碇シンジの日記 2冊目

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幼なじみのアスカが,ボクの家に転がり込んで来たのは,
今からちょうど半年くらい前だった。
なんでも,ルームシェアしていた綾波と大ゲンカして,
「もう,アンタと一緒の生活はごめんだわ。出て行ってやる!」
・・・と,タンカを切って,出てきたらしい。

インターホンが鳴った。
モニタを覗くと,大荷物を背景にしてアスカがいた。
そして,次に何が起こったのか,その時のボクには理解できなかった。

「あ,そのダンボールはこっちね」「えっと,それは,キッチンにお願いします」
アスカはてきぱきと,引っ越し屋さんに指示を出す。
あれよあれよという間に,続々と荷物の山が築かれる。
ボクが我に返った時には,ダンボールの山々と,
その隙間にちょこんと座って,ポテチを食べているアスカがいた。
953960:2006/11/10(金) 19:24:11 ID:???

「アスカ・・・」
「ん・・・?,あ,ポテチ?いる?」
唖然としているボクの前で,ポテチをぽりぽりもぐもぐしながら。
「そうじゃなくて・・・」
「ワタシ,ニッポンゴ,ワカリマセーン」
「アスカっ!」
「あ,コレね。急に決まったんで。ゴメンね」
アスカはしれっと答える。最後の『ゴメンね』だって,自分が悪いなんて全然思ってない。
でも一応,何でこうなったのかは説明してくれた。

「でも,それならウチの前に洞木さんのところとか,あるんじゃない?」
「んー,ぱっと思いついたのがココしかなくって。そうだね,ヒカリの家でも良かったんだ」
ぽん,と納得したように手のひらを拳でたたく。
昔からそうだ,アスカは。全然,こっちの事情なんかお構いなし。
「あのね,ボクだって一応男なんだよ」
「でも,シンジはシンジでしょ?」
真っ直ぐボクの目を射る碧眼。疑いも一点の曇りもない瞳。
ボクは,大きくため息をつくしかなかった。やれやれ。
954960:2006/11/10(金) 19:24:58 ID:???

事件は,1本の電話から始まった。
「あ,シンジ?」母さんからだった。
「今,駅にいるの。そう,丁度こっちに用があって。一晩泊めてね」
「今からそっち行くから。うん,お父さんも一緒よ,それじゃ」
電話は切れた。

・・・どうしよう。
急に来られても,イヤとは言えない。言えるはずがない。
でも,まだ,アスカと一緒に住んでいることを言っていない。
いや,絶対にそんなこと言えない。
父さんも怖いけど,母さんはもっと怖い。
アスカと両親がここで会ったなら・・・とても怖い想像を,必死に打ち消す。
逃げちゃダメだ,逃げちゃダメだ,逃げちゃダメだ・・・。

とりあえず,目に付くアスカのものを,片っ端からクローゼットに放り込む。
お出かけ着,化粧品,歯ブラシ・・・エトセトラえとせとら。
なんで女の子って,こんなにモノ多いんだろう。
横目で時計を見ると,もうこんな時間。まずい。間に合うかな。
とにかく満杯になったクローゼットを無理矢理閉め,一息つく。
ふぅ。
・・・ふと見ると,アスカ本体がうつ伏せで寝っ転がって,通販のカタログをめくっていた。
ホットパンツから伸びる白い細身の脚を,ぱたぱたさせながら。

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'
955960:2006/11/10(金) 19:26:30 ID:???

逃げちゃダメだ,逃げちゃダメだ,逃げちゃダメだ・・・。
ぶつぶつ独り言を唱えるボクを見て,アスカが気づく。
「どうしたの?」
「えっ?ユイさん来るの?ゲンドウおじさんも?」
「すっごい久しぶりかも。ちゃんとご挨拶しなきゃ」

違うって,アスカ。そうじゃなくて。
「アスカ,とにかく一晩,どこかに行ってて。このとおりお願いだから!」
平身低頭でお願いするボクを,アスカは思いっきりなじる。
「なんで,このアタシがココに居ちゃダメなのよ!バカシンジ!」

アスカの一泊分の着替えと化粧品その他もろもろを,
手早くバッグに入れてアスカに押しつけ,ムリヤリ家から追い出す。

がんがんと家のドアを蹴る音が続く。
「バカシンジ!!!なんでよ!!!きぃっ!!!」アスカの金切り声がする。
逃げちゃダメだ,逃げちゃダメだ,逃げちゃダメだ・・・。
・・・そのうち,ドアを蹴る音は止み,静かになった。

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'
956960:2006/11/10(金) 19:27:18 ID:???
これで,準備OK。部屋を見渡して,アスカの痕跡がないかをチェックする。
とりあえず,今晩はなんとかこれで乗り切ろう。
バスルームもキッチンも洗面所もトイレも大丈夫。
『3kg痩せるヨガ体操』のDVD。これはボクが見てるなんて,誰も思わないよね。
タイトルが見えないように後ろに回した。

なんだか,アスカに悪いことしちゃった。
父さん母さんも騙すことになるんだよな・・・。
と,思っていた矢先にインターホンが鳴る。
母さんだ。
玄関のカギを開けようとした瞬間,白のピンヒールが目に入る。まいがっ!
速攻,下駄箱に片付ける。ぎりぎりセーフ。ふぅ。

「シンちゃん,久しぶりね,会いたかったわよ」
母さんがボクを抱きしめる。もうそんなに子供じゃないのに。
「シンジ,変わりはないか」父さんは,相変わらず木訥と話しかける。

その日の晩のことは,あんまり思い出したくない。
「シンジ,これはなんだ?」
父さんが手に取ったのは,ついさっきまで,アスカが見ていた通販のカタログ。
「あ,ボク,つっ通販でモノ買うんだよね,けっ結構忙しいから」
「・・・女物のこんな派手な下着もか?」
「えっ・・・」
・・・アスカぁ,そんなものリビングで見てないでよ。
「息子の趣味をとやかく言う気は無いが・・・おまえには失望した」
父さんから,カタログをひったくる母さん。
「ちょっと,シンジ。そこ,座りなさい」
目が怖いよ,母さん。

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'
957960:2006/11/10(金) 19:28:25 ID:???
怒濤の一晩だった。
「これはなんだ?シンジ」父さん今度は,紅茶色の長い髪の毛をつまんでいる。
「そ,それは・・・そう,かつらだよ!かつら!」
「かつら?何に使うの?・・・まさか?」母さんの目が点になる。
「こんな子に育てた覚えは無いのに・・・」涙目の母さん。ハンカチで目頭を押さえる。

父さんが『アスカもの』を発見,母さんが小言小言。何度,繰り返したことか。
帰る時にも,「女装するのは,家の中だけにしてね。わかった?シンジ」って。
誤解だよ,母さん・・・。
そんな蔑みの目で見ないでよ,父さん・・・。

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'
958960:2006/11/10(金) 19:31:42 ID:???
嵐は,誤解と共に過ぎ去った。あぁ・・・。
とりあえず,一安心。
でも,夕方を過ぎても,アスカが帰ってくる気配はない。
このまま,帰って来ないんじゃないか?あんなにひどい追い出し方をしたから。
アタマの中で,考えがどんどん怖い方向へ向かう。
逃げちゃダメだ,逃げちゃダメだ,逃げちゃダメだ・・・。

ここで考えていても,らちが開かない。
探しに行こう,と立ちかけたその時,インターホンが鳴った。
モニタの中では,肉まんをくわえたアスカがポケットの中の鍵を探していた。

「ふぁふぁいま(ただいま)ふぉれほみやへ(これおみやげ)」
肉まんの袋をボクに渡すと,アスカは何事も無かったようにソファに座った。
「暖かいうちに食べたほうが,美味しいよ」
「アスカ・・・ごめんね」ソファの背をはさみ,アスカを抱きしめる。
「ちょ,ちょっとシンジ,何すんのよ!」
「家に電話するから,そばに居てくれる?」「何で?」
「アスカと一緒に居ること,話すよ」「・・・アタシが出て行ったイミないじゃん」
いいんだ。一番大事な人が,誰かわかったから。
口には出さなかったけど,その時,本当にそう思った。
ずっと,そばにいたい。

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'

参考:
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/eva/1159527435/117-125