惣流・アスカ・ラングレー。
ヒカリは、アスカのことが心配だったのである。
ヒカリの家にアスカが身を寄せてから、すでに二週間以上経っていた。
昨日は、ヒカリの家が消えた。
Nervの職員である彼女の父に、ヒカリも疎開するように強く勧められていた。
だが、ヒカリはアスカを一人残すことはできなかった。
ヒカリとアスカのつき合いは、ほんの数ヶ月である。
だがアスカは、ヒカリにとって一番の親友と呼ぶべき存在になっていた。
理由はわからない。
強いて言えば、波長が合ったということだろう。
でも、ヒカリにとって、それで十分であった。
今、アスカは、自分の殻の中に閉じ籠もろうとしている。
いや、すでに手遅れかもしれない。
しかし、ヒカリはアスカを助けたかった。
自分では無理かもしれないことは、わかっている。
でも、それでもヒカリは、アスカを助けることを諦めなかった。
「アスカ、ちょっと買い物に行ってくるから」
ヒカリは、近くのコンビニに行くために部屋を後にした。
ホテルの一室で、アスカはゲームをずっとしていた。
本当は、アスカも外へ連れ出したかったが、アスカは頑として動かなかった。
だから、ヒカリは一人で外へ出た。
気分転換に外へ出たかったのが、大きな理由でもあった。
この辺りも、だいぶ疎開が進んでいた。
そのため、一番近いコンビニまで歩いて15分ほどかかる。
だが、それもヒカリにとっては、いい散歩道である。
しばらく、歩いて、目的地まであと少しのところで、ヒカリは裸で立っている
少女を見つけた。
空色の髪で、肌が異様なほど白い少女であった。
「綾波さん! どうしたの!?」
ヒカリは、すぐに少女の元へ駆け寄って、声をかけた。
少女は、きょとんとした顔でヒカリの顔を見ている。
「とりあえず、これを着て」
ヒカリは、自分のジャケットを少女に羽織らせた。
次に、コンビニに走って行き、タオルを買い、少女の体に巻いた。
そして、すぐにホテルへ彼女を連れて帰った。
その間、少女は自分の身に何が起こっているのかわかっていないのか、何も話さず、
されるがままになっていた。
ヒカリは、少女のそのような状態に疑問を持ったが、それよりも裸でいるという
異常な事態に気が動転し、それどころではなかった。
そして、自分の部屋にアスカがいるということも忘れていた。
ヒカリが少女を伴って部屋に入った時、アスカは一瞬、動きが止まった。
次に、立ち上がり、肩を震わせ、大声で叫んだ。
「アンタ、どうしてここにいるのよ!!」
その声に、少女はびくっと体を震えさせた。
そして、怯えた目でヒカリを見た。
その姿を見て、アスカはさらに声をあげた。
「だまってないで、何か言いなさいよ!」
少女はうずくまってしまった。
ヒカリは、その様子を呆然と見ていたが、すぐに少女に駆け寄った。
「綾波さん、怖がらなくても大丈夫よ」
そして、アスカに向かって、優しく話した。
「アスカ、ごめんなさい。でも、綾波さんが裸で立っていて、放っておくことが
できなかったの」
「綾波さんも、なんだか様子が変だったし。だから、アスカ、お願い」
アスカは、少女とヒカリを見た。
しばらくの間、二人を黙って見た。
そして、またゲームを始めた。
ヒカリは、ほっとした。
アスカとレイの仲が悪いことを、ヒカリは知っていた。
レイを連れてくることは、アスカに良い影響を与えることはないと感じていた。
だが、ヒカリは、この裸の少女を見放すようなことができる心を持ってはいない。
「綾波さん、とりあえずシャワーを浴びて」
ヒカリは、少女をシャワールームに連れて行った。
依然として、少女はよくわかっていないようだった。
ヒカリは、少女にいろいろと質問をしたかったが、とにかく裸でいたので、少女に
シャワーを浴びさせることが先だと判断した。
そして、少女のための下着などを買うために、またコンビニへ行くことにした。
「アスカ、また出かけるけど、綾波さんのことをお願いね」
アスカは、黙ってヒカリに振り向いたが、すぐにまたゲームに戻った。
ヒカリはそれを見て、軽くため息をつき、部屋を出た。
いそいでコンビニへ行き、買い物を済ませた。
夕方近くになり、空が赤くなっていた。
もう、路上に人影はほとんど無かった。
帰り道は、自然と足が速くなる。
ホテルの前に着いた時、ヒカリは再び裸の少女を目にした。
「綾波さん。どうして、裸で部屋から出てきたの?」
その言葉に、少女は答えた。
「あなた、...洞木さん?」
その様子に、ヒカリは違和感を感じたが、とにかく少女を部屋に連れ帰った。
自分の部屋の前に着き、ヒカリはドアを開け、室内を見た。
すると、そこには、今、自分の横にいる少女と同じ姿をした少女が濡れたまま立っていた。
ヒカリは、自分の横を見た。
そこにも、少女がいる。
部屋の中にも少女がいる。
ヒカリは、しばらく立ち尽くし、一言、言った。
「綾波さんって、双子だったのね」
ヒカリは、自分の中の常識で、自分を納得させようとした。
つづく
この話、どうしましょう。このままで行くと、掲示板SSとしては、かなり長く
なりそうです。初めは、一発ネタで短編にするつもりが、こんなことになるとは。
面白くないなら、止めてもいいかなと思っています。
今、三人称で書いてますが、アスカとレイの内面描写は書かない方針です。
スキル不足なので、彼女たちの心情を書くと、別人になってしまうと思うので。
もう俺の頭の中も混乱です。
がんばってください。
とりあえず続けてみたら?
ついでに漏れんちにも2、3人回してくれ(w
>>837-838 ごめんなさい。書いていて、どうにこうにも面白くありません。
なんか、ある作品と似てきましたし。とりあえず止めます。申し訳ないです。
残念。でも、「つづく」って書いたのだからなんとかまとめてみては?
そういうキボンはなしですか?
>>840 もうちょっと書いているんですが、それが自分で読んでいて面白くないのです。
ホントは、もう少し楽しい感じにするつもりが、だんだんとイタモノ風味に
なりそうで。では、書いた分まで出します。
この喧噪に気づいたのか、アスカがヒカリ達の方に来た。
アスカは、同じ顔をしたレイ達を見て、目を見開いた。
そして、口をぱくぱくさせ、二人のレイを交互に何度も見た。
「ア、アンタ、どうして二人いるの?」
レイ達は、アスカを見ている。
その表情に感情は無い。
「ヒカリ。これどういうこと?」
「綾波さんが、裸で外にいたから連れてきたの」
ヒカリの答えはずれていた。
「そうじゃなくて、どうして優等生が二人いるのよ?」
「え、綾波さんは双子なんでしょ」
すでにヒカリの中では、レイは双子になっていた。
「なんだか、アタシ、疲れてるみたい。寝るわ」
アスカは、ぼーっとした顔になり、そのままベットにもぐり込み、寝てしまった。
ヒカリは、アスカのことが心配だったが、今は裸でいるレイのことが先と考え、
さっきまで外にいたレイを風呂に入れさせた。
次に、始めに連れてきた方のレイに、自分の服を着させた。
片方のレイが、風呂に入っている間に、ヒカリはもう一人のレイに質問をした。
「綾波さんは、お姉さんの方?」
質問のベクトルが、多少違ってしまったらしい。
「・・・・・」
レイは、無言である。
ヒカリは、レイが何も話さないのはいつものことだと思ったが、それにしても様子が
おかしい事が気になった。
「もしかして、綾波さん、記憶が無いの?」
「・・・・・」
やはり無言である。
いい加減、ヒカリもいらいらしてきた時、レイが浴室から出てきた。
今度は、濡れた体を拭いていた。
ヒカリは、こちらのレイにも自分の服を着させた。
レイは、Tシャツとジーンズ姿である。
そして、レイは呟いた。
「ゆるい、...短い」
「な、な、な、な、な」
ヒカリは、顔を真っ赤にして慌てている。
レイは、ヒカリの方には目もくれず、もう一人のレイを見つめた。
「あなたは、わたし?」
「そうかもしれない。でも、違うかもしれない」
初めてレイがしゃべった。
「わたしは、綾波レイ。あなたは?」
「わからない。わたしは誰?」
その様子を、ヒカリは黙って見ていたが、ここで口をはさんだ。
「じゃあ、あなたの方が綾波さんなのね。」
そう言って、ヒカリは綾波レイと名乗った方に問いかけた
やはり、考える方向を見失っているらしい。
「そうだと思う」
「思う?」
「洞木さん、弐号機パイロット、.....ここはどこ?」
「えっ、ここはホテルだけど」
「どうしてここにいるの?.....碇君」
この言葉に、もう一人のレイは反応した。
「碇君。その言葉、知ってる」
この会話を、アスカはベッドの中で聞いていた。
アスカは寝たふりをしていただけであった。
そして、アスカはガバッと跳ね起きた。
「アンタたち!..」
アスカは言葉を繋げようとした。
だが、アスカに向けられたレイ達の、以前のレイであってレイでない雰囲気に
押されて、言葉を失った。
「...アンタ、本当にファースト?」
「アナタは、セカンドチルドレン?」
その言葉を聞いて、アスカは息を詰まらせた。
「...わたしは、もうエヴァに乗れない。だから、チルドレンでは...」
アスカは、泣きそうな顔になって俯いた。
「そう、アナタも何もないのね。わたしも同じ。」
綾波レイと名乗ったレイが、アスカを優しく抱いた。
もう一人のレイは、「碇君」と呟いていた。
「妹さんの名前はなんていうのかしら」
ヒカリは、やはり考えることがずれていた。
時間は、シンジが湖畔で気を失った時まで遡る。
葛城ミサトは、地上で日向マコトと会っていた。
ミサトは、加持リョウジの最後の電話を聞いて、悲しみに明け暮れていたが、
次にNervに疑問を持ち始めた。
その疑問を解決することが、加持に託された自分の使命だと思いこんだ。
だが、それは逃避しているに過ぎなかった。
加持の死から、そうやって目をそらしているだけであった。
だが、ミサトはそれに気づかないふりをし、Nervの深部へ足を踏み込もうとしていた。
ミサトは、日向の自分へ向ける好意を知っていた。
知っていて、ミサトは日向を利用することを選んだ。
それが、さらにミサトの心を刺し、その結果、子供達を見捨てている要因の
一つになっていた。
日向との話が終わり、車に乗り込もうとした時、遠くの湖畔に人がいるのに、
ミサトは気づいた。
裸の女の子が数人いるように見える。
ミサトは、すぐに女の子達が綾波レイだと判断した。
髪が水色の女の子は、レイしかありえないからである。
どうしてレイが何人もいるのか疑問に感じたが、すぐにレイ達の方へ向かった。
レイ達のそばに着いた時、ミサトはやはり驚いた。
隣にいる日向も、口を開けたまま固まっている。
そして、ミサトはレイ達の中でシンジが気を失っているのに気づいた。
「シンジ君!」
とりあえず、ミサトの中の優先順位はシンジが一番であるらしい。
ミサトは、レイ達の中に入り、シンジを抱きかかえ、頬を軽く叩いた。
その様子を、レイ達は不満げに見ている。
それを日向は見ている。
「あ、ミサトさん」
シンジが意識を取り戻した。
「シンジ君、大丈夫?」
その問いに、シンジは夢うつつの状態で答えた。
「夢を見てました。綾波の夢です。僕は綾波のことがかなりショックだったのかな。
その夢に何人もの綾波が出てきました。そして、全員で『碇君』と呼ぶんですよ。
なんかおかしいですよね」
「シンジ君、それは夢ではないわ」
「どういうことですか?」
「周りを見てごらんなさい」
シンジは、ミサトから目を離し、周りを見渡した。
そして、シンジを見下ろすレイ達を見た。
「あははは、まだ夢なんだね」
そう言って、シンジはまた気を失ってしまった。
ミサトは、そんなシンジをやれやれといった感じで見た。
それから、ミサトはレイ達を見、問いかけた。
「あなた達、レイなの?」
それに、レイ達の一人が答えた。
「そう、だと思う」
「どういうことか説明してもらえる?」
「わからない。.....でも、碇君が呼んでいたから、ここに来た」
そういって、レイはシンジに抱きついた。
それを見た残りのレイもシンジに抱きつき始めた。
ミサトは、レイ達に押しのけられてしまった。
日向に話しかけた。
「日向君、どう思う?」
「は、はい、葛城さん。自分にも、どういうことかさっぱりわかりませんよ。
でも、彼女たちは、もしかするとファーストチルドレンのクローンなのかも
しれませんね」
「そうね。そう考えるのが、一番しっくりするわ。それに、わたしの感では、
ダミープラグの秘密にも絡んでいる」
「ダミープラグですか」
「たぶん」
「それより、これからどうします?」
「そうね...」
ミサトの本領は、普通ではありえない事態の時ほど発揮する。
「このまま、本部に彼女たちを連れ帰りましょう」
「しかし、それでは彼女たちが赤木さんたちに見つかりますよ」
「それだからいいのよ。本部の全職員に彼女たちを見てもらうの。そうすれば、
リツコや司令達には手が出せなくなるわ」
「ですが、」
「もし、このまま隠すとしても、いつかは見つかるわ。その時は、たぶん闇に葬り
去られる。彼女たちも生きていないかもしれない。司令なら、そのくらいはするわ」
「そうですね。わかりました。迎えの車を呼びましょう」
「お願い、日向君。あっ、それからリツコ達に絶対にわからないように。あと、
なにか着る物も持ってきてもらって」
「わかりました。まかせてください」
それから、しばらくの後、迎えの車が来て、彼女たちと共にNerv本部へと向かった。
一行が本部に着き、ミサト達は人目を憚るように裏口から、人通りの少ない通路を
通って発令所へ向かった。
その間、ミサトはシンジを背負っていた。
発令所に近づくにつれ、人とすれ違うようになる。
レイ達を見た人は、いずれも驚いたようにして立ち尽くした。
そして、発令所に着いた。
発令所には、司令やリツコはいなかったが、まだ人が大勢いた。
「はい、はい、みんな注目」
ミサトは、手を叩きながら大声で呼びかけた。
オペレーター達は、ミサトの方を見て、一様に驚いた。
死んだと思われていたレイが5人もいるのである。
驚かない方が無理である。
「ファーストチルドレン、綾波レイは生きてました。ですが、どういうわけか
5人います。まあ、それで、みんな、よろしくね」
よろしくと言われても、あまりのことにオペレーター達は反応ができなかった。
だが、マヤはいち早く立ち直った。
マヤは、ダミープラグに関わっていた。
そのため、この事態が、レイのパーツに関わることだと判断した。
マヤは、リツコへ連絡を入れようとした。
「マヤちゃん。リツコへの電話は、ちょっちして欲しくないのよね。もうしばらくは」
ミサトは、マヤに有無を言わせぬ迫力で迫った。
「あと、シンジ君が気を失っているの。ちょっと見てもらえないかな?」
マヤは、頷くしかなかった。
以上です。自分としては、軽い感じのコメディーを書きたいのですが。
>>854 ええ!
い、以上なんですか(笑
確かにヒカリのずれた感想とか、笑みを浮かべたまま
気を失ったシンジとか笑えるけど、もうちょっとなんか重いのかと思ってました。
以上って言われて無性にこの後リツコやゲンドウが
どう対処するのか気になって眠れません(笑
>>855 いえ、書いてあるのがこれで全部と言うことです。
ここから、イタくなりそうです。そして、終わりまで、さらに長くなりそうです。
なんか、連載物を途中で止めたくなる作家さん達の気持ちが少しわかった感じです。
無理矢理ハピーエンドにすれ
858 :
840:02/11/09 00:26 ID:???
続き読みマスタ。ありがとです。
イタくなるのが嫌で止めるのか、長くなるのが嫌で辞めるのかはわからんですが、
イタくなるのを避ける手段としてヒカリをボケたおさせてみるとか、
話のキーとなるどこか一点を180度反転させてみるとか。
長くなるのを避けるなら、描写を薄くして(重要なポイントだけ残して)省いて逝くとか。
ああいや、そんなえらそげなこといえる立場じゃないんですが。
>>858 止めたい理由は、面白くないからなのです。
これ以上、続けても仕方がないかな、と思っているのです。
860 :
858:02/11/09 19:18 ID:???
>>860 そう言ってもらえるとうれしいのですが。
正直に言いますと、書いていて楽しく無いんですよね。ちょっと、つらいです。
でも、そういうことなら、続けてみようかと思いました。
でも、期待はしないでください。自信がないので。
862 :
01:02/11/10 05:30 ID:???
( お約束で構成され、落ちがダメダメです )
僕のファーストキスは最悪だった。
暇つぶしだからという理由でキスすることになった。
キスしている時は、彼女に鼻をつままれた。
そして、キスの後、彼女は何度もうがいをした。
僕は、死にたくなった。
その翌日の朝、相変わらず、シンジは朝食の用意をしていた。
本当は、シンジはサボりたかった。
だが、サボると同居人の二人から文句を言われる。
シンジにとって、文句を言われることはとてもつらい。
だから、渋々ながらも朝食を作る。
「お、おはよう」
シンジは、アスカに朝の挨拶をした。
だが、アスカはそれには返事をせず、シャワーを浴びに行った。
シンジは、やはり自分が悪いのかと思い、落ち込んでいく。
だが、シンジも男の子である。
アスカと一緒に朝食を摂っている時、ついついアスカの唇を見てしまう。
そして、顔を赤くし、すぐさま青くする。
キスの感触を思い出すも、すぐに、嫌な部分を思い出し、自己嫌悪に陥るのは
シンジゆえであろう。
863 :
02:02/11/10 05:30 ID:???
「はー、キスか」
シンジは、学校で自分の席に座って、呟いていた。
昨日のことを思い出し、ぼーっとしている。
「どうしたの、碇君?」
僕はその声に驚いて、顔を上げると、目の前に洞木さんがいた。
「あ、おはよう」
「おはよう、碇君」
洞木さんが笑顔で挨拶を返した。
その笑顔が、とてもかわいらしくて、僕は洞木さんに見とれてしまった。
そして、いつしか洞木さんの口元を見ていた。
「大丈夫?」
洞木さんは、そんな僕の様子を、体の調子が悪いと思ったようだ。
「ううん、大丈夫、なんでもないよ」
僕は、平気な顔をして答えた。
「そう。じゃあ、安心ね」
そう言って、洞木さんは自分の席へ戻った。
僕は、初めて洞木さんを意識していた。
864 :
03:02/11/10 05:31 ID:???
綾波レイが、教室に入ってきた。
彼女に注意を払う人は少ない。
シンジは、その少ない一人である。
「おはよう」
シンジは、レイに挨拶をした。
だが、レイからの挨拶は返ってこない。
仕方ないか、とシンジは思った。
シンジは今までレイが学校に来た時は、挨拶をしていたが、挨拶が返ってきたことが
無かった。
だから、これはいつものことである。
しかし、シンジはレイの顔をじーっと見ていた。
いや、正確にいうと、レイの唇を見ていた。
なんか、柔らかそうだな。
シンジの考えていることは、こんなところである。
この時は、昨日のキスのことは忘れていた。
だが、シンジの幸せもここまでであった。
アスカが教室に入ってきたのである。
そして、また昨日のことを思い出し、シンジは深く落ち込んでいった。
865 :
04:02/11/10 05:33 ID:???
シンジのシンクロ率は落ちていた。
ミサトやリツコに理由を聞かれたが、シンジは曖昧に答えていた。
あまりにも情けない理由で言えなかったのである。
アスカは、シンジに対して以前と変わらぬ態度で接していた。
それが、シンジをますます落ち込ませていた。
どうして自分だけがつらい思いをしなければならないのか。
シンジは、休憩室のイスに座って、深くため息をついた。
「どうしたんだい、シンジ君」
「あ、加持さん」
加持が、無精髭をさすりながら、シンジの横に座った。
「一人で悩んでいるのは良くないなあ。どうだい、オレでよかったら相談にのるよ」
「はあ」
加持の申し出に対して、シンジの生返事を返した。
それを見た加持は、もう一押しと思い、言葉をかけた。
「なあ、シンジ君。オレは、キミより長く生きてるんだ。そんなに経験豊富と言えないが、
相談にのることくらいはできるさ」
シンジは、しばらく加持を見て、考え込み、そして意を決して打ち明けた。
866 :
05:02/11/10 05:34 ID:???
「そうか、なるほど。シンジ君は、その女の子に嫌われたと思って心配なんだな」
「い、いえ。そんなことは、」
「はははは、そんなに慌てることないよ。で、その女の子とは誰だい? アスカかな?」
「いえ、違い、.....そうです」
「そうか、アスカか。まあ、アスカは素直じゃないからな。きっと照れてたんだよ」
「そうなんですか!?」
「ああ、そうだと思うな」
「そうか、そうだったのか」
「シンジ君」
「はい」
「そういう時は男がリードしなければいけない」
「リードですか」
「ああ、そうだ。それに、シンジ君は大人のキスを知っているかい?」
「いえ、知りませんが」
「そうか。大人のキスとはだ、」
867 :
06:02/11/10 05:35 ID:???
その後、延々と加持のキス講座が続いた。
それを聞き終えて、シンジは大人になったような気分になった。
「わかりました、加持さん。僕、がんばります」
「シンジ君、がんばれよ」
シンジはアスカを探しに走り出した。
そして、シンジはアスカを見つけた。
次に、アスカを抱き寄せ、キスした。
アスカは、突然のことになすすべくもなく、キスされた。
だが、次の瞬間、アスカは驚いた。
シンジが、アスカの中に舌を入れたのだった。
そして、アスカはシンジを突き飛ばした。
「な、な、な、何するのよー!!」
そう叫んで、尻餅をついてるシンジの胸に蹴りを入れた。
シンジは、そのまま倒れて、気絶した。
それを見たアスカは、顔を真っ赤にして走り去った。
868 :
07:02/11/10 05:37 ID:???
シンジは入院した。
肋骨が5本折れたのである。
それでも、一週間で退院できるとのことであった。
見舞いに来た加持に、シンジは文句を言った。
「無理にキスをしたらダメだ。ムードを考えないと」
「ムードですか」
「そうだ。女の子は繊細だからな」
シンジは、何が悪かったのか考えた。
だが、シンジのにぶい頭では結論が出なかった。
レイが、一度、見舞いに来た。
レイの顔を見て、シンジはレイとのキスを想像した。
しかし、その想像は絵にならなかった。
「綾波とのキスは想像できないや。それに、綾波にムードといっても」
シンジは、病室で独り言を言ってた。
考え事に夢中で、病室に人が入ってきたのに気づかなかった。
「ムードってなに?」
「えっ!」
869 :
08:02/11/10 05:39 ID:???
シンジは、声の方を見た。
そこには、ヒカリがいた。
「あ、洞木さん。いつ来たの?」
「さっきからよ。声をかけても碇君、気づいてくれないんだもん」
「ごめん。...見舞いに来てくれたんだ」
「ええ、本当はアスカも一緒に来たんだけど、入り口の所で帰っちゃって」
「アスカも来てたんだ」
「そうなの。碇君、アスカを連れて来れなくて、ごめんなさい。その怪我、
アスカがしたんでしょ」
「ううん、僕が悪いんだ。だから、洞木さんも気にすることないよ。それに、
洞木さんが見舞いに来てくれて、とっても嬉しいよ」
「碇君」
なんか、いい雰囲気になったと僕は思った。
加持さん、これがムードというものなんですね。
僕は、洞木さんの手を取って、両手で包み込んだ。
そして、洞木さんの目をじっと見つめた。
洞木さんは、初め驚いているようだったが、黙って目を閉じた。
そして、僕は洞木さんの顔に近づき、目を閉じた。
キスをしようとした瞬間、胸に強烈な痛みを感じた。
870 :
09:02/11/10 05:40 ID:???
「アンタ、なにしてんのよ!!」
僕は、あまりの痛さに息ができなかった。
洞木さんは、僕を心配してくれていた。
だが、それを見て、アスカはますますヒートアップし、そして僕の頬をグーで殴った。
僕は、そのまま気絶した。
その後、さらに2本肋骨が折れ、前回折れた肋骨が肺に刺さりそうになっていたらしい。
僕の退院は、さらに一週間延びた。
加持さんが見舞いに来て、僕はまた加持さんに文句を言った。
加持さんは、やれやれといった感じで僕に話しかけた。
「シンジ君は、誰が好きなんだい?」
それに、僕は答えられなかった。
そして、そのことを退院までずっと考えていた。
その間、アスカも洞木さんも見舞いには来てくれなかった。
871 :
10:02/11/10 05:42 ID:???
シンジは、退院して家に戻った。
案の定、家の中はゴミの山になっていた。
部屋中を掃除していた時、アスカが帰ってきた。
「アンタ、帰ってきたの」
そう言って、アスカは自室へ入っていった。
シンジは、その一言を聞いて涙ぐんでいた。
それから、アスカは前と同じようにシンジに接していた。
そのようなアスカに、シンジは戸惑った。
やっぱり、アスカはよくわからないや。
それが、シンジの出した結論であった。
だが、自分の存在を無視されているようで、シンジは相変わらず落ち込んでいた。
久しぶりに、シンジは学校へ行った。
教室で、シンジはヒカリに挨拶をした。
ヒカリは、微かに顔を赤くして挨拶を返した。
にぶいシンジは、それに気がつかない。
その様子を、アスカは不機嫌に見ていた。
朝のホームルームが始まり、黒板の前に茶色の髪の女の子が立っていた。
「霧島マナです、よろしく」
872 :
11:02/11/10 05:44 ID:???
その転校生の席は、シンジの隣になった。
その日、一日中、マナはシンジに話しかけていた。
シンジは、どうして自分なんだろう、と思ったが、マナがかわいいので、
別にどうでもいいやと思っていた。
それからは、毎日、マナはシンジと一緒にいた。
それをアスカは忌々しげに見ていた。
「霧島マナはスパイよ!」
夕食の時、突然、アスカが言った。
シンジは、またアスカが馬鹿なことを言っていると思い、そのまま聞き流した。
実は、シンジはそれどころではなかったのである。
週末に、マナと芦ノ湖でのデートを約束していて、そのことで頭がいっぱいだったのだ。
アスカは、そのようなシンジを見て、腹を立てていたが、本当にシンジのことが心配だった。
翌日、学校の帰りに、シンジはマナと別れてから、本屋へ向かった。
シンジは、デートコースをどうするか決めるために、その手の雑誌を買うためである。
帰りに、シンジは加持とリツコに会った。
そして、そのまま三人でファミレスへ行き、夕食を共にした。
その時に、シンジは週末のデートについて相談した。
その後、リツコは仕事があるからと先に帰っていった。
シンジと加持の二人になった。
873 :
12:02/11/10 05:46 ID:???
「なあ、シンジ君。デートとなれば、キスするかもしれないな」
「な、加持さん。まだ、僕たちは中学生ですよ。初めてのデートでキスするわけ
ないじゃないですか」
「でも、シンジ君はアスカとはキスしたんだろ。それに、洞木さんと言ったかな、
その娘ともキスしそうになったんだろ」
「そうですけど」
「まあ、深く考えることはない。ただ、そのようなこともあるかもしれないということだ」
「そうなんでしょうか」
「シンジ君、今度は失敗しないようにな」
「そうですね」
シンジは、また落ち込んでしまった。
だが、すでに話がキスすることになっていることに、シンジは気づいていない。
「シンジ君は、霧島さんのことが好きなんだろ?」
「よくわかりません。でも、好きかもしれません」
「今はまだそれでいい。だがな、シンジ君。その娘が大切なら、彼女を傷つけない
ようにしなくてはな」
「はあ」
「まずはだ、優しく、軽くキスする。それから、・・・・・・・・・・・・・」
そして、加持のキス講座が始まった。
それを、シンジは一字一句漏らさず、聞いていた。
「わかったかい、シンジ君」
「わかりました、加持さん。ありがとうございます」
「デート、がんばれよ」
「はい」
もう、シンジはやる気満々であった。
874 :
13:02/11/10 05:48 ID:???
デート当日、マナは白いワンピースとお揃いの帽子を被って、待ち合わせの場所に待っていた。
シンジは、少し遅れてやって来た。
白いワンピース姿のマナに、シンジは見とれ、これからのデートに胸を弾ませていた。
その後は、芦ノ湖の遊覧船に乗り、次にロープウェイで箱根の山に登って、見晴らしの
いいところで二人はお弁当を食べた。
この時、マナはシンジに、「マナ」と呼ぶようにお願いした。
シンジも、恥ずかしいながらも、「マナ」と呼ぶようになった。
そして、最後に箱根の温泉街に二人は行った。
「シンジ、露天風呂に行きましょう?」
「え、でも、ここ混浴だよ」
「わたしはいいよ。シンジはわたしと一緒じゃ嫌なの?」
こう言われては、シンジは断れるはずはなかった。
なし崩し的にシンジは、マナと一緒に温泉に入っている。
マナは、体にバスタオルを巻いているだけの姿である。
二人は、背中合わせに座っている。
シンジは、マナが気になって仕方がなかった。
875 :
14:02/11/10 05:49 ID:???
「シンジ」
「なに、マナ?」
「わたし、シンジのことが好き」
「え、ええ!」
「だから、わたしのことを信じて欲しいの。お願い」
マナは、シンジの手に、自分の手を重ねた。
シンジは、とてもドキドキしていたが、ここで加持のアドバイスを思い出した。
「僕は、たぶんマナが好きだと思う。でも、そうでないとしてもマナのことは信じるよ」
「シンジ」
そして、シンジはマナの方を向き、肩を優しく抱いた。
シンジとマナは、そのまま唇を重ねていた。
長い間、そのままだったが、次にシンジは大人のキスをマナにぶちかました。
マナは、とろんとして、シンジのなすがままになっていた。
だが、悲しいことに、シンジはその先を加持に教わってはいなかった。
シンジは、これからどうするか悩んでいたが、のぼせそうになったので仕方なく、
温泉から出た。
それでも、シンジは大満足であった。
加持さん、僕は大人になりました。
シンジは、こんなことを思っていたが、まだまだ子供であった。
876 :
15:02/11/10 05:51 ID:???
その夜、家に戻ってから、シンジはミサトにデートのことを聞かれた。
アスカは、ヒカリの家にお泊まりである。
普段なら、ミサトにからかわれて、あたふたするシンジであったが、大人になったと
勘違いしているシンジは、ひと味違っていた。
「ねー、シンちゃん。マナちゃんと、キスしたの?」
「当然ですよ、ミサトさん」
「え、シンちゃん、本当なの?」
「本当です」
「シンちゃん、大人になっちゃたのね」
ミサトは、かなり酔いが回っていた。
「ええ、大人のキスもしましたよ」
「ほんとうーに?」
「本当です」
と、シンジが返事をした瞬間、ミサトがシンジにキスをぶちかました。
それも、濃厚なやつである。
シンジは、ぼーっとなって、目がうつろである。
「シンちゃん、これが大人のキスよ」
だが、シンジの返事はない。
シンジは、そのまま自室に戻り、ベットに横になった。
加持さん、僕はまだまだ子供でした。
でも、これで大人になりました。
シンジは、間違った自信をつけてしまった。
877 :
16:02/11/10 05:53 ID:???
それから、よりいっそうシンジとマナは、一緒にいるようになった。
ただし、芦ノ湖デートの時から、進展は無かった。
それを、忌々しげに見ている目があった。
アスカである。
だが、それ以上にヒカリは、やきもちを焼いていた。
ヒカリは、病院でシンジとキスしそうになって以来、シンジのことが気になっていた。
あの時は、雰囲気に流されたと思ったが、それからはシンジのことばかり考えるようになった。
ゆえに、今の状況は、ヒカリにとって許し難いものがある。
マナが転校してきてからは、めずらしく、シンジは一人で家へ帰ることになった。
「碇君、ちょっといい?」
シンジが帰ろうと、席を立ったところにヒカリが声をかけた。
教室には、二人の他に人はいない。
「なに、洞木さん?」
ヒカリは少しためらったが、意を決してシンジに話しかけた。
「碇君は、わたしのことをどう思っているの?」
「え、ええ」
「病院で、わたしにキスを迫ったのに、今は霧島さんと仲良くして、わたし、碇君のことが全然わからない」
ヒカリは、目に涙を溜めて訴えた。
シンジは、これに狼狽えた。
どうすればいいのか、必死に考えたが、パニック寸前である。
加持さん、僕はどうすればいいんですか。
878 :
17:02/11/10 05:54 ID:???
シンジは、既に心の師匠になっている加持を思い浮かべた。
そして、シンジは決心した。
「洞木さん」
ヒカリにキスをぶちかましたのである。
それも、とっても熱いやつを。
シンジが、唇を離したら、ヒカリは床に座り込んでしまった。
シンジは、ヒカリを抱きかかえ、イスに座らせた。
「洞木さん、その、僕の気持ちはこうだから」
まったく意味のわからない答えを言って、シンジは教室を出て行った。
それをヒカリは、顔を赤く染めて見送った。
シンジは悩んでいた。
いったい、僕は誰が好きなんだろう。
マナは、僕に好きと言ってくれた。
洞木さんは、僕のことが好きなのかな?
ミサトさんは、僕に優しくしてくれる。
アスカも、時々、僕に優しいんだ。
結局、僕に優しくしてくれる人なら誰でもいいんだろうか。
879 :
18:
しかし、その後、事態は急変した。
戦自のトライデント脱走事件とマナが関係していることがわかったのである。
シンジは、「信じて」と言ったマナを信じたかった。
だが、今まで人生で裏切られ続けてきたシンジは、マナを疑い始めていた。
そして、シンジ達にトライデント追撃命令が下った。
追撃戦の後、シンジとマナ、そしてマナの同僚でトライデントのパイロットである
ムサシが相対した。
初号機は、零号機に抱えられて回収され、アスカは弐号機の中で3人を見守っていた。
「マナ、だいじょうぶ?」
「シンジー!」
「マナ、こっちに来るんだ」
「ダメだ」
ムサシが、割って入った。
「マナ、オレと一緒に来てくれ」
そう言って、ムサシがマナの腕を取ったその時、
「ぐっ!」
ムサシが、崩れ落ちた。
マナが、ムサシのみぞおちに肘打ちを食らわせたのである。
「シンジー、怖かったー」
マナは、シンジに抱きついた。
シンジは、事態の変化についていけず、抱かれたままになっていた。
それを見ていたアスカは、爆発寸前である。