∵  わたしは見た  ∵

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あの人がカツラだったなんて…
終了
パンチョならもう氏んだよ。…2げと
2GET!
2げと失敗…
6名無しが氏んでも代わりはいるもの:03/05/23 19:04 ID:WBoSA+SF
>>4 ドンマイ
7赤木リツコの場合:03/05/23 20:25 ID:???
私、見たんです…。
母さんがレイの頚を絞めるところを。
丁度、ネルフ本部が完成した頃ね。第一発令所を見に行ったの。
そうしたらレイと母さんが何か話していたわ。
母さん、レイに何か言われた後呆然としていたけれど、急に
「ユイ!アンタなんか死んでも代わりは居るのよ!」
そう叫ぶといきなりレイの頚を締め出したの。
ユイ…碇ユイ。碇司令の亡くなられた奥様ね。
面影がレイに似ていると母さんが言ってたわ。…莫迦な母さん…。
死んだ人とケンカしても勝てる訳無いのに…。
えぇ、そうね。たぶん母さんも解っていたんだと思うわ。
碇司令がずっと奥様を愛し続けている事を。
自分はただの身代わり、利用価値のある只のオンナだという事を…。
感情に支配され、我を忘れたあげく自ら命を絶った…。
本当に莫迦な母さん。

でもね、今なら解るの。
だって、私も「只のオンナ」ですもの。
いつかこの手でレイを壊してやる…。
あの人…碇司令の夢さえ壊してやる…。
そして、私だけがあの人を独占するの。
母さんにだって渡さないわ…。

この秘密を知った以上、貴方も…。
8名無しが氏んでも代わりはいるもの:03/05/23 20:49 ID:Ul362KSK
>>7 イイよ、イイよ〜。こんなのもアリですね〜











…でドコを縦読みするんだ?
                / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                | 江畑さん、バレバレだよ。
                |  もっと高いヤツ使わなきゃ。
     ,,,,,,.........、、、、     \ _________   
   ,,(::(:ヾヾ//ノ;;ノ;;;::ヽ,,    )ノ     _____
   l ;/   ̄ ̄ ̄  ヾヾ、       (r───-丶\
  l ;l  = 三 =   .|;;;i       /        ヽ ) 
  l / ,--―'、 >´ ̄ヽ.ヽl       | 丶、  ヽ  /|
  i^|. -< ・> | | < ・>- b.|       .|  ー、 ーヾ ,||∩
  ||    ̄ | |  ̄   |/       (        ||. |
   |   /(oo)ヽ   |         ゝ  -ィ \_ノノ
   ヽ ヽ____ノ  /     rーr┐┐|  r──  |
 __ ヽ  ニ  /i、__ノ_|  | | ト\___/|
 ::::::::::/::::|ヾー--/ |:::::::|::::(  `八人_レ人\/.江ヽ/ \
 ::::::::/::::::|/〈_〉\ |:::::::|::::::`ー‐-/   \ 畑 /    \
|_|               わわわっ、糞スレ立てすぎた・・・
|  |            ((( )))
|_|           ヘ(l|l・ω・)ノ
|文| ε≡ ≡ ≡   ( ┐ノ
| ̄|     .   .。; 〆 ’
`'~`'''`'`'`~'~~`~~'`'`''''"`'`'`'~`'''`'`'`~'~~`~~'`'`''''"`'`'
     【糞スレ量産で身の危険を感じた>>1さん】
11伊吹マヤの場合:03/05/23 21:06 ID:???
私、見ちゃったんです…。
センパイの極秘資料を!
センパイって言うのは、尊敬している上司の赤木博士のことです。
…ダミーシステムっていうんです、それ。
対使徒戦に必要なのは判ります。…でもエヴァの操縦ならアスカやシンジ君でも
出来るんですよ!…なのに、どうしてこんな事をしなくちゃいけないんですかッ!
こんな形でヒトを作って、しかもそれをモノの様に扱って!
これじゃああんまりだわ!レイが…レイが可哀想よ…。
勝手に誕生させて、勝手に命令を与えて、死んでも変わりはいる、だなんて!
しかも、レイはその事を知っているんですよッ!
知っていながら自分にもそう言い聞かせているんです!
ひどい!ひどすぎるわ、こんなの!

…ごめんなさい、ちょっと興奮しちゃって…。
あ、マルガリータを。
…ふぅ。
決めました、私。
この事を葛城一尉に報告します。そしてマスコミにも公表してみます。
どこまで出来るか判りませんがやっれみまる…
…あら…酔った、のかしら……身体、が…シビ、れて……
…ま、さか…あな…た、おさ…けに、何…か……入……
>>そして犯る


見たら殺すわよ
さてどちらに転ぶのかな?このスレは?
加持きぼん
>>14 ネタにも限界があると思われ
17葛城ミサトの場合:03/05/23 21:31 ID:???
私、見たんだからねッ!。
アンタがナンパしてるところを!
ぬわ〜にが「酔ったのかい?」よ!
まったく若い娘を見たらデレーッと鼻の下を伸ばしてッ!
いい加減に落ち着きなさいよッ!
…大体アンタこの前私に何て言ったっけ?
「葛城、君とまたこうしていられるのは、奇蹟かも知れない」
か〜〜〜ッ!舞い上がった自分がナサケナクなるわっ!
仕事?ふ〜ん、へぇ〜、ほぉ〜っ!
アンタの仕事はナンパ師かっつーの!
なっ何よびっくりするわねッ!
…やだ、止めなさいよ…止めてったら…こんな、事で…ごまかそうったって、
あッ…あン、ダメよ…シンジ君達が帰って来る時間よ…。
あ…アスカに見られたら大変よ…あァッ!
ダメッ!…ダメ…う、んんンンンッ!ああっ…。
加持クン…
18碇シンジの場合:03/05/23 21:49 ID:???
僕、見ちゃったんです…。
ミサトさんと加持さんが、その、あの、おっオトナなんだな、って…。
学校から帰っても返事が無かったから、留守だと思ったんです。
部屋の掃除が気になったからミサトさんの部屋を覗いたんです。
そうしたら…そうしたら、その、…ヤッてたんです。
びっくりしました。まさかミサトさんがあんな事をするなんて!
…いえ、アスカがそういう関係じゃないか、って言っていましたから…。
ただ、ちょっとびっくりしただけです。
指揮官としてのミサトさんしか知りませんから…。
僕と同じ、人間なんだな、って…。
そうですよね、人間なら、当然ですよね…。
僕だって、父さんと母さんが愛し合って生まれたんだから…。
…父さんも、母さんと、あんなことしたのかな…?
…熱膨張しちゃった…。
私、見ちゃった…。
もォ、最ッ低〜ッ!
昼間っからリビングで何やってんだか、あのヴァカ!
えぇ?シンジよシンジ!バカシンジよッ!
学校から帰ったらシンジがオナってんのよッ!
モロに見ちゃったわよ、まったく!
…どうせ加持さんとミサトがイチャついてたんだろうけれど、まったく。
そう言うときは知らないフリ、見ないフリをしてあげるのがマナーじゃない?
…そりゃ私だって面白くはないわよ!
でもね!…でもね…加持さんは、まだ私を女としてみてくれないんだもの…。
…諦めたりしないわよォ!ずっと加持さん一筋なんだからッ!
ただ、加持さんと同じ頃に生まれたかったな、って…。
そうしたら、そうだったら、ミサトにだって負けないんだから…。
…ヒカリ、ちょっと、ちょっとだけ…泣いて、いい?
20洞木ヒカリの場合:03/05/23 22:30 ID:???
私、見ちゃったんです…。
アスカが泣くところを。
びっくりしちゃいました。
だってアスカはいつも自信たっぷりだし、私達よりオトナだし、頭も良いし…。
とにかく、私、アスカを誤解していました。
あぁ、アスカも普通の女の子なんだな、って思いました。

最初はすごく怒ってたんです、碇君の事で。
え?あの、い、碇君が、その、えっちな事、してるのを、見ちゃったって…。
怒るのも、当然だな、って…。
でも!…違うみたいなんです!
加持さんとミサトさんが恋人なのがショックだったのかとも思ったんですが、
それも違うみたいなんです。
その時、私、女の直感で解ったんです。
アスカは、碇君が好きなんだ、って。
アスカはまだ自分の気持ちに気付いていませんよ。
…だってアスカ、そんなこと、絶対認めないだろうから。
ふふっ。
アスカも意地っ張りだから…。
あ、アスカには秘密ですよ、相談したこと。


21鈴原トウジの場合:03/05/23 23:04 ID:???
ワシ…僕は見ました。
イインチョウが三尉と仲良ォ話しているところを。
…なんや納得がいきません!説明してもらいたい気分です!
確か三尉は、綾波の教育係という任務を遂行しながら、ウラでしっかり綾波と
つきおうとるはずです!
そんだけでもうらやましいのに、なんで今度はイインチョウとあんな仲良ォ話せな
アカンのですか!?
事と次第によっちゃあ、この鈴原トウジ!
オトコ同士のゲンコツの話し合いをさせてもらいまっさ!

…え?イインチョウが相談?
…誰にも言うな、て?
…そんな事言われても、…いや、信用せんちゅう訳やないですけど…。
…はぁ、まぁそらそうですわな。
オトコがぺらぺら、人様の秘密を喋るのんはアカンもんなァ…。
解りました!三尉とイインチョウを信用します!
ワシは単純な人間ですよって、スンマセンでしたッ!
…え?ワシが、イインチョウのことを、好き!?
ななな何言うとんですかッ!誰があんなヘチャむくれ!
…ホナサイナラ〜。
(・∀・)イイ!
23相田ケンスケの場合:03/05/23 23:37 ID:???
見た!聞いた!撮った!…ってところかな?
え?トウジのヤツが勘違いして、三尉にケンカをふっかけたんだよ。
相変わらず恥ずかしいヤツだと思うだろ?
もちろん、アイツのああいうところ、嫌いじゃ無いよ。
僕はこんな性格だから、ちょっと羨ましい事もあるくらいだからなぁ。

ちょっと見てみる?
…ほら、このトウジのカオ!オトコの決意が滲み出ているだろ?
…で、三尉のこのカオ!困ってる困ってるーあはははは。
…どうしたの?
…委員長が三尉にどんな相談をしたか?
…そりゃ解らないよ、三尉が言わないんだから。
…そう言うなって。綾波は、三尉を信用出来ないのかい?
…だったら黙ってた方が良いよ。トウジだってあっさり引き下がったんだし。
…綾波も女の子なんだな…。
ごめんよ、心配のタネをまいて。
じゃあ、明日学校で。



24根府川先生の場合:03/05/24 00:04 ID:???
…いやぁ久しぶりに青春を見せて頂きました。
夕暮れの公園のベンチで、顔を寄せ合って語らう少年少女。
手を握るでも無く、肩を抱くでもなく、唯、お互い話をする…。
私は一瞬、昭和四十年代にタイムスリップしたかと思いました。

…あの頃はそういう時代でした…。
デスコやクラブ、カラオケやゲームセンターの無かった時代…。
お金の無い子供達は、そうやって幼くも純粋な愛情を育んだのであります…。
然るに昨今の性の解放と低年齢化は驚きの一言であります。
出生率の低下が危惧され、人口増加を図る為とは言え、テレビなどでかくも赤裸々に
性知識の流布を行うのは如何なものか?と私などは考えるのであります。
恋愛大いに結構。しかし、しかしです!
未熟な精神と肉体には、性交及び出産などという人類の大きなイベントはいささか
時期尚早と思えてなりません。
皆さんのご両親・そのまたご両親を例に致しますれば、激動の昭和・混迷の平成・そして
あのセカンド・インパクトを体験し、それでも挫けることなく仕事に励み、愛を育み
子を成してこられたのです。その弛まぬ精進が…(以下略)
>>24 いきなり根府川先生かよw
26青葉シゲルの場合:03/05/24 00:51 ID:???
昨日な、公園で見ちまったんだよ、ヘンなジイ様を。
レイとケンスケ君、だっけか?シンジ君の友達の。…そう、メガネ君。
あの二人が公園でヒソヒソ話しているのを、ジィーっと見ているんだ、コレが。
最初は、露出狂かノゾキ魔かと思って見張ってたんだが、夕闇の中、二人を見ながら、
こう、ほけーーーーーっとしてんだよ。
あー、こりゃ「ノスタル爺」だとピンと来たね、俺ゃ。

居るっしょ?そー言うジイ様。
昔を懐かしがって、自分の若かりし頃の記憶に浸るお方。
あのジイ様は、あの二人を見て自分の青春時代にトリップしたんだろうなぁ。
表情がもうコレモンで恍惚としてんの!
…寂しいねぇ…。
…副指令とかもああなんかね?
マヤとかを見て「ワシも後20歳若ければ…」とか思ってたら、ヤダなぁ。
で、お前とかを見て「まったく最近の若いヤツは…!」とか言ってたりしてんの。
…一人で晩酌しながら。
…お?ナニ真面目ぶってんの?
言え、言っちまえよォ…。
…ひゃははははははは!ヒデぇ!そりゃヒデぇぞ、日向クン!うわはははははは!
27碇ゲンドウの場合:03/05/24 01:07 ID:???
…冬月、見たぞ…。
部下の話を盗み聞きとは、お前らしくも無いな。
何を言われていた?
気にすることは無い…。
ヒトはいつも孤独だ…真の理解など有り得んよ。
お前は、お前自身の価値と役割を知っている…。
それ以外に何が必要だ?
部下からの厚い信頼か?
巷での、仁徳者としての評判か?
…冬月、忘れるな…。
我々の真の目的を…。
今はそれだけを考えろ。
28冬月コウゾウの場合:03/05/24 01:23 ID:???
ふふ、碇、私が何も知らないとでも思っているのか?
…お前こそ、時折こそこそとセントラル・ドグマで醜態を曝しおって…。
やめろ、とは言わん。
ただな、誰もおらんと思って油断しておると思わぬ出来事に遭遇するぞ?
油断ならんヤツが居るのを忘れるなよ。
…オマケにあの時の、お前の表情のシマリの無さは…いや、いい。
クドクドとは言うまい。

水槽の前で呆けている姿、誰にも見られてはならんぞ?
お前の息子なぞが見たら、威厳も何もあったものではないからな…。

まぁ良い。…茶でも飲むか?新茶が届いたんだが…。



29加持リョウジの場合:03/05/24 01:52 ID:???
ええ、ちゃんと見て来ましたよ。…まだざっとですがね。
結論から言えば、ネルフに不穏な空気はありません。
計画は全て貴方方のシナリオ通りに進められています。
若干の遅延は見られますが、予定内でしょう。
神は天に在り 世は全てこともなし…平和なもんです。
パイロットは年相応の恋に悩み、職員は上司の悪口を言い、上司は苦悩する…。
杞憂ですよ、委員長の。
…じゃ、私はこれで失礼します。
仕事の続きをしてきますよ。
30キール・ローレンツの場合:03/05/24 02:00 ID:???
碇、お前の考えは読めぬが、我々の眼と耳は常にお前の近くに在るぞ。
碇、裏切るなよ…。


…ここで恫喝しても聞こえぬ、か…。
31再び、加持リョウジの場合:03/05/24 02:12 ID:???
…ふん。
我々の眼と耳、か。
見聞きしたことは正確に伝えるさ。
それをどう解釈するかは、オレの責任ではないがな。
真実を求めながら他人任せとはおめでたい方々だ…。

…まぁ良い、おかげでオレの、オレだけの目的が果たせる。

…スマンな、葛城。
お前のために使う命と人生を、もうオレは持っていないんだ。
だから葛城。
たとえオレが居なくなっても決して悲しむな…。
32私の場合:03/05/24 02:37 ID:???
パソコンが不安定になってきました。
今夜はこのあたりで失礼致します。

最初「家政婦は見た!」みたいにやろうかな?とも思ったんですが、はて?
反動が出そうなので、思いっきりお笑い路線に行きたいような、才能が無いような。
…続けるつもりになってる!
>>32
続行きぼんにゅ
路線はお任せします
>>32  漏れとしてはお笑い路線。
     シリアスも結構(・∀・)イイヨ〜
もう少し言葉使いをキャラに似せてくれ
>>35
けっこう似ていると思うガナー
>>36
キャラ名を見ずに文章だけで判断すると加持なんか
レス毎に違うね。
>>37話す相手によって言葉使いが違うからでは?
39山崎渉:03/05/28 13:21 ID:???
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉
私・・・見たんです。
台車に乗って「これからも応援して下さい」とか言ってる
山崎の姿を・・・!
427(仮名):03/06/03 19:49 ID:???
やっと形になりそうな気配です。
近日公開予定。
…責任はとれません。
激しく期待!
447(仮名):03/06/07 00:36 ID:???
>>43
そんなに期待されても…。
最善を尽くしますがご期待にそえられるかどうか?
長いモノになると思われますし、時間も掛かります。
夏休み明け頃には終わらせたいと…。
スレタイ見て、地球少女アルジュナのスレかと思った。
47あぼーん:あぼーん
あぼーん
48あぼーん:あぼーん
あぼーん
7氏来ない…
50あぼーん:あぼーん
あぼーん
51あぼーん:あぼーん
あぼーん
52あぼーん:あぼーん
あぼーん
49 :名無しが氏んでも代わりはいるもの :03/07/05 11:29 ???


ttp://naha.cool.ne.jp/tokcan/old_contents/diary/eva01.jpg
54名無しが氏んでも代わりはいるもの:03/07/29 18:07 ID:L+2TfxX7
>>53
へぇ〜、こんなのあったんだ
俺って世間知らず…
ミサトが飲んでたのもUCCだったな。
人いないな・・・
あらそうかしら?
漏れも人いないと
7氏降臨を信じて保守
607(仮名):03/08/27 20:05 ID:???
>>59
ありがとうございます。
すっかり忘れ去られているのかと思っていました。
まだお待ちいただいているとは、感謝にたえません。
先日の、鯖落ち〜足きりによるスレ消失に関してアレコレ考えておりました。
現在、作品の進行具合は40%程度です。
問題を解決するまで、もう少しお待ちください。


>>60 ガンガレー ヾ(゚д゚)ノ゛ マッテルゾー
62 ◆ASUKAyMgzc :03/08/31 03:07 ID:???
てす
ん?あれ?
HOS
65あぼーん:あぼーん
あぼーん
見ちゃったんだよ、俺…。
真夜中のターミナルドグマで
貼りつけられているリリスが「あ〜、痒い〜」とか言って右手で股間を
ボリボリ掻いて、何事も無かった様に元の姿勢に戻ってるのを…
67あぼーん:あぼーん
あぼーん
687(仮名):03/09/25 03:14 ID:???
この物語には「俺設定・俺解釈」が充満しています。ご注意ください。
エヴァ+鋼鉄のガールフレンド1+綾波育成計画が主な構成要素です。
この物語は私のHPに収録される事を前提にしています。
やっと第壱話をお届けできますです。
次回は10月後半の予定ですが、パソコンが壊れたら何もできません。
今も故障寸前です。
では、どうぞ。
『ひまわり』第壱話「出逢い」
697(仮名):03/09/25 03:16 ID:???
「ひまわり」
第壱話「出逢い」

僕は見た。
夏の陽射しの中で微笑む少女を。
白いサマードレスに白いサンダル、そして向日葵の飾りが付いた麦わら帽子。
芦ノ湖が見える、小高い丘にある公園で見た光景を、僕は一生忘れないだろう。
いや、この夏体験した事全てを、決して忘れないだろう。
一学期の終業式が終わると、少年は芦ノ湖の探索に出かけた。
街から逃げ出そうとして彷徨った時は、景色を楽しむ気持ちの余裕は無かった。
でも、今は違う。
使徒との戦いやエヴァにはまだ慣れないけれど、友達(らしきもの)も出来たし、
夏休みの計画もある。第3新東京市からあまり離れなければ、多少の遠出も許可
されそうだ。
友達とのキャンプの予定も組んでおり、その下見をしているところなのだ。
自転車で旧箱根樹木園にある別荘地を抜け、白竜神社を過ぎた辺りで、目の前を
ゆっくりと何かが横切って行く。
地面に落ちてなおも風に煽られている物、それは古びた麦わら帽子だった。
「ごめんなさーい。それ、私のですぅ〜」
前方にある、小山を切り開いて作られたのであろう公園に、手すりから身を乗り
出す様にして叫んでいる少女の人影が見える。
自転車を止めてその麦わら帽子を拾い上げる少年。
よく見れば「それ」はかなり年季の入った代物で、あちこちが傷み、色褪せている。
辺りを見渡し、階段を見つけた少年が小走りで駆け上がっていく。
階段の上からは、少女が足元を気にしながら降りてくる。
「ありがとう!ボロボロだけど、大切な帽子なの。本当にありがとう」
少年から帽子を受け取ると、少女は何度もお礼を言い頭を下げた。
そしてやさしく帽子を撫でると、王冠を戴く様に、そっと頭に載せる。
707(仮名):03/09/25 03:17 ID:???
少女の服装は、その帽子だけが不釣合いであった。
赤茶けた、少しクセっ毛のショートヘアに、白いサマードレスと白いサンダル。
露になった手足はひどく白い。
麦わら帽子がまっさらのものであれば、間違いなく「どこかのお嬢様」なのだ。
「やってきた初日に、ドジっちゃったぁ」
少女はチロリと舌を出してにっこり笑う。
「…引越し、してきたの?」
「ううん。夏休みの間、ここで療養するの。あっちをぶらぶら、こっちでぶらぶら」
へへっ、と自嘲気味に笑い、少女は手すりに身体を預けて足をバタバタさせる。
「…ごめん」
「どうして謝るの?」
不思議そうな顔をして少女が振り返える。
「…わからない。いや、僕は、夏休みの遊びの準備でここにいるから…だから」
「だから?」
「なんか、悪いな、って」
少し考え事をしていた少女が、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「じゃ、夏休みの間、友達になって一緒に遊んで!」
「い、いいけど、女の子が面白いと思う事って、知らないよ」
「いいの。それに、いつもって訳じゃないの。都合のいい時でいいから」
「う、うん、それなら、いいよ」
「きゃは♪さっそくお友達ができちゃった。嬉しいっ」
「こっちに、友達、いないの?」
「はじめての街だから…。キミが最初の友達ってわけ」
少女はまた、へへっ、と笑った。
今度の笑いは、先程とは異なりやや照れ笑いだ。
「あーーーーーっ!私、また失敗しちゃったぁ!」
「ど、どうしたの?」
「自己紹介がまだだったわ。私、マナ。霧島マナって言うの。キミは?」
「シ、シンジ。碇シンジ」
青い空、白い雲、緑なす山、ぎらつく太陽、照り返しの眩い水面。
原色の風景の中で、二人は出逢った。
717(仮名):03/09/25 03:17 ID:???
夏休みとはいうものの、使徒襲来によって遅れた授業の補習がある。
成績不振の者はさらに日程がキツイ。
シンジ達も、三日程度補習を受けねばならない。
「くぁ〜〜ッ!そんでお友達になったっちゅうんかい。…ホンマに運のえェやっちゃ」
学校で昨日の出来事をトウジ達に報告すると、予想通りのリアクションがあった。
…自慢している訳ではない。
夏休みに先約のあるトウジ達に知らせておかねば、スケジュールが立たないのだ。
「ミサトさん、アスカ、今度は深窓のお嬢様か…。世の中、不公平だよなぁ」
ケンスケが、ビデオカメラをいじくりながらボヤく。
「こうなったら善は急げ、や。家庭訪問しよやないか!」
「ま、待ってよ!そんなの無理だよ。第一、失礼じゃないか」
「アホぅ。手土産持って、お友達が家に行くンのどこが失礼や?」
「だって、お父さんやお母さんに会ったら、どう挨拶すれば…?」
「普通で良いんだよ。やましいことは無いんだからさ」
「あ。ワシぃ、金あらへん。お土産、どないしょお」
「…ネルフ菜園にご協力願いましょう」
指先でメガネを押し上げながら、ケンスケが提案する。
ネルフ菜園…加持リョウジがジオフロントにおいて、趣味で作っている家庭菜園の俗称だ。

「と言う訳なんです、加持さん。…少しスイカを分けてもらえませんか?」
「そりゃあ構わないが…。やるな、シンジ君」
菜園の草取りをしながらリョウジが笑う。
「そ、そんなんじゃありません。トウジ達が面白がってるだけですから…」
「ま、いいさ。車を出すから乗って行くかい?」
スイカの品定めをしながら、リョウジが意外な提案をする。
「神様仏様リョウジ様〜!やな。頼りになるわぁ」
「ナニ、俺も見てみたいだけさ。…お。こいつがよさそうだ」
手際よく蔓を切ると、今度はトマトやキュウリを選び出す。
「好き嫌いがあるかも知れないからな。これはおまけだ」
リョウジはそれらを袋に詰めながら汗を拭いた。
727(仮名):03/09/25 03:18 ID:???
リョウジの運転するプリウスが、湖畔の別荘地に停車したのはそれから30分後だった。
教えられた住所には、表札の無い洋風の建物があった。
「…ホンマにここでエェんか、シンジ?」
「電話で教えられたとおりの場所だけど…」
「チャイム鳴らしてみたら?」
ぴんぽーん ぴんぽーん
はぁーい、という声が中で聞こえたかと思うといきなりドアが開いた。
「いらっしゃい、シンジ君!…あれ?」
「…友達も、ついて来ちゃった、けど…ごめん」
なんだか言い訳にもなっていない事を言うシンジだが。
「うわァ!また友達が増えちゃう。やったァ!」
マナの方では大歓迎みたいだ。
「友達の友達はみんな友達だ!みんなで作ろう、友達のWA!」
マナが両手を挙げ、頭の上で輪っかを作っている。
「アレ?知らないの?これ」
「…いや、知ってるけど…」
「じゃあ、友達のWA!」
「…WA」
「オジョーサマっちゅうのは、ワカランなぁ」
「身近にいないタイプだな」
トウジとケンスケがヒソヒソ話をしていると奥から声がかかる。
「マナ?お客さんがいらっしゃったのなら、早く中にお通ししてね」
「ハイ、ママ。ではでは皆様、お入りください」
そういうとマナは深々とお辞儀をした。
737(仮名):03/09/25 03:19 ID:???
「加持と申します。突然押しかけて申し訳ありません。つまらない物ですがお受け取り
ください。手作り野菜ですが、お口に合えば幸いです」
リョウジがマナの母親に「大人の挨拶」をしている。
一方、子供達はリビングでにぎやかに会話を楽しんでいる。
ミサオと名乗った母親は35歳位だろうか。ボーイッシュと言ってもよいほどに短く切った
黒髪と、細身の体型が印象深い。おそらく、身のこなしもキビキビとしているだろう。
「素直で良いお嬢さんですね」
「ありがとうございます。ですが私共は、あの間のびしたところが心配で…」
口元を隠して笑うと、リョウジに席を勧めて中座した。

「荷物の整理もまだできていませんので、こんな物しかお出しできませんが」
そう言って、ミサオがジュースとクッキーを持ってくる。
「いい別荘ですねぇ」
リョウジがまんざらお世辞とも思えぬ口調でミサオに話しかける。
「借り物ですのよ。この子が病気になってから、夏はあちこちしていますの。
でもなかなか良い場所がなくって」
「湖畔に佇む洋館。テラスは湖の上に張り出し、眺めは最高。観光船が通るの
も眺められる。後ろには箱根山、前に三国峠。第3新東京市中心地まで約8km、
近からず遠からず。…対岸まで500mってのも便利ですね」
「あらあら。知人に頼んでみましょうか?」
「安月給の身の上では、夢のまた夢ですよ」
肩をすくめるリョウジ。
「ネルフってそんなにお給料少ないんですの?」
「…よく勤務先が解りましたね」
鼻をかみながらリョウジが驚いた顔をしてみせる。
「第3新東京市に住む方達は、ほとんどがネルフ関係のお仕事だと主人が」
「言われてみれば確かに。…テラスから景色を見せてもらってもかまいませんか?」
そう言いながらリョウジは、タバコを取り出している。部屋には灰皿が無い。
それはミサオに喫煙の習慣が無いことを意味する。
ミサオが灰皿の代わりになる物を探そうとするのを、携帯用灰皿を見せて外に出る。
747(仮名):03/09/25 03:21 ID:???
湖からの風が心地よい。
リョウジはジッポを取り出すと、タバコに火を点けてゆっくりと辺りを見回す。
テラスの右手には小さな階段があり、直接、湖に降りられるようだ。
そこにはシートに覆われた一艘のボートがロープでつながれている。
よく見れば小型のエンジンも取り付けられており、船遊びには十分な代物だ。
リョウジは小さく肩をすくめると、まだ半分程しか吸っていないタバコを携帯用
灰皿に押し込みリビングに戻った。

「いやはや、祭りの花火大会が楽しみな環境ですね」
リョウジの口が、実に滑らかに動く。
「お祭り、あるんですか?」
マナが興味深げに質問する。
「ああ。夏越し祭りが土曜日だったな。他にもあちこちである。…行って見るかい?」
リョウジの言葉にマナの目がきらきらと輝く。
「行きたい!」
「シンジ君、どうだい?みんなで出かけてみちゃあ」
「えっ、…そ、それは、大丈夫、かな?」
「なんやセンセー、惣流の事心配しとんのかいな。しょーもないナ」
「この対決は興味深いなぁ」
「よしゃ!決まりや。オモロなってきたでぇ」
「お邪魔じゃあないのかしら?」
「何言うとんですか。ワシ…僕達の方が楽しみになってきましたワ。あんじょう案内しまっせー」
「よろしくお願いね。お友達が早速できて、嬉しいですわ」
「ま、よい夏休みになるといいですね。ではそろそろ引き上げるとしますか」
そう言ってリョウジは立ち上がった。
時計は5時を回っていた。
マナとミサオが、揃って玄関まで見送りに出てきた。
リョウジが思い出したように振り返り、マナに向かって話す。
「湖畔の明け方は冷え込む。身体を冷やさないようにな」
757(仮名):03/09/25 03:22 ID:???
車を玄関まで回してくる途中、リョウジの目が一瞬ガレージに注がれる。
「オフロード・バイクですか。意外に活動的でいらっしゃる」
「主人の趣味ですの。乗せられたこともありますけれど、大変でしたわ」
「ははは。かなりのじゃじゃ馬なんですねぇ…あ、いや、バイクが、ですよ」
じゃあ、と挨拶をしてリョウジは車を発進させた。

第3新東京市でシンジ達を降ろすと、リョウジは再びネルフ本部へ戻り、仕事部屋に鍵を
かけるとパソコンの電源を入れた。

情報は、伝達する過程でさまざまに変質する。
特に悪意を持って情報を伝達しようとする者が居た場合…。

「加持さんが!人妻に!鼻の下を!伸ばしてるぅ〜ッ!?」
教室でアスカが素っ頓狂な声を上げている。
「娘に似て、そらもうべっぴんさんなお母ちゃんやったなァ」
トウジが意地悪い笑いを浮かべながら、アスカに昨日の報告をしている。
「シンジ!今日は私も行くからね」
「えっ?今日はケンスケと新湯本へ…」
「いい?行・く・の・よ!」
「ひひひひひ。しばらくはネタに困らんわ」
「人が悪いな、トウジ」
ケンスケがトウジをやんわりと嗜めるが、顔はやはり笑っている。
「アスカ。私も行っていい?」
突然、ヒカリが会話に加わってきた。
「そらエェわ。オマエもあの子を見習ぅたら、少しは女らしゅうなれるはずや」
「…鈴原、あんたねぇ」
「馬鹿だね、トウジも」
ケンスケの呟きは、途端に始まったトウジとヒカリの口喧嘩でかき消された。
767(仮名):03/09/25 03:23 ID:???
ぴん、ぽーん
「はーい、いらっしゃーい♪…あら?」
「…ごめん。また、友達が、ついて来ちゃった」
玄関前でシンジがすまなそうに頭を掻く。
シンジ達は総勢7名、今日は三尉が運転手を務めた。
リョウジが仕事を理由に運転手を断ったのだ。
ネルフのマークが入ったバンを見た瞬間、アスカがあからさまに不満を漏らしたが無視さ
れ、大層、機嫌が悪い。
「今日は女の子もいるのね。うれしい!」
無邪気に喜ぶマナに、アスカが近づく。
「初めまして。碇君のクラスメイトの惣流・アスカ・ラングレーです。よ・ろ・し・く」
「うわぁ、きれい。シンジ君の彼女、かなぁ?」
マナがシンジの方をちらりと見る。
「ち、違うよ」
「違うわよッ!」
アスカとシンジが同時に叫ぶ。
「ひっひっひっ。期待通りの展開やな」
「霧島さん、初めまして。私、洞木ヒカリって言います。突然お邪魔してごめんなさい。
…この子は綾波レイさん」
「洞木さんに、綾波さん。よろしくね」
顔をじっと見て、名前を復唱するマナ。
「度々お邪魔して申し訳ありません…」
今日は三尉が、大人代表として挨拶をしている。

リビングは、昨日にも増してにぎやかだった。
マナは、男女問わず対応が同じだった。
それぞれが話すことに熱心に聞き入り、驚き、笑った。
ここまで反応が良いと、話す方も楽しい。
ついいろいろなネタを披露してしまう。
学校での出来事、家庭での事、流行っている遊び、そしてエヴァの事…。
777(仮名):03/09/25 03:23 ID:???
ミサトのマンション。
「調子狂っちゃうな、あの子」
アスカがマナの感想を話している。
「あそこまで無邪気だと、リキむのが馬鹿らしいったらありゃしない」
「でェ?噂の若奥様はどうだった?」
ミサトがビール片手に肝心な話を聞きだそうとする。
「大丈夫。あのタイプは加持さんの好きになるタイプじゃないわ…ってなぜそれを!」
「ミサトイヤーは地獄耳♪」
「悪魔の力って訳?あ〜イヤだイヤだ。まさかずっと監視してるんじゃないでしょうね」
「職務上の秘密に関してはお答えできません」
「…それって、僕達の間にも、秘密にしなきゃならない事がある、ってことですか?」
「どうかしらね。誰にも言えない秘密って、あるんじゃないかしら」
シンジの顔色を見ながらミサトが続ける。
「たとえばシンちゃんが、その霧島さんを好きになったとして、それをここで話したら
シンちゃんの事が好きなアスカは大ショックよね?」
「ちょっとミサト!何バカな例え話をしてんのよッ!」
「と、この様に日常は混乱し、平和は持続され得ないのよねぇ」
「ミサトが混乱させてるんでしょうが!」
「ミサトさん、答えになっていないんじゃあ…?」
「ムダよシンジ。すっかり酔っ払っちゃってるもの、保護者サマは!」
「ひひひ。これしきのビールで、ミサト様は酔ったりしませーん」
「もういい!お風呂入って、寝る!」
テーブルをバン!と叩いてアスカが立ち上がり、さっさと風呂場に向かう。
「シンちゃん」
「なんですか、ミサトさん」
「霧島さん、浴衣持ってるのかしら」
「持ってきていない、って言ってました」
「そう。じゃあ、レイとアスカの分と一緒に買ってこなくちゃ」
「ありがとうございます。うわぁ、やったぁ」
「明後日は花盛りよ、シンジ君」
787(仮名):03/09/25 03:24 ID:???
「こんばんは。葛城ミサトと申します。」
次の日の夕方、ミサトは用意した浴衣を持って霧島家を訪ねた。
気に入った絵柄を選んでもらい、すそ直しまでするつもりだったが、ミサオが恐縮して固
辞した。
「重ね重ねありがとうございます。よい街でよいお友達に恵まれ、娘にも良い夏休みにな
りそうです」
「好きでやっていることですからお気遣いは無用です。それより、お嬢さんは?」
「少し具合が悪いものですから、早めにベッドに入りました」
「そうですか…。噂の美少女にお会いしたかったのですが、残念です」
「明日の夏祭りにはぜひ行きたい、と申しますので今夜は大事を取っただけです。ご安心
ください」
「解りました。では明日を楽しみにしています。失礼いたしました」
浴衣を渡すと、簡単な挨拶を済ませてミサトは帰路につく。

「シンジ君、ちゃんと渡して来といたからね。明日をお楽しみにィ。イヒヒヒヒ」
「ミサト!金魚の絵柄は私ンだからね!」
「判ってるわよォ。ほーら、ちゃんとキープしてるから。じゃアスカ、手直ししょっか」
そういうとミサトはアスカを部屋に連れて行き、サイズをチェックし始めた。
その夜トイレに起きたシンジは、ミサトの部屋から灯りがもれているのを見つけた。
「ミサトさん、まだ起きてるんですか?」
ドアの外から声をかけて見る。
「チョッチ、ね。慣れない事は時間がかかるわ。…あ痛ッ」
「大丈夫、ですか?」
「へーひへーひ。ほへほひひんひゃんほほへはふひゃ」
針で突いた指を、口に咥えながら喋っているのだろうが、なぜかシンジには意味が通じる。
「じゃ、寝ます。…ミサトさん、ありがとうございます」
「は〜い、っと♪」

「おかあさん、か。僕の母さんも、縫い物とか、したのかな?……」
シンジは、ほとんど記憶に無い母のイメージを、頭の中であれこれ考えているうちに眠り
に落ちていた。
797(仮名):03/09/25 03:25 ID:???
次の日。
青い空に入道雲がそそり立つ、夏の景色。
子供達は祭りの気配に敏感になり、大人たちは祭りの準備に夢中になる。
「使徒」と言う、訳のわからない異物が「日常的に」現れている現在、人々のストレスは
潜在的に高まっている。
そこに、祭りである。
盛り上がらぬわけが無い。

シンジ達の補習は今日でお終いである。
今夜のお祭りを考えると授業どころではないのだが、宿題を増やされてはたまらないので
おとなしくがんばった。
最後に根府川先生の回顧録が五分程あったが、誰も聞いてはいなかった。
チャイムと共に教室を飛び出し、夜、行動を共にする者達が簡単な打ち合わせをしている。

「シンジィ。今夜はどないすんねん」
トウジが予定を聞いてくる。
「ミサトさん達が霧島さんを向かえに行くから、6時頃に桃源台で待ち合わせなんだ」
「ホナ、ミサトさん家で時間潰しでも」
「アスカと綾波の着付けがあるから、ダメだって」
「アスカが浴衣を着るんか!?こーれはエェ事を聞いたナ。あのキックは封印きゃ?」
「つまらない事を考えると、ミサトさんに嫌われるよ?ミサトさん、気合入ってるから」
昨夜のことを話すシンジ。
「ほーーー!そらまたびっくりやなぁ。いやー、ミサトさんもやっぱり女性なんやなァ」
「そうだね、見直しちゃった」
「よしゃ。ワシは8時頃までアスカをからこうてから帰るワ。うまいたこ焼き屋も探さん
ならんし」
「ケンスケは?」
「特に予定がないから、シンジ達を観察するよ」
「ほな、結末はメールででも教えたってや」
「判った。じゃ、6時に桃源台で」
807(仮名):03/09/25 03:26 ID:???
「喜べぇ男子共ッ!綺麗な花が咲き乱れているぞォーーッ!」
集合場所の桃源台に着くなり、ミサトが大声でシンジ達を煽る。
リョウジとミサトが、アスカ、レイ、マナ、それにヒカリまで連れてやってきた。。
「なんでイインチョまでおるんや?しかもバケとるやないか!」
「なぁんですってェ、鈴原ッ!」
「へへーんだ。そんなカッコしとっても、元が変わらん限り女らしゅうはなれへんのや」
「ヒカリ、バカは相手にしてもムダよ」
「離してアスカ!一発殴らなきゃ気が済まないッッッ!」
早速、賑やかな雰囲気となり、お祭りムードが盛り上がる。
「あれ?加持さんは帰るんですか?」
「あのヴァカは仕事が残ってるんだって。普段から仕事をサボってるバチだわバチ!」
シンジの問いにミサトがはき捨てる様に答える。
騒がしい多数を放ったらかして、見つめ合う男女が一組。
「どうして私を見ているの」
「あーイヤ、似合ってるな、と思って」
「変じゃ、無い?」
「着るモノひとつで、雰囲気が変わるんだなぁ」
「…動きにくい」
「それで暴れちゃ大変だ」
チッ、と舌打ちをしてミサトがツカツカと歩み寄り、三尉の耳を引っ張る。
「今夜は集団行動なんだからねッ!あからさまにヘラヘラしない!」
「あのヒトも意外に…」
「困った一面があるのかもな…」
トウジとケンスケがひそひそ話をしている。
「さ!とっととお参りを済ませて、お祭りを楽しむわよ!…ったく、まさかコヤツまで役
に立たないとは…。飲んでやる、絶―っ対飲んでやる!」
ミサトは「お守り役」を買って出た事を後悔し始めていた。
817(仮名):03/09/25 03:27 ID:???
第三新東京市の建設に伴い、神社などが移転を余儀なくされた時に地元とのトラブルは存
在した。が、合祀の前例は歴史上にもあり、「町ごとの移転」では反対のしようもなかった。
新しい町並み・新しい社殿。
それでも人々の素朴な信仰は根付き、引き継がれていく。

お参りを済ませると、一同は夜店の立ち並ぶ通りへ舞い戻った。
「たこ焼きや。美味そぉなたこ焼き屋を探さなアカン!」
そう言うとトウジは、脱兎の如く走り出す。
三尉とレイは既に射的に興じている。
「…では我々も縁日を楽しみましょおかねぇ…」
ミサトがそれを見ながら陰気につぶやく。

こんな時代でも、祭りは賑やかだ。
金魚すくい、くじ引き、型抜き、輪投げ、お面、綿菓子、焼きイカ、あんず飴、焼きとう
もろこし…あああ懐かしい。
老若男女がごった返すこの空間は、何とも言えない活気に満ち溢れている。
その人混みの中を、シンジ達が露店を冷やかしながら歩く。
827(仮名):03/09/25 03:28 ID:???
アクセサリーを並べた露店の前でマナが急に立ち止まり、見入っている。
「どうしたの?」
「…ひまわりだぁ」
そう言ってマナが指差す先に、キーホルダーのひまわりがぶら下がっている。
黄色い花びらに囲まれたタネの部分にはスマイルバッジの様な顔が描かれ、植木鉢から
真っ直ぐに伸びた茎と左右に開かれた葉っぱが、さらにひまわりを擬人化している。
「?そう、だね」
マナが、何故こんな物に強い関心を示すのか解らないシンジは、曖昧な返事しかできない。
「欲しいなぁ…」
「はい、いらっしゃい。1個500円だよ」
「たっかーい!300円にまけて」
「うーん、困ったなぁ。彼氏、買ってあげなよ」
「うぁ、い、いや、僕、あの」
「2個で800円なら買う!」
マナがさらに値切る。
「…しょうがないなぁ。まぁいいや!はい、2個で800円!」
「あはッ♪やったぁ」
巾着袋から財布を取り出すマナ。
「お釣りの弐百万両!お嬢ちゃん、良い奥さんになるよ」
「ありがと。…ハイ、シンジ君、プレゼント」
マナがひとつをシンジに差し出す。
「えっ?僕の、なの?」
「うん。ペアペア」
「ペアペア…」
キーホルダーを手にして赤面するシンジ。
「ほォー!やるやないかシンジィ!おい惣流!こっちでシンジがラブラブやぞ!?」
突然、トウジが大声を出す。
「…うッさいわね!バカシンジが誰とイチャつこうが、関係ないわよッ!」
そう叫んで、プイと横を向くアスカ。
「ひひひひひ。怒っとる怒っとる。からかい甲斐のあるやっちゃ」
837(仮名):03/09/25 03:29 ID:???
「ミサトさん、ワシ用事がありますよってに、これで失礼しますワ。ほな!」
「あら、そうなの?じゃあ気をつけて帰ってねぇ。バイバイぃ〜」
ビール片手に、少し機嫌の治ったミサトが小さく手を振る。
「…鈴原、美味しいたこ焼き、見つかった?」
ヒカリが尋ねる。
「アカン!どれも今ひとつや」
「あたし、美味しいお店、知ってる」
「ホンマか!?頼む、教えてくれぃ!」
「入り組んだ場所だから、口ではちょっと…。案内してあげる」
「うおおおおお!助かるわぁ」
「…じゃあアスカ、また明日」
そう言って、ヒカリはトウジと共に街に消えて行く。
「ヒカリ、やるわね…」
「まったく、どうしちゃったんだろうねぇ?」
いつの間にかケンスケが、アスカの横で腕組みをして見送っている。
「アンタまだ居たの?」
「当然だろ?トウジに今夜の報告しなくちゃいけないんだからさ」
「私は見世物じゃあないわよッ!」
「別にアスカの事だけじゃないだろ?たとえば、ほら」
ケンスケが指差す方を見るアスカ。
シンジとマナが仲良く金魚すくいをしている。
「あの二人の行動を逐一報告するとか、ね」
「むーーーッ!」
アスカが途端にふくれっ面になっていく。
847(仮名):03/09/25 03:29 ID:???
夜道を歩いているトウジとヒカリ。
お祭りに出かけているのだろう、人通りは少ない。
「…でね、外側はカリッとしていて中身はふんわり柔らか。タコも大きいし、何よりソー
スが鈴原好みだと思う」
「ふぅん、なるほど。そら期待できるなぁ」
ヒカリがその店のたこ焼きについて説明している。
誰かの好みの味を探したり作ったりする、という行動の裏にある感情を、トウジはまだ
理解できていない。
「あそこよ」
閉店したスーパーの横にある、プレハブ建ての店だ。
看板には「大阪名物・ジャンボたこ焼き・たこ八」とある。
ソースの香りが鼻粘膜を刺激して、食欲を刺激する。
よほどの満腹でもなければ、ついつい食べてしまう魔力がたこ焼きにはある。
二つ注文すると、主が手際よくたこ焼きをひっくり返しながらパックに詰めていく。
「まいど。800円です」
店の前を離れると、トウジは急いで試食を始める。
「…美味い!こらァアタリや。イインチョ、おおきに」
「好みに合う?」
「バッチリや。これならコナツも納得するやろ」
「コナツ?」
「妹や。せっかくの祭りや言うのに、外出でけへんからな。見舞いついでに持って行っ
たるんや」
「そっか。じゃ、あたし、これで帰るね」
「アホゥ!祭りの晩に、女一人で歩かせられるかい。送ってくワ。家、どこやったかいな?」
「元湯場」
「あちゃー。…しゃあない。イインチョ、見舞いに付き合わへんか?」
857(仮名):03/09/25 03:30 ID:???
第3新東京市・中央病院。
「えぇか?ここでのワシの行動はみんなには秘密やで」
「いいけど…どうして?」
「なんや恥ずかしいからな」
「解った」
トウジがドアのブザーを鳴らしてドアを開ける。
「コナツぅ!美味いたこ焼き、見つけて来たでェ」
「ホンマ、おニィ?」
ベッドを少しギャッジアップさせて本を読んでいた三つ編みの少女が顔を上げる。
右のおでこから頬にかけてガーゼで覆われている。
そこに傷があるのだろう。
「おぅ。このねーちゃんが教えてくれたんや。お礼言うとき」
「…びっくりやわ。おニィが女のヒト連れて来た…彼女なん?」
「アホゥ!なんちゅう恐ろしい事を言うねん。クラスのイインチョや」
「おニィうるさい。夜やし静かにせな」
「鈴原君の同級生で、洞木ヒカリって言います。初めまして」
ヒカリがくすくす笑いながら挨拶をする。
「兄がいつもご迷惑をおかけしています。鈴原コナツと申します。兄共々よろしくお願い
致します。たこ焼きありがとうございます。えと、それから…」
はきはきとしゃべっているが、どこかたどたどしいのは年齢のせいだ。
いや、この年齢でここまでできれば立派なものだ。
「口だけは達者やからな。かなわんワ」
トウジがたこ焼きをコナツに渡しながら、ヒカリに向かって苦笑いして見せる。
「えぇ匂いや。食べてえぇかな?」
「オマエのために買ぉて来たんや。冷めんうちに食べてまえ」
いただきます、と手を合わせてから、コナツがひとつ口に入れる。
「美味し!ありがとう、ヒカリねーちゃん」
コナツが全部食べ終わるまで3分とかからなかった。
867(仮名):03/09/25 03:31 ID:???
「なぁおニィ。屋上で花火見ぃへん?」
「こんな時間に屋上に出てえぇんか?」
「みんな、見るて言うとった」
「よしゃ。準備しよか」
トウジが車椅子をベッドに近づける。
いつもはベッド横に置かれているが、トウジ達が座るのに邪魔なので移動させていたのだ。
顔の傷のほかに、左膝にも大怪我をしていて長距離はまだ歩けないのだ。
左足には装具がつけられており、動きが制限されている。
「手伝おうか?」
「大丈夫や。これくらいなら一人でできる…よいしょ」
コナツが立ち上がり車椅子に座ると、固定された左足が伸びたまま前方に突き出ている。
よく見れば車椅子も普通の物ではなく、動かない左足を支える様に受け皿がついている。
こうしないと、長時間座っているのが負担になるのだ。
ナースステーションに顔を出して許可をもらうと屋上に向かう。
病院の屋上、そこはある意味もっとも危険な場所だ。
病院に入院している人々は、回復することに希望を持って治療にあたる。
だが、不治の病と宣告された場合、その精神的苦痛は他人には計り知れない。
最悪の場合、自ら命を絶つ場合もある。
そして、その最後の場所が「屋上」である例は少なくない。
そのため、高いフェンスなどで囲まれているか、出入り禁止となる。
だが今夜は、ビルの谷間からのささやかな花火見物を楽しむ人達が集まっている。
「おニィ、ノド乾いたなぁ」
「ンなもん早ぉ言わんかい」
そう言いながらも自販機のある階下まで走るトウジ。
「ヒカリねーちゃん、よぉおニィの好きな味が分かったなぁ」
「うん、なんとなく」
「おニィの、どこが好きなん?」
コナツの鋭い指摘に一瞬戸惑いながらも、正直に答えるヒカリ。
「優しいところ。…鈴原って、優しいんだよ」
「うん、知ってる。でもなんやうれしいなぁ。おニィのえぇトコ解ってくれる人がおって」
877(仮名):03/09/25 03:32 ID:???
「買ぉて来たでぇ。コナツ、どれがえぇ?」
「ヒカリねーちゃん、どれにする?」
「…オマエ等、ナニ急に仲良ぉなっとんや。ナニ話しとった?」
「おニィの悪口」
「イインチョー、頼むでホンマ。こいつの前じゃワシ、えぇ兄ちゃんしとんのやで」
「うそうそ。言ってないって」
「始まった!」
ビルの谷間に、ひょろひょろと光の筋が上がり、ぱあっ、と開いていく。
ひゅるるる   どん! ぱら ぱらぱらぱら
距離が離れているので、光と音がずれている。
「ああ、やっぱキレイやなぁ」
「うん…」
しばらく三人は黙って花火を見つめていた。
「来年は、ちゃんとお祭りに行こうな」
コナツがトウジの手を握りながらつぶやく。
「おぅ。も少し歩けるようになっとけよ」
「うん。ヒカリねーちゃんも一緒に行こうな?」
「うん、行こうね」
「約束や。はい指切り指切り…おニィも指出して。ヒカリねーちゃんも」
渋い顔のトウジが、ヒカリと小指を絡める。
三人が輪になって指切りをする。
「ゆーびきーり げーんまーん ウーソつーいたーら はーりせーんぼーんのーます…」
三人に小さな約束が生まれた。

花火が終わると、辺りには静けさが戻ってきた。
ヒカリの門限もあるので、トウジが見舞いを切り上げる。
別れ際、コナツがそっとヒカリに耳打ちする。
「また来てな。おニィの話しような?」
「うん。また来るね」
今年の夏休みは、良い夏休みになりそうだ、そんな予感が芽生えていた。
887(仮名):03/09/25 03:33 ID:???
「たまやー!」
桃源台の花火会場。
あちこちで喚声があがっている。
早川の河口・トウゴ淵辺りが打ち上げ場所だ。
シンジ達は遊覧船乗り場近くに陣取っている。
「きれいだね…」
ぽつり、とマナが言葉を発する。
「うん…」
「また、みんなで見たいな」
シンジはどきりとした。
身体が弱いことは、初対面の時に聞いている。容態は良くないのだろうか?
押し黙ったまま、時が流れる。
ゆらゆらと揺らめく水面に、花火が映り込んでいる。
沈黙に耐え切れないシンジが話題を探す。
「ね、ねぇ、どうして、そんなにヒマワリが好きなの?」
「なんかね、ほのぼの〜としてて、でもお日様に向かって胸を張って生きている、強い
一面もあるから。…おいしいし」
「食べられるの?」
「タネを食べるの。おいしいよ?子供のころ、ムサシやケイタとよく食べたなぁ…」
「…誰?」
「ん?…飼ってたハムスター。可愛かったよぉ。でも、死んじゃったんだ…」
シンジの視線が再び下を向く。
花火を打ち上げる音、炸裂する音、周りのざわめき。
祭りの喧騒から取り残されている錯覚がシンジを襲う。
「あーーっ!枝垂れ柳!」
マナが突然大声を出す。
その浮き沈みの激しさにシンジが驚いて顔を上げると、マグネシウムが燃えながら
すぅ、すぅ、と幾条ものなだらかな曲線を描いて降ってくる。
897(仮名):03/09/25 03:33 ID:???
「…ったくバカシンジの奴、ナニやってんだか」
アンズ飴を舐めながら、アスカがシンジ達を見ている。
「そういう惣流こそナニやってんの。いいのか?シンジの奴、メロメロみたいだぜ」
こちらはイカ焼きを持ったケンスケである。
「シンジがメロメロだと、私に何か不都合でも有るワケ!?」
「素直じゃないねぇ」
「…アンタ、自分の心配したら?いつまでも『ミサトさーん』なんて言ってらんないわよ
だいたい、年いくつ違うのよ?」
「ミサトさんは永遠のアイドルだからね。年齢差については、同じ質問をそっくりお返し
するよ。惣流はどう答える?」
ミサトとケンスケの年齢差は、すなわちリョウジとアスカの年齢差でもある。
アスカの言葉は、日頃の言動を自ら否定しているのだ。
「…うッさいわね、あのバカップルだってがんばっているじゃない!」
レイと三尉を指差して、アスカが反論する。
「あの二人が、惣流の理想と希望かい?」
「くッ」
「理想の二人」とはとても言えない。
だが…当人達は幸せそうだ。
「私と加持さんなら、もっとスマートなんだから!」
やれやれという表情でアスカを見ると、ケンスケは天を仰ぐ。
「俺達としちゃあ、シンジと惣流の夫婦漫才を見るのは面白いんだがな。息ぴったりだし」
「他人のための恋愛じゃないし、息も合ってない!」
「ムキになるのは図星を衝かれたからだ、って言うぜ?」
「ちっがーーーうッ!」
「あ、いよいよ仕掛け花火みたいだぜ」
湖水の上に設置された土台から光が走り出す。
やがて光の線が文字と絵を描き、最後の花火へと続いていく。
907(仮名):03/09/25 03:34 ID:???
芦ノ湖畔・霧島家の仮住まいの前に、一台の車が停車する。
ブレビス・09年式、やや年配向けの地味なセダンである。
車から降りたのは、40前の中肉中背の男だ。
赤外線キーで車のドアを閉めながら玄関前まで歩くと、迷わずチャイムを鳴らす。
突然、ライトが男を照らし、ついで誰何の声がする。
「霧島マナさんのお父様ですか?」
「だ、誰だ?」
後ろから急に声をかけられ、驚いて振り向く男性。
ブレビスの後ろに、いつの間にかリョウジのプリウスが止まっている。
どうやらバッテリー駆動で走って来たようだ。
「加持リョウジと申します。夜分に突然の訪問、失礼しました。ところで、鍵は無くされ
たのですか?」
「あ、ああ。家に忘れてきたらしい。…加持君と言ったな、何の用かね?」
「いえ、たいした用事じゃあありません。お嬢さんが、今日のお祭りに行けたか気になり
ましてね」
「…さぁ、どうかな?道中、携帯の電源は切っておいたから」
その時、玄関の扉が開いてミサオが顔をのぞかせる。
「ま、あなた。どうしたの?…あら、加持さんも」
「マナが祭りに行ったか気にされてわざわざ来られたらしい。ちゃんと行ったのかい?」
「ええ、葛城さんが向かえに来られて…」
「…だそうだ。安心してくれたまえ」
「そりゃー良かった」
「お急ぎでいらっしゃらないのでしたら、ここで花火でもご覧になりませんか?」
「いやぁすみませんねぇ。特等席だ」
ミサオの申し出に、躊躇せず応えるリョウジ。
テラスからは湖尻水門が見渡せたが、距離がやや遠いので花火が小さく見える。
だが、リョウジは満足そうに時々、おおぅ、などと喚声を挙げている。
「良ければ中で酒でもやりながら見ませんか?」
「生憎、車ですからね。ですが、お話には参加させて頂きましょう」
主人の言葉に、リョウジがリビングへと入っていく。
917(仮名):03/09/25 03:35 ID:???
ミサトが酔っ払ったため、マナを送ってきたのは三尉とレイであった。
それをきっかけにリョウジも霧島家を後にする。
車の前で何やら話しているリョウジと三尉。
やがてそれぞれの車に乗り込み、霧島家の前から姿を消す…。
三尉とレイはまっすぐに自宅を目指したが、リョウジはそうしなかった。
リョウジの『仕事』は、これからなのだ。


次回「事件」に続く
ぞくぞくしてきた
(・∀・)イイヨ、イイヨ〜
      ☆ チン     マチクタビレタ〜
                        マチクタビレタ〜
       ☆ チン  〃  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        ヽ ___\(\・∀・) < まだ〜?
            \_/⊂ ⊂_ )   \_______
          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /|
       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  |
       |  愛媛みかん  |/
957(仮名):03/09/27 21:20 ID:???
>>92
次回もさらにぞくぞくしてもらえますようがんばります。
>>93
ありがとうございます。
>>94
一ヶ月お待ちください。
パソコンの調子が悪く、万が一故障しちゃったりした場合は買うまでお待ちください。
HOSっと
妖艶
続く?
997(仮名):03/10/27 01:53 ID:???
パソコンがフリーズしたので強制終了の後、再起動になんと二時間以上かかりました。
気力が萎え萎え状態です。
…すみません、ちょっと遅れます。

保守作業、ありがとうございます。
   ∧_∧
  ( ´∀`)< 100ぬるぽ
ソフト面の異常ならこのさいOSをインストールし直したら?
再インストールだけで結構快適になるよん

まぁ再インストールする前に大事なソフトやらブックマーク、書類や
パスワードなんかのデーターはバックアップしとかないとダメだけどね
102あぼーん:あぼーん
あぼーん
103あぼーん:あぼーん
あぼーん
104あぼーん:あぼーん
あぼーん
1057(仮名):03/11/16 23:35 ID:3YLVgmYU
>>101
バックアップを取ろうとするとまたフリーズすると言う悪循環にて徒労。
先日なんざぁプロバイダからのメールを開いた瞬間にフリーズしまして
もう大変。
もうすぐ買い替えでつ。

さて!第2話「事件」ですが、予定量をはるかに超えております。
第壱話の1.5倍まで到達しまして、現在部分的に削除しては書き直しております。
漏れはこんなに脇役が好きだったのか!
…やれやれ。
1067(仮名):03/11/24 03:10 ID:qOVkV+ex
結局、あまり短く出来ませんでした。
長くて読み辛いのですが、どうぞ!
エヴァ2の騒ぎに紛れて今のうちにコソーリ…。
1077(仮名):03/11/24 03:11 ID:qOVkV+ex
『ひまわり』 第弐話「事件」(2ch Ver)

シンジ達が夏祭りを楽しんでいる頃、ここ富士裾野でも盛大な花火が上がっていた。
富士裾野にある幾つかの演習場を使用した夜間特別演習である。
セカンド・インパクト以降、富士裾野はそのほとんどが国有地となったが、今回の演習の
安全確保と機密保持の為に周囲の登山道は封鎖され、富士への入山も規制されている。
夕闇の中、大地を震わせて戦車や装甲車が走り、空を飛ぶ重戦闘機のジェットエンジン音
が大気を震わせる。
もし上空からこの地を眺めたならば、ちろちろと瞬く砲火とロケット弾の花火を楽しめた
であろう。

『トライデントF-1番機.M-1〜3番機は実弾射撃演習に入れ。実弾装填の後、各機演習開始
地点で待機せよ。開始予定時間は20:00。繰り返す…』
待機所の無線機が出番を告げている。
緊張が走り、空気が張りつめる。
周囲の人々が慌しく駆け回り始めたその場所に、二人の少年が腰掛けていた。
弾薬を運ぶフォークリフトのエンジン音や装填音、ホイッスルや無線機が発するノイズ
に紛れて最後の確認をしていた。
「予定通りにな」
「でも、大丈夫かい?」
「巧くやる、そっちこそドジるなよ」
「うん」
「どっちかが成功すればいい。いいな?」
「うん」
「じゃ、行こうか」
少年達はヘルメットを手に駆け出して行く。
自らの意思で選んだ戦場へと。
1087(仮名):03/11/24 03:12 ID:qOVkV+ex
トライデント。
戦略自衛隊が開発中の次期特殊戦用決戦兵器である。
陸上はもちろん水中・水上を高速移動可能な物資輸送用F型と、陸上での土木作業用のM
型がある…と言う事になっているが、現実はもちろん異なる。
無論、その様な用途が可能なのは事実ではあるが、この演習で示される通り、武装する事
により戦闘行為も可能なのである。

旧自衛隊の防衛戦略では、敵武装勢力の侵略に対してゲリラ戦を挑むという旧来のものか
ら、上陸を水際で排除するものへと移行していった。
各種兵器の進化は戦術を変え、戦術の変化は防衛戦略をも変えて行ったのだ。
戦自が開発しているこの新兵器は、敵勢力の上陸を許した後でも逆上陸して敵の構築した
橋頭堡を破壊せしめ、補給路を寸断させることが出来る、と言われている。

日本は四方を海で囲まれており、上陸予想地点を想定するのは難しく、またその全てに防
衛陣地を構築することも物理的に困難であり、保有する航空・海上兵力による防衛は質は
ともかく物量面で乏しく、長期的抵抗は難しいと予想される。
また日本の地形は山が多く、道路網の非効率化が大兵力の展開を困難にしており、分断さ
れた防衛兵力が各個撃破される可能性が高い。

この様な現状を考えた場合「トライデント」の様な兵器開発にも、ある程度の理由付けは
可能である。
だが、先日発生した「ジェットアローン暴走事故」や戦略自衛隊の発足理由を考えると、
これらの兵器が単なる「防衛戦力」とはとても思えないのだ。
開発途中という事もあるのだが、その基本性能が未だ秘匿されている。
戦自内部でも、この兵器について知る者は少なく、またその開発に当たり運用実験などを
行っている部隊さえも極秘情報なのである。
1097(仮名):03/11/24 03:14 ID:qOVkV+ex
『各機、演習内容の確認を行え』
ヘルメットのスピーカーからオペレーターの声が聞こえる。
『F-1番機は精進湖に潜航し20:00に強襲上陸。目標を撃破しつつM-1〜3番機の上陸を支援。
その後、北富士演習場で補給作業』
『M-1番機はF-1番機の支援の元、青木が原樹海を越えて長尾山を確保した後、東富士演習場へ』
『M-2番機、F-1番機とM-1番機の支援の元、鳴沢村の目標を撃破し、その後F-1番機、M-1番機の
移動を支援。後に庵体構築し機体の偽装作業を行う』
『M-3番機はM-2番機と共に行動』
『確認終了。演習開始まで無線封鎖せよ。緊急時の連絡周波数はいつもの通り』
スピーカーが無音になると、各機それぞれ行動を開始した。
青い機体のF-1番機は四肢を屈めると夜空に向けて跳躍する。
その先には、小さな湖が待ち構えている。
巨大な水柱を立てて水中に沈んでいくF-1番機。
それを見てM-1〜3番機も行動を開始する。
湖の横に用意された巨大な箱にその機体を押し込んでいく。
その箱は別名を「棺桶」と言い、強襲上陸時に用いられる。
エンジンを持ち、スクリューにて海中を移動し、場合によってはトライデントF型が牽引する
場合もある。
1107(仮名):03/11/24 03:16 ID:qOVkV+ex
トライデントF-1番機のコクピット内。
パイロットの時計が8時を示した。
彼はトライデントを起動させると無線機のスイッチを入れる。
後はヘルメット内のマイクが独り言まで送信してくれる。
『演習開始。トライデント上陸する!』
そう叫ぶと一気にスロットルを全開にした。
湖底に着底していたトライデントがゆっくりと動き出す。
四肢を用いて、泥の中をゆっくりと這い上がっていく。
ずざざざざっ!
湖水を押し分ける様にして上半身を水上に現したトライデントF-1番機が頭部にあるカメ
ラをゆっくりと回して周囲を観察している。
コクピットのモニターには夕闇にひっそりとたたずむ森しか映っていない。
パイロットは暗視カメラのスイッチを入れる。
前方の森、青木が原樹海に目標と思しき建造物が見える。
操縦桿にあるミサイル発射スイッチのカバーを跳ね上げ、ヘルメットのバイザーを下ろす
と視界にスコープが浮かんでくる。
十字の真ん中に目標を捉えるとすぐにスイッチを押す。
トライデントの右肩から炎が上がり、その建物に向かって飛んで行く。
カッ!と閃光が広がり、次いで衝撃が走る。
トライデントに、だ。
模擬弾を使用しているとは言え、その衝撃は強い。
そうでなくては緊張感が生まれない。
『トライデントF-1番機、右背部装甲版に被弾。今後の行動で右前脚と右肩装着の武器使
用を禁止する』
ヘルメットのレシーバーからオペレーターの声が聞こえる。
慌てて周囲を見回すパイロット。
すると精進湖の南、本栖湖との間にある烏帽子岳の中腹がちかちかと光を放っている。
『目標はまだ健在。顔、出すなよ!』
「仲間」に向かってそう叫ぶと左肩に装着してあるスモーク弾を発射して、相手からトラ
イデントを隠しつつ移動する。
1117(仮名):03/11/24 03:18 ID:qOVkV+ex
湖畔にトライデントを上陸させると、パイロットはもう一度ミサイルの照準を合わせるた
めの作業を始めた。
急がねば、第二波が来る。
発射!
バシュシュッ。
2発のミサイルが火を噴いて烏帽子岳に向かって飛んで行く。
ぱぁっ、と光が広がり爆発音が伝わる。
『出迎えの花火は終わった。みんな、出発してくれ。今回はちょっと手強いぞ!』
パイロットはそう言うとさらに周囲を警戒する。
「棺桶」から次々とM型が出てくる。
『ごくろうさん。またミスったな。そんなに断食が好きなのか?』
『ノロマとツルむとノロマが感染るんじゃーねぇのか?』
M型のパイロット達がからかいながら通り過ぎていく。
『うるせェな!さっさと行けよ。お前らこそドジ踏むなよな』
F型のパイロットはそう怒鳴り返す。
そしてもう一人の仲間に向けて言った。
『気にすんな、ケイタ』
『うん、分かってる。ムサシ』
こうして演習の幕が切って落とされた。

青木ケ原樹海。
富士山の北西に広がるこの地は、古くから自殺の名所として知られている。
空を覆い隠す様に茂った大樹の枝葉は天測を困難にし、溶岩台地は磁気を生じコンパスを
狂わせる。
それゆえ「迷い込んだら脱出は困難」と言われ、訪問者が後を絶たない。
ここを精密機械の塊が移動すればどんな結果が生じるか?
トライデントがどこまで磁場に耐えられるか?
もし機体に異常が生じたら、精密機械無しで、トライデントを行動させることが出来るか?
これも今回の演習のテーマである。
1127(仮名):03/11/24 03:20 ID:qOVkV+ex
国道139号線を越え、4機のトライデントは樹海の前に居た。
『で、どうする?』
『どうするって?』
『俺達に出された行動命令は、お前達の支援の元、鳴沢村の目標を撃破、だ』
『つまり鳴沢村に行くまではルートは自由、と言えるな?』
『お前等、何勝手な事』
『という訳であばよ』
M-2・M-3番機のパイロットはそう言うと、二手に別れて移動していく。
『どうする?ムサシ。チャンス…』
『油断するなよケイタ。どこで何があるか解らないのが戦場だろ。裏切りや不意打ちもな。
予定通り行動する』
『分ったよ』
『よし、行くぞ』
生い茂る樹木をなぎ倒し、湿り気を帯びて苔むした地面にバランスを崩しながら2機の
トライデントが樹海を進む。
『チィ!無線の雑音がヒデェや』
『なんだか計器の動きがおかしいよ…』
『天気は曇り。天測も出来ないな』
『方向はこっちでいいはずだよ』
『お前、本当にそう言う感覚は鋭いな。動物並みだ』
『自慢じゃないけど、道に迷った事、ないよ』
『十分自慢になるぞ、こういう仕事には』
『そう?』
『自信を持てって。お前はすごいんだから』
『でも失敗ばっかりしているし…』
『生き残る才能、ってのも必要なんだとさ、兵士には』
『生き残る才能?』
『どんな場面でも諦めず、必ず生き残る。そういう不思議な力を持っているヤツが居る』
『僕も、生き残れるかな?』
『生き残れ。アイツのためにも』
1137(仮名):03/11/24 03:21 ID:qOVkV+ex
樹海を迂回して進む2機のM型トライデント。
無線でムダ話をしながらの移動である。
『おー、楽勝楽勝♪』
『あいつら、不器用だよな。ムカつくほど』
『まぁ今回は楽な内容で助かったぜ。このまま目標を撃破すりゃあ満点だろ?』
『そうだけどよ、何か今回、やたら厳しくネ?』
『思う思う。あんな場所にも目標があるつーのもなぁ』
『ムサシのヤツ、今頃ヒィヒィ言ってるぜ?F型で陸上を右前脚遣わすに移動だろ?』
『機体に無理な負荷をかけてるよなあ。…整備員に恨まれるぜきっと』
『あいつら、浮いてるか…ガガ…ドドン!』
会話が途切れ、レシーバーからノイズと爆発音が聞こえる。
『どした!?』
『…ザッザザ…地雷だくそッ!何でこんな場所にザッ…くしょ…ガガッ』
『何!?地雷だァ?』
南側を進んでいたM型2番機のパイロットがそう叫んだ時、その足元で爆発が起こった。
機体がぐらりと傾き、倒れそうになるのを必死で制御する。
土木作業用という名目で開発された機体は、低重心のため簡単には倒れないのだが。
『トライデントM型2番機・3番機は移動能力を喪失したと判定。回収班が着くまで待機。
演習は残存兵力で継続、F型1番機が鳴沢村に進入し目標を撃破せよ』
レシーバーからオペレーターの声が聞こえる。
機体に損傷を与えたばかりか、演習目標の達成さえ出来なかった彼らには厳しい処罰が待
ち受けているのだった。
「飯抜きはオレ達の方かよ…」
3番機のパイロットがハッチを開けて出てくる。
機体の足元を見て、そのダメージを確認している。
「火薬の量はたいした事ぁねぇな。しっかし、今度の演習はちっと異常じゃねぇか?」
1147(仮名):03/11/24 03:22 ID:qOVkV+ex
『くそッ!余計な仕事を増やしやがって』
ムサシが怒りを露にして毒づく。
矛先は相手はオペレーターか、M型のパイロットか?
『どうする?』
『予定通りにやるしかない!』
ケイタの問いに、また同じ言葉を繰り返すムサシ。
『とはいえ、何だ今度の演習は?条件が厳し過ぎるぞ』
『そうだね。機体に無理させちゃうね』
『仕方ない。やる事はやらないとな』
2機のトライデントは100mの間隔をあけてゆっくりと移動を始めた。
樹海を抜け、大室洞穴を過ぎた辺りで富士裾野を南下し、じりじりと長尾山に接近する。
『俺が突っ込むからお前がバックアップな。攻撃地点を見つけたら一気に叩け』
ムサシがごくごく簡単な作戦を立てる。
『俺はすぐに鳴沢村の目標に向かうからな。後は任せた』
『分かった』
『じゃ、目的地で逢おう』
そう言うと、ムサシはF型の速度を速めて長尾山に接近した。
山腹にチカチカと灯りが点る。
烏帽子岳のそれに比べ3倍はあるだろうか?
『まったく!あのバカヤロウ共のせいで、こっちは、苦労が、絶えないッ!』
チャフを撒き、ジャミングを試み、回避運動を繰り返してミサイルやロケット弾をかわし
ていくF型。
『頼むぞぉ、ケイタァ』
その時、後方から、幾筋もの火線が走った。
ケイタのM型トライデントが、装備していたロケットランチャーを全弾発射したのだ。
『おいおい…先はまだ長いのに…』
1157(仮名):03/11/24 03:23 ID:qOVkV+ex
『目標に、早くッ!』
どんどんどんどんどんどん!!
ロケット弾が相次いで山腹に着弾していく。
F型の横をM型がすり抜ける様にして走り去り、長尾山を目指す。
長尾山からの攻撃は止まっている。
『後は任せた。鳴沢に行く!』
ムサシはそう言うと機体を東に向ける。
『長尾山、確保。F型の移動支援に入ります』
『頼む!』
F型が高速移動形態をとる。
4km程度の移動にはいささか不向きではあるし、右前脚を使えない事も不利ではあるが、
ただただ時間が惜しいのだ。
ゴルフ場跡地の演習場に入ったその時。
『うわッ!』
突然、ケイタの声がレシーバーから聞こえてくる。
『どした、ケイタ?』
『弓射塚から攻撃されてる!』
『無理すんな!鳴沢の目標前に到着した。すぐ脱出しろ!』
『了解!これより東富士演習場に移動』
『またなッ!』
そう言うとムサシはここでの目標物を探し始めた。
それはあっさりと見つかった。
大きく引き伸ばされた少女の写真に、赤いペンキで一言「ゴール」と書かれていた。
ムサシは無表情のまま、それを握りつぶす。
そしてそれを持ったまま、北富士演習場へ向かった。
次の戦いに必要な補給を受けるために。
1167(仮名):03/11/24 03:24 ID:qOVkV+ex
ケイタが東富士演習場で補給を済ませた頃、その騒ぎは起こった。
隊員の誰かが輸送トレーナーを奪って脱柵した、と言うのだ。
脱柵。
それは旧自衛隊時代から使われている隠語で、脱走のことだ。
トレーラーは、山中湖ICから富士五胡有料道路に乗り、中央自動車道を走っているらしい。
「総員点呼!」
一斉に演習場に緊張が走る。
旧自衛隊においても「脱柵」はあり、それを罰する法律もあったが、独自の軍刑法が無いために、
軍法会議などが開かれる事はなかった。
もし戦争状態になって「敵前逃亡」が発生しても軍法会議が開かれる事態にはならないと
いう特殊な状況であったらしい。
だが戦略自衛隊にはその曖昧さは、無い。
少数精鋭をもって日本国の国益を守る、と言う目的のため、この様な事件は厳重な処分が
下される。
それにより、隊員の士気を維持しているのだ。

ケイタは慌ただしく動き回る隊員達からそっと離れ、トライデントM型のコクピットに潜
り込む。
ゆっくりと深呼吸をして、それからトライデントを起動させた。
目指すは、南東。
なんとしても、第3新東京市に行かねばならない。
それは自分達の命を賭けるに値する戦いであった。
ズン!
地響きを立て、トライデントが歩き出す。
『トライデント、停止せよ』
レシーバーからがなり声が聞こえて来る。
『脱柵者の捜索に向かいます』
『待て!そう言う命令は出されていない!繰り返す、停止せよ!』
『行きま〜す』
二人目の脱柵者が出た。
1177(仮名):03/11/24 03:25 ID:qOVkV+ex
富士裾野・戦略自衛隊第99旅団司令部。
「閣下!ウチの隊員が脱柵しましたぁ!」
ノックも程ほどに、司令官室のドアを開けると下士官が素っ頓狂な声で報告する。
「校長と呼びなさい。…ほら」
「閣下」と呼ばれた小太りな男が、不機嫌そうに分厚い封筒を差し出す。
「これは?」
「今夜ウチの旅団が単独で行う演習計画書ですよ。秘密保持のため、実施までは秘匿事項
だったのです。そう言って現場責任者に説明してもらえますか」
「了解しました。ですが、いつの間にこの様なモノを準備していたのですか?」
「全て加賀君の仕事ですよ」
「加賀一佐が?」
「つまりはそう言う事です。全ては予定通りなのです」
下士官が退室すると『校長』と自称した男は、イスにもたれて目を閉じる。

セカンド・インパクトの後、日本国内では様々な要因から社会基盤が乱れた。
失業・治安悪化・物資不足・暴動…。
その結果、子供達の一部は親を失い、あるいは親に捨てられることとなる。
時には、新生児が産着に包まれたまま自衛隊駐屯地の門前に放置されていた事もあった。
陸上自衛隊はその性質上、自己の組織内に生活に必要な社会基盤を持っている。
その能力を知る者が、あの非常時に我が子の避難所として自衛隊を選んだのであろう。
一時は5万人もの幼・小児を収容していたが、国連軍への編入に伴い、新たな組織構築が
必要となった。
自衛隊組織の施設や急造の建物を使用し、失業対策の一環として関連職種の人材を集め、
養育施設・教育機関・職業訓練校などを併設する事となったのである。
後に「戦略自衛隊」が発足すると、これらの運営は全て戦自に移管された。
そして戦自は、この組織を戦力増強のために活用した。
発足当初、即応予備自衛官や退役自衛官を中心に編成されたのだが、十分な戦力としては
期待できなかった。
そこに何万人もの、未知数の可能性を秘めた子供達が集まったのである。
戦自の幹部は、これらの子供達に英才教育を施す事を考えたのだ。
その結果、一部の子供達は様々な偽装工作の元、将来の兵士として育てられている…。
1187(仮名):03/11/24 03:26 ID:qOVkV+ex
サーチライトで地上を照らしながら上空をヘリコプターが旋回している。
意外にも「追っ手」は少数だった。
軍事機密の塊であるトライデントを持ち出したというのに、あまりに小規模過ぎた。
ケイタの逃走経路は、国道138号線を直進し御殿場を抜けて、一気に乙女峠を突破するつ
もりだった。
だが乙女峠ではネルフが常時検問を張っており、さらには対使徒用の迎撃システムを作動
させていると聞く。
機体破棄は予定内であるが、ここまで来て死んだのでは意味が無い。
強行突破を諦め外輪山の西側を回り、山伏峠の南斜面に機体を隠して市内に潜入する事
にした。
ケイタは上空のヘリコプターをやり過ごすと、偽装ネットをつけたままで背部のアタッチ
メントにあるエンピを取り外し、うつ伏せのまま器用にトライデント用の掩体を掘り始め
た。
名目上、土木作業用の機体なのだからこれくらいは当たり前なのだが、鮮やかなものだ。
斜面に対して垂直に掘られた穴に脚から入り、穴の上部に積まれた土を機体に被せていく。
幸いにも土砂崩れの形跡が近くにあるので、少しばかりの残土も違和感は無い。
ケイタは再起動プログラムを「タコツボ・モード」にセットしてコクピットから飛び出す。
するとトライデントはゆっくりと土塊を頭部に盛り、腕を地中に潜らせていく。
この後、冷却液がエンジンの熱を奪い熱源探知機などからの発見を困難にしてくれる。
もっとも、土中にある機体はしばらく経てば土そのものが熱を吸収してくれるのだが。
必要に応じて、近辺にダミーの金属片を散布して金属探知機の走査をごまかすが、箱根周
囲は使徒戦で使用された各種弾丸や、墜落した重戦闘機の残骸が散乱しているのでその必要も無い。
ケイタは周囲を慎重に観察してから、山腹を北に歩き始めた。
1197(仮名):03/11/24 03:28 ID:qOVkV+ex
芦ノ湖・霧島家の仮住まい。
突然の来客を送り出し、マナに声をかけてから霧島夫妻はリビングに戻る。
「脱柵されました」
ドアを閉めるとすかさず男がそう切り出す。
眉間にシワを寄せると、ミサオがテレビのボリュームを上げながら人差し指を唇に当てる。
男の顔色が変わるのを横目で見ながら、ミサオがメモ用紙に何か書き込んでいる。
「それで、お仕事は一段落しました?」
メモを男に差し出しながら会話を始める。
『ネルフの監視が付いた。盗聴の危険あり』
「…だめだなぁ。どうやら夏休みは一緒に過ごせないかもしれないね」
『潜入班に増員を出しました』
男もメモに書き込んでいく。
「残念ですわね。マナもお友達が出来て、元気に遊んでますのよ?」
『最優先はトライデントの確保。口封じはいつでも出来る』
「それは…良いんだか悪いんだか。友達は…男の子かい?」
『処理はこちらでやります』
「男の子も女の子もですよ。賑やかで楽しそうですよ」
『マナに気付かれては台無しになる。監視のみでよい』
「そうは言っても、ね。いろいろと心配になるじゃあないか。君の事だって」
『こちらとしては万難を排したい』
「あらいやだ。加持さんのことですの?ふふふふふ」
『この作戦の指揮権は私にある。そう伝えなさい』
「笑い事ではないよ。単身赴任の辛さは半端ではないんだがね?」
『了解しました』
「あらあら、ごめんなさいね。ふふふ…」

「脱柵『されました』か。無用心な部下だな。だがミサオさんとやら、なかなかのモノだ」
霧島邸から少し離れた場所に停めた車中でリョウジが呟く。
盗聴器の存在に気付いて、次はどう動いてくるか?
彼らの目標はネルフか、エヴァか、パイロットか?
偽装したレコーダーを再び設置すると、リョウジはネルフ本部を目指して車を走らせた。
1207(仮名):03/11/24 03:28 ID:qOVkV+ex
7月30日、日曜日。
昨夜の夏祭りの余韻を味わいながら、シンジは朝食の準備をしている。
いや、お弁当の準備も、だ。
今日はトウジやケンスケと夏休みの宿題をやる予定なのだ。
本日の課題は、絵と読書感想文。
残念ながら、マナは用事のため参加しない。
シンジはアスカにも声をかけたのだが、こちらも参加しないのだ。
「芸術センスの欠片も無い連中と一緒になっても、芸術は生まれない」との御言葉だ。
レイはあらかじめ予定が入っているら。
「ミサトさん、じゃあ僕、出かけますから」
部屋の外から声をかけると、シンジはバッグを担いで出かけた。
通路の壁に並べられている朝顔の鉢植えには、幾つかのツボミが朝露を光らせている。
夏休み前に、アスカがリョウジから譲り受けたものだ。
穏やかな笑顔がシンジの顔に広がる。
楽しい日々が続いている。

「遅いでェ、シンジ。何しとんねん?」
バス停ではトウジが腕組みをして待っていた。
今日はさすがにTシャツとバミューダパンツである。
「ごめん。お昼、用意してたんだ。オニギリと麦茶だけど」
シンジが言いながらバッグの中身を見せる。
「すまんなぁ〜シンジぃ。ワシはえぇ友達を持ったワ」
「大袈裟だよトウジは」
「甘い。甘いな、キミ達は!」
後ろから迷彩パターンのランニングとズボンに身を包んだケンスケが声をかける。
「オマエ、こんな時まで…」
「こんな時、だからこそじゃないか!」
「いつものテッポは?」
「今日は一味違うヤツだけど…ほら!」
ケンスケが太腿の横にあるポケットからソレを取り出す。
1217(仮名):03/11/24 03:29 ID:qOVkV+ex
べレッタ・M3032トムキャット。
ポケットサイズのコンパクト・オートである。
「どうだい、この可愛らしさ!こんなに小さいのに32ACPを撃てて、ある程度のストッピ
ングパワーがあるんだ。それをちゃんと…ああっ!こんなに見事に再現してくれて…。ほ
らほら!チップアップ・バレル機構もちゃんと再現されてるんだ」
「しょせん、オモチャやんか…」
ケンスケの熱のこもった説明にトウジが辟易している。
「だからさ!オモチャに対して、ここまでのこだわり!日本人のモノ造りのこだわりを感
じるんだよなぁ…」
右手に持ったトムキャットのセーフティを親指で跳ね上げ、ケンスケがトリガーを引く。
パシュ、パシュと空気の漏れる音と共にスライドが前後して、手前にある水溜りに飛沫が
上がる。
「弾ぁプラスチックとちゃうんか?カンキョーオセンとか、うるさいんちゃうか」
トウジが面白くもなさそうに聞く。
ケンスケはといえば、得意満面の笑みを浮かべて講義を続ける。
「バイオ弾さ。一年位で地中のバクテリアがきちんと分解してくれるんだよ。ガスだって
ノンフロンだし、環境対策はバッチリさ」
「おー、さよか。ほなワシにもちィと撃たさんかい」
「射撃大会やろうぜ。景品はオニギリな」
「おしゃ!」
くすくすという笑い声にシンジが振り向くと、バスを待つ人達が三人を見て笑っている。
「ケンスケ、トウジ、みんなが見てるから、その」
「…ケンスケ君、街中でこんなモノを見せびらかしてはいけないよ。注意したまえ」
そう言いながらトウジがケンスケにピストルを返すと、その変わり身の早さにまた周囲か
ら笑いが起こる。
1227(仮名):03/11/24 03:30 ID:qOVkV+ex
湖尻峠からは、箱根山も芦ノ湖も、そして第3新東京市もよく見えた。
宿題の絵などどこに居ても描けるのだが、出かける口実にはなる。
案の定、ケンスケもトウジもここから見える風景を描いていない。
ケンスケは隅々まで記憶しているであろう新厚木基地を描いている。
一方トウジは、画用紙の四隅に白・赤・緑・黄色を塗り、余白を青で塗りつぶしている。
曰く「夏のイメージ」なのだそうな。
白い入道雲、真っ赤な太陽、緑茂る山、咲き誇るヒマワリ、どこまでも広がる青い空…。
呆れつつもシンジはこつこつと箱根山と芦ノ湖の風景を描いている。
静かな湖面が鏡のようになり、箱根山を映し込んでいる、そんな風景である。
さっさと絵を描き終えた二人はガスガンで遊び始めている。
シンジはのんびりと、絵を描くことに没頭していた。
ふと、何かの気配を感じたシンジが頭を上げて周囲を見ると、知らない少年がオニギリを食べようとしている。
目が合う。
黒髪をスポーツ刈りにして、薄汚れたシャツとボロボロのジーンズを着た少年は、左手に
真っ赤なバンダナをしている。
おとなしそうな、というより気の弱そうな雰囲気が漂ってくる。
「あっあっあっあのっ」
少年が何か言おうとした時、トウジとケンスケも気付いた。
「こらァ、何しとんネン!」
「フリーズ!」
見るとケンスケがガスガンを構えて少年を狙っているのだ。
その姿を視界に捉えた少年は、オニギリを口に押し込むと右手を腰に回し黒光りするソレ
を引き抜き、セーフティをはずしてケンスケに照準を合わせる。
「おぉっ!サマになってるね」
ケンスケは呑気な賞賛の声を発しているが、シンジは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
右手人差し指がトリガーを絞り、ハンマーがゆっくりと動いていく。
「うわぁあああああぁああああッ!」
画板と絵筆を放り出すとシンジは、少年の右手首を右手で掴み、左手で少年の右肘を押し
上げ銃口をケンスケから逸らすと、足を絡めて少年もろとも地面に倒れ込んでいく。
銃口がケンスケから逸れた時、そこから轟音と共に火が吹くのをケンスケは見た。
1237(仮名):03/11/24 03:31 ID:qOVkV+ex
銃声を聞いた黒服達が駆けつける。
彼らはシンジの監視役であり、身辺警護役でもある。
転倒した時に頭でも打ったのか、少年は意識を失っていた。
真っ赤なバンダナは止血の為にしたもので、かなりの出血が布地を赤く染めていた。
黒服の車で中央病院に搬送され治療を受けたが、少年の身寄りに連絡は取れなかった。
身元を調べられる様な物は所持していなかったのだ。
手がかりは、拳銃と左手の銃創のみ。
病院側は速やかに警察に連絡し、少年は厳重な監視下に置かれることとなった。

拳銃はS&Wのショーティ40で純正品。
手入れがよくなされており、前科はなかった。
ヤミ市辺りで入手できるシロモノとは思えず、何らかの組織が関与しているとの推測の元
走査が開始された。
シンジ達も事情聴取され、午後の予定が狂ってしまい図書館での読書は延期となった。

「予定、狂うてしもたなぁ」
「仕方ないよ、あんな事があったんだから」
シンジとトウジの会話に、呆けた表情のケンスケが入ってくる。
「…人生の走馬灯、ってヤツを見たよ。あいつの動きがスローモーションになって、銃声
がした途端、今までの事がぐるぐると何度も頭の中で繰り返されるんだ」
「…」
「殺される、って言うのはああいう感じなんだなぁ。貴重な体験だよ、コレは」
「まぁええやんけ。生きとんのやし」
「あぁうん、まぁな。シンジ助かったよ、ありがとう」
「あっ当たり前の事をしたんだ、…お礼なんて…」
赤面して口ごもるシンジだが、あの時異常を察知したのはシンジだけであり、ソレを阻止
できたのもシンジなのである。
使徒との戦いの日々が、シンジの本能を覚醒させ始めているのかも知れない。
『殺される』と思ったケンスケと、それを阻止しようとしたシンジ。
この違いが、エヴァのパイロットとそうではない者との違いなのだろうか?
1247(仮名):03/11/24 03:32 ID:qOVkV+ex
霧島家の三人は、第3新東京市のレストランで昼食を摂っていた。
日曜日の昼時、レストランは家族連れであふれている。
そんなごく当たり前の風景に溶け込み、三人は久しぶりとなる外食をている。
父親の仕事の愚痴やら、娘の友達に関する報告とそれに対する忠告などをしながら。
「車を回してくる。君は支払いの方を」
えぇ、と応えるミサオを残し男が駐車場に出る。
ブレビスに近付くと、若い男が運転席のドアの前にしゃがんで何かをしている。
少しキツイ口調で注意をすると若い男は慌てて走り去る。
車体センサーに反応が無いので、トランクなどの鍵はこじ開けられていないようだ。
片膝を付いて車体下部を調べて見るが、何も取り付けられている様子は無い。
ではあれは単なる車上荒らしだったのか?
「仮にも遷都予定地がこんなに治安が悪いとはな!」
「どうなさったの?」
緊張が解けて悪態をついていると、ミサオが近付きながら声をかける。
「うん?車上荒らしだよ。まったく…。それよりマナはどうしたんだい?」
「お化粧室ですわ」
あぁ、と応えながらドアを開けようとした男の指先に、何かが触れる。
紙片だ。
先程の車上荒らしがこれをおいていったとすれば、その内容は?
シートに座りながら、慌てて広げて見る。
男の表情が変わり、黙って助手席のミサオに紙片を渡す。
『狐に発砲。手負いの狐が村人と籠の鳥に捕まる。CHp-P』
ミサオが眉間にシワを寄せて小さく吐き捨てる。
「馬鹿共が!作戦計画が狂ってしまうではないか!」
「至急、司令部に戻って対策を立てます。連絡はまた」
「どしたの?」
マナがひょいと窓から覗き込む。
「ごめんよマナ。父さん、また仕事なんだ」
ドアロックを解除して車内にマナを招き入れる。
「はーい」
「とりあえず車で送ろう…」
1257(仮名):03/11/24 03:33 ID:qOVkV+ex
「快適とは言い難い車なんだが…」
三尉はそう言いながら助手席のレイに視線を向ける。
早朝、と言うより夜明け前と言うべき時間に出発したレイと三尉は、車両部から借りたパ
ジェロで秘湯を目指している。
仕事用の車なので、オーディオ機器はラジオが付いているだけの何とも色気の無い車で、
クーラー付きなのがせめてもの救いなのだが、その事はレイにはあまり関係なさそうだ。
時には高空をマッハ2以上で移動し、三千mの高さから降下し、地上においてはあのエヴ
ァで使徒との戦闘をこなす少女にとって、このやたらに居住性が悪く移動速度の遅い、車という
モノでの旅はどんなものなのだろうか?

群馬県の山中深くにあるその温泉は、幾度かのブームを迎えながらも未だ密やかに存在している。
都会の喧騒に疲れ、ありきたりな観光地化した名所に飽きた人々が噂を聞いてやって来る
という温泉。
その優しげな地名は推理小説により紹介され、映画化と共に話題になった事もある。
だが、あのセカンド・インパクトにより、国内観光に出かける余裕のある国民はほとんど
居なくなり、観光のみで生計を立てていたこの地唯一の温泉宿の主人は一切の権利を国に
売却してこの地を去った。

今回のやや無謀な日帰りの旅はレイの希望であった。
本来ならどこか遠くの町に何泊かしたい処なのだが、それを許すネルフではなかった。
理由は様々であるが、世間一般的に見ても、まず許可は出すまい。
ならば出来るだけ浮世離れした場所に行こうと言って、三尉が選んだ場所なのである。
上信越自動車道をひたすら走り続け、松井田妙義I.Cから一般道に下りると碓氷川と上越線
に挟まれた道を行く。
横川を過ぎ、坂本を越えてダムを右手に見ながら進むとドライブインの所に目印が見えた。
1267(仮名):03/11/24 03:34 ID:qOVkV+ex
「もうすぐだ、レイ。疲れたかい?」
「大丈夫」
車窓の外に広がる緑を眺めながら短く答えるレイ。
「後10kmだ」
右手に小さな湖が見える。
車一台分の狭い道を力強く進むパジェロに、垂れ下がった梢が時折歓迎の握手を求めてくる。
今度は右手に滝が現れた。
「後一息だ。レイ」
やがて車は分かれ道に差し掛かり、迷わず右へ曲がる。
「揺れるから、気をつけてな!」
「はい」
足を踏ん張りシートに背中を押し付ける。
未整地のでこぼこ道を駆け上がるパジェロは、やっとその本領を発揮している。
やがてレイ達の眼前に無愛想な鉄筋コンクリートの建物が現れた。
金湯館は取り壊されていたのだ。
1277(仮名):03/11/24 03:35 ID:qOVkV+ex
車に乗り込んだレイ達は温泉を後にする。
満足げな表情の三尉と、頬をほんのり紅く染めたレイ。
レイは出発ぎりぎりまでお湯に浸かっていたのだ。
「レイ、温泉の感想はどうだい?」
「シャワーや温水プールとは雰囲気が違って、面白い」
「そうだろ?しかも建物の仕切りが無いから…なんて言うのかな、自然と一体になる、と
いうと大袈裟なんだが、そんな感じがするんだよなぁ」
「身体が溶けて、どんどん周りと同化していく感じがしたわ」
LCLプラント内での感覚に似ている、とは言えないレイである。
その言葉を聞き、不意に三尉の左手がレイの額を触る。
節くれだった太い指と肉厚の掌が柔らかく、優しく触れる。
昨夜の事がレイの頭をよぎる。
その手が今、レイの額に触れている。

「お湯にのぼせたかな?水分捕球して寝てるといい。着いたら起こすよ」
触れていた手が離れ、エアコンの調整を始める。
ラジオのボリュームが絞られ、エアコンの風が柔らかくなる。
速度を落としたのだろう、車の振動までが心地良いものに変わる。
突然、急ブレーキがかけられる。
目を閉じていたレイがそのまぶたを開けた時、既に三尉は車外に飛び出し、前方にある物
に向かって走り出していた。
ゆっくりと車から降りるレイの横を、ネルフの黒服が走り抜ける。
「どうした?」
「怪我人だ」
「動かせそうか?」
「嘔吐してはいないし、ここまで自力で移動しているから大丈夫でしょう」
「こっちの車に乗せよう。ゆっくりと…」
その時、怪我人の口が小刻みに動く。
「だい、さん…しんと、きょ…に」
ケガをしたその少年は、確かにそう告げた。
まるっきり小説みたいになってきたな、と三尉が呟く。
1287(仮名):03/11/24 03:36 ID:qOVkV+ex
7月31日 月曜日。
昨日の事件で遅れた夏休みの宿題を片付ける為に、シンジ達は市立図書館に集まっていた。
ヒカリやアスカが居たのは不思議では無いものの、マナが来たのには驚いた。
「退屈だから、読書でもしようと思って」
「偶然で片付けるにはあまりにドラマチックだよな、シンジ?」
アスカに聞こえるようにケンスケが言う。
「そこ、うッさい!」
「図書館では静かにせなアカンでぇ。な、イインチョウ?」
「アスカ。ヴァカは放っといて感想文に専念しましょ」
アスカをなだめながらトウジに視線を向けるヒカリ。
その表情が微妙な色を湛えている。
「む」
ちょっと気まずいトウジ。
何しろ、昨夜の事もあるのだ。
「…マナはんは、どんなモン読むんかいな?」
唐突に話題を変えるトウジ。
「詩集を探しているの。…マナ、と呼んで欲しいなぁ」
「くゥ〜〜!堪らんなァ!イメージにピッタリやんか!」
「むむ」
今度はヒカリがムッとする。
「落ち着くのよヒカリ。今は宿題の事だけ考えましょう…」
引きつった表情のアスカがヒカリの袖をつかむ。
「そ、そうね。そうしましょう」
市立図書館内部はエアコンが完備されているにも関わらず、異様な熱気に包まれていた。
それぞれ自分の好みの本を選ぶと、静かに読書を始めた。
1297(仮名):03/11/24 03:37 ID:qOVkV+ex
「何、読んでるの?」
マナがシンジの横に座りながら尋ねる。
「えと、人間失格…」
「へえー!難しい本で感想文書くのねぇ」
「ミサトさんのお勧めなんだ」
「ふぅん。シンジ君は、本当はどんな本が好きなの?」
「…解らない。マナ…は、何読んでるの?」
「へへへぇ。こぉれッ」
文庫本を両手で持ってシンジの眼前に突き出すマナ。
西条八十の詩集である。
「童謡で有名な人なんだけど、詩も素敵なの。特にこれ!」
そう言って開いたページの詩をマナは小さな声で読み上げる。
『母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね…』
マナが朗読する詩を聞きながら、シンジはなぜか切ない気持ちを覚えた。
それは、詩そのものが持つモノなのか、あるいはマナの感情込めた朗読のせいなのか?
子供時代の母との思い出が、麦わら帽子に絡めて綴られている。
ふとシンジは母親を思い出そうとしたが、その顔はぼやけ、その声はか細く小さい。
シンジの母親は、彼がまだ幼い時に亡くなったらしいのだ。
写真などは、父であるゲンドウが処分してしまった。
シンジに残されたものは薄ぼんやりとした記憶のみである。

「どしたの、シンジ君?」
詩を読み終えたマナがシンジの顔を覗き込んでいる。
「う、あ、母さんを思い出して、その。…朗読、上手だね、感動しちゃった」
「詩が良いんだもの。…そうねぇ、じゃあ、ご褒美ちょうだい♪」
「ご、ご褒美、って…」
「約束してたでしょ?時間があったら遊んでくれる、って」
「う、うん…」
「明日、この辺りをぐるーっと見て回りたいの。お・ね・が・い♪」
「う、うん、判った」
シンジがちらりとアスカの方を見るが、どうやら気付かれていないようだ…。
1307(仮名):03/11/24 03:38 ID:qOVkV+ex
8月1日 火曜日。
「ミサトさん、じゃあ僕、出かけますから」
朝食を作り終えると、そそくさとシンジは出かけて行った。
湖尻のバス停でマナと待ち合わせているのだ。
マナの希望はいたってシンプルだった。
高い所から芦ノ湖や第3新東京市を見てみたい。
これなら駒ケ岳山頂に上れば簡単にかなえられるだろう。
…ただ、それだけでは物足りない。
偶然見つけたあのひまわり畑も見せたいし、芦ノ湖観光船で水上散歩もしよう。
昨夜、シンジは一人でこっそりとこの計画を練った。
幸いケンスケもトウジも、アスカさえも用事があると言う。
冷やかされる心配は無いのだ。

Vネック・ノースリーブのサマーニットにジーンズと言う、いかにも活動的な服装で現れた
マナからは、普段のお嬢様っぽい雰囲気が薄れていた。
「おはよう、シンジ君!今日はどこに連れてってくれるのかな?」
両手を腰の後ろで組み、小首を傾げながらマナが見上げる。
「えっ、と、まず、ヒマワリ畑を見てから、芦ノ湖を観光船で渡って、それから駒ケ岳へ」
「わぉ!素敵なプランね」
「そ、そうかな?」
「うん!でわでわ出発進行!」
そう言うと、マナがシンジの手を取り歩き出す。
「あの、そっちは反対なんだけど…」
「あやや。またやっちった」
マナがへへへっ、と笑いながら舌をぺろりと出す。
1317(仮名):03/11/24 03:39 ID:qOVkV+ex
台ケ岳南の斜面にそれはあった。
緩やかな傾斜地に、今を盛りと大小さまざまなヒマワリが咲き誇っている。
「ぅわぁ!!すごい!すごぉーい!」
本当に嬉しそうにはしゃぐマナ。
「写真、撮ろうか」
「うん!撮って撮って」
キョロキョロと辺りを見回してからヒマワリを傷付けない様に、そっと畑に入るマナと、
その姿を撮り続けるシンジ。
「ねぇ、シンジ君。ヒマワリの花言葉って知ってる?」
「…ううん、知らない」
「あのね、いろいろあるんだけど。貴方を見つめる、憧れ、貴方は素晴らしい」
「へぇ…やっぱり詳しいんだね」
くるりと後ろを向いたマナが続ける。
「それからね。いつもそばにいるよ、って言うのもあるんだって」
シンジは、どきりとした。
マナの声に、今まで感じた事の無い何かを感じたのだ。
天真爛漫なお嬢様というイメージをずっと持っていたが、今、マナの声には何かに飢えた
魂の絶叫とも思えるモノが感じられた。

「どしたの?」
カメラを持ったまま、ぼーっとしているシンジの元にマナが近付いてくる。
「な、何でも無いんだ…。お日様の下だと雰囲気が変わるんだね」
「へへぇ。マナちゃんオテンバだったもん♪」
過去形で言うマナ。
「じゃあ、今度は船に乗ろうか」
「アイアイサー♪」
1327(仮名):03/11/24 03:40 ID:qOVkV+ex
桃源台から船に乗って箱根町に向かう。
外輪船・フロンティア号に乗って、気分は西部開拓時代になっている。
観光船とは言うものの、この航路は非常事態宣言が発令された場合、道路渋滞を避けるた
めの民間の貴重な足となる。
箱根は古くからの観光地ではあるが、観光のみで生計を立てているものは少ない。
旧小田原に空港と港湾施設が新たに建設されて、日本の玄関口となったものの、依然とし
て観光の需要は低い。
それはネルフ本部の特殊な任務にも影響するのだが、それをカムフラージュするためにも
『普通の観光地』としての箱根の役割は重要なのである。

「ねぇ、シンジ君」
「何?」
「さっきからずっと私の分まで出してくれてるね、お金。…大丈夫?」
ポシェットから可愛い財布を出しつつマナが心配そうな声を出す。
「ミサトさんが、カンパしてくれたんだ。見栄をはりなさい、って」
「はりゃあ〜」
「ひどいんだよ。今日のこと、根堀り葉掘り聞くし、酔っ払っていたから絡んでくるし」
昨夜、シンジはオヤジ化したミサトに捕まり一時間程尋問されたのだ。
「それに、コレのお礼もあるし」
ベルトにつけたひまわりのキーホルダーを示す。
「じゃあ、今日のお礼はこれね」
マナがバッグから小さな包みを取り出す。
「サンドイッチ、作ってきたの。どっかで食べよ?」
二人は船を降りると恩賜箱根公園へと向かった。
自販機で紅茶を買い、富士山展望台まで登ると空いたベンチでサンドイッチを食べる。
「美味しい?」
「うん、美味しい」
「良かった」
そう言うとマナは、シンジの食べる姿を穏やかな笑顔で眺めている。
芦ノ湖から吹く風が、上気したシンジの頬を撫でていく。
1337(仮名):03/11/24 03:41 ID:qOVkV+ex
箱根園までバスで移動し、ロープウェイで駒ケ岳頂上まで行く。
とは言うものの、ロープウェイから降りて少し歩かねばならない。
ハンカチで汗を拭いながら歩くマナを気遣いながら、シンジは歩を進める。
風が強い。
小さな叫び声を上げてマナがバランスを崩すのをシンジが支える。
「大丈夫?」
「平気。…でも、見晴らしが良いなぁ。ほらほら!さっきの船があんなに小さい」
シンジの腕の中でマナがはしゃぐ。
遠雷が鳴り、風が湿り気を帯びて来る。
山の天気は変わりやすい。
それをシンジはまだ知らない。

富士山を始め、箱根をぐるりと取り囲む外輪山や、きらきらと輝く水面が美しい芦ノ湖。
それらの景色をゆっくりと楽しみ、飲み物でもと思った時、急に雨が振り出した。
雨足はどんどん強まり、バケツをひっくり返した様な本降りとなった。
周りを見ると、山頂に残っている人影は少ない。
慌ててロープウェイに乗り込んだが、下着までずぶ濡れになってしまった。
「うひゃ、冷たい」
マナがニットの裾を絞っている。
「…帰ろう、か」
「そだね。さすがにこれじゃあ、風邪ひいちゃうね」
二人は箱根園でタクシーを拾うと霧島邸に向かった。
1347(仮名):03/11/24 03:42 ID:qOVkV+ex
「シンジ君、服、脱いでね。洗濯しとくから」
「いいよ、そんなの。僕、このまま帰るから」
「ダ・メ!風邪ひいちゃうでしょ。ハイ脱いで脱いで」
「マナこそ、早くお風呂に入らなくちゃ」
「私、2階のシャワー使うから、シンジ君はお風呂で服が乾くまでゆっくり温まって」
有無を言わさないその口調に、シンジは素直に従い湯船に浸かる。
すりガラスの向こうでは、マナがシンジの服を洗濯機に放り込んでいる。
そして、イキナリ自分の着ているものを脱ぎ去り、洗濯機に放り込む。
すりガラス越しに、マナのシルエットがどんどん肌色に変わっていく。
「ななな何してんのッ!」
「ん?濡れた服を脱いでるぅ」
「みっ見えちゃうったら」
「うそ?!」
そう叫ぶといきなりドアが開き、しげしげとすりガラス越しに脱衣所を眺め、手をかざす。
バスタオル一枚のその姿に、シンジはもう何が何やら。
「かなりきわどい感じなのね」
そう言いながらシンジに振り向いた瞬間、マナのバスタオルがはらりと落ちる。
か細い腕、浮き上がった鎖骨、小振りながら弾力にあふれた乳房、白い肌、くびれたウェ
ストからなだらかな曲線を描く腰と臀部。引き締まった脚…。
だが、その下腹部に浮き上がる傷跡…。
「あ…」
「見ちゃダメぇぇ〜!」
その場にしゃがみ込み、バスタオルを拾うと慌てて飛び出していくマナ。
「…シンジ君、見た」
「見…ううん、見てないよ!」
「あーん、もうどうしよう〜。シンジ君、責任取って結婚してね」
「け、結婚」
「…う・そ。…ねぇ、シンジ君、わた、私の裸、綺麗かなぁ」
「きっ綺麗だった」
「あ〜!やっぱり見たんだ。シンジ君のえっち」
マナがくすくすと悪戯っぽく笑っている。
1357(仮名):03/11/24 03:42 ID:qOVkV+ex
8月2日 水曜日。
市立中央病院。
ナースステーションから、さらに奥まった個室に「彼」は入院していた。
一昨日の発砲事件の容疑者である。
右手には点滴チューブがつけられている。
どんよりとした意識が、揺らぎながら夢と現実を行き来している。
歌声が聞こえている。
重いまぶたを持ち上げてその声の方を見る。
お下げ髪の子供が、少年に背中を向けて歌っている。
「う…」
頚をもたげようとして頭に激痛が走り苦悶の声が漏れる。
「目ェ醒めたん?」
振り向いた子供の顔は、真っ白くのっぺりとしていた。
「うわあぁぁぁぁあぉぅぅあ!」
けたたましい叫び声に看護師が駆けつけると、車椅子のコナツが少年に謝っている場面に
遭遇した。
「どうしたの?コナツちゃん」
「ウチがアカンねん。目ェ醒ました兄ちゃん驚かせてしもぉた」
「大丈夫よ、だけどちょっとお部屋から出てくれる?」
「うん…。兄ちゃんごめんな。堪忍な…」
しょんぼりと部屋を出て行くコナツ。
車椅子のキィキィという音が寂し気だ。
鎮痛剤を打ちながら看護師が尋ねる。
「何に驚いたの?」
「の、のっぺらぼうかと思って…」
コナツの右顔面を覆ったガーゼが、覚醒したばかりの少年にはのっぺらぼうに見えたのだ。
やさしく説明する看護師。
「顔に大怪我をしている子なの。でもね、貴方の事を心配して時々お見舞いに来てるのよ」
「悪い事、しちゃったな…」
「じゃ、後で謝るといいわ。素直ないい子だから大丈夫よ」
1367(仮名):03/11/24 03:43 ID:qOVkV+ex
1時間後、コナツは再び少年の部屋を訪ねる。
お互いがひたすら謝り続けるという展開の後、やっと本題に移った。
一昨日の事件にコナツの兄が関わっている事。
今日、警察ではない『いけすかん』感じの二人組が訪ねてきた事。
そしてうわ言で繰り返し言っていた事…。
「なぁ。『キリズミ』って何なん?ずーっと言うてたけど」
少年がぎょっとなる。
「それ、看護師さんも知ってる、かな?」
「さぁ?判らへんなぁ。大事な事なん?」
「僕達にとっては大事だけど、他の人達には…危険かも知れない。誰にも言って無い?」
「うん。秘密にしとった方がえぇの?」
「できれば、もうしばらく」
「解った。誰にも言わへん」
「ありがとう」
「ウチ、鈴原コナツ。よろしくお願い致します」
「僕は浅利ケイタ…」
しまった、と言う表情を見せて少年が苦笑いする。
「これも内緒にしてくれるとうれしいんだけど」
「兄ちゃん、スバイかなんかなん?」
「ちょっと近い」
コナツがややオーバーに驚いてみせる。
「ジジツはショウセツよりもキナリ、言うんかな?これは」
「アンタッチャブル、かな」
「…真面目な話、ここは安全やと思うけどな。警察が目ェ光らせてるから」
「それは、時と場合にもよるんじゃあないかな」
「どうして?」
「何かと仲が悪いんだよ、僕達」
「そうかなぁ。みんな仲良ぅして平和に暮らさなあかんのと違うんかなぁ?」
「それが一番なんだけどね。難しいね」
ケイタの視線が横に動く。
四角い窓の外には、青い青い空が広がっている。
1377(仮名):03/11/24 03:44 ID:qOVkV+ex
「レイ。この前出会った、怪我をした少年の顔を覚えているかい?」
ネルフ本部から帰って来るなり、三尉がレイに尋ねる。
頷くレイ。
「彼が病院を抜け出したそうだ。ひょっとするとこのま地に来る気かもしれない。見つけ
たら教えてくれないか?」
「解ったわ」
「頼む。かなり重傷だったから、心配だ」
「ここに何があるのかしら」
窓辺に歩み寄り、灯りの灯った町並みを眺めながらレイが独り言の様に呟く。
「…大切な事なんだろうな、きっと」
「自分よりも大切な事?」
「さぁな。自分にとって大切な事なのかも知れない」
1387(仮名):03/11/24 03:46 ID:qOVkV+ex
8月3日 木曜日。
第3新東京市立第壱中学校。
夏休みと言えども登校日はある。
2-Aの教室には日焼けした生徒達が集まっている。
中には部活のために毎日登校している生徒もいるのだが、それはごく一部である。
自分の席で本を読んでいるレイにアスカが声をかける。
「ファースト、アンタまた本読んでんの?勉強ばっかしてるとますます暗…」
「推理小説」
アスカの言葉をさえぎるように答えるレイ。
「…へぇえぇぇえ。珍しい事もあるもんね。明日は雨かしら」
「雨なら昨日降ったわ」
「…いつの間にそんな口の聞き方を覚えたのかしらぁ?」
「静かにしてくれない?」
どう言い返してやろうかと、口をぱくぱくさせているアスカに代わってシンジが尋ねる。
「タイトルは何なの?作者は?」
ちらりとシンジを見て、無言で背表紙を見せるレイ。
『人間の証明 森村誠一』と書かれてある。
「ずいぶん古い本だね。図書館で借りたの?」
こくりと頷いて読書を続けるレイに、今度は委員長が近寄っていく。
「綾波さんも、そう言うの読むんだ。ちょっと意外な感じね」
「三尉と温泉に行った時に教えてもらったから」
「!?!おおおおおおおおお!?!」
しばしの沈黙の後、教室内が騒然とした。
「あああ綾波、いっ今、ナニ言うた?ワシの耳、おかしなったんかいな?」
「温泉に行った、って言ったんだよ」
ケンスケが言わずもがなな返答をする。
「わーっとるわ!そうやのぉて、ホレ!あ〜言葉が出てこん!」
「デートで温泉。普通じゃないよな」
「リフレッシュの為に人里離れた露天風呂に行こう、って」
「あのオッサン、何考えとんのや〜!!」
トウジの絶叫に頷く一同。
1397(仮名):03/11/24 03:48 ID:qOVkV+ex
「やっとクラスの雰囲気に馴染んで来ましたねぇ…」
教室に入って来た根府川先生が、みんなに取り囲まれたレイを見て安心したように呟く。
「きっ起立―っ」
ヒカリが慌てて号令をかける。
あの綾波が、保護者代理とはいえオトコと露天風呂に行った。
この出来事はクラス中の集中力を奪った。
晴れ渡った空の下、白い湯気でもやる湯船で戯れるレイと三尉…。
そんな場面を勝手に想像して身悶える生徒達。
「知っとる人間やさけ、余計にキョーレツや」
どうやら想像してしまったらしく、トウジが呟く。

チャイムが鳴り終業となる。
「え〜ただいまから、綾波レイさんの記者会見を行います。レイさん、どうぞ」
ケンスケがホウキをマイク代わりに持って宣言すると、日直の田中と石川がレイを教卓に
座らせる。
「綾波さん、貴女は先日、三尉と露天風呂に行ったといいましたが、それは事実ですか?」
「どうしてそういう事を聞くの」
「みんなが知りたがっている事です」
「命令があればそうするわ」
「では、現時点において役職にある人物に下命していただきましょう。委員長!」
指名されたヒカリが、苦笑いしながら済まなそうに頼む。
「綾波さん、ごめんなさいね。ちょっとだけ、教えてもらえないかしら?」
やがてレイは無表情のまま、手帳を開いて喋り出す。
「7月30日午前四時、三尉の運転するパジェロにて第3新東京市を出発。国道138号から東富士五胡有料道路を経て中央自動車道を…」
「やっぱり変わってるわ、この娘」
滔滔とスケジュールを読み上げるレイを見ながらアスカが呟く。
1407(仮名):03/11/24 03:50 ID:qOVkV+ex
8月4日 金曜日。
第3新東京市立第壱中学校・調理実習室。
家庭科クラブを中心とした有志が、合宿中の運動部の為に食事を作っている。
ヒカリに誘われたアスカも、慣れない手つきでジャガイモの皮むきをしている。
「ヒカリ、あの噂知ってる?」
女子生徒の一人がヒカリに話しかける。
「ここ2〜3日、夜中に校舎の中を誰かが歩き回っているんだって」
「何それ?警備の人じゃないの?」
「ううん。警備員さんも見たのよ。1時頃、3階の廊下をすーっと動く人影を見たんだって」
「えぇーっ!それ、本当?」
「バカバカしい。そんな事ある訳無いじゃない」
「だってアスカ…」
「この科学万能の時代に幽霊だなんて」
「そうかしら?」
「そうに決まってるじゃない。なんなら今夜、捕まえてみる?」
「無理よ、女の子だけだもの」
「まーかせて」
そう言うとアスカは携帯を取り出して電話をかける。
『あ、シンジぃ?ねぇ今晩ヒマよね?たまにはあたしとデートしない?』
『ななな何言い出すんだよいきなり』
『夜の校庭で花火なんか出来たらロマンチックよねぇ』
『合宿中の運動部が迷惑すると思うな』
『…つべこべ言わずに3バカトリオ出動よ!今夜11時、オバケ退治、やるわよ』
『勝手だなぁ』
『か弱い乙女を助けるんだからいいじゃない』
『ミサトさんにはどう説明するのさ』
『決まってるじゃない。酔っぱらわせるのよ』
1417(仮名):03/11/24 03:51 ID:qOVkV+ex
ミサトの部屋からイビキが聞こえている。
シンジとアスカがそろそろと廊下を歩いてドアの前に立つ。
「いい?でっかいトラックが通った時にドアを開けるわよ」
「うん」
ゴゴゴオオォオォッ
パパパパァァァァァァン
エンジン音とクラクションが夜の静寂を破り、その音にかき消されながらドアが開く。
プシュッ
するりと抜け出した二人はゆっくりとエレベーターに向かう。

むくり、と起き上がったミサトがポリポリと頭を掻く。
「夏休みだもんねぇ。大目にみといてあげるか…」
そう言いながら電話に手を伸ばす。
『葛城です。夜勤ご苦労様。今二人が夜遊びに出かけたけれど、些細な事なら大目に見て
あげて頂戴。この前みたいな事にはならないと思うから。…ええ、お願いね』
受話器を置き、なにやら呟くとミサトは冷蔵庫に向かった。

人通りの無い夜道を疾走する二人乗りの自転車。
荷台に横座りしたアスカが、その長い脚をぶらぶらざせている。
「アスカ、もうすぐ坂道なんだから降りてよ」
「判ってるわよ」
とん、と軽やかに降り立つアスカ。
シンジはチェーンロックを使って自転車をフェンスに固定している。
「早く行くわよ!」
アスカがスタスタと坂道を登っていくと、シンジが慌てて後を追う。
「もう、せっかちだなぁ」
アスカの横に並びシンジが不平を言う。
「シンジがドン臭い…」
アスカがいつもの如く悪態をつこうとした時
オンオンオンオンオンオン!
「きゃ!」
野良犬の咆哮に驚いたアスカがシンジにすがりつく。
1427(仮名):03/11/24 03:54 ID:qOVkV+ex
シンジのシャツを掴んで吐息を漏らすアスカ。
アスカの硬く弾力に富んだ胸の感触がシンジに伝わる。
呼吸をする度にアスカの肌が密着し、離れる。
瞬間感じるその体温が、シンジに他者を強く意識させる。
「アッアスカ、ただの犬だよ。そんなに怖がらなくても…」
「バッバカ言わないでよ!怖いんじゃ無くて、驚いただけなんだからッ!」
やや冷静さを取り戻したアスカが言い返す。

「まーた遅刻かいな」
校門でトウジ達が待っていた。
「ごめんごめん」
「ほな早速いくデェ。」
「シンジはアスカ、トウジは委員長、俺は綾波と行動する。3方向から調べよう」
「皆で行くんと違うんか?」
「考えがあるんだ」
1437(仮名):03/11/24 03:55 ID:qOVkV+ex
所々にある非常灯が蒼白く光っている廊下を歩く二人組の影。
「なぁイインチョ、オバケには殴る蹴るは効かんよなぁ」
「何?鈴原、怖いの?」
「ん、いや、怖いとかやのぅて、苦手っちゅうか何ちゅーか」
「ちょっと何言うのよ、私なんかもう心臓ばくばく言ってるんだから」
「このゲンコツが当るんやったら怖ないんやが…。こう、すーっと通り抜けるし」
「やめてよもう!」

「ようは予想外の展開が人間の恐怖心を増幅するの。対策は怪異現象の特徴を想起する訳」
「夜の音楽室でピアノが鳴る、とか?」
ぽん ぽろろん  ぴん ババーン!
「!!そそそう。例えば陰気な足音がするとか」
ぺた  ぺた  ぺたん ぺたん ぺたん
「ううう後ろに人の気配を感じたり、白い影がすーっと動いたり…?」
シンジの視界の隅っこを、白い何かが横切る。
「あっあっあっアスカ…」
「落ち着いて良く見るのよシンジ!」
足元を転がり進む小さなボールが、ちかちかと人影を映し出している。
1447(仮名):03/11/24 03:57 ID:qOVkV+ex
「普通なら幽霊の出る辺りには近付かない。近付く奴は幽霊の出た場所に行く。どちらに
せよ、他の場所はあまり興味を示されない」
レイとケンスケがゆっくりと廊下を進む。
「今の学校にはお金だってあまり無いし、備品が盗られた形跡も無い。とすると幽霊はこ
こに用事があったと思うんだ」
調理実習室の前に立つ二人。
「どうせ夜中に腹をすかせた合宿中の生徒だろうけど、ここで待ってりゃいいと思うよ」
ゆっくりとドアを開けて中に入るレイとケンスケ。
「そいつが入って来たら明かりを点けるよ。綾波が捕まえてくれないか?」
「解ったわ」
テーブルの下にしゃがみ込むレイ。
待つ事5分、ゆっくりとドアが開き、小さく身をかがめた人影が入ってくる。
「今だ綾波!」
パパッ、と蛍光灯が瞬く。
すばやくレイが人影に接近する。
突然の光に顔を覆っていた人影の腕がレイに伸びる。
その腕をかいくぐり、人影の横に回り込むと手の中のナイフを頚筋に押し当てるレイ。
「…参った。抵抗しないから話を聞いてほしい。腹が減っているんだ」

得意そうなケンスケの顔を見ながら、トウジが文句を言う。
「ワシ等をオトリに使うたぁちと友達甲斐が無いんと違うかぁ?」
「敵を欺くにはまず味方から、さ。兵法だよ兵法」
「へー、ほうか」
「そのダジャレでは笑えないなぁ」
「そんな事どうでもいいわよ!…誰なのよコイツ」
「腹をすかせた脱走兵さ」
「ボクの名前はムサシ・リー・ストラスバーグ。この街に友達を探しに来たんだ…」
やや長めの前髪を掻き上げながら、少年は話し始めた。
1457(仮名):03/11/24 04:09 ID:qOVkV+ex
8月5日 土曜日。
紀伊半島沖に使徒が現れた。



次回、第参話「戦い」に続く。


作中に登場する温泉にはモデルがあります。
現在も三代目の方が経営されていて、無論四代目もおられるし、五代目候補も誕生して
いますので、安泰かと思われます。
またシンジに絡む酔っ払いミサトのイメージは「アスカ、ラブコメする」(ISUTOSHI氏)
のイメージが私の脳みそに染み付いております。

レイと三尉の露天風呂遊びの描写はカットさせていただきます。
エロ方面では無くて、単にここで書く内容でもないし、何より長過ぎですから。

皆さんの予想を超える結末が書けるか否か?
もう一踏ん張り致します。
∵  わたしは見た  ∵

ttp://www.bluedragon.pos.to/kanban/ktkas.jpg
がんがれ7氏
応援保守sage
148名無しが氏んでも代わりはいるもの:03/12/14 01:08 ID:XVzDMmI/
足切り防止age
ここって確か500が上限だった様な…。
149名無しが氏んでも代わりはいるもの:03/12/21 19:17 ID:sb8R5CsJ
ミタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━ !!!!
キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━ !!!!
1517(仮名):03/12/21 23:48 ID:SdXLWTtS
皆様、保守ありがとうございます。

>>146
第参話がきちんと仕上がるか否かも、全ては神の御心のままに…。
>>147
調子の悪いパソコンと共にがんばっております。
>>148
足切り…ぶるる。
>>149
ミラレタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━ !!!!
>>150
ゲンコウマダ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━ !!!!
_| ̄|○<クリスマスニ マニアワナイ…

現在、パソコンの調子が悪く、終業後に職場のパソコンで原稿を書いていたりしていますです。
で、保存していたフロッピーと仕事で使うフロッピーを間違えて、部内の娘さんに渡してしまいました。
慌てて取り戻したのですが、しっかり見られてしまいますた…。
クリスマスプレゼントを催促されています(泣
7氏降臨 キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━ !!!!
保守なのです…。
保守を兼ねて。

しかし、就業時間外とはいえお仕事の場でFF執筆とは、豪胆きわまる
チャレンジャーとしか言いようが無いな

続き期待していまつ
155名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/01/20 04:39 ID:87ZqHHab
保守ならあげろ、卑怯だぞ。
156名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/01/20 19:16 ID:tUcznMxD
         ┌ --へ/\_____
        //       \ヘ |
        |  /ノノ \\  丶ンヽ
        |/|( 。)( 。 )ヽ  | |
   '⌒⌒丶  /≡‘  ≡   V6)  ノ
   ′从 从) \⊂==⊃ / ソ//ノ
   ヽゝ゚_ ゚ν    (彡ゝニ二) ̄) ノノ
   へヽ//ヽ   (||Å .| || ̄
  ノ | .Å / ̄ ̄ ̄ ̄/二|
__(二ニつ/.アブノーマル/_ヽ\____
     \/____/
157名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/01/20 21:48 ID:66OBm8ET
藁田のであげ
1587(仮名):04/01/20 22:05 ID:J8x11mMF
皆様、保守ありがとうございます。
>>152
キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━ !!!! けれど原稿マダ━━━━━━━ !!!!
>>153
すすすすみません。も少し保守してくださいです…。
>>154
ふははははは…。バレたらちとまずいんですが…。
ま、サービス残業の気分転換ということで。
>>155
いえあの私恥ずかしがりなものでして…。
>>156
…あー、ここまで驚かれてはいなかったような…。
>>157
うひーー!恥ずかしいですぅ。

というわけでですね。
原稿はまだ完成しておりません。諸々の事情により、二月末だと思います。
お待ちいただいております一部の皆様、もうしばらくお待ちください。
決して放り出したり致しませんので。
サービス残業。
給料もらってないんだから何しようと勝手だわな。
1607(仮名):04/01/21 18:55 ID:nE1qcM2S
>>159
ところがそう簡単な問題ではないのです。
「仕事を片付ける」という名目で会社の施設・電気などを使用しているわけですから
「仕事が済んだらさっさと電気消して帰りやがれ!」というのが雇用主の言い分なのです。
昼休みなどにまっとうなサイトを閲覧するくらいなら黙認ですが、厳しいですよ。
この辺りが「ちょっとまずい点」なのです。

あー、雪が降っているぅ。
サービス残業がなきゃ会社を経営できない無能者がっ!
と思っても会長やら社長やら所長やらマネージャーやらリーダーやらには言えない。
俺が一番へたれ。

く、この手にストームブリンガーさえあれば!
162名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/01/21 22:41 ID:sUN6b4So
>>160

いや、漏れから言えば、その雇用主のコスト意識はきわめてマトモだ。
雇われ人はともかく、経営者たるものそれくらいのコスト意識はあってしかるべき。

その経営者は、
「しょせん俺様の歯車に過ぎんお前らだがコスト意識くらいは持て!」
「残業するくらいなら規定の勤務時間内で作業能率を上げて終わらせろボケ!」
と生温く言ってくれているのです。

残業分の業務は、部下や同僚に押し付けてあなたはさっさと帰ってしまうのも
1つの手。酷薄なようですが、会社にとってはあなたがやろうが誰がやろうが
結果さえ出れば同じこと。



・・・で、どうでしょう?
そうして余裕の出来た昼間に、職場の皆さん注視のもとで堂々とエヴァSS
書きうまくるってのは。
1637(仮名):04/01/21 23:47 ID:045ihDXY
>>162
私と致しましても雇用主のコスト意識については了解しております。
特に我々の年代になりますと人件費や社会保障ぴもなかなかなものになりますから。
ですからそんなご時世にそんなことをしていたら配置転換ざますよ。
おまけにわが社は「相互評価」が導入されておりまして…。
部下に仕事を押し付けるなんて貴方(w

蛇足ですが、件の女の子は良い子です。このハルに寿退職される予定でしてプレゼントをあげる
予定だったんです。それがあんな事になって、まぁ洒落のキツイ子だなぁ、と。
ハルの配置転換が本当に心配になって来る今日この頃です(w

…えと、こういう話題が続くのはやはりマズイんでしょうね。
「降臨スレでやれ!」と言われる前に退散して続きを書きますです。
164名無しが氏んでも代わりはいるもの:04/01/29 18:47 ID:q8/bmwQI
保守しとくよ
ほしゅ
保守主義者
168某スレより:04/02/27 20:17 ID:???
激しく期待しています。
1697(仮名):04/03/01 02:32 ID:???
他スレで高らかに今日辺り第参話をお見せできる、なんてぇ事を
書きましたがもう眠くて眠くて推敲が遂行できません。
やたらにハイだからヘンな変換をして独りでウケてるし…。
というわけで明日に延期します。ごめんなさい。
しかもまーた長いんだコレが。
全四話つーのが間違いだったか?
さーて寝るふ寝るふ。
1707(仮名):04/03/03 02:04 ID:???
『ひまわり』 第参話 「戦い」

8月5日深夜の第3新東京市立第壱中学校。
調理実習室でシンジ達はコーラとサンドイッチを口に運びながら、同年代の少年の過酷な
身の上話を聞いている。
ムサシと名乗った少年は戦略自衛隊からの脱走者だった。
セカンドインパクト後の混乱の最中に戦自の施設に引き取られ、幼い頃から様々な技能を
教え込まれていく生活。
単なる職業訓練ではなく、近未来における国家間の戦闘行為に備えた訓練。
そんな自由の無い生活に絶望し、仲間と共に命がけで「脱柵」した。
そして此処、第3新東京市で落ち合う約束をしている仲間を待っているのだと言う。
おそらくはケンスケでさえ知らなかったであろうこの部隊と隊員に対して、シンジは不思
議な感情を持った。
自分とさして変わらない年齢の少年が命令されて戦う準備をしている。
この国で、自分以外にもそんな少年が居た事に驚くと共に仲間を見つけたような気がした。
いや、あるいは彼等の方が過酷な戦いかも知れない。
シンジの戦いは、人類のためと言う大義名分が存在するが、彼等がこれから向かう道には
果たしてそのような賞賛が与えられるのだろうか?
少年が話し終えた時、トウジが叫ぶ。
「これやから、これやからワシは勝手な大人が好かんのや!口ではエラソウな事言いくさ
ってウラじゃあこないなエゲツない事をしよる!」
トウジの脳裏にコナツの事故の記憶がよみがえる。
シンジとのわだかまりは無くなっているものの、未だに事故原因の一部に姿の見えない
大人の存在を感じているのだ。
「誰が許さんでもワシが許す。何としても必ずツレに逢わせたる!」
ムサシと名乗る少年の肩を叩いてトウジが宣言する。
「…でも、鈴原、どうやって探すの?」
「そ、それはやな…人相を聞いて、え〜」
口ごもるトウジにムサシが一枚の写真を差し出す。
「ケイタの写真だ。使ってくれ」
1717(仮名):04/03/03 02:05 ID:???
「なんや、そんなモンがあるんなら早ぉ出してくれたらえェやんか」
トウジか頭を掻きながら写真を受け取る。
モノクロのそれには坊主頭のちょっと気弱そうな子供が一人で写っている。
「なんや古い写真やなァ…これ、何年前の写真や?」
「二年くらい前かな?…ボロボロなのは肌身離さず持っていたからだよ」
そういえば写真の角は丸まり、あちこちが水分を含んでヨレている。
「どれ?カメラに取り込んで、明日コピーするよ」
ケンスケがトウジの手から写真を取ってカメラに収めている。
丁寧、というよりも慎重に作業をしている。
「これ、あの子じゃあ、ないかな?」
写真を覗き込んでいたシンジが呟く。
「誰や…あ!あの弁当泥棒か!?」
「うん…」
「言われて見れば、確かにそうやな。なーる程、これで拳銃のことも納得いくワ」
「見たのかい?」
「見たも何も、コイツなんか拳銃を向けられたんや」
身を乗り出す少年にトウジが先日の『事件』を説明する。
「…と言う訳で今は病院のベッドの上や。そうと決まったら、明日にでも行ってみよか」
「頼むよ。まさかこんなに簡単にコトが運ぶとは、びっくりだな」
「でっでも、ムサシ君、も脱走兵なんだろう?見つかったら」
「アンタバカぁ?そんなもの、変装させればいいじゃない」
紙コップをゴミ箱に放り投げながらアスカが呆れた様に言い放つ。
「変装って、まるでスパイやな」
「そんなたいしたモンじゃなくていいのよ。ようは自然に見せればいいんだから」
「でも、どうやって?」
「夏休み中に友達の妹が入院している病院にクラスメート達がお見舞いに行くだけよ。
部活が終わってからね」
学生服の集団の中に紛れ込ませようというのだ。
ファンデーションで日焼けをごまかすという手もある。
帽子を目深に被れば、なんとかなりそうにも思える。
1727(仮名):04/03/03 02:06 ID:???
小道具の準備の段取りを決めてシンジ達は夜の学校を後にする。
意外な展開だったが、大人達を出し抜くと言う悪戯みたいでシンジ達は愉快だった。
大人達の手から、自分達の力であの二人を逃亡させる。
日頃の命令されるだけの立場から一転して、ほんの少しの抵抗。
しかも、経緯はどうあれ人助けにもなる。
シンジ達は愉快だった。
そして8月5日の朝が来た。
1737(仮名):04/03/03 02:07 ID:???
シンジとアスカはネルフ本部での起動実験を済ませてトウジ達と合流する予定だった。
零号機の改修が終わっていないレイは実験に参加せず、三尉のメンタルトレーニングを受けている。
昨夜の外出は三尉の許可を得たものであったのだが、その際にレイは言葉の選択を誤った。
学校で肝試しをやると聞くと三尉も参加したそうにしていたが、その三尉に向かってレイ
は「友達と約束しているから」と突っぱねたのだ。
さらにその後の秘密がレイに少なからぬ罪悪感をもたらしていた。
「どしたレイ。今日は集中力が足りないな」
レイの変化に気付いた三尉が授業を中断する。
「三尉は、誰かに秘密にしたい事がある?」
「どうしたんだ、何かあったのか?」
レイの唐突な質問に三尉が驚く。
「何も無いけれど…。人はどうして秘密を作るの?
レイが時々発するこの類の質問は、常に人間の根幹に関わるものが多い事を三尉は知っていたので慎重に言葉を選びながら答える。
「秘密と一口に言ってもいろいろなケースがある。特定の人達だけが真実を独占する場合
や、特定の人達にだけ教えてはいけない場合がある。前者は秘密にすることでその秘密を
知っている人だけが得をするし、後者の場合は秘密を知らされない人が得をする」
「得?」
「例えば万病に効く薬があったとして、その薬の作り方を簡単に人には教えないだろう?
そんな事をしたらせっかくの儲け話が台無しだ。反対に不治の病に侵された人がいて…」
「それをその人に教えない事が本当に良い事なの?」
「そういう場合もあるけれど、その人が周りに秘密にする事もあるだろう。心配をかけな
いために」
「そして、ウソが生まれる…」
「そうだ。『嘘』とは決して悪い事だけじゃあ、ない。一時しのぎとは言えひと時の心の安
定も作り出す。人を偽る行為も時として人の為になる場合もあるんだ。人は、誰もが皆強
い心を持つとは限らないからね」
「…三尉。私は強いから…私には秘密を作らないで」
そう言いながらレイの胸がちくちくと痛む。
誰にも言えない秘密を持っているのは他でもないレイ自身なのだから。
1747(仮名):04/03/03 02:08 ID:???
照りつける夏の日差しの中を制服姿のシンジとアスカが歩いている。
「あ〜あ、せっかくの夏休みなのにまた実験とはね」
「仕方ないよ、それが僕達の役目なんだから」
「まったくどーしてアンタはいっつもそーやって大人達の思惑通りに行動するのっ!?」
「そ、そんな事言われても」
「主体性が無さ過ぎなのよアンタは」
何か言い返そうとしたシンジに後ろから声がかかる。
「シ・ン・ジ・君」
「君」の所でイキナリ抱きつかれる。
柔らかい感触、石鹸の香り、白い腕。
「マ…待って待って」
マナ、と呼びそうになったシンジはちらりとアスカを見て言いつくろう。
「…あーら朝っぱらからオアツイこと。これじゃあ当分気温も下がらないわねぇ」
二人を尻目にスタスタと歩いていくアスカ。
「じゃあ忽流さんにも、えいっ」
「ああああんたバカぁ!?わっ悪いけど、アタシ、そっちのシュミないから」
突然抱きつかれたアスカが必死になってその腕を振り解く。
「ふふ、ただのハグじゃない。忽流さん、外国暮らしが長かったんでしょ?」
ハグ(hug)親愛の情を込めて抱き合う挨拶だが、日本ではあまりにも馴染みがない。
「わ、解ってるわよハグくらい。突然で驚いただけでしょ?まったく」
言い訳がましく呟くアスカに追い討ちをかけるマナ。
「で、ドコ行くの?デート?」
「どーしてアタシがこんなバカとデートしなくちゃならないのよ!」
マナと絡むと途端に怒りっぽくなるアスカ。
「ネルフ本部でこれからエヴァの実験なんだ」
「わぁ、見てみたいなぁ」
「じゃあ、来る?」
「うん!行く行くぅ」
「ちょっとシンジ…まぁいいか、どうせ入れないんだから」
少しだけ肩をすくめると、アスカは二人を振り返ることもなく歩き出す。
1757(仮名):04/03/03 02:09 ID:???
ネルフ本部・正面ゲート。
本部施設に入る場合、この様なゲートでIDカードを提示・もしくはスリットに差し込む必要がある。
対使徒迎撃任務を持つ組織である以上、その任務遂行上機密維持は必要不可欠なのだ。
「じゃあアタシ達は用事があるから。ごめんなさいね、霧島さん」
吐き出されたIDカードを誇らしげにひらひらさせてアスカが施設に入っていく。
「ごめんよ、マナ」
シンジはそう言うとスリットにIDカードを差し入れる。
ドアが開きシンジが施設内に入ろうとするその瞬間、マナが飛びついてくる。
「子泣きマナだぞぉ。おぎゃあおぎゃあ」
「なっ何っ?何っ?」
「こうすれば、二人だけど一人よね?」
マナが耳元で囁く。
「そうだけど…そう、だね」
くすくすとマナが笑う。
シンジもつられて笑う。
マナをおぶったままシンジはゲートをくぐった。

マナを人目に晒さないために、一直線でロッカールームに来たシンジ。
「着替えるから、あっち向いててよ」
「ん、了解。…ねぇ、どうして服、脱いじゃうの?」
「プラグスーツにいろんなセンサーがあって裸で着なくちゃいけないってリツコさんが」
「ふーん…うわぁ、シンジ君、すごいアザ。痛くないの?」
「もう慣れたよ。いくらLCLが衝撃を緩和してくれるといっても…えぇっ!?」
慌てて振り向くシンジと、その姿を見てにっこり微笑むマナ。
「この前は私が見られちゃったから、お・か・え・し」
「あっあれはわざと見たわけじゃあないんだ」
「シンジ君、カーワイイ♪」
「じ、じゃあ僕、これから実験に行くけど、絶対ここから出ちゃ、だめだよ」
顔を真っ赤にしながらロッカールームを飛び出していくシンジ。
その姿を見送ってから、マナはそっとロッカールームを離れる。
1767(仮名):04/03/03 02:10 ID:???
第3新東京市立第壱中学校・屋上。
「まーたアイツラは遅刻かいな。ホンマにもう」
「ネルフの実験なんだ、仕方ないじゃないか」
「どうする?私達だけで行こうか?」
トウジ、ケンスケ、ヒカリ、レイとムサシと名乗る少年がシンジ達の到着を待っている。
「せやな…あんまり待たしても可哀想やしな。ホナ行こか」
全員、きちんと制服を着ている。
これなら少年も違和感なく出歩けるだろう。
「ありがとう、恩に着るよ」
「ンなもん要らんワ。ワシ等は大人達に悪戯したるだけなんや」
「ねぇムサシ君、ケイタ君ってどんな子なの?写真ではおとなしそうな雰囲気だけど」
ヒカリが尋ねると少年は少し考えてから答える。
「気が弱いのは確かさ。でもそれは優しいという事でもある。兵隊向きじゃないのかもな」
命がけで逃げ出した友達について話す少年をケンスケは静かに見つめている。

ごく自然体でネルフ本部内を歩いているマナ。
きょろきょろと辺りを見回すでもなく、足音を忍ばせるでもなく、悠然と歩く。
服装こそ私服ではあるが、その態度からは部外者だと言う雰囲気は漂ってこない。
たとえ職員に見られたとしても誰かの家族だと思われて警戒されることもないであろう。
何よりハイテクを利用したセキュリティ・システムに対する信仰にも似た意識が、部外者
の侵入は不可能と思い込ませている。
自動販売機コーナーを見つけたマナは紅茶を買って一息つく。
「午前様の紅茶」と言うその製品は、宿酔いの人をほんの少しだけしゃっきりさせる。
…いや、マナが酔っ払っているわけではないのだが。
マナは指先で右の頬に触れて見る。
口の中で、舌を動かしてその奥歯に触れて見る。
2年前に虫歯の治療をされた時に作られた義歯。
その感触が何の違和感もなくなった今、それを使う事になるかも知れないとは…。
空き缶を静かにゴミかごに捨てると、マナはまた施設内を歩き始める。
「非常扉」と書かれたドアの前を通り過ぎた時、その扉が開いて太い腕がマナを捕まえる。
1777(仮名):04/03/03 02:11 ID:???
非常扉の中に引きずり込まれたマナが行動を始める前に警告が出された。
「頼むから騒ぐなよ。それから、妙な真似も、な」
マナを捕まえた腕の主はリョウジだった。
「…どうして?」
ネルフ職員であるリョウジが、いくら知り合いとはいえ無断で入ってきたマナに対する態
度ではないのだ。
「説明は後だ。ついてきなさい」
そう言うとリョウジは通路を歩き出す。
一瞬躊躇したマナがリョウジの後を追う。
リョウジは非常口や階段、はたまた倉庫奥の隠し扉などを使用して移動していく。
やがてマナは建物の外に居た。
振り返るとピラミッド型をした建物が見える。
ネルフ本部である。
頭上には天井があり、あちこちにビルがぶらさがっている。
「ここは地下なのさ」
なおも森に向かって歩くリョウジが振り返りもせずに説明する。
やがて二人は「ネルフ農園」に着いた。
リョウジの趣味であり、心和ませる事ができる場所のひとつである。
「うわォ!スイカだぁ」
「君の好きなヒマワリもある」
リョウジがアゴで農園の一画をさす。
そこにはあの懐かしい、大きなヒマワリが誇らしげに咲いていた。
「…すっごーい!こんなヒマワリ、久しぶりに見たぁ」
ゆっくりとマナがヒマワリに近付く。
「昔はごく当たり前だったんだがな…セカンド・インパクトからこっち、なかなか見ない」
「あの、このヒマワリが散ったら種を貰ってもいいですか?」
「あぁ、良いよ。…食べるのかい?」
「はい!」
「待っててくれ、確か小屋にあったと思う」
少し離れた場所に建つログハウスからリョウジが小さな袋を持って現れる。
1787(仮名):04/03/03 02:12 ID:???
「お土産だ、持って帰るといい」
「ありがとうございます。でもすごいですね、この農園。昔の植物ばかりみたい」
「自慢の農園さ。あちこち出張の度にぶらぶら歩いて集めたんだ。それをここで育ててい
る…何かを育てるというのはいいぞぉ」
「どうして植物を集めているんですか?」
「動物は…世話が大変だろう?」
マナが少し考える。
「餌とか、躾けとか、ですか?」
「それもあるが、外国からは持ち込みが面倒だろう?それと、種の保存、かな」
「しゅ?」
マナが意外そうな声を上げる。
「セカンド・インパクト以前から植物、特に食料になる植物の品種改良は行われていた。
20世紀末には遺伝子操作による改良種も出てきて収穫が安定したり価格が安価になった」
二人は丸太に腰を降ろす。
1797(仮名):04/03/03 02:14 ID:???
「セカンド・インパクトで世界中の船が被害を受け座礁し沈没した。穀物などの輸送手段
は圧倒的に船舶が中心だったから食料輸出国は大きなダメージを受けた。そしてそれは食
料輸入国に飢餓をもたらした。当時、船の建造は黒海に残ったソ連の造船所が唯一と言っ
ても良かった。数年後には各国とも造船所を建設したがその数年間でソ連の国力は強大な
ものになり、対して欧米は衰退した。アメリカは国力を立て直すために国連本部を他国に
移譲し、運営資金も減額した。その後釜に日本が名乗り出て現在の地位を築いたんだが…。
で、アメリカは不干渉主義を宣言して国内復興に専念する。ソ連の強大化を横目で見なが
ら捲土重来の機会を狙っていたんだな。その秘密が植物だったのさ」
「植物が?どうして?」
「セカンド・インパクトによる気候の変化は世界的凶作を招き飢餓を生んだ。そこに遺伝
子操作によって気候不順や病害に強い作物が現れたら誰でも欲しがるだろう?おまけにタ
ネや苗は農作物を運ぶよりスペースが要らない。航空機であっという間に世界中に輸出で
きる。地軸の歪みによって耕作地域が拡大したソ連だってアメリカからそういったタネや
苗を輸入したからね」
1807(仮名):04/03/03 02:15 ID:???
「でも、たったそれだけでそんなに儲かるんですか?実った作物からタネを取れば…」
「タネや苗は確かに安い。だが必ず毎年買わなければならないとしたら、どうかな?」
「?」
「遺伝子操作を施されたタネや苗は一代限りだったのさ。実がなってもそのタネからは発
芽しなかったんだ。…子供が産めない人類を考えて見たらいい、子孫を残せないんだ。そ
のタネを買い続けなければその作物は収穫できない…」
マナの身体が震える。
「気付いた時には遅かった。世界中のあちこちでアメリカの植物が栽培され、収穫されて
いた。品種改良や遺伝子操作が試みられたが、特許や技術の独占によって現在も困難を極め
ている。…それに一役買ったのがゲヒルンなんだがな。人間の遺伝子情報を集積・分析し
ていたこの組織は、同時に動植物に関しても同じ事をしていたんだ。これをノア計画と言う
んだが、アメリカとイギリスが中心だった。…知ってるかい?植民地支配時代から欧米は
海外からあらゆる動植物を集めて研究していたんだ。20世紀もそれは続いていて『プラン
ト・ハンター』と呼ばれる職業が存在した。彼等が持ち帰った植物の成分から新薬が作ら
れた事もある。植物と言えどバカには出来ない」
1817(仮名):04/03/03 02:16 ID:???
「アメリカは小麦粉などの食物を戦略物資として生産・輸出に神経を使っていた。その延
長線上にこの遺伝子操作作物が存在しているんだ。人間は食べなくちゃあ生きてはいけな
いからな」
「このヒマワリのタネは、ちゃんと花を咲かせるのね?」
手にしたタネにマナが慈愛に満ちた眼差しを注ぐ。
「もちろん」
「食べるなんて出来ないな…このひとつひとつが大きなヒマワリに変わるのなら」
「タネならまだあるさ。人間には食べる楽しみも必要だろう」
「加持さんは、結婚とか、しないんですか?」
唐突な質問にも加持は動じない。
「こんな仕事をしてるといろいろと、な」
「私は、私は好きな人と結婚して、そして、その人の子供が産みたい。でも…」
「どうした?」
「私、子供が産めないんです。卵巣と子宮、摘出手術してるんです…」
リョウジの表情がゆっくりと変化する。
無造作に口に運んだ食べ物が思った以上に苦かった時の様に。
しばらく考えてからリョウジが口を開く。
「…それでも、生きろ。精一杯、生きろ。実のならない植物を育てる事にも楽しみはある」
リョウジの言葉にただ頷くマナだった。
1827(仮名):04/03/03 02:17 ID:???
第3新東京市立中央病院。
学生服の一団が通路を進んでいく。
コナツの話では怪しい二人組がいるらしいのだが、それらしい人物に止められてはいない。
「ま、ガキンチョの言う事やさけ、あんまり気にせんでえぇがな」
トウジがお気楽な声を出す。
ヒカリだけがきょろきょろと辺りを窺っている。
無理もない。
ヒカリは唯の少女であり、こんな事は経験した事がない。
ケンスケなどは先日の一件ですっかり度胸がついてしまったみたいだ。
やがて一団はナースステーションを過ぎてその部屋の前に着く。
ドア横にあるブザーを鳴らすトウジ。
コナツの返事が聞こえる。
ドアが開くとトウジだけが部屋に入る。
「オマエ、まーた他所の部屋に遊びに来とんのかいな」
「えェやんか。この兄ちゃんとはもう友達やもん」
兄の威厳もドコへやら、本当に口が達者である。
「スマンなぁ、妹が迷惑かけて。あんな、今アンタのツレがここに来てるで」
「ツレ?」
「友達や友達。ムサシ言う名前なんやが」
「ムサシが?何故?」
トウジの言葉に意外そうな顔のケイタが問い返す。
「何故ちゅーて…そんなん知らんけど…」
「こういうことさ」
いつの間にか部屋に入ってきた少年がコナツの背後に立ち、その頚に左手を絡ませる。
「なッ何すんねん!」
「ユウタ!」
トウジとケイタが同時に叫ぶ。
「コナツちゃん!」
ヒカリの悲鳴が病室に響く。
1837(仮名):04/03/03 02:18 ID:???
「さっさと部屋に入って鍵をかけてもらおうか。…青髪のオマエ、ナイフを捨てて部屋の隅に行け。久し振りだなケイタ、会えて嬉しいぜ」
手首を一振りして床にナイフを突き立てると、レイは無言で部屋の隅に行く。
「ムサシは…ムサシはどうした!」
ユウタと呼ばれた少年にケイタが怒鳴る。
「俺がここにいる事で事態を察知できないのか?相変わらず鈍いな」
「ムサシはどうした!!」
ユウタを睨みつけながらケイタが再び怒鳴る。
「死んだんじゃねーかな?谷底で」
「このヤロウ!」
ベッドから飛びかかろうとするケイタをコナツの悲鳴が制止する。
「おいおい、動くなよケイタぁ。この子の頚、折れちゃうぞォ?」
巻きつけた左手に力を入れ、コナツの頚を捻りながらその身体を持ち上げてみせるユウタ。
「オマエはおとなしーく俺に殺されりゃあいいんだ。」
そういいながらズボンのポケットから拳銃を取り出すユウタ。
「やめんかい!女子供に手ェ上げるたぁ、オマエそれでもマタンキ付いとんのか!」
「コナツちゃん!コナツちゃん!」
「おニィ、こんなヤツ、早ょ、やっつけて」
「…何故、君はこんな事をするんだ?」
絶叫と怒号とあえぎ声が交錯する中、ケンスケの冷静な声がする。
「へぇ、冷静なヤツもいるもんだな。いいだろう、教えてやるさ」
ユウタは得意げに喋り出す。
「こいつとムサシは友達でな、一緒に脱柵したのさ。トライデントという秘密兵器に乗っ
てな。以前からこいつらを怪しんでいた上官は罠をかけた。俺をスパイとして潜り込ませ
てな。ムサシは当然疑ったさ。行動を監視して、隙あらば殺そうとしていたからな。だけ
ど格闘技術は俺の方が上だった。ムサシを始末した俺はコイツが潜伏しているこの街にや
って来た訳さ。こいつ等の狙いは解っている…別の作戦でこの街に来ているやつと合流し
て一緒に逃げるつもりだったんだからな。解ったかい?メガネ君」
そう言うとユウタはケイタに向き直り狙いをつける。
「成る程ねぇ…でもこんな事までは読めなかっただろう?」
隠し持っていた拳銃をユウタの後頭部に突きつけるケンスケ。
1847(仮名):04/03/03 02:19 ID:???
ユウタの顔色が変わる。
「おいおい…冗談だろ?」
「対使徒迎撃都市に住む中学生をナメないで貰いたいね。昨今物騒だからヤミ市でこんな
モノを買っといて正解だったよ。…塀の中にばかり居たんじゃあこの世のダイナミズムに
は付いてこられないんじゃあないかな?」
喋りながら親指で撃鉄を起こすケンスケ。
カチリという金属音にユウタの身体が反応する。
反復して訓練された近接戦闘技術が無意識のうちに身体を動かしていく。
右手に持っていた拳銃を離すと素早く身体を捻って相手の右手と拳銃を捕まえる。
そのままケンスケを投げ飛ばしその拳銃(例のトム・キャットだ)を奪うユウタ。
一瞬のうちに攻守は逆転し、うめき声を漏らしているケンスケ。
そのケンスケに向かって銃口を向け…愕然とするユウタ。
玩具の拳銃なのだ。
ケンスケの狙いは成功した。
一瞬の時間稼ぎこそがケンスケの狙いだった。
ケンスケとの格闘に気をとられたユウタの背後に音もなく忍び寄っている、レイ。
その右手には既にナイフが握られている。
ユウタの死角から咽喉笛めがけてナイフが襲いかかる。
殺気に反応したユウタが飛びのいてかわすが、人質にしていたコナツとの距離が開く。
ヒカリはトウジの背後にいる。
視界の隅ではケイタがユウタの落とした拳銃を拾い上げている。
「くそッ」
小さく叫ぶとユウタは部屋を飛び出していく。
「待たんかいッ!」
後を追うトウジとレイ。
階段を駆け下りて逃げるユウタ。
建物の外に出たユウタが道路を横切ろうとしたその時、一台の車が突っ込んでくる。
どん、と言う鈍い音と共にユウタの身体がぐにゃりと歪む。
追って来たトウジとレイの目の前で空中に飛ばされるユウタ。
5mほど向こうに落ちて転がり、ぴくりともしなくなるユウタの身体。
1857(仮名):04/03/03 02:20 ID:???
車から降りてきた二人の男がその身体を車に運ぼうとする。
「ち、ちょっと待ちィや。そいつ、どこに連れて行くんや!?」
「いや何、こちらにも非があるからね。病院だよ」
「病院って…アンタら、ここ、病院やで?」
「知り合いに開業医がいるのでね。何かと都合がいいんだよ。…これは少ないが…」
食い下がるトウジに男が何かを握らせる。
紙幣だ。
「待てェ!オマエら、人をバカにしとんのか!そいつはなァ重傷なんやで!運ぶ最中に
死んだらどないすンねん!」
紙幣を投げ捨てて車の前に立つトウジ。
かまわずにアクセルを踏む男。
トウジを突き飛ばすレイ。
車は何事も無かったかの様に走り去っていく。

病室に戻って一部始終を話すトウジ。
あまりにも信じ難い事が続いている。
車椅子ごとコナツを抱きしめているヒカリが不安そうにトウジを見ている。
ケンスケは黙ったまま何か考えているようだ。
レイは建物の外から携帯で三尉に報告しているのでここにはいない。
「ごめんよ、つまんない事に巻き込んだね」
「いや…ワシ等が騙されてあんなヤツを連れてきてしもぅたんが悪い」
「僕はこのまま逃げるよ」
「逃げるって…相手はバケモンみたいな連中やで!」
「最初から覚悟の上だよ。しばらくは君達も気をつけて」
ケイタがゆっくりと立ち上がりコナツの手を握る。
「ごめんよコナツちゃん、怖かったろ?」
「兄ちゃん、大丈夫なん?」
「うん大丈夫。まだ友達もいるしね」
「ワシ等に出来ることがあったら言うてくれ。何とかする…」
「これ以上君達を巻き込めないよ。じゃあ…」
その時、非常事態宣言を告げるサイレンが鳴り響く。
1867(仮名):04/03/03 02:21 ID:???
使徒発見の情報がもたらされたネルフ本部は騒然としていた。
非戦闘員の避難に始まり、情報収集と関係省庁への連絡と協議。
侵攻予想ルートの推定と使徒殲滅作戦の立案。
各部署がマニュアルに従って迎撃準備に追われていた。
「このドサクサに紛れて脱出したいところだが、地上が安全とは言えないからな…」
リョウジがマナに説明する。
「頃合を見て家まで送るよ。それまではここにいろ、いいな?」
そしてリョウジは草取りを始める。
「仕事、しなくていいんですか?」
「対使徒迎撃任務の部署に俺の席はない…正式にはな。せいぜい葛城を眺めるくらいか」
「加持さん、私の事、何も聞かないんですね」
「聞けば何かをしなくちゃあならない。オレは怠け者なんでね、君についてはただの迷子
としか認識していない」
「仲間と、仲良くしてくれた人達と、どっちか選ばなくちゃならないとしたら、どうしますか?」
「どちらも選べる様に常日頃からうまく綱渡りをするさ」
淡々とした答えがリョウジから返ってくる。
やがてマナはリョウジの草取りを手伝い始めた。
1877(仮名):04/03/03 02:22 ID:???
第3新東京市立中央病院。
避難する人達と、病院施設ごと地下に潜る職員達とが慌しく移動している。
この混雑に紛れてここから逃亡しようとしている人物がいた。
ケイタである。
警察と戦自の監視を振り切って逃げるにはこの機会をおいては無い。
迷うことなくケイタは脱出を決意した。

ムサシの生死はレイが知っていた。
食い下がるトウジにムサシの写真を見せていたら、帰って来たレイが教えてくれたのだ。
彼女が温泉の帰りに出会った少年こそ本物のムサシだった。
重傷と言うもののこの街を目指しているらしく、上手く行けば三人で逃げられるだろう。
なんとしても逃がしてやりたい。
少なくともあの二人の足手まといにはならない。
今でこそ仲の良い三人組だが、もう数年もすれば自分の胸の中にある感情を隠し切れない。
多分あの二人は相思相愛だ…確かめた事はないが、間違いないと思っている。
二人の援護くらいなら今のトライデントにも出来るだろう。
オトリになればいいのだ。
脱出準備が整えばきっと連絡を取ってくる。
その時を自分の一世一代の舞台にする、ケイタはそう覚悟を決めていた。
それは『死』を意味するものではなく、二人と同じ所へ逃げないという事である。
1887(仮名):04/03/03 02:23 ID:???
「エヴァが陸送されるのか…とするとどこかで迎撃作戦か?」
レシーバーから流れてくる情報を聞きながらリョウジは考え込む。
使徒の侵攻ルートが不明なのではマナの退避が難しい。
かといっていつまでもここに居てはミサオが『心配』するだろう。
「電話をかけるか」
リョウジはマナを連れて再びネルフ本部へと引き返す。
ただし、同じルートを使って。

『ママ?私は無事だから安心してね。使徒が来るから避難所にいるの。じゃあね』
生憎ミサオは不在だったので留守電にメッセージを残しておいた。
これでしばらくは安心できる。
二人はネルフ農園で野良仕事を続けた。
使徒が接近しているこの事態になんとも呑気な事ではあるが。
…いや、マナは内心落ち着かないようで、しきりにリョウジをチラチラと見ている。
「どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?怖くないんですか?」
「何が?」
「だって、私達死ぬかも知れないんですよぉ?」
「死ぬ時はみんな一緒だ、怖くはないさ」
「でもォ好きな人と手を握っていたいとか」
「葛城はその前線にいるんだ。そっちに行くほうがもっと怖いぞ」
「えー!?加持さんってミサトさんが好きなんですかァ?その話もっと聞かせてください!」
「おいおい。こんな時に何を聞くんだ?まったくどっちが落ち着いているんだか」
「でもでも、こういう話ってあんまり聞いた事がないから」
マナの嬉しそうな顔を見てぽりぽりと不精ひげの生えたアゴを掻く。
それからリョウジは学生時代の話を始めた。
1897(仮名):04/03/03 02:24 ID:???
箱根・神山の林道を1台のオフロードバイクが駆け抜けていく。
ライダ―スーツとフルフェイスヘルメットで全身を覆ったその姿は華奢で小柄だ。
山頂に出ると視界が広がり第3新東京市が一望できる。
ライダーはウェストポーチからビデオカメラを取り出すと刻々とその姿を変えていく市街地を撮影し始める。
やがて上空にネルフのヘリが現れ避難勧告を告げるが無視して撮影を続ける。
勧告が警告となり搭乗者がライフルを構えた時、やっとライダーはバイクを移動させる。
確かに第3新東京市の変形は見物に値する光景ではあるが、何も命がけで見物しなくても、
と職員は思うのだ。
それとも、何かメリットがあるのだろうか?
あるとすれば、それはどういった人達なのだろうか?
1907(仮名):04/03/03 02:25 ID:???
ネルフ本部・第一作戦室。
ゲンドウ不在のネルフは副司令のコウゾウが指揮を執っている。
そのコウゾウの前でミサトが今回の作戦説明をしているのだ。
「東名高速道路を使用してエヴァ初号機・弐号機を清水市に展開、相模湾から侵攻してく
る使徒を水際で迎撃します」
「そんなところだろうな…弐号機パイロットの状態はどうかね」
「意気軒昂、ですがやや力みすぎています」
「ふむ、まぁ無理もなかろう。君が手綱を引き締めてくれたまえ」
「了解しました」
「では行きたまえ。健闘を祈る」
「はッ!」
敬礼して軽やかに退出するミサト。
後を追うマコト・シゲル・マヤ。
「碇の留守中に使徒襲来、か。やれやれだな…」
誰も居なくなった作戦室にコウゾウの愚痴が響く。
1917(仮名):04/03/03 02:25 ID:???
混雑する陸路を避けて芦ノ湖遊覧船で箱根町に渡ったケイタは徒歩で山伏峠を目指す。
そこにトライデントを隠しているのだ。
芦ノ湖スカイラインの交通規制は行われていないのか、車を使って避難する人達は多い。
重体する車列を横目に実ながらケイタは歩き続ける。
万が一、検問などで止められた場合の言い訳も考えている。
「箱根に遊びにきていたんですが、実家の三島に帰るところなんです」
それらしい住所も用意してあるから、その場しのぎにはなるだろう。
だがそれも杞憂に終わった。
誰にも怪しまれずに箱根峠を越えて芦ノ湖カントリークラブを突っ切ることが出来た。
ここまでくれば後は簡単だ。
山陰に身を潜めながら身長にトライデントに近付いていく。
リモコンでトライデントを再起動させるとコクピットに素早く乗り込み再び潜る。
無線機と換気装置だけを使用してエネルギーを節約する。
戦自の交信が入ってくる。
どうやら使徒は相模湾から清水に上陸したらしい。
しばらくすると戦自の交信が賑やかになる。
エヴァ2体活動停止…対使徒迎撃作戦の指揮権国連軍に移譲…NN爆弾使用準備…。
ケイタの胸が騒ぐ。
勝てるのか?
最初の使徒戦の時にもNN爆弾は使用されたが一時的な損傷を与えただけだと聞いている。
このままでは第3新東京市が危ない。
しかも今回の使徒はエヴァを倒すほどの力を持っている。
あの街が消滅すればムサシがマナを見つけられない、いやマナの命さえ危ない。
ケイタはトライデントを出撃させることにした。
『こちら戦略自衛隊第99旅団工兵中隊特殊重機隊所属浅利ケイタ伍長。これより使徒の足
止めを行う』
無線機に怒鳴ると山腹を駆け下りていく。
1927(仮名):04/03/03 02:26 ID:???
スモーク弾を周囲に撃ち込み視界を奪うとロケットランチャーをありったけブチかます。
全速移動で使徒に接近すると背中のエンピを引っ掴み使徒の足元を掘る。
左手がギブス固定されているので身体を捻る様にしてスロットルを押し続ける。
突然背後から強い衝撃を受けてトライデントが傾いていく。
エンピを背後に振るうと手ごたえがあった。
正面モニターには使徒が映っている。
もう一匹居たのか!
ケイタはエンピを捨てて背後の使徒に掴みかかり、そのまま反り投げをうつ。
ちょうど穴に落ちた使徒の上に投げ落としたらしい。
そのままトライデントを覆いかぶせて無線機に怒鳴る。
『使徒確保!NN爆弾投下急げ!』
操縦桿を口にくわえて押し込み続け、右手はシート下部のレバーを握っている。
『NN爆弾投下完了。着弾までのカウントダウン開始。離脱準備急げ。6…5…4…3…2…1』
そしてあたりが閃光に包まれていく。
1937(仮名):04/03/03 02:28 ID:???
芦ノ湖スカイラインでこの戦闘を見ていたトウジとケンスケ。
「おい…アイツ、ちゃんと脱出したんか…」
「ちょっと待って。今再生して確かめるから」
ケンスケのビデオカメラを覗き込むトウジ。
コマ送りで再生されている画面に一本の線が映し出される。
「はぁぁぁ〜っ、ひとまず安心したワ」
「まだだよ。国連軍や戦自より先に見つけなきゃあ…」
「なんでや?」
「トライデントは開発中の秘密兵器だし、ケイタは脱走兵だろ?闇から闇に…」
親指で咽喉笛をかき切る仕草をするケンスケ。
二人は急いで外輪山を駆け下りる。

それは幸運にもすぐに見つかった。
国連軍や戦自より早く発見した事もそうだが、ケイタの意識があった事の方が大きい。
ぐしゃぐしゃに潰れたその脱出装置が衝撃の強さを物語っていた。
めくれ上がったハッチからケイタの顔が見える。
頭部に怪我でもしたのか血が流れており、鼻や口からの出血もあるようだ。
「おいぃ〜大丈夫かぁ」
トウジが情けない声を出す。
「トウジ!コレでコジ開けよう」
ケンスケがその辺に転がっていた棒切れを持ってくる。
「生き、てる…でも、だめ、かも…」
「アホォ、弱気になってどないすんねん!待っとれ、すぐに出したるからな」
「事実、さ…コレの実験をさんざん、見て、来た…酷いもんだっ、た…」
うめき声と荒い呼吸で言葉が聞こえにくい。
「僕達は、こんな事、を、繰り返して、いた…トライデントの、改良、には…僕達、の血
が、たくさん、流されて、いる…死んだ、仲間、も、たくさん、居た…僕達は、実験室、
の、モルモット、なんだ…だから、自由、に、なって、人と、して…生きたくて、逃げた」
1947(仮名):04/03/03 02:28 ID:???
「アカンて!助け呼んでくるさかい、ちっと黙って休んどってくれぇ!」
「頼みが、ある…この、近く、で、さく、らの、花を、見た。あそこ、に、僕の、墓、を
、作って…欲しい…この、写真、を、埋め、て…」
血まみれの手で、ケイタが一枚の写真を取り出す。
麦わら帽子を持った赤茶けたクセっ毛の少女を真ん中にして、青みを帯びた髪の少年と
坊主頭の少年が左右に立つ写真。
「小さい、頃、からの、とも、だち…僕の、命、だ」
「解った…必ず約束は守るよ…安心して欲しい」
写真を受け取ると、ケイタの手を強く握りしめるケンスケ。
「ケンスケ!オマエ、何言うとんじゃ!コイツはまだ生きとるやないか!」
「死ねば、解剖、され、て、部隊、の無名、戦士の、墓、に、入れられ、生き、残れば、
また、モル、モ、ト…自由、には…なれ、ない…死んだ、後、くらい、は、外の、世界、
で…好き、な」
「しっかりせェ!オイ!しっかりせェ!…目ェ、開けてくれェ…」
「……マ、ナ…」
それがケイタの最後の言葉だった。

やがて上空に国連軍のジェットヘリが飛び交い、トラックに乗った兵士達が集まってきた。
簡単な身体検査と尋問が終わるとトウジとケンスケは開放された。
二人は使徒とエヴァの戦闘を見に来てアレを見つけたのだと言い通したし、写真は細く
丸めてストラップの中に隠していた。
これだけは何としても守らねばならなかった。
何も考えたくはなかったが、何かを考えねば頭がおかしくなりそうだった。
人が死んでいくところを見てしまった。
人が死ぬ原因を知ってしまった。
人が命がけで守りたいものを知ってしまった。

あまりにもあっけなく死んだ。
あまりにも簡単な理由で死んだ
あまりにもささやかな願いだった。

そして、それは現実だった…。
1957(仮名):04/03/03 02:29 ID:???
作戦課第2分析室で行われた反省会に顔を出し、アスカに労いの言葉をかけてからリョウ
ジは急いでネルフ本部を後にする。
プリウスの助手席にマナを乗せて夕闇迫る湖畔を疾駆する。
無事にマナを送り届けたリョウジはミサオに呼び止められる。
「先日、お部屋を掃除していましたらこんなものが落ちていましたの。加持さんのもので
はないかしら?」
貝殻を研いで形を整えたやや大きめのボタンである。
リョウジのジャケットを見れば、確かに1個ない。
「やっぱり。今おつけしますわ」
そう言ってジャケットを受け取ったミサオが針仕事を始める。
「意外ですね」
「私もセカンド・インパクトは経験しましたのよ。…あの頃は物資が足らなくて洋服も
ツギ当てして着ていましたもの…はい、どうぞ」
あっという間にボタンをつけ終わると、ミサオがにこやかにジャケットを差し出す。
「恐縮です」
簡単に礼を述べるとリョウジは霧島家の仮住まいを後にする。
プリウスに近付くとトランクを開けてジャケットを放り込む。
盗聴器か電波発信機か?はたまた爆弾やガスが仕込まれているかも知れないと考えたのだ。
車に乗り込むと念の為に窓を開ける。
密閉された空間にガスが充満してはたまらない。
「やれやれ…おっかない女性だ」
リョウジは苦笑しながら車のエンジンをかけるとネルフ本部に引き返した。
リョウジの持ち込んだボタンを調べていた技術開発部の職員がリョウジに報告をよこした
のはきっかり一時間後だった。
爆発物ではあるが起爆装置がないので、単なるオドシだろうとの事である。
実はリョウジはあの家に3個ほど盗聴器を置いてきていた。
丸めたティッシュに包んだり、ボタンに偽装して落としたりしたのだがどうやら見つかっ
たようだ。
そしてこの反撃である。
「やれやれ…おっかない女性だ」
もう一度リョウジが呟く。
1967(仮名):04/03/03 02:31 ID:???
今回の作戦記録と映像を見てから、リョウジはミサトにあるプレゼントを渡すことにした。
急いでそれを容易してからリョウジは保安諜報部に出向く。
用件はここ2週間のチルドレン行動記録と映像記録を借りることだ。
自室でそれを逐一チェックするとコピーしていく。
そして行動を開始する。
リョウジの戦いが始まった。

8月6日、夏祭りで賑う神社の境内に植木屋が露店を出している。
子供達は見向きもしないが中高年の男性が時折品定めをしている。
頭髪の少なくなった初老の男が主らしい。
「…大将、良い和ランだねぇ」
「…旦那お目が高い。これァね、アッシが山奥に分け入って見っけてきた野性種でさァ」
「そりゃあすごい…いくら?」
「きっかり十万両」
「ふぅん…貰って帰ろうかな…ところで」
財布から紙幣を取り出すと何かを挟んで主に渡す。
「その顔に見覚えがあったら教えてほしいんだが」
「…旦那、警察の?」
「いや、違う」
何しろちょうど今、自分で高山植物の不法採取を自白してしまったのだ。
昨今、特にうるさくなっているので冷や汗ものだったろう。
「助かった…で、こいつ等に何か?」
「今、どこにいるのか知りたいんだ」
「ようがす、周りくどいのもでぇッ嫌ぇだ。旦那の気風の良さに恐れ入谷の鬼子母神、と」
しばらく写真を眺めていた主が口を開く。
「こいつ等はウエの方から頼まれて預かった若い衆でさァ。根気がないのかあっと言う間
にいなくなっちまいやがった」
「ウエの方ってのは?」
「この辺りを仕切ってる竜神会五代目」
「ありがとう。邪魔したね」
1977(仮名):04/03/03 02:32 ID:???
関東・東海地区の香具師集団を束ねる竜神会五代目は老齢ながらも現役であった。
今日も今日とて縁日に店を出してタコ焼きを売っている。
「タコ焼きひとつください」
威勢良く応えて鉄板の上の、程よく焼けたタコ焼きをパックに乗せていく。
「はいお待ち。400円でぇす」
「じゃ、これを。…ところでご主人、折り入ってお願いがあるんですが」
老人の手が止まり、客の顔を覗き込む眼光が鋭いものになる。
「ウチはタコ焼き屋だ。喰うもん喰ったらさっさと帰んな」
「最近のタコ焼き屋は人手不足なんですかね?戦自からバイトを取らなきゃならない程に」
「…何者だオメェさん」
リョウジのかけたカマに老人は引っかかった。
「唯のドブネズミですよ。ドブネズミがキレイな仕事に憧れただけです」
「何を知りたい?」
視線を鉄板に戻してタコ焼き作りを再開する老人。
「この男達の所在と、彼等を送り込んだ人間の名前を」
胸ポケットから五枚の写真を取り出すとリョウジは一枚ずつ老人に見せる。
手渡さないのはタコ焼き作りを邪魔しないためだ。
「居場所は知らねェ、2日でいなくなっちまったからな。頼んできたのは太田のダンナだ」
「校長が…?」
「ん?…オメェさんも知ってるか。そうだよなぁ、年からすりゃあセカンド・インパクト
を経験してっだろうからなぁ」
老人の目が遠い処を見る。
リョウジが『校長』を知っている理由は老人とは異なるのだが、それは口に出さない。
会話が途切れた所でリョウジはタコ焼き屋を後にする。
次は第2新東京市に向かわねばならない。
1987(仮名):04/03/03 02:33 ID:???
第2新東京市・エンゼル・カンパニー本社・受付。
シェアこそ中堅だが「子供」をキーワードにした商品開発に関して定評のある会社だ。
「企画部第11課課長の霧島ミノルさんにお会いしたいのですが」
「…?申し訳ありません、弊社の企画部は第8課ま…」
「新人が失礼致しました。代わって私・栗栖が承らせて戴きます。失礼ですがアポイント
メントは御取りになっておられますか?」
訝しげな表情でリョウジの応対をしていた女性が同僚の態度を見てさらに表情を変える。
「いえ。出張でこちらに来たものですから、つい。箱根土産を持ってきたんですよ」
「左様でございますか。ただいま端末で所在を確認致しておりますのでもうしばらく
お待ちくださいませ」
カウンターの下ではものすごい勢いでキーボードを打っているのであろうが、表情は澄ま
したままだ。
「大変お待たせ致しました。企画部第11課の霧島は現在出張中にて不在にしております」
「いつ帰られますか?」
「予定では8月10日となっております」
「そりゃ残念…これ、生ものなんで君達で食べてくれないかな?それから、先日撮った写
真も渡してください」
リョウジは取り出した写真をカウンターに並べて二人に見せる。
「頂戴致します…お客様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ネルフの加持です。じゃ」
ゆっくりとした足取りで玄関に向かっていたリョウジが不意に振り返る。
「ところで君達、霧島ミノルさんの顔を見た事、あるかい?」
「はい、もちろんでございます」
「あぁ、そう。それなら良いんだ」
不安そうな表情の受付穣が慌てて電話をかけている。
彼の部署・企画部第11課は存在しないか、あるいは極秘扱いの部署なのだろうか?
いや、霧島ミノルなる人物はここで仕事をしていないのだ。
「人の顔を覚えることが仕事の受付嬢が、彼の顔を認識できない…か」
リョウジの見せた写真は、年恰好こそ似ているがまったく別人のネルフ職員なのである…。
1997(仮名):04/03/03 02:34 ID:???
霧島家本宅の周辺やマナが在籍しているはずの学校などを、リョウジはその巧みな話術と
トリックで調べて回る。
あちこちでネルフの名前を出すのは、霧島家に対する警告とプレッシャーだ。

調査の結果、存在する痕跡は確かにあるものの、それは非常に弱々しく曖昧だった。
霧島ミノルは出張の多い一流企業に勤務するサラリーマン。
霧島ミサオは病弱な娘のためにあちこちの療養地を旅している。
霧島マナは身体が弱くて学校にもたまにしか出席せず、家にもあまりいない。
そんなイメージしか周囲には残されていない。
そして決定的なのは、霧島家の人々の写真をダミーを混ぜて見せるとほとんどの人が区別
できなかった事だ。
無論、近所付き合いの悪い人や都会ではこの様なケースは少なくない。
だがリョウジは霧島家の人々と直接話をした経験から確信している。
彼等は実に社交的であり、何らかの意思を持ってその存在感を消しているのだ、と。
2007(仮名):04/03/03 02:35 ID:???
リョウジはいくつかの仮説を立てていた。
霧島ミサオは戦自の情報将校であり家族には秘密にしている。
霧島家の構成員全てが戦自の情報部員であり、プロフィールは全て偽装工作である。
霧島家の人々は血縁関係にあり、その中の誰かを家族で守っている。
霧島家の人々はアカの他人だが、同一組織に所属しその目的達成のために協力している。
…しかしどれも上手い説明にはなっていない。
あの一家には何らかの矛盾が存在しているはずなのだが、それが解らない。
まずいインスタントコーヒーを入れて一息つく。
そして何故自分がここまでこの一件に深入りするのかを考えてみた。
原因がマナなのは間違いない。
ではそれは何故なのか?
リョウジの脳髄で突然稲妻が閃く。
霧島母子と碇父子の関係が似ているのだ!
リョウジの口から低い笑い声が漏れ、肩が小刻みに震える。
やがてそれは次第に大きくなり、しばらくの間室内に響き渡った。
笑い声はやがて空虚なものとなり、消えていった。
「ミサオさんと碇司令が似ているとはね…ははは、なんてこった。おっかなくて当然じゃ
あないか…」
リョウジの笑いは自嘲気味なものに変わっている。
何故マナに対してこれほどまでに肩入れするのか?という理由にリョウジは気付いた。
マナに対する「それ」は、直接シンジを助けてやれないリョウジの『補償行為』なのだ…。
ぬるまって不味さの増したコーヒーをリョウジは飲み干した。
2017(仮名):04/03/03 02:36 ID:???
山伏峠の南斜面に一本の桜の木がある。
ここしばらく花を咲かせていなかったのだが、なんと満開の花びらで覆われている。
ニュースでも取り上げられ「春」の風情を楽しむ人達で賑っている。
理由は簡単な事だった。
一ヶ月ほど前に現れた使徒の狙撃作戦がこの辺りで行われたのだが、その際に冷却装置が
壊れて辺り一面に冷却剤が漏れ出して気温が急激に低下した。
その冷気を冬の到来と勘違いした桜が季節外れの花を咲かせたのだ。
「バカ桜」
年寄り達はそう言いながらもその桜を愛でている。
セカンド・インパクト以前には、初冬の急激な冷え込みの後や、小春日和が長く続いた後
などにも見られたのだが。
人気が途絶えた夕刻、その桜の木の根元に二人の少年が何かを埋めている。
トウジとケンスケだ。
頑丈で、しかもデザインの良い小瓶にケイタから預かった写真とハンカチを入れる。
血がべっとりとついたその写真は、考えた末にきれいに拭いてある。
ハンカチはその時のものだ。
ケンスケが桜の幹にナイフでケイタの名前を彫る。
ケイタのフルネームはコナツが知っていた。
トウジ達のげんなりとした雰囲気からその死を察したコナツが教えてくれたのだ。
「おニィ、忘れんとってな。兄ちゃんの名前、浅利ケイタ言うねん。絶対忘れんとってな。
誰かが憶えといてあげんと、兄ちゃんが生きとったことも残らん…」
二人は線香に火をつけて手を合わせる。
「オマエの事は一生忘れん!オマエのやったでっかい事も、一生忘れん!」
「時々会いにくるよ。約束は守ったから、ゆっくり休んでくれよ」
夕焼けで真っ赤に染まった空に線香の煙が立ち昇っていく。
2027(仮名):04/03/03 02:38 ID:???
「問題は、シンジのヤツにどう説明するか、や」
「情緒不安定なトコ、あるからなぁ。おまけに使徒にコテンパンにされちゃったし」
「ここはひとつ様子を探りながら陣中見舞いかのぅ」
「念の為、委員長も誘おうぜ。アスカの相手をしてもらおう」
「よしゃ。ホナ電話してみるワ」
トウジの親指の動きを見ていたケンスケの目が輝く。
市内局番ではなく、携帯の番号をダイヤルしているのだ。
「…なぁ、トウジ。いつから委員長の携帯番号知ってんの?」
「お?あ、さーていつからやったかなァ?」
「水臭いじゃないかァ、トモダチだろォ?そう言えば夏祭りの夜、どうなったのか聞いて
ないなぁ」
「待て待て待て。電話中や!」
コール一回、すぐに電話がつながってヒカリの声がする。
『どうしたの?鈴原』
「へぇ、委員長もトウジの携帯番号知ってるんだ」
『え?相田君?何何、どうしたの?』
『あーいや、何でもあらへん。チトシンジのヤツが心配やさけ、様子見に行かんか?』
『そだね…。じゃあ一時間後にシンジ君ちに』
『ん、わーった』
電話を終えたトウジをニタニタ笑いのケンスケが見ている。
「なんやなんやそのイヤシ笑いは」
「コール一発ですか、お盛んですなぁ」
「アイツが几帳面なだけやんか」
「『アイツ』ですか。ホホォ、亭主関白ですなぁ」
常日頃からシンジをからかっていたトウジであったが、これはかなりキビシイものだとい
うことが実感できた。
2037(仮名):04/03/03 02:39 ID:???
コンフォート17マンション・エレベーター内。
「…と言う事でシンジにすぐに事情を説明するか否かを見極めるために来た、って訳さ」
「落ち込んでいたら当分秘密ね」
「そう言う事」
11階で止まりドアが開くと独りの少女がチャイムを押しているところだった。
「なんや、霧島はんやないか」
「あ〜トウジ君だぁ…マナと呼ぶって言ったのにィ」
「どうしたの?」
「んとね、シンジ君のお見舞いにクッキー持って来たの」
「うわぁすごい。手作り?」
へへへっ、とマナが得意そうに笑う。
「ママがいなかったから初めて独りで作りました〜ぁ」
「チョト味見を…」
「鈴原、お見舞いに持ってきた物を先に食べちゃダメじゃない!」
「ホナ、早ォ入らんかい」
チャイムを押すトウジ。
「「はァ〜い」」
中からハモった声が聞こえる。
ドアが開いて出てきたのはペアペアルックに身を包んだシンジとアスカである。
「おおぉお!」
「今頃まさかのペアルックぅ?イヤ〜ンな感じぃ」
「せっかく心配して来たのに…フケツ」
「これは許せんなぁ…チィと説明して貰おうやないか」
ケイタの顔が脳裏に浮かんだトウジは自分の事をタナに上げて凄む。
2047(仮名):04/03/03 02:40 ID:???
「何や、そう言う事でしたんかぁ。怒って損しましたワ」
ミサトから今回の作戦の趣旨を聞かされたトウジ達は、意外なほどあっさりと納得した。
事態が事態なので雰囲気を悪くしない様に話をあわせなさい、と言うヒカリのオーラを
敏感に察知したものと思われる。
それにマナがいるのだ。
ケイタが最後に発した言葉が人名で、この「マナ」のことだったとしたら…。
マナにケイタの死を知らせる事が怖かったし、マナの正体を詮索する事も怖かった。

「で、具体的にはどんな特訓をしてるんですか?」
「ん〜とね、24時間常に生活をすることで行動から思考まですべてシンクロさせることか
ら始めてるの。そしてあのゲームを遣って実際に行われる作戦のタイミングを掴んでもら
っているの」
「ゲーム、ですかぁ」
「そ、ゲーム。たかがゲーム、されどゲーム」
「やりたーい!」
マナが立ち上がってアピールする。
「そうねェ…レイ、相手してくれる?」
「はい」
「綾波さん、よろしくね」
「音楽、スタート」
アップテンポの音楽がスピーカーから流れ出し、足元にあるマットのあちこちが点滅する。
その点滅に素早く反応して触れるとセンサーが反応してポイントとなる。
ただしお互いが成功しなければ無効なのだ。
片方だけが抜きん出ていても意味がない。
レイはマナの様子を観察しながらプレッシャーをかけない様にしている。
初めの頃は自分のマットしか見ていなかったマナも、中盤になるとちらちらとレイに視線
を送る様になった。
アイコンタクトを使ってタイミングを計り、ポイントを重ねていく。
ゲーム終盤ではほとんどノーミスだった。
ただし結果は40点台だ。
2057(仮名):04/03/03 02:41 ID:???
「初めてにしちゃあ上等よ、例え初心者コースでもね。じゃあアタシの華麗なプレイを
見てなさい。シンジ、行くわよ」
シビレを切らしたアスカが立ち上がる。
なるほど、音楽のリズムが先程よりも早い。
めまぐるしく点滅するマットと追い回すかの様なリズム。
先程のマナの様に下ばかりを見ているシンシと、シンジには目もくれずに次々とクリア
していくアスカ。
息を整えながらそんな二人を見比べているマナ。
ふと横を見ると正座したレイがやはり二人の動きを見つめている。
マナは思わず微笑んでしまう。
こうやって二人の動きとそのクセを掴んでいるのだ。
「ねねね、綾波さん、後でも一回やらない?」
こくりと頷くレイ。
「まーったくどーしてアンタはそうドジなのよッ!」
ゲームオーバーを告げるブザーと共にアスカの怒鳴り声がする。
「はーいメンバーチェンジ。レイ、アスカと交代して」
「はい」
再び音楽が鳴り出してマットが点滅する。
レイはシンジの動きに合わせながら着実にポイントを稼いでいく。
いつもよりブザーが鳴らないのでシンジも落ち着いて動ける。
結果としてミスも少なくポイントも高くなる。
「何?どー言う事、これ?」
アスカが呆然としている。
そして中盤、シンジがいつもミスをする箇所でかけ声がかかる。
「赤、青、黄、赤、緑、赤」
その声にシンジが反応する。
マナが点滅する場所を教えているのだ。
難関をクリアしたシンジはその後も着実にポイントを重ね、結果としてアスカとのプレイ
より高得点を挙げた。
2067(仮名):04/03/03 02:42 ID:???
「はン!人に教えてもらいながら高得点を出しても無駄よ。本番では…」
「本番では忽流さんが合図してね」
ニコニコしながらマナが言葉を受ける。
「どーしてアタシがそんなことをしなくちゃあならないのよッ!」
「だってこの作戦は二人の共同作戦なんでしょう?」
「そりゃあ、そうだけど」
「だったら、仲間に対しても責任を持ってね」
「そんな事、部外者に言われる筋合いじゃあないわよ!」
「そう、私は部外者。でもね、私はみんなのことが大好きなの。だから…」
「…」
「忽流さん、あなたはもっと周りに目を向けるべきだと思うな」
マナの雰囲気がいつもと違う。
「それから、シンジ…。キミはもっと自信を持つべきだゾ」
言い終えると立ち上がり、へへへっ、と笑うマナ。
「あぁ!ナマイキ言っちゃった。ではでは私はこれにて」
そう言うとミサトの部屋を飛び出していく。

呆けているシンジ達。
「なァ、もう夜やで。送っていかんでもえェんかいな」
「ぼ、僕、探してくる!」
急いで外に出たシンジは道路を走っていく足音を聞いた。
フェンスから身を乗り出して見ると見覚えのある後姿が走っていく。
「マナーーーーッ!」
その背中に叫んでみたが足音は遠ざかるばかりだ。
階段を駆け下り、走り去った方角を眺めたが人影は無かった。
それから、マナの姿が見えなくなった。
2077(仮名):04/03/03 02:45 ID:???
8月7日〜8月10日
シンジとアスカはユニゾン特訓中です。

┏━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃\       ( (   ) )            /┃
┃  \____________/  ┃
┃    |       '⌒⌒ヽ      |    ┃
┃    | '⌒⌒ヽ ′从 从)     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┃     ′从 从) ヽゝ゚ ∀゚ν   < ユニゾン〜
┃    |ヽゝ゚ ∀゚ν  ゚し-J゚   / \________
┃  / ゚̄し-J゚ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄<   ユニゾン〜
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ズレたかな?

2087(仮名):04/03/03 02:47 ID:???
8月7日 ネルフ本部・リツコの私室。
「りっちゃん、何も聞かずにMAGIを使わせてくれないか」
「唐突な話ね。何をする気?」
「…人探し、さ」
「誰を?」
「…幽霊、かも知れん」
「戸籍の無い人間と言う意味なら困難よ。何しろ記録がないんだから」
「写真だけじゃあダメかな?」
「相手次第ね…犯罪者で前科があれば簡単なものよ。でもそうでないなら」
「やはり無理、か」
「当然じゃない。無国籍の人間が今の日本に何人いるのか解る?」
かぶりを振るリョウジ。
そうなのだ。
過去、日本は戸籍制度によって世界有数の管理社会を形成していた。
だがセカンド・インパクト以後、様々な理由によって戸籍を失ったものが増えた。
ある者は売り払い、ある者は難民として日本に流れ込んだが故、ある者は日本で生まれな
がら登録されなかったため…。
「ま、いい。出来る限りの範囲で調べてくれ。写真はこれ。あと、このメモの名前も調べ
てくれないか」
「高いわよ」
「土佐のカツオブシ、一ダースでどう?」
俯いて笑いをこらえるリツコ。
「…お気に召さなかったかな?」
「猫を絡めたらどうにかなると本気で思ってるの?」
「かなり」
「…解ったわよ、やるわ」
「ありがたい」
2097(仮名):04/03/03 02:48 ID:???
8月8日〜8月9日
トウジ達は手分けして第3新東京市をウロついてムサシを探していた。
手がかりは一枚の写真とレイの記憶のみ。
身長160cm前後、痩せ型、髪の毛はやや紫がかった青、頭部に深い裂傷、肋骨骨折。
年齢は14歳くらい、群馬県霧積温泉近くで倒れているところを発見…。
素人探偵には荷が重い任務だった。

プロの調査員はジグゾーパズルのピースが足らないことに気付いてはいたが、それが何な
のか解っていなかった。
そしてその鍵は素人探偵が握っていた。
だが両者は連携が取れていなかった。

両者の連携を図れる者は存在したが、その存在は完全に無視されていた。
…最近の評判がすこぶる悪いからだ。
「14歳の少女を山奥の露天風呂に誘った男」三尉である。

夏休みとはいえ、連日の外出により勉強の計画に支障が出てきた時、三尉はその任務を
忠実に遂行しようとした。
帰宅したレイを呼び止めると少年達の秘密の計画を小一時間かけて問い詰めた。
藻前等はただサボりたいだけちゃうんかと…。

「成る程、大体のことは解った。トライデントと99旅団に関してはオレが調べる。レイ…」
「…はい」
「もっとオレを信頼してくれ。秘密を作らないでと言ったのはキミだろう?」
「はい」
「オレはキミよりも、強い。ドーンと来い超常現象」
くすり、とレイが笑う。

大人の機動力を手に入れた素人探偵達だったが、未だ成果は現れていなかった。
2107(仮名):04/03/03 02:49 ID:???
8月10日
三尉はリョウジの元を尋ねた。
一連の事件について情報を仕入れると同時に、素人探偵の安全の確保を依頼した。
レイに関してはさほど心配する必要はないが、他の子供達はまったくの素人なのだ。
よくも大事に至らなかったものだと思う。
実際、既に死者が出ているのだ。
問題は何の解決もされておらず、未だ相手組織の情報も少ない。
そこで三尉はもうひとつの現場である霧積へと向かうつもりなのだ。
だがそこは戦自のサバイバル訓練場のひとつであり、いわば敵地だ。
単独行を余儀なくされる。
だがリョウジも第2新東京市に出向かねばならない。
霧島ミノルが出張から帰る予定なのだ。
護衛計画が初手から頓挫しそうになり頭を抱える二人。
「…仕方が無い。奥の手を使おう」

「いい加減にして貰いたいわね」
目の下にクマを作ったリツコが不機嫌そうに言い放つ。
「カツオブシ1箱であちこちハッキングさせておいて、今度は林間学校の引率ですって?」
「いや、しっかりした子がいるから実際は何の面倒もみなくていい。ただ万が一に備えて
ジオ・フロントでキャンプさせたいんだ」
「好きにさせればいいじゃない」
ハッカタバコに火をつけながらそっけない返事のリツコ。
「ミャオリンガル・キティちゃんバージョンでどうかな?」
「…解ったからもうそのネタやめて頂戴。イメージが壊れそうだわ」
何はともあれ、子供たちの安全は確保され、大人達は安心して戦いに臨む。
2117(仮名):04/03/03 02:50 ID:???
1泊2日のキャンプを強制させられたトウジ・ケンスケ・ヒカリの三人はついでに夏休みの
宿題を片付けている。
ネルフ本部を前にして興奮冷めやらぬケンスケはなかなか集中できない。
それとは反対に、意外にもトウジが真面目に宿題を片付けているのだ。
「どしたのトウジ?珍しいわね」
「ん?こないだの霧島はんの様子がナ…」
「ちょっとヘンだったわよねぇ…」
真面目な顔で黙々と鉛筆を動かすトウジと、ボーッとしているヒカリ。
「もし、やで。もし、霧島はんとケイタやムサシが仲間やったとしたら、霧島はんは何を
しぃにココに来たと思う?」
「そんなこと、私に解る訳ないでしょう?」
「おそらくはエヴァの偵察かスパイだね」
浮かれていたケンスケが会話に加わる。
「やっぱそうなるんか…」
「当然だろう?JAは民間開発だったからまだあの程度の性能でもいいけれど、トライデン
トは次期決戦兵器になるはずだからね。エヴァの技術はどうしても欲しいところさ」
「でも、エヴァはロボットじゃないって碇君が言っていたわ」
「装甲、兵器、操縦系統。どれをとっても一級品の軍事機密だよ」
「じゃあやっぱり霧島さんはスパイなの?」
「解らへん…ひょっとしたらお袋さんが本物なんかも知れんしナ」
「有り得る有り得る」
「ユウタはバレたんで口封じされたんやろ…あないに手際よぅ事故が起こるかいな」
「車は盗難車だったしな」
「それより、どうして相田君はあの子が偽者のムサシ君だって判ったの?」
「写真さ。もし委員長が一枚だけトウジの写真をもらえるとしたら、どんな写真を選ぶ?」
「…笑った顔、かな?ううん、出来れば一緒に移った写真…」
「そう、普通ならそんなもんだろ?しかも大親友で、肌身離さず持つための写真なんだ…
ケイタが持っていた写真が良い例だよ」
「確かに、ナ。ニセモノのやつは身分証明書みたいな写真やったな」
「ま、確信は無かったけどね…準備だけはしておいてよかったよ」
2127(仮名):04/03/03 02:51 ID:???
8月10日 第2新東京市 エンゼル・カンパニー本社第5応接室。
応接室とは言うものの、それは明らかに客をもてなす部屋ではなかった。
狭い窓、暗い照明、中央に置かれたスチールデスク、ろくに仕事をしないエアコン…。
そのスチールデスクにパイプイスを近づけて男が座る。
霧島ミノルだ。
「ま、おかけください。こんな所ですが茶くらいは出しますよ?」
「いえ、けっこう。それよりどちらにご出張ですか?」
リョウジもパイプイスを持ってくる。
「ふははは…。どこまでトボけるつもりかな?いろいろ調べ回ってるじゃあないか」
「調べましたよ?見事に二重生活をしていますな」
シガレット・ケースからタバコを取り出してジッポで火を点ける。
漂う芳香。
美味そうに煙を吐き出すリョウジ。
「ふふふ、いい度胸だ。私の正体を知っているのなら、ここでの身分もウソだと解ってい
るだろう?ここを隠れ蓑にしていられるのだから、ここで何があろうと全ては闇の中だと
言う事も解っているのかね?」
「ええ」
ゆったりと煙を吐き出しながらリョウジが応える。
半分も吸っていないタバコを灰皿に置き、二本目に火を点ける。じゅうきゅう
再び、甘い芳香が狭い空間に広がり、紫煙が漂う。
「少しは加減が出来んのかね。仮にも人の会社だぞ」
ジッポを弄びながら火を点けたり消したりするリョウジ。
「タバコはお嫌いですか?」
「嫌いじゃあないが…これは酷すぎる…」
リョウジはまた吸いかけのタバコを灰皿に置き、三本目に火を点ける。
ジッポに火が点く度に漂う、仄かな甘い香り。
狭く暗い室内に紫煙が籠もり、ジッポの炎がゆらゆらと揺らめく。
一本、また一本と、矢継ぎ早に火を点けるリョウジ。
「なにをしているのかね。こちらの用件を先に済ませようか」
「…出来ますか?」
2137(仮名):04/03/03 02:52 ID:???
リョウジの言葉に毒針を感じた霧島ミノルはヒップホルスターに手を伸ばす。
いや、伸ばそうとしたが右手がやけに重い。
紫煙の向こうでジッポの炎が揺らめいている。
頭が痺れ、身体が宙に浮く様な感じがする。
霧島ミノルの瞳に霞がかかる。
パイプイスにぐったりともたれ、半開きの口からはヨダレが垂れる。
「良い部屋ですね、助かりましたよ。いかがですか、アヘンの効き目は?」
「…あへ、ん…」
「こういう時のために栽培しているんですよ、違法ですがね。…ま、我々の仕事に違法も
合法もありませんが」
「な…ぜ…お、前は」
「以前シャンハイで仕事をした時にジャンキーにされかけましてね。それ以来、耐性がつ
いたらしいんですよ」
「…」
「このジッポにも細工がしてありましてね。オイルに催眠剤を混ぜてあります。そして炎
の揺らめきがこれらの効果を倍加させます…」
「オレを、ど…す…」
「出来ればあっさり口を割って頂ければありがたいですがね。さもなければ」
「ころ…す…か」
「さてね。さ、これをよーく見て」
霧島ミノルの眼前にゆらめく炎が近付いていく。
2147(仮名):04/03/03 02:53 ID:???
8月10日 群馬県・霧島温泉。
三尉は宝探しにきていた。
トライデントという、戦自の宝を。
ムサシという少年がトライデントを持ち出したのなら、この辺りに隠してあるだろうと考えたのだ。
性能にもよるが、山中か湖・ダム。
霧積近辺は人里離れた場所なので一般人に見つかる心配はない。
戦自と言えども一年中ここに駐屯している訳でもないので、可能性は十分にあるはずだと
思っている。
手始めに碓氷湖に潜ってみたが成果はなく、今は霧積ダムに来ている。
空中から発見できないとなれば余程上手く足跡を消したか、トレーラーで運搬したか?
…いや、この道では巨大トレーラーの進入はムリか?
ま、潜れば解る。
周囲を警戒しながら深緑色をした湖水に潜る。
水中ライトを使っても視界はすこぶる悪い。
ボンベがカラになりかけた時、三尉はソレを見つけた。
四肢を屈めた姿勢のまま、ソレは主人の帰りを待っていた。
三尉は用意してきた爆薬をコクピット周囲にセットする。
これ以後、たとえ戦自が発見したとしても簡単に移動させないためだ。
酸素ボンベがカラになり、慌てて岸に上がるとそこは車からかなり離れた場所だった。
それが幸いした。
よく見れば三尉の乗ってきたパジェロの周りに二人組の兵士が立っている。
湖面に銃を向けて。
三尉はウェットスーツを脱ぐとTシャツと海パン姿でジョギング中を装いながら二人組に
近付いていく。
「何か釣れるんですかぁ?」
「バカが顔を出すのを待ってるのさ…あ?」
ごく日常的な光景に不審を持たなかった兵士ではあるが「ここ」がどんな場所なのかを思
い出すのに5秒とはかからなかった。
だがその5秒の御蔭で三尉は有利なポジションからの不意打ちを行えた。
2157(仮名):04/03/03 02:54 ID:???
兵士達をパジェロに放り込むと三尉は戦闘服に着替える。
ここに兵士達が居たということは、既にトライデントは戦自に発見されていると言う事だ。
しかも三尉が潜って一時間しか経っていないのに見張りが待ち構えていた。
と言うことは、この近くに部隊がいるに違いなかった。
好都合だった。
子供達から注意をそらす為には大人達が目立つ必要があるし、何より証拠のトライデント
を確実に確保しておきたかった。
いざとなれば「取引」の材料になる。
三尉は車を霧積温泉へと走らせた。

出迎えたのは一人の初老の男―宿の料理人―だけだった。
「こんちは。また来ました」
「只者じゃあないとは思っていたが、ここまで来たなら事情は解っているな?」
「えぇまぁ。…で、口封じに」
「ふっ、こりゃあ驚いた。たいした自信だな」
「そうしないと有利な取引が出来ないので」
「そのためにはリスクを背負わねばな…」
「リュックなら背負ってますが」
背中のバッグを見せる三尉。
「結構結構。ではこれからゲームといこう。我々はサバイバル訓練中だったんだが、君に
も参加してもらおう」
「ハイ、センセー!武器を貸してくれますか?」
「サバイバル訓練だからな…自分で調達してもらおう」
「じゃあ車に積んであるヤツを…」
その時、屋外から爆発音が聞こえる。
「ズルはイカンよズルは…少し早いな?」
三尉の車を爆破するのは、三尉が車に近付いてからの予定なのだ。
見れば三尉はバッグから携帯用ガスマスクを取り出して装着している。
「貴様!それは…」
「ガスマスクですが?」
2167(仮名):04/03/03 03:00 ID:???
判っとる!何故そんなモノを持って…いや、装備しているのかと…」
「あの車には笑気ガスが積んでまして」
「麻酔か!」
「爆弾も積んでました。勝手に車を触られるのは気分の良いものではありませんからね」
「ではさっきの爆発は…」
「爆破したのではなくて、爆発『させて』しまったんでしょうねぇ」
初老の男がトランシーバーに手を伸ばす…が、それより早く三尉の脚が初老の男のアゴを
蹴り上げる。
「拳銃を頂きますよ…ついでに家捜しさせてもらいます」
三尉は室内を物色して武器を探す。
ウジィサブマシンガンと弾倉三本、手榴弾三つ。
「…不利だなぁ」
そう呟くと三尉は初老の男を引き立ててドアから様子を窺う。
人質の存在を示して状況を有利に運ぼうというのだ。
応答は無い。
辺りを見ると燃えている車の周囲に二人の兵士が倒れている。
その装備品を狙って、三尉が初老の男を盾にして車に近付いていく。
左の林から銃撃が始まった。
初老の男を突き飛ばし、林に向かって横っ飛びでウジィを撃つ。
着地しても地面を転がって車の陰に入り、手榴弾をひとつ林に投げ込む。
沈黙が訪れる。
初老の男は額に銃弾を受けて絶命していた。
兵士の死体に素早く近付き、小銃と弾薬ポーチを奪うと一目散に道路を駆けていく…。
2177(仮名):04/03/03 03:02 ID:???
8月11日 決戦の金曜日。
自己修復を終えた使徒が第3新東京市に向けて再び侵攻を開始した。
迎え撃つは、前回の敗戦の恥辱を拭うべくユニゾンの特訓を重ねたシンジとアスカ。
そして秘策を持って臨むミサト。
再び分離して絶妙な連携攻撃を見せる使徒に対して、シンジ達も息の合ったコンビネーシ
ョンで応戦する。
そして勝利の明暗を分けたのは、地の利を活かしたX攻撃だった。
最後のツメで失敗はあったものの、結果的には使徒を殲滅することには成功した。
戦いが終わり、責任の擦り合いをするシンジとアスカのドツキ漫才で周囲の緊張がほぐれていく。
使徒は敗れ去り当面の脅威は消えたかに思われた。
だが使徒とエヴァの戦闘を神山山頂からビデオカメラで記録する者がいる。
そのカメラに一人の少女の姿が映る。
白いワンピースに身を包んだ、赤茶けたクセっ毛の少女。
その少女は恐れる風も無く、倒れている初号機の脚を伝い腹部を乗り越え肩口に立ち、
エントリー・プラグを飛び出そうとするシンジに抱きついていく。
「シンジ君、かぁ〜っこいい!」
「マナ!」
二人はもつれ合うようにしてエントリー・プラグの中に落ちる。
どぼん!という水音と共に、周囲からは一層の笑い声と口笛が起こる。

神山山頂からカメラでその光景を見ていた人物は、思わず声に出してしまう。。
「マナ、還って来るのよ…」
その声は霧島ミサオのものだった。

「やっちまったか…」
第1発令所の隅でスクリーンを見ていたリョウジが物憂げに呟く。
もはや後戻りは出来ない。
2187(仮名):04/03/03 03:04 ID:???
8月11日
マナの行動は意外な結果を生む。




次回 『ひまわり』 最終話 「別れ」
少年達の「夏休み」が終わり、新しい何かが始まる。
2197(仮名):04/03/03 03:10 ID:???
>>164-167
保守、ありがとうございます。
皆様の御蔭でDAT落ちも防げております。
>>168
いかがでしょうか?
こんな設定になっております。

まいどのことですが、長くて申し訳ありません。
…やっぱり全部書き上げてチビチビ出して言ったほうがいいんだろうなぁ
とも思う今日この頃です。
次はいよいよ最終話。がんばれます。
2207(仮名):04/03/03 03:24 ID:???
>次はいよいよ最終話。がんばれます。

_| ̄|○<…ソウカ…ガンバレルノカ
           もう日本語ヘンすぎ…
キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━ !!!!
最終話めっちゃ期待してます。
頑張ってください。
保守ぅ
保守
アゲシュ
2257:04/05/06 01:31 ID:???
すみません。一身上の都合によりGWは「ひまわり」の原稿を
一行も書けけませんでした。
投下はもうしばらくお待ちください。
…ごめんなさい。
2267:04/06/04 01:53 ID:???
保守です。
あげしゅ
保守です
畑でも耕しつつ保守

  ~〇    ~〇    ~〇    ~〇
  /\ ヽ /\ ヽ  /\ ヽ /\ ヽ  、   、  、   、  、
 ∧  ¬ ∧  ¬ ∧  ¬ ∧  ¬ (}|{) (}|{) (}|{) (}|{) (}|{)
トウジとケンスケがアスカの名前を呼ぶ時に
「惣流」と呼んだり「アスカ」と呼んだり安定してないね
デフォは「惣流」なんだけど
わたしはあげた
>>230
例えば本編第九話冒頭、アスカの写真を売っているトウジとケンスケのシーン。
「ネコも杓子も、アスカ、アスカかぁ」

アスカに向かって呼びかけているのではないがこう呼んでいる。

貞本版第5巻
ここでシンジはアスカのことをたいてい「惣流」と呼ぶのだが
寝言を言うアスカを見て、モノローグにて「アスカ」と読んでいる。

いろいろなことが考えられるのだが、その場面において呼び方が変わってもいいのでは?
で、デフォって絶対なのだろうか?
いかに「それらしさ」を出すか、って言うテクニックのひとつでは?
>>232
>「ネコも杓子も、アスカ、アスカかぁ」
これは周りの人間がアスカ、アスカと騒いでいると言っているのであって
トウジとケンスケがアスカと言っているのではないのでは。

ケンスケは普段アスカの事を惣流と呼んでいる
しかし、周りの人が惣流の事をアスカ、アスカと言っているのを聞いた
ケンスケはトウジに「周りの人がアスカ、アスカと言っている」という
これではケンスケが惣流をアスカと呼んだ事にはならない

シンジの場合は惣流とアスカが混在する(最初の頃は前者で後は後者
親しくなるにつれ変化していったのかな

思春期の子供達が異性を名字ではなくあだ名でもなく名前で呼ぶのは特別な意味を持ちやすい
よほど近しい仲か、近しくなりたいか
デフォ=絶対では無いが、その場面ゝにおいて呼び方を変えるなら前述した部分を考えて使い分けないと違和感が出てくる
このスレ読む限り、テクニック云々じゃなくて単に書き間違いじゃないかと思えるが。
デフォとか書いたのが余計だったのかね
あくまでデフォはデフォであって絶対ではないよ

語りかける相手によって使い分けるってのは有るだろうし
惣流からアスカへと変化していくのなら二人の距離が縮まったんだなと思えるが
無秩序に混在しているようなのでね
これは書き間違いしてるんだな、と
そこで、通常は惣流ですよ、と書いただけなんだが
一つの作品内では統一しといた方がいいとは思うけどね。
そんな長期間の話でもないし。
まぁいいから続き…いや最終話を書けと小一時間(ry
保守
保守
喪主
240猪狩シンジ:04/10/12 23:20:12 ID:???
age
保守
マダー
2437:04/10/28 00:09:19 ID:???
>>221
ありがとうございます。
最終話はもちろん書きますとも。
>>222-224
保守ありがとうございます。
>>227-228
保守ありがとうございます。
>>229
もうすぐ収穫ですね。ごめんなさい。
>>.230
ん〜気付かなかったぁ。
>>231
ありがとうございます。底上げ感謝。
2447:04/10/28 00:10:24 ID:???
>>232
擁護論感謝。
>>233
ん〜既に記憶が曖昧なので良くわかりません。
サイトにアップするときにまた考えます。
>>234
了解しております。
>>235
はいはい。
>>236
すみません。
>>237-241
保守ありがとうございます。
>>242
まだです。もう少しお待ちください。
2457:04/10/28 00:14:38 ID:???
何故こんなに時間がかかるかといえばパソコンの調子がものすごく悪いんです。
実は夏に新しいのを買ったんですが、窓を開けて外出したスキに豪雨に襲われてオシャカになりました。
しかも2台とも!新品のパソコンが2台、アッと言う間にパァです。書いていたデータ共々に(泣)

古いのは下取りに出してしまっていたのでしょうがなく中古のパソコンを買ったのですが、コレがまた酷い。
疲れてコーヒーでも入れようと思って2〜3分放置するとフリーズするのです。
システムディスクはなし。再インストール不可。
休まずひたすら書き続けなければならない体力勝負なのです。
そんな時間と心の余裕がありません。
こうなったら冬のボーナス待ちですよ、えぇ。…一年間で3台もパソコン買うか、普通?

短いモノならなんとか一気に書けるのですが、この話は毎日少しずつ、ってのは難しくてどうもいけません。

そんなわけで12月を目安にしております。
仕事も11月に小さなヤマ場が…。

ご め ん な さ い !
2467(仮名):04/10/28 00:16:49 ID:???
名前に(仮名)を付け忘れてしましますた…_| ̄|○
わしはみた
何を?
ほしゅほしゅせっせ ほしゅせっせ
わたしも見た
2517:05/01/04 02:18:47 ID:???
あけおめ ことよろ

…すみません、間に合いませんでした。

ゆっくり頑張ってね(はあと
253:05/01/21 13:30:40 ID:???
0
何を見た?
2557 ◆gGjVpethkg :05/02/17 22:41:55 ID:???
>>254
…とりあえず「ひまわり」最終話を見ていただければと…。

パソコン買い換えました♪
これできっと執筆速度も早くなると思われ。
カルイですサクサク動きますウレシイですし払いが大変ですw
三月中にはなんとかしたいな、と…

保守してくださいました皆様、ありがとうございます。
はぁ〜一年間ひっぱっちゃったよ…

あ☆思うところがあってトリップをつけてみました。
どぞ
2577 ◆gGjVpethkg :2005/03/27(日) 22:32:22 ID:???
ご無沙汰しております。
三月中に最終話を投下する予定でしたが筆が暴走して没ネタになってしまいました。
…特殊なエロなんですが…そんなのを2本もw
あまりにもマナが可哀想なので純真なマナファンの目には触れさせないほうが良いかと…。
一方、マナをいぢめる方のキャラにもファンがいますのでこちらにも差し障りがあるかと思われます。
…そんな話、見たくない!と言う方、挙手をお願いします。

そうそう、最終話は来週には完成致しますさせますすみません。
今しばらくお待ちいただければ幸いです。

あと少し
もう少し
終わったら最終兵器彼女のDVD見てやる!(ヲイw


258名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/03/27(日) 23:47:31 ID:???
はい!!激しく読みたいです!
楽しみにお待ちしてますよー!
259名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/03/28(月) 01:48:32 ID:???
この話にゃ無意味なエロは必要無かろう?
非エロ作品があっても良いじゃないか。
2ちゃんのネタは確かにエロが多いし注目もされるが、全てがそうである必要もない。
…で、いぢめるキャラはやっぱり、〇〇〇?
260名無しが氏んでも代わりはいるもの:時に、西暦2015-10/04/01(金) 23:12:20 ID:???
一瞬、私達はあの世界と同じ時空にいる様な錯覚を憶える。


…日付の事ねw
2617 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:43:47 ID:???
『ひまわり』最終話「別れ」


その前日、8月10日
芦ノ湖湖畔・霧島家の仮住まい・リビング。
「先日展開された『使徒』と呼称される謎の生命体との戦闘において浅利ケイタ軍曹が犠
牲となった」
そう告げたミサオの声には何の感情も含まれてはいない。
…ケイタの階級は伍長ではなかったか?
二階級特進、その意味するものは…。
聞いているマナはピクリと身体を震わせただけでその場を押さえた。
「死亡原因は脱出時の衝撃による内臓破裂・骨折・頭部外傷・及びそれらによるショック。
トライデントM型に搭載された脱出装置の耐衝撃性能に問題があった事は明白だ」
それは半年前の実験でも指摘された事であり、兵器廠開発部が改良済みと太鼓判を押した
はずだった。
「運用実験を担当する我々としてはこれ以上の人的損害を看過できない。よって作戦目標
を『エントリープラグ』唯一点に絞りこれを実行する」
緊張によるものか、唇を噛むマナ。
「『使徒』の活動再開予想日は明日。それに伴いエヴァンゲリオンが再度出撃する。貴官は
臨機応変に対処しエントリープラグに潜入・情報収集にあたれ…最優先はLCL保護溶液」
「情報の運搬方法及び回収作業はどうなさるおつもりですか?」
「このペンダントに内蔵されたオート・カメラで内部を撮影。LCL保護溶液を採取・収納し
これを屋外に遺棄せよ。連絡員が回収する」
2627 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:44:58 ID:???
「…了解しました。命に代えても任務を遂行します」
小さく敬礼すると小声で応える。
「…死ぬ事は許しません。必ず、生きて還りなさい」
語調を変えたミサオだが相変わらずの無表情である。
「お言葉ですが…」
「ネルフ内部で死亡した場合、我々に対してどの様な圧力が生じるか解らない。だが実行
犯である貴官が我々の管理下にあるならばどのようにも対処は可能だ…物的証拠も然り」
一瞬、労わりの言葉を期待させたミサオの言葉の真意は現実の残酷さを表していた。
「…それは一佐が『事後処理』をされると理解してよろしいでしょうか?」
低く沈んだマナの声からかすかな毒気が感じられる。
「自決する覚悟があるのなら、それは有効に使わせて貰う」
「了解しました」
もう一度敬礼をして踵を返すマナ。
その背中にミサオが声をかける。
「ムサシ・リー・ストラスバーグは優秀なパイロットだ…いや、他のパイロットも含めて
大切な人材だ…欠陥品の犠牲にはしたくない」
「だったら!」
思わず振り返ったマナの眼に顔に「怒り」が溢れている。
しばらくミサオを睨んでいたマナが口にした言葉は…本当に言いたい事ではなかった。
「だったら…私のやる事はひとつです」
2637 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:46:01 ID:???
再び8月11日・初号機エントリープラグ内。
「ぅひゃあ!何これぇ?気持ちわるーい!」
シンジともつれ合う様に落下したマナがびしょ濡れになった身体を眺めながら叫ぶ。
「LCLだよ…いろんな働きがあるんだ」
かしゃ
片手で赤い液体をすくうとペロリと舐めてみる。
「うぅう、ヘンな味ィ!」
舌を出して大袈裟に顔をしかめて見せる。
「うん…僕も好きじゃない…血の匂いもするしね…。でも、これのお陰で僕達は助かっているんだ」
かしゃ
初めてLCLを飲んだ時の事を思い出しながらシンジが笑う。
と、その視線がマナの胸元に釘付けになる。
マナの白いワンピースは濡れそぼってその下着までが透けて見えていた。
素肌に張り付いた布地は少女の柔らかにカーブする体型はもとより、その皮膚の色までさらけ出していた。
かしゃ
「あっあっあの…」
顔を真っ赤にして後ろを向くシンジを訝しげに見るマナ。
やがて自分の胸元に視線を落とすと嬌声を上げる。
2647 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:47:04 ID:???
「ンもう!シンジ君のエッチィ!」
「ご、ごめん!…でッでも…」
かしゃ
振り返ろうとするシンジをマナが制止する。
「見ちゃダメぇ!今、搾ってるんだからぁ!」
シンジの視界に裾をたくし上げて太腿を露にしたマナの姿が映る。
「ご、ごめん…」
「まだよ!まだだからね!」
ばちゃばちゃっと言う水の滴る音をシンジは聞いた。
だがその時…マナは右手に隠した小さなカプセルでLCLを採取していた。
「も少し待ってね…うひゃあ、パンツぐしょぐしょぉ…」
マナの右手が下着に滑り込み、もぞもぞと蠢く。
「そこ」にたどり着いた指に…一瞬の躊躇の後、ぐっ!と力を入る。
小さなため息をひとつ。
「ん、もう良いよぉ!」
振り返ったシンジがまぶしそうに眺める。
「…全然良くないと思うよ…」
シワクチャになったワンピースはまだ透けていたのだった。
かしゃ
2657 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:48:07 ID:???
神山の林道を駆け下りるオフロードバイク。
マナが目標への潜入に成功した今、ミサオは脱出をサポートするべく急いでいた。
自力で脱出できるなら問題は無いが、一時的な身柄の拘束は十分に予想された。
場合によっては武器を携えた護衛が付くかも知れない。
その場合、救出チームによる霍乱工作の指揮を執らねばならなかった。
ミサオの計画はこうだ。
戦略自衛隊の脱走兵が「偶然」そこに現れマナとその護衛を人質に取る。
それを戦自憲兵隊(に扮したミサオ指揮下の別働隊)が強襲して人質を解放…。
強権を持つネルフが相手だが、その対象は使徒殲滅に限定されている。
そこがこの救出作戦のポイントだ。
戦略自衛隊の脱走兵問題など実質的被害が無い限り追求はされないだろうし、させない。
心配といえば、全ての人員を自分の子飼いの隊員達で固める事が出来なかった事だ。
内務省直轄の戦略自衛隊内部において更に異色の部隊故に多方面からの干渉は避けられない。
先日の木山ユウタとその監視係は明らかにミサオの命令を無視していた。
ミサオ達とは別の思惑で行動しているグループが存在している何よりの証拠であった。

トライデントの開発は戦略自衛隊内部でも反対意見は多い。
膨大な開発費は戦略自衛隊の予算を圧迫しているし、実戦配備ともなれば削減・縮小される部隊や人員も出る。
苦労して上り詰めたポストを失いたくない者も少なからず存在するだろう。
戦略自衛隊も決して一枚岩ではない。
でも…とミサオは思い直す。
第99旅団とトライデントを潰す為に「母屋」まで火の粉を飛ばすつもりはないだろう、と。
ならば…まだ可能性はあるはずなのだ。
2667 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:49:09 ID:???
「あの子は何?」
中央作戦室のモニターを見ていたリツコがリョウジに尋ねる。
「シンジ君のお姫様さ」
「ふざけないで頂戴…とても一般人には思えない動きよ」
「避暑地に咲いた一輪のひまわりさ…悪いがこれで失礼するよ」
食い下がるリツコをあしらうとコウゾウの姿を求めて歩く。

コウゾウの私室ではリョウジが取引を持ちかけていた。
口元には薄笑いが浮かんでいる。
「これから起こる面倒事、処理を任せて頂きたいのですがかまいませんか?」
「…唐突だな…何が起こる?」
報告書を読みながらコウゾウが気の無い返事をする。
「こじれれば戦略自衛隊とその後ろの内務省…日本政府と険悪になります」
じろり、とリョウジを一瞥してから報告書にサインし視線をリョウジに戻す。
「物騒な話だね。で、どうしたいのかね?」
「調停です…裏口からの」
コウゾウが小さく笑う。
リョウジの言葉に半ば呆れているのだ。
使徒殲滅と言う目的がある限りネルフの権力は絶大である。
無論、使徒殲滅後にもその権力が保持できるという保障はないのだが。
…いや、使徒が殲滅された後に待っているものは…。
そこまで思考を巡らせるとコウゾウは表情を改める。
「それでネルフにはどんなメリットが生まれる?」
「情報は、与え方によっては相手を油断させる事が出来ます」
「それで?」
コウゾウの座る机に身を乗り出して言葉を続けるリョウジ。
「JAの暴走事故の後に戦自のトライデントが実用性を証明しました。…ここでネルフの
極秘情報をつかめば、彼等は自分達の力を過信する事でしょう」
「時間稼ぎと言う訳か…しかしな」
コウゾウの眼がすぅっと細まる。
「油断させるのは良い。だがナメられてはいかんのだよ…ナメられてはな」
2677 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:50:13 ID:???
『ナニやってんのよバカシンジッ!』
エントリープラグ内部にアスカの怒鳴り声が響く。
『な、なにもしてないよ』
『ハイハイ喧嘩はそれまで。さっさと撤収準備に取り掛かってねぇ〜』
ミサトの声が二人を押さえ込む。
『それから、霧島マナさん…ちょっと付き合って貰えるかしら』
ほんの少し、ミサトの声に苦悩の色が浮かぶ。

アンビリカルケーブルが接続されたエヴァ2体は自力でクレーターから這い出すと運搬
用トレーラーにその巨体を横たえる。
やっとエントリープラグから出られたシンジ達は作業員に誘導されて護送車に向かう。
作戦終了時にそこで簡単なメディカルチェックを済ませるのだ。
その時マナが間延びした声を上げる。
「いっけな〜い!ペンダントどこかに落としちゃったぁ…ちょっと探して来るね」
そう言って外に出ようとしたマナをスタッフが制止する。
「すまないが外には出せないんだ…そう命令されてる。探し物ならウチの作業員が見付け
るから安心してくれ」
「はぁ〜い」
マナは簡易シートに腰を下ろすと両足をぶらぶらさせる。
カーテンの隙間から外を眺めながら。
2687 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:51:16 ID:???
使徒を殲滅し、エヴァが撤収してもネルフの任務は終わらない。
現場では何日間も続く作業が待っている。
使徒のサンプルを集め、破壊された施設などの被害状況を調査し、場合によっては修復作
業もする。
多くは民間企業への委託になるのだが、その全てを任せる訳ではない。
その結果、戦闘区域となった現場には多くの組織の人員が出入りする事になる。
そんな現場では末端の作業員の身分証明をいちいち正確に行わない。
無論、出入りできる場所は制限されてはいるが。

護送車の近くに居た作業員の目が右後輪に吸い寄せられた。
タイヤと地面の隙間に「写真で見せられた」ペンダントを見付けたのだ。
作業員はさりげなく、だが慎重に後輪の傍にしゃがみ込むと靴紐を直し始める。
もう一度ゆっくりと辺りを見回し、そのペンダントを拾い上げるとポケットにねじ込む。
そして何食わぬ顔でその場を離れた。

『庭にタマゴひとつ、雌鳥は鳥小屋』
ミサオの元にサンプル確保の報せが入る。
一瞬躊躇した後、ミサオは表情を引き締めて下命する。
『タマゴは夕食に、雌鳥は市場に』
サンプルを守り撤退、マナは後回しにせよ…そう告げた。

やがて護送車が現場を後にする。
車体を震わせながら未舗装路を進む護送車の中で、マナはぼんやりと外を眺めていた。
予定ではネルフ本部へのルートのどこかで「襲撃」が起こるはずなのだが…。
車窓から見える景色がネルフ本部へと続くトンネルに変わった時、マナは自分の置かれた
状況を悟る。
窓に映る自分の顔を見つめ、小さく笑った。
2697 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:52:19 ID:???
地下施設内で護送車から降りたシンジ達を待っていたのはリツコとマヤだった。
ご苦労様、といつものようにパイロットを労うと視線をマナに移す。
「貴女が霧島マナさんね?ご協力願えるかしら?」
「はい?」
にこにこしながら小首を傾げるマナ。
「貴女の身体に付着した液体…それは非常に特殊な液体です。ここで綺麗に洗浄させて
貰わなければならないの。よろしくて?」
「ひょわッ!…カブレちゃったりするんですかぁ?」
「人体には無害だから安心して…そうね、企業秘密といえば解るかしら?たとえ一滴と言えど」
「マナちゃん了解しました♪」
大袈裟に敬礼してみせるマナ。
小さく目配せするリツコ。
眉間にシワを寄せてうなずくマヤ。
渡されたバスタオルで身体を覆いながらシンジに声をかけるマナ。
「じゃあ、ね、シンジ君」
バスタオルの隙間から右手を差し出して小さく振る。
「う、うん…また、後で」
そう応えたシンジの眼には遠ざかるマナの背中がとても小さく見えた。
「なにやってんのよシンジ!早くしなさいよ」
「判ってるよ、ウルサイなぁ…」

「貴女がエントリープラグの中で浴びた液体はネルフにとって最高機密のひとつになりま
す。よって部外者がそれを持ち出せない様に対処する必要があります…よろしい?」
「はい」
「貴女にはこれから8回のシャワーによる全身洗浄と着衣のクリーニングを受けて貰います」
「はい」
「ご協力感謝します…ではこちらへ」
マヤとリツコの二人に挟まれる形で通路を歩むマナ。
リツコのヒールの音が通路に冷たく響く。
2707 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:53:24 ID:???
無数の照明と明るい壁面が相まって眩い空間が続くクリーンルーム。
全裸姿のマナが立っている。
どこかにモニターがあるのだろうとは思いつつもマナは裸身を隠そうとはしない。
隠す術もないし隠す気も無かった。
監視カメラの存在にまで気が回るのも「フツーの女の子」としてどうか?と思ったからだ。
ただ時折、腹部の傷を撫でる…これくらいなら普通だろう…事実気になっているのだし。
壁面に穿たれた無数の穴からは、温水と洗浄液があらゆる角度から噴射される。
時にはノズルを使って耳や鼻や口腔…そして陰部と身体中を丁寧に洗浄させられた。
だがそれももうすぐ終わる。
『8回目の洗浄が終了しました。最後に普通のシャワーを済ませたらお終いです』
スピーカーからマヤの説明が聞こえる。
シャワールームを出ると温風が吹き付けてくる。
髪の毛を乾かせる程ではないが、身体に付いた水滴はあっと言う間に乾燥していく。
自動ドアが開くとそこは平凡なシャワールームだった。
いくつかのシャワーが並んでいる。
ふぅ、と安堵のため息をつくと手近なコックを無造作に捻る。
だが、水は出ない。
ぷしゅーーー、と言う音がかすかに聞こえるノズルを訝しげに見上げるマナ。
次の瞬間、マナは座学で聞いた余談を思い出していた。
――強制収容所における大量虐殺には擬装されたシャワールームでガスが用いられた――
「…くッ…」
慌てて口と鼻を手で塞ぎ出口を探す。
だが身体は思う様に動かない。
マナは床に崩れ落ちた。

「行くわよ、マヤ」
モニターでそれを確認したリツコが立ち上がる。
無言でマヤが続き、ストレッチャーを押した職員が続く。
2717 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:54:33 ID:???
「お!ここ前に通ったコトあるでェ!」
エレベーター前を通ったトウジが思わず叫ぶ。
やっと気付いたか、と言う表情のケンスケ。
「エヴァに乗った時、連れて来られた場所だよ」
「…あん時ゃあ身体中アチコチ洗わされて、ホンマ今思い出しても恥ずかしゅうなるわ」
舌をべろんと出すトウジ。
「へぇ〜、鈴原でも恥ずかしいと思う事、あるんだ」
「イインチョもいっぺんやられたらエェ…こう、ケツにノズルを当ててやな…」
トウジが四股を踏む様に足を開いて股間に手をあてがい、ぐにぐに動かす。
「もォ!下品なんだから…」
「静かに移動するように!」
3人を誘導している職員が一喝する。
その時、チン!と言う音と共にエレベーターのドアが開く。
左右に分かれて道を開ける4人。
男性職員によって運び出されるストレッチャー。
そこには赤茶けた髪の少女が横たわっていた。
「霧島はん!?」
トウジが小さく叫ぶ。
その声を聞いたリツコが素早くシーツを引き上げてマナの顔を隠し無言で通り過ぎる。
「…あの子、どないしたんですか?」
さぁ?と頭を振ると誘導役の職員はトウジたちをエレベーターに招き入れる。
2727 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:56:41 ID:???
マナを乗せたストレッチャーは医療ブロックへと運び込まれた。
そこで全身スキャンの結果を元に「適切な処置」が為された。
右臼歯に仕込まれた義歯が抜去され、膣内に挿入されていたカプセルが回収される。
義歯には毒物が封入されており、自決用のものと推測された。
カプセルにはLCL溶液が収まっていた。
もはや疑う余地はない。
霧島マナと名乗る少女は所属組織不明のスパイだと認識された。
霧島マナ及び霧島ミサオ・ミノル夫妻の身元調査が始まる。
霧島マナの所持品が科学技術局に持ち込まれ、徹底的に分析された。
諜報課には居住地である別荘の家宅捜索が命令された。
そしてリツコは…リョウジを呼び出した。
2737 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:57:43 ID:???
「どした、りっちゃん。俺に何の用だ?」
リツコの私室に入るなり呑気な声で用件を尋ねるリョウジ。
対するリツコの表情は厳しい。
「加持君、貴方何をしているか判ってるの?」
「何だい、唐突に」
勝手にパイプイスを持ち出して腰掛けるリョウジ。
「以前貴方に頼まれて調査した霧島一家…スパイだったわよ」
「そりゃあ…驚きだな」
ひょい、と肩をすくめる。
「とぼけないで頂戴!今の貴方は微妙な立場にあるのよ」
腕を組んだまま睨みつけるリツコ、その表情を眺めるリョウジ。
しばらくの沈黙の後、やや真顔のリョウジが口を開く。
「ま、いろいろとあってな…」
「ちゃんと答えなさい!」
リツコの拳がデスクを叩く。
常に冷静なリツコには珍しい事だ。
それだけ怒っている、と言う事か…。
リョウジは無精ひげの生えたアゴを撫でてから静かに切り出す。
プライドの高いリツコにとって俄かには信じられない話だろう。
出来るなら話したくはなかった事なのだ。
「…悪い。この一件は俺が任されてる…碇司令にも許可は取ってある」
「何…ですって…!?」
「そういう訳だ…じゃあ、な」
呆然とするリツコに手を振るとリョウジは部屋を後にする。
2747 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:58:46 ID:???
シンジは混乱していた。
いきなり呼び出されると霧島マナについてあれこれと問い質されたのだ。
さらに彼女から貰った物を提出させられた。
夏祭りの夜に貰った、あのひまわりのキーホルダーだ。
その調査結果がシンジを打ちのめす。
キーホルダーには盗聴器や発信機などが内臓されていたのだ。
その事実を前にしてもシンジはマナを信じたかった。
「そんな…嘘だ…そんなの嘘に決まっている!だってあれは露店に並べられていたんだ」
「その露店も仲間だったとしたら?」
「違う違う違う!例えそうだったとしても、マナはそんな事をするはずがないんだ!」
「では何故彼女はあんな危ない真似をしてまでLCLを入手したんだろうねぇ?」
「それは…それは、きっと…そうだ!大人達が無理やり命令したんだ!僕みたいに、無理
矢理、やらされているんだ!」
あのマナが自分を裏切っている、などと認めたくなかった。
いや、自分が騙されているなどと思いたくなかったのかも知れない。
シンジの心が硬く閉ざされようとした頃、リョウジが現れた。

「お取り込み中失礼するよ、シンジ君を迎えに来た」
「こちらの用事がまだ済んでいないんだが?」
突然の来客とその目的に黒服が眉をひそめる。
「諜報課は仕事熱心だな…だが物事は大局を見据えてやらなくちゃあならない。エヴァン
ゲリオンパイロットとしての彼を追い詰め過ぎるとネルフ本来の任務に支障が出る」
「監査部員の出る幕でもなかろう?」
ナワバリ意識か横槍に対する反発か、あるいは単に職務に忠実なだけなのか?
簡単には折れない黒服にリョウジは「印籠」を使う。
「この一件は俺が任されている…碇司令に確認してくれ」
2757 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 21:59:48 ID:???
プリウスは静かに新東京市を奔っていく。
車内の二人…リョウジとシンジも無言のままだ。
カーステレオから流れる音楽だけが時間の経過を教える。
やがてシンジが口を開く。
「加持さんも、僕の事を『エヴァのパイロット』としてしか見ていないんですね…」
「…あぁ、さっきの事か?ああでも言わないと解放してくれそうにも無かったからな…
すまない。嘘も方便、そう思ってくれれば助かる」
「…いえ、たぶん、事実ですから…」
また、沈黙が訪れる。
「…あの子も、僕がエヴァのパイロットだから、仲良くなったんでしょうか?」
再びシンジが口を開く。
マナを名前ではなく単に『あの子』と呼ぶその心の変化をリョウジは察知する。
「僕と言う人間じゃなくて『エヴァのパイロット』に近付く事が目的だったんでしょうか?
…だったら、だったら、僕は…」
うつむいたシンジの声が震える。
何かに耐える様に、両手が自身の膝を握り締めている。
その問い−余りにも深刻な疑問−に対して、リョウジは即答せず慎重に言葉を選ぶ。
「…それに答えられるのはひとりしかいないな…いや、彼女にだって答えられるかどうか」
「…どうしてですか?どうして自分のした事に答えられないんですか?」
「人間の行動は、理屈じゃ説明できない時もある…シンジ君は自分のした事を正確に分析
できるかい?」
逆に質問されてシンジは戸惑う。
自分の行動を振り返ればシンジにも思い当たる事はあった。
「…解りません…でも」
「男と女の関係はロジックじゃあないそうだ…そら、着いた」
暫定的でその場しのぎの答えと共にシンジは自宅の門をくぐる。
2767 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:00:51 ID:???
「お帰りなさい、シンジ君。…大変だったわね」
リョウジから「任せろ」の一言で蚊帳の外に立たされたミサトの言葉。
そう言うより他に無い。
「ただいま、帰りました」
シンジはやっとの思いでそれだけを告げる。
リビングではアスカが複雑な表情で立っている。
「さ、ご飯にしましょ?シンちゃん、お腹空いてるでしょ」
そう言いながらミサトがキッチンに立つ。
「…いえ、何も、食べたくありません…」
「ダメよぉ?こういう時こそきちんと食べておかなくちゃ」
「…命令、ですか?」
ぽつり、とシンジ。
近くに居たアスカがその言葉を聞きとがめる。
「ちょ…何言ってンのよ、バカシンジッ!」
「アスカは黙っててよッ!…命令ですか、ミサトさんッ!」
「……いいえ、『お願い』、よ」
長い間をおいてミサトが答える。
柔らかな、労わるような、そんな表情で。
「なら、なら、放っておいてください!」
シンジはそれだけ言うと自室に引きこもった。
「何よあの態度!」
「アスカ」
怒りの収まらないアスカにリョウジが声をかける。
「何よ、気持ちを察して甘やかせ、って言うの?」
「いや、その調子で頼む」
「…え?」
意外な言葉に思わず拍子抜けするアスカ。
「今のシンジ君には俺達の言葉は信用できない、と思う。だからアスカだけでもいつもの
様に接してくれ」
「…それって、ものすごい憎まれ役じゃない?」
かもな、と言いながらウィンクをひとつ。
2777 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:01:54 ID:???
「回収したペンダントにはコクピットの画像記録しかありませんでした」
「何!?LCL保護溶液のサンプルは?」
「ありません…恐らくマナが所持しているものと思われます」
「まずい…あの子が危ない!」
2787 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:02:56 ID:???
芦ノ湖湖畔・霧島家の仮住まい…だった別荘。
夜の闇に紛れて近付く影。
慎重な動きで玄関のドアノブを回すとそれは呆気なく開いた。
「やれやれ…拍子抜けだな」
声の主はリョウジである。
昼間から夜にかけて徹底的に家宅捜索を受けた邸宅は鍵さえも掛けられていない。
屋内に侵入しタバコを銜えるとライターで火を付ける。
周囲がぼぉっと明るくなり、荒れ果てた室内が映し出される。
「こいつァ…酷いな」
壁紙や床板が剥がされ家具は引き倒されている。
ずたずたに切り裂かれたソファーに腰掛けて携帯用灰皿を取り出す。
ふぅ
紫煙を吐き出しながらしばし思索に耽る。
「…ここは禁煙でしてよ?お忘れかしら」
首筋に冷たい感触がした途端、背後から聞き覚えのある声がした。
声の主はマナの母親の霧島ミサオである。
「…現役顔負けの動きですね…加賀マリコ一佐」
「あら、良くご存知ですのね」
驚く素振りも見せず手にしたナイフをケースに収めるとボタンをかける。
「仕事、ですからね」
「これもお仕事?」
ははは、と笑い右手を振ってみせるリョウジ。
「仕事半分、道楽が半分です」
「それでどうなさるおつもりですの?」
飛び出したスプリングを少し気にしながらリョウジの隣に座るミサオ。
見れば野戦服に身を包んでいる。
「この一件は私が処理する事になりました」
「それで?」
「物騒な真似は辞めて頂こうと思いましてね」
「物騒な真似…例えば?」
「単身でネルフに殴り込む、とかです」
2797 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:03:58 ID:???
思わずミサオが笑い出す。
鈴の音のような、可愛らしい音だ。
「そんな事、考えてもみませんでしたわ」
「それにしちゃあ、そのナリは一体?」
「ネルフのVIPを人質にして捕虜交換を申し込むつもりですの」
ミサオの眼が妖しく光る。
−つもりですの−
ミサオの計画は現在進行形で語られている。
すかさずリョウジが予防線を張る。
「生憎と私はそんなご大層な身分ではないものですから」
リョウジの肩にミサオの頭がもたれてくる。
ほのかに甘い水仙の香り。
「あら、謙遜なさる必要はありませんのよ?こんな事件の後始末を任されるんですもの」
「いろいろな事情がありましてね…失敗すれば始末する口実になるし、成功すれば組織としては万々歳」
「まぁ怖い…ねぇ?それなら私達…いいえ、私に協力して頂けないかしら?」
「美人のお願いには弱いんですが、仕事上の立場もあるものですから、ね」
「冷たいんですのね」
ミサオの左手がリョウジの太腿に伸びる。
「…加賀一尉の記録、読ませて頂きました」
ミサオの動きが一瞬止まり、次いでその全身から力が抜けていく。
リョウジの肩に、いや右半身にミサオの体重と体温が伝わってくる。
「…野暮なひと…」
リョウジの胸元でミサオのため息交じりの声がする。
「ただのオンナに戻れそうだったのに…」
「実の娘を放っておいて、ですか?」
「!」
ミサオに動揺が奔る。
「やっぱり」
「…どうして?」
「知人に似た雰囲気の父子がいましてね。目的の為に過酷な任務を与え与えられた父子です」
2807 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:05:02 ID:???
「…」
「他人を利用する冷酷さと、それを上回る肉親への厳しさ…いや、肉親だからこそ他人よ
り厳しくするのかも知れません」
ミサオの身体が小さく震える。
「だが決して愛情が無い訳ではない…むしろ愛情は深いと思います。ただ…」
「ただ?」
「それを隠そうとしている…いや、愛情を示してそれに溺れる事を恐れている…のかな?」
「何を、判った様な、事を…」
胸元のミサオの声が湿り気を帯びている。
「もちろん他人の勝手な推察です。案外見当はずれなのかも知れません…ですがね?他人
だから解る事もあるはずでしょう」
「私に、何を、しろと?」
「何もしないでください」
「な、にも?」
思わずミサオが面を上げる。
「例え個人で動いても貴女は戦略自衛隊の要職にある身です。失敗すれば多方面に支障が出ます」
「でも…」
「約束します…決して彼らにお嬢さんを殺させはしません」
真顔のリョウジがミサオを見る。
「そんな苦労をして、貴方にどんなメリットがありまして?」
「こんな仕事を続けていると、いきなり偽善に陥ったりするんです…捨て猫を拾ったり」
「私の娘、捨て猫と同じなんですか?」
ミサオの顔が緩み泣き笑いの表情になる。
「あぁ、こりゃ失礼」
「ウソ、です…怒っていません…全て、お任せします…あの子を、お願い致します」
居住いを正したミサオが深く頭を垂れる。
そしてそのままリョウジに身体を預けていく。
「もう少し、もう少しだけこのままで…今度は、私の我侭を聞いて貰えるかしら?」
2817 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:06:05 ID:???
私は酷い母親です…。

ぽつり、ぽつり、とミサトが話した内容はこの言葉に集約できた。
西暦2000年6月、交際中の加賀一尉とめでたく結婚、妊娠する。
だがセカンド・インパクトとその後に起こった「新型爆弾投下事件」により夫と死別。
混乱する社会に翻弄されながら必死で事件の解明に努めるも上層部からの圧力により挫折。
国連軍に編入後マナを出産するも「事件」の解明に執着し産着と麦藁帽子のみを託して離別。
その後戦略自衛隊に入隊、頭角を現し次期特殊戦用兵器開発・運用任務に抜擢される。
この頃マナと再会するも親子の名乗りを果たせず現在に至る。
厳しい上官と忠実な部下…そんな関係になって久しい。
無論ミサオはその職務権限の許す限りにおいて出来るだけの配慮はしていた。
だがそれが娘の望むものであったかどうかは疑問が残る。
何よりマナは父親の名前さえ知らない。
自分が何者なのか、それさえも教えられていないのだ。

ほんの少し勇気を出せば…
過去のこだわりを全て捨てれば…
他人の未来とそれに対する義務や責任を全て捨てられるなら…
そう思いながら結局捨てられないのです…
我が子よりも仕事を優先させています…
そんな罪悪感にいつも苛まれているのです…

…でも、そうやって悩んでいると言いながら…ほら、今はこんなにどきどきしているんです…

私は、酷い、母親です…
2827 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:07:22 ID:???
「何やて!霧島はんが、スパイぃ!?」
昨日見た光景が気になりシンジに話を聞きに来たトウジ達はアスカから事の顛末を聞かされた。
「そんな…ねぇ、霧島さん、どうなるのかしら?」
「ヘタするとしけ…」
「アホゥ!縁起でもない事言うなや!」
「どーでも良いケド玄関先でケンカしないでよね」
アスカがアゴでシンジの部屋を示す。
「あのバカ、昨日から引きこもったまま!あ〜あ、加持さんにはお守りしろって言われる
し、ミサトは相変わらず甘々だし!」
半分はシンジに聞かせるように大声で喋る。
「…お前こそ気ィ使えっちゅうんじゃ、アホが!」
「なんか言った?」
険悪な雰囲気を察知したヒカリが話題を変える。
「ね、ねぇ。じゃあ例のカレはどうしたらいいかしら?」
「…ムサシ・リー・ストラスバーグかぁ…手がかりは写真のみ。望み、薄いねぇ」
「オマエ、薄情な奴っちゃなぁ」
「事実だろ?もしこれであっさり見つかる様ならまさに奇跡さ」
その時QP3分クッキングのメロディが鳴り響く。
ヒカリが携帯電話を取り出すとレイの携帯電話の番号が表示されている。
「ハイ、洞木です。どうしたの綾波さん……えっ!?」
「どないした、イインチョ?」
「見つけたって、彼を」
「誰?」
「…ムサシ君…」
「ウソ…」
一同、凝固。
2837 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:09:26 ID:???
「…技術局一課の赤木博士、お電話が入っております。至急お近くのお電話をお取りくだ
さい。繰り返しお呼び出し致します…」
館内放送が自分の名前を呼んでいる事に気付いたリツコは舌打ちをして手近な受話器を取る。
『私が赤木ですが…』
『…ネルフ本部の、赤木博士でしょうか?』
『先程その様に名乗った筈ですが?只今多忙なので詰らない世間話にはお付き合い致しかねます』
電話を切ろうとする気配を察知したのか相手が早口で用件を告げた。
『………何ですって!!?』

電話の内容はこうだ。
ネルフ職員と言う男が銃刀法違反の現行犯で逮捕された、と言う。
どういう経緯で銃(驚いた事にサブマシンガンや手榴弾を所持していた!)を入手したのか、
それで何をしていたのか、何を聞いても「ネルフによる機密作戦」としか答えない。
本当なら一大事なので身元確認を行いたい…群馬県警からの申し出であった。
嫌な予感がするのでメールにて顔写真を送付してもらうと…
「こッの、バカ…!」
…三尉だった。
2847 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:10:28 ID:???
タバコを3本吸いコーヒーを2杯飲み干してやっと落ち着きを取り戻すとリツコは群馬
県警に電話を入れる。
−その者は確かにネルフ職員で特殊任務に従事中だが機密保持の為に内容は教えられない−
冷や汗を流しながらリツコは何とか切り抜けた。
身柄はこちらから引き取りに行く、そう言って電話を切った。
「あッの、バカ…!」
もう一度リツコは吐き捨てる様に呟くとリョウジを呼び出す。
「群馬県警まで『このバカ』を迎えに行って頂戴」
「オレが?この忙しい時に?」
わざとらしい程に過剰な演技で異議を申し立てるヒゲ面を一睨みするリツコ。
「碇司令の信任厚いリョウちゃんには申し訳ないけれど私が出向くと…ナニするか判らないの」
最後のほうは語尾が震えている。
「こッの、バカ!を払い下げて貰ってきてね!」
写真をつまみ上げるとついニヤニヤしてしまうリョウジ。
「…で、何したの『こッの、バカ!』は?」
「群馬まで行ってサブマシンガン撃ちまくったんだって」
「へェ、そいつァバカだな…」
リョウジがまたニヤリと笑う。
2857 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:11:32 ID:???
集合先はまたしても第3新東京市立第壱中学校。
トウジ達が駆けつけるとそこには写真の少年が居た。
「…と言うワケでやな、マナはんがピンチや!どないする?」
「ケイタが死んでトライデントも失くして、オレの機体を取りに帰る時間は無し…」
「貴方のトライデントは現在ネルフの管理下にあるわ。三尉が探しに行ったから」
「…ちょっと待った!どうして断言できる?」
「三尉がそうすると言ったもの」
はぁあぁぁ
…ムサシ以外、全員溜め息ついてます。
「まぁそれは良いとして、だ。これからどうする?」
ケンスケが改めて一同に尋ねる。
「…どうしたいんや?」
トウジがムサシに振る。
「せめて一目だけでもマナに逢いたい…死ぬ時は一緒、それが約束だ」
あまりにも現実離れしたムサシの言葉にすぐには言葉の出ないトウジ達。
思えばケイタは既にこの世にいない…これが彼らの現実であり生きている世界なのだ。
2867 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:12:34 ID:???
トウジは覚悟を決めた。
「よしゃ!ほならネルフに行こうやないかい!」
ばん!と太腿を叩くトウジ。
「でもどうやって中に入るつもりだよ?」
「ケンスケ、オマエのオヤジさんのコネで何とかならんか?」
「さすがにそれは…バレバレだよ、マズイよ」
渋るケンスケ。
無理もない、IDを使ってデータを盗み見るよりも露見する確率は高いのだ。
沈黙する一同にレイが提案する。
「この街にいくつかの秘密通路があるわ。そこから入りましょう」
「そんな事、出来るの?綾波さん」
「でも綾波はネルフの人間じゃないか…そんな事をして大丈夫なのか?」
「判らない…でも知りたいの…貴方が大切にしているモノを」
レイの紅い瞳がムサシを捉える。
「綾波さん…それは」
ヒカリが何か言おうとするのをレイが遮る。
「知りたいのは『言葉』では無くて『行動』…その為に貴方が何をするのかが知りたい」
レイには三尉の言葉が引っかかっていた。
「自分よりも大切な事」と「自分にとって大切な事」の違い。
単なる言葉の違いなのか?それとも、もっと大きな違いがあるのか?
レイはそれが知りたかった…どうしても。
2877 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:13:37 ID:???
「アニキ!オツトメご苦労様でしたァ!」
三尉が警察署の玄関を降りていくと深々とお辞儀をしたリョウジが叫ぶ。
「恥ずかしいコトすンな!…あ、すみませんコイツ冗談が好きなヤツで…」
驚いた表情の婦警さんにペコペコと頭を下げる三尉。
「さ、アニキ!どうぞ」
「それはもうえぇ!ちゅうねん」
「おぉ!ながれいしながれいし」
「いえいえ、そのオヤジギャグこそなかなか…」
周囲の呆れ果てた視線をものともせずに二人はプリウスに乗り込む。
外部の雑音が遮断されるとリョウジの声が変わる。
「お前さんが無事と言う事はトライデントも無事と言う事だな?」
ポケットからタバコを取り出すと一本咥えて三尉に差し出す。
手を振って要らないサインの三尉。
「霧積ダム湖底に有った。コクピット周囲に爆弾を仕掛けちゃいるが即席のヤツだ、いつ
解除されるか判らない」
「…急ぐ必要があるな…霧島マナがスパイ容疑で捕まった」
「美人の御母堂は?」
「しばらくは動かない…はずだ」
三尉が口笛をひとつ
「で?俺の役割は?」
「…後ろに資料がある。頭に入れて作戦を考えてくれ」
後部座席に置かれていた書類を一目見て嫌な顔をする三尉。
「…俺の役って、これ?」
「狙うポイントだけ教えてくれてもいい…射撃の腕前はどっちが上かな?」
「…俺だよ…使う銃は?」
「ウッズマンを2丁用意してある。調子の良い方を選んでくれ」
三尉は後部座席のアタッシュケースを引き寄せるとフタを開けて中身を取り出す。
「オマワリさーん!前科者が再犯を犯しそうでーす」
「やめんかーーーーッ!」
2887 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:14:48 ID:???
「なんか犯罪者になった気分…」
レイに先導されてネルフ本部に潜入したトウジ・ケンスケ・ムサシ達。
ヒカリには荷が重過ぎるので引き止めた。
じゃあなと声を掛けるトウジを見つめるヒカリのなんとも儚げな雰囲気はなかなかのものだった。
「でもなぁ…まさか足元にこんなモノがあったとはなぁ…」
ケンスケが感慨深げに呟く。
秘密の入り口のひとつは第334地下避難所にあった。
恐らくこの冒険が済めばコンクリートを流し込まれて閉鎖されるのだろうが。
「本部に入ればダクトを使うから」
普通に歩けないわよ、そういう事だ。
むき出しのコンクリート壁にぽつぽつとしかない照明灯。
そこを一瞬たりとも迷わずに進むレイ。
「綾波、綾波…どうしてこんな所をそんなにすたすた歩けるんだい?」
ケンスケが好奇心に負けて尋ねる。
「…一人でいる時、ずっと歩いていたから」
こんな場所を?と言いかけて、やめた。
以前から漠然とした感じで持っていた綾波のイメージがひとつひとつのエピソードを介し
てケンスケの中で形を成して行く。
ぼんやりと綾波の後ろ姿を眺めているとトウジが背中をつつく。
「どないしたんやぁ?ぼーっとしてからに」
「あぁ、綾波のことでちょっと…」
「ぬぅに!?お前、あんなんにホレたっちゅーんかい!」
「…そういうのとは違うと思う…なんていうのかな?綾波への理解が深まった…そんな感じ」
ワカランのぉ、とブツブツ言うトウジを放っておいて視線をムサシに向ける。
2897 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:15:50 ID:???
ムサシはなにやらひたすらメモを取っている。
「何書いてんだい?」
黙ってムサシが手帳を差し出す。
…右90°→25下り1F右30°→50左50°→15右90→20…
数字の羅列が延々と続いている。
手にはコンパスを握っている。
ムサシは侵入ルートを記録しているのだ。
マナを救出しこのルートを逆戻りするつもりなのだろう。
せめて一目だけでも逢いたい、だって?
やる気満々じゃあないか…。
なんだか嬉しくなってきた。
やられっ放しにはならない、そんな意地のようなものを感じた。
「…がんばれよ!」
左手でムサシの右手をつかむとその掌に思いっきり手帳を叩きつける。
ニヤリと笑うケンスケ。
笑い返すムサシ。
「何しとんのやオマエら?…気色悪いデ…」
トウジが呟くのと同時にレイが立ち止まる。
「この部屋からダクトを使うから」
そう言って暗証番号を打ち込む。
ドアが開くとさっさと中に入る。
「5263997814」
ケンスケが小声でムサシに教える。
「サンキュ」
部屋ではレイが机の上に立ちポケットナイフでダクトのネジをはずしていた。
「何か手伝う事は?」
「ないわ」
「…さよか…独壇場やな」
トウジの言葉が終わらないうちにダクトがはずされた。
3人が感心する間も無くレイはヒョイと孔に飛び込んで手を差し伸べる。
その手に捕まろうとしてトウジが何かに気付く。
2907 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:16:52 ID:???
「…あ…ワシぃ、最後でえぇワ…」
「どうしたの?トウジ」
ケンスケの問いに振り向いたトウジが小声で答える。
「アホゥ!あのまま綾波の後ろ進んでみィ?あ、綾波のぱっぱっパンツ見てしまうやンか」
「それが?」
「…なんや後でオソロシイ事が起こりそうで…」
「ふーん、委員長が怖いんだ」
「…アホォ!何言うとんじゃい!何でワシがイインチョにビビらなアカンのや!」
「どうでもいいけれど、アイツ、先に行ったぜ?」
振り向くとムサシがいない。
「ラキー♪これなら安心や」
「なんだかなァ」
そして二人が後に続く。

急いで孔に飛び込んだことをムサシは後悔していた。
何故あの二人がノロノロしたか、その理由が解ったからだ。
目の前に少女のお尻…と言うか太腿と言うかパンツと言うか…まぁそれらが蠢いている。
ムサシはこういう世界に免疫がない。
戦自の宿舎や訓練では色気の無い単なる『裸体』は見慣れていた。
だがこういう…なまめかしいと言うか華やかと言うかなんと言うかなんだその…。
思わず振り向いて小声で頼む。
「か、代わってくれ!」
「アカンて!ワシらかてクラスメートのパンツはまともに見られんのじゃ!」
「うッそでぇ」
「…ケンスケ、ウルサイ」
「綾波のパンツ見たらオソロシイ事が起こるって言ったクセに」
「マジッスか?オレ…見ちまった」
「ねぇ?」
綾波が振り向いて声をかけると一同ギクリとして動きが止まる。。
「どこに行けばいいの?」
…マナが囚われている場所を誰も知らなかった。
2917 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:17:55 ID:???
トイレが我慢できずにとうとうシンジは部屋から出る決心をした。
ドアをそっと開いて辺りを見回す。
…神社の狛犬よろしく部屋の前に陣取っていたアスカの姿も見えない。
ドアを目いっぱい広げておく…すぐ部屋に飛び込めるように、だ。
できるだけ大股でトイレに近付く…よし。
トイレのドアを開くとそこにはアスカが腰掛けていた…にっ♪と笑って。
「つーかーまーえーたー♪」
呆然とするシンジに飛び掛って…と言うより抱きつくと、どすん!としりもちをつくシンジ。
そのシンジの首筋にしがみつき、自分の脚とシンジの脚とを絡めてフックさせる。
「…なにやってんだよ、アスカッ!」
「アタシは獲物を狙う天才ハンター、必要とあらばどんな擬装もお手のものォ」
しがみ付いたままで歌うように喋る。
「トイレ!トイレ行かせて!終わったら付き合うから!トイレ!」
「…ダメ。アンタその場しのぎで簡単にウソ付くから」
「ほっ本当だよ!約束するから!トイレ!も、漏れるトイレトイレ!」
「ひとつご飯を食べること。二つスネるのをやめること。みっつアタシとデートすること…どぉ?」
小首を傾げてシンジを見上げる。
「漏れちゃう漏れちゃう!漏…らしちゃうぞ!アスカ!ここで漏らしちゃうよッ!」
シンジがキレたらしい。
「すればァ?アタシTシャツの下は水着だから…へっちゃら」
「出来ないと思ってるんだろう!漏れるといったら漏れるんだ!」
一生懸命に起き上がろうとするものの、アスカが身体を揺すってバランスを崩す。
「もしシンジがお漏らししちゃったら、アタシきっとみんなに言いふらすだろーなァ♪」
「だからトイレッ!も、漏れない漏れます漏れる漏れるとき漏れれば漏れろ」
「ん〜がんばるわねぇ…えい♪」
のたうつシンジの下腹部に膝を乗っけてみるアスカ。
「!!!」
シンジがガバッと体を入れ替えてアスカを組み伏せる。
「む、ピンチ?」
2927 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:18:57 ID:???
シンジの両手がアスカの顔を押さえ、ぐいぐいと力を入る。
アスカの両腕を引き剥がすつもりなのだ。
夢中になったシンジは気付いていないが爪がアスカの頬を、額を、首筋を傷付けている。
うっすらと血が滲みミミズ腫れが出来てもアスカは力を緩めない。
「しつっ、こい…なぁ!」
シンジの左手がアスカの太腿を鷲掴みにする。
「痛ッ!」
そのまま腕立てよろしくシンジは上体を反らす。
体重と両腕のパワーがアスカを押し潰そうとする。
いや…アスカのしがみ付く力も加えればますますアスカには不利なはずだ。
それでもアスカはしがみ付き同じ言葉を繰り返す。
「約束、するって、言いなさい、よッ、バカシン、ジッ!」
「イ、ヤ、だ!」
思春期の少年少女が呼吸を弾ませ、汗まみれになってもつれ合う。
文章にすれば、どこか艶やかなシーンもすぐにお終いとなる。
ただでさえ膀胱が限界に近いシンジが長時間、力めるはずもないのだ。
シンジはアスカの提案を受け入れやっとトイレへと逃げ込んだ。
じょぼじょぼと言う水音がトイレに響く。
隣のパスルームではアスカが汗を流すシャワーの音が…。
「アスカ、なんだってこんなにムキになるんだ…」
個室でシンジはつぶやいた。

シャワーを終えたアスカの言葉はシンジをうろたえさせるには十分だった。
――これから霧島マナに会いに行く――
シンジの口から出たのは、どうやって?とか何をしに?ではなく「いやだ」の一言だった。
「約束、早速破るのね?」
「会ってどうするってのさ?貴女はスパイですか?って聞くつもり!?」
そうよ、とあっさりアスカは答える。
「あの娘から直接聞けばアンタも納得できるでしょう?」
「い、嫌だ…そんなの、行きたく、ない…」
「いい?行・く・の・よ?」
2937 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:19:59 ID:???
約束とあちこちに出来たキズを盾にされ、シンジはネルフへと連れ出された。
あのアスカが顔中にバンソーコーを貼って外出するのだ。
その気迫にシンジは気圧された。
アスカに対して少しの罪悪感もある。
夢中だったとは言え顔にキズを付けたのは事実だ。
シンジはトボトボと死刑台の階段を上る気分でネルフ本部へと向かった。

「で、どの辺りに収容されていると思う?」
ケンスケが綾波に問う。
この四人の中で一番「ここ」に詳しいはずのレイに聞くしか方法が見つからなかったのだ。
「赤木博士が関与して、かつ隔離できる場所…そして持病があるなら」
「なら?」
「こっち…医療センター」
そして屋根裏の探検隊はまた移動を開始した。

「だーかーらー!加持さんに頼まれたんだってば!通してちょーだい!」
医療センターの一角にある特別室前ではアスカが警備担当者に向かって無茶な説得を試みていた。
「何度も言うが、そんな話は聞いていないんだ。さ…帰った帰った」
「じゃあ電話で確認取ってよ!確かこの一件に関しては加持さんが責任者なんでしょ?」
「…そりゃそうなんだが…あぁもう!判った判った!」
警備担当者がうっとおしそうに怒鳴りあちこちに電話を掛け捲る。
5本目の電話でリョウジを捕まえると警備担当者は苦情を申し立てた。
だがその抗議はあっさりと却下される。
『オレも行くから会わせてやってくれ』
リョウジの言葉に渋い表情を作る警備担当者と勝ち誇るアスカ。
そして3人はリョウジを待った。
2947 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:21:01 ID:???
「聞いたか?今の話」
「バッチリや!綾波の予想通り、やっぱココなんや」
「…静かに…部屋に入るわよ」
天井裏の探検隊は埃にまみれながらずりずりとダクトを進む。

ダクトの格子をそっと外しながら室内の様子を伺うレイ。
薄いベージュ色をしたリノリウムの床とクリーム色の壁、そして真っ白なベッドシーツ。
その中央に赤茶けた髪の少女がうつむいて座っている。
…刺激しないように…。
格子を外し終えるとレイはその四角い穴に上体を突っ込む。
ぶらり
天井から逆さ吊りになったレイは格子を持ったままでするりと空中に舞う。
スカートが翻るぱたぱたと言う音にマナが顔を上げる。
素早く着地したレイは人差し指を唇に当ててマナを制し天井を指し示す。
ぽっかりと開いた四角い穴から見知った顔が覗く。
ケンスケ、トウジ、そして…。
「マナ!」
「…ムサシ!?」
見上げるマナの瞳に涙が滲む。
マナがベッドから飛び降りる。
素早くロックを外すとベッドを穴の真下に運んで3人を迎える。
出来るだけ静かに下りていく3人。
怪我人のムサシは半ば落ちる様な格好だったのでトウジ達を慌てさせた。

トウジがドアの前に立ち外の気配に聞き耳を立てる。
ケンスケとレイは少し離れた場所で二人を見守っている。
ムサシは…マナの手を強く強く握りしめた。
ちょっと困った顔のマナが、へへへっと笑う。
2957 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:22:03 ID:???
「マナ…」
ゆっくりとその存在を確かめる様に抱きしめるムサシ。
恋人の幻を見たらこんな感じで抱きしめるのだろうか?
抱きしめられたまま頬をつたう涙を拭おうともせずに話を急ぐマナ。
「…もう会えないと思ってた……あのね、ケイタがね」
「知ってる…」
一瞬、ムサシの顔が曇りその陰りが声に反映される。
それを感じたマナも、あぁと小さく溜息をつく。
だがそれも一瞬のことであった。
再びマナが口を開く。
「あたし、あたしね…もう、ダメだと思ってた…でもね、こうして最後にムサシと逢えた
から…もう、大丈夫…安心して、逃げて」
「マナ、逃げられるんだ!ルートはちゃんとある!さ、急ぐんだ!」
マナの意外な言葉に抱擁を解いたムサシが強い口調で応える。
ムサシの右手がマナの左手をつかむ。
だがマナは…その手をゆっくりと押さえ、そして引き剥がす。
「…ダメ…今度の作戦であたし、命令違反しちゃったの…それで失敗しちゃったから…
きっと加賀一佐に…」
「だから逃げるんじゃないか!オレなんて脱柵者だぜ?」
追われても逃げ切ればいい…とムサシは付け加える。
だがマナを翻意させるには至らなかった。
そこにはやや複雑な事情があった。
2967 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:23:07 ID:???
「この任務が成功したらね、3人揃って除隊させるって約束だったの…黙ってて、ゴメン
…でも…約束が信じられなかったから、あたし…取引材料にしようとして作戦目標のサン
プル…渡さなかったの…それで失敗しちゃった…」
「だから逃げなくちゃ!」
ふるふると頭を振るマナ。
「…ダメ…加賀一佐に迷惑は掛けられないもの…他の子達にも…」
過酷な任務を要求する加賀一佐ではあるが、彼女の力が弱まれば残された仲間に多大な
影響が出るのは想像に難くない。
加賀一佐の失脚は防がなければならない…仲間達の為にも…。
それがマナの出した結論だった。
「どうするって言うんだ…」
苦しそうなムサシの声。
それに答えるマナの吹っ切れた様な、声。
「あたしの単独行動にして…死ぬわ」
「マナ!」
ムサシがマナの腕を掴んだ時、トウジが合図を送ってきた。
外に動きがあったのだ。
ベッドを踏み台にして飛び上がりダクトに飛び込むレイ。
男3人はベッドの下に潜り込む。
その数秒後、ドアが開いた。
2977 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:24:09 ID:???
見舞い客は…リョウジとアスカ、そしてシンジだった。
元気かい?と穏やかに尋ねるリョウジ。
黙って頷くマナ。
シンジは顔を背けてマナを見ようとしない…いや、見る事が出来ない。
腰に手を当てたアスカがふん!とハナを鳴らす。
「さ、さっさと用件を済ましましょ!…ね、アンタはどっかのスパイよね?」
ベッド上のマナに挑む様な眼差しでアスカが詰問する。
マナの視線がほんの一瞬シンジに向けられ…そして自分の手元に落ちる。
やがて顔を上げるとアスカの瞳を見つめる。
アスカの真意を探るように。
しばらくしてぶつかっていた視線をマナが外す。
そして小さな溜息をひとつ、つく。
「…所属は今ここでは言えませんが、そうです…」
シンジの身体がすくむ。
「シンジに近付いたのは、エヴァの秘密を探るため…そうね?」
「はい…いいえ、皆さんに近付いた、と言う方がより正確です」
おや?と言う表情のアスカが少し首を傾げ、そしてシンジにとって一層残酷な質問をする。
「ふぅん…エヴァの秘密を知っている人なら誰でも良かったんだ?」
「はい」
悪びれる風も無く慈悲を求めるでもなく、ただ淡々と答えるマナ。
「だってさ、シンジ。…これで解ったでしょ?納得できた?」
シンジを振り返り殊更にぶっきらぼうな調子のアスカ。
「…きる訳、ないじゃ、ないか…」
「え?何?」
「そんなに、簡単に、納得なんて、出来ないって言ったんだよッ!」
背を向けたシンジの両拳が震えている。
2987 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:25:10 ID:???
「でも事実じゃない。証拠もあったしさ」
「それは…それはきっと!大人の人に命令されて無理矢理…」
自分の経験がシンジの思考を誘導する。
「いいえ、自分で決断して自分で実行しました…私は、自分の行動に悔いはありません」
初めてマナが自分から進んで答えた。
だがシンジにとってその答えは一番聞きたくないものである。
「嘘だうそだウソだ…僕の知っているマナは…そんなの、ウソだァ!」
シンジの拳がクリーム色の壁を叩く。
「シ…あなたの知っているマナは…本当の霧島マナの一部でしかありません」
マナの声が静かに響く。
うなだれたシンジの喉からは嗚咽が漏れ始める。
「はいお終い…ご協力感謝するわ…行くわよバカシンジ」
シンジに声をかけながらアスカは心配そうにマナの顔を覗き込む。
その視線に気付くと、マナはにっこりと笑った…いや、笑おうとした。

全てはシンジの為のお芝居なのだ…マナもアスカもそれを承知していた。
事実とはやや異なっているがそれでもマナはスパイである。
何らかの処分は免れ得ないし、その結果はシンジの心に暗い影を落とすであろう。
そしてそこから立ち直る過程においてシンジが自分を…自分のココロを守る為に事実を
歪めない様にしなければならなかった。
マナは被害者  マナは大人達に殺された  マナは悪くない
マナを殺したのはネルフ  マナを殺したのは父さん  マナを救えなかったのは僕のせい
そんな閉塞した思考に陥る事は避けたかった。
だからアスカも、マナも、シンジに事実を認めさせようとした。
その為の、即興劇。
2997 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:26:13 ID:???
シンジとアスカが部屋を出るとリョウジは穏やかに話しかける。
「辛い仕事をさせちまったな…みんな、今の事は他言無用だ…いいな?」
「…ここにはあたしだけしかいませんよ?」
ごく自然にマナが答える。
にやりと笑うリョウジ。
「ここはな、重症患者や要注意人物が入る病室だ…監視カメラくらいあるさ」
「!あの二人も見ていたんですか!?」
無言で頭を振るリョウジとそれを見て安堵するマナ。
アレを見られていたらせっかくのお芝居も台無しになる…。
マナは心の底から安堵した。
「…と言う訳だから、4人共出てきなさい」
レイが、トウジとケンスケが…そしてムサシがゆっくりと姿を現す。
「君がムサシ君だね?ここで待っててくれ、治療が必要だからな」
そういい残してリョウジは3人を外に連れ出す。

「…で、レイの助けを借りてここまで来たって訳か?無茶をするなぁ」
苦笑いをしながらお説教をしているリョウジ。
内心、冷や汗ものだがそんな素振りは少しも見せない。
状況は予想を少し超えていた。
子供達が事件に深く関わりすぎている事と…ムサシの存在だ。にじう
医師の説明如何ではプランを再考する必要もある。
…まずは三尉と相談だな…
そして三尉がやってくる。

「レ〜イぃ」
間延びした口調で近付くと三尉はコツンとレイの頭を叩く。
「さ、あの子達を連れて早くお帰り…探検はここまでだ」
「まだ…答えが見つかっていないから」
「…なんの?」
「自分より大切なことと、自分にとって大切なことの違い…」
3007 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:27:15 ID:???
子供達を待たせておいてナースステーションで医師の説明を受けるリョウジと三尉。
ムサシの怪我は思ったより重傷で体力の低下も著しい、らしい。
レントゲン写真や断層画像による詳しく説明を受ける。
それを三尉が平易な日本語に直してリョウジに伝える。
いくつかの質問の後、二人は廊下に出て立ち話を始めた。

ナースステーションから出てきた三尉に気付いたレイはその姿を何気なく眺めていた。
ぼそぼそと何架を話しながら身振り手振りを交えている。
三尉の人差し指がお腹を指し示し、2〜3度角度をつけて前後する。
レイは遠くでやり取りされている話し声に意識を集中させた。
「…うつ……カレ……どうじ…ちめい…いそぐ……」
普通の会話とは思えなかった。
胸騒ぎがして立ち上がる。
だが三尉達を追う事は出来なかった。
二人はマナ達の居る特別室に入ると鍵をかけたのだ。
3017 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:28:17 ID:???
室内ではマナとムサシがそれぞれのベッドに腰掛けていた。
モニターの存在を知らせていたので「おかしな真似」もされてはいない。
二人共、ごく日常的な会話で時間を過ごしていた。
リョウジ達が入室すると一瞬だけマナに緊張が奔る。
「マナ」
そんなマナをムサシの声が優しく包む。
「心配すんな、オレも一緒だ」
そだね、と答えてへへへっと笑う。
「…何か、気掛かりな事はあるかい?」
さりげなく切り出されたリョウジの言葉に二人はおとなしく答える。
「いえ、何も…」
「…そうか…力になれなくて残念だな」
リョウジがマナに近付く。
「…あのね、加持さん…」
うつむいたままでマナが話しかける。
「…なんだい?」
「…私、ズルイ女の子なんです…」
リョウジの顔に奇妙な表情が浮かぶ。
「こんな場面になっても…ムサシが目の前にいて…恥ずかしいけど…シンジ君や皆と、
もっと仲良くなりたかったなって、本当に思ってるんです」
「…」
「私が戦自の人間じゃなかったら…皆と、もっと仲良くなれたのにな、って…本当に」
「そう、だな…君なら、いい友達になれただろうな」
「ムサシやケイタ…部隊の皆がいるのにね…」
「お前、人見知りしないからな」
ムサシがやや肯定的な意見を口にする。
「オレは…ヒネてるから、ムリだ」
「ムサシは…優しいんですよぉ?」
思わず弁護に回るマナ。
「あぁ、見ていたら判る」
リョウジの言葉にマナは…マナは本当にうれしそうに、笑った。
3027 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:29:24 ID:???
「食べたいものとか、欲しいものとかは?」
「…あのぉ…最後に、ムサシと二人っきりにしてください…5分、いえ3分間だけで良いですから」
あまりにも慎ましくささやかな願いはあっさりと叶えられた。
ついでにモニターもオフにする。

3分後、特別室に戻るとそこには穏やかな顔の二人がいた。
「じゃあ、行こうか」
リョウジが改めてマナに近付く。
ムサシには三尉が付く。
それぞれが無言でホルスターから拳銃を抜いて相手に渡す。
ワルサーPPK…前世紀の名銃である。
重量約600gが奇妙に重く感じられる。
拳銃を受け取ったマナがリョウジに話しかける。
「加持さん…私、本当にズルイ女の子なんです」
「…あぁ、さっきも言ってたな」
マガジンを抜きローディング・インジケーターでチェンバー内に弾丸が無い事を確かめるマナとムサシ。
マガジンを手に取り、親指でたった一発の弾丸をはじき出して丁寧に観察する。
問題はないと判断したのか手早くマガジンに装填するとグリップに叩き込む。
スライドを引いてチェンパーに弾丸を送り込み、安全装置を解除する。
これでいつでも発砲できる…。
マナがへへへっと笑う。
いつも見せる、あの屈託のない笑顔だ。
「私、本当にズルイ女の子なんです…加持さんにまだ言ってない事がひとつあるんです」
「へぇ…そりゃ一体、何だい?」
リョウジの唇の端が吊り上り微妙な笑顔を形作る。
「最後に出された命令…『必ず、生きて還りなさい』なの」
マナの持つ拳銃がリョウジに向けられた。
3037 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:30:26 ID:???
特別室からシャンパンの栓を抜いた様な音が連続してふたつ聞こえた。
真っ先に走り出したのはレイである。
ドアの前に立つと三尉を呼び続けるが中からは何の返答もない。
やがて複数の足音が近付いてきた。
モニターを見ていた看護士が医師を連れてやってきたのである。
ドアが開き室内の様子がトウジ達の眼前に晒された時、全員が凍りついた…レイを除いて。

部屋に立ち込める硝煙の匂い
床に転がっている二つの空薬きょう
ベッドから崩れ落ちている少年少女
手には拳銃
シーツの赤いシミ
かすかなうめき声
そして……拳銃を手に立ちつくす二人の男

一瞬の静寂…その後に飛び交う怒声と悲鳴
運び込まれる救命医療機器の数々
押し出される二人の男
呆然と立ち尽くす少年達
見つめる紅い瞳
無表情の二人の男


幕は下ろされた

3047 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:31:28 ID:???
「…ウソ…そんなの、ウソ、だわ…」
悔し涙に濡れるトウジ達からソレを告げられた時、アスカはそれしか言えなかった。
トウジ達がそんなウソを付くとは思えなかったがリョウジが「そんな事」をするとも思えなかった。
堪らずアスカはミサトに電話をする。
だがミサトの返答は冷たい。
「極秘事項につき何も言えない」
たったそれだけである。
「イエス」とも「ノー」とも言わないのだ。
恐る恐るリョウジの携帯電話にかけてみる。
…出なかった…

シンジは部屋の中で泣き続けていた。
マナに裏切られた哀しみと、マナを救えなかった哀しみ。
そして最後までマナを信じられなかった自分への怒り。
そして二人の男への憎しみ…。
シンジは泣き続けた。

トウジ達は虚脱していた。
ヒカリには一言「アカンかった」それだけを伝えるのが精一杯だった。
自分達の無力さを認識させられ、改めて大人達の横暴さに怒りを感じてはいたがどうする
事も出来ないからだ。

レイは…レイは三尉の後をただついて歩いていた。
三尉は振り返らない。
レイは声をかけない。
二人して、ただただ歩いていた。
すれ違いざまにレイの頭をぽん、と叩いた三尉の手から硝煙の匂いがした。
ただそれだけが事実だった。
3057 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:32:32 ID:???
コウゾウの元をリョウジが訪れたのはその二日後だった。
「例の二人の死亡診断書、サインをお願いします」
二通の書類を差し出すリョウジ。
「カタが付いたのかね?」
サインをしながら尋ねるコウゾウ。
「いえ、これから相手方に報告をしなくちゃなりません…サンプルを手土産に」
そうか、と返事をしてまた書類に目を通し始めるコウゾウ。
退室しようとするリョウジにコウゾウが声をかける。
「…君も器用な生き方は出来んようだな…碇と同じだ」
そりゃ光栄ですね、と答えて廊下に出る。
ドアを振り向いて肩をすくめると自室に歩き始める。

ネルフの式典用制服に身を包んだ三尉が部屋を出るとレイがいた。
「…急用で出かけてくる…今日のスケジュールは予定通りに消化してくれ」
返事をせずにレイは質問してみる。
「帰ってくる?」
「もちろん帰るさ」
即答だ。
「…待ってる」
「待ってろ」
そう言い残して三尉は「遺品」を収めたアタッシュケースを携えて第99旅団司令部に乗り込んだ。
3067 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:33:33 ID:???
とある海の見える丘でリョウジは人を待っていた。
程なくして待ち人はブレビスに乗って現れた。
霧島ミサオこと加賀マリコ一佐である。
いつもの華やかな服装とは異なり今日は黒で統一されている。
既に覚悟は出来ているのだ。
ブレビスの助手席に乗り込むとアタッシュケースを差し出す。
「お嬢さんの衣服と毛髪です。お受け取りください」
2〜3度眼を瞬かせると静かにつぶやく。
「…助けると、約束してくださったのに…」
「彼らに殺させはしない、と言っただけです」
マリコを見ずに答えるリョウジ。
「では…まさか…!」
「私がお嬢さんを撃ちました…これが死亡診断書です」
渡された書類に見入るマリコ。
「…お聞きしたいことがあるんですけれど…」
「…どうぞ、何なりと」
「どうして頭部を狙わなかったのですか?」
「顔に傷をつけたくありませんでした」
「では心臓を外したのは?」
「恋人と一緒でしたのでどんな弾丸もハートを射抜けない…そう考えました」
「ロマンティストですのね…」
「腹部大動脈損傷による大量出血と二次感染によるショック…それが直接の死因とされています」
3077 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:34:36 ID:???
しばしの沈黙。
再びリョウジが喋りだす。
「最後の場面」をマリコに聞かせる。
「先日の貴女と同じ様なセリフを言いましてね、あぁ母子だなぁと実感しました」
「そして貴方に銃口を向けた…?」
「えぇ、生きて還れ…そう命令されたとか」
「はい…」
「作戦が成功したら友達共々除隊させるという約束は?」
「事実です…取引と言う形でしかあの娘の我侭を聞いてやれない立場ですので…」
リョウジはポケットから小さなカプセルを取り出すとマリコの手に握らせる。
「ではこれで作戦は無事に遂行されました…お嬢さんは自由です」
「何故?」
それには答えずリョウジは外に出る。
マリコの脳裏にある疑問が浮かぶ。
遠ざかるリョウジの背中にすがるような思いでそれをぶつけるマリコ。
「あの娘は…あの娘は、本当に死んだんですか!?」
リョウジが立ち止まり、そして振り返る。
「霧島マナと言う人間はもうこの日本に存在しません…ムサシと言う少年もね」
それだけを伝えてプリウスに乗り込み、そして走り去る。
残されたマリコは…深々と頭を垂れる。
3087 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:35:38 ID:???
三尉の役目はリョウジのそれよりもギスギスしていた。
司令部のゲートをくぐる時からあからさまな敵意が周囲より浴びせられていたからだ。
ムリもない、と三尉も思う。
なにしろ「仲間を殺したヤツ」が遺品を持ってノコノコとやってきたのだ。
…後ろから撃たれても不思議じゃないなぁ…。
おまけに儀礼上、火器の携帯は御法度なのである。
心細い事この上ない。
…まぁ、レイとの約束もあるし簡単には死ねないなぁ…
…いや、オオタヌキのおっさんのお膝元なら大丈夫だろう…
そんな事を考えながらどんどん中枢部に近付いていく。
立ち番の兵士に敬礼をくれて扉が開かれるのを待つ。
待つ事1分、中から扉を開けたのはやや肥満気味の男である。
見覚えのある顔に思わず敬礼をする三尉。
男は第99旅団団長・大田カン−通称・オオタヌキ−その人であった。
「そんなのいいから入んなさい」
チョイチョイと手招きをする。
「わざわざ来てもらってスマンね、緑茶でいいかね?」
湯呑みと茶筒を引っ張り出しながら振り返る。
慌てて湯呑みをもぎ取る。
「自分が致します」
「…茶くらい入れられるわい…」
「そういう意味では…」
…まずは一服…
「ではご用件を伺いましょう」
「先日ネルフ本部に不審者が潜入致しまして、その身元調査にご協力戴きたく参りました」
「ふんふん」
アタッシュケースから着衣や写真、書類の束を取り出す三尉。
「もし該当者がおられましたらご一報だけでも…と考えております」
「いなければ?」
「…資料その他の処分はお任せ致します」
3097 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:36:40 ID:???
「ムサシ・リー・ストラスバーグ…なかなか有望な少年だったよ…」
顔写真を見ながら独語するオオタヌキ。
「お言葉には細心のご注意を…」
「…あぁ、そうか、この子は身元不明という事になっているんだったな…」
「はい」
鼻孔を広げて大きく息を吸うとしみじみと話し出す。
「だがワシはこの少年を知っとるよ…何処の誰かは知らんがね…元気の良い子だった」
何も言えない三尉。
「…ん?右胸郭前面から背面に貫通した銃弾が右肺上葉部及び気管支・肺動脈の一部を損傷…?」
「何かご不審な点でも…?」
オオタヌキは死亡診断書の医師署名欄を見る。
「冬月コウゾウ…こりゃあキミんトコの副司令だね?」
「はい」
「この少年を撃ったのは?」
「自分です」
「距離と銃弾は?」
「約2m、22口径を使用致しました」
「…この少年は実験中の事故が原因で右肺上葉を肋骨ごと切除しとってな。ピンポン玉を
詰めるという古い手術法をされていた…知っとったかね?」
「いえ、存じませんでした」
「…遺骨はないのかね?」
「ネルフの手で荼毘に付しましたが煙となって天まで昇って逝きました」
成程成程としきりに肯いていたオオタヌキは晴れやかに宣言する。
「この少年について私は何の情報も持っておらんよ…もはやこの世に存在しないのだからね」
「…」
「存在しない人間は見付けられないし追いかけられない…これで良いんだね?」
「ご協力ありがとうございました!」
三尉が最敬礼する。
3107 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:37:43 ID:???
三尉が退室すると奥の小部屋から加賀マリコ一佐が現れる。
「どうだ…あれがウワサの『三尉殿』だ」
「第3新東京市で時々会いました…ボンヤリとした印象でしたが…」
「今度のシナリオ、どちらが書いたのかねぇ?」
「存じません」
「加賀君、キミの方のカレね…」
オオタヌキが机から一冊のレポートを取り出して渡す。
人差し指を口に当てながら。
ぱらぱらとページを捲るマリコの手が止まる。
そこにはリョウジのもうひとつの素性が記されていた。
「これは、一体…?」
「どうしてなんだろうねぇ…そんな微妙な立場にありながらこんな危険を冒すなんてね」
「こういう仕事をしていると急に偽善に陥る、と…」
「うん…そうかも知れん…そういうものかも知れんなぁ」
「私は、巧くあしらわれたと思っていたのですが…」
「他人だからこそ、ついフラリと真実を漏らしてしまう事もあるんじゃないかな…」
マリコには思い当たる事があった。
あの夜、芦ノ湖の湖畔でリョウジの肩にもたれて語った一件…。じうはち
「まぁいいでしょう。我々は助かった…彼らも目的を達成した…問題は…」
「問題?」
「非公式とは言え、隊員達には彼等を『仲間の仇』と紹介しなくちゃならん事だ…」
オオタヌキは突き出た腹をぽんぽんと叩く。
「来年にはここも師団に格上げされる。キミには組織の地固めを頼まにゃならん…木本
ユウタの様な子を出さん為にもな」
「及ばずながら尽力致します」
小気味良い所作で敬礼するマリコ。
それにハイハイと応えるオオタヌキは既にただのおっさんに代わっている。
3117 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:38:56 ID:???
あの「事件」から3週間程が過ぎ僕達は新学期を向かえた。
夏休み前に感じていた楽しい予感はマナたちの死によって最悪のものに変わっていた。
僕は…僕達はしばらく加持さんや三尉と口も聞かなかった。
…いや、目もあわせなかった。
そんな僕達を叱るでもなく謝るでもなく、何の弁解もせずに少し困った顔で肩をすくめるだけだった。
それがまた僕達を酷く苛立たせていた様に感じられた。
アスカは…加持さんには何か深い考えがあるに決まっている…そう繰り返すだけだった。
綾波は、三尉を信じていると…三尉を信じる自分をこそ信じると言い切った。
ミサトさんは何も言ってはくれなかった。
良いとも悪いとも言ってくれなかった。
ネルフの沢山の大人達の間でもこの話は賛否両論で、はっきりした結論や正解を持って
いる人はいなかった。
あのリツコさんでさえ不機嫌そうに、何も知らないのよ、とだけしか言わなかった。
…父さんには…何も聞けなかった。
父さんならきっと何か知っていると思っても…何も聞けなかった。
そんな自分の不甲斐無さが一番腹立たしかったのかも知れない。
それを棚に上げて…加持さんや三尉に八つ当たりしていただけなのかも知れなかった。
僕達は自分で答えを見付けられないままに…ただ時間だけを浪費していった。

始業式が終わって、誰が言うとも無くケイタの墓参りに行く事になった。
僕、トウジ、ケンスケ、委員長、アスカ、そして綾波があの船に乗って芦ノ湖を縦断した。
坂道を登り外輪山を越えると眼下に相模湾の蒼い海が見える。
そんな一画にすっかり花びらを散らせた桜の老木がひょろひょろと曲りくねった枝を寂しげに広げている。
…僕はここに来るのが初めてだったのだけれど、すぐにそれがどこにあるのかが解った。
桜の老木の根元…そこに視線が吸い寄せられた。
3127 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:39:59 ID:???
僕は、見た。
マナが大切にしていた、ひまわりの飾りが付いたあの麦わら帽子が何かを守る様に置かれている。
胸の鼓動が早まる。
僕は慌てない様に、そっと足音を忍ばせて近付いていく。
まるでセミやトンボを捕まえる時の様に、そっと。
そうしなければ麦わら帽子が何処かに飛んでいってしまう…そんな気持ちになっていた。
やっとそこに辿り着いた僕は、そっと帽子を取り上げる。
ひっくり返してみるとそこにはかすれたマジックの文字が、あった。
あの日見た懐かしい文字。
霧島マナの大切な麦わら帽子だった。

浅利ケイタ、と刻まれた幹の根元を日差しから守る様に置かれたマナの麦わら帽子。
良く見ればハンカチに包まれた何かも供えられている。
僕はそっとその包みを開いてみる。
中には一握りのヒマワリの種…。
僕は…根拠はたったそれだけだったけれど…僕は確信した
「マナだ…マナだ!マナが、生きてる…」
思わず叫んでいた。
涙がぼろぼろとこぼれていく。
うれしくて、うれしくて、何度もその名前を叫んだ。
3137 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:41:10 ID:???
突風が吹く。
突風は、僕の手から、マナの麦わら帽子を奪っていく。
見えない手が麦わら帽子を高く、高く持ち上げていく。

ゆらり ゆらり  
ふわり ふわり 

あの日、駒ケ岳山頂を二人で歩いた時のマナの足取りにも似た不安定な動き。
僕は、ただ見つめているだけだった。

ゆらり ゆらり
ふわり ふわり

麦わら帽子はどんどん僕から遠ざかり、そして見えなくなった。
その時になって、やっと僕にも解った。
あの麦わら帽子のように、僕の手はもうマナに届かないのだと。
いや…恐らく誰の手も、霧島マナには届かないのだ…。

夏の日の思い出だけが僕に残った。


あの日、僕は見た。
夏の陽射しの中で微笑む少女を。
白いサマードレスに白いサンダル、そして向日葵の飾りが付いた麦わら帽子。
芦ノ湖が見える、小高い丘にある公園で見た光景を、僕は一生忘れないだろう。
いや、この夏体験した事全てを、決して忘れないだろう…。
3147 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:44:29 ID:???
え〜読んでくださった方、根気強くお待ちくださった方
誠にありがとうございます。
>>7にネタを投下してからほぼ二年、やっと完結致しました。
当初は数ヶ月くらいでなんとかなるかな?などと考えておりましたがあら大変。
こんなになってしまいました。

この物語がすこしでも皆さんの心を揺さぶる事ができたら幸いです。
そうできなかったら('A`)('A`)('A`)('A`)
…最後の蛇足は本当に蛇足かも…。

次作wはへっぽこミステリーを予定しています。
シンジが田村正和になってしまうという、どこかで聞いたようなお話です。
九月くらいにはなんとかしたいのですが…そこはソレ。
予定は未定であり決定ではないww

もし投下されたい方が居られましたら存分にどうぞ。
私は遅筆です。

それでは失礼致します。

あ、今回は没ネタを出しません。
ごめんなさいねw
でもどんな場面でどんな目にかわかるでしょ?

徹夜でこれを書いていたらローマ法王が崩御されました。
クリスチャンではないけれど、死者に対して黙祷

だからエッチネタはパス
3157 ◆gGjVpethkg :2005/04/03(日) 22:45:52 ID:???
言いたい事は沢山あります。
たぶん100レス分くらいw

まぁ、でも今夜はゆっくり眠ります。
おやすみなさい。
316名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/04/03(日) 22:47:16 ID:???
おつー。
連投規制ってないのかな?
3177 ◆gGjVpethkg :2005/04/05(火) 19:45:15 ID:???
>>316
ありがとうございます。

そういえばひっかかりませんでしたね?
50レス以上投下したのに…。
「改行が多すぎます」とは何度も言われましたがw


読み返していたら苗字を間違えている人物がいました…トホホ

318某所の中の人 ◆sweet/13h. :2005/04/06(水) 12:31:40 ID:???
>>317
初めまして、完結お疲れ様です。
http://yy10.kakiko.com/yy11307819/の管理をしている者ですが
TOPの通り、「2chにだけ存在する投下FF」を転載させてもらってます。

今回、http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/yy11307819/1108457403/38で
要望が出たので転載させてもらおうかと思ったのですが、
『ひまわり』はご自身のHPに収録予定という事ですよね。
んで、その予定が未定であれば、ひとまず転載させてもらって構わないですかね?
(HPを開設された際にはこちらから削除という事も可能です)

「いや、やめといて」という事であれば、遠慮無く言ってくださいです。

ではでは。
3197 ◆gGjVpethkg :2005/04/08(金) 02:11:25 ID:???
>>318

ご丁寧にありがとうございます。
経緯は貴サイトに書き込ませて頂きました通りですのでよろしくお願い致します。
GW明けを目標にがんはりたいと思います。

正直、あんなに早い時間に…と言うかうp希望が出るコト自体に驚きました。
いやそれよりも、初めて脚を踏み入れちゃいましたよ私ゃ。

ご推薦くださいました方、管理人様、ありがとうございました。

…すっかりクセになった行数を示す「じうろく」だの「にじう」が残ってて赤面する文章…。
きっときっときちんとした形にしますし、加筆とオマケもつけますから…
手直ししたら…また読んでみてください。

二年間がんばってよかった…もっとがんばれそうです。

追伸
既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、エヴァ板には他にいくつかの作品を投下しております。
それらもサイトへの収録作業を進めますのでよろしくお願い致します。
自分がだらしないと、こういう点でも他人様に労力を消費させているんだなぁ、などと反省。


3207 ◆gGjVpethkg :2005/04/08(金) 02:23:03 ID:???
…蛇足扱いにしたエンディングを投下していない事に今!気付いた


どうすべぇ…orz
321名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/04/20(水) 20:13:36 ID:???
       ,/;;;;;;;;;;/;イt\ヽ-:'::|´:::::::/:::::::/:|   ̄ >‐ヾヽ ̄        |   }    |!
         /;;;;;;;;;;;;/:::/|_::L:ヘーヽ::|::::/:::::::::::::::/  /    ヽヽ       ノ   |、..   ||  
       |;;;;;;;;;;;;// _./::::::::::::`´:::::::ァ、:;;:/- '´       l }    _,. '´    / `  >'/
        |;;;;;;;;;/  /;;);;;|:`::<''ヽ::_;::∠ ‐'"          / /, - '"´       l.__.., /  
       ``''゛   /;;/;;;/:::::::::|ヾ´         _,. - '"´ ̄             `¨´     
            ヽ/;;/:::::::::/ /     _, - '"
             /;/:::::::/   _, - '"
          /;;/:::::/ _/´
         /;;;;;/:::::/‐7''
         /;;;;/:::::/'"´
        ヾ:/;;/
322名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/04/21(木) 02:05:17 ID:???
乙!!
323:2005/04/21(木) 10:34:39 ID:???
0
324名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/04/21(木) 19:10:41 ID:???
↑ このアホ! スレが消えたとびびっちまったじゃねーか! 焦らせんな!
325名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/04/23(土) 01:00:36 ID:???
すげ・・・途中までしかよんでないけどすごいわ・・・それで三尉ってだれ? 綾波育成計画やったことないから誰かわからん
3267 ◆gGjVpethkg :2005/04/23(土) 17:30:42 ID:???
>>321
ああッ!なんかものすごく強烈なメッセージを感じる…
>>322
ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
>>323
保守ありがとうございます。
>>324
大丈夫…だと思います。
万が一スレがなくなっても>>318にあるサイトに作品を間借りさせていただいております。
へっぽこミステリーの方もどこかに投下させてもらいますし…100kbくらいかな?w
>>325
ありがとうございます。
「すごい」の意味によっては撃沈される…かな?
もしよろしければ感想などいただけると非常にうれしかったりします。

この作品についてアレコレ書きたかったのですが新しく読まれる方も居られるのなら…
ネタバレはまずいですねw  うーん

「三尉」とはMAGIによって選抜された綾波レイの教育係です。
赤木博士の部下…でしたっけ?恐らく大学出たてのペーペーで、学生時代に百種類以上の
バイト経験をしたという設定w年齢は20台前半で顔は「サクラ大戦」の大神少尉に似ていると
オモタ(プレイヤーの妄想を邪魔しない為にはっきりと顔を見せない)
ただこの作品では会話などでもお解かりの様に加持達と同年齢に設定しました。
コイツに関してはネタがゴロゴロしてまして、そのうち別の物語にも登場すると思います。
セカンド・インパクト当時の話とか…まんま主役でw
ポジションは半公式、設定はオリキャラ、ですが作者の自己投影ではありません。

説明不足なエピソードもあるし、もっと書き込まなくちゃあなぁ。
327名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/05/02(月) 01:01:59 ID:???
期待まち
328名無しが氏んでも代わりはいるもの:2005/05/02(月) 02:55:48 ID:???
うーむ マナが生きてるならこれからどうやって生きていくのか気になる 
3297 ◆gGjVpethkg :2005/05/08(日) 04:31:23 ID:???
エンディングを兼ねた蛇足  


BGM、Komm,susser Tod インストゥルメンタルで
尺が逢わなければイントロ・サビを繰り返して調節してください

・各キャラの一部をドupで暗示しつつ
その画面にセリフだけカブせてその他のキャラクターが補足説明
終わったら歌入れて各シーンのカットをぽんぽんと
そういうフラッシュでやれればなぁ、と


リョウジと三尉
「あ゛あ゛〜〜世間はツメタイ…味方はレイひとりだけだぁ〜」
「オレ、同情されてる。『何かワケアリなんでしょ?』ってさ」
「何か間違っとる…」
「ボヤきなさんな…覚悟の上だろ?」
「…なぁ、元気で暮らしてるかなぁ?」
「大丈夫だろ?独りでは耐えられない苦労も二人でなら、ってヤツだ」
「名前を変え年齢を偽り別人になって生きる…楽じゃないぞ…」
「経験者の言葉は重いねぇ」
3307 ◆gGjVpethkg :2005/05/08(日) 04:34:14 ID:???
医療センターの一角
「どういうつもりなんです…アレは貴方が逃げる時の奥の手ですよ!?」
「すまん…なに、迷惑はかけない」
「当たり前です!何度もやれませんよ…私も監視対象になったみたいですからね」
「別の手を考えなきゃあなぁ」
「アテにしないでくださいよ…まったくもぅ、私は只の医者なんですからね」


コウゾウとゲンドウ
「碇、本当にあれでよかったのか?」
「…問題無い…アレの分析など簡単には出来んよ」
「成程な…その頃には人類補完計画も発動されているから関係なし、か」
「そうだ、相手にも時間はないのだ…それよりカレに借りを返せた方が大きい…」
「…いろいろと面倒なヤツだからな」


加賀マリコ(霧島ミサオ)とオオタヌキ
「部隊の増強と兵器開発…どれも頭が痛い難問ですわ」
「だがそれが我々の仕事だよ」
「しかし…」
「我々が命令を下せばあの子達は戦わねばならない。その兵器が役立たずではね…」
「はい…」
「可能な限り優秀な兵器を備えて錬度を上げる…そうすれば生存率も上がるんだよ」
「あるいは外交の一手段として?」
「ん。そう言うテもあるね…採用されるとは限らんが」
3317 ◆gGjVpethkg :2005/05/08(日) 04:35:19 ID:???
とある市役所の職員と転入届けを出したカップル
「えぇと、第3新東京市から、ですか。この前のは酷かったですねぇ」
「はい…あれで両親が…それで思い切ってこの街に疎開してきました…」
「あぁこれは失礼しました…真鍋クミさんと…須藤タケゾウさん…身分証明証は…」
「これです。それから戸籍謄本と必要書類…前の街の市会議員さんの紹介状も」
「拝見します…高橋覗…保証人と身元引受人の件ですね。…手続きは簡単に済みますから」
「あぁ、良かった!私、働きたいんですけど!」
「オレ働くからマナ…べは学校行けよ」
「そういう話はまた別の課になります…今日は大忙しですね。では、がんばってください」
「はい!ありがとうございます!」

「なぁ、もう少し悲壮感出せないのかよ…オレ達、親を亡くした直後って設定なんだぜ?」
「んん〜判ってるんだけどもねぇ…ウキウキしちゃう。道が全部の方向に伸びてるってこんな感じ?」
「…何だよそれ」
「なんでも出来そう、何処へでも行けそう、ってコト♪」


             −THE END−
3327 ◆gGjVpethkg :2005/05/08(日) 04:40:03 ID:???
えと、蛇足です。思い切って出します…もっと引っかかる場所はありますが。
元々のイメージが映画みたいな感じだったので、エンディングもそれらしくしたかったw
最初の案はサイレントで短いシーンを繋いで二人のその後を紹介するはずだったんです…。
書いている最中に「勝手に改蔵」があんなラストになりまして…
似過ぎてるじゃねーかバカヤロー!しかもエヴァ板にスレまで建ったしw
…いや待て人の噂も75日、スレだってそのうちに消えるさ…
と思っていたらまだ有りやがるwwもうこの案は捨てるしかありません。
で、こんなカタチに…苦しいなぁォイ。

>>328
そう言う訳ですから二人で元気にやってます、たぶん。
当座の生活費は遺族年金とか特別災害手当てとか公的な支給金があるかも知れないです。
学校に行くもよし、アルバイトをするもよし…職業訓練校と言う選択もありますね。
戦自ではいろいろな技能・資格取得もしていますから再取得もすんなり行くでしょう。
マナはラーメン屋、ムサシは漁協でも良し。住まいは使用されなくなった廃駅w
「今」と言う時間を精一杯生きてもらいたいですねぇ。

>>327
待っててください。

あとは…サイトの手直しは進んでおりません…えぇまったく。
ですからもうしばらく間借り生活です。
お詫びに没にしたえっちネタを…と思ったのですが、
最近その手の理由で削除依頼が多いとの事。
安全のため別の機会に。

3337 ◆gGjVpethkg :2005/05/08(日) 04:46:41 ID:???
そうそう、マナがシンジと初めて逢ったあのシーン。
あれは本当に偶然だった、と脳内補完してください。
手直しする時はそういう細やかな説明もしておきたいと思います。

眠かったり原稿進まなかったりでもうへろへろです。
それでは、また。
334名無しが氏んでも代わりはいるもの
神職人だね乙