1 :
前389:
サイボーグ娘に萌えるスレです。
人工皮膚系・金属外骨格系どちらも(それ以外も)OKです。
事故や病気で体を失って機械化した娘、特殊な作業に特化した体を得る為に機械化した娘、萌えるじゃないですか!
自分の機械の体で悩む娘も、能天気な機械化娘も、萌えるじゃないですか!
そんな趣旨のスレです。
アンドロイド娘とはかなり方向性が異なるので別スレになりました。
アンドロイド娘は完全人工な娘、サイボーグ娘は生身だったのを機械に改造した娘です。
区別の目安としては、脳味噌が生身か造り物か、という事になります。
2 :
前389:05/03/03 23:50:08 ID:9l5KMBnj
3 :
前389:05/03/04 00:06:03 ID:dWD4cjCI
突然512kbを超えてしまったので、新スレを立てさせてもらいました。
長文が多いようなら、要領には気を配らないと駄目ですね…
4 :
3の580:05/03/04 00:47:03 ID:vE2mQheq
>>1-3 スレ立て乙です。
まさか容量制限にひっかかるなんて…。駄文書き込み、反省します。
前スレ用に書いてしまった分だけ、書き込ませてください…。
>>826-827 辛い気持ちを押し隠して平静に振舞う様が、切ないを通り越して、痛々しいと思い
ました。化け物なんて、一番言われたくない言葉ですよね…。
>>830-832 茜ちゃん、暴走しすぎです…。小悪魔を通り越してます。北崎君だけならともかく、
こんなに目撃者がいて、どう収拾をつけるんでしょう。
茜ちゃんの悪魔ぶりと、八木橋さんの善良さが対照的で萌えました。北崎君に謝っ
たり、最後にアームが頭の上に落っこちてきたり、これだけの事態になっても、
まだ八木橋さんの周りだけ暖かい雰囲気を感じます。外から見てる人にとっては、
恐怖の具現化そのものにしか見えなかったのでしょうけれど。
それにしても、八木橋さん…つくづく不幸…踏んだり蹴ったりですね・°・(つД`)・°・
入院検査編は茜ちゃんを避けて通れなさそうなので描いてみました。
サボテンみたいな髪型って、こんなでしょうか。服飾まわりは、よくわかりません…。
ttp://akm.cx/2d2/img/5560.jpg
5 :
前389:05/03/04 01:14:31 ID:dWD4cjCI
保守を兼ねて、前スレと多少ダブったところから張りますね。
一定以上の容量になると即死しなくなるらしいですが、何kbなんでしょうかね
6 :
前389:05/03/04 01:15:55 ID:dWD4cjCI
E−1
「あ、あれ?」
ここはどこなんだろう。
病室に似た質素な内装だけれど、床にはスパナとかドライバーとか、工具が散らばっている。
私は夏の日が差し込む窓際のベッドに寝かされていた。
「あ、身体が…動く」
上半身を起こして、部屋をぐるりと見渡してからようやく気が付いた。
(一体なんで動けなかったんだろ…)
その答えを求めるように、自分の身体へ視線を落とすと、
「……え? なに、これ……?」
私の身体が、真っ青に染まっていた。
胸も、手も、足も、指先まで青い金属光沢を放っている。
「えっ…えっ…!?」
その青い指で、全身をまさぐる。 返ってきたのは、無機質な金属の感触だった。
ちょっぴり膨らんでいた胸も、水泳で引き締まった脚も。 私の全てが硬い金属になってしまっていた。
「なにが…どうなって…」
ふと、私はあの記事を思い出した。
何の罪もない少女を機械の身体へと改造し、窃盗行為を強要していた女が刑務所から消えた事件。
そう、この私の身体は…数年前にガジェットという名で盗みを働いた少女の身体と、そっくりだった。
「まさか、そんな…私が、ガジェットに…!?」
不意に、隣の部屋から女の声が聞こえた。
(まさか…)
扉から犯人の女が現れて、お前は私の道具になったのだ、と告げる…その恐怖に耐えられなくなった私は、
逃げ出そうとベッドから跳ね起きた。 その瞬間、
「!!」
あの痛みが全身を駆け巡った。 まるで鉤爪が内側から身体を引き裂くような感覚。
身体がベッドに倒れこむ。 身体が動かないんじゃなくて、痛くて動かせない。
その音を聞きつけたのか、声の主がドアを開けて部屋に入ってきた。
「どうしたの、大丈夫!? どこか痛いの!?」
それは、真っ黒い、私とそっくりな身体の少女だった。
7 :
前389:05/03/04 01:18:18 ID:dWD4cjCI
●E−2
廃棄されていた少女、ミズサワ・ユカリさんが意識を取り戻した事で、事件は一気に解決に向かうと思われた。
ところが、ユカリさんは、全身の激痛でほとんど証言が出来ない状態だった。
「その原因は、金属部と生体部のサイズ不一致と分かりました」
カズヒロさんがホワイトボードを前に解説している。
「私のサイボーグ技術では、脳以外を全て機械に置き換えてしまいますが、あの女の技術では、補助的な
動力源として、全身の要所要所に人間としての筋肉を利用しています。
つまり、体内に主動力源や機械類、体表に金属外骨格、その間に筋肉がサンドイッチされた構造なんですが…
これらのサイズが不一致なために、全身の筋肉が金属パーツに圧迫され、痛みの原因になっているのです」
「う…わ…」
身体の中に埋め込まれた機械の突起が筋肉に内側から食い込み、外からは金属の殻がその筋肉を内側へと
締め付ける。
(あの女に改造された私も、一歩間違えればそうなっていたのだろうか)
想像するだけでぞっとしてしまう。
「カズヒロ技術官、なぜその手違いが生じたか、分かる?」
警部さんが勤めて冷静に質問する。
「おそらく人違いかと、思われます。 本来改造されるはずだった少女の身体に合わせてパーツを製造したものの、
手術するときに、間違えてユカリさんにそのパーツを埋め込んでしまった、という事かと…」
「そんな…」
理不尽だ、人違いなんて。 そんなの、拉致されて無理矢理 改造されてしまった私と何も違わない。
8 :
前389:05/03/04 01:31:39 ID:dWD4cjCI
●E−3
「となると、事を急がなければならないわね」
警部さんが立ち上がり、カズヒロさんに代わってホワイトボードの前に立つ。
「急がないと、人違いのおかげで助かった少女まで、本当に改造されてしまう事になるわ」
「あ…確かにそうですね」
「でも、犯人やその少女の居場所は…」
「目星は付けたわ、県内のJ大付属病院よ。 改造手術が出来るだけの技術と設備を備え、かつ、
ここ一ヶ月間に“ミズサワ・ユカリ”という名前の子が救急車で搬送された記録があるのはここだけよ。
…もっとも、この県内と限っての話だけど」
「ちょ、ちょっと待ってください、それじゃ捜査令状は取れませんが…」
「責任は私が取るわ。 少女一人の肉体が失われてからでは遅いのよ」
慌てるカズヒロさんをよそに、警部さんは一人でJ大付属病院に乗り込む気だ。
「警部さん、私が一人で行きます」
「サチ…?」
「私なら、警察の介入と覚られないように隠密捜査することが出来ます」
「でも…」
「私がこの身体に…盗人であるガジェットの身体に戻ったのは、そのためです」
>>389 人違いで無理矢理サイボーグ化。しかも不良品!かわいそうで萌えます!
10 :
前389:05/03/04 10:01:39 ID:dWD4cjCI
>9
どうもありがとうです。
>3の580氏
>“あの女”のボディカラー
なんとなく黒でイメージしてましたが、赤はいいですね。 赤でお願いします。
悪魔っぽい赤と言うと、赤黒い色でしょうか?
>普通の白衣だと、襟元等に露出部分がありますが
下にハイネックの服を着ているようなイメージです。 なぜ白衣と一緒にワンタッチで脱げるのかは
一種のお約束と言う事で…
脚のほうは、白衣の裾の長さでなんとかカバーを…
そのほかはお任せ致します。
自分の考えた話に絵がつくのは初めてな上に、とても上手なので本当に嬉しいです。
11 :
前389:05/03/04 10:05:37 ID:dWD4cjCI
●F−1
夜が更けたにもかかわらず、日中の蒸し暑さが和らぐ様子はなかった。
といっても、機械になってしまった私は、自分の汗や体臭で煩わしい思いをすることがない。
「それじゃ警部さん、行ってきます」
「サチ、気をつけてね」
見送る警部さんの顔は、不安に曇っていた。
「大丈夫ですよ。 だてに十一回も警部さんを出し抜いてませんから」
「確かに…それもそうね」
ちょっとだけ口惜しさの混じった警部さんの笑顔。
「じゃ、無事と成功を祈ってるから」
そう言って、警部さんは私のほっぺに軽くキスをした。
(警部さん、ちょっと変だったな)
自分が捜査の陣頭に立っているときは、あんなにキリッとしているのに、私を見送るときは、
(なんか心細そうな顔をしてたような…)
そんなことを思いながら、J大付属病院へと家々の屋上を駆けた。
J大付属病院は、県内でも最大の病院だ。 のどかな田園風景の中にそびえる白い巨大なビルは、
遠くからでもよく目立つ。
病室の明かりはほとんどついていない。 患者は充分寝静まってしるようだった。
塀を難なく乗り越え、庭の木陰を伝って、素早く病棟の壁に張り付く。
(久しぶりね…この感じ)
緊張と興奮、そして見つかる事への恐怖。
でも、以前とは違う。 人を救うためだという確かな意思がある。
今の私には、身のこなしだけでなく、心にだって隙はない
12 :
前389:05/03/04 10:07:06 ID:dWD4cjCI
●F−2
機械の身体という私は、誰がどう見ても不審者だ。 かといって、光学迷彩の常時使用は
エネルギーの無駄使いになる。
そこで、更衣室から看護服を一着、こっそり拝借する事にした。
「…と、これならパッと見バレないわよね」
ロッカーの隣の鏡に自分の姿を映してみる。
裾とニーソックスの間や、袖と手袋の隙間からチラリと黒い金属の肌がのぞいてしまうけど、
夜のうちは問題ないと思う。 頭のカチューシャ型のパーツは、ナースキャップでそこそこ隠れたし。
変装を終えてまず向かったのは、院内のコンピュータールーム。
誰もいないのを確認して、手袋を脱ぐ。 手首からプラグ付きコードを引出し、サーバーマシンに差し込んだ。
「管理の人には悪いけど…」
体内のメモリに保存しておいた、特製ウイルスをサーバーマシンにインストールする。
カズヒロさんが言うには、これはトロイの木馬という種類のウイルスで、感染したパソコンは
簡単にハッキングされるようになってしまうらしい。
『警部さん、聞こえますか? 任務その一、完了です』
無線で成功を報告する。
『私は引き続き、看護婦に変装して院内の探索を続けますね』
『了解よ。 こちらはすぐに病院のパソコンに侵入して、データを引き出すわ。 何か分かり次第、連絡するわね』
『はい、早めにお願いします。 それじゃ、また』
『サチ、大丈夫? 怪しまれたり正体ばれたりしてない?』
『大丈夫ですって。 ちょっと不届きな物を見つけちゃいましたけどね』
13 :
前389:05/03/04 10:21:43 ID:dWD4cjCI
●F−3
任務その二、それはつまり「新たな改造手術の芽を摘むこと」だ。
患者さんも利用する病院の施設を破壊するわけにはいかないから、さらわれた“あの女”を救出するか、
まだ顔も名前も知らないサイボーグ候補の少女を保護するしかない。
(しらみ潰ししか手は無いわね)
時間なんていくらあっても足りないけど、夜が明けてしまう前に何としてもやり遂げなければならない。
私はコンピュータールームを後にすると、薄暗い病棟へ踏み込んだ。
(次は、精神科の病棟か…)
数時間の探索が徒労に終わり、次第に焦りが生まれてきたそのとき、
(……!?)
私は異様な気配を感じ、足を止めた。
ただ高性能なセンサーを積んだだけでは絶対に分からない。 悲しいけど、泥棒の第六感というやつだ。
明かりの消えた病室の中で、息を殺して外の様子を窺っている何者かが確かにいる。
(501号室に一人、503号室に二人、506号室にも二人ってところね……)
異常だ。
「ここだ」という興奮と「どうすれば」という思考で、私の脳が熱くなっていく。
(私の姿を目撃されるわけにはいかないから、作戦は限られるわね…なんとかして連中をおびき出せば…)
そのとき、505号室の扉が、音を忍ばせるようにゆっくりと開いた。
14 :
前389:05/03/04 10:29:17 ID:dWD4cjCI
すいませんが週明けまで暇がないので、続きは少しお待ちください。
ほしゅ
>>15 ほしゅ乙です。
>>11-13 ハツミ警部とサチさんの、ライバルと姉妹と恋人?の混じりあったような絶妙な
関係の描写が素晴らしいです。服の隙間から微妙にのぞく金属の肌に、萌え心を
そそられます。看護服っていうのもポイント高いです。カチューシャ型のパーツ
は、私が描いちゃったからでしょうか?扱いにくい物を勝手に付け加えてしまっ
てすみません。
次回は、いよいよサチさんの本領発揮でしょうか…。楽しみです。
>>10 了解です。9-2のシーンが念頭にあったので白衣だけかと思っていました。色は、
暗い赤にしてみます。脚の方は膝上までのブーツでどうでしょう…。
作者様に喜んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。
19 :
444:05/03/07 01:52:20 ID:OnFdRWOV
サポートコンピューターと脳の接続を切られた私は五感の全てを奪われて、 上も下もない真っ暗な虚無の世界に
意識だけが閉じ込められた。 だって、 私のホントの身体は脳しかないんだもの。 サポートコンピューターの助けが
なければ、 もう、 見ることも聞くことも肌触りを感じることも、 何一つできないんだ。 いつも、 コンピューター
との接続を切られる度に、 どんなに機械の身体が嫌でも、 もうこの身体の助けなしには生きていくことができないんだって
ことをいやおうなしに思い知らされる。
松原さんはさっき何って言ってた? ここで反省してろって? いったいどれくらい? 松原さんは義体じゃないから、
身体の全ての感覚を奪われることが、 いったいどれほど辛くて恐いことか知らないんだ。 だからそんな鬼みたいな
ことが言えちゃうんだ。 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 助けて! 助けてよう。 ここから出してよう。 私は何も悪くないんだ。
全部茜ちゃんなんだよう。 なんで茜ちゃんのせいで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。 あのクソガキっ!
今度会ったらただじゃすまさないからね。
私の意識は世界中の誰にも届かないって分かっていたけど、 永遠の暗黒に向かって思いつく限りの悪態をつき、
救いを求め続けた。 そうでもしてなきゃ気が狂っちゃうよう。
いったいどれくらいの時が過ぎたんだろう。 もう時間の感覚もなくなりかけた頃、 明かりが突然ついたみたいに
不意に周りが真っ白になった。 やわらかい乳白色の光の中で、 私は一人で立っている。 立ってるって? はは、
手も足もついてるよ。 身体が実体化してるよ。 この感じ、 前にも経験したことがある。 遥遥亭に入る前の、
あの感じだ。 胸に手をあててみたら、もうなくなったはずの心臓が、そこで確かに脈打っていた。この身体、
プログラムが作り出した幻影のはずなんだけど、 まるで本物みたい。 助かったあ!
“八木橋さん、八木橋さん、聞こえますか?”
どこからともなく松原さんの声が聞こえた。 相変わらず尖った声だったけど、 それでも、 ずーっと
暗いところで一人ぼっちだった私には天使の声のみたいに聞こえた。
「松原さん! 松原さんだよね。 私の声、 聞こえるんだよね?」
20 :
444:05/03/07 01:54:06 ID:OnFdRWOV
“ちゃんと聞こえてますっ! 八木橋さん、 さっきはどうも有難うございます。 あなたのお陰でこのあとの
入院患者のスケジュールが滅茶苦茶になりましたから。 私がいったい何人の人に電話して謝ったと思って
ますか? 今日の研修が中止になったのはなんでだと思いますか? 吉澤先生が今度の日曜に出勤する破目に
なったのは何でだと思いますか? そこらへんのところをじっくりとお聞かせ願いたいものですね“
茜ちゃんがなにかフォローを入れてくれるかなってホンのチョッピリでも期待した私が馬鹿でした。
松原さん、 完全に私の仕業と誤解してるよ。 でも、 研修は中止になったんだ。 そりゃあ、 そうだよね。
北崎も女の子もあんな状態だったもんね。 北崎に機械の身体を晒さなくてすんだのはよかったけど、
私の事、 人間の皮を被った化け物だって思われてるかもしれないと思うと複雑な気分だ。 ああ、
そんなことより、 まずは松原さんの誤解を解かなきゃ。
「松原さん、 違うんだよう。 さっきのは私じゃない! 茜ちゃんが私の身体を操ってたんだよう」
“ふーん、 西田さんが? ですか。 これはまた面白いことを言いますね。 暴れたのは八木橋さん、
ほかでもない貴女自身ですよ? まさか、 西田さんが貴女のサポートコンピューターをハッキングした
とでも言うわけ?“
松原さんの反応は至って冷ややか。 私には声しか聞こえないけど、 真っ赤な顔して膨れっ面してる
松原さんの顔がありありと思い浮かんだ。 松原さん、 真面目で、 いい人ってのは認めるけど、 真面目
すぎて融通が聞かないし、 すぐ怒るし、 私はっきりいって苦手なタイプなんだよね。 こういう人の誤解を
解くってホント苦労しそう。
「そのまさかだよう。 茜ちゃんが私のサポートコンピューターをハッキングして身体を乗っ取ったんだ。
あの子は天才ハッカーなんだ。 松原さんも茜ちゃんの担当なら、 そんなことくらい知ってるでしょ? 茜ちゃん、
そこにいるんでしょ。 茜ちゃんを出してよう」
21 :
444:05/03/07 01:55:14 ID:OnFdRWOV
“西田さんは貴女より一足先に南の島にバカンスに出かけちゃいました。 向こうで貴女を待ってますっ!
あのねえ、 八木橋さん。 私も西田さんの担当になってから二ヶ月くらいだから、 あの子のことは余りよく
知らないけど、 義体の制御コンピューターのプロテクトがそんな簡単に破れるわけないでしょ。 あなたに何が
あったのか知らないけれど、 嘘つくのはやめてくださいっ!」
「松原さん、 私のこと信じてよ。 嘘だと思ったら、 私のサポートコンピューターへのアクセスを解析してみてよ。
ねえ、 考えても見てよ。 私がどうして部屋の明かりを消したり、 診察台のライトやアームを自由自在に動かしたり
なんてことができるのさ? そんなこと私やりたくてもできないよ。」
“そうそう、 そこのところは吉澤先生も信じられないって言ってました。 そんな簡単に診察用コンピューターを
乗っ取られるなんて由々しき事態だってあわててますっ! だから、 言われなくてもこれからじっくり貴女の
サポートコンピューターのログを解析して検証させていただきますのでご安心下さい。 ま、 事実はすぐに明らかに
なるでしょうけどね。 とりあえずは、 南国リゾートを楽しんでもらって、 話は検査が終わった後でじっくりと
しましょうか?“
新スレ立て乙。
ヤギー萌え!!
あの両足義足の女の子もさりげなく萌え。(まだほとんど出てないけど)
義体メーカーの面接だから義足の苦労話をしただけで、普段から不幸自慢しまくってるようなコじゃないと思っているのですが……実際にはどうなんでしょ?
23 :
444:05/03/07 02:05:44 ID:OnFdRWOV
駄目だ、 松原さん全然信じてくれない。 まったくもうっ! ケアサポーターが患者の言うこと信じなくて
どうするのさっ! 私はあなただけが頼りなんだよ。 あーあ、 こんなとき汀さんだったら私を信じてくれたはず
なんだけどな。 松原さんと汀さんじゃあ、 ケア・サポーターとしてのキャリアも全然違うから、 比較しちゃ
可哀想だと思っても、 どうしても較べずにはいられない。
「うー、 松原さん、 まだ信じてないね。 私ホントに何もしてないんだよう。 あとで謝るのは松原さんなんだからね」
「そうなるといいですけどね。 ははは。 まあとりあえず、 どうぞ、 ごゆっくりおくつろぎ下さい」
松原さんがそう言い終ると、 遥遥亭の時みたいに、 だしぬけに目の前に古ぼけたドアが現れた。
製品化されても仮想空間への入り口は、 相変わらずこのいかにも重そうな木の扉なんだ。 ふふふ、
これが、 古堅クオリティってやつかなあ。 私、 部長のセンス嫌いじゃないよ。 ここで話し続けても誤解は
解けそうにないし、 私も南の島に行くよ。 このドアの向こうに茜ちゃんがいるんだね? 待ってなさいよ!
今とっちめてやるんだから。 茜ちゃんは義体の先輩で、 義体を操ることにかけては私より上かもしれないけど、
でも、 生身の身体の経験は私のほうが上なんだから。 今からそのことを思い知らせてやるっ! 泣かして
やるんだからっ! 海で遊ぶのはその後だよ。
24 :
444:05/03/07 02:33:36 ID:OnFdRWOV
いつの間にか新スレが立っていたとは。いや、なんだかずいぶんレスが
つかないなあとは思っていたんですけど、容量オーバーですか。あと、
いつの間にか三連投で規制に引っかかるみたいで、四連投目は間があいちゃいました。
前は八連投げとかできたんだけどな。それはともかく389氏、新スレ立て乙
です。今週は接待週間で、世にもくだらなーい飲み会で毎日午前様になりそう
なのです。な、ものですから話はなかなか進められないと思いますが
長い目で見守ってください。
>>4 580様。
あなたの、そして皆様の感想カキコがあったからここまで来れたと
思っているのです。駄文なんてとんでもないです。容量なんて気にしないで
ジャンジャンお願いしますよ(って、私が言っていいんだろうか)。
おお、八木橋さんのみならず茜ちゃんまで。かっこいいぞ、茜ちゃん。
いつも有難うございます。髪型はそんな感じで結構です。服装は
実は私もよく分かっていなかったり。ティーンエイジのいまどきの
ファッションってどんなかなと検索かけてみたりしたのですが、いま
いち適当なページが見当たりませんでした。なので、その絵のイメージ
で行かせていただきますね。
>>22 田中のみわっちですね。彼女は、もし作者のやる気が続けばですが
イソジマ電工編で、ヤギーの同僚としてメインキャラに昇格する
予定なのですよ。深町さんと一緒にウイングスで活躍するかもです。
>>24 本当ですか!期待してます。
ところで、なんか下がりすぎてるみたいなので一度ageときますね。
26 :
前389:05/03/08 01:05:44 ID:h4IvB90Q
>>17 いつも乙です。 ブーツは思いつかなかったです。 悪そうな感じも出せそうでいいですね。
>ダブルコート型の白衣
母校で理工学部の学生が使ってました。 医学系と理工学系で白衣は違うのでしょうかね?
まあ、サイボーグは両方の要素を含むので、どのみち無問題ですね。
裾の割れる白衣でも、「あの女は人前で座らない」って事に出来るのでOKです。
サイボーグなら脚が疲れることはないですから。 580氏の萌えるほうでどうぞお願いします。
>扱いにくい物を勝手に付け加えてしまって
私の外見描写が不足気味なので、お互い様ってことでw これからも気にしないでください
>>前スレ444氏
乙です。 八木橋さん、いつもいつも可哀想で…
等身大というか、日常の中の悲劇が本当に上手く書かれてます。
>>19-21,
>>23 お疲れ様です。
感覚遮断の暗黒地獄の中の苦しみとか、生身の身体を失った悲しみとか、相変
わらず萌えです。松原さんの誤解は、解くことができるのでしょうか…。およそ
起こりえない事態なので、松原さんの対応も、やむなしと思います。でも自分の
担当患者は信じてあげてください…。>松原さま
八木橋さんにも、苦手なタイプっているのですね。
北崎君や女の子の誤解は解くことができたとしても、八木橋さんから受けた恐怖
は消えないのだろうと思うと、複雑以上の気がします。やっぱり、茜ちゃん、
やりすぎですよ…。
次回は、いよいよ茜ちゃんと対決でしょうか。展開がまったく読めないので、どき
どきわくわくです。
>>24 お仕事ご苦労様です。お体を壊さないよう、お気をつけください。無理のない
範囲で、続けていただければ嬉しいです。
作者様にとって多少なりとも意味があるのでしたら、今まで通り書き込みさせ
ていただきたいと思います。稚拙な文章ですが、せめて、作品を読める喜びだ
けでも、お伝えしたいです。
茜ちゃんの服装は…すみません。私の方も、これで描いてみます。
イソジマ電工編って大学生活編と同じレベルの分け方ですよね?いままで以上
に八木橋さんの活躍が拝めるのでしょうか。八木橋さんの作品世界がどんどん
広がっていくようで、楽しみです。
>>26 なるほど。理工学系なら雰囲気として合っていそうな気がします。それでは
今のデザインで、白衣をダブルコート型に変えてみます。人前で座らないっ
ていう設定は、普通じゃない感じがあって、面白いです。
>お互い様ってことでw これからも気にしないでください
ありがとうございます。でも、デザイン等で、何かありましたら、ご指摘いた
だけると嬉しいです。
28 :
名無しさん@ピンキー:05/03/08 12:49:39 ID:Amwl51n7
ほしゅ
保守
31 :
前389:05/03/10 00:08:40 ID:GFAkZu+e
G−1
精神科病棟505号室から現れたのは、少女を乗せたベッドと、それを押す不審な男が一人。
すると、周りの病室からも男が次々と現れ、少女のベッドを囲むように集った。
「行くぞ」
最初に出てきた男が、低い声でただ一言告げる。
残り五人が無言で頷き、ベッドを先導するように歩き出した。
夜の廊下に低い足音とベッドのキャスターの音だけが響く。
ベッドに乗せられた少女は、安らかな顔で微かな寝息を立てている。
自分が得体の知れない男達に囲まれて、どこかへ運ばれている事など、知るよしも無かった。
ベッドがエレベーターの前で止まる。 男達はベッドを別の階に運ぶつもりらしい。
男の一人がボタンを押す。
「ん?」
「おい、どうした?」
「エレベーターのスイッチ、押しても反応しねえ」
「なに、故障か?」
最初の男が舌打ちする。
「フロアの反対側へ回るぞ。 あっちにもエレベーターがある」
「時間は大丈夫なんで?」
「だから急ぐんだよ」
少女を運ぶ男達は、足早にエレベーターホールを去った。
32 :
前389:05/03/10 00:10:15 ID:GFAkZu+e
G−2
男達は焦っていた。
反対側のエレベーターを目的の一階で降り、真っ直ぐ予定のルートに戻ろうとしたが、
その途中には産婦人科の病室が並んでいた。
「どうします? この小娘が起きたら…」
男達は、赤ん坊の夜泣き声が響く廊下を通る事に躊躇した。
「睡眠薬が効いてるはずだ、そう簡単に目は覚めないはずだが…」
「しかし、誰かに見られたら…」
夜でも寝静まる事の無い人の気配。 結局、男達は更なる迂回を決断した。
「くそっ、急げよ! 前回みたいな人違いをしないために、時間は厳密に守れと言われてるんだ」
ベッドのキャスターがガラガラと音を立てる。 既に男達には足音を忍ばせる余裕も無い。
そんな彼らが、足元に待ち構える細い鋼線に気付くはずがなかった。
病棟から本館への連絡通路を渡る。
「よし、もうすぐ手術室だ。 なんとか間に合…」
男達の気が緩んだその瞬間、前を走る五人が前にのめった。
「なっ!?」「うおっ!?」
何が起こったかも分からず、派手に転倒する五人。
「バッ、バカ!」
目一杯の速度で走っていたベッドは、止まり切れずに男達の身体に乗り上げ、バランスを崩し…
男が覚えているのはそこまでだった。 天井に張り付いていた人影が音もなく背後に降り立ち、
掌に仕込まれたスタンガンを自分の首筋に押し付けた事に、男は気付かなかった。
33 :
前389:05/03/10 00:12:28 ID:GFAkZu+e
G−3
「痛ぇ…」「ぐっ…」
男達が我に返り、よろよろと立ち上がる。
「あ…小娘が!?」
「どうした!? まさか…」
男達の傍には横転したベッドがあるだけで、そこに寝かされていた少女は影も形もなかった。
「今ので目が覚めちまったんでしょうか」
「いや、まさか…」
「どうするんです、もし逃げられたら…」
男達の顔から血の気が引いていく。
そのとき、パタパタと足音を立てて、一人の看護婦が駆け寄ってきた。
「どうかされましたか? なんか凄い音が聞こえたんですけど、ガシャーンって」
ベッドが横転した音を聞きつけてきたらしい。
「あの、お怪我とかありませんか?」
「そ、そんなことはいい! お前、女の子を見なかったか!?」
男が必死の形相で看護婦に詰め寄る。
「ああ、その子でしたら、さっき私とすれ違って、裏口から出て行きましたけど…」
「!」
看護婦が言い終わらないうちに、男達は弾かれたように裏口へ向かって駆け出した。
「…残念でした」
一人廊下に残された看護婦がにやりと笑う。
ばさりと脱ぎ捨てた薄桃色の衣装の下から、月光を受けて鈍く光る黒い身体が現れた。
「さて、アイツらの注意が裏口に向いてる間に、引き揚げますか」
姿の消えた少女は、すぐ傍の掃除用具ロッカーの中で眠っていた。
サチは少女の身体を抱え上げ、窓から飛び出したかと思うと、あっという間に夜の闇に溶けていった。
34 :
前389:05/03/10 00:25:25 ID:GFAkZu+e
保守乙。
今回は客観視点で書いてみました。
ヤギー作者氏へのお願い
ttp://plum.s56.xrea.com/2ch.html 現在開催中の「第2回・2ちゃんねる全板トーナメント」で
我らがフェチ板は一時予選20組(3/23)にノミネートされた。
そこで、「フェチ板発萌えキャラ」ってな感じで
ヤギーまとめサイトを紹介させてほしいんだけど・・・
許可もらえるだろうか?
36 :
前444:05/03/10 02:27:09 ID:5nHfhb30
>>35 へー、こんなことやってるんですね。
まとめサイトの紹介は、しちゃって構わないですよ。
義体で、眼鏡で、アオザイで、浴衣で、臆病で、H好きで、たまに
鬱が入って、面倒見がよく、ボロ屋暮らしで、天涯孤独で、力仕事の
バイトに明け暮れる、大学4年だけど身体は高校生なヤギーをフェチ板
発の萌えキャラとして紹介して頂けるわけですね。
一般人の反応ってどんななんだろか?
37 :
前580:05/03/10 21:53:23 ID:3WgodGuy
>>31-33 お疲れ様です。
観客視点のテンポの良さで、映画の1シーンを見ているような印象を受けまし
た。男達を手玉にとるサチさんの手際のよさが一段と引き立っています。ハツ
ミ警部といい、サチさんといい、本当にかっこいいです。登場人物視点は萌え
ますけど、こういう観客視点もいいですね。あと、薄桃色の看護服、萌えです。
ガジェットの時はともかく、今のサチさんやハツミ警部は、機械の身体の能力
を活用していない時は、服を着ているのでしょうか。金属外骨格とはいえ、生
身の身体とほとんど変わらないシルエットだと想像しているので、ちょっと気
になりました。
>>36 444氏の考える優先順に形容詞が並んでいるのでしょうか。あまりに的確な形容
に、今までに読まさせていただいた作品のいろいろなシーンが心に浮かびました。
>一般人の反応ってどんななんだろか?
どんなでしょうね? 私は萌えが走ってしまうので、ちょっと想像つきません。
38 :
前389:05/03/11 21:14:14 ID:F+tp5ltn
毎度感想どうもです。 本当に励みになります。
>服を着ているのでしょうか
着ると関節部に布が挟まったりしそうですから、普通は裸です。
外出のときだけ、余計な視線を集めないために露出の少ないものを着てます。
(冬は愛用のコートですが、暖かい時期の服装は考えてませんでした…必要ならご自由に決めちゃってください)
8-2のように急いでいるときや今回の隠密捜査ではもちろん着ていませんが。
>一般人の反応
少なくとも、ガジェットの場合、大多数の人が引くでしょうね…
ヤギーの血液型、何型ですか?
ちょっと気になったので。
>>389 乙。いつも楽しませてもらってます。しかし少女は改造手術を免れちゃったんですか。続きが気になります!
硬質な金属の肌がチラっとのぞくのが凄く萌えるから
普段ちゃんと服着てる方が個人的に萌え。
パンチラならぬメカチラですよ
前スレが突然書き込めなくなったと思ったら容量制限ひっかっかってたんですね。
SS作者の方々が頑張ってくださっている証明ですね。
作者の皆様乙です。
43 :
前444:05/03/12 22:13:21 ID:Vgrcv0TP
ノブを掴んで軽く押すと、 ギィってきしむ音だけは重そうなんだけど、 拍子抜けするほどカンタンに
開いちゃった。 ドアの向こうからは強い日差しが差し込んで、 目が眩んで、 私は思わず目を押さえた。
はは、 明るさで目が眩むなんて感覚、 とっても久しぶりだよ。 機械の眼と違って、 生身の眼って
突然暗いところにいったり、 明るいところにいったりすると、 慣れるのに時間がかかったんだよね。
そういえば。
ドアの向こう側には真っ白な砂浜が広がってた。 とっても静かで、 ざざーん、 ざざーんって
規則正しいリズムを繰り返す穏やかな波の音以外は何一つ物音がしないんだ。 空には夏らしい大きな
大きな入道雲がもくもく手足を広げるみたいに広がって、 遠くの、 さんご礁なのかな、 白っぽい
エメラルドグリーンの海に黒い影を落としているのが見えた。 海に雲の影が落ちるのがみえるなんて、
よっぽどこの海、 澄んでいるんだ。 砂浜沿いには椰子の木が植えられてるんだけど、 見た目等間隔で、
木の高さもみんな一緒で、 それだけは、 なんだか作り物っぽい。 でも、 他は完璧だよ。 すごいよ、
古堅部長、 本当にすごい。 私、 ホントに今、 南の島にいるよ。
あらためて、 私の格好を見直す。 素敵な水着でも着ているかと思ったんだけど、 服だけはさっきの
白くてぶかぶかの検査着のまま。 なんだか私だけが、 この景色の中で浮いちゃってるよね。 そうそう、
振り返ったら、 今私が開いたドアも、 砂浜の中にポツンとドアだけで立っていて、 違和感ありあり。
これって、 シュールレアリズムの絵画の世界だよね。昔、図書館で、こんな妙ちくりんな絵を見たことが
あるよ。 はは。 そこまで来て初めて気がついた。 私、今度は前の遥遥亭と違って、眼鏡をかけたままだ。
まさか眼鏡まで再現できるようになっているとは・・・。日々進化するイソジマ電工に敬意を表します。
「もっともっと元の身体に近づきたい」ってキャッチコピーはやっぱり伊達じゃないね。
44 :
前444:05/03/12 22:16:33 ID:Vgrcv0TP
さあ、 茜ちゃん。 どこだ。 どこにいる。 ちょっと歩くと靴の中に砂がどんどん入り込んで、 なんだか
ざらざらして気持ち悪いから、 思い切って靴なんか脱いで裸足になって、 私は砂浜を駆け出した。
実際には、 そんな探し回る必要もなかった。 島の大きさは競技場のトラック一周分くらいしかないんだ。
だから、 外に誰もいなければ、 茜ちゃんの居場所は島の真ん中にある、 屋根の両端が尖がった、 高床の
涼しげなつくりの家の中しかない。
その東南アジアチックな家までは、 眼で測ったところでは200mくらい。 ゆっくり歩いたところで、 すぐ
つくんだろうけど、 私は走らずにはいられなかった。 元陸上部の血がうずくってやつかな。 深い砂に足を
とられながら、 意地悪するみたいに砂地に弦を伸ばすハマヒルガオを上手く避けながら、 私は家に向かって
全力疾走した。 素足だから、 たまに石をふんずけてちゃったりして、 ちょっと痛かったけど、 でも構う
もんか。 走れ。 走れ。
トーテムポールみたいな飾りが建ってる家の入り口の階段まで走ると、 私はどうって倒れこんだ。
苦しー、 たった200m走ることって、 こんなに苦しかったっけ。 心臓がバクバクいってるよう。 汗が額から
流れ落ちてくるよう。 私は階段に腰掛けて、 波の音に聞き耳を立てながら、 雲の広がる青い空を見上げながら、
呼吸を整えた。 走り終わった後の、 この感じ、 苦しいけど、 私大好きだったんだ。 もう二度と味わえないと
思っていたのに・・・。 私、 確かに生きてるよ。 人間だよ。 決して機械なんかじゃないよ。
有難う、 イソジマのみんな、 本当に有難う・・・正直に言うと、もうちょっと、安くなったらもっと嬉しいけどね。
45 :
前444:05/03/12 22:17:10 ID:Vgrcv0TP
私の背後でドアの開く音がした。 振り向くと、 もう、 しっかり水着なんか着ちゃってる茜ちゃんが、
ニヤニヤ笑いながら、 ゆっくりと階段を下りてきた。
「お姉ちゃん、 さっきは楽しかったでしょ! ぎゃはは」
茜ちゃんは、 私の気もしらないで、 ちょこんと私の横に腰掛けた。相変わらず仕草だけは可愛らしい子だ。
でも、 もう騙されないからね。
「茜ちゃん! なんてひどい事してくれたのさ。 いくら子供だからって、 やっていいことと悪いことの区別も
つかないわけ?」
額から流れ落ちる汗にかまわず、 私は茜ちゃんを睨みつけた。
「お姉ちゃん、 何で怒るの。 アタシわからないよ。 北崎ってやつ、 あのあとおびえまくって傑作だった
んだから。 お姉ちゃんが、 もう電源落とされて動けなくなってるのに怖がって近づけないんだよ。 最高
でしょや。 なんまらウケルるっしょや。 多分、 もう一生お姉ちゃんには逆らえないね。 お姉ちゃんにも
見せてあげたかったな、 あいつのカッコ。 もう一人のお姉ちゃんは、 逃げ出したまま帰ってこないし、
結局研修は中止になったさ。 ほら、 全部うまくいったしょや。 サイボーグを馬鹿にするような
ニンゲンには思い知らせてやらなきゃ。 ぎゃははは!」
茜ちゃんは手を叩いて、 心底可笑しそうに笑った。
パシン!
私、 思わず手が動いて、 茜ちゃんのほっぺたを平手打ちしていた。
続きをどうぞ。
47 :
前444:05/03/12 22:40:56 ID:Vgrcv0TP
やっと接待地獄終了。で、久々に続きをアップです。来週早々に友人が来て
長くこっちにいるので、またしばらく話止まっちゃいそうですけどね。
合間見て書ければいいんだけど。
物語のほうは、いよいよアッカとヤギーの対決です。
>>31-33 サチさんは、若いのに結構策士っぽいですよね。
どちらかというと猪タイプ(失礼)のハツミさんとは名コンビだと
思います。
>>37-38 まあ、フェチってのは、他人とは相容れない部分がありますからね。
この板にだって失礼ながら私からみたら何だコリャってフェチも
多々あるわけで、他人から見たらサイボーグ萌えも同じ事なわけだ。
属性のない人でも楽しんでくれたらいいなあ、なんてほんのちょっとだけ
期待はしてますけどね。
>>39 ヤギーはO型です。私は血液型のことよく知らないけど
いろいろなサイト見てたらO型が一番当てはまってそう
な気がしますので、今、そう決めました。例えばこんなの↓
ttp://www2.att.ne.jp/hamihami/uranai/uranai07/type_o.htm
>>45 ビンタキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
…これでますます窮地に陥らねばよひのだが。
_
,.'´ ヽ
| ノハノ)〉〉 ヤギーって、AA化したらこんなイメージ?
从ゝ0ヮ0ノヽ
'⊂l) #(lつ
〈_#」l
し'ノ
50 :
sage:05/03/13 13:50:49 ID:ITUk37Nq
>>38 ガジェットとハツミ、普段は裸っていいですね!サイボーグ化された惨めな体を、恥を忍んで仕方なく晒しちゃってるんですね!
若く美しい少女の肉体が醜い機械に改造されてしまっていて、それを他人の目に晒してしまう・・・ハァハァ
180cm100kg36歳でコスプレ女装する椎路ちひろの大好きな義体化スレですよww
>>49 実は仮想ビーチでの出来事は外からモニタリングされてて、二人の様子から真相が明らかになる…のかな?
仮想空間の中に仮想カメラが置いてあって、外(現実空間)に置いてあるモニタに映し出される、とか。
空間内の人にカメラの位置や存在が見えるようになってないとプライバシー保護とかで裁判沙汰になりそうだけど。
ヤギーサイトの掲示板にときわ氏が出入りしてるな。
サイト復活させたのか。
まだアンドロイドものしか無いようだが。
54 :
前580:05/03/13 20:52:20 ID:EB8b5GIp
>>38 ありがとうございます。了解です。
ハツミ警部達にとっては、やはり「裸」という感覚なのですね。
>>43 お疲れ様です。
仮想現実の中とはいえ、走る喜びを再び感じることができて、よかったで
す。今回のお話も、悪いことばかりではないのですね。ここまで完全に
生身の身体を再現できるなら、南海バカンスという娯楽設定よりも、基本
機能の方が、ずっと価値がありますね。思いもかけないところで、いろい
ろなネタが編み込まれていて、読んでいて楽しいです。
いいところで続くになってしまいました。続き、とっても気になります。
八木橋さんが力に訴えるなんて、よっぽど想いが極まったのでしょうか。
怒り心頭に…ではあっても、憎悪とかの暗い感情があるわけではないです
よね? 茜ちゃん相手では無理かもしれませんが、個人的には人情話オチ希
望です。
>>47 お疲れ様でした。
またしばらく八木橋さんのお話が読めなくなるのですか…。寂しいです。
でも、無理のない範囲で続けていただければ嬉しいです。
血液型占い、八木橋さんにぴったりだと思いました。ケア・サポーターに
なったら、きっと汀さんと同じように、担当患者さんの面倒を親身になっ
てみてくれるんだろうなぁ。藤原君は何型だろう。年下だからかもしれな
いけれど、八木橋さんがリードしているような気がするので、A型かな。
55 :
前444:05/03/14 02:09:45 ID:m8iWTySJ
茜ちゃん、 一瞬何が起こったのか分からなかったんだろう。 あっけに取られてぽかんって
口を開けて私を見た。
「私は茜ちゃんに身体を操られたせいで、 北崎にも、 あの女の子にも化け物みたいに思われたんだ。
やっぱり機械女は普通じゃないって、 恐いって思われたんだ。 次に奴と会ったとき、 私、 奴に
なんて話したらいいんだよう! 私はあなたの道具じゃないよ。 コンピューターでもない。 私は
ちゃんと自分の意志のある人間なんだよ。 それなのに、 茜ちゃんに身体を勝手に動かされたんだ。
ねえ、 茜ちゃん、 もし自分がそんなことされたらどんな気持ちがする? 確かに、 茜ちゃんは
すごい力を持ってる。 コンピューターを自由に操るなんて、 私にはとてもできないよ。 でもね、
いくらすごい力を持ってても人に迷惑をかけたら駄目なの。 分かる?」
暴力に訴えるなんて好きじゃないけど、 でも誰かが教えてあげなきゃ、 茜ちゃん、 このままだと
ホントにおかしくなっちゃうよ。 だから、 平手打ちはしちゃったけど、 そのあと私は努めて冷静に
諭すように言ったつもり。 でも、 茜ちゃんは憎憎しげに私を睨みつけるばかり。
「私、 お姉ちゃんがサイボーグってこと言いふらされたら困るっていうから協力してあげたのに、
そんなこと言うんだ? 私をぶつんだ? お姉ちゃんは味方だと思っていたのに。 私と同じサイボーグで、
私の気持ちだって分かってくれると思ったのに。 さっき、 誰も私には逆らえないって言ったばかり
っしょや。 もう、 どうなっても知らないよ?」
茜ちゃんの右手が反射的に、 彼女の身体の横をさぐった。 いつも片時も手放さず小脇にかかえてる
ノートパソコンを取るためだろう。 でも、 今、 そこには何もないんだ。 ここはイソジマ電工が作り
出した仮想空間の中だもん。 普段、 茜ちゃんが持ち歩いているノートパソコンなんてどこにもないんだよ。
>>52 仮想空間って、そもそも義体ユーザーの精神変調を軽減するためのもんでそ?
ある程度モニタリングしておかないと、使い方間違ったら
それこそ発狂しかねないと思うが。
57 :
前444:05/03/14 02:10:52 ID:m8iWTySJ
「あ、 あれ・・・?」
パソコンがないことに気がついた茜ちゃんの顔が、 怯えた年相応の少女の顔に戻っちゃった。
普段から、 義体やコンピューターに頼ってる子だから、 それらから切り離された今の状態って
いうのは、 不安で堪らないんだろう。 ホント、 分かりやすい子だ。 悪いけど、 機械から
切り離された茜ちゃんなんて恐くもなんともない。 ただの、 そこらへんにいる小学五年生だよ。
「茜ちゃん、 何しようとしてる? ここがどこだか分かってる? ここは、 仮想空間。 今の私達は
サポートコンピューターの制御から離れているんだよ。 だから、 茜ちゃんの力も使えない。
あなたはただのかわいい女の子」
私、 大人気ないかもしれないけど、 茜ちゃんのおでこを指でつんつん突きながらまくしたてた。
「あ・・・あ・・・」
茜ちゃん、 さっきまでの勢いはどこへやら。 蒼ざめた顔で、 オロオロ視線を右に左に
彷徨わせるばかり。 私の指を振り払おうともしない。
「所詮コンピューターから切り離された私達なんて、 手も足もないただの脳のかたまりなんだから。
ふん、 サイボーグが素晴らしいだって? 機械の助けがなきゃ何もできない、 ただの身体障害者
じゃないか! 茜ちゃんのいう弱っちい人間ていうのは私達のことなんだ。 思い上がるのもいい加減に
しなさいっ!」
「うるさいうるさいうるさい! 障害者って言うな! 私は何でもできるんだ! すごいんだ! 誰だって
私には逆らえないんだ! もう何も聞きたくない!」
58 :
前444:05/03/14 02:12:46 ID:m8iWTySJ
私の柄にもない偉そげな説教を聞いた茜ちゃんは、 そう叫ぶと下を向いて耳をふさいじゃった。
それで私気がついた。 ごめん・・・ごめんね。 茜ちゃん。 私、 調子に乗ってつい、 言っちゃいけない
事を言った。 ただの脳のかたまりとか、 身体障害者とか、 私自身が言われたら一番傷つく言葉じゃ
ないか。 言い過ぎたよ。 悪かったよ。 だから、 私は茜ちゃんの肩にやさしく手をかけて、 謝ろうと
したんだ。 でも、 茜ちゃん、 私の手を乱暴に振り払って、 涙を浮かべたまん丸の眼で私を睨みつけた。
「お姉ちゃんなんでニンゲンの味方するんだ! なんでニンゲンのふりしたがるんだ! 私たちはサイボーグ
でしょや。 人間なんかより、 ずっーと、 ずっとすごい力持ってるのに、 ニンゲンなんかに馬鹿にされて
お姉ちゃんくやしくないの? お仕置きして思い知らせて何が悪いんだ!」
「茜ちゃん、 なんでそんなふうに人間だ、 サイボーグだって区別して考えるの? 私達、 身体は義体かも
しれないけど、 みんなと同じ人間だよ。 私はそう思ってるよ」
「同じ人間っていうなら、 みんなが給食を食べてる間、 アタシだけ何も食べられなくてつまんないから
一人で校庭で鉄棒してるのは何で!」
「それは・・・」
思わず言葉に詰まってしまう私。
「同じ人間っていうなら、 アタシの身体だけ、 どんなに練習してもプールで浮かばないのは何で!
アタシだけプールサイドで見学してなきゃいけないのは何で! 私の身長が全然伸びないのは何で!
毎年こんなふうに体を交換しなくちゃいけないのは何でなの。 教えて!」
「茜ちゃん・・・」
「それはアタシがニンゲンじゃないからでしょや! サイボーグだからでしょや! いいんだもん、
ニンゲンじゃなくたって。 プールなんかに入れなくたって、 給食を食べられなくたって。
アタシなんて・・・アタシなんて、 ニンゲンよりずーっと偉いんだから。 なんだってできるんだから。
そう思って何が悪いっけさ!」
59 :
前444:05/03/14 02:18:40 ID:m8iWTySJ
そこまで言うと、 とうとうこらえ切れなくなったのか、 茜ちゃん、 顔を覆ってわーって泣き出しちゃった。
茜ちゃんは、 機械女で結構なんて強がってたけど、 でもやっぱり違う。 例え生身の肉体の記憶がなかったとしても、
みんなの身体と明らかに違うってことは、 やっぱり辛いことなんだ。 義体が素晴らしいって思い込むのは、
彼女なりに悩んだ結果に違いないんだ。 いいんだよ。 ここでいくら泣いたって、 ちっとも恥ずかしくないんだ。
泣けるうちに思いっきり泣いて、 心のもやもやをぜーんぶ流しちゃおうよ。
「茜ちゃん、 なんで今、 水着着てるの? 海に入りたいからじゃないの? 人間じゃない、 何か別のものだと
思ってるなら、 そんな感情なんてないはずだよ。 私達、 向こうの世界では決して海に入ることなんてできないよね。
普通の身体を持ってるみんなが羨ましいよね。 悔しいよね。 茜ちゃん、 そんなに我慢しないでいいんだよう。
強がらなくてもいいんだよう。 自分に嘘をつかなくてもいいんだよう。 私だって、 茜ちゃんと同じ身体なんだ。
茜ちゃんと同じような思いをしてきたんだ。 だから、 茜ちゃんの気持ちはとってもよく分かるんだ。 ここで話した
からって私達の身体が戻るわけじゃないけど、 でも話すことでちょっとは楽になるかもしれないよ。 ねえ、
茜ちゃん。 茜ちゃんのホントの気持ちを話してみてよ」
私、 話しているうちに昔の自分を思い出して泣きそうになっちゃった。 でも、 お姉さんぶって、 泣くのは
こらえたよ。 笑顔で優しく茜ちゃんの背中をさすってあげたよ。 そうしたら、 今度は茜ちゃん、 私を
振りほどかなかったんだ。
泣けた。本当に。続きをどうぞ。
61 :
前444:05/03/14 02:44:05 ID:m8iWTySJ
週明けから、しばらく話が止まっちゃいそうなので、久々に連日投稿して
みました。イソジマ空間内では、アッカは意外と弱かったです。
ちなみに、アッカというとアッカ隊長を思い出す世代です。私は。
>>48 相当意識してます。やっぱり分かっちゃいますよね。
>>49 _
,.'´ ヽ
| ノハノ)〉〉 有難う。嬉しいよう。
从ゝ0ヮ0ノヽ
'⊂l) #(lつ
〈_#」l
し'ノ
>>52 さて、どうなんでしょう?いろいろ想像していただけるのは
有難いです。ネタが浮かばないときはパクりたくなる誘惑が・・・。
>>54 だいたい、このくらいまで書き進めば自然とオチも思い浮かぶ
ものなんですけど、今回はまだ思い浮かばない(汗
まあ、そう暗くするつもりはないのでご安心を。
今回、ヤギーは、名ケアサポの片鱗を見せてますね。
>>56 中で何が起こってるのか把握してないとまずいですから
監視は入っているでしょうね。
>>53 ホワイトエンジェルが復活してたぞ。
いきなり廃液排出ネタで人工性器まる出しw
相変わらず直球でエロい。
63 :
前580:05/03/14 23:12:52 ID:qm8UhFOk
>>55 お疲れ様です。
オチというより展開でした。まさにこういう話を読みたかったのです。素晴ら
しいです。相手のことを一番に思い遣る八木橋さんの性格は、なによりも強い
魅力です。昔の八木橋さんと汀さんも、こうやっていろいろなことを話し合い
ながら、傷ついた心を癒していったのでしょうか…。茜ちゃんの、仮想空間の
中での無力さや、現実世界の辛さを逃れるために強がっていた心情の描写も
素晴らしいです。泣けるだけ泣いて、心の闇を吐き出せるといいな…。
プールサイドで見学、八木橋さんの高校時代の暗い思い出の一つとして妄想し
ていました。クラスメートの皆が理由を知っている中で、ただ一人プールサイ
ドでその身を晒しているとしたら、いったいどんな思いをしていたのでしょう。
>>61 >ちなみに、アッカというとアッカ隊長を思い出す世代です。私は。
理想の上司ですね。最後のニルスの決断と別れのシーンは感動でした。
…で、あってますか?放映時期を見てこんな昔だったのかと思わず orz
しばらく間があくのでしたら、オチの方はその間にでもゆっくりと考えていた
だければ嬉しいです。いままでの分だけでも、十分堪能させていただいていま
すが、やはりオチがあって、「いい話だった」で終わりたいです。
さて、今日はホワイトデー。お返しは何でしょう? 食べ物系は不可でしょうし、
アクセサリー系は奥手な藤原君が駄目っぽい…。八木橋さんの趣味に合わせて
骨董品? 地味ですかね。いや、そもそも、この二人は、そんな普通の手順は踏
んでいないのかも。いつものノリで、一緒に遊べば十分か…。ハツミ警部とカズ
ヒロ技術官の進展の方も気になります。こちらはもっと難航しそう。相変わらず、
そんなことを思う日でした。
>>38 ふと思い出して注文したメタリックエンジェルが届きました。こんな本が売られ
ていたくらいなら、引くというほどではないのかも、と思いました。
>>63 ヤギーはメガネっ娘属性の人にも受けると思うんだけど、どうでしょう?
メガネっ娘フェチも患っている俺にはクリティカルヒットっていうかすごくいいです。
>>62 ホワイトエンジェル見てきた。恥もてらいも無く、ああいう設定を書けるところがときわ氏の凄いところだと思う。
これできちんと話を続けて書いてくれさえすれば・・・
保守
66 :
名無しさん@ピンキー:05/03/16 22:05:40 ID:ZQfteb/O
歩狩
67 :
七軒丁から八軒坊へ、宮の橋から水戸橋へ:05/03/16 22:54:02 ID:3XWSg26m
小職はアッカというと国鉄バス安家(あっか)線を思い出します。
というわけで捕手だっきゃ。
ところで、攻殻機動隊の欄外の文をいきなりスラスラ読める(一発で意味が分かってついていける)ほどサイバー哲学に強い(普段から妄想してるともW)香具師はどんだけいる?
とりあえず漏れ一人目。
>>67 その地方の方言は、とある人物にとってシャレにならないネタだから
出来れば謹んで頂きたく。
70 :
前389:05/03/17 02:55:33 ID:gA7imm0p
●H−1
私が救出した少女の証言や、病院のパソコンをハッキングして入手したデータから、事件の全容が
次第に明らかになってきた。
犯人は、催眠療法の権威であるJ大医学部のカドイデ教授。 十中八九間違いない。
おそらく、記憶退行であの女の記憶を戻し、同時に暗示をかけて操り人形にしてしまっているのだろう。
「でも、所詮は違法捜査で手に入れた情報。 これでは令状は取れないわね」
警部さんが歯噛みする。
結局、私と警部さんとカズヒロさんの三人だけの捜査会議で出た方針は、
「カドイデ教授の周囲を徹底的に洗うしかないわ。 運よく尻尾を出すのを期待しましょう」
今ひとつ、決め手に欠ける方法だった。
一週間がたった。
カドイデ教授の容疑は濃くなる一方だったが、逮捕につながる証拠が見つからない。
深夜、聞き込みを終えて署に戻った私に、警部さんが心配そうに声をかけた。
「サチ、ちょっと休んだら? 昨日はほとんど寝てなかったし。 なんかつらそうな顔してるわよ」
「はい…それじゃ、ちょっとだけ失礼します」
警部さんの言葉に甘えて捜査本部を後にする。
この身体になって以来、身体が疲労を訴えない分、精神の疲れを強く感じる気がする。
それに加えて、定期的に襲ってくるあの疼きがやってきてしまった。
(早く、誰かに見られないところに…)
昔、あの女に調教されたときに、私の脳に刻み込まれた果てしない絶頂の快感。
以来、私はしばしば抑え難い衝動に襲われるようになってしまった。
(う、う…)
廊下を歩きながら、無意識に下半身に手が伸びる。 金属の殻の内側に液が満ちるのを感じながら、
私は女子トイレの個室、署内でいつも性欲を開放する場所に向かった。
71 :
前389:05/03/17 02:58:31 ID:gA7imm0p
●H−2
機械の身体である私は、もちろん食事もしないし排泄もしない。 だから私がトイレに入るところを
見られたら、きっと怪しまれる。
時刻は深夜だったけど、念のために大きく迂回してから一番隅のトイレへ向かった。
逸る気持ちを抑えながらトイレのドアを開けると、
「えっ?」「あっ!」
そこにいる筈のない人がいた。
「警部さん…」
「サチ…なんでここに?」
「それ、こっちの台詞なんですけど」
言うまでもなく、警部さんも排泄をすることはない。 なら、どうして警部さんが人目を避けるように
トイレに来ているのか。
「と、いうわけで、警部さん。 説明してもらいましょうか」
背後から警部さんの身体を抱きすくめて連れ込んだのは、署内の取調室。
悪戯心に思いついた場所だけど、尋問の行われていない取調室って、結構穴場だと思う。
「それは、その…ちょっと」
「別に恥ずかしがらなくてもいいですって。 私だってそのつもりでトイレに行ったんですから」
右腕で警部さんを抱きとめながら、左手を下腹部へ滑らせていく。
「───っ」
焦らすように、金属の殻の上から警部さんの秘所を撫でる。
背後から横顔を覗いてみると、警部さんは恥ずかしそうに目をぎゅっと閉じていた。
「せっかくだから、一緒にしましょうよ。 いいですよね?」
警部さんはうんとは言わなかったけど、イヤとも言わなかった。
ゆっくりと警部さんの下腹部ハッチを開くと、掌ほどの面積の人工皮膚に覆われた股間と、
その中央のピンク色の割れ目があらわになった。
72 :
前389:05/03/17 02:59:59 ID:gA7imm0p
●H−3
後ろから警部さんを抱いた格好のまま、二人でゆっくりと床へ腰を下ろす。
警部さんのM字に開かれた脚の付け根に、ゆっくりと手を近づけ…
「えっ、ちょっと、サチ!? 何を、」
ハッチの隅にあるイジェクトボタンを押した。
ガチャン、というジョイントの外れる音。
「ふふ、弄られることを期待してました?」
「あ、それは…」
私の左手には、警部さんの股間から引き抜いた人工性器が握られている。
人工の膣と、それを蠕動させるモーターからなる筒状の機械。
肉感豊かな上面と、機械むき出しの側面の組み合わせが、とても卑猥に見えた。
「ほら、警部さんのアソコ、濡れてますよ」
人工の蜜で濡れた花弁を、警部さん自身の目の前につき出す。
「──や、やめて…恥ずかしい」
普段からは想像もつかないほどしおらしい声。
(警部さんも、こんなに可愛い顔するんだ…)
そこでふと思った。 もっと苛めてみたら、どんな警部さんの姿が見れるんだろう、と。
「警部さん、あの鏡のほうを向いて、座ってくれませんか」
取調室の鏡といえば、そう、マジックミラーだ。
「い、いいけど、何をするの?」
「それは、お楽しみです。 あ、音声出力は私への無線通信に切り替えておいてくださいね」
そう言って、私は隣の部屋、警部さんが向いているマジックミラーの裏面へ向かった。
73 :
前389:05/03/17 18:51:47 ID:gA7imm0p
●H−4
マジックミラーを挟んで座る私たち。
相手の姿が見えているのは私だけ。 警部さんには、鏡に映る自身の姿しか見えていない。
『どうですか、警部さん? アソコを盗まれちゃった気分は』
『う……』
人工性器を取り外された警部さんの股間は、くりぬかれたような空洞になっている。
そして、その空洞から伸びる数本の延長ケーブルが、私の手元、警部さんから奪った人工性器に繋がっている。
『それじゃ、ちゃんと接続されてるか、チェックしてみますね』
金属の指で、そっと偽りの肉に触れる。
『ひっ』
鏡の向こうで、警部さんの身体がピクリと反応した。
『あ、ちゃんと繋がってるみたいですね』
一度手を離し、警部さんの身体のこわばりが消えるのを待つ。 そして、気が緩んだころを見計らうと、
私は何の前触れもなく、警部さんのクリトリスをぎゅっと押しつぶした。
『ぁああっ!?』
一拍子遅れて、警部さんが悲鳴を上げる。
『…警部さんの顔、可愛い』
もっとその顔を見ていたくて、私は何度も何度も陰核を刺激した。
『ちょ…と…まって…まって!』
警部さんが身をよじる。 アソコを庇うように、両手で股間を押さえているけど、もちろん効果はない。
そこにあった性感帯は今、私の手中にあるのだから。
(…警部さんを見てるだけなのに…また、濡れてきてる)
自分の股に目をやると、閉じたハッチの隙間から私自身の愛液が滲み出ているのが見えた。
殻の内側に納まりきれなくなった液は、私の金属の太ももに光る筋を残し、膝をついた床に水たまりを形成していた。
片手で警部さんへの愛撫を続けながら、もう片方の手でもどかしく下腹部のハッチを開けると、
内側に満々と湛えられた液がとろりと溢れた。
74 :
前389:05/03/17 18:53:51 ID:gA7imm0p
●H−5
ぬちゃり、ぬちゃり、と、薄暗い部屋の中で、私と警部さんの湿った音が混じりあう。
『うあっ…あ』『あぁ…』
私たちの中では信号化されたあえぎ声が響きあう。
『ねえ…警部さん…何か、欲しいと思いませんか?』
『──っ…?』
主の身体から分離されているにもかかわらず、警部さんのアソコはいやらしく蠢いている。
まるで何かをねだるように。
『ちゃんとした玩具があればいいんですけど、この部屋にはこんな物しかなくて…』
『…ちょ…ちょっと、何!? 何をする気!?』
警部さんには、私の手に握られた極太のマーカーペンが見えていない。
怯えた顔を横目に、私はそれを警部さんの分身に突き入れた。
『なっ、何っ!? あっ、ああああっ!?』
グイと、先端のほんの数センチだけ残して、極太のペンを押し込んでいく。
『やめ…やめて…! 駄目、壊れちゃう…!!』
『大丈夫ですよ。 カズヒロさんの作ったパーツは、そんなにヤワじゃありませんから』
『ち、違うの…そうじゃ、なくて…駄目、動かさないで…』
(本当に可愛い……警部さんのこんな顔を知ってるのは、私だけなんだろうか)
そこで、ふと思い出した。 確かカズヒロさんは警部さんに惚れていたはず…
なら、警部さんの方は、カズヒロさんをどう思ってるんだろう。
『ねぇ、…今 警部さんのアソコが咥えこんでるモノ、何だと思います…?』
『……?』
『例えば、そう、こっちの部屋にあらかじめカズヒロさんが潜んでいて…』
『え…そんな、嘘でしょ…!?』
『鏡越しに警部さんの姿を見つめながら…自分のイチモツを、今まさに警部さんの膣に入れてるとしたら?』
『い、いやぁ…!』
警部さんの顔が、これ以上ないくらいの羞恥に染まっていく。
それで分かった。 要するにカズヒロさんと警部さんは両思いだったんだ。
75 :
前389:05/03/17 18:55:15 ID:gA7imm0p
●H−6
あとは、ただひたすら責め続けた。
警部さんに突き刺さった極太のペンをえぐるように動かし、もう片方の手で私自身のクリトリスを擦る。
何も考えずに、ただただ責め続けるうちに、本当に何も考えられなくなって、そして絶頂に達する瞬間、
『あああぁぁぁーっ!』
どちらともつかない悲鳴が頭の中に響いた。
「ほら、起きて、サチ。 誰かに見られたらどうするの?」
「え、え?」
どうやら、イッたまま眠ってしまったらしい。 もともと疲れが溜まっていたのだから、当然かもしれないけど。
「そうだ、床の汚れとか…」
「も、もう片付けは済ませておいたわよ。 さあ、早く仮眠室へ行って、ゆっくり眠ること」
さすがは警部さん、もういつもの調子を取り戻している。 ちょっとぎこちないけど。
警部さんに送られて、私は署の仮眠室に着いた。
「それじゃお休み。 また明日から捜査で飛び回ってもらうから、覚悟してね」
私がベッドに横になるのを見届けて、警部さんは捜査本部へ戻っていく。
その背中に、私はさっきから気になっていた事を訊いてみた。
「あの、さっきのエッチの後…警部さんのアソコに刺さってたマーカーペン、自分で抜いたんですか?」
ガタン、と。 警部さんが転びそうになった。
76 :
前389:05/03/17 19:04:21 ID:gA7imm0p
どうも、いろいろとゴタゴタしてまして、前回から えらく間隔が空いてしまいました。
今後ともよろしくです
まとめページとか誰か作らね?
78 :
前580:05/03/18 01:45:30 ID:3npyk5ik
>>70 お疲れ様です。
取り外した人工性器でエッチなんて、発想がすごすぎます。こんな状況で、さらに
ハツミ警部の普段とのギャップの大きさと、恥らう様の可愛さの相乗効果で、もう
萌え死にしそうです。前回の一心同体のエッチシーンといい、今回といい、発想と
描写の素晴らしさに感服いたします。人工性器の生々しい描写も激しくいいです。
ハツミ警部とカズヒロ技術官とが両思いでよかったです。ハツミ警部にこんな風に
想われていて、カズヒロ技術官は幸せ者です。二人とも、自分からは決して言い出
しそうにない気がしますが、うまく進展するのでしょうか…。
犯人は判明したものの、事件の全容はいまだ明かされず。どんな陰謀が隠されてい
るのでしょう。ユカリさんは、今後、どうかかわってくるのでしょう。展開が楽しみです。
>>77 ガジェットのまとめページですか?
前スレは落ちてしまったみたいなので、あるとよいと思いますが、サイト構築センス
のない私が作っても、保管庫にしかならないからなぁ…。
>>64 眼鏡以外の属性をどうとらえるか、ではないでしょうか。
ときわ氏のWikiにページ追加してしまえばいいんじゃない?
勝手に追加していいみたいだし。
>>389 サイボーグ少女達をもっと可哀想な目に会わせてやってください。
前389氏、444氏
感動の力作ありがとうございます。
両氏の作品は脳だけ生身で、他は義体なのですが、
宇宙や、水中で活動するために、
長時間宇宙服や潜水服を着たままいられるような、改造された娘というのは
このスレではOKですか?
呼吸、栄養、排泄用カテーテルのアダプタ付きとか
水中でしか息が出来ない人魚型に改造されたサイボーグ娘萌え!
改造されちゃって普通の生活が出来ないの萌え
改造されちゃって用途以外の時は格納庫に固定されて保存されるのに萌え。
人間を逸脱した姿(人魚型とかバイク型とか)に改造されたサイボーグ娘の「日常」「プライベート」とかを想像して萌え!
人間を逸脱した姿に改造された少女はもうモノであって人間ではないので、プライベートなど無い。酷使され管理されるのみ。(;´Д`)ハァハァ
変わり果てたのに人間として暮らしているのに萌えるってのも、一つの萌えのカタチとして有りって事で。
>>89 しかし、それも実はプログラムによって擬似的に作り出された人格なのであった。
>>90 他人の萌えの理想を上書きするような言い回しはしないで…
93 :
名無しさん@ピンキー:2005/03/21(月) 07:39:23 ID:6+eGS11C
>>90 人格をプログラムされちゃったら、もはや「生体アンドロイド」だと思うんだが・・・(いや、俺的解釈ではだが)
94 :
93:2005/03/21(月) 07:40:15 ID:6+eGS11C
すまん、ageてしまった・・・OTL
脳もしくは頭部はそのままだけど、強固なプロテクトで意志とは無関係に
命令されたとおりに体が動いたり、逆に逃げようとしても
手足が言うことを聞かない義体ってどうよ?
>>95 それサイコー。
今回の、ヤギーが体乗っ取られて茜ちゃんに操られるってのがすごくよかった。
>>93 ちがうな。
そんな事言ったら、またサイボーグとアンドロイドの違いで揉めるぞ。
脳以外サイボーグ化しないと助からない病気が大流行してしまい、義体の製造が
追いつかなくなったため、何とか命を救うのだけでも間に合わせるために、
生命維持に必要な部分以外極限まで削減した義体を採用せざるを得なくなった。
ロボット少女のような造形・材質の顔、そして手足が生えていない金属の胴体。
感覚も、視覚と聴覚だけである。
彼女たちの体は一切の随意動力を持たないため、彼女たちは一切の意思表示を
行う事すらできない。
彼女たちが自分の体に命令出来ることはただ一つ、目をつぶることだけである。
しかし、それさえも電子シャッター方式のため、瞬きで意思表示を行ったり
することは出来ない。
漏れは個人的に、意識はそのままだが、意志に反して体を操られてしまうサイボーグ化少女に萌える。こんなことしたくないのに、体が勝手に動いてしまう・・・。リモコンとかで操縦されたり。みたいな。
95でつ
性の奴隷として思いついたんだけど、そっちのニーズはなさそうでつね
二足歩行型とは異なる手足というのもおもしろそうに見える
トーナメント宣伝スレ-008の127〜にヤギー・セレクションが投下されて
いますね。どんな形で紹介されるのかと思っていましたが。
こんなナイスなセレクションと紹介文なら、フェチ属性がなくても読んで
みたくなります。”日常を「生きて」いる”っていうのと、”ハートフル”って
言い方がいいなぁ…。
最後「よぅ」なのは、画竜点睛を欠く、でありましょうか。
すみません。続きをどうぞ…。
>>98 萌え。
その設定の百合モノを読んでみたい。
好きな人がすぐ目の前にいるのに、語りかけても抱きしめても応えてくれないもどかしさ。
好きな人がすぐ目の前にいるのに、語りかけることも抱きしめることもできないもどかしさ。
101の続き。
投票所選対スレ2 240
支援物資感想スレ 89
分析厨氏の好意的な反応が、正直、嬉しい。
世界的犯罪組織のアジトが警察機構に摘発され、さらわれていた少女達が様々な姿のサイボーグに改造されて発見される。
個人的な依頼がありカスタマイズされた身体や、マーメイド型のように非人間型の身体、オークション用の量産型メイド型、戦闘用の外骨格型、etc、
改造された身体は元に戻ることは叶わず、それぞれが以前とは異なる非日常の日常に戻される。
そんな姿が見たい。
人間を逸脱した姿ってーと、自動販売機とかでもよかですか
その極北は、「まほろまてぃっく」の消却されたサイボーグ達だな。
脳だけになって、トイレのセンサーやら自動販売機やらの制御装置にされてる・・・
109 :
106:2005/03/25(金) 00:26:12 ID:eYiaoHZS
あ、絵じゃないぞ。
文章ね。
絵は書けないんだよ…
110 :
106:2005/03/25(金) 00:42:06 ID:eYiaoHZS
2010代中盤、世界的に少女達が行方不明になる事件が多発する。
身代金の要求も無く、各国の警察はその行方を掴む事すら出来なかった。
時同じくして、何人かの機械工学および生物学の権威達も同様に行方不明になっていた。
ICPOを中心とした数多くの人員の労力の結果、事件の裏にはミタリーカルテルという大規模な犯罪組織があることが判明した。
だが、ミタリーカルテルは注意深く、その本拠地はおろか、拠点すら発見することが出来なかった。
捜査員達の苛立ちばかりが募るある日、ICPO本部に1通のメールが届く。
内容は、世界中の少女達がミタリーカルテルでオークションにかけられ売られていくこと、南米のB国のミタリーカルテルの大規模な拠点の位置を記した地図、襲撃に最適な商品の出荷の日付と、少女達の命と名付けられた2つの化学式だった。
化学式の表すものが何か解析が成された結果、1つは高い養分の栄養剤、1つはある種の液体燃料だとわかる。
(なぜこんなものが?)
捜査員達は困惑したが、もう一つのデータ、ミリターカルテルの拠点への襲撃計画をA国軍を中心に極秘裏に進めていた。
111 :
106:2005/03/25(金) 00:45:12 ID:eYiaoHZS
密告メールにあった日付に行われた大規模な襲撃の結果、多数の死傷者を出しながらもB国のミタリーカルテルの拠点は壊滅されることとなった。
戦闘員の死体を掻き分け奥へと進んでいった捜査員がそこで発見されたのは、メールの送り主と思われるK博士の自殺死体、多くの科学者達の遺体、百人ほどの少女、そして数百体の変わり果てた少女達の姿だった。
ほとんどのデータが失われたデータベースから、サルベージされたデータと彼女達が示していたのはここで行われていたのが、人間をサイボーグに改造し、売り払うと言う悪魔の所業だった。
少女達は、完全に人間とは異なる姿をしたものや、人魚のように一部が異形化しているもの、外骨格のメタリックボディーのもの、一部に機械部品が移植されているの、皮膚そのものを改造されメイド姿になっているものなど多種多様に渡っていた。
見た目、無事であった少女もその大部分が、内臓を機械に置き換えられ、人によっては特殊な機能を付加されているものもあった。
ICPOの努力にも関わらず外部に情報が流出し、少女誘拐改造というセンセーショナルな事件は世界中の知る所となる。
また、サルベージしたデータや各国の科学者達の必死の研究は実らず、少女達は元の姿に戻ることはおろか、人型の身体すら手にすることは出来ず、それぞれの日常と言う、全く別な世界に戻っていくのだった。
112 :
106:2005/03/25(金) 00:47:50 ID:eYiaoHZS
で、質問。
第一話はどんなサイボーグがいいかな?
リクエストで出来そうなものがあったら、やりたいです。
>>108 まほろってそんな話しがあったんだ。
どの辺に載ってたの?
113 :
前389:2005/03/25(金) 02:35:25 ID:wQS6bxSq
I−1
産廃処分場から拾われ、警察署のベッドで起き上がったのもつかの間、私はまたもとの動けない身体に
戻ってしまった。
動けないどころか、身体の感覚がない。 痛覚を遮断するために、脳と身体を繋ぐ回線を切ってしまったからだと、
カズヒロという白衣の人から説明された。
私に残された機能は、かろうじて修復された視覚と聴覚だけ、自分の意思を伝える事さえ出来ない。
「発声機能の修復も急いでいますが…いろいろと、問題が発生しまして…」
カズヒロさんは言葉を選びながら理由を説明してくれたけど、そんなの最初から分かってる。
私が、人違いで出来た失敗作…欠陥品だからだ。
「ユカリさん、聞こえますか?」
カズヒロさんの声がする。
「予想以上の速さで、身体の劣化が進んでいます…少しでも遅らせるために、これから薬液の中に
入ってもらう事になります。 辛いでしょうけど、どうか我慢してください」
天井から降りてきた何本ものアームが 仰向けのまま私の身体を持ち上げ、ゆっくりと部屋の隅へと運ぶ。
アームのロックが解除され、落ちる、と思った瞬間、水音と共に視界が緑色に染まった。
(!?)
幾つもの泡が上へと飛んで行く。
(薬液の中って、こういう事だったの)
私の身体は、緑色の薬液で満たされたガラスの水槽の底に沈んでいた。
(…沈んでる…身体が)
大好きだった水泳の時間、水の中を自由に、空を飛ぶ鳥のように泳いでいた私の身体は、
決して水に浮く事の出来ない金属に置き換わっていた。
(もう、泳げないんだ、二度と…)
理科室の標本のように横たわりながら、私は麻痺していた悲しみが実感となって
よみがえるのを感じた。
114 :
前389:2005/03/25(金) 02:36:58 ID:wQS6bxSq
○I−2
カドイデ教授の容疑固めが遅々として進まない中、一ヶ月が過ぎようとしていた。
サチが首尾よく実験体の娘を救出できたからといって、悠長にしている暇はない。
時間がたてば、教授等は新たな娘を実験体として拉致するだろう。
「要するに、改造技術を持つあの女さえ救出してしまえばいいんですよね」
「サチは簡単に言うけど…あの広い病院内のどこに囚われているか、全く分からないのよ。
ハッキングで入手したデータからもね。 連中、よほど用心深いみたいで…」
「だったら、こうすればいいんです」
サチが一通の封筒を手渡す。 中には便箋が一枚。
「“午前零時、貴殿秘蔵の技師を頂戴します。 Gadget”…!? これは、予告状じゃない!」
「そうです、予告状です。 これを受け取った教授は、あの女の警備を一層固めますよね」
「つまり…その警備網の中心に、」
「はい、あの女がいるってワケです」
「で、でも、ガジェットだった少女が今は警察官になっているのは、衆知の事実よ。 違法捜査って事が世間に…」
「大丈夫です。 世間的には、たまたまイタズラの予告が届いて、たまたまその日にあの女が自力で
脱出した事になりますから」
笑顔でさらりと言ってのけるサチ。
「…サチ、意外と大胆なのね」
「何言ってるんですか、慎重なだけじゃ十一回も警部さんを出し抜けませんよ」
「…ホントに、もう二度とサチを敵には回したくないわね」
改造される前のサチの記憶は消えてしまっているけど、どんな娘だったのか、なんとなく想像できる気がする。
あの女が白羽の矢を立てたのも、この備わった素質のせいなんじゃないだろうか。
115 :
前389:2005/03/25(金) 02:46:20 ID:wQS6bxSq
○I−3
予告状作戦は、カズヒロ技術官にも伝えておいた。
「サチならきっと助け出してくれるわ。 あなたのお姉さんなんでしょう」
「やっぱり、気付いてらしたんですね…私の姉だって事」
「私は…あなたのお姉さんが、また記憶喪失になっている事を期待しているわ。 だって、犯罪者と
姉弟関係だという事が公になったら、警察の中であなたの肩身が狭くなってしまうもの」
「ええ、風当たりは強くなるでしょうね。 でも、僕は姉さんの記憶は戻ったままでいて欲しいと思います。
何より、サチさんに謝ってもらわなくてはなりませんし…」
「あ…」
「それに、姉さんと父との間に何があったのか、僕は知りたいんです」
「あなたの、父親?」
既に半年前に知っていた事だったが、私は敢えて知らない振りをした。
あの女の正体を突き止めようとした結果とはいえ、無断で家庭の事情を探った事を、カズヒロ技術官に
知られたくなかったからだ。
「優れた技術者だった父は、労働者と道具の一体化による生産性の向上を主張していましたが、それが原因で
祖父から勘当されました。 姉さんは、ただ一人の父の理解者として、僕や祖父の制止を振り切って、
家を去る父について行ったんです」
「そして、そのお父さんに、改造されてしまった…」
「まさか、自分自身がサイボーグ技術の実験台にされるなんて、姉さんは思ってもいなかったんでしょう」
「そして、逆上したカズヒロさんのお姉さんは、そのお父さんを絞め殺した…というわけね」
「ええ。 でも、もしかしたら、姉さんは最初から父に騙されていたんじゃないかって、思うんです。
姉さんが労働者の機械化に賛同したのも、父に付き従ったのも、全部父が仕組んだ事じゃないかって…」
「きっと分かるわ。 サチが予告した明後日の夜にね」
だが、この稀代の怪盗の予告状を、カドイデ教授が受け取ることは永遠になかった。
その夜、J大付属病院からの110番通報があった。
“精神科の患者が、催眠療法による治療中に発狂。 カドイデ医師らを絞殺し、逃走した”
116 :
前389:2005/03/25(金) 03:19:08 ID:wQS6bxSq
117 :
前389:2005/03/25(金) 12:23:29 ID:wQS6bxSq
アンカーミス…
>>78の前580氏も、いつも感想どうもです。
>>389様
いつも乙です。人違いで改造された不良品サイボーグ、萌えです。かわいそうでいいです!
>>106様!
最高に萌えです!犯罪組織に拉致され商品化されるために改造!ハァハァ。性欲処理用サイボーグは基本ですよね?(w
119 :
前444:2005/03/26(土) 01:40:25 ID:ZyFdJoUV
「アタシだって、 アタシだってさ、 前は自分のこと人間だって思ってたんだよ。 でも・・・でも、 いくら自分で
アタシは人間なんだって思いこもうとしたって、 まわりの人がそう思ってくれないんだもん。 もうどうしようもないのさ」
茜ちゃんはひとしきり泣いた後で、 私の胸の中で寂しげにそうつぶやいた。
「茜ちゃんのことそんなふうに思ってる人は、 きっと、 ごくごく一握りの悪い人達だよ。 中には茜ちゃんを好いて
くれる人だって、 人間だって認めてくれる人だって必ずいるよ。 だから、 諦めないで。 そんなに悲しまないで」
そう、 私がタマちゃんに出会ったように、 藤原に出会ったように、 茜ちゃんにもいい出会いがあれば、
立ち直れるかもしれないよ。 私はそう思った。 世の中、 決して悪い奴ばかりってわけじゃないんだ。 でも、
茜ちゃんには通じなかった。 茜ちゃんは泣きはらした腫れぼったい眼をこすりながら、 こう叫んだんだ。
「そんな人なんているわけないべさっ! 先生が、 友達が陰で何を話してるか私にはすぐ分かるんだ。 先生や
友達の携帯やパソコンにアクセスすることなんて私には簡単なことなんだ! どんな内緒話してるかなんて、
すぐ分かるんだ! みんな、 アタシのこと、 人間じゃない、 人間と思えない、 機械人形だって言ってるんだ。
アタシは機械でいいよ。 機械なのに人間だって思いこむから悲しくなるんだよ。 ニンゲンなんて大っ嫌いだ。
みんな嘘つきだ。 友達だって、 先生だって、 アタシの前ではいい顔してるくせに、 結局アタシのことなんて
人の形をした機械くらいにしか思っていないっしょや。 憎い憎い憎い! 普通の身体を持ってるみんなが憎いよ。
だからアタシは復讐してやることにしたんだ。 みんなの秘密を握って、 脅してやることにしたんだ!」
120 :
前444:2005/03/26(土) 01:42:12 ID:ZyFdJoUV
この子は、 コンピューターに自由自在にアクセスできる力を持ってしまったせいで、 人の心の裏を読める
ようになってしまったせいで、 心の闇は私が思っているよりずーっと深くなってしまった。 もしも、 私も
陰で機械女なんて言われて、 そして、 それが全部私に筒抜けだったとしたらどうだろう。 もしも藤原みたいに、
こんな私でも愛してくれるような人に巡り合わず、 理解してくれる友達もいなくて一人ぼっちだったら、
一体どうなっていただろう。 そうしたら私だって茜ちゃんみたいに、 機械でいいなんて開き直って普通の人を
憎んで生きるようになってしまっていたかもしれない。 そんな生き方って悲しすぎるよ!
「茜ちゃん、 そんなこと言ったら駄目だよ。そんなことした駄目だよ。 ますます誤解が広がるだけじゃないか!
ますます人間って見られなくなるだけじゃないか。 茜ちゃん、 お父さんもお母さんもいるんでしょ。
お父さんやお母さんは、 少なくともあなたのこと人間だって思ってくれてるんでしょ」
そう、 少なくとも茜ちゃんには、 茜ちゃんのことを想ってくれる両親がいるはずだ。 さっき、 松原さんが両親の
同意書がどうのって言っていたもの。 でも、 茜ちゃんの口から出たのは余りにも残酷な事実だった。
「アタシのパパも、 ママも、 アタシのホントのパパ、 ママじゃないから・・・。 ただの自衛隊の人だから。
アタシは、 ホントは孤児院育ち。 アタシなんて、 ただ、 便利な道具だから拾われただけだっけさ・・・」
「自衛隊? 便利な道具? 茜ちゃん・・・それってどういうこと?」
突然でてきた意外な言葉に混乱してしまう私。 思わず、 茜ちゃんの両肩をつかんで聞き返してしまった。
すると茜ちゃんは、 私から眼をそらして、 淡々と身の上を語りはじめたんだ。
121 :
前444:2005/03/26(土) 01:42:56 ID:ZyFdJoUV
「パパもママもアタシを大事にしてくれるよ。 他の自衛隊の人だってアタシを認めてくれるよ。 アタシの
好きなもの、 なんだってくれるっけさ。 学校のコンピューターをハッキングしたって叱られないし、
かえって褒めてくれるっけさ。 でも、 それだって、 きっとアタシを好きだからじゃないよ。 アタシには
コンピューターを自由に操る力があるからなんだ。 今のカガクでも説明できないような不思議な力が
あるからなんだ。 そんなことくらいアタシだって分かってる。 でも、 いいっけさ。 アタシは便利な、
使える道具でいる限り捨てられることなんかない。 アタシは機械でいいんだよ。 道具でいいんだよ。
人間じゃなくたっていいんだ。 だってアタシ、 死にたくないもん。 パパやママに見捨てられたら
生きていけないもん・・・・」
そこまで話したところで茜ちゃんの両目から大粒の涙がゆっくりと頬を伝って、 堅く握り締めた
両こぶしにポロリとこぼれた。
そうか、 この子は義体になって、 それで自衛隊に引き取られたんだ。 両親を亡くして、
一人ぼっちで、 こんな身体で生きていくのは、 お金もかかるしすごく大変なことだから、 自衛隊とか、
宇宙開発事業団の世話になったほうがいいかもしれないって、 そういえばタマちゃんも辛そうに私に
切り出したことがあった。 それでも私は両親が残してくれた保険金があったから、 なんとか
自衛隊の世話にならなくてすんだんだ。 今まで普通に暮らしてこれたんだ。 でも、 両親もいない、
幼くして機械の身体になったこの子に、 自衛隊に引き取られる以外にどんな選択肢があっただろう。
確かに茜ちゃんは、 自衛隊のお世話になってるおかげで、 一見、 何不自由なく暮らしていける
のかもしれない。 さっきみたいに十万なんて大金をポンと出せるのかもしれない。 でも、 自衛隊は、
この子をスーパーハッカーに仕立て上げて、 人間を憎ませて、 歪んで育てて、 何に仕立て上げようと
してるんだろう。 もしも、 人でない、 何か別のものを作り出そうとしているのだったら、 そんなの
絶対許せない。
122 :
前444:2005/03/26(土) 02:18:18 ID:ZyFdJoUV
結局二週間以上間があいちゃいましたね。申し訳ない。しかも上げてるし・・・。
一応、長々と続いたこの話もあと三回くらいで終わるかな?といったところ。
次回作は「腕相撲」の予定。
>>101 見ました!35氏、素晴らしい紹介文有難うございます。ハートフルなんて言って頂いて
>今より、ほんの少し未来。
>サイバネティクス医療技術の進歩で、人間が少しだけ「死」の恐怖から逃れる術を得た時代。
>彼女はそんな時代に生まれ、全身義体のサイボーグとなった。
この冒頭の三行、すごくいい感じです。サイトで是非使わせてください!
>>103 >かなり良かった。じっくり読んでみたいと思わされた。
なんて言ってくれてますね。ホント嬉しい。
>>71-75 サイボーグならではのH描写が最高なのです。Hシーンって、文章力の巧拙が
モロに出ちゃうような気がするんですけど(だから私は結構避けてるんですよね)
そこでこれだけ読ませてくれるなんて、やっぱりかなわないなあと思って
しまうのです。
>>106 質問していいですか?なんで少女だけなんですか?裏向きはそっちのほうが
萌えるからなんでしょうけど、表向きにはどんな理由でなんでしょう?その
あたりは、のちのち物語の中で語られていくんでしょうか?
リクOKということで遠慮なくリクエストしてみます。
スパイ用に開発された光学迷彩装備の女の子なんだけど、故障のせいで
ずーっと迷彩がかかりっぱなしになっちゃった。
「なんでみんな、私に気がつかないの。私はちゃんと、ここにいるんだよ」
なんてどうです?
八木橋さんの話が、こんなにシリアスでブラックに
なるとは。
彼女は、この暗黒にどう対処するのでしょう。
無事を祈ります。
>>106神
少女だけマンセーです。女子中高生を改造しちゃってください。国際組織にも関わらずセーラー服姿でキボンヌ!!
125 :
前580:2005/03/27(日) 01:41:22 ID:WgsO92AO
作者の皆様方、お疲れさまです。こんなに投稿が集中するなんて、盆と正月
が一度に来たような嬉しさです。
>>82 何か作品をお考えでしたら、ぜひ。
>>110 素晴らしい世界設定ですね。文章も手馴れた手堅さを感じます。どんなお話
を書いてくださるのでしょうか。
>>113 人違いの不良品の上に、二度と泳ぐことのできない金属の身体。道具として
扱われたガジェットとは別種の悲惨さと、何もできない無力感がとてもいい
です。でも何らかの形で活躍して欲しいなぁ、という気もしますけれど。
どんな基準でサチさんを拉致したのかわからないけれど、使い捨ての道具に
するにはもったいないくらい才能ありますね。サチさんの記憶も記憶退行で
戻せないのでしょうか…。
勘当された肉親は父親だとして、なぜ姉上様が一緒に?と思っていました。
謎は解けましたが、また、罪を重ねてしまったのかと思うと悲しいです。犯
した罪は許せないけれど、姉上様も結局は被害者。幸せになって欲しいと思
います。
>>119 あぁ…少なくとも茜ちゃんには両親がいるって安心してたんですけど…。
孤児だったのですか。今まで思っていたより、一段も二段も深くて重いお話
になったように感じます。人を超えた力を持ったばかりに、義体という以上
の大きな不幸を背負ってしまった茜ちゃん。悪魔なのは私たちの方だったの
ですね…。茜ちゃんが最後に流した大粒の涙に、苦悩の大きさを感じます。
ここまで深い闇の中に落ちこんだ心のままで何年間も、それでも精一杯生き
てきたのかと思うと、涙を禁じ得ません。まだ小学生なのに…。茜ちゃんの
魂に、救済のあらんことを切に願います。
126 :
前580:2005/03/27(日) 01:42:42 ID:WgsO92AO
続きです…。
>>122 腕相撲って…八木橋さんが?? もう次の作品の構想があるのですね。どんな
お話か楽しみです。リクエストに光学迷彩娘とは、やっぱり444氏は目の付け
所が違うなぁ。
>>123 八木橋さんだって、全てを失った絶望の淵から這い上がってきた人なのです。
信じましょう。八木橋さんと、444氏を…。
127 :
前444:2005/03/27(日) 03:47:07 ID:HYxO1GwV
でも一体どうしたら茜ちゃんを救えるというんだろう。 私が抗議したところで自衛隊の人は言うだろう。
別に、 自衛隊にいることを何一つ強制してるわけじゃない。 自衛隊にいるのは茜ちゃんの自由意志で、いたくないなら
出て行ってかまわないんだって。 どのみち私達の身体では、 月々のメンテナンスなしでは生きていくことなんて
できやしない。 何かの理由で生命維持装置が故障して、 補助回路も働かなければ、 それでハイさようならなんだ。
どうぞ、 逃げてください。 自由になってください。 死ぬならご勝手にってわけだ。 だから、 結局は茜ちゃんには
自衛隊の庇護の下で、 使える機械として生きていくしか道は残されてないのかもしれない。 ただ機械の身体だという
だけで、 それはとてつもなく堅い檻の中にいるのと同じことなんだ。 一生檻の中にいなければいけないとしたら、
自分は機械なんだって割り切ったほうが、 ひょっとしたらよっぽど楽に生きられるのかもしれない・・・。
いや、 駄目だよ。 そんなの絶対駄目。 茜ちゃん。 自分から機械だって言ったら駄目だ。 そんなこと
認めちゃ駄目なんだ。 茜ちゃんは、 道具じゃないんだ。 ちゃんとした意志のある人間なんだよ。
「みんなじゃなくていい、 中には茜ちゃんを立派な人間だって認めてくれる人はいるよ。 たとえ世界の誰もが
茜ちゃんを機械としか見なかったとしても、 少なくとも私だけは茜ちゃんは人間だと思ってるよ。 だから、
そんな悲しいこと言わないで。 自分を道具だなんて、 機械でいいなんて、 言わないでよう!」
同じ機械の身体の私が言っても、 なんの説得力もないかもしれない。 でも、 少しでもいい、 私の言葉が
茜ちゃんの心に届いて、 茜ちゃんが変わってくれればいい。 そして、 変えようもないはずの運命を変えてくれるといい。
「お姉ちゃん、 アタシ、 本当に人間なのかなあ? お姉ちゃんはアタシのこと人間だと思ってくれてるの?
お姉ちゃんは自分の事、 人間だって思ってるの? サイボーグの身体なんて全部機械なのに・・・」
128 :
前444:2005/03/27(日) 03:49:55 ID:HYxO1GwV
そう、 茜ちゃんの疑問はもっともなんだ。 私達の身体なんて、 外見だけは普通の人に似せて作られてるけど、
ほとんど機械部品の固まり。 食事だってできないし、 味だって分からない。 どんなに走ったって疲れることもないし、
汗もかかない。 もちろん身体が成長することもない。 月に一度はこうして病院で検査と言う名の点検を
受けなくちゃいけない。 私達が人間だっていう確かな証拠は、 自分では見ることができないちっぽけな脳みそだけ。
でも、 自分が人間かどうかを決めるのは外見じゃないんだ。 他人の評価でもない。 それは自分自身が
決めることなんだよ。 自分が機械だって思いこんでたらホントに機械になっちゃう。 でも、 自分が人間だって思う、
その心さえあれば、 それだけで私達だって人間のはずなんだ。
「ホントの身体がなくなっても、 今の身体が機械だったとしても、 私達にだって心はちゃんとあるんだ。
悔しいっ! 負けたくない! 馬鹿にするなんて許せない! っていう気持ちもあるし、 まだ茜ちゃんには
分からないかもしれないけど、 人を好きになる気持ち、 恋をする気持ちだってちゃんとあるんだ。 だから、
私達は人間なんだ。 そう思ってるよ。 心と身体が揃ってはじめて人間なんだって言う人もいるかもしれない。
確かに、 私達には心しかない。 ホントは心と身体って切り離せないはずのものなのに、 身体だけ先に
天国にいっちゃったんだよね。 でも私の身体だって天国から私のことを、 私の心を、 見守ってくれてる
はずなんだ。 応援してくれてるはずなんだ。 だから、 私にはホントの身体はもうないけれど、 その分、
普通の人よりずっと強い心を持ってるに違いないんだ! 私は、 八木橋裕子は、 確かにここにいて、
ちゃんと生きてる! 給食が食べられなくて、 プールに入れなくて悔しいって思う茜ちゃんだって、
ちゃんと生きてるんだ。 人間なんだよ。 そして、 強い心を持ってる。 強い心を持っていれば、
運命だってきっと変えることができる!」
129 :
前444:2005/03/27(日) 03:52:40 ID:HYxO1GwV
半分は茜ちゃんに、 でも残り半分は自分に言い聞かせるために言った言葉だ。 本当に生身の身体を
持ってたとしたら、 人間かどうかなんて悩むわけないし、 私は人間に決まってるなんて強く自分に
言い聞かせたりなんかするわけない。 私自身が人間だか人形だか分からないあやふやな存在だからこそ、
ずーっと悩んできたんだ。 茜ちゃんの苦しみや、 悲しみは、 私の苦しみ、 悲しみでもあるんだ。
でも、 今は言える。 茜ちゃんのためにも言い切らなくちゃいけない。 私達は人間だって事を。
私達にだって、 心があって将来を夢見る権利だってあるってことを。
「ねえ、 茜ちゃん、 茜ちゃんの好きなことってなーに?」
「さっきハッキングっていったっけさ」
「それは違う、 それは茜ちゃんの本当に好きなことじゃない。 茜ちゃんにだって夢があるでしょう。
本当にやりたいことって、 なーに? 将来やりたいことってなーに?」
「ホントは・・・ホントはねえ・・・恥ずかしいから言えないよ」
心なしか、 茜ちゃんの顔が赤くなった。 この子照れてるんだ。 ははは。
「私、 笑わないよ。 何も恥ずかしがることなんかないんだよう」
「じゃあ言うね。 アタシ、 歌手になりたいのさ。 パンクロックやりたいっけさ。 エレキギターをこう、
じゃんじゃか鳴らしてさ。 ホント、 カッコいいっけさ。 こっそりギターも買って練習もしたんだよ。
でも、 パパやママにばれて、 そんなことやるなって怒られちゃったのさ。 ぎゃはは!」
茜ちゃん、 冗談めかして笑ったけど、 自分の好きなことをしたら、 怒られるってどういうこと?
ハッキングはさんざん褒めておいて、 年頃の女の子の小さな夢はぶち壊すってこと? 機械や道具に半端な
夢なんていらないってわけ? 私は、 茜ちゃんの笑いの奥に隠された悲しみがよく分かるよ。 でも負けるな
茜ちゃん。 自衛隊に負けるな。 運命に負けるな。
「パンクロック歌手って、 なんだか茜ちゃんらしいよね。 とっても素敵な夢だと思うな。 茜ちゃん、
好きなことがあるんだから続けてみようよ。 ばれたって、 怒られたって、 叱られたっていいんだよう。
うー、 ばれたらまずいか・・・えと、 こっそり練習してさ、 それで、 今度、 私が北海道に行くときに
聞かせてよ」
130 :
前444:2005/03/27(日) 04:08:50 ID:HYxO1GwV
「お姉ちゃん、 札幌に来てくれるの! 嬉しいな。 絶対来てね。 約束だよ」
茜ちゃん、 私に思いっきり抱きついてきた。
「痛っ」
茜ちゃんが抱きついてきた反動で、 私は階段の手すりに頭をぶつけたちゃったよ。 いくら子供だって、
義体は重いんだからね。 気をつけてね。 でも、 茜ちゃん、 こんな素直な反応なんかして、
どんなに不思議な力を持っていたって、 やっぱり根っこは、 ただの11歳のかわいい女の子じゃないか。
私、 安心したよ。 大丈夫。 茜ちゃんは変わることができる。
「行く。 必ず行くよ。 約束する。 そうだ! 茜ちゃん。 今、 ここで歌ってみない?」
「え?ここで?」
「そう、ここで」
「ギターもないし、なんだか恥ずかしいっけさ」
「観客は私しかいないんだよ。 将来日本武道館を満席にするであろう天才ボーカリスト、
ACCAがこんなところで怖気づいたらいけないっけさ」
私は茜ちゃんの声色を真似して言ってみた。
「ぎゃははっ! そうだね。 それもそうだ。 じゃあ一曲いきます。 中里忠弘の
『素晴らしくロンリーな俺様』お姉ちゃん、 知ってる?」
「知ってる、 知ってる。 タダヒロー! いいぞいいぞう」
私がはやし立てると、 ノリノリの茜ちゃんは階段のてっぺんに上ってギターをかきならすかっこをした。
パチパチパチパチ。
たった二人だけのコンサートが始まった。 主役は茜ちゃん。 観客は私。 バックミュージックは、
涼しげな波の音。 黒いくらいの青空と、 白い砂浜に這うハマヒルガオ、 それから全部同じ形をした
椰子の木の並木が舞台装置だ。
茜ちゃん、 歌、 上手だよ。 中里忠弘よりずっと。 この子、 本当に才能があるのかも。
ひょっとして、 いつの日か茜ちゃんの脇にかかえるものがノートパソコンじゃなくて
ギターなる日が来るかもしれない。 ううん、 その日はきっとくるはずだよ。
島に響く茜ちゃんのシャウトをききながら、 私はそんなことを考えていたんだ。
131 :
前444:2005/03/27(日) 04:21:39 ID:HYxO1GwV
今日長めに書いたから、次回で締められるかな。
>>123 >>126 ええ、ブラックには決してしませんとも。ご安心ください。
腕相撲は八木橋さんがですよ。勿論。
短めの話にします。長編は疲れました。
132 :
前580:2005/03/27(日) 21:22:09 ID:WgsO92AO
>>127 お疲れ様です。
あのう…仮想空間内では、義体じゃないと思うんですが…。>130
人間かどうかを悩む心があるのなら、それこそが人間であることの証であろうと
思います。でも、人間かどうかということにも増して、八木橋さんが茜ちゃんの
夢を信じる、人と人との絆の力が救いになったんですかねぇ…。
八木橋さんは自分が義体だから説得力がないと言いますが、茜ちゃんを説得する
言葉も、励ます言葉も、茜ちゃんと同じ立場にいる八木橋さん自身が悩んで苦し
んだ結果から出てきたのであれば、これ以上に強い力を持った言葉はないと思い
ます。義体であることは八木橋さんにとっては不幸なことだけれど、茜ちゃんの
魂を救うことができました。遥遥亭の仮想現実も、八木橋さんのこだわりのおか
げで、よりリアルな世界を再現できるようになりました。深町さんや古堅部長と
の出会いも、きっと互いに何らかの影響を与えることでしょう。こんな人の想い
と絆が広がっていくのも、444氏の作品の魅力だと思います。茜ちゃんのコンサー
ト、ぜひ聞きたいものです。
121 で汀さんが辛そうに切り出したということは、自衛隊や宇宙開発事業団にい
る他の人達も、程度の差はあれ、同じようなひどい扱いを受けているのでしょう
か。八木橋さんは、機械の身体であることを意識させられるのを嫌っていただけ
のようですが、もっと暗い側面もあるのでしょうか。なにか、嫌な世界かもしれ
ないです。技術の進歩で死の恐怖からは逃れられても、代わりに別の苦悩を背負
うことになるのは人の業なのでしょうか。もっと技術が進んで生身の身体と寸分
違わない機能を持った機械の身体ができたら、こんな悲しいことはなくなるので
しょうか。今回のお話は、いろいろと考えさせられました。
ところで、こんなやりとりをしている間も、八木橋さんの身体が解体されていた
り、茜ちゃんの義体が交換されているのかと思うと、ハァハァ…。駄目ですか…orz
えっと…オチの方も、楽しみにしています。
>>131 本当に、お疲れ様でした。これだけの内容のお話を読むことができたことを深く
感謝します。
お二人へ。
脳みそさえあれば、今ある選択枝からより良い将来を選べるでしょう。
これは機械にできないことです。この悩みは義体の人だけでなく、みんな
に共通と思います。
茜ちゃんは、ここで改心すればたとえ自衛隊にいても大丈夫かも。
力を自分で納得して使えばいいだけですから。
ひょっとして、茜ちゃんは未来に素子さんになるとか。
漏れは、少女が無理矢理改造され、そのサイボーグがただの機械・道具として徹底的に酷使された挙げ句に解体、廃棄されちゃうような惨めなのが萌えるので、106様とか389様すごく好きだし、これからも期待してます。がんがってください。
135 :
前389:2005/03/29(火) 00:32:51 ID:9EZACwC9
J−1
日はとうに暮れ、患者達が寝静まろうとする頃、J大付属病院の一室で、二人の男が密議を交わしていた。
事件の黒幕の一人、カドイデ教授と、その部下である。
「しかし、教授、本当にやるんですか? 今は操り人形とはいえ、この女の精神は不安定な状態ですよ」
「かまわん。 むしろ不安定だからこそやれと言われたのだ。 記憶も精神も不確かな女を技師にするより、
この女から聞き出した、別の適任者を技師に据えたほうが、計画がはかどるらしいからのう」
「はい、確かに」
「全くもって…これほど扱いづらい女だとは思わなんだ。 これなら、技術捜査部の技術官を引っ張って
来たほうが、まだ御しやすかったかもしれんのう」
「はあ…」
「ま、今更言っても詮無き事。 ほれ、あの女を連れて来い。 技術だけでなく、人間関係の記憶も
復元するぞ」
カドイデ教授は、それが自らの破滅になるとは毛の先ほども思ってはいなかった。
「ほい、目を閉じて、気を楽に」
「……」
椅子に座っているのは若い女性。 刑務所から拉致されたカズヒロ技術官の姉である。
「君の他に、サイボーグ技術を持っている人間を、誰か知らないかね?」
「……?」
「ふむ、質問を変えてみよう。 君の医学、工学の知識は、誰から教わったものかね?」
「……お父さん、です」
「そうか。 そのお父さんは、今どこにいるか分かるかね?」
「……?」
「覚えていないか。 なら、お父さんと一緒にいるときの事を思い出してごらん…どうだね?」
「……」
「今、君はお父さんとサイボーグの研究をしている。 ここは何処だろう?」
「…山奥の研究所です」
「それで、お父さんが君に何か語りかけている。 なんと言っているね?」
136 :
前389:2005/03/29(火) 00:37:51 ID:9EZACwC9
J−2
あたしは今、山奥の研究所で、父と話している。
「いよいよ明日だぞ、ミツコ。 世界で初めてのサイボーグが誕生する日は」
「本当によかったね、実験台に志願してくれる人がいて。 あたし、一人もいなかったらどうしようかと思った」
「ああ…でも、近いうちに、全ての労働者が機械化される時代がやってくるさ」
お父さんの笑顔。
「もう工場の自動化による雇用の減少を憂える必要はない。 人が機械に…道具になればいいのだからね。
さあ、明日のために、今日はもう寝ておきなさい」
「うん。 あたし、お父さんの助手として、改造手術を絶対に成功させてあげる」
その夜、興奮の醒めないあたしは、睡眠薬の力を借りて深い眠りについた。
そして次に目覚めたとき、あたしの身体はもう半分以上 人間ではなくなっていた。
137 :
前389:2005/03/29(火) 00:40:01 ID:9EZACwC9
J−3
身体が動かない。
(これは…夢? 金縛り?)
いや、違う。 これは、
(!?)
あたしの身体が台の上に固定されているのだ。 服を脱がされた、一糸纏わぬ姿で。
(えっ、えっ!? なんで、どうして!?)
既に、あたしの身体はお腹から胸のあたりまでぱっくりと切り開かれ、そこから何本ものアームが
あたしの体内に出入りしていた。
次々に臓器がつかみ出され、機械が埋め込まれる。
ずしり、ずしりと、あたしを構成する器官が機械に置き換わる度に、身体が重くなっていく。
(ねえ、待ってよ! あたしじゃない! 実験台はあたしじゃないでしょう!?)
叫ぼうにも、太いチューブが口から喉の奥深くまで差し込まれていて声が出ない。 いや、そもそも
今のあたしに肺なんて残っているのか。
手にも、脚にも複数のアームが取り付き、プログラムされた通りの、正確な無駄のない動きで
あたしを機械へと造り変えていく。
全身に群がる細く器用な金属の腕。 それはまるで、獲物をむさぼる子蜘蛛の集団。
(やだ…やだ…こんなの、夢でしょう? そう…きっと夢)
必死に自分に言い聞かせたその時、アームの一つが私の胸から、ある物を引きずり出した。
(心…臓……あたしの…)
弱々しく、かろうじて鼓動を続ける生物の証が、今 あたしから永遠に切り離された。
138 :
前389:2005/03/29(火) 00:42:07 ID:9EZACwC9
J−4
そうして私の身体は、一部の筋繊維を残し、全て機械となった。
「イヤ、なんで…なんで動くのよ…」
手足が動く。 あたしの意思通りに動いてしまう。 この機械のかたまりが、あたしの一部なんだと言っている。
「やったぞ! 完璧だ、大成功だ!」
「…騙したのね、あたしを。 最初から、実験台の志願者なんていなかったんでしょう」
「ん? あ、もしかして、気付いていなかったのか?」
「…何ですって!?」
「パーツを製造するときに、実験体の身体データを見ただろう。 それがミツコ自身のものだって
気付かなかったのかい?」
「えっ…!?」
「てっきり、ミツコは事情を知った上で父さんに気を使って黙っててくれたのかと…」
「嘘よ…騙していたんでしょう…あたしを!」
「ん、どうした?」
眼前の、白衣の男に飛び掛り、押し倒す。
「なっ…何を?」
「きょ、教授!?」
両手で、男の首を力任せに締め上げると、
「ぐっ……ぅ」
実にあっけなく、男は息絶えてしまった。
「ひっ、ひぃぃぃぃ…た、大変だ! 誰か来てくれ! 教授が、カドイデ教授が!!」
139 :
前389:2005/03/29(火) 00:43:54 ID:9EZACwC9
●J−5
私と警部さんがJ大付属病院に駆けつけたとき、すでにあの女は院内から姿を消していた。
「首を絞められたことによる窒息…どころか、首の骨が砕けてますね。 これは人間の力じゃありませんよ」
検死官の報告は、犯人があの女であることを裏づけていた。
非常線が張られ、私と警部さんも周囲の捜索に飛び回ったけど、その甲斐なく、あの女は完全に行方を
くらませてしまった。
「ごめんなさい…あなたのお姉さんに、逃げられてしまったわ」
警部さんが、カズヒロさんに頭を垂れる。
「い、いえ、警部の責任じゃありません、絶対に。 むしろ、姉さんがとことん面倒をかけてしまって…」
逆にカズヒロさんが謝り返している。
「えと…ところで、あとは姉さんを捕まえれば、事件は解決って事になるんでしょうか」
「いえ、まだよ。 カドイデ教授がサイボーグ技術を求めた動機と、あなたのお姉さんや実験体の少女を
拉致監禁した連中の正体がつかめていないわ」
「た、確かに。 今時のこの国で、そんな武力を持っているのは…暴力団とかでしょうか?」
ここで国際テロ組織とか、工作員とかが思い浮かばないのが、いかにもカズヒロさんらしい。
「果たしてそうかしら。 今の暴力団は、専ら詐欺とか違法ポルノとかで成り立ってるみたいだけど…」
(違法…ポルノ…?)
何か、引っ掛かる。
「あっ!」
「サチ、どうしたの、急に?」
「違法ポルノ、手がかりになる…かもしれません。 警部さん、保安課のほうに協力をお願いしてくれませんか?」
「い、いいけど…一体どういうこと?」
警部もカズヒロさんもきょとんとしている。 まあ確かに突飛な発想だけど、私には一つ、心あたりがあった。
140 :
前389:2005/03/29(火) 01:15:32 ID:9EZACwC9
視点がコロコロ変わりましたが、
J-1が客観、
J−2〜4が、カズヒロさんの姉ことミツコの視点です。
先に謝っておきますと、今回逃亡したミツコは、
少なくとも今作品中はもう登場しない予定です…
続編書きたくなった時に、役立つかなと思ったので、とって置きます。
>>118,122,125,134
感想本当に嬉しいです。 やる気出ます。
私はなんか対決やら事件やらで話を展開させていくので、
前444氏が日常っぽい話が書けるのが羨ましかったりします。
「あの女」が次回作で登場するということは、また少女が拉致られて新たに改造されてしまうということでつね。そちらも楽しみでつ。
143 :
前580:2005/03/29(火) 23:51:55 ID:x6Il9Dkn
>>135 意識を保ったままでの改造シーン…激しく萌えました。前々回のHシーンといい、
描写が素晴らしいです。
J−2の、内容はともかくほのぼのとした父娘の会話から、一転して絶望のどん
底に。信じていた父親に、これほどひどく裏切られたら、心が荒むのもしかたな
い思いました。父上様のセリフからは、腹黒い策略家というよりは、単なる学者
馬鹿という印象を受けました。だとしたら、この上ない悲劇ですね…。
ミツコ姉様、最悪の時期の記憶が戻ってしまって、また同じ過ちを繰り返してし
まうのでしょうか。悲しいです。カズヒロ技術官とハツミ警部のご心痛、お察し
します。
サチさんが、なにやら怪しげなキーワードを口にしていますが、一体どんな展開
になるのでしょう。楽しみです。
っていうか、サチさん、どこからそんな知識を…。
>>140 ミツコ姉様の件に決着がつかないと、カズヒロ技術官とハツミ警部の関係に、わ
だかまりが残ってしまいそうな気がします。いつか続編を書かれることがありま
したら、その辺のお話を、ぜひ。
144 :
前444:2005/03/30(水) 02:11:44 ID:NPSmShWR
それから後のことは本当に夢みたいだった。 いや、 仮想空間なんて、 実際夢みたいな
ものなのかもしれない。 ホントの私の身体は、 大掛かりな検査入院だもの、 きっと今頃
手も足も外されてバラバラにされちゃってるに違いないんだ。 私が今の本当の自分の姿を
見たら、 私も人間なんだなんて、 とても言えなくなっちゃうくらいにね。
今、 私がいるこの南の島は、 実際は病院のメインコンピューターに接続された私の脳に
送り込まれている偽りの世界、 ただのデジタルな情報、 なんだか難しい数式の羅列が化けた
ものに過ぎないんだ。 そんなこと分かってるよ。 でもね、 幻想だっていい、 嘘でもいいんだ。
だって、 ここにいれば、 もとの世界ではもうできなくなっちゃったことが何でもできるんだ。
息が苦しくなるまで走ることだって、 海で泳ぐことだって・・・。
私達のような義体の身体では、 海水なんかに入るのは絶対禁止。 一応防水はしてあるって
いっても、 万が一端子の隙間から海水が入ろうものなら、 身体が錆びて大変なことになる。
プールくらいだったらいいって吉澤先生に言われたから、 義体になってから二回くらい行った
ことがあるけど、 それだって水の底に身体が沈むだけで泳ぐことなんてできやしないんだ。
馬鹿馬鹿しくてもう何年も行ってないよ。
145 :
前444:2005/03/30(水) 02:12:36 ID:NPSmShWR
だから、 例の東南アジアチックな家の寝室のクローゼットの中で、 私のものらしい
爽やかなライトグリーンの、 セパレートの素敵な水着を見つけたときはホントに興奮した。
水着を着るなんて、 いったい、 いつ以来だろう。 野暮ったい検査着も下着も、 安っぽい
ストリッパーみたいな早業で脱ぎ捨てて、 本当に久しぶりに水着を着てみたんだ。
セパレートの水着だから身体に合うかどうか不安だったんだけど、 事前に身体のサイズを
コンピューターが読み取っているだけあって、 私にぴったりだった。 それで、 今考えれば
馬鹿みたいなんだけど、 鏡の前に水着姿で立って、 しばらく自分の身体を眺めていたんだ。
「私、 きれい? ぎゃはっ!」
私もなかなか捨てたもんじゃないよねって自分の水着姿に悦に入っていたら、 突然
後ろから、 そんな声が聞こえたからびっくりした。 茜ちゃんは、 私が着替えてる間、 外で
待っていたんだけど、 なかなか家から出てこない私の様子が気になって戻ってきたんだ。
そして、 鏡の前に水着姿で立ってる私を見て、 馬鹿にしたようにそういって笑うわけ。
「バカっ! 子供がみるんじゃないっ!」
茜ちゃんに向かって拳を振り上げて、 ぶつまねをしてごまかしたけど、 その時の私、
恥ずかしさで顔、 真っ赤になっちゃったんじゃないかと思う。 思い出しただけでも恥ずかしい。
146 :
前444:2005/03/30(水) 02:13:14 ID:NPSmShWR
私が水着に着替えた後は、 二人で手をつないで海に出かけて、 波打ち際で茜ちゃんと
水の掛け合いっこして遊んだり、 砂のお城を作ったり、 泳ぐのが初めての茜ちゃんにバタ足を
教えたり。 私も小さい時に戻ったみたいに二人で無邪気にはしゃいだんだ。 それから、 太陽が
水平線の下に沈みきるまで二人で、 砂だらけになるのもおかまいなしで砂浜に寝そべって、
真っ赤な夕陽で赤く染まった海を眺めてた。 ずーっとね。
「お姉ちゃん。 私、 なんだか身体が重いっけさ。 なんでだろう。 眠たくなっちゃったよ」
二人で、 いつの間にかテーブルに用意されていたエスニック料理をたいらげたあと、
ふかふかのソファに水着姿のままくつろいでいたら、 茜ちゃん、 そんなことを言うんだ。
眼もなんだかとろーんてしてて今にもまぶたが閉じてしまいそう。
ふふふ、 それはね、 茜ちゃん。 あんなにたくさん、 はしゃいで遊びまわったんだもの。
身体が疲れてるってことなんだよ。 機械の身体では決して体験できない感覚だから、 よく
覚えておいたほうがいいよ。 本当の身体をもってる人はね、 動き回ったら疲れるんだ。
人は疲れるってことを知っておけば、 人をいたわる気持ち、 例えば電車に乗ったとき
お年寄りに席を譲ったりとかさ、 そういうことが自然にできるかもしれないよ。 そんな
説教じみた事を言おうとしたんだけど、 言う前に茜ちゃん、 ソファーの中ですーすーと
気持ちいい寝息を立て始めた。 よっぽど疲れたんだね。 シャワーも浴びずに寝ちゃったんだ。
さて、 私も、 もう寝ようかな。 今日はいろんなことがあったけど、 辛いことも
あったけど、 でも本当に楽しかったよ。 イソジマ電工御中。 楽しい夢をいつもありがとう。
147 :
前444:2005/03/30(水) 02:55:44 ID:NPSmShWR
すみません。次回で締められるかなと思ったのですが、なかなか上手く
事態を収束させられないので、とりあえず今日はここまで。えーと
あとニ〜三回は続きます。とりあえず、仮想空間上のお話は今回で
終わり。
>>132 >あのう…仮想空間内では、義体じゃないと思うんですが…。>130
仰るとおりですね。作者としたことがうっかり忘れておりました…orz
サイトに掲載するときに修正しておきます。
>こんな人の想いと絆が広がっていくのも、444氏の作品の魅力だと思います。
そう言っていただけると作者としてこれほど幸せなことはないです。
これからもヤギーと彼女を取り巻く人達それぞれの想いと絆を描けていけたらと
思います。で、解体云々の件ですけど、早速今回の冒頭に取り入れたのです。
>>133 コンサートを開くアッカになるか、自衛隊にいるアッカになるか、
将来はどっちなんでしょうねえ。どっちの話も楽しく書けそうな気がします。
>>134 機械にされた感情ばかりネチネチ描くヤギーの話と、爽快にして痛快なガジェット
ワールド、それに106氏の話が加わると、ほぼ全てのサイボーグフェチの嗜好が
が押さえられると想うのだが如何。
>>135-139 うわ、カドイデ教授死んじゃったよ。どうなっちゃうんだろう。全然展開が読めません。
それにしても、やっぱり解決の糸口を見つけるのはさっちゃんなんですね。
お姉さんはもう登場しないんですか?あんなにインパクトのあるキャラクター
だったのに、ちょっと残念。
148 :
前444:2005/03/30(水) 23:35:45 ID:naJZXRtp
目が覚めたら、 私は義体診察室の診察台の上に仰向けに横たわっていた。 寝起きざまに天井から
ぶら下がっているカニの腕みたいなアームとか、 ライトとかがいきなり、 眼鏡をかけないままの私の
ぼやけた視界に入って、 昨日のことを思い出して憂鬱になっちゃった。 ああ、 私、 もとの世界に
戻っちゃったよう。 また、 機械の身体に戻っちゃったよう。 今、 いったい何時なんだろう。 窓もない
この部屋では、 灯りは蛍光灯のやけに無機質な愛想のない白っぽい光だけ。 朝なのか昼なのか、 それすら
分からなかった。
まだ起き抜けのぼんやりした頭を振りながら身体を起こして、 まわりを見回す。 誰かいるかと思った
んだけど、 機械装置ばかりが目立つ殺風景系な部屋の中には私一人だけ。 向こうの世界で私の隣で寝たはずの
茜ちゃんも当然ながらいない。 そうだよね、 茜ちゃんは義体の交換なんて大掛かりな手術しているんだもん。
私達、 仮想空間の中で思いっきり楽しんでいたんだけど、 実際の私達は身体バラバラにされてたんだ。
だから、 今、 隣ですやすや寝ているなんてことはあるはずないんだ。 茜ちゃんも、 もう目が覚めたかなあ。
あっちの世界で一人ぼっちで寂しくないかなあ。
近くに眼鏡が見当たらないから仕方なく診察室の中を物色しようと立ち上がったんだけど、 その時はじめて、
部屋の中にある複雑な機械装置から何本もコードが這い出して、 私の入院用のぶかぶかの白い服の隙間に
入り込んでいるのが分かった。 確かめる気にもなれないけど、 きっと、 身体中の接続端子に繋がってるに
違いないんだ。 首筋にも太いコードがご丁寧に何本も接続されてるし。 これじゃ、 自由に歩きまわる
こともできない。 なんだか、 機械に飼われてる奴隷みたいな気分だよね。 まあ、 実際そのとおりなんだけどさ。
はは。 うざいから、 こんなコード全部引っこ抜きたいところだけど、 勝手に抜いたら松原さんにまた
怒られちゃうにきまってるんだ。 だから、 私はひどく惨めな気持ちで、 しばらく診察台の上でじっとしていた。
待つまでもなく松原さんが私の眼鏡を持って診察室にやってきた。 私の脳波の状態や、 身体の動作状態は
逐一モニターされてるんだろう。 何も言わなくても、 私が起きたことはすぐ分かるってわけだ。
149 :
前444:2005/03/30(水) 23:37:53 ID:naJZXRtp
「お早うございます。 っていうか今、何時ですか?」
私は松原さんの顔色を伺いながら恐る恐る尋ねてみた。 昨日の騒ぎ、 ひょっとしたら松原さん、 まだ
私の仕業だと思っているのかも、 こってり私の油を絞ってやろうと思っているのかも、 そう思って私
ビクビクしてたんだ。
「10時です。 八木橋さん、 ぐっすり寝ていたみたいですね。 お早うございます」
そう答える松原さん、 なんだか元気がないみたいだ。 無理に作り笑いをしているみたい。 あれほど、
戻ってきたらじっくり話しましょうね、 なんて、 鼻息荒くしてたのに一体どうしちゃったんだろう。
松原さんに身体中に接続されたコードを全部抜いてもらって、 晴れて自由の身になった私。 眼鏡も
受け取って、 やっと視界もはっきりした。 早速診察台から降りると、 ラジオ体操しているみたいに、
屈伸したり、 前屈したりして、 身体の動きを確かめる。 ちょっと前の感覚と違う気もするけど、 一応身体は
私の思った通りに動いてくれる。 とりあえず、 何の問題もない。
「磨耗した関節を新しい部品に取り替えましたから、 ちょっと違和感を感じるかもしれませんけど、 身体に
馴染んでくれば大丈夫だと思います」
松原さんは、 いつものようなはきはきした口調で話してるけど、 私と眼を合わそうとしない。
普段だったら、 ぐりぐり私の目を見てストレートに話すくせに。 やっぱりなんだか様子がおかしいんだ。
しばらく、 部屋の中を無意味に歩き回っていた松原さん、 ようやく意を決したように、 切り出した。
「あの、 八木橋さん。 私、 貴女のことを疑ったこと、 謝らなくてはいけないです。 ごめんなさい。
本当は私が一番貴女のことを信じてあげなければいけなかったのに、 私、 貴女を信じてあげなかった。
ごめんなさい。 私はケアサポーター失格です」
「松原さん、 どうしたのかなと思っていたら、 そんなこと気にしてたの? 私のことはいいんだ。
誤解が解ければそれでいいんだよう。 それより茜ちゃんのことなんだ。 松原さん、 茜ちゃんの
ケアサポーターでもあるんでしょ。 茜ちゃんを助けてあげなきゃ!」
150 :
前444:2005/03/30(水) 23:40:17 ID:naJZXRtp
「そのことなんだけど・・・」
私が茜ちゃんと口にしたとたん、 松原さんの表情がよりいっそう曇った。 そして、 内ポケットを探って
一通の封筒を取り出すと、 なんだか泣きそうな顔で、 私に差し出したんだ。 中をあけるとお金が入っていた。
十万円も。
「なにこれ? 松原さん、 このお金、 何のつもり?」
「会社からのお見舞金です。 今回、 八木橋さんに迷惑をかけたお詫びとして。 その代わり…」
松原さんの声はだんだんか細くなっていって、 最後はなんだかよく聞き取れなかった。 でも言いたいことは、
すぐ分かったんだ。
「このお金をもらって、 それで、 昨日の出来事も茜ちゃんのことを、 誰にも話すなってことね!
そうなんでしょ! なんだ、 それ。 松原さん、 どうしてそんなことが言えるんだよう。 茜ちゃんが
どんな目にあってるか松原さんは知ってるの! 茜ちゃんは、 茜ちゃんは、 まだ小学生なのに、 本当は素直な
かわいい女の子なのに、 誰からも人間扱いしてもらえないんだよ。 先生からも、 友達からも。 そして血は
繋がってないけど両親からも! そんな茜ちゃんのことを忘れろっていうの? 一人ぼっちにしろっていうの?」
私は目の前にいる松原さんを睨みつけて、 そして怒鳴りちらしてしまった。 松原さんに向かって怒っても
しょうがないって心の底では分かっていたけど、 他に湧き上がる怒りのもってきようがなかったんだ。
「私が昨日報告を上げた後すぐ、 上から圧力がかかったんです。 昨日の出来事は全てなかったことにして
くれって。 きっと、 何か会社の企業秘密がかかわっている話なんでしょう。 私みたいな末端の社員までは、
その理由までは伝わってこない。 ただ、 これを八木橋さんに渡してくれって。 これでなんとか話を
収めてくれって言われました・・・」
悲しそうな顔で、 ポツリポツリと話す松原さん。 そう、 松原さんだって、 決してこんなこと
言いたくて言っているわけじゃない。 会社からの命令で仕方なく言っていることなんだ。 それは、
つまり自衛隊だけじゃなくイソジマ電工もなんらかの形で、 茜ちゃんにかかわっているってことだ。
151 :
前444:2005/03/30(水) 23:43:25 ID:naJZXRtp
遥遥亭の中で、 深町さんは、 ウチの会社に入ったら理想と現実の板ばさみって私に話してくれた。
きれいごとばかりじゃない。 失望することも多いとも言っていた。 自衛隊に協力して茜ちゃんを
悪魔のように仕立て上げようとしたイソジマ電工、 私に一時とはいえ、 生身の身体の感覚を取り
戻させてくれたイソジマ電工。 いったいどっちがホントの姿なんだろう。 いや、 どっちも
ホントなのかもしれない。 世の中、 表があって裏がある。 遥遥亭が表の顔だとしたら、茜ちゃんの
一件は裏の顔なんだ。
私は自分が人間らしく暮らしたいがためにイソジマ電工に入ろうと思った。 私は、 いわゆる
一流と呼ばれる企業のOLになって、 世間では上のレベルの給料をもらうことではじめてこの機械の
身体を維持することができるんだ。 そうすることでやっと、 表向きは人間らしく暮らせるかも
しれないんだ。 だけど、 もしも、 そうして得られた幸せが、 他の義体の人の積み重ねた
悲しみの上に成り立つものだとしたら、 それは本当に幸せって言えるんだろうか?
でも、 だからといって機械女っていう自分を甘んじて受け入れて、 藤原との暮らしも諦めて、 ひっそりと、
例えば宇宙のどこかで機械らしく生きていくような、 勇気も度胸も私にはない。 私は一体どうすればいいんだろう。
分からない。 本当に分からないよう。
「私はケアサポーターっていう自分の仕事に誇りをもっていました。 八木橋さんみたいな義体の人に、 生きる
喜びと勇気を与えられるなんて素晴らしい仕事だと思っていました。 でも、 実際には八木橋さんを信頼して
あげられない、 西田さんのことだって、 会社から何の情報も与えてもらえない。 だからなんの力にもなって
あげられない。 私は駄目なケアサポーターなんです。 おまけに、 こんなお金で八木橋さんを買収するような
真似もしなくちゃいけない。 こんなこと、 きっと後ろ暗いことに決まっているのに・・・。 八木橋さん、
ごめんなさい、 本当にごめんなさい」
松原さんは、 そう言って、 何度も何度も私に頭を下げた。
「松原さんが悪いんじゃないんだ。 松原さんが謝ることはないんだよう」
152 :
前444:2005/03/30(水) 23:46:33 ID:naJZXRtp
私が知ってる松原さんは、 言い方は悪いかもしれないけどバカかと思うくらい正直な人なんだ。
融通が利かないかわりに、 曲がったこと、 悪いことだって決してできる人じゃないし、 容認できる人でも
ないはず。 そんな松原さんが、 私に向かってずーっと頭を下げて続けている。 ごめんなさいって言い続けて
いるんだ。 松原さんは会社と私との間に挟めれて一番苦しい立場のはずなのに。
私は、 はっきりいってケアサポーターって仕事を舐めていた。 私は義体だから、 義体の人の気持ち
なんて簡単に分かる。 こんな仕事、 私にだって簡単に勤まるんだって思っていた。 でも、 今、 私に向かって
謝り続ける松原さんの姿を見て初めてあの時深町さんが言った「理想と現実の板ばさみ」という言葉の本当の
意味を理解したような気がする。 イソジマ電工に入ったら、 毎日こんなことの繰り返しなのかもしれない。
松原さんの姿は未来の私の姿でもあるんだ。 こうして、 いろんな矛盾にぶちあたって、 理想と現実の狭間で
もがいて、 それでもいつかは自分なりの答えを出していかなきゃいけないんだ。 それは私みたいに義体だからとか、
松原さんみたいに生身の身体だからとか、 そういうことには関係なく、 人間だからこそ持つ悩みなのかもしれない。
で、 問題は茜ちゃんのこと。 そのことに、 私は、 八木橋裕子は、 どんな答えを出す? 悪いのは松原さん
じゃない。 じゃあ悪いのは誰だ? イソジマ電工? 自衛隊? それとも理不尽なこの世の中? イソジマ電工にだって、
自衛隊にだってそれぞれの立場や中にいる人の生活があるだろう。 茜ちゃんのことを思うと、 私はとても許せない
けど、 きっと彼らには彼らなりの主張や、 正義があるはず。 だから誰が悪いなんていってもしょうがないんだ。
それよりも、 一番の被害者は茜ちゃんなんだ。 悪いのなんて誰だっていい、 悪人探しをしているわけじゃない。
ただ、 茜ちゃんを救えればそれでいいんだ。 私はそう思った。 そのためなら、 つまらない意地なんてはらないほうが
いい。 もらえるものは何でももらったほうがいいし、 利用できるものはなんでも利用したほうがいい。
153 :
前444:2005/03/30(水) 23:49:53 ID:naJZXRtp
「分かったよ。 イソジマ電工がそのつもりなら、 このお金、 遠慮なくもらっておくよ。 口止め料ってことなんでしょ。
安心してよ。 私は昨日のことを誰にもしゃべるつもりはないよ。 でも、 誰にもしゃべらないかわりに、 昨日のこと、
茜ちゃんのことは決して忘れないから。 このお金は有効に使わせてもらうから。 イソジマ電工や自衛隊が一番望まない
形でね。 松原さんには悪いけど、 私にだって意地がある。 イソジマ電工にはイソジマ電工の都合があるかもしれない、
自衛隊には自衛隊なりの都合があるんだろうね。 でも、 大企業や国の理屈の前にハイハイ有難がって頭を下げられるほど、
私は素直じゃない。 このまま茜ちゃんを見捨てることなんかできない。 イソジマ電工や自衛隊に比べたら、 私なんか
ホントにちっぽけな存在なのかもしれないけど、 私は負けないよ。 私は私にできることで茜ちゃんの運命を変えてみせる。
茜ちゃんを救ってみせる」
もしも、 イソジマ電工の役員達や、 自衛隊の幹部が今の私の言葉を聞いたら手をたたいて笑い転げただろう。
年端もいかない小娘が、 お人形さんが、 たった一人で興奮して何ができるんだってね。 そう、 今の私って人からみたら、
自分に酔ってるたちの悪い道化にしかみえないかもしれない。 でも、 松原さんは、そんな私の言葉を聞いて、 何故か
ほっとしたような、 安心したような笑みを浮かべて、 こう言ったんだ。
「本当のこというと、 私はずっと、 あなたに嫉妬していたんです。 強くて、 勇気があって、 そしてなにより優しい貴女に。
機械の身体なのに、 私なんかよりずっと人間らしい心を持ってる貴女に。 私は、 こんなふうに駄目なケアサポーターだから、
会社に逆らう気概なんてありません。 たとえそれが間違ったことであっても、 間違ってるって言う勇気なんてありません。
でも、 八木橋さんは違います。 私、 そういうことを真っ直ぐにものが言える八木橋さんが羨ましい。 八木橋さんは私の
憧れです。 頑張って! 私のぶんも茜ちゃんのために。 ねえお願い!」
154 :
前444:2005/03/30(水) 23:51:41 ID:naJZXRtp
私は、 いつも自分の身の上を呪って、 普通の人を羨んでばかりいた。 だから、 人から憧れられること、 羨ましく
思われることがあるなんて、 ちっとも思わなかったし慣れてもいない。 正直こんなとき、 どう反応していいのか
分からなかった。 私が勇気があるだって? 友達の間では臆病者で有名なこの私が? 私に憧れてただって? いつも
私を怒ってた松原さんが? 私が羨ましいだって? こんな機械の身体の私が? どうして、 どうして?
松原さん、 きょとんとしている私の手をとって嬉しそうに言った。
「ね、 八木橋さん。 今度、 飲みにいきましょうよ。 アルコールカプセルなら私が驕りますから。 ね。 そして、
一緒に叫びましょう。 会社がなんだっ! 自衛隊がなんだっ! ってね」
うー、 松原さん、 相当ストレスためてるみたいだよう。 いや、 その、 そんな酔っ払い親父みたいな真似は、
どうも・・・勘弁してほしいかな、 ははは。
松原さんは苦笑する私に向かってこう付け加えることも忘れなかった。
「もちろん、 集合時間厳守でね」
155 :
前444:2005/03/30(水) 23:55:27 ID:naJZXRtp
ふう、疲れた。次回はもっと短くて気楽な話が書きたいです。
長々と続いた検査入院編は、次回がラスト。
156 :
名無しさん@ピンキー:2005/03/31(木) 00:00:23 ID:ZjBxszye
444さんに質問
ヤギーさんのお話は、『義体で、眼鏡で、アオザイで、浴衣で、臆病で、
H好きで、たまに鬱が入って、面倒見がよく、ボロ屋暮らしで、天涯孤独で、
力仕事のバイトに明け暮れる、大学4年だけど身体は高校生』とアウトライン
を決めておいたら、後はヤギーさんが勝手に(と言ったら失礼ですけど)活躍
して出来ていくのでしょうか。
小説家がのりのりの時、考えずともキャラクターが動いて勝手に話を作って
くれると聞きますんで。
158 :
前580:2005/03/31(木) 03:26:52 ID:sRQhvyta
>>144 うぅ…書き込みが間に合わなかった分です…。
お疲れ様です。
リクエストにこたえていただいてありがとうございます。バラバラにされちゃってる八木
橋さんの姿を想像するだけで萌え死にしそうです。そんな姿を知っている北崎君の「人形
にしか見えない」っていう言葉もしかたないかも、と思い直してみたり。もし、藤原君が
見たら、どう思うのでしょう。藤原君だったら、それでも八木橋さんを愛しているって、
言い切ってくれると信じてますが…。
水着姿の八木橋さんにも、萌え。元の身体をどこまで忠実に再現しているのか分からない
ですけど、運動選手特有の引き締まった身体に、セパレートの水着。きっと素晴らしく似
合っていることでしょう。たまには、藤原君に見せて悩殺してあげてください。Hの時に
裸を見慣れているかもしれませんけど、水着姿は別格です。>八木橋さま。
茜ちゃんと無心に遊ぶ八木橋さんの姿を見ると、心が和みます。きっと、子供に深い愛情
を注ぐ、優しい母親になるだろうな…と思ったところで、子供が産めないっていうことに
気づきました…orz 今まで、あまりそのことに触れていませんけど、八木橋さんは、どう
思っているんでしょう…。なんとか技術の進歩で解決できないものでしょうか。とっても
切ないです。
期待通りの素晴らしい南国バカンスを満喫した後は、現実に戻って、混乱した局面に対峙
することになりますね。どんな形で収拾をつけるのか、楽しみです。
159 :
前580:2005/03/31(木) 03:29:58 ID:sRQhvyta
>>148 お疲れ様です。二週間のブランクを埋めるような怒涛の連投ですね…。
こんなシリアスな展開になろうとは。イソジマ電工までが荷担していたとは意外でした。
筋も理屈も投げ捨てて茜ちゃんの幸せを最優先にした選択は、いかにも八木橋さんらし
いと思いました。強い正義感、目的に向かって突き進むバイタリティと意思の強さ、そ
して相手のことを一番に考える思い遣り…そんな八木橋さんなら、茜ちゃんの魂と同じ
く、茜ちゃんの運命までも、変えていってくれることと思います。過酷な境遇にも屈せ
ず、強く生きている八木橋さんの姿は、私にとっても憧れであり、そして尊敬の対象で
もあります。まじめなだけと思っていた松原さんの、意外な告白と、それにとまどって
いる八木橋さんの描写もいいです。松原さんとの絆も深まったのですね。
検査入院編というタイトルからは予想もつかない程に、充実した内容のお話でした。
一話ごとに、さまざまな出会いがあり、自ら成長しながら、相手にも幸せを与えていく
八木橋さんの姿を見ることは無上の喜びです。今ここで、リアルタイムに作品を読めて、
さらに、喜びと感謝の気持ちを作者様にお伝えできることがどれほど幸せなことか…。
フェチ属性の萌えだけに留まらない、深みのある作品を与えてくださる444氏に、改めて
感謝します。ありがとうございます。
>>157 私も、知りたいです。444氏の描く八木橋さんは、頭で考えて書いたものというよりは、
今そこにいる八木橋さんの言動をそのまま写し取ったような、そんな生き生きとした
リアリティを感じます。
悪いとは思いながらも八木橋さんの中がどうしても見たくて、
ヤギーまとめサイトトップの580氏の絵に既存の漫画から構造図くっつけて
コラ作っちゃったんですが、アップしてもいいものでしょうか…。
orz 八木橋さんごめんなさい
ヤギーの内部図解・・・・(;´Д`)
162 :
前444:皇紀2665/04/02(土) 02:12:30 ID:YtpW2VrL
上野行きの地下鉄は、 ちょうど夜の帰宅ラッシュの時間帯だったから、 電車の中は家路を急ぐ疲れたサラリーマンや
OLばかりでギュウギュウ詰め。 私、 満員電車に乗ってるときっていつも緊張する。 私の機械でできた身体は普通の人の
身体よりずーっと重たいから、 もしも急ブレーキなんかがかかって、 うっかり前の人に倒れでもしたら、 下手したら怪我
させちゃうかもしれないからね。 だから、 つり革をちゃんと握ってしっかり立ってなきゃって、 いつも電車に乗ってる間中
自分に言い聞かせているんだ。
でも、 今、 私が緊張しているのはそのせいばかりじゃない。 私、 さっきからずっと周りの人の冷たい目線を浴びてるんだ。
原因は分かってる。 私が持ち込んだ大きなダンボール箱のせい。 こんな、 混んでる車内にそんなモノ持ち込むなよ、 この
常識知らずっていうみんなの心の声が私には聞こえる。 だから、 私はうつむいてつり革をぎゅって強く握り締めて、 それで、
ごめんなさいって、 心の中で頭を下げっぱなしだ。 迷惑になってることなんて私だって分かってる。 でも、 周りの人達の
持ってる小さな鞄の中に、 家族や会社や自分自身にとって大切なものが入っているのと同じように、 この箱の中にだって、
大きな夢がつまってるんだ。 だから、 今日だけは許してください。
上野駅、 地下3階、 22番ホーム。 北海道へ行く新幹線はここから出発する。 今日は茜ちゃんが札幌に戻る日。
私は茜ちゃんを見送りに、 ここまでやってきた。 あらかじめ携帯電話で話していたとおり、 茜ちゃんは、 ホームの
真ん中くらいにある立ち食いそばのスタンドの横っちょの柱のところにしゃがみこんで、 なんだか一心不乱にノート
パソコンに向かってる。 私が、 ダンボール箱を脇に置いて、 茜ちゃんの横にしゃがんでパソコンの画面を覗き込んでも
気がつかない。 茜ちゃん・・・、 どうでもいいけど、 人前でサポートコンピューターとノートパソコンを接続するのは、
やめなよ。 そのほうが処理速度が速いのかもしれないけどさ、 みんな、 そば食べながら、 こそこそあなたのこと見てるよ。
あなた恥ずかしくないの? 見ている私が恥ずかしいよ。 私は(気分的な)溜息をつくと、 茜ちゃんの首筋の端子から
ノートパソコンのプラグを思いっきり引き抜いた。
163 :
前444:皇紀2665/04/02(土) 02:14:18 ID:YtpW2VrL
「ああ、 お、 お姉ちゃん、 来てたんだね」
茜ちゃん、 そこまでされて、 やっと私に気がついて、 妙にあわてふためいてノートパソコンを閉じたんだ。
「茜ちゃん、 こんばんは。 いま、 何やっててたの?」
「ぎゃははは! なんでもない、 なんでもない。 それより、 お姉ちゃん、 そのおっきなダンボール箱、 一体なに?」
私の質問は笑ってはぐらかされちゃった。 逆に私の持ってきたダンボール箱のことを聞かれちゃった。 ふふふ、
やっぱり気になるでしょう。
「これはねえ、 茜ちゃんへのプレゼントだよ。 開けてごらん」
「プレゼント? アタシに? なんだろう、 なんだろう。 こんなに大きいものって」
ダンボールの箱から出てきたもの。 それは、 透明なビニールのプチプチに包まれた新品の黒いエレキギター。
それからギターアンプ。
「うわーっ、 うわーっ! お姉ちゃん。 すごいよ、 これ。 エレクトロライナーの最新バージョンだっけさ。
なんまら高かったんじゃないの?」
「私、 ギターってよく分からないからさ、 店員さんのお勧めをそのまま買っただけなんだけど、 気に入ってもらえた
かな?」
「お姉ちゃん、 大好き!」
茜ちゃん、 そう叫ぶと思いっきり私に抱きついてきた。 不意をつかれた私は勢いあまって、 どうってホームに
倒れちゃった。 地面のコンクリートに思いっきり頭をぶつけちゃって、 ものすごく痛い。 茜ちゃん、 ちょっとは
自分の体重ってものを考えてよ。 私達の身体は見た目よりずーっと重いんだからね。 気をつけてよね。
でもね、 本当は私、 とっても嬉しかった。 茜ちゃん、 そんなに喜んでくれて本当に有難う。 こんな痛みなんて、
一瞬で消える。 だってこんなの人間らしく見せるための偽りの反応だもん。 でも、 茜ちゃんが喜んでくれて嬉しい、
やっぱりギターを買ってよかったなっていう、 私の感情は心に刻み付けられて、 それは消えることはないんだ。
164 :
前444:皇紀2665/04/02(土) 02:16:08 ID:YtpW2VrL
私、 イソジマ電工から10万円もらってから、 このお金をどう使おうか一生懸命考えたんだ。 そして、 買ったものが
このギター。 茜ちゃんは、 パンクロックが好きだって言った。 歌手になるのが夢だって言ったときの茜ちゃんの眼は
輝いていた。 だったら、 好きなことをやってみようよ。 夢を追いかけてみようよ。 私はそう思ったんだ。 将来
茜ちゃんがどうなるかは分からない。 ひょっとしたら、 このまま自衛隊にい続けることになるかもしれない。 でも、
夢が適うかどうかは問題じゃないんだ。 大切なのは夢を見続けること、 未来に希望を持つこと。 そうすることで、
茜ちゃんの中で何かが変わるはずなんだ。 いや、 きっと変えることができるはずだよ。 だって、 私達は決して
機械なんかじゃなくて意志をもった人間なんだもの。
「お姉ちゃん、 ひょっとして泣いてる?」
私が倒れたせいで、 私の上に馬乗りで乗っかる格好になった茜ちゃんは、 私の顔を覗き込んで不思議そうに
そんなことを言った。
「茜ちゃん、 おかしなこと言うねえ。 義体の私が泣けるわけないじゃないかよう」
そう言いながらも私は顔を見られないように、 茜ちゃんの頭をぎゅっと胸に抱きよせたんだ。 そして、
しばらくそのままじいっとしていた。 まるで泣き顔を見られるのが照れくさいみたいにさ。 ホント、 私が
泣けるわけないのに、 おかしな話だよね・・・。
”19時15分発、 新幹線ひので17号、 札幌行き、 22番ホームより間も無く発車致します ”
ホームに響く無機質な女の人の声の場内アナウンスで、 やっと我に返る。
「茜ちゃん、 そろそろ出発の時間だよ」
まだ離れたくないって渋る茜ちゃんを促して、 新幹線の中に乗せた。 それから、 大切な宝物の入ったダンボール
箱も出入り口のところに置く。 デッキの中の茜ちゃんと、 ホームで見送る私が向かい合った。 いよいよお別れだ。
茜ちゃん、 頑張るんだよ。
茜ちゃんは、 もう使いたくて使いたくてうずうずしているのか、 新品のエレキギターを両手で大切そうに
抱えている。
「早速、 これを使って狸小路でストリートライブをしてみるっけさ。 お姉ちゃんも聞きにきてよ」
「そうね、 いつか遊びにいくよ。 いつか必ずね」
165 :
前444:皇紀2665/04/02(土) 02:25:06 ID:YtpW2VrL
私は握手するつもりで手を伸ばした。 そうしたら、 茜ちゃん、 握手すると見せかけて私の手をぐいって
力任せに引っ張るんだ。 不意をつかれて思わず車内に引きずり込まれる私。
「いつかなんて言わないで。 今行こうよ。 ね、 ね」
茜ちゃん、 私を見て駄々っ子みたいにせがんだ。
「茜ちゃん、 何するんだよう。 今、 行けるわけないじゃないか。 ははは」
私、 そう言って茜ちゃんの肩を軽くこずこうとしたんだ。 そうしたら、 腕が動かない。 足も動かない!一体
どうなってるの。 私、 金縛りにあっちゃった。 声も出せないじゃないかっ! 茜ちゃんの仕業だね、 また茜ちゃん、
私のサポートコンピューター乗っ取ったんだね。 さっき出会ったとき、 パソコンに向かって何をやっているのかと
思ったら、 私のサポートコンピューターをハッキングする準備をしてたんだね!
カン高い発車ベルが鳴り響いた。 それから、 ぷしゅーって空気の漏れる音がして、 新幹線の・・・ドアが・・・
閉まっちゃったあ!
「お姉ちゃん、 一緒に札幌に行こうよ。 ぎゃはっ!」
ようやく、 茜ちゃん、 私に身体の自由を返してくれた。 だけど、 もう遅いよっ! 私にできることは、 無駄だって
知りながらもドアをたたき続けることだけ。 そんな私の気持ちなんかおかまいなしに新幹線はトンネルの中でぐんぐん速度を
あげていった。
♪チャンチャ、 チャンチャ、 チャンチャ、 チャンチャ、 チャンチャ、 チャンチャ、 チャン・・・←鉄道唱歌のつもり)
"このたびは「しR束日本」をご利用いただきましてありがとうございます。 この電車は新幹線ひので17号、 札幌行きです。
上野を出ますと、 終点の札幌まで止まりません。 札幌着は23時20分の予定となっております。 次は終点札幌、 札幌です"
「なにそれ? もう札幌まで止まらないの? 冗談じゃないっ! 降ろして、 誰か、 降ろしてよう。 私、 お金ゼンゼン
持ってないんだよう!」
「お姉ちゃん、 大好きだよ! ぎゃは!」
おしまい
166 :
前444:皇紀2665/04/02(土) 02:51:24 ID:YtpW2VrL
これで、長かった検査病院編、終了です。皆様、ご声援有難うございました。
次は、気が変わらなければ腕相撲編の予定です。
>>156 頑張った。
>>157,159
確かにキャラクターが勝手に動いたり、しゃべったりという
面はあるかもしれないです。特に、今回の検査病院編は、
あらすじも結末も何一つ考えないで勢いではじめちゃった
話ですからその側面が強かったかも。悪く言えば行き当たり
ばったりなんですけどね。
>>158-159 いつもいつも感想カキコ、本当に有難うございます。作者として
何より励みになるのです。
子供が産めない云々はキャンプ編でやろうかなと思っています。
開発課の柏木さんご一家と、藤原とヤギーがキャンプに行ってどうこう
って話にしようかと。
>>160 _
,.'´ ヽ
| ノハノ)〉〉 嫌だ!嫌だ! あんた何なのさ。
从ゝ0ヮ0ノヽ 私は絶対そんなの見ないからね。
'⊂l) #(lつ 冗談じゃないよう。
〈_#」l
し'ノ
と、ヤギーは言うかもしれませんが、私的にはもう是非やってくださいって
ところです。ヤギーをいじってもらえるなんて、作者としてはこれほどの
喜びはないわけで。と、いうことで580氏さえOKなら、私は問題ないです。
167 :
160:皇紀2665/04/02(土) 02:54:16 ID:VJ3+Sznf
ヤギーさんの自衛隊に対する秘策は、茜ちゃんにギターを買ってあげる
ことでした。義体の力で陰謀をあばくみたいじゃなく、この地味さ加減
が、この物語のいいところですね。
茜ちゃんもヤギーさんも、人間として見てくれる人がお互い一人増えて
良かったです。
北崎君のヤギーさんは恐いとの誤解は、この後解けたのでしょうか?
上野、札幌間が4時間弱ということは、このころの新幹線は浮上式じゃ
なくまだ車輪で走っているのでしょうか?
>>168 上野〜札幌4時間って事は、少なく見積もっても表定時速250キロ。
てぇことは、最高時速は400キロってとこか。
車輪駆動だと、途中で浮上して脱線しちまいかねんな。
営業速度としてはありえない数字。TGVが世界記録狙うのとは訳が違う。
170 :
T:2005/04/02(土) 16:20:17 ID:nTB8h4WG
171 :
T:2005/04/02(土) 16:25:46 ID:nTB8h4WG
ちなみに八木橋さんじゃないです。ええ違いますとも。
胸のプレートは一生懸命読んじゃダメです。
世間にはロボットと思わせるサイボーグなんてどうでしょう。
家ではあらゆるご奉仕ができて通勤の際にはバイクに変形して
ご主人様を乗せて最寄の駅まで走ると言う機能があったらウマーだ罠
173 :
前580:2005/04/02(土) 22:31:27 ID:ImpnrJFS
>>160 >>167 素晴らしいです! 控えめな透過表現とほのかな肉色系の彩色が凄くいいです。一見普通に
見える身体の中が、実は醜い機械の塊というのが萌えなのです。ありがとうございました。
足回りがうまくあっていないのは、私の絵の方が太すぎるってことかな。八木橋さん、ごめ
んなさい…。よろしければ、今後とも、改変でもコラの材料でも、自由に使ってください。
>>162 冒頭のさりげない独白からも、機械の身体からくる日頃の苦労がうかがい知れて萌えまし
た。八木橋さん、いつもこんな気遣いをしてるんでしょうか…。
冷たい現実の象徴のような10万円でも、八木橋さんの手にかかると、こんな夢のある素晴
らしい贈り物に変わってしまうんですね。八木橋さん自身の夢って、何でしょう? 藤原
君との、ごく普通の幸せな生活? 藤原君との最初のHの時の八木橋さんの独白にもあり
ましたけど、心と心がつながっていれば、出ないはずの涙だって見ることができる。まさ
にハートフルって表現がぴったりだと思いました。茜ちゃんを抱きしめる八木橋さんと一緒
に涙が出てしまいそうです。
「しR束日本」って、実在の架空鉄道なのでしょうか? 駄目もとで検索したらヒットしま
した。「ひので」も、T4みたいな凄いデザインなのかなぁ。
最後、やっぱり小悪魔な茜ちゃんと、それに振り回される八木橋さん。八木橋さんには悪い
けれど、笑いを抑えられません。相変わらず、八木橋さん、不幸…。茜ちゃんと一緒なこと
を不幸というわけじゃないですが。典型的な巻き込まれ型不運人間なんですかねぇ…。
いろいろありましたが、ラストシーンの暖かさと、楽しいオチのおかげで、とってもいい
お話で終わることができました。読んでいて楽しかったです。ありがとうございました。
174 :
前580:2005/04/02(土) 22:35:49 ID:ImpnrJFS
続きです。
>>166 感想といいつつ、脈絡のない事をバラバラ書いていて、読みにくいと思います。すみません。
キャンプ編も、萌えなネタが盛り沢山になりそうですね。とても楽しみです。
八木橋さんに
>嫌だ!嫌だ! あんた何なのさ。
って言われるのは、正直いって辛いです。本当は、一番そういうことをしたい対象の人な
のに。100枚でも200枚でも、あんな絵やこんな絵を描きたいのに…orz
ふと思ったのですが、イソジマ電工に入社したら、義体のことを何も知らないでは済まな
いような。全身義体の人も容赦なく新入社員研修で基本構造とか叩き込まれたりして…。
>>170 >>171 おぉ!素晴らしい! 空ろな表情と透明な脳ケースがいいです。残っているのが脳みそだけ
って感じがよく出ていて、萌え心をそそります。人工性器のあたりが、いかにも柔らかそう。
できれば、これからも萌えな絵をよろしくお願いしたいです。
> 胸のプレートは一生懸命読んじゃダメです。
ドット数が少なくて、拡大しても読めない…orz どなたか読める人、いないですか…。
>>168 >>169 東京〜札幌間を時速360キロでの営業運転で4時間以下というのが、現状の新幹線での見込み
なのではないですか? 鉄道のことはよくわからないので、違っていたら、すみません。
>>暦表記
もう戻ってしまいましたが、エイプリルフールの1日くらいは、「永康xx年」って暦表記を
見たかった気がします。板単位なので、本当は無理なんですが。
イソジマエレクトロニクス?
176 :
前444:2005/04/03(日) 03:36:04 ID:r8EwlJ65
ttp://comic-ekk.homeftp.org/user/hailaer/tentestuki/tentetsuki/yagee-index.htm 検査病院編も終わったということでまとめサイト更新しました。よろしければ見てください。
>>167 見た、激しく良かった。まとめサイトのキャラクター紹介で、是非使わせていただきたい
のです。お願い致します。
>>168,169,173
北海道新幹線はちゃーんと線路の上を走っているのです。私的にはリニアは鉄道ではない
のです。ノンストップで走ったら4時間くらいで上野〜札幌を走破できるのではないかと
考えていますがどうでしょう。4時間で走らなければ、全日航の超大型旅客機フライング
ドルフィンに勝てないのです。
>>170 これヤギーなんですか?
だったら、まとめサイトに掲載させてください。お願いします。仮想空間上で話が展開
しているところで、現実にはこんなことになってるってことで、別ウインドウで開けた
らなあ、なんて考えてます。無論、ヤギーは激怒するでしょうが。
>>172 しかも記憶を失ってるかなんかで、自分もロボットだと思い込んでいるって展開がいい
なあ。ロボットだと思いながらも、何か違和感を感じている。そしたら実は・・・って
パターン。
>>173-174 実在の架空鉄道って言い方に失礼ながら笑ってしまいました。
しR束日本は2ちゃん鉄板でのJR東日本の書き換えです。
新人研修で、嫌がりながらも義体の構造を覚えなきゃいけない。なかなか萌える
シチュエーションですね。イソジマ編でやってみたいです。
>100枚でも200枚でも、あんな絵やこんな絵を描きたいのに
是非是非お願いします。いいじゃないですか
「お願いだからやめてよう。そのかわり裸ならいくら描いたってかまわないんだ。
それなら外見だけでも人間だって、思われるから。でもね、でもね、そんな姿を
描かれるなら死んだほうがまし。だからお願い」
ってヤギーに言われても。それを言うなら一番の悪人は私です。
案内ブースに収まってる案内係の女の子、外からはあまり良くは見えないんだけど、
実は上半身しか無くて、ブースにがっちり固定されてブースと一体になっている。
彼女の生身の部分は首から上だけで、上半身しかない胴体も、袖と手袋で隠されている腕や手も
金属とセラミック製。
ブースの下半分ほどには人間型ボディに収まりきらない生命維持装置がぎっしりと。
案内ブースにはカーテンとシャッターがついていて、それらを閉める事で彼女は休む事ができる。
それが、固定されていて動く事ができない彼女の唯一のプライベートな空間・時間。
ブースそのものが彼女の一部だから、彼女を移動させるときはブースごと運ばなければならないので大変。
そんな彼女だけど、今日もけなげに笑顔で一生懸命案内してます。
178 :
82:2005/04/03(日) 22:33:01 ID:6k9B+r5R
ヘルメットのライトをフルパワーにし、遙か上の水面を見上げる。
ここは水深150メートル、ほとんど暗黒の海底。ライトの光は水面まで届かない。
「ふうーっ」とため息をつく。しかし、今の私の体からは空気の泡はあがらない。
明るい地上の世界との、絆が切れたことを痛感する。
そう、わたしは現代の人魚、サイボーグアクアノート・・・
マスクとレギュレータを右手で押さえ、ゲージとオクトパスを 膝の間にはさむ。
体を少し後ろにそらすと、サボーン。
・・・・・・・・
体のまわりを白い小さな泡が包む。
一呼吸おいて、海底を確認し潜行し着底する。
今日3回目のエントリー。
水深20メートル、調査は30分間の勝負だ。
10メートル四方の生物の記録調査
種類と数を記録し、めぼしいものはデジカメで撮影する。時間との戦いだ。
調査をほぼ終え、ダイビングコンピュータの表示を見ると、時すでに遅し、
減圧サインが出ている。
ゆっくり海底を蹴り、浮上を開始する。
自分の吐いた息の泡を追い越さないよう浮上速度を抑え、水深5メートルでストップする。
ああ、これから10分ほどこの水深をキープしまたなければならない。
ダイビングコンピュータで時間経過を見ながらぼーっとするが、こういう時ってなかなか時間がたたないのね。
ぶるぶるっと、寒気がしてくる。そう、催してしまったの・・・。
ウエットスーツの中が、ほんのり暖まってきた。
ダイバーなら当たり前にしてることね・・・。
でも三陸の寒い海で調査に加わっている、美加はドライスーツの中に、
オムツをして毎日潜っているので、「もうお嫁に行けない」なんて言っている。
それに比べれば・・・
179 :
82:2005/04/03(日) 22:34:30 ID:wYQYUiOC
清水美咲、西海大学大学院修士課程2年、海洋生物学を専攻している。
海洋生物の観察をしているうちに、ここまで来ちゃったけれど、
秀才型って訳じゃないから、そろそろ潮時で就職をしなければ、なんて考え始めたの。
といって自然保護団体や、NPOに勤めても、
国や、自治体へ提出する書類作りや、ボランティアの世話に明け暮れ、
フィールドでの観察なんて、ほとんどできないみたい。
どうせ何もないな、と思いつつ研究室の廊下の掲示板をみると、
「特別調査員募集」と書かれたポスターが目に入った。
「海洋調査に新しい技術で従事する調査員(常勤)を募集します。
興味のある方はこのポスターをはずして持ち帰りの上、下記へお電話ください。
その際インターン研修も可能ですので、1週間参加可能な日程をあけ、
応募されることを希望します。
(財)海洋開発研究所
福井県敦賀市○○町580番地
TEL-0770-XX-XXXX 」
この世界では有名な横須賀にある海洋開発研究機構とは違うけど、まあしっかりしたところかな・・・。早速電話したら、あっさり事務的に日時交渉が成立してしまった。
研究室や実家には、ちょっと長めの調査と言ってカムフラージュした。
普段から調査で半月ぐらい出かけっぱなしは珍しくないけど、落っこちたら、かっこわる
180 :
82:2005/04/03(日) 22:36:47 ID:wYQYUiOC
>>179 最後が切れてしまったので、すみません。
この世界では有名な横須賀にある海洋開発研究機構とは違うけど、まあしっかりしたところかな・・・。
早速電話したら、あっさり事務的に日時交渉が成立してしまった。
研究室や実家には、ちょっと長めの調査と言ってカムフラージュした。
普段から調査で半月ぐらい出かけっぱなしは珍しくないけど、落っこちたら、かっこわるいもんね。
↑わくわく、どきどきな話です。
海洋開発研究機構といえば、しんかい6500を貸してくれるところ
ですね。
182 :
前389:2005/04/04(月) 20:29:59 ID:OpWSVrOK
○K−1
あの女が教授を絞殺し、逃走してから丁度一週間。 その日は、ユカリさんの新しい義体が完成し、
脳の移植が行われる日だった。
「これでようやく、ユカリさんも動ける身体になれます。 詳しい証言だってとれますから、きっと捜査も
進みますよ」
「本当にご苦労様」
カズヒロ技術官に、心からねぎらいの言葉をかける。
目もとのクマが、彼の疲労を物語っていた。
「あの、警部、その左腕…少し破損してませんか?」
「えっ」
驚いた。 覚られまいと気をつけたつもりだったのに。
「分かりますよ。 僕の作った身体なんですから」
彼が私の手をとり、その掌を裏返す。 左手と左腕の継ぎ目、手首関節の歪みを彼は見逃さなかった。
「ここですね。 ちょっと待っててください、すぐ修理しますから」
「別に、今はまだ大丈夫よ。 手首を動かすときに、ちょっと引っ掛かる感じがある程度だから…」
「それが問題なんじゃないですか。 待っててください、ほんの三分、パーツ交換で終わりますから」
言いつつ、彼はもう代えのパーツや工具を揃え始めていた。
「私なんかより、一刻も早くユカリさんのほうを…と言うべきところだけど、やっぱりお願いするわ」
私はおとなしく、左手を差し出した。
「ちょっとの間、動かないでくださいね」
彼は私の手首を片手で支えたまま、もう片方の手だけで、器用に私の手首を分解していく。
支えれた手首から、もう随分前に失った、暖かい人肌の温もりが伝わってきた。
183 :
前389:2005/04/04(月) 20:31:54 ID:OpWSVrOK
○K−2
「…警部、一体故障の原因は何なんですか? ひょっとして、この歪み方は、」
「ええ、弾痕よ」
「…やっぱり。 誰なんです、警部を撃ったのは?」
私のことを気遣いながらも、彼の手は休まず動いている。 職人芸だ、と思った。
「昨夜あなたが徹夜で作業しているとき、署の敷地内に侵入しようとしてきた不審な男数名よ」
「警察署に侵入? 一体何のつもりですかね………はい、修理終わりましたよ」
「ありがとう」
手首がとてもスムーズに動く。 撃たれる前より動き易いくらいだ。 きっと、気付かないような
小さな劣化が積み重なっていたんだろう。
「…で、カズヒロ技術官、侵入者達の目的に心当たりは?」
「え? ありませんけど…」
彼はきょとんとした顔で答えた。
「あなたよ、カズヒロ技術官、狙われているのは」
「えっ…?」
「いい? 今回の事件は、ある暴力団がサイボーグ技術を求めて、あなたのお姉さんを誘拐し、
その記憶の復元と洗脳、及び改造施設の提供をカドイデ教授に依頼したって事なのよ」
「は、はい」
「あなたのお姉さんが行方不明の今、暴力団がサイボーグ技術を諦めなかったとすれば、次に狙われるのは?」
「あ…」
彼の顔から血の気が引いていく。 やっと自身が渦中の人だと気付いたらしい。
「えっ、えっ、と、それじゃ僕はどうすれば」
「予定通りに行動すればいいわ。 あなたは自分の仕事、ユカリさんを助ける作業に集中して」
「ええ、でも…」
「サチが言ってたわ、逮捕状も時間の問題だって。 それまでは、私があなたを守るから」
184 :
前389:2005/04/04(月) 20:33:56 ID:OpWSVrOK
●K−3
予想通り、その男は私の顔を覚えていなかった。
J大付属病院に潜入したとき、実験体の少女を手術室に運ぼうとして私に阻止された男の一人、
暴力団S組のミナガワ容疑者に、私は逮捕状を突きつけた。
「な、なぜ…!?」
「病院側の関係者はみんな、発狂したあの女に殺されてしまったから、足がつかないとでも思った?」
ミナガワ容疑者は、手錠がはめられた両手を呆然と眺めている。
「実験体の少女の拉致監禁役として、病院に潜伏していたとき…ちょっと小遣い稼ぎをしようとしたのが運のつきよ」
男の前に、数枚の画像を突きつける。
「あなた、J大付属病院の看護婦の更衣室に、盗撮カメラを仕掛けたでしょう」
「げっ…」
そう、私が忍び込んだときに更衣室で見つけた“不届きな物”。 それは、ロッカーの前で着替える
看護婦達を狙ったピンホールカメラだ。 もちろん私自身が撮られるようなヘマはしなかったけど。
「この盗撮画像の出所をたどったら、あなただったのよ」
まったく…毎日毎日、ここ一ヶ月に出回った違法ポルノをしらみ潰しに調べて、ようやくJ大付属病院の
更衣室隠し撮り映像を発見するまでどれだけ苦労した事か…
調教された後遺症の残る私が、一日中 卑猥な画像ばかり見てれば、身体が疼きだすに決まっている。
人工愛液のタンクが空になる度に、カズヒロさんに補充を頼むのがすっごく恥ずかしかったんだから…
185 :
前389:2005/04/04(月) 20:35:30 ID:OpWSVrOK
●K−4
S組の事務所からミナガワ容疑者以下 十数名の容疑者を連行し、署に戻ると、警部さんが出迎えてくれた。
「おかえり。 そっちは首尾よくいったみたいね」
「はい。 それで警部さん、ユカリさんの新しい身体は…」
昨日の昼から始まった脳移植作業は、予定通りなら今朝方完了しているはずだった。
「大丈夫、こっちも成功よ。 もっとも、昨夜また邪魔が入ったけど…」
「えっ、またですか!? それで、どうなりました?」
「サチが連れてきた連中より一足早く、留置所の中でお休みになってるわ。 随分と抵抗してくれたけどね」
よく見れば、警部さんのボディには 新たに無数の弾痕が刻まれていた。
「うわ…これ、大変じゃないですか。 早くカズヒロさんに直してもらったほうが…」
「彼は今、ぐっすりお休み中よ。 ユカリさんのために何日も徹夜したんだから、ちゃんと寝かせてあげないと」
「でも…」
「平気平気。 最外部の装甲がへこんだだけだから」
私を安心させるように警部さんが胸を張る。
「それより、私たちに休んでる暇はないわよ。 連中の尋問と起訴手続き。それから、ユカリさんの
リハビリにも付き合ってあげないと。 同じ身体を持つ先輩として、ね」
「は、はい」
私は慌てて、足早に仕事へ戻っていく警部さんの後を追った。
186 :
前389:2005/04/04(月) 21:04:12 ID:OpWSVrOK
>>141-143,147 どうもです。 現在(ようやく)ガジェットの保管庫を作ろうと考え中です
>>170 GJです。 その子の境遇が激しく気になります。
>>82氏 萌える。萌えます。 敢えて具体的な感想は書きませんけど、とにかく続きが早く読みたい…
187 :
前444:2005/04/04(月) 21:44:13 ID:MTgQq6Kn
>>178-180 衛星で七つの海のティコが放映されていたばっかりなので
個人的に海洋ものはタイムリーです。ダイビングの際の細かい
描写など見る限り、82さんは海に関する造詣や思い入れが
かなり深いとみましたがどうでしょうか?
どんな展開になるんだろう。海洋冒険ものかなあ。
>>182-185 身体中に無数の弾痕って相変わらずハツミ姐さんカッコいいな。
彼女はやっぱり戦う姿が似合ってますね。
さっちゃんは相変わらずエロくて賢いですね。ユカリさんに
変なこと教えるんじゃないぞw
ああ、保管庫作られるのですね。楽しみにしてます。
>>389様
乙。サイボーグ少女がたくさんでてきて萌え。
189 :
82:2005/04/04(月) 23:57:47 ID:rKju3duG
北陸線を敦賀で降りてバスに乗り、原発を遠くにみて、山道を走り、視界が開けたところが海洋開発研究所だった。
受付はこじんまりとした事務室で、「清水美咲です」と名乗ると、どこかに電話をかけ、
真ん前の長いすで待つように言われた。程なく40代前半ぐらいの作業服の上着を着た人が現れ、
「企画課長の佐藤です。」と名乗った。「こちらへ」と20メートルほどある廊下の、突き当たりの部屋に案内された。
「お待ちしていました。遠くて大変だったでしょう。どうぞおかけください。」と当たり障りのない挨拶。
就職面接の始まりだと思うと緊張して、ぎこちない相づちをしてしまった。
前もって送ってあった書類を見ながらいくつか質問されるが、あたりさわりのないものばかり。
本気で面接してくれているのかしら。不安になった。
と、ドアがノックされ、もう一人同じ上着を着た色白の男の人が入ってきて、
「海中探査室長の高橋です。清水さんは海が好きなんですねー。」と、最初からフレンドリー。
海の話なら私何時間やっても飽きない。ほっとした。
海洋調査の苦労話で盛り上がってきた。
そのとき佐藤さんと高橋さんが顔を合わせてうなずいた。
「海洋調査では、潜水時間の制限や、天候による延期が大変ですよね。」と高橋さん。
「あなたも苦労しているとおり、1日の潜水時間は1時間程度が3回こっきり。ちょっと深いところや、長居をしていると、減圧で長い時間をロスしてしまう。」
「うん、うん」と私。
「それを克服するために、ヘリウムや、水素を使った呼吸用ガス。あるいはロシアの沈船ナヒモフ号の財宝探しで使われた飽和潜水等いろいろ開発されています。いずれも一長一短で決定打にはならなかった。」
頷いて身を乗り出す私。
「台風接近とか、海が荒れると延々航海して母港に戻ったり、天気待ちの日々、たまりませんよね・・。」
私の苦労を見透かしたように畳みかけてくる高橋室長。佐藤課長は黙っているが、私の反応を観察している。
うんうんっと、熱意を見せなくっちゃ。
190 :
82:2005/04/05(火) 00:00:05 ID:bG0XGGZX
と、突然「清水さん、アビスって言う映画ご存じですか。」と高橋さん。
ちょっとB級なところもあったけど潜水映画の名作だ。
「ええ・・・」と言葉を詰まらせて私。
「あの液体呼吸の技術は、もう医療の面では実用試験の段階まで来ています。
肺が未発達な未熟児など、何人も命が救われているのですよ。」
「液体呼吸では気体、特に窒素を使わないから、窒素酔い、減圧症の問題が起こらない。
完全に液体だけの環境なので、潜水調査艇に耐圧構造もいらず小回りがききます。
艇外活動への潜水艇からの出入りも簡単です。さらに水深50メートル以下に潜降すれば台風の影響もなく、活動できます。」
あまりに突飛でSFチックな話が始まったので、目を白黒させてしまった。
潜水といっても私は、レジャーダイバーと一緒ぐらいの知識しかなく、
海上保安庁や自衛隊の潜水隊などがどんな技術を使っているかすら知らなかった。
私の引いた反応に気づいたか、佐藤課長が「この液体呼吸潜水の技術はほぼ完成して、
第1陣が潜水調査艇活動訓練をこの先の湾内でもう2年近くやっていますよ。」
まだ緊張している私。
「そんなめちゃくちゃ深く潜る訳じゃありません。生物にしろ、鉱物資源にしろ、
人が実際に行って調査するのは大陸棚の水深200メートルぐらいまでで、
それより深い部分は、『しんかい6500』のような耐圧式潜水艇でマニュピレーターを使っての調査です。
我々が手がけているのは、海の深さで言えばほんの入り口ですね。」
191 :
82:2005/04/05(火) 00:06:59 ID:2XOOI8Wm
このスレの名編集長前580氏に背中を押されて、書き始めてみました。
前389氏や、前444氏の登場人物のような大手術はありません。
82で書いたように水中活動を長期にわたってできる処置といった程度で、
このスレが良いのか不安ですが、しばらくやってみます。
192 :
前389:2005/04/05(火) 01:24:01 ID:a2o6Bhek
>>187,188
どうもです
>>191 乙。このスレで問題ないですよ。
面接で話がだんだん本題に入ってきますなー
82さん 萌えます。単語に萌えました。オクトパスに飽和潜水。
この調子だと、水中エレベーターとか、炭酸ガス吸収とか、酸素分圧とか…
出そうですね。
液体呼吸は事実でしょうか? あんまりリアルなもんで。
>>189 こちらは新幹線がないようですから、より現代に近い設定なんですね。
195 :
前444:2005/04/06(水) 01:05:26 ID:RXV3QaUR
世間は連日の熱帯夜ってことで寝苦しい夜が続いているみたいだけど、 私にとっては暑かろうが寒かろうが
大して関係ない。 この身体じゃあ汗もかかないし、 気温の変化にだって鈍感。 そりゃあ、 よっぽど熱い
ものや冷たいものに触ったりしたら反応するようにできてるけどさ、 季節の移り変わりみたいな微妙な感覚を
肌で感じるなんてことはもうできないんだ。 夏に暑い暑いってうわ言のように言いながら団扇で体を扇ぐことも、
耳元をあのなんとも嫌な羽音を立てて飛び回る蚊と格闘することだって、 いざ二度とできないってことになると、
なんだかみんな懐かしい、 素敵な想い出のように思える。 生身の時は、あれほど不快だった、 蚊に刺されて
たまらなく痒いって感覚さえもね。
でもね、 一つだけいいことがあってさ、 私の身体、もうクーラーも必要じゃないし、 蚊に刺さされることも
ないから、 夜に窓を思いっきりあけることができるんだ。 そうして、 入り口のベニヤ合板でできた薄っぺらな
ドアも開けると、 夜風がすーっと通り抜けて、 窓にぶら下げてる風鈴がチリンチリン鳴るんだよ。 そうそう、
風鈴って知ってるかなあ? 今は、 もうほとんどなくなった習慣だけど、 昔は夏になると風になびいてチリン
チリン涼しげな音を響かせる小さな鈴をぶら下げて、 その鈴の音で涼しさを感じてたんだって。 私の風鈴は、
二年前に入舸浦の昭和骨董市でやっと見つけた小さな宝物。 暑さも寒さも大雑把にしか感じない、 この機械の
身体でも、 耳はちゃーんと聞こえる。 だから、 風鈴のチリンチリンっていう音でだけ、 私は夏なんだなあって
ことを感じることができるんだ。 それが、 たとえ機械の耳を通してコンピューターで処理された音であった
としても、 その音を聞いて涼しいって感じる私はやっぱりどうしようもなく人間で、 しかも日本人なんだなって
思うよね。
196 :
前444:2005/04/06(水) 01:07:42 ID:RXV3QaUR
大学は、 いま夏休み。 今頃みんな、 きっとどこかに遊びに行ってるに違いないんだ。 でも、 私は・・・。
ちらっと、 壁にかかっているカレンダーを横目で見て憂鬱になる。 だって、 せっかくの夏休みなのに、 私の
カレンダーはほとんど毎日バイトって書いた赤い字で埋め尽くされているんだもん。 こんな貧乏くさい生活感
まるだしのカレンダーだから、 決して汚くはないけど長い歳月をへて白から黄色っぽく変色しちゃったウチの
壁にかかっているのが全くもってよく似合うよね。 はは。
今月、 こんなに生活がきつくなった原因は分かってる。 この前の検査入院で、 仮想空間体験を買うって
いう予想外の出費をしちゃったからだ。 身から出た錆、 自業自得。 しょうがない。 私にはもう親は
いないんだもの、 失ったお金は自分で働いて取り戻すしかない。 それにしても、 せっかくイソジマ電工から
10万円もお見舞金を手に入れたのに、 それを残らず茜ちゃんへのプレゼントを買うのに使っちゃったこと、
今更ながらちょっぴり後悔している私なのだった。
その時、 私の携帯が鳴った。 佐倉井からだ。
「ねえ、 ヤギー、 ヤギー。 最近、 あんた付き合い悪くない? 例の電車男と宜しくやってるのは分かるけど、
ワイ横に行ってばかりいないで、 たまには私達とも遊んだらどうかね? あんたがいないと突っ込む相手が
いなくて張り合いがないんだよね。 セクースばっかりしてたら頭悪くなるよ。 うししし」
私が電話に出るなり相変わらず、容赦のない毒舌でまくしたてる佐倉井。 でも、彼女にとってはほんの
ジャブ程度のいつもの挨拶のつもりだ。
「あんた、 何なのさ。 藪から棒に失礼な。 私、 ワイ横なんて行ってない。 バイトで忙しくてそれどころ
じゃないんだよう」
佐倉井はまた何か言おうとしたようだったけど、 次に出たのはジャスミン。 どうやら佐倉井から
無理やり受話器をひったくったらしい。
「清香に話させると長くなりそうだから代わったよ。 ヤギー、 あのね、 電話したのは明日の夜、
久しぶりに三人でカラオケに行かない? ってことなの。 夢崎ひなたの新譜も入ったんだって」
カラオケかあ。 もうしばらく行ってないよ。 行きたい、 すごく行きたい。 ストレスも溜まってるし。
でも・・・。
197 :
前444:2005/04/06(水) 01:10:48 ID:RXV3QaUR
「誘ってくれて有難う。 私、 すごく行きたいよ。 でもね、 やっぱり無理だよ。 明日はバイトなんだ。
明後日も朝早いし。 それにそんなにお金持ってないし」
「ヤギー金欠なの? 大丈夫? 足りないならカンパするよ?」
電話越しにジャスミンが心配そうに言った。
「いいんだよう。 このくらい自分でなんとかするよう」
「本当にいいの? いいんだよ5万くらいなら。 遠慮しないで」
5万くらいって言い方に私カチンときちゃった。 そりゃあ、 お嬢様のジャスミンにとっては5万円なんて、
ペットの月のお小遣い程度のはした金かもしれないよ。 でも、 その5万を稼ぐのに、 私がどれだけ苦労
してると思ってるんだ。 そう思ったら無性に腹が立った。
ジャスミンはお金持ちで、 入舸浦の有名人で、 綺麗で、 勉強だってできておまけにスポーツだって
ひととおりこなしちゃう。 友達も私なんかよりずっと多くて、 性格だって悪くない。 それに引き換え、
私なんて親はいなくて貧乏で、 頭は悪いし要領も悪い。 身体に至っては全部醜い機械のかたまりだ。
ジャスミンも私も同じ人間なのに、この差は一体なんなの? 神様って本当に不公平だよね。 そう思ったら、
妬み、 嫉み、 僻みっていうネガティヴな感情が心の底からわあっと湧き出てきて、 つい「うるさいなあ!
いらないったら、 いらない!」ってあからさまに苛立ったような声で、 ジャスミンの申し出を強く
拒絶しちゃったんだ。 そんな私の態度に普段は温厚なジャスミンも切れちゃった。
「なんなの、 ヤギー! 人が心配して言ってるのに、 そんな言い方して。 あったま来ちゃう。 もう
いいよ。 じゃね」
電話は一方的に切れた。 そう、 ジャスミンは全くの親切心から言ってくれただけなんだ。 ジャスミンが
怒るのも無理ないよ。 どうして、 私はあんな態度とっちゃったんだろう。 どうして、 私はいつも素直に
なれないんだろう。
198 :
前444:2005/04/06(水) 01:12:25 ID:RXV3QaUR
でも落ち込む間もなく、 次の電話がかかってきた。 今度は藤原からだ。
「もしもし、 裕子さん? この前話した夏休みの京都旅行なんだけど、 そろそろ休暇の申請をしなくちゃ
いけないからさ、 具体的な日取りを決めたいんだけど」
ああ、 その話か。 そう、 確かに二人で行きたいねーって話してたよね。 入院検査を受ける前はね。
でも今は・・・。
「ごめん、 私、 行けなくなりそうだ」
「どうして? あんなに行きたいって話してたのに」
「お金がなくなっちゃったんだよう。 折角貯めてたのにさ、 誘惑に負けて、 つい高い買い物しちゃった
んだよう。 ごめんね、 本当にごめんね」
入院検査の時、 サポートコンピューターとの接続を切られて、 脳だけになって、 真っ暗なところに
閉じ込められるのが嫌だったから、 仮想空間を買った、 なんて、 そんな生々しい話したくない。 特に
好きな人の前では。 だから、 高い買い物をしちゃったなんて曖昧にぼかした言い方をしたんだ。 でも
それがよくなかったみたい。
「高い買い物ってなんだよ裕子さん。 俺と京都に行くよりも、 モノの買うほうが大切ってことなのかよ」
藤原は、 多分私が何かとんでもなく高価な骨董品でも買ったって誤解してるんだろう。 電話越しの
口調が非難めいてる。
「なんだよう。 私、 謝ってるじゃないかよう。 そんな言い方ってないよ。 私だって、 好きで高い買い物した
わけじゃないんだ。 私だって、 できるなら藤原と京都行きたいよ。 藤原になんか、 どうせ、 こんな機械の
身体の私の気持ちなんか分かるわけないよ」
199 :
前444:2005/04/06(水) 01:13:25 ID:RXV3QaUR
ジャスミンとの一件でイライラしてたんだろう。 その時の私はどうかしてた。 機械の身体の私の気持ちなんか
分かるはずがないなんて、 藤原が一番傷つくことを言ってしまった。 それから、 藤原と言い争いの口げんかになって、
ついには、 どちらからともなく叩き付けるように電話を切ったちゃったんだ。
そして電話を切った後で、 ものすごく後悔して憂鬱になってるくせに、 自分から謝るほど素直になれなくて、
そのくせ携帯を握り締めて、 藤原からかけ直してくるのを待ってる私。 どうして私っていつもこうなんだろう。
イライラの原因は分かってる。 今月は余計な出費がかさんでお金がなくなって、 追い立てられるように
アルバイトして日々の生活にあくせくしてるからだ。 心に余裕がないからだ。 でも、 それはしょうがないよ。
もしも、 月々の検査費用が払えなくて検査に行けなくて、 突然身体が壊れたら、 生命維持装置に致命的な
故障が発生したとしたら、 もうそれで私の魂はあの世行きだ。 そんなの嫌だもん。 たとえ、 全身機械じかけの
こんな身体になっても、 やっぱり私、 死にたくないもん。 貧乏っていやよね。
世の中お金が全てってわけじゃ決してないし、 もちろんお金で買えないものだってこの世にはゴマンと
あるってことだって分かってるけどさ、 でも、 あればあるにこしたことはないよね。 清貧なんて言葉があるけど、
そんなの嘘っぱちだよ。 こんな言葉を考えたのはきっとお金持ちに決まってる。 清らかに貧しくなんてそんなの
あるわけない。 正しいのは「衣食足りて礼節を知る」これだね。 お金がないと、 それだけで心に余裕がなくなって、
なんだか人間関係までぎすぎすしちゃうんだ。 うー、 どこかに、お金落ちてないかなあ。 竹やぶの中から1万円札が
ぎっしり詰まったボストンバックでも出てこないかなあ。 鼠みたいにお金が増えることってないのかなあ。
200 :
前444:2005/04/06(水) 01:20:03 ID:RXV3QaUR
腕相撲編スタートです。冒頭は相変わらずの欝ヤギーでした。
>>191 明るい地上との絆が切れたってこぼしたときには、徹底的に
改造されちゃうのかなと思ったんですが、そうでもないって
ことですね。なんだかほっとしています。
ヤギーさんの金銭感覚がわかって面白いです。
清貧はありえない、のくだりはすごく共感できます。
誤解されるヤギーに、ちょっと萌えました。
ヤギーさんが気温に鈍感ということは、例えば真冬にうっかりして
ありえない薄着とかしてしまって、正体がばれそうになったりする
のでしょうか。息も白くならないでしょうし。
202 :
前580:2005/04/06(水) 02:11:49 ID:OKXb7+u0
作者様がた、お疲れ様です。
>>175 やはり、そう読めますか…。
>>176 サイト更新、お疲れ様です。
> イソジマ編でやってみたいです。
よろしくお願いします。八木橋さんは、こんな状況になったら、自分の感情と、どう
折り合いをつけるのでしょうね。
> そんな姿を描かれるなら死んだほうがまし。
八木橋さん…・°・(つД`)・°・
たとえどんな姿をしていても、八木橋さんは八木橋さんです。真っ正直で、優しくて、
強くて、勇気があって、誰よりも人間らしい心もった素敵な人です。だから…だから…。
うぅ、でも、やっぱり辛いなぁ…。
>>177 最後の一文が泣けました。隠されているとはいえ、案内係などという接客業で、機
械の身体を沢山の人に晒して、どんな気持ちでいるのでしょう。そして案内ブース
から動くこともできず、プライベートな時間を一体何をし、何を考えて過ごしてい
るのでしょう。きっと、彼女にまつわる、いろいろなストーリーがあるのでしょうね。
機会があったら、読んでみたいものです。
>>178 >>189 改造された体で、闇の底での孤独な作業。頭上にあるはずの明るい世界への憧れ。
どんないきさつで、こんなことになったのでしょう。冒頭から萌えな要素が全開です。
美咲さんの潜水シーンの描写や、海洋開発研究所の人たちの話のリアルさが、読み手
の心を作品の中に引き込んでいきます。82氏は、趣味か、お仕事で、潜水に関わるこ
とをなさっているのでしょうか。いかにも現実にありそうなストーリーの中に、SF
味の設定が、うまく溶け込んでいますね。
唐突な展開に引き気味の美咲さんが、どんな風に説得されてしまうのでしょう。この
先の展開が楽しみです。
203 :
前580:2005/04/06(水) 02:13:51 ID:OKXb7+u0
続きです…。
>>191 うぅ、編集長なんて…思ってもみませんでした。82氏が作品を書かれるのに、多少なり
ともお役にたったのでしたら、嬉しいです。
>>182 何度読み返してみても該当する描写がなくて、とても不思議でした。>“不届きな物”
ストーリーにどう関わるのかと思ったのですが、こんな伏線だったのですね。こんな
物を、犯人の手掛かりに使うなんて、サチさん、さすがです。上気した顔でビデオを
見ながら、ハッチの隙間から愛液を滴らせて…なんて想像するだけで萌えます。この
調査の間に、ハツミ警部は、何度、サチさんの歯牙にかかったのでしょう。
ハツミ警部…痛々しいです。弾があたった時って、痛覚はあるのでしょうか。
撃たれた苦痛に耐えて奮闘したのでしょうか。それとも痛みも何もなく、機械のよう
に淡々と戦ったのでしょうか。どっちの姿も萌えですが。「劣化」なんて言葉を使わ
れると、機械の身体だということが、ことさら意識されてしまいます。
それにしても、ハツミ警部、タフですね…。
>>186 おぉ!前389氏ご自身の手によるサイトですね。大変かもしれませんけど、
ぜひ!
>>195 もう次の作品の開始ですか…。本当に、前444氏の創作のペースは速いですね。感想は、
後ほど書きます。すみません。
204 :
82:2005/04/06(水) 02:15:06 ID:jdgFCXFT
面白いと言えば面白いがちょっと違う世界と、まだ私、不安な顔をしている。
「1期生は8人いますが、そのうち3人はあなたと同じくらいの20代の女性ですよ。
それに液体呼吸潜水の体験コースを用意していますので、
よろしければこの1週間の間でやってみて、
彼女たちと会ってみてください。」佐藤課長が畳みかける。
フアイルを開き、3人のプロフィール見せられる。
体育会系とか、秀才型といった感じではなく、ちょっとほっとする。
「そうですねー・・・」と緊張しながらも私。
「こんな機会、滅多にないですから是非やってみましょうよ。」と高橋室長
背中を無理矢理押された感じで
「はい・・・、やってみます、よろしくお願いします・・・。」
と答えてしまった。
205 :
82:2005/04/06(水) 02:16:13 ID:jdgFCXFT
「今日はもう遅いですから、ゲストルームでゆっくりくつろいでください。」
佐藤課長が電話をかけ「井上さん、清水さんをよろしく。」と呼び出した。
ドアが開き水色のジャンプスーツのような、つるつるした
生地のつなぎ服を着た女性が入ってきた。
「明日から、清水さんのお世話をする井上です。」
「よろしくお願いします。清水美咲です。」
「あらほんとに、海と縁のあるいいお名前ね。」と井上さん。
緊張している私を気遣ったように声をかけてくれ、4人で10分ほど雑談した。
「では、お部屋にご案内しましょう。」と井上さんに促され、
佐藤課長、高橋室長に挨拶して、部屋を出た。
案内された部屋はホテルのシングルルームといった感じて、
ベッドとバス、トイレ、テレビだけがある簡素な部屋だった。
「何もないところでごめんなさいね。お夕食一緒にできると良いけど、
私ももう家に帰っちゃうので、テーブルのお弁当食べてくださいね。」
「明日は早いけど6時半頃に目覚ましかけておいてね。
7時に迎えに来ますから、荷物もまとめておいてください。」
「では、ごゆっくりね。」と井上さん出て行ってしまった。
「ふぅーっ」今日起こったこと、明日からのこと考えるとため息が出てしまった。
景色を見ようと窓のカーテンを開けると、外はもう真っ暗だった。
用意されていた松華堂弁当のような上品なお弁当を食べ、
シャワーを浴びると疲れからか、テレビを見る元気もなく眠ってしまった。
206 :
前580:2005/04/07(木) 00:23:20 ID:VtxFBOvX
>>195 八木橋さんの趣味の骨董と、日本の夏の情緒と、機械の身体に思うことをうまく組み
合わせてますね。時代がちょっと先で、風鈴なんていう風物詩がなくなっているかも
しれないというのも、それらしくていいです。花火の時は、今とさほど変わらない情
景だったと思いますが、やはり、忘れられていくものがいろいろあるのでしょうね。
あのう…嫁入り前のうら若き乙女が、窓はともかく、夜にドアを開けるのは無用心で
はないでしょうか。アパートだから、無用心ということもないのかな。そういえば、
アパートの他の住人の方々との交流は、あるのでしょうか…。
ジャスミンさんの好意はわかるけれど、あの金銭感覚では、一歩間違えば、私だって
不快に思うこともあるかも。しろくま便で、毎日懸命に働いてやっと手できるお金を、
子供の小遣い銭みたいに言われては、ねぇ…。いつも金銭的な不安を抱えていて、さ
らに追い討ちをかけるようなバイト漬けの生活では、お金のことに敏感になってしま
うのも、しかたないでしょう…。お金がなくなったら、即生死に関わる状況に陥る、
そんなストレスに耐えて生きているのも、実は萌えなのです。
人のためにはあんなに一生懸命に、なりふりかまわず振舞えるのに、自分のこととな
ると、こんなにも臆病で不器用。藤原君の前では本当のことが言えずに、結局、その
せいで喧嘩して…。素直になれず、携帯を握り締めて、電話がかかってくるのをひた
すら待つ八木橋さん、可愛いすぎます。
八木橋さん自身が「醜い機械」なんて強い否定の形容をするのを初めて聞きました。
よほど気分が沈んでいるのでしょうか。ちょっと痛々しいです。八木橋さんにも、こ
ういう時があるんですね。
八木橋さん、竹やぶとか、鼠とか、それ、昭和の時代のセンスですよ。古物は、骨董
品だけにしといた方が…。
>>201 > 真冬にうっかりして ありえない薄着とかしてしまって
そういうところにも、いろいろ気配りする苦労をしているのでしょうね、きっと…。
>>204 今のところは、怪しげな雰囲気はなさそうですが、海洋開発研究所には、どんな秘密
が隠されているのでしょう。美咲さん、押しに弱いタイプなのかな。この調子で、
サイボーグ化の時も、押し切られてしまうのでしょうか…。
207 :
82:2005/04/07(木) 01:03:40 ID:71Me5sSz
目覚ましが鳴った。まだ真っ暗だ。
西の方の日の出は早いはずだけどと、カーテンを開けると
ガラスの外はシヤッターが降りていた。
機密保持のためかと思ったが、また不安がわき上がってきた。
着替えて荷物をまとめると、もう7時をすぎていた。
そーっとドアを開けると、そこにはもう井上さんが立っていた。
びっくりして「おはようございます」とあいさつすると「よく眠れた、
いろいろ考えて寝けれなかったんじゃない、仕方がないけどね。」と井上さん。
エレベーターに乗せられ、何階か下の階に降りる。
案内された部屋にはテーブルがあり、もう一人同じ水色の服を着た、女性が座っていた。
「医用電子室の熊沢です、清水さんようこそ。」
声は優しいが井上さんと違ってきつい感じの人だ。
「まあいろいろあるんで、ここの服に着替えましょう。
あの更衣室に用意しておいたから。で、下着は着けないでね」と井上さん。
「えっ?」と私。しかし二人の表情には有無を言わさぬ威圧感があった。
緊張して、更衣室に入ると、その服が置いてあった。
青くつるつるした生地のつなぎ服。着ていた服を全部脱ぎ、たたんだ。
その服に足を通した。両手を通し、肩を入れ、ファスナーを閉めようとして、
ちょっと固まってしまった。
ファスナーは首のところで左右を止め、
そこから下ろすようになっている。そして、服の切れ目は尾てい骨の辺りまであり、
そこにもファスナーが付いていて、どこか途中で、
2つのファスナーを合わせて止めるようになっている。
なんか変ね。迷ったすえ、おへその辺りで止めて更衣室を出た。
208 :
82:2005/04/07(木) 01:07:15 ID:OgPLODKf
「どうぞおかけになって」と熊沢さん。
二人の前にぎこちなく座る。
服の隙間で体がスースーする。
井上さんが口を開いた。
「今日からの、液体呼吸体験コースの概要を説明します。
昨日は高橋室長、どれぐらい話してくれたかな・・・。」
黙っていると、ビーカーに入った透明の液体を見せ、
「液体呼吸をする間は全身が、このパーフルオロカーボンっていう
呼吸液に浸かっていることになるの。
で、この呼吸液を汚すわけにはいかないので、
体から出入りする、栄養と排泄が問題なの。
体験コースではあなたの体にメスを入れるわけにはいかないから、
膀胱と大腸に管を入れさせてもらいます。」
多分、普通の文系の子なら、ここで卒倒しちゃうかもしれないけど、
生物系の子って、こんな臓器とかの話、日常会話なのね。
でも「はぁー。」と私
あまりショックを受けた感じでないのに安心してか、井上さんが続ける。
「今日はその処置をして、慣れてもらってお終い。
うまくいけば、明日は液体呼吸をして慣れ、あさってには海に出られると思うわ。
新しい世界よ。じゃ、詳しく説明を始めましょう。」
ファィルに綴じられた書類を見せながらこれから受ける処置のことを説明してくれたが、上の空の私。
二人に促され、隣の部屋に移った。壁際にいくつかの機械が見え、すぐ脇にベッドがあった。
209 :
82:2005/04/07(木) 01:20:34 ID:KNkYq6Gw
>>193 液体呼吸、医療ではほぼ事実です。
潜水はまだ道遠しです。
これから清水美咲が受ける処置は、
現実にちょっと背伸びしたフィクションを加えた
近未来です。
206>>
前580氏、いつもご感想ありがとうございます。
清水美咲は、おとなしいけど前向きな子です。
ずいぶん強引に背中は押されていますが、
最後は何とか自分の決断で、アクアノートの道を選びます。
それが冒頭178の
「現代の人魚」という言葉に込められています。
210 :
177:2005/04/07(木) 02:03:00 ID:85uQlZsM
>>202 彼女は固定されてて動けないので、案内係をやっているにも関わらず、案内する場所を実際に自分の目で見る事すら出来ないんですね。
一応ブース内にはテレビ画面が設置されていて、操作をすれば場内のあちこちの様子を見ることもできるにはできるんですけど、映像だけ。
(このテレビは、仕事中には各種情報検索に使ったり、向きを変えてお客様に画面を見せて説明の補助に使ったりするらしい)
彼女が万博かどこかの案内係なのか、それともどっかの会社の案内係なのかは、実は全然考えてないですが、もし万博とか遊園地とかの楽しい系会場だったら、なおさらつらいでしょうね。
(実は、元ネタは、愛知万博の案内ロボ娘だったりします)
彼女の腕・手は、案内に最低限必要な機能しかないため、あまり器用では無いみたいです。テレビの向きを変える作業は手でするのですが。(客に驚かれないため)
211 :
前389:2005/04/07(木) 21:28:37 ID:OAmsGUfA
L−1
ガラスを二枚隔てた向こうに、白く霞み始めた春の空が見える。
私が人の身体を失ってから、もう半年以上。 息をしない体や、食事の無い生活をようやく
受け入れられるようになってきた。
不意に、後ろから何かが私の肩を突付いた。
ガラスを磨く手を止めて振り返ると、鮮やかな色の小魚が私の肩に付いた餌の欠片をついばんでいた。
私は今、大きな大きな水槽の底に立っている。
ここは国内一の規模を持つ水族館。 重い金属の身体になっても、泳ぐ事へのこだわりを
捨て切れなかった私は、水槽内のメンテナンス係として働いている。
掌に餌を乗せて掲げると、カラフルな熱帯魚たちが一斉に集まってきた。 日に何度か見せる
お客さんへのサービスだ。
舞い散る花びらのような魚達と、その中心に立つ不釣合いな金属の身体。
ガラスの向こうで、黒山の人だかりが歓声を上げた。
(あっ)
その人ごみの中で、コートを着た少女が二人、小さく手を振っている。
彼女達の袖口と襟元から、少しだけ白と黒の金属の肌がのぞいていた。
(ハツミさんにサチさん…来てくれたんだ)
思わず、二人へ手を振り返した。
212 :
前389:2005/04/07(木) 21:30:46 ID:OAmsGUfA
L−2
その日の営業時間が終わるまで、ハツミさんとサチさんは待っていてくれた。
大急ぎで身体中の魚臭い水を洗い流して、ドライヤーで乾かす。 金属の肌の上にコートを羽織って、
エントランスホールに駆けつけた。
「ユカリさん、お久しぶり。 元気にやってるみたいね」
ハツミさんが笑顔でベンチから立ち上がる。
「お久しぶりです。 今日は警察のお仕事はお休みですか?」
「あなたの様子を見に来て、いろいろお話をするのが今日の仕事よ」
「どう? 仕事仲間の人たちとうまく付き合えてる?」
脇からサチさんが、なつっこく身体を寄せてきた。
「は、はい、最初の頃に比べれば…私の事を、普通の人間として接してくれるようになりました」
「よかったじゃない。 私がこの身体になってから学校生活に戻ったときは、それはもう大変で…」
そう言いながら、サチさんの顔は笑っている。
肉体的に成長する事のなくなった私たちは、三人とも同じくらいの歳の少女に見えるけれど、
ハツミさんとサチさんは私より何歳も年上だ。 やっぱり先輩は精神的にもタフだなあと思った。
「ところで、あなた自身が気付いてるはずだし、私が言うべき事ではないかもしれないけど…」
ハツミさんが遠慮がちに口を開く。
「分かってます。 お客さんは、お魚より私を見ているんだって」
世にも珍しい金属の身体の少女が、潜水具無しで水の中に潜っていれば、最高の見世物になるに決まっている。
ガラスの水槽の中、ショーケースに閉じ込められてしまったような恐怖を感じた事も、一度や二度じゃない。
「でも…それでも、私は水の中で仕事がしたいんです。 そして、また自由に泳げるようになりたいんです」
「泳げるように?」
「はい。 実はその事で、相談したい事があるんです」
213 :
前389:2005/04/07(木) 21:33:50 ID:OAmsGUfA
L−3
「今、私を主役にした新しい水中ショーの企画が持ち上がっているんです。 それで、もし私がその主役を
引き受けるなら、ショーのための装備として、私に水中用スラスターを取り付けてくれるというんです」
「スラスターって、私たちの背中に付いてるやつの水中仕様みたいなもの?」
「はい。 それがあれば、また水の中を泳げるようになれるんです。 それも、生身の身体だったときより、
ずっと自由自在に。 でも…」
「そのためにショーの主役になれば、さらに多くの観客の視線を受ける事になる、というわけね」
ハツミさんが腕を組む。
けれど、サチさんの反応は違っていた。
「いいじゃない。 やってみれば」
「えっ?」
「見世物なんてネガティブなイメージで考えないで、役者になるって考えればいいの」
「私が…役者に?」
「スラスターを装備できるユカリさんにしか出来ない演技があって、その演技無しで成り立たないショーがある。
おいしい話じゃない」
「確かに、そうですけど。 でも…」
「たとえ、その身体になってしまった事が、悲しくて不本意な事でも、その身体を自分のために
利用しちゃいけない理由なんて、どこにも無いんだから」
「そうね。 違法捜査が得意などこかの警察官みたいな例もあることだし…」
急にハツミさんも肯定的になってきた。
「でも、その、役者って誰でも向いてる仕事じゃないですし…」
「それこそ心配ないわ。 だって、すっごく綺麗だったもの、さっきの熱帯魚と戯れるユカリさん」
「そ、そうですか?」
思わず頬が緩む。
「もちろん。 よし、それじゃあ早速、主役引き受けますって伝えてこないとね」
私の気が変わらないうちに、だろう。 サチさんは私の肩に手を回すと、そのまま企画室へと歩き出した。
214 :
前389:2005/04/07(木) 21:57:41 ID:OAmsGUfA
>>82氏
私のツボに入りました。
身体にメスが入るまで段階を踏んでいくのも、適度に焦らされて
悶絶しそうです。
>>203 いつも感想くださるおかげで、投稿する住人みんなが
励まされております。 感謝です。
“不届きなもの”はちょっと伏線の張り方としては
不器用だったかもしれません。 もっとエレガントにやれるようにしないと…
今回の話で、ユカリさんの件は落着。
あとは、警部たちの方にオチをつけて、終わりたいと思います。
215 :
82:2005/04/08(金) 00:07:33 ID:D6ttgsdF
「横になって楽にしてね。」と井上さん。
二人は洗面台に行って手を洗いマスクと手袋をして戻ってきた。
井上さんが私の服のファスナーを下げ、ちょうどへそからおしりの辺りがあけられた。
「この服ってこういうことだったのね」と、にぶい私もその意味に気づいた。
井上さんが軟膏のようなものをそこに塗ると、
熊沢さんが細い管を袋から取り出し、私の体に差し込んできた。
すこし、もぞもぞしにぶい痛さを感じた。
と、管の中に薄黄色い液体が見えてきた。私の尿、恥ずかしさで顔を背ける。
「横を向いて少し膝を曲げてね。」と井上さん。
今度はお尻の穴の当たりに別の軟膏を塗られた。圧迫感を感じ「うっ」と私。
「もうお終いよ、仰向けに戻ってね。」と井上さん。
熊沢さんがパネルを操作すると、ベッドに傾きができ腰から上が30度ほどで持ち上がった。
緊張した表情の私に気遣って「リラックス、リラックス」と井上さん。
熊沢さんはというと、私の体に取り付けられた、大小二本のチューブを壁の機械につないでいる。
「今からおなかの中を、きれいに洗ってあげます。
それが終わったら、おなかの中に今日の朝ご飯になる、栄養液を入れてあげます。」と井上さん
「うわぁー・・・」と悲鳴のような声を上げたが、変なチューブが取り付けられた私はどうにもならない。
そのうちにお腹が膨らむような感じがしてきた。どんどん液体がお腹の中に入れられてきた。
膀胱が圧迫され、トイレに行きたくなってきた。
「お腹がー、トイレー・・・」と蚊の泣くような声で訴えると、
井上さん「大丈夫、そのまま出しちゃうの。カテーテルの中に出ちゃうから。」と冷たいお返事。
あきらめて少し踏ん張るが、ベッドの角度であまり、力は入らない。
井上さんが、私のお腹をマッサージしてくれると、お腹の液体は出て行き、少し楽になった。
すると熊沢さんが機械のパネルにふれた。また、お腹の中に液体が入ってきた。
泣きそうになりながら、5,6回繰り返し、お腹を洗われた。
216 :
82:2005/04/08(金) 00:11:22 ID:D6ttgsdF
変なもんで、何回も繰り返されると、なぜか落ち着いてきた。
「ちょっと落ち着きました。」と私が答えると、
「そうよ、最初はみんな泣いたりするけど、ある程度慣れると、
平気になってくるのよ。あなたは早いほうね。」 と井上さん。
「お腹の中、大体きれいになったわ、じゃベッドから起きてね。」と熊沢さん。
こんなチューブを付けてどう起きればいいのと、井上さんの方をみると、
手を貸して、立たせてくれた。しかしチューブが気になってガニ股立ちみたい。
熊沢さんがウエストポーチのようなものを持ってきて、私の腰に付けた。
股の間からのチューブをそのポーチの下に差し込み取り付けると、ファスナーを上げてくれた。
井上さんが、白い液体の入った輸液バッグと、空でつぶれたようなバッグを持ってきて、
「これをここに取り付けるのよ。白い方は栄養液、エネルギーボトルとでもいう意味でEボトル、
空の方は尿採取用でウリンのUボトルと呼んでいるの。
約1リットルあるので12時間おきに取り替えればOKね。
あとはこのポーチの中のポンプがゆっくり注入と吸引をしてくれるから、
チューブやポーチのことほとんど忘れてていいのよ。」
空のボトルの中にはもう、黄色い液体が少したまり始めていた。
恥ずかしくて見たくないのでポーチのふたを閉めてしまった。
「じゃあ、すこし休んでてね。」と言い残して二人とも部屋を出て行ってしまった。
217 :
82:2005/04/08(金) 00:12:01 ID:D6ttgsdF
一人にされると不安が吹き出し、そっと廊下に出て、
隣の更衣室のあった部屋をのぞいた。
電気が消え、鍵がかけられている。服も荷物も取り出せない。
もう携帯で外との連絡も取れないのね。
ここまで来たら、逃げ出せない。
とりあえず、体験コースだけは続けなければならないのか。
チューブを気にして足を少し開いて椅子に座り、
うつぶして涙を流した。
いつのまにか眠ってしまっていた。
>>389様
乙です。私は少女のサイボーグ化という悲劇性に萌えるので、少女達がもっと可哀想な目に会うことを期待してたんですが、ハッピーエンドに集約していってしまうんですね。もちろんそれは作者様の自由なんですが。
サイボーグ化の悲劇の中で、悲劇の中なりの幸せを一生懸命つかもうとあがくのもまた萌え!
幸せなサイボーグ娘の、幸せに至るまでの悲劇の過去を知るのも萌え!
220 :
前389:2005/04/08(金) 01:48:07 ID:eCMls+sk
>>218 そうなんですよ。そこなんです。
矛盾してるかもしれませんが、私は悲劇が好きな一方でバッドエンドが苦手なんです…
んなもんですから、序盤は女子をいじめまくって、後半は自分でも「悲劇分が足りん」と感じるはめに
なってしまうんです。
さて、次書くときは、どうしたもんか
>>82氏
GJです、身体をいじられる女子。
漏れは個人的に、サイボーグ化少女が可哀想じゃなくなった途端、萎える。無理矢理改造されたり意志に反することさせられたりってのがないと萌えない。
最期は過剰に改造され過ぎてあまりに人間離れした姿にされちゃうとか、故障して分解され廃棄処分、くらいでむしろいい。あくまで個人的に、ですが。
折れは、途中は悲劇的でも良いがオチはBADで無く救いの有る話が良い
>>221 「人形姫」的な価値観だな。
それはそれで十分萌え要素だが。
224 :
前580:2005/04/09(土) 00:19:48 ID:brSq3d8t
作者の皆様がた、お疲れ様です。
>>207 >>215 普通の女の子が、普通じゃない所に迷い込んで、不安になったり、怖い思いをした
り…。美咲さん自身の振舞いや、海洋開発研究所のスタッフ達の言動のリアルさが
いいです。怪しげな処置を加えられた美咲さんの恥ずかしさや戸惑い、後戻りでき
ない状況に否応無く追い込まれていく不安感など、読んでいてドキドキします。
> うつぶして涙を流した。
うぅ、 可哀想に…。でも、この先、海に潜れるようになったら、展開が変わって
くるのでしょうか…。
>>209 こちらこそ、萌えな作品をありがとうございます。
「自分の決断」っていうのがいいです。そこに至るまでに美咲さんの経験や想いが、
どんな風に積み重なっていくのか、楽しみです。もちろん、最終的には身体をいじ
られてしまうことになるのも萌えなので、とても楽しみです。
>>210 > 楽しい系会場だったら、なおさらつらい
他人が楽しんでいる姿を、映像で見ることだけしかできないなんて、いかにも辛そ
うです。「映像だけ」とか「最低限必要な機能しかない」とか、強い制約のある境
遇が萌えなのです。動けないから、どんな人が来ても対応しなければいけないのも、
状況によっては辛いことになりそうに思います。萌えな設定、ありがとうございます。
なぜ案内係になったのか、とっても気になりますねぇ…。
225 :
前580:2005/04/09(土) 00:21:20 ID:brSq3d8t
続きです…。
>>211 ユカリさんが傷つくことを避けようとするハツミ警部の優しさと、多少傷つくこと
を承知の上で全てを自分の幸せにつなげてしまうサチさんの前向きな姿勢。相手を
気遣う気持ちの現れ方に、二人の人柄がよく出ていると思いました。180度違うよう
に見えても、ユカリさんに幸せになって欲しいという気持ちは同じなのですよね。
サチさんの言葉に、幸せのありかたを考えさせられます。
暗い過去さえも笑顔とともに言ってのけられるサチさんの強さがいいです。道具と
して扱われていた時でも壊れなかった芯の強さを、改めて感じます。水中用スラス
ターを付けたユカリさんの華麗なステージ、見てみたいものです。
>>214 >>220 こちらこそ、萌えな作品をいつもありがとうございます。もう、今回のお話も終わり
が見えてきてしまったのですね。ちょっと寂しいです、
「悲劇分が足りん」なのですか? 私は、前389氏の作品の明るい結末で癒されてい
るのですが…。でも、悲劇的な結末になったとしたら、それはそれで萌えなので、
もし、別路線に挑戦されるのでしたら、そちらの方も見てみたい気がします。
すみません。続きをどうぞ…。
>>223 「人形姫」は人間を材料にして、ロボットを作るだけだろ。
身体を機械に代えて、脳みそまで機械に代えて、記憶まで消したらサイボーグじゃないぞ。
つーか、もはやただの機械の塊でしかない。
227 :
82:2005/04/09(土) 00:59:17 ID:Qmiz9gO9
「さあ起きてね。」井上さんの声で目を覚ました。
どれくらい時間が経つたのだろう。着替えるとき時計もはずしてしまったので、見当も付かない。
「お腹の具合どう?、痛んだりしない?」
お腹に手をやると、あのウエストポーチがあり、今の私の体、普通じゃないのだと気づいた。
しかし、少しの違和感だけで、痛みもなければ、
そう・・・、空腹感もない。
「昨日の晩から、何も食べてないんですよね。お腹もすいていないし、不思議な感じです。」 と私。
「清水さん、順調ね。少しスケジュールを早めても良いくらいね。
今14時だから潜水エリアの見学でもしてみましょうか。」
井上さんについて少しぎこちなくガニ股歩きでエレベータに向かう。
228 :
82:2005/04/09(土) 01:03:06 ID:8AvaFq1Z
連れられていった部屋のドアの向こうは、ガラスかアクリルの大きな窓がいくつもあり、プールのようだった。
「ここが訓練プール。この外は静かな湾の中につながっているの。もうすぐ先輩たちが戻ってくるから挨拶しましょう。」
遠くに黒い固まりが見え、だんだん大きくなり近づいてきた。
4人のダイバーだ。普通のドライスーツといった感じでそれほど変な格好じゃない。
背中のに背負っているタンクが、普通私たちが使うボンベ型ではなく、四角いコンテナ型。
そう、それと首から上が大きめのヘルメット型になってバイクのライダーみたい。
何だ、普通だ・・・。
しかし、時間が経つにつれ、何か変だと気づいた。
そう、空気の泡が全くあがっていない・・・。
「泡が出てきませんね。これが液体呼吸なんですね。どれぐらい続けて潜れるのですか。」
興味がわいてきて、井上さんに、聞いてしまった。
「あーら、清水さん、もう乗り気ね、彼女たち、もう半月は海の中よ。呼吸液や、栄養液とかは補充してるけど。」
なんかすごい、だけどちょっと不安・・・。
4人が窓のそばまで近づいてきた。こちらを見て手を振ってくれている。
ヘルメットの中を見ると、鼻と口の周りはジェットパイロットのようなマスク、
目にはゴーグルをしていて表情どころか、男女の区別も付かない。
漏れも少女へのサド的虐待としてのサイボーグ化と、モノとしての非道な扱いに萌える。でも人形姫は好きになれない。意識は元のままだが心裏腹にカラダを操縦されてしまうってのなら萌えるが。
かつてのセーラーウェポンが漏れにとってのベストでした。
今後の展開、すごく楽しみにしています。
サイボーグアクアノートへの改造シーンを期待して待っています。
惑星探査用のサイボーグに改造されて怪物のような姿でいろいろな実験や訓練を衆人環視の中で行われ、
惑星探査に旅立つ女性などというシュチュエーションのお話を書いて下さるかたいないですかね?
231 :
82:2005/04/09(土) 15:33:25 ID:0B02l8tu
>>230 感想ありがとうございます。
サイボーグアクアノートへの改造手術は
そんなに大がかりではありませんが、
装備の説明や、訓練は相当書くつもりです。
しつっこいとかスレ違い思ったらブーイングしてください。
232 :
前444:2005/04/09(土) 21:25:50 ID:fzeTou1z
明日は、 いつものようにしろくま便のアルバイトを入れている。 午前8時半には東八軒坊の事務所に
集合しないといけないんだ。 だからホントは早く寝なきゃいけないはずだったんだけど、 でも、 ベッドに
入っても、 ジャスミンと気まずくなったこととか、 藤原と喧嘩しちゃったこととか、 いろんなことが
頭の中でぐるぐる回っちゃって、 ちっとも寝付けなかった。 ようやく眠れたのは外がうっすら明るくなって
早起きの小鳥の声が聞こえ始めた頃。 だから、 あまり気は進まなかったけど絶対遅刻しちゃいけないと思って、
サポートコンピューターの時計機能を目覚まし代わりに使うことした。
朝の七時にサポートコンピューターからの機械的な刺激で無理やり叩き起こされた私の脳みそだけど、 当然の
ことながら睡眠不足で目覚めは最悪。 私の機械じかけの身体は疲れを感じることはないけど、 でも、 そんな
私だって脳は生きてるからさ、 横になる必要はないにしても睡眠はやっぱり人並みには必要なんだ。 だから、
寝不足になったら、 どうしても頭がぼーっとしちゃうし、 イライラしたりする。普通の人なら目の下にくまが
できちゃったりして、 化粧も大変だろう。 でも、 洗面台の小さな鏡に映ってる私の顔は憎たらしいほど健康そうだった。
七時半きっかりに、 黒塗りのごっつい私の自転車にまたがって、 事務所に向かう。 本当はもっと女の子らしい、
可愛らしい自転車に乗りたいんだけど、 私の身体を支えれられるくらいの頑丈な自転車っていったら、 こんな
業務用みたいなやつしかなかったんだよね。 そんな話はまあいいや。 えと、 私の住んでる宮の橋からしろくま便の
事務所のある東八軒坊までは電車の駅でいうと四つ。 距離にすると6kmくらい離れている。 でも、 交通費は
なるべく浮かせたいから、 私はいっつも自転車で事務所に通っているんだ。 たかだか往復500円くらいの電車賃
だって、 今の私には結構な金額だからね。
233 :
前444:2005/04/09(土) 21:26:39 ID:fzeTou1z
宮の橋から星修大や八軒坊に行くには駅の名前にもなってる団子坂って坂道を越えなくちゃいけない。
電車はトンネルで抜けてるけど、 道路は細い二車線道路で、 かなりきつい急坂の峠道になっているんだ。 だから、
こんな道を自転車で越える人はあんまりいない。 でも、 私は機械の身体のおかげで疲れってものをしらないから、
こんな坂道どうってことはないんだ。 自転車に乗ってるというよりも、 バイクや車に乗るのと同じ感覚だよね。
電気の力で動いてるし。 はは。
団子坂の頂上では視界がわっと広がって、 東京湾を見下ろす大パノラマになるんだ。 朝の東京湾に小さな船が
何隻も停泊しているのが見える。 小さな船って言ったけど、 ほんとは遠くから見るからそう見えるだけで、
近くに行けばとんでもなく大きい船のはずなんだけどね。 家も車も船もなにもかも小さくて、 海って
とんでもなく大きいなあって、 ここに来るたびにいつも思う。 あの海の向こうに世界が広がっていて、 いろんな
国があるんだ。 私もいつか行くぞ。 京都もいいけど、 外国にだって行ってみたい。 今はまだ私の身体では行ける
国ってあんまり多くないけど、 科学はいつも進歩し続けているんだ。 いつかきっと、 私だっていろんな国に
自由に旅行できる日が来るはずだよ。
234 :
前444:2005/04/09(土) 21:27:19 ID:fzeTou1z
下り坂は団子坂下の喫茶店、 カティーサークのところまで信号もわき道もないから、 道の端さえ走っておけば
車や人にぶつかる心配はない。 だから思う存分スピードが出せるんだ。 私は走り屋ってわけじゃないけど、
風を切って坂を下っていくのは本当に気持ちがいい。 坂の真ん中くらいのところに、 丁度電車のトンネルの
出口があって、 電車も私も時間通りだったら、 電車が甲高い警笛を鳴らしながらトンネルから出てくるから、
しばらく電車と並びながら走ることになる。 今日も案の定、 まるで私を待っていたみたいに電車がトンネルから
飛び出してきた。 ライバル登場だ。 ふふふ。 やめておけばいいのに、 私、 いつも電車に負けないように
ムキになってペダルをこぐんだ。 競争ってことになるとやっぱり陸上部の血が騒いじゃうからね。 下り坂の
力も借りてるからしばらくは電車といい勝負をするんだけど、 結局負けて「あーあ」ってがっかりして
スピードを緩めるあたりが、 ちょうど団子坂下のカティーサークの前の交差点。
私はさっき、 交通費を浮かすために自転車で通ってるって言ったけど、 実はもう一つ理由がある。
私は団子坂の景色が好きなんだ。 それから自分の足で走ることも、 自転車に乗って走ることも大好きなんだ。
たとえ機械の身体で、 汗をながすことも、 息が切れることがなくても。
大学に通うのに、 営業所に行くのに、 毎日飽きるほど通ってるこの道だけど、 それでも、 いつも
この坂を越えるたびに、 今日も頑張らなきゃって身体に力が湧いて来るような気がするんだ。 たとえ
どんなに気持ちが沈んでいてもね。だけど、今日は眠いなあ、やっぱり。
235 :
前444:2005/04/09(土) 22:08:00 ID:fzeTou1z
今回は自転車ヤギーなのです。腕相撲編といったくせに、本題になかなか入らないうえに、
これだけで一つの話になってしまったような気がしなくもないのです。
それはそうと、いよいよSS連載が三本体制になりました。自分の作品以外に二作も読める
なんて、こんな幸せなことはないのです。
>>201 >例えば真冬にうっかりしてありえない薄着とかしてしまって、
ヤギーは、そこまでお間抜けさんとは思いませんが、必要もないのに皆に合わせるために
冬服のコートなんか着たり、マフラーをしたりしつつ、私なんでこんなことやってるん
だろうって悩んでそうですね。
>>206 アパートの他の住民はお年寄りばかりなので、ドアを開け放しても安心なのです。
アパートの住民はヤギーの全てを知っていて、それでも暖かくて、孫みたいに
可愛がってくれるのです。でも、何度、ものを食べられないっていっても差し入れを
くれるのには閉口しています。なんてどうでしょうか?
>>211-213 水に浮かない機械の身体になっても、泳げなくなっても、水とのかかわりを捨てられなかった
ユカリさん。なんだか切ないですね。それほどまで、水が好きなユカリさんのことですから、
きっとすばらしいショーを演じてくれるはずなのです。
>>204-205,207-208,215-217,227-228
毎日UPお疲れ様です。
清水さん、いきなり周りに流されて、あわあわしているうちに、勝手に周りが盛り上がって、
話がどんどん進んでいくあたり気弱で嫌といえない性格なんでしょうか。
今のところは周りの人も親切そうですから、一応安心してられますけどね。
>>230 それは、是非あなたが書いてみるがよろし。
自分で書けば、自分の萌えポイントが分かるだろうから、他の誰の作品よりも
萌えるものができるのではないかと思うのです。
236 :
82:2005/04/10(日) 00:09:21 ID:Hh/FKE47
どこかにスピーカがあるのか、
「ようこそ、清水さん、アクアノートの横森でーす。」と声が聞こえた。
昨日高橋室長に見せてもらったプロフィールでは横森さんって、27歳ぐらいで水産を出ている人だ。
親しめそうな抱負などがいろいろ書いてあった。
4人とも同じ様なヘルメットをしているので、誰がしゃべっているのかはわからない。
「さあ、返事してあげて。」と井上さんが壁のマイクを指す。
何をしゃべったらいいのだろう。
「よ・ろ・し・く・・・。」と詰まりながら声をかける。
「清水さん、順調だし、適性もありそうだから、明日はこっちにこれますねー。」と横森さん。
私のこと、みんなもう調査済みみたい。
水中マイクからの声のせいか合成音のような感じの声だ。
「みんな同じようなヘルメットなので、よくわからないのですが、横森さんどちらの方ですか。」と私。
右端の人が「わたしでーす。」といって手を挙げてくれた。
よく見るとヘルメットに上に「Y」と書いてある。
次に隣の人が「同じくアクアノートの西野でーす。」、
もう一人が「同じく橋口です。」と手を上げて返事してくれた。
最後に「三輪です。」とこれは男の人。
良さそうな人たちでほっとした。
こんな普通の人たちが特殊な環境で活動やっているんだ・・・。
237 :
82:2005/04/10(日) 00:10:36 ID:3+RJNlDl
「今日皆さんは何をしていたんですか。」と私。
「ここ1週間ほど、潜水調査艇で遠出をしてました。
清水さんが来られるんで、戻ってきたんですよ。」と横森さん。
「調査って大変ですか。どんなことしてます。」と私
「大変といえば大変だけど、あんまり体のこと気にせず動けるから、
普通のスキューバに比べたら楽チンよ。」って橋口さん。
「まだ始まったばかりのプロジェクトで浅いところが多いから、
生物調査がほとんどね。もう少し深くなると鉱物中心になるらしいけど。」と西野さん。
「浅いって、水深何メートルくらいですか。」と私。
もう好奇心が勝ってしまつて、弾んだ会話になってしまった。
「今は50から60メートルくらいね。そのうち100から150メートル位もやるみたいだけれど。」と横森さん平気でいう。
50メートルだって私潜ったこと1度もない。大丈夫なのと、また少し不安・・・。
238 :
82:2005/04/10(日) 00:23:46 ID:kmRpa3sD
興奮してとりとめのない会話をしていると、
井上さんが「皆さん、どうもありがとう。」と遮って話は終わった。
「清水さん、楽しそうに話していましたね。
さあ、では明日着けてもらう、装備の説明をしましょう。」と促され、
隣の部屋に移動した。
部屋にはハンガーに黄色い上下セパレートのダイビングスーツがかけてあった。
そのとなりには白いつなぎ服がつるしてあり、ヘルメットや背中に着けるコンテナ型の装置などが雑然とおいてある。
「今着ている青い服は脱いでもらって、スパッツをはいてもらいます。
そのスパッツで尿採取用と、栄養カテーテルがはずれないように固定します。
次にこの白いつなぎね。これはスパゲティスーツといって細い管が縫い込んであるの。
同じような服で宇宙飛行士は冷たい水で体を冷やすけど、
アクアノーツは暖かい液で、体が冷えないように保温するの。
その外はドライスーツと同じような生地だけど、もっと丈夫で岩などから守るのね。
まあ、水着と、インナーと、ドライスーツと大してかわらないでしょ。」
239 :
82:2005/04/10(日) 00:26:12 ID:Wtv8ZHIC
また、不安を和らげるように説明してくれた。
「明日は、液体呼吸への馴化とかいろいろあって大変だから、
装着の練習だけはしておきましょう。
清水さんは、冬にはドライスーツで潜っているわね。」
「はい・・・。でもあれは首が苦しいし、トイレにも行けないんで・・・、
あんまり好きじゃないんです。」
ふと、美加がドライスーツの中にオムツをして潜っていることを思い出し、
今の私は、それ以上の装備になっている・・・、
と気づきまた不安になってしまった。
「だったら簡単。ポーチをはずしてね。私が持っているから。
その間につなぎ服を脱いで、スパッツをはいてみて。」井上さん、
てきぱきと指示を始めた。井上さんに裸を見られてしまうけど、仕方がない。
スパッツをはくと、井上さん、ポーチからカテーテルを伸ばして出し、
なんと、ポーチを私の首にかけてしまった。
「つぎにこのスパゲティスーツね。」
縫い込まれた保温チューブがもこもこするけど何とか着れ、
今度は普通にファスナーを閉めることができた。
すると、待っていたかのように、熊沢さんが現れた。
>>82様
乙です。SF色が無くて入り混みやすいです。これからも期待してます!
>>240 連載三作の中では一番SF色が濃いと思うがどうだろう?
ヤギーはファンタジー、ガジェットはアクションだな。
それぞれ毛色が違って楽しめる。
虚構っぽさが最も薄いって意味だろ?
漏れはSM色が強いのが好きだが。w
243 :
82:2005/04/10(日) 22:54:10 ID:l4T8H+4T
「靴下をはいたら、ダイビングスーツのズボンを穿きましょう。」
ややきゅうくつな感じだが、いつも使っていた
一体型のドライスーツに比べれば、難なく着られた。
「まあ、手慣れたものね。ではこの椅子に浅く座って。」
熊沢さんがコンテナ型の箱が置かれた椅子を指した。
井上さんがスーツの上着を抱えてやってきて、「
手を上げてバンザイのポーズしてね。」
頭の上から、井上さん、熊沢さん二人がかりで上着を着せてくれた。
熊沢さんが上下の接続部分をいろいろ止めて接続を確認している。
スーツの重さでほとんど身動きできない。
井上さんがポーチからカテーテルのジョイントをはずし、
スーツの首から手を突っ込み胸の部分にある、ジョイントにつなぎなおした。
「もう大体お終い。本番では、スパゲテイスーツや、
ライフバッグのチューブ接続もしなければならなすけれど・・・、
あとはマスクとゴーグルそれにヘルメットね。」
「まだあるんですか・・・。」と少々うんざりして私。
244 :
82:2005/04/10(日) 22:55:09 ID:l4T8H+4T
「ちょっとゴーグルだけ着けてね。少し説明がいるので。」と熊沢さん。
ダイビング用マスクと違って、スキー用みたいなスマートなゴーグルだ。
ゴーグルからは細いケーブルが出ていて、また首のところから手を突っ込まれ、
胸のところのジョイントにつながれた。
しかし全然ゴーグル越しではピントが合わず、すぐ前も見えない。
「何にも見えないんですけどー・・・。」
「今はこれで仕方がないの。呼吸液の中にはいると、
ちゃんとピントがあって見えるようになるから。
ダイビングの時、マスクをしないとよく見えないのと一緒よ。」
と井上さんが説明してくれた。
「ふぅ・・・。いろいろあるんですね・・・。」
「じゃ胸の所にあるボタンを押してみて。」と熊沢さん。
胸のところが操作パネルのようになっていて、ボタンを押すと
、目の前に「17:30」と文字が見えた。
「これ、今の時刻なんですか。」と私。
「そうよ、じゃあ、もう一度押してみて。」
文字が「−000M」に変わった。
「これは水深、もう一度押して。」と熊沢さん。
今度は「00H00MIN」
「これは、呼吸液の残り時間よ、もう一回でお終い、押して。」
今度は「 U: 00H00MIN E:00H00MIN」
「これがUボトルとEボトルの容量の残り時間よ。もう一度押すと時刻に戻るわ。」
「すごい装置ですね。だけど使いこなすの大変そう。」
「最初はそうだけど、清水さんなら大丈夫よ。」と井上さんがうまく励ましてくれる。
245 :
前444:2005/04/11(月) 00:07:44 ID:S/nij/IH
今日の仕事は引越しレディースサービスっていって、 女性による女性のための引越しサービスなんだって。
だから、 メンバーは二児の母にして優秀なトラック運転手でもある野中さんと、 あと私と同い年の若い
石塚さんと私っていう女性ばっかりの三人チーム。 気心の知れたいつものメンバーだから、 普段だったら
トラックでの移動中とか引越しの合間の休憩の時とかに軽口をたたいたり、 冗談を言い合ったりして、
いつもうるさい私達なんだけど、 今日の私は仕事中以外はずーっと寝ていた。 荷物を運んでいる間は、
うっかり立寝しちゃって荷物を落とさないように緊張してるから、 その分のツケも休み時間にまわって
きちゃうみたい。
仕事自体は、 会社を辞めて田舎に戻るOLさんと、 逆に田舎から東京に出てきた女の子の引越しで、
当然二人とも一人暮しで家具もそんなに多くなくって楽は楽。 現場も星ヶ浦とか裏八軒とか近場ばっかり
だったから、 四時前には仕事が終わって八軒坊の事務所に戻ることができたんだ。 さあ、 帰って寝る、
今日はもう寝るんだ。 藤原にもジャスミンにも、 明日電話しよう。 ごめんなさいって私から謝ろう。
そう思いながら、事務所のドアを開けた。 そしたら、 眠気なんか一気に吹っ飛んじゃうようなことが
待ち受けてたんだ。
「ヤギーさん、 待ってましたあ!」
私達が事務所に戻ったとたん、 今にも私に飛びつきそうな勢いで山本君が走り寄ってきた。 山本君は
しろくま便のバイト仲間で、 私と同じ星修大の二年生。 学部は違うけど私の後輩だ。
「ヤギーさん、 あのですね、 お願いがあるんですけど」
こいつが頼みごとをしてきたら、 それはお金のことって相場は決まってる。 なにしろギャンブル
狂だからね。そのくせやたらギャンブルに弱くていつも金欠でひいひい言ってる。 この前も宝塚記念
で絶対に間違いないって大勝負して大負けしてるんだ。 だから、 彼女に捨てられるし、 こんな夏の
暑い盛りにアルバイトする破目になるんだよ。
246 :
前444:2005/04/11(月) 00:09:30 ID:S/nij/IH
「うー、 お願いってなにさ。 金なら貸さないよ。 アイ●ルにでも行けば。 でも、 ご利用は計画的にね」
あんたに貸したら、 そのお金帰ってこないからね。 それに貸す金もない。
「ははは、 いや、 そういうわけじゃなくってちょっと一勝負してくれないかなあと思って」
「勝負て何の勝負なのさ?結局のところギャンブルなんじゃないの?」
「腕相撲」
妙に真面目まじめくさって何をいうかと思ったら、 腕相撲だって。 私、 思わずプっとふきだしちゃった。
「腕相撲って、 あの腕相撲でしょ? 私と山本君とやるの?」
私、 ついうっかり鼻で笑っちゃった。 こういっちゃ悪いけど、 山本君かなりひよわ。 最初
しろくま便に入ってきたときは、 こいつすぐ音をあげて逃げ出すかなって思ったんだけど、 根性は
意外にあって、 アルバイトはそこそこ続いてるし、 体つきも以前に較べたらがっしりしてきてる
ような気がする。 それでもあんた、私には勝てないよ。 だって私の身体は機械仕掛けだよ。
もちろん、 私の義体は一般生活用に出力がかなり抑えられているけど、 でもそこらへんの男よりかは、
多分、 力、 強いよ。 しろくま便のみんなだって、 私がサイボーグだってことは知らないけど、
女なのにかなりの力持ちってことは知っているはずだよ。
「ヤギーさん、 違います。 俺とやるんじゃありません」
山本君、 私に笑われて男としてのプライドを傷つけられたのか、 ふてくされたようにいった。
「こいつが山本の言うヤギーなの? こいつが?」
突然、 私達の間に割ってぬーって割って入ってきたのは熊みたいな体つきの男だった。
着ているしろくま便の作業服も多分一番大きいサイズなんだろうけど、 それがはち切れそうな
くらいピチピチになっちゃってる。 それくらい、 いかつい上半身をした男だ。 レスラーの
サブ・ポップを間近で見たらこんな感じなんだろうか。 目の前のサブ・ポップは、 ぎょろっ
とした、 だるまみたいな眼で私を見て、 そして馬鹿にしたようにヤニだらけの黄色い歯を
にっとむき出して笑った。
247 :
前444:2005/04/11(月) 00:11:28 ID:S/nij/IH
「山本が、 いくら腕相撲が強くってもヤギーさんには敵わないって言い張るからよ。 じゃあ、
勝負してみようかってことになったのよ。 だから、 どんな筋肉女が出てくるのかって楽しみに
してたら、 こんな細っこい眼鏡のねーちゃんときたもんだ。 お笑いだな。 まるで。 ここは
学校か?」
サブポップは威圧するように一歩前へでた。 同じだけ後ずさりしてしまう私と石塚さん。
「誰なのこの人」
私は石塚さんにこっそり聞いた。
「猪俣さん。 最近転勤でこの営業所にきた社員だよ。 いっつも女性社員を馬鹿にするから、
私、 この人嫌いだ」
ひそひそと私の耳元で答える石塚さんの声は震えている。
「私も、 大嫌いなの」
野中さんは、 私達の後ろの一番安全な場所から、 わざと猪俣さんに聞こえるように言った。
猪俣さんが野中さんをギョロ眼で睨みつける。 野中さんも負けずに睨みかえした。 私の後ろから
だけどね・・。
「ヤギーちゃん、 やっちゃいなさい。 ヤギーちゃんなら勝てるよ」
そう言って、 野中さんが私の背中を押した。 いつの間にか、 私達の周りに人だかりが
できていた。 スポーツ新聞を熱心に読みふけっていた営業の小林さんとか、 暇そうに爪を切って
いた飯田さんとか、 パソコンゲームをやっていた事務の鈴木さんとか、 それから、 いつも
電卓をたたいてばかりのケチ所長まで、 これからおこる面白いショーを見逃すまいとやって
きたんだ。 そして口々にどっちが勝つか、 ああだ、 こうだ言い合ってる。 みんな暇なの?
暇なんだね。 なんなのこの会社は・・・。 私はみんなに押されるようにして、 いつの
間にか、 猪俣さん人と机を挟んで向かい合うカッコになっちゃったよう。 私、 まだ
やるなんて一言も言ってないのに、 どうしてこうなっちゃうんだろう。
248 :
前444:2005/04/11(月) 00:13:29 ID:S/nij/IH
いざ向かい合うと、 猪俣さんはホントに山みたいに大きくて、 身長165cmの私の頭の
てっぺんは、 猪俣さんの首のところまでしかない。 横幅だって、 私の三倍はあるんだ。
私達って、 ホントに同じホモ・サピエンス・サピエンスってやつなの? 身体のほとんどが
機械の私だってありえないけど、 猪俣さんだってありえないよ。 こんな、 うら若き
女の子と、 和製サブ・ポップを対決させようとするしろくま便の社員はもっとありえない!
「山本、 分かってるな?」
私の目の前の猪俣さんは、 自信満々といったふうに右腕の袖を捲り上げると、
山本君に向かってあごをしゃくりあげた。
「分かってます。 猪俣さんが勝ったら10万円、 そのかわりヤギーさんが勝ったら俺が
10万円もらいます」
山本君は蒼ざめた顔で唇をかみしめた。 それを聞いた、 まわりのみんなが
ざわついた。 誰しも、 この勝負にそんな大金がかかっているなんて思ってなかったんだ。
「馬鹿なやつだな、 相変わらず」
小林さんが手に丸めていたスポーツ新聞で、 冗談めかした調子で山本君の頭を
ポンって軽くたたいた。 でも誰も笑わない。 金額を聞いたとたん、 みんな緊張jして、
何もしゃべれなくなっちゃった。 ゴクリって誰かが唾を飲み込む音が聞こえてくる
ような、 そんな雰囲気になっちゃった。
「ちょちょちょ、 ちょっとまってよ。 山本君。 なにそれ、 この勝負、 そんな
大金がかかってるの?」
「ちょちょちょ、 ちょっとしたギャンブルですよ。 ちょっとした。 大丈夫、
ヤギーさんが勝てばいいんです。 落ち着いてください」
そういう山本君は、 足がガタガタ震えているし、 目線もキョトキョト落ち着かない。
ギャンブラーはポーカーフェイスが基本じゃないの? だからあんたは駄目ギャンブラーなんだよ。
249 :
前444:2005/04/11(月) 00:14:23 ID:S/nij/IH
「金がかかってなきゃ、 こんな馬鹿げた勝負なんてしねえよ。 やる前から勝負はみえてらあな。
さあ、 こんな茶番はさっさと済ませようぜ」
猪俣さんは腰を落として身構えた。 それでも、 私より背が高いんだ。 こんな人に勝てる
わけないじゃないかよう。 私はただ腕相撲するだけだと思っていたんだ。 こんな大金が
かかってるなんて思っていなかったんだ。 いや、 そりゃあ、 私だってそんじょそこらの
男よりは強いと思ってるけどさ、 こんな腕の太さがふくらはぎくらいあるような化け物に
勝てるとは正直思えない。 チラっと救いを求めるように山本君を見た。 もしも私の身体に
血がかよってたとしたら、 きっと私だって山本君みたいに蒼ざめちゃっているはずだ。
「ヤギーさんなら勝てる! そうだ、 ヤギーさんが勝ったら、 1万、 いや、 えーと
5千円あげる」
山本君は私と目を合わせると力強くうなずいた。 違う、 分け前がほしいとか、
そんな意味であんたを見たんじゃないよう。 もうどうなっても知らないからね。
負けても私が悪いんじゃないからね。
でも、 負けるわけにはいけない。 私が負けたら山本君、 十万円こいつにとられ
ちゃうんだ。 そしたら山本君が可哀想だし、 この男の懐に十万円が入るのはもっと
悔しい。 頑張って、 私の身体。 醜い機械の固まりなんていってごめんなさい。
あなたは私の大切なパートナーだよ。 私は目をつぶって祈るように義手をぎゅっと握り締めた。
250 :
前444:2005/04/11(月) 00:26:50 ID:S/nij/IH
反日デモのおかげで家から出れなくて、お陰で筆がはかどりました。はは。
>>241 ヤギーはファンタジーですか。まあ、少なくともSFではないですよね。
それは作者も認めるところ。
251 :
◆vWH2NR6MyY :2005/04/11(月) 01:08:20 ID:a061ed7P
本気で液体の栄養を1ヶ月もとると普通の食物への復旧は無理。
どうせだったら、点滴で栄養を摂る方が効率的。
どうせなら消化器系除去。
あと、月のものも運用上の障害になるから子宮や性器も除去。
と改造希望。
252 :
名無しさん@ピンキー:2005/04/11(月) 01:21:08 ID:c+jzSg9q
>>250 また反日分子どもが反戦デモで道路を不法占拠してたのか。
お前も大変なところに住んでるな。どこだ?渋谷か?
警察もなにを手をこまねいてるんだよ。
奴ら外患誘致罪現行犯で射殺できるだろうに。
253 :
M.I.B.:2005/04/11(月) 01:44:35 ID:OXvOLtr+
「ヴァルキリー03出撃します」
足元のブースターが悲鳴をあげ、身体に凄まじいGがかかる。
空中に投げ出された私は、即座にウイングを調整し背中のブースターを吹かし、飛行姿勢なる。
「目標は人型のユニットβ2が2体。あなたなら楽勝な相手よ」
女性オペレーターの声が直接頭の中に響き、β2のデータと目標地点の地図データが表示される。
(都市部じゃない…)
すでに何度も人前で戦闘を行っているが、それでもこんな姿を多くの人に見られるは嫌だ。目標地点の情報と避難状況から人前で戦うことが無いであろうということが予測され、その事実に内心でホッとする。
(いけない、この事もきっとモニターされているんだ。こんなことばかり考えていると後で何をいわれるかわからない…)
自分にプライバシーなど存在しないことを思い出していると、再度通信が入る。
「余計なことを考えるな! 兵器は敵の破壊のみを考えろ」
歳のいった野太い男の声がするとともに、軽い痛みが走る。
自分の立場を思い知らされる。なぜ自分はこんな事をしているんだろう…
254 :
M.I.B.:2005/04/11(月) 01:45:10 ID:OXvOLtr+
周囲が開け、目標地点が見えてくる。
マップには2点のビーコンが映し出されており、目標地点の中学校内に居ることを示していた。
「突入して、殲滅せよ」
先ほどの男の声が頭の中に響く。
(戦力的にも、正面から行って大丈夫ね)
私の中の兵器としての部分が、β2と自分自身の能力を比較して判断を下す。
「了解」
校庭に降り立った私は、バックパックを切り離し校舎内に突入していった。
「はっ!」
サーベルが一閃し、β2が1体腰の位置で真っ二つになる。
「ターゲットA撃破」
報告しながら敵ユニットを乗り越え、2階へと上がっていく。
ビーコンの反応から、この階に残りのターゲットがいるはず。
(手っ取り早く片付けてしまおう)
そう思って足を踏み出すと、センサーが有り得ないはずの情報を示す。
「生態反応? もう、ここの生徒をはじめ、半径5キロには一般人はいないはずなのに…」
そうもらした瞬間、またしても通信が入る。
「ヴァルキリー03、その建物内に逃げ遅れた生徒が一人居る模様です。保護してください」
オペレーターからの指令に、私は思わず息が詰まる。
(聞いてないわよ!)
思わず口に出かかったが、それを飲み込んで応答する。
「ヴァルキリー03、了解しました」
255 :
M.I.B.:2005/04/11(月) 01:45:56 ID:OXvOLtr+
ガタッ!
男子トイレの一番奥の扉から音がする。センサーにも反応がある。
(あそこね)
扉の前まで移動する。男子トイレに入るという行為に一瞬躊躇するが、今更自分がその程度のことを気にしても仕方ないと、思い直す。
「遠藤くんね? あなたを助けに来たわ。ここを空けて」
送られたデータの名前を呼び、扉を開けるように促す。
ギィ…
小さな音を上げて、扉が開く。
中から怯えた表情の少年が顔を出す。
しかし、その表情は安堵へとは移らず、目に見えて恐怖が浮かぶ。
(やっぱり…)
私達の姿を見た人間の約半分がする反応だ。
(でももう慣れたわ…)
悲しみが心に広がる。
256 :
M.I.B.:2005/04/11(月) 02:03:49 ID:OXvOLtr+
しかし、そんな感傷すら許されなかった。
DANGER
真っ赤な文字が視界をよぎる。
(まずい!)
トイレの入り口には腕のライフルを構えたβ2が立っていた。
弾道予測… この子に当たる!
一瞬の判断で、回避と言う選択が消える。
(大丈夫、バリアではじける!)
左手のバリアに集中をする。手のひらを中心に光の膜が広がる。
(間に合った)
そう思った直後、光が膜を貫いた。
(え?)
データよりもはるかに強い一撃が、バリアを貫き左腕をもぎ取っていった。
「ギャーー!!」
脳を焼くような激痛が走り、思わず倒れこむ。
(痛い! 痛い!! 痛い!!!)
全ての思考が止まる。
だが次の瞬間、身体が勝手に動きβ2を殴り倒す。
次の瞬間、痛みが止まる。
痛覚遮断
文字が躍る。
(倒さなくちゃ)
反射的に生み出したサーベルがβ2を狙う。
サーベルは袈裟懸けに切り裂き、β2は動かなくなった。
「状況終了。ターゲットを全滅させました」
通信を入れると、オペレータに繋がる。
「分かりました、これより回収部隊が向かいます」
その通信が終わる頃には、私の意識は闇に沈んでいった…
257 :
M.I.B.:2005/04/11(月) 02:07:52 ID:OXvOLtr+
随分ブランクが空いたので、リハビリしながら新作を。
前作よりヒロイン達は酷い目にあう予定。
というか、もう酷い目にあってるw
題名書き忘れてました。
メタルヴァルキリー
です。
>>252 詳細な事情は言えないが、444氏は某国在住だ。
ちなみに外患誘致は、他国の正当な政府が宣戦布告していないと成立しない。
さらに言うなら、現行犯であっても刑事法廷を開く事になってる。
有罪認定されれば100%死刑だけどな。
M.I.B.様、長らくお待ちしていました。酷いヒロインいいですね!!どんどん改造していたぶってください。大いに期待しております。
260 :
82:2005/04/12(火) 00:48:12 ID:H2d86UF5
>>251 回答書 海開研発 004−251号
平素より◆vWH2NR6MyY様、本スレの皆様におかれましては、
当研究所の業務に御高配をいただきありがとうございます。
さて今回賜りましたご希望ですが、当研究所ではアクアノートの
万、万が一の他業務への配置転換、退職等の可能性に鑑み、
外科的処置は最小限に留めております。
その上で栄養摂取につきましては、当該業務での高カロリー
摂取の必要性から、経静脈栄養(点滴等)では血管壁の維持が
困難と判断し、経腸栄養を採ることとし、所要の外科的処置を施している
ところであります。
次に生殖器でありますが、男性の場合、ラテックス製カバーを
装用することにより、呼吸液の汚濁を防止しているところであり、
女性についてはその形態上困難な為、外科的処置とホルモン
処置を併用しているところであります。
また、採用前の志望者につきましては外科的処置を施すことなく、
最大限の適応処置を施した上で、観察しその適否を判定している
ところであります。
なお、賜りました一部器官の完全除去というご意見につきましては、
当研究所の今後の業務拡大等の中で、前向きに検討しているところ
であることを申し添えます。
今後とも当研究所に忌憚無きご意見を賜ることを、小職よりもお願いいたします。
平成XX年YY月ZZ日 (財)海洋開発研究所 理事長 何 某 印
261 :
82:2005/04/12(火) 00:51:58 ID:H2d86UF5
「ついでに、ヘルメットをちょっと乗っけてみましょう。」
熊沢さんが、持ってきたヘルメットには真上に、
ピントのぼやけた目にも見える大きな字で「S」と書かれていた。
「Sって清水の意味よね・・・。横森さん「Y」だったし。
スーツもぴったりだし、もう全部わたしのために用意されているの・・・。」
声には出さなかったが、また少し不安になった。
気が付くとつま先から、頭のてっぺんまで装備に包まれていた。
「あとは手袋だけね。まあ、これは明日にしましょう」と井上さん。
ほっとしていると、井上さん、熊沢さん二人がかりで、装備をはずしてくれた。
「お疲れ様。スパッツはそのままはいて、その上につなぎを着てね。」
熊沢さんがポーチを持ってきて、また腰に付け、カテーテルもつながれた。
「あとはボトルを交換したら、きょうはおしまい。」
井上さんがポーチのふたを開け取り出したボトルは、
黄色い液でほとんど膨らみきっていた。
「順調、順調。おしっこもうまく出てるし、栄養液もちゃんと入っている。
新しいボトルに代えれば、明日の朝まで大丈夫ね。」
ボトル交換が終わると熊沢さんは消えていた。
262 :
82:2005/04/12(火) 00:52:57 ID:H2d86UF5
「じゃ、今夜過ごしてもらう部屋に案内するわ。」
案内された部屋は、昨日とはうってかわって、ベッドだけの殺風景な部屋だった。
「ポーチははずして、壁のフックにかけるの。
これだと寝返りをしてもカテーテルがずれたりしないから、大丈夫でしょ。
明日は、またいろいろあるから、7時に来ます。」井上さんはそう言い残すと出て行ってしまった。
一人残されベッドに横たわり、部屋を見回すと、ほんとにベッドだけ。
枕元に古い目覚まし時計があるだけだ。
今日起こったことを、思い出してみる。あんまりいろいろあって、
もう何日もここにいるような気がしてきた。
目覚まし時計は19時30分を指している。
そういえば、朝部屋を出てから、ここに来るまで時計を見ていない。
電話も見ていない・・・。
ここの人たち、時間確認や連絡はどうしているの。
また一つ謎が出てきたが、いつの間にか眠りに落ちていた。
263 :
82:2005/04/12(火) 00:58:04 ID:jEYXCXZ1
いよいよ次回から液体呼吸体験編です。
230氏のご希望については、機密保持(ネタバレ防止)もあってか
研究所からは実のある回答はいただけませんでした。 (笑)
264 :
名無しさん@ピンキー:2005/04/12(火) 01:04:47 ID:Re4Pwn7D
>>258=
>>250=444
なんだ、お前は敵国から来た工作員か。
左翼過激派共を執拗に擁護するお前は日本の敵だ。
2ちゃんねるは愛国心を持った日本民族のための掲示板だ。
お前のような日本の敵は帰れ!!!
お前に警告する。今すぐ反日扇情工作をやめろ。
もしもお前ら三国人に一人でも日本人が殺される事になったら、必ずや日本全国で三国人の害虫一斉駆除がはじまるだろう。
日本国に害虫三国人は不要だ!
帰れ、反社会分子め!!!
264は在外邦人という言葉を知らん阿呆なので
以後放置で
266 :
名無しさん@ピンキー:2005/04/12(火) 01:21:34 ID:Re4Pwn7D
>>264=
>>258=
>>250=444
祖国を捨てて好き好んで共産主義の敵国に移り住むような売国奴は、ハイジャックで北朝鮮に行ったテロリスト共そのものである。それは工作員以外の何者でもない。
祖国を捨てて敵国住人になった時点で三国人だ。
そのような裏切り者は三国人に殺されて当然だ。
264〜266
これ、スレ違いもいいところだし
削除依頼したほうがいいんかね?(´・ω・`)
放置でいいよ
269 :
名無しさん@ピンキー:2005/04/12(火) 18:41:18 ID:90jIvNDz
反日政党自由民主党の話はよそでやってください。
270 :
M.I.B.:2005/04/12(火) 20:20:54 ID:IjSI3kcG
続きについて、3案ほどあるんだがどれが良いか悩んでしまった。
1.ヒロインは友人達と異世界に召喚され、サイボーグに改造され戦わされている。
2.ヒロインはサイボーグとして敵と戦っているが、非常時以外は普通の暮らしをしている。サイボーグであることは軍や政府以外知らない。
3.ヒロインはサイボーグに改造され兵器として敵と戦っている。彼女がサイボーグであることは世間に公開されており、兵器として扱われている。
どれが良いでしょう?
よろしければ、お答えをお願いします。
>>270 改造度によるかなあ。
少年が怯えるという描写があるので、日常生活が送れる容姿なのかどうかとか。
そのへんがわからないと2はないかな。
「姿を見ても安心できない」点で
存在を秘匿にした上での3あたりが妥当なとこかな?
272 :
改造LOVE:2005/04/12(火) 20:45:39 ID:BeiLC/Kt
戦闘装備を外した状態で待機できるなら、2がいいかな
恋人がいて、彼と寝ても機械の体と悟られないくらいが
萌え。体で燃えて心で泣く…スーパーヒロインの宿命
273 :
M.I.B.:2005/04/12(火) 20:52:13 ID:IjSI3kcG
2をやるんだったら、擬装用のボディにでも換装して、
身体の一部にマーキングがしてある位しか外見が異ならない感じで行こうかと・・・
2番希望
275 :
M.I.B.:2005/04/12(火) 21:53:32 ID:IjSI3kcG
2が人気みたいですな。
2で行きます。
276 :
前580:2005/04/12(火) 23:12:57 ID:QdP2M53r
作者の皆様がた、お疲れ様です。投稿がたくさんあって嬉しいのですが、感想を書く
のが追いつきませんでした。今までのようなペースで書き込むのは、ちょっと難しいかも。
>>227 >>236 >>243 >>261 事態が進展して、実際に潜水できる時が近づくにつれて、期待と不安が交差する様子
が、女の子らしくていいです。それでも横森さんたちと熱心に話し込むあたり、海や
潜水が本当に好きなのですね。装備類の描写がとても緻密で、読んでいて楽しいです。
こういう発想は、どこから出てくるのでしょう。
普通のように見えて、やっぱり怪しげな点が多々ある研究所、このまま大きな波乱も
なく体験コースが進んでいくのでしょうか。サイボーグアクアノートになる件は、一体
どんな形で切り出されるのでしょうか。その時の美咲さんの反応が楽しみです。
>>231 >装備の説明や、訓練は相当書くつもりです。
今のような感じで、書いていただけるのですよね? 期待大です。
>>260 意表を突かれて、思わず笑いました。女性の場合の外科的処置って何だろう…。
>>232 あいかわらず、いろいろ考えて寝付けない八木橋さん…。そういう繊細なところも
萌えなのです。
>今の私には結構な金額だからね。
今回の入院検査で癒しの大地にお金を使ってしまったから? それとも、いつも自
転車を使っているということは、その前から? そんなに金銭的に逼迫してたので
しょうか。就職まで、まだ半年くらいあるのに、その間も定期検査があるのに、
大丈夫なのでしょうか。ちょっと心配になりました。
女の子なのに、ごっつい自転車で急坂を平然と駆け上がっていく姿って、人目を引
かないのかなぁ…。バイトの時も、通学の時も、いつもここを通るのですよね?
団子坂の描写、綺麗です。私も、団子坂の上から東京湾を見てみたいです。電車と
競争する八木橋さん、生き生きしてます。こんな時は、生きていることを実感でき
ているのでしょうか。この辺は、小さな萌えが沢山詰まっていて、楽しいです。
277 :
前580:2005/04/12(火) 23:18:51 ID:QdP2M53r
続きです。
>>245 アルバイトも労災保険の対象だと思うのですけど、全身義体の人って何か扱いが違っ
たりしないのでしょうか。事務所の人は、誰も義体な事を知らないのでしょうか。
人助けのような、そうでないような…今回も、とんでもないことに巻き込まれてし
まいましたね。山本君が原因なのに、十万円とられたら可哀想と言うあたり、やっぱ
り八木橋さんらしいです。同じ八木橋さんの身体でも、義体と書かれるより、義手と
か、義足とか、義眼とか書かれる方が萌えてしまいます。なぜだろう?
あっさり勝ってしまうとも思えないし、かといって負けたら大変だし…。勝負のゆく
えがどうなるのか、楽しみです。
>>235 いつも思う事ですが、主題以外にいろいろなネタを詰め込んでいただいて、読む側
として本当に嬉しいです。それぞれに分けて書けば、もっとお話の本数が増えるか
もしれないと思うと、ちょっともったいない気もしますけれど。
以前にあった、八木橋さんの部屋の描写が、あまりにも寒々としていて悲しかった
のですが、住人の方々とは、こんな暖かいお付き合いがあったのですね。よかった。
一体どんないきさつで、カミングアウトしてしまったのでしょう? 差し入れをし
てくれるっていうのも、いかにもありそうで、微笑ましいです。貰うわけにはいか
ないから、毎回丁寧にお断りしているのでしょうか。そんなやり取りも、想像する
と楽しいです。
もう桜の季節も終わりですが、藤原君と八木橋さんは、お花見はできたのでしょうか。
例によってアルコールカプセルで酔っ払った八木橋さんを、藤原君が介抱したりし
たのでしょうか。
278 :
前580:2005/04/12(火) 23:20:36 ID:QdP2M53r
…続きです。
>>253 機械の身体で、周囲からは兵器扱いされ、プライバシーすらない。それでもまだ、
羞恥心を捨てられない。慣れたと言いつつも、自分の姿におびえる少年を見て、悲
しみを抑えられない。苦悩するヒロインの姿に、とても萌ました。1回目から壊れ
シーンまであって、今後の展開が楽しみです。驚きでも嫌悪でもなく、恐怖を与える
身体って、一体どんな姿をしているのでしょう。敵側のユニットβ2というのも、
サイボーグなのでしょうか…。
コードネームがヴァルキリー03ということは、他にも仲間がいるのですよね?
やはりヒロインと同じように苦悩を抱えているのでしょうか。
>>275 外見は生身と変わらない方が好みなので、2に決まって嬉しいです。よろしくお願
いします。
279 :
前444:2005/04/12(火) 23:40:50 ID:1/gEIbH7
ちょうどその時、 作業服の胸ポケットの中で私の携帯電話が「新しい愛のカタチ」の軽快な着メロを流しながら
プルプル震えた。 あまりの間の悪さに周りのみんながどっと笑う。 猪俣さんはいまいましげに舌打ちした。
おかげでそれまで張り詰めていた空気が一気に緩んじゃった。
こんな時に一体誰だろう。 藤原かな? それともジャスミンかな? 私は苦笑いしてみんなに頭を下げながら
電話をとった。
「もしもし、 お姉ちゃん、 アタシだよ。 アッカだよ」
電話の主は藤原でもなくジャスミンでもなく札幌に住んでる茜ちゃんだった。
茜ちゃんは、 私と同じ全身義体のサイボーグで小学校五年生。 この前の入院検査の時に知り合ったんだ。
ずいぶん辛い思いをしてきた可哀想な子なんだけど、 今日の声はなんだかとっても弾んでる。
「お姉ちゃん、 お姉ちゃん。 私、 お姉ちゃんからもらったギターでこっそり練習して、 新曲を作ったんだよ。
それから、 友達と二人でバンドも組んでみたんだよ。 全部お姉ちゃんのお陰だっけさ。 お礼がいいたくって
電話しちゃった。 ぎゃはは」
「そうなんだ、 茜ちゃん。 よかったね。 本当によかったね」
私が茜ちゃんにプレゼントしたエレキギター、 使ってくれたんだね。 一緒に歌ってくれる友達もできた
んだね。 わざわざ、 私に伝えてくれてありがとう。 茜ちゃんの元気な声を聴いて、 私、 嬉しくてなんだか
胸が一杯になっちゃった。 でも、 小悪魔な茜ちゃん、 私の感傷を打ち砕くのも忘れない。
「そうそう、 CDも作ったから、 なんならお姉ちゃんのサポートコンピューターに曲ごとインストールしてあげ
ようか? そしたら一日中ずーっとアタシの素晴らしい歌を聴いてられるっけさ。 ぎゃはは」
茜ちゃんはコンピューターを自在にハッキングして操れる不思議な女の子。 例え遠くに離れていても、
私のサポートコンピューターを乗っ取って、 CDのデータを入れることなんて簡単なことだろう。 だから、
ゼンゼン冗談に聞こえない。
「・・・それってずーっと頭の中で音楽が鳴りっぱなしってこと? それは気が狂いそうだね。 勘弁して
ほしいかな、 はは」
と、 思わず尻込みしてしまう私なのだった。
280 :
前444:2005/04/12(火) 23:41:59 ID:1/gEIbH7
そこまで話したところで、 周りのシラーっとした目線に気がついた。 みんな、 今、 そんな世間話を
するより、 さっさと勝負しろって目で私のこと見てる。 私、 つい、 嬉しくって、 思わず周りに人が
いるってことを忘れてた。 人に聞かれたら、 私が義体だってバレちゃうようなこと、 話してないよね。
「ごめん、 茜ちゃん、 今取り込み中なの。 またあとで、 私からかけ直すからね」
みんなの無言の圧力に負けて、 あわてて、 いったんは電話を切った私だけど、 そこで、 ある
考えがひらめいたちゃった。 茜ちゃんはサポートコンピューターを自由に操れるんだ。 私の身体を
動かせるくらいだもの。 だったら、 もしかしたら・・・この勝負、 勝てるかもしれない!
「すみません、 ちょっと、 トイレに行ってきます。 私、 緊張しちゃって、 ははは」
さっきから勝負を待ってるみんなには悪いけど、 ちょっと茜ちゃんと内緒話をすることにした。
ところで、 女子トイレってどこだっけ? 私、 当然のことながら、 トイレなんて行ったことない
から場所が分からないんだよね。 ははは。
「ヤギーちゃん、 ここでトイレに行ったことないの?」
私がまごついていると野中さんが苦笑いしながら、 親切に二階の端にある女子トイレまで連れて行って
くれた。 そして去り際に、 私の肩を軽くたたいて励ましてくれたんだ。
「しろくま便の女性代表として頑張るんだよ。 女を舐めてるやつに女の力を見せつけてやりなさい」
なんだか山本君のお金以外にも、 いろんなものを背負って闘うことになりそうだ。 ははは。
トイレのドアを閉めて一人になった私は、 すぐに茜ちゃんに電話した。
「ハイハイお姉ちゃん。 新曲のインストールでしょ?今やるの?」
茜ちゃん、 とっても嬉しそう。
「ちちち違うの違うの。 茜ちゃん、 あのね。 茜ちゃんの力で、 義体の出力制御のプロテクトの
解除ってできるの?」
「ぎたいせいぎょのぷろてくとのかいじょ? ああ、 あれでしょ。よく車を持ち上げたりするときにする
やつだ。 できるよ。 そんなの簡単だっけさ」
茜ちゃんはこともなげに言った。
281 :
前444:2005/04/12(火) 23:45:11 ID:1/gEIbH7
私達の義体は本来150馬力くらいの出力はあるんだ。 義体の人が普通に暮らすには、 そんな力、 必要も
ないんだけど、 なぜそんな出力があるかって言うとさ、 警察とか自衛隊とか宇宙開発事業団に入るときに、
義体に大掛かりな改造をしたり、 換装したりしなくて済むからなんだ。 義体の製造には国からの補助金が
出ているのは周知の事実。 国が命を助けてやるんだから、 いざってときは国のお役に立ちなさいってわけ。
だから、 普段生活する分には余計な力が出せないよう出力制御がかかっているんだ。 そして、 出力制御の
解除のパスワードなんて、 本当なら義体の使用者当人にだって明かされないもののはず。 だって、 義体の
人が勝手にスーパーパワーを出してたら危険でしょ。 でも、 スーパーハッカー西田茜にかかったら、 その
程度のパスワードを解くことなんてお茶の子さいさいみたいだね。 だけど、 茜ちゃん、 よく車持ち上げ
たりする時に使うって、 いつもそんなことしてるのかい!
「じゃあ、 お願い。 今すぐ私の出力制御のプロテクトを解除して」
今のままじゃ、 私、 多分、 というか間違いなく腕相撲に負ける。 私がいくら強いって言ったって、
せいぜい並みの男性より強い程度。 サブポップばりの腕の太さの猪俣さんには勝てるわけない。 でも、
出力制御が解除されるなら話は別だ。 いくら猪俣さんが腕相撲が強いっていったって、 大型トラックには
敵わないでしょ。 義体の出力制御を解除した私なんて、 人間っていうよりもむしろ機械だもん。 力で
人間が機械に勝てるわけがないよ。
ホントはこんなのすごく嫌だよ。 私は人間であって機械じゃないもの。 こんな化け物みたいな力、
出したくない。 それに、 反則だし卑怯だよね。 そんなこと分かってる。 でも負けて10万円取られちゃう
山本君のことを考えると他人事には思えない。 やっぱり私のかわいい後輩だの。 山本君、 一生懸命頑張っ
てるもの。 ちょっと、 馬鹿だけど、 ね。
282 :
前444:2005/04/12(火) 23:46:08 ID:1/gEIbH7
「前、 お姉ちゃん人のサポートコンピューターを勝手にいじったら駄目だって怒ったっけさ」
「うー、 今日はいいんだ。 今日だけなんだ。 私を助けてよう。 お願いだよう」
「お姉ちゃん、 150馬力なんかになって、 いったい何がしたいの? 自衛隊のサイボーグ部隊にでも
入隊するの?」
「う、 腕相撲に勝ちたい・・・」
仕方ない、 恥ずかしいけど、 正直に答えた・・・。
「腕相撲だってさ。 ぎゃはははははーっ! 腕相撲だって。 ハイ、 国民のみなさん聞いてますかー。
みなさんの血税が補助金としてジャブジャブ投入されてる全身義体の特殊能力を、 この人、 腕相撲
なんてくだらないもののために使おうとしてまーす。 ぎゃーははははーっ!」
茜ちゃん、 笑いすぎ。 でも笑うのも無理ないよ。 私だってくだらないと思うもの。 こんなことに
10万円も賭けるなんて、 山本君ってホント馬鹿。 でも、 茜ちゃん、 ずいぶん難しい言葉知ってるね。
「お姉ちゃん、 相変わらず面白いね。 じゃあ、 はじめるよ」
電話越しにパソコンをたたくパタパタという音がした。
「おねがい」
「ちょっと頭がいずいかもれないけど我慢してね」
「っ!!」
「はい、終わり。 これでお姉ちゃん、 150馬力になったさ」
ちょっと、 頭の中にチリっと軽い刺激というか違和感を感じただけ。 なんだかとってもあっけない。
格好いい変身ポーズもないし、 服だって作業服のままだけど、 これで八木橋裕子22歳、 150馬力のスーパー
女子大生に変身ってこと? なんだかゼンゼン実感湧かないんだけど・・・。
283 :
前444:2005/04/13(水) 00:00:55 ID:1F834Nat
やっぱり、サイボーグはスーパーパワーじゃないと駄目なのです。
と、いうことで、ヤギーも変身しました。だけど、いまいち
へなちょこなのです。
>>260 回答書という形式なのが面白いですね。それにしても、いろいろ考えてるなあ。
>>253-256 読み手に敵の正体を明かさないまま、いきなり戦闘シーンからはじまるとは・・・。
いきなりストーリーに引き込まれるのです。ヒロインは人間の意識を多分に残し
ているのに兵器扱いですか。そのギャップに萌え。
ちなみに私も2がいいなあ。
左翼が五月蝿い香ばしいスレだな
ウザすぎ
285 :
M.I.B.:2005/04/13(水) 00:50:14 ID:0Smw9CmA
いくつかのインターゲージが表示され、左腕部大破の赤文字が流れていく。
内蔵時計の日付から、4時間程たった午後8時ごろだと分かる。
目が覚めるとライトが当たっており、どうやら作業台の上に寝かされていたようだ。
「起きたかしら?」
私の担当の三島技官が声をかけてきた。
何本ものケーブルがジャックに刺さり、データを吸い出しているのが分かる。
「私…」
「ストレス過剰で、戦闘モード解除とともに意識のブレーカーが働いたみたいね」
そう言われると、何度か体感した感覚であることが思い出される。
「随分派手にやられたわね。あ、そのまま寝ていなさい」
身体を起こそうとする私を制して、三島技官が手元のコンソールを叩く。
「戦闘データ収集完了。あ、レベル5まで下がったから事務処理が終わったら戻っていいわよ」
レベル5と言うことは、国内では24時間以上安全であるということだ。
このレベルなら守秘義務さえ守れば、自由行動が認められるし、プライバシーもある。ぶっちゃけ、普通の女の子と同じ生活が出来る。
これが4レベル(24時間以内に襲撃が予想される)になると、行動が大きく制限される。
3レベル(1時間以内に襲撃が予想される)になると、強制徴集され、法的扱いが『兵器』になる。全ての発言が記録され、命令に逆らうことは許されない。
戦場に出るときは必ず3レベル以上になっている。
286 :
M.I.B.:2005/04/13(水) 00:53:19 ID:0Smw9CmA
いくつかの書類を提出し、帰宅許可を得て私専用のロッカーに向かう。
小さな部屋の中にはいすに座った、首無しの人形が1体椅子に座っていた。
「シークレットモード起動」
声に出して言うと、駆動音がしてバイザーが頭部横に収納され、ボディと同じブルーだった髪がきれいな黒髪に変わる。
人形の隣の空いている椅子に座り、手元のコンソールを操作するとバイザー状の走査装置が降りてきて、網膜パターン(正確にはセンサーカメラのパターン)を照合する。
適合、ボディ交換作業に入ります
そうアナウンスがあると、全身が拘束され首から下の自由が効かなくなる。
一瞬のノイズの後、コネクタ断絶 の文字が流れ首が離れる。
視界が横に流れ、カチッと音がする。
コネクタ接続 ドライバ確認
文字が流れ、拘束が外れるとそこには裸の少女が座っていた。
「これが全部作り物だなんて…」
人工物には見えない今の身体と、椅子に座っている機械仕掛けの身体。
本来の自分はどちらなのだろう…
287 :
M.I.B.:2005/04/13(水) 00:56:43 ID:0Smw9CmA
ロッカーの奥にある下着を身に着け、制服を取り出す。
私立光陰学園付属、最新設備と最高クラスの講師陣、高い進学実績で有名なこの学園に入学した1年半前が夢のようだった。
異常なほど詳細な身体測定、その後一人呼び出された管理棟の一室での理事長と名乗った男の言葉が、全てを変えてしまった。
アザーズと呼ばれる敵それは知っていた。ただ、やつらと戦うのは軍隊の仕事であり、被害が最小限で済んでいる現在では、ちょっとした天災のような物だった。
それと戦う特務機関、現実の戦況、そして呼び出された理由。
サイボーグ兵器の素体として選ばれた事実。
そして、そのまま改造されてヴァルキリー03として組織に組み込まれた。
制服を身に着けながら、様々な光景が浮かぶ。
そんな思いを振り切って、管理棟の特別室を出て行った。
寮の部屋に戻ると、備え付けのパソコンでメールをチェックする。
学内行事についてのお知らせに埋もれて、優太からのメールが来ていた。
「教授の助手大変そうだな、今日も授業外活動か?」
そんな見出しで始まるメールには、忙しい私に対する労いと、会いたいという思いが詰まっていた。
(優太、私も会いたいよ…)
私はそんな思いを抱いて、床に就いた。
ヤギーさんと茜ちゃんの掛合い、笑いました。
「いずい」=痛い、ですか?
289 :
M.I.B.:2005/04/13(水) 01:09:34 ID:0Smw9CmA
>>278 >驚きでも嫌悪でもなく、恐怖を与える身体って、一体どんな姿をしているのでしょう。
実は、あんまり考えていなかったりします。
人型だけど、人間性が感じられない機械て感じでw
>敵側のユニットβ2というのも、サイボーグなのでしょうか…。
その辺は秘密と言うことで…
(実はしっかり決まりきっていなかったりするw)
>コードネームがヴァルキリー03ということは、他にも仲間がいるのですよね?
一応、01と02がいます。たぶん04までは出すつもりです。
>>283 ヤギーもついにスパーヒロインですか?
これからも頑張ってください。
>ヒロインは人間の意識を多分に残しているのに兵器扱いですか
個人的に好きなんでw
M.I.B. 様。人間としての意識があるのに兵器扱いって、最高にいいでつね!ヒロイン達はさぞや苦しいことでしょう!個人的には日常生活が送れないほどみじめな姿に改造されてしまっていて、非戦闘時は格納庫に固定されて格納されている、くらいでよかったですが。w
隙を見て何とか逃げようとするが全身に拘束具をつけられて逃げられない。そしてまた意志に反して操られて戦闘にかり出される、と。ww
292 :
82:2005/04/13(水) 23:10:41 ID:9B3w6fgS
目覚ましが耳元で鳴った。ぱっと飛び起き、着替えようとして、
自分の格好に気づき、現実に引き戻される。私とんでもない所に来ちゃった・・・。
ドアがノックされ、井上さんがやってきた。
「さあ、出かけましょう、新しい世界に。」
こういう言葉のかけ方って、ほんとに井上さんうまい。
昨日、装備を着けた部屋に連れて来られた。
「今日の予定を説明しましょう。シャワーを浴びてもらい、
体をよく乾かし、スパゲティスーツまで着てもらったら、
マスクを着けて液体呼吸に入ります。
あなたは順調だから、本当はフル装備をしてから液体呼吸に入っても良いのよ。
その方が早いし・・・。」
私が戸惑っていると、井上さん、
「じゃ、一つづつ順序を踏みましょう。
液体呼吸を始めて2,3時間は体調をモニターします。
落ち着いたら、装備を付け、そうね・・、昼過ぎには新しい世界にいけるわよ。
あちらでは昨日会った、横森さんたちが面倒見てくれます。
今日は訓練プールの中、明日は少し海まで出て、潜水調査艇見学とかしてもらいます。
そして残念だけど、あさってには、戻ってきて、
順を追って普通の世界に戻ってもらいます。」
「えっ、あさってまでずっと水の中なんですか、体験なのに・・・」
「そうよ。あなたは、特別よ。
今まで何人も来た子の中でも、最優秀組の一人よ。
昨日リーダー格みたいにしていた横森なんて、
あそこまで行くの大変だったんだから。
まあ、だから新人の世話とかは、彼女が適任なの。」
293 :
82:2005/04/13(水) 23:11:46 ID:9B3w6fgS
ポーチとカテーテルを気にしながら、シャワーを浴びてくると、
また熊沢さんがやってきていた。ポーチをはずされ、
新しいスパッツを穿かされ、スパゲッテイスーツを着せられた。
「髪の毛が邪魔にならないよう、このヘアキャップをしてください。」
全身白装束にされてしまった。
「では、ベッドに横になってリラックスして。
あっ、そうそう、液体呼吸をしている間、声を出しても、
他の人には聞こえないから、意思表示はハンドサインか筆談でしてね。
他の人の話し声は、ヘルメットの中のスピーカから聞こえるから大丈夫よ。」
これはダイビングの時と一緒だから仕方ないか・・・。
3日間の無言の行って大変ね・・・。
ベッドは昨日と同じように、背中は30度ほど立てられていた。
「大きく口を開けて・・・。」熊沢さんがマスクを当ててきた。
口と鼻全部が包まれ、さらにマスクの中には、
鼻の穴に差し込まれるチューブまで付いている。
首の後ろでベルトが止められて、マスクは完全に固定されてしまった。
もう・・・、外の空気も吸えない・・・。
294 :
82:2005/04/13(水) 23:20:12 ID:CFt3wbQ1
>>276 >サイボーグアクアノートになる件は、一体
>どんな形で切り出されるのでしょうか。その時の美咲さんの反応が楽しみです。
その当たりがうまくまとまらないので投稿のペースが少し落ちてしまっています。
章立てはサイボーグアクアノートとして独り立ちするまでできているのですが・・・。
>>260 >なお、賜りました一部器官の完全除去というご意見につきましては、
>当研究所の今後の業務拡大等の中で、前向きに検討しているところ
>であることを申し添えます。
この当たりは続編として第1期生に志願してもらうか
とも考えていますがまだまだ先のことでしょう。
295 :
前389:2005/04/14(木) 01:14:34 ID:GVMr4RUD
●M−1
「えっ、私達が事件の担当から外された…?」
「残念ながらね。 でも勘違いしないで、私たちに非があったわけじゃないわ。 武器の大量密輸事件の
捜査班が、私たちの力を必要としているのよ」
サイボーグ技術を欲した暴力団。 その動機を探るうち、暴力団同士の抗争の激化が明らかになった。
私たちは、その裏で暗躍する武器密輸組織の捜査にまわされる事になったらしい。
「ただ、あなたのお姉さんを、私たちの手で捕まえてあげられなかったのが残念だけど…」
「そんな、警部が気にする必要はありません」
警部さんに頭を下げられて、カズヒロさんが慌てている。
あの女が記憶を取り戻しているのか定かでないけれど、少なくとも逃亡を続けている限りは、
カズヒロさんとの姉弟関係が明らかになることは無いのだろう。
「はい、身体機能のチェック終わりました。お疲れ様です」
私たちの全身に差し込まれたコードが外されていく。
下腹部の一箇所以外、全て開かれていたハッチを閉じて、立ち上がった。
「ありがとう。 結果はどうだった?」
「お二人とも、異常ありません。 全パーツ正常に機能しています」
「全パーツ、ね…」
警部さんが呟く。
「え、何でしょうか?」
「私の下腹部のあのパーツの件よ。 私に無断で取り付けた理由、ずーっとうやむやになっていたけど…」
「あ…あれは、その、」
「今日こそ答えてもらうわよ」
警部さんが、ずいとカズヒロさんの前に立ちはだかった。
296 :
前389:2005/04/14(木) 01:16:26 ID:GVMr4RUD
●M−2
警部さんが機械の身体に生まれ変わったとき、カズヒロさんが警部さんに人工性器を取り付けた理由。
そんなのは一つしかない。 男だったら、好きな人と交わりたいというのは自然な感情だし、
警部さんがそれに気付かないはずは無い。
暫しの沈黙。
二人の邪魔をしてはいけないと、私が席を外そうとしたとき、警部さんが口を開いた。
「…そんなに言う度胸が無いの?」
“好きです”って告げてしまえばいいのに。 そう警部さんの目が言っている。
「いえ、そんなことは無いです! でも、僕には言う資格がありません…」
「それは、あなたのお姉さんが犯罪者だから?」
「ただの犯罪者じゃありません。 サチさんから人の身体を奪った挙句、警部が自分から身体を捨てる遠因に
なった女ですよ?」
「私はそんな事気にしないわ。 もちろんサチだって、あなたに不快な感情は一切抱いていない」
警部さんの言葉を受けて、私もカズヒロさんに大きく頷いてみせる。
「それでも、僕自身が納得できないんです」
絞り出すようなカズヒロさんの声。
「たとえ気にしないと言われても、僕の方が勝手に負い目を感じてしまって…
警部と、その、そういう関係になれる自信が無いんです…」
そう言って、カズヒロさんは俯いてしまった。
「そう… 仕方ないわね。 本当は、あなたから言って欲しかったんだけど」
「…?」
警部さんは、覚悟と恥じらいの混じった表情を浮かべていた。
297 :
前389:2005/04/14(木) 01:18:55 ID:GVMr4RUD
●M−3
「私は、あなたのことが、好きなの」
そう言って、警部さんはゆっくりとカズヒロさんを抱きしめた。
「えっ……あ、あの…!?」
カズヒロさんは、顔を真っ赤にしてパニックに陥っている。
「私をサイボーグにしろって命令しておいて、今更こんな事を言うのは我がままだって分かってる。
でも、私、ときどき怖くなるの…」
警部さんとは思えないような、か細い声。
「人の身体だったときは、怪我をしても放っておけば自然に治ったわ。 でも、この身体は
決して自分から治癒してくれない。 それどころか、放っておいたら、パーツはどんどん磨耗して
私の身体はガラクタになってしまう…」
「………」
「警部さん…」
あの警部さんがそんな悩みを抱えていたなんて…私にも打ち明けてくれなかったのに。
カズヒロさんが羨ましかった。
「お願い。 あなたが嫌なら、恋人でなくてもいいから、整備士としてでもいいから…ずっと私と一緒にいて」
「は、はい…もちろん、です」
カズヒロさんは真っ赤な顔で、かくかくとぎこちなく頷いた。
298 :
前389:2005/04/14(木) 01:21:04 ID:GVMr4RUD
●M−4
抱擁の後、二人とも放心したように立ち尽くしていたけど、先に復活したのはやっぱり警部さんのほうだった。
「それじゃ、私とサチは仕事に戻るわね」
「あ、はい…」
二人で部屋を出ようとしたとき、警部さんが思い出したようにカズヒロさんに言った。
「そうそう、言い忘れていたけど…もし、私と縁を結ぶ事になったら、そのときはサチも一緒によろしくね」
「は…?」
カズヒロさん、理屈が全然飲み込めていない。
「だって、私とサチは母子だもの」
「……えっ!?」
カズヒロさんの表情が、一瞬で放心から驚愕に変わる。
「知らなかった? だってサチは改名したとき、苗字も私と同じ“アズマ”に変えてるじゃない。
私には、サチを養子に取ってくれる両親は存在しないんだから、残る可能性は一つでしょう?」
「でも…それ、出来るんですか?」
「養子縁組は、一歳でも年齢が違えば可能なの」
「は、はぁ…」
さっきからカズヒロさん、平常心に戻る暇がない。
けれど、その驚きや戸惑いで混沌とした表情の中には、確かに喜びの色が混じっていた。
技術捜査部を去った後、廊下を歩きながら、
「警部さん。 カズヒロさんと本当の恋人になれても、私とはずっと今まで通りの関係でいてくれますよね?」
思いっきり甘えた声で、私は警部さんにぴったりと寄り添った。
「そ…それは、エッチな事をするって意味…?」
「そんな人聞きの悪い…母子のスキンシップですよ」
ちょっとだけ嫉妬を込めて、警部さんを困らせてみた。
END
299 :
前389:2005/04/14(木) 01:49:31 ID:GVMr4RUD
おかげさまで、第二部完と相成りました。
現在、ガジェット二作の保管庫を製作中です。
>>前580氏&他の皆様
次に書くものに関しては、現在悩み中です。
もし、ガジェットの続きとして書くなら、今まで通りのハッピーエンド作風になります。
でも、全く別の話を書いて見たいとも思ったり…
>>前444氏
腕相撲、すいません、茜ちゃんと一緒に大爆笑しました。
>>82氏
GJです。 私的には、未知の服や装備を半ば強制的に着せられていくのも、
改造されるのと似た種の萌えを感じます。
>>M.I.B.氏
私がSS書き始めたのは、M.I.B氏の影響によるところが大きいです。
SW無くして今の私は存在しません。
大御所の現役復帰に、私 興奮しております。 がんばってください。
M.I.B.様、楽しみにしてまつ!
301 :
前580:2005/04/15(金) 00:05:59 ID:vRq9AE+B
作者の皆様がた、お疲れ様です。
>>279 「新しい愛のカタチ」の着メロって、どんなかなぁ。八木橋さん、お気に入りなの
でしょうか。聞いてみたいなぁ…。
茜ちゃん、夢に向かって着実に前進してますね。お友達もできて、本当によかった。
茜ちゃんの相変わらずの小悪魔ぶりと、八木橋さんとのやり取りが楽しいです。い
いコンビですね。
いつのまにか騒動に巻き込まれて、周りからも期待されたり頼られたり。これも、
八木橋さんの人柄がなせる業なのでしょうか。
いままで八木橋さんの独白の中に出ていただけの150馬力の力。普通の女の子がそん
な超人的な力を持ってしまって、大丈夫なのでしょうか…。あんなに非人間的だっ
て嫌がっていたのに、可愛い後輩のためなら、ためらわずに受け入れてしまう。い
つもながら八木橋さんの人柄に萌えるのです。後で反動が出たりしませんように…。
腕相撲のために150馬力なんて、確かにくだらないかもしれないけれど、八木橋さ
んは他人のために一生懸命なのです。私は、笑えないです…。
それにしても、全身義体の人は、特殊な業種につくことが当然みたいな世界なので
すね。何か哀しいです。
>>285 法的に『兵器』扱いされるなんて、可哀想…。首ごと交換のシーン、いかにも機械
の身体っぽい設定で萌えました。人から兵器へ、自分の運命が大きく変えられてし
まう局面を、どんな気持ちで迎えたのでしょう。サイボーグ兵器になるよう説得さ
れてしまう過程、見てみたいものです。優太君とは、相思相愛なのでしょうか。優
太君は、サイボーグ兵器になっていることを知らないのだろうと思いますけど、普
段はどんな付き合いをしているのでしょう。生身の身体とほどんど同じ身体で、あ
まり日常生活に支障はないのかなぁ。
>>289 > 一応、01と02がいます。たぶん04までは出すつもりです。
全部で4人もいるのですか。後の3人が、どんなキャラクターなのか、楽しみです。
302 :
前580:2005/04/15(金) 00:09:02 ID:vRq9AE+B
>>292 「新しい世界に」って、何かわくわくしますね。期待と不安の入り混じった今の状
況にはふさわしい言葉だと思いました。井上さん、気配りとそつのなさが光ります。
いいキャラクターですね。
美咲さん、素質あるのですね。体験コースがこのまま順調に進むと、液体呼吸の世
界の虜になってしまったりするのでしょうか…。次回以降、液体呼吸で、どんな世
界が広がるのでしょう。
>>294 >その当たりがうまくまとまらないので投稿のペースが少し落ちてしまっています。
がんばってください。期待してます。続編の構想もあるのですね。素晴らしい!
>>295 結局、今回の黒幕は暴力団だったのですか。そんなことのためにユカリさんは人と
しての幸せを奪われてしまったのですね。もしサイボーグ化がうまくいっていれば、
暴力団の手先として使われていたのでしょうか。酷すぎます…。武器密輸組織相手
の捜査って、ハツミ警部が、また無茶をしなければよいのですが…。
おぉ、ついに二人に進展が! カズヒロ技術官の苦悩ぶりも、ハツミ警部の恥じらい
も、とってもいいです。いつもは気丈なハツミ警部も、恋のこととなると、こんなに
女の子らしいのですね。極甘な展開な上に、ハツミ警部の方からのプロポーズなんて、
カズヒロ技術官、羨ましすぎます。ハツミ警部、なんて可愛いんでしょう…。
うぅ…今まで、サチさんを、ずっと妹だと思ってました。これで、サチさんも、幸せ
な家庭を手にすることができるのですね。よかった。ハツミ警部とサチさんの関係も
相変わらずで、素晴らしいエンディングです。
お疲れ様でした。最後まで、萌えなお話でした。ありがとうございました。
>>299 今回の最終話は、ハツミ警部とカズヒロ技術官の進展があって嬉しかったです。
前389氏のハッピーエンド作風、すごく好きです。ミツコ姉様の件があるので、
ガジェットの続きを読みたいです。でも、別のお話で、どんな作風を見せていた
だけるのか、とっても興味があります。読者としても、悩ましいです…。
保管庫製作、うまくいきますように。完成を楽しみにしています。
303 :
82:2005/04/15(金) 00:34:44 ID:DAW/aPeD
「これから液体呼吸に入ります。息は、鼻から吸って口から出すの。ゆっくりね。」
と熊沢さん、相変わらず事務的。
昔見た映画「アビス」の液体呼吸を始めるシーンで、
ダイバーが苦しさのあまりのたうち回ったのを思い出し、身構えてしまった。
・・・といって息を止めっぱなしにしていられるわけではないので、
・・・あきらめて鼻から吸ってみた。
なま暖かい液が鼻から入ってきた。そんなに苦しい感じではない。
また一呼吸・・・、平気だ。
ゆっくり息を繰り返していくと、
突然、喉からも液体が出てきた。
もう、呼吸液が肺全部に廻ったのだろうか。
うん、平気・・・。
でも息をするのが重苦しい感じだ・・・。
「ゆっくりで良いのよ。呼吸液は重たいから・・・。
呼吸は、1分間に8から10回にしてね。」と井上さん。
目を白黒させながらも、呼吸を続けた。
「全然、問題ないみたいね。気分はどう。」
「はい。」と答えたつもりだったが、声が出ないことに気づき、
ダイビングのハンドサインを思い出し、手で○を作り返事をする。
「しばらく様子を見ているから、そのまま続けてね。」
304 :
82:2005/04/15(金) 00:36:02 ID:DAW/aPeD
井上さん、にっこり声をかけてくれた。
ゆっくりした呼吸は、気分まで落ち着かせてくれる。眠いくらい。
「清水さん、たいしたもんね・・・。もう、落ち着ききって寝てるー。」
井上さんにからかわれてしまった。
2時間以上たったのだろうか。男の人が2人やってきた。やはり青いつなぎ服だ。
「では、ベッドから起きて、スーツを着ましょう。」
井上さんに促される。カテーテルはジョイントが首のところに留められ、
今度は邪魔にならないが、顔に取り付けられたマスクのホースが邪魔になる。
それでも熊沢さんにホースを押さえてもらいながら、なんとか立ち上がった。
4人に囲まれ、スーツのズボンをはく。少しよろけるとみんなで支えてくれる。
「じゃ、またそこに座ってね。上着を着せる間、
マスクのホースをはずすから、息を止めてね。
1分間位息を止めても、呼吸液が肺に満たされているなら、
苦しくはならないから、大丈夫よ。」
今度は男の人二人がかりで、上着を着せてくれる。
マスクにホースが再び取り付けられた。ほんとに息を少し止めていても苦しくない。
液体呼吸ってすごい・・・。
305 :
M.I.B.:2005/04/15(金) 02:15:20 ID:9tF3wneT
「1年の御堂さくらです」
「入りたまえ。扉は開いているよ」
声をかけると、中から返事があった。
入学してまだ間もない4月のはじめ、急に呼び出された私は管理棟の奥にある理事長室を訪ねていた。
管理棟は入り口にガードマンが常駐しており、生徒は立ち入り禁止になっている。中に入っても人の気配がほとんど無い。結局、ガードマンに言われた理事長室までの道程では誰一人で会うことが無かった。
理事長室に入ると、中には50ほどの厳つい男性が待っていた。
「私が理事長の醍醐だ。よく来たね」
椅子を勧められ、腰掛けると理事長は数枚の写真をテーブルの上に出した。
「これが何か分かるかい?」
そこに写っていたのは、人型をした真っ白な物体だった。
「知ってます。アザーズ…ですよね」
この数年、地球に飛来する様になった謎の存在だ。
人間を襲うらしく、被害者や行方不明者がかなりの数が出ている。
しかし、この2〜3年は防衛軍の善戦にたいした被害が出ていないはずだ。
「奴等は防衛軍が倒してくれる、だから大丈夫だ。そう思っているだろう」
理事長はこちらの瞳を覗き込むように続ける。
「だが、それは真実ではない。こちらの情報操作の結果だ」
そう言うと、デスクのパソコンを操作する。
「見たまえ」
部屋の明かりが消え、壁のプロジェクターが画像を映し出す。
アザーズが映し出されると、激しい銃弾が雨霰と降り注ぐ。画面を覆い尽くした砂煙が止むと、一部へこんだり装甲が砕けている白い機体が現れる。
「嘘!」
「これが現実だ」
キーボードを叩くと画像が止まる。
「奴等に通常の銃弾はほぼ効かない。残念ながら防衛軍では大した成果を上げることが出来ない」
「じゃあ、どうやって…」
「その答えはこれだ」
続けてキーボードの音がすると、画像が切り替わる。
306 :
M.I.B.:2005/04/15(金) 02:16:35 ID:9tF3wneT
淡いグリーンの機体が同じ色の髪を振り乱しながらハンドガンを両手に持ち、白い機体を打ち倒していく。
画像がまた切り替わる。
真紅の機体が巨大なライフルを片手で操り、いくつもの白い機体を射抜いていく。
圧倒的だった。防衛軍が苦戦していた奴等をいとも簡単に屠っていく。
しかし、何よりも目をひいたのは、2体が女性だと言うことだ。
身体は、鋭角的なデザインで人型をしているが、人では無い事が分かる。明らかに機械仕掛けのロボットだ。むしろ先ほどのアザーズの方が人に近い。
しかし、頭部が違うのだ。アザーズは頭部ものっぺりとした球体があるだけだが、彼女達は、色こそアレだが髪をなびかせ、顔は肌色で口鼻があり、バイザーの下に瞳の輝きを感じる。
「これが、我々オーディーンの切り札『サイボーグ兵器』ヴァルキリー01と02だ」
画面に首っ丈だった私は、その言葉に思わず驚く。
「サイボーグ? それじゃあ、この人たちって…」
「ああ、人間を改造して作り上げた兵器だよ」
その言葉に、私は凍りつく。
「そんな、人間を…」
「ところで、なぜ君がここに呼び出されたか分かるかね?」
立ち上がり、両手を広げた理事長が明日の天気を聞くような気軽さで問いかけてくる。
「こんなことを部外者に教えるわけが無い。それなら君に何の用があるか、君なら分かるだろう?」
その答えに思い至り、椅子を転がり落ち、扉にしがみつく。
「無駄だよ。逃がしはしない。君にはヴァルキリー03の素体に選ばれたんだ」
「嫌、そんなの嫌よ」
下半身に冷たいものは感じながら、ドアノブをガチャガチャと音を立てて動かすが、ドアはいっこうに動かない。
「さあ、次に目が覚めたら君は立派な素体だよ」
優しい声が聞こえると共に、圧縮空気がたてるプシュという音が最後に聞こえた…
307 :
M.I.B.:2005/04/15(金) 02:19:32 ID:9tF3wneT
目を覚ますと、そこは手術台のような所だった。
制服は脱がされており、裸のまま横たわっていた。
「ここは…」
「目が覚めたようだな。ノルン03」
声のしたほうを見ると、白衣を着た初老の男性が近寄ってきた。
「ノルン03? 私はそんな名前じゃ…」
「今の君の名前はノルン03。ヴァルキリー03の素体だ。法的な裏付けもある」
そう言われて、理事長室の出来事を思い出す。
「嫌!」
叫んで逃げ出そうとして、首から下の自由が全く効かないことに気付く。さらに金属製の首輪のようなものがされている。
「逃げることは出来んよ。その首輪は直接脳神経に接続してあり、思考や行動をモニターしていると同時に、首から下の制御や、君に擬似的な感覚を与えることが出来る」
そういうと、手元のコンソールを叩く。
その瞬間、激しい快感が身体を貫く。
触られていないのに、秘部を刺激されているような感覚が断続的に続く。
めまいがする様な快楽が脳を揺さぶる。しかし、何時まで経っても絶頂を迎えることが出来ない。
「どうだね? 素晴らしい快感だろう。ただし、君がどんなに感じても絶頂を迎えられないようにブロックしている」
「そんな… このままじゃおかしくなっちゃう。」
「このままでは君が狂うまでイクことはできない。だが、君が自分が何者かをしっかり理解して、我々に永遠に従うと誓えばイカせてやろう」
気が狂うような快楽の中、私は何も考えられなくなっていた。
「誓います。御堂さくらは永遠に貴方達に従います」
「違うだろう。おまえはもう御堂さくらではない。ノルン03だ。いいか?こう言うんだ『私ノルン03は未来永劫、永遠にオーディーンの所有物として、組織と小林賢蔵博士に忠誠を誓います』だ」
「わっ、私ノルン03は、みっ、未来永劫、永遠にオーディーンのしょっ、所有物として組織と小林賢蔵博士に忠誠を、ちっ、誓います」
そう言った瞬間、私は一気に上りつめ、意識が途切れた。
308 :
M.I.B.:2005/04/15(金) 02:25:32 ID:9tF3wneT
「目が覚めたかね?」
小林博士が覗き込んで声をかけた。
「わたし…」
「さて、これで君は晴れて我々の所有物になったわけだ」
「そんな、取り消します。わたしは…」
『私は御堂さくらです。あなたたちの所有物なんかじゃありません』そう言おうとした瞬間、激しい痛みに声が出なくなる。
「君が寝ている間にいくつかタブーを与えておいた。これ以降、君は自分のことを『御堂さくら』とは呼べない。我々組織の構成員に逆らうことは出来ない。
自分を傷つけることは出来ない。許可無く敷地内から出ようとしてはならない。自分の情報を他人に伝えてはならない。とりあえずこの5つだ。これ以上増やすことが無いように」
小林博士はそう言うと、部屋の隅に置かれていた箱を手に取り中身を放り投げた。
ゴムのような素材で出来た、ほとんど透明なレオタード状な物だった。
「これがこれからの君のカバーだ。保温保湿は十分にできるはずだ。もう動けるから身に着けたまえ」
こんなものでは陰部も隠すことが出来ない。もっとマシなものは無いのか?と言おうと思って瞬間、激しい痛みが走る。
「逆らっても苦しい思いをするだけだぞ」
こちらの表情を見て、小林博士が笑う。
「わかりました…」
そう答えると同時にぴたりと痛みは止んだ。
小林博士が見ている前で、そのスーツを身につけた。
半透明どころか、完全に透明と言っても過言ではないだろう。
恥ずかしさで、顔から火が出そうだった。
思わず両腕で隠そうとするが、
「隠すんじゃない」
その一言に、私はこれから全てをさらけ出していかなければならないことを思い知らされた。
309 :
M.I.B.:2005/04/15(金) 02:26:49 ID:9tF3wneT
「君の保管場所へ案内させよう」
小林博士はそう言うと、キーボード叩く。
数分して部屋の扉が開いた。
そこに立っていたのは、先程の画像にあったサイボーグの少女だった。
淡いグリーンの機体(からだ)、同じ色の髪と瞳が印象的だった。
だが機体は一目で金属製のそれと分かる。鋭角的なデザインのパーツが全身を覆っている。
「これがヴァルキリー01だ」
少し年下だろうか、私より小さめな印象を受ける。
「01、これはノルン03だ」
小林博士の言葉に、柔和な少女の表情が一気に曇る。
「博士、彼女も…」
「もちろんだ。ここに来るのは組織の構成員か素体だけだ。そしてこれは構成員じゃない。後は分かるな?」
「わかりました…」
少女は泣き出しそうな顔で答えた。
「それでは行きましょう」
私の手を取り、少女は部屋を出て行った。
310 :
M.I.B.:2005/04/15(金) 02:30:59 ID:9tF3wneT
「あなた、素体になるってどういうことか分かる?」
01と呼ばれた少女は私の瞳を真剣な表情で覗き込んで言った。
「あなたみたいにサイボーグにされちゃうってことですか?」
「そうよ。それでも良いの?」
「嫌です。わたしそんな身体に…、いえ別にあなたの身体が悪いわけでは…」
思わず口に出た言葉に、あわてて否定の言葉を出す。
「いいのよ。私だって好きでこんな機械の塊に…」
彼女の表情が曇る。だがすぐに思い出したかのように続ける。
「嫌なら逃げなさい。私が途中まで送るわ」
「良いの。私を逃がしたら…」
「私は良いわ。もう手遅れだから… でもあなたはまだ間に合う」
そう言うと、彼女は手を取り駆け出そうとした。
その瞬間だった。
「痛い!」
先程感じた痛みが頭を割るような勢いで始まった。
「言っただろう。『許可無く敷地内から出ようとしてはならない。』と。君達に修正が必要だな」
「待ってください。彼女は悪くない。私が逃げるように言ったの」
彼女が庇うように私の前に出る。
「まあ良い。今回は見逃してやれ。ただし2度目は無いぞ」
小林博士の後ろから出てきた軍服姿の男が言う。
「指令。しかし…」
「博士。私の言葉が聞こえなかったのかな?」
「いえ…」
「では行きたまえ」
その言葉に小林博士は下がって行った。
「さあ、01命令に従え。兵器が余計なことを考えるな。命令に従っていれば良いんだ」
「はい、分かりました…。行きましょう」
そう言われて、彼女は俯いて私の手を引いて歩き出した。
311 :
M.I.B.:2005/04/15(金) 02:35:13 ID:9tF3wneT
「これがあなたのポットよ」
彼女が連れてきたのは、映画に出てくるようなポットが並んでいる部屋だった。
その中の03とナンバリングされているものを私に指し示す。
「これ… ですか?」
「ええ、中に入って」
「はい、これで良いですか?」
クッションが効いたポットの中に入ると、手足を拘束される。
「次に呼び出されるときになったら、目が覚めるわ。おやすみなさい」
その声とともにポットのカバーが降りてきた。
私の「モノ」としての生活が、こうして始まった…
312 :
M.I.B.:2005/04/15(金) 02:45:32 ID:9tF3wneT
とりあえず、過去編(改造編)の前編を・・・
ちょっと長すぎるなぁ 冗長な部分もあるような気もする。もっとまとめるようにしないと。
>299
最後までご苦労様でした。
話を最後まで書けない人間としては、しっかりと終わらせることが出来る人は凄いともいます。
>301
>サイボーグ兵器になるよう説得されてしまう過程、見てみたいものです。
今回のコンセプト上こんな形になってしまいました。
>後の3人が、どんなキャラクターなのか、楽しみです。
とりあえず、一人目の01です。
外見イメージ的には主人公より小さい少女です。
ただ、改造されてからが長いんで実年齢は彼女のほうが上。
性格的には、自分のことはある意味諦め切っているが他人が改造されることに心痛めているって感じのやさしいお姉さん風にw
主装備はハンドガンを2丁。
M.I.B.様。最高に萌えました!さすがですね!意志に反したサイボーグ化、機械としての冷遇、奴隷化。素晴らしいの一言です!
主人公達はモノとしてこれからさらに惨めな運命を辿るんでしょうね♪できれば改造手術の過程も知りたいです。
314 :
前444:2005/04/15(金) 21:19:57 ID:RCifL3Tc
トイレから出るためにドアノブを回す、 そんなの当たり前のことだよね。でも、私がドアノブを握った
瞬間、 金属製のドアノブが、 みかんみたいにぐしゃっと潰れちゃったんだ。 そして、 その拍子に、 どこか
歪んだのか、 ドアノブ全然回らなくなっちゃって、 あげくポッキリ折れて取れちゃった。
なんなのこれ! このままトイレに閉じ込められるわけにもいかないから、 自分の力も忘れて、 ちょっと
焦ってドアを押した。 そしたらバキって音がして、 ドアが蝶番ごとはずれて前に倒れちゃった!
私のせいじゃない。 私は、 何もしてないよ。 ただ普通にドアを開けようとしただけなんだよう。
それでこのありさま! 私、 自分が恐くなった。 義体の力に恐くなった。 150馬力っていう力を出すことが
どういうことなのか、 甘くみすぎていたかもしれない。 もう勝負に勝つのは分かってる。 いくら強くたって
人間が機械の力に適うはずないんだ。 今の私が恐れているのは、 うっかり猪俣さんの手を握りつぶしちゃう
こと。 もし、 猪俣さんを怪我させちゃったらどうしよう。 私、 もうここにはいられなくなっちゃうよ。
一階に下りた私をみんなの盛大な拍手が迎えてくれた。 本当なら舞台に登場したヒロインみたいな
気分が味わえたのかもしれないけれど、 今の私、 とてもそんな気になれない。 みんなは気付かないかも
しれないけど、 私はヒロインじゃなくて悪役だ。 それも正々堂々真剣勝負を挑んできた相手を後ろから
ピストルで撃ち殺すような一番卑怯な悪役なんだ。 でも、 もう後戻りはできない。
「やっと来たか。 逃げ出したかと思ったぜ」
猪俣さんはやる気満々といった風に指をポキポキならしている。
「さあ、 じゃあヤギー、 位置について」
はりきって審判を買って出た小林さんに促されて、 再び猪俣さんと机を挟んで 向かい合った。 私は、
なんだか申し訳なくって、 猪俣さんの顔を見れずにうつむいたまんま。 でも、 猪俣さん、 きっと
余裕しゃくしゃく、 子ウサギをいたぶるライオンみたいな気持ちで、 私のことを見ているだろう。
この子ウサギとライオンの体重が、 実はほとんど同じくらいってこと、 みんなが知ったらどう思うん
だろう。
315 :
前444:2005/04/15(金) 21:20:44 ID:RCifL3Tc
「用意」
小林さんが芝居がかったポーズで右手を上げた。
私の細い棒切れみたいな腕と、 猪俣さんの丸太みたいな腕が組み合う。 猪俣さんはグローブみたいな
大きな手で私の手のひらを握った。 けど、 私は手をひらいたまんま。
「どうした、 眼鏡の姐ちゃん。 なんで手を握らないんだ。 それじゃあ力が出ねえだろ。 なぜ、 全力を
出さそうとしねえんだ? 全力を出せ、 例え負けるかもしれなくても全力でいくんだ」
「うー、 大丈夫です。 私はこっちのほうが力が出るんです」
手を握らないほうが力が出るなんて、 そんなことあるんだろうか。 でも、 無理やりにでもごまかす
しかない。 猪俣さんの手を握るなんて恐くてできない。 それに、 どうせ猪俣さんの手は私よりずーっと
大きいから、握ろうと思ったところでほとんど握ることなんてできない。握らなくてもたいした違いはないよ。
それにしても、 例え負けたとしても全力を出せなんてことを言うなんて、 猪俣さん、 思ったより悪い
人ではないのかもしれない。 そんな人を相手に、 騙すようなまねするなんて、 私は、 なんて卑怯なんだろう。
私、 どうすればいいんだろう。
「ヤギー、 頑張れヤギー!!」
野中さんが叫んだ。
「ヤギーさん、 ヤギーさん、 ヤギーさん、 ヤギーさん」
山本君がうわごとのように、 祈るみたいに私の名前を繰り返し呼んだ。 私も心の中で祈った。 どうか何事も
なく終わりますように。
「はじめ!!」
小林さんの手が勢いよく振り下ろされた。
316 :
前444:2005/04/15(金) 21:46:27 ID:RCifL3Tc
書いたらながくなってしまったので、とりあえずこのへんで切ります。
>>288 いずいは普通、目に使います。目にゴミが入って異物感があって気持ち悪い
みたいな感覚を「目がいずい」といいます。
>>299 ついに完結ですね。お疲れ様でした。ハッピーエンドで何よりです。ハツミさん
とカズヒロ技官の関係は、ゴールインというより、今これからはじまるといった
感じですね。また会える日を楽しみにしております。
サチさんがハツミさんの養子になっていたのは意外です。サチさんの両親は多分
まだ生きているはずだと思うのですが、記憶喪失とはいえ何かの事情があったの
でしょうか。一見とても明るい彼女で、あまり語りませんが、義体になってからの
高校時代とか、両親のもとでの生活は何かとても悲しい思いをしていそうですね。
次回はそのへんの過去も分かるといいな。もし、ガジェットをやるとしたら、ですけど。
ちなみに私はハツミさんは葉摘さん、サチさんは幸さんと脳内漢字変換してますけど
実のところどうなんでしょう。
>>301 >後で反動が出たりしませんように…。
そこはそれ、お約束ですから。
>>303-304 液体呼吸、すごいっす。自分が体験したくなってしまいますね。
>>305-312 いよいよ敵の正体がぼんやりながら語られはじめましたね。人類は追い詰められて
いるのに、情報を隠されて、まだそんなに切羽詰っていない情勢と思わされている
わけですね。
01はあなたはまだ大丈夫って言ってますけど、御堂さん、すでに改造されているような
感じなのですが・・・。
どの話もおもしろすぎるよう。
>>M.I.B. さん
サディスティックな感覚に激しく興奮しました。醜く改造してやってください。最期は敵につかまり改造されてしまうとか破壊されちゃうとうれしいでつ。(´・ω・`)
改造されたのが1年生ってのも萌える。工1?まさか厨1?(;´Д`)ハァハァ
しかも01はそれより幼い少女が改造されてしまったなんて!ツボ過ぎです。
ドアをぶっ壊したヤギー。どう言い訳するんでしょう。
腕相撲の勝負はどうするのでしょう。
力持ちの秘密がばれちゃうでしょうか。
ヤギーのピンチはぐっときます。続きが気になります。
321 :
M.I.B.:2005/04/16(土) 02:23:35 ID:VoRd9DSJ
「起きろ。ノルン03」
閉じていたポットの蓋が開くと、そこには軍服の男が立っていた。
「あ、理事長…」
それは昨日、廊下で私達を許した指令と呼ばれた人物であり、光陰学園理事長、醍醐 光一だった。
「ここでは私は理事長ではなく、指令だ。以後は間違えるな」
きつい口調で言う指令に私は怯えながら答えた。
「はい、分かりました。指令…」
「今日はお前がどのタイプの機体に適しているか、適性検査を行う。付いて来い」
指令はそう言うと、踵を返して部屋から出て行く。
いつの間にか、拘束から開放されていた私はあわててその背中を追いかけた。
322 :
M.I.B.:2005/04/16(土) 02:24:23 ID:VoRd9DSJ
「そこに立って動くな」
真っ白な部屋の真ん中で立たされた私に、白衣の男性がケーブルを持って近づいて来た。
首輪についたジャックにケーブルを指すと、視界がぶれ、全く違う光景に変化する。
「君の脳に直接データを送り込んで、戦闘をシミュレートしている。
いくつかのパターンで戦闘を体験して、どのタイプに適正があるか調査する。それでは戦場パターンA、機体パターンMGでいくぞ」
声が終わると、光景が森林のような所へ変化し、いくつかの気配を感じる。
さらに、私の身体も変化する。01と呼ばれていた少女のそれに似た感じの硬質な金属製の身体だ。さらに顔の前にバイザーがせり出してきて、周囲の情報が表示される。
「え? なに? どうなってるの?」
「慌てるな。今は君の脳に情報を送り込むことで、誤認させているだけだ。その機体はミドルレンジ向け、主武装はハンドガンだ」
いつの間にか、両手に少し大型のハンドガンが握られていた。
「弾は考える必要はない。さあ始めるぞ」
その声と共に、周囲のマークが動き始める。敵は人型のβタイプ。その中でも格闘型のβ1が1体、射撃型のβ2が2体だ。
β1に狙いを付けて乱射する。あまり命中率が良くないがそれでも撃破する。その瞬間左側から撃たれる。
「きゃー。いっ、痛い!」
肩口に被弾すると、激痛が走り、思わず悲鳴が上がる。
「痛覚は強めに残してある。上手く戦わないと痛い目にあうぞ」
「よくもやってくれたわね」
怒りに燃え、乱射。2体目を破壊したが、結局かなりの被弾を許し3体目を破壊した頃には満身創痍といった風体だった。
「初戦闘としては、まずまずの結果だといえるだろう」
指令が声をかけてくる。
「では、次のケースだ。機体チェンジを」
その声と共に、また私の身体が変化していく。
いくつかのパターン、機種でシミュレートを繰り返した結果、私に最適なのは剣を持って突撃していく、前衛タイプということになった。
全機種の中でももっとも鋭角なフォルムをしており、パワーは弱いがスピードで圧倒するタイプだそうだ。
正直、細かいことは分からなかった。ただ、これが私の新しい身体になるということだけは理解できた。
323 :
M.I.B.:2005/04/16(土) 02:25:42 ID:VoRd9DSJ
次の日から行われたのは、アザーズについてとヴァルキリーシリーズ、オーディーンという組織について、これらの知識の習得だった。
改造が終われば、システムにアクセスするだけでいつでも情報が得られるが、常にアクセス可能とは限らないため、こうした教育が必要だということだった。
アザーズについては、正体自体は不明である。ただ、いくつかの情報が明らかになっている。
敵の主力である非人型のαシリーズ、人型のβシリーズはトルーパー級と分類され、戦闘力は低く数で攻めてきている。
その上にはγシリーズと呼称され、ジェネラル級に分類されている者がいる。彼らはここの戦闘力が高いが、一度に複数出現したことが無い。
これらの情報の中で、私を驚かせたのは次のものだ。
α、β、γ全てのシリーズは人間の脳を使用している。
行動不能になると自壊する事で、情報を得られなかったアザーズだが、ヴァルキリーシリーズや同系列の機体たちによる情報や、焼け残った残骸の一部から、人間の脳髄が発見された。
遺伝子バンクに照会した所、アザースにさらわれたと思われる少女のものであると分かった。
さらにジェネラル級のγシリーズでは、白いヴァルキリーの様に少女の面影を残し、言葉を発したということだ。
324 :
M.I.B.:2005/04/16(土) 02:41:29 ID:VoRd9DSJ
次に、ヴァルキリーシリーズについてだ。
もともと、次世代エネルギーと超能力に関して研究しているPSI研という組織が存在し、そこでは物理的影響をほとんど受けない新エネルギーPSIの開発が行われていた。
対アザーズに苦戦していた、軍部がPSIに目をつけたのがことの始まりだった。
確かにPSIはアザーズに対して高い戦果を上げた。ただいくつかの問題があった。
1つ目は取り回しが悪いこと。高出力のPSI兵器は個人で扱うことができなかった。
2つ目は使用者について。PSIは誰にでもあるとは限らず、使用者が限られる。主に10代の少女に高い適正が見られるものがおり、とても軍人として適しているとは言えなかった。
この問題を解決するため、いくつかの試みがなされた。軍人の中から適合者を探す。大型のパワードスーツにPSI兵器を搭載する。その全てが不調に終わった。
この流れの中で一つの狂気のアイデアが生まれる。少女を改造してPSIシステム搭載兵器に作り変えようというものだった。
暴走した某国の一部の技術者が、PSI研の責任者久我山博士の長女であり、当時最高クラスの適合者だった舞を連れ去り、PSIシステム搭載型サイボーグ兵器フレイアに改造したのだった。
調教と拷問により戦闘を強要されたフレイアは、今までの兵器の数百倍の戦果を上げた。
軍部はフレイアを人間とはみなさず、1兵器として扱い、ジェネラル級との戦闘中行方不明になるまで長い間戦いを続けさせた。
フレイアの戦果が狂気の蔓延へと繋がった。各国はフレイアに続けとばかりにPSI兵器搭載サイボーグの開発を行った。
PSI検査に反応した少女が誘拐され、改造され、実戦投入される。そんな被害者数百人にのぼるといわれている。
オーディーンは日本国内のPSIシステム搭載型兵器の運用及び対アザーズの専門組織である。
適合者に改造を強要することが認められ、ヴァルキリーシリーズは国がこの組織を通して所有する形になっている。
325 :
M.I.B.:2005/04/16(土) 02:48:07 ID:VoRd9DSJ
過去編(改造編)中篇です。
・・・おかしい、上下で終わるはずだったのだが・・・
>>316 >01はあなたはまだ大丈夫って言ってますけど、御堂さん、すでに改造されているような感じなのですが・・・。
01が改造されたときは、いきなり全身を改造されてこんなまどろっこしい事をしていなかったので、
まだ未改造だと思っていたという裏設定がw
あと、この時点では逃げられれば普通に暮らしていけますから。
ヴァルキリーにまで改造されてしまうと、数日置きのメンテナンスが必要です。
それ無しでは1ヶ月も生きられないので。
326 :
前444:2005/04/16(土) 13:22:29 ID:/XJxnRh8
小林さんの合図と同時に私は思いっきり鼻息を荒くして、 ううーってうなった。 でも、 それはただ力を入れている
ふりをしているだけ。 演技してるだけ。 無表情のままあっさり勝ってしまうのはやっぱり不自然だからね。
猪俣さんはきっとすごく力を入れているつもりなんだろう。 だって、 顔が真っ赤になって、 腕だってびくびく震えて
いるもの。 もしも私が生身の身体だったら、 一瞬で倒されてるよね。 それどころか身体ごとひっくり返されて、 ぶざまに
地面に転がってるような気がする。 でも、 今の私は違う。 ほんのちょっと腕に力を入れているだけなのに、 猪俣さんが
どんなに頑張ってもびくともしないんだ。 か細い棒切れみたいな腕だけど、 しっかり根を張った大木と同じなんだ。
だって、 今の私は150馬力だもの。
そんなことする必要もないのに力を入れてるふりなんかして、 そのうえ、 冷静に猪俣さんを観察しているなんて、
私ってなんて嫌な人間なんだろう。 ああ、 今の私は人間じゃないか。 150馬力の化け物か。 ごめんなさい。 猪俣さん、
本当にごめんなさい。 私、 腕相撲しながら申し訳ない気持ちで一杯だった。
私の細い腕が猪俣さんの太い腕を押す。 机に向かって、 確実に。 怪我をさせないように、 ゆっくりと、 ゆっく
りとね。勝負は、本当にあっけなくついた。
「勝者は、 ええ、 ヤギー?」
小林さん、 驚いて勝ち名乗りを上げる声が裏返っちゃった。 ケチ所長も、 営業の飯田さんも、 事務の鈴木さんも、
みんな目をまんまるにして、 口をあんぐりあけて驚いてる。 まさか私が勝つとは思っていなかったんだろう。
「きゃー、 ヤギー、 すごいよすごいよー」
石塚さんが私に飛びついた。
野中さんは
「どうだあ! 女の力を思い知ったか!」
と自分のことのように得意げ。 ホントは女の力じゃなくて機械の力だけどね。
「十万円十万円十万円十万円」
山本君は興奮のあまり金額をうわごとのようにつぶやきながら、 意味もなくうろうろ彷徨っている。
327 :
前444:2005/04/16(土) 13:23:47 ID:/XJxnRh8
「信じられねえ」
私に負けた猪俣さんは、 自分の腕を見つめながらポツリとつぶやいた。 それは、 そうだろう。 猪俣さんみたいな
体格の人が、 私みたいな女の子に腕相撲で負けるなんてことなんて考えられないもの。 私なんかに負けることなんて百に
一つもないと思っていたに違いないんだ。 それなのに、 私に負けちゃって、 きっとプライドだってズタズタになっちゃう
よね。 私は、 猪俣さんに何か声をかけようとしたけど、 こんなとき何て言ったらいいのか分からなくて、 結局押し
黙ったままだった。
そしたら猪俣さん、 私に向かって、 歯をむき出してニヤっと笑ったんだ。
「信じられねえ。 すごい女の子がいたもんだ。 これだけ簡単にやられると逆にスカッとするわ」
私、 猪俣さんが、 こんなの認めねえ、 とか言って怒鳴りちらすんだとばかり思っていた。 って言うか、そうされた
ほうがまだ良かったんだ。 こんな爽やかに負けを認めたら、 私、 自分がますますみじめになっちゃうよう。
「山本、俺、お前に十万円は払わねえよ」
突然の猪俣さんの言葉に山本君の顔色が変わった。
「そんな、 猪俣さん! 約束が違います!」
血相を代えて詰め寄る山本君を猪俣さんは手で制した。
「安心しろ。 俺も男だ。 約束は約束だ。 ちゃんと10万円は払う。 但し、 この眼鏡の姐ちゃんにだ」
突然のことに、 私、 びっくりした。 なんで私なの。 なんで、 なんでだよう。 いきなりそんなこと言われても、
私、 困っちゃうよう。
「はっきりいってこの勝負は俺と姐ちゃんの勝負だ。 俺と山本のじゃねえ。 だから、 十万は姐ちゃんに渡さないと
俺の気がすまねえ。 山本は十万円ほしけりゃ、 この眼鏡の姐ちゃんからもらうんだな」
「ヤギーさーん」
今度は私に泣きついてくる山本君。
「そんな、 私、 十万円なんて、 う、 う、 受け取れません」
328 :
前444:2005/04/16(土) 13:24:50 ID:/XJxnRh8
私、 言い切っちゃった。 十万円! 十万円だよ。 猪俣さん、 私があれほど欲しかった十万円をくれるって言って
るんだよ。 正直、 グラっとこなかったって言ったら嘘になる。 ホントは私、 喉から手が出るほど欲しい。 十万
あれば藤原と一緒に京都に行って、 あんなことも、 こんなこともできるよね。 アルバイトなんかしないで、
ジャスミンや佐倉井とカラオケに行って楽しく騒げるよね。 でも、 こんな卑怯なやり方で手に入れた十万円に何の
価値があるんだろう。 こんな十万円で遊んで、 私、 ホントに楽しいの? そんなはずないよ!
「それに、 もし私が負けたとしても猪俣さん、 山本君からお金を取らなかったと思う。 私、 そんな気がする」
「どうしてそう思うんだ? 俺がそんなにいい奴だってか?」
「うー、 なんとなく、 です」
そう、 なんとなくだけど、 私そう思ったんだ。 この人、 見かけは恐そうだし、言葉遣いも丁寧ってわけ
じゃないから誤解されやすいだけで、 根っこはいい人なんじゃないかと思うんだ。 で、 なければ私なんかに
腕相撲で負けて、 素直に負けを認めたり、 お金は私に払うって言ったりするだろうか? もし、 私が負けた
としても、 『山本、 ほんの冗談だよ、 おめえ、 本気にしてたのかよ』って笑いながら言ったんじゃない
だろうか?
「受け取れよ。 勝負は勝負だ。 姐ちゃんが金を受け取れないっていうなら、 別に姐ちゃんからそのまま
山本に渡してやったってかまわねえんだ。 とにかく、 俺はひとまず、 姐ちゃんに渡してえだけなんだから。
くだらねえこだわりかな?」
猪俣さんは、 財布から一万札を外見に似合わず几帳面に数えて十万円分抜き出すと、 私の目の前に置いた。
どうしよう。 私がまごついていると、 いままで黙って様子を見ていた野中さんが突然口を開いたんだ。
「私もヤギーちゃんにはお金をもらう権利があると思うな。 でも、 ヤギーちゃん、それじゃあ受け取りづらいんでしょ。
貴女そういう性格だもんね。 それに猪俣さんも、 いくら勝負に負けたっていっても十万円出すのはきついでしょ。 無理
しなさんな」
野中さんはみんなを見回して言葉を続けた。
329 :
前444:2005/04/16(土) 13:34:11 ID:/XJxnRh8
「この中で誰かヤギーちゃんに助けてもらったことがない人っているの? 少なくとも私はいつも助けてもらってる。
いつも人よりずっと重い家具を一人で運んで頑張っているよね。 現場にヤギーちゃんがいるだけで、 私達、 仕事を早く
片付けられるよね。 ヤギーちゃんには人の二倍は働いてもらって、 所長だって人件費が浮いて助かってるでしょ。
引越しレディースサービスだってヤギーちゃんがいるからこそ成り立っているんでしょ? 私達、 みんないつの間にか、
ヤギーちゃんのお世話になっているんだよ」
みんな、野中さんの話にしきりにうなずいている。 でも、 野中さん、 それは違うんだ。 そんなの当たり前のこと
なんだ。 だって私は機械の身体で、 どんなに働いたって、 ただ電気を使うだけで身体は疲れやしないんだから。
私が重い荷物をたくさん運ぶなんて、 そんなの当たり前のことなんだ。 みんなが、 自分の身体を使って、 汗を流して
一生懸命働いているのに、 私だけ機械の力で楽をしているだけ。 私なんて、 みんなが思ってくれるほどには偉くない。
みんなのほうが、 ずっとすごいよ。
でも、 そんなこと、 今、 この場で言える訳ない・・・。
野中さんは、 さらに続けてこんな提案をした。
「だったらこうしましょう。 みんなで、 お金を出して、 それをヤギーちゃんにカンパしよう。 別に大金を出してって
いってるわけじゃないの。 少しづつでもこれだけの人がいれば、 結構な金額になるでしょ。 ああ、 いっつも残業代を
出してくれない所長は、 申し訳ございませんがなるべく多めにお願い致します」
所長は苦笑いしながらも、 かまわないって言ってくれた。 いつも残業代を一切出さないことで有名な、 あのケチ
所長がだよ。
小林さんも
「いまのショーの見物料って考えれば安いもんだよ」
なんて冗談めかして言いながら、 五千円を野中さんに渡した。 それから飯田さんも、 鈴木さんも、 石塚さんも、
みんな・・・。 どうして? どうしてなんだよう。 どうしてそんなことしてくれるんだよう。 私、 分からないよ。
ゼンゼン分からないよ。
330 :
前444:2005/04/16(土) 13:39:28 ID:/XJxnRh8
「猪俣さんは申し訳ないけど勝負に負けたってことで一万円くらいは出してあげてよ」
野中さんは、 私の前に置きっぱなしの十万円をつかむと、 一万円だけ抜いて、 残りを猪俣さんに返した。
「それは助かるな。 正直十万円はチトきつかった。 野中のねえさん、 恩にきるぜ」
猪俣さんは苦笑いしながら、 お金を財布に納める。 みんなが、 どっと笑った。 それから・・・。
「山本君は、 うーん、 山本君から取るのは可哀想ね。 今回は勘弁してあげるわ」
「て、 いうか、 俺十万円・・・」
「あら、 山本君、 何かご不満でも? 山本君なんて一番ヤギーちゃんの世話になりっぱなしなんじゃない?それこそ
十万円分くらいは。 デートに遅れそうになってトンパチ(東八軒坊)駅までおんぶして運んでもらったこともある
なんて話してなかったっけ? いいじゃない、 そういった、 今まで受けてきたいろいろな恩を今日返せたと思えば」
野中さんにそうたしなめられて、 山本君恥ずかしそうな顔をして黙り込んじゃった。 野中さんは、 そうやって
みんなからお金を集めた、 財布から出てきたばかりの皺だらけのお金を私の手にぎゅっと押し付けてくれた。 しろ
くま便で三日間働いてやっともらえるくらいの金額が集まっていた。
「ヤギーちゃん、 今日休憩時間中ずーっと寝ていたよね。 頑張っているのは分かるんだけど、 なんだかちょっと
疲れているみたい。 思い切って、 ゆっくり三日間くらい休みなさいよ。 このお金でぱーっと遊んでさ。 いまのまま
じゃ彼氏とデートする時間も、 友達と遊ぶ時間もないでしょ。 そんなに毎日張り詰めて働いてたら、 なんだか疲れ
ちゃう。 たまにはリフレッシュも必要だと思うな。 ね、 所長、 いいでしょ? 私がその分働くことはかまわないから」
野中さん、 そう言ってにっこり微笑んだ。 野中さんだけじゃない、 石塚さんも猪俣さんも小林さんも所長も、
他のみんなも。
331 :
前444:2005/04/16(土) 13:40:02 ID:/XJxnRh8
私、 友達が、 みんな楽しく遊んでるのに、 どうして私だけが働かなくちゃいけないんだろうって、 ずっと思って
た。 私だって、 カラオケは大好き。 みんなで楽しく遊んで騒ぐのは大好き。 藤原とだって、 ずっとずっと一緒に
いたいよ。 でも、 こんな身体のせいで、 いつもお金のことばかり考えてなきゃいけない。 遊ぶことだってあまりでき
ない。 私は世界一の不幸せものなんだってずっと思ってた。 でも違ってた。 一緒に働いている人達が、 こんな暖かい
人達で良かった。
でも、 私、 やっぱりこのお金を受け取ることはできない。 素直に受け取れば、 みんなが喜んでくれるってことも
分かってる。 でも、 私には、 このお金を手にする資格がないってことは自分が一番よくわかっているんだ。 このお金を
手にするって事は、 自分に嘘をついちゃうことなんだ。 だから、 ごめんなさい。 みんなの気持ちはホントに嬉しかった。
私は不幸せなんかじゃない。 世界一の幸せものかもしれないよ。 それで充分です。 野中さん、 猪俣さん、 みんな、
有難う。 本当に有難う。
「皆さん、 有難うございます。 でも、 すみません。 やっぱり私、 このお金受け取れません」
私は結局、 千円とか五千円とか一万円札がまぜこぜになった皺くちゃのお札を机に置いて、 みんなに向かってすみま
せんって頭を下げようとしたんだ。 そうしたら、 私が手をついた瞬間、 机がぐにゃってあめみたいにひん曲がっちゃった。
そして勢いあまって、 私は転んで、 ひん曲がった机の上に倒れちゃったんだ。 ・・・うかつ。 どうしよう。
332 :
前444:2005/04/16(土) 13:50:22 ID:/XJxnRh8
昨日の続きです。結局出てくる人はみんないい人になっちゃいます。
話しの展開もお約束パターン化してきているような気がします。
申し訳ないですorz。
>>321-324 さりげなく、素体は女の子じゃないと駄目だという設定を説明するところに
作者の誠意を感じてしまいます。少女たちはサイボーグであって超能力者でも
あるわけですね。
敵の正体がまた一つ明らかにされました。立場は違えど、同じ女の子かもしれ
ないということですね。こうやって、読者も御堂さんことノルン03とともに
的の正体を少しづつ知っていくことになるのでしょうか。
最後に張られた伏線も気になります。
333 :
82:2005/04/16(土) 14:41:19 ID:7r9rR3m2
>>332 ある程度の予定調和でないとシリーズって続かないのではないでしょうか。
このスレのオアシスとして続きを楽しみにしています。
>>321-325 MIB様 ふっと思い出し2番スレを読み返してしまいました。
いろいろ仕掛けを考えてください。
2番スレでの喫茶店での契約書を思い出し、
清水美咲と海洋開発研の契約書を作ってみています。
>>302 前580編集長様,
いつも励ましありがとうございます。
あと2回分ぐらいは書き上げているのですが、
その先で手こずっているので手直しもあるかと考え、
少々ストップです。申し訳ない。
>>M.I.B.様
ううむ、フェチ心突きまくりでつね!敵も誘拐され改造された少女だったなんて、ますます萌えました。
少女を改造しなければならない正当な根拠もできたので、これからもたくさんの少女が拉致され改造されることになりまつね!w
ああ、八木橋さん検査入院時もそうだったけど
人間離れしたことしてしまって…
鬱にもなってしまって。どうなるんでしょう。
336 :
82:2005/04/16(土) 23:08:23 ID:Me2U+LZP
男の人たちがライフバッグと呼ばれるコンテナ型の装置を<
背中に取りつけると、その重さで、もう全く身動きできなくなってしまった。
井上さんがまた首の所から手を突っ込んで、いくつものジョイントを接続している。
最後にマスクのホースも短いものに取り替えられ、
首の下のジョイントにつながれた。気が付くといつの間にか手袋までされていた。
だけど、動けないだけで苦しさはない。
ゴーグルを着けられ、視野がぼけた。
最後のチェックか井上さんが胸の所に手を入れ何かしている。
と思うまもなくへルメットも取り付けられた。
「大丈夫?」と井上さんが聞いてくるが、
もうがんじがらめで、ハンドサインもできなく頷くだけ。
あっ、井上さんの声もスピーヵー越しだ。
「いよいよ仕上げね、スーツも呼吸液で満たします。」
スパゲティスーツに液体が廻ってきて、
スーツと体の隙間が完全になくなってきた。
・・・と、首の辺りも液体が来て口、鼻、目の位置と呼吸液がせり上がってきた。
呼吸液がゴーグルの上まで上がってくると、 急に視野がはっきりしてきた。
しかし、重い、もう全く動けない。どうやってプールに行けるの・・・。
ついに頭のてっぺんまで呼吸液に浸かってしまったようだ。
337 :
82:2005/04/16(土) 23:09:02 ID:Me2U+LZP
「何かトラブルあったら、首を横に振ってね。」ヘルメットの後ろから、井上さんの声が聞こえた。
とりあえず何とかなりそう。でも早くプールに入れてー・・・、
もう浮力でもないとつぶされちゃうー・・・。何とか首を縦に振った。
「では、これから水に入ってもらいます。」と井上さん。
がくん、と椅子がゆれ下へ下がり始めた。
目の前を水面が上がっていった。と、
同時にゴーグルに「−000m」と表示が現れた。
表示が「−001m」になると、ふっと体が楽になった。
ようやく首を動かし、まわりを見ることができる。
左右に一人づつ、アクアノートが寄り添ってくれている。
表示が「−007m」になったときプールの底に着いた。
338 :
前580:2005/04/16(土) 23:23:15 ID:abg3gK5C
作者の皆様がた、お疲れ様です。
>>303 >>336 ほんと、液体呼吸は凄いです。それを感じさせる緻密な描写が素晴らしいのです。
この先の潜水のシーンの中で、その魅力をどう見せていただけるか、楽しみです。
>>333 時間をかけて良いものができるなら、いくらでも待てます。がんばってください。
>>305 普通の女の子に、いきなり厳しい真実を見せつけてしまうのですね。酷いです。説得
しないのなら、ここで真実を見せる意義って何もないような…。
>椅子を転がり落ち、扉にしがみつく。
>下半身に冷たいものは感じながら、
凄い、凄い。あまりの事態に恐慌を起こした感じが伝わってきます。アザーズ相手
に切羽詰っているとはいえ、この強引さ。おまけに快楽で責め堕とす卑劣さ…。
非道の極みですねぇ。
>少女は泣き出しそうな顔で答えた。
自分のことは顧みずに逃がしてくれようとしたことといい、本当に優しい人なんですね。
そんな人が、兵器として戦わなければならないなんて…。
>>312 >今回のコンセプト上こんな形になってしまいました。
いえ、この有無を言わせない強引さが素晴らしいです。
>とりあえず、一人目の01です。
外見といい、性格といい、ツボです。萌えます。外見が生身の時と同じとすると、
御堂さんよりも年齢が低い時に改造されているのですよねぇ。可哀想に…。
>>321 >私の新しい身体になるということだけは理解できた
こんな機械の身体に変えられてしまうのに、もう何の感情も湧かなくなってしまっ
ているのでしょうか。淡々と知識を詰め込んでいく様も、諦めが感じられて萌えま
した。
339 :
前580:2005/04/16(土) 23:30:35 ID:abg3gK5C
続きです…。
>>314 ノブを握り潰してしまいますか…。予想以上に怪力ですね。一番卑怯な悪役なんて、
もともと八木橋さんには何の責任もないのに、山本君のためになんとかしようと考
えた結果なのに…。こんな思いをしなければならないなんて、最悪の展開です。
>>326 >ああ、 今の私は人間じゃないか。 150馬力の化け物か。
うぅ…人間じゃないなんて哀しすぎます・゜・(ノД`)・゜・
猪俣さん、かっこいいなぁ…。人を外見や第一印象で判断してはいけないですね。
八木橋さんがこんなにバイト漬けになっていなければ、山本君が賭けをしなけば、
そして茜ちゃんが電話をかけてこなければ…こんな場面はなかったのでしょう。
ちょっとした偶然が積み重なって起こる騒動に巻き込まれ、それがきっかけとなって、
みんなの秘めていた想いが形となって現れる。八木橋さんの周りには、こんな不思
議なお話がたくさんあるのでしょうね。八木橋さんが悩んだり苦しんだりしたこと
自体は、周りの人には分からないけれど、一生懸命考えた結果として行動に現れた
心の強さや優しさは、人々の心の中にしっかりと刻まれるのですね。
暖かい良い人達ばかりなのは確かですけれど、それは、八木橋さん自身が暖かい心
を持っている人だから、そしてそんな人達に囲まれていることを、幸せと感じるこ
とができる人だから…。八木橋さんの人柄が、そういう人達を作るのだと思います。
とはいえ、八木橋さんの過去の独白から考えると、義体なことがばれた時、今まで
通りの関係ではいられそうにありません。このピンチは、どう乗り切るんでしょう…。
>>332 私は444氏の作風が大好きなので、今回のお話も楽しんで読んでいます。というか
涙ボロボロなのです。今回の八木橋さんは、いつにも増して生き生きとして、魅力
的でした。こんなに素晴らしいお話を読ませていただいているのに、毎回似たよう
な感想しか書けなくて申し訳ないです。
340 :
82:2005/04/16(土) 23:40:24 ID:4ZuV5w8V
正面にも、もう一人アクアノートがいた。
ヘルメットは「Y」、横森さんだ。
昨日はプールの上からのぞく格好だったので、ヘルメットの中はよく見えなかったが、
いまは、同じ目線になったので、ゴーグルの中も見える。
優しい目で笑ってくれている。
「ようこそ、清水さん。しばらくは、ゆっくりして水中での装備や、
スーツの感覚になれてね。そう、パネルのボタンを押して、
時計表示にしておくと良いわよ。」
と横森さんの声がスピーカーから聞こえてきた。
相変わらずどことなく、合成音のような感じの声だ。
「はい」と返事をしようとして、口がマスクで塞がれていることに気づき、うなずいた。
でも、彼女どうしてしゃべれるの・・・。
胸のボタンを何度か押して、時刻を出すと、「14:35」と出た。
朝起きてから7時間半しか経っていない。びっくりすることが、
いろいろあって、もう夕方みたいな気がしていた。
横から一人のアクアノートが現れ、足にフィンを取り付けてくれた。
手足をばたばたさせてみる。うん、普通のダイビングの感覚と同じだー。
>>M.I.B. 様
未来ある幼い女子中高生が無理矢理改造されて醜い機械になってしまう。実に萌えです!しかも兵器という非人道的で危険にさらされる道具として。勃起しまくりです!w
こうなると絵師の降臨が望まれますね!
343 :
82:2005/04/19(火) 00:02:50 ID:Edh9Io//
「じゃぁ、椅子から離れて、楽な姿勢をとってみて。」と横森さん。
軽くフィンでキックして、立ち上がり、やや前傾の立ち泳ぎの姿勢になる。
ダイバーなら待機の時にとる姿勢だ。これなら楽チン・・・。
横から手が伸びてきて、四角い板をつき出してくれた。
子供の教育玩具"せんせい"と呼ばれているもので、
ペンで文字書き、消すときは、レバーをスライドさせればよい優れもので、
ダイバー御用達のものだ。
とりあえず、「OKです。みなさんよろしく」と書いてみんなに見せた。
「ほんと清水さん落ち着いている。もう、このまま海へ出てもいいくらい。
といってもいろいろ知ってもらわなければならない事とか有るから、
今日はここで過ごしましょう。ここは、プールで、流れもないから大丈夫だけど、
外に出るとあなたも知っているとおり、体を支えたり、
踏ん張ったりしないといけないから・・・。
このプール、アクアノートの基地といったところで、
後ろの壁は倉庫になっていて、機材類が入れてあるの。
まずこのプールの中をゆっくり何周か泳いでみて。」
フィンをゆっくり動かし、泳ぎ始める。
普段していた水中マスクに比べ、ヘルメットが大きい分、
水の抵抗を首に感じるがどうといったことない。
何より呼吸が楽で息が上がらない。
「おじょうず、おじょうず。ま、あなたにいうのは失礼か・・・。」
344 :
82:2005/04/19(火) 00:04:10 ID:zOLkGGXR
「では、あなたの着けている装備と、その機能について説明しましょう。
外で説明しても実感わかないと思うから、具体的にこっちでしてね、
どうせ時間はいっぱいあって、退屈だろうからですって。
井上ドクター調子いいからね。」
井上さんってお医者さんだったのか。
優しいかんじだし丁寧な言葉使いなので、看護師さんか保健師さんかと思っていた。
「背中に着けている、ライフバッグには酸素ボンベ、
呼吸液タンクと加温装置が入っていて、
呼吸液は29度くらいに暖められスパゲテイスーツに最初に入り中を廻るの。
そのあとマスクで鼻から入って肺にまわり、口から出たあと、
ヘルメットの中や、スーツのすきまを通ったあと、
ライフバッグに戻って二酸化炭素の除去と酸素の追加がされ、また循環するのよ。
酸素ボンベは1.5リツトルの容量で200気圧の圧力で充填されているの。
普通の活動だったら13時間ぐらい持つわ。
一応12時間ごとに交換することになっているの。
普通のダイビングの空気タンクみたいに、空になってお終いというわけじゃなく、
循環式だからもう少しは大丈夫みたい。
でも体によくないからこの時間は厳守してるわ。
それから栄養液と尿回収バッグは、昨日から使っているからわかっていると思うけど、
12時間で交換ね。」
横森さん淡々と説明してくれる。
345 :
M.I.B.:2005/04/19(火) 01:02:14 ID:v7Sm1X/S
それからは学習とシミュレーションの連続だった。
「君を改造する準備が整うまでしばらくかかる。それまでに性能アップに勤しめ」
今まで全く知らなかった知識と様々な環境のシミュレーションで、あっという間に5日間がたった。
「周期的には明日が警戒日だな。警戒レベルを4まで上げろ」
移動中の私にも聞こえるような声で、指令が叫んでいた。
そう言えば、もう前回から9日も経っていたんだ。
アザーズはある程度の周期で活動している。襲撃はそれぞれの地区に順番に来る。以前は徐々に間隔が縮んでいたが、現在は各地区間では1日、各地区毎では10日間周期で固定している。
「明日はシミュレーションは無し。その代わり、他の2体の出撃を見て学習してもらう」
指令はそう言って、私にポッドへ入る様に促した。
ポッドから出ると、基地内は緊張感に包まれていた。
「02は到着したか?」
「カタパルト最終点検終了しました」
「武装のチェック怠るな」
様々な怒号が飛び交う中を移動し、管制室の予備シートに付く。
346 :
M.I.B.:2005/04/19(火) 01:03:38 ID:v7Sm1X/S
「警戒レベルを3へ上げろ。01、02は待機状態か?」
「はい、現在装備の最終確認中です」
モニターに2体のヴァルキリーが装備を確認している光景が映る。
「レーダー、予兆を見逃すなよ」
「はい」
日本地図が大きなモニターに映し出されている。
「レーダーに感あり。M県S市とN県N市です」
「S市はα1が3体、β2が3体です。N市はα2が3体、α3が2体、β2が5体です。」
アザーズ発見と共に様々な情報が飛び交う。
「S市は市街地、N市は郊外の農地に着地する模様」
「S市避難誘導が遅れています。N市は避難完了しました。」
飛び交う情報を黙って聞いていた指令が決断を下す。
「01は通常装備でS市へ、02はD型装備でN市へ出動」
その言葉に部屋中が一瞬静まり、また動き出す。
「01準備完了、いけます」
モニター上ではレール様な場所の上に01が移動する。背中には翼の様な物が取り付けられている。
「01出動!」
指令の声と共に、足元の機械が音を上げて動き始め、01の姿がトンネルの中に消える。
モニターが移り変わると、学院の裏山の中腹から01が飛び出し、機械でできた翼を広げ、背部のブースターが火を噴き、飛び去っていく。
「02準備完了」
声に反応するかのようにモニターが映り変わる。
巨大な銃を2門、両手に下げた真紅のい機体が真っ赤な髪をなびかせて入ってくる。髪を分け、背中に翼を接続する。
足を床の器具に接続すると、モニター横のシグナルがブルーになる。
「02出動!」
指令の声と共に真っ赤な髪をなびかせ、赤い機体は闇に消えた。
347 :
M.I.B.:2005/04/19(火) 01:05:57 ID:v7Sm1X/S
「01到着します」
オペレーターの声でモニターの画面が変わる。
グリーンの機体から翼が外れ、高層ビルの狭間の公園に降り立つ。
詳しい地図と敵のマーカーが表示されると、01は手近のマーカー目指して移動し始める。
ビルの1階、ブティックの中を動いていた真っ白な四足歩行の敵を発見すると、猛然と接近し、両手のハンドガンを乱射する。後に残ったのは穴だらけの機体だけだった。
続けざまに敵を打ち倒し、最後の1体の脳天に弾丸が吸い込まれると、そのまま倒れ伏した。
「敵全滅。周囲の索敵をお願いします」
優しそうだった彼女が発した言葉の冷たさになぜか悲しくなった。
「02到着」
オペレーターの声にメインモニターが切り替わる。
「α3が降下予定地点に存在。このままでは狙われます」
画像には近づく地面とミサイルポッドをこちらに向けた蜘蛛型のユニットが見える。
「このまま行くわ」
その声と共に両手に大型の銃を構える02。
切り裂くような爆音が響き渡り、発射したミサイルごとα3は蜂の巣になる。
周囲に建築物が少ないことを生かし、圧倒的な火力でアザーズを制圧していく。
10体いた敵は10分もしないうちに全滅する。
「終わったわ。この程度私には弱すぎるわ」
赤い機体は、さも簡単なことのように言い放った。
348 :
M.I.B.:2005/04/19(火) 01:09:36 ID:v7Sm1X/S
「状況を終了。01、02の回収を急げ」
管制室内の空気が緩む。
「お前もあれと同じように働いてもらうぞ」
席を立った指令が近寄ってきて話しかけてきた。
「私には、あんな凄いのは無理です…」
「無理でもやってもらう。お前の存在意義は奴等を倒すことだ」
「そんな…」
思わず言葉につまる私に追い討ちをかけるように指令が言い放った。
「明日にお前の改造手術を行う。最期の生身の身体の夜を堪能しておけ」
そう言い放つと、部屋を出て行った。
自分のポットに入るが、カバーを閉めずに考え事をしていた。
両親や入学式で友達になった久美ちゃん、入学以前から付き合っていた優太、様々な顔が浮かぶ。
「やだよ… サイボーグなんてなりたくないよ」
自然と涙が浮かんできた。これが私が流した人としての最期の涙だった。
349 :
M.I.B.:2005/04/19(火) 01:28:20 ID:v7Sm1X/S
おかしい…
後編なのに改造してないw
つーことで、次回 改造編完結編ですw
>>M.I.B. 様
乙です!いいですね、生身の女子高生としての最後の夜。サイボーグなんかになりたくないのに、いよいよ兵器に改造されてしまうんですね!可哀想で萌えます。改造シーンが楽しみです。
セーラーウェポンの時、意識を残されたまま施された改造手術の描写が激萌えだったので、期待してます!
M.I.B様
愉しみです。
ただ、戦闘に赴くシーンでミサトさんやらリツコさんを探しそうになります ;-P
尺にあわないからといっていきなり改造終了はご勘弁を。愉しみにしてますんで
M.I.B.様最高でつ!幼い女子高生がこれから醜く恐ろしい姿のサイボーグ兵器へと改造されてしまう。どんな酷い工程が待っているか、改造楽しみでつ。
M.I.B.様良いです 改造シーンは濃いのをたっぷりおねがいします
終わりはBADにはして欲しくないなぁ 少しBADよりのGOOD位のエンドでお願いします。
354 :
M.I.B.:2005/04/19(火) 21:23:44 ID:ZWBj2o6w
この手のSSを書いていて思うことで、エロシーンを入れるべきだろうかというのがある。
自分としては、女の子を改造してサイボーグにしたり、彼女達が自分の身体について色々考えたりするだけで十分抜けるんだが、
諸兄はどうだろうか?やっぱりエロシーンを入れるべきかなぁ?
エロ分はどっちでも、有ると嬉しい、無くても抜けるけど
>>354 エロシーンとそうでないシーンを分けて書き込むってのは?
それなら、エロ嫌悪な人でもその部分だけ手元で消去できるし。
(ホットゾヌの場合)
>>M.I.B.様
漏れも
エロシーンなんか無くても、改造シーンや機械として酷使されたり破壊されたりすることで十分ヌケるので、今のままでいいです。
ハッピーエンドキボンヌの声もありますが、気にせずM.I.B.さんの好きなように書いてください。それがいちばん萌える話になるに決まってます。
因みに漏れは少年ジャンプみたく最後を綺麗ごとにまとめられるのは萎えです。
358 :
82:2005/04/20(水) 00:18:31 ID:Vyynd9PE
「そうだ、パネルを押して表示を変えて、確認してみてね。」
ボタンを押すと、「−007M」水深はあたりまえだ。
もう一度押すと「08H35MIN」呼吸液用酸素の残りも大丈夫。
もう一回押して「 U: 09H45MIN E:09H37MIN」こちらも大丈夫。
さらに押すと表示が消えた。この方が少し落ち着く。
"せんせい"に「全部大丈夫です。表示どうします。」と書くと、
「時刻を出しておいて」と横森さん。
「16:12」まだ昼下がり。長い1日だ。
脇から二人のアクアノートが寄ってきた。
ヘルメットを見ると「H」の橋口さん、「N」の西野さんだ。
「まだいっぱい時間があるから、これからの予定から話しましょう。」
話しかけてくるのはやっぱり横森さんだ。
359 :
82:2005/04/20(水) 00:19:35 ID:Vyynd9PE
「まず一日のスケジュールね。
水深が深くなると、ほとんど真っ暗で昼夜関係ないけど、
地上との連絡などを考え原則として20時30分就寝、5時30分起床なの。
9時間睡眠時間とってあるから充分でしょ。
そして体の状態をセルフチェックして、6時半までにUボトルとEボトル
それに呼吸液用酸素ボンベの交換をして、活動開始って訳ね。
どれも12時間以上は持つから、夕方までマイペースで活動できるわ。時にはお昼寝も。
移動はポッドという一人乗りの小型調査艇で出かけるの。
そんなにスピードは出ないけど、移動距離にして10キロ位は出かけられるから、
長いときは、10日以上一人でポッドを操縦して出かけることもあるわ。
酸素ボンベや、ボトル類も2週間分ぐらい積み込めるから、
出かけっぱなしでも大丈夫なの。
ポッドで出かけているときは、夜はポッドから錨を出して岩場などに固定して、そのそばで寝るの。
まあ水中キャンプって所ね。
そうそう、寝るときだけど、スーツの上下をつないでいる、
腰のリングについているフックをロープでポッドや、ここでは壁のフックと必ずつないでおくのよ。
特に外洋では流されて、朝目が覚めたら、とんでもないところに行ったりしたら大変よ。
360 :
82:2005/04/20(水) 00:20:39 ID:Vyynd9PE
あとライフバッグの充電も夜のうちに一緒にしておくの。」
横森さんの話を聞いていると、アクアノートって水中を
自由に駆け回っているって感じで、なんかわくわくしてきた。
"せんせい"に「すごーい。かっこいい。」って書いてしまった。
「清水さん絶好調ね。それなら明日は、ポッドで海に出て、
潜水調査艇のところまで行ってみましょう。
本来は、ポッドは一人乗りだけど私ので一緒に出かけましょう。
どちらにしても、今回は、体験だから、
みんなで面倒見てあげるから心配しなくても、大丈夫よ。」
西野さんが「清水さん、もうずっとこっちにいた方がいいくらいかもね。
明日は潜水艇泊まりでもいいんじゃなぁい。」と声をはさんできた。
橋口さんも「そうね、では今夜のうちに少し手配しておかないと。」
話はどんどん進んでいく。
少し不安もあるけど、ここまで来たら体験できることは、できるだけやっておこう。そんな気分になってきた。
361 :
前444:2005/04/20(水) 02:08:14 ID:smZQblwI
私、 ずいぶんみっともなく転んじゃったから、 普通だったら、 みんな大丈夫なのって心配してくれながらも、 きっと、
あきれてくすくす笑ったりするはずなんだ。 でも今に限っては、 誰もクスリとも笑わない。 私のせいで場が凍っちゃった。
しょうがないから「私って馬鹿ですよね。ははは」って、 自分で自分を笑ってから、 まわりを見回してみたけど、 やっぱり
誰も笑わない。 誰も私に声をかけてくれない。 ただ強張った顔で黙って私のことを見つめるだけ。 みんな気がついちゃった
んだろうか。 私が機械仕掛けのお人形さんだってこと、 分かっちゃったんだろうか・・・。
・・・そうだよね。 大の男の子に腕相撲で勝っちゃう女の子くらいだったら、 まだ可愛げがあったかもしれないよ。
まだね。 でも、 鉄でできた机をぐんにゃりひん曲げちゃうのは、 可愛い女の子には絶対できないよね。 それどころか、
どんなに屈強な男にだってできないよね。 人の皮を被った機械にしかできないことだよね。 私、 何かみんなに向かって
言い訳しようとしたんだけど、 やっぱりやめた。 だって、 今更何をどう言いつくろえばいいんだろう。
「姐ちゃん、 大丈夫か」
ようやく猪俣さんが、 ひっくり返った私に手を差し伸べてくれた。 でも声が擦れてるんだ。 やっと絞り出してる
みたいな声なんだよう。 無理して優しくしてくれているんだろうか。
「いいです、 自分で立ち上がれますから」
私何も考えずに、 差し伸べられた手を見て、 つい反射的にそんな言葉を口にしちゃった。 無意識のうちに猪俣
さんの優しさを冷たく拒絶しちゃったんだ。 きっと普通の女の子だったら、 こんなとき素直に男の人の手を借りている
んだろう。 でも、 私はこんな身体になってしまってもう長い年月が過ぎてしまった。 優しさを素直に受け止められる
身体ではなくなってしまってから、 余りにも時間が経ちすぎていた。
362 :
前444:2005/04/20(水) 02:09:12 ID:smZQblwI
私の身体は機械仕掛けだからとても重いんだ。 だから、 立ち上がるのに人の手を借りることなんてできやしない。
だって、 そんなことしたら私の身体のことばれちゃうもん。 義体になりたてのころそうやって何度かバレそうになって
ヒヤヒヤして、 そうこうするうちに私は自然に、 今みたいなときに男の人の救いの手を拒絶するようになっちゃったんだ。
私は悲しいよ。 無意識のうちに機械の身体っていうことが頭の中に染めつけられて、 男の人の当たり前の優しささえも
反射的に拒絶するようになってしまった自分が悲しい。 それに、 私が猪俣さんの手を握ったら、 猪俣さんの手を潰し
ちゃうかもしれない。 だって、今の私は150馬力の機械だから。 猪俣さん、 いいんです。 私は貴方を騙した卑怯な
機械女なんです。 そんなに優しくしてくれなくてもいいんですよ・・・。
立ち上がってあらためて机を見る。 真ん中からぐにゃりとくの字に曲がった机は業務用のごっつい鉄製。 これ、
私の仕業なんだ。 冷静に考えて、 人間の力で、 こんなふうに曲げることなんてできっこないよね・・・。 目の前の
ちょっと前まで机だった鉄の塊を見て、 私は150馬力って力を軽く考えすぎていたことを後悔するばかり。 もう全てが
遅いんだけどね。
みんなが、 恐る恐る私と、 壊れてしまった机の周りに近寄った。
「こ、 この机、 古くなっていたのかもしれないね」
野中さんがなんだかひどくあわてたように言った。
「そうそう、 古い机だったら、 自然に壊れることだってあるよ」
と言ったのは石塚さん。 この二人がそんなふうに言ってくれるなんて思ってもみなかった。 だから、ひょっとして
うまくごまかせるかもしれないって一瞬期待したんだけど、 でも、 やっぱり甘くなかった。
「いや、そういう問題じゃないだろ、コレは」
小林さんはしゃがみこんで、 見事に折れ曲がった机の足をつついた。 他の男の人達も、 私と机を交互に興味深そう
に見比べている。 みんなの眼が、 お前がやったんだろって言ってる。 ひょっとしたらそういうつもりはないのかも
しれないけど、 私にはそうとしか受け取れない。 やめて、 やめて、 やめてよ、 みんな、 そんな眼で私を見ないで
よう。 お願いだよう。
363 :
前444:2005/04/20(水) 02:09:52 ID:smZQblwI
私はみんなの視線に気おされるように後ろに下がった。 気がついたらすぐ後ろが壁だった。
「ひょっとしてヤギーさん・・・」
山本君が恐る恐る口を開いた。
「実は超能力者だったとか?」
山本君の間抜けな問いに、 ようやく何人かが軽く笑った。 でも、 私は笑う余裕なんてないし、 山本君の質問とも
いえないような冗談じみた問いかけに答えることもできない。 山本君の眼だってまともに見ることができないで、
ただうつむくばかり。 本当に超能力者だったらどんなにいいだろう。 だって、 超能力者だって、 生身の人間だもの。
身体は普通の人と変わらないもの。 でも、 私は・・・。 私は・・・。
「相変わらず馬鹿だなあ。 もっと現実的なことを考えろよ。 例えば――」
「ヤギーちゃんがなんだっていいじゃないか! ヤギーちゃんはヤギーちゃんだ! やめよう、 こんな話つまらないよ!
もうやめよう!」
野中さんが、 叫ぶようにそう言って、 無理やり小林さんの声をさえぎった。
その時だ。
「痛いっ!」
いきなり私の右足の付け根からポンって何かが弾けたような音がした。 同時に右足から針で刺されたみたいな鋭い
痛みを感じて、私は思わず悲鳴を上げた。 それきり私の右足は力を失って、 バランスを崩してた私は床に倒れこんだ。
>>M.I.B.さんの好みからして、ハッピーエンドを希望するのは自分の都合というか、無理ヤリだろう。いいじゃん、M.I.B.さんのヌキたいように書いてもらえば。
365 :
前444:2005/04/20(水) 02:26:11 ID:smZQblwI
>>354 やっぱり入れるとしたら、サイボーグならではってシーンを演出して
ほしいと思います。具体的には前389氏が書いていたようなやつ。
どうでしょうか?
うーん 誰もハッピーED希望しとらんのだが。
ダークと言うか救いの無いな終わり方はが好きで無いだけですが。
まあ希望を言ってるだけですから
367 :
鬼畜系 ◆vWH2NR6MyY :2005/04/20(水) 11:02:47 ID:sJKMyZE9
>>366 オレも 平和になったあと売春宿に払い下げ とかきぼんぬ
368 :
前580:2005/04/20(水) 19:55:50 ID:MZal9tlp
>>361 追い詰められた八木橋さんの独白、哀しすぎます…。
このまま義体なことがばれちゃうんですか? しろくま便の皆さんだけじゃくて、
大学の後輩の山本君もいるのに。
神様、どうか救いの手を。もうこれ以上、八木橋さんに辛い思いをさせないでくだ
さい。
しろくま便の皆さんなら、そして前444氏なら、決して BAD END にしないと信じて
います。でも、続きが気になって、何も手につきません。今までになく、続きを待
つのが辛いです…。
>>366 平和になったら用済みで解体後廃棄処分。
あるいは少女の改造という非人道的行為を隠匿するため廃棄処分。
370 :
前444:2005/04/21(木) 00:45:03 ID:ieCAaaMZ
”右足駆動モーター損傷”
大きく地面のタイルを映しこんだ義眼の視界の中に目障りなほど真っ赤な文字が表示される。サポート
コンピューターから流れた警告文だ。 起き上がろうとして、 右足が全然動かないことに気がついた。 何が
起こったんだよう。 私の右足、 いったいどうしちゃったっていうんだよう。
それでも、 私は残った左足と両手を使ってなんとか身体を起こそうとしたんだ。 そうしたら、 今度は
右手の付け根から、 さっきと同じようなこもった破裂音がして、 右腕に激痛が走った。 作り物の身体の
くせに痛覚だけはやけにリアルに身体の中の電線を走って私の脳を苛めるんだ。 やっと上半身だけ起こした
っていうのに、 また私は痛さに呻いて、 下手糞なあやつり人形みたいにぶざまにうつぶせに地面に倒れた。
右腕ももう動かなくなっていた。
”右手駆動モーター損傷””バッテリー残量50%・節電モードに移行””義体体温異常上昇”
私のサポートコンピューターは容赦のない冷静さで、 私の視界の中に真っ赤な文字を送り込む。 コン
ピューターからの情報なんだもん、 きっと、 今の私の身体に起こってること、 正確に伝えてくれているん
だろう。 でも、 その情報を受け取る私はただの凡人の脳みそなんだよう。 そんなに一度にいろんなこと
言われても、 私馬鹿だもん、 何がなんだかわからない。 何をすればいいのか分からないよう。 なんで、
そんな早く節電モードになっちゃうの? 義体体温異常上昇って何なのさっ! 私の身体どうなっちゃうの。
もう、 どうしていいのか全然分からないよう。 きっと、 慣れない150馬力なんか出したからだ。 普段の
何十倍もの出力を無理やり出したから、 身体中がおかしくなっちゃったんだ。 こんなことなら、 義体の
説明書、 嫌がらないでよく読んでおけばよかった。 こんな身体のくせにメカに弱い私だから、 いざって
ときどうすればいいのか頭が混乱するだけで、 さっぱり分からないよ。 どうしよう。 このまま身体が
壊れて、 私死んじゃうんだろうか。 嫌だ、 嫌だ。 私死にたくない! 藤原、 助けて! 松原さん、
助けて! とにかく病院に行かなきゃ。 とにかく病院に・・・。
371 :
前444:2005/04/21(木) 00:46:47 ID:ieCAaaMZ
まだ動く左足と左手で、 なんとか壁にもたれるように立ち上がった私。 もうみんなにどう思われて
いるか、 どう見られているかなんてことを気にしてなんかいられない。とにかく外に出て病院に行く、
頭の中はそればっかりだった。 こんな状態で外に出てもそのあと府南病院までどうやって行くつもり
だったんだろうね。 馬鹿だよね、 私って。 でも右足も右腕も動かない不自由な身体で気ばかり焦っている
ものだから、 びっこで二三歩も進まないうちに、 また前のめりに倒れちゃったんだ。
私はもう恥も外聞もなく、 かろうじて動く左手と左足だけで、 必死に事務所の出口に向かって芋虫
みたいに這いずった。 着ている作業服も顔も髪の毛だって、 きっと床に落ちてる砂埃で、 汚れちゃった
だろう。 でもその時は、 必死だったから薄汚れてみっともないなんて気にしている余裕はなかったんだ。
「ヤギーちゃん! 大丈夫? 大丈夫なの?」
私の様子を見かねた野中さんが、 血相をかえて駆け寄って、 私の身体を抱き起こそうとしてくれた。
だけど、 私の身体に触れたとたんびくっとして手を引っ込めた。 自分じゃよく分からないけど、 普段の
何十倍もの力を出しているんだもの、 きっと排熱量だって半端じゃないんだろう。 義体体温異常上昇って
いうからには、 人間だったらとてもありえないような高熱を出しちゃってるに違いないんだ。
「ヤギーちゃん、 すっごい熱だよ。 どうしたの。 ヤギーちゃん、 どうしちゃったの?」
「右手と右足が動かなくなっちゃったんだよう。 義体の体温が異常に上がってるんだよう。 もう私何がなん
だかわからないよ。 私、 早く病院に行かなきゃ」
あわてすぎて、 思わず義体の体温とかまずい単語を口走ってしまう私。
372 :
前444:2005/04/21(木) 00:47:43 ID:ieCAaaMZ
「ヤギーちゃん、 病院ってどこに行けばいいの? 普通の病院じゃ駄目なんでしょ」
普通の病院じゃ駄目、 そういったときの野中さん、 とても悲しそうな顔だった。 きっと野中さんは
私の正体を薄々気がついてはいたんだ。 そして多分石塚さんも。 でも今まで黙って気がつかないふりを
してくれてたんだろう。 さっき二人が私を庇ってくれたのはそういうことだったんだね。
「ふ、 府南病院です。 あの、 野中さん、 ひょっとして私の身体のこと知ってたの?」
「ふふふ、 せっかくの美人さんも泥だらけじゃ台無しだよ。 府南病院だね。 よし、 行くよ! ヤギー
ちゃん安心して。 私がヤギーちゃんを病院に連れて行ってあげる。 すぐ車を出すからね!」
野中さんは私の問いかけには答えるかわりに、 砂埃で汚れた私の顔をハンカチで拭いて、 ずり落ち
ちゃった眼鏡もちゃんともとの位置に戻してくれて、 子供をあやすみたいに優しくそう言ってくれた。
それではっきり分かったよ。 野中さんは、 私のこと知っていた。 でも、 いままで全然知らない振りを
して普通に接してくれてたんだね。 有難う。 本当に有難う。
「俺が車まで運ぶ」
いままでずーっと黙って事の成り行きを見守っていた猪俣さんが、 突然のっそりと近寄って、 私の
身体を持ち上げようとして、 あまりの重さに顔をしかめた。 それでも、 さすがは猪俣さん、 結局は、
あの丸太みたいな太い両腕で私を抱え上げちゃったんだ。
「姐ちゃん、 ずいぶん重たいんだな」
「ごめんなさい・・・」
「いちいち謝らなくてもいい。 つらいか? 頑張れよ」
猪俣さんは、 両手に抱えた私を見下ろしながら、 そう言って私のこと励ましてくれたんだ。
つらいのは私じゃない。 私は右手と右足が動かないだけで、 身体の痛みなんかとっくに消えてる。
本当につらいのは120kgの私の重い身体を両手で抱えている猪俣さんじゃないか。 私はあなたを
騙したんだよう。 なのに、 なんでそんなに優しいんだよう。 私困っちゃうよ。
373 :
前444:2005/04/21(木) 00:53:16 ID:ieCAaaMZ
「猪俣さんごめん。 ヤギーちゃんを私のトラックに運んで! 山本君もぼおっと突っ立ってないで
猪俣さんを手伝う!」
野中さんの叱咤に山本君、 弾かれたように動き出して、 猪俣さんを手伝って私を支える。
コラ、 山本、 それはいいんだけど、 どさくさにまぎれて変なところは触るなよ。 いくら機械の
身体だって、 やっぱり恥ずかしいのは恥ずかしいんだからね。
「ヤギー、 頑張って。 大丈夫だよ。 病院に行けば、 きっとすぐよくなるよ」
石塚さんは、 私が猪俣さんと山本君に抱えられて、 しろくまトラックに運ばれる間中、 私の
動かなくなった右手を握り締めて、 ずーっと私を励まし続けてくれた。 石塚さんも、 私のこと
知っていたんだよね。 これからも、 今までどおり、 恋の悩み相談とかできるよね。
私は、 トラックの後部座席に運びこまれて寝かさせられた。 山本君は私が寝たおかげで座る
スペースがなくなっちゃったから、 前の座席と後ろの座席の間にしゃがみこんだ。 前の補助席には
巨漢の猪俣さんが陣取った。
「さあ、 思いっきり飛ばすよ! みんな、 しっかりつかまってるんだよ」
野中さんは思い切り良くドアをしめると、 いつものように威勢よく腕まくりをしてから、 ハン
ドルを握り締めた。 そしてアクセルを勢いよく踏み込んだんだ。
野中さんはヤギーさんの働きぶりを見て、秘密にうすうす気付いたかも
しれません。でもきっと、知らん顔して普通に接していたんでしょうね。
間違ってたらごめんなさい。
このスレ、楽しくバラエティに富んだ話と、いろんな書き込みでほんと
おもしろすぎるよう。
374 書き込みのタイミングずれました。
376 :
前580:2005/04/21(木) 22:07:35 ID:egIanB8W
>>370 うぅ…壊れちゃった八木橋さん、痛々しいです…。
でも、よかった。野中さんも石塚さんも、義体なことを知っていながら、普通に接
してくれていたなんて…。言葉だけじゃなく、行動に現れた優しさが、嬉しいです。
野中さんの労りも、石塚さんの励ましも、猪俣さんの優しさも、涙が出るほど嬉し
いです。
いままでの辛い経験から、秘密がばれることにずっと怯えていた、八木橋さん…。
でも、人間離れした姿を見せた後でさえ、八木橋裕子という一人の人間として、変
わらずに接してくれる人が、こんなにいたんです。なんて嬉しいことか!
これも、八木橋さんの、機械ではない、人間として精一杯がんばって生きる姿を見
てきたからなのでしょう。神様の救いの手なんて、いらなかったのですね。
身体の異常が、これ以上酷くならないことを祈ります。無事に病院にたどりつける
でしょうか。そして、その先に、どんな感動的なお話が待っているのでしょうか…。
前444氏、素晴らしいお話をありがとうございます。
377 :
M.I.B.:2005/04/21(木) 22:52:38 ID:trhAEn/d
今日は改造シーンなので微グロです。
注意してください。
378 :
M.I.B.:2005/04/21(木) 22:53:07 ID:trhAEn/d
目が覚めると、ポットの前にはマシンガンで武装した兵士を従えた小林博士が立っていた。
「お目覚めかね?ノルン03。さあ、手術台がお待ちかねだ」
にやにやと笑いながら、こちらを見下ろしている。
「嫌、サイボーグなんてなりたくない」
私はポットの中で縮こまって、拒絶の意思を示す。
「君の意思など関係ない。」
博士の言葉と共に激痛が走り、私は意識を失った。
「生命維持装置正常稼動、バイタル安定、素体覚醒します」
再び目が覚めると、そこは何時かの手術台の上だった。天井にはライトが並んでいるが、私の真上には磔にされている私の全身が映る巨大な鏡があった。
「さて、もう逃げることは出来んぞ。大人しく改造されるんだな」
博士の言葉に、叫び返そうと思ったが声が出ない。それに首から下を動かすことも出来ない。
「声と首から下の自由は奪わせてもらった。手術中に叫ばれたり、動かれたりすると困るからな」
博士を中心に手術着の男達が私を中心に集まってくる。
「君にはこれから自分がどんな存在になるかしっかり見てもらう。なに、首から下の痛覚は遮断してあるから安心したまえ。首に繋がった生命維持装置があるからゆっくりやろうか」
そう言い終わると、手に持ったメスを振りかざし宣言した。
「これより、ヴァルキリー03の製造を開始する」
379 :
M.I.B.:2005/04/21(木) 22:53:49 ID:trhAEn/d
切り裂いた腹から内臓を取り出す。保険の授業で習った様々な臓器が切り取られ、その度運び出されていく。
「見たまえ、これが君の心臓だ」
中身が無くなっていく身体から脈打つ心臓を取り出し、身体に繋がる血管にメスを当てる。
(やめて。そんなことをしたら死んじゃう!)
その姿に私は文字通り心臓を摘まれたような思いだ。
「はは、脈拍が上がったようだ。だが君にはもう不要なものだ」
それ以外の臓器と同じようにシャーレ上に放り出され、助手と思われる人が持ち去っていく。
「次はここだな」
そういって指したのは、私の陰部だった。
(いや、止めて!)
私の思いも空しく、博士は下腹部にメスを走らす。
「おや、処女膜が残っているな。これは可哀想な事をした」
切り裂かれた部分を見ながら、感情がこもらない声で言う。
「だが、これも兵器に不要だ。しかも移植用にも使えないな」
そう言うと、足元の箱に投げ捨てた…
380 :
M.I.B.:2005/04/21(木) 22:57:45 ID:trhAEn/d
30分もしない間に私の身体は何もない空っぽになっていた。
すると、部屋の隅から台車に乗った機械のパーツが私の横に運ばれてくる。
「さて、これからが本番だ」
私の身体に残っていた部分を利用して機械の組み立てが始まる。
背骨を中心に金属製の内骨格が形成される。
それを取り巻くように、金属製の様々なパーツを組み込んでいく。
「さて、先程の心臓の代わりにこれをくれてやろう」
そう言って博士が取り出したのは、丸い球のような形のパーツだった。
「これはお前の動力炉だ」
数分で組み込み作業は終わり、助手に合図を送ると動力炉が起動し、周囲のパーツが動き始める。
(ああ、これが私の身体なの…)
自分の身体が機械に置き換わってしまったことを実感する一瞬だった。
さらに作業は続き、筋肉や表皮は取り去られ、代わりにマッスルパッケージと金属製の外骨格が私の身体を覆った。
「ふう、第一段階は終了だ」
手術着の男達が下がった後、鏡に映っていたのは、首から下がブルーの金属のボディーに造りかえれた少女の姿だった。
「気分はどうかね?素晴らしいだろう」
博士が満足げに話し掛けてきた。
「声は出るようにしてある、感想を聞かせてくれないか?」
「嫌… お願い、元に戻して…」
「それは無理だよ。君の身体はバラバラだ。臓器も移植用に使われるんだ」
「そんな… 酷すぎる…」
私は、博士の絶望的な言葉に打ちのめされる。
「さあ、次は第二段階だ。頭部を兵器相応しいものに改造するぞ。これが終われば君は完成だ」
「嫌よ! もう止めて!」
思わず悲鳴を上げるが、そのまま意識は闇の中に落ちていった…
381 :
M.I.B.:2005/04/21(木) 22:58:26 ID:trhAEn/d
ヴァルキリー03データ確認…
OS… OK
動力炉… OK
ボディー制御プログラム… OK
音声入力プログラム… OK
画像入力プログラム… OK
機体起動… OK
闇の中にいくつかの文字が躍る… いや、画像じゃない。意識の中に別の人がしゃべっているようだ。
程なくして目が開くと、そこは手術台の上だった。
(私は… [私はヴァルキリ−03])
急に意識の中に割り込む感覚がする。
(そうだ、ヴァルキリー03だ。…ちがう! そんなんじゃない。私は御堂さくら)
奇妙な感覚だった。直接意識に刷り込んでくるような感じがする。
「無事、起動したな。よし自分の名前を言ってみろ」
「私はヴァルキリー03です」
博士の言葉に、思わず口にしてしまう。
「よし、制御装置の調子は良好のようだな」
「制御装置?」
博士の言葉に、恐ろしいものを感じる。
「お前達ヴァルキリーシリーズの脳には制御用のコンピューターが直結されている。こいつはデータの収集と機体制御、そしてお前達を兵器として相応しい様に強制する機能がある」
「そんな…」
382 :
M.I.B.:2005/04/21(木) 22:59:05 ID:trhAEn/d
「他の部分はどうだ?」
言われて、いくつかのことに気付く。
部屋中の音が聞こえるのだ。小さな足音、キーボードを叩く音。しかも明確に聞き分けることが出来る。
さらに、薄暗いはずの部屋の中が明るく見通せる。データは部屋の中の明度が低いことを示しているのにも関わらずだ。
そして、髪の色がボディーカラーと一緒のブルーに変わっていたのだ。
「どうやら、十分のようだな」
手元のPCでデータを見ていた博士は頷きながら言う。
「これからは十分働いてもらうからな、03。」
言いながら助手に合図を送る博士の言葉を聞きながら、もう一人の私の声を聞いた。
[ヴァルキリー03、シャットダウンします]
その声に抗うことも出来ず、私は瞳を閉じた。
383 :
M.I.B.:2005/04/21(木) 23:12:01 ID:trhAEn/d
改造編終了です。
長かった…
思いついたものを適当に追加していくうちに、気が付けばこんなに長々とw
次回は現在に戻って、学校と彼氏の日常編を1話で。
(1話で終わればいいなw)
384 :
82:2005/04/21(木) 23:35:38 ID:RTeCLg+w
「では明日に備えて、装備のチエックと交換をしましょう。」
横森さんが少し事務的な声に戻って壁の倉庫の方に移動し始めた。倉庫の扉を開けながら、
「まずボトル類の交換ね。」
横森さん、私のスーツの胸の操作パネルのカバーを開け、ボトルを取り出した。
黄色い液が半分くらい溜まっている。
うっと、恥ずかしさを感じたが、横森さん、事務的に代わりの
空ボトルを倉庫の棚から取り出し、私の胸のパネルに取り付けた。
「まだまだもつけど、もう夜になって眠っちゃうから、今代えないといけないのよ。次にEボトルね。」
私の戸惑った表情の意味を誤解しているみたい。
ここの人たち、Uボトル、「おしっこ」というより、もはや生命維持のための一つのパーツという感じなのね。
やはり半分くらいの液が残っていたEボトルをはずすと、倉庫から白い液の入ったボトルを出して取り付けてくれた。
「次は酸素ボンベね。」
背中のライフバックのカバーをはずし、ボンベをはずした。
一瞬泡が出たが、すぐに収まった。新しいボンベを取り付けるときにも泡が出た。
「これって、遠出したとき、一人でやるのって結構大変なのよ、ライフバッグを外したり付けたり・・・。」
普通のダイビングでも水中で空気タンクを付け替えるのはプロ級の技だ。
みんな訓練を積んだプロなんだって感心した。
385 :
82:2005/04/21(木) 23:36:31 ID:RTeCLg+w
「一応、表示を切り替えて残り時間をみてね。」横森さん淡々と指示してくる。
確認したあと時刻表示に戻すと、19時を過ぎていた。
西野さんと橋口さんは「ではまた明日の朝。」といって、どこかへ出かけてしまった。
二人きりになると、横森さん倉庫の別の扉を開けて、
フックの着いたロープとケーブルを取り出してきた。
「これで体を留めて、おやすみなさい。あとは好きな姿勢でふわふわしてると、眠くなるんじゃない。」
ロープでスーツの腰のリングと壁のフックを留め、充電ケーブルも接続し
力を抜いた姿勢でいると、心地よい気分になってきた。
ゆっくりした呼吸、音もしない・・・。
・・・・・夢を見た。
何かふわふわした暖かい気分、これが母の胎の中というのだろうか。
ふっと目をあけるとプールの薄暗い照明の中、隣に横森さんも浮かんで寝ている。
その表情は、恍惚としている。
もうこの人は、海中が自分の住みかだと、悟りきっているのだろうか・・・・・。
386 :
M.I.B.:2005/04/21(木) 23:42:53 ID:trhAEn/d
エロシーンに関してですが、自分は苦手なので希望が無ければ無い方向で…
と思っていたんですが。
まあ、気が向いたらチャレンジということにします。
387 :
82:2005/04/21(木) 23:47:41 ID:qQsh9LxC
>>377-382 M.I.B氏ご苦労様です。
最初に微グロといわれたので覚悟していましたが、
とりあえずは宣言通りおとなしめでしたね。
>>373 前444氏
ヤギーかわいそう、治療代が心配です。
10万円の賭どころではなくなりましたね。
こちらは、なんか描写が細かくなり、なかなか進まず、じれったいと
お思いの方が多いのではないかと思います。説明が多くてすみません。
もうすこし体験編水中描写が続きますが、清水はもうすぐ決心して、
雇用契約書を交わしますので少々お待ちください。
>>344 「呼吸液は29度くらいに暖められ」
とかきましたが、ある方からの指摘もあり、確認しましたところ
37から38度くらいに暖められないと
水中に長時間滞在すると体温低下を来すので訂正いたします。
この前、物置整理したら激殺宇宙拳が何冊か出てきたがあの4人の話は今でも良いわ、しかし足りないの手に入れたくても全然見つからないよな。
389 :
前389:2005/04/22(金) 01:12:33 ID:rG7LJ01k
>>前444氏
助けてくれる周りの皆さんのなんと親切な事か…本当にハートフルなお話です
>>M.I..B.氏
さすがです。 S全開で容赦ないです。
エロの件、気が向いたらでいいと思います。
>>82氏
生理的なものをパーツみたいに扱うあたりがいいですね。
作ると宣言してから大分かかってしまいましたが、
ガジェットの保管庫ようやく完成です。
ttp://kofu.cool.ne.jp/tram/ よろしくおねがいします
>>M.I.B.様乙です!!勃起しっぱなしでした。エロシーン以上にエロいです。幼い肉体が遂に兵器に改造されてしまいましたね。萌えます!
漏れもオーディーンに入って女子中高生を改造したいでつ。w
M.I.B.さんネ申です。やはりサイボーグ萌えの原点はいやがる少女を無理矢理改造!また別の子の改造シーンもおながいします!
乙
393 :
前444:2005/04/23(土) 02:05:54 ID:lmDg996a
「ヤギーちゃん、 具合はどうなの」
トラックが高速道路に入って、 ようやく一息ついた野中さんが、私に言った。 もちろん前を見ながら、 だけどね。
「右腕も右足も壊れちゃったから全然動かないけど、 痛みはもうないです。 どうせ痛みなんて一瞬でひいちゃう、
にせものの痛みですから。 身体も安静にしていれば、 これ以上体温が上がることはないみたいです」
「そう、 良かった」
そう、 壊れた右手と右足は動かないままだけど、 トラックの後ろの座席で横になって身体を動かさないでじいっと
していれば、 もうさっきみたいには体温が上がらないことに気がついて、 私はちょっとほっとしたんだ。 無理に身体
に力を入れずにじーっとしていれば、 今より義体の状態が悪化することはなさそう。 つまり力の加減をうまくコント
ロールする術さえ知っておけば、 こんな馬鹿げた怪我は避けられたんだろう。 きっと 、茜ちゃんならそのへんの
ところは上手くやれてるはずなんだ。 でも、 150馬力の身体を生まれて初めて体験する私に、 力の加減をコントロール
することはやっぱり無茶な話だよね。 で、 常に身体に負荷がかかりっぱなしになってこんなことになってしまったん
だろう。 ああ、 馬鹿だなあ、 私って。
そうやって、 気持ちが落ち着いてくると、 今度は自分の身体のことが、 みんなにバレちゃったっていう別の恐怖が
心の奥底から湧き上がって来た。 もうすでに知っていたらしい野中さんや石塚さんは別として、 私の身体が機械って
ことがバレて、 それでも他のみんなが今までと同じように私に接してくれるなんて、 とても考えられない。 機械女
だって思われながら、 みんなの好奇の目線を浴びながら働くことなんて私にはとても耐えられそうにないよ。 でも、
今日のこれまでの私の不自然な行動とか言動を考えれば、 もうごまかすことのできるレベルなんてとっくに越えちゃっ
ているのは明らかなんだ。 何も言わずに曖昧にごまかして、 後で人からひそひそ後ろ指を差されながら働くよりも、
ここで自分の口から堂々と告白して、 もう二度としろくま便には行かない、 みんなには今後一切会わない。 そう
しよう。 そうしたほうがいいんだ。 私は覚悟を決めた。 お別れです。 今まで本当に有難う。
394 :
前444:2005/04/23(土) 02:07:36 ID:lmDg996a
「もうみんな、 私の身体のこと分かっちゃいましたよね?」
みんな何も答えない。 一様に黙り込んだまんま、 車内にはトラックのエンジンの音が空しく響くだけ。 みんな
気を遣ってるつもりなのかもしれないけど、 でも、 何も答えてくれないってことは分かっちゃったって言ってる
ことと同じなんだよ。
「私の身体はみんなとは違うんだ。 外見は同じに見えるかもしれないけど、 私の身体は全部機械なんです。 機械
仕掛けのお人形さんなんですよ。 だから、 どんなに働いたって疲れることなんかないし、 猪俣さんに腕相撲で勝て
たのだってそのせいなんです」
こうやって告白するのは何度目だろう。 今まで、 身体のこと隠していて、 でもそれがばれて、 自分で自分の事を
こんなふうに言わなければならないのは、 本当につらくいことだ。 覚悟は決めたって言っても、 何度やっても慣れ
そうにないよ。 ホント。
「機械仕掛けのお人形さんって、 ヤギーさんロボットだったんだ。 だから、 いつも一人で重いものを持ち運べるし、
どんなに運動しても疲れなかったんだ。 俺のこと、 トンパチまで背負って走っても平気だったんだ」
山本君だけは、 本当に何も気がついていなかったのかなあ、 今はじめて気がついたっていうふうに、 私の顔を
まじまじと見て、 そんなこと言うんだ。 しかも言うにことかいて、 私のことロボット呼ばわりかい。 悪気なんて
全然ないから憎めないんだけどさ、 ホントに馬鹿だよね。 コイツ。
「違うよ、 山本君。 私はロボットなんかじゃない! ロボットなんかと一緒にしないでよう。 身体は機械かもしれ
ないけど、 それでも私、 やっぱり人間なんだよう。 八木橋裕子っていう女なんだよう。 戸籍だってちゃんとある
んだからね」
395 :
前444:2005/04/23(土) 02:09:20 ID:lmDg996a
もう今更、 プライドも何もないんだけど、 ロボットと間違えられるのだけは嫌だったから、 私、 とても
悲しくなった。 でも、 よくよく考えたら山本君が勘違いするのも無理はないよ。 いくら私はロボットと違って
脳みそがついてるっていったって、 そんなの自分だけが知っていることで、 私の外見に使われている技術は基本的
にはロボットと一緒なんだもの。 それに最近は人工知能も発達しているから、 ロボットの中にはほとんど人間と
変わらない反応をするやつもあるっていうし。 どっちかっていうと暗いイメージが先行して、 触れてはいけないもの
扱いされているサイボーグと違って、 ロボットは明るい話題と結びつきやすいし、 マスコミもさかんに取り上げるし、
結構いろいろなところに進出してきているから、 全身義体のサイボーグよりずーっとメジャーな存在だよね。 義体
メーカーのギガテックスだって、 世間的には義体メーカーっていうよりロボットメーカーとしての認知度のほうが
高いくらいだしね。
「全身義体のサイボーグってえやつだな。 そういう人もいるってことは知ってたが、 実際に会ったのはお姐ちゃんが
はじめてだ。 俺は普通の女の子に腕相撲で負けたんだと思って、 ちょっとショックだったんだが、 それを聞いて
安心した」
猪俣さんは驚くよりむしろ感心しているようだ。 猪俣さんにとっては自分を力で負かす女の子はちょっと興味深い
存在なのかもしれない。 でも、 私は化け物だってはっきり言われているみたいで、やっぱりつらい。 猪俣さんが、
そんなつもりで言ってるわけじゃないって信じていてもやっぱり悲しい。 改めて自分が、 人間からは遠くかけ離れた
存在みたいに思えてくる。 それで、 ついやけになって、 言わなくてもいいことまで言っちゃうんだ。
「そうですよね・・・。 私は普通の女の子じゃないですよね・・・。 私の身体で人間の部分は脳みそだけで、 他は
全部機械ですもん。 手も足も身体も頭も髪の毛もなにからなにまでぜーんぶ作り物だもん。 身体だけじゃないです。
こうやってみんなに話す私の声だって作り物だし、 私の眼に映る風景だって、 私が聴く音だって全部作り物。 コン
ピューターが作ってるものなんです。 こんな機械人間なんて滅多にいないですよね」
396 :
前444:2005/04/23(土) 02:24:53 ID:lmDg996a
「すまん、 ごめんな。 もっと、 お姐ちゃんの気持ちを考えてものをいうべきだった」
猪俣さんは優しい人だから、 私の気持ちを察して黙り込んじゃった。 私の言葉は自分を傷つけるばかりでなく、
猪俣さんまで傷つけちゃった。 ごめんなさい。 悪いのは私なのに。 猪俣さんを騙していたのは私なのに。
「いいえ、 猪俣さん。 私のほうこそ謝らなくちゃいけないんです。 私、 今日の勝負、 インチキしました。
山本君が賭けに負けたら可哀想だからって、 義体の出力を悪いことをして限界まで上げたんです。 そんなことしたら
私が勝つに決まってますよね。 猪俣さんは自分の身体一つで勝負を挑んだのに、 私ってなんて卑怯だったんだろう。
だからバチが当たったんだと思います。 無理やりに、 普段出さない力を出したから、 きっと身体のあちこちに無理が
かかってこんなことになっちゃったに違いないんです。 自業自得ですよね。 それなのに、 私が悪いだけなのに、
猪俣さんや野中さんや山本君までこんなことに付き合わせてしまって、 本当に申し訳ないです。 ごめんなさい、 みん
なごめんなさい」
「そんな、 そんな、 そんな。 ヤギーさん。 ヤギーさんがこんなことになっちゃったのは俺のせいじゃないですか。
俺が猪俣さんと腕相撲で賭けをしたからじゃないですか。 俺が負けたら可哀想だからって、 ヤギーさんを無理させちゃっ
たんじゃないですか。 なんで、 ヤギーさんが謝るんだ。 悪いのは俺だ。 これで、 ヤギーさんに何かあったら、 俺、
どうしたらいいんだよ」
山本君、 泣いてるの? 男がそんな簡単に泣いていいの? それも私なんかのために。 こんな機械女のために。
あきれたよ。 馬鹿だね。 本当に馬鹿だね・・・。 だから、 私は山本君を安心させるために笑ってあげた。 私はどんなに
悲しくても涙なんか流さず笑っていられるから。
397 :
前444:2005/04/23(土) 02:26:32 ID:lmDg996a
「ははは、 山本君、 私の身体の事を心配してくれてるの。 なら大丈夫だよ。 私の身体なんて壊れた部品を取り替えれば
すぐ元通りになるんだから。 それが、 機械仕掛けの身体の便利なところだよ。 はは。 それに、 義体の出力を上げたのだ
って、 私が自分で勝手にやったことだから山本君が負い目を感じることなんてないんだよう。 なんか私、 自分と山本君が
だぶっちゃってさ、 山本君も、 私と同じで、 こんな夏休みでもバイト三昧。 他のみんなは遊んでるっていうのにね。
だから他人事に思えなくてさ、 つい助けたくなっちゃったんだ。 私が負けたら山本君が十万円とられるって知っちゃったら、
どうしても腕相撲で負けたくなかったんだ。 馬鹿だよね、 私って。 ははは」
「ヤギーさんは馬鹿じゃないよ。 優しすぎるんだよ。 どうして俺なんかのために、 俺なんかのために」
「ははは、 私のこと優しいなんて言ってくれるんだ。 いっつもあんたのこと苛めてたような気がするけど。 嘘でも嬉しい
よ。 でもさ、 山本君、 もう私の身体が普通の人と違う機械ってわかっちゃったしさ、 今までみたいに大学の先輩とは
思ってくれないよね。 薄気味悪い機械女ってことになっちゃうよね、 きっと。 これは、 もう絶対そうなんだ。 だから、
私達、 もう会わないほうがいいんだよ。 私はしろくま便に行かないほうがいいんだ。 そのほうがお互いにとっていいん
だよ」
野中さんはもちろんだけど、 猪俣さんも山本君も、 とっても優しくて暖かい人達なんだと思う。 だけど、 私は
恐かった。 みんなの優しさを信じて裏切られることが恐くて、 優しさに素直に身をゆだねることができない臆病者なんだ。
だって、 今まで人を信じて、 裏切られる、 そんな思いを度々繰り返してきたから、 だから、 こんなときでも、 つい
思ってもいないようなことを口走ってつまらない意地を張っちゃうんだ。 本当はみんなを信じてたいくせに。 こんなこと
言っても、 私も、 周りの人もみんな傷つくだけなのに・・・。 私は馬鹿だ。 馬鹿で、 ひねくれ者で、 強情っぱりだよ。
「ヤギーさん・・・ヤギーさんのこと薄気味悪いだなんてなんて、 そんな・・・。 もう来ないだなんて、 そんな・・・」
ほら、 山本君を傷つけた。
398 :
前444:2005/04/23(土) 02:27:18 ID:lmDg996a
「猪俣さんも本当のこと言ってくれてかまわないよ。 私なんて、 半分死んだ亡霊みたいなものなんだ。 ほとんど死ん
じゃって、 魂だけの存在になっちゃってるくせに、 機械の力を借りて未練たらしくいつまでもこの世にしがみついてる
だけだもん。 別に気味悪がってくれてもかまわないよ。 もう慣れっこだからさ。 はは」
「よせ。 そんなふうに自分を傷つけるのは、 やめたほうがいい・・・」
ほら猪俣さんも傷つけた。
いいんだ、 これで、 いいんだよ。 あとでみんなに裏切られて死にたくなるより、 ここで別れてもう二度と会わない
ほうが私は楽なんだ。 これでいいんだ。 本当に。 ホントに。 ホントかな?
399 :
前444:2005/04/23(土) 02:51:27 ID:lmDg996a
ヤギー悩みまくり。私的なサイボーグ萌えの原点は、こんなふうに機械と
人間の狭間でぐらぐら揺れ動く心なのです。これが書きたくて、この話を
書いているといっても過言ではないのであります。
・・・ヤギィィィィィィィ!!・゚・(´Д`;)・゚・
すまん、ナカセテクレ・・・orz
泣ける話だ…
前444さん、素晴らしい話をありがとう。
ヤギーがこの後精神的に救われることを心から願ってます…
402 :
前580:2005/04/23(土) 15:49:11 ID:9kAUsUBn
>>393 …駄目なんですか…。また、辛くて悲しい記憶が一つ増えてしまうんですか…。
・゜・(ノД`)・゜・
「機械仕掛けのお人形さんなんですよ。」他人から言われて傷つく言葉を、どう
して自分の口から言わなければならないんですか?
「それでも私、やっぱり人間なんだよう。」と言いながら、その一方で「薄気
味悪い機械女」なんて、どうして自分を傷つける言い方をしなければならない
んですか?
どうしてこんな辛い想いを「もう慣れっこだからさ。」と言わなければならない
んですか? 決して、慣れてなんかいないのに。
相手の心の優しさを信じていても、悪気がないと分かっていても、それでも言葉
の端々に現れる些細なことに、自分の身体が他人とは違う機械だと、いつも意識
させられる八木橋さん…。こんな言い方をしなければ、こんな形で人との距離を
おかなければ、自分の心を守ることができないのでしょうか。哀しいです。
「私は山本君を安心させるために笑ってあげた。」どうしてこんなに優しい八木
橋さんが、傷つかなければならないんですか?
「ほら、山本君を傷つけた。」「ほら猪俣さんも傷つけた。」どうして人の心の
痛みに敏感な八木橋さんが、こんなに相手を傷つけなければならないんですか?
自分が傷ついたり、相手を傷つけたり、今まで、どれほど辛い想いをしてきたの
でしょう…。どれほどの報われない努力を重ねてきたのでしょう…。
でも、野中さんや石塚さんは、八木橋さんのことを、人間として受け入れてくれ
ました。猪俣さんや、山本君や、しろくま便のみなさんに、同じことが、本当に
できないのでしょうか。どんなに辛い思いをしても、それでも、人を信じたい気
持ちを捨てきれない八木橋さん…。もう一度、もう一度だけ、人を信じてみるこ
とはできないのでしょうか。
最後の独白の「ホントかな?」に、一縷の望みをかけます。幸せになってくださ
い。お願いです…。
>>399 前444氏の作品は、針の穴ほど狭いストライクゾーンのど真ん中を突いてくださ
います。そんな作品をリアルタイムに読む事ができて、どれほど幸せか…。
今のヤギーさんは、ちょっと前の茜ちゃんといっしょで
機械に征服されそうです。茜ちゃんに南の島で言ったことを
ヤギーさんにおもい出して欲しい。今、茜ちゃんならヤギー
になんて言うでしょう。
機械か人間か迷う人、人間なのに機械と思い込んでる人、
その逆…、技術が進むと悩みも増えます。
昔はサイボーグ萌えなTV番組多かった。仮面ライダー筆頭に、ダイターン3では敵に拉致された女がサイボーグに改造されて戦わされてたり。
抵抗虚しく化け物のような機械に改造され、悪の兵器として戦わされてしまう。主人公に負けて最期は爆破される。ハァハァ。
昔、SM板の生体実験スレで、宇宙人に拉致された女の人が戦闘用サイボーグに改造されて地球人と戦わされるって話があってかなり萌えた。
意識はそのままなんだけど脳に埋め込まれたコンピューターに体を操られて攻撃させられてしまうのだ。片腕が銃でもう片方がサーベル、全裸で乳房の片方が機械丸出し。銃撃を受けて重傷を追っても戦線から離脱できない。
406 :
M.I.B.:2005/04/24(日) 19:21:09 ID:2oShDkav
「いやー!」
布団を跳ね飛ばして勢い良く起き上がる。
「夢?」
忌まわしい手術の光景が脳裏に浮かぶが、今おこなわれた事ではない。。
だが、それは完全な妄想ではない。
[コンディションALL OK]
網膜に浮かぶデータが自分の状況を知らせる。自分がサイボーグであると言う証だ。
「多分、小林博士ね…」
戦闘中の行動に対するペナルティだ。以前も命令を完遂できなかったり、命令に不服を言った時、自分が何者か自覚するようにと全く同じシーンを見せられた。
寝ぼけているようなことは無い。制御装置は可能な限りベストな状態を維持しようとする。兵器が寝ぼけるようなことがあってはならないとの事だ。
それでも私は熱いシャワーを浴びる。どうしようも無い不快感が付きまとっているのだ。これを流し去りたかった。
パジャマを脱いでバスルームに入る。脱いだパジャマは一切濡れていなかった。普通の人間なら物凄い寝汗で、びしょ濡れだろう。でも私は汗一つかかない…
パネルを操作して目いっぱいの熱湯をシャワーから出す。
[水温43.2℃]
こんな事まで、瞬時に報告するシステムが嫌だった。
下着を身につけ、冷蔵庫を開ける。
中にはミネラルウォーターがあるだけだった。
部屋には簡単なキッチンが備え付けられているが、結局使う事は無かった。
機械の身体は食べ物を消化することが出来ない。簡単な錠剤と少しの水分があれば生体部分を維持できる。従って、そんな機能をつけること自体が無駄との事だった。
それに伴って、味覚もオミットされている。例え口にしても内容物を解析したデータが示されるだけだ。
錠剤をミネラルウォ−ターで流し込む。これで朝食は終了だ。
制服を身につけ校舎に向かった。
407 :
M.I.B.:2005/04/24(日) 19:22:25 ID:2oShDkav
「おはよう。さくら」
下駄箱のところで後ろから肩をたたかれる。
「おはよう。久美」
振り向くと、そこには少し驚いたような残念なような顔をした友人がいた。
三井 久美 … 私がこの学園に来て初めて出来た友人だ。当時は私もまだこんな身体になる前だった。
彼女は驚かせようとして気配を消して近づいているつもりだったのだろうが、私にとっては丸出しも同然だった。
「どうしてかなぁ〜、さくらは全然驚いてくれない」
「だめよ、瞳。そんなに気配を漂わせてたら、誰でも気付くわよ」
「そんな〜、ちゃんと足音もしないように注意してたのに」
「それがかえって目立つ原因よ」
実際にそうだ。人ごみの中で気配を消している久美に対して、注意するよう警告が出ていたのだ。
兵器としての機能がこんな所で役に立っても、全然嬉しくは無いが…
久美と一緒に教室に向かう。
私たちは特務課という独立したクラスだった。
教室も校舎内で少し離れた所にあり、生徒数も1学年15人前後しかいない。
人数に対して随分広めの教室に入ると、先客は5人ほどしかいなかった。
「あら、御堂さん。今日は授業を受けるの?」
そう言って近寄ってきたのは、メガネにきつめのイメージが強い委員長の神崎 瞳だった。
「ええ。三島先生も今日はこっちで勉強してきなさいって」
特務課は、全国から特別に才能をある人間のみを集めて教育していると言うことになっている。
学費や生活費などほとんどが奨学金で支払われ、学生は大学の教授やスポーツ選手など優秀な人材から直接教わることが出来る。
私は、表向き大学教授である三島技官の助手として働いていることになっている。
「他の人たちは?」
私が問いかけると、教室を見回しながら委員長は答えた。
「ここにいない人たちは、それぞれの担当教授の所。きょうはここにいるメンバーで授業よ」
他の人たちは、みな優秀で学問やスポーツで功績を残している。私だけが戦うためにここに呼び出されたのだ。
408 :
M.I.B.:2005/04/24(日) 19:23:51 ID:2oShDkav
授業は基本的に退屈だ。計算問題など私の制御装置にかかれば一瞬で終わる。知識問題もシステムにアクセスすれば簡単に答えが見つかる。
図らずも、このエリートクラスの中でもトップクラスの天才として私は認識されていた。
ただ、体育の授業だけは出ないことになっていた。身体能力についてばれる訳にいかない。そして、改造手術を受けたとき、私は入院していた扱いになっていたので、病弱な少女だと言うイメージを持たれていた。
昼休み、みんなが食事を取っているのを見ると少し気分が鬱になる。
「さくら、また食べないの?」
久美が心配そうに言ってくる。
「うん、あまり食欲が無いの…」
そう言って、カロリー補給用の錠剤を呑む。
「またその薬だけ? しっかり食べないと身体に悪いわよ」
心配そうにこちらを覗き込む久美の視線が痛かった。
授業が終わり放課後になる。特務課はクラブ活動をいている人はいないので皆それぞれの用事を済ませて出て行く。
「さくらは今日はなんか用事がある?」
久美が聞いてきた。
先日の戦闘で破損したボディの修復は終わっていないので、訓練も無いはずだ。
「うん、今日は何も無いよ」
「じゃあ、ちょっと寄り道していこう。欲しいCDが出たの」
そう言って、久美は私を引っ張って教室を出ていった。
409 :
M.I.B.:2005/04/24(日) 19:58:10 ID:2oShDkav
下駄箱まで降りてくると一人の男子が待っていた。
「優太…」
工藤 優太、私の彼氏、と言っていいのだろうか? ともかく友人以上恋人未満と言った関係だ。
「さくら…」
久々の再開に思わず言葉が出ず、見詰め合ってしまう。
「なんか私はお邪魔みたいだね」
久美はそう言うと、私を置いて先に行こうとする。
「ちょっと、待ってよ。久美」
「いいのよ。お邪魔虫は退散するわ」
結局、久美は一人で行ってしまった。
「さくら、久しぶりだな」
どうしようかと、慌てている私に優太が語りかけて来た。
「うん…」
「ちょっといいか?」
「うん…」
私は赤くなりながら頷いて、優太の後ろについて歩き出した。
「忙しいみたいだな」
「うん、三島教授の研究が大詰めなの」
さらっと嘘が口に出てくる。極秘事項を守るために前もって取り決められていた事だ。
(違う。本当は兵器として戦ってたの)
「元気してたか?」
「うん、病気も落ち着いたし、怪我もしてないよ」
(違う。戦闘で片腕が大破するぐらいの被害を受けたの)
機密事項だからと言って、笑顔で嘘をつき続ける。そんな自分に嫌になる。
「でも、お前が光陰の特務課に受かるとは、今でも信じられないぞ」
「失礼ね。これでもこの手の分野に凄い適正があるってお墨付きなんだから」
笑いながら答えるが、これすら嘘だった。
410 :
M.I.B.:2005/04/24(日) 19:59:46 ID:2oShDkav
光陰学園の入学試験は3段階に分かれている。
最初の試験は人格や適正などを見るアンケートだ。通常のコースなら、このあと筆記、面接を経て合格となる。
ただし、1次で高い適正や性能を認められると、別コースになる。
2次で身体能力やより深いレベルのアンケートが行われる。
多くの受験者はここで脱落し、通常コースに戻る。
しかし、極一部の才能が認められたものは特務課コースへと進み、最終面接、合格へと至る。
さくらも、限りなく低い可能性にかけて受験した結果、特務課へと入学することになったのだ。
一方、優太は通常コースのやはり狭き門を潜り抜けてきたのだ。
ただ一つ違うのは、さくらが認められたのは表向きの機械工学の才能ではなく、兵器の素体としての適正だった事だった。
嘘だらけの時間が過ぎていった。
「そろそろ暗くなってきたわね」
これ以上この時間が続くことが耐えられなくなっていた。優太に帰ろうと促したその瞬間だった。
優太が真剣な瞳でこちらを見た。
「俺、さくらが好きだ。恋人として付き合って欲しい」
突然の告白だった。
そして、さらに驚きが私を貫いた。
「!?」
優太の唇が、私のそれと重なっていた。
「すぐに答えなくてもいい、ただ考えていてくれ」
そう言うと、優太は走り去っていった。
どんなことにも反応できるよう調教されていた私も、それに反応することは出来なかった。
411 :
M.I.B.:2005/04/24(日) 20:07:21 ID:2oShDkav
日常編終わりました。
今回は予定通りおわったぞw
(真ん中で切って2話にしようとしたのは秘密だw)
次回はまた戦闘です。
対ジェネラル戦、改造されて敵になった少女との戦闘です。
82さん
徐々に変化していく環境。これからの展開が楽しみです。
前444さん
いやー、みんな優しいですね。
私の作品の登場人物とは正反対だw
ヤギーには周りの人々に支えられて頑張ってもらいたいですね。
サイボーグ・デデエ
>>M.I.B.様
次回は敵に改造されてしまった少女の登場ですか。これはまた萌えそうですね。兵器に改造されるのは可哀想ですが、敵側の兵器に改造とは救いが無くて萌えます。期待大でつ。
414 :
82:2005/04/25(月) 00:05:24 ID:Ft01zTZG
「おはよう、清水さん起きてー。」
目の前に「6:40」って文字。
何これ。私、どうしたの・・・?
そうか、液体呼吸と水中生活の体験訓練をしてるんだ・・・、と思い出した。
横森さんが、目の前でにこにこした顔で笑っている。
「アクアノート清水、御気分は?」
私まだ普通の人、アクアノートなんかじゃないっ、と思ったが、
声出せないんだと気づいて、怪訝な表情をしてみせた。
「さあ、朝の支度をして出かけましょう。
表示の数字を書いて見せてくれる。」
酸素は「02H45MIN」
ボタンを押して「 U: 03H01MIN E:02H57MIN」と表示を変える。
"せんせい"に書いてみせると横森さん、「標準の消費量ね、
全然問題ない。じゃ交換しましょう。」
昨日は、あれほど恥ずかしかった、尿ボトルの交換も今日は単なる一つの手順といった感じで済ませられた。
こんな装備で生活をしていると、人間性というか感情が、少しそぎ落とされてくるのだろうか。
415 :
82:2005/04/25(月) 00:06:37 ID:Ft01zTZG
"せんせい"を腰のリングに着け、準備か終わると横森さん、
こっちついてに来てね、と泳ぎ始めた。
プールの端は、外への出口となっていて、
そう、その先は海だ・・・。
明るい光が見えてきた。
外には、長さ3メートルぐらいの潜水艇が止まっている。
丸いずんぐりしたその船体の下部は、くりぬかれたような空間で
人が一人入れそうな感じだ。
レジャーダイバーや調査で使う水中スクーターなんかと比べると、
ポッドは本物の潜水艦って感じだ。
「そこに入って掴まって、ポッドのフックをスーツのリングにつないで<
はずれないようにしてね。」
横森さんはというと、私の下に来て、ポッドに掴まった。
「さあ、出かけましょう。」
横森さん何かスイッチとか操作したわけでないのに、ポッドは動き始めた。
秋の海は透明度がよい。海底から5メートル以上浮いた感じでポッドは進んでいく。
パノラマを見るような感じで景色が変わる。
地形の変化に合わせて、ポッドは進路方向を変えて進む。
横森さんが操縦しているって気配は全くしないが、進路は的確にとられている。
「この操縦、ポッドが自動的にやっているの。」
聞きたくても、声が出せない私は聞くことができない。
416 :
82:2005/04/25(月) 00:08:32 ID:Ft01zTZG
出発して10分ぐらい経っただろうか。目の前に潜水艦が見えてきた。
長さ50メートル以上はありそうだ。
「着いたわ。これが私たちの潜水調査艇よ。中にポッドが10台収容できるわ。
これで目的海域まで行って基地にして、ここからポッドでその周辺を調査するの。
中の見学は午後にできるから、もうすこし遠くへ行ってみましょう。」
ポッドが進路を変えると、もう2隻ポッドが見えてきた。
アクアノートはポッドの下に潜った形なので誰なのかはわからない。
「これから少し深場に行くので、表示を水深にしてみて。」
今の水深は30メートル。
今までの私なら、ダイビングコンピュータとにらめっこになって、
あと何分いられるかしらって心配していた深さだ。
ポッドがドロップオフに出ると、少し下向きに代え深度を下げ始めた。
−035m・・・、40、45、50、55・・・
今まで来たことのない深さになると同時に、薄暗くなってきた。
突然ポッドのライトが点灯した。
さらに深度を下げていく。−075m、ほとんど真っ暗になってきた。しかしまだ底は見えない。
どこまで行くのだろう。水深100メートルが近づいてきた。
417 :
82:2005/04/25(月) 00:10:07 ID:Ft01zTZG
「今はここまで、最終的には水深200メートルを目標にしているけど・・・。
これから深くいっても、眺めて面白いことはあまり無いらしいし。」
ポッドは水平に向きを変え、ドロップオフの壁を左手に見ながら進み始めた。
壁の向きが変わりポッドのライトが当たると、時々イソバナが赤や白に光るのが見える。
ようやく壁から棚状に地形が変わったところに着くと、
「ちょっと止めるから、まわりの景色を見てみる?」
ポッドはホバーリング状態になり、横森さんはさっと下に降りた。
2隻のポッドも遠くでホバーリングしている。
「清水さんも続いて・・・、ロープははずさないで!」
横森さんにうながされ、ポッドから離れてみる。
といってもロープの長さがそんなに無いので、宙ぶらりんだ。
「水面の方、見てご覧なさい。」
しかし青暗い水が見えるだけで、もう水面はわからない。
上下左右、水だけで方向感覚すらなくなってしまいそう。
それに、今の私の体からは、空気の泡が出ないので、水面の方向がますますわからない・・・
ずいぶん遠くに来たものだ・・・
418 :
82:2005/04/25(月) 00:31:36 ID:Zzmy2db4
前444氏
>>393-398 もう泣けて泣けてしまいます。
ヤギーかわいそすぎる。というよりいい人過ぎるのか・・・。
M.I.B.氏
>>406-410 テンポのあるまさにショートストーリー。GJです。
落ちも最高です。
体験版水中活動編が冗長になりまとまらず、間が空いてしまいました。
地上に戻っての説得編も大体輪郭ができてきたので、話が進められそうです。
なんか新しい改造シチュエーションってないかな?
こんなものに改造されるとか、こんな目的で改造されるとか。
SS書くのにネタが欲しい。
420 :
前389:2005/04/25(月) 01:57:50 ID:/HuLs2K4
>>444氏
>>82氏
>>M.I.B.氏
いつも乙です。
ネタが欲しいと言うレスの直後に何ですが、
私が次に書きたい話を、ちょっとプレゼンテーション。
(ガジェットの続編を期待してた方には申し訳ないですが、ちょっと別の話も書いてみたいので)
女子中学生が、同級生の魔女に捕まって、実験台にされる。
怪しげな魔法機械を体内に埋め込まれてしまい、身体に様々な異変が起こる。
魔法機械との融合が進むにつれ、肉体が金属に侵食され始める…
メカニック的・ミリタリー的要素が皆無ですが、
魔法という設定のおかげで無茶な現象や変形とかが可能になります。
こんなんで書きたいのですがどうでしょうか?
421 :
M.I.B.:2005/04/25(月) 10:42:56 ID:DPdMiVL+
以前考えていたネタなら
1.売れないアイドルが戦隊物のヒロインに抜擢される。
喜び勇んで契約するが作品名は「機械化戦隊サイボーグレンジャー」だった。
フィクションのはずが、実は本当に敵が現れ戦う羽目に。
さらに、サイボーグ化手術まで・・・
2.少女型ロボットを改造して戦わすゲームが大流行。
大会優勝の直後誘拐されて、自分の愛機そっくりに改造されてしまう。
地下闘技場で同様に改造された少女達と生き残りを賭けて戦う羽目に・・・
3.美少女を改造して戦わせる「ゲーム」。アングラで流行るそれに手を出す主人公。
改造対象として幼馴染の写真を使用する。リアルな改造シーンと明確な受け答え。
そして、急に余所余所しくなる幼馴染・・・
こんな感じで、考えてたものがあるな。
いかん、書いてたら別のものを書きたくなってきたw
>>398様
女子中学生が改造されてしまうって非常に萌えますね。
>>M.I.B.様
どの案も、想像するだに立ってきます。w
やはり少女が若い肉体を、戦闘用の醜い機械に改造されてしまうってのは萌えるポイントですね!さらに強制的に闘わされてしまうなんて可哀想で(・∀・)イイ! でつ。
423 :
前444:2005/04/25(月) 23:27:51 ID:kDAJPgA6
「ヤギーさんって彼氏がいるんですよね。 よく休憩中に彼氏の話をしてくれますよね、 そりゃあもう、 うざい
くらいに」
唐突に山本君、 そんなこと言い出すものだから、 私びっくりした。 藪から棒になんなのさ。
「う、 うざくて悪かったねえ。 な、 なんでいきなりそんな話するんだよう」
「俺、 その彼氏が羨ましいよ。 ヤギーさんの彼氏は幸せものですよね、 きっと」
「な、 な、 な、 いきなり何言うんだよう。 山本君、 あんた、 まさか義体フェチなんじゃないの?」
私が機械の身体だってことを知っちゃったくせに、 私の彼氏が羨ましいってどういうこと? 彼氏が可哀想
なら分かるけどさ。 山本君が、 まさか私に好意を抱いているなんて思いもよらなかったから、 私、 山本君っ
て義体フェチなんじゃないかって思っちゃったよ。 どうも、 お相手が機械の身体だっていうだけで興奮する義体
フェチって人種もこの世の中にいるらしい。 かくいう私も昔、 そんな手合いに引っかかって酷い目にあったこと
があった。 思い出したくないから詳しくは言わないけどね。 だから山本君もご同類じゃないかって、 つい疑っ
ちゃったんだ。 でも、 山本君、 そんな私の言葉なんか耳に入っていなかったみたいに、 黙りこくっているだけ。
そして、 時折、 何かを言おうとしては、 思い悩んだように頭をかかえてまた黙り込んじゃう。 山本君、 一体
何を話そうとしているの? 何を迷っているの?
ようやく思いつめたように口を開いて、 うつむきながらもポツリポツリと話しはじめた山本君の言葉に、
私はびっくりした。
424 :
前444:2005/04/25(月) 23:28:57 ID:kDAJPgA6
「俺、 今、 ヤギーさんがもうしろくま便に来ないってなんて言ってショックなんです。 だって俺はまだヤギー
さんに会いたいもの。 ヤギーさんの元気な姿がみたくて、 ヤギーさんと楽しく話がしたいから、 今までこの
アルバイトを頑張ってこれたんだ。 あの、 俺、 ヤギーさんのことが好きなんです。 ヤギーさんには彼氏がいて、
俺のことはただの後輩としか思っていないってこともよく分かっています。 俺のこといろいろ優しくしてくれた
り、 何かと面倒を見てくれたりするのも、 同じ大学の後輩として、 なんでしょ。 でも、 そんなこと分かって
るけど、 それでもやっぱり俺はヤギーさんのことが好きなんです。 ヤギーさんはとっても魅力的な人だと思い
ます。 先輩として、 だけでなく人間として、 女性としてもです。 別に、 ヤギーさんがどんな身体だからとか、
そういうことは関係ないんです。 だって俺がすきなのはヤギーさんの身体じゃなくて心だから。 優しくて暖かい
ヤギーさんの心が好きだから・・・」
そこまで一息で言ったところで、 照れ隠しをするみたいに付け加えた。
「やべー、 どうしよう。 俺、 告っちゃったよ。 すげー恥ずかしいなあ、 やっぱ。 でも、 俺の言ってることは
俺の正直な気持ちですよ」
そう言いながら、 山本君は真っ赤な顔をして、 照れくさそうに自分の頭をポリポリ掻くんだ。
「や、 や、 山本君。 いきなり何を言い出すんだよう。 私が好きだって? 私なんてそんな山本君が思ってるみた
いに立派な人間じゃないんだよう。 前の山本君の彼女みたいに色白で小柄で可愛らしい女の子じゃないんだ。
私は・・・、私は・・・」
425 :
前444:2005/04/25(月) 23:30:06 ID:kDAJPgA6
機械の身体のお人形さんなんだって言おうとしたんだけど、 後の言葉が続かなかった。 思っても見なか
った人から突然告白されて、 私、 すごく混乱してるんだ。 頭がくらくらして眩暈がした。 もちろん、 私は
藤原のことが大好きで藤原のことを裏切る気もないけれど、 それでも男の人に告白されたっていうことで、
子宮も卵巣もない女性らしさのかけらもない機械の身体のくせに、 女としての本能が、 私に残された女性と
しての心が告白されたことを喜んでいる。 うきうきしているんだよ。 山本君は、 私のことが好きだって言って
くれた。 全てを失った私にたった一つだけ残された、 私の人間として心が好きだって言ってくれたんだ。 山本
君。 私、 山本君の言葉を信じていいの? 私を人間ってみてくれるの? でも、 私、 恐いよ。 山本君の言葉を
信じるのはやっぱり恐いよ。
「別に俺の告白に答えなくてもいいですよ。 結果は分かってるし、 答えを求めているわけじゃありませんから。
でも、 ヤギーさんが悲しむのは、 俺にとっても、 とても悲しいことなんです。 誰だって好きな人が悲しんで
いたら、 悲しくなりますよね。 ただ、 そのことだけ分かって欲しくて言ったんです」
私が言葉を続けらずに黙りこくってしまったら、 山本君は静かに、 優しくそう言ってくれたんだ。 なんで、
なんで私なんかが好きなんだよう。 そんなこと言われても、 私、 困っちゃうよう。
「これは面白いことを聞いちまったな」
猪俣さんが、 後ろを振り向いてニヤっと歯をむき出した。
「いっ、 猪俣さん、 ここだけの話ですよ。 みんなには内緒ですよ」
山本君はひどくあわてて、 猪俣さんに言う。 今更、 こんな人前で告白したのが恥ずかしくなっちゃったん
だろう。 ハンドルを握っていた野中さんがくすりと笑った。
「安心しろ、 他の連中には言わねえよ。 だって、 俺もお姐ちゃんに惚れちまったんだからなあ」
猪俣さんはそういって口を大きく開けて、 猪俣さんらしく豪快に笑うんだ。
猪俣さんまで何を言いだすんだよ。 みんなおかしいよ。 私は人形なんだ。 機械女なんだよ。 目を覚まして
よ。 私のことが好きなんて、 そんなことあるわけないんだ。 一時の気の迷いなんだよ。 どうせ。
「ずるいよ・・・」
426 :
前444:2005/04/25(月) 23:34:00 ID:kDAJPgA6
そう、 みんなずるいよ。 そんなこと言って、 私を期待させて、 いつも裏切るじゃないか。 一時、 高揚
した気持ちで勢いにまかせて言った言葉で私を迷わせないでよ。 私、 そんな、 真剣な、 優しい、 真摯な言葉
を聞いたらみんなの言う事信じちゃうじゃないか・・・。 私はもう辛い思いをするのは嫌なんだ。 だから、
お願いだから私を期待させないでよ。
「みんなずるいよ。 みんな、 とても優しいよ。 なんで、 そんなに優しいんだよ。 私、 そんなふうに優しく
されたら困っちゃうじゃないか。 みんなのこと信じちゃうじゃないか。 今みんなが言ったこと、 本気にしちゃ
うじゃないかよう。 ねえ、 山本君、 私を見てよ。 山本君が見ている私は、 私の幻なんだよ。 本当の私は、
ただの脳みその塊、 それが分かってるの? それを承知の上で言ってくれてるの? ほら、 見てよう」
私は左手で腰のカムフラージュシールを無理やり剥がして、 内臓されているコンセントプラグをずるずる
引き出した。 そして、 プラグを山本君の鼻先につきつけたんだ。
「これ、 なんだか分かる。 コンセントだからっ! 私の身体は電気で動いてるんだからっ! 可笑しいでしょ。
絶対ひいちゃうよね。 こんな機械仕掛けの身体なんてさ。 薄気味悪いでしょ。 山本君も、 猪俣さんも、 私
のことが好き、 私の心が好きって言ってくれて、 私とても嬉しかったよ。 例え嘘でも、 社交辞令でも私は
嬉しかった。 でも、 目を覚ましてよう。 外見はこんなふうに普通の人間そっくりなんだけど一皮むけば醜い
機械の固まりなんだから」
427 :
前444:2005/04/25(月) 23:34:38 ID:kDAJPgA6
私、 そうして自分の機械の体を晒せば山本君も目が覚めると思ったんだ。 でも、 山本君は私がどんなに
嫌われよう、 嫌われようって仕向けても、 全然あきらめてくれないんだ。 私の事、 嫌ってくれないんだよう。
「俺は、 嘘なんて言ってません! ヤギーさん、 なんで俺の言うことを信じてくれないんだ! ヤギーさんが
別に俺のことが好きじゃなくたってかまわない。 そんなことは、 分かってるし、 どうでもいいんだ。 でも、
何で俺の言うことを嘘だって決め付けるんですか? どうして俺の言うことを信じてくれないんですか? どう
して、 そんなふうに自分を傷つけなきゃいけないんですか?」
山本君は鼻先にちらつかせたコンセントを叩き落して、 私の肩を掴んで、 私の目をじいっと見て、
そして、 そう叫びながら泣いたんだ。 男の癖に、 本当に泣き虫だよね。 山本君は。 でも、 声を抑えて泣
いている山本君を私は笑えなかった。 私には山本君を笑う資格なんてこれっぽっちもないんだ。 山本君は
本気なんだ。 そして、 自分のつまらない殻を捨てて、 捨て身で私を励ましてくれている。 それこそ恥も
外聞もなく。 それにひきかえ、 私は一体何だろう。 他人を信じず、 自分も信じず、自分の心に嘘をついて
まで私が守ろうとしているものって一体なんなんだろう? それにどんな価値があるというのだろう。 私は
自分がひどくちっぽけな人間になったように感じた。
428 :
前444:2005/04/25(月) 23:51:09 ID:kDAJPgA6
山本君頑張った!
>>420 新作の構想がもうあるのですね。
>魔法という設定のおかげで無茶な現象や変形とかが可能になります。
設定を生かして、無茶な現象や変形を萌え話に変換するのは389氏の
お家芸っぽいです。同じ書き手としては、どんな設定でもいいのです。
その設定をどう料理するかが気になるのです。早く読みたいなあ。
>>418 地上に戻って、みなさん総出の説得工作ですか。その中でちょっと怪しげ
な海洋開発研究所の目的も明らかになってくるのでしょうか?
>>421 うーん、さすがM.I.B氏。ネタの引き出したくさん持っていますね。
どれも面白そうなのです。
>>321 M.I.B. 様、3つのアイデアとても期待ふくらむのですが、メタル・ヴァルキリーを止めないでくださいね!
430 :
82:2005/04/26(火) 23:36:35 ID:l1owa2Ru
「水深100メートルの世界ってこんななの・・・。では、ポッドに戻って帰りましょう。」
横森さんの声で我に返り、フィンキックでポッドに掴まる。
横森さんもポッドに掴まると、ポッドは動き始め、大きく旋回した。
今度はゆっくり浮上していく。だんだん明るくなってきた。
壁についているイソバナや海ウチワなど生物も豊かになってきた。
「やっぱり明るいところの方がいいわね。でも仕事となるとそうもいってられないみたい。」
横森さん、ポッドにいるときは口数が少ない。
やはり何かの方法で操縦していて、そちらに集中しているのだろうか。
やがて潜水調査艇が見えてきた。ポッドが、潜水調査艇の後ろに回ると、
潜水調査艇の後部が動いて、入り口が開いた。ポッドはゆっくり進み、その中に入った。
431 :
82:2005/04/26(火) 23:37:53 ID:gfbgbDzi
「さあ着いたわ、ポッドから降りて中に入ります。
フィンをはずして、フィンのストラップをポッドの取っ手につけておいてね。」
潜水調査艇のポッド格納庫は薄暗いが、その先はほんのり明るくなっている。
ポッド格納のフロアから1つ上のフロアに上がる。フィンをはずしたので、
泳ぐというより這うといった感じだ。
このフロアは壁がほんのり明るく光っている。いくつものドアが見えた。
「ここに水中調査や機材や作業機材がいろいろ置いてあるの。本番になったらじっくり操作訓練しなくちゃね。」
横森さん、私がアクアノートになると決めてかかっている。
さらに先へ進み突き当たりの部屋にはいる。ぱっとパノラマが開けた。ブリッジというか操舵室だ。
潜水艦って普通水圧に耐えるため狭くって潜望鏡があるだけって感じでいたけど、
ここは圧力問題がないから普通の船に似ている。
432 :
82:2005/04/26(火) 23:39:48 ID:gfbgbDzi
「清水さん、アクアベースようこそ。キャプテンの江藤です。
清水さん、100メートルまで行って来たってことだから、すごいですね。
この船で日本中廻って調査に出かけてくれますね。」
みんな私のことおだてて、アクアノートにしちゃおうって相談してたのね。
すっごく興味持っているのは確かだけど、返事なんかしてない。私今しゃべれないのに・・・。
「展望がいいのでびっくりしたでしょう。おかげで操作性もよく、
15ノット以上速度が出ますから、日本沿岸であれば、1週間以内でどこへでも行けます。
まだ補給基地が敦賀だけなので本格活動はしていませんが、
太平洋沿岸にでも基地を作れば本格運用になると思います。
副キャプテンの渡辺と交代で操縦すれば24時間運行可能ですし。
そう、渡辺は今非番で寝ています。」
日本中廻れるってすごい。南の海、北の海、この装備ならどこでもへっちゃらそうだから・・・。
行ってみたい・・・。
あっ、でもここで、にっこりした表情見られたら、ますます説得されちゃう。
でも行ってみたい・・・。
433 :
82:2005/04/26(火) 23:42:15 ID:sA6YNmP1
「時間があれば、アクアベースを全速力で動かして、ここからの展望をお見せしたいのですが今日は、ここまでということで。
まあどちらにしても清水さんは、学校終えたらこられるんでしょう。」
首を縦に振らないようにして、
「どうもありがとうございます。」とだけ"せんせい"に書いて見せた。
でも、この部屋も舵みたいなハンドルやレバーが少しあるだけで、
操舵室って感じではなくがらんとした感じ。どうして・・・。
「この船の見学もお終いだけど、どうする? 基地のプールに戻る、それとも今夜はここに泊まる?」と横森さん。
うん。この機会に今夜はプールや船の中ではなく、
海底そのもので寝てみることができないかって、思い始めてしまった。
海の開放感って大好きだし、横森さん水中キャンプなんて面白そうな表現してたし・・。
「せっかくだから、今夜は外で寝てみたい。」って"せんせい"に書いてみた。
「清水さんすごい。もう決心着いたの・・・
。もちろんOKよ。いろいろ体験してみようって偉いわ。」
あっ、軽い気持ちで言ったのにまた話を進めてしまった。
434 :
82:2005/04/26(火) 23:54:53 ID:zuBmkHvu
100メートルまで潜水したり、潜水調査艇を見学したり、
興味津々の清水ですし、
横森アクアノートに親近感を持ち、清水は前向きになってきました。
しかし、アクアノートの行動や能力への疑問も深くなるばかりです。
前444様
>>423-428 ヤギー、優しすぎ、もう涙が止まりません。
前389様
ファンタジー路線モ389様の手にかかると・・・。
M.I.B.様
>>421 3を是非是非おながいします。
435 :
前444:2005/04/26(火) 23:58:47 ID:O8xokg9Q
「ヤギーちゃん、 いい加減にしなさいっ!」
トラックのハンドルを握ったまま何も口を挟まないで、 今まで私と山本君や猪俣さんとのやり取りに、
じぃーっと耳を傾けていた、野中さんが突然怒りだした。 普段の野中さんからは想像もつかないくらい恐い
声だったから、 私は思わずびくっと身体を強張らせた。
「誰が、 いつ貴女のことを薄気味悪いなんていった? 山本君も猪俣さんも、 そんなこと言ってないでしょ。
自分を卑下するような言葉はヤギーちゃんの口からは聞きたくない。 確かにヤギーちゃんの身体はヤギー
ちゃんの言うように機械かもしれないけれど、 私は、 そんなこと全然気にしていない! 山本君も猪俣さんも、
そんなこと全然気にしていないじゃない。 私にとってのヤギーちゃんは、 ちょっと意地っ張りなところも
あるけれど、 頑張り屋の可愛い子だよ。 まかされた仕事は一生懸命こなす責任感の強い子だよ。 いつも
明るく元気な子だよ。 私はいつもそういうヤギーちゃんを見てきたんだ。 そしてこれからも見たいと思っ
てる。 山本君だって、 猪俣さんだって、 そういうヤギーちゃんが好きなんだよ。 自分を卑下するヤギー
ちゃんは本当のヤギーちゃんじゃない。 私はそんなヤギーちゃんは見たくない!」
「でも、 でも私はやっぱり機械の身体だから。 みんなとは違うから・・・」
「うるさいっ! 卑下するなって言ってんだろうが!」
野中さんは運転中だから、 ハンドルを握って前を向いたまま。 でも、 私は面と向かって怒鳴られた
みたいな有無を言わせぬ迫力を野中さんから感じて、あわてて言葉を飲み込んだ。 小林さんが、 野中さんは
昔は男も震え上がったようなヤンキー娘だったんだって話してたことがあったけど、 やっぱりその噂本当だっ
たんだね。
「ヤギーちゃん、 ごめんね。 でもね、 これからする私の話を聞いて欲しいんだ。 そしてよく考えてほしいの」
すぐにいつもの優しい野中さんのじゃべり方に戻った。 そして静かに話し始めたんだ。 自分のこと、
昔のことを。
436 :
前444:2005/04/27(水) 00:00:04 ID:mYjWYGqI
「ヤギーちゃん、 私ね、 小さい頃弟がいたの。 弟は生まれた時から身体に重い障害があって、 普通の子供みた
いに自由に身体を動かすことができなかったの。 ずーっと寝たきりだったのよね。 だから、 お医者さんに勧め
られるままに義体化したんだ。 親としては辛い決断だったかもしれないけれど、 このまま一生寝たきりですごす
かもしれない、 それだっていつまで生きられるか分からない、 そんな一生よりはずっといいと思ったんだろうね。
私は素直に嬉しかった。 まさか、弟と駆けっこしたり、 喧嘩したりできる日が来るなんて思ってもいなかったか
らね。 弟と二人で日が暮れるまで遊んで、 夕食までに帰らなくって親に叱られて、 それでも毎日が楽しかった。
弟と遊べることが楽しかった。 弟の身体は機械かもしれないけど、 そんなこと全然思わなかったよ。 だってこの
世でたった一人の私の弟だもの。 どうしてそんなことが思えると思う?」
野中さんは、 そこまで一気にしゃべり終えると深いため息をついたんだ。 野中さんにそんな過去があるなんて、
今まで全然知らなかった。 そうか、 野中さん、 弟が義体だったから、 ケアサポーターでもない普通の人なのに
私の行動を見て私が義体だって気付いたんだね。 そして、 気付いても、 気が付かないふりをしてごく普通に接して
くれたんだね。
野中さんは淡々と言葉を続ける。
「でもね、 そんな日も長くは続かなかった。 ある日、 弟は死んじゃったのよね。 生命維持装置の故障だって。
ついさっきまで元気にしていたのに、 本当にあっけなく死んじゃったんだ。 昔の義体は信頼性が低かったの
かもしれないね。 そういったことがあった後で、 イソジマ電工、 イソジマ電工って知ってる?」
「は、 はい、 私の身体はイソジマ電工製ですから」
「そう、 じゃあ、 丁度よかった。 そのイソジマ電工の技術者の人だろうね、 毎日のようにウチに線香を上げ
に来ていた。 弟を助けられなくて申し訳ない。 今後、 同じようなことを二度と繰り返さないって言って泣い
てたんだ。 その時はこのおじさんなんでこんなことするんだろうって思ったんだよ。 今更おじさんが来て、
線香を上げて、 いくら泣いたところで弟の命は戻ってこないじゃないかって思って腹をたててさえいたんだ。
437 :
前444:2005/04/27(水) 00:02:29 ID:mYjWYGqI
子供って残酷だよね。 でも、 今、 こうしてヤギーちゃんが、 たとえ機械の身体だったとしても、 毎日明るく
元気に働いているのを見てると、 今更だけど、 イソジマ電工のその技術者が泣きながら言った誓いの言葉は
嘘じゃなかったんだなって思えるの。 私の弟の死や、 他のいろいろな悲しみを乗り越えて技術が進歩して、
助からないはずの命が助かって、 そして今ヤギーちゃんがここにいるんだもの。 だから弟の死は決して無駄
じゃなかった。 弟の人生は短かったかもしれないけど、 それはそれで価値があるものだったんじゃないかって
今は思えるんだ。 だから私はあなたに自分のことを亡霊みたいなものだとか、 魂だけになってるくせに未練
たらしくいつまでもこの世にしがみつているとか、 そんなふうに卑下してほしくないんだ。 そんなこと言っ
たら弟が救われなくなっちゃうよ。 私は、 明るく元気なヤギーちゃんが見たいんだ。 ヤギーちゃんは
ちゃんとこうして立派に力強く生きてるじゃないか」
野中さんは言った。 私を励ますように、 力強く! それで分かったよ。 私の言葉は自分自身や山本君や
猪俣さんを傷つけていただけじゃない。 野中さんまで傷つけて、 野中さんの死んじゃった弟さんを悲しま
せて、 イソジマの技術者さんの誇りまで踏みにじっていたんだ。 私が今生きているのは当然の権利じゃ
ない。 私がこんな身体になっても普通に暮らせるのは、 義体にかかわった全ての人達の想いがあったから
こそ、 もう二度と同じ悲劇を繰り返さないというみんなの誓いがあったからこそ、 なんだ。 ただ普通に
生きていられる、 それだけでも充分素晴らしいことなんだよ。 生きていたからこそ、 藤原と出会えて
未来に希望がもてるようになった。 これからも生きていれば、 たくさんの素晴らしい出会いがあるかも
しれない。 でも、 自分が傷つくことばかり恐れていたら、 そんな素晴らしい出会いも台無しにしちゃう
かもしれないんだ。 折角みんなが私のために命をくれたっていうのに、 そんなことばかり考えていたら
勿体無いよ。 もちろん、 私のことをただの機械だって思う人もいるかもしれない。 でも、 いいんだ。
438 :
前444:2005/04/27(水) 00:03:10 ID:mYjWYGqI
そう思いたい人には思わせておけばいい。 だって、 私には私を人間だって認めてくれるたくさんの人が
いるってことが分かったから。 藤原がいて野中さんがいて、 タマちゃんだって松原さんだっているじゃ
ないか。 山本君も猪俣さんも私の身体のことを知っているのもかかわらず、 私のことが好きだと言って
くれた、 私の心が好きだと言ってくれたじゃないか。 みんなが私に勇気をくれんだ。 だからもう恐く
なんかない。 思い切って今までどおり働いてみよう。 そうしたら、 私の中で何かが変わるかもしれない。
藤原はいつも言っている。 世の中そんなに悪いやつばかりじゃないって。 私、 今まで藤原の言葉、
半信半疑だったけど、 今初めて藤原の言葉を信じて見ようって思ったんだ。
「ヤギーちゃんはまだ学生だし、 アルバイトだからね。 そりゃあ、 いつかはうちには来なくなるよね。
だから、 いつかお別れになるのは仕方がないけれど、 でもどうせ別れるなら、 こんな形ではなくて、
ちゃんと笑顔でお別れしたい。 私はそう思うよ」
野中さんは最後にそう言ってにっこり笑った。
野中さん、 有難う。 私もそう思います。 だから私は精一杯の笑顔で答えたんだ。
「はいっ! 分かりました。 私、これからもしろくま便にお世話になりますっ!」
439 :
前444:2005/04/27(水) 00:11:01 ID:mYjWYGqI
>>400-403 皆様、ヤギーへの愛に溢れたレスを有難うございます。こんなに読者さんに
愛されてヤギーは本当に幸せものです。で、こんな展開になりました。
お約束展開かもしれませんが私にはヤギーを苛めることはできません。
八木橋ワールドでは、科学は常に発展し、未来はバラ色で希望に満ち
ています。
と、いうことで、腕相撲編、あと二回くらいで完結です。
>>433 海の中で眠るってどんな感じなんでしょう。無重力の中で眠る
のと同じで不思議な感じですよね。実際に体験してみたいと
思ってしまうのです。
>>439 >海の中で眠る
アイソレーションタンクという機械に入ると疑似体験できるかもしれません。
ヤギーさんも一歩成長しました。よかったです。
でも病院にいったら、勝手に150馬力にしたことで相当大目玉をくらいそう。
妙な褒め方かもしれませんが
ヤギーのお話、青心社あたりで商業誌で出せそうだ
なぜ青心社かというと、あそこならエロあっても可だから
443 :
82:2005/04/27(水) 23:59:48 ID:9BqyTVus
「ではボトルとボンベの交換をして外に出ましょう。」
船内の器材室に行くと、横森さん
「自分でやってみる?」 と促してきた。
もう訓練の教官モードに入っている。逆らうわけにも行かないし・・・
興味もあるので、手を伸ばし、まずUボトルをはずした。
黄色い液体が入ってふわふわした感じ。
もう海水で冷えたのか、なま暖かさは無いけど、ちょっと変な感じ・・・。
でもそのまま横森さんの持っている空のボトルと持ちかえ、
胸の操作パネルへ持って行く。
「カチッといって合うまで押さえるのよ。」
きっちり取り付けられたのがわかるとほっとして、
にっこりした表情になってしまった。
横森さん、淡々と指示をしてきた。今度は簡単。すぐに取り替えられた。
444 :
82:2005/04/28(木) 00:00:49 ID:GrATjSSN
「酸素ボンベも大変だけどやってみる?」
さすがにそこまではと思い首を振ったが、横森さん私の後ろに回り、
ライフバッグを背中から取り外し始めた。
ライフバッグを目の前に突き出され、戸惑っていると、
横森さんさっさと酸素ボンベを取り外してしまった。
「ほら、新しいの、取り付けないと息できなくなるでしょ。」
もう鬼教官みたい。
仕方なく手渡された新しいボンベを空いたところに差し込むと、
ブワッと泡が出たが、何とか取り付けられた。
「すごい、もうひとりで放っておいてもいいくらい。」
といいながら、ライフバッグを背中に戻してくれた。
445 :
82:2005/04/28(木) 00:01:56 ID:GrATjSSN
「では外に出て、ポッドでアクアベースから離れたところに行きましょう。」
ポッドに戻り、外に出た。
また2台のポッドが着いてきた。しばらく移動して、平らな地形の所に着くと、
横森さんポッドから離れ、錨をポッドから出して岩場に固定した。
私は自分で錨を固定したりしたことがなかったので感心してしまったが、
アクアノートはこれができないと流されてしまい仕事にならないのか・・・。
横森さん泳いで、もう1台のポッドのほうに行くと、
そこにいたアクアノートは他の1台のポッドに掴まり帰っていった。
「夜の充電には一人1台ポッドがないとだめだから、
清水さん、そのポッドに充電ケーブルつないでね。」
えっ、それも自分でやるの、何とかポッドから充電ケーブルを引き出しても、
私のスーツのどこに着ければいいのかわからない。
ようやく横森さん気づいたみたいで、泳いできて胸のパネルにつないでくれた。
「一人で何でもできるようにしないと・・・、
海を甘く見ていけないのは清水さんもわかっているでしょ。」
私まだ体験中なのに・・・。
446 :
82:2005/04/28(木) 00:05:27 ID:9BqyTVus
「ごめんね、清水さんあんまりスムーズにできるし、積極的に外で寝るなんていうから。
なんか訓練しているような気になってしまったわ。でも、もう決めたのでしょ・・・。」
首を振り、"せんせい"を取り出し、
「いいえ。それにアクアノートの皆さんどう見ても普通の体じゃないし・・・。」
と不安に思っていたことを書いてしまった。
「そうね。私たち手術を受けて、サイボーグ化されているのは確かよ。
でも海の中で生きるにはそれぐらいしないと、無理なのよ。」
「サイボーグなんて」と"せんせい"に書いて、固まってしまった。
「だけど、今のあなたはもうサイボーグと同じよ。手術こそ受けていないけど、
清水さんこの2日間どうやって栄養とったの、老廃物をどうしたの。
全部機械がやってくれているんでしょ。
呼吸だってそうだし、この水温の低い海でドライスーツ着てたって、
半日もすれば寒さで死んでいるのよ。もう、あなたは機械と一体になって生きているのよ。」
そうか・・・。
考えてもみなかったけど、言われてみればそうだ。
いろんな装備があんまり自然になじんできたので忘れていたけど、
今の私アクアノートの生命維持システムに組み込まれてしまっている。
447 :
82:2005/04/28(木) 00:06:41 ID:GrATjSSN
「そう悩まないで、ゆっくり考えればいいのよ。それより水面でも眺めてみれば。
ここだったら浅いし明るいから。そうすると落ち着けないかしら。
これから夕暮れにかけて、海の色が変わっていくのをじっくり眺めてみれば。
そして明日の朝は、明るくなる水面を眺めるの。」
仰向けになり、海面を眺めてみる。確かに幻想的な風景だ。
それに今の私からは泡も上がらないから視界も妨げられない。
ゆっくりした呼吸をしていると、泡が出ないこと自体当たり前に思えてきた・・・。
気が付くと横森さん、私から離れて、もう1台のポッドに移っている。
ずっと水面をみているうちに暗くなってきた。
「落ち着いたみたいね。
私は、海の中で自由に活動できると聞いて、喜んで志願したの。
後悔もしていないわ・・・。
それに、見てるとあなたは私なんかより、ずっとアクアノート向きだと思うの。
私落ちこぼれになりそうだったのを、やっとここまでこれたけど、
清水さん見てると、もううらやましいくらい、昨日と今日でいろいろこなしているのよ。
手術を受けてアクアノートになって、水中でしゃべったり、スーツやポッドのいろんな操作が自由にできるようになると、
本当によかったと思うはずよ、あなたなら・・・・・。」
横森さんの声、弾んでいて本心なのがわかる。
サイボーグか・・・。不安と、少しだけ期待を感じているうちに眠っていた。
448 :
82:2005/04/28(木) 00:23:09 ID:/66imqUL
ついにサイボーグという言葉をきかされてしまった清水、
戸惑うばかりです。
しかし、サイボーグと同じ状態という現実を横森さんに突きつけられ
迷いは深まるばかりです。
横森さんの説得力ある発言に、清水は決心までもう一歩です。
>>439,440
海の中で眠るのは無理でも
仰向けになり、海面を眺めてみる。確かに幻想的な風景です。
アクアノートと違って吐いた息の泡が
大きくなりながら水面に向かっていき途中で破裂したります。
449 :
前580:2005/04/28(木) 00:30:11 ID:Z8rRwDbw
>>423 >>435 やっと…やっと…八木橋さんの心からの笑顔を見ることができました。山本君、
野中さん、ありがとう。あなたたちの、優しくて、力強い言葉のおかげで、八
木橋さんが、生きることの喜びと、辛さに耐える勇気と、明るい未来を信じる
強さを取り戻すことができました。感謝の言葉もありません。八木橋さんの優
しさと暖かさは、周りの人達を幸せにしただけではなく、結局は自分自身にも
幸せをもたらしたのですね。
これからも、まだ、悲しい思いや辛い思いをすることもあるのでしょう。でも、
自分を信じ、自分を愛してくれる人達を信じる心を持ち続ければ、きっと明る
い未来が開けていく。そんな手応えを感じることができました。今までに、
読むのが辛い事もありましたけれど、こうして、八木橋さんが幸せを掴んでい
く姿を見ることができて、全てが報われた気ががします。作者様、ありがとう
ございます。
山本君が藤原君のことを羨ましいと言うのなら、私は山本君さえ羨ましいと思
います。八木橋さんの優しさと暖かさに直接触れる事ができる山本君を…。
>>439 腕相撲編も、もう終わりが見えてきましたか…。八木橋さんが幸せを掴むため
の一歩を踏み出すことができて、本当に嬉しいです。いつもながら、八木橋さ
んへの愛情に満ちた前444氏の作品を読めて幸せです。
清水さんは海が本当に好きなんですね。
この話を読んでて、海に浮かびに行きたくなりました。
451 :
前444:2005/04/28(木) 01:53:15 ID:2orVpGZp
私、 安心しちゃったのかなあ。 そう言ったとたん、 寝不足の頭に睡魔がどっと襲い掛かってきて、
いつの間にか眠りこけちゃった。 次に目が覚めたら、 府南病院の見慣れた病院のベッドの上だった。 や
わらかい朝の光がカーテンを通して、 エアコンのほどよく効いた(あんまり室温分からないけどさ)室内
に差し込んでいた。 いつの間にか朝になっちゃってたんだね。
「裕子さん、 目が覚めたね」
聞きなれた声が聞こえる。 ふと、 横を見ると見慣れた藤原の人懐こい顔がニコニコ笑ってた。
「藤原、 来てくれたんだ! どうしてここが分かったの!」
びっくりして飛び起きた。 そしてすぐ義体に検査用のコードがささりっぱなしってことに気が付いて、
恥ずかしくなって、 またあわててふとんの中にもぐりこんで顔だけ出す私。 あ、 右手、 ちゃんと動い
てる。 右足も。 あ、 服はしろくま便の作業服じゃなくて、 いつも検査の時に着る白くてぶかぶかの
かっこ悪い服を着てる。 私がぐっすり寝ている間に修理終わったんだね。
「裕子さん、 イソジマ電工への緊急連絡先を俺の携帯番号に変えただろ。 忘れたのかい? 昨日何度も
裕子さんの携帯に電話しても繋がらなくて、 どうしたのかと思ったら、 イソジマ電工の松原さんって人
から電話があって、 裕子さんが怪我をしてアルバイト先から府南病院に運び込まれたって言うじゃないか。
俺、 びっくりしちゃって、 心配になって、 すぐこっちに来ちゃったよ」
「じゃあ、 藤原、 昨日からずーっとここにいてくれたの?」
「こんなのなんでもないよ。 不規則な生活には慣れてるからね。 それに、 俺もここでちょっとは寝た
しね。 まあ、 なんにしても裕子さんの怪我、 たいしたことなくてよかったよ」
そう言う藤原の眼は真っ赤だ。 きっとほとんど寝てなんだろう。 寝ないでずーっと私のそばに
いてくれたんだね。 有難う、 藤原。
「昨日のことだけど・・・ごめんね、 藤原。 機械の身体の私なんか理解できないなんて、 私、 藤原に
ひどいこと言った。 私のこと一番理解してくれる人に、 ひどいこと言っちゃったよ。 私が悪かった」
「いいんだ。 そんなこと、 もういいんだ。 裕子さんが無事だったらどうでもいいんだ」
藤原は私の頬っぺたを優しく撫でてくれた。
452 :
前444:2005/04/28(木) 01:56:45 ID:2orVpGZp
「私、 また身体壊しちゃった。 きっと、 すごい修理費を取られちゃうよ。 せっかく京都に行こうって
いっていたのに、 だからアルバイトも頑張ってたのに、 それどころじゃなくなっちゃったね。 ごめん
ね、 私の身体がこんなだから、 普通の人みたいに放っておいても自然に治る身体じゃないから、 すぐ
入院することになって、 お金もかかって、 デートの時間もろくに取れなくなっちゃうんだよ。 私は、
ホントは藤原と一緒にいたい。 藤原といろんなところに遊びに行きたいのに。 ごめんね。 本当に
ごめんね」
私は自分が恨めしかった。 藤原はこんなに優しくしてくれるのに、 その優しさに何一つそれに
応えられない自分が悔しかった。 でも、 そうやって落ち込む私の目の前で、 藤原は一通の封筒をちら
つかせたんだ。 なんだろう?
「そうそう、 お金といえば・・・。 ねえ、 裕子さん。 野中さんって女の人がこんなものくれたよ。
裕子さんに渡してくれだってさ」
恥ずかしいから毛布を被りながらだけど、 よっこらしょって、 上半身だけ起こして、 藤原の差し
出した空色の封筒を受け取って、 中を開いてみた。 そうしたら、 千円とか二千円とか五千円とか、
いろんな種類のお札が合わせて三万円くらい入っていたんだ。 これって、 昨日、 私が断ったみんな
からのカンパじゃないか。 封筒の中にはお金と一緒に小さなメモ用紙が入っていた。 メモ用紙には
裏表をびっしり使ってこんなことが書かれていたんだ。
453 :
前444:2005/04/28(木) 01:58:27 ID:2orVpGZp
_______________________________________________
八木橋裕子様
夕方みんなから集めたお金、 ヤギーちゃんは受け取らなかったけど、 でもやっぱり渡します。
これはしろくま便のみんなの気持ちです。 ヤギーちゃんいつも頑張ってるのに、 これくらいしか
返せなくて逆に申し訳ないくらい。 身体のほうは、 すぐ元通りになるいってお医者さんは言って
たけど、 でも明日と明後日と、 ヤギーちゃんは休みだって所長には言っておきました。 ヤギー
ちゃんがいない分も私達で頑張るので気にしないでゆっくり休んでください。 たまには何もかも
忘れて彼氏や友達と遊ぶといいよ。では、 休み明け、 元気にアルバイトに来ることを心待ちにし
ております。 しろくま便は、 いつでもあなたを待ってるよ。
野中明美
追伸 ヤギーみたいないい女は滅多にいないぜ。 もっと自分に自信を持ったほうがいいな。
猪俣茂樹
さらに追伸 現実のギャンブルにも弱くて、 恋のギャンブルも弱い俺って駄目人間ですか?
でも、 勝負は時の運。 負けるときもあれば、 勝つときもあるっていうのが俺の考えです。
ヤギーさんのこと、 まだあきらめてませんから。
山本直行
_______________________________________________
私の眼から涙が溢れたんじゃないかと思った。 いや、 そんなの幻覚に決まってる。 私の眼は
涙なんか流すはずはないんだ。 でも、 まだ自分の身体を持っていた遠い昔、 うれし涙を流した感覚が
蘇って、 まるで涙を拭くみたいに、 眼をこすらずにはいられなかった。 だって、 この三万円はただの
三万円じゃないよ。 みんなの愛と優しさが、 全部つまっているんだ。 私にとってはどんな宝物よりも
価値のあるものなんだ。
454 :
前444:2005/04/28(木) 01:59:07 ID:2orVpGZp
「裕子さんがアルバイトしているしろくま便の人はみんないい人達だよね。 熊みたいにごっつい人がいてさ、
姐ちゃんを幸せにしてやるんだぞって握手を求められた。 ちょっと手が痛かったけどね」
藤原は右手をさすりながらわざとらしく顔をしかめた。 ああ、 猪俣さんだ。 いかにも猪俣さんらしい
挨拶の仕方だよ。
「それから、 ちょっとやせた俺ぐらいの年の男もいるでしょ。 彼は、 僕は負けませんから。 あきらめま
せんからって言ってたな。 一体何をあきらめないんだろうね。 何言ってるのかよく分からなかったな。
裕子さん、 心当たりある?」
山本君、 そんなこと言ったんだ。 馬鹿だね。 相変わらず馬鹿だねえ。 私、 山本君に告白されちゃ
ったんだ。 そして励まされたんだ。 でも、 安心してよ、 私が好きなのは藤原だけだから、 なんてバカ正直に
言うのも恥ずかしいし照れくさいから、 藤原の問いかけはわざと聞こえないふりをして、 かわりにこんなこと
言っちゃった。
「ねえ、 藤原。 キスしてよ」
そうしたら、 藤原、 笑いながら、 私の頬っぺたにそっと口付けしてくれたんだ。 ああ、 もう、 じれっ
たいなあ。
「うー、 そういうのじゃなくて、 もっとちゃんとしたやつ」
私はふてくされて頬っぺたを膨らましてすねてみた。
「ここで?」
藤原は周りを見回して苦笑いした。
「気にすることないよう。 どうせ個室だし、 誰も見てないよう」
私は、 両手を広げて目をつむった。 お陰で私を覆っていたふとんが身体から落ちて、 全身コードだらけ
の身体が丸見えになっちゃったような気がするけど、 もうどうでもいいや。 藤原相手に繕ってもしょうが
ないもん。 目をつむった私の唇に藤原の唇が触れたのを感じる。 私の顔に藤原の息がかかる。 私は藤原の
頭をぎゅっと抱いて、 藤原も私の身体を抱きしめてくれて、 それから舌と舌がふれあって・・・。 あー、 私、
幸せだよう。 この時間がずーっと続いたらいいな。
455 :
前444:2005/04/28(木) 02:12:43 ID:2orVpGZp
次回、腕相撲編最終回です。はじめはもっと軽い話にするつもり
だったのですが、いつのまにか重々な話になってしまいました。
このテンションを維持するのは疲れるのです。
>>441 さてさて、どうなることやら。そのへんは次回です。
>勝手に150馬力
>>442 商業誌だなんて最大級の賛辞です。有難うございます。
そういえばしばらくエロは書いていないなあ。
>>449 いいえ、私こそ580様の愛に溢れる感想カキコが読めて嬉しいのです。
優しさ、思いやり、明るい未来への希望。手垢のついた今の時代に
そぐわないテーマかもしれませんが、地味にやっていきたいと
思っています。
456 :
前580:2005/04/28(木) 22:29:15 ID:Z8rRwDbw
>>451 ずいぶん時間がたったような気がするのですが、藤原君やジャスミンさんと喧嘩
したのって、昨日のことだったんですね。
藤原君、優しい…。目を覚ますまで、一睡もせず、八木橋さんを見守り続けてい
る藤原君の姿が、目に浮かぶようです。修理費、一体いくらくらいになるんでしょ
う。せっかくバイトして稼いだお金が、全部消えて無くなってしまいそう。でも、
”また身体壊しちゃった”って、一体…。身体を壊すようなことが、何度もあっ
たのでしょうか…。
就職活動編の時もそうでしたが、メッセージの使い方がいいです。面と向かって
言われたら照れてしまうようなことでも、メッセージに込められた想いなら、素
直な気持ちで受け止めることができそうです。八木橋さんの涙、藤原君には見え
たのでしょうか。
藤原君は、事情を知っているのかな。八木橋さんの優しさは、例え藤原君に直接
向けられたものでなくても、きっと、藤原君の心も温かくしてくれていることと
思います。八木橋さんにこんなに想われている藤原君は、幸せ者です。
藤原君に甘えて、すねてみせる八木橋さん、可愛いです。藤原君と一緒の時の八
木橋さんは、本当に可愛いです。藤原君との幸せなキス、辛かった一日の後では、
とびきり甘かったのではないでしょうか。
>>455 お疲れさまです。結局、検査入院編に続く感動巨編になりましたね。開始時には、
こんなに悲しくて、嬉しいお話になるとは思っていませんでした。毎回、素晴ら
しいお話をありがとうございます。最終回、どんなオチが待っているのでしょう
か。楽しみです。
457 :
前444:2005/04/28(木) 23:16:52 ID:cU1H9u4U
突然ノックの音がしたから、 びくっとして藤原と顔を見合わせた。 藤原は、 あわててベッドのそばの
椅子に座った。 全くもう、 こんなときに無粋なんだから。 いったい誰だよう。
松原さんだった。
「お取り込み中悪いですが、 今回の治療代金の報告に参りました」
妙に馬鹿丁寧な松原さんの口調で、 いきなり現実に引き戻された。 そうだ、 きっと今回の義体の修理
費用だって、 結構な金額のはずなんだ。 せっかくみんなからもらった三万円じゃあ、 なんの足しにもなら
ないくらいに・・・。
「今回の八木橋さんの怪我ですが、 何らかの原因によって義体の出力制御のプロテクトが解除されたため、
体内で使用する電気の電圧が急激に上昇し、 駆動用のモーターが過負荷状態になって焼ききれたものです。
本当はあってはならないことですが、 ごくごくまれにサポートコンピューターのバグにより出力が強制的に
開放されてしまうことがあります。 弊社としても自社製品は充分気をつけて管理しているつもりですが、
今回このような事態が起こりまして、 使用者に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」
私はびっくりした。 だって、 今回身体が壊れたのは、 私のせいなんだよ。 なんでイソジマ電工が、
松原さんが謝るんだろう。
「え、 え、 え、 だって、 私の身体が壊れちゃったのは私が茜ちゃんに連絡して勝手に義体の出力を上げ
たからで・・・」
「会社側の―」
松原さんは大声で私の言葉を覆い隠した。
「会社側の公式見解としては西田さんは弊社の一義体所有者にすぎず、 なんらの特殊能力も保有しており
ません。 ですので、 西田さんが義体の出力制御のプロテクトが解除するなどということはありえないこ
とです。 今回の件とは何ら関係ありません。 今回は弊社のミスということで規定により弊社で入院費を
全額負担、 また別途お見舞い金を支給させていただきます」
「ええっ! 入院費用がただになったうえにお金までもらえちゃうってこと?」
458 :
前444:2005/04/28(木) 23:18:06 ID:cU1H9u4U
「八木橋さん。 前回の茜ちゃんの一件で、 うちの会社の対応に腹が立たちませんでしたか? 私は自分が
ないがしろにされたみたいで、 ものすごく悔しかったんです。 だから、 今回は初めて会社に楯突かせて
もらいましたっ! 茜ちゃんの能力は、 イソジマ電工と自衛隊の間の極秘事項で、 公式には茜ちゃんは、
ごく普通の弊社の一ユーザーってことになってますから、 そこのところの矛盾をついて部長と直談判して、
お金もらってきましたっ! 私はイソジマ電工の社員ですけど、 八木橋さんのケアサポーターでもあるん
です。 たまには、 会社の営業ばかりじゃなく、 あなたの助けになるようなこともしないといけませんよね」
そう言うと松原さんは、 会社からのお詫びの書類を私の目の前で広げて、 胸を張った。 まるで、 裁判
にでも勝ったみたい。 まるで、 その書類に「勝訴」って書いてあるみたい。 どうだっ! ていう松原の心
の声が聞こえてきそうだよ。 ホントに。
それは、 つまり・・・、私と藤原はしばらく時間が止まったみたいに見つめあった。
「藤原、 京都・・・、行けるね?」
「うん。 良かったね裕子さん」
「やった、 やった、 やった! 京都京都京都だよう! 藤原と京都だよう!」
松原さんの目の前だっていうのに、 私、 我を忘れて興奮して、 気が付いたらベットから飛び起きて、
藤原に抱きついていた。 コードがあちこちにささりっぱなしのみっともない姿だけど、 そんなのかまう
もんか。 だって、 嬉しいんだもん。 松原さん、 すごいよ。 私のために頑張ってくれたんだね。 私、
何てお礼を言っていいか分からないよ。 やっぱり松原さんはすごいケアサポーターだ。 私の担当が松原
さんでよかった。
うかれる私の横で、 松原さんは、 わざとらしく咳払いをした。 それで我に返って、 私はあわてて
藤原から離れる。
「まだ続きがあります。 今のが会社の公式見解です。 続きまして私の私的見解です」
松原さん、 ニヤっと、 ちょっと意地悪そうに笑うんだ。 彼女がこんな顔することめったにないよ。
なんだろう? ちょっと緊張して、 松原さんを見つめる。 松原さんは思いっきり息を吸い込むと、 マシン
ガンみたいに私に向かってまくしたてたんだよう。
459 :
前444:2005/04/28(木) 23:18:53 ID:cU1H9u4U
「ゴルァ、 このメガネザル! いったい何度私に迷惑をかけたら気がすむんかい!慣らしもなしに出力を
よりによって最大まで上げたらどうなるか分かりそうなもんですけどねえ。 馬鹿じゃないの? 脳みそ膿んで
るんじゃないの? ちゃんと義体の説明書読んでんの? あんたのせいでねえ、 せっかくの私のデートがだい
なしですから。 だいなし。 分かってる? 理由はどうあれ、 あなたのやったことは犯罪ですから。 本来
刑務所行きですから。 今回は大目にみますけど、 次からは会社が許しても私が許しませんからね。 もしも
次に同じことやったら私の権限でサポートコンピューターと脳の強制遮断二日間の刑ですっ! 覚悟してくだ
さいっ!」
ひー、 すみません。 もうしません、 ごめんなさい。 許して、 許して。 許してよう。 冗談めかして
言ってるけど、 眼が恐いよう。 松原さん本気だよう。
いつものように、 宮の橋から自転車をかっ飛ばして8時半きっかりにしろくま便東八軒坊事務所に到着。
でも、 今日の私、 いつもと違ってちょっと緊張している。 今日は、 休みが終わって三日ぶりのアルバイト、
腕相撲事件のあとはじめてのアルバイトなんだ。
「お早うございまーす」
元気よく挨拶しながら事務所に入ったんだけど、内心はびくびくもの。みんな私の事どう思っているん
だろう。
「おう、 ヤギー、 久しぶり。 休みはどうだった? 彼氏は毎晩元気だったか?」
タバコを吸いながらスポーツ新聞のエロ記事を熱心に読んでいた小林さんが真っ先に私に気がついて声を
かける。
「うー、 小林さん、 その質問は直球ストレートでセクハラです」
小林さんのセクハラ発言はいつものことで、 残念ながらもう慣れっこになってしまってこのくらいでは
動じなくなってしまった。 ケチ所長はちらっと、 私を見ただけで何事もなかったかのように電卓と格闘して
いる。 飯田さんは、 軽く私に会釈しただけで、 机の上の鏡と睨めっこしながら、 髪をなでつけるのに一生
懸命だ。 そんなヘアスタイルを気にするほどふさふさした髪でもないのにね。 鈴木さんは相変わらずパソコン
ゲームに熱中していて私が入ってきたことにも気が付いていない。 いつもの、 ごくごく当たり前の事務所の
光景だ。
460 :
前444:2005/04/28(木) 23:26:27 ID:cU1H9u4U
野中さんと、 石塚は壁に貼り付けている地図と睨めっこしていた。 引越しレディースサービスの打ち合わ
せだろう。 全く、 この会社で、 まともに仕事をしているのは女だけなんだろうか? 私は苦笑しつつも二人の
ところに向かった。 私も打ち合わせ、 聞いておかなきゃ。
「さて、 今日の仕事のスケジュールは」
「えー、 今日の現場は遠いですよ。 ちょっときついかもしれません。 えと、 午前中は天后宮」
「ああ、 入舸浦の中華街があるところでしょ。 詳しい場所は分かる?」
「住宅地図はコピーしてます。 完璧」
「さすがイッシー、 ちゃんとナビってね」
「それから、 午後は二ノ橋です」
「うわっ、 それって全然逆方向じゃない。 ついてないわね」
野中さんは腕組みしながら渋い顔をした。
「あの、 野中さん、 石塚さん、 私・・・」
「なーに、 ヤギーちゃん」
地図と睨めっこしていた野中さん、 私のほうを向いてにっこり笑った。
「ううん、 なんでもないんです、 なんでもない」
私、 なんであんな事件があった後なのに、 みんな私に何も言わないのか、 普通に接してくれるのか不思
議になって、 そのことを聞こうと思ったんだ。 でも、 やめた。 そんなこと聞くだけ野暮だよね。 あきれる
くらい、 いつもと変わらないしろくま便の日常。 いつもと同じ顔ぶれで、 いつもと同じことを話をして、
いつもと同じくだらないギャグがとんで、 いつもと同じ笑いが沸き起こる。 なんて変化のない、 つまらない
会社なんだろうね。 ふふふふ。 嬉しいよ・・・。 私、 とても嬉しいよ!
「そう、 じゃあ、 ヤギーちゃん、 今日も張り切って頑張りましょうか」
「はいっ!」
八木橋裕子22歳。 今日も元気にバイトを頑張るぞう
おしまい
おつかれ〜。
いつも読んでます。
これからもがんばってくださいね。
462 :
前444:2005/04/28(木) 23:32:29 ID:cU1H9u4U
腕相撲編、完結です。ご愛読ありがとうございました。
次回作は予定通りなら、ようやくにして、この物語の出だしを
書こうかなと思います。高校時代のヤギーと若かりし頃の
汀さんとの出会いですね。高校編第一話、天からの贈り物です。
>>456 いつも、いつも感想カキコ有難うございます。励まされます。
>結局、検査入院編に続く感動巨編になりましたね。開始時には、
>こんなに悲しくて、嬉しいお話になるとは思っていませんでした。
私も思っていませんでした。
もっと、短くテンポよくまとめないと駄目ですね・・・。
463 :
M.I.B.:2005/04/29(金) 22:55:05 ID:rGJbzuH2
「新しい左腕の調子はどうかしら?」
待機室に入ってきた私に三島技官が話しかけてきた。
「調子良いです。スムーズに動きますし、シールドもしっかり作れます」
「そう、ちょっと出力の検査をしたいわ。検査室に回ってもらえないかしら?」
「はい、了解しました」
検査用の弾丸をシールドで弾く。確かに以前よりも出力が上がっているようだ。安定性も段違いだ。
「OK、検査終了よ。予定通りのスペックが出ているわ」
「はい、これならあのビームも十分防げますね」
「ええ、あの程度の出力なら確実に耐えられるわ」
検査室から横の操作室に入る。
「それにしても、凄いですね。この2日でこんな新装備を開発するなんて」
「実は開発は済んでて、最終テスト中だったの。もう少し早く完成していればあんなことにはならなかったのに…」
三島技官が済まなそうに顔を伏せる。
「そんな、何とか勝てましたし、あの子も無事でした。気にする必要ありませんよ」
「けど…」
「大丈夫です。こうして腕も新しく作ってもらえたし、パワーアップも出来ました」
「あなたがそう言うなら…」
464 :
M.I.B.:2005/04/29(金) 22:55:45 ID:rGJbzuH2
「それより、次の襲撃は…」
「ええ、ジェネラル級が来るはずね」
定期的に襲来するアザーズだが、3ヶ月に1度ジェネラル級に分類されるγタイプが現れる。前回から3ヶ月がたっているので、5日後にはγタイプが現れるはずだ。
「どんな子が来るか分からない。けど倒さなくちゃならないわ…」
「はい…」
α・βタイプも改造された人間だが、γタイプは明確に一線を画している。
α・βタイプはもはや人間としての面影も無い。だがγタイプは違う。
ヴァルキリーシリーズと同じように、人であったころの顔を模しており、変容しきっているとはいえ自我を持っている。
そして、PSI兵器に近い特性を持つ武器を装備し、とても高い戦闘能力を持っている。徐々に高まってきた戦闘能力は、今ではヴァルキリー2体をも上回る。
歩いているうちに司令室にたどり着く。
そこには、01こと久我山 綾、02こと九条 明日香、指令など主だった面々が揃っていた。
「揃ったな。5日後に出現すると思われるγタイプについての会議を始める」
海道 真副指令が全員を見回して発言する。
「先程、オーディーン本部よりγタイプに関する情報があった。
中央コンピューター・ミミールによると71.7%の確立で3体が襲来。24.1%で2体、1体が4.1%、その他が0.1%とのことです。
また、襲来予想地区としては、日本96.4%、アメリカ83.2%、以下続きます」「ほぼ確実にこちらには来るという事ですか…」
「そうなります」
苦々しげな三島技官の言葉に、海道副指令は事務的に答える。
「今から日本支部では警戒レベルをレベル4+にあげる」
指令がそう宣言する。
レベル4+とは、基地要員は待機状態を維持、私たちも最低でも1体は待機状態で基地内に維持、残る2体も学園外への移動を禁止し、即座に出撃体制に移行できるようにしている必要がある。
「解散するが、全人員、兵装いつでも稼動できる状態にしておけ」
会議は指令の言葉で終わった。
465 :
M.I.B.:2005/04/29(金) 22:56:39 ID:rGJbzuH2
「最初は私が待機しているわ」
部屋から出るとそう言い出したのは、綾さんだった。
「私はもう外に出ることも無いし、1回おきに回るわ」
「え?、でも…」
その言葉に私は躊躇する。
「そう、ならお願いするわ。2順目は私が担当するから、03貴女は4順目をお願いするわ」
しかし、明日香さんが私の言葉を遮って決めてしまう。
「それじゃあ、8時間後に…」
そう言うと、綾さんは待機室へと行ってしまった。
「明日香さん! 勝手に決めないでください」
思わず抗議の声を上げるが、明日香さんは聞き入れる様子は無い。
「01が了承しているなら問題ないでしょう。それよりいい加減この姿の時は、その名前で呼ぶのは止めなさい」
逆に、呼称について嗜められてしまう。
「規律を守れないような物と同型機と思われたくないわ」
そう言うと、ロッカーに向けて歩いて行ってしまった。
466 :
M.I.B.:2005/04/29(金) 23:02:26 ID:rGJbzuH2
とりあえず、対ジェネラル戦その1です。
はたして、その幾つまでいくかw
>>434 まあ、最後まで書き上げてからですのでw
アクアノート、遂にサイボーグという単語が出てきましたね。
今後の展開が楽しみです。
>>462 ヤギー、立ち直ってよかったです。
次編も期待してます。
467 :
82:2005/04/30(土) 00:54:32 ID:rjml/SKs
まわりが明るくなってきた。もう朝なのか。横森さんの方を見ると、
こっちを見ている。私が動き出したのに気づいて、泳いできた。
「おはよう。よく眠れた? 考えること多かったみたいだし・・・。」
また、ポッドが2台やってきて、横森さんのポッドにアクアノートが一人乗り移った。
「清水さんおはよう。でも今日帰っちゃうのね。きっと戻ってきてね。
一緒に仕事しましょう。」橋口さんだ。
とりあえず挨拶と思ってもしゃべれないので、手を振ると「じゃあまたねー。」と西野さんも声をかけてきた。
話はできなかったけど、なんか暖かい感じの人たちだった。
横森さん、こっちの方にやってきて、錨をはずすと
「一回りしてから、プールに戻りましょう。」
ポッドは動き出した。もうここに戻ることはないのか、それとも・・・。
まだまだ迷っている。
プールの入り口に着くと、
「さあ着いたわ、あとは降りて先にプールに戻ってね。椅子が降りてきていると思うから座って待ってて。」
ゆっくり泳いでいくと椅子があった。
横森さんも戻ってきて
「大学院終わったらすぐ来るんでしょ。それまでさよならね。」
私の心はまだ決まってはいないけど、横森さんは当然帰ってくるって信じてる感じ。
でも本当にいい人たちだ。
仲間に入りたいという気持ちと、やはり怖いという感じが半分づつ・・・。
468 :
82:2005/04/30(土) 00:55:57 ID:rjml/SKs
「椅子に座って姿勢を、ちゃんととってね。水から上がるとき大変だからね。」と横森さん。
椅子に座ると「清水さんお帰りなさい。しっかり踏ん張ってね。浮上開始します。」と井上さんだ。
がくんと椅子が上がり始めた。横森さんは底で立ったまま、私を見上げている。
−5、−4、−3メートルとゆっくり浮上していく。
そしてぐっと体が重くなり、ざあっと水が落ちていく。
もう動けない。ここ3日間水中でふわふわしていた体にはこたえる重さだ。
「踏ん張って・・・。すぐに楽にしてあげますからね。」井上さんが声をかけてくれた。
背中の方で何人かの人がごそごそしている。
呼吸液をスーツから抜いているのだろうか、目の前を水面が降りていく。
やがてヘルメットが取り外された。まだマスクは着けられたままなので声は出せない。
「マスクのホースを一時はずしてスーツの上の方を脱ぎます。」
だんだん楽になってきたが体が重いことに変わりはない。肩を抱えられズボンも脱がされた。
「横になって楽にして、しばらくは動かないでね。地上の重力に慣れるまでそのままね。」
息は液体呼吸のままで楽だけどしんどい。それでもしばらくすると、
「落ち着いたみたいだから、立ってスパゲティスーツを脱いでね。」
スパッツだけの裸にされてしまった。
「ベッドで横になって、いよいよ空気呼吸に戻ります。息が軽くなったら少し速く息をしてね。」
井上さん淡々と指示してくる。なんか息が軽くなってきた。マスクがはずされた。
「スー,ハー、スー、ハー・・・」
井上さんの声に合わせて息をする。
「このまま1時間もすれば肺の中に残った呼吸液も蒸発していきます。」
スー,ハー、スー、ハー
>>M.I.B.様乙です。
モノとしての冷遇や改造シーンなど可哀想な要素が無いと物足りなく感じてしまうのはM.I.B.マジックにかかってしまったからでしょうか?w
次回も楽しみにしています。
>>442 エロ抜きなら他の出版社でもいけそうだな。
エロ抜きでもじゅうぶん話が成り立ってて面白いし。
いや、もちろん漏れもエロいほうが「より一層」萌えるけどなW
M.I.B.様お疲れ様です
出来れば相手側のγタイプの改造シーンなども書いて貰えると萌えるのですが
よろしくお願いします
>>471 禿同!!(´-`).。oOM.I.B.様の改造シーンは萌えるからなあ
473 :
前389:2005/04/30(土) 23:22:44 ID:RInZL014
サイボーグ+魔法 連休明けに書き込む予定です
改造される娘の心理とかいろいろイメージしてたら、
自分が改造される夢を見てしまった…
474 :
82:2005/04/30(土) 23:42:03 ID:C4tB+IBO
井上さん、青いつなぎ服と、白い固まりを持って戻ってきた。
「ては、膀胱と肛門に入れていた管を抜きます。そして、ここにいる間・・・、あさってまでオムツをしていてね。
あなたの膀胱と肛門、この3日間ですっかり怠け者になっていて、漏らしてしまうおそれがあるの。
今日は栄養ゼリー飲料、明日はおかゆ、あさっては柔らかめの食事という具合に普通の食事に戻していかないといけないし。」
えっまた恥ずかしい思い続くの・・・。
暗い顔をすると、
「水中で生きることも大変だけど、地上も結構大変なのよ。」と言いながら井上さんカテーテルを抜き始めた。
ガーゼを当てられ、まず肛門からカテーテルが抜かれた。続いて・・・。
そして、オムツをはかされてしまった。
「さあ、じゃあ、ツナギを着て。」
泣きそうになりながら着替えた。
475 :
82:2005/04/30(土) 23:43:45 ID:C4tB+IBO
「こっちの部屋に移りましょう。」と井上さんに促されて立ち上がりついていく。オムツの肌触りが気になる。
エレベータで上の階に上がり、連れられてきた部屋は普通の事務室といった感じだ。
椅子にかけ、体の重さをまた感じていると、
「よく頑張ったわね。全く問題なく過ごせたみたいね。
予想以上の活躍ね。ねえ、どうだった? 楽しめたでしょう。」
何か答えないといけないと思ったが、三日間の無言の行のせいか、言葉が出なかった。
「アクアノートの試験は最優秀の成績で合格です。おめでとう清水さん。」
井上さん、私が迷っているなんて全く感じていない。
このままでは私の不安や迷いは残ったまま、サイボーグにされてしまう。
「確かに海中での3日間は楽しく、夢のような経験でした。
アクアノートの皆さんはよい人ばかりで、仲間に入りたいと思います。ポッドを自由に操ってみたいと思います。
でもそのためには手術を受けて、サイボーグにならないといけないんでしょう。
その決心はまだできないんです。井上さん、お医者さんなんでしょう。
どんな手術を受けなければならないか教えてください。」
思ったことをそのまま井上さんにぶつけた。
「清水さん、積極的に液体呼吸や水中活動の体験をこなしていたから、
サイボーグの手術を受けるの承知してくれると思っていたわ。
では説明しないといけないわね。ここにあなたがアクアノートになってくれる際結ぶ、雇用契約書があります。
本来は事務方の佐藤課長がするべきでしょうが、内容が内容なので、私が説明するわ。」
といって、井上ドクター雇用契約書を渡してくれた。
476 :
82:2005/04/30(土) 23:45:19 ID:C4tB+IBO
「雇用契約書
(財)海洋開発研究所(以下甲とする)は「 」(以下乙とする)と雇用契約を以下の通り結ぶ
1.雇用条件は以下の通りとする。
1.1雇用期間は平成XX年YY月ZZ日より期間の定めのない雇用契約とする。
1.2就業場所は福井県敦賀市○○町580番地(財)海洋開発研究所
1.3業務内容は海洋調査に係る特別調査員とする。
1.4就業時間は午前8時30分より午後5時までとする。
1.5休日は土曜、日曜及び当研究所の定めるカレンダーとする。
1.4、1.5項については海中勤務時は別途定め、海中勤務終了時にまとめて付与することができるものとする。
1.6給与は国家公務員研究職俸給表を準用し、初任給は2級5号俸を給する。
2.特別調査員の業務遂行に当たり、甲は乙に以下の処置を施すこととする。
2.1栄養摂取のため胃瘻造設を行う。
2.2尿排泄のため膀胱より臍まで、人工排尿細管の造設を行う。
2.3膣口からの分泌物管理及び尿道口からの漏出排泄物管理を行うため、
両開口部にストーマ付き人工壁造成を行う。
2.4液体呼吸中の音声発信のため、咽頭部に筋電位電極の留置を行う。
2.5液体呼吸中の音声受信の確保、生命の維持及び各種機器操作のため、
永続的頭蓋内電極留置を行う。それに伴い頭皮及び頭蓋骨の上部を切除し、
電極留置処置後は人工頭蓋骨で復旧保護をする。
2.6特別調査員業務終了時に甲は乙に施した上記処置について可能な限り回復処置をするものとするが,
原状復帰できない分について乙は甲にその責を問えないものとする。」
477 :
82:2005/04/30(土) 23:49:57 ID:C4tB+IBO
目を通すと後半に手術の内容が、難しい言葉だが具体的に書いてあった。
「第1条の方は普通の雇用条件ね。就業時間と休日はアクアノートの場合定義が難しいので
このとおりにはいかないのはわかってね。そして問題は第2条ね。アクアノート体験していて、
どういう事が必要だったかと照らし合わせてみましょう。
栄養に関しては肛門、排尿に関しては膀胱に尿道口からカテーテルを入れてもらったけど、
長く入れていると癒着してしまうでしょ。その代わりにお臍から胃の出口近くと、
膀胱にカテーテルを通します。
お臍にはマリンアンビリカルって言うシリコンのアダプターを着け、そことスーツのパネルを
カテーテルで接続します。栄養液も小腸を通るからずっと自然に吸収されるわ。
3番目だけど体験の時は尿道口をカテーテルで塞いでたから、尿漏れはなかったけど
アクアノートの場合その対策が必要なのね。それから生理は栄養液にホルモンを
混ぜるから気にしなくてもいいけど、おりものとか有るといけないから、
そこにカバーを着けなければならないの。ここまでで質問無い? 」
さっきまでされていた処置や、横森さんの話からそんなものかと理解できた。
「意味はわかりました。しょうがないですね。4番と5番も説明してください。」
478 :
82:2005/04/30(土) 23:52:05 ID:C4tB+IBO
「そう、前半は液体呼吸で生きるための処置なの。
後半がアクアのノートの水中活動で必要な処置なの。
あなた液体呼吸中しゃべれなくって、ずいぶんまだるっこしい思いをしたでしょう。
呼吸液で満たされていると声帯の振動数が変わって声にはならないけど、
声帯を動かそうとする筋肉への電気的刺激は同じだから、これをモニターする電極を着けてもらって、
その電気信号を解析して音声信号に変換します。
そしてその声を聞く方法はアクアノートは脳に取り付ける電極、普通の人はスピーカーでの再生音です。
さっきまではヘルメットの中のスピーカーで横森さんの声を聞いていたわね。」
横森さん始めアクアノートの声が合成音みたいに聞こえたのは、そういうことだったんだ。
でもほとんど違和感はなく聞き取れる声だった。
「脳に電極を取り付けるのはそのためだけではありません。
脳波をキャッチし解析して、それでコンピュータを通して、
スーツやポッドを操作するためです。あなたに着けてもらったゴーグルには、
単一の文字情報だけ表示されていたけど、アクアノートのゴーグルには
パソコンの画面そのものが表示されます。その中のカーソル移動、マウス操作や文字入力などは、
ほとんど考えただけで、やれるのようになるのよ。
ポッドを操縦するときは、ポッド用のコントロール画面を出してそれを操作すれば、
ポッドのスピード、上下左右文字通り3次元の進行方向もコントロールできます。」
それってすごい・・・。
横森さん操縦している様子全くなかったのに、ポッドは見事に進んでいた。
「すごいですね・・・。それじゃ潜水調査艇も、船長が考えただけで日本中の海を廻れるんですか? 」
思わず、また興味を示してしまった。
479 :
82:2005/05/01(日) 00:01:23 ID:XhJzQO4P
「まあ理論的にはそうだけど、あれだけの規模になると単純には行かないけどね。
脳コンピュタインターフェース、BCIっていいますが、この技術の発展無しにアクアノートの
計画は実現できなかったのよ。もっとも、ポッドを自由に操れるようになるには、
脳波のパターン分析と、操作するコンピュタのマッチングなど訓練はいっぱいあるから、清水さん覚悟してね。」
一言余計なこと言っちゃったから、井上ドクター、私が承知したと受けとってしまった。
「電極を埋め込んだあとの頭は、きれいにカバーするから、
ヘルメットか、フードを着けているぐらいにしか見えないから、
まあ我慢できると思うわ。そろそろお腹もすいてきたと思うし、
胃や腸を働かせ始めないといけないから、ゼリードリンクでも飲んでみましょう。」
まる3日半、口からものを摂っていなかったことを思い出し、不思議な感じでドリンクを飲んでみた。
お腹が働き始めたのがわかる。突然トイレに行きたくなってしまった。
「トイレ、トイレはどこですか。」
トイレに急ぎ、ツナギ服とオムツを下げて、便座に座る。
さっきまで全く忘れていた事だけに、なんか面倒なくらい。
ある意味でサイボーグって便利なのねって、感じている自分に気づいた。
480 :
82:2005/05/01(日) 00:02:35 ID:XhJzQO4P
部屋に戻ると井上ドクター、
「結論は急がないから、まず普通の生活に戻れるようにしましょう。
ここに来た晩に泊まってもらったゲストルームに案内するから、そこでゆっくりしてね。
夜までにあと2本ゼリードリンクを飲むこと、それから意識してトイレに行くことを心がけてね。」
ゲストルームに戻った。
普通の世界だ・・・、テレビをつけてみた。
バラエティー番組が、なんか別世界のそら言のように感じられる。
私、もう海の中が生きる場なのか・・・・・。
でも、手術なんて・・・。
結論は出かかったが、まだふらふらしている。
481 :
82:2005/05/02(月) 00:58:49 ID:NZxC5Jp5
翌朝、井上ドクターが現れ、
「今日はおかゆね。ちゃんと食べないと社会復帰できないし帰る日を延ばさないといけなくなります。」
といっておかゆを出してくれた。
思い切って、聞いてみた。
「結論を出したわけではないのですが、もしアクアノートになるとして、今後の予定はどうなっているのですか。」
「まず学校に帰って、今やっている仕事を完成させなさい。ちゃんと学校終えて、ここに戻るのはそれからよ。
手術の準備に1ヶ月弱、手術はすぐに終わると思うけど、
あなたとコンピュータの間のBCIシステムを作り上げるのには1年以上かけなくてはならないの。
見習いアクアノートとしてでも海に戻れるのは2年後ぐらいかな。だから今は陸の生活に戻る事だけ考えなさい。」
2年か・・・。
期間の長さに驚いたが、それだけの訓練と、それで得られる能力を考えると、すごいことだと心を引かれた。
このまま帰って就職を探して、何かあるだろうか。博士課程に行って研究を続ける事も自信がない。
もうアクアノートになることが、頭の中では結論になっている。
しかし、手術とかサイボーグとか感情の面での整理がまだつかない。
昼時にも井上ドクターやってきたが、体調のことしか話さない。
昼食として朝より固めのおかゆを出し、さっさと部屋を出て行った。少し話して相談したい気分になった。
こうやって何もやることなく放って置かれると、また悩んでしまう。
もう誰かに背中を押してほしい気分になってきた。
482 :
82:2005/05/02(月) 01:00:10 ID:NZxC5Jp5
夕方井上ドクターが夕食用のおかゆを持ってきたとき、聞いてみた。
「このまま、私が結論を出さないまま、あるいは断って帰ろうとしたら、どうなりますか。」
「それはそれで仕方ないとあきらめるわ。ただここで見たり経験したことは、
不用意にしゃべらないでほしいの。液体呼吸やBCIなど1つ1つの技術は、
先進的医療ですでに使われている実用技術だけど、
それらをシステマティックにしたアクアノートの概念を世の中にストレートに出すのは
時期尚早だと考えられています。まして、サイボーグにされそうになったなんて言い方をしたら、
大変なことになってしまうでしょ。あなた自身もマスコミの餌食になるか、虚言癖扱いされるかでいいことはないと思うわ。
普通の生活がいいんなら、せめて私たちの精神的支援者では、いてほしいの。」
なんかあっけない答え。このまま閉じこめられて無理矢理サインさせられたら・・・、
なんていろいろ考えていたけど、逆に安心した。
これなら、ここに賭けてもいいと心は決まった。
「今の答えで気持ちの整理が着きました。ここにお世話になります。」
ついに言ってしまった。
483 :
82:2005/05/02(月) 01:01:12 ID:NZxC5Jp5
「そう、ありがとう。私の出る幕はもうなさそうね。明日事務方と手続きをしてね。
それから明日の朝は帰るために、普通の服に戻ってね。荷物はクローゼットに入っているから。」
心を決めると、アクアノートになって得られるパワーが楽しみになってきて、
いろいろ想像しながら眠りについた。
朝、目を覚まし、パンツ、シャツ、と普通の服に着替えてみた。
なんかごわごわして変。それでも、スカートやスーツを着ると普通の感覚が戻ってきた。
井上ドクターが、朝食を持って現れ、「10時に荷物をまとめて待っててね。手続きとかしましょう。」
10時になると井上ドクターが現れ、ここに来た日最初に通された部屋に連れて行かれた。
佐藤課長、高橋室長が並んで座っていた。
「どうもお疲れさま、ここが気に入ってくれて何よりです。来年の4月君が来てくれるのを待っています。」と高橋室長。
「それまで今の勉強を続けてください。あと小型船舶の免許を取っておいてください。ポッドの操縦の役に立ちますから。」
佐藤課長が続ける。
484 :
82:2005/05/02(月) 01:03:07 ID:8J5ydhil
すごく実務的、こっちは本当に一大決心をしたというのにあっけない。
「なぜ私をここに呼んでくれたんですか。もっと適性のある人はいると思うのですが。」
何か話さなければと思って、聞いてみた。
「まず水産、海洋系などで水中調査で研究をしている
修士課程クラスの学生をピックアップしました。その中でダイビングのスキルが充分有り、
知的好奇心が豊かな人という条件です。
そういう人のいる研究室に、求人のチラシを掲示してもらいました。
本命以外の人も何人か問い合わせてきましたが、書類を出してもらい、不合格にしました。」
佐藤課長の事務的答え。
「それとあと、つきあっている異性の友人がいないというのも大きな条件です。」
高橋室長シビアのつっこみ。それはそうだ、
恋人がいたらサイボーグになるなんて事承知できない。
「アクアノートになる決心は付いたのですが、まだまだ心がふらふらしそうです。
決心を固めるため、今日書類にサインしたいのですが。」
ここまで来たらこうやって、退路を断たないとと思い申し出た。
「そうですか。では早いですが雇用契約書にサインしてください。」
少し手が震えたが私はサインをした。
485 :
82:2005/05/02(月) 01:09:10 ID:GbGrToJX
清水美咲はついにサイボーグ手術を受け、アクアノートになる書類にサインしました。
とりあえず第1部は終わりです。
このスレの方は手術の描写をお望みと思いますが、
清水の視点では、麻酔をされているので書けません。 苦笑)
そこはさらりとふれ、脳波で会話したり、
コンピュータを操る訓練を書いてみたいと思っています。
486 :
前444:2005/05/04(水) 10:20:15 ID:95ZiqjR/
第一部完成、とりあえずはお疲れ様でした。清水さんは研究室で
偶然に海洋開発研究所の職員募集の張り紙を見て、入ってきたと
思ったら、実は選ばれたのは必然だったんですね。海が好きで
なおかつ彼氏がいないという(笑)
海洋開発研究所も最初はどんな悪い奴らなんだろうと思っていた
ら、全然そんなことなくてみんなよい人達でした。疑ってスイマ
セン。
サイボーグアクアノートの秘密が明らかになったところで、プロ
ローグ終了、第二部からサイボーグアクアノート清水美咲の活躍
が拝めるわけですね。この先どんな展開が待っているのでしょう。
期待しています。
さて、八木橋ワールドの世界設定、義体設定作ってみましたが、
どんなもんでしょうか?
ttp://comic-ekk.homeftp.org/user/hailaer/tentestuki/tentetsuki/yagee-world.htm
ヤギーワールドで一つ気になった事。
性同一性障害(GID)、ってあるじゃん。
自分の肉体性と精神性の違いからくる精神障害の一つ。
日本でもGID患者に対する手術が数年前に事実上合法化されて、
毎年10例ぐらいの手術が行われてるわけなんだけど・・・
義体ユーザーがGIDと判断された場合、あるいは
GID療養中の患者が事故その他で義体化した場合ってどうなるん?
基本的に、自分の生前の容姿とかけ離れた義体は禁止になってるみたいだけど、
488 :
前444:2005/05/04(水) 17:49:44 ID:6v+HaY3j
>>487 早速のレス有難うございます。
そういう特殊な場合は、性別を変更した義体を使用することもアリに
しましょう。そういう方にとっては、作り物とはいえ、違和感ない
異性の肉体を手に入れられるのは嬉しいことで、義体化後の心理的な
ケアもヤギーより手がかからなかったかもしれませんね。このテーマ
で一つ話が作れそうですね。
サイボーグ格闘試合みたいなのはないのですか?
なんかアングラで行われてそう・・・
490 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 19:50:04 ID:79NMYG+X
>>489 残念ながら今の所、このスレではない。
ちなみに、君が書くとみんな喜ぶぞ。
492 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:16:33 ID:79NMYG+X
ご要望が多かったので、予定変更してγタイプ改造編をお送りしますw
(益々、終わるのが遅くなりそうだ)
493 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:17:12 ID:79NMYG+X
某所にて…
私、進藤 香織は妹の栞と2人でいる所をアザーズに襲われ連れ去られた。
数十人の人々もさらわれており、一緒に様々な機械にかけられた。
徐々に人数が減っていき、最終的には残ったのは私と栞の2人だけだった。
私たちが連れて行かれた先はそれほど広くない部屋で、中には同年代の少女が一人いるだけだった。
少女は紫と名乗り、自分と同い年で、私たちと同じ様にアザーズにさらわれたと話した。
それから数週間の間、3人で暮らすことになった。
扉は電子ロックがかかっているらしく、ビクともしない。
日に2回、朝晩に味気ない食事が放り込まれる以外、全く干渉することは無かった。
栞は家に帰りたいと泣いたが、私と紫の2人で慰め、紛らわしながらすごした。
徐々に、3人は互いを信頼し、依存するようになっていた。
そして運命の日が訪れた。
494 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:17:59 ID:79NMYG+X
その日も目が覚めてからすることも無く、3人でつまらない話をしていた。
部屋の前に人型のアザーズがやって来る。朝食かと思ったが、それは間違いだった。
いつもは投入口から放り込まれるだけだが、その日はピッという音と共に扉が開いたのだ。
開いた扉からは人型のアザーズが3体入ってくる。
「お姉ちゃん…」
栞が後ろで怯えている。
隣では紫が厳しい表情をしている。
「大丈夫、私たちが守るから」
アザーズたちは入り口に1体を残して、こちらにやって来る。
「1名、コチラニ来テモラウ」
合成音声のような声で呼びかけてきた。
「私が行くわ」
紫が言った。
「何を言ってるの。みんなで逃げましょう。扉は開いてるわ。3人でかかれば」
その言葉を必死に拒否する私の意見を、紫は静かに切って捨てた。
「無理よ。大人の男の人が10人でも相手にならないのよ」
それが確かなら、私たちが敵う筈が無い。
「でも…」
「大丈夫。すぐに殺されると決まったわけじゃないわ。きっとまた変な機械にかけられて検査されるだけよ。それに、あなたがいないと栞ちゃんが泣き出しちゃうわよ」
無理に笑う。
「それじゃあ、行ってくるね」
そう言って、紫はアザーズたちと部屋から出て行った。
495 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:22:22 ID:79NMYG+X
時計が無い部屋の中では正確な時間は分からない。
ただ、それでも2〜3時間は経っているだろう。
紫が戻ってくる気配は無かった。
コツ、コツ、と非常に正確なリズムで金属同士がぶつかる足音が聞こえる。
栞は既に泣きつかれ眠っていた。静かな部屋にまで響くその音に私は身を硬くする。
紫は裸足だった。足音はペタ、ペタ、という音だったはず。
アザーズは音を立てずに歩く。
誰? 疑問が浮かぶが、答えは見えてこない。
もしかしたら、助けが来たのかも…。そんな希望も頭をよぎる。
やがて、足音は部屋の前に止まった。
緊張で身体が硬くなる。私の後ろで栞も震えている。
ピッ、という電子音と共に扉が開いた。
そこに立っていたのは、今までのアザーズとは違う、より人間に近いフォルムをした機体だった。
何よりも違ったのは、首から上だった。
アザーズの頭はのっぺりとした球体だが、これは違った。
そこにあったのは、紫の顔だった。
「紫…」
「お待たせ、2人とも」
確かに紫の顔だが、凄い違和感を感じる。
「紫なの?」
「いえ、私はもう紫じゃないわ。γ25−1。こそが今の私」
「γ25−1…」
服を着ているのか?と思ったが違う。関節の隙間から機械が見える。
彼女自身が機械になっているのだ。瞳もレンズになっている。
これが違和感の源?
「そう、私は改造手術を受けて最強の兵器になったの」
「改造… 兵器…」
そして、紫自身がその事を受け入れている…
496 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:26:39 ID:79NMYG+X
「次はあなた達の番よ」
そう言って、紫、いやγ25−1と名乗ったアザーズが近寄ってくる。
「嫌! こっちに来ないで」
「大丈夫、貴女も改造手術を受ければ、自分の能力や存在そのものが素晴らしいと感じるわ」
言葉と共に彼女は私に触れる。その瞬間体に電気が走る。
「あ・・・」
声も出ず、口から息が漏れる。
「ごめんなさい、抵抗されると面倒だから・・・」
気を失う直前、彼女の声が聞こえた。
目が覚めると、そこは手術台の上だった。
周囲を見回すと、栞が2体のアザーズに捕まってこちらを見ていた。
「んー! (栞−!)」
必死に声を上げようとするが、マスクで声が出ない。だが栞も私が目を覚ましたことに気付いたようだ。
「お姉ちゃん!!」
栞はアザーズたちを振り解こうと、暴れるが全く敵わない。
「さあ、改造を始めるわよ」
栞の後ろから、γ25−1が現れる。
その声に呼応するように、何本もの作業用アームが降りてきた。
497 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:30:19 ID:79NMYG+X
数分のうちに私の身体はバラバラになり、機械仕掛けの骨格が首に繋がっていた。
「さあ、貴女も私たちの目的を理解するのよ」
γ25−1の声がすると、アームは私頭を狙って動き始めた。
いくつかの端子が頭に埋め込まれる。
それと同時に、凄まじい量の情報が流れ込んでくる。
私たちの存在目的、行動理念…、様々なものが焼き付けられる。その一方で、友人の顔、楽しかった思い出…、いろいろな物が消えていく。
数分の後、私の意識は以前のものとは全く違うものになっていた。
最後には、自分の名前すら置き換えられていた。
γ25−2、γシリーズの25期の2機目を表すもの。それが今の私だ。
さらに、脳の不要な部分が削除され、補助用のコンピューターに置き換えられる。
コンピューターから伸びたケーブルが、機械の骨格に接続されると、今までに無い不思議な感覚を覚える。
足りない。未だ自分は未完成だ。
(早く完成させて!)
心の中からそんな思いがふつふつと浮かぶ。
そんな思いを察したのか、アームは様々なパーツを骨格に組み込み始める。
動力炉が組み込まれるとそのパワーに全身を震わせ、内蔵火器が接続されるたびに早く攻撃してみたいと思う。
498 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:34:12 ID:79NMYG+X
改造が開始されて4時間もすると、私は脳の一部を除いた全身が機械に置き換わっていた。
「完成したようね」
γ25−1が声をかけてくる。
いつの間にか拘束を解かれていた手術台から起き上がり、機体の調子を確かめる。
自己診断モードが起動し、全ての箇所を綿密にチェックする。
ALL-OK
問題ない。
全身にみなぎる力と明確な目的、以前には感じられない快感が全身を支配していた。
「ええ、ずべてのシステムが稼動してるわ。いつでも戦場に投入されても大丈夫よ」
敵を打ち倒すことを思い浮かべ、思わず笑みが浮かぶ。
「お姉ちゃん…」
最後に残った素体がこちらを見ている。
今期の製造プランでは、彼女を改造して完了となる。
「さあ、貴女で最後よ。栞もしっかり改造してもらいなさい」
この素晴らしい感覚を、貴女にも感じて欲しかった。
「いや…」
震える彼女、何を恐れているのだ。怖がる必要なんて何処にもない。
軽く力を入れると、逆らうことも出来ず彼女は引っ張られる。
(改造が終われば、貴女にもこんなことは簡単よ)
そう思いながら、元妹を手術台に拘束するのだった。
499 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:39:12 ID:79NMYG+X
番外編終了です。
次回はジェネラル編の続きを。
>82さん
2部も楽しみです。
頑張ってください。
>>492 シリウスは名作だけど、このスレじゃないよ〜
500 :
M.I.B.:2005/05/05(木) 23:41:13 ID:79NMYG+X
501 :
前444:2005/05/06(金) 01:09:17 ID:yXRxkWQ0
太陽がまぶしい。 空がまぶしい。 草の緑がまぶしい。
風が強い。 絵の具を溶かしたみたいな濃い青空の中を雲がすごい速さで流れていく。 私の膝くらいまで
伸びた、 まわりの草が風にゆれて、 一斉にカサカサと耳に心地よい爽やかなメロディーを奏でる。
ぐるっと周りを見回しても、 変わっていくのは太陽の位置だけ。 景色は何一つ変わらない。 緑の草、
青い空、 白い雲、 まるで世の中から三種類の色を残して、 他の色が消えちゃったみたいに、 草の海は見渡す
限りどこまでも果てしなく続いていた。
こんな風景、 私、 昔どこかで見たことがある。 そうだ、 中学生の時、 家族でモンゴルに旅行に行った
ことがあるんだ。 その時に馬で行った大草原が、 ちょうど私が今みている景色そのまんまだ。 景色だけじゃ
ないよ。 太陽のまぶしさも、 風のそよぎも、 全部その時と一緒だよ。 だって私は今でも、 その時のことを
昨日のことみたいに思い出すことができるんだもの。 私は、 草原に沈む夕陽を見ながら、 いつかもう一度
必ずここに来るんだ、 そう心に決めてたんだもの。 忘れるはずがないよ。
私は帰ってきた。 あの時もう一度来るんだって自分自身に誓ったモンゴルの大草原にまた戻ってきたんだ。
でも、 前と違うのは、 私の周りに家族がいないこと。 お父さんも、 お母さんも、 隆太も、 逞しい身体つき
の赤い顔をしたガイドさんも、 そして私があの時乗った馬、 イリンジバルも、 誰一人いない。 今、草 原の
中にいるのは私だけ。 私は一人ぼっちだ。
どうして? どうして? ここはどこなの? 私、 どうしてこんなところにいるの? さっきまで一緒に車に
乗っていたはずの、 お父さんも、 お母さんも、 隆太も、 みんな、 どこに消えちゃったんだよう。 私達、買
い物をして、 家に帰る途中だったじゃないか。 なのに、 どうして私だけこんなところにいるんだよう。 私、
ゼンゼン分からないよ。
そう、 今日は日曜日。 家族そろって、 近所のデパートに買い物に行く。 そんなありきたりな休日だった
はずなんだ。 買い物を済ませたあとで、 家族一緒にデパ−トの最上階のレストランで食事して、 それから、
眼鏡屋さんに行ったんだよ。
502 :
前444:2005/05/06(金) 01:10:00 ID:yXRxkWQ0
私ももう16歳。 成長期にコンタクトは眼に悪いって言われているみたいだけど、 身長もほとんど伸びなく
なったし、 眼鏡をかけたままランニングするのもうざかったし、 何より、 眼鏡っ子なんて、 今時はやらない
しかっこ悪いよね。 優等生のクラスの委員長じゃあるまいしさ。 武田君にも、 眼鏡なんてダサいからやめと
けって言われちゃったしね。 はは。 だから、 今かけている眼鏡はやめにして、 コンタクトにするつもりだっ
たんだ。
でも、 いざコンタクトつけようとしたら、 眼が痛くて痛くて、 とてもつけられたもんじゃなかったんだ。
どうしても体質的にコンタクトは受け付けなかったみたいなんだよね。 だから、 仕方なく、 なるべくフレー
ムの目立たない眼鏡を買ってもらったんだけど、 私面白くないもんだから、 せっかく買ってもらった眼鏡をか
けようともしないでケースに入れっぱなし。 で、 車の中で一人でふてくされてたんだ。 家への帰り道、 車の
中で親がいろいろ話しかけてきても、 ぜーんぶ無視してた。
ちょうどその時だよ。 どこかで車が激しくブレーキをかける音がして、 それから誰かの悲鳴を聞いた。
お父さんかな、 お母さんかな、 ひょっとして家族全員の悲鳴だったかもしれないけど、 余りよく覚えていない。
次の瞬間私たちの乗っている車がいやな音をたてて潰れた。 私は身体中に耐え難い痛みを感じて・・・覚えてい
るのはそこまでだ。 まるでスローモーションを見ているみたいだったけど、 全部一瞬の出来事。 何が起こった
のかさっぱり分からないまま、 次に気が付いたら私は、 この草原の中に一人で立っていたんだ。
ひょっとして、 私、 死んじゃったのかもしれない。 人が死ぬ前に、 神様は、 その人が一番行きたい場所
をもう一回だけ見せてくれるのかもしれない。 私が今ここにいるのは神様からの贈り物なのかもしれないよ・・・。
ふと、 そんなことを思った。 だって、 そうでもなければ、 ついさっきまで、 日本で東京にいて車に乗っていた
私が、 気が付いたら、 モンゴルの大草原にいるなんてことある訳ないもの。
そうじゃなければ・・・、 そうだ、 私、 今、 夢を見ているんだ。 これは悪い夢なんだ。 そうに決まって
いる。 夢なら、 覚めればいいんだ。
503 :
前444:2005/05/06(金) 01:11:16 ID:yXRxkWQ0
だから私は自分の頬っぺたをつねろうとした。 よく夢から覚めるには自分の頬っぺたをつねればいいって
言うけど、 実際に自分がこんな事をするなんて思いもしなかった。 でも、 どんなに頬っぺたをつねろうと
しても、 どうしてもつねることはできないんだ。 確かに頬っぺたがある場所に指先を持っていってるつもり
なのに、 なんの感触もない。 ただ空間を虚しくかきむしるだけ。
私、 それで、 あわてて自分の身体を確認した。 私の身体は、 確かにここにある。 自分で、 自分の手足
を見ているんだもの、 それは間違いないんだ。 でも、 見えているはずの手にも足にも、 全く触ることができ
ない。 まるで、 私、 幽霊にでもなったみたい。 そういえば、 こんなに太陽が照り付けているのに、 私は
まるで暑さを感じていない。
私、 本当に死んじゃったんだろうか。 ここは、 いわゆるあの世ってやつなんだろうか・・・。
「ねえ! ヤギー」
私、 一人ぼっちだと思っていたから、 いきなり後ろから声をかけられてびっくりした。 こんな場所で、私の
あだ名を呼ぶなんて、 一体誰だろう。 こんなところに友達なんかいるはずないのに。
恐る恐る振りむいて、 もう一度驚いた。 そこには私自身が、 八木橋裕子が、 ニコニコ笑いながら、 でも
なんだかとても寂しそうに立っていたんだ。
「こんにちは、 もう一人の私。 でも、 さようなら」
眼の前の私は不思議なことを言った。 もう一人の私って、 私のこと? でも、 私の眼の前で立っている
のも、 私だ。 鏡で見慣れた私の顔だもの、 間違えるはずないよ。 じゃあ、 眼の前の私が見ているはずの、
今、 こうして物を考えている私自身は一体誰なの? 考えれば考えるほど、 頭がこんがらがってきた。
「あ、 あんた、 いったい誰なのさ」
うろたえた私はそう答えるのがやっと。
504 :
前444:2005/05/06(金) 01:21:10 ID:yXRxkWQ0
「私? ふふふ、 私はあなた。 あなたは私。 私とあなたはホントは二人で一つ。 いつでも、 どこでも何を
するのも一緒だったよね。 いままで本当にありがとう。 私、 あなたと一緒でとっても楽しかった。 でき
れば、 これからもずーっと一緒にいたかったよ。 でも、 私、 もう駄目みたいなんだ。 だから、 最期に
お別れを言いにきたの。 ごめんね。 私だけ、 先に行かせてもらうね。 お父さんもお母さんも隆太も、
もう向こうで待っているからさ、 あんまり待たせるわけにはいかないんだよね」
「あなたは私? 私はあなた? お別れ? 先に行かせてもらう? お父さんもお母さんも隆太も待っているって?
あんた、 何言ってるのさ。 ゼンゼン分からないよう」
「私はあなたの身体。 そして、 あなたは私の心。 離れ離れになるのは寂しいけど、 私はずーっと、 こっちで
待ってるよ。 でも、 あなたは、 すぐに私を追いかけてこっちに来たら絶対に駄目。 あなたなら向こうの世界
でも、 きっと一人でやっていける。 だってあなたはとても強い人だもん。 私は知ってるよ。 あなたが、
陸上部の誰よりもきつい練習に耐え抜いたってことを。 私だって音を上げてたのに、 あなた、 私を決して休ま
せてくれなかったよね。 私だって、 あなたについていくのは大変だったんだから・・・」
もう一人の私は、 恨めしそうに私を見つめてからクスリと笑った。
「あなたが中距離ランナーだったのはどうして? 短距離より、 長距離より、 一番苦しい中距離を選んだのは
どうして? あなたは自分が決して才能に恵まれているほうじゃないってことを知っていた。 だから、 短距離
よりも、 長距離よりも、 なにより努力が、 練習量が物をいう中距離を選んだんだ。 どんなに苦しくても、
その練習は絶対に報われる。 そう信じて努力したんでしょ。 私の力が足りなくて、 結局補欠選手にしかなれ
なかったけど、 でもこの一年で持ちタイムを一番縮めたのはあなたと私だったよね。 もうあなたの練習につき
あえないのは残念だけど、 でも、 あなたが誰よりも強くてくじけない心を持っているのを誰よりも知っている
のはこの私なんだ。 大丈夫、 あなたなら一人でもきっとやっていける。 例え、 私がいなくても。 私はそう
信じてるよ」
505 :
前444:2005/05/06(金) 01:22:38 ID:yXRxkWQ0
彼女、 もう一人の私は、 私の手を愛おしそうに握り締めた。 彼女の手、 とっても暖かかった。
手を握り締めたって? だって、 さっき私、 自分の頬っぺたにだって触ることができなかったんだよ。
今いるところが夢の中だか、 あの世だか知らないけど、 今の私は幽霊みたいな存在なんだよ。 それなのに、
あんたは、 どうして私の手を握ることができるんだよう。
私、 きっと不思議そうに彼女の私を見ていたんだろう。 彼女は何だか困ったような顔で、 はじめは
静かに笑っていたんだ。 でも、 すぐに彼女の眼にみるみる涙がたまっていった。 そして、 いきなり、
私をきつく抱きしめたかと思うと、 声を殺して泣き始めた。
「笑顔でお別れしようと思ったけど、 やっぱり駄目だった。 ごめんね、 ごめんね・・・」
彼女はそう言ったっきり、 あとは声にならない嗚咽を漏らして泣き続けたんだ。
私、 何がなんだか分からないよ。 いきなり自分自身が現れて、 あなたは私の心です、 なんて言われて、
励まされたかと思ったら、 こんな泣かれてしまって。 あの世ってこんなところなんだろうか? ちょっと
変だよね。 それともやっぱりこれは夢なの?
「いきなり泣いちゃってごめんね。 でも、 最後は笑うことにする。 辛いけど、 あなたと笑ってお別れする
ことにするよ。 だって、 このまま泣いてお別れだったら、 このあとも生きていくあなたに失礼だもんね。
お願い、 私の分も幸せになってね! 私、 ずーっとあなたのこと見てるからね! だって私はあなたの一番の
友達だもん。 今度生まれ変わっても、 私とあなたは一つだよ。 約束だよ。 じゃあ、 またね。 さようなら!
さようなら! 本当にさようなら!」
506 :
前444:2005/05/06(金) 01:23:24 ID:yXRxkWQ0
もう一人の私は手で眼をこすって涙を拭くと、 今度は私の両手を握りしめて、 そしてまだ涙が残る眼で
じいっと私を見つめながら、 力強くそう言って笑ったんだ。 私って、 こんな顔で笑うことができたんだって、
私自身がドキっとするくらい素敵な笑顔で。 そして、 彼女は突然消えた。 私の両手には彼女のぬくもりがまだ
残っているというのに。 かき消えたって言葉があるけど、 まさにこんな時に使うんだろう。 本当にだしぬけに、
うまい手品でも見せられたみたいに、 彼女は私の目の前から消え去った。
「ねえ、 ちょっと。 私の身体っていったいどういうことなのさ。 お父さんは、 お母さんは、 隆太はどうなっ
たのさ! 待ってよ! ねえ、 待って! 私を追いて行かないでよう!」
私、 まだ彼女に聞きたいことがたくさんあったんだ。 なのに、 どうして消えちゃうんだよう。 私は必死で
叫んだ。 私の気持ちをあざ笑うみたいに気持ちのいい青空に向かって声の限りに叫んだ。 でも、 もう何の答えも
返ってこなかった。 私はまた一人ぼっちになっちゃった。 そう思ったら、 どうしようもなく悲しくなって、
両目から熱いものが溢れてきたんだ。
507 :
前444:2005/05/06(金) 01:43:44 ID:yXRxkWQ0
いろいろ今まで書いてきましたけど、これが本当の物語のはじまりに
なります。高校編第一話、天からの贈り物です。
私的にはこれが改造シーンのつもりです(笑)。期待していた方、
ごめんなさい。
>>489 アングラでなくてもパラリンピックにレスリングとか柔道とか
サイボーグ格闘技はあることでしょう。生身にはない特殊ルール
が採用されているかもしれませんね。
>>499 今度はアザーズ側の女の子ですね。敵とはいえ、もともとはこんな
ごく普通の少女だったとは・・・。彼女達とヴァルキリーの三人が
いずれ激突するのでしょう。悲劇的に盛り上がりそうです。
草原に立つヤギー。でも現実の彼女は意思に関係なく義体化中。
萌え要素と感動をそなえた、ハードな話になるのでしょうか。
>前444氏
こういう描写も妙に萌える!!
というわけで、グッジョブ!!
ところで、野中弟のエピソードを読んで、サイボーグって死ぬとどうなるんだろうとふと思った。
貴重な機械部品の塊だから、パーツをリサイクルとかされるんだろうか?
リサイクルが効かない部品は、残った生身の部分(脳?)と一緒に火葬するのかな?
機械部品とはいえ人間の体なんだから、「このパーツはリサイクルしてもいい」なんて意思を書いたカードを持っているとか。
って生身の人の臓器移植と全然変わらないな。
逆に言うとそれだけ今の人間の体が機械の部品としてしか扱われてないという事にもなりそうだけど。
なんて話をすると、人間機械論とかのドロドロとした話に向かいそうだ(汗
「お姉ちゃん死んじゃったの」とか言って、焦げた機械部品の入った骨壺を持つ少女萌え!!
と思ったけど、女の子が死んでる事実がそれ以上に萎える…だめぽorz
510 :
前580:2005/05/06(金) 03:10:24 ID:gSebGnwV
>>501 ついにこの時が来てしまったのですね…。
一番読みたくて、一番期待していて、でも、一番読みたくなくて、一番恐れてい
た、始まりのお話。八木橋さんの苦悩と悲しみの全てが始まる原点のお話。でき
れば読みたくない、でも読まなければ八木橋さんのお話を本当に理解することが
できない、そんな要のお話。どんな形で始まるのだろう、そう思っていました…。
ごめんなさい。感想を書けないです。こんなに悲しくて、こんなに美しいものに、
感想なんて書けないです。どんな言葉を使っても、この感激を言い表すことがで
きません…。
前444様、ありがとうございます。今まで以上の感謝と、そして喜びを、心から
申し上げます。あなたの作品を読めて本当に幸せです。
>>M.I.B.様乙。
あいかわらずエロすばらしい。萌えます改造。
M.I.B様乙age
513 :
前444:2005/05/08(日) 02:17:40 ID:zTyhxZwS
眼が覚めたら私はベッドの上だった。 白い簡単な作りのベッド、 白い毛布に、 白い壁に白っぽい天井。
何から何まで白ずくめだからすぐ分かったよ。 ここは病院だ。
私は、 お父さんと、 お母さんと、 隆太と車に乗っていた。 そして、 多分、 何かの事故に巻き込まれ
たんだ。 意識を失う前、 最後に覚えているのは、 身体の内側から全身に針を刺されたような鋭い痛み。
きっと、 私、 あのあと救急車か何かでこの病院に運ばれたんだろう。 モンゴルの草原で、 自分自身に別れ
を告げられるなんていう、 とんでもなくおかしな夢を見ちゃったから、 夢の中で、 私、 死んじゃったのか
と思っていたけど、 どうやら無事だったみたいだ。 身体も痛くない。 良かった、 本当に良かった。
自分の命が助かって安心したら、 今度は急に家族のことが心配になってきた。 夢の中で、 もう一人の
私が、 家族の所に行かなきゃ、 なんて言っていたから余計に気になっちゃうよね。 ひょっとしたら隣で寝て
いるかもなんて思ったんだけど、 私の寝ている部屋はどうやら個室みたい。 ベッドが一つと、 テレビと、
それからベッドの横にコンピューターらしい、 ディスプレイつきの機械があるだけの、 味も素っ気もない
小さな部屋だった。 普通は病室っていったら、 洗面台くらいあると思うんだけど、 それもない。 変なの。
きっと、 お父さんも、 お母さんも、 隆太も、 他の部屋にいるんだ。 それとも、 待合室にでも行って
いて、 私が眼が覚めるのを待っているのかもしれない。 そう思ったら居ても立ってもいられなくなった。
(部屋には誰もいないみたいだけど、 勝手に起きていいのかな?)
恐る恐る、 そーっと身体を上半身だけ起こしてみる。 私は、 白くてぶかぶかの服を着ていた。 入院
患者が着る服なんだろうけど、 どうもかっこ悪い。 首筋のところに違和感を感じたから、 ちょっと触って
みたら、 なんか管みたいなのが私の首に刺さっているんだ。 その管を眼で辿っていったら、 ベッドの横の
コンピューターらしき機械に繋がっていた。 これって点滴なんだろうか。 すごく邪魔だけど、 やっぱり、
勝手に取ったらまずいよね。
514 :
前444:2005/05/08(日) 02:19:20 ID:zTyhxZwS
今すぐにこんな管なんかぬいて、 ここを出ていきたい。 でも、 やっぱりそれはまずい。 どうしよう。
なんて私の心が葛藤しているとき、 ノックの音がして、 白衣姿の女の人が入ってきた。
「八木橋裕子さん、 お目覚め?」
彼女、 小鳥がさえずるみたいな透き通った声で、 そう言って私に向かって微笑んだんだ。 リスみたい
な人だなっていうのが第一印象。 年齢は20代の前半くらいかな、 でも小柄な人だから実際はもうちょっと
年上なのかもしれない。 くるくるした巻き毛の、 やさしそうな眼をした人だった。 この人、 看護婦さん
なんだろうか。
「うー、 おはようございます」
窓の外は明るいから昼間なのは確かなんだろうけど、 正確な時間は分からなかった。 でも、 とりあ
えず朝って前提で挨拶。 うー、 ・・・挨拶したんだけどさ・・・、 でも、 私の声は、 いつも聴き知っ
てる自分の声じゃなかったんだ。 私じゃない、 誰か別の人の声。 でも、 その声を出しているのは確かに
私なんだよね。 例えようもない違和感。 試しに、 あー、 あーってマイクをテストする時にたいに何度も
声を出して見たけど、 やっぱり聞きなれた私の声じゃなかった。 どうしちゃったんだろう。 私の声、
変だ。
よくよく考えて見たら、 おかしなことは他にもある。 私、 目の前の女の人の顔がはっきり見えて
いるし、 部屋の中の様子もよく分かるんだ。 私の視力は両目とも0.1あるかないかなんだよ。 眼鏡がな
きゃ、 居間のテレビだって見れないくらい眼が悪いんだよ。 それなのに、 眼鏡もかけてないのに、
どうしてこんなにはっきり物が見えるのさ。 おかしい、 私の身体、 絶対におかしい。
「あ、 あの・・・。 なんか私の身体へんなんですけど」
看護婦さんは、 黙ってうなずいた。 なんだか、 私の質問を予想していたみたいだった。
「じゃあ、 ちょっと、 身体を動かしてみようか。 バンザイしてみて」
看護婦さんは私の質問に答える代わりにそう言って両手を高く上げたんだ。 真似しろってこと?だか
ら、 私、 そっくりそのまま、 真似してバンザイした。
515 :
前444:2005/05/08(日) 02:20:05 ID:zTyhxZwS
「指は動かせるかな、 バンザイしたまま動かして見て」
看護婦さん、 高く上げた手を握ったり開いたり、 指と指の感覚を広げたり狭めたり。 私も同じよう
に真似して指を動かす。
「はじめてで、 そこまでできたら上出来でーす」
看護婦さん、 満足そうに微笑んだ。 そして、 ベッドの脇のコンピューターに向かって何かを打ち込
んだ。
「じゃあ、 次は首を左右に振って。 はい、 右見て、 はい、 左見て。 はい、いいでーす」
こんなこと私にさせて、 何しようっていうんだろう。 私の身体が変なことと、 何か関係があるん
だろうか?
「おおまかな基本動作は大丈夫みたいね。 じゃあ、 今度はちょっと難しいことをしてみよう。 ベッド
から降りてスリッパを履いてみよう」
この人は何を言っているんだろう。 ただ、 スリッパを履くだけでしょ。 そんなの簡単じゃないか。
内心馬鹿にするなって思ったけど、 とりあえずは素直にベッドの脇に置いてあるスリッパを履こうとした。
履こうとしたんだよ! でも、 私の足はただ、 スリッパの上をうろうろしたり、 逆にスリッパを蹴飛ば
しちゃったり。 とにかくつま先がスリッパの穴にうまくはまってくれない。 見かねた看護婦さんが、
スリッパを履かせて、 私を立たせてくれたんだけど、 ショックだった。 スリッパを履く。 なんで、
そんな簡単なことができないんだろう・・・。 看護婦さん、 私を立たせたあとで、 またコンピューター
に向かって何かを打ち込んだ。 どうせ、 「この患者は、 スリッパ一つ履けない」みたいなことを書いた
に決まってるんだんだ。 そう思うと、 ちょっと腹がたった。
「はい、 じゃあそのまま歩いてみよう」
普段だったら、 この人何言ってるんだろう。 私に向かってハイハイをやっと卒業したばかりの赤ん坊
みたいなことを言うなんて、 人を馬鹿にするにもほどがあるってよって思ったかもしれない。 でも、 私、
歩くのが恐かった。 ううん、歩くのが恐くなったんじゃない。正確に言うと、歩けないことを思い知らされ
るのが恐くなっちゃったんだ。 スリッパ一つ自分の力で履けないのに、 歩くことなんてできるんだろうか・・・。
一歩、 二歩、 おそるおそる足を前に出して見る。
516 :
前444:2005/05/08(日) 02:36:15 ID:zTyhxZwS
「あっ!」
案の定だった。 三歩も歩かないうちに、 バランスを崩して転んじゃったんだ。 どうしよう、 私、 歩
くこともできなくなっていうの?
「はい、 八木橋さん。 大丈夫だよ。 大丈夫。 はじめは仕方がないよ。 そのまま起き上がれる?」
看護婦さん、 私を励まそうと優しそうに声をかけてくれたんだけど、 なんかムカツク。 私は
赤ちゃんじゃない。 高校生なんだよ。 それに、 走ることは私の本職なんだ。 ずっと寝てたから、
身体がなまっているだけなんだ。 私が歩けないなんて、 そんなことあるはずないんだ。
ムッとした私は彼女の問いかけを無視して、 起き上がろうとして、 また転んだ。 どうし
ちゃったんだろう。 自分で立ち上がることさえできないなんて。 ベッドのへりをつかみながら
ようやく立ち上がったんだけど、 歩こうとしてまた転んだ。 足がうまく思い通りに運べないし、
すぐバランスを崩しちゃうんだ。 おかしい。 私の身体絶対おかしいよ。 これって事故の後遺症
ってやつなんだろうか。
「まあ、 初日はこんなものでしょう。 動作チェックはOKです。 本格的なリハビリは明日から
行いますから、 今日はとりあえずおとなしくベッドに寝ていること」
手馴れたテキパキした動作で、 私の首についていた管を外したり、 コンピューターからディ
スクを取り出したりしたあとで、 ショックで床にへたりこんでいる私に向かって、 看護婦さんは
優しく声をかけてくれた。
「これを飲んでください。 これが食事でーす」
もう一度ベッドに戻った私に、 看護婦さんはピンク色の丸い小さなカプセルを手渡してくれた。
これ、 食事なの? まさか、 今、 食事って言った? ギャグだとしたら全然面白くないと思ったん
だけど、 どうやら冗談じゃなくホントみたい。 はは。 入院中だから、 重い食事を取るわけには
いかないっていう事情があるのは分かるよ。 でも、 こんな薬みたいなものが食事だなんて、 あん
まりだよ。 まあ。 まだお腹が空いているわけじゃないからいいんだけどさ。
517 :
前444:2005/05/08(日) 02:37:20 ID:zTyhxZwS
「水はないんですか?」
これだけで飲むってわけにはいかないじゃないか。 水くらいほしいよう。
「これだけで、 飲み込んで。 水は絶対飲んじゃ駄目でーす」
看護婦さんは、 見かけによらず、 有無を言わせぬ強い口調で言った。 ちぇ。 仕方がない。
私はカプセルをそのまま口の中に放りこんだ。
「じゃあ、 またあとで来ますね。 とりあえず、 ゆっくり休んでください」
私がカプセルを飲み込んだのを見届けると、 看護婦さん、 病室から立ち去ろうとしたんだ。
ちょっと、 待ってよ。 私まだ、 肝心なこと聞いていない。
「私の身体、 どうなっちゃったんですか? 声が変なのも、 眼がよく見えるのも、 私が歩けな
くなっちゃったのも、 ひょっとして全部事故のせいなの?」
看護婦さん、 部屋のドアノブに手をかけたまま立ち止まった。
「そうね。 事故の後遺症といえば、 後遺症なのかもしれない。 でも、 あなたの足に問題があ
るってわけじゃいから安心して。 ちょっと今までとは身体の感覚が変わっているから慣れてい
ないだけ。 詳しい説明はあとでします」
「お父さんは? お母さんは? 隆太はどうなったの? 看護婦さん、 何か知ってますか?」
私が家族のことを聞いたら、 一瞬、 看護婦さんの小さな肩がぴくっと動いたんだ。 でも、
何も言わない。 ドアノブに手をかけたまま、 凍りついたように動かないんだ。
「私だって、 ちょっと足は思い通りに動かないけどさ、 でも手も足もちゃんとついてるし、
身体にだって傷一つついていないんだもの。 だからたいした事故じゃなかったんだよね。
みんなも無事なんでしょ」
「・・・ごめんなさい。 詳しい説明は、 あとでします。 ごめんね、 八木橋さん」
そういって看護婦さんは、 後ろも振り向かずに部屋から出て行った。
518 :
前444:2005/05/08(日) 02:44:16 ID:zTyhxZwS
とうとう義体化されたヤギー。でも、本人はまだそのことに気がついて
いないのがあわれです。次回はさらにダークな展開になる予定・・・。
>>508 内容的にはかなりハードになるでしょう。ハードにしかなりようが
ないです。
>>509 やっぱりリサイクル可能なものは、極力再利用するのかな。だから、死ん
だらとりあえず義体を引き取りに来るのかも。でも、遺族に戻ってくるの
が脳ケースと、再利用できない半端な部品だけというのも余りにも可哀想。
部品はぬきとっても、外見はそのままに返してあげたいですね。
それより気になっているのが、義体化されたときにのこった生身の身体の
残骸をどう処理するのかってこと。ヤギーのもとの身体はどうなっちゃう
のかな。
>>510 こんな形ではじまっちゃいました。
感激してくださって有難うございます。美しいといっていただいて有難う
ございます。いつも、たくさんの感想カキコをくれる580さんが、今回に
限って感想が書けないということこそ何よりの感想です。本当に有難う
ございます。
この出だしのシーンは実は、かなり初期のころから温めていた、自分でも
書きたい、書きたいと思っていたシーンの一つですが、ようやく書き上げ
ることができて、私も感慨ひとしおです。
義体化を知らされたら、ヤギーはどうなるのでしょう。
義体化を受け入れられたとしても、次は世間の好奇の目に
さらされる。
ヤギーに、どんな言葉をかければよいのでしょう。
続きが気になってしかたないです。
520 :
T:2005/05/08(日) 04:21:54 ID:+EcD6tDF
>>513-517 ああ、こういうリハビリもの大好き。
続き期待してます。
気づけばもうそろそろ512kb行ってしまいそうですね。
>>520 そうですね。
ところで、次のスレの番号は
「機械化五人姉妹」てのはどうでしょうか?
本当は「機械化四姉妹」というアイデアを暖めてたのに容量一杯で先を越されたのが悔しいだけなんですけどw
M.I.B.様
やはりサイボーグはさらわれて無理矢理改造されてナンボですねw
敵側はもちろん主人公達も。だからSWについでこの話も萌えです。
523 :
前580:2005/05/08(日) 19:04:06 ID:ml/ahyrf
>>513 お疲れ様です。
説明のつかない事柄に違和感を覚えながらも、義体化などという普通の女の子の
日常を逸脱した可能性に思い至るわけもなく、ひたすら戸惑うばかりの八木橋さ
んの姿が涙を誘います。汀さんの、義体前提の事務的な言葉遣いと当然のように
噛み合わない様も、事情を知って読んでいる身としては痛々しく感じられます。
生身の身体と相違が少ないのは、イソジマ電工が目標とする「本当の身体に近づ
きたい」という努力の結果としても、こんな時にはむしろ本人の苦しみを増やし
てしまうような気がします。外見も身体感覚もほとんど変わらない自分の身体を、
どうして作り物だと納得できるでしょう…。
この先、どれほどの苦しみが、八木橋さんを待っているのか…。自分の身体を見
て、たいしたことは無かった、家族は皆無事だったと希望を持った今日に比べ、
現実に直面させられる明日以降のことを考えると、胸が潰れる思いがします。
義体化のみならず家族の死までを告げなければならないのだとしたら、ケア・サ
ポーターも辛い仕事ですね。汀さんの支えが、八木橋さんの苦しみを少しでも軽
くしてくれることを、切に願います。
>>518 作者様の想いがこめられたものだからこそ、あれほど心を打つ美しいものになっ
ているのだと感じました。感動がさらに深まりました。ありがとうございます。
できるものなら、将来の医学の発達に望みをかけて残った身体を保存していただ
きたいところですが、それでは、お話がなりたたないですね。処分するにしても、
自分の身体と対面して別れを告げるのは辛そうです。いずれにしても、八木橋さ
んの悲しみを思うと、胸が痛みます。
524 :
前444:2005/05/09(月) 01:40:29 ID:nW7IFJ1r
冗談じゃない。 このままベッドに釘付けにされるなんてまっぴらだ。 こんな時に、 おとなしく寝てられるわけないじゃ
ないかよう。 お父さんも、 お母さんも、 隆太も、 きっとこの病院のどこかにいるはずなんだ。 私はそう信じてる。 病室の
前には入院患者の名札が下がっているはずだ。 看護婦さんが意地悪して教えてくれないんだったら、 私、 自分で探して出し
てやるんだから。
看護婦さんが出て行ったのをみはからって、 こっそりベッドから抜け出した私。 手も使ってさんざん苦労してスリッパ
を履いて、 壁にしがみつきながら、 不自由な足を必死に動かして、 廊下に出たんだ。
でも、 いざ廊下に出てみると気が遠くなった。 私の部屋はこの病院でもかなり隅っこのほうにあるみたいで、 視線の
はるか彼方まで延々と廊下が続いているんだ。 この病院の大きさを初めて実感する。 この階だけで、 いったいいくつ病室が
あるんだろう。 全部調べるのに、 いったいどれくらいの時間がかかるんだろう。
だけど、 引き下がるわけにはいかないよ。 きっとどこかに私の家族がいるんだ。 病院らしく、 廊下に沿って手すりが
ついているから、 手すりにつかまりながらなら、 なんとか動くことだってできる。 どんなに時間がかかっても、 私は探す
よ。 探し物が、 案外身近なところから出てくるみたいに、 意外と隣の病室にいるかもしれない。 隣の部屋からひょっこり
隆太が「姉ちゃん、 どうしたのさ?」なんて言いながら出てくるかもしれないよ。
だから、 私、 ちょっとだけ期待して、 隣の病室の入り口にかかってる名札を見てみたんだ。 でも、 この部屋の主は
『佐々波玲子』っていう全然知らない人だった。 まあ、 うまい具合に隣の部屋にいるなんて偶然は、 なかなかない。 次だ、
次。 私が気を取り直して、 手すりにしがみ付いて、 次の部屋を見に行こうとした丁度そのとき、 病室のドアが開いて、出
てきた女の人と鉢合わせする格好になった。 私もびっくりしたけど、 むこうもびっくりしたみたいで、 お互いに黙って、
しばらく見詰め合っていたんだ。
525 :
前444:2005/05/09(月) 01:41:53 ID:nW7IFJ1r
とても綺麗な人だった。 化粧っけは全然ないし、 服は私と同じで入院用の白いかっこ悪い服を着ているけど、 こんな
綺麗な人だったら、 お化粧なんかしなくても、 どんな服を着ても関係ないだろう。 もしも街中ですれ違ったら、 みんな振り
返るんじゃないだろうか。 男の人だったら目の保養だ、 なんて言って目尻をだらしなく下げながら、 女の人だったら羨望と
嫉妬で。 でも、 顔立ちが整いすぎてて、 人によってはお人形さんみたいで気持ち悪いっていう人もいるかもしれない。
私は、 こんな美人じゃなくていいよ。 決して嫉妬じゃなく、 本心からそう思った。
先に声をかけてきたのは、 彼女のほうからだった。
「あんた、 新入りだろ?」
「は、 はあ」
ずいぶんぶっきらぼうな話し方をする女の人だ。 見た目とのギャップでちょっと驚いた。
「この病院に来たばっかりだろってことだよ」
「うー、 そうです」
「オレは佐々波っていうんだ。 あんた、 名前は?」
とっても綺麗な顔をした女の人が、 オレなんて男みたいな言葉使ってるから、 またびっくり。 なんだか宝塚みたいだ。
でも、 素直に自己紹介。
「八木橋です。 八木橋裕子」
「オレの顔見てどう思った?」
「どうって・・・、とても綺麗ですね」
いきなり、 この人何言うんだろう。 確かに美人なのかもしれないけど、 ちょっとおかしいよ。 とりあえず、 当たり
障りない答えを返したけど、 私さっさと逃げ出したい気分。でも、 この足では走って立ち去ることもできない。 それに、
一応お隣さんにあたるわけだし、 あまり邪険にできないよなあって思いもあった。
「とても綺麗か。 それだけか。 ふん、 八木橋さん。 じゃあさ、 今から面白いもの見せてやるよ。 来いよ」
「え? ちょっと、 ちょっと」
佐々波さんは、 私をバカにするみたいに鼻で笑ったかと思ったら、 強引に私の手を引っ張って廊下を歩き始めたんだ。
でも、 私、 足がうまく動かないものだから彼女についていけなくて転んじゃった。
「まあ、 まだ慣れていないんだろうし、 しょうがないか」
佐々波さんは、 今度は私の腕を肩にまきつけて、 まるで酔っ払いを介抱するような格好で、 私を引きずっていった。
526 :
前444:2005/05/09(月) 01:43:38 ID:nW7IFJ1r
行き先は、 トイレだった。 変なの。 トイレなんか見せて、 どうしようというんだろう。 この人、 綺麗かもしれ
ないけど、 話し方といい、 笑い方といい、 強引にトイレに連れて行くことといい、 やることなすことまともじゃない。
でも、 こんな不自由な足では逃げることもできないんだ。 私は彼女にひっぱられるがまま、 洗面台に備え付けられてい
る大きな鏡の前に無理やり立たされた。
「この鏡見てみろよ。 かなり面白いだろ?」
そういえば、 私、 病院に来てから自分の顔をまだ見ていなかった。 だから、顔に変な傷が残ってなきゃいいなあ、
なんて思いながら恐る恐る鏡を見てみたんだ。
鏡には佐々波さんが二人映っていた。 一人は意地悪そうに笑ってる。 もう一人は不安そうな怯えた眼で私を見ている。
え?
え?
一瞬、 何が起こったのか分からなかった。
私、 佐々波さんと全く同じ顔をしている。 まるで双子みたいに。 私、 あわてて顔を触ってみた。 そしたら、 鏡の
中の佐々波さん瓜二つの女の人もやっぱり同じように顔を触るんだ。 やっぱり、 鏡の前に映っているのは間違いなく今の
私の顔なんだ。 でも、 こんなの私じゃない。 どんなに綺麗な顔でも、 そんなのちっとも嬉しくない。 私の顔はどこへ
行っちゃったんだよう。
「どうだ。 面白いだろ?」
佐々波さんは私が動揺する様子をみて楽しんでる。 面白いはずない。 こんなのギャグにしたって全然笑えないよ。
あなたは私にいったい何をしたんだ。
「何なの、 これ。あなたの仕業なの?」
私は佐々波さんを睨みつけた。 いたずらにしても、 ほどがある。
「おお。 恐い。 いっとくけど、 オレは何もしてないぜ。 それが、 正真正銘、 今のあんたの顔さ。 ははは、 俺たち
どうして同じ顔をしているんだと思う?」
「どうしてって、 ゼンゼン分からないよ! どうして私、 あなたと同じ顔をしてるのさ? こんなの私の顔じゃないよ。
私の顔は、 どこへ行っちゃったんだよう」
527 :
前444:2005/05/09(月) 01:51:39 ID:nW7IFJ1r
「どうしてか。 そんなの簡単さ。 それは俺たちがお人形さんだからだよ。 お人形さん。 この言葉の意味、 あんたに
分かるかなあ」
佐々波さんはお人形さんってところを妙に強調した。 そして自嘲気味に笑った。
「お人形さん?」
佐々波さんが何を言いたいのか、 まるで分からなかった。
「汀の奴、 あんたに何か言ってなかったか?」
「みぎわ?」
「白衣を着た、 いけすかないチビ女だよ」
ああ、 さっきの看護婦さんのことだ。 あの人、 汀さんって言うんだ。
「詳しいことは、 全部あとで話すって言ってたけど・・・」
「ふーん、 まだ何も聞いてないんだ。 ま、 これから楽しみだな・・・」
佐々波さんは、 そう言うと、 私の肩をポンと軽く叩いて、 トイレから立ち去った。 私は一人、取り残された。
一人になってみると、 今まで怒りで抑えられていた恐怖が、 じわじわ身体を蝕んでいった。 どうして、 私、 佐々
波さんと同じ顔してるんだろう。 彼女の言った、 お人形さんって何のことだろう。 私の声が変わってしまったこと、
眼が突然よくなったり、 うまく歩けなかったりしたことと、 多分何か関係があるに違いないんだ。 なにより、 私、 本
当に八木橋裕子なんだろうか? 私、 八木橋裕子としての意識は確かにここにある。 でも、 鏡の前の私はまるで別人だ。
私自身は確かに八木橋裕子だって思っても、 それを証明する手段なんか何一つない。
私はただ事故に遭って病院に運ばれただけだと思っていたけど、 そうじゃない。 他に、 何か得体の知れないことが、
私の身体に起こっている。 私は、 恐ろしさのあまり、洗面台の下にうずくまって泣いた。 いや、 泣こうとしたんだ。
でも、 どうしてか涙は一滴たりとも流れてこなかった。
528 :
前444:2005/05/09(月) 02:06:24 ID:nW7IFJ1r
>>487 そのネタ、早速使わせてもらいますね。とりあえず、こんな感じ。
>>519 義体化を知らされる前にすでに轟沈寸前、というか轟沈しました。
先が思いやられます。
>>520 有難うございます。リハビリものなんて、およそサイボーグもの
らしくない超地味な題材なんですけど、このへんをしつこく書くのが
私なのです。
>>521 【機械化】サイボーグ娘!機械化五人姉妹【義体化】
となるわけですか。五人姉妹はいいのですが、機械化が繰り返しに
なっちゃっているんですよね。いい言葉ないかなあ。
いずれにしても、残り30レス少々といったところでしょうか。
今回は早かったです。
>>523 あの看護婦さんが汀さんってことは一言もいってないんですけど、
よく分かりました。正解です。って簡単すぎますよね。
次回は、汀さんの口から全ての事実が明らかになります。
私だったら、こんな仕事、嫌だな。
元男の佐々波さんは、女言葉じゃないといけないのでは。
義体化されたショックで男言葉に戻ったのでしょうか。
あなたの体はもう脳だけですと言われる義体化告知は、がん告知より
きつそう。生き残れるのだけど。
530 :
前444:2005/05/09(月) 02:33:02 ID:nW7IFJ1r
>>529 えと、佐々波さんは身体はれっきとした女ですよ。心が男なだけです。
まあ、事情はおいおい。
M.I.B.様なら意識は元のままで、意に反して体を操られて友達や妹を改造させちゃうかとおもた。
>>531 またか
なんか自演か粘着臭いんだよね。本当にM.I.B.氏のファンならやめたほうがいいよ
自分には文才はないがアイデアにあふれていると思っているのでしょう
生暖かく見守ってあげましょう
534 :
前389:2005/05/10(火) 19:13:40 ID:NzKk15Cf
512kbが近いと言う事なので、新作は次スレからにしようと思います。
何番踏んだ人が立てるか、決めておくべきですかね?
>>444氏
身体と心の別れをそう表現するとは…さすがです
>>534 何番って指定するのは、このスレの性格上無理があるんではないだろうか?
(1行の感想なら100レス以上可能だけど、SS書きはじめたら30レスももたないだろうし)
SSを書く人は新スレを立てて、こちらは雑談で使用するので構わないと思うんですが。
次に書く人が立てるのが一番合理的だよ。
537 :
82:2005/05/10(火) 22:01:13 ID:S4qw1d+x
このスレで
前389氏は389を取っておられるが、
444は私が踏んでしまったので前444氏は
どう名乗っていただけばよいかと
恐縮しております。
アクアノート第2部は新スレになる予定です。
538 :
前444:2005/05/10(火) 22:15:23 ID:hsCD4NPg
>>535-536 了解。
じゃあ、私も次回から新スレに書き込みます。そのほうが即死回避に
なりそうですもんね。(と、いいつつ、まだ続き書けていませんが・・・)
で、スレタイは521さんのでいきます?
>>534 もう次作はできてますか?早く読みたいです。
>>537 3の444と名乗りましょう。
539 :
前389:2005/05/11(水) 01:27:20 ID:5LDJY/bv
>>521 スレタイ、「五スレ目」というニュアンスが伝わったほうが分かりやすいと思うんですけど。
「機械化五人姉妹に萌えるスレ」と勘違いされるような気も…
まあ、私の考えすぎかもしれませんが。
漏れも「機械化○姉妹」はやめたほうがいいと思う。
はっきり言ってひく。
これまで通り○人目でいいよ。
ええい 誰も次スレ立てんのか?
ほっしゅ
使い切るまでのネタを
サイボーグ化して、巨大ロボットに組み込まれるとか見てみたいな。
生体パーツとして選ばれ改造されてしまう。
そのまま、ロボットに組み込まれて敵と戦うことに。
パーツとして戦う非日常と、それを隠して暮らす日常とか。
>>547 では、
つ【マグネロボ・ガ・キーン】
片方は女。
・・・つか古いよな俺 orz
エヴァでプラグスーツの代わりにサイボーグ化、みたいなのは見てみたいな。
シンジを女にして、拉致されてエヴァの制御用サイボーグパーツに改造。
そのまま、組み込まれて使途と戦わされる。
学校では隠そうとするも、ばれてしまう。
こんな感じで。
551 :
307:2005/05/21(土) 23:06:54 ID:JX+HozwH
>>545,549
萌え!!それいいでつ!改造されてパーツの一部にされてしまうなんて勃起萌え。