2 :
義体音声機能 1:2012/12/04(火) 01:31:47.39 ID:kJj9ND/S
私は、機械の身体になりたての頃、この身体が大嫌いだったんだ。
まず、ごはんを食べられないことが嫌。うー、正確に言えば、食事はできます。
栄養カプセルっていう世にも味気ないシロモノを水なしで飲み込むことが、私に
とっての食事でした。でも、一般的には、それは食事と呼べるものではないし、
それ以外のものを口にできるような構造に、この身体は、なってない。舌はついて
いるけど、飾りみたいなもので、味なんてこれっぽっちもわかりはしない。食欲、
性欲、睡眠欲が人間の三大欲求ってよく言われるけど、そのうちの三分の一が
永遠に私から消え去ったことになる。これって、人生が三分の一短くなったのと、
ほとんど同じ事だよね。
他にも、嫌いなトコロは沢山ある。ありすぎて、いちいち挙げていけばキリが
ないくらい。義体なんて所詮、生身の身体の代用品でしかないわけで、生身の
身体の感覚を、完全に再現することなんて、まだまだ夢物語だって分かっては
いるけど、地球が50億年かけて作り出した肉体の神秘に比べると、余りにも
稚拙でお粗末なお人形さんには、失望することばかりだった。
もちろん、機械の身体になったからこそ、得たものも、ないわけじゃないよ。
女性にとっては、憧れともいえる永遠の若さってものを、外見だけでも手に入れた
ことになるし、物理的な衝撃には、生身の身体に比べたらずっと強くて怪我知らず。
風邪だってひかずにいつだって健康そのもの。リミッターを外せば120馬力も
出せる力持ち。他にも他にも・・・。まっ、どれもこれも、メリットっていうより、
活用すればするほど自分が、もうニンゲンとはかけ離れた存在なんだってことを
思い知るだけのような気がするけどね。はは。
・・・でも、イソジマ電工に入社して、ケアサポーターとして義体化一級のユーザー
さんたちの担当をさせていただく立場になりますと、やっぱり、そんな考え方も多少は
変わってくるわけです。
突然の事故に、不治の病。理由はイロイロあるけれど、義体化一級のユーザーさんは、
私も含めて皆、死の淵に片足どころか両足までどっぷり浸かった状態から、奇跡的に
生き返ることができた人たちばかり。たとえ身体が全部機械になってしまったとしても、
せっかく助かった命なんだ。新しい身体に一日も早く慣れてもらって、できるだけ早く
社会に復帰してほしいって思うよね。
3 :
義体音声機能 2:2012/12/04(火) 01:33:20.51 ID:kJj9ND/S
そのために、まず、私が、自分の身体と向き合わなきゃいけない。それで身体の機能を
ばんばん使いこなして、ユーザーさんに、義体って便利なのですよー、こんなこともできるの
ですよーって、実際に示してあげなきゃいけないって思ってる。自分の身体を使って
お手本を見せられるっていうのは、他のケアサポーターには無い、私だけの個性なんだからね。
と、まあそんなわけで前置きが長くなってしまったけれど、最近は、私も義体の機能も
積極的に使うようにしている。以前は、時計機能を使うことすら抵抗あったから、大きな
進歩だって思いませんか。私って、オトナになったって思いませんか。
ちなみに最近のマイブームは、義体の自動発声機能。しゃべりたいことを前もって録音して
おきさえすれば、自分で意識せずとも義体の補助AIが勝手にしゃべってくれるという
優れもの。どんなときに使うかっていうとさ、たとえば、今みたいなときに使えばいいんだよ。
ふふふっ。
えーっと、今、私がいるのは、菖蒲端のワイ横の、とある価格破壊系のラブホテルの一室。
ラブホとは思えないほどの飾りっ気のなさで、下品な言い方をすれば、やれればいいやって感じ。
藤原も私も忙しくて、ようやく菖蒲端駅で落ち合えたのは、金曜日の終電も間近の時間帯。
もう少し時間があれば、ホントは藤原に付き合って、どこかお店に飲みにでも行くところなんだけど、
時間も時間だし、もう直接ホテルに行こうってことになったってわけ。
でね、鼻息荒くしている藤原には、大変申し訳なくって直接言えなかったんだけど、正直今日、
私は、「してしまう」ことについて、余り乗り気ではない。実は、ここ一週間、あるユーザーさんの
義体トラブルが続いて、ずーっと残業だったんだよね。機械の身体だから、働きづめでも肉体的に
疲れるってことはないけれど、それでもロクに睡眠も取れないとなれば話は別。もし生身なら、
たぶん目の下に大きなくまを作っていてもおかしくない。藤原には申し訳ないけど、やっと仕事から
解放されて緊張感が緩んだこともあって、今すぐにでも寝たい気分なんだ。とはいえ、せっかく
ホテルまで来て、バタンキューでは、ここまで付き合ってくれた藤原に余りにも申し訳なさすぎるよね。
そこで役に立つのが、この義体の自動発声機能です。
4 :
義体音声機能 3:2012/12/04(火) 01:34:06.45 ID:kJj9ND/S
藤原がシャワーを浴びている隙に、義体が汚れていないから、今日はシャワー浴びなくていい、
なんて適当に一緒にシャワーに入らない理由をつけた私は、着ているスーツやら下着は綺麗
さっぱり脱いで、いつでも藤原君を受け入れられますよ的体制を整えた後、ベッドにごろんと
仰向けに寝そべりながら、早速、これからの準備することにする。
「んっ」
目をきゅっとつむって、サポートコンピューターにアクセス。まぶたを閉じた私の視界に表示
されるのは、サポコンの義体設定とメンテナンスの画面。
まず、義体の性感の数値は最低にしておく。藤原には申し分けないが、今日は性欲より睡眠欲が
勝っているのである。変に感じてしまって、眠れないと困るのだ。
それから、いよいよ自動発声機能を使う。藤原のナニが、あそこに入っている間は、あらかじめ
録音しておいた
「藤原大好き、藤原大好き(中略)、もっとして、もっとして(中略)、いいよう、いいよう、すごく
いいよう、あっあっあっ(以下省略)」
というフレーズが、私の意志と無関係に喉の奥のスピーカーから出るようにセッティングして
おく。ちなみにこれ、寮で、皆が寝静まった夜中に、ゼッタイに音漏れしないように布団を頭から
すっぽりかぶりながら録音した自信作だ。
藤原は、小さなシャワールームから出てくるとすぐ、ざっと身体を拭いただけの、まだ湯気が
ぽかぽかたつ身体のまま、ベッドに寝ている私に向かって、一直線に飛びかかってきた。
「よしよし、いい子ちゃん、いい子ちゃん」
上から覆いかぶさる藤原の顔をそっとつかんで、お互い目を見つめ合ったあと軽くキス。
それから、藤原の背中に手をまわして、ぎゅっとお互いの身体と頭を抱き寄せる。
(藤原、ごめん。本当にごめんね)
私は天井を見つめながら、軽く微笑んだ後、すとんと眠りに落ちて行った。あとの、藤原との
おつきあいは、補助AIくん、君にまかせたからね。
どのくらい、時間がたったものやら。
・・・・・・ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
両方の、ほっぺたを手のひらで、軽く叩かれ続けた私は、夢の世界から無理やりゲンジツに
引き戻された。
「いいよう、いいよう、すごくいいよう!」
なんだ、この耳障りな声はって、一瞬思ったけど、よく考えた補助AIに操作をまかせた
私の声だった。
5 :
義体音声機能 4:2012/12/04(火) 01:34:46.59 ID:kJj9ND/S
「ふじわら、一体なんなのさ」/「あっあっあっあっあっ」
しまった。うっかり、自動発声機能もセットしたまましゃべってしまい、一人ハモリをしてしまった。
あわてて、目をつむってサポコンを操作して、自動発声をカットする。恐る恐る目を開けると、
目の前で藤原が睨んでた。やばい、ばれたかも。
「裕子さん、ちょっといいかな」
藤原は、私と身体をつなぐのをやめて、ベッドの上で正座。ちんちんおっ立てて裸で正座とか、
超恰好悪いんですケドって、からかいたかったけど、そう言える雰囲気でなし。私も、裸で正座して
藤原と向き合う。
「あのね。俺が気づかないと思ってる訳?」
「え・・・えと、何をですか・・・」
すっとぼけて、天井を見上げる私。もう心当たりがありすぎて、藤原を正視できない。
「俺から全部言わせる気?じゃあ、はっきり言わせてもらうけど、俺、機械人形を抱く趣味は
ないから」
「あ・・・言っちゃったね。藤原、言っちゃいけないことを言った」
「言うよ。言うさ。何やったか知らないけど、さっきの明らかに裕子さんじゃなかったよね。
そうでしょ」
「う・・・えと・・・それはその・・・疲れてたから・・・」
図星を突かれた私は、あっさり白旗をあげた。確かに、さっきの私は、私でない違う何かだった。
機械人形と言われるのも無理はない。
「裕子さんが疲れてるのに気が付かない俺が悪いのかもしれないけど、疲れてるなら、疲れてるって
言ってほしかった。ちょっと人を馬鹿にしすぎじゃないか」
そう言うなり、立ち上がって服を着始める藤原。
「ちょっと、どこ行くのさ」
「やる気失せた。帰る」
後は、私が何を言っても全部無視。最後に
「そんなことばっかりしてると、裕子さん、いつかきっとしっぺ返しが来ると思うよ」
なんて言い捨てて部屋から出て行ってしまった。私は、閉じたドアに向かって、しばらくあっかんべー。
なんて憎たらしいんだろうね。確かに私も悪かったけどさ、私の言うことに耳も貸さないで一方的に
出ていくなんて、ひどすぎるよ。いっとくけど、こっちは義体化一級の身体障碍者なんですからね。
そういう私に対するいたわりの気持ちなんて、一切ないよね。こっちがどれだけ、ヒトとして当たり前の
ことができなくなってるのか、知りもしないくせに。そんな私が、少しくらい機械の身体の機能を使って
ラクしたっていいじゃないか。そんなの、できなくなっってしまった、もっとずっとすっとたくさんのことに
対する、ほんのちょっぴりのお返しみたいなものだ。使って当然の権利だ。しっぺ返しなんて来るわけ
ないよ。
6 :
義体音声機能 5:2012/12/04(火) 01:35:53.01 ID:kJj9ND/S
XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
「えー、それではみなさん、朝礼をはじめます」
心なしか、けだるい雰囲気が漂う月曜朝のケアサポート課。いつも通りの、朝8時50分きっかりの
課長の掛け声に、皆がのろのろ立ち上がる。
「今日の担当は八木橋君だったかな」
「あっ、はい」
朝礼は、持ち回りで担当が決まっていて、担当は皆の前で3分ほどフリーテーマでスピーチすること
になっている。私は、機械の身体のくせに、生身の頃から引き続きの極端なあがり症で、人前で話
すと、胸が苦しくなって声が出なくなる。もう心臓もないし、汗もかかないのにこのありさま。だから、
この朝礼当番というのが嫌で嫌でたまらなかった。
でもさ、最近、妙案を思いついてしまったんだよね。前の日に、話す内容をあらかじめ決めて
しまって、それをサポートコンピューターに記憶させてしまえばいいのです。そして当日に、自動
発声機能を使って、その内容を補助AIに話してもらうんだ。私ってば、すごい頭がいいじゃないか。
私は、心なしか颯爽と課長の隣に歩み出る。ケアサポート課の皆さんが一斉に私に注目。
いつもならこの時点で、完全に気持ちが舞い上がってしまう私だけど、今日は余裕たっぷり。
だって、しゃべるのは、私じゃなくて補助AIだもん。そうだ。朝から元気の良いところを皆に
見せつけてやろう。いつもより音声を少し大きめにしてみよう。
私は、目をつむってサポートコンピュータを操作し、音声フォルダにアクセス。
「藤原大好き、藤原大好き(中略)、もっとして、もっとして(中略)、いいよう、いいよう、すごくいいよう、あっあっあっ(以下省略)」
しまったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
おしまい
お久しぶりです。投下していたのは、すいぶん前のことですが
ヤギーを覚えて下さっている方が多くて、嬉しくなってしまい
ついつい投下してしまいした。
そうしたら、いきなりの容量オーバー。
あわてて新スレを立てたものの、前スレに新スレへの告知もできない始末。
いきなり住民の皆さまにご迷惑をおかけしてしまい、
何とお詫びを申し上げたらよいのか…大変申し訳ないです。
突然結構な量がまとめて投下されているなあと、ぼけーっと読み進めていったら・・・・
ぎゃーー!!
ヤギー!?
新作ゥゥ!?
ぎゃー!!うれしいです。
ホント好きですありがとうございます。
久しぶりのヤギーキターーーーーー!
自動で喘ぎ声とか、バレるってw
セ◯oスはコミュニケーションなのです…
円の大きさ間違えたorz
ヤギー キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
藤原マジガンガレ!
そしてヤギードンマイ!www
最後にスレ立て乙!
新作増えると良いなぁ
>>7 まだスレを見捨ててなかったのかと驚いたわ
御無沙汰ですな。相変わらずGJ!です。
また投下してください。お待ちしています。
13 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 00:40:49.17 ID:G0trWuYA
麻痺した部分を切断して人工物に付け換えるか悩む娘
そういう話は今までにありますか?
test
うるさいお前なんかロボットだ
と、近所の子供に言われて凹むヤギーであった
やっぱりサイボーグが居る世の中になると
サイボーグを人間扱いしなかった罪とかできるんだろうね
現行法でもサイボーグをロボット呼ばわりすれば名誉毀損罪くらいは適用できそうだけど
>>17 前提として、義体を中の人と同一であるとみなすか、あくまでも中の人の
所有物とするか、で、解釈は分かれそう。
後者であれば「中の人ではなく義体そのものに対して言った」という
ことにすれば罪には問われないのでは。
義手や義足に対して「人間扱い」しなかったのと同じ法的取扱いです。
うーん、義足の人に「この義足野郎!」とか言ったら
義足部分だけじゃなくて本体の人まで中傷する事にしかならんような。
だから「義体に対して言ったんだ」はあんまり通用しなさそう
あと、生身の体だけでは人間として機能できない(生命維持できない)状況の時、
機能・生命を保つために必要な機械に対して人間扱いしないのも、現行法でも罪に問われそうだ。
たとえば人工呼吸機や人工心臓を勝手に電源OFFしたら殺人罪や殺人未遂罪が適用されるだろうし
こーゆー話を見るとそりゃファンタシースター等機械人種のいる世界は人権でモメるわと実感する
>>13 このスレでは出てなかったと思う
という事でよろしく(ぇ
医療行為としてサイボーグ化を行う場合、当然の事ながら
生身で残った部分は切り落として機械化しちゃいけないって事になるだろうね
機能全廃ならともかく、中途半端に残っていた場合に義体化するにできないという状況はあるだろう
というか実際に現実の世界で似たような話はあったりする…。
脚を切断して義足を使うという時に、中途半端な位置で切断するよりきりの良い位置で切断したほうが
義足使用時の能力が上がるという事があるけれど
病気で切断する場合、本人がじっくり考えてから切断を実行することができる分、多めに切って貰える場合が多いが
事故などで突然ダメになった場合、生きてる部分をなるべく残す(そして後から追加で切断したりは出来ない)そうな。
機能全廃でも生きてる場合(麻痺とか)、将来の医学向上による治療の可能性もまた切断するか否かの悩みの種になりそうだ。
>>21 リアルだって肌の色だの髪の色の違い『だけ』で差別の対象になるんだぜ?
チョーセンジン?と言うだけで『シャベツニダ!』とか騒ぐ連中も居るけど、
実際には肌の色が白い人種が頂点であるとか勘違いしてる連中とか見てると、
理屈なんか関係なく「あっちはこっちと違う」だけで差別のタネには十分なりうる。
24 :
リハビリ室2:2012/12/09(日) 15:06:26.21 ID:MHYkjYOj
前スレでリハビリ室と言う短編を書いたものです。
なんとなく続きを書いてみましたので投下してみます。
なお、誠に勝手ながらヤギーワールドをシェアさせていただきました。
世界観的な部分での設定を共用させて頂きましたので、お含みおき下さい。
これを含め9レス分です。
よろしくお付き合いください。
25 :
リハビリ室2−1:2012/12/09(日) 15:07:36.74 ID:MHYkjYOj
「こらぁ!ゆうちゃんまちなさーい!」
「やーだよぉー!」
小さなサイボーグのシルエットが廊下を走っていく。
4歳か5歳かの男の子がカチャン!カチャン!と賑やかな音を立てて走っている。
その後には生命維持装置の電源パックを抱えたまま、義体制御内科のスタッフが一緒に成って走っていた。
「こらッ! ゆうすけッ!」
「あッ!」
母親と思しき女性に怒鳴られてビクッと体が震え、直立不動になった子供。
スタッフがその後からがっちりと抱きしめて持ち上げた。
小児型サイボーグとは言え、その重量は10kgや20kgじゃきかない金属の塊だ。
調整用の設備が備え付けられたストレッチャーに押し付けられて、体のコントロールを切られてしまった。
「あぁ! ずるい!」
「はぁはぁはぁ・・・・ ゆうちゃんはまだ走っちゃダメなんだから」
「すいません、この子ったら・・・・」
若い母親に額をペチリと叩かれて、小さな男の子が笑っている。
「また鬼ごっこしようねッ!」
「はぁはぁはぁ もうちょっと・・・・ 調整したらね」
一年と数ヶ月前。幼稚園へと向かう園児バスが事故を起こした。
大手運送会社のトラックが衝突し、この子は首から下を全て挟まれて、ほぼ即死だった筈だ
しかし、事故を起こした会社は全面的な資金提供を約束した。
その結果、僅か3例目の5歳未満サイボーグとしてセンターへ送り込まれてきた。
人体の成長と言う、まだまだ未知数な事象を研究する意味でも貴重なサンプル。
あっと言う間に幼年サイボーグの体が準備され、この男の子はセンター一番の有名人になった。
そして、沈滞する空気をかき混ぜる清涼剤として重宝されつつ、ここを生活の場としているのだった。
「ゆうちゃん良いよ。ちょっと立ってみて」
男の子の周りには白衣のスタッフやエンジニアが輪になっている。
廊下に座ったり膝立ちになったりしながら様子を見ている。
生命維持装置をリュック型にして背中に背負った男の子のサイボーグが、カーペットの上へ立ち上がった。
身体を構成するフレーム部分の物理的容量が小さすぎて、十分な容量のバッテリーが収まりきらないのだ。
結果的にランドセルを背負ったような形状となった男の子。
「ボクこれで学校行ける?」
「そうだな、ゆうちゃん良い子にしていたら学校行ける様になるぞ」
「やったー!」
毎日毎日。センターの窓から下を眺め、同世代の子供達が遊びながら学校に向かうのを眺めている。
だがこの子は、同世代の子供達が小学校へ行く様になっても、このセンターから出る事すら出来ない。
そしておそらく、この先5年程度はここから出る事も出来ないだろう。
ボディ内に生命維持装置を収められるようになるサイズへ『成長』するか。
さもなくば機材そのものが画期的に小型化しないと、この子は僅かに残った生体部品・・・・
脳とそれを取り巻く首から上の『生身な部分』の生命活動を維持する事すら出来ない。
「ゆうちゃん、夕方になったらもう一度検査するから、それまでは遊んでいて良いよ」
「わかった!」
「入っちゃいけない所へ入って身体が止まっちゃったら誰か呼ぶんだよ?いいね?」
「うん!」
この子にとっては、ここのセンターそのものが学校だった。
大人たちばかりのセンターだけど、そこに居るのは様々な年齢層のサイボーグ。
26 :
リハビリ室2−2:2012/12/09(日) 15:08:48.60 ID:MHYkjYOj
半身サイボーグから、脳以外は完全義体化のサイボーグまで。
様々な種類の処置を施された人がリハビリと言う名の調整を続けている。
「先生。いつもご迷惑をおかけしています」
「いえいえ、お母さん。ゆうちゃんがここを明るくしてくれてますよ。あの子は強いなと思います」
「そう言っていただけると助かります」
「あ、むしろ私達が助けられてますよ。その意味じゃ」
男の子の母親と担当医やケアマネが立ち話している。
その周りで男の子がチョロチョロと遊びまわっているのだけど。
「あ!おねぇちゃん!」
男の子がニコニコしながら走って行った先には、女性型のサイボーグが立っていた。
「ゆうちゃんそれ何?」
「ランドセル!」
「そっかぁー いいなぁ」
まだ人工皮膚などの塗布貼り付けを終えていない、シルバーに光るボディの彼女。
ゆったりとした白いガウンに袖を通しフードを深く被り、まるで修道僧とでも言うようなスタイルで居る。
軽金属がむき出しになったボディには衣類など必要ないのだけど、逆説的に言えばそれは裸でもある訳で。
年頃の女の子の羞恥心を守るための僅かな衣は、見た目以上に意味を持っていた。
スッと腰を落として片方だけ膝立ちになって、彼女は男の子のランドセルを少し持ち上げている。
数本のケーブルが繋がっているのだけど、一番重要なのは電源なんだろうと言う事はすぐに分かった。
「いつもご迷惑をおかけします。まだまだ大変な時だと言うのに」
男の子の母親が頭を下げた。
「あ、全然ですよ。それよりいつも私が励まされてます。ゆうちゃん見てると私も頑張らなきゃって」
「そう言ってくれると私も助かります。月並みですけど頑張って」
「ありがとうございます」
青く高い冬空から透明な光が窓越しに降り注いでいる暖かなリハビリセンターの中。。
おねぇちゃんと呼ばれた彼女は、実はまだ脳髄など生体部品が納められた頭部の後ろ側が機械むき出しだ。
小さな男の子を見ながらアレコレと話しているのだけど、処置室Cと書かれたドアが開いてナースが顔を出した。
「はーい どーぞ って、あれ、お話中でしたか」
「あ、いま行きます」
「じゃぁ、頑張って」
「どうもありがとうございます」
一歩室内へ入ってみると、そこには幾つもモニターが並んでいる電子の要塞状態だった。
そして、まるで歯医者の診察椅子のような大きくて深い椅子が一脚。
彼女が腰掛けると椅子が深く深く倒れて行き、彼女は大きな天窓を見る形になった。
頚椎部分には大きな穴が開いていて、ケーブルなどが通るようになっている。
アシスタントが何本ものケーブルを持ってきて、彼女の頚椎部分へ光ファイバーが差し込んだ。
リハビリはいまだ進行中であり、そしてサイボーグへの転換作業も未だ進行中で完了を見ていない。
彼女が見上げてて見ている青い空に、彼女にしか見えない文字が浮かびあがった。
「あ! すごい!」
「どう?輝度調整してみるから、ちょうどいいところで合図して」
オペレーターの声が部屋に響く。
27 :
リハビリ室2−3:2012/12/09(日) 15:10:06.34 ID:MHYkjYOj
義体制御内科のネームプレートが胸に光る男性は、幾つもの端末情報が並ぶモニターの前に座っている。
左目側にはヘッドマウントディスプレーを装着しており、擬似的に彼女と同じ視界を実現していた。
「この辺りです」
「そう・・・・ うーん ほんとに平気?」
マウスをカチカチと鳴らしながらパラメーターのスライドバーをいじっている。
「僕から見るとモニター光度を生網膜で再処理してるからなぁ」
生身の人間が持つ幅広い調整能力を、機械の身体は100%で再現出来る訳ではない。
だけど、機械的なリミッター、プログラム上での数値的な丸め処理は生身の速度にヒケを取らない。
「これって直接神経に情報を送ってるんですよね?」
「そうだけど、正確に言うと違うんだ。神経に送ってるんじゃなくて脳に送ってる」
「じゃぁ数値的に大きすぎると脳がヤケドするんですか?」
「あぁ、そんな事は無いよ。ただ、あまり良い事じゃない。生体部分にはストレスになるからね」
真っ青な空に浮かぶ半透明の文字列。左の上にはデジタルな文字の時計表示。
右の上には義体が4個装着しているバッテリー残量情報や作動空気圧を生み出すコンプレッサーの熱状況。
3種類チャンネルある広域帯高速通信のバンド別受信状況などが示されている。
「パッと見で瞬間的に理解できるよね?」
「はい。授業で習いましたから」
そう。彼女は既に200単位を越える義体制御の授業を終えている。
単に動かせるようになる事だけがリハビリでは無いのだ。
彼女が『入っている』全身義体は、非常に高度な技術を投入し建造された科学技術の芸術的な結晶そのもの。
だが、この時代最先端の技術を持ってしても、メンテナンスフリーには、まだまだ程遠いのが実情だ。
生身の人間とて『生身の体との付き合い方』は母親に産み落とされてから長年掛けて自然に覚えていく。
それを彼女は駆け足で覚えねばならない。僅か2週間程度の間に学問として・・・・だ。
機械の身体に休息は必要ない。しかし、僅かに残された生体部品は定期的に栄養や休息を必要とする。
だからこそ、機械部分と生体部分の付き合い方の違い、バランス感覚を彼女は覚えておかねばならない。
「だいぶ上手くなったね。これなら試験も通りそうだ」
「通って欲しいです。外に出たいし」
「制御とか操縦系はもう一人前かな?」
完全義体化された彼女のような存在は、ある意味で特殊な乗り物のオペレーターなのだ。
だからこそ、車やバイクや、そういった運転免許に相当する試験を受けねばならない。
出先でのトラブルをある程度は自己解決出来る様でなければ、完全義体化人間失格。
万が一にも暴走したり、或いはパワー制御リミッターが壊れた場合の対処能力が求められる。
そして、それだけじゃなく。制御OSにウィルスを送り込まれて、犯罪に巻き込まれないように。
悪意ある第三者によるハッキングを受け、本人の意思とは関係なく遠隔操作されないように。
殺人事件や凶悪犯罪を発生させないようにする為の知識と技術を習得しなければならない。
自動車の所有者には、犯罪に使われないようにする為に管理が求められているのと一緒。
走行中に故障して周囲に迷惑を掛けたり、或いは交通事故を発生させ無い様にするのと一緒。
自分の身体を完全に自分の制御下に置く為の、細かなすり合わせもまたリハビリの一環。
学科と実技の両試験をパスし、義体免許を取得しなければ、ここのセンターから出る事すら出来ない。
彼女が今居るのは、悪意ある接触から完全に遮断される閉鎖環境。いわば電子情報の無菌室。
だけど、外界は様々な違法電波や悪意あるアクセス信号が渦巻く『雑菌だらけ』な世界。
人の悪意の底深さと暗い闇の深さを、彼女はまだ、知識でしか知らない・・・・
28 :
リハビリ室2−4:2012/12/09(日) 15:11:32.65 ID:MHYkjYOj
視界のマウスカーソルを動かしてみようか」
「はい」
視界に小さな矢印が現れた。
左右の眼球をうごかして視界範囲をコントロールすると、画面内の文字列も自動的にレイアウトを変える。
視野の中で邪魔にならず、しかも文字認識できるギリギリの所にボンヤリと浮かんでいる。
そこへマウスのカーソルを持って行くのだけど、実際、言うほど簡単な事じゃない。
物体を浮遊させる魔法とでも言うのだろうか。架空の存在へ意識を注ぐと言う表現しようの無い行為。
何となくやり方を会得するしかないのだから、これはもう練習あるのみだ。
「視界の左側に小さな■が有るよね?見える?」
「はい、見えます。赤いのと白いの」
「その赤いほうが義体のシステムタブだよ。白いほうは通信システムタブだ」
「でもまだアンテナと接続してないです」
「そうだね。まだもうちょっと先だ」
wi-fiなどを使った端末通信機能をサイボーグは持っている。
わざわざ有線にしなくても少々のデータならやり取りできたほうが便利だからだ。
ただ、それを使いこなすのは個人の資質、或いは、頭の回転の速さ。
パソコンを使いこなすのと同様に、義体を上手く使いこなす事もユーザーは要求される。
「赤いほうを開けました」
「そしたらそこに実行中のアプリ一覧が有ると思う」
「はい、見えます」
「今はまだ上から、パワー制御・姿勢制御・電源管理・通信管理・アプリ管理の5つだね」
「はい」
オペレーターが端末をカチカチと操作すると、アクセスランプが高速で点滅し始めた。
情報が義体へ『流れ込んでいく』のを視覚的に再現している。
「いまそこに防壁管理と言う項目が追加されたね?」
「はい、出てきました。ファイヤーウォールですね」
「そうだね。ただ、この防壁はそんじょそこらの甘っちょろいモンじゃないよ」
彼女の視界中央付近に半透明のプログレスバーが浮かぶ。その向こうを雲の塊が流れる。
データー転送中の文字と、転送済み容量の表示。推定終了時間まで表示されている。
なんとも古風と言うべきか、それとも親切と褒めるべきかを彼女は思った。
「君のストア容量はメインバンクだけで400TB位あるから、少々の事じゃ一杯にならないけど」
転送完了の文字が出て、その下に[root a:b:c / xx]の文字が出る。
「制御関連のプログラム階層処理は習ったよね?」
「はい、一昨日の教室で」
「そうか。じゃぁ表示の意味は分かるね」
「もちろん」
義体を制御するOSの収められたサブ電脳は身体の3箇所に独立してマウントされている。
専用回線で相互通信を行いながら、それぞれがある程度独立した権限を持って義体をパラレル機能している。
そして、それらはそれぞれが異なる種類の防壁を持っていて、外部からのハッキングなどに備えていた。
より簡単に乗っ取られないよう、用心する仕組みに成っているからだ。
彼女が『入っている』完全義体は上位2社と言うよりビッグツーと呼ぶべき、イソジマ電工製でもギガティクス社製でもない。
元々は完全AI作動なアンドロイドを作っていた東亞重工系のグループ企業である佐川精密の『作品』だ。
バイオ系セクサロイドや極限環境下労働デコットなどを得意としていた企業であるが、全身義体に関しては最後発と言っていい。
それ故に上位2社の様々な事例を鑑み、先行2社とは違うアプローチで市場浸透を図っている。
29 :
リハビリ室2−5:2012/12/09(日) 15:12:58.71 ID:MHYkjYOj
企業として得意なAIやバイオ技術に関して言えば上位2社を軽く凌駕する技術もノウハウもある。
しかし、そこに『人』が絡むとなると、全く話は変わってくる。
ケアマネージャーを配し、手厚いサポートでユーザーの心を掴むイソジマ系。
必要な機能を投入し、機械と人間の融合を進め極限状況下労働などで絶対の強みを見せるギガティクス系。
いくつかの弱小メーカーグループの中にあって、佐川精密の方針は『安全性』と『快適性』に定められた。
どれほど悪意ある第3者が良からぬちょっかいを出してきたとしても。
全国レベルで次々とハッキングを受けて全身義体使用者がセンターに隔離される事態になっても。
佐川の義体はスタンドアロンで安全に快適に日常を送り続けられる筈。
その為の、心配性もここに極まれりと言われるほどの厳重な防衛体制は全てユーザーを思っての事。
万が一、サブ電脳のどれか一つが乗っ取られた場合。
残り二つが合議制で感染したサブ電脳を切り離しシステムから完全隔離処理する仕組み。
用心には用心を重ねていると言えうるのだけど、それとは別にもう一つのサブ電脳もまた頭部にあった。
脳幹などの生体部品を管理し、サブ電脳との情報通信を監視する為の、全く異なる言語で書かれたOS。
『ゴーストライン防壁』と呼ばれる、本人の思考までもが乗っ取られないようにする為の防壁。
間違った情報を脳に送り、本人が錯乱状態や恐慌状態や、それだけでなく。
完全パニック状態になり衝動自殺などしないようにするための、一番重要な抵抗システム。
かつての古い時代に描かれたSFコミックの架空用語が、今現在の公式文書などでも普通に使われている。
本人の意思がなくなってしまえば、義体は遠隔操作される端末と同じ。
無差別大量殺人や自爆テロや広域破壊工作などに使われたとしても、まだ外見的に『本人が残っている』と成れば、警察組織などは銃撃など機械的な破壊を伴った攻撃的強制停止措置を行えない。
だからこそ、このファイヤーウォール設置は物凄く重要なのだった。
「君のアクセスキーの一番重要な物が必要になる。脳波通信の波形を記録してあるんだけど・・・・」
視界の中に2次元バーコードが浮かんでいる。
8ビットの縦横が組み合わさった128ビットの暗号キー。
「この画像をとにかく覚えて。ここは理屈じゃないよ。力技だ。君の生体脳に擦り込むしかない」
「うー こういうの苦手」
「だけど、仕方が無いんだよ。これを3種類組み合わせて一辺が32768ビットの3次元暗号コードにするんだ」
「3次元ですか?」
「そう。これで大体35兆通りの基本暗号パターンが生成できる」
カチャカチャとキーボードを叩く音が聞こえる。
視界の中に二つ目三つ目の2次現バーコードが浮かび上がった。
「今から定期的に試験するソフトを入れておくよ。不定期に視界へ浮かび上がるから・・・・」
システムタブのアプリ管理部分がジンワリと光っている。
意識の中のカーソルを動かして光っている部分をタッチすると、[記憶トレーニング]の文字が出てきた。
「このアプリは不定期で3種類のうちどれかを示してくる。合計正答率99.5%を達成すると出現回数が減るから」
そんな説明を受けているうちに、視界の中へ[第1回試験]の文字と共に、16マスの空欄が現れた。
□□□□ 第1回試験
□□□□ パターン1
□□□□ レベル1
□□□□ 正答率0%
「説明は要らないよね。それぞれのマスをクリックして反転させてやればいい」
「あぁ、なるほど・・・・」
30 :
リハビリ室2−6:2012/12/09(日) 15:14:08.39 ID:MHYkjYOj
彼女の瞳が赤く光る。それは電脳領域にアクセスしている外的サイン。
「えーっと」
いくつかのパターンを思い出してビットを反転させてやる。
□■■□
■□□□
■■□■
□□■□ [Enter? Y/N]
画面の中にクラッカーの弾ける簡単なアニメーションが再生されて、大きめの文字で[正解!]が出た。
「おぉ!優秀だ!その調子だね。3種類の正答率平均が上がってくると2つ同時や3つ同時になるから」
再び視界の中にマスが現れる。
□□□□ □□□□ □□□□ Test Sample
□□□□ □□□□ □□□□ レベル9
□□□□ □□□□ □□□□
□□□□ □□□□ □□□□
これ、全部覚えられるのか?と不安になるのだけど、逆に言えば覚えないとここから出られない。
「あまり根詰めても人間の脳は覚えないよ。ゲーム感覚と言うか暇つぶしのつもりでやればいい」
「はい、分かりました」
「何段と回答難易度が上がっていくと。最初は時間無制限だけど、時間制限が付いたりするからね」
オペレーターが再びマウスをカチカチと動かし始めると、画面の中の表示が切り替わって表示が消えた。
それだけじゃなく、視界のあちこちに浮いていた表示が全部消えてしまった。
「視界がクリアになった?」
「はい、全部消えました」
「これが生身の視界。表示が浮かぶと君のようなサイボーグの視界。どっちが便利?」
「えぇっと・・・・ 要らない時に消せる方が良いです」
「じゃ、しばらく常時表示にしておくよ。明日まで様子を見よう」
「はい」
「今日初めて視界割り込み表示のソフトを入れたにしては上出来だね」
カチカチとキーボードを叩く音が聞こえて、再び視界の中に色々な表示が浮かび始めた。
「まだ市販のソフトを入れちゃだめだよ?焦らずじっくりやろう。試験まで2ヶ月有るから」
「はい。ありがとうございました」
彼女は自分の首筋へ手を伸ばし、ロックを外してケーブルを引き抜いた。
光ケーブルを抜いた瞬間に外界の光が受光部を照らして一瞬ビクッとなる。
「ほらぁ! まずは端子のスイッチ切ってからだよ」
「うー!またやっちゃった!」
プラグ&プレイ対応なソケットモジュールだけど、それなりのお作法があるのは自明の理。
一つ一つ覚えていかなければならないお作法の多くが、実は彼女自身を守る為に必要な事。
それを彼女自身が深く理解する事もまた、社会復帰リハビリのもう一つの重要なテーマ。
ソケット部分にカバーを取り付け、その上から首筋をすっぽりと隠す帽子をかぶった。
年頃のお嬢さんなのだから、あまりにもむき出しな姿を人前に晒すのは、やはり恥ずかしい。
「ありがとうございました」
「無理しないで」
31 :
リハビリ室2−7:2012/12/09(日) 15:18:04.54 ID:MHYkjYOj
そう挨拶して部屋を出る。
カーペット敷きの廊下を歩いていくのだけど、最近では随分と歩くさまも人並みになってきた。
背筋を伸ばし膝をあまり曲げず、美しいフォームで歩く練習。
二足歩行ロボットがまだまだ発展途上時代に有ったような無様な姿にはなっていない。
ふと目をやった窓の外。
大きなイチョウの木が黄色い葉っぱを風に飛ばしていた。
歩道の上には舞い散った葉っぱが降り積もって子供達が遊んでいる。
センターの外はもう冬が来ている。
「外を歩きたいなぁ・・・・」
ぼそっと呟いて窓に左の手を触れた。
まだカバーの付いていない指先は、軽金属製の機械がむき出しだ。
右の手も持ち上げて窓に触れる。暖かいとか冷たいとか、そう言う情報はまだ入ってこない。
どこか自嘲気味に笑って、ジッと手を見ている。
「機械なんだなぁ 今の私」
なんとなく泣きたい様な気分だったのだけど。でも、落ち込んでばかりも居られない。
これといってやる事も無いし、試験に備えて勉強するくらいの手持ち無沙汰な時間。
個室になっている自分の病室へ戻って行くと、サイボーグ専用寝台の上に何かが乗っていた。
最初は何か荷物かと思ったのだけど、良く見たら様々な光沢を放つサイボーグだった。
そしてそれは彼女自身も知っている存在・・・・
「ゆうちゃん?」
そっと近づいて肩を揺すってみる。だけど、全く反応がない。
センサーの電源が入ってなければ、この子は死んでいるのと同じだ。
「ゆうちゃん どうしたの?」
男の子の胸の部分にある小さな液晶へ目をやると、残りのバッテリー容量が15%を切っている警告が出ていた。
「おねぇちゃーん ねむーい」
「ゆうちゃん ランドセルは?」
「知らない」
電源容量が絶望的に足らない小児型の場合は残量低下で危険な領域へ入るとスリープモードに落ちるんだろう。
生体部分を『生かしておく為』の予備バッテリーに切り替えてもスリープモードだと3時間が限度だとか。
そろそろ充電してあげないと、この子の生体部品が死んでしまう・・・・・・
「じゃぁ ゆうちゃんのお部屋行って寝ようか? おねぇちゃん連れて行ってあげるね」
「・・・・やだ」
「どうしたの?」
「あそこさみしいからやだ おねぇちゃんとねる」
・・・・そうか。
この子は全身サイボーグだけど、心は5歳の男の子なんだ。
いつも人が居るサポセンの前の特等室だけど、常時、人が居るわけじゃないんだ。
まだまだ甘えたい歳なんだよなぁ・・・・・
「じゃぁ、おねぇちゃんと一緒に寝ちゃおうか」
「うん」
「その前に、これを繋がないとまたゆうちゃん叱られちゃうよ?」
32 :
リハビリ室2−8:2012/12/09(日) 15:19:08.57 ID:MHYkjYOj
男の子の腹部にある小さなハッチを開けると、彼女の物とはサイズが少々違う電源コードが現れた。
成人サイズであれば通常型のアース付き3Pコンセントプラグなのだけど、この子の電源コードはUSBサイズ。
「おねぇちゃん 繋いでくれる?」
「うん いいよ」
彼女はベッドの上に横になった。
自分のコンセントをベッド脇の専用電源タップに繋ぎ、電源スイッチを入れる。
給電が開始されると、視界の中のバッテリーマークにコンセントプラグのピクトサインが表示された。
残りのバッテリー容量から見て、充電完了まで約2時間。
だけど・・・・
「ゆうちゃん もうちょっとこっち来て」
「うん」
モゾモゾとベッドの上を這い上がってくる男の子。
まるで母親に甘えて抱きつくようにしている。
彼女は男の子のケーブルを延ばして、電源コード収納部にあるオプション用のUSB端末に繋いだ。
視界の中のUSBポートを示すピクトサインに[外部へ電源供給中]の文字が浮かぶ。
「おやすみ ゆうちゃん」
「おねぇちゃん おやすみ」
省エネモードだったにも拘らず動いた事で、残りのバッテリ容量が10%を切ってしまったようだ。
男の子は成人型よりも遥かにバッテリの容量が少ない関係で、残量が50%を越えないとダメらしい。
意識レベルが睡眠モードで落ちるように仕向けられ、『寝る子は育つ』を地で行くように眠ってしまう。
まるで寝息を立てているように呼吸しているのだけど、この子もまた空気作動型のサイボーグ。
それはコンプレッサーを冷却する為の空気循環でしかなく、生暖かい排気だけが出てくる
ただ、彼女にとって小さな男の子に頼られ寝かしつけると言う行為が、母性本能をくすぐられる事だった。
男の子の意識レベルが睡眠モードに入ったのを確認して、サポセンのスタッフを呼ぶ。
「あらら ゆうちゃんたら」
「このままで良いですよ。お昼寝です」
「じゃぁ、目が覚めたら呼んでね」
「はい」
本当は午後一番で身体運動ソフトの再調整をするはずだったのだけど、どうやらプランは延期のようだ。
食事や睡眠をそれほど必要としないとはいえ、生体部品である脳はこのような状況になると、やはり睡眠モードに移行を提案してくる。
サイボーグには必要ないのだけど、でも、脳の中にある人間の部分がそれを必要としているのだから。
彼女は薄がけのタオルケットを片手で器用に広げて、男の子と一緒になって被った。
こんなシエスタも悪くないな。
ふと、そんな事を思っていた。
−終−
SF要素満載のファイヤーウォールアクセスキー設置作業も良いですが、
自分の電源を子供に与える疑似授乳行為とか、
必要もないのにタオルケットをかけるとか、
そういうサイボーグになっても残る人間性に、たまらなく萌えます。
GJです。ありがとうございました。
>>24 キュンキュンに萌えるシーン満載ですね!
GJ!でした。続きに期待しています。
>>32 遅まきながら最後のパートで凄く和んだよ。
投下GJ!です。凄く良い感じです。
マッタリと続きに期待しています。
あと、そろそろキャラに名前つけてあげてください。
感情移入しやすくなるんで。
そうだね。キャラに名前がほしい。
ヤギーワールドシェアだそうだから、
同じように愛されるキャラになってほしいね。
37 :
リハビリ室:2013/01/02(水) 15:31:36.94 ID:oQ+13Qej
あけましておめでとうございます。
新年早々ですが第3話を書き上げましたので早速ですが投下いたします。
主人公の彼女は名前をちゃんと考えて有りますが、次のお話でのキーパーツですので、まだ伏せてあります。
申し上げありませんが、ご理解くださいませ>各位様
では、10レスほどお付き合いください。
本年もよろしくお願いいたします。
38 :
リハビリ室3−1:2013/01/02(水) 15:32:43.71 ID:oQ+13Qej
全ての感覚を遮断された真っ白な世界。眩いほどに真っ白な世界。
どこからかチョロチョロと水の流れる音だけが聞こえてくる。
白い世界の中にフッとフォルムが現れ始め、眩さが落ち着き始めた。
白い壁。白い天井。床まで白い。そっと足を下ろすと、足裏にひんやりとした感触があった。
―― 夢?
まだ彼女は事態が飲み込めない。
彼女の見ている世界は、病院の標準ベッドが一基だけ置いてある小さな部屋だ。
―― 脳が夢を見てる・・・・・
真っ白のワンピース姿で彼女は腰掛けている。
彼女は不意に自分の頬をつねってみた。
鋭い痛み。そして、視線の先には驚くべきもの。
自分の手に爪が、皮膚が、筋肉が付いている。
―― うそ
ヒョイと手を返してみれば、見覚えのある手相の掌。
手を握ってみれば、皮膚が弛んでいって折りたたまれる感覚がある。
そっとベッドから立ち上がってみた。
身体の中で音がする。骨がこすれギリギリと鳴る。
そして予期しない感覚が体内を走る。
鼓動。
胸の中に心拍を感じた。
狐につままれたなどと言うのだが、本当に化かされているんじゃないかと錯覚する。
不安そうに部屋の中を見渡して見つけたのは、白い壁にぶら下がっている鏡。
恐る恐るその前に立って鏡を覗き込む。
肩甲骨を通り越し、腰まで伸びる黒髪。健康的な肌の色の顔。
ワンピースの下には柔らかな肉体。
―― これって・・・・・
部屋の隅にあるドアを見つけた。
病院の殺風景な部屋の中にある、引き戸のドア。
なにか凄く怖いモノが向こう側に有るような気がしたけど・・・・
「遠慮なく開けてみて」
―― え?
「いま君が見ているのは仮想現実。実態の君はサポートベッドの上でスパゲッティシンドロームだよ」
殺風景な部屋の片隅に、音も無くフッと薄型テレビが姿を現した。
たった一つしかないスイッチをオンにすると、鈍い音を立てて映像を映し始める。
ネットワーク接続試験中と言うキャプション表示と共に、だんだんと映像が浮かび上がってきた。
背もたれの倒れた大きな椅子に腰掛けている、見覚えのあるサイボーグむき出し姿の女性。
―― じゃぁ 今の私は?
そのサイボーグの女性の前で、見覚えのある男性が手を振っている。
[義体心療内科]のネームプレートがチラリと見えた。
39 :
リハビリ室3−2:2013/01/02(水) 15:33:58.74 ID:oQ+13Qej
「いま君はわが社の提供している仮想空間の中にいる」
―― 仮想空間?
「そう。全国に居る、わが社の義体ユーザーだけが入ってくるSNSだよ」
―― SNSですか?
「そうとも。ブログとかでキャラ作りして参加するのがあるよね」
―― はい。私もやってました。
「その仕組みの仮想空間版だ」
―― ・・・・すごい!
「いま君が居るのは桜ヶ丘と言う仮想住所の君の私室。ただし、まだ仮登録だけどね」
ドアを開けて部屋を出ると、大きなフェンス張りのバルコニーへ出た。
ちょっと高い位置から街を見下ろすような格好だ。
頬を撫でる暖かな春風が気持ち良い。
降り注ぐ光に確かな温もりを感じる。
随分と忘れていた、懐かしい感覚。
「ビジョンのレイアウトが滅茶苦茶なのは勘弁して欲しい。実際にそんな構造の家は無いからね」
そんな言葉が聞こえるのだけど、彼女の精神はそっちを全く気にしていなかった。
太陽に向かって大きく両手を突き上げ、全身に太陽の光を感じている。
背中の腱が伸びてふとももの裏側まで延びる感触を味わう。
胸の中で一際大きく鼓動が走っている。
―― これ、全部仮想現実なんですか?
「そうだよ。今は佐川製の義体ユーザーしか入れない、電子の箱庭だよ。」
―― でも、太陽も風も心臓も・・・・
「君が感じてるのは、君の脳の記憶野に残っている情報を励起しているからだよ」
―― じゃぁ、これ全部私の記憶?
「そう。そしてその記憶野の情報を一旦電子情報としてホストにストアし、若干手を加えてリロードしている」
―― 私の記憶を吸い取られてるの?
「吸い取られてると言うのは表現的に正しくない。君の記憶をみんなが共有しているんだ」
―― みんなって?
「佐川精密の全身義体を使っているみんなだよ。君が感じた太陽や風や鼓動の情報を皆が味わっている」
―― じゃぁ いま私が見ている世界は?
「日本各地のこんな風景を見てきたって人達の記憶を繋ぎ合わせてる、仮想の日本だよ」
仮想・・・・
彼女の脳裏に少しだけ暗い影がよぎる。
現実じゃないと言う部分が殊更にクローズアップされている。
40 :
リハビリ室3−3:2013/01/02(水) 15:35:19.23 ID:oQ+13Qej
―― じゃぁ、全部作り物なんですね?
「そうだね、作り物だね。だけど、作り物ゆえにこんな事も出来るよ」
―― え?
さっきまで居た白い部屋の中に誰かが居る気配を感じた。
慌てて振り返ると、その部屋の中に人影があった。
大手チェーン系カレーショップのユニフォームを来た男性。
「お待たせしました! 野菜ミックスカレー300gです」
部屋の中から良い香りがしてきた。
香り・・・・ そう!匂いだ!匂いを感じる!
いま現状、機械の身体で唯一再現し切れていないものがこれ。
脳が直接感じると言う唯一の感触器官。臭覚。
バイオ系のセンサーを接続するまでは、サイボーグに臭いの情報は無い。
全く動けない状態から調整を重ねる事4ヶ月弱。
100日を越えて遮断され続けていた感覚が蘇ってくる。
そして、その香りは味覚神経を刺激するカレーのスパイス臭。
突き抜けるような香りが脳を直撃する!
「食べてみて」
―― たっ! 食べられるんですか?
「ここは仮想現実だよ?何でも出来る。空も飛べる。おなか一杯ケーキ食べながらコーラ飲んでも太らないし」
ドキドキしながら・・・・部屋を覗く。
そうだ、これだ!この感覚だ!
胸がときめく時に感じる鼓動感!
部屋に足を踏み入れると、小さなテーブルの上にはお皿に乗ったカレーライスとグラスに入った氷水。
紙ナプキンの上に置かれたスプーンを持って、コップの水に浸して、そして・・・・ そして・・・・
「どうしたの? 美味しそうに見えない?」
―― 久しぶりなんで、どうやって食べればいいか忘れちゃって
気が付けばテーブルの上に涙が零れていた。
ポタリ・・・・ ポタリ・・・・
「最初はみんなそんな反応だよ」
―― いただきます
カレースプーンがライスの山に突き刺さる。カレールーを絡めて山から離陸する。
そのまま口の中へと運ばれた、カレーの絡まった炊き立てご飯の味わい・・・・・
―― おいしい・・・・
心からの言葉が口を突いて出てくる。
食べ物を食べると言う行為そのものが、これほど重要だったのか!と驚く。
カレーの合間に呑む水の、その、喉を通って胃の府へと落ちていく感覚までが感動の嵐だった。
一心不乱にカレーを食べ続けた。辛味を感じて舌がヒリヒリするような感触を楽しんだ。
余計な事を考えず一気呵成に流し込んで満足して、グラスの水を飲み干して・・・・
41 :
リハビリ室3−4:2013/01/02(水) 15:36:51.08 ID:oQ+13Qej
ただ、ふと。気が付いてしまった。
何で気が付いてしまったんだ!と、自分を責めたくなる。
―― でも、これ。仮想なんですよね?
「もちろんそうだよ。全部作り物」
全部作り物・・・・
その言葉が胸に突き刺さった。
自分が食べてるわけじゃない。自分は食べ物を必要としない。
外部から給電されてバッテリーに電気を貯めて動く、電気仕掛けの機械人形。
その現実が改めて突き刺さった。拭い切れない現実と言う奴が襲い掛かってきた。
―― でも 私は 電気仕掛けの・・・・
スプーンをお皿に置いて、そしてもう一度涙を浮かべる。
どうしようもない現実が襲い掛かってきたのだけど。
もう何度も何度も開き直ったと思ってきたのだけれど。
だけど、どんなに覚悟を決めたと思っても、それはただの、上っ面だけの。
どこか概念的な自分を騙すための、偽りの覚悟でしかないと思い知らされた。
「そうだよ。君の身体は電気仕掛けの人形だ。それは間違いない。けど、それを制御しているのはなんだい?」
何処か冷たい口調で聞こえるオペレーターの言葉。
何を言わんとしているのか。その核心を思い浮かばない。
「君の身体は125ボルトのバッテリーで動くコンプレッサーが作った圧縮空気で動いている」
その口調は教え諭すものでもなく、また、何かを問いかけ、思考を促すものでもなく。
まるで取扱説明書を読み上げる声のように。抑揚も無く感動も無く。ただ、淡々としている。
「熱も圧力も痛みでさえも、光神経が送る数値情報でしかない。足の裏に踏みしめる大地の温もりも感じない」
崖っぷちで飛び降りようとしている自殺志願者に向かって『早く飛べ!』とでも言っているかのように。
目を覚ましたときに、機械の身体になっていた衝撃からやっと立ち直ってきた筈なのに。
誤魔化したり意図的に無視したりしてきた部分の、そのやっと固まった瘡蓋を力一杯はがすかのように。
「今更どこか希望や救済や奇跡なんか無いよ。今の君は外見的はただの、そう、操り人形(たんまつ)だ」
冷酷無比に。
傲岸不遜に。
一番弱い部分を突き刺してえぐって切り裂く刃物のように。
いままで必死に思いとどめてきた感情が、今まさに溢れかかっている。
涙もこぼれなくなって、ただ呆然とカレー皿を眺めて放心している。
「だけど・・・・ 君はAIかい?」
機械のような。マシンボイスのような抑揚の無い問いかけ。
「コンピューターの作り出した電子情報の模擬人格かい?」
少し小さな声。
だけど、ほんの僅かに温かみがあった。
42 :
リハビリ室3−5:2013/01/02(水) 15:38:19.61 ID:oQ+13Qej
「プログラムに沿って動くロボットかい?」
―― 違う
「なんだって?」
―― 違う!
「じゃぁ、一体なんだって言うんだい?」
―― 私は・・・・ 私は・・・・
「わたしは?」
―― 私は私でしかない! 私だもの! 私は私!
「そうだ。その通りだ。君は君でしかない。自分を自分足らしめているのは自分しかないんだよ」
まるで父親が子供に語りかけるように。
まるで神父が信徒へ語りかけるように。
「自分を自分足らしめている物はただ一つ。それは自分の意思だ。そうだろう?」
彼女は白い部屋を飛び出した。
誰かの指示ではなく、自分の意思として、仮想空間の中を走った。
「君は君の意志がある限り、たとえ人工血液と人工脳液の中に浮かぶ脳髄だけだったとしても」
訳も無くあのバルコニーへ飛び出て太陽を眺めた。
自分の記憶の再生であるならば、あの太陽は私の物だ!と思った。
「電気仕掛けの操り人形の中に入った総計2kgに満たないタンパク質の塊だけだったとしても」
眩い太陽に目を細め、流れる風に髪をなびかせた。
全ては仮想空間の作り物だったとしても。
コンピューターが作り出した幻だったとしても。
「君は人間だ。人間は魂の、心の、意志の生き物だ」
―― 意思
「そう。意思だよ。AIには欲望や目的といった意思が無いんだよ」
―― 目的?
「そう目的だ。生きる目的。一番汚くて一番ピュアなもの。欲が無いんだよ。これはAIでは作り出せない」
―― でも、仮想空間の物を欲しがっても本物じゃないですよ。私は本物にさわりたいです。
「生身で感じる全てが本物だなんて、一体どこの誰が保障してくれるんだい?」
―― え?そんな事言っても・・・・・
「そうだとも。味を感じるのは舌? 臭いを感じるのは鼻? 全ては脳がそう処理しているだけだ」
―― 処理している・・・・
「脳と言うコンピューターが作り出した夢と言う幻想でも味を感じるだろ?それと一緒だよ」
突然視界が真っ白に染まった。
43 :
リハビリ室3−6:2013/01/02(水) 15:40:04.98 ID:oQ+13Qej
ホワイトアウトした視界の中に、デジタル時計の表示が浮かび上がった。
小さな■のタブが視界の隅にいくつか浮かび、その反対側にはバッテリー表示が漂っている。
「おかえり! カレーライスは美味しかったかい?」
「はい? え? あ・・・・ おっ 美味しかったです」
「そう、良かった。ところでなんか気が付かない?」
「えっ?」
そう問いかけられ、彼女は視界の中へ注意の先を送り込んだ。
各パラメーター表示におかしいところは無い。
さっきまで1メモリ無くなっていたバッテリーが一杯になっているくらいだ。
「特に・・・・ 強いて言えばバッテリーの残量が・・・・ あぁっ!!!!」
「わかった?」
「はい! わかった! わかった!!!!」
オペレーターが笑いながら端末を操作している。
彼女の視界に[!]マークが表示された。
「君がカレーを食べている間にバッテリー管理ソフトをバージョンアップしておいたよ」
「うそ・・・・ 信じられない・・・・ これって」
「さっき言った通りだよ。どんな情報も脳が処理してるだけなんだ。だから逆に言えばなんでも出来る」
「今日はその為の・・・・」
「そーいうこと。いいもんでしょ?ソフト同士のAPIを再調整してある。ソフト同士がリンクできるんだ」
実はさっきから、彼女はある感覚を味わっている。
仮想空間で食べたカレーライスの味でも、喉を流れた水の感触でもない。
もっともっと、原始的で原罪的で、そして、人の心理に忠実なもの。
「おなか一杯になるって、こんな感覚でしたよね」
涙を流すほど嬉しい感触。満腹感を彼女は味わっている。
満腹中枢が刺激され、幸福感を感じつつも『やばい!太る!』と慄く。
それを見透かしていたかのように、水を差すような言葉が投げかけられる。
「ただ、ここから先は冷たい現実だ。覚悟は良い?」
急速に世界が色を取り戻した。大きな窓の外に葉を殆んど落としたポプラ並木が並んでいる。
少し曇っている空だけど、彼女の視界にはさっき見た太陽の眩い残像が浮かんでいる。
「バッテリー残量が90%を越えると満腹感を感じる。そして逆に言えば」
「空腹感ですか?お腹空いたって?」
「そうだ。残量が30%を切ると空腹感を感じ始める筈だ。ついでに言うと15%を切るとフラフラし始めるよ」
「フラフラ?」
「そう。低血糖症で手足が震えたりフラフラしたりする。生身の身体と同じ感覚だね」
「分かりやすいですね。アナクロで」
やっと彼女の顔に笑みが浮かんだ。
少し立ち直った?
いや、違う。
全て吹っ切れた。
そんな清清しい表情だ。
「お昼はもう良いね。『お腹一杯』だろ?」
「はい。ちょっと食べすぎです」
「大丈夫だよ。ドラム缶一杯食べたって太らないから。むしろ食べ過ぎて太る義体を作りたいくらいだ」
「でも、良いですね。これ。美味しいケーキの食べ歩きとか」
「ハハハ!それは無理だ。どんな美味しいケーキもまず数値情報化しないと。または誰かの記憶を共有するか」
44 :
リハビリ室3−7:2013/01/02(水) 15:41:16.04 ID:oQ+13Qej
なんだ・・・・
ちょっとガッカリしたようにして彼女はむくれている。
ただ、それを見ていたオペレーターがニヤリと笑う。
「まぁ、生身の身体の連中じゃこれは出来ないよ。それに」
「それに?」
「それに、数値情報化済みの美味しい物だけ食べられるのは我々の特権」
「あ、そうか。不味かったら仮想化しないんだ」
「そうそう。その通り」
オペレーターがニッと笑ってサムアップしている。
「生身の連中は食べ過ぎれば太るし、呑みすぎれば二日酔いだけど、我々はボタン一つで酔いから醒める」
「そうですね・・・・ って、え?我々って・・・・」
「あれ?言わなかったっけ?」
オペレータの左目が赤く光る。
国際規格で定められた全身義体に義務付けられる外部表示。
サイボーグが電脳体で何か作業している時に出てくるサイン。
カチカチ・・・・ カチャン
右手で左腕を持って肩の付け根で分離させてしまったオペレーター。
「ほら、僕も全身サイボーグだよ。ちょっと古いけど」
自嘲気味に笑ったオペレーター。
再び腕を分離面に宛がってガチャガチャと音を立てている。
「君が入っている4000シリーズ、LX4000Fは、いま僕が使っているLX1000Mの4世代後のタイプなんだよ」
「じゃぁ、先生は佐川精密の社員さんなんですか?」
「そうだよ?でも、正確に言うと佐川系の関連企業だね。佐川メディカルの社員」
「初めて知りました」
「制御内科は佐川精密系、構造外科は東亞重工系の人間が多いんだよ」
「そうなんですか」
「僕は元々医者だったんだけど佐川で義体化してから心療内科に転職さ」
優しく語り掛けていたオペレータは椅子から立ち上がって、彼女の頚椎に差し込まれたプラグを抜き始めた。
プラグを抜く時に暗幕代わりのハンカチで光ケーブルのソケットを隠すのは優しさだ。
光神経を使ってやり取りする以上、ケーブルの無くなった接続面に環境光が入るのは辛いのだろう。
むき出しになった皮膚の接触神経の上でを虫が這うようなものだ。
「君のように落ち込んでる人を助けたかった。なんせ元々医者だからさぁ」
「ほっとけなかったんですね」
「そうだね。自分もサイボーグになってみて良くわかったよ」
彼女はソケット部にカバーを掛けて光が入らないようにして、やっと椅子から立ち上がった。
身体の内側から聞こえるのは、心臓の鼓動や関節の軋みではなく、スクロールコンプレッサーの音。
そして、各部のアクチュエーターや空気シリンダーの給排気音。
どんなに取り繕っても、彼女はやはり、電気仕掛けの操り人形(たんまつ)でしかない。
だけど、その中身には意思のある人が入っているのだと、今は胸を張って言えると。
そんな自信に満ちたような表情を浮かべていた。
「元お医者さんですと、やっぱり使命感みたいなものが・・・・」
「使命感かどうかは分からないけど。あ、あと、元医者じゃなくて、今も医者だよ。サイボーグのお医者さん」
「あ。失礼しました」
「いいんだよ。制御内科も構造外科もみんな医者だ。治す系の医者。ボクは心療内科。癒す系だね」
45 :
リハビリ室3−8:2013/01/02(水) 15:42:36.33 ID:oQ+13Qej
癒す系。どこかちょっと恥ずかしそうにそう言って、サイボーグのお医者さんは笑った。
「人間は心の生き物だってさっき言いましたよね」
「そうだとも。どんなに精巧に作ったAIだったとしても、その反応はただの予定調和だよ」
「予定調和?」
「そう。こう反応したら相手が喜ぶ。その反対の反応をしたら相手が悲しむ。最近のAIはそこまで計算する」
「確率論的な物ですか?それとも統計論?」
「単に乱数だとボクなんかは思ってるけどね。でも、中には本当に凄いAIもあったりするんだ」
「そうですか」
「だけどね」
彼女はふと、首筋にあるジャックのカバーがちゃんと閉まっているかを確認した。
無意識の動作だけど、段々とサイボーグ慣れしている証拠でもある。
その背にガウンを掛けて、それから、金属むき出しの指でも持ちやすいように書類を調えて、手にもって。
女性的な優しい笑みを作ってオペレーターを見た彼女。
「だけど、なんですか?」
「やっぱりね。心が無いんだよ。相手を喜ばせようとするのはAIでも出来るけど。でも」
「心ですか・・・・」
「そうなんだよ。どんなに作りこんでも、むしろ作りこめば作りこむほど機械的に成ってしまう」
・・・・機械的
身体が機械だからかな?
いや、そうじゃないよね
いろんな事が頭の中をぐるぐると駆け巡り、答えの出ない問いで少々混乱する。
だけど、なんとなくハッと気が付く事もまた思い出された。
「実際、人が対応してくれる受付窓口でも機械的な対応されると気分悪いですけど・・・・」
「そう言うことだよ。最後は人の温もりなんだよ。だって」
接続器のメイン電源を落としてカバーを掛けながらオペレーターが窓の外を見た。
葉を落とした並木越しに市井の生活が垣間見える。様々な人が生きている。
「生きることそれ自体を目的にするのは人間だけでしょ。AIもロボットも目的が有るから作られる」
「逆説的ですね」
「そう。だからこそさっきの言葉なんだよ。人間は魂の、心の、意志の生き物だってね」
「良い言葉ですね」
「だろ? なんせ」
後片付けを終えドサリと椅子に腰を下ろして笑っているオペレーター。
椅子のサスペンションがグッと沈むのはサイボーグの証。
「昔読んだ漫画のね。敵方のボスがサイボーグでね。だけど自分は人間だって言い切ってて」
楽しそうに笑うオペレータに釣られて彼女も笑みを浮かべる。
「回り全てを巻き込んで戦争を始めてみんな殺しちゃんだけど。それを見て楽しそうに笑うんだよ」
え?戦争?殺す? 物騒な言葉に一瞬うろたえる。
だけどそれが漫画の中なのだと思い出して、少し安堵もする。
「生きる目的が戦争なんだと。そう言ってね。戦争の歓喜を味わう為に。その為に生きているんだと」
「だから・・・・ 魂の、心の、意志の生き物なんですね」
「そうゆうこと。もっとわがままになりなよ。自分が楽しいのが一番大事だよ。そして」
「そして?」
オペレーターの笑みが何処か子供っぽいいたずらっぽさを帯びてきた。
楽しい遊びを心行くまで楽しんでいる幼子のような、そんな表情。
46 :
リハビリ室3−9:2013/01/02(水) 15:44:21.11 ID:oQ+13Qej
「我々にしか出来ない事を見せ付けてやればいい。生身では出来ない事をね。サイボーグの特権だよ」
「特権ですか?」
「そう。特権だ。君いまいくつだっけ?」
「18です」
「そうか。じゃぁ後20年経ったら分かるよ。なんせ僕らは外見上、自然に歳を取らないからね」
ハハハハ!と笑いながら立ち上がって彼女に退室を促した。
滑らかに動く肢体が良く整備されている事を連想させる。
「僕のL1000シリーズは駆動部が超音波モーターなんだ。だから完全無音型。ただ、電気だけは3倍喰う」
「じゃぁバッテリーが大変ですね」
「そうなんだ。だからL1000以降は油圧に水圧に空気圧。完全電動は姿を消した。だからこれを使い続けてる」
「更新しないんですか?」
「しないよ。まぁ、超音波モーター式が出れば話は別だけど。それに、意地を張ってるおかげでいい事もある」
「なんですか?それは」
「ぼくね。実は今年で55歳なんだ」
「うそ!」
「だろ?」
ニヤッと笑った男性型サイボーグ。
その姿はどう見たって20代後半位の、まだまだ若々しい姿だ。
最近でこそ40歳50歳に見える男盛りのサイボーグも増えてきたのだけど。
「そろそろ外見の処理をする頃だよね?」
「はい。来週には」
「そうか。じゃぁ、来週合う時には普通の服を着ているはずだね」
「たぶんそうなると思います」
「来週を楽しみにしているよ。じゃぁ、お疲れさん。試験ガンバんなよ」
「ありがとうございます」
軽くお辞儀をして彼女は歩き出した。
まだまだ身体の各部から空気圧の作動音が聞こえてる。
ただ、先月に比べれば歩くフォームは格段に綺麗になった上に、動きに優雅さが出てきた。
機械じみたぎこちない動きは影を潜め、ちょっとした振る舞いに女性らしさが出るようになっている。
リハビリフロアのスタッフが皆それに気が付いているのだけど、当の本人はまだ気が付いて無い様だ。
今日はやる事も無いし、検査もないし手持ち無沙汰。
いつの間にか夕暮れの日差しになりつつある外を一瞥してから、彼女はカレーライスの味を思い出していた。
−終−
まさかここで少佐が出てくるとはなぁw
投下GJ!でした。次のお話にも期待しています。
GJ!
うーん、まさに「我思う、故に我あり」な話だなー。
考えてみればその通りだよなって話。
化け物の様な人間と人間の様な化け物の違いか。
そう考えると少佐の言葉は重いな。
良い話でした。GJ!です。
戦うサイボーグ娘成分が少なくなってきたので、つい出来心で書いてみた。
所要時間40分足らず何で誤字脱字/乱文乱筆笑って許してw
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
いつもと同じ日常が毎日続くなんて当たり前だと思っていたのは、もうどれくらい前だったのか自分でも解らなくなっている。今こ
こにある現実は、一面の焼け野原と崩れかかったビルの残骸と、そして焼けただれた自家用車達の虚しい車列。自治省衛生局が回収し
たらしいドローンの感染体は、おそらくすでに超高周波焼却炉でちりも残らず焼かれたはずだ。
西暦2150年を超えた辺りの出来事。恒星間飛行デバイス『ハイパードライブ』の実用化により、地球人類の活動圏は遠くオリオンの
ベテルギュース領域まで広がっていた。人口爆発に歯止めが効かない状況下で取られた地球連邦政府の政策は、新たな人類生存可能惑
星への植民政策だった。
より高性能なハイパードライブ搭載型のスペースシップが量産され、地球銀河系の深淵部へ向けて続々と旅立っていった植民船団が
地球へと戻ってきた2200年頃。地球上で始まった小さな異変は瞬く間に地上を覆い尽くしていった。
地球人類のRNA遺伝子を直接書き換えてしまう未知のウィルスは、いかなる手段を持ってしても抗体を作り出す事が敵わず、地球上
のすべての陸地に収まりきれずに人工大陸まで作って納めていた300億を超える人々が、ばたばたと病に倒れ命を失っていった。
だが、それは恐怖の前段階に過ぎぬ事を『不幸にも生き残ってしまった人々』は味わうことになる。
その未知のウィルスは死体をまるで生きた人間のようにカモフラージュさせ、あたかも未だ正常に生きていると錯覚させるほどに自
然な振る舞いでウィルスの再拡散を図っていた。基本的人権の解釈論対立でもめている間に、未感染か感染済みか解らぬままのウィル
スキャリアとかしたドローンが恐ろしい勢いでウィルスを再拡散させ、連邦議会が議論の一致を見て感染者を隔離すると決定した時、
すでに未感染の人類は5億を切るほどに減少していたのだった。
その生き残った人々が取った政策はあまりに苛烈だった。
感染済みの者は容赦なく、例外なく、躊躇無く抹消された。まるでゾンビのように緩慢な動きで暴れるドローンは、瞬く間に一掃さ
れたのだった。また、感染済みながら意識がかろうじて残っている者は、たとえ本人の意識が残っていても、遠慮無く射殺され、ウィ
ルスを焼き払うために反応炉の中へ投げ込まれてしまった。
だが、その過程でおよそ100万人に一人の割合でウィルスに何らかの抗体を持つ人類が確認された。彼らはウィルスに感染後も意識
や自由を失ったり乗っ取られたりすること無く、本人の意識を高いレベルで保ったままウィルスと共存していた。初期段階では躊躇無
く殺されていた彼らだが、ある時、ドローンとなった感染者が彼らを襲わないと言う事が確認されたのだ。その時点でウィルスと共存
する者達は、すべての自由を奪われ、未感染者の守護者としてウィルスと戦うための『高度有機生命体兵器』として扱われることが決
定した。
全く別の星系から持ち込まれた未知のウィルスは、わずか数個のタンパク質構成体からなる単純な組成であったが、およそ0.01ピコ
リットルの血液・体液などが空気中を漂ったとしても、それが生身の皮膚に触れた瞬間に表面のタンパク質へと浸潤し自己複製を開始
していく凶悪な感染力であった。
故に、ウィルスへ抵抗するべく編成された防護隊とも言うべき公衆衛生局のスタッフは皆、高度にサイボーグ化された『元・人間』
とも言うべき機械達だ。外界と完全に遮断されたドーム型のコロニーが世界各所に建設され、人類はその中でのみ生存を許されたのだ
が、何らかの手違いでその中へドローンやキャリアーが進入してしまった場合、そのコロニーは例外なく『完全焼却』される運命にあ
る。その、最も汚れ役な作業を請け負う彼らは、ウィルスに抵抗を示した感染済みの人々の脳髄だけを移植された機械としてのみ存在
を許されている。
そして今、つい最近焼き払われたコロニーNo.4900135『西東京シティ』の中心部で、真新しい銀色のボディを輝かせているサイボー
グが4名。焼け野原の旧市街地を眺めていた。
――ッピ! 『ユニット8013!14!15!16!早く移動しろ!エリアコード2146より2158のエリアにドローンが確認された!』
直接脳内に響く指令の声。
脳以外のすべてを機械に改造されたサイボーグ清掃員たち。
「早く移動しろって」「またやり直し?それとも」
「やっぱまとめて焼き払わなきゃ駄目なのね」
「人使い荒いよねぇ」
――ッピ! 『おまえら、まだ人間のつもりか?もう諦めろ。さもないと次のメンテタイム抜きの懲罰だ』
「あ〜ぁ やってらんないよ」
「死んだ方がよかったね」
直接の脳波通信でやりとりする彼ら・・・・ いや、彼女らは、ここのコロニーで生き残った人々のために改造された抗体持ちの元女子
高生。ユニットナンバー8013非公式ユニット名『yuka』、8014『mai』、8015『mana』8016『nori』。全く面識の無かった彼女たちだ
が、ナパーム弾に焼かれた市街地の中で回収された死体のうち、わずかな生体反応が検出された者のみを集めて改造されたのだがら、
逆に言えば強運の持ち主といえるのだろう。
全く同じ外見のボディを持つ彼女達は、首の辺りから上だけが人工皮膚と非生体系素材で作られた生身のような頭部を持つサイボー
グだった。高純度弾力系アクリル体で作られた眼球の色だけが違う、顔の作りまで同一の量産型ユニットだ。
「ねーねー!良いもの見つけた!」
「なに?」
「ほら!ヘアカラースプレー!」
「あぁぁ!」
緑やら黄色やらの塗料が入ったエナメル系の艶あり塗料缶。もちろん、生身の人間になんか使える開けが無い。だが、彼女達の毛髪
は耐熱シリコン系のアンテナを兼ねた放熱デバイスでもあるから・・・・・
「マナは緑だから髪も緑ね!」
シュー!
「どう?」
「あ!似合う似合う!」
気がつけばサイボーグ達の髪の色が見事に四色に分かれていた。
――ッピ!『おーまーえーらぁ!』
「はいはい。わかりましたよ−」
「いまいきまーす!」
「バッテリーが残り少ないから稼働限界まで3時間ちょいでーす」
「武装もあんまり無いんで補給して欲しいでーす」
6輪バギーに全員が乗って移動を開始する。運転するのはマナ。ユニットナンバー8015。ほんの3週間前まで、毎日のように通ってい
た学校が焼け野原にぽつんと残っていた。どこからか煙の臭いがしていた。涙も流れなくなった瞳で皆が学校の残骸を見ている。もっ
と勉強が出来て頭脳明晰で、そして、ウィルス感染するような遊びをしていなければ・・・・
「また学校行きたいね」
誰かがそうつぶやいた。だけどそんな日常はもう戻ってこない。幾人ものエンジニアに囲まれた作業台の上で彼女達が目を覚ました
時、そんなものはもう遙か遠くの世界の出来事に成り下がっていた。来る日も来る日も、自分たちの体の構造と武器弾薬の使い方を強
制的に学ばされて、そして問答無用でコロニーの外へたたき出されて、ドローン狩りの実地訓練をやらされて。
ふかふかのベッドの上で暖かい毛布にくるまって眠ることも無く、湯気の立つ熱いスープに笑みを浮かべることも無く、毎日毎日、
充電時間以外のすべてをキャリアーとドローンの焼却に充てる日々を繰り返している。
「ちゃっちゃと終わらせてベースへ戻ろうよ」
「そうだね」
砂ゲムリをあげて走っていく電動バギーの単調な音。
彼女達の終わらない旅は続く。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
まぁ、こんな感じ。
笑って許してww
気が向いたら続き書くかも。
じゃ
GJ!良さげな感じですね。
>ウィルス感染するような遊びをしていなければ・・・・
ってのは、具体的にどんな遊びなのかが、
続きを書く事があれば明かされてゆくことになるのでしょうか。
ただ、もうちょっと科学的考証をしっかりやったほうがいいかなーってのがちょっと残念に思いました。
・人間の遺伝子が保存されるのに使われてるのはRNAでは無くてDNAです。人体においてはRNAはメッセンジャーRNAやトランスファーRNAのような「一時的」な目的に使われます。
・「遺伝子を直接書き換えるウイルス」とは普通のウイルスとどのように異なるのか?という点が気になります。
・「超高周波焼却炉」はきっと電磁波なんだと思いますが、電磁波は普通「周波数」じゃなくて「波長」で表します。だから「超短波焼却炉」となるのではないでしょうか。
・電磁波の紫外線やX線やガンマ線が遺伝子を破壊して危険(=殺菌に有用)なのは、原子サイズの物体が共鳴しやすい波長だからなので、それより短い波長の電磁波が有効かどうかは不明。(赤外線で暖まるのは同様に分子スケールでの共鳴が起こりやすいからです)
・「ゾンビ化」における、「死んでるのに生きてるかのようなカモフラージュ」がどのような状態であるかの、考証に基づく具体的な設定がなされてると説得力がグッと増します。
というところがちょっと気になったところです。
もしよろしければ参考にしてみて下さい。
ちなみに、
・およそ0.01ピコリットルの体液で感染
っていうのは、軽く検証してみた限りではおかしな事は無いみたいです。
古代の遺跡を探索していたら、守護者的なサイボーグ娘に捕まるという電波が飛んできた
元ネタはPSP2∞
>>52の流れを止めちまうけど、頑張ってSSにしてみようかと。アリ?
>>54 いちいち聞くな、そんなこと。
電波の赴くまま、どんどん書いて萌えさせてくれ頼みます。
闘うサイボーグ娘は大好物です。
ほのぼの日常系は別腹です。
SSドンと来い!
沢山書いてくれると嬉しい
>>54 ユーリィ・キューブがサイボーグ娘だったらなーと思ったことが何度あったことか
いやああいう性格が好きな訳じゃなくて、遺跡の守護者が役目を解かれて主人公と行動を共にするという
シュチュエーションが良いんだけど。
>>54 ムーの白鯨のマドーラがそんな設定だな。
古代の超先進文明によってサイボーグになったんだっけ。
59 :
人間の証明1:2013/01/27(日) 22:48:12.14 ID:GbtHPSiR
髪を後ろで縛り、セーターとシャツをまくり、フロントホックのブラジャーを外すと、世間の標準から見て大きな範疇に入り、なおかつ弾力もある乳房が露わになる。
「お待たせ、竜也ちゃん」
私は今にも泣き出しそうな顔をしている赤ちゃん──先月生まれた息子の竜也ちゃんを抱き寄せ、片方の乳首を小さな口に咥えさせると、竜也ちゃんは口を動かしてお乳を吸い始め、コクンコクンと飲んでいく。
少しして、お乳が出なくなったのか竜也ちゃんの口の動きが止まったら、ほっぺを軽くつまんで乳首から口を外し、反対側を咥えさせると、またお乳を吸ってくる。
やがて両方の乳房から飲み終わり、軽く背中を叩くと、竜也ちゃんの口からケプッと空気が漏れる。
「良し」
私は部屋の片隅にあるベビーベッドに竜也ちゃんを寝かせると、台所へ向かう。
「さてと……」
私はセーターとシャツ、ブラジャーを脱いで椅子に掛ける。
『胸部メンテナンスハッチ・OPEN』
人工義眼の網膜に投影されたコマンドメニューから目的のコマンドを選択すると、プシュッと軽い音を立てて胸が両開きになる。
「今回も良く飲んでるわね」
両乳房のタンクを取り外し、中身がほとんど無くなっているのを確認すると、消毒が済んでいる換えのタンクにミルクを入れ、同じく消毒済みの乳首と一緒に付け替える。
乳房のタンクと乳首の交換を済ませて胸を閉めると、『胸部メンテナンスハッチ・OPEN』の表示が視界から消え、代わりに『乳房内タンク・加熱中』の表示が現れる。
これで何時間か後、竜也ちゃんがまたお乳を欲しがる時には適温で授乳が出来ると言うわけだ。
「ん──こっちも良し」
念のため、手で乳房と乳首を触り、感度も確認していると、
「寒いのに、何て格好してるんだよ、絵里先生」
ブルッと身体を震わせながら、竜也ちゃんの父親──つまり私の夫が入ってくる。
「機械の体は風邪なんて引かないわよ。むしろ冷やした方がちょうど良いの」
そう答えつつも、向こうが見ていて気分的にもっと寒くなると言う事は分かるから、ブラジャーを付け直し、服を着る。
「そう言う剣也君こそ、風邪を引かないように気をつけてね。しっかり働いて、一家の主としての甲斐性付けて貰わなきゃ。私も一緒に稼ぐけど、父親が母親のヒモじゃ、竜也ちゃんが可哀想だし」
剣也君は「分かってるよ」と答えながら、居間に移動する。そうしてベビーベッドの上から剣也君が覗き込むと、父親のお帰りに竜也ちゃんがキャッキャと笑ってくる。
「それにしてもさ、この子は俺にも似てるけど、ちゃんと先生にも似てるんだな」
実の親子なんだから当たり前の事を言うと思うだろうが、剣也君の言いたい事が別にある事はすぐに分かった。
「それはまあ、生身の時と同じじゃないけど、似た姿に作ってあるのよ、この義体は」
服を着終わって、私も居間に入りながら答える。
「こうなる事まで考えて作ったわけじゃないけどね──」
つい口からポロッと続きが出て、
「何か言った?」
振り向く剣也君に、私は「別に」ととぼける。
危ない危ない。
別に今更知られてどうなるとも思わないが、それでも剣也君に知られたくない事というのもあるのだ。
それにしても、本当に『組織』にいた頃は、私がこうなる事なんて想像さえしていなかった。
敵である剣也君に助けられて、一緒に『組織』を相手に戦って、遂には剣也君と結婚して、子供まで産んで、今こうして3人で暮らしてるなんて──
60 :
人間の証明2:2013/01/27(日) 22:54:09.98 ID:GbtHPSiR
当たり前な話だけど、私も最初から機械の体だったわけじゃない。
ちゃんと生身の身体を持ってこの世に生まれてきたし、私を産んだ母がいて、父がいて、そして姉がいた──。
私より2歳年上だった姉は、勉強が出来て、スポーツも複数の部活から助っ人の依頼が来るほどで、何より道ですれ違う人が10人中10人が振り向くだろうと思うほど綺麗な人だった。
けれど、そんな姉を持った妹──勉強は出来ても姉には追いつけず、スポーツは全く駄目、おまけにガリガリの貧相な体型──の立場を考えて欲しい。
どんなに頑張っても追い抜けない、追いつけない姉の存在は、物心ついた時から大きなコンプレックスになって、私にのしかかってきた。
これで能力の違いを鼻に掛けるような高慢な性格だったら憎みようがあったが、姉はいつも私の事を気遣って、「無理しなくていいのよ」と言ってくれた。
両親も姉と私を比べる事はせず、「あなたはあなたなんだから」と言ってきたが、逆に姉との差を意識する事になり、年を経るごとに私は意固地になっていった。
私は姉に対して口をきこうとしなくなり、姉が何を言ってきても私は聞かないふりを続けた。
そうして周囲の声をシャットアウトした私は、自身のアイデンティティーを確立するべく唯一の取り柄である勉強で姉を負かそうと、持てる時間の全てを費やした。
けれど、崩壊の時は何の前触れもなくやって来た。
あれは、私が16歳、姉が18歳。春の足音が日々近づくある日の事だった。
その年大学に合格した姉は、両親と一緒に合格祝いの買い物へ行き、私は当然ながら一緒に行くのを断って勉強に没頭していた。
だがその日の午後、突然警察から電話が掛かってきて、両親と姉が乗った車が交通事故に遭った事を知らされ、私は頭が真っ白になりながらも病院へ急いだ。
けれど私を待っていたのは、霊安室で物言わぬ骸となった家族で、特に姉の遺体は相手の車が衝突した最も近い位置に座っていたために、原形を留めてさえいなかった。
事故の理由が相手側の明らかな不注意だった事も、向こうの運転手も死んでいた事も、私にはどうでも良かった。
ただ、私が姉に追いつく事はもう一生無くなってしまった事が、私の中に大きく深い喪失感となって残ってしまったのだ。
なまじ知識があるせいで、それで全てに投げやりになり、無気力になってしまえば、その先の人生はすぐに行き詰まってしまう事が分かってしまったから、投げ出す事も出来なかった。
結局私は、目的を失ったまま勉強という道を進むしかなくなったのだ。
61 :
人間の証明3:2013/01/27(日) 22:55:41.54 ID:GbtHPSiR
そうして時は流れ、私は学校の偏差値や教師の薦め、その他諸々に流されるように研究者への道を進み、生体工学の最先端の世界へ入って行った。
けど、社会というのは勉強が出来るイコール優秀とは限らなくて、周りとの協調性や、目上の印象を良くするためのいわゆる要領の良さが重要な場合もあり、研究の世界でもそれは例外ではなかった。
そして、家族とさえ繋がろうとせずに思春期を送った私にまともなコミュニケーション能力が備わっているわけがなかった。
あっという間に周囲から孤立した私だったが、意固地な私は逆に群れなければ何も出来ない低能な連中と他人を見下し、自分一人で実績を上げてやろうと研究に没頭した。
寝食を惜しみ、有形無形の圧力にさらされ、文字通り身を削って私の研究は次第に形を為していき、これで周囲を見返してやると息巻いていた矢先、二度目の崩壊は訪れた。
上層部とそいつらの腰巾着共の裏工作によって私の研究は全て横取りされ、私は無能のレッテルを貼られて研究所を追われる事になったのだ。
私を呼び出した研究所の所長が何を言ってきたかは想像が付くが、恨みと憎しみで一杯だった私の耳には一切入らなかった。
気が付けば私の目の前には血塗れでデスクに突っ伏す所長の姿があり、頭が真っ白になった私は急いでその場から逃げ出し、無我夢中で身を隠した。
とは言え所詮は頭脳しか取り柄のない女一人、普通ならすぐに警察に捕まって、新聞記事の一部になって私の人生は終わっていた事だろう。だがそこへ手を差し伸べる奴らがいた。
それは薬物や機械化で改造した動物や人間、人工臓器や兵器などを世界中の軍隊や金持ちに売る『組織』で、私はその誘いに即座に飛びついた。
表の世界に居場所を失って、他に生きる道がなかったという理由もあったが、何よりその時の私は社会も善悪も、そして人間さえもどうでもよくなっていた。
だから私は表の世界にいた時から進めていた義肢の研究を更に飛躍させ、人間の全身を精巧に模倣した義体を完成させるに当たって、自身の脳を移植させる事に何のためらいもなかった。
そうして私は生体脳を除く全身を機械化したサイボーグになった。
嫌いだった私の生身の肉体を捨てて、
それ以上に嫌いだった姉が成長していたら、こんな大人になっていただろうという姿になって──
62 :
人間の証明4:2013/01/27(日) 22:56:22.62 ID:GbtHPSiR
それからしばらくの間は順調だった。
全身義体の技術を完成させた実績もあったけれど、それ以上に『組織』の男達の私を見る目が大きく変わり、好意的に接するようになったのだ。
もっともそれは有能な者に対する尊敬や敬意ではなく、私の外見に対する下心である事は明白だったが、私は不愉快にならなかった。
この美しさが精巧に作られた作り物である事は分かっているくせに、外見だけであっさり態度を変える、馬鹿で単純な奴ら──
私は腹の中で見下しつつも、表面上は彼らに感謝を返し、時には機械化のせいで満たされない食欲の代わりに増大する性欲を満たす相手とした。
そうして姉の似姿を穢す事は、私の人生を歪ませた姉に対する復讐にもなった。
ところが順風満帆の時は永遠には続かなかった。
『組織』が改造用素体として確保した1人の少年が、改造手術の直前に常人の何十倍もの身体能力を発揮する超能力に覚醒し、『組織』の構成員達を片っ端から倒して逃亡したのだ。
幸か不幸か私は別の用事でその事件に立ち会う事がなく、『組織』の方でもすぐに排除できるさして重大ではないイレギュラーとしてその少年──剣也君をみなしていた。
ところが彼は『組織』の差し向けた刺客をことごとく返り討ちにして、その中には私自身が開発に関わった改造人間も含まれていたために、『組織』の中で私の立場が危うくなってきた。
私は起死回生のため、彼の能力や動向を探り、機会があれば籠絡、もしくは暗殺するスパイの任務に自ら志願し、彼の通う高校に保険医として潜り込んだ。
高校でも男達を中心に私は好意的に受け入れられ、どこも人を外見だけで判断するのかと内心呆れ、見下しつつも、私は容姿を鼻に掛けない優しい保険医を演じた。
そうして保険医の仕事の傍ら、私は密かに剣也君の情報を探り、一方で最悪『組織』から粛正が差し向けられた時のために逃走する準備も進め、状況がどう転んでも生き延びられるよう努めた。
けれど私が思っていた以上に『組織』の動きは早かった。
私が離れている間に、『組織』の研究セクション内では私を排除して取って代わろうとするグループが発言力を増し、そいつらがスパイの反逆の危険性を声高に主張したらしい。
そうして私の知らない所で処分を決定した『組織』は、直後に差し向けた刺客の戦闘用サイボーグが剣也君を抹殺するためのサポートを私に命じ──実際は抹殺のための捨て石にされるはずだった。
けれど運命は皮肉なもので、他人が使い捨てにされるのを黙って見ていられないと、敵であるはずの剣也君に、私は間一髪の所で助けられたのだ。
家族の敵である『組織』の一員に対して、熱血漢というかお人好しというか、正直私は呆れたが、もはや同じ『組織』の敵となった者同士、剣也君と一緒に戦う事になった。
とは言うものの、最初は利害の一致で繋がっている者としてしか剣也君を見ていなかった。
表面上、私は持てる能力と、『組織』にいた頃から蓄積してきた情報をフル活用して、彼の戦いをサポートしていたけれど、心の中ではある種の諦めを抱いていた。
所詮この子も他の奴らと同じように、私を外見でしか見ていない、あとは私と同じように利害の一致でしか繋がっていないんだ、と──
でも、ある日『組織』のある幹部の作戦で剣也君と分断された私は、向こうの圧倒的な戦闘力の前にまともに太刀打ちできず、私は裏切りの制裁として少しずつ義体を破壊されていった。
剣也君が向こうの敵を倒して助けに来てくれた時には、私は腕をもぎ取られた左の肩口や、身中のあちこちの傷口から機械部品を覗かせ、ちぎれた配線が火花を散らしていた。
もちろん顔も例外ではなく、人工皮膚が半分ほど剥がれて金属製の頭蓋骨と片方の電子義眼が露出している有様だった。
けど剣也君は、そんな無残で醜い姿をさらす私を目の当たりにしても、目を逸らすどころか、その目には嫌悪感を一切見せなかった。
それどころか、「醜い姿でしょう? いくら外見を綺麗に作ったってそれが裏切り者のスパイ人形の本当の姿よ」とせせら笑う『組織』の女幹部に対し、
「てめえのその心の方がよっぽど醜いよ」
そう怒りも露わに、既に一仕事済ませて疲労とダメージが残る身体にも関わらず、剣也君は敵を打ち倒した。
それでも女幹部の言葉に、自分の身体が機械、作り物である事を再認識させられ、心を抉られた私に、剣也君は言ってくれた。
「生身でも機械でも関係ない。自分の心が、意志がある限り、先生は人間だ」
その言葉を聞いた時、私は嬉しかった。
そして、剣也君と身体はもちろん、心も繋がりたいと思った。
それは紛れもない、初恋だった──
63 :
人間の証明5:2013/01/27(日) 22:59:15.34 ID:GbtHPSiR
それから後の『組織』との戦いは、私にしてみればおまけのようなものだ。
『組織』はその後も刺客を送り続けてきたが、ことごとく剣也君が返り討ちにして、その傍らには常に私がサポートとして付いていた。
そのうち敵の勢いが落ち始めたのを見て取った私達は攻撃に転じ、『組織』の拠点を1つ1つ潰していき、遂には最後の基地を潰して『組織』のトップも倒した。
『組織』が壊滅した後も、剣也君と私は残党を相手に戦ってきたが、それもすぐに終わりが見えてきて、私はある恐怖を抱いた。
このまま『組織』がなくなったら、私と剣也君を繋ぐものが無くなってしまう──
だから私は剣也君が高校を卒業する日を前に、『組織』が研究していた人工子宮を完成させて身体に増設し、『最後のセックス』で剣也君との子供を妊娠させた。いわゆる既成事実作りというやつだ。
けど、そんな事をするまでもなく、剣也君はずっと前から私の事を好きでいてくれたらしかった。
それを知った時、私は剣也君と、心から繋がったのだと感じた。
剣也君は自分の心と意志を持っている事が人間の条件だと言ったけれど、私の考えは少し違う。
自分の心と意志を持たずに生きる者は、例え生身の身体だったとしても『人形』でしかなく、心と意志を持つ事で『人』になる。
そして他人と関係を持ち、繋がる事で『人』は『人間』になる。
そう言う意味では、私はあの日、初めて『人間』になれたのだった──。
その後私達は、当初は『組織』からの逃走用に準備していたルートを使って今の場所に落ち着くと、そこで竜也ちゃんを出産した。
とは言っても全てが順調だったわけじゃない。
最初は私の臍から直接人工子宮に栄養を供給していたのだが、予定通りに成長せず、食べ物からの栄養でないと駄目なんじゃないかと言う剣也君の意見で、口から摂取した食べ物から栄養を抽出して人工子宮に送るように改造した。
だとしたらちゃんとした味がしないと胎教に悪いんじゃないかと思い、剣也君にも手伝って貰って、味覚のセンサーも作った。
それらを全部ひっくるめてたった数ヶ月で完成させてしまうなんて、我ながら驚異的な速さと言える。いわゆる愛の力というやつかしら?
64 :
人間の証明6:2013/01/27(日) 22:59:59.01 ID:GbtHPSiR
「ねえ剣也君、私の事、『組織』のスパイだって知る前から好きだったって言ったわよね。それってやっぱり理由は顔?」
ちょっと意地悪な質問をする私に、剣也君は「ん〜」と困った顔をして、
「それもあったけど、何て言うのかな? どこか寂しそうに見えたんだよな」
「寂しそう、ね……」
昔なら鼻で笑っていた所だが、今は何となく納得できる。
昔は満たされない食欲の代わりに性欲が増大していると思っていたが、剣也君と結婚して、竜也ちゃんがお腹の中にいた間、私はセックスをする気が昔のように起きなくなっていた。
もしかしたら、他人との繋がりを拒絶しているつもりでも、心のどこかでは他人と繋がっていたいと思っていて、それがセックスしたいという欲望になって吹き出していたのかも知れない。
私は戸棚の上から鏡を取って見る。
(ねえ姉さん、姉さんの顔を勝手に私の顔にした事、やっぱり怒ってる?)
鏡に映る姉の顔に向けて、私は心の中で問い掛ける。
剣也君と出会う前は、天国とか地獄なんて信じてなかったけど、今は違う。
『信じる』というよりは、『あって欲しいと思っている』という方が正しいけど。
機械の体でも、脳が生身である以上、いつかは私にも死が訪れる。
でもその後も多分先に死んでいるだろう剣也君と一緒にいたいから、多分彼は天国行きだろうから私も天国へ行きたい。
それに、両親と姉にも、ちゃんと正面から向かい合って謝りたい。
あの時は意固地になってごめんね、と。
姉さんの姿で色々悪い事をやってごめんね、と。
そのためにも、『組織』にいた時やそれ以前に犯した罪をきちんと償って、更にそれ以上に沢山良い事をしなくちゃいけないと思う。
とは言っても──
「ねえ剣也君」
後ろから剣也君を抱き締めて、
「久しぶりに、しましょう」
甘えた声で私が誘うと、
「おいおい、俺は仕事から帰ったばかりで疲れてるんだから勘弁してよ、先生」
困ったように剣也君は答えるが、私は片方の腕を下から剣也君の方へ回し、
「そう言ってる割には、こっちは元気じゃない。身体は正直ね」
剣也君の膨らんだ股間を撫で回して私は言う。
「待てよ、竜也が──」
「今ミルクをあげたばかりだから、1時間は軽く大丈夫よ。どうせお風呂に入るんだからその前に、ね──」
私は剣也君の前に回り、彼の口を私の口で塞いで抗議の声を封じ、その勢いで床に押し倒した。
剣也君と竜也ちゃん──新しく出来た家族のおかげで、私は人間でいられる。
それには生身の部分がいくら残っているかなんて関係ない。
とは言え昔ほど激しく求めないものの、やっぱりセックスはやめられない。
もちろん今の私の身体は剣也君専用、だけどね──
終
65 :
名無しさん@ピンキー:2013/01/27(日) 23:02:19.14 ID:GbtHPSiR
こんばんは、前スレで「卒業・保健室にて」を掲載した者です。
今回は前作から約1年後、絵里先生視点で書いてみました。
前回と比べてエッチ要素は少なく、心理描写に重点を置いてみましたが、いかがなものでしょうか?
くそぅ末永く爆発するがよい
萌えも掴みながら、ストーリーもしっかりしているから感情移入しやすくて、イイネ
GJ
ここで余り見られない艶な官能表現とか、とてもよかったです。
乙〜
70 :
リハビリ室4−0:2013/02/13(水) 23:56:28.97 ID:1OlAYm2f
>>46の続きを書いてみました。あれこれと話しを転がしています。
次くらいで終わりますので、もうちょっとお付き合いください。
これを含め12レスを予定しています。
71 :
リハビリ室4−1:2013/02/13(水) 23:57:31.66 ID:1OlAYm2f
電話ボックスより一回り小さな箱が部屋の中で異彩を放っている。
唐突に運び込まれたその箱は、これから彼女の安住の地になるはずだと言う。
訝しがる彼女を横目に、東亞重工のツナギを着たスタッフがテキパキと組み立てて行くのだが。
まだむき出しの機械部分を見られたくない彼女の落ち着かない様子など眼中に無く、気が付けば窓一つ無い箱が完成していた。
「では、納品を終ります。ネゴシェーションは佐川さんの方でお願いしますね」
じゃ。
一言で言えばそんな感じだ。彼女の事は一切関知せずと言った様子で、スタッフ達は部屋を出て行った。
無視されたらされたで少々機嫌も悪く成ろうかと言うもの。年頃の乙女心は何かと傷つきやすいのだ。
だが、そんな彼女の意向など頭から無視するように、センターの女性スタッフが部屋にやってきた。
「さて、少々驚いたと思いますが……」
制御内科のお医者さんがやってきて、心の準備も無いままに説明を始めた。
はじめて見る人だなぁ……
ちょっと警戒しているのだけど、スタッフは余り気に留めてないようだ。
「これは通常動力型サイボーグ向けの保安装置付きクレードル。意味の説明は要らないよね。携帯の充電スタン
ドをクレードルって言うでしょ?そもそものクレードルってのは揺りかごって意味なんだけど、これはもうその
まんまの意味で、サイボーグ向けに作られた揺りかごです。バッテリの残量が乏しい状態の時に充電中モードへ
陥ると自分の意思じゃ動けなくなるでしょ?その時の為の、いわば逃げ込み先って意味もあるしね。そしてもう
一つ重要な機能があって……まぁ、それはこれから調整しつつ説明するけどね」
スタッフに手招きされてその箱へと近づいた彼女は、半ば強制的に上着を脱がされた。
まだ鈍い光を反射する機械の身体なのだけど、だいぶそれにも慣れてきた頃合とも言える。
それゆえだろうか。余り面識の無い人にこの姿を見せるのが少々恥ずかしい。
機械である姿が恥ずかしいのではなく、年頃の女の子が裸を見せるのと同じ理由……
「あぁ、ゴメンゴメン。だけど、私は年間200件位こういう仕事してるから、余り気にしないで」
スタッフが妙な笑い方をしつつ、箱の脇に立って小さなボタンを押した。
「私がこのハッチを開けられるのはあと3回だけね。4回目からはあなた以外開ける事すら出来なくなる」
シューっとエアシリンダーの伸びる音が聞こえて、観音開き状になったハッチが開いた。
中には高級な革張りの椅子が一基だけ備え付けてある。
ヘッドレスト部分には様々な接続端子があり、彼女の知識にある全てのコネクターが備え付けられていた。
その箱の右手には、100ボルトと200ボルトの給電コンセントがあり、急速充電対応型なのが見て取れる。
反対側の左手には透明なパイプの先端に逆止弁の付いた水物補給のホースが3種類用意されている。
「見れば意味は分かるよね?この中に入ってあなたが補給を受けている間、この箱があなたの安全を担保する」
彼女は再びちょいちょいと手招きされた。
入ってみろと言わんばかりに招かれたので、言われるとおりに中へと入ると、なんとも不思議な視界。
妙な感動と言うか『自分が機械になった』のを妙な部分で実感する。
しかし、そんな感情を他所に、スタッフは彼女の左右わき腹にある整備ハッチを唐突に開け始めた。
「こっち側は給電スポット。通常充電なら6時間半、200なら3時間ほどで空っぽのバッテリーが満タンよ」
スタッフは勝手に100ボルトのコンセントを接続し始めた。視界の中に給電中を示すピクトサインが現れる。
ただ、仮にも17歳の夢見る乙女(?)で有るからして、勝手に身体を触られるのはあまり良い気がしない。
しかもまるで、家電製品のコンセントを無造作に差し込むように扱われているのだ。
人扱いされてないと言うのは、実は地味にショックなのだけど……
「こっち側は見て分かるとおりの生理補給と排出よ。上から生理食塩水、ブドウ糖溶液、ドレン排出パイプ」
72 :
リハビリ室4−2:2013/02/13(水) 23:58:40.50 ID:1OlAYm2f
彼女のような全身サイボーグとて、脳と周辺の細胞は生身なのだから栄養が必要になる。
その為に補給するのが生理食塩水とブドウ糖溶液。
高分子構成体で作られた人工心臓で脳内へ送り込まれる人工血液の機能保全の為には生理食塩水が必要だ。
人工血液や脳液などは定期的なオーバーホールで新品に交換される。
しかし、ある程度運び出される老廃物の不活性化にはそれなりの手順が必要だ。
一定のペースで溜まっていく生理的な『ゴミ』はドレン排出と言う形で体外廃棄されるようになっている。
今までは通常型ベッドの上でナース姿のスタッフが手を貸してくれていた。
だけど、そろそろこの程度のメンテナンスは自分で出来なくてはならない。
そうでなければ義体使用免許は交付されないし、彼女自身がここから飛び立つ事も出来ないと言うことだ。
「次の段階だけど、これも、もう分かるよね?」
スタッフが彼女の首裏辺りへ幾つかのコネクターを差し込んだ。
全く無造作にポンポンと差し込まれたので、一瞬背筋がゾクッとした。
彼女の視界に有線接続のマークが浮かぶのだけど、それより、不快感の方が大きい。
ちょっと不機嫌っぽい表情を浮かべたのだけど、スタッフは全く持って意に介してなかった。
「ちょっと待ってね。今システムを起動させるから」
スタッフが持っていたタブレットPCを起動させると、彼女の視界へ一斉様々な情報が浮かび上がった。
それと同時に制御用のソフトが『注ぎ込まれる』のを彼女自身が感じている。
かなり大きなソフトなのだけど、有線接続時の高速転送はストレスらしき物を一切感じない優れものだ。
ただし、家電製品か工業製品みたいに扱われている気分の悪さだけは如何ともしがたい。
ここに居る限りは全く持ってその通りの扱いである事など、とっくに承知しているつもりだったのだが……
「接続IDが表示されているかな?」
「……はい。見えています」
何処か不機嫌そうに応えた。だけどやっぱり意に介してないようだ。
「ちょっと集中して」
いや、分かってるのかな?少しそんな気にもなる。
集中を促された以上は頑張るべきなのだろう。
彼女は視界に浮かぶ数字の文字列に意識を注ぎ込んだ。
0049-3540-4351-2219-0113
「最初の四桁0049は日本の国番号。サイボーグの国籍。次の四桁3540は佐川精密の企業識別番号、そして」
「4351は私のこの身体ですね?」
「そう。空気作動型4000シリーズ。3は内部バッテリー充電駆動型。5はバッテリー容量種別。1は女性型」
「最後の8桁は私の人格識別IDですよね?」
「その通り!まぁ、サイボーグが2000万人も居る訳じゃないけどね」
視界の中の数列が鈍く点滅を始めた。
「問題なければ視界の中の『次へ』ってボタンを押して」
「はい」
視界の中のカーソルを押してやると、画面の中に幾つかの画像が浮かんだ。
円や三角、四角と言った単純な図形の画像たち。
「その画像のうち、最初は三角を選んでいて。その画像は自分の意思で差し替えられるから」
「あそっか、そうすれば正解は自分しか分からないって訳ですね」
「飲み込み良いわねぇ!優秀な生徒さんは好きよ。男も女も」
73 :
リハビリ室4−3:2013/02/14(木) 00:00:04.79 ID:DgK6S4AF
そう言いつつ、スタッフが箱の内側にあるボタンを押した。
もう一度シューと音を立てて箱の扉が閉まった。
僅かに見える隙間の向こうで手を振るスタッフが見えた。
箱の中にうっすらと明かりが燈っていて、彼女の軽金属の身体がぼんやりと光っていた。
「今度はあなたの脳へ直接話しかけている。聞こえる?」
「はい」
「これから視界の中にダイアログが出るから。ウィザード方式なんで、そのまま手続きして」
「わかりました」
一瞬視界が瞬き、その直後にダイアログボックスが現れた。
先ほどの数列をポチポチと入力すると、今度は複数画像選択方式のパスワード。
全て入力すると本人認証確認の文字と共に、桜ヶ丘へ行きますか?との表示が現れた。
「これは……?」
「あれ?まだ行ってない?ウチのSNS」
「あ、一度だけ見た事がありますけど」
「じゃぁ心配ないね。とりあえず行ってみれば分かるよ。切り替え自体は25mm秒で終わるから」
「切り替え?」
「そう。切り替え。あなたの脳が感じる情報を義体信号から仮想空間信号へ切り替えるのよ」
「つまりSNSへ入るわけですね」
「その通り!今からストロボが光るけど、3回目で切り替え完了よ。後は好きに動いて良し!」
え?なに?どう言う事?
事態を飲み込めないままに、唐突なストロボの光。
1秒おき程度の感覚で3回光った。
3回目の光を感じた直後、視界の中の様々なデータ表示が全部消えた。
そして、急に身体全部がズシッと重くなったような感じがした。
生身の身体に戻ったような錯覚。
「あれ?この後どうするんですか?」
だけど、何の返答も無い。
どうしたもんかなぁと考えていたのだけど、それより興味の方が勝ったようだ。
正面にある扉をぐいと押したら、あっけなくパタンと開いた。
まるで隠れん坊の最中に飛び込んだ洋服タンスの中の様な気分だ。
椅子から立ち上がって箱から出てみると、なんとも不思議な部屋の中だった。
大き目のベッドと壁に備え付けのテーブルと、その向こうにあるユニットバスの付いたトイレ。
壁には大きな窓が一つあり、部屋の中にはシンプルな明かりが燈っている。
部屋の出口脇にはカードキーの刺さったセキュリティスイッチ。
なんか、どこかで見たようなビジネスホテルのシングルルームみたいな部屋。
振り返ると、例の箱が扉を開けたままでそこにあった。
―― 好きに動いて良し!
その言葉を思い出し、勇気を出して部屋の扉を開けてみた。
やはり、どこかのビジネスホテルのような建物だ。
そしてそれは彼女が普段生活していた建物に似ていた。
意を決し部屋を出て廊下を歩くとエレベーターが有った。無意識にカードキーを抜き取っていた。
とりあえずフロントの文字が見えるフロアのボタンを押して下の階へと降りて行くのだが。
『お出かけ時には携帯電話を忘れずに!お持ちでないお客様はフロントまで!』
エレベーターの中の掲示板には大きめの文字で書かれた注意書きがあった。
え?携帯?こっちに持ってこれるの?ちょっと不思議を通り越している。
74 :
リハビリ室4−4:2013/02/14(木) 00:01:18.23 ID:DgK6S4AF
そんなこんなでモタモタしている内に、エレベーターの扉が開いた。
ドアの真正面にはホテルのフロント状態になっているカウンターがあった。
「おぉ、来た来た。待ってたよぉ〜♪」
さっきまで『現実世界』に居たはずの女性スタッフが黒のスーツ姿で椅子に腰掛けていた。
「これを忘れずに持って行って。と言っても、その格好じゃマズイわねぇ いけてない!」
はい!と渡されたスマホ状の携帯電話を受け取りつつ、大きな姿見で自分を眺める。
リハビリセンターで機械部分を隠す為に着ているフードの付いたガウンを裸の上に羽織っている姿。
さすがにちょっと恥ずかしくなったけど、でも、どうすれば……
「アプリが色々と入っているけど、重要なのは通話機能と、ここからログアウトする為のアプリ」
彼女の戸惑いを全く気にせず、スタッフは説明を再開した。
勝手にスマホの表示面を生身の指で触ると、画面が出てきた。
上から覗き込んでぽちぽちと操作を始めているのだが。
「通話機能はこの世界の管理者と話をする為のもの。まぁ、色々と呼び出されることも有るけどね」
スタッフの指がソフトを起動させる。
すると画面にオペレーターの文字が浮かび『もしもし〜』と気の抜けた声。
「あ〜ホテルカリフォルニャーです。今から法務局へ仮登録の方を送り出します。あとよろしく」
『はい、了解しました。では何かありましたら呼んでください。じゃぁ』
ガチャ…… ツーッ ツーッ ツーッ ……
「道に迷ったり変なのに声掛けられたり、あと、プログラムの範囲外へ落ちそうになったら電話する。いいね?」
「あ、はい」
「意味分からなくても方法は覚えておく。あとで役に立つ。そんな感じよ」
スタッフの指が違うソフトを起動した。
「こっちはログアウト用アプリ。外部から、つまりリアル世界の方であなたに用が出来たとか、或いはあなた自
身に用が発生した場合、このソフトを使って仮想世界からログアウトする。ほら、起動画面が出た」
画面にログアウトマネージャーの文字が表示されている。
今現在、仮想空間のどこにいるのか?と、リアルのほうでの義体状態が表示されている。
電源充電量とフル充電までの推定予想時間。それと、各種消耗品などの補給やドレン排出のデータ。
それだけじゃなく、リアル世界の方の状況。気温や天候や時間など。片隅にニュースの文字もあった。
「ソフトのメニューにログアウトと言うのがあるから、それを押すとリアル世界へ戻れるの。やってみる?」
「はい、じゃぁとりあえず」
指で操作するとメニューバーからログアウトの文字が出てきた。
そっとタッチしてみると、ログアウトまで10秒の文字。
「この10秒の間に色々出来る。恋人と最後の生キスしたり。案外長いモンよ?最後に心の準備をして……
一瞬パッと世界が白く染まった。そして視界の中に様々な情報表示が浮かんだ。
再び薄暗い箱の中にいるのが分かった。
どうやって開けるんだろう?と思ったけど、真正面に『開く』と言うボタンを見つけた。
カチャ
無意識にボタンへ触れたら機械的な音を残して鍵が開いたようだ。
その後で再び空気シリンダーの作動音が響く。ゆっくりと開いたドアの向こうにさっきのスタッフ。
75 :
リハビリ室4−5:2013/02/14(木) 00:02:40.39 ID:DgK6S4AF
「あれ?先に戻ってこられたんですか?」
「ん?あ、あぁ、あっちのか。あっちのはここでアクセスしてたの。私は1級オペレーターの資格持ちだからね」
首筋に幾つもケーブルを刺したままのスタッフが笑っている。
ケーブルの先は箱の外にある小さな扉の中だ。
「完全に無防備になるのは電源切って補給中の間だけ。なれてくればこんな芸当も可能になるのよ」
つまり、この人もサイボーグだ……
彼女が不快感を覚えていた行為の殆んどが、むしろスタッフには自然なことなんだと気が付いた。
「まぁ、良くある笑い話よ。飛行機に乗る時に、自分の身体を手荷物扱いにしちゃうとか」
ヘラヘラと笑う姿が、かなりのベテランぶりを発揮していた。
だけど、やっぱり、あまり良い気分じゃない。
「移動中はあっちでひたすら仕事してるとかね……」
「飛行機に乗ってる時とかでも通信できるんですか?」
「あ、そうじゃなくて、スタンドアロンの仮想空間があるのよ。通称『引き篭もりルーム』っての」
アハハと無邪気に笑っているのだけど、目が笑っていない。
そうか。サイボーグって目が笑わないんだ。変なところに気が付いて苦笑いだ。
「身体の方の補給が終わってないからもう一度あっちへ行こうか。今日はパレフェスだし」
「パレフェス?」
「そう。まぁ、見れば分かるよ」
もう一度さっきと同じ手続きをして仮想空間へとログインした。
同じ様にフロントへ行くと、今度はさっきのスタッフが佐川精密のつなぎ姿で待っていた。
「衣装選ぼうか?」
「衣装?」
「そう。パレードはみんなが主役だから」
おいでおいでされて付いて行くと、ホテルのような施設の奥にある衣装室へと案内された。
アニメに出てくるヒロインみたいな衣装から、レオタードやら、ちょっとエッチなものやら。
これ、どこに布が付いてるの?と聞きたくなるような、ほぼ紐しかない物まで。
「デビュー戦は目立つの重視よねぇ〜♪」
アレコレと物色している間に、彼女はふと部屋の隅にあった棚へ目をやった。
どこにでもあるような、デニムのパンツと、あまり色気の無いブラウス。
ちょっと色の濃いカーディガンを羽織って出来上がり。
「それで良いの?」
「ダメですか?」
「……デビュー戦にしては地味ね」
意味が分からぬままホテルを一歩出る。
すると、目の前の大通りには夜店屋台や趣向を凝らした見世物や、練り歩きの仮装行列が続いている。
どこからか賑やかな音がして、振り返ると大きな山車がゴロゴロと通過して行く。
山車の横には大きなディスプレーがあって、どこで何をやっているのか?が表示されていた。
「今日はこのSNSのお祭の日なのよ。この日にあわせて色んなものがデビューするの」
「色んなものって?」
「例えば新しい食品のメニューとかサイボーグだと難しいアトラクションとか」
「・・・・そうなんですか。たしかにそれじゃぁお祭り騒ぎですね」
「でしょ。そして、もう一つ。SNSにログインするようになった新人もこの日にデビューよ」
「ど…… どうやって?」
76 :
リハビリ室4−6:2013/02/14(木) 00:03:55.95 ID:DgK6S4AF
スタッフがニヤリと笑う。
今度は目まで笑っている。
笑顔ってこうじゃないと変だなと気が付く。
「この通りを突き当りまで行くとお城が有るから、そこへ行けば後は分かる筈」
唐突に背中をドンと叩かれて通りへ押し出された。
ホテルの玄関の自動ドアがスーッと閉まる。
そのガラスの向こうでスタッフが手を振っていた。
―― この通りを……
彼女が飛び出たのは、まるでどこかの街の歩行者天国。
たくさんの人々が趣向を凝らした格好で歩いていた。
「お嬢ちゃん!君は今日デビューだね?」
全く知らないおじさんが、小汚い浪人姿で歩いている。
無精ひげを伸ばし、ボサボサ頭をだらしなく紐で縛った姿。
「俺はさぁ こっちへ来ると、ひげを剃るのが楽しみでさぁ」
懐に突っ込んでいた手が出てくると、そこには電動シェーバーがあった。
ジョリジョリジョリジョリ………
「生身だった頃はひげ剃りながら考え事していたんだよ。その頃を思い出すんだ」
独り言とも語りかけとも付かない言葉を残して、おじさんはどこかへ歩み去っていった。
辺りをよく観察すれば、ここに居る人々は皆、現実世界の機械の身体では出来ない事をしている。
ひげ剃りだとか、あるいは爪切りだとか。
そういった生理現象の物理対処こそが生を実感する事なんじゃ無いか?と。
ふと、そんな事を思う。
フラフラと通りを歩きながら屋台を覗き、匂いに釣られて次々とウィンドショッピング。
「おいしそう……」
ぼそっと呟いた自分の言葉にビックリする。
『食べたい』だなんて感情は、この半年位すっかり忘れていた。
そもそも、食べると言う行為自体が無縁の事になってしまったのだ。
「お嬢ちゃん?食べてくかい?」
威勢の良い売り子の声に、ちょっと下がって生笑い。
お金持ってないから買えません……そう言いたいけど。
「金なんかいらねーよ!ほら!持ってきな!」
ポンと渡されたのは焼きたてのお好み焼き。立ち上る湯気の香りが鼻空をくすぐる。
ソースの香り立つお好み焼きを二つ折りにして紙袋に挟んで、その隙間にはマヨネーズと青海苔。
おもわず生唾を飲み込む……
「そうか お嬢ちゃん今日がデビューか じゃぁしょーがねーな」
くるくると焼き鏝のへらを回しながら、焼き台の向こうでおじさんが笑ってる。
「ほれ、冷めねーうちに噛み付きな!うちのはうめーぞ!」
一口食べてみる。口の中には独特のソースの香り。マヨネーズのコク。青海苔のフレーバー。
なにより、舌の上に広がる『熱さ』と『香ばしさ』が刺激的だ。
77 :
リハビリ室4−7:2013/02/14(木) 00:05:03.50 ID:DgK6S4AF
「おいしい!」
「んだろぉ! ほれ、もう一枚持ってきな!」
ポンと手渡されてどうしようかと戸惑っていると、向かいのラムネ屋で手招きする人影が見えた。
「おーい! こっちにもおいでよ」
お好み焼き屋のオヤジさんにお礼を言ってからラムネ屋へと行ってみる。
でっかい氷の中に突き刺さったラムネのビンがキンキンに冷えてそうでおいしそうだ。
「一本飲んでくかい?ほら」
ポンッ!と蓋を潰して泡の漏れるラムネを貰って、そのまま一気に口を突けた。
喉を通る冷たいラムネの味がしみて行く様だ。鼻を通り抜ける香りに自然と笑顔になる。
「今日はお金の要らない日だよ。新人歓迎デーって言ってね。月に一回ある新人デビューの日だ」
「お金が要らないって……」
「聞いたとおりだよ。どうせここは仮想空間だ。その気になればなんでも用意できる。それに」
ラムネ屋のオヤジさんが指差した先には、暮れ行く空に聳える大きなお城が見えた。
「あそこが法務局。通称お城と呼ばれ取るがね。あそこで登録して住人になるまではお客さんだ」
「住人ってなんですか?」
「この世界に住人登録して市民になることだ。アカウントを作るのを住人登録って言うんだよ」
お好み焼きとラムネのビンを持ったまま、彼女はお城を見上げている。
「お客さんは飲み食い自由!それがお祭りの日の掟だ。そもそも一番最初はね」
得意げになって話をしているオヤジが急に黙った。
あれ?っと思って振り返ると、見上げるような体躯の警察官が立っていた。
「続きは本官が説明いたしましょう。よろしいですか?」
あれ?何処かで見たな……
間違いなくこの人見た事があるな……
誰だっけ……
「まだ思い出さない?」
「あの…… どこでお会いしましたっけ?」
「冷たいなぁ ほら 良く思いだしてよ」
「……すいません」
全く思い出せないで居るのだけど、見上げるほどの警察官がやおら目の前で逆立ちになった。
そのまま腕立て伏せを初めて、そしてニコッと笑った。
「ジャイロセンサーの調整はちゃんと出来た?」
「あぁ! わかった!」
「思い出してくれた?」
「はい!」
そうだ。
一番最初に目を覚まして、何も分からないままベッドの上で寝転がっていた頃だ。
まだ全くと言って良いほど身体を動かせなくて、一番最初の動作ソフトの使い方を学んでいた頃。
リハビリ室で不可抗力で抱きしめてくれた……
「久しぶりです」
「良かった。思い出してくれたか」
78 :
リハビリ室4−8:2013/02/14(木) 00:06:09.91 ID:1OlAYm2f
「でも、どうしてここが?」
「今日はデビューの日だから、そこらをウロウロしていれば見つかると思っていたんだよ」
「ありがとうございます。でも、なんで?」
「だってほら。デートしようって約束したから」
力強くサムアップしてニッと笑う彼。
周りのオヤジ衆がぞろぞろと集まってくる。
「おいおい!ゆーと!先にお城だろ?」
「そうだ!先に住民登録だ」
「モタモタしてっと!強制ログアウトだぞ?」
さて。どうしたものか?
「あっ あの。 とりあえず」
「そうだな!とりあえず」
「とりあえず?」
「逃げよう!」
「え?」
唐突に腕をつかまれて引っぱられた。
急加速したGに引っぱられてお好み焼きとラムネのビンが地面に落ちた。
だけど、彼は全く意に介さず走り始めた。どこをどう走ったのか分からない。
ただただ、強く手を握られ、そのまま引っぱられて走った。
胸が痛くなるほど心臓が早鐘を打ち、弾けるほどのビートを刻む鼓動を感じた。
大通りを横切り、小さなバス停の前を駆け抜け、建ち並ぶ商店と商店の間の細い道を駆け上がる。
彼女がふと見上げた先には、こんもりと茂る小高い丘。古い石畳の階段が続いていて、所々に街灯が燈る。
刹那、手を引く彼の力がグンと一段強くなった。
坂道を引っぱられるようにして上がっていった先には、笑い顔の狐像が並ぶ神社の境内だった。
ハァハァハァ……
彼女は肩で息をしている。
しかし、手を握って走っていた筈の彼は、全く息が乱れていなかった。
「……君がいま吸ってるのは酸素?」
あ!このセリフは映画で見た!
と同時に、意味がわかった。
乱れていた息がすっと収まる。
そして苦笑い。
サイボーグに呼吸は必要ない。
仮想空間じゃ酸欠の心配は無い。
「凄い静か……」
「だろ?」
静まり返った深い森。
どこまでも続くような木立の向こうに何かの気配がする。
「何が居るの?」
「うーん…… 猿とか鹿とか熊とか」
「くま?」
「そう。熊」
思わずジッと森の奥を凝視してしまうのだけど……
79 :
リハビリ室4−9:2013/02/14(木) 00:07:14.45 ID:DgK6S4AF
「あぁ。心配ないよ。教われる事は100%どころか1000%無い」
「あ、そっか。仮想空間だから」
「そうそう。走って行って飛び蹴りくれても大丈夫」
二人してゲラゲラと笑う。
心から笑って笑って。
そして、沈黙。
黙って見詰め合う……
「どうしてこんなことしたんですか?」
「それってどう言う意味?」
「まるで誘拐されたみたい」
「誘拐は失礼だろ。誘拐は。興味わいた女の子がこっち来るの待ってたんだ」
「待ってたんですか?」
「そう。だって名前知らないしID分からないしメルアドも携番も知らないし。だからパレードを待ってた」
真っ直ぐ目を見て正面から口説かれている。
そんな気持ちよさに身悶えるほどだ。
「誰かに見られてますよ?」
「そうだね。きっとシスオペが見てるし、センターのスタッフも大慌てで領域を探してるよ」
「しすおぺ?」
「そう。システムオペレーター。このネットワークの管理人。センターのスタッフとは別に居るんだ」
「……偉い人なんですね」
「そうだね。ある意味えらいね。えらい事ばかり経験してるって意味で」
再び二人してゲラゲラと笑った。
「だってさ。この仮想空間じゃ何でも出来るんだよ。逆に言えば誰かが常に調整してるんだ」
「そうですよね。自動化されてるわけじゃないって聞いてますし」
「と言う事はだよ?どこかで恋人同士がこっそりデートしてて」
「うん」
「その二人が良い空気になっちゃって」
「うん」
「そこで突然男が女の服を脱がせ始めた!とかになった場合」
「……あ、そうか。常に見られてるんですね」
「そう。逆に言うと手出しできない所で見せ付けられて我慢してるんだよ」
ジーっと見つめあう一瞬。
彼女の顔が僅かに赤くなった。
「いま、シスオペがそう調整したよ。どっかで見てるな」
「自分じゃ気が付かなかったですけど……」
「普通は気が付かないよ。自然の摂理って奴だね」
「シスオペさんも……」
「も?」
「人間ですか?」
「知らない」
アハハハと口を開いて笑う。
だけど、その意味を理解していない訳じゃない。
完全に動けなくなった人や、自立した意思を示せなくなった人など。
つまり『ほぼ人間を辞めた人』などの脳が再利用されている可能性を否定できないから……
「俺、雄斗。田辺雄斗。仲間からはユートって呼ばれてる。だからユートと呼んでくれ」
「ゆーと……」
「そう。ユートだ」
雄斗はどこか少年のように悪戯っぽく笑った。
これから始まるハプニングを期待してニヤニヤする少年のような笑み。
新しい宝物を見つけて無邪気に笑う子供のような笑み。
雄斗の前には今、その新しい宝物がある。
「……弥生です。渋谷弥生」
「やよいか。綺麗な名前だね。3月生まれ?」
「保護されたのが3月だったから弥生なんです」
「……え?保護?」
「うん」
彼女の……弥生の表情が、まるで雲の落とす陰の様にスーッと曇った。
まるで死んだ魚の目のように、無表情になって瞬きすら無くなって。
そして。
「渋谷駅のコインロッカーから生まれたんです。お母さんは結局最後まで分からなかったの。遺伝学的には
平均的日本人だって言われたけど、父親だと名乗り出た人はロシア人系の北海道の人だった」
「……えっと、なんだっけ…… そうだ。コインロッカーベイビーっての?」
「そうです」
重い沈黙。
10秒か20秒か分からないけど、でも、痛いほどの沈黙。
だが、弥生が悲しそうな表情で雄斗を見上げた瞬間だった。
雄斗は突然に弥生を抱きしめて、後ろ手に頭を押さえつけ、そっと上を向かせた。
そしてそのまま……
「キスして良い?」
「・・・・・・・・・・!」
強引に唇を重ねた。
強く強く吸い込むようにして。
「まだ良いって言ってないのに!」
「否定しなかったから良いもんだと思った。だめ?」
「もう!」
弥生の眦から涙がこぼれた。
涙がこぼれながら、弥生が笑った。
「1年ぶりぐらいに泣いちゃった」
「もしかして泣き虫系?」
「涙腺弱いの」
もう一度ギュッと弥生を抱きしめた雄斗。
それほど身長差があるわけではないが、それでも雄斗の頬は弥生の頭にちょうど言い高さだ。
「サイボーグは泣かないよ。泣けないんじゃない。泣かないんだ。でも、こっちに来たら泣けば良いよ」
「また呼んでくれる?」
「名前が分かったから、今度は呼び出すよ。」
「うん」
弥生の手を取ってぎゅっと握って。
雄斗がちょっと恥ずかしそうにしながら、でも、真っ直ぐに見つめている。
「そろそろ強制ログアウトされるよ」
「強制?」
「そう。シスオペと一緒にスタッフが見てるはずだ。現実世界へ引き戻される」
「そうですね。だけど、仕方ないです。困る人も居るでしょうから」
何処か達観したような弥生の笑み。
雄斗は弥生の波乱に満ちた人生を感じた。
「また誘拐デートしよう。今度は正規ルートでちょ……
最後の言葉が半分くらいノイズで消えかかっていた。
幽霊のように消え行く姿の弥生が、ゆっくりと頷きながら消えていった。
−終−
GJ!です
サイボーグは目が笑わないというのがいいな。
なるほどそうかと思わせる。
家電製品のように扱われるって部分も教育の一環なんだな
妙な部分が生々しくて良いね!
投下乙でした。弥生に幸多からんことを。
実際には、多分何をさしおいてもまず笑顔だけは作れるように技術が発展しそうな気はするけれど
特に目のまわりとか
でもまあ話としては面白い.
ところでこのスレ的にサイボーグ男子はあり?なし?
ちょっとひねってサイボーグ男の娘ならOK?
某所の画像を見たら強めの電波が降ってきたんで短編書きたいw
サイボーグ「娘」スレだから、男子のサイボーグはどうしても脇役扱いされそうだな
あとサイボーグ男子が主人公だと、萌えよりも燃えを重視したガチバトル系って感じがする
せっかくなんだから載せてみればいいんじゃないかな。
サイボーグで男の娘の場合は性転換に当るのかな?w
それはそうと、サイボーグ男子のガチバトル系とかも、読んでみたい気はする。
お色気要員じゃなくて十分戦力になるヒロインサイボーグ込みとかだと尚宜しい!
期待してるよん。
男が苦手な人も居るから、名前欄か何かでちゃんと区別できるようにだけしてくれればと。
サイボーグの男と言うととりあえず浮かぶのが
ドワォなヤクザウェポン野郎にナチスの科学は世界一チイイイイ!!な奴が出てくる
サイボーグ009とか攻殻とかじゃなくてシュトロハイムってさぁw
サイボーグな男は、サイボーグ爺ちゃんGじゃないのか?
少佐の様にどんな存在だろうと人間だって言えるキャラも良いよな
新作出そうかな・・・
銃夢について話せる奴はいないのか
エロパロ民と試行錯誤しながら書きたいのに書けない・・・
銃夢って結局のところ話がループし続けてる気がする。
初期の頃の、ひたすら絶望と戦うみたいな話の頃が良かった。
>97
サイボーグとしての葛藤とかがなかなか感じにくいんだよなぁ
設定としては良いんだけど、最近じゃあバトル漫画に重点を置いてるから
サイボーグ萌えの観点からすると、初期の頃の方が萌えたね<銃夢
ガリィが拾われて体を直されている間の、「次は足だね」のシーン
ガリィの下半身がタイヤになってるのがすごく萌えなんだけど
一コマしか描かれてないうえに全身の絵が無いのが非常に残念なんだよな…
ずっとそういう姿のレギュラーキャラとか居ればすごく萌えるのに。
塾頭みたいに右半身だけサイボーグの娘なんてどうよ?
しかし、胸や膣の半分もメタルボディだとセクースの時厳しいな
サイボーグ男かー
少年漫画とかゲームだと結構見かけるよな
こんばんは
>>81の続きを書いてみました。
花粉症真っ盛りのシーズン。
サイボーグになると楽だろうなぁとか妄想しています。
およそ10レスほどお付き合いください。
よろしくお願いいたします。
「えぇ…… この契約の説明は以上です。何か質問はありますか?」
真っ白な壁と天井に囲まれた入り口も出口の無い殺風景な部屋。
仮想空間に臨時で作られた電子の会議室に、彼女、渋谷弥生が居た。
「特に……ありません」
サイボーグを巡る日々のあれこれなど、淡々と続く説明を聞いていた彼女がこぼす小さな溜息。
ガス交換を必要としなくなった彼女だが、落胆と諦観の心情が溜息になって零れ落ちている。
「では、最後になりましたが宣誓をお願いします」
進行役でもある高度機械化人協会の弁護士が促した宣誓。
それは彼女の、渋谷弥生と言う人格を縛り付ける法の枷。
彼女は重く厳しい契約を承認せねばならない。
小さなテーブルに置かれた六法全書とサイボーグ宣誓契約書。
基本的人格権・包括的生存権・総合的社会権の三権を得る為に。
弥生は静かにその上へと手を置いた。
「……私、渋谷弥生は日本国憲法及び高度機械化人監督法令に定める条項を良く理解し、自らの名誉と良心にお
いてそれらを承認し、課せられた義務と責務を果たし……
ふと、不意に彼女の言葉が途絶えた。
一瞬のど忘れか?と列席していた者が彼女を見た。
だけど、彼女はきつく目をつぶって押し黙っている。
「……日本の社会的要請に自ら進んでこれに協力する事を誓い、終生これを遵守する事をここに宣誓致します」
ここへ出席している者も皆サイボーグだ。
言葉に成らない彼女の落胆を、誰もが自分のこととして理解していた。
それほど奇麗事を並べたとて、サイボーグの身体は国家の持ち物。
彼女は生涯、誰かの持ち物として生きる事を承認した。
そしてそれは、つまり。国家を支える『納税者』の……奴隷。
『主たる使用者』などと言っても、呈の良い詭弁でしかない。
「有り難うございました。国権の長たる者の代理として、確かに聞き届けました」
彼女の落胆を誰よりも理解している協会派遣の弁護士は、静かにそう答えた。
納税者の選んだ国家の行いに、彼女は拒否権無く参加を義務付けられている。
技術立国を支える開発現場のモルモットとして、逃げる事すら許されない……
「さて、ここから先は国家機関の案件ではありません。まぁ、色々と聞いていますでしょうけど」
「はい。でも」
「そうですね。あなたの場合はちょっと特殊だ」
仮想空間のおぼろげなアシスタントが差し出した書類には翼を広げた鳥のマーク。
同じ社章をつけた背広姿の男性が二人。どこからとも無く不意に姿を現した。
「ここから先は私が」
途中からログインしてきた初老の男性が弁護士と並んで立った。
深い青のスーツが凛々しいほどに決まっている。
「引き続き弊社と契約しましょう。よろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「あ〜 いえいえ、お願いするのはうちの方だ。なんせとんでもないご迷惑をお掛けしたんだから」
ちょっと苦笑いを浮かべつつ、初老の男性は頭を掻いた。
……今から約1年前。永康26年1月2日。早朝。
慢性的混雑の続く羽田空港のB滑走路に、離陸体制の旅客機が居た。全日航501便。
羽田を離陸後、1時間20分で北都札幌の空の玄関。千歳空港へ向かうフライトスケジュールだった。
その日。関東地方は猛烈に発達した日本海への爆弾低気圧へ向けて、強い風が吹いていた。
乱気流が生み出す強烈なダウンバーストが引き起こしたウィンドシアー。
総重量300t近い大型旅客機が、まるで紙飛行機のように揉まれ引き裂かれ、横転墜落し炎上した。
「今更ですけれど、大変ご迷惑をお掛けしました。月並みな表現ですがお見舞い申し上げます」
「あ、いえ。あの…… 自然条件だけは仕方が無い事です。それに、こんな形ですけど生き残りましたし」
「そう言ってもらえるとありがたいですよ」
「怒っても仕方が無い事もあります」
そう。こればかりはもうどうしようも無いことだ。
空を飛ぶ以上は、絶対について回るリスク。
ただ、企業としては仕方が無いでは済ます事も出来ない。
「本契約はご無事だった方へのサポートの一環なんですよ。契約してもらいたいのは我々の方なんです」
「でも、余り無事じゃ無い気がします」
「それもそうですね」
彼女は屈託無く笑った。何で笑ったのか彼女も良くわからなかった。
ただ、その笑顔に救われる人が居るのも事実なんだと、彼女は気がついている。
あの日。
滑走路脇の前線救命本部で行われたトリアージの『こっちはもうダメ』と言うブラックエリアに彼女は横たわっていた。
下半身を失った黒焦げの死体として……だ。
急げばなんとかなりそうなレッドエリアの人々は、最優先で高度救命センターへ送り込まれた。
部分的か全身かの何れかでサイボーグ化したり、或いはICUの中で懸命な治療が施された。
だけど、彼女は死を待つばかりのまま、捨て置かれていた。
どう見たってただの死体にしか見えなかったから。
ギ社勢の消防救命チームが回収した多くの死体を並べていたのは佐川精密のネクロマンサー達。
佐川が死体の整理をするのは、単なる社会奉仕ではない。
彼らは本社が研究しているiPS細胞を使った生身の義体へ移植する死体を捜してるだけ。
建前としては『僅かな可能性に賭けて治療を施す』と言う、限りなく黒に近いグレーゾーンの行為だった。
生身のアンドロイドに脳を移植して、その間に機能回復を祈る。
誰が聞いたって立派な詭弁で奇麗事でしかない。
だけど、そんな形だったとしても彼女はラッキーだった。
現実に彼女はここにこうして出席しているのだ。
「改めてご挨拶します。全日本航空の専務取締役執行役員で施設部、調達部および人事部を統括管理している難波と言います。」
「……はい」
佐川のスタッフが連れて帰ってきた死体なかの一体が弥生だった。
脳や脊椎の一部を取り出された弥生は、専用の生命維持装置の中で2ヶ月近くにわたり夢を見続けていた。
当初、佐川のスタッフも脳構造の解析に夢中になっていたらしい。
だがある時、エンジニアの発した『この子はまだ生きている!』と言う言葉ですべての風向きが変わった。
佐川のラボから全日航へ連絡が入ったのは、事故から三ヶ月近くが経過した頃だった。
曰く『御社の事故時に死んだはずの方が生き返った。どうしましょう?』
事故で瀕死の重傷を負った人々への対応が一段落した頃だった。
流石の全日航側も対応に逡巡が見られた。
このまま死んでもらうと言う選択肢もあったはずなのだが……
「肩書きは気にしないでください。まぁ、上から数えても10番目以内と思ってもらえれば良いです。要するに、
ここへ来れる一番上の全日航社員と言う事です」
「じゃぁ、難波さんも……」
「そうです。全身サイボーグです。しかも、佐川さんの第一世代、1000シリーズサイボーグです」
全日航の人事部長は『聞かなかった事にしよう』と言っていた役員を一人ずつ説得していった。
どんな意図があったのかを窺い知る事は出来ないけれども、彼の熱意は本物だった。
社内に僅か30人も居ない佐川製サイボーグである難波の思惑。
「さて、じゃぁ、とりあえず聞いてください」
「はい、」
社内の意見を取りまとめ役員達が了承した方針は唯一つ。
どんな事があっても、とにかく殺さないでくれ。
そして、そのまま義体展示会に使えるレベルの最新装備を与えて欲しい。
後の事は後で考えるし、面倒は全日航が全部被ると、付け加えられていた。
「あなたが使い始めたその完全義体は、弊社の資産の一部で本来は弊社の株主の物です。ですが、あなたの生命
維持及び人格権の行使に当って不可欠な、あなた自身と一体不可分の物でもありますから、便宜的にあなたの個
人的所有物であると弊社は解釈します。また、今年予定されている株主総会において株主から公式に了承を得る
予定です。大変なご迷惑をお掛けした事への慰謝料と保障と言う意味での事ですから、株主も反対はしないでし
ょう。それまでは建前でも、借り物と言う事にしてください。会社と言うのも実は色々と手続きが面倒なんですよ」
まだまだ数えるほどしか世間に出てきていない、空気作動式のLX4000シリーズ。
しかし、弥生の入っている4000シリーズは、量産型とはちょっと違う超軽量仕様の試作型だ。
身長165cmの彼女は、全身完全義体ではあるが、完備重量でも58kgしかない。
オプションの大容量バッテリーに換装したとて、おそらく60kg台前半に収まるはず。
ウェスト55cmのスレンダーなボディは、展示会で水着姿にでもなれば、きっと目を引くだろうと思われた。
ただ、それよりも重要な事は、市場価格にしておよそ3億円の義体を彼女が個人所有すると言う事だ。
都心部の高級マンション並な資産を齢18歳に満たない彼女が所有する事になる。
まだまだ世間の実情に疎い未成年ゆえに、それがどれほど凄いのかを彼女は実感していないのだが。
「で、今後ですが。弥生さん。」
「・・・・・・・・・・・・・はい」
さて。難しいところへ来た。
「あなたの複雑な事情をうかがって少々驚きました。大変申し訳ありませんが、プライバシーを覗き見した事を
先にお詫びします。その上でですが」
実は彼女には自宅がない。帰るべき家が無い。彼女の帰りを出迎えてくれる家族も居ない。
彼女は親族的に天涯孤独…… 親族の縁薄い彼女は、実は東京府郊外の児童養護施設に暮らしていた。
「・・・・・・・・・・・・」
だから、彼女はここに居ても見舞いに来てくれる親は無いし、話し相手になってくれる兄弟姉妹も無い。
施設の職員が事務的な手続き等で来る事はあっても、センターの規則で親族以外の面会は許されない。
児童養護施設では半年以上不在になった場合、例外なくそれ以上の滞在が認められていない。
また、事故の際に一度は行方不明→推定死亡として事務処理されてしまったので、養護施設へは戻れない。
つまり、彼女には行く所が無い。
「最初に目を覚ました時にセンターの方からうかがいました。私の処置の件」
「生きるか死ぬかの瀬戸際だったので、勝手ながら私、難波が全責任を持って依頼を出しました」
意識の無い彼女をどうするか。
マニュアルに無い対応を迫られた時、公務員と言う生き物は、出来る限り責任を回避する選択をしがちだ。
だが、難波は自らの首を掛けて彼女のサイボーグ化書類に勝手にサインした。
赤の他人と言うべき存在であったが、逆に言えば厚労省側も全責任を押し付ける事が出来る。
本人の与り知らない所で、彼女のサイボーグ化処置にGOサインが出た。
「あなたをあのまま死なしてしまう事も選択肢だったのですが……」
「ありがとうございます。むしろ感謝しています。まだ、やりたい事が出来そうですから」
「ただ。あなたを機械の操り人形にしてしまったって事は、すべてこの難波の責任です。ですから」
「ですから?」
「ウチに来ませんか?」
「ウチ?」
「はい。全日航の社員として、将来的にウチへ就職しませんか?」
「え?」
「まぁ、現状では社員としての活動など到底無理ですからね。まずは社会復帰して、そして当社のプランに沿う
ように勉学に励んでください」
驚く弥生を他所に、難波はもう一人の男性を呼び寄せた。
「梅田君。会社案内のパンフはこっち用にスキャンしてある?」
「はい、昨日のうちに」
カバンの中から取り出された書類。紙の香りが鼻に届く。
すべては仮想空間であるが、リアルで現実的な感覚でもある。
「社会復帰時点を持って弊社とアルバイト契約をして、そのまま、まずは高校を卒業して、大学に行って勉強し
て。学生期間はウチと契約した臨時社員。卒業後はウチの正規社員として勤務。キャビンアテンダントになるか、
それともパイロットか。さもなくばグランドクルーか。そのどれか。まぁ、いずれは幹部候補生になるか、それ
とも別の道か……」
そう語りつつ書類のページを広げて見せる難波。
すぐ隣で梅田と呼ばれた男性が資料を丁寧に広げていた。
「あの。どうしてそこまで……」
彼女の疑問はもっともだ。
センターの事務方から聞かされた話は三つ。
まず、彼女のサイボーグ化施術同意書にサインしたのは全日航の人間。
センターにおける彼女の生活経費支払いは、すべて全日航のさる役員のポケットマネー。
そして、彼女が入所していた児童養護施設との折衝はすべて全日航の弁護士が行っている。
ある意味で、気持ち悪いくらいに彼女に拘ってくる難波と言う存在。
人の善意には必ず裏があるのだと、擦れた見かたでしか社会と付き合えない養護施設育ちの彼女の場合。
その下心や目的の見えなさぶりと言う部分が、意味無く恐怖を覚えるほどなのだ。
「さて。どう説明した物かな」
難波は静かに笑いつつ、カバンから封筒を取り出して、もう一度梅田に目配せした。
「こっちもスキャン済み?」
「はい、もちろんです。4枚目まですべて処理済です」
「さすがだねぇ 君を施設課から秘書課へ引き抜いて正解だった」
「恐縮です」
笑顔の難波が書類を広げている。公的機関の発行する厚紙状の公式書類だ。
家庭裁判所が認可の判子を押した公的書類。驚愕の書類がそこにあった。
「実はね、弥生さん。あなたのサイボーグ化施術にサインするに当って、私はあなたの父親になりました」
「……お父さん?」
「そうです。あなたを助ける為に、勝手ながら養子縁組しました」
「うそ……」
「もし、この養子縁組が不服でしたら、いつでも破棄します。ただ、そうするとちょっと問題が出まして」
「それってもしかして。私のサイボーグ化が中止になるとかですか?」
「いえいえ。サイボーグになった人間を元には戻せませんし、中止できないところまで来ました」
「じゃっ! じゃぁ……」
「私がね。公文書偽造と言って、あなたとの養子縁組申請書類を偽造したと言う事になって逮捕されます」
「・・・・・・・・・・・・」
梅田がどこからとも無くコーヒーを入れてきた。
狭い部屋の中にコーヒーの香りが漂う。
「弥生さん。すいませんね。ちょっと失礼します。実はここへ来るとね、これが楽しみな物で」
熱そうに啜ったコーヒーを飲み込みながら、難波は天井を見上げた。
「あぁ…… 美味いなぁ」
弥生の前にもコーヒーカップが差し出され、その隣には小さなケーキが添えられていた。
「渋谷さん。こっちの世界ではケーキをおなか一杯食べても太りませんよ」
ニコッと笑った梅田が一言添えて部屋の隅へと立ち去る。
恐る恐る手を伸ばして一口食べてみたら、口一杯に生クリームの甘みが広がった。
「あの、ほんとに…… なぜここまでしてくれるんですか?」
弥生は真っ直ぐに難波を見つめている。その眼差しの強さに難波も驚くほどだ。
仮想空間とは言え、個人の意思や思いは、きっと伝わるんだろう。
人の優しさとか思いやりとか。そう言う部分をある意味「知識」でしか知らない弥生。
だが、難波はリスクを犯してまで弥生の為に奔走した事になる。
「うーん…… ブルマンブレンドだなぁ これ、いつ飲んだ時の味だろう……」
コトリと音を立ててコーヒーカップをソーサーに戻した難波。
何処か優しい眼差しで弥生を見ている。
「あの事故の時、前線本部に最初に入ったのは私でした」
難波は自分の分のケーキにフォーク突き刺して、一気に口の中へ押し込んだ。。
口の周りが生クリームだらけになったものの、細かい事を気にせずモシャモシャと食べている。
「トリアージのブラックゾーンに居た弥生さんに目もくれずにね、陣頭指揮を始めてしまったんですよ。その引
け目だと言ったら、信じてくれますか?まだ助かる筈だったあなたを見殺しにしかけた自分が恥ずかしい」
口の周りについた生クリームを指でこそいでぺろりと舐める。
良い大人がみっともない位に恥ずかしい事をしているのだけど……
弥生はその仕草を可愛いと思った。
まるでハムスターが頬を一杯にするほどに頬張るような仕草に見えた。
「そしてね……」
満足そうにもう一口コーヒーを啜って、そして一息つく。
とても幸せそうな笑みを浮かべて、難波はもう一度弥生を見た。
「弥生さん。行く所、無くなってしまったでしょ?」
「・・・・・・・・・・はい」
「だから、ウチの寮に来れば良い。ウチの会社にはサイボーグが100人単位で居るから。樹を隠すなら森の中」
「寮ですか?」
「そう。サイボーグ向けに作られた電子のドミトリー。色んな奴が居るからきっと面白いよ。それに」
相槌を打つのも忘れて弥生が話に聞き入っている。
真剣な眼差しが注がれて、難波や梅田は手応えを感じていた。
「あなたが拒否しない限り、私はあなたの父親だ。父親はね、大事な娘は常に手の届く所へ置いておきたい」
右の耳の後ろをボリボリと掻きながら。
難波はちょっと恥ずかしそうにしていた。
「あの……」
「どんな事でも遠慮せず言ってくれて良いですよ」
「私、施設で養子縁組の紹介されて8件全部、先方に断られたんです」
「どうして?」
「人を信じられないんです。9歳の時、一番最初の里親さんの所で、3ヶ月位、夜も寝ないで働かされました」
「それは酷いね」
「その後もあちこち行ったんですけど、どうしても人を信用出来なくて」
「信用か……」
次の言葉を飲み込んで小刻みに弥生が震えている。
弥生の人生に深く影を落とす闇の部分を皆が感じている。
「いずれ全部お話します。これは会社ではなく、わたし自身。難波十三という人間の約束です」
「今は教えてくれないのですか?」
「残念ですが、そのタイミングじゃありません。ただね。一つだけ信じて欲しいのは……」
声色を改めた難波が、そう切り出した
その瞬間にそばに居た梅田も弁護士も、瞬時に険しい表情となった。
「私も事故でサイボーグ化したんですが、実は一人娘が居ましてね」
「その方は……」
「娘もサイボーグ化したのですが、今はもうこの世に居なくなってしまった……娘なんですよ」
「じゃぁ、私はその人の代わりですか?」
「いいえそれは違います。誰かの代わりなどと言う失礼な話ではありません」
「じゃぁ、なんで」
「娘はね。ギガテク社のサイボーグになって殉職したんですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あなたを同じ目に合わせたくなかった。あなたの脳を欲しいとギ社から連絡が来てたんです」
話を切るようにして梅田が新しいコーヒーをカップへ注いだ。
立ち上る湯気に混じってコーヒーの芳しい香りが漂う。
「どんな手段を使ってでも、あなたを。弥生さん。あなたと言う人格を政府の消耗品にしたくなかった」
再びちょっと下品な啜りでコーヒーを飲む難波。
弥生はちょっと呆気に取られている。
「特殊公務員と言う境遇に居る人は天涯孤独だったり、或いは家族をすべて失った人が多いんですよ」
「……そうなんですか」
「万が一殉職した場合でも、補償や賠償といった部分が大幅に軽く済むからね」
「……そんな話は教育プログラムにありませんでした」
「だろうね。本当に重要な部分と言うのは巧妙にぼかしておく物だよ」
梅田が弥生のカップにもコーヒーを注いだ。
熱くて苦くて渋いコーヒーだけど、弥生はそんな事を気にしていなかった。
ただただ。難波の語る言葉に気を取られていた。
「あ、あの、その、えっと……」
「どうしました?」
「あ…… ありがとう…… ございます」
実の娘を見るように。
難波は笑みを浮かべた。
「父親なら当然の事をしただけだ。娘を取られてたまるか!とね」
満足そうにカップのコーヒーを飲んでいた難波。
黙って話を聞いていた例の弁護士が横から介入してきた。
「じゃぁ、とりあえず渋谷さんは養子縁組については承認と言う事でよろしいですか?」
「はい。良いです」
「全日航さんのプランを受け入れて、特殊公務員としての登録は無しと言う事で良いですね?」
「はい。そうします」
「では、これをもちまして高度機械化人協会としての仲介業務を終了します」
弁護士がニコリと笑って弥生へ右手を差し出した。
その手を無意識に握ったら、手の中に人肌の温もりを感じた。
「渋谷さんは今日で終わりですね」
「……あ、そうか」
「これからは難波さんだ。月並みですけど幸福な人生をおくってください」
「ありがとうございます」
「サイボーグだって幸せに生きる権利がある。それを助けるのが我々協会弁護士です。困り事があったらいつでも」
笑顔で振り返った弁護士は難波と梅田に一瞥をくれてから、スーッと消えていった。
「では、今度は街でお会いしましょ……
まるで幽霊のように消えた弁護士。弥生は驚きの表情で見ていた。
「ここからログアウトするとこう見えるんですよ」
梅田が横から口を挟んだ。
「まぁ、そういう訳でここを出よう。とりあえず街へ出ようか」
難波が何も無かったはずの壁に手を触れると、突然ドアが現れた。
ドアノブの無い筈の戸を押してドアを開けると、外は晴れ間の見える通りになっていた。
「では弥生さん」
「……あの」
「なんですか?」
弥生はまっすぐに難波を見ていた。
「私、今日から難波さんの娘で良いんですか?」
「あなたが嫌で無ければ良いですよ。私の娘で良ければ、むしろ歓迎します」
「じゃぁ」
弥生はどこか不安さの入り交じった笑顔を浮かべた。
「よろしくお願いします。お父さん」
「……あぁ。よろしく。弥生さん」
「出来れば名前で呼んでください」
「いいんですか?」
弥生はコクリと頷いた。
「今日で渋谷は終わりです」
「終わりかもしれないけど、君の人生は走り続けるんだ」
「はい」
「今日から私の娘だ。何でも言ってくれ。私の出来る限り、君の力になる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さぁ行こう 弥生」
「はい!」
新しい一歩を踏み出した弥生。
難波は目を細めて一緒に歩き出した。
お父さん。嬉しそうだな……
弥生はそう思った。
だけど、目を細めた理由が違うところにあったのを気が付かされるまでに、5秒と掛からなかった。
「ひっ! ひっ! ヒックション!」
「ぶ! 部長!」
「ウエダグン デッシュ!デッsy ッヒグッション! ブワックション!」
通りに一歩出た瞬間だった。
難波が唐突にくしゃみを始め、それが止まらなくなった」
「部長!大丈夫ですか!」
「ず!ずまん……」
「あの…… お父さん 花粉症?」
「あぁ」
目の前でだらしなく鼻をかんで、近くのゴミ箱に捨てて。
それでもくしゃみが止まらず、2秒で3回のペースをまもったまま、くしゃみをし続けた。
「う゛ぁっだぐ ごっじへがぶんじょうもじごんだやづばばにがんがえでんだよぉ」
「お父さん何言ってるのかわかんない!」
弥生は屈託無く笑った。
梅田もその隣で笑っていた。
「やよックション! 気をつけックション! こっじでかふんしょックション! あぁぁー」
もう一度鼻水を盛大にはき出して、ティッシュをゴミ箱に捨てて。
鼻をグシュグシュとやりながら難波が苦笑いを浮かべた。
「あー はやくリアルへ帰ろう あっちだとクシャミが出な ックション!」
「部長!まずは法務局で手続きしないと」
「そうだな。かわいい娘のためだ。もう少し頑張る ックション!」
大変なシーンなんだが、弥生は屈託無く笑い続けた。
彼女。渋谷弥生の渋谷としての日々が今日で終わってしまった。
だけど、彼女はまだここに居る。
生まれ変わった彼女の人生は、まだまだ続くのだった。
−終−
梅田、難波・・・・そして・・・そうか!3月の渋谷!
今わかりました。
今日物語を投下したのは現実世界とのリンクも考えてのことですね。
脱帽しました。物語の内容も、ここまで長い期間で売ってきた布石も。
あなたには、かなわないな。
渋谷弥生さん、幸せになってほしいですね。
乙です
面白かった
個人的にサイボーグが物扱いされるのは抵抗ある
特殊な仕事につくにしてもちゃんと人権保護されるのが前提だと思う
「おまえ……人権って言葉知ってる?しらねぇだろうなぁ」
『モラルと現実の界面に生まれた言葉でしょ?理念はわかるけど見た事無いなぁ』
って事なんだろうねw
弥生の今後に期待します。
GJ!でした。
最近、SS保管庫に更新されていないけど、新しく保管庫作っていいかな?
良いんじゃない?
やる気ある住人がやれば良いと思うよ
トップページは自動更新じゃ無いのか。残念。
まぁ、急がずボチボチ更新してくれる事を望む。
GJ!
GJです!
>>121 言われて気が付いた、ブログにも書いてあるのね。
どちらにしろ、稀に掘り出し物があるのも事実だよ。
良さそうだけど、短編とか更新止まってるとか結構あるけど。
割合としては、地雷>良作>核地雷>掘り出し物くらいかな。
>>122 核地雷級のハズレってどんなハズレだよ!
3スレ目の580さん、また投稿してくれないかなぁ・・・
>>117 なんか作品収録止まってますけど、飽きちゃった?
結構楽しみにしてますんで、是非頑張ってください。
>>117 すみません
ここ最近体調を崩してしまっていて更新が遅れています
今日、明日にかけて更新の予定です
あ、マイペースで行きましょう!
継続してくれれば、それ以上は望みません。
ボチボチで良いですからよろしくお願いします。
おれはサイボーグものは物扱いされて人権無視されるのが萌えるなあ
物に成り下がってしまった悲しみみたいなのに萌える
捕まって強制的に改造されて
石ノ森章太郎の悪影響なんだろうがそういうのが刷り込まれちまってw
世代間ギャップだな。009とか仮面ライダーとかキカイダーとか。
そう言う世代だと、もう有無を言わさず強制改造→戦闘兵器化が王道だし。
北朝鮮のミサイル発射に端を発する第三次世界大戦が始まった。
戦闘は長期に渡り、軍事力の乏しい日本は、秘密裏に若い男女を拉致し歩兵とするべくサイボーグ化していった。
ってところまで考えた。
さすがに本当にそうなりかねないネタはシャレにならん…
まぁ、笑い話の種としては良いんじゃ無い?w
まず北チョンはミサイル打たないでしょ。100倍1000倍返しがわかりきってる。
第三次大戦をやるにはチャンコロもロスケも及び腰。
まぁ空気読めない南北チョンが一方的に突っかかってくる可能性は否定しないけど。
んで、仮に戦争状態に突入しても長期化はあり得ない。南北チョン相手だと向こうが息切れするから。
戦力的な視点で言えば日本がどこかと戦争する場合、ロスケだと荷が勝ちすぎるんで論外。たぶんタコ殴りで日本一方的に敗北。
チャンコロの場合はあっち側が渡洋継戦能力が弱いんで、ある意味短期決戦化。長期戦やると、たぶん向こうが勝手に滅ぶ。
逆説的な可能性として、南チョン辺りが妙な角度で突っかかってきて、これ幸いとばかりにあれこれ戦力を試しはじめて、
その一環でパワードスーツとかサイボーグ兵士を大至急用意する必要が生まれた!とかならあり得るかも。
『早くしないと日本がワンサイドゲームで勝っちゃう!』とかで、そこらの男女を勝手に攫って洗脳し改造して戦線へ投入!
あとは誰かヨロw
でもな、日本という国はな、ガチで兵士改造の研究やらかしちゃってるマジキチ国家アメリカと同盟国なのでな。
基本的に女の子にいろいろ負わせる、女の子いじめ系が萌ポイントなんだが、
そうじゃない方向性での萌ポイントが、なかなか固まらない。
大変遅ればせながら
>>111の続きを投下します。本当であれば4月初頭に投下予定だった物です。
本文中で時期的に異なる春の表現がありますが、斟酌いただけますと幸いです。
およそ12レスほど消費します。宜しくお付き合いください。
天窓から降り注ぐ光にむかって両手を突き上げ、陽光の暖かさを感じつつウーンと背伸び。
背中の方からポキリポキリと関節のなる音がする。ニヤリと笑ってから肩をネジってストレッチ。
腱の伸びる心地よい痛みを味わいつつ、陽光に目を細める。
瀟洒なテラスを備えた心地よい空間。
読み止しの本をパタリと閉じて窓辺へ行くと、ちょうど部屋の呼び鈴を押す女性が見えた。
―― だれだろう?
普段なら視界の中に小さな別窓が開いて、ドア部分の監視カメラ画像が割り込んでくるのだけど。
こっちの。仮想空間にある自室ではそうも行かないのだ。
なにせ、ここに居る時は生身の人間と一緒なんだし、それを味わえるのが楽しくて居る所だし。
まぁ、ドアを開けた瞬間に襲われるとか、そう言う物騒な事は無いだろうと思ってドアを開ける。
ガチャリ
「こんにちは 弥生さん」
「 ……こんにちは」
「遅くなってごめんなさいねぇ」
満面の笑みを浮かべた女性は、あれこれと大荷物を抱えて立っていた。
「なんかバタバタしてたらこんな時間になっちゃって。時間にルーズなのはダメですよねぇ」
一方的に喋る女性が勝手に部屋に入ってきた。
よいしょ!と掛け声付きで下ろした荷物の中身は、あれこれ衣類やら雑貨やら。
普通、女の細腕じゃ持ち上がらないようなサイズなんだけど……
「こっちだと持ち上がるから便利なもんよね。まぁ、あっちでも、リミッター外せば良いんだけど」
アハハ!と笑いながら荷物を紐解く。
中から出てきたのは、何処かの学校の制服とか、或いは、書籍関係。
よく見たら全部教科書と参考書だ。
そして、タブレット系端末が2種類。
「私物のうち、とりあえず学校関係は持ってきたから大丈夫ね」
「あ… 有り難うございます」
「良いの良いの。なんせケアマネの仕事はここからだから」
「ケアマネ?あの……」
「カスタマーサービスセンターのケアサポート部から派遣されてきたの。聞いてない?」
ニコッと笑ったすらりと長身の女性。笑顔が素敵なナイスウーマン。
僅かに見上げるようなアングルの弥生の目を見つめているその顔は、可愛い系ではなく美人系だ。
「上本と言います。上本町子。よろしく♪」
「弥生です。難波……」
「渋谷さんから難波さんに変わったんですよね?聞いてますよ」
「あ、そうなんですか」
部屋の中を見回す上本は、笑みを絶やさずに居た。
「綺麗にしてるのねぇ…… って言うか、センス良いよね」
「そうですか?」
「そうよ。だってサイボーグ化を受け入れられなくて荒んじゃう人は多いもの」
「すさんじゃう?」
「そう。部屋の中が事務机と事務椅子だけとか、カーテンや家具どころか壁紙すら貼ってないとか」
弥生は改めて部屋の中を見回した。
確かに部屋の中には生活感があるのだけど。
「実はこのお部屋……」
「全日航の難波さんプロデュースでしょ?」
「ご存知なんですか?」
「もちろん。実は私ね、難波さん専任だったんですよ。最近まで」
難波専任……
もしかして……愛人?
それとも不倫相手?
一瞬でいろんな事を思ったのだけど。
「あ、決してやましい関係じゃなくてよ。純粋にビジネスのお付き合い。ただ、色々とお世話になってるけど」
ウフフと笑う姿だけを見れば、それが間違いなく嘘だと分かるのだけど。でも……
「あの。父が……」
「養子縁組されたとか。正直に言うと、ちょっと羨ましいですよ」
「なんでですか?」
「あの難波さんの養子。娘になるって、凄い事よ?」
凄い事……ねぇ……
何処か事情を飲み込めないのだけど。
「で、あの、今日は……」
と、何かを言い掛けたときに、再び部屋の呼び鈴が鳴った。
「あ、はい」
再びガチャリとドアを開けたら、そこには全日航秘書課の梅田が立っていた。
ただ、その梅田は部屋に上本が居る事に驚いている。
「あら。早いな町子」
「早い?コレでも遅れてきたんだけど?」
「って事は。俺が更に遅かった??」
いきなり気の置けない会話を始めた二人を見て事情を飲み込む弥生。
つまりは。
「あの、つまり、街でばったりカップル再会ですか?」
ちょっと意地悪い笑みを浮かべた弥生が二人を見る。
町子は照れ笑い。そして、梅田は……
「まぁ、部長なら有りうる話だな」
と、勝手に納得している。
全ては難波十三の描いた画だ。
全てを自分の両腕の中に入れてしまう、囲い込みの手法。
「父の手配なんですね」
「そう言うことだね。部長らしいやり方だよ。ただねぇ、時間にルーズな町子より遅く来たのは……」
「ちょっと待った。つまり、私アポ無しで来ちゃったって訳ね?」
「そうなるな」
「あんた来るの遅いのよぉ」
「おいおい、それは聞き捨てならん。お前に言われるのは心外だ」
あ、本気で怒ってる。上本さんが本気で怒ってる!
弥生も驚くほどにスパッと地が出たんだけど、逆に言うと演技じゃ無い所を垣間見た訳で。
「なんですって?いつものことじゃ無い」
「ほほぉ デートの待ち合わせでいつも待たせるのはどっちだ?」
既に夫婦漫才状態なんだけど。でも、二人とも弥生が居るにも拘らず、素で振舞っている。
そんな空気が弥生には何処か心地よかった。変に気を使われない心地よさだ。
どれ程望んでも手に入れられない『家族』と言う存在に思い至る。
そうか。つまり、難波が手配したのは、こう言う事か……
「あの、お取り込み中にスイマセン。ところで梅田さんは」
「あぁゴメンゴメン。部長から預かり物なんだ。リアルのほうの部屋において有るから、後でね」
「預かり物ってなんですか?」
「今、彼女が持ってきた荷物のリアルのほう。センターの私物預かりに置いてあるから」
精一杯の作り笑顔で場を濁した梅田を苦々しそうに見ていた町子は、ふと時計に目をやった。
「ところで弥生さん、あと、どれ位で終わるの?」
「どれ位かなぁ 32時間の予定なんですけど、まだ28時間とちょっとです」
そんな事を言いつつ、部屋の中のテレビをつけた。
画面には手術中の医者の様な作業服に身を包んだスタッフが、何事かの作業中だった。
実は今。リアルのほうで弥生の身体は最終仕上げの真っ最中なのだ。
軽金属と炭素繊維むき出しだった弥生のボディに、人工皮膚を貼り付ける直前の下処理が行われている。
胸の乳房に当る部分へ軟質ゴムを芯にした生体系シリコンの膨らみが貼り付けられている。
四肢は既にスキンバンテージが巻き終わっていて、通電素子を使った光神経回路の生成が進んでいた。
頭部はほぼ処理を完了し、長い髪が団子状に巻き上げられ、眉毛も睫毛も植毛を終えているようだ。
剥き出しになっていた脳本体を収めてある球状のシールドケースは、豊かな黒髪の奥底へ姿を消している。
「うーん。その状態だと、もうBパーツは取り付けてあるだろうし、残り2時間ってところね」
朗らかに状況分析している町子だったが……
「なぁ、町子、頼むから、あのさ、後生だから、いやあの、変なこと考えて無いから。とりあえず痛いから」
町子の右手は、実に絶妙な角度で梅田のこめかみにアイアンクローをきめている。
ギリギリと締め上げている右手を両手で振りほどこうとしてるのだけど。
「こっちだと普通の力じゃ私の手は解けないわよ」
「いや、うん、分かってるから。イデデデデ」
あ、そっか。
何かを察して弥生はテレビを消した。
町子は画面が消えたのに一瞥をくれてから右手を離したのだが。
「あー いてぇ! 本当に万力で締められてるみたいだ」
「乙女の裸をピーピングトムするからよ」
「そんな事言ったって、俺たちしょせん機械じゃんか。リアルの方は」
「機械の身体だって心は生身なの。何べん言えば分かるの?」
心底呆れた表情で言ってるのだけど、弥生はちょっと不思議そうだ。
「あの。上本さん」
「町子でいーの。まちこ」
「あ、いえ、でも」
「いーのいーの、きにしなーい」
ニコリと笑う町子。
その笑顔は、他人を何処かホッとさせるようだ。
「私も機械だと思いますよ」
「あぁ! 弥生さんまでそんな事言うの?」
「だって、実際は本当に機械ですから。あ、あと、私は弥生で良いです。さんが付くと語呂が悪いんです」
「まぁ、割り切った方が楽な時も有るけどさぁ」
ちょっと不満そうだけど、まぁ、コレばかりは個人の気の持ちようだから、仕方が無い。
「町子。後を頼むな。まだ仕事が多いし、戻るのが遅いと部長が勘繰る」
「難波さん、弥生さんの事は気に掛けてるからねぇ」
「そうなんだよ。今日も空港視察2件キャンセルしてドックアウトに立ち会うって言って聞かないんだ」
どっくあうと?
弥生は少し首を傾げた。
「弥生さんが形成金型から出力されるのに立ち会うって言って聞かないらしいわよ」
「部長の場合は典型的な頑固親父系だから、自分が決めたスケジュールは意地でも変えないんだよ」
「でも、今日の視察はたしか」
「そうそう。全部自分で決めてたはずなんだけど」
「だから昨日のうちに定期検査したんだよねぇ……」
つまり。町子も梅田も。
難波の気まぐれに振り回されている?
「あの。私の事で父がご迷惑掛けまして……」
「アー違う違う。迷惑じゃ無いのよ。迷惑じゃ」
町子は慌ててフォローに入った。
「サイボーグの基礎骨格上に柔軟性のある素材で肉付けしたあと、形成金型に入って最終仕上げするんだけど」
町子の話を引き継ぐように、梅田は冷静に状況説明を始めた。
「今はまだチタンやアルミやカーボンの骨格に、シリコン系の肉を貼り付けて、それからそこに光神経を通してやって、最後に
全身へ人工皮膚のリキッドを塗って熱を加えて締めてやるんだ。熱が入ると縮んでいって、柔軟性のある皮膚になる。生身の
身体は皮膚を引っぱるとウニッと延びるだろ?その状態にしてやるわけさ。伸びる分だけ縮まなきゃいけないからね」
身振り手振りを沿えて説明する梅田。
どこか『頼れるお兄さん』状態なのだけど。
「その金型から出るのをドックアウトと言うんだけど、言うなれば第二の誕生な訳だからね。事故にあった息子さんや娘さんがサイボーグ化して、
そのドックアウトの時にご両親が立ち会うってのは、まぁ、要するに重要な家族の儀式って部分なんだ。だから部長はどうしても立ち会いたいんだよ。たぶん……」
続きを言いかけた時、弥生がその後を遮るように呟いた。
「亡くなったって言ってた娘さんの代わりなんですね。私は」
「弥生さん。それは違う。絶対違う。あなたを代わりにしてるんじゃなくて」
「代わりじゃなくて。部長の引け目だよ。お嬢さんを護れなかった父親としての引け目。または贖罪」
「贖罪?」
「そう。部長ね、今でも時々ね、訳も無く怒りだす時が有るんだ。そしてその後、物凄く落ち込む」
「そうそう。見てられない位に落ち込んで、その後でブツブツ言い続けるの。怖いくらいに」
必死で否定している町子や梅田を他所に、弥生は何処か得心しているようだ。
ニコッと笑って二人を交互に見ている。
「やっぱり代わりですね。お嬢さんに出来なかった事を私にするんですよね……」
「弥生さん……」
町子も梅田も二の句をつく事が出来ない。
どんなに否定しても、結局は難波自身が出来なかった事をやり直すだけ。
コレばかりは、もはや個人の気の持ちようだ。
「だけど、それで良いんじゃないですかね。だって、私は難波さんに。いや、父に拾われたような命ですし」
「……弥生君。それはちょっと酷いぞ。拾ったと言うのは問題発言だ。命は物じゃ無い」
「でも、本当ならあそこで死んでたはずなんですよ」
「じゃぁ、今の君は偽物?それとも幽霊?」
「……機械仕掛けの人形かもしれません」
「だとするなら、君は君と言う人格があるわけじゃなくて、ただのAI。ロボットだね」
「でも。私は私です」
「本当は死んでるんだろ?じゃぁ今は?」
返答に窮して弥生は押し黙った。
論理的破綻と言うより禅問答で負けたと言うのが近い。
何かを考え逡巡している弥生の姿が、どこかちょっと痛々しくもある。
梅田は何かを確かめるかのように弥生の目をじっと見た。
「君の言う『本当』なんて言うものは存在しなし、もし存在するなら、それは今、君が生きている事だ」
「そうね。たまには良い事言うじゃない。びっくりした」
町子が堪えきれずに笑い出した。
「そう。本当なら死んでたなんておかしな事よね。本当なら?違う違う。一歩間違ったら死んでたが正解」
「さすがケアマネだな。その通りだ一歩間違ったら死んでた。それが正解だ。君は生きているんだから」
「その通り!身体は機械でも心は人間だし、生きている人間だし。変わりなんておかしな事よ」
何処か不思議そうに弥生は話を聞いていた。
いや、押し込まれていると言う方が正しいか。
「実を言うとね。俺は仲間と遊んでる最中に崖から落ちてね。仲間5人は即死で俺は意識不明の重態だったんだ。ところが、その後、
救急車で運ばれる途中で佐川のラボに強引に担ぎ込まれて、そこでこうなったわけよ。部長の差金でギガテク社に横取りされずに
済んだ訳だ。町子は町子で、火事の際に逃げ切れなくて、オマケに全身焼かれて死に切れなくて救急病院に運び込まれた。
で、やっぱり部長の差金でギガテク社じゃなくて佐川に来た。部長はね、娘さんを殺したって言う部分で悔やんでるんじゃない。
ギガテク社に運び込まれてモルモット扱いされるのを防げなかったのが悔しいんだよ」
「そして、弥生さんが今日ドックアウトするのに立ち会うって言ってるのは、きっと、家族だって部分を大事にしたいのよ。
凄く失礼な事だけど、でも。弥生さん、センターに居る間に面会一人も居なかったでしょ?家族が居れば面会に来るのよ。普通は。
それが無かったのを難波さんは知ってるから、どうしてもドックアウト位は立ち会いたいって言ってるのよ。きっとね」
ちょっとした沈黙。
気まずい空気。
梅田はグッと力のこもった眼差しを弥生に向けた。
「弥生君。大事な事だから胸に刻み込んで欲しい。いいかい?」
弥生は気圧されるように頷いた。
「今、君が生きている日常は、生きられなかった人がどれほど望んでも手に入れられなかった未来なんだよ」
「……生きられなかった未来」
「そうだ。死ぬ直前。意識が消えていく最中に夢見た未来。夢見た明日。伸ばした手からすり抜けた5分後」
梅田の両手が弥生の肩を掴んだ。力強い両手を感じた。
グッと揺さぶられて、良い聞かされるようにまた揺さぶられて。
そして
「拾われた命だとか、断じてそんなもんじゃない。君には運があった。だから生き延びた。そうだろ?」
「……ごめんなさい」
「謝る必要なんか無い。ただ、同じ事故で死んでしまった人の事を思うなら、大事に生きるべきだ」
「そうね。たとえ身体は機械でもね。だって、機械でもいいから生きたかったって人も居るはずよ」
一瞬の間の凄く濃密な時間だったような気がする。
だけど、ふと現実に戻ってくるような音が、梅田の懐から鳴り響いた。
♪ピロリロピロリロ・・・・・・・
「やべ!部長だ!」
懐から携帯電話を取り出して、電話に出ようとした瞬間。
弥生がパッと携帯を奪い取った。
ピッ!
「はい、弥生でーす」
(……ん?あ、あれ?)
「梅田さんはここに居まーす」
(弥生か。ビックリした。梅田君は何をしている?)
「いま、あれこれレクチャーしてもらってました。今かわるね」
はい!
笑顔で電話を渡した弥生。
梅田は一瞬呆気に取られていた。
「はい。すいません。今戻ります」
(あぁ、その必要は無い。今、センターについた。君の身体は社に置いて来たから)
「え?本当ですか?」
(あぁ、そうだ。後でゆっくり来れば良い。じゃぁ、ソッチで娘を頼んだよ。じゃぁな)
ピピピ
「俺の身体。羽田本社に置きっぱなしだってよ」
「早く取りに戻りなさい」
「あぁ、そうする。後を頼む」
仮想空間向けの端末を操作し始めた梅田。
だけど、弥生がジーッとそれを見ていた。
「今帰ったら拙くないですか?」
「なんで?」
「だって、こっちで私の監視して無いと父がまた……」
「監視じゃ無いけど……とにかく戻るよ」
梅田の姿が足元からスーッと消えていった。
「あー 帰っちゃいましたね」
「彼、あれで居て義理堅いのよ。それより」
「それより?」
「邪魔者が居なくなったから、早くコレ着てみて」
荷物を広げて、学校の制服を取り出した。
そうか。まずは高校卒業しなきゃ。
「難波さんが転校の手配とか全部済ませてありますからね。新しい学校はちょっと遠いけど、全寮制だし」
「全寮制なんですか?」
「そうなの。サイボーグの生徒ばかりが来る特殊学校。公立の一般校に行くにはサイボーグだと色々大変よ?」
「そうなんですか?」
「だってお昼御飯とかどうするの?それに、充電スタンド無いし」
「あ、そっか」
どうでも良い駄々話をし続けながら、制服や持ち物の説明を受けた。
ただ、碌に話をしないうちに、弥生の持っている端末が呼び出し音を鳴らし始めた。
「はいっ しぶ…… じゃない。難波です。あ、そうですか。はい、分かりました。ログアウトします」
「完了したって?」
「はい。あと10分で終了だそうです。片付けてログアウトします」
「じゃぁ、私は一足先に出てリアルで待ってるわね」
「よろしくお願いします」
笑顔で弥生が見つめる中、町子も足元からスーッと消えていなくなった。
再び独りぼっちになった部屋の中。
弥生はそそくさと部屋を片付けて、端末からログアウトを選んだ。
期待に胸が高鳴る。鼓動が早くなっている。
ドキドキするってこんな感じだった!
そんな感触ですらも嬉しい。
だけど、視界の中にバッテリー表示や通信情報が現れた頃。
胸の中に感じていた鼓動感や呼吸の感覚が消えて行った。
24時間以上、サイボーグの感覚から離れていたからだろうか。
動かしていた腕や身体から重量と重力を感じなくなったのが非常に変だった。
そして、滅多に経験しない完全ブラックアウトに、少しだけ恐怖を感じた。
どこからか酷く耳障りな電子音が聞こえる。
眠い訳では無いが、やたらと身体が重く感じる。
サイボーグでは殆ど感じない自信の重量感とは違う感触だ。
ふと、まだ目を開けられない状態なのを理解した。
全身がまだ身動きできない金型の中に居るのだと分かった。
まるでブリスターパックに納まっているタブレット状の錠剤をイメージした。
刹那。背中側に風を感じた。
完全に覆っていた天蓋が開き、うつぶせ状態になっているのだと分かった。
身体の前半分がまだ型の中で密着中だ。どこかぎこちない動きでモゾモゾと動き出した矢先。
天蓋の角へ頭をぶつけた。
ゴキッ……
「あぃったぁぁぁ…… あれ?」
咄嗟に痛みを感じた後頭部を押さえたが、その時、指先の不思議な感触に驚いた。
まだ少しノイズの浮かんでいる視界に見えたのは、健康的な肌色の指先。
ほんのりと桜色に染まった爪が指先に乗っている。
そして、指で押さえた先には長く艶やかな黒髪。
思わずもう一度手で触れて、そして少しだけ笑みを浮かべる。
「はい、おつかれさま」
後方へ引っ張り上げて貰うと、身体のあちこちに残っているノリの残りがべりべりと剥がれた。
雌型の中にまだ収まっていた部分が重く感じただけなんだと気が付いたのは、床に立ってからだった。
前半分と後ろ半分のパーティングラインにそって微妙にバリが残っている様な状態だ。
柔軟性にあふれた素材であるはずの人造皮膚や生体組成の補助筋肉などの動きがまだ悪い。
高度機械化人リハビリセンターの奥。
幾重にもセキュリティガードが施された構造外科オペ室の中で、弥生は再びこの世に生を受けた。
一糸まとわぬ生まれたままの姿で、彼女は自分の手足を不思議そうに見つめている。
「弥生さん。こっちこっち」
彼女を呼ぶ声の主。町子がヒョイヒョイと手招きしている。
「上本さん すいません」
「そーじゃないでしょ そーじゃ」
「あ、そうでした。すいません。町子さん」
町子は弥生の背中へガウンを掛けた。
今までセンターの中で着ていた病院着のようなものじゃない。
どっちかといえばベッドガウンのような柔らかい素材だ。
「身体のあちこちにマーキングしてあるから消してくると良いよ。シャワー浴びても大丈夫だから」
にこっと笑ってサムアップ。何とも言えないけど、人をホッとさせるオーラを放っているタイプだ。
そして、リアルで見ると、ものすごい姉御肌だ。
長らく施設で育った弥生にとって、町子はケアマネと言うより姉と言った方が良いような風に感じている。
もっとも、まだ二人が出会って2時間しか経過していないのだが……
おそらく1年ぶりに近いスパンで浴びたシャワー。だけど、まだ皮膚感覚が落ち着かない弥生には刺激が強すぎた。
シャワールームの床にうずくまってガタガタと震えている。敏感な部分を力一杯弾かれたような衝撃だ。
全身性感帯状態で浴びるシャワーは拷問に近い。
ワナワナと身体を震わせて居たら、町子がバスタオルを持って入ってきた。
「あ!ごめんね!先に言うべきだった」
「良いんです良いんです。ちょっとビックリしただけです」
どこか少し上気したような表情を浮かべる弥生。
町子は何かを確かめるようにジッと弥生の目を見た。
「あぁ。管理番号が打ち込み済みね」
「管理番号?どこにですか?」
「人工眼球の虹彩の部分にね、バイナリー化した数字が書いてあるのよ」
「そうなんですか…… 知りませんでした」
「普通は知らないわよ。私達みたいなサイボーグでも知らない人もいるんだし」
ヘヘヘと笑って弥生にバスローブを着せる町子。
ジッと肌を見ながら満足そうに呟く。
「へー、今までより良い感じになってるわね」
「そんなに違いますか?」
「新しい素材で焼成処理してあるそうよ。ほら、比べて見て」
町子は着ていた服を脱いで上半身だけ裸になった。確かに弥生と比べると素材感がだいぶ違う。
予備知識がなければ、町子の肌も十分人肌に見えるのだけど。
でも、弥生のソレと比べてしまうと、どこかほんの僅かに『作り物』っぽい風合いを感じる。
「……確かにちょっと違いますね」
「弥生さんの肌素材は実験的素材だからね。耐久試験も兼ねてるって話だし」
「そうなんですか」
「まぁ、仕方が無いわね。結局は誰かがやらなきゃいけないんだし」
「つまり実験台ですね」
「実験台と言うより実験体。うーん、実験機体ってところね。まぁ、レアモデルだから自慢の種ではあるけど」
再び服を着て、そして弥生の背中を押した。もうこの状態ならば、街を歩けば普通の人間と変わらない。
パッと見では、どこにでも居る女子高生そのもの。
「早く外へ行きたいでしょ?」
「はい!」
「ただ、その格好じゃまずいわね。襲ってくださいって言ってるような物ね」
まだ濡れた髪にバスローブ一枚。鴨が葱背負って歩いてる様なものか。弥生もさすがに苦笑いだ。
「おぉ!待っていたよ」
シャワールームから一般棟へ移った弥生を待っていたのは、大きな花束を持った難波だった。
「お父さん」
「弥生、おめでとう、2度目の誕生だ」
弥生はちょっとはにかんで頷いた。
「また一人、私の家族が増えた。今日は良い日だ」
花束を渡した難波が弥生をぎゅっと抱きしめた。
「湯上りの娘の良い匂いがするな」
「あれ?難波さん、嗅覚センサーつけたんですか?」
「あるわけ無いさ。町子君。ただ、気分的なもんだよ」
ハハハと笑って弥生の顔を見て、そしてもう一度ぎゅっとハグしている。
だけど、弥生はその最中も周囲をうかがっていた。
「どうした?」
「……ここで知り合った人が居るんだけど、最近逢えて無いから」
「そうか。 ……男か?」
「うん……」
微妙な笑みと言う機能がサイボーグにあるのかどうかを弥生は知らない。
ただ、間違いなく今、難波十三と言う人物の使うサイボーグは、なんとも微妙な笑みを浮かべている。
「彼氏を連れて来る時は先に言ってくれよ?心の準備をしなくちゃいけない」
「でも、ドキドキして心臓が爆発するって事は無いから大丈夫でしょ?」
「心臓は無いけど、あちこちエラーが出てここへ担ぎ込まれるかもしれない」
窓の外はいつの間にか春のようになっていた。
降り注ぐ光が明るく眩く弥生を照らしている。
艶やかに流れる豊かな黒髪に浮かぶ天使の輪。
とても工業製品とは思えない仕上がりに、皆が満足していた。
それから一週間後。
最終調整を終えて『難波弥生』は社会復帰リハビリセンターを出所(ハンガーアウト)した。
センターを出るとき。彼女は薄紫のブレザーを着た、どこにでも居る女子高生そのものだった。
ただ、彼女の視界に映る様々なデータ表示は、生身の人間には無いものだ。
彼女自身の身体に搭載された様々な実験的機構や機能を確かめる為に。
まだまだこのセンターへ来る事になるのだろう。
高度機械化人としての一歩を歩み始めた彼女に幸多からん事を。
〜 リハビリセンター編 完 〜
以上になります。ご笑覧有り難うございました。
146 :
名無しさん@ピンキー:2013/06/04(火) 09:29:48.06 ID:MhuiFnvp
>>145 投下乙でした。久しぶりの新作楽しかったです。
続きに期待してますので、またお願いします。
>>145 完結乙でした。最後は何か駆け足な感じがしたんだけど。
サイボーグになった弥生の日常とか期待したい。
そのうちまた書いてください。スレが死なない程度にw
ところで、アンドロイドvsサイボーグとかの話ってスレが荒れる元だからやめた方が良い?
荒れるほど人が残ってないから好きにすれば良いんじゃない?
面白いの頼むよ。説教臭いのはもう言い。
アンドロイドスレはサイボーグの話題厳禁だけど
サイボーグスレ系は元々禁止まではしてないよ。
機械娘総合ができるまではどっちも含む話題はサイボーグ本スレでって事になってたくらいだから。
だからちゃんとサイボーグが出てくる話なら完全おk
今更だけど紅殻のパンドラを買ってきた。
つくづくと士郎の画でなくて良かったと思ったw
ただ、あのサイバーパンク感は士郎じゃなきゃ作れないよなぁ。
そうかなあ?
シロマサの絵でもいいと思うけど。
シロマサのサイボーグ幼女といえば、攻殻機動隊(漫画版ね)でちらっと出てきたけど
嫌いじゃないぞあの絵柄。
士郎が画を描くと、たぶんまんま攻殻になっちゃうからじゃない?
やってる事は変わらないし、素子のコピーになっちゃうだけかと。
それを嫌がったんだと思うよ。士郎本人がw
>>153 超同意。たんなる攻殻の劣化コピー作り出すだけだったろうな。本人が描くとw
155 :
名無しさん@ピンキー:2013/06/23(日) 23:11:47.82 ID:PqnlXln3
無言1週間なんで保守。
無言二週間目突入
やさぐれ姫子なんて改造の素材にピッタリだと思う
クズ父によって悪の秘密結社に売られる
↓
改造されて悪事に加担
↓
装備の悪さが元でヒーローに敗れた挙句に新聞で大規模テロ組織の犯行のニュースを目にする
↓
オイルマネーでウハウハの大規模テロ組織に比べたら改造人間効果にすがってる悪の秘密結社なんてカスも同じ
↓
ばーか!滅びろ悪の秘密結社!!
備品女教師ェ………
再び無言1週間経過
161 :
名無しさん@ピンキー:2013/08/07(水) NY:AN:NY.AN ID:KgEFa1GM
前にも同じようなこと聞いたかもしんねーんだけどさ、
俺改造手術に興奮するんだよ
腹開けて心臓や腸や膀胱や子宮や膣や卵巣を取り上げてしまう過程にすごいムラムラくるんだ だけど、
改造手術って一回きりじゃん?
ナマの肉体から内臓を取り出して人工器官に置換するじゃん?
その後は人工器官を入れ替えるだけで、なんか本人の内臓や尊厳を奪い取っているって感じがないからイマイチなんだ
何度でもナマの肉体を奪い去って人工器官に置き換えたい理屈が欲しい
今思いついてるのだと、
1,キャラを増やす度に改造手術をする
2,悪の組織に誘拐された改造された後、救助されて人工クローニング体に脳みそを戻してもらう→また改造されて…の繰り返し
3,別に鉄とプラスチックとシリコンでできた人工器官ではなくて、生体材料を使った人工器官を定期的にバージョンアップするために改造する
とか考えてたんだ
1、だとキャラが増えすぎて使い捨てになりかねないし、
2、はまあ適当にそいつの脳にしかない機能のために改造とかになんのかな、理屈
3、はまだ見たこと無いんだよね
あ〜 取り上げられた自分の肉体を絶望の目で見る女の子が見たいよー
もう私は子供が埋めないのね…とか悲観する女の子が
自分で書いといてなんだけどヒドい性癖だ
>>161 わかる
ただまあ、1回こっきりの取り返しのつかない感がクるんで、
2回目以降はなんというか、プレミアム感が失せるかなとは思う
ということでキャラを増やすぐらいしかないんじゃないかなとは思うけど、
なんかうまいことできないかね
残念ながら男・自ら望んで改造・描写はあまりなし?だけどそういう漫画
(強さを求めて生体改造を何度も何度も繰り返す人の話)はあるよ。
ちなみに執刀医はツギハギ少女で自らの体をバラしたり組み替えたりもする。
あと同じ漫画に、際限なく分裂を繰り返す特異体質の女がいて、
件のツギハギ少女に実験材料や敵に対する物量作戦用として分身体を提供する
(というか対処に困って相談したらモルモットにされたんだっけかな?)
ってのもあった。
これを応用すればキャラを増やすことも、話をリセットすることも、
2のような不自然な改造←→復帰を繰り返すこともなく
思う存分改造できる(しかも好きなときに使い捨てもできる)のでは。
同じ子を複数回改造手術か、こういうのはどうだろうか?好き嫌いがありそうな方法だけど。
何らかの理由で時間がループしている世界で人の記憶は基本的に引き継がれない。
主人公は
1、普通に改造。
2、事故or事件or主人公死亡で時間が改造手術前に戻る。
複数回のループのうちに何らかのきっかけで、途中で以前の記憶を取り戻す回があったり、初めから記憶があるパターンとか。
記憶の無いループでも改造内容に違いがあったりしても面白いかも、何らかのきっかけで改造手術をしている側も記憶があったりとかも。
166 :
名無しさん@ピンキー:2013/08/08(木) NY:AN:NY.AN ID:d5BvlDM3
>>163 漫画のタイトル教えてくれよう 気になるじゃないか
>>161 案をもう1つ。2に近いけど。
ここの捕食スレに、(映画アバター的な)アバターを食人鬼のところに送り込んで
実際に食べられる感触を体感するってSSがあったのでそこからヒントを得て
あるヒーロー組織では安全のためにアバターを用いて戦う。
しかしアバター技術が未成熟のため一度リンクするとアバターが死ぬまで
リンクを切ることができない(と言うか死ぬことで結果的にリンクが切れる)
つまり、戦闘中の事故等でこの世から即退場することはないが
一方で敵に捕まろうが、手足がもげようが、引退しようが、
アバターの体で一度きっちり死なない限りは元の体に戻ったり
別のアバターに乗り換えたりすることはできない
(これで
>>162の取り返しのつかない感はクリアできるかと)
この前提でドジッ子ヒロインAのアバターa1が敵に捕まる
→改造されて悪の手先に(Aの精神はリンクしたまま)
→仲間B(正確にはBのアバター)がa1を殺害しAが本体に復帰
→Aが新たなアバターa2を得て戦線復帰
→a2再び敵に捕まる。以下ループ
ってのはどうだろう?
>>166 「フランケンふらん」ね。
機械化改造はないけど独自の倫理観で患者を魔改造しまくる
メディカルホラー・グロ漫画。
168 :
167:2013/08/08(木) NY:AN:NY.AN ID:dqQkH+IJ
なんどもすまん。
長々と書いたけどこれはダメだ。
殺したら新たな体で完全復活するから殺さず自陣の戦力として活用しようと考えたんだけど
そうするからBらに殺さざるを得ない状況を与えちゃうんだ。
悪はAを戦線復帰できない程度に痛め付けるだけにしておけば
改造せずとも話が終わってしまうorz
珍しく雑談があるんで便乗ついでにちょっと聞きたい。
一切エロ要素無しの強制サイボーグ化ヒロインが暴れる、
ガチ戦闘モノ書いたんだけど需要有るかな?
>>161 思い付いたのを2つ上げてみる。
一つ目
>>167の改変みたいなものだけど。
被虐趣味の金持ちのお嬢様が、理想の改造体を見つけるという名目で、自分のクローンアバターを使って
何度も改造手術されたり、体をバラバラに破壊されるというのはどうだろうか?、最後は本物の体を改造という物。
二つ目
順応にさせたり、脳を改造手術や改造体を慣らしたり、洗脳目的でVRを使って何度も改造手術を体験させた後、実際に改造という物。
>>169 内容にもよるけど、有るのでは?
>>169 悪い事言わないから、なろうへ行った方が良いとおもうよ。
反応無くてもあっちなら閲覧数で慰めてくれるしね。
>>145 GJ
最初エロパロなのにエロないんかいと思ったけど(それはスレ的にありなのか?)
そのつもりで見れば、地に足がついた(?)日常的SFは好きなのでとても楽しめました。
ただ内容と無関係なところで個人的な好みを言うなら「なのだけど」というのが
それ以外の部分の言葉遣いと合ってないというか浮いているように感じ違和感がを覚えました。
(改善を要求するとかの話ではないので聞き流して下さい)
あとこの話が好きな人はLive me ME(フリーランチの時代)
とかおすすめ(個人的にはオチが納得いかないけどそれ以外は)
>>161 ストーリーとして長引かせられるとは思えないけど改造を繰り返す案として
治療法のない進行性機械化症にかかったヒロインが
いつ脳までも機械化するかという恐怖と戦いながら
対症療法として機械化部位を他人の生臓器とどんどん入れ換えていく
(病気進行しても移植してもどちらも自分本来の体ではなくなっていく)
という逆転の発想はどうだろう?
(機械化症ってなんだよwって人はGガンかゴウザウラー見るといい)
>>169 見たい
けどチラリズム程度のエロはあっていいんじゃないかな!(真顔)
男性型サイボーグから女性型サイボーグに切り替わった男の娘とかでも、サイボーグ娘に該当するかな?
攻殻で男性型サイボーグに素子が入った話があったけど、その逆でバトーが美人型サイボーグに押し込められた!みたいなw
スマホでも書き込み出来たよー
>>161には期待してるんだけどなー
投下はないのかなー?
ここの住人て機械化要素の無いのは守備範囲外?
それでもいいって人ならHR総合スレの最新作とかどうかと。
保守
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>>179 商品ラインナップが少ないな。
個人営業のガソリンスタンドがやってる広告みたいだ。
典型的なSPAMメールw
イソヂマ特約店かな?w
恋愛もののサイボーグ娘SSを考えたのだが需要ある?
Let's Go!
>>184 >>185 早速投下…したいんですが、まだ執筆途中でして…
土曜日の夜までには投下します
結構前にガジェットの二次創作作った人がガジェットのエロゲみたいなのを作ってたけど
ダウンロードできるサイトってある?
続き作ってくれないかな…
両義腕のヒロイン。
普段、日常のセルフメンテは自分で片腕ずつ予備の簡易マニピュレータに換装して行うのだが
旦那がたまには手伝うと言ってきたので手を出させたら両腕を一遍に外されてしまい
何の抵抗もできないままラブラブされてしまうという拘束プレイの変形版的な展開。
義手のメンテしようとしてうっかり両腕とも外しちゃって困るって短篇なら
大昔このスレにうpされてた事があるね。
登場人物一人だったしラブラブ展開にはならなかったけどw
それの応用発展系って感じか。
>>187 先生、締切過ぎてますよ。
早くしろとは言わない(そんな権利ない)けどせめてまだ希望があるかどうかくらいは…
だいぶ上のほうだけど
>>169とかも、遠慮なく投下して欲しいけどな
ベアブリック型義体なんてどうだろう?
形やサイズが規格化されてるので個性を出す唯一の方法は色や柄だけとか
>>194 義体使用者は全員同じ姿形とかちょっと怖いんだがw
ここに投下されてる多くのSSの世界観では義体はある程度規格化されてる印象だけどなぁ
個性は表皮と中の人(というか脳)の違いで出すみたいな
コスト削減目的とかで人間の皮膚を模した部分は首から上と二の腕から先だけで
他はレオタードやウェットスーツみたいな見た目の代用素材になってる
みたいな感じの義体の話は意外と見ない気がする
顔くらいは個性が欲しいね。生身が残ってるか、生身の頃の顔をなるべく再現するとかで。
あとサイボーグとロボットの最大の違いは何といっても「人間である事」だから
しぐさや性格などの人柄のちがいが同型義体でもにじみ出るのがいいね。
仮面を被って顔を隠した同型サイボーグが集まって
しぐさその他から知人に誰なのか当ててもらうゲームをしたりとかw
フィオルン懐かしすぐるw
>>186 いろいろと途中経過をすっ飛ばした果ての妄想。
・艦これ二次創作
・設定は捏造
www1.axfc.net/u/3089081?key=kancolless
俺、E4を突破したら続きを書くんだ……。
♪ルックスも選べれるのさ
これでコンプレックスとお別れ
みんないっしょ同じ顔
>>195 版権だけどホラ子の外観はそんなだったような?
ホライズンさんはいっつも露出度の低い服着てるから
黒い部分がお肌だっていう実感がどうも沸かないんだよな…
>>200 ホラ子は素肌は基本生体部品の肌色だよ
可動部のカバーが黒いの使ってるだけで
俺は代用素材のほうが萌えるけどな。コレばっかりは好みの問題な罠。
204 :
名無しさん@ピンキー:2013/11/17(日) 09:58:14.84 ID:q6q+n0h4
遠めに見ると人間と変わらないんだけど、近くで見るとパーツのパーテーションラインが見えるとか、
人工素材なラバースキンの質感がバレるとか、瞳部分の強化プラスティックが妙に白いとか、
そういう作りものっぽさに凄く萌えるんだけど、これも好みの問題かね。ま、仕方が無いけど。
真夏なのに長袖長ズボンで過ごしていて、時々袖まくりすると
手首とか膝とかの球体関節が見えるから恥ずかしがるとか、超萌えるw
>>205 うわ…想像してみたら予想以上に萌えだった…
>>197 生身の様な頭部とメカっぽいボディの組み合わせがいいよね
ボディカラーはやっぱり白や銀でメタリックなのが好き
ところで、サイボーグ娘のSSを書く場合って、
1、生身の人間が機械になって行く所
2、既に機械になっていていろんな形で日常を送る所
の、どっちが主眼だと面白いと思う?
1の場合、日常を少し書いて、そこから機械化していくシーンを丹念に拾って、
機械化完了で希望or絶望に満ちた未来を提示して終わりとかで良いかな?
2の場合、戦闘モノなら『目が覚めたらサイボーグでいきなり戦争』とか。
『気が付けば改造台の上で、マッドサイエンティストのセックスドール』とか。
改造シーン全省きでも全然OK?
なんか、あれこれ書き殴りながら、どっちが良いんだろう?と解らなくなってきた。
2は自分の置かれた状況を理解してない、あるいは機械化直後ってパターンなのか?
だとしたら
3 既に機械の体で何年も過ごし何の抵抗も違和感もなく馴染みきってる状況ってのもあるのでは
自分は123どれでもいけます、それよりバッドエンド注意報を出していただきたいですな
>>208 1も2も順序良く取り入れて、ちゃんと物語になってると大好物です
日常の中の萌えるシーンを切り抜いただけの様な、ショートコント的小話は要らない
えー
俺はそういうのはそういうので読んでみたいけどなあ
「要らない」とか言っちゃうと欲しい人が排除されるんで良くない
「俺は個人的に好かん」ならいいけど。
数少ないご意見ありがとうございます。
要するに、物語として成立してないと駄目って事ですね。
でも、短編はそれはそれで有りですか。
頑張ります。はい。
>>208 1でも2でも
>>209の3でもそれ以外の何かでもよいのだけれど、機械化される人(主人公?)の
心情(機械化されるorされたことによる不安、葛藤、その先に見えてくる光明や絶望、
それを受け入れていくor受け入れられず壊れていく等)はしっかり入れてほしいなぁ
>>212 一番言える事は、ここへ投下をして欲しい。
このスレの上のほうで投下してた人がなろうに投下してるけど、
なんか悲しくなったよ。
どこでも良いから新作読みたい。
それに尽きるな。
過疎は寂しすぎる。
もしなろうに投稿したのなら、せめてアドレスだけでも張ってほしい。
同様一通。なろうでエロパート書けないなら、本文はなろうにして、
エロパートだけここで2次創作状態でも良いから。期待してます。
やっぱりなろうに投下してるのかも
そろそろこのスレも役目を終えたな。
まだだ! まだ終わらんよ!
このベットの上で、ワタシのパールメタリックボディは相手の汗、体液にまみれ、
心は無く腰を上下振り、男の左手が私の二の腕を握り、右手は愛撫し続け、
首や股の秘める処奥を探り続ける。
片方の尖った銀色の乳首に低周波発信振動器のパットを当て緊張を呼び、ぎこちない中にあり
「しっかり動け。ビッチやロボット、セクサロイドに出来ないパフォーマンスを見せてみろ。」
「あはぁ、ひどい、このぉー腹上死させちゃうよ・・・。」
乳首から不意な強い電流が走る度に上半身がびくんとする。
かつて肉体のラブポイント、脇の下に手がまわり、くちづけの仕草に欲情してしまう。
「おまえ機械のクセに感じてるのか?硬い・・・そのボディで・・・淫乱だな・・・。」
このボディで、顔、手、股間奥は元の肉体から再現していた。
姿勢を変え、上半身を崩し男の唇を塞ぐように奪う、
「それ以上は駄目、ヘンタイ、ロボフェチさん」
胸の出っ張りからパットを取り払らい、男は両の突起を弄ぶ。
「いつも興奮して立ってるな、おまえの乳首、下品なヤツだ。もっと楽しませろ。」
「うっ。はっ、はっ、今この時間はあなたのもの、私を楽しんでください」
突かれ、奥まで突かれ、下半身はオーバーロード気味。
「汎用人型作業ロボットに酔狂な機能取り付けたものだな。」
「ロッ、ロボットじゃないヒトです人間・・・あっ・・・。」
「そろそろメンテナンス・ボックスに入る時間だな、
フィニッシュだ。」
背中のスイッチでワンプッシュとともに股へ深い圧迫の中、思考は真っ白、頭中にぴくぴく
電気が走り意識は飛び、ボディは unable to cotrol。
「アアー。イ、キ、ま・・・!」
浮き世の快楽を終えて、男は端末に向かい私のオプションモードを終了、リセットした。
「外出禁止で女抱きに行けないが、今日も激しくて良かったよ。
がめつく我儘や代償言われる面倒も無い、テクニック凄くパワフルで機械人形抱いてるの
忘れるよ。」
「ありがとうございます。」
うなだれ、うつむき力なく答える。
「おまえ、サイボーグに改造される迄、処女だったのか?」
「は、ぃ、・・・。どうしてそんなことを」
「昼間エンジニアで・・、白衣着て命令指示に沿ってボディ機能を使い分け仕事してる様子、
このせっくす最中に<ロボ・オタ>、<変態野郎>とか口激したり、色々と持て戯ぶその手段が
機能プログラム対応だけと思えない。本当は愛人とか・・・」
「ち、違います・・・。」
同人誌マニア腐女子とは口が裂けても言えない。
○
「新入りのスタッフに、こんなキャリアを持つ娘がいるとは思わなかったよ。」
呼び出され入室すると、チーフはおもむろにデスクの引出しから、
見た事あるスポーツ雑誌バックナンバーを出すと、付箋を貼ったページを開いて卓上にて示した。
それは、中長距離ランナー達の紹介特集記事で、隅に学生時代の私が掲っていた。
私生活の一つを暴かれて気恥ずかしく、表情に出ないよう取り繕い、
呼び付られた理由を尋ねようと口を開く間もなく、チーフが続けた。
「この開発室チームでは、知っての通り身体能力高いアスリートを委託され手がけてきた。
普段は上からの依頼に従い計画仕様書に沿って代行制作するノックダウン製造のようなものだ。
しかし窓際開発セクションとはいえ、パワーユニット改良や他チームのプログラム応用で
新モデルの開発企画を進め、自由裁量で新機軸を盛り込み作り上げる機会を永く伺っていたが
現状はドナー不足から下請けの代行制作で、常に熱意を持て余し燻っていた。
いつかは多数の人物から一人を選抜し、個性を研究したうえで長期臨床テスト機体を制作し
更なる改良新鋭機を作り出したい、そう思ってた。」
普段の言ってる愚痴だ。ここに呼び出され、改め聞かされる意図が分からない。
「そこにある日新鋭機体制作に熱意を注ぐ、新人スタッフが<自主的>にドナーに志願する。
それも、抜群の肉体身体能力を持ち改造後のサイボーグ体能力を十二分に発揮できる理想的な人物が。」
「チーフ。あの、何を仰っているのですか、皆目見当がつきません。」
「これを見たまえ」
入口に近い偶、指差す方を振り返るように見ると、そこにガラスチューブケースの中、
首をもたげ直立し金属的な女性型アンドロイドが下からのランプで照らされていた。
「あれは?」
「新しい君の姿だよ、・・・ナカザワ・ミキをもとに、その柔軟な肉体、身体能力を再現した
半完成、仮組み立てのサイボーグ体だ。
職務に堅実忠実な君は、この特別体ボディでもっと活躍すると良い。」
「どういう…、ことですか?」
「君、ナカザワ・ミキをサイボーグにする。」
空母海鷹にされた大阪商船(OSK)あるぜんちな丸に萌える奴いないの?
高速戦艦、丙型駆逐艦より主題に近い素材と思うけど。
荒れないだけいいと思う。
昔中国製を擁護する痛い人もいたし
そーゆー荒れるような事をサラッと言うなよ(怒
>中国製を擁護
これ記憶に無いけど。
ちなみに、ここから人形板迄粘着されそうになった事あって迷惑した。
○
ドール/フィギュアBBSで、ボークスNEO-EBが義体にみえる、という意見、たまに見かけた。
で、数年前に1/6の28cm前後サイズで、S.F.B.T-1(現在は、-3)が登場、めちゃ凄い。
http://www.oscf.net/userpix/11_sfbt14_2.jpg こちらの分野も古典的SF妄想領域が徐々に風化中・・・
隣室から頭髪の無い無表情なメタリックボディの青年二人が飛び込み背後から両脇で拘束される。
「この2体、君も携わっていたな。この姿、モデルボディ・・・こんな完成後の酷使で人格破壊から
簡素化の再改造施し作業ロボットモデルに格下げ。
これ押付けられてチームから一人を減員だ。
折角の人材や資材を無駄に浪費する、組織が硬直した悪い現れの一つだよ、
それにこの人事、まるでこの開発室を製作セクションへ格下げする予兆みたいだ。
だがね、副長と秘密裏にこの2体のメンテナンス資材と予算、作業効率アップに助けられて、
プロトタイプ構想が定まった。
このプロトタイプが実現出来、未熟な新人スタッフをスキルアップ、早期錬成できて良い。
あとはドナー、人材確保だ。さて、あとは、どうやってと、思いあぐねる内の着想もあってね。」
「私は製作開発チームに参加しただけです。サイボーグになるために入った訳じゃないです!」
「・・・君が手伝った二人に、これからの一次工程加わってもらう。
サイボーグ化サポートした二人に改造してもらうのも何かの縁だ。
クリーニング・ルームへゴー!即処理に取りかかる」
○
強制で承諾書に拇印捺印し、手荒い扱い意識朦朧な中、全身剃毛され、改造前準備の体内洗滌、
左肩へアクセスポイントを埋め込むように取り付け、体液交換に栄養補給、測定機器センサーのソケットが
ここに一時集中する。
作業が落ち着き一服の時間になり、不意に便意を覚え一人になりたく、
おトイレしたときにもっと現実に気付かされた。
ガウンを解くと、股間腰に金属状のものが私の体の一部になってついている。
内蔵消化器官管理に取り付けられたこの貞操帯のようなものは、排便管理と性器保護のもの。
男子改造に関与したとき、こんな物を見たこと無く、自由に排泄もできない機械管理。
プッシュスイッチで振動と共に穴から水勢が出た。
洗面台の鏡には虚ろな目をしている、囚人以下弱り切った病人の様。
未来の無い自分が映っていました。
サイボーグ開発で製作に携わるはずがサイボーグにされてしまうとは。
けれどこれから先もナカザワ・ミキという自分自身は捨てないように頑張る。
>>223>>224 >>225>>230 乙
なんというかとにかく文章が読みづらかった。
(加えて230は間があいてるので続きとわかるようにもしてほしかった)
内容についてはどちらも個人的に好みではなかったのでノーコメント。
せっかく投下してくれたのにケチだけつけて申し訳ないけど投下自体には感謝。
>>231 お前はいつもいつもイチャモンしかつけられない奴なんだな。
それこそ正に イチャモンしかつけられない レスじゃないか
イチャモンにイチャモン付けてる暇があったら作品にリアクションしろよ
エロパロだからエロがないと反発があるんだろ
フェチ板ではそんな傾向ないけど
なろうで淡々とサイボーグの日常を書いてる人が居るけど、
あれはエロパロ板じゃ出来ないよな。エロ分が全く無いから。
で?
保管庫やフェチ板やここの過去スレ全部読み返した?
このスレ>208-213の要望とか古参の様々な嗜好、創意が
「なろう」に流入していること。
このジャンルはエロといっても女性器は生身のほうがいいのか人工物が好まれるか
そこから始まるからな
本番で中出しに一定の需要がありそうだし
何処かの少佐みたいにバーチャルセックスで済ますのか、
それともガチ人工性器装備で中田氏歓迎妊娠しません!か。
そこって結構好みが分かれるよ。
断然バーチャルセックスでしょ!
人工性器でも市販のオナホやTENGAを埋め込めてそれに義体側から針とかを刺す形で神経が通って固定と刺激に反応する感じか
一点物のハイクオリティで耐久性と実物と遜色ない締め付けも実装してるかでも一長一短だな
酷いパターンだと、安物USBオナホがはめ込まれているだけで、簡単に取り外して交換出来る仕様になっていて。
ある日交換したら不良品で感感度0とか、逆に10倍とか、何もしていないのに、突然強烈な快感がとか。
USBにPC用のコントローラ刺されて(含む無線で遠隔)、ボタンやスティック操作で、いきまくる、オナホとの間に細工されてとか。
安物USBオナホが付いているのが、近所の人や知り合いにバラされてとか色々出来そうな。
ところで、USBおっぱいとか作られるのだろうか?
安物USBオナホ+安物USBおっぱいのコストカットサイボーグ娘とか有りなのかな?
文章力無いから書けないけど。
サイバネティックの進歩した世界なら3Dプリンタでオナホ作れそうだから、
パートナーに「ユル系とキツキツのどっちがいい?」と聞くなんてケースも発生しそう
生身ではできない振動とか低周波を当てる機能とかあれば男には機械姦になりかねん
どんなオナホでも穴だけだから、クリをどうするかという問題もあるな
生来のオナニストならクリに極度に神経を集中させて頻繁にオナニーするサイボーグ娘もいるかも
243 :
名無しさん@ピンキー:2013/12/31(火) 21:38:00.68 ID:05lN4Aoc
今年も良作が投下されますように
SSと言わずどこかのサイトでリレー小説を始めてみたらどうだろう?
ジャンルだとSFになりそうだけど
リレー小説は既に一度試みて破綻しているよ?
リレー小説は、設定共感出来る多人数で、ボツ、異聞(スピンオフ)発生する勢いなければムリ。
ストーリーの破綻や「前節内容が個人的に好みではなかったので拒絶、パス、スルー」
にリリーフ登板、又、勝手に「書き直しする!」そんな奴がいなければ成り立たない。
ここの最近作は、構築した世界観で完結もの、ラノベ風だけど、
元のフェチ板時代から、エロ妄想で女子の肉体をアンドロイド風外観にしてしまう、
その改造過程をクローズアップした作品が根強く支持する連中もいる。
いい加減な考証無しで妄想そのままの一節だけ投下されたものから、
次作を待望する空気が欲しいなぁ。
最初からシェア前提で世界を作るんじゃなくて、誰かのしっかりした世界観に相乗りで
自然発生的にシェアワールド化が一番望ましい流れなんだろうけどな。
現状ではちょっと難しいといわざるを得ない。
ある日彼女がRD義体に、なんてのを思いついたけど
なぜ義体なのに肉々しいか答えれない('A`)
ガジェットかヤギーの続編見たいなぁ
私はアイドル。テレビに出るほど有名じゃないけど、それでも地道に支えてくれるファンがいる。
サイボーグの体でアイドルが実現できるかどうかの実験として、アイドルとしての私は生まれた。
事故で体を失い絶望していた私を、サイボーグになってアイドルになる実験をやってみないかと誘ってくれて、今の私がある。
未だサイボーグ技術は発展途上にあり、普及技術としてまともに二足歩行する事はまだできない。
両脚はバランスをとりつつ歩くだけの精度が無いし、人工三半規管も充分な精度が無い。
そこで私の体は天井からのワイヤーで吊り下げられる事で二本の脚で立っているように見せている。
手も、マイクを持つ方の手は指が動かないただの飾りになっていて、マイクを持つ事しかできない。
手が簡略化されてるのは、機械にとっては過酷なステージで酷使して、観客の前で壊れるような事がないようにするため。
体重を完全に支える事は無い両脚をそれっぽく動かす事で、何とか歩くように見せている。
それを自然に、ちゃんとアイドルらしくするための訓練は、いっぱいやった。本当に一生懸命やった。
そのお陰で、まだ動きにぎこちなさはあるながらも、アイドルだと認めてもらえて、多くはないながらもファンもついてくれるようになった。
私を吊っているワイヤーは、見えにくいようにしてはいても、完全に存在を隠せてはいない。
私の歌声も、今はまだ自分自身の声ではなく、別に用意した音声に私の感情を込めた抑揚をつけられる加工フィルタを通しているだけだ。
自分自身から発する事ができる「声」は、まだ音楽として成立できるレベルには無いからだ。
これもそのうち技術改良で、つまり私の体のバージョンアップによって、自分で歌えるようになる計画だけれども、今はまだできない。
しかし、そんな私でも、アイドルとして認めてくれる大切なファンがついていてくれてる。
歩く事すらままならない。歌さえもまだ自分の声では無い。自分自身のものといえるのは、この生身で残った顔くらいなものか。人工機械の耳と目は除いて。
それでもファンが認めてくれるのは、一生懸命アイドルになろうとする私の頑張りに対してなのだろう。
今日もステージに立って、いや吊られて、私はアイドルとして頑張る。
盛り上がったステージも終了し、客が帰った閑散とした会場。
私は天井から吊るされたワイヤーから下ろされた。
歩けないので、こうなっては脚は邪魔だ。大事な商売道具の両脚は丁寧に外され、私の体についている脚はふとももまでになる。
繊細な感情を伝えるデリケートな両腕も外された。両脚と両腕は次のステージまで、丁寧にメンテナンスと保管が行われる。
私の自由時間は、この手足の無い体と共に過ごすことになる。
私は、この手足の無い限られた体を、それでも精一杯に使って、次のステージへの英気を養うべく自由時間を謳歌する。
>>250 投下乙!
見かけでごまかすのが精一杯という偽物の身体を晒しながら、
大きなハンディキャップにも挫けず努力しているところが萌えるなぁ。
いつか本当に自分の身体と自分の声でアイドルとして活躍
できる日が来るといいね。
この世界のサイボーグへの風当たりはどんな感じなんだろう?
本人視点とは逆に、ファン視点での話も読んでみたい。
アイドルならどんな事務所可でも扱いが変わってきそう
「あれ? お前ソレどうした?」
部屋に入るなり浩介は指をさしてぽかんと口をあけていた。
指差した先には妻の美幸が立っていた。
……背中から電源ケーブルをぶら下げて。
「うん。実はここしばらくバッテリーの様子が変で」
困ったような表情で背中のケーブルを弄る美幸の姿が、浩介には妙に扇情的だった。
「で、どうしたんだ?」
「さっきメーカーのサポートに連絡したらメンテスタッフが来てくれたんだけどね」
「うん」
電源ケーブルをずっと辿って行くと、その先はコンセントに直付けになっていた。
内臓電源で丸三日は動けるはずのサイボーグなのに、なぜか有線だ。
「充電部分の保護回路がリーク気味で発火する危険性があるって言って」
「持っていかれちゃった?」
「うん」
今の中を掃除していた美幸はコンセントから自分のプラグを引き抜くと、
キッチンにあるティーポッド用のコンセントへ接続しなおした。
「メインバッテリー全部持って行っちゃったから緊急電源しかないのよ」
「じゃぁ自立稼働時間5分くらい?」
「そう。今夜なんかしらの事情で停電したらあたし死亡」
「マジかよ」
「まぁ、いざとなりゃ俺の補助電源から電源分けるよ」
「うん。よろしく。たっぷり充電しといてね」
キッチンから浩介の所へ歩み寄ろうとした美幸は、ケーブルの丈に行動を制約されていた。
「鎖につながれた犬の気持ちがよくわかる」
「確かに不便だな」
様子を伺うべくキッチンへ歩み寄った浩介。
その背中を美幸が掴んだ。
「捕まえた!」
「なんだよ急に!」
「えいっ!」
浩介の上着を脱がした美幸は、浩介の背中に有った給電ポート脇の小さなコンセントへ自分の電源ケーブルを突き刺した。
「よし、これで飼い犬脱出!」
「だけど、俺が離れたらコレ抜けるぜ?」
「離れなきゃいいもん」
後ろからギュッと浩介へ抱きつく美幸。
背中に掛かるふんわりとした弾力ある物体の感触に浩介が笑った。
「バッテリーいつ返って来るんだ?」
「多分明日の朝いちばん」
「オーケー。じゃぁ明日までこうしてよう」
「うん」
萌えた!
>>255 すばらしい
> 内臓電源で丸三日は動けるはずのサイボーグなのに
「内臓電源」と書くと普通は誤字なんだろうけど、サイボーグなら
一応間違いではないと言えなくもないのかなぁとか考えてみる
GJ!
きっとそういう未来が来たら活動用と生命維持用は別系統の電源になってて、生命維持系すら落ちてしまった時は
仮死状態にして少しでも生存させるくらいの緊急装置はつくんだろうけど
でも、命に別状は無いけど電源切れて動けないよーとかでも萌えられるので
これはこれでGJなシチュエーションだね
てか旦那もサイボーグなのねw
あぁあ、そう言う事か。サイボーグ夫婦か。
なんか日常シーンの羅列ってのも良いな。
しかし、バッテリーがリークで発火とか、どこの787だよw
やっぱり件のお掃除ロボットはサイボーグに脳内変換すると萌えるなあ
電源ケーブルサイボーグ娘萌え!
>「内臓電源」と書くと普通は誤字なんだろうけど
こういう解釈する人は、空想力がとても貧困だ、と思う。
メーカーのサポートの悪さが逆にいい仕事してるなGJ
>>261 そりゃ意図的だと解釈(事実は作者にしかわからない)できる方が作品を楽しめるに決まっているけど
それに必要なのは空想力とは違う力だと思うが
>>255にちょっと似てるシーンが有線少女3巻に…
264 :
名無しさん@ピンキー:2014/05/12(月) 12:42:36.87 ID:/GLZBAd4
ガイファードの悪の女科学者が重症を負って本人の意思に反して半身サイボーグに
改造される話が好き
コスチュームもエロイし演じたいささか年増な女優の変な素人っぽさがツボ
文才があれば妄想した話をSSにしたい
保守
266 :
169:2014/07/16(水) 23:55:13.68 ID:jd5/S2ZB
>>266 古き佳き時代のSF臭が凄いな
誰かと思ったらリハビリ室の人でしたか
続きに期待しています
ついでにエロ展開もw
備品………女教師
>>269は改造を繰り替えされた結果もう人間の脳が残ってない哀れなテープレコーダー仕込み人形
もはや自分の意志を持たず同じ言葉を繰り返すばかり
テープレコーダーとはまたレトロなものを持ち出して来たな。
まぁウチのステレオ(←これまた死語)もWカセットなわけだがw
テープレコーダーというよりも、傷ついて針が飛ぶようになたレコードだな
いやほら、「壊れたテープみたいに」で一つの決まり文句みたいなものだから…
世代の差を感じるな
>>266 なろうの会員じゃ無いからこっちで感想書くけど、
メカバレ要素とかぶっ壊れシーンとかないの?
とりあえず期待してるんでよろしく頼む。