>>497 解説書いてたら超長文レスになったが読んでくれるだろうか(w
ここで言う「エンジンのバランス」とは、クランクシャフト+コンロッド+
ピストンといった「回転体としての重量バランス」と、点火間隔による出
力の変動、またそれらを合わせた時のエンジン全体の振動などを指す。
まず「なぜエンジンが振動するのか」考えよう。
簡単に言えば「クランクが曲がっているからエンジンが揺れる」のだが、
真っ直ぐなクランクではエンジンは動かない。
ピストンを上下に動かす為にはクランクは曲がっている必要が有る。
そしてクランクにはコンロッドとピストンが付いてくるのだが、当然これ
らには重量が有り、重量があるモノを動かす以上、慣性が働く。
その反動で振動が生まれる……これだけでは何の説明にもなっていな
いので以下、少々(いやかなり)ヤヤコシイ話。
↓興味が有る人だけ読んで。
コンロッドのクランク側を見れば、クランク外周の円周上を円運動してい
るので振動は出ない。しかしピストンの側を見ると往復運動をしている。
往復運動をもっと細かく見ると上死点で停止>下に向かって加速>最高
速で中間点を通過>減速>下死点で停止>上へ向かって加速……とい
う行程を繰り返している。
これを多気筒化すれば勝手にバランスするような気がするが、「もっと」
詳しく見るとピストンの往復運動は「上下対称」ではないのである。(続く)
数学的に言えば「コンロッドの長さが有限」な事が原因なのだが、角速度
が一定な時、ピストンの往復運動は下支点側ではゆっくりと、上支点側で
速く動く。このアンバランスがクランクに取り付けたカウンターウェイトだけ
では打ち消せない、エンジンの振動成分の原因で有る。
さて、4ストロークエンジンでは、ある瞬間に爆発(膨張)しているシリンダー
と、吸気行程中のシリンダーと、排気行程中のシリンダーと、圧縮行程中
のシリンダーが有る(当たり前だが一応確認)。
次に、エンジンから取り出す力を滑らかにしようと考えると、膨張行程を
均等にしたい。つまりは点火間隔を一定に保つ事でどの瞬間も等しくエン
ジンが仕事をしている=滑らかに回転するように設計する必要が有る。
4ストロークエンジンは2往復(2回転)する間の4つの行程で仕事を完了
する訳だが、この4ストロークエンジンを「直列4気筒」で作ると、残念な
がらフルバランスにはならない。
直感的にはバランスするはずの4気筒が何故バランスしないのか?
出力トルクを滑らかにする為、つまり各気筒を等間隔で爆発させると、
エンジン全体ではアンバランスが出てしまう。これは直列4気筒に限った
話ではないが、色んな意味でスタンダードなエンジンが直4なので少々詳
しく述べたい。
分解図を見ればクランクが平面になっている事からも分かるが、直列4
気筒エンジンは1番と4番が同じ動き、2番と3番が同じ動きをする事で
回転重量の釣り合いを取っている。(まだ続く)
ちなみに1番が膨張行程では4番が吸気行程中である。
点火順序は1>3>4>2(または1>2>4>3)にしかならない。
他の作り方は出来ないのである。
ここで「?」と思った人は、並列2気筒の4ストロークエンジンを思い浮か
べて欲しい。並列2気筒なら「二つのピストンを互い違いに動かす」事が
最もバランスが良いように思えるが、トルク変動を考慮した「点火間隔」
から言えば、二つのピストンは「同時に動かす」のが正しいのである。
並んだピストンを同時に動かせば当然振動は大きくなる。
しかしこの様な2気筒エンジンは幾らでも有る。
4気筒はその両脇に一気筒づつ足した物だと思えば良い。
静的には釣り合っていてもこれを回すと二次成分としてのアンバランス、
エンジン全体では振動するモーメントが出るのだ。
最初に述べた「往復運動の非対称成分」がエンジンを揺さぶる訳だ。
クランクシャフトのカウンターでは消せない。仕方ないのでクランクとは別
に用意したバランサーシャフトを入れ、これをクランクの倍速で回す事で
この振動を消す。
バランサーが無い方がパワーロスの点で有利な事は言うまでも無い。
◆さてここから本題↓
4ストロークエンジンを6気筒にする事でクランクは複雑になるが、回転
バランスを取りつつ等間隔での爆発が可能になる。6気筒エンジンのクラ
ンクは円周上にバランス良く各気筒のクランクピンが配置できるのだ。
120度毎に2つづつコンロッドが配置され1−5−3−6−2−4の順に
点火される。つまり1と6、5と2、3と4は同じ動きをしながら2ストローク
(360度)ずれた行程を行っている。(まだまだ続く)
この場合、二次振動が出ないようにする事が可能、かつ簡単である。
上下で非対称な往復運動を一つの平面で行う直列4気筒に対し、Yの字に
交叉したクランクを用いる直列6気筒エンジンはバランスが良いのである。
上で述べた「往復運動の非対称成分」は120度クランクでは元々ぶつか
らない。クランクの長さでピストンスピードのアンバランスの出方は違う
(振動だけを考えればコンロッドは長ければ長いほど良い)が、6気筒では
位相のずれた各ピストンがモーメントを打ち消し有ってくれるのである。
12時の位置に1番と6番が有り、4時の位置に2と5、8時の位置に2と3
が来ているとしよう。ここから1と6のピストンは中間点に向かって加速を
始め、2と5のピストンは減速しつつ下死点に向かい、3と4のピストンは
中間点に向かっての加速中である。
このように「非対称な二次成分」が打ち消し合うのは「3と2の倍数気筒」
を持つエンジンだけに許された特権なのである。
さらに、この直列6気筒エンジン二つを60度のバンク角でV12エンジン
とすると、同じバランスを保ったままで爆発間隔は更に半分に縮められる。
しかも、左右のバンクの隣り合ったコンロッドは「同じクランクピン位置」
を共有できる。120度6スローのクランクで12個のピストンが動かせる
という「シンプルにして完璧」な構造を持つのだ。
この12気筒エンジンはクランクシャフトが720度回転(つまり2回転)する
間に12回の爆発をする訳だが、そのタイミングは当然きっちり60度で割
れる「さらに滑らかな等間隔爆発」となる。(終わらね〜〜)
これがV12エンジンが「シルキースムース」と言われる所以。
出力も滑らかなら回転体としてのバランスも優秀。
クランクもシンプルで軽く出来るし振動対策も楽。
もちろん高回転を追求するのに有利な事は言うまでも無い。
対してV10エンジンではバンク角を72度にする事でV12の滑らかさに
対抗するわけだが、本質的に5気筒エンジンと言うのはバランスが悪い
(言うまでも無いが5気筒エンジンを二個つなげたのがV10なので、半分
で考えると分かりやすい)。
4気筒エンジンとは別の次元で回すのには苦労する。それが5気筒。
720度(2回転)で全行程を完結する「4」ストロークエンジンを、5で割る
事に元から無理が有る、とも言える。
5気筒エンジンの点火間隔は144度(720割る5)。クランクは72度の
位相を持ち、5つのクランクピンは円周上で「一つも重ならない」。
さらに、偶数気筒エンジンならエンジンの前後を対称に作る事で回転
重量を釣り合わせる事が可能であるが、奇数気筒ではそうはならない。
そして、ここへ来て重要なのが、エンジンを揺さぶるのはピストンの
上下運動だけではないと言う事実。
往復運動するのはコンロッドも同じである。
ここで「ん?ピストンと同じ動きじゃん」と思った方、エンジンをクランク軸
と直交する側から見た所を想像して欲しい。もちろんピストンは上下に
動き、クランクは回っている。
では、コンロッドはどうなっているだろうか?(あと一つ)
そう、コンロッドのヤシは「左右に」動きながら上下しているのである。
4気筒エンジンでは1と4のコンロッドと2と3のコンロッドでは、左右の
動きが逆になる。一平面のクランク配置が上下と同時に左右でも重量
バランスを保つのである。しかし、5気筒エンジンではそうはならない。
点火順序は一般に1>5>2>4>3となり、クランク配置は1を0度と
した時、5が144度、2が288度、4が72度、3が216度となる。
クランクが時計周りに回っているものとする。ピストンの上死点下死点
にならい、ここでは3時を右死点、9時を左死点としたい。
1番のコンロッドは12時の中間点を過ぎ、右死点へ向かいつつ減速。
2番のコンロッドは10時過ぎ、左死点から加速中。
3番のコンロッドは8時過、左死点へ減速中。
4番のコンロッドは2時過ぎ、右死点へ減速中。
5番のコンロッドは4時過ぎ、左死点へ向かって加速中。
左右のモーメントは釣り合わない……このようなアンバランスが、あら
ゆるタイミングで起きているのである。
宿命的な振動成分なのだが、直列4気筒の単純な上下の二次振動と
違い、バランサーでこれを打ち消すのは至難の技である。
ホンダがV10でいち早く成功したのも、直列5気筒を乗用車エンジンと
して長く作り続けた経験が生きてるのかもしれない。
以上、なんの役にも立たない長文でスマン。
コピペじゃないのがこれまたビックリですな(w