アスカの日記 5冊目

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「もう,アンタと一緒の生活はごめんだわ。出て行ってやる!」
思い切りよくタンカを切ってやったが,
まさか,本当に出て行く羽目になろうとは思わなかった。
レイのヤツ,土壇場で折れると思っていたのに。
いまさら,こっちから謝るなんて出来ない。引っ込みが付かない。
ダンボールに荷物を詰めながら,うじうじと考えていた。

引っ越し当日。
引っ越し屋さんが,アタシの荷物をどんどん運び出す。
レイは姿すら見せない。当たり前だよね。
青空がまぶしい。雲が高い。
こんなにいい天気なのに,気分はとってもブルー。
頭の中でドナドナがエンドレスで流れてる。

「お客さん,行き先ここでいいんですよね?」
引っ越し屋さんの声で,我に返る。示したメモには,ヒカリの住所。
ヒカリには,数日前に事情を説明した。
その時にアタシの受入を頼んだら「いいよ,いつでも」って快諾してくれた。
本当にありがたい。持つべきものは友人だ。

・・・でも,ひょっとして,ひょっとしたら,いい口実になるかも。
優柔不断なアイツを,振り向かせることが出来るかも。
そうだ。
「あ,そっちじゃなくて,こっちの住所にしてください」
118960:2006/11/10(金) 19:13:05 ID:???

シンジの部屋は久しぶりだ。
いつも整理整頓してあって,とっても気持ちがいい。
さて,引っ越しひっこし。
唖然と立ちつくすアイツを尻目に,アタシの荷物を運び込む。

とりあえず,荷物は全部入った。ダンボールの山だけど。
疲れておなかのすいたアタシは,その隙間でポテチを食べていた。
「アスカ・・・」
「ん・・・?,あ,ポテチ?いる?」とりあえず,しらばっくれてみる。
「そうじゃなくて・・・」
「ワタシ,ニッポンゴ,ワカリマセーン」更にボケてみた。
「アスカっ!」語気が強くなる。ちっ,冗談の通じないヤツ。
「あ,コレね。急に決まったんで。ゴメンね」確信犯だけどね。
一応,コトの顛末は教えた。
119960:2006/11/10(金) 19:13:51 ID:???

「でも,それならウチの前に洞木さんのところとか,あるんじゃない?」
「んー,ぱっと思いついたのがココしかなくって。そうだね,ヒカリの家でも良かったんだ」
わざとらしく,初めて聞いたように手のひらを拳でたたく。
「あのね,ボクだって一応男なんだよ」
「でも,シンジはシンジでしょ?」真っ直ぐにアイツの目を見返してやる。
今までの付き合いから,こうすれば大抵大人しくなることはわかっている。
「・・・」
シンジはYesの返事の代わりに,深いため息をついた。
勝った。
こうして始まった同棲から,半年が過ぎようとした時に,事件は起こった。
120960:2006/11/10(金) 19:16:13 ID:???
きっかけは,1本の電話からだった。
その時,アタシは勝負下着を選ぶのに夢中になっていて,その電話には気付かなかった。
ふと見ると,シンジがやけにあたふたしている。
アタシのものを片っ端からクローゼットに放り込んでいる。
「どうしたの?」
「母さんが来るんだよ・・・父さんも一緒に。で,一晩ここに泊まるって」
「えっ?ユイさん来るの?ゲンドウおじさんも?」
「すっごい久しぶりかも。ちゃんとご挨拶しなきゃ」

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'
121960:2006/11/10(金) 19:17:32 ID:???
アイツは自分の両手を目の前で合わせ,平謝りしながら言った。
「アスカ,とにかく一晩,どこかに行ってて。このとおりお願いだから!」
なにぃ?
自分の耳を疑った。何よ,それ?
「なんで,このアタシがココに居ちゃダメなのよ!バカシンジ!」
でも,アイツは聞いちゃいなかった。
アタシのお泊まりセットを用意し,素早くカバンに放り込むと,
それをアタシの胸に押しつけた。
そして,アタシの背を押し,玄関でサンダルを履かされると,
挙げ句の果てに家から追い出された。
かしゃん,と鍵とロックがかけられる。

「バカシンジ!!!なんでよ!!!きぃっ!!!」
玄関ドアをサンダルで蹴り続ける。・・・足,痛くなった。
でも,ここまでされるってことは・・・。
多分,これ以上,シンジも頑として譲らないだろう。
だてに付き合いが長いわけではない。

黒ゴムで1つにまとめただけの,ぱさぱさな髪
部屋着のよれたノースリーブのシャツ,そしてホットパンツ。
しかも,ぐりぐり眼鏡ですっぴん。おまけにサンダル。
この格好で,アタシに一体どこへ行けと?
そして,アタシは途方に暮れる。

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'
122960:2006/11/10(金) 19:19:02 ID:???

「大丈夫よ,アスカ。うちにおいでよ」
電話の向こうのヒカリの頼もしいコトバに,思わずうるうるしてしまった。
さて,どうやって行こうか。歩ける距離じゃないし,電車はパスしたい。
こんな格好で公衆の面前に晒されるのは,オトメゴコロ的には絶対NG。

カバンの中には,アタシの財布がちゃんと入っていた。
でも,中身はそのままだった。タクシー乗れないじゃん,バカシンジ。
なるべく知り合いに会わないよう,こそこそと駅へ向かった。

「ア,アスカ,どうしたのその格好ぉ?」
ヒカリの肩が揺れている。必死に笑いを堪えている。
「それ以上言わないで,ヒカリ」
アタシは,ヒカリを手のひらで制する。
「自分でも,へっぽこだと思ってるんだから」
123960:2006/11/10(金) 19:19:48 ID:???

「さ,今日は飲もっか」一升瓶が目の前に置かれる。
飲みながら,一晩中ぐだぐだとお互いのレンアイを語った。
「そうよねぇ,オトコってそういうところずるいよね」
「でも,ヒカリそういう目に遭ったコト無いでしょ?」
「ま,そりゃそうだけど・・・ね」
「・・・のろけかい?それは?」
最後のほうには『アイとはなんぞや?』なんて,
訳のわからんハナシをしていたような気がする。

目が覚めると,もうお昼をとっくに過ぎていた。
「アスカ,おふろ入っているよ」
さすがヒカリ。お風呂の温度までアタシの好みを憶えてくれているとは。
「着替え,ある?」湯船に鼻までつかるアタシに,ヒカリが声をかけてくる。
「ん,たぶん大丈夫だと思う」
アイツのことだ。多分ブラもショーツもカバンに入ってるはずだ。
あのヘンタイめ。

「アスカ,もう帰っちゃうの?」人差し指をくわえるヒカリ。
「ん・・・一晩って言ってたから。心配すると思うし」
「電話すればいいのに」
「それはダメ,はっきりケリつけなきゃ」
ヒカリに見送られ,洞木家を後にする。
124960:2006/11/10(金) 19:20:47 ID:???

でも,本当は不安だった。押しかけたのはアタシのほうだ。
出て行け,と言われたらどうしよう。
まだ,何もされていないし,してもいないのに。

人間,おなかが空くと不安になる,と何かで読んだことがある。
途中,点心が美味しそうだった。肉まんを2個買う。

いよいよ,ウチの玄関前まで来た。
おなかが空いたので,とりあえず肉まんにかじりつく。うん,んまい!
そして,一回深呼吸をしてから,インターホンを鳴らす。
なかなか,アイツが出ない。ひょっとして,アタシだから?
ポケットの中の合い鍵を探す。このままで終わらせてやるもんか。

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'
125960:2006/11/10(金) 19:21:37 ID:???

「ふぁふぁいま,ふぉれほみやへ」
おみやげの肉まんをシンジに渡して,何事も無かったようにソファに座る。
「暖かいうちに食べたほうが,美味しいよ」
もぐもぐしながら,あさっての方を向いてアイツに話しかける。
心臓がバクハツしそうになりながら。

「アスカ・・・ごめんね」
ソファの背をはさみ,アイツがアタシを後ろから抱きしめる。
「ちょ,ちょっとシンジ,何すんのよ!」
予想外の行動に,驚く。初めて抱きしめてくれた。
不安のどきどきが,別のどきどきに変わる。
ココにいていいの?ねぇ?

「家に電話するから,そばに居てくれる?」
「何で?」
「アスカと一緒に居ること,話すよ」
「・・・アタシが出て行ったイミないじゃん」
そう言いながら,自然に頬がゆるむ。

いいのね,ココにいて。
・・・ずっと,そばにいたい。これからも。

Reference from DCT Wonder3 'KUWABARA KUWABARA'