当然2gets
きっとこの文体はtomoタンだろうと以前から睨んでいた俺が3ゲッツよ。
「あー、うー。なんつーの? さっきまではさー、どっちかつったら僕が悪いわけで。真面目に
やってなかったからな。これからは真面目にやるからよー、泣くなって。な?」
「でも・・・全然上手く合わないし」
「やりゃできるって。何とかなるって。この間の使徒だって何か上手いこと倒せたじゃん?何と
かなるんだって。絶対真面目にやるから! な?」
僕は必死に身振り手振りを交えて「真面目にやる」「がんばる」と生まれてこのかた三回くらい
しか使ったことのない誓いを何度も口にした。ようやく泣き止んだアスカにほっとしながら、僕
はやっぱり女ってすぐ泣くから苦手だなぁと思った。男だったら有無を言わせずぶん殴ってお仕
舞いにできるのに、面倒くさいったらありゃしない。
アスカを何とか宥めすかして帰った頃には、もうすっかり暗かった。子分二人と綾波は帰宅して
ミサトは酔っ払ってがーがー寝ている。僕は静かになった居間にでんと置いてある巨大な筐体に
初めて積極的に足を乗せた。言ったからには男に二言はない。
「さぁ、やるか」
アスカはコクンと頷いた。
ようやく、アスカがこっちに合わせるようになってからは、僕も順調に進歩した。段々照れも無
くなってきて、深夜になって初めてユニゾンOKのサインが点灯する。僕もアスカも飛び上がって
喜んだ。そこからはとんとん拍子でお互いに上達した。真面目にやれば何とかなるものだ。寝る
ことにしたのは、深夜二時過ぎだった。この数日で二人とも振り付けだけは完璧だったので、も
うほとんどユニゾンは完璧だった。
朝・・・と言うか昼前に起きると、ミサトは既にネルフに出勤した後だった。書置きに、「今日は明
日の出撃準備があるから本部泊り込みになります。シンちゃん、アスカ襲うときはちゃんと優しく
しないと駄・目・よ?」と、ふざけた内容が書き込まれていた。それを見たアスカが警戒を露わに
して近寄ってこなかったので、結局午前中は煙草をすってるだけで終わってしまった。
午後になって練習を再開し、もう百回に一回くらいしかミスしないくらいユニゾンができているこ
とを確認してから、僕とアスカはラーメンを食べにいった。何だかんだ言ってミサトが料理しない
とこの家に飯を作成できる人材はいない。ミサトの料理は不味くない程度だが、暖かいしそれなり
に努力の後が見えるので嫌いじゃあない。これで掃除ができればミサトはいつでも嫁にいけるのに、
と常々思う。そしてできるだけ迅速に嫁に行って欲しいと願うばかりだ。一緒に住んでると確実に
寿命が減っていく。
ラーメンを食って戻ると、僕もアスカも何となくダレた気分で、三回踊って全部成功したところで
特訓は切り上げることにした。もう自信満々になるくらい大丈夫だ。明日は決戦なのだし、体を休
めることも重要だろう。適当にバラエティー番組を見、風呂の順番で争い、寝る準備が整ったとこ
ろで、今日は早めに休むことにした。
「ほんとに絶対こっち来ないでよ! 来たらその時点で110番するからね!」
「あいあい、わーってるよ」
「絶対の絶対のホントの絶対よ!」
「大丈夫だって・・・」
「絶対絶対ホントに絶対?」
「うるせー早く寝れ馬鹿!」
アスカが来てから、僕は居間で寝ている。アスカは僕の私物を全部物置部屋につっこんでとっとと
自分の部屋に作り変えてしまっていた。僕もそのうち物置部屋を片して自分の部屋にしないといけ
ないだろうが、まぁ今日までの辛抱だ。僕は居間の真ん中に広げたお布団に寝そべって、先週買っ
たSDATを耳にはめた。
適当に買ったCDの適当に耳に残る曲がシャカシャカ鳴って眠気を誘う。最初の日はさすがに同年代
の女が同じ屋根の下にいることにドキドキムラムラしたもんだが、一週間も続けば慣れたもんだ。
僕はごろんと寝返りを打って窓の外を見上げた。綺麗なお月様がぼんやり浮かんでいる。満月かと
思ったが、微妙に欠けているようにも見えた。ここハコネは気候的にあんまり雨は降らない。だか
ら夜は星や月が綺麗に見えていい。雨ばっかりの仙台とは大違いで、夜の空は好きだった。
まどろみつつ、ぼけっと月を見上げる。居間は大きな窓があってベランダと繋がっているから、空
が良く見える。このままずっとここで寝るのもいいかもしれない。そんなことを考えていると、ガ
ラっと扉が開く音がして、ぺたぺた素足で歩く音が聞こえてきた。何気なく時計を見ると、僕は大
体二時間くらいぼけっと空を見ていたことになる。苦笑してシーツを被りなおした。ジャーっとト
イレを流す音。ああ、今の足音はアスカか・・・と、眠りに入る一歩手前の状態で思った瞬間、バサっ
と何かが目の前に降ってきた。薄く目を開けて前を見ると、パンツとTシャツ姿のアスカがむにゃむ
にゃ言いながら僕のシーツを奪い取る。途端に僕の心臓がばっくんばっくん激しく胸の内側を叩き
出した。
「おーい、アスカ?」
返事はなく、すーかすーか寝息だけが僕の声に返ってきた。この天然野郎、寝ぼけて布団間違えやが
った。思わず生理現象の僕は、ぐぅと唸って怯んだ。あんだけ絶対こっちくんなとか訴えるとかわ
めいてた癖に、自分から来るなんて何考えてんだ。僕は生唾を飲み込んだ。僕の中で悪魔シンジと
天使シンジが激しく剣と剣をぶつかり合わせている。
「据え膳って奴だ。食っちゃえよ!」
「駄目だよ! 駄目だよ! そんなことできるはずがないじゃないか!」
普段はヘタレな天使くんも今日ばかりはなかなか手ごわく、僕は思い切れなかった。
しかし悪魔シンジは巧妙だった。
「わかってる、そりゃ確かに犯罪さ。でもよ、チューするくらいはいいんじゃねえの? それなら
バレやしねえって!」
天使シンジも応戦するが、この時の悪魔シンジは強すぎた。
「バレねぇから問題ねぇんだよ! 死ね!」
天使くん敗北。僕は生唾を飲み込みまくりつつソーっとアスカに顔を近づけた。アスカの髪はシャ
ンプーのいい匂いがする。アスカの寝息が僕の前髪を揺らした。自分の唾を飲み下す音にびっくり
してしまう。距離は少しずつ、少しずつ迫ってゆき、あと3センチほど。
「・・・や・・・いや・・・」
ヤベ! おきちまったか!? 僕はアスカの声にビビって海老のようにぴょんとアスカから離れた。
僕のシーツをかぶったアスカは涙をこぼしながら、「いや、降りるのはいや」と繰り返している。
寝言か・・・ビビった。真剣にビビった。苦しげな顔で、アスカはうなされている。その寝顔を見てい
ると、段々気が静まってきた。生理現象バリバリだった股間は萎縮し、ついでに眠気も吹っ飛んだ。
「アスカ、おきろよ。アスカ」
あんまりうなされているものだから、僕はアスカを起こすことにした。目を擦りながらおきたアスカ
は、僕の顔を見るなりひきつって後ずさりしたが、ここが居間であることに気付いて、自分で寝ぼけ
てここに来たのだ、と気付いて顔を伏せた。まぁ、明るかったら真っ赤になったアスカが拝めたこと
だろう。
「なんか魘されてたぜ。怖い夢見たか?」
「え・・・うん・・・ちょっと」
「あんまりウンウン唸ってっから思わず起こしちまった。悪いな。もう三時だぜ? 早く寝よう」
「うん・・・」
「おやすみ!」
気分的に眠れそうも無かったが、僕はアスカの掴んでいるシーツをひったくってそれを頭からかぶり、
寝転んだ。あー、何か損した気分。でもまぁ、これでよかったような気がしないでもない。チューし
てたら自分を保てた自信が無いからだ。でも、アスカは動こうとせず、すぐにその場で横になった。
「ここで寝ても、いい?」
「は? ・・・ああ、まぁ、いいよ。別に。勝手にしろよ」
どうやら相当怖い夢を見たようで、アスカは少し怯えているようだった。全くビビりな奴だ。でも、
これで僕は朝まで眠れそうにないな、と苦笑するしかなかった。
「シンジ!」
「おーよ!」
天高く舞い上がった初号機と弐号機は、空中の同じ高さで一回転し、落下する勢いをあわせて
思いっきりキックを使徒のコアにぶちこんだ。必殺ライダーキックならぬエヴァキックだ。エ
ヴァの洒落にならない体重と筋力のすべてをつぎこんだこの蹴りは改造人間ごときとは比較に
ならない威力で使徒のコアを踏み砕く!
足に、コアがばきりと割れる感触が伝わってきた。勝ちを確信した瞬間、使徒はびくんびくん
と二体同時に痙攣し、そしてくたりと力を失って倒れるや否や、最後の力を振り絞ったのか
大爆発して自爆した。慌ててATフィールドを展開してその爆風を避けるが、僕もアスカもラス
トの爆発は想定外だった。着地できずに爆風に巻き上げられ、そして空中で激突してからみあ
うように、使徒の爆発でクレーター状となった地面に落下する。
「いぃっでぇ! アスカどけ! はやく! 足が!」
「いたたたた! し、シンジがどいてよ! 手踏んでるって! 手!」
互いにナチュラルなサブミッション状態。たまらず僕はシンクロを解除して外に出た。こんな
ことまでシンクロしなくてもいいのに、アスカも同じように外に出てくる。
「こらぁ! 何してくれんだアスカ、いてえじゃねえかよ!」
「それはこっちのセリフよ!! あんたが着地ミスるから悪いのよ! 馬鹿!」
「うるせー! 無茶言うんじゃねえ! パンツ一枚で寝てたくせに!」
「ッッ!! えっちばかへんたい! あんたこそ寝てるアタシにキスしようとしてたでしょ!
この卑劣漢!」
「ぅ・・・き、気付いてたのかょ・・・」
「ええ! マジでやったの!? イヤー!!」
「ば、馬鹿、未遂だって! やってねぇ、誤解だ!」
「最悪ー! 死んじゃえバカー!」
「いやその、ほんとやってないって!」
ちなみにこの時の会話は全部司令部に筒抜けだったらしく、僕は副司令のじーさんと親父に恥
をかかせるなって後でコッテリ絞られたのであった。
>>8 と順番間違えた。
「さぁ! いよいよね! ・・・って、どしたのシンちゃん。目の下すごいクマになってるわよ?」
「ああ、ちっとな・・・」
二時間くらいしか寝れなかった僕は欠伸をかみ殺しながら初号機とシンクロした。今回の作戦で
はエヴァットは使えない。また、ATフィールド放射攻撃も使えない。エヴァットは僕にしか扱え
ないとこの間発覚し、ATフィールド放射攻撃は僕にはできそうにない芸当だ、と言うこともまた
発覚している。だから、ユニゾンしてちんたらATフィールドを侵食しつつ同時攻撃をかけるしか
ない。一体一体だとエヴァットの前にゴミのようなその使徒は、不死身じゃなけりゃ大したこと
はないし、僕とアスカのユニゾンはこの二日の特訓で完璧に仕上がっている。負ける要素は無い。
「しゃー!気合いれていくぞおらー! 52秒でアイツぺったんこだ!」
「・・・ぅ」
「んーだよその気合抜けまくりの声はよ。またビビってんじゃないだろな」
「だ、大丈夫よ」
朝からアスカはちょっと変だ。顔赤くしてこっち近づいてこないし・・・まぁ、パンツ姿で爆睡して
るところを僕に見られてるわけだからそれも仕方ないか、と僕は意地悪く笑った。ビビってない
ならそれでいい。
最初の一小節はパレットライフルだ。この役立たず銃は全然使徒に効かないが、それなりに牽制
の効果はある。使徒がライフル弾を嫌がってジャンプしてくるところを、僕とアスカは息ピッタ
リのダブルバク転で華麗に避ける。ミサトが曲にあわせて防御壁をエヴァの前にそそり立たせ、
そこからさらにパレットライフル連射で第二小節まで完了。第三小節では相手の反撃に対して
バク転、空転で後方に避けて距離を開ける。ここまでも完璧。第4小節の主役はミサトだ。ミサ
トの号令と共に兵装ビルが火を噴き、ミサイルの雨あられが使徒の足を止める。ダメージになん
て期待してない。足が止まればいいのだ。その間に距離を詰めた僕とアスカはATフィールドを一
気に侵食して中和する。第六小節のミサイルの途切れ目に一気に踏み込んだ初号機と弐号機の
同時アッパーカットが綺麗に使徒の顔面(?)をぶったたき、その体を浮かせる。練習しまくった
回し蹴りが同時に使徒に炸裂し、使徒は勢い良くぶっ飛ばされた。
さぁ、仕上げだ!
以上、本日のお話ですた。
アスカびいき丸出しですが何か?
tomoたんと海老タンて、黄金コンビだな。
とりあえず感想。
おもしれー。
アスカ、カワユイ・・・。
シンジはもうちょっと下品でもいいと思う。
綾波の約束は?じらさないでね。
海老タン、フラットノイズと珪素生命のやつも気長に待ってるよん。
音楽に映画、あとSSに世界線とかあったからのぅ。
まあ、こっちから聞くのは無粋だと思ったしな。
前スレの最後のほうで海老のこと聞いてる香具師がいるが、本人に直接
聞くがよろしいよ
「修学旅行に行っちゃ駄目ってどういうこったこの野郎!」
僕が勢いよく机を叩くと、アスカがテレビを見ていたビクっと肩を震わせて何事かと怪訝
そうな顔をした。僕はアニメに見入っているアスカにイライラしながらさらにバンバン机
を叩いた。
「おぅおぅ! 何とか言えよミサトこるぁ! アスカもぼけっとテレビッ子やってんじゃ
ねえ! 修学旅行行くなとか言ってんだぞこのババァッあぐっ」
空になったビール缶が思いっきり眉間に命中し、僕は椅子ごと後ろにひっくり返った。し
まった、熱くなってババァとか言ってしまったようだ。寒気がするほど微笑んでいるミサ
トに、咳払いしながら「このお姉さんがそう言う青少年の夢を壊すようなこと言うんだ」
と言い直す。中腰になったミサトがまた椅子に座りなおすのを確認してから、僕は再度ヒ
ートアップした。
「よー納得いく理由を聞かせてもらおうじゃねえかよ作戦部長さんよー」
「あのねぇ、あんた達が沖縄行ってる間に使徒来たらどうすんのよ? 責任取るの私なん
だからね、戦闘待機は当然でしょ?」
「ウルセー! 使徒なんか帰るまで待たせとけ!」
ミサトが無茶言うなボケ! と叫びながら今度は中味入りの缶を投げつけてきたので、さ
すがの僕もちょっと黙らざるを得ない。あんまり怒らせると逆効果だからだ。
大体、修学旅行に行けない、なんてのは殺生すぎる。一週間分のヘアスプレーを買い込み、
床屋で眉毛も整えてもらって準備万端だっつーのに何が悲しくて戦闘待機なんざしないと
いかんのだ。その日の為に用意した旅行グッズの数々が僕の倉庫と貸した部屋で期待のオ
ーラを放っている。例えば花火セットとか。
僕は厳重抗議したが、ミサトは全く取り合わなかった。それどころか、「まぁ本部のプー
ル自由に使っていいから」何て生殺しで中途半端な提案をしやがる。僕は不貞腐れて居間
のど真ん中でお布団広げて寝てやった。
修学旅行がポシャったにも関わらず姦しいアスカが静かにそれを受け入れていたのには実
は理由があった。あの野郎、ミサトから金で買収されていやがったのだ。最低な奴だ。ホ
クホク顔で買い物をするアスカに殺意すら抱いたが、まぁ、こいつは親が不気味な眼鏡か
けた権力者でもなければ、特に金持ちの娘でもない。僕のように自由になる金は案外少な
いらしく、よくボヤいていた。何でも、エヴァに乗ることに対する報酬は当然あるが、年
齢を考えて・・・と言う意味不明の理由で月額五万以上引き出せないようになっているらしい
のだ。それをミサトが掛け合って10万まで引き上げるのが、アスカの、修学旅行を諦める
代償だった。くっそー安い奴め!
不機嫌丸出しの僕を尻目に、昨日買いこんできたらしい結構きわどい水着を綾波に自慢し
ている姿に僕は舌打ちした。楽しそうなのがまた腹が立つ。僕はプールサイドで三角座り
しながら、今頃沖縄で楽しみまくりな子分二人を思い浮かべて泣きそうになった。仲間は
ずれにされたみたいで超寂しい。お土産山のように買ってこいと十万渡したが、あの二人
ではロクなものを買ってこないだろう。あんまり期待もできそうにない。
ブルーになっている僕の横にアスカがプールの水を滴らせながら寄ってくる。僕はシッシ
と手で払う仕草をしてこの悲しみに浸リ続けようとした。だが、アスカは首をかしげて僕
の顔を覗き込んだ。
「シンジ泳がないの?」
「僕は今傷心なんだ。傷ついてんだ。ブロークンハートだ。なんつーかトラウマ? だか
らほっといてくれ・・・」
「仕方ないじゃない、使徒がホントに来ちゃったら不味いんだし。諦めて今を楽しむのが
吉だと思うわよ」
「ふん、負け犬め。そんなんだからすぐビビっちゃうんだよ馬鹿」
でも、修学旅行にいけずにスネている僕はもっと負け犬だって実は知ってる。うう、本当
に泣けてきた。だから僕はうがーっと叫んでプールに飛び込んだ。ぷかぷかプールに浮い
ていた綾波にしぶきがかかり、綾波は嫌そうな顔をした。でもアスカは普通に楽し
そうに僕についで飛び込んできた。綾波が物凄く嫌そうな顔をしてすいーっと反対側に泳
いでいってしまった。ええい、どいつもこいつも僕のこの傷ついたギザギザハートをヤス
リでごりごりしやがって! 僕は思いっきりアスカに水をかけまくり、反撃で水をかけら
れて憤慨し、そのうちブルーだったことを忘れてアスカと水のかけあいに夢中になってい
た。ビビりで能天気で馬鹿のアスカは嫌いだ。でも、何だかんだいって今を楽しんでしま
っている僕は自分がもっと嫌いだ。くっそう楽しいよう。修学旅行で弾けてたらもっとも
っと楽しかっただろうに。他校の修学旅行生と揉めたり、海辺でロケット花火打ち合いし
たり、お土産屋さんで大人買いしまくったり・・・僕は泣き顔でその日は体がふやけるまで
アスカとプールで遊んだ。綾波は終始迷惑そうだったが。
さすがに疲れてプールから上がった頃にはすっかりブルーな気分を忘れてしまっていた。
僕は前向きに考え直した。まぁ、楽しかったから良し。明日はビーチボールも持ってこよ
う!・・・とか考えていたら、警報が鳴った。来るわけねぇと思ってたのに本当に使徒が来て
しまった。
風邪ひいて熱あるわけでもないのに修学旅行に行けないわ、使徒が来るわ、今日は最低な
日だ。僕はげんなりしながらミサトの生き生きした様子に溜息を吐き、ブリーフィング中
ずっとアスカの髪の毛を引っ張ったり綾波をからかったりして全然話を聞いてなかった。
まぁでも、何しなきゃいけないのか知らないのは不味いのでアスカに後で聞いたところ、
何やら今回の使徒は火山の火口の中にいるらしい。使徒って奴は目的も意味不明ながらそ
の行動もわけがわからん。火山の火口で何がしてぇんだ?
で、どうやら今回はそいつを捕獲しようって作戦らしい。まだ使徒の赤ちゃん状態らしい
ので、がんばったら捕まえられそうだからだ。めんどくせー! どうせ殺すんだから火山
から出てくるまでほっときゃいいのに・・・。僕はいまいち納得いかなかった。
「つーかよ、火山の火口に飛び込むってことはアレだろ、溶岩どろどろの中に入るわけだ
ろ? めちゃくちゃ熱そうだなオイ・・・」
「それ用の装備があるらしいわよ。でも、弐号機にしかつけらんないんだって・・・」
僕はさっそくビビり始めてるアスカの髪の毛をぐいっと引っ張った。
「やる前からビビってんじゃねえよ」
「び・・・ビビってないもん」
「顔ひきつってるぜ」
「え、嘘!」
「ウッソーン。何焦ってんだよバーカ」
「キィ!」
とっととプラグスーツに着替え、ケイジにぼけっとしていると、ミサトが爆笑する声が聞
こえた。そしてアスカの悲鳴。あいつら何やってんだ? 同じくボーっとして目の焦点の
あってない綾波の横を通り過ぎ、声の方向へ歩く。そこで僕はとんでもないものを見た。
「ぷ・・・うぎゃはははははは! なんだそりゃー!」
球体に手足と頭が生えたような不恰好極まりない物体がよちよち歩いている。その頭の形
状から察するに、どうやらそいつはアスカらしい。あまりのインパクトに、僕は立ってら
れないくらいに笑い転げた。
「あ、あ、アスカ、それ反則、反則だょ、ギャハー腹いてぇ!」
「ぅぅ・・・」
情けなさと恥ずかしさで真っ赤になったアスカは顔を手で隠そうとするが、その手はぶく
ぶく膨れたスーツの腹に邪魔されて顔まで届かない。ヤバイ、これはヤバイ。これを見て
笑わない奴は綾波ばりの醒めた面白くない奴だけだ。
リツコは顔を伏せて肩を震わせ、ミサトはもう床に転げてびくんびくんと痙攣している。
僕はいまだかつて無い腹筋の酷使に涙を流しながらヒーヒーと苦しく息をした。まぁでも
五分も見てれば慣れてきた。段々冷静になった僕らはその赤いまん丸なアスカを囲んで口
々に感想を述べた。
「しかしブッサイクだなぁコレ」
「失礼ね。確かに不恰好かもしれないけど、冷却効果は結構なものよ?」
「見た目まで結構過ぎるわよねぇ・・・」
「国連の連中がまたネルフはふざけてるとか言うぜ、絶対」
「そりゃあコレ見たら・・・ぶふッ ごめんアスカこっち向かないでキャハハ」
「もう! イヤ! アタシ帰って寝る!!」
ついにアスカがぶち切れて半泣きになってしまった。でも、泣きそうな顔でぶよぶよされ
たらまた笑いのツボに・・・でも、僕らがまた爆笑の坩堝に飲み込まれてしまう前に、この場
にそぐわないほど冷静な、と言うか冷たい声で綾波が言った。
「じゃあ、弐号機には私が乗るわ」
その言葉に、アスカが目を剥いて綾波をにらみつけた。弐号機にかわりに乗るとか、そう言
う話題はアスカの逆鱗であり、禁句だ。案の定、アスカは綾波をひっぱたこうとするが、
スーツに邪魔されてごろんと転がってしまう。でも、転がったままアスカは金切り声で叫ん
だ。
「嫌よ! 弐号機にアタシ以外が乗るなんて絶対嫌! アタシがやるわよ! やればいい
んでしょう!?」
一瞬、綾波が満足そうに頷いたように見えた。でもそれは一瞬で、瞬きすると綾波は元の
無表情になっていた。ああ言うことでたき付けたわけだ。ああ、なかなか役者だなぁ、綾
波は。僕はちょっと感心した。
今日はもう無理ポ
続きは明日で 明日はこの続き+汁使徒
超絶期待sage
火口は微妙な熱気と変な緊張感に満ちていた。大昔の海底探査ロボみたいな格好をした弐
号機がまるで引き上げられてるドザエモンみたいにブラーンとクレーンで吊るされており、
その足元にボコボコとオレンジの気泡を上げている溶岩がたゆたっている。変な絵だ。
僕は初号機で火口の淵に腰掛、ミサトの指示をボンヤリ聞いていた。足を踏み入れた瞬間
溶けてしまいそうな溶岩に入っていくなんて、ちょっと想像できなかった。
「国連の飛行機・・・?」
空でぐおんぐおん言いながら旋回し続けている国連の爆撃機を見つけて僕が呟くと、アス
カが「手伝ってくれるの?」と少し期待して言った。だがミサトは冷たく言い返した。
「失敗したときの保険よ。N2で熱処理ってわけね」
「おいおい、僕たちごとか?」
「仕方ないじゃない?」
情けない声でミサトが言い、アスカが露骨にビビった顔でげんなりした。
「僕は初号機乗ってるからN2くらいどうでもいいけどよ、それじゃミサトとかも全滅しち
まうんじゃねえの? それってヤバくねえ?」
「そうね。でも、エヴァが無事なら他は代りがいんのよ」
「・・・弐号機とセカンドチルドレンは失っても構わないってことかよ。納得いかねえな」
「そんだけのリスクがあって尚、魅力的なチャンスなのよ。人類にとって、ね?」
「そこがわかんねえ。何でだ? 使徒なんか捕まえてどうすんだ? 食うのか?」
「謎ってとこが最大の脅威なのよ、使徒は。これは使徒を知るための最初で最後のチャン
スかもしれないの。そろそろ時間ね」
議論を一方的に打ち切って、ミサトが号令をかけた。僕は納得できない。危険を冒す必要
性が全然わからない。毎度僕は使徒と生きるか死ぬかの殺し合いをしてる。だから捕まえ
ることは潜在的な脅威をネルフに内包するだけなんじゃないのか? と思えてならなかっ
た。何より、アスカと弐号機を場合によっては見捨てることを含んだ作戦だ。僕は子分を
見捨てるような、そんなヘタレヤンキーじゃない。だからミサトの言葉に大きな反発しか
覚えなかった。
「シンジ・・・あのさ、失敗したら・・・」
「うるっせぇ」
アスカが何かを言いかけたが、僕はその言葉を遮った。ビビりがビビった言葉を吐けば、
自分の言葉にもっとビビってゆくものだ。強気な発言は自分を強くしてくれるが、その
逆もまた然りなのである。だから僕はアスカの現場での弱気な発言を許したことは無か
った。
「おいおいアスカさんよ。お前こっち来てから今までロクな実績がねえんだ。そこ自覚
してんなら、弐号機降ろされないようにやってみせろや」
アスカの顔が強張る。人類にとってのチャンスとかそんなのはどうでもいいが、これは
アスカが来日して初のアスカ単独の作戦となる。これを成功させれば、アスカは弐号機
パイロットとして初めて不動の実績を手に入れることができるのだ。その意味でアスカ
にとってチャンスではあるのだ。案の定、「降ろす」と言う言葉に反発してアスカは真
剣な顔で「もちろん、やってみせるわ」と断言した。僕はその言葉に満足した。
ヤンキーの世界でもモノをいうのは実績である。結局、誰それは何々と言うことをやっ
た・・・と言う過去形でしかその力は評価されない。やるかもしれない、やる力はある、何
て言う未来系では何の評価もない。だから通り名がつく程にならなければ何時までも木っ
端扱いなのだ。そこは厳しい実力社会。エヴァにしてもそうだ。毎月恐ろしい金額が口
座に振り込まれている。何の仕事をしたわけでもなく、だ。それはこういう時に命を張
る代金である。先陣切って危険な乱闘に突っ込んでバットで人を躊躇なくぶん殴れるか
らこそ、一目置かれる。「俺は三人相手でも勝てるぜ」とか言うだけで実際手を出さな
いヘタレ野郎は軽蔑されるだけだ。僕は仙台で「バットマン」と呼ばれた。今は「初号
機パイロット」と呼ばれている。アスカが「弐号機パイロット」ときちんと認識される
為の、これは試練なのだ。
「いいか、失敗したらケツは僕が拭いてやっから、とりあえずやってこいや」
どうやって後始末するかなんて全然考えずに、僕は偉そうに言った。アスカは少し安心
したように頷いた。子分二人とアスカと綾波は僕の舎弟みたいなもんだ。だから僕は連
中のボスとしてケジメをとらなきゃいけないのだ。いざとなったら・・・国連の爆撃機ぶっ
潰してやる。
アスカと弐号機が溶岩に沈んでいって10分たった。僕はイライラしながらオペレーター
とミサトとアスカのやり取りを聞いていた。どうやら、順調に使徒を発見するところま
では終わったようだ。後は捕獲用のケイジに使徒の赤ちゃん突っ込んで上がってくるだ
けである。僕はほっと一息ついた。まだ油断はできないが、第一段階はクリアしたと見
て間違い無さそうだからだ。そして、捕獲に成功した、と言う報告が聞こえて、僕はや
っと溜息を吐いた。現場にも緊張感の緩みが感じられた。
「ふぅ・・・見てるだけってのもなかなかしんどいな」
「そうね。私なんか毎度それよ? あんたが指示無視しまくるから」
「うるせー馬鹿。現場の判断って奴だ。今までそれで不味いことになった試しねぇだろ」
「まぁね。そう言う意味じゃ信用はしてるわよ。ま、今回は何事も無くてよかったわ。
終わったら、温泉にでも行きましょうか?」
「ジジくせーなー。まぁいいけどよ。温泉つったら卓球だな、卓球やろうぜ卓球」
「あら、私は強いわよ?」
「上等!」
もう後一分かそこらすれば弐号機が溶岩の中から姿を現すだろう。僕とミサトはようや
く安心して軽口をたたき始めた。だが、一分たっても弐号機の姿は現れない。オペレー
ターのロンゲが鋭い声で警告した。
「使徒が活性化しています! 捕獲ケイジが・・・破られました!」
ついで聞こえてくるアスカの悲鳴。何事も無かったと安心したらこれだ。だから使徒なん
か見つけ次第殺しちまえば良かったんだ。僕は火口で中腰になった。
「アスカ! まだ生きてるか!?」
「何とか。でも、プログナイフ落としちゃった! きゃあああ!」
「おい! 何が起こってんだ!?」
「使徒が!」
よくわからんが、使徒が急にでかくなって捕獲ケイジをぶち破り、今まさに弐号機に襲い
掛かっているらしい。僕は肩のナイフを火口に投げ入れた。
「ナイフ入れたぞ!」
「・・・きた! サンキュ!」
珍しくビビってないアスカは、きっちり僕の投げ入れたナイフを受け取ったらしい。今回
は状況が状況だけに、アスカもビビるだけの余裕が無いのか。逆に僕は危機感を感じてき
た。何かやばい。国連の爆撃機が旋回するのが見えた。
「ミサトぉ! 国連の馬鹿共下がらせろ! 気が散る!」
「無茶言わないで! 熱処理されたくなかったら何とかしなさい!」
ミサトこそ無茶言うぜ。モニタごしにアスカの様子見る以外に僕に何ができるって言う
んだ。僕はリツコにさらに改造を施してもらったジェット噴射機能付エヴァットを背中
から取り出して構えた。使徒の攻撃でアスカを支えるワイヤが二本切られ、引き上げ速
度は亀の歩みよりもトロ臭くなっている。早く上がって来い! そうすればこの新型エ
ヴァットで僕がかわりに戦ってやれるのに!
アスカは必死で戦っているようだった。でも僕は何もできない。見てることしかできな
い。下でアスカが喧嘩してるってのに!
「うぅぅうう・・・うっがあ! チキショームカついてきたあ!」
ああもう、こう喧嘩を見てるだけってのはストレスだ。僕は我慢できなくなりつつあっ
た。モニタごしではアスカの顔しか見えなくて、どんな状況になっているのかさえわか
らない。下を見るとボコボコ沸き立つ溶岩。僕は生唾をゴクリと飲み込んだ。
「ああ・・・熱いだろな・・・」
一瞬の躊躇。ミサトは僕が何をしようとしているのか気付いて鋭く静止の言葉を吐いた
が、それは僕は既に火口から飛び込みを敢行した後だった。もう我慢なんかできない。
初号機でATフィールド張れば多分、多少は耐えられるはずだ。僕はワイヤを片手に、エ
ヴァットを振り上げて溶岩の中に特攻した。
「あぢー!! あぢぢぢッ」
さすがにLCLの加熱までは至らなかったが、全力でATフィールドを張っているにも関わら
ず初号機に恐ろしい熱気が迫っているのが文字通り肌で感じられた。ATフィールドは万
能バリアじゃない。どういう理屈か知らないが、熱の伝播は防げないのだ。
視界はほとんどない。程なくして弐号機の背中までたどり着く。
「おら! 使徒はどこだ!」
「シンジ!」
嬉しそうなアスカの声。僕はケツを拭いてやると言った。男に二言は無いのだ。弐号機
を覆う耐熱装甲をガンと一発エヴァットで軽く叩いて、僕は弐号機の背中にぴったりく
っついた。アスカの背中を狙っていた使徒らしき怪物の姿がようやく見えてくる。
そいつは溶岩の中をすいすい泳ぎながらやってきた。オエ! キモッ!
見た目は深海魚か何かのようにグニグニした魚みたいな姿だ。中央に爛々と輝く赤い瞳。
・・・アレがコアか!僕は弐号機の肩に足を乗せてエヴァットを大上段に構えた。
「アスカ、道作れ!」
基本的に頭がいいアスカは、僕の言葉をすぐに理解した。背中ごしに弐号機のATフィー
ルドが放射状に広がってゆき、僕は一瞬弾き飛ばされそうになったが、ATフィールドの展
開をやめて足を踏ん張り、弐号機の頭を足で挟み込むことでそれに抗した。溶岩が初号機
の装甲を焼き、灼熱の苦痛に涙が出そうになる。永遠の一瞬の後、溶岩が徐々にATフィー
ルドに押しのけられ、空白の空間が生まれる。勢いよく突っ込んできていた使徒はその
空間で宙に浮いたままこちらに突っ込んでくる。思いっきり振りかぶったエヴァットの
頭が火を噴き、エヴァの筋力とジェットで加速したエヴァットの先が使徒が慌てて展開
したATフィールドごと使徒の頭をぶったたいた。使徒の上半身がぐしゃりと潰れた。使徒
は突っ込んできた勢いそのままに反対側の溶岩に突っ込み、ぐずぐずと音を立てながら溶
けて消えた。エヴァット攻撃の衝撃に耐えられず、ワイヤがぶちりと切れた。
僕は慌ててそれを掴み、弐号機の無事を確かめる。ATフィールドの全力展開で耐熱装甲の
あちこちに亀裂が入っていたが、弐号機は無事だった。
「アスカ、大丈夫か?」
「・・・あづい」
「あー、大丈夫みてーだな」
耐熱装甲は既に役に立たなくなっていたようで、アスカは顔を歪めてその熱に耐えていた。
「ううう・・・怖かったよぅ」
「バカヤロ、僕のが見てて怖かったっつーの。もっとこう、ちゃちゃっと倒せよ使徒なんか」
「だって、ナイフ効かなかったんだもん」
「気合が足りねえからだ、気合が。つうかあっちいな、早く上げろよミサト」
僕はエヴァの姿勢をロックしてLCLの中でふわふわ浮かんだ。暑さに体中が弛緩する。
温泉なんか行かなくても十分汗かけそうだ。僕は犬みたいに舌を出してヘェヘェ息をした。
「シンジ・・・」
「あ?」
「助けてくれて・・・アリガト」
アスカが、暑さで苦しそうにしながらはにかんだ。
「へッ・・・冷たいチョコパ奢れよな」
僕も、ちょっと照れながらはにかんだ。
「必殺のドライブスマーッシュ!」
「にぎゃっ」
ミサトの強烈なスマッシュが眉間に命中し、アスカがひっくり返る。これで僕とアスカ合わ
せて八連敗。ミサト卓球強すぎ。あまりに勝てなくてムカついてきていた僕はもうフルーツ
牛乳飲みながら不貞腐れコースで煙草をすっていた。
「ちっきしょう、使徒に負けた時より悔しいぜ」
「ちょっとは手加減しなさいよ!」
僕とアスカがブーブー言うと、ミサトは爽やかに汗を拭きつつ、「いつでも勝負事には真剣
なのがポリシーよ」といった。あんまりムカついてきて、卓球はもうやる気がしないので、
汗をもう一度流そう、と、また風呂にいくことにした。
浴衣をとっとと脱ぎ捨てて露天風呂に首まで浸かって100数えている最中に、壁の向こう側か
らミサトとアスカの声が聞こえてきた。何か楽しそうな声。温泉は気持ちいいのだが、一人
で入っててもなんかつまらない。向こうは楽しそうでいいなぁ、今度来るときは子分共も連
れてこよう。
「ミサトってスタイルいいわよね・・・」
「アスカはこれからでしょ? 16の割には結構発育してるほうじゃない」
「ちょっと! 胸揉まないでよ! きゃあ!」
「この弾力、なかなかの揉み応え・・・やっぱ若いっていいわねぇ〜」
「アタシにその気な無いわよー! えぃ」
「いたっ やーだ、そんな強く握んないでよ」
「仕返しよ!」
・・・。一体何をやってんだ。僕は鼻まで温泉に浸かってぶくぶくと息を吐いた。自分自身が
元気になってきてしまった。薄い壁一枚隔てて、夢のレズクサプーンの世界が・・・広がって
いるのか? 反射的に鼻の下がべろんと伸びた。
・・・まぁ、ちょっとくらい・・・僕は音を立てないようにそーっと湯から出て、桶をそっと重ね、
足場を作る。足場は少し不安定だったが、まぁ、乗れないこともない。あとちょっとで、壁
の向こうが見える。もうちょっと・・・僕は背伸びした。背伸びした瞬間、足場が崩れ。。
「ぐべっ んおおおおお!?」
「シンジー! 今まさか覗こうとしてたんじゃないでしょうね!? サイテー」
本当最低だ・・・僕はにじんできた涙をそのままに硬い石の上で背中の痛みに耐えながら、次の
壁を超える手段を考えていた。結局、覗けそうになった瞬間に飛んできた石鹸で目を痛打され
るまで、僕の努力は続いた。
以上、マグマ使徒の回ですた。
次回、汁。
リアルタイムハァハァ
体育座りで次回待ちまっ!
「大体なぁ、綾波はちょっとクール過ぎるっつうか。スカして見えんだよ。男寄ってこねえぞ」
「そう?」
「シンジ、ファーストのは素だから仕方ないわよ。こないだなんか、せっかくチョコパ奢っ
てやってんのにもくもくと食べるだけでさ。もー他見えてないの」
「礼は言ったわ」
「だからな、その辺が駄目なんだよワカル? ちゃんと脳みそ入ってる? ノックノック入っ
てマスカ? あーいい音するわ、こりゃカラッポだなギャハハ」
「・・・? そう・・・駄目なのね」
今日は起動実験の日だ。起動実験だけはサボるとリツコが鬼のような面で怒鳴るので、これだ
けは僕も二回しかサボったことがない。まぁ、最近は学校帰りにアスカと綾波と一緒に外で
飯食ってネルフ直行と言う生活が続いているので、ネルフ関係のことはサボってない。
綾波とアスカは中味はともかく外見はなかなかなので、連れて歩くのは気分がいい。子分二人
は露骨に羨ましがっている。それは快感だった。
でも、実際この二人は彼女にするならどうかと考えると微妙なところだった。アスカとは
同居しててもう身内感覚で女を感じないし、綾波は性格がアレ過ぎる。僕は結構一人にのめ
り込むタイプなので、いざ付き合うとなるとずっと先のことまで考えてしまう為に、案外
気安く付き合ったりできないほうだった。仙台で一度浮気されて相手の男を半殺しにしてから
そう言えば女性関係はさっぱりだ。
でも、今のこの状況が楽しくないか、といわれたら楽しいと自信を持って応えるだろう。
アスカは出来の悪い妹みたいだけどそれなりに懐いているし、綾波はそもそも静か過ぎて気
に障るようなことはない。今の関係がこの三人にはぴったりなのだ、と僕は思っていた。
程なくしてネルフの正門までたどり着いた。カードを機械に読ませ・・・アレ? 扉は反応
しなかった。どういうことだ? 怪訝な顔で僕ら三人は顔を見合わせた。
「正門メンテするって話、あったっけか」
「んなの知らないわよ。故障してんのかしら?」
「碇くん・・・非常灯が点灯しているわ」
「・・・停電?」
裏門も同じように反応しなかった。手動の非常口まで回ってみるが、そこも硬く閉ざされて
いて通電している様子は無い。間違いない、ネルフは停電しているのだ。
手動の非常口を三人がかりでこじ開け、中に入るとそこは暗闇だった。こんな中を進むなん
て面倒臭いことしたくなかったので一瞬サボっちまうか、なんて思ったが、内部の電源が
生きていてリツコが待ってたら後が怖い。しゃーねぇなと呟きながら僕は回れ右した。
「シンジどこいくの?」
「懐中電灯買ってくる。あとついでにアイス食いてえ」
「非常事態だっていうのに暢気ね、あんた・・・その神経ちょっと羨ましいわ」
「おめーがちっちぇえだけだこのビビり女」
コンビニまで行き、懐中電灯とアイスを買って三人で食べていると、凄まじい轟音が聞こえ
た。耳が痛くなるようなその爆音は、ビルが崩された音だった。その崩れたビルの向こう側
に巨大な蜘蛛が見える。いや、蜘蛛に見えるが幾何学的な模様とどこか金属チックでありな
がらぬらぬらしたその見た目にはよーく覚えがある。
「お・・・おい、アレって使徒じゃねえ?」
「うん・・・使徒っぽいわね」
思わず食べかけのアイスを落としてしまったアスカが口をあんぐり開けてそれを眺めた。綾
波が黙ってきびすを返す。
「行きましょう」
「んあ・・・そだな。早くいかねえとヤベエな」
これは本当の非常事態だ。停電してるってことはもしかしたらエヴァ動かないんじゃないか?
でも、とりあえずケイジまでは行かないと。エヴァ一機でも動かせるなら初号機とエヴァット
がある。どちらにせよパイロット三人がこんなとこでアイス食ってる場合じゃないのは確かだ
った。非常口に戻って懐中電灯をつけ、中を進む。所々に光っている非常灯を逆に辿りつつ、
僕らはケイジを目指した。
「し、シンジぃ・・・」
案の定、暗さにアスカがビビり始めた。僕の制服の裾をぎゅっと握ってキョロキョロしている。
「おい、んな引っ張ったら服伸びるだろ」
「だって・・・」
「あああ泣きそうな顔すんな馬鹿。わかったから、そんなに引っ張るな」
全く根性が据わってねえなぁ相変わらず。僕は溜息を吐いて、暗闇を進んだ。
僕にとっての使徒はもはや日常の延長でしかなかった。だが、停電したネルフの、暗闇を進
むのはそれなりに非日常でドキドキする。平気でスタスタ歩いていく綾波の背中を追いつつ
僕はへっぴり腰のアスカを引っ張って歩き続けた。
「なぁ綾波。思ったんだけど道わかって歩いてんの?」
「方向はあってるわ」
「・・・じゃ、道はわかんねーのか・・・しかしこう暗いと全然わけわかんねえな」
「道は方向さえあっていればそのうちつくわ。でも、カードキーが使えないから」
「あん? ああ、そうだな。で、どうすんだ?」
「通風孔を使うわ」
「通風孔?」
綾波は一瞬めんどくさそうな顔をしたが、すぐに表情を元に戻して説明を始めた。ネルフ
本部には通風孔が縦横無尽に走っている。ケイジの階層まで階段で降りたら、その通風孔
でカードが無いと開かない扉をパスしようってことらしい。何かスパイ映画のノリだ。ちょ
っとテンションの上がってきた僕は、拳銃かなんかあればもっとそれっぽいのに、と考えた。
二十分くらいかかって階段を下りた頃には、もうすっかり闇に目が慣れていた。
「ここがケイジまで繋がってんのか?」
「すべての通風孔は繋がっているわ。距離的にここからが一番近いはず」
「さっすが綾波、ガキの頃からここに住んでるだけはあるな。じゃ、行きますかね」
「え、ええ〜こんな中進むのぉ?」
「大丈夫大丈夫、綾波さまが大丈夫つってんだぜ?」
僕が通風孔の金網をあけると、綾波がもそもそと通風孔にもぐりこんでいった。僕はごねるア
スカをさっさとその通風孔の入り口に蹴りこんで、それに続く。四つんばいにならないと進
めないくらいの高さの通風孔は長く、段々膝小僧が痛くなってくる。アスカはしばらくごちゃ
ごちゃブー垂れていたが、そのうち諦めて黙った。僕らは黙って闇を進んだ。
綾波が突然止まり、アスカもとまったので僕は思いっきりアスカのお尻に顔をうずめてしま
った。アスカが悲鳴をあげ、鋭すぎる後ろ蹴りを連発する。使徒より先に殲滅されそうにな
った僕はようやくアスカの蹴り足を引っつかんで落ち着けって叫んだ。
「あ、ゴメン・・・」
「いてぇ・・・ったくよーゴメンじゃねえぞコラ。で、綾波先生は何立ち止まってんだ?」
「この下がケイジ」
「おお、ついたんか。で、どうやっており・・・まさか降りる方法考えてなかったとか?」
「・・・ええ、誤算だったわ」
綾波は悪びれる様子もなくあっさり認めた。
「ふざけんなこのチンカス! たまに頼りになるなと思ったらオチ付きかよ!」
「悪かったと思っているわ」
「全然誠意がねえ! 誠意を感じねえ! あー・・・しゃんねぇ・・・戻るか・・・」
後ずさりを始めたその瞬間、ネルフ全体が大きく揺れた。使徒の攻撃? ゆれはますます
酷くなってゆき、僕らはその場から動けなくなった。いきなりの浮遊感にアスカが小さく悲
鳴を上げる。今僕らがいる通風孔の配管パイプが足元で折れたのだ。僕らはそのまま落下し、
「うぎゃあッ」「いった〜ぃ!」
僕の上にアスカと綾波が落下する。ぐえ・・・あまりの激痛に僕は悲鳴を上げながらごろごろと
転げまわる。顔を上げると、唖然としているミサトと、親父ゲンドウの姿があった。
「おおおおお・・・お? あ、ミサトじゃん」
「あんたたち、どっから来たのよ・・・」
結果オーライ。痛い目は見たが、通風孔からケイジに降りることには成功した。
どうなることかと思ったが、まぁ結果よければすべてよしだ。
「あいてて ・・・まぁ見ての通り通風孔から」
「行動力があるのはいいんだけど・・・一歩間違えたら大怪我よ! 少しは考えなさいよ・・・」
「アホかてめぇ、使徒来てんだぜ!? 駆けつけた僕らに大いに感謝しやがれボケ!」
腰をとんとん叩いていたゲンドウが歩み寄ってくる。ミサトが言うには、総出でエヴァに電池
を取り付けしていたらしい。人力で、だ。ゲンドウも電源ボックスを押したらしい。珍しい
こともあるもんだ。でも、ミサトは小声で、司令はあんた達が来るのを信じてたのよ、と耳
打ちした。ウゼーそんなの知るか! でも、まぁ、汗まみれのゲンドウの姿を見てぐっと来
たのは確かだ。何だよ、熱いじゃんか! 顔合わすたびに碇家の面汚しだとか穀潰しとか母
さんがあの世で泣いてるとかぐちゃぐちゃうるさい奴だが、やることはキッチリやってくれる
じゃないか。僕はニヤリと親父そっくりに笑った。
「よー親父。何機出せんだ? 初号機は動かせんのか?」
「ああ。全機15分は稼動できる状態だ。出撃しろ」
「へ・・・しゃーねぇな! 今日はてめぇの顔立ててやるよ」
「お前のような馬鹿息子はこんなとき以外何の役にも立たん。負けたら勘当だ」
「使徒なんざに負けるかよハゲ。てめぇは座って茶でも飲んでな」
「・・・頼んだぞ」
「後は任せな。いくぜぇ、アスカ、綾波」
僕らはリツコが用意したプラグスーツに着替え、エヴァに乗り込んでシンクロを開始した。
「カタパルトは動かないわ。シャフトから直接外に出て」
「あぁ!? アレよじのぼれってのかよ!」
「しょうがないでしょ!」
「ミサトーお前しょうがないで流しすぎだ馬鹿! いっつもじゃねえか! 人事だと思いや
がって・・・テヘって言うんじゃねえ!」
「シンジぃ・・・上見て・・・」
「あん? うおッ」
アスカの言葉に上を向くと、巨大な瞳がシャフトを見下ろしていた。もうこんなところまで
使徒が入りこんできていたのだ。僕はエヴァットを構えた。
元はといえば停電してる時に使徒がタイミングよく来るのが悪いのだ。つまり使徒が何も
かも悪い。僕はそう考えてぶんぶんエヴァットを振った。ここの所、状況的に自由にエヴ
ァット振り回せる機会が無くてフラストレーション溜まっていたところだ。ジェット噴射
の弱点をさらに改良し、強力な電磁石の反発力を利用した新生エヴァットは青い血を欲し
ている。アスカは巨大で不気味な瞳にビビっていたが、僕の怒りの気配を感じ取ってナイ
フを構えた。一丁しかない役立たず銃パレットライフルは綾波が持つことになった。
「じゃあ、上っててあのおメメをぶん殴るとしますかー!」
エヴァットをもう一度背中にしまってどっこしょ、と壁の出っ張りをひっつかみ、僕とア
スカはぐいぐいその壁を登っていった。途中上を見ると、なぜか巨大な目はうるうると潤
んできていた。僕に喧嘩を売ったことを早くも後悔してんのか? なんてそんなことはあ
るはずもなく、ボトっと落ちてきた粘性の高い液体がアスカの弐号機を直撃する。
「にぎゃっ」
アスカは猫みたいな悲鳴を上げてさかさまに落下していった。
「こらー! 涙かぶったくらいで落ちてんじゃ・・・」
今度は僕のところにボトっと涙が落ちてくる。その涙は初号機の肩に触れてジュウっと言
う嫌な音をたてた。ついでやってきた激痛に、僕も思わず壁の出っ張りを手放しそうにな
ってしまった。
「いってぇぇぇええ! なんだこれ!」
「・・・溶解液?」
肩が焼け焦げて煙を上げている。ヤベエ、これ頭から被ったらショック死しそうだ。僕は
小刻みに体を左右に振って的を絞らせないようにしながら少しづつ上っていった。
綾波のライフルが火を吹くが、使徒のATフィールドがその弾丸を通さない。でも、その
援護射撃のお陰で溶解液が降ってくることは無くなった。使徒が銃撃を嫌がってシャフト
の入り口から離れる。チャーンス! 僕は一気にシャフトを上りきった。ついで、最初か
ら上りなおしていたアスカが僕においついてくる。電源は残り七分少々。
「手間かけさせやがって・・・ぶっ殺す!」
僕とアスカは一斉に、蜘蛛のような使徒に襲い掛かった。
僕のエヴァットが長い足の1本をへし折る。アスカのATフィールド放射がもう1本足をもぎ
取った。平地で遠距離攻撃手段の無い使徒なんか、僕らの敵じゃない。使徒はぶぴゅっと
汁を飛ばす下品な攻撃で抵抗するが、足を二本失って自由に動けない使徒の攻撃なんかト
ロ過ぎてあたるわけがない。
「なんかよーこいつよえーなぁ」
「見た目のきちゃなさは最強クラスよ」
背後に回って残った足を粉砕すると、使徒はもう動けずにただ汁を前に向かってぴゅっぴゅ
と飛ばし続けていた。その姿はちょっと哀れで、そして哀愁たっぷりで思わず笑えた。
しかし、油断していた僕らに使徒は最後の抵抗を試みた。全面から狙いを絞ろうともせずに
がんがん汁を撒き散らしはじめたのだ。全方位にとんだ汁をすべて回避するのは容易ではな
く、攻めあぐねて僕とアスカは少し下がる。電源残り時間は三分。もうあまり時間がない。
「アスカ、フィールドで汁全部飛ばしてくれよ。一発で決めるからよ」
「了解。ちょっと離れて」
まぁ、何にせよ強敵ではない。汁に触れると熱いので嫌だったが、あの程度でエヴァを倒
そうなんて片腹痛いにも程がある。アスカが放射したATフィールドが撒き散らされる汁を
弾き飛ばして1本の道を作った。この一瞬で僕には十分過ぎた。エヴァットを振り上げ、使
徒に殺到した僕はまず汁がぴゅーぴゅー吹き出る穴を叩き潰し、返すバットで半円上の頭
をぐしゃりとへこませる。使徒は途中で折れた足を振り回そうとするが、僕は構わずエヴ
ァットでガンガン殴りまくる。コアが露出してない分倒すのに回数が必要だったが、まぁ
頭をぐちゃぐちゃにしてしまえば関係ない。原型が無くなるまで殴ったところでエヴァの
電源が切れた。使徒は当然、もう動かなくなって自分で撒き散らして汁で溶けてしまった。
「停電なかったらもっと楽勝だったな」
「こんなんばっかりだったら楽なのに・・・」
僕とアスカはエヴァから出て、ぶすぶすと煙を上げている使徒の残骸を見ながら呟いた。
「つうか超焦げくせぇッ 早く帰ろうぜ、甘いもん食いてえ」
「そーね。そろそろ停電終わってんじゃない?」
結局、停電の原因はわからなかったらしい。だが、まぁよわっちい使徒で助かった。アスカ
の言葉どおり、毎度こんなもんなら楽なのにな、と僕は呟いた。
汁終わり。次は落下か。これ工夫難しいなぁ・・・どうしよかねぇ
エヴァSSに出てくる落下はちゃんとネルフ本部めがけて正確に落ちてくる奴ばっかでつまんないと思います
あとバスターホームランってご存知?
バスターホームランは考えたけど、微妙じゃね?
>エヴァSSに出てくる落下はちゃんとネルフ本部めがけて正確に落ちてくる奴ばっかでつまんないと思います
これイタダキで。小一時間後から再開する。
「受け止める〜!? アホか貴様冗談は寝顔だけにしとけよこの無能部長が!」
思わず出てしまった素直な感想には、ミサトの右ストレートがかえってきた。僕は鼻血
を吹き出して倒れた。アスカが慣れた手つきでティッシュを差し出す。
「ぬぐ・・・で、でもよ、あんなの受け止められるわけねーじゃんよ」
ティッシュを鼻に詰めながら立ち上がった僕に、ミサトは珍しく苦しげな表情で頷いた。
「ええ・・・正気の沙汰じゃないってことはわかってるわ。でも、本部を失ったら次の使徒
を倒すことは難しくなる・・・」
「言いたいことはわかるぜ。確かに第二じゃ電源も無いし結局エヴァ動かせやしねえもん
な。でもよ、もうちょっとマシな作戦はないのかよ?」
ていうか作戦と呼べるかどうかも微妙だぜ。使徒が落ちてくる場所が逸れたらアウト、
エヴァが受け止め切れなくてもアウト、受け止められたとしても、即座に殲滅できなきゃ
アウト。今までもナイナイ尽くしで戦ってきたが、今回はそれらとは次元が違う。完全
に運だよりだ。今日ばかりは僕も大丈夫大丈夫とは言えなかった。
「だから、この作戦には拒否権が認められ」
「僕は降りた。まだ死にたかねえ」
「アタシもヤダ。無理に決まってるもん」
言い切る前に即座に拒否った僕とアスカに、ぐぅ・・・とミサトが唸った。だが、綾波だけ
は何も言わない。そしていつもどおり、事も無げに言った。
「私がやるわ」
「ハァ? お前脳みそマジで鼻から抜けちまったのか? ほぼ確実に死ぬぜコレは」
「・・・私には代りがいるもの」
はい出た出ました必殺のお言葉。綾波の後ろ頭を僕はパコンと叩いた。綾波は少しよろめ
いてたたらを踏み、振り向いて僕を恨めしげに見つめる。
「相変わらずアホだな綾波は。お前に代りがいても零号機に代りはねえっつうの。命賭け
るにしても勝算がなきゃただの犬死に無駄死にだろが。んなこともわっかんねぇのかボケ!
大体なぁ、ミサトもだぜ。ここでエヴァ失ってもおんなじじゃんかよ。頭に何か沸いたか?」
ミサトは苦笑した。そして「そうね、これは私のわがままかもしれない」と悲しそうに言
った。別にミサトのわがままに付き合ってやるのは吝かじゃないが、それならもっとマシ
なことを考えろよ、と僕は思った。
使徒が宇宙から降ってくる。はっきり言ってとんでもなくお馬鹿な状況だ。全く使徒って
奴は意味わからない。自爆覚悟でくるその気合は評価できるが、自分が死んだら意味ない
だろうに。使徒がなぜそこまでネルフ本部を敵視し、攻めてくるのかさっぱり理解に及ば
ない。ミサトは黙っていた。他に作戦は考え付かなかったようだった。
「まぁ・・・無理に行けとはいえないわ。今回ばかりはね」
「私が・・・」
「うっせ綾波黙ってろ。ミサト、何でだ?」
僕はまだ諦めてない綾波をもう一回はたいて、ミサトに向き直った。
「何でそんなこだわるんだ?」
「このままじゃ世界が滅亡してしまうから・・・」
「んな大層な理由は聞いてねえよ。あの使徒はドカっと落ちてきて自爆って死ぬんだろ、
なら、生きてりゃ次もなんとかならぁ。わざわざコンマの可能性にかけたい理由って何だよ?」
「・・・地下のアダムに使徒が接触すればサードインパクトが起こるわ」
「そいつも知ってる。でも今回に限っちゃ大丈夫だろ? なんせあの使徒は落ちて死ぬ
んだ。次の奴から守ればいいんじゃん。だから今考えるのは、ここを放棄して次どうす
るか、じゃねえかよ。違うか?」
アスカが「シンジって実は頭いいね」とか呟いたので、僕は「当然だろ?」って胸を張った。
つうか「実は」って何だ、普段馬鹿だと思ってんのかこの野郎。ちょっと腑に落ちないぜ。
ミサトはしばらく黙っていたが、ようやく口をひらいて語りだした。
「私はね、セカンドインパクトで父を亡くしてるの。身勝手で、家庭を顧みないで、
仕事だ研究だって言って逃げてばかりの人だった・・・でも、最後に私を助けてくれたの。
大丈夫だよって笑ってくれたのよ」
セカンドインパクトは第二使徒が原因だったらしいという話はアスカから聞いたことが
あった。僕はボリボリ頭をかいた。
「乗れるものなら、私が初号機に乗って戦いたいわ。でも・・・」
「自分の手で倒したいってことか? 仇に自殺されちゃ立つ瀬がねえ」
「そう言うこと。これが私の戦う理由」
ふん。気にくわねー。僕は吐き捨てた。実際命張って使徒と切った張ったしてんのは僕
であり、アスカであり綾波だ。こんなお涙頂戴に乗るなんて真っ平だぜ。でも、ミサト
の表情は泣き顔で、僕は少し考え込んでしまう。
「いいぜ、やってやらー」
考え込んだ末に僕は決断した。別にミサトに同情したわけでもなければ自殺願望があるわ
けでもない。アスカがエー!と不満を漏らしたが、僕の一瞥ですぐに黙る。
「ミサト。正直、気にくわねー。でもよーあんたにゃ世話になってるからな、今回は折れ
てやるよ。でも綾波と二人じゃちときついからな、アスカ、お前もだ。いいよな?」
「えぇ! 嫌よぅ」
「うっせ、僕がやるつって駄目だったことがあんのか!? あぁ?」
「無い・・・けどぉ」
「じゃあ大丈夫だ、僕に任せとけ。何とかなるなる!」
まだ何か言いたそうにするが、アスカは結局何も言わずに肩を落とした。綾波だけが満足
そうに頷く。何か最近、実は綾波も僕と同じくらい好戦的なだけなんじゃないかって疑念
を感じる。まぁ、いいけど。ミサトは涙を堪えるような表情で、ありがとう、と呟いた。
「規則じゃ、遺書を書くことになってるけど」
「書くかそんなもん! 縁起でもネェこというな」
「死んだらシンジに責任とってもらうからいい・・・」
馬鹿アスカが意味不明なことを言う。死んだら責任も何もないだろうに。最後に綾波が
クールに言った。
「私も必要ありません」
「・・・ごめんね、私にわがままにつき合わせちゃって。でも、どうして?」
ミサトが不思議そうに僕のほうを向いた。
「あー。まぁよ、死にたかねぇし成功しそうもねぇとは思ってんだけどな。ぶっちゃけ僕
らは多分エヴァに乗ってんから死にゃしねえと思うんだわ」
「そうね、ATフィールドがあなた達を守るわ」
「ん。だからよ、ミサトの覚悟に乗るぜ。成功すりゃあ、本部丸ごと無事で済むんだ。や
る前に諦めちまって、後で後悔したかねえ。アンタの復讐なんてどうでもいいし勝手に死
ぬまでやってろって感じだけどよ、まぁ、考えてみりゃ悪くねぇ賭けだと思ってな」
今から逃げても、失敗しても、大差ない気がする。なら、やってみても損は無いというの
が僕の考えだった。ミサトは、ポロリと涙を一筋こぼした。
「死ぬまでやってろ・・・か。手厳しいわね。でも、今はありがたいわ」
なんだかこのミサトはかわいいッスね。
あとシンジがなんだかんだ言ってもやるときはやるヤツなのがいいなー
「使徒、降下を開始しました! 距離、36000!」
「みんな、距離7000まではMAGIが誘導するわ。後は目視で走って」
「あいよ! いくぞオラー!」
僕らはMAGIの誘導に従って真っ直ぐに走った。電線を飛び越え、家屋を踏み潰し、風圧で
ビルの窓ガラスをばりばり割りながら全力疾走。エヴァで走っているだけだから本当は息
なんか切れないはずなのに、なぜか息苦しい。
「距離15000! 使徒、降下軌道を変更! ナビゲーション調整します!」
ぬお! 僕は急ブレーキをかけて反転し、またナビゲーションに従って走り出した。ええ
い、さっさと落ちてきやがれ! イライラしてくる。オペレーターが距離10000を切ったこ
とを告知した。最初の緊張感はもう薄れ、今はただテンションが上がりきった興奮状態、
ランナーズハイな状態でひたすら走る。ナビゲーションが終わる。雲の境目にオレンジと
赤の趣味の悪い目玉が落ちてくるのが見えた。まだ距離がある。もっと、もっと早くだ!
気がつくと、隣に弐号機が走っているのが見えた。その向こうに零号機の姿も。結局三人
とも集まってしまった。これなら、三機同時に受け止められる。勝機が出てきた。僕らは
一気にテンションを上げて前傾姿勢をとり、邪魔するものすべてを吹き飛ばしながら走り
抜けた! いつしか市街を抜け、緑の平野を走りぬけ、海が見えてくる。ハコネの端から
端まで走り続けたのか。使徒はまだ遠い。不味い、このペースじゃ追いつけない。僕の焦
りを感じ取ったのか、弐号機と零号機がさらに速度を上げようと高く高く足を上げた。
「ぷあッ ・・・あれ?」
いつの間にか海まで到達し、エヴァ三機はばしゃーんと派手に海に突っ込んでいた。使徒
はまだまだ遠い。って、どういうこったこれは?
「ミサト、使徒、どうなってんだ?」
「えーっと・・・狙い外して海に落ちてったわ・・・」
「海ってお前、俺らの全力疾走は・・・ぬおあっ」
ついで巨大な波がエヴァ三機を浜まで押し流す。海面に炸裂した使徒の自重を使った特攻
爆弾は高さ百メートル近い津波を起こし・・・まぁ、沿岸はそれなりに被害受けたろうけど、
この辺ってダレも住んでねえし・・・
「オイオイ・・・前回といい今回といい・・・使徒って段々頭悪くなってきてねえ? あんなの
が仇なんかよ、大変だなミサト」
「言わないで・・・」
ミサトはモニタごしに涙を流していた。
だが、綾波の鋭い警告の声に、僕は反射的に使徒が炸裂したと思われる外洋の方向を見た。
そこには、宇宙から落ちてきた時と何ら代らぬ姿で、その巨大な目玉を露わにした使徒が
浮かんでいるのが見えた。左右の突起が多少減っていたし、最初に見た時の半分ほどの大
きさまで縮んでいたが、それでも十分巨大な威容で、使徒はゆっくり浮上を始める。
「あのやろ、水に落ちたせいで生き残りやがったか!」
「シンジ! また空に上がろうとしてる!」
「にがさねぇぞ! もっかい走るなんてごめんだ! アスカ、打ち落とせ!」
今僕はエヴァットを持っていないし、綾波も徒手空拳だ。最もATフィールドが強力で、し
かもそれを遠距離兵器にできるのはアスカだけだ。しかし、それでも距離が遠すぎる。僕は
アスカの弐号機を担ぎ上げた。
「ちょっとぉ、シンジ何すんのよ!」
「アスカ、おめーは風になるんだ。綾波ちょい手伝ってくんね?」
「風って・・・意味わかんな・・・」
「綾波は右足な。うっし、アスカ歯ぁ食いしばれぇ!」
「ま・・・まさか・・・ちょ、シンジ、やめ・・・」
「おんどりゃあああああああ!」
僕の初号機と綾波の零号機に思いっきり投げられた弐号機は素晴らしい速度で空を飛び、
風になった。
アスカの泣き叫ぶ声が聞こえる。だが、アスカは泣きながらもATフィールドを放射し、上
昇しつつあった使徒のど真ん中、コアの付近を切り裂く。そのまま弐号機と激突し、使徒
は再び海に落下して大きな水柱を立てた。僕と綾波は使徒にとどめを刺すためにクロール
で海をばっさばっさ泳ぎ、使徒と格闘しているアスカに合流する。内部電源は残り少ない。
だが、三体でタコ殴りにされ、三本のプログナイフで寸断された使徒は徐々にその動きを鈍
くしてゆき、やがて、泣きながらナイフを振り回すアスカの一撃をコアに受けて沈んでいっ
た。魚に食われてろ、ボケが!
海底をえっちらおっちら歩いている最中に、エヴァの電源が切れた。津波でもなければ重い
エヴァの体が波に流されるはずもなく・・・僕らは海底に立ち往生する羽目になってしまった。
二時間後にネルフのダイバーに救助された僕らは半泣きのミサトに一人づつ抱きしめられ、
よくやったって誉められた。それから、携帯にかかってきた電話で親父が街を壊しすぎだっ
て小言を始めたが、最後にはよくやってくれたって僕を認めたので、気分は悪くない。
その後、ミサトと、僕とアスカと綾波、それにリツコで海水浴を楽しみ、充電が済んだエ
ヴァに乗って第三新東京市に引き上げることになった。
「シンジくん・・・」
「んー? ミサトどったの?」
帰りのバスの中でミサトが僕にそっと耳打ちした。
「今回は・・・ほんとにありがとう・・・」
僕は返事をせずにバスのリクライニングシートをばたっと倒して狸寝入りした。
人に本気で感謝されるのには、僕はあまり慣れてなかったのだ。
落下使徒完。リク通り狙いを外してみますた。
次はウイルス使徒らしいが、コレはシンジに関係ないので飛ばす方向で。。
めっちゃええやん。
今後も超期待age!だけどスレはsageで。
tomoタン乙
そーいや高CQスレでは話がでないけど
もう高CQ卒業なのか?
>>48 ザケンナ(゜Д゜)!!
誰が好んで叩かれるか〜(;´Д`)<勘弁汁
「ガハハ、ついにシンクロ率でも抜いちったぜ僕天才すぎ!」
「・・・ぬぅぅ・・・」
もう何十回と行っているシンクロテストでアスカに勝ったのは初めてだった。
アスカは馬鹿でビビりで能天気な駄目女だが、シンクロ率だけは異常に高い。
常時90%近い数値を保っている。僕が今回たたき出した数字は93%。
もちろんこれはエヴァパイロットのレコードであり、ギネスであり、新記録
である。我ながら自分の才能が怖い。さすがにアスカは悔しそうにしていた
が、そのアスカも今日は過去最高の89%と言う90の大台が狙える数字を出して
おり、それ程落ち込んでいる様子には見えなかった。
「ふほほ、アスカさんよ、約束通りチョコパ奢れよ。あの千五百円のでかい奴な」
「くッ・・・次は負けないわよ」
「ひゃはは無理無理、開眼した僕はもうなんつーか国宝? チミみたいなパンピーにはこれ以上の数字は無理ですよあっはっは」
「む・・・むかつく〜! じゃあ今度のテストでアタシが買ったら向こう一ヶ月テレビ権は頂くわよ!」
「いいのかな〜? そんな約束しちゃっても?」
「むむむ・・・次は絶対勝つ!」
とは言え、やはり最も強力なATフィールドと、その放射能力を持っているのはアスカだけだ。
僕はリツコと何度も打ち合わせしてさらにエヴァットの改良を進めてはいるが、
単発の攻撃力ではやはりアスカが最強である。
これは特質的なもので、綾波も僕も真似ができないし、その出力をはじき出す
ことも夢のまた夢だ。アスカの余裕はその辺から生まれている。綾波は命中精
度の高い射撃能力で一芸に秀でており、シンクロ率の低さはその戦法ゆえにあ
まり関係が無い。最近の僕らは完全な分業方式で、近距離の僕、中距離のアス
カ、遠距離の綾波、と言う風に特化していた。
だからアスカが恐れているように弐号機を降ろされる、と言うような事態は恐らく
発生しない。それはミサトの戦力構想、戦術構成からもう考えられないことだから
だ。・・・なのに、アスカはまだ降ろすという言葉に過敏に反応する。アスカはいくら
聞いても、その理由を僕に話さなかった。僕はそれが気に食わなかった。一緒に暮
らしていて、もうアスカとミサトが僕の身内みたいなものだ。
だから身内に隠し事をされるのは気分が良くない。
「アスカ、テレビ権もいいけどよ、次僕に負けたらアレ話せよ」
「アレ?」
「弐号機に乗らなきゃいけない理由」
「・・・それは関係ないじゃん」
「気になんだよ。そうやって隠されると余計気になって眠れねんだよ」
「ごめんシンジ。それだけは話したくないんだ・・・」
「・・・くそ、何だよ! 馬鹿! 馬鹿アスカ!」
僕が癇癪を起こして罵倒しても、アスカは悲しそうに顔を伏せたまま、言い返して
こなかった。それがまた気に食わなくて、僕は溜息を吐いた。これ以上無理に聞い
て困らせるのはあまり格好良くないことだろう。
諦めるのは癪だったが、きっとそのうち話すかもしれないと思い直して僕はそれ以
上の追及を辞めた。
「わーった。わかったよ。もう聞かねぇ。泣きそうな顔すんな馬鹿」
「・・・ごめんね」
「ちッ・・・何か辛気くせー。チョコパ食いに行こうぜ」
僕はアスカの背中をドンと叩いてそれ以上しゃべらずに口をつぐんだ。
「おいミサト何だありゃ」
「使徒のことなんか聞かないでよ、知るわけ無いじゃない。本人に聞いてくれば?」
「ほんっと無能だな、お前。何の為にそこにいんの?」
「そりゃあ、この美しさで現場の士気を上げる為よ」
「死ね三十路ババア。笑えねんだよ」
「まだ29よ! アンタ・・・帰ってきたら殺すわ」
「ぐ・・・えっと言い過ぎました。ゴメンナサイユルシテクダサイ」
「誠意を感じないッ」
親父が漫才はいい加減にしろとキレて怒りだしたので、僕は前を向いて使徒を照準した。
使徒は縞々ゼブラな球だった。それ以外に表現のしようがない。ただ、ほわほわ浮いてい
るだけで何の被害もいまだ出ておらず、だから発見が遅れて戦場は市街となってしまった。
ここ最近、第三新東京市は本部と市街に被害が出ていなかったので、ビルの修復はあらか
た終わっており、ようやく迎撃都市としての本来の姿を取り戻している。
エヴァ三機完調で、電源があり、しかも迎撃施設が万全。何時になく準備完璧で迎えた迎
撃である。負ける要素はあまり感じられない。それでも、相手は使徒である。何をしてく
るかわからない、と言うことで、そそっかしいミサトにしては珍しく最初は様子見と言う
消極的な作戦を立てていた。
アスカ、綾波と共にビルの脇を抜けて使徒と少しずつ間合いを詰める。アスカが今回使用
する武器はソニックグレイブというプログナイフを先っぽにつけた槍みたいな奴だ。綾波
は低反動ライフルで射撃位置につく。僕は電磁反発式の第三世代エヴァットを構えている。
アスカはドン臭いことにアンビリカルケーブルをビルに引っかからせて、繋ぎなおしてお
り、展開が遅れている。僕ははやくもイライラし始めた。
「ミサト、一発ぶん殴ってみるぜ」
「アスカがまだよ、待ちなさい」
「大丈夫だってイケるイケる」
「こら、また指示無視して・・・」
「綾波ー、僕が一発ぶん殴るから使徒がまだ生きてたら追い討ちよろしくぅ。アスカは使徒が逃げたら追っかけて
トドメさすってことで。はい作戦決まりーぃ初号機いっきまーす」
「もう、馬鹿!」
ミサトを無視して僕はエヴァットを大上段に構えた。電磁石の反発力を蓄え、ギリギリ我慢できる限界まで貯めた
あと、僕は一気に走り出した。そして、僕の制動を離れて炸裂しようと暴れるエヴァットを振り上げ、僕は天まで
届けと大ジャンプ。軽々と使徒より高い位置まで飛び上がった僕は、抑えきれないほどとなったエヴァットの反発
力を一気に解放した。エヴァットは音速を超え、空気を切り裂きながら使徒に向かって振り下ろされた。僕は勝利
の一撃となることを確信した。
だが、手ごたえは無かった。ふっと使徒の体・・・縞々の球体が消えうせ、今までで最高の反動でぶん回したエヴァッ
トの勢いで、僕は空中でそのまま三回転してしまった。そして何とか着地する。その瞬間、地面に足がズボっとは
まった。使徒の影? 黒い地面は陽光を遮ったような黒だ。だが、肝心の使徒は見当たらない。どういうことだ?
その間にも足はどんどん地面に沈む。ようやく、これが使徒の反撃なのだと気付いた時には、初号機は腰まで地面
に飲み込まれていた。
「な、なんだよコレ! ちきしょう放せ!」
僕はエヴァットを振りかぶり、地面に向かって思いっきりその反動を開放した。しかし、エヴァットは空を切った
かのような頼りない手ごたえと共に地面に飲み込まれた。ぐるんと回転しそうになるが、地面に飲み込まれた瞬間、
その反動までもが消えた。何か飲み込まれていると言うよりも、手の先が唐突に消えたみたいな感覚。
僕は怖気を覚えた。
「なんか・・・ヤベエ!」
アスカの弐号機がようやく来た。そして影に向かってソニックグレイブを振り下ろす。しかし、
グレイブの先が僕がやった時と同じように何の抵抗もなく影に沈むのを感じたか、アスカが驚い
て飛び下がった。
「シンジ! 何よこれ!」
「わかんねぇ・・・わかるのは僕はもう駄目で、アスカはまだ無事で、この野郎ぶっ殺すには一端
退却すべきだってことだけだな。昨日は悪かったな、無理に聞こうとしてよ」
「シンジ、何諦めてんのよ!」
「もう腕まで動かなくなってんだ。まぁ・・・アレだな、一斉攻撃してたら全員イカれてたかもな。
やっぱ俺の作戦は正しかったぜ。天才さまと呼べよ」
「馬鹿、ふざけてる場合じゃ・・・」
「やべ、もう首まで来た。・・・仇はとってくれよ?」
「シンジ、ちょ・・・やだ、シンジ!」
「こっちくんなよ、あぶねえぞ。 ・・・じゃあな」
「シンジ、あんたビビってん・・・」
アスカの言葉は最後まで聞こえなかった。僕は頭まですっぽり影に飲み込まれた。視界が真っ暗
になって何も見えない。死ぬかと思ったが、まだ僕は死んでないようだ。でも、初号機の体は粘
土で固められたみたいに動かない。このままじゃ、まぁ普通に考えても死ぬっぽい。
アスカには強がってかっこつけてみせたが、今更ながらしみこんでくるような恐怖を感じてきた。
ついに死ぬのか。思えば長いような短いような人生だった。好き勝手してきたし、結構楽しかっ
た。しょーがねぇなぁ・・・と僕は恐怖と戦いながら笑ってみた。
けど、引きつったように表情の筋肉が動こうとしなかった。歯がLCLの中でカチカチ鳴る。
死ぬ・・・死ぬのか。死ぬってどうなるんだ? 死んだらどうなんだよ僕は。こええ・・・こええよ・・・。
こえーけど、でも。僕は歯を食いしばった。戦いには負けたみたいだが、心まで負けるわけには
いかなかった。それは僕の意地であり、そしてそれこそがこれまでの生だったからだ。
「シンジあんたビビってんじゃないの!? 使徒なんかご自慢のエヴァットでギタギタに・・・
くっ、シンジ・・・」
シンジはアタシの目の前でずぶずぶと沈んでいった。強がって笑っていたシンジの顔が、モニ
タからぶちんと消え失せる。シンジを飲み込んだ影を避けて後ろに下がりながら、アタシは身
を焼き焦がすような無力感に打ちのめされた。まただ。また、アタシのミスで失敗した!
アタシは下がりながらATフィールドの放射を影に向かって浴びせ続けた。だが、何も起こらな
い。あのガラが悪くて怒りっぽくて少しスケベで意外にガキで・・・そしてちょっとだけ優しいシ
ンジが顔を出すことは無かった。
最強のATフィールド? 誰にも真似できない放射攻撃? それが何だって言うの? こんなに何
度も何度も、それこそ渾身の力を込めて連発してみても、使徒に何のダメージも与えられていな
い。今までだって、すべての使徒はほとんどがシンジが何とかしてくれたのだ。アタシは駄目だ。
シンジが勝てなかった使徒に、敵うはずもないではないか。涙がにじむ。シンジ、ごめん、アタ
シじゃ無理だよ。ファーストがライフル弾を打ち込んでも、やはり影はその弾丸すら飲み込んで
しまう。ようやくわかった、この使徒はこの影が本体なんだって。
「・・・アスカ、撤退よ」
「でもまだ、シンジが・・・」
「いいから撤退よ! ・・・帰還しなさい。まだ、終わったわけじゃないわ」
ミサトの強い言葉を、実はアタシは待っていた。ずるい女だ、アタシ。だってシンジが勝てなか
った相手に戦いを挑むなんて、アタシにはできそうもない。足が震えてる。シンジを助けたいの
に、足の震えがとまらない。「ビビってんじゃねえ!」ってシンジが怒らなきゃ、アタシは恐怖
一つ自分では屈服させることができないのだ。何て無力なアタシ。アタシは不甲斐なくて、情け
なくて、でも、少しだけホっとしながら弐号機のシートに頭を押し付けて泣いた。
ごめんね、弐号機。こんな弱虫がパイロットだなんて。
ミサトは厳しい顔をしていた。アタシは責められるんじゃないかってびくびくしていたけど、ミサトは
アタシを責めずに、「あんたとレイだけでも無事で済んでよかったわ」と言ってアタシの頭を撫でた。
アタシは泣き顔のままミサトに抱きついてもう一度泣いた。ようやく落ち着いてミサトから離れると
ファーストが珍しく心配そうな顔をして使徒である黒い染みのような影を見つめているのが見えた。
「ファースト、シンジ、まだ大丈夫だよね?」
「わからないわ」
「大丈夫って言ってよ・・・」
「すべての反応が途絶えた・・・もう死んでいる可能性もあるわ。いえ、むしろ・・・」
「やめて!」
アタシは耳をふさいだ。ファーストになんか聞くんじゃなかった。胸が締め付けられる。アタシがちゃん
と位置についていれば、初号機が飲み込まれる前に助けられたかもしれないのに。シンジが死んじゃった
ら、それはアタシのせいだ。ファーストもミサトも自分を責めている気がして、アタシはどこか遠い国に
逃げ出したくなった。
「それは違うわ。シンジくんは私の命令を無視して攻撃をかけたから、負けたのよ。アスカが悪いわけ
じゃない」
「でも・・・」
「安心なさい、シンジくんはきっとまだ生きてるわ。あの馬鹿、調子乗ってるからこういうことになん
のよ。でもまぁ、身内だし、助けてやんないとね?」
「ん・・・うん」
「そんで、一回バシっとシメないとね」
ミサトは無理に笑った。何の根拠も無い言葉だったが、少し気が楽になってアタシも無理に微笑んだ。
まだ、笑おうと思えば笑い顔が作れる。なら大丈夫だ。アタシは唇を軽く噛んだ。シンジが言ってた。
ビビりのビビった言葉で余計ビビるって。
だから、無理にでも笑って強がったほうがいいんだって。アタシもそうしよう。
実際、ミサトは本心では頭を抱えている。シンジが三人のパイロットで、最も優れたエース
だったと言うことは疑うことができない事実だ。シンジは最初からずっと使徒をほとんど一
人の力で倒してきた。アタシもファーストも結局お荷物か、ちょっとした手伝いしかできて
いない。シンジは普段はろくでもない不良だけど、ことエヴァに関してだけは誰の追随も許
さないスペシャリストだった。アタシはあいつの足元にも及ばない。ファーストなんてもっ
と駄目だ。ミサトは常にシンジをメインとする戦術を構築してきた。アタシとファーストだ
けで、あの途方も無い使徒をどう倒す? 無理だ。そんなの想像もつかない。また弱気がア
タシを支配し始める。しかし、アタシの弱気を感じ取ったかのようにファーストが言った。
「普通なら、死んでてもおかしくない。でも、碇くんは死なないわ」
「・・・ファースト」
「私はまだ、約束を守ってもらってないもの」
「約束?」
「ええ。約束したわ。私の願いを一つだけ、叶えるって言ったわ。碇くんは約束を、破った
ことないもの」
そう、そういえばそうだ。シンジはろくでもない不良で、すぐ人を殴るし、酷いことを平気
で言うし、お風呂を覗こうとするけど、でも今まで約束したことを破ったことなんて一度も
無い。性格悪いくせに、変に義理堅いところがあるのだ。アタシは、ファーストに向き直っ
て「そうね、あいつが約束破るなんて、考えられない」って言った。そう、考えられない。
いつぞやだって、助けてくれたではないか、火口に何の装備もなく飛び込んでまで。
次に飛び込むべきなのはアタシだ。もう何度シンジに助けられているのか数える気もしない。
少なくとも、一度くらい命を張ってもいいくらい、あいつには借りがある、と言うのだけは
確かだ。弱気なんか吹き飛ばせ、とアタシの脳裏のシンジが意地悪い笑みを浮かべながら吐
き捨てるのが見えた。わかってるわよ。アタシは脳裏のシンジに言い返す。前に進むのは難
しい。でも、後ろに下がることだけはやってはいけないのだ。それがシンジに教えられた戦
いの哲学だった。
「ミサト。シンジを助けるわ。どうすればいいの?」
「リツコが今解析してる。もうすぐ救出作戦もまとまるわ。あんたには後で働いてもら
うから・・・今は少し休みなさい」
「そんな・・・休んでなんて! いいえ、いいわ。そうする。作戦が決まったらすぐ呼んでね」
休んでなんていられない、と叫びそうになったが、今アタシにできることなんて祈ることく
らいだ。なら、今はミサトやリツコの邪魔をしてはいけない。アタシは強く唇を噛んだ。涙
は堪えた。少し血の味がしたけど、痛みは感じなかった。
待っている時間は焦燥感との戦いだった。いつもなら、使徒との戦いへ向かう恐怖感との戦
いだ。でも、今は焦りだけがアタシの心を削っていく。不思議と使徒を見ても恐怖感は全く
と言っていいほど湧き上がってこなかった。ただ、感じるのは寒々しいほど醒めて乾燥して
いる怒りの感情だった。どうして使徒なんかいるんだろう。弐号機共にある為に、戦わなけ
ればならないのは使徒が存在する故のことだ。使徒なんかがいるから怖い思いをしなければ
ならない。シンジを失うことを怯えなければならない。認めがたいことだが、アタシはあの
不良野郎なしの生活なんてさっぱり考えられなかった。シンジは、今まで欲しい欲しいと願
って、そしてポロリと転がり込んできた幸福・・・家族だった。恐怖にへし折れそうな心を支え
てくれるのは、いつもあいつの汚い言葉遣いの罵声だった。シンジがいなければ、きっとこ
の先弐号機には乗り続けられない。望んでも、乗せて貰えなくなる。戦えない弐号機なんか、
ただの肉の塊だから。それはアタシにとって何よりも耐え難いことだった。
「アスカ」
「決まったの!?」
「ええ。でも・・・」
「はっきり言って。可能性はあるの?」
「ええ。この間の使徒を受け止める作戦の十倍くらいはね」
心細い数字だ。だが、やらねばアタシに未来は無いのだ。アタシは歯を食いしばった。
アタシが感じたとおり、あの影が使徒の本体だった。数ミクロンと言う極薄の黒い皮膜が本体であり、
空中の縞々の球体が、使徒の影なのだ、と言うことらしい。でも、今のアタシにそんな情報はどうでも
よかった。知りたいのは、どうすればシンジを救えるのか、と言うことだけだ。
「結論から言うと、N2地雷992発を同時起動して、その爆圧のエネルギーで一瞬だけ使徒の向こうの世界
に干渉する・・・それしか方法は無いわ。少なくとも、人類にはね」
「N2地雷992発って・・・箱根がなくなっちゃうわよ。シンジだって・・・」
「無事には済まない可能性のほうが高いわね」
「それじゃ、意味ないじゃない!」
「でも、初号機は回収できる可能性が高いわ」
リツコの冷たい言葉にアタシは愕然とした。コンマ以下の確率とは、シンジの生還の確率のことだった。
ミサトが苦々しげに舌打ちする。徐々に忍び寄る恐怖感。それは戦いへの恐怖ではなく、シンジを、家族
を失うかもしれないと言う恐怖感だった。アタシは金切り声で叫んだ。
「そんなの、やれるわけないじゃない!」
「これはもう司令に了承された作戦よ」
「馬鹿! リツコの馬鹿! あんた、最低よ! シンジが死んでもいいって言うの!?」
「いいわけ・・・ないでしょう。でもねアスカ。結局使徒を倒す手段がそれしかない以上、やるしかないのよ。
でなければ、人類そのものが・・・」
そんなの大人の理論だ。アタシは強く反発した。シンジも助けられないで、何が人類だ。アタシの叫びに、
リツコもミサトも応えなかった。アタシは再びにじんできた涙をゴシゴシと強くこすった。だが、涙はとめ
どなく溢れてきた。
「アスカ、一つだけ、何とかする方法があるわ」
「・・・ッ! それを先に言いなさいよ! で、何? 何だってやるわ」
「危険よ?」
「そんなの・・・いつもよ。今更、怖気づいたりしないわよ!」
「いい? 992発のN2地雷のエネルギーには方向性が無いわ。使徒が内包する空間・・・ディラックの海
全体に破滅的な熱衝撃を与えるでしょうね。無限なんてものは無いわ、いかに使徒の内包する空間だ
としても許容量を越えて自壊する。・・・シンジくんのフィールド出力ではプラグは一瞬で沸騰するわね。
でもね、その爆圧に方向があれば、空間を破綻させるだけで、全体に熱衝撃を拡散させずに使徒を倒せ
る可能性が高いわ」
「それでシンジは助かるの?」
「空間は元に戻ろうとする力を持っているわ。恐らく・・・」
「どうすればいいの?」
「あなたのフィールドで爆圧が志向性を持つよう、押さえ込むのよ。失敗すればプラグのLCLが沸騰し
てアナタは即死するわ」
「失敗したらどうなるの?」
「今言った通りよ、一瞬でプラグが沸騰してアナタは死ぬ。素体までダメージを受けたエヴァはオー
バーホールね。まぁ、弐号機が消滅するようなことは無いわ」
「方向性を持ったエネルギーが初号機に直撃する可能性は?」
「無いとはいえないわ。でも、このまま作戦を実行すればほぼ確実にシンジくんは死ぬわ・・・」
では、迷うコトなど何もなかった。アタシが死んでも次のチルドレンが弐号機に乗るだろう。弐号機
は存続する。アタシが生きているのに弐号機に他の人間が乗るなんて、死を選んだほうが絶対マシだ。
それなら、ここでシンジを救う為にこの命を使うほうがいい。死ねば悲しみを感じることはないだろう
し、アタシはアタシがやれるベストを尽くして名誉な死を得るだろう。アタシの中に迷いは一片も残ら
なかった。
「・・・やるわ」
「死ぬかもしれないわよ?」
「このまま見てるだけなんて、死んだほうがマシよ」
「そう。じゃあ、止めないわ。・・・ミサト、技術部は弐号機の作戦参加を提案します」
アタシは強く自分の体を抱いた。死ぬ・・・もんか。絶対、何とかしてやるんだから。
もう何時間経ったのかもわからなくなってきた。LCLは濁りはじめ、徐々に息苦しさを感じる。
餓死はしないで済みそうだ。その前に窒息して死ぬだろうから。僕はタハハと力なく笑った。
心は擦り切れる寸前だった。
もしかしたら助けが来るかもしれない、そんな希望に縋って僕はすぐに内部電源をセーフモー
ドに切り替え、ただひたすらその助けを待つことにした。ここでじたばたすれば電源が切れて
すぐに窒息死してしまう。アスカの「諦めんの?」と言う言葉が耳に残っていた。そうだ、諦
めるなど僕らしくない。最後まで、死のその瞬間まで、僕は諦めるべきでない。それが僕の使
徒に対して示すことができる最後の意地であると僕は思っていた。
だが、音もなく、外も見えず、ただ徐々に磨り減っていく神経の磨耗に耐えるのは、実際厳し
いものがった。死の恐怖は時が経つほどに僕に抜き足差し足迫ってくる。死神が僕の隣に腰掛
けているのがわかる。時折その魂を狩る鎌を僕の喉に突きつけては離し、僕の心が折れ曲がる
のを待っているのだ。
僕は腕を振り回してその幻覚を追い払おうとした。しかし死神はひらりひらりと僕の力の抜け
たヘボパンチを避けてケケケと笑う。ムカついてきたが、精神に肉体が追いつかない。お前み
たいな不気味なドクロ野郎に魂持っていかれるのは癪でしょうがないが、こうなっちまったら
仕方ねぇ、好きにしやがれ。僕は大の字に体を開いて最後の息を吐き出した。もう、酸素はほ
とんど消費してしまった。
ると死神は首を傾げた。「不気味なドクロはお嫌い?」とささやいてくる。僕は当たり前だバカヤロ!っとうめいたが、
もう息苦しくて馬鹿ドクロの相手をするのも億劫になってきていた。ドクロはその虚ろな眼窩を歪めてニヤリと笑う。
「なら、君が望むのはこんな姿?」ドクロがぐにゃりと変形し、茶髪で青い目の女になった。何を、ふざけてやがるんだ。
この野郎、ぶっ殺すぞ!もう声が出ないので、僕は心の中で怒鳴りつける。ドクロは困った顔をした。「じゃあ、こんなの
はどうだい?」今度は赤い瞳の女に化けた。「いやいや、どうやら君はやっぱりこっちのほうがいいみたいだ」また変形し
たドクロは、茶色い髪の・・・それはアスカだった。アスカとなったドクロはケケケと下品に笑った。こんな奴アスカじゃない。
こいつは何て意地悪な奴なんだ。最後に会いたいとほんの少しだけ心の底で思った僕の弱気を形にする。涙がにじむ。
息が詰まる。心が折れかける。
だが、そんなの許せない。僕は最後まで僕であり続けるべきだ。僕は渾身の力で拳を突き出した。アスカの顔をした死神の胸
に、ずぼんと穴が開いた。ざまーみろ、クソドクロ野郎。僕はお前みたいな弱気の使者に負けたりしない。僕が負けるのは肉
体の限界に、だ。僕の精神はこの瞬間何者も凌駕し、侵されることのない堅牢な砦となる。僕は死ぬ。あと何分か、もしかし
たら数秒先か。僕は電池が切れたラジオのように音を小さくしていき、そして最後にノイズをジジっと鳴らして死ぬだろう。
でも、僕の精神は最終的に屈服することを由とはしなかった。これは僕の未だかつてない大勝利であり、光栄な死の序曲であ
る。死神は去るといい、僕の誇りを侵すことは下品な骨野郎にはちょっと無理だぜ。僕は僕の道を完遂する。最後まで意地を
張り通すこと、それが僕の・・・僕の最後の思考はするりと、闇に溶けた。
「N2起爆!」
鋭いミサトの声と共に、膨大な熱と激しい嵐のような衝撃の奔流がアタシのATフィールドの上で炸裂した。
フィールドを貫通する熱がアタシの弐号機の装甲を焦がし、痛みがアタシの顔を歪ませる。しかし、それは
肉体の反射的な動きでしかなく、アタシはこの時苦痛を全く自覚していなかった。強い意志と、そして意地
が、アタシのフィールドを厚く分厚くし、層を織り成して展開されてゆく。
「あああああああああああああ!」
アタシは自覚せずに喉が裂けるほど叫んでいた。凶悪な衝撃の坩堝がアタシを屈服させようと猛威を振るう。
手のひらの毛細血管が細かく破裂し、内出血を起こす。鼻血がLCLに溶け出した。額に血管が浮き出てくるの
がわかった。まだ、まだだ、まだ足りない。アタシはもっともっと叫んだ。声なんて枯れていい。耳からも血
が出ているのがわかる。このままだとアタシは熱衝撃でLCLを沸騰させられなくともクモ膜化出血かなにか起こ
してしまいそう。だが、不思議と苦痛は感じない。ただ、熱い。体中が、内側から沸騰している。負けられな
い、負けられないのだ。
黒い影に、亀裂が走る。黒い皮膜の使徒は、不気味な叫びを上げて苦悶する。使徒とアタシの我慢比べだ。
アタシは踏ん張った。その場に踏ん張った。前に出るのは難しい。でも、下がっちゃ駄目だ。それがシンジの、
アタシ達エヴァパイロットの、戦士の哲学。黒い影は亀裂から真っ赤液体を吹き上げて崩れ落ちてゆく。永遠
にも感じられたN2の爆圧はそのすべてが使徒の胎内に飲み込まれ、そして使徒をばらばらに切り裂いた。
「ぁぁぁぁ・・・あぁッ! が・・・ああ・・・はぁ、はぁ・・・」
熱衝撃の嵐から開放された瞬間、使徒は赤い血溜まりとなって四散した。
「シンジ!・・・初号機は!?」
アタシはようやく感じ始めた苦痛に顔を顰めながらあたりを見回した。使徒は赤い血の海に
なっている。視線を上に向ける。使徒の影が徐々に縮み、そして消え去った。使徒は倒せた。
しかし、初号機の姿が見えない。そんな・・・!
使徒を倒したって、シンジが助からなければ意味が無い。アタシは目を皿のようにして血の
海の一滴すら逃さないよう、辺りを見回した。
突然、最後の力を振り絞ったかのように初号機がシンクロを回復する。僕は酸欠で朦朧とし
ながら、開けていくエヴァの視界を呆然と見た。おいおい、せっかくかっこよく死のうと思
ってたのに。ゴキブリ並にしぶといなぁと自分で苦笑してしまう。赤いエヴァがこちらに向
かって走ってくるのが見えた。あ、赤い液体に足をとられて転んだ。アスカらしいなー、あ
のマヌケな姿は・・・モニタが回復する。泣き顔のアスカがうつった。
「ジンジイィィ」
「はは、なんつー顔してんだよ。アスカが助けてくれたのか?」
「ジィィンジィィィぶええ・・・」
「くく・・・ブッサイクな顔・・・そっか・・・お前に助けられたんか、僕は。・・・ありがとな・・・」
礼の言葉と、感謝の気持ちは、自然と、素直に湧き上がってきた。助かった、のか、僕は。
その日の記憶はそこまでしかない。僕は、初号機ごと弐号機に抱きつかれた時点で、気を失った。
もう三年くらい、墓参りなんかには来てない。母さんの命日は、親父と顔をあわせなきゃいけ
ないから、僕はそれを避けていた。でも、今日は母さんに報告することがあった。だから、まぁ
親父の小言も我慢してやるかって気持ちだったのだ。
墓には、既にゲンドウがいた。立派な花束を供え、そして黙ってその墓碑を見つめている。親父
がどれだけ母さんのことが好きだったのか、僕はよくしっている。三歳頃の記憶の中の親父は、
泣き顔だ。ただ黙って、声を押し殺して泣く姿が強烈に印象に残っている。妻を殺した男だと
言われているのも知ってる。だけど、真相はそんなんじゃあないってことも勿論知ってる。親
父が敢えて反論しなかったのは、自責からだってことも・・・知っていた。
僕は子供だった。今も子供だ。だから、理不尽に片親が居なくなったことを許せなかった。僕は
親父を責め、恨み、嫌った。今は違う。小言がウザい親父だが、やはりこいつは僕の親父なんだ
なと素直に認めることができる。
「よう、親父。早いな」
「シンジか。ここに来るのは三年ぶりか?」
「そうだな、前は途中で逃げちまって・・・その足で仙台戻ったからな」
親父は、少し口元を緩めた。昔はわからなかった。いつも顰め面で、偉そうで、押し付けがまし
くて、そして傲慢だと思っていた。でも、親父も同じ人間で、表情があるのだと言うことを僕は感じた。
「体のほうはどうだ?」
「ただの酸欠だからな、一晩入院してすっかりだ」
「そうか」
僕と親父は少しの間たわいもない話を続けた。会話が途切れてから、僕は親父に聞いてみた。
「親父さ、母さんと出逢った時ってどんなだったんだ? どんな気持ちになったんだ?」
「ユイ・・・母さんは・・・素晴らしい人だった。出逢った瞬間、私は恋に落ちていた。私は顔がこの通りだからな、いつもただ遠くから見ているだけだったよ・・・」
「よくまぁその不味い顔で母さんモノに出来たなぁ? どんな弱味握ったんだよ」
「・・・貴様と一緒にするなロクでなしが。母さんは私の不器用な所がいいと、そう言ってくれたのだ」
「そうか。辛いよな、親父」
「ああ、辛い。命日は特にな・・・だが、人は前を向かねばならん」
「また説教かよ?」
「馬鹿者、今日ぐらい素直に聞けんのか」
「いいや、いいぜ。別に、聞いてやってもいいって気分なんだ今日は。で、続きは?」
「・・・いや、いい。お前はもうよくわかっているはずだ」
「そうだな。後ろ見てたら転んじまうからな。僕ももう、見ないことにすんよ」
「だが、忘れてはならんこともある」
親父は遠い目をして言った。僕は何も応えずに頷いた。
「僕さ、惚れたかもしんねぇ」
「誰にだ。私にか?」
「親父、冗談はその髭だけにしろよ? んなわけねえだろ」
「ふん、青春と言う奴か」
「僻むなよ、あんたはもう枯れてんだからよ」
「私はまだまだ現役だ」
「はいはい・・・初めてかもしんねぇんだ、本気なのは。そんで、そのことを母さんに話しに来たんだ。」
「・・・そろそろ時間だ。シンジ、たまには司令室にも顔を出せ」
「考えとくよ」
僕は流行の歌を口ずさみながらボーっと上を見ていた。アスカはいない。何やら委員長の顔を立てて遊園地で
おデートらしい。非常に面白くない。こんな昼間に、ミサトもいるわけがない。一人、沈黙の空間で歌を口ず
さむ。カラッポの墓で母さんに向かって話しかけた内容を、歌いながら反芻する。ああ、間違いなく惚れたっ
ぽい。絶対ありえない、近すぎて女を感じないと思っていたあいつに。泣き顔のブッサイクな面に、九死に一
生を得た僕の心は震えた。僕の為に泣く女の髪の毛を、僕は撫でたいと思った。
だから今はとても面白くない気分だ。何であいつが他の男とデートなんぞするのだ。僕は相手の男を頭の中で
三十回くらい半殺しにしながら、ただ静かな空間で歌をくちずさむ。
「めちゃくちゃ音痴ねーアンタ」
「僕の神々しい美声にケチをつける馬鹿は誰だ・・・っつうかデートは?」
「つまんないから帰ってきちゃった」
アスカが立っていた。
ぼーっと目をあけて視界に入るもの全部をぼんやり見ていた僕の前に、アスカが割り込んでくる。
僕は笑った。楽しくないから帰ってきちゃった、か。そりゃあいい。僕は嬉しくなって笑った。
「何笑ってんのよ?」
「くく・・・いや、こっちのこと。で、この真昼間に二人で暇すんのもどーかね?」
「そーね、せっかくオメカシしてるんだし、どっか行くのもいいわね、アンタの奢りで」
「図々しい奴だな、お前」
「お金持ちなんだからケチケチしないでよ。こっちは命の恩人様よ? 恩を忘れたってーの?」
「いいぜ、奢ってやるよ」
アスカが驚いた顔をする。
「・・・珍しいわねぇ、素直に奢るなんてさ」
「いいんだ。幾らだって奢ってやるよ。何だって買ってやらーお前が満足すんだったらな!」
「・・・??? 何? 何か悪いもの食べた?」
僕は満面の笑顔で立ち上がった。
「いいだよ、今日は。決めたんだ。僕は決めたー!」
「はぁ? 何を?」
「ふふふ・・・ふはははは! 秘密じゃー! がはは」
そして僕は強引にアスカの手をとって上機嫌で歩き出した。
以上・・・ディラックの海編
青春って嫌ねぇ。
おもろおもろ
tomoタン大好き
綾波をもっと描写してくだちぃ。
このアスカ好きめ。萌えるじゃねーか。乙。
俺の恋愛観はシンプルなのでストレートにしか愛情表現できない。
文章創作物は(二次でも)作者の生体験が色濃く出るものだと思ってる。
だから俺は無理してドロドロ関係とか書かないょ。つか書けネェよw
綾波は綾波専用のお話があるじゃんYO その時に。
約束とか伏線も張ってあんしな。融合とEOEは綾波。
鯖復活したら、まっさきにこのスレ読んじゃったじゃん。
いいじゃん、いいじゃん。アスカかわいいじゃん。
やばい、やばいよ。
涙で、顔がくしゃくしゃのアスカ、マジ萌える。
もうあれ、シンジやめて、
俺のところに飛び込んで来いって感じ。
・・・・・・・・コネーカ。
ソウデスカ、ハイ。
見たので、いろいろ提案してみるテスト
次、思い切ってダミー使わんとか言うのどうよ?
影薄いケンスケちょい役で使ってみるのはどうよ?
オペレーターズとの交流が少しあるといいなあという希望はどうよ?
三つぐらい言ってみた。
青葉はともかく日向辺りが族上がりとか・・・
脇は名前すら出てこねぇ。藁 人が増えるとメンドイからな。
加持も出てきてねぇよヒャヒャ 15分以内くらいに一発目投下するわ。
本日 バルディエル編
ケンスケは朝から少し変だった。僕が命じたイカ焼きを買い忘れるし、コーラ買ってこいというと間違えて
豆乳を買ってくる始末。飲めるかこんなもん! ずっときょろきょろ落ち着きが無いし、階段で派手に転ん
でカメラを破損したっていうのに落ち込む様子が無い。一体何なんだ? 僕は昼休みにケンスケを屋上に呼
び出した。子分が何か悩んでいるとしたら、ちゃんと相談に乗ってやるのが大将の勤めと言うものである。
いやぁ、僕っていい奴だ。ケンスケは僕の呼び出しから二分と遅れずやってきた。相変わらず落ち着きがな
く、なぜかでっかいカバンを持っている。一体なんなんだ? 僕は首をかしげて尋ねた。
「よぅ、今日はどうしたってんだ? 突然笑い出したりよ。サバイバルごっこで変なキノコでも食ったんか?」
「ああ・・・碇。俺はさ、碇にどうしても聞きたいことがあるんだよ」
「何だよ、言ってみな」
「笑わないでくれよな」
「いいから言えって水くせえ」
ケンスケは満面の笑みを浮かべる。そしてゴソゴソと端末をカバンから取り出し、何やらカチャカチャと操作
し始めた。そして、ニヤニヤしながらその画面を僕に見せた。そこには、クレーターのような映像が映ってお
り、それが何を意味しているのか僕には少しの間わからなかった。ようやくそれが何なのかわかって納得した
瞬間に、ケンスケは身を乗り出してきた。
「こりゃ四号機の事故画像だな。何でお前がこんなもんもってんだ?」
「パパの端末からちょっとね」
「お前なぁ、情報窃盗は案外重罪なんだぜ。ネルフに見つかったらとっ
捕まって尋問コースだぞ」
「大丈夫だよ、俺のパパだってネルフなんだからさ」
「しょーがねぇ奴だなぁ・・・で、これがどしたんだ?」
「四号機の事故のせいで・・・アメリカ支部は参号機の所有権を手放すん
だろ?」
「ああ・・・ミサトが何かそんなこと言ってやがったなぁ。こっち送られ
てくるらしいから今チルドレンの選別を・・・」
「それだよ! うぐっ」
うお。鼻先二センチくらいのところに、鼻息の荒いケンスケがいきなり
迫ってきたもんで、僕は思わずケンスケを殴り倒してしまっていた。
端末がケンスケの手から飛び跳ね、危うく地面に落ちる瞬間に僕が慌て
てそれをナイスキャッチする。
「わりわり、チューされるかと思ってよ、思わず殴っちまったアハハ」
「いてて・・・ひでぇなあ・・・」
「いや、悪気はねんだ、メンゴメンゴ」
「メンゴって古いなぁ。ま、いいけどさ。で、それなんだ」
「えーっと何だっけ?」
「参号機の候補者の話だよ!!」
「お、おう。お前ちょっと落ち着けよ」
「俺は冷静だよ! 冷静に熱いんだ!」
僕はお前のちょっと危ない姿を見て寒々しい。と、言う言葉は抑えて、
ああそうかいと頷く。ふぅふぅと鼻息の荒いケンスケは握り拳を熱く
掲げて何やらトリップ中だ。こいつこんな奴だっけ・・・ああ、ミリタリ
関係はこんなもんだったな。
何か疲れを感じた僕は軽くこめかみを揉んだ。
「でさ、碇。お願いがあるんだ!」
「何だよ。何かもう想像つくけど一応言ってみ?」
「俺を参号機のパイロットに推薦してくれ!!」
「えー・・・ヤダ」
「な、何でだよ!!」
「だってよー・・・アスカの近くに男が増えるのヤダもんよ。女ならいいけど」
「惣流なんかどうでもいいよ!! 問題は参号機に乗れるかもしれないってこ、
あぐっ ・・・何で殴るんだよ碇」
「アスカがどうでもいいってのは聞き捨てならね。
貴様喧嘩売ってマスカ?」
「うぅ・・・。えー・・・ま、まぁそれはともかく・・・俺が碇を裏切るような
ことをすると思うか!?」
「あー。んー。そうだなぁ、イケメンな奴とか新しくチルドレンになっ
たらヤだしなぁ。まだマシっちゃマシだよなぁ」
「だろ!? 俺なら安心だろ!? なぁ、頼むよ!」
ケンスケの熱意は留まることを知らず、逃げ損ねた僕は殴られて鼻血をたら
しながらも諦めないケンスケの熱量に徐々に押され始めた。うう・・・この僕が
気圧されるなんて。なかなかの気合に僕は徐々に感心し始めた。いいね、こ
ういう奴、嫌いじゃない。うん、気合が入ってる。こんだけ根性据えて僕に
迫れるのだから、エヴァに乗っても案外やるかもしれない。僕は段々、本気になってきていた。
「よっしゃ、わかった! ケンスケ、お前の気持ちはビンビン伝わってきたぜ! ミサトに推薦しまくってやる」
「ほ・・・本当か!!」
「おうよ。その代わり、参号機に乗ることになったらビビった瞬間殺すからな。二回殺す! いいな!?」
「勿論だ! ああ・・・ああああああ!! ようやく・・・ようやくこの日が来たのか!! うおおおお!」
「ちなみに僕が言ってもミサトが駄目つったら駄目だ。そのときは諦めろな」
「うおっうおっうおおおおお!! 俺はやるぞおおおおお!!」
「いやだから、えーっと、相手ミサトだからよ・・・絶対とは」
「やぁぁってやるあああぁぁぁぁ!!」
「・・・」
最後の僕のセリフは多分聞こえてない。まぁいいか。僕が推薦すれば多分、ミサトはケンスケを推すだろうし。
これは一般には秘密にされていることだが、僕の通う高校の、僕の所属するクラスはチルドレン候補者が集めら
れたクラスなのである。これは特定の資質を必要とするチルドレンを一箇所に集めることで、候補者が誘拐され
たり他支部に囲われたりするのを防ぐ防犯上の理由や、もしも今のチルドレンに欠員が生じた場合(ありえねぇ
とは言えない。実際この間僕は死にかけた)に即座に補充ができるよう、近くに置かれている、と言う大人な理
由もある。だから僕もアスカも綾波も都合よく同じクラスなのだ。ここはネルフでは「牧場」と言う隠語で表現
されている。初めてそれを知った時、当然反発を覚えたものだが、今はアスカと必ず同じクラスでいられるとい
う強力な利点の前に感謝すら捧げたい。「牧場」最高!
その、「牧場」の一員であるケンスケは、要するにエヴァに乗る資質有りってことだ。結局新人なんてどれでも
一緒(僕は違ったけどな!)だと語っていたミサトなのだ、僕がコイツ気合入ってる、必ずやるって言えばそれは
重要な意思決定のファクターとなるだろう。僕はその夜、さっそくミサトに提案した。
「ケンスケって覚えてるか?」
「ああ、あのミリタリオタクの子でしょ? あんた、虐めてないでしょうね」
「舎弟としてかわいがってやってるだけでぃ。で、アイツな」
「うん、その子がどうしたのよ」
「参号機の候補者リストに入れてやってくれよ」
「何で? つうか何であんた参号機のこと知ってんのよ!」
「お前一昨日酔っ払って泣きながら話してたじゃんよ」
「!! ・・・う、嘘よ、覚えてないわ」
「アホほど飲むからだ馬鹿。まぁ、精神的にキツい役目だっつのはわかるけどよ。
無理強いするわけじゃねんだからもうちょい気楽にいけや」
「うっさいわね! 私はナイーブなのッ で、あんたがわざわざ推薦するってのはどういうことなの?」
「嫌々乗る奴より、ずっと使えると思うからだ。あいつな、エヴァ乗りたがってんだ」
ミサトは渋い顔をした。なぜ渋るのか、僕はわからなかった。
「あのね、シンジくん。その子はきっとエヴァと言う兵器にカタルシスを感じているだけよ」
「語る・・・寿司? なんだそりゃ。食えるのか?」
「・・・聞き流して。難しい言葉使ってごめんねシンジくん・・・」
「今ちょっと馬鹿にしただろ。馬鹿にしただろ! オイ!」
「うっさい。黙って最後まで聞きなさい。噛み砕いて言うとね、エヴァがかっこいいから乗りたいって
動機なんだと思うのよね、私は。でも、そんな気持ちで乗れるものだと・・・あんたは思うの?」
「ああ、乗れると思うぜ。僕は乗れたしな」
「あんたは脳味噌カラッポだっただけじゃない。普通はアンタと違ってお味噌が詰まってんの。
だからね、きっとエヴァに乗るってことをナメてるわ。エヴァに乗れるのは、乗らなきゃならない理由
がある奴よ。アスカも、レイにだって理由がある。あんたにも今は理由があるでしょう?
それから・・・鈴原くんとかね?」
「トウジが? あの馬鹿に何の理由があるってんだ。体育の後、自分の靴下匂って悶絶してるような馬
鹿だぞアイツは」
「彼には事情があんのよ。これは個人的なことだから言えないけど・・・彼なら、やるわ。守るべきモノ
があるからね」
僕にはさっぱり理解できなかった。だってあんなアホよりも、乗りたくてたまらないケンスケのほうが
よっぽど肝も根性も据わって見えるからだ。僕は納得いかなかった。しかし一つだけはわかる。ミサト
はトウジを乗せる気だってことだ。委員長の家から帰ってきたアスカが居間にやってくる。「何? 何
の話してんの?」と尋ねてきたが、僕もミサトも応えなかった。アスカは「牧場」のことを知らない。
あいつの友達である委員長もチルドレンだと知ったら、アスカは複雑だろう。だから僕は教えてないし、
ミサトも同じような考えでアスカに気を使っていた。僕は首をすくめた。
「アスカ、ミサトの奴、昨日寝ゲロしたらしいぜ」
「げっ きったな〜ぃ!」
「だよな! 最悪だー酒減らせこの無能ぶちょー」
僕はわざとおちゃらけて笑った。ミサトも苦笑した。ミサトの気持ちはわかった。どうやらケンスケを
乗せる気は無いってことだけは確かだ。明日、奴に残念な結果を伝えねばならないだろう。それでもケ
ンスケが納得しなければ、次は直談判でもさせるしかないな・・・と僕は思った。
「ってわけで、ミサトはお前乗せる気ねぇみたいだぜ」
ケンスケが気の毒な程肩を落として呻き声を上げた。僕は多少昨日の内容を脚色し、実は既に適正無し
でシンクロできないという理由をでっち上げてケンスケに伝えることにしていた。真実を告げるのは幾
らなんでも残酷に思えたからだ。ミサトは要するにケンスケの心のほうに適正が無いと断じていたのだ。
僕には気合たっぷりに見えるケンスケだが、ミサトはそうは思えないらしい。僕自身納得いかないもの
があったが、仕方ないといえば仕方がない。決める権限を持っているのはミサトであり、ミサトの決断
が無ければ僕が暴れようが叫ぼうがケンスケをチルドレンにすることはできない。
まぁ所詮他人事なので僕はさっぱりその辺はどうでもよくなっていた。ケンスケにはトウジが選ばれそ
うだと言うことは伏せた。それもショックが大きいだろう。何で僕がこんな気を使ってやらにゃならん
のだという気持ちも手伝って、僕はすっかりケンスケをチルドレンにしてやろうと言う熱意を失っていた。
「ま、仕方ねぇわな。どうしても戦争やりたかったら戦略自衛隊にでも志願しな」
「戦自には18歳以上でないと志願できないんだ・・・でも本当に頼んでくれたんだよな。ありがとな、碇・・・」
「ま、気にすんなよ。駄目だったんだしよ」
そう言って僕はケンスケが買ってきたコロッケパンを齧った。しばし無言の時間が続く。何となく次の
授業に出る気がしなくて、チャイムが鳴っても僕とケンスケは屋上でボーっと時を過ごしていた。
すると、授業中にも関わらず屋上のドアが開かれた。僕は慌てて煙草を投げ捨てて振り返る。屋上に出て
きたのはトウジだった。
「んっだよ! 驚かせんな馬鹿ジャージ!」
「んあ、一服中やったんか。そりゃスマンのう」
「次停学食らったら僕はミサトに殺されちまうんだよタコ・・・あービックリした・・・」
「センセがガッコで煙草吸うから悪いんや。ちょっとは我慢しぃや」
「我慢できたら煙草なんざハナっから吸ってねぇよ。辞めらんねーから仕方ねーっつうんだ」
「ほうか・・・まぁ、丁度ええわ。センセに話したいことがあるんや」
そう言ってトウジはケンスケをチラっと見た。ああ。何となくその用件がわかってしまって、僕は溜息を吐いた。
まぁ、ケンスケには悪いが、どうせ長くは隠せる問題じゃない。僕は首をすくめて言った。
「エヴァに乗れって言われたんだろ? ミサトと金髪のねーちゃんによ」
「・・・! 何でわかったんや?」
「昨日な、あっこでしょぼくれてる奴をミサトに推薦してやったんだ。そしたら、もうトウジに決めたんだって言ってたからよ」
「ほうか。ほな、ケンスケには悪いことしたのぅ」
「気にスンナ。ケンスケ、お前も気にしてねぇよな?」
「あ・・・ああ。おめでとう、トウジ・・・」
ケンスケは苦しげに、だがやっとのことでそう言った。うんうんと僕は大きく頷いた。よしよし、偉いぞケンスケ。
それでこそ男だ。今度カメラ新しいの買ってやるからな。ウジウジしたってどうしようもないことは笑い飛ばせばい
いんだ。わざわざグタグタした態度で人様を不愉快にすることなんか無い。胸を張ってりゃいいのだ。
だが、ケンスケの言葉に、トウジは悲しげに顔を歪めた。
「おめでとう・・・かぁ。わしよりケンスケのほうがよっぽど適任や思うんやけどなぁ」
「ミサトの考えるこったからな、何か理由があんだろうぜ。つうかこの僕と同じ立場に立ったっつーのに浮かねー面だな。
どったんだ? 給料アホほどもらえるぜ?」
「金か。金もええけどな。ワシ、ケンスケには悪いんやけどホンマはあんま気が進めへんたんや」
「なんでだよ?」
「死ぬかも・・・しれへんやん?」
それは実に正直な吐露で、僕は神妙に頷いた。
死ぬかもしれない。確かにそうだ。僕が前回の使徒戦で死にかけたことは勿論この二人も知っている。
ケンスケが聞きたがるから、僕は毎度使徒襲来の度にその体験を面白おかしく話してやっているからだ。
しかし前回の奴はさすがの僕もおちゃらけて脚色交えて話すことはできなかった。ケンスケはそれでも
能天気に喜んでいたが、そう言えばトウジは神妙な表情だったことを覚えている。
エヴァに乗る、と言うことは使徒と命の奪い合いをすると言うことに他ならない。僕は実際に何匹も使
徒を殺してきた。前回も、運がもう少し悪ければ今度は僕が死ぬ番だったのは疑う余地が無い。
負ければ全人類を巻き添えにする・・・と言う事実が、僕の個人の死の重さを軽く感じさせていた。だが、
僕も前回の戦いで思い知ったのだ。そんな感覚的な「全人類」など、結局のところ自らの危機に比べれ
ばかなりどうだっていいってことだ。そうか。僕はようやくミサトの言葉の真意に気付いた。自分の命
と秤にかけれるだけの理由が無ければ・・・エヴァに乗るのは難しい。
僕には理由がある。恥ずかしいから絶対誰にも言わないが、親父が結構がんばってることを知ってる。
アスカに死んで欲しくない。ミサトも僕は何だかんだ言って頼りにしてる。綾波が使徒との戦いに嬉々と
して飛び込んでいるのに、僕が怖気づくなんて考えられない。使徒とかいうバケモンに屈するのは意地と
誇りが許さない。それらは命の危険があるかもしれない、と言う事実よりも僕の中で比重が大きく、恐怖
をねじ伏せるだけの重みがある。しかしケンスケはどうだ? 何か守るべきものがあるのか?
戦いに望む覚悟が果たして理由もなくできるものか?
ああ、そうか。僕はとても合点がいった。なるほど、ミサトの言う通りだ。
兵士は訓練を通して恐怖をねじ伏せる術を手に入れるのだ、とミサトは僕を白兵戦技の訓練でボコボコに
した後に言っていた。僕やアスカのように、いきなり実戦に出て、それに「慣れる」ことは確かに恐怖へ
の抵抗手段に成り得る。しかし本当の兵士は、感情を廃し、命令に服従し、すべてを徹底することを叩き
込まれるからこそ、戦えるのだ、と。
そこで訓練を通して生まれる「覚悟」のかわりになるのが、戦う理由なのだろう。戦わざるを得ない、
戦う必然があるならば、恐怖と向き合うことができる。アスカなんてまさにそれで、あいつは未だに
話さないが、何らかの命よりも大事な「理由」を持っているのである。ケンスケにはそれすらも無い。
ああ、無理だ。僕は頷いてケンスケの肩をとんとんと叩いた。では、トウジにはどんな理由があるの
だろうか。恐らくそれなりに抜き差しなら無い理由があるのだろう。
「トウジよーお前なんで乗ることにしたんだ?」
「まだ、返事はしてへんねん・・・センセに話聞いてもうて、それから決めよ思ってな。イマイチ覚悟で
けへんっちゅーかやっぱり怖いんや。せやから・・・センセに聞いて欲しかったねん」
「いいぜ、何でも聞いてやる。言ってみな」
トウジは深呼吸して、つかえつかえ話はじめた。
「あんな、わし、妹いるねんか」
「知ってるぜ。それで初日に喧嘩売ってきたんだろ?」
「せやぁ。わしんとこ、親父もじーさんもネルフで忙ししとって、妹の面倒ずーっとわしが見ててん。
せやからな、妹が怪我してしもうた時に逆上してもたっちゅーか・・・あん時はスマンかったのう」
「それはもうケジメつけたろ。で?」
「ほんでな・・・妹、このままやと歩かれへんようなるかもしれへんねん・・・」
「そんな重傷だったんか?」
「足の組織がえし?かなんか起こしかけてるらしいねん。でも、ネルフの病院やったら助かるかもしらん。
もし・・・エヴァに乗るんやったら・・・ミサトさんが妹をネルフに入院させてくれるらしいんや・・・」
「・・・そっか。お前んとこも大変だな」
「正味の話・・・妹が怪我したんはわしのせいやねん。わしが目ぇ離したからはぐれてしもて・・・せやから、
わし妹助けたらなあかんねん。まだ小学生やねんで、わしのせいで歩かれへんようなったらかわいそやんか
・・・わし申し訳ないやん・・・」
トウジは、顔をくしゃくしゃにして泣いた。
「おう、トウジ。エヴァに乗るのは半端ねぇぞ。死ぬかもしんねぇぞ。すげえ痛いしな。それでも妹助けたいんかよ?」
「わしは・・・怖いんや。せやけど、アキコのためや。わしは命賭けてでも償いせないかんと、そう思うんや」
「じゃあ、助けてやれよ、エヴァに乗ってよ。ケジメつけるってことだろ? ビビってねぇで根性入れろや」
「センセに迷惑かけてまうかもわからんで」
「お前みたいな新米が、僕に迷惑も何もねぇよ。今から生意気な心配すんなよケツ拭いてやるっつーの」
「おおきに・・・おおきにな。わし、やるわ」
「おう、やってみりゃ何でも意外と何とかなるもんだ。僕がきっちり教えてやんよ」
僕とトウジは握手した。トウジは鼻水を垂らして泣いた。ケンスケはじっと僕らのやり取りと会話を
見ていたが、どうやら自分でケンスケが駄目な理由に気付いたらしく、今度は違うショックを受けて
肩を落とした。興味本位の、ただの憧れのような気持ちで「死ぬかもしれない」と言う恐怖に立ち向
かうことの困難さを思い知ったのかもしれない。この後、ケンスケがエヴァに乗りたいと言うことは
一切無かった。僕らは表面上、いつもの三人でつるんでいたが、トウジはいつも不安感に苛まれたよ
うな表情を隠しきれていなかったし、ケンスケは僕とトウジの両方に気を使った。そして、参号機が
日本に搬入され、トウジは起動実験を行うことになった。
起動実験は松代の第二発令所で行われるらしい。万が一四号機と同様の事故が起こった場合でも、松
代なら失うものはあまりない、と言う毎度のことながら腹の立つ理由からだ。でも、リツコが言うに
は事故の可能性はずっと低いらしい。四号機事故の原因となったS2機関(なんか使徒のエネルギー源
と同じ理屈のエンジンみたいなものらしい)を搭載していないからだそうだ。
「ねぇ、シンジ。あいつ今頃起動実験中よね」
「そだな、そろそろだろうな」
アスカはトウジが参号機のパイロットに選ばれた、と言う事実を知って怒った。なぜ自分のクラスの
クラスメートから都合よくチルドレンが見つかるのだ、そんな偶然はおかしい、と怒った。
それで僕はせがまれて「牧場」の真実を話した。話したくなかったけど、どんな事実でも構わないか
ら話せというアスカのしつこさに負けて、僕はしゃべってしまった。アスカはショックを受けてその
日は口を聞いてもらえなかった。
次の日からようやくある程度機嫌を直したアスカは、半泣きで委員長じゃなくてトウジで良かったっ
て思ってしまったって告白した。そして、そのトウジのことを委員長は好きなのだ、と言うことも口
を滑らせた。だから自分は最低なのだ、とアスカは落ち込んでいた。僕はどう慰めればいいのかわか
らなかったので、ただ黙って話を聞いた。委員長にはとてもじゃないが言えなかったらしい。でも、
すぐ知れ渡ることだし、それはトウジ自身が言ったほうがいいと僕は思ったので、アスカに言わなく
てもいいんだって言った。それから、トウジにはやらなきゃいけない理由があるからアスカと同じな
んだって言うと、アスカは妙に納得していた。僕はこの話の流れでアスカが自発的に弐号機に乗る理
由を話してくれるんじゃないかと期待したけど、そんなことにはならなくて少しガッカリだった。
「起動しなかったりしてな」
「そのほうがいいわよ・・・ああ、でも、鈴原は妹さんが・・・」
「そんなもん、起動しなかったとしても何とかしてやれってミサトに言うぜ、僕は」
「そうよね、アタシも言うわよ。バシっと言うわ」
「ぶっちゃけ、トウジが乗れようが乗れまいがどっちだっていいんだ。でもさ、殺生にも程があるだろ?
一大決心して妹のために命かけようつってんのに・・・乗れなかったからって助けないのはよー・・・
生殺しじゃん? そう言うの嫌れー」
「武士の情けが無いわよね」
今日今この瞬間、予定通りなら起動実験が行われている最中のはずだ。ミサトもリツコも松代に出てしまった。
今日はだからアスカと二人きりで物凄い幸せな気分のはずなのだが、アスカは僕の気持ちを知らないでズーンと
落ち込んでいるので僕としては逆に居心地の悪さすら感じる。僕は未だにアスカに告れないでいる。
大体だ、一緒に住んでたら余計にそう言う機会がねぇよ。いつもミサトがいるし、顔つき合わせてマジになんの
は照れくさいのなんのって・・・。今日はミサトがいねぇから期待してたのに、トウジの件で空気悪すぎ。トウジめ、
無事に参号機パイロットになって帰ってきたら訓練にボッコンボッコンにしてやる。僕が後ろ向きな決意をした
時だった。突然、僕の携帯とアスカの携帯が鳴った。
「・・・召集・・・ね」
「使徒か! ミサトがいねぇっつうのに。めんどくせー時にきやがったな・・・」
「シンジのパパが指揮ってことになるわよね」
「ウゼー! あの親父は小言がうるさすぎんだ、自由に戦わせてもらえそうもねぇよ・・・かったりいなぁ」
「使徒が来てるのにかったるいって・・・あんたバカぁ? 悠長すぎるわよ。使徒・・・また、戦いになるのよね」
「まさか既にビビってきてんじゃないだろうな? あ?」
「そんなこと! ・・・ちょっとだけ」
「ビビってんじゃんッ」
「だって、怖いもんは怖いわよぅ・・・」
でも大分余裕でてきたな、コイツ。N2爆弾900発くらいフィールドで抑えきったらしいし、それなりに自信ついて
きてんのかもしれない。まぁ、そんだけ死ぬ確率が下がるってことで、それ自体はいいことだ。僕はアスカには
死んで欲しくない。ほんとはもうエヴァにだって乗って欲しくないくらいなのだ。でも、それを言うとこの女は
拗ねるので、言わないだけである。ミサトとトウジは松代で悠長に実験中だ。まぁ、トウジにこれぞパイロット
ってとこでも、見せてやるとしますか。僕は拳をバキバキと言わせた。
僕の気合は、使徒と呼ばれたそいつを見た瞬間に霧散してしまっていた。漆黒の強面と、しなやかな人体を思わせ
るボディ。滑らかな動作で歩くそいつはどう見ても「エヴァ」だった。普段見慣れているそれを使徒と呼ばれても、
いまいちピンと来ない。僕は首を傾げた。
「親父・・・あれ、エヴァに見えるのは気のせいか?」
「お前の視力が正常である証拠だな。あれはエヴァだ。しかし、使徒でもある」
「意味わかんねぇぜ。エヴァで使徒ってどういうことだよ」
「本部のMAGIが使徒に乗っ取られた件、聞いているだろう」
「ああ。リツコがやっつけたんだろ? 生身でよくやるぜ」
「それと同じだ。今度はエヴァが乗っ取られた。そう言うことだ」
「な・・・なんだと・・・じゃあ、あれは・・・」
「そう、参号機だ」
アスカが嘘!と叫んだ。でも、この状況を見るにつけ、それは疑いようが無い事実だと僕は思い始めた。大体、親父
が嘘をつく理由なんかない。事実、あれは使徒に乗っ取られたエヴァなのだろう。そして、問題はトウジが乗ってい
る参号機だ、と言うことだ。親父も難しい顔をして歯を食いしばっている。なるほどね、確かに難しいわな。僕はエ
ヴァットを抜き放った。外部電源から大量の電力がエヴァットに流れ込み、帯電するエヴァットが紫電の閃きを弾か
せ始める。僕はそれを振り被っていつでも走り出せるよう腰を落とし、迎撃体制を整えた。
「ちょ・・・シンジ! あれには鈴原が乗ってんのよ!」
「だから何だよ」
「じゃあ! 戦えるわけないじゃない!!」
「綾波、バックアップは?」
「射撃位置についたわ。射線は七時方向。弐号機、邪魔」
「ファースト! あんたも戦う気!? アンタ達、見損なったわよ! あれには鈴原が乗ってんのに!」
「親父。いつでもオッケーだぜ。弐号機以外はな」
「シンジ!」
「うるさい、黙れ! お前、トウジに死ねっつーのかよ!」
「あんたが殺そうとしてるんじゃない!」
「バカヤロウ!! さっさとプラグ引っこ抜かないとトウジがどうなるかわかんねぇだろうが!!
・・・わり、喧嘩してる場合じゃねえな。アスカ、フィールド放射すんじゃねえぞ、トウジに当た
ったらヤベエ」
「・・・ご、ごめん・・・」
「いいんだ。親父、作戦はあんのか?」
アスカはキレる寸前だったが、僕の絶叫でようやく僕の意図に気付いて項垂れた。こんな言い争い
の時間も惜しい。アスカには悪いが、フォローしてやるつもりは今は無かった。そう言うのは後で
いい。僕は人命尊重とかそんなのどうだっていい。僕と関係ないところで人が何万人死んでも心は
さっぱり痛まない。でも、ダチが死ぬかもしれないなら・・・話は別だ。
「シンジ、まず機動力を奪え。相手は腐っても元エヴァだ。お前達と同等か・・・いや、使徒なのだ、
それ以上と考えてもいいだろう。プラグを抜くには足を止めることだ。動いている目標に下手なこ
とをすればプラグを傷つける恐れがある」
「要するに足を狙えってことだな。了解だ、綾波、バックアップよろしく」
「了解。射線には入らないで。ためらわないわ」
「お前にそんな高等な機能期待してねぇ。アスカは俺と反対の足狙ってくれ。トウジがシンクロし
たままだったらいてぇだろうけどな、死にゃしねぇよ」
「う・・うん。わかったわ」
僕は静かに頷いた。今までで一番難しい戦いになるだろう。僕は緊張せざるを得なかった。ふざける
余裕もない。一つのミスでトウジは死ぬ。エヴァのパワーでぶん殴ったら、肉がひしゃげるどころじゃ
ない。生身の体なんてゴミ屑のように一瞬で血の煙に化けるだろうし、エヴァットやフィールド放射
の衝撃は直撃すればプラグごしでも人間くらい殺せるに違いない。もう僕はトウジを五体満足で助け
ようとも思わない。ただ、死なないようにやるだけだ。命あってのモノダネ、多少は覚悟しろや。
と僕は呟いた。親父が迎撃開始と叫ぶ。僕は駆け出した。
うーん。面白れえなあ。
こういうの書けるのって正直妬ましいわな。
ところで、読んでてなんか既視感を憶えるなあ…と思ったら、あれだ。
アスカ→シンジの感情の変化が構造的にメルヘンと同じっぽい。
ファクターとしてのシンジがアスカ側から見ると同じつーか。
今回はシンジ→アスカの感情をはっきり書いてて、恋愛要素が前面にでてっから
物語としては別物だし、着地点も違うベクトルだけど。なんか親戚?って感じだ。
参号機・・・いや、使徒は恐ろしく俊敏だった。僕らのエヴァが人の動きを超えないのに対し、奴は確実に人間では
不可能な動作で体を捻り、腕の関節を外して延ばし、ブリッジの状態でしゃかしゃかと走る。間抜けな姿だが、
恐ろしく早く、僕のエヴァットもアスカのグレイブも中々使徒の足を捉えることができない。綾波の放つ弾丸は
案の定と言うか毎度のことというか、ATフィールドに阻まれて牽制以外の役には立たない。僕はアスカが左に回
りこんだのを確認してから、退路を断つように使徒に襲い掛かった。使徒はまたもや不自然な方向に足をぐにゃり
とまげて僕のバットを空振りさせ、あり得ない方向に曲げたままの腕を振り回して初号機を跳ね飛ばした。
久しぶりの直接的な苦痛は大したダメージではなかったが、一瞬僕の動きを止めるのには十分過ぎた。足の止まっ
た僕に、参号機が予備動作無しでジャンプニーパッドを直撃させる。横隔膜の辺りを痛打された僕は胃袋が飛び出
しそうな痛みに膝をつき、そこに待っていたかのようなアッパーカットを合わせられて後頭部から思いっきり地面
に倒れ伏した。激痛で目がひっくり返りそうだ。参号機は僕を休憩させるつもりは全くなく、倒れる僕に向かって
踵を振り下ろした。体をよじって何とかかわすも、右腕が直撃されて初号機の腕は簡単に折れた。当然、骨折の痛
みが僕を襲う。一瞬のうちに起こった参号機のラッシュに成す術もなく、僕は絶叫した。やりづらいのは確かだが、
それを除いたとしても強い。こいつ、強いぞ!?
アスカがグレイブを横なぎにふるって僕にのしかかっていた参号機を追い払う。そこに零号機の銃撃が浴びせられ、
参号機は飛び跳ねながらそれをかわした。僕は激痛に耐えながら無事な左腕でもう一度エヴァットを掴んだ。
「シンジ、大丈夫!?」
「いってぇ・・・右腕がイカれちまった。ちくしょう、あいつ普通に強いぞ。手加減してらんなくなってきた」
「でも、鈴原が」
「わーってる。もう一回いくぞオラー!」
次こそ。そう思って突撃するも、ひょいひょいとまるでバカにされているかのように攻撃はかわされていく。
くそ、足しか狙えないってことに気付いてやがる・・・僕は下唇を噛んだ。
「このままじゃ、トウジ助けるどころか負けちまう。アスカ、次で決めるぞ、外すなよ?」
「シンジ・・・どうする気?」
「僕が足を止めてやる。あのムカつくうねうねの足をぶった切れ!」
「え、えと、うん。やってみる」
「いち、にのサンで行くぞ。いち・・・にの・・・さん!」
僕はエヴァットを振り上げ、そして十分に反発力を溜めたそれを思いっきり参号機に投げつけた。
例によってこちらをバカにしたかのようにそれをヒョイっとかわす、が! 僕が狙っていたのはそ
の油断だ。使徒にもいろいろいるが、こんだけこっちを舐めてバカにして油断するような奴は今ま
でにいなかった。僕を心底ムカつかせるには十分過ぎる。もう、自分の苦痛や死の危険をどうでも
良いと思わせるだけのふざけた態度こそ、こいつの敗因となるだろう。僕はエヴァットを投げると
同時に、それを追って走ったのだ。そして使徒が案の定、馬鹿にしたかのように避けたその瞬間、
エヴァットを追って走った僕のタックルが参号機の腰にがっちり食い込む。こうなったら体を捻ろ
うが腕を延ばそうが関係ない! 僕はそのまま参号機を押し倒し、じたばたと暴れる参号機を押さ
え込んだ。同じエヴァだ、単純な力では体勢有利のこちら側に分がある。僕は叫んだ。
「いまだ、やれ!」
ATフィールドを展開しようとする参号機を押さえ込み、発生しかけていたフィールドは僕の発生さ
せたフィールドと反応して溶けて消える。今、参号機を守る壁は何も無い。綾波の銃撃がようやく
参号機の右足に命中する。左足は、アスカの振り下ろしたグレイブが綺麗に両断した。そして動け
ないことを確認した僕が、右腕に向かって思いっきり左の拳を打ち込んだ。参号機の腕は全体重を
かけたその一発でぐしゃりとひしゃげた。
「どうだ、これでオアイコだぜ。両足は釣りだとっとけ! アスカ、プラグ引っこ抜いちまえ!」
だが、甘かった。使徒はしぶとい。それは知っていたはずなのに、両足と片腕を奪った時点で戦闘不能
だろうと僕は決め付けてしまっていた。それは人間の流儀、もしくはエヴァの流儀であって使徒の流儀
ではないのだ。参号機が無事な左腕だけで僕を押しのけ、そして初号機にのしかかる。僕は跳ね飛ばし
てやろうとするが、ぐちゃぐちゃになった足の腿と、肘までの腕の力で押さえつけられてしまう。そし
て参号機の口から流れ出した透明な粘液が、初号機の装甲の隙間に入り込んだ。
「ぐ・・・ぎゃあああああああああ!」
僕は意識せずに悲鳴を上げていた。それは灼熱感であり、今までで最高の苦痛だった。無数の長い針で
徐々に串刺しにされるような、そんな拷問のような激痛は僕の神経と言う神経を焼ききろうとした。
そこには意地も気合も根性も通用せず、僕はただ体が反応するそのままにビクンビクンと体を跳ねさせて
絶叫し続ける。この苦悶を冷静に見つめる自分を客観視する自分が、いつもの冷静な仮面を外してさすが
に痛すぎだよね、と呟いた。それ程痛い、ただ痛い。僕は腕をめちゃくちゃに振り回し、使徒を押しのけ
ようとする。だが、振り回したつもりの腕はピクリとも動かない。くそ、くそ、こんな隠し技持ってたの
か、この野郎! だが、苦痛の時間はすぐに終わった。
弐号機が放射したフィールドが。
参号機の上半身を吹っ飛ばしてしまったのだ。
そこにはトウジが乗っている、エントリープラグも含まれていた。
僕の内部に浸透しようとする針の塊のような苦痛の液体は、参号機が活動を止めた瞬間、僕の中で苦痛を
発するのを止めた。僕は荒い息を吐いてしばらくその苦痛の残滓に自分自身の体を抱きしめて耐える。
ようやく冷静になった時、アスカが泣いていることに気付いた。
「アスカ・・・どうなった?」
「ごめん、ごめんシンジ。アタシ、アタシ・・・ごめん」
「ごめんごめんじゃわかんねぇ。トウジは?」
「・・・ごめんね、ごめん・・・」
「ゴメンじゃわからねぇって言ってんだ!」
アスカは僕の叫びに、ビクっと身を震わせて、そして顔を伏せる。そして声を出さずに泣き続けた。僕は
舌打ちして外の様子を見回す。上半身がなくなってしまった参号機の残骸は、片足がちぎれ、もう片方の
足が蜂の巣になって膝をつき、その体勢のまま沈黙している。上半身の残骸は少し離れたところに見えた。
アスカの全開のATフィールド放射によってずたずたに引き裂かれ、頭部は目玉を飛び出させて首吊死体の
ように舌をベロンとはみ出させている。生きているようには見えない。この様子では、プラグは・・・僕は
思いっきり操縦桿をぶん殴った。六発ぶん殴って、手の痛みでようやく冷静さを再び取り戻すことができた。
「アスカ・・・助かった」
「シンジが・・・シンジが死んじゃうって・・・シンジが死んじゃうと思ったから・・・」
「ああ。また、命の恩人だな・・・」
「でも・・・でも、鈴原が! ごめん、ごめんなさい、ごめん・・・」
「・・・綾波、初号機動かせねぇ、回収は頼むわ」
「了解」
「わりいな」
僕は初号機を降りて、ATフィールド放射の体勢のまま固まっている弐号機に向かって歩いた。アスカも、
弐号機を降りてきた。アスカは僕に抱きついて、そして泣き続けた。僕にはかける言葉が無かった。アスカは、
親友の好きな奴を殺してしまった。僕を救う為に。仕方無いとはいえ・・・僕も、泣きそうだった。
「惣流・・・センセもや。勝手に殺さんどってくれるか・・・ほんまえらい目会おたわ・・・」
「は? ・・・はぁ?」
硬直する空気。僕とアスカは抱き合うような姿勢のまま、氷となった。白い菌糸のようなものを体中に
巻きつけ、ずりずり引きずって歩いてくるそいつは、いまやATフィールド放射で血の袋に化けたはずの、
トウジだった。さすがに無事ではいられなかったのか、右足を引きずっており、左腕で抱くようにかば
っている右腕はあり得ない方向に曲がってトウジが一歩歩く度にぷらんぷらんとゆれている。それが痛
いのか、トウジは顔を歪めていた。
「て・・・てめ、生きてたんか!」
「アホぅ、わしが死んだら誰がアキコの面倒見るんじゃーアキコが嫁行くまでは誰が死ぬかーボケー!」
「うわ・・・よく見たらその足潰れてねぇ? いったそ・・・」
「痛いわぃ・・・めっちゃ痛かったわぁ・・・何や知らんけどいきなり勝手に動きよるし・・・センセやら惣流に
は容赦なくやられるし・・・何やねんな・・・」
「なんやねんじゃねーよ・・・よくまぁ、使徒の腹ン中で無事でいれたもんだ・・・」
アスカは口をパクパクさせ、そしてまた僕に抱きついて今度はびーびー声を上げて泣き出した。トウジが
痛みに顔を顰めながらも困った顔をする。僕も困る。何なんだこの幕切れは。辺りを見回すと、壊れてひ
しゃげたエントリープラグが見えた。ATフィールド放射に巻き込まれてひしゃげるだけで済むはずがない。
僕が殴った時点でプラグは抜けていたのだ。そして、プラグをひしゃげさせたのは参号機の最後の足掻き
に巻き込まれたからのようだった。
「人騒がせな野郎だ・・・あとで三回は殺す!でも、まぁ・・・生きててくれて助かったぜ」
「何や、それ」
「てめーが死んでたら洒落で済まなかったんだよ、僕も、アスカもな」
「ほうか。まぁ、何や生きてるしええがな」
「へ・・・タコ。迷惑かけるかもってホントにかけてくれやがったな。ほんっと迷惑だぜ!」
救護班がトウジを拉致りに来るまで、僕は抱きついて泣いているアスカの髪を触っていた。
ああ・・・まぁ、役得だ。今回は勘弁してやるか、と、僕は沈静剤を打たれて強制的に寝かされたトウジを眺めながら思っていた。
バルディエル編 完
ゼルエルは到底無理や。
生き残らせてしまった甘い俺。だってさー後味悪いと何かさー。
板SSは気楽に読もうぜ。
いいじゃんいいじゃん!
今回もいいじゃん!
>>94 同じ作者やしなぁ。気張らんと書いてたら自然と経験のあるものに偏るよ
新しいことをやろうと思ってないんだし、この話では
案外、全然シチュエーションは月並やで あんま考えてへん
漏れはむしろ殺っちまったことにやるねえ!と感心してたんだが・・・
多少黒くなってくれると熱くてドロドロな原作好みな展開になるかと勝手に妄想してたw
これはこれでかなりいい感じだし、このままの路線で固定かな?
アスカがかわええっす。
>>103 正直、死なせてもいいかなーって思ったねんけど、そしたら真面目にアスカ
の苦悩の話になるやん? 適当書きなぐれへんようなるなぁ思ったらちょい
面倒でなぁ それは僕との距離でやるからええねん
関西出身の人間が付近にいると関西弁が感染する恐れがあります。
皆さんも健康(?)には、ご注意を。
>104
しつこい味付けにはなるわな。
ハイペース維持してスレ連載するのに重いのは向かないか、深く考えにゃならんし。
つーか妬ける。
今回の更新分約30kb、勢いとはいえ今の漏れにはむりぽ
>105
それよう解りますわ、ほんま
>>105-106 つうか近くの奴のがうつる。俺元関西人やけど関東でてから関東弁しゃべ
っとーわ。でも一人やと関西に戻るねん。不思議。
今回30Kもあったんか。ノリノリやったしな。へんてこ俺理論満開。
落下使徒がどうやら短いな。あれは一日三つもやったからちとパワーダウンしてたな。
つうか、ディラック書いてる途中から何か降りてきた。た、楽しいッ
土日で完結させる気で寝る時以外フルタイムやるで。
今週末は祭りやで。完遂したら「この職人!」と誉めてくれ。
>>107 期待してる、連投規制に引っかからんようにな。
引っかかる条件はよく知らんが(w
久々にエヴァ板の順位がけっこう上がるかも。
投稿時間が10分程度はあいているから連投規制には引っかからないと思います、ハイ
熱燗如きに負けてらんれんので、そろそろ開始スル。30分以内に一発目
投下予定で。。。
本日はゼルエル編から。今日もエヴァットが唸るぜ!
ゼリエリキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
tomoタソ!ガソバッテ!
「あるぅ貧乳ぅぅ〜、森のなカンチョー、熊さんニンニクー出逢っタマキン♪」
「下品な上に古いわね・・・あと、致命的にオンチ」
「あぁ? そーか? いやーそうでもねえよー。ほら、周りの奴が僕を注目してんじゃーん?」
「近寄らないでよ・・・知り合いだと思われたくない」
「ハズイと思うからハズイんだよ、タマタマがちっせぇな」
「そんなのついてないもん!」
綾波がスタスタと他人のふりをしながら僕を追い抜いて歩いていってしまう。僕は逃げようとする
アスカの腕を掴んで逃亡を阻止し、その美声を継続した。真っ赤になったアスカは顔を伏せて
「サイテーサイテーサイテー・・・」
とブツブツ呟く。僕はお構いなしに歌った。僕は今日は上機嫌なのだ。
と言うのも、実現不可能だと思われていた第四世代エヴァットが完成した、と徹夜明けのリツコか
ら朝電話を貰ったからだ。四代目にあたるこのエヴァットは僕が欲しい欲しいと望んでいた必殺技
とも言える機能を有している。アスカのATフィールド放射に比べれば、僕のエヴァットの威力はど
うしても地味だった。だから、一度でいいからその破壊力を超えられるような機能が欲しいと、
僕は前々からリツコに対して発注していたのだ。これでATフィールド粉砕だけでなく、対使徒の最
終的な決定力も僕は手に入れたことになる。ただ一度しか使えないのが難点のその機能だが、まぁ、
そこはそれ、必殺技だから仕方ない。むしろ、それが燃える点でもある。
今日の連動試験ではそのエヴァットの運用テストも予定されている。僕はわくわくしていた。
「そう言えばさ、アスカ最近、シンクロ率落ちてねぇ?」
「んー、何か調子悪いのよねぇ・・・70後半をうろうろしてるわよ」
「僕は93で大安定。まぁ、60超えてりゃあんまかわんねぇからいいけどな」
「ん・・・でも、何でだろ・・・」
「弐号機がお前に飽きちまったんじゃねぇの? ギャは」
「・・・弐号機は女の子だもん。飽きるとかないもん」
「いかつい女だな、そりゃ・・・」
「あんたの初号機よりずっと美人よぅ」
「・・・まぁ、ありゃあ実際、ちょっとありえねぇ面だしな。あの装甲の中味見たことあんか?」
「ううん、無い」
「めちゃグロいぜ。夢に見るレベルだありゃ」
「えー・・・弐号機は美人に決まってるもん」
「どこからそんな自信がくるんだよ」
「アタシが言うから間違いないの」
「はいはい・・・ったく弐号機の話になると必死すぎ」
「むー」
僕らはくだらない話をしながら、ネルフの長いエレベーターを下っていた。綾波だけは話さずに
じーっとカシャカシャと変わっていく階層のディスプレイを眺めている。何が楽しいのか、たま
に一瞬だけニヤリと笑みを浮かべる様子は不気味だが、僕らはそれを見慣れてしまっていた。一
度聞いたことがあるのだが、むしろなぜ面白さがわからないのか不思議がられた。綾波だけは一
生理解できそうにない。それはアスカも同感みたいだった。そうこうしている間に、ようやく実
験場に到着した。
壊れ綾波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
今日は連動実験を行う。これは試験プラグではなく、実際にエヴァとシンクロし、シュミレーターと呼ばれる
空間でエヴァの脳髄に直接データを流して模擬戦闘を行うという試験というよりは訓練の意味合いが強い実験
だった。新兵器(実戦で役に立ったモノは少ないが)は、この連動実験で実戦投入の是非を問われる。僕は是
が非でも最強エヴァット計画を推進したかった。今は入院中で委員長と病院でイチャついているトウジの参号
機を葬ったのはアスカのATフィールド放射攻撃だった。結局、当てられなければ意味が無いエヴァットは、広
範囲に大して攻撃力を持つフィールド放射に汎用性の面で一歩及ばない。威力も向こうのほうが高い。せめて
一撃の破壊力で勝らなければ、ATフィールド放射には兵器として劣るのが現状である。フィールド放射はアス
カのメンタルによるものが大きく、出力も安定しない。だから、それだけに頼るわけにもいかないのだ。せめ
て、「確実性」のあるものが一つは無ければこの先、前回の使徒以上に強力な使徒が襲来した場合に確実に迎
撃できるとは限らない。
そこでリツコが徹夜しまくって作ったのが第四世代エヴァット「ロンギヌス」である。熱感知誘導機能、電磁
石反発、怪しげな空間圧縮理論とやらを用いた空間短縮技術「ゼロ・シフト」・・・振り被ってから亜光速の速度
で敵を追尾するこのバットは人類最強の近接兵器であると言って過言ではない。その一振りは普通に衝撃波を
発生させ、擬似的なATフィールド放射に近い現象を再現できた。まぁ、威力は本物の放射攻撃には全然及ばな
いのだが。しかし、それはただ今までの機能をベースアップしただけのものでしかなかった。このエヴァット・
ロンギヌスの真価はスペックの高さのことではなかった。
tomoタン write ここの記述は神代に捧げる。LUSTREからのLINKサンクス。
シュミレーション空間内で、アスカが強固に展開した守りの壁、ATフィールドを僕の振ったエヴァットは
易々と突破した。侵食、物理的破壊、それらどちらにも該当しない、透過と言う作用によって。光速のエ
ヴァットはそのまま簡単に弐号機を両断し、ゲームオーバー。アスカが「インチキ!」と叫んだ。これで
3連勝。フィールド放射攻撃を一度たりとも許さず、すべて二秒以内にケリがつく。アスカがギブアップす
るまで、模擬戦はさらに二回続けて行われた。
「ぬははは、見たか、新兵器エヴァット・ロンギヌスのこの威力!」
「シンジ! 汚いわよ、ATフィールド無視するなんて!」
「それがこいつの機能だしな。つーかアスカ弱すぎ。僕はまだ必殺技使ってもいねぇぞぉ」
「きぃ! ふんだバカ死んじゃえ!」
「む・・・ああ、その、悪かったって。そんな怒んなよぅ」
完全にヘソを曲げたアスカを宥めつつ、僕はニヤニヤ笑いが止まらなかった。これは凄い。予想以上の出
来だ。今は仮眠室でぐーぐー寝ているリツコにディープキスしてもいいくらいの感謝を感じた。これでビ
ビるアスカの尻を引っぱたいて冷や冷やしながら迎撃しなくっても、僕だけだって使徒を倒せる。僕はそ
れを確信した。結局まだまだアスカに告る決意をもてない僕は、せめて告るまではアスカに生きていても
らわねば困る。だから、僕は強くなりたかった。今よりもっと、ずっと強く。それは喧嘩が強くなりたい、
負けたくないと言う感情とは少し違っていた。ただ、使徒なんかに荒らされたくないんだ、と言う一心だっ
た。僕も丸くなったもんだ・・・自分で呆れてしまう。最近、僕は人を殴ってないし喧嘩もほとんどしなくな
った。僕は仙台では、報復で仲間がやられて、その復讐にいって、さらに復讐されて・・・と言う無限連鎖の
中にいた。そんなのにアスカを巻き込めるはずがない。アスカは確かにビビらなきゃ喧嘩強いのだが、で
も、喧嘩なんて相手が真正面から向かってくるとは限らないんだ。もしも・・・と考えると、僕はもう丸くな
るしかなかった。僕はアスカが大事だった。
ガンガレガンガレー
でも、使徒なんか来ないのが一番だ。守りの姿勢に入ってしまっていた僕は、最近はそう考えるように
なっていた。アスカはまだ使徒を怖がる。そのアスカを叱咤し、戦いに駆り立てることに僕は苦痛を感
じ始めていた。僕はいい。死は恐れるべきものだが、一度戦いになれば我を忘れることができる。死の
恐怖は、屈辱感に凌駕される。痛みは誇りと怒りがねじ伏せる。僕は現代の侍である。臆するくらいな
ら腹を切る。だが、アスカを戦いに駆り立てることは、僕の願い、欲望、祈りに相反している。その苦
痛をねじ伏せる術を僕は持っていなかった。改めて気付く。初めて、本当に好きになったといえるかも
しれない。アスカは二度も僕を救った。命を賭けて。親友の想い人を殺す覚悟をしてまで。怖がりの癖
に。泣き虫なのに。それは今まで僕が体験したことが無い、未知の感情だった。命を賭けてもらえる、
と言う確信は、命を賭けるに値する女だ、と言う熱情に一瞬のうちに変わった。あの、暗い死神の棲家で
見た幻は、その予感だったのだ、と僕は断言できる。恥ずかしげもなく、僕は断言できるだろう。
あいつは、100カラットのダイヤよりも貴重で、そして大事なんだ。
ミサトは僕の心象をすぐに嗅ぎ付けた。多少はからかわれたが、ミサトはそれ以上何も言わなかった。
酔って、自分も昔はそう言う男がいた、と寂しげに笑った。僕はビールを啜りながら尋ねてみた。
「そいつ、どしたんだ? 別れたのか?」
「さぁ・・・今は音信不通だから。今考えるとろくでもないわよ。いきなり蒸発して、連絡一つよこしゃしない。
別れの言葉すらなかったわ。随分泣いたわね。気がついたらもうすぐ30よ。もう、七年?・・・いや、八年前か。
・・・早いもんね」
「まだ、好きなのか?」
「父さんに似てたの。ファザコンね、私」
「・・・筋金入りのな」
僕は呆れてそういったが、ミサトは遠い目で思い出を懐かしむように、昔の話をしてくれた。僕は黙って
聞いた。特に出会いの話や、付き合うことになったキッカケとか。なるほど、酔わすといいのか。いや、
でも済し崩しってのはちょっとなぁ・・・なかなか悩ましいお年頃の僕だった。
あ、加持まだ出てきてないんだったな。
んで、ここでこう出すか。
その日は、朝から天気が悪かった。鬱陶しい雨が、さらさらと空気と溶けて降ってくる。音も無く窓を
叩くその細い雨にはなぜか不安感を感じさせられた。前の日の晩は雨は降らなかったものの曇り空で星
も月も見えなかった。そろそろ満月だったはずなのに、それを拝むことができなくて僕は朝から少し機
嫌が悪かった。僕の不愉快感を察してか、アスカが近寄ってこない。雰囲気を和らげようと努力してみ
たが、やっぱり無理だった。胸がザワザワする。気分が悪い。気がつくと、僕の頬は絨毯にくっついて
離れなかった。あれ?っと思った時にはもう視界はぼやけてしまっていた。アスカが悲鳴を上げる。僕
は倒れたのだ。アスカが慌てて僕の傍に走りよってくる。僕はその心配そうな顔に、思いっきりくしゃ
みした。「ぎにゃッ」アスカは猫が尻尾をふんずけられたような声を出してひっくり返った。
「き、き、きったな〜ぃ!」
「ぅ・・・わり・・・あっれー? 立て、立てねぇ。・・・おぅ・・・アスカの手ぇちべたくて気持ちいいな」
「ちょ、シンジ・・・すっごい熱よ!」
「風邪引いたか・・・」
「パンツ一枚で寝るからよ・・・」
「覗いてたのかよ、エッチ」
「失礼ね! 居間で転がって寝てたのはアンタでしょーがぁ。ミサト呼んでくる」
体温計を持ってきたミサトに無理矢理それを咥えさせられ、朦朧とする意識の中でどうやら風邪をひいた
のは間違いない、と言う結論に至る。昨日は天気が悪くてやけに蒸す日だった。だから僕は風呂上がりの
パンツ一枚でクーラー全開にしてそのクーラーの心地よさに浸りつつ・・・そのまま寝てしまった気がする。
ミサトが、それは風邪をひいても仕方ない、自分を恨めと言い放った。僕はクラクラする頭を抱えながら
体温計を覗く。38度2分。十分風邪だ。あぅ・・・ここ三年くらい病気とは無縁だったのに。慣れて無い分、
それは強烈に僕を弱らせた。
体温計を持ってきたミサトに無理矢理それを咥えさせられ、朦朧とする意識の中でどうやら風邪を
ひいたのは間違いない、と言う結論に至る。とりあえず背筋がゾクゾクする。自分の熱を知って、
ショックで悪化した気がした。あーもー駄目くるちい死ぬ・・・と呟いていると、アスカが気の毒そ
うな顔をしつつ僕の額に冷えピタをべちゃっとはっつけた。
「横でさぁ、タオル絞ってくれるとかサービスは無いのかよ」
「メンドイからヤ。冷えピタどう? 効く?」
「おう・・・ちべてーきもちいーぜ」
「頑丈が取り柄のアンタも風邪引くのねー。つらそうだけど、大丈夫?」
「大丈夫くない。無理。あたまいたい・・・アスカがっこは?」
「今日は土曜よ」
「そだっけ・・・ああ、そうだったな・・・チョコパ奢るって約束・・・」
「今度でいいから寝てなさいって。結構熱高いんだからさ」
「む・・・ぅ。・・・うん」
「しおらし過ぎて調子狂っちゃうわ。ま、今日はいたげるから、元気出しなさいよ」
「元気は無理だ・・・でも、ありがとな」
「あーもう、熱で脳味噌やられちゃってんじゃないの?」
アスカはしばらく珍しく言い返さない僕をここぞとばかりにボロカスに扱き下ろし、胸がすっとした
のかなんだか上機嫌で僕が寝ている布団の脇に座り、ファッション雑誌を読み始めた。僕はもう弱り
きっていて、ゲホゲホ咳をし、びえっくちゅとくしゃみをし、背筋の寒さにガタガタ震えた。風邪っ
てこんなに辛いものだったのか。もう使徒に刺されるよりずっとキツイものがある。ようやく薬が効
いてきて楽になってきた頃には、アスカは僕の隣で転がって昼寝ならぬ午前寝を決め込んでいた。僕
は静かに過ぎていく時間をモヤモヤしながら過ごした。隣でアスカが無防備に寝ており、そして僕は
その寝てる女に惚れている。ミサトは休日出勤でいない。弱りきった僕はふと弱気に駆られた。この
まま死んだらどうしよう。今のうちに告っちまったほうがいいんじゃねえの?
「あす・・・あ、あす、あす・・・」
「?? ・・・何、何か言った?」
「あ、あ、あのな、アスカ。は、はな、話が」
「何? モゴモゴ何言ってんのよ。てか、凄い顔赤いわねぇ・・・また熱上がってきた?」
「え、いや、う。お、おう・・・何か・・・その・・・ちょっとな・・・」
ぎゃー! 僕の根性無し! 情けねぇぇえぇええ!! 僕は冷静を装いつつ心の中で絶叫した。何だ、
この緊張感は。顔が熱い、紅潮しているのが露骨にわかる。そしてピタっと額に当てられた心地よい
冷たさの手に、危うく頬が緩みかける。
「んー・・・朝より大分熱下がってるみたいだけど。まだ熱いわねー熱計る?」
「いや、いいや。想像より熱あったらショックで悪化するんだ」
「そうよね、バカは風邪引かないって言うし・・・たまにこういうことになるとショック大きいわよね」
「三年ぶりくらいだぜ・・・風邪ひいたの」
「アンタほんと呆れるほど頑丈ねぇ」
「アスカが思うよりは案外、デリケートなんだぜ?」
「バリケードの間違いじゃないのぉ?」
「やけに突っかかってくんな、生理か?」
「ほんっとデリカシーってもんが無いわね! サイテー」
「怒んなよ、僕は病人だぜ?」
「どうだか。もう実は結構直ってきてんじゃないの?」
「だったらいいんだけどな。ちょーツレーお裾分けしてやりてえ」
「ご遠慮させていただくわ」
「さいですか・・・あのよ」
「何? お腹すいた? アタシは料理できないわよ。ミサト帰ってくるまで待ちなさいよ」
「いや、そうじゃねんだ。お前にさ、言いたいことがあんだ」
アスカが首をかしげた。会話している間に随分冷静になった僕は、深呼吸した。
「実はな・・・」
突然、アスカの携帯電話が鳴った。
>「実はな・・・」
>
>
>突然、アスカの携帯電話が鳴った。
裸部米キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
「非常召集・・・使徒!」
アスカの表情が強張る。僕の一世一代の大告白はその声でかき消され、僕は呆然と息を呑んだ。何だと、
使徒だと? 怒りがむくむく湧き起こる。ラブコメ一つやらせてもらえない。使徒め、使徒の野郎!
いつもいつもいいとこで邪魔をするんだ。使徒こそ僕の人生の障害、それを本能的に悟った僕は、渾身
の力を振り絞って布団から這い出した。
「ちょ、駄目よシンジ! まだ熱あるんだから・・・無理したら肺炎になっちゃうわよ」
「うるせぇ、使徒が・・・来てんだろ。僕が行かなくて、誰が行くんだ」
「いいから大人しくしてなさいよ!」
アスカにトンと押されただけで、立ち上がりかけていた僕は抵抗もできずに布団の上に転がった。それみ
たことか、とアスカは言い、そして立ち上がる。ビビっている様子は見えない。使徒が来たのに? 馬鹿
な、アスカ、何考えてる。僕の不安は的中した。アスカは気丈な顔で一瞬だけ唇を噛み、そして僕に向かって、笑った。
「心配しないで寝てなさいよ。今回はアタシとファーストだけでやるわ」
「ふざ・・・けんな。てめーみたいなビビり、しっこ漏らすのがオチだろうが」
「一応、ATフィールド出力はアンタの倍はあるわよ。今度はしくじらない。アンタは寝てなさい? たまには・・・アタシを信じてさ」
「ヤだ。信用なんか、しねえ。僕もいく。行くったらいくの!」
「子供かアンタは。大丈夫・・・信じて」
「い・・・やだ」
突然、アスカが僕の唇に、自分の唇を押し付けた。それは不器用な、でも暖かい感触だった。僕は体中の
筋肉を弛緩させた。抵抗の気力は残らなかった。アスカは、照れたように笑った。そして、もう一度立ち上がった。
「自分で立てもしないのに・・・戦えるワケないじゃん。アンタバカぁ? ・・・死んじゃうよ」
「構うもんか、よぅ。死ぬより、大事なことだって、あんだ」
「実はな、の続きは・・・後で聞かせて。風邪が治ったらね」
「おい・・・おい! ゲホゲフッ 僕を・・・置いてくな」
「じゃあ、また後で」
「おい!! ・・・くそ、ちきしょう!」
アスカは翻って、走り出してしまった。僕は布団に頭を押し付けて、泣いた。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!
いいじゃんいいじゃん!
僕は重い体を引き摺って、金属バットを杖代わりにして歩き続けた。ケイジまでの道のりが嫌に遠く感じる。
くそ、保安部の連中は何してんだ、パイロットが一人欠けてんのに、何で僕を拉致ってケイジへ連れていかな
い。恐らくそれは親父かミサトの差し金だろう。あいつら、後でギッタギタにしてやる。
アスカを信じないわけじゃないんだ。僕は、不安なのだ。自分の手の届かないところでアスカが怪我したりす
るのが嫌なのだ。ましてや、死んでしまったりしたら・・・僕はアスカの唇の感触を思い出して、壁を思い切り
殴りつけた。思いの外ひょろひょろのパンチはコツンと壁で軽い音を立てただけで止まってしまう。また涙が
にじむ。何で、こんな時に使徒なんか来るんだ。停電の時といい、マグマの時といい、何で、どうしてだ!
神がいるなら、そいつが僕に嫌がらせをしているとしか思えない。もしも手が届くなら、僕は神様とやらを
バットで顔面の形が変形するまでぶん殴ってやりたい。
そうだ。気付いてた。ただ、今の心地よい関係が壊れたら嫌だなという恐れが、僕に決断をためらわせていた
だけなのだ。アスカは辛抱強く待ってくれていた。今日は・・・言えるはずだった。こんなに真剣で真摯な気持
ちになれたのは喧嘩以外では初めてだったし、喧嘩で感じる気分よりもずっとそれは嬉しい気分だった。
どっちかといわれれば勿論前者のほうがいいに決まってる。それが今、手からするりと抜け落ちるかもしれな
い、と言う不安は僕を切り裂いてしまいそうなほど酷く苛んだ。
視界が開ける。本部の前までは来ることができた。ジオフロント公園を突っ切って近道すれば、程なくしてケ
イジ直通のエレベーターにたどり着く。もう少しあとちょっと。だが、僕はそこで信じられないものを見た。
弐号機が立っていた。そして、それには首が無かった。僕は絶叫した。こんなの、信じねえ。
「シンジ・・・体調が悪いのではないのか」
「黙れ、親父。わりいけど、声かけんな」
「・・・出撃する気か」
「当然だろ? 僕を誰だと思ってんだ?・・・初号機パイロット 碇シンジだぜ? つうか、何で親父がケイジにいんだよ・・・」
「お前が来た、と報告を受けていたのでな」
「チッ やっぱ保安部の連中、見てやがったのかよ」
「お前の出撃は許可できん。帰って寝ろ」
「状況わかって言ってんのか?」
「無論だ。むざむざ殺される為に出すほど、私は冷酷な親ではない。本部は破棄し、撤退する」
「本気か?」
「当然だ、その体調で勝てると思うのか? 馬鹿者が」
僕はバットを親父に突きつけた。体がふらつくが、もう慣れた。苦痛? そんなの何も感じない。
「アンタを殺してでも僕は行く。帰って寝ろだ? そんならここで死んだほうがマシだ。ずーっとマシだ」
「その体で私を殺すだと? 舐められたものだな、私も」
「うるせぇ」
「・・・」
僕と親父はしばらくにらみ合った。正直、バットを持っていても今の僕では親父に勝てる気はしない。
押さえ込まれてバットを取り上げられたら成す術もないだろう。それでも、僕は死を迎えるギリギリの
その瞬間まで、戦うつもりだった。親父が溜息を吐いた。
「・・・よかろう・・・しかし、初号機には内臓電源以外残っていない。使徒は既に本部中枢に近い位置まで
来ている。ここまで侵攻してくるのも時間の問題だろう。三分以内にケリをつけろ。無理なら脱出しろ。
今日駄目でも、明日・・・明後日でもいい。死ぬその時まで、我々は戦わねばならん」
「・・・上等だぜ、そのセリフ。勝つまでやる、そりゃ僕の信条だ」
「言っておくが、弐号機のパイロットの命は無事だ。己を見失うなよ」
「・・・! いい知らせだぜ、それは。OK、アスカに痛い目見せてくれちゃった馬鹿をぶっ殺してやんねぇとな」
アスカは、無事だ。その知らせが、僕の体を少し軽くした。だが、実際のところここで使徒を倒さなければ、
本部は壊滅する。アスカも死ぬ。そうなったら・・・脱出して助かったとしても意味はない。ここが正念場だ。
僕はぎゅっと歯を食いしばった。
良いゲンドウキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
……キターも飽きてきたな藁
きれいなゲンドウさんやね
息子がグレると親は逆に真人間になっていくそーで。
そういう意味でもいい感じやなー。
頭はズキズキ痛む。背筋は相変わらずゾクゾクする。無理したせいで確実に体調は悪化した。ぜひゅー
ぜひゅーと喘息のような息をしながら、僕は操縦桿を握り、初号機に命を吹き込む。三分。1ラウンドだ。
判定は無い。僕が奴を瞬殺するか、それとも電池切れで打ち殺されるか、二つに一つ。体の調子は最悪で
も、闘志は些かだって衰えちゃいない。僕は第四世代エヴァット・ロンギヌスを構えた。そして、壁の向
こうにいる・・・使徒を、敵を見据えた。向こう側は発令所だ。ミサトやリツコもいる。使徒の野郎を放置
すれば、このまま何もかもが台無しだ。すべてが台無しだ。そんなの許せるか? その自問への答えは一
つしかあるわけない。僕は咆哮した。塊となれ。熱になれ。僕は自らにそう念じながら、突撃を開始した。
ロンギヌスの全開出力攻撃はここではできない。電熱の衝撃波がミサトやリツコだけでなく、本部の半分
くらいの人間を一瞬のうちにショック死させるだろう。だから僕はロンギヌスを腰打めに構えたまま、覚
悟ー!って叫びながら親分の命を狙うドスヤクザのように真っ直ぐに突っ込んだ。使徒がどんな形状で、
どんな能力かなんてどうでも良かった。ただ、僕の脳裏は殺す壊す破壊するという負の感情に支配されて
いた。僕の構えたエヴァットの切っ先が使徒のどてっ腹にめり込み、突き抜ける。そのまま僕は走る足を
止めずに、カタパルトめがけて使徒を押し込んだ。
「ミサト!」
僕の叫びに、ミサトは即座に反応した。カタパルトが緊急始動し、僕と使徒を戦いの大地へと送り出す為
に疾走し始める。恐ろしく早い速度で走るカタパルトの足場から使徒を壁に押し付ける。使徒は火花を上
げながらもがいた。僕は渾身の力をこめてめり込んだエヴァットをグリグリとさらに突きこむ。苦痛を感
じているのか、使徒は体を振って抵抗しようとした。痛みを感じるなら幸いだ。どうぞ召し上がれ、僕の
憎悪を、僕の憤怒を、僕のお前ら使徒に対する限りない悪意と殺意を。僕が風邪ひいて倒れてる隙にアス
カを虐めたこの使徒を生かしておく理由なんかこれっぽっちもない。僕と使徒はジオフロント内の草原に放り出された。
「オーケィオーケィ、ここがリングだぜ。でも残念なことにお前にとっちゃここは墓場だ」
僕はエヴァット・ロンギヌスを使徒の腹から引き抜き、思いっきり使徒を殴り飛ばして構えなおした。
ここなら思いっきりぶっ放しても街路樹がぶっ飛ぶくらいで人は死なない。思う存分、使徒をぐちゃ
ぐちゃにできる。早くも暴れだしたエヴァットを押さえつけながら、僕は獰猛に笑った。使徒は起き
上がってゆっくりとこちらに向き直る。タイマン勝負。だが僕にはもうそろそろ電池切れが訪れる。
だから僕は勝負を急いだ。一撃で、殺る。ドンっと言う衝撃と共に僕の初号機は踏み出し、大地を蹴
る。全開というには十分ではないが、今までの使徒を細切れにするには十分なだけの力を溜め込んだ
エヴァットが空気を切り裂き、電熱を撒き散らしながら振り下ろされる。それは使徒の肩口に、何の
抵抗もなくケーキにスっとナイフを入れるみたいに差し込まれた。そのまま、打ち下ろす。びじゃッ
と言う音がして、使徒の体から血が噴出した。電源は残り18秒。まだだ、時間ある限り、お前は許さな
い。僕はエヴァットを振り上げ、振り下ろす。その単純動作を18秒間黙々と続けた。ついに、電源が切
れる。エヴァットを振り上げた体勢のまま、初号機は止まった。シンクロが解除され、僕の視界が闇に
染まる。プラグ自体に備えられた定格の電源が外部モニタが捉える外の様子を映し出した。
「ふ・・・ふざけ・・・やがって」
使徒は・・・まだ、死んでいなかった。それどころか、ズルズルと音を立てながら傷を急激に修復してゆく。
僕は犯してはならない、恐ろしいミスに気付いた。コアを、潰し損ねていたのだ。
前を向いたままとまった初号機の中で、必死に操縦桿を押していた。使徒の目から放たれる光弾に
装甲はほとんど弾き飛ばされ、布のような腕で執拗なほど叩かれ、初号機は徐々に壊されていって
いる。打撃の衝撃はプラグまで伝わってきており、使徒の腕が叩きつけられる度にビリビリとプラグ全体が揺れた。
「動け、動けよ! 気合出せよ! お前の根性はこんなもんかよ! おい! おいコラぁ!!」
僕の叫びは空しくLCLに溶けるだけで、初号機に伝わっている様子は無かった。初号機は無抵抗のまま、
少しづつ少しづつ、壊される。どうしてだ。何でこんなことになった。完璧に不意をうって腹にロンギ
ヌスをぶち込み、その顔面をカタパルトで痛めつけ、エヴァットでぶった切った上に18秒間タップリ殴
り続けてボロ雑巾みたいにしてやったって言うのに、何で、こうなっているんだ? 後少しでも電源が
残っていれば、もう一度エヴァットで、今度こそこのクソ野郎をぶっ殺せるのに。ちきしょう・・・
使徒には電源切れは無縁のようで、ただ淡々と執拗に、初号機の胸にその腕をガンガンとたたきつけて
くる。電源切れに無縁? 僕の心に何かが引っかかる。電源切れしない理由・・・それは、使徒がS2機関と
呼ばれるエネルギー源を持っているからだったよな? それは使徒の細胞の一つ一つに含有されてい
て・・・無限のエネルギーを搾り出す。・・・確か、初号機の中に進入した使徒が、いなかったか?
閃きは、確信に変わる。あの痛みは忘れない。神経を引っ張り出して塩を擦り込んだかのように僕に
痛みを与えた、参号機の粘液は本体が死んだことで活動を止めた。でも、まだ初号機の中にあるんじゃ
ないのか? 僕は腹の奥に力を入れた。プラグの電源はラストチャンス。これで駄目だったら脱出も
できなくなる。博打だ。でも、ここで脱出なんて、そんな選択肢は僕には無い。僕は最後の電源を使
い切ってシンクロを回復した。自分の体の中の小さな違和感を探す。そう、ここだ、ここが痛かった。
それは心臓、S2機関は初号機の心臓にあるのだ! 腕を動かし、顎の拘束具を引っぺがす。僕は使徒
顔負けのグロい初号機の口を大きくあけて、思いっきり息を吸い込んだ。瞬間、僕の内部で熱が弾けた。
シンジの意思でS2機関(初回)発動させるって、弱スパシンFFでは初めて見たような気がする。
右手に掴んだままだったエヴァットを、初号機はきつく握りなおした。
左腕が翻って使徒の腕を掴み、引きちぎる。
それは僕が今まで感じたことがない、初号機とは思えない程のパワー。
いける。いける。正しかった。僕は正しかった。
冷や冷やさせやがって・・・さぁ、思う存分ぶっ殺してやる。僕は再び獰猛な
笑みを取り戻す。もう一本の使徒の腕を取って引っ張り、引き摺られてきた
使徒を僕の左足が思いっきり蹴っ飛ばした。びちりと音を立てて使徒の腕が
千切れる。光が灯った目にはエヴァットを突っ込んでやった。使徒が悲鳴の
ような叫びを上げる。気にしない。お前みたいなデッカイ奴に人権なんか認
めない。そもそも使徒にそんなもん存在しない。僕の仕事は何かと問われれ
ば、僕はこう断ずる。使徒を殺すことだ、と。
横なぎのエヴァットが使徒の胴体をひしゃげさせ、使徒は倒れた。馬乗りに
なり、エヴァットを振り上げる。既視感。デジャビュが僕を襲う。初めて使
徒を殺したあの夜を思い出す。この体勢になった僕は・・・無敵だ。思い出した。
最近丸くなって忘れかけていた。本来の凶暴性を取り戻して僕は咆哮を上げた。
顎の拘束具が外れている初号機は、僕に呼応して同じく咆哮した。そして始
まる、僕の時間。手加減無し。後先考えず。ただひたすらの暴力。
振り上げ、振り下ろす。それは完全に使徒が解体されるまで続く。僕は黙々と
その作業をこなした。
血だまりになった使徒の上で、僕は吼えた。吼え続けた。アスカ見てるか。
僕はちゃんとお前の仇をとってやったぞ。戻ったらちゃんと伝えよう、言葉の続きを。
だって、後で聞かせろって、お前言ったもんな。
僕は、最後に残った破片に、エヴァットを荒々しく突き立てて、初号機で歩き出した。
胸を張って、歩いた。
アスカは、嘘をついた。僕に後で聞かせてくれって言ってた癖に、聞く気がないらしい。
ただ黙って虚ろな目を天井に向けているだけだ。白い嫌になるほど清潔感のあるシーツに
包まって、身動き一つせずにじっと天井を見つめているだけだ。僕は涙を拭く気にもなれ
なかった。
「・・・んでだよ・・・」
「首を飛ばされた時に・・・神経に負担がかかりすぎたのよ。そのまま苦痛を感じたら死んで
いたわ。彼女の脳が自己防衛の為に回線を切った・・・まぁ、そう言うことよ」
「んなこと聞いてねぇよ馬鹿・・・僕が聞きたいの! ・・・いや、いい。わりい、リツコ」
「治療には全力を尽くすわ」
「治るのか?」
「さぁ? やれることはするわ」
「助けて・・・くれよ。直してくれ。アスカ直してくれよ。でないと・・・困る」
「こればっかりはね、本人次第よ」
「勝ったのに。・・・何でこんな。ちき・・・しょう・・・」
リツコが顔を伏せて肩を震わせ始めた。辞めろ、何で泣くんだ。どういう意味なんだよ。
ミサトは後ろを向いてこっちを見ない。肩が時折、ぴくりと震える。泣いてんのか?
そうなのか? なんだよ・・・まるで・・・もう、治る見込み無いみたいじゃんか。
アスカは・・・動かない。僕はぺたんと尻餅をついて・・・そして、ただ、溢れてくる涙と
空洞のようになった胸の、思った程何も感じてない自分の心に驚きながら。ああ、そう
じゃないんだ。こんなの信じたくなくて、何も考えたくないんだ。僕はアスカの耳元に
顔を近づけた。
「何・・・寝てんだよ・・・告れねーじゃん・・・僕は・・・アスカが好きだってさぁ」
涙は止まらない。こんなに泣くのは初めてだ。でも止まらないんだ。胸に開いた空洞に、
鋭い痛みがやってくる。
僕は静かに嗚咽した。こんなのってないぜ。あんまりだ。
いいねぇいいねぇ、グっとくるよー
「そこまで言うなら、起きてやってもいいわよ」
ッッ!!!?!?!?!?!ッッ アスカが普通にムクっとおきた。
僕は仰天して、ひっくり返る。アスカは僕をベッドから見下ろしてニヤーっと嫌な笑い方をした。
「はぇ?」
「やっと言ったわねシンジ」
「ア・・・アス・・・ア・・・はああああああああああああああ!?」
突然、プーっと吹き出す声が聞こえて、リツコとミサトが同時に爆笑し始めた。ま・・・まさか・・・
こいつら僕を担いだってのか!? リツコとミサトは、笑いを我慢するのが大変だったと言ってさ
らに爆笑する。「リツコったら目の前で笑い出すからバレるんじゃないかって冷や冷やしたわよ」
とかアスカまで言ってる。泣いてたと思っていた僕のこの目は節穴だった。あああああ!
なんじゃそりゃあああああ!!
「こうでもしないと素直に告んないしねー。見ててイライラしてたのよ」
なるほど・・・発案はミサトか。でも、今はもう怒る気にもなれなかった。僕はアスカに抱きついて、
オイオイ泣いた。みっともないけどもう泣かずにはいられない。ちきしょーちきしょーちきしょー!
すげー安心したら滅茶苦茶泣けてきたのだ。
アスカは、泣きじゃくる僕の頭を撫でてくれた。
まぁいつものオチで締めてゼルエル編終了。
今回のテーマはラブコメ。もしくは尼LAS。みたいなーアヒャ
カプ嫌いは読まなくていいぞw
落ちキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
tomoたんGJ!!
1レスごとのヒキがうますぎ。勉強になるなー。
つーかもしかして最後までtomoたんに付き合うつもりでいるの漏れだけか……?
見てる香具師他にいたら応援しる
とりあえず割り込みは止めようぜ。
昼過ぎまで寝るわなー(´Д`)お前らも寝れ
次は精神攻撃の回やが、コレはちょっと飛ばし気味でいくわぁ。
融合が長くなってまいそうや
お前らこんな時間までご苦労様です。
とかなんとか言いながらアタシも読んでた罠。
僕との距離も気になるが、こっちもイイな。
応援中。 三人目。
そして四人目。
俺も応援してるぜ 5人目
さらに6人目
むぐむ。タップリ七時間くらい寝た。カップ麺食ったら再開するぜ
7人目。マジな話、今カップ麺食ってるぜ。
8人目な私も読んでるよぉ〜
んまかったぜ。カップヌードルはたまに食うとかなり美味いよな。UTが来たら
多分奪い合いになってぶん殴る勢いで食った。一発目は3:15までに投下したい
マテタよー
キタ―(゚∀゚)―( ゚∀)―( ゚)―( )―(゜ )―(∀゚)―(゚∀゚)―!!
生活も、アスカとの関係も、そんなに・・・僕が想像していたほど劇的には変わらなかった。いつものよう
にガッコに行き、いつものようにネルフへ行き、いつものように一緒に帰る。いつものようにテレビ権を
奪い合うし、言い合い貶しあいもする。ただ、付き合ってると言う事実だけが変わった。勿論、恋人なの
だからそれなりにイチャつくこともあるけど、僕は大体満足だ。
そう性急に関係を深めたいとも思わない。今が楽しい。だから、いい。
このままずっとこの時が続けばいい。それは僕らの立場を考えれば難しいことだった。僕らはエヴァのパ
イロットであり、人類の脅威、僕の敵、使徒と戦わなければならない。その戦いは命が掛かった、大きな
試練だ。僕もアスカも死にかけたことは何度でもあるし、実際もう少し運が悪ければ二人ともこの世には
いない。時が経つ程に死の確率は増えていく。運の良さはいつまでも続くとは思えない。
だから使徒なんか来なきゃいいんだ。でも、それは甘い願望でしかない。
携帯が鳴る。アスカと顔を見合わせる。アスカは頷く。僕は歯を見せて笑う。退けないなら、前に出るし
かない。倒れる時は前のめりだと決めている。残る使徒はあと三つ。親父も期待してる。このまま、最後
まで生き残ることを。
「・・・使徒は残り三匹って親父が言ってた。今日やれば後二回」
「今死んだら笑えないね」
「ビビんなよ。絶対勝つぜ」
「弐号機に乗る理由・・・全部終わったら、ちゃんと話すから」
僕は頷いて、アスカを抱きしめた。もう実はそんなのどうでも良かったけど、話したいってなら聞いてやら
なきゃな? だから、負けられないのだ。
本部まで、僕らは保安部員の車で直行した。ケイジへ向かい、そこで待っていたミサトと親父とリツコに
合流する。綾波は既にプラグスーツ姿だった。僕とアスカも、すぐに着替えを済ませる。気合は十分充填
してある。アスカもビビってない。僕は深呼吸して、ミサトの顔を見た。ミサトは頷いた。僕はもうヤン
キーぶってギャーギャー言わなかった。使徒との戦いは僕の中で最初、喧嘩だった。次第に殺し合いにな
っていた。今は、生き残る為の戦だ。勝つまでやる、などとはもう考えない。一つ一つが後の無い、水際
の攻防だと自覚している。
「使徒は衛星軌道上で沈黙しているわ。今のところ手が出ない」
「衛星軌道・・・宇宙にいんのか。こっちの武装じゃ届かないな。綾波の陽電子砲ならどうだ?」
「さすがに距離がありすぎるわね。到達するまでの減衰でATフィールドを貫くだけの出力は保てない」
「けど、引き釣り出すことはできるんじゃねえのか? 降りて来たら・・・エヴァットが届くぜ」
「フィールド放射もね」
ミサトがニヤリと笑う。僕とアスカも笑った。もう怖気づくような状況でも無かったし、勝たなきゃ未来が
無いんだってこともよくわかっていた。だから、やるしかない。僕らが頷き合い、出撃する為にエヴァに乗
ろうとした時、親父が全員を呼び集めた。親父を囲むようにして僕とアスカと綾波とミサトが集まる。
リツコは親父の後ろで真っ直ぐ僕の目を見ていた。
「シンジ。残る使徒は三体・・・それが終わった時、最後の勝負となる」
「親父・・・最後の勝負って何だよ。使徒を皆殺しにすりゃ終わるんじゃねぇのか?」
「セカンドインパクトの原因・・・覚えているだろう?」
「ああ、一匹目の使徒を弄くりまわして・・・目覚めさせちったって奴だろ。余計なことしてくれるぜ、
その連中はよ。ぶっ殺してやりてぇぜ」
「そうだ。使徒は南極の地中深くに幽閉された正体不明の胎児だった。胎児は数億の時を経て未だ生
き続けていた。連中は、それを神の残滓だと考えた。そして・・・神の力を用いて人のクビキを外すこと
で・・・人類を進化させることができると、そう仮説を立てた」
「小難しいな。もうちょい噛み砕いてくれ」
「シンジ、使徒の特徴的な力とは何だ」
「・・・連中に特徴なんか・・・ああ、ATフィールドは共通してんな」
「そうだ。珍しく冴えているようだな。お前の蟻のような脳でも理解できるように噛み砕いて言うと、
ATフィールドには二種類ある。外部を拒絶する力と、内部に取り込み融和する力だ。お前達が良く知っ
ているのは、前者のほうだろう。しかし、後者の力こそやっかいなのだ。シンジ、お前は他人を理解
できるか? 心の底まで、見通し、その上ですべてを許せるか?」
「はぁ? 無理に決まってんじゃん」
事実、僕はまだアスカが弐号機に乗り続ける理由を知らない。そんなのわかるはずが無いじゃん。
だが親父は溜息を吐いた。
「そうだな、無理だ。人はお互いを理解し得ない。ただ、一端を知ることができるだけだ。でなけれ
ば戦争など起こらんだろう。人の世の数多の悲劇は起こらんだろう。問題はここだ。連中は、互いを
理解できない人類を欠陥品だと考えた。だからATフィールドのもう一つの性質を利用して・・・
人を統合しようと考えた」
「統合・・・だと?」
「そうだ。腐れた脳を薬物で永らえさせている醜悪なあの妖怪共は、それを善行だと信じている。
すべての人を一つとし・・・争い、憎しみ、妬み・・・あらゆる人類の業を無くそうと考えている。人の世の
原罪を、洗い流そうとしている。馬鹿げた話だが・・・それがこの戦いの始まりだった」
親父は皮肉な笑みを浮かべて吐き捨てた。
煙草買ってくる。
「どういうこった? いまいちわかんねぇぜ」
「金と権力を持っているイカレ爺共がキチガイ説法で世の中を救ってくださる・・・と言うことだ。
世の中は静かになるだろうな。だが、そこに人はいない。ユイが愛した人の姿は消え去るだろう。
その馬鹿馬鹿しい救済とやらの序曲が・・・使徒との戦いなのだよ」
親父は説明を続ける。要するに頭のおかしい爺が、使徒を使って人類を一つの・・・比喩ではなく、
実際に一つの生物として纏め上げることでこの世の矛盾のすべてを解決に導こう、そう言うこと
らしい。その為に地下に第一使徒が幽閉され、他の使徒をおびき寄せる餌とされている、ってこ
とらしい。でも僕にはいまいちわからない点がった。使徒を全部倒してしまったら、ATフィール
ドを発生させる元が無くなってしまわないか? 親父は苦々しげに言った。人類を一つの生物に
まとめることに成功したとしても、その後に使徒という脅威が残ってしまったら意味が無いだろ
う、と。なるほど、そう言うことか。
「使徒を倒さねば人類に未来が無いこともまた、確かな事実だ。だから私は敢えて連中に取り入
り、ネルフを創設した。人に仇なす使徒を駆逐する、その為にな。だが、それが成った時・・・連中
とは袂を分かたねばならん。わからんかシンジ、使徒以外にもATフィールドを発生させるものがあ
るだろう」
「・・・エヴァ、か」
「そうだ。最後の使徒を倒したその時、ゼーレのエヴァはやってくる。初号機と、お前を受け皿と
した補完計画を遂行する為に」
「途方もねぇな。わけわかんなくなってきたぜ」
「シンジ、使徒を倒せ。負けることは許さん」
「何で今そんな話をしたんだ、親父。なんで最初にいわねえんだ」
「ろくでなしの不良息子に話せる内容か。だが、今なら・・・もう大丈夫だろうからな」
親父はちらりとアスカを見た。そして、口元を歪めて笑った。ちっ 何だよ。もう知ってんのか。
少し照れ臭かったが、僕は頷いた。アスカと、綾波と顔を見合わせる。まぁ、OKだ。戦いの背景なん
て、僕ら前線の兵士は知らなくたって問題ない。でも、知ってたほうがモチベーションは上がるのだ。
必ず勝つぜ、と声をかけて、僕らは駆け出した。
わり、ちょっと休憩する。テンション上げてくるわ
モニタの中の零号機が、長大な陽電子砲の引き金を引く。第五使徒の時に僕が使用したあの砲弾は、
真っ直ぐ空に向かって突き進んだ。雲を切り裂き、宇宙で漂う使徒めがけて、光の帯は収束する。
だが、使徒に到達することのできた光の束は、大気で拡散して弱弱しい威力しか発揮しない。使徒
が展開したオレンジの壁に阻まれ、四散してしまう。
僕はエヴァットを握りなおして舌なめずりした。さぁ、来い。挑発されて頭にきただろ? 僕らの
エヴァがちょろちょろしてんのにムカついてくるだろ? 来い、来い、喧嘩売ってきやがれ!
しかし、使徒は微動だにしなかった。あてが外れて僕はエヴァットを降ろす。アスカも首を傾げた。
「・・・こねーな」
「んー・・・ファースト、もう一回やってみたら?」
「弾切れ」
「ああ、一発しか撃てねーしな、それ。なんだよ、今度の使徒はえらい根性無し・・・ん?」
突如、ぼんやりした光が初号機と弐号機が立つ迎撃ポイント付近を照らした。太陽は反対側だ。綾
波が雲を散らしたからって、こんな光るはずがない。これは・・・僕は思いっきり弐号機を突き飛ばし
た。そして、いきなりの衝撃。脳髄をシェイクされたような頭痛を感じて僕は叫んだ。
「があああああああ! んだよこれぇ!」
辺りを照らす光が、僕と初号機に収束し、僕は脳に直接指を突っ込まれているかのような嫌悪感を
感じてうずくまる。エヴァットを取り落とし、頭を抱えて唸る僕の元に弐号機が駆け寄るが、僕は
右手でその弐号機の動きを制した。
「気持ちわりーけど、平気だぜ。なんだコレ? 使徒から来てんだよな・・・?」
これが使徒の攻撃だとしたら随分セコい。気色悪いのは確かだが、別に耐えられない程じゃない。
徐々に慣れてきた僕はエヴァットを拾い上げる。だが、その時だった。僕の脳裏にフラッシュバッ
クする幾多の光景。僕は絶叫した。
波の音。静かな嗚咽。声を殺して泣く親父。
「人殺し!」
ばーちゃんが親父をバッグで殴る。何度も。じーちゃんは泣き崩れて呆然としている。親父は何も言わ
ない。ただ、「申し訳ありません」と繰り返す。涙も拭かず。僕には何が起こったのか、まだわからな
い。ただ、ばーちゃんの泣き喚く声と、じーちゃんの擦り切れてしまったような姿、そして親父の力な
い嗚咽に不快感を感じていた。
「シンジは・・・私達が育てます。あなたに任せるなんて・・・できません」
唐突に場面が変わる。親父は正座して、真っ直ぐばーちゃんを見ている。そして、「シンジを、よろし
く頼みます」と言って深々と土下座した。じーちゃんはただ、それを黙って見ている。僕はオロオロと
ばーちゃんと親父を見比べて、ただ困惑していた。誰が母さんを死なせたんだ? 結局そこは曖昧で、
僕はただポロポロ涙を零すことしかできなかった。また、場面が変わる。ドンといきなり突き飛ばされ
て、僕はドロの中に倒れた。
「知ってるんだぜ。お前の親父って母ちゃん殺したんだろ?」
「人殺しの子!」
違う、そうじゃない。親父は、助けたかったんだ。僕が幾ら叫んでも薄ら寒い笑いを貼り付けたそいつ
らは、僕を嘲笑する。汚い、臭い、学校に来るな。そんな言葉が僕を切り裂き、痛めつける。辞めろ、
こんなの思い出したくない。教室中の瞳が僕を忌避する視線で貫いていた。僕はただ、歯を食いしばっ
た。そうするしかできないと思っていた。親父が憎かった。どうして、なぜ? どうして僕は、こんな
酷いことを言われて、殴られて、蹴られて、責められなければならないんだ? 誰も助けちゃくれない。
みんな薄く笑ってみているだけだ。いいとも、そう言うつもりなら。僕は泣くのは辞めた。
そして椅子を掴んで振り上げた。
また場面が変わった。僕は三人の先生に押さえつけられていた。もがいても、動けない。視線の先で血の泡を吹
いている同級生の少年がびくびくと痙攣しているのが見える。僕は笑った。ざまぁみろ。ざまぁみやがれ! 僕
を責めさいなむ一切を僕は否定してやる。誰も助けてくれないなら、全員ぶっ殺してやる。その日から僕は変わる。
ばーちゃんは泣いた。じーちゃんは怒った。でも、僕は僕を守る為に、その為に変わることにした。僕を虐めた全
員に血の泡を吹かせてから、誰も僕に近づかなくなった。僕は虐められなくなった。かわりに誰にも相手にされな
くなった。孤独が、僕を押しつぶす。でも僕は泣くのを辞めた。泣いたって何にも解決しない。辛いまま。だった
ら誰かを足蹴にしてでも、傷つけてでも、僕は前に進む。
「何でこんなもん見せるんだ・・・」
呟きに応える者はいない。ただ、映像は脳裏で繰り返し上映される。血に酔った自分の醜悪な姿を、孤独を誤魔化
すように他人を傷つけ続ける僕の姿を。アスカに言った言葉のすべては、アスカが感じたほどに立派なもんじゃな
い。相手を傷つけることを恐れたら、自分が傷つけられるから。だから僕は傷つけることを恐れない。何者にも屈
しない為に。僕は狂犬だった。
「今は・・・違う」
「でも、昔はそうだった。てめぇの本来は、狂犬だ。何を猫被ってんだ? シンジちゃんよ」
顔を上げる。目の前には僕がいた。小学生の頃の僕がそこに座っていた。嫌な笑みを浮かべて、頬の返り血を舐めている。
「大人しくなっちまってまぁ・・・情けねぇ。あの時の気持ちは忘れちまったんか?」
「黙れ、クソガキ」
「またみんなに無視されるぜ? また一人になっちまうぜ? アスカはお前に殴られるのが怖くてしたがってる振りし
てるだけだ。気付けよマヌケ。何浮かれてやがんだ? 笑えるぜ」
「うるせぇ」
「親父だってよーホントはお前みたいなクソが自分の息子だなんて信じたかねぇんだ。だから使徒との戦いで死んじま
わないかって思ってんだ。それをお前って奴はいいように解釈してまぁ・・・幸せな野郎だなぁ?」
僕がどんなに否定しても、そいつは僕の退路を絶つように言葉を続ける。僕は耳を塞いだ。もう何も聞きたくなかった。
こんな時、僕が今までやってきたことは。簡単だ。だから僕は前を向いた。後ろには下がらない。顔を
上げた。不愉快なその野郎の面をめがけて、硬く硬く握り込んだ拳をぶちこむ。ぐにゃっとした感触が
して、小学生の僕は泥のようにずるずると溶けた。ああ、そっか。僕は唐突に理解した。なるほど、こ
れが使徒の攻撃なんだ。
途端に怒りがむくむくと沸き上がる。人の過去を覗き見た上に、それをネタに嫌がらせしてきやがるな
んて、恐ろしく陰険な野郎だ。今まで色んな使徒と戦ってきたが、ここまで嫌悪感を掻きたてられたの
は初めてだった。僕の背後にまた小学生の僕がズルリと地面から現れる。
「いきなり殴るなんて、やっぱりてめぇはシンジだなぁ。キャハハハ! ようやく認めたのかよ?
テメェは・・・」
「狂犬、だろ」
小学生のシンジの顔が強張る。僕は久々にヤンキー丸出しのいやらしい笑みを浮かべた。腹の底から湧
く怒りが僕の視界を真っ赤にしていた。使徒は僕を甘く見すぎた。僕は使徒が言うように狂犬野郎であ
ることに間違いない。でも、それを恥じたり、負い目に感じられるようななよっちい性格ではないし、
そんな良心的な何かはとっくに擦り切れてしまっているくらいには摩れていた。思春期真っ只中の中学
生じゃあるまいし、過去を責められたところで何がどうだって言うんだ? そんなのもう仲間うちじゃ
ネタにだってできちまわー! この、ボケがっ! 何がトラウマだ。そんなもん開き直っちまえば傷で
も何でもねーんだよ! 僕は凶暴に笑いながら、二つの拳を握りこむ。
「舐めたこと色々言ってくれたなーお前よー。ガキだからって手加減する僕だと思うよぉ? あぁん?」
「・・・てめぇは狂犬・・・」
「ひゃひゃひゃひゃ! そりゃあ僕らの世界じゃ誉め言葉さ!」
視界が一気に開けた。僕はプラグの中で頭を抱えた状態で、初号機は弐号機に抱きすくめられていた。
「シンジ、シンジ、シンジィ・・・返事してよぉ・・・」
「メソメソすんなーボケー! 使徒の野郎・・・舐めた真似してくれやがって・・・アスカどけ!」
「シンジ! 無事なの!?」
「あったりめーだ! こんなもんで僕がどうにかなるか!」
僕はエヴァットを手探りして探す。あった。そしてそれを掴み、大きく振り被る。バットを振
る時の構えではなくて、槍投げの選手のように構えた。今こそ、このエヴァットの真の必殺技
を見せる時だ。リツコに聞いていた通りに、エヴァットの柄の底を押し上げる。ジャコンと音
がして、エヴァットは変形し、二又に割れた槍のような形状となる。僕がこの機能を切り札と
し、今まで使ってこなかったのには理由がある。一端投げたら宇宙まで飛んでいってしまうか
らだ。これだけの質量のものはもう回収不可能となってしまう。エヴァットはそうそう量産で
きるような代物じゃない。だから、とっておきだ。
でも、使ってやる。あのヘタレ使徒は下に降りてきてタイマン張るどころか、衛星軌道の隅ッ
コでチマチマ人の弱点をちくちくする陰険で嫌な野郎だ。絶対生かしちゃおけない。僕はいい、
でも、今のをアスカが食らったりしたら。アスカは根性が無い上に僕と違ってそれなりの善人
だ。だからきっともっと酷いことになる。あらゆる意味でその使徒の存在を許せない。
「いくぞオラー!」
僕はとんとんと三歩下がり、思いっきり前に走りながらエヴァットと投擲した。エヴァットは
文字通り大気を切り裂きながら一筋の銀の閃きとなって疾走する。使徒が動き始める。でも、
もう無駄だ。遅すぎる。一度投げられたエヴァット・ロンギヌスを止めることなんてできよう
はずもない。ATフィールドを紙のように貫いて、エヴァット・ロンギヌスは使徒を粉々に吹っ
飛ばした。僕は歯を見せて獣のように笑った。
「ギャハハハ見たかコノヤロ、あの世で反省してこい!!」
必殺の一撃は、さっきまでの気分の悪さごと、宇宙まで吹っ飛んだ。
僕が精神的に被った苦痛以外、被害はゼロと言う、実にネルフ始まって以来のことにミサトも親父もそれなりに僕を誉めた。
エヴァット・ロンギヌスを無くしたことで一時的に戦力は落ちるが、第3世代エヴァットがまだある。ロンギヌスには及ばな
いものの、使徒を叩き殺すには十分な威力だし、弐号機も零号機も無傷なのだ。最後の戦いの前に消耗は避けたいネルフとし
ては、今回の戦いの結末はまずまずの戦果だったといってよかった。
僕はみんなの前で体験したことを話した。昔のことを見せられた、と言う話をしている際に、親父は少しだけつらそうな顔
をしたが、僕は全然気にせず続けた。親父もそろそろ開き直って忘れるべきだからだ。リツコが、怪訝そうに首を傾げる。
「使徒にそんな高度な思考があるとは・・・わからなかったわ。使徒は人を知ろうとしているのかしら」
「しらねえよ。使徒に聞け、そんなもん」
「細切れにしといて聞け、は無いわ。もう少し、詳しく話してくれるかしら?」
「ヤダ。昔のことは親父に聞きな。母さんが死んだ瞬間に横にいたのは医者だった親父なんだぜ?
僕はあんま詳しく覚えてねえし思い出したくもねぇよ」
「そう。まぁ、いいわ・・・エヴァット・ロンギヌスの件だけど」
「もう1本作れるか?」
「三ヶ月あれば」
「・・・それまでに後二匹、来なきゃいいんだけどな」
アスカが僕に駆け寄って、そのままの勢いでタックルするように抱きついた。僕は頬を緩めてそれを受け止めた。
「いきなり頭抱えて気絶するから・・・何かと思っちゃったじゃない」
「クソ使徒におもしろくねぇビデオ見せられたのさ」
「あんま心配させんなよッ」
「はは、わりぃな」
残る使徒はあと二体。今日は無事に済んだ。次も、その次も。そして、最後まで、僕は生き残る。
僕はアスカをきつく抱いた。アスカは小さく悲鳴を上げた。
「ったッ・・・ちょ、痛いわよシンジ・・・」
「ああああああ! あの使徒のこと思い出したら腹立ってきたー!!」
「いたた、痛いって!」
「ちきしょー好き放題言いやがって僕が好きでいじめられてたとでも思ってんのかボケがー!」
「いーたーいー!」
僕はぶんぶんアスカを体を振り回しつつ、次も絶対に勝つんだ、と自分に言い聞かせた。
精神汚染編 完
おっつかれい
おもろおもろ
ここではリアルロンギヌスは出てきてない設定なんですな。
あとは融合と渚か。渚をどうするかが鬼門やね。
それにしてもこの話、冬月の影がめちゃくちゃ薄いなー。
第一話に相当する部分で名前だけ出てきただけだわ。
別に何かの役に立つわけじゃないから、いいんだけど。
新作キターー!!
>>174 オペレーターズはさらに薄い。
このシンジ君だと力ヲノレ君が笑顔でアスカに挨拶しただけでズタボロにしそう。
おはよう諸君。さて、一気に突っ走りますかね?
>>174ー175
主人公のシンジが名前覚えてないからな。
朝から更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
今大体、400字詰め原稿用紙270枚程。300枚ちょい超えくらいにはなるな。
単行本一冊分くらいやな。アヒャヒャ
では、30分以内に本日一発目投下ヨテーィ
私はベッドの上で静かに目を覚ました。体を起こし、あたりを見回す。いつもの、殺風景な私の部屋。どうにか
しようとは思わない。部屋を飾ることと、私が心地よさを感じることとは関係が無い。だから私は部屋に何一つ
女らしいものを発見できなかったとしても、平気なのだ。私は欠伸をかみ殺さず、大きく口を開けて空気を吸い
込んだ。心地よい。寝汗でベッタリした髪が頬にまとわりつく。不快。シャワーを浴びなければ。清潔さにそれ
程の執着は無い。でも、身体の不快さを放って置く理由も無い。
湯の温度は熱めが好きだ。心地よいから。熱いシャワーの流れが私の体を荒々しく撫でる。その感覚は私が土で
出来た泥人形であることをしばし忘れさせる。髪にまとわりついた汗の匂いの不快感を、洗い流す。シャンプー
でわしわしと髪を洗い、リンスは面倒なのでしない。湯を止めて濡れた髪の水分を手で掻き揚げて飛ばす。よう
やく、完全な覚醒が訪れる。目が覚めたってこと。
曇りかけた鏡に、赤い瞳の女が移る。これは私の姿。綾波レイという記号で表現される、泥人形の識別子。濡れ
た髪から、もう冷めた湯が湯気となって立ち上っている。今日は学校には行かない。碇シンジとの約束がある。
私の真実を話す、その日が来た。碇ゲンドウは承認した。だから、話さなければならない。セカンドチルドレン
も来るだろう。彼らは私をどんな目で見るだろうか?
いいえ、構わない。私はこういう存在だ。泥から生まれ、彼・・・ゲンドウの妻の姿を模したエヴァに連なる眷属。
私の名は綾波レイ。それ以上でも、それ以下でもない。
やはり、碇シンジはセカンドを伴っていた。後ろにいるのは赤木博士と葛城作戦部長。そう、作戦部長にも知らされて
いなかった気がする。ついでだ、構わない。私は私の生まれた場所へ、四人を誘った。赤木博士が不愉快そうに顔を歪
める。彼女は私の秘密の一端を担っている。秘密が明かされれば、作戦部長は博士を責めるかもしれない。それは容易
に想像できた。そして赤木博士にとってそれは辛いことだ、と言うことも。しかし、私は私の存在を全く肯定して止ま
ない赤木博士を尊敬する。だから赤木博士の味方となろう、そう思っていた。
「綾波よぅ・・・こんな地下で一体何を見せようってんだ?」
「ショッキングな事実。気絶しないでね・・・」
「うお・・・お、脅すなよ。おめぇのその陰気な面は洒落になんねんだよ」
「陰気じゃないわ。元々、こういう顔・・・この扉の奥よ」
「・・・なんだよ、これ」
開かれた扉の奥には、私と同じ姿をした次の私候補達がLCLの水槽で漂っているのが見えた。ただいま、姉妹達。魂の
無い泥人形達。心の中でご挨拶。驚いた碇くんの声に、一斉に振り向く幾多の綾波レイ。セカンドが喉の奥で悲鳴を
上げる。作戦部長が息を呑んだのがわかった。
「これは・・・なんだ」
「私が死んだ後の代り。何度も言ったわ・・・私には、代りがいるもの」
「これがその事実の答え・・・ってか」
「そうよ。羨ましい?」
「・・・いや、あんまり」
愕然とする碇くんとセカンドと作戦部長を、赤木博士が悲しげに見ていた。
私はここで産声を上げた。その経緯は赤木博士が詳しく話した。私はエヴァを生産するその余剰資源によって
作られた。本来、私には漂う姉妹達と同じように魂のない、人と同じサイズのエヴァとなるはずだった。エヴ
ァを動かす為の基幹ユニットとして。しかし、碇ゲンドウの中途半端な想いが、私と言う魂の形を作り上げる。
彼は何しろ善人だった。だから使徒を倒す、というその目的に徹しきることができなかった。
「司令は・・・ただの泥人形を作ることに罪の意識を感じていたのよ。非人道であることに間違いはないもの。だ
から、レイに心を与えようとした。彼の奥さんの遺伝子を使ってね? でも、それは彼に新しい苦悩を刻み付け
ただけだった。そうして生まれたのが・・・レイよ。LCLがある限り、幾度でも蘇る・・・不死の娘」
「・・・さすがにちょっと引いたぜ。代わりがいるって、こういうことだったんか」
「そうよ。かっこいい?」
「いや、ビミョー」
「そう・・・見解の違いね」
セカンドが、水槽に触れた。魂の無い姉妹の一人が、その手にガラスごしに手をあわせる。セカンドはただそ
の姉妹の裸体を見つめている。エッチな奴。・・・でも、セカンドは涙を零す。
「エヴァ・・・なのね、ファースト」
「!・・・セカンド、あなた何を知っているの」
「ファースト。アタシはアンタと似てる奴を知ってる」
「・・・弐号機?」
「ええ」
驚いた。私と博士は目をまん丸にして顔を見合わせる。碇くんは頭の上にはてなマークを浮かべて口をぽかん
と開けていた。葛城作戦部長・・・ここは私にとって厳粛な場所なのに、何でビール飲んでるの・・・。あの人、あ
んまり好きじゃない。私はセカンドに向き直った。そう、彼女は私と同じ存在を知っていた。
「おいおいおい、話し見えねッ 僕をほったらかしにすんなよ」
「碇くんは寂しがり屋なのね・・・」
「うっせぇ、鼻で笑うな馬鹿。で、どういうことだアスカ」
「シンジ・・・全部終わったら話すって言ってたけど・・・」
セカンドがぽつぽつと語りだす。彼女が弐号機の声を聞いたのは初めてシンクロした日だったそうだ。
父母を事故で亡くし、里親になじめなかった10歳の彼女は、呼べば応えてくれる弐号機とすぐに打ち解
けた。弐号機は声なき声で、シンクロしているセカンドに語りかけた。何もかもを失っていたセカンドに
とって、それは彼女だけの、唯一の何か、だった。セカンドの弐号機への執着は十歳頃から唯一の話し相
手としていた弐号機への仁義だったのである。私は後ろからセカンドを抱きしめた。
「寂しい奴ね・・・」
「ほ、ほっといてよぅ」
「あー・・・なーるほどなぁ。でもよーそんな隠すことだったのかよそんなもん」
碇くんが小指で鼻をぐいぐいほぜくり返しながら私とセカンドの一大告白を切って捨てた。この少年は非
常に度量が大きいのか、それとも了見が狭くて短気なのかよくわからない。私は彼のこういうところが不
愉快に思う。雰囲気台無し。碇くんはゲラゲラ下品に笑った。葛城作戦部長はぐいぐいビールを飲みなが
らなぜか感動したとでも言わんばかりうんうん頷いている。ああ・・・私は急に理解できた。赤木博士が悲し
そうだったワケが。
「なぜか話して損した気がするわ・・・」
「まー何か普段から使徒とか見てるとな。ちょっとやそっとじゃ驚かんわな」
碇くんは一通り笑ってから、少しだけ真面目な顔になった。
「何かよー・・・何でもかんでも使徒のせいだよな。でもよー逆に考えるとよー・・・使徒がいなかったら
綾波は生まれてねぇ。アスカも日本来てねぇだろうなぁ。そう考えるとよー・・・何か変な気分だよなぁ?」
私は驚いて目を見張った。同情されるか、それとも恐れられるか。私はそう考えていたというのに、神妙
な顔でうんうん頷く碇くんはどこまでも前向きに物事を捉えていた。そして能天気に笑い飛ばしてしまう。
呆れた・・・それなりの決心で話した私は、気が抜けて思わずつられて笑ってしまった。
「人形は笑わない」
葛城作戦部長が、静かにそう言った。そしてビールの缶を握っていない手で、私の肩をポンと叩いた。
「何でも平気そうな顔しなくたっていいわよ。あんたのこと人形だと思ってる奴なんかいないし。それに、
シンちゃんの言う通りよ。前向いてれば・・・そんなに悪くないわ。最近ね、ビールが不味くなるようなこ
とは考えないようにしてるの」
そう・・・気付いてたのね。私は肩を落とした。ただの強がりであることはわかっていた。私は私。じゃあ、
水槽の魂の無い姉妹達は?結局、私だけが魂を持ち、感情を持ち、そしてこの生を甘受している、と言う
負い目からは逃れられない。敢えて感情を廃し、人形足ろうとしたのは私の姉妹達に対する仁義の気持ち
だった。それに重荷を感じていたこともまた、事実だ。
碇くんとセカンドの仲睦まじい様子を見るにつけ・・・妬ましさに気が狂いそうになる。隠し切れない感情
の振幅。私は涙を堪えきれなくなって、下を向いた。赤木博士がそっと私を抱きしめた。私は博士に抱き
ついて、泣いた。
その時、全員の携帯電話が鳴る。碇くんが歯をむき出しにして笑う。
「どうやら、フィナーレは近いようだぜ? お前らミスんなよ」
私達は一斉にうなづいた。
綾波の真実、アスカの理由、それらは僕のモチベーションを高めてくれた。前の使徒から二週間。
今日を凌げば、恐らく一ヶ月以内にすべてのケリがつくだろう。自分の言葉通り、フィナーレはす
ぐそこに迫っていた。すべてを上手くまわすには、勝利することが絶対の条件だ。僕はプラグの操
縦桿を握り締め、深呼吸した。もう僕はただのヤンキー野郎ではなかった。未来を勝ち取る為に戦
う、誇り高き戦士の血族なのだ。
涙で赤い目がもっと赤くなった綾波は、自分が人ではないことが負い目になっていた、と語った。
でも、僕には綾波はちょっと電波系のただの女にしか見えない。だから、泣く綾波を引っ叩いて気
合を入れてやった。僕が考える人間の条件は、人間であろうとするその心なのだ。だからドラクエ
のホイミンだって人間になれたじゃないか。あんなくらげみたいな足の生えたぶよぶよスライム野
郎ですら人間になれるのに、どこから見ても人間な綾波がそれについて悩むなんてホイミンに失礼
過ぎる話だ。人間ぶってりゃいいのだ。自分が何者か決定するのは他者なのだから。僕らにできる
のは、こうあろうと自分を定義づけ、そしてその為に振舞うことだけだ。
初号機の心臓がドクンと鼓動する。S2機関に火が入る。第3世代エヴァットがばりばりと荷電し、
紫電を弾かせた。
「ちょっと、ケイジの中でエヴァット起動させないでよ!」
「うるせー! 早く出しやがれ! 気合が漏れるだろうが!」
「ちゃんと作戦通りやんのよ? エヴァ全機、出撃!」
僕らはカタパルトに乗って、地上へ疾走した。
光り輝く輪。それが今回の使徒の姿だった。まぁどんな姿だろうが関係ない。使徒はすべて僕の敵だ。
綾波の敵で、アスカの敵でもある。ついでに人類の敵だ。倒すべき、不倶戴天の。使徒と共に天下を
仰ぐことはできない。眠っている連中を起こしたのは確かに僕ら人間の眷属だ。しかし、牙をむく限
りにおいて彼らに手心を加える余地は全く無かった。僕は僕の牙・・・エヴァットをむき出す。アスカは
今日は武器を持っていない。彼女の武器はATフィールドそのものだからだ。そして、使徒の形状から
命中させるのが難しいという判断をされた綾波はアスカの代りにソニックグレイブを持っていた。
「ここで被害を受けるわけにはいかないわ。初号機はS2機関があるけど・・・零号機と弐号機が大破すれ
ば次の戦いには間に合わないと思いなさい。いいわね、無傷で帰ってくるのよ」
ミサトはいつものように無茶なことを平気で言う。よく言えば豪胆。悪く言えば本当に馬鹿だ。しか
しその馬鹿さは嫌いじゃない。できない、無理だと最初から言うのは僕らの流儀に反した。アスカが
低く腰を落とす。綾波が日本刀を腰から下に構えるようにソニックグレイブの切っ先を静かに落とす。
「いきますか」
「短期決戦よ。アタシは右からいくわ」
「綾波はバックアップ・・・」
「いいえ、私も行くわ」
何時になく熱くなっている綾波とアスカを、僕は思いっきり抱きしめたくなった。よし、勝ったら二人
とも後で髪の毛くっちゃくちゃになるまでナデナデしよう。僕はエヴァットを振り上げた。
「作戦開始!」
ミサトの掛け声。僕らは走り出した。
いいねいいね。燃え燃えですな。
輪だと思っていた使徒は、輪のようになっていた光の帯だった。空中を踊る蛇のように、使徒は素早く
その鎌首をもたげた。
「ウロボロスの輪・・・ってわけ」
「何だそりゃ?」
「ギリシャ神話の蛇よ。自分の尾を咥えて円環状になるの・・・無限を暗示して」
「はッ・・・じゃあ、自分の尾っぽ離しちまったアイツはもう無限じゃねぇってこった。望み通り、くれてやるぜ」
死という終わりをな! 僕は紫電するエヴァットをひゅんひゅんと振り回し(かっこいいエヴァットの運用をアス
カと練習したのだ)そのまま腰溜めにエヴァットを振りかざす。居合い抜きのような一閃が使徒を襲った。だが、
使徒はその細い身をくねらせてエヴァットの切っ先を避ける。にゃろ、生意気な!
「アスカ!」
「わかってる! ぬぅぅん!」
ATフィールドの範囲放射が突っ込んでくる使徒の頭を押さえつけ、吹っ飛ばす。しかし使徒は空中に浮いており、
その手の衝撃を跳ね飛ばされながらも体をくねらせて受け流した。そして衝撃の間隙を縫うように再び迫る。僕は
エヴァットを横なぎにして使徒の鎌首を払った。くそ、当たらない! 使徒は僕の一撃を簡単に避けて通り過ぎ
る。僕もアスカも慌てて振り返って互いの武器を構えなおした。綾波がソニックグレイブを振って使徒を追撃する。
その一撃が始めて使徒の体に掠った。使徒の細い筒状の輝く肌から、赤い血が一瞬しぶいた。だが、その傷はすぐ
にふさがる。やっぱコアを潰さないと勝てないか!
でも、僕ら三人は徐々に使徒の不規則で素早い動きに慣れつつあった。このまま追い詰めれば勝てる。そう確信
を持ったその時だった。油断したつもりはない。ただ、いきなり突っ込んできて目の前をそのまま素通りした使
徒の不可解な動きに対応できなかったのだ。使徒が狙ったのは、もっとも動きが遅い零号機だった。振り向いた
ときはもう遅い。綾波の零号機に、使徒の体が突き刺さっていた。
「キャアアアアアアアアア!」
綾波の悲鳴。僕は迷わず使徒の尻尾にエヴァットを叩き付ける。ぐちゃりと使徒の体の一部が折れ曲がった。
「綾波、そのまま抑えてろ!」
もう一撃! そう思った時、弐号機が僕を突き飛ばした。何しやがる!? 僕が驚いて起き上がると、アスカ
が泣きそうな顔で叫んだ。
「駄目! ファーストが・・・」
僕は目を剥いた。使徒が再生していく代りに、零号機の足が萎え、縮んでいくのがわかった。使徒は、綾波の
零号機から組織を奪っているのだ。そして、それは零号機を人質にされたのと同義だった。使徒はそのままで
はこちらに攻撃できない。しかし、その無防備な使徒を叩けば、繋がった零号機から組織を奪われ、再生され
る。すべてを奪われた零号機がどうなるかなんて考えたくもない。ろくなことにならないのは確かだからだ。
ちきしょう! 僕は操縦桿を殴りつけた。この間といい、今回といい、姑息な手を使いやがって!
綾波が苦しげにうめく。どうすればいい? どうすれば倒せる? この姑息な使徒野郎! 僕は回線を発令所
と繋いだ。
「リツコ! どうなってる!? 零号機はどうなってんだ!」
「侵食されているわ。このままでは・・・危険よ!」
「侵食・・・だと? 参号機みたいになるってことかよ!?」
「状況はもっと悪いわ。組織融合が始まっている・・・レイごとね」
「どういう意味だ」
「レイが使徒になるってことよ・・・」
ふざけんな! 僕はエヴァットを地面に叩きつけた。しかし、どうすることもできなかった。僕が使徒を構わず
倒せば、綾波は結局死ぬ。ほおっておいても死ぬ。僕は唇を噛んだ。
腹にめり込んでくる感触。不思議と痛くない。ただ、太い鉄串をつきこまれているかのような不快感が
私の顔を歪ませる。お腹が熱い。初号機が使徒の尾を叩き潰すのが見えた。突然の激痛に私の背中が海
老ぞる。足の感覚が消えた。痛みはきえたが、恐ろしく不安を掻き立てられる喪失感に、私はむせび泣いた。
「・・・くッ・・・」
意識が飛びそうになる。私は必死でそれを堪えた。発令所と碇くんがなにやら叫んでいるのがわかる。
けど、内容を理解できるだけの余裕が私には残っていなかった。私、死ぬの? でも平気。私には代わ
りがいるもの。私が死んでも、姉妹達の誰かが私の思いを、記憶を継ぐだろう。そして私と言う存在は
続く。私は不死を運命付けられた生命だから。
だが、今のこの意識はどうなるのだろうか。私が私を自覚したのは、前回の私が死んだ次の日からだっ
た。どこか他人のもののような、ビデオのような記憶に戸惑った覚えがある。私は前の私ではなかった、
と今更ながらに気付く。私は死んで生まれ変わる。だが、それは純粋な意味での再生ではなく、生まれ
変わる、と言う別の意味を表していた。
私が死んでも代りはいる。でも、私はいなくなる。突如襲ってきた喪失の恐怖が私を貫く。怖い。涙が
零れた。
誰かがそっと私の背中を抱いた。それは私自身の姿をしていて、そして優しく語り掛けてくる。
「一つに、なりましょう?」
それはおぞましい使徒の声だった。
辺りは暗く閉ざされた湖だった。私の意識は唐突に覚醒した。私と、もう一人の私は腰まで水に漬けて向かい
合わせにたっていた。もう一人の私が、腕を差し出す。そして私を優しく抱きしめる。
「一つになりましょう。それはとても気持ちのいいこと」
「あなた、使徒?」
「いいえ、私はあなた。あなたは私。ほら、繋がっているもの」
「私は・・・あなたじゃない」
「だって、繋がっているのよ? だから私はあなた、あなたは私」
壊れたラジオのように、その言葉を使徒である私は繰り返した。胸の底から沸き上がる不快感と嫌悪感が私の顔
を酷く歪ませているのがわかる。私の不愉快が理解できず、使徒は首を傾げた。
「どうして、嫌がるの? こんなに、こんなに気持ちいいのに。暖かいのに」
「私はあなたじゃないもの。あなた、知らないのね」
私は使徒である私の首を掴んで締め上げた。自分の首にも痛みが走る。侵食されつつあるのか、彼女の痛みは私
の痛みだった。だが、私は構わず締め上げた。
「本当に心地よいこと、知らないのね」
「ア・・・ア・・・ヤ メ テ」
「生きてる、実感が無いのね」
「グ・・・ア・・・ガ・・・」
「あなた、使徒だもの。人であることなんて、わからないわ。だから」
一つにはなれない。もう一人の私が私を突き飛ばす。息苦しさから開放される。しかし私の不快感は増すばかりだ。
私と一つになろうとする使徒に、嫌悪以外何も感じない。私はヒトだった。シトじゃない。闇雲に、自分勝手に、
他者を取り込もうとする使徒に人の感情なんか理解できようはずが無い。私が私であるが故に、喜びも、悲しみも、
怒りも、すべての感情を私のように感じることができる。誰かと一つになるなんて真っ平だった。それは私以外の
何かだから。私はそこにはいないから。
使徒である私は恐ろしい表情で私をにらみつけた。眼窩の奥が黒に染まり、醜く、おぞましい人に
似た何かに変容する。
「あなたは、イラナイ」
使徒の思考が流れ込んでくる。使徒は拒絶する私ではなく、別の獲物と一つになろうと考えていた。
そして、使徒の思考の中に碇くんの顔が映る。セカンドの顔も映った。私の記憶を読んだ使徒は、ニ
ヤリと笑う。一つに融合しようと考える。私は叫んだ。そんなことはさせない。あなたはここで死ぬ
の。私は不死の娘、この身は滅びても、次の私が後を継ぐ。だから、あなたは逃がさない。
私の想いに、使徒は身をよじって逃れようとする。だが、私はそっと使徒の体を抱きしめた。
恐ろしく嫌な予感が僕の脳裏にひらめいた。零号機のATフィールドが反転し、収束していくのがわかっ
た。これは、親父の言っていたもう一つのATフィールド? 綾波が積極的に使徒を取り込みはじめる。
使徒は金属が擦りあわされたような奇怪な悲鳴を上げた。徐々に零号機の腹が膨れ上がっていく。使徒
を積極的に取り込む? そうすることで、使徒を倒す方法、それは・・
自爆以外に僕は思いつくことができなかった。
「綾波!!」
僕は走った。間に合え! どうか、間に合ってくれ。綾波の馬鹿が余計な根性を出す前に。
碇くんが、もう少しですべて私の中に取り込めるだった使徒の体を掴んで引っ張った。私のATフィールドは
碇くんの初号機のS2機関が搾り出す恐ろしく凶暴な力に引き裂かれ、破壊された。使徒がニヤリと笑った。
駄目、碇くん・・・。
使徒を掴んだ手に違和感が走った。血液が逆流するかのような恐ろしく気色悪い感覚に僕は思わず悲鳴を上げ
た。その感覚は徐々に僕の指から、手の平から、上へ、上へ、僕の心臓を目指して上ってくる。余りにもおぞ
ましい感触。僕の背中を誰かが静かに抱く。やめろ、そんなことしていいのはアスカだけだ。僕は怒りの咆哮を上げた。
このまま自爆すれば、碇くんを巻き込んでしまう。どうすればいいの? 私はもうわからなくなって混乱した。
いつの間にか使徒の姿は消えていた。碇くんの元へ行ってしまったのか。セカンド、お願い、今はセカンドしか
自由に動ける人がいない。助けて・・・碇くんを助けて! ・・・ついででいいから私も。
零号機と初号機の間を結ぶ光の帯に、私は嫉妬した。場違いな感情に苦笑する。でも、我慢できるものではなか
った。私はためらわずにATフィールドの奔流を解き放つ。わけわかんない。でも、あいつらを救う術はこれしか
思いつかなかった。使徒の体は、真ん中で真っ二つに千切れとんだ。
めちゃくちゃいてぇ・・・しかし、僕を拘束しようとした使徒の放つ不快感が途切れた。そのチャンスを見逃す程、
僕は素人ではない。僕はこの一年で戦いを重ね、命を張ってきた戦士。いやむしろ、武士。もののふって読んで
くれ。手に張り付く使徒を渾身の力で握りつぶす。地に落ちた使徒の破片を残らず踏み潰し、エヴァットでみみ
ずみたいに暴れる使徒の本体をぶっ叩く。そして倒れた零号機に駆け寄り、残った使徒を引きずり出して同じよ
うに踏みつけた。このみみず野郎、潰れて消えろ! 僕の振り下ろした紫電のエヴァットがその体をミンチにし
た。コアがどこにあったのかも関係なく、粉みじんに。それっきり、使徒は動かなくなった。
「アスカ! ナイス判断だったぜ」
「むー」
「うぉ・・・何で怒ってんだよ」
「何かムカついたの!」
僕は初号機とのシンクロを解除してエヴァから降り、倒れた零号機に駆け寄った。アスカもそれに続く。零号機
からえっちらおっちら這い出した綾波は足腰がたっていないようでフラフラしながら僕らの元まで歩いてきた。
「諦めて自爆する気だったろ」
「ええ、そうよ。私には・・・」
「確かに代りはいるけどな。でも、そう言う問題じゃねーだろ?」
「そう・・・?」
「死ぬのが平気ってわけじゃねんだろ? じゃ、助けてやんないとな。仲間だし」
「・・・悪かったわ」
綾波が、頭を垂れた。僕はその頭をぐしゃぐしゃと撫でた。よし、今回も何とかなった。後は・・・ラスト一匹だけ
だ。なぜか膨れッ面のアスカを促して、僕らは凱旋した。
死ぬかと思ったわ・・・私は碇くんにくしゃくしゃにされた髪を撫で付けながら溜息を吐いた。
セカンドのお陰で何とか自爆せずに済んだ。私はなぜか私を睨むセカンドに微笑みかけてあ
げた。私の笑顔は特別。だって、姉妹達への仁義を曲げて、見せてあげるのだから。
それにしても・・・私は思う。碇くんって偉大。
触れれば侵食されるのがわかっているのに、迷わず碇くんは使徒の尻尾を掴んだ。侵食され
かけていたのにも関わらず、弐号機の一撃から一瞬たりとも遅れずに使徒を殲滅してしまった。
彼には迷いとか、躊躇いというものが無いのだろうか? 何もかも、即座に決断して実行に移
すその行動力が眩しい。私はずっとずっと負い目に目を伏せてただ、早くすべてが終わればい
い、そう考えていただけなのに。セカンドの気持ちがよくわかった。彼は素敵な人だ。
私も・・・いや、よそう。まだ、私には役割が残っている。
「碇くん・・・」
「あん? 何だよ」
「・・・約束」
「は? あ。 アレか、何でも聞いてやるって言ったよな。何か思いついたのか?」
「この先、何があっても、躊躇わないで。今までのように。それが私の、お願い」
「? 何かよくわからんけどそんなんでいいの?」
「ええ・・・」
ごめんなさい。私はまだ、碇くんやセカンドに隠し事をしている。けれど、これはその時まで
けして明かすことはできない。私の安心した顔に、碇くんもセカンドも怪訝な顔をしている。
私は、敢えて笑った。今は、こうしているのが、心地よいから。
融合編 完
ラストのカヲル⇒EOEに向けて、休憩・・・
乙!
リアルタイムは緊張感があっておもろいね。
漫画のページめくるような感じ。
激しく(・∀・)イイ
tomoタソの綾波は落ち着き払ってるのにどこかすっ呆けてて、なんだか格好いいよな。
しゃー。そろそろイくべか? カヲル⇒EOEまで一気にやるべよ。
ゴルゴルゴルァ! 恒例の告知・30分以内に一発目投下!
スンスンスーン(・∀・) イェッ! スンスンスンスーン♪
何だこのウザい鼻歌!? 僕は背筋を走った恐るべき悪寒に思わず首筋を掻き毟りながら振り向いた。
そこにはブリーチし過ぎたのか真っ白な髪の毛の男が、気合の抜ける鼻歌を歌いながらスキップしてい
るのが見えた。ネルフにこんな奴いたっけ? 僕は顔を顰めてそいつを見た。そいつは僕の傍までスキ
ップしながら近寄って、そしてまるで中世の貴族のように慇懃に一礼する。あまりに凶悪なそのキャラ
クターに、僕は一撃必殺で腰を砕かれていた。
「やぁ、碇シンジくん。会いたかったよ」
「・・・えーっと、あんた誰」
「僕は渚。渚カヲル。スンスンスーン♪」
「その気合の抜ける鼻歌は辞めろよ・・・もしかしてフィフスか?」
「そう、人は僕をフィフスチルドレンと呼ぶよスーン♪」
「ぎゃはは辞めれ反則だそれわ」
渚カヲルと名乗ったそいつはまた芝居がかった一礼をした。端整に整った顔立ちは、その意味不明のキャ
ラクター故に台無しで、僕は思いっきり吹き出した。笑われるとは思っていなかったのか、少し不愉快そ
うに口を尖らせた渚は、これまた芝居がかった様子で肩をすくめる。
そう言えば・・・親父の言葉を思い出す。最後の戦いを前に増員するという話しがあった。ようやく復元され
た参号機だったが、トウジはまだ入院していて乗ることができない。だからもう一人チルドレンを招聘す
るのだ、とのことだった。だから僕は今度こそケンスケか、それともクラスの誰かがこの戦いに参加する
のだと思っていた。だから渚なんて奴は知らない。僕は首を傾げた。
「そっか、ドイツからね。じゃ、アスカの知り合いか?」
「アスカ・・・惣流・アスカ・ラングレー。セカンドチルドレンのことだね?」
「知ってんのか?」
「いや・・・僕とはセクションが違ってね。僕は彼女のことを知っているけど、彼女は僕のことは知らないはずさ」
「なんだ、そうなのかよ。にしても日本語上手いなー・・・ドイツ支部じゃ実は日本語が共通言語なんじゃねえの?」
「結構、勉強したさ。いや、言語と言うのはなかなか楽しいものでね、これでも七ヶ国語を解するよ」
「すげえなぁ、ガリ勉か? 僕は日本語以外はさっぱりだ」
「ふふ・・・好きこそ物の上手なれ、だよ。僕はしゃべりが大好きなのさッ! 歌もね! スンスンスーン♪」
「いや、歌わなくていいから」
見た目と口調が全然合ってない、一見してキモい奴だったが、話してみると案外面白い奴だ。僕は立ち話も
なんだから、と言ってカヲルと共にレストスペースで煙草を吸いながら話した。ここでアスカと待ち合わせ
ることになっている旨をカヲルに伝えると、ぜひ紹介して欲しいと言った。男にアスカを紹介するのは嫌で
仕方ないのだが、こいつなら大丈夫だと確信する。だって、端整な顔立ちがキャラのキモさを際立たせてい
る。確実にアスカの好みのタイプからは外れていると思えたからだ。それに、手を出すようなら顔面の形が
変わるくらいぶん殴ってその気を無くさせればいいだけだ。この愉快な野郎はなかなか面白い。
アスカがシンクロテスト後のシャワーを終えて戻ってくる。僕と一緒にいる白髪の男の姿を見て、アスカは
怪訝そうに首を傾げた。カヲルが突然立ち上がり、またもや慇懃な礼をする。明らかに引いているアスカを
見て、芝居がかった調子で額を押さえ、「オーノゥ」と呟いた。アスカの顔が引きつる。
「あ、あ、あんた誰・・・?」
「僕は渚・・・渚カヲルだよ。どうぞ、お見知りおきを・・・」
「し、シンジ、何なのこの人・・・」
怯えるアスカの顔と全然気にしてないカヲルが最高すぎた。もう僕は笑いが止まらない。膝をパンパン叩い
て笑い転げた僕は、カヲルの肩をバンバン叩いた。愉快な野郎だ。
カヲルは日本語吹き替えの映画で日本語を勉強したらしい。やたら芝居がかったセリフの数々は、どうやら
その辺に影響を受けているようだった。死ぬほどマヌケなのに大真面目なところが僕の笑いのツボを掴んで
離さない。僕はカヲルがすっかり気に入ってしまっていた。どんな質問にも律儀に返答し、まだ怯え気味の
アスカを見るたび、「オー・・・ノゥ」と頭を振る。ああ、こいつ馬鹿なんだ、と思い至った。不快な馬鹿は嫌いだ。
でも愉快な馬鹿は大歓迎だった。
「いやー・・・お前その天然ぶりは最高だよ。持って生まれた才能だな、そりゃ」
「お褒めに預かり、光栄至極・・・いや、君こそ僕の心を掴んで離さないよ・・・シンジくんの眩しい笑顔が」
「男に言われても嬉かねぇ・・・つうかキモッ」
「ふふ・・・恐縮、恐縮」
アスカが逃げた。人見知りする奴だ。僕は仕方なくアスカを追っかけることにした。カヲルに、「また今度な」
といって立ち上がる。渚カヲルは慇懃に礼をし、「アディオス、シンジくん。またの逢瀬を楽しみにしているよ」
と意味不明の日本語で深々とお辞儀した。僕はそれを見届けて、アスカを追いかけた。
アスカはネルフの長い廊下の隅ッ子でカタカタ震えていた。余りにもおかしな様子のアスカに僕は首を傾げた。
何だよ、何をそんなに怯えてんだ? ようやく僕はアスカの異常に気付いてアスカの肩を掴んだ。アスカは怯
えきった表情で歯をカチカチ鳴らしている。そしてアスカは呟いた。
「シンジ・・・アレは・・・ヤバイわよ」
「わかるように言えよ。カヲルは確かにヤバイキャラしてっけどよ」
「そうじゃない!」
アスカは震えていた。
「シンジはわからなかったの? アイツの雰囲気」
「何だよ・・・どうしたってんだ。とりあえず落ち着けよ」
「落ち着いてなんかられないわよ! アイツ・・・アレは・・・」
「お、おい、アスカ、大丈夫か?」
「アレは・・・使徒よ」
「ハァ?」
いきなり何を言い出すんだか。僕は呆れて溜息を吐いた。何だ、シンクロテスト中に居眠りして
悪夢でも見たのか? 僕はガタガタ震えるアスカの頭をナデナデして落ち着かせながら、耳元で
ささやいた。
「んなわけねーだろ? あんな変態スレスレの奴がどうやったら使徒に見えんだよ。そもそも、
アイツが使徒だったらエヴァでプチって踏んだらいいだけじゃん?」
「いや・・・嫌よ! あんなのに近寄りたくない!」
「お前、最近テストやりすぎで疲れてんだよ。変な幻覚でも見たんじゃねえの? ほら、手ぇ貸
してやっから・・・今日は早く寝ろよ」
「シンジぃ・・・ほんとなのよ。信じて」
「おうおう、野郎が正体現したら僕がブチっとやってやんからな」
適当にアスカにあわせつつ、僕はアスカに手を貸して立たせ、肩を抱いて本部を出た。家につい
てもまだアスカは震えていた。よっぽど怖い幻覚でも見たのか。僕はアスカを強引にベッドに寝か
せ、ちゃんと寝付くまでずっと横にいた。しかし・・・何なんだ? アスカはビビリだが、今日の怯
え方は異常だった。渚カヲル、使徒ってのは微妙だが、アスカを怯えさせるだけの何かがあるのか
もしれない。僕はアスカが寝たのを確認してから、本部へと足を運んだ。
もうどっぷりと日が暮れている。本部に着くと、僕を待っていたかのように綾波が立っていた。綾波は
厳しい表情で僕をじっと見ている。そして呟くように言った。
「アレに接触したのね」
「アレ?」
「フィフスよ」
「ああ、綾波も会ったのか? あいつ愉快だよな」
「碇くんは気付かなかったの?」
「何だよ・・・綾波もかよ」
僕は首をすくめた。アスカと同じことを綾波までが言った。僕は何も感じなかった。でも、アスカと綾波
までもがこんなことを言い出すなんて・・・段々、洒落にならない気分になってきた。
「まぁ・・・今からそれを確かめに行こうと思ってるわけなんだがな、僕は」
「私も行くわ」
「いいぜ。まぁ、僕はあいつはただの馬鹿だと思うんだけどな」
「私には敵にしか見えないわ」
「・・・問い詰めてみるとしますか」
フィフスの部屋の位置は綾波が知っていた。綾波の先導で僕らはその部屋へ向かう。だが、ついた部屋は
もぬけの殻だった。急激に心拍数が上がる。僕と綾波は顔を見合わせた。ヤバイ匂いをようやく僕も感じ
始める。暢気なのは僕のほうだったか。僕は携帯でアスカに電話した。アスカは眠そうな声で応じたが、
今綾波と本部にいる旨を伝えると、すぐ行くから待ってろと叫んで電話を切った。喉が渇いていたので、
レストスペースでアスカの到着を待とう、と僕は綾波に提案した。ついでだからミサトも呼びに行こうか
と考えたが、綾波はミサトを呼ぶことに反対した。
「もしも・・・エヴァでの戦闘になったら、生身の葛城三佐は危険」
「そんなことにゃならねぇ・・・とは言い切れないしな。まだここで仕事してるはずだ、そう言う事態になったら、連絡すっか」
ようやく、寝癖も直してないアスカが全力疾走で到着した。ぜひーぜひーと荒い息をしながら、僕と綾波
の間に割り込んで僕の左腕をしっかり胸の間に抱え込んだ。怖いくせに仲間はずれにされるのは嫌なのだ。
僕は煙草の火をもみ消して立った。
「さて、どこを探すか」
「ケイジへ」
「なんで?」
「弐号機の無事を確かめないと!」
僕らは真っ先にケイジへ向かうことにした。綾波もアスカもそれを強く主張したからだ。こいつらの中で
は既にカヲルが使徒だと言う話は確定事項らしい。どうもいまいちそれは信じられなかった僕は、首を傾
げながらもそれに従うことにした。
「大体よ、何でお前らにゃアイツが使徒だって断言できんだ?」
「私と同じだもの・・・彼は人の肉でできていない」
「何でシンジにはわかんないの? 毎日エヴァに乗ってる癖に」
「エヴァ? 何でここでエヴァの話が出てくんだっつーの。お前らの話は小難しくてわかんねーよ」
「同じなのよ・・・エヴァと使徒は」
「知ってるっつの。エヴァは第一使徒のハードコピーってんだろ?」
「そっか、シンジはエヴァの声を知らないんだっけ」
「しらねえよそんなもん」
「聞けばわかるわ。確信できる。あの渚って子は・・・使徒なのよ」
納得できねぇな。でも、それを否定できるだけの材料を僕は持っていない。いずれにせよ確かめてみれば
済む話だ。僕は頭をボリボリかいて、それからは黙って歩いた。カヲルが使徒だと? 笑えない冗談だぜ
・・・と考えながら。
だが、僕の納得のいかない思いは、ケイジについた途端に霧散した。復元されたばかりでピカピカに磨き上げ
られた参号機の頭の付近に、渚カヲルが浮いているのが見える。人は・・・浮いたりしない。渚カヲルは僕らの姿
を認め、少し首を傾げてから、また例の芝居がかったお辞儀をする。
「やぁ、意外に早くバレてしまったね」
「一目見た瞬間からバレてた見たいだぜ。僕は今ようやっと信じる気になったけどな」
「・・・もう少し、君達との接触を楽しみたかったのだけれど」
「さぁ・・・そりゃどうかな。僕はもう、てめぇを生かして帰す気がなくなってきたぜ? 殺すことを躊躇える程、
仲がいいわけでもないしな」
「君は冷たいね?」
「お前みたいなの、嫌いじゃねんだけどな。・・・アスカ、綾波、プラグスーツ着てこい」
「シンジは!?」
「僕は無しでも大丈夫だ」
カヲルが空中でヒューっと口笛を吹く。どこまでも芝居臭い奴。なるほど、人間のふりをしてたってわけだ。芝居
臭かったのではなくて、本当にただの真似事をしていたと言うことか。マヌケな言い回しや極端にうそ臭い態度は、
なるほどそう考えれば納得がいった。こいつが使徒だと、ようやく信じることができる。そう、使徒とはこう言う、
姑息な奴らだ。カヲルはわざとらしく悲しんでみせた。
「残念だね・・・ヒトとはやはり分かり合えないのか」
「分かり合う必要はねぇよ。お前らシトと僕らヒトの間に馴れ合いなんて・・・いらないだろ?」
「幾多の同胞を殺した君が言うと・・・迫力があるね。なかなか怖いよ、君」
「そりゃそうさ」
僕は笑ってみせた。何しろ僕はシトの天敵、碇シンジだったからだ。
最後の使徒が、こんな形で、唐突に現れるとは寝耳に水もいいところだ。実際のところ、僕は動けなかった。
にやついた顔のまま表情を変えないカヲルは・・・使徒だ。使徒なら、生身の僕なんて瞬殺できるだけの力を持
っていてもおかしくはない。動けばやられる、そんな強迫観念が僕が駆け出すことを阻害していた。初号機ま
での距離は30メートルほど。しかしその距離は踏破するには長すぎるように思えた。ちくしょう・・・僕はビビ
ってるのか。カヲルはそんな僕のかすかな怯えを感じ取ったのか、目を閉じて溜息を吐く。
「僕も必死でね・・・悪く思わないでくれたまえよ」
カヲルの目がカっと開かれた。僕は反射的に横っ飛びに転がる。僕が元いた場所にアスカのATフィールド放射
の縮小版のような見えない破壊力が炸裂し、床をへこませる。ここの床は分厚い鉄板だ。それをヘコませる威
力のものを体に受けたら・・・骨が折れる程度で済むとは思えなかった。僕は立ち上がり、油断なくカヲルの方向
を伺った。だが、そこにカヲルの姿は無い。悪寒を感じ、前のめりに倒れる。首筋をゴゥっと風が凪いだ。カ
ヲルが驚いたように、ヒューっと口笛を鳴らす。
「ヒトとは思えない勘の良さだね。素晴らしいよ、君」
「へ・・・喧嘩には慣れッ子だぜ」
「その余裕、腹立たしさすら感じるよ。彼女達が戻るまで、まだ数分はあるだろう? それまで、やれるとでも思うのかい?」
「やんなきゃお前はあいつらも殺すだろ?」
「それは当然・・・僕も死にたくはないのでね。エヴァに乗らせるわけには・・・」
振り向き様に右の拳を突き出す。しかし、カヲルはぐにゃりと体を曲げてそれをかわした。笑顔のまま変わらな
いその表情にムカついてくる。カヲルの左手が僕の顎を狙って繰り出される。人間サイズの使徒の力がどんなも
のかはわからないが、食らったら死ぬ、と言う確信はあった。僕はとっさに左腕で頭を庇う。エヴァの中で感じ
る擬似的な痛みではなく、本当の肉体の損傷に僕は声にならない叫びを上げた。左腕は簡単に折れてしまった。
衝撃で頭が揺れる。足がガクガクと笑った。今度こそ、カヲルは驚いた表情を浮かべた。
「なぜ、死なない?」
「知る・・・かよ。てめぇのパンチに気合が足りねんだよ!」
「手加減したつもりは・・・無いのだけれど」
がぁ・・・今度はカヲルの膝が僕の無事な右腕を痛打する。僕は肩膝をついて倒れるのを阻止した。もう一度立ち
上がり、折れた左腕を振り回して抵抗する。だが、僕のヘナチョコなパンチはATフィールドに阻まれて止まった。
激痛が視界を白く染め上げる。僕はもう限界だった。たったの二発で、意識を飛ばされそうになっている。だけ
ど。ふざけんな! 痛みは僕の力となり、動機となる。この憤怒を抱えて眠りに落ちることなんてできるはずが
無い。僕は震える膝を構わずにまた立ち上がった。
「よぅ、使徒てのも大したことねぇな」
「感心するよ。ヒトの身でありながら・・・」
「気合がありゃ、痛くも痒くもねんだよ! さぁ、もう一回だ、来いよヘタレ野郎」
「死は・・・怖くは無いのかい?」
「さぁね。でも、死んだほうがマシってこともあらぁ。お前みたいなのにナメらるなら死んだほうがマシだぜ。
人畜無害な面で油断させようって腹だったか? けっ、残念だったな、こっちにゃ人間使徒探知機が二人もい
るっつーの。このトンチキ野郎、姑息なんだよやることが」
「言いたい放題、言ってくれるじゃないか?」
「やる気になってきたかよ? お前なんか右腕1本で充分だ。かかってこいよオラ!」
無言で、カヲルは拳を突き出した。その拳の先から放たれる破壊の衝撃波が僕の骨という骨を砕くだろう。くそ、
あと一匹、こいつさえぶっ殺せば・・・使徒はもう来ないのに! 僕は目を閉じた。倒れる時は前のめり。そう決め
ている。絶対に後ろには・・・倒れない。
しかし、衝撃波が僕に向かって放たれることは無かった。プラグスーツ姿のアスカの蹴りが、カヲルの腕の
方向を逸らせていた。虚を付かれたカヲルは腕を押さえて飛び下がる。アスカがふぅふぅと荒い息をしなが
ら、鬼のような目つきでカヲルを睨む。怯えて、ビビって、足が震えてる癖に。僕は唇を噛んだ。諦めてし
まうところだった。腕の激痛を無視して、僕は仁王立ちに立った。アスカが矢のように飛び出し、カヲルに
向かって鋭い蹴りを放つ。カヲルが慌てて展開したフィールドにそれは阻まれた。カヲルの腕が閃き、アス
カを襲う。だがその腕の側面をアスカは足で払ってヒトを殺せるだけの威力をもった衝撃波を逸らす。攻撃
してる最中にATフィールドは出せないだろ! 僕はカヲルに向かって無事な右腕を打ち込む。拳は確かにカ
ヲルの頬を捉えた。
「おい、アスカ。生身で使徒と戦うなんてキレてんじゃねえかよ」
「キチガイはアンタの特許でしょ・・・アタシはあんたの彼女なんだからね」
「ギャッハハ、そだな!」
一撃食ったらお陀仏だ。そんなスリル満点の戦い。両側面から僕とアスカはカヲルを攻め立てた。カヲルは恐
ろしく強力な衝撃波や、生身じゃ絶対に破れないATフィールドで応戦するが、使徒といっても所詮ヒトと同じ
姿をしているカヲルは、次第に僕とアスカの両面からの挟み撃ちにATフィールドでの防御一辺倒になってくる。
人間の形状では、構造上、多人数を相手に素手で戦えないのだ。カヲルが悲しげに顔を歪めた。
「ヒトとしての死を・・・与えようと思っていたのだけれど」
膨れ上がる、カヲルのATフィールド。僕もアスカも、跳ね飛ばされてしまう。カヲルはまた、空中に浮き上がった。
「ヒトがシトを殺せるのは、神の肉でできた衣を被ったその時だけだよ・・・悪いけど、終わりにしよう」
膨れあがっていくATフィールド。輝きを増すそれは、刺々しい拒絶の力を増幅させてゆく。触れれば死ぬ。僕
もアスカも息を呑んだ。使徒の名の通りに、光り輝き、天使のような羽を広げるカヲルは美しさすら感じさせ
た。僕は笑った。アスカも笑った。勝利を確信した。
人と同じ姿で、このATフィールド出力は・・・さすがは使徒だ、凄いもんがある。でも、人を舐めすぎだな。
カヲルが怪訝そうに顔をゆがめ、後ろを見た。そしてすべてを理解したのか、僕らに向きなおって苦笑した。
「・・・そう言えば、彼女のことを忘れていたね。独りの僕らはヒトには勝てない・・・と言うことか」
零号機のフィールドがカヲルの破壊的な衝動のすべてを霧散させる。そして守るものを失ったカヲルの体を、
零号機は何の躊躇もなく、踏み潰した。
ことの次第は、ミサトから親父に報告された。さすがに使徒がチルドレンに化けてやってくると言うのは
想定外だったらしく、慌てて事後処理が行われた。渚カヲルと言うチルドレンは最初から存在しなかった。
事情を知るもの、知らないもの、すべて等しく緘口令が敷かれた。アスカは渚カヲルの残骸を見てしまって
真っ青になって卒倒し、今は家のベッドで寝込んでいる。綾波は零号機の足が汚れたとかブツブツ言ってい
たが、オイシイところを攫ったのがよほど嬉しかったのか、なんだか機嫌は良さそうだった。
親父、ミサト、リツコ、そして僕の四人は密かにネルフ本部の一室に集まった。
「最後の使徒は・・・まぁ、想定とは違ったが・・・倒した。これからが、本当の戦いだ」
「・・・だな。ゼーレにはまだ報告してねんだろ?」
「ああ。シンジの腕が完治次第、事を起こす。その日こそ、最後の勝負だ。いいかシンジ・・・」
「いいよ・・・言われなくても負けねぇ」
「ふん・・・まぁ、よかろう。葛城君、赤木君、最後の準備を頼む」
「はッ シンちゃん、ここが正念場よ」
僕は真剣な顔で頷いた。最後の時は・・・近い。
カヲル編 完
ただの敵キャラになっちゃったーよ。アヒャ
また仲間に引き込むのかと思ったらこーきたか!
いいじゃんいいじゃん!
じゃあ、EOEいきますか。
EOEキタースンスンスーンハッ
わりわり、30分以内に一発目投下ヨテーィ
僕は腕を親父の前でグルグル回してみせた。親父が頷く。完治だ。
「さぁ・・・始めよう」
「ああ。ゼーレの連中の面、拝むとしようぜ」
司令室の明かりが消える。セフィロートの樹と言うらしい気を模した何かの幾何学的な文様がホログラフとなって
浮き上がる。は・・・僕はその無駄に金の掛かった装置を鼻で笑った。コケ脅しもいいとこだぜ、こんなもん。
「定例報告会を・・・ん? 碇、そこにいるのはサードチルドレンかね」
ぼぅっと浮き上がった11個のホログラフに映し出される年寄りの集団が、僕と親父を囲むかのように現れる。
僕は不敵に笑う。親父もいつものポーズをとってニヤリと笑った。
「キール議長、本日は重要なご報告があります」
キールと呼ばれた中央の一番えらそうな爺に向かって親父は朗々と宣言した。
「最後の使徒は・・・二ヶ月前に殲滅しました。ご報告が遅れましたことをお詫び申し上げます」
「・・・何? 碇・・・それはどういうことだ?」
「それは僕から説明させてもらうぜ」
僕は待ってましたとばかりに口を挟んだ。爺は一瞬だけ眉をひそめたが、「良かろう、報告を聞こう」と鷹揚に
頷く。僕は親父に教わった通りに手元の端末を動かす。ホログラフが浮き上がって、渚カヲルの姿が映し出された。
「・・・サードチルドレン。 この少年は?」
「使徒さ。最後のな」
ざわり・・・と一瞬だけ爺たちが色めき立つ。そしてボソボソと小声で呟きあった。
「詳しい話を聞かせてもらおうか」
「いいぜ。こいつはヒトの姿をして・・・僕らの前に現れたんだ。そんでな・・・」
僕はとうとうと語り始めた。
「・・・つーわけで・・・僕の華麗な体術とファーストチルドレンの機転によって・・・最後の使徒は殲滅されたっ
てわけさ。この顛末は僕がどうしても直接話したかったんだ。だから、腕の怪我が治るまで・・・報告は待っ
てもらったのさ。悪いね」
話し終えると、大儀そうにゼーレの老人達は頷いた。
「そうか、事情はわかった。ご苦労だったな、サードチルドレン。しかし・・・なぜ自らの口で話したいと?」
「そんなにわかりにく理由じゃねえさ・・・」
「先ほどから聞いていれば・・・少しは口を慎みたまえ。君は今、ゼーレの盟主の前にいるのだ」
「うぜぇな、下っ端は黙ってな。僕はこのえらそーなジーサンに話してんだ」
徐々に僕は本性を表しながら下品に笑い出した。ざわざわと11人の爺たちが騒ぎ始める。僕はひとしきり哄笑
し終えてから、不敵に微笑んだ。
「そう言う口実がねぇとさ、お前らに会えないだろう? 僕が直接話したかったのはクソッ垂れた使徒の末路
なんかじゃねえんだ。聞いてくれよ、そこのジーサン。僕らは・・・ネルフはさ、お前らゼーレに造反する。そ
の宣戦布告に来たのさ。ヒトの天敵、シトは残らず掃除したぜ。今度はヒトの寄生虫、お前らキチガイ爺を始
末する時だ! 僕らネルフはヒトのクビキを引っぺがすことを認めない。僕の誇りを犯すことを認めない。愛
するヒトを奪うことを認めない!」
一息に言い切って、あまりの快感に僕はぷるぷる震えた。ああ、すっきりだ。宿便を出し切った気分。親父が
僕の後をついで立ち上がった。
「・・・使徒を倒す為に・・・あなた方はなかなか有用でしたよ。しかし・・・これ以降あなた方は必要ない。イカれた
狂信者は用済み・・・そう言うことです。我々は、我々たるべくして、行動してきた。我々ではない何かにすがる
つもりはありません」
「碇・・・その言葉、取り返しがつかぬぞ」
「左様・・・それは我々に対する明らかな敵対意思と見なされる」
「構いません。死は・・・何も生みはしませんからな・・・」
「死は・・・君達親子に与えよう」
唐突に、ホログラフが消えた。決戦の火蓋が切って落とされた瞬間だった。
小ネタに気付いてくれてるか? 藁
「親父、なかなかイケてる啖呵だったぜ?」
「ふふん・・・連中、目を丸くしとったな」
「けど、どうする? あの連中、どっかのシェルターかなんかに隠れてんじゃねえの?」
「何、量産型のエヴァを残らず始末すれば、連中にできることは何もなくなるさ」
「オーーーケィ、それは任せとけ。リツコの準備は?」
「オリジナルMAGIは支部の紛い物に負けるような代物ではない。子供の杞憂に付き合う余地が
無いほどな」
「それを聞いて安心したぜ」
「問題は・・・戦略自衛隊の地上軍だな。本部の戦力だけで抑えるのは難しい。できるだけ迅速に
事を済ませるのだ」
「無茶言うなよ、相手は11匹もいんだぜ。根性入れて耐えな」
「何とかしてみせるさ。シンジ、死んだら許さんぞ」
「あんたもな、親父」
僕らは発令所に向かい、ネルフの主要なメンバーが集まっていることを確認した。ミサトが僕ら
の到着と、僕の表情を見てニヤリと笑う。怯えても仕方ない。ここが本当の正念場。ミサトは大
声で「注目!」と掛け声をかけた。
「本日をもって・・・ネルフは最後の戦いに望みます。保安部長! 準備はよろしいかしら?」
「はッ・・・全隊、防衛ラインの構築完了しております!」
「・・・よろしい。指示を伝達します。支えきれなくなったら・・・ベークライトを注入、通路を
物理遮断しなさい。後のことは考えなくていいわ。これに関しては、上位の指示を仰ぐ必要は
ありません。保安部長、あなたの判断に委ねます」
「了解!」
「発令所人員に伝達します。赤木博士?」
「キッツいワームを準備してあるわ。ふふ・・・楽しみね?」
「・・・えーっと、問題ないようね。次・・・」
ミサトは次々に指示を飛ばした。そして、最後に僕らパイロットの名を呼んだ。
「最後に・・・シンジくん、アスカ、レイ・・・作戦部長として、最後の指示を伝達します。エヴァ量産機を残らず
殲滅しなさい。ヒトが乗っていたとしても、躊躇はなしよ。そしてここからは葛城ミサトとして、個人のお願
い。死なないでね・・・全部終わったら、みんなで打ち上げしましょう?」
ミサトにマイクが手渡され、本部の全域に向けての放送が始まる。
「・・・全人員に告ぐ。本日ヒトマルマルマル時を持って、ネルフは対ゼーレ総力戦に突入する。厳しい状況が
予測される。本部の防備は薄く、武器も乏しい。無理強いはしない。命の惜しい者は10:00までに退去するこ
とを推奨する!」
しばらくの沈黙。時計が十時の二分前まで進む。誰一人逃げようと言う根性無しはいなかった。
「残った奇特な連中に告ぐ。ようこそ、生き残ることも難しい、この戦争の時間へ! 私に、命を預けてくれ
ることに深く感謝する! これは一部の傲慢を阻止する、意義ある戦いであるッ! 犠牲は無駄にはならない!
全員、決死せよ!」
本部全体がミサトの演説に、震える程の轟音を上げて吼えた。下士官も、整備班も、技術者も、事務のお姉さ
んまでが銃を手に、歓声を上げる。二週間かかって事情説明を行い、不満分子を説得し、ネルフを纏め上げた
の他ならぬミサトだった。対人折衝こそ、ミサトの本分だったのである。ミサトの演説に「乗せ」られた本部
の全員が吼え、絶叫する。
「我々は、許してはならない! 我々は、守らねばならない! 我々は、我々たるべきである! 負けられな
い、この戦いの為にこそ、ネルフは存在したのだ! 行こう、我々自身を、勝ち取るその為に! 作戦、開始!」
僕も、アスカも、綾波さえも、叫んだ。絶叫した。この熱量に、勝利を確信する。それは妄信かもしれない。
だが、勝つんだ。勝つと決めた。僕らはケイジに向かって駆け出した。
前スレのログほすぃ。
たれか揚げてくれませんかのう。
あ、そのまま直リンクしたら落とせないから、一端こぴってな
かぶったけど、趣旨が違うからいいよな!?
スマン、許してくれ。
インジャネ? 好きなほう嫁
>>224 でも2chフォーマットの
>>226推奨な。そっちのが雰囲気あるべ?
tomoタン=シソジ=神
おお! 兄貴達と並んだな。
「何も、司令まで前線に出る必要は・・・」
「赤木博士・・・気遣いは無用に願おう。息子が命を賭けているというのに、私だけが後ろで座っていら
れようか? 答えは否、だ」
「しかし・・・司令は総大将であられます」
「リツコ君、私は死なんよ」
私は敢えてリツコ君を抱き寄せた。ユイを亡くして以来、誰一人寄せ付けなかった。しかし・・・死ぬかも
しれん。その思いが私を少しだけ弱くさせたのかもしれない。今まで、一人の女性も幸せにしてやれたこ
とはなかった。ここで想いに応えないことは、私にはできなかったのだ。リツコ君の私への慕情は勿論知
っていた。知っていて、その気持ちを利用してきた私は外道の類であろう。しかし、もしも生き残れたな
らば、その想いに応えるつもりではいたのだ。年甲斐もなく、胸の奥が熱くなる。今、彼女を突き放すこ
とは残酷過ぎる。だから、私はリツコ君の額に口付けた。
それは不器用な口付けだった。顎の髭が私の額を擦り、くすぐったさに私は少女のようにむずがってしま
う。涙が出るほど、嬉しかった。だが、司令は・・・ゲンドウさんはこれから死地に赴く。涙が、零れた。
「リツコ君。もう、行かねばならん。この続きは・・・後でな」
「はい・・・お待ちしております。ご無事で」
私の意志とは正反対に、優等生じみた答えが口を滑り出た。違う、こんなことを言いたいのではない。私は
・・・泣いて、叫んで、行かないでと・・・しかし私は既にゲンドウさんの目を見てしまっていた。眼鏡の奥に隠
された、気弱な瞳を。その瞳は彼の一人息子と同じように一つの意思の塊となっていた。止められようか?
だから、私はせめてゲンドウさんが心配しないよう、気丈に振舞うべきなのだ。
「ぬおおお! やらせはせん、やらせはせんぞおぉ!」
司令の叫びと、連続して聞こえる銃撃音。右翼は劣勢か? しかし打つべき手は既に打っている。
私は司令を援護すべく、その横に滑り込み、遮蔽のバリケードごしにグレネードランチャーをぶち
込んだ。爆音に敵の悲鳴がかき消される。次いで、ベークライトが注入されて通路を塞いだ。これ
でしばらくは保つだろう。だが、こっちはもう駄目だ。ここも放棄してベークライトで封鎖するし
かない。
「司令、ご無事ですか?」
「何とかな。葛城君のほうはどうだ?」
「今のところは無傷ですわ。左翼のラインも押されています、急ぎましょう」
「ああ。すまんが手を貸してくれるか?」
「構いませ・・・司令・・・その足は」
「兆弾を受けた。止血は済んでいる。そこの彼に・・・手当てしてもらったのだがな」
壁に寄りかかっていた若いネルフ職員。肩に手を置くと、彼は静かに横に倒れた。背中に大きな穴が
開いていた。こんな状態で・・・司令の足の手当てを? 私の胸の奥が熱く熱くうずいた。
「司令、負けられません・・・負けられませんよ・・・この戦い」
「無論だ・・・行こう、味方が援軍を待っている」
私は司令に肩を貸し、左翼向かって走りだした。
本部施設防衛はさすがに劣勢のようだ。私は両手をフルに振るってキーボードを叩きながらモニタ
で状況を分析する。ドイツ支部のMAGIがスキャンをかけてきているのがわかる。小癪! 私はとっ
ておきの侵食性ワームプログラムを迷わず回線に叩き込んだ。攻撃的意味の集合体であるその振る
舞い設計書はデータというデータを腐らせ、有毒にする。ドイツ支部は程なくして沈黙した。次!
私は余裕すら感じていた。プログラミングで使徒を倒した私の腕は伊達ではない。世界の赤木はこ
こにいる。どこの馬の骨ともわからないようなオペレーターの操るMAGIの紛い物に、私と、私のMAGI
を倒せるわけがないのだ。
「マヤ、000012,143444,10008,20004のポートにロック。攻勢防壁展開! 超えようとするアクセス
があったら、痛い目見せてやりなさい! 青葉くん、逆探知は?」
「アドレス 1C-DD-EF-4D-33-34・・・アメリカ支部、第3セクションです!」
「上等・・・日向君、思い知らせてやりなさい」
「了解! 双方向圧縮ワーム、論理展開します!」
「次は・・・どこ? ああんもう、数だけは多いんだから!」
私は脳裏のすべてをロジックとして論理の攻撃を迎撃し続けた。
「っし・・・派手にやってんな! 今のトコ、まだ互角みたいだな・・・そろそろ行くぜ、アスカ、綾波!」
「了解! 皆殺しにするわよ!」
「了解・・・この日が・・・来たのね」
「行くぞオラー!!!」
シンクロのシーケンスが開始される。S2機関に火が灯る。四肢に力が漲る。ギリギリ復元に成功した
第四世代エヴァット・ロンギヌスが辺りの空気をイオン化させて青白い炎を上げた。弐号機の周囲に
発生した無意識に放出される溢れるようなフィールドの嵐がエヴァの拘束具を圧迫し、ギリギリと音
を立てて破壊し始める。零号機が両手一杯に抱えた銃器を抱えなおし、金属の擦れる音が響いた。気
合は充分。気力は充足。根性は据わって全員が熱く熱く奮い立っていた。武者震いが僕の体を震わせる。
使徒一匹殺すのに四苦八苦、だが、今回はその使徒と同等の量産型エヴァが11機。数の上でも圧倒的な
不利。それがどうした? 上等。上等だ!
カタパルトがリニアの電極に稲光を走らせる。僕らのエヴァは僕らを乗せて戦いの野に走り出した。
地上。まだ昼にもなっていない。眩しい太陽が照らし出す、11匹の小鳥ちゃん。羽を広げ、不気味な
笑みを浮かべる白いウナギ野郎が漂っているのが見える。スカしてやがるぜ。だが、今日の僕らはス
ペシャルだ。簡単に勝てると思ってやしないだろうな? 僕と初号機は獰猛な猛獣の笑みを浮かべた。
さぁ、始めよう! 最後の大喧嘩を!
急降下してきた一体を、僕の光の速度のエヴァットが迎撃する。気色悪い爬虫類を思わせるその頭を一撃の
下に叩き潰し、翻す一撃をその胴に叩き込む! 吹っ飛んだ量産機の体を、綾波の両腕に抱えたロケットラ
ンチャーと陽電子砲が集中砲火、地に落ちた所を、アスカのフィールドが上半身を叩き潰した。
「まず一匹ぃ!」
「アスカぁ、いいトコだけ持ってくんじゃねぇよ!」
「獲物は早いモン勝ちよ!」
人が乗ってるかもしれない、何て一切考えなかった。乗ってたとしても、そりゃ乗ってる奴が悪いんだ。敵に
種類なんか無い。それらは一体どんな姿をしていたとしても、殺すべき一つの個体でしかない。様々な姿をし
て襲ってきた使徒のすべてを殺しつくし、最後の人の姿のそいつを殺した時、僕らにタブーは消え去った。
アスカに張り合って身につけた回し蹴りが量産機の一体を捉える。量産機が手に持った槍をエヴァットで払い、
エヴァットを持つ手とは逆の手で量産機をぶん殴る。アスカに真っ二つにされた量産機の一体の上半身が足元
に転がってくる。僕は両手でエヴァットを振るって地面のそいつを三発ぶん殴ってぐちゃぐちゃの肉塊に変えた。
いける・・・勝てる! 僕らは確信した。そして、残った量産機を己の餌食とすべく、飛び掛っていった。
五匹目までは、ぐちゃぐちゃに潰してやったのを確認していた。だが、六匹目からは数えるのを辞めてしまった。
エヴァットをロンギヌス形態に変え、それを縦横に振るう。切り裂き、殴り潰し、刺し貫く。綾波は六本目のラン
チャーを使い切ってそれを量産機に向かって投げつけているのが見えた。アスカの一撃がまた一体の量産機の上半
身を吹っ飛ばす。
「くっそ、こいつら何匹いんだよ! 僕はもう六匹か七匹やったぞ!?」
「アタシは八匹! ぐちゃぐちゃにすりつぶしてやったわよ!」
「あぁ!? 計算合わなくねぇ?」
「再生・・・している」
僕らは一端集合して互いの背中を守るように立った。すりつぶしたはずの量産機の一体が、足元で急速に復元して
いくのが見えた。まるで、第七使徒の片割れみたいに。そしてすぐ、痛々しい姿をさらしていた量産機は元の趣味
の悪い笑顔に戻る。僕らは愕然とした。何て野郎だ、あんだけボコボコにしてやったのに、すぐ治っちまうなんて!?
飛び掛ってきた量産機を切り捨てる。だが、そいつもすぐに自分を修復し始める。ヤベえ・・・僕は初めて危機感を
感じた。このままじゃ、こっちが保たない!? 初号機はともかく、弐号機も零号機も電源は有限だ。それに僕
だって、無限に活動できるわけじゃない。
僕は悲しいかなシトではなく、ヒトだった。
弐号機のアンビリカルケーブルが切断されたところから、形勢が逆転し始めた。弐号機は程なくして活動を停止し、アスカが無念の叫びを上げる。僕は弐号機を守りながら戦わねばならず、消耗は一気に激しくなってきた。
「チッキショー! きたねえぞゼーレ!」
「碇くん・・・ケーブルが・・・」
「綾波も、イカれたか。くそ、ジリ貧だな」
綾波の姿がモニタに写る。綾波は、微笑んだ。
「碇くん、約束を・・・覚えてる?」
「おう、躊躇すんなってアレだろ?」
「・・・約束、守ってね」
「は? こんな時に何を・・・」
零号機が、僕との連携を廃して走り出す。僕が叫ぶ前に、綾波の零号機は戦場の中央まで走り出た。
そして、零号機は青い両腕を天に向かって突き出す。何をしようとしているのか、僕には想像もつか
なかった。でも、綾波のことだからろくなことじゃないってことはわかった。
「綾波ぃー! 何をする気だ!」
「こうなるのは、想像できていたのよ。だから、私は私にできることを・・・やるわ」
「何か知らないけど、辞めろ! 諦めるのはパイロットの流儀じゃねえだろ! エヴァ乗りは、
最後の最後、死ぬまで諦め・・・」
「諦めてるわけじゃない。ただ、できることをする。生き残る為に」
突如、零号機から光が立ち上った。それが何を意味しているのか僕は本能的に直感し、初号機とのシ
ンクロを反射的に解除する。シンクロを解除した初号機はすぐに肉の塊になった。内部電源が外の様
子を映し出す。零号機は相変わらず仁王立ちで、そして、光に輝く波を発している。それは一度だけ
見たことがあった。もう一つのATフィールド。それは二度目の、綾波のアンチATフィールドだった。
零号機を倒そうと、槍を振り上げた量産機が、零号機の体から伸びた灰色の触手に捕まってその体に
ずぶずぶと沈んでいった。11体すべての量産機が取り込まれるのにさほど時間は掛からなかった。僕
がシンクロを切った理由、それはここにある。アンチATフィールドに触れたモノはすべてがその中に
取り込まれ、強制的に融和させられる。生ある初号機では、同じく取り込まれてしまうのだ。
「碇くん・・・躊躇しないで・・・ね」
「仲間は殺れねぇって言っただろうがぁ!」
改行一箇所ミスった(´Д`)
「早く・・・長くは、保たないから」
「いいから、そんなもん解除しろ! 量産機は僕が!」
「駄目・・・不可能よ、碇くん。約束、守ってくれないの?」
「けどよ・・・けど!」
「約束も守れない、そんな男だったの? セカンドが死んでもいいの?」
「嫌だよ! でも、綾波を殺すんだってゴメンだ!」
「お願い。・・・やく・・・そ・・・く・・・」
「・・・・・・ちくしょう・・・クソったれぇ! いてぇぞ、我慢しろ! 絶対助けるからな!」
僕は・・・エヴァットを振り上げ、そして膨れ上がって醜い肉塊となった零号機に振り下ろした。
光の速度に限りなく近づき、死を撒き散らす衝撃を伴った閃光が、元零号機だった何かを縦一
線に両断した。僕はその中にエントリープラグの姿を探して、エヴァットを縦横に振るう。待
ってろ、綾波。こんな結末は認めない。誰かの犠牲の上にハッピーエンドなんて素直に喜べや
しねえ。僕は素直にアスカに笑えなくなってしまう。事あるたびに綾波を思い出してしまう。
そんな人生真っ平だ。鉈のように振るったエヴァットにかすかな金属の感触。僕は肉塊に迷わず
手を突っ込んでかき回した。
「・・・あった・・・おい、オイ! 生きてるか!? 生きてるのかよ!?」
ジジっとモニタが回復する。派手にエヴァットで揺らしてしまったせいか、頭を打ち付けて赤い
血を額から流している綾波の姿を確認できた。綾波はピクリ・・・と体を動かした。そして、額を
押さえて、いつものようにとぼけた声でうめいた。
「・・・死ぬかと思ったわ」
「こっちの心臓が止まるかと思ったっつーの・・・」
僕はプラグを片手に、エヴァットで残った肉片をガンガン叩いて原型がなくなるまでぐちゃぐ
ちゃにした。勝ったのだ。
「安心するのは、まだ早いんじゃないかい? シンジくん・・・」
安心しきって腰を抜かしかけていた僕の度肝を抜くその声は、零号機に踏み潰されて死んだはずの
あいつの声だった。潰したはずの肉の塊が、徐々に集まって一つの形を成していく。・・・カヲル・・・
生きて、いたのか。モニタに、生きていた頃と寸分違わぬその姿に、僕は幽霊を見てしまったかの
ような寒気を覚えた。肉の塊は・・・そのままぐちゅぐちゅと音を立てながら収束し、巨大な・・・
渚カヲルを形作った。
「い、いやぁぁぁ!」
アスカが悲鳴を上げる。まぁ・・仕方ないわな。ふるちんだし。僕はエヴァットを構えた。ちっ、せ
っかく・・・ようやく休めると思ったのによ。しかし、この野郎、何で今更出てきやがった?
「僕がな生きているのか・・・不思議そうだね?」
「けっ・・・嬉しそーにしやがって。何しに出てきやがったこの野郎」
「わざわざ零号機の足の裏から大復活したって言うのに、つれないねぇ、君は」
「やる気か? やるなら容赦しねぇぜ、このふるちん野郎」
「勿論・・・リベンジマッチさ。ヒトとシトは同じ時を生きられない・・・だろ?」
「上等!」
コレで最後。本当のフィナーレは吹かれる途中で無粋なカヲルに止められた。でも、まぁいいぜ。
売られた喧嘩は買うのが流儀だ。僕はエヴァットを振り上げた。
戦いは永遠に続くかのようだった。S2機関から力を振り絞る僕の初号機は、僕がダウンしない限りは無限に
動ける。一方、正真正銘の使徒であるカヲルもまた然りだった。僕が振るうエヴァット・ロンギヌスの切っ
先を、ふるちんのカヲルが軽やかにかわす。亜光速のエヴァットをなぜかわせるのか、さっぱりわからない
理不尽な動きだ。僕は必死に、必死に、闇雲に、エヴァット・ロンギヌスをふるい続ける。
「無駄、無駄ぁ・・・シンジくん、ヒトの形は非常に戦いに適していると思わないか? これだけ汎用性の高い
動きは、ガギエルやサンダルフォンには到底、不可能だろう・・・僕がなぜこの形状を選んだと思う?」
「知るか馬鹿!」
「僕はヒトを尊敬しているのさ。強く、賢く、そして意地汚い程に生へ執着する。見習うべきものだ。特筆す
べきのはこの、精神と言うものだろうね? 言語とおしゃべりが好きだって言うのは本当さ
・・・僕はヒトをよく勉強していると思わないか?」
「うぜぇ、べらべらしゃべってんじゃねぇよふるちん! さっさと死ねぇ!」
「君は上品さと言うものを学んでみるべきだね・・・僕は手に入れたんだよ、この精神の力。僕が今何を思ってい
るか、当ててごらん?シンジくん」
「うるっせぇ! 黙れっつってんだろうが!」
「つれないねぇ・・・じゃあ、自分で言おう。僕は今、君を殺したくて仕方ないってね!! この衝動、怒りは
・・・僕の力を何倍にも高めてくれる」
「へん、怒りが力になるってのは同感だぜ。おめぇの姑息なトコが死ぬほどムカつくんだよ!」
「その言葉、そっくり返すよ。気に食わないんだよ、ヒト風情が!」
へ、本性表しやがって。何が精神を知った、だ。僕は鼻で笑った。お前ら使徒はいつでも僕らを皆殺しにする
気満々だったじゃねえかよ? よわっちい人間なんかにやられるのが我慢ならないってな。
けどな。
僕はエヴァットを振り上げる。
「負けられねぇんだよ!」
僕のエヴァットは、空気を切り裂いてカヲルに叩きつけられた。
「勝負有り・・・だね」
初号機の腹にめり込んだ腕を、カヲルはニヤニヤしながらかき回す。僕は灼熱の感覚に
絶叫した。痛いなんてもんじゃない。もう神経が擦り切れていっそ何も感じなくなって
しまいそうだ。強いフィードバックが僕の腕を震わせる。ちくしょう、何であたらねー
んだよ! ギリギリまでひきつけて放ったエヴァットの一撃は、うそ臭い動きのカヲル
にかわされ、そして瞬き一つしない間に、僕は、初号機はカヲルの腕で串刺しにされていた。
「痛いかい? 痛いだろうね・・・」
「ぐがあああああ! あが、がああああ! やめ、・・・ぎゃああああ」
「心地よい・・・君らの滅びを飾るに相応しい。もっと良い声を聞かせてくれないか?」
「ぐぎゃああああああ!」
僕は情けない悲鳴を上げてプラグの中でのたうちまわりながら血を吐き出した。叫びすぎ
て喉を傷つけたらしい。段々、体中が麻痺してくるのがわかる。このままだと、シンクロし
てるだけで僕は死ぬだろう。僕は声にならない溜息を吐いた。できればさっきの一撃が当
たって、奇跡の大逆転といきたいところだったが・・・
「き・・・気が・・・がああ! ぐ、ふ、ぐぐ・・・進まなかったん・・・だけどな」
「相変わらず・・・しぶといね・・・」
「ま・・・ま・・・まぁ・・・当たらない・・・なら・・・当たる・・・よう・・・に・・・いでぇええああああ!
このクソ野郎!」
初号機が海老ぞる。カヲルはまだ気付かない。第四世代エヴァットの俗称は・・・神を殺す
槍ロンギヌス。人間のことはよく勉強してるみたいだが、ネルフの切り札に関しては勉強
不足みたいだな? 腹の中で腕をかき回されながらも必死で溜め込んだゼロ・シフトの反
発力が、もう耐え切れないほどに膨れ上がっている。カヲルが顔色を変えた。馬鹿が!
自分に酔ってるからだ、このナルシスト野郎め。僕は使徒にとっておぞましい笑みを浮かべた。
解き放たれた純粋な力が、嬉しそうに僕の腹に腕を埋め込んでいたカヲルの胸の中央に突き刺さっ
た。カヲルが、何か言いかける。馬鹿たれ、お前の電波妄言なんか聞いてやらん! ロンギヌスの
二又の切っ先が激しく回転し、カヲルの胸の中央を打ち抜いた。カヲルは胸のド真ん中に巨大な穴
を開けた状態で、不思議そうに首を傾げる。腹の中の手から、力が失われていく。ロンギヌスの突
き抜ける衝撃が、カヲルのコアを砕いたことを確信する。そして、カヲルは僕のほうを向いてニヤリと笑った。
「・・・ふふ、シンジくん、君、ムカつくよ」
「恐縮、恐縮だぜ?」
カヲルはゆっくり、後ろ向きに倒れた。
今度こそ、勝った。勝ったのだ。
「やぁやぁ、ゼーレのじーちゃん達。お加減いかが? 老衰してる?」
僕の嫌味なほど明るい声に、ゼーレの重鎮、キールがぬぅ・・・と呻いた。司令室で、僕と親父が対峙する
そいつらは、朝っぱらの偉そうさはどこへやら、僕らに対して怯えすら感じているようだった。
「全部見てたんだろ? どうだった? 僕の勇姿は。最後ちょーっとあぶねかったけどな」
「君ら親子のお陰で・・・我々は七千年の時を失ったことになる。台無しにしてくれたな・・・」
「ま、諦めて次を待つんだな。生きてられたら、だけど。ひゃはひゃはひゃははは!」
「黙れ、シンジ。お前がしゃべると我々が悪人のように聞こえる」
親父が渋面で僕の馬鹿笑いを止めた。親父も地上戦をやったらしい。足は添え木で固定され、こめかみか
らも血が流れ、悪趣味なグラサンは割れてヒビが入っていた。
「ゼーレの方々・・・これで人類補完計画の推進は事実上不可能となりましたが・・・あくまで我々と敵対しますか?」
「抜かせ・・・初号機を擁するネルフに敵対できる組織など、この世にはない」
「まだボケてはおられないようですな。事実を正しく把握できているなら・・・この後のことはお分かりでしょうな」
「・・・我々は無駄なことに金と時間を費やすような暇人ではない。ネルフを独立勢力と認め、提携を提案する。補完
計画が頓挫した今、世界の復旧が我々の最大の急務だろう・・・」
「懸命なご判断に感謝いたします」
「あんだよ、こいつら悪人じゃねえの? 何でマトモなこと言ってんだよジジイ。悪あがきとかしろよ」
「我々は非道の集団ではない。ヒトを、世界を思えばこそ、補完計画を推進してきたのだ。君に阻止されてしまった
がね? ならば・・・本来のあるべき姿に戻るだけのことだ」
ハァ・・・さいですか。イマイチわからないけど、連中はなにやら今度は世界復興のための議論だかなんだかを始めた。
何かさっぱりしたジーサンだなぁ・・・喧騒のホログラフが消える。親父が、黙ってくしゃくしゃと僕の頭を撫でて、
そして少しだけ笑った。
244 :
223:04/02/09 01:06 ID:w/jy0hzW
すべてが終わって、ようやく僕は半ば休学状態だった高校に復学した。相変わらずの子分達と、アスカ
と、ちょっとだけ明るくなった綾波と。使徒が去った世界は、使徒がいる時とさほどの代りは無い。た
だ、使徒は二度と来ない。初号機とシンクロすることも、月に一度くらいになってしまった。アスカは
頻繁に弐号機に乗って、エヴァと話してるらしい。奇特な女だが、アレでも僕の彼女なのだ。ちょっと
だけ退屈だが、それなりに心地よい世界。僕は相変わらず、ミサトの家にアスカと一緒に住んでいる。
ミサトは昔の恋人を探しに行くと言って出て行ってしまった。今はスイスで登山してるらしい。元気な
三十路だ。リツコは親父と再婚した。デレデレする親父は見てられないくらい情けなかったが、母さん
が死んだのはもう十年以上も前のことだ。そろそろ自由になってもいいのかもしれない。親父と、墓前
で母さんに顛末を全部語った。母さんは天国でよくやったって言ってくれているかな?
「センセ・・・全国制覇とかアホなこと言うのんやめや・・・」
「そうだぜ、碇・・・そろそろ落ち着けよ・・・」
「バカヤロ、うちのかわいい新入生が第四高のアホにタタキ食らったんだぜ? これはもう、全国制覇
してきょうびの馬鹿ヤンキー共を締めてやるしかねぇだろ!」
「ちょっとシンジ・・・鈴原と相田を困らせるのもいい加減にしなさいよ!」
「ふふ・・・全国制覇の前に・・・この私を倒すことね・・・」
「うぉ、ヤベ、アスカと綾波だ! 逃げろ!」
笑い声が心地よい。きっとこの先ずっと、僕はこうして生きていく。僕は僕として。
ずっとずっとだ。
「自慢のエヴァット」
完 結
乙!
ほんと面白かったぞ。
248 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/02/09 01:17 ID:IyTJXOzj
あれだ、ええっと、、ろくでなしブルース
執筆 tomoタン(過去スレ
>>1)
総テキスト容量 271KByte
原稿用紙枚数 約334枚
掲載開始 2004年1月22日
完結 2004年2月9日
サンクス 海老 & 名無し共
読了、ありがとう。
乙!!
良かったぞ!
有言実行を確認、tomoタソは神認定になりますた。
251 :
:04/02/09 01:20 ID:D5xsky4o
今日初めてこのスレ発見したけどすっげーラッキーだ。
いきなり最終回まで読めて、さらに過去ログ入手ですよ?
今から過去ログ読んでこよ。
すっげー面白かったです。
よっ、この職人!
おもろかったよぉ
一言忘れ取った。
「この職人!」
んじゃ寝るか。
で、次のネタはどうするのよ?
お前は鬼か、海老
人聞きの悪いこと言わないの。
でもこのまま放置はしないわよね、ミスター職人で神認定のシソジちゃんは?
順番的に次はお前の番やぜ(´∀`)
無理無理、今忙しい。
面白かったよ。この職人!
なんつーかエンタメしてるのが良かったね。
やいやい、このtomo野郎様。
面白かったですよ。
tomoタン乙!!
エヴァット面白かったよ。
しばらく前から、暖めてた台詞を今言おう。
「この職人!!」
職人スパシソtomoタン乙。
リリスは?
おもしろかったぜー!
いいじゃんいいじゃん!最高じゃん!
俺も一言。
「この職人!」
この職人! エロ!
最高でした。
職人だな
ああ、間違いない
唯一不満があるとしたらあれだな。
スレタイに反しているという事か。
職人、スレ違いだ
( ´Д`)ノ<職人!キャラハンなら定食屋に行くべきだとおもいます。
うおおお!職人様乙かれー!
>スンスンスーン(・∀・) イェッ! スンスンスンスーン♪
メチャワロタ
>ずっとずっとだ。
ココいいねー。青空が目に浮かぶよ。
>>260-
>>270 普通にガンガッタ イヒャ
>>263 リリスは何か色々事情があって今実家
>>268 ! ・・・そこは指摘したらいけない大人の事情なのよわかるかいボーヤ
じゃ、次は誰が書くんや? と、スレが寂れそうな話題を振ってみる。
むしろ誰に書いて欲しいとかの話でもいいカモ
海老タンに是非。ゼヒに。
今日、初めてこのスレ見た。
一気に読んじゃったよ。すげぇ、おもろいね。
九時に帰ってきて寝てたわ……。
ネタが無いから無理ぽ。
ここの住人にとって、この前PS2で出たエヴァ2の評価ってどんなもん?
漏れとしては、アレをネタには出来ないかなと思ってるんだけど・・・
でもそうなると現実世界→エヴァとなるから、なんか痛い話になりそうだし
いっそエヴァのキャラを出さないで、現実世界のみで話が展開するとかはどう?
自分をエヴァのキャラだと信じ込んでいる電波に付け狙われる2次創作系HPの管理人とか
・・・こんなのは駄目?
>275
我々の日常にありふれた話題をネタにするだけに、
料理の仕方が難しいでしょう。
がんがってー
前スレで未完のままのは続き書かんの?
さりげに待ち続けてるのだが。
>>276 「四国の参愚者」にある「現世紀エヴァンゲリオン」が参考にならんかね?
>>277 あれは途中で破綻したから勘弁して。
今は色々抱えてて掲示板で書くの無理ぽ。
某LAS系サイトを運営している者です。
偶然このスレを見たのですが……いやもう感動。
tomoさんの作品面白かった!!!
正直エヴァにも飽き気味でモチベーション下がってたのですが、
tomoさんの作品読んでやる気出ましたですよ。
もうアレです、執筆意欲がこうモリモリと。
久々に良作を拝見できて幸せです。
Thxでした!
ハルの方が面白いのに
>>281 まあ、あれだ、お前はすげーよ、漏れはお前のようなやつ大好きだでも、
お前、友達少ないだろ。
>>280 どこのサイトや。降臨スレで晒すが良い(´∀`)
この際晒すが、(´_`)も俺やで。アレは途中で飽きた。優しい世界と問題児
やったっけか? 何か板で盛り上がってた人達には申し訳ねぇなぁ(藁
まぁ今回は完結までやったから許してチョンマゲ
そういや、俺っぽいって見抜いてた香具師おったなぁ。流石ヤネ!
>>283 なんて野郎だ。どーりで戻ってこなかったわけだ。
楽しませてもらった分には文句は言えんが………ずっと待ってたんだぞう(ノд`)
ちなみにBBSだけはまだあったりする。仮死状態だけどw
>>285 ヒャヒャッ いや、悪気は無ぃょ(´∀`)良い子ぶるのもちっと飽きたっつーか
今のサイトは消えねぇからいつでも来てちょーだぃょ
>>286 いやすでに行ってたりする訳だが、多彩なのがうらやましぃ…
確かに「(´_`)」で「tomoタソ」的な事やってたら余計に退かれそうではある。
図らずもtomoタソと色々話してみたいと思ってたのに、すでに話していたわけだ。
しかしこれであそこで正体を明かしていないFF書きと思われる奴は
私とK氏だけとなったんだなぁ。
(´_`)では大分「演じてた」ので微妙だけどなぁ。
(´_`)は結構優等生的だったと言う思い出があるんだが、どうよ?
つうか、このスレ俺のスレになっちまったなぁ。ぶっちゃけここに何か投下
するのは普通に神経では難しいと思われ。
いや「(´_`)」んな穏やかそうな顔して暴言(wを吐いてたらキツイでしょ。
優等生っていうか、明らかなキャラ作りとノリの丁寧さは感じたかな。
>このスレ俺のスレ
(ネタがなければ)次スレはおそらくないだろうけどさ。
読者は必ずと言うほど比較すっから新参者は厳しいと思う。
ハナッから捨てる気で逝ける奴なら出来るか?
板でも300KB規模書ききれそうなのってトモヨタンくらいしか思いつかんわ。
あの人、恐ろしい文量書きはるでぇ。300なんか屁ですよ屁ッ
後続が来たらこのスレも途中で500KB制限かかるな。このまましばらく静観
して誰も投下しないようなら俺またやろかな。チョット癖になるよコレ
トモヨ氏は噂でしか知らんが、凄まじい量を書くらしいね。MB単位で。
第二弾投下するとしてネタが不足したらこんなエヴァ小説が〜のスレに逝くとヨロシ。
けっこう拾い物はある(並より上の技量必要、tomoタソなら大丈夫さ)
掲示板向きなら昔デブシンジがあったなぁ。
kじゃないナンバーズってあの人しか知らんのだが・・・
熱い演説とか書けるならネタは何でもいいよ。熱ければいいんだ。
書いてて楽しいから。
>>292 漏れは影が薄かったのか……_| ̄|〇
コテハンにナンバー使ってたのは二人、漏れはその片方さ。
>>293 熱いと聞いて、
女としてのナオコ「異議あり!」
母としてのナオコ「反対意見を認めます」
科学者としてのナオコ「そこは矛盾している!」
逆転裁判的に決断を下してるMAGIがなぜか浮かんだ。
でも熱いなら北斗の拳、男塾、セイントセイヤとか
>コテハンにナンバー使ってたのは二人、漏れはその片方さ。
ああ、そういう意味か。勘違いスマソ。漏れは剃毛の人の盟友かと一瞬思って一人でどきどきしてたw
逆転裁判面白いよね。全部買ったし。しかしサイコロ錠は無いだろうよ天才検事・・・
こんなエヴァ小説が〜スレのネタは全部ビミョー・・・単発過ぎてつかいづれーよぅ。
もう一回LAOノリやるかあ? パイオニア舐めんなよ
酒が切れたぜ。彼女用に買っといたチューハイに手を出すか・・・
>295
ぬか喜びさせたようですまない。剃毛の人はこれはこれって感じで別格。
>296
正直まともにプレイした事はないのだが、熱さの片鱗は知っている。
読みたい!スレのは単発なんだが、長編向きのもあるぞ。ただし掲示板向きではない。
シンジが脳味噌だけになる奴なんて無茶苦茶そそられるんだが、
構成力と妄想力があと数段高ければなぁ。
>>297 解けるようにできてるのに、なかなか上手く矛盾指摘できないのが熱いよ
もうわかってんのにッ的なストレスの掛け方と逆転のフラストレーション
解消のバランスが正にエンターテイメントッ
そんなにスレ読み込んでねぇからなぁ。。。マンドクセー<こんな小説読みたいスレ
>298
それだけtomoタソが推すんなら、中古でも改めて買うか実家に問い合わせてみるよ。
読みたいスレにはほぼ常駐でカキコしてたからなぁ<強制IDの前までは
だから読むのは苦になってない。過去ログも確か保存してる。
モチベーション下がってる時に見るとイイ刺激になるし。
だいぶいい時間なんでもう寝る府。
今日も一日お疲れさん。
>>297のってコレか?
>シンジがどっかの組織に殺されてやむをえず攻殻の草薙みたいに、
>サイボーグとして生きてる話が読みたい。
>脳と脊髄の一部以外を電脳化&義体化して、MAGIなんかも自由に使える。
>イメージとしてはナデシコのルリみたいにコンピューターに干渉したり、
>脳が残っているのでエヴァとシンクロも可能。
>トウジは始めから右腕、左足を義体化してて(使途とは無関係)
>第四使徒戦後チルドレンになる。
>性格はそんなに擦れていなくて、サイボーグになったせいでかえって開き直ったかんじで。
べつに題材がなんであろうと、
tomoタソの次回作も再びLAOテイストがいいと思うYO!LAO最高やで!
>>300 違う。もっと昔に出たの……見っけた。古っ、その3だ。
以下抜粋。
>サキエル戦でシンジは既に死んだ事になっているSS.
>ホントはNERVによって脳髄だけの状態で生かされ、使徒が来ると脳核が入ったブレイン・ボックスをエントリーさせて出撃。
>ミサト等には試作型のダミーとして認知させられている。
>既に人としての意識など霧散して、本能だけになっていた筈だが起動実験でレイと何度か接触することで自我が蘇ってきてしまう。
>自分の置かれた状況に困惑し、半狂乱状態に陥るものの、レイの真摯な心に触れ癒されてゆく。
>MAGIを通じて自分の存在を訴える事を考え付くが・・・
>
>僕はシンジ・・碇シンジ・・・僕はここにいます。
> ・
> ・
> ・
> ・
>「・・・ハイ・・ハイ、分かりました。ログは既に消去しダミーにすり替えてあります。
>痕跡は残しません。・・・・・・」
いじくり次第で最高のハードシリアスSSに出来そうなんだが、板連載には向かないと。
レイの真摯な心に癒されるってのは過程を一考すべき。
tomoタンの書く話って、今までのものは最後はハッピーな感じで終わっているんで、
そこをどう料理するかだな。
あー、
>>302じゃ、よくわかんない文になったな。
つまりそのままじゃハードシリアスな展開だけになっちまうから、
それをどう料理していくかってことよ。
脳髄しかないシンジじゃ、他キャラとのからみも難しいしのー。
まああくまでもこのネタには漏れがそそられるってだけです。
読みたい!スレのいいネタの一つとして例を挙げてみただけ。
もしtomoタソにこれを書いてもらうんなら、板連載としての形は望まないよ。
むしろLAOのパイオニアを名乗ってるんだから、
その流れでのネタを容易(希望)した方がいいと思われ。
ストーカーシンジとか。電脳ハッキンシンジリメイクとか。
エスパーシンジとか。シンジ三等兵とか。
>>301 何やそれ、マンドクセーよッ もっと簡単なんに汁
やってもいいけど、その書き込みの主が期待したようなものには確実に
ならんよ。良くも悪くもtomoテイスト
>>302-
>>303 やってもいいんやけど上記と同様。
>>304 電脳ハッキングシンジは厨テイストモリモリだったし、マジハッカーの話とか
いいかも? 仕事柄、そう言うのは人より詳しい方だしな。つか真剣にセ
キュリティ学ぶ必要あるんやが・・・マンドクサ
>>LAO
LAOはもう完結してるし、LROやってみるかー?
まぁ、今週来週はどっちみち無理や。やるなら三月以降やな。
それまでにちょっとネタ揉んでみるか。
僕には一つの役目があった。それは父との契約であり、不履行には死か、もしくはそれに類するような
・・・何かしらの罰を受けることに間違いはない。僕の技術は社会的な攻撃に対して酷く脆く、ある意味で
無力だった。だから、父との約束を違える、と言う選択肢は僕には存在しない。
だが、悪いことばかりではない。契約を履行するかわりに、僕はこの場に人として存在する権利を与え
られていた。それは僕にとって非常に貴重で、手放すことなど考えられない。なぜなら、僕は本来忌避
され、疎まれ、そして排斥されるべき存在だからだ。父の庇護を離れれば、僕は人として生きることは
できないだろう。なぜなら、僕は人ですらないからだ。
懐に忍ばせたどしりと重い鉄の感触を確かめ、僕はこの熱い気候には場違いなコートを羽織った。これ
は僕の作業着であり、そして契約を果たす為の正装だった。僕は人ではないから、汗も出なければ熱い
とも感じない。ただ、拳銃を隠すのに便利である、と言う理由と、そして日陰で蠢く人外である僕に相
応しいと思う、それだけだ。
せめて昼間の間だけ、人として生きたい。それは僕のささやかな願いだった。種族の違う父は、条件付
ながらそれを実現に導いてくれた。僕に父に反抗する理由など無い。たとえこの契約の為に何百人が命
を落とすことになったとしても、だ。僕は人ではない。偏狭で嫉妬深い人が治めるこの世界で、僕が生
きることを許される場所はここにしかない、ただそれだけのことだ。
今日の仕事は少し面倒である。ネルフに表立って敵対しているわけではないその組織は小規模ながら
なかなか高精度な諜報活動を行うと聞いている。つまり僕の存在は既に知られているとみて間違いな
い。もしかすれば僕の襲撃すら、知られている可能性だってあるのだ。そうであるならばそれなりの
対策はしているだろう。だが、僕だってそれを想定に入れている。だからこそ、今日は銃器を大目に
持ってきたのだ。
銃器は便利な道具だ。無くても特に問題はないが、あったほうが楽ができる。頭部に二発も命中させ
ればそれで片はつく。また、多人数に対して効率的な殺傷能力を持つショットガンやサブマシンガン
の類は、最近ではもう仕事の必需品とまで思うようになった。僕は人ではないが、人並みに痛みは感
じる。できるだけ無傷でいたいと思うのも人と同じだ。だから、傷を負う可能性を減らす意味でそれ
は非常に有り難い。問題は音が大きいことだが、しかしそれも解決している。人間の父は「銃器の音
を何とかできないか」と言う僕の要求に対し、サプレッサーと言う便利な消音機を準備してくれた。
リンゴを噛む程度の音で弾丸が発射されるようになるこの道具は僕のお気に入りだ。哀れな標的は撃
たれたことにさえ気付かずに死ぬだろう。
懐から、黒く輝く拳銃を取り出し、それを歩哨と思われる人間に向ける。その男性は一瞬、僕の手の
中の物を理解できず、首を傾げる。プシュッと言う小さな音が響くのと、その人間が倒れるのはほと
んど同時だった。僕はもう一発、今度はその頭部に弾丸を命中させる。人間は脆く弱いが、なかなか
生命力が強くしぶとい生き物だ。喉に当てただけでは死なない可能性がある。だから頭を潰すまでは
油断はできない。死んだかどうかはわからないが、声は出せないだろう。僕はそれでその男に興味を
失って、男が守るように立っていた扉を開けた。
長い階段を下りた先に、仰々しい悪魔の文様が描かれた扉に突き当たる。僕はウンザリした。
使徒再来以降、この手の怪しげな宗教団体が爆発的に増えたのだ。今回もその類だった。この
連中は大抵、反社会的で特にネルフを敵視し、放置すればテロ活動に及ぶこともしばしばであ
る。父の計画にとっては些細な、取るに足らない連中ではあるが、目障りなのは間違いない。
それに、これら集団は横で連結している。高い諜報力はネルフを擁する日本を快く思わない各
国の援助の上に成り立つのだ。だが、それだけでは僕に仕事が回ってくるはずがない。保安部
の連中を使えば済むことだ。僕は父の意図を測りかねて首を傾げた。まぁ、扉を開ければその
理由はわかるに違いない。僕は懐からショットガンを取り出し、扉に向けて三度発砲した。現
場が地下だと楽ができて良い。僕は扉を蹴り開け踏み込んだ。
「何だ貴様! ここは関係者いが・・・ぐあ」
悠長な口上を垂れる男を散弾で一蹴し、埃っぽくカビくさい地下を進む。銃撃音を聞きつけた
連中の足音が聞こえた。僕は壁を蹴って天井に張り付き、二丁の拳銃を取り出す。天井の僕に
気付かずに通り過ぎる連中は、ちんけな宗教団体らしからぬアサルトライフルを装備したスー
ツ姿だった。通り過ぎたのは三人。僕に傷を負わせるには少し人数と技術が足りない。天井か
らさかさまに落下しながら二丁の拳銃を乱射した。サプレッサーをつけた銃は静かに三人の後
頭部を破壊し、着地して振り向いた時には三人は既に物言わぬ死骸と成り果てていた。僕は更
に歩を進めた。多人数が来ると面倒なので、激しい銃撃戦が行われているかのようにサブマシ
ンガンを適度な時間、乱射する。順調だ。今日僕が襲撃に訪れることには気付いていなかった
らしい。
さらに三人射殺して辿り着いた一番奥の部屋は、広い空間になっており、多数の信者と見られ
る連中が不気味な神像を拝んでいるのが見えた。どうやら第三使徒を模したと思われるその神
像に苦笑する。礼拝だろうか? だとしたら醜悪な礼拝があったものだ。
「!ッ 碇・・・シンジか!」
僕の姿を認めた中央に鎮座する男性が大きな声を張り上げて警告した。信者連中が立ち上がり、
一斉にこちらを振り向く。そして教祖と思われる人物の前に人の壁を作った。面倒だな・・・僕は
両手にサブマシンガンをぶら下げて首を鳴らした。
「教祖様はどなたですか?」
「悪魔め! 無限の地獄に落ちるぞ!」
「見たところここの人たちは武器持ってないみたいですし・・・素直に出頭してくれると手間が省
けて助かるんですが。大丈夫、痛くはしませんよ」
「まさか碇シンジが来るとはな・・・もはや一刻の猶予もない! あの悪魔を倒し、神に仇なすネ
ルフに鉄槌を下す時! 総員、抜刀!」
「・・・抜刀って・・・銃じゃん」
白いローブ姿の信者達は、懐から一斉にライフルや散弾銃、拳銃を取り出す。これはちょっと失
敗したかなぁ・・・僕は溜息を吐いて、その場から横っ飛びに飛んだ。足を熱い空気の塊が撫でてい
くのがわかる。そのまま僕は礼拝堂の壁に向かって走りながらマシンガンを連射した。集団の前
のほうにいた五人が血飛沫を上げて絶叫する。僕は立ち止まらずに壁にそって走り、弾が無くな
るまでマシンガンを撃ちまくる。しかしさすがに多勢に無勢、持ってきた銃器を使い切っても、
まだ信者達は十人以上残っており、教祖と思われる男も健在だった。僕は舌打ちして腰の辺りに
忍ばせたナイフをとった。
父は規模が小さいと言っていたが、どこがだ、と文句を言いたくなる。これだけの人数と武器を
保有している団体はそうは無い。なるほど、それで僕に話が来たわけか、と集団の周りを回るよ
うに走りながら僕は妙に納得した。僕の速度に照準が追いつかないらしく弾丸が僕の体を打ち抜
くことはなかったが、このまま逃げ続けていてもらちはあかない。僕は走りながら一回深呼吸し
て、集団の中に飛び込んでいった。
銃の射線と視線の間をすり抜け、一人目の喉を掻き切る。悲鳴も上げずに絶命した男の体を
盾に銃撃をやり過ごし、集団の間に入り込む。同士討ちを恐れてもう銃は使えないはず。案
の定、今度こそ刀剣のようなものを抜刀した男達は次々に僕を串刺しにしようと殺到してき
た。だが、人間の動きなど僕からすればトロ臭い亀のようだ。斜めに振り下ろされた刀を同
じ方向に振ったナイフで弾き、反対の手のナイフを男の目の間に突っ込む。ついでにその得
物を頂戴し、後方から剣を突き出した男の腹に刀を差し込んで身を沈め、腹に刺さった刀を
抜きつつそのまま、薙いだ。二人の足を切り裂いて、反対方向の男に向かって刀を投げる。
刀は狙い違わず男の頭を串刺しにし、絶命させた。サバイバルナイフを逆手に持った男が切
りかかってくるが、こいつはナイフの扱いをわかっちゃいない。逆手ってことは手首を守る
気が無いってことだ。僕はナイフの切っ先と反対側の手首を掴み、捻り上げて小手を返した。
倒れた男の顎を踏み砕き、これで七人。唖然としている男に駆け寄って男が反応する前に喉
にナイフを突っ込んだ。後、三人。殺した男が持っていた拳銃を奪って3射し、足を斬っただ
けで殺していなかった二人にトドメを刺した。もう、教祖以外に動く物体はいなくなってい
た。僕は渋面を浮かべて返り血のついた頬をコートの袖で拭った。傷は負わなかったが、時
間が掛かってしまった。
「残念なことに貴方を守る人達は全員死んでしまったようですね」
「・・・これで終わりだと思わないことだ。貴様のような悪魔はいずれ・・・ぐッ」
「さよなら」
僕は静かに、教祖様の胸にナイフを押し込んだ。
ぱちぱちと拍手の音が聞こえた。
血を拭いながら振り返ると、そこには加持リョウジが立っていた。ネルフの諜報部長であり、
この手の団体の情報を一手に握る彼は、僕のお目付け役であり、検分役でもあった。父は僕を
根っから信用しているわけではない。このような監視役をつけなくとも僕には父を裏切る理由
など無いのだが、父は人だった。人は猜疑心の強い生き物なのだ。
「毎度、悪魔さんの手腕には驚かされるよ」
「悪魔、か。まぁ、人じゃないのは確かだけどね。加持さん、何時から見てたの」
「君がナイフを抜いたあたりからかな?」
「・・・手伝ってくれてもいいのに。今日は人が多くて大変だったんだよ?」
「そんなの業務外さ。君と違って撃たれたら死んじゃうしな」
「僕だって撃たれれば痛いよ。服に穴開いちゃうし・・・あーあ、コートが台無しだよ」
「その血塗れの姿で外を歩かれると困るからね、代えは持ってきてるよ」
「ありがと」
僕は加持さんが持ってきた服に手早く着替え、後始末に来た保安部の部長さんと挨拶をかわし
て地上へ戻った。加持さんは手伝わなかったかわりに飯を奢ると言うので、手近なファミレス
に入ることにした。僕は特に栄養を摂取する必要は本当は無いのだが、食事の楽しみは知って
いる。ハンバーグ定食と生ビールを注文すると、加持さんは少し渋い顔をした。
「君は一応、中学生なんだから・・・おじさん、ビールはどうかと思うぞ」
「人じゃないので条例は適用外です」
「都合のいいときだけ人を辞めるからなぁ、君は」
「いいじゃないですか・・・仕事の後の一杯くらい」
「中学生のセリフじゃないな」
「わかりましたよ・・・家帰ってからにします・・・」
「それにしても・・・ここのところ出番が回ってくることが多過ぎじゃないですか?」
「ああ。上が人的被害が出ることを嫌がっているのさ。弔問金は馬鹿にならない支出だしな」
「それだけじゃないです。段々、宗教野郎の装備の質が上がってきてます。これ以上は僕一人
ではきついですよ」
「だからこその君じゃないか。撃たれても二時間かそこらで直るんだろう?」
「そう言う問題では・・・」
「撃たれても死なず、栄養摂取を必要とせず、高い運動能力を何時間も維持できるスタミナま
である。君が羨ましいがね、俺は」
「はは・・・そんな良いものじゃないですよ。ただ、死なないだけです。苦痛は感じるから・・・蜂
の巣にされて動けなくなった所に手錠でも嵌められたらアウトですね。ネルフに捕まった時は
本当、最低でしたよ」
「その辺の経緯は聞いてるよ。だが、その力は今のネルフには必要不可欠なのさ。ここのとこ
ろ、ゼーレの動きが活発になっているんだ。今日潰した団体も、ゼーレの末端組織だしな」
「・・・ゼーレ・・・か。どれほどのものなんですか? エヴァを持ってるネルフに敵対するなんて
・・・正気だとは思えない」
「正気じゃないんだよ。だから怖いんだ」
ゼーレとは「SEELE」と表記される、ドイツ発祥の宗教法人だった。セカンドインパクト後、爆
発的にその影響力を増し、今では世界のほとんどの国の上層部にまで食い込んでいると言われて
いる。彼らは使徒を神と崇め、対使徒組織であるネルフに対し敵対的な立場をとっている。その
メンバーには僕と同じくチルドレンが混ざっているとも言われており、目下のところネルフの目
の上のたんこぶとでも言うべき存在である。僕が潰してきた幾つもの組織はそのほとんどがゼー
レと何かしら関係を持っていることがわかっていた。つまり、僕の敵、と言うわけだ。
ネルフの敵は使徒だ。未曾有の大災害、セカンドインパクトの元凶にして人類の天敵。だが、
それらはチルドレンと呼ばれるエヴァの適格者達が倒してくれるだろう。対使徒決戦兵器であ
る人造人間エヴァンゲリオンは、僕のような中途半端な怪人と違って恐ろしく強い力を持って
いる。だから、それに関してはきっと何とかなるのだ、と僕は信じていた。問題は、そのエヴァ
を維持し、運用できるネルフを潰そうとする勢力がある、と言う事実だ。これに対応する為に、
僕や加持さんがいる。
僕はハンバーグを平らげ、ビールの代りに頼んだコーラを啜りながら加持さんと話した。
「そう言えば、綾波さん、退院したんですか?」
「ああ。葛城が嬉しそうにしてたよ・・・これでいつ使徒が来ても大丈夫だってな」
「浮かない顔ですね?」
「ん? ああ。 まぁ・・・な。ほら、綾波レイってまだ15歳なわけだろう? そんな子を戦いに
駆り出すのは正直余り良い気分にはなれんよ」
「僕はいいんですか、僕は」
「君は戸籍上15歳なだけだしな」
「まぁ、でも・・・大怪我して入院とか、何て言うかやりきれない思いはありますよね」
「だよなぁ・・・葛城は無神経だからなーその辺ちゃんと考えてんのかね」
「意外と繊細ですよ、あの人。加持さんよくご存知でしょ? 僕よりずっと」
「む・・・葛城に聞いたのか?」
「さっさと寄り戻せばいいじゃないですか。見ててイライラするんですよね」
「子供が大人に向かってそう言うことを・・・」
「戸籍上15歳なだけですから」
加持さんをやり込めた僕はニヤニヤしながらコーラを飲み下して席を立った。これが人であること
の醍醐味だ。難しい顔で唸る加持さんに伝票を押し付けて、僕はさっさと家に帰ることにした。
父への報告は明日でいいだろう。ついでに我がネルフのアイドル、綾波レイの顔でも拝もうか、
などと考えながら、僕は家路についた。夜を過ぎれば僕は人として生きることができるのだから。
厨テイストな暗殺者シンジのお話、一話完
きりが悪いけどもう三時だし。。。
華々しいエヴァでの戦いの裏で繰り広げられる暗闘・・・みたいなー。
はやいな、オイ
tomoタソ忙しかったんじゃなかったのか
忙しいわい。今日は早めに上がれたなーとか思ってたらもう11時やんけ。
ありえへんわ。忙殺されそうな俺の心を癒すには徹底的に現実逃避するしか
ないじゃん。妄想をお前達にお裾分けってこった。問題あるかッ!?
漏れはないよ。ガス抜きは必要だかんね。
シンジさばさばしとるね。
加持はこういうのに適任とは思うけど、前回影薄かった分頑張って欲しいかな。
!! 今読み返してたらミスハケーン・・・
× チルドレン=シンジ
さすがに寒いからこの記述削除ったはずなのに(ノД;)
さ、本日も張り切っていきましょかー
もう、数十人は殺した。だが、完全武装の数百人にこれでもかと言うほど完璧に包囲された
僕は逃げきることを半ば諦め始めていた。僕は人間に捕獲され、そして実験動物扱いされる
か、それとも死ぬまで責められ続けるのか・・・自分がどのようにすれば死ぬことが可能なのか
試したことはないが、どちらにせよ死かそれに類するだけの苦痛を受けることは間違いがない。
こうなってしまっては、もはや一人でも多くの人間を殺して今のこの憤りに対し溜飲を下げる
くらいしか僕には出来ることは無かった。四方から放たれた無数の銃弾が僕の体を貫通してゆ
く。恐ろしい程の灼熱が僕の痛覚神経を切り裂き、犯してゆく。痛みは何時果てるともわから
ない永遠の熱病のようで、僕の脳裏はただ、その苦痛を与える銃器を持った人間達への怒りだ
けに支配されていた。
僕は・・・僕はただ、静かに生きていたかった。人から生まれながら、人ではなかった僕の存在
は、人間にとって許されざる禁忌だったらしい。僕を庇護する優しい母が病に倒れた時、僕は
人の世から追放されたのだ。父は僕を見放し、見捨てた。頼れるものは生まれ持ったこの強靭
な肉体だけだった。だが、それが通用しない今、僕の命運は尽き果てたのだろう。僕はなぜか
冷静にそう思い至った。よろしい、人間達。この鬼の子を殺せると思うなら来るがいい。僕は
もう逃げはなしない。ここにいる全員を殺しつくし、人の世を呪いに満たしてくれよう。だが、
僕の内心とは裏腹に、弾丸に切り裂かれ蜂の巣のように穴だらけになった体は、僕の意を無視
して活動を停止しようとしていた。
ついに脳髄にめり込んだ弾丸は、僕の思考を消し飛ばし・・・僕は獣のように囚われた。
次に見えた光景は、懐かしい父の姿だった。父は顎に髭をたくわえ、色のついた眼鏡をしていた。
父に会うのは実に十年ぶりだった。自由にならない腕で、何とか寝そべった体を引き起こす。僕は
厚さ数センチはある頑丈な鋼鉄の手錠に繋がれ、格子の嵌った部屋に押し込まれていた。少しばか
り老け込んだ父の姿を見て、僕は時の流れを感じる。捨てられた時、僕は生まれてから10年経って
いた。それから更に10年。とても長い時を一人で過ごして来たように思う。
「久しぶりだな、シンジ」
「う・・・あぁ・・・あぅ」
「・・・人語を失ったか。だが、直に思い出す。私はお前を迎えに来たのだ」
「あ・・・あぅ?」
それは予想だにしない言葉だった。自然と涙が溢れてくる。泣いたのは・・・母が死んで以来だったろ
うか。父は特に優しい表情を浮かべるでもなく、淡々と話し続けた。
「私は・・・それなりに力を得た。今ならばお前を庇護することができる。しかし・・・それもお前次第だ」
「し・・・だぃ・・・」
「惨めで哀れな怪物ではなく、人としてもう一度・・・生きてみたいとは思わんか?」
「・・・ヒト」
「そうだ。お前に機会をやろう」
そして、契約は結ばれた。父が僕を思いやってそう言ってくれたのではない、と言う事実は僕を少
ばかり失望させたが、だが、言葉を取り戻し、人としての姿を思い出した僕はそれで充分だったのだ。
もはや呪いの言葉は思い浮かばなかった。役目を果たしている間は父は僕を捨てることはない。そし
て僕は父を裏切らない。この盟約がある限り・・・母が生きていた頃のように・・・生きることができる。
それは幸せなことなのだ。
碇シンジとは、一体何者なのだろうか? 私の最近の興味はほぼそこに集中していた。碇司令の息子。
15歳の中学生。お世辞にも快活とは言えないが、それなりにコミュニケーション能力を有した、極普通
に見える子供。・・・二年前、多大な犠牲の元に捕獲された彼は、人の姿をした人以外の何かでしかなか
った。今私の前で居眠りしている少年と、二年前の凄惨な光景がどうしてもイコールで繋がらない。び
くりと身を震わせ、きょろきょろと辺りを見回し、何かに安心したかのようにまた眠りに入るその姿は
授業中に居眠りをしている不真面目な中学男子生徒以外何者でもなかった。飼い慣らされた人懐っこい
虎がいたとすれば、このように見えるのかもしれない。その姿はとても愛嬌に満ちていて、獰猛さを毛
ほども感じさせない。
だが、夜の彼は違う。契約の強制力を行使された彼は、普段の猫のような愛らしさを剥ぎ取り、虎の本
性を露わにする。鋭い聴覚で危機を察知し、肌の感触だけで風を感じ、すべてを見通しているかのよう
に精密に、狂いも澱みもなく発砲し、斬撃し、時には徒手空拳のまま人体を破壊する。恐ろしく殺戮に
長けたその能力と技術はヒトの限界を頭二つ分ほど超越している。更には、ヘイフリック限界を無視し
た細胞再構築能力を有し、恐らくは細胞の一片に至るまで焼き尽くしでもしない限りは死なないだろう。
陽光と大気のみで活動に必要なエネルギーを自前で調達する。この地上で最も優れた生物は何か、と問
われれば、今の私の知識の中でそれは碇シンジしかありえない。
しかし・・・この寝顔を見る限りは、既に数百人以上を惨殺している怪物とはとても思えないのだ。
324 :
316:04/02/19 00:12 ID:+jp1XbAj
いやすまん。文句なんてでんでんないよー。
忙しいのに大丈夫なんかいって心配しただけ
325 :
316:04/02/19 00:16 ID:+jp1XbAj
む、そうか、シンジはチルドレンじゃないわけね。
ちと違和感あったのが納得できた。
居眠りシンジ少年が少しうなされ始める。私は触れかけた手を引っ込めた。何しろ相手は人の姿を
した虎なのだ。ご機嫌斜めのところに手を出して噛み付かれてはたまらない。しばらく様子を見続
ける。やがて、また穏やかな寝顔に戻って少しホっとする。彼のご機嫌を損ねた野卑な職員は今ま
だ集中治療室で虫の息である。殺さなかったのは彼の手心なのだろうが、ネルフではもはやシンジ
少年のことは公然の秘密となってしまった。曰く、アマゾンで育った野生児(似たようなものね、と
は思うけれど)。曰く、ネルフの技術で改造された改造人間(そんな都合の良い兵士が作れるものな
らとっくにやってるわ)曰く・・・枚挙に暇が無い。
彼に対して物怖じせずに近づくことができるのは、諜報部長であり人を食った態度・・・と言うよりも
人を食うことにしか興味が無さそうな加持リョウジ、それと彼の父である碇司令に、はなから物怖じ
と言う言葉が彼女の辞書には無いであろう綾波レイ・・・そして我が親友にして豪放の化身、葛城ミサト
の四名だけだ。敢えて付け加えるなら恐怖より興味が勝ってしまう私こと赤木リツコもそれに入れる
ことができるかもしれない。
私はあらゆる手段を駆使し、彼を徹底的に検査(なんと彼は麻酔を使う、と言う条件の下、人体(?)解
剖までさせてくれたのだ!)し、調査を重ねた。結果としてわかったのは・・・使徒よりも解析が難しい、
と言うつまらない事実だけだった。
ようやく眠り姫ならぬ眠り虎が目を覚ます。検診の途中で居眠りするのは今に始まったことでは
ない。私も起こさないものだから、そう言うときは大体、今日のように日はどっぷり暮れた夜と
なる。夜は彼の時間である。シンジ少年は目を覚ますと、少し首を傾げて言った。
「そんなに見つめないでください。照れますよ」
「それは無理ね。私はあなたに興味津々なのよ」
「僕は人間の女性にはあまり興味ありません」
「そう言う興味じゃないわよ、幾らなんでも中学生に手を出すほど餓えちゃいないわ」
「しかも人間でもないですからねぇ・・・あっはっは」
どこまで冗談なのかわからない。恐らくは彼なりの照れ隠しなのだろうが・・・私は首を竦めた。シン
ジくんのセリフは大抵、洒落にならないのだ。最初彼のセリフは自らの境遇を儚んだ自虐かと思っ
ていた。だが、最近はそうは思わない。彼は自らの存在を肯定的に受け取っており、むしろそれを
誇っている節さえ感じる。真面目腐って、集団の人間に襲われては溜まらないから、碇ゲンドウの
庇護は非常に有り難いのだ、と語っていたセリフに対して私は戦慄を覚えたものだ。つまり武器を
持った集団にさえならなければ人間など取るに足らない、とそう言いたいのである。彼が人間離れ
しているのは何も身体的な特徴のみではない。そこが最も脅威的な箇所なのだ。
「で・・・何かわかったんですか、僕のこと」
「いいえ、さっぱり。検診、辞めようかしら・・・あまり意味を感じなくなってきたわ」
「僕も僕が何なのか知りたいんで・・・がんばってくださいよ」
「じゃ、また解剖させてくれる?」
シンジくんはゲンナリした表情を浮かべた。以前の解剖後、再生するまでの数時間は相当な苦痛が
あったらしい。私はくすくすと笑って、冗談であることを告げた。こういうところはとても人間ら
しい反応を見せてくれる。私はだからこそ彼を好ましく思っているのであった。
「そう言えば・・・ミサトが呼んでたわね。起きたら執務室に来いって言ってたわ」
シンジくんは面倒そうに顔を顰めた。人間の女性には興味が無いなんて言ってはいる
が、綺麗な女の子は大好きな彼のことだ。この足でレイのところへでも顔を出すつも
りだったのだろう。だが、ミサトを怒らせるのは得策ではない、と彼は良く知ってい
るはずだ。ミサトと来たら、シンジくんが撃たれても死なないのを良いことに平気で
彼に向かって発砲するのである。発砲しておいて逆ギレするわ、怒っていたと思った
ら次の瞬間には機嫌良く笑っているわ、その豪放快活さにシンジくんですら扱いに困
る彼女こそ、このネルフで最も実力者であると言えるかもしれない。私は苦笑して内
線をつなぎ、ミサトの執務室をコールした。
「何の用事だか知らないけど・・・出ないわね、アイツ。さては寝てるわね・・・人を呼び
つけといて・・・全く呆れたものね」
「あの人何とかしてくださいよリツコさん。この間僕の部屋で朝まで飲んで散々クダ
巻いた挙句に寝ゲロしたんですよ? 何が悲しくて上司の寝ゲロを朝っぱらに始末し
なきゃいけないんだか・・・」
「それは無理ね。学生の時から幾度彼女を矯正しようとしたかもう数えるのもウンザ
リだわ。私は思い知ってるの。無駄だって」
「あの女は解職してしまいましょう。ネルフ追放。ついでに日本退去。うん、それし
かない。さっそく父さんにお願いして・・・」
「代りに次の使徒で人類滅亡でも?」
「ぐッ・・・」
「ま、今のセリフは私の胸の中にとどめておくわね」
「うぅ・・・」
ミサトは日常生活と日常業務に置いて完全な落伍者だったが、こと戦闘指揮に置いて
は天才的だった。シンジくんを捕獲した際の指揮指揮官はミサトなのである。シンジ
くんだけが、彼女の天才ぶりを思い知っていながら生き残っている唯一の存在なので
ある。彼女無しに使徒殲滅はありえない。シンジくんは肩を落として、トボトボと技
術部の執務室・・・つまり私の部屋から歩き出した。
「あ、シンジくん。ついでにこの間の二万円早く返しなさいって督促しといてくれる?」
「・・・絶対嫌です・・・」
指揮指揮官って何や・・・戦闘指揮官と脳内変換よろ
「おっそーぃわよぅ! また居眠り扱いてたんですってね? あんた寝過ぎでそのうち脳味噌に
カビ生えるわよ?」
「そう言うミサトさんも口に涎の後がついてますけどね。もうカビてるんじゃないですか?」
「え、嘘ッ!?」
「嘘です・・・フッ」
何やら勝ち誇った顔が親父の碇司令にソックリ。思わず弾丸をぶち込んでやろうと思ってしまった
が、私は大人だ。深呼吸一つで自制する。寝起きに血塗れのグロい物体が見たいわけでもないし。
そもそも相手は15のガキだ。ガキの言うことにいちいち目くじらを立てるのは大人として・・・でも
やっぱりムカついたので私はシンジくんの顔面にガラスの灰皿を思いっきり投げつけてやった。
重たい音がして彼の額に必殺の灰皿が命中するが、シンジくんが割れた額を人撫でする間にその傷
が目に見えて塞がっていく。腹が立つほど頑丈な奴。ぶん殴っても懲りる様子は無いし・・・灰皿程
度じゃ効かないか・・・私は徐に懐から拳銃を取り出した。
「やっぱあんたをキャンと言わせるには鉛の弾丸をぶち込むしかないようね・・・」
「ええと・・・調子乗ってました勘弁してください・・・」
「最初からそう言う態度をとってりゃいいのよ馬鹿。まぁ、その辺適当座ってくれる?」
待った待ったとジェスチャーするその慌てぶりに満足して銃を仕舞った私はとりあえずあいている
席をシンジくんに勧めた。素直にしてればかわいいガキなのに、どうも生意気でいけない。厳しく
躾けるのは大人の義務である。まぁでも今日は説教する為にこの少年を呼んだわけではない。とり
あえず灰皿クラッシュ一発でお仕置きは勘弁してやるとして・・・私はすぐに本題に入った。まだるっ
こしいのは好みではないのだ。
「今日あんたを呼んだのは仕事の話をする為なのよ」
途端に、シンジくんの顔が真顔となった。私はニヤリと笑った。仕事熱心な部下は愛すべき部下だ。
私の話に、シンジくんが目を見開く。これだ、この表情が見たかった。私は意地悪く笑った。
「つぅまりぃ、セカンドの護衛、やって欲しいわけよ命張って」
「・・・は?」
何言ってんだこの女・・・僕は空気の硬直と時間の停止を感じたような気がして頭がクラクラして
きた。そんなことできるはずがない。僕の専門は殺すほうであって、護るなんてできっこない。
そんな技術は持ってないし、それに僕のような怪物を受け入れてくれる人間は少ない。近くの
人間に常に忌避され続けるのはそれなりに辛いことだ。僕の反応を予測して意地悪い笑みを浮
かべていたんだな、この女性は。
「ちょ、待ってくださいよ! 人手不足は理解できます。ならどうしてセカンドの招聘なんかす
るんですか!? 綾波さんがいるじゃないですか、第三使徒を華麗にやっつけた!」
「あんたアホですか。レイはあの怪獣やっつけた代わりに入院二ヶ月の重傷を負ったのよ。エヴァ
が二機に増えればもっと安全に使徒を倒すことができる・・・当然でしょう? 数が力なのは思い知
ってると思うけど?」
「それは・・・そうですけど・・・」
「あんたの愛しのレイちゅわんがまた大怪我してもいいわけ?」
「良くないです・・・でも、それとこれとは話が別で」
「別じゃないわよ。すべての事象は絡み合ってるの。レイは結果として重傷を負ったんじゃない、
重傷を負うことが必至な作戦でなければ勝てなかったのよ。レイ一人でやるなら、この先もずっと
同じ状況が続くわ。私は負ける作戦は立てない。でも、勝てる作戦が立てられるとは限らない。そ
の時・・・犠牲になるのは誰かしら? そのちっこい脳味噌じゃ、こんなことすらわかんないの?」
ぐぅの音も出なかった。だが、抵抗しないわけにもいかない。僕は妥協点を探った。
「なら、僕が綾波さんの護衛をします。彼女なら、護れる。保安部がセカンドを護ればいい」
「それはあんたがレイに人の匂いを感じないから、近くに居ても不安にならないから・・・でしょ
う? そう言うの、ムカつくのよ。私から見ればあんただって立派に人間なのよ。そのクソッ垂れ
た怪人思考辞めなさい。これはいい機会だわ」
ミサトさんは厳しく、言い切った。
見抜かれていたのか。僕は少しショックを受けていた。綾波レイは好きだ。なぜなら、彼女から
人の匂いを感じないから・・・ミサトさんの指摘通り、僕はそのままの理由で綾波レイに惹かれてい
ることを自覚した。いや、させられてしまった。この二年で大分人に近づいたと思っていたが、
実はそうでもなかったようだ。僕は正直、人が怖い。脆く儚く壊れやすい癖に、その言葉と視線は
僕を痛めつけ、傷つけるからだ。銃で撃たれることよりもずっと辛いこと、それは身近な人間に汚
らわしい怪物だと・・・言葉の刃を刺しこまれるその瞬間なのだ。その傷はけして癒えない。時折ず
きずきと疼くその傷こそ、僕の二十年の生の歴史だった。
「あら、怖い顔ね? もしかして自覚してなかったってわけ?」
「・・・ええ、ここのところ忘れかけてた感覚、思い出しました」
「あんたは妖怪人間よ。人になりたくてもなれやしない。でも、私はそんなあんたを人だと思ってる。
だって嫌われて、疎まれて、傷ついてるものね? その辺、嫌いじゃないわ。ねぇ、後ろ向き全力疾
走な考えは辞めて、もうちょっと人になってみようって思わない?」
その言葉に、体が竦んだ。それは二年前の父の言葉にとてもよく似ていたからだ。人になってみない
か。それは魅力的で、甘い香りを放つ蜜のように僕の心を誘う。だが、父には少し失望させられた。
また、失望が待っているのではないか? 当然の警戒心がむくむくと僕の猜疑を育てる。大きく黒く
育った猜疑は、未来の裏切りを確信させるに充分だった。現状が変わることを、僕は望んでいなかっ
た。良くならなくていい。また以前のようにならなければ。
「嫌だ・・・僕は嫌だ。また、あんな思いはしたくないんだ。みんなが僕を傷つける。僕は・・・静かにし
てたいだけなのに!」
それは僕の隠された本音だった。僕は・・・情けない怪物だったのだ。
ミサトさんが立ち上がり、そして僕の頬を思いっきり殴ってから胸倉を掴んだ。いつもの激昂とは違う、
ただ静かな怒りがその瞳に宿っているのがわかった。僕は体が竦んで動けなかった。口の端が切れ、血
が滲む。頬の痛みがじんわりと広がる。しかしその痛みはすぐに癒えてしまう。今はそれが悲しいこと
のように思えた。
「今が永遠に続くはずはないわ。物事には必ず始まりと終わりがあるの。いずれ・・・終わりが来る。今の
あんたを社会にほっぽりだすとね、あんた自身とあんたに関わるすべてが不幸になるわ。断言してあげる
・・・なぜならあんたはとても魅力的な力を持っているからよ。それはずっと色々なモノに利用され続ける
わ。あなたのお父さんみたいに、あんたの意思に関りなくね?」
「どうしてですか・・・どうして、ミサトさんは僕にそんなことを言うんです?」
「私が・・・あんたを人にしたからよ。ネルフがあんたを捕獲した時、私がその指揮をとったのは知ってい
るわよね? ネルフでシンジくんを雇うことを進言したのも私。今のあんたの待遇を決めたのも私。司令
には司令の思惑がある。けど、私はあんたを人にしたいと思ったのよ。シンジくん、セカンドを護りきり
なさい、命を賭けて。人を殺すことよりも・・・それはずっと人間らしいことだから」
涙が、溢れた。それ以上、僕に何か言う言葉は浮かんではこなかった。
結構すんなり納得するもんだと思っていたが、この馬鹿えらく抵抗してくれちゃって困ったものだ。この
二年で幾分成長したかと思っていたが、やはり二十年の迫害の歴史はけして軽くは無いらしい。まだまだ
警戒心が溶けないようだ。まぁ、普段から殺しを生業にさせている以上、それは仕方の無いことだったか
もしれない。しかし、目の前で涙を零すこの人間以上怪物未満な少年の小さな小さな姿に、私は一つの確
信めいた思いを感じていた。この少年はきっと人になれる。だってこんなにも小さく、弱い心を持ってい
るのだから。
さて・・・私は大きく伸びをした。後はどう、司令を納得させるか、そのことだけだ。
ちょっとチグハグになっちまったなぁ。まぁ、最後の方のノリでラストまで
行くってことで。案外板SSにしちゃ真面目っぽいしょ。
結局LAS方向。LAS厨ですいませんほんと。
LASキタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!
新SSおめ。
今回はハードボイルド系スパシンだな。
体が痒くなるようなLAS、期待して待ってるよん。
探し物をしていたら、腐海HDの底から「GTラボラトリー」名フォルダを発掘してしまった。
サイトごとDLしたものだろう。「レイアウト&デザイン修正。更新履歴消滅。1/15」とあるのは、フォルダのタイムスタンプから見て
2002年初頭頃だろうか。
他に脳味噌飲酒運転のリメイクなる「another life 1.htm」と、「羽の無い天使005.htm」「羽の無い天使006.htm」(これは
先のサイト全体保存の後に更新されたものを個別に捕獲していたのだと思われ)、「Dancing Edge」名のフォルダが一緒に格納
されている。
これはひょっとするとtomoタソ考察の一助となるべき貴重な資料なんではあるまいか、などと、晒しの衝動に駆り立てられてしまった。
indexページにはこれまた懐かしくも「差し上げモノ 不変世紀偽伝ver1〜2 投稿>SWAMPへ」と、当の昔に消えたHPの
名前もある。
たしかこのHPも保存していたはずだし、LUSTERの裏がGoogleから入れた頃の投稿作もどこかには捕獲してあったと記憶にある。
このまま探索を続け、tomoタソの黎明期から第一次CQ度絶頂期といった今に至るまでの黒歴史をお得なオールインワンパッケに
してお届けしようかと思うが、需要は如何ほどだろう?
337 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/02/19 09:16 ID:uas525DW
どうもtomoタンの描くミサトはムカツク性格してるよね
アスカはやたらかわいいんだけど
あげてしまった
>>tomoタン黒歴史オールインワンパッケ
あ、欲しいなあ。tomoタン的にオッケー出ればだけど。
>>ハードボイルドな新作
導入からその後がちょい性急過ぎ?な感じもするね。
だからチグハグ感があるのかな。
つかシンジは外見年齢14で身体的な成長はストップしてるの?
なんとなくダブルブリッドを想起しちまったけど。
今まで色々なエヴァFFを読んで来たが、シンジくんを人体解剖したリツコさんは初めて見た。
麻酔無しで生体解剖されたシンジきゅんなら居たけどねー
>337
むかつくっつうか、煮ても焼いても食えないっぽい感じが良いと言う気がす。
なんといってもネルフ実戦部隊のTOPなんだから、
いかにもそれらしく、いかがわしい人物像で描かれているFFを読むのは楽しい。
新作の「拳銃ぶっ放し」ミサトはなんかツボだな。
tomoタン黒歴史 俺もキボリ
>343
わしがシンジの立場であったら
事がすんだら絶対ぶっ殺してやると思うだろうなぁ
ミサトはエヴァットん時のよりも相手が相手だからか、凄いよな。
>>336 tomoタソのOk出るんならキボンヌ。
お前らワカッテネェヨ! ミサトは熱いんだよッ ネルフの裏番なんだよ!
>>黒歴史
別に構わんよ。でもあんまり期待して読むとどっちに転んでも中途でガッ
カリかもよ?ワラ 当然今より技術は劣ってるからな。タブンひたすら中途半
端のような気がする。
つうか黒歴史ってナンジャイ失敬だな君達(藁
ちょっと長文でマジレスする。
俺はぶっちゃけネット上の文章に著作権なんざあって無いようなもんだと
思うようになったんや。勝手に汁ってことやな。だから俺の古いの発掘し
てきて配布すんのも別に構わないと思うYO! でも、無償公開物の作者に
対してエラソーな苦言とか吐くなよ。それはムカつくからな。つまんねー
とか厨杉とかその辺の「感想」は流せるし場合によったら煽り返して楽し
めたりするけど、俺に説教する奴だけは許せんよ。多分俺に説教する奴の
三十八倍は俺のが上手いに決まってるしな。ちと微妙な喩えやが、野球選
手に野球に関する説教を素人がするようなもんやと思ってくれ。それだけ
は腹に据えかねる。その時は俺はキチガイになるが、優しくフォローしてネ(藁
あ、ちなみに今日はこのスレの更新はしねぇ。っつうか金晩〜土夜までの間
に僕との距離のほう更新するので、日を開けないとこっちのノリに引き摺ら
れてしまうのよ。夜遅くまで待っててガッカーリとかなるとお気の毒なので先に
言っとくよ
>>347 快い返事に感謝。
以前に他所で似た話が出た時もOKと言ってた気がしてたんで心配はしとりませんでしたけどネ。
早速、tomoタソお得詰めオールインワンパッケ、支援あぷろだに上げときました。
tp://eva-2ch.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upload/dat/eva0085.lzh
indexが恥ずかしすぎるなー(*´Д`)ハゥ、猛々しい・・・偉そうに書いてるけど
要は「飽きた」ってことじゃんねぇ。若いなぁ。チャットログとかあるし。
ログの中味にノスタルジー。この頃は最低テンプレもまだ目新しかったんだよね。
しかしヘッタクソやな。後期の奴はさすがに大分マシになってるけど、ダンシング
エッジとターンエッジはもう詰んでるなーこれは。読んだらリメイクしたく
なるかと思ったけど、アリエヘン。この頃は大手サイトをお手本にして真似てたから
後書きとか寒い寒い。。。OK、堪能した。これは恥ずかしいわ。
たしかに黒歴史やナw
ってか、ダンシングエッジかー。懐かしいのー。
あの頃は、流行のスパシンを書く作家がまた出てきたかーってな感想しかなかったけどな。
ただダンシングエッジは、LASになる!と自称しながらアスカさえ出てこないのはどういう了見か。
続き書けよバカヤローヽ( `Д´)ノ
あと、ダンシングエッジがDancing Edgeとして加筆修正されて再公開されたのっていつ頃だ?
これ、再公開の存在自体知らなかったな…。
とにかく、
>>336は乙!感動した!
>>354 古参やなぁ。99〜00年とかその辺やろ? この辺りって。
続きか。リメイクなら考えてもいいけど、これはもうネタが古過ぎてシンドイ
な、正直。今後に期待汁ッ
つうか羽の無い天使REI…ありえへん
今回、発掘品の中でも「ハイスピードサムライ(?)」なるリレー作品については、他にも参加者がいる都合から
パッケに入れるのを避けていたのだが、他にも「ウィザーズエッジ」他投稿作に漏れがあったとは不覚。
GreenGableへの投稿「ウィザーズエッジ」、そして若月氏のサイトへの投稿作についても探してみようと思う。
あの頃は無造作に保存しまくっていたから多分見つかると思うので。
そこでど忘れしていて恐縮なのだが、どなたか当時の若月氏のサイト名、並びtomoタソの投稿作の名前について
記憶のある方、検索の手掛かりとして教えては貰えまいか。
「ウィザーズエッジ」はあっさり見つかりますた。
tp://eva-2ch.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upload/dat/eva0086.lzh
自己解決しますた。「tha black arts」ですね。
何故か保存してあった「the white arts」のTOPから、手掛かりとなるタイトルは判明。
>12/31 tomoさまより「白い部屋」「end of evangelion」拝領
残念ながらサイト名で保存してあったフォルダには管理人氏の作品しか収められていなかったので、
後は断片保存されたhtmファイルの海から探さねばならない悪寒。
時間が掛かりそうなので、期待はしないでおいて下さい。
ついに任意に戻ったか。
>>357 俺は怖くてHTML開けへんかった。ありえへんか・・・まぁタイトルから
ありえへんな。
>>361 the white artsは俺のサイトちゃうし多分管理人は名前も晒されたく
ないと思ってるはずやで。そこ関連に触れるのは管理人に了解とってから
に汁。新しい玩具で楽しむのはいいがネ、俺が構わないと言い切れるのは
俺のみで完結してるとこまでやで。
>>362 あそこの管理人氏周辺のドタバタは覚えとるし、元より了解の取れてるtomoタソ分しか晒しませんよって
安心しとくれやす。
白い部屋何となく思い出した。かなりキてる作品と呼ぶのも怪しいブツだっ
た気がするな。危険! 特に俺にとってッ!!キャアア!
ていうか、管理人のコメントがついてたら晒すの辞めてちょ。
何も無かったら別にええよ。
みんなtomoタンが大好きなんだね(ワラ
tomoタンの過去で遊んでいるとも言うw。
ま、大好きであることは確かだな。
tomoタンの穴大好き
>>368 どさくさに紛れて何か超怖く聞こえることを言ってるな・・・(;´Д`)寒気が
風邪ですか? 368が暖めてくれると思うよ
よーし、今日は行くぞぁー。五分以内に一発目投下ぁ〜ん
「アタシが惣流・アスカ・ラングレーよ!」
無意味に胸を張ったその緑色の髪の少女に僕は盛大にゲンナリした。思い切り少女の口を押さえ、
「シーッ」と口に人差し指当てて注意を促すと、少女はサングラスごしに少しばかり不満気な様子
を覗かせながらコクコク頷いた。
「せっかく変装までしてるんですから・・・」
「ついつい、って奴ね! テヘ☆」
テヘ☆って何だ。ミサトさんから恐ろしく気難しいので扱いには充分注意するように、と聞かされ
てはいるが、気難しいというよりも世間一般から相当ズレている、と言う印象を僕は感じた。普通、
身分を隠す為の変装で緑のカツラを被るなんてありえない。自ら目立ってどうするのだ。ここは松
代の空港である。空港は雑多な人種が様々に歩き回っているものだ。彼女はネルフで最重要な人物
の一人であり、そして綾波レイの次に頭のおかしな連中から敵視される存在なのだ。正体がバレれ
ば、いきなり撃たれてもおかしくないのである。僕は神経を尖らせながら溜息を吐いた。
「碇シンジです。あなたの護衛を任されています。こちらへどうぞ」
「何よ、盛大な歓迎とか無いわけ? せっかく無敵のセカンドチル・・・」
「わぁー! 頼みますからそれ以上口にしないでくださいよ!」
「あ、えっと、ごめん。あは」
「あはじゃなくて・・・。ただでさえ目立ってるんですから、気をつけてくださいよ・・・」
「アンタが護ってくれんじゃないの? ・・・ってーか、アンタが護衛? アンタ一人!?」
信じられない! と惣流嬢はオーバーアクションに驚く仕草をし、そして周りをキョロキョロ伺いは
じめた。やっと警戒してくれるのかと思ったが、惣流嬢はどうやら僕はメッセンジャーで、姿を隠し
た保安員が回りを固めているとでも思っているようだった。残念なことにそれは勘違いだ。今日、彼
女を迎えに来たのは僕と、そして空港の駐車場にとめた車の中で待っているミサトさんだけである。
ミサトさんの顔はテレビなどで半端無く売れている。だから一般的に顔を知られてはいない僕が空港
の中まで迎えに出向いた次第だ。まぁ、ネルフの幹部が直々に出向いている時点でネルフとしては破
格の待遇である。僕は「日本へ、ネルフへようこそ。今から本部へ案内します」と言って彼女のスー
ツケースを持った。
ようやく黙った惣流嬢を連れて空港を足早に出る。今のところ、僕の耳に銃器の類の音は聞こえ
いなかったが、油断はできない。ナイフなら不自然な音を立てずに懐から取り出すことができる。
駆け寄ってくる者や、近くを歩く者などに細心の注意を払いつつ、歩き続ける間にようやく駐車
場まで辿りつくことができた。ここまで来ればもう、それ程心配はしなくていいだろうか? 少
しだけ息を抜きかけた瞬間、僕の耳に銃器の安全装置が上がる音が聞こえた。僕は咄嗟にスーツ
ケースを盾にしながら音が聞こえた方向と惣流嬢の間に割り込む。甲高い音が聞こえて、スーツ
ケースに銃弾がめり込む感覚が僕の腕を震わせた。
「え? 何?」
「頭伏せて!」
続けざまに三度の銃声。来たぞ、碇シンジだ!と言う叫び声。集まる足音。やはり情報は漏れてい
た。惣流嬢来日を控えて流された海路を使う、と言う偽情報には踊らされずに正確に。いや、その
割には人数が少ない。集まってきたのは精々が5,6人である。僕の顔を知っていた連中がたまたま
僕を発見したというだけなのか? どちらにせよ危険であることに間違いは無かった。
「ご説明がまだでしたね。日本は今、こういうところです」
僕はコートから拳銃を取り出し、銃声のした方向に向かって二度発砲した。惣流嬢が悲鳴を上げて
頭を抱えて蹲る。申し訳ないが、その体勢のほうが兆弾を受ける可能性は低い。少し不味い状況だ。
空港で交戦する予定は無かった。交戦してもいいが、惣流嬢をほおっておくわけにも行かない。人
を護る、と言うのはなんとも面倒だ。僕は無意識にシニカルな笑みを浮かべていた。
蹲る惣流嬢を駐車されている車と車の間に押し込んで隠し、僕はわざと目立つように立ち上がった。
銃弾を頬の近くが掠めていく。頭に食らうのは不味い、小一時間行動不能にされてしまう。その間
に惣流嬢が見つかってしまえばアウトだ。護る戦い、と言うものに僕は慣れていなかった。専ら僕
は奪うほうの専門だ。この場を離れることができないのは非常にじれったい思いだった。
しまった、会話部分抜けちった。
>>374はナシで。
「てーかー、マジ? マジに? マジでアンタが護衛?」
「何度も言わせないでください。僕だけです」
「えーえーえー。納得いかないわねぇ・・・こう、四方をガッチリガードとかしてくんないの?」
「そんなことしたら銃撃戦になりますよ。日本が今、どういう場所なのかご存知ですか?」
「そんなの知らないわよぅ。何かいきなり日本出向だーって言われて、カツラかぶせられて飛行機乗せら
れたんだもん。ね、日本ってどんなとこなの? アタシ日系のクォーターでママも日本人だったんだけど
ね、日本に来たのは実は初めてで・・・」
「後でしっかりご説明します。今はなるべく早く安全な場所へ」
「ちょっと!」
「はい? 何ですか?」
「今アタシの話を遮ったでしょ! それ、超ムカつくのよね」
「いいから、急いでください。話の続きと苦情は車の中で幾らでも聞かせていただきますから」
「その言葉、覚えとくわよ! 大体ね、アタシを誰だと思ってそんな・・・」
「ここは安全な場所ではありません。特に、あなたにとっては! 車に乗るまで黙ってて下さい。いいですね?」
「わかったわよ。・・・アンタ、ちょっとムカつく奴ね。そもそもね・・・」
「い・い・か・ら!」
ようやく黙った惣流嬢を連れて空港を足早に出る。今のところ、僕の耳に銃器の類の音は聞こえていなかったが、
油断はできない。ナイフなら不自然な音を立てずに懐から取り出すことができる。駆け寄ってくる者や、近くを
歩く者などに細心の注意を払いつつ、歩き続ける間にようやく駐車場まで辿りつくことができた。ここまで来れ
ばもう、それ程心配はしなくていいだろうか? 少しだけ息を抜きかけた瞬間、僕の耳に銃器の安全装置が上が
る音が聞こえた。僕は咄嗟にスーツケースを盾にしながら音が聞こえた方向と惣流嬢の間に割り込む。甲高い音
が聞こえて、スーツケースに銃弾がめり込む感覚が僕の腕を震わせた。
「え? 何?」
「頭伏せて!」
続けざまに三度の銃声。来たぞ、碇シンジだ!と言う叫び声。集まる足音。やはり情報は漏れていた。
惣流嬢来日を控えて流された海路を使う、と言う偽情報には踊らされずに正確に。いや、その割には人
数が少ない。集まってきたのは精々が5,6人である。僕の顔を知っていた連中がたまたま僕を発見した
というだけなのか? どちらにせよ危険であることに間違いは無かった。
「ご説明がまだでしたね。日本は今、こういうところです」
僕はコートから拳銃を取り出し、銃声のした方向に向かって二度発砲した。惣流嬢が悲鳴を上げて頭を
抱えて蹲る。申し訳ないが、その体勢のほうが兆弾を受ける可能性は低い。少し不味い状況だ。空港で
交戦する予定は無かった。交戦してもいいが、惣流嬢をほおっておくわけにも行かない。人を護る、と
言うのはなんとも面倒だ。僕は無意識にシニカルな笑みを浮かべていた。
蹲る惣流嬢を駐車されている車と車の間に押し込んで隠し、僕はわざと目立つように立ち上がった。銃
弾を頬の近くが掠めていく。頭に食らうのは不味い、小一時間行動不能にされてしまう。その間に惣流
嬢が見つかってしまえばアウトだ。護る戦い、と言うものに僕は慣れていなかった。専ら僕は奪うほう
の専門だ。この場を離れることができないのは非常にじれったい思いだった。
左から二名、右から四名。今のところ、六名が明らかな敵意を持って僕を照準している。僕の噂は知っ
ているのだろう、無理に距離を詰めてこようとはしない。くそ・・・僕は舌打ちした。作戦部長殿が異変に
気付いてくれれば良いのだが・・・他の客や近くにいた一般人が逃げていったのを確認していたが、ミサト
さんの車を置いてある場所の方向へ走った奴はいなかった。銃声が聞こえる距離ではない。気付いてく
れるかどうかは微妙なところだ。僕は左手をポケットに突っ込んで携帯電話の通話ボタンを押した。何
時でも掛かるようにはしていたが、さすがに話す余裕はない。これで気付いてくれと祈りつつ、こちら
に拳銃を照準した一人に向かって発砲する。だが、僕は一所に照準を固定できない為、銃を向けた瞬間
に車の陰に隠れられてしまった。
俗に言う、ピンチと呼ばれる状況だった。
この場を動けないのは致命的だ。こちらの動作の一つ一つから相手に回避タイミングのヒントを与えてしまう。
徐々に距離をつめてくる刺客達は、それなりに修羅場を潜った「セミプロ」ではあるらしかった。功を焦るよ
うなうっかり者はいないように見える。
刻一刻と事態は悪化の一途だ。銃器は拳銃二丁しか持って居ない。三発撃ったから残り6発と、もう一丁の拳銃
の9発のあわせて15発しかない。弾装を入れ替えるような仕草を見せれば一気に襲われる。僕は動けない以上、
六人のうちの何人かは僕が行動不可能となる箇所に銃弾を打ち込んでくるだろう。これは非常に分が悪い戦い
だった。今は相手は警戒しているのか、じりじりと距離を詰めてくるだけだが、そのうち僕が動けないことに
気付くだろう。そうなったら数を頼んで銃弾を雨霰のように撃ち込んでくる。僕だけなら、すぐさま一番距離
の近い奴に肉迫し、数を減らしに掛かるところだが、今日の戦いは倒す戦いではなかった。車の間でカツラの
上に手を乗せて不安そうな顔で僕を見上げる二つの双眸が、僕にこの場を動くことを許してくれなかった。人
なんか強いて護りたい、とは思えない。だが、この娘は別だ。チルドレンなのである。死なせるわけにはいかなかった。
主義には反するのだが・・・僕は大声を張り上げた。
「たったの六人でこの僕を殺せると、そう思ってるんですか?」
車の陰に身を隠すのを辞め、僕は敢えて狙い易い位置にたった。腕の良い射撃手がいれば頭に一発受けて行動不
能にされてしまう危険性があったが、ここは一か八か、時間を稼ぐしかない。僕が選んだ最後の手段は、「ハッ
タリ」だった。僕は自分を過大評価はしない。けど、過小評価もしていない。自分の名前にどれほどの威力があ
るものなのかこの二年でよく知っている。今襲ってきている人数の十倍以上を一度に殺した前歴は伊達じゃない。
躊躇うはずだ。
「こないだは悪魔って呼ばれましたよ。今日は何て呼びますか? 死神ですか? 怪物ですか? それとも、例
のかっこ悪い通り名ででも呼んでもらえるんですかね?」
一歩踏み出す。僕は敵が怯むのを敏感に感じた。
一発の銃弾が腕をかする。一瞬の痛みが僕の眉を寄せさせるが、血を飛び散らせた傷口は
すぐに瘡蓋になった。完全に癒えるにはもう少し時間がかかるが、こけおどしには丁度良
い。僕はその傷を誇示するように自分のコートの袖を破いた。
「もっとよく狙わないと・・・掠った程度じゃこの通り、すぐ直っちまいますよ?」
僕の挑発に乗って狙おうとした刺客の一人に、僕は素早く発砲した。残りの弾丸をすべて
ぶち込んで沈黙させる。僕の視界の中で顔を上げるなんて迂闊な奴。プロではないな、と
言う思いが少しだけ僕の心を軽くした。致命傷を与えたかどうかはここからでは確認でき
ないが、二発は体に命中したのが確かに見えた。僕と違って人間は一発でも受ければ大抵
の場合戦闘不能となる。残り、五人。しかし今の一撃で、僕は銃を一つ使い切った。後五
人もいる。気の遠くなるような数だ。厳しい状況が変わったわけではない。一歩後ろの車
の陰に潜んだ少女が僕の足に重い枷をつけていた。
僕の左後方に位置していた男が、意を決したように拳銃を僕に向けて乱射した。僕は後ろ
に倒れこむようにその射線から逃れ、起き上がってもう一丁の拳銃を発砲した。五発目の
弾丸が確かにその男の頭部を捉える。弾は残り四発。二人同時に来たら今度は不味い。僕
の顔色を読んだのか、残った四人が一斉に動き始めた。拳銃を撃ち放ちつつその場を移動
し始める。僕は車の隅の少女に流れ弾が当たらないよう、その場から動かなかった。一発
の銃弾が僕の腹部に命中する。内臓が抉れ、普通なら死に至るほどの出血と、それに伴う
激痛が僕の頭を掻き毟る。僕は歯を食いしばってそれに耐えた。
「・・・血が・・・血がいっぱい出て・・・」
「血は、苦手ですか?」
「な、何言ってんのよ! 死んじゃうわよ!」
「平気です」
更に二発の銃弾が肩と膝にめり込む。僕は無事な腕に銃を持ち替えて残りの弾を発砲した。
二発づつ、正面の二人が血飛沫を上げて倒れる。空になった銃を構えた所で、残った二人の
敵は車の陰に隠れた。もう弾が無い、とは思っていないらしい。好都合だ。僕はそのまま、
その二人の方向に銃口を向け続けた。だが、長くは持たない。すぐに敵が次の行動を開始し始める。
拳銃の射撃音と、タイヤがアスファルトを焦がしつける音は同時に響いた。カツンカツンと銃
弾を弾き返した防弾仕様のミサトさんの車が、僕と敵の間に割り込んだのだ。後部座席のドア
を開け、呆然としている惣流嬢をほおり込んで僕も、助手席に飛び乗った。ドアを閉めた瞬間、
ミサトさんの車は一気に加速した。ようやく危機を脱することができて、僕はホッと胸を撫で
下ろした。
「危機一髪ってとこ? ・・・悪いわね、気付くのが遅れたわ」
「いえ、助かりました」
「病院! 病院行かないと! 血が一杯出てたのよ! 血!」
我に返った惣流嬢が騒ぎ始めた。僕は腹の中から弾を取り出して惣流嬢に投げてよこし、ニっ
と笑ってみせる。ミサトさんが運転しながらくすくす笑った。
「アスカ、無事? 怪我ない?」
「み・・・ミサト? 怪我は無いけど・・・荷物置いてきちゃった。いやそれより、血が・・・」
「ちょっと落ち着いて、アスカ。順番に説明するわ。まず、アンタを護ってくれたその子はシン
ジくん。ネルフ本部の死神って言うか悪魔って言うか何かそんな感じ。頭撃っても多分死なない
から安心して」
酷い説明である。口は挟まなかったが、多少不本意だ。僕は肩に埋まった弾を取り出す為に激痛
に耐えながら思った。
ミサトさんが大まかに日本の今の状況・・・と言うよりも、第三新東京市とその近辺の情勢につ
いて説明した。今、第三新東京市はネルフと、そして反ネルフのテロリストだの宗教法人だの
殺し屋だの・・・有象無象の武装勢力が流れ込んでおり、さすがのネルフも取り締まりきれない半
ば無法地帯に近い状況であることを、だ。一般の職員や、住人にとってはさしたる問題は無い
が、こと、ネルフ幹部、チルドレンにとっては危険極まりないのである。何時どこに武装した
反対勢力が歩いているかわからない。彼らは住人に紛れ、ネルフ施設や要人暗殺などを企てる。
惣流嬢はその標的優先度最高峰なのだ。惣流嬢はわかっているのかいないのか、「ふーんそう
なんだー」と興味無さそうに頷いただけだった。僕はとても不安になった。今回の襲撃はどち
らかと言うと僕が狙われたのだと思うが、ネルフ以外の場所が危険極まりない、と言うことだ
けは納得してくれたのだと信じたい。
本部に着いた後、諸々の手続きなどを済ませる為に惣流嬢とミサトさんは司令室へ向かった。本
部の中でまで護衛は必要ないだろうと考えた僕は医務室で傷口に適当に消毒液をかけ、包帯を巻
いて服を着替えた。別に二時間もすれば跡形も無く直るとは思うが、それまではずっと痛いのだ。
気持ち的に包帯を消毒して包帯を巻くことで、何となく痛みが緩和される気がするから、やって
いるだけである。要するに儀式みたいなものだ。そして休憩所で缶ジュースを買い、ベンチに座
って休憩することにした。ベンチでぼんやりしていると、通路の奥からやけにニコニコしている
惣流嬢が、走り寄ってきた。
「あー! いたいた、碇シンジ!」
「惣流さん。手続きはいいんですか?」
「面倒臭いから、ミサトに任せて来ちゃった。ねぇねぇ、それよりも! アンタが『キリングドー
ル』っての本当?」
「・・・かっこ悪い通り名ですよね、それ」
興味津々と言った様子の惣流嬢に、僕は苦笑した。
「あの『キリングドール』がアタシ専属のボディガード? いいわねいいわね! 何だかこう、
自尊心が痛く満足するわよ」
「そーすか。そりゃ良かった・・・」
「何て言うか、自分がああ、最重要人物なんだなーって自覚できる感じよね?」
「そーすか。そりゃ良かった・・・」
「ちゃんと話聞いてる?」
「そーすか・・・」
「聞いてないじゃん!!」
「そー・・・んなことないですよ?」
いきなりの大声に少し驚いて僕は目を丸くした。惣流嬢はぷんすか怒った仕草で僕のおでこを
人差し指でパッチンと強く弾いた。僕にこれだけ大人気ない真似をする奴なんか、ネルフ中探
しても・・・ああ・・・僕は大きく頷いた。大人気ないも何も、この娘はまだ15歳だった。僕は溜息
を吐いた。面倒臭いことこの上無い。そのうちどうせ人じゃないってことを嫌でも思い知って
敬遠するようになるだろうけど・・・僕がゲンナリした顔を見せると、惣流嬢は口を尖らせてもう
一発おでこを弾いてくれた。正直、痛い。
「何ですか、一体・・・」
「アタシのボディガードなんだからね、アンタは!」
「はぁ・・・」
「だから、その他人行儀な呼び方やめてよね! アスカ、でいいわよ」
「アスカ」
「オーケィ。代りにアタシはアンタのことをキルちゃんって呼んであげる」
「・・・キルちゃ・・・ええ、勘弁してよ」
「そうねぇ・・・じゃ、シンジって呼ぶわ。いいわよね? あと、タメ口でいいわよ。敬語、メン
ドイでしょ?」
「そう言うわけには・・・あ、えっと、はい。そうする」
一瞬鬼のような形相を浮かべた惣流嬢・・・アスカの表情を見て、僕は逆らわないほうが良い、
と判断した。
今後この娘がフラフラ出歩く度に護衛と称してお供するのが仕事になるわけか、と思うと頭が
痛くなってきた。だが、どうやらミサトさんは父を説き伏せたらしい。今更、護衛は嫌だとは
言えなかった。つまりはセカンドチルドレンを護りきれなかった時、父とネルフの庇護を失う、
と考えても良いだろう。ミサトさんは甘くない。ミサトさんは信じてくれるが、任務を完遂で
きなかった僕に殊更寛大であるとは思えない。それはミサトさんにとって裏切りの行為となっ
てしまうからだ。僕は背筋の凍る思いを今更ながらに痛感した。人を護る、と言う任務は、そ
の逆の任務の何十倍も難しい。
僕の内心も知らずに、アスカは僕の答えにいたく満足したご様子で僕の座っているベンチの横
に座り、何が嬉しいのかニコニコと僕の顔を眺めながら言った。
「よろしくね、シンジ」
その笑顔にドキリとする。僕は人間には興味が無い。と言うより、怖い。それは僕を常に拒絶し
てきたからだ。人間は僕を傷つける生き物である。だが、この娘は僕の本性をまだ知らないが故
に、無邪気な笑顔を僕に向けてくれる。それは心地よかった。人間など、受け入れないと硬く強
張っていた僕にとっては認めがたい感情で、僕は思わずその顔から視線を逸らしてしまう。しか
し、どうしても気になってしまって、横目で見た彼女の顔は、やっぱり心地よい笑顔だった。
正直なところ、僕はまだまだ人間が僕を受け入れることがある、とは考えられなかった。この笑
顔は一時的なものである。この先に苦痛に満ちた失望がある、と僕は良く知っている。二年間、
その繰り返しだった。人は僕を恐れる。唯一僕の存在を容認するミサトさんは厳しく、僕を無条
件には許さない。この少女もいずれは僕を拒絶する。しかし、できるだけ、この心地よさを感じ続
けたいと思ってしまうことも・・・僕の本音であることは確かだった。
護ろう、この少女を。今は、それ以上は考えるのは止そう。
その心地よい笑顔を護る価値があると、ただ、そう思えたのだ。
二話 完
乙っ!
「僕との距離」が頭に残ってて、一瞬何の続きだかわからんかった。前の見て思い出したが。
いい感じ。
とりあえず今回はタメの部分やね。
エロいtomoタソ乙
tomoタンのおかげでアスカがすこしだけ好きになりますた
諸君おひさー。30分以内に投下したいところだが一時間くらいかかるかも的
な危惧もあったり無かったりして。
やった!待ち望んでたYO!
「どうして鍵が開いてるんだ?」
我が家のドアにカードキーを差し込んでから、僕はようやくその異変に気付いた。甲高いエラー
音が、ドアが既に開錠されていることを僕の耳に告げる。待ち伏せされている? 戦いの前の軽
い緊張感が僕の感覚を鋭敏にする。キーのスペアはミサトさんしか持っていない。だが、ドアが
開錠されている。スペアを作られた・・・と言うことだろうか? キーを複製するとは準備の良いこ
とだ。鍵を開けたまま、と言うのは、僕を挑発し、誘っているということか? 僕は軽い怒りを
感じた。舐められている。
僕は懐に手をやった。銃器は四丁。10人は相手に出来る量の弾もある。これだけの弾丸を室内でバ
ラ撒けば、お気に入りのソファは間違いなく穴だらけになるだろう。同じくらいに気に入るソファ
がすぐに調達できるとは限らない。僕は溜息を我慢できなかった。
自宅で待ち伏せられるのは二度目である。前回は寝込みにランチャーを撃ち込まれた。その時に比
べればまだマシにせよ、家財一式にかなりのダメージを被るのは間違いがない。この時点で僕は一
人たりとも生かして帰す気が無くなった。闘争意欲が刺激される。皮膚が粟立つ。ルール無用のテ
ロリストに吐き気を感じた。恐らく向こうも同じように僕に対して吐き気を感じているのだろうが、
それは相容れない敵同士である以上、仕方の無いことだ。
僕は迷わずドアパネルにタッチした。電動のドアがスっと開く。僕は両手の拳銃を開かれたドアの向
こうに向かって突きつけ、フルオートで全弾乱射した。
予想と違って、反撃される様子は無かった。あてが外れた僕は首を傾げて、粉塵を舞い上
げる室内を覗く。硝煙が去ったその場所には、さらに予想と違うモノが僕の視界に飛び込
んでいた。そこにいたのは、尻餅をついて震える少女の姿だった。その髪はオレンジ。そ
の瞳は蒼い。腰が抜けているのか、震えながら立ち上がろうとした少女はかくんと足の力
を失ってまたペタンと尻餅をついた。
「アスカ・・・何で君が僕の家にいるんだよ」
背筋がさっと冷たくなる。不幸中の幸いか、彼女には一発の弾も当たっていないようだった。
安堵の息を吐き、僕は足をガクガク震えさせている少女に駆け寄る。危うく、僕は僕が守り
きらねばならない少女をずたぼろの死骸に変えるところだったのだ。僕のほうが腰が抜けそ
うだった。駆け寄り、少女に手を貸そうと右手を差し伸べた瞬間、アスカは迷わず握り締め
た拳を僕の鼻に打ち込んだ。それは腰の入っていない少女の腕力で放たれたハエの止まりそ
うなパンチだったが、予想もしない一撃をマトモに受けた僕は面食らって鼻を押さえた。
鼻血が滲んだ。
「あ、あ、アンタ! アタシを殺す気なの!?」
泣き顔で絶叫したアスカは腕をぶんぶん振り回して僕の頭をぽかぽか叩いた。
「ご、ごめん。アスカだとは思わなかったんだ」
「何考えてんのよ! ほんと死ぬかと思ったわよ!」
「ごめん・・・悪い、ホント悪かった・・・」
「・・・ったく・・・次やったらアンタ殺すからね!」
僕は困惑しながらも、二度とやらない、と頭を下げた。家に帰ってきたら鍵が開いていて、
待ち伏せだと思って撃ったら中にアスカがいた。その事実が何を意味しているのかサッパリ
理解できず、僕は頭を下げつつ首を捻った。一体・・・何なんだ?
20分程恨み言を聞かされた後、僕が立場的に自宅で待ち伏せされてもおかしくないということを説明して、
ようやくアスカは落ち着いてくれた。実際、僕のほうは全く落ち着けなかったが、喚き散らす少女の狂態
を見ている間に随分冷静になることはできた。
「それで・・・君のほうはどうして僕の家にいるんだよ」
「はぁ!? アンタ、体は頑丈みたいだけど頭は弱いんじゃないの? ボディガードがアタシの傍離れて
どうやってアタシを守るってーのよ! 瞬間移動でもできるっての!? ん? どうなのよ!」
「え、いや、さすがに無理だけど」
「でしょ!? じゃあ、アタシがここに居るのは当然じゃないの」
「いやいや、意味わかんないよ。どうしてそうなるってのさ」
「だって、ここアンタの家なんでしょ?」
「そうだよ。いい家だろ? 玄関穴だらけになったけど」
「センスはまぁまぁね」
「だろ? ・・・いやいやいやいや!! そうじゃなくて! 何で君がここにいるの!」
「脳が倒壊してるんじゃないの、シンジ。一緒に居ないと守れないじゃない?」
「はぁ!? それでうちに来たってこと!? 鍵どうやって開けたのさ!?」
「ミサトに言ったらスペア貸してくれたわよ?」
「あの女・・・いや、それより! ここまで一人で来たってこと!?」
「そりゃそうよ。来てみたら誰も居ないしお腹減ったし・・・あ、勝手に冷蔵庫のプリン食べちゃった」
うわ、何て奴だ! 帰ったら食べようと思ってたプリンを・・・。
「・・・いや、そうじゃなくて! 何でそんな危険なことするのさ! 正気!?」
「アンタが悪いんじゃない! アタシをほっぽって帰っちゃうから!」
「ネルフの本部内なら安全だから、僕は帰るって言ったじゃないか・・・」
でも、アスカは鼻息を荒くしてボディガードは常にアタシを守るべきだ、と言って一歩も譲らなかっ
た。僕は果てしない溜息を吐くことしかできなかった。つまりはそう言うことなのだ。
この件に関しては既に話がついているはずだった。そもそも、本部内は安全だ。幾重にも
張り巡らされた防犯装置群と、MAGIの監視がある。だから護衛は外に出る際のみで構わな
い・・・そう言う仕事だったはずだ。唐突にミサトさんが意地悪く笑う顔が浮かんだ。僕は舌
打ちした。あの性悪はわざとアスカに鍵を与えたのだ。それもきっと、「面白いから」と
言うとんでもなくふざけた理由で。アスカは何を誤解しているのか、ボディガードは四六
日中ずっと傍に張り付いているものだ、と思い込んでいる。その思い込みを嗜める立場に
あるはずのミサトさんが鍵をアスカに渡した、と言うことは、すなわちこれは彼女の悪ノ
リに他ならない。ミサトさんは一瞬の愉悦の為だけにすべてを忘れることがある。僕には
如実に想像できた。ボディガードが帰宅した、と言うアスカの苦情に対して、ニンマリと
笑みを浮かべるその顔が。
「あの女・・・職務を忘れたな・・・あのねアスカ。第三新東京市は・・・本部内以外は危険だって
教えただろう? それは当然、ここも該当するんだ。僕は君の護衛だけじゃなくて、「撒き
餌」の役目も持ってる。だから外に住んでいるわけで、ネルフの要人は当然・・・」
「シンジが守るんでしょう、アタシを」
僕の言葉を、アスカは毅然とした態度で遮った。僕は苛立ちを隠しきれずにもう一度舌打ちする。
「寝てる時にランチャーを撃ち込まれたことがある。・・・向こうにルールなんか無いんだ。
僕は死なない。でも君は人間だろう? 爆弾に半身を吹き飛ばされて、生きていられる自
信でもあるの?」
「あるわよ?」
「へぇ・・・一体どういう理由で?」
「アンタがアタシを守るからよ」
どうして僕が守りきれる、と言い切れるというのか。
その視線はとても挑発的で、ぎらぎらとした攻撃性に満ちていた。
僕は怯んだ。その視線に怯んでしまった。この時、既に勝負はついていたのだ。
もう僕がどう説得しようと、彼女はもう譲らなかった。僕の怯みを読み取ったかのように強気
に、有無を言わせずここに住むのだと言い張った。本部に戻れと言う僕の言葉をどうしても聞
き入れようとしない少女は、議論の果てに駄々っ子のように腕を振り回し、絶対帰らないと声
を張る。深夜の二時を回った頃に、とうとう僕も折れるしか無くなった。
一体何がどうしてアスカがこんな無体なことを言うのか、僕には理解ができない。僕は人間で
はない化け物であり、ちょっとやそっとでは死なない肉体を持っている。確かにそれは僕を守
りきる上では鉄壁だと信じられるくらいに頑強な代物である。だが、僕ではない誰かを守る力
となるか、といわれると、半分程度しか頷けなかった。僕は「人を殺す」と言うことに特化し
た技術者だと自分を評価している。その力はある程度は彼女を守る力となるだろう。しかし、
誰かを守りきれるだけの超能力や、奇跡の技の類は残念なことに持ち合わせてはいないのだ。
今日何度目かの溜息を吐いて、僕は腹を括った。
「わかった。わかったよ。もう戻れとは言わない」
半泣きで嫌だ嫌だと喚いていた少女は、キョトンとした顔で僕の顔を眺め、そしてその答えに満
足して歯を見せて笑った。僕はクラクラしてきた。今日から一瞬たりとも気を抜けない。その困
難さに眩暈がする。そしてそれ以上に、この笑顔に見入る自分に対しても眩暈を感じる。そう言
うことか。僕は突如理解した。完全な合理性を目指すなら、有無を言わせず、それこそこの少女
を気絶させてでも本部に連れ帰るべきだ。無駄な危険など冒す必要などない。でも、僕はそれが
できない。なぜか? 簡単なことだった。
僕は僕で、この少女の近くにいることを少しだけ・・・ほんの少しだけ望んでしまっているからだ。
そうすれば、この笑顔がまた見せてもらえるかもしれないから。
それはとても簡単な理由だった。
お疲れ様〜、次回も期待してます。
面白くない。僕は顔を顰めた。僕らしくない。余りにも僕らしくないな、と一人ごちる。人間
なんかに興味を抱いていない、人外の怪物。まるで機械仕掛けであるかのようにネルフの敵の
命を刈り取っていく殺人鬼である僕。それは冷徹で、酷薄で、残忍でなければならない。それ
は抑止力であり、また行使される力でもある。僕はほとんどの人間から恐れられる存在である
はずだった。
僕に恐れを抱いている様子が微塵も感じられない、目の前の少女の笑顔に、何らかの期待を持
つなんて僕は一体どうかしている。ようやく抜けた腰に骨が入ったのか、立ち上がってスカー
トの埃を叩く少女を見ながら、僕は苦虫を噛み潰してしまったような気分になっていた。こん
な人間の笑顔に絆されるなど、僕にはあってはならないことだ。ましてや、一つ屋根の下で共
に呼吸することを少しでも喜んでしまうなんて。明らかに僕は敵に対して不利を背負い込んで
いる。僕はけして死なない。だから負けないはずだった。だが、今の僕はこの少女を死なせた
時、敗北する。負けないはずの僕が、負けの要因を招き入れた。これは見ようによっては致命
傷だ。腹立たしいのは、それでも、少女の近くにいることに高揚する自分に、だ。どこでこん
なに腑抜けたのだろうか。一瞬、「よろしくね、シンジ」と言った瞬間の彼女の表情が脳裏を
掠める。ああ、そうだった。僕は肩を落として頷いた。
「結局・・・僕は何もかも中途半端ってこと、か」
人としても、人以外の化け物としても。どちらにも成り切れない、中途半端な自分。それが僕
の真実だった。ミサトさんに追い詰められ、不覚にも泣かされてから僕は化け物になりきって
演技できなくなってきていた。そのことに気付いて苦笑する。なるほど、ミサトさんらしい詰
めまで完璧な戦略だ。僕がこう思考することはきっと読み切られていた。
何となく晴れ晴れしい程の敗北感。沈んだり浮いたり苦笑したりする僕の顔をアスカが不思議
そうに眺めていた。
「落ち込んだりニヤついたり忙しいわねぇ。それより、お腹減ったんだけど」
「・・・僕のプリン食べたんじゃないのかよ」
「アタシ、育ち盛りなのよね。胸とかお尻とか特に。何か作って」
「僕は君の護衛だけど、専属コックじゃあない」
「冷蔵庫に食材一杯あるじゃん。料理できるんでしょ?」
「そりゃ・・・まぁちょっとは」
「じゃ、作って。お腹減った」
「どこのお姫様だい、君は・・・」
「セカンドチルドレン様に決まってんでしょーが。チャーハン食べたい」
「はぁ・・・まぁ、いいけどね」
穴ぼこだらけになった玄関から勝手しったる我が家の厨房へ歩き、冷蔵庫を漁る。チャーハン・・・
と言われても本格的なものはさすがに調理法がわからない。まぁ、飯と肉と野菜を適当に炒めて塩
コショウと醤油ででも味付けすればそれっぽい食べ物はできなくはないだろう・・・と考えながら冷蔵
庫を漁る。肉はカレー用のブロックしかない。もったいないのでベーコンで代用。野菜はニンジン
とピーマンが手頃なサイズで残っていた。他は面倒臭いのでこれだけにしよう。冷凍庫を開けて、
冷凍してある飯を取り出す。レンジでチンすれば炊き立てとは言わないもののそれなりに美味い飯
の出来上がり。それらを僕は適当に切り分け、卵を取り出した。卵は溶いて熱したフライパンで炒
める。いい感じにスクランブルエッグになったところに、切り分けておいたベーコンと野菜をぶち
込んでさらに炒めること数十秒。チンしたご飯を入れ、適当に味付けして更に一分ほど炒め、出来
上がりだ。
振り向くと、僕のお気に入りのソファに寝そべってテレビを見ている少女の姿が目に入った。いつの
間に着替えたのか、だぶだぶのズボンとTシャツ姿になった少女がソファからはみ出した足をぶらぶ
らと動かしている。その光景は初めて見るもので、少しだけ僕は見惚れた。僕の塒に僕以外の誰かが
いて、しかもそいつが寛いでいる。僕の記憶のどこを探してもそんな新鮮な映像は見当たらなかった。
僕はフライパンの中味を大皿に盛り付けて、ソファの前のテーブルにその皿を置いた。
「あら、早いわね」
「生憎、手抜き料理しかできないんだ。基本的に外食派でさ」
「む・・・これ焼き飯じゃない」
「似たようなもんだろ?」
「味によるわね・・・む、まぁオイシイからいいや」
素手で掴んで口に放り込み、咀嚼しながらアスカはそう言って頷いた。スプーンと取り皿を渡して
ソファの向かい側に座る。アスカはいただきますと言って取り皿一杯に焼き飯を盛り、掻きこみ始めた。
僕は何となしにずっとその様子を見ていた。余りにも物珍しい風景に戸惑いのようなものを感じる。
僕が作った料理を、僕以外の誰かが僕の家で、僕のお気に入りのソファに座って、食べている。
「うんうん、なかなかオイシイわ」と言う言葉が、酷く心地よく僕の耳を擽る。それはとてもくすぐっ
たくて、僕は知らず知らずのうちにニヤついてしまっていた。
「・・・む。ちょっと、そんな見られてると食べにくいんだけど。アンタは食べないの?」
「僕は本来は栄養摂取は必要ないんだ。食べるのは娯楽だよ。今は食べたい気分じゃない」
そんなことをして、この珍しい光景を見逃すのは嫌だった。もうしばらく見ていたかったが、アスカの
「飲み物なんか無い?」と言う言葉に応じて渋々席を立つ。アルコールの入っていない飲み物は・・・
ペットボトルに入った緑茶しかない。
「冷たいお茶でいい?」
「いいわよ何でも」
ついでに自分用に缶ビールを手にしてテーブルに戻る。ぷしゅっという音を立ててプルタブを上げると、
アスカは眉を顰めた。
「ビールとか飲むんだ。不良ー」
「僕はもう二十歳だもん」
「えー。二十歳には見えないわねー」
「そ。見えないから、戸籍上は15歳ってことになってる」
「・・・何で?」
「何でって・・・成長止まってるから」
「そうじゃなくて・・・なんで成長止まってんの?」
「人間じゃないから」
「あー、またそれ? 何か煙にまかれてる気がするんだけど。それってどう言う意味なわけ?」
「文字通り。撃たれても死なないし、何も食べなくてもいいし、寝なくても大丈夫。15くらい
で成長は止まったよ。がんばればコンクリートくらいは素手で打ち抜けるし、本気で走れば未
来永劫破られない記録も作れるよ。そんなの、人間じゃないだろ?」
アスカは少し考え込んだ。僕はビールの喉の流し込みながらアスカの反応を待った。アスカが
どう反応するのか気になる。どんなに走っても乱れない僕の鼓動のペースが少し上がった気が
する。何を緊張してるんだ・・・僕は缶ビールを一気に飲み干して息を吐いた。本当はわかって
いる。アスカに否定して欲しいのだ、僕は。そうでもない、少し変わってるだけだ、と。ミサ
トさんのように。それが心にも無い気休めの言葉だったとしてもいい。僕に気を使った結果だ
ったとしても、それは少しだけ僕を癒す言葉となる。でも、現実と言うものが期待通りに運ぶこ
となどほとんど無い、と言うことを僕は失念していない。失望に備えて、心構えを作る。
「そうねー、かなり人間離れしてるわね」
ほら、やっぱり。しかし、落胆は僕の胸に黒い蟠りを作る。それはチクチクと胸を刺す不愉快な
塊だった。僕は酔えない。でも、酒を飲むと酔ったような気にはなれる。だから酔ってしまおう
・・・二本目のビールを飲もうと立ち上がった時だった。アスカの言葉はまだ終わっていなかった。
続けて、アスカは言った。
「ま、人間取り得の一つか二つはあるもんだし、頭悪そうだから釣り合いとれてんじゃない?
アハ! アハハハ! アンタ馬鹿っぽいもん!! キャハハハハ」
それはやもすれば罵倒に聞こえるくらい酷い言葉のようにも思えたが、でも、胸に刺さった黒い
ものは一気に割れてガラスのように粉々になった。
自分の言葉がよっぽど気に入ったのか、アスカは無邪気に馬鹿笑いした。僕は自然と笑みを浮かべてしまった。
取り得、か。そう言う考え方はしたことなかった。怪物に成り切って、下等な人間とは違うのだ、と虚勢を張っ
てみたりもした。でも、そう言う風に解釈はしたことが無かった。面白い捉え方をする娘である。それよりも、
僕を裏切らなかったのが驚きだ。その些細な裏切りが・・・それが酷く利己的な僕の主観の中でだけの裏切りだっ
たとしても・・・僕を少しづつ磨耗させていく刃なのだと、僕は心底思い知っている。だからこそ最初はこの
「護衛」を拒みたかったのだ。しかし、小さな裏切りは、僕の予想に対する裏切りだった。
「そっか・・・取り得、か。ありがと、アスカ」
「アハハ・・・はぇ? 何が?」
「いや、いいんだ」
心を軽くしてくれたお礼である。僕はもうすっかり考え直していた。この少女となら・・・この任務は、それ程悪い
ものではない、と。アスカは首を傾げたが、僕は特に説明せず、食器を片付け始める。皿とコップを手に持ったと
ころで、アスカは眠そうに欠伸をかみ殺した。
「ああ、もう三時か。そろそろ眠いんじゃないの? アスカ」
「んー。うん、ちょっと」
「ああ・・・ベッドがあるのは寝室だけなんだよ。奥の二番目。僕は寝なくても平気だから・・・使っていいよ」
「ん、そう。ありがと。・・・言っとくけど、不埒なこと考えんじゃないわよ?」
「生憎、人間の女の子はそう言う対象じゃなくて」
「あっそ。じゃあお休み、シンジ」
フラフラと眠そうに歩いていく少女の背中を見送りながら、僕はその背中に向かって、「おやすみ」と呟いた。
殺す相手以外にこの言葉を使ったのは・・・今が始めてでは無いだろうか? だが、それは思ったより悪くない気分だった。
特に何の事件も起こってないし進展もあんまないけど今日はここまでで。
午前三時っすよもうッ! さて、鬼武者3をやろう。
乙かれです。
何かダブルブリッドっぽいね。
次回も楽しみにしています。
ダブルぶりッ度って何。アニメか漫画か?
電撃文庫の小説です。
主人公が、人間と化け物のハーフなのよ。
それで、その悩んでるシンジの描写に似ているとこがあったってコト。
ダブルブリッドは知らんが、テーマ的には山口美由紀の「春告小町」を彷彿させるな。
408 :
396:04/03/06 10:05 ID:???
ごめんよ(´Д`)人
もう遅かったので、あそこまでかとおもた。
遅くまでお疲れ様です〜
電撃文庫なんか読まんなぁ。
>>407 扱うには手頃なネタだしょ? そこそこシリアスにするのに適してる感じ
>>408 ぷんすかっ(´3`)三3
何、あそこで読むの辞めて朝続きあることに気付いたのん?
それって土曜の晩に「明日日曜じゃん」って気付いたのと同種の喜びが
ある系? あひゃ
お疲れチンコ
コノヤロウ!アスカ可愛いじゃねーかっ
お疲れウンコ
コノヤロウ!たまにはレイも書いてくれっ
>>409 EVAFFよりはずれの率が多いし読む必要ないって
俺んとこの板参照。そう言う話になってんの。
だからちょっと休むかも。余力のあるときはできるだけこっちも進めたい
とは思ってるけどな。ペース落ちるのは間違いねぇわ。
まぁ、tomoタソ他名前を伏せてるSS作家らの作品が読めるようなんでモウマンタイ
しかも完結を大いに期待できそうだし
サイトの方のtomoタン新作が面白かったので保守
サイトも面白いがこっちの続きものんびり待っているので保守
便乗保守プレイハァハァ
ほっしゅ
エロってムズイな保守。
マグナム先生ですか?
え、呼んだ?
ビッグマグナム黒岩先生を思い出しちゃったよ
tomoタンは文体が達観してるっつかー、浮世に摺れてるので、
エロさえもまったく生々しくないんだよ。
だが、実用性には欠けるかも知れないが、
その分、読み物としては楽しめるぞ。
う〜ん、自力ではむつかすぃわな。
だがなんつうか模倣はできんこと無いはずだ。パクってパクって
芸風広げていくぜー
tomoタンサンには微熱シンジ並のよわシンを書いてもらいたいね
いやいや、影の薄いシンジを書いてもらいたい
はははそりゃ無理だ
そうか!tomoタソはシンジスキーだったのかー!
いや、主役が影薄いのが無理ッ
レイッ子はどうも書き難い。かわいくならん
で、LAS頻度が高まる傾向ってわけだな。ぬは
>>430 消去法でLASかよ
えらく後ろ向きだなぁ
意外と特定カプってのが無いんだ。
提供できる中で一番クオリティが高いものだけ出すのはそんなに後ろ向き
でもないと思うんだけどなぁ。そのうちレイメインも書くさ
まぁそう言わずににひとつ、これからもLASでお願いします。
いやいや
そこでLKSですよ?
ちなみにゲンドウスキーなんすよ。果てしなく悪人なゲンドウって多分書いたこと
ナイわ。どうしても茶目ッ気入れてしまう俺は恐らくゲンドウスキー
L G S か っ ! !
LOGじゃないのか?
ほしゅ
439 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/04/14 12:12 ID:jI+TIj9+
ホシュ
保守プレー
正直、偉そうに言ってすいませんでした保守
>>441 完結はさせるから。って言葉を信じて待ってます。
難しいんじゃないの?
イケルイケル
>>444 ふ…甘いな。チミはtomoタソという人を信用できるのかい?
ちなみに漏れが一番信用できんのは漏れ自身だが(笑)
tomoタソ、あまり他所でおイタをするのはいけませんよw
皆が俺に苦言するよう(ノД;)ワァアァァ
欝っぽいのも書いてみたいんだぁ
tomoタンを生暖かく見守るスレになりますた
・・・凄かったで。むっちゃ人格批判とかされたわ。
もうちょい好意的かなと思ってたけどとんでもねぇ。擁護がいたのは救い
だが、アレこっちの住人だろ(藁
まぁ、人格批判さんもこっちの住人だと思うけどな。わらえねっ
そろそろエヴァも続き書くか。どれが一番最初に読みたい?
「僕との距離」やな。
話、先に進めてもろうて、アスカの普通の人間とは違うトコとか、
ゲンの字が自分をほっぽっといて他所の女の子を可愛がってたっつー、ダメダメオヤジな
真実をシンジが知ったりとか、部下と爛れた関係持ってたミサトが加持相手に気まずかったりとか、
そゆとこ楽しみにしてるのよ。
って、加持居たっけ?
うほ、いい妄想!
ゲンの字はもう、良い役振ってあんねん。加持か・・・考えてへんかった。
よっしゃ、ほんならこの週末辺りにいっちょ書きましょか。
でも、自板に投下するわ。ある程度溜まったらHTML化って方向で。
そのほが筆進むんやぁ
ゲン×オレシンジで
>>452 俺の技術では無理だ。ゲンドウのケツの穴をほじくれる俺キャラが想像
付かない。ていうか、それはむしろ有り得るのか? 有り得るのか?
そんなことは有り得るだろうか、いや無い倒置法。
>>450 書いたでぇ。
454 :
450:04/04/24 20:50 ID:???
読んだでぇ〜。
考えてなかった言うわりに、いきなり来たなー>加持
8話「アスカ、来日」相当の話の時点で存在が抹消されてたのって、ひょっとして
当初のプロットだと居場所が無かったから?
出してもダラダラ話長くなるだけだから切っとこう、とか。
そんな加持でも、ミサトとシンジがだらしなくやってたせいで
妙に今の人間関係引っ掻き回せるキャラになっとんのがおもろいなw
後はレイ方面かな。
ヤシマ作戦の前後でやたら急速にシンジに惚れてて戸惑った覚えが
あるけど、あれもこの後シンジがゲンドウの実は実の子なんだとか
知ったら気まずく思ったりすることになるみたいな伏線なんかいな。
そう考えといた方がおもろいんで、昼メロチックに期待しとるわ。
>>450 いやー、手抜き見抜かれてショックよ。痛烈にやられたなー・・・
あれ、書き直すわ。加持はそう、最初は存在すらしとらんかったさ。
でも何らかの見せ場作らんとなって思って唐突にやり過ぎたわ。
ちょっと考え直す。初心に返るってことで。
それからお前、あんまり先読みすんなよw
ドキっとするやんか・・・藁
コンビニ弁当を差し入れんとして先着アスカの存在にためらうレイタソ。
物陰から覗き、二の足を踏みつにモヘ。
こっちのがいいべ? 俺的にはこっちが正道だと思ふ・・・
そうそう、アスカ、レイ、シンジはこう言うキャラのはずだった。
忘れてたよ不覚ッ
ちゅーか、読みながらちまちま萌えたり驚いたりして、その毎カキコしとるわけだが(向こうのBBSはIPが残るから嫌)
冬月の設定とかぶっ飛びすぎだろ、これ。
悪の親玉ってーと、バックシート冬月みたいな感じか?w
冬月とゲンドウが敵同士っての、おもしろいかなーて思ってナ
板は勿論IP残るわな。串禁止してないから書き込みたいなら串さしなー
読み終わった。
碇と冬月が敵同士っつーのはカコイイと思うよ?
そういや、これまでそーゆーのあんまり無かったね。
付き合い長過ぎて、結果的に原作とそう変わらん馴れ合いのオトモダチになってるのが
また良い感じだが。
あと加持な。
これが向こうの板でやってた時間飛び飛びの展開の隙間埋めになるのな。
大人どもの立ち位置が随分違うみたいだから、人間関係のこの後にも期待が募るよ。
期待っちゃあ、昼メロ路線の王道突っ走るレイタソにもなw
感想サンクース
次回こそアスカの秘密をバラす方向で。できれば明け方辺りにも。
そんじゃあ、特撮タイムに起き出す頃には、ってことで楽しみにしてるよー。
やる気出るならいくらでも感想書くしさ。
熱いなオイ・・・おっと目頭に心の汁が・・・
唐突に思い出した。
キャラをカッコ良く褒めめのは今回のミサトくらいが良いとオモタ。
例の二人で書いてる体験Fateの話なんだけどさ、基本的には
手放しで楽しませて貰ってるんやけど、ライダーが信二を
どう評価してるかってとこで、延々ベタ褒めだったとこだけは違和感
あったのよ。
大してまだ出会ってから時間も経っとらんのに、しかもそこまでかよオイオイってな。
体験っつータイトルはシャレで面白いんやけど、あんまり持ち上げるのは
居心地悪いで。
ま、あの辺は悪乗りだからスルーして。いつもの悪い癖でな。
しょーがねーなアイツ程度で・・・ちょっと洒落の通用しないトコもあるんや
なってわかったから今後は控えてくよ。
ライダーの件な、alstreにも言われたわ。後の伏線になるからってことで
他に書ける機会も兼ね合い上ないし、まぁいいかって思って書いたんだが
褒めちぎり過ぎた感は否めないよな。失敗だw
そこも含めて体験のパロならええねんけどなw >主役ベタ褒め
でももう、その場のノリ限りのパロっつー程度で書いてるもんでもないようやし、
真面目に書いとるようなの、俺も期待させてもらってるからなあ。
イシシ、そういわれるとやる気出るなぁ。
ま、体験とは違うよ。屁こくとことか、主役が。
SS投稿板のほうの”私”凛の話も何気にめちゃ真面目に書いてるので、
良かったら読んでみたってちょうだい。
ほんまに更新してんのだからなあ・・・。
いや、乙彼。
「マトリックス」をイメージして中和しようと思ったけど、それにしてもエグい絵面だね
あの非人間の象徴は。
ぐはは・・・基本的に近距離の公約に関しては守る傾向にあり、だ。
ようやく書きたかったとこに至ったぜ。次はアレをこうしてああして。。
ああ、楽しい。マジで藁
tomoタン臓物カレー
相対的にレイの地歩がピンチだな。
もはや、原作通りの神秘性ではアスカを競争相手に売ってはいけないかもしれんと思ふ。
懸想したり嫉妬したり逃げ出したりと、ヘタレな片思いっぷりをやってるこのレイは、
正直今までのtomoタソのレイの中では一番楽しいんだけどね。
しかし、相手がいかにもそのためにエヴァを偏愛するキャラに描写されてきたような
シンジと、そのアスカとじゃ、分が悪いよなw
でも実際、蟻とは恋愛できんわけで。
∝ ガシガシ
なんだクワガタか
保守とはなんだ!!
ウホッ とホッシュ
一人寂しくホッシュ
ご、ごめんよ。ここ随分放置してるね。来週くらいに考える。
でも、僕との距離のがいい系? 獏? ブラザー達が望むままに漏れは
書こう。きっとそれが漏れに求められた役回り。
周囲から僕との距離続き書け的圧力が最近ね・・・やっぱそっち優先かね
ミーとのディスタンスがイイネェ!
OKブラザー
僕との凝りがむちゃくちゃエエところで放置なんがツライよう
いや、ここでさらに新しい風呂敷を広げてもらわねばw
とりあえずはアレだ、マリみて辺り(ry
うほっ いい穴
ごめん誤爆
・・・じゃないことにしておこう
ごめん
私凛
うほっとほっしゅ
駄文で保守。
赤い海、黒い空、二つの裸体、栗色の髪に粘つく白濁液。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・うっ!!」
少女に覆い被さる少年。少女の瞳は虚空を写し、少年はただ涙を流す。
「もう、いいの?」
栗色の少女、アスカの隣にぐったりと大の字に倒れた少年、
シンジが目を開けると、そこにはアルビノの少女、レイが居た。
「うん、もう飽きちゃった。」
「・・・そう。」
「綾波・・・。」
シンジはゆっくりと身を起こし、今度はレイを抱きしめる。
アスカのニオイを感じて一瞬レイは眉をひそめた。
しかし、レイは目を閉じて、久しぶりにシンジのぬくもりを堪能する。
「碇君・・・。」
ぎゅっと抱きしめる腕の力を強くして、レイはシンジの胸に頬をつけた。
「綾波、僕は力が欲しい。」
「どうして?」
「そうすれば、過去に戻れるんだろう?」
「そうかもしれない。」
「だから、僕に力を頂戴。」
「・・・わかったわ。」
レイは光の粒子となり、それはシンジに纏わりついて消えた。
「さようなら、碇君。」
「ありがとう、綾波。そして、またね。」
シンジは一瞬にしてその場から消えた。
残されたアスカはオレンジ色の液体になって、海に流れた。
外伝。(゚∀゚)
蒸し暑いジャングル、巨大な生物が蠢く大陸にシンジは辿りついた。
「どこだ、ここ・・・?」
グォォオオオオオッ
まるで血に餓えた獣のような声が木霊す方向にシンジがおそるおそる振り向くと、
そこには体長2mほどの図鑑で見なれた恐竜の姿があった。
「きょ、恐竜!?」
一瞬、ATフィールドを張ろうとしたが、綾波に貰った力は既に時空を越えた時に
使い果たしていた。恐竜に手を突き出した状態で止まったシンジに、
恐竜は口をあけて迎え撃った。
「ぎゃあああああああああああああっ!!」
ガブッ
頭からぱっくり食われたシンジの思考はそこで止まった。
げぇっぷ
アンチ最低かよっw
ああっつ そこで恐竜を狩って食べて居るうちに野生の力をを手に入れたヒットラ(ゲフゲフ
シンジきゅんの物語にすればいいのに
なんだ、たんなるギャグか
なんだとは(ry
適当なモンで(゚∀゚)ホシュ
「シンジ・・・お前は・・・。」
ゲンドウの喜びと驚愕の混じる顔。
それを見て、にぃ、とシンジが満足そうに笑った。
「これが欲しかったんだろう?父さん。」
シンジの腕から滑り落ちるように、LCLに濡れた一人の女性がゲンドウの前に倒れる。
地面に当たる寸前で、ゲンドウは体を張ってそれを受け止めた。
「ユイ・・・。」
安心したように母を抱きしめる父に、シンジは興味を無くしたかのように踵を返した。
後ろでは、救護班が駆けつける足音が響いていた。
遡ること、数時間前。シンジの駆る初号機が圧勝。そのままサキエルを貪った。
S2機関を搭載した初号機は、ネルフによって凍結処分とされた。
「碇、お前の息子・・・一体どうなっている?」
あれからユイは病院に運ばれ、ゲンドウは勝利後の激務に追われていた。
ぴくり、とゲンドウの手が止まる。
「冬月。あれがなんであろうと、今の私にはどうでも良い事だ。」
確かに、興味はある。いとも簡単にユイを単独でサルベージした、
人間業とは到底思えない、その方法に。それと、同時に恐怖でもある。
あれが本当に自分の息子なのかと。
まあ、想定外のイレギュラーではあるが、自分の望みは達成された。
今はただ、ユイと共に。だが、それにはゼ―レが大きな障害だ。
ピピっ、と側にある通信機が鳴った。それは、委員会独特の呼び出し音。
「委員会がお呼びのようだぞ。」
「・・・ああ。」
ずっと座っていた重い腰を上げ、奥の部屋に向かう。
いかにユイを老人達から隠すか、ゲンドウにはそれしか頭に無かった。
保守ですわ
深夜の病院。暗闇の中、白衣を纏った東洋人の金髪の女性が、こつ、こつ、と足音を響かせながら
とある病室に向かっていた。その顔は思い詰めたような表情で、その鋭利な笑みは不気味な冷たさを醸し出していた。
「ここね。」
ぼそり、と呟く。その病室のネームプレートには先ほど救出された”碇 ユイ”の文字。
ドアを開けようと手を伸ばす。しかし、その手はしっかりと阻まれた。
「っ!?」
手首を掴まれ、その方を向くと、そこにはゲンドウが居た。
「碇・・・司令・・・。」
今日一日は確実に缶詰めになっているはずの男がどうしてここに?
「そのポケットの中にある物、出してもらおう。」
「わ、私は何も・・・。」
つい、隠すように身をよじらせた。だが、一瞬早くゲンドウの手がポケットに伸びる。
「あっ・・・。」
「赤木君、君には失望した。」
中から出てきたのは小型の銃。これだけだろうと思っていたゲンドウの腹部に痺れるような痛みが走った。
「ぐあっ!?」
くの字に曲がり、自由の効かない体でリツコの方を睨む。その手には、電気を放つ小型の機械が握られていた。
「リツコ君・・・。」
「申し訳ありません・・・ゲンドウさん。」
ゲンドウの手からするりと拳銃を抜き去るリツコ。その足が病室に向かっていく。
「ま、待て・・・。」
上手く動かない体でなんとか後を追おうとするゲンドウ。しかし、無常にも足が縺れた。
「くっ・・・。」
ぷるぷると上を見上げたゲンドウが見たのは、静かに寝息を立てるユイに向かって銃をつきつけるリツコの鬼気迫る姿だった。
「あなたさえ、あなたさえいなければ、あの人は私のモノなのよっ!・・・だから、大人しく死んで頂戴。」
にっこりと笑ったその顔は修羅か、悪魔か。その瞳は狂気に彩られていた。
「や、やめ―」
ズドン、とリツコの祝砲がユイの身体にめり込む。それから、何度も何度もリツコはユイに弾丸を撃ち込む。
まるでそれは糸釣り人形が踊っているかのような、ひどく無機質な踊り。
「ユイィィィィィィィィイイイッ!!」
気になるので保守してみる。
うほっ いい保守
名無しの書き手さんいい感じ
だが、やはり、かといって、寝る。(;´Д`) ダメダー
スマソ
(´゚'ω゚`) 気長に待つ
( つ旦O
と_)_)
保守
保守
―あれから、父さんは腑抜けになった。何をするにも生返事で、僕にはどう変わったのか分からない。
髭は伸びてるし、サングラスも掛けてる。いつも返事は「・・・ああ。」って言うばかり。でも、そんな父さんに
台所に立つリツコさんは、幸せそうに微笑んでいる。
使徒はもう出てこない。カヲル君は今、僕と同じ高校に通っている。なんか、また女性問題で揉めてるみたいだ。
ほんと、かわいけりゃなんでもいいんだね、カヲル君・・・。
他の皆も同じ高校に通ってる。なんか、保安上の問題だとか、ミサトさんが言っていた。
そういえばこの前、手紙が届いた。もうすぐ、アスカがこっちに帰ってくるそうだ。それを綾波に話したら、そっぽ向いて
どこかに出掛けてしまった。・・・なんか悪い事言ったかな?
綾波が夕飯前に戻ってきたと思ったら、いきなり僕に抱きついて精子頂戴って・・・僕達にはまだ早過ぎるよっ!
え?冬月さんに頼んで養子にしてもらったって?それ、ほんと?だからこの紙に名前を・・って、綾波っ!そ、それは・・・
印鑑はもう押してあるからって、そんな問題じゃないだろうっ!?大体、僕はまだ年齢が足りな・・・え?
ネルフの力を借りる?もうリツコさんには話を通してあるって・・・そうじゃなくって!あ、いや、そんな・・・なにも泣かなくても。
ご、ごめん。謝るならこれに名前を書いてって・・・うぅ、分かった。分かったよ・・・。
〜終〜
・・・あれ?
ある意味いい終わり方ですね
ホッシュ
保守
弱い自分が嫌で。ずるい自分が嫌で。そんな醜い自分がここに居て、僕は僕を探していた。
それは、僕が僕であるための力を探していたのかもしれない。弱くなければ、あの時なんとかなったのかもしれない。
それは全て後悔。そして、懺悔。僕は自分が嫌いだった。でも、変われば好きになれるかもしれない。
そんな淡い気持ちで扉を開いた。僕が、僕であるために。「綾波…」扉を開いて、現れた人物。それは、
紛れもなく綾波レイ。少女特有の淡い曲線。大人の女性になる前の青い果実。透き通った肌、赤い瞳。そして、青銀の髪。
どこぞの北欧神話の物語にでも出てきて、ペガサスを駆っているような天女。
立っているだけで、ある種のオーラが滲み出ているかのようだった。そんな彼女に言葉を喋る自分はまるで姫に仕え
・・・アフォクサ。つーか、なげぇよ。綾波に会うだけでこんなに必要なんか?髭親父に会ったら何行になるんだ、まったく。
意を決してちゃぷちゃぷ漂うLCLから顔を上げる。目指す場所は上に聳える父、ゲンドウ。
眼が少しづつ上に向かっていく。久しぶりに会う父。決別されたあの日から3年。父から見て僕はどう写るんだろうか。
少しは成長したな、なんて誉めてくれるんだろうか。そんな砂糖のように甘くて飴細工のように脆い心で上を見上げた。
全身が黒い。指紋でも気にするのか、手には白い手袋。凶悪に生え揃った髭がとても印象的で、その姿はまるで
どこぞの親分だ。悪い事にサングラスをしていて表情が読めない。再会を喜んでいるのか、―それとも。「出撃。」
あー・・・だめだこりゃ。というわけで、保守。
やべ、いつのまにか結構経ってるぞ
時間が過ぎるのが早くなった・・・
ホッシュ
保守
「シンクロ率9%っ!?起動、失敗しました!」
マヤが驚いた顔で振り向いて、リツコを見た。
まるで自分のどこかに不手際があったのではないかと怯えを含んだ表情だ。
「なんですって?」
マヤの報告に驚きの声をあげるリツコ。だが、ミサトは横で舌打ちをした。
その苛立った感情を隠しもせず、ミサトは機会越しにシンジに声をかけた。
「シンジ君、ちゃんとやってる?」
それを聞いて、シンジはむすっとした。碌に説明もされず、自分で決めたとはいえいきなり乗せられ、
液体で服が濡れて気持ち悪い。踏んだり蹴ったりな気分だった。
「ちゃんと、ってどういうことですか?僕は”ちゃんと”乗って座ってますよ」
シンジの不機嫌になった声を聞いて、ミサトは自分の失態を感じた。
なんとかシンジのご機嫌取りをしようと心の中で試行錯誤したが結局なにもでず、リツコに目配らせするも、
そっぽ向かれてしまった。その背中には、”無様ね”という言葉と、”今はそれどころじゃないのよ”という
二つの無慈悲な言葉が見えた。
「いや、え〜っと…その、ね。」
(ったく、やっぱりオーナインシステムだったんじゃない。)
ミサトはリツコは悪くないと分かりつつも、心の中で悪態をつく。
ふぅ、とリツコが溜息を吐いた。
「仕方ないわ、出撃させましょう」
その言葉に声をあげたのはミサトだった。
「え?だって、起動すらして―」
しかし、ミサトの声も空しく頭上からの声に掻き消された。総司令である、ゲンドウだ。
「構わん」
二重の驚きをもってミサトは振り返って頭上を見た。そこには、不敵に笑う上司がいた。
「司令っ!?」
(何か策があるとでもいうの…?)
軍人としてではなく、一人の人間としてそれでいいのか。軍人らしくない人心がミサトの邪魔をした。
頭では分かっていても心がそれを拒絶していた。そんなミサトにゲンドウは言葉を続ける。
「これは、命令だ。」
軍人として、己の本分を見失うな。上司からの叱責にミサトは歯を食いしばり、了承した。
「エヴアンゲリオン初号機、発進ッ!!」
ミサトの悲鳴に近い声で、紫色の装甲を纏った人造巨人間エヴァ初号機は
高速リニアレールによって地上に射出された。だが、初号機の目は灯っておらず、
だらんとした腕を最終安全装置ががっちりと掴んで強制的に台の上に立たせていた。
(ごめんなさい…シンジ君)
ミサトは自分でもやってる事と思ってることが違うと思いつつも、謝らずにいられなかった。
何せ、今の状況は動けないのに敵の目の前に置くようなものだ。
がくん、とリニアレールが止まる。エヴァ初号機が地上に出たのだ。
「シンジ君、まずは歩く事だけを考えて…」
動けないのは分かってる。動かないのも分かってる。それでも、
ミサトはこれを言う以外に言葉がなかった。ミサトの搾り取るような声に
リツコは同情するかのように目を向ける。だが、ミサトの目は初号機を映していて、動かない。
第三新東京市。その街の中央寄りの道路の十字路で、初号機がだらんとだらしなく立っている。
その正面から、使徒が現れた。一歩一歩、ゆっくりと初号機に近づいて行く。誰がどう見ても生贄だ。
初号機が使徒、”サキエル”の射程距離内に入った。発令所の空気が一気に緊迫していく。
ごくり、とマヤの喉が鳴った。それを合図にするかのように、ゆっくりとサキエルの黒い腕が持ち上がる。
その手のひらの中央にはぽっかりと穴が空いている。何機もの国連軍(UN)の戦闘機(VTOL)を
火の海に沈めた、サキエルの武器”光の槍”。マジシャンのように何もない手のひらから、
突如として現れる円錐型の巨大なピンク色の槍。それが、初号機の下ろしたての奇麗な装甲に
襲い掛かった。
「…ここは?」
シンジは硬くて寝心地の悪いベットの上で目が覚めた。ゆっくりと体を起こして、辺りを見回す。
「病院…?でも…あれ?僕は、確か…つぅ」
思い出そうとして頭痛がする。痛みに気取られて思い出すのをやめると、ゆるやかに痛みが引いていく。
「一体、なにがあったっていうんだ…」
漠然とした不安に、シンジは呟くしかなかった。
「彼、目が覚めたそうよ」
助手席に座り、携帯電話を懐にしまったリツコが、隣で車を運転していたミサトに声を掛けた。
それを聞いたミサトの顔はあまり嬉しそうではない。むしろ、なにか苦虫でも潰したような渋い顔をしている。
「…様態はどうなの?」
「外傷はないそうよ。多少、混乱しているみたいだけれど」
リツコは淡々とシンジの様態についてミサトに告げる。しかし、その目は窓の外に向けられていた。
その言葉に、がばっ、という擬音が響きそうなほど大きくミサトがリツコの方に振り向く。
「まさか、精神汚染じゃないでしょうね?」
だが、リツコは静かに続けた。
「その心配はないそうよ…問題は初号機ね」
窓に映るリツコの顔が、一瞬曇る。ミサトはそれを見て、昨日の凄惨な夜を思い出す。
使徒に攻撃されるエヴァ初号機。シンクロ出来ず、シンジに感覚のフィードバックがない事がせめてもの救いだった。
”光の槍”で、片腕がもげ、使徒が本格的に初号機を壊そうとした時、それは起こった。
初号機は突如として使徒を蹴り飛ばすと、勢い良く立ち上がり咆哮した。それはまるで、鎖から解き放たれた獣。
それからは、初号機の一方的な”食事”が始まった。今日、ミサト達はそれの残骸処理に追われていたのだ。
「…ねぇ、あれ。一体なんなのよ?」
顔に浮かぶ嫌悪感を隠そうともせず、ミサトはリツコに聞いた。だが、リツコは大きく頭を振って答えた。
「さあ…私にもわからないわ」
ぬるぽ
ガッ
ホシュちんこ
「碇…初号機がスーパーソレノイド機関を取り込んだという情報は本当か?」
暗闇の中での会議。番号が書いてある黒い石盤の中で、ゲンドウは一人だけその姿のまま囲まれていた。
「そのような事実はございません」
00とは違う、別のメンバーがその言葉に憤った。
「君…この場での偽証は万死に値するよ」
だが、ゲンドウは持ち前の鉄仮面でその場を切り抜ける。
「…初号機は無事、使徒殲滅を果たしました。S2機関の存在も確認されておりません」
少しでも粗を探そうと、00が深く、静かにゲンドウに問う。
「それは、本当だな?」
「はい」
事実、巧妙に隠れているのか、その存在はネルフでも捉えることが出来なかった。
初号機は今、静かに格納庫で過ごしている。
00はこれ以上は無駄と判断し、話を切り替えた。
「…わかった。いずれにせよ、使徒殲滅は果たされた。”人類補完計画”の方、ぬかるでないぞ」
念押しにと、02がそれに加勢する。
「さよう、これこそが最後の希望なのだよ。我々人類のね」
ゲンドウは深く、頷いた。
「承知しております」
「後は委員会の仕事だ。碇君、ご苦労だったな」
そう言い残し、00を除く全てのメンバーの姿が煙のように消える。
00とゲンドウが正面で対峙した。
「ところで碇、息子は元気か?」
その言葉に、ゲンドウの眉がぴくり、と動く。それを見て、00はふっ、と笑って姿を消した。
「…いかな地獄に落ちようとも、私にはやるべき事があるのだ」
ゲンドウは指でサングラスを押し上げると、司令室に戻っていった。
保守
ウホッシュ
使徒となったシンジが今までの自分を自分から分離させて箱庭を作り、
そこに分離させた過去の自分を送り込むとかいうのを考えたものの、
つまらないので止め。
分離した時点で分離された側は眠っている状態という設定なので、
目が覚めたら戻っていた、と感じる・・・はず。
しかし、いくら傷ついても治る身体や、過去に無かった理不尽な展開が発生して
疑問を感じる。そして最後には過去のシンジが創造主を打破するために色々とする。
んで、創造主はそれを望んでいた、と。やはりつまらん。というわけで、ぬるぽ。
ピシッ! '´ixi=ヽヽ 。
∧w∧ 人 ./// ((ノリi从l从i. /))\\
(゚Д゚* < > | | 从゚- ゚。!l__!/ | | |
(=====)V \\ (⌒|二つ //
__ (⌒(⌒ )@. ==- )__|
/\ ̄ ̄し' ̄ ̄ ̄\ (\,,イ
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| | ピシッ! /._/ |__|
/ \ ∠/| |ヽ_>
↑
>>522
ピシッ! ⌒⌒丶 '⌒⌒丶 。
w从w 人 ./// / 从 从) /))\\
゚- ゚ b < > | | ヽゝ゚ ー゚ν/ | | |
(=====)V \\ (⌒|二つ //
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遅いな・・・tomoタン
「お前はシンジではない」
シンジの病室。そこではゲンドウとシンジ、父と子が対峙していた。
シンジは半身を起こしたまま、ゲンドウを見る。
だが、そのゲンドウの手には拳銃が握られていた。
「なにを言っているのさ・・・父さん・・・」
シンジはサングラス越しに必死に父の表情を見ようとしたが、
父のサングラスには茜色に色づく一面の空しか映されていなかった。
「あれは、どういうことだ?」
拳銃はシンジの眉間を捕えて離さない。じわりと、かく、嫌な汗。
シンジは完全に父に圧倒されていた。混乱した頭を抱えてシンジは叫んだ。
「そんなの、僕にもわからないよっ!」
だが、ゲンドウは拳銃を握る手をより強くして、シンジに一歩詰め寄った。
「・・・見え透いた嘘を・・・」
一向に埒が開かない相手に対して、ゲンドウは苛立ちを募らせる。
「本当なんだっ!どうして信じてくれな」
シンジのその言葉で、発作的に沸点に達した苛立ちが引き金を引かせた。
拳銃から解き放たれたそれは、運良くシンジの頬を掠めて壁に突き刺さった。
「・・・ひっ!と・・・父さんっ!?」
逃げ場を探してシンジはベットの下に転げ落ちる。
だが、ゲンドウは意に介した様子も無く、ベットを迂回してシンジの正面に立ち、
拳銃に残った全ての弾丸をシンジに向けて引き金を絞った。
「私をそう呼ぶな!息子の皮を被った化け物めッ!!」
「ッ!!」
シンジに当たる刹那、六角形に光り輝くATフィールドが弾丸の行く手を阻んだ。
「う、うああああああああああああああああああああああッッ!!」
何故、父が自分を撃つのか。何故、父がこのような行動を取ったのか。
シンジはわかもわからず、ただ父を拒絶したくて、夢中で腕で空を薙いだ。
それはカマイタチのようにゲンドウを通過し、壁を抜け、空に消えた。
ゲンドウは何かを悟ったかのように、薄れ行く意識の中で呟いた。
「・・・そうか、お前は・・・」
ずるり、と輪切りになったゲンドウが前のめりに崩れ落ちる。
それと同時に病室のドアが開いた。
「司令っ!?・・・なんてこと・・・」
リツコの指からバインダーが落ち、資料の束が空を舞った。
名無しファイト保守
tomoタン・・・
ウホッシュ
tomoたーん⊃Д`)
はい
tomoタン。トリップ、トリップ。⊃Д`)
tomoタン。ストリップ、ストリップ。
ピシッ! ⌒⌒丶 '⌒⌒丶 。
w从w 人 ./// / 从 从) /))\\
゚- ゚ b < > | | ヽゝ゚ ー゚ν/ | | |
(=====)V \\ (⌒|二つ //
__ (⌒(⌒ ) . ==- )__|
/\ ̄ ̄し' ̄ ̄ ̄\ (\,,イ
 ̄ ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄ ̄ /_/ |_|
| | ピシッ! /._/ |__|
/ \ ∠/| |ヽ_>
tomoたーん⊃Д`)
どちゃり、と室内に嫌な音が響いた。ゆっくりと、しかし、確実に赤い染みが床に広がっていく。
シンジは目の前で展開された人間切り刻みの公開ショーを目の当たりにして気絶した。
入り口で硬直していたリツコは、自分の中の理性を総動員して、
なんとか目の前の肉塊となった愛しき人、ゲンドウを逝かせまいと即座に携帯に手を伸ばした。
「大至急、救護班を」
それからしばらくして、シンジが目を覚ました。謎の攻撃により司令が倒れた。
その現場に居た唯一の証人、シンジには厳しい取り調べが待っていた。
病室には、ミサト、リツコ、そして記録係として、それぞれの副官、マコトとマヤが厳しい表情で
シンジの様子を見つめていた。ゆっくりと辺りを見回したシンジがミサト達に気づいて身体を起こす。
それを見て、ミサトが口を開いた。
「おはよう、シンジ君。調子はどう?」
「・・・」
声を掛けられたシンジはミサトを一瞥すると、何かを探すように視線を辺りにさ迷わせた。
無視されたミサトは声を荒げながらも、もう一度言った。
「おはよう、シンジく」
だが、その声は少年によって遮られた。
「俺をその名で呼ぶな」
tomoたーん⊃Д`)
\もうね、アボカド/ \バナナかと/
┌┐
ヽ / /
γ⌒^ヽ / / i
/:::::::::::::ヽ | (,,゚Д゚)
/::::::::(,,゚Д゚) |(ノi |)
i:::::(ノDole|) | i i
゙、:::::::::::::ノ \_ヽ_,ゝ
U"U U" U
tomoたーん⊃Д`)
一番書く気が無いってシドイ…
ウラミマース
-― ̄ ̄ ` ―-- _ もうだめぽ。。。
, ´ , ~  ̄" ー _
_/ / ,r u ` 、
, ´ / / J ,ヘ u ヽ
,/ ,| / / ○ ,/
と,-‐ ´ ̄ / / r( `' J く
(´__ 、 / / `( ,ヘ u ヽ
 ̄ ̄`ヾ_ し u┃ ○ J _>
,_ \ J ┃ `' __ -‐ ´
(__  ̄~" __ , --‐一~;;;:".. ̄
 ̄ ̄ ̄ *・∴:∵:*::
・:::・: *∴・* :*
このスレ最近知って全部読みました
過去ログも
とても面白いです。
>>543面白いスレは面白いまま眠らせるべきだった。
そう思うならなぜあげるの?
なぜ?
544はage荒らしだから
ウホッシュ
保守するなら揚げろ
保守はあげなくてもいいっつってんだろ。
ところで何であげるからってメアド欄にageって書くんだ?
電波発信
とどいたよ やんやん
オラオラ
556 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/04/04(月) 00:50:18 ID:+onEM6ua
本当
なにが?
558 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/04/19(火) 19:47:20 ID:xoOPN7pa
age
スパシンって何?
スパイラルシンドローム、略してスパシン
スパゲティ 作:シンジの略
スーパーでバイトしているシンジきゅんの略
スペイン人のシンジ
おいおいほしゅ
tomoたんをあきらめずに待つ
月姫なんぞに手を出すから…
おいおいほしゅ
ほーしゅ
tomoたーん⊃Д`)
あぼーん
tomoたーん⊃Д`)
572 :
名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/08/17(水) 19:52:38 ID:MJ5PO+bh
保守あげ・・・ついでに前スレのログうpキボンと言っておこう
マジ神様お願い
自慢の相棒が暗いトンネルを抜ける。その先には高層ビルが乱立する大都市があった。
どうやらあの街のようだ。俺はそう思った。
「待ってろよ、親父・・・!」
俺はそう呟き、相棒のスピードを上げた。
俺の名前は碇シンジ。17歳の高校二年生だ。長い間両親と離れて暮らしていた俺は、17歳になって間もないある
日親父からこっちに来て欲しいと頼まれ、この第三新東京市に来た。今思うと、この街に着いた時既に全ては始まって
いたのかもしれない・・・・・
キタ――(・∀・)――!!
相棒って股間にぶら下がってる棒かと思ったじゃねえかコノヤローw
トンネルを抜けて数時間、ようやく第三新東京に辿り着いたシンジは駅前にバイクを止め、
コーヒーで一服していた。
「・・・・さて、場所の確認しとくか。」
そういってシンジは自分の隣に空のコーヒー缶を置き、革ジャンから一枚の地図と写真を取り出した。
「待ち合わせ場所は会ってるよな、時間も少し余裕があるし。で、迎えの人がこの人か。」
地図を革ジャンにしまい、写真を見るシンジ。そこには、青い車と30代前半位の女性が写っていた。胸元には、
「胸の谷間に注意!」と書かれている。
「確かにデカイけど、結構年いってるみたいだしなぁ・・・」
シンジはため息を一つ漏らすと、その写真を革ジャンにしまい、辺りを見回した。
ある人は腕時計を見つつ、走っている。会社の会議でもあるんだろうか。またある人は車の中でくつろいでいる。どっか
の社長かなんかだろう。シンジはそんなことを考えると、こう言った。
「寂しい街だな・・・」
次の瞬間、大きな警報が鳴り響き、女性の声が聞こえてきた。
「緊急戦闘態勢が発令されました、一般の皆様は急いで付近のシェルターに避難して下さい!繰り返します・・・」
それを聞いた人々は駅の構内や「避」と書かれたマークの付いたビルの中へと逃げて行った。
「一体、何が起こったってんだ!?」
シンジがそんなことを言っている間に人の数はどんどん減っていき、やがてシンジ以外誰もいなくなった。そして、
コンクリートから黒い液体が大量に染み出し、人の形を形成していった。
「こいつは・・・やばそうだ!」
シンジはそういって右ポケットからS&W M29を取り出し銃口をその黒い「何か」に向けたその時だった。
「そいつらに普通の銃は効かないわよ!」
背後から声が聞こえてきた。シンジが振り向いた先には、写真に写っていた女性と青い車
の姿があった。
「あ、あんた葛城ミサトさん・・・だよな?」
シンジはその女性・・・葛城ミサトに問いかけた。
「そうよ。今はゆっくり話してられないわ、私についてきて!」
ミサトはシンジの問いに答えると、そう言って車を走らせた。
「こりゃ・・・逃げるが勝ちだな!」
シンジもM29をしまうと、ミサトを追ってバイクを走らせた。
『イカリ・・・シンジ・・・・コロサネバ!』
しかし、黒い「何か」もそう言ってミサトとシンジを追い始めた。
「今、何処へ向かってるんすか?」
ミサトの車に並ぶようにしてバイクを走らせているシンジは、再びミサトに問いかけた。
「私達は今、攻撃部隊が待機しているエリアに向かっているの。そこへ行けば一安心できるわ。」
それに対しミサトはそう答えた。
「攻撃・・・部隊?」
疑問の声を漏らすシンジ。
「そうよ。後は彼らが何とかしてくれるわ。その間に私達は碇司令・・・あなたのお父さんがいるNERV本部へ
向かうの。」
ミサトはシンジにそう話した。だが、NERVの存在を知らないシンジの頭の中は「?」が大量に詰まっていた。
「(ねるふ?なんだそりゃ?しかも親父が司令とか呼ばれてるし・・・あ〜もう意味わかんねぇよ!!)」