を外はねカールにしていた。
服装もブルーのミニスカスーツに、ブルーのニーハイロングブーツなのだが、眼を引くのはそのスーツの背中一面や両腕、ブーツの上部に無数の「針」のようなものが植わっていることだった。「針」の長さは30〜40センチほどだろうか。
顔立ちはロングコートの女とおなじく少女っぽいが、こちらのほうが少し活動的ないたずらっぽい表情をしている。
「うっふっふ、その点はさすがに抜かりが無いわ。『取り引き』をしろ、だって。ヘッジホッグ。さっき『スィーパー』の車にデータが送られてきて、このディスクにロードしたのよ、警察を黙らせる取り引き材料をね。」
ホーネットは懐から直径8センチほどのディスクを取り出して、青い髪をしたヘッジホッグにヒラヒラと見せびらかした。すると、もう一人のロングコートの女は「プラズマイール」ということか。
「まあ、シャドーフォックスの戦いぶりをここで見学してましょうよ。うまくメタルアイを倒せれば儲け物、最悪メタルアイに破壊されても、こっちが有利なことは変わりないしね。」
ホーネットは冷酷な表情に、冷たすぎる笑みを浮かべて言った。
236 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:03:26 ID:CWtfOCCH
メタルアイとシャドーフォックスは、夜気が深くなってきた道路の上で、しばらく対峙していた。翔也と宮下はその戦いを緊張の面持ちで見つめている。
と、それまでポンポンと飛び跳ねていたシャドーフォックスが突然、物凄いスピードでメタルアイの周囲を旋回しはじめた。あまりの速さにシャドーフォックスの残像がいくつも見えるほどだ。
「加速装置か・・・」
メタルアイは再び、目を閉じて音と気配でシャドーフォックスの動きを読もうとした。
「・・・・・な、何?この音は?」
メタルアイの耳に、異様な振動を伴った怪音が響いてきた。電子聴覚装置が痛くなるほどの不快な音だ。もちろん、これでシャドーフォックスの来る方向なんて読めるはずがない。
「くっ・・・・・超音波か!!」
シャドーフォックスの人工音声装置には超音波を発生させる機能がついているのだろう。残像でまるで分身しているかのようにみえるシャドーフォックスの顔に残忍な笑みが浮かんだ。
「ふふふ、メタルアイ、この状況で一斉攻撃を仕掛けたら、どうなるかしら?」
と、シャドーフォックスは一気に攻撃を、メタルアイの四方八方から仕掛けてきた!!
「う、うわあああああ!!」
かろうじて急所をかばっているものの、メタルアイの体はシャドーフォックスの青白く光る爪の攻撃を受け、たちどころに血まみれになった。
なおも続くシャドーフォックスの執拗な攻撃、メタルアイはたまらずサイボーグならではの超人的なハイジャンプをして、シャドーフォックスの攻撃の輪から逃れようとした。
237 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:06:17 ID:CWtfOCCH
「はん!!逃げようたってムダよ。あたしは容赦しないわよ!!」
シャドーフォックスは再び輪になって四方からの攻撃を仕掛けた。と、メタルアイは何故か確信を得たようにレーザーブレードを構えた。
ガキッ!!
「え!?ええっ!?」
背後から迫ってきたシャドーフォックスの爪を、なんとメタルアイはレーザーブレードで受けとめた。
「くっ、ま、まぐれよ。」
シャドーフォックスは再び攻撃を開始した。だが、メタルアイはシャドーフォックスの攻撃を見切り、全てガードした。シャドーフォックスは攻撃をやめ、いったん後ろに引いた。
「・・・・・・ふーん、なるほど。メタルアイ。あたしの攻撃パターンを脳内コンピューターの演算処理で読んで対処したってわけね。」
「・・・・・そうよ。もうあんたの高速攻撃は使えないわ。」
「・・・・・・・ふ、ふふふ、あっはっは!!」
突然、シャドーフォックスは声を上げて笑い出した。おかしくておかしくてしょうがない、というくらいに腹を抱えて笑った。
「・・・・・何がおかしいの?」
「あはははは、ざ・ん・ね・ん・で・し・た〜!!そんなことはあたしの想定の範囲内なのよ!!なーに得意がっちゃてるの?」
シャドーフォックスの妙な自信に、メタルアイは表情を強ばらせた。
「ふふふ、まだわからない?じゃあ、正解をみせてあ・げ・る。」
シャドーフォックスは再びメタルアイの周囲を旋回し、四方八方から攻撃を仕掛けてきた。
メタルアイはレーザーブレードを構え、シャドーフォックスの攻撃を受け止めようとした。だが・・・
バシュッ!!
「ぐあああああ!!」
シャドーフォックスは、メタルアイの読んだ方向とは全く逆の方向から襲いかかってきたのだ。
238 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:09:28 ID:CWtfOCCH
「うう、な、何故・・・」
「何故あたしの攻撃が読めないかって?かーんたんよ。あたしの脳内コンピューターで今までの
あたしの攻撃パターンを演算処理し、ついでにあなたの防御パターンも読み込んで、その中の『死角』を割り出してそこを攻撃した、というわけなの。」
「う、ううう、ううううう・・・」
「これもあたしの高速攻撃に対応するため、演算処理の実行速度および容量を数倍にアップした、
あたしの脳内コンピューターのハイスペックなCPUの勝利よ。あんたの足りない脳みそとは格が違うのよ、格が!!」
シャドーフォックスの猛攻撃の前に、メタルアイは成すすべが無かった。どうにか心臓をかばっているものの、シャドーフォックスの爪はメタルアイの胸を、腕を、背中を、太ももを容赦なく切り裂いてゆく。
止血システムで出血を抑えているものの、全身からは次から次へと付けられる新しい傷口から流血が止まらない。
まさに、膾切りの状態であった。
「くっ、このままではまずいぞ、翔也!!」
「ち、畜生!!」
翔也と宮下はたまらず銃を発砲した。だが、高速攻撃をしているシャドーフォックスに当たるはずも無かった。
「ぐあっ!!」
シャドーフォックスの執拗な攻撃に、ついにメタルアイはレーザーブレードを地面に落とし。片膝をついた。体中の傷口からバチバチと電気が放電している。
「・・・・・終わりね、メタルアイ。とどめよ・・・」
239 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:19:47 ID:tP8u83B4
このままではメタルアイが死ぬ、とっさに翔也はシャドーフォックスの攻撃の円陣内に飛び込み、地面に転がっていたレーザーブレードを拾うと、メタルアイに渡そうとした。
ガシッ!!
「・・・・・何のマネよ、坊や・・・」
「うう・・・」
レーザーブレードを渡そうとした翔矢の腕を、シャドーフォックスはガッチリと握っていた。翔也はレーザーブレードを奪われまいと激しく抵抗したが、シャドーフォックスは力ずくでレーザーブレードを奪い去り、翔也を蹴り倒した。
「本当にムダな抵抗を・・・・・まあいいわ。こいつでトドメをさしてやるわ。自分の武器で殺されるなんて、こんな屈辱的なことはないわね。うっふっふ。」
シャドーフォックスは高速旋回し、メタルアイに切りかかろうとした。
「アイ・・・・・俺は、アイを信じている・・・・・君なら・・・君ならやれるはずだ・・・・・この女の攻撃が、どこからやってくるのか、『聞こえる』はずだ・・・・・」
地面に倒れながらも、翔也はメタルアイに声援を送った。
(・・・・・攻撃が・・・・攻撃が、『聞こえる』・・・・・『聞こえる』・・・・・ですって・・・???)
メタルアイは翔也の言葉を反芻した。と、その耳に不思議な音が飛び込んできた。
ピュゥゥゥーーーーー・・・・・
それはなんだが儚げな、かすかにしか聞こえない、笛のような音だった。この音は一体・・・・・??
「そろそろ地獄に行く時間よ、メタルアイ!!」
「死角」から,シャドーフォックスが切りかかってきた。と、その方向から、あの笛のような音が聞こえてきた。
「・・・・・そこよ!!」
240 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:22:23 ID:tP8u83B4
翔也と宮下がメタルアイを見ると、メタルアイはシャドーフォックスが握ったレザーブレードを両手で握り、その切っ先をシャドーフォックスの顔面に向け左目に突き立てていた。
「が、あ、あ・・・・・な、何故、あたしの来る方向が?」
「・・・・・お、おまえの、右腕の袖口を、よ、よく見てみるんだな・・・」
翔也の声に、シャドーフォックスは刺されていない右目で、右袖口を見た。と、その袖のボタンの穴に、2センチくらいの金属の筒のようなものが突っ込んであった。
「な、何よ?これ・・・・・」
「や、薬莢だよ、俺の拳銃のな・・・・・そいつがおまえの高速旋回のスピードで一種の笛のような役割を果たしたんだ・・・・・」
「あ、あのときのドサクサに紛れて、こんな小細工を・・・・・」
レーザーブレードをメタルアイに渡そうと、シャドーフォックスともみあっている隙に、翔也は薬莢を袖口に取り付けたのだった。メタルアイは翔也に優しい視線を向けながら、
「ありがとう、翔。あなたがいなかったら、あたし、今頃・・・・・」
「・・・おまえを信じてたよ・・・・・今夜会ったばかりなのに、あまり人を信じない俺なのに・・・・・なんでだろうな・・・・・この気持ち。」
メタルアイの機械の眼から、一筋の熱い一滴が流れていた。
「くっ、おのれメタルアイ!こいつを、これを・・・」
「あっと、あんたを忘れるところだったわ。」
メタルアイはレザーブレードにグッと力を込めると、シャドーフォックスの機械の眼球は抉り出され、地面をコロコロと転がった・・・・・
241 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:24:55 ID:tP8u83B4
「ぎ、ぎゃあああああ!!」
メタルアイは間髪いれず、シャドーフォックスに切りかかった。今度はシャドーフォックスが膾切りにされ、体中の切り裂かれた傷口から内部メカが覗いた。傷口から電光火花を散らせながら。
バチバチッ!!ビビビビビ!!
「はぁはぁはぁ・・・・・あ、あ、あ、あ、あ・・・・・」
シャドーフォックスは全身ボロボロに流血しながら、なんとか逃げようとした。メタルアイはその後を追おうとしたが、そのとき、道路の向こう側からけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
「え、もう応援が来てくれたのか?」
宮下刑事がパトカーの来る方を見た。パトカーの数は少なく見てもおよそ10台以上はあった。はてな?メタルアイ捜索に借り出されたのは3台だけだったはず・・・・・?
10数台のパトカーは道路に突っ立っているメタルアイを包囲し、多くの警官が出てきて銃口をメタルアイに向けた。
メタルアイは別に逃げ出す様子もなく、両腕を上げて抵抗する意思のない事を示した。
まもなく、4,5人の刑事がメタルアイの元に近寄ってきた。その中の一人でメガネをかけた痩せぎすの、30半ばの男が警察手帳を見せながら、
「警視庁組織犯罪対策部、組織暴力対策課の北条だ。名前は・・・・・なんだっけ?」
メガネの男は高圧的な口調で、女の名前を翔也に聞いた。
「・・・・・アイ・・・・・メタルアイ・・・です。」
「メタルアイ?なんじゃそりゃ?ふざけているのかね、君は?」
「コードネームです・・・・本名は、今のところ不明です。」
翔也は少し気色ばんだ口調で応対した。
242 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:46:22 ID:E+Kn3vbC
「そうか。ともかく、メタルアイ、おまえを殺人容疑および決闘罪の容疑で逮捕する。一緒にきてもらおう」
「ちょ、ちょっと待ってください!!なんですか、逮捕って・・・」
翔也が怒りにまかせて北条刑事につっかかろうとするのを、後ろから宮下刑事が抑えた。
「翔、冷静になれ・・・・・メタルアイは、もう、覚悟を決めているよ・・・・・」
「わかっていますよ、宮さん・・・・・でも、アイは、俺達をあのサイボーグ達から救ってくれたんです・・・・・」
「ありがとう、翔也・・・・・でも、これはわたしが自ら望んだことなの・・・・・」
メタルアイは寂しく微笑みながら、翔也に言った。
翔也はあたりを見渡した。あのシャドーフォックスとかいうサイバゾネスはどこかへ逃げたのか、姿が消えていた。
「・・・・・まさか、アイ。君が自分で警視庁に連絡を・・・・・」
メタルアイの情報端末へのアクセス機能を考えると、それは造作もない事だった。メタルアイはコクリと翔也に向かってうなずいた。
「・・・・・刑事さん、あそこにジェラルミンケースが置いてあります。そのなかに、あたしが殺したサイバゾネスの死体が・・・・・」
「証拠は十分そろっているわけか。F-12地区のカップルの死体についてもいろいろ聞きたいことがある。我々と一緒に来てもらおうか・・・・・」
北条刑事の冷たい声が響き、メタルアイの両手にガチャリと手錠がかけられた。そのまま彼女は連行され、パトカーに乗り込んだ。
「・・・・・アイに、アイについてやらないと・・・・・だってあいつ、この決闘で大怪我をしているんですよ・・・」
「・・・・・翔也、気持ちは分かるが、俺達は刑事だ。俺達にできることは、あの子の意思を尊重し、この恐ろしい事件と組織の全貌を暴きだすことだ。」
宮下刑事は翔矢の肩をポンとたたき、パトカーへと促した・・・・・
243 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:49:12 ID:E+Kn3vbC
ビルの屋上へ最後の力をふりしぼり、なんとかジャンプして到着したシャドーフォックスだが、血が流れ内部メカが露出しているボロボロの体では、それが精一杯であった。
眼球を抉り出された左目は、眼窩から電線やらファイバーやらがだらしなく垂れ下がっている。
「畜生・・・・・体のメンテナンスを受けて修理したら、復讐してやる・・・・・メタルアイ。」
「いいザマじゃないの?雌狐さん。」
シャドーフォックスがその声に振り返ると、そこにはホーネットら3人のサイバゾネスの姿があった。
「ホ、ホーネット!!」
「しかし、言い訳のきかない醜態ぶりね。警視庁の連中まで巻き込むとは・・・・・」
「・・・・・か、体を、修理したら、も、もう一度、メタルアイを・・・・・」
「もう一度?残念ね。もうあんたに、次はないわ!!」
死刑を言い渡す判事のように、ホーネットの声が冷酷に響き渡った。
「ちょ、ちょっと待って!!た、確かにメタルアイを警察の手に落としたのは悪かったわよ。でも、それもこれも、スティールアームの奴が男にうつつを抜かして・・・・・」
「いいわけ無用、連帯責任よ。あの2人のセクスレイヴはあたしらが身請け人になったから、ありがたく思いなさいね。プラズマイール、やっておしまいなさい!!」
ホーネットの言葉に、ロングコートを着たプラズマイールがうなずき、シャドーフォックスに近づいてきた。
「や・・・やめてよ・・・・ねぇ・・・・・ホーネット・・・・」
哀願するシャドーフォックスを虚ろな表情で見ながら、プラズマイールはシャドーフォックスの手を握った。
「お別れですわ・・・・・シャドーフォックスさん。」
「や、やめてえ!!」
次の瞬間、プラズマイールの腕から稲妻のような放電がおこり、その電撃は握られた手を通して、シャドーフォックスを直撃した。
244 :
虞祭坊:2005/06/14(火) 01:50:10 ID:E+Kn3vbC
「ぐぎゃあああああああああああ!!!!」
シャドーフォックスの体は凄まじい電撃に包まれた。体の中の電子部品、人工内臓、人工骨、強化心臓、改造筋肉などが稲妻の直撃で破壊され、ショートし、高熱を持って燃え上がった!!
「あががががが・・・・・」
シャドーフォックスの体は炎柱に包まれ、雷の直撃を受けたかのように真っ黒に焦げてゆく・・・・・
「・・・・・愚か者にふさわしい最期ね・・・・・メタルアイ、次はあなたがこうなる番よ。ほほほほほ。」
ホーネット、プラズマイール、ヘッジホッグ、3人のサイバゾネス達は、燃え上がる炎の光を受けて、頭から血をかぶったかのように、真っ赤に染まった・・・・・
>>226 なんかシルミドみたいでヘコむな・・・。
まあわざわざ殺されるって事はさすがにないんだろうけど。バレてどうなる話でもないから。
>>manplusたん
「人間の姿でなくなる」というのが強調されてるけど、
・機械の体(プラスチックとか金属とかの体)になる
・人間の形を少し逸脱したようになる(人魚とか猫耳とか逆関節とかキャタピラとか)
・顔は生身or少女型だけどすでに人間の形をしていない(完全に機械の一部になってて頭部だけはえてるとか)
・どこから見ても人間or人間型の何かにすら見えなくて、説明されないと人間である事すらわからない(四角い機械に脳だけ入ってるとか)
のどのレベルでの「人間の姿じゃない」のかすごく気になる。
これも楽しみのうちなのかな?
検査室につくと身体の隅々まで裸にされて検査され、そして、身体全体を本当に細かく採寸された。
これらの個人のデータが、これから着用させられるラバーフィットスーツとサイボーグになるときの人工器官の作成に
使用されるということだった。全てが一人一人似合わせたオーダーメイドであると説明された。
検査と採寸が終了するといよいよ、ラバーフィットスーツを着用するための処置が始まった。
私たちは、ブリーフィングルームに集められ、これから着用する宇宙服である「ラバーフィットスーツ」と
着用に伴う身体の処置の説明を受けることとなった。
ブリーフィングルームには、長田部長とスーツの技術者が待っていた。
私たちが席に着くと部長は、ブリーフィングを開始した。
「このラバーフィットスーツについての説明を開発担当者の富田主任より説明してもらいます。」
「初めまして富田です。それでは、まず、この服の説明から始めます。」
富田主任もまりなさん同様、白いラバーフィットスーツに包まれていることに気づいた。
ただ、まりなさんとは違ってヘルメットは付けていなかった。
「ラバーフィットスーツは、外側がラバーとチタン合金を組み合わせた素材になっていて、
伸縮性と強度に優れた素材であり服の内部の圧力保持が可能となっています。
グローブも一体化していて、脚のソックスも一体化しています。その為、首から下を完全一体化したことにより、
機密性も向上しています。そして、インナー素材も薄素材がアウター素材と一体化していて、
インナー素材の機能として体温維持機能の為の温度維持装置、紫外線、赤外線、宇宙線からの防護装置がついて
います。
それから、半永久的に皮膚と同じ機能を果たすような機能がついていて、
どの様な環境下でも活動できるようになっています。その反面、
非常に薄い素材で我々が裸でいるのと同じぐらいの運動性能を維持しているのです。
宇宙空間版のウェットスーツという表現が正しいかと思います。
そして、一体化して取り付けられるバックパックには、減圧、加圧処置を行わなくても通常気圧から、
宇宙空間にすぐに出入りできるように中間気圧にセッティングされた呼吸システムのタンクと液体栄養供給タンク、
発毛阻止、女性器、男性器の機能抑止、性欲阻止ホルモン等の特殊薬剤のタンク、排尿蓄積タンク、
コミュニケーションサポートシステムと体内のデータの送信システムで構成されています。
ヘルメットは、気圧変化や衝撃から頭部が守られるように頭部を完全に固定できるようになっています。
そして、頭部を動かさなくても360度の視野が得られるような特殊レンズがフェースプレートになっています。
それから、集音、コミュニケーションサポートシステムの接続端子、口腔部、鼻腔部を埋めるための装置が付いています。
この服を着ている限り口と、鼻は、無駄な空間ということになるからです。
そして、ブーツは、軟質強化プラスティック製で、熱加工ジッパーにより、脚に固定装着します。
ブーツは、拘束性と快適性、安全性を兼ね備えた性能を持たせてあります。
次にこの服を装着するための身体の処置について説明します。
この処置を皆さんは、明日から受けてもらうとになるのです。」
身体の処置か・・・。どんなものなのだろう。またまた、不安になる。
富田主任の説明は続く、みんなも不安な顔で聞き入っている。
「この処置を明日から受けてもらうことになるんだけど、まず、気道の上部に恒久的な栓を取り付け、
首の付け根に呼吸器につながる管を左右両側に空け、バックパックと接続するためのチューブが接続できるバルブを
取り付けます。これは、呼吸液の吸液用と廃液用の管が接続されることになります。
それから呼吸器官全体を液体呼吸液で満たします。
そして、声帯器官を切除し声帯器官につながる神経と電極を接合します。
それから、食道上部を器官同様閉鎖し、みぞおちのあたりから管を挿入し胃の上部と接続します。
みぞおちの開口部も、接続管とつなぐためのバルブを取り付けます。
そして、下半身の処置ですが、膀胱をカテーテルに接続し、尿道を除去した上で、排尿用カテーテル接続弁を
尿道カテーテルの先端に取り付けた上で股の付根の部分に取り付けます。肛門も人工肛門として、
もう一方の股の付け根にカテーテル装着用人工肛門弁を取り付けます。液体栄養しかラバーフィットスーツ装着者は
とることが出来ないようになっているのですが、ごく少量の老廃物や固形排泄物は肛門から排泄されますので、
それらの排泄処理のための処置です。大部分の排泄は、尿として、人工尿道弁からの排泄となります。
そして、性器の処置ですが、サイボーグ手術を受けるときまで温存します。
その為、女性被験者は、性器を人工弁で封鎖します。被験者は薬剤により生理がこないようになっています。
男性被験者については、ペニスを切除し、睾丸を下腹部内部に冷却システムと一緒に納めることになります。
被験者の男性機能も薬剤で抑えてあります。しかし、男性の場合は、精液を定期的に排出することが必要なので、
前立腺に電極を埋め込んでおき、精神カウンセラースタッフが必要と判断したとき微弱電流を前立腺に通すことにより
精液を排出できるようにしてあります。
最後に頭部付近への処置ですが、眼部にはゴーグル型のめがねをつけ、呼吸液を供給し、
眼球への酸素供給を行います。言ってみれば、外付け型のコンタクトレンズだとおもってください。
そして、口腔部に関しては、舌を除去します。これは、したという器官が必要ないと言うこともありますが、
皆さんが唯一自殺できるとしたら、舌をかむことだけなので、その可能性を取り除くためと言うこともあります。
そして、唾液腺を食道中部に移植します。頭には、電極を脳に差し込むために開発された頭皮カバーが
装着されバックパップのコンピューターと接続します。
そして、首の後側にコンピュータと脊椎神経を接続するコネクタが取り付けられます。
このシステムは、行動のモニタや制御、脳のサポートのためにコンピュータを神経装置に介在させたり、
ヘルメットのディスプレイシステムを円滑に利用できるようにするためのものです。
このシステムは、あなた方がサイボーグに生まれ変わったときに機械部分と肉体部分と
脳、神経のそれぞれが円滑に協調するようにして、脳へのストレスを軽減させるシステムに応用されるのです。
以上の処置を皆さんに施した後、皮膚に接合剤を塗布し、ラバーフィットスーツを装着することとなります。
皆さんが、正式にこの服を脱ぐことが出来るのは、惑星探査・開発用サイボーグとしての改造手術を受け火星人として
生まれ変わったときになります。
ところで、この服を装着するのは、もう一つ理由があるのです。
それは、この服に用いられている技術を更に進化させたものが、機械と人間の肉体の複合体であるサイボーグの
器官に応用されています。その為、この服の中での1年から2年の月日は、サイボーグの身体に順化しやすくなるための
予備的な処置でもあるのです。サイボーグになったときにこれからの経験がきっと役に立つはずです。
そして、これが、あなた方の服を着た状態のイメージです。」
主任の後のスクリーンに薄い緑色と薄い青色のラバーフィットスーツを着た人間のイメージ映像が映し出された。
「緑色が女性被験者、青色が男性被験者となっています。そして、職員が白のスーツ、医療スタッフが薄い桃色、
技術スタッフが薄い黄色のスーツを着用しています。
つまり、このプロジェクトに参加している人間は、全てラバーフィットスーツ装着者であるのです。
私たちの装着理由は、あなた方の身体に使用する技術の基礎部分の技術を使用しているこのスーツを着ることによって
あなた方がより安全に任務を遂行できる身体に改造されるようにデータをとっているのです。
いわば、私たちも人体実験をされているドナーの立場でもあるのです。」
長田部長が座っている席のパソコンのモニターをみて、胸番号7番のサポートヘルパーを
席に着いているマイクで呼んだ。
「佐多さん、大谷直樹少佐に精神安定剤を投与するように至急手配してください。
男性被験者ですから男性器を失ってしまうことの精神的ショックがでたようです。」
「判りました。」
そういうとすぐに部屋に供えてある薬棚からアンプルと注射器を取り出し何か意味不明のことを言っている彼の腕に
注射を施した。
すると、彼は、すぐに気を失った。
「精神安定処置室に運んで、精神カウンセラーと共にすぐに精神安定処置を行ってください。佐多さん、お願いします。」
「はい、部長。」
佐田という名前の7番のサポートヘルパーが 大谷少佐を担いでブリーフィングルームを出て行った。
いよいよ徐々に明らかになって来た〜!
性器だけでなく、舌までも除去してしまうとは、なんて容赦のない!(褒め言葉)
舌がないと顔が崩れてきたりしそうだから、何か(服の一部)が口に挿し込まれて固定されているのだろうか?
しかし、サイボーグ化前の宇宙服の段階でこれとは・・・これから先とても期待できそうだ。
人権を無視したモノ扱い、萌えます!サイボーグ化が楽しみです。どんな悲惨な姿に改造されることやら(・∀・)ワクワク
「渥美大佐、あなたは大丈夫ですか?」
渥美大佐に向かって部長が問いかけた。
「はい、確かにショックはあります。それに、怪物に作り替えられるかもしれない恐怖と戦ううえに男性器がない股間に
その様な趣味者でもないのにされてしまうのですから。
でも、国家の将来のためという目的意識でかろうじて平静でいられるというのが、僕も本音です。
ここにいるみんなが、そういう気持ちでいるのだと思います。」
彼が、みんなの気持ちを代弁してくれた。
「やはり、あなたは、送られてきた基礎データ通り、強い精神力と分析能力を持っているわね。
感心しました。ただ、精神のケアはしていきますから、遠慮無くサポートヘルパーに相談してください。
私たちこのプロジェクトに参画している全員が、ラバーフィットスーツを装着することの出来る身体への
処置を受けているのですから、そこまでの悩みは、経験済みです。相談に乗れると思います。」
「長田部長、質問があります。」
私が切り出した。
「今、長田部長が全員とおっしゃいましたが、部長もラバーフィットスーツを装着しておられるのですか?」
「そうです。」
そういって部長は、宇宙開発事業局の制服を脱ぎ始めた。そして、私たちの目の前に現れた長田部長の身体は、
白いラバーフィットスーツで身体の横に2本の赤いストライプがついている姿が現れた。
身体の線がはっきりと判るというか白い色をした裸体が目の前に現れた。
最初に本部で部長がつぶやくように言った「その気持ちは私たちも同じなの。
理由はあとで判るけど。」という言葉の意味は、これだったのだ。
部長も、自ら、プロジェクトのために自らの身体を捧げていることが判って、
私の気持ちの中に何か熱いものがよぎった気がした。ほかの8人も同じような表情をしていた。
長田部長が続けた。
「ちなみに、木村局長も自ら、このスーツの着用実験の被験者となっています。今回のプロジェクトは、
失敗できないものなのですから、みんなが覚悟を決めているのです。あなた達は、大事なこのプロジェクトの主役です。
あなた達だけに辛い思いをさせないつもりでいます。改めてよろしくお願いします。」
長田部長の言葉に思わずわたしは、言葉を発していた。
「一生懸命頑張って、このプロジェクトを成功させます。」
「如月大佐、お願いします。そして、みんなも。」
みんなが「ハイと」力強く答えた。
このとき、私たちの運命が完全に決まってしまった。
manplus氏 深夜、早朝のアップ乙
この宇宙服装着処置で充分サイボーグ化されていて
萌です。
最終段階はどこまで行くのか萌か、萎えか
私たちは、プロジェクト本部室に移動した。そこには、木村局長と大谷少佐が待っていた。私は、大谷少佐に声をかけた。
「直樹、大丈夫なの。」
「ありがとう。みんなすまない。さっきは気が動転してしまって。休んだのと、木村局長と話をして気持ちの整理がついて、
気分が良くなった。」
木村局長が言葉を継いだ。
「大谷少佐は、もう大丈夫です。私ともいろいろなことを話して覚悟がついたようです。
ところで、皆さんを呼んだのは、今日は、何も食べていないのでしょうから、歓迎パーティーをかねて、
夕食会をするためです。あちらにどうぞ。」
本部長室には、会食席が用意されていた。そういえば、今日一日いろいろなことが起こったので、
時間の感覚がなくなっていた。おなかもすいていることに気がついた。ところで、今何時なのだろう。
プロジェクト本部にはいるとき受付で、携行品を預けてしまったので時計を持っていなかった。そういえば、
その時「プロジェクト参加者は時計が無意味なものになりますね。」といわれた。その言葉は何を意味するのだろう?
私の心に新たな疑問が浮かんできた。
私は、促されて、席に着いた。
みんなが席に着いたところで、木村局長が話し始めた。
「みんな、今日はお疲れ様です。明日から、本格的な処置を受けてもらいます。今日はゆっくり休んでください。
晩餐会を楽しんでください。そのあと、自由に過ごしてください。
自由をかみしめられる時間を過ごすのは明日の朝までなのですから、それに、
今日の晩餐会であなた達が体内に取り込む食事が人生最後の固形栄養になるかもしれません。
正に最後の晩餐です。楽しんで食べたり飲んだりしてください。それでは乾杯しましょう。
好きな飲み物を頼んでください。」
私たちのグラスに自分たちの頼んだ飲み物が注がれた。しかし、木村局長と長田部長のグラスは、からのままであった。
「それではグラスをとってください。乾杯に移ります。」
「木村局長と長田部長のグラスに飲み物がまだ入っていません。誰か飲み物をついであげてください。」
私の隣に座っていた望月七海中佐が叫ぶ。
木村局長がその声を遮るように制して、
「私たち2名は、明日からあなた達が受ける処置をすでに受けていることを思い出してください。
もう、私たちは、口から液体も固形物も摂取できない様になってしまっているのです。ですから、
形だけの乾杯になってしまいます。」
その場の雰囲気が水を打ったように静かになった。
「ごめんなさい。かえって水を差してしまったようですね。でも、私たちの様になる前の最後の食事だから、
気にせず心おきなく食べて欲しいの。さあ気を取り直して。乾杯しましょう。
あなた達の健康と無事とこの壮大なプロジェクトの成功を祈って乾杯!!」
「乾杯!!」
みんなが声を上げた。そして、最後の晩餐が始まり、私たちは心おきなく飲んで食べて、
楽しい会話やこのプロジェクトのことを語った。もちろん、木村局長と長田部長の前に食べ物がでることはなかったが
最後までお付き合いをしてくださった。
楽しいひとときを締めたのも木村局長だった。
「これで、晩餐会はおひらきにします。明日から、本格的な任務が始まります。
今日は、このあとも生身の人間を楽しんでください。
それでは、サポートヘルパーを呼びますので、ここからは、彼らにサポートしてもらってください。
それから、今後は、各部屋に何カ所かついているスピーカーで私たちは会話してきたけど
これからは、コミュニケーションシステムを体験してもらうため、今配っているスーツ着用者との会話用のヘッドセットで
会話をしてもらいます。それぞれの使用に合わせセッティングが済ませてあります。
それを付けることで今まで通り私や長田部長、それから、サポートヘルパー、その他のスタッフと会話できます。
使い方は、ヘッドセットにコードで取り付けられたメインシステムのキーボードで話したい人のコードを打ってください。
コードは、胸の部分に書かれた名前、又は、サポートヘルパーは、胸番号でもいいです。
何人でも、コードをいれた人間と会話できるようになります。会話に参加している人以外に聞かれたくないときは、
その後で「only」と打ち込むこと。ただし、本部のメインシステムには、会話が常にモニターされています。
それだけは承知していてください。ひつこい様だけれど、あなた達にプライバシーやプライベートは今日、
宇宙開発事業局に着任したときから存在していません。それを忘れてはいけません。それではお休みなさい。」
10人のサポートヘルパーが入ってきた。私は、まりなさんにいろいろと聞きたいこととかいろんな話をしてみたかったので、
コミュニケーションシステムを装着した。ちょうどヘッドセットのような感じだった。そして、「1,only」
「まりなさん。部屋で二人で話したいのだけれど。」
ヘッドセットのマイクに向かいしゃべってみた。するとヘッドホンに声が聞こえた。
「いいですよ。それでは部屋にご案内します。」
259 :
虞祭坊:2005/06/15(水) 07:38:30 ID:ab8eGRVT
すみません。レス遅くなって申し訳ありませんでした。
M.I.B様
.激しいヴァルキリーの戦闘シーン、凄い迫力です。
破壊され、元の少女の感情に戻るシーンが切ないです。
前82様
脳に電極を取り付けるシーンがリアルで、スイッチ一つで意識がコントロールされる設定が萌えます。
前389様
体内の機械が沢木さんにオナニーを強要するところが激萌えです。山根さん、どんどん沢木さんの体をいじっちゃってください(笑)
manplus様
はじめまして、虞祭坊と申します。
宇宙開発用サイボーグですか。リアルなラバーフィットスーツの設定がツボに入りました。これからもよろしくお願いします。
萌え。乙。
部屋について、私たちは、部屋の椅子に座り、しゃべり始めようとした。
けれど、その前にトイレに行きたくなったのでトイレに案内してもらおうとその旨をまりなさんに伝えると、
「ごめんなさい。はるかさん、処置が終わった人間だけしかこのプロジェクト本部にはいないので、
この施設には、トイレというものがないの。何も口にしなかったからトイレに行く機会がなかったから
教えなかったんだけど、明日の処置が始まるまでこれを付けていてもらうことになっています。」
そして、彼女が持ってきたものは、 なんと「おむつ」!!!!!。
「さあ、下着を脱いでください。通常サポートにおける指示には、必ず従うことが義務とされていますよね。
恥ずかしいでしょうが、我慢してください。ほかの人たちも今頃装着していますよ。」
周りを見回して、透明の壁越しに隣の部屋を見ると美々津みさき少佐が下半身のパンティーをおろし
ごわごわのおむつをはいていた。私も渋々、パンティーをおろし、まりなさんからおむつを受け取った。
おむつは、思ったより分厚かった。説明では、明日の処置開始まで、
全ての排泄物を吸着できるようになっているそうである。
そして、座りながら、めでたく排尿を完了することが出来た。
なんか、赤ん坊に戻ったみたいで恥ずかしかった。みんなもそうなのだろうか?
排泄が済んでも、おむつはさらさらの肌触りのままだった。すごい給水力だ。
彼女についでに聞いてみた。
「ねえ、大の排泄の方は、おむつでするの?」
「今日もし便意を催したらそうなりますが、はるかさんの排便状況を二日前からモニターしていますが、
次の便意は、明日の起床時間以降でしょうから、処置を受ける前の予備処置のときに洗腸システムで
固形排泄物を体外に出す処置を行うことになります。」
つまり、浣腸をして、処置の前に消化器の中を完全に空にするというのであった。
それにしても、空軍にいるときから、監視されていたなんて、本当に自由とプライベートが無くなっていることを
またまた感じさせられてしまう。
そんな感傷に浸っているとまりなさんの声がヘッドホンに聞こえた。
「このプロジェクトに参加した瞬間からプライベートはなくなるというのは、本当に私もとまどいました。
でも、私たちが着ているスーツも他国に先駆けて開発されているものなので、装着されている人間も含め、
国家機密に相当するので仕方ないです。まして、はるかさん達10名は、
それ以上の機密事項に関わる被験者ですから、完全な管理体制下におかれてしまうのです。その心をほぐすため、
我々サポートヘルパーが専属で付いているのです。」
「まりなさん、本当によろしくね。」
「こちらこそです。何でも言って下さい。それから、私も処置を受ける前夜は、そうだったのですが、
身体に手を加えられ、今までとは違う身体になってしまうことの不安と恐怖とある意味の期待感で、
興奮して眠れなかったことを覚えています。ですから、はるかさんの興奮が冷めて、眠るまでお付き合いします。」
それから、私たちは、自分たちの生い立ちなどを話した。彼女が、軍の医療大学で看護学や人間機械工学、
人間機械化理論、外科学など医者以上のことを学んだこと、その為に卒業後、このプロジェクトに私たち、
火星探査・開発用サイボーグ候補者のサポートをするために配属されてきたこと、
そして、このプロジェクトでサイボーグが訓練をおこなう火星標準環境室と
通常気圧エリアとの間を瞬時に行き来できるようにするため、宇宙空間で長期にわたり作業が
出来るようにするために開発されていた「ラバーフィットスーツ」をプロジェクトメンバー全員が
着用することが決まったこと。
そして、この服の呼吸システムやコミュニケーションシステム、栄養供給システムなどの発展系が、
火星探査・開発用サイボーグにシステム採用されるため、この服のシステムの信頼性を試験するため、
彼女たち、第一次参加メンバーは、もう2年半にも渡ってラバーフィットスーツの中に閉じこめられて
生きていることなどを聞くことが出来た。
また、私が士官学校で何をしてきたか、空軍でどの様なミッションをこなしてきたかなども話した。
「今度は、はるかさんに教えておかないといけないことがあります。それは、このプロジェクト本部の時間についてです。
この本部とプロジェクトに関わる人間が使用する時間は、火星と同じ時間を使います。
だから、地球時間より37分長い時間でみんなが生活しているの。
そして、1年は、670日になっています。つまり、私たちが生活している1年は、この施設の外では、
1年10ヶ月と16日なの。つまり、地球時間に戻ったとき、浦島太郎のようになっているということなの。
しかも、24時間48分を24に割った時間を1時間相当として、1H単位と呼んでいます。
1日のことは、24H単位が集まって1D単位と呼ぶようになっています。そのうち8H単位がレストパート、
16H単位がアクティブパートと呼び、レストパートは休息にアクティブパートは任務遂行のために使うように
基本的に決まっています。
そして1D単位が670集まって1セクションという呼び方をします。ほとんど、地球時間と違わないけど、
微妙に違うから最初はとまどうと思うわ。」
へェ、そうなっているんだ。そして、私は、疑問に思ったことを聞いた。
「ところで、スーツを装着されるとヘルメットもブーツも含めて永久的に脱げないんでしょう。
局長や部長も富田主任も装着者なのにヘルメットを脱いでいたわよね。それはどういうことなの?」
「部長や局長や富田主任は、外部との接触をしなければいけない立場だから、特別にヘルメットを着脱しても
大丈夫な特殊構造に頭部の処置を行っているの。
まず、眼球部は、眼球表面を完全にコーティングするようなカバーがまぶたと眼球の間に入っているの。
そして、カバーと眼球の間に液体呼吸液が流れる構造になっているの。口腔部と鼻腔部は処置は私たちと同じだから、
3〜4時間に1度湿潤保持剤を塗らないといけないの、それから口腔部の奥に簡易型音声発生器を取り付けられていて、
耳の部分に簡易型集音機が取り付けられているの。そして、小型蓄電池が鼻腔部の奥に付けられているの。そして、
バックパックも取り外さなきゃいけないから、液体呼吸液の貯留カプセルが肺の代わりについていて、
直接ガス交換を行うようなシステムを内蔵する処置が施されています。これは、
はるかさんたちがサイボーグになったときの人工心肺システムに更に近いものになっているの。
この貯留カプセルだけで、24時間呼吸することが可能なの。バックパックは、72時間呼吸を可能にするタンク容量が
あるから、バックパックを背中に装着しているときと比べて3分の1の活動時間となるわけなの。そして、
カツラや服でスーツを見えないように隠しているのよ。かなり、大変な思いをして、通常の人間のように振る舞っているの。
あの人達も、サイボーグといえると思うわ。でも、スーツを着るための通常処置自体、サイボーグ手術だとも言えるけどね。
局長も部長も富田主任もヘルメットを装着している状態の方が、どんなに楽か判らないんだから。」
局長も部長もそして富田主任もすごく大変な手術を受けてこのプロジェクトを遂行しようとしてるのが判って、
何か勇気が湧いたように思えた。
「まりなさん、バックパックは、72時間しか活動時間がないといったけど、生命維持のための呼吸液とか栄養液の
補給とか、薬剤の補給、老廃物や呼吸液の排出はどうするの。」
「基本的に、生命維持液の交換は、バックパックの横についている2系統のバルブに供給、
排出ホースを接続して外部生命維持システムと通常は1D単位に一度接続するの。レストパートが始まるときに接続して
睡眠をとるの。
その時にシステム駆動用蓄電池への電力供給コードもつなぐようになるの。そして、180D単位に一度、
バックパックのメンテナンスや排尿管や消化器官、性器の洗浄と言うメンテナンスを行うと同時に服を着脱して
皮膚のメンテナンスを行うのこれらの処置は完全麻酔により意識のない状態で行われるから、
服を脱がされたことはわからないの。残念なんだけど。
どうして麻酔をかけるかというと服を装着するときの接合剤をはがすのが大変な苦痛を伴う作業なので苦痛を
感じさせないようにするためなんだけど。それから、男性は、前立腺に電流を送って刺激し、搾精作業を行うの。
私たちは、性欲処理といったら許可を受けたときにコンピューターに接続されバーチャルセックスで
性欲を処理することしかできないの。
でも、それも、性欲抑制剤の影響で性的欲求不満になることなんてわたしは、未だに味わったことがないから
コンピューターでの性欲処理はしたこと無いわ。
人間の3大欲求は睡眠欲もホルモンと薬剤それにサポートコンピュータで管理されてしまっているから、食欲、
性欲も含めて取り去られてしまった存在になるということかな。」
「まりなさん、それからこのプロジェクト本部で会う人たちは、女性ばかりのような気がするのだけれど?」
「さすがに、はるかさんの観察力ってただ者ではないわ。参画者の8割以上が女性なの。理由は、
昼間のハプニングでもわかったと思うけど、男性は、股間の修正処置を行うから精神的なダメージが大きいの。
参画志願者でかなりの人がスーツ着用のための処置を受ける段階までで精神障害を起こしてリタイヤしているの。」
昼間の出来事が頭の中をよぎった。そういえばサイボーグ候補の8割も女性が選出されていたっけ。
女性が大半を占める任務なのか。
まりなさんが続けた。
「私たち女性の性器も実は、性器に人工弁のカバーを取り付けるだけではないの。
その時じゃまになってしまう組織があるの。」
「それって、もしかして、クリトリス。」
「正解。カバーで隠すことも可能なはずなんだけど、カバーで隠したときカバーによって傷ついてしまうおそれがあるの。
そこで、性的な刺激の要因によるストレスを減らすため、クリトリスを切除します。このFGMの処置を受けることで、
男女とも性的快感とは無縁の存在になってしまっています。」
男性被験者だけじゃなく、女性被験者にも性器の修正処置は施されているのだった。
「おかげで、私も2年半前から、性的快感を感じることのない身体で生活しているの。
でも、男女の関係のない空間で生活しているから、寂しいとか辛いとかということはないわ。」
なんか、こんな辛い話を一杯聞いているのにもかかわらず、うとうとするようになってきた。
まりなさんが、「導眠剤がやっと効いてきたのね。ただ休む前にあなたに一つ行わなければならない処置があるの、
眠いのがまんしてね。」
そういうと、道具箱からバイブを取り出し、おむつをはずし、私の性器とアナルに挿入した。
しばらくして、私は、絶頂に達し果てた。そして、眠りに落ちた。
「お休みなさい。如月はるか大佐。これが最後の性的絶頂です。もう、この感覚は一生味わえない感覚です。
心のどこかにしまっておいて下さい。それでは明日迎えにまいります。」
子守歌のように彼女の声が響き、私は深い眠りに落ちた。
最後の絶頂を迎え、つかの間の幸せの中で眠りについた主人公ですが、
次回から実際の処置が始まります。
自分も萌えながら書いています。
皆様のご期待に添うようがんばります。
よろしくお願いします。
非人道的な処置のオンパレードに激萌え!クリトリスまで切除しちゃうなんて可哀想でハァハァ。
「はるかさん、起きて下さい。」
まりなさんの声で起こされた。
昨日いた部屋の雰囲気とは違っていた、やたらと明るい部屋だった。
もちろんクリスタルな無機感の漂う部屋であることに変わりはなかった。
それに、全裸で両足をM字に開いた状態で上半身は、腕を開いた状態で仰向けに処置用寝台に固定されて、
どうやっても動けない状態になっていた。そして、私の頭上にモニターがついていた。
モニターは寝台と一体になっているようだった。
「ここは、どこなの」
「はるかさん、気がつきましたか、今は0H単位になったところです。昨日言ったアクティブパートに入ったところです。
そして、ここは、医療処置室です。はるかさん専用の処置室ではるかさんのための処置を専門に行う部屋です。」
頭部の拘束がはずれ、首を動かすことが可能になった。横を見ると手術設備や高度な医療装置が所狭しと配置された
部屋だった。
「おはようございます。私が、あなたのこれからの医療行為を担当するスタッフの前田緑です。
これから、サイボーグになってからもあなたの身体の管理を担当します。よろしくお願いします。
そして、機械部分に関しての管理を私と一緒に担当するのが、佐藤絵里ドクターです。」
「おはようございます。人間機械化工学担当の佐藤絵里です。よろしく。」
薄桃色のラバーフィットスーツを装着した前田ドクターが立っていた。
そして、その隣に薄い黄色のラバーフィットスーツを装着した佐藤ドクターがいて、その隣にまりなさんが立っていた。
前田ドクターが、
「この3人が、今後、あなたを専門にサポートしていくスタッフです。よろしく。それでは処置を始めましょう。高橋さん。
如月大佐の内臓洗浄を行って。それから、利尿剤が効いて膀胱が空になっているかモニタしてくれる?」
「解りました。」
まりなさんは、そういうとベットのスイッチをいじったそうすると頭が動かなくなった。
「 これから自分の身体に施される処置は、自分の新しい身体を知ってもらう意味でも全て頭上のモニターと
スピーカーであなたに見ていてもらいます。麻酔で眠っている間の処置は、麻酔が覚めた段階で確認してもらいます。
これから数十日間はこの処置用器具から動くことが出来ないと思います。
それから、あなたには、9人の仲間が受ける処置も見てもらうこともあると思って下さい。
見たくなくても、事態を完全に認識してもらうまで強制的に映像を見てもらいます。
事態を飲み込むことを拒否することは出来ません。解りましたね。」と前田ドクター。
本当に自由などというものからかけ離れた世界にきてしまったのだ。そう思いながらも、
口からは、「ハイ。」という言葉が出てしまった。
でも、他の人の処置を把握しなければならないなんてどうしてなんだろう。
佐藤ドクターの言葉がその疑問を解いてくれた。
「あなたは、10名の被験者の中でリーダーとしてこのプロジェクトの中心の存在として今回の候補者リストに
ノミネートされています。ですから、他の人のことも完全に把握していることがあなたの使命なのです。
あなたと渥美大佐が今回は、その適正を認められリストアップされたのです。
さらに、あなたのリーダーとしての適正は、抜きんでているのです。ですから、今回のプロジェクトのあなたが、
最重要被験者ということになります。それを認識して、このプロジェクトの中で任務を全うして下さい。」
私の置かれた状況は、最悪にして、最良のものであったのだ。
そして、ついに私の処置が始まった。もう、元に戻れない第一幕が開始されるのだ。
頭上の映像システムの電源が入り、私の姿が映った。
「力を抜いて下さい。」とまりなさんにいわれ、力を抜くと、まりなさんは、私のおむつをはずし、
持っていたチューブを私の肛門に挿入した。そして、口の中にもチューブが差し込まれた。
ちょっとした嘔吐感を覚えたが我慢した。
「おむつが、本当によく濡れているわ。強力利尿剤の効果は抜群ね。膀胱が空になっているのも確認できたし。
準備OKです。」
まりなさんの声に、私は、恥ずかしくて恥ずかしくて、顔が赤くなるのを感じた。
スピーカーから今度は、佐藤ドクターの声が聞こえた。
「あなたは、口のチューブから高速洗浄液を出して、肛門のチューブから高速洗浄液を排泄物と共に回収する
システムにつながれたのです。内臓の中を全て空にするための機械です。
苦しいでしょうが2H単位ぐらいで処置が終了します。」
言葉がとぎれるとグィーンという機械音と共に大量の液体が食道の中に流れ込み、
肛門から内臓のある空気が抜けていくのが感じられた。しばらくするとおなかにすごいさし込みを感じた。
下痢のときの我慢した感触だそれが2H単位の間じゅう続いて、自分の苦しむ姿をモニターで見続ける状態が
その間続いた。何か変な気分になる。
空っぽの内臓に空気が送り込まれる感覚と共に機械音が途切れ、口と肛門のチューブが抜かれた。
「お疲れ様。」とまりなさん。
「これからは、腸管点滴で栄養分の補給をしてもらいます。」
前田ドクターがそういうと、おへその下あたりから小腸にカテーテルが差し込まれ、液体高カロリータイプ栄養の
パックがカテーテルの先に取り付けられた。そして、肛門にストッパーが押し込まれた。
カテーテルが差し込まれた部分に防水防菌処置が施され、この作業が終了した。
「栄養供給管挿入用システム構築までの期間は、不自由かもしれないけれどこの状態ですごしてもらいます。
がまんしてください。」
と前田ドクター。更に続けた。
「それから、排尿は、長期留置型カテーテルを膀胱にさし込み、排尿パックで収集します。
あなたの排出した尿はあなたの貴重なデータとなりますので保管の上分析します。
消化器の老廃物の管理は、内臓洗浄装置で毎日洗浄します。
ただ、排泄物は、今日と違い極端に少ないから、今日ほどの時間はかからないと思います。
それに身体の処置が終われば、この処理からも解放されるから辛抱してね。」
前田ドクターの指示で、まりなさんが長期留置型カテーテルを尿道からさし込み、膀胱に達したところで固定した。
私のおしっこのたまった袋を付けての生活が始まった。
排泄の自由さえ奪われてしまう。
もう、ドナーという立場は、耐えることしか無いと言うことのようであった。
佐藤ドクターが、今の暗い気分に追い打ちをかけた。
「今は、舌をかむ自由はあるかもしれないけど、それで、自由を勝ち取れるとは思わないでね。
脳だけを生命維持できるシステムの開発も私たちは終わっています。
脳だけを兵器の中に移植した「ブレインウェポン」の研究も終わっていて、実用実験のドナーを待っている段階です。
脳だけとなってまったく自由のないままの生涯を送りたくなかったら自殺という選択肢を使わないこと。いいわね。」
私たちは、本当に永久にとらわれの身となった。任務の遂行だけが
生きていく唯一の手段なのだと改めて感じさせられた。自然に涙が出てきた。
まりなさんが、それを脱脂綿で拭いてくれた。そして、
「頑張って下さい。きついことを言ったけど、佐藤ドクターも前田ドクターも、そして、私も、あなたを親身になって
サポートしていきます。任務のために過酷な境遇にいるはるかさんをみんな、微力ながら守っていく覚悟でいます。」
解っている。そんなこと。でも、涙が止まらない私がそこにいた。
しかし、そんな中でも私に対する処置は進んだ。
再び涙を拭いてくた、まりなさんは、
「これからシャワーを浴びてもらいます。内臓洗浄処置で不快になった身体を洗うこととその水には、脱毛、
汗腺閉鎖、毛根閉鎖、皮膚機能停止の為の薬剤を混ぜてあります。
体毛の完全除去と皮膚の機能停止の処置を行います。内臓洗浄とこのシャワーでの身体の洗浄は皮膚の機能が
完全に無効になるまで続けられます。そして、この処置が終わらないと次の処置には移りません。」
前田ドクターが説明を代わって続けた。
「この液は、目や口に入っても大丈夫なようになっています。ですから、身体の隅々まで、洗ってもらって下さい。
ただ、浴びた後、しばらくして皮膚の組織が変化するので、その為の痛みが来るかもしれませんが、その時は、
痛み止めを塗布しますから、安心して下さい。この処置は五日間五回程度にわたって続けられます。
それでは、シャワー室に高橋さん、大佐を連れて行って下さい。」
何だか、ここにいる3人がザディスティックな女王様に見えて来ちゃった。
そんなことを思っている私を処置用寝台のまま、シャワー処置室に運んでいった。
モニターシステムも処置用寝台と一体化されているので私の視覚に常に今の状態の情報を送り続けていた。
もちろん、腸管点滴のパックとチューブ、そしてカテーテルにつながった尿パックもついてきた。
シャワー室では、処置用寝台を回転させながら私の身体の隅々までシャンプーを使用して洗浄処置が行われた。
まりなさんは、手慣れているようで、てきぱきと体中を洗ってくれた。
そして、そのたびにモニターには、私の体毛が抜けていくのが映し出されていた。
髪の毛、陰毛に至るまで全ての体毛が徐々に抜け落ちていった。
「今日は、あらかたの体毛を除去するから少し長めのシャワータイムということになります。我慢してね。
それから、使っているシャンプーにも解っていると思うけど、お湯に入っている薬と同じ薬が入っています。」
そうして、2H単位にも及ぶ丁寧なシャワータイムが終わり乾燥用温風を使って、丁寧に水分の除去を行ってもらう。
そして、処置用寝台は処置室を通って私の居住用水槽部屋に移動した。
処置室と私の部屋である水槽のような部屋はつながっていたのだ。
「今日は、必ず、身体が痛み出すと思うから、痛み止めを少し多めに塗布すると共に麻酔剤を投与します。
ゆっくり休んで下さいね。」
そういうと、痛み止めに薬を大量に体中にまんべんなく、まりなさんは塗ってくれ、
そして全身の十カ所にモニター用の電極を差し込んでいった。そして最後に麻酔薬を注射してくれた。
「それじゃあ、今日はゆっくり休んでね。私は、この部屋で待機しているから安心していて下さい。
少し、痛みが始まった頃に意識が薄れると思うから。」
そういわれているうちに鋭い、焼けるような激痛が始まった。ものの5分ぐらいだろうか、苦しんだ後、意識が遠のいた。
翌D単位も、翌々D単位もその次のD単位も(ここからは、書く都合で1H単位を1時間、
1D単位を1日と書かせてもらいます。この物語の時間は、火星時間で動いていると思って下さい。)
同じ処置が続き。居住用の水槽と処置室、シャワー処置室の行き来が続いた。
処置に入って5日目のアクティブパートが、始まり、私が完全に体毛が無くなり、
汗をかくことの出来ない身体をモニター越しに見つめているうちにまりなさんによって処置室に運ばれた。
するといつものように前田ドクターと佐藤ドクターが待っていた。前田ドクターが私に声をかけてきた。
「気分はどうですか、まだ、皮膚に痛みがありますか?」
「昨日のアクティブパートが終わる頃痛みが治まった感覚がありますし、今日は、痛みがありません。」
「よかったわ。皮膚が新しい状態への変更が終了した証拠ね。
病理検査の結果も立派にラバーフィットスーツを着るにふさわしい状態になったことを確認しています。
何か変わったことはほかにない?」
「昨日のアクティブパートの中盤から少し部屋が暑く感じています。部屋の温度を上げたのかなと思ったのですが・・・。
それに体毛が完全に除去され、鼻毛すらない身体に対して違和感を感じます。」
「そうでしょう。それは、皮膚から汗腺と毛穴が完全に除去されたから皮膚呼吸能力が普通の身体より落ちたからなの。
皮膚の新陳代謝の速度も常人に比べると100分の1以上に落ちています。
新陳代謝による皮膚のかゆみやうずきといった生理的現象はあまり感じないようになったのです。
ただし、皮膚の感覚は、普通の人の感じる痛みや温度感覚の4倍ぐらい敏感になっています。
このスーツを着ると皮膚に届く感覚が10分の1程度になってしまうから、そのぐらいがちょうどいい設定
ということになっています。それから、見た目の問題については、すぐに見慣れるから大丈夫ですし、
スーツを装着してしまったら生身の肌をあなた自身が見ることはもう無いから、関係なくなると思います。」
スーツを着る処置と言っているけど、この処置も立派な人体改造手術だ。
これも一種のサイボーグ手術ではないのだろうか?
「この処置をサイボーグ手術と見る考え方もあるけど、このスーツを装着する処置を我々は、サイボーグ手術とは
定義しないの。あくまでも人体の一部をスーツの機能を最大限に引き出す為に変更する処置ととらえているの。
身体に機械の部品を埋め込み、超人としての身体に創り変えることのみを我々は、サイボーグ手術と定義して、
混乱を避けているの。」
佐藤ドクターが私の心を見透かしたように答えてくれた。私がぽかんとしていると、佐藤ドクターが、
「思っていることを当てられて戸惑っているのですね。私たちは、このスーツを着るために自分の力で他人と
コミュニケーションをとる能力を失ってしまったことにより、感覚が研ぎ澄まされたの。
このスーツに入ったらきっとあなたも理解できるわ。」
へぇ、そうなのか、今までとは違った感覚というのも、ここまで来てしまったら、早く経験したいものだ。いけない、
心をまた見透かされてしまう。
前田ドクターの言葉が、そんな私の感傷を遮った。
「さて、今日から、本格的な身体のスーツ装着適応処置を開始します。それでは、佐藤ドクター、高橋さん、
如月大佐に対する処置を開始します。準備はいいですね。」
二人が「ハイ」と答えて、処置が開始された。
「まず、全身麻酔処置を行います。ただ、普通の麻酔処置と違って、あなたは、
あなたの身体に起こっていることの一部始終が確認できるように意識は残すようにします。
そして、視覚と聴覚から今施されていることが何かを理解する情報を意識化に伝達するようにします。
そのつもりでいて下さい。長い長い時間になると思います。
でも、事実から目をそらすことはあなたに許されていないことを再度認識して下さい。
目をそらしたら、あなたがこの事態を認識するまで強制的に映像を嫌と言うほど繰り返して見せられます。
本当に嫌になりますから、一回で終わった方がいいですよ。これは、私の経験談です。」
そういうと、前田ドクターは、にっこりほほえんだ。
「さあ、力を抜いて。」
佐藤ドクターの言葉に合わせ力を抜くと背中に針を刺す痛みを何カ所か感じた。数分後、体中の感覚がなくなった。
残った感覚は、視覚、聴覚ぐらいだったが意識は、ものすごくはっきりしていた。
「麻酔処理完了です。」佐藤ドクターの声。
「それでは、処置開始。まりなさん、メスを取って下さい。」
「ハイ、ドクター。」
前田ドクターの声にまりなさんの声がかぶった。
私の呼吸器官がまず処置されていった。胸部に人工心肺が接続され、左右の肩の部分に
肺に取り付けられたチューブの先端が開閉バルブで取り付けられ。喉の部分に閉鎖用バルブが付けられた。
これで気管は、完全に閉鎖され、両肩のバルブからのガス交換しかできないようになった。
そして、声帯気管が切除され、声帯気管につながる神経が電極とつながれ首の横にコネクターが取り付けられた。
高濃度低圧型呼吸液を人工心肺が供給し始める。両肩のバルブから液が漏れることで気管や
肺と言った呼吸器全般が高濃度低圧型呼吸液で満たされた。ここで、私は、空気を呼吸することが不可能となった。
そして、この液体は、呼吸器官から排出することが不可能であるため、これから、生身の身体でいる間は、
ずっと、液体呼吸をすることになるのであった。そして、右肩のバルブに高濃度低圧型呼吸液の供給管が、
左肩のバルブに排出管が装着され、人工心肺の機械がはずされた。そして、今日の処置で出来た傷口が接合された。
接合部分は、生体接着剤という接着剤を使用され、傷口がまったくわからない程に接合された。そして、ドクターは、
私の身体に呼吸システムの管を接続してくれた。
前田ドクターが、
「皆さんお疲れ様です。如月大佐、あなたに施された麻酔処置により、処置全体が終了するまでは、感覚がないけど、
話をすることは出来るし、聴くこと、見ることはできるから、疑問が合ったり話をしたかったら高橋さんとお話をして下さい。
今日の処置はこれで終わります。また明日、処置が続きます。まだまだ、スーツを着るには、時間がかかります。だだ、
一番難しい部分の処置は成功に終わったから、今日はゆっくり休んで下さい。それと、高橋さん、
大佐の全身の洗浄処置を忘れずにお願いします。
まりなさんが、私を洗浄室に運んで、全身を洗浄消毒液の含まれたクロスで丹念に拭いてくれた。
して、排尿容器や栄養液の容器を交換してくれた。
呼吸システムの管が肩から外されているのに気づいた。
「呼吸システムがはずれていることに気づいたみたいね。メインシステムから切り離されても、
呼吸液自体の含んでいる酸素で2時間ぐらいは、大丈夫なの。安心して。さあ、今日の処置が終わったから、
部屋に帰ろうか。」
まりなさんは、そう言うと私を私の「飼育水槽」に運んでいった。
部屋に戻ると部屋にある呼吸システムからのびている管を肩のバルブに接続した。
そして、いたずらっぽい表情で、
「これから毎日、メイン生命維持システムと連結される管の数が増えていくの。見ていて、きっと面白いと思うわ。」
そう言ってウインクをした。
「ブラックジョークのつもり?」
そう言おうとして、はじめて気づいた。声が出ない。
「ごめん、何か話したかったのね。今話せるようにするから。」
そう言うと首のコネクターに天上からのびているコードを接続した。
「これは、スーツのバックパックに装備されたコミュニケーションサポートシステムの
メインシステムに直結しているコードです。これで、会話できるようになったわ。
脳からの自分が今、誰とどの様な会話をしたいのかという信号を受け取り、それをホストコンピューターで解析し、
このシステムの利用者と館内一般コミュニケーションサポートシステムの全てのスピーカーシステムから、
最適の会話相手を探しだし、会話できるようになっているの。ただし、本部のメインメモリーシステムには、
会話の記録が全てモニターされ、データ蓄積されるようになっているの。」
「会話まで、管理されるんですね。」
私がそう言おうとするとそれが言葉として、まりなさんに届いていて、まりなさんが答えた。
「そう言うこと。でも、特別の発言以外は、制限を受けることはないから安心して。
それに、はじめてこのシステムを使ったにしては、上手に使えているわ。さすがに肉体、
機械複合体であるサイボーグとしての適正を持った人だわ。」
「まりなさん。私、今日少し疲れました。」
「そうね。今日の処置は長かったからレストパートに3時間ほど食い込んでいるわね。疲れるはずだわ。
今、19時だもの。明日も辛い処置があるから休息が必要よ。安定剤を腕の薬液注入器からいれるから、
すぐに眠りにつけると思うわ。お休みなさい。」
そう言って、まりなさんが安定剤を注入するとすぐに深い眠りについてしまった。
乙。萌え!!拘束されて生身の機能を次々と奪われていってしまう。いいですね。スーツ装着まででこんな人工化されるなんて、サイボーグ化改造手術ではどんな惨めな姿にされてしまうことやら、勃起もんでつ!
最近ヤギーみかけないなぁ・・・(´・ω・`)
ここらで非鬼畜分(けなげ分?)ももっと補給したいでつね。
今日も0時にまりなさんに起こされた。覚醒安定剤を入れられたせいかぱっちりと起きた。
もう処置に入ってから寝るとか起きるとかと言うことも、自分の意志以外のところで管理されてしまっている。
「さあ、今日の処置のために処置室に移動するわよ。」
そう言うとまりなさんは、私につながれた管やコネクタケーブル、電極のコードをはずし、尿パックと、液体栄養の
パックを交換して、処置室に私を処置用寝台ごと移動させた。そして慣れた手つきで管やコード、会話用ケーブルを
接続した。そして、消化管洗浄装置に私を接続し、消化管洗浄を行った。その後、身体の隅々まで、
殺菌洗浄液のついたクロスで丁寧に拭いてくれた。
そのいつもの作業が終わった頃、前田ドクター、佐藤ドクターが処置室に入ってきた。
「おはようございます。気分はどう?」
と前田ドクターの言葉に私は、
「悪い気分ではありません。」と答えた。
佐藤ドクターが、
「ちゃんとコミュニケーションシステムの発声システムは使いこなせているようね。さすがに機械に対しての順応性は
高いわね。処置1日目からほとんど無意識に使えいるなんてさすがだわ。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
と私が言うと3人がほほえんだ。
そして、前田ドクターの
「さあ、処置に入ります。」みんなの顔が引き締まり、処置が開始された。
麻酔剤が新に投与され、処置が始まった。食道から胃の入り口まで充填剤が隙間無く充填され食道の最上部には
閉鎖バルブが取り付けられた。
そして、胃に筋肉収縮剤が投与され最小限に収縮したところで形状保持のため生体親和型樹脂によりコーティングされ
胃が小さい状態で形状を恒久的に保持された。そして、胃の上部の付け根にカテーテルが接合され、
一方の端がみぞおちの下の部分に取り付けた管接続用バルブに固定された。
そして、腸管点滴用のカテーテルが抜き取られ、傷跡が接合され見えなくなった。
肛門の栓がはずされた。そして、直腸部分と肛門が切り離され、左の股の付け根のすぐ上のあたりに
間接続用人工肛門が取り付けられ、そこに直腸が接続された。
本来あった肛門は、取り外され人工皮膚がその部分かを覆った。肛門のない臀部のできあがりである。
そして、膀胱の付け根で尿道が切り離され、そこの部分に人工尿道用のカテーテルが接合された。
そしてもう一方のカテーテルの端は、右の股の付け根の上部に取り付けられた接続用バルブに接続された。
そして、開腹した箇所が元通りに接合され、それぞれのバルブ弁に排尿管、排泄管が接続された。
また、みぞおちの接続用バルブ弁には、液体栄養供給管が接続された。
そして、のど元の大静脈に薬剤供給用カテーテルが接続されのど元にバルブ接続ソケットが創られた。
ここから、私がラバーフィットスーツを装着されるに当たって必要になってくる発毛阻止、女性器の機能抑止、
性欲抑制等の特殊な薬剤やホルモンが投与される仕組みになっている。そして、このバルブに混合薬液注入パイプが
接続された。
今日、ここまでで4本の管が新に身体に接続された。本当に管やコードにくるまれた生活になってしまった。
それから、口腔部分の処置に入った。歯茎に筋肉弛緩剤を打たれた上で歯を全て抜かれた上私の歯と
寸分違わぬように採寸されて造られた軟質シリコン製の新しい歯が埋め込まれ、歯茎に筋肉収縮剤が打たれた。
そして、歯が落ち着いて固定されたことが確認されると今度は、舌の切除が始まる。
舌の組織は長いので何回かに分けて根本まで切除され、硬質生体親和型樹脂で造られた口腔部の
サイズにあったマウスピースで口腔内全てを覆われた。
そして、口腔部とマウスピースの空隙部分に硬化型充填剤が詰められた。
これで口腔内の舌を切除したことによる形状変化を防ぐのだそうである。
口の開け閉めは普通に行えるようであった。もっともヘルメットを取り付けられると口腔部には完全に空隙を埋める
充填装置が取り付けられるから口を開けることは出来なくなるはずである。
そしてヘルメットの充填装置と口腔部を接続するため、あごの下に穴を空けられ、そこにバルブが取り付けられた。
この装置により、ここから粘着性の充填剤が口腔部一杯に充填され、ちょうどギャグをかまされた様な状態になり、
口を開けることが出来ない状態になるはずである。その様になっても唇は、動かすこと微かに出来るようであった。
その為、口に表情を作ることも僅かながら可能であると言うことである。
そして、この処置に先立って鼻腔部に充填剤が充填され鼻の穴が存在を失った。
それから唾液腺が胃の付け根に接続を変更され唾液が胃へ入り消化を助ける人間本来の機能は維持されることに
なった。口からつばが出ることはなくなってしまった。
「今日の処置はここまでです。皆さんお疲れ様。それから、被験者の如月大佐、よく頑張りましたね。気分はどうですか?
と言ってもいいはずないか。なるべく早く今の自分の状況を理解することね。高橋さん、身体と精神のケアをお願いします。」
そう言い残して前田ドクターが処置室から出て行った。
「お大事に。」の言葉を残して、佐藤ドクターが処置室を出て行った。
まりなさんは、「少しの間不自由だけど我慢して。」
と言って、身体に接続された管やケーブル類、モニター用コードを取り外し、洗浄室に移動させてくれた。
そこで、手術で汚れた身体を綺麗に拭いてくれた後、自分の居住エリアである水槽の部屋に移動させた。
その後、管やケーブル類、モニターコードを慣れた手つきで私の身体に接続したいった。
「はるかさん、今日も、お疲れ様。どこか不具合はありませんか。」
まりなさんの問いに、
「体調はすこぶるいいわ。と言っても、全身麻痺と同じ状態だから本当はどう身体が感じているのかはわからないけど。
でも、自分が人間と違う存在になる過程を自分で確認し続けなければならないというのは、本当に辛いものね。」
「私も、この服を装着されたとき、処置の間中その辛さを感じていました。
でも、このプロジェクトを成功させるという信念にすがりついて、何とか精神を維持できたのです。」
「私も、その使命感にすがってみることにする。くじけそうになったら、まりなさん、サポートしてね。」
「わかっています。それから、このスーツを装着されてよかったことは、どんな空間にも、
不快を感じることなく活動できるようになったことです。月での訓練、宇宙遊泳、砂漠でのサバイバル、
南極での耐寒訓練、そういった環境下で、普通では味わえない素晴らしい光景を苦労の中でも体験できたことです。
そうした期待感にも期待を見いだしてはどうでしょう。」
「わかったわ。そんな想像もしてみる。」
「それでは、今日のはるかさんのアクティブパートの活動を終えてもらいます。レストパートに移ります。」
はるかさんは、そういうと私が接続されているメイン生命維持、管理システムのコントロールパネルを操作した。
すると、突然眠くなり、眠りに落ちていった。
やっぱり、生理全般も機械でコントロールされているのが今の私の立場なのだった。
翌日も0時の起床は、まりなさんがメイン生命維持管理システムのコントロールパネルの操作によって
覚醒することになった。私は、身体の処置に入ってから、だんだんと機械に支配される生活になってきている。
いつものように処置室に連れて行かれ、いつものように予備処置を受け終わり、
管やコード類と身体の接続が終わると前田ドクターと佐藤ドクターが入ってきた。
すぐに処置が始まるのかと思ったら、今日は、佐藤ドクターが話し始めた。
「今日で同じ状態に固定されて六日目となります。だいぶん筋肉がこの状態で硬化しだしたと思います。
そこで今日は、硬化した筋肉を一度元に戻すための処置を行います。
これは、今後も処置用寝台に固定されている間、定期的に行います。電気的刺激を身体中に電極を付けて行います。
麻酔によって麻痺状態でなかったらものすごい辛い処置ですが、如月大佐は感覚を剥奪されているので安心して処置を
受けて下さい。」
相変わらず、佐藤ドクターは、人を機械と同じに思っているかのように冷静に、私の身に起こる不幸を説明してくれた。
「それじゃ始めて。」
まりなさんが首から下の身体の数十カ所に電極を貼り付けていった。
「スイッチ。オン。」
そういって、まりなさんが私の寝台の傍らの装置のスイッチを入れた。
すると、私の身体の筋肉が勝手に収縮を繰り返しだした。
「この装置に繋がれて、今日1日いれば、筋肉がもとの状態に戻るから我慢して処置を受けてね。」
そう、佐藤ドクターが言い残して処置室から隣のモニター室に移動した。
「この機械に繋がれていると筋肉は、収縮を繰り返し全身運動をスポーツ選手のトレーニング並みの過酷さで行ったのと
同様の効果があると同時にたまった疲労物質も分解してくれるの。
元々、手足を切除され身体を自分から動かすことの出来ない人間のトレーニングに開発された装置なの。」
こんな状態で1日すごすのだ。手足のない人間の苦労を感じるようだ。
そして、この機械に繋がれての一日が終わった。
「お疲れ様、筋肉の回復は順調に終わりました。身体を洗ってもらって、今日は、早く休んでください。
高橋さん、如月大佐の管理、今日は特に厳重にお願いします。明日の処置に響かないようにしてあげてください。」
前田ドクターの言葉通り、まりなさんは、洗浄室で丁寧に久しぶりのシャワーを使用しての洗浄をしてくれた後、
居住エリアに私を戻すと私と機械を再び接続して、生命維持管理システムのコントロールパネルをいじった。
「さやかさん、お休み。」
そう言われ、私は眠りに落ちた。
サイボーグの口腔の処理といえば昔洋画で、サイボーグ兵士のヘルメットをはがしてみたら下顎骨が除去されててむき出しになったのどにパイプがたくさん突っ込まれてるというシーンがあったな、タイトル忘れたけど
この日も起床は、生命維持管理システムによって目を開けることとなった。
完全に機械の一部のようにチューブやコードが接続された身体をぼんやりと見ながらの起床となった。
処置室でいつものように予備処置とチューブやコードの接続処置をまりなさんにしてもらった。
ただ、前の日の処置により、身体がものすごく軽く感じられた。
いつものように、前田ドクターと佐藤ドクターの声が聞こえた。
また、身体を弄ばれる1日が始まると思うと覚悟しているにもかかわらず複雑な思いがこみ上げてくる。
今日も佐藤ドクターが話しかけてきた。
「今日は、如月大佐にまず見てもらいたいものがあります。高橋さん、運ぶのを手伝ってもらえますか?」
そう言うと、まりなさんと一緒に大きなカプセルを運び込んできた。
私の見ているモニターがそのカプセルの中身に近づいた。そして、中がわかるようになるまで近づいた映像には、
液体の中に浮かんでいる薄い緑色をしたラバーフィットスーツを見ることが出来た。
「あなたのためのラバーフィットスーツが完成しました。どうです。よくできているでしょう。」
興奮した。液体は、保存液だと思うが、その中にあるスーツの美しさに興奮して、
早くこの服を着てみたいという衝動に駆られた。薄緑色でゴムの光沢を持つ服、この処置を全て受け終えれば、
あのスーツを着る資格を持つことになるのだ。
「早く、着てみたい。」
そんな言葉が思わず出てしまった。
「そうでしょう。後もう少しだから頑張ってください。」
前田ドクターがいった。
よし、がんばるぞ!
何か、相手のペースに載っているかもしれない私が怖かった。
そうこうしている内に今日の処置が始まった。
まず、耳の処置が今日のはじめの処置だ。耳の鼓膜を丁寧に除去し、
聴覚神経とヘルメットに装備されている外部集音装置との接続用コネクターと聴覚神経が接続され、
コミュニケーションサポートシステムと接続するためのコネクターも一緒に接続された。
そして、三半規管を宇宙酔い防止と宇宙空間での作業でも平衡感覚が失われることのないようにするための補助装置に
繋いで、補助装置を耳の奥に設置し、補助装置駆動用の電源コードのコネクターも含めて、
3つのコネクターを中耳道に固定して、空隙部分に生体親和型樹脂の充填剤を充填して外部との隔離を行われた。
そして、外耳の部分、つまり、耳を切除された。
耳が無くなり、耳のあった部分は3つのコネクターが露出している状態となった。つるつるの頭部が
更にのっぺりした感じになってきた。そして、耳の左右3つづつのコネクターにコードが取り付けられた。
次に頭皮を切除し、頭蓋骨の上に強化プラスチック製の頭皮カバーが取り付けられた。
そして、このカバーについている電極を頭蓋骨を貫通させて脳に繋ぐ処置が行われる。
そして、この頭皮カバーとバックパックの補助コンピューターを繋ぐコネクターを首の後に付けられた。
更に、脊椎神経と電極を繋ぎ、そこからつながる端子のコネクターをやはり首の後、頭皮カバーからのコネクターの下に
取り付けられた。この2つのコネクターにもプロジェクトのホストコンピューターからのコードが接続された。
そして、両目への処置が始まった、まぶたは、瞬きが必要ないので、起きている間、開閉できないようにまぶたの筋肉を
電気的にコントロールできる装置とそれにつながるコネクターが取り付けられ、涙腺が取り外された。
まぶたは、通常は、閉じることはもう出来ないようになってしまったのだ。まぶたを閉じれるのは、
本当に強い光線をヘルメットにあるセンサーが感知し、それがゴーグルでは防ぎきれないと脳とバックパックの
コンピューターが判断したときのみでありそれ以外は、
まぶたの開閉コントロール装置が作動することはない。
睡眠時は、まぶたを閉じる変わりにゴーグルの遮光調節システムが完全遮光状態になるようになっているのだ。
そして、両目を覆うようなそのゴーグルが生体接着剤で貼り付けられ、
まぶたのコントロール装置のコネクターがゴーグルと接続され、ゴーグルにコードとチューブが取り付けられた。
チューブからは呼吸液が流れ出しゴーグルの中を呼吸液が満たした。液が入っていないときは、ぼやけたような視界で、
目が乾いた感じになっていたが液が満たされたことで鮮明に見えるようになり、目が常に潤っている状態になった。
裸眼の時よりはっきりとした視界が得られた。もう、瞬きをすることも出来ないようになってしまったのだ。
そして、この上から、ヘルメットをかぶるといろいろな情報がヘルメットのフェースプレートに
ディスプレイされるようになっているのである。この日の処置は、ここまでだった。
そして、次の日から運命の最後の処置を受ける日になった。
前田ドクターが、
「今日からの処置で最後となります。この処置が終わったら、しばらく、手術で傷ついた身体の回復処置を行ってもらい、
それからラバーフィットスーツの装着の処置を受けてもらいます。さあ、頑張りましょう。」
「最後の処置の場所って、やはり、あそこしかないですよね。」
「そうよ、性器のカバーを取り付けます。」
前田ドクターが続けた。
「如月大佐は、これから、不感症になってしまうわね。」
みんないうことが遠慮なしなのだ。
「今日は、特殊ホルモン調整剤で排卵を促進させ、あなたの卵子を出来る限り保存します。
いずれにしても、最終的には、子どもを生めない身体へと改造されるわけですから、
今の内に卵子を取り出し冷凍保存するのです。薬剤により一度に複数個の排卵が一時間に一度行われる状態が
1日中続くのです。24時間生理が来続けるからものすごい苦痛を伴うし、輸血も必要になるので、
すごく危険な処置ですから、私たちも慎重に行います。生理痛は、麻酔で感じない状態ですから怖がらなくても
大丈夫です。」
前田ドクターがそう言うと私の生命維持管理システムのコントロールパネルを操作した。
すると、麻酔が効いているにもかかわらず、下半身に生理の鈍痛が走るのがわかり、その日は、
生理が一時間に一回という状態でたくさんの排卵があった。まりなさんが輸血をすかさずおこなってくれ、
貧血にならないようにしてくれた。一日中、レストパートまでもこの状態が続いた。そして、丸一日で、
50個もの卵子を採取された。
そして、次の日には、いよいよ、性器への処置が開始され、クリトリスが切除され、女性器を覆うカバーが接合された。
このカバーには、洗浄管挿入用ソケットがついていた。
これで私に施される予定のラバーフィットスーツを装着されるための処置が完了したのである。
ここまででももう普通の人間とはかなりかけ離れた存在になっているのに、
私たちに施される火星探査・開発用サイボーグ改造手術というのは、どんなものになるのだろうか?
そして、私は、本当にその過酷な手術に耐え、過酷な訓練に耐え、火星へのミッションを遂行できるのだろうか?
性器への処置の映像を見ながら、女性としての快楽を味わうことが出来ない身体になってしまったことへの
屈辱感がこみ上げてきて哀しくなったが、目に施された処置により、涙腺がないため、
実際に涙を流すことすら出来ない私がここにいた。
そのことを考えると不安な気持ちが押し寄せてくる。
そんなことを考えていたら、処置室から居住エリアにいつの間にか運ばれていて、
そこに誰かが入ってきたことにも気づかなかった。声をかけられ、はっとした。
そこには、長田部長がヘルメットを付けた全身ラバーフィットスーツ姿で、まりなさんと一緒に立っていた。
「処置が無事に終了したこと、それも10名が全て無事にラバーフィットスーツを着れる身体になれたことで、
私は、ホッとしています。さて、如月さんには、あなたの回復処置の間にほかのメンバーの処置であなたと違う処置を
部分的にした人の処置を映像で体験し理解してもらいます。あなた自身も辛い思いをしたと思いますが、
このプロジェクトではもっと辛いことがあなたに起こると思います。それでも、自分の身体に起こることをただ受け止めて、
生きていくことしかあなたには出来ないのです。」
「長田部長、そんなことは、もう覚悟できていますし、死ぬ自由すら奪われてしまった今では、
この状態とこれから起こることを受け止め生きることしかできなくなってしまったことも理解しています。それよりも、
みんなもラバーフィットスーツを着る前の段階まで事故無く処置を終えたのですね。それを聴いて安心しました。
それから、映像で私が体験するというのは、もちろんモニターでただ見るということではないのですね。」
「如月大佐らしい分析力ね。その通りです。あなたと渥美大佐の二人には、重要な部分では、
ほかのメンバーの体験を共有し、全員のメンバーの心の把握をする処置も行われると思っていてください。
これは、リーダーとしての特別な体験です。まあ、今日はゆっくり休養すること。」
長田部長は、そう言って部屋を出て行った。入れ替わるように前田ドクターが入ってきた。
「如月大佐。本当によく頑張ったわね。あなたの処置は大成功でした。これから処置用寝台を安静待機モードにします。」
そう言うと、まりなさんに指示を出した。するとまりなさんが寝台の操作盤を操作すると今までM字に開脚されて
固定されていた私の身体が、寝台と共に大の字の形の姿勢に変わった。
「この姿勢で、身体の組織が落ち着くまで安静にしてもらうことになります。
身体のメンテナンスは、全て高橋さんに任せてありますから彼女に何でも相談してください。それから全身の麻酔は、
30日ぐらい効かせたままにしておきます。そうでもしないとこれだけ身体をいじったから身体の組織の痛みが
治まらないの。その間は、意識レベルを低いレベルに保つから半覚醒状態もしくは
睡眠状態で過ごしてもらうことになります。そのなかで、あなたは実態感のある夢として、
他のメンバーに起こったことを体験してもらうことになります。このシュミレーション体感システムになれてきたら
完全覚醒状態でもいろいろなことを自分の感覚として体感することが出来るようになるわ。」
「ラバーフィットスーツを装着されるのは、いつになるのですか?」
「全身の麻酔を解いてから、30日間は、起きあがることが出来るようになり、立てるようになり、
歩くことが出来るようになって、処置された身体をある程度受け入れられるようになるリハビリをします。
なぜなら、あなたは、麻酔が解けるまで処置用寝台に45日間以上拘束されていることになるの。
それだけでももとの状態に戻るまでかなりのリハビリが必要なのはわかりますね。」
私は、「はい。」と答えた。
「その上、身体の機能を大幅に変更しているからそれになれて普通の生活が送れるようになるまでにもかなりの訓練が
必要なのです。そして、普通の状態に近づけておかないと、更に、
新しい環境への対応が出来なくなってしまうおそれもあるのです。
だから、この位のリハビリ順化期間は最低限必要なのです。30日間というのは、あなた達、適性の高いドナーだから
可能な時間なの。高橋さんなどもそうだったけど普通の人間は、この期間が90日間ぐらい必要なの。
あなた達は、その為、過酷なリハビリを要求されるけどそれに耐えられるとデータ的にも考えられるの。
それに火星に行くための手術までの期間も限られていて次のプログラムも詰まっているしね。
あなた達は、耐えて頑張るしかないのよ。その後、リハビリが終わってすぐにスーツを装着する処置が始まります。
そして、それから先の時間があなた達にとって、本当の火星への道の始まりになります。
だから今は、たっぷり休んでおくこと。いいわね。」
「はい。わかりました。」
「でも、あなたと渥美大佐は、その間もいろいろな体験をしてもらうことになるから、ゆっくり休めないかもしれないけどね。
とにかく2日間は睡眠状態で休むことね。高橋さん、如月大佐の意識レベルを睡眠安定状態の管理下におく処置を
開始してください。」
「わかりました。」まりなさんは、そう答えると生命維持管理システムの操作パネルを操作した。
すると、私の意識がうつろな状態になった。
「今日は、このまま睡眠状態に徐々になっていきます。ゆっくり休んでね。、はるかさん。」
その声から先の意識がなくなった。
意識が無いようなあるような状態、まるで夢を見ているのではと思う状態に再び戻ったとき、まりなさんの声が聞こえた。
「はるかさん、今の状態が半覚醒状態です。この状態と睡眠状態の繰り返しの中でしばらく過ごしてもらいます。
ちなみに、処置の終わった日から二日が経過しています。その間、はるかさんは睡眠状態のままでいました。
これからしばらくは、半覚醒状態の中で、ほかのメンバーの受けた処置の体験を意識にすり込むシュミレーターを
作動させます。全てのメンバーの記憶感覚を体験していただくことになります。記憶データの最終的な蓄積先は、
はるかさんの脳本体ではなくはるかさんに取り付けられるバックパックの補完用バックアップサポートコンピューターの
ハードディスクに蓄積されます。はるかさんが持っている記憶体験として必要なときは、
そこから脳にデータが送信されて自分の記憶体験として使用することが出来るようになります。
9人分の記憶体験データを脳にしまうなんてことしたら脳がパンクしちゃいますから。
パンクしないような工夫がしてありますからご安心ください。それでは、作動させます。どうぞお楽しみください。」
「ちょっと待って!私の心の準備がまだ出来ていないの。」そう言ったつもりだったが、
私からのコミュニケーションは、システムが作動しないようになっているのか、まりなさんは答えてくれなかった。
後で聴いたのが、コミュニケーションサポートシステムはこのとき、私の思ったとおり、私は言葉を発せない状態で
一方的に情報を受ける状態になっていたそうだ。ここから私は、ほかの9人の記憶感覚を体験することになった。
後で知ったことだが、このときほかの9人全員の記憶感覚を体験したのは、私だけだった。
渥美大佐は、私の半分の記憶感覚データを体験させられただけだったのである。
私がほかの誰よりも重い使命を持つサイボーグ候補にされていたのであったがこのときはそんなことは
知るよしもないことであったのだ。
297 :
名無しさん@ピンキー:2005/06/21(火) 00:05:21 ID:Wy/+Iv/O
かなりの大作だな。だんだん興奮してきた。
個人的にはもう少し責めな描写があればなと思うが
とにかく続きが楽しみ
乙!!萌えました。かわいそうでいいですね!確かにもっと責めてみたい気も。今後も楽しみです。
私の中に飛び込んできた9人の体験の記憶データは、性格により、その時のドクターやサポートヘルパーとの会話や
感じ方が違うもののほぼ私と同じ体験をしていたのである。そして、シュミレーターの始まりは、処置当日からであった。
ただ、4名の候補者は少し違う体験をしていた。
4名の内2名のものは、男性被験者のものであり、最後の処置である性器の処置が違っていた。
大谷少佐の処置の映像が、私の感覚にまず飛び込む。
「大谷大佐、今日から、最後の処置を開始します。」
「長井ドクター、それは、私が外見上男ではなくなってしまうのですね。」
「そうです。この処置を受けない限り、次の段階に進むことが出来ません。それに拒否する方法が、君にはないのです。
そのことはわかっていることと思いますが・・・。」
「もちろんです。この任務を説明されたときに覚悟していたことです。処置よろしくお願いします。」
「それでは、今日は、精子を保存するため、ホルモンの操作と前立腺への刺激剤、睾丸の活動を短期的に活発にする
ホルモンを使用し、1日間、射精し続ける状態にします。そして、その精子は、冷凍保存されることになります。
もう、子孫を自力では残せない身体になってしまうのですから、これが最後の射精になります。
ただ、射精の感覚はないですから、快楽を味わうことはないですが・・・。」
本当に佐多さんが言ったように昨日、佐多さんに手を使って射精してもらったことが最後の快感だったとは・・・。
彼はそう思った。
そして、長井ドクターに聞いた。
「でも、睾丸は残るし、搾精処置は出来るわけだから、スーツ装着後も精子の採取は出来るのだと思うのですが・・・。」
「実際には、搾精行為は可能なのですが、睾丸が体内に格納されることにより、いくら冷却装置で包まれているとはいえ、
精子の鮮度が失われます。鮮度の高い状態の精子を保存するには今しかないのです。それでは、処置を開始します。
それでは処置を開始します。」
長井ドクターの言葉で処置が始まった。
サポートヘルパーの佐多さんが大谷少佐のペニスに精子収集機を取り付けた。そして24時間大谷少佐のペニスは、
精子を放出し続けた。大谷少佐が疲れても、精子が放出することをペニスはやめなかった。
そして、冷凍保存用の精子のパックが100個近く出来上がって処置が終了した。
そして、続けざまに彼への最後の処置が始まった。
「さて、大谷少佐、最後の処置が、これから開始されます。心の準備はいいですね。」
「ハイ、はなから、覚悟は出来ています。それに、嫌だという選択は、僕らには与えられていないことも理解しています。
処置を開始してください。」
そして、処置が開始され、ペニスを切除され、開腹されて睾丸を冷却装置で包まれ、下腹部に収納され、
前立腺に電極が取り付けられ、冷却装置と前立腺刺激用電極に電機を供給するためのコードを接続するコネクターが
おしりの肛門のあった場所に取り付けられて皮膚を接合し、ペニスのあった場所の間の部分の先端に
カテーテル挿入弁付きカバーを接合し人工皮膚が貼り付けられて処置が終わるのだった。
その時の男性器を失ってしまった時の失望感はものすごいものであった。
つるつるでバルブだけが存在する股間に作り替えられたのだ。
まったく何もなくなってしまった身体をモニターで見て、大谷大佐は、耐え続けた。佐多さんの薬剤や、
気遣いによるサポートもすごいものがあった。
涙を流せず、声も出せない身体をふるわせ、心の痛みを表現し続けた。その精神的な痛みを乗り越えて
次のスーツを装着する処置を待つ男性メンバーの二人はものすごい精神力
を持っていると思えた。
私は、自分が受けた性器への処置のときの感情と重ね合わせ、涙を流すことが出来ない身体だけれど、
悲しみがこみ上げてきた。
みんな、もう、自由のない身の上を乗り越えて、ミッションを成功させようね。こう、心の中で叫んだ。
>みんな、もう、自由のない身の上を乗り越えて、ミッションを成功させようね。
>こう、心の中で叫んだ。
(つДT)
これでミッションそのものが予算不足で中止になったりしたら
彼らの不幸っぷりは目も当てられんものになるな。
303 :
名無しさん@ピンキー:2005/06/22(水) 06:38:45 ID:MH5wg3qf
>>302 革新政党なんかに政権が変わり、サポートもなくなるわ。
軍事改造だの、軍靴の音が聞こえるだのいって"さらしもの"にされるってのも
>>manplus様
ん〜いいですねー!すでにものすごく惨めな姿にされちゃってます。サイボーグ化が楽しみです!
まったく違っていたのは、橋場望少佐と美々津みさき少佐の体験感覚データだった。
彼女たち二人は、私たちが処置室で専属のドクターを紹介されていた頃は、部長室にいたのである。
処置用寝台に固定された状態で二人は部長室に連れて行かれた。
二人の処置用寝台はまだ車椅子のような状態であったが身体が完全に動かないように固定されていることは、
私たちと同じ状態だった。ただし、口には、はずすことが出来ない様なストッパ付きのマウスピースをくわえさせられていた。
「おはようございます。橋場少佐、美々津少佐。」長田部長の声が聞こえた。
二人は、声が出るもののマウスピースのために言葉にならない。
「舌をかむことが出来ないようにマウスピースで口も拘束してあるからしゃべることが出来ないと思うから、
聴いてもらうだけになるわ。ほかのメンバーは、もう、処置室で処置に入っています。
今日ここに来てもらっているのは、ここにいる二人だけなのです。」
長田部長は続けた。
「あなた達を呼んだのは、訳があります。その訳というのは、あなた達二人は、士官学校から、機械構造学に強く、
パイロットとしての操縦適正もずば抜けています。私たちは、今回のプロジェクトであなた達二人には、
火星探査ロケットを動かす操縦オペレーターとしてのサイボーグになってもらいたいと思っています。
機械と一体化された状態でのロケット操縦のミッションにあなた達二人がついてもらうことが最前の選択と考えています。
そして、我々が考えているロケット操縦オペレータータイプのサイボーグには手足がありません。
なぜなら、ロケットと一体化させてオペレーションをおこなわせるため、神経組織とロケットのメインコンピューターと
接続して、協調作業をすることになります。その為、今回のプロジェクトでは、手足を使う必要がありません。その為、
手足は、余分な重量となるだけなのです。
そこで、脳と最低限の内蔵とハードシステムと人間の脳神経システムを接続サポートするためのコンピュータシステムを
搭載できる身体があればいいのです。
当初、私たちは、サイボーグ手術をうけてもらうすぐ前に手足の切除手術をすればいいと考えていたのですが、
その後の研究の結果、手足のないだるまのような身体になれるまでの順化の期間が
相当必要であるということがわかったの。そこで、第一候補者には、ラバーフィットスーツを装着するための処置と
同時に手と足の切除手術も同時に受けてもらい。第2候補者には、ラバーフィットスーツでの訓練期間の中盤で
切除手術を受けてもらうようにしたの。
そこで、まず、処置をおこなう前に事前に候補者二人には、心構えをしてもらう前に事前通告することにしました。
ちなみに第一候補者は、美々津みさき少佐です。橋場望少佐は、第二候補です。
二人とも、その覚悟をしておいてください。」
二人は、獣のような声を上げてしばらく泣いていた。二人が精神的に落ち着いたところで、長田部長が話し始めた。
「二人の気持ちは同情するけど、いずれにしてもこのプロジェクトの被験者になった10人が
みんな異形の姿になるのだから、少し早く、その機会が訪れただけだと思ってもらうしかないの。
さて、橋場少佐は、これから、処置室に入ってもらい、とりあえず通常のラバーフィットスーツを装着するための処置を
受けてもらいます。」
長田部長がそう言うと、橋場さんを担当するサポートヘルパーが処置室に彼女を連れて行った。
そして、美々津少佐だけが部屋に残った。
「さて、美々津少佐には、まず手足を切除する処置を受けてもらい、その後、その傷口が落ち着いたら、
ラバーフィットスーツを装着するための処置を受けてもらいます。
あなたには真っ先に誰よりも辛い思いをしてもらうことになりますが、プロジェクトミッションのためです。
耐えて頑張ってください。もちろん、あなた達被験者が自殺という逃げ道が使えないことは理解していると思いますし、
万が一舌をかむことに成功したとしても、脳だけの存在でロケットをコントロールすることになると思ってください。
脳だけで一生を送るより、少しだけでも身体が存在した方がいいと思いますよ。」
実際その通りだと思って、舌をかむ機会をうかがうことを美々津少佐はあきらめた。
「さて、それでは、処置室に移動してください。」
そう長田部長がいうと、みさきさんが処置室に運ばれていった。
彼女が処置室につくと消化器洗浄処置や脱毛処置、栄養液補給のためのカテーテルの挿入、
尿排出カテーテルの挿入がおこなわれ。完全な脱毛の処理が完了するした次の日から、
彼女の手足の切除処置を施されることになった。手は、肩口から切除され、脚は、股の付け根部分で切断された。
そして、それぞれの切断面にある神経組織に小さな電極接続コネクターが接続され、
切断面全体がケーブル接続コネクターとして作り替えられた。そして、コネクターカバーが取り付けられ手術が終了した。
彼女は、だるまのようになった手足の付け根から無くなった身体を見ることで、ここまでの処置を思い出し、
我慢できずに号泣した。手や脚といった行動するための器官が不用なものとして取り外されてしまった
身体になった自分の姿に絶望感にも似た感覚が頭の中をよぎったのだと思う。
そして、傷の回復処置を10日にわたっておこなわれた。その間、手がないので、自分で出来るような作業も、
全て、サポートヘルパーに助けてもらわなくてはならない身体になっていた。ものを持つこと、歩くこと、食べること、
排泄することはもちろん、痒いところを掻くことさえ自分ですることが出来ないし、
涙を拭くことも出来ない身体になってしまったことを頭の中に完璧にたたき込まれた10日間になった。
10日後、切断した組織が落ち着いてから、ほかのメンバーと同じ処置を受けることとなった。
彼女は、ほかのメンバーのような処置用寝台ではなくただ、胴体と頭部を支えることが出来る構造になった寝台に
固定されていた。 呼吸器官の処置、消化器官の処置、排泄器の処置、頭部の処置を受け、最後に世紀の処置を受けて、
みさきさんの処置は完了した。
しかし、再び、彼女をショックが襲ったのは、オーダーメイドのラバーフィットスーツを見たときだった。
そのラバーフィットスーツには手足の無かった。自分の身体がそうなのだから仕方ないが、彼女にとって、
再認識をする結果になったようである。
彼女は、改めて、モニターで、肉のかたまりにチューブやコードの接続された自分の新しい身体をまじまじと見ながら、
涙の流せない身体で、しかも、身体を震わせることも出来ないからだになってしまったことを悟った。
彼女にとって、最初の人間というものを失う処置が終わった。
310 :
名無しさん@ピンキー:2005/06/23(木) 00:15:00 ID:utLxUEdU
毎回力作が続くなあ。段々処置が強制的になって萌え〜
いやいや素晴らしい!勃起が止りません。人権無視のモノ扱いがたまりません。
312 :
前389:2005/06/23(木) 01:45:20 ID:tuWYHuru
82氏
スイッチのON/OFFみたいに寝起きする設定、いいですね。
manplus氏
どうも、はじめまして
容赦のない処置が次々と…さらに達磨まで。
虞祭坊 氏
空薬莢ですか、頭脳プレーだ。 正統派バトルものとしてもいけますね
最後に自分が書き込んだのが194だから、二十日近く間を空けてしまってますね…
313 :
前389:2005/06/23(木) 01:50:04 ID:tuWYHuru
6−1
着替えとシーツの交換を済ませ、時計を見ると、もう時刻は夕方だった。 つまり、私は半日間、
ずっと自慰をしていた事になる。
お母さんが帰ってくる前に山根さんが来てくれなかったら、どうなっていたことか。
「信じられない…」
「事実よ。 私が箒で飛んで来て窓を開けたとき、この部屋は女の子のにおいが充満してたわ。
それこそ、むせてしまいそうなほどね」
「っ…それより、説明して! なんで、私がこんなエッチな事を…」
私は山根さんに詰め寄った。
「一言でいえば、酸欠であえいでいるようなものよ」
「酸欠…?」
データ採取に使ったチューブや水晶を鞄にしまいながら、山根さんは淡々と解説した。
「ソーサレスエンジンの“燃料”は、魔水晶に含まれるエーテル。 だけど、車のエンジンがガソリンのほかに
酸素を必要とするように、ソーサレスエンジンにはエーテルのほかに性的快感が必要なの」
「えっ!?」
「感情の高ぶりなら何でもよかったんだけど、意図的に無理なく催す事ができるのが、」
「ちょっと待って! 確か、あの機械は私の代謝機構の一部になっているんでしょう? という事は、
その、私は…エッチな事をしないと生きていけない身体に…?」
「ええ、そういう事になるわね。 のみこみが早くなったじゃない」
悪びれることなく、山根さんはあっさりと肯定した。
「三日前に出力を上げたことによって、性感の必要量も増大したのに、沢木さんは普通の生活を続けていた。
だから、今日ついに限界に達したソーサレスエンジンが、沢木さんに自慰を強制した。 そんなところよ」
「…ひどい…どうして、機械にエッチなことまでコントロールされきゃならないの…」
一歩間違えば、人前であんな痴態を晒していたかも知れないのに。
「でも、この仕様のおかげで、得した事もあるでしょう」
「えっ?」
314 :
前389:2005/06/23(木) 01:51:32 ID:tuWYHuru
6−2
「本当に分からない? 沢木さん、ソーサレスエンジンと同化してから、体形が変わってきてるじゃない」
真っ直ぐ私の顔を見つめていた山根さんが、やや視線を落とす。
「…?」
その視線の先には…最近になって急に膨らんできた、私の胸が。
「えっ、まさか」
思わず、山根さんの視線から庇うように、両手で胸を覆った。
「そう。 ソーサレスエンジンが、肉体を調整しているの。 性感を得るのに適した身体、
男を誘いやすい身体になるように、ね」
言いながら、山根さんは鞄から大きな手鏡を取り出し、私に向けた。
「あ……」
それは、あのときの鏡と同じ、私の中身を映し出す鏡だった。
胸を庇う両手もろとも、皮と肉が透けていき、たちまち臓物が露出する。
「えっ…な、何これ!?」
でも、映し出された私の内部は、あの時と全く同じではなかった。
心臓のすぐ隣に位置するあの機械から、銀色のパイプが下腹部へ向けて伸びている。そして、
その銛のように鋭く尖った先端が…女の子の大事な臓器に突き刺さっていた。
あのとき、胸から下腹部に向けて奔った熱い衝撃は、このパイプを伝っていったに違いない。
「性欲と性徴を司る器官…子宮がエンジンの管理下に置かれたのが見えたでしょう?」
山根さんは手鏡を鞄に戻し、その鞄を肩に掛けると、
「とりあえず、エンジンの出力は初期値に戻しておいたから、今日みたいな過度の自慰命令は出ないと思うわ。
一応、こまめに自分から性感を補給する事を勧めるけど」
そう言って、ふわりと箒に跨り、窓から飛び去っていった。
315 :
前389:2005/06/23(木) 01:58:04 ID:tuWYHuru
6−3
明くる日の夕方、私は友達の川田さんと一緒に、学校からの帰り道を歩いていた。
昨日のショックは確かに大きかったけど、学校でクラスメイトの皆と過ごしている間は、なんとか
自分の身体のことを忘れることができた。
人通りのない裏道に入ったところで、ふと川田さんが口を開いた。
「ところで、沢木さん」
「何?」
答えて振り向いた瞬間、川田さんの手が、胸元から私のブレザーの内側に滑り込んできた。
「きゃっ! な、川田さん!?」
私が振り払うより早く、川田さんはさっと手を引き戻した。
「ごめんごめん…沢木さんのおっぱい、最近急に大きくなってきたでしょ? 本物かなーって、
ちょっと疑っちゃった」
そう言って、川田さんはぺろりと舌を出した。
「う、うん…そうだよね。 私も、びっくりしてるし」
「ホント、羨ましいなあ。 そんなに急成長するなんて、私と同じ人間とは思えないもの」
「う…うん…」
「……? どうしたの、沢木さん」
急に俯いてしまった私を、川田さんは不思議そうに見ている。
「ごめん、ひょっとして、私が胸触ったの怒ってる…?」
「ううん、そんな事ないよ。 ただ…ちょっと用事を思い出したから…先に帰るね、ごめん」
それだけ言って、私は逃げるように走り出した。
316 :
前389:2005/06/23(木) 02:00:19 ID:tuWYHuru
6−4
夕日が私の部屋をオレンジに照らしている。
まだ家族の帰っていない家は、嘘のように静かだった。
『そんなに急成長するなんて、私と同じ人間とは思えないもの』
川田さんの何気ない一言が、胸に突き刺さっている。
「私、人間…だよね…」
確かめるように、両手で自分自身を抱いてみる。
体表はつやつやした肌に覆われ、その内にしなやかな筋肉が詰まっている。 一見、何の変哲もない人の身体。
(でも…)
あの機械無しに動かない心臓。
定期的に水晶から“燃料”を補給し、自慰をしなければ死んでしまう身体。
機械にとって都合の良いように、歪んでいく容姿。
そして、情欲という、心の営みまでも機械に制御される私は、もしかしたら、もう既に…
(いや、そんなの違う!)
頭を振って、必死にその結論を拒絶する。
けれど、そんな私をあざ笑うように、甘い疼きが、胸に纏わり付いていた
ブレザーの内側で、ほんの一瞬、私の乳房をまさぐった指の感触が、まだ残っている。
私の身体が、僅かな性感を名残惜しんでいるのか、それともまた自慰へと誘っているのか…
『一応、こまめに自分から性感を補給する事を勧めるけど』
山根さんの忠告がよみがえる。
(そうだよね…無理に我慢して、昨日みたいになるよりは…)
誘惑に応じ、両手がそれぞれ性感帯へ伸びていく。
機械は私を自在に発情させる機能を獲得していた。
>>manplus氏。全身を拘束されて自由を奪われ手術、ってのは仮面ライダー以来改造手術の萌えの鉄則でつねw
ロケットの部品にされる為のサイボーグ、その為不要な手足の除去!最高萌えでつ。
他のメンバーになった夢を見ているような事実の映像を見たり、睡眠状態に入ったりといった環境下で私は
30日間過ごした。他の9人も、程度の差こそあれ、今までとは違った身体になっていたことを私は認識させられた。
みんなは何を考えて半覚醒状態の毎日を送っているのだろう?
30日後のアクティブパートが始まる0時にまりなさんと、前田ドクター、佐藤ドクターが私のところにやってきた。
「如月大佐。起きてください。リハビリを開始しますので、処置室に移動します。」
まりなさんの声、続いて、前田ドクターの声がした。
「如月大佐、これから、30日間かかって、体力を回復するリハビリが始まります。」
「そうすると、いよいよ、私が腕によりをかけて作ったあなたの宇宙服をサイボーグになるための準備として、
次の手術まで着続けてもらう処置が待っていますよ。お楽しみにね。」
佐藤ドクターの声、何か嬉しそうに聞こえる。私にとっては、哀しい出来事でもあるのに・・・。
このリハビリ期間中が私にとって本当に最後の生身の膚が地球の待機を感じられる時間になってしまうのだ。
作り替えられた新しい身体で寝台から起きあがれるようなトレーニングと処置が私に対して開始されようとしていた。
処置室に移されると、まりなさんに、前田ドクターが指示を与えた。
「高橋さん、如月大佐の身体の麻酔を解きます。麻酔中和剤を如月大佐の身体に投入してください。」
「ハイ、わかりました。操作盤で薬液の投入を開始します。
大佐、身体にだるさや鈍痛に二日ぐらい悩まされるかもしれないし、大気が重く感じるかもしれないけど、長い期間、
麻酔で感じなくしていた痛みだから、そのぐらいの我慢で消えると思いますし、大気が奥感じられるのは、
身体にかかる大気の負荷も麻酔によって感じなくなっていたからです。時間が解決してくれるものですから、
我慢してもらうしかありません。麻酔が解かれたからと言ってすぐに身体が動くことはありません。長い時間、
指一本たりとも動かせない状態でいたのですから、リハビリによってもとの状態にしていきますから
そのつもりでいてください。それでは、薬剤投与を開始します。」
天上から私に喉元に伸びている薬剤供給用チューブが振るえ、薬剤が体内に入ってくるのがわかった。
1時間もしないうちに強い鈍痛が身体中を駆けめぐり、同時にものすごいだるさとすごいまわりからの圧迫感を感じた。
「苦しいでしょうが我慢してください。これが今のあなたの身体に本当に起こっていることなの。でも、これは、
回復前最後の苦痛だからね。」
前田ドクターに平然といわれてしまう。
麻酔の効いている間の痛みは、想像を絶するものだったに違いない。前田ドクターは続けた。
「高橋さん。この期間は、わかっていると思うけど、ドナーが覚醒していて、この痛みやだるさ、重苦しさに耐え、
順化していくことが大切だから、意識を失いそうになったら、緊急強制覚醒の薬剤を投与してください。
ドナーの意識レベルに注意を払うようにしてください。」
それにしても、鈍痛というにはあまりにも辛い痛み、そして、痛みを伴うだるさ、大気を感じることのものすごい負荷の重み、
それらに耐え続けなければならない私だった。普通だったら、気を失ってしまえばそれですむのだろうが、この期間は、
意識を失うことは許されないことであった。気を失いかけると意識を強制的に覚醒する薬剤により、意識が覚醒し、また、
意識を失いかけるという状態が繰り返された。二日経った頃、痛みやだるさ身体の重さが嘘のように治まった。
そして、私は、苦しむだけの自分をモニターでただ見つめるだけの状態から、かなり、余裕が出来て、
処置用寝台に横たえられた自分の姿を観察する余裕が出来た。
そうすると、全裸で寝かされた身体に特殊金属のバルブ弁やコネクターがついている今の状態が観察された。
そこから、ケーブルやチューブが接続されている。今までの処置は、現実だったのだ。ラバーフィットスーツに
入れられるための処置は全て終わっているのだった。そう思って身体を見つめ直すと、
今まで、天上から伸びて私の身体に接続されていたケーブルやチューブ類、
無数に差し込まれていた身体データ取得用電極コードが無くなり、生命維持管理システムの装置から
1本の太いチューブが私の身体めがけて伸びていて、私の身体に届く前にいくつにのケーブル類とチューブに分岐し、
私の身体に造られたバルブやコネクターにそれぞれが接続される様になっていた。
私が、寝台から離れることが出来るようにするために統一チューブに変えられていたのだ。でもいつからなのだろう。
「今システムとの接続方法に変えられたのは、二日間、睡眠状態で眠っていた間です。半覚醒状態での回復処置や
これからのリハビリをしやすくするためにとられた処置です。
統一チューブじゃないと操り人形みたいで動きにくいからなの。
チューブがついていて行動範囲が制限されるかもしれないけれど、この方がまだマシでしょ。」
佐藤ドクターの声だった。
「それから、身体データ取得様電極コードが無くなったのは、首筋のコネクターが、神経組織と連携して、
ラバーフィットスーツ着用者の身体データを全て取得できるようなシステムになっているからなのです。
特に、サイボーグ候補の10名のデータは細かく取得できるようになっていて、身体管理のコマンドデータとして活用され、
ドナーの身体の制御管理が可能な状態になっています。
自分の意志や判断で原則的には、生体活動をおこなってもらうわけですが、禁止動作行為、
例えば、脱走を企てようとしたり、自傷行為をおこなおうとした場合に身体抑制行動モードに
自動的に入るようになっています。そうすると身体を動かすこと自体が、自分の意志ではなく、
本部が出した命令プログラムでおこなわれるようになるのです。もっとも、ラバーフィットスーツは、
アーミーナイフや日本刀でも切り裂くのは不可能なほどの強さを持っているので自傷行為などが成功することは
不可能なことなのです。私も、高橋さんも、前田ドクターも、この行為で精神不安定状態に陥った経験済みだから、
経験者談としての話だと思ってください。」
佐藤ドクターの口元がフェースプレート越しにいたずらっぽく微笑んだのがわかった。
佐藤ドクターの口は、ヘルメットからあごの下の部分に空けられたバルブから粘着性の充填剤が詰め込まれ
開くことも動かすことも出来ないのであるが、唇に少しの自由があるため、精一杯の表現をしてくれている。
みんなそんな辛い経験をしているのだ。このスーツのヘルメット部分のフェースプレートは、
中の表情が遮光モードが変化するようになっていて、光透過率100%から0%までの可変透過システムが
装備されている。今の佐藤ドクターのフェースプレートは彼女の顔が確認できる状態になっている。
その下のゴーグルも、フェースプレート同様光透過率が可変するようになっているが、
まぶたがラバーフィットスーツ装着者は閉じることが出来ないので、ウインク等という表現は出来ないようになっていた。
それは、もちろん私も同じだ。ラバーフィットスーツ装着処置を受けることにより表情を創るということが
難しい作業になっていたのだ。だから、コミュニケーションが感情表現の大部分を占めることになっているのだ。
その会話を聞いて高橋さんがクスリと笑うのが聞こえた。
佐藤ドクターが、
「コミュニケーションサポートシステムもうまく使いこなしているようね。
誰としゃべりたいかを意識することなく会話をする対象者を自動的に無意識に選択しているもの。
すごい、適応力だわ。周囲の音も無意識に聞けるようになったわね。
この要領でラバーフィットスーツを装着されてからもコミュニケーションサポートシステムを使ってね。
ラバーフィットスーツを装着した時点では、もっと高度なシステムの使い方を学んでもらうことになりますから。」
そんな、話をしていると、前田ドクターが処置室に入ってきて、指示を出した。
「高橋さん。大佐の身体に筋肉軟化剤と筋肉強化剤、心筋保護剤をを投与して。
これは、長い間の完全拘束状態で硬直してしまった筋肉をほぐすことと、弱った筋肉組織を強くするのを補助すること、
そして、怠けモードに入った心臓を元に戻すのを助ける処置です。
ちなみに筋肉強化増強剤は、我々が開発した特殊なもので、ラバーフィットスーツが体型の変化を阻止するほど
強く身体をサポートしてしまうので、筋肉を増強するとき、筋繊維を太くすることが出来ないの。
その為、この筋肉強化増強剤は、筋繊維の太さを変えずに伸縮性と強度を訓練すればするほど増していくような特性を
筋繊維に持たせるような効果を持っているから、体型は変化しないけど、鍛え抜かれた筋力を付けることが出来る
というものなのです。
「薬剤投与開始。」
まりなさんが答えた。
すると、身体全体が温かく感じられ、今までこわばっていたからだがお湯をかけられて溶けていくように
柔らかくなっていくのを感じた。
私の身体に投与される薬剤は、血管に直接投与されるのと、即効性がかなり高い特性を持っているために、
聞き出すのが本当に速いのだった。
「さあ、身体を起こしてみよう」まりなさんがそう言うと、処置用寝台が、本当に少しずつ椅子の形に変化していった。
10時間かかって椅子の形までなるように時間をセッティングされているのだが、そんなゆっくりとしたペースでも、
起きあがった状態になるには、休んだり、元に戻したりしないと、めまいを起こしてしまったし自分の筋肉が言うことを
聴いてくれずきつい作業になってしまった。たった一ヶ月半なのだが、完全に身体を固定された代償は
大きいのだということを痛感させられた。火星に生身の人間が行くとなると長い拘束状態と無重量状態により火星に
到着後、活動開始まで、リハビリをかなりの期間おこなわなければ活動できないし、
地球帰還後にもリハビリをしないと活動できないというデメリットも我が国にこのプロジェクトの実行を決断させた要因の
一つでもあるのだ。ほとんどの駆動部分を機械に変えられた人体であるサイボーグにとって筋肉の衰えを心配することは
ないからである。
私が、自分の力で椅子に座った姿勢まで身体を起こせるようになったのは、それから4日後のことであった。
それから、立てるようになるまで更に、6日、歩けるようになるまで回復したのは、それから更に10日の日数が必要だった。
そして、違和感なく、一日のアクティブパートを立ったり、座ったり、歩いたりと自由に行動できるようになるまで、
リハビリ訓練を開始してから30日の日数が経っていた。
自由にと言っても、正確には、生命維持管理システムから私に伸びている太いチューブの長さが行動範囲だったし、
そのチューブを引きずりながら行動する不自由さが常に私に付きまとっていた。
「リハビリ訓練は、これで終了です。」
まりなさんがそう私に告げた。そして、
「いよいよ、明日は、運命の日です。あの、薄緑色のラバーフィットスーツを装着する処置を受けるときが来たのです。
今日は、これでゆっくり休んで明日に備えてください。」そして、まりなさんは、
私が接続されている生命維持管理システムの操作パネルをいつものように操作した。
そうすると急に立っているのもやっとなほどの睡魔が私を襲い、寝台に崩れ落ちるように眠りに入った。
まりなさんの
「お休みなさい。これで、はるかさんの身体も私と同じようにやっとなるのですね。楽しみです。」
と言う言葉を聞くまで意識を保持するのがやっとだった。
レストパートが終了し、アクティブパートとの切り替わりの時間である0時きっかりに私の意識が戻った。
処置用の寝台に乗せられて、処置室に移動されていた。
「おはようございます。」
まりなさんの声に気づいた。
前田ドクター、佐藤ドクター、まりなさんの3人が私の寝台の傍らに立っていた。
私はあいかわらず、太いケーブルに繋がれた状態で寝台に横たわっていた。
佐藤ドクターが、
「いよいよ、あなたにこのスーツを装着する日が来ました。」
そう言って、佐藤ドクターの傍らにあるラバーフィットスーツの保存カプセルを指さした。
その中に保存液が詰められた中を私のために作られたゴム独特の光沢を持つ薄緑色ラバーフィットスーツがゆれていた。
そしてその傍らに透明の大きな箱の中に梱包された私の命綱とも言うべきバックパックのセットが置かれていた。
更にその隣にラバーフィットスーツに付帯するヘルメットとブーツの納められたケースが確認できた。
いよいよ、火星探査・開発プロジェクトの正式な主役になるファーストステップが始まるのだ。
「ラバーフィットスーツ装着処置を開始します。」
佐藤ドクターの一声で処置が始まる。
「高橋さん、如月大佐の身体にラバーフィットスーツ装着用接合剤を塗布したください。」
まりなさんが指示に従って処置を開始した。
「はるかさん、ラバーフィットスーツ装着用接合剤を全身にくまなく塗布していきますので、処置台に拘束します、
我慢してください。」
そういうと、処置台に両手を広げて、少し足を開いた状態にされ固定された。
そうすると処置台から私の身体が持ち上げられ、私は宙に浮かんだ状態になった。
私の身体が、その様な状態になったところでまりなさんが透明なゼリー状のラバーフィットスーツ装着用接合剤を
かなりの厚みで塗り始めた。足の指の間、手の指の間など、かなり細かい部分にも充填剤を塗りたくられた。
そして、首から下の全身くまなく接合剤の塗布が終了した。私への処置が完了するとカプセルの保存液が抜かれ、
カプセルが開けられ、薄緑色のラバーフィットスーツが取り出された。佐藤ドクターは手慣れた手つきで
ラバーフィットスーツを裏返し、ハンガーのようなものにかけた。
取り出されたスーツは、弾力性に富んだ上に強靱な印象を受けた。
そして、視覚的には、ゴム独特のぶよぶよした印象があった。
まりなさんがスーツの隅々に私に塗ったのと同じぐらい厚めにラバーフィットスーツ装着用接合剤を
まんべんなく塗りつけていった。
「さて、いよいよ装着処置に入りますが、このラバーフィットスーツの装着用接合剤は、
あなたの身体にラバーフィットスーツを完全に密着させて接合させ、隙間が出来ないようにするためのものです。
装着後約5日間で皮膚に完全に吸収されラバーフィットスーツがあなたの身体に完全に密着し皮膚と一体化します。
そして、ラバーフィットスーツを脱がす為に開発された剥離剤を使わないとラバーフィットスーツは、
皮膚からはがすことが出来ない状態まで密着します。
ただ、この剥離剤を使うと皮膚組織が破壊され、かなりの苦痛を伴う処置なので、我々が180日に一度、
メンテナンスを受けるときのラバーフィットスーツの脱衣は、完全麻酔状態でおこなわれるし、必要以外は、
メンテナンスの際もラバーフィットスーツの脱衣処置はおこなわないというわけなの。
かなり、危険を伴う作業だから仕方がないのですが、一度きたら、簡単には脱ぐことが出来ない服なのです。
だから、私たちは、まだ装着してから、一度も、脱衣でのメンテナンスを受けていないの。
ひょっとしたら、一度も脱がないまま一生を終えるのかもしれないわ。
皮膚は、実際の皮膚は機能を停止して、ラバーフィットスーツが皮膚として機能しているから、
実際の自分たちの皮膚は、このスーツだし、もちろん本来の皮膚に起こる新陳代謝は、ほぼ停止している状態だし、
皮膚で必要な新陳代謝は、ラバーフィットスーツのインナー部分が変わりにおこなってくれているから、シャワーなんて、
このスーツの上から浴びても、自分の本来の皮膚がシャワーを浴びているような感覚になるの。
本当に皮膚の一部と言うより、皮膚そのものと言うことになるわ。ただ、あなた達、被験者は、
本来の皮膚の状態を検査したりする為もあるから、180日に一度は、ラバーフィットスーツを脱がなくてはならないの。
大変だけど、仕方ないわね。それから、皮膚から吸収されたラバーフィットスーツ装着用接合剤は、
尿となり体外に排出されるから、身体に対する副作用はありません。」
佐藤ドクターがそこまで話して、まりなさんに指示を出した。
「それでは、如月大佐の脚から、ラバーフィットスーツを装着していきます。高橋さんサポートお願いします。
前田ドクター、身体データの監視お願いします。高橋さん。大佐の身体のケーブル、チューブ類をはずしてちょうだい。」
まりなさんが私の身体の首から下に接続されたケーブルやチューブをはずしながら、
「呼吸液が劣化するまでには、処置が終わるから安心して。
それにコミュニケーションサポートシステムからもはずされてしまうから、少しの間音が聞こえなくなったり、
私たちとの会話が出来なくなるから我慢してね。もし異変が起こったら、親指を立てて合図してください。
それから、呼吸液がゴーグルにもいかなくなるから少し、視界が悪くなるけど完全に視覚が奪われることはないから。」
そう説明してくれた。
ケーブルやチューブが私の身体から切り離されると、右足、左足の順でラバーフィットスーツが装着されていった。
裏返されたラバーフィットスーツがひっくり返されていくと、私の脚が隠されていった、股間の部分に来ると、
私の身体についているバルブ類とラバーフィットスーツに付属する中継バルブ弁が慎重に接合され、固定された。
身体についている弁とスーツの弁を重ね合わせて接合する作業が生命維持に関わる作業なので
かなり神経を使う作業であることを後で聞いた。
ラバーフィットスーツを装着する作業は、接合剤が乾かないうちにおこなわなくてはならないので、慎重かつ、
手早くおこなわれていった。
そして、下腹部、上半身、右腕、左腕と私の身体がスーツの中に包まれていき、首の部分のバルブやコネクターが
スーツの接続バルブや接続ケーブルがつなぎ合わされ、首の上部までラバーフィットスーツに包まれた。
そして、ラバーフィットスーツの接続バルブや接続コネクターにケーブルやチューブ類が再び接続された。
そして、ラバーフィットスーツの背中側についている装着用の特殊ジッパーが閉じられ、アイロンのようなものでジッパーを
溶着することにより、永久的に開封することが不可能なようにされた。
私が、私のために作られた薄緑色のラバーフィットスーツの中に閉じこめられた瞬間だった。
ラバーフィットスーツを装着された感想は、思った以上にきつく身体が拘束され、苦痛を感じるほどであった。
ゴムの質感よりも硬質な感触が伝わってきた。そして、ラバーフィットスーツ装着用接合剤を通じて、
ラバーのゴムの感触が膚に伝わってきた。それに驚いたのは密閉感があるにもかかわらず、外部の感触や温度が
全裸の時と同じように感じられたことであった。まさに第2の皮膚であり、私の新しい皮膚として機能していた。
「着た感触は、まずものすごくきついと思うわ。本人の身体の90%の大きさで作られているからなの、
それだけ伸縮性が大きいので仕方ないんだけど。慣れるまでは、ものすごくいたいと思う。
4〜5日は我慢が必要になると思うわ。でも、皮膚の代わりとして機能する新しい皮膚になるのよ、
このラバーフィットスーツを着てしまうと本来の皮膚を処置されたこともあるんだけど、
本来の皮膚がほとんど機能しなくなってしまうの。もう服を脱いだら、皮膚を真皮まで剥がされたのと
同じ状態になってしまうのです。それでも、定期的にはるかさん達、火星探査・開発用サイボーグの候補者達が
定期的にラバーフィットスーツを剥がされるのは、火星探査・開発用サイボーグの人工皮膚への表皮の開発の準備と
その為の検査があるからなの。危険な作業なのだけれど仕方のない作業なの。
これからは、はるかさんにとって、今まで以上の苦難と苦痛の道になると思うわ。
私たちも万全を期してサポートするから頑張ってね。それでは、これから、ヘルメットを装着します。
外気を膚が感じられる最後のひとときよ。満喫するのよ。
次に、外気を感じられるのは、サイボーグになる前のほんの一瞬なのだから。」
そう、まりなさんは言い残して、佐藤ドクターとともに私のラバーフィットスーツのヘルメットをケースから取り出し、
私に装着する準備を始めた。
私の顔は、外気を感じるつかの間のひとときを味わっていた。
まりなさんがヘルメットにラバーフィットスーツ装着用接合剤を塗っているのがわかった。
次にヘルメットの中からカテーテルや接続用コネクターを引き出し、装着に向けての準備を進めているのが見える。
ヘルメットの準備が終わると肩から上のケーブルやチューブ類が再び外された。
そして、私の顔から首、肩の上部にもラバーフィットスーツ装着用接合剤が塗られていった。
また、音も聞こえない、会話も出来ない時間がやってきた。
ラバーフィットスーツのヘルメットは、後の部分で左右に割れ、頭部の横の部分を中心に開閉するようになっていた。
まず、顔の部分にお面のように位置を合わされ押しつけられた。このヘルメットは、首のすぐ下の肩の部分まで完全に
覆うようになっていて、肩の部分を固定始点として、頭部を完全に動かないように固定する仕組みになっている。
ラバーフィットスーツの肩の部分には、ヘルメットを受け止め固定するジッパーのレールが一周付けられていた。
そして、両耳であった部分の3つの左右それぞれのコネクターがヘルメット側の接続コネクターと接続され、
ゴーグルの呼吸液を供給するチューブと排出するチューブ、ゴーグルの機能を保持するコード類がそれぞれヘルメットの
チューブやコードと接合された。あごの下にあるバルブもヘルメットのチューブと接続された。
そして、これらのチューブやコード類は、ヘルメットの後頭部に当たる部分作られた統一接続ソケットでバックパックと
接続されるのだ。ただし、あごの下に取り付けられたチューブはヘルメットを装着されると同時に私の口腔部に
粘着性口腔用充填剤が口腔内に流れ込み粘り着くような状態で口腔内の全ての空隙を埋めていった。
喉元のバルブ接続ソケットがヘルメットのバルブに接続された。このバルブから続くチューブはヘルメットの内部を
通ってヘルメットの首の付け根にバックパックの接続弁が設営されている。
ヘルメット全面部の処置が終わるとヘルメットの後半分が左右両側から閉じられ首筋の首の部分の2つの
脳神経接続コネクターとヘルメットの内部のコードが慎重に接続され、ヘルメットが完全に頭部から肩までを閉じこめた。
脳神経コネクターは、ヘルメットの後部の首の部分に接続コネクターがもうけられていて、
バックパックと接続する仕掛けになっていた。ヘルメットを装着する最後の仕上げとして、肩の部分のジッパーのレールと
ヘルメットの下部のジッパーを勘合させ、アイロンのような機械で溶着され、頭部も恒久的に完全密封された。
ヘルメット装着の作業はこれだけではなかった。肩から上のバルブやコネクター、それに統一接続ソケットにチューブや
ケーブルなどが再び接続された。その上で、ヘルメットの前の部分の一番下の部分にあるバルブにチューブが接続され、
そこから、透明度の高く、流動性のある充填液が注入され、隙間無く作られているヘルメットに僅かに出来ている空隙が
埋められていった。空隙に入った充填剤は、ラバーフィットスーツ装着用接合剤と反応し、
ゼリー状に硬化するようになっている。少し、表情を作れるような工夫がされているし、ヘルメットのフェースプレートが
くもってしまうことがないようになっていた。
ヘルメットの圧迫感もすごいものがあった。頭全体を常に掴まれているようだった。それに首から上をまったく
動かすことが出来ないと言うのも精神的に一層の圧迫感になっていた。しかし、眼球の動きだけで360度の視界が
自分のものになるのは、今までにない感覚だった。私の視界は、フェースプレートとバックパックのビューシステムの
連動により、遠くのものを見ることが出来たり、小さなものを拡大したり、
暗闇でもものが見えたりするようになると言うことだった。そして、このシステムを眼球の代わりに人体に埋め込めるように
したものが、私のごく近い将来の目になると言うことだった。
「どうですか、ラバーフィットスーツを装着した感想は?」
佐藤ドクターの声が聞こえた。再び、コミュニケーションサポートシステムが接続されたようであった。
「なにか、まだきつくて痛いし、新しい視界にも慣れてないので、戸惑っています。」
私が答えると、
「そうかもしれないわ。私も慣れるまでそうだったから。ところでラバーフィットスーツのアクセサリーを着けて、
ラバーフィットスーツの装着は完了よ。その後は、バックパックを接続して永久装着型宇宙服への人体の封入作業は
終了というわけ。もう少し、我慢していてね。」
そう言うと、佐藤ドクターは、ラバーフィットスーツ用のブーツを持ってきて、私のラバーフィットスーツで覆われた脚に
特殊強化プラスティック製のブーツを履かせた。
このブーツは、膝下までのロングブーツでラバーフィットスーツ装着用接合剤でラバーフィットスーツに固定されると
熱加工型ジッパーで半永久的に脱げないようにされた。
このブーツの特徴は、どんな地盤面でも確実に活動できるようなグリップ力を持っていて、宇宙空間では、
どんなものにも吸い付くことが出来て、身体をホールドする機能がついていた。
しかし、やはり、圧迫感を感じるのと低重力の惑星でも地球と同じように活動できるように重りが入っているため、
地球上で履くのには、かなり重いものであった。トレーニング用の鉛入りシューズを履いているかのようであった。
そして、両腕には、両腕の手首の部分のコネクターに接続され、手首の部分に腕時計のような装置を接続された。
「この装置は、マニュアルでラバーフィットスーツを操作するコントロール装置です。普通は使うことはありません。
なぜなら、普段は、装着者の脳が、バックバックのコンピューターと連動、協調しいろいろな機能を自在に操ることが
出来るからです。しかし、バックパックのコンピューターとの接続に異常が発生した場合、
手動でラバーフィットスーツの機能を動かさなくてはいけない状況が生じることを想定して、
この装置が取り付けられています。ですから、通常は、エマージェンシー訓練のとき以外、使用することはありません。」
さすがに、いろいろな状況が想定されて機能が付加されているんだ。やっぱり、永久装着され、
脱ぐことが困難なスーツで、着る人間の生命維持が何重にも考えられているようなのだ。感心している私を尻目に、
佐藤ドクターとまりなさんは、私に取り付けられる最後となるバックパックをケースから取り出し、調整を開始していた。
調整が終了すると私に取り付けられた全てのケーブルとチューブが取り外され、いよいよ、
バックパックとの接続作業が開始された。
まずバックパックのチューブ類が肩口の呼吸システムのチューブから始まり、液体栄養供給管、
排尿管などが次々と接続されていき、次にケーブル類が首から始まって順次接続されていった。
最後に脳神経とバックパックコンピューターの接続コネクターと統一接続ソケットがバックパックからのケーブルに
接続されバックパックと身体の接続作業が終了した。続いて、ラバーフィットスーツにバックパックを
取り付け固定する作業が始まった。ラバーフィットスーツの背中についている金具にバックパックを取り付け恒久的に
外れないようにラバーフィットスーツの背中に取り付けられた。
そして、チューブやケーブル類の長さの微調整をおこなって、私へのラバーフィットスーツ装着処置は完了した。
佐藤ドクターが私に話しかけてきた。
「これで、ラバーフィットスーツを装着する処置を完了しました。他の9名のドナーもラバーフィットスーツの装着が
完了したようです。明日からは、火星探査・開発用サイボーグになるための準備訓練に入ってもらうことになります。
毎日過酷な訓練や教育が続けられることになります。頑張ってください。
今度は、サイボーグ手術の時、お会いできると思います。それまで、事故の無いように気を付けてください。」
そして、佐藤ドクターは続けた。
「これから、この服で生きていくための注意事項を説明します。これを守らないとバックパックの機能が停止して、
重大な事態を招くことがありますから、よく聞いておいてね。必ず、バックパックの側面についている補給・メンテ用
コネクターソケットに毎日レストパートが始まるときに居室についている補給・メンテ用ケーブルを必ず接続してください。
この補給・メンテ用ケーブルを接続することにより、バックパックや体内の装置の駆動用電池への電力供給、
そして、バックパックに溜まった老廃物質の除去、液体呼吸液の交換、液体栄養の補給をおこない、
毎日の活動を常に最良の状態で始められるようにするために必要なことなのです。万一、この作業を怠っても、
72時間から80時間は、生命を維持できるようになっていますが、呼吸液の劣化の問題で、
72時間を超えると意識レベルの低下が始まります。最悪でも、補給・メンテ用ケーブルを接続しないで活動できるのは、
72時間と言ったところです。くどいようですが、それを超えると非常に危険な状態になりますから、注意してください。
それから、このラバーフィットスーツは、このような大規模な処置施設でも脱ぐことが非常に困難なものだということを
認識してください。このスーツの特性はお話ししたと思いますが、小さな完全密室にいるのと同じ状態であり、
どんなことをしてももう自分では脱げないのです。つまり、絶対不可能なことだけれど、如月大佐がこの施設から
脱走を企てたとしても、72時間しか逃げ延びることが出来ないと言うことです。だから、そう言った意味でも、脱走して、
生き延びるのは不可能なのです。脱走でないにしても、72時間経ったら、補給・メンテ用ケーブルのある施設に
戻ってくることです。そうしないと、もがき苦しみながら、生命の危険な状態から死に至ることになってしまいます。
私たちは、終身刑の囚人の立場に近いものがあるのです。そのことだけは覚えておいてください。」
「いろいろな機能に関しては、明日からの訓練で学んでいき、自分のものにしてください。このスーツの応用が、
如月大佐たちがなる予定の火星探査・開発用サイボーグの技術になっているのです。きっとこの服の中で生きた経験が
役に立つと思います。明日から、頑張ってくださいね。幸運を祈ります。」
そう言うと、佐藤ドクターと前田ドクターが敬礼して、処置室を出て行った。
「さあ、はるかさん。居住エリアに戻りましょう。」
「そうね。」
まりなさんにいわれ、そう答えると、私は立ち上がろうとした。
ラバーフィットスーツのバックパックは意外と重く立ち上がるのに苦労した。
そして、歩き出すと強化樹脂で作られたブーツの重さで歩くのにも苦労するほどだった。
それに、ラバーフィットスーツ装着用接合剤が残っているため、グニョグニョした感覚がある。
「はるかさん、バックパックとブーツの重さとラバーフィットスーツのきつい装着感に慣れるまでちょっと苦労するけど
我慢してね。すぐになれるから。それから、グニョグニョした感覚があると思うけどそれの4〜5日の辛抱だから我慢して。
それより、ラバーフィットスーツ装着用接合剤が皮膚に完全に吸収されて皮膚とラバーフィットスーツが
本当に一体化するときの痛みは、本当に経験できない激痛だから、それに耐える準備をしておいてね。」
そんなに痛いのだろうか?不安が心の中に広がってきた。でも、心づもりだけはしておいてその時を迎えれば大丈夫よ。
きっときっと。そう心に決め、意志で解決できるとその時は思っていた。
何とか、重い身体を引きずるようにして居住エリアに戻ってくるとそこには、
いろいろな機材とつながった背もたれの部分がバックパックの形にくぼんだリクライニングシートが2つ置かれていた。
「右側の薄緑色のものがはるかさん専用のリクライニングシートです。左のものが私が座るものです。
正確な個別体型に合わせて作られたものですから、違うリクライニングシートに座ることは出来ません。
自分専用のリクライニングシートでゆっくりくつろいでください。」
まりなさんのシートは、私の身体のデータを監視し、コントロールするための壁のコントロールパネルや
私のシートとつながった機材に囲まれていた。私をサポートする任務を常に行えるようになっているのだ。
何もかもが、私たちを機械の身体にして、火星に送り込み生きさせるための体制で動いているからなのだ。
「さあ、まりなさん、自分のシートに座って休んでください。このエリアでくつろいだり、睡眠をとるときは、
このシートで過ごしてください。ラバーフィットスーツの簡単なチェックやメンテナンスも出来るようになっていますから、
このシートが訓練や教育を受けていないときの生活の基本になります。」
まりなさんに促され、シートに座った。シートは、私のラバーフィットスーツの身体を包み込むように完全にフィットしていた。
私が座ると上部の空間を残して、半透明シールド板がシートのまわりを包んで、開放型カプセルのようになった。
落ち着く空間だった。そして、まりなさんが補給・メンテ用ケーブルを私のバックパックに繋いでくれた。
バックパックと補給・メンテ用ケーブルを繋いだ状態でも座り込むことが出来るようにそこの部分に溝がついていた。
「今日は、私が補給・メンテ用ケーブルを繋ぎましたが、明日から、このエリアに戻ったら自分で補給・メンテ用ケーブルを
自分のバックパックに繋ぐ習慣を身につけてください。
この作業は、自分の生命を維持するための最も重要な作業なのですから。
一人だけでおこなう宇宙飛行ミッションの時にはサポートする人はいないのです。
だから、この作業は、自分だけでおこなうのです。いいですね。」
「まりなさん。わかりました。明日から頑張るわ。」
私がそう言うとまりなさんが続けた。
「そうです、頑張ってください。これから7日間は、ラバーフィットスーツが装着されたことへの馴化のためこのエリア内で
休息していただきます。このラバーフィットスーツの姿ではるかさんがいる期間でとれるまとまった休息の最後となると
思います。ひょっとするとサイボーグ手術を受け、火星探査の任務を遂行して、地球に帰還するまでの中でも沿い後の
長期休息になるかもしれません。ゆっくり休んでください。」
そう、まりなさんはいうと自分のリクライニングシートに入り、操作盤に向かって仕事をし始めた。
私は、座位の状態で、ぼんやりと自分の姿を眺めてみた。
私を包むラバーフィットスーツは、ゴム独特の光沢を放った薄緑色をしていた。
そして、胸に如月はるかという文字とMARS1という認識番号が書かれていた。MARS1と言う認識番号は、
火星用探査・開発用サイボーグ被験者番号1ということを表していた。私のバックパックの背中にも
MARS1という認識番号とH.Kと言うイニシャルが入っていて、
すぐに火星探査・開発用サイボーグ候補であることがわかるようになっている。
もっとも、この薄緑色のラバーフィットスーツ装着者と薄青色ラバーフィットスーツ装着者は、
ラバーフィットスーツの色で火星探査・開発用サイボーグ候補であることがわかるのだが。つなぎ目のない服、
それに付随して脱ぐことを不可能にされたラバーフィットスーツ用のヘルメットとロングブーツ。
これが私の新しい身体の皮膚であった。もう脱ぐことが出来ないのだ、そして、後戻りできないのだ。
フェイスプレートには、ディスプレー化されており、ラバーフィットスーツの外部の情報、現在時刻(火星時間の表示で
私たちが任務に就いた日からの積算時間が表示されている。
これが、私たちに与えられている唯一のカレンダーと時刻である。身体の情報、その他のいろいろな情報が
見ている風景と同時に視界にはいるようになっていた。情報の選択表示も出来るし、消すことも出来る様になっていた。
表示モードの選択は、自分の意志でそのモードにしたいと思えば、その信号をバックパックのコンピューターが
キャッチし希望のモードで表示できるようになるのだそうである。ただし、本部からのモードコントロールが優先する。
そして、上位者からの指示命令も視覚情報としてディスプレーに浮かぶ様にもなっているのだった。
これからの訓練でディスプレーのモードコントロールも出来るようになるのだろう。
今はただ、たくさんの数字が浮かんでいるフェースプレート越しの景色を楽しんでいる状態なのだった。
フェースプレートに浮かんだ時刻が18時になった。私の聴覚に「ピッピッ」という電子音が聞こえた。
アクティブパートとレストパートの切り換え時間が着たのだ。特別のことがない限り、ラバーフィットスーツが
レストモードに変わる。エマージェンシーモードに切り替えることにより、パートの切りかわりにより身体管理システムが
切り替わることが無くなり、任意の時間の間アクティブモードに置かれるようにもなるモードもついているようである。
アクティブモードからレストモードに切り替わると覚醒状態を続けさせ、体力、精神力保持させるためのホルモンや薬剤に
代わって、精神を沈静化し、身体を休め、体力や精神力回復のためホルモンや薬剤がバックパックから体内に流れ出す。
自分自身の生活サイクルすら、ラバーフィットスーツに支配されているのだ。
本当に装着者を完全に管理する囚人服のようだ。
「レストパートに入ったから、そのうち、はるかさんは、睡眠サイクルに落ちてしまうから、今の内に身体のチェックを
おこなっちゃうから我慢して起きていてね。」
そう言っても、バックパックに支配されている身の上で、バックパックの命令にどこまであがなうことが出来るのか
心配だったが、何とか我慢できた。
「チェック終了です。本当は、アクティブパートが終了するまでにしなくてはいけなかった日課なのだけど今日は
ラバーフィットスーツ装着処置が長かったから、時間がおしちゃった。ごめんなさい。それではお休みなさい。」
まりなさんの声を聞きながら睡眠モードに落ちてしまった。まりなさんがリクライニングシートを睡眠用にフラットな
状態にしてくれた。身体が優しくサポートされていた。
ちなみにまりなさんたちサポートヘルパーは、私たち被験者のサポート業務のためレストモードとアクティブモードの
時間の割合が変えられているのである。彼女たちのレストモードは、21時から24時までに私たちのサポート業務の間
変更され、それでも、活動に支障が出ないような薬剤やホルモンで管理されているそうである。
また、私たちに異常が生じたり、緊急指令があったときは、すぐに覚醒モードに切り替わるようになっているそうである。
サポートヘルパーも大変過酷な任務なのだ。
私は、ラバーフィットスーツに馴化するための7日間は、部屋の中を歩き回ったり、まりなさんと話したり、
前田ドクターによる身体や精神のチェック、佐藤ドクターによるラバーフィットスーツのチェックで過ぎていった。
そして、5日目にラバーフィットスーツに馴化するための最後の試練ともいうべき皮膚組織とラバーフィットスーツの
一体化の生体変化による激痛が襲ってきた。ものすごい激痛にリクライニングシートの上でのたうち回ろうとして、
シートの身体サポートシステムに阻止され続けた。そして丸1日苦しんだ後6日目、激痛が嘘のように治まった。
前田ドクターとまりなさんがずっと付き添ってくれていた。
「やっぱり、麻酔を入れてもこの激痛には勝てないわね。よく頑張ったわ。もう大丈夫。」
前田ドクターの声に気づいた。
「この激痛の軽減が今後の課題ね。」
そう前田ドクターがつぶやくのが聞こえた。
これで、ラバーフィットスーツへの身体の馴化が終わった。今まで感じていたグニョグニョ感が無くなり、
ラバーフィットスーツを着ているという感覚がなくなり、全裸でいるような感覚に変わっていた。
もう、完全なラバーフィットスーツ装着者になったのだ。
7日目に最後のメディカルチェックが終わり、最後の長期休養期間が終わった。
次の日の0時に「ピッピッ」というアラーム音が頭の中に響くと同時にアクティブモードに私の身体をバックパックが
切り替えた。私の身体の生活パターンは、完全にバックパックという機械部分に支配されていた。
「はるかさん、おはようございます。長田部長がお呼びです。ご案内します。」
私は、リクライニングシートを座位に変え、リクライニングシートからゆっくり立ち上がった。
ラバーフィットスーツに馴化して、拘束感や違和感は消えたとはいえ、まだ、行動する動きはぎこちなかった。
「まだ、この位にしか動けなくてごめんね。」
私があやまるとまりなさんは、
「まだ、完全に馴化したわけではないので仕方ないですよ。でも、普通のラバーフィットスーツ装着者に比べると
慣れるのがさすがに速いです。さあ、ご案内します。」
私は、まりなさんの後をのそのそと付いていった。
居住エリアをでて、長い通路歩き、をブリーフィングルームに着くと木村局長と長田部長が待っていた。
木村局長も長田部長もラバーフィットスーツをフル装備で装着していた。
「よく頑張ったわね。もうラバーフィットスーツにある程度慣れたという報告を聞いています。
さすがにサイボーグ手術適正者ね。私たちは、あなた達にもう隠す必要もないから、
楽に居れる状態でお会いすることにしました。私たちのラバーフィットスーツ姿似合うかしら。」
私は、笑った状態を作りながら、答えた。
「木村局長のラバーフィットスーツ姿は初めて拝見しました。長田部長は2度目ですが、
お二人ともプロポーション抜群だから、うらやましいほど似合っています。自分とは比べものになりません。
私自身は、まだまだ戸惑うことも多いのですが、拘束感にも慣れましたし、装着の違和感もなくなりました。」
長田部長が笑いながらいった。
「ありがとう。お褒めにあずかり光栄です。如月大佐のラバーフィットスーツ姿も素晴らしいプロポーションが
強調されてなかなかのものよ。それに、コミュニケーションサポートシステムを使っての会話に表情のある会話が
出来ているし、フェースプレート越しの顔に表情も見てとれると言うことは、
かなりラバーフィットスーツに馴化した証拠だわ。素晴らしい馴化能力だわ。如月大佐はさすがだわ。」
そんな会話をお二人と交わしていると被験者の他の9人が部屋に入ってきた。
8名は私と同じ薄い緑色のラバーフィットスーツ、2名は薄い青色のラバーフィットスーツに全身をくるまれていた。
みんな、装着処置を無事に終わったのだ。薄い青色のスーツを装着した渥美大佐と大谷少佐の股間は、
装着処置によってピッタリフィットしたスーツにもかかわらずもっこりしていなかった。
その代わりにバルブが取り付けられているのがわかった。性器に手を加えられているのが一目でわかった。
渥美大佐が、私に向かっていった。
「はるか、あんまり俺たちの股間を見つめないでくれよ。恥ずかしいから。やっと何もない股間にれも、
直樹も慣れたところなんだから。」
「浩も直樹もごめん。別に凝視するつもりはなかったんだけど・・・。大変だったね。」
渥美大佐が答えた。
「お互いにね。みんな、この10人は辛い思いをしているのはいっしょさ。
俺たちより、みさきの方が辛い処置を受けているからね。頑張ったのは、みさきだよ。」
みんなが美々津少佐を振り返った。彼女は、キャタピラーが車輪の代わりに付いた台車の上に彼女の
下半身の切断形状にフィットするように設計された衝撃吸収材がついたスタンドに固定されていた。
彼女の下半身の切断形状は、両足を股の付け根で切断されているため、V字型になっていた。
そして、両腕は肩の付け根から切断されていた。そして、彼女の身体をピッタリと包み込むラバーフィットスーツと
ラバーフィットスーツ用ヘルメットが継ぎ目がわからないような形で装着されていた。私たちと同じように、
バックパックとラバーフィットスーツがチューブやケーブルで繋がれていて、背中にはそのバックパックが
恒久的に装着されていた。手足がない以外で我々と違う処置を受けているのは、手足の切断面に神経組織と
機械を繋ぐためのコネクターが作られていて、ラバーフィットスーツのその部分がコネクターカバーで
保護されていることだった。そして、台車をサポートヘルパーの清川渚が操縦していた。
「みさき!」
私が声をかけた。すると彼女の声が聞こえてきた。
「何をみんなそんな声をしているの?私の気持ちはとうに整理がついているのよ。みんな、私は、大丈夫だから。」
「美々津少佐、よく頑張りましたね。これからも頑張ってください。さあ、みんな、部屋に入って席についてください。
前川さん、美々津少佐を、前から3列目の位置に置いてあげて下さい。」
長田部長の指示で、私たち全員が席に着いた。私たちの座る席は、バックパックが邪魔で
座れないことがないような形状になっていた。
木村局長の訓辞が始まった。
「皆さん、火星探査・開発用サイボーグ候補の10名の皆さんと何事もなく再び会うことが出来てうれしく思います。
みんながそれぞれにいろいろなことが80日間で起こって、それぞれに乗り越えてきたと思います。
本当によく頑張ってくれました。しかし、ラバーフィットスーツを装着したことで、
あなた達の任務が完了したわけではないことは、もちろん認識してくれていることと思います。
ここからが、いや、もっと辛いかもしれないサイボーグ手術を受けて初めて任務が本格的に始まるのです。
ここまでは、準備段階のほんの一部にしか過ぎません。それを忘れないで、このプロジェクト本部で、
訓練を積んで下さい。皆さんに期待しています。」
木村局長の後を受け、長田部長が話し始めた。
「それでは、今日から、基礎訓練と、基礎知識の習得に入ってもらいます。きびしいものになると思いますが、
みんな頑張って下さい。これからのラバーフィットスーツで過ごす日々は、チームワークも問われると思います。
元々、士官学校の同期を選抜したのも、コミュニケーションを取り合いやすい相手同士ということもあったのです。
これからの時間で、これからのことをみんな自身でミーティングして下さい。
如月大佐、ミーティングの指揮を執って下さい。」
長田部長に指名され、私は、前に出た。
それでは、ミーティングを始めます。まず、みさきの身体に起こったことがみんな気になっていると思います。
みさきの口から話してくれますか。」
私は、みさきさんに促した。
「わかったわ。みんなに私の口から私がなぜこのような身体になったのか話した方がいいと、私も思います。
この処置について皆さんに知っておいてもらいたいの。前川さん、私を前に連れて行って下さい。」
指示を受けて担当のサポートヘルパーの前川さんがみさきさんの台車を操作し、みんなの前に連れ出し、
台車を停止させた。
「前川さん、ありがとう。後に下がって下さい。」
「了解しました。」
そう言って、前川さんが後に下がるとみさきさんが話を続けた。
「ここにいる10名全員に現実を共有してもらうためにお話しします。」
「みさきさん、大丈夫。」
私が言うとみさきさんが、
「みんなに正確に知ってもらう方が自分が楽になると思ったの。はるか、ありがとう。」
そう言うとみさきさんが話し始めた。
「私のラバーフィットスーツ姿を見て。みんなと同じ薄い緑色のラバーフィットスーツですが、違うのは、
手と足が完全に切除されていることです。どうしてこのような処置をしたのかというと、私のこのプロジェクトでの
サイボーグ候補としての適正は火星探査開発用サイボーグではなく、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグとしての
適正なのです。その適正の方がはるかに優れていると言うだけなのです。
ところで、惑星探査宇宙船についてのメインの積載物は、火星探査のための機材もしくは、
開発用の資材とそれを使うために火星に送り込む火星探査・開発用サイボーグなのです。
それらのものを少しでも多く積載して、宇宙船を火星に送り込むために無駄な重さを少しでも削る必要があるのです。
一方で、コンピューターと強調して、瞬時に判断を下し、宇宙船を自由に操るオペレーターも長距離探査宇宙船としては、
重要になってきます。コンピューターと人間を連動協調させて機械をオペレーションする技術は、
究極のブレインウェポンと言う形で研究を完了しています。
しかし、人間を脳だけの存在にするとその組織維持のための機械設備は現在の技術では、
かなり大がかりなものになってしまいます。それでも、脳や神経とコンピューター、
機械を接続することが一番理想的な宇宙船の制御システムになることも事実なのです。
そこで、折衷案として、人間の脳と神経を維持できる最低限の身体と、自己完結で宇宙空間でも脳を
生かし続けられるための機械装置の複合体の人体、つまり、サイボーグに改造して宇宙船と
接続したらいいのではないかと言う結論に達して、このプロジェクトの宇宙船のオペレーターをサイボーグにすることが
計画決定したの。そして、その惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの形状は、
手と脚というものが不必要であることがわかったの。なぜなら、宇宙船のオペレーションコントロールシステムに
繋がれ動かないように拘束され、宇宙船が自分の手脚と同じという存在になるから、手を使うことも、
脚を使って歩くことも不必要になるの。
そして、手脚を完全に切除すれば人体の個体としての重量も
劇的に軽量化できるし、脳の生命維持にも支障がない。手脚の切断したあとの切断面も面積が広いから、
神経組織とコンピューターを接続するコネクターとしても、端子がものすごく多くとれるから有利なことがわかったの。
ただし、手脚のない身体で、宇宙船のオペレーションシートからはずされ、地球上で生活することになったときに
歩くことも出来なければ、ものを書くことも掴むことも出来ない。
つまり自分だけでは何も出来ない身体にしてしまうことなの。しかし、火星に人間を送り込むため、
人体を改造するまでして計画を実行しようとしているのだから、宇宙船オペレーターだってその目的のために改造する
覚悟を決める必要があったの。そこまでの覚悟を私たちがしたら、
帰還後や搭乗前に惑星探査宇宙船操縦用サイボーグは、サポートヘルパーを24時間付けて生きていかせればいい、
その様な完全なサポートシステムを享受させることで身体の変化の代償を償ってもらえるという契約を
交わせばいいという結論に達したの。そして、候補者を選抜する作業に入って、選抜されたのが、私というわけです。
プロジェクトを開始した時点では、手脚の切断処置はサイボーグ手術の直前に行う予定だったのですが、
身体を機械化されるという精神的なショックと手足を失うと言う精神的なショックが同時に来たときの影響を考えたのと
手脚のない生活に早くなれてもらうことの理由でラバーフィットスーツ装着処置のときに手脚の切断処置を合わせて
行われることになったのです。私は、任務の重要性とその意味を理解し処置を受け入れました。」
私が続けた。「みさきのバックアップメンバーももうすでに決まっています。その人にも、
もうラバーフィットスーツ装着処置を行うときに通告済みです。」
「それは、私です。」
望さんが手を挙げた。
「そうです。私は、第2候補として心の準備をしておくように通告されているのです。
私から手脚がなくなるのは、第1次火星探査メンバー2名とバックアップメンバー2名が発表されたときになると思います。
私も気持ちの整理が出来て、覚悟できています。」
そう答えた。
「望が、たのもしく感じます。」
私がそう言った。そうして、話を続けた。
「なぜ、みさきの処置について話して、なおかつ体型を目の当たりに見てもらったかというと、
私たちを火星に運んでくれるのは、みさきか望のどちらかなの。つまり、二人がいなかったら、
このミッションを私たちが遂行できないということなの。だから、サイボーグになっての形状は、違うけれど、
この10名は、同じチームとして、チームワークを高めていくことが大事だし、お互いが、
たりないところを助け合っていく必要があると思っています。サポートヘルパーやドクター、その他スタッフとも良好な
関係を作っていくことも必要になってくると思います。このプロジェクトでは、お互いのことを考え、意識を統一して、
一丸となって任務を遂行していかないといけないのです。みんなが自分の殻に閉じこもっていてはいけないと思います。
これから長い、5セクションにも及ぶミッションですから、お互いの気持ちを一つにしていきましょう。
そのことを是非念頭に置いて欲しいと思っています。」
渥美大佐が、言った。
「それでは、今日から、基礎訓練と、基礎知識の習得に入いるけれど、楽しいことも、辛いことも、
お互いの存在を感じ合って、頑張っていこう。」
みんなが、「頑張ろう」と声を上げた。
みんなの気持ちが、より一層一つになったのを感じた。
そして、私たちの脱ぐことの出来ない宇宙服、ラバーフィットスーツでの生活が始まったのであった。
ラバーフィットスーツを脱ぐことを命令されたときが、私たちが、機械の身体を与えられるときなのだ。
その恐怖の日をまちながらの訓練と学習の日々が続くのであった。
少し、がんばって、長い投稿になりましたが、これで、ラバーフィットスーツ装着編を書き上げました。
一気の投稿をさせていただきました。
星へ往く人第二部は、いよいよ、如月はるかのサイボーグ手術を中心に物語を進める予定です。
サイボーグの構造の構想をまとめてスタートさせます。
もう、だいたいの構想が固まりつつあります。程なく再開させていただこうと思っています。
よろしくお願いします。
いろいろな展開も構想しています。
このスレの皆さんのご期待に応えられるような展開ができますよう構想を練って、再登場いたします。
あんまりにも鬼畜なお話なのに読み込んでしまう俺ってorz
乙!最高萌え。サイボーグ化がかなり楽しみです。
だるま娘化萌え!
手足の無い体に慣れるまでのあいだのもどかしさとかの表現も見てみたかったです。
手足の無い(しかも断端にはハードポイント)体で、自分の行きたい方にもぞもぞと動く姿とか想像して萌え。
これから全員どんどん変わり果てた姿になっていくんでしょうね。
個人的には、すべてのプロジェクトを無事に成功させた後、義体のデータ取り以外の任務から外されて、
ある程度自由時間ができたとき、変わり果てた体でどう自由時間を過ごすのかとか想像して萌えなんですが。
>>349 強制スリープで一件落着に600ヤギー。
>>350 みさき反乱ロケット勝手に制御して地球にUターンして
全開で着地、全員心中に700ヤギー
352 :
3の444:2005/06/25(土) 01:42:51 ID:PnU6TMbA
1,YAGIHASHI YUKO
夏の昼下がり。 ほどよく空いた府電の座席に腰掛けた私は、 後ろを振り返って窓越しに空を見上げた。
空は今にも泣き出しそうな鉛色。 まるで、 今の、 私の心の中みたいにどんより曇ってる。
宮の橋から武南電鉄で菖蒲端に出て、 菖蒲端の駅前で7番の府電に乗り換えて府南病院へ。 電車が必ず
信号待ちをする杉森町の交差店に、 時代遅れの古びた雑貨店があって、 店相応に古びたおばあさんがいつ
も暇そうに店番をしている。 地蔵坂の坂を下りきったところにある四階建ての雑居ビルの屋上に掲げられた
インスタントカレーの広告看板のお姉さんは、 私の気持ちがどんなに落ち込んでいても、 いつも張り付いた
笑顔を浮かべている。 どれもこれも、うんざりするくらい見飽きた。 通い慣れたいつもの私の通院路。 ど
んなことがあっても、 月に一度は必ず通らなければいけない道。
私は身体障害者。 月に一回、 病院に通わなきゃいけない身体なんだ。 といっても、 外見は至って
フツー。 ううん、 むしろ肌は血色よさそうで、 見た目は、 なまじっかな人よりはずーっと健康そうに見え
るはず。 私の向かいの席に座った、 この蒸し暑い夏の盛りに律儀にスーツを着込んだ疲れきった風貌のサラ
リーマンなんて、 「なんだ、 平日のこんな時間に、 ぶらぶら電車に乗ってるニート娘は。 俺はお前を税金
で養うために働いているんじゃねえや」くらい思っているかもしれないよ。
でもね、 電車の中の人はみんなは気付かないだろうけど、 私の体は、 この電車に乗っている誰とも違う
んだ。 みんなの体は血の通った温かい身体。 でも私の身体は冷たい機械。 手も、 足も、 血色よさそうに見
える肌も・・・、 モノを考える脳みそ以外はぜーんぶ作り物の機械なんだ。 義手とか義足とか、 体の一部を
機械に置き換えた人なら、 たまーにいるよね。 技術も進歩してるから、 外見からは判断つかないかもしれな
いけどさ。 でも、 私みたいに、 身体の全てを失って、 義体っていう、 人間そっくりに作られたお人形さん
の中に脳だけ閉じ込められている、 なんて人は滅多にいない。 こういう、 私みたいな人のことを、 国の法律
353 :
3の444:2005/06/25(土) 01:44:37 ID:PnU6TMbA
では、 義体化一級っていって、 形式的には重度の身体障害者っていうことになっているんだ。 障害者ってい
っても、 手足は思い通りに動くし、 眼も見えるし、 耳もちゃんと聞こえるから、 日常生活に不自由するなん
てことはないんだけどね。
でも、 そういう身体になると、 月に一回は、 いろんな機械の検査やら血液の補充やらで、 身体のあちこ
ちを、 いじられるんだ。 で、 その度に、 自分は普通の人と違うんだ。 機械女なんだって、 思い知らされる
んだよね。 でも、 それだけなら、 まだいい。 私も、 もうこの身体になって三年だもの。 そんなことには・・・、
自分の身体が機械仕掛けだってことには・・・、 慣れたくないけど、 でも、 いい加減慣れっこになっちゃったん
だよね。 だから、 いつもは検査だからって、 今日みたいに憂鬱になることはないよ。
今日、 私がくらーい気分なのには訳があるんだ。 それは、 今日の検査が入院検査だから。 私の身体は、
精密機械。 いってみれば、 家電製品とおんなじなんだ。 家電製品なんて、 三年もたてば立派な型落ち品だよね。
私の身体もそれと同じ。 義体化して三年もたつと、 身体に使われているある部品はもう工場では生産されて
いなくて、部品交換できません、 なーんて困ったことになる。 私の体を制御するサポートコンピューターの
プログラムも交換部品に併せて、 新しいOSをインストールしなおさなきゃいけない。 だから、 三年に一回は、
入院検査といって、 1泊2日かけて、 身体をバラバラに分解して、 サポートコンピューターと脳の接続も切ら
れて、 大掛かりに部品を交換しなきゃいけないんだってさ。 しょうがないから、 大学は、 夏風邪をひいたっ
てことにして休んだよ。 風邪なんか引くことがない身体なのに、 ホント馬鹿みたいだよね。
サポートコンピューターと脳の接続を切られるって、 どういうことか分かるだろうか? きっと分からない
だろうなあ。 私の身体は、 本当は眼も耳もないただの脳みその塊にすぎないんだ。 その私が、 なんで眼が
見えて、 耳も聞こえるかっていうと、 作り物の身体が受けた電気信号を、 サポートコンピューターが脳が
理解できるように変換してくれるからってわけ。 つまりサポートコンピューターの接続が切られるっていうのは、
354 :
3の444:2005/06/25(土) 01:46:06 ID:PnU6TMbA
身体の感覚を全部失うってことと同じことなんだ。 人間のもつ五感、 まあ私はもう味覚も嗅覚もないから三感
ってことになるんだろうけど、 それを全部失って、 上も下もない、 何も聞こえない、 どこにも逃げられ
ない真っ暗闇の中で、 検査が終わるまでずーっと待たなきゃいけないんだよ。
ずーっと昔、 まだ、 義体になりたてのとき、 義体交換で、 この感覚遮断を経験したことがあるけど、 ホン
ト地獄だよ。 暗くて、恐くて、 寂しくて、気が狂いそうになったんだ。 で、 今日もまた、 あの時の嫌な感覚
を味わわなければいけないんだ。 入院検査に向かう私の憂鬱な気持ち、 ちょっとは分かったかなあ。
重い足取りで、 南病院の長い廊下を歩き、 義体診察科の入り口にたどりつく。 受付の前で、 私の担当ケア
サポーターの松原さんが、 いつになくにこやかな笑顔で私をお出迎え。
「八木橋さん。 こんにちは。 ご機嫌いかがですか?」
「うー、 松原さん。 いいわけないじゃないかよう」
ぶつぶつ文句を言いながらも私は不思議だった。 いつもは約束の時間の30分前には来ていないと不機嫌な
松原さん。 なのに、 今日は約束の時間の10分前の到着だっていうのにずいぶん寛大だ。 ひょっとして、 松原
さん、 何か企んでる?
私の身体に残されたのは、 脳みそだけ。 普通は、 失った感覚を補うように、 他の感覚が鋭くなるって
いうけど、 私の場合は残された脳みその働きがよくなったり、 勘がよくなったり、 超能力に目覚めたり、 な
んてことは、 残念ながら、 ない。 元の、 にぶーい頭のまんま。 でも、 そんな鈍感な私の脳みそでも、 松原
さんの様子がいつもと違うなあってピンときたんだ。
「八木橋さん。 あのね。 写真を撮らせてください」
案の定、 松原さん、 おかしなことを私に頼んできた。 写真だって? 私の写真なんかとって、 何するつも
りなんだよう。 ぜーったい、 何かよからぬことを企んでいるんだ。
「松原さん、 こんなところで写真なんて、 藪から棒に、 なんなのさ。 どうせ、 友達かなんかに機械人間って
どんな感じなの? 写真とってきてよ、 くらい言われたんでしょ。 嫌だよ。 ぜーったい嫌っ!」
355 :
3の444:2005/06/25(土) 01:46:50 ID:PnU6TMbA
「違いますっ! 私、 そんなことしませんっ!」
松原さん、 気色ばんで、 ぷーっと頬っぺたを膨らませた。
「じゃあ、 なんで私の写真なんかとるのさ」
「会社の義体使用患者のデータ登録の更新に必要なんですっ。 別に変なことに使うわけじゃあり
ませんっ」
松原さんがいうには、 イソジマ電工のコンピューターに、 イソジマ電工の全義体ユーザーの登録がして
あって、 三年おきの検査の時に、 外見の写真も更新する必要があるんだそうだ。 まあ、ルールってことな
らしょうがないけどさ、 でも、 どうせ義体なんて成長するわけでも、 老けるわけでもないから、 私の外見
は、 高校二年生のときのまま、 何一つ変わっていない。 わざわざ写真なんか撮ることないのにね。
「写真を撮られることが分かってたら、 もうちょっとましな服を着てきたのに・・・。 化粧だって全然して
ないし」
なおもぶつぶつ不平を言う私。 だって、 私が今日着てきた服なんて、 ユニロクの黄色のTシャツにジー
ンズだよ。 化粧だってしてないよ。 デートするわけでもなく、 友達に会うわけでもなく、 ただ病院と家を
往復するだけだと思ったから、 ホント適当な格好をしてきたんだ。 でも、 どうせ写真を撮られるなら、見
栄えよく撮られたいって思うよね。 いくら身体が機械だって、 私だってやっぱり女なんだからね。
「そんなことないですっ。 八木橋さん、 とっても可愛いですよ。 その服だって、 普段の飾らない自然な八
木橋さんって感じがして、 すごく似合ってると思います」
松原さん、 こんなお世辞を言う人だったっけ? でも、 褒められてまんざらでもない私。
結局、 いざ写真を撮るとなると、 入院検査のことも忘れて、 この写真は笑顔がよくないだの、 角度が
悪いだの、 あれこれ注文をつけて、 五回くらい松原さんに撮り直しをお願いしてしまったのだった。
松原さん、 ごめんなさい。
356 :
3の444:2005/06/25(土) 01:56:46 ID:PnU6TMbA
皆様、ご無沙汰でござんす。
ちょっと立て込んでいて、書き込めなかったのですが、ようやく暇ができました。
待ってくれた方、有難うございます。
大学編の第一話を書くと予告してましたけど、それは次回にまわして、今回は
リハビリを兼ねて、小ネタにします。
題名は「くしゃみ」
ヤギー、大学一年生、はじめての入院検査の時の話です。
manplus様
はじめまして。
力作の立て続けのうpお疲れ様です。
人類の未来のために、志願して人間を捨てる。なんとも切ない話です。
はるかさんやみさきさんに較べたら、どんなに身体が機械でも、人間
扱いされているヤギーの悩みなんて、ちっぽけなものでしょうね。
ヤギーが、宇宙開発事業団で働く義体の人と会ったら、どんなことを
思い、どんな影響を受けるのか。読みながら、そんなことを考えて
しまいました。
3の444様
はじめまして。
ひさびさのヤギーシリーズ登場ですね。
毎回楽しみにしております。
ふつうの女の子であり、ふつうの生活を送っているにもかかわらず、
ふつうの女の子とは違い機械の体をもつ。
そんな女の子の感情表現毎回感心しながら読ませていただいています。
ヤギーのしぐさがかわいくてとても楽しく思っています。
きっと、特殊な環境で生きるために改造され、人間とは違った世界で生きるよりも、
普通の世界に溶け込もうとしながら生きていくサイボーグのほうが
つらい生き方なのだろうと思いながら読ませていただいております。
今後ともよろしくお願いいたします。
虞祭坊様
これからの展開どうなるのか楽しみです。
組織にどの様な経緯でサイボーグにされ、そして、何があって逃げ出してきたのか、
コンゴの展開楽しみに待っております。
今後ともよろしくお願いします。
前389様
はじめまして。
沢木さんの体の変化、機械と魔法の組み合わせ、オムニバスな印象でとても楽しんでいます。
コンゴの展開を楽しみにしております。
前82様
清水さんの訓練の様子が早く読みたいです。
期待しております。
manplusさんの話は、鬼畜な内容ながら必然性があって作者さんの良心を感じます。
冷戦時代の米ソで、これに近いことがあったのではと思いながら読みましたよ。
359 :
3の580:2005/06/26(日) 00:17:56 ID:VxeTNdqi
>>352 お疲れ様です。
再開、お待ちしておりました。久しぶりに聞くヤギー語、やっぱりいいですねぇ…。
府南病院へ向かう道筋のごく日常的な風景と、八木橋さんの憂鬱な心情とがしっく
りと溶け合って、静かなもの悲しい雰囲気を感じさせます。444氏の作品は、こう
いう描写が素晴らしいと、読むたびに思います。
八木橋さんの、入院検査について淡々と語る口調が、かえって人と違う機械の身体
なことの悲しみを強調しているように感じます。「慣れっこになっちゃった」とい
う言葉に至るまでに、何度、辛くて悲しい思いをしてきたのでしょう…。
誰が見るわけでもない、記録のための記録のような写真でも、綺麗に撮られたいっ
ていう女心は、可愛いなぁ…と思います。満足のいく写真が撮れたのでしょうか。
どんな顔をしているのでしょうか。見てみたいものです。でも、あれだけ憂鬱と言っ
ていながら、「入院検査のことも忘れて」というあたり、いかにも八木橋さんらしくて、
微笑ましいです。
入院検査と題名の「くしゃみ」、一体、どんな関係があるのでしょうか。この先の
展開がとても楽しみです。
>>356 >ヤギーが、宇宙開発事業団で働く義体の人と会ったら
いつか、そういうお話も読んでみたいです。
360 :
3の444:2005/06/26(日) 01:02:25 ID:YCytKk7s
2 MATSUBARA MIDORI
ここは義体診察室。 白っぽい部屋の中には、 コンピューターや検査用計器が所狭しと並べられて、
八木橋さんに関する様々なデータを逐一表示している。 その部屋の丁度真ん中にある、各種の義体接続
用の機械が収納された義体患者専用のベッドの上に、 八木橋さんがいた。 いや、正確には八木橋さん
だったモノと言ったほうがいいのかもしれない。 さっきまで、 このベッドの上で、 あれほどうるさく、
「サポートコンピューターの接続を切らないで、 嫌だよう嫌だよう」と喚いていた女の子が、 今、
もの言わぬ、 変わり果てた、 まるで壊れた人形みたいな姿で、 私の前に横たわっていた。
白い入院服を脱がされて、 裸でベッドに寝ている今の八木橋さんには上半身しかない。 彼女の腹部
から下の外皮は全て取り除かれて、 鉛色に光る軽金属製の骨格や、 複雑な形の電合成リサイクル装置や
栄養液の貯蔵タンク、 それに様々な色のコードの束が露出していた。 両足はというと、 部品交換の
途中なんだろうか、 完全に身体から外されて、 別の台にバラバラに分解されて、 無造作に置かれている。
下半身に較べればまだ上半身はまだ人間らしさをとどめているけれど、 皮膚のコーティングが全部剥が
されているから、 普段は見えない関節部分の継ぎ目が目立つし、 修理をするためなのか、 ところどころ
皮膚が取り除かれて、 そこから内部の複雑な電子機器類が丸見え。 両腕も肘から先は、 外皮が外され、
細かい電線の集合体である暗緑色の人工筋繊維の束が半分外れた状態で、 人工骨にぶら下がっていた。
顔だけは幸いにも八木橋さんそのものだけど、 見開かれた目は虚ろに天井を見つめるだけで生気の
かけらもない。 まるで人形の顔そのものだ。 サポートコンピューターとの接続を切られた彼女には、
きっと何も見えていないだろう。 今、 八木橋さんの脳に繋がれているのは、 脳を生かすための生命維持
装置だけ。 きっと、 八木橋さんの心は、 深い深い暗闇の中を一人寂しく彷徨っているに違いない。
ベッドにつながれた脳波計のモニターに映し出れる八木橋さんの脳波のギザギザの波形が、 モノを言わ
ない八木橋さんの心の叫びを映し出しているように見えた。
361 :
3の444:2005/06/26(日) 01:04:20 ID:YCytKk7s
(ごめんね、 八木橋さん)
私はスーツのポケットからカメラを取り出すと、 心の中で何度も謝りながら、 目の前の、 バラ
バラに分解された八木橋さんの姿をカメラに収めた。 角度を変えて、 何枚も、 何枚も。 カメラの
シャッターを押すたびに、 私の胸がちくりと痛んだ。
さっき、 私が八木橋さんに説明したことは、 半分は本当、 でも半分は嘘だ。 私が、 八木橋さんの
写真を撮ったのは、 義体使用患者のデータ登録の更新というのもあるけれど、 それは表向きのこと。 今
回私が会社から命じられたのは、 八木橋さんの使っているCS-20型義体の宣伝資料を製作するための義体
外観及び内部構造写真を撮ること。 なんでも、 ライバル社、 ギガテックスの義体を使っている、 ある
病院に、 今度うちの会社が営業をかけるらしい。 そのために義体使用患者のナマの資料が緊急で必要に
なったから、 たまたま都合よく検査入院をする八木橋さんを使って、 撮影をしてしまおうってことに
なったらしい。 もちろんこのことがばれたら、 患者のプライバシー侵害で訴訟にも発展しかねないから、
八木橋さんには絶対秘密にしてほしいとのことだった。
半分機械みたいな自分の姿を、 会社の営業用の資料写真に使われる。 決して外部に漏れない資料と
はいえ、 八木橋さんにとって、 こんな屈辱的なことはないだろう。 そして、 本当なら、 義体患者の
気持ちを第一に考えて行動しなければいけないケアサポーターの私が、 会社のお先棒を担いで、 率先
してこんなことをやっている。 八木橋さん、 私にこんな姿を写真に撮られているってことを知ったら、
どう思うだろう。 機械の身体だということに、 人一倍コンプレックスを抱いている彼女のことだもの、
きっと気が狂わんばかりに怒って、 私を責めるだろう。 二度と口を聞いてくれないかもしれない。
――なんで、 私はこんなことしてるんだろう。
362 :
3の444:2005/06/26(日) 01:05:49 ID:YCytKk7s
イソジマ電工といえば、 世界でも有数の義肢、 義体メーカー。 世間では一流と言われている理系
の大学を卒業した私は、 義肢や義体の設計や製作に携わることを夢見て、 ここイソジマ電工に入社し
てきた。 なのに、 私が配属されたのはケアサポーター部。 義体の患者と正面から付き合わなければ
いけない、 最前線の部署だ。 私は、 話好きではないし、 人付き合いも苦手。 そんな私がどうして、
こんな部署に配属されたんだろう。 私が女だから? 女には義体や義肢の開発なんてできないと思われて
いるから?
今の私のやることといえば、 検査のたびに新しい部品ができたと八木橋さんに勧めては嫌がられ、
営業成績が上がらないと上司に怒られ、 検査入院といっては何百万という高価なお金を取り、 時には
こんなふうに会社に命じられるままに、 義体の内部写真を撮り・・・。 ああ、 私は何をやっているん
だろう。 こんなことをするためにイソジマ電工に入社したんじゃなかったのに。 もう、 こんな会社
なんて辞めたい。 いやいややっているケアサポーターなんて、 八木橋さんにだって迷惑で失礼な話
だろう。 でも、 私には会社を辞める勇気も思い切りも、 そして会社に逆らう度胸もない。
“松原さん。 私、 こんな辛い思いはしたくないよ。 たとえ、 いつわりの感覚でもいいんだ。 こう
して、 サポートコンピューターの接続を切られている間に、 何かいい夢を見られるような機械って
ないんだろうか。 例えば、 モンゴルの草原とか南の島で遊ぶ夢が見られるようなさ。 そんな機械が
あったらいいな”
363 :
3の444:2005/06/26(日) 01:12:03 ID:YCytKk7s
ふと、 八木橋さんが、 自分の身体の電源を落とされる直前に、 泣き出しそうな、 でも決して
泣くことのできない顔で、 ポツリとそうこぼしていたのを思い出した。 八木橋さんの顔は、 その
時の悲しげな表情のまま、 眼を開いて凍りついたように動かない。
ごめんなさい。 さっき八木橋さんが言ったこと、 私、 上に必ず報告します。 どんなに八木橋
さんのことを守ってあげたくても、 ひとたび会社に命令されたら、 例えそれが八木橋さんが嫌がる
ことだったとしても断ることができない臆病な私が八木橋さんにしてあげられることなんて、 そんな
ことくらいしかないもの。 そんな夢みたいな機械、 いつかできるといいね。
そろそろ八木橋さんの検査が再開される時間だ。 私は、 そっと八木橋さんの眼を閉じてあげると、
義体診察室から抜け出した。
364 :
3の444:2005/06/26(日) 01:30:18 ID:YCytKk7s
本編でははじめて別人の視点を使って、検査入院のさなかの
ヤギーを外から描写してみました。ヤギー語が染み付いているので
松原さんの言葉で語る一人称視点はちょっと難しかったです。
ぎこちなかったらご勘弁を。
>>357 ヤギーの仕草が可愛らしいなんて言っていただいて有難うございます。
私は、これからも普通の女の子の普通の日常を地味に書いていく
つもりです。どうかよろしくお願いします。
>>359 八木橋ワールド的日常描写ですが、これって全然21世紀の風景じゃ
ないですよね。古さと新しさが同居する、八木橋ワールドのならでは
の光景ということで、ご勘弁ください。
写真は、記録のための記録じゃ、ありませんでした。思いっきり
誰かに見られてしまいます。すみません。
それでは、いつか宇宙開発事業団勧誘編もやってみましょう。
電源を落とされ固まったヤギーに萌えました。
サポートコンピュータが普通のパソコンみたいにフリーズしたら嫌です。
サポコンのosにwinやmacは、怖くて使えないでしょうね。
manplusさんサイボーグモノのツボを突かれて、興奮が止まりません!!続き楽しみにしています。
367 :
名無しさん@ピンキー:2005/06/26(日) 04:26:13 ID:9sDtkkHA
ロボコップはDOSで動いていたような、オムニ社の技術は凄いんだか、凄くないんだか
>>367 イパーン人が使うもんじゃないんだから、メモリ食うばっかのGUIはいらないんだよ。
複雑なプログラムはバグの温床になるし。
でもオートモは無駄に日本語表示だったな(w
>>364 >古さと新しさが同居する、八木橋ワールドのならでは
>の光景ということで、ご勘弁ください。
パトレイバー劇場版で登場した下町の世界に近いかな?
371 :
3の580:2005/06/26(日) 17:23:07 ID:VxeTNdqi
>>360 お疲れ様です。
松原さん視点のお話、凄くいいです。こんな分解シーンを読めるなんて…ここまで
徹底して容赦のない描写で読めるなんて…。もう、マジで萌え死にました。
八木橋さんの写真が宣伝資料に使われてしまうというのは、意表を突かれました。
イソジマ電工に入社したら理想と現実の板ばさみになる、そんなことを言われるずっ
と前に、会社の非情な理論の犠牲になっていたのですね。可哀想に…orz 分解さ
れた身体を、会社都合で、担当の義体医師やケアサポーター以外の人の目に晒され
るという状況設定が、萌えに更に拍車をかけます。状況設定の発想といい、いつも
通りの不運さ加減といい、本当に、こんな素晴らしいお話を読めて幸せです。
入院検査って、数百万もかかるのですか。それに加えて、月々の検査もそれなりの
費用がかかるのですよね。誰も頼れず、たった一人でこの重圧に耐えているのです
よね…。なんとなく想像はしていましたが、実際に、そう書かれてしまうと、八木
橋さんが置かれている状況の厳しさに、改めて涙してしまいます。
電源を落とされる直前のセリフと泣き出しそうな顔…八木橋さんの感覚遮断への恐
怖と辛さが滲みでていて、こちらまで泣きそうになります。この時の松原さんの報
告が、遥遥亭の開発の原動力になったのでしょうか。それなら少しは救いを感じら
れますが…。本当は八木橋さんのことを大切に思いながら、それとは逆のことをし
なければならないことへの苦悩ぶりが、松原さんの人柄をよく表していて、登場人
物としての魅力を高めています。こういう登場人物の多彩さも、 444氏のお話の魅
力の一つだと思います。
>>364 私は、綺麗で整然とした未来都市より、雑然として雑多なものが混み合っているカ
オスな空間や、前時代的な古びた物の方が好きなので、今の世界描写の方が魅力を
感じます。それに、今の描写の方が、八木橋さんが住む世界には相応しいと思いま
す。私の書き方が悪くて、この気持ちをお伝えできなかったようで、申し訳ないです。
宇宙開発事業団勧誘編も楽しみです。勧誘する側がどんな人物なのか、どんな勧誘
をするのか、それが八木橋さんにどう影響するのか。期待に胸が膨らみます。
372 :
3の444:2005/06/26(日) 19:29:20 ID:ahIQliNY
3 SALESMAN AND DOCTER
「君もしつこいねえ。 うちの病院はずーっとギガテックス製の義体を使うことに決まってるんだよ。 だいたい、
イソジマさんの義体は義体化したときのリハビリも大変で、 ケアサポーターも置かなきゃいけないから、 人件
費もかかるしねえ」
黒の豪華な革張りのソファに深々と腰掛けた白衣姿の白髪の目立つ恰幅のよい男は、 目の前のスーツ姿の
若い男をちらりと一瞥すると、 タバコの煙を深々と吐き出した。
「先生、 先生。 まあ、 まあ、 そう言わずに、 話だけでも聞いてくださいよ。 今は、 弊社の義体も大分進歩
しているんですから」
若い男は、 営業マン特有の手馴れた愛想笑いを浮かべながら、 鞄からモバイル形のノートパソコンを
取り出す。
こいつ以外の医者はだいたい落とした。 しかし、 ギガテックスからいくらもらっているのか知らないが、
最後に残った肝心かなめの、 こいつが一番の難物だ。 こいつさえ落とせば、 おそらくこの病院はギガテックス
からうちにひっくり返るはずなんだ。 正念場だぞ。
若い男は、 自分にそう言い聞かせた。 さあ、 戦闘開始だ。
「とりあえず、 弊社の義体の中でも最も標準的なCS-20型をご紹介します。 基本的には日常生活用ですが、
潜在出力が大きいため、 日常生活はもちろん、 小改造で特殊な環境下まで幅広く対応できる汎用性の高い義体
だと思います」
若い男は、 慣れた手つきでキーボードを叩く。 と、 パソコンの上の何もない空間に、 突然画像が浮かび
上がった。 最近流行の空間スクリーンだろう。
空間スクリーンに映し出されたのは、 眼鏡をかけた黄色っぽい色のTシャツを着た高校生くらいの年頃の女
の子。 ピースサインで無邪気に笑っている。
「ああ、 女の子だね。 この子が義体なの? こんな若いのにねえ。 可哀想に」
つい今しがたまでソファでふんぞりかえっていた白衣の男は、 興味を惹かれたのか、 身を乗り出して、
空間スクリーンの画像に見入った。
373 :
3の444:2005/06/26(日) 19:30:50 ID:ahIQliNY
「そうですね。 これは女性型の義体ですね。 形式番号でいうとCS-20Fということになります。 えと、 義体
の外見年齢は16歳。 この子は義体化して三年だそうですから、 今は19歳ということになるんでしょうか」
「ところで、 イソジマさんの義体は眼鏡がデフォルトなの? それとも義眼の調子がおかしいの? 眼鏡をかけ
てる義体なんてはじめてみたんだけど」
「これはですねえ、 この子が物好きなんですよ。 なんでも常体の時に眼鏡をかけていたから、 その時の感覚
を忘れたくないとかで。 弊社の義体ユーザーの中でもちょっと変わった子ということで有名なんです」
若い男は苦笑いしつつ説明する。
どうも、 変な実例を出しちまったな、 義眼の故障と思われなきゃいいがと若い男は内心舌打ちした。 イ
ソジマ製の義体は故障率が高いなんて先入観を与えてしまったら、 それこそまとまる話もまとまらなくなる。
「外観は、 本当に普通の人間と変わらないよね。 いや、 よくできてる。 外観の仕上げはギガテックスさん
よりも上なんじゃないの? 」
白衣の男が新しいタバコを取り出したので、 すかさずライターを差し出す。 話がそれ以上眼鏡に向かわ
なかったので、 若い男は内心ほっとした。
「お褒めいただいて有難うございます。 弊社は出自が義肢、 義足メーカーですから、 人工皮膚の質感につい
ては、 ギガテックスさんに比べ一日の長があると自負しております」
「まあ、 外観はね。 肝心の中身が伴っていなきゃ、 どうしようもないけどね。 外見だって、 この写真だけ
じゃ、 この子が義体だって証拠は何一つないんだから」
白衣の男はタバコの煙を吐き出しながら、 意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ご指摘、 ごもっともです。 そこで、 こんな画像も用意致しました」
若い男にとっては、 その突っ込みは予想済みだった。 むしろ、 相手が自分の土俵に乗ってきた証拠だ。
よし、 このまま一気に落としてやる。
若い男は勢い込んで、 空間ディスプレイの画像を切り替えた。
374 :
3の444:2005/06/26(日) 19:32:09 ID:ahIQliNY
「うわっ。 見事にバラバラじゃないの。 眼鏡はかけてないけど、 確かにこれさっきの女の子だね。 いや
いや、 恐れ入りました」
空間スクリーンに表示されたのは、 先ほど女の子が、 上半身だけの姿になって、 身体のあちこちから機械
部品を露出させて、 裸でベッドの上に横たわっている画像だ。 見ようによっては猟奇的に見えなくもない
画像だが、 義体医師である白衣の男にとっては、 こんな光景は日常茶飯なのだろう。 嫌がるどことか、 感
心したように画像に見入っている。
「この子の入院検査のときの画像です。 こっちのほうが内部構造が分かりやすくていいと思います。 ギガテッ
クスさんの義体とも比較しやすいと思いますし。 では、 まず弊社製の義体の特徴である、 電合成リサイクル
機構から説明していきましょうか?」
若い男は、 型どおりの説明を続けながら、 今日はどのクラブに連れて行けばよいか、 どのくらいの接待
費用を使えばいいのか、 頭の中で瞬時に計算していた。
4 YAGIHASHI YUKO
休み時間も終わって、 大学生協の本屋から教室に移動する最中のことだ。
「ふぁ、 ふぁ、 ふぁ、 くしょん!」
なんだか鼻がむずむずするなあと思う間も無く、 私はカバみたいに大きく口を開いて勢いよくくしゃ
みをしてしまった。 くしゃみをするなんて久しぶりのことだったから、 うっかり、 口を手で覆い隠すの
も忘れてね。 ホント、 恥ずかしい。
え? え?
くしゃみだって? おかしいよ。 全身義体の私がくしゃみなんかするはずないんだ。 それに鼻だって
飾りでついているだけで、何の機能もないはず。 その鼻がむずむずするなんてそんなことあるんだろうか・・・。
私の身体、 どうしちゃったんだろう。 どこか変なところが壊れちゃったんだろうか。
375 :
3の444:2005/06/26(日) 19:38:26 ID:ahIQliNY
「ヤギーがくしゃみするなんて珍しいねえ。 風邪がまだ完全に直ってないんじゃないの? 無理して学校
に来なくても、 まだゆっくり家で休んでいればよかったのに」
くしゃみをしたかと思うと、いきなり立ち止まって蒼ざめている私を見た佐倉井が心配そうにそう言った。
入院検査の時、 私、 佐倉井には風邪を引いたから休むって連絡したんだ。 だから、 佐倉井にして
みたら、 私の風邪がまだ治っていないって誤解するのも無理ないよね。
「うー、 佐倉井。 違う。 違うんだ。 風邪じゃない。 私の風邪はもうすっかり治ってるから心配しないで」
ああ、 風邪かあ・・・。 本当に風邪をひくことができる身体だったら、 どんなに素晴らしいだろう。
「じゃあ、 ひょっとして誰かがヤギーのこと噂してるんじゃないの」
佐倉井は、 さっきの心配そうな表情とはうって変わって、 今度はいつものニヤニヤ笑いを浮かべ
ながら私の顔を見た。
「誰かが噂してるから、 くしゃみが出るだって? 今は21世紀の科学万能の世の中なんだよ。 そんな
迷信なんていまどきはやらないよう・・・、 は、 は、 くしょん!」
ああ、 どうしよう。 くしゃみ、 止まらないよう。
「ヤギー君、 モテモテだね。 羨ましいよ。 全く。 けけけ」
「ぶえっくし!」
おしまい
376 :
3の444:2005/06/26(日) 19:54:47 ID:ahIQliNY
以上で「くしゃみ」は終了です。小ネタなので、一気に仕上げて
しまいましたがお楽しみいただけたかどうか・・・。
>>365 たくさんの刺激を一気に受けすぎて、サポートコンピューターが
処理しきれず固まってしまうヤギーというのも面白そうですね。
どんなシチュエーションが考えられるだろう。
>>370 うう、すみません。その映画は見たことがないんで分からないん
です。とにかく古いものも新しいものもごちゃまぜになった世界
ということで。今回は私としては、相当無理をして、空間ディスプ
レイなんてものを出してみました。
>>371 別人視点ははじめてだったので、うまく書けるか不安でしたが
萌えていただいてよかったです。調子に乗って、今回は三人称って
やつにも挑戦してしまいました。
今回の話は、580さんから頂いた素晴らしい絵なしには成り立ち
ませんでした。私のしたことなんて、ただ絵の内容を描写したに
過ぎません。私こそ本当に有難うございます。あとで、サイトも
更新しますので、スレの皆さんもごらんになってください。
松原さんは、今回の話しでキャラクターの方向性がばっちり決まり
ました。あとは勝手に動いて活躍してくれることを期待します。
くしゃみ、にやりとしました。
義体とくしゃみの組み合わせなんて、この話だけで独創的です。
SW EP3でグリーバス将軍が咳しまくってたけどな。
>manplus氏
みさきの台車がみさき専用仕様なら、そのうち断端コネクタに台車を神経接続して、みさきが自分で台車を動かすようになるのかも。
手足が無い体に慣れるだけじゃなくて、コネクタに接続された機械を操縦することにも慣れていかなきゃいけないから。
もちろん生身の手足と仕組みも感覚も全く違う装置で、なかなかうまく操れなくてもがくと。
>>358 同意。
でも、一つだけきになることが…。
徹底的に軽量化するのなら、本当は下半身をまるごと切断して、上半身だけ(もちろん両腕も切断する)にするのが一番だったりする。
リアルだと排泄とか大変らしいけど、ここまで体をいじってるともう関係ないしw
でも、その設定だと萎える罠…orz
>>380 現実的には血液を作る骨髄として腰骨を残す必要があったのでは?
大人では平な骨の骨髄が最も血球を作るらしい。
それと神経接続を簡単にするためには脊髄をできるだけ温存した方がよいだろうし。
382 :
3の580:2005/06/29(水) 00:11:45 ID:lkak7EWG
>>372 お疲れ様です。
題名は最後のオチから来ていたのですね。くしゃみをするはずのない義体と、噂話
の迷信の組み合わせの妙が見事です。八木橋さんと佐倉井さんとのやりとりも、相
変わらず楽しかったです。今回のお話は、短いこともありますが、あまり深刻な内
容にもならず、萌えの要素が満載の素晴らしいお話でした。
イソジマ電工とギガテックスの営業面でのシェア争いという、泥臭い現実そのもの
の場面で、八木橋さんの無邪気な笑顔が写った写真の場違いさや、営業マンと義体
医師との、本人の人格を無視した義体サンプルとしての扱いぶりなんかも良かった
です。普段は八木橋さんをからかってばかりのような佐倉井さんが、八木橋さんの
身体を気遣う様子は、やっぱり親友なんだなぁと思いました。そういうさりげない
描写が好きです。
>>376 三人称で、虚虚実実の営業の駆け引きの様子がよく出ていると思います。
私の絵よりも、 444氏の描写の方が、遥かに萌えを感じます。こんな萌えなお話を
書いてくださって、本当にありがとうございました。八木橋さんのお話で、分解シー
ンを見られるなんて思っていなかったので、喜びもひとしおです。
八木橋さんとは微妙に反りが合わないように見える松原さんも、心の中では色々と
考えたり悩んでいることが分かってよかったです。患者とケアサポーターの関係も
いろいろな形があるのですね。八木橋さんの担当者としての今後の活躍に期待します。
>>381 火星往復飛行では放射線を大量に浴び白血病の恐れがあるため、
骨髄破壊処置を行い、人工血液にすべて置換するというのは。
384 :
M.I.B.:2005/06/30(木) 02:11:38 ID:nOIvSLH/
[ ヴァルキリー03データ確認… ]
[ OS… OK ]
[ 動力炉… OK ]
[ 機体反応… Error ]
[ 機体再起動… Error ]
[ 機体限定起動… OK ]
目が覚めると、そこは見覚えのある作業台の上だった。
身体が動かない。
(そうか、さっきの戦闘のダメージが…)
何とか動く首を動かし身体を見ると、そこには大きな穴がいくつも開き酷い有様だった。
戦闘が終わり敵が火柱に包まれ活動を停止したのを確認すると、SAFEモードに移行し、意識を失ったのだ。
多分、回収班がここまで運び込んだのだろう。
応急処置は終わっているようだったが、首から下のコントロールは切り離されている。
(誰かモニターしているだろうから、待っていよう)
そんなことを考えていたら、三島技官が部屋に入ってきた。
385 :
M.I.B.:2005/06/30(木) 02:12:19 ID:nOIvSLH/
「目が覚めたようね。調子はどう?」
疲労が隠し切れない顔で三島技官は語りかけてきた。
「あ、はい。大丈夫です。とりあえず、首から上は問題ありません」
その答えを聞きながらキーボードを叩き、難しそうな表情でモニターを見る三島技官。
「どうやら、生体部分にはダメージは無いみたいね。でも、ボディーの方はかなりダメージが厳しいわ。
次の襲撃まではいつも通り一週間の猶予があると、ミミールも言っているわ。
そこで、貴女のボディーの修復はこちらでやっておくから、貴女には完全休養が許されることになるみたい」
完全休養。通常許されない距離までの外出が許される、私たちにとって最高のOFFだ。
「詳しくは司令に聞いてちょうだい」
笑いながら、三島技官は言った。
「明日香さんは、どうなったんですか?」
自分の扱いについての話に一段落着いたので、一番気になっていたことが自然と口から出た。
独断専行とそれによる戦闘不能なほどの被害。私たちにそれが何のお咎め無しで許されるはずが無い。
「ヴァルキリー02は、思考に偏りがありと認められ、実戦での運用を一時凍結。再教育プログラムが組まれることになったわ。
小林博士が担当することになって、プログラムが終了するまで博士のラボから出てくる事は無いわ」
再教育プログラム… 改造されたての頃、教育プログラムと称し、半ば拷問まがいのプログラムがあった。あれが再び行われるんだろうか。
いや、あれでは済まないだろう。あれ以上の精神的、肉体的苦痛を与えられ、思考操作しようとすることだろう。
それを想像するだけで、恐怖で震える様な気になる。
「貴女もそんなことにならないように気をつけてね」
深刻そうな表情で言う三島技官に思わずうなずく私だった。
386 :
M.I.B.:2005/06/30(木) 02:12:52 ID:nOIvSLH/
「綾さんは、どうです?」
これ以上この話題を続けるは恐ろしかったので、別の話題を振った。
「彼女はそれほどダメージを受けている訳ではないから、通常通りに整備を受けて休んでいるはずよ」
その言葉にホッとする。
「この一週間は彼女一人で待機状態を維持してもらうことになるから、頑張ってもらわないと」
そうだ、現状で私が完全休養に入ると活動状態にヴァルキリーは綾さんだけになってしまう。
「でも、過去のデータからこの一週間は安全なはずだから、そんなに気にする必要は無いわよ」
そう言って笑う三島技官だったが、私は少しだけ安心できないでいた。
これは兵器として、常に戦闘状態にあったことのせいだろうか…
運ばれてきた擬装用ボディーに接続し換え、服を着て司令室へと向かう。
司令室には、醍醐司令と小林博士が話し合い、離れた所に綾さんがいた。
「先程の戦闘は辛くも勝利を得ることが出来た。だが03のダメージも大きい。
そこで、ダメージを受けたボディーは改修。03には五日間の完全休養を許可する」
私たちが入ってくるのを確認すると、司令は小林博士の言葉を遮り通達を始めた。
「だが、02に関しては思考に偏りがありと認められるため、実戦での運用を一時凍結。再教育プログラムを実施することとする」
その言葉に、綾さんも悲しそうな顔をする。
「これにより、待機状態の機体は01一機になるので注意を怠らないように」
「「はい!」」
私たちは同時に答えた。司令はそれを確認すると踵を返そうとする。
「司令、話は終わっていません。量産機の開発を・」
その背中に、小林博士の声が飛ぶ。
だが、司令は力強く切って捨てた。
「くどいぞ、小林博士。許可できないと言ったはずだ」
そのまま退室する司令の背中を眺めつつ漏らした小林博士の言葉が、後ほどあのような結果になるとは、このときは誰も思っていなかった。
387 :
3の444:2005/06/30(木) 02:21:07 ID:/zxEOkfi
この四月から、 私も星修大学教育部所属の大学生。 憧れのキャンパスライフだよ。 それでもって、
初めての一人暮らし。 心がうきうきしないっていったら嘘になるよね。 駅前から星大正門まで伸びる学
園通りの桜並木みたいに、 私の心も花満開だあ! と、 いうことで、 今日、 私は入学より一足早く、
下宿先を決めようと、 電車に乗って遠路はるばる武南電鉄の星修学園前までやってきたのでした。
学園前だったら大学のすぐそばで何かと暮らしやすい、 女の子だったらイメージ優先で海沿いの星ヶ
浦が人気、 賑やかで、 お店がたくさんあるところが好きならトンパチ(東八軒坊)界隈も悪くない。
早速飛び込んだ、 駅前の不動産仲介業者、 城口ウランで、 私の応対をしてくれた佐倉井さんっていう
ポニーテールの元気なお姉さんは、懇切丁寧に私にそう教えてくれた。
星ヶ浦だってさ。 そんな地名、 聞くだけで、 興奮して胸がドキドキする気がするよね。 もう、
心臓なんかないってこともすっかり忘れてさ。 だって、 テレビによく紹介される、 あの星ヶ浦だよ。
星ヶ浦の喫茶店通り沿いの小さいけれど、 センスのいい、 洒落たマンションなんか借りて、 大学の
友達を家に呼んで一緒にだべる。 彼氏とバルコニーから海を眺める。 そんなテレビドラマのヒロイン
みたいな生活ができたら、 どんなに楽しいだろう。
でも・・・、 そんなこと、 私には無理だよ。 まず、 お金がない。 事故の時におりた保険金は、
月々の検査のために大切にとっておかなくちゃいけない。 青森のおじいちゃんに学費以外のことに頼る
わけにはいかない。 だから、 私にはそんな高いところに住めっこないんだ。 星ヶ浦はもちろん、
星大前だって、 トンパチだって、 ちゃんとしたワンルームの部屋は私には高嶺の花。 それに...、
もっと肝心なことがある。 例え安い物件だったとしても、 下手に大学の近くに住んで、 友達なんかが
家に遊びに来ちゃって、 「ヤギーの家には冷蔵庫も食べ物も食器もコップも何一つないない。 何食べて
生きてんの?」なんて突っ込まれたらどうする? 友達の間で噂になったらどうする? それがもとで私の
身体のことがばれたらどうする? また、 高校時代と同じになっちゃうじゃないか。 そんなこと、私に
388 :
3の444:2005/06/30(木) 02:22:00 ID:/zxEOkfi
は耐えられない。 でも、 だからといって、 友達のためだけに、 今の私には全然必要のない冷蔵庫や食
べ物や食器を用意しろっていうの? そんな、 虚しくて、 自分がみじめになるようなこと・・・私には
できないよ。
トイレだって、 今の私には必要ないし、 汗をかくことだってほとんどないから、 風呂だってたい
して入る必要はない。 だから、 トイレ風呂共同の貸間みたいなところで充分。 私には必要最低限、 寝る
場所さえあればいいんだ。 大学に通うのにそれほど不便な場所でなければ、 もっと離れた場所でもいい。
友達なんか、 遊びにこないほうがかえっていいんだもん・・・。 機械女の私なんて、 そんなところで充分
だよ・・・。
せっかく期待に胸をはずませて星修学園前駅を降り立ったのに、 のっけから、厳しい現実の壁にぶち
当たって、 佐倉井さんの話しを聞くうちにどんどん一人で落ち込む私。 いけない。 いけない。 私の未来
への第一歩は、 今、 ここからはじまるんだ。 どんなところだって、 私にとっては立派なお城のはずだよ。
もっと楽しいことを考えなきゃ。 もう家政婦まがいの仕事をする必要もない、 自分は食べることなんて
できないのに食事の準備だけやらされることもない。 学校でみんなの視線に怯えながら、 機械女だって
陰口をたたかれながらすごしていくこともない。 今までと較べたら天国じゃないか。
「うー、 もっと安いところはないかなあ。 別に部屋にトイレがなくてもいいんだ。 風呂だって共同で
いい。 それから、 大学からは、 ちょっと離れていて、 でもそんなに遠くないところ。 そんなところっ
てないかなあ」
気を取り直した私。 今まで、 ずーっといかにも女の子の好きそうな、 お洒落な雰囲気のワンルー
ムマンションばっかり紹介されてたから、 なかなか言いづらかったんだけど、 思い切って自分の希望を
言ってみた。 そうしたら、 案の定、 佐倉井さんは意外そうな顔をしたんだ。 きっと、 内心は女の子
の割にはずいぶん変わった物件がお好みなのねって思ったに違いないよ。 でも、 佐倉井さん、 やっぱ
り親切に物件の登録されている台帳をめくったり、 パソコンで検索したりして、 調べてくれた。
待つこと五分。
389 :
3の444:2005/06/30(木) 02:22:55 ID:/zxEOkfi
「こんなのどうかしら」
佐倉井さんは、 五冊目の古びた台帳の終わりのほうのページを開いて、 私に向けるとにっこり微笑んだ。
「最寄駅は宮の橋。 住所は東京都菖蒲区宮ノ橋坂下3-15『はるにれ荘』駅から徒歩分。 トイレ、 風呂共同で
家賃格安」
宮の橋? それってどんなところだろう。 昨日調べた星大のホームページには載ってなかった地名だけど。
耳慣れない地名に思わずキョトンとする私。 佐倉井さん、 私の様子を察して、 すかさず補足説明。
「宮の橋っていうのはね。 武南電鉄でいうと東京側に二つ戻ったところ。 距離は近いけど、 途中、 団子坂
峠っていう峠をこえなきゃいけないから、 自転車通学には不便なのね。 それであんまり星大生には人気がない
ところなの。 でもね、 駅前は昔ながらの下町商店街って感じの賑やかなところだし、 ヤマイデパートってい
う大きなデパートもあるわ。 生活に不便はないはずよ」
そう言いながら、 ページをもう一枚めくる佐倉井さん。
「これが、 外観写真。 それから、 これが部屋の中ね」
写真に写ったはるにれ荘。 よく言えばレトロ調。 でも悪くいえば、 ただのボロ屋だよね。 出窓のついた
外観は貫禄ある古びた洋館っていえなくもないんだけど、 水色に塗りたくったペンキが全てを台無しにして
いる。 少なくとも本来の木目ってやつを大切にしてほしいよねって私は思った。 間取りは図面で見る限り、
流しと小さな押入れがあるくらいで、 絵に描いたような六畳一間だ。 家賃は安いけど、 正直言って、 あまり
惹かれなかった。
390 :
M.I.B.:2005/06/30(木) 02:28:03 ID:nOIvSLH/
随分ご無沙汰になってしまいました。
新章の始まりです。
>前82さん
ついに改造が終わりましたね。ラストまで頑張ってください。
>前389さん
徐々に侵食していくソーサレスエンジンの恐怖がひしひしと感じられます。
どこまで変わってしまうのでしょうか?さらなる変化が待ち遠しいです。
>虞祭坊さん
警察が介入してきて、この先の展開が楽しみです。
>3の444
知らない間に自分が商品サンプルとして使用される。そんなシチュエーションですか。
これはばれた時の反応が怖いですな。
>manplusさん
凄まじいスピードと素晴らしい描写。凄いですね。
私が書いたと同じくらいの量を一気に書き上げてしまったのに、とても高いクォリティを維持できるとは・・・
しかし、前準備の段階でこれだけの改造とは。完成する時にはどんな姿になっているか興味深深です。
391 :
3の444:2005/06/30(木) 02:40:35 ID:/zxEOkfi
(別のやつはないかなあ)
私がそう言いかけたとき、 佐倉井さんが気になる一言。
「セールスポイント。 全自動化住宅ですって。 食事の用意、 洗濯などなど、 全てが全自動化されています。
はるにれ荘は居住者のお手を煩わせません」
佐倉井さんは、 まるでテレビショッピングみたいな口調でそういうと、 台帳から顔をあげた。 彼女、目じり
をピクピクさせて唇をかみしめて、 傍目から見ても笑いをこらえているのが分かった。
佐倉井さんの気持ちはよく分かる。 だって、 全自動化住宅だよ。 こんなボロ屋のくせに、 言うに事欠い
て全自動化住宅だよ。
私、 思わずプッと吹き出してしまった。 それを見た佐倉井さんも、 とうとうこらえきれずに爆笑。 しばらく、
カウンターを挟んで二人で笑いあっていたんだ。
「全自動の家だってさ。 なんだか面白そうな所だよね」
ようやく落ち着いた私。 すっかり気が変わって、 はるにれ荘に興味深深。
「じゃあ現地に行ってみましょうか? ていうか、 私も見てみたい。 その全自動住宅。 と、 いうことで早速管理人
さんに連絡をとってみましょう」
佐倉井さんの提案に、 私は大きくうなずいた。
392 :
3の444:2005/06/30(木) 02:46:57 ID:/zxEOkfi
予告どおり、大学編の第一話。「全自動化住宅」をはじめます。
ヤギー19歳の春です。
>>377 短い話は久々だったのですが、楽しんでいただけてよかったです。
>>382 迷信オチなんて、本格SFじゃあ許されないと思いますが、ファンタジー
ということで勘弁してください。
病院に営業をかけるイソジマ電工の営業マン。こんな義体の担当会社を
変えるビックプロジェクトが、こんな話し合いで決まっていいのかという
話もありますが・・・。現代におきかえれば、製薬会社が病院に営業を
かけるといった感じでしょうか。今回は八木橋視点ではかけない話が書けて
私も楽しかったです。
M.I.B同志。割り込む形になってしまってすみません・・・orz。
まさかカキコが重なるとは思わなかったので。お許しを。
相変わらずの萌え描写の連続、楽しく読ませていただきました。
三者三様の休暇、というか休暇ではないですね。これは・・・。
特に明日香さん。彼女はどうなってしまうんでしょう。可哀想に。
>もう家政婦まがいの仕事をする必要もない、 自分は食べることなんて
>できないのに食事の準備だけやらされることもない。 学校でみんなの
>視線に怯えながら、 機械女だって 陰口をたたかれながらすごしていく
>こともない。 今までと較べたら天国じゃないか。
詳しく。
394 :
前389:2005/06/30(木) 23:01:24 ID:/pJKh8Nb
7−1
「山根」の表札がかかった門をくぐる。 これで七度目だ。 呼び鈴は鳴らさなくていい事になっている。
黙って玄関のドアを開けると、いつものように、よどんだ空気が水底の泥のようにこぼれ出てきた。
靴を脱ぎ揃え、廊下に上がろうとしたところで、私は不自然な点に気がついた。
玄関に置かれている靴は、私のほかに山根さんのもの一足しかない。 今日だけじゃない、この家に来たとき、
山根さん以外の靴が置かれていた事は一度もなかった。
(まさか…ひょっとして)
隣の下駄箱を開けてみる。 思ったとおり、そこには女子向けの、どう見ても山根さんの靴しかなかった。
「何してるの、沢木さん?」
不意に、頭上から声が降ってきた。 いつの間にか、山根さんが下駄箱の前にしゃがむ私を見下ろしている。
「…ねえ、山根さん。 この家に住んでるのって、もしかして、山根さん一人なの?」
少しの沈黙があった後、
「そうよ」
と、短い返事が返ってきた。
「どうして、他に家族の人は? お母さんやお父さんは?」
詰め寄る私に背を向け、山根さんは切り上げ口調で答えた。
「出て行ったわ。 私に愛想をつかしてね」
395 :
前389:2005/06/30(木) 23:03:30 ID:/pJKh8Nb
7−2
その日は、恒例のチューブの挿入と問診が終わった後も、山根さんは私の拘束を解いてくれなかった。
「で、こないだの検査の結果だけど…エンジンの魔力生成量を増大させてみたら、せっかくの魔力が
沢木さんの身体から漏れ出している事がはっきり分かったわ。 どうやら、普通の人間は魔力生成だけでなく、
魔力貯蔵も出来ないみたいね。 そこで…」
山根さんが、机の上から一本の注射器を取り上げる。 中には銀色をした液体が詰まっていた。
「解決策として、沢木さんの全身骨格を魔力親和性の高い金属、ミスリルに置換してみるわ」
「えっ…えっ? 待って、私には全然話が…!」
全身骨格とか注射器とか、山根さんが私に何をするつもりなのか、さっぱり見えてこない。
「要するに、こういう事よ」
山根さんが、机の上に飾ってある猿の頭蓋骨に、注射器から一滴、その中身を垂らした。
丸い骨の天辺に水銀のような液体が染み込む。 次の瞬間、パキッ、と頭蓋骨が空き缶の潰れるような音を
たてた。
「あ……」
液体を垂らされた部分が銀色に変色している。
パキッ パキッ
音と共に、頭頂部から周囲の側頭部へ、そして顎へと銀色の領域が侵食していく。
やがて音が止んだとき、艶のない灰色だった骨は、すっかり光沢を放つ銀色となっていた。
「どう? 分かったでしょう?」
山根さんが、変わり果てた猿の髑髏を指で弾くと、カンカン、と鐘のような音が響いた。
メッキや塗装ではなく、髄まで金属に置き換わっている証拠だった。
「な…そんな………それを、私に?」
「そうよ。 でも安心して。 金属に置き換わるのは骨だけだから、誰かに見られても外見でバレる事はないわ」
注射器をもった山根さんが近づいてくる。
私は、声にならない悲鳴を上げた。
396 :
前389:2005/06/30(木) 23:05:32 ID:/pJKh8Nb
7−3
「動かないで。 私は医者や看護婦じゃないんだから、手元が狂ったらどこを傷つけるか分からないわよ」
暴れようとする私を、山根さんが機先を制して竦ませる。
ゆっくりと私の右手を押さえつけ、その拘束具の付け根、右手首に注射針を突き立てた。
「あっ…痛っ…!!」
静脈注射や採血とは全く違う、骨を目指した垂直な刺入。 激痛で右手が痺れた。
針の先端がすぐに骨に突き当たる。 山根さんがさらに力を込めると、針はあっけなく骨の内部に食い込んだ。
「ここね…」
注射するべき位置を定めた山根さんが、ピストンに親指を添えた。
「あ…やだ…やめ…!」
山根さんの親指が、一息にピストンを押し込む。 凍てつくような痛みと共に、銀色の液体が、私の中に
送り込まれた。
「あ…あ…」
注射針が引き抜かれる。 同時に、ゴキン、という衝撃が右手首を襲った。
「……っ!?」
骨を震わす重低音。 手首が折れたような錯覚にとらわれる。 さらに、
バキン、ゴキン
位置を前後して、続けざまに衝撃が走った。
何が起こっているのか、疑う余地もない。
私の体内で、白い骨が、銀色の金属へと置き換わっているのだ。 あの猿の頭蓋骨のように、薬液に侵された
位置からその周囲へと、理不尽な金属化反応が連鎖している。
「あっ……つっ……」
手首から先へ向かった衝撃が、掌から枝分かれし、五本の指の先端まで貫き通す。
もう一方、腕の付け根へ向かった衝撃は、肩口から胸へ広がりつつあった。
「やだ…やめて…それ以上入ってこないでぇ!」
腕という末梢から中枢たる胴体へ、私の人間としてのアイデンティティーを侵すように、骨組みが
金属と化していく。
397 :
前389:2005/06/30(木) 23:07:55 ID:/pJKh8Nb
7−4
胸を包むように進む、肋骨の金属化反応。 その半ばで、最大の衝撃が全身を貫いた。
―――ゴキン
「…か…はっ」
背骨だった。
体の中心にそびえる、私を支える最も太い柱が、一節ずつ、重い音を響かせてその役目を金属に奪われていく。
下方へ進んだ侵食は骨盤に達し、金属化の衝撃が、敏感になった下半身を包みこんだ。
「は、あぁ…」
そして、上方へと這い登った侵食は、首の骨を経て、ついに頭部に達した。
(お願い…その先だけは、頭だけは…!)
机の上の、金属化した猿の骨と目が合った。 銀色の髑髏が、私の頭蓋骨の末路を体現していた。
(…あんなの、いやぁぁ!)
首から下顎へ、耳のあたりを経て上顎へと侵食は進む。
鉄骨を破断するような鈍い音が、音源そのものの骨を伝って、鼓膜を内部から直撃する。
(やだ…やだ…)
側頭骨から頭頂骨へ、脳を直に包む骨が金属に侵されていく。
骨と金属の界面が、徐々にその包囲を狭め、
パキッ…
ついに頭の頂に収束した。
(あぁ…頭が、全部…)
今まで、私の脳を包み守ってきてくれた骨の器は、脳を格納する冷たい金属の檻となってしまった。
398 :
前389:2005/06/30(木) 23:11:07 ID:/pJKh8Nb
7−5
「…どうやら、無事に終わったみたいね」
手足の拘束が外される。 私は力無くそのまま床に崩れ落ちた。
「な…身体が、重い…」
「全身の骨が金属に置き換わったのよ、当然でしょう。 一日もすれば、筋力が底上げされるから、ほとんど
違和感はなくなると思うわ。 それまでの辛抱よ」
いつものように抑揚のない山根さんの台詞。
「…それまで?」
山根さん、全然分かっていない。 身体中の骨格が、隅々まで金属にされてしまった。 それがどんなに
辛い事なのか。
代謝機構みたいな、目に見えない仕組みがいじられるのとは全然違う。 手足でも、腰でも、首でも、
身体を押せば必ず返ってくる確固とした芯の感触。 これが、全て金属だなんて…
「山根さんは…なんとも思わないの? 私の身体を、機械に支配させて…金属に置き換えて…
私はもう嫌! これ以上身体をいじられるのは、人間でなくなっていくのは!」
「………」
「山根さんだって、もし自分が同じ事されたら嫌でしょう!?」
今まで常に無表情だった山根さんが、口元をかすかに歪める。
「別に…私なんか、ずっと昔から人扱いされてなかったわよ」
山根さんは、顔を背けると、そう呟いて部屋を去っていった。
廊下に響くその足音は、いつもより速かった。
399 :
前389:2005/06/30(木) 23:35:11 ID:/pJKh8Nb
>manplus氏
とりあえず一段落、お疲れ様です。
書くペースがお早いですね…
>444氏
販促資料にされてるシチュエーションですか。
萌えですよ。 一種の見世物シチュですね。
>M.I.B.氏
量産機ですか。 実現したらいいなあ。 ミリタリーには不可欠な単語ですしね。
SWのドロイドの群れみたいなのを連想します。
さすがにあれだけ大量なのは無理だと思いますけど…
魔法なんて設定を導入した以上、とことん異端なシチュエーションを追及してみました。
肉はそのままに骨だけ…あまり視覚的には面白くない話ですね
骨が金属に。骨に注射して金属に換わっていくさまは、読んでいて
体が痛くなりました。萌えました。
401 :
3の580:2005/07/01(金) 00:31:07 ID:wPhAgmh4
>>387 お疲れ様です。
出だしの明るさから、一転していつもの落ち込む八木橋さんに戻ってしまうのが哀
しいです。大学の近くに住みながら、友達なんか来ない方がいいなんて、未来への
第一歩を踏み出す時でさえ、人の目を気にして楽しいことに背を向けなければなら
ない境遇が、あまりにも哀しいです。これからの大学生活に期待する気持ちと、い
ままでと何ら変わらない不自由な制約の多い生活を憂う気持ちとの間で、心が揺れ
動く様に、胸を打たれます。結局、3年近く住んでなお、「薄暗い、生活感のない
冷たい部屋」と言わざるを得なかった、八木橋さんの心情を思うと、涙を禁じ得ま
せん。「立派なお城」という想いは、達成できなかったのですね。
「家政婦まがい…」というくだりは、青森のおじいさんのところではなく、どこか
に下宿して高校時代を過ごしたということでしょうか。高校時代も、辛い思いをし
ながら、生活費を自分で工面したということでしょうか。八木橋さん、本当に強い
人ですね。
丁寧な態度で接客する佐倉井さんからは、八木橋さんをからかう時の意地悪さが想
像できませんが、それだけ、八木橋さんには心を許すようになるということでしょ
うか。全自動化のくだりで、笑いあう姿からは、いい友達になれそうな雰囲気を感
じて、心が安らぎます。
現地見学で、どんなハプニングが起こるのでしょう。はるにれ荘の全自動化には、
どんなからくりがあるのでしょう。今後の展開が楽しみです。
>>392 私は、こういう、ありえない筈の物の組み合わせというネタが好きなので、今回の
オチも、とても楽しかったです。
>>前389様
拘束されて骨を金属化される描写、よかったです。
>>M.I.B.様
待ってました!量産化?興奮する言葉ですね!たくさんの少女たちがまた捕らえられて改造されてしまうのでしょうか?
>>383 そのうち(生身の)人が住む事を前提に作業しに行ってるのなら、
もう放射線遮断の技術くらいは確立してないと話にならない気もしますがw
実際問題、下半身切断して生きてる人はいるわけだから、
下半身の造血能力にたよらなくても、一応なんとかならなくはないのかも。
体が減った分、必要な血液も減るんだろうし。
機械に固定されて、機械の操作しかしなくなるなら、肉体労働的負荷は
ほとんどなくなるはずですね。
骨は金属よりむしろカーボンの方がいいような希ガス
人工血液にしたら、肌も生白くなるのだろうか?
405 :
名無しさん@ピンキー:2005/07/02(土) 06:36:17 ID:XpMbYC7l
>>403 >そのうち(生身の)人が住む事を前提に作業しに行ってるのなら、
>もう放射線遮断の技術くらいは確立してないと話にならない気もしますがw
現在の地上でも産業ロボットの技術のない国では、こんな感じですが
放射能なんて見えないものは気にしないニダ。
成分(身分)の低い香具師の白血病なんてケンチョナCry
406 :
名無しさん@ピンキー:2005/07/02(土) 08:34:38 ID:JRF17hyu
大事故で瀕死の重傷を受け命を救うためやむをえずサイボーグにされてしまったが
極度の貧乏なため、究極に安上がりなバーゲン品みたいなサイボーグにされてしまった
としたら、それはどんなサイボーグ?
生身は脳みそだけ、生命維持装置にカメラとスピーカーの付いた箱
あとネットにつながる端子か?
できる仕事は、ビル管理とかの監視業務や電子上の事務作業
通称、人柱
銀色の箱を指差しながら
「おい、確か求人には事務処理のできる20代女だったよな、コリャなんだ」
「社長、それ以上言うと差別発言とかで訴えられますよ」
阪華精機の社長
409 :
3の444:2005/07/02(土) 15:12:42 ID:NNN54VOk
国道に入って車の運転をマニュアルからオートナビに切り替えた佐倉井さん、 手持ち無沙汰になった
のか、 補助席の前にある収納箱から、 スナック菓子を取り出してポリポリ食べ始めた。
「八木橋さんも、どうぞ」
後ろを振り返って、 私にも分けてくれようとする。 けれど、 私がそんなもの食べられるわけもなく、
曖昧に笑って断るしかない。
「そうよね。 身体に悪いよね。 塩分ばっかりでね。 分かってるけどやめられないのよね」
佐倉井さんは、 そう言いながらもポリポリ。
「私の妹はね、 私とは逆に甘いものが大好きなの。 しょっちょう、 やれ新しいケーキ屋ができただとか、
喫茶店ができただとか言ってはいろんな所に出かけてるわ。 同じお腹から生まれた姉妹なのに、 私とは
正反対。 共通しているのは、 食べ物が好きってことだけ。 おかしいよね」
佐倉井さん、 聞きもしない妹の話をひとしきり話すと、 くすくす笑った。 こんな調子で車に乗った
ときからしゃべりどおしで、 私が口を挟む暇もないよ。
「妹はね、 春から星大の学生なんだよ」
へえ、 佐倉井さんの妹と私は同級生ってことになるんだ。 それは奇遇だ。
「八木橋さんも春から星大生なんでしょ? 学部はどこなの?」
「教育学部です」
「教育学部! 偶然ね。 私の妹も教育学部なんだって。 佐倉井清香。 ちょっと変わりものだけど、仲良
くしてやってね」
そのあと、 佐倉井さん、 妹の面白エピソードを次々に私に披露してくれた。 妹のことを話す佐倉井
さんは、 本当に楽しそう。 きっと仲のよい姉妹なんだろうな。 いいなあ、 きょうだいって・・・。 私は、
佐倉井さんの話しに笑いながらも、 妹をちょっと嫉妬した。
佐倉井清香さんか・・・。 どんな子なんだろう。 こんな明るいお姉さんの妹だもの。 きっと、 楽
しい子に決まってるよね。 早く会ってみたいな。 佐倉井さんの話を聞いているうちに、 妹に会う前から、
なんだか彼女と友達になってしまったような気がした。
410 :
3の444:2005/07/02(土) 15:13:57 ID:NNN54VOk
車はいつの間にか峠道を走っていた。 土地勘のない私のために、 ガイドさんに早がわりした佐倉井
さんの話しによれば、 この峠が星修大学のある星南市と菖蒲区の境になってる標高153mの団子坂峠なん
だって。 短い距離で、 一気に登るから道路はかなりの急坂だ。 なるほど、 毎日この峠を自転車で越え
るのはきついかもしれない。 さっき、 佐倉井さんが、 宮の橋は星大生に人気がないと言った理由がわ
かったような気がするよ。
今まで広葉樹の柔らかな緑が道路に覆いかぶさって、 まるで緑のトンネルみたいなところを走って
いたんだけど、 峠も頂上近くになったんだろうか。 だんだんと空が大きくなりはじめた。 海鳥なんだ
ろうか、 白っぽい鳥が、 私達の車の前にひらりと舞い降りて、 まるで道案内するみたいに、 すべる
ように飛んでいく。
「ほら、 八木橋さん見てごらん! 海だよ! 海」
佐倉井さんが指差す方向、 視界の遥か下に、 青い海が広がっていた。 穏やかな春の海。 空を舞
う海鳥の群れ。 沖合いにはいろんな国からやってきた鮮やかな色に塗られたコンテナをつんだ貨物船が
何隻も停泊して、 青い海のところどころをカラフルに彩っていた。 電車で来たときは、 この区間は
長いトンネルに入っちゃうから、 ここで、 こんな広くて大きな海が見れるなんてまるで知らなかった。
このあたりの海岸線は切り立った崖になっていて、 海沿いは岩場になっているから、 こんなに
都会に近いところなのに釣りのメッカになっている。 佐倉井さんは、 そんなことも私に説明してくれる。
もし、 このまま宮の橋に住むことになったら、 私は毎朝この景色を眺めながら、 通学することに
なるんだろう。 決して疲れることのない私の身体なら、 毎日自転車でこの峠道を往復したってへっ
ちゃらだもん。 電気は多少食うかもしれないけど、 それでも電車賃よりはずっと安くあがるはず。
朝日と海を見ながら、 風をきって坂を下る。 きっと、 気持ちいいだろうなあ。 機械の身体にだって、
たまにはいいことがあるよね。
411 :
3の444:2005/07/02(土) 15:15:12 ID:NNN54VOk
団子坂峠の坂を下るとすぐに、 私達の乗った車は広い国道をはずれて、 車一台がやっと通れる
ような、 車の窓から手を伸ばせば、 塀に触れてしまえるような、 細い路地に入った。 こんな裏道まで、
オートナビのシステムがフォローしているわけもなく、 佐倉井さんは器用に小さな車を操って、 狭い交
差点を右に左に曲がっていく。 ほどなくして、 右手にさっき写真で見たとおりの水色の古びた二階建て
の洋館が姿を表した。
「さあ、 八木橋さん。 お待ちかねの全自動化住宅についたわよ」
門を抜けて、 無造作に置かれている自転車を注意深くさけながら、 はるにれ荘の、 猫の額ほどの
駐車スペースに車を置いた佐倉井さん。 サイドブレーキを引きながら、 私のほうを向いて、 にいっと
笑った。
車から降りた私達をまず歓迎してくれたのは、 外付けの黒い階段の上でひなたぼっこしていた三毛
猫ちゃん。 私達の姿を見て、 ニャアと一声鳴いたあと、 面倒くさそうに立ち上がって、 塀を乗り越え
て隣の家に消えた。 狭い庭には長い物干し竿が三つも平行に置かれていて、 男物から女物から、 たく
さんの服が万国旗さながらに竿からぶら下がっている。はるにれ荘の壁沿いに植木鉢がたくさん並んで
いて、 ちょうと黄色いチューリップが花を咲かせている。 どこかの部屋でテレビを見ているんだろうか。
今人気の司会者の絶叫と笑い声がうっすら耳に入ってきた。
「さすが、 最新鋭の全自動住宅よね」
まるで昭和か平成で時が止まってしまったかのような佇まいに、 私と佐倉井さんと顔を見合わせて
おかしそうに笑いあった。
412 :
3の444:2005/07/02(土) 15:25:03 ID:NNN54VOk
ちょうど、 はるにれ荘の入り口では、 はるにれ荘の壁の色と同じ、 水色のワンピースを着た中学
生くらいの女の子が、 箒で地面を掃いているところだった。 ようやく春らしくなってきたとはいえ、
今の季節は、まだまだ寒い。 気温の変化はよく分からない私だって、 周りのファッションに合わせて、
今日は黒いセーターを着ているっていうのに、 この子、 こんな薄着で寒くないんだろうか。 私は、
ちょっと心配になってしまったけど、 女の子は寒いそぶりも見せず、 箒をもったまま、なんだか警戒心
丸出しの尖った目つきで、 私達に向かって駆け寄ってきた。
「ごめん、 お姉ちゃん、 ちょっといいかなあ。 私、 城口ウランの佐倉井という者ですけど、 管理人
さんはどこにいるの?」
佐倉井さんは、 女の子の剣幕にたじろぎながらも、 やさしく声をかける。
とたんに女の子の表情が和らいだ。
「ああ、 あなたがさっき電話で話した方ですね。 私、 ここの管理をしてます、アニーといいます」
アニーと名乗った、 五月人形みたいに整った顔立ちの、 色白の女の子は、人懐こい笑みを浮かべ
て、 ペコリと頭を下げた。
「あ、 あなたが管理人さんってこと?」
「はい。 そうですが、 何か?」
女の子の答えに佐倉井さんは一瞬たじろいだあと、 拍子抜けしたような苦笑いを浮かべてチラリと
私のほうを見た。 ずいぶん可愛い管理人さんだよね。 私もおかしくなって、つい口元を緩めてしま
った。
「お父さんか、 お母さんはいらっしゃらないのかしら?」
気を取り直した佐倉井さん、質問の仕方を変えてみた。
「無意味な質問ですね。 管理人は私です」
女の子は逆さまに持った箒の柄で地面をポンってつつくと胸を張った。
413 :
3の444:2005/07/02(土) 15:44:13 ID:NNN54VOk
今回はフェチ分少なめでした。すみません・・・orz。
>>393 いつか高校編に取り掛かるときに、いやというほど詳しくやるつもりです。
小公女セーラのノリで。それまでお待ちを。
>>401 佐倉井さん本人ではなくお姉さんでした。
「薄暗い、生活感のない冷たい部屋」我ながらひどい表現ですね。すまねえ
ヤギー。果たして本当に薄暗い生活感のない冷たい部屋なのか、それとも
住人との楽しい思い出がたくさん詰まった、狭いながらも楽しい我が家に
なるのか、話の展開で未来も変わってくると思います。
時系列がメチャクチャでその時の萌えの赴くままに話を進めてしまっている
ので、だんだん前後のつながりが矛盾しはじめていますね・・・。
前389同志
心ならずも今回私が389をゲットしてしまったことに気がつきました。申し訳
ないです。
機械化ですが、まず骨からという通常ではありえない展開が、いかにも
魔法ならではという雰囲気を醸し出しています。外見の肉体はそのまま
残っているだけに、機械化への恐さ倍増ですね。
それにしても、山根さんの最後の一言。気になります。
ラバーフィットスーツを装着されたあの日から、180日余り経ち、宇宙開発事業局に着任してから250日余りの時間が
過ぎた。
わたしたちは、訓練に次ぐ訓練を重ねこのプロジェクトのこと、火星のこと、宇宙船のこと、人間機械化工学、医学、
数多くの学問の専門家並みの知識を持つと同時に、基礎体力増強訓練などの厳しい訓練で一流アスリート並みの
体力と身体能力を手に入れ、宇宙空間の専門訓練、宇宙機材の操縦訓練などのアストロノーツとしての技能を
磨いてきた。
昨日、久々の休養びを与えられ、居住エリアで休んだり、まりなさんや、サイボーグ候補者の9名の仲間、
そのサポートヘルパーと楽しい会話をして過ごした。
そんな楽しい1日が過ぎて、新しいアクティブパートが始まった。
例によって、バックパックからのアラーム音とアクティブモードへの切り替え処置でリクライニングシートから起きあがり、
バックパックの状態を確認して、バックパックに接続していた補給・メンテ用ケーブルをはずして立ち上がる。
気づくと、目の前にまりなさんが立っていた。
「今日から3日は、皆さんのメンテの日となります。」
「だって、バックパックやケーブル、チューブ類を検査して、必要なチューブは洗浄して、ケーブルの交換、そして、
腸洗浄、性器の洗浄とメンテナンスくらいだから、半日でいつも終わっているのに、何で、そんなに長いスケジュールを
取るの?」
「はるかさん。忘れましたか?はるかさん達は、180日に一度、ラバーフィットスーツをはずして、
今の身体のデータやラバーフィットスーツのデータを取ったりするための処置をうけることになります。」
「あっ!忘れてた。今日のメンテは、その日だったんだ。だから3日を使っての大がかりなものになるんだ。」
「そうです。忘れては困ります。全身に麻酔剤を循環させますので、3日間は、完全に意識がありません。
このときの処置は、麻酔から覚めた後でじっくり見てもらいます。それでは、麻酔投与開始します。」
まりなさんがそう言ったのを最後に、完全に意識がなくなってしまった。気づいたのは、処置が終了してからだった。
そして、自分に起こったことを見ることが、3日遅れで、しかもダイジェスト版で見せられた。
私は、処置室に運ばれ、ラバーフィットスーツ着脱用スタンドの支柱に頭部とバックパックを繋げられた状態で、
強制的に立たされていた。
バックパックの側面上部のカバーが開けられ、何かのチューブとコードの束が接続された。ラバーフィットスーツを
脱ぐための剥離剤を注入する装置だそうである。そこから、バックパックを経由して、ラバーフィットスーツと
皮膚の剥離剤が注入されていった。
モニターのタイマーで2時間このままの状態が続いた後、バックパックからラバーフィットスーツに接続されている
ケーブルやチューブが手早く取り外された。いよいよ、ラバーフィットスーツを点検のためとはいえ脱ぐことになるのだ。
バックパックがはずされるとラバーフィットスーツとヘルメットの切り離し作業に入った。慎重に肩の部分にあるジッパーが
専用の機械で熱処理によりはずされた。そして、ヘルメットと私を繋いでいるのケーブルやチューブが慎重に
私の身体からはずされていき、ヘルメットがはずされ、私の毛髪のなくなった頭部が姿を見せた。
久しぶりに見るつるつるの頭部は、何かおかしく感じる。そして、ラバーフィットスーツのジッパーがはずされ、
私の身体をラバーフィットスーツ着脱用スタンドから取り外し、前田ドクターと佐藤ドクターが私を支え、まりなさんが、
ラバーフィットスーツを剥がしていった。かなり脱がすと言うことは、大変なことなのであった。
剥離剤が効いていない箇所の皮膚の組織が、ラバーフィットスーツの付着していて、私の無毛になった身体から血が
出ていたり、赤向けていたりしているところが確認された。私の身体は処置用寝台に置かれ、
手早くケーブルやチューブが接続されていった。そして、傷ついた皮膚を丹念にケアした上で、データ取得用の機械に
繋がれたため、私の身体は、みるみるうちにケーブルとチューブで埋め尽くされていった。この状態で2日間が経過した。
この間も私の意識は全くなくただ、人形のようにまったく動かないまま処置用寝台の上に横たわっていて、
佐藤ドクターと前田ドクターのなすがままにされていた。まさに、ドナーという言葉が相応しい状況だった。
その間、まりなさんは、性器や人工肛門、人工尿道から腸や膀胱の洗浄、呼吸器官のチェック、
栄養補給システムのチェックを行っていた。そして、3日目の後半は、私をラバーフィットスーツの中へ戻す作業が
行われた。無数に繋げられていたケーブルやチューブがはずされ、ラバーフィットスーツ装着用接合剤が私の身体に
まんべんなく塗られた。今回は、接合剤の中に皮膚の傷の回復剤も入っているのだそうである。
そして、裏側が綺麗に洗浄消毒された上でラバーフィットスーツ装着用接合剤が塗布された。
ラバーフィットスーツが運び込まれた。そして、手早くラバーフィットスーツが私の身体に装着されていき、
背中のジッパーが素早く専用機械により、熱処理加工で閉じられた。そして、ヘルメットも手早く取り付けられ、
バックパックが私の背中に素早く固定された。この間2時間の早業であった。そして、バックパックと
私の身体であるラバーフィットスーツとが、再びチューブとケーブルでつながれ。私は、再び、ラバーフィットスーツに
とらわれた姿となった。
「今回、何とか、呼吸液の劣化での生命維持に支障をきたすことのない時間内での装着が出来たわ。
ハードな作業だったけど、二人ともご苦労様。」
前田ドクターの声だ。
「ご苦労様です。如月大佐を火星探査・開発用サイボーグにするためのたくさんの貴重な基礎データが得られて、
満足です。彼女用の人工器官や機械装置の開発のめどが付きました。」
うれしそうな佐藤ドクターの声がかぶる。
「生理的なデータもかなり多くとれたから、サイボーグ手術の際やその後の生体部分の管理も問題ないところまで
来たわね。」
前田ドクターの声が聞こえた。
「後もう少しで、充分なデータが取得できそうです。データが完全になったとき、いよいよ、本番という訳ね。
如月大佐、頑張るのよ。」
佐藤ドクターの声と共にモニターが暗くなった。
VTRが終わった。私たちは、まもなく、サイボーグについての教育を受け、自分がどの様な身体になるのか、
その身体を火星では、自分自身で直していかないといけないのだから、その教育を完全に受けて身体を
改造しなければならない。その時がもう間もなくに迫ってきていた。恐怖と期待で身震いがした。
そんなことを思う私をまりなさんが現状の問題に引き戻した。
「身体とラバーフィットスーツの間に具にグニョグニョ感があると思うし、傷ついた皮膚が治るまで疼きや痛みもあると
思うから、7日間は、装着後のお約束で、安静にしてもらうわ。それに5日目の激痛もどのくらいの痛みに
なるかわからないから、だって、私たちは、ラバーフィットスーツを脱いだことも際装着したことも経験していないから、
予想が付かないのよ。はるかさん体験したものを教えてね。」
まりなさんのいじわる! 心の中で叫んだ。
「はるかさん、リクライニングシートで安静に寝ていてね。いよいよ、8日後は、再び訓練教育課程にはいるからね。
それまでに気持ちと身体の整理をしておいてね。私も手伝うから。」
「判ったわ。まりなさんにも手伝ってもらうことがもっともっと増えるかもしれないから、よろしくお願いします。」
「もちろんです。」とまりなさん。
「星へ往く人」第二部を書き始めました。
これから、はるかが、火星探査・開発用サイボーグへと改造手術をされて、火星へ旅立つことになります。
サイボーグの器官の構想が煮詰まらなかったため、少し空いてしまいました。いろいろな伏線を考えていますので、飽きずに読んでください。
みさきの体について、いろいろなご意見をいただいております。
ありがとうございます。もっともな指摘とご意見だと思っております。
私としましては、なぜ、手足だけの切除かというと下半身全部というのは、私の嗜好では、少し、切除部分が多すぎるということです。美観として、手足の完全切除された女性の何もできないで、
介助されなければ何も出来ないことに萌えるものですから・・・。
それに、設定として、ハードウエアを納める部分が減少しないようにするためです。
それから、みさき専用台車は、みさきの脳の命令で動かすことは不可能ということになっています。
地球上では、移動すること、その他何もかも自分では何一つ出来ないからだになってしまったことを認識させるためで、もう後戻りする希望を奪うことと、介助されることでの屈辱感を持たせることが
目的です。
それから、今回の物語の主役は、如月はるかですので・・・。
機会があれば、続編として、みさき編かもしくは、全く新しい物語で、手足を切除してサイボーグ化される女性を主役とした話を書いてみたいと思っています。
続編の候補としては、火星、開発永住編も構想にあります。
いずれにしても、まず、如月はるか編を完成させようと思います。
その中に出来る限り、みさきの動向も入れて参ります。
M.I.B.様
ありかとうございます。
たまたま、一気にかけてしまったという感じです。
第二部もがんばります。
メンテナンスの処置を受けた日からきっかり5日、私の身体を180日前以上の激痛が襲った。
その痛さは想像を絶していた。180日前の痛みも想像を絶していたが、その痛みも今回の痛みに比べたら、
かわいいものに感じてしまうほどだった。
それでも不思議なもので、1日苦しむと嘘のように痛みが引くのも、前回と同じだった。
再び、私の身体の完全な皮膚とラバーフィットスーツがなった瞬間だった。
休養期間の7日間を終了し、私たちは、通常の訓練教育に戻った。
ただし、最初の20日間は、少し落ちた体力を元に戻し維持するためにトレーニングセンターで、
アクティブパートを0時から20時に2時間延長されての訓練だった。もちろん、
食事やトイレといった生理的要求による休憩時間は必要ない身体になっているため、
栄養剤や疲労回復剤といった薬剤を投与され続けぶっ通しでのトレーニングの毎日だった。
トレーニングセンターでの私の日課は、まず、スタンド付き台車に乗せられトレーニングセンターに
運ばれてくるみさきさんを手脚を切除した人間用に開発された強制筋肉トレーニングシステムに接続するのを
手伝うことから始まる。彼女はトレーニングマシンに接続され、ラバーフィットスーツの手と脚の
切断面のコネクターにケーブルを接続されるとすぐに前川さんがトレーニングマシンのコントロールパネルを
操作し作動開始となる。 みさきさんは、苦痛の声を上げながら、起用のトレーニング開始となる。
私はその後、自分の身体をまりなさんに手伝ってもらって全身用トレーニングマシンに固定し、
自分のトレーニングに入るのであった。私たちに課されるトレーニングは、オリンピック選手並みかそれ以上の
身体的負荷をかけられて身体を動かすというハードなものであった。苦痛に耐える悲鳴や叫び声を誰も
上げながらの訓練が続くのである。それも、休むことは許されず、もし、やめようものなら、
バックパックに繋がれたメインシステムからの薬剤供給チューブから再度トレーニングを始めるまで、
私たちに苦痛を与える薬剤が投与され、激痛に苦しむことになる。同じ苦痛なら、トレーニングマシンでの
トレーニングの苦痛の方がはるかに楽なので、トレーニングを続けるしかなかった。
それでも、私たちは、ラバーフィットスーツを装着されてから、今まで耐え続けてトレーニングに励んだ。
421 :
3の580:2005/07/03(日) 20:49:11 ID:AoQ99F/+
>>409 お疲れ様です。
弟を事故で亡くした八木橋さん、妹のことを嬉しげに語る佐倉井さんの姿に、寂し
さを感じてしまうのでしょうか。隆太君とも、同じように仲が良かったのだろうと
思っていますが…。自分の身体のことだけではなく、失った家族のことでも、哀し
い思いをすることが多々あるのでしょうね。
腕相撲編での団子坂峠の描写と合わせて読むと、ここを自転車で走り抜ける爽快さ
が鮮やかに思い浮かびます。自転車ならではの爽快感があるのだろうと思います。
普通の人には真似できないことですし。でも、身体を動かす=電気を消費するとい
う、機械の身体なことに根付いた考え方が自然に出てくるあたりは、なんとも哀し
い気がします。それを便利というのも本意ではないだろうに、と思ってしまいます。
この時代の人からみた昭和や平成は、今の私達の大正や明治のような感覚なのでしょ
うか。永康の世に生まれ育った八木橋さんは、この時間の止まった空間で、どんな
生活をしていくのでしょうか。それにしても、永康の時代の平均的な生活風景って、
どんな風なのでしょう。想像がつかないです。
アニーさん、自分が管理人って、どんな立場の人なんでしょう。見掛けは中学生な
のに…。
>>413 読み違えてしまって恥ずかしいです。八木橋さんからみて「お姉さん」なのですよ
ね…。
どちらかの未来を選べるものなら、幸せな未来を選びたいです。未だ人を信じきれ
ない八木橋さんも、家にいるときくらいは安らげる時間を持っていて欲しいです。
>>421 1人にしかレスしないで、しかも毎回長レス。
しかも、コテをつけても絵も文も書かない。
いい加減うざいんですが。
>>422 はぁ…。うざいのはあんただよ。消えな。
>>422 コテついてるんだからNGワード指定しとけ。
20日のトレーニング訓練だけの日々が終わり、通常の日課である6時間トレーニング訓練、12時間、
いろいろな知識を詰め込まれる教育訓練の併用の毎日が始まる。
いろいろな講義を受けるときも、私たちは、バックパックからコントロールルームに送られる身体データの
おかげで、覚醒状態維持剤はアクティブパート中私の体内に流れているので眠くなることもないはずなのだが、
それでも生理的に眠くて意識が薄れような状態になろうものなら、覚醒維持剤と罰則としての苦痛を与える薬剤が
投与される。そして、苦痛に悶絶することになるし、覚えるまで、繰り返しプログラムを行われる。
私たちに自由はなかったのであると毎日毎日痛感させられる日々が続いた。
ラバーフィットスーツを装着されてから、270日たった頃から、シュミレーション訓練が始まった。
いきなり完全に閉鎖された小さなカプセルに入れられ10日間をその中で、生きていく訓練もさせられた。
私たち被験者は、元々ラバーフィットスーツを装着されて、外界から閉鎖されていて、常に外部からの接触を
断たれた精神状態でいるので、まったく孤独で暗いその空間でも、いつもと変わりない精神状態を維持することが
出来た。また、宇宙空間での作業のシュミレーションを大きな議事無重量空間体験用プールで、
72時間ぶっ通しで続ける訓練を行ったりした。
みさきと望は、その訓練の間は、宇宙船操縦シュミレーターで操縦技術の訓練をしていた。
私たちは、宇宙探査士や宇宙飛行士としての知識や技術をマスターしていく日々が続き、普通の宇宙探査士や
宇宙飛行士としては、かなりのレベルまでのスキルを身につけた状態になっていた。
ラバーフィットスーツを装着されて、330日目、任務を言い渡されて、宇宙開発事業局に着任してから
400日あまりが過ぎた。
「はるかさん。おはようございます。」
アクティブパートに入り、自分の身体が、バックパックによってアクティブモードに切り替えられたとき、
まりなさんの声が聞こえた。
「今日は、まずブリーフィングルームに出頭していただきます。さあ起きて下さい。」
まりなさんに促され、リクライニングシートを離れ、起きあがった。
そして、まりなさんについて、ブリーフィングルームに出頭すると木村局長と長田部長が待っていた。
二人は、今日も、全身をラバーフィットスーツに包まれていた。二人のプロポーションは、
いつ見てもうっとりするほど素晴らしかった。
「如月大佐。おはようございます。ラバーフィットスーツでの訓練教育の日々、よく頑張っていますね。
心強く思っています。」木村部長から声をかけられた。
「ハイ、ありがとうございます。もう、ラバーフィットスーツにも完全になれ、訓練にもついて行けるようになりました。
ラバーフィットスーツは、完全に私の一部として機能しています。この前のメンテナンスの時は、
ラバーフィットスーツを脱がされたので、大けがしたような気分になりました。」
私がそう言うと、長田部長が、楽しそうに、
「そうよね。私なんか、ラバーフィットスーツを脱いでのメンテ処置をしろと言われたら、強行に辞退してしまうわ。
だって、皮膚と完全に同化していて、皮膚を剥がれるように思えるもの。私も、このラバーフィットスーツを
装着されて2セクション以上立つけど、最初は、早く脱ぎたいと思ったけど、今は、脱ぐことが
恐怖になってしまったもの。慣れと脱げないという現実に対しての諦めって怖いわね。」
「そうね。」と同意する木村部長。
「私は、ラバーフィットスーツを脱ぐことで、未知の経験をさせられることに対する不安と期待感があります。
私たち被験者みんなの気持ちと思います。」
私の言葉に木村部長が答えた。
「そう言う境遇に置かれている如月大佐達被験者のみんなはそう感じるでしょうね。さあ、みんながやってきました。
今日は、吉報を発表します。みんなと一緒に聞いて下さい。」
吉報という言葉が気になった。吉報っていったい何なの。
他の9名がブリーフィングルームにやってきた。
「それぞれ席について下さい。」
長田部長に促され、ブリーフィングチェアに着席した。
みさきさんがスタンド付き台車ごと席に置かれると、木村局長が話し始めた。
この木村局長の言葉が私たちの運命の言葉になることとは、このときは思っても見なかった。
「皆さん、おはようございます。皆さんの訓練教育は、順調に進んでいるようですね。
プログラムが滞りなく消化され、あなた方のラバーフィットスーツの姿で受けなくてはならないトレーニングも
残り僅かとなったという報告を私は受けています。今まで本当によく頑張ってくれました。あなた達のがんばりが、
この火星植民地化プロジェクトの成功の鍵を握っているのですから。本当に感謝しています。」
ここで、木村局長は、一呼吸置いて、そして続けた。
「そして、医療チームも、技術チームもあなた方を火星に送り込むためにサイボーグ手術を行うためのデータや
技術も完璧に取得できたという報告も来ています。そうした、報告を受けて、我々、プロジェクト本部としては、
このプロジェクトを次の段階に進めることを決定しました。つまり、いよいよ、第1次火星探査チーム3名と
そのメンバーに緊急事態が起こったときに即時に対応させる緊急補充用バックアップ要員にサイボーグ手術を
施す段階に進むことになったのです。そして、今日、その6名を発表することとなりました。」
いよいよ、最初に身体を機械にする手術を施されるメンバーが決まってしまうのだ。
心の中に私でないようにと願う私とどうせ改造されるのなら早いほうがいいと願う私がいた。
「それでは、発表します。第一次火星探査チーム。リーダーは如月はるか大佐、探検士に望月七海中佐、
そして、宇宙船操縦オペレーターは、美々津みさき少佐、この3名が順調にいけば、栄誉ある初の
有人火星探査のメンバーと言うことになります。そして、緊急補充用バックアップ要員チームは、
リーダーが渥美浩大佐、探検士に望月未来中佐、そして、宇宙船操縦オペレーターに橋場望少佐の3名です。
そして残りの4名は、地上でのバックアップをラバーフィットスーツを装着したままで行ってもらうのですが、
緊急の場合の補充のため、リザーブの順位を指定しておきます。このナンバーが、地上バックアップメンバーの
サイボーグ手術を受ける順位になります。まず、リザーブ順位1番が、高橋美紀中佐、順位2番が
神保はるみ少佐、順位3番が進藤ルミ中佐、そして、順位4番が大谷直樹少佐となります。第2次探査、
それに続く第1次開発計画の任務に就くための改造順位となると同時にサイボーグメンバーに何かあった場合に
は、速やかにサイボーグ手術を受けてもらうことになります。」
私の名前がトップに呼ばれてしまった。みんなが言っていた私が主役という意味が初めて現実となって
理解することが出来た。私は、現実として、サイボーグとしての人生を受け入れるしかないのだ。それは、
これからの生涯を異形の怪物として生き続けなければならないことを意味していた。
長田部長が今後のスケジュールを説明した。
「今後のみんなのスケジュールですが、今後30日程度で、サイボーグの基本メカニズムを勉強してもらい、
もしも、何かあったときにも、自分たちで、自分の身体を修理できるようにしてもらいます。
そして、いよいよ6名は、機械との複合体であるサイボーグへの手術を受けてもらいます。
手術と回復にかける時間を60日程度見ています。そして、火星標準環境室と宇宙船シュミレーターに
入っての訓練を100日前後予定しています。
候補者は、基本的にこの期間、火星標準環境室と宇宙船シュミレーターから外に出ることはできません。
そして、第1次探査チームは、地球軌道上で建造される火星探査用宇宙船に連絡船で移動し、
火星に向け旅立つのです。補充用バックアップメンバーは、宇宙船シュミレーターと
火星標準環境室の中に留まり、地球上で第1次探査メンバーと同じ生活を送ってもらいます。
残りの4名は、6名のバックアップを行いながら、第1次メンバーが火星に旅立った後に順次
サイボーグ改造手術を受けてもらいます。その時期については、まだ決まっていません。
それから、辛いことですが、橋場少佐は、手脚の切除手術をサイボーグ手術と同時に行ってもらいます。
精神的なショックを考え、手脚の切除処置を前倒しで行うことも考えましたが、橋場少佐の場合、
精神的なメンテナンスを充分受けて、精神的なショックが少ないだろうというデータがでていますので、
問題ないと判断しての同時処置となります。ここまでで質問はありませんか?」
みんなが、質問がなさそうなのを見て、長田部長が付け加えた。
「これからは、サイボーグ手術を最初に受ける6名のサポートに関して、サポートヘルパーが1名では
サポートヘルパーの負荷が大きいと判断し、もう1名増やして、2名体制となります。
各々に付く担当の増員サポートヘルパーが、各々の居住エリアで待っています。
各自、一度部屋に戻って、新人サポートヘルパーと対面して下さい。その後、10名全員、処置室に各自行って、
通常のメンテナンスを受けてください。それでは、ブリーフィングを終わります。解散。」
私は、まりなさんと共に私の居住エリアに戻った。
「はるかさん、リクライニングシートに座って待っていて。これから、私同様にはるかさんのお手伝いをする
もう一人の新しいサポートヘルパーをつれてくるから。楽しみにしていて。」
そう言って、まりなさんが出て行った。
まりなさんは、お手伝いって行ったけど、実際には、お手伝いもあるけど、管理、監視することも
怠りなく行っているのではないのか?だって、まりなさんに対しても、事実上、服従をしなければ、何も、
手伝ってもらえなかったりするかも・・・。
そんなことを思っているとまりなさんが後に一人、ラバーフィットスーツを完全装着された人間を従えて戻ってきた。
「連れてきたわ。これから、サイボーグ手術を受けて、火星探査・開発用サイボーグとして生きるという、
未知の体験をするはるかさんにとって、サポートヘルパーは、常にサポート体制を
引いておかなければならないし、私たちも未体験だから、万全を期すためにも、二人体制がベストと判断しての
決定と言うことです。ただし、彼女、見習いだから、そこは多めに見てね。万全の体制として、
宇宙開発事業局からのささやかなプレゼントと言うことです。さあ、中に入って挨拶をして。」
まりなさんに促され、私の居住エリアに彼女が入ってきて挨拶をした。
「よろしくお願いします。今日から、如月大佐のサポートヘルパーになります・・・。」
私が、彼女の言葉を遮る。
「ねえ。薄い緑色のラバーフィットスーツだよね。それに、胸に、MARS11と書かれているのだけど、
彼女は、サポートヘルパーとは違うんじゃないの。それに、如月えりかって。ひょっとして・・・。」
私の頭が混乱してきた。整理がつかないんだけど、どういうことなの。
「順番に説明するわ。」
まりなさんが答えた。
「はるかさんが、かえって混乱しちゃったのはわかります。まず、彼女のこのプロジェクトないでの
任務区分なんだけど、薄い緑のラバーフィットスーツを装着されている以上火星探査・開発用サイボーグ化
予定者です。つまり、第2期の被験者の一人です。今回は、16人のメンバーが選抜されたのです。
だって、もう、はるかさんが宇宙開発事業局に着任してから403日が過ぎています。私たちは、火星時間で
過ごしているから、1セクションという火星の1年しか頭にないけど、地球上の時間では、1年以上経っていると
言うことになっています。当然、次の年度での補充要員の配属が行われたというわけです。
政府は、火星植民地化計画に、更に本腰を入れる決断を下したのです。今回の選抜メンバーは、ほとんどが、
探査メンバーではなく、探査を終了して、開発を行うためのオペレーションを行うために火星に永住させることも
視野に入れたミッションの遂行者となるのです。そして、その中でも、優先的にサイボーグ化手術を受ける6名の
メンバーの教育には、第1次火星探査チームとそのバックアップチームの6名のサポートヘルパーとして、
実際のサイボーグとしての生活や訓練をつぶさに観察させたり、実際に被験者とのコミュニケーションによる
生の情報を与えることによる教育プログラムを実施することにしたの。
だから、彼女は、はるかさんのお世話をしながら、自分がこれからどの様な処置や訓練を行われるのかを
先輩の姿を見て勉強することになるの。だから、逆に、はるかさんの分身のようなサポートヘルパーになると
考えての配属なんだそうです。私同様よろしくね。」
一つの疑問は解決した。
「でも、彼女の名前、ひょっとして・・・。」
「高橋さん、ここから先は、私が話します。」
「いいえ、私から話します。」
まりなさんが、彼女の申し出を断り、話を続けた。
「彼女の名前は、如月えりか。はるかさんのサポートヘルパーであり、火星植民地化計画の主役でもある
火星探査・開発用サイボーグの第2期候補メンバーです。彼女は、空軍士官学校をこの春、優秀な成績で
卒業した女性なの。卒業と同時に空軍中尉の階級を与えられ、任官と同時にこのプロジェクトに配属されたの。
彼女は、現役空軍エースパイロットの誰よりも優秀な技術と統率力、判断力、決断力を持っているの。
そして、機械への適応力もトップクラスで、はるかさん以来の潜在能力を持った火星探査・開発用サイボーグへの
手術への適正を持つ素晴らしい被験者なの。そして、はるかさんが聴きたいことだと思うのですが、
はるかさんのご想像通り、あなたの本当の妹でもあります。そうです、あなたの妹のえりかさんよ。
今回の選考で、空軍士官学校に抜群の成績で卒業する士官候補生がいると言う噂を聞いて、偶然、
候補にリストアップしたのが彼女だというわけ。ただ、被験者として着任したとき、木村局長が、
はるかさんの妹とわかったとき、即座にはるかさんのサポートヘルパーに付けることを決断したの。
理由は、姉妹という一番気心の知れた存在が側に付いていることで、誰も体験したことのない特別な経験をする
はるかさんの心のケアに非常に有効だと判断したからなの。」
えりかがまりなさんの言葉を受け継いだ。
「あらためまして。如月大佐。よろしくお願いします。如月えりか中尉です。
今日から、大佐のサポートヘルパーとして、お世話させていただきます。」
「えりか、よそよそしくしなくていいのよ。私が、この任務でいなくなる前の呼び方で呼んでちょうだい。
お願い。まりなさんも、それでいいわよね。」
「私は、はるかさんであり、えりかさんと呼びますから。えりかさんのはるかさんの呼び方は、はるかさんとえりかさんが
いい方法で呼んでください。」
「わかった。それじゃ、お姉ちゃんと呼ばせてもらうわ。これからよろしくね。」
えりかがそう言うと言葉を続けた。
「お姉ちゃんが、空軍の任務中に行方不明になったと聞いて、お父さんとお母さんと一緒に悲しみの中にいたのが
400日余り前のことだったの。私も、士官学校の卒業を来年に控えていた時期だったの。
そこに、秘密特殊任務に先輩の何人かが就いたという噂が聞こえてきたの。
私は、お姉ちゃんは、絶対その任務に付くことになったのだと確信したの。そんな時に、卒業後に特別な任務に
就くことを打診されたの。任務の内容は、明かされなかったけど、この任務に就けば、お姉ちゃんに会えると
確信したの。実際に配属されてみると、火星を植民地化するというとんでもない計画を遂行するために、
身体を機械と肉体の複合体であるサイボーグになるという想像を絶する過酷な任務であると初めてわかったの。
それでも、お姉ちゃんがいることがわかって、しかも、お姉ちゃんが火星に行くまで、どんな形にしても、
一緒にいられる機会を得られたんだから、満足している。」
えりかの言葉に何かいとおしさを感じる。でも、今の私は、涙を流すことが出来ない身体になってしまったのだ。
その辛さが痛いほどだった。
「ねえ、えりか、あなたは、サイボーグ手術を受けるときは、ひょっとしたら、もう地球に戻ることが出来ない任務に
就かないといけないのに、私を捜すために身を捧げる覚悟をしたなんて、なんて言う子なの。」
えりかが答えた。
「私は、今は、涙が流すことが出来ない身体になってしまったけど、こんな時、人間は、涙を流して泣くのかな?
でも、覚悟の上の決断だから、悔いはないわ。お姉ちゃんと過ごせる最後の時を満喫したい。」
私は、その言葉に答えた。
「でも、私が任務を終えたら、また、あえると思う。」
「違うわ。もしあえたとしても、二人は、怪物の姿で再開することになるわ。人間に近い状態であえる最後になると
思うわ。膚と膚を直接触れあえないのは残念だけど。だから、誠心誠意、お姉ちゃんのサポートヘルプを
していたいの。」
私は、妹の覚悟を知り、私自身の覚悟も更に揺るぎないものになった。
「わかった、私のサポートヘルプは大変かもしれないけど、まりなさんの足手まといにならないようにしっかりやるのよ。
そして、自分がサイボーグ手術を受けるときのための経験にするのよ。いいわね。
そして、まりなさん、これから、更に大変になるけど、私の世話をお願いします。」
まりなさんと、えりかが、「ハイ。」と答えた。
それでも、姉妹揃って任務中行方不明になったことになって、異形の身体で生きていくなんて、
思っても見ないことだった。
「さあ、はるかさん。メンテ処置を開始します。処置室に移動しましょう。」
私は、まりなさんに促され、リクライニングシートを立ち、処置室に向かった。
「えりかさん、着いていらっしゃい。最初のサポートヘルパーの仕事よ。」
処置室に着くと、私は、処置用シートに腰を下ろした。そうすると、自動的に、リクライニングシートがたおれ、
足がM字型に開いた形になって固定された。
「えりかさん。洗浄管をはるかさんに接続して。」
まりなさんにそう言われて、えりかが私のまたの部分のバルブ弁に洗浄管を接続した。
性器の洗浄用のチューブである。次ぎに人工肛門と人工尿道弁とバックパックを接続するチューブがはずされ、
代わりに、洗浄管がそれぞれに接続された。
妹に下半身の性器や排泄器の世話をされるのは、想像以上の恥ずかしさだった。
「えりか、恥ずかしいよ。」
「お姉ちゃん、私は、任務を遂行するサポートヘルパーです。
それに、お姉ちゃんは、この処置を定期的に行わないと、身体に不具合が生じるのだから、
我慢して処置を受けてください。」
「エヘヘ。はるかさん言われてしまいましたね。でも、えりかさんの言うとおりです。
大変な恥ずかしさだと思いますが、我慢して処置を受けてください。」
まりなさんのいじわる。こう心で叫んだのであった。
処置が終わって、えりかが、接続管を身体に再接続してくれ、作業が終了した。
気心が知れているだけに、恥ずかしいことがあるのだが、ここでは、そんな羞恥心さえ持つことを許されないのだ。
「今日は、これで、スケジュールは終わりました。洗浄室でシャワーを浴びて、居住エリアに戻りましょう。」
まりなさんに言われ、洗浄室で、シャワーを浴びた。久しぶりのシャワーだったが、もう、
330日も経つとラバーフィットスーツの上からのシャワーに完全に慣れたし、気持ちよさが広がった。
えりかが感心ていた。
「私は、まだ、シャワーなんて違和感があるから、早く慣れたいな。」
そう言いながら、まりなさんと二人で、私の身体を丹念に洗浄してくれ、シャワーが終わった。えりかに身体を
触られるのは、まりなさんに触られるより、やっぱり恥ずかしいことであった。
そして、更に、二人が、私の身体を丹念に拭いてくれた。
居住エリアに戻って、まりなさんと、えりかの3人と他の被験者やサポートヘルパーと一緒に6名の
新しいサポートヘルパーとして任務を受けたサイボーグ改造手術のサイボーグ候補に
今まで私たちが受けてきたことを話した。
そして、居住エリアの自室に戻り、レストモードに自分の身体が切り替えられ、意識が遠のいた。
436 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:17:57 ID:zRL6RbSK
パトカーの列は車のほとんど通らない、真夜中の首都高を走っていた。先頭から3台目にメタルアイと北条刑事、5台目に翔也と宮下刑事が乗っていた。
メタルアイはパトカーの窓の外から、流れていく夜景を眺めていた。シャドーフォックスとの戦いでついた多くの傷口はもうとうに出血は止んで、なかには塞がりつつある傷もあった。
北条刑事はメタルアイの傷の回復力の早さに興味を示したらしく、メタルアイの体のあちこちを見つめながら、
「尋常じゃない回復力だな。これが『サイボーグ』とやらの能力か?」
「・・・・・別に体内部の機械部分はそれほどダメージは受けていないし・・・・・傷ついたのは元の生体部分を改造した皮膚や筋肉部分だから・・・・・」
メタルアイは北条刑事のほうには振り向かず、夜景を眺めながら答えた。
「サイボーグというのは映画とかドラマでみたことはあるんだがね、実際目の前にしてみると、いろいろと興味が湧いてきたよ。これから警視庁や警察病院とかでいろいろと君の事を調べさせてもらうよ。」
「そう・・・・・」
メタルアイの表情は、心ここにあらずといった様子だった。
「それにしても、この普通じゃない傷の回復は、どんな仕組みになっているんだい?」
「・・・・・血液中に細胞組織の修復および再生を行う、一種のナノマシーンがあるのよ。もっとも改造された皮膚筋肉組織はもともと自己修復能力を特殊な薬剤やナノオペレーションによって異常に高めているけど・・・・・」
437 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:18:44 ID:zRL6RbSK
「一体、君の体のどのくらいが生身で、どこまでが機械なのかね?」
「・・・・・まず、完全な生身なのが脳全体ね・・・・・もっとも脳のあちこちに電極が取り付けられているけど・・・・・それと口腔内、口の中は一部の歯を除いて生身ね。だから味覚は普通の人間と変わりないわ。」
「ふうむ。なるほど。」
「・・・後、手術の過程の関係で、頭蓋骨の骨は一部残されているの・・・・・顎の骨とか、脳を包んでいる頭頂部の骨とかは、それをさらにチタン製の金属プロテクターで覆って強化し、同時に外部からの衝撃を和らげる構造になっているの・・・・・」
「ほう、その美しい顔も、一皮向けば鋼鉄のロボットみたいなのが埋まっているわけだな。」
メタルアイは北条刑事の、このなんの配慮もない言葉に一瞬ムッとした表情を見せたが、すぐにそれをかき消すと、
「・・・・・そうね、あたしはもう、生身の体を捨てた、一種のロボット人間だから・・・・・」
「・・・・・そうだな。だから俺も君の事をあまり信用していない。あの美剣とかいう刑事はおまえに気があるようだがね、俺はそんなに甘くはないぞ。洗いざらい吐いてもらうから、そのつもりでな。」
北条刑事はメガネの奥から、射殺すような視線をメタルアイに投げかけた。長年組織暴力と対峙し、常に前線に立って捜査を展開してきた鬼刑事の持つ厳しさが、そこにあった。
438 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:21:33 ID:zRL6RbSK
「・・・・・宮さん、先ほどはみっともないマネをさらしまして、すみませんでした。」
「・・・・・まあ、翔の気持ちはよくわかるが、まだまだ若いな、と思ったよ。それに普通に考えて、犯人に同情はしても、感情的に思い入れが過ぎるのはどうかとなあ。捜査は常にクールにいかないとね。」
宮下刑事は穏やかな口調の中にも、厳しいアドバイスを忘れなかった。翔也はパトカーの外の流れ行く夜景を見ながら、北条刑事につっかかっていった自分自身を責めていた。
「ところで、島袋君よ、この短い時間に10数台ものパトカーの援軍ができた経緯は、どんな感じだったの?」
宮下は後部座席から、前方助手席に座っている、組織暴力対策課で顔なじみの島袋刑事に尋ねてみた。
島袋刑事は27、8歳くらいの、頭を五分刈りにしたガッシリとした体型の男であった。大学時代はラグビーのFWをやっていただけあって、胸板の分厚い、腕も太ももも丸太のように太い筋肉マンである。
「ええ、警視庁の各部の情報端末に、『F-12地区にて2人のサイボーグの女性が決闘し、一方のサイボーグがもう一人のサイボーグを殺害、なおこの決闘の巻き添えで男女二人のカップルが死亡』
『勝ったほうのサイボーグは現在、E-7地区・・・・・先ほどの現場ですね・・・・・E-7地区にて別のサイボーグと交戦中。
なお現場には警視庁刑事部捜査第一課の宮下源次刑事と、組織犯罪対策部の薬物銃器対策課の美剣翔也刑事も応戦中』と、それぞれ2時15分頃と、2時50分頃にメールが入ったんです。
丁度2時50分くらいには、G−5地区の南米麻薬シンジケートの件も一段落していて、当然このサイボーグの一件はG-5地区に居合わせた北条刑事の耳にも届きました。」
439 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:24:29 ID:zRL6RbSK
「ほう、それで北条君はそのG-5地区からパトカー10数台引き連れてきたわけか。」
「ええ、北条さんも、最初は半信半疑だったんですね。話があまりにもSF映画みたいなので。でもF-12地区に駆けつけた捜査班からカップルの惨死体を発見したとの報告が入り、
さらに先ほどのメールにはそのサイボーグとおぼしき先ほどの女性の目から見た、もう一人のサイボーグ女性との戦闘場面が記録された映像ファイルが送付されていたんです。」
メタルアイはスティールアームと戦いながら、その様子を機械眼のなかのメモリーに記録していたのだ。翔也と宮下はすぐに察しがついた。
「じゃあ、そのメールや映像がG-5地区のパトカーの端末に送られてきて、北条君は納得したわけか。」
「まあね・・・・・わたしもその映像見させてもらったんですが、ビックリしましたよ。なんせ目からビームを出してカップルを殺害する瞬間から始まり、その女サイボーグが両手に変な刃物のついた義手を回転させて攻撃したり、
あげくにその女が切り刻まれて爆発してバラバラになったり・・・・・もう下手なSF映画よりも迫力があって、北条さんもしばらく声も出なかったですわ。」
「なるほど、大体の経緯はわかったけど・・・・・マスコミの方は大丈夫かな?」
「まあ、マスコミの連中は、南米麻薬シンジケートの件のほうに一斉集中するでしょうね。北条さんもこのサイボーグの件に関しては、まだまだ伏せておきたいようです。世間を混乱させることは避けておきたいでしょうから。秘密裏に捜査したいのでしょうね。」
「そうだな。ただの犯罪組織じゃないな、こいつは。警視庁だけに手に負えるような連中じゃ・・・」
「北条さんはすでに警視庁のトップと、警察庁や国家公安機関に連絡を入れているみたいですね。場合によってはインターポールやアメリカのFBIの協力を仰ぐ事になるのかもしれない、とおっしゃっていましたよ。」
パトカーの列はC-15地区に入っていった。ランドコアの中心にあるこの地区に、警視庁の巨大な建物があるのである。
440 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:26:43 ID:zRL6RbSK
ビルからビルへと飛び移り、ホーネットら3人のサイバゾネスたちは、遠巻きに首都高を走るパトカーの一団を追っていた。
「ねえ・・・・・いつ交渉に乗り出すの?」ヘッジホッグがたずねた。
「うっふっふ、今はマスコミの連中が詰め掛けているようだし・・・・・あたしの電子アイに警視庁からの情報が入ってきて、どうやら警察庁や国家公安機関のお偉いさんも警視庁に駆けつけるってことよ。」
ホーネットはニヤリと笑いながら答えた。
「まあこのディスクを見れば、否が応でもあたしたちに協力せざるをえなくなるわね。もっとも、万一のことを考えて、いくつもの対策は幾重にも重ねているけどね。ヘッジホッグ、プラズマイール、いざというときは頼むわよ。」
「イエス、マァム!!」
3人のサイバゾネスの人影は、警察を追って闇の中に消えていった・・・・・
441 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:27:44 ID:zRL6RbSK
警視庁の表門には、すでに各社のマスコミ関係者が蟻の大群のように押し寄せていた。メタルアイを乗せたパトカーはその表門を避け、他のパトカーと分かれて裏の地下ガレージの入り口に入っていった。
パトカーはガレージの奥に停車し、北条刑事ともう一人の刑事、警官、そして手錠でつながれたメタルアイが降り立った。
「さあこっちだ・・・・・マスコミの連中はつけていないだろうな。新沢君。」
「ええ、こちらを尾行したり、潜伏している気配はないですね。」
新沢と呼ばれた若い刑事が答えた。
「まあとりあえず、地下の留置場に入ってもらう。こちらの準備が整い次第、取調べを行うからな。その前に・・・・・」
メタルアイをつれた一行は地下からの入り口からエレベーターに乗り、警視庁のビルの一階についた。一階の各部屋では多くの刑事や警官が忙しそうに動き回り、ごった返していた。北条刑事らはその人ごみの中をすり抜け、ある一室に入っていった。
みると、その部屋には何やら巨大な機械装置が備え付けられていて、天井には直径2.5メートルはある巨大な輪のような装置があった。
「こ、これは・・・・・」メタルアイは目を見張りながら聞いた。
「『サスペクト・スキャナー・システム』だ。通称3Sと呼んでいるがな。」
「・・・・・まるで、一昔前の病院のCTスキャンみたいね・・・・・」
「まあ、似たようなものだ。これから君の容疑者としてのデータを取る。普通は外見的な身体の特徴をスキャンしてホログラム・データとして記録するのだが、君の場合は体の内部のスキャンも必要だろうな・・・・・」
北条刑事は冷たい笑みを浮かべながら、メタルアイの体を舐めるように眺めた。メタルアイは毒虫にでも刺されたかのように、ビクッと体を振るわせた。
「ふふふ、心配ないよ。服を着たままスキャンするんだから。」
新沢刑事が雰囲気を和らげるかのように、言葉を入れた。
442 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:30:32 ID:zRL6RbSK
北条刑事と新沢刑事はスキャン室の隣の部屋に行き、3Sを作動させた。
機械の駆動音とともに、天井にあった巨大な輪が次第に下に降りていき、やがてメタルアイの体を囲んで、彼女の体のデータをとり始めた。
北条刑事はディスプレイ画面に映し出されるメタルアイの体のホログラム・データを食い入るように見つめている。
メタルアイの裸の全身は、なかなかのプロポーションだが、どういうわけか、膝から下のデータは、ブーツを履いたままで映っている。
「こ、これは・・・・・?」
北条刑事と新沢刑事は固唾を飲みながら、映し出されたメタルアイのデータに目を凝らした。
ちょうど3Sはメタルアイの外見的な体のデータを撮り終えたところだった。
「・・・・・よし、次は体の内部のスキャンを始める・・・・・」
あの巨大な輪が静かに上に上がり、再びメタルアイの体の周りに降りてきた。
この3Sの内部スキャン機能は、本来は容疑者が体の内部に麻薬物質や盗品、データメモリーなどの異物を隠している場合に、それを見つけ出すためのものである。
「・・・・・・・!!!!!」
予想していたこととはいえ、メタルアイの体の中の機械の改造具合に、両刑事は驚きの表情を隠せなかった。
脳や全身の筋肉、心臓を除いてほとんど機械化されているメタルアイの体内部データは、もはや人間の骨格や内臓部分などを鋼鉄や機械装置で作り上げたような、一個のロボットのようである。
「・・・・・機械女が・・・・・恐ろしい・・・・・」
北条刑事はうめく様につぶやいた。
443 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:32:20 ID:zRL6RbSK
翔也が警視庁の仮眠室で眼が覚めたのは、朝の6時半ぐらいだった。窓の外はもう冬の薄暗い空が白み始めていた。
仮眠室では翔也や宮下の他に、多くの刑事が仮眠を取っていた。昨夜の南米麻薬シンジケートの件で皆疲れきっているのだろう。
翔也は一人でふらふらと仮眠室から出た。仮眠室の外は相変わらず多くの刑事たちが忙しそうに動き回っていた。翔也はその人ごみの中をすり抜け、やがて「薬物銃器対策課」と書かれた部屋に入っていった。
広い部屋の空間に、ここもまた刑事達がごった返していた。翔也が入ってくると「おお、昨夜はご苦労さん。」「おはよう。もういけるのか?」と刑事たちは翔也に声をかけてきた。
翔也はやがて、ディスプレイ機器の前でキーを忙しく叩いている刑事の前にやってきた。
「おはようございます。荒木さん。」
「おう、おはよう。宮さん、もう起きている?」
「まだまだ夢の中ですよ。」
「まあ、昨日の夜・・・・正確には今朝方だけどね・・・・いろいろあったんだろ。皆から聞いたよ。」
荒木刑事はでっぷり太った体をイスにめりこませて、翔也の方を振り返った。年齢は40半ばといったところか。ハンバーガーが大好きで昼食や夕食時によくハンバーガーをパクついているこの中年刑事は、体型も顔もハンバーガーのように丸々と肥えていた。
くしゃくしゃとあまり整えられていない髪に、口元やもみあげ、顎にかけて伸びている無精髭。人のよさそうな目が翔也に笑いかけた。
「アイは・・・・・メタルアイは、いまどこに?」
「・・・・・ああ、あのサイボーグの女の子だね。北条さんに3Sにかけられて、今は地下の留置場に入っているよ。」
「マスコミの連中は、このことは・・・・・」
「まだ嗅ぎつけた様子はない。連中はシンジケートの件でそれどころじゃないしな。まだ誰も気付いてないだろ。」
444 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:33:33 ID:zRL6RbSK
「北条さんも、しばらくはこの件については、マスコミには当分伏せておくと・・・」
「まあそうだろうな。マスコミが騒ぎ出すと、かえって捜査しにくくなるしな。それよりも・・・」
荒木刑事はディスプレイの画面を食い入るように見つめながら、
「こういうことについては、一般のマスコミよりも、むしろ地下に潜ったマスコミのほうが何かを嗅ぎつけているかとおもって、その幾つかの地下マスコミを検索してみたのだが、ある一つのマスコミのブログが昨夜から全く消えているんだ・・・・・」
「え・・・?」
「『Rジャーナル』・・・・・神出鬼没の地下マスコミで、記事の内容はかなりやばい、それゆえに信憑性の高い情報を載せてくれるマスコミで、いくつもの犯罪組織から睨まれている存在さ。
そのために会社の本拠地を短い期間で転々と移したり、ブログも数多くのプロクシーを通してみたりと、実体の掴めないところがあるのだが。」
「そのRジャーナルが、消えたって・・・?」
「うむ。いままではどんなことがあろうと、ブログは必ず残している連中だし、現に昨夜の10時ぐらいまでは例の南米麻薬シンジケートの一件の記事がまだ掲載されているのを、俺は見ていたんだよ。
それが今はどれだけ検索しても、彼らの名前を見つけ出すことはできなかった・・・・・」
翔也は、何かどす黒い魔の手が、自分たちの上から覆いかぶさってくるような戦慄を覚えた。
「・・・・・何か、嫌な予感がしますよ、荒木さん。」
「うむ。これがあのサイボーグの連中と関係しているのか、まったくわからないが、何やら俺達の想像を超えた存在がうごめいていることは確かだね・・・・・」
あの暴走族の存在をデリートした手際の素早さ、鮮やかさは、このRジャーナルの消滅と同じような臭いがした。
「荒木さん、メタルアイに会いに、留置場にいってきます。」翔也は早足で麻薬銃器対策課の部屋を出て行った。
445 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:37:09 ID:zRL6RbSK
留置場の暗い片隅で、体のあちこちに包帯を巻いたメタルアイがうずくまっていた。
体の傷は、サイバゾネスならではの異常な早さの自己修復機能で、もうほとんど治りかけているのだが、警察の方では一応の手当てとして包帯を巻いてくれた。
この牢屋のなかにはメタルアイしかいない。他の独房とも隔離されているようで、他の独房にいる容疑者ともまったく話も出来ないような感じだ。
メタルアイは体育座りのような格好で、膝に顔をうずめていた。メタルアイの脳裏に、これまでの記憶が鮮やかに甦ってきた・・・・・
446 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:40:30 ID:zRL6RbSK
メタルアイは両親の顔をほとんど覚えていない。荒廃したランドコアの若者たちはフリーセックスに狂奔し、中絶もされずそのまま産み落とされたあげく、身勝手な両親に捨てられる赤ん坊が絶えなかった。
彼らは「フリーチルドレン」と呼ばれ、最悪の場合飢え死にしたり、まともに育っても両親と同じ荒廃の道を辿っていったりした。
メタルアイも、そんなフリーチルドレンの一人だった。
彼女の両親は一時の快楽に夢中になり、彼女が生まれるとそれぞれ他の男や女を作って、彼女を見捨ててさっさと別れてしまった。彼女を育てたのは、彼女の父親の弟と名乗る男だった。
メタルアイはこの叔父に育てられたのだが、この叔父というのが酷い酒乱の男でまともな職についたことはなく、麻薬の密売や売春婦の斡旋など碌なことはやっていなかった。
彼はメタルアイのことなど愛情のカケラも感じていなかったが、役所から支給される「孤児育成報奨金」が欲しくて、彼女をイヤイヤ育てていたようなものだった。
叔父は報奨金をほとんど酒やギャンブルに使い果たし、メタルアイには犬か猫の食べるようなお粗末な残飯しか与えなかった。
アルコールでべろんべろんに酔っ払った彼は、幼いメタルアイに暴力を振るうこともしばしばだった。激しい叔父からの折檻をうけ、小さいメタルアイの体に生傷やアザが絶えることは無かった。
「何見ているんだぁ〜、このガキ!!」
特に何の理由もなく、そのときの叔父の機嫌次第で、メタルアイは地獄をみた。彼女に馬乗りになり、拳骨を彼女の体に叩きつける叔父の姿は、もはや鬼であった。
叔父の背中には、巨大な陰茎をこれ見よがしにおっ立てたゴリラの刺青があった。メタルアイを殴るたびに、そのゴリラの巨大ペニスが異様な興奮に打ち震えているかのように、激しく淫らに躍動した。
もはや叔父は、背中のゴリラと一体化した化け物であった。
メタルアイは殴られるたびに泣いていたが、やがて殴られても涙も出なくなった。
心の中で、次第に叔父に対する憎悪が膨らんでいき、その目には殺意すら宿った。だが、その怒りが爆発するには、彼女はまだまだ幼すぎたのである。
447 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:42:47 ID:zRL6RbSK
メタルアイは小学生に上がる年齢になると、役所や児童相談所の薦めもあって、孤児を集めた特殊児童学校にいくようになった。彼女は学校にいくようになって、自分と同じような境遇の子が多くいることを知った。
彼女のすさんだ心に少しずつ潤いが戻ってきた。家では相変わらず叔父に暴力をうける毎日だったが、学校での生活は彼女の顔に、忘れかけていた笑みを取り戻した。
学校での彼女の勉強の成績は、なかなかのものだった。知識とかに飢えていた彼女の脳は、水をよく吸い取るスポンジのように、本から得た知識をどんどん吸い上げていった。
彼女は学校にいる時間が楽しくなった。優しい先生に思いやりのあるクラスメート、このまま学校から帰りたくないと、いつも心の中で思っていた。
中学生に上がる年齢になると、メタルアイはますます勉学に勤しむようになった。成績優秀、運動神経もトップクラスの彼女は、全生徒の憧れの存在にまでなった。
だが、そんな彼女の勉学に励む姿も、彼女にしてみれば一刻もはやく、この薄汚い叔父から離れ、独立したい一心からのことであった。
そして彼女は努力の末、都内の有名進学高校に合格した。もう叔父の家にいる必要など無い。学生寮に引っ越しをすればいいのである。彼女は叔父の家を出る準備を整えていた。
だが、あの嵐のような、凶暴な一夜が、彼女の運命を大きく変えてしまった・・・・・
448 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:45:04 ID:zRL6RbSK
それは四月上旬の、まだ高校に通うまえの、メタルアイの部屋の中でのことだった。
部屋の中は学生寮に引っ越すために、本やら机やらいろんな物が、包装して置いてあった。いよいよ明日、この叔父ともおさらばできるのだ。これ以上の喜びが他にあろうか。
「・・・・・さあて、準備もできたし、そろそろ寝ようかしら。」
メタルアイは布団を敷き、眠りにつこうとしたそのとき、部屋の外で何やら騒々しい声がした。一人や二人ではない、かなりの大人数の男の声がこの部屋を目指してやってくる。メタルアイは本能的に危険を感じた。
やがて、部屋の中へどやどやと幾人もの男達が入ってきた。顔や服装を見ても、まともな世界にいる連中ではない。メタルアイをいやらしい目つきで嘗め回しているその姿は、飢えた狼の群れを連想させた。
「・・・・・な、なに!?あ、あなたたち!!」
「何はないだろう、何は・・・・・俺達はおまえさんの叔父の紹介で、おまえの体をご馳走になりにきたんだよ。」
「な、なんですって!?」
「へへへ、高校生にしてはなかなかいい体してんじゃねえか。2万払った価値はありそうだな。げへへへへ・・・・・」
叔父がこいつらに、私を売った!?な、なんてことを・・・・・
「おらよ、おとなしく俺達に、お股開けや、このガキ!!」
「い、いやぁ!!」
数人の男達の屈強な腕に組み敷かれ、メタルアイはなすすべもなく恥ずかしいポーズをとらされた。
連投中すみませんが容量が残りわずかです
450 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:46:41 ID:zRL6RbSK
「やめてえ、やめてよ!!」
「ん〜〜いい声だ。ゾクゾクするぜぇ。まずは俺からだ・・・・・」
男達の中でも、リーダー格と思われる男が、メタルアイの上から覆いかぶさってきた。男はメタルアイの着ているものを強引に剥ぎ取り、豊かな乳房と、まだピンク色の穢れのない陰部を露わにした。
男はビンビンに膨張した巨大な陰茎を差し出し、メタルアイの顔面に近づけた。
「まずは・・・・・俺のをしゃぶってもらおうか。間違っても、噛み切ろうなんて思うなよ。俺達はお前を殺すことぐらい、屁とも思ってないしな。」
「う、うぐぅ!!」
メタルアイの口の中に、男のイチモツが強引に入り込んだ。く、臭い!!
「う、うぐうぐ、ぐぐぐぐ・・・・・」
「う〜〜!!き、気持ちいい!!こいつ、舌使いがなかなか・・・・・」
メタルアイの口の中で、男の陰茎がピストン運動を繰り返した。陰茎の先が彼女の喉の奥まで来るたびに、吐きそうなほどの悪寒を感じた。
「う・・・・・い、いくぞぉ!!」
突然、メタルアイの口の中に、ドロッとした臭い液体が発射された。口の中にその液体が充満し、彼女はたまらず咳き込んだ。
「ゲホッ、ゲホッ、げええ・・・・・」
男が陰茎を口から離すと、彼女の口から白い液がどっと吐き出された。
451 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:51:56 ID:4RWIn5Rq
「おっと、まだまだこんなものじゃないぜ。次は本番、メインディッシュだぁ!!」
男はメタルアイに心の準備を与える隙もなく、その極太のペニスを彼女の大陰唇にぶちこんだ!!
「・・・・・!!!!!」
めりめりと処女膜が破れていく、そんな衝撃が全身を貫いた。男の核弾頭が、メタルアイのヴァギナの中へ突き進んでいく・・・・・
「あ、あ、あ、あ・・・・・い、痛い!!いいいいい・・・」
「す、すげえ!!この締まり具合、強烈だ!!やっぱり女は初物に限るぜぇ!!」
メタルアイのヴァギナの中で、再び男のイチモツの激しいピストン運動が始まった。メタルアイの全身を断続的に衝撃が襲う。しかもその衝撃は、いつしか快感へと変わっていった・・・・・
「あ、ああん、ああん、あああ・・・・・」
「へへへ、なかなかそそるよがり声じゃねえか。おら何だかワクワクしてきたぞ・・・・・」
メタルアイの乳房をつかみ、乳首を舌で転がしながら、男は言った。
「い、いく、いく、いっちゃうーー!!」
「ハァハァ・・・お、俺もだ・・・・」
「あ、あああ、あああああ!!」
「あああああ!!」
メタルアイと男は、同時に絶頂を迎えた。男のペニスから白い液が、メタルアイのヴァギナの奥に向かってぶち当てられた!!
「・・・・・・」
そのまま二人はがっくりとなった。メタルアイの両目から涙がつぅーと流れ出した。やがて意識が朦朧となり、気を失ってしまった。
だから、そのあとに多くの男達がメタルアイの体を蹂躙したことを、メタルアイは認識することもなかった・・・・・
452 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:54:32 ID:4RWIn5Rq
メタルアイが再び気がついたとき、部屋の中にはあの忌まわしいレイプ劇の張本人である叔父が、金の勘定をしていた。
「・・・・・ひどい!!あ、あたしを、あたしを、あいつらに売り飛ばしたんだね!!」
メタルアイの声は、怒りと憎しみで充満していた。だが、叔父はそんな声をあざ笑うかのように、
「へへへ、おまえの体、なかなか金になるな。これからも稼がせてもらうぞ・・・・・」
「・・・・・許せない・・・・・人の体をなんだと思っているのよ!!」
「ひひひ、明日は楽しい高校進学だったんだろ。どうだ、幸せの絶頂から、どん底に叩き落された気分は?ああ?」
叔父はわざと、高校進学前のこの日に、メタルアイを暴行するように男達に話を持ちかけたのだ。
そしてメタルアイの絶望のどん底にたたきこまれた悲痛な反応を、サディスト特有の異常なエクスタシーをもって楽しんでいたのだ。なんという悪辣な男なのだろう。メタルアイの両眼は、殺意に激しく燃え上がった。
「・・・・・殺してやる・・・・殺して・・・・」
メタルアイは包装してあった荷物の一つに手をつっこんだ。そして次の瞬間、彼女の右手には果物ナイフが握られていた。
「・・・・・ん?」
叔父はメタルアイの殺意にまだ気付いていなかった。気付いたときにはもう遅かった。メタルアイの握ったナイフが、叔父の腹や胸をメッタ刺しにしたのである。
「ぐ、ぐあっ!!き、貴様ぁ・・・・」
それが叔父の最期の言葉であった。叔父は腹部から鮮血を噴出しながら、あっけなく朽木を倒すかのように床にどっと倒れた。叔父の背中のゴリラが、まるで叔父そのものであるかのように、血まみれのナイフを持ったメタルアイを見つめていた。
「う、うう・・・・・」
メタルアイは急に自分のしたことが怖くなった。ナイフを思わず落とし、洗面所に駆け込んだ。
「お、おええ!!おええ!!」
メタルアイはたまらず胃の中のものを吐いた。殺人を犯した罪の意識、恐怖、絶望感が彼女を襲った。もはや彼女は引き返せないところまできてしまったのだろうか。彼女は両腕についた返り血を洗い流した。
それから彼女は荷物のなかから、必要な金や通帳、その他の持ち物をカバンに詰め、叔父の死体のある家から急いで逃げ出した。どこ行くあてもなく、夜の東京の闇の中へ消えていった・・・・・
453 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 02:56:35 ID:4RWIn5Rq
メタルアイはあてもなく、都内を転々と逃げていたが、お金も底を尽き、公園内で汚れた服装のままでうずくまっていたところを、通りかかった警察官によって補導された。交番のなかで、彼女はさめざめと泣き、自分の犯した殺人を自供した。
裁判所に送られたメタルアイは、叔父を殺した動機に情状酌量の余地があり、未成年ということで、都内の少年院に5年間服役するようにと、判決がでた。
少年院の女子部のなかで、昼間は社会復帰のための職業訓練をさせられた。精密機械の組み立て、家具の製造、衣服のクリーニングなど、多くの少女達と一緒におこなった。
少年院にいる少年少女たちは、ほとんどが「フリーチルドレン」であった。当然精神もすさみきっていて、女子部でも力の強い者が弱い者をいじめ、恐喝し、従わせる光景など日常茶飯事だった。
メタルアイもそんな女子部の不良たちに目を付けられ、因縁をつけられ、暴力を受けた。ときには数人もの女子にリンチにされたこともあった。
だが、やはりそこは気の強いメタルアイのことである。決して自分からは喧嘩を仕掛けなかったが、理不尽な暴力には、拳を振り上げて相手にかかっていった。
最初のうちは相手にボロ雑巾のようにタコ殴りにされたが、頭の回るメタルアイは次第に喧嘩のこつを覚え、相手を圧倒するようになった。
年中喧嘩ばかりしていたメタルアイは、体中に生傷が絶えなかった。同時に精神のほうも荒みきって人間不信に陥るようになった。
他の女子と一緒にいるときは決して涙を見せなかったが、夜の布団の中で人知れず涙をこぼしたことも多々あった。もう自分以外に頼れるものはなかった。
メタルアイは人間を、世界を、そして自分自身を憎んだ。なぜ、こんなどん底にまで堕ちてしまったのか、それを考えると悔し涙がぽろぽろとこぼれた。
(もういいわ・・・・・あたしは何も考えないことにしよう・・・・・何の感情もない、機械みたいな存在になろう・・・・・)
メタルアイは次第に生きる気力さえ失い、そんなことまで考えるようになったが、そのときには、まさか自分がその(機械みたいな存在)に現実になろうとは、夢にも思わなかった・・・・・
454 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 08:03:24 ID:p43iJA9r
5年後、メタルアイは少年院から出所した。入院中の仕事で貯めこんだわずかなお金を受け取り、彼女は都内の小さな町工場で働くようになった。
安アパートを借り、少ない給料でなんとか毎月を遣り繰りして過ごした。町工場の他の人間とはなんとなくなじめなかった。長い少年院の生活による人間不信がそうさせたのだろうか。それにしても、町工場の男達の自分を見る目はすこし変だった。
もちろん、殺人を犯した自分の経歴を皆はなんとなく知っているのだろう。だが、それだけではないような気がした。何か好奇の目で自分を見ている、そして何か企んでいる、そんな感じすらした。
工場に勤めて3ヶ月経ったある日、12月の寒い日の夜の事であった。世間では若い女性が行方不明になるケースが多くなっていたが、メタルアイは別に気に留めることもなかった。
工場からの帰り、彼女はもらった給料を持って、デパートにいった。婦人服売り場でこの冬流行のファッションを買うことにした。白い暖かそうなセーター、チェックの入ったミニスカート、女の子らしい可愛いデザインのコートなどを買った。
「今までおしゃれなんてほとんどしてなかったわ。今夜は思いっきりお金使ってキメてしまおうっと。」
最後に婦人靴売り場で、白いロングブーツを買った。お金を払った後、試着室で今まで買った服装を着込んだ。ブーツを履き、そのままデパートから家路についた。
455 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 08:04:57 ID:p43iJA9r
外は白い雪がちらほらと降ってきた。電車に乗り、アパートの最寄の駅を降りた。後はアパートまで人通りのあまりない、寂しい一本道だ。
メタルアイはコツコツとブーツを響かせ、家路を急いだ。と、後ろから誰かがつけてくるような気配がした。一人ではない。かなり多くの人数だ。メタルアイは嫌な予感に、足を速めた。
だが、次の瞬間、その多くの人影がダッシュして、メタルアイの行く手に立ちふさがった。見ると、町工場で働いている男達ではないか。
「な、なに、あなたたち!?」
「なんだはないだろう。実は俺達で、一種の賭けをしたんだよ・・・・・」
「・・・・・賭け?」
「そうさ・・・・・この中で、誰が一番早く、おまえを征服できるかってことよ。ふふふ」
それを聞いたとたん、メタルアイは血相を変えて逃げ出した。
「いやぁ!!た、助けてぇ!!だ、誰か!!」
「へへへ、助けてはないだろ。自分の肉親を殺し、少年院でも喧嘩三昧だったおまえが。」
「俺達はそんな気のきついお前を征服できるのが、最高のエクスタシーなんだ。ははは、今夜はおあつらえ向きに、色っぺえ格好してやがる!!ああ、ち○こ勃ってきたぜえ!!」
メタルアイは逃げに逃げた。公園内に逃げ込み、男達の追跡をなんとかかわしていた。だがやがて、公園内の小石にけつまづき、メタルアイは地面に倒れこんだ。
「へへへ、一番はいただき!!」
「やめてよ!!け、警察に届けるわよ!!」
「言えよ。言ってみろよ。元殺人犯で、少年院でトラブルばかり起こしてきたお前のいうことなど、誰が信じるものかよ。」
「ひ、卑怯者!!」
「お前を工場から追い出すも追い出さないも、俺達の意思次第だよ。へへへ、前科者が一度クビになったら、次の就職先決めるのはもうほとんどムリだろうなあ。」
メタルアイの上に覆いかぶさってきた男は、激しく抵抗するメタルアイを力ずくで組み敷こうとした。だが、メタルアイの抵抗は予想よりも激しく、なかなか思うような態勢にもっていけない。
456 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 08:06:04 ID:p43iJA9r
「おらおらどうしたぁ!!ものにできなかったら、俺達がかわりにやってやるぜい。けけけ!!」
「うるせえな。おまえらは黙って、そこで見ていろ!!」
メタルアイを征服しようとしている男の周りで、他の男達が下品にはやし立てている。男はますます躍起になって、メタルアイの太ももに手をかけ力を込めようとした。夜空から舞い落ちる雪は、ますます激しく振ってきた。
メタルアイがいくら少年院で喧嘩慣れしているとはいえ、そこは男女の力の差であった。次第に男の力で太ももがこじ開けられ、白いパンティが色っぽく覗いた。白いロングブーツとの対比の効果もあって、太ももが余計にまぶしく淫靡に見える。
「へへへ、抵抗したって無駄なんだよ。いただきぃ!!」
男はメタルアイの白いパンティに手をかけると、力任せにそれを剥ぎ取った。パンティを剥ぎ取った後には、ピンク色の熟れた大陰唇とクリトリスが露わになった。男は自分の勃起したペニスを取り出し、メタルアイの膣口にビトッとくっつけた。
「い、いやあ、い、入れないでぇ!!」
「もう遅いわ!!そぉら!!」
男が腰に力を入れると、ペニスはズブリと膣の中に一気に入っていった。
「ああ、あああああ!!」
男はそのまま、激しくピストン運動を繰り返した。メタルアイのヴァギナの子宮口に男のペニスの先が容赦なくズンズンとぶち当たり、そのたびに体全体に衝撃が走った。男が一突きするたびに、メタルアイのロングブーツはビクン、ビクンと痙攣をした。
(・・・・・ああ、あの時と、全くおんなじだわ・・・・・これがあたしの、逃れられない宿命なの・・・・・?)
メタルアイはもはや抵抗もせず、男のなすがままに犯され続けていた。その目からはすぅーと、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「うう、そ、そろそろ、い、いくぜえ!!」
突然、男のペニスの先から何か熱いものが、メタルアイのヴァギナの中にほとばしった!!と同時に、何か鋭いビームのようなものがメタルアイの視界に映ったかと思うと、次の瞬間、男の絶頂にイッちゃった表情の顔が、メタルアイの胸の上に落ちてきた。
457 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 08:10:57 ID:8tL6oQOL
メタルアイにはしばらく、何が起こったのか、まったくわからなかった。理解しようにも、頭の中はレイプされたショックで茫然自失の状態であった。
だから自分を犯していた男の生首がメタルアイの胸の上にちょこなんと乗っているのも、ペニスを差し込んだままの首なしの胴体が、切断口から血を噴出しているのも、そのときのメタルアイにはまるで別世界のことのようだったのだ。
「な、なんなんだ!!お、おまえらは!?」
周りを囲んでいた男達の怒声が響いてきた。見ると、男達から10メートルと離れていないところに、数人の若い女が立っていた。
服装はメタルアイと同じような、全員ミニスカートにブーツといったようないでたちだ。
そして次の瞬間、メタルアイは信じられないものを見た。
女達の両眼から突然、鋭いビームが発射され、男達の首を、胴体を切断していったのだ!!
「う、うわあああ!!」
「なんだこいつら、ば、化け物だぁ!!」
「に、逃げろぉ!!」
残った男達は一目散に逃げようとした。だが、もう遅かった。女達のアイビームの攻撃は、逃げようとした男達の体を、バラバラに切り裂いてゆく・・・・・
458 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 08:11:50 ID:8tL6oQOL
公園内に降り積もった雪も、メタルアイの周囲は真っ赤に染まっていた。男達のバラバラにされた体の各パーツが、千切られたおもちゃの人形のように、無残にころがっていた。
あの、両眼からビームを出した女達は、つかつかとメタルアイのほうに近づいてきた。
「・・・・・・???」
メタルアイは倒れたまま、女達のほうをぼーっと見ていた。一人の女がメタルアイの胸の上にまだ乗っかっている男の生首を取り除き、首なし死体のペニスをメタルアイのヴァギナから引っこ抜いた。
「・・・・・ずいぶん手酷くやられたようね・・・・・」
「・・・うう、う・・・・・」
メタルアイは返事をするのが精一杯だった。あまりの現実離れした出来事に、頭の中が混乱していた。メタルアイの膣口から、男の白い精液がドロリと流れ出していた。
「・・・・・男たちの非道ぶりが、これでわかったでしょう?どう、あたしたちと一緒にこない?」
「・・・・・あ、あなたたちは・・・・・」
「あたしたちに身をゆだねれば、あなたの体を男達に負けないような体に改造してあげる。そう、あたしたちのようにね・・・・・」
メタルアイは、ようやくフラフラと立ち上がった。
「か、改造、って・・・・・?」
「あなたは、あたしたちと同じ、サイボーグになるのよ。」
「さ、サイボーグ・・・・・??」
SF漫画のようなことを言われ、メタルアイの頭にはピンと響いてこなかった。
「こいつらの死体処理は、スィーパーがやってくれるわ。さあ、あたしたちと来なさい。」
いつのまにか、公園内に黒い亡霊のような車が到着していた。メタルアイは女達に誘われるままに、女達と一緒に車の中に乗り込んでいった・・・・・
「アイ、メタルアイ。大丈夫か!?」
翔也の声に、メタルアイは思い出から現実の世界へと引き戻された。牢屋の鉄格子の外に、翔也がメタルアイを見下ろしながら立っていた。
「・・・・・翔!!」
メタルアイの両目から、思いがけなく涙が止めどもなく溢れ出した。翔也は優しい笑みを浮かべながら、メタルアイを見つめていた・・・・・
SS換算であと6レスくらいしか容量ないよ。
次スレ立てヨロ。
461 :
虞祭坊:2005/07/04(月) 20:03:08 ID:N58k4Ecq
なんとか、警察パートと、メタルアイの回想を書くことができました。
しかし、最近はスレの進み具合が早い早い!!まあそれだけこのスレが充実してきて、喜ばしいかぎりです。
>manplus様
ラバーフィットスーツ着用のための処置、達磨にされたみさき少佐と、めくるめく改造シーンの続出に、興奮して読まさせていただいてます。はるかさんの妹が出てくる展開で、今後のストーリーが楽しみです。
>3の444様
ヤギー久しぶりの登場を、今か今かと待ち焦がれていました。「くしゃみ」のエピソードは、義体の商談と迷信が見事なコントラストで、、なかなか面白かったです。はるにれ荘のアニーちゃんの活躍に期待しています。
>前389様
注射で全身の骨を鋼鉄にしてしまうところは、「レインボーマン」のドクター・ボーグが開発した「ボーグα」を思い出しました。(注射打つだけで、人間をサイボーグにできる薬)山根さんの非道ぶり、ますます磨きがかかっていますね(笑)
>M.I.B.様
明日香さんの恐怖の再教育プログラム、そのエピソードをぜひぜひ読んでみたい!!量産機の展開も面白そうです。
manplus様。最高です。萌えましたヌきました。
保守