【ドラマ】鍵のかかった部屋でエロパロ Room#2

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1名無しさん@ピンキー
榎本×純子は萌えますね
2名無しさん@ピンキー:2012/06/06(水) 23:58:26.01 ID:auYlvkwW
スレ立てありがとうございます。
即死回避に一本投下します。
3策略にはまる榎本×純子 1:2012/06/06(水) 23:59:29.58 ID:auYlvkwW
 不運としか言いようがない。今回、榎本を襲ったのはそんなトラブルだった。

「榎本、ちょっといいか。教えて欲しいことがあるんだが」
「……はい?」
 その日、東京総合セキュリティの地下備品倉庫に、同僚の立川がやって来た。
 同僚とは言っても、会話をした覚えもほとんどない。榎本は基本的に仕事の際も一人で行動し、社内にいるときは倉庫にこもっているため、関わりあいになることはほとんどない。
 珍しいこともあるな、と思いながら椅子を薦めると、立川はそれを断って、最新のセキュリティ設備についての質問をいくつか投げかけて来た。
 大した質問ではなく、会話自体はすぐに終わった。雑談をするような関係でもないため、話はそれで終わりだろうと榎本が背を向けると――
「おい榎本。ちょっと見ない間に、やけにカップが増えてるな」
「はい?」
「飲み物の種類も増えてるし。あの弁護士先生のためにそろえたのか?」
「…………」
 弁護士先生、とは、純子と芹沢のことだろう。そう言えば、最初に彼らが訪れたとき、応対してくれたのは立川だったらしい。
 一体どんな交渉をしたのか、一応は警備会社であるはずの東京総合セキュリティに、彼らはほぼフリーパスで訪れてくるようになったが。備品倉庫に来るためには、オフィスの前を通過する必要がある。どうやら、彼らの姿はしっかり目に留まっているらしい。
「揃えたわけではありません。青砥さん達が勝手に持ち込みました」
「ふうん。あの女先生、しょっちゅう出入りしてるみたいだもんな。もしかして、榎本、あの女先生とできたのか?」
「…………」
 できた、という言葉の意味がわからなかったわけではないが。一瞬、反応に困った。
「いいえ」
「え、違うのか!? じゃあ、何しに来てるんだ?」
「密室に関するアドバイスをしてほしい、と。事件が起きたとき、説明や意見交換のために」
「はあ? 世間じゃそんなに密室殺人が起きてるのか?」
「…………」
 言われてみれば、純子に関しては、最近は密室に関係なくやって来ることも多い。
 では何をしに来ているのか、と聞かれれば……愚痴を言いに来ている、としか言いようがないのだが。
「さあ、どうなんでしょう」
「ふうん。まあいいや。邪魔したな」
「いいえ」
 今度こそ、会話は終わった。
 物珍しそうにあちこちうろうろした後、立川はオフィスへと戻って行った。
 榎本は、何事もなかったかのように開錠作業に戻り、それっきり、立川のことは忘れてしまった。
4策略にはまる榎本×純子 2:2012/06/07(木) 00:00:15.22 ID:auYlvkwW
「榎本さん、こんばんはっ!」
「……青砥さん。今日は、どのようなご用件ですか」
「見て下さい! このケーキ、青山の有名なお店で買ってきたんです。美味しそうでしょう? 一人で食べるのはもったいないからおすそ分けに来ました!」
 その日の夕方。
 通常業務がそろそろ終わる、という時間帯。いつものように、仕事帰りらしいスーツ姿の純子が、備品倉庫に顔を見せた。
「どうぞどうぞ。榎本さんから好きなの選んでください」
「いつもすみません」
 どうやら、今日も事件とは関係のない用事らしい。また何か、仕事でトラブルでも起きたのか。
 純子が差し出した箱の中には、色鮮やかなケーキがいくつも入っていた。自分ではまずこんな店に入ることはないので、正直、純子の手土産は毎回楽しみでもある。
 榎本がケーキを眺めていると、「お茶を入れますね!」という弾んだ声がとんできた。
 そして……

 ――ガシャンッ!

 派手な音に振り向くと、床にカップが転がっていた。
 幸い、分厚い陶器でできたカップは、傷一つつかなかったようだが――妙な沈黙に、榎本は、視線を上げた。
 落ちたカップを拾おうともせず、飲み物を片付けてある棚の前で凝固している純子の姿が目に入った。
「青砥さん?」
「……榎本さん……」
「青砥さん、どうされました?」
「…………」
 純子は答えない。その肩が小刻みに震えているのが目に入った。
 寒いのか? いや、季節は初夏。どちらかと言えば暑い。体調でも悪いのか?
「青砥さん、だいじょう……」
「え、榎本さんっ!」
 立ち上がる。声をかける。歩み寄ろうとした瞬間、唐突に振り向いて、純子は上ずった声を上げた。
「し、知りませんでしたっ! 榎本さん、彼女いたんですね!」
「……はい?」
「わ、わたしったら、それなのに図々しく毎日押しかけてきて、本当にすみませんでしたっ! あの、彼女さんが気を悪くしたら悪いのでわたし帰りますっ!」
「青砥さん、一体何の……」
「お、お邪魔しましたっ!!」
「…………」
 榎本の言葉に耳を傾けることなく、純子は、身を翻すと、脱兎の勢いで備品倉庫をとびだして行った。
 一体、何が起きたのか? 彼女? そんな存在は今も昔もいた覚えはないが、何をどうしたらそんな話になるのか?
 いや、それより。何故だか、純子が泣いていたように見えたのだが……それは自分の気のせいだろうか?
 首をひねりながら、落ちたカップを拾い上げる。それを棚に戻そうとして――
 およそ、そこにあるはずのないものが目に入って。榎本は、眉を潜めた。
5策略にはまる榎本×純子 3:2012/06/07(木) 00:01:01.98 ID:auYlvkwW
 同日、夜。芹沢法律事務所にて。
 クライアントとの会合が長引いた芹沢が、ようやくオフィスに戻ってくると、タイミングよく、秘書から「お電話が入っています」という連絡が来た。
「誰だ、弁護の依頼かあ? 勘弁してくれよ。俺、疲れてるんだからさあ。うまいこと言って、明日にしてくれって言ってくれない?」
「いえ、違います」
「じゃあ誰。あ、わかった。山川商事の社長さん? またゴルフの誘いだろ? あの社長、下手の横好きだからなあ……悪いけど忙しいって」
「榎本さんです」
「……はあ?」
「榎本さんから、芹沢先生当てにお電話です」
「榎本お? 榎本って、あの榎本か? 東京総合セキュリティの榎本か?」
「はい、そう言っておられました。どうされますか?」
「青砥は?」
「青砥先生は、もうお帰りになってますけど」
「……出るよ」
 何の用事か知らないが、榎本から芹沢に連絡が来るのは珍しい。仕事絡みの話なら、大抵は純子を通してくるはずなのだが。何かあったのだろうか。
「はい、芹沢です」
『夜分遅くに申し訳ありません。東京総合セキュリティの榎本ですが』
「おー、堅苦しい挨拶はいいよ。俺達、チーム榎本の仲間だろお? で、どうした?」
『……青砥さん、そちらにお戻りになられてますか?』
「は? 青砥?」
 榎本の質問に、芹沢は首を傾げた。
 純子はもう帰宅したらしい。最近の行動パターンを考えると、仕事が定時で終わった日は、大抵榎本のところに顔を出しているようだが。今日は行かなかったのだろうか。
「いや、今日はもう帰ったみたいだけど」
『……そうですか。失礼しました。では』
「いやいや待て待て切るな切るな。何があった?」
 何やら事情がありそうだ、と、芹沢は椅子に座りなおした。
 傍から見ていれば、純子が榎本に気があるのは見え見えで。榎本とて満更ではない様子なのに、あの二人は何故かいっこうに進展する様子がない。
 上司として、女としての色気が全くない部下のことが心配でもあった。ここは一つ、俺が手を貸してやらねば。
「何があったんだ? 言ってみろ言ってみろ。俺は少なくとも榎本よりは経験豊富だぞ?」
『はあ。何が、と言うほどのことでもないのですが、青砥さんが本日こちらにいらっしゃいまして』
「おお、あいつもまめだな。で?」
『お土産に、とケーキを頂いたのですが、食べずに帰ってしまわれまして』
「……はあ?」
『少々誤解をしていらっしゃるようなので、電話をしてみたのですが、繋がらなかったものですから』
「待て待て。俺はお前の話が繋がらない。ちゃんと一から説明しろ、一から」
『はあ……』
6策略にはまる榎本×純子 4:2012/06/07(木) 00:02:44.11 ID:auYlvkwW
 芹沢の問いに、榎本は淡々と答えた。
 夕方に純子がやって来た。お茶の準備を始めた。すると、戸棚で何かを見つけた純子が、突然取り乱した。
 榎本に彼女がいたのか、と言い、彼女に悪いから帰る、といい飛び出して行った。
 以降、携帯にかけても出ない。買ってきたケーキは置き去りのままで、食べきれないのでどうしようかと思ってる――
「ケーキは忘れろ。そこは重要じゃない」
『はあ。わかりました。オフィスに行けば誰か残っていると思うので、彼らに差し入れておきます』
「ああ、そうしとけ。で? 何、榎本。お前、彼女いたの?」
『いいえ』
 一瞬のためらいもなく言い切られた。まあ、いたらいたで驚くところだが。
「だろうなあ。で? 青砥は何でそんな勘違いを?」
『恐らく、戸棚で見つけたもののせいだと思うのですが』
「何だ。マイナーなネットアイドルのブロマイドでも隠してたのか?」
『いいえ』
「じゃあ、何を見つけたんだ。戸棚って、あのカップとかコーヒーとか入れてある棚だろ? あんなところに何があったんだ?」
『避妊具です』
 がたがたがたがたっ! と、芹沢の身体が椅子から滑り落ちた。
 避妊具。それはあれか。いわゆるこんどー……
「……榎本。お前もやっぱり男だったんだな」
『はい、そうです』
「馬鹿、今のを文字通りに受け取るな! そうじゃなくて……お前もやっぱりそういうの持ってたんだなあ……いや、お前だって男だもんな。俺は理解するぞ、うん。男なら仕方ないよな。なあ榎本」
『僕のものではありません』
 妙な親近感を覚える芹沢に、榎本は冷たく答えた。
『昼間に、同僚が倉庫に来まして……先ほど確認しました。彼が、戸棚に忘れて行ったそうです』
「同僚が何でコンドーム片手にお前のところに来るんだよ。いろいろおかしいだろうが。その同僚って女?」
『いえ、男性です』
「ますますおかしいだろ! 何だ? お前、女には興味なさそうな顔して実はそっちの趣味があったのか?」
『おっしゃる意味がよくわかりませんが……とにかく、青砥さんはどうもそれを僕のものだと勘違いされたようなので、一応説明をしておこうと』
「ほう。お前でもそういう気遣いができるんだな」
『気遣い……でしょうか? 帰るとき、泣いておられたように見えたので』
「はあ?」
『僕の勘違いかもしれませんが。それが少し気になったので。ケーキのお礼も言ってませんし』
「だからケーキは忘れろ。泣いてた。泣いてた、ねえ……」
 ふむう、と、声に出さずにうなる。どうやら、芹沢の想像以上に、純子は榎本を真剣に思っていたらしい。
 正直、棚にコンドームを残していく同僚の真意の方が気になったが、それはとりあえず脇に置いておく。
7策略にはまる榎本×純子 5:2012/06/07(木) 00:03:59.98 ID:auYlvkwW
「なあ、榎本。お前、今日はこの後暇なのか?」
『はい。業務は終了しています』
「そうか。お前、青砥の家はわかるな?」
『はい。以前にお伺いしましたので』
「結構結構。上司の俺が許可する。今から青砥の家に行って来い」
『……はい? こんな時間に、ですか?』
「大丈夫大丈夫! 俺が保証する。もし青砥が戻ってなかったら、戻るまで家の前で待て。あっと、その前に。榎本、その同僚が忘れていったコンドーム、どうした?」
『同僚に返しましたが』
「何だ、返しちまったのか。じゃあしょうがない。青砥の家に行く前に、ドラッグストアでもコンビニでもいいから、それと同じ商品を買って来い」
『……はい?』
「で、だ。青砥にあったら、それ見せてこう言ってやれ。いいか――」
 芹沢が伝授した台詞を聞いて、榎本が返してきたのは、長い長い沈黙だった。
「おい、榎本。聞いてるかあ?」
『……それを……僕が、青砥さんに言うんですか?』
「当たり前だろ。俺が言ったらまずいだろ」
『僕が言うのはまずくないんでしょうか』
「全然問題ない。俺が保証する。いいか、榎本。俺とお前の仲じゃないか。俺の言うことに間違いはない。俺を信じろ」
『…………』
 自信満々に言い放つ芹沢に、榎本が返したのは沈黙だった。面と向かっていたらため息もおまけについたかもしれない。
『……わかりました。芹沢さんのご意見は参考にさせて頂きます』
「おう。結果は教えろよ。うまく行ったら一杯おごれ」
『……失礼します』
 ぶつっ、と電話が切れた後。芹沢は、鼻歌混じりにオフィスを後にした。
 さて、この結果、あの二人がどう進展するか。それを今から楽しみにしておこう。
 ……それにしても……
 榎本の同僚とやらは一体何が目的だったんだろうか?

 〜〜同日同時刻、東京総合セキュリティ近辺の居酒屋にて〜〜

「ざまあみろざまあみろ榎本め! 榎本のくせにあんな可愛い彼女ができるなんて生意気なんだよっ!」
「もうっ、立川さん飲みすぎー」
「いいんだよ、これは祝勝会なんだから! お前だって見ただろ? あの綺麗な女弁護士さん、泣きながら倉庫飛び出して行ったぞ! ざまあみろ榎本め!」
「ちょっと気の毒じゃないですかー? いたずらにしても性質が悪いですって」
「いいんだよっ。あれくらい、フォローできない榎本が悪いんだっ!」
「っていうか榎本さん、これが何か知ってますかね? そっちの方が気になるかも」
「あ、言えてるかもー! だって榎本さんってどう見ても童貞だよね?」
「言ってやるなよ! 男にとってそれって相当屈辱なんだからさあ!」
「さあお前らも飲め飲め! 今日はとことん飲むぞお!」


〜〜続く〜〜
8名無しさん@ピンキー:2012/06/07(木) 00:04:55.18 ID:GImEsIPK
すいません、長くなりそうなので一回切ります。
続きはまた近日中に
9名無しさん@ピンキー:2012/06/07(木) 03:34:50.42 ID:K/Gjk4Nj
乙です!青砥・榎本はもちろん、芹沢の脳内再現度が半端ないw後編期待してます!
10名無しさん@ピンキー:2012/06/07(木) 06:02:47.98 ID:FINdVsZA
>>1>>8
おつ!

>>9
SAGEになってる。
11名無しさん@ピンキー:2012/06/07(木) 06:25:39.21 ID:IFDpgWzZ
>>1
乙!

書き手さんGJ!おもしろいよー!
12名無しさん@ピンキー:2012/06/07(木) 06:40:13.20 ID:NFgiYF+E
>>3
続きが楽しみです。

ところで前スレ貼らなくていいのかな…?
13名無しさん@ピンキー:2012/06/07(木) 06:45:15.70 ID:Y467FtJh
14名無しさん@ピンキー:2012/06/07(木) 22:29:17.00 ID:Qo8Y9sin
おつおつー!
芹沢の再現度ぱねぇwww
続き楽しみに待ってます!
15名無しさん@ピンキー:2012/06/07(木) 23:03:39.61 ID:ZH+hJvxI
もう新スレですか
このスレの人たちはみんな仕事が早いですね
書き手さんたちもサクッとスマートに神作品投下してくれるし
毎日このスレを覗くのが楽しみになってます
168:2012/06/08(金) 19:57:40.92 ID:+PC0RfXy
お待たせしました。
>>3-7 の続きを投下します。
17策略にはまる榎本×純子 6:2012/06/08(金) 19:59:08.42 ID:+PC0RfXy
 夕食を散々やけ食いした後、純子は、重くなった胃を抱えて、自宅マンションへの道を急いでいた。
 忘れよう。忘れてしまえ……といくら言い聞かせても。目にしてしまった異様に生々しい小道具の姿が視界に焼き付いて離れない。
(榎本さん、彼女いたんだ……)
 いや、ひょっとしたら、いつかやって来るかもしれないチャンスを逃さぬため……と相手もいないのに用意していた、あるいはその手の商売をする女性相手に使うために持っていた、という可能性もなくはないが。
 あの榎本に限って、まさかそれはあるまい、と。妙な信頼感が、純子により悲壮な思いをもたらしていた。
(そりゃ、いたって不思議はないよね。鍵のこととか防犯のことしか興味がないって思ってたけど、榎本さんだって普通の男性だし……どんな女性なのかなあ。榎本さんの魅力がわかる女なんて、わたししかいないって思ってたのに)
 少々酒が入っていることもあって、純子の思考は、常よりずっと素直だった。
 そうだ。認めてしまえ。自分は榎本に惹かれていたのだと。それは恋心と呼んで差支えないほどに、熱い確かな思いだったのだと。
 そして、それが今日、片思いに終わった。それだけのことなのだ、と。
「はあ……辛いなあ。悲しいなあ」
 純子とて、この年になるまで恋の一つや二つは経験しているし、振られたことも振ったことも一応それなりにはある。経験値は低い方だろうが、恋の辛さや痛みが何たるかくらいは、知っているつもりだ。
 だが、今日味わっている痛みは、過去に経験したどの痛みよりも激しい……などと考えながら、重い足取りでマンションの玄関をくぐると。
「青砥さん」
「……はい?」
 ありえない声が聞こえて。思わず、顔を上げた。
 何だ、自分はそんなにも酔っていたのか。幻聴が聞こえるくらいに、幻覚が見えるくらいに。
「……榎本さん?」
「…………」
 オートロックのマンション。その共同玄関にて。
 夕方、別れたはずの男……榎本が。手持無沙汰に、立っていた。
 幻覚じゃない。思わず手を伸ばして、榎本の頬に触れて、そして確信する。
 ここにいる榎本は、本物だ。
「あ、あの、青砥さん?」
「榎本さんだ……何で榎本さんがここに……」
「……もしかして、酔ってらっしゃいますか?」
「酔ってませんよ! 榎本さんこそっ……何で? 彼女さんはいいんですか? こんな時間に他の女のところになんか来て。彼女さんが聞いたら怒りますよ?」
「……そのことについて、お話したくて来たんです。こんな時間に申し訳ありませんが、お邪魔してもよろしいでしょうか」
「はい……?」
 そのこと。そのことってどのことだ。いや、とにかく、せっかくここまで来てくれた榎本を、無下に追い返すわけにはいかないだろう。
 小さく頷いて、震える手で鍵を開ける。
 お話したい、と言った。何の話だろう? 恋人に叱られたからもう来ないでくれ、という、そんなお願いだろうか?
 自分でも嫌になるほどネガティブな感情に支配されながら、純子は、自宅のドアを開けた。
18策略にはまる榎本×純子 7:2012/06/08(金) 20:00:32.24 ID:+PC0RfXy
「ええと、汚いところですみません。どうぞ」
「…………」
 純子の言葉に榎本は無言だった。本当に汚いところだ、と思われているのかもしれない、と赤面する。
 油断していた。こんなことになるとは思っていなかったから、部屋を片付ける暇がなかった。いや、足の踏み場もないほど散らかっているわけではない……ちょっとあちこちに物が置かれていて、あちこちに生活の跡が残っているだけだ、うん。
「あの、話って何ですか」
「…………」
 純子の言葉に、榎本はうつむいた。
 何だか、その肩が揺れているように見えるのは気のせいだろうか……とぼんやり眺めていると。
 ぐいっ! と、目の前に手が突き出されて、思わずのけぞった。
「え、榎本さん?」
「……これについて……」
「え? はい?」
「これについて、説明したいと思いまして」
 いつにも増して平板な……もっと言えば棒読みな口調。
 何だ何だと思いながら、突きつけられたものに焦点を合わせる。……見たことがないわけではないが、それでも、目をそらさずにはいられない、異様に生々しい小道具。
「榎本さん」
「これを見て、青砥さんは僕に彼女がいると勘違いされたようですが、それは違うと説明したくてここまで来ました」
「いや、あの、榎本さん」
「すいません少し黙って僕の話を聞いてくださいこれにはわけがあってこれは深い事情がというか僕のものではないというかいやそれは違ってこれがあんな場所に置かれていて青砥さんの目に触れることになったのには色々と本当に色々な事情が」
「榎本さん!」
 ばんっ! とテーブルを叩くと、榎本のマシンガントークが止まった。
 嫌な沈黙が流れる。二人の間に放り出された小道具からはあえて目をそらして、純子は、こほんと咳払いした。
「すいません。要点だけ説明願えますか……つまり、この……その、これがあの場所にあったのには、どんな理由があるんですか?」
「それは」
 純子の問いに、榎本は思い切り視線を泳がせた。
 実にわかりやすい挙動不審と長い沈黙。しびれを切らし、「もういいです」と純子が席を立ちかけた瞬間――
「――あなたと使いたいと思って準備していたんです」
「え?」
「青砥さんと使いたいと思って準備していたんです」
「…………」
 何だろう、この展開は。この台詞をしゃべっているのは本当に榎本なのか?
 顔を上げると、榎本は純子を見ていなかった。うつむいたまま、ぼそぼそした口調はいつも通りだが、いつも以上に棒読み……いや、機械が読み上げる音声ガイダンスだってもう少し感情がこもってるだろう、と言いたくなるくらいに抑揚のない言葉。
 鉛のような沈黙が立ち込めた。
19策略にはまる榎本×純子 8:2012/06/08(金) 20:02:21.20 ID:+PC0RfXy
 一方、榎本は胸中で芹沢を罵っていた。
 最初、この案を芹沢から出されたときは我が耳を疑った。同僚が忘れていったものだ、自分のものじゃない――そう説明すればすむ話だと思っていたのに、何故、こんな嘘をつかなければならないのか?
(榎本お……お前はわかってない。わかってないぞ? 女っていうのはな、思い込みが激しいんだよ。今の青砥にそんなこと言ってみろ。下らない言い訳しないでください、って切って捨てられるのがオチだぞお?)
 とは芹沢の弁だが。だからと言ってこの嘘はないだろう。下手したら立派なセクシャル・ハラスメントで訴えられても文句は言えないではないか。
 膝の上で握りしめた拳が、真っ白になるのがわかった。さっきから純子は沈黙するばかりで、空気がどんどん重くなるのが肌で感じられた。
 最低、出て行け――と罵られた方がマシだ、と思いながら、生まれて初めて買った小道具をに視線をやると。
「――榎本さん」
「は、はい」
 唐突に、純子が顔を上げて、びくり! と身が強張った。
「榎本さん……」
「……青砥さん?」
 顔を上げて、正面から純子の顔を見て。そうして、一瞬、息が止まった。
 純子は、泣いていた。
 恐らく、酒が入っているのだろう。赤く染まった頬と、大きな瞳から溢れる透明な滴。やや乱れた髪と、崩れた化粧。
 いつもパンツスーツで地味ながらびしりと決めていた、女弁護士の姿はそこにはなかった。
 どこか弱弱しい、それでいて色っぽい、一人の女性がいた。
「青砥さん……」
「それ、本当ですか……?」
「はい?」
「それ、本当ですか……わたしのためにって。それって、それって榎本さんがわたしのことを? そう思っていいんですか?」
「…………」
 何を問われているのか、と数秒ほど真面目に考えて。そして鈍い己の頭を殴りつけたくなった。
 対人関係には疎い自分でも、さすがにわかる。純子が、何を言いたいのか。何を求めているのか。
「青砥さん……」
「……嬉しいです」
 ぐすっ、としゃくりあげて、純子は小さくつぶやいた。
「わたし、嬉しいです。嬉しいって思ってます……」
「…………」
「ショックだったんです。榎本さんがこんなの持ってるなんて……榎本さんは、遊びでそういうことする人じゃないから、それって彼女さんのためにだよなあって……そう思ったらすごくショックでした……」
 ぐすぐすとしゃくりあげる純子を見ていられなくて、目をそらす。
 先ほど口にした言葉は嘘だ。芹沢に吹き込まれた、真っ赤な嘘。
 けれど、自分の胸に宿るこの思いは、嘘じゃない。
 心から、思ったのだ。純子が誤解して榎本の前から立ち去った、あの瞬間。
 失いたくない、と。また来て欲しい、会いたい、と。
20策略にはまる榎本×純子 9:2012/06/08(金) 20:03:58.76 ID:+PC0RfXy
「彼女なんて、いません」
「榎本さん」
「僕に彼女なんて、いません……好きな人は、いますが」
「…………」
 これは、やはり自分の口から告げた方がいいのだろう。
 不運が重なった、というか、榎本自身には何の非もない、と信じたいが。それでも、自分は確かに純子を傷つけたのだ。
 ならば、その落とし前は、自分でつけるべきだろう。
「――あなたが好きです。青砥さん」
「…………」
「すいません。最低のきっかけで、告げることになってしまって」
 小さく頭を下げると、純子は激しく首を振って、そのまま抱きついてきた。
 女性に泣かれるなど、初めての経験なので、どうしたらいいのかわからない――おろおろする榎本に構わず、その胸につっぷして、純子は大声で泣いた。
「嬉しいです」
「青砥さん」
「嬉しいです。すごく、すごく嬉しいです――わたしも、わたしも榎本さんのこと好きです。ずっとずっとっ……うーっ……」
「あの、もう泣かないでください……本当に、すいません」
「っ……何で謝るんですか! 嬉しい、って言ってるのに!」
 ばっ! と、顔を上げられる。涙に濡れた目で見つめられて、ぐらり――と、理性が揺れるのがわかった。
「……青砥さん」
「…………」
 にらいみあいに近い見つめあいは、ほんの数秒。どちらが先に顔を近づけたのか、真相は藪の中。
「っ…………」
 初めて重ねた唇の味は……正直に言えば、やや酒臭かった。

 使いたかったんですよね、わたしと使いたいって言ってくれましたよね? と押し切られるように、純子宅のベッドに転がり込んだ。
 酔ってますよね? と聞くと、酔っていません! と言い切られた。
 が、その頬も、はだけたブラウスから覗く胸元も、頬に伸ばされた手も、真っ赤に染まっていて。酒が彼女を突き動かしているのは、明らかだった。
「あの、青砥さん?」
「……してください……」
「すいません、ちょっと心の準備が……ちょっと待って下さい。物には順番というものが」
「好きだって言いました! キスもしました! そうしたら次は普通これじゃないですかっ!」
「そ、そういうものかもしれませんが」
 それでも、告白したその日に最後まで……というのは、いささか性急ではないだろうか?
 ましてや、素面の純子が求めて来たというのならともかく、酔った勢いで迫られて抱くというのは、男として、無責任ではないだろうか?
 だが、胸に抱きついて「好きです、嬉しいです」と繰り返す純子は、今まで見たこともないほど弱い……もっと言えば可愛らしい姿で。突き放すのは、難しかった。
 覚悟を決めて、ぐるりと体勢を入れ替える。ベッドに押し倒して見下ろすと、純子は、幸せそうな笑みを浮かべていた。
 思わず息を呑む――綺麗だ、と。素直な感想が漏れた。
21策略にはまる榎本×純子 10:2012/06/08(金) 20:05:20.02 ID:+PC0RfXy
「青砥さん……」
 二度目のキスは、触れるだけでは終わらなかった。
 経験など無いのに、身体が動くのは何故だろうか?
 自然に絡む舌を弄びながら、片手で、純子の服を剥いだ。
 ブラウスのボタンを外し、前身頃を全開にする。白い肌は真っ赤に染まっていて、いっそ痛々しいくらいだったが。触れた肌はほのかな熱を放っていて、手のひらが吸い付くような感触を味わった。
「ん〜〜っ……榎本さあん……く、くすぐったいですっ……」
「っ……す、すいません。慣れていないもので」
「慣れてないって……慣れてないってことは、ちょっとは経験あるってことですか……?」
「……すいません。初めてなもので」
 酔ってはいても、さすが弁護士。頭の回転は早い。
 純子の鋭い切り返しにあっさりと白旗を掲げ、榎本は、手に力をこめた。
 痛い思いをさせたくない、傷つけたくない、という思いはもちろんあるが。それ以上に、自分の思い通りにしてしまいたい、という思いもある。
 男として、自分がリードしたい、という、つまらない征服欲。
「榎本さん……」
「…………」
 背中に手をまわして、下着のホックを外す。自分の手先が器用なことを、これほど感謝したのは初めてかもしれない。
(……そういえば。あれ、は……いつ、使えば……)
 ふと脳裏を過ぎるのは、そんな疑問。
 そもそものきっかけとなったソレは立川に返してしまったので、わざわざドラッグストアに行って買う羽目になった、新品の避妊具。
 一応、榎本も知識として、使い方くらいは知っている。だが、それをいつ、どんなタイミングで使えばいいのか。それが、よくわからない……挿入の前に使う必要があるということは、さすがにわかるが。使用意図的に。
(……考えないでおこう)
 考え込むと、返って動けなくなる。勢いに任せよう、と開き直って、榎本は、純子の身体に溺れて行った。
 勢いで初めてしまった行為だった。けれど、自分の思いは本物だった。純子も、榎本を真剣に思っていてくれた。それが、嬉しかった。
 だから、その思いに応えたい。純子を傷つけたくない、汚したくない。
 その思いがあったから。初めて――ではあっても、無責任に突っ走ることだけは、しなかった。
 恐らく、手つきにぎこちないところはあっただろう。十分に純子を満足させることができたかどうか、それも自信はない。
 けれど、致命的な失敗はしなかった。失敗せずに、目的を――思いを遂げることができた。
 そのことに満足して。純子のベッドの上で、榎本は力尽きた。

 ――頭が痛い……――
 目が覚めたきっかけは、単純な欲求……喉が渇いた、トイレに行きたいという、酒を飲んだ翌日にありがちなきっかけだった。
 だが、目を覚ました瞬間襲ってきた衝撃は、これまでの非ではなかった。
「っ……榎本さんっ!?」
「…………」
22策略にはまる榎本×純子 11:2012/06/08(金) 20:06:34.40 ID:+PC0RfXy
 狭いベッドの中で、隣に榎本が寝ていた。
 それだけでも十分に衝撃的だったのだが、寝ていた榎本が裸――で、ついでに自分も裸のままであることに気付いて、天に届くような絶叫をあげた。
 何だ何だ何が起きた? 何がどうしてこうなった?
 ぐるぐる回る視界の中、ベッドを飛び降りて、放り出された服をかき集める。
 おぼろげに覚えている――そう、忘れてはいない。榎本の言葉も、それに自分が何と答えたのかも、全て覚えている――
「〜〜〜〜っ!!」
 昨夜の自分の大胆な発言を思い出し、純子が頭を抱えてうずくまると。
「……おはようございます、青砥さん」
「ひゃあっ!?」
 背後から、淡々とした挨拶がとんできて。純子は、文字通りの意味でとびあがった。
「お、おはようございますっ……榎本さんっ……」
「…………」
 寝起きの榎本。眼鏡をかけていない素顔が何だか新鮮で、目をそらせない――ばくばくと高鳴る心臓を押さえて、純子が後ずさると。
 榎本の目に、ふと、心配そうな色が浮かんだ。
「……覚えていますか?」
「え?」
「昨夜のことを……覚えていますか?」
「…………」
 ふっと、気が軽くなるのがわかった。
 ああ、この人は覚えている。忘れてはいない……忘れようとはしていない。
 それだけ、自分のことを真剣に思ってくれているんだ、と。
「――もちろんです」
 にっこりと笑って、頷いた。
 朝から気恥ずかしい、という思いはある。けれど、酔った勢いの戯言だとは思われたくなかったから。
「わたし、あなたのことが好きです、榎本さん」
「――それは、奇遇ですね。僕も、あなたのことが好きです、青砥さん」
 微笑みを交わしあった。きっかけなんてどうでもいい。ここから新しい一歩が始まる――
 たったそれだけのことが、どうしようもなく幸せだった。
23策略にはまる榎本×純子 12:2012/06/08(金) 20:07:44.44 ID:+PC0RfXy
 〜〜翌日、芹沢法律事務所にて〜〜

「芹沢さん。これ、榎本さんから預かりました」
「ああ? ビール? 榎本から? 何でだ?」
「わたしに聞かれても知りませんよ。伝言も預かってます。『一杯奢れとのことでしたが、こういった形でもよろしいでしょうか』だそうです」
「……ああ、そういうことか。あいつめ、連絡入れろって言ったのに……なあ、青砥」
「はい、何ですか?」
「それで、榎本の奴はどうだった?」
「? どうってどういうことですか?」
「ベッドの中ではどうだった、って意味で聞いてんだけど」
「――――!! せ、芹沢さんっ! な、な、何てこと言うんですか――! それってセクハラですよセクハラ! 完全なセクハラっ!」
「ほう。否定はしないのか、やっぱり」
「な、な、な、な――っ!!」

 〜〜同日同時刻、東京総合セキュリティ地下備品倉庫にて〜〜

「おう、榎本。邪魔するぞ……何だ、うまそうなもの食ってるな」
「頂きものですが。青山の有名なケーキ店で買ったものだそうです」
「ふーん。一つもらってもいいか」
「お断りします」
「……まあいいや。それより榎本、一昨日は悪かったなあ」
「――悪かった、とは?」
「いやいや、忘れ物だよ、忘れ物。あの綺麗な女弁護士さんに見られちまったんじゃないの? あの日、泣いて飛び出してったの見てさあ。悪いことしたなあって思って」
「見られましたが、別に問題ありません」
「おお? 余裕の発言だな。ああ、そうか。榎本とあの女弁護士さんは何の関係も無いんだったな。じゃあ見られても……」
「いいえ」
「……あ?」
「何の関係も無い、ということはありません」
「あ? それって……ああ、そうか。クライアント、客……そういうことか?」
「いいえ」
「……アドバイザー? 協力者?」
「いいえ」
「…………友達、ってことか?」
「いいえ」
「…………」
「はっきり言った方がよろしいでしょうか」
「……いや、いい……邪魔したな」
「いいえ」

 その夜、東京総合セキュリティ近辺の居酒屋にて、やけに荒れた客が大暴れしていた、という噂が社内を飛び交うことになったが。
 無論、榎本には何の関係も無い話だった。

〜〜END〜〜
248:2012/06/08(金) 20:09:11.59 ID:+PC0RfXy
終わりです。長い割に肝心のエロ描写が薄くってすいません。
またROM専に戻ります。
25名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 21:04:21.61 ID:XxbDDFBw
上手い!!
物語の運びかたとか、描写とか、語り口とかめっちゃ好みです。
また書いてください!
26名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 21:18:55.46 ID:N5E8YHDY
いやいやご謙遜、面白かったよGJ
27名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 21:38:16.50 ID:trA1ArXf
待ってたよー。
続きを色々妄想してたけど、期待以上だった。
たしかにエロは薄いのに、すごく楽しめた。
GJ!
28名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 21:48:38.98 ID:S7tDsipW
GJ!おもしろかったです。
各キャラがそのまんまで、話もよくてニマニマしちゃいました。
また書いて下さいね。

もう金曜日なんて早すぎる。
月曜日には、ヤクザに迫られる青砥や嫉妬メラメラの榎本とか、
焚付けて面白がる芹沢とか、見られるのかな?w
最終回は30分延長みたいだし、本当に楽しみ。
29名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 21:51:02.79 ID:26hiZEHp
立川おもろいw
30名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 22:32:17.04 ID:trA1ArXf
前スレ書き込めなくなったみたい。

前スレ607
同じ感想の人がいてうれしいです。

前スレ608
私は読みたいけど…。
これから放送されるネタばれとかなければいいんじゃないかな。
どうでしょう。
31名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:03:16.47 ID:GMO7Du15
前スレ608さん
自分も同じくネタバレなければ、ありだと思います。
ちょっと大人の榎青、みてみたい…

最近立川さん人気なので、自分もSS書いてみました。
しょーもないんですけど、すみません。
32立川は見た!:2012/06/08(金) 23:04:06.32 ID:GMO7Du15
ある日の東京総合セキュリティ。
立川は地下にある備品倉庫室に向かっていた。
ドアを開けようとすると、中から声が聞こえてくる。
『おーい、榎本ー。』と言いかけて口をつぐんだ。
その声が男女のものだったからだ。
ドアの外からそっと様子をうかがう。

「痛っ!痛いです…。もっと優しくしてください。榎本さん。」
「すみません。」

この声は榎本とあの美人弁護士か?
な、なにをしているんだ!榎本!
こんな白昼堂々と!

「私…こんなこと初めてなんです。だから…乱暴にしないで…」
「でも、仕掛けてきたのはあなたでしょう。青砥さん。」

は、は、は、初めてぇ!!
う、うらやましいぞ!榎本ぉ!あんな美人と…!
しかも、美人弁護士の方から誘ってくるなんて!

「い、いや…!もっと左です…。お願い…」
「わかりました。」
「あんまり強く動かないでください…!ほら、血が…」
「すみません。ちょっと、うまくいかなくて…」

はぁー、気になる!み、見たい!
33立川は見た!2:2012/06/08(金) 23:05:40.66 ID:GMO7Du15
気になり過ぎて、強くドアにもたれかかってしまったようだ。
元々ドアもきちんと閉まっていなかったらしい。
立川の体がよろめいて、倉庫室の中に誤って転がりこんでしまった。

「きゃっ!!えーと、立川さん、でしたっけ?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!決して覗くつもりは…ってあれ?」
立川が目にしたのは両手を錠で拘束されている純子の姿とそれを開けようとしている榎本の姿だった。

「立川さん!聞いてくださいよぉー。榎本さんったらひどいんです。私が痛いって言ってるのに、いろいろ腕を引っ張って開けようとするから…ほら…」
見ると、純子の手首が錠で擦れて赤くなり、少しだけ血が滲んでいる部分がある。
「元々は青砥さんが、興味本位で錠を触っているからこんなことになったんでしょう。
この錠は、鍵穴が変な場所にあるので、開ける時に手が邪魔になってしまうんです。
そのため、どうしても手をいろいろ動かしてもらわなければならないんです。」
「はぁー…、私、こんな風に手錠をされるなんて初めてです…何とかしてください、榎本さん!」

は、ははははは。こういうことだったのか…

立川はちょっと救われたような、それでいて、ちょっと残念そうな複雑な表情を浮かべながら去っていったとさ。 おしまい。

34名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:26:44.15 ID:8Fr6Dj3q
職人の方々GJです!!!

お目汚しですが投下させていただきます
恋人設定の榎本×青砥です
35 ◆.tIXxIXqHQ :2012/06/08(金) 23:27:39.54 ID:8Fr6Dj3q
「榎本さぁん」
「はい」
「……呼んだだけです」
 純子はおかしそうに笑った。榎本の腕にすがりつくように絡ませた腕は熱く、足取りはおぼつかず、妙に
上機嫌で鼻唄を歌っている。
(飲ませすぎたか……)
 二人で映画を見に行った。カフェで感想を語り合い、純子の買い物に付き合ったあと、食事をした。要は
デートである。
 そのまま別れるのは名残惜しかったので、こじゃれたバーに入った。純子はこういうオシャレな店に入る
のははじめてだと感動し、そして緊張し、いつもよりハイペースでアルコールを口に運んでいた。……その
結果が、この状態である。
 酔っ払いの扱いは不慣れだが、この状態の純子を放り出して帰ろうとはさらさら思わなかった。
 べったりとくっつかれるのも、よろけそうな腰を支えるのも、にこにこ笑いかけられるのも、そこまで悪い
気がしないのだ。それは、相手が純子だからだとしか思えない。
「あれー、榎本さぁん、顔赤いですよぉー」
「青砥さんの方が赤いですよ」
「そうですかぁ? ……ぅわっ」
 純子はいきなりなにかにつまずいた。しかし、榎本がしっかり腰を引き寄せたので転ぶことはない。抱き
しめる体勢になってしまった、と思っていると、榎本の胸に顔を寄せていた純子がなにかをつぶやいた。
「すみません、もう一度お願いします」
「だーかーらーっ! 明日、日曜日じゃないですか」
「はい」
「お仕事、ないんですよね?」
「はい」
「うちに泊まっていきませんかー!」
 純子の部屋に泊まったことは数回ある。子どもではないし、ましてや二人は恋人なのだから、一つのベッ
ドで夜を過ごした。つまり、純子の誘いは「そういうこと」を意味しているわけで。
 なんとなくそうなる気はしていた。そんな雰囲気も流れていた。あとは、どちらが言い出すかが問題だっ
ただけだ。
(青砥さんから言い出すのははじめてかもしれない)
「……迷惑でなければ」
「私は大丈夫です! むしろ大歓迎です! じゃあ、行きましょう!」
 純子は上機嫌で榎本の手を握った。その手は燃えるように熱かった。


 雨が降りだしたのは、純子のマンションに向かっている途中のことだった。突然のことなので、折りたた
み傘などあるわけもない。しょうがないので、マンションまで走ることになった。
「ツイてないですよね」
 部屋の鍵を回しながら純子が言う。まとめ上げた髪から雫が滴り落ちて、びくりと体をふるわせた。
「榎本さん、先にお風呂どうぞ」
 純子はそう言ったが、榎本は断った。
「いえ、青砥さんから」
「でもこのままじゃ風邪ひいちゃうし……っくしゅ」
「青砥さんが先に入ってください」
 純子の部屋なのだから、純子に先に入る権利がある。くしゃみもしていることであるし。
「あっ、じゃあ、一緒に入りましょう!」
「……はい?」
36 ◆/Nb2WPFPFI :2012/06/08(金) 23:28:32.04 ID:8Fr6Dj3q
 聞き返したつもりだったのだが、純子は肯定と取ったらしく、榎本の手を引いて脱衣場に連行した。そし
て、濡れた服をためらいなく脱ぎだす。真っ白な肌があらわになる。
 いつもの純子は、榎本が脱がせようとすると恥ずかしがる。抵抗はしないが、きつく目をつぶって息を詰
めている様子は、まるで嵐におびえる小動物のようだ。本当の嵐はこれからだ、と思うと、いつもぞくぞくす
るほど興奮する。
(よほど酔ってるんだな)
 純子はブラのホックを外すのに手間取っていた。外してやると、軽く礼を言って、洗濯籠へブラを放った。
なんとなく調子が狂う。
「榎本さんは脱がないんですか?」
「脱ぎます」
 脱がなければひんむかれそうなテンションだった。濡れて体に張りつくニットを脱ぎ捨てる。そうこうして
いる間に、純子は生まれたままの姿になっていた。
「私、先に入ってますね」
「はい」
 ぱたん、とバスルームの扉が閉まる。水音が聞こえてきた。
「ふぅ……」
 榎本は大きくため息をつく。緊張していることは、どうやらバレていないらしい。
 まともに男女交際をしたことが今までなかったので、純子とする行為のほとんどが榎本には初体験だっ
た。内心では緊張していたりどぎまぎしていても、無表情のおかげで見抜かれたことはない。逆にそのせ
いで純子を怒らせてしまったこともあるが。
 だがどちらかと言えば緊張よりも興奮の方が強い気がするのは、おそらく、榎本も酔っているからなのだろう。
 中に入ると、純子はシャンプーの泡を洗い流している最中だった。長い黒髪が白い背中に映える。流し
終わると、榎本に振り向いた。
「遅かったですね。どうしたんですか?」
「服を脱ぐのに手間取りました」
「確かに、脱ぎづらいですよね」
 純子は素直にうんうんとうなずく。なんとかごまかせたようだ。
「あっ、シャワー浴びてください。あったまりますよ」
「はい」
 シャワーの下に立つと、純子が頭からシャワーを浴びせてくる。どこか楽しそうだ。榎本の肩にふれて、
驚いたように言う。
「すごい冷えきっちゃってるじゃないですか! 風邪ひきますよ!」
「そうですか?」
「そうです! ……よっし、私があっためますね!」
 言うなり、純子は榎本に後ろから抱きついた。
「あったかいですか?」
「……はい。とても」
「よかったー。あっ、榎本さんの体、だんだんあったかくなってきましたね!」
 そりゃあ熱くもなる。肩甲骨のあたりにやわらかなふくらみがふれているのだから。それはおそらく、榎
本がベッドの中で揉んだり舐めたり吸ったりしている純子の胸で……。
「そういえば、考えてみたら、私がこんな風に榎本さんを抱きしめるってなかなかないですよね?」
「そうですね」
「そうですよね? なんか面白いんで、この機会に思いっきり抱きしめておきますね!」
 わきの下から純子の腕が回り、榎本の腹のあたりに巻きつく。頭の位置は下がり、ちょうど榎本の顔の
横に来た。少し振り返れば鼻がぶつかりそうなくらいの距離だ。
 男女の関係になっているのになにを今さら、という気もするが、こっぱずかしくてしょうがない。純子はし
らふのときでもスキンシップを好むが、酔っている今はますます過剰だ。
37 ◆xt8hW9JxvVwU :2012/06/08(金) 23:29:11.22 ID:8Fr6Dj3q
 ちゅ、と純子がうなじに吸いつく。下半身にふるえが走った。純子は気づいた様子もなく、榎本の首筋に
舌を這わせる。
「なにをしてるんですか」
「……なんか、しとかないと損みたいな気がして」
 説明になっていない。しかし純子はあくまでマイペースで、榎本の耳にそっと息を吹きかけた。くすぐった
くて、思わず体をすくめてしまう。
「ははっ、榎本さん、かわいい」
 酔っ払いのやっていることであるし、多少のことは目をつぶるつもりでいた。いたのだが、少しばかりお
ふざけが過ぎる。
「青砥さん」
「はい?」
 振り返りながら純子の唇をふさいだ。純子は目を見開いたが、すぐにまぶたを下ろす。すきまから舌を
入れると、向こうから絡めてくる。
 純子の腕がゆるんだ間に体を回し、正面から向かい合う。両腕をつかんで肩を押す。純子の背中が壁
にくっついた。
「ひゃっ」
 結露はさぞかし冷たいだろう、とは思ったが、止まらなかった。指と指を絡めて壁に押しつけ、動きを奪う。
もう純子に逃げ場所はない。
「榎本さんっ……」
 白いのどに口づける。純子の体が小さくはねて、甘い吐息が漏れる。手を握られる。
 肩口まで唇を這わせて、鎖骨のあたりを吸い上げる。白い肌の上に小さな赤が浮かぶ。一つだけでは
なく、いくつもいくつも作る。赤い花を握りつぶして花びらを散らしたように見えた。
 さらに頭を下に移動して、胸の先端を口に含む。痛くない程度に舌で押しつぶす。
「ぁ……っ」
 純子の唇からあえかな声が漏れる。風呂場の中に反響した。それが恥ずかしかったのか、純子の顔が
赤くなった。
 思いついて、わざと音を立てて吸ってみる。その音もしっかり響き渡る。
「だめぇ……っ」
「なんのことです」
「音……聞こえて……」
 わざとやっているのだから当たり前だ。
 つないでいた手を片方だけ離して、体のラインをなぞりながら下におろしていく。太ももの内側をなでさす
ると、純子の体が小さくふるえた。
 指先でそっと割れ目にふれる。そこはぬるぬるとぬめり、あたたかかった。シャワーとは明らかに違うね
ばつく液体が指に絡みつく。
 純子の右足の膝裏に左手を入れて持ち上げる。片足で立たされた純子が、倒れないように榎本の首に
腕を回してきた。
「青砥さんのが、丸見えです」
「やっ……」
 純子はきつく目を閉じている。そんな顔をされたら、ますますいじめたくなってしまう。
 空いている右手で、ひだをそっと開く。とろりとしたものがこぼれた。開かされてしまったひだをなんとか
閉じようと、ひくひく動いている。
「いやらしいですね」
「……見ないで……」
 消えそうな声で純子が言う。顔が赤い。少し涙目になっている気もする。
 ゆっくりと指を侵入させる。指の腹で内側を探る。純子が感じる箇所はもう知りつくしている。
「んっ……あぁ……っ」
 押し殺しても、声は甘ったるく、快楽にとろけている。理性と本能がせめぎ合う様子が手に取るようにわ
かった。
384/6  ◆uznl/wSQcc :2012/06/08(金) 23:29:55.64 ID:8Fr6Dj3q
「えの……も……」
 欲に溺れかけて、すがるように榎本を見つめる瞳。だが、救うつもりはなかった。というよりは、できなか
った。榎本は、もうすでに溺れていたからだ。
 空気を奪うようにキスをする。唇が離れると、純子はあえぐように一生懸命呼吸していた。
「あつい……頭が、くらくらする」
 アルコールを摂取した後で風呂に入り、なおかつこんなことをしているのだから、かなり血行はよくなって
いるだろう。榎本の場合、その血はすべて下半身に集中していたが。
「青砥さん」
 精一杯床で突っ張っている純子の左足の付け根に、いきり立ったものをあてがう。体がぴくんとはねた。
割れ目の谷間を分身でこする。くちゅ、とこすれる水音が立つ。
「ふ、ぁっ……」
 強くしがみつかれる。身長がそこまで変わらないので、榎本の肩にひたいを押しつけるような体勢だ。濡
れた髪が鎖骨のあたりをくすぐる。
 ゆるゆると往復を繰り返す。入れようと思えばすぐに入れられるが、そうしなかった。
「あ、の」
 しびれを切らしたように、切羽詰まった声で純子が言う。
「はい」
「……」
「……」
「……わかって、ますよね……?」
「はい」
 ただ、純子の口から言わせてみたいだけだ。
「僕にどうされたいのか、教えてくれますか」
「っ……」
 純子は息を詰める。だがその心は揺れている。やがては、榎本の手のひらの中に転がってくるだろうこ
とは予想がついた。
「……榎本さんに、……きて、ほしいんです……」
 だんだんと尻すぼみになっていくのが、とてつもなくいじらしい。じっくりと味わっていると、この言い方で
は満足しなかったと思ったのか、純子は言葉をついだ。
「気持ちよく、してください……っ!」
 自暴自棄のような口調だった。背中に爪を立てられたのはおそらくわざとだろう。
(そろそろか)
 これ以上じらすのは酷だ。純子にとっても、榎本自身にとっても。
 純子の右足を抱え直す。少し腰を落として、自身を穴の入り口にあてがう。ぐ、と腰を進めると、先端が
あたたかいひだのなかに入っていった。
「あっ……! ん、んんっ!」
 嬌声が浴室内にこだまする。純子ははっとしたように唇を引き結び、目をかたく閉じた。だが、榎本が動
きはじめると、こらえられずに声を漏らす。
「っ……ぁあっ……」
「青砥さん、目を開けてください」
「え……?」
 不思議そうにしながらも、純子は素直に目を開ける。純子の腰を抱き寄せ、前に突き出すような体勢に
させて、低い声で言う。
「下を見てください」
「し、た……?」
 言われるがまま目線を落とした純子は、ひゅっと息を呑み、あわてて目を閉じた。
395/6  ◆uznl/wSQcc :2012/06/08(金) 23:30:17.70 ID:8Fr6Dj3q
 明るい浴室内ではとてもよく見えることだろう。純子と榎本の、生々しい結合が。
「どうして目を閉じるんですか」
「どうしてって……」
「僕とこうしているのは嫌ですか」
 純子は赤くなりながらも首を振る。目はつぶったままだ。
「それなら、見てください」
「でも、こ、こんな……」
「いつもしていることです」
「そうですけどっ、だけど」
「見ないならもうここで終わります」
 腰を引いて分身を抜こうとすると、純子があせったように「待って」と言った。
「……目を、開けます。だから、……」
 やめないでほしい、と続けるのはあまりにも恥ずかしかったのだろう。だが、純子はまぶたを開いていた。
「……ちゃんと、見ます」
 その瞬間、榎本の心を満たしたのは、紛れもなく征服感だった。恥ずかしがる純子を屈服させ、言いな
りにさせたという満足。
 ゆっくり、見せつけるために動いた。ひだがまくれて、榎本の分身を呑みこんでいく。
 榎本の指示で、純子は自分の体が蹂躙されるところを観察している。
 すさまじい背徳感と高揚が背筋をかけのぼってぞくぞくする。
「見えますよね? 青砥さんの体が、僕のをくわえているのが」
「やぁっ……私、そんなんじゃ」
「そうですか? それならどうして、僕のはこんなに濡れているんですか?」
「っ……それはっ!」
 純子の目に、闘志に似た炎が宿る。
「……榎本さんをすきだからに決まってます!」
「……」
 予想外の反論に、虚を突かれた。
「私は榎本さんがすきで、榎本さんも私をすきで、こうして一つになって、……気持ちいい……のが、うれし
くて幸せだからっ」
「……」
「わ、悪いですか!? だめですかっ!」
 おそらく、負けたのは榎本なのだろう。だが、気持ちはむしろさわやかだ。
「そういう榎本さんだって、……エッチな気持ちになってるんじゃないですか!」
「はい」
 純子は一瞬黙りこんだ。
「そんなにあっさり認められると、ツッコミようがないんですけど……」
「青砥さんがかわいらしいので、ぐちゃぐちゃに犯したくなるんです」
「榎本さん、酔ってません!?」
「青砥さんも人のことは言えないと思いますが」
 言い返そうとする純子の唇をふさぐ。呼吸させるひまを与えずにやりこめる。同時に下も攻めると、また
背中に爪を立てられた。
「は……」
 とろんとした瞳が榎本を見つめる。無防備なさまはときに淫らにも見えるのだと、純子と体を重ねるよう
になってはじめて知った。
 緩急と強弱のリズムをつけて突き上げ、純子を追いつめていく。よがり声が壁や天井にぶつかり、跳ね
返って降り注ぐ。
「っあ、んん、は、ぁっ!」
 純子の体が熱い。顔も体も真っ赤だ。
406/6  ◆uznl/wSQcc :2012/06/08(金) 23:30:42.27 ID:8Fr6Dj3q
「えのもと、さ……だ、め」
「だめ?」
「わたし、……おかしく、なりそ」
 呂律の回っていない口で、純子は一生懸命自らの窮状を訴える。彼女をかき乱している原因の榎本に
むしゃぶりつく。
(おかしくなりそうなのは、僕もだ)
 榎本の分身にまとわりつきながら、締め付けてくる体。貪欲で淫靡で、かわいらしくて。
「はぁ……っ」
「ぁ、っん、は、やぁっ!」
 愛しさをぶつけるように腰を動かす。手加減など頭になかった。自分で自分が制御できない。けだもの
のように、荒っぽく暴力的にのぼりつめていく。
「あ、あああっっん!!」
 ほとんど悲鳴じみた高い声とともに純子が果てる。そしてそのまま気を失って、ぐったりと榎本にしなだ
れかかる。その体を抱きしめながら、純子のなかに欲望を解放した。


   ***


 ……そよそよと涼しい風が頬に当たるのを感じながら、純子は意識を取り戻した。
 まず最初に見えたのは、眼鏡をかけていない榎本の顔だ。無表情ながらも心配そうに純子を見ている。
「……榎本さん……?」
「気分はどうですか」
「えと……少し、だるいような……」
「冷たい水を飲みますか?」
「あ、はい」
 榎本は腰にタオルを巻きつけたままの姿で冷蔵庫に向かう。
(なんであんな格好してるの?)
 まだふわふわしている頭で一生懸命考える。目が覚める前に、なにがあったのか。
(榎本さんとデートして、で、雨に降られて、一緒にお風呂……)
「うわああああっ!?」
 思わず奇声を上げた。起き上がろうとしたが、頭がふらついてまたベッドに沈みこんでしまう。改めて自
分の体を見下ろすと、タオルを一枚かけられているだけで、他になにもまとっていない。あわてて掛け布団
を引き寄せる。
「どうかしましたか」
「しましたよ! ものすごく!」
(もしかして榎本さんはなにも覚えてないとか?)
 一瞬そんな考えが頭をよぎったが、榎本に限ってそれはないだろう。どうやら純子を介抱してくれていた
らしいので。
「私、榎本さんと一緒に、おおおおお風呂……っ!」
「入りましたね」
「あと、お風呂でっ……」
「しましたね」
「うわああああっ」
 酔ってなにをしでかしたか覚えていないときよりも、覚えているときの方がタチが悪い。自己嫌悪と羞恥
心のダブルパンチをおみまいされるからだ。
「酒は飲んでも呑まれるな……酒は飲んでも呑まれるな……」
 掛け布団を頭からかぶってダンゴムシ状態になりながら、純子はうめくようにつぶやいた。
41 ◆uznl/wSQcc :2012/06/08(金) 23:32:03.82 ID:8Fr6Dj3q
以上です
トリップのつけ方を間違えておかしなことになってしまいました
>>35-40までを書いたのは一人です
お粗末さまでした
42名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:39:16.85 ID:rMJSxuPT
乙です!GJすぎる萌える2828するww

前スレの608ですが、特にネタバレとかないのでさくっと投下します。
>>41さんと微妙にシチュ被りしててふおぉとなりましたがそこは目を瞑ってくださいorz
原作榎青ですがぶっちゃけ口調よくわからんまま書いてます。
一応エロありですがそんなエロくなんなかった・・・。無駄に長いです。
43名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:40:46.79 ID:rMJSxuPT
 するりと撫でられる。胸の谷間を沿い降りて腰回りを指で触れれば、青砥の表情には紅が差した。どきどきと脈打つ心臓が、うるさい。ごく、と榎本の喉仏が上下するのが見えて、それにまで意味もなく羞恥する。

「止めるなら、今の内です……」

 まだ乱れぬ着衣に手を掛け、まるで最終警告の如くそう呟く榎本に、青砥が顔を真っ赤に火照らせたまま、鼻を鳴らした。顔ごと、視線を背ける。

「ここまで来て、存外、意気地が無いんですね……」
「じゃあ、いいんですね?」

 榎本の手が、青砥の衣服に掛かる。ぎくりと身体は跳ねたがるが、青砥はそれも、詰めた息も、悟られないようにベッドのシーツを握りしめた。

「! ……い……いいですよ、どうぞ?」

 ぎゅう、と目を瞑った青砥のスーツのボタンを外していく榎本は、柄にもなく緊張していた。そして、恐らく、青砥も。二人分の鼓動、互いに聞こえてしまいやしないかと冷や冷やして、同時に、どこか投げやりに始まってしまった儀式に、どうしよう、と思う。

「……青砥先生……」
「何ですか」

 ボタンを外し終えた榎本は、手のひらで青砥の頬を撫でた。ひと瞬きで、それは離れる。青砥が、肩を揺らした。榎本さん……? 青砥に覆い被さっていた身体を起こした。

「本当に、止められなくなる前に、止めますか……?」
「……私は、その……どっちでも……」
「投げやりですね……あぁ、そういう意味ではなくて、だからその……貴女が本当は嫌だと思っているなら、私は……」

 嫌だと言われたら落ち込むかも知れない。それこそ、柄にもなく。けれど、本心が解らないままセックスに縺れ込んでなあなあになるのは、嫌だ。少なくとも、セックスフレンドになりたいわけではない。
 五月蝿く鼓動する心臓。青砥が、徐に手を伸ばした。榎本の服越しに手を当てれば、どくどくと早鐘を打っている。はやい。

「私と同じくらい、速い」

 すう、はあ、と深呼吸すれば、青砥の胸が動く。
 うっかりじっと見つめてしまった榎本は、そういえばまだ青砥の手のひらが己の胸に当てられていることを唐突に思い出し、その熱さを改めて感じてまた鼓動を跳ね上げた。
 脱童貞の時でもこんな初い反応はしたことがなかったのに。
44名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:42:40.59 ID:hIamtYW5
GJ!
うp祭りで萌えて寝れそうにないや
45名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:44:41.76 ID:rMJSxuPT
「……怖くないっていったら嘘になります」

 今までの関係が壊れる恐怖だったり、色々。
 でも、でも。

「榎本さんが、私を好きだって言ってくれるなら、……いいですよ」

 揶揄するようにそう言えば、冗談のように真摯な目をした榎本が見つめてきた。

「青砥先生」
「はい」
「あなたが好きです。とても」
「……」

 顔、真っ赤ですよ。
 放っておいてください。
 暗闇で判るほどに、榎本の顔は火照っていた。初めて見る顔だ。

 ほつほつと青砥のワイシャツのボタンを外す。
 先刻スーツのそれを外した時よりも心臓は高鳴る。
 ボタン外し終えると、青砥が手を伸ばしてきた。

「私だけ、恥ずかしいので……榎本さんも脱いでください」
「わかりました」

 身体を起こした榎本もシャツ脱いでいく。ぱさ、とベッドの脇にそれを置いた。その仕草を間近で見ながら青砥はぎゅう、と胸の前で手を握り合わせた。

※※※

 天気予報が嘘を吐いた。
 日中晴れ晴れとしていた空は、青砥が榎本の職場であるF&Fセキュリティ・ショップから共に帰途についた途端に機嫌を損ねたらしい。
 ぽつ、ぽつ、と降るばかりだった雨粒は、青砥が「傘、持ってないのに」と溜め息を吐いた瞬間にザァザァ音を立てて降り注ぎ始めた。
 慌てて入ったコンビニの傘はまるで頼りない薄いビニールのそれが、一本きり。無いよりましだと購入して、すみません、と言い合いながら身を寄せて歩く。
 タクシーを呼ぼうにも、電話は繋がらない。
 乗り場まで行くと既に長蛇の列が出来ていた。
 考えることは皆同じだと再た溜め息を吐く。

「気持ち悪い……シャツが張り付く……」
46名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:45:22.85 ID:rMJSxuPT
 身を寄せ合って差しているとは言え所詮コンビニの、ビニール傘一本。
 叩きつけるように降る雨は確実に両者の肩を濡らしていく。
 今し方出て来たばかりの職場に戻っても良いが、今戻れば確実にバイトに捕まる。
 青砥との仲を詮索されるのは避けたい。
 しかし、このまま濡れ鼠になるのも好ましくない。
 やはり面倒だがショップに戻るか、と口を開きかけた時、青砥が、あの、と呟いた。

「榎本さんのお宅ってここから近いんですか?」
「はい」
「いいですね……バスもタクシーも凄い並んでたし、やっぱり歩いて帰らなきゃか……」
「……寄りますか」

 何言ってんだオレは、と内心で突っ込みながら、それでも唇は止まらない。

「は?」
「……うちに寄って行きますか? タクシーを呼ぶにしても、外で待つより家に来てもらった方が良いでしょうし、止む気配が無ければ車で送っていきます」
「いえでも、そんな」
「風邪をひかれてしまう方が困りますから」

 それは気紛れ。

(ただの気紛れだ。深い意味なんて)

※※※

「綺麗なお宅ですね」
「物がないだけでしょう」

 青砥を家に上げた榎本は、自分の行動に違和感を感じていた。恋人でもない女、しかも、仮にも弁護士である女を家に上げるなんて。ショップに戻ったところで、榎本の自宅へ向かうのとそう時間は変わらなかった筈だ。にも関わらず榎本は、自宅へ誘うことを選んだ。
 バスタオルを一枚ひっつかんだ榎本はリビングへ戻る。と、青砥がちょうどくしゃみをした。

「冷えましたか」
「あ、すみません……」

 うー、と唸りながらバスタオルにくるまる青砥の髪から一つ雫が垂れ落ちた。
うっかりどきりとする。

(……)
「青砥先生は」
「はい?」
「危機感を持った方が良いと思いますよ」
「……喧嘩売ってます?」
「忠告しています」

 榎本自身もタオルで髪を拭きながら、はーっと長い溜め息を吐く。
47名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:46:25.46 ID:rMJSxuPT
「例えば、今この状況で私が貴女に『そのままでは風邪を召しますのでシャワーでも浴びて下さい』と言い、貴女がシャワーを浴びたとして」
「……」
「その姿に欲情した私が貴女を犯したとして」
「……」
「裁判にでもなった時」
「『貴女はどこかで期待していたのではないか。だから、シャワーを浴びて期待を持たせるような行動をしたのではないか。貴女は断れたはずだ』って?」
「はい」

 青砥は、バスタオルをバサリと置く。
 そして、笑った。

「その仮定は、そもそも成り立ちませんね」
「ほう。私がシャワーをすすめてもそれに乗るほど考えなしではない、と」
「……榎本さんてちょいちょい私のこと馬鹿にしてませんか?」
「まさか」
「双方の、合意の上での行為になる可能性を全否定してる」

 子供じゃないんですから。
 青砥の言葉がどういう意味かを問う前に、榎本は青砥を押し倒していた。

「恋人でもない男にこうして組み敷かれて、合意できますか?」
「榎本さん、私のことが好きなんですか」
「……」
「普段、そんな脈絡のないこと言う人じゃない。少なくとも、私の知ってる榎本さんはもっと思慮深くて、だから例えば」

 恋人でもない女をひょいひょい自宅に招くような人じゃあない。つまり私はあなたにとって、全く女として見られていないかその逆か。この状況から考えれば恐らく後者。

「……なんちゃって」
「青砥先生……あまり私を焚きつけないで下さい。私も、男です」
「知ってますよ」

 知ってます。

「……湯上がりでなくても、欲情はするんですよ」
「雨に濡れた女でも?」
「好きな女性ならより魅力的に見えます」
「それは告白ですか?」
「……」
「ま、いいですけど」

 掛け合いをしながらも、青砥の心臓は早鐘を打っていた。
 別に、何か、を期待して榎本の家に来たわけではない。が、何か、が起きても構わないとは思っていた。起きてしまっても後悔はしないと。

「……私、」

 榎本さんのこと、男の人だって知ってますよ。

「そうですか」

 覚悟を決めた、声がした。
 するりと撫でられる−−。
48名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:47:07.27 ID:rMJSxuPT
 上半身を包む服を脱ぎ去った榎本は、一度青砥の唇に軽く口付ける。抵抗なく受け入れられたのを確認してから再び、今度は食むように唇を重ねた。
 あまやかな唇を舌でなぞり、薄く開いたそこに舌を入れる。流れ込んだ唾液を無理な体制で飲み込む青砥の喉の音にさえ、酷く欲情した。
 歯列をなぞり上げて、続いて上顎へ。絡めた舌は柔らかくざらりとしている。それを、自分の口内へ招き入れて吸い上げ甘噛んだ。
 離れた唇に掛かる唾液の糸も舐めると、切なげに眉間にしわをよせた青砥の顔が見えた。

「え、のもとさ……」

 呼ばれた声に答える代わりに胸に指を這わせる。びくびく跳ねる身体を押さえて、乳首に唇を寄せた。

「〜〜ッ」
「いやですか?」

 榎本が口を開けば温かな吐息が頂を掠めて、青砥はふるふると首を横に振ることで精一杯だ。
 首筋を辿った指先は鎖骨を走り、乳房に至る。尖った場所を柔らかく摘んだ二指がまるで鍵を開ける時のように、そこを捻った。身体の中から恥部まで突き抜けるような感覚に青砥は身を捩る。

「ん……っ」

 そこを離した指先はそのまま腰へ下りていく。まだ下着を脱がぬままの下肢。の両膝を、榎本は担ぐようにして青砥の肩まで折る。

「えええのもとさん!?」

 驚いたのは青砥である。まだ脱いでないけど! 脱いでないけど! 脱いでないから余計に恥ずかしい!
 榎本は青砥の心中など意に介さずに、未だ覆われたままの秘部に、愛しげに口付ける。

「ちょ、榎本さん何してるんですか!?」
「青砥先生」
「はい!?」
「愛しています」
「っ!」

 真っ赤になる青砥の下着に手をかけ、器用にスルスルと脱がせていく。
49名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:47:38.85 ID:rMJSxuPT
 露わになったそこは、うっすら潤っているがぴたりと閉じている。榎本は、その間を割開くように唾液で濡らした指を降ろした。シコリが指先を掠めたとたん青砥が反応する。榎本は構わず、もう片手も使ってそこを開いて固定し、迷わず舌を伸ばした。
 猫がミルクを舐めるより丁寧に、榎本のこれまた器用な舌がとんでも無いところを執拗に舐め上げている。青砥は恥ずかしさで死にそうだ。

「榎本さ、きたな、本当に、や、」

 ちゅう、と吸われた場所は最も神経の集まる場所。思わず脚が突っ張る。

「ひぁ、ゃ、あ」

 喘ぐ青砥の膣に、一本、長い指が挿し入れられた。ゆっくりした注挿。抵抗はない。
 ぬめる襞が絡みつく感触。指を抜く時僅かに捲れるそこは、快感に膨れて、美味そうだと思った。

「もう一本挿れますよ」

 中指に薬指を添えて、再び突き入れる。ぬちり、と淫靡な音が静かな部屋に響いて青砥を犯していく。
 ささくれ一つない指が青砥の中を混ぜる。
 びくびくと自分の齎す愛撫に感じる青砥の様子に、榎本元来のサディズムが湧き上がる。

「青砥先生、そんなに固く目を閉じられると、寂しいのですが。私を見てください」

 懇願するような榎本の声に開いた青砥の目。其処には自分の秘部と、付け根まで入る榎本の指があった。青砥は思わず目を反らす。

「榎本さんッ!」
「はい」
「……〜〜ッ」

 青砥は榎本を蹴り上げようとするが、その脚を掴まれてしまってはそれも叶わない。
50名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:48:43.34 ID:rMJSxuPT
「オイタしないでください、青砥先生」
「ど、っ、ち、がっ!」

 片手の指は膣をなぶりながら、もう片手が青砥の足首をまとめあげた。

「あんまり余裕があるようなので、一度イッて頂いて宜しいですか?」
「え、っ、ゃぁ、あっ、ちょ、ンぁ」

 ぐっと青砥の足首に体重を乗せ、膣に差し込んだ指を三本に増やして、掌で陰核を擦りながら激しくかき混ぜる。緩やかな先程までと異なる愛撫に青砥は唇を噛み締めた。

「青砥先生」

 唇を耳に寄せた榎本は、艶のある声音で囁いた。
 私の指で、イッてください。
 言葉とともに膣壁の弱い部分をぐり、とこすられる。

「ン、ぅ……ッ」

 榎本の指を一瞬締め付けた青砥は、脱力した。
 はぁ、はぁ、と乱れた息の女を見て榎本は御満悦である。そっと抜いた指を自身の唇に当て、ペロリと舐めた。

「すみません、気持ちよかったですか?」
「……む…かつく……」

 気怠い身体を起こした青砥は、散々自分をいたぶってくれた榎本径を睨めつけた。

「とてもお綺麗でしたよ」
「……ああ、そう……」

 それじゃあ私も、お返しして差し上げますよ!

 ベッドに座る榎本の前、床に膝をついて前を寛げれば、榎本のそれが上を向いていた。そっと指を当てた青砥は、少し躊躇いがちに尿道口に口付ける。ちろりと舌の先端で舐めれば榎本の内股がひくりと動くのが見えて、思い切って亀頭を口に含んだ。
51名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:51:21.19 ID:rMJSxuPT
 初めて、というわけではないが、慣れているわけでもない。
 ただ意地が勝っただけだ。
 それにしても、割れた腹筋に、小柄な癖に意外とガッシリとした肩幅。引き締まった肉体は日頃から気に掛けて鍛錬していることを示している。
 青砥とて同年代の女性と比べて自分がそれ程見劣りするとは思っていないが、榎本は、同年代の男性と比較しても抜きん出て魅力的に映る身体付きをしているのだろう、と思う。
 一物を食わえながらうっすら開けた目で榎本の表情を伺うと、笑みさえ携えて此方を見下ろす瞳と視線がかち合った。
 下から上へ舐め上げて、再び先端を口の中へ。

「……青砥先生」

 膝の間に跪く青砥の髪をそっと撫でると、含まれた一物を思い切り吸われて思わず腰を引いた。

「っ……」

 絡んだ視線を解いた青砥は、一物から唇を離す。

「イかせて差し上げる程の舌技がなくてすみません」

 ニッコリ笑った青砥に、いいえ、と榎本は首を振る。ベッドから立ち上がって青砥の隣にしゃがみこんだ榎本は、ひょいと青砥を抱き上げるとベッドへ放った。ぼすりと埋まった青砥の上に乗り上げた榎本は、先程の青砥のように、ニッコリと笑った。

「先生の中でイかせて頂きますので、お気になさらず」

 青砥にのしかかったままベッドのサイドボードから慣れた手つきで小さな四角形を取り出し、気障たらしく歯ではさんでピッと口を切る。
 手早く避妊具を着けた榎本は、青砥の首ね後ろに手を回して髪に指を差し込んだ。

「あなたって、見た目に似合わずプレイボーイなのね」
「今この瞬間は青砥先生一筋ですよ」

 近付く距離で吐息が絡む。

「否定はしない、か」
「今更貴女相手に気取っても仕方ないでしょう」
「ん……」


 合わせた唇からはもう憎まれ口も聞こえない。

 片足を担がれて、脚を大きく開かれる。再び膣に入ってきた指は先程よりも熱いような気がした。

「挿れますよ」
「ど、うぞ……」

 言葉を合図に指とは比べ物にならない質量が押し込まれる。青砥は目を閉じて、堪える。

「キツ……」
「っあ……」

 痛みはない。もっと苦しいかと思ったけれど、これは、ちょっとやばい。
 差し込まれる度に背中をゾワゾワと抜ける感覚。

「どこが、イイですか?」
「ひ、っぁ、ま、っだめ、」

 榎本は愉しげに青砥の至る所に触れながら、注挿を繰り返す。
52名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:51:58.63 ID:rMJSxuPT
「青砥先生」
「な、に、ァ、ッア、ん、ぅ」

 もっと激しくして、良いですか?
 問いに答える間があっただろうか。口を開きかけた所に、榎本は狙ったようにのしかかってきた。打ち付ける腰、撫で回す器用な指。青砥は思わず榎本にしがみついて堪える。
 榎本の思うまま揺さぶられながら、なんでコイツはこんなに冷静なんだ、と腹も立ってきた。
 ぎゅっと閉じていた瞳を開いて、そっと榎本を見やる。そこには。

(わ、ぁ、)

 滅多に見ない優しい視線を青砥に注ぎ、汗ばんだ髪を額に貼り付けた、どこか必死な男の姿があった。

「やっと、」
「え、」
「やっと、見てくれた」
「……」
「さっきオレが、寂しいって言ったの、聞こえてた?」
「え、のもとさ、ん、口調、が」
「今更、気取っても、仕方ないって、」

 ああもう、黙って喘いでください。
 バツが悪そうにそう言った榎本は、青砥のもう片足も持ち上げる。更に奥まで突かれる感覚。子宮の入り口に先端が何度も口付ける。

「アァ、あっ、え、の、」
「けい、ですよ、オレの、名前は」
「ひ、ぁ、……ッ!」

 純子さん、と耳元で聞こえた気がした。だから、青砥も飛びかける朧気な意識の中でしがみついた男の名前を一度だけ、呼んだ。

※※※

 恥ずかしすぎて死にたい。
 身体のそこかしこが筋肉痛で、動くのが辛い。その原因を反芻する度顔が熱くなる。
 完璧に起きた頭を抱えて、青砥は隣に眠る榎本を見た。最期の辺りキャラクター崩壊していた。榎本も、自分も。

「径さん、だって」

 そう、呼んだ。確かに呼んだ。

「恥ずかしい」
「何が恥ずかしいんですか」
「げ、」

 起きていた、と思った時には、抱き込まれていた。少し低い体温が心地いい。

「私とこうなったことが、恥ずかしい?」
「いーえ。昨日の自分の色々が、です」
「そうですか」
「そうですよ」

 端からみればただのバカップルだろう。けれど、これは多分一時の戯れに過ぎない。
 まあ、それでもいいか。
 男と女は視線を合わせると、何も纏わず意味深げに、ただ笑った。
53名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 23:52:31.99 ID:rMJSxuPT
中途半端ですが終了です。
お粗末さまでしたー。
54名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 00:23:01.33 ID:Cc6KK2h5
>>53
いやいやなっかなかの読み応えでしたよー!よかった!
55名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 00:29:43.82 ID:7b1tEx0Z
ホント、投下祭りですね。
職人の皆々様、ありがとうございます。
みんな読みごたえがあって、毎日幸せです。
本当にありがとうございます。

エロ好きとしては特に
>>41さん!すごいよ。
…したくなっちゃったじゃないですか。
56名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 03:03:21.97 ID:gB5WnHOU
>>53さん、GJ!!筆力がハンパナイ!原作榎青ぽい!原作も好きな自分としては萌えた。また書いて下さいませ。
57名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 03:19:18.86 ID:GV0zMdRU
>>53
GJです!!原作榎青ありがとうございます!!
意地の張り合いとかもどかしい関係が原作そのままで悶えました
榎本の口調が崩れる瞬間がいい…
58名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 08:08:37.65 ID:1QWMy2YY
すごい!投下祭りが開催されてる〜
エロなしもエロありも原作榎青もどれも好きです!
職人さんたちGJ!文章もうまい。
また読みたいです。ぜひ書いてください。
59名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 08:56:47.22 ID:AexUMbM9
>>53
GJすぎる。原作榎青も大好き!!
>>57も言ってるけど私も口調の変化にものすごく萌えた。
60名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 11:53:36.47 ID:HLUmH9wp
どれもこれも萌えて困るわGJ

それにしても、よしながふみの「大奥」みたいに男女逆転した話を妄想するのは自分だけかな?
61名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 12:07:11.09 ID:Z7oWMMrR
>>60
どこをどう妄想したのかkwsk
62名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 12:54:55.54 ID:HLUmH9wp
そう大したもんじゃないんだが
榎本が女性で設定は原作通り、青砥は男性でこれも原作通りなんだが
キャッツアイみたいな謎に包まれた存在に振り回される真面目な弁護士さんってヤツ
63名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 13:03:30.00 ID:Cc6KK2h5
>>62
その榎本は綾波レイ的な雰囲気かな?無表情でぼそぼそしゃべり。
64名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 14:41:44.07 ID:XeKd515F
沢山投下されてて幸せ!!
みんな素敵でした…!!職人様方ありがとうございます

ドラマ榎青も大好きだけど初めて原作榎青が読めたのが新鮮で嬉しかった
口調や性格がそのままで雰囲気出てて大人な関係で凄くエロくて良かったです!!
ひかれあってるのに素直にお付き合いとはいかない関係がもどかしい…

まだまだいろんなシチュで見てみたいので職人様方今後もどうぞよろしくお願いします…!!
65名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 16:03:31.75 ID:uTUEaKNl
スレタイドラマに限定しなくてもよかったかもね。原作の榎青も大好きですわ
66名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 17:24:31.93 ID:wSw1UiQE
>>62
実年齢は30でも見た目が10代後半な女性ってのも悪くは無いな
67名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 19:20:13.62 ID:9M1d8yxh
>>63
どっちかといえば長門有希だろ
68名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 19:43:31.22 ID:Cc6KK2h5
>>67
おお!なるほど。眼鏡だし。
69名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 20:30:15.56 ID:1QWMy2YY
需要ないかもしれませんが、以前お見舞いネタ書いた者です
榎本サイドが見たいとおっしゃってくれた方がいたので、投下します
会話もエロも端折ってるので、興味ない方はすっ飛ばしてください
70Side E @:2012/06/09(土) 20:32:21.85 ID:1QWMy2YY
榎本は朝からデスクに向かい、開錠作業に勤しんでいた。
今回はかなり手こずっている。
それほど難易な錠ではないのに、どうしたことなのか。
それがさっきから続いている前頭部に重くのしかかる痛みのせいだということはわかっていた。
何となく視点も定まらない。
榎本は工具を持つ手を休め、小さなため息をついた。
時計をちらりと見る。
お昼を少し過ぎたところだ。
今日はこの後何の予定も入っていない。
悪化しないうちに帰って休んだ方がいいだろう。
榎本は内線電話の受話器を上げると、ボタンを押した。
「榎本です。申し訳ないのですが、本日は早退させていただいてもよろしいでしょうか。どうやら体調を崩したようで。はい。すみません。」
早退の了解を得られると、静かに受話器を置く。
そして、いつもの鞄を掴むと、エレベーターに乗り込んた。
ロビーを抜け、外へ出ると、初夏の熱気がむっと立ち込めている。
にもかかわらず、背中にゾクゾクとした冷感を感じる。
 …これから熱が上がってくるかもしれない。
そう予測しながら、榎本は駅に向かった。
電車に乗り込むと、車内は思いのほか空いていた。
座席に腰を下ろし、悪寒がさらに強くなってきていることを感じる。
窓の外を眺めながら、もう一度先ほどの錠のことを思い浮かべ、頭の中で開錠のシミュレーションを始めた。
カチャ、カチャ…
 …だめだ。うまくできない。
榎本は錠を開けることをあきらめ、視線を向かいの席の女性に移す。長い髪を後ろで束ねたスーツ姿の若い女性が文庫本を読んでいた。
ぼんやりと眺めていると、その女性の姿が純子と重なる。
 青砥さん。
 そういえば、早退することを伝えていなかった。今日もあそこにやってくるだろうか。
榎本はポケットの中にある携帯を触るが、自嘲気味に口角を片方だけ上げて微笑んだあと、すぐに手を引っ込める。
 …バカバカしい。青砥さんは僕が早退するという下らない連絡など、きっと求めてはいないだろう。
71Side E A:2012/06/09(土) 20:34:49.37 ID:1QWMy2YY
頭の中心がズキズキと痛む。頭痛は確実に先程よりひどくなっていた。
電車がホームに滑り込むと、榎本はよろけながら立ち上がる。
駅から自宅までの道はこんなに遠かっただろうか。重い足取りで熱気が漂うアスファルトを一歩一歩踏みしめる。
いつもより時間をかけてマンションにたどり着いた頃には榎本の疲労は極限に達していた。
おぼつかない手つきで鍵を開ける。ドアを開け、玄関に倒れ込みようにして中に入ると、後ろ手で鍵を閉めた。…つもりだった。
おぼろげな意識の中で服を脱ぎ、パジャマに着替えたことは覚えている。
寝室に向かう途中、体がよろけ、嫌というほど体を床に打ち付けた。
…そのあとは記憶がない。

「榎本さんっ!…すごい熱…」
聞き覚えのある声がして、榎本は目を開けた。
心配そうに見つめる純子の顔がある。
 これは夢なのか?そんなに僕は青砥さんに会いたかったのだろうか。
「…青砥さん…」そう声を絞り出すのがやっとだった。
純子が何かわめきながら、自分のことを引きずっている。少なくとも榎本にはそう思えた。
そしてベッドに寝かされ、純子から手渡された薬と水が喉を伝う。その冷たい刺激のおかげで榎本の思考が少しだけ正常に戻された。
同時にこれは現実なんだと気付く。
「すみません。」
「いえ、気にしないでください。会社に行ったら、榎本さんが早退したっていうんで、心配になってきてみたんです。」
そういうことだったのか。きっとおせっかいなあの受付嬢が純子に住所を教えたのだろう。
「よかった。大事にならなくて。あ、鍵開いてましたよ。榎本さんらしくないですね。」
「…掛け忘れてしまったんですね。」
 それならば急いで掛けなければ。自分としたことが。
起き上がろうとするところを純子に制止された。
「大丈夫です。私がしーっかり、掛けときましたから。榎本さんは気にしないで、ゆっくり寝ててください。」
なんだか少しバツが悪くて、榎本は黙ったまま横になる。
純子は安堵したような微笑みを浮かべ、冷たいタオルを額に乗せてきた。
心地よい感触に思わず目を閉じる。
「これ、読んでみてもいいですか?」という声が聞こえ、目を開けると純子が本棚の前に立ち、本を指さしている。
「どうぞ。」
そんな本など読んで面白いですか?と思わず尋ねたくなったがやめた。

 …青砥さんは不思議だ。
 防犯や密室殺人に首を突っ込みたがる女性なんてそうはいないだろう。いや、それ以上に、自分にここまで関わりたがる女性がいたなんて驚きだ。
 僕に対する興味だろうか?それとも違う何か…たとえば恋愛感情…
 まさか。今日の僕はなんだかおかしい。
 もう早く寝てしまった方がいい。
72Side E B:2012/06/09(土) 20:37:35.40 ID:1QWMy2YY
純子が椅子を持ってきて、傍らに座るのを視界の端で捉えると、榎本は徐々に眠りに落ちて行った。

どのくらい眠っただろうか。
「…さん。起こしちゃってごめんなさい。これに着替えてくれませんか。」
再び純子に呼びかけられた時には、悪寒は治まり、頭は幾分すっきりしていた。
パジャマが汗でぐっしょりと濡れ、体にまとわりついてくるので、何となく気持ち悪い。
純子に促されるままにパジャマを脱ぐ。
タオルで背中を拭かれる時に、純子のヒンヤリとした指先が自分に触れ、榎本は思わずピクリと体を震わせた。
肩越しに純子を見る。
純子は気づかず、一生懸命背中を拭いている。
その真剣な顔を見ながら、自分が上半身裸にいるくせに、純子はかっちりとしたスーツに身を包んでいる。
そのギャップに違和感を覚え、ふと、このスーツの中はどんな体をしているのかと一瞬考えた。
「青砥さん。」もう拭かなくて結構ですよと告げようとしたが、純子は突然動きをとめ、はっとしたように榎本を潤んだ瞳で見た。
二人の視線がしばし絡み合う。榎本は軽いめまいを覚えた。
 どうしてこの女性はこんなにも僕の心を混乱させるのか。
「す、すみません!自分でできますよね!わ、わ、私、帰ります。」
 嫌だ。帰したくない。
考えるより先に、榎本の手は帰ろうとする純子の手首をつかんでいた。
「帰らないでください。今夜はここにいてください。」
思わず口をついて出た言葉は自分でも信じられないものだった。
確かに純子にいてほしい。それは本心だったが、いつもの自分であれば、そんなことはおくびにも出さなかっただろう。
純子が驚いた顔で自分を見る。
そこからは自分でも止められなかった。
純子を強く引き寄せ、自分の腕の中に収めた。
あたふたしている純子に「嫌ですか。」と問う。しかし、どんな答えが返ってこようとも榎本は止める気はさらさらなかった。
「嫌とかじゃなくて!う、嬉しいっていうか…。」
嫌がっていないことを知って榎本は安堵する。
戸惑っている初心な純子を心の底から可愛いと思った。
自分の腕の中にリスのように縮こまり、何やらわめいている純子の口を封じる。
唇の柔らかい感触は榎本をさらに高揚させた。舌を入れ、純子の口内を堪能する。
それに併せるかのようにおずおずと純子の舌が絡んできた。
その行為が頭の中に残っていた僅かばかりの理性を吹き飛ばす。
とうとう純子をベッドに押し倒してしまった。
73Side E C:2012/06/09(土) 20:39:45.06 ID:1QWMy2YY
「え!?ちょ、ちょっと…」
戸惑う純子の声に、吹き飛んだ理性が戻ってくる。
 しまった。やり過ぎた。
「やはり嫌ですか?」
「い、い、い、嫌っていうわけじゃないんですけど!私のことを特に好きでもないのに、そういうことは…」
 好きでもない?どう思ったらそんな言葉が出てくるのか。
もう自分の心は完全に純子に支配されているというのに。
「――僕は青砥さんのことが好きです。ですから、青砥さんを欲することは、男として至極真っ当な欲求と思われます。やはり、嫌、ですか?」
自分の気持ちを理解してほしくて、思いの丈をぶつける。
「…嫌、では…ない…です…」
やっと返ってきた“嫌ではない”という言葉に再び理性が奥へ引っ込み、同時に、荒れ狂う欲望が顔を出した。
純子にキスをし、待ちきれないといった様子でブラウスを脱がると、後は己の欲望を心行くまま貪るだけであった…


目覚まし時計が鳴る前に目が覚める。
いつもと変わらない朝だ。傍らに純子がいることを除いては。
榎本の左腕を枕にし、しがみつくように密着して眠っていた。
無邪気な寝顔に自然と顔がほころぶ。昨夜のことが夢のようだった。
実を言えば、榎本にも経験はある。社会人になりたての時、先輩に5歳年上の女性を宛がわれ、流れで一夜を共にしたことがある。
『なっ!よかっただろぉ〜?』興奮しながら話す先輩に『はぁ…』と気のない返事をしながら、榎本にはセックスのどこがそんなにいいのかわからなかった。
錠を破ることの方がよっぽどスリリングでエキサイティングだ。
 …それが、あんなにいいものだとは…
眠る純子の頬にかかる一束の髪を指でそっと払ってやる。
起きる様子はなく、気持ちよさそうに眠っている。
ふと、いたずら心が沸き起こり、寝息が漏れる唇に手で触れてみた。
昨夜は数えきれないほどこの唇にキスをした。それでもまだ触れ足りない。
少しだけなら…と榎本は考え、軽く唇同士を触れ合わせた。
さすがに起きるだろうか。少し焦ったものの、純子が起きる気配は全くなかった。
ずっとこのまま寝顔を見ていたいと思うが、容赦なく時間は過ぎていく。
 さすがにそろそろ起きなければ。しかし、いったいどうしたらいいのだろう。
榎本は純子が枕にしている左腕を見る。
この腕を抜けば純子は起きてしまうだろうか。
榎本は息をひそめながら、ゆっくりゆっくり腕を抜いていく。
「ん…」
純子が寝返りを打つ。榎本はドキリとして、動きを止めた。
 起きてないよな…
寝顔をのぞき込み、もう一度キスをしたい衝動を抑えながら、なんとか腕を最後まで引き抜き、ベッドを後にした。
74Side E D:2012/06/09(土) 20:42:47.29 ID:1QWMy2YY
顔を洗い、服を着替え、適当に朝ご飯を作っていると、純子が起きてくる気配がした。
緊張が走る。
情事を交えた朝、男女はどんな顔をして、どんな会話を交わすのか、榎本には見当がつかなかった。
 …とりあえず、いつも通りで居るのが一番いいだろう。
動悸を押さえながら、必死で平静を務めることにした。
軽い挨拶を交わした後、席に着き、朝食を食べ始めるが、長い沈黙が続く。
地下室にいる時も沈黙が続くことは幾度となくあった。しかし、今回は比べ物にならないほど気まずい。
 青砥さんはさっきから目を合わせようとしないし、何も話そうとしない。
 昨夜のことを怒っているのだろうか。
あれこれ考えを巡らせていると、沈黙を破るように純子が悲鳴をあげた。
「きゃああ!遅刻しちゃう!榎本さん!すみません。私もう行きます!本当にすみません!」
そう言いながら純子は慌てて出て行った。
バタンとドアが閉まる音が聞こえ、榎本を強烈な寂しさが襲う。
昨夜はあんなに濃密な夜を過ごしたというのに、つい先ほどまで目の前に座っていたというのに、会いたい、抱きしめたいという欲望が榎本の頭の中を占領していた。
長いため息をつき、純子が座っていた椅子をいつまでも見つめる。
歯痒いことに今の榎本にはそうすることしかできなかった。

榎本は出社後、昨日は開錠できなかった錠に再び挑み始める。
しかし、結果は昨日と同じ。
構造から考えると、普段の榎本であればものの数分で破れてしまうようなものなのに。
昨日の頭痛とは異なるその原因。
今度は胸の奥が疼く。頭から離れない昨夜の出来事。
喘ぐ淫らな純子の声、陶器のように滑らかで白い肌、しなやかな肢体、大きくうるんだ瞳。純子のすべてが榎本をひきつけてやまなかった。
これが人を愛するということなのか。
初めて経験する感情。
切なくて、胸が締め付けられるように苦しいのに、どこか幸せな満ち足りた気分になる。
どんなに難解な錠を破ったとしたとしても得られないこの感覚。
純子とこういう風にならなければこんな思いもしなかっただろうか。だが、もう遅い。
情欲の迷路に迷い込んだ榎本には、もうどんなにあがいても出口を見つけることはできなかった。
その時、榎本の携帯が鳴る。
見ると芹沢からだ。そういえば、この前の密室事件を解いた礼をするから、今夜飲みに行かないかと誘われていたのだった。
「…はい。」
『あ、もしもし?榎本?俺。芹沢だけど。悪いんだけど、今夜の飲みはキャンセルさせてくれないか。
青砥のヤツがさぁ、体調崩しやがって…残業になりそうなんだよ。』
「青砥さんがですか?」
『うん。そう、青砥だよ、あ・お・と。』芹沢はご丁寧にも純子の名前を2回繰り返す。
「…」
榎本は話の途中にもかかわらず、携帯から耳を離し、電話を切った。
足早に出口を目指す。そのままビルを出ようとすると、受付嬢が呼びとめた。
「あっ、榎本さん!昨日、青砥さんが来られて…」
「申し訳ありませんが、本日も早退させていただきます。」
榎本はそう告げると踵を返して、ビルを出て行った。
「早退って、あと10分で終業時刻なんだけど…」受付嬢は首をひねるばかりだった。
75Side E E:2012/06/09(土) 20:46:08.19 ID:1QWMy2YY
逸る気持ちを抑えながら、純子のマンションを目指す。
以前訪れたことがあるから、道は分かっている。
エントランスに着くと407号のインターホンを押した。
ピンポーン。
間があって、「はい。」と純子の声が聞こえた。
「青砥さん。僕です。榎本です。」
「え、榎本さんっ!?今、開けますねっ!」
純子の驚く声の後、ロビーの扉が開いた。
中に入り、エレベーターに乗り込む。
 ――そもそも、来てしまってよかったのだろうか。
 青砥さんは嫌ではないといったが、本心を僕は知らない。
 もし、僕の独りよがりだったら?
考えているうちにエレベーターのドアが開く。
次の瞬間、榎本のそういった考えはすぐに杞憂に終わる。
部屋のドアをすでに開け、待ち構えている純子がいた。満面の笑みをたたえながら。
「すみません。来てしまいました。」
謝る榎本に純子は返す。
「…実は、ずっと待っていたんです。」
その言葉を聞いた榎本は純子を思い切り抱きしめた。


以上です。
ご期待に副えていない内容でしたら本当にすみません
貴重な時間を割いて読んでくださった方、ありがとうございました。
76名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 21:15:26.18 ID:6el3AYuP
>>69
ありがとう! 以前のも今回のも、とってもいいです。
キュンキュンです。
77名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 21:33:43.33 ID:wcsdTDxj
乙でした!自分も榎本サイド待ってた!
期待以上の内容ですよ。
エロはなくても、思い悩む榎本ってエロいわ〜
また、書いてくださいね。
78名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 22:21:40.09 ID:7b1tEx0Z
>>75
乙です。お待ちしてました。
よかったです。
…この続きを妄想してしまいます。
79名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 23:30:39.18 ID:UaKebZcD
>>75
うぉぉぉ〜嬉しいぃ〜
わがままリクした者です。
素敵な作品をありがとうございます!

朝のシーン!これ!この感じ!最高です!

よかったらまた書いて頂けると嬉しいです。

80名無しさん@ピンキー:2012/06/09(土) 23:52:06.11 ID:D30tq+3R
もう2スレ目突入とか大盛況で嬉しい
ここってクオリティ高い作品ばかりなだけじゃなく、
職人さんの書くペースが速くてすごいなぁと思う
自分も以前別のスレの書き手の端くれだったけど
1つの作品書くのに数日かかったもんだよ
素敵な作品をありがとうという気持ちを忘れずに毎日ロムってます
81名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 00:23:23.49 ID:AIm6DaJj
榎本のモノローグをだらだら書いてたら、エロがなくなった
82声の余韻 1/3:2012/06/10(日) 00:24:05.63 ID:AIm6DaJj
「…ええ、その二案の方がよろしいかと存じます。その鍵でしたらフローティングボール採用の上に
水平二方向斜め二方向計四方向のピン配列で構成されていますからピッキングも困難な筈ですが、
参考までに他の候補の鍵もピックアップしておきましょう。では」
相談名目でかかってきた企画部からの内線電話をようやく切ると、榎本は無意識に眼鏡を外して目頭
を押さえた。
そう長くはない時間だったが、慣れないことはひどく疲れる。
この地下室に籠って一人で作業していると、たまにこんな電話もある。
確かに鍵に関しては全社員中一番の知識量を自負してはいるが、自分の好むところとしてはやはり
開錠作業だ。一日中でも開錠が至難な鍵に没頭出来るのはある種の病気でもあるだろう。しかし、
今更それを他人にどうこう言われる筋合いはないと思っている。
ここでずっと、鍵に囲まれて、人に変人と揶揄されながらも退職するその日まで、変わらない日々を
送るものだと思っていた。
あの人と出会うまでは。

今ではもう見慣れてしまった柔らかい笑顔を思い出して、榎本の頬がわずかに緩んだ。
ふと時計を見上げると既に午後三時を回っている。あの人は今日ここを訪れるのかと考えるだけで
会いたい気持ちが湧き上がる。
こんな気持ちは、今まで誰にも感じたことはなかった。
テーブルの上には、この間青砥が置いて行ったビーズのストラップが所在なげに転がっている。自分
一人だけの場所だったここが別の誰かの気配をもほのかに漂わせている。そんな感覚を好ましいと
思えるのは、やはり心惹かれているからだろう。
とん、と鍵を扱う時よりはかなり不器用に指先がテーブルを叩いた。
『私は、榎本さんがとても好きです』
真っ赤な顔をしながらそう言った青砥の表情はとても綺麗だった。まさか鍵にしか興味のない自分
などに告白する女性などいる筈はない。そう思っていただけに信じられない反面、その純粋な気持ち
が嬉しかった。しかし、自分と関わることでこの先に弁護士としての輝かしい未来が待ち構えている
青砥の人生に傷がつきかねないことも分かっていた。
自分にはまだ誰にも言えないことがある。
きっと青砥なら恋する一途さで全てを呑み込んで理解しようとするだろう。だが、それは何も知らない
から出来ることだ。もし知ってしまったら最後、今と同じ気持ちでいてくれる保証などどこにもない。
そんな風に信じきれていない自分の姑息さにも腹が立つ。
83声の余韻 2/3:2012/06/10(日) 00:24:31.79 ID:AIm6DaJj
しかし、信じたいとは思っていた。だから迷いながらも関係を持った。それはただの詭弁で実のところは
ただ一心に好意を寄せてくる青砥に欲情しただけ、自分のものにしたかっただけなのかも知れないが、
身も心も確かめた今となっては完全に血迷っている状態にある。
持ち前の無表情のお陰で何とか周囲や青砥にも悟られてはいないのが幸いだった。

汝がこゑの したたる露
汝がこゑの ただよふ香

不意にそんな詩の一節を思い出した。
あれは中学生の頃だったか、クラスの女子生徒が放課後の教室でぽつりぽつりと暗唱していたのを
偶然聞いたことがある。彼女そのものには特に何の感情もなかった。ただ、唇に乗せていたその詩の
一つ一つが妙にリアルに思えたのは、彼女が恋をしていたからなのだろうか。
詩の構成は実にシンプルだ。その後もゆらめくひかり、ひらく花びら、ちらばふ星、こぼるる蜜、くれなゐ
のつぼみの瓊(たま)と、かの人の声の印象が並ぶ。
それほどまでに美しい言葉で飾られる声とは、一体どんな美声なのだろう。
何も知らずにいた子供の頃は、ただそう思うばかりだった。

『榎本さん』
自分を呼ぶ青砥の優しい声を思い出すだけで心が満たされる気がする。
「あれは、あなたのことだったのですね」
ストラップを手に取ると、今ここにはいない恋人にするように口付けた。どんなことがこの先にあったと
しても、あの無邪気で優しい人を悲しませたくない、と思うばかりだった。罪科があるとしても、被るのは
自分だけでいいのだから。
その時、前触れもなしに倉庫の重い扉が開く。
「…榎本さん」
いつものようにはにかむような笑顔の青砥がそこにいた。訪問の理由などもう何も必要がないのは
双方承知の上だ。それでも形ばかりの遣り取りをする。
「来たんですね、青砥さん」
「来ました、とても会いたくて」
「…嬉しいですよ」
そんな言葉に頬を染めて目を伏せる顔が幼い少女のようだ。長い睫毛の下で光るものがあるのは、
きっと涙が滲んでいるからだろう。名前の通りに、本当に純粋な心を持っているあどけない人だ。この
人が冷徹な法の番人であることには、いまだギャップを感じざるを得ない。それでも、これまで何一つ
歪むことなくまっすぐに育ってきたことは確かに伺える。
だからこそ、尚更壊せない。大切にしたい。
84声の余韻 3/3:2012/06/10(日) 00:25:06.98 ID:AIm6DaJj
「ストラップ、持っててくれたんですね」
「もちろんですよ」
「私、何だかおかしいぐらいずっと榎本さんのこと考えてて…」
身の内からの感情の振幅が激し過ぎて心がついて来ないのか、泣き笑いのような顔になっている
青砥を抱き締めた。こうしているだけで気持ちが浮き立つのがもう不思議には思えなかった。
「同じですね、僕も」
抱き締めながら、束ねている青砥の髪を解く。
「あなたのことばかりです」
そう言うと、青砥の表情はますます胸震えるばかりに美しく輝いた。

汝がこゑ、とは心を寄せる相手の声そのものなのだろう。
どんな声であれ、恋をしたなら自分にとって唯一無二のものに聞こえてしまうのだ。




85名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 00:59:14.09 ID:AsELGiL8
>>84乙です。
きれいな文章で、エロがないのに萌えます。
…でもエロもぜひ。

自分、エロ本番が読みたくてしょうがない人だったんだけど
なんか榎青は無くても全然楽しいんだ。(あったらもっと楽しいけど)
職人さんたちありがとう。
86名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 01:04:06.65 ID:AIm6DaJj
>>85
ごめん、今回エロはくじけた
次に書くつもり
87名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 01:06:28.97 ID:AsELGiL8
>>86
すいません、今度(いずれ)書いてくださいという意味でした。
よろしくお願いします。
88名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 01:07:26.58 ID:AIm6DaJj
おっけー
89名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 01:29:17.20 ID:OgcqJehh
くぅ〜 榎本視点の作品が2つも!
>>75
恋い焦がれる様子にキュン死にしました。
GJ!
>>84
苦悩しながらも惹かれていく榎本と純粋な純子の様子が素敵に描かれてて
とてもいいです。
GJです。

職人の皆様、いつも素敵作品ありがとうございます。
90名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 02:20:37.54 ID:PgrIiHKK
お見舞い榎本サイドも、モノローグのやつも、すっごいよかったよー!
榎本サイドはほんと萌えるねぇ。
いや。青砥さんからみた榎本も萌えるか・・・。
とにかく榎青萌えるんだよ!!!!!!!
どうしよう!最終回迎えちゃったら書き手さん減っちゃうよねきっと。
悲しいよ。
91経験豊富な榎本さん1:2012/06/10(日) 02:21:14.96 ID:eN6rf2yv
榎本は10日前の純子との情事を思い出していた。

変わった、というのか不思議な女だ・・・。26歳にもなって男と女の秘め事となるとまるで女子高生のようだった。
いや、近頃の女子高生なら純子など及びもつかないほどセックスのあれこれに関しては詳しいかもしれない。
長野での密室事件から「お化けがでるんじゃないかと考えてしまって怖い」などどべそをかかれ、明らかに入浴後の香りがする体でもたれかかったりするから
我慢していた欲情が抑えきれなかったのだ。

思わずか細い手首を掴んでベッドに押し倒しはしたものの、闇雲に自己の欲望を満たしたりはしなかった。純子が自分を受け入れられるようあくまでも紳士的に扱ったつもりだ。
かき抱いた純子の白い裸体が薄紅色に染るほど、優しく十分過ぎるまでに潤おわせ、自分でも驚くほど己の欲望をコントロールし交わったのだ。
己の分身を純子の中に埋める時には「おや?」と思う位の抵抗があったが、腰を緩やかに動かしていくと甘いうめき声を出し更に潤ったものだ。
だが、自分を受け入れようとした時にさえ体を震わせていたのは何故だろう?そんな様子に「膝の力を抜いてご覧よ」と優しく言ったのだが、ついふふっと笑みがこぼれたのがまずかったのか?
総てが終わると自分の胸にすがりついてきた純子が少し涙声だったのは何故だろう?


それから暫くした雨の夜、純子からの電話。
「え、榎本さん、これから行ってもいいでしょうか?わ、私、友達と会うつもりで彼女の家に行ったんです。でも、彼氏が来ていて!
友達も来週の約束だったよねなんて言うんです!もう、いっぱいアイスクリーム買ってしまいましたから!伺ってもいいですか?」と一気にまくし立てた。

「え、アイスクリームですか?へえ、アイスを一緒に食べる友達がいなくなったから仕方なく僕のところに来ると、そういう解釈でいいですか?」
「榎本さん、いいんです。ご迷惑ならそう言ってください!私、一人で食べますから!」
何だというのだ、今日はからかいがいもない。
「まあまあ、そう怒らないで。冗談のつもりでしたが。入浴後でちょうどアイスが食べたいと思っていたところです、早くいらっしゃい」
「早くって、もうここの前です。オートロック解除してください」

92経験豊富な榎本さん2:2012/06/10(日) 02:48:16.45 ID:eN6rf2yv
高校の同級生と久しぶりに会い折角いろいろな事をお喋りしようと楽しみにしていたんです。3時間残業して慌てて電車に飛び乗ったら
ドアの入口に立っていた人にぶつかっちゃって転んでしまったんです。ほら、見てください膝小僧を擦りむいちゃって。
電車に乗ってた女子中学生がクスクス笑うから恥ずかしくて汗が出てきちゃうし
それに新しい靴を履いていたもんですから靴擦れが痛くって。

さっきの電話のように一気にまくし立てた。そのせいではあはあと息をしている。髪はボサボサ眉毛は半分。
そんな純子がおかしくて堪らずつい吹き出しそうになるのを堪える。
「なるほど、災難でしたね。それで肝心のアイスクリームはどうしましたか?」
「え、ええ、ホラ、これですよ。た、食べましょう。これはえっと、チョコチップペパーミントです。ああ、でもこれって
歯磨き粉を食べてるみたいで嫌いな人もいるらしいんです。私はそこがまた美味しいと思うんですけど」

もうタマラナイ。限界だ・・・。
「あははは、貴女って人はいわゆる天然というのですか?おかしな人だ!」もう笑いが止まらない。

「え、榎本さん、もう、何なんですか?私がこんなに今日の出来事の悲惨さを訴えているというのに!
もう、いいです!帰ります、ほらアイスは差し上げます。これが目的だったんでしょ? じゃ」

玄関に向かう気だ。これは本気かな?仕方ない女だ、ワガママ娘か。
93経験豊富な榎本さん3:2012/06/10(日) 03:07:49.71 ID:eN6rf2yv
しかしこのまま帰す訳にもいくまい。よく見ると肘にも腕にも擦り傷が、これでは職質されておかしくないレベルだ。
それに・・・過日の一件もある。あの世の秘め事の時の涙声の訳も知りたい。

「困った人ですねえ、そんなナリの貴女を放り出すほど僕は不親切ではありませんよ。だいいち、痛いでしょう、可哀想に、その膝小僧
手当してあげますから、ほら大人しくこっちに来なさい」

「え、、えっ、うぐぅ、どうしてですかぁ。直ぐそう言ってくれればいいのに、意地悪ですよね、やっぱり・・」

今度はメソメソと泣き始める。またからかうとわあわあ泣き出すか。果てさてどうしたものか。

「だから、こちらにいらっしゃい。」そういって腕を広げると子供のように腕の中へ。コドモか・・・?







94経験豊富な榎本さん4:2012/06/10(日) 04:22:09.93 ID:eN6rf2yv
傷薬もガーゼなどという気の利いたモノもない。深夜もまで開いているドラッグストアに行くしかない。
全く・・・俺は母親か?
ドラッグストアから戻ると純子は洗い髪を乾かしているところだった。
バスルームに丈の長いTシャツを置いておいたがそれは着ていない。
淡いブルーの夜着が似合っている。ああ、そうか女友達の家に泊まる予定だった。ここに泊まるつもりで準備していたのではなかった。
「落ち着きましたか?ほら塗り薬を買ってきましたから膝をみせてご覧なさい」
「え、榎本さん、わざわざ薬を買いに・・・ありがとうございます」
「ガーゼで保護しなくても大丈夫そうですね。ここと、肘にも塗ってと・・・」
シャワーを浴びて快くなったのか傷の手当が嬉しかったのか純子はいつもの笑顔に戻っていた。
仄かに石けんの香りがする。
「榎本さんは私のことを子供みたいだって思っているんでしょう?実際、そうですけど」
「そうですねえ、膝を擦りむいてグズる26歳にはお目にかかったことはありませんね、貴女以外では。」
「ねぇ、幼稚なんだわ。いろんな意味で・・・。」
夜も更けてきた。さっきまで小雨だったが雨足が強くなってきた。ソファに座りブランデーを少しずつ味わう。
彼女は少女の頃に観た映画の話をしている。それはそれで興味深いものもあるのだが、しかしどうしても落ち着かなくなってくる。
当然だ。いい歳の男と女が朝まで映画の話でもないだろう。
「ロミオとジュリエットだったかしら、掌のくちづけ っていうシーンを覚えているの。間に柵とか何か邪魔になるものがあって
二人はキスできなかったの・・・。で、互いに手を伸ばして掌を重ねてたんだわ。
こんな風に・・・」そう言って彼女は掌を合せてくる。
温かい。彼女の温りが伝わってきて、もうその気になってしまう。
「寒くなってきたからベッドに行きましょう・・・というか、貴女を食べたい。嫌だとは・・・言わないで」
95経験豊富な榎本さん:2012/06/10(日) 04:24:38.03 ID:eN6rf2yv
核心部分は明日書かせていただきます。読んで下さった方すみません。
96名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 06:42:55.54 ID:qKIFwAwM
乙です。こちらへいらっしゃい、に萌えたあああ。
続き待ってるよー!
97名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 08:13:57.02 ID:2YougJkq
食えない男榎本かっこいい! やや原作風味かな?
続き楽しみにしてる。
98名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 09:52:03.82 ID:PgrIiHKK
誰か一生のおながい。
このイメージで学生榎本のエロ書いて!!!!
ttp://pic.prepics-cdn.com/a459bb5d1008/14804911.jpeg
99名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 11:18:58.21 ID:CbqMIivy
>>90
「ゲゲゲの女房」のスレみたいに続くところもあるよ
100名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 12:04:22.69 ID:ttD/kgt6
>>98
こういうのやめて。
101名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 17:37:47.44 ID:skjaGYuf
>>98
イメージにあっているかはわかりませんが書いてみました。
学生時代の榎本です。
かなり長くなってしまいました。すいません。
102名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 17:39:24.77 ID:Qwz0b3Bp
原作風味でおいしいww
大人の余裕の榎本も堪らない!
103学生時代の榎本 1:2012/06/10(日) 17:42:52.05 ID:skjaGYuf
「いいですか、青砥さん」
「……来てください」
 ぎゅっ、と目を閉じる純子の初々しい様子が可愛らしくて。榎本は、薄い笑みを浮かべた。
 ゆっくりと腰を進めていく。純子との繋がりが深まるたびに、脳髄を貫くような快感が全身を揺さぶった。
 すぐにも吐き出しそうになる欲情を理性で押さえ込んで、ゆっくりと腰を揺り動かす。
 痛い思いはさせたくなかった。歯を食いしばって自身の身体を制していると、純子の両腕が伸びてきて、榎本の背中をかき抱いた。
「榎本さんっ……」
「大丈夫ですか。……痛くないですか?」
 榎本の問いに、純子は首を振って「もっと……」と囁いた。
 もっと、何なのだろうか。
 純子の求めることがわからない。だが、嫌がられてはいない、ということは、その表情を見ればわかった。
 快楽に囚われ、悦びの笑みを浮かべる純子。とろんとした目で見られて、思わずその唇を奪ってしまう。
 一瞬にして昂ぶりが頂点に達するのを感じた。自然と絡まる舌を弄びながら、両腕を純子の腰に回し、より深くまで結合する。
 最奥部まで呑みこまれたところで、欲情が弾けるのがわかった。
 最後の一滴まで絞りつくす勢いで、純子のソコがぎゅっ! と締まった。
 それが緊張のためなのか、あるいは快感のためかはわからないが。絶頂が同時に襲ってきたことは確か。
 脱力した榎本が純子の上に突っ伏すと同時、純子の身体からも力が抜け、二人でしばらく荒い吐息を繰り返す。
「……大丈夫ですか、青砥さん」
「だ、大丈夫ですよっ! 榎本さんこそ……」
「そうですね。いささか疲れましたね」
「……すいません」
「青砥さんの身体が良すぎるので、持ちませんでした」
 榎本の軽口に、純子は「もうっ!」と膨れて肩を小突いてきた。
 出会ってから既に一年。仕草の一つ一つが子供っぽいところは、余り変わっていない。
 だからこそ、ベッドの中での乱れようがアンバランスで、それが榎本の欲情をどうしようもなく煽る。
 まさか、自分が女性に対してこんな思いを抱くようになるとは。榎本自身が一番意外だった。
「そう言えば、榎本さん」
「はい?」
 しばらく、ベッドの中でじゃれあいを続けた後。
 純子は、ふと思い出した、という口調で、囁いた。
「榎本さんて……経験、あったんですか?」
「……はい?」
「だから、その。わたしと出会う前に……その、こういう経験、あったんでしょうか」
「…………」
104学生時代の榎本 2:2012/06/10(日) 17:43:45.77 ID:skjaGYuf
 こういう経験、がどういう経験かわからなかったわけではない。だが、答えにくい質問であったのは確かだ。
「どういう意味でしょう」
「あのっ! そのっ、今更ですけど。榎本さんて、最初から……上手だったし。鍵とか防犯のことばっかりで、女性のことなんか興味なさそうでしたけど……わたしと付き合う前に、彼女とか、いたのかなあ、って」
 実はずっと聞きたかったんです、とぼそぼそつぶやく純子から、目をそらす。
 純子と恋人同士になったのが半年前。初めて身体を重ねたのが三か月ほど前だろうか?
 それから何度ベッドを共にしたのかはわからないが。自分に抱かれながら、そんなことを考えていたのか……と思うと、何となく腹立たしい。
「なら、青砥さんはどうなんですか?」
「え?」
「人に質問をするときは、自分から答えるのがマナーだと思うのですが」
「うっ……ええとっ」
 あーうーと唸りながら、真っ赤になる純子。その顔を見れば、答えなど明らかだった。
 即座に燃え上る嫉妬心を見せないように、視線を外す。純子が処女でないことは、初めて抱いたときからわかっていた。一般的に、二十代も後半の女性なら、それが普通だろうとは思う。
 理性ではわかっていても、嫉妬してしまうのが男という生き物なのだ、と。榎本は、冷静に自己を分析していた。
 第一、自分だって、純子が初めての女というわけではなかったのだ。
「あの、そのっ……」
 恥ずかしげにうつむく純子を見やりながら。榎本の思考は、過去……初めて女性と身体を重ねた夜に飛んでいた。

********

 8年前。榎本が大学を卒業する年のことだった。
 既に東京総合セキュリティへの就職も決め、卒論もOKをもらい、気が緩んでいた一月末、寒い夜のこと。
 ゼミの同級生に無理やり「卒業パーティーだ!」と連れ出され、酒を飲まされ、ややふらつく足取りで、繁華街を歩いていた。
 榎本は大学入学のときに一人暮らしを始めていた。帰宅が遅くなったことを咎める相手もいないため、終電も終バスも終わった夜道をのんびりと歩いていると。
「もうっ! みんなしてわらしのことばかにしてー! わらしだってわらしだってー!」
「ちょっと待ちなって!」
「放っておきなって。いい薬だよ!」
「そうそう。あの子お堅いんだもん。たまにはこれくらい弾けさせた方がいいっしょ」
「でも……」
 路地裏から響く、若い女性の声。視線を向けた瞬間、飛び出してきた女性が榎本に衝突し、そのままもろともひっくり返った。
「っ……だ、大丈夫ですか?」
「あうううう……いったあい……」
 視線を下ろす。榎本にしがみつくような格好で倒れているのは、驚いたことに、眼鏡の奥の瞳があどけない、制服姿の女子高生だった。
 しかも、本来色白らしい肌は真っ赤に染まり、漏れる吐息は明らかに酒臭い。
「ちょっ! やばっ! 人がっ……」
「逃げよ逃げよ! 通報されたらまずいって!」
 けたたましい足音に視線を向ければ、女性……いや、少女と同じ制服姿の高校生が、数人走り去っていく光景が見えた。
 どうやら、この彼女の友人達らしい。路地裏にはいくつもの空き缶が転がっている。明らかに、酒盛りの跡に見えた。
 そして、この少女一人を残して、友人達は逃げてしまった、と……
105学生時代の榎本 3:2012/06/10(日) 17:44:37.11 ID:skjaGYuf
「…………」
「ううう。わらしだってえ……わらしだってえ……」
 頭痛を感じて、額を押さえる。未成年の飲酒をどうのこうの言うつもりはないが、それにしても制服姿で堂々と酒盛りとは。
 いや、ともかく、問題は、いまだに自分にしがみついたまま離れようとしないこの少女だ。
「大丈夫ですか」
「ん〜〜ん〜〜ぜーんぜんだいじょーぶ、ですっ!」
 榎本の問いに、少女は弾けるような笑みを浮かべて言った。
 怪しい呂律といい真っ赤に染まった頬といい、明らかに酔っぱらっている。
 まさか、こんな少女をこんな時間に放り出すわけにもいかない。不承不承助け起こす。
「怪我はありませんか」
「ぜーんぜんだいじょうぶ、ですって!」
「……そうですか。ところで、家はどこですか? お友達は逃げ……いや、先に帰られたようなので、よかったら送りますが」
「いえー? いえー……あ、いえ。わたしのいえ、すっごい遠いんですよー!」
「遠い……?」
「はい! 今日中にかえるのはー、無理だとおもいますー」
「…………」
 一月末。制服姿の女子高生。遠くから来た……まさか。
(まさか、大学入試のために地方から上京してきた……とか)
 そして、入試が終わり気が抜け、友人達と酒盛りを楽しんでいた、ということだろうか。
 こんな時間まで遊び歩いていたということは、今夜は恐らくホテルに泊まるつもりだったのだろう。
「どこに泊まる予定だったんですか?」
「ん〜〜?」
「今日、どこに泊まる予定だったんですか? そこまで送ります」
「泊まるー? 泊まるー……あっ! そーそー!」
 榎本の問いに、少女は無垢な笑みを浮かべていった。
「あなたの、いえっ!」
「……はい?」
「あなたのいえー。泊めて、くださいっ!」
「…………」
 改めて、思う。
 やはり、飲み会の誘いなど断って、さっさと帰宅しておけばよかった、と。
106学生時代の榎本 4:2012/06/10(日) 17:45:16.65 ID:skjaGYuf
 何度諭しても、少女は榎本にしがみついたまま離れようとはしなかった。
 謝りながら制服のポケットを探らせてもらったが、身分証明書のようなもの、あるいはホテルの所在地がわかるようなものもない。それどころか、少女は完全な手ぶらだった。
 路地裏の酒盛りの跡を見に行ってみたが、鞄の類は残されていなかった。どうやら、少女の友人達が回収して行ったらしい。
 携帯電話もない。連絡の取りようもない。どこか適当なホテルに放り込んで知らん顔を決めたいところだが、少女は榎本から離れない。
 放っておいたら榎本自身が未成年略取で通報される危険があったため、やむなく、自分のマンションへと少女を連れ帰った。
 学生用の狭いワンルームマンション。ベッドとテレビと本棚、という最低限の家具と、装飾品代わりに鍵や錠がところ狭しと飾られた部屋を、少女は物珍しそうに見て回っていた。
「おもしろい部屋ですねー」
「……そうですか。とりあえず、座って、水でも飲んで落ち着いてください」
「おちついてますよー!」
 きゃはは、と笑う様子は、どう見ても落ち着いているようには見えなかった。
 コップに水を入れて差し出すと、一気に飲み干す。ごくん、と動く白い喉がやけに艶めかしく見えて、榎本は、視線を外した。
 ……最近の女子高生というのは、どうしてああもスカートが短いのだろうか。
 投げ出されるむきだしの脚。熱いのか、派手にはだけられた胸元。
 無防備な姿をさらしたまま、少女は、機嫌よくしゃべり続けていた。
「きいてー、くださいよー。みんなひどいんですよお。わらしのことばかにしてー」
「……はあ」
「だって、わたし達、みせーねんなんですよお? お酒なんか、駄目にきまってるじゃないですかー。なのに、みんな、わらしがおかしい、って」
「……はあ」
 榎本の気のない相槌に一切頓着せず、少女は、ぺらぺらと状況を説明した。
 やはり榎本の予想通り、少女は、大学入試のために、地方から上京してきたらしい。
 同じように東京の大学を受ける友人達とホテルに泊まり、今日が、試験の最終日だったのだとか。
 そして。どうせ明日で東京とはお別れなのだから、今日は思い切り弾けよう! と、自動販売機で酒を買い求める友人達を止めようとして、逆に馬鹿にされたのだとか。
 18にもなれば酒の一つや二つ、飲めるのが普通だ。お子様だ。興ざめだエトセトラエトセトラ。
 そして、ムキになった少女が酒をあおり、結果、酔い潰れた、と。
「みんな、わらしのこと、お子様だ、お堅い優等生だって言うんですー。そんなことないですよねー? わらし、普通ですよねー?」
「……さあ」
 初対面の男の家に泊めろ、と言ってくる時点で普通ではないだろう、という言葉は呑みこむ。
 改めて見れば、清楚にまとめられた黒髪といい、飾り気のない眼鏡といい、一切化粧が施されていない、滑らかな白い肌といい。普段は真面目な優等生なのだろう、ということは、わかった。
 少々スカートが短すぎる気はするが、最近の女子高生にとってはこれが普通なのだろう。
「でもねー! わらしだってねー、みんなが言うほど、お子様じゃ、ないんですよー! ねー?」
「……はあ」
「そりゃたしかにー、わらしはまだ処女ですけどー」
 唐突に飛び出した生々しい単語に、榎本は思わず噴き出した。
107学生時代の榎本 5:2012/06/10(日) 17:45:55.00 ID:skjaGYuf
「あの、ちょっと」
「そうれすよー! 確かにわらしは処女ですよ。ヴァージンですよー! でも、それってそんなにおかしいですかー? 18ですよー? 普通ですよねー? ねー?」
「……そうですね……」
 22にして童貞の榎本としては、頷くより他ない。
「でねー、みんな言うんですよー。わらしみたいなお子様はー、このままだと一生処女だぞー、って」
「……はあ……」
「そんなことない、って言ったんですけどー。みんな、わらしにはそんな度胸ないって、笑うんですよー。だからねー!」
 そう言って、少女はぐいっ、と身を乗り出した。
「ここで会ったのもー、何かの縁だと思うんれすよー」
「……はい?」
「抱いて下さい」
 そこだけ呂律がしっかりしていたのは何故なのか。榎本にとって、永遠の謎となった。
「あの……」
「抱いて下さい。わたしの処女をもらって下さい」
「…………」
 何度も思ったことだが、改めて思い直す。
 やはり今日は、飲み会の誘いなど断って、さっさと帰るべきだったのだ、と。

 誓って言うが、据え膳食わぬは男の恥とばかり、喜びいさんで襲いかかった、というわけではない。それだけは絶対に。
 最初はもちろん断ったのだ。冗談じゃない、とか。もっと自分を大事にしなさい、とか。
 だが、少女は聞く耳を持たなかった。
「らってー。あなた、よく見たらかっこいいれすねー」
「いや、あの」
「見ず知らずのわらしを、助けてくださってー。優しい人ですよねー!」
「いや、それは……」
「えい」
 乱暴な手つきで、眼鏡をひったくられた。
 思わず顔をしかめる榎本の頬を両手で挟んで。少女は、ぐいっ! と顔を近づけて来た。
「あの……」
「やっぱり。あなた、めがねないほうがー、すっごいかっこいいー!」
 言いながら、少女は、強引に榎本に口づけてきた。
 頭が真っ白になる。実はファーストキス(多分少女も)だったのだが、感動にふける暇などない、まさに一瞬のできごと。
「えへへー。ほら、わらしだってー、その気になればできるんですよお!」
「…………」
 ばくばくいう心臓を押えて身を引こうとすると、少女はさらに身を乗り出し、榎本の膝の上にまたがった。
 短いスカートが翻り、下着越しに下半身が押し付けられる。そのことを自覚した瞬間、一瞬にして血が集まるのがわかった。
 主に下半身に。
108学生時代の榎本 6:2012/06/10(日) 17:46:48.19 ID:skjaGYuf
「あの……離れてもらえませんか」
「やです」
「…………」
「ん〜〜……かーわいい反応、ですねー……って言えばいいんでしょうかー?」
 明らかに小説か漫画の受け売りと思しき台詞を言いながら、少女の唇が、首筋に押し付けられる。
 細身で、豊かとは言い難い胸が、榎本の胸に押し付けられた。
 が、豊かではなくとも、明らかに自分とは違う柔らかさに、理性が激しく揺さぶられる。
「っ……つっ……」
「えいっ! ほーら、キスマークいっちょあがり! でーす」
 きゃはは、と無邪気に笑う少女の声が、何となく腹立たしい。
 すりすりと頬ずりされる。その身体に手をかけて、強引に引き離す。
「すいません。冗談が過ぎると思うんですが」
「じょうだんじゃ、ありませーん!」
「……今日初めて会った男に、こういう……」
「じゃー会って何回目ならいいんですかー?」
「…………」
 真面目に問われると、言葉に詰まる。
「ほらー。会った回数とか、もんだいじゃないと思うんですよー。だって、あなたかっこよくて優しくてすっごいいい人じゃないですかー」
「見せかけかもしれませんよ。今日初めて会った男のことを、そんなにあっさり信じるものではないと思います」
「だーいじょうぶー! わらし、人を見る目には、自信があるんですよー!」
 そう言って。少女は、榎本の目を覗き込んだ。
 そらせない。その、純真で真っ直ぐな視線から。
「だってー。悪い人だったらー、わらし、とっくに押し倒されてめっちゃめちゃにされてましたよー」
「…………」
「でもー。あなた、我慢してくれてるじゃないですかー。おっきくなってるのにー」
 きゃはは、と笑いながら。少女は、榎本の下半身をわしづかみにした。
 思わず赤面する。確かに、自分の身体は、間近に感じる少女の肉体に過剰な反応を示していた。
 ……不可抗力だ、と訴えたいが。
「いや、これは」
「ねー? すっごい我慢してー、わらしのこと、諭そうとしてくれてんですよー。すっごいいい人でなきゃできないですよ! だから、あなた、いい人です!」
 そう言って。少女は潤んだ目で榎本を見上げた。
「だから、あなたにわたしの処女をあげたいんです。駄目ですか?」
「…………」
 だから。
 何故、そんな台詞のときだけ、しっかり呂律が回っているのだ。
109学生時代の榎本 7:2012/06/10(日) 17:47:38.99 ID:skjaGYuf
 榎本も少々酒が入っていた。第一、制服姿の女子高生にここまでされて、それでも理性を保てというのは酷だろう。
 ベッドに押し倒した少女の身体は、未成熟で、榎本の目から見ても子供と大差なかった。
 だからこそ、そんな身体を蹂躙できる、という思いに、罪悪感と同時に征服欲のような歪んだ喜びがわきあがってきた。
 ブレザーを脱がせ、シャツをはだける。力をこめたら折れそうな身体を組み敷くと、少女は、無邪気な笑みを浮かべた。
「ありがとー、ございまーす!」
「……ありがとう、なんですか?」
「はいっ! すっごくうれしいです!」
 漏れる吐息は相変わらず酒臭い。だが、潤んだ目といい、上気する肌といい、酒が彼女を色っぽく飾り立てているのもまた確か。
 少女の眼鏡をそっと外して、テーブルの上に置いた。素顔が余計に子供っぽく見えて、思わず視線を外す。
 あらわになった胸元に唇を寄せると、「うひゃっ」という小さな悲鳴が漏れた。
 きつくシーツを握りしめ、小刻みに震える少女の姿が、何だか可愛らしい。
「怖いですか」
「……こわくなんかないです」
「嫌だったら、今のうちに言ってください。今なら、引き返せますよ」
「いやじゃ、ないです!」
 きっ! と強い目で見つめられた。
 再び唇を重ねる。舌先でくすぐると、自然と唇が割り開かれた。
 からみあう舌はそのままに、手をなだらかな曲線に這わせると、「にゃっ! ひゃんっ!」と悲鳴が上がった。
 初めての榎本に、テクニックなどあろうはずもなかったが。どうやら、それなりに感じてくれているらしい。
 そろそろと、ブラウス、そして下着をずらし、直に胸に触れてみる。手のひらに感じる突起の感触を楽しんでいると、段々と固くとがってくるのがわかった。
「んん〜〜〜〜っ」
「大丈夫ですか?」
「だいじょーぶ! すっごく……気持ちいいです……」
 少女の吐息が、耳朶を打った。
 熱く「もっと……」と囁かれ、大いに盛り上がった。主に下半身が。
 そろそろと、胸から手をずらす。
 スカートをたくしあげると、派手に割り開かれた脚が、びくっ! と強張った。
「やっ……」
「すいません……怖がらないで」
 優しくしますから、と囁いて。内股から中心部まで、指を滑らせる。
 下着越しに撫で上げると、高い悲鳴があがる。首に回された両腕に力をこめられ、そのまま締め落とされそうになった。
「にゃんっ……は、はずかしい、です……」
「……ちょっとの間、我慢してて下さい」
 できれば、声を落として欲しいところだが。そこまで望むのは酷だろう。
 先ほどつけられたお返し、でもないが。首筋にキスマークを一つ。白い肌に毒々しく浮かぶ赤い痣を確認した後、滑らせた指を、内部に潜り込ませる。
 柔らかにほぐれがソコは、難なく榎本の指をのみこんだ。そのまま奥深くまで差し入れると、ぐじゅっ! という音が、響いた。
110学生時代の榎本 8:2012/06/10(日) 17:48:33.78 ID:skjaGYuf
「ひゃっ! やっ……」
「気持ちいいですか?」
「……すっごく……」
 ぐちゅぐちゅと、しばらく指で感触を楽しんだ。何しろ初めて触れる場所だ。内部がどうなっているのか、想像もつかない。
 覗き込もうとすると「やだやだっ!」と抵抗された。可愛らしい抵抗を適当に流しながら、膝に手をかけて、ぐいっ、と押し広げる。
 邪魔な下着をずりおろすと、桃色に濡れたソコがもろに目にとびこんできた。シーツに派手に染みを作っているのは目をつぶり、二本に増やした指で、さらにもてあそぶ。
 既に少女の喘ぎ声は言葉になっていなかった。必死に快楽に耐える様を楽しんでいると、「はやくぅ……」という囁き声が、耳を打った。
「いじわる……楽にしてください……」
「……いいんですか?」
「おかしくなっちゃいそうですっ。おねがいだから、はやく」
「わかりました」
 ばさり、と羽織っていたニットを脱ぎ捨て、ズボンと下着を下ろす。
 ……生ではまずいだろうか、などという考えが一瞬よぎったが、まさか今から買いに行くわけにもいかない。
 榎本ももう限界だった。昂ぶった下半身を押し付け、ゆっくりと挿入を開始する。
 きつい締め付けに、一瞬でイキそうになったが。それを必死にこらえて、さらに奥まで。
「ひっ……」
「大丈夫ですか」
「ひゃんっ……いっ……痛っ……」
 ぎゅっ、と閉じた少女のまぶたからこぼれたのは、一筋の涙。
 その涙を指で拭って、頬にくちづける。
 柔らかく少女の身体を抱きしめると、倍以上の力ですがりつかれた。
 十分に濡れているように見えたが、未成熟で狭いその場所は、男を受け入れるには早すぎたのかもしれない。
 それでも、少女はやめてくれとは言わなかった。榎本を受け入れながら、必死に耐えていた。
 ゆるゆると腰を動かす。じたばたとあがく脚を両腕で抱え込むようにして、ぐいっ! と奥までねじいれる。
 それから後のことは、正直覚えていない。無我夢中だった。少女の高い悲鳴をBGMに、無心で腰を動かした。
 ただ、高みに上り詰めた瞬間、最後の理性で少女の身体を突き放すことには成功した。
 ほとばしる欲望を両掌で受け止めて。榎本は、ベッドの上に倒れこんだ。

 その後、少女とどんな会話を交わしたかは覚えていない。
 気が付けば、そのまま寝てしまったらしく。目覚めたとき、榎本は裸のまま、布団をかぶっていた。
 身を起こす。既に少女の姿はどこにもなく、ただ、夢でなかった証は、榎本の首筋と、そして血やら何やらが飛び散ったシーツに残っていた。
 眩暈がするほどの頭痛を感じながらベッドから降り、蹴落とされた服を拾っていると、テーブルの上に、メモが残されているのに気が付いた。

 ――ご迷惑をおかけしました。本当にすいませんでした。昨夜のことは忘れて下さい――

 明らかに自分の字ではない、丸っこい、少女の文字。
 薄く笑って、メモを握りつぶすと、ゴミ箱に捨てた。
 言われるまでもない。あの無垢な少女を自分などが汚してしまった、など、誰にも言えるはずもない。
「あなたも早く忘れてくださいね。そして、受験、お疲れ様でした」
 昨夜のうちに言ってあげればよかった、と思いながら。榎本は、シャワーを浴びるべく、風呂場へと戻った。
111学生時代の榎本 9:2012/06/10(日) 17:55:47.84 ID:8ap9gnro
********

「……軽蔑されるかもしれないですけどっ! 聞いてもらっていいですか?」
「はい」
 純子の言葉に、回想から引きずり戻された。
 あれが自分の初体験だった。そして、それから8年。純子と出会うまで、恋人の一人もできないまま、来てしまった。
 経験はあるが、とても言えたものではない。純子の問いにどう答えたものか……と思いながら、視線を戻すと。
「わたし、初めては……18歳のときだったんですよ。高校三年生でした」
「はい」
「その日、わたし……知らない男の人と、寝たんです」
「…………」
「あっ、誤解しないでください! その、援助交際とかっ! 悪い人に無理やりとか、そういうんじゃないですからっ!!」
 慌てふためく純子を、榎本は、驚愕の視線で見つめていた。
 その視線の意味をどうとらえたのか。純子は、必死に「あの日は受験が終わって羽目を外しちゃって!」「お酒を飲みすぎて!」と、言い訳を繰り返す。
 ……まさか……?
「それでっ。友達に馬鹿にされたのが何だかすごく悔しくって……たまたまぶつかった男の人に……その、身を任せたんです」
「…………」
「その人、すごく優しい素敵な人だったんです。初対面の高校生ですよ? 酔って絡んできたんですよ? なのに、嫌な顔一つしないでわたしのことすごく気遣ってくれたんです。それがすごく嬉しくて……」
 ごめんなさいっ! と、消え入りそうな声でつぶやかれた。
「榎本さんには、隠し事はしたくなくてっ……軽蔑、しましたか……?」
「……いえ」
 軽蔑など、できるわけがない。
「気にしないでください。正直に話してくれて、嬉しいです」
「……すいませんでした、本当に」
「謝らなくてもいいですよ。もう8年も前のことでしょう」
「本当にすいませんっ。もう、あのときのわたしったら本当に子供でっ!」
 今だって大して変わっていません、という台詞は、言わない方がいいだろう、やはり。
「それで……あの、榎本さんは?」
「僕は、青砥さんだけです」
「え?」
「青砥さんとしか、経験ありません」
 そう言い切ると、純子の表情に複雑な笑みが浮かんだ。
 それはすっごく嬉しいんですけど何だか余計に申し訳ない……とうつむく純子を抱き寄せて。そのまま、ベッドに押し倒した。

〜〜END〜〜
112101:2012/06/10(日) 17:58:26.70 ID:8ap9gnro
終わりです。
すいません。連続投稿とか言われたんでID変わってますが
>>103-111
は全部自分の投下です。
長々と失礼しました。
113名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 18:29:59.05 ID:Eyxtt/GM
感動しました。
いいお話です!たまらんです!
114名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 18:50:38.13 ID:d3i5XiOR
そういうオチですか〜い、GJ
115名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 19:03:18.78 ID:PgrIiHKK
すっごい!!!!
書いてくれてありがとうありがとうありがとうありがとう!
いい話だったよーーー!!ちょっと泣けたし・・・・・。
GJGJ!
116名無しさん@ピンキー:2012/06/10(日) 19:24:33.25 ID:gChuQxUK
すげー、数時間前のリクに応えたとは思えないクオリティだ
文才ある人って尊敬するわ
自分には何時間、何日与えられてもこんな作品書けない

>>112
GJです!
117経験豊富な榎本さん5:2012/06/10(日) 22:12:44.93 ID:eN6rf2yv
フランス製のグレープシードオイルを使ったアロマキャンドルの小さい炎が揺れている。
ふわふわと豊かな純子の長い髪を撫ぜながら唇を重ねる。榎本の舌が侵入してくると、純子はためらう様に舌を絡めてくる。
口づけをしただけで純子の胸のふくらみの中央にあるピンク色の突起が固く膨らんでくるのを目で楽しんだ後
榎本はそろそろとその突起を指で遊ばせる。榎本の大きな掌にすっぽり収まってしまう小さな乳房を揉みしだく。
ブランケットをめくり純子の腹部から秘所のすぐ近くまでをまさぐると純子の口から小さな嬌声が漏れ始めた。

「青砥さん、この間のあの時、貴女、少し涙ぐんでいたでしょう?あれは・・・」
えっ?と純子の顔が困惑した様子をみせる。
「ああ、おっしゃりたくなければ良いんです。僕の勘違いなんでしょう。お気になさらず・・・。」

「え、榎本さん、私、あの・・・この歳になってこんなこと恥ずかしいんですけど・・・本当は
男の人が怖いんです。その、何ていうか、こういう事をしている時の目が・・・男は皆オオカミだって言うけど
やっぱり獣みたいになるから・・・その・・最後の方は・・・」

「僕のこともこの間怖いと思った?(あんなに優しくいたわる様に交わったというのに)」
「ええ、ちょっとだけ・・・怖かった・・・体の芯から全部奪われてしまうみたいで・・・」

純子はやはり知らないのだ。男と女が抱き合うということは互いに奪い奪われ快楽に溺れ無我に陥ること。
それこそが悦楽なのだと。

「それは・・・貴女に対して僕が行き届かなかったということですよ。すみませんでした。」
何という初な可愛い女なのだろう。性的に交わる時、男の与えるものを貪欲に奪い尽くすのが女の性だということを
純子はまだ分かっていないのだ。女としてまだ蕾のままでいる純子にサディスティックな欲望がふつふつと湧き上がってくる。

「怖くないですから・・・。」
こっくり頷く純子の秘所に指を進める。まだ少し体を固くしている純子の両脚は閉じたままだ。
純子の花びらをまさぐると、そこは既にしっとりと潤いとろりとした液体が榎本の指に絡みつく。
脚を開かせようとするがキャンドルの灯りの下に曝されるのを恥じらっているらしい。
「ほら、膝の力を抜いてごらんよ」そう優しくつぶやき純子の膝の下に両手を入れるとふっと体の力が抜けてくるのが分かった。


118経験豊富な榎本さん6:2012/06/10(日) 22:38:28.97 ID:eN6rf2yv
ゆらゆらと漂うようなキャンドルの灯りの下に純子のスモモのような秘部が現れる。
榎本は両手で純子の脚を開かせると透明な液体を湛えた純子の可愛いらしい割れ目に口づけた。
舌を動かしピンク色の薄い襞を愛撫し始めると思わず純子は声を上げてしまう。
「あ、榎本さん、そんなに・・・あぁ・・・」吐息まじりの声が更に榎本を欲情させる。
花びらを開かれ、十分に舌で愛されると一番柔らかいところから、じわじわとまたとろりとした液体が溢れ
榎本の唇とシーツを濡らしていく。
「え、榎本さん、私、、もう・・・」
「もう、何ですか・・・耐えられない?いいんですよ恥ずかしがらないでイッテしまいそうですか?」
榎本の長く美しい指が一本、二本と純子の中に入ってくる。蕾のあたりを指の腹で触れ、ゆっくりと指を差し入れ
蜜の溢れる奥まで届かせては指を抜く動作を繰り返すと純子のそこはは耐え切れずに淫靡な音をたてる。
「あなたのここは、ほら、こんな風にされると小鳥のように鳴くんですね。可愛い人だ」
「いやあ・・・そんなこと・・・い・わない・・で・・・」
うるうるとした瞳で榎本を見つめた純子は自分をいたわるように見つめ返す榎本が優しく微笑んだ気がして意識を失った。

119経験豊富な榎本さん7:2012/06/10(日) 23:33:39.99 ID:eN6rf2yv
「青砥さん、青砥さん・・・ほら、これを飲んで」
榎本が差し出したグラスの水をゴクリと飲むと照れたように純子が笑う。
少し心配そうに純子を気遣う榎本を「怖い」となぜ思ったのか。純子は自身に問うてみるが何故なのかはわからない。
あの地下倉庫で錠前について長々と薀蓄を語っていた榎本、警視庁の職員に立て板に水の如く密室のトリックを
説明していた榎本、こうなる前までに認識していた榎本とベッドの中での榎本にあまりのギャップに動揺を隠し切れなかったのかもしれない。
「彼女いるんですか?」とからかい半分に尋ねた時の仏頂面と今こうして純子を見ている顔はまるで違う男のようだ。
手練手管でこれまでも散々女性関係に事欠かなかったであろうこの人が、心の中では私を小娘扱いしていたんだと思うと
思わず赤面してしまう純子だった。

「何をブツブツ言っているんですか?今夜はもう自己完結したから僕はもう用済みと言う訳ですか?」
そう笑う榎本には時に感じていたシニカルさは無かった。
「用済み・・・なんて私はそんなエゴイストじゃありませんよ」
「それを聴いて安心しました。僕の方はまだたくさんして頂かないとイケませんから」

閉じていた脚はもう固く強ばってはいなかった。榎本は両手で純子の脚を大きく開くとゆっくりと男性自身が純子の蜜の奥に入っていく。
腰を動かし律動を始めると、純子の秘部からまた小鳥のような鳴き声がしてくる。
榎本の動きに合わせるように純子の喉から切れ切れの声が漏れる。初めての夜の時のようなわずかな抵抗はまだあったが
男性自身が秘部の一番奥に達したのを感じると頭から脊髄まで痺れるような感覚が榎本を貫いた。
とろとろと愛液が溢れ出す純子の襞がぎゅっと榎本の分身を締め付けて離さない。
二人の繋がった場所が何度も何度も恥ずかしい音をたてる。
「え、榎本さん、えの・・も・・とさん・・・」
「まだですよ、いっしょに、いっしょに・・・」
榎本が純子の腰骨をぐいと掴むと一層密着の度合いが増し、純子の奥の襞という襞が榎本の分身を更に
ぐっしょりと締め付ける。純子の目尻から一筋涙が伝うのを見て、榎本は純子の奥深くに放った。

120経験豊富な榎本さん:2012/06/10(日) 23:37:06.68 ID:eN6rf2yv
頑張って書きましたが性描写がワンパターンでお粗末でした。
次からは下書きしてから書き込もうとおもいます。おやすみなさい。
121経験豊富な榎本さん8:2012/06/11(月) 00:31:09.57 ID:8LVrng66
事が終わってすぐ終了というのも新味に欠けるのでちょっと付け足します。

榎本は思った。コトが終わってこんなに満ち足りた気分を味わったのは初めてかもしれない。
ただ単に誘われた勢いで、もしくは食指が動いて誘ってしまい行なった事も多々あったが
大抵はイってしまった後は何か寂しさというのか虚しい気分が襲ってくるが常でもあったのだ。
男はアダムの末裔の快感だけを満たしてしまったら、ハイ終わりなのだと思っていたが、そういう感覚とは違うものが
榎本の中に生まれていた。

隣で口を半開きにして榎本の左手を握ったまま寝息をたてている幼稚な垢抜けない女に
「俺は惚れたのか?いや違うだろう。」
「榎本さん・・・、何か言いました?」
「いえ、何も。起きていたんですか、人が悪いな。イって満足した男の顔を観察でもしていましたか?」
「うふふ、おかしな人ね榎本さんて。」純子は微笑んで榎本の瞼や唇を指で愛おしそうになぞる。
「そんな目で見つめないで下さい。またおかしな気分になってきます。もうおやすみなさい。眠る貴女を暫く見ていたい。」

122名無しさん@ピンキー:2012/06/11(月) 15:27:04.53 ID:FK87NnJF
>>120
いやいや、そんな事ないよお疲れ様です
さてと、自分も何とか男女逆転モノのSS
(女榎本と男青砥。キョンと長門有希みたいな見た目のヤツ)
頑張ってみよう
123名無しさん@ピンキー:2012/06/11(月) 16:22:25.11 ID:6U99X2N4
>>120
書き手さんは男性なのかな?視点がそんな気がした。お疲れ様。

>>122
男青砥はキョンみたいな見かけなんだ!!!
なんだかラグビー部員みたいなごつくて朴訥チョトツモウシン(なんで変換できない)な印象だった。
124名無しさん@ピンキー:2012/06/11(月) 18:46:03.37 ID:Xwd+yUAj
>>91
乙です
原作榎本×ドラマ純子って新しいな
125遅い返事 1:2012/06/11(月) 19:19:58.32 ID:ZxmHGWfm
後数時間で放送!
のテンションで一発ネタ書いてみました。
芹沢パパを活躍させたかった話です。

××××××××

「榎本さんっ。今日、お仕事が終わった後、暇ですか?」
「……はい?」
 ある日の東京総合セキュリティ、地下備品倉庫にて。
 何の前触れもなく訪れた青砥純子は、何の前触れもなくそんなことを言いだした。
「どうですか?」
「これと言って用事はありませんが」
「そうですかっ!」
 榎本の返事に、純子は身を乗り出して言った。
「じゃあ、今日、榎本さんのお宅に遊びに行ってもいいですか?」
「…………はい?」
「お土産も買ってきました! どうですか?」
 そう言って彼女が差し出して来たのは、テレビで紹介されたという、行列のできるスイーツ店の詰め合わせだった。
 二人で食べると考えても量が多くないだろうか……などと思いながら、視線を上げる。
 純子の顔には、邪気の無い笑みが浮かんでいた。何か下心があるようには見えないが。
「何故ですか」
「え、何故って?」
「何故、僕の家に?」
「だって、榎本さんはこの間、わたしの家に来たじゃないですか」
 それは確かにその通りだが。あれは遊びに行った、というのとは状況が違うだろう。
「だったら、わたしにも榎本さんの家、見せて下さいよ」
「面白いものなんかありませんよ」
「そんなこと言ったら、わたしの家だって面白くありませんでしたよ! あ、ご家族の方に、了解取らないと駄目ですか?」
「いえ、一人暮らしです」
「じゃあ、いいじゃないですか! それとも……迷惑ですか?」
「…………」
 そんなことを言われて、「迷惑だ」と言える人間がどれほどいるというのか。
 純子から視線をそらし、今朝出てきたときの自室の様子を思い出してみる。人に見られて困るほど、見苦しい有様ではなかった、はずだ。
「……まあ、構いませんが」
「よかったあ! 楽しみにしていますね」
 にこにこ笑う純子に「はあ」と気のない返事を漏らして、開錠作業の続きに戻った。
 終業時刻まで、後30分、というときの出来事だった。
126遅い返事 2:2012/06/11(月) 19:20:44.32 ID:ZxmHGWfm
 いつもなら、業務の後も、手掛けている開錠が終わるまでは備品倉庫に居座るのが榎本の常だったが。
 今日ばかりは、そういうわけにもいかない。
「楽しみです。榎本さんのお宅って、どんな家なんですか?」
「普通のマンションですよ」
「きっと、すっごく厳重なセキュリティがかかってるんでしょうね!」
「……普通のマンションです」
 あまりに期待されると、申し訳ない気分になってくるのは何故なのだろう。
 純子の家とは方角が違うが、とやんわり言うと、「全然構いません!」と首を振られた。
 定時を迎え、二人で倉庫を出る。帰宅する社員達が、奇異の眼差しを向けてくるのを居心地悪く感じながら、目立たないように駅に向かう。
「あ、お夕食どうしましょう? 榎本さんは、いつもどうされてるんですか?」
「色々です。適当な店に入ることもありますし、コンビニで済ませることも多いです」
「料理とか、されないんですか?」
「滅多にしませんね。時間が惜しいので」
 そう言うと、「本当に鍵のことで頭がいっぱいなんですね」と笑われてしまった。自分は、何かおかしなことを言ったのだろうか。
「そういう青砥さんは、料理はよくされるんですか」
「うっ。それを聞かれると辛いです……わたしも普段はあんまり」
「そうですか」
「だって、一人分だけ作るのって面倒だし不経済じゃありません? あっ! できない、ってわけじゃないですからね!」
「いや、別にそうは思っていませんが」
「いーえ、何だか目がそう言ってました! ようし! じゃあ、今日はわたしが何か作りますよ! いつも外食じゃ身体に悪いですもんね!」
「いや……結構です。別にそこまでは」
「いいじゃないですか! 滅多にない機会なんですし。榎本さんの家、調理器具はどんなのがありますか?」
「…………」
 何故だろう。純子がやけに張り切っているように見えるのだが、それは自分の目の錯覚だろうか。
「何か食べたいもの、ありますか?」
「別にありません」
「もうっ! じゃあ、スーパーに行って考えましょう。榎本さんのお宅の近くに、スーパーってありますか?」
「……ええ、まあ」
 肩を並べて、帰路を歩く。普段は常に一人で歩いているだけに、隣に純子がいる、というのが落ち着かない。
(……気まずい)
 何故、気まずく感じるのか……はわからないまま。榎本は、早く家につかないか……と、そればかり祈っていた。
127遅い返事 3:2012/06/11(月) 19:21:40.62 ID:ZxmHGWfm
 スーパーで食材を見繕い、自宅に帰宅。
 榎本の住んでいるマンションを見て、純子は「わあ」と感嘆の声をあげた。
「普通のマンションですね!」
「……すいません。ご期待に添えなくて」
「えっ、何で謝るんですか!? わあ、お邪魔しまーす」
 鍵を開けてドアを開ける。「どうぞ」と言う暇もなく、純子は会釈と共にずかずかと上り込んで行った。
 見るべきものなど何もない、オーソドックスな1LDKだ。家には寝に帰るだけで、休日さえも職場で過ごすことが多いため、鍵のコレクションもさほど多くはない。
「シンプルなお部屋ですね」
「素直に何もない、と言っていただいて結構ですよ」
「壁が鍵で埋め尽くされてるのかと思ってました! あ、じゃあ、わたし料理します。台所借りますね」
「……どうぞ」
 純子を台所に案内し、榎本自身はリビングへ。料理を手伝おうか、と申し出たが、「任せてください!」と押し切られてしまった。
 こんな時間に自宅に誰かがいる、というのは、初めての経験ではないだろうか。
 落ち着かない思いを抱きながら、ソファに腰を下ろすと。
 見ているのか、と言いたくなるようなタイミングで、携帯が鳴った。

「どうぞっ! 榎本さんのお口に合うかはわかりませんがっ!」
「……いただきます」
 純子の料理が終わったのは、一時間後だった。初めて使う台所で調理したにしては、まあ上出来ではないだろうか。
 どんな料理が出てくるのか、と、戦々恐々していたが。幸い(というのも失礼な話だが)、ご飯に肉じゃが、ホウレンソウの胡麻和えといった、典型的な和食が並んでいる。
「どうでしょう?」
「……美味しいですね」
「え、本当ですか!?」
 榎本の素直な賞賛に、純子は目を輝かせて「よかった!」とつぶやいた。
 お世辞ではなく、本当に美味しかった。恐らく料理の本を丸暗記しているのだろう、個性のない味付けではあるが。それだけに、外れが無い、とも言える。
 しばらく、料理に集中する。「これは上手にできた」「こっちはもうちょっと味付けが薄い方が」とにこにこしながら食べている純子がどこか微笑ましい。
 誰かと一緒に食卓を囲むなんて、何年振りだろう?
 純子の心遣いが、榎本の胸に染みた。だからこそ、これ以上黙っていられなかった。
「……青砥さん」
「はい?」
「さっき、芹沢さんから電話がありました」
「…………」
 榎本の言葉に、ぱたん、と、純子の箸が止まった。
「……芹沢さん、何て言ってました」
「青砥をよろしく、と」
「……それだけですか?」
「まさか本気にするとは思わなかった。すまん、と謝っておられました」
「…………」
 ぎゅっ、と唇をかみしめて、純子はうつむいた。
 そのまっすぐな思いが、まぶしい。
「冗談じゃなかったんですか、この間のお話は」
「……冗談のわけ、ないじゃないですか。わたし、冗談であんなこと言う女に見えましたか?」
「いえ」
128遅い返事 4:2012/06/11(月) 19:22:18.45 ID:ZxmHGWfm
 数日前の出来事だった。
 いつものように、用事はないけど……と職場に訪れた純子は、唐突に言った。

 わたし、榎本さんのことが好きみたいです。大好きなんです、と――

 榎本は、それに答えなかった。
 嬉しい、とも。迷惑だ、とも。ありがとう、とも。お断りします、とも――具体的な言葉は、何一つ返さず。ただ、「そうですか」と、他人事のように答えて、もくもくと開錠作業に集中していた。
 純子も、それ以上何も言わなかった。榎本の態度をどう受け止めたのかはわからないが、笑うでもなく泣くでもなく、ただ、いつものように雑談をして、手土産の菓子を食べて、お茶を飲んで、いつものように帰って行った。
 そして、翌日も。何事もなかったかのように榎本の元を訪れて、二度とその話を蒸し返すことはなかった。

「わたし、ショックでした。断られるよりも……ショックだったかもしれません」
「……すみませんでした」
「あ、謝らないでくださいよっ! 謝られると……余計に、みじめになるじゃないですか」
「…………」
 ぐすぐすとしゃくりあげる純子を見ていられなくて、榎本は、静かに目をそらした。

 電話口で聞かされた、芹沢のドスの利いた声が忘れられない。
 お前は、男として最低だ、と。

「やっぱり言うんじゃなかった、とか。でも黙っていられなかった、何とか伝えたかった、とか、色々考えちゃって……仕事の間もぼんやりしちゃって、芹沢さんに怒られちゃいました」
「僕も怒られましたよ。さっき、電話で」
「そんな! 何で榎本さんが!?」
「……僕が、最低のことをしたからでしょう」

 純子は、芹沢にこう相談したらしい。自分には、女としての魅力は全くないのだろうか。榎本にとって、自分は女の範疇にすら入っていないのだろうか、と。
 それに対して、芹沢はこう答えた。「なら強引に押しかけて女らしさでもアピールすればいいんじゃないか? 男なんて単純だからうまい手料理の一つも食わせればそれだけで落ちる」と。
 ついでにこうも伝えたらしい。「そのまま酒でも飲ませて押し倒せ。今は女からアピールする時代だ」と。
 何と無責任なことを言ってくれるのだ、と榎本は電話口で抗議したが、芹沢から倍の勢いで怒鳴られた。
 なら、お前のその態度は何だ。純子のような女が自分から告白をするのに、どれほど勇気がいったと思っているんだ、と。
 全くもって、返す言葉がなかった。
129遅い返事 5:2012/06/11(月) 19:25:09.27 ID:ZxmHGWfm
「……迷惑をかけて、すいませんでした。わたし、勘違いしてました。
 榎本さんが、いつもわたしのこと受け入れて下さるから。
 どんな愚痴も嫌がらず聞いてくれるし、職場に押しかけても迷惑がらずに入れてくれるしっ……
 ちょっとは、好意を持ってくれてるんだって、勘違いしちゃったんです」
 本当にごめんなさい、と、純子は泣きながら頭を下げた。
 そんな必要など、無いのに。
「迷惑なんかじゃ、ありませんでした」
「……え?」
「迷惑なんかじゃなかったんです。青砥さん」
 純子の顔をまっすぐ見ることができなかった。
 あのときの自分の行動が、どれほど純子を傷つけていたのか。そんなことを、今更思い知らされた。
 何故、自分はこうなのだろうか。今日ほど、対人関係に不器用な自分の性格を呪ったことはない。
「とても、嬉しかった」
「榎本さん……?」
「青砥さんに好きだと言ってもらえて、本当に嬉しかったんです。僕はこれまで、女性にもてたことなど一度もないし、ましてや告白されたことだってありません。青砥さんが初めてでした」
 けれど。だからこそ、ブレーキをかけてしまったのだ。
 その「好き」は、本当に榎本が望む意味での「好き」なのか、と。
「青砥さんの向けて下さる好意が、友人としてのものなのか、あるいは一人の女性が男に向ける意味での好意なのか、わからなかったんです」
「榎本さん……」
「聞けばいい、と思われるでしょう。でも、聞けなかったんです。がっかりするのが、怖かったから」
 聞いて、当然のような顔で「もちろん友達としてですよ?」と言われたら。きっと、自分は傷ついただろう。
 それが怖かった。聞かなければ、「もしかして」と希望を持ち続けることができる。
 何か返事をすることで、勘違いだと笑い飛ばされるかもしれない。それが怖くて――何も言うことができなかった。
「本当に、すみません。僕が、臆病だったせいで」
「榎本さん……」
「今更、返事をしても遅いでしょうか?」
 榎本の問いに、純子は首を振った。
 その瞳から再びあふれ出す涙。けれど、その表情に浮かぶのは、喜び。
「返事、下さい。ずっと待ってました……榎本さんの返事が、ずっと聞きたかったんです」
「はい。お待たせして、すいませんでした」
 視線を上げる。純子の目を、まっすぐに見つめる。
 どのような言葉で伝えるのがいいか――一瞬悩み、浮かんだ文句を全て捨てる。
 ただ一言でいいのだ。自分が純子に伝えたい思いなど、その一言だけで十分なのだから。
「青砥さん。僕は、あなたのことが――」


××××××××

終わりです。
本当はこの後、榎本押しでエロに持ち込みたかったけど力尽きました。
本放送wktk待機しながら失礼します。
130名無しさん@ピンキー:2012/06/11(月) 19:44:34.15 ID:lfHYBdAH
んふー
榎本の葛藤もよく分かるし
芹沢パパのここぞって時の男らしさも
とても素晴らしかったです!
放送も待ち遠しい!
131名無しさん@ピンキー:2012/06/11(月) 19:48:56.81 ID:6U99X2N4
>>129
プライドってこっちにも載せてましたっけ。あれ好きなんだけど。
132129:2012/06/11(月) 20:04:43.64 ID:ZxmHGWfm
>>131
いえ、あれはこっちのスレには投下してないです
あんまり連投しすぎると他の書き手さんの邪魔になるかなと。。。
好きだと言ってくださってありがとうございます
133名無しさん@ピンキー:2012/06/11(月) 23:44:16.58 ID:d2xy9d7t
今週は榎本青砥の萌えは薄かったなぁ
話はテンポ良くて面白かったけど

つか、残すところあと1事件なのが悲しすぎる
最後の密室なのかと思うと放送日が来てほしいような来てほしくないような
134名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 00:33:09.90 ID:P7Vd8qjx
飲むなら誘ってくださいよでじゅうぶん萌えたわw
135名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 00:41:49.77 ID:/NmE/RxB
指を銃に見立てて自分の口に突っ込む青砥を見て
脳内でエロ変換してしまったw
136名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 01:55:40.45 ID:Okx5Zrrw
来週榎本捕まっちゃうの?殺した とか言ってた気がするΣ(゚Д゚)!ガーン
もし榎本が本当に万が一殺人を犯したとしたなら、
母親と小さい頃から二人暮らしの部屋に
母親に一方的に
好意を持ってた男が侵入して母親を傷つけようと、して
誤ってその男を榎本
殺めてしまって
捕まってしまう。
それを弁護士である青砥と芹沢が無報酬で弁護して
無罪または正当防衛を勝ち取り
やっと榎本が本当の心の鍵を空けて
打ち明け。青砥に感謝さらに告白って流れがいいなぁ
…ってか自分なんて貧相な発想…orz

悲劇的なラストは絶対やだ。
榎本と青砥はぜひ

最後はくっついて欲しいハッピーエンドで、芹沢パパが祝福的な
来週が待ち切れん
気になって気になって。
137名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 06:11:04.88 ID:nTFlSY27
>>135
ノシ
榎本の指に変換したw
138名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 09:46:56.64 ID:rTU7n+Om
>>131
何の話??
139名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 10:10:02.46 ID:R0N8aWEZ
前スレの彼女の続き投下しますね。長いです。すみません。
140続・彼女 1:2012/06/12(火) 10:12:59.32 ID:R0N8aWEZ
自宅マンションに戻った芹沢は大きなため息をついてソファーに座った。
青砥が榎本を好いていたのは当然気付いていた。休みの日も榎本と会い、仕事中も何かと榎本の所にいるのだから気付かないほうがどうかしているだろう。
それが、強敵!巨乳ちゃん現わる!だもんな…榎本も巨乳ちゃんに傾いてるみたいだし…
あの様子じゃ青砥は明日仕事にならないだろう。いやいや、そんな問題ではない。
このままではチーム榎本解散の危機だ。それは非常に困る。いやいやそれも違う。
変な意味ではなく青砥が可愛くて仕方ないのだ。さっきみた青砥の落ち込む姿…
榎本には少し可哀想な気もするが、巨乳ちゃんを諦めてもらって。そうだよ。巨乳より近場の貧…青砥だと榎本に教えてやらねば。

待ち合わせは19時だったよな。
絶妙のタイミングをはかって榎本に電話をする。何とか鍵を無くしただの取り繕ろった嘘で、今すぐ迎いますので、少々お待ち下さい。と榎本を呼び出す事に成功した。
わざわざ玄関外にでて演技しただけある。

ドアに頭をつけ一仕事終えたと、満足げに微笑んでいると目線を感じる。
隣の住人の帰宅と重なったのだ。まずい所を見られた。
141続 2:2012/06/12(火) 10:16:15.68 ID:R0N8aWEZ
バスローブ姿で廊下に佇んでるなんて変態じゃねえかよ。ましてや、部屋から事に及ぼうとして追い出されたみたいだ。
慌ててバスローブの上から更に手で身体を隠し、室内に逃げる。

完全に変なおっさんだと思われただろう。何で俺がこんな思いして……もう一度外にでて榎本を待つために着替えようとも考えたが開き直る。
「まあ、榎本はもうここに向かってる訳だし。今さら着替える必要もねえか。外にいる必要もねえよな。」ソファーに腰掛けワインのボトルを開けた。

暫くすると榎本から携帯に着信が入る。
モニター付きインターホンで一階エントランスを確認すると、榎本到着したようだった。
芹沢が電話に出ない。が、オートロックの扉が解除される。芹沢が部屋の中にいると察した榎本はエントランスに設置された防犯カメラを睨んだ。
芹沢の部屋前に着くと扉が開き、芹沢が顔を出す。
「おー榎本来たか」
「あの、芹沢さんは何故家の中に?」
「そんな野暮な事言うなよ〜。いやお前に電話してすぐ鍵が見つかってよ〜。まあ座れ、いいから。エスプレッソか?お茶でも入れような〜」
相当酒を飲んでいたのだろう。ワインの空になりたての瓶が机に堂々と置かれている。
142続 3:2012/06/12(火) 10:23:43.37 ID:R0N8aWEZ
端から鍵など無くしていなかったのだろうと、榎本は飽きれ顔でソファーに座った。
「芹沢さん。お話があれば簡潔にお願いします。急いでいるもので」
「急いでるってまた女のとこ戻るのか?」
「はい」
頭を抱え天を仰ぐ。(ここまでしても榎本やつ、今晩は何がなんでも巨乳を楽しむ気なんだな)
「芹沢さん。何か勘違いされているようですので訂正しますが、私は青砥さんの所に戻るつもりですよ」
「え?そうなの?何だよ分かってるんじゃないのよ」
途端に笑顔になると、ソファーに座る榎本の後ろに周りこむと肩をがっしり掴む。
「痛いですよ。あの、お茶は?」
「飲んでる場合じゃないでしょうよ。立ちなさい。ほら」
榎本の肩を引き上げ無理やり立たせると、荷物を変わりに持ち玄関へ運ぶ。端から鍵など無くしていなかったのだろうと、榎本は飽きれ顔でソファーに座った。
「芹沢さん。お話があれば簡潔にお願いします。急いでいるもので」
「急いでるってまた女のとこ戻るのか?」
「はい」
頭を抱え天を仰ぐ。(ここまでしても榎本やつ、今晩は何がなんでも巨乳を楽しむ気なんだな)
「芹沢さん。何か勘違いされているようですので訂正しますが、
143続 4:2012/06/12(火) 10:27:10.22 ID:R0N8aWEZ
私は青砥さんの所に戻るつもりですよ」
「え?そうなの?何だよ分かってるんじゃないのよ」
途端に笑顔になると、ソファーに座る榎本の後ろに周りこむと肩をがっしり掴む。
「痛いですよ。あの、お茶は?」
「飲んでる場合じゃないでしょうよ。立ちなさい。ほら」
榎本の肩を引き上げ無理やり立たせると、荷物を変わりに持ち玄関へ運ぶ。
「でもよう、お前も鈍感だよな?あれだけ青砥がアピールしてたのによう」
「ええ…すみません。青砥さんは優しい方なので、私にだけではないと思っていましたので」
「あのな榎本。ああいう青砥みたいな真っ直ぐで我が強い女に限って、男からリードされたいんだよ。分かるか?」
「はあ、そうですか。参考にします」
本当におもってるのか聞いてるのか分からない榎本の無表情さに笑う。
「じゃあ、またな。頑張れよ」
曲がった榎本のネクタイを直し、荷物を手渡すと笑顔で手を振り榎本を送り出した。

満足げに部屋に戻ろうとすると、先ほどの隣の住人が出掛けるところだったらしく、汚らわしいものを見るような目で通りすぎて行く。
「おいおい勘弁してくれよ。」
完全に誤解だが、そっちのけがある人だと思われたのだろう。
144続 5:2012/06/12(火) 10:29:25.98 ID:R0N8aWEZ
社会的地位も高く金もある。容姿も問題はないだろう。
だが良い歳なのに独身。そしてそっちの人に受けそうな顔をした若い男を部屋に連れ込んでいる。
「ダメだこりゃ」疲れに疲れた芹沢は、その後、酒をさらに煽ったのだった。

「します!しますから…」青砥の声が聞こえた気がしたが…気のせいだろうと眠りについた。


〜〜〜〜〜〜〜〜

歩きの遅い榎本にいらいらする。密室のときはあんなに早足になるくせに。
「榎本さん。急いで下さい。そんなになってるの見られたらどうするんですか?」
「…はい。すみません」
チラチラと膨らんでいる下半身を見てくる青砥に、榎本がカバンで隠す。
「もうっ。とにかく早く歩いて下さい」
榎本の手をとり、引っ張るように歩く。
「青砥さん。この状況だと青砥さんは相当積極的な女性ですね?」
慌てて手を振りほどく、確かに積極的に榎本を誘っているみたいだ。
「だっ誰のせいだと思ってるんですか?」
「青砥さんです」
「私ですか?」
「はい。青砥さんのせいで、こうなってますので」
よくもはっきりと……青砥は耳まで真っ赤にして大きくため息をつく。
「もういいです」
145続 6:2012/06/12(火) 10:31:11.30 ID:R0N8aWEZ
しばらく歩くと青砥の家に近づく。
「青砥さん。お腹空きませんでしたか?」
「そういえば晩ご飯食べてませんでしたね。私何か作りますよ」
「…そうですか」
榎本の足音が止まり振り返る。
「そうですか」
指を擦り考えているようだ。
「え?榎本さん。も、もしかして上がって行かないつもりでした?わ、私その」「いえ、先ほどの約束がありますのでお邪魔します」そう言うとスタスタと歩き出す。
絶対上がるきなんてなかったと悟り、青砥は肩を落とした。

青砥宅玄関前
「呼ぶまで待ってて下さい。朝ドタバタして出てきたんで、パジャマとか脱ぎっぱだし」
「構いません。僕は構いませんよ」
「いやいや、私が構いますから。いいから待ってて下さい」
榎本を言い聞かせると中に入り、散らかった部屋に愕然とする。
ベッドに脱ぎ捨てたままだったパジャマを片付け、ぐちゃぐちゃになった掛け布団を綺麗にする。
何だかベッドを綺麗にする自分が恥ずかしくなり、途端に顔が真っ赤になるのが鏡を見ずにもわかる。
とりあえず目に入るところだけでもと思ってはいるものの、簡単に綺麗になる部屋ではない。精一杯急いで片付け玄関のドアを開ける。
146続 7:2012/06/12(火) 10:33:04.81 ID:R0N8aWEZ
「お待たせしました。あれっ?榎本さん?」
廊下に姿がなく、またいつのまにか部屋に上がったのかと中を見回すが姿が見えない。
「え?帰った?」
心配になり携帯に電話をかけながら外に飛び出す。
「あ、榎本さん?どこですか?」
「コンビニです」
「心配したじゃないですか。お待たせしちゃいましたね。何か買うものでもありました?」
「はい…」
何だかいやな予感がしてそれ以上は聞かないでおく事にした。
「そうですか。じゃあ早く!…と、とにかく帰って来て下さい。私、料理作って待ってますから」
部屋着に着替え、普段は着けないエプロンまでつけたが、一向に料理が進まない。淡い期待が浮かんでは消えている自分に戸惑う。

暫くすると玄関のチャイムが鳴る。
「はい。今開けます!」急いで玄関に走るとドアを開ける。
「失礼します」
「お帰りなさい。榎本さん」
エプロン姿でお帰りなさいなんて、鍵っ子だった榎本には初めての経験だった。
「ん?どうかしましたか?」
「いえ。ただいま……帰りました」
ぎこちないやり取りにふふっと青砥が息をもらすと、またツボに嵌まったようで笑い続ける。
そんな青砥の口を塞ぐようにキスをする。
147続 8:2012/06/12(火) 10:39:36.17 ID:R0N8aWEZ
「ちょっ…ちょっと待って下さい」
「やはり嫌ですか?」「いや、ほら晩御飯は…」
まだ何一つ冷蔵庫から取り出してもいないのに、咄嗟に言ってしまう。
「あとで構いませんよ」
「だっ…めです。あの私、榎本さんにお話しときたいことがあってですね。その、私…」
「はい。何ですか?」
榎本がジリジリと距離を縮めてくる。
「あの、私…さっきはしてあげるだなんて榎本さん言っておいてですね。その………そういった経験が無いわけじゃないんですけど、その…自分からしてあげるやつですか?それはした事ないんです。」
「そうですか」
「だから……ごめんなさい」
「大丈夫です。謝らないで下さい。それにお教えします」
「は?」
「ですから、教えます。どうすればいいのか教えます」
恥ずかしがる青砥の手を取り、榎本の既に膨らんでいる下半身に添える。
「そのまま、優しく撫でてみてもらえますか?」
「はっ?はい」
榎本に手を添えられたまま上下に擦ると、一段と膨らみ大きくなる。
「お上手ですよ青砥さん。ではベルトを外して頂いて、直にお願いします」
青砥の肩を下に押しひざまつせると、青砥がベルトに手をかけズボンとパンツを同時にずり下げた。
148続 9:2012/06/12(火) 10:41:36.03 ID:R0N8aWEZ
目の前に現れた榎本の分身。初めて近くで見るそれに驚いたが、顔を近づけ、手にとると口に含んだ。
「あ…青砥さん…」
呻き声のような吐息を漏らす榎本を見上げる。
「青砥さん。口に入れて下さいとは言ってません……ですが、続けていただけますか?」
青砥は恥ずかしげに頷くと口に含んだまま舌で先端を舐める。
経験がなくも何をするのかくらい知ってる。聞いた知識を振り絞ってやっているのだ。口をすぼめて喉奥まで飲み込む。
「すみません…」榎本がそういうと青砥の頭を両手で押さえ軽く腰を動かす。
「もうっ……んっ…」
腰の動きが一段と早くなり、もう限界に来ていた榎本はさすがに口に出すのは如何がなものか。と引き抜くと自分の手で受け止めた。「…すみませんでした」
青砥のエプロンに溢れたそれを慌ててティッシュを取りだし拭う。
「すみません…」無表情を装ってベルトを締め直しているが、首まで紅く染めている榎本を見て、とても愛しく感じていた。
「謝らないで下さい。私嫌じゃなかったです。それに下から見上げ榎本さんって凄く可愛らしくて。お口なんてとくに、んーってなってて」
青砥がニコッと笑うと、少しだけ榎本も口角をあげた。
149続 10:2012/06/12(火) 10:43:19.99 ID:R0N8aWEZ
汚れたエプロンを外すと洗面所に向かう青砥に榎本が後ろから抱きつく。
「どうしたんですか?洗濯機に入れてくるだけですよ」
無言で肩や首をついばむよう口づける。
「ちょ…っと…榎本さんっ?」
「そちらではなく…」
そのまま青砥をベッドの前まで運ぶ。
「あのっ私まだ準備が…」「準備?」
息がわざとかかるよう耳元で話すと、耳たぶを軽く噛む。
「ちょ……っと…んっ」
片方の手がするりの部屋着のズボンの中に潜りこみショーツの脇から指を入れると、予想通り十分なくらい濡れている。
「あっ…こ、これは…」
「準備は、万端のようですが?」
榎本がさっと手を引き抜くと青砥はベッドに倒れた。恥ずかしくてもう顔をあげられない。
「青砥さんすみません。顔をあげて下さい」
枕に顔を沈め、顔をずっと横に振っている。
「榎本さんって、本っ当に変態だったんですね!」
「…違います。変態と言うよりはSです」
「どっちも一緒です!!」軽くため息をつき、眼鏡を外しベッド脇に置く。
「分かりませんか?青砥さんだからです。青砥さんだからこうしたいと思ってしまうんですよ?」
あなただから…と言われると、嬉しくなる単純な自分に腹がたつ。
150続 11:2012/06/12(火) 10:45:19.28 ID:R0N8aWEZ
「…分かりました………じゃあ、許します」
顔を上げると榎本がベッドにのり、青砥に覆い被さっていた。いや眼鏡を外すとまた別人みたいだ。
「榎本さん?ですよね…てゆーか!榎本さんって待てない人なんですね」
「ですから、青砥さんだからです」
青砥がまた微笑むと、青砥から榎本の唇を求め頭を起こす。
口内を貪るような激しいキス。榎本が唇を離れようとすると起き上がると首に手を回され、青砥の唇が離してはくれない。
行為に夢中になっているのは青砥のほうだった。
榎本がほんの少し口角を上げると、照れた青砥が回した腕を緩めた。
榎本の唇が首筋を丁寧に攻めるとゾクゾクとした感覚が背筋に走る。
榎本の手がパジャマの裾から潜りこみ乳房に直に触れる。いつのまに榎本がブラのホックを外したのか。考える余裕などない。
硬くなった頂上を指で撫でまわすと甘い声が漏れる。その硬くなった部分を口に含み舌で転がす。
「あっ…ーんっ…」
空いている片方の手を下へ下へと滑らしていくと、ピクンと身体が反応する。
その手が簡単にズボンを脱がす。
青砥の股の間に身体をねじ込み足を広げさせる。濡れたそこは脱がさずとも形が分かるほど濡れ、ショーツが張りついていた。
151続 12:2012/06/12(火) 10:47:31.63 ID:R0N8aWEZ
「見ないで下さい」
手を伸ばし隠そうとする青砥の手を払いのけショーツの湿った部分を軽く撫でると青砥が悲鳴にも似た声をあげる。
「ひゃあ!…ああっ…」
ショーツの脇から手を入れ直接何度も何度も撫で上げる。鍵弄り趣味なだけあって、青砥の一番気持ちよいポイントをすぐに見つけ出したようだ。
「ー…いっ…ああっ」
ぐちゅぐちゅといらやらしい音に青砥の甘い声が被さっていく。
榎本が股の間に顔を埋めると、敏感な部分を舌で遊ぶ。軽く吸い上げると、簡単に青砥は絶頂を迎えた。

一瞬真っ白になった視界を現実に少しずつ戻す。榎本がネクタイを乱暴に外す仕草、意外に筋肉質な身体。こうならなければ見れていないだろうと思うととても幸福な時間だった。

すべての衣服を脱ぐと青砥の身体に覆い被さる。
「いいですか?」
「ここまできて変なこと聞かないで下さい」
少し膨れっ面になる青砥の頬を撫でると自身を少しずつ青砥の中に侵入させる。「はあっ…んぅ…」
青砥の強い引き締めと押し出す力に榎本の表情が歪む。
「んっ……ひっ…いいっ…」
榎本の動きに合わせベッドが軋み、肌と肌とがぶつかる音、グチャっと弾ける音。
152続 13:2012/06/12(火) 10:50:27.16 ID:R0N8aWEZ
目を瞑っても響き渡るその音が更に二人を興奮させる。
「…っ!榎…本さんっ、私……んっ…」
激し突き上げられ、言葉は次第にまた喘ぎ声に変わる。
その声を封じるように唇を重ねと、青砥が舌を絡ませる。お互いの唾液を交換するかのようなキスに青砥は酔っていた。
榎本の口の端から首筋に垂れた唾液を青砥が舌で舐めとると、榎本が声を漏らし、一瞬動きを止める。
「んっ…榎本さっ……もっと…」
青砥の要求に応えるように、青砥の白く細い太ももを抱えあげ、さらに腰を深く打ち付ける。
「あっ…ダメ…いっ、く……んっ」
細い指がシーツを破れんばかりに握りしめ青砥が果てた。
榎本も限界を悟り、自身を引き抜くと青砥の腹にすべてを吐き出した。
身体を震わせ痙攣している青砥に覆い被さると、耳元で囁く。
「とても綺麗ですよ…」
青砥の身体がまた一段と紅く染まる。
腹に出したものを処理するとメガネをかけ、脱ぎ散らかした服を一枚ずつ拾い上げる榎本の腕を掴んだ。
もう少し余韻を楽しめないものなのか、ピロートークてきなものはないのか、言いたい。
が言えない。と掴んだ腕をすぐに離した。
「もしかして青砥さんは事後のお話がしたいんですか?」
153続 14:2012/06/12(火) 10:53:18.07 ID:R0N8aWEZ
目をまん丸にして青砥がびびる。
「そうですね。少しお話しましょう」
ベッドに腰をかけると、榎本が淡々と話だす。
「青砥さんが、あんなに積極的な方だとは思いせんでした。ましてや、もっとやきてなどと口に出した時は」
「私きて!なんて言ってません!」
「言いましたよ。他にも」「わーー!もう!もういいです」
榎本が拾った自分の服を奪うと、また膨れっ面になった。
「青砥さん。そんな濡れたショーツをまた穿くんですか?」
「穿きません!」
脱いだ服を抱え、身体を隠すようにベッドを出ると洗面所に逃げ込んだ。
怒っているはずなのに、鏡にうつる自分はなんて幸せそうな顔をしているんだと、これじゃあ仕方ないと、青砥は笑うしかなかった。
「怒ってますか?」扉の向こうから心配そうな榎本の声がする。
「すごく怒ってます!」笑いをこらえながら応えると、榎本の返事はない。焦って間髪いれずに話す。
「で!でも!私も榎本さんだからですよ。榎本さんとだからですからね!」
「…ええ、私もですよ。ですから、笑ってないで早く出て来て下さい。晩御飯がまだですので」
またバレている…

着替えを済ませ、ダイニングに向かうと椅子に座って榎本が待っていた。
154続 15:2012/06/12(火) 10:55:48.98 ID:R0N8aWEZ
榎本と視線が合うと恥ずかしくて、すぐに目を逸らしキッチンに立つ。
「あのっ、今作ります。今からですから、気長に」
家族以外の人に料理を作るのってそういえば初めてかも知れない。
「榎本さんって、好き嫌いあります?」
「いえ。特には」
「そうですか…。そういえば先ほどコンビニで何買われたんですか?」
私の予想していたものは、先ほどの行為でハズレだったようだし。
「…失礼ながら、青砥さんの料理に不安があったんです。きっと青砥さんなら一生懸命作ってくれているだろうとも思いましたが…
ですが、きっと妄想ばかりして手は動いていないだろう。と思いましたので…」
そう話すと、カバンの中から申し訳なさそうにコンビニ弁当を二つ取り出した。
青砥が吹き出すと、榎本の隣に座った。
「何で分かるんですか?その通りなんですよ。何にも作れてません」
「いえ。すみません」
榎本が謝る。
「いいんです。食べましょう?でも!私料理くらい出来ますよ。ですから、今度はご馳走しますから」
「はい…宜しくお願いします」
照れる榎本に、また青砥も笑った。

ーーーーーー

次の日

昼下がりの備蓄倉庫のドアが勢いよく開く。
155続 16:2012/06/12(火) 10:58:14.30 ID:R0N8aWEZ
「ようっ!榎本ちゃ〜ん!おっ?青砥もいたのか?」「芹沢さんノックして下さい。昨日のことをもうお忘れですか?」
芹沢がいつものように椅子に腰かける。
「忘れてませんよ。忘れられないよな?榎本ちゃんよ…お前に会いたかったような。会いたくなかったような…」
「私はお会いしたかったですよ?芹沢さん」
青砥と芹沢が手で口を抑え動揺する。
「あれ?榎本っちゃん目覚めちゃった?」
間に割りいるように慌てて青砥が顔を挟む。
「そんなわけありません!」
「わかってるっつうの。むきになんじゃないよ。で?密室はどうなった?」
マグカップにお茶を入れながら軽く聞く。
「解決しました。今日の午前中に、すべて終わりました。」
「え?密室解けたの?犯人捕まったの?」
お茶を溢しそうになり、慌ててマグカップを置くと榎本の前に立つ。
また間に青砥が割り込むと激しく頷く。
「榎本さんが今回もばっちり解決しました。ね?榎本さん?」「はい」
「何がね?だよ。何がはいだよ!俺は聞いてないぞ!」
仲間外れにされた芹沢がむくれる。
156続 17:2012/06/12(火) 11:03:18.74 ID:R0N8aWEZ
「今朝芹沢さんに電話したじゃないですか!今日は昼出勤の日だ!二日酔いで大変なんだよ!って、すぐに電話切ったじゃないですか?だから二人で。ね?」
「はい」
密室が解けたとなれば飛び起きたのにと、大きなため息をつく。
「何だよ〜!もういいよ。青砥、帰るぞ」「え?」
「え?じゃないでしょうよ。仕事だ仕事」
マグカップをドンっと机に置く。明らかに怒っている。
帰る芹沢を青砥も急いで追いかける。
「榎本さん失礼します。あの…またあとで来ますから、じゃあまた」
「はい…また後程」
榎本との別れの挨拶もそこそこに倉庫を出ると、エレベーターを待つ芹沢に追いつく。
「…で?青砥、お前榎本とうまくいったんだろう?いいよな〜お前は」
「うまくって!まあそれなりに」
青砥の顔をちらっと見ると、真っ赤に染まって俯いている。
「分かりやす!お前のその顔。それなりって顔か?もう顔が崩れてんぞ、ひどいもんだよ〜」
「え?そうですか?」
「昨日は楽しみました。って顔だな。榎本のやつ凄そうだもんな」
「下品です!」
自分の顔を触りまくる。いつも通りに振る舞ったつもりなのに、何でバレるんだ?と青砥はしばらく考えてる。
157続 18:2012/06/12(火) 11:10:12.95 ID:R0N8aWEZ
エレベーターが一階フロアに二人を運ぶ。

「まあ、青砥。お前の幸せは俺の犠牲の上にある幸せだって事、忘れんなよ?」
芹沢さんも変なこと言うなぁ…犠牲?まさか芹沢さん…いや、確かに前から少しおかしいと思うところはあった。オカマ走りだし…
榎本さんのこと狙ってた?あの女の人のことも相当ショック受けてたし、部屋にまで呼び出して、やけ酒して……
「おい。青砥?お〜い?」挙動不審になり、徐々に自分と距離をとり始める青砥。
「せっ芹沢さん。そのっ、榎本さん…どうですか?」「どう?どうってアイツが男受けする顔してるからよう。大変だったんだよって…青砥?」
やっぱり……
「いやーーーー!!」
叫ぶ青砥の声が東京総合セキュリティに響き渡る。
と、青砥の叫び声にセキュリティが反応し、大きなサイレンがなるとそこらじゅうの警備員やセキュリティ会社社員が駆けつけ芹沢を囲む。
「へ?俺?俺が何したってんだよー!!」

榎本がニヤリと笑った。



〜終〜




読み手に戻ります。失礼しました
158名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 12:24:59.97 ID:ukgWH683
続6くらいまでよんで思い出せなかったから前スレも読んできた。
芹沢はほんとにいい動きをしてくれるねwwwwwwww
よかったよかった。GJ!
159名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 15:21:09.10 ID:RAg2wb5y
GJです!
芹沢のオカマ走り思い出して最後ワロタwww
160名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 15:30:45.69 ID:p5FgsNW8
>>157
GJです!!

いゃあ榎×青に芹沢さんはいいアクセントになる人だなぁ。
マンションであそこの人は男色家と噂されるんだろうなぁと想像してクソワロタ。
161名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 15:40:43.53 ID:29VO2i6E
読み耽りました、GJ!

>>82はあれで終わっていいような気がしたので、また別の話でエロ書いた
ラブホin榎青
162眠れぬ森に棲む人 1/7:2012/06/12(火) 15:43:05.06 ID:29VO2i6E
梅雨入りしてからずっと、咽ぶような雨が続いている。
この日はたまたま晴れ間が長かったのだが、夕方に降り始めてから次第に雨脚が激しくなってきて
いた。
間の悪いことに、青砥と映画を観て食事をした帰途で見事に降られてしまった。一緒にどこかへ行く
のは以前観劇をして以来のことだったが、あの時は劇場内で殺人事件が起こった関係上、お互いに
カウント外になっている。
それもあってか朝から青砥はとても上機嫌で、普段見慣れたスーツ姿からすればまるで別人のように
美しく装い、二人でいる時を出来るだけ楽しもうとしているかのように見えた。
そんな日の終わりに雨に祟られてしまったのは、全く災難というしかない。榎本はいつもと同じだから
ともかく、青砥の方はせっかく新調したというワンピースもいつもより華やかな化粧も台無しだった。
しかし、突然の雨に降られてびしょ濡れになってしまっても、今日の青砥はどこかが違っていた。
髪も服も濡れそぼったままで、同じく濡れ鼠になっている榎本の腕に縋りながらねだるように呟いた
のだ。
「このまま帰るのは嫌です、どこかに…行きましょう」
と。
無論、今更言葉の意味が分からない榎本ではない。濡れて身体の冷えきった女をあっさり返すほど
冷淡でもない。余計なことなど何も言わなくとも互いに思いが通じていた。

入ったホテルの一室は特に華美な装飾などもない、個人の部屋のような趣のシンプルで居心地の
良い雰囲気を漂わせていた。
「わあっ」
青砥は一目見てここがすっかり気に入ったのか、ベッド脇の棚や冷蔵庫を開けては一人でテンション
を上げている。
「風邪をひくといけませんから、お先に入浴して下さい」
雨の滴がしたたっている青砥のワンピースはいかにも重そうで、にも関わらず濡れた生地から肌や
下着がうっすらと透けているのが目の毒だった。
「そう、ですか…?」
更衣室に入りかけた青砥は一度ちらりと物言いたげにこちらを見ただけでドアの向こうに消え、やがて
浴室から水音が聞こえてきた。
部屋に一人残った榎本は棚に並んでいるタオルで眼鏡や髪を拭き、濡れて身体に貼りついたニットを
脱いで軽くタオルドライしてからハンガーに掛けた。空調があるから翌日にはそこそこ乾くに違いない。
問題なのは男の自分よりも青砥の方だ。
163眠れぬ森に棲む人 2/7:2012/06/12(火) 15:44:06.82 ID:29VO2i6E
十五分ほどで浴室から出てきたバスローブ姿の青砥は、どことなくおずおずしながら傍らの椅子に
座った。タオルの下の洗い髪がなまめかしい。
「あ、あの…榎本さんもどうぞ…いいお湯でしたよ」
「そうですか、では失礼します」
濡れたままだったシャツもパンツも相変わらず身につけていたが、特に寒いとも冷たいとも思わな
かった。元々簡単に風邪をひく体質でもない。とりあえず青砥が温まり落ち着いたのを見計らった
上でなければ動けなかったのだ。
身体の冷えを別段感じていなければすることも早い。裸になった後はざっと温いシャワーを浴びて
済ませた。
「…あ」
同じくローブを纏ってさっさと出て行くと、俯いていた青砥が小さく声を上げた。思ったよりも早いと
言いたかったのだろうか。それとも勢いでここに入って来たというのに時間が経ったせいで臆したと
でもいうのか。
「…私、さっきはすごいこと言ってましたね」
もじもじと膝の上に置いた手がせわしなく動く。そこに自分の手を重ねて目を合わせた。
「そうですね、と返せば良いのでしょうか」
「えっ?」
「嬉しかったですよ、青砥さんがそう言って下さったのは」
身体も髪も洗い、すっかり化粧も落とした目の前の恋人の顔がぱあっと赤く染まる。こうして二人きり
でいる時は少女そのもののようだ。
「そ、んな…私、ただずっと榎本さんと…」
「僕も同じことを考えていました、今夜は一緒に過ごしたいと」
「……嬉しい」
消え入りそうな声が唇から零れた。
「髪がまだ少し濡れていますね」
タオルから零れ落ちる髪を一房取り、頬に当てると細い指がためらうように触れてきた。
「嘘じゃ、ないんですよね。榎本さんがここにいるなんて…」
「心配しなくていいですよ、今夜はずっと側にいます」
まだ手の中にあった艶やかな髪の房に口付けてから、何か言いたそうに開いた唇を吸った。何度か
身体を重ねてはきたものの、今夜ばかりはとても自制出来そうにない。
こんな自分にも誰かに影響される人間らしい部分はあったのだと、ひそりと嗤った。
164眠れぬ森に棲む人 3/7:2012/06/12(火) 15:45:10.99 ID:29VO2i6E
シーツの上に散る髪の上で投げ出された手はぴくりともしない。
「そんなに怖がらなくても、いいんですよ」
「…はい」
二つのローブはベッドの下に落ちている。明るい照明の下に何もかも晒されていることが恥ずかしい
のか、青砥の表情は硬かった。それを宥めるように何度も髪を撫でながら唇を重ね、小振りながらも
形の良い乳房に指を這わせた。
「ぅっ…」
耐え切れないのか肌がぴくりと大きく痙攣する。
「どう、しました?」
「…何でもありません…ただ」
「ただ?何です」
「今夜が初めてみたいだなあって…」
目を逸らして微笑む顔が可愛らしい。
「それもいいですね」
「ふふっ…ぁっ…」
相変わらず初々しいままの反応が微笑ましく、乳房を撫でていただけの手の力を強くして揉み始めると
喉が軽くひくついた。
「僕に任せて下さい、何も嫌なことはしませんから」
「…そうですね、榎本さんはいつもとても優しいです…」
無理に安堵したような笑顔を作る青砥の髪をまた一撫でする。空調で乾き始めた肌が震え出さない
うちに、柔らかく滑らかな感触の乳房をより強く揉み込んだ。興奮し始めているのか手の中でわずか
ずつ硬く色付いた乳首を最初は舌先で、そして唇と指で、挟み込むように愛撫すると細く高い声が
漏れた。
「あぁ…」
癖なのか、手を口に当てながら喘ぎ始める青砥の髪が歓喜するようにうねっている。その妖しい感覚
が決して悪くはないのだろうと思えるだけで、普段は隠している情欲が湧き上がる。
「ひゃっ…」
乳房に念入りに舌を這わせている間に、ごく薄い脂肪のついた腹部から手を滑らせて今日はまだ
一度も触れていなかったそこを探った。あまりにも柔らかく薄い襞で包まれた膣内に指を感じたこと
で、優しい人がくっと息を呑む。
「痛くは、ないですね」
「…ちっとも…」
頬を染めて微笑む青砥の表情が、より艶を増している。
165眠れぬ森に棲む人 4/7:2012/06/12(火) 15:45:58.66 ID:29VO2i6E
触れたばかりなこともあって内部はまだ充分に濡れているとはいえなかったが、それだけにこれから
じっくり楽しめるとばかり敏感になっている内部を焦れったく擦った。
「ぅ…ん…っ」
どんなことをされてもなるべく抵抗しないようにしているのか、抑えた声が甘くくぐもる。
「我慢はしなくてもいいですよ」
刺激しているうちに奥からじわりと濡れてくるのを指先で感じながら、榎本は囁いた。
「…で、も…」
熟れた表情で見上げ、身を起こしかけながら青砥は決心したように言い切った。
「わ、私もしたいんです…榎本さんをもっと気持ち良くしたい…」
意を決した勢いは物凄く、あっさりと体勢が変わってベッドに押し倒されてしまう。
「…しばらく、私のしたいようにさせて下さいね」
「困った人ですね…それでは、お任せします」
青砥がここまで昂っているとは思ってもいなかったが、こういう趣向も悪くないと横たわりながら腹の
中で笑む。
起き上ってから乱れる髪を気にすることなく慈しむように頬を撫でてくる青砥は、どこか楽しそうに
微笑んだ。細い指が腹をリズミカルに這い、勃ち上がりかけているそれに絡みつく。
「榎本さんがしてくれるように、私も…」
どこか熱を帯びた声が甘い。慣れていないその形をなぞるように少しの間扱く真似事を続けた後、
いきなり先端をぺろりと舐められた。
「…みんな、こうするんですよね…」
「そう、ですね。大抵は」
「なら私もそんな風に、いやらしいこといっぱいしたいんです…」
見下ろしている為に肩に散る艶やかな髪をはらりはらりと胸元に落としながら、ますます大きくなって
いくものを握ったまま青砥は思い詰めたように呟く。
「ン…ッ」
それが男にとっては一番敏感で厄介な箇所であることは知っているのだろう、扱かれるのもそれほど
力を感じない。しかし飴でも舐めるように舌がねっとり絡みついてきたらさすがに堪らなかった。
「青砥、さん…」
「……はい」
子供のように一心に筋が浮き出たものを舐め上げている青砥が、返事と一緒に顔を上げてきた。
瞬間に目が合う。
166眠れぬ森に棲む人 5/7:2012/06/12(火) 15:46:54.30 ID:29VO2i6E
「どうかお手柔らかに」
「ふふふっ…榎本さんでも、そんな顔をするんですね」
今の自分は一体どんな情けない顔をしているのかと頭を抱えたくなったが、主導権を握って楽しそう
にしている青砥があまりにも美しく見えて、思わず引き込まれた。
「素敵…これ、私のものなんですね…」
更に熱の籠った声が聞こえたと同時に、すっぽりと口腔に含み込まれてしまった。技巧など何ひとつ
ないとはいえ、熱く柔らかい口中に擦られる感覚はそれだけで限界まで昂ってしまう。
「ング…」
それは予期しないことだったのか、咥えながら苦しげな声が漏れる。なのに口から外そうとはせずに
我慢が出来なくなるまで咥え込んだまま唇と舌と指で必死に愛撫を続けていた。
「…もう、いいですよ。これ以上は僕が耐えられません」
そのうちに急に強烈な射精感がせり上がってきて、このまま出す訳にはいかないとやや焦りながら
身体を離そうとしたが、再び顔を上げた青砥はこれまで見たこともないほど凄艶だった。
「…嫌。榎本さんのは…私の中に下さい」
まるで青砥に別の淫らな何者かが憑いたように思えた。身を起こして跨ると硬く反り返ったものを
握ったまま位置を確かめて腰を落としてくる。一切躊躇などない行動に内心呆気に取られながらも
見惚れるばかりとなった。
細い指が濡れそぼったそこを開いて、自ら男を受け入れていく。そのあまりの淫ら絵が今まで見た
こともないほど素晴らしく映ったからだ。
「あ、ぁ…ぁんっ…」
膣内に迎え入れたものをより奥へと導こうと、本能に突き動かされて身をくねらせ腰を捩る女の姿は
刺激的に過ぎた。耐えきれずにほっそりとした腰を掴むと強引に引き下ろす。
「い…っ、やああんっ!!」
ずぶりと音がしそうなほど激しく突き立てられた途端に悲鳴のような声が上がったが、そこに苦痛の
声音は一切なかった。青砥の表情は甘く蕩けている。
「あぁ…ん、榎本、さん…」
「さあ、存分に動いて下さい」
「わた、しっ…私っ…あああっ…」
羞恥すらも吹き飛ばすほどの深い快感が青砥を襲っている。それをまざまざと見て取ったからこそ
好きなようにさせたくなったのだ。普段の快活な姿からはとても想像も出来ない淫らな媚態はあまり
にも魅惑的に過ぎる。
167眠れぬ森に棲む人 6/7:2012/06/12(火) 15:47:20.32 ID:29VO2i6E
「はぁんっ…」
不慣れではあるといえ、快感に支配されてただ欲望のまま乱れ狂いながら腰を振る青砥の潤んだ
眼差しがふわふわと揺らめきながら榎本を見ている。動きが変わる度に内部で突き当たる箇所も
変わるのか、身をくねらせながら緩く激しくと次第に緩急をつけ始めた。
それと共に膣内が貪欲な生き物のように蠢いて絞り上げながら絡みつく。
「やっ…ぁあ…っ」
やがて長い髪を振り乱しながら激しく喘ぐ青砥の胸と喉が限界まで反った。達しそうになっている
ことを察して、今度は榎本が強引に体勢を変えた。
「やっ…」
突然身体が反転したせいで、ばさりとシーツに髪を投げ出してしまった青砥は何が起こったか全然
分からないという顔をしている。あどけなささえ感じるその頬にキスをしてから囁いた。
「申し訳ありません、やはりここは僕もその気になっていまして」
「…ほんと?」
「あなたが、あまりにも素晴らしいからですよ」
普段であれば決して言わない言葉ではあったが、嘘だけは言いたくなかった。少女のように微笑み
ながら青砥は首に腕を回してくる。
「……じゃ、あ…続きをお願いします」
「分かりました」
言い終わらないうちに一層激しく腰を突き入れてとうに柔らかく蕩けきっている膣壁を擦り上げ、これ
でもかと抉りまくった。先程までの悩ましい姿に相当刺激されているのが自分でも分かった。
「やっ、ああぁん!こんな…」
突かれる度に青砥はがくがくと人形のように揺れ、それでも離れぬように必死で縋りついてきた。
「嫌ですか?」
「う…ううん、榎本さんに、されることなら」
健気にも双眸にいっぱい涙を溜めながら、とびきりの笑顔を見せてくる。
「何でも嬉しい…」
限界だった。
しばらくの間抑えていた射精感が一気に噴出してきて、勢いのまま何度か突き上げてから身体を
離そうとしたのだが、青砥に止められた。
「さっきも言いましたように、私の中に、下さい…今夜だけは」
必死に縋って来る身体が小刻みに震えていた。青砥もまたかなり限界に近いのだろう。多少の躊躇は
やはりあったのだが、もしも万が一のことがあったとしたら全ての責任を負う心積もりは既に固まって
いる。
\
168眠れぬ森に棲む人 7/7:2012/06/12(火) 15:48:21.50 ID:29VO2i6E
「では、いいんですね」
「はい…」
いまだ引き込むようにうねっている膣壁の甘やかな誘惑に乗るように、息を詰めて最奥までを一気に
激しく叩く。
「あああっ!!」
それが決定的な衝撃だったのか、青砥の方が先に全身を痙攣させながら達してしまう。その勢いで
膣内が激しく引き絞られ、榎本は遂に堪えに堪えていた精を迸らせた。

事が終わってもしばらくの間、青砥は魂が抜けたようにぼんやりと横たわっていた。
根気良く乱れた髪を撫でていた榎本は冷蔵庫から水のペットボトルを出してきて蓋を開け、差し出す。
「水、飲みますか?」
ゆっくりと目を開いて身体を起こした青砥は、ぎこちなく頷いてボトルを受け取った。冷たい水が喉を
通っていくうちに目の前の女にみるみる生気が戻る。
「…ありがとう、ございます…私……」
取り戻した生気が感情を爆発させたのか、急にぽろぽろと泣き出した。
「こんなに幸せで、いいんでしょうか…」
「そこは、もっと貪欲でいてもいいんです」
怖がらせないようにゆっくりと抱き寄せると、確かな体温が心地良く伝わってきた。愛しさが温みと
一緒に湧き上がってきて、互いに気が済むまで長い間唇を重ね、緩やかに舌を絡ませ合う。
外はまだ冷たい雨が降り続いているのだろう。

この人はあまりにも純粋で、その分ひどく脆い。
今後仕事上において幾らでも過酷な目に遭うであろうこの人を、自分の中にきっとある茨の密室に
何十年でも何百年でも隠しておきたい。




169名無しさん@ピンキー:2012/06/12(火) 19:25:10.01 ID:qJGwnCgo
GJ
170129:2012/06/12(火) 23:43:06.75 ID:EUXTbK2l
何となく思いついたネタ

>>125-129

の純子側の事情とおよびその後の顛末です。
前回、力尽きたその後の榎本押しエロ突入を書こうとしたら
えらく長くなってしまったので今回前編(エロなし)のみで失礼します。
後編は近日中に。
171早すぎた告白 1:2012/06/12(火) 23:45:37.89 ID:EUXTbK2l
 これまでだって、人を好きになったことはあった。
 勇気を出して告白したことだってあった。
 その告白がうまくいってお付き合いに発展したことも、その場で断られて泣いたこともあった。
 同年代の女性と比べて、決して多いとは言えないだろうけれど。自分は、それ相応に恋愛経験はある方だと思っていた。
 けれど、今。わたしはどうしようもなく混乱している。
 今、わたしの脳裏を占めている人は、目立つほどの美形と言うわけでもなく、お世辞にも人付き合いがいいとは言えない。
 女性に対する気遣いなんて求めるだけ無駄で、それどころか下手すれば会話の成立さえも危うい、そんな人。
 けれど、わたしはその人のことが好きなのだ。
 この感情は恋愛感情だ、と、認めてしまうのは怖かった。けれど、認めるしかなかった。
 それくらい、わたしはあの人が……榎本さんのことが、好きだ。

「榎本さん、こんばんは」
「こんばんは」
 その日、わたしは一世一代の勇気を振り絞るつもりで、東京総合セキュリティのオフィスを訪れた。
 出会ってから半年以上。最初は、事件が起きたとき、協力を求めるために会いに来ていた。
 けれど、最近は、用が無くてもただ会話がしたくて、もっと言えば会いたくて、顔を出すようになった。
 榎本さんは、それをいつも受け入れてくれる。
 別に歓迎してくれるわけではないけれど、邪見にもしない。
 お茶を入れてくれて、わたしが持ってきたお土産代わりのお菓子を美味しいと言って食べてくれて、話しかければちゃんと返事をしてくれる。
 榎本さんには何の関係もない、それどころか何のことだかわからないだろう愚痴をこぼしても、嫌な顔一つせず、聞いてくれる。
 嫌われていない、ということが嬉しかった。だから、欲張ってしまった。
 わたしが、榎本さんのことを好きだっていう気持ちを知って欲しい。知った上で、できれば受け入れて欲しい、って。
 今のままで満足。そう思っておけばよかったのに――なんて後悔は、後の祭り。

「榎本さんっ!」
「はい。何でしょう」
「好きですっ!」

 人生何度目かの告白に返ってきたのは数秒の沈黙。
 振り返ろうとする榎本さんを制するように、わたしは声を張り上げた。
 何がですか、とか、そんなお約束のボケで流されたくはない。わたしの思いは真剣だって、知って欲しい。

「わたし、榎本さんのことが好きみたいです。大好きなんですっ!」
「…………」

 ふっ、と、榎本さんの視線が、わたしを捉えた。
 胸が痛くなるような緊張の中、わたしは、ただ、榎本さんの言葉を待った。
172早すぎた告白 2:2012/06/12(火) 23:46:54.35 ID:EUXTbK2l
「……そうですか」

 返ってきたのは、その一言だけ。
 いつも通りの無表情で、ちらりとわたしを見て。そうして、また手元の錠に視線を戻してしまった。
 いつまで待っても、それ以上の返事は来なかった。かちゃかちゃと、綺麗な指先が錠をいじくる音だけが響く中。わたしは、のろのろと椅子に座り直して、お茶を飲んだ。
「……このお茶、美味しいですね」
「昨日と同じお茶です」
「じゃあ、きっと持ってきたお菓子と相性がいいんですね。有名な和菓子のお店で買ってきたんですよ。どうですか?」
「ええ、美味しいです」
 その後流れた会話は、いつも通り。
 榎本さんの受け答えによどみのようなものはなく、表情は平静そのもので。錠を扱う手つきにもぎこちなさのようなものは一切感じられなかった。
 受け入れてもらえなかった。流された。なかったことにされた。
 とてもとても悲しかったけれど。泣いて逃げ出すには、わたしは榎本さんのことを好きになりすぎていたようだ。
 泣いて逃げ出して、そして二度と顔を合わせられなくなるよりは、受け入れてもらえなくても、今まで通り、気軽に会いに来れる関係の方がいい。
 そう思ってしまうくらいに。

 だから、わたしは、その日は何でもない顔をして家に帰って。誰もいない場所で大声で泣いた。
 泣いて腫れた目を一生懸命ケアして、翌日も、何気ない顔で、榎本さんのところに顔を出した。
 何事もなかったかのように受け入れてもらえたことにホッとして、わたしは、いつも通りの日常へと戻って行った。

××××××××

「おい、青砥。あーおーと! 15時からの会議の資料、出してくれ」
「…………」
「青砥っ! おい、聞いてんのかー!」
「……っ! あ、ああ、ごめんなさい! ええと、何……資料? 何の資料ですか?」
「ああ、もういいよ。おーい水城君! 次の会議の資料、プリントしといてくれ。頼む!」
 ぼんやりと視線をさまよわせる純子を見やって、芹沢は大きなため息をついた。
 ここ数日、青砥純子の様子が明らかにおかしい。
 それは純子以外の誰もが気づいていることで、秘書の水城を筆頭に、胸を痛めているものも多い。純子の笑顔は、いつの間にか事務所の癒しになっていたのだ、と、不承不承認めざるを得ないくらいに。
「おい、青砥。ちょっと早いけど昼飯に行こう」
「えっ! あ、すいません。わたし、まだ午前の仕事が……」
「いいよいいよ。今のお前じゃ、何時間かかったって終わりゃしない。飯食って、ちょっと気持ちを切り替えろ。最近たるんでる。いや、たるみすぎてる。昼飯ついでに説教だ。いいから来い」
「……はい、すみません」
 しょぼんとうなだれる純子を促して、事務所を出る。
173早すぎた告白 3:2012/06/12(火) 23:48:14.55 ID:EUXTbK2l
 こういうときはうまいものを食うのが一番だ! と、行きつけの高級レストランに顔を出す。
 馴染の店員に個室を用意させ、ランチのコースを注文すると。うなだれたままの純子の前で、肘をついた。
「で、何があったの」
「……別に何もありません」
「青砥。お前、嘘が下手すぎ。どうせあれだろ。榎本がらみだろ。違うなら違うって言ってみろ、俺の目を見て」
「…………」
 違う、どころか顔を上げることさえしなかった。実にわかりやすい。
「お前なあ……いや、そりゃお前にも色々あるだろうさ。けど、それを仕事に持ち込むな。弁護士だから、じゃない。社会人として当然の常識だ」
「……申し訳ありません」
 芹沢の叱責に、純子は素直に頭を下げた。
 言い訳をせずに素直に謝れるのは、この部下の数多い美点の一つだろう。弁護士など、口先だけは達者な人間が多いだけに、貴重な人材だとも言える。
「で、もう一度聞くけど。何があったの」
「…………」
「榎本相手じゃ、喧嘩、っていうのとは違うだろ。何だ? 振られたのか?」
「……振られたのなら、まだマシでした」
 芹沢の軽口に、純子は、これ以上無い暗い顔で答えた。
 その瞳に涙が浮いているのを見てぎょっとする。痴話喧嘩の類だと思っていたら、意外と深刻な悩みだったらしい。
「お、おい。こんなところで泣くな! 俺が泣かせたみたいだろ!」
「す、すいませんっ。うーっ……」
「だから泣くなって! おい、何があったんだよ。いいから話してみろ。どんな下らない話だって聞いてやるから。な?」
 宥めすかす芹沢を見て、純子はしゃくりあげながら頷いた。
 実は、ずっと誰かに相談したかったんです――と、泣きながらつぶやいて。
「…………先日、好きだって言ったんです」
「は? 誰が?」
「わたしが」
「誰に」
「榎本さんに」
 ガタンっ! と、芹沢の尻が椅子の上で滑った。
 この地味で大人しそうな部下が、恋愛に関して積極的に動いた、ということが意外でもあり。あの榎本にそこまでストレートに思いをぶつけた、ということが驚愕でもあった。
「それはまた……いや、お前、頑張ったんだなあ。うん。お前、そんなに榎本のことが好きなのか」
「はい」
 照れもためらいもなく言い切る様が、いっそ清々しい。
「自分でもよくわかりません。でも好きなんです。好きになっちゃったんです。
 寝ても覚めても榎本さんのことばっかり考えちゃって……このままじゃ駄目だって思ったんです。
 今のまま、中途半端な関係のままじゃ嫌だって思ったから。だから言ったんです。榎本さんのことが好きです、って」
 そう、一息に言い切って。純子は、顔を上げた。
174早すぎた告白 4:2012/06/12(火) 23:49:41.57 ID:EUXTbK2l
「芹沢さん……わたしって、魅力無いんでしょうか」
「はあ?」
「わたしって、女としての魅力無いんでしょうか……榎本さんにとって、わたしって、女の範疇にすら入ってないんでしょうか……」
「……いや、そんなことはないと思うが」
 純子の問いに、芹沢は真面目に首をひねる。
 部下だから、というひいき目を除いても、純子は可愛らしい顔立ちをしていると思う。体形がよく言えばスレンダー……身もふたもない言い方をすればかなり貧弱なのはマイナスかもしれないが、それも趣味によるだろう。
 仕事のときは、髪型も化粧も服装も何もかも地味だが、飾り立てれば相応に男の目を惹くことだろう。
 だが、それは一般的な男の場合は、だ。榎本に限っては、芹沢も首をひねらざるを得ない。
 世界一の美女と珍しい鍵のどっちかを選べ、と言ったら。あの男なら迷わず鍵を選びそうだ。
「まあ……今までが今までだしな。いつも事件がどうだ密室がどうだってそんな話しかしてないもんな。まずは女らしさをアピールするところから始めてみちゃどうだ? 榎本の家に押しかけて手料理でもふるまうとか」
「……はあ」
「男なんて単純な生き物だからな。胃袋をつかまれたらそれだけでコロッと参る男は珍しくないぞ。特に、榎本なんてどう見ても日頃まともな飯なんか食ってなさそうだしな」
「……はあ」
「そうだな。うん。飯のついでに酒でも飲ませていっそ青砥から押し倒してみちゃどうだ。今は女からアピールする時代だぞ?
 ほら、草食系男子だとか肉食系女子だとかいうだろ? 榎本なんか草食系の典型みたいなもんだろ。
 まずは押して押して押しまくるところから始めてみちゃどうだ?」
「……はあ」
 芹沢の必死の盛り上げも、純子に通じた様子はない。軽口を受け止めるだけの余裕がないらしい。
 はあ、とため息をついて、出てきたコースの前菜をつつく。
 芹沢も、この年になるまで恋愛関係については豊富な経験があるが。現代の若者……いやそれじゃ俺が年寄みたいじゃないか! ……榎本のような特殊なタイプとは付き合いが無いだけに、何とアドバイスすればいいのかがよくわからない。
「まあ、榎本だしなあ。あいつの場合、青砥がどうこう言うより、まず他人に興味が無いんじゃないか?」
「……そうですよね」
「振られた方がマシって、どういうことだ?」
「…………」
「榎本は、何て言ったんだ」
「……そうですか、って」
 当然続きがあるだろう、と、芹沢が先を促すと。純子はそのままうつむいてしまった。
 しばらく、嫌な沈黙が流れた。
「……それだけ?」
「はい」
「ありがとう、とか。迷惑です、とか」
「ありません」
「喜んでお付き合いします、とか。お断りします、とか」
「ありません」
「…………」
 それは、ショックだろうな、と。芹沢は胸中で納得した。
 純子のような、恋愛に奥手なタイプが自分から告白するのにどれだけ勇気が必要だったか。なのに、その告白を受け止めてもらえず流されたのだ。真面目な純子が一途に榎本を思っていた……いや、今なお想っていることは態度から明らかで。それだけに、哀れだった。
 榎本の奴め……女に好きだと言われてそうですか、だと? お前は何様のつもりだ。言っておくがうちの青砥はお前なんかにはもったいないいい女なんだぞ……!
 それこそ父親のような台詞を胸中で吐き捨てて。芹沢は、精一杯笑顔を取り繕った。
175早すぎた告白 5:2012/06/12(火) 23:51:50.69 ID:EUXTbK2l
「お前、それで、どうしたいんだ?」
「……諦めたくありません」
「はあ?」
「わたし、榎本さんのことが好きです。榎本さんにとっては迷惑かもしれないけど。わたしは好きなんです。今だって会いたいって思ってます。
 だから……何でもない振りを、したんです。気にしてない振り、して……今でも、仕事帰りに会いに行ってるんです」
「……お前って、健気だなあ」
「榎本さん、全然気にしてないみたいです。会いに行っても、普通にこんばんはって言ってくれます。……それに、甘えてるんです」
「甘えてない。お前は全然甘えてないよ。甘えてるのは榎本の方だろ」
「……そうでしょうか」
「そうだよ。お前は……じゃあ、今後も頑張るつもりなのか。榎本のために」
「はいっ」
 その返事だけは、即答だった。
 まだ、瞳は涙に濡れていたが。それでも、表情には笑顔が戻っていた。
「芹沢さんに聞いてもらったら、少しすっきりしました。本当にすいません。ご迷惑をおかけしました!」
「いや。まあ、調子の悪い部下を気遣うのは、上司の役目だろ」
「本当に本当に申し訳ありませんでしたっ。以後気を付けます! ……あ、ご飯、冷めちゃいますね。食べましょう食べましょう! こんな高そうなランチ、わたし初めてです」
「ああ。ここのはうまいぞ。俺が保証する」
「本当だ、美味しい! ……芹沢さん。わたし、さっきの芹沢さんのアドバイス、実行してみます。今日、榎本さんがOKしてくれたら、家にご飯を作りに行きます!」
「あ? あー……あのアドバイスは……榎本に通じるかは保証しかねるぞ?」
「構いませんっ。確かに、榎本さんて、普段ろくなお食事してなさそうですしね。美味しいご飯、食べさせてあげたいんです。わたし、頑張りますからっ!」
「あ、ああ」
 純子の笑みに、ひきつった笑みを返して。芹沢は胸中で十数分前の己を罵った。
 酒を飲ませて押し倒せとか余計なこと言うんじゃなかった!!

××××××××

 午後の仕事は何とか滞りなく終わった。
 純子も調子を取り戻したらしく、仕事で失態を犯すことなく、重要な会議も乗り切ってくれた。
 外回りに行って来ます。直帰していいですか! と言う部下を気持ちよく送り出した後。芹沢は、特に急ぎでもない書類に目を通しながら、オフィスで時間を潰していた。
 榎本の職場――東京総合セキュリティの定時と、そこから榎本の自宅までかかるであろう時間。料理を作るというからには買い物にかかるであろう時間。もろもろを考え――
 もっとも、芹沢は榎本の自宅など知らないので、八割方推測だが――タイミングを見計らって、携帯に手を伸ばした。
 コール数回で、目的の相手と、通話が繋がった。
『はい、もしもし』
「はーいえのもっちゃん元気ー? 芹沢でーす」
『……何の御用でしょうか』
「お前、今、どこにいるの」
『自宅ですが』
「ふーん。で、そこにうちの青砥いる?」
『…………はい』
 榎本の返事に間が空いたのはどういう意味か。とりあえず、純子は首尾よく榎本宅に乗り込んだらしい。
「ああ、そう。ごめん、もし間違ってたら悪いんだけどな? 青砥、お前の家で飯を作ってるんじゃないか?」
『……よくご存知ですね』
「そりゃそうだろ。そうしろってアドバイスをしたのは俺だからな」
『はい?』
 榎本には珍しい、驚きの口調。そこに畳み掛けるように、芹沢は続けた。
176早すぎた告白 6:2012/06/12(火) 23:54:11.69 ID:EUXTbK2l
「ああそうだよ。うちの青砥がねえ、それはそれは落ち込んで仕事にならなくて困ってたんだよ。
 どこかの朴念仁に告白したら流された。自分には女としての魅力が無いんだ、あの人にとって女の範疇にすら入ってないんだって泣いて悩んでてなあ。
 でも諦めたくないって言うから、まあじゃあ押しの一手だろ。男なんて単純だから家に押しかけてうまい飯の一つでも作って胃袋つかんでやれ。
 ついでに酒でも飲ませて押し倒せ、今は女からアピールする時代だってな! そうしたらうちの真面目な青砥ちゃんはそれを実行に移したってわけだ。了解?」
『……何て無責任なこと言うんですか』
「はあん? 無責任ってどういうことだ」
『それで……それを実行して、酒を飲まされた相手の男が本当に青砥さんに手を出したらどうするつもりだったんですか。
 告白から逃げるような、そんな最低な男に……青砥さんが、可哀想だとは思わなかったんですか』
「ほおう。最低だって自覚はあるのか」
 声が自然と低くなるのがわかった。本来、純子と榎本の個人的な事情に芹沢が割り込む理由など全くない。だが、放っておけなかった。放っておきたくはなかった。
 純子の気持ちも、榎本の気持ちもわかるからこそ。このまま放っておけるわけがなかった。
「ああそうだよえのもっちゃん。お前は最低の男だ。男として最低だ」
『…………』
「青砥がお前に告白するのにどれだけ勇気を出したと思う。どれだけ葛藤したと思う。お前はそんなこともわからないのか。
 なのにお前のその態度は何だ。青砥のことが嫌いならせめてきっぱり振ってやれ。冷たくして二度と来るなと言ってやれ。でないと、青砥はお前のことを吹っ切れない」
『……僕は……』
「好意ってのは男女間の好意とは限らんだろうさ。嫌いじゃないけど付き合えない、女としては見れない、そういうこともあるだろうさ。
 俺はそれを否定する気はないよ。その気もないのに可哀想だから付き合ってやれ、なんて言う気はない。
 だけど、何も言わずに逃げるなんてのは最低だ。俺はそう思うね」
『…………』
「榎本は、青砥のことどう思ってるの。今、一生懸命お前に好かれようと頑張ってる青砥のことを、どう思ってる。面倒だ、迷惑だって、そう思ってるのか」
『……いいえ』
「青砥に好きだって言われてどう思ったんだ。嫌だ、気持ち悪いとでも思ったのか」
『……いいえ』
「青砥は、お前に会いたいんだそうだ。例え気持ちを受け入れてもらえなくても、それでも、会えなくなるよりは会えた方がいいから、何でもない振りして強がったんだそうだ。お前は、どうなの」
『僕は……』
 そのまま、沈黙が数秒流れた。
『もし、青砥さんからもう二度と会わない、と言われたら、ショックだと思います』
「じゃあそう言ってやれよ。お前がどう思ってるか、正直な気持ちを、青砥に教えてやれ。簡単なことだろうが。密室殺人のトリックを考えるより、よっぽど簡単だろ?
 自分の気持ちだぞ。それがわからなくて犯人の考えなんかわかるはずないだろ」
『……そうですね』
 その通りです、すいません……という小さなつぶやきと共に、電話は切れた。
 沈黙する携帯をポケットに戻し、鼻歌混じりにデスクを片付け始める。
 さて、この後あの二人がどうなるか。明日、青砥が笑顔で出社してくるかどうか。
 何もかも解決したら、うまい酒でも付きあわせよう、と考えながら。芹沢は、誰もいないオフィスを後にした。

〜〜続く〜〜
177129:2012/06/12(火) 23:55:48.21 ID:EUXTbK2l
一回切ります。
後編はエロありで近日中に
長々と失礼しました
178名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 00:02:47.19 ID:bePqT35U
>>177
GJ!なんか自分、いっぱい泣いちゃったよ。
続きも楽しみにしています。
179名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 00:25:54.87 ID:HZdLTbVv
>>177
GJ過ぎる!!
後編楽しみにして待ってます!!!
180名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 08:17:02.44 ID:X+Vs/jas
ああぅっぅぅぅううう。
前回良く分からなかったところが丁寧に補完されててすごい嬉しい。
後編楽しみすぎます。
181名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 14:25:37.85 ID:23vFsodb
>>177
GJです。すばらしい作品ばかりで幸せだ
182名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 15:30:41.52 ID:X3NKtzp8
>>177
GJ!
続きが楽しみでならない

埋もれてしまったけど>>162もエロくて萌えた
183ケイノオモチャバコ 1:2012/06/13(水) 20:12:33.49 ID:u6N9wdh7
いつもの地下倉庫。
径は天窓から降り注ぐ太陽の光を受けながら、独りもくもくと解錠作業にいそしんでいた。
…誰にもわかるまい。
新しい錠を手にしたときの高揚感、そして背筋がざわつくほどに湧き上がるあの興奮を。
そして解錠の手ごたえを感じた時のあの何とも言えない満足感と征服感…!

そんなことを脳内で巡らせながら、径はニヤリと笑う。
…にやけながら、錠に細い針金状の器具を突っ込んでカチャカチャしている姿はまさに変態だ。
しかしもちろん、傍からどう見られているかなどは気にはしない。自分が楽しいと思えることだけに没頭する。そのためには周囲の視線はおろか些細な声や音でさえも邪魔になるため、径はいつも通りイヤホンで自分の世界を作り上げる。
流れる曲は”オートマティック”。流行りを無視し続ける径らしい選曲だ。
厳密に選んだイヤホンの性能が良すぎて、人が入ってきたことに全く気がつかなかった。

不意に、右のイヤホンが外された。
径は黒目がちな目を見開いて、姿勢を保ったままクルリと振り返る。
そこには見慣れたスーツ姿の女性が、少しだけ驚いたような顔をして立っていた。驚きは、すぐに解ける。いつもの調子で、優しい笑顔で話し出す。
「榎本さん。また新しい鍵ですか?ほんっとによく飽きませんね」
「…こんにちは、青砥さん。…今日は早いですね。」
「仕事に区切りがついたので、有給つかって帰ってきちゃいました。お昼ごはん買ってきたので一緒に食べませんか?」
言葉は質問形だったが、純子は有無を言わさぬ態度でハンバーガーショップの包み紙を径の顔の前に突きつけた。
無言でそれを両手で受け取ると、純子は満足げに鼻で笑ってお茶を入れ始めた。
純子のパンツスーツの後ろ姿を見ると、いつも通りヒップラインがだぶだぶでよくわからない。サイズが合っていないのだ。
径自身はいつも服を選ぶときはサイズ感を重視して購入するので、普段着より高額であろうスーツをこんなにもアバウトに選んで着ている純子が少々信じられなかった。
いくら弁護士というお堅い職業とはいえ、こんなゆるい感じでは逆に迫がつかないというものだ。
まあきっと、痩せすぎた体型のせいでもあるだろうが。

「今日はどういう御用向きでいらしたのですか?」
昼食を食べ終えて、マグカップのお茶をすすりながら、低い声でたずねる。まあどうせ、明確な返答が返ってこないのはわかっているのだが。
「ええと、あっ、そうだ、芹沢さんが頼んでいたクライアントの会社の、セキュリティシステムの見積もり出来たのかなって言ってました!」
…今日は割とちゃんとした理由を彼女の脳ミソははじき出したようだ。
「その件でしたら設置予定場所の見取り図と、型番の一覧表を作成して経理担当の者に渡してあります。明日には見積もりもできると思いますのでお渡しできると思います。わざわざ来ていただかなくてもこちらからご連絡するので大丈夫ですよ。」
「いえいえ!こちらからお願いしているのですから榎本さんはそんなこと気にしなくていいんですよ!仕事ですから!」
…仕事?
いつもいつも時間外に(今日は早いけど)、手土産ぶら下げて約束もしていないのにフラフラやってくる癖に、よくも仕事だなんてぬけぬけと言ったものだ。
おかげで趣味の解錠作業が予定の半分も進んでいない。彼女がいると、さすがに集中力が途切れてしまう。

純子はどうやら、自分のことを気に入ったらしい… 径はそう感じていた。まあ、好きでもない男のところにこんなに足しげく通う女がいたら逆におかしいというものだが。
眼鏡をかけるようになってからは女に声をかけられることもピタリとなくなったし、それに合わせて言動もオタク風を装ったら男まで近づいてこなくなった。
元来独りでいるほうが気が楽なので、それが逆に居心地良くなっていままで独りの世界を楽しんでいたのに。
…まったく、ゲテモノ食いだな。
「榎本さん。」
テレビを見ていた純子の横顔を見ながら考えを巡らせていると、急に純子が振り返った。
「!なんですか。」
若干の後ろめたさでドキリとする。
「なに考えてるんですか。」
不意に、こすり合わせていた指を純子の手が抑え込んだ。それで、無意識のうちにいつもの癖が出ていたことに気がついた。
「なに考えてたんですか。教えてくださいよ〜」
純子がやや挑戦的な笑みをたたえて径の顔を覗き込んだ。
その、少しこちらを小馬鹿にしたような態度が径の気分のスイッチをカチリと押した。
…ちょっと、からかってみようか。
「秘密です。教えません。」
それだけ言うと、中二階への階段を一段とびで駆け上がる。そのまま、奥で息をひそめた。
184ケイノオモチャバコ 2:2012/06/13(水) 20:13:24.38 ID:u6N9wdh7

その後ろ姿を見送ったまま、純子はテーブルに頬杖をついた格好で中二階を見上げていたが、なかなか下りてくる様子がないので立ちあがって階段をのぼりはじめた。
「榎本さーん?どうしたんですか〜?」
登ってみると、棚の上にびっしりと工具やら大型の錠やらが所狭しと並んでいる。鍵の研究員だかなんだか知らないが、仕事を名目にして日がな一日気に入った鍵を相手に引きこもっている榎本がちょっとだけ羨ましい。
ここはまるで、彼のおもちゃ箱のようだ。
ふと目の前の棚に、一階のガラスケースに置いてあった銀細工の象の置物と同じものが目に入った。
「あ、可愛…」
次の瞬間。純子の両手に、どっしりとした銀細工の手錠がはまっていた。
「ひゃあ〜!ど、どうしよぉ〜」
間抜けな声が地下に響き渡る。しかも今度は錠がしっかりと鉄製の棚に固定してあるのでびくともしない。
「…なにをしているのですか。」
やっと姿を現した径に、慌てふためいたかんじで純子がまくしたてた。
「なにって…手錠が!抜けなくなっちゃって…象さん触ろうとしただけなのに…。」
そして急にキッと睨みつけた。
「大体なんでこんなところに手錠なんて設置してるんですか!一体何なんですかこれは!」
おやおや、急に弁護士さん腰になっちゃって…まあ両手を手錠につっこんだままでは格好がつかないというものだが。
「何って、…罠です」
「罠って!一体何のためにしかけているんですかっ…!とにかく早く開けてください!」
しかし、径は突っ立ったまま、わざとらしく視線をそらしていつもの指を擦るポーズをしている。
「…!なにを考えているんですかっ」
「…困りましたね。」
「なにが」
「…鍵がありません。」
「はぁ!?」
径は考え込んでいるようなポーズはしているが、どうみても考えているようには見えない。そもそも何をかんがえることがあるというのだ。純子は思い切り眉間にしわをよせた。
「じゃあ、ピッキングで開けてください!」
「…なるほど、そうですね。」
何だろう、この感じ。
いつもの榎本なら、頼まなくても無言でさっさと解錠してくれそうなものである。なんだかいつもと違う対応に、居心地の悪さを覚え始めた、そのとき。榎本の手が、純子の顔の両脇からにゅーっと伸びてきた。
「うわぁお!」
思わず身震いする。なんと、榎本は純子の背中にぴったりとくっついて、抱き込むようなポーズでピッキングを始めたのだ。
「ななな、何してるんですか!?」
「…解錠です。」
「よ、横からすればいいじゃないですか!!なんで後ろからなんですかっ!!」
径は純子の動揺を心の中でほくそ笑みながら、表面的には無表情を装い続けた。
「…見てください。錠の鍵穴が、青砥さんの両腕の間にあるんです。横からだと角度の問題で、後ろから正面を向いた状態で解錠を行うよりもおおよそ三倍の時間を要すると思われます。ですから」
「わわ、わかりました。わかりましたから、はやく開けてください…」
綺麗にひっ詰められた純子の髪からシャンプーの香りがした。白い首筋の肌は柔らかそうで、おそらく照れと緊張によるものだろう、頬が赤く上気している。
体をこわばらせて小さくなっている純子はなかなかに可愛らしい。もっとイジメてやりたい気もするが、さすがにこれ以上はオタクを装っていたのが台無しになってしまうのでもうやめよう… などと思いをめぐらせていると。

ガチャリ。
地下倉庫のドアが開いた。
185183:2012/06/13(水) 20:15:43.79 ID:u6N9wdh7
初めて書いてみました。
投稿するのも初めてなので、試しに投下させてもらいました。
続きをかけたらまた投下させてください。よろしくお願いします。皆さんのイメージから激しく逸脱していませんように…
186名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 20:23:50.56 ID:X+Vs/jas
つ づ き が ま だ な い だ と  ! ?

オタクを演じてる榎本気になるじゃないですか。早く書けください。
187名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 21:01:17.75 ID:n1vjtsz8
>>185
乙。
オタクを演じてる、新しい設定ですね。いいよー!
続きよろしく。
188名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 21:50:45.60 ID:EYvKre1i
ドS感のたまらん榎本ですね!イジメられる純子をもっと下さい
189名無しさん@ピンキー:2012/06/13(水) 23:56:50.87 ID:OBrjM6xP
書き手のみなさんまとめてで申し訳ないけどGJです
書き込みは滅多にしない自分だけど、毎日ロムって
投下された作品は漏らさず読んで漏らさず萌えてます

最近はドラマとこのスレとサントラが自分の生活に欠かせないものになってるw
サントラのLOVE AGAINってすごくかわいい曲が個人的に気に入ってるんだけど
これってこれまでの放送分でどこで流れたかわかる人いるかな?
190名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 00:24:40.12 ID:Ho/8W0ny
>>183
さあ早く続きを書く作業に戻るんだ、じゃないと風邪を引いてしまいそうだ

いや本当すばらしいです、オタク風なんて発想はなかった
斬新な設定なのにキャラブレしてない
続きを楽しみにしてます
191名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 04:35:50.90 ID:7rzfb+Vj
>>183
ヤバい。超GJです。
続き待ってます。
192名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 12:01:05.71 ID:4RLoudDT
これから以前思い付いた、性別逆転モノを投下します
榎本は、榎本径子、30歳・処女。見た目と普段の口調は、ハルヒの長門有希
青砥は、青砥純、26歳・ヤリチン。見た目と口調は、ハルヒのキョン
芹沢はそのままで、口調はハルヒを意識してみました
193逆転1・7:2012/06/14(木) 12:02:01.45 ID:4RLoudDT
(うわぁ〜、やっちゃったよ、俺〜!)
青砥純は新しい職場にやって来たその日に、新しい上司と共に来たこの場所で、トンデモナイ事をしてしまった
この目の前にあるデッカイ銀行の金庫に上司と頭取を閉じ込めてしまったのである
(だって、あの金庫を閉めるボタンが、俺に“押せ〜”と誘惑するのだもの〜)
などと小学生の男子かよ!とツッコミを青砥は待っていたが、誰もそういう事はせずただ無言で責めていた
まだ数十分しか時間が経過してないがそれが何日と思えるぐらい重い空気が流れている
これが破られたのはPCが入った鞄と脚立を持った眼鏡の女性が現れ、開錠作業に入った時だった
「あの〜、貴女誰ですか?」
頭取の秘書がおそるおそる尋ねた
「榎本径子です。守衛に呼ばれて来ました」
それだけ言うと作業に没頭した
“東京総合セキュリティ”と背中に書かれた作業着から、守衛同様彼女がそこの社員だというのがわかる
(それにしても、小さいな…)
身長は150センチぐらいか。170センチを超える青砥からすると幼く見える
「終わりました」
聞こえるか聞こえないかの声で榎本が呟くと、誰の耳にもハッキリと判る開錠音がした
「ん〜〜!!はぁぁん、ん〜〜!!」
小柄な榎本が一人で扉のノブを引っ張る
女性の力だけで開くような代物ではないので青砥や秘書ら男性も加勢する
「やったあ!!開いた!!」
こうして青砥の新しい上司と頭取は、榎本が来てから十七分後に救出された
「このセキュリティには問題あるな…」
顔色一つ変えないで頭取が呟く
「それでしたら、当社のこの最新システムをお勧めしますわ」
榎本がサッとパンフと見積書を手渡す
そして去って行くのでせめてもの礼にと思い、青砥は代わりに脚立を運んでやる
(何か、則巻アラレちゃんが髪を短くしましたって感じだな〜。こういうの、俺好みだ〜)
エレベーターの中で観察してしまう。そこで重大な事に気付いた
作業着とは相性の悪そうなワンピースと高いヒールの靴を身に付けている
「あの〜、榎本さんは何処から呼び出されたのですか?」
金曜日の夕方だ。出掛けるつもりだったのだろうと想像し悪い事したなと青砥は反省した
「お見合いの席からです」
「お、お見合い!!」
サラリと凄い事を言われた
(ど、どうすればいいんだ、俺?!)



194逆転2・7:2012/06/14(木) 12:02:47.99 ID:4RLoudDT
「あ、あの…」
「そうだ!貴男、彼女いますか?」
「い、いませんけど…」
「それは良かった」
顔を上げ戸惑いが隠せない青砥を見て榎本が微笑む
(うぉ!!可愛い!!!やば!エロい!!)
背が低く眼鏡の似合う女の子が大好きな青砥の顔が真っ赤になる
それからの青砥は榎本にお願いされた通りにお見合いのある場所まで共に行って、恋人のふりをした
「いいか、青砥!お前は私の命の恩人である、この榎本さんが望む恋人になるのが、お前の初仕事だ!」
新しい上司である芹沢が青砥に命令をする
(それはどう考えても、弁護士としての仕事ではない気がしますが…)
それでも自分がやらかした事をチャラにしてくれたのには助かった
榎本にとっては母方の叔父にあたる小柄な男とホテルのラウンジで会話をした後、何故か見合い相手の立川と共に居酒屋に移動をして四人で飲む羽目になった
「ぶ、部長〜、飲み過ぎですよ〜」
「いいじゃねえ〜、祝い酒だ!おい!」
どうやら叔父の部下にあたる立川も見合いには乗り気ではなかったらしく青砥は安堵した
「お疲れ様です。ここで別れるとまた叔父が後で何か言ってくるかもしれないので、もう一軒行きませんか?」
居酒屋の外でタクシーに乗り込む二人を見送ると榎本が青砥に声をかけた
陶器を思わせる白くて細い首が見える
背の高い青砥に目を合わせて話す為、榎本が顔を思いっ切り上げているからだとわかる
「あ、あぁ…、良いですよ」
「ふふっ、良かった」
エレベーターの中よりも更に可愛く微笑む
(うわぁ、マジ、ヤバい!エロ可愛い!)
こうして知り合ってからまだ数時間しか経過していない男女が夜の街に消えた

そして土曜日の朝青砥は得体の知れないモノが顔に触れて目を覚ました
「あ、お早う御座います」
榎本が自分を見下ろしている。しかも眼鏡をせずに全裸でいる
(え?これって、もしかしたらオッパイ?)
どうやらベッドボードに置かれた眼鏡を取ろうとして乳房が青砥の顔に触れたらしい
(彼女が裸だとしたら、俺も……)
おそるおそる見たら全裸だった
「え?えぇ?えぇー!!!」
「はい、榎本です」
探していた眼鏡が見付かって良かったという仕草をしながら榎本は返事をした



195逆転3・7:2012/06/14(木) 12:03:31.94 ID:4RLoudDT
慌てて部屋の中を見渡すとここはラブホテルだとわかった
「これは、ワタシには大きいですね…」
青砥に対して背を向けて榎本が独り言を呟く
床に落ちていたバスローブを、拾って広げて確かめているのだと見てわかった
昨日の夜は陶器みたいに滑らかだなと思ったその白い肌が艶めかしく見える
(あれ〜、俺って飲み過ぎて全く覚えてないわ。情けねぇ〜)
いやいや何か一つは思い出せと呟いていたらベッドに人型の影が現れた
「あの…、その辺に、ありませんか?」
いつの間にかバスローブを着た榎本が話かけてきた
「えっと、何が?」
「ワタシの下着…」
ふと榎本の右手を見るとブラがあった
ああ、下に穿いていたものを探しているのだと気付いて、毛布を捲って手伝ってやる
「はい?!」
腰のあたりにその下着があり、ついでに血のシミがシーツにあった
「あ、ありました。どうもありが…!!」
榎本が目聡くそれを見付けて手にするのだが、どうにもこうにも青砥には気掛かりが出来てしまいベッドに引きずり込む
「あのぉ…、青砥さん?」
不思議そうに見詰める眼鏡の奥にある瞳に、自分の顔が映っているので思わず逸らした
「ちょっと拝見」
「きゃぁあ!!何ですかぁ!!」
いきなり押し倒されたかと思えば今度はバスローブを捲られて脚を開かれる
止めてくれと訴え両手でポカポカと青砥の体を叩くのだが効果は薄かった
それで両脚をバタバタと動かして自分の大事な部分をガン視されるのを阻止しようとしたがこれも無駄に終わってしまった
(これって、どう見ても未使用だよな…)
今年で二十六歳になる青砥はそれなりに経験があるしそのテのビデオも観た事があるので、昨日叔父の口から三十路だと知らされた榎本が未経験だというのには驚きを隠せなかった
「もう!いい加減にして下さい!!ワタシは貴男に、恋人のふりをして欲しいとは頼みましたが、こんな事までして欲しいとは頼んでいません!!」
興奮のあまり顔だけでなく体も真っ赤にして榎本は叫んだ
「それじゃあ、この血は…」
「貴男の頬を引っ掻いた時のものです!」
やっと離れる事が出来た榎本が答えた
そう言われて青砥が頬に手をやると絆創膏に触れた
剥がしてみると血が付いていた
「ああ、なら良かった」



196逆転4・7:2012/06/14(木) 12:04:14.82 ID:4RLoudDT
「はい?」
先程の激昂ぶりが嘘のように榎本は冷静に戻っていた
「いや〜、白魚のように細くて綺麗な手で、俺のナニをスリスリして貰ったりしたのを、酔っ払って忘れたのだと思っていました」
「何ですか、それ…」
全裸の男性からいきなり両手で右手を握られ榎本は呆然とした
それと同時に大きくてごつい手だなと思った
「(働き者の手だと、叔父さんも褒めていたなぁ…)」
昨日金庫の扉を開けた時もこの手に触れたなと思い出して何故か恥ずかしくなった
その上二人で行った飲み屋で口説かれ、この手と自分の手を重ねて比べてみたのも思い出して胸がキュウゥとした
だから酔った勢いもあってこんな場所に来て処女を捨てたくなったのだ。結局はどちらも酔い過ぎて中途半端で終わったのだった
「あの…、そろそろワタシ帰り…、ますね、えっ?」
昨日はどうもご苦労様でしたと挨拶して立ち上がり服を着て帰ろうとしたけど手を放して貰えない
しかも顔が近付いてきて唇に唇が重ねられた
「ちょっと、何を…、はぁうん!!」
顔を背けて唇を離すがバスローブから肌蹴た鎖骨を吸われて紅い跡が付く
「いや〜、折角こういうトコロに泊まったのですから、やる事やって帰りましょうよ」
「結構です、ひっ!やぁぁー!!」
あっさりとバスローブを脱がされて、しかも乳房を吸われる
「やぁ、あぁ!そんなの、ひゃぁ!!」
赤ちゃんみたいに乳首を咥えて舌でレロレロされるので榎本は堪らず声を上げる
「あぁん!そんなトコに…、きゅあん!」
乳房や二の腕を舐められ吸われて紅い花びらが舞い散ったような跡が付けられてゆく
「こんなに乳首カチカチにして、止めて!と言われてもねぇ…」
鍵と密室一筋で、恋愛なんてどうでも良いと考えていた榎本にとって、青砥の行動は頭で理解出来るものではなかった
襟に弁護士バッチを付けた青砥を見て、恋人のふりをして欲しいと頼んだ、昨日の自分にそれは止めろと言ってやりたくなった
「(青砥さんが、こんなに悪乗りする人だったとは〜)」
「さっきと違って、濡れ濡れですよ」
いつの間にか、青砥の唇と手が榎本の大事な部分にまで及んでいた
陰唇が左右に捲られて陰核を咥えられる
「そ、そんなコト…、しちゃらめぇ!!」
涙目になって抵抗するのだが、余計に青砥を煽る事になってしまった



197逆転5・7:2012/06/14(木) 12:04:52.48 ID:4RLoudDT
必死で体を動かしているうちに榎本の眼鏡がずり落ちた
(俺としては、眼鏡属性はアリなのだが…)
眼鏡を外した顔も満更でもないので、ベッドボードに眼鏡を置いてやる
そのついでに男性用の避妊具を一つ取り既にビンビンに立っているナニに填める
「やっ、大きいの、無理、無理!無理!」
真っ赤な顔をして榎本が騒ぐ
「大丈夫ですよ、赤ちゃんが出て来るトコロですし」
「ワタシ、赤ちゃん産むつもりありません!」
「そうならないように、つけていますから」
などと色気のないやり取りがあって、そして榎本の中に青砥のナニが挿入された
「ひぐ!いたぁ!!やだぁ、抜いてぇ!!」
「ちょっと、力抜いて…」
初めてだから緊張し捲っている所為か、中々奥に入らず青砥も締め付けられ苦しくなる
「そうだ!鍵を失った錠前になるのです」
「じょ、錠前?」
「榎本さん、開錠する時に、錠前に話しかけると、言っていたじゃないですか」
「な、なるほど…、あぁ!動かさないで!」
どうにか青砥のナニが根元まで収まり、榎本の密室ならぬ処女膜は破られた
シーツに新たな血の跡が付けられた
(何か、色気もへったくれもない、初体験になってしまったけど、大丈夫かなぁ…)
涙をポロポロ流しながらナニを咥えこんでいる榎本が健気に見えるし愛おしく見える
「むぐぅ、ひゃめ…」
いきなり口付けをして舌を捻じ込む
離せ!離せと訴えてくる榎本の手を掴み指と指を絡ませる
男、青砥純。経験で得た性技を尽くし榎本に快感を与えようと試みる
「ひゃ、もう…、やめぇ、あぁん!あふぅ」
やっと解放された唇から甘い喘ぎ声が上がる
緩やかなピストン運動に胎内が慣れてきた
「こんなに貴女の中、気持ち良いのに、止められませんよ」
偽りのない言葉が青砥の口から発せられる
自然と腰を強く激しく打ち付けて胎内の奥にある子宮口を突く
「嘘…つき…」
何かを見透かしたように榎本が思惑ありげな言葉で返す。その冷淡さに青砥は驚く
「嘘なんか、言えませんよ」
絡めた指につい力が入る
「指も痛い…」
「あっ、済みません!」
そう言われて手を離すと榎本の甲に爪の跡が付いていた。悪い事したなと思いそこを舌で舐めると感じたのか体がビクッと動いた
「うほぉ、締まる!」
その気持ち良さにまた腰が動いた



198逆転6・7:2012/06/14(木) 12:05:43.48 ID:4RLoudDT
榎本の左脚を持ち上げて挿入角度を変える
「くはぁ、ひゃうん、うふぁ!」
青砥自身の欲望を満たす事よりも、破瓜した痛みの所為で榎本が性交に厭な印象を持たないように気を配る
その結果次第に抵抗しなくなり、あっ感じてくれているのだなと思った
「も…、無理…」
弱音を吐く姿に絶頂が近いなと感じる
もっと胎内を味わいたかったなと名残惜しいが青砥も終わらせる事にした
「ひゃぁぁぁ、あぅぅん!!」
初めて挿入されて初めて絶頂に達して榎本が青砥にしがみ付く
(いでぇ!!)
肩に思いっ切り榎本の爪が食い込んだが我慢した。処女を相手にするのは初めてだが膜が破れた痛みはもっと酷かったと思えたので、赤い三日月が出来たのをどうにか耐えた
そして避妊具付きだが胎内に放った

チャポーン!
「こうやって、朝早くから風呂って悪くないですね」
「…痛い……」
行為の余韻を楽しむというよりも、二回戦に持ち込みたい下心から一緒に風呂に入った
「(仕事用の服、持って来て良かった…)」
浴室にある鏡で自分の体をあちこち見回すと紅い跡が一杯ありとてもワンピースで隠せるものではなかったからだ
「長湯は苦手なので、出ます」
浴槽の中で立ち上がる。濡れた肌がほんのりとピンク色に染まっていて艶っぽい
「そうですね、髪の毛洗いましょうか?」
今度は背後から挿入したいと思わずにはいられなくなった
「そ、それは結構です!」
いやらしい青砥の視線を感じて慌ててタオルで隠す
「まぁまぁ、いいじゃないですか。どうせ、今日は土曜日で休みだし」
そんなに綺麗な肌を隠さないでとばかりに、タオルを取り上げようとする
「あのぉ、午後からは、日下部さんと一緒に山荘に行く約束では…」
我ながら良い事を思い出したと、榎本は心の中で笑う。そしてさっさと持参した仕事用の服を着て、ワンピースを大きな鞄に収めた
「(こんな事になるなら、山荘での調査を引き受けなければ良かった…)」
後悔先に立たずとはよく言ったものだ
「ああっ!忘れていた!」
(ちくしょう、二回戦はお預けか)
しかし場所は奥多摩だと思い出し、帰り道で別のラブホでやれば良いかと考えて浴室から出る青砥だった



199逆転7・7:2012/06/14(木) 12:06:36.16 ID:4RLoudDT
「遅いぞ、青砥!」
新日本葬礼社の玄関前で芹沢が怒鳴った
「昨日お見合いだったとか、突然こんな事を頼んでしまい申し訳ありません」
美人には目がない芹沢が早速榎本に話しかけてきた
「いえ、最初から断るつもりでしたから」
丁寧な物腰で芹沢と話す
(おい、こら、スケベおやじ!)
昨日会った榎本の叔父と大差ない年齢なのに芹沢はお盛んなのを青砥は知っているので、ハラハラしながら二人を見守る
だから日下部が運転する車に乗り込む時も、青砥が真ん中に座り会話出来ないようにした
「窮屈そうですね、場所かわりましょうか?」
確かに170センチはある青砥が真ん中では気の毒だと思い榎本が声をかける
「いえ、平気です」
その時急なカーブで車内が大きく揺れた
結果青砥の体が榎本の体と接触した
ラブホでの情交がフラッシュバックする
「何やっている?青砥。素直にかわってもらえよ」
「いえ、危ないから良いです」
「そう…、ですね」
顔が真っ赤になっているのを見られたくなくて榎本は車外に目を向ける
こうして山荘に到着すると雨が降って来た
「青砥さん、濡れますよ」
背の低い榎本が精一杯背伸びをしてビニール傘を差す
「これぐらい大丈夫ですよ」
その傘を取り上げて相合傘をする
「こら、榎本さんはお忙しい身だ。手間かけさせるな」
玄関前で芹沢が怒鳴る
「…あの……」
「はい?」
榎本のほうから声をかけられたので立ち止まって膝を曲げてヒソヒソ話に付き合う
「わかりました…」
話をする前のにやけた顔が少し険しくなった
調査は滞りなく終わり青砥は榎本とは二回戦する事なく新日本葬礼社の玄関前で別れた
(はぁ〜、いきなり生理かよ〜)
あの傘の下で榎本から月のものが始まったと告げられて落胆した
一方で榎本のほうは、避妊具が破れて中身が漏れ出したらどうしようという不安から解放され安堵した
そして翌日の日曜日。備品倉庫室で模型作りに勤しむ榎本の姿があった
“榎本さん、開錠する時に、錠前に話しかけると、言っていたじゃないですか”
ふとその言葉を思い出して微笑むのだった

〈おそまつ〉
200名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 12:25:27.01 ID:f5aJADFk
読んでないけど別人イラネ
ハルヒとやらのパロ書けば?
201名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 13:23:39.92 ID:fUhaiOHL
ハルヒって何?
から始まる身なんで面白さがわからん
それこそpixivでやれば?
202名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 13:26:54.47 ID:TAcaGCFF
ハルヒも鍵部屋も好きだけどどっちともかけ離れてるじゃん
性別逆転とか特殊志向はしかるべきスレでやってくれ
203名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 13:34:57.24 ID:NhIPrwoc
ハルヒって何なの一体?
そもそも誰でもハルヒを知ってたとしたって内容的にスレ違いなのに、わけわからん
自己満足設定で書かれても唖然とするしかないわ
204名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 13:43:45.88 ID:fJkinc8E
>>192
あ、書いてくれたんだ
面白かったよGJ
205名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 13:48:32.41 ID:1cuU5Iij
なんか鍵部屋でもハルヒでもない、別の何かになってる感じ。
既存の作品キャラを上手く料理できないなら、一次で書いた方が
合ってるのかも。
206名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 14:16:37.58 ID:IlrGr7MW
まだ数行しかよんでない。
しかし名前は径子じゃなくて径のままでよかった。
207名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 14:33:21.06 ID:IlrGr7MW
全部読んだ。
こんなんただのレイプじゃん。
純子ちゃんは男になっても絶対レイプなんてしないよ。
208名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 15:50:43.00 ID:QFViLsQu
逆転読んだよ〜
鍵部屋と思って読むとちょっと違うかも。
ハルヒとも違うし、新しいキャラクターに
なってる感。

でも執筆ありがとー
209名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 18:33:26.48 ID:hiTJR+BJ
ちゃんと注意書きしてあれば性別逆転・性格改変自体はアリだと思う。

>純子ちゃんは男になっても絶対レイプなんてしないよ。
萌えは人それぞれ。
ただ特殊嗜好だからこれも注意書き必須だね。
210名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 21:59:00.93 ID:zW5eyOkI
毎日このスレのおかげで高ぶりすぎてサントラ買ってしまったw
こんなに1つのドラマにどっぷり嵌ったの生まれて初めてだ

書き手の皆さん、いつもたくさんの萌えをありがとう
211名無しさん@ピンキー:2012/06/14(木) 22:32:54.86 ID:NhIPrwoc
音楽超かっこいいもんね、俺も買ったよ
212129:2012/06/15(金) 00:05:56.49 ID:Or6s2epa
お待たせしました。

>>171-176

の続きです。
榎本押しのエロ――を狙って微妙に失敗しています。
それと相変わらず長いです。
お目汚し失礼します。
213早すぎた告白 7:2012/06/15(金) 00:06:45.51 ID:Or6s2epa
 押しの一手だ! 部屋に押しかけて料理でも作って女らしさをアピールしろ! 酒でも飲ませて押し倒せ!
 ……が、わたしの尊敬する上司のくれた助言で。実際、その前半部を実行したところで、わたしの思いは、無事、彼に通じた。
 嬉しかった。幸せだった。待ち望んでいた返事をもらえて、それだけで舞い上がってしまった。
 これからもよろしくお願いします。いえこちらこそ――
 そんな間抜けな挨拶を交わして、その日は、それで終わってしまった。
 一応、お酒も買ってはあったのだけれど。とてもそれを飲もうなんて言い出せる雰囲気ではなかったし。ましてや、その力を借りて彼とその……そういう関係になる、のは、何かが間違っている、と、そう思ったから。
 大丈夫、焦ることはない。
 わたしと彼は、晴れて「恋人同士」という関係になれたのだから。
 焦らなくとも、その関係は自然に恋人同士のソレへと発展していくはずだ、と。
 そのときのわたしは、単純にそう考えていた。

「はあああああ……」
 目の前の雑誌を乱暴に閉じて、純子は盛大なため息をついた。
 榎本の家に押しかけてから一ヶ月――上司の芹沢が何かというとイタチのような目でからかってくることを除けば、全ては順風満帆なはず、だった。
 仕事の都合が許す限り、純子は榎本の職場へと赴いていたし。たまには、休日に待ち合わせてデート、と呼べるようなこともした。
 一緒に映画を見たり食事をしたり。それは他愛もないことかもしれないけれど、お互いが「好き」という感情を抱いている以上、それは「デート」と呼んで差支えないはずだ。
 なのに。
「はあああああ……」
「おい青砥。何してる? 昼休憩はもう終わりだぞ」
「あ、す、すいません!」
 バタン! という音と共にドアが開き、芹沢が顔を出した。
 慌てて、読んでいた雑誌を鞄につっこむ。芹沢は一瞬眉を潜めたが、特に突っ込むことなく、午後の仕事の指示をすると、自分の部屋へと戻って行った。
「いけないいけない!」
 ぱん! と頬を叩いて、頭を仕事モードに切り替える。
 一ヶ月も、散々悩み苦しんで、仕事に支障をきたし、芹沢に散々迷惑をかけた。まさか、同じ轍を踏むわけにはいかない。
 ただ、違うのは。一ヶ月前は、芹沢に相談することで事態は解決に向かったが。今回ばかりは、そういうわけにもいかない、ということ。
「……やっぱり、わたしから言うしかないのかな。あの榎本さんだもんねえ……」
 もう一度盛大なため息をついて、鞄に放り込んだ雑誌に目を向ける。

 ――女の魅力を磨くためには――
 ――彼を悩殺! 十の秘訣について――

 とてもではないが、20代も後半に差し掛かった女が読むものではない。やたらとポップに彩られた見出しから目をそらし、純子はこれが最後と、もう一度ため息をついた。
 付き合って一ヶ月。そう、一ヶ月も経つ、というのに。
 何で、榎本さんは何もしようとしないんだろうか――?
214早すぎた告白 8:2012/06/15(金) 00:07:50.17 ID:Or6s2epa
 榎本は紳士だった。驚くほどに紳士だった。
 どれくらい紳士かと言うと、付き合って一ヶ月も経つというのにいまだにキスはおろか、手を繋いだことさえない。
 純子の方から無理やり手を握ったことはあるが、その瞬間、榎本の身体が面白いくらいに固まったのを見て、そっと振りほどいた。そのまま放っておいたら、手を繋いだ状態で彫像になっていたかもしれない。

 ……わたしって魅力ないのかなあ……

 応接室で、芹沢がクライアント相手に雑談を始めたのを横目に、そっと自分の身体を見下ろす。
 仕事用の地味なスーツ。胸元は悲しいくらいにぺったんこ。スリムと言えば聞こえはいいが、あちこち骨ばってるし細すぎて柔らかみとか丸みとかそういったものが一切無い身体。
 顔立ちは……悪くない、と思う。多分。少なくとも、見た瞬間目をそらされるほどではない、と思う。
 でも、じゃあ手放しで美人! と言えるかと言えば……それは、首を振るしかない。
 あの榎本が、女性を外見で選ぶとは思わないが。彼だって男には違いないわけで。胸はないよりある方がいいだろうし、美人とそうでない女性のどっちかを選べと言われれば、普通に美人を選ぶだろうし。
 だからか。だからなのか。だから榎本に何もしてもらえないのか。恋人同士だというのに。それも10代のカップルではないのだ。自分はもう20代も後半で、榎本に至っては既に30を超えている。ちょっとおかしくないか? まさか榎本にはその手の欲望が無い、とか……?
「では、そういうことで。今後もよろしくお願いします」
 にこやかな上司の声に、はっ! と顔を上げた。クライアントが立ち上がろうとしているのを見て、慌てて笑顔を作り頭を下げる。
 幸い、クライアントは何も気づいていないようで、純子ににこやかな笑顔を返して去って行った。
「青砥。お前、最後ぼーっとしてたろ」
「……すいません……」
「何だ何だ、たるんでるぞ。幸せボケか? 榎本が毎晩寝かせてくれないから寝不足なのか?」
「…………」
 普段なら、「それはセクハラです!」と抗議するところだが。今の精神状態には耐え難い攻撃だった。
「……本当にすいません。以後気を付けます……」
「…………」
 そんな純子を見て、芹沢は何を思ったのか。
 肩をすくめ、書類を押し付けてくる。顔を上げると、「ボーっとしてた罰だ!」と言われた。
「その書類、今日中に正式な形式に直しておいてくれ」
「えっ……これ、今日中に、ですか?」
「何時になってもいいから今日中に、だ! 俺は帰るからな。明日の朝一番にチェックするからそのつもりで」
「……わかりました」
 上司の指示とあっては、逆らえない。
 そこそこの厚みがある書類を見て、これは深夜までかかるな……と覚悟を決め、榎本に「残業で今日は行けない」という趣旨のメールを送った。
 返信は早かった。「了解しました」の一言だけ。榎本らしいと言えば榎本らしいが、恋人に対してもう少し何か言うことはないのか。
 はああああ……と何度目になるかわからないため息をついて、自分の部屋に戻る。
 まあ、ちょうどいい。こんな……言ってしまえば「欲求不満」な態度を、榎本にあからさまに見せるわけにはいかない。どんな淫乱な女だと思われることだろう。
 仕事に集中して、少し頭を冷やそう――
215早すぎた告白 9:2012/06/15(金) 00:08:43.89 ID:Or6s2epa
 芹沢が「後はよろしく!」と定時で帰り。秘書の水城や他の所員達も全員帰宅し、静まり返ったオフィスの中で。
 そろそろ日付が変わろうか、という時間。ようやく、仕事が終わった。
「はああああ……疲れたっ……」
 ばたりっ、とデスクの上に突っ伏す。疲労感が重く蓄積し、空腹で目が回りそうだった。もしも何かの奇跡が起きて早く終わったら、榎本に会いに行こう――などと考えていたのだが、とてもそんな余裕はない。
 電車はまだあるだろうか。疲れているからタクシーにしようか……と悩みながら、パソコンを落とす。
 誰もいないオフィスはしんと静まり返っていて、正直、少し怖い。早く帰ろう、と立ち上がったそのとき。

 ガタン――

 小さな音が響いて、純子の身体が凍りついた。
(え、何、今の音……)

 ガタン。カツン、カツン、カツン――

 いや、考えるまでもない。今の音はドアが開閉する音。そして、足音だ。
 誰かが、近づいてくる。誰もいないはずの、こんな時間のオフィスに。
 芹沢か誰かが忘れ物でも取りに来たのか? いや、それなら、窓から洩れる明りで、純子がまだ残っていることはわかっているはずだ。声の一つもかけてくるだろう。
 ど、泥棒!?
 ごくり、と息を呑んで、部屋を見回す。武器になるようなものはないか――と探して、とりあえず、六法全書を取り上げてみる。
 オフィスはセキュリティが完備されているはずだが、最近の泥棒の手口は巧妙で、どんなに最新のセキュリティを整備してもすぐに抜け穴が見つけ出される、と聞いた。携帯を手元に置き、いつでも通報する準備を整える。
 正直に言えば怖い。全身ががくがく震えるほどに怖い。だが、弁護士という職務上、このオフィスには持ち出されたらまずい書類が山のようにある。逃げ出すわけにはいかない。
(な、何でこんなときに芹沢さんは帰っちゃってるの! だ、誰かっ……)

 ガタンッ……

「きゃあああああああああああ! え、榎本さん榎本さん助けて――っ!!」
「……はい?」
 悲鳴を上げるのと、聞き覚えのある声がとんでくるのは、ほぼ同時だった。
「何かありましたか、青砥さん?」
「……え……?」
 六法全書をへっぴり腰で突き出したまま、恐る恐る目を開ける。
 目の前に立っていたのは、小柄で威圧感のある眼鏡が印象的な、どこか近寄りがたい――
「榎本さん!?」
「はい」
 純子の姿を認めて、榎本は、ゆっくりと頷いた。
 わけがわからない。何で榎本がこんな時間にこんな場所にいるのか。
「榎本さん、どうしてここに」
「芹沢さんが教えてくれました」
「芹沢さんが?」
「はい」
 言いながら、榎本は、手に持っていたビニール袋をどさりとデスクに置いた。
 覗き込む。中に入っていたのは、コンビニで調達してきたと思しき、おにぎりやパン、飲み物にお菓子。
216早すぎた告白 10:2012/06/15(金) 00:09:42.66 ID:Or6s2epa
「お腹が空いていると思って……どうぞ。適当に見繕ってきましたので、お気に召すかどうかはわかりませんが」
「あ、ありがとうございます。はい。お腹ぺこぺこでした……」
 わけがわからないが、榎本の気遣いはありがたい。
「あの、芹沢さんが教えてくれたって、どういうことですか?」
「今日は、芹沢さんに呼び出されて飲んでいたんです」
「はい? 芹沢さんが、榎本さんを?」
「はい。そのときに、青砥さんが今日は深夜まで残業だから、差し入れを持って行って欲しい、と言われまして。後、こんな時間に一人歩きをさせるのも心配だから、送っていくように、とも言付かりました」
「そ、それはっ……すいませんこんな時間に! 本当にもう、芹沢さんたらっ!」
「いえ」
 純子の言葉に、榎本は言葉少なに答えるのみ。
 その視線を居心地悪く感じながら、食事に専念する。よく考えたら、このオフィスで榎本と二人きりになるのは初めてではないか――と考えた瞬間、ぼっ! と熱が燃え上るのがわかった。
 い、いけないいけない。何、考えてるの、わたしったら! 榎本さんはわたしを心配して来てくれたのにっ――
 なるべく、榎本の顔を見ないように――と、視線をそらす。
 パンを一つ、おにぎりを一つ食べて、ペットボトルの紅茶に手を伸ばした、そのときだった。
「青砥さん」
「は、はいっ!?」
「実は、今日、ここに来たのは――青砥さんに聞きたいことがありまして」
「はい? わたしに、ですか?」
「はい」
 食事の手を止めて、顔を上げる。
 壁にもたれかかるような格好で、榎本は、まっすぐに純子を見つめていた。
「……したいですか?」
「はい?」
「青砥さんは、僕と、したいですか? いわゆる身体の関係――というものを、結びたいですか?」
「…………」
 一体、榎本さんに何を吹き込んだんですか芹沢さん――
 根拠など何もないが。その瞬間、これは芹沢の仕組んだ罠だ――と、純子は信じて疑わなかった。

 沈黙が重かった。
 いや、こんな問われ方をして、「したいです」と頷ける女がどれほどいるというのか。
 飲み会の席で軽いノリで言われたのならまだいい。榎本の顔は至極真面目で、冗談の雰囲気などかけらもないのが性質が悪い。
 カツン、という足音と共に、榎本が歩み寄って来る。一歩、二歩、三歩――手を伸ばせば触れる、という距離まで近づいて。榎本は、足を止めた。
 見つめる視線が熱くて。純子の喉が、小さくなった。
「あの、榎本さん」
「僕と青砥さんは、いわゆる恋人同士――という関係にあると認識しているのですが。間違いは、ないですよね?」
「っ――は、はい。間違い……ないです」
 榎本らしい言い回しに、無駄に緊張が煽られた。一体、彼は何を言うつもりなのか。
「そして、恋人同士になってから、既に一ヶ月が経過しました――一般的に、一ヶ月も経てば、身体の関係に発展しているのが自然だ、と僕は認識しているのですが。それは、おかしいでしょうか」
「……いえ」
 それは人によるだろう、と思ったが。純子は頷いた。
 実際、自分もつい数時間前、同じことを思っていたのだ。榎本とそういう関係になりたい、と。
 ただ――それは、もっと自然な、というか。もっとロマンチックな……そういう「雰囲気」の上に発展していくものだ、と、そう思っていた。
 こんな、尋問のようなやり方は――
217早すぎた告白 11:2012/06/15(金) 00:10:48.52 ID:Or6s2epa
「っ――――!!」
 ぐいっ! と顎をつかまれた。
 何、と言う暇もない。突然塞がれた唇に、漏れかけた悲鳴を押し戻されて。一瞬、息が詰まった。
「んっ……!!」
 反射的に目を閉じる。瞼の裏で、榎本がどんな表情をしていたのかはわからないが……初めて重ねた唇は、やけに冷たく感じた。
「え、榎本さっ……」
「――黙って」
 もう一度、キス。舌で、ゆっくりと唇をなぞられて、ぞくりとした悪寒が走った。

 な、何なんだろうか、この感覚は――

 息が苦しくなって、わずかに唇を開くと。その隙を逃さずに、舌を絡み取られた。
 自分は、榎本を誤解していたのかもしれない――と、今更に、そう思う。
 何となく、彼女、恋人と呼べる存在など、いたことがない、と思っていた。適当に遊び歩くタイプにも見えない、いわゆる恋人がいない期間イコール年齢な人だと……
 もっと言えば、何の経験も無いから、どう誘えばいいのかわからなくて何もしてもらえないんだ、と。そんな風に、思っていた。
 違う。とんでもない勘違いだ。榎本は――
 多分、年齢相応にそれなりの経験を重ねている、普通の男だ。
「っ…………」
 がくん、と膝が崩れ落ちる。倒れこみそうな背を支えて、榎本は、そのまま純子の身体をデスクの上に横たえた。
 のしかかってくる身体。眼鏡の奥に光る瞳からは、感情が読み取れない。怖い――とそんな風に感じたとき。
 純子の瞳から、ぽろり、と、涙が落ちた。
 その瞬間、榎本の動きが、止まった。
「……榎本さん……?」
「…………」
 純子に覆いかぶさったそのままの格好で、榎本が浮かべたのは、苦痛の表情。
 さまよう手が、純子の頬を撫でて、流れた涙をすくいとった。
 視線がぶつかる。至近距離で、そらすこともできず、沈黙だけが流れた後――
「……やはり、嫌ですか?」
「え?」
「やはり、僕なんかとするのは……嫌、ですか?」
「っ!!」
 とっさに首を振る。違う、と言いたかったけれど。どう言えばいいのかがわからなくて、言葉が出なかった。
 そっと榎本の身体が離れていく。解放されたところで、身を起こす。遠ざかろうとする榎本を目で追って、とっさに、その腕をつかんだ。
「榎本さん」
「――すいません。青砥さんを傷つけるつもりは――怖い思いをさせるつもりは、なかったんですが」
「榎本さんっ!」
 ぎゅっ! と指に力をこめる。榎本から目をそらさず、純子は、言葉を待った。
 榎本は恐れている。恐れ、そして傷ついている――何を? 純子から、拒絶されるのを?
218早すぎた告白 12:2012/06/15(金) 00:12:09.26 ID:Or6s2epa
「わたしは……不安、でした」
「…………」
「榎本さんが何もしてくれないのは、わたしに魅力が無いのかなあ、って……そんな風に、思ってました」
「……それは、違います。僕は」
「わかってますっ! 榎本さんの、今の顔を見たら……わかっちゃいましたよ……」
 ああ、この人は。
 何て不器用で、そして臆病な人なんだろうか。
 彼の無表情は他人を寄せ付けないための仮面のようなものだった。本当の彼は、色々な思いをその胸に秘めている。
 そんなことは、とうにわかっていたつもりだったのに――
「怖がると……思いましたか? 嫌がると、思いましたか?」
「…………」
「わたしはこんなにも榎本さんのことが好きなのに――あんなにはっきりと、好きだ、って言ったのに。そんなわたしが、榎本さんを拒否するはず、ないじゃないですかっ……」
「……青砥さん」
「わたしはっ……榎本さんの本音が、聞きたいんです」
 芹沢さんに吹き込まれて、とか、そんな理由じゃなくて。
 それが恋人同士として当然だから――そんな、義務と理屈に縛られた関係じゃなくて。
「僕は、ずっと思っていましたよ。青砥さんとそういう関係になりたい、と、そう願っていました――それは、男として当然のことだと思うのですが。青砥さんは、どう思われますか?」

 もっと単純に。彼にわたしを求めて欲しかった。

「最初っから……そう言ってくださいよ。わたしだってずっと思ってましたよ。榎本さんとこうなりたいって、ずっと、ずーっと思ってました……」
 自然にこぼれる涙を指ですくって、笑顔を、浮かべてみせた。
「この涙は嬉し涙です。勘違いしないでくださいね」
 その言葉に、榎本は頷いた。
 彼の頬がわずかに緩んで――あっ、と思った瞬間、純子の身体は、抱きすくめられていた。

 三度目のキスは、温かかった。
 強引に奪われたものでも、義務で重ねたのでもない唇は、柔らかく、甘かった。
 自然と絡む舌に、身体が熱くほてるのがわかった。押し付けられた榎本の胸板に身体を預けていると、背中に回された手が、ゆっくりと背筋のラインをたどり、腰の辺りで、動きを止めた。
「榎本さんっ――」
「ここで――いいんですか?」
「……芹沢さんには、内緒にしてくださいね?」
 上目づかいに見上げると、苦笑と共に頷かれた。
 駄目だって言われたら、どうしようかと思いましたよ――とは、彼なりの軽口なのか。
219早すぎた告白 13:2012/06/15(金) 00:13:01.38 ID:Or6s2epa
「しわになっちゃうから――服、脱ぎます。それとも、榎本さんが脱がせてくれます?」
「……それを、青砥さんがお望みなら」
 伸ばされた手が、スーツのボタン、ブラウスのボタンを器用に外していった。
 榎本の手で、自分が生まれたままの姿にされる、というのが、何となく気恥ずかしい。これから行う行為のことを考えたら、これくらいのことで――と思うが。そう思ってしまったのだから仕方がない。
 脱がせた服が丁寧に畳まれて、傍らに置かれた。
 榎本の視線が注がれているのを感じて、顔が真っ赤になるのがわかった――よく考えたら、オフィスのデスクの上に裸で腰かけているって、ものすごくシュールな光景ではないだろうか?
「あ、あまりじろじろ見ないでくださいよっ! それとっ! 何でわたしだけなんですか! 榎本さんも脱いでください!」
「……僕の裸なんか見たいですか? 割と、特に今は下半身の辺りがちょっと、お見せできる状態ではないんですが」
「しょ、正直すぎますっ! もうっ……いいです。好きにしてください」
 ぎゅっ、と目を閉じて、身を任せる。榎本の手が、優しく肩をついて、そのまま、デスクの上に押し倒された。
 さっき、無理やり押し倒されたときとは違う。背を、腰を優しく支える手つきは、純子が痛い思いをしないように、という気遣いで溢れていた。
「……綺麗ですよ」
 ぼそり、と耳元で囁かれて、じんっ……とした熱が、内部に宿るのがわかった。
「とても、綺麗です」
 そろそろと撫でおろされた手が、優しく、純子の身体をほぐして行った。
 榎本が恐らく初めてではなかったように、純子も初めてというわけではなかった。だが、過去の、自分の欲望を満たすことだけに熱心だった恋人とは違って、純子のことを一番に思っての営みは、ひどく温かかった。
「榎本さんっ――!」
「…………」
 肩口に顔を埋めるようにして、榎本は、熱い吐息を漏らした。
 押し付けられる下半身。久々に男性を受け入れるソコは、しばらくの間、微かな痛みと共に固く閉ざされていたが。
 繊細な指先で丹念な愛撫を受けて、やがて、溢れる滴と共に、榎本を受け入れた。
 言葉はいらなかった。抱き合っているだけで十分だった。
 がた、がたとデスクが小さな音を立てる中。純子は、ただ榎本の名前だけを囁いて、その身体にすがりついていた。
 快楽と共に欲望が弾けたのはその数分後――
 ぎゅっ、と閉じた瞳から、再び、涙が溢れ出た。もう、榎本も、その涙の意味を勘違いしたりはしなかった。

「――幸せです。わたし、今、すごく幸せです」
「そうですか。それは――奇遇ですね。僕も、同じように思っていました」

 ああ、ここまで来るのに、長い道のりだった。
 一体どれだけ寄り道をして、どれだけの人に迷惑をかけたか。思い出すのも恥ずかしい。
 けれど、もう大丈夫だ。
 自分も榎本も、恋愛には不慣れで不器用なタイプではあるけれど――似たもの同志、一歩一歩、前に進んで行けばいい。
 焦らなくても大丈夫。この思いが変わることは、もう決してないだろうから――

〜〜END〜〜
220129:2012/06/15(金) 00:15:25.50 ID:Or6s2epa
終わりです。本当に長々と失礼いたしました。
実は裏の芹沢と榎本の飲み会シーンも書いてはいたのですが
それも足すと連続投下規制にひっかかりそうだったのでばっさりカットしました。

では読み手に戻ります。
221名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 00:22:06.73 ID:+p5k3ht0
>>220
超リアルタイムで遭遇できて嬉しいです!GJ!
222名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 00:49:07.48 ID:PcehMziU
>>220
素晴らしいです。キスの上手い榎本さんエロいです。
223北国にて1:2012/06/15(金) 01:44:35.30 ID:PcehMziU
長野の密室事件の折には、事件解明の依頼主が変に気を回したのか回さなかったのか襖一枚隔てた
民家の一室のあちらとこちらで一夜を過ごした。
あれから半年もたった。北国の秋は早足で、暮れていくのも早い。
密室とはさほど関連性のない仕事ではあったが、榎本の助けを得てややこしい難問をクリアでき
純子はひととき世知辛い都会の煩わしさを離れ心が解き放たれるのを感じていた。

今いるのは阿武隈川を望む小さな宿の一室。
今日中に東京に帰ろうと思えばそう出来た。しかし榎本と二人ゆったりと一晩をこの場所で過ごしてみたい思いが純子にはあった。
「たまにはいいじゃないですか?榎本さんとはゆっくり語り合ったこともなかったし、美味しいお酒でもいただきましょうよ」

宿屋の女将は二人を夫婦家恋人同志と判断したらしく「離れでごゆっくりどうぞ、他にお客様はおいでになりませんから」
「あ、部屋はべつ・・」その純子の声を遮った榎本の
「ありがとうございます。のんびりさせて頂きます」返答をを敢えて打ち消さなかったのはなぜ・・。

案内された和室は簡素ながら手入れの行き届いた温もりを感じさせた。
窓の外には秋の夕日に照らされた川面が美しく輝いている。
「榎本さん、ほら綺麗。智恵子抄にあの川を智恵子と光太郎が眺めている詩がありましたよね」
「そうですね、あれは確か『樹下のふたり』でしたか。」
そこには都会の喧騒の中で毎日を過ごしている榎本とはまた違う榎本がいた。

「あ、そうだ榎本さん、女将さんは私たちを夫婦だと勘違いしたみたいですけど、お部屋あとで・・」
「青砥さん、お風呂に行きましょう。紅葉の中の露店風呂なんてなかなか味わえるもんじゃありません」
「え、ええ。そうぞお先に。私は後で行きますから」


「ああ、美味しかったーですねえ。なんか嬉しいですよね、特に高価な素材でもないのにもてなしの心尽くしが」
「ええ、近頃はどこに行っても高級食材の押し付けのような料理が多いですから」
窓の近くの椅子に腰掛けながら差し向かいで酒を飲みながら他愛もない話をしているのが嬉しい。

やっぱり泊まって良かったんだろうーー純子はそう思う。榎下も饒舌だ。

青砥さん、あまり飲まないうちにお風呂に入った方がいいですよ。風も少し出てきました」

224北国にて2:2012/06/15(金) 02:18:43.61 ID:PcehMziU
「風が冷たいですよ。もう窓を閉めましょう青砥さんももう少し何か飲みますか?」
「あ、はい・・・」

純子は露天風呂から戻ると当然のようにくっついて敷かれていた2組の布団から目が離せない。
ーどうしよう、まさか、いや、でもーー
「あ、これって、榎本さん、どうしましょう。そうだ電話して、お部屋・・
てか、お布団を離してと、えっと困ったな」

「僕は困りませんよ。」そう呟いた榎本が純子の背中をふんわりと抱きしめる。
「え、榎本さん、だってこれって、あの・・そういうことに」
「そういうことって何ですか?」
「だって、お布団、お布団、わたし・・・」
「黙って」榎本の顔が目の前にあって唇が純子のそれと重なった。
榎本の腕が純子を抱きしめ、優しく舌を絡ませてくる。ーー腰が砕ける

「男なら誰だってこういう状況なら、女性はOkなんだと解釈しますよ。それとも僕が男なのを忘れていましたか?」
「忘れてなんか・・いません。だからお部屋を」
「部屋を別々にしても一緒です。ここまで来て拒むなんて残酷すぎやしませんか?あなたが欲しいんです」

ーー欲しいんです。欲しいんですーーその声が耳元で木霊のような鳴った時、純子の心も決まった。
そう、そうなってもいいと。違う、本当はそうしたかったから、敢えて別の部屋を頼まなかったんだ。
225北国にて:2012/06/15(金) 02:36:16.66 ID:PcehMziU
ここまでで力尽きました。またあす行こう書こうと思います。
他の作者さんお気遣いなくとばして書いてください。
226名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 10:42:53.21 ID:uz2qxOXj
>>223 - 225
Great Job!!! 続きが楽しみすぎて、ふるふるしてます。
227名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 10:43:55.14 ID:BHav+OXR
>>220さん
お疲れ様とありがとう
よければ是非とも二人の飲み会話も読みたいです
機会があったらお願いします


>>223さん
続き楽しみに待ってます
228名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 10:59:56.93 ID:V/SQl+yx
>>225
作品の内容は素晴らしいが書きながら投下するのやめてほしい
何か書き込みたくてもあなたの投下が終わるまで何十分も待たされるの辛い
ある程度の分量をまとめて下書きしてから一気に投下してはいかがでしょうか
229名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 11:33:31.88 ID:0S8ZAIYT
確かに名前の欄に‘1/5’と、何番目のレス/総レス数を入れた方が有り難い
230名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 13:26:07.55 ID:uz2qxOXj
>>228
ということは、何か作品を投下されるのですね。
待ってます。
231名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 14:08:00.77 ID:k2e35Non
そういうことではなくて感想を書き込みたいけれど
終わってないのか終わってるのかわからなくて書き込みにくいってことじゃないのか
232名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 14:11:48.25 ID:EXClmKqq
>>231
それなら>>229の言う通りにすれば良いと思うわ
それにしてもレス進むの早いね
233名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 15:47:59.21 ID:0S8ZAIYT
それはもう原作でもドラマでも神職人さんのSSでも榎本×青砥は萌え捲ってるからね
234ケイノオモチャバコ 3:2012/06/15(金) 17:01:40.44 ID:teFk8IHY

「おーい榎本。いるかー?」
立川の声だ。それは純子にもわかった。初めてこの東京総合セキュリティに芹沢とやってきたとき、榎本の居場所を教えてくれて以来、顔を合わせるたびに挨拶をかわすようになってた。
足音が近づいてくる。それなのに榎本は、手の動きさえ停止したものの、そのまま石のように動かない。一体、こんな格好を見られでもしたらどうするのだ!
純子は振り返ってその思いを必死で目で訴えたが、なぜか榎本はそんな純子に冷ややかな視線を落としているだけだった。

やばいな。
径は思った。
この状況、おもしろすぎる。
どうせ立川はなにか備品を取りにきたに違いないし、それならば径の私物ばかりが並んでいる中二階まで足をのばすとはまず思えない。しかし純子にそこまで推測できるはずはないのでこの慌てぶりというわけだ。

立川はなにやら探し物をしているようで、ガチャガチャと金属音を響かせながら一階をいまだ物色している。
「え、えの」
たまりかねて小さな声で離れるよう言おうとしたが、その時榎本が右手だけを動かして、人差し指を唇にあてるジェスチャーをしたので純子は言葉を飲み込んだ。次の瞬間、その手が純子の口を塞いだ。
(ええ!!!???)
さながら誘拐犯に捕まった被害者のようになってしまった純子の頭の中はパニック寸前だ。
(そんなことしなくても声出したりしないよ〜 なにしてるのえのもとさん〜)
径はわざと純子の耳の近くまで唇をを近づけた。
「静かにしてください。きっとすぐに出ていくと思いますので。」
囁くように話しているせいか、榎本の息が耳に当たって身体がざわついた。すでに高まりつつあった鼓動がさら早くなった。
(ば、ばかっ、落ち着くのよ純子!こんなときに一体何考えてるのよ!!)
純子は自分を制しようと必死だった。
困り顔を通り越して、もう半べそのような顔をして。
径はすっかりその表情に見とれてしまった。

…まあ、いいか。
後でなんとでも言い繕えるだろう。
このまま終わらせるなんて、もったいなさすぎる。久々に、錠以外のモノに心を奪われたのだから。

自制に必死だった純子に、信じられないことが起きた。
榎本の舌が、純子の耳をなぞった。
純子は眼を見開いて、口を手で塞がれた状態のまま硬直した。パニックどころか、思考はフリーズした。

まだ階下では立川がウロウロしていた。
その気配を感じながら、径はお構いなしに純子の耳を舌で弄んだあと、軽く噛んだ。純子の身体に震えが走る。
左手できちんと一番上まで閉じられたブラウスのボタンをひとつひとつはずしていくき、首筋に唇を這わせる。ブラウスの隙間から手を滑り込ませ、細い指で鎖骨をなぞった。純子の鼓動が掌に伝わってくる。
純子の身体はかすかに震え、ほてり始めていた。少しづつ、乱れ始めた息が口を抑えている手にかかる。
径は顔をあげ、純子の口から手を離した。
純子は先ほどとは明らかに違う、困惑した、しかし熱をはらんだ視線を径に向けていた。
さっきまで口を塞いでいた手で今度は純子の目を覆った。純子の頭を自分の肩に押しつけて、伸びた白い首筋に噛みついた。純子の喉が、強くひきついた。

純子はとにかく気づかれないように、声や音を立てないように、漏れ出た息が階下に伝わらないように、そればかりだけを考えていた。
しかしその分、榎本の舌が立てるかすかな唾液の音が耳にダイレクトに伝わってきた。みるみる身体の芯が熱くなるのを止められず、ただひたすら早く立川がいなくなることを祈っていた。
やっと、何やらブツブツ呟きながら立川が立ち去る音が聞こえた。それと同時に、榎本も手も離れた。
しかし気づかれまいとした緊張感のせいなのか、ものすごく身体が熱い。
こんなことだけでこんなにも感じてしまった自分の身体が恥ずかしいし、呪わしい。
「〜、なんでこんなことっ…!!」
振り返ると、今までで見たことがない、苦悶に満ちた表情の榎本が立っていた。
235ケイノオモチャバコ 4:2012/06/15(金) 17:03:25.59 ID:teFk8IHY
「僕は… なんということを…」
純子は榎本の潤んだ目に惹きこまれてしまった。
「すみません。本当に申し訳ありません… こんなことするつもりはなかったんです。でも何故か…本当になぜかわからないのですが、気がついたら青砥さんに触れてしまっていました。自分をおさえられなくて…。
本当に自分でもなぜこんなことをしてしまったのかわかりません。」
辛そうな表情の榎本を見ているうちに、なぜだか純子はなんだか自分のほうが申し訳ないような気持ちになってしまっていた。そしてこのままでは、自分が榎本を傷つけてしまうのではないかという不安が湧き上がった。
「え、榎本さん…」
「不快な思いをさせて申し訳ありません。今すぐ帰りたいですよね。早く鍵を」
「榎本さん!」
目を逸らしたまま、眉間にしわをよせて言葉の羅列をたたみかける榎本に、たまらず純子は強く遮った。
「大丈夫です、別に、不快とか、そんな風には思ってません!そもそも… 私が、こんなところに手を入れてしまったのが原因なんです。確かに、普通こんな状態だったら…変な気持にも…なるっていうか…」
結果、このような行為を肯定するかのような発言をしてしまったことを、言ってからひどく後悔した。こんなことを言ったら、軽い人間だと思われてもしかたがない。
榎本は黙っている。苦悶の表情は解けたが、何だが困惑しているようだ。じっと、純子の顔を見ている。
「…嫌ではかったのですか?僕にされたことが…」
ぼそぼそと小さな声で、問いかける。
「…え…」
「嫌だったでしょう。嫌だったと…気持ち悪かった、やめてくれとはっきりと言ってください。」
今度は純子が困惑する。
嫌だったわけではないからだ。純子は、榎本が好きなのだ。触れられて、それがより一層、はっきりと自覚した。真面目で頭がよく、人づきあいが苦手な、しかし時折見せる真摯な優しさに、すっかり虜になってしまっていたのだ。
ただ、正直榎本が自分に対してこのようなことをするとは想像もしていなかったから、驚いただけで。
嫌なわけでは、ない。
純子は言葉に詰まっていた。なんといえばいいのかわからなくなっていた。
「ちゃんとはっきりと拒絶してください。でないと」
榎本はまた眉をひそめて純子を見た。
「僕は…まだ、自分を止められません…」
ドクン、と、自分の心臓の音が聞こえた。そして、榎本がとても愛おしく思えた。
すべて許そう。そう思った。
「…いやじゃ…ないです… わたし…」

そう言って純子がうつむいた瞬間、径は満足げにニヤリと笑った。かすかな笑みなので、純子は気づかない。
そっと、肩に手をまわして抱きしめる。
純子が顔をあげた瞬間、径は自分の唇で純子の唇を塞いだ。

236ケイノオモチャバコ 4:2012/06/15(金) 17:08:12.28 ID:teFk8IHY
今回は中編でここまでです。
前半と比べ、三倍の時間がかかりました。エロシーンの難しさに泣きそうです。
なんとか最後まで書きあげてまた投下したいと思います。

しかし自分が書いてる榎本性格悪すぎて…
皆さんすごく純真な感じで書いてるのにどうなんだ、と思う今日この頃;
237236:2012/06/15(金) 17:09:33.71 ID:teFk8IHY
ああ、題名のままで投稿してしまった…涙
初心者で不慣れなもので、どうぞお許しください…
238名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 17:12:47.24 ID:8kezWzJ2
いいよーいいよー!wktkdkdk!
いじわるでもなんだかんだと純子ちゃんのとりこじゃん♪
239名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 17:26:53.82 ID:gzpvRMFd
純情榎青も美味しいしドS榎本も美味しい
もっとおかわり下さい!もぐもぐ
240名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 18:53:40.45 ID:/1ayDVYu
>>236
GJです!
続き待ち焦がれてます
241名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 19:38:03.70 ID:1kISA2ZR
エロのない短いものを書いた
242晴天予報 1/2:2012/06/15(金) 19:39:00.57 ID:1kISA2ZR
梅雨の晴れ間のその日はまるで一足飛びに真夏になったようだった。
数日前に起こった密室殺人事件の調査の為に現場にいた榎本と青砥は、帰途につく間も途切れる
ことなく互いの意見を交わしていた。
「密室の概念って、思ったより複雑なんですね。思ってもみない状況でも密室化することがあるのは
結構驚きでしたよ」
「往々にして人は事件を起こした場合過剰に隠したがります、それだけのことですよ。ですから事件性
のない密室より解き明かしやすいのです」
榎本は相変わらず表情を変えることのないまま正面を向いていて汗ひとつかいていない。
やはりまだ何を考えているのか分からないこともあるとはいえ、こうして肩を並べて歩いていることに
違和感を感じなくなっているのが不思議だった。
事件がきっかけであるとはいえ行動を共にする機会が増えていることで、自分の中で榎本の存在が
信じられないほど大きくなっている。
現在のところでいえば榎本との関係は良好なものだ。一週間ほど前、差し障りのない程度に告白を
したこともあって、それなりに好意を持たれているのも分かっている。
しかし、ただそれだけだ。今はまだ何もかも足踏みをしている状態にある。
もどかしいことこの上ないが、相手が榎本ではどう出ていいのか分からないのが本音だ。ようやくに
して今の関係を築いた以上は無暗なことで壊したくないと思っている臆病な部分もある。

何度か通った公園に差し掛かった時、日陰のベンチに座って本を読んでいる見慣れた姿を発見して
青砥は思わず声を上げた。
「あ、美沙ちゃん」
その声に榎本もふと足を止めた。
彼女は富樫貿易連続殺人事件の被害者、八田の娘で今は亡父側の祖父母と暮らしているという。
あの事件もまた犯人の身勝手さによって不可解極まるものとなったが、榎本が早期に解決したこと
もあって美沙の心の傷もそれほど酷くはならなかったようだ。
何より明るく笑ってくれることが心痛くもあるが嬉しい。
「美沙ちゃん、こんにちは」
偶然見かけたことでもあるし、折角だから何か話でもしようと近付いていく。榎本も同調したのか黙った
ままついて来る。青砥の声に顔を上げた美沙の顔がぱあっと輝いた。
「あ、お姉ちゃん!」
「こんにちは、美沙ちゃん」
「こんにちはー、榎本さんもいて嬉しいな」
無心な少女には榎本の本質が分かるのだろう、殊更懐いているのが微笑ましい。これが同世代の
女性なら嫉妬の一つもしたに違いないが、まだ幼い美沙ならば気楽なものだ。
243晴天予報 2/2:2012/06/15(金) 19:39:32.01 ID:1kISA2ZR
少し立ち話をして立ち去る間際、美沙は悪戯っぽく青砥に抱き着いてこっそりと囁いた。
「お姉ちゃん、榎本さんは私の王子様だからね。私早く大人になってお嫁さんになるの」
女は幼くとも女、という訳だ。
「お姉ちゃんには、もう王子様見つかったんでしょ?」
苦笑しながら頭を撫でてその場を離れても、何度も美沙の言葉が胸の中に蘇った。
「榎本さん」
歩きながら何となく話しかけてしまう。
「何ですか」
榎本も普段通り機械のように言葉を返す。
「美沙ちゃん、可愛いですね。もしかしたら言ってたこと本当になっちゃうかも」
「そうですね、しかし有り得ません。彼女には無限の未来があります。解決済みの事件に関わった
だけの僕はただの過去の逸物と同じですよ」
変わることなく杓子定規な榎本の言葉の中に、忘れ去られる者の寂寞が垣間見えた。もしかしたら
これまでの出来事の中で何度もそんな思いをしてきたのだろうか、とふと感じる。
「どうでしょうね、女の子は一途ですから分かりません。でも…」
ぴたり、と青砥は足を止めた。珍しく晴れ上がった空は薄い筋雲が見えるだけでとても青くて綺麗な
色を湛えている。悲しくなるほどに。
数歩先を歩いていた榎本が振り向いて様子を伺っていた。
「私は待てますよ、いつまでだって」
「それは酔狂、と言うのです」
「ええ承知しています」
よし、と心を決めて青砥は再び、今度は勇むような早足で歩き出した。一度決めた以上はもう自分の
気持ちに逆らうことなく生きていこうと。そう思えるだけで何となく楽しい。どんな結果が待っていても
何もかも覚悟の上なら想定内で済む。
見つけたのは王子様ではなかったけど、一生を賭けてもいい恋だ。
「その期待には」
わざと榎本を追い抜かした時、そんな言葉が聞こえた。続きは聞き取りにくかったがこう言っていた
のだろう。それなら本当に嬉しいのだが。
「応えられると思います、きっと」




244名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 19:43:43.77 ID:66kmHB/V
>>236
待ってたよー。タイトルからしてツボ。
続きも気長に待ってます。
245名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 19:49:32.82 ID:66kmHB/V
ごめんなさい>>244です。
ケータイからちゃんとリロードせず勇み足で感想書き込んでしまった。
>>242さんもGJでした!いつもありがとうございます!
246名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 21:50:20.48 ID:8kezWzJ2
うん。こういうほんわかもすき。
247223−225です:2012/06/15(金) 23:25:39.87 ID:PcehMziU
こういう小説を書き込むのが初めてなの書き込みのルールも知らずに皆様にご迷惑おかけしてすみません。
続きが書けたので書き込んでよいでしょうか?
皆さんの作品素晴らしいです。特に個人的にはオモチャバコの先が気になって待ちきれません。
A4に5枚弱あるので入力するだけで時間を取りそうです。先に書かれる方いらっしゃたらどうぞ。
248223−225です:2012/06/15(金) 23:48:12.64 ID:PcehMziU
20分待ちましたがどなたも書かれないようなのでいかしていただきます。
249名無しさん@ピンキー:2012/06/15(金) 23:54:43.57 ID:fXhEAiiA
どうぞどうぞ
250北国にて3/7:2012/06/16(土) 00:16:25.39 ID:A2aJvEoK
ーー僕はこれでもずっと自分を抑えて来たんです。青砥さん、貴女があまりにも無邪気だから。
想像してもご覧なさい。あの地下倉庫に夜2人きりで居る時、僕が密室事件のことばかりを  
考えていられたでしょうか? 
疲れてぐったり僕の机に突っ伏して寝てしまった貴女の寝顔を見て心穏やかだった訳じゃないんです。
誰も入って来ないあの部屋で、貴女を力ずくで奪ってしまおうかなんてーー
そんな邪な考えが頭をよぎったことも1度や2度じゃないんです。
貴女がそう言う意味で僕に警戒心を抱かなかったのは・・・
僕を信用してくださっていた・・・ということなのでしょう。光栄ですね。ですがーー

「甘いです、僕は普通の男です」

そこには今までに見たこともなかった熱っぽい眼差しで純子を見据える榎本がいた。

「榎本さん、私、私、榎本さんがずっと好きだったんです。好きだから、本当はこうなってもいいと
思ってたんです。ごめんなさい、ずっと私、榎本さんを苦しめていたんですね」

純子の目からはらはらと涙がこぼれ落ちた。

「ちょっと強く言いすぎましたね。泣かないでいいから・・・」
榎本がそっと指で涙を拭う。
力強い腕がすっぽりと純子を抱きしめる。

ーーゆっくりと絡み合う舌。純子の髪をまさぐっていた榎本の指がうなじをくすぐり
首元から胸に届いたーー

榎本の器用な指はスルスルと純子の浴衣の帯びを解き、容易にブラのほっくを外してしまう。

「灯りを消しましょう」榎本の低い声がそう言った。

さっと身を翻しバッグの中から榎本が何かを取り出した。
その小さな四角形のものを見て、純子は自分の顔がみるみる内に赤く染るのが分かった。

「これは、男の嗜みですから」

ーーちゃんと考えてくれてるんだ。ただただセックスだけを考えているんじゃないーー

榎本の腕に抱かれ、純子は今から自分はあの紅葉のようにこの人に染められるんだわ
と、もう既に色づいた葉っぱのように、ひらひらと布団の上に崩れ落ちた。
251北国にて4/7:2012/06/16(土) 00:35:14.39 ID:A2aJvEoK
榎本の指が届くと、純子のその場所は既にしっとりと潤っていた。
脚を開かせようとすると、咄嗟にそれを閉じようとする。
「あ、、いや・・・」
「いや?まだダメ?」榎本は笑っている。
どこまでも優しい榎本の眼差しが注がれると、純子は自然と体から力が抜けていくのが分かった。

優しく花びらを開かせると、花びらの間に指先をぴったりと当て、長い長いキス。
舌の緩やかな動きに合わせるように榎本の指が秘所でうごめき始めると純子は思わず声を出してしまう。

「我慢しないで、声を出して。感じるままでいいんだ」

純子の奥が甘く疼き、トロリとした液が溢れてくる。
なめらかになった榎本の指先がより繊細に動き始め、その感触でまた蜜が溢れ出る。

月明かりの部屋に、純子の切れ切れの声と肌と指がこすれ合う淫靡な音が響き始めると
恥ずかしさのあまり純子は榎本の手首を掴んでしまった。

「どうしました?痛かった?」
「そうじゃなくって、恥ずかしいんです、音が・・・何というか、何というの?」

「もっといっぱい聴かせてください、僕はもう止められないから」
252北国にて5/7:2012/06/16(土) 01:04:43.64 ID:A2aJvEoK
純子の背にぴったりと身体を密着させ、可愛らしい耳朶を噛む。
熱く湿った息が純子の口から漏れると、膝の下に手を入れて片脚をぐっと胸元まで持ち上げる。
純子のそこをまさぐっていた指がゆっくりと内部に侵入して行く。
初めはゆっくりと動いていた指が次第に激しく抽送を繰り返すと
純子の奥から更にぐっしょりと液がこぼれ、榎本の指と手を濡らしていく。

枕の下に準備しておいたそれを素早く身につけると、純子を大きく開いて体を秘所に押し当てた。

「え、えのもとさん・・・」純子のくぐもった声に榎本は全身の血が逆流してくるかのような激情に捉えられた。
それは紛れもない雄としての欲望だった。
ーー体の隅々まで味わい尽くし侵してしまいたい。
悲鳴を上げるまで感じさせ、奪い制服したいーー

荒ぶる欲情を抑えつつ、花びらの奥へと腰を動かす。ゆっくりと動かす度に
二人の結ばれた部分が水を跳ねるような音を立てる。抽送が激しくなるにつれ
純子の柔らかい襞が榎本の分身にぴったりと密着し絡みつてくる。
もうこれ以上はないと言うほど押し広げられた温かい襞がひくひくと震える。
純子は榎本の名を呼びながら、その胸に縋りつきまたもや腕を掴んだ。

「私、もう・・・」

純子が一度極みに達したのを見て、榎本は自分の体をゆっくりと引き抜く。
自身も達しそうではあったが、まだ自分をコントロールするだけの余裕はあった。
純子の肩越しに左腕を入れ、はあはあと息をするその胸に掌を当て
ーーこの人の一時の嵐が過ぎ去るのを見守ろうーー
253名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 01:18:13.80 ID:YvP6LhBs
これ、いつになったら終わるの。投下宣言からかれこれ一時間半経ってんだけど。
254北国にて6/7:2012/06/16(土) 01:26:53.21 ID:A2aJvEoK
「え、榎本さん、私、恥ずかしいです。こんなになったところを・・・」

ーーこんなにも乱れた姿を見られて恥ずかしいですか?でもーー

「大丈夫、もっと恥ずかしがらせてあげますから。今度は手加減しませんよ。泣いても知りません」

怯えたような表情を見せた純子が愛しく、榎本は思わず微笑んでしまう。

「嘘ですよ、いや、ウソでもないかも・・・しれません、検証してみましょう。」

さっと枕を純子の腰の後ろにあてがい、大きく開かせた純子の脚を肩に乗せると
最早歯止めが効かないとばかりに、逡巡することなく榎本の体が純子を貫いた。

さっきまでの労るような動きとは違い、激しく純子の奥まで届いた榎本の分身は
更に猛々しさを増し秘部のあらゆるところを埋め尽くし侵してゆく。

何度も何度も奥を突き動かされた純子の花びらと蕾は赤く充血し熟れ
榎本の動きに同調するように淫靡な音で鳴いた。

「いやぁ・・・ああ、えの・・も・・とさん、いやぁぁ」
「もっと泣いて、俺を感じて・・・」

いやいやをするように首を振る純子の唇を自分の唇で塞ぎ舌を絡ませると
純子の榎本を包み込んでいる温かい場所が痙攣を始めた。
息苦しさに耐えかね、榎本の唇から逃れた純子の唇が「けい・・・径さん」と叫んだ瞬間
榎本は自分の半身が溶けていくような快感に襲われ、純子の中に己を放った。

255名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 01:27:53.34 ID:A2aJvEoK
>>253
申し訳ありませんでした。もうやめます。
256名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 01:30:54.06 ID:MWXJvxp7
>>255
読みたいので続けてください。
お願いします。
257名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 01:38:23.69 ID:A2aJvEoK
>>256
ごめんなさい。書きたいのはやまやまなんですが気分を害されている方もいらっしゃるようなので
途中ですがやはり断念します。入力速度が遅いので他の書き手さんに悪かったです。
258名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 01:45:06.37 ID:MWXJvxp7
>>257
後になってもいいのでぜひ投下してください。
(入力しながら投下してるの?普通どこかに書いてコピーして投下するんじゃないの?)
259名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 01:46:27.53 ID:9bF4ifx8
>>257
コピペしたらいいだけでは…
260名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 01:47:34.77 ID:zQ/iA9nf
自分も読みたいので是非続きお願いします。
>>258さんもおっしゃってるように一度書き上げてからコピペしては?
261名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 06:15:47.67 ID:EnUCjWdJ
自分の場合、SSはまずワードに書いてそれをコピペするのが投下の決まりだな
262名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 06:47:07.00 ID:AE2pHtEV
>>257 他の方が言うように、ワードやメモ帳機能を使ってみては?
>>253のような芹沢さんタイプの人もいますが、続きを待ってる人もいるし、あと少しのようなので、よかったら完成させて下さいね。
263名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 07:36:49.29 ID:5/H73qZR
紙に書いたの入力しながらだと遅い。
ちゃんとパソコンに入れてからこっちにコピペしてくださいね。
ここに投下すること自体は問題ないと思いますよ。


全然関係ないけどこれまでに投下されてきたものを見る限り
ある程度お年めされた方ってあんまり前戯しないんだなー。
AVとかもあんまりみないんかなーって思った。
264名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 08:58:16.71 ID:EnUCjWdJ
掲示板に手書き入力だと、誤字・脱字に、文章表現や句読点に「本当に日本人なの?」と突っ込みたい間違いが目立つから
チェック機能が付いたワードやメモ帳に入力したほうが好ましいよ
265愛の告白について真剣に考えてみた 1/4:2012/06/16(土) 09:12:23.45 ID:Vc3w/79N
>>263
え、何で書き手の年齢がわかるんですか??

自分はテキストエディタに一回最後まで書いてみる。
それから何回か読み直して誤字脱字とか展開とかちょこちょこ直してから投下
な流れ。で、一発ネタ思いついたので投下します。

××××××××

 いつものように、特に用事もないのに、お菓子片手に榎本の元を訪れた。
 それに対して、特にコメントもなく「こんばんは」と無表情に出迎えてくれたのもいつも通り。
 ただ、いつもと違ったのは。
「青砥さん」
「はい? 何ですか?」
「少し、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
 榎本の言葉に、純子は危うく、食べかけの菓子を喉に詰まらせるところだった。
 お聞きしたいこと。あの榎本が。
 いや、そもそも榎本の方から話しかけてくるというのが珍しい。いつもなら、自分が流す愚痴をただはいはいと聞いている、それが榎本なのに!
「な、何ですか何ですか? わたしに答えられることでしたら!」
「……嬉しそうですね、青砥さん」
「そりゃ、嬉しいですよ! 榎本さんからわたしに話しかけてきてくれるなんて、すっごく珍しいじゃないですか!」
 そうですか? と首を傾げる榎本の様子が真剣そのものなのがおかしい。
 何にしろ、これは滅多にないチャンスだと、純子は椅子に座り直した。
 何を聞きたいのかは知らないが、日頃、世話になっている榎本だ。自分にできる最良の答えを返さなくては。
「さ、どうぞ! 何でも聞いて下さい!」
「はあ。すいません。大したことではないんですが――」
 と、前置きして。
 榎本は、真剣な顔で言った。
「女性と言うのは、どのような告白をされたら嬉しいんでしょうか」
「……はい?」
「いわゆる、愛の告白……というものは、男からする場合、どんな言葉がベストなんでしょうか」
「…………」
 あまりにも想像外の質問に、純子の脳は数秒の間フリーズした。
 愛の告白。この、榎本が。
 それはつまり――
「っ……そ、そそそそそうですねっ! それは、人によると思いますけどっ……」
「…………」
 動揺を完全に押し隠せたかどうか、自信はなかった。というか押し隠せていない。声が完全に裏返っている。
「そのっ……そ、それはつまりっ……榎本さんには、今、愛の告白をしたい相手がいるっ……ってこと、でしょうか?」
「はい」
 実は、友人の話だったりしないかな、という純子のささやかな望みは、いともばっさり断ち切られた。
 愛の告白。この榎本が。それはつまり、彼には今現在、思いを寄せている女性がいるという……
266愛の告白について真剣に考えてみた 2/4:2012/06/16(土) 09:13:49.99 ID:Vc3w/79N
「どうですか」
「は、はいっ!?」
「どんな告白をされたら、女性は喜ぶんでしょうか。青砥さんなら、どうですか?」
「…………」
 淡々ととんでくる質問に、何故だか、泣きたくなってしまった。
 今まで深く考えたことはなかった。自分は、何故、榎本の元を訪れるのか。用もないのに、何故、わざわざ自宅とは別方向のこの東京総合セキュリティに足を運ぶのか。何故、愚痴りたくなったとき、相手として浮かぶのがいつも榎本なのか。

 ああ、そうか。自覚してなかったけど。わたしは、榎本さんのことが――

「そ、そうですねっ。あの、本当に人それぞれだと思うので、これはあくまでもわたしの場合は、です! ほんの一例ですっ! 参考程度の意見ですけど、それでもよろしければ!」
「ええ、構いません。お願いします」
 けれど、自覚したときには遅すぎた。
 常に錠と防犯のことしか頭にないように見えて。やはり榎本も、普通の男性だった、ということだ。
 そして、当然ながら、この東京総合セキュリティにも女性社員はいるし、通勤途中でも行きつけのコンビニの店員でも、あるいは同じマンションの住民でも。彼の周りには女性などいくらもいて。
 その中には、彼の目に留まるような美人がいても何ら不思議はなかった。つまりは、そういうことだ。
「そうですね。まず! 雰囲気って大事だと思うんですよ!」
「雰囲気……ですか」
「ええ。同じ告白でも、例えば夜景の見えるレストランとか! 二人っきりでムード満点のシチュエーションの告白。これ、大事だと思います! 同じ言葉でも、受け止め方が変わりますから!」
「なるほど……夜景の見えるレストラン、ですか」
 難しいですね、と眉を潜める榎本の顔は真剣そのものだった。そんなにその女のことが好きなのか、と、泣きたくなったが、それは何とかこらえる。
「僕は、そういったムード、というのがわからないのですが。例えばどんな?」
「うーん。改めて言われると難しいですねえ。榎本さんは、デート、とか……されたことあります?」
「……覚えがありませんね」
 そうでしょうね、と言いたくなるのをかろうじてこらえた。そもそも、デートと呼べる相手が居たのなら、今頃こんな間抜けな質問はしないだろう。
 駄目だ駄目だ。振られたからって嫌味を言うような、わたしはそんな意地の悪い女じゃなかったはずだ。
 わたしは榎本さんのことが好きだ。でも失恋した。それは仕方がない。それなら、せめて相手の幸せを祈ろう。それが、いい女ってものじゃないだろうか。
「じゃあ、相手の女性に聞くのが一番かもしれません。さりげなく、行きたいお店とかを聞き出して一緒に食事するとか。でもまあ、普段行かないような場所に背伸びして出かけても、緊張していらない失敗をするかもしれませんね。ただでさえ、告白って緊張するものですから」
「そういうものですか」
「そりゃ、そうですよ! 告白して、相手が受け入れてくれればそれはいいですけど。もし断られたら、今までの関係まで失うことになりかねませんからね!」
「なるほど……それは、確かに怖いですね」
 純子の言葉に、真剣に頷く榎本。そのうちメモでも取り始めかねない勢いだ。
「榎本さんは、今まで告白、というものは……」
「ありません。したこともされたこともありません」
「そ、そうですか。じゃあ、無理にムードとか考えない方がいいかもしれません。一つだけ注意するとしたら、邪魔されない場所で、二人っきりになれる場所で、ってとこですね」
「ふむ。例えば、この地下備品倉庫のような?」
「ああ。そうですね。その女性をここに呼ぶことができるなら、それがベストかもしれません」
 ここって、滅多に人が来ないですもんね……と言いながら、脳裏でその条件にあてはまる女性を無意識に考えている自分に、純子は自己嫌悪を覚えた。相手の女性が誰か、なんて、気にしても傷が広がるだけなのに。
 だが、そうなると通勤途中で知り合った、とかマンションの隣の部屋の住人、という可能性はなさそうだ。同僚か、あるいは今までの事件の関係者……?
267愛の告白について真剣に考えてみた 3/4:2012/06/16(土) 09:15:03.27 ID:Vc3w/79N
「直接会うことが、前提となっているようですが。やはり、メールですとか電話ですとか、そういったツールを使っての告白はまずいんでしょうか」
 純子の葛藤に気付いているのかいないのか。榎本の質問は続く。
「顔を見ると緊張して言えなくなることも、メールでなら言える、ということもあると思うのですが」
「うーん、そうですね。そういう告白もあり! っていう人もいるかもしれませんけど……わたしだったらなしですね」
「そうなんですか」
「ええ。やっぱり、こういうことは顔を見て、目を見て言って欲しいです。でないと、真剣さが伝わらないと思います」
 榎本に限って、冗談で「好きだよ」などとメールを打ってくるわけはないと思うが。それでも、直接声で聞かされるのと、文面で伝えられるのは大違いだ、と思う。
「例え緊張してかんじゃったとしても、どもっちゃったとしても。それでも、直接顔を見て言われた言葉なら、真剣さが伝わると思いますから」
「……なるほど。参考になります」
 頷く榎本。眼鏡の奥の視線からは、どのような感情も読み取れない。
「これが最後の質問なんですが。告白、とは、何を言えばいいんでしょうか」
 そして。
 自分の言葉が純子にどれほどダメージを与えているか、に全く気付いた様子もなく。榎本は、致命的な台詞を吐いた。
「自分の気持ちを告げるとしたら。好きです。愛しています――と、僕ではこの程度しか思いつかないのですが。こんな単純な台詞でいいんでしょうか」
「…………」
 わたしだったら、大喜びします。相手が榎本さんなら、それだけで満足です――
 などと言えるわけがない。
「単純で、いいんじゃないでしょうか」
 笑顔を保てているかどうか、自信はなかったが。何とか、言葉を絞り出すことができた。
「榎本さんらしくて、いいと思います。変にひねった言葉じゃ、逆にうまく伝わらないかもしれませんし。勘違いしようもない、ストレートな言葉の方がいいんじゃないでしょうか」
「そういうものですか」
「ええ。榎本さんが真剣に考えて真剣に告白してくれたんです。どんな言葉だって、嬉しいに決まってます。そもそも、そんなに難しく考える必要、ないと思いますよ! 告白されて、嬉しくない女性なんていませんから!」
「……そういうものですか?」
「そりゃ、そうです。受けるかお断りするかは別としても。告白されたってことは、自分の魅力を認めてもらえた、ってことじゃないですか。嬉しくないわけ、ありません!」
「そうですか」
 女性っていうのは難しいものなんですね、とつぶやいて。榎本は、深く頷いた。
 質問は終わり。きっと、この後は、いつも通りの開錠作業に戻って。自分はお菓子を食べながら仕事の愚痴なんかを漏らして。そしてさようなら、と手を振って別れるのだ。
 その後、榎本が誰をこの地下室に呼ぶのかは知らない。知らない方がいい――が。その告白の成否に関わらず、自分は、きっともうここには来れないだろう。
 榎本が他の女性に告白した場所。そんな場所に、図々しく居座るなんて。自分は、それほど神経の太い人間ではない。
「青砥さん」
「はい?」

「あなたのことが好きです、青砥さん」

 空耳かしら、と、真剣に考えた。
 人を練習台に使わないでくださいよ、と、机を叩きそうになった。
 それを押し留めたのは、まっすぐに自分を見つめる、榎本の目。
 そう言えば。
 榎本が他人の目を見て話すところなんて、今まで、見たことがあっただろうか――?
268愛の告白について真剣に考えてみた 4/4:2012/06/16(土) 09:16:38.62 ID:Vc3w/79N
「榎本さん……?」
「僕は、どうやら、あなたのことを一人の女性として愛しているようです」
 淡々とした台詞と無表情。他の誰かだったのなら、「何の罰ゲーム?」と失笑していたかもしれない。
 けれど、違う。これは榎本なのだ。この台詞を言っているのは榎本なのだ。
 無表情の奥に見えるのはどこかすがるような、何かに期待するような――怯えているような、そんな光。
「僕の、この思いは、あなたにとって迷惑でしょうか?」
「…………」
 ぶわあっ! とあふれる涙に、榎本の表情がびくりとひきつった。
 泣かないでください、そんなに嫌ですか、すいません申し訳ありません……とおたおた謝る姿が、何となくおかしい。
「え、榎本さあんっ!」
「すいませんすいません青砥さん。やっぱり迷惑でしたよね? 本当にすいません。でも、僕は――」
「誰が迷惑なんて言いましたかっ!」
 ばんっ! と机を叩くと。榎本の動きがぴたりと止まった。
「誰が……迷惑なわけ、ないじゃないですかっ……わたし、わたしもっ……」
「青砥さん?」
「だ、第一! 何なんですかあの質問はっ! わ、わたしに告白して下さるのにっ……何でわたしに意見を求めるんですかっ! おかしいじゃないですか!!」
「いえ、やはり相手が一番喜ぶ告白は、相手に聞くのが一番かと思いまして……」
「何なんですかそれっ。もう信じられないっ!」
 ぐいっ! と涙を拭って立ち上がる。
 何なんだろうかこの展開は。さっきまで散々涙をこらえていた自分が馬鹿みたいではないか。
「だったら、わたしにも質問させてください! わたしも今から告白します! 榎本さんは、どんな告白をされたら一番嬉しいですかっ!」
「…………」
 ずかずかと詰め寄ると、榎本は目を白黒させながら純子を凝視していたが――ふっ、と、その頬を緩ませるまでに、時間はかからなかった。
「そうですね。僕も、青砥さんと同じです。真剣に告白して下さるのなら、どんな言葉でも嬉しいと思います」
「そうですかっ! じゃあ告白します。わたしも榎本さんのことが好きです。男の人として、好きです。愛してますっ!」
 それは、光栄ですね――喜んで、お受けします――という返事を待って。
 純子は、榎本の胸へとびこんで、思い切り泣いた。
 それはもちろん嬉し涙だったのだが、その涙を見てうろたえる榎本の姿に少し溜飲が下がったので。あえて何も言わず、ただ、幸せをかみしめていた。

××××××××

終わりです
すいません。エロなしです、って注記忘れてました。
ありがちネタ失礼

269名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 09:30:58.72 ID:i6xRm+UN
>>268
乙です!いつもありがとうございます。
読んでて胸がきゅうううってなりました。
270名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 09:38:33.03 ID:5/H73qZR
うわ〜〜〜ん!私まで泣けた!GJGJ!


年齢・・・・もしかしたら若年寄なだけなのかもしれないけど、
敬語の言い回しとか文体とかににじみ出ませんか?
そこもクリアしてる人のはさすがに分からないけどw
271名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 10:05:35.21 ID:MWXJvxp7
>>268
GJ!ドラマの榎本で再生された。
いいよー!ありがとう。
272名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 10:43:46.46 ID:DXw+4sMo
>>268
いいねー。やっぱりこの二人はこういう可愛いのが一番似合うかもしれないw

>>263>>270
ここ一応21歳以上、子どもはダメ、ってなってるんだけど。
精神年齢が低いのかな?それとも知能?
ネットなんだからいろんな年代がいるのは当たり前。
言い回しが苦手なら読まなければいいだけだし
もし前戯ありのAVみたいなものを読みたいのなら
そう要望を書けばいいだけのこと。
273名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 10:57:29.88 ID:NEqm0slE
AVの前戯は観ても書くのにはあまり参考にならないよ
274名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 11:47:18.22 ID:7G88UFlx
>>263
俺も一応職人だけどさ、AVなんてただのパフォーマンスだよ
こういうものもあるってだけの話で現実的じゃないから、何の参考にもならない
いや、見るのは好きだけどw

自分含めてここの職人さんたちは、榎本と青砥ならどんな風に恋をしてどんな風に
盛り上がってからヤるんだろうとそれぞれに考えを巡らせてる
その結果としての描写の中に前戯が少なかろうと、全体的に二人らしければそれでいい
と思うよ
275名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 12:30:17.47 ID:adsnBq6b
ただのいちゃもんだろ
スルーでよし
276名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 15:41:43.40 ID:qDy6Momu
それよりも手書き入力は止めて欲しいわ
277名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 18:02:41.99 ID:vIoxmQZI
>>270
オモチャバコ書いてる者です。ぜひ年齢当ててくださいっdkdk

はあ〜 こころの洗われるようないい話でした〜 GJ〜
278名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 18:22:51.96 ID:vIoxmQZI
やっぱり上の質問取り消します。
いろいろ雑念を消して(?)執筆いたします。失礼しました。
279名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 19:11:14.20 ID:9oOptH2g
素晴しい>>265−268
オチは見えてたけど、ドラマ榎本&純子のキャラがそのままでグッときた。
あの二人にはエロなしの方があってるかも。
このスレで言うべきこっちゃないけどw
280名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 19:40:43.49 ID:9iPdnIFD
あ、前スレ落ちた
281名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 20:26:10.95 ID:fhnkpyVk
>>236
原作の榎本が大好きなので
ちょっと原作のキャラがドラマの設定に来たみたいで
面白かった続き待ってます

職人の皆さんいつもありがとう楽しい
282名無しさん@ピンキー:2012/06/16(土) 23:19:14.60 ID:vIoxmQZI
>>183
>>234
の続きです。
結局また途中です。書くのが遅いので、もう連載みたいなものだと割り切って読んでいただけるとありがたいです。
スッキリ終わらないのが嫌な方は、この題名を見たらとばしてください。

上手くまとめられなくて申し訳ありません。
面白いと言ってくださった方々の声を励みにがんばります。
283ケイノオモチャバコ 5:2012/06/16(土) 23:19:52.80 ID:vIoxmQZI

「んっ…」
舌を入れると、身体がこわばってためらいが伝わってきた。控え目に開かれた唇を、強引に舌で掻き回してこじ開ける。一度軽く唇を離すと、純子が少し目を開けた。すぐにもう一度唇を塞ぎ、ブラウスの隙間から今度はブラの中のふくらみに手をかけ、激しく揉みしだいた。
次第に純子の身体から力が抜け、自然に舌をからませてきた。その舌を吸い上げると、身震いして苦しそうな顔をした。
膨らみの先端を指で弄びながら、もう片方の手でブラウスの下から手を滑り込ませ、やわ肌の腹や脇を指先でなぞる。

刺激を感じるたびに、純子は身をよじって反応した。

(えのもとさんて…)
朦朧とする意識のなかで、純子は考えた。
(キス、すきなのかなあ…)
なんとなく、男の人はコトが始まるとあまりしなくなるイメージだったが、榎本は執拗に唇をむさぼり続ける。そのおかげで純子の頭はずっとぼんやりしていて、あまり何も考えられなかった。
なんとか力を入れてうっすら目を開けると、瞼をとじた榎本の顔がそこにはあった。
(あれ… なんか、キレイ…)
いつもは別段、顔については特別かっこいいとかは思ったことがなかったが、頭がのぼせているせいなのか、いつもは眼鏡でかくれていたせいなのか…(いや今も眼鏡なのだが)やけに、榎本の顔が、綺麗に見えた。
じーっと見つめていると、目が合った。
「…僕の顔に、何か付いてますか。」
こんなことをしているのに、その口調はいつもと変わらずキリっとしていて、思わず純子は笑ってしまった。
「…ふっ、ふふ、…あはは」

…笑うか?ここで。
径は純子のおしりに手を伸ばして、スーツのパンツの上からギュッと掴んだ。初めて純子の小ぶりなおしりの形状が明確になった。以前気持ちいいほど整ったランニング・フォームを自転車の一件で披露しただけあって、それは引き締まって弾力があるものだった。
そのまま手を動かしながら、あくまで真面目に丁寧にたずねる。
「…脱がせても…よろしいですか?」
純子は感じているようで、目をぎゅっと閉じて肩に力をいれたまま、「はい…」とだけ小さく答えた。
ホックを外してファスナーを下ろすと、まずスーツのパンツを下ろした。その下には、なめらかな肌触りのパンストを穿いている。それとショーツの間に手を逆向きに滑り込ませ… 
”ビッ”

純子ははっとした。
足を見てみると、榎本の指がパンストを突き破っていた。踵の辺りまで縦長に伝線している。
「ああ〜〜っ!」
文句のひとつも、言おうとしたのだが。
「すみません、慣れていないもので… 両手でやればよかったですね。」
今更ながら、榎本はしゃがみこんで両手でそろそろとパンストを下ろし始める。そんなにすぐ謝られては、責める言葉も出てこない。
(仕方ない、裸足で帰るか…)

小さなため息が、径の耳に届いた。
(…だってこれ見たら破きたくなるんだもん。)
284ケイノオモチャバコ 6:2012/06/16(土) 23:20:31.92 ID:vIoxmQZI
大体、スカートでもないのにこんなもの穿いてる方が悪い。どうせ毛玉だらけなんだから、一枚くらいダメになったってそれほど気にすることでもないじゃないか。
そんなことを考えながら、無駄なことはわかりつつ、ゆっくり真面目な顔をしてパンストを引き下げた。
目の前の足を抱きかかえるようにして、内腿を舐めまわす。
すっかり油断していた純子の身体に再び緊張が走った。
ショーツも下ろして尻を手と舌で弄んだあと、もはや濡れそぼっている場所に指を伸ばす。
純子の身体が反応し、ハッ、と短く息を吸う音がした。
指を二本使って、初めは浅めにゆっくり動かしてみる。にわかにトロトロと蜜が溶けだして、純子の息が上がっていく。
しばらくその部分を鑑賞してから立ち上がり、純子の肩越しに囁いた。

「気持ちいいですか…?」
もう片方の手で、純子の胸を包む。丁度よく掌に収まるサイズだ。
ふにふにと優しく触れて、感触を楽しむ。

「………。」
純子は少しだけ振り返り、横目で径を見たが、何か言いたげに小さく口を開いたかと思うとまた俯き加減に前を向いた。

(恥ずかしがり屋だな… まあ、らしい、か。)
径は胸にあった手を肩へ回し強く抱きよせた。そして浅かった指を奥まで差し入れ、先ほどまでより何倍も強く、激しく指先で内部を探った。
「ハッ、… ああっ…!!」
純子の身体が痺れたように仰け反って、甲高い声が部屋中に響いた。
我を失いかける純子に、また径は耳元で囁いた。

「…駄目ですよ、青砥さん。この部屋は防音がなされていないため、そんな声を出してはこの地下フロア全体に響き渡ってしまいます。どうか、こらえてください。」
落ち着いた声でそう諭しながら、指の動きは緩めない。
純子は怒ったような、泣きそうなような表情を径に向けた。
「んん、ん…、 うっぁ… 、は…」
内部をいじればいじるほど、怒りの表情は泣き顔に変わっていく。純子が辛そうな表情を見せるほど、径は昂ぶっていった。
指先に意識を集中させ、内部のポイントを探す。ここだというところを執拗に責める。
純子は身もだえしながら、自分の上腕に口を押し付け、なんとか声を漏らさぬよう堪えていた。
ほどなくして指を止めると、純子は目に涙を溜めて、絞り出すような声で、息絶え絶えに懇願した。
「もう…、もう無理です… お願いです… もう、やめて…」
ほぼ身体から力は抜け、径が支えていないと立ってもいられない状態だった。
「青砥さん…」
径は純子の脇の下に両腕を回し、支えるようにして細い身体を強く抱きしめた。
「僕も限界です…だから…」
白い首筋にキスをしながら、「僕を、受け入れてもらえますか…?」と、訊いた。
純子は返事をしなかったが、径の瞳をじっと見つめていた。径も、純子を見つめていた。
暫くそのまま、お互い求めるように見つめあったあと、吸い寄せられるようにキスをした。
そのあと径も無言で服を脱いだ。
純子は黙って、俯いていた。
シャツ一枚になった径は、再び純子を後ろから抱きすくめ、深く口づけをした。そのまま、ゆっくりと中へ入っていった。
285283:2012/06/16(土) 23:24:36.42 ID:vIoxmQZI
今回はここまでです。
なんだか頭で考えすぎて、実際エロになってるのかなっていないのか…という感じです。
面白いと書き込んでくださっている方がいるので、それを信じて書き続けていますが…う〜ん
286名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 01:30:17.70 ID:45zLHwRd
内容はともかく、まとめて書けと皆があれだけ言ってるのは無視かよ。
287名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 01:53:03.98 ID:aABqDOTm
みんなが言ってたのはオモチャバコの人にじゃないでしょ
ちゃんと短時間で投稿してるじゃない

>>285
今回も面白かったです
続き待ってます!
288名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 02:04:48.42 ID:EH10X9/c
>>282
>>285
オモチャバコ大好きです。
連載ですね。楽しみがふえました。
289名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 07:34:21.52 ID:cBN1H3mr
〜した。
〜だった。

文末にこれが続くと、子供の作文のようで萎える。
290220:2012/06/17(日) 09:22:29.08 ID:Jfk75CZ2
>>227 さん
読みたい、と言ってくださったので
>>213-219 の裏側
芹沢と榎本の飲み会話を書いてみました。今日は父の日ですので芹沢パパを活躍させてみましたw

注記
・本番行為の描写はありませんがかわりに下ネタ・セクハラ発言連発です。苦手な方はご注意ください
・作中で語られる榎本の過去については、前スレ307様のこのご意見

307 :名無しさん@ピンキー:2012/05/25(金) 00:51:28.47 ID:7jqjBmaD
榎本DT説も面白いけど、自分はなんとなく女が通り過ぎていくタイプかな〜と思った。
地味な変人でも見た目がそこそこいいから、
埋もれた宝を発見したような気になった女が寄ってきては一方的にあれこれして
思うような反応が返ってこないから失望して去っていく……ってのを何度か繰り返して
女性に対して一線引くようになったとか。
そんなふうに閉じちゃった榎本の心を青砥ちゃんがあっさり開けちゃう、
っていうのが理想の榎青……この妄想がカタチになるよう頑張ります。

をかなりの部分参考にさせて頂きました。
勝手に設定をお借りしてしまって申し訳ありません。
291早すぎた告白裏話 1/5:2012/06/17(日) 09:23:58.32 ID:Jfk75CZ2
 その日、いつものように、彼女は僕のオフィスを訪れた。
 別に用はないんですけど。仕事が早く終わったので――あ、これお土産です、と差し出されたのは、僕ですら名を知っている有名な店の和菓子だった。
 いつも人に対する気遣いを忘れない彼女の訪問は、決して不快なものではなかった。一人きりで錠を弄ぶ日々を、寂しいとも辛いとも思ったことはないけれど。だからと言って、彼女の訪問を迷惑に思ったことなど一度もなかった。
 僕は昔から、何を考えているのかわからないと人に敬遠される性質だったのだけれど。彼女は――青砥純子は、そんな僕を丸ごと受け入れてくれた人だったから。
 まともな会話もできない僕に、いつも温かい笑みを向けてくれる人だったから。
 閉ざされた空間の中で、一緒にいることは、ちっとも苦痛ではなかった。

「榎本さんっ!」
「はい。何でしょう」
「好きですっ!」

 ――最初、その言葉を聞かされたとき。僕は目に続いて耳まで悪くなったのかと思った。
 幻聴でないことに気付かされたのは、振り向こうとした瞬間に被せられた言葉。

「わたし、榎本さんのことが好きみたいです。大好きなんですっ!」

 振り向いた。彼女はまっすぐに僕を見ていた。
 それは決して他の誰かに向けられた言葉ではなく、僕に向けられた言葉に違いなかった。
 そう気づいたとき、僕は――

「……そうですか」

 そうとしか、答えられなかった。
 混乱していた。これほどまでに真っ直ぐな好意を向けられたことは初めてで。その相手が他ならぬ彼女であるということに動揺していた。
 それは、どういう意味なんですか。それは、僕が望んでいるような意味だと考えていいんですか。
 聞きたいことはいくつもあったけれど。そのどれもが言葉にはならなかった。
 聞くことが、怖かった。
 僕のようなつまらない男に、弁護士として輝かしいキャリアを約束されている彼女が好意を抱く。そんなことはおよそありえないことだと思っていた。
 その「好き」は、友人として、チームメイトとしての「好き」ではないのか。それこそ、単なる聞き違いではないのか――いくつもの可能性が胸に宿り、その可能性が真実になることを恐れて。僕は、それ以上聞けなかった。
 彼女もそれ以上何も言わなかった。何でもないような顔をして、茶が美味しいとか菓子が美味しいとかいつものように世間話をして、いつものように帰って行った。
 そして、翌日も。その次の日も。何事もなかったかのように、僕のオフィスを訪れた。

 ――あの告白は、どういう意味だったんですか――

 僕はそれをずっと聞きたかったのだけれど。彼女の顔を見てしまうと、やっぱり何も言えなかった。
 聞くことで、彼女との関係が壊れるのが怖かったから。
 何も聞かなければ、今まで通り彼女は僕に会いに来てくれる。それで十分じゃないか、と。
 そのときの僕は、愚かにもそう思っていた。

 ――そして、彼女の上司にこっぴどく叱られ。僕は彼女の真意を知り、同時に自分の真意も知ることができた。
 僕は彼女の上司に感謝すべきなんだろう。感謝したい相手ではないけれど。
292早すぎた告白裏話 2/5:2012/06/17(日) 09:26:11.62 ID:Jfk75CZ2
 定時まで後数十分というところで、携帯が鳴った。
 着信相手の名を確かめて、榎本の眉がひそめられた。いっそ無視してしまいたかったが、そういうわけにもいかない。
「……はい、榎本です」
『はーいえのもっちゃん元気ー?』
 榎本の携帯にかけてくる相手などそう多くはないが、こんな呼びかけをする人間は一人しかいない。
「芹沢さん。本日はどのようなご用件でしょうか」
『おいおい榎本お。恋のキューピッドに対してその言い方はないんじゃないの? 全く冷たい奴だよお前は。まずは礼の一つでも言うべきだろ? 違うか?』
「その節はまことにお世話になりました。芹沢さんには感謝してもしきれません」
『そんな棒読みの礼があるか! まあいいや。榎本。お前、今日は特に用事は無いよな。無いに決まってるな』
「……はあ」
 芹沢の問いに、榎本は曖昧に頷いた。
 確かに、今日は純子から、「残業になるので会いに行けない」という連絡が来ていたので、空いていると言えば空いている。
 が、何故純子が残業なのに、その上司たる芹沢が自分の用事を確認するのか。
『だよなーそうだよなー。よし、今日は飲みに行くぞ。付き合え』
「……芹沢さんはお仕事はよろしいんですか」
『お、えのもっちゃん鋭いねえ? 実は青砥の残業は俺が言いつけた。というのも俺がお前と二人で飲みたいからだ。率直に言うとお前に聞きたいことがある。まさか嫌とは言わないな?』
「…………」
 もちろん、榎本に「嫌だ」という選択肢は残されていなかった。

 指定された飲み屋に顔を出すと、芹沢は既に席について大分出来上がっていた。
 会釈をして向かいの席に座ると、早速酒が並べられた。
 正直、飲みたい気分ではないのだが。芹沢の座った目を見ていると、素面でいるのも危険な気がしてならない。
「よう、来たなあ榎本? まあ座れ」
「座ってます」
「よし、飲め」
「飲んでます」
「ようし、それでこそ男だあ!」
 がはは、と笑ってばしばし肩を叩かれる。芹沢は純子の上司でもあり、優秀な弁護士であるはずなのだが。この下品な呑み方を見ていると経歴詐称しているのでは、と思えてくるのが不思議だ。
「ようしいい飲みっぷりだあ! ……で、だ。榎本。話というのは他でもない。青砥のことだ。もちろんわかるな」
「……はあ」
「いや一ヶ月前は大変だった。あの翌日、青砥が笑顔で出勤してくれて俺はホッとしたもんだよ。青砥は俺にとっちゃ可愛い部下、言ってみれば妹みたいなもんだな、うん」
「……娘の間違いでは」
「何か言ったか? そう。で、だ。青砥もやっと元気になってくれて助かった! と俺はホッとしていたわけだよ……
ところが! だ。お前らがうまくまとまってから一ヶ月。最近、また青砥が元気がない。
最初はお前と痴話喧嘩でもしたかと思ったが、話を聞くとそういうわけでもないらしい」
「……はあ」
 芹沢の言葉に曖昧に頷いて、つまみを口にする。
 それは実際その通りで、榎本には特に思い当たる節がない。純子はいつも笑顔で榎本に会いに来てくれるし、相応にデート……と呼べるような行為も重ねている。
 元気がないのは、自分とは無関係に仕事に疲れているだけではないか、と、榎本が疑いの目を向けていると。
 芹沢は、真面目な顔で榎本を見据えて行った。
「で、榎本。お前、青砥とはどこまで行った?」
「…………」
「まさか手を繋いでデートして終わりじゃないよな? キスくらいしてるよな? というか普通最後までいっちゃってるよな?」
「…………」
293早すぎた告白裏話 3/5:2012/06/17(日) 09:27:34.69 ID:Jfk75CZ2
 やはり酒を飲んでおいて正解だった。素面で聞きたい話題でないのは確かだ。
「……それを、芹沢さんにお答えする義務があるんでしょうか」
「弁護士相手にいい度胸だ。いくらでもこじつけることはできるが、まあ言うなれば、お前と青砥をくっつけたキューピッドとして俺は責任を感じてるわけだよ、うん」
 話題は下劣極まりないが、芹沢の顔は真剣そのものだった。どうやら、先の純子の話題と無関係ではない、と悟り、榎本も居住まいを正す。
「というかだな? 青砥に言いつけたりしないから正直に聞かせてくれ。榎本、お前童貞か?」
「…………」
「何だ。やっぱりそうか。それならまあ無理もないというかそれならそれで青砥からけしかけさせるというのも……」
「違います」
 不穏な案が実行されそうになり、榎本は慌てて遮った。
 人にべらべらしゃべりたい内容ではないが、答えないことには純子に迷惑がかかりそうな勢いなので仕方がないと自分に言い聞かせる。
「豊富とは言えないでしょうが、経験はあります」
「えっ、あるのか!?」
「……何故、そこまで驚かれるのでしょうか」
「いやいやちょっと真剣にびっくりした……そうか、榎本。お前、彼女いたことあるんだな」
「いいえ」
「……お前、風俗とかデリヘルとかソープとかそういうのを経験って言っちゃうのは男としてちょっと」
「それも違います」
 放っておくと自分がとんでもない変質者にされそうな勢いを悟り、榎本は、思い出したくもない過去をよみがえらせた。
「……高校時代、お節介なクラスメートに合コンに付き合わされまして」
「おお、よくある話だな。あれだろ、人数合わせに来い、って奴だろ?」
「はい、その通りです。気が進まなかったのですが……そこで知り合った女性をあてがわれました」
「何だそれ」
「男女人数が同じでしたので。強制的にカップルにされたんです」
 ようするに、余り者同士をくっつけられたのだ、と。当時の苦い思いに顔を歪める。
 榎本自身は、その相手に対して思うところなど何もなかったが。相手の方は、それなりに榎本を気にいってくれたのか。あるいは、合コンで自分一人カップルになれないという不名誉な事態を避けたかったのか。しばらくの間、「付き合っている」という状態が続いた。
 とりあえず、恋人同士が行うであろう一通りの経験はした。ただ、それは相手に求められて仕方なく、の域を出ない、いわば義務のようなもので。そんな関係が長続きするわけもなく、別れた、という記憶もないまま自然消滅していた。
 その後も、似たような経緯で何度か女性と関係を持ったことはあるが。榎本の記憶の中で、相手に対して好意と呼べる感情を抱いたことは一度もなく、相手の方から好意を向けられた覚えもない、実に乾いた関係だった。
「……お前、それってようするにセックスフレンド……」
「友人だった覚えもないのでフレンドというのはおかしいと思います」
「いや何だっていいよ。お前、それ青砥には絶対黙っとけよ。あいつが聞いたらショックを受ける。そういうところは潔癖そうだ」
「…………」
 そんなことは、言われるまでもない。
 就職し、他人との関わりを絶って地下にこもるようになってからは、榎本に女性をあてがおうというお節介な知り合いもいなくなった。
 ようやく、誰かに煩わされることなく、趣味に没頭できるようになった――とホッとした、数年後。純子が、榎本の前に現れた。
294早すぎた告白裏話 4/5:2012/06/17(日) 09:28:32.26 ID:Jfk75CZ2
「まあ……えのもっちゃんが意外と経験豊富なのはよくわかった」
「豊富と言うほどではありませんが」
「数人だろうが数十人だろうが経験あるのに変わりはないだろ! つまり、俺が言いたいのは、だ――お前は普通に男として相応の欲望はあるってことだ。そうだろ?」
「……はあ」
 肉体的な欲望は、と問われれば、それは、普通にあると言うしかない。
「で、だ。お前は青砥に生まれて初めて恋をした――つまりは初恋だ。うん、多分そうだろうと俺は予想しているが――そうだな?」
「初恋かどうかはご想像にお任せしますが、まあ、はい」
「当たり前だ。ここで遊びですとか言われたら殴るところだ。とにかく! だ。なのに……何で、青砥に何もしない?」
「…………」
「あいつ、落ち込んでたぞお。チラっと見たら、休み時間に女の魅力がどうだとか彼をその気にさせる秘訣だとか、十代の小娘が読みそうな雑誌、真剣に読んでたぞ。まあ、それで俺はピンと来たわけなんだけどな」
「…………」
「何でだ。青砥みたいなぺったんこじゃ勃たないとか言うなよ」
「違います」
 とんでもない台詞を吐く芹沢を一瞥し、榎本は、大きなため息をついた。
 何故、自分がこんな拷問を受けねばならないのか。純子に詰問されたのなら仕方がない。恋人として、自分はその質問に答える義務があるだろう。
 だが、何故芹沢相手にこんなプライベートなトラウマを暴露せねばならないのか。
「……僕は、どうも女性を満足させる能力に欠けているようでして」
「ああ、小さいとかそういう」
「違います。そうではなく……冷たい、と」
「はあ?」
 過去、関係を持った女性に浴びせられた暴言を思いだし、榎本の顔から表情が落ちて行った。
 言われたときは、無表情に「そうですか」と返していたような覚えがあるが。心の奥底では気にしていたのだと、否応なく思い知らされた。
「冷たい、感情が感じられない、と。機械と寝てるようだと言われたこともあります。義務で抱いたんだろうと問われたこともあります。マニュアル通りの手順をなぞってるだけじゃないかとも言われました」
「……お前が過去に寝た女どもの顔が見てみたくなった」
「すいません。今となっては顔も名前も覚えていないので紹介できません。ともかく……そういうことです」
「つまりは怖いのか」
 榎本が言いよどんだ言葉をずばり引き継いで、芹沢はうんうんと頷いた。
「青砥に嫌われて失望されるのが怖くて、引いてるってことだな? なるほど。榎本。お前の気持ちはよくわかった」
 ばんっ! と肩を叩かれて、顔をしかめる。だが、それに頓着せず、芹沢は顔を寄せて言った。
「気にするな。青砥なら大丈夫だ」
「はい? 何故、そう言い切れるのです?」
「俺も青砥と寝たことが……ちがっ! 冗談! 冗談だからえのもっちゃん! 頼むからそれしまって! 嘘うそ冗談だから! ええと、冗談抜きで言うと、だ。お前の過去の女達と青砥では決定的に違う点がある。だから大丈夫だ。安心しろ」
 無表情に視線を向けてくる榎本を見て、芹沢は、冷や汗を流しながら頷いた。
「いいか、榎本。俺を信じろ。俺のアドバイスのおかげで、お前と青砥はうまくいったんだ。だから、今回も俺を信じろ。な?」
「…………」
 芹沢の真面目な表情を認めて。榎本は、とりあえず椅子に座り直した。
 長い夜は、まだしばらく続きそうだった。
295早すぎた告白裏話 5/5:2012/06/17(日) 09:29:35.11 ID:Jfk75CZ2
 ――あの仕事量じゃ、青砥はまだオフィスに残ってるだろうなあ。
 ――飯でも差し入れて、ついでに送っていってやってくれ。深夜のオフィス街は人通りもないしな。一人歩きは危ないし。
 ――そのついでに俺のアドバイスを実践してみろ。まあ安心しろえのもっちゃん。俺の見立てに間違いはない!

 というのが、彼女の上司の言葉で。
 実際、僕はそのアドバイスを律儀に実行し、無事、彼女との関係を進めることができた。
 自覚していなかった過去のトラウマ。それを、少ない言葉の中から的確に見抜き、そして癒してくれた彼女のことを、凄い人だ……と、素直に思った。
 最後に告げられたアドバイスを思い出す。

 ――お前が関係した過去の女と、青砥との違いはさ。えのもっちゃん。お前が本気で好きかどうか、その一点だと思うんだな。
 ――けど、お前、これ大きな違いだろ。青砥のことが本気で好きだから、傷つけたくないとか失いたくないとか、臆病になっちまってんだろ?
 ――だったら大丈夫だ。今の思いを素直に青砥に伝えてやればそれで万事解決だって。
 ――大丈夫。青砥はそんなに器の小さい女じゃない。あいつはドジで天然だけど優秀な女だぞ? 何せ、俺が見込んだ部下だからな。
 ――で、上にクソがつくくらい真面目なんだな。男と付き合うときはいつだって真剣。それだけに、滅多なことでは見限ったりしない、そういう女だからさ。
 ――そんなに、臆病になる必要ないんじゃない?

 正直、僕より芹沢さんの方が彼女を理解している、という事実が悔しかったりもする。
 僕は相変わらず、他人の心を理解するのが苦手で、他人とのコミュニケーションを取るのも苦手で、恋人同士となった今でも、彼女との会話をうまく続けることができなくて、密かに落ち込むことも多い。
 けれど、どんなときでも、彼女は笑ってくれた。
 榎本さんらしい、と笑って、そんな榎本さんのことが好きなんですよ――と、臆面もなく告げてくれる。
 無理して変わる必要、ないんですよ。そんな榎本さんのことを、わたしは好きになったんですよ――と。
 だから、しばらくは、その言葉に甘えさせてもらおう。
 彼女との関係は、これから先も、ずっとずっと続いていくのだから。

〜〜END〜〜
296220:2012/06/17(日) 09:30:43.21 ID:Jfk75CZ2
終わりです
コメントくださった皆様、読みたいと言ってくださった227様、および素敵な設定を考えてくださった前スレ307様
ありがとうございました。
297名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 09:53:05.07 ID:xPK7HUQk
優しいね〜パパさんGJ!
298名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 10:13:43.88 ID:Nei1eyfw
GJ!
みんなキャラ立ちが凄い。
自分は中の人の参考にと『魔王』を観てしまって
榎本青砥を書こうとしてもキャラ崩壊してしまう。
しばらくは他の職人さん達の作品で勉強させて貰います。
299名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 10:21:40.26 ID:BpnBz60e
本当に素晴らしい文章でした。
「それしまって!」って(笑)
自分で書き始めてから、書き手さんたちの表現力の素晴らしさが身にしみてわかりました。
これからも楽しい作品を期待しています。
300名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 10:30:28.36 ID:iB3yT54B
>「それしまって!」
ワロタ
一体何出したんだ榎本w
301名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 10:35:28.69 ID:YwBZ+jK0
>>296
乙です!なんか深い話ですね。
続けて読み直してまた感動してます。
ありがとうございます。

おせっかいかもしれませんが、まとめ(ちゃんと貼れてなかったらごめんなさい)
遅すぎた返事>>125-129
早すぎた告白>>170-177>>212-220
早すぎた告白裏話>>290-296
302名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 11:32:25.78 ID:cizUM/hG
すごいな、盛り上がってんなココ
いつの間にこんなに投稿が
書き手さんたちすごい
303名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 11:58:53.56 ID:iB3yT54B
普通のドラマならこんなに盛り上がらなかっただろうね
榎本と青砥のキャラが原作もドラマも立ちまくってて、良い意味での想像を喚起
させるものがあるから、職人さんたちも張り切るんだろう

てか、マジでありとあらゆる才能の職人さんがいるから読んでてホント楽しい
304名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 12:29:12.76 ID:YwBZ+jK0
301ですが、
お節介なことしてタイトル間違ってましたごめんなさい。
>>125-129は「遅い返事」でしたね。
はずかしーー。
305名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 12:46:59.37 ID:SiIzZ7Eu
いや、携帯からだから、まとめてもらえて助かったよー
ありがとう
新作読むと前の作品読み直したくなるからね
306名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 13:10:24.51 ID:VISeP2LT
これからSSを投下します
酔った青砥が榎本に積極的になる話です
307芍薬1/4:2012/06/17(日) 13:11:18.11 ID:VISeP2LT
榎本が美沙と公園で仲良く遊んでいると青砥は犬山に呼び出された
「あ!青砥先生〜!!」
そこは花屋の店先で申し訳ないが犬山が似合わない事この上もない
「御用って何でしょうか?」
「実はですね、商店街の福引きで、この店のお買物券が当たったんです」
「はぁ、それは良かったですね」
「しかし、俺って花なんて似合わないでしょ」
「はぁ…(確かに、そうだわ)」
「それでですね、俺に比べれば花がとっても似合う青砥先生にこれをプレゼントします」
そう言うと犬山は一万円相当の券を渡した
「ささっ、これで青砥先生が気に入った花を買って下さい。では、これにて」
さようならと言って犬山は去って行った
「いらっしゃいませ、犬山様から仰せつかっております。お好きなお花をどうぞ」
「は、はぁ…、どうも」
こうして青砥は花屋の店内に入った

「うわぁ〜、綺麗〜」
美沙が青砥の抱えた芍薬の花束を見て歓声を上げる
「そうねぇ、本当に綺麗ね」
「誰から貰ったの?男の人?」
「そうよ、男の人から貰ったの」
犬山のお陰でこの芍薬を得たのだからそれは間違いではないので青砥は美沙にそう答えた
「お姉さん、モテるんだね」
その言葉に榎本がピクリと反応した
(僕の他にも、純子さんに好意を抱いている男がいて、だから嬉しがっている)
その事実が芍薬の花束だと今気付かされた
青砥は花束の中から、仏前に飾れそうな白い芍薬を美沙に分けてやる
「ありがとうね、お姉ちゃん!」
お礼を言いながら美沙は家に帰って行く
見送る青砥を置いて榎本が去ろうとする
「あ、待って下さいよ、榎本さん!!」
「何が?僕はいつもの速さで歩いています」
無表情なのは今に始まった事ではないが何故か今は不機嫌そうな榎本である
「犬山さんからの、お裾分けの、お裾分けで済みませんが、榎本さんも会社に持って行きませんか?」
それに気付かない青砥が無邪気に言う
(ふっ、何だ、犬山さんか。やれやれ)
誤解して悪かったなと榎本は思った
「備品倉庫室に芍薬は似合いませんよ。でも僕の家ならまだましかな。そういえば、あの名酒がネット通販で手に入ったので、飲みに来ませんか?」
「え?“越後の幻”がですか!うわぁ〜飲みたいです!」
喜々とする青砥がいつもよりも可愛く見える



308芍薬2/4:2012/06/17(日) 13:12:00.54 ID:VISeP2LT
そんなこんなで榎本の家に来た青砥であった
芍薬は冷蔵庫の中でお休みしている頃青砥は榎本が買った酒をちびちび飲んでいた
「本当に美味しいですね」
「そうですか、それは良かったです」
上に着ているニットだけ脱いでテーブルの上にするめ等を置いて榎本も酒を飲む
暫くすると酒は好きだが左程強くない青砥は酔い潰れてソファに寝てしまう
「青砥…、いや、純子さん、そんなところで寝ると風邪引きます」
「大丈夫れ〜す」
「言う事聞かないとHな事をしますよ」
「あ〜、しても良いれす…よ」
寛ぎたいのでダボッとしたグレーの上着は脱ぎ、白いブラウスとグレーのズボンという姿である。コンタクトも外して眼鏡にしている
それからいつもはキチッとしているボタンも二つ外して胸元がチラリと見える
(本気かな…)
ここで青砥を抱いた数は二桁を超えていてもそういうのを見ると興奮はする榎本であった
「それでは遠慮なく、戴きます」
丁寧にも酒を冷蔵庫に戻しておいて、青砥をお姫様抱っこしてベッドに運んで始めた
「ん〜、径さぁ…ん」
酔っているからなのか珍しく青砥のほうから榎本にキスをした
舌を絡めると酒の味がする
勢いがついて青砥が上になり榎本が下になる
「今夜は〜、私が径さんを責めますよぉ〜」
「はい、お好きにどうぞ」
フフッと不気味に笑う青砥の目が座っている
ネクタイを緩めてボタンを外す、というよりも無理矢理剥がすようにシャツを脱がす
「ん〜っ!んん!」
榎本の鎖骨にキスマークを付ける
「あの…、マジですか?」
「そうですよ〜」
女の私にも征服欲があるんですよとぼやく
(まぁ、たまにはこういうのも悪くないか)
ハイハイ好きにしてくれと言って青砥のやりたいようにさせる榎本であった
肌着を捲り上げて胸にキスの雨を降らす
女の自分に比べると、平面だなと思う乳首を舐めたりして、どういう風に感じていてくれるのかなと妄想したりする
とはいえ榎本のほうはそれを変にくすぐったいだけだなと思って左程は感じなかったが、青砥の姿が官能的だなとあそこが反応する
「今夜はぁ、わらしがぁ〜気持ちよ〜くさせてあげますからにぇっ!」
呂律が回らない割には指がしっかり動く
ズボンのベルトを外して前を開ける
ボクサーブリーフとか言う体にピッタリした形の下着が見える。ニットが青ならそれも青か紺というのが榎本らしい



309芍薬3/4:2012/06/17(日) 13:12:44.61 ID:VISeP2LT
ニヤニヤしながら青砥がブラウスのボタンを全部外してフロントホックのブラも外した
いつも白いブラウスの下には透けない肌色のブラしか身に付けないので正直色気は少ない
それでも乳首付きの乳房を見ると興奮するのが悲しい男の性である
「きゃは!径さん、立ってきましたよ!」
嬉しそうにはしゃぐ
調子に乗ってズボンも脱ぎ出す
「着衣エロ…、純子さんって、そういう趣味があったのですか?」
「なんれすか?それ。初耳れす」
下はブラと同じ肌色の下着だけになった青砥が榎本の股間のトコロに跨る
下着越しに性器に刺激を与える作戦らしい
わざと榎本の胸に倒れ込み剥き出しになった乳房を擦り付けたりもする
そこそこ感じたりするのだが何かが物足りないと思う榎本は青砥のお尻に手を回してみた
「これぇ、お触りはらめ!」
ペチッと手の甲を軽く叩いた
「そこまで言うのなら、もっと刺激を貰えないと僕は満足出来ません」
とても青砥の三倍は同じ酒を飲んでいるとは思えない榎本がサラリと言う
「しょうれすね、径しゃんらと、いつもいつもわらしを、責めてせめぇて鳴かせますもの、物足りましぇんか」
目が異様に座っている青砥がそう言うと自ら下着を脱いでもう一度キスを仕掛けてきた
邪魔だと思ったのか榎本のシャツやズボンを脱がして下着だけの姿にする
「しゃあてと…」
ボクサーブリーフの中から、榎本の中勃ちと言っても良い程のナニを取り出して擦る
女性にそういう事をされるのはこれが初めてだが結構乱暴で痛いだけだったりする
「あり?上手くゆかない…」
実は何事も勉強熱心な青砥はこっそりとPCでAVのサンプル映像を観ていた
でも流石にそんな付け焼刃で出来るものではないのを初心な青砥は知らなかった
(何をやっているのだろ、僕は…)
心の中で思わず呟いたがそれでも青砥が何ともエロい姿でいるのを見ているのは楽しい
「あの〜、どうせならお尻をこっちに向けて貰えますか?」
「あ〜、はい、わかりましゅた」
こうして二人は所謂シックスナインという形になった
目の前に相手の性器がある。トロトロとした液を秘裂から流しているので舐めてみる
「ひゃうぅん!何するんれすか!」
「手を出すなと言われましたから、代わりに舌を出しました」
逆さマグロになっているのに飽きた榎本が、青砥の弱い部分を刺激した



310芍薬4/4:2012/06/17(日) 13:13:31.85 ID:VISeP2LT
「やめぇ、あぁん、感じす、ぎちゃうぅ!」
やられ慣れている青砥が堪らず声を上げる
そして榎本のナニに乳房が当たってやや硬くなる。それで挟めなくても乳房で擦れば感じてくれるのでは思ってやってみる
(あ!ちょっと硬くなってきた!)
これで反撃出来ると喜んだ
こうして互いに刺激を与えた結果性器と性器を繋ぎたい段階にまで辿り着いた
「りゃあ、私が上になりましゅ」
どうにかこうにか勃起して挿入可能になったナニを掴み自分の秘裂にあてがった
「ふぁあん、しゅご、くいぃ!」
やっと待ち望んだ榎本のモノが自分の胎内に入ってくる快感に震えた
眼鏡美人がほぼ裸になって自分のナニを咥えこんで悶えている姿はかなり興奮する
騎乗位には慣れてない青砥が青砥なりに腰を動かし下半身に力を咥えてナニを締めるのも一興である
(酔うと人格が変わる人がいるとは聞いた事があるが、ここまで変わるとはなぁ)
などと冷静に考えながらも榎本も腰を動かす
「きゃうん、はひぃん、やぁあん!あぅん」
動きが早くなると上がる声も早くなる
「あぁ、はぅ、もっ、そろそろ、あぁん!」
汗で髪が額に張り付くのが妙にエロい
「じゃあ、中に出しますよ」
「くらひゃい!けいしゃんのタップリ!!」
これが引き金になったのか、腰の動きは更に早くなり青砥は乳房を大きく揺らして悶える
「ふぁう、来るぅ、わらしの中に!!!」
この直後榎本は青砥の胎内に精を放った
これで青砥のほうが絶頂に達したのかは榎本にはわからなかったが満足そうな表情をしていたのでそれで良しとした

「う〜、飲み過ぎました〜」
「純子さんはあまり酒に強くないのですから、程々にしないといけませんね」
素面に戻った青砥に榎本がポカリを差し出す
「はい、反省しています」
そのグラスを受け取ってゆっくり飲み干した青砥がしょんぼりしている
「今度飲む時は水で割りましょう」
そう優しい言葉をかける榎本には裏があった
(何だろ、これは説明書か?)
榎本が買った酒は清酒ではなく漢方の芍薬が入っているリキュール類で女性が飲むと血の巡りが良くなりアレをしたくなる事もありますとそこには書かれていた
(あの社長らしいお勧めの酒だな…)
お陰で楽しい思いをさせて貰えたので悪くはないなと、微笑む榎本であった
何も知らない青砥はつられて笑った

〈おしまい〉



311227:2012/06/17(日) 13:31:42.69 ID:DgAm7UdI
>>220さん
リクエスト応えてくれてありがとうございました
二人の仲もとてもいい
それ以上に芹沢パパがいいですね
信頼関係バッチリなんですね
また新作書けたら投下して下さいね
楽しみに待ってます
312名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 14:35:31.23 ID:fQOmYDEY
「遅い返事」以下、書いて下さった職人さんGJです!
それをまとめた>>301さんも乙です!
連載を少しずつ楽しむのもいいけど、時間のあるときに
一気に読めるのはありがたいですね。

313名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 15:57:52.95 ID:e14OOToF
>>306

大胆な青砥悪くないよ

>>311
直前の投下を完全に無視して
好きな職人だけエコヒイキは態度悪いよ
314名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 17:45:09.18 ID:VISeP2LT
別にそういうのどうでもいい
読み手が面白いと思うのをGJ!したり褒めればいい
面白くないのはスルーされるのもここでは常識だよ

もう一つ書いたので投下します
前に書いた逆転の続編です
「佇む男」を自分なりにパロってみたくて書いたものです
エロ描写はほとんど無いです
興味ある方だけ読んで下さい
315逆転A1・5:2012/06/17(日) 17:46:20.83 ID:VISeP2LT
大石社長の山荘に行ってから数日後いきなり彼女・榎本径子からメールではなく電話があって会社に来て欲しいと言われた
それは密室の謎が解けたという内容であるのは百も承知だが何日かぶりで体の関係を持った彼女に会えるので俺・青砥純は興奮した
行く途中で見掛けた花屋に寄ってブリザードフラワー千円を買ったのもその所為だろう
「備品倉庫室か…」
受付嬢に言われた通りに彼女の作業場に来ると鍵は開いていたが彼女の姿はなかった
中には大きな作業台があってその上に模型が大小幾つか並べられていた
その隅に俺は買って来た花を置いた
(何ていうか、変わった世界だな…)
彼女が見合いを断りたい理由がわかる奇妙だが居心地の良い空間である
「いらっしゃい。思っていたよりも早く来てくれたのですね」
振り向くとポットを持った彼女がいた
「ええ、まぁ。依頼者である日下部さんから密室の謎は解けたのかと、何度も催促されていましたので、正直助かりました」
当たり障りのない話をして俺は用件を進めようとする
そうしないとここで彼女に抱き付いて押し倒そうだったからだ
(どうして俺は、こんなにも発情スイッチが働くのだ?)
過去に何度か女性と関係は持った事があるが彼女にしたような事は一度もなかった
「コーヒーが良いですか?それとも、緑茶が良いですか?」
「じゃあ、緑茶で」
取り敢えず俺は用意してくれた席に座り彼女が淹れてくれた緑茶を飲んだ
「それでは、まず別解を潰していきますね」
そう言うと彼女は自分が造った模型を見せた
「これ、あの山荘じゃないですか!うわぁ!花に掛け軸、社長の人形やら凄いですね〜」
感心すると同時に俺が描いた現場の絵を見せるのを諦めた。何かチャチ過ぎたからだ
「これがワタシの仕事ですから。それよりも現場をこうして再現すると、妙な事ばかりが浮かんで来ますね」
「どんな具合に?」
「仮に社長が自殺ならば、こうしませんか?」
今度は小さな模型を二つ見せる
一つはガウンの合わせを反対である右前にして布団に寝ている人形があってその枕元には一万円近くはするグレンタレットという名酒の模型まで置いてある
もう一つはガラスの棺にスーツを着た社長の人形が納められている
「確かにそうですね。癌の痛みに耐え切れず命が尽きたとしたら惨い死に様になる…」
俺なら名酒を飲み安らかに逝きたいと思った



316逆転A2・5:2012/06/17(日) 17:47:12.39 ID:VISeP2LT
「もう一つ仮定するならば、どこかの誰かが自殺の手助けした場合…」
彼女は遺言と書かれた小さな手紙をガラスの棺に入れた
遺言状ではなく遺言というのがミソである
社長に忠誠心を持つ社員なら一人ぐらいいるであろう。そんな社員の身を気遣って警察宛に手紙の一つは書くであろう
「ワタシがあの日、見たり聞いたりした現場にはそれが無かった。だから、日下部さんが感じた通りで、間違いはない」
「他殺しかないですね。でも証拠がない」
この世界にはいないが「相棒」の杉下右京と米沢守の二人がいたらきっと密室の謎解きもスンナリ行くのだろうなと俺は考えた
(現場、密室、他殺……)
「そうだ!榎本さん、今から山荘に向かいましょう!」
「今からですか?」
「そうです!現場に行けば証拠があります」
「まだあるのでしょうか?」
「諦めなければ証拠は必ず見つかります!!それに榎本さんは悔しくないのですか?!」
「悔しい?」
「この模型にも使われた鍵たちは本来犯罪から守る為に作られたものでしょ。それなのに犯罪の片棒を担がされるなんて可哀想です」
「かわいそう…。確かにそうですね」
感情をあまり表面には出さない彼女が怒っているのが俺にも解った
「行きましょう!山荘へ!ワタシの社用車を使えば、犯人と思しき池端専務に見付かっても特に問題はありません!」
こうして俺たちは奥多摩の山荘に向かった
しかし東京総合セキュリティの会社を出たのは昼過ぎで到着した時には日が暮れていた
空を蝙蝠が飛び交っている
懐中電灯を持って山荘を一周してみたが俺には特に何も見付けられなかった
それでも彼女は何かを見付けたらしい
独り言を呟く時に唇が動く
利き手の指を開錠作業する時のように動かす
それは以前この山荘の中でもやっていた彼女独特の仕草であった
(ああ、そうか。俺は彼女が仕事に打ち込む姿に惚れたのだと、この時初めて気付いた)
プ〜ン、ブ〜ン。
「ああ、もう!うっとうしい虫だな」
俺の汗を嗅ぎ付けて蚊が寄って来たので叩く
「今、何て言いました?」
「うっとうしい…」
「いえ、その後です」
「虫…」
「それです!虫です!青砥さん!」
「はい?」
「どうやら密室の謎は解けそうです!」
とても嬉しそうに彼女は言った



317逆転A3・5:2012/06/17(日) 17:48:00.75 ID:VISeP2LT
ここは奥多摩よりは都心に近く予約が無くても泊まれる所つまりラブホである
行ったり来たりする時間の無駄をなくす為に今夜はここに泊まる事にした
(それはそれで良いのだが…)
言い出した彼女はまだ月のものが終わってないのだから俺は生殺し状態で悶々としている
スーツの上着を脱いでネクタイを外しベッドの上に寝転がる
「あの、シャワーどうぞ」
そんな俺の気持ちを知っているのか知らないのかバスタオルを体に巻いた彼女は堪らなく魅力的だ
「あ、あぁ…」
その時ふと違和感を覚え上から下まで彼女の体を眺めた
「ところで、お腹とか痛くないの?」
「いいえ、別に」
「あれ?土曜日にアレ始まったと言ってなかった?」
「言いましたが、間違いでした」
月のものは勘違いでしたと彼女は言った
「え〜、何それ!」
「あ〜、ゴメンナサイ」
彼女曰く、たま〜に血の混じったおりものがあってそれを月のものだと勘違いしたらしい
「この、え、の、も、とぉ〜!!」
「きゃぁあ!!」
ベッドにそのまま彼女を押し倒し俺はナニを始めた
バスタオルを剥がして彼女の体をまじまじと見る
土曜日の朝に付けた紅い跡はもう消えていた
とはいえ彼女のどこを刺激すれば感じるのか覚えているので別に困る事はない
「やるのはいいのですが、せめて灯りを消して貰えません?」
「厭です。貴女の、その困った顔が見られなくなる」
などと言いながら俯せにする
その理由は彼女が顔を上げるとそこには鏡があるからだ
「きゃ!いやぁ!!」
男に後ろから抱き付かれて喜んでいる女の姿が映されている
「この部屋には、この鏡とか、隠された仕掛けが多いですよ」
実は彼女がシャワーを浴びている間に部屋のボタンをあれこれと操作してみたのだった
「しかしまぁ、鏡とはいえ貴女の姿を見られたくはないから、戻しますね」
ウィィーンと音を立てながら鏡は只の壁にと変わった。ついでに灯りを消した
山荘の周りほどではないが暗闇になった
その所為か彼女の体のこわばりが消えた
「お預けを喰らって、我慢が効きません」
それだけ言うと俺は彼女と体を重ねた



318逆転A4・5:2012/06/17(日) 17:48:49.99 ID:VISeP2LT
こうして数日遅れの二回戦をした俺と彼女は翌朝山荘に日下部さんと池端専務を呼び出し、おまけに付いて来た芹沢さんも加えて密室の謎が解けたという説明をした
それとたまたま山荘の前にいた松田大輝くんにも証人として参加して貰った
「警察が自殺だと言ったから自殺で良いじゃないかと済ます考えを持つのが真犯人です」
いきなり直球勝負ですかい、榎本さん。先が思いやられるわ…
案の定日下部さんと芹沢さんがアングリしているのが俺にもわかった
「何だ、君は!この私を犯人呼ばわりか!」
「はい。この殺し方は、プロではなくアマがしたものですから。それも人が亡くなったら体がどうなるのか知識を持ったアマの仕業」
あなたが犯人ですよと彼女は言い続ける
「プロだのアマだの、理屈がわからん」
「この大輝くんにその一部を見られているのがアマというか甘ちゃんですね」
「そんな子どもが何を見たと言うのだ?」
「大石社長が立っている姿を見たのです」
日下部「え?」
芹沢「何?!」
池端「何だと…」
(それは俺も驚いたぜ)
早朝に山荘にやって来た俺と彼女はこの子に出会い、彼が仕掛けた虫捕りの罠が立派だと褒めると、死んだはずの社長が生きていたと言うのでビックリした
しかしそれはカーテンの隙間から見えただけなのでそう勘違いしたのであった
「大輝くんが立っている姿を見た翌日、ここにこうして座った姿をお二人は見ましたね。日下部さんのお話では口から虫が湧いて出て来たそうですね」
「そうです、ゾンビでもなければ遺体が動くはずは無い。この子が見たのが事実なら誰かが遺体を動かした事になる」
日下部さんが興奮しているのが俺にも伝わる
これはあくまでも俺の想像だが、池端専務は社長を殺した後で彼女が備品倉庫室の模型で見せたような葬礼を行ったのだ
だが自分が殺した事を誰にも知られたくない為に遺体を使って完璧過ぎる密室を作ろうとした。それが落とし穴であった
棺を都合するのは無理だとしても布団ならば山荘にあるはずだ
社長が死んだのを確かめてからそこに寝かせグレンタレットの封を開けてグラスに注いでおけば良かったと思う
そういう事故なのか自殺なのか他殺なのか、判り辛い曖昧なほうが良かったと思う
「大輝くんと虫のお陰で密室は破られました。遺言状の内容については青砥さんと芹沢さんにお任せします」
そう言って彼女は俺に微笑んだ



319逆転A5・5:2012/06/17(日) 17:49:39.28 ID:VISeP2LT
事件が解決したその翌々日彼女は俺の仕事場にやって来た。密室の謎を解いてくれたお礼に関する話がしたかったから呼んだのだった
「あの〜、謝礼というか、報酬の件なのですが…」
「要りません。あれは勤務外ですから」
俺のお陰で銀行から金庫の防犯セキュリティの依頼が入ったのが理由であった
それで俺は新社長に大抜擢された田代芙美子からも名指しで依頼したいと言っていた事を伝えておいた
(会社にしてみれば榎本さんは福を呼ぶ神様なのだろうな…)
だから彼女が変わり者でも会社は大事にする。俺の上司の芹沢さんも福が来て喜んでいる
「いや、それではこっちの気が済みません。この間も食事代や宿泊費は要らないの、一点張りでしたし」
実際ラブホの会計を済ませようとしたら彼女が先に支払っていたとフロントに言われた
しかも二回目である。余程俺とは貸し借りはしたくないと勘繰ってしまいたくなる
「それなら…、この間の花とかで良いです。あれって髪飾りだったのですね…」
それを言うと彼女の顔が真っ赤になった
(へ?髪飾り…?!)
よく見ると彼女の頭には俺が買った花が付いていた
後で知ったのだが花にはシュシュという布で出来た髪留めもあって、組み合わせで髪飾りにもなる代物であった
おまけにそれを買った花屋の店員曰く、男が女に髪飾りを贈るのは“俺と結婚して下さい”という意思表示だそうだ
女がそれを頭に飾るのは受諾を意味する…
「そういう物で良ければ幾らでも。今さっき芹沢さんからも金一封貰ったばかりだし」
それで薔薇でも胡蝶蘭でも買ってあげるからついでに食事にでも行きましょうと誘った
「そこまでは…、良いです」
「何を言っているのですか!僕が彼女である貴女の為に、僕のお金を使うのは当たり前でしょうが」
彼女が会社からそれ相当の給料を貰っているように俺も芹沢さんからかなりの額を貰っているのだ
「わ、わかりました」
「さ、思い立ったら吉日。行きましょう!」
初めて会った時ほど派手ではないが頭の花と色の合ったワンピースを着ている彼女を俺はこうして初デートに誘った
(金一封は十万円入っていた。芹沢さんって太っ腹だな)
これなら今夜は普通のホテルに泊まれるなと俺は考えながら外に出た

〈おそまつ〉



320名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 19:55:36.87 ID:xPK7HUQk
>>314
その心意気だけは乙
321名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 20:22:02.32 ID:BpnBz60e
GJ、いいとおもうよ。

投稿は自由だからね。
無料で読ませてもらっているのに堂々と苦情を書き連ねている人の神経を逆に疑う。
それが書き手さんたちの意欲を削いでいることに気付かないのか。
書き手が減ったらどうしてくれるのだ。楽しみに見ているのに。

文句がある人は文庫本でも買って読めばいいと思う。素人の書き手相手に素人が偉そうに評価するなんて滑稽すぎる。

322名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 20:29:57.65 ID:052pUCIM
GJ!GJ!
書き手さんたち皆ありがとう。
個人的な萌えポイントは一線越えちゃってるのに敬語の2人イイ!
名字にさん付けで呼び合う敬語の恋人同士萌えw
323名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 20:54:52.94 ID:fIlZPfpV
324ラクダ色下着ネタ 1/5:2012/06/17(日) 21:19:56.75 ID:Jfk75CZ2
前スレを読み返してて、ラクダ色下着の純子ネタに受けました。
ラクダ色から過激下着への落差にコーフンする榎本読みたい……
なリクエストに今更答えてみる。

××××××××

 休日の朝。
 前日、遅くまで開錠作業に挑んでいたこともあり、榎本がベッドの中でまどろんでいると。
 目覚ましの代わりか、と言いたくなるタイミングで、携帯が鳴った。
「……はい?」
『あ、榎本さんですかっ! 青砥ですけどっ!』
「青砥さん……どうされましたか……?」
 枕元の時計を見上げると、早朝6時だった。間違っても休日に起きるような時間ではない。
 眠気の残る頭を振りながら身を起こす。何か事件でも起きたのだろうか、と考えていると。
『榎本さん、助けてくださいっ!』
 純子の声に涙が混じっていることに気付き、急速に眠気が引いていくのがわかった。
『う、うちに泥棒が入ったみたいなんです! お願い、助けて!』
 すぐに行きます、と返事をして電話を切る。身支度を整えた榎本が自室を飛び出したのは、それから十分後のことだった。

 一度訪れた純子の自宅にて。チャイムを鳴らすと、「榎本さん!」という声と共に、純子がとびだしてきた。
 髪を下ろし、眼鏡をかけたラフなスタイル。そんな姿が新鮮で、榎本は思わず目をそらしたが。純子は、それに構わず「来てください!」と榎本の手を引いた。
「榎本さん、ありがとうございます。こんな時間にすみません」
「構いません。それで、泥棒ということでしたが、どういうことでしょうか」
 夜間ならともかく、今は早朝だ。こんな時間に泥棒に入られた、ということは、コンビニかジョギングにでも出ている間に何者かが侵入した、ということか。
 あるいは、まさか、とは思うが、純子が寝ている間に何者かが……?
「部屋の中じゃないんです」
 榎本の思考を読んだわけではないだろうが。純子は、しょんぼりした様子で疑問に答えた。
「ベランダです」
「ベランダ?」
「はい。わたし、昨日、夜中に洗濯物を干したんです。それで、朝起きたら……」
「……ああ、はい、わかりました」
 なるほど、と納得する。ようするに、純子宅に忍び込んだ泥棒、とやらは……いわゆる下着泥棒の類だったらしい。
 純子の許しを得て、ベランダを覗いてみる。ブラウスやシャツなどが干してある中で、下着が干してあったのだろうスペースが、不自然に空いているのがわかった。
「これは、いつ気づかれたんですか」
「今朝、起きてから洗濯物を取り込もうとしたら……榎本さん。これって、泥棒がベランダに入ってきたってことですよね?」
「はい。ここは中層階ですから、一階や最上階に比べれば難しいですが。外から侵入することは不可能ではありません」
 ベランダを見回し、セキュリティをチェックする。
 マンションにありがちだが、災害時に備えて上階、下階に繋がる非常はしごや、隣の部屋から簡単に破られるしきり板など、逃げる際にはいいだろうが侵入のことを何一つ考えていない設備が目に入った。
 ベランダから身を乗り出す。近隣も似たようなマンションが並んでいる。夜間は恐らく人通りが途絶えていることだろうから、目撃者の期待はできない。
325ラクダ色下着ネタ 2/5:2012/06/17(日) 21:20:39.66 ID:Jfk75CZ2
「とりあえず、防犯カメラの設置をお勧めします。本当は、引っ越しを考えられた方がいいと思いますが」
「え!? そ、そんなに大事なんですか!? 下着泥棒……ですよね?」
「ええ。ですが、ベランダに侵入された、ということは、その気になれば、窓を破って部屋の中に侵入することも可能だった、ということです」
 榎本の言葉に、純子の顔が今更のように青ざめた。ようやく、自分がどれほどの危険にさらされていたか、を察知したらしい。
「とりあえず、見積もりを出します。侵入者対策に備えた最新の防犯設備を見える場所に設置しておけば、それなりの抑止効果になるでしょう」
「は、はい。お願いします……あ、すいません。わたしったらお茶も出さないで。今、何か入れますね」
 そして。
 一通りの調査が終わった後、榎本が締めくくると。純子は、ほうっ、と息をついて言った。
「本当にありがとうございます。やっぱり榎本さんて頼りになりますね」
「いえ」
「もう、聞いて下さいよ。最初は芹沢さんに電話したんですけど!」
「…………」
「こんな早朝に何だ! って怒られて。事情を説明したらそれは榎本の専門だろ! って言って切られちゃったんですよ。ひどいと思いません?」
「…………」
「それで、こんな時間にご迷惑をおかけすることになっちゃって。本当にすみませんでした。あ、お腹空いてないですか? 簡単なものなら、朝食、出せますけど」
「……いえ、お構いなく」
「遠慮なさらずに! ちょっと待っててくださいね」
 ぱたぱた、と純子がキッチンに向かうのを見送った後、榎本は、リビングのソファに腰を下ろした。
 何となく腹立たしいというか苛立たしい感情がわきあがってくるのは何故だろうか。
 純子が榎本より芹沢を頼りにするのは今に始まったことではない。いつかのゴキブリ騒動のときもそうだったではないか。
 そもそも、芹沢は純子の直接の上司だが、榎本はいわばただのアドバイザーで……関係で言えば、芹沢の方が純子に近い。だから、頼る相手として榎本より先に芹沢が浮かぶのは仕方がない。
 そんなことは、理屈ではわかっているつもり、だが……
「お待たせしました、どうぞ!」
「……どうも」
 コーヒーと一緒に、トーストとサラダという、簡単な朝食が出てきた。
 どうぞどうぞと笑顔の純子に会釈をして平らげる。食事をしながら、榎本の思考は、理由のわからない苛立ちにかき乱されていた。
 自分を真っ先に頼ってはくれなかった。それだけのことが、何故、こんなにも腹立たしいのか。
「青砥さん」
「はい?」
「盗まれた下着ですが。どのような下着ですか」
「……はい?」
「どのような下着ですか。一般的な下着なのか、あるいは……」
「ちょ、ちょっと! ちょっと待って下さい!」
326ラクダ色下着ネタ 3/5:2012/06/17(日) 21:22:06.04 ID:Jfk75CZ2
 榎本の唐突な質問に、純子は真っ赤になって言った。
「あの。それ、何か防犯に関係があるんですか?」
「はい」
 一瞬のためらいもなく言い切る榎本に、純子の身体が軽くのけぞる。
「あの、それはどういう」
「犯人の動機です」
「ど、動機??」
「はい。犯人は、女性の下着なら何でもよかったのか。あるいは青砥さんのものを狙って犯行に及んだのか。それによって防犯の意識も変わります」
「そ、それ、どういう意味です!?」
「いわゆる一般の下着泥棒……女性のものなら何でもいい、という犯人の場合、防犯対策を施せば、犯人は他の女性に狙いを変えるでしょう。しかし、青砥さんのものだから、という理由で犯行に及んだ場合は、それだけでは防ぎきれない可能性があります」
「っ……す、ストーカー、とか、そういう意味ですか?」
「あくまでも、例えば、ですが」
 何の感情もこめずに淡々とつむがれる榎本の言葉に、純子の顔が段々と青ざめていった。
 そんな、とかまさか、とかつぶやきながら怯えている様を見る榎本は、相変わらずの無表情で。
(まあ、無いとは思いますが)
 と、心の中でつぶやいていた。
 ストーカーだった場合、それこそ下着だけで終わっていたわけがない。洗濯物を一切合財盗まれ、ベランダから侵入しようとした痕跡が残っていただろう。
 そうでなくてよかった、とホッとする一方で、男である芹沢や榎本を平然と家に上げ、下着がどうのこうの、と平然と話す純子を、少し脅かしてやりたくなった。
 あなたは無防備過ぎます。少しは危機感を持って下さい。
「で、どうですか」
「……あ、あの、普通の……下着、です」
「普通とはどういう」
「ぶ、ブラジャーと……ショーツ……」
「ですから、どういう。色ですとか柄ですとか形状ですとか」
 きわどい台詞を表情一つ動かさずに淡々とつむぐ榎本。対する純子の顔は、ペンキでもかぶったのかと言いたくなるほどに真っ赤だ。
「一般的な下着泥棒の場合、盗んだ下着を使用して己の欲望解消の道具に使用する傾向がありますので。盗まれる下着というのは相応に高価で派手なものが多いのですが。どのような下着でしたか」
「…………ふ、普通、の……」
「…………」
 ガタン! という音と共に、純子は立ち上がった。
 そのまま、寝室に走っていく。少しやりすぎたかな、と、榎本が胸中で反省していると。
 バンッ!
「こ、こういうの、ですっ!」
「…………」
「盗まれたのは、こういう下着、ですっ!! わかりましたかっ!!」
「…………」
327ラクダ色下着ネタ 4/5:2012/06/17(日) 21:23:28.06 ID:Jfk75CZ2
 目の前に叩きつけられた下着に、榎本の無表情がさすがに揺らいだ。
 一瞬頭に血が上るのがわかった。日頃、純子が身に着けている下着、と考え……さすがに手を振れるのはためらわれて、思わずまじまじと見つめてしまう。そして……
 すうっ……と、急速に上った血が冷めていくのがわかった。
 ちらりと視線を上げる。純子の身体がわなわなと震えているのは、羞恥のせいか、あるいは屈辱のせいか。
「ど、どうですかっ」
「よくわかりました」
 鞄から取り出したペンで、作りかけていた見積もりにさらさらと追記事項を入れる。
「犯人が欲望解消のために盗んで行ったとはとても思えませんね。青砥さんのものだから、という理由で盗まれた可能性が高いと思われます。
 まずは警察にご相談なさってください。お仕事柄、誰かに恨まれることもあるでしょうから芹沢さんにもご相談を」
「なっ……そ、それどういう意味ですかっ!?」
「いえ、深い意味はありません」
「なら浅い意味はあるんですか! な、何ですか! いけませんか! だって下着ですよ!? 見せるわけじゃないんだから、いいじゃないですかっ!!」
「…………」
 散らばる布きれ。色は白かベージュ。フリル、レースといった飾り気など一切ない、実に実用的な下着。
 言ってしまえば、榎本の母親辺りが使用している、と言われても納得できそうな、色気も素っ気もない下着を見て。
 榎本は、しばらくの間、犯人が何故こんなものを手間暇かけて盗んで行ったのか、と、頭を悩ますことになった。

 数日後。
 下着泥棒は無事に捕まった、という連絡が、純子から入った。
 榎本の見立て通り、犯人は以前、仕事で純子と関わりのあった人間だった。
 純子を困らせてやりたい。が、純子を傷つけたり家に侵入するような度胸もない……と、下着泥棒に走ったらしい。行きずりの犯行に見せかけたかったらしいが、所詮は素人。
 足跡やら指紋やらの物証が山のように残っていて、あっさり逮捕された、とのことだった。
『榎本さんにはお世話になりましたので、今日、お礼にうかがいます。都合はいかがですか』
「いえ、別に大したことはしていませんので結構です」
『いーえ! 大したことです。今日の夕方、おうかがいしますので』
「青砥さ」
 ぶちっ! と切れた電話を見やって、榎本はやれやれとため息をついた。
 あの事件以来、どうも純子が自分に素っ気ないような気がするのだが、それは自分の気のせいだろうか。
 やはり、あのとき脅かし過ぎたのが原因だろうか。いや、しかし、危機管理を持て、という自分の警告は間違っていないはずだ。
 まあ、今日の夕方に来る、とのことだから。そのときに聞けばいいだろう。
328ラクダ色下着ネタ 5/5:2012/06/17(日) 21:24:11.23 ID:Jfk75CZ2
 ――と、榎本が軽く流した数時間後。

「榎本さん、こんばんは」
「こんばんは、青砥さん」
 予告通り、夕方、純子は手土産を携えてやって来た。
「これ、どうぞ。有名なパティシエが作っているケーキだそうです。今、評判なんですよ」
「ありがとうございます」
「いいえ、お礼を言うのはこちらの方です。榎本さんの助言のおかげで犯人が捕まりましたからっ!」
「……はあ」
 ケーキを突き出す純子の態度は、やはり少々素っ気ない。背けられた顔は、頬が赤らんでいるように見えるし。その癖、自分をちらちら見る視線はどこか熱っぽい。
 やはりどこかおかしい。体調でも悪いのか……と、榎本が声をかけようとしたそのとき。
「え、榎本さんっ!」
「はい?」

 ――ばっ!!

 眼前に広がった光景に、榎本の思考が、数秒の間フリーズした。
「……あの、青砥さん……?」
「し、下着を盗まれてっ……着替えが少なくなって、不便だったので! 新しく買ったんですっ!」
「…………」
「どうですか」
「あの、どうですか、とは」
「だからっ! どうですか。感想を聞いてるんです! どうですかっ!!」
「っ…………」
 ずかずか、と歩み寄って来る純子の迫力に思わず後ずさり。どんっ! と壁に背を預けて、止まる。
 スーツの上着とブラウスを全開にした純子。透き通るような白い肌が大部分あらわになり、胸を覆っているのは……
「あ、あの、とてもよくお似合いだと……」
「目が泳いでます! しっかり見てください!」
「あの、青砥さん」
「何ですか。上だけじゃ不満ですか! 下もお見せしましょうかっ!」
「すいません青砥さん先日の件は謝ります決して侮辱したわけではお願いですからやめてください」
 その場でパンツスーツを脱ぎ捨てようとする純子を必死に押し留めながら、榎本は脳裏に焼き付いた映像を消去するのに多大な労力を払う羽目になった。
 とても純子のような女性が身に着けているとは思えない、派手な……もっと言わせてもらえば、何故あんなに布をけちっているのか、と問いたくなるような色気たっぷりの過激な下着を見て。
 自然と前かがみになる己の身体を呪いながら。榎本は、女性は怖い……と、しみじみつぶやいた。


××××××××

以上です。
エロというには微妙すぎてすいません。
329名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 21:51:19.57 ID:BpnBz60e
超面白かったです!!
330名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 21:56:18.09 ID:Yh7eAkSO
>>324-328
あははははめっちゃおもろい!笑い過ぎて腹痛い!
私はエロいの専門ですがこういう発想が湧いてこないので羨ましいです。
またお願いします。
331甘い罠1:2012/06/17(日) 22:05:18.59 ID:I6LB7FYD
結構前に書いてpixivにエロを弱めたもをのせましたが、こちらにも失礼させて頂きます

エロはベタです。すいません。

☆☆

カシャ
「きゃぁぁ!」
「…またですか…。」
「す、すいませ〜ん〜。」
ある日の東京総合セキュリティ地下倉庫
業務終了後、青砥純子はここに手土産持参でやってきていた。
お茶を用意しようと榎本が席を立ち、作業机に残された目新しい手錠を彼女が手にした瞬間、彼女の両手は見事に拘束された。

「いえ…青砥さんの手の届く場所に置いた僕が悪い。青砥さんが好奇心で触ってこうなることを予想して手の届かない場所に置くべきでした。」
「…赤ちゃんの安全対策みたいですね…」

たしかに上司の芹沢に「お前の好奇心は赤ん坊並だ!」とは言われるが…

「その錠は開発されたばかりで、まだ僕も解錠パターンを把握していません。少々手こずるかもしれません。」
「そんなぁ…」
「仕方ありません。そのままじゃ落ち着いてお茶も飲めませんし、早速解錠作業に入ります。その椅子に座って頂けますか?」
「は、はいっ」

向かい合って作業机横に椅子を並べ座る
鍵穴は手錠の下側。純子の腕の方向である。純子は膝の間に腕を下ろし、榎本は背中を丸めて解錠作業を進める。

純子が下を向くと榎本のつむじが見えた。シャンプーだろう、男性が放つには甘い、桃の香りがする。しかし近い、身じろぎしたら自分の胸が榎本に当たりそうだ。
…世の女性の中ではささやかな部類かもしれないが。

付き合い始めて一月足らず。
忙しくてなかなか会うことが叶わず、久しぶりに会う時間がとれた。というか、お互いの気持ちを伝えた日以来なのだ。その日のうちに深い口づけまで済ませてしまっているため、なんだか今日は少し気まずかった。近くにいるだけで思い出してドキドキしてしまう。

自分の後頭部と腰を支える手のひら。
柔らかい唇と蠢く舌…。

「青砥さん」
「わあっ!」

思考に浸っていたらおもむろに榎本が上を見上げる。榎本の頭を見つめていたので至近距離でしっかり見つめ合う形になってしまった。メガネの向こうに長い睫毛に意外と円らな瞳が覗く。

「この角度だと解錠は難しいようです。体勢を変えますが宜しいですか?」
ぐぐっと更に寄って榎本が尋ねる。
「は、はいっ!」
この息も普通にできない状態から抜け出せるならなんでもいいと思った。
しかしすぐに後悔することになる。
332甘い罠2:2012/06/17(日) 22:06:50.80 ID:I6LB7FYD


榎本はスッと立ち上がると作業机の上を手早く片付け、そこに純子の体を押し倒し、覆いかぶさった。

「え、榎本さん!何するんです!」
「解錠作業です。ちょっとおとなしくしていてください」

純子の腕は上に上げられ、榎本は再び器具を鍵穴に差し込み作業をする。二人の身体は密着状態にある。
「榎本さ…やめ…。」
「手錠、このままじゃあ困るでしょう」
榎本の目が純子を覗く。…表情が先ほどと打って変わって妖艶で思わず身震いをした。…怖い…。でも吸い込まれてしまいそうな魅力がある。

「青砥さん…。」

呼ぶ声と共に唇が降ってくる。触れてすぐに離れる。

「申し訳ありません。そんな怯えた顔をされてもやはり我慢できそうにありません。」
「えっ?ちょっと榎本さ…っんっ…。」

最初の触れるようなキスではなく、貪るような口づけ。
熱い舌が歯列をなぞり、上顎を撫で、絡みついてくる。
離れたと思うと角度を変えて何度も深く口付けられる。
頭は霧がかったようにぼーっとして、ジンジンと身体の深部から熱くなる。
ようやく離れた唇が、今度は純子の首筋に降りて来て、触れるか否かのもどかしい快感を与えてくる

「…っあっ…やぁっ…。」
「貴女は無意識に男の嗜虐心を煽る。華奢な身体も、白い肌も、甘い香りも、艶めいた声も…。」

僕の手でめちゃくちゃにしたい…
低い声が顔と共に胸元に落ちる。無防備な胸元に唇が滑り、榎本の綺麗な手がボタンを外し、ブラをたくし上げる。

「感じてるんですか?まだ触れてないのにかたくなってます。」

左手の親指の腹で片方の先を撫で、もう片方は舌先でねぶる。右手はスーツのズボンを器用に脱がしてくる

「だっ…止め…あっ、ああっ!」

双丘に同時に与えられる快感に声が跳ね上がる。
恥ずかしくてズボンを下ろす手を止めたくてもいつの間にか手錠をさらに別の器具で頭上に固定されていた。
そこで榎本の動きが止まり、スッと離れる。いつものように背中にバネでもはいっているかのような唐突な動きと、また感情が読みにくい表情。

「えっ?」
「止めてと仰りたかったようなので。」
「そ、そんな…。」

私に決めさせ、私に求めさせたいのだ。
狡い。
…でも気づいてしまった。
微かに瞳に混ざる懇願の色。
私に許され、私に認めて欲しいのだ。
もうとっくに情欲が自然に収まるような状態じゃない。
自分も彼と繋がりたくてしょうがない。そんな状態に持って行っておいて、あえて私にたずねるのだ。
…本当に狡くて、美しい、男。

「……て…下さい」
「はい?」
「…っ!…最後までしてください…」
「わかりました。」

榎本の口角が妖しく上がった。
333甘い罠3:2012/06/17(日) 22:09:01.64 ID:I6LB7FYD


ネクタイを緩め、メガネを外す
すばやく純子のスーツのズボンを取りさり、もう役目を果たせないくらい濡れた下着を剥ぎ取る
局部が急に冷たい外気に晒されひやっとした次の瞬間には榎本の指が触れ、ニチャっと湿った音が静かな倉庫に響く。

「ああっ…」
「良く濡れています…がまだキツそうですね…。久しぶりですか?」
「なっ!…やっ。…ああん。」

そうだけど、その通りだけど。
学生のときに付き合った彼が最初で最後だ。言い返す暇さえなく刺激を与えられる。蜜壺に指を挿し入れられ、壁を擦られる。そのまま愛液をすくい上げて陰核に滑らせるのをくり返す。唇は胸の先を啄み、気まぐれに柔肌に赤い花を散らす。左手は身体中を撫でまわす。

「かはっ…あっ、あっあっあっ…」

もう純子は身体を捩りながら短く嬌声を上げ続けるしかない。頭はもう真っ白だ。
そんな純子を見つめながら榎本は自身を取り出し避妊具を装着する。それを純子の熱く蕩けきった入口に当てがう。

「榎本さ…んあああっ!!」

溶けるように熱い場所にさらに熱いものが押し入ってくる。
最奥をこすり、引き抜かれ、また差し入れられる。

「ああん、やあっ…あん、ああ。」
「あまり耳元で騒がないで下さい。」

頭上でカチャカチャと手錠に器具を差し込み作業する音がする

「こ、こんなときに、そんなことしないで下さい。それに…ああ…声を上げさせてるのは、あんっ…榎本さんですよぉ……んんっ!」
「…こうしてないとすぐにイッてしまいそうなので…」

初めて体を重ねるのに、純子の弱い部分ばかり何度も責めてくる。
浅く挿送を繰り返し、時に深く貫き。そのたびにいやらしい水音が鳴り響く。

「ああんっ…私もう…」
「いいですよ、イッて下さい。」
「あっ、…んああん…あああああっ!!!」
「……っつ!」

純子の絶頂に達した締め付けで、榎本も達した。
終始相手のペースで翻弄されっぱなしだったけど。快感に顔を歪める榎本を見て、純子はこの上なく満たされた気分になった。
334甘い罠3:2012/06/17(日) 22:11:28.56 ID:I6LB7FYD



……カチャ…

「えっ?」
快感の熱がまだ冷めやらず、息も弾んだままの純子の頭上で金属の解除音。両手が急に自由になる。

「解錠作業済みました。」

服を整え、曲がったネクタイを直して、メガネをかけた榎本はもう普段通りの姿だ。お茶を入れるには冷めてしまったお湯を再び温めるため電気ケトルの電源を入れ、お茶の用意をする。

「…再開してから早かったですね。」

自分のしどけない姿が急に恥ずかしくなって起き上がり身なりを直す。しかし濡れた下着を着ける気にはなれない…困った。

「一度もう解錠してますからね。」
「えっ!さっきまだ解錠パターンは把握してないって…」
「あれは嘘です。もう午前中に終えています。」
「えぇぇぇぇっ!!」
「青砥さんなら好奇心から触って罠にかかってくれると思いました。…」
「罠って……」
あまりのことに継ぐ言葉が見つからない。
膝の力が抜け、呆然と床にへたり込む純子の前に片ひざをつき純子の1番首元のボタンをとめる
紅い跡はこうすれば全て隠されてしまう。社会人の嗜みとして場所は考慮してくれたようだ。
まして純子は弁護士だ。仕事中、弁護士バッチより主張するそんなものが相手に見えてしまったら問題である。なにより芹沢に何を言われるかわからない。

「今日の一連の出来事は全て僕の策略です…どうしても今日貴女を抱いてしまいたかった。自分のものにしてしまいたかった。…僕のことを、嫌いになりましたか…?」
「…っ!嫌いになるなんてそんなことあるわけないじゃないですか!!」

さっきまでの強気で大胆な姿が嘘のように榎本は俯いている。
俯いた頬に手を添え、榎本の顔を上げさせ目線を合わせる。

「…嬉しいです。そんなに私を求めて下さったのが…。」
「青砥さん…。」
「私だってもういい大人です。榎本さんとそういう風になりたいな、って逢えない間考えたりしましたよ。…まぁ、場所はベッドがよかったし、もう少しムードも欲しかったですけど。」
「…すいません。」

だから…
榎本の胸にもたれ言葉を続ける。

ー次は優しくして下さいねー

そう言って彼女は彼に優しくキスをした。


終わりです。読んでくださってありがとうございます
335名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 22:23:15.84 ID:I6LB7FYD
番号降り間違えました
さいごは4ですね…失礼しました(ーー;)
336名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 22:40:53.52 ID:qMyTzM6h
>>328
GJです!!爆笑しましたww
ラクダ色下着エロを書いたのは実は自分なんですが、なんだかうれしいですww

>>334
GJです!
エロくて素敵でした!!


毎日素敵作品が投下されるからどのあたりからGJすればいいのかわからない…
皆さん素敵です!ありがとうございます!
337名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 23:57:08.94 ID:SvmcCLSG
>>328
GJ!かわいくてアホすな二人がイイですね。会話が軽妙で楽しめました。

>>334
GJ!エロいですね〜。榎本の強気責めはとてもエロくてよかったです。

>>336
おお、ラクダの方が。
その節は楽しんで拝読させていただきました。
私も少し離れたうちにこんなに増えてて
うれしくて仕方ありません。
職人の皆様方、素晴らしい作品をありがとうございます!

明日も鍵が楽しみ。
338名無しさん@ピンキー:2012/06/17(日) 23:57:37.49 ID:ndkITtQR
ホント、数日ぶりに来るとスレが進んでて
追いつくのが大変と言う幸せ・・・
書き手さん含め住人が多いのも嬉しい

あと1週間でドラマが終わるなんて寂しすぎる
339名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 00:49:36.98 ID:RzmZZWB5
保守
340名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 01:05:11.76 ID:jHVXrjCo
>>183-184
>>234-235
>>283-284 の続きでこれで終わりです。
やはり分割投下はご迷惑のようなので、細かい描写を減らしてなんとか今日一日で最後まで書き上げました。
面白いと言ってくださった方々に本当に感謝してます。
341ケイノオモチャバコ 7:2012/06/18(月) 01:08:29.88 ID:jHVXrjCo
径は純子の髪のゴムをそっと解いて、髪を指に絡ませた。真面目な彼女らしい、艶のある美しい髪だった。
純子の身体に、快感が走る。押し上げられるたびに、榎本の身体の熱を感じるたびに、気持ちよさで髪を振り乱しながら頭を振った。
チャリ、という音がして、振り返ると榎本が首から下げていたチェーンのようなものをはずしている。チェーンの先端を口でくわえたまま、それを純子の首にかけた。
「なあに…?」
径はそのままそれを純子に口移しで渡した。
「ん…」
お互いの熱い息が絡み合う。
銀色の鎖に付いたそれを、快感に身を委ねながら純子は口の中で舐めたり噛んだりして、形を確かめる。挿入の気持ちよさで、溢れた唾液がそれを伝って零れ落ちた。
榎本の長い指が、首に絡みついてなんだか息苦しい。


ガチャ。


その音で、純子は我に返った。いや、すでに径自身も行為に酔いしれていたので二人とも我に返ったというほうが正しい。
どうして先刻、立川が出て行った時点で部屋に鍵をかけなかったのか・・・・この真昼間に。自分の行動を思い返して、径はまさに自分の策に溺れたな、と自嘲する。
コツコツと軽快な足取りで迷いもなく入り込んできたその人物は、デスクに自分のカバンを大きな音を立て、置きながら呼びかけた。
「お〜い榎もっちゃん、いないの〜??」

愕然とした。
紛れもなく、上司の芹沢だ。
(どぅしよぉ〜ほんとに泣きたい…)
純子は手に嵌まった手錠を見て、もうおしまいだ、と首を振った。音が鳴ったらまずいので、何かもわからない鎖の先端も咥えたまま。
普通のこんなシーンを見られただけでも死にそうなのに、どうみてもこの状態はその手のプレイにしか見えないではないか。
こんな姿を見られでもしたら、もう会社には二度と行けやしない。いやそれどころか、正直家からも出られなくなるだろう… 恥ずかしすぎて。

後ろから見ていても、純子の落ち込み具合は相当だった。それはそうだろうと同情の念を抱きながらも、流石にこんな姿を人に見せる趣味はない。さてどうするか… 
径の額から、汗が冷たくなって流れ落ちた。

「お〜い、またイヤホンかけて聞こえないのか〜?ったくよ〜も〜。 ん?これ、青砥のカバンじゃないか、やっぱりここにいるんじゃない。おい青砥!全く、二人ともどこいったんだ?」

(ああ、もうお終いだわ…)
そう思って振り返った純子の表情のあまりの悲壮っぷりに、真顔で考えていた径は吹き出しそうになった。慌てて眉をつり上げて、指を擦って平静を保つ。しかし…
(いれたままのこの行動、シュールすぎないか?)
指を擦りながら、目線を下に落とす。ああ、せっかくいいところだったのに… いつも自分のご都合でこちらを振りまわした挙句にこのタイミングの悪さ…さすがは芹沢さんだ。と、いつもはつけられている言いがかりを逆につけ返してみる。
とりあえず一度離れるか…と腰を引くと、純子の身体がぶるっと震えた。恨めしそうな目でこちらを見ている。
(…だから、笑わせないでくれ…)
径は顔をそむけ、眉間にめいっぱいの皺を寄せて、強く目を瞑って誤魔化した。
結局身体は繋がったままになった。

そうこうしている間にウロウロして階下を探し回っていた芹沢が、階段の手すりに手をかけた。
(ああっ!上がってきちゃう!!)
その時の純子の表情は恐らくなかなかのモノだったと思うが、径は平静を保つためにそこは見ないで我慢した。
342ケイノオモチャバコ 8:2012/06/18(月) 01:11:20.70 ID:jHVXrjCo
コツン、コツン、コツン。
足音が三つなったところで、径は芹沢に呼びかけた。
「芹沢さん。」
「お!なんだ榎もっちゃん!いたんじゃないの。」
「申し訳ありませんが、上がってこないでいただけますか?こちらには整理途中の社外秘の文書が散乱しておりまして…」
「…そうなの?」
「…はい。誠に申し訳ありませんが…。」
芹沢は残念そうに階段を下りたが、すぐさま振り返った。
「そういえば、青砥!あいつはどこいったんだ?」
径は動揺する純子の目を見つめ、頬にかかった髪を指先でいじりながら単調なリズムの声で答えた。
「…さあ」
「さあってさあ!!ここにきたんだろ?わからないなんて、おかしいじゃない」
「…気がついたら、いませんでした。何処に行かれたかはわかりません。そのうち戻ってこられると思いますが」
「そうなの?じゃあ伝えといてよ。出しとけって言っといた資料、出てなかったぞって。後で電話するように言っといて!」
「…わかりました。お伝えしておきます。」

電話も繋がらないんだよなぁ…まったく何処でなにしてるんだ、大体いつもあいつはさぁ… 
踵を返すと、芹沢はなにやらブツブツ呟きながら出て行った。

「自業自得ですね。」
榎本が冷たい目でこちらを見ている。
「だ、だって… 少しでも早く榎本さんに会いたくて…」
それで、うっかり仕事を忘れてしまったのだ。身体が解されてしまったため、つい本音が出てしまう。
その時、口から外れたチェーンが”チャリ”と音を立てて落ち、首にぶら下がった。それに目をやると… … …銀細工の…鍵…のようなもの…が
「…榎本さん。」
「はい?」
「…これ、なんですか。」
「鍵です。」
「なんの?」
「手錠のです。」

「…なんの?」
「その、手錠のです。」
驚きと呆れとで開いた口が塞がらない。確信犯?絶対、確信犯だ!
「服を脱いだ時に、首から下げていたことを思い出したんです。服を着ていると、見えませんので。」
「…」
暫く口をあんぐりと開けたまま、目をギョロギョロさせて榎本の真意を探っていたが、いくら探ってもそのポーカーフェイスは崩れない。
「と、とにかく、はやく外してください。」
「…わかりました」
榎本の手が、胸元の鍵を取り、鍵穴に差し込む。
カシャッと小気味いい音とともに、手錠が外れた。それと同時に榎本の身体も離れた。
343ケイノオモチャバコ 9:2012/06/18(月) 01:12:43.70 ID:jHVXrjCo
「青砥さん…」
径は正面から手を伸ばして、純子の身体を包みこんだ。キスをしながら、純子の服をすべて脱がせ、自分もシャツを脱いで抱きしめ合った。互いの肌の熱が心地いい。
中二階の奥にある、仮眠用のベッドにつれていき、抱き合ったまま倒れこんだ。
徐々に下へ唇を移動していく。
「榎本さん…また誰か来たら…」
「そうですね。でもこの状態ではとても鍵をかけに行くことはできません」
「確かにそうですけど… んんっ…」
柔らかい胸を舌でいじりながら、息の荒くなった口元に手を伸ばして、口内に指を入れた。それに純子の舌がからみつく。
「それにもう、やめたくはないんです。声は出さないでください」
そういい終えると、径は純子の身体を押し開き、欲望に動かされるまま純子の身体を激しく突き揺さぶった。
声を堪えるために身体に力が入っているせいで、今までに感じたことのないような快感が純子の身体に襲いかかる。
「うっ、うっうっ…!」
そのたびに、口に力が入って榎本の指を強く噛んでしまった。しかし、そのことを考える余裕など、既になかった。

少しの間、榎本はは動きを止め、純子の息が整うのを待っていた。
純子が目を開けると、愛おしそうに呟いた。
「まだ…待ってください。一緒がいいんです…」
眩暈のような、不思議な感覚に襲われて、純子は榎本の顔に手を伸ばした。
「榎本さん…」
素顔をみせて。そう思って、眼鏡に手をかけた手首は、掴まれて阻止された。
「駄目ですよ…」
薄く笑う。
これは自分を隠すためのフィルターなんだ。
剥がしたら、誰だかわからなくなっちゃうよ。

径は片足を持ち上げて深く挿入し、激しく突いた。
純子も激しくもだえ始め、切れ切れの息の間に声が漏れ始めた。
「ああ、あっ、うっ…はぁっ…」
その瞬間、叫びだしそうな唇を塞いで、仰け反る腰を強く抱いて一番奥を突いた。そして脱力した純子の上に、すべてを放出した。
344ケイノオモチャバコ 10:2012/06/18(月) 01:13:54.27 ID:jHVXrjCo
さっきまで抱き合っていた男は、いまや何事もなかったようにパソコンの画面と睨みあっていた。
もはや純子のことなど見向きもしない。
意外に引き締まっていたことに驚かされたその肉体(正直ポニョだと思っていた…顔もポヨっとしてるし…)は、見る影もなくピッチリと上まで締められたネクタイとカーディガンによって隠されてしまっている。
気がつくと終業の時間になっていて、日もとっぷりと暮れていた。
蛍光灯の下で榎本の向かい側に座り丸椅子をクルクル揺らしながら、手持無沙汰にまたお茶を飲む。つい先ほどまでは自分が完全に榎本の心を占領していた。はずだ。と思う。
それが数分もたたないうちに、あっという間に将棋ソフトにその座を奪われたのだ。よほど女流棋士に負けたことが悔しかったのだろう。
それはわかる。
わかるし、逆にあの美人棋士に心を奪われたわけではないことを逆に喜ぶべきかもしれない。
しかし…

ふぅ。
と、溜息をついて。あきらめることにする。
(だって榎本さんだからなぁ… 普通の人とは違うから、好きになっちゃったんだしな…)
それに、真面目な榎本さんのことだもの。私がいるのに、誰か別の人に手を出すなんて思えないし。別に焦って関係を問い詰めるようなことは、きっとしないほうがいい。私に好意を抱いていることだけは、間違いないと思えたし。

何やらアヒルのような口をして、目をとじてウンウンと頷く様子をしっかり見られていることなど、純子は全く気がつかない。
ひとしきり納得したあと、部屋を見回してこう言った。
「さっきも思ったんですけど、この部屋ってなんだかおもちゃ箱みたいですよね。」
径はカクッと顔をあげた。無表情のまま視線を送る。
「おもちゃ箱ですか。」
「はい。いつも鍵であそんでいるじゃないですか。遊び道具がしまってあるから、ここは、榎本さんのおもちゃ箱です。」

純子はまたいたずらっこのような目をしてそう言いきった。
(おもちゃ箱、ねぇ…)
径はぐる〜っと首を回して部屋全体を見ると、純子を視界に捕えて止まった。
「そうか」
「え?なんですか?」
(じゃあ、あなたは僕のオモチャなんだね、アオトサン。)

「あれ!?いま、ちょっと笑いましたよね、榎本さん!」
慌てて顔をそむける。「笑ってません。」
「絶対笑ってました。笑いましたよ、間違いなく」
「笑ってません。」
「笑ってました!!」
「笑ってません。」
「…」
「笑ってません…」

純子は、とてもおかしそうに笑う。
「それ、差し上げますよ。」
径はまだ純子の首にぶら下がったままの銀細工の鍵を指して言った。
「え、でも」
「…ご迷惑でなければですが。手錠のほうは鍵がなくても開けられますから、問題はありません。」
純子からすると初めての榎本からのプレゼントだ。なんだか嬉しさで先程の憂鬱は消し飛んでしまった。
「おもちゃ箱の、鍵ですよ。」
「え?手錠のですよね?」
「いえ、それは違います、おもちゃ箱のなんです。」
「…何が言いたいんですか?」
短い沈黙のあと、またパソコンに視線を戻して低い声でもごもごと。「それがあれば…いつでも開けられますので」

いつでも来ていいですよ。
という意味だと純子は解釈して、すっかりご機嫌な顔になった。

その表情を盗み見て、さすがにサービス過剰だったかな。と心のなかで呟いた。
カチッ。




END
345344:2012/06/18(月) 01:17:54.88 ID:jHVXrjCo
やっと終わりです。
書いてみると本当に難しかったです、特にエロシーンが…;

明日の放送、楽しみすぎで眠れません♪
346名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 01:22:51.56 ID:CYEa1IRh
オモチャバコのラスト、リアル投下に立ち会えて嬉しいです
GJでした!
腹に一物ある榎本が何ともいいキャラで、楽しめました
347名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 03:00:36.81 ID:rvCCebsL
オモチャバコすごいです。GJGJ!
エロに苦心されたのがわかりますが、でもすごいウィットに富んだ名作です。
本職の作家さんよりツボをつかんでいらっしゃるような気がします。
是非別の作品もお願いします。
348名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 08:11:31.40 ID:avNbDc8d
オモチャバコGJ!誰か親切さんがレス番まとめてくれたらうれしいなぁ。

自分は分割投下はかまわないと思う。
楽しみが増える。
その場で入力は勘弁してだけど。
349名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 09:13:43.22 ID:bMxsMQLY
オモチャバコ素敵です!!
そんな榎本さんもいいなぁ…
350名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 12:37:08.14 ID:lSyICWnO
今回登場の玉木宏はどう関わるのかな
351名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 15:42:14.70 ID:CYEa1IRh
>>348
オモチャバコのレス番まとめました

ケイノオモチャバコ 12>>183-184
ケイノオモチャバコ 34>>234-235
ケイノオモチャバコ 56>>283-284
ケイノオモチャバコ 789 10>>341-344
352344:2012/06/18(月) 20:53:39.52 ID:jHVXrjCo
自分の文章を気に入ってくれた方がいて嬉しいです!ぜひまた書かせていただきたいと思っています。
>>346 投下直後のコメントとても嬉しかったです。
>>347 ウィットの意味がわからず…今調べました(笑)実際は知識とボキャブラリーの欠如に悪戦苦闘しまくりでした。
>>348 寛容なコメントありがとうございます。どうしても書くのが遅いので、次回は2、3分割くらいで許してもらおうかと考えています。
>>349 正直見せ場作りすぎて、結果なかなかのチャラ男になってしまっていることに今気付きました(笑)

その他途中でコメントくださった方々、感謝です!
それとどうしても気になるので、>>247さん、続きが気になるといってくださっていましたがご覧になりましたか?
自分はメモ帳に本文を書いて、コピーして貼り付けています。ぜひ最終話載せてくださいね。

ドラマ始りますね!!今夜はちょっとほろ苦い回になりそうですね。dkdk
353名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 21:10:45.48 ID:IJ/yUQfW
全レスはやめた方がいいよ
裏話語りたいなら裏話スレ使えばいいと思うよ
そして合わせ技で上げるのやめた方が自分の為にもなるよ
354名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 21:56:22.89 ID:itAz4Oa/

なんて警察は無能なんだ(ノ-"-)ノ~┻━┻
355名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 21:57:53.18 ID:EbzR0E2K
今週も萌えをありがとう…!!!
来週が楽しみ過ぎてやばいけど最終回だと思うと・・・
356名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 21:58:02.83 ID:CYEa1IRh
その気持ち、分かるぞ
357名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 22:00:46.05 ID:DZfKCNhg
馬鹿な、来週にはもう最終回なんて!
という気持ちでいっぱいです。
純子と榎本の絡みが思ったより少なかったのが残念。
な気持ちを胸に一本投下させてください。
358プライドと駆け引き 1/5:2012/06/18(月) 22:01:59.95 ID:DZfKCNhg
 金曜日の夜のことだった。
 その日、榎本は業務終了後も難解な鍵の開錠に取り組み、オフィスを出たときには既に終電間際の時間となっていた。
 夜道を怖がるような性質ではないが、誰もいない深夜のオフィス街は、ゆっくりしたい場所ではない……と、早足で歩いていると。
 不意に、脇から飛び出してきた人影が、榎本に衝突した。
「っ……大丈夫、ですか?」
 榎本自身はよろめく程度で済んだが、衝突してきた相手は反動でひっくり返っていた。
 どう考えても悪いのは相手だが、まさか放っていくこともできず、助け起こそうと手を伸ばし……
「青砥さん?」
「ううう……あ、榎本、さん……?」
 見覚えのある人影に、榎本の動きが止まった。
 見慣れないワンピース姿だったので、すぐにはわからなかったが、そこに倒れているのは青砥純子に間違いなかった。
 最近、用もなく榎本の仕事場に遊びに来ることが多い彼女だが、そう言えば、今日は姿を見なかった。
 しかし、まさかこんな時間に?
「榎本さあんっ!」
 瞬間、彼女の目から「ぶわあっ!」という勢いで涙が溢れだしたのを見て、榎本の身体がひきつった。
 何があったのかはわからないが、この後、恐らく自分は厄介ごとに巻き込まれる。
 それは、それは、経験から来る確信だった。

 とりあえず、いつまでも道端に転がしておくわけにはいかない、と純子の身体を支えるようにして助け起こす。
 身体を寄せて気付いたが、彼女は明らかに酒臭かった。どうやら、どこかで飲んでいたらしい。
「大丈夫ですか、青砥さん。何があったんですか?」
「榎本さん……榎本さん、だあ……会えた……よかったああ……」
 そんな榎本に、純子はわんわんと泣きながらすがりついてきた。
 何があったんですか、と問うてもまともに答えない。とりあえず、こんな時間だから家に送りましょう、と言えば「帰りたくないんです!」と余計に泣き出す。全くもって、榎本の手には余る事態だった。
「青砥さん。帰りたくないってどういうことですか? 一体、何があったんですか?」
「ううう……榎本さん。榎本さん、聞いてくれます? 聞いてくれますか?」
「……聞きますからとりあえず立って下さい。落ち着いて話せる場所に……」
「榎本さんの家に!」
「……はい?」
「榎本さんの家、で、お願いしますっ……駄目、ですか……?」
「…………」
 果たして、純子の身に何があったのか?
 厄介ごとに巻き込まれるだろう、と予測してはいたが。まさかたったの数分で現実になるとは思わなかった。
「……ちょっと待って下さい」
 いまだにすがりついたままの純子に断って、携帯を取り出す。アドレスから目的の人物を探し出して電話をかけると、コール数回であっさり相手と繋がった。
359プライドと駆け引き 2/5:2012/06/18(月) 22:02:43.01 ID:DZfKCNhg
『もしもし? えのもっちゃんか? 珍しいな、こんな時間に』
「芹沢さん。夜分遅くに申し訳ありません。今、よろしいですか?」
『あーいいよいいよ。何? 企業法務絡みの仕事ならいつでもウェルカムだけど?』
「残念ながら違います。青砥さんのことなんですが」
『青砥お? あいつがどうかしたのか?』
 手短に事情を話すと、芹沢は、電話口で爆笑した。
『災難だったなあ、えのもっちゃん。いや、悪い悪い、迷惑かけてるみたいで』
「……迷惑、とまでは言いませんが困っています。どうしたらいいでしょうか」
『青砥はえのもっちゃんの家に行きたいって言ってるんだろ? 明日は休みだし。連れて帰ってやってよ』
「芹沢さん。それは色々と問題があると思うのですが。こんな時間ですし」
『何で。えのもっちゃん、彼女と同棲でもしてんの?』
「いえ、一人暮らしですが……」
『じゃあ何の問題もないでしょうよ。今日は、青砥、合コンだったはずなんだよな』
「……はい? 合コン、ですか?」
『おう。秘書の水城君に誘われたらしい。めかしこんでるだろ?』
「はあ」
 言われてみれば、確かに今日の純子は普段のスーツ姿からは見違えるくらいに女性らしい格好をしている。
『きっと、何か嫌なことがあったんだろうなあ。んで、えのもっちゃんに助けを求めに来た、と。いやあ男冥利に尽きるねえ』
「あの、芹沢さん」
『というわけでよろしく』
 ぶちっ! と、無情にも通話は切られた。
 ため息をついて、純子を見下ろす。いやに静かだと思ったら、榎本にすがりつくような格好のまま、うたたねを始めていた。
「……恨みますよ、芹沢さん」
 腕時計で終電が去って行ったのを確認し、榎本は、タクシーを捕まえるべく、純子の身体を背負って歩き出した。

 何とか家に帰りついたときには、深夜の1時を回っていた。
 ソファに純子の身体を横たえる。このまま朝まで寝ていてくれれば、ある意味平和なのだが……と寝顔を見つめていると、榎本の思考を読んだのか、と言いたくなるタイミングで、ぱっちりと目を開けた。
「……えのもとさん」
「ご気分はいかがですか」
「あれ、わたし……あ!」
 がばっ! と身を起こす純子。その顔色を見る限り、酔いはかなり冷めているらしい。
「ここ……は……」
「僕の家です。青砥さんが、どうしても家には帰らない、僕の家に連れていけ、と言い張ったのですが、覚えておられますか?」
「……ご迷惑をおかけしました……」
 榎本の淡々とした言葉に、純子は気の毒なくらいの勢いでうなだれた。
 ため息を一つついて、水を差しだす。それを一息に飲み干すと、純子は、大きなため息をついた。
360プライドと駆け引き 3/5:2012/06/18(月) 22:03:56.37 ID:DZfKCNhg
「すみません。言い訳にしか聞こえないとは思いますが……事情を説明させて下さい」
「……どうぞ」
「実はわたし、今日、合コンだったんです。秘書の里奈ちゃんに誘われて……相手は、某大企業の社員さん達でした」
 その辺りの事情は、既に芹沢から聞いているが。口を挟むのはやめて、先を促す。
「感じのいい人達だったんです。結構盛り上がって、二次会をやろうって話になって……それで、向かいに座っていた男性と意気投合して、連絡先の交換とかしたんです」
「……はあ」
 榎本は合コンなる席には出たことが無いので状況がよくわからないが、とりあえず、純子が初対面の男性と仲良くなった、ということは理解できた。
「二次会のときも、ずーっといい雰囲気で……何なら二人でどこかへ、って話になって。わたしもお酒が入ってて、明日休みだしいいよ! って軽く答えて……それで、二次会を抜け出したんですけど……」
「…………」
 先の展開は全く予想がつかないが、不吉な予感しかしないのは何故だろうか。
 場合によっては、芹沢に連絡を入れて法的措置を取る必要があるのではないか、と、榎本が携帯を握りしめると。
「……振られたんです」
「はい?」
 唐突に展開が飛んで、握ったはずの携帯が、床に滑り落ちた。
「あの、青砥さん?」
「すっごくいい雰囲気だったんです! 肩とか抱かれて、今夜は帰したくない、とか囁かれて、そんなこと言われたら期待しちゃうじゃないですか!?
わたし、わたし、そういうの初めてで! 舞い上がっちゃって!」
「……その展開から、何故、振られる話になるんですか?」
「…………」
 榎本の言葉に、純子は涙目になってつぶやいた。
「……………………は嫌だって」
「はい?」
「…………じょは嫌だって」
「あの……すいません。よく聞き取れないんですが」
「だから!」
 榎本の言葉に、純子はがばっ! と顔を上げて叫んだ。
「処女は、嫌だって言われたんです」
「…………」
「面倒そうだ、って。いい年して処女とか信じられない、って」
「…………」
 言葉が出なかった。いや、突然こんな告白をされて、一体、何を言えと言うのか。
「だって向こうが聞いてきたんですよ!? 今まで彼氏とかいたことある? って。だから、無い、って正直に答えたんです。
そうしたらいきなり態度が変わって! うっそ、じゃあまさか処女とか? マジ? 信じられねえ、って! そんな言い方ありますか!?」
「……それは……ひどいですね……」
「ひどいでしょう!? 何でですか。何がいけないんですか!? わたしは弁護士を目指して、学生の頃は勉強勉強で彼氏を作る暇なんかなかったんです! それって悪いことですか!?」
「立派なことだと思いますが」
「そうでしょう!? 頑張ったんですよ! 今まで散々頑張って来て、やっと夢が叶って! これから学生時代の分まで恋愛を楽しもうって思ってたのに……何で、こんなこと言われなきゃいけないんですか……」
「…………」
361プライドと駆け引き 4/5:2012/06/18(月) 22:04:49.82 ID:DZfKCNhg
 純子が受けた仕打ちには心から同情するが。だからと言って、榎本に何を言えというのか。やはり芹沢に迎えに来てもらうか。
 取り落とした携帯を拾い、リダイヤルボタンに指を伸ばす。その瞬間、純子の手が伸びて、榎本の手首をつかんだ。
「榎本さん」
「……はい」
「正直に聞かせて下さい。榎本さんもそうですか」
「そう、とは?」
「榎本さんも、処女は嫌ですか。26歳にもなって処女って、引きますか」
「…………」
 これまでも色々と答えにくい質問はされてきたが、これほどまでに答えにくい質問が他にあっただろうか。
「……そうですね。人の考えはそれぞれなので、僕には何とも」
「一般論を聞いているんじゃありません。榎本さんはどうですか、って聞いてるんです」
「…………」
「というか、榎本さんは今、おいくつでしたっけ?」
「……30ですが」
「そうですか。榎本さんは経験ありますか?」
「…………」
 何故、自分がこんな目に合わなければならないのか?
 生憎、榎本を助けてくれそうな人間はこの場にはいない。
「……まあ、それなりに」
「あるんですか!?」
 自分で聞いておきながら何故そこまで驚く、というツッコミは心の中に留めて。榎本は静かに純子を振り払った。
「青砥さん。多分、あなたはまだお酒が残っていて、正常な思考ができていないんだと思います。今晩は泊まっていただいて結構ですから、まずはゆっくり休息を取ってください。お話は明日うかがいますから」
「嫌です」
「…………」
「だって、榎本さんはまだわたしの質問に答えてくれていません」
「……あの」
「榎本さんも処女は嫌ですか。正直に答えてください」
「…………」
 答えるしかないようだった。
「……それを理由に嫌う、という考えは、僕には理解しかねます。相手に好意を抱くのに、経験の有無は関係ないと思いますが」
「…………」
 榎本の言葉に、純子はうつむいた。その目に新たな涙が浮いているように見えるのは、榎本の気のせいだろうか。
「青砥さん?」
「榎本さん」
 視線がぶつかった。
 きっ! と顔を上げる純子の顔には、決意の色が浮かんでいた。
「わたしを抱いて下さい」
「……はい?」
「処女でも構わないって、おっしゃってくれましたよね? じゃあ、わたしを抱いて下さい」
「あの……青砥さん」
「嫌ですか」
「嫌とかそういう問題ではなくてですね。何故、そんな話になるのかが理解しかねるのですが」
「わたしを女にしてください……」
362プライドと駆け引き 5/5:2012/06/18(月) 22:05:28.91 ID:DZfKCNhg
 ぐすん、としゃくりあげて。純子は、両手で顔を覆った。
「わたし、わからないんです。弁護士になるまでは、恋愛とか、そういうのは我慢しようって、ずっと今までやって来ました。やっと夢が叶ったのに、いざ恋愛を楽しもうって思っても、どうすればいいのかわからないんです」
「……青砥さん」
「今日、こっぴどく振られちゃって……一人でいたくなくて、誰かに話を聞いて欲しいって思ったとき、真っ先に榎本さんの顔が浮かんだんです」
「はい?」
「こんな時間だから、もう帰ってるに決まってるって思ったのに……気が付いたら榎本さんのオフィスに向かってて……本当に会えると思わなかったからびっくりして。でもすごく嬉しかったんです」
「…………」
「これって、恋愛感情じゃないんでしょうか? わたし、榎本さんのこと好きです。会いたいって思ってます。……どう思われますか?」
「僕に聞かれましても」
 話が唐突過ぎてついていけないというのが榎本の正直な感想だった。
 当たり前だ。合コンで初対面の男といい感じになりました、と告白され、その直後に実は好きだと言われても、素直に「はいそうですか」などと頷けるわけがない。
「青砥さんは、今、混乱されているんでしょう。いいですか、まずはゆっくり休んでください。話はその後でも遅くありません。ベッドを使っていただいて結構ですから」
「榎本さんっ」
 ぎゅっ、と袖を握られた。
 視線を落とすと、すがるような視線がぶつかった。
「……駄目ですか」
「…………」
「やっぱり、わたし、駄目ですか……女としての魅力なんか、全然ないですか……?」
「…………」
 そっと純子の手を振り払う。ぐらつく理性を総動員して、視線をそらす。
「……もし、本気でおっしゃっているのでしたら、服を脱いでいただけますか」
「え?」
「後になって、強姦罪に問われたくはありません。もし本気でおっしゃっているのでしたら、青砥さんが自分で服を脱いでください。僕の前で裸になれますか?」
「…………」
 さすがに、これだけ言えば諦めるだろう、と、ため息をついて。榎本は、視線をそらした。
 純子は混乱している。今は勢いで突っ走ろうとしているが、落ち着いて考えれば、自分がいかにとんでもないことをしようとしていたかに気付くだろう。酔いも残っているようだし、まずはゆっくり休ませよう。
 もう一杯水を飲ませた方がいいだろうか、と、榎本が台所へ視線を向けたそのときだった。

 ――ばさりっ。

「――これでいいですか?」
 衣擦れの音に、振り返る。
 目の前の光景が信じられなかった。……が。錯覚というには、あまりにもリアルに過ぎた。
「これで……いいですか?」
「…………」
 ソファの上に放り出されたワンピースと、下着。
 一糸まとわぬ姿になった純子から目をそらすことができず。榎本の身体は完全に硬直していた。

〜〜続く〜〜
363名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 22:07:08.46 ID:DZfKCNhg
すいません、本日はここまで
エロが後編に持ち越しになってすみません。
続きも近日中にあげます。
最終回で榎本と純子の仲が少しでも進展してくれることを祈ってます。
364名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 22:08:40.45 ID:EbzR0E2K
>>363
乙です!!
本編終わってすぐに新作読めて嬉しい!
続き(エロ)も楽しみにしてます!!
365名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 22:23:44.22 ID:avNbDc8d
きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
続き待ちどおしすぎます!!
366名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 22:33:27.44 ID:OEsTbeQY
>>363
乙です!!
続きとっても楽しみです。

それから職人の皆々様、ドラマ終わっても書き続けてくださいね。
367名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 22:42:16.44 ID:ErThRBOg
>>363
乙です。続き楽しみにしていますよ
>>366
頑張って「ゲゲゲの女房」のエロパロスレぐらい続けたいね
368名無しさん@ピンキー:2012/06/18(月) 23:19:54.61 ID:bDALR5bR
書き手の皆さんGJです

来週最終回なんて寂しすぎる、来週の今頃のことを思うと・・・
放送が終わるとスレから人が減ってしまうんだよね、仕方ないけど
少しでもこの賑わいが続きますように
369名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 01:17:56.24 ID:kHGi8Wiw
ちょこちょこ、榎本×青砥を挟むなんて罪作りな脚本家だ。
今回もはあはあさせてもらいました。
そんなrom専が興奮して投下しちゃっていいですか?

9回の地下室のあたり二人でいたシーンから妄想です。
370鍵のある部屋ss:2012/06/19(火) 01:26:43.94 ID:kHGi8Wiw
『そういえばどうしました。あの幻のお酒?』
青砥はいつも唐突だ。
『飲みました』
『一人で?!』
『はい』
『飲むんだったら誘ってくれればよかったのに〜』
『飲んだら賄賂を受け取ったことになるんではないですか?』
手元を見つめていた視線を上げる。
目を合わせた瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。
すぐに目を伏せるが、彼女がびっくりしているのが手に取るようにわかった。
手が触れそうなほど彼女との距離は近い。

青砥がこの地下室に来るたびに、自分との距離が近くなってるのを感じる。
無意識なのか、自分に気があるのか。
「賄賂以前に、誘ったら青砥さんは飲みにこられるんでしょうか?」
意地の悪い質問だろうか?
彼女といるとぞくりと心の隅に閉じ込めている、意地の悪い部分が刺激されてしまう。とうの昔に鍵をかけてしまったはずの自分の心がざわめいてしまう。
「もちろん!行きますよ!その代わり、芹沢さんには内緒ですよ。幻のお酒なんてめったに飲めないじゃないですか?」
そう言う意味じゃない。含みのある質問は青砥には通じないのだろうか?
それとも自分は男として見られてないのだろうか。
ざわり。
また、心がざわめく。
「そういった意味ではありません。仮にも男の部屋にお酒を飲みに行くということは、それ以上の行為に繋がると受け取られる可能性が大きいです。そもそも、防犯とは鍵やカメラをつける前に自分自身が犯罪に巻きこまれないようにするためにしなけれ」
「わかってますっ。わかってるから言ったんですよ」
「そうですか。それならあまり男の部屋に行くなどは言わない方がいいと思います」
勘違いされてしまいますよ。
とは、さすがに言うことは出来なかった。青砥が誤解することはないと思うが、自分にも下心があるなんて思われたくなかった。
この閉鎖された地下室に、彼女から漂う甘い香りが少しづつ自分を惑わしている。
「わかってます。わかってないのは、榎本さんのほうです。私はそんなに誰の部屋でも行くような軽い女ではありません。それに、下心があるのは男だけじゃありませんからね」
遺留品を触っていた手を止める。
目を上げると青砥が真っ赤な顔をしてそっぽを向いている。
「私は。私は・・・あの・・・」
「幻の酒。本当はまだあるんです。青砥さん、飲みに来られませんか?」
その先の言葉をさえぎる。
耳まで真っ赤にした青砥を見れば自分に好意を寄せているのがわかる。

・・・・・カチャリ。

いくら頑丈に錠をかけても鍵を持っていたら意味がない。
密室にはならない・・・。
そう、自分が先日言ったばかりだ。
371名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 15:07:15.01 ID:QzKkhEEQ
書き手さんまとめてGJ!!
来週で終わるのが寂しい


榎本と純子がそろそろ体の関係になりそうって時に
純子が「経験ないので榎本さんリードして下さい」と言い「わかりました」って言っちゃう榎本
でも榎本も経験ゼロでどうしようと悩み芹沢にそれとなく相談するものの、それを純子にチクる芹沢
…という夢を見たのさ
372名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 15:10:14.88 ID:9ApV+HQe
最後のエレベーターが閉まるところの榎本が中高生の美少年にしかみえない。
中高生の美少年榎本が電車で痴漢にあって喘いじゃうところ読みたい。
それか学校で屈強な悪い男子に襲われちゃうところでもいい。
373名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 17:36:38.15 ID:kXrRxT1Z
みんなおつ
374名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 19:23:16.56 ID:rQef0AgB
>>369
投下終わったら終わりとかつけてよ続くかと思うじゃないか
375名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 19:43:29.89 ID:BAomjXhk
書き手さんたち乙です。
376名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 20:00:41.99 ID:rjHHosIP
基本的に10レス以内でSS終わらせた方がよりGJモノだよ
377363:2012/06/19(火) 20:56:36.54 ID:JQvbUmIE
コメントくださった皆様、ありがとうございます。

>>358->>362

の続きをアップします。
すいません。かなり長くなってしまいました。
10レス以内におさめられなくて申し訳ありません。
378プライドと駆け引き 6:2012/06/19(火) 20:57:43.99 ID:JQvbUmIE
 純子は震えていた。恐らく、寒さのせいではないだろう。
 着やせ、という言葉があるが、それは純子にはあてはまらなかったらしい。服の上から想像していた通りのラインを描く身体は、あまりにも華奢で、女性らしい丸みや柔らかさ、色気と言ったものは感じられない。
 だが、素直に綺麗だと思った。
 傷一つない、抜けるように白い肌。誰も足を踏み入れたことのない雪原を処女雪、などと表現する場合があるが、純子の身体はまさにそう呼ぶにふさわしい。
 ――などと現実逃避をしてみるが。目の前の光景は消えてなくなりはしなかった。
「青砥さん」
「…………」
 怯えて、「やっぱり無理です」としゃがみこんで泣き出す……というような展開を想像してみたが、それも現実にはならなかった。
 純子はうつむいてはいたが、決して泣いてはいなかった。色白な頬は真っ赤に染まり、羞恥心は感じているようだが。腕は腹の辺りで軽く組まれているだけで、胸も、下半身も、隠そうとはしていない。
 ――さりげなく羽織っているカーディガンの裾を下ろして己の下半身を隠しにかかった榎本の行動を責められる者は誰もいないだろう。
 一歩、踏み出す。続いて二歩目。榎本が近づいてくるのはわかっているはずだが、純子は逃げようとはしなかった。
 さらに数歩。手を伸ばせば触れられる位置まで来たところで、足を止める。
 手を伸ばす。普段とは違い、ゆるく巻かれて肩に垂らされている髪を、そっとかきあげた。
「――青砥さん」
 顔を近づける。耳元で囁きかけると、純子の身体が、びくりと震えた。
「いいんですか?」
「……はい」
「僕も男ですので。一度始めてしまったら、もう止められません。今なら、まだ逃げられます。――いいんですか?」
「…………」
 こくり、と小さく頷かれる。一体、何故そこまでムキになるのか。処女を馬鹿にされたことが余程悔しかったのか。
「初めての相手が僕なんかで、いいんですか」
 最後の駄目押しのつもりで言うと。純子は、悩むそぶりもなく言い返した。
「『なんか』じゃないです」
「はい?」
「榎本さんは……なんか、じゃ、ないです」
「…………」
 かりっ、と、純子の耳たぶを軽く甘噛みする。
 ひゃっ! という小さな悲鳴と、わかりやすく震える身体。初々しい反応が――そそる。
「ベッドに行きましょうか?」
 そう囁くと。純子は、真っ赤になってこくりと頷いた。

 日頃自分が寝ているベッドに、裸の純子が横たわっている――という、実に斬新な状況下。
 榎本は、上半身裸の状態で、ベッドに腰掛けていた。
 さすがにここまで来たら引くに引けないだろう、と覚悟を決めたはいいが。重要なことを忘れていた。
「……榎本さん?」
「青砥さん。一つ、お聞きしていいですか」
「はい?」
「前回の生理はいつ終わりましたか」
 聞いた途端に枕がとんできた。大切なことだと言うのに、何という仕打ちをするのか。
379プライドと駆け引き 7:2012/06/19(火) 20:58:23.44 ID:JQvbUmIE
「な、な、なっ……いきなり何を!」
「あなたのためを思って聞いているのですが……聞き方を変えます。――安全日ですか?」
「――あ」
 その言葉には、さすがの純子も黙り込んだ。榎本の言いたいことが、わかったらしい。
「……持ってないんですか、榎本さん」
「何故、持っていると思われていたのかが理解できないんですが」
「――それなりに経験はある、って言っておられたから。彼女さんとかが、いたこともあるんだろうって。だったら――」
「…………」
 確かに、あんな言い方をしたら、そんな誤解を受けるのは致し方のないことだろう。
「かなり昔の話です。学生時代ですから。当時の悪友に付き合わされて、そういった店に――ああいうところは、その手の道具は常備してありますから。自分で買ったことはありません。ついでに、特定の彼女、と呼べる相手がいたことも、ありません」
「……そうなんですか」
 その言葉に、純子はほころぶような笑みを浮かべた。何故、そんなに幸せそうなのかは、わからないが。
「大丈夫です。わたし、ピルを飲んでますから」
「そうなんですか?」
「違いますよっ!? 飲んでると、周期が安定するから楽なんですっ! 別に、その、そういう目的で飲んでるわけじゃないですからっ!」
 あたふたと焦る様子が可愛らしいというか、微笑ましい。
「だから……その、なくても大丈夫です。お願い、します」
「……了解しました」
 全くもって、合コンで純子をこっぴどく振ったという男の心理が理解できなかった。
 普段は、地味で隙のないスーツを着ているから目立たないが――素顔の純子は、こんなにも愛らしい女性だというのに。
 さっ、と立ち上がり、ベッドに上がる。純子の身体にのしかかり、両手で肩を押さえると、小さな震えが伝わってきた。
「怖いですか?」
「……榎本さんは怖くないです」
 健気な返事に、笑みがこぼれた。もっとも、それはほんのわずかなものでしかなかったが。
 すっと唇を重ねる。ファーストキスかどうか、は……多分、聞かない方がいいだろう。
「――キスのやり方から、始めた方がいいですか?」
「…………」
 小さく頷く純子の顎をつかんで、もう一度、深く口づける。
 舌先で唇を割り開く。微かに開かれた瞬間、内部に滑り込ませると、怯えるように、唇が閉ざされた。
 ――逃がさない。
 顎をつかむ手に軽く力をこめる。縮こまる舌を強引に絡め取り、口腔内を思う存分蹂躙した。
 徐々に、純子の身体から力が抜けて行った。溢れた唾液が、唇の端からこぼれ落ちるのを丁寧になめとって、解放すると。真っ赤に火照った頬が、目に入った。
「どうですか」
「――お、驚き、ました」
 荒い吐息の中でつぶやかれる言葉には、嫌悪の色は全くなかった。
「キスって……こんなに、気持ちいいものなんですか?」
「――そうですね」
 誇れるほど経験豊富なわけではないので、問われても困るが。純子に快楽を与えられた、ということは、十分に伝わってきた。
 この程度で満足されても困るが。
 指先で頬をくすぐった後、徐々にその指を下へ下へと滑らせていく。顎から首、首から鎖骨――
 触れるたびにびく、びくと震える身体と、自然に閉じられるまぶた。そっと額にキスした後、指先で、胸を弾いた。
380プライドと駆け引き 8:2012/06/19(火) 20:58:58.71 ID:JQvbUmIE
「ひっ――」
 過敏な反応が面白くて、二度、三度と指を動かす。執拗に攻めているうちに、純子の唇から、悩ましい声が漏れ始めた。
「……どうですか?」
「何か、変な感じ、ですっ……」
 変――まあ、初めての感想なら、そうなるのだろうか。
 手を止め、代わりに唇で胸の頂きをふくんでみた。舌先で転がすと、華奢な身体のどこに――と言いたくなるような力で抵抗された。
 とっさに片手で純子の両手首をつかみあげて、布団に押し付ける。抵抗を封じられた瞬間、純子の表情にかすかに走ったのは、怯え。
 けれど、それは罪悪感よりは嗜虐心を煽るような弱いもので。それだけに――止められなく、なった。
「青砥さん」
「――はい」
「わかりますか? ……固くなってきているのが」
 もう片方の手で胸を包み込み、力を入れる。
 白い肌に赤みが走る――そのままゆっくりともみしだくと、手のひらに感じる突起が、尖っていくのがわかった。
「これが、感じている、ということなんですが――経験はありますか?」
「…………」
 わかりません、という微かなつぶやき声。
 処女だ、と自分で宣言していたが。恐らく、自慰行為すらも、未経験なのだろう。性行為に全く慣れていない身体は――しかし、開発のしがいがある、と言うべきだろう。
 首筋に唇を押し付けて、強く吸い上げた。毒々しい赤い跡をいくつか散らしながら、上半身に手を滑らせていく。
 自然と開かれる両脚の間に、片脚を割り込ませた。そのまま下半身に膝を押し付けると、湿った感触が伝わってきた。
 ――濡れてきている。
 誰も触れたことのない身体は、相応に敏感だったらしい。経験値の低い榎本の愛撫にも、純子はしっかり感じているようだった。
 小刻みに揺れる膝が、榎本の太ももに押し付けられる。言葉にはならなくても、自分を欲していることは、十分に伝わってきた。
 ――そんなに、あっさりとは終わらせてあげません。
 両手首の戒めを解いて、両手で上半身を抱き起こす。駄目押しのように唇を重ねると、自ら舌を差し入れて来た。
 ぎこちなく絡められる舌を堪能しながら、両手を背中に滑らせる。滑らかなラインを辿っていると、「やぁっ!」という小さな悲鳴が漏れた。
「え、えのもと、さん」
「――静かに」
 涙目になる純子を一瞥した後、その身体を突き放す。
 強引に身体をひっくり返してうつぶせにすると、「ひっ!」という悲鳴が響いた。
「あ、え、榎本さん」
「静かに、と言ったはずです」
 耳元で囁いて、もう一度、両肩を押さえ込む。
 そのまま背中に口づけると、高い悲鳴……喘ぎ声? が響いた。
 ……隣室に聞こえたか……まあ、面識もない相手だ。気にする必要はないだろう。
381プライドと駆け引き 9:2012/06/19(火) 20:59:38.90 ID:JQvbUmIE
「あ、あ、あっ……やっ! やだっ……」
「背中が弱いみたいですね……青砥さん。大分、ほぐれてきているようですが……大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃないです……」
 囁きに応じる声は完全な涙声になっていた。
「何だか変です。すごく……うずうずする、って言うんでしょうか? 熱い、です……」
「そうですか。どうして欲しいですか?」
「うーっ……榎本さんて、い、意地悪な人、なんですねっ……」
 自然と、純子の尻があがっていった。
 膝をつくような形で腰が持ち上がる。どうして欲しいか、など、一目瞭然だが。どうせなら、純子の口から言わせてみたい。悪趣味だ、と言われそうだが――これまでに経験した、いわゆるプロの女性と違って。処女を相手にしたのは榎本も初めてで、加減がわからない。
 どうせなら、相手の求めに応じてあげたい。良かった、と思える経験にしてあげたい。この思いは意地悪なのだろうか?
「青砥さん?」
「……このままは嫌です」
「はい?」
「こ、この格好は、嫌です。恥ずかしいし……それに」
 ちらり、と、恨めし気な視線が向けられた。
「榎本さんの顔が、見れないから……寂しいです」
「…………」
 その言葉は反則だろう、と胸中でつぶやいて。榎本は、邪魔な眼鏡を外すと、傍らの机に放りだした。
 レンズ一枚も間には挟みたくなかった。今の純子を前に、余計なフィルターは通したくない。
 うつぶせにしたときの強引さとは裏腹に、優しい手つきで純子を抱き起す。そっと仰向けに寝かせると、ホッとしたような笑みを向けられた。
 投げ出された手足からは力が抜けて、肌がうっすらとピンクがかっている。漏れる吐息は荒く、熱い。
「榎本、さん」
「綺麗ですよ、青砥さん。とても」
 声音はいつもと変わらぬ淡々としたものに響いただろうが。まぎれもない本心だった。
 自然と開く脚の間に指を滑らせる。指を内部に潜り込ませれば、驚くほど大きな水音が響き渡った。
 しばらく無心で指を躍らせる。滴り落ちた滴がシーツに大きな染みを作っていった。
「ひんっ……え、えのもとさあん……」
「……すごいですね」
 正直な感想が漏れた。
「こんなに、濡れるものなんですね」
「ま、真面目に言わないでくださいよっ! 恥ずかしいの……すっごく恥ずかしいの、我慢してるんですよっ……」
「僕も我慢してますよ、ずっと」
 本当は、一分一秒でも早く思いを遂げてしまいたいけれど。痛い思いはさせたくないと、ここまで堪えてきた。
 この辛さは、女性である純子にはわかるまい。
「でも、さすがにもう限界です……いいですか?」
「…………」
 こくり、と小さく頷かれた。
「痛いかもしれませんが……少しだけ、我慢してください。なるべく、力を抜いて……いいですか?」
「はい。お願い、します」
 ぎゅっ、と唇をかみしめる純子の頬に、キスを落として。
 静かに、挿入を開始した。
382プライドと駆け引き 10:2012/06/19(火) 21:00:22.64 ID:JQvbUmIE
「っ――いっ……」
「痛いですか?」
「…………」
 ぶんぶんと首を振られた。我慢しているのは明らかだが、やめてくれ、と言うつもりはないらしい。
 十分に濡れていても、やはりその場所は固く狭い。だが、閉ざされた場所を開くのは榎本の本分でもある。
 一気に貫くような真似はせず、緩やかに腰を動かす。進めては引く――を繰り返しているうちに、徐々に榎本のソレが内部に呑みこまれていった。
 ある程度まで進めたところで、一気に最奥部に突入した。「――あっ!」という小さな悲鳴には頓着せず、そのまま、しばらく動きを止める。
 正直に言えば一瞬でイかなかった自分を褒めてやりたかった。それくらいに――気持ちよかった。
 生で挿入している、というのもあるだろう。処女特有の締め付けのきつさもあるだろう。それ以上に、純子が悦んでくれているのが伝わってきた。
「榎本さん……榎本さあん……」
 純子の両腕が榎本の首に回され、そのまますがりつかれた。
 耳元で囁かれる。嬉しいです、と――
 僕も、と囁き返せば。ほころぶような笑みを向けられた。
 何故、純子はこんな笑みを浮かべるのか――ヤケになって身体を投げ出したのではなかったのか。悔しかったから。それだけではなかったのか?
 小さな疑問が渦巻いたが、襲ってくる快楽の前にすぐさまふっとんだ。
 ただ、無心で腰を動かした。きしむスプリングの音をバックに聞きながら、ただひたすら、純子の身体を求めていた。
 最後の瞬間――一滴残らず搾り取る勢いで締め付けられたとき。
 内部に熱い精を放ちながら、榎本は、純子の顔だけを見ていた。
 笑顔を浮かべながら泣いている純子の顔を、ずっと、見つめていた。

 全てが終わった後、そろりと純子から身を離す。
 服装を整えながらシーツに目をやると、赤い痕が点々と残っているのが目に入った。
 ――本当に、処女だったんですか――
 疑っていたわけではないが、改めて見ると、罪悪感が襲ってきた。
 恋人でもない自分が、純子の初めてを奪ってしまってよかったのか? いくら相手から求められたから、とは言え――
「青砥さん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃないです」
 蚊の鳴くような声で返された。
「痛くて、だるいです」
「……すいません。優しくできなくて」
「な! 何言ってるんですかっ! 優しかったですよ……榎本さん、すっごく優しかったですよ! 何で、謝るんですか?」
「いや、でも」
383プライドと駆け引き 11:2012/06/19(火) 21:01:01.25 ID:JQvbUmIE
 がばっ! と身を起こす純子の顔が、思ったよりも近くて思わずのけぞった。逃げようとする榎本の腕をつかんで、純子は、囁いた。
「ありがとう、ございます」
「…………」
「わたしのわがままを聞いて下さって、本当にっ……」
「いえ、僕は」
「わたしは!」
 服をリビングに置いてきたため、純子はいまだに裸だった。あちこちに残る自分がつけた印を直視できず、榎本がそっと視線をそらすと。
「わたしはっ……やっぱり、榎本さんが、好きです」
「……はい?」
「合コンで、いい感じになって……肩とか抱かれて浮かれて……でも、頭の中で、自然に比べちゃってる自分に気付きました。榎本さんだったらこんなに強引にしない、とか。榎本さんだったらもっとわたしの言うことちゃんと聞いてくれるのに、とか」
「…………」
「恋人いたことある? って聞かれて。いないって言いながら、榎本さんは、まだ恋人とは言えないよなあ、とか……そんなこと考えてたんです。図々しいですよね。まだ、なんて」
「……青砥さん」
「いたことない、って言って、酷いこと言われてすごく傷ついたけど。でも、榎本さんに会えたとき、思ったんです。振られてよかった、って。振られたから榎本さんに会えた、って……」
 ごめんなさい、迷惑ですよね、と泣く純子の姿が、痛々しい。
 胸が締め付けられるような思いを味わった。自分に身体を投げ出しながら、そんな思いを抱いてくれていたなんて、ちっとも気づかなかった――本当に、自分は人の心がわからないのだ、と。自己嫌悪を覚えた。
「――迷惑、とは思っていませんから」
「……え?」
「迷惑じゃ、ないですよ。青砥さん」

 あなたは変わった人です、本当に。
 こんなにも可愛くて愛らしくて――それでいて、優秀で、優しくて。その気になれば、引く手あまたでしょうに。
 どうして、僕なんかを選んでくれたんですか?

「僕も好きですよ、あなたのことが」
 住む世界が違う人だから、と、ずっと戒めてきました。あなたを好きになってはいけないんだ、と――あなたの迷惑になるから、と。
 でも、すみません。もう止められません。
「こんなきっかけでも、よろしかったでしょうか?」
「――どんなきっかけでもいいですよ。初恋が、実るんです。贅沢は言いません」
 笑う純子の身体を抱きしめて、もう一度、ベッドに押し倒した。
 今度は僕から言わせてください。あなたを抱きたいんです、と――

〜〜END〜〜
384363:2012/06/19(火) 21:01:58.10 ID:JQvbUmIE
終わりです。
長々と失礼しました。
読み手に戻ります。
385名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 21:08:28.80 ID:mI4Ltp5q
書き手の皆さん、GJです!! とにかく早っ‼
自分投下した時は、下書きだけで何日もかかりましたよ〜。
でも、妄想は止まらない。がんばります。
386名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 21:50:36.80 ID:D4JuCA4i
なんか急に書き込み無くなったね
387名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 22:14:28.00 ID:GnFeXzfx
エロパロ板では一二を争うくらい活況なスレなのに内を言ってるんだ
388名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 22:15:14.80 ID:rjHHosIP
>>384
面白かったよ、GJ!

1レスには1140文字まで入るはずで
およそ400字詰め原稿用紙の3枚分から3行分引いた文字ね
それを目安にして書くと纏まりやすいよ
389名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 22:52:10.31 ID:sHA0pbAx
>>376=388?
何で10レス以内におさめなきゃいけないの?
自分はストーリーがしっかりしてて読みごたえある作品が好きだから、長い作品でも全然OKだし
ちゃんと完結してくれるなら、分割投下も楽しみが増えて嬉しいって思うんだけど。
どっちが好きかは人それぞれでしょ。
よりGJって、何、勝手に書き手さんに優劣つけてるの?
面白い作品を投下してくれる書き手さんはみんなGJでしょ
390名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 22:59:33.51 ID:kHGi8Wiw
面白かったです。
みんなすごいですね。榎×青で頭がいっぱいです。


読んだり妄想したりするのは簡単なのに、文に起こすのは難しいですね。
391名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 23:13:39.31 ID:0f74wAc3
書き手にやたら媚び媚びして、読み手のGJする順番にあれこれ言うのもどうかと思うけど、
書き手への敬意もそこそこにレス数やら何やら細かく指定するのもどうかと思うよ

こういう書き込みするとスレの雰囲気悪くなるからしたくないけど・・・
スレの進行が速い=人が多いからいろんな人がいるんだと思うしかないのかな
392名無しさん@ピンキー:2012/06/19(火) 23:45:40.00 ID:XnRSS3WC
>>384
続き待ってました!!凄くGJです!!
読みながらドキドキが止まりませんでしたよ。。。

SSを10レス以内におさめなきゃいけないなんていうルールはどこにもないから、
謝る必要なんてないですよ。
393名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 00:21:13.89 ID:rm0YYxQV
自分もたっぷりじっくり読みたいタイプだから、長いのは平気。

>>384
いやーGJでしたよ。続きまってた。
ほんと、はじめてのときこんな風に抱かれたら幸せだなーって思った。
394名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 02:50:28.82 ID:SkWtRO9q
先に注意書きさせてください。
オモチャバコ書いた者です。投下しますが、前作が合わなかった方、スルーしてください。
これは前編です。まとめて読みたい方は最終の時点でアンカつけますので今回はスルーしてください。
前編にエロはありません。
コメントに対する返レスも注意されたので控えます。ここのルールが解っていなくてすみません。
395Paranoia 1:2012/06/20(水) 02:54:52.60 ID:SkWtRO9q
イライラする。
イライラする。
イライラする。

ここ最近、もうずっと。夕方が近づくと、イライラする----------終業の時間になると、胃までジリジリ痛くなる。
原因はわかっている。青砥純子、あの人のせいだ。
頻繁にやってくるが、一体いつくるのかわからない。仕事を終えてからくるから何時に来るかもわからない。
今まで、この地下倉庫に籠るようになってから、こんなにも頭をかき乱されたことはない。
その理由もわかっている。

僕自身が、彼女を待ってしまっているからだ。

もう誰も信じないと、そう決めていたのに。
人を信じるなんて愚かなことだ。裏切られるとわかっているのに、わざわざ自分で自分を傷つけに行っているようなものだと。
ただ一度だけ、密室事件を解決したらそれで終わり。彼女との関わりは消え、それきりだと、そう思っていたのに。
昔、何度か関わった悪戯仲間の会田に相談を持ちかけられ、自分で思い当たる弁護士という職業の人物が彼女しかいなかった。
そして彼女の持ち込む密室事件に関わっているうちに、いつのまにか用事がなくてもここへ来るようになっていた。

こんなはずじゃなかった。
もう、誰とも深く関わらない。
関わりたくない。
しかし相反して僕は彼女を待ってしまっている。なんとかしなくてはならない。なんとかしなくては---------

「え・の・も・と・さんっ♪」
純子はノックもせずに地下倉庫室のドアを開けた。上半身を傾けて、部屋の中を覗き込む。奥のテーブルに向って座る、姿勢のよいカーディガンを視界にとらえて嬉しそうに笑った。
「聞いて下さいよ〜! 芹沢さんたら今日のクライアントがすんっごい美人だったからって、なんだか鼻の下伸ばしちゃって、守秘義務の個人情報うっかりしゃべっちゃうところだったんですよぉ。
私にはいつも”弁護らしく毅然としろ!”とか”弁護士が確証もないのに無責任な発言は慎め!”なんて偉そうに言ってるのに… 榎本さん聞いてます?」
歩きながら既に話し始めて、径の目の前に来るころにはひとしきり言い終わっていた。
「…はい」
もはや手に付いてなかったピッキングの工具をテーブルに置いた。
「こんばんは、榎本さん。」
今頃挨拶をして、いつもの笑顔で径を見る。そのまっすぐな視線から逃げるように目を泳がせる。
「…どうも。」
「そうだこれっ。買ってきたのでよかったら食べませんか?それに胃腸薬も買ってきたんです。最近、胃の辺りをさすっていたでしょう?調子悪いのかと思って…」
と、黄色い箱に入ったカロリーメイトと青い箱に入った痛み止めの胃薬を径の前に差し出した。
「調子悪いからって、ちゃんと食べなくっちゃ駄目ですよ!そういうときこそ、効率よく栄養とらなきゃだめなんです。榎本さん、ただでさえ小さいんだから食べないともっと小さくなっちゃいますよ!」

…気遣いの中に、悪気のないトゲが混ざりこんでいる。
いつものことだった。
彼女には邪気がない。ただ純真な心で僕に接してくれている。だからこそ深く考え切れてなくて、言葉のアチラコチラにちいさなトゲが混ざりこむ。
その小さなトゲを、心地よく感じるようになったのは一体いつからだったのか。
いままで独りでいることを全く苦に感じなかったのに----------いや、初めは、確かに辛かった。しかし人間とは慣れる生き物で、もうここ一・二年は独りでいること自体が自分にとっての自然な姿になっていた。
でも今ではどうだ。
396Paranoia 2:2012/06/20(水) 02:56:07.28 ID:SkWtRO9q

径はテーブルに置かれた二つの小さな箱を、瞬きもせずに暗い目で見つめている。
「う〜ん、あんまりこういうの、好きじゃないですか?」
「…」
「…」
暫く、純子もテーブルに置かれた二つの箱を見つめていたが。
「…榎本さん。」
「はい、何でしょう。」
「帰りましょう、一緒に。」
「はい。」
「私の家に、行きましょう。」
「…はい?」
純子の話は大抵の場合、聞いて適当な相槌をついていればいいような話ばかりだったので、径もいつもの調子で返事をしていたがどうやら話の風向きがおかしい。
顔を上げて純子をみると、真剣な表情でウンウン、ウンウンと力強く頷いている。
「…僕の胃の調子が悪いことと、僕が青砥さんの家に行くことに一体どんな関係があるんですか」

どう考えてみてもさらに悪化して、胃に穴が空いて血反吐を吐くに違いないのに。
あくまで心理上の話だが。

「どうせろくなもの食べてないんじゃないですか?上手じゃないですけど、何かお腹にやさしいもの作ってあげます。大丈夫です、今日はこの間みたいに長い時間はドアの前でおまたせしませんから」
「…」
「ねっ」
「…」
「ねっ」
「…わかりました。青砥さんのお宅に伺います」
径は純子をみてちょっとだけ、ほんのちょっとだけほほ笑んだ。それを見て、純子は満面の笑顔になっ

予定通り、ドアの前で10分弱待たされた。
その間、暇を持て余した径はフロアの窓やら非常階段やら、防犯設備を見て回った。そして、どうしたらこの苦しい状況から抜け出せるか、指を擦りながら思いを巡らせた。

そして、至極簡単な答えに辿り着く。
----------彼女に、嫌われてしまえばいいのだ。
何か、彼女の嫌がることをする。とんでもないことをしでかせばいいのだ。
それで終わりだ。
青砥さんは、二度とあの地下倉庫にくることはないだろう。そして僕は元通りの平穏を取り戻す----------心が波立つこともない、あの静かで自由な空間を。

お待たせしました、とドアの陰からひょこっと顔を覗かせた純子の笑顔はなんだか照れ臭そうだった。その顔をみて、径の胸がトクンと鳴った。
それをかき消すように、生唾を飲み込む。

うまくやれるだろうか。
女性とろくに手も繋いだこともないこの僕に。
397Paranoia 2:2012/06/20(水) 02:56:58.40 ID:SkWtRO9q
「どうですか?お口に合います?本見ながら作ったので、それほど変な味はしないと思うんですけど。」
純子が出したのはシチュー皿に載せられたリゾットだった。なにやら野菜が小さく刻んで入っている。
少しづつスプーンですくって口に運ぶ。
「…おいしいです」
純子は零れんばかりの笑顔で、肩を上げて大きな溜息をついた。
「ハァー良かった!たくさん食べてくださいね!」
「…はい」

嘘だ。
本当は、何の味もしなかった。まるで、砂を噛んでるようだった。
つい先日、長野の民家で一緒に食べたご飯はおいしく食べられたのに。
あの時はまだ、密室の謎を解くことに集中していられたのに。夜遅くまで、二人きりで密室の謎を話し合っていても、何の違和感もなかったのに。
---------どうして、気づいてしまったのか…

半分程食べたところで、径のスプーンが止まった。
ちょっとづつ食べていたので純子はすでに自分の分を食べ終え、お茶の入ったピッチャーを冷蔵庫から出してきて、グラスに注いでいた。
「あ、無理に全部食べなくてもいいですよ、調子悪いんですから。はい、コレお薬です」
お茶を径の前に置き、青い箱から取り出した胃薬の袋を笑顔で差し出した。

やるんだ。
やるしかない。そうしなければ、この苦しみから解放されることはない---------。

径は俯き、震える手を膝の上で力いっぱい握りしめた。
「榎本さん…?」
具合が悪いのかと、たずねようとした、その時。
純子は息を呑んだ。自分に向けられたその視線は、いつもの榎本のものではなかったからだ。
それは…そう、犯人を言葉巧みに追いつめるときの、あの冷淡で鋭い視線だった。いまそれが、純子に向けられていた。

径の喉がゴクリと鳴った。
純子の手首を強い力を込めて掴む。
「っつ…!」
純子の手から、薬の袋がパサリと落ちて、手首の痛みに顔をゆがめた。そのまま引き寄せた反動で、グラスが音をたてて床に転がった。
「こんな時間に男を家に招き入れるなんて、あなたはバカなんじゃないですか?」

驚愕。
その言葉がふさわしい…純子はそんな表情をしていた。
気持ちが悪い。吐き気がする。こんなことをしている自分に吐き気がする------------。
掴んだ細い手首の感触だけで、気持ちが揺らぎそうになる。
「じょ、冗談やめてください。離して…!」
立ち上がりかけた純子を見て、径はすばやく立ち上がって腕を乱暴に引っ張り上げ、身体を壁に強く押し付けた。
「これが冗談に見えますか?」

「え…のもとさ…」
両腕を強い力で抑えつけられ、見開かれた純子の瞳には明らかに恐れの色が滲んでいた。
腰に手を回し、首元に口づける。
「や、やめて…!!」
抑えつけていた手が外れた瞬間、純子は径の体を突き飛ばし、逃れようとする。その肩を掴んで振り向かせ、そのままベッドに純子の身体を押し付け、馬乗りになった。
純子はおびえていた。
径の目は鋭さを保ちながらも、苦痛でわずかに歪む。
「やだ…!!」
抵抗する純子の腕を抑えつけ、ブラウスの胸元を引き裂く。
純子の悲鳴が聞こえた。その時、径の視界が急にぼやけた。

径の手が止まったので、純子は恐る恐る瞑っていた目を開けた。
「え…?」

径が、泣いていた。
目を見開いたまま、そこから次から次へと零れおちる涙。
それを、純子はただ見ているしかなかった。
そのまま、径は立ち上がってカバンを掴むと、何も言わずに部屋を出て行く。ガチャン--------と、ドアが閉まる音が鳴り響いた。
398397:2012/06/20(水) 02:58:46.61 ID:SkWtRO9q
今日はここまでです。
径の過去に落ち込んで書きました。
399名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 06:27:49.67 ID:rm0YYxQV
うああああああーーー!!!!
径可哀想!

つ・・・続きを!続きはいつ落ちてくるの!?
400名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 09:38:18.53 ID:uIHMvJ4R
絶対ありえないと思ってたリーガルハイの二人にはぐシーンが来たんだから
榎青にも来ないもんだろうか
最終回で釈放されてきた榎本に純子が抱きついて「信じてました、おかえりなさい!」とか
超目が泳ぎつつ棒立ちの榎本とバックで指笛鳴らす芹沢が見てみたい
401名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 11:54:20.94 ID:SgSTK+uR
ピューピュー指笛鳴らす芹沢
想像したらワロタww
402名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 12:29:30.78 ID:jQCE/N4S
芹沢ならやるなww絶対やるなwwww
403名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 13:00:41.63 ID:LLqxIPkT
>>401
「ゼウスの種」かよ
404名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 13:42:32.60 ID:rm0YYxQV
痴漢される榎本を救う青砥もしくは芹沢を書いてくれる勇者はいないのか。
405名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 13:46:43.97 ID:WnqCL09/
ヤローが痴漢されてもなあ…
406名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 13:47:31.26 ID:uIHMvJ4R
>>404
痴漢と間違われた榎本を青砥が救う話なら、ここの書き手がピクシブに落としてたの見たことあるが
そうじゃなくて榎本が触られる側?wwwww
407名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 13:49:33.49 ID:VNwM2yxK
男女逆転のSSかいてる人に痴漢に遭って困ってる榎本をかいてもらえよ
408名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 14:03:20.30 ID:WnqCL09/
>>407
それだと榎本は径子ちゃんになっちゃうから、結局同じだろw
409名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 14:26:38.95 ID:Rx1vSQ4e
榎本さんの傷をはやく癒して、純子ちゃん…
410名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 14:41:58.78 ID:JgCNsmva
>>384さん
後編お待ちしておりました!
ラブでかわいい二人でゴロゴロしたくなります。
芹沢さんもいい感じです。
私も長いの大好きだし、あまり気にしないでバンバン書いて下さいね。

オモチャバコさん
前のと設定変わっててもおもしろいです。
榎本かわいそうだ…
続きが気になります!
ロム専だからレスつけられるとうれしいですよ。

書き手の方達の素晴らしい作品に会えるのは、
とても幸運な事だと思うから。

今日夕方三話再放送楽しみだなー。
411名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 15:13:04.30 ID:rm0YYxQV
>>406
もちろんです。男女逆転じゃ意味ありません。
榎本どぎまぎ真っ赤で困ってるなり、無表情のまま何事かを考え込んでしまうなりがみたいです。
412名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 15:44:45.87 ID:mqrnH6Kq
えのやん中の人はジュニア時代に確か電車で痴漢(男)に遭ったと言ってた覚えが
413名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 15:48:25.28 ID:Ppys8Yje
男に痴漢される榎本が見たいのか、女に痴漢される榎本が見たいのか
どっちが多いのだろ?
414名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 16:56:37.83 ID:492sav1R
>>411
わざとだろうけど他でやりなよ
415名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 17:01:26.94 ID:edPsYp13
>>411
キモい
416名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 17:32:46.92 ID:LLqxIPkT
そういえばサントラのラブアゲインはスピンオフ純子の手帳エピソード7と8で使われていたよ
417名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 19:57:26.22 ID:VKnTMVSw
まぁBLは板違いだけど
女に痴漢される榎本だとこのスレの趣旨には反してないけどな
男女エロパロなら注意書きあればいいだろう
418名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 20:33:21.33 ID:P6lZqVj9
明らかにわざと荒らそうとしている人がいるから、
ちょっと変だと思ったらスルーした方がいい。
荒らしじゃない初心者の人とかに対してもいちいち突っかからず…

議論が長引く→職人書き込みにくくなる→スレ廃れる
この流れを何度見てきたことか
419397:2012/06/20(水) 20:41:26.24 ID:SkWtRO9q
>>410さん
ありがとうございます、なんかコメくれた人に全レスするのは良くないみたいで。
面白かったって言ってもらえるとすごく嬉しくて返レスしたんですけど、注意されるとすごく落ち込んじゃってやる気なくなっちゃって。
そういうレスがくるのが怖くてあえて名前だして注意書きしたんです。
自分のそういう心理も働いて今回過剰に暗い内容になってしまいました。2ちゃんねる難しいです。
420名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 20:42:35.92 ID:LPtgT8ZL
>>395->>397さん
続きが待ちどおしいです。どうなるんだろう。
追いかけてあげてー、純子!!!
421名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 21:05:20.34 ID:WnqCL09/
>>419
オモチャバコさん
ごめんね、気持ちは分かるんだけど投下前のコメントは必要なことだけ、極力
短い方がいいよ
>>419のように言い訳めいたことも書かない方がスマート
422名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 21:12:57.66 ID:VKnTMVSw
ちょっと厳しい事言っちゃうけどこれからの419の為にあえて言う
2ではどこに行っても全レスはウザがられるよ
愚痴スレとか作家スレとか見てきて勉強してくればいい
嵐コメには反応しなくてもいいけど
言われてもっともな注意にも私傷ついた!って主張はマイナスイメージにしかならんマジで
423397:2012/06/20(水) 21:44:47.48 ID:SkWtRO9q
皆さんご意見ありがとうございます。
よく考えてみたら初めに教えてくれた方は自分のためを思って言ってくれたわけですね。悪いほうにとってしまって申し訳なかったです。
分割投下についてもいろいろレスがついたので混乱してしまって…
424名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 21:58:51.85 ID:yq0DtEkN
>>423
続き楽しみに待ってるよ。
425名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 22:54:44.65 ID:njwt6LFS
>>395
GJです!
続き楽しみに待ってます。
426名無しさん@ピンキー:2012/06/20(水) 23:30:29.89 ID:gwndTM9Q
痴漢にあう榎本ww
こんな感じでどうだろう??

********************
満員電車。
この不愉快さは何事にも変えることができない。
そのために榎本径は比較的空いている早朝の電車を高校の通学に使う。
しかし今日はすし詰め状態の満員電車の中。珍しく寝坊してしまった。
真夜中に行われたチェスの大会をインターネットで見ていたのはたしかに寝過ごす原因のひとつだが。一度も狂ったことのない目覚まし時計は馬鹿げた時間を示していた。
最悪な日だ。こんな日はすべてがうまくいかない。
何かもっと大きな災難が降りかかるのではないかと大きくため息をつく。
そして、すし詰めでよどんだ空気の中、自分を落ち着かせるように指を擦り目を閉じた。

!?
ふいに尻を撫でられた気がした。手が当たったのか?
まさか、学ランを着ている自分が痴漢に会うとは考えにくい。
しかし、大きい手が下から上にとなで上げた感触がした。
そう思った瞬間、ぎゅっと握られた。
最悪だ。今日はきっと人生で一番最悪の日だ。
自分が降りる駅はあと二駅先。騒ぎにするといろいろ面倒だ、抵抗せずほっとけばいい。
きっとすぐにあきるさ。
はーとため息をつくと、快感から出た吐息だと勘違いした痴漢はさらにいやらしくその手を動かす。
ピクリとも動かない径に心痴漢は股の間へと手のひらを滑らした。

「この人痴漢です!!!!!!!」
大きく甲高い声が響く。
「このおじさんが、お兄さんのお尻を触ってました!!!!!」
隣にいた女性があわててかがむ。そこには小さな女の子がいた。
小学生だろうか、かわいげな白のワンピースを着ている。
しかしその瞳は強く、径を触っていた痴漢射抜いていた。
母親があわてて口を塞ぐが、その手を外しまたも大きな声で叫ぶ。
「痴漢は犯罪ですよ!!!!」
「純子!!!」
周りの目がこの親子、痴漢、そして自分にいっせいに降り注いだ。
なんてことだ。
タイミングよく駅に着くと、少女に指差されたサラリーマン風の男は飛び出していった。
「待ちなさい!!」
追いかけようとする少女を母親がしがみついて止める。あっという間のできごとだった。
「お兄さん大丈夫ですか?」
「純子!!すいません!!本当にすいません。この子父親に似て正義感が強くて、なんでも口がでてしまって・・・」
その子の母親の言い訳は径の耳に入らなかった。
この状態をどう処理できるのかと、ものすごい速さで考えているが何も浮かばない。
乗客の中には同じ高校の生徒もいただろう、痴漢にあったことは瞬く間に学校で噂になり好奇の目にしばらくの間さらされる。
眩暈がして倒れそうだ。
駅に着いた。平然を保ち降りようとする径にさらに少女が声を掛ける。
「お兄さんよかったね!!」
花が咲いたようなかわいい笑顔だった。
無意識のうちに「ありがとう」そう言ってしまった。

ドアが閉まる。瞬く間に電車は通り過ぎ、改札へと人の波は向かう。
なにが、よかっただ!!ありがとうだ。
俺は助けてくれなんて言ってない!!
少女の笑顔に見とれた馬鹿な自分へと、大きくため息をつく。
学校へと向かう足はとても重い。

本当に今日は最悪な日だ。

おわりです。青砥は小さいころから正義感が強く弁護士を目指してるイメージ。
卒業文集の将来の夢は、弁護士ですみたいな。
427痴漢プレイ 前編:2012/06/20(水) 23:58:55.35 ID:adEKYUUh
あ、被った(笑)
自分はこんなの考えた。痴漢にあう榎本

××××××××

 珍しいものを見た。目の前の光景を、芹沢は素直にそう評価した。
「ようえのもっちゃん。いやあ愛されてるねえ。羨ましいねえ」
「……いつでも代わりますが」
 芹沢の軽口に陰鬱に答えたのは榎本。無表情なのはいつもの通りだが、心なしか、眉間のしわが深いようにも思える。
 場所、どこにでもある居酒屋の個室。4人掛けの掘りごたつ席に座っているのは3人。
 芹沢と榎本。そして……
「んふふふふふ……なんか〜い〜い手触りですねえ〜〜……」
 榎本の隣に座っているのは青砥純子。芹沢にとっては可愛い部下であり頼れるアシスタントでもあり、いわば娘……いや妹のような存在、とも言える。
 が。
「すっごーい……なんかあ、意外と硬いんですねえ……まえ、芹沢さんの触ったときはあ、何かぷにょってしてましたよお?」
「…………」
「ちがっ! 違うよえのもっちゃん!? 何か勘違いしてない!? 多分、この間、書類抱えて前を見てなかった青砥が俺にぶつかったときのことだと思うよ!? 頼むからその蔑みの眼差しひっこめて!?」
 純子は酔っていた。それはもう、べろんべろんに酔っていた。
 ここ何ヶ月か悩まされた事件がようやく解決した。ようし、チーム榎本で飲み会だ! と、強引に榎本を引きずって居酒屋に繰り出してきたのが数時間前だった。
 最初は、確か大人しく飲んでいたような気がする。だが、よほど解放感に溢れていたのか、明日は休みだ、ということが聞いたのか。次第に酒のペースが早くなっていき……
 気がつけば、こうなっていた。
 四人掛けの席に案内されたとき、榎本と青砥が並んで座ったのは、単にこの三人の中では芹沢が飛びぬけて大柄だったからに過ぎない。そこに深い意味はない、と思う。
 が、この様子を見ていると、純子は狙って榎本の隣に座ったのではないか、と思えてならなかった。
「榎本、サービスしてやれ。そのニット脱げば? 暑いだろ」
「……勘弁してください」
 榎本に純子が絡みついていた。一言で表現するとそうなる。
 酔い潰れた純子の肘が、榎本の腹だか胸だかにぶつかった。それは痛みを伴うようなものではなかったが、その手触り(肘触り?)に、純子が過剰反応した。
 そして、今。純子の手は、遠慮のかけらもなく榎本の上半身を撫でまわしては「凄い」だの「固い」だの「厚い」だのを連呼している、というわけだった。
「っていうかさあ、榎本ってそんなすごい身体してんの? 服の上からだとひょろく見えるんだけど」
「…………別に、特に鍛えた覚えはありませんが」
「いや、言われてみれば、地下にこもりっきりの割にはお前って日焼けしてるもんな。実は秘密の特訓でもしてんじゃないのか?」
「…………」
 芹沢の軽口を榎本は無視。だが、まとわりつく純子に困惑しつつ乱暴に振り払えない時点で、こいつは根本的に人がいいな、と感心する。
 しかし、この状況をどうしたものか。
 冷静に考えれば、純子を強引にひっぺがしてタクシーに放り込んで自宅に強制送還すべきだろうが、この状況は面白すぎる。
 男女が逆だったのなら、素面に戻ったときは血の雨が降ることだろうが。榎本に限って、まさかそれはあるまい。
 結論。放っておいても自分にも純子にも特に被害なない。ならば心行くまで楽しませてもらおう。
428痴漢プレイ 後編:2012/06/20(水) 23:59:47.34 ID:adEKYUUh
「まあえのもっちゃんも飲んで飲んで。いっそ自分も酔っぱらっちまえば、案外気にならなくなるかもしれんぞ?」
「……何とかしてください」
「弁護士に依頼をかけるんだったらそれ相応の報酬を用意してもらわないとなあ」
「そうれすよお! 芹沢さんはあ、お金はらわないとなーんにもしてくれない人なんですよお! タダでうごかそうったってむだむだむだあ!」
「…………」
「ちがっ! 誤解を招くようなこと言うな!! 榎本も! お願いだからそんなゴキブリ見るような目で俺を見ないでくれる!?」
 意外なところから被害がとんできた。まあ、榎本が芹沢をどう評価したところで、それが何かの影響を与えることはないとは思うが。
「…………!!」
「ん? えのもっちゃん、どうした?」
「い、いえ」
「青砥? おい?」
「えへへへへへ〜〜上は〜結構すごかったですけど〜〜こっちはどうなんでしょう〜〜?」
 すうっと、純子の頭が、視界から消えた。
 視線を落とす……見えない。仕方がないのでテーブルの下から覗いてみる。
「えーっと〜〜えーっと〜〜えのもとさーん? これって……」
「お願いします芹沢さんいくらでもお支払しますから何とかしてください」
「あーさすがに止めた方がいいな、これは。素面に戻ったとき、ショックを受けそうだな……ってかさあ、えのもっちゃん」
「はい?」
「まさか、勃ってるとか言うなよ?」
「…………」
「おい、榎本?」
「青砥さん。青砥さんっ! すいませんが離れてもらえまっ……」
「えーい!」
「!!!!!!!!」

 その後、飲み会に誘うたびに榎本が何だかんだ口実を告げるように逃げるようになり。
 不思議に思った純子が強引に連れ出しても、決して純子の隣には座ろうとしなくなったことは言うまでもない。

×××××××

終わりです
あ、ごめんなさい。芹沢に助けさせようと思ったけど失敗してますね。
429名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 00:11:45.39 ID:OZVdvAG/
>>426>>428
どっちも全然違った方向で面白い!
痴漢ひとつでも色々あるなあ
すぐに書いてくるここの書き手さんたちヤル気ありすぎw
430名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 00:20:05.87 ID:LFSmNgBM
榎本が不憫すぎるw

ヤローが痴漢されてなにが面白いんじゃあー!
と心のちゃぶ台ひっくり返す準備して読んだのにどっちの話も面白かったっす
431名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 00:31:42.94 ID:+3p5FtMN
酔っ払った純子の声がどうしても吉高由里子で変換されてしまい困っています。
お二人さんお疲れでした。
432名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 01:40:53.08 ID:OwHZ86oS
書き手のお二人様ありがとうございました。

小学生の純子ちゃん可愛かったです。
べろんべろんの純子におっきされちゃった榎本可愛かったです。
その上面白くて読みやすくてGJです!
433名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 11:53:33.81 ID:EZhfHAgw
男の痴漢に遭う榎本で短いのを書いてみました
佐藤さん、ホモにしてゴメンネ
434名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 11:54:44.75 ID:EZhfHAgw
高層ホテルの一室で痴漢に遭った
不幸中の幸いと言うべきなのは被害者が青砥ではなく榎本であった事だった
「わぁ〜、綺麗な夜景ですね〜、あっ!榎本さん、榎本さん!スカイツリーの色が変わりましたよ!ほらっ!見て下さいよ!」
ブラインドを下ろすはずの青砥が大はしゃぎしている
その心の無邪気さとは真逆の、シャワー後の素顔とバスロープ姿の大人びた体に、榎本の視線が注がれる
だからスカイツリーを見る為にではなく青砥を抱く為に窓際に寄った
「本当に綺麗ですね、…………青砥さんが」
青砥の後でシャワーを浴びたせいかまだ髪が濡れていて眼鏡も掛けていない榎本が言う
「ちょっと、榎本さん!ここでナニをしようとしているのですか!あぁっ!そういう事をするなら、あっちに行ってやり、ま…しょ…、やだ!どこに手を!ひゃぁ!!」
青砥の体からバスローブが剥がれ床に落ちた
「やぁ、ここでするのですか?本当に、あぁ、きゃうん!ダメぇ!!誰かに、見られ…たら、私…、らめぇ!!」
繋がるのに邪魔な、榎本のバスローブが床に落ちた
スカイツリーが見れば、榎本が青砥を窓際に立たせて行為をしているのがわかるだろう
こうしてブラインドは下ろされる事はなく、
窓際には二人分のバスローブが脱ぎ捨てられたまま朝を迎えた
「ん…、え…の、もとさ…、ん」
ベッドで寝返りをうった時に青砥が呟く
その声で目が覚めた榎本がベッドから出る
ついでに青砥の体に首まで毛布を掛けてやるとこのバスローブが目に入り拾おうとした
その瞬間ガラスが振動した
どうやら外で窓を拭くゴンドラが下りてくるらしい
「(青砥さんに毛布を掛けておいて良かった)」
やはり愛する女の裸など他の者には見せたくはない
裸で窓際に立つ榎本に対しておそらくは窓を拭く者は目を逸らすだろうと思った
しかしその者はたったの数分とはいえ榎本をじっくりと見詰めていた
窓拭きにはうってつけの長身の男
ヒゲ面のその男は獲物を狙うハンターの目をして、どういう訳か股間が膨らんでいた
「(ゲイの痴漢か、おぞましい…)」
小柄な榎本は幼い頃からたまにこういう被害に遭っていた
その度に痴漢に狙われやすい女の子に同情してあれこれと相談に乗ったり乗られたりしているうちにこの仕事を選んだのを思い出した

〈おそまつ〉



435名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 12:45:29.80 ID:2qE+H+Ec
>>434
盛りだくさん!素晴らしいっっ
436名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 13:50:18.27 ID:XRg/uOTJ
>>434
佐藤ナイスw

痴漢され榎本話につられたので、男に痴漢される榎本を勢いだけで書いたよ
なんか変にシリアスっぽくなったよ
437アンビバレンツ 1/3:2012/06/21(木) 13:51:48.39 ID:XRg/uOTJ
人には必ずといっていいほど、別の顔がある。
幾つもの顔を使い分けることでこの複雑怪奇なる現代社会の中で生きる為の精神的均衡や立場を
保とうとしている。それは別に不思議でも何でもないことだ。
自分も恐らくはそうなのだろう。
だとすれば、これはどう説明をつければいいというのか。

経験のない事象に遭遇した時、人はしばし思考が停止しがちなものだ。
今この時、榎本もまた例外ではなく一瞬何が起こったのかと訳が分からなくなった。しかしこの現実は
間違いなく自分の身に起こっていることだ。
ちなみに時刻は午後六時半。今日は珍しく開錠作業がはかどったので定時退社後にすぐ帰宅する
つもりでいたが、会社を出たところで青砥から電話がかかってきた。その時お互いがいた場所の中間
地点で待ち合わせをして食事でも、という約束をしたので電車で向かっている最中のことだ。
これは、何だろう。
ドアの側で吊革を掴みながら、まだ充分に明るい窓の外を眺めていた榎本の表情がわずかに曇る。
はっきり言えば尻の辺りに違和感があった。様子を伺っていると、明らかに触っているとしか思えない
ようにもぞもぞと、その手は動いている。
気付かない振りをして周囲を伺ってみても、この時間にしては電車内が特別混んでいる風にも見え
ない。なのにぴったりと自分の後ろに張りつくように立っている男がいる。その男があからさまに痴漢
をしているのだ。
困ったものだ、とひっそり溜息をついた。
痴漢といえば若い女性が被害に遭うものだと思い込んでいたが、男で、しかも三十面を下げた自分
にも欲情するような人間がいたのかと変なところに感心をしてしまうほどではある。
さて、ではどうしようか。
どこからどう見ても四十絡みの普通の会社員、という印象のこの不埒な痴漢に対して、外見からは
決して分からないがそれなりに動揺していた榎本はようやく冷静になって頭を巡らせた。

「一緒に、行きましょうか?」
電車が次の駅に着いて、すかさず男が何事もなく降りようとしていた。
榎本は決して逃がさないようにとドアが開く前にその手首を掴んで持ち上げる。咄嗟のことに男は
動揺したのか怒ったような声を出した。電車内は何があったのかとざわめいている。
「何するんだ、俺は降りるんだよ」
「いいですよ。ただし然るべきところへです…分かりますね?」
「離せよっ」
438アンビバレンツ 2/3:2012/06/21(木) 13:52:23.38 ID:XRg/uOTJ
それでも抵抗をする男に、榎本はぞっとするほど冷たい笑みを薄く浮かべる。
「こんなつまらないことで僕の時間を奪うことを、とくと後悔して貰いましょうか」
日頃から時間に正確に行動することを常に心掛けているだけに、こんなアクシデントはとても我慢が
ならなかった。

結局、待ち合わせには一時間ほど遅れる羽目になった。
青砥には事態が一段落してからその旨の連絡をしていたのだが、さすがに痴漢をされた事実ではなく
単なる電車内のトラブルに巻き込まれたということにしておいた。その後は別段変わったこともなく、
普通にレストランで食事を楽しむことが出来たのは幸いと言うべきだろう。
「榎本さんが遅れるなんて、よっぽどすごいことだったんですね」
何も知らずに、青砥は甘めの食前酒で可愛らしく頬を染めている。
「そうですね、滅多にないことでした」
電車内のことについては適度に内容を捏造しながらその場の会話を繋ぐ榎本にとって、まさに先程
までの出来事は滅多にない、いや、二度とあって欲しくないことではあった。
あれからのこと。
男を捕まえたまま駅構内の交番に行って警察官に事情を説明したのだが、あまり口にはしたくない
『痴漢をされた』事実を言ってもすぐには信用して貰えなかった。若い女性ではないのでそれは無理も
ないことだからと気を取り直し、こっそりと手の動きを中心に撮っていた携帯動画を見せるとようやく
それまで隙あらば逃げようとしていた男が静かになった。観念したのだろう。
『最初は女だと思った、見た目が大人しそうだから男でも良かった』などとふざけたことを言っていた
気がしたが、珍しく聞き間違いをしたに違いない。
とにかく、男をそのまま引き渡してからすぐに待ち合わせ場所に来たにも関わらず、意外に時間を
取られてしまっていた。
せめて、これからの時間は大いに楽しまなければ損というものだ。

「…榎本さん、私の顔に何かついてますか?」
前菜が終わった頃、視線に気がついた青砥がはにかむように微笑む。嫌なことは忘れてしまおうと
しているうちに、つい凝視していたらしい。
「いいえ、何も。ただ」
「ただ…?」
「今日は特にお綺麗だなと、思いまして」
「えっ」
439アンビバレンツ 3/3:2012/06/21(木) 13:52:58.43 ID:XRg/uOTJ
その言葉に青砥は泥酔でもしているように真っ赤な顔になった。口が上手いとでも思っているのだ
ろうか。しかしお世辞を言っているつもりはない。ただ見た通りをそのまま口にしただけだ。いつもの
身体の線を隠すようなスーツスタイルに束ねた髪、一見華やかさなどない恰好ではあるが、青砥の
美質は良く知っているつもりでいる。
二人でいる、こんな時にそれが匂うように立ち現れるのは嬉しいことだ。
今もこれからもずっと大切にしたい恋人には違いない。
なのに。
どうしてでしょうね青砥さん、あなたには決して言えない今日の出来事の中で僕は卑劣な痴漢の男に
触られて激しい嫌悪を感じながらも、あなたを同じようにして汚し抜くようないやらしい妄想に取り憑か
れていたのです。

口数の少ない榎本の胸の内にある不穏な翳りもまた、青砥は何も知らない。




440名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 16:03:52.16 ID:OwHZ86oS
>>434
ごめん次の書き手さん読む前に先にレス。
佐藤さんていうから浩市パパのことかと思ったらそっちかw
まっぱ榎本棒立ち面白いw
それに普通ピンクを絡めた腕さすがです。
441名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 16:15:34.76 ID:OwHZ86oS
>>437
いやー。こちらもあれだね。上手にピンクに持ってくね!!!
この二人が恋人どおしだったら、その後痴漢プレイはないのかな?
ちょいSエロモトかもーんw
442名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 16:16:00.55 ID:843UhkSM
>>439
乙です!
この後、純子は榎本にどんなエロいことされるのか想像してしまった…

痴漢というお題で、書き手さんによってこうも違う作品になるのかと感心させられました
書き手の皆さんGJです!!
443名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 16:57:47.43 ID:oTPAfedQ
>>395
の続き。まだ中編です。前編読んだ方どうぞ。
444paranoia 4:2012/06/21(木) 16:59:49.27 ID:oTPAfedQ
あれから二週間がたつ。
彼女からの連絡はない。
あの日、何処をどうやってたどって帰ったかすら思い出せない。
なんとか自宅へ戻ったが、そのまま便器に向かって座り込んで全部吐いた。何もなくなって胃液だけになっても吐き気は止まらず、涙なのか唾液なのか胃液なのかもわからないくらいひどい状態だった。
どんな深酒した時でもあんなに戻したことはないし、泣いた事など幼少のときに飼っていた犬が死んだことくらいしか思い出せない。
なぜ涙が止まらなかったのか。そもそもなぜ泣いたのかすら解らない。
吐いたせいなのか、熱まで出た。
次の日は会社を休んだ。身体的異常で仕事を休んだのは、入社以来初めてのことだった。

しかしこれで肩の荷が下りた。
自分を煩わす存在は消えた。何も考えず、好きな音楽を聴いて好きな事をしていればいい。

小さく溜め息をついて、径は届いたばかりの新しい錠前を専用の器具を使って固定して、解錠作業に取り掛かった。

さらに一週間。
一か月を過ぎたころ、突然純子から電話が鳴った。
逃げ出していた現実に、急に引き戻された感覚に襲われて、径はゴクリと息をのむ。目を見開いてしばらく携帯を見下ろしていたが、意を決して画面を押した。
「…はい。」
「あ、榎本さんですか?青砥です!今お時間大丈夫ですか?」
いつもの調子の聞きなれた声が、受話器の奥から聞こえてきた。
「はい、大丈夫です。」
「芹沢さんが榎本さんを呼んでくれって言ってるんです。漫画家が密室で死んでいた事件があって、それをどうしても解明しなくちゃならないそうなんです。
あ、でも、それは芹沢さんがテレビに向かって”お任せ下さい!解決して見せます!”なんて格好つけていっちゃったせいなんですけど。二時にクライアントが事務所にくるので、一緒に話を聞いてほしいんですけど、大丈夫ですか?」
「…問題ありません。二時に伺えばよろしいんですね?」
「ハイ、よろしくお願いします!」

純子はいつもと変わらぬ様子だった。動揺さえしていたものの、径のほうも落ち着いていつも通りの対応をした。
密室事件の解明には興味が尽きないが、今回で終わりにしてもらおう。忙しい部署に移ったとかなんとか言っていくらでも言い訳はできそうだ。

事件解明中、なるべく径は純子と目を合わせないようにした。芹沢さんが妙にやる気で、行動を共にしていたので二人になることもあまりなくて済んだ。
終わった後、帰りは芹沢さんの車で三人で帰った。
「榎もっちゃん。もう遅いから家まで送って行ってやるよ。家、どこなの」
ハンドルを切りながら、大きな声で聞いてくる。
「いえ、東京総合セキュリティの前までで結構です。」
「そんな堅いこと言うなって!俺たちはチーム榎本なんだから。なあ、青砥だってそう思うだろ」
「え、あ、そうですね。アハハ。榎本さん、なに遠慮なんかしてるんですか。送ってもらったらいいんですよ!」
と、径の肩をポンと叩いた。
「…では、お言葉に甘えて」

「何だ、もっと変わったところに住んでいるかと思ったら…そうでもないな〜う〜ん?」
車を止めると、窓から顔を出して芹沢はぞんざいな口ぶりでアパートを見上げた。
一体どんな期待をしていたのだろう。
「僕はただの会社員ですから。芹沢さんのように、高級なマンションには住めません。」
「そりゃそうだけどさ〜なんかこう、なんていうかさもっとこう…いかにも簡単には侵入できません!みたいな何かがほ」
「では、失礼します」
きっとこれ以上話を聞いてる必要はなさそうだと判断して車をおりた。
「じゃあね〜榎もっちゃん」
「おやすみなさい」
純子がちいさく頭を下げる。径は軽く会釈をして、無言でエントランスに消えた。
445paranoia 5:2012/06/21(木) 17:00:59.41 ID:oTPAfedQ
部屋に入ると、径はカバンをいつもの場所に置き、しかしいつものようには座らずそのままベッドの上に寝転がった。気を張り詰めていたせいで疲労感が重だるい。
目を閉じると、純子の顔が浮かんだ。
当事者にメモを取りながら話を聞いているときの真剣なまなざし。自分が役に立ったと、嬉しそうにする姿。肩を叩いた、細い綺麗な指先…。
だめだ、何考えてる。
家でひとりでこんなことを考ているなんて、まるで変態だ。変人扱いされているのは分かっているが、さすがに変態扱いはされたくない。
明日芹沢さんに電話して、もう事件解明には付き合えないと断ろう。捜査依頼さえなければ、彼女と会うことはもうないのだ。

ピリリリリ。

電話が鳴っている。見ると、純子からだ。なんだか心を見透かされたような動揺が走る。
しかしもちろんそうではないこともすぐにわかる。心を落ち着かせてから電話をとった。
「はい」
「あ、榎本さんですか?青砥です」
「はい」
「あの、いま、榎本さんの家の前にいるんです。部屋の番号教えてくれませんか?」
驚いて、通りに面した窓のカーテンを開けるとこちらを見上げながら携帯を持つ純子の姿が見えた。
「一体、どうされたんですか。芹沢さんは?」
「いません。一人です。どうしても、話しておきたいことがあるんです。少しでいいので、家に入れてもらえませんか?」
「一体あなたは何を言っているんですか。この間、僕があなたにしたことを忘れたんですか?こんな時間にたずねてくるなんて、正気の沙汰とは思えない」
「わかってます。それでも!どうしても話したいことがあるんです。おねがいします、榎本さん、私の話を聞いてください」
純子の声は真剣だった。径には全くわけが解らなかった。自分にあんなことをした男の家にわざわざくる理由が思い浮かばなかった。
うまく断ることができずに、結局ドアを開けてしまった。

わざわざ離れて座ったのに、純子は立ち上がって目の前に座りなおした。そして、じゃんけんのグーを前に出し、パッと手を開いた。
径は固まった。純子の手から出てきたもの、それは、コンドームだった。
「これ、使ってください。」
純子はいつもの笑顔で言った。
「榎本さん、えっちしたいんですよね?だから買ってきました。これ使ってえっちしましょう。ね?」

なんなんだ。何をいっているんだ。
径は、怒りで頭に血が昇るのを感じながら、眉間にしわを寄せて純子の手からそれを払い落した。
「僕はそんなことをしたいわけではありません。そんなことを言いにきたのなら、帰ってくれませんか」
「じゃあ何であんなことをしたんですか?えっちしたいわけじゃなくて、あんなことする理由って、何なんですか?」
「…」
言葉に詰まる。予想外の質問に、いつものように頭が働かない。こういうことについては、完全に守備範囲外の知識が必要だ。
純子の顔から笑みが消えた。
「…あれから、ずっと考えていたんです。なぜ榎本さんがあんなことをしたのか」

純子は深呼吸するように、目を閉じて息を長く吐いた。
「それで、ひとつの答えに辿り着きました。間違っていたらごめんなさい。榎本さん、あなたは-------------」
目を泳がせて言い淀んだが、クッと顔を上げて径の目を見つめた。
「私のことが、好きなんじゃないですか」
446paranoia 6:2012/06/21(木) 17:02:03.39 ID:oTPAfedQ
径は険しい表情で目を閉じた。
どうしてそんな身も蓋もない言い方をするんだろう。僕自身が必死で目をそむけていた事実を、あっさり言い放ってしまった。
「前に鴻野さんが言ってましたよね?会社で白い目で見られて引きこもったって…。それで、きっと人間不信になって、人と距離を置いてるんだろうって。違いますか」
径は答えない。視線を落したままじっとしている。
「あなたは、私のことが好きになった。だから、裏切られるのが怖くなった。それで、これ以上気持ちが入らないうちに離れるために、一計を案じた…」
冷静に、純子は話し続けた。
「さすが弁護士ですね。優れた洞察力だ。そこまでわかっていながら何故あなたはここにいるんです?僕はもう、あなたに会いたくないんです」
会いたくない--------と言った時、胸がチクリとした。

「…私が榎本さんの気持ちがわかるのは、弁護士だからじゃありません。私も、榎本さんと同じ気持ちだからです」
顔を上げると、純子は悲しそうな目をしてこちらを見ていた。
「私も榎本さんが好きです。そして、榎本さんがいなくなるのが怖いです。同じ気持ちなんです、自分だけが怖いわけじゃないんですよ!誰だって、好きになったひとを失うのは怖いんです」
「…同じじゃないでしょう。あなたと僕は同じじゃない。あなたは将来有望な弁護士で、僕は居てもいなくても変わらないようなしがない警備会社の人間です。それに僕と同じ気持ちの人間が他にいるとは思えません、周りから見れば僕は変人ですから」
「他の誰かと一緒にしないでください!榎本さんが今までどんな人と関わってきたかは分かりません。今までの人がそうだったから、私も裏切ると思うんですか?
ちゃんと私を見て下さい!私は私です、他にはいないんです。信じてくれたじゃないですか、私の中に狂気はないって」
純子の必死さが伝わってきて、じわじわと胸が熱くなるのを感じていた。かつてこんなにも自分のことを思ってくれた人間がいただろうか。
「…榎本さん、あなたには、私が必要です。」
純子の目から、溢れた涙が頬を伝って落ちた。
「そして、私にもあなたが必要です、榎本さん。離れようなんて、思わないでください!たとえ嘘でも、会いたくないなんて言わないで…。好きな人からそんなこと言われたら辛いです…」
言いきると、しゃくりあげながら両手で顔を覆って泣き出した。
径は震える手をそっと伸ばして、純子の頭に触れた。その瞬間、純子は径の胸に抱きついた。どうしていいか分からず、径は純子の背中に手を置いて、ただじっと純子が泣きやむのを待った。

やがて純子は顔を上げたが、まだ涙は止まってはいなかった。
泣きはらした目で径を見上げている。キュンとした----------その言葉の意味をいま初めて知った気がする。
そのままの姿勢で手を伸ばしてティッシュを取って、渡してやる。
「…どうぞ」
純子は鼻をかんで、ぐしゅぐしゅになった顔をふいた。そして、また径の懐に滑り込んだ。
さすがにいたたまれなくなってきた。色々と悩みすぎて状況を把握できていなかったが、女性に抱きつかれたことなどないのだ。急に動悸が激しくなってきて焦る。
「あの…そろそろ離れていただけないでしょうか」
純子は胸に顔を押し付けたまま首を振る。
「いやです」
「もう今日は帰ったほうがいいと思います。話の続きはまた明日」
「いやです…榎本さんの口から聞いてません。」
「何をですか」
「さっきのは私の一方的なただの憶測です。私は私の気持ちを言ったのに、榎本さんは何も言ってくれてません」
純子は少しだけ体を起こした。
「私の事どう思ってますか?ちゃんと言葉で言ってください」
潤んだ瞳、白い肌に痛々しく腫れぼったく赤みを差した目もと。言葉を紡ぐ小さな唇。
ドクン、ドクンと心臓の音が頭に響く。もう、目をそらすことすら出来なくなった。
「…好きです…」
低い声で、小さく呟くと。純子の唇が、径の唇に重なった。
447446:2012/06/21(木) 17:05:10.96 ID:oTPAfedQ
ここまでです。つづきはまた
448名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 19:56:23.84 ID:OwHZ86oS
>>447
おとなしく続き待ってる。
オモチャバコとのときより榎本の性格がドラマ榎本に近いっすねー。
449名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 20:23:14.37 ID:e4l1Bux0
>>447
書き手さんgjです。
いつも脳内再生でヤバス。
チュウの続きパンツ脱いで待っとく

ところで、>>370投下した者なんだが続きを欲望のままに書いてしまったんよ。
このタイミングで投下してもおK??

450名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 20:42:06.79 ID:68JSE+Kx
>>449
いいんじゃない?
上見ても、最速で前の書き手さんの40分後に投下してる書き手さんいるし
このスレ、その手の規制はないみたい
451名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 20:47:36.31 ID:e4l1Bux0
>>450
ありがとう、投下してみる。

目指すは、ドs榎本と天然淫乱青砥ちゃん!!

*******
勝負ぱんつでよかった〜。
今日ほど思ったことはない。
つい。
ついつい。
言ってしまった。
いや、その言葉は榎本さんによって遮られてしまったから言ってはないんだけれど。
わかってしまっただろう、私が榎本さんを好きな気持ち。
パンクしそうだった。気持ちが溢れるとはこういうものなのかと、初めて思った。
あのタイミングで飲みに誘うということは、榎本さんも私に好意を持ってくれているのだとは思うけれど。

榎本と二人の夜は更けていく。
残してあった酒と買ってきた酒、終わるころにはほろ酔い気分でいい気持ちになっていた。
緊張していた体も次第に部屋の空気に馴染んでゆく。
好意を持った男の人の部屋に入るのは何年ぶりのことだろう。
シンプルな部屋。本当に必要な物だけ置いてある。
ほんと、榎本さんらしいとぐるりと見渡し一人でふふっと笑う。
榎本がキッチンへと向かうと、青砥も立ち上がりゆっくりと部屋を見学する。
「さすが榎本さんの部屋ですね。珍しい鍵がいっぱい」
上機嫌の青砥が覗くその先には榎本の部屋らしく、いろいろな鍵が棚の上に置いてある。
「あまり鍵には触れない方が」
カチャ。
「!?」
「・・・・・」
見るからに特殊そうな鍵が並ぶその中のひとつ。とてもきれいな装飾がされてある物を手に取った。
二つの指輪がくっついたような形だ。
「触れない方が・・・いいですよと言おうと思ったんですが」
なんとも情けない顔でこちらを見る青砥にばれないようため息をついた。
452名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 20:49:04.39 ID:e4l1Bux0
「そちらは手枷です。親指同士をつなぎとめるものですが。・・・・よく使い方を知っていましたね」
「違いますぅ・・・指をいれたら勝手に・・・」
器用な人だ。
ぞくり。
どうしようと涙で滲んだ目が、揺さぶる。
酒で赤く染まった首すじが、無意識に誘っている。
自分から拘束されるなんて。本当にあなたは馬鹿です。
「・・・困りました。そちらの鍵は会社にある専門の道具でなければ鍵穴が小さくて開けることはできません」
「・・・・ど、どうしましょう」
「明日の朝一番に鍵を開けに行きましょう。鍵自体は難しいものではないので、仕事にも間に合うと思います。なので、指を傷つけるのはやめてください」
何とかはずそうと引っ張っているうちに、手枷が触れている部分が赤く血が滲むようになっている。榎本はその手をぎゅっと握り締めた。
「は!!あの!!すいません!すいません!本当に榎本さん、すい!!??」
大きな声で謝る青砥の唇にキスをする。
「そんなに騒がれたら近所迷惑です。静かにしてもらえますか?」
「あ・・あの!今!」
「はい、したらいけませんか?」
「あの!」
今度は、青砥を抱き寄せ深く唇を重ねる。
冷たい唇とは裏腹に、舌をねじ込み舐めあげた青砥の口腔内はとても熱い。
言葉を紡ぐ隙を与えないよう、歯の裏側をこすり舌を絡め吐息とともに吸い上げる。
「んっ・・・ふぅっ」
ゆっくり離すと、どちらとも付かない唾液が糸を引いた。
「え・・榎本さん・・・」
「・・・なんでしょう?」
なんでしょうって。なんでしょうってっっっ!!!
榎本の眼鏡越しの目はいつもと変わらず冷たいような、何でも見過ごすような不思議な目をしている。
それなのに、私は。
なんていやらしいのだろう、キスひとつでこんなにもいやらしい気持ちになってしまう。
浅ましい自分は知られたくないのに、その瞳はすべてを知っているかのようだ。
「ちょっと・・あの!あの!」
「『あの』だけでは意味を汲み取ることができないのですが。・・・やめたほうがいいですか?青砥さんの背中は滑らかでとても気持ちがいいのですが」
器用な榎本の手は、いつの間にかブラウスの下に潜り込み柔らかく滑らかな青砥の背中をなで上げていた。
「ひっ!」
密室を解くように淡々と話す、しかしその口から出てくる言葉は本当に榎本がしゃべっているのだろうかと疑うくらい、生々しい男を感じさせる言葉だ。
「あの!私!お、お風呂を!お風呂に行かせてください」
「・・・今、ですか?無理だと思いますよ」
背中をやわらかくなでる指先にたまらず身を捩る。
「あの、私、今日外回りで汗臭くて!それで!あの!ちょっと!あの!」
榎本が背中に回した腕を緩めると、あわてて風呂場の方へ走っていった。
しかし、いくらもしないうちにお風呂場から青砥の声が聞こえた。
困って自分を呼ぶときの青砥の声はとても心地がいい。
「榎本さぁぁん・・・・榎本さーーーん」
「はい」
「服が・・・・」
「はい、わかってます」
「榎本さぁん・・・脱げませーん」
「もちろんです。手枷がされてますから」
ドアを開けるとその場に青砥がぐすぐすと目を真っ赤にしながらうずくまっていた。
さあ手を出してくださいと青砥のブラウスに手首からはさみを入れる。
まさか服を切られるとは思わなかったが、瀬に腹は変えられない。
榎本の手によって少しずつ身体が露わになっていく。
直接服を脱がされるよりも、いやらしい。ゴクリと青砥の喉が鳴った。
ブラジャーの肩紐まで切られ、榎本が弁償しますと言い終わらないうちに押し出した。
榎本さん全部分かってたんだ、服脱げれないの。酒のせいにしたとしても恥ずかしすぎる、本当になんて恥ずかしい奴なんだ私は。それにこんな明るい所で貧弱な私の体を見せられるわけない、一人でじたばた暴れると洋服を全部脱ぎ浴室へ足を踏み入れた。
453名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 20:51:25.11 ID:e4l1Bux0
その瞬間、後ろから口を塞がれた。悲鳴は手の中へと吸い込まれる。榎本は青砥の手枷の付いた手を壁に掛けてあるシャワーノズルに引っ掛けた。裸で万歳をしている姿では、どこも隠すことが出来ない。
強く目を瞑り開けた瞬間、目の前にはいつもと変わらぬ榎本が立っていた。自分は何一つ身に着けてない裸だというのに。
榎本は涙を浮かべる青砥に顔を近づける。
「青砥さん。これはどう考えても誘っているようにしか考えられません」
「!!??やぁ!!ちが!!」
いつものように無駄がないすばやい榎本の行動に、何が起こったのか青砥の思考は追い付いていかない。
「それに手錠をはめているままじゃ洗えませんから、僕がお手伝いします」
「やぁ!!」
首筋をぬるりと舌で舐めると、やわらかい肌に歯をたて強く吸い付く。ビクリと体を跳ねさせるだけで、青砥の抵抗は少ない。荒々しい唇とは対照的に、腰からなで上げる両手はくすぐるように指先を背中に這わせる。
「んっ・・ひぃ・・え・・・榎本・・さん!!」
「なんでしょう?」
「榎本さんっ!!」
「・・・・いやなら大きい声を出していただいてもかまいません。しかし、浴室の声はよく響きますし、こんな夜では何人の人があなたの甘い声を聞くことになるのでしょう」
青砥の大きい目がさらに見開かれ、唇を噛み声を殺す。
赤い花びらを散らしていた榎本の唇が胸の先を捉える。唾液を絡めるようにやさしく舐め上げたと思うと、きりっと歯でしごく。こらえきれなかった声が漏れ、体が跳ねる。
その声に榎本は湧き上がる欲望を抑えきれず、愛撫をする手が強くなった。
反対の胸はボディソープをつけた指先でぬるぬるとなでる。
「っ・・・あっ・・くっ・・・んんっ」
「僕はあなたが考えるほど誠実な人間でもありませんし、優しい男ではありません。こんな男のどこがいいんですか?青砥さん」
膝ががくがくと震える。崩れそうな腰を榎本の左腕が支えた。
肌をちくちくと刺激するのは榎本が着ているいつものカーデガン。
胸に当たるのは太い黒縁めがねのフレーム。
自分だけがいやらしい。とてもいやらしい人間になった気がする。
そう青砥はぼやける頭で思う、体中にびりっと痺れが走った。
「でも・・・あっ・・・榎本・・さんが・・・んんっあぁ」
でもいやじゃない。榎本のすることすべていやではないのだ。
体は受け入れている、これは気持ちのいい行為だと。
「わ・・私・・・んっ・・榎本さんのこと・・・好き、過ぎて・・・頭がおかしくなったのかも!?あああっ!!」
「そうですね。頭がおかしい上に物好きすぎますね。弁護士の先生なんですから人間をしっかり観察しなくては。僕はひどい男です。あなたをもっと、泣かせたい」
「・・・いい・・・ですよ。・・私・・気持ち・・いい・・です」
「あなたは・・・・本当に・・」
榎本さんが謎を解く時の様に、あの瞳あの声、あの指がすべて私に向けられている。今の榎本さんの頭の中は、私でいっぱいだ。
それが嬉しい、だから。
「っは・・・あぁ・・ひ・・んん」
体中を這い回る指。ぬるぬると指が這うたびに体が揺れる。
特に念入りに吸われ噛まれる右の乳首は真っ赤に色づいている。びりびりとしびれるような快感に体が熱くなる。反対側はソープで器用な榎本の指でも摘むことが出来ないが、まるで謎を解く時の様に何度も何度もこすり押しつぶされる。
噛み締めた青砥の唇からは甘い声が漏れ、飲み込めない唾液が首筋まで垂れている。
首筋に伝う唾液を舐め上げると同時に、お尻を握られた。指先が埋まるほど強く。
「やぁあ!!」
454名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 20:52:24.71 ID:e4l1Bux0
思わず身を捩ると足にレバーが当たる。
暖かいお湯が裸の青砥と何一つ乱れていない榎本に降り注ぐ。
すぐに止めるが榎本の服はぐっしょりと濡れてしまった。
「青砥さん、あなたの身体は本当にとてもいやらしいです」
青砥を見上げた榎本のメガネはシャワーの湯気で曇ってどんな目をしているのかは分からないが、唇の端がくっと上がったのは見間違いではないだろう。
上げていた腕を下ろされる。しびれて力が入らない腕は体を支えることができずにされるがまま、身体を浴室の床に転がされる。
青砥の左足を浴槽に掛けると、榎本に向かって大きく足を開いた状態になる。
「やぁ!!榎本さん!!やだ!!やあああああ!!」
水圧を強くしたシャワーヘッドを青砥の下半身へと向ける。
傷つけないようそっと左右に開かれたそこはすでに水ではないもので溢れ、蕾は触れられないまま大きく膨れている。
「やああ!!あああああ!!!あーーーー!!だめ!いや!」
細い針で刺されているようだ。ぬめる愛液は押し流され柔らかいそこを守るものはない。先ほどの快感とは反対に、むりやり押し上げられる。頭の中がしびれる。
「もう!!いや!!だめっ・・だめぇ!!」
榎本の手を掻き毟る。そうしないとどこかに飛ばされそうだ。
強すぎる快感はとても暴力的で、気持ちいいのかさえ分からない。
「いくって言うのですよ。こういう時は・・・」
耳元で榎本の声がする。羞恥も痛みも身体を押し流すような大きな波も、その声に説き伏せられる。
「いや!!い・・・く・・・・っ!!いくぅ!!!!!」

シャワーを止め、気を失った青砥にバスタオルを掛けるとベッドへと運ぶ。濡れた服が重たく床は水浸しだ。
ひどいことをしてしまった。こんなつもりはなっかた。
上辺だけの言葉が浮かんでは消える。
脱げないブラウスの袖にはさみを入れた瞬間。一握り一握り、しゃきりと音を立てて刃が擦れる度に、体が熱くなった。辱めを受けて涙ぐみ押し殺せずに出てくる青砥の喘ぎに胸が高鳴り、すべてを支配したいという感覚が身体の奥からにじみ出てくる。
こんな自分を引き出しそれでも好意を抱く青砥が憎く、とても愛しかった。
濡れた服を着替える。
ベッドには青砥が眠っている。
そっとそばに座り頭をなでた。
夜はまだ終わらない。

「もっと声をきかせてください・・・」



おーわーりー。
455名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 21:11:50.72 ID:VqPz0Xsm

なぜage進行なのでしょうか
目立ちやがりやか、未成年か・・・
sageって、ご存知ですか?
456名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 22:44:18.32 ID:NVSX2ugg
>>455
2ちゃん自体初心者の方もいるみたいだし、単純に知らないんじゃない?

sageを知らない投稿者さんへ
書き込む時はメール欄に半角小文字でsageと入力してくださいねー。
457名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 22:46:00.56 ID:BwnIVBi7
保守
458名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 23:11:23.08 ID:T+ewBmpO
>>456
前に注意されてるのに知らないはずないだろう
一応半生でもあるからコソーリと行きたいんだが
459名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 23:17:16.18 ID:4aMuY+on
補足説明
メール欄に「sage」と打たずに書き込むと、スレッドが板の一番上に上がっちゃうんですよ
不特定多数の人の目につきやすくなり、例えば作品投下中に他の人が書き込む割り込みが発生したり
いわゆる「荒らし」の目に止まって叩かれたりする可能性が高くなるので
基本的にはスレッドが上がらないようにメール欄に「sage」と打って書き込むことが推奨されます
これが「sage進行」(逆に人を増やすためとかで目立つようにわざとsageを打たずに書き込むのをage進行)
多分、エロパロ板では全スレッド共通ルール、でしょうか?
460幸せ家族計画について真剣に考えてみた 1/3:2012/06/21(木) 23:19:14.91 ID:4aMuY+on
これだけじゃ何なのでついでに投下
前に投下した「愛の告白について真剣に考えてみた」と同じ系統の榎本パターン

注記:すいません。エロ(本番行為)はありません


××××××××

 その日、青砥純子が手土産を片手に東京総合セキュリティの地下備品倉庫に現れたのはいつも通りのこと。
 別に用は無いんですけど! と笑顔で仕事の愚痴を言い始めたのもいつも通り。
 ただ、一つ違ったのは。
「……で、ですね、榎本さん」
「はい」
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」
「はい。何ですか」
 開錠作業を中断し、顔を上げると。真剣な顔をした純子が、榎本をまっすぐに見つめて言った。
「子供ができちゃったんですけど。男の人って、どんな伝え方をされたら、一番嬉しいと思いますか」
「…………」
 とんできた質問の答えにくさが、これまでの比ではなかった、ということ。
「どうでしょうか」
「……何故、それを僕に聞くのでしょうか」
「榎本さんが男の人だからですよっ! 芹沢さんにも聞いてみるつもりですけど、やっぱり年齢が近い榎本さんの意見の方が参考になるかな、と思って」
「…………」
 純子は自分のことをちゃんと男だと認識していたのか、と、的外れな感想を抱きつつ。
 榎本は、無表情に純子を見つめた。
 無表情を取り繕っていないと、動揺のあまり何を口走るか自分でもわからない。
「相手の男との、関係にもよると思いますが」
 手が震えていないかを確認する意味で、傍らのカップを取り上げた。
 大丈夫。傍目には自分は平静に見えている……はず、だ。
「いわゆる恋人同士、という関係なのでしょうか。それとも夫婦関係にあるのでしょうか。例えば、お付き合いまでもいっていない、行きずりの関係ということは」
「違いますよ! ちゃんとした恋人です! 近々結婚予定はありますけどっ!」
「…………」
 純子にはそんな相手がいたのか……と、今更知った事実に、胸がえぐられるような痛みを覚えた。
 そんな痛みを覚えた、ということに、自分自身が驚いた。
 自分は、まさか純子のことを……?
「それは、おめでとうございます」
「ありがとうございます。あれ? 榎本さん、知らなかったですか?」
 言わなかったっけ? と首を傾げる純子の表情が実に憎らしい。
 そんな話は聞いた覚えがない。第一、彼氏がいるのに、榎本一人……男一人しかいない部屋に入り浸るとはどういう了見なのか。
 いや、結婚まで考えている……それだけ付き合いの長い、深い関係だからこその余裕かもしれない。自分などと何かが起きるわけはない、という、余裕。
461幸せ家族計画について真剣に考えてみた 2/3:2012/06/21(木) 23:20:15.52 ID:4aMuY+on
「で、どうでしょう?」
「…………」
「榎本さんだったら、どんな伝え方をされたら嬉しいですか?」
「……そうですね。何分、経験が無いので想像になりますが」
 この苛立ちをどうしたらいいものか。口調がとげとげしくならないように気を付けながら、榎本は、慎重に言葉を選んだ。
「持って回った言い方よりも、ストレートに伝えて頂く方がいい、と、僕は思います」
「そうなんですか?」
「ええ。僕なら、ですが。僕は、あまり他人とコミュニケーションを取らないので、会話における暗黙の了解ですとか、発言の裏を読み取るような真似ができませんから」
 淡々と告げると、「なるほど」と感心された。
 その隙に、ちらりと腹部に目を走らせてみる。目立った膨らみはないように見えるが、俗に言う「三ヶ月」ではそんなものなのだろう。
「相手のことを本当に愛しているのなら、どんな言葉でも嬉しいと思いますよ」
 ごくり、とお茶を一口。冷めている、ということを除いても、いやに苦く感じた。
「遊び相手の女性から身ごもりました、と告白されたら、どんな言葉で告げられてもうろたえると思いますが。結婚を考えている相手なら、大丈夫でしょう」
「うーん。そうですか。そりゃ、そうですよね。自分の子供ですもん。嬉しくないわけないですよね」
「当然です」
 と言い切りながら、自分ならどうだろうか、と思わず夢想してしまうのが物悲しい。
 自分のような男が子供を授かるなど、まず永遠に無いだろうが。想像くらいは許されるだろうか。
「どんな男性なのですか」
 頭の中の悲しい映像を振り払って。榎本は、菓子に手を伸ばしながら言った。
「例えば、経済的な面で厳しい事情がある場合。もしくは仕事で遠方への長期出張や転勤予定などが控えている場合は、別の意味で混乱する可能性はあります」
「あ、それは大丈夫ですよ! ちゃんとした会社に勤めている男性で、特に出張も転勤も予定はないそうです」
 にこにこ笑顔の純子は本当に嬉しそうで。それがまた、榎本の傷をえぐる。
「まあ確かに、不景気だーって色々厳しそうですけど。今まで共働きでそれなりの貯蓄もあるそうなので、経済的な面では心配ないかな、と」
「……そうですか」
 よく考えたら、純子は若いながら弁護士として第一線で活躍しているのだ。聞いたことはないが、もしかしたら榎本より稼ぎは多いかもしれない。
 男としてのプライドが「ぐさっ!」と音を立てて傷つくのを感じながら、榎本は、味のしない菓子を飲み下した。
「でしたら、何の問題もないと思います」
 そっと視線を外す。これ以上、純子の顔を見ているのが辛かった。
 気づくのが遅すぎた。今更、自分の気持ちを伝えても、純子を苦しめるだけだろう。ならば、自分にできることは、墓に入るまでこの気持ちを押し隠すことだけだ。
462幸せ家族計画について真剣に考えてみた 3/3:2012/06/21(木) 23:21:51.81 ID:4aMuY+on
「早く伝えてあげればいいと思います。きっと、その男性も喜ぶでしょう」
「そうですよね! ありがとうございます。やっぱり、榎本さんに相談してよかった!」
 邪気の無い言葉が腹立たしい。純子にとって、自分はただの相談相手であり、愚痴を吐き出す場所。そんなことはとうにわかっていて、別にそれについて何の不満もなかったはずなのに。
「……こんなところに居ていいんですか」
「はい? 何でですか?」
「ここは地下です。床はコンクリートで、夏場でも冷えます」
「はあ」
 妊婦の癖に何を呑気なことを、と苛立ちながら、榎本は、防災用具として積まれた毛布を引っ張り出し、純子の膝にかけた。
「あの、榎本さん、暑いんですけど」
「我慢してください。何かあったらどうするんですか」
「は? 何かって?」
「僕ですら知っています。妊娠中は、身体を冷やしてはいけないんでしょう。もっと自分の身体を大事にしてください。もう一人の身体ではないんですから」
 純子の目を見ないまま、そう吐き捨てると。
 しばしの沈黙の後。耳をつく爆笑に、身体がよろめいた。
「あっ……あはは! あははははは! 何、言ってるんですか榎本さんっ! 違う違う、違いますよ!」
 もう何それ何それ、信じられない! とばしばし机を叩いて。
 純子は、笑いすぎて溢れた涙を拭いながら、言った。
「違いますよ! わたしの話じゃありません。友達の話です! ほら、以前、榎本さんにセキュリティを見てもらった友人がいたでしょう? 彼女ですよ!」
「…………」
「もうすぐ結婚式なんですけど。式の前に妊娠がわかっちゃって。まあお腹が膨らむ前でよかったんじゃない? って言ってたんですけどね! ああ、もう本当におかしい!」
 あはははははははは! という笑い声を背に受けながら。榎本は、溢れそうになる激情を必死にこらえていた。
 何なのだこの展開は。こんなオチがあっていいのだろうか。
 あんな言われ方をされたら、普通、誤解するだろう。まさかわざとなのか? 純子はからかう目的でこんな質問を持ちかけたのか?
「ああ、でも、本当に榎本さんに相談してよかった、って思いますよ」
 あはははは、と、ひとしきり笑った後。
 純子は、大きな深呼吸をしながら言った。
「そんなに真剣に、わたしのこと、考えてくれたんですね。本当にありがとうございます」
「…………」
 その素直な礼に、怒りをぶつけることもできず。
 榎本は、いつものように、憮然とした表情のまま、椅子に座り直した。

××××××××

例え振られても榎本ならみっともなくあがいたりせずに相手の幸せを願えるはずだ
という思いをこめて書いてみました。
前作に続いてありがちオチ失礼しました
463名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 23:31:18.97 ID:VqPz0Xsm
>>459
GJな上に、丁寧な解説ありがとう

自分、短気で申し訳ない
464名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 23:56:57.17 ID:UKYf6yLD
疲れきって帰ってきたら、大量投下でうれしい。
お風呂から上がったらまた投下されててうれしすぎる。
書き手のみなさん乙ですー!幸せ。
>>462
前作大好きで泣いたのに、今度はわらったよー。毛布かける榎本…。
いや…途中は榎本覚えがないのか?とか色々想像しましたが・・。
>>434
スカイツリーみながらどんなエッチを・・・
妄想が止まらなくなった。しかも笑いもある。
短いのにうまいですな。
465名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 01:01:48.11 ID:NbVlM1cP
職人さんまとめてGJです!

再放送見て思ったけど、純子はチームメイトとして榎本を信頼していて警戒心なく榎本との距離を縮めているけど、榎本は完全に女として純子を意識しているように思える

無意識な純子の行動に内心振り回されて悶々としている榎本に萌える…
466名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 01:10:51.07 ID:Gl9c6Sk2
>>465
> 再放送見て思ったけど、純子はチームメイトとして榎本を信頼していて警戒心なく榎本との距離を縮めているけど、榎本は完全に女として純子を意識しているように思える

同意だ
この関係性たまらんDT榎本もっと悶々すればいい

職人さんたち感謝です
467名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 05:09:26.41 ID:D3+G9CKv
468名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 06:30:31.01 ID:uPE7zGKg
妊婦心配する榎本かわいいよーw
GJGJ!
469約束 1/10:2012/06/22(金) 17:30:32.55 ID:DwDBagST
やたらと長いので、前半3割をカットしました。
ドラマ版エスケープendの榎本青砥の3年後をイメージしています。
そのためキャラは原作版寄りになっています。

カットした前半のあらすじは以下の通り。
「仕事でニューヨークを訪れていた青砥は、里奈に頼まれたペンダントを購入する為に訪れた宝石店で榎本に似た男を見かけるが、一旦は人違いだと判断する。
しかし、店を出た後にスリに狙われ、すんでのところで里奈のペンダントを奪われそうになるところを、先刻の男に助けられ、やはり彼が榎本本人であると確信する。
青砥を振り切りその場を立ち去ろうとする榎本に、純子は自分の宿泊先を明かし、一晩中待っていると伝えるのだった。」

スレとはテイスト違いかもしれません。
また、長すぎて投稿規制がかかるかもしれません。
投下はこれが最初で最後のつもりなので、お目汚しご容赦願います。
470約束 2/10:2012/06/22(金) 17:32:45.08 ID:DwDBagST
追いかければ良かった…。

ホテルの部屋に戻ってからも何度もこみ上げる苦い後悔を、純子は好物のKissチョコと水割りで無理やり飲み下した。
目を閉じて瞼の裏に、今日会った青年の残像を再生し続ける。
彼の手も声も、横顔も眼差しも、何もかもがこの3年間焦がれ続けた榎本径のそれだった。
それなのに純子は、身長が違う気がしたと言うだけで、たった一度きりの奇跡を逃してしまったのだ。

結局、3年経っても自分は何一つ変わっていない。
少しは弁護士としての経験も積み、人間としても成長出来ているつもりでいたが、中身はあの日榎本を失ったあの備品倉庫から、一歩も踏み出せていないのだ。

純子は足元のサムソナイトに目をやった。
荷造りはもう済んでいる。
明日の昼には自分はこの地を発ち、榎本もまたいずれはこの街を離れるだろう。
次の奇跡はもう起こらない。
チャンスの女神には前髪しか無い。

純子は化粧ポーチからイヤホンを取り出し耳に押し込むとベッドに身を投げ出した。
携帯プレーヤは彼が唯一残していった、謂わば遺留品だ。
「遺留品…か…」
そのコンテキストに内心NGを出しながら、純子はその中に唯一収録されていたモノに耳を傾ける。
メトロノームの規則正しいリズムが、まるで母親の胎内で聞いた心音のように純子の心を整えてくれる。
純子はあの頃の榎本の、計り知れない孤独を思いながら、いつしか深い眠りに落ちていった。
471約束 3/10:2012/06/22(金) 17:33:51.69 ID:DwDBagST
相変わらずだな…。
雑然とした室内を見回すと、出来るだけ音を立てないように室内照明のスイッチを切った。
カーテンを閉め忘れたらしい硝子窓から、月灯りが差し込んでいる。
径はその仄暗い部屋を猫のような足取りで横切ると、一人掛けのソファにゆっくりと腰を下ろすと、目を閉じて自分の呼吸とシンクロする規則正しい寝息に耳をそばだてた。

我ながら、こんなことをしていて良いのかという気がしている。
芹沢達の前から姿を消したのは、自分の過去から逃れる為と、それ以上に青砥純子の未来を守る為だった。
3年間、彼女が輝かしいキャリアを築き上げる日だけを希望に、出口の無い孤独に耐えて来た。
それなのに、こんなちっぽけな感傷に囚われて、再び侵入というリスクを冒すことになるとは。
のるか?そるか?
いや、彼女の答えがなんであれ、あの日必死で守ろうとした全てのものを失う可能性があることを、自分は理解出来ているのだろうか?
当然理解していたる筈だった。だが、それでも来てしまった。
彼女が言いよどんだ言葉の先に、何があるのかを知りたかった。
472約束 4/10:2012/06/22(金) 17:34:39.43 ID:DwDBagST
純子は耳朶を伝う自分の涙の冷たさに目を覚ました。
けだるい体を起こすと、イヤホンは自然に耳から落ちる。
来るはずもない榎本からの電話を待ちくたびれて、いつの間にか寝てしまったのだろう。
真っ暗な部屋の中で、枕元に置いた携帯用の目覚まし時計だけがカチカチと音を刻んでいた。

…?
不意に純子は違和感を覚えた。
薄闇の中にもう一つ、自分以外の何者かの呼吸を感じた気がしたからだ。

息を殺し、身を固くして目線だけを巡らす。
やがて暗さに慣れた目が、ベッドの足元に置かれたテーブルの向こうの小柄な男をフォーカスする。
その人影に気がついた時、純子はもはや一言も発することが出来なかった。

男はソファから立ち上がると、ゆっくりと純子に向かって歩を進める。
そんな…まさか…どうやって?

「言ったでしょう?こんなの余裕です」

男は純子の反応を待ったが、彼女が何も答えられずにいるのを見て取ると、小さくため息をついた。

「何か言って下さい。これでもなけなしの勇気を振り絞って来たんですから」
それでも純子は黙っていた。
まるで言葉を奪われた人魚のように押し黙り、身じろぎもせずにただ見つめ返す。
この三年間、片時も忘れたことがなかった懐かしいチームメイトの顔を。

榎本はベッドの端に座ると、左の手を純子の右頬に伸ばす。
今や榎本は息がかかるほどの近くにいる。
純子は自分の鼓動の速さに気づかれまいと、胸で浅い呼吸を繰り返した。
まるで陸に上がった魚のように息苦しそうな純子に、榎本は顔を曇らせた。

「青砥さん。出て行って欲しかったら頷いて下さい。僕はあなたの意にそまないことをしようとは思いません」
純子は答えない。
榎本は質問を変えた。
「今日、何か言いかけましたよね。何を言おうとしたんですか?それだけ教えて貰えたら、僕は出て行きます」

何を言おうとしたか?
私があなたに言いたいことは、他に何があるだろう?
あなたはまだ気がつかない振りをするのか?
純子の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
まるでそれが言葉の代わりだとでもいうように、涙は次から次へと溢れてはこぼれ落ちる。
「愛してます」も「好きです」も「逢いたかった」も…
答える代わりに純子は、瞬きもせずにまっすぐ榎本を見返した。
473約束 5/10:2012/06/22(金) 17:35:29.60 ID:DwDBagST
「泣かないで…」
既に径は完全に後悔していた。
純子を怯えさせ、悲しませようなどと露程にも思っていなかったのだ。
だが、来てしまった。
青砥の頬に触れ、吐息を感じる程の距離にいて、これ以上自分をコントロールするなど不可能だ。

径は、大きく息を吸った。
ここまで来てしまったら、後には引けない。
この人を手に入れられるなら、全てを捨ててもいいと思える自分を、罵り呪うもう一人の自分がいることも判っている。
だが、青砥が観念したように瞳を閉じた時、径もまた覚悟を決めた。
自分は所詮この運命から逃れられない。
青砥純子に対する自分の気持ちは選べない。
最初に出会った時から決まっていたのだ。

意を決し、溢れてはこぼれ、こぼれては落ちる純子の涙に唇を寄せる。
そして雫を追いかける小鳥が涙をついばむように、径は青砥純子の頬にくちづけた。
やがて目的地に辿り着くと、餌を探し当てた小鳥のように、柔らかなそれに自分の舌を割り入れる。
まるで手ごわいセキュリティを突破した時の快感に似ていると、径は、その時は思っていた。
474約束 6/10:2012/06/22(金) 17:36:12.35 ID:DwDBagST
長いくちづけに純子は喘いだ。
離れて過ごした歳月を埋めるように互いを与え奪い合い、溢れては落ちる涙に濡れながら、その一方で感じるこの渇きはなんなのだろうか?
満たされる一方で飢えていく。

純子には分かっていた。
自分はこの先に進みたいのだ。
その扉の向こうに、どこかで見たような別れがあるとしても。

純子には榎本から躊躇いを押し出すように、彼の中に回した指に力を込める。
その腕の強さが合図であるかのように、榎本は純子の唇を解放し、彼女の白い顎からうなじ、うなじから鎖骨へと唇を這わせる。
そしてパジャマ越しに、手のひらで純子の胸の小さな突起を確認すると、器用にボタンを外し、あらわになった乳房を頬張った。
自分に欲情し、悩ましげに眉を顰める榎本が、純子にはたまらなく愛おしい。
純子は榎本の頭を抱きかかえたまま、静かにベッドに横たわる。
その機を逃さず、榎本は純子から彼と彼女を隔てるものを全て引き剥がした。

「青砥さん…綺麗です…」
榎本は絞るように嘆息する。
焦がれ続けた相手が、今や自分の為に理性を失いつつある様子に、純子の中に僅かに残っていた羞恥の鎖もとかれていく。
もっと私を見て欲しい。
もっと私に触れて欲しい。
そして…もっとあなたを見せて欲しい。

榎本がもどかしげにセーターを脱ぎ捨てた時、純子はそれまで閉じていた目を見開いた。
そして、彼女の眼差しにたじろぐ榎本を、じっと、見た。
475約束 7/10:2012/06/22(金) 17:36:55.03 ID:DwDBagST
「…待って」
それまで一言も発せずに自分に身を委ねていた青砥に突然制されて、径は少なからず狼狽した。
自分はもう、引くに引けないところまで来ている。
残酷だ。
…と径は思った。

だが。
青砥がその後に口にしたのは、あまりに意外な一言だった。
「…待って。…私にも…、させて下さい」
「え?…あっ…」

青砥は径の答えを待たずにズボンに手を掛けると、彼の中心で今にも破裂しそうに張り詰めていたそれを導き出して、躊躇いもなく口にふくんだ。

「青砥さん…それは…」
とてつもない羞恥に襲われながら、高波のように押し寄せる快感に、径はなすすべもなかった。
いや、快感ではなく感動かもしれなかった。

径とて大して経験豊富な方ではないが、青砥はその体つきも反応も、そして径のものを口いっぱいにほうばるその口元も、何もかもが明らかに経験の少なさを表していた。
それなのにそんな彼女が今、ありったけの知識を動員して自分を悦ばそうと懸命になっている。
本来自分とは釣り合わない、高嶺の花である筈の純子が、跪いて自分のものを咥えている姿に、径は胸が熱くなるような、締め付けられるような感覚を覚えた。
476約束 8/10:2012/06/22(金) 17:37:37.03 ID:DwDBagST
「青砥さん…青砥さん?」
喘ぐようなに、純子は手の動きを止めて榎本を見上げた。
すると、純子の肩に置かれた榎本の手に力が入り、純子はやすやすと押しのけられた。

二人の間に数十cm程の距離が出来て、改めて純子は榎本の肢体を見た。
学生のようにベーシックな彼の服装の下に、こんな鍛え上げられた肉体が隠されていることなど、あの頃の誰が想像出来ただろうか。

再び自分に伸ばされた純子の手を、榎本の長い指が制した。

「青砥さん…」
再び名前を呼ばれ、純子は榎本を見る。
榎本は無言で純子に唇を重ねた。
そうして気がついた。
榎本も自分も、喉がカラカラだ。

一糸まとわぬ体と体を重ね、二人は貪るようにくちづけあった。
純子の背中を抱いていた榎本の指が、青砥の白桃のような下半身をなぞり、ひめやかに雫をたたえた蕾を探しあてる。
一瞬力の入った純子の両膝を、榎本はゆっくりと開いた。
長らく閉じられたままになっていた花弁に榎本が割り入った時、純子は密やかに悦びの嗚咽を漏らした。

窓の外はいつの間にか雨に代り、間断なくリズムを刻んでいる。
窓の内側で交わる抱き合う鍵達は、やがて情動の機械となって、お互いを解錠する鍵のように、犯しあう。
無表情に二人の残り時間をカウントする、時計の音に耳を塞いで。
477名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 17:47:45.75 ID:DwDBagST
あー、やっぱり連続投稿でひっかかりました。
一応、ささやかなエピローグを用意してたんですが…
でも、ま、エロ部分は終わってるので、
二人のその後などは、皆さんの想像にお任せします。

あ、中の人達が歌ってる主題歌に、かなりの部分をインスパイアされています。
では。
478約束 9/10:2012/06/22(金) 17:53:22.72 ID:DwDBagST
目覚めた時、室内にはもう、径の気配はどこにもなかった。
純子はのろのろと起き上がると、冷蔵庫の中のミネラルウォーターを一口飲み、温いシャワーを浴びて身支度を整えた。

一緒には生きられない。
それは最初から判りきっていたことだ。

フロントにルームサービスを頼み、床に脱ぎ捨てられた衣類を拾い集め、畳んでサムソナイトの上に置く。
そうだ、鍵はどこへやったっけ?
相変わらずドジなんだから。ああそうだ、化粧ポーチの中だった。
自分自身にうんざりしながらスーツケースを開ける。
押し込まれた荷物の真ん中に置かれた、ベビーブルーの小箱を見て、純子はホテルの廊下にまでも響きそうな声を上げて、身も世も無く泣き崩れた。
479約束 10/10:2012/06/22(金) 17:55:07.83 ID:DwDBagST
出国手続きを終えて、純子は搭乗のアナウンスを待っていた。
次にこの地を訪れるのはいつになるだろう?
その時、私は彼に会えるだろうか?

会える。と、純子は思う。
それはここではないかもしれないけれど、いつかきっと、そう遠くない将来に。
一緒には生きられない。
だけど、一緒でなくては生きていけない。

ふと、純子は、今朝サムソナイトの中に見つけた小箱を取り出した。
径の悪戯なのだろう。
中身は本物ではなく、子どもの頃夜店で買ったようなおもちゃの指輪だった。
光にかざすと、「key」と彫ってある。

径。
そして、鍵。

彼は私に彼の頑なな心の扉を開く鍵を託してくれた。
純子はそう信じることに決めると、その子どもじみた可愛らしい小さな輪に、それまで一度も指輪をはめたことのない左手薬指をくぐらせてつぶやく。

「約束ですよ」

必ず彼はまた現れるだろう、あの質問の答えを聞きに。
その約束を指に輝かせながら、純子は立ち上がり、歩き始めた。
480約束 終了:2012/06/22(金) 17:56:10.13 ID:DwDBagST
なんか書き込めちゃいました。
失礼致しました。
481名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 18:36:07.26 ID:R63D83/p
なんかステキ。じ〜んとしました。初めのほうも読みたかったかも。
482名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 18:59:24.11 ID:lOtej5Nu
GJ
483名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 19:10:07.70 ID:MoiLwgdu
>>482
これっきりなんてもったいない。また書いてください。まるで映画をみているかのようでした。
素晴らしすぎて言葉が出てこない。神業堪能しました。
484名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 19:48:59.32 ID:I1zfuSAE
>>480
素晴らしいです。
本当に、私も是非またお願いしたい。
485名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 20:50:17.20 ID:O/fhhbIW
しっとりとした雰囲気が素敵でした。
また書いて下さいね。
486約束 お礼:2012/06/22(金) 20:51:54.06 ID:DwDBagST
沢山の感想をありがとうございます。
今日の昼に、ドラマは榎本が失踪して終わるらしいという噂を聞き、一気に書き上げました。
充分に遂行しなかったので読み返すとミスが多く反省しきりですが、お楽しみ頂けたなら良かったです。
それではまたロム専に戻ります。
職人の皆さんの素晴しい作品を楽しみにしています。
487約束 あ:2012/06/22(金) 20:53:11.79 ID:DwDBagST
遂行→推敲です。
自分はこれだからorz
では今度こそ本当にごきげんよう。
488名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 20:59:38.32 ID:ApPfC6Gw
>>480
切なくて素敵です。ぜひ、続編が読みたいです。
489名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 21:34:14.67 ID:nrmW5alr
>>486
それが本当だったら多大なるネタバレなんだけど
もう出てこなくていいよ
490約束 ネタバレの件:2012/06/22(金) 22:02:35.66 ID:DwDBagST
>>489
そういう書き込みが本スレにありました。
ここはドラマのをご覧の方が集ってらっしゃるスレでしょうから
皆さん当然そちらもお読みになっているのかと。

ただ、現時点では憶測の域を出ず、真偽の程は定かではありません。
自分は逆に、現時点でそういう煽りが出たということは
エスケープ落ちはなくなったと考えて良いと思ってはいますが。
491名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 22:08:03.22 ID:/R2+EsJq
原作のネタバレじゃないし、
公式発表されたラテ欄の煽りと主題歌から話を膨らませただけでしょ。
492名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 22:53:12.49 ID:uPE7zGKg
やーすばらしかった。榎本と青砥の再開部分もよかったら載せてください。
それから別のエピも書いて欲しい!ネタ降りてきたらぜひぜひよろしくです。
493名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 23:19:22.52 ID:I1zfuSAE
最終回の行方がわからないからこそ、このタイミングでの投下かと思ったけど…。
新作無理でも、せめてカットした3割の投下を是非お願いしたい。
494名無しさん@ピンキー:2012/06/22(金) 23:44:13.53 ID:tnEgGv0V
>>493
それは言えるかも<このタイミング
よくも悪くも、行方がわかっちゃったら書けなくなる妄想はあるだろうし
そういう自分もテレビ板のドラマ本スレ見てて
もしエスケープ落ちになるとしたら、あの地下倉庫最後の日に榎本と純子が互いの気持ちぶつけあって……
的なSSを考えたけど
力いっぱい約束書き手さんがカットされた3割とネタ被ってそうなんで封印www

何はともあれ最終回まで後3日!
待ち遠しいような、終わってほしくないような複雑な気分
495名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 00:17:42.06 ID:/rb814M8
妊娠を告げる相談をする純子はどう読んでも
わざと誤解させて榎本の反応を楽しむ性格の悪い女にしか見えない
ドラマでも状況を説明するときは弁護士らしく組み立てた文章で話してるのに
のんびりお喋りしてる余裕のある会話で「誰が」を省くなんて
天然を装って自分に気のある男もてあそぶ嫌な女だな
496名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 00:46:58.01 ID:BmgltB97
>>495
性悪な榎本SSも投下されてるけどそっちはいいのか?
まず間違いなく書き手当人も見てるのに、直前に投下されたSSを無視してまでかみつくあんたのがよっぽど嫌な奴だよ
これだけたくさん書き手がいるんだから1つや2つは趣味にあわないSSが来てもしょうがない。
気に入らないものはスルーすれ
497名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 01:26:43.09 ID:g9Eb2oBD
>>496
この間から変な人が来てるから、変なレスだと思ったらスルーだよ。

約束面白かったGJ。脳内で実写化した。
498名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 01:48:54.83 ID:l10xQAmV
約束、GJでした!
劇場版だわ。スクリーンで見ているようなR18、最高でした。
499名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 02:21:48.32 ID:5QnlJBDP
>>480
自分は映画製作に関わっていますがフランソワ・トリュフォーという映画監督の
作品みたいだなと思いました。美しいです。
500paranoia:2012/06/23(土) 03:25:48.03 ID:W8xU2SuS
後編できました。これで完結です。
アンカつけるので、まとめ読みの方はまずそちらをお読みください。 
501paranoia 7:2012/06/23(土) 03:28:01.21 ID:W8xU2SuS
>>395-397 前編
>>444-446 中編


径は完全に硬直していた。自分の唇に、柔らかい感触が当たっている。近すぎる場所に目を閉じた純子の顔があり、そのまつ毛や眉毛を凝視した。心臓の音がやたらに大きく鳴り響く。
すっと、唇を離して目を開けた純子は目を見開き、固まった径の表情を見て吹き出した。
「え、榎本さんて、本当にこういうことしたことないんですね」
「ありません。ありません。」
「それなのによくあんなこと出来ましたね。」
「あの時は無我夢中で…無我夢中で…」
純子はそっと径の頬に手を伸ばし、やさしくなでる。
「そんなに私のこと、思ってくれたんですね。」
純子がまた唇を寄せると、径の表情が固まって口は真一文字に閉じている。純子は頬から指をずらして径の唇をなぞった。
「クチ、ちょっとだけ開けて下さい。」
そう言って見つめる純子の顔は、なんだか妙に大人びて見えた。

いわれるまま、恐る恐るゆっくりと口を開く。そこに純子の舌が、にゅるっと、まるで意思のある異生物のように入り込んできて、径の舌に絡みついてきた。
生ぬるい、不思議な感触。お互いの唾液が混ざりあう。キスとはこんなにもいやらしいものだったのかと驚いた。
何とも言えない純子の舌の感触に酔いしれていると、下腹部がムズムズしてきて、また焦る。径は慌てて純子の身体を剥がした。
「青砥さん、本当にもうやめて下さい。いくらなんでも悪ふざけがすぎませんか」
「いい歳して何言ってるんですか、榎本さん。私たちはして当たり前のことをしているんです。それにほらここ…」
いたずらっぽく笑いながら、ズボンの上から径の下腹部を抑えつけた。
「ここは、正直じゃないですか」
そういうと、ベルトをはずし、ファスナーを下ろしていく。
「青砥さん、やめてください。お願いですからもう… …っ!!」
舌が、ねっとりと自分のものを撫でる感覚。気持ちよさで、体中の血液がそれに集まっていくのがわかった。ピチャピチャという唾液が立てる音に、より興奮を覚える。
径の顔を見上げると、いつもキッと釣り上った眉毛が少し下がっている。
「気持ちいいですか…?」
起き上がって、径の眼鏡をはずし、自分に掛ける。
「カワイイ…榎本さん。」
眼鏡をかけた純子は、今度は口に全部含んで上下に動いた。じゅぶじゅぶと音がする。
興奮が高まると同時に、強い快感が襲ってきて、まずい…と思う間もなくイッてしまった。それを純子の舌がからめ捕るように動いて、気持ちよさは倍増した。
むくりと起き上がった純子は、黙って口元を抑えている。径はまた慌てた。
「申し訳ありません、すぐにこちらに出して下さい」
と、ティッシュを差し出したが、純子は目をパチパチさせているだけで動かない。やがて------------ゴクリ。と。飲み込むような音がした。

「まさか…」
「飲んじゃいました」
「そ、そんなもの飲んで、大丈夫なものなのでしょうか。お腹が痛くなったりはしませんか?」
真顔で心配する径に、純子は笑いをこらえきれない様子だ。
「大丈夫…だと思います。私もさすがに、飲んだのは初めてですが」
「?何で出さなかったんですか」
「それは…榎本さんのだから、飲んじゃってもいいかなって、なんとなく思えたので…」
「…??それは、喜ぶべきことなんでしょうか」
「ん?はい?それは…さあ、どうでしょう」
会話の間、純子はずっとニヤニヤして笑っているが、径にはなにが可笑しいのかも不明だ。
チラッと部屋の奥にあるベッドをみて「あっちに行きましょう」と誘う。
「え、でも、もう」
「大丈夫です。私が元気にしてあげますから。服、脱いで下さい」
そういいながら、径のネクタイに手をかける。シュルッと床に滑り落ちた。
502paranoia 8:2012/06/23(土) 03:28:48.54 ID:W8xU2SuS
照明を落として、径は純子に背を向けて服を脱いだ。脱ぎながら、今日の出来事を思い返してみる。
確か、ついさっきまではもう会わないと心に決めた純子と、何故かいまここに二人でいる。しかも、これからしようとしていることは…間違いなく、あれだと思う。
いいんだろうか。
普通、何回かデートをして、そのうちキスをして、そのうち… というのが筋道というものじゃないんだろうか?

「榎本さん…」
一応全裸になったものの、迷いだらけの径だったが、振り返った瞬間迷いは消し飛んだ。
目の前には、およそグラビアのような、手をクロスさせて胸だけ隠した純子が裸で立っていた。径はその姿をまじまじと見つめた。陶器のような肌と、なめらかな曲線。男の身体とは、明らかに違うその形状に見入っていた。
純子はゆっくりベッドに腰をおろした。径も自然とその横に座った。
触ってみたい。そんな欲望にとりつかれ、手を伸ばして純子にキスしようとしたとき。
「あ、そういえば」
「はい?」
「さっき口に…」
そうか。確かに、それはまずい気がする。
「…まだ残っていますか?」
「…かすかに」
径はサッと立ち上がり、部屋をスタスタと横切り、くるっとキッチンで曲がり、冷蔵庫から迷いなくミネラルウォーターを取り出して、純子に渡した。
「どうぞ」
エッチのことはガチガチだったのに、急に機敏になったのが面白くて、純子は水を飲みながら笑った。径は、裸で水を飲む純子を見ていた。喉が、水を飲み込むと同時にうごめくのを、じっと見ていた。
「女性というのは、綺麗なんですね」
「榎本さん、普通、こういうときは”青砥さん、綺麗ですね”っていうんですよ」
「?僕が言ったことと、青砥さんが言ったことと、一体何が違うんですか?」
純子は答えなかったが、困ったように笑った。

さっき覚えたばかりのキスを、今度は径からした。すこしづつ、自分からも舌を動かしてみる。舌以外の、口の中も舐めてみる。そんなことをしていると、純子の吐息が聞こえた。
唇を離して、押し倒してみる。鎖骨が綺麗に浮き出ているので、指で触ってみる。
まいった。何をすればいいのかわからない。でも順番からするときっとここだろう。
両手で、胸を触ってみる。その柔らかさに、驚く。なんだこれ… 真剣に観察しながら手を動かしていると。
「これ…食べてみてください。」
と自分の乳首を指差した。
食べる?口に含むということだろうか。
径は唇を近づけて、手で押さえながらぺロッと舐めてみた。味はしないな…と思いながら、咥えてみる。口の中で舌でいじっていると、純子の息が上がってきた。どうやら気持ちがいいらしい。
吸ったり噛んだりしていると、より一層純子の体が敏感に反応した。それに径は興奮した。
逆の胸も同様に攻めてみる。だんだんと純子の体は火照りだし、小さい声も漏れた。
なんて可愛い声を出すんだろう。いつもの話す声と、全然違う…

径が顔を上げて純子の顔を見ていると、純子は足を開いて股の間を指差した。かすかに息が乱れている。
「ここが一番感じるんです。でも力はあまり入れないでくださいね…」
径の指を掴んで、純子は陰核へと導いた。
「分かりました。優しくですね…」
ゴクリ、と生唾を飲み込んだ。
初めて見るそれは、不思議な形状をしていた。なんだか、貝の形のような。示された場所を、そっと指の腹で撫でてみる。
「…ん、はっ…」
反応している。径は純子の反応を見ながら、指を動かした。
もっと。もっと感じさせたい------------そういえば、さっき舐めてもらった時はすごく気持ちよかった。
「ここは舐めてもいいのでしょうか」
「…え、確かにするひともいますが…汚いのでしないでください、えのも、ああ」
径は夢中でそこを舐めた。面白いように純子は反応して身をよじり、高い声を何度も上げた。
舌先で刺激を与えると、透明なトロトロの液体が溢れだしシーツを濡らしていく。おそらく、ここが…
指先で探ると、吸いつくような感触の場所を見つけた。思い切ってそこを押すと、指がズブズブと吸い込まれていった。
503paranoia 9:2012/06/23(土) 03:29:53.53 ID:W8xU2SuS
ドクン、ドクン。
心臓が高鳴った。そこは不思議な場所だった。熱の籠った、侵入を拒む密室のようだと思った。そのくらいの抵抗を感じた。
まさぐるたびに、湿った壁が指に吸いついてくる。
穴に入れて探るなんて、なんだかいつもしていることに似ている。カチャカチャという音の替わりに、くちゅくちゅと粘液が音を立てている。
集中して、生温かい肉壁を探ると、純子の息遣いが乱れ、またさっきの愛らしい声がこぼれだした。
径は取り付かれたように指で内部をまさぐり続けた。やがて、あえぎ声は悲鳴にも似た嬌声に変わる。純子の身体がはじけるようにのけぞって、耐え切れず径の腕にしがみついた。
「ダメッ、も、もう…」
「…もう?」
「…は…、もう…きて」
???キテ?
…いや、もうすることは一つしかなさそうだ。
径は床から先刻ゴミのように払い飛ばしたコンドームを拾い上げた。
とりあえず開けてみるが、実際に装着したことはない。説明書を読みたいが、そんなものは見当たらない。
無表情で困っていると、純子が起き上がってそれを取った。
「つけて上げましょうか?」
「つけてあげたことがあるのですか?」
純子は照れ笑いをして「ないです」といった。ついでに男をリードするのは初めてだとも。
「でもたぶんこうです」
先端に載せて、クルクルと広げていく。見ていてなんとなく要領がわかったので、そこからは自分でやった。
ものすごくドキドキした。普段は何があっても動じないが、さすがにこれは緊張した。
入れようとしても、先端が滑ってなかなか入らない。結局純子の手に誘導してもらってやっと挿入できた。ゆるゆると、抵抗を感じながら一応は奥まで入れた。ふーっと、息を吐きだす。
なんとなく腰を動かしてみるが、さっきの手の作業と違ってこちらはなんとも要領を得ない。
純子も目を閉じて気持ちよさそうな顔こそしているが、然程息が乱れている様子もない。
「青砥さん。」
「はい…なぁに。」
何だか声が甘ったるい。
「気持ちいいですか?」
「うん、気持ちいい」
ほほ笑む純子には、余裕が感じられる。
「本当ですか?」
「ホントですよー。」
「…ホントですか??」
閉じていた目を開けると、大真面目な顔で純子の顔をじっと見ている。純子は口にグーの手を当てて笑った。
確かに、指の動きに比べると残念ながらへっぴり腰と言わざるを得ない、初々しい動きだった。
「ねぇ、榎本さん?」
上から覗き込む径の首に腕を伸ばして引き寄せる。二人の身体がぴったりと重なった。
「えっちって…テクニックじゃないんですよ。気持ちが大事なんです」
「気持ち…ですか?」
「そうです。好きな人となら、どんなえっちでも気持ちいいんです。女の体は特にそう。だから、どんな他の人とするよりも、榎本さんとするのが一番きもちいいんですよ」
「…」
本気で言っているのか、判断しかねていると。
「私、こうしていられるのがとても幸せです。榎本さんと繋がっているのが、もう死にそうなくらい幸せ…」
そう言って、泣きそうな顔で純子は笑った。
どうしようもない感情に襲われて、思わず口を塞いだ。
長い長い、キスをした。
「僕も…離れたくありません…」
心から、そう思った。強く強く、純子の身体を抱きしめた。きっと、痛いくらいに。
504paranoia 10:2012/06/23(土) 03:30:45.93 ID:W8xU2SuS
「うん…?」
寝ぼけながら、径はベッドを手でまさぐった。そして、急に目をパチッと開けて飛び起き、周りを見回す。
いない。
一瞬、胸が締め付けられるような不安が駆け巡った。

「おはよう」

振り向くと、純子がキッチンから出てきたところだった。もういつものスーツ姿になっている。
径は幽霊でも見たような顔をして純子を身じろぎもせず見ていた。それですべてを悟る。純子はにわかに表情を曇らせた。
純子が歩み寄る間も、ピクリとも動かず瞳だけがそれを追っている。径の顔に手を添えてそっと軽くキスしたあと、腕をまわして抱きしめた。やっと安心したのか、径の体の力が抜けていくのがわかる。
「榎本さん?」
「…はい」
ゆっくり、径も純子の背中に手を回す。まるで大切な何かを抱えるように、やさしく。
「…結婚してくれませんか?」
驚いて、純子の肩を掴んで体を離した。
「えっ…」
純子はまっすぐに径を見ていた。
「…!そういうことは、軽々しく口にすることではないでしょう。大体あなたは自分の立場が…」
「立場?立場なんて、関係ないです。それに、榎本さんが私と釣り合わないなんてちっとも思いませんが?」
「…僕は事あるごとに警察に疑われるような人間です。そんな僕が傍にいたのでは、青砥さんに迷惑がかかる」
径も本気だった。そもそも釣り合わないことが解っていたからこその行動だった。僕は、彼女にふさわしくない----------。
「…だから!」
純子は両の手で作った拳を径の裸の胸に押しつけた。
「だから…あなたのことは私が守ります。榎本さん。もう二度と、あなたに辛い思いはさせません…ずっと…ずっと、傍にいます。」
「青砥さん」
「一緒にいましょう。これからも、ずっと…」
結婚---------さすがにそれは無理な話だろう。でも…
純子のぬくもりを感じながら、少しだけ、ほんの少しだけ、自分の心にかけた数え切れないほどの錠が、外れて行く気がした。



END
505名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 06:28:15.21 ID:DBK4Gx6e
GJです。
前作以上に、職人さんの主人公に対する愛を感じました。

それと、『約束』に映像を感じてくださった皆さん
とても感激しました。この場を借りて改めてお礼を言います。
本当に、ありがとうございました。
506名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 08:40:17.69 ID:hICN8887
本スレ見てる人ばかりとか勝手に決めつけるな。
最近のスレの雰囲気が気持ち悪い。
507名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 09:18:28.03 ID:cQUw8nQ6
paranoiaと約束、どっちもGJ
508名無しさん@ピンキー:2012/06/23(土) 10:45:58.96 ID:6Auo7ZeP
完全DTで技術ない榎本、リアルであたたかくて良かったー!GJGJGJGJ!!!!
509名無しさん@ピンキー:2012/06/24(日) 11:07:21.20 ID:Z+K1d5Pf
こんなに更新な日ってあったっけ。寂しい。

やくざの砦で榎本が純子ちゃんを守って純子ちゃんが榎本に惚れ直しちゃう感じとか、
純子ちゃんの危険に榎本が超かっこよくアクションして救っちゃうとか、
そういう厨二的なもの読みたいなぁ。
510名無しさん@ピンキー:2012/06/24(日) 11:09:52.87 ID:A0s0icum
最終回直前だからどんな展開になるかと、職人さんも様子を見てるんだよきっと
511名無しさん@ピンキー:2012/06/24(日) 11:58:14.22 ID:+kfF+9yd
>>509
青砥に対してカワイイと言っていた犬山と仲良くしてる姿を見て
動揺している榎本ならわかる
512名無しさん@ピンキー:2012/06/24(日) 22:35:02.51 ID:39ZLNaAC
最終回、早く見たいな
でも終わってしまうのはとっても寂しい
明日の今頃は抜け殻になってそうだ(´・ω・`)
513名無しさん@ピンキー:2012/06/24(日) 23:02:59.32 ID:pGxH7jZx
早く結末を知りたいけど終わって欲しくないというジレンマ…
キャラにまでハマるドラマは久し振りだ。
ドラマが終わっても職人さん達の作品投下ずっと待ってる。
514名無しさん@ピンキー:2012/06/24(日) 23:18:48.61 ID:A0s0icum
先週の10話は素晴らし過ぎてもう何度見返したか分からないほどだ
ラストでの佐藤登場シーンは一言も台詞がないのに、榎本との対峙がすごい緊迫した
雰囲気でいつも目が釘付けになる

だけど必ず>>434のゲイ佐藤も脳裏にチラチラするんだw
515名無しさん@ピンキー:2012/06/24(日) 23:42:05.50 ID:Nn9xdk2V
榎本萌えの人が多いんだろうけど(私もそうだし、801が大嫌いなわけでもないけど)
男女エロパロ板で平気でゲイネタ出すのやめてよ…
どうしてもやりたいなら801板でどうぞ
516名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 00:49:16.32 ID:EGZva/zG
>>515
えー、434は秀逸だと思ったけど。
別にしてるわけじゃないし、あのくらいいいんじゃないの?
517名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 08:30:28.91 ID:7fDDGGRC
私も嫌だな
だから出ていけ、とは言わないけど、好きか嫌いかと聞かれたら嫌い
518名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 08:38:58.54 ID:wTDh6GfY
職人さんのちょっとしたお遊びとしてはありだと思う。
でも、リクエストするようなことかといえば違う。
どうしてもその手のssが読みたいなら、適切な板がある。
それはここじゃない。
519榎本連行後 1:2012/06/25(月) 09:39:50.56 ID:51xtfILR
ドラマ十話の続きがこうなればと思って書きました。急いで書いたので雑ですがどうぞ



榎本さんが警察に連行された。そのあとのことはよく覚えてはいないが、気がつけば芹沢さんと模型とともに榎本さんのいない地下倉庫に帰って来ていた。
芹沢は事情の説明を上に、と部屋を後にし、青砥ひとりになったこの部屋で深く溜め息をつく。空気がやけに重たく静かで、息苦しい。昨日まで来ていた部屋とはまた別の部屋のようで落ち着かない。
ぼーっとしている時間などないと自分を奮い起たせると、そのまま運ぶには大きくてバラバラにした模型を元通りに戻すことにした。
ひとつひとつ部屋が戻されてゆくごとに、涙が溢れた。ほんの数時間前の出来事が、頭の中で何度も再生される。

―榎本さんが人を殺す訳がない―

「…と?青砥?大丈夫か?」
いつの間にか芹沢が部屋に戻って来ていた。涙を袖で拭うと、ほんの少しだけ笑った。
「フッ…馬鹿ですよ。本当におかしいですよね。警察って。榎本さんを疑うなんて」
眼一杯に溜めた涙が、無理に作った笑顔で頬に溢れた。
「あり得ないっつうんだよな。榎本のためにも、早く密室の謎解いてやらねえとな!」
520榎本連行後 2:2012/06/25(月) 09:43:26.80 ID:51xtfILR
「はい!」
鼻をすすりながら大きく頷く青砥に、芹沢も笑顔で応えた。

模型をまた再現し、榎本の真似事をしてみるが、そう簡単に解決しない。時計は無情にも針を進め、1日が終わりを告げようしたころ。
ポケットの中で青砥の携帯が震える。画面に記されているのは覚えのない番号だった。
《はい青砥です。ああ、はい。そうです。え?釈放ですか?―――そんな!分かりました。すぐ向かいます》
青砥の顔から更に正気が抜ける
「青砥?どうした?榎本に何かあったか?」
「いえ、榎本さんは無事釈放されるようです。けど、久永さんが…久永さんが犯行を自供したそうです」
芹沢が椅子から飛び上がる。
「とりあえず今すぐ行こう」
車に乗り込むと、外はいつのまにかどしゃ降りの雨になっていた。雨で滲む街並をぼうっと眺めながら、芹沢も青砥も終始無言で警察までの道を走った。

署内に入ると青砥を久永の元へ向かわせる。後ろ姿が消えると同時に別の扉が開き、榎本と鴻野が現れた。鴻野がこちらの姿を見つけると、バツが悪そな表情をして扉の向こうにまた姿を消した。
一歩ずつ近づいてくる榎本は、辺りを見回し青砥を探しているようだった。
「榎本お疲れさんだったな」
521榎本連行後 3:2012/06/25(月) 09:45:32.77 ID:51xtfILR
肩に手を回すと、榎本が深々と頭を下げた。
「あ〜いいのいいの。青砥なら今さ、久永さんの話聞きに言ってるわ。ちょっと待ってろよ」
「いえ。私は会社に戻って状況を説明して来ます」
帰ろうとする榎本を捕まえ引き止める。
「いや、雨凄いぞ。送ってくから少し待て。青砥が来たら送ってくからな」
「いえ、結構です。青砥さんには会わないほうがいいと思います。久永さんの嘘の自白のお陰で出られたようなものですから。ですから芹沢から、青砥さんに…伝えていただけますか?」

榎本が伝言を残し帰ってすぐ、青砥が走って現れる。
「榎本さんは?まだですか?」
「上司に呼び出されたとかでさ。先に帰ったわ」
「そうですか…久永さんなんですけど、当人とは会えませんでした。やっぱり会社の為ですよね……もう何がなんだか……私、すごく悔しいです」
榎本の無実が証明された訳ではない釈放。無実とわかっているのに会社の犠牲になろうとしている男を止められない自分達の無力さに絶望的な気分になった。
「私、榎本さんが釈放される。久永さんが自供したって聞いたとき、正直喜んじゃったんです。最低ですよね。弁護士なのに」
522榎本連行後 4:2012/06/25(月) 09:48:16.24 ID:51xtfILR
いつも頑固で決して泣かない青砥が、今日は何度も限界をむかえ涙を流す。
今から自分が如何に酷な事を話すのかと思うと、こっちが泣きそうだ…

「あのな…榎本がな…ベイリーフの件が終わるまでだと思うけどな。暫く逢わないほうがいいでしょう。って」
青砥が眉を寄せ睨みあげる。
「待て!俺が言いだしたんじゃないぞ?榎本も、青砥の立場考えてだな。言ってるんだと思うなあ。嫌絶対そうだ!」
両頬を力いっぱい手のひらで拭うと肩で大きく息をした。
「…わかりました。私、頑張りますから!芹沢さん、絶対真犯人見つけましょう!」
決意新たにした青砥は、芹沢には実に厄介だった。
今日はもう帰ろうと言うのに、もう少し調べたい事があるので帰れない。お先にどうぞと頑なに車に乗らなかった。

それから仕事場では努めて明るく過ごしているようだが、連日の徹夜で今にも倒れてしまいそうな後ろ姿が痛々しい。
「青砥?お前身体大丈夫か?」
「はい!大丈夫ですよ。私頑丈なんで」
「あんまり無理すんなよ。じゃあ出かけて来るから」
「はい。」
扉を閉め、暫く中の様子を伺うように聞き耳をたてる。榎本さん…と言う呟きが聞こえると、芹沢も肩を落とす。


榎本はその頃
523榎本連行後 5:2012/06/25(月) 09:49:59.08 ID:51xtfILR
芹沢の計らいもあり、今回の件は同僚達には知らされず、海外研修の名目でしばらく自宅待機となっていた。
鍵を弄る気にはなれず、ぼうっと時間を過ごしていると、携帯が鳴る。
芹沢豪の文字
「もしもし榎本っちゃん?」
「はい。そうです。先日はお世話にな「あ〜、そういうのいいから!ちょっと頼み事があって」
「出来る事でしたら」
「出来る出来る。それが、うちの青砥のことなんだけどさ、やっぱり君が恋しいみたいで……聞いてる?」
「はい。聞いています」
「青砥に電話してやってくれないかな?アイツ頑固だろ?自分から電話なんて出来ないだろうし。元気もなくてさ、見てらんないんだよ」
普段通りと言えばそうかも知れないが、芹沢の声がいつもより覇気がない。
「そうですか。私が電話をしたとして、青砥さんは元気になるんですか?」
「なるなるなる!そりゃ一発で。だって青砥って榎本っちゃんにどう見てもほの字だろ?ーーえ?ほの字知らない?惚れてるって意味。知らない?」
心配して損したとまでは言わないが呆れてしまう。
「知っています。ですが、私にはそう見えません」
「あれ?榎本っちゃんって意外に節穴だな〜。誰がどう見てもでしょう?
524榎本連行後 6:2012/06/25(月) 09:52:43.31 ID:51xtfILR
うちの秘書皆言ってるし、誰が好きでもない男の所に毎日入り浸るんだよ」
そう言われてみれば、だが考えもしなかった。
「はあ……話しが反れてしまいましたが、青砥にさんに電話すれば宜しいんですね?」
「そうしてくれるか?で?榎本っちゃんは青砥の事どうっ…あれ?榎本っちゃん?」
電話は切れてしまった。電波などではなく切られてしまったのだろう。通じなくなった携帯を持ったまま、芹沢は頼んだぞと呟いた。
電話を切った榎本もまた、発信のボタンを押すのを何度も躊躇っていた。
青砥の文字に胸の奥が捻れるように痛むのを、振り払うかのように発信ボタンを押した。
一回目のコール音も鳴り終わらない前に電話が繋がった。
「はっ!はい!青砥です」上擦ったその声に笑いそうになる。
「榎本です。今時間大丈夫ですか?」
「はいっ!全然大丈夫ですけど、どうかされましたか?」
やはり自分からの電話など待っていなかったのだと眉を寄せた。
「…いえ、特に何もありません。ただ青砥さんの声が聞きたくなりました」
芹沢の受け売りの台詞を喋る。こんな言葉で本当に元気になるのだろうか。
「……嬉しいです。けど……困りますよ……」
525榎本連行後 7
元気になるどころか困っている。しかも、泣いてしまったようだ。電話で泣かれてしまった時の対処方も聞いておけば良かった。
「我慢してたのに、声聞いたら、逢いたくなっちゃうじゃないですか…」
榎本の胸が一気に高鳴る。か細く甘えるような声に唾の飲み込み方さえ忘れ、大きくゴクリと喉が鳴った。
「…逢いたいです。榎本さんに今、すごく逢いたいです。胸が苦しくて苦しくて、もう駄目です……」
声を何度もつまらせ叫ぶように言い切ると、子供のように声に出して泣きはじめる。
「すみませんでした。泣かれるとは思いませんでした」
「だって………も〜っそのくらいだって事です!」
怒った口振りになる青砥に戸惑う。
「すみません。明後日から仕事に戻ります。暫く逢わないほうがいいと言っておいて何ですが、その時で良ければ構いませんよ。
あと、青砥さんに調べておいて欲しい事があります。第一発見者は、確かビルの窓拭きの方でしたよね。その人とお会いしたいので、連絡をとっておいて下さい」
「はい。分かりました。明後日ですよね?絶対に行きますね!」
「はい。では、明後日に」

「―と、言われました」
芹沢からどうだった?とすぐに電話があった。