霧島マナの日記

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332名無しが氏んでも代わりはいるもの
災月厄日

今日は一人でショッピング♪

今まで、居候の身で贅沢は敵とばかりに、
服や身の回りの品は最低限に抑えてきたけど、
若い娘があんまり同じ格好でいるもんじゃない、と
ミサトさんが特別にお小遣いをくれたの。

アスカは金欠でパス、綾波さんは夏バテでだるいのでパスだって。
シンジは……、女の買い物に付き合わされるのは苦痛だろうから誘わなかった。

商業地区に到着。
さっそく着飾ったマヌカンたちを見て回る。
……けど、あまり気に入るのがないし、気に入ったのは高いし。うーむ。
行ったり来たりしているうちに時間ばかり過ぎていく。
とはいえ、わざわざお小遣いをくれたミサトさんの手前、
義理にも何か買って帰らないわけにはいかない。
結局、いまいちパッとしない服を一着だけ買って、
帰りの電車に乗るころには日もすっかり暮れていた。とほほ。
333名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/21(月) 22:32:06 ID:???
ちょうどラッシュアワーに重なったこともあって、かなり混んでいる。
買い物に行って値段が高いからって気に入ったものが買えないなんて、
すっかり貧乏性が身についちゃったよ。
しょんぼりとして吊革につかまっていると、腋の下に違和感を感じる。
「ん?」
そうかと思うと今度はおっぱいをむにゅっと揉みあげるような感触……
「☆△○■◎★?!!」

次の瞬間、私の後頭部が痴漢の鼻っ柱を強打していた。
「ふごっ?!」
間髪入れずに男のみぞおち目がけて肘鉄を喰らわせ、
流れるような連続技でまだ私の胸の上にある男の手をつかむと、
薬指を関節とは逆の方向に思いっきり曲げてやった。
そして、振り返りざまに金的を一発お見舞いする……のがセオリーなんだけど、
ちょっと場所が狭いので無理みたい。
戦自仕込みの護身術をたっぷり味わった痴漢は、鼻血を出しながら悶絶している。

ああ、怖かった。もう一人で電車に乗るのはイヤだなぁ。
334名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/21(月) 22:35:13 ID:???
夏月風日

「ねえ、ねえ、依然強い勢力を保ったまま、
 伊豆諸島・青ヶ島付近を北上中なんだって!」
お昼からずっと、アスカはテレビにかじりついて、
私たちに刻一刻と台風情報を教えてくれている。
「中心付近の気圧は942ヘクト・パスカル、最大風速は40メートルだってよ!」
「中心から半径300キロ以内では風速25メートル以上の強い風が吹いてるって」
「うひゃー、大島じゃ現在までの雨量が 400mm 超えたって」
「うーん、台風から湿った空気が流れ込んで前線が活発になってるのよねぇ♪」

顔を見合わせる私とミサトさん、とペンペン。
「ねぇ、アスカ、もしかして台風が珍しくて興奮してるの?」
「バ、バカねぇ、そんなわけないでしょ。このあたしがたかが台風ごときで」
ちょっと赤面するアスカ。図星みたい。

「ま、無理もないわ。ドイツには台風なんて来ないもんね」
「そ、そうなのよ。だから、アジアモンスーン気候の脅威がどれほどのものか
 ちょっと見てやろうってわけ」
「モンスーンっつっても、今じゃ常夏だけどね」

宵の間。
もの凄い雨・風が吹き荒れる。とうとう新熱海に上陸しちゃったみたい。
テレビの画面では真っ直ぐ箱根の方角へ向かっている。やばい、直撃コース?
ヒューッ…ガタッガタッ、ガタン、ゴンッ!
「Oh mein Gott! なに?!今のゴンッって音は?」
怯えるアスカ。
「ああ、どっかの看板が剥がれて飛んできたんでしょ。よくあることよ」
ミサトさんがこともなげに言う。
「よくあるって……。ったく、近所迷惑もいいとこだわ」
335名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/21(月) 22:37:08 ID:???
突然、真っ暗になった。

「えっ、何?何?」
「あー、停電ね。ま、仕方ないわね。使徒に壊されまくったもんだから、
 第三新東京市の送電システムはボロボロなのよ。」
「ったく。基礎的なインフラさえいまだ復興できてないなんて、
 この国の社会施策プライオリティはどうなってるのかしら」
って、アスカ?
口ではキツいこと言いながら私にしがみついてくるのはなぜ? 怖いの?

ヒューッ…ガタッガタッ…ビュォォーー……
依然、風雨の声はものすごい。
一瞬、辺りが青白く光ったかと思うと、バリバリバリッと雷鳴が轟く。
"Oh, es läßt mein Haar stehen am Ende...."
アスカはずっと私に抱きついている。カワイイ……♥

って、あれ? ミサトさん?
「いやぁ、あたしも暗いのちょっと苦手でさ……」
ミサトさんまで私の腕にしがみつく。
何なの、この人たち……。


漸く明かりがついたのは夜も半ば過ぎた頃だった。

まったく、あぶなく何かに目覚めてしまうところだったよ。
336名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/22(火) 01:15:42 ID:???
337名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/22(火) 10:08:54 ID:???
>>336
勝手におっぱいつけてみたw

http://www.i-paradise6.jp/~vip/imgup/src/vip0411.jpg
338名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/24(木) 23:23:42 ID:???
職人様、乙です。
ここ最近新作が立て続けに貼られてて非常に嬉しい。
今まで長いこと待ってきたかいがあったというもの。
339282=332=337:2006/08/25(金) 00:30:22 ID:???
>>338
ありがとうございます。
読んでくれる人がいると思うとやっぱり嬉しい。
340名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/25(金) 00:33:13 ID:???
晩月夏日

「"Kannst du erraten, was ich essen will?"(今、あたし、何が食べたいと思う?)」
アスカが唐突にドイツ語でなにやら問いかけてくる。
「……バ、バウムクーヘン?」
「"Genau!"(その通り!)」
私のドイツ語通じたみたい。

「さ、作りましょ」
「えっ?何を?」
「バウムクーヘンに決まってるでしょ」
「バウムクーヘンって買ってくるものじゃないの?お家で作れるの?」
「大丈夫、半筒形なら簡単らしいわ」
「らしいわ、って、作ったことないの?」
「ないわよ。だから挑戦するんじゃない」
と、私に泡立て器を手渡すアスカ。

「まずはボールにバターと砂糖を入れて白っぽくなるまでかき混ぜる」
「卵黄を1個ずつ入れて丁寧に混ぜていく」
「卵白に粉砂糖を混ぜてツノが立つくらいに泡立てる」
「薄力粉とさっきのやつを半量加えて、さらに混ぜる……」
ちょっと、アスカ、全部私にやらせてるじゃない……。

「型にバターを塗り、タネを薄く流し込む、と」
「熱したオーブンに入れて、焼き色がついたらまたタネを流し込む」
「焼いては流し、流しては焼き……層を作っていく。もう、メンドクサイわねっ」
面倒なのは私だよ……。
 
最後に湯煎で溶かしたチョコレートを塗っていく。
341名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/25(金) 00:37:38 ID:???
「できたっ!」
切ってみると、ちゃんと層になってる。しっかりバウムクーヘンだ。半筒形だけど。
「あーら、美味しそうじゃない」
さっそく一口つまむミサトさん。
「うん、おいしい」
「本当?よーし、全部切り分けちゃおう」
アスカは、できたてのバウムクーヘンに包丁を入れてキレイに切り分けると、
三切れづつ二つのお皿に取ってラップをかけた。
「これはシンジとファーストにおすそ分け」
「えらいっ、アスカ。シンちゃんはともかく、レイにもちゃんとあげるなんて、友達思いだね〜」
「なに言ってんのよ。いつもわびしくカップラーメンかなんか啜ってるアイツに
 家庭の味ってやつを見せつけて自慢してやるのよ」
例によって、とっても天の邪鬼な反応を示すアスカ。
まぁ、お菓子作りの腕前を自慢するつもりなのは、あながち嘘じゃないみたいだけど。
 
「家庭の味か……」
ミサトさんがポツリと呟く。

「………やぁねぇ、なぁにしんみりしちゃってるのよ。
 ささ、お茶淹れて、バウムクーヘン食べましょう。そだ、あたしはブランデーでいただこうっと」
急に多弁になるミサトさん。
 
「うん、おいしいじゃない」
「おいしいね」
口々にそう言い合ってバウムクーヘンを頬張る。

家庭。
家族の集うところ。
そう、私たちは本当の家族ではないけれど、私たちを結びつける絆は本物。
私は、なぜ私がシンジばかりでなく、アスカやミサトさん、
そして綾波さんに強く惹かれるのか分かった気がした。
孤独という共通項が私たちを結びつけ、お互いをかけがえのないものにする、そうに違いないわ。
342名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/25(金) 01:13:21 ID:???
>>339-341
乙。つーか、>>337のおっぱいもあんたのしわざかよw
ちくしょう、萌えるじゃねーかww
343名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/26(土) 02:44:59 ID:???
   _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
  (  ⊂彡
   |   |
   し ⌒J


     _
   ( ; ゚д゚) ひ、貧乳・・・
   し  J
   |   |
   し ⌒J
344282=332=340:2006/08/30(水) 23:03:33 ID:???
ちょっと間があいてスミマセンm(__)m
完結編のプロットが殆ど完成したので、今日から順次投下します。
345名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/30(水) 23:04:52 ID:???
貧月乳日

夏休みも、残り少なくなってきた。
今日はお花を買って綾波さん宅に遊びに行こうと思う。
たぶん、花瓶もないだろうから一緒に買っておいた方がいいよね。
乙女の部屋があんな殺風景じゃあんまりだもの。とりあえず電話してみる。
「もしもし、綾波さん? あの……、突然電話してごめんね。
 今から遊びに行っていいかな?」

「………ええ。いらっしゃい」
彼女は少し驚いた風だったけど、来ていいと言ってくれた。
「じゃ、行くね。待っててね」

道すがら、綾波さんとどんな話をしようかと考えながら歩く。
彼女と二人きりになると、いつも、何を話せばいいのか分からなくなるから。
うーん、学校の勉強の話をしようかな?
いや、そんなことは話したくないよね、お互い。
じゃ、シンジのこと………。
ううん、まだ綾波さんとシンジのことを落ち着いて話す自信ない。
色々考えているうちに、お花屋さんまで来てしまった。

さて、どのお花にしようかな。
そうだ、カンパニュラがいいわ。
それから、花瓶と。
お財布と相談して小さな磁器製の花瓶を2000円で買う。
さあ、準備OK。
346名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/30(水) 23:07:25 ID:???
結局、綾波さんのマンションに着くまで、話題を一つも思いつかなかった。
ええい、なるようになる、よね。
ちょっと緊張しながら呼び鈴を押す。

「いらっしゃい……」
綾波さんはすぐに出てきて中に迎え入れてくれた。
「おみやげよ」
カンパニュラの花束と花瓶を見せる。
「……ありがとう」
やっぱり、驚いてるみたい。ちょっと唐突すぎるもんね。
「どこに飾ろうか?」
花瓶に水を入れながら尋ねる。
「……それじゃ、この棚にお願い」
そう言いながら棚の上の本を片付けてスペースを作る綾波さん。
「うん、じゃ、ここに置くね」

「……………………」
「……………………」
お花を飾り終えると、気まずい沈黙が訪れた。
さて、と。

「あのね、えと……、どうやったら綾波さんみたいにバストが大きくなるのかな」
「えっ?」
「あの、いや……私、なに言ってんだろ。ごめんなさい……」
「……………………」
「……………………」
「胸だけを温めるといいらしいわ」
綾波さんは、急にポツリとそう言った。

「本当?綾波さん、やってるの?」
「わたしはやったことないけど、そう聞いたことあるから……」
「わかった。やってみるよ。ありがとう」
347名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/30(水) 23:10:04 ID:???
家に帰り着くなり、今日仕入れた耳寄り情報をアスカに教えてあげる。
「聞いて、アスカ。胸だけを温めると大きくなるんだって!」
「はぁ?」
怪訝そうな、アスカ。
「誰から聞いたの?そんな話」
「綾波さん」
「へ?ファーストがそう言ったの?」
一瞬ポカンとした顔をしたアスカは、クスクスと笑い出した。

「それは以前、あたしがシンジをからかって言った冗談よ。
 暖めて大きくなるわけないじゃない」
「えぇ〜、そうなの? せっかくいいこと聞いたと思ったのに」
「いやぁ、笑わせてくれるわ。アレ、ファーストも聞いてたのね。
 しかも、マナに受け売りするなんて。くくく……」
おかしくてたまらないという表情のアスカ。

「あんた、胸が小さいのそんなに気にしてたの?」
図星をつかれて、ちょっとグサッとくる。
「そんなことないよ〜だ。アスカのいじわる」

あ〜あ、明日は携帯用カイロを買い占めに行こうと思ったのに。
むぅ、アスカめ。自分がガセネタの情報源のクセして、あんなに笑うことないじゃない。
ちょっと、傷ついちゃったよ……。
348名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/30(水) 23:11:49 ID:???
食月欲日

『…今日は、二十四節季の一つ、処暑。暦の上ではもうすっかり秋です……』
「うーん、食欲の秋ってか♪」
チリソーセージを肴にビールジョッキを傾けながら、テレビにあいづちをうつミサトさん。
セカンドインパクト以後に生まれた私には、「秋」がどんなものかはピンと来ないけど。

前々から不思議に思っていることが一つ。
ミサトさんっていつもジャンクフードばっかり食べてるのに、
なんであんなにスタイルいいのかな?

それはそうと、困るのはつい私もつられてパクパクとタコ焼きだのたい焼きだのを食べてしまうこと。
と言うわけで、私の体重はまたもや少しヤバめ……。
ダイエットしなきゃ。

ようしっ、今日からご飯はお茶碗に半分!
おやつは一切なし!
まずは、この辺から始めてみようっと。
349名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/30(水) 23:52:18 ID:???
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
350名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/31(木) 00:01:34 ID:F1dFJ6Gs
ageますね。
今から読む人のためのガイドとしてコピペ推奨。

>>14-160       第一部
>>252-262    第二部(おすすめ)
>>283-310    第三部
>>332以降    第四部?

351名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/31(木) 23:13:52 ID:???
始月業日

色々なことがあった夏休みも終わり、学校が始まった。
今日は始業式なので午前中だけ。

放課後、鈴原君や相田君を中心に、シンジやアスカ、
それに綾波さんまでが一緒になってなにやら相談している。
私も急いで輪に加わった。

「……と、いうわけさ。みんなでその廃坑を探検してみないか?」
どうやら、相田君がどこかを探検しようと提案しているらしい。

「パス、服が汚れちゃうわ」
アスカが、開口一番に拒否する。
「ワイも反対や。迷ったらシャレにならんで」
「やめとこうよ」
鈴原君やシンジも反対みたい。
「そんなことして、何が楽しいの?」
意外にキツい綾波さん……。

相田君、さんざんな言われようだね。
なんだかよく分からないけど、探検の話はボツになったみたい。
352名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/31(木) 23:17:15 ID:???
家月事日

アスカは、シンジと二人のときは家事全般をろくにやらず、
全部シンジに押しつけてたらしい。
だけど、私と暮らすようになってからはそんなことは一切なく、
きちんと自分の分担をこなしてくれる。

もしかすると、我がままを言うのはアスカの愛情表現なのかも。
そう言う意味では、私には我がままを言ってくれないのは少し寂しい。

ところで、残念なお知らせ。

私はまた、ダイエットに挫折してしまった。
うぅ、一週間ぶりのたい焼き、おいしぃ………。
とほほ。
353名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/31(木) 23:19:54 ID:???
温月泉日

週末を利用して温泉に行くことになった。と言っても手近な箱根湯本温泉。
一緒に行くのは、ミサトさんとリツコさん、アスカと綾波さんと私、
シンジとお父さん、そして、誰だか知らないお爺さん、それから、ペンペン。
旧ネルフ御一行様って感じ。

二台の車に分乗して旅館に到着。
みんな浴衣に着替えるとさっそくお風呂に向かう。
「しっかし、夕食もまだなのにもうお風呂入るわけ?」
アスカが不思議そうに言う。
「うむ、宿に着いたらまず一風呂。そして宴会が済んだら一風呂。
 寝る前にまた一風呂。朝起きたら一風呂。それが日本の温泉だ」
白髪のお爺さんが横から答える。
「へーぇ、ずいぶん風呂好きなんですね、日本人は」
苦笑するアスカ。
いや、いくらなんでもそこまでお風呂好きなのはお年寄りだけだよ……。
354名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/08/31(木) 23:23:51 ID:???
大きな岩に囲まれた湯船は、まん中で男湯と女湯に仕切られている。
「あれ?ペンペンは?」
「アイツはオスだから男湯よ」
「へー、そうなんだ」
「ってか、ペンギンって温泉に入れて大丈夫?」
「なにしろ、新種の温泉ペンギンだからねー。温泉大好きなのよ」

「クェー、クク、クヮーッ」
噂をすれば影、男湯の方からペンペンの嬉しそうな声が聞こえる。

「温泉、水滑ラカニシテ、凝脂ヲ洗フ。分かるか、碇。白楽天の……」
あのお爺さんも上機嫌みたい。

「レイもこっちの方に来なさい」
「いえ……」
綾波さんは湯船の隅っこの方に一人でつかっている。

「ほら、ミサト、見なさい、アスカとマナちゃんのお肌。
 うらやましいわ、若さって……」
はは……、始まっちゃったよ、リツコさんの愚痴……。
「リツコさんのお肌も綺麗じゃないですか」
「そう?ありがと。お世辞でも嬉しいわ」


しばらくゆったりとお湯につかっていると、本当に身も心も洗われる気がする。
ところで、ここのお湯、銃創にも効くのかな?
ときどき、古傷が痛むのよね。
って、私、ババくさいかしら。
355名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 00:40:16 ID:???
マターリ
356名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 08:35:11 ID:???
このスレに貼られてる画像流れてるのが多いんで、
JaneViewのキャッシュから起こしてまとめてみた。
GJ俺。

http://kunekune.breeze.jp/up/uploader/src/up1448.zip
357名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 22:43:23 ID:???
苦月悩日

先日の温泉旅行って、そもそも誰が企画したんだろう。
それに、MAGENの同僚であるシンジのお父さんとリツコさんは分かるけど、
ミサトさんや私たちまで一緒に誘われるのもどうも解せない。
あ、そっか。ミサトさんってシンジのお父さんの元愛人なんだっけ。
っていうか、もしまだ二人が繋がってるとすると、
ミサトさんが私のお義母さんになるのかな?
うーん、私としては不満はないけど、ミサトさん、初婚で後妻に入るってのはどうかなぁ。

あれこれ考えていると、ちょっと知恵熱が出てきた。
ふとアスカの方を見ると、彼女もなにか考え中のようだ。

「アスカ、どうしたの? なにか考え事?」
「うん、ちょっとね」
「話してみて。相談に乗るよ」
「えっとさ、マナって戦略自衛隊にいたのよね?」
「う、うん……そうだけど」
「実は、あたし、戦自にさそわれてるんだ」
「……アスカが?」
戦自に強い不信感を持つ私は、直感的にやめた方がいいと思った。
「……戦自で何をするの?」
「筑波の研究所でね、弐号機のテストパイロット」
「そっか……。で、どうするの?」
「乗りたい気持ちはあるわ。でもまだ迷ってる」

アスカがエヴァのパイロットであることをすごく誇りに思ってたことはよく知っているけど……、
対使徒戦ではなく軍事用にエヴァが使われることを考えると、素直に賛成できない。

結局、私は何一つアドバイスできなかった。
358名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 22:44:20 ID:???
接月吻日

私のシンジへの想いは日々深まってくる。
最初はスパイするために近づいた罪悪感の反動だったかもしれない。
でも、今ははっきり言える。私はシンジが好き。

放課後。
「今日もいい天気だね」
「そうだね」
最近、私とシンジはよく二人で屋上にいる。
そういえば、初めて会った頃、ここであのペンダントをシンジにあげたんだっけ。
あれから色んなことがあった。
そして、彼は今でもペンダントを大事にしてくれている。

「シンジ……」
私は甘えるように彼にもたれかかった。
彼はいつだったかと同じように優しく私を抱き寄せ、そしてキス……

「あーら、仲のおよろしいことで」
急に背後からアスカの声が。……見てたの?
「やれやれ、日本では珍しい人前キスですか。お熱いわね〜」
「だって、誰もいないと思って」

「ごめんなさい、アスカ……」
思わず口から出た言葉が"ごめんなさい"だった。
アスカの顔から笑いの表情が消える。

「なんであんたが謝るの?」
「だって、アスカの気持ち知ってて、私………」
359名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 22:45:23 ID:???
「うぬぼれるんじゃないわよっ!!」
アスカは私の頬を平手で強く叩いた。

「アスカ!」
シンジが厳しく咎めるような口調でアスカの名を呼ぶ。
「ふん。あんたたちがどうなろうと、あたしの知ったことじゃないわ」
そう言って踵を返すと、去っていくアスカ。

私はただ、呆然と腫れた頬に手を当てていた。

「アスカ! マナに謝まりなよ」
シンジはアスカを追いかけていく。

私は一人、屋上に取り残された。

数分後。
「アスカ……シンジ……アスカ……」
とりとめもなく思いを巡らしながらぼんやり遠くの山を眺めていると、
背後に人の気配を感じた。
「シンジ?」
360名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 22:46:24 ID:???
振り返ると、鈴原君だった。
「悪いと思うたけど、今の、見とったで」

「そう、なんだ……。私、どうすればいいのかな」
「……迷うことあらへん。シンジが好きならシンジのことだけ見てたらいいんや。
 惣流に遠慮して身を引いたりしたら一生後悔するで」
「うん」
「それにな、そないなことになったら、惣流かて不本意な筈や」

「………………」
「なんや。どないしてん?」
「……鈴原君がそんなこと言うの少し意外だったから」
「ああ。ガラにもないこと言うてもうたわ」
「ありがと……」
私は、少し涙ぐみながらお礼を言った。

「罪なやっちゃ……」
去り際に鈴原君がそう呟くのが聞こえた。
361名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 22:49:17 ID:???
暗月雲日

ニュースによると、先のクーデターにショックを受けた政府は、
反乱軍と関わりのあった戦自幹部を洗い出し、全て更迭するとともに、
改正法案を国会に提出し、シビリアンコントロールを強化しようとしている。

ここから先は私の想像だけど、
危機感を強めた戦自が切り札として使おうとしているのが、
アスカの乗るエヴァンゲリオン弐号機ではないだろうか。
この仮説を補強する材料として、
最近、戦自研がついに弐号機へのS2機関搭載に成功したことが挙げられる。
本来は最重要機密の筈だけど、先日、温泉でリツコさんが教えてくれた。
MAGENと戦自研とは多くの技術者を交換しているので、そういう情報も入ってくるらしい。
(彼女は純粋に技術的に興味があるだけ、と言っていた)

ミサトさんの話では、半永久的に活動でき、
しかも通常兵器によって破壊不可能なエヴァンゲリオンは、
世界のパワーバランスを崩しつつあるという。
362名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 22:50:25 ID:???
「あたし、筑波の戦自研に行くことにするわ」
そんな中、ついにアスカは戦自のテストパイロットの件を受けることを決めた。

「ミサト、マナ。今までお世話になったわね。さようなら」
「向こうで部屋借りるんなら、保証人とかいるんじゃないの?」
「大丈夫。しばらくは宿舎に入るから。身一つで来いって言われてるの」
「アスカ……、本当に行っちゃうの?」
私は、アスカと別れるのが悲しいのはもちろんだけど、
アスカが、人を殺すための「兵器」となったエヴァに乗ることにも違和感がある。

「もう決めたの。あたしの荷物は処分してちょうだい。それじゃ、飛行機に遅れるから」

こうして、私たちの共同生活は、あっけなく終わりを告げた。
363名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 22:51:35 ID:???
相月克日

今や、世界に暗雲がたれこめている。
アメリカ・中国の連合軍は、
「日本は現存する唯一のエヴァンゲリオンを保有し、世界征服を企んでいる」
との主張を始めたらしい。
ミサトさんは国連軍事参謀委員会に出席するためニューヨークへ飛んだ。
(国連安保理の常任理事国である日本は国連軍事参謀委員会に代表を送っており、
 ミサトさんはその副官だ。現在、国連本部は日本に置かれているが、
 軍事参謀委員会はニューヨークで開かれる。
 日本の軍事力突出に対する国際社会の目は厳しく、委員会では四面楚歌だという)

せっかく、使徒という人類の敵が消えたというのに、
今度は人間同士が争い始めるなんて……。
しかも、その争いの種がアスカの乗る弐号機だと思うと、
胸が張り裂けそうになる。

あれから、3ヶ月。アスカは一通の手紙も電話もくれない。

大人に囲まれ、エヴァンゲリオンの部品の一つとなることを求められる生活。
今のアスカが幸せな筈がないと思う。

それだけじゃない。
ニュースは連日、エヴァンゲリオンが国際危機の原因となっていることを伝えている。
もしかするとアスカの身が危ないのではないか、
そう考えると、いてもたってもいられなくなる。
364名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 22:52:41 ID:???
恐月怖日

エヴァを巡る国際情勢は混迷の度合いを深めている。
アメリカ・中国を主体とする国連軍は、日本に対して、
国連の査察のもとでのエヴァンゲリオン破棄を要求してきたという。

「例の査察、日本は拒否するらしいぜ」
緊張の面持ちで相田君が言う。
「米・中連合軍はニューギニアのジャヤブラ湾に集結、戦自と一触即発のにらみ合いだ。
 戦自がエヴァンゲリオンを使うのも時間の問題かもな」

「そんな……それじゃ…アスカは………」
思わず絶句してしまった。
「ごめん。霧島は心配だよな、惣流のこと。でも、大丈夫さ。
 N2爆雷だろうと、ポジトロンライフルだろうとエヴァを破壊することはできないんだ。
 エヴァの中は世界一安全と言ってもいいくらいだよ」
「そうだよね。それに、アスカは強いもんね」
私は、そう言って調子を合わせた。

でも、対テロ戦術を長年学ばされた私には分かる。
本当に怖いのは暗殺……。
じとり、と、嫌な汗が背中をつたった。
365名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/01(金) 23:35:43 ID:???
>>356

404

>>357-364

あぁもう何が何やら…

366名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 01:52:12 ID:???
367252=283=332:2006/09/02(土) 10:12:56 ID:???
残り一挙に投下しますm(__)m
368名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:14:31 ID:???
開月戦日

私は今、戦自の巡洋艦に乗っている。

米・中連合軍はマリアナ諸島グアムの戦自基地を攻撃、
一方、戦自の太平洋艦隊はニューギニアに向けて既に出撃したという。

ミサトさんはニューヨークで拘束されてしまった。
そして、私にはまたしても戦自から出頭命令が来た。
戦自はエヴァンゲリオンを使ってニューギニアに集結している米・中連合軍を叩き、
一挙に戦局を有利に展開する計画だが、作戦の要であるエヴァンゲリオン弐号機のパイロット、
つまり、アスカが、頑なに命令を拒否しているそうだ。
そこで、アスカに最も親しいとされる私が説得を命じられ、
冒頭に述べたように巡洋艦に乗って、先発した太平洋艦隊を追いかけているというわけ。

実は、私はアスカにエヴァで米・中軍と戦うように説得するつもりはまったくない。
ただ、もう一度アスカに会う、その為だけに戦自の命令に従っているフリをしている。
あんな風に、気まずく別れたままってのがすごくイヤだったから……。
369名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:16:31 ID:???
一昼夜が過ぎ、太平洋艦隊に追いついた。アスカの居る護衛艦へと乗り移る。
アスカの部屋の前には憲兵が二人、立哨していた。

「久しぶり……だね」
「久しぶりね、マナ。何しに来たの?」
「戦うように説得しろって言われて……。でも、そんなことどうでもいいよ。
 本当は、アスカの顔が見たくて来たの」
「どうでもいい、って、この部屋は盗聴されてるのよ。
 嘘でも説得するフリくらいしないと、あんたの立場が悪くなるわよ。
 ま、いいわ。みんなどうしてる? ミサトは?」
「ミサトさんは、アメリカで拘束されたって」
「ふーん。あの人も色々大変ね」

「ねえ、アスカ……、あの……」
「なによ?」
「戦うのを拒否してる理由って、アスカがアメリカ国籍だからなの?」
「そんなの関係ないわよ。あたしはエヴァに乗れりゃなんだっていいの。
 でも、弱いものイジメはまっぴらよ」
「弱いものイジメ?」
「そ。エヴァで軍艦だの戦車だのをやっつけるのって弱いものイジメでしょ。
 そういうの、性に合わないの」
「そっか、アスカらしいね」

それからしばらく雑談した。
アスカが意外にも屈託のない様子だったので、少し安心。
でも、一番言いたかったシンジとのことは結局言えずじまいだった。
370名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:18:46 ID:???
戦月禍日

私の耳にもどんどん戦況が伝わってくる。
核弾頭を搭載した米・中のミサイルが日本各地に多数飛来し、甚大な被害を受けたらしい。
「エヴァを悪用し暴走する戦自から、日本国民を守る」という、
米・中の主張に完全に矛盾する無差別殺戮に怒りがこみ上げる。
もっとも、名分に欠けるのは戦自も同じ。
そもそも、エヴァ保有に固執したことが戦争の原因なんだから。
戦自も報復として、米・中の各都市に向けてミサイルを発射したそうだ。
一体、何千万、いや何億の人命が失われたのだろう。
背筋が冷たくなる。
そして、一つの悪魔的な考えが脳裏に浮かんだ。
誰かが、アスカを殺してしまえば、この悲劇は終わるのではないか、と。
私は、自己嫌悪の余り吐き気を催した。

午後。
今日も、アスカと私は艦橋に呼び出された。
「惣流君。今までとは状況が変わった。
 先刻帰投した偵察機が、敵のエヴァンゲリオンを撮影したのだ」
「敵の? 弐号機のほかにも残っているエヴァがあるんですか?」
「これがその写真だ。偵察衛星からの映像も敵エヴァンゲリオンの存在を裏付けている」

「エヴァシリーズ!」
写真を見たアスカは言った。
「なるほど、面白くなってきたわ。相手にとって不足はない、ってわけね」
「分かりました、提督。命令があり次第、出撃します」
「おお、やってくれるか。頼んだぞ、惣流君」
371名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:20:16 ID:???
戦月闘日

艦内に警報が鳴り響く。
何と敵エヴァンゲリオン10機以上がこちらへ向かっているらしい。
とうとう、アスカが出撃することになった。

「パイロットと弐号機、接続を開始」
「パルス及びハーモニクス正常」
「中枢神経素子に異常なし」

「発進準備完了!」

ネルフの発令所とそっくりの艦橋にオペレータ達の声が響く。
私は、ただ見守ることしかできない……。

約1時間後。

「敵エヴァンゲリオンを肉眼で確認!」
アスカの声が聞こえてきた。
「何度見ても虫酸が走るブッサイクな連中ね。あたしが引導を渡してやるわ!」
372名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:21:55 ID:???
艦橋に戦闘の様子が映し出される。
戦場は、ここから数十キロ離れた珊瑚礁で、
エヴァの巨体から見れば「浅瀬」と言っていいようなところだ。

弐号機の動きは明らかに敵のそれを上回っている。
しかし、敵の量産機は数で勝る上に、前に見たときよりも性能が向上しているようだ。

「くっ、頭からっぽの量産機のクセに……ちょっとは学んでるみたいね」
モニターの一つにアスカの苦しそうな顔が映る。

「シンクロ率低下!」
「敵機影、更に3体増えました!」
苦渋に満ちたオペレータ達の声からも状況が我々に不利なことが分かる。

そして、ついに量産機の1機が弐号機を羽交い締めのようにして捕らえた。
他の量産機がわらわらとやってきて、剣とも槍ともつかない武器を構える。

「もはやこれまで、か……」
アスカの諦めの言葉が聞こえてきた。

そんな………!!

アスカが絶体絶命となったそのとき、
突如として全幅200メートルはある巨大な輸送機の影が私たちの艦を覆った。
373名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:23:47 ID:???
私の目の前で理解を超えた光景が繰り広げられる。

何と、綾波さんの零号機とシンジの初号機が加勢に来たのだ。
3機が力を合わせて、みるみる間に敵の量産機を撃破していく。

「提督、赤木リツコ博士から通信が入っています」
「繋げ」

「博士、今降下してきた2機は一体なんだね?」
「MAGENで再生した零号機と初号機です」
「再生?そんなことが可能だとは聞いてないが」
「いいえ、理論的可能性は以前から指摘されてましたわ。
 今回は、胚性幹細胞に零号機・初号機の肉片から採取した体細胞の核を移植し、
 それを分化させることで、再生しました。
 初号機はコアが破壊されていたために少々手間取りましたが……」
「……技術的解説は結構。それでは、敵のエヴァンゲリオンも
 同じようにして再生されたものなのかね?」
「おそらく」
「分かった。協力に感謝する」

通信が終わる頃には、敵の量産機は全て殲滅されていた。
意気揚がる艦内。水兵達は飛び上がって喜んでいる。


しかし………。
374名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:25:27 ID:???
「アスカ、相談があるんだ」
モニターからシンジの声が聞こえてくる。

「わたしの零号機と碇君の初号機にはN2爆雷が搭載されているわ」
今度は綾波さんの声。

「エヴァのせいで何億もの人たちが死んだ……」

「もう使徒はいないのに、いいえ、使徒がいなくなったからこそ、
 人はエヴァを巡って争い続ける」

「エヴァなんてものがこの世にあってはいけないんだ!」

「そして、わたしたちチルドレンも」

「三人で自爆しよう、アスカ」

「呪われた運命を断ち切りましょう」

シンジ、綾波さん、あなたたち、なんてことを言うの………。

「なるほどね。実はあたしも思ってたんだ。
 あたしさえ死ねば戦争は終わるんじゃないの? ってね。
 いいわ。あんたたちと一緒に死んであげる」

アスカ!!

「でも、その前に…………」
375名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:27:24 ID:???
「マナ、聞こえる?」
「ええ、聞こえるわ。だめっ、アスカ、シンジ、綾波さん! 自爆なんて絶対だめ!!」
「いいから、聞いて。マナ」

「あのときはごめんなさい」
「あのとき?」
「屋上でのアレよ。あたし、どうかしてた」
「いいの。とにかく自爆なんてやめて! すぐにエヴァから降りて!」

「あなたと一緒に暮らせて楽しかった。
 あたしたち本当の友達、いいえ、家族よ。ね、そうでしょ?」

「……うん……私たち………家族…………」
あとは言葉にならなかった。

「よかった。家族ができて」

「いいわよ」
「いきましょう」
「うん」

3機のエヴァが肩を組んだかと思うと、次の瞬間、正面スクリーンの映像が途絶えた。

「いやあぁぁぁぁっっ!!!!」

私は声の限りに叫んだ。
376名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:31:12 ID:???
絶月望日

艦が日本へ向かう間、私は抜け殻のように自室のベッドの上で丸くなっていた。
三人が望んだ通り、戦争は終結へと導かれた。
互いに切り札を失った戦自と米・中連合軍は、停戦に合意し、
それぞれ停戦ラインまで撤退を始めた。
ミサトさんは拘束を解かれ、一足先に日本へ帰り着いたらしい。

しかし、全てが遠い宇宙の出来事のように感じる。
唯一心の中を占めているのは、あんなに簡単に死を選んだ三人への怒りにも似た感情。

シンジは最後まで私に声をかけてくれなかった………。

フラフラと甲板に出てみる。波が高い。落ちたら助からないだろう。

絶望、それは死に至る病。

このまま身を投げてしまおうか?
何度もそう思ったけど、結局できなかった。
377名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:32:49 ID:???
帰月郷日

私の抜け殻が日本に戻ってきた。
日本のあちこちが焼け野原になったと聞いたけど、
第三新東京市及び幾つかの主要都市だけは、
鉄壁の迎撃ミサイルシステムのお陰でほぼ無傷だ。

ミサトさん宅までの道のりで何度もため息をついては立ち止まり、
ようやく帰り着いたのは、日もすっかり暮れた頃だった。

玄関の明かりがついている。
ミサトさんはもう帰ってきてるみたい。
「ただいま……」
「お帰りなさ〜い」
私を迎える明るい声。玄関にはたくさんの靴。
そこにはなんと、ミサトさんだけでなくシンジ、アスカ、綾波さん、
そして、リツコさんまでが居た!!

「みんな……………!?」
378名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:34:31 ID:???
あの自爆の映像は合成で、あらかじめ作られたものだった。
ただし、エヴァ3機が全て破壊されたのは本当。

「びっくりしたわよ。いよいよと思って目をつぶったのに、全然爆発しないしさ。
 で、恐る恐る目を開けたらエントリープラグが強制排出されちゃって」

つまり、映像が砂嵐になった時点ではまだ爆発していなくて、
数分後、脱出完了してから爆発したのだった。
映像は時間表示を細工して世界に発表され、厭戦ムードを作り出すのに一役かった。
特にアスカの最後の言葉は世界中の人々の紅涙を絞ったという。
こうして、世界にエヴァとチルドレンは永久に失われたと思わせ、
エヴァを巡る争いに終止符を打とうとしたわけ。

筋書きを書いたのはシンジのお父さん。
そして、リツコさんやマヤさんがその意に従って動いていたらしい。

「黙ってて本当にごめん」
「ひどいよ、シンジ………ひどいよ…………」
言葉で表しようのない熱いものがこみ上げて来る。

「シンジ君とレイを責めないであげて。味方をも欺くのが作戦の中核だったの」
「そうよ、マナ。それに、あたしなんかすっかり死ぬと思いこまされて、
 こっぱずかしいこと口走っちゃってさぁ。もう、いい面の皮よ。
 それに比べたらあんたなんかまだマシよ」

私たちは、泣きながら抱き合った。

今後、シンジ・アスカ・綾波さんの三人は名前を変えて別々の街に移り住むという。
「仕方ないのよ。世界中で死んだと思われちゃってるもんね」
379名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:36:17 ID:???
旅月立日

あれから一週間。

「本当にごめんなさい」
今日も国連ビル内で開かれる会議に出席しないといけないミサトさんは、
三人の見送りができないことを残念がっていた。
「シンジ君、アスカ、レイ。笑顔でお別れしましょう。さようなら」


第三新東京国際空港の国内ターミナル。
三人はそれぞれの街へ向かって出発する。
「さようなら。碇君、アスカ、霧島さん。あなたたちのことは忘れないわ」
「さようなら、レイ」
アスカはこのとき、初めて綾波さんを名前で呼んだ。
「さようなら、綾波さん……」
「綾波……。さようなら、元気で……」
綾波さんは微笑みを浮かべ、そして、搭乗口へ消えていった。

「僕も、ここで……」
「…さようなら、シンジ……」
覚えず涙が頬をつたう。
「なに、メソメソしてんのよ、あんたたち。
 シンジ、レイを見習いなさい。アイツはもうとっくに行っちゃったわよ」

何とか笑顔を作ろうとしているのに、次から次へと涙があふれ出てしまう。
「うん、さようなら、マナ。さようなら、アスカ」
 そう言って私たちに背を向け歩き出すシンジ。

「あたしは、国際ターミナルだから見送りはいいわ」
私の泣き笑いの表情をしげしげと見つめながら、アスカが言った。
380名無しが氏んでも代わりはいるもの:2006/09/02(土) 10:38:47 ID:???
「そんな……最後まで見送らせてよ」

「あんたはシンジを追いかけなさい」
「えっ?」
「だ・か・ら、シンジを追いかけて捕まえなさいってば。
 そして、捕まえたら首根っこに齧り付いて離さないことね」
「でも、私……航空券も持ってないし」
「飛行機がダメなら電車でもなんでも使って二人で駆け落ちすればいいじゃない!
 今を逃したら、永遠に会えなくなるのよ」

「う、うん。そうだよね。ありがとう! アスカ。さようなら!」
両手でアスカの手を握りしめ、感謝と別れの言葉を口にすると、
即座に走り出す私。


「シンジ!!」
あたりかまわず大声で叫ぶ。
「マナ!!」
私は、驚いて振り返った彼の胸に飛び込んでいった。


                 完