キモ姉&キモウト小説を書こう!part31

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1名無しさん@ピンキー
ここは、キモ姉&キモウトの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○キモ姉&キモウトの小説やネタやプロットは大歓迎です。
愛しいお兄ちゃん又は弟くんに欲情してしまったキモ姉又はキモウトによる
尋常ではない独占欲から・・ライバルの泥棒猫を抹殺するまでの

お兄ちゃん、どいてそいつ殺せない!! とハードなネタまで・・。

主にキモ姉&キモウトの常識外の行動を扱うSSスレです。

■関連サイト

キモ姉&キモウトの小説を書こう第二保管庫@ ウィキ
http://www7.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1.html

キモ姉&キモウト小説まとめサイト
http://matomeya.web.fc2.com/

■前スレ
キモ姉&キモウト小説を書こう!part30
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1276628997/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
2名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 21:07:46 ID:MJehnMpd
          _人人人人人人人人人人人人人人人_
         >      ごらんの有様だよ!!!  <
           ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
_______  _____  _______    ___  _____  _______
ヽ、     _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、   ノ    | _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ  、  |
  ヽ  r ´           ヽ、ノ     'r ´           ヽ、ノ
   ´/==─-      -─==ヽ   /==─-      -─==ヽ
   /   /   /! i、 iヽ、 ヽ  ヽ / / /,人|  iヽヽ、   ヽ,  、i
  ノ / /   /__,.!/ ヽ|、!__ヽ ヽヽ i ( ! / i ゝ、ヽ、! /_ルヽ、  、 ヽ
/ / /| /(ヒ_]     ヒ_ン i、 Vヽ! ヽ\i (ヒ_]     ヒ_ン ) イヽ、ヽ、_` 、
 ̄/ /iヽ,! '"   ,___,  "' i ヽ|     /ii""  ,___,   "" レ\ ヽ ヽ、
  '´i | |  !    ヽ _ン    ,' |     / 人.   ヽ _ン    | |´/ヽ! ̄
   |/| | ||ヽ、       ,イ|| |    // レヽ、       ,イ| |'V` '
    '"  ''  `ー--一 ´'"  ''   ´    ル` ー--─ ´ レ" |
3名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 23:39:08 ID:bRIOGAft
>>1
おつです

そして前スレの三つの鎖GJ
夏美が哀れで仕方がない
4名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 02:10:12 ID:M3UL7VbO
>>1
5名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 02:22:04 ID:i3jBLlDv
>>1乙…たまには逆パターンも読みたい…近親バカップル→兄or弟が自我に目覚めてキモ姉妹から脱出を図る→修羅場…みたいな
6名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 06:59:21 ID:dEhcASSt
三つの鎖GJ! 関係の歪みが取り返しのつかないレベルに……。
7名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 12:10:46 ID:wa14c8Xo
>>1

独占欲の強いキモ姉妹で姉妹丼を成立させるにはどうすればいいのか・・・
8名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 13:51:20 ID:jQ33aMGb
姉と妹を融☆合
9名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 16:12:08 ID:7DyxtvFI
俺たちageageブラザーズ
今日もネタないのにageるからな
 ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧_∧  .∧_∧     age
 (・∀・∩)(∩・∀・)  age
 (つ  丿 (   ⊂) age
  ( ヽノ   ヽ/  )   age
  し(_)   (_)J
10名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 17:21:13 ID:hIdS2fov
>>1

>>7
お互いできれば排除したいが泥棒猫に対抗する為に手を組んでいるというSSがあったが
その理屈に姉妹丼シチュにまで持っていける方向性の理論武装を施してやればあるいは
11名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 17:38:47 ID:pmj50EE8
俺たちsagesageブラザーズ
今日もネタないのにsageるからな
 ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧_∧  .∧_∧     sage
 (・∀・∩)(∩・∀・) sage
 (つ  丿 (   ⊂)sage
  ( ヽノ   ヽ/  )   sage
  し(_)   (_)J
12名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 17:42:25 ID:OnVCr3Qs
最近勢い無いな…
13名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 19:52:41 ID:cYnT84wo
キモウト「先生、夏休みの工作は「お兄ちゃんの赤ちゃん」にしようと思うんですけど
夏休み中に妊娠しても赤ちゃんは産めないので宿題は完成しないし、
かといって10ヶ月前に妊娠して夏休みで出産しても夏休みに作った事になりません。どうしたらいいですか?」
先生「卒業した君のお姉さんも似たような事聞きいてきましたね」
14名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 20:45:16 ID:O4jpsxuP
>>7
「姉妹で一人の兄弟の両腕を引っ張りあって奪い取るがよい」
(BGM:大岡越前OP)
15名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 11:58:37 ID:8TrqGGq8
朝起きて投下が無いとガックリするなぁ〜もう……
16名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 12:06:51 ID:kbpRyxVn
逆に考えるんだ。自分が投下すればいい、と考えるんだ。
17名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 19:30:02 ID:ecg5mzsR
18名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 19:34:16 ID:ecg5mzsR
19名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 19:54:22 ID:q/q635/b
キモ姉キモウトって顔がキモイとかそういうのかと思って覗いてみたらいい意味で期待を裏切ってくれたぜ
20名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 20:00:08 ID:e84k+YVe
見た目どうこうってのはないけど不潔過ぎてキモい引きこもり姉の話なら短編にあったような
21名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 20:26:05 ID:ecg5mzsR
22名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 21:34:00 ID:6VoduNqp
そりゃそうですよね。

弟の彼女は私よりずっと綺麗で優しくて、家も裕福です。


見た瞬間、いつも努力していた弟にぴったりのお嫁さんだと思って

逆に誇らしいくらいでした。



でもああもう、本当は全部ぶち壊しにしたいよ



そんなことする勇気は全然ないけど、

私と弟がキスしているところをあのこに見せつけてやりたい。


でもそんなこと絶対できない。

弟の悲しむ顔を見るくらいなら死ぬっすw
23名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 23:01:32 ID:QIKQY8N/
>>7
「もし、お兄ちゃんの腕がちぎれちゃったら」
「すごい大事だわ」
「ご飯のときは『はい、あ〜んして。』になるし」
「お風呂でも介添えが必要よね」
「それに、トイレのときだって私がお世話してあげないと」

「「うぉりゃああぁぁぁっ」」




ぶちっ
24名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 01:36:58 ID:Cwda0kRP
>>23
妹「引っ張った直後、思いっきり後ろ向きにこけたんですけど〜」
姉「綱引きしてたら向こう側が力を抜いて、
大惨事になった状況が脳裏に浮かびますた」

兄弟「こんなこともあろうかと、両腕を義腕にしておいたのさw」
25名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 01:55:23 ID:R4sg3dv+
つまらない人間によるつまらないスレつぶし
26名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 03:59:32 ID:nZ3MIYFC
神話とかだと姉神と妹神が兄弟の腕を持ったまま星座になったりして
27名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 11:05:23 ID:l2LZYwY+
ヤ○デレスレはほぼ同時期に建って60KBなのに…はぁ…
28名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 11:05:47 ID:ba3Cz7l1
実に惨い星座ですな。
29名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 18:02:57 ID:gO6Za+S8
別にいいんじゃない?
少なくとも小ネタのほうが、人格攻撃する阿呆より随分とまし。
30名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 21:31:32 ID:Zn5bBGjf
パイオツカイデーのネエキモがキューシーにショウチャクケーオツでニンセキがドーン!
31名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 21:35:00 ID:efSDNGyB
32名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 23:23:02 ID:La/wvCFE
俺、田舎から帰ったら彼女と結婚するんだ・・・
33名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 04:53:08 ID:+b1EP9QJ
こんなくだらない雑談を面白いと思って書き込み続ける奴らがいる限りこのスレはゴミのまま
34名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 05:58:54 ID:W9wLDQZe
じゃ見なきゃいーじゃん。ゴミ見てても面白くないだろ?
それか自分でSS書きゃいいだけの話
35名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 07:29:05 ID:8d02pUcV
なじるだけでネタふりも出来ないレスよりはつまらなくとも雑談ネタふれる方がまだマシです
溜め息混じりに愚痴るだけのレスも同様、何か変えたきゃ自分がまず動きなされ
36名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 07:36:19 ID:90byYBVX
夏だね
37名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 09:21:09 ID:bZ5BbrwP
はいはいうんこうんこ

以下大好きなヤンデレタイプを語るスレ
38名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 09:27:51 ID:pa7il6yR
困った・・家に義妹ホイホイが置いてあった
どうすればいい?
39名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 10:20:13 ID:8d02pUcV
>>37
ヤンデレスレにお帰りください

>>38
義妹ホイホイとやらの意味がよくわからないが義妹が仕掛けたのなら今すぐ遠くに離れるんだ
逆に義妹がかかってるのなら遠くに離れてからリリースだ
40名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 10:46:58 ID:zUNY9ee2
>>39
もったいない。俺ならリリースなんてせずに食っちゃうのに……
41名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 10:50:46 ID:JTv3UPr9
現実のゴキブリホイホイが捕獲ではなく駆除が目的である事を考えるとおそらく逆の方だな
きっと実妹が義妹を駆除すべく設置したものであろう
妹とはいえ義理なのだから兄と結ばれる可能性がある事を妬んでの犯行と思われる
42名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 11:42:06 ID:ZPSa5ALW
>>33には病むほうの素質がありそうだ。
43名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 16:51:42 ID:+b1EP9QJ
>>39
なじるだけでネタふりも出来ないレスよりはつまらなくとも雑談ネタふれる方がまだマシです
溜め息混じりに愚痴るだけのレスも同様、何か変えたきゃ自分がまず動きなされ
44名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 18:23:47 ID:qOvHi/yV
呼称が兄さんで敬語キモウトは至高!
キモい部分を兄に一切見せずにシスプリやDCのように接しられて堕ちない兄はいないはずだ
45名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 19:49:01 ID:A+cBzRT6
46名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 23:35:25 ID:QLpZwAPv
>>43 マジレス痛いです!兄さんと違って、あなたみたいな人間のクズは死ねばいいんです!
47名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 23:41:32 ID:JTv3UPr9
もっと実妹vs義妹の血生臭くない低次元な対決を
48名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 23:53:21 ID:8kmxmJts
脱衣じゃんけんで勝負したが負けてた方が兄の気を引けるので変な勝負に
49名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 00:00:04 ID:R+iw1t0x
多分このスレだったと思うけど、トイレに引き込んで兄の手でオナニーする変態妹のSSなんだっけ?
50名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 00:31:11 ID:tvXvHjBI
51名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 01:49:57 ID:sobJaISe
実妹と義妹だけじゃ足りねえ
従妹も加えた3人でのバトルロイヤルだ
そして泥棒猫が現れた時はトライアングルアタックが炸裂する
52名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 02:05:45 ID:shFw8Y57
弟だと思ってたらキモウトだった
53名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 02:17:46 ID:Gp2rXo1d
なんか変なのができたのでうpしてみる。規制されてないといいな
投稿します
54キモウトinコミケ〜兄を探して三千里〜 1/2:2010/08/04(水) 02:22:30 ID:Gp2rXo1d
ヤマなしオチなしイミなしですがよろしくお願いします。処女作ゆえ改行などおかしいかもしれませんがご指摘いただければ僥倖です。

私、紅瀬桜は今兄さんの部屋にいます。
時刻はまだ6時30分、いつもなら朝ごはんの仕度をして兄さんが起きるまで寝顔を眺めているところです。
普段ならまだ兄さんは起きていない時間ですが兄さんは「聖戦に行ってくる。」と書き置きを残して朝早くからどこかに行ってしまいました。
いつもは自分から行動のしない兄さんです。いったい何処に行ったのでしょうか?
いつもは家に引き篭っている兄さんのことです。どこかでトラブルにあってないか不安になりました。
そこで私は兄さんの携帯のGPS機能で見てみることにしました。
「国際展示場の近くらしいけど兄さんどこに行こうとしているのかな?」
私の知る限りでは何も無いはずです。しかし兄さんのことです。なにかのイベントがあるのでしょう。私は兄さんのあとを追うことにしてみました。


ところ変わってここは国際展示場前

「ぬぉおおおおおこれが聖戦なのか!?」
俺こと紅瀬一人は今年ついにコミケの参加者の仲間入りを果たした。実に感慨深いものがある。
なにせ引篭もり脱却プランとして始めようと思ったことだ。自分から行動するのは生まれて初めてかもしれない。
「それにしてもこの人の数はすごいな。まるでデットライジングみたいじゃないか。」
国際展示場の開場を待つオタクたちでここは埋めつくされている。オタクの中には殺気を出している奴もいる。
時刻は7時、開場まではまだ3時間もある、気が抜けない。
装備は完璧なはずだ。スポーツドリンクに冷えピタ、塩飴etc....これでもかというほど持ってきている。実際に野宿3日間くらいならできそうだ。
妹の目を盗んで買い集めた結果だ。正直妹には悪いと思っているがこれも俺の社会復帰のためなんだ、許せ妹よ。

暇つぶしに音楽を聴いていたらもう開場時間寸前だ。スタッフの人が慌しくしているのが遠目でもよくわかる。
流石に誘導の声が聞こえなくなるのはいけないのでイヤホンは外そう。どうやら開場したようだ。あと数分したら俺もあそこにとび込むのだろう。


10時過ぎ

GPSの反応がなくなっていました。
兄さんに何かがあったかもしれません。急がないと兄さんが大変なことになってしまいます。そんなことは有ってはならないのです。
今日はやけに電車が混んでいた気がします。しかもなにやら異臭がしていました。吐き気がしましたが兄さんのことを想うとそんなことは我慢できるのです。
黒い服装をした皆さんは国際展示場駅で一気に降りていきました。
もしかすると兄さんもそこにいるのかもしれません。不本意ですがあとについて行くことにします。
エスカレーターを昇っていると壁には見慣れないポスターが張ってありました。
「コミケット……?」
兄さんが好きそうな絵柄の女の子のポスターでした。どうやら今日は同人誌即売会というイベントがあるようです。兄さんもそこにいるのでしょう。
改札口を出るとそこは阿鼻叫喚、死屍累々、戦々恐々としていました。一言でいうと恐ろしい何かがそこにはありました。
何十人、何百人いや何万人もの人々が一挙に建物の中に押し寄せていました。私は只々驚いているだけで身動きが取れませんでした。
兄さんもあそこの中にいるのでしょうか、確かにあそこの中なら電波は届かないはずです。
あんな異臭を放つ人達と同じ場所にいるのは許せないです。オシオキをしないといけないかもしれません。
早く兄さんを探さないといけない。直ぐにでもここから兄さんと一緒に帰らないと。
意を決して列に並び会場内に乗り込んでみました。そこにはさっきのとは比べものにならないくらい人がいました。
幾ら何でもこの中から兄さんを探すのは無理だと悟りました。
途方に暮れましたが同じ場所にいるよりかは高いところから探したほうがいいと思い辺りを見回せることのできるところに行くことにしました。
55キモウトinコミケ〜兄を探して三千里〜 2/2:2010/08/04(水) 02:25:16 ID:Gp2rXo1d
「兄さんはどこにいるのでしょうか?」
なんとなく呟いてしまいました。どうやら兄さんが恋しいのかもしれません。私は兄さんに依存しているのでしょうか?
確かにお風呂を一緒に入ることにしていますがそれはいやらしい意味などはないはずです。
兄さんがちゃんと自立できるその日まで私が支えていないとダメなんです。
兄さんはロクに自分のことができませんし、なにより引き篭もりさんです。高校に入ってから何故か学校に行かなくなりました。
理由を訊いても「なんでもないよ。」とか「桜には関係ないよ。」と言われるだけです。
ですが私は兄さんを真当な道に戻すことが大事だと思うので何回も尋ねています。
家族として支えるのが大事だと母様も仰っていましたし唯一無二の兄さんです。家族の絆を大切にしないといけません。
「私に出来ることなら何でも言ってくれればいいのに。」
ポツリとこぼれてしました。私は兄さんのためなら何だってできるのに……。
人混みの黒の波がもぞもぞと動いているのが私の心のように不安を掻き立てました。本当にこの中から兄さんを探せるのでしょうか。
焦燥感が激しくなり、兄さんに逢いたい気持ちが一層高まりました。
「兄さん、逢いたいです。どこにいるんですか……。」
目の前が暗くなるような感覚。兄さんが昔家出した時に感じた絶望感。
兄さん私はもうダメかもしれないです。不甲斐ない妹ですみません。

朦朧とした意識の中で聞き慣れた人の声が聞こえたような気がしました。

「おい!!桜どうしてこk……おい!!聞いていr……。」

気がついたら私は自分の家のベッドの上で寝ていました。どうやら疲れて倒れそうなところを兄さんに助けてもらったらしいです。
倒れたあとも幽かに意識はあったようです。兄さんが手当をしてくれたのかもしれません。本当は私が兄さんを必要としていたのかもしれないです。
なんとなくわかった気がします。

「桜、もう大丈夫か?」

___兄さんの優しい声が耳に通ってきました。

「はい、私はもう心配ないです。兄さん、迷惑かけてすみませんでした。」
「そんなことはいいよ桜。お前が無事なら兄さんはなんだっていいよ。」
「兄さん。……嬉しいです。私が兄さんに必要とされているのがこんなに嬉しいとは思いませんでした。」
「どちらかというとお前の方が必要としているだろ(笑)。今更過ぎるぞ」

___兄さんは私の心を読んでいるのでしょうか?

「そういえば兄さん何をしにあそこへ行っていたんですか?」
「?!エェッとだなぁ……。」

___兄さんの困った顔もかわいいですね。

「その袋の中身はなんですか?みせてください。」

ベットの片隅に置いてあったここには似つかわしい袋を指さし兄さんに訊いてみました。

「ゴホン……まぁまだお前にはまだ早いものだから見せられん。」
「兄さんもしかしてそれは"エロ同人"というものですか?」
「ちょ、ちょっとまちたまえ妹よ……。なぜそのワードを知っている?」
「兄さんのパソコンの中に入ってましたよ?妹陵辱シリーズ001楓とか言うのが。」
「兄さんってもしかして妹に手をだそうとする危ない人なのですか?」
「あのー桜さん?私は妹に手をダソウトハシマセンヨ…?」
「そうなのですか?少しがっかりしてしまいました……。」
「えぇー!?ちょ!!!ちょちょと桜?!いまなんて言った!?」
「嘘ですよ、兄さん。」
「ですよねー?!」

___ふふ、兄さん可愛いです。本当に私に手を出してもいいのに

おしまい

追伸 なんだかよくわからないものなってしまいましたwww続きがかければいいと思っています。その時までに腕を上げてきます。それでは
11時過ぎ

なんとか目的のものを手に入れた。
内容はまぁいかがわしい物達とグッズ達だ、詳しく訊かないでもらいたい。
流石にこれは妹には見せられないな。18歳にもなり風呂をまだ妹と一緒に入っているとはいえ、これは危ない。妹の成長にも悪いしな。
こっそりと来た甲斐があったかもしれない。帰ったときには疑われるかもしれないが、ケーキでも買ってくれば喜んでくれるだろうから大丈夫だろう。
「結局結構金使っちまったな〜。はぁ〜こりゃまたバイト探さないとな〜。」
なんとか人ごみを避けてこの高台ポジション的位置に来た俺だが一気に疲労感が出てきてしまった。
手にしたスポーツドリンクをゴクゴクと飲んでいく、まさに生き返る。ついでに塩飴も舐めておこう。意外とショッぺぇなコレ、確かに塩だな(笑)。
ここからはよく写真にでているような人ごみの光景が見えている。頭髪の黒がゾロゾロとうごめいていて気味が悪いな。
居心地も悪いし疲れを取るためにもさっさと帰るとするか。桜が泣いているかもしれないからな、アイツは何故だか俺がいないとダメ人間だからな。
俺がいないと一週間も持たないんじゃないのか?まぁいいか帰るとしよう。

ん!?あれはまさか……いやそんなハズはない…よな?ちょっと待てよ…アイツは…
57名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 04:46:12 ID:ReRkpR8Y
ひどい
58名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 07:08:52 ID:O7f3r7xm
GJ!
>>57
死ね
59名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 07:26:00 ID:OkDjaMIu
GJ!
>>57
死ね
60名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 07:49:40 ID:2xb6l/iQ
>>58
>>59
落ち着け…妹のことを考えてみr・・・呼ばれたからいって来る
61名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 07:57:46 ID:8NL5vMlz
>>44
とは、美味い酒が飲めそうだ
62名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 08:36:36 ID:51zM96m7
>>56
GJですよ兄さん
これからも兄妹モノのSSを待っていますね
決して断じて間違ってもあの雌ブ……姉弟モノを書こうなんて考えてはいけませんからね
63名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 09:19:04 ID:ReRkpR8Y
>>58.59
自演はもっと分かりにくくやれ
64名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 11:09:14 ID:O7f3r7xm
>>63
夏だなあ
65名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 11:16:33 ID:cAbbz3dW
>>ReRkpR8Y
>>ReRkpR8Y
>>ReRkpR8Y
66名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 12:24:20 ID:ReRkpR8Y
>>65
呼んだ?
67名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 14:02:19 ID:+vSL/ljL
>>66
死ね
68名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 14:07:10 ID:6Y1HxajM
年上のキモウトとは…
69名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 14:30:30 ID:ReRkpR8Y
>>67
いやです
70名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 19:22:10 ID:tvXvHjBI
71名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 20:21:50 ID:9p8kEgyf
夏厨は帰れ
72名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 20:24:15 ID:6lLPxkiY
>>68
未来から来たキモウト

字面からSF的な期待感よりも生物的な脅威を感じるのはなぜなんだろう
73三つの鎖 25 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/04(水) 22:03:49 ID:wGt7FVol
三つの鎖 25 前編です

※以下注意
エロ無し
血のつながらない自称姉あり

投下します
74三つの鎖 25 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/04(水) 22:05:43 ID:wGt7FVol
三つの鎖 25

 まどろみの中、誰かが私に触れる。
 知っている声。私の好きな人の声。お兄さんの声。
 起きてと、私をゆするお兄さん。
 困ったように起きてというお兄さん。私の名前を呼ぶお兄さんの声が心地よいい。
 その時、ドアが開く気配がした。
 誰かが入ってくる。お兄さんを呼んでいる。
 聞き覚えのある声。
 梓の声。

 私は跳ね起きた。
 心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。全力で走った後みたいに全身に汗をかいていて、呼吸も乱れている。
 ふらつく足取りで私はベッドを下りた。汗に濡れたシャツが張り付いて気持ち悪い。
 さっき、お兄さんが私を起こしに来てくれた気がした。
 薄暗い部屋には私以外誰もいない。
 私は部屋を出てリビングに向かった。
 薄暗いリビングの電気をつける。私一人には広すぎるリビング。誰もいない。
 もしかしたらキッチンかも。お兄さんは私が寝ている間に料理を作ってくれることが多い。
 でも、キッチンにもいない。鍋を開けると、肉じゃががある。昨日お兄さんが来てくれた時に作ってくれた。料理は冷たくなっていた。
 洗面所かもしれない。もしかしたらお風呂のお掃除をしてくれているのかもしれない。
 でも、洗面所にもいない。お風呂場にもいない。
 お父さんとお母さんの部屋も、ベランダにも、お兄さんはいない。
 玄関に私の靴だけが乱れて置いてあった。昨日、家に戻った時に脱いだままの靴。
 お兄さんは来ていないのを思い知った。もしお兄さんが来てくれたなら、きっと靴の位置をなおしている。
 私は肩を落としてキッチンに向かった。お兄さんの作ってくれた料理を食べたかった。
 途中の和室のドアの隙間から仏壇が見えた。
 それを見たとたん、お母さんの事を思い出した。
 お葬式の次の日、もう死んだお父さんを探して家の中を探し回るお母さんの姿。
 不安と恐怖が私を包み込む。
 今の私、お母さんと同じ事をしていた。
 「違う!!」
 誰もいない部屋に私の叫びは虚しく響く。頭が痛くなるそうな静寂。
 答える人は、誰もいない。
 この家には、私しかいないのだから。

 朝ごはんを食べて、学校に行く準備をしてから私は家を出た。
 学校に行くにははやすぎる時間だけど、この家に一人でいる事に耐えられそうになかった。
 お兄さんの作ってくれた料理を食べている時だけが、心安らぐ瞬間だった。
 マンションの一階に下りた時、昨日の光景が脳裏に浮かぶ。
 お兄さんが私の手を振り払って、梓と帰って行った昨日の光景。
 二人を追いかけてマンションを出た時、口づけしてたお兄さんと梓。
 思い出すだけで泣きそうになる。私は必死に涙を堪えた。
 昨日のあの光景も夢だったのだろうか。
 恐怖と不安の生んだ妄想だったのだろうか。
 考えてもきりのない事を考えながら私は学校に向かう。
 通学路には人はまばらだ。時々散歩やランニングをしている人とすれ違うぐらい。登校には早すぎる時間。
 学校の中も誰もいない。教室にも誰もいない。
 私は自分の席に座ってため息をついた。
 お兄さん、来ないかな。
 以前、一度お兄さんがすごく早い時間に登校してきた事があった。
 あの時、屋上で抱かれた。
 顔が熱くなる。
 お兄さんに抱かれたい。乱暴に犯されたい。
 乱暴に抱かれると、快感よりも苦痛が大きい。でも、お兄さんに必要とされているような気がして、安心する。
 少なくとも私を抱いてくれる間は、私の事を必要としてくれているはず。それが例え私の体だけでも。
 不安が霧のように私を包む。
 お兄さんは私の事をどう思っているのだろうか。
 本当に私の事を好きなのだろうか。
 お兄さんが私の事を好きになりたいって言ってくれた事は今でも覚えている。顔を真っ赤にして好きになりたいって言ってくれたお兄さんの事を思い出すと、それだけで嬉しくなる。温かい気持ちになる。
75三つの鎖 25 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/04(水) 22:07:38 ID:wGt7FVol
 でも、何でお兄さんは私と付き合ってくれるのだろう。
 私より魅力的な女の子はお兄さんの周りにいる。
 ハル先輩。すごく大人っぽくて美人なのに、子供のように輝く瞳と柔らかい笑みのせいかとても親しみやすい人。艶のある長い髪、柔らかそうな白い肌、モデルの様な身長と体形。お料理が得意で文武両道。
 梓。私と同じぐらいの身長だけど、細いせいかそうは見えない。無表情でお人形みたいな整った顔。ハル先輩と同じ艶のある長い髪、眩しいぐらい白い肌、細い体。儚い外見の中で、瞳だけが強烈な意志を放っている。ハル先輩と同じでお料理が得意で文武両道。
 百人に聞けば、百人が私より魅力的だと答えるに違いない二人。
 私が勝っているのは何もない。
 せめて綺麗で長い髪の毛だけでも同じになりたくて伸ばし始めたけど、まだ肩にかかるぐらいだし、二人ほど綺麗でもない。鏡を見るたびに惨めな気持ちになる。
 二人はお兄さんにたくさんのものを与えられる。お料理もそうだし、怪我の治療とか、お勉強を教えるとか、家事全般も手伝えるに違いない。特にハル先輩は気がきくし、お兄さんと幼馴染だから何でも知っているに違いない。
 私はお兄さんに何も与えられない。与えられるばかり。せいぜい、抱かれるぐらいしかない。
 それでもいいと思っていた。お付き合いする中で、お兄さんに見合う女の子になればいいと思っていた。
 でも、お兄さんはどう思っているの。
 私と一緒にいて楽しいの。面倒くさいとか手がかかるとか思ってないの。
 お兄さんは私の事を好きって言ってくれる。嬉しいけど、信じきれない私がいる。
 だって、どう考えても私よりハル先輩や梓の方が魅力的。
 お兄さんと一緒にいたいのに、一緒にいると不安になる。
 楽しんでもらえているのか、面倒くさいって思われていないか。
 私はかぶりを振った。こんな事を考えても気分がめいるだけだ。
 教室の時計を見る。まだはやい時間。あれだけ考え事をしていたのに、時間はほとんど進んでいない。
 最近、時間の進みが不規則に感じる。今みたいに時間の進みが遅いと感じる時もあれば、気が付いたら時間がすごく過ぎている時もある。
 疲れているのかもしれない。お父さんが死んで、それほど時間もたっていない。
 クラスの女の子の陰口が脳裏に響く。
 (悲劇のヒロインを気取っているんじゃないの?)
 (いくら加原先輩でも、付き合いきれないって思っているんじゃないの?)
 (そーだよねー。いくらなんでも、お父さんが殺されたとか重過ぎだよねー)
 全身が震える。熱くもないのに汗が出る。
 お兄さん、私の事を重い女だって思っているのだろうか。
 思えば、お父さんが死んでからお兄さんに助けられてばかりだ。
 お葬式の時も、私とお母さんを助けてくれた。お父さんとお母さんの親戚はほとんどいないし、私達に冷たいから、お兄さんの手助けは本当にありがたかった。何よりもお兄さんが傍にいてくれるだけで安心できた。
 でも、お兄さんはどう思っているのだろう。面倒くさいとか、重いとか、そんな風に思わなかったのだろうか。
 そんな事を考えていると、声をかけられた。
 「夏美ちゃん」
 聞き覚えのある声。
 柔らかい声。何度もお世話になった人の声。
 顔を上げると、ハル先輩がいた。
 「こんな朝早くにどうしたの」
 「ハル先輩こそ」
 「私は生徒会のお仕事を片付けようと思って。それよりも、どうしたの?何かあったの?」
 心配そうに私を見下ろすハル先輩。
 「何でもないです」
 私はそっぽ向いた。
 馬鹿な私。ハル先輩にはあれだけ助けられたのに、何も話せないなんて。
 ハル先輩に嫉妬している私がいる。
 「幸一くんの事でしょ」
 ハル先輩の口からお兄さんの名前を聞くだけで心が乱れる。
 「ハル先輩には関係ないです」
 「不安なんでしょ。幸一くんの心が梓ちゃんに向いているか」
 ハル先輩の言葉が胸に入り込む。
 「やめてください」
 答える私の声は自分でも信じられないぐらい硬かった。
 「色々言われているもんね。悲劇のヒロインを気取っているとか、重いとか。幸一くんがどう思っているのか心配なんでしょ」
 「やめてください!!」
 「昨日ね、梓ちゃんと幸一くん腕を組んで帰ってきてたよ」
 思わず息をのむ。
 昨日。お兄さんが私の家に来てくれた日。
 梓が来たのは夢でも妄想でもないんだ。
 「昨日の夜も幸一くんと梓ちゃんのご両親の帰宅は遅かったよ。ずっと家で二人きりで何をしていたのかな」
 お兄さんと梓が寄り添い口づけする光景が脳裏に浮かぶ。
 「やめてください!!」
76三つの鎖 25 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/04(水) 22:09:43 ID:wGt7FVol
 「昨日ね、梓ちゃんと幸一くん腕を組んで帰ってきてたよ」
 思わず息をのむ。
 昨日。お兄さんが私の家に来てくれた日。
 梓が来たのは夢でも妄想でもないんだ。
 「昨日の夜も幸一くんと梓ちゃんのご両親の帰宅は遅かったよ。ずっと家で二人きりで何をしていたのかな」
 お兄さんと梓が寄り添い口づけする光景が脳裏に浮かぶ。
 「やめてください!!」
 私は叫んでいた。立ち上がってハル先輩を睨みつける。
 「そんな事、聞きたくないです!!」
 ハル先輩がハンカチを手に私の目元をぬぐう。気がつけば私は泣いていた。
 涙がとめどなく溢れる。
 考えたくない。お兄さんと梓が一緒にいて何をしているなんて。
 昨日、梓はお兄さんの手を引いて帰っていった。
 路上でキスしていた。
 家に帰って何をしていたかなんて、考えたくない。
 「教えてあげようか」
 「何をですか」
 「幸一くんの心をつなぎ止める方法」
 心臓の鼓動がはっきりと聞こえた。
 喉がからからに乾いていく。
 お兄さんの心をつなぎとめる方法。
 「そんな方法、あるのですか」
 ハル先輩はにっこりと笑った。
 「簡単だよ。幸一くんの子供を身ごもればいいんだよ」
 子供。お兄さんの子供。
 「そうすれば夏美ちゃんと幸一くんの間に断ち難い絆ができるよ。二人の血を受け継ぐ子供だからね」
 私が、お兄さんの子供を妊娠する。
 「だ、だめです。私達、まだ高校生です」
 「高校生でも子供は産めるよ」
 「違います。そんな事をしたら、生まれてくる子供が可哀そうです」
 お兄さんの心をつなぎとめるためだけに子供を産むなんて、いくらなんでも酷過ぎる。
 「別に産まなくてもいいよ。堕ろしてもいいよ」
 私は自分の耳を疑った。ハル先輩は何でもないように笑顔を崩さない。
 「そうすれば幸一くんは罪悪感で夏美ちゃんから離れられなくなるよ。妊娠させた挙句、堕ろす事になったら、幸一くん、責任を感じるよ」
 ハル先輩の言っている内容は間違いない。お兄さんは誠実で責任感の強い人だ。もし私が妊娠して、堕ろす事になれば、きっと責任を感じる。
 でも、生まれてくる命を犠牲にする事が許されるはずない。
 「そんなの、そんなのダメです」
 「じゃあどうするの。幸一くんの心がどこにあるのか心配しながら生きていくの」
 ハル先輩の言葉が胸に突き刺さる。
 お兄さんの心は誰に向いているのだろう。
 ハル先輩?梓?それとも他の女の人?
 「それにね、これは幸一くんと梓ちゃんのためにもなるよ」
 「どういう事ですか」
 「もし幸一くんの子供ができたら、梓ちゃんも諦めるよ。幸一くんの子供だもん。梓ちゃんも不幸にはしたくないはずだしね。子供ができれば、幸一くんは梓ちゃんから解放されるよ」
 ハル先輩はニッコリと笑う。柔らかい微笑み。
 「でも、もし梓が納得しなくて、生まれてくる子供に危害を加えるようなことがあったら、どうするのですか」
 「その時は幸一くんのお父さんが梓ちゃんを逮捕するだろうね」
 事もなげに話すハル先輩。
 「幸一くんのお父さん、厳しくて公平な警察官だからね。実の娘でも容赦はしないよ」
 「そんなに厳しい人なら、私が妊娠したらお兄さん怒られます」
 「だろうね。そして責任を取れって事になると思うよ。その時に夏美ちゃんが産みたいって言えば、結婚になると思うよ。もちろん、夏美ちゃんが了承すればだけど」
 結婚。お兄さんと。私が。
 頬が熱くなる。胸が高鳴る。
 「でも、でも」
 「まだ何かある?」
 「もし妊娠したら、私もお兄さんも退学になっちゃいます」
 「それは仕方がないよ。でもね、幸一くんは成績がいいから高認でも大丈夫だと思うし、幸一くんのご両親も経済的な支援はしてくれるよ。何せ息子の不始末で一人の女の子が妊娠して退学になるんだからね」
 淀みなく話すハル先輩。
 「そんなに難しく考えなくていいよ。幸一くんと梓ちゃんのためでもあるんだから。私も協力するよ」
 ハル先輩が私の両肩に手を置く。白くてほっそりとした女性らしい手。
77三つの鎖 25 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/04(水) 22:10:47 ID:wGt7FVol
 「でも、どうやって妊娠するのですか。お兄さん、必ずスキンを使いますし」
 「いくらでも方法はあるよ。今日は大丈夫な日だって言うとか、小さく穴をあけたスキンを渡すとか。未開封でも細い針を使えば目立たないように穴をあけられるよ」
 私は呆然としてしまった。確かにハル先輩の言う方法なら、妊娠するかもしれないし、もしそうなれば、お兄さんは私に責任を感じるに違いない。
 でも、私の胸の中で罪の意識を感じる。
 生まれてくる赤ちゃんを、そんな事のために利用するなんて。
 「夏美ちゃんが感じる罪の意識を我慢すれば、全てが上手くいくんだよ。梓ちゃんは幸一くんを諦めるし、幸一くんは梓ちゃんから解放される。夏美ちゃんは幸一くんと一緒にいられる」
 何が不満なのと不思議そうに私を見つめるハル先輩。
 「でも、やっぱり赤ちゃんが可哀そうです」
 ハル先輩の目がすっと細くなる。
 「さっきから聞いていたら、綺麗事ばかりだね」
 軽蔑したようなハル先輩の言葉が胸に突き刺さる。
 「他に方法はあるの?」
 方法。
 「梓ちゃんは幸一くんを諦めて、幸一くんは夏美ちゃんの傍にいて、みんな幸せになる。そんな都合のいい方法はあるの?」
 冷めたハル先輩の視線。
 「みんなが幸せになる方法があるなら、その方法をとればいいよ。無いでしょ?無いから幸一くんはあんなに苦しんでいるんだよ」
 私も梓も納得する方法なんて無い。
 だって、私も梓も同じ人が好きだから。
 どちらかが諦めないといけない。
 「それなのに夏美ちゃんは綺麗事ばかり言うんだ。赤ちゃんが可哀そうとかいうんだ。夏美ちゃんは何もせずに幸一くんに守られるばかりなんだ」
 「…違います」
 「どこが」
 ハル先輩の言葉に何も答えられない。
 「どこが違うの。梓ちゃんと幸一くんが仲直りできるように何かしたの」
 「私、梓とお話しようと」
 「できたの」
 ハル先輩の言葉が私の言葉をさえぎる。
 「梓ちゃんとお話もできていないのに、どうやって仲直りさせるのかな」
 「その、お兄さんに梓と話さない方がいいって」
 「結局、幸一くんに守られているだけだね」
 何も答えられない。
 全部ハル先輩の言うとおり。
 「その調子だと、幸一くんに負担をかけるようなことしてそうだね。幸一くんと梓ちゃんの仲がこじれるような事、してないかな?」
 昨日の事が脳裏に浮かぶ。
 梓がお兄さんを連れて帰ろうとした時に、お兄さんを引きとめた。
 あの時、お兄さんは私の腕を振り払った。恋人の私より、梓といる事を選んだ。
 でも、あの時お兄さんが私の腕を振り払わなかったら、どうなっていただろう。
 梓は私かお兄さんを傷つけたに違いない。
 そう考えると、私の行為はお兄さんを苦しめただけ。
 「心当たり、あるんだ」
 心底軽蔑したように私を見つめるハル先輩。
 「実はね、もっと簡単にできて幸一くんと梓ちゃんの仲を改善する方法があるよ」
 「…何ですか」
 「簡単だよ。夏美ちゃんが幸一くんと別れたら全てが解決するよ」
 私とお兄さんが、別れる。
 「そうすれば梓ちゃんも大人しくなるよ」
 そんなの、そんなのいや。
 お兄さんと別れるなんて、絶対にいや。
 「嫌なんだ。幸一くんと別れるのが」
 私の気持ちを見透かしたようなハル先輩の視線。
 はっきりと怒りと侮蔑を感じた。
 「私、そろそろ行くね」
 おもむろに立ち上がり背を向けるハル先輩。
 「あの!」
 その背中に思わず声をかけてしまった。
 「何かな?」
 「私、どうしたら」
 「自分で考えたら?」
 冷たく言い捨ててハル先輩は去って行った。
 私はその背中を追えなかった。
78三つの鎖 25 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/04(水) 22:11:54 ID:wGt7FVol
 結局、私は何もしていない。
 お兄さんには守られているだけ。それどころか負担になっている。
 そしてお兄さんと別れる事も出来ない。お兄さんと恋人でなくなるなんて、想像する事も出来ない。
 ハル先輩が怒るのも無理はない。
 「…お兄さん」
 思わずお兄さんを呼ぶ。
 返事は無い。
 教室には、私しかいないのだから。



投下終わりです。
呼んでくださった方に感謝いたします。
ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っています。
よろしければご協力ください。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
79名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 22:20:27 ID:BCSGXXNc
GJ
このまま夏美ちゃんからハルコか梓に幸一とられたら
マジ作中一の不憫だ。実父を親友に殺されてるのが拍車をかけてる
80名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 23:15:01 ID:7w7Jk/dB
いやいや…乙でした。
まあ‥梓に取られると言う事は無いな‥今の所…全ては春子の思惑通りだね。
81名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 23:39:17 ID:sobJaISe
GJであります
うん…やっぱ春子は死んでくれ
82名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 23:52:50 ID:tUbrrHU2
Good Jobです

いやぁ…素晴らしいの一言ですね。よくこんな展開になったと思います
これからもがんばって頂きたいです
83名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 00:05:04 ID:hMRW1kqi
やべー漁夫の利か……GJ!
しかし世紀末覇王梓がどうでるか
次回にも期待
84名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 00:45:54 ID:IFojgKj3
キモ姉だとREALにキモいからやっぱキモウトだよなw
85名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 00:52:57 ID:zkit3aw8
肉体派の梓や綾より頭脳派の春子や千鶴子が恐ろしいとゆう事か…孔明張りの知略春子gj…夏美はどう出る!?
86名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 01:25:56 ID:SRKq8wMt
俺は夏美を応援しますよ
87名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 01:52:05 ID:w0xNnVtp
もうハーレムENDでいいじゃないかと思う俺は少数派なのか
88名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 02:46:35 ID:Ic6cVUHN
>>78
GJ
春子、仕掛けてきたなあ

>>87
俺もそうなればいいとは思うが口が3つに肉が1つ…いずれ奪い合うことに(ry

ハーレムエンドが成立するのは男がヒロイン全員を対等に扱える場合だけだからなあ
幸一の場合春子も梓も恋人としては見られないって断言してしまってる時点で…
89名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 03:05:35 ID:6xQh8+rJ
>>87
ずっと虎視眈々と伴侶の座を狙い続ける
そんなエンドレスドロドロ三角関係ENDがいいなー
私たちの戦いはこれからだ……?

まあ、不完全燃焼しそうだけど
90名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 08:16:41 ID:JP3kNcA4
女の方に他の女を許容できる度量が無いとダメだろ
そしてそれが一番欠けてるっぽいのが梓だ
よってハーレムEDなど有り得ぬ
91名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 09:16:11 ID:LhzauWa2
>>90ありえないなんて有り得ないね
一見出来なさそうな事をやるのが作者の腕の見せどころだろ
展開の邪推なんて止めて次の投下待とうか
92名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 09:25:35 ID:6xQh8+rJ
いえす、まむ
93名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 12:28:26 ID:i+zC2Fqh
>>78
GJ
春子、やり口がいやらしいな〜
梓といい、夏美は相手が悪すぎるw
94名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 23:13:32 ID:764GWThD
アズサ「ハルコ!!妖星は二度と輝かぬ!!」
ってこれじゃあ梓が死んじゃう・・・
95名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 23:27:03 ID:MHKPC/ds
>>87
やめて!(幸一が死ぬから)
96名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 23:42:17 ID:JP3kNcA4
つい先程の話
居間のソファーの上の端には洗濯物が積んである
それを枕にして妹が横になってテレビを見ていた

…洗濯物の一番上は俺のパンツだった
97名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 00:16:33 ID:cMFcO0La
>>96
98名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 00:27:16 ID:eSmnXFRb
なるほどおパンツクンカクンカってことか
99名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 01:16:03 ID:eSmnXFRb
一昨日くらいに書いたキモウトinコミケの続きができたので投稿します。
楽しんでいただければ僥倖です。 規制されてないといいんだが

(キモウトinコミケの続き)

高校生最後の夏があと一日で終わってしまうわけだが、俺は高校三年間の遅れを取り戻すために今必死に勉強をしている。

「ヤバイな…高一のはじめからやり直さないと……。」
事実高校に入ってからすぐ引き篭もりになった俺だ、卒業できるのかも怪しい。

「留年……か、仕方ないか…。」
「でも、勉強をもう一度出来るんだったらいいかもな…。」
シャーペンを進める。元々勉強はできるほうだったからあとは時間だけだ。
それよりも履歴書に残るであろうこの空白の2年間の説明はどうすればいいのか頭を抱えていた。


私、紅瀬桜は晩ご飯のお買い物中です。
今日は嬉しいことが幾つもありました。兄さんが「また学校にいくことにする。」と言ってくれたんです。
嬉しくて涙が出ちゃいました。あの兄さんが引き篭もりから脱却できるかもしれないからです。

2週間前の同人誌即売会での事件以来兄さんは物事に積極的に関わろうとしているようです。
どうやらアレは自分を変えるために行くことにしていたらしいです。
兄さんが自分から動いてくれているのがこんなにも嬉しいとは思いませんでした。

晩ご飯は兄さんの好物にしましょう。今日はお祝いです。

ちなみに私は兄さんと同じ高校に今年から通っています。地元でもそこそこ頭の良い学校です。
兄さんは本当なら三年生ですが一年生からやり直しになっているとのことらしいです。
多分一緒のクラスになっていると思います。実は裏で学校側と話をつけています。兄さんと同じクラスになるためならこんなことは余裕なんです。
なぜそんなことができるかというとお金と、優等生の特権だからです。役に立たないと思っていた勉強も意外と便利でした。
やっと兄さんを一日中独り占めできます。お弁当だって一緒です。あ〜ん、とかもできるかもしれません。
ちょっと興奮してしまいました。私としたことが迂闊でした。
でも、これからは朝も昼も夜もおはようからおやすみまで毎日365日一緒にいられます。明日が楽しみで仕方ありません。

兄さんと一緒に通学できると思うと自然と体がスキップをしていました。

「桜ちゃん〜今日はいいことでもあったのかい?」

八百屋のおばさんがこっちを見て笑っています。
私は「はいっ♪」と滅多に出さないような声で返事をしました。
今日の野菜はカボチャにしましょう。兄さんの好きな食べ物です。
私はおばさんに伝え、支払いを済ませるとすぐ家に帰りました。

ガチャガチャ、バタン

__ん?桜が帰ってきたのか?

「兄さんただいま♪」
やけに元気な声で桜が帰ってきた。
「おかえり桜、遅いと思ったら買い物してきたのか。」
「うん、今日は兄さんの社会復帰を祝うために豪華にしてみることにしました♪」
「あぁ……そういうことね。あぁ〜うん…ありがとう。」
「どういたしまして♪」ずいぶんとニッコリとしているな、我が妹よ。そんなに兄が引き篭もりだったのが嫌だったのか……。

晩ご飯まではすこし時間があるので俺は部屋に戻ることにした。
「はぁ〜マジで明日どうすんだろ……。」
留年に留年を重ねて一年生からやり直し状態だからか、結構不安だったりする。体格とか顔とか色々とおかしいところがあるからな。
自分で言うのも何だが俺はかなりの恥ずかしがり屋だ。妹以外とは挙動不審になってロクに話せないと思う。実際に引き篭もりの原因もこれだったりするし
小学生の頃、作文コンクールで偶然入賞して、生徒の前で発表することになったときは緊張しすぎて倒れたって聞いたからな。
「まぁやるしかないか…。」

脳内シュミレーションしてみる。

教師「今日からこのクラスに新しい仲間が増えるぞ」
生徒たち「!?誰ですか先生ー!!」
教師「さ、入ってきたまえ。」
ガラガラッ
一同騒然
生徒たち「なんだアイツ…。」「おい……あれ絶対ダブリとかのやつだろ?」
ヒソヒソヒソヒソ
俺「よろしく…お願いします……。」

シュミレーション終了

「ぬあぁあああああああぁあっぁぁっぁあああ詰んでるじゃねぇええか!!?」

これはいかん。なんとしても避けなければ……。笑顔だ!!!そう笑顔だ!!よしできるぞ俺。

リトライ

「えぇっと、紅瀬一人って言います!!まぁ留年生だけどもよろしく!!!」

ガチャ「兄さんご飯ですよ、何やっているんですか?」

「NOooooooooooooo!!!!!!!」妹に見られてしまった。あぁなんて恥ずかしいんだ!!
「兄さん?早く来てくださいね、先に行ってますよ。」
ベッドで悶えている俺を見て桜はそう言い残して居間へ行った。

___ふふ、兄さん可愛いです。さてとご飯並べないと♪

翌日

「俺大丈夫かな・・・?なぁ桜?」
「大丈夫ですよ兄さん。兄さんはやれば出来る人です。それにしても制服姿が懐かしいですね。」
「あぁやっぱりそう思うか。サイズがギリギリで着れるかどうか心配だったよ。」
時間は9時前。
ついさっきまで妹と一緒に登校していた。妹はホームルームがあるから「兄さん後であいましょう。」と告げて先に行ってしまった。
そしてここ、職員室の前にいる。俺のクラスの担当の先生がくるらしいが一向にその気配がない。
「えぇ〜と、お前が一人君か?」
目の前に如何にも熱血先生の格好をした人がいた。
「は、はい!?そうですけど!??!」
「ガッハハハハ!!兄妹共々美男美女とは驚きだ!!そうだ、お前のクラスは一年八組だ。妹さんと一緒のクラスだ安心していいぞ。」
「は、はぁ……?」
俺が美男子に見えたらそれこそ世の男は大半はイケメンだぞ熱血先生よ?もしかして先生、あんたの目は節穴なのか?
それに桜と同じクラスか。安心するといえばするが重い空気になるとおもうぞ?
「さ、早く付いて来い。今のうちに自己紹介のことでも考えとけよ?」
言われるがままに先生の後ろを歩いていった。2階が職員室なので1年生の教室のある4階までは時間が長く感じる。
しばらくして教室と思われる場所の前でここで待ってろと言われた。
目の前にはひとつのドアが、ここを開ければ俺の勝負の始まりだ。
教室内
「お前ら席につけー!!!」
「今日は新しい生徒を紹介するぞ!!!」
生徒一同(桜を除く)「!?」
生徒A「先生ーー!!!!その子は女の子ですか!!」
「ちがぁああああう男だ!!!!」
男たち「えぇーー!!!!!!ちぇ可愛い子だと思ったのによ!!」
「えぇーーい!!うるさいぞ!!!男ども。さ、入って来なさい。」

うわ!!呼ばれちまった。入らないと……
ギィーーーーガチャ

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ
うぉ!!!皆の視線が痛い……。なんだかすごいジロジロ見られているぞ。
桜お前はニヤケすぎだ!!!……やばいぞ…顔が赤くなってきているのが見なくてもわかる…。
こ、これ…いけるのか?
「さ、自己紹介でもどうだ?」
先生もっと空気読んでくれよ!!ちくしょ…やるしかないのか?えぇい!!!腹をくくるぞ俺は!!

「えぇと、俺の名前は紅瀬……紅瀬一人って言います!!!」

クラス一同(桜を除く)「ヒソヒソ……え?紅瀬?紅瀬って…あの紅瀬か?」

「紅瀬って聞いてそっちの桜のほうを向いた人も何人かいましたが、えと、その……桜とは兄妹の関係です。」

男たち「桜!?(呼び捨てだと)」「えぇーーーーーーーーーーーー!!!!?」「桜ちゃんにお兄さんがいるなんて知らなかったよ!!!?」

「なんで俺がこの一年の教室にいるかというとそれは……それは…。この間まで引き篭もりで二年間学校に来てなかったからで、えと…その。」
「桜の兄とか年上とか関係なく、で、できれば、つるんでやってください!!だ、だから!よ、よろしく!!!」

「お……ぉおおおおぉおお。」パチ…パチパチパチ……パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!! どうやら成功らしい。良かったぁ〜。

「一人くん、君はそこの席だ。さ、座りなさい。」
「は、はい!?」
ぬぉおおおおおやったぞ妹よ、俺はやったぞ。ぐ……しかし視線がきつい、特に女子の視線が俺を舐めわますようだ。俺は見世物じゃないぞ!!!
まぁいい。なんとか席に座ることに専念しなければ、一歩、二歩、三歩、四歩、五歩!よし着いた。これであとは安心だ。
桜、だからお前は一々後ろを見てニヤニヤするな!!!兄さん大変なんだぞ、倒れてもいいほど緊張したんだからな。
「はぁ〜もう無理だ。一気に疲れたぞ。頭がギュンとなっちまった。」
はぁ本当に疲れた。つい呟いっちまった。俺マジで大丈夫か。いや、でも意外と掴みはいい感じだったぞ。
桜もいることだ。まぁはぶられることはないと思う。ここは妹パワーに感謝しなきゃな。
今、熱血先生が何かを話しているが全く耳に入らん。どうせ桜に聞けばいいか、よし軽く寝るか。
はぁ〜気持ちぃー机のヒンヤリしたのが頬にくるぜ、うぉ〜。

???まさか桜にこんなかっこいいお兄さんがいるとは思わなかった。こういうのってやっぱり遺伝なのかな?
???前を見ると机に突っ伏している桜のお兄さん。ちょっと話しかけてみようっ♪

???「もしも〜し大丈夫ですか?桜のお兄さん。」
???「あれ?もしかして聞こえてない?桜のお兄さん?聞いてるの?」
???「桜のお兄さん!?」

「ぬぉわあ!!!」
だ、だれだ!?いきなり俺に話しかけてきたやつは?!キョロ…キョロキョロ!!

???「こっちですよ〜桜のお兄さん〜。」

何!?う、後ろだと!?クルッと後ろを覗いてみた。

「な、なんでしょうか?」
???「そんなかしこまんなくてもいいですよ〜。」
「えと、なにか話が?」
???「うん。その、本当に桜のお兄さんなの?」
「まぁ……そうだけど…。い、一応年齢的には、こ、高三だから兄だよ?」
???「ふ〜んそうなんだー。へぇ、お兄さんなんだー。」
「あぁ……うん、そうだよっ!?。えと…それで、あの、君は名前なんて言うのかな?」
???「あっ!!そうだね♪私の名前、青木。青木麻奈って言うんだ。よろしくね、桜のお兄さん。」
「こ、こちらこそ。よろしく!できれば桜のお、お兄さんはやめてね?」
「は〜い♪一人くん。」

フムフム麻奈ちゃんか、覚えとかなきゃ。あっ!そうだ桜とはどんな関係なんだろ?聞きそびれちまったな。まぁ今度にするか。

どうやらホームルームも終っていたらしい。桜の周りに人がぞろぞろと集まっているのが見えた。
はぁ…多分俺も質問攻めに合うんだろうな。覚悟しとかないと…。


今回はここまでです。三分割のつもりがどうやら4つになってしまいすみません。
あと3,4回続く予定なのでよろしくお願いします。
104名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 07:57:47 ID:FeR1g5fj
台本なのか小説なのか
105名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 08:41:16 ID:+Tqtb66m
>>103
GJ
内容的には面白かったけど文が少し見づらいかな?

・「」の台詞の後は改行して文を書く
・キャラ語り文ならキャラが変わるごとに変更説明を入れる
(例:一人side、桜side等)

期待してるので頑張って
106名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 12:31:54 ID:RxSQtw0E
>>103

うん、悪くない
最初の作品なら是非完結させてくれ
楽しみにしてるわ
107名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 20:21:15 ID:FBVFmMJc
つまらん
108名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 22:05:00 ID:4bVhOjxx
>>107ヤ〇デ〇スレからお引っ越しですか?夏厨さん…
109名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 00:07:48 ID:KfHMjTu1
つまらないって書き込むことのほうが
よっぽど意味もないしつまらないよねww
>>107GJ
110名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 00:29:03 ID:TYNDBpKc
>>109 ちょwww安価がww
111名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 01:18:24 ID:c5fzc1Yz
えっ!?お兄ちゃん、彼女できたの?…告白されたって?

あー…彼女さん、可哀想。え?ブサイクで悪かったなって?そういう意味じゃないよ!

それよりさ、来週の晩御飯なんだけど、ハンバーグで良いよね?はい決定!

別にいーじゃん。理由なんて無いよ。でも来週はハンバーグってもう決めたから。

何で来週かって?……肉料理って色々と準備が必要なのよ。…必要なの!!

とびっきり美味しいハンバーグを御馳走したげるから。

………タノシミニマッテテ
112名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 01:35:43 ID:LfCFrnwF
キモウトキモ姉の得意料理ってハンバーグが多いよな いやなんとなく

キライジャナイデスヨ?ハンバーグ……
113名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 01:46:39 ID:c5fzc1Yz
>>112
良かったー。“お料理”って結構大変なんだからね!
でも、お兄ちゃんに食べて貰えて、牛さんや豚さんも嬉しいって!

ヨカッタネ…ブタサン……クスクス
114名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 02:39:38 ID:BRv9E0yl
ウミガメのスープじゃないんだから
115名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 07:02:17 ID:WxDpKzjD
○○くんに食べられて
彼の血と肉になれるならそれでいい
てなもんで
泥棒豚の勝ちじゃね?
116名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 07:26:09 ID:Fq/Rxg3c
>>112
さすがにステーキは無理があるしな。
117名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 10:25:00 ID:IRN8sLn+
料理好きな姉妹がこっそり自分の身体の一部を入れてる話は結構あるね

他人のだと薄汚い泥棒猫の肉が兄弟の口に入ると想うとおぞましい…ってなると思うけど
118名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 11:51:39 ID:4Vb/th2N
キモウトは特ア人気質だなあ。
119名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 12:27:49 ID:rHuskrE1
兄弟の体内でキモ姉妹の体細胞と泥棒猫の体細胞が激しい争いを繰り広げるわけですな
120名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 12:39:31 ID:LfCFrnwF
どこの物体Xだそいつらw
121名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 18:11:27 ID:reY1h8GD
キモウトの恋愛は成就しないものなの?
122名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 18:59:54 ID:Cd+vI3Iw
>>121
お前が、お前の後ろにいる妹さんに『好きです』って言えばおk
123名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 20:41:21 ID:ROZh0iIc
>>121
最終的に成就して欲しいけど、成就するまでは心の中で悶々とする姿を眺めていたい。
そんな人間がここに居ます。
124名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 20:56:38 ID:HAE19yp2
>>121成就するとキモ姉妹→近親バカップルに成るからw結ばれるとしても最終話
125名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 21:24:01 ID:0ROXb7rt
>>121
成就するまでは心の中で悶々とする姿を眺めていたいしキモ姉妹→近親バカップルに成るので、お前の後ろにいる妹さんに『好きです』って言い結ばれるとしても最終話まで焦らしまくってください
126名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 21:26:58 ID:rHuskrE1
キモ姉妹は生きている限り兄弟を求め近寄る女を害するので成就しない≒死
127名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 21:53:57 ID:IRN8sLn+
>>126に先越されたorz

>>121
ただキモウトは自分が死んでもなお兄を想い続ける(呪い続ける)から
成就というか解放≒兄の死

キモウトの想いは恋愛のようにいつか思い出に変わるような儚いものではないのだ…
128名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 22:34:20 ID:Ko6bufGL
執念なんて生ぬるいもんじゃねえ
もはや怨念だ
129名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 23:32:07 ID:Cd+vI3Iw
こ、こんな怖いスレにいられるか!!
俺はボーイッシュ女の子スレに戻るぞ!
130名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 23:37:22 ID:VWGMUcdq
>>129
オニイチャンハココニズットイルンダヨ?
131名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 00:57:13 ID:+1c/jzEn
ここで無意味に息子さんをポロリしたら、キモ姉はどうなるだろ
132名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 01:11:21 ID:E0zVn7rE
>>129
ボーイッシュで恋愛には疎いけど兄への執着だけは異常なキモウトとな
133名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 01:54:49 ID:U2C6JMh5
>>132
古風で近親婚が当たり前だと思っているキモ姉とかもなw
134名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 01:58:27 ID:RPTnyV4c
近親愛を周囲に否定され続けるけど、論破しまくるとか かっこいいな
135名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 03:11:04 ID:pKJLXXSv
例えば?
136名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 09:02:39 ID:m+eNIgPo
>>134
例えを小説形式で書いてくれないか
10000文字以上使って。
137名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 09:20:15 ID:yKxgWlPO
あまりいじめるなよww多分イメージで言ってるだけだろwwまぁキモ姉妹の場合…論破より力業だろ
138名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 12:48:52 ID:JeCBVv6W
だが論破するキモウトって新しくて良いのでは?
139名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 13:47:48 ID:43YheDtm
>>1をよく読もう
140とある義理姉の悩み:2010/08/08(日) 19:02:33 ID:msL+zHBN
ああ、どうして私はあの子の姉なんだろう。
いや、違う。どうして私は、あの子の魂に私のことを「姉」と刻み付けてしまったのだろう。
十数年前の自分を引き裂いてやりたくなる。

私は養女だ。私がこの家に来てから生まれた弟とは当然、血がつながっていない。
だから法的にも弟と堂々と結婚できる。両親だって反対しないだろう…多分。
私たちに血縁がないこと、私が弟に向ける感情は女子の間では周知のことだから、私と争うことを覚悟で
名乗りを挙げるライバルもいない。互いの命を懸けて戦うような敵が出現することを思えば、ブラコン呼ばわりなど
安いものだ。
実在するのかも判らない同好の士と比べたら、実に理想的な環境だろう。

なのに…肝心の弟が、私のことを「姉」としか見てくれない。これでは理想の環境など無意味ではないか。

当たり前といえば当たり前だ。弟から見れば、生まれたときからいるのだから実姉と大差ない。
そして幼心に「本当の子でない」ことを気にしていた当時の私は弟に対し、私が「お姉ちゃん」であることを
必要以上に教え込んだ。その努力は見事すぎるほどに身を結び、立派な「姉弟」が出来上がってしまった。
ああ、弟にこんな思いを抱くことになるのなら、もっと別の仕込み方もあっただろうに。私の馬鹿、大馬鹿!!

……いや、諦めたらそこでゲームオーバー。必ず道はあるはず。
そうよ。考えてみれば「姉」を刻み込んだのは私。もう一度「女」を刻むことだってできるはず。
「姉」から「女」。どうすればこの「市」を削れるか。憎っくき「市」を抹殺するためにまずは…

「お父さん。都心(区)か田舎(町・村)に引っ越しましょう」
「おまえは突然、一体何を言ってるんだ?」
「……失言でした。忘れてください」

あっけにとられるお父さんの顔。恥ずかしい、なんて大ボケを。そういう問題じゃないでしょうが!
…でも、年頃の娘が私しかいないような田舎に引っ越すというのは、有効かもしれないわね…。

「親父。姉ちゃんの様子がおかしい…というか不気味だ。さっきから天井を見上げてクネクネしながら何やら独り言を」
「ああ、私も見た。暑さにやられたんだろう。そっとしておいてやれ。一番寝れば治る…多分」

−−−FIN−−−

##上を見て、弟以外の誰にも否定されない姉という一発ネタを書こうと思ったのに
##ああ、何でこんなオチに…どうやら筆者も暑さに脳をやられているようです。
141名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 21:11:36 ID:/Tp8G9jG
>>140
gjです。

それとキモウトとひきこもり兄の続きができたので投稿します。
142キモウトとひきこもり兄U(乙女の迷走):2010/08/08(日) 21:13:14 ID:/Tp8G9jG

「あの!?本当に桜ちゃんは妹なんですか?」
「お義兄さんと呼ばせてください!!!」
「あの!!好きなモノは何ですか?!!」
「好きな人とかいるんですか!!!」
「趣味は何ですか!!?」
「あの!!?」
「妹さんは家では何をやっているんですか!!!?」

やかましいわっ!!!!!

(一人side)

授業開始まであれが続いていたから正直びびってた。
俺としてはせいぜい桜と親しい子ぐらいしか話をかけてこないと思っていたけどこの結果だった。
なんとか話は出来ていたけど今はそのせいか疲労感しかない。

今は1時限目。国語をやっている。担当の先生が来たときに不審に思われたけど名前を確認されただけだった。
内容が頭に入らない。多分昼までこのまま過ぎていく勢いだと思う。それにしてもなんなんだったんだアレは?
ジャ◯ーズファンの黄色い声援みたいだったぞ?もしくは俺を韓流スターとかと思っている人がいるのか。俺は随分と出世したようだ(笑)。

だがよくみてみると男子諸君は大体桜のことを聞いてきている。はぁはーん、妹よ、色々と人気なんだな。嬉しい半面、込み上げてくるものがあるぞ。
一方女子の皆さんは俺のことを中心に聞いてきてくれている。まさかこの俺がねぇ?あれだ、妹さんと仲良くしているからその分お兄さんにもって考えだろう。
妄想はほどほどにしておかないとな。親身になってくれているんだから、ありがてぇ。ついこの前までは引き篭もりだったしな。

黒板にはどうやら簡単な古典の解説が書いてある。俺は板書しなくても桜に見せてもらえばいいのでさっきからそんな考え事をしていた。

(桜side)

どうやら兄さんは人気者になってしまいそうです。ただでさえあんなにカッコいいのに気取らないのがうけているのでしょうか?
確かに兄さんはカッコいいです。でも話はお世辞にも上手とは言えないです。
ですが私からしてみれば兄さんの声、体、優しさに触れれるだけで十分だと思います。私には特別に接してくれています。
私は兄さんにとって特別な存在なんです。兄さんは私を必要としてくれていますし私も兄さんを必要としています。

___兄さんの隣で歩くことが出来ればそれでいいのかもしれません。

ふと思いました。

ですが私の心にはひとつの不安が、兄さんが私を必要としてくれなくなったら?
もし兄さんに彼女でもできたりしたら私はどうなってしまうのでしょうか?

___そんなことは許せません。兄さんの隣にいるべきは私なんです。兄さんを守れるのは私だけです。

しかしどうすればいいのでしょうか。あのときのようには二度としたくありません。
兄さんがいるから私は生きていけるんです。
兄さんを失ったら私は壊れてしまいます。
ですが兄さんの幸せを奪う権利は私にはありません。
兄さんが壊れてしまうのは嫌です。
兄さんの辛い顔は見たくないです。
兄さんの顔は笑うための顔です。涙は似合いません。
愛しいです。ずっと前から好きです。
兄さんがどこかにいくのは寂しいです。
兄さんの隣に私がいないのは許せないです。
兄さん、兄さん、兄さん兄さん兄さんっ!!!?

___私は……どうすれば…?
143キモウトとひきこもり兄U(乙女の迷走):2010/08/08(日) 21:16:00 ID:/Tp8G9jG
昔のことです。
兄さんには知られてないですが、今までに兄さんに告白をしようとして私に相談をしてきた豚どもがいました。
裏でその豚どもは始末しましたがそれが兄さんの陰口の原因となっていたとはそのときは思いませんでした。

3年くらい前。兄さんが中学三年生のころのことでした。
私を快く思わなかった豚どもがどこからか仕入れた嘘とホントの混ざった噂を流していきました。
次の日には同年代にはほとんど伝わっていました。私の学年にも流れてきたほどです。兄さんはそれほど女子の中では人気でした。
ですがその噂と私のせいで兄さんは……。

「あいつシスコンらしいぞ。」
「おいまじかよそれ。確かにアイツの妹可愛いよな。でも流石に妹に欲情するのは気持ち悪いな。」

「ねぇねぇ、一人くんって妹のこと好きなんでしょ?」
「うそっ〜まじでぇ〜きもい〜。」

「まだ一緒の布団で寝ているんだって〜気持ち悪いよね〜。」
「うそー!!!マジありえないーーー!一人くんのこと考え直さないとねぇー?」
「カッコいいけど妹に手を出しているとかマジ最低だよねー!!!」


その日の夜はとても静かでした。
晩ご飯を食べ終わり他愛もない話していたときです。
兄さんも覚悟を決めて話してきたんだと思います。

「なぁ桜。変な噂って聞いているか?」
「うん知ってるよ。わたしとお兄ちゃんが仲がいいって噂のことでしょ♪」
「そうだな。……なぁ桜?」
「何、お兄ちゃん?」
「お前もいい加減に自分のベットで寝ろよ?俺だってもう子供じゃないし、お前ももうそういう歳じゃないだろ?」
「お兄ちゃん……。」
「いつまでも俺に甘えていたら結婚相手なんていなくなるぞ?」
「お兄ちゃん…おにいちゃん……………。」
「お兄ちゃん!!!ひどいよ!!!わたしお兄ちゃんのこと好きだよっ!?愛しているもん!!!なんでっ!??なんでダメなの?!」
「昔言ったもんお兄ちゃん!!おとなになったら結婚してあげるからなって嘘じゃないよね!?」
「おい!!!落ち着けよ桜!!お前も"そんなこと"ぐらいわかるだろ!!」
「お兄ちゃん……"そんなこと"ってどういうこと!?わたしは真剣だよ!!?お兄ちゃんのためならなんだってするもん!!キスだって……それにセックスだって!!!」
「お兄ちゃんがしたいことなんだってするよ!?これからず〜〜〜っと一緒だよっ!!?わたしたちは結ばれる運命なんだよっ!!?」
「ねぇ?お兄ちゃん!!!わかr」

「いい加減にしてくれ!!!!!!
「もうっ……疲れた………。ごめんもう寝る……。また明日にしてくれ、桜。」

兄さんはそう言って部屋へと向かって行った。そのときの私はもう嫌われたと思っていました。
自然と涙がこぼれてしまいました。兄さんに拒絶された悲しさと叶うことのないこの気持ちを吐き出すことしかできませんでした。

「ごめんね…ぐすっ…お兄ちゃん……。ごめんね…きもちのわ…るいっ…ぐずっ…妹でごめんね……。」

涙も枯れ、心が落ち着いたので私も寝ようと兄さんと共同の部屋に行きました。

中からは微かにすすり泣くような声が聞こえてきました。
私が部屋に入ってからはその音すらしなくなり、ただ深い闇があるだけでした。
私はそのとき初めて自分が兄さんに酷いことを言っていたか理解できました。
私は自分がしたことを肯定したいがために兄さんを救うことができませんでした。

あのときの私はただの無力でわがままで兄さんの重荷でしかなかった。
ただ自分のことだけを考えて兄さんのことを考えてあげれなかった。
兄さんの苦しみを取り除けなかった。
どれだけ赦しを求めても救えぬ莫迦でした。

___でも今は違います。
144キモウトとひきこもり兄U(乙女の迷走):2010/08/08(日) 21:18:24 ID:/Tp8G9jG
あの日からでした。兄さんに対する陰湿ないじめがあったのは。
兄さんの悪口や誰も話を兄さんの話を聞いてくれなくなり兄さんの心は荒んでいきました。
兄さんは誰も信頼できなくなっていきました。私への態度も変わっていった気がします。
急に素っ気無くなったり、暴力を振るうこともありました。
正気に戻るとすぐ謝ってくれましたがそれが逆に兄さんを追い詰めていたのかもしれません。
悪いのは全部私なのに兄さんは自分ひとりで抱え込んでしまいました。
そのせいか独り言が多くなって、会話も「あぁ。」とか「うん。」しか言わなくなりました。

___今思えば兄さんが狂い、私がこんな性格になったのはこの時期からのような気がします。

学校の2学期を過ぎた辺りからは来ることの方が珍しくなっていました。
私はなにもできないままでした。することが兄さんを傷つけていると知ってしまったからです。
兄さんはただぼんやりと外を眺めているだけでした。

そしてある日を境に兄さんは学校に行かなくなり、受験当日まで外を出ませんでした。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

私にとっても兄さんにとっても辛く嫌な過去。
これが私が背負う十字架。贖罪など到底出来ない。だから一生をかけて兄さんを守らないといけません。
罪滅しとは違います。私の人生をかけて兄さんを幸せにさせることが大事なんです。

___それがわたしにできる唯一のこと。

国語の時間もあと少しです。兄さんと昼食を摂りたいので終わったら伝えておかないといけません。
ノートを覗くとあんなに考え事をしていても意外とペンのほうは動いていたようです。
兄さんはあとで板書をみせてくれと頼むでしょうからいつもより綺麗に書いておかないとだめです。
あぁ昼ごはんが楽しみです。

(一人side)

ふぅ〜やっとお昼だ。国語いい数学といい授業が辛いな〜。腹もすごく減った。
一応桜と一緒に昼食を摂ることになっているので教室で待っている。桜は今係の仕事でプリントを届けているらしい。
夏休み明け最初の授業なのでどうやら短縮授業で今日は半ドンらしい。
本当はもう帰っていいらしいんだが桜が弁当を持ってきているためここで済ませようってわけだ。
そして俺のまわりには桜の友達と思われる子がきている。桜が女子の友達を持っているのはわかった。

で、なんで俺はその知らない女の子に絡まれているんだ?

「一人さんの趣味って何ですか?」
「えぇっと(なぜ苦いとこをつくんだ)……。」
「ゲームとか漫画とか…あとアニメとかだよ。」
「意外ですね。」
「ま、まぁ……ひきこもりだったし……オタクと…とか、変わらないと思うよ?」
「一人さんがオタクなのですか、少し引きますね。」
「ご、ごめんね。気持ち悪いよね?」
「まぁ……そんなとこです。そんな汚らしい趣味は桜ちゃんも嫌がっていると思いますよ。」
「…………(うわぁーこの子的確に俺のHPを削ってきているもうだめだ)。」
「どうしたんですか?一人さん。」
「えと、それで、俺に何か用かな?って思ってた。」
「あぁ〜そうでしたね、私も桜ちゃん待っているんです。いつも一緒に食べているので。」
「あ!じゃ、じゃあ、いつも桜と食べているのは君なの?」
「はい、そうですよ。大体二人か三人で食べてます。」

そうだったのか〜、桜は物静かだからこういうのは予想がつかなかった。それに話がそれて良かった。
意外と仲良くやってるいるのかもな、ちょっと安心した。

「一人さんこれからよろしくお願いします。私の名前は上田紗耶といいます。気軽に呼んでくださいね。」
「こ、こちらこそよ…よろしくね紗耶ちゃん。」
145キモウトとひきこもり兄U(乙女の迷走):2010/08/08(日) 21:19:57 ID:/Tp8G9jG
紗耶ちゃんか…どうやら女子のリーダー格らしい。とにかく委員長気質だろうな。でも根は優しそう。
そして結構可愛い。桜とか麻奈ちゃんとはちょっと違う可愛さ、でも桜は可愛いというか綺麗って言ったほうがよさそうだな。
不思議な麻奈ちゃんと活発紗耶ちゃんか……高校生活も面白くなりそうだ。この勢いなら彼女もできるのかもしれん。

スタスタスタスタスタ!!どうやら桜が戻ってきたみたいだ。

(麻奈side)
朝一人くんと話すときは緊張しちゃっていつもと違うキャラになっちゃったけどおかしくはなかったと思う。
私は結構恥ずかしがり屋だし、内気だからなんであんなに積極的になれたのか私自身不思議だった。

どうやら一人くんは桜たちのグループでお昼を食べるらしい。
このままでは一人くんと一緒にご飯食べれないや。紗耶ちゃん意外と怖いし、あまり仲良くないし…うぅ〜。
こうなったら当たって砕けろの勢いしかないのかな〜でも私ビビリだし、あぁ〜不甲斐ないよーーーー。
桜も戻ってきたみたいだし……桜に頼んでもなんか気まずくなりそうだし、私ってもう詰んだの?

「兄さん待たせてしまってすみません。さぁ食べましょうか。」
「桜さんおかえり。」
「はい、ありがとうございます。紗耶も待っていてくれたんですね。」
「まぁね、あんたの兄さんとも話していたから暇じゃなかったし。」
「兄さん、わざわざ紗耶の相手をしていただいてすみません。」
「相変わらずあんたは私にケンカを売るのが好きなのね。一人さんも私と話していて楽しかったでしょ?」
「う、うん……まぁ面白かったかな〜?!紗耶ちゃんとりあえずご飯にしよう?それと麻奈ちゃんも一緒に食べない?」

ウワァァァンもうこの流れだと入る場所ないよーーー。いっこ前の席なのに〜っ!!一歩が遠いよ〜〜!!
とりあえずジュースでも買って作戦考えないと〜。

ふぇ!?一人くんがこっち見てる。これはチャンス?それとも……。

「麻奈ちゃん……聞いてる?もしかして俺ハブられてるの?」
「兄さん、麻奈にはよくあることです。自分の世界に入りすぎて言葉が聞こえないんです。」
「青木さんって素でこんなのかしら?意外だったわ。」

「麻奈ちゃん〜起きてる〜?お〜い!!」

ど、どうしよう今なら一緒にごはん食べたいって言えるけど…あぁもう…紗耶ちゃんがいるとどうもだめだ〜。
どうしよ、どうしよ。と、とりあえず一人くんに声かけてみなきゃ…ってあれなんでこんなに一人くんの顔が近いの?
え!?どういうことさっきまで1mの距離があったのに?!

「麻奈ちゃん〜大丈夫?ペタッ」
今一人くんが触ったの?えっまさかそんな。あっこれ一人くんの手だ。あぁ頬が紅くなってくるぅ〜。
「あ……。」
「麻奈ちゃん?」
私、もうダメかも
「あぅ、あ!?いっいやぁあああああああああああああああああ??!!!」
バタンッ

(一人side)

「桜!!!麻奈ちゃん倒れたぞ!!!どうすればいいんだ!!?」
「大丈夫です兄さん。すぐ起きるから気にしなくていいです。」

「む・・・むきゅ〜。う・・うぅ、あれ?私また倒れて…えと…そうだ。恥ずかしくなって…。」
「ほ、ホントだ…そっそうだ麻奈ちゃん?」
「ふ、ふぇ!?一人くん!?何かな!!?」

「い、一緒に御飯食べない?」

今回はここまでです。ありがとうございました。
一つ質問ですが一回の投稿でどれくらいの量が読みやすいでしょうか?
毎回約10kb以内にしているのですが改善できるようなら変更しますのでできればご協力を。それでは。
146名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 21:32:11 ID:pexOlq99
>>145
投下乙
人により意見が分かれるところかと。
自分のペースでいいんじゃないかな。
私的には完結させてくれたらどれくらいでも。
続き期待しています。
147名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 21:54:43 ID:mdGetnae
お二方共乙、GJ

>>145
容量の大きさはスレが450kb超えた辺りから気をつけるぐらいでいいと思う
ある程度レスを使うなら前もって宣言したりレス毎に番号振ったりするといいかも

長さの目安や具体的なやり方はスレを遡ってみて
他の人の作品を参考にしてみるといいんじゃないかな
148名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 18:04:38 ID:wjU9YvYm
やはり、キモ姉妹もそうだが‥兄弟の方もモブで優しい普通の人より、ちょっと変わった人物の方が面白い…
149名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 19:02:14 ID:WbMsMJIR
オレは兄貴が最悪なスペックの奴が好きだなー
150名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 19:17:09 ID:vdvZJEpJ
間をとって見掛け倒しの兄とかどう?
見た目は超イケメンなんだけど中身は普通なせいで実際より下にみられるの。
イケメンじゃなくても、
見た目は強そうで中身は普通、そのせいで実際より軽んじられるとか、
見た目は真面目そうだけど中身は普通だから実際よりバカに思われるとか
151名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 19:46:32 ID:NF9+VuMN
>>150
それをいかに近親愛と絡めるかが勝負所ですか。
姉妹と言えば、兄弟が見かけ倒しであることを、もっとも良く知り得る立場なのが普通。
常識的には幻滅してしまうでしょうから…どう持っていくか…
152名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 20:10:41 ID:RkTXfV0c
見掛け倒しの兄弟が周りに期待されまくって内心焦ってるところをこっそりフォロー、とか。内助の功的な。
153名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 20:55:57 ID:BCHk8Pae
友人に『うちの妹のば◯い』というエロゲを借りてやってみたけど非常にムシャクシャした
そういう訳でムシャクシャ感を晴らすため書いてみた物を投下します

※ご都合主義な展開です

※短時間で書いたため粗があるかと思います

※自分の知識が間違っているかもしれませんが御容赦ください
154キモウトに手を出した男の末路:2010/08/09(月) 21:03:12 ID:BCHk8Pae
目の前に一組の男女が歩いている
そして俺は男の方へ怨嗟の眼差しを向ける
男の名前は麻倉 秋(あさくら しゅう)女の名前は麻倉 楓(あさくら かえで)
苗字から分るとおり兄妹である
なぜ俺が麻倉兄を恨んでいるかを説明する先月まで遡る
それは俺がいつもの通り馬鹿の女子共に宝石だと偽ったアクセサリーを売ってい
たところにあいつが現れた
あいつは俺が偽物を売っていることに気づき、ばらした
そのおかげで俺は停学、しかも高校の奴等には冷たい眼で見られるというおまけ
付きだ
これは完全な逆恨みだが関係なかった
必ず俺を虚仮にした恨みを晴らす気持しかなかった

今、俺は家の自室で復讐の方法を考えている
復讐するにも、如何にして復讐するかが問題だった
あいつ良くも悪くも一般的な生徒だ
だからこそ粗がない
そこでふと一冊の本が目に入る
これは結構有名な主人公がヒロインを寝取り、調教し、復讐するというものだ
これだと思った
朝の様子からあいつと妹は仲が良いのだろう
だからこそあいつの妹を奪い、調教した姿を見せてやれば絶望した表情を見せて
くれるだろう
そうと決まれば後は行動するだけだ

まずは麻倉妹にあいつに対して幻滅してもらうのが手っ取り早い
俺とセフレがSEXしている写真とあいつの写真を合成して、あいつが俺のセフレを
レイプしてるように見せる
昔の合成写真はぼやけてしまったりする
しかし今は、専用のソフトを使えばすぐに合成かどうかわからない写真が出来上
がる
そうして出来た写真は合成した本人である俺でさえ分からないくらいの出来だ
後はこの写真を麻倉妹に見せてやるだけでいい
そうすればあいつに対して失望するだろう
これからあいつに復讐できると考えるだけでも興奮してきた
しかも美人な部類に入る麻倉妹のおまけ付きだ
見れろよ、麻倉 秋め……

* * *

朝に麻倉妹の靴入れに『お前の兄については話がある』という手紙を入れる
そして俺は放課後、指定した場所と時間で麻倉妹が来るのを待った
待ち続けること数分、約束の時間ぴったしに麻倉妹が現れた
「兄のことで何かあるようですが、一体どのようなご用件でしょうか?」
麻倉妹に昨日作った合成写真を見せてやる
くっくっく、こいつの驚く姿が目に浮かぶようだ
これで麻倉妹の兄に対する信頼は地に落ちて、そこで俺が慰めてやれば一発だな
しかし、麻倉妹は受け取った写真をつまらなそうに眺めると徐に問い掛けてきた
155キモウトに手を出した男の末路:2010/08/09(月) 21:07:30 ID:BCHk8Pae
「それで、この写真が一体どうしたんでしょうか?」
「……どうしただって? その写真はお前の兄貴が俺の彼女を陵辱したやつなんだ
ぞ。ひでぇよな、嫌がる彼女を無理矢理犯したんだぜ。
あんたもそう思わないか?」
こいつ、あいつが陵辱してる写真を見ても全く動じていやがらねぇ……
まさか、あいつのことなんてどうでもいいのか?

「あなたは馬鹿ですか?」
「なんだと……」
「なら一つ伺いますが、あなたの彼女を陵辱されている時に、あなたはなぜ悠長
にも写真を撮っていたのですか?」
「そ、それはお前の兄貴がどんだけひでぇことをやってるを教えるために……」
「それならばその場で兄を捕まえて強姦罪で逮捕すればいいだけの話です」
「ぐ……」
麻倉妹の反論の前に答えが詰まってしまう
普通ならあんな写真を見たら動揺するはずなのに、冷静なままだ……
こいつはどこかが壊れていると本能が告げる……
「それに優柔不断を絵に描いたような兄がそのようなことをするはずがありませ
ん。まあ、おそらく合成写真でしょうが」
「……随分と兄貴のことを信頼してるんだな」
「ええ、最愛の兄ですから」
実に楽しそうに麻倉妹はそう告げる
やっぱりこいつはどこかおかしい
この実の兄に対する異常な感情が……
このどこか超然とした姿が…
どこか超えてはいけない境界線を超えてしまったように思える
一瞬そんな事を考えるが否定する
あいつに復讐するためには麻倉妹を奪ってやるのが一番効果的だ
だからこそ、たとえこいつが異常であったとしてもやらなければならない

……麻倉妹にあいつに対する信頼を崩すのは不可能だ
しかしそれはあいつ大事にしている証拠である
ならばそれを逆手に取って、脅して無理矢理犯してやる
「くっくっく、よく分かったな。確かにそれは合成写真だよ。だが他の奴が見た
らどう思うだろうな? これをばら撒いたらお前の兄貴の
人生は終わりだ。そうされたくなかったら大人しく従うんだな」
「……短絡的ですね。脅すのですか?」
156キモウトに手を出した男の末路:2010/08/09(月) 21:11:16 ID:BCHk8Pae
「ああそうだ。あんたみたいな兄貴思いの奴には効果的だろ」
流石の麻倉妹もこれには詰まっているようだ
俺は今、相当意地の悪い顔しているだろう
それもその筈、これであいつに復讐できるんだからな
「……突然ですが、少しお手洗いに行ってもよろしいでしょうか?」
「あ? 構わないが、逃げるんじゃあねぇぞ」
「逃げても無駄なことは分かりきっていますので」
麻倉妹の奴も相当参ってるようだな
これからのことを想い浮かべるだけでも楽しくなってくる
嫌がる所を無理矢理犯して、調教して、奴隷にしてやるからな
奴隷にした麻倉妹の姿をあいつに見せたらどんだけ絶望してくれることだろうか
しかも復讐も出来て、奴隷も出来る、一石二鳥だな
流石俺、頭がいいぜ

そんな未来予想図を立てていると麻倉妹が戻ってきた
先ほどより俺との距離が近い気もするが、気にする必要も無いだろう
「お待たせ致しました。もう一度伺いますが、あなたは兄の合成写真で私を脅し
、どのようなことをするのでしょうか?」
「そんなこと分かりきっているだろ。この俺の言い成りになって世話をしてくれ
ればいいんだよ。下の世話をよぉ……」
一瞬麻倉妹の顔が歪むがすぐに元に戻った
断れないことが分かってるんだろうよ
「答えは分かってんだろ、兄貴のことがどうなっても構わないのか?」
「……その前にその合成写真を見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「あん、別にいいだろ、そんなもん」
「まあ、見せていただかなくても困りませんから……」
麻倉妹は携帯取り出し操作しながら、一歩近づき……

バチィ!!

その瞬間、俺にとてつもない衝撃が走り抜け、地面に倒れこむ
視線を上げるとスタンガンを片手に哂っている麻倉妹の姿があった
「後でゆっくり回収すればいいだけの話ですし……ああ安心してください。スタ
ンガンは違法までには至っておりませんから、命に別状は
ありません。しばらくは動けませんが」
「てめぇ、兄貴がどうなってもいいのか?」
「どうぞ、ご自由に」
「な、に……」
あまりに予想外な受け答えに思考能力がフリーズし、呆けた表情をしてしまう
その様子が楽しいのか、クスクスと笑いながら告げてくる
「そうなれば私が兄を慰めてあげればいいだけですので、そうなれば兄は私だけ
の物になりますので」
「な……」
157キモウトに手を出した男の末路:2010/08/09(月) 21:15:05 ID:BCHk8Pae

あまりの狂った麻倉妹の想いに絶句してしまう
理解できない、この女は狂ってやがる
俺が恐怖で震えていると、麻倉妹はクスクス笑いながら近づいてくる
「私はそれで構わないのですが、兄の悲しむ姿は余り見たくありませんので別な
方法を取らして頂くことにします」
麻倉妹は俺の懐から合成写真を取り出す
「知っていましたか? 合成写真は他者の肖像を勝手利用しますと犯罪なのですよ

「な……」
「あら、知らなかったのですか?」
まるで俺を嘲るようにクスクスと笑う麻倉妹
だが反抗しようにもスタンガンのおかげで体が自由に制御できない
「無知なあなたのために教えて差し上げますよ。他者の写真を勝手に利用する場
合、肖像権や著作権の侵害になります。それにその合成
写真は著しく兄の世間体を落としますので、名誉毀損や侮辱罪も加わることでし
ょう」
それに、と言いながら麻倉妹は手に持っている携帯を持ち上げる
「先程の私を脅した会話を録音させて頂きました。これで脅迫罪も加わりますね

「ぐ……」
「別に合成写真をばら撒いても構いませんよ。そうしたら然るべき所に通報させ
て頂きますから。確かに兄の信頼は落ちますが、すぐに
あなたが兄を恨んで行った事だと判明致しますから、兄の信頼は回復致しますの
で」
完璧に麻倉妹の手の平の上だった
どうしようもない敗北感に打ちのめされる
だが麻倉妹はクスクスと笑いながらさらに追い討ちをかけてくる
「あなたは先月の件で兄に恨みがございますから、大方私を調教などして兄に復
讐するつもりでしょうが不可能です。意思の弱い方なら
人の防衛本能を利用して廃人のようにすることは出来ますが、SEXの虜にすること
など出来ません。馬鹿ですね、そういった物の見すぎ
です。そろそろスタンガンの効果が切れる頃合ですね、それではさようなら」
クスクス笑いながら背を向けて歩いていく麻倉妹の後姿に怨嗟の眼差しを向ける
畜生、兄妹共々、必ず復讐してやる!
俺はその時、そう誓った
それが、さらなる泥沼に嵌ることとなることに気づかずに……

* * *

「くそっ!あの女め、馬鹿にしやがって!」
先日のことを思い出すと腸が煮え繰り返るくらいイラつく
それも全てあの女のせいだ
兄も俺をイラつかせれば、妹もイラつかせるか
このままじゃあぜってぇ終わらねぇ
こうなったら完全に実力行使に出てやる
158キモウトに手を出した男の末路:2010/08/09(月) 21:18:43 ID:BCHk8Pae
仲間を集め、拉致して、泣き叫んでも無理矢理集団で、犯して尽くしてやる
くっくっく、見てろよあの女……

そして、俺は麻倉妹を襲う場所を探している
ベストなのは仲間内の家でやること
俺たちの家は高校の付近だが、麻倉妹は電車を使い高校に通っている
駅までの一本道は人通りが多く不可能だ
さらに麻倉妹の家は降りた駅のすぐ近くであるためこれもまた不可能
ならば場所は高校しかないだろう
こういった学校は一種の閉鎖空間
ならば放課後あたりに、他の者にばれずに襲うことは出来るはず
しかも今週、御誂え向きに委員会の集まりがある
これを利用するほかないだろう

* * *

放課後、麻倉妹が委員会が終わり、一人になるところを待ち伏せる
そして麻倉妹が歩いて来たところを見計らい、他の仲間に指示を出した
「あなたたっ……!」
麻倉妹は何かを言おうとしたが、その前に後ろから殴られた衝撃であっさりと気
絶した
「よし、人目が付かない所に運ぶぞ」
「相馬さん、この女別嬪ですね。楽しくなりそうですや」
「慌てるな、すぐに楽しくなるんだからな」
仲間の1人が厭らしい笑い浮かべながら、話を掛けてくる
俺も厭らしい笑いを浮かべているだろう
あの澄ましたこの女にようやく復讐できるのだからな
いい声で鳴いてくれよ、よがり狂わしてやるからな……

その後、俺たちは人の来ない一室に麻倉妹を連れ込んだ
暗い妄想に浸りながら待っていると、ようやく麻倉妹が目を覚ました
「ようやくお目覚めかな。ご機嫌はどうだ」
「……最悪ですね。ここまで短絡的でしたとは……予想外でした」
ニヤニヤと笑う俺たちの姿が目に入ったのだろう、麻倉妹は吐き捨てるように呟

そこで仲間の1人が声を掛けてくる
「相馬さん、俺我慢できねえよ、さっさとヤっちまいましょうよ」
「そうだな。よくもこの俺を散々馬鹿にしてくれたな。犯してやるよ、散々にな

そして俺たちは麻倉妹に手を出そうとした
が……
「止めておいた方がよろしいと思います」
こんな絶体絶命の状況に似合わないほど、ニコニコと笑いながら話を掛けてきた
麻倉妹の言葉によって止められた
「お前、今の状況が分かってんのかぁ?」
「はい、分かっておりますよ。分かった上で止めているのです」
まるで世間話でもするかのような口調で語りかけてくる
その場違いな雰囲気に俺はおろか、他の仲間全員も戸惑っている様子だ
159キモウトに手を出した男の末路:2010/08/09(月) 21:24:55 ID:BCHk8Pae
「私を強姦したら、警察に通報致しますので、止めておいた法がよろしいですよ

俺たちの間に笑いが巻き起こった
そんな脅しで俺たちが止まると思ったら大間違いだ
俺たちは揃いも揃って厭らしい笑いを浮かべながら告げた
「本当にいいのか?あんたレイプされたこと説明しなきゃならないんだぜ」
「そうだ、恥を掻きたくなかったら大人しく奴隷になるんだな」
ゲラゲラと俺たちは笑い合う
「本当にどうしようもない馬鹿ですね」
「何だと……」
激昂する俺たちをよそに、麻倉妹は淡々と告げる
まるで今の状況など悪そるに足りないとでも言うかのように
「強姦罪は性犯罪の中でも一番重い罪です。しかも強姦致傷罪。しかも集団強姦
罪ですから非親告罪になりますね。知っていますか?
集団強姦罪は懲役20年以下。それにあなた方は非常に悪質ですからかなり重い
罪になると予想しますよ。それに余罪があるのなら
罪はさらに重くなりますよ」
クスクスと見覚えのある笑いを浮かべ、告げてくる
俺たちの行う行為を犯罪性を説明されて明らかに仲間たちが及び腰になっている
このままではまずいと慌てて反論する
「はん。でもいいのか? そうするばレイプされたことが回りにばれるんだぞ!」
「ええ、構いませんよ。私が少し恥を掻くだけであなた方を懲役20年以下の罰
則に出来るのですから。少し変えますが、言わぬ恥は
一生の恥ということです。それに世間は私を悲劇のヒロイン扱いしてくると思い
ますよ」
楽しそうに告げてくる麻倉妹
間違いなくこの女は警察に通報するだろ
「あなた方の青春と人生をかけるつもりあるのならば、どうぞレイプして頂いて
も結構ですよ。因みに、同意の上でという言い訳は無意味
ですよ。今日、監視カメラが設置されてる高校は珍しくありません。勿論この高
校にもありますよ。私を運び時におそらく写っていること
でしょう。そもそも集団ですから言い訳にもなりませんけど」
俺たちは押されていた
何も抵抗できないであろう1人の少女に言葉だけで圧倒されてしまった
仲間の数人はもはや逃げ腰である
「相馬さん、こいつ絶対おかしいですよ」
「そうですよ、早く逃げましょうよ」
もはや完全に俺たちの敗北だった
無抵抗まで追い込んだのにどうしてこうなってしまったのか
ギリリッと歯を食いしばる
「退くぞ」
俺は短く告げ、逃げ出した
これほどの屈辱は初めてだ、こうなった何年かかってもでも復讐してやる
160キモウトに手を出した男の末路:2010/08/09(月) 21:30:17 ID:BCHk8Pae
……しかし俺は気づいていなかった
「ここまで短絡的だとは思いませんでした。やはり野蛮な方にはそれなり報い与
えるべきでしたか。今回のことは勉強料と思っておきま
しょう」
そう呟き、自身の服を乱暴に引き裂いている麻倉妹の姿に

* * *

くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!
数日後、俺はまだ怒りが晴れず、家の中の物に八つ当たりをしながら悪態を突く
これほど荒れているのは初めてだ
あの麻倉妹に復讐したくも方法が見つからない……
それが俺の怒り余計に拍車を掛けている
どこまでも俺を怒らせる兄妹だ!
うん、兄妹?
そうだ兄であるあいつの方なら何とかなるはずだ!
妹の方は狂っていたが、兄の方は違うであろう……
そうと決まれば早速作戦を練るとしよう
暗い笑みを浮かべながら、暗い妄想に浸る
しかしその妄想は家のチャイムの音に邪魔された
一体何のようだ、くだらないことだったら容赦しねぇぞ
そしてドアを開けると
「すみません警察ですが、ご同行願います」
俺の平穏は消え去った……

* * *

兄と私が家のソファで一緒に寛いでいる
この時が一番幸せである、何物にも代えられない至福の時間だ
しばし幸福に浸っていると新聞を読んでいる兄が声を上げた
「ぶっそうだなぁ」
「どうしたんですか、兄さん」
「ああ、うちの高校で強姦未遂などで捕まった生徒が居るみたいだ。楓も気をつ
けろよ」
兄のその言葉に思わず笑みがこぼれてしまった。うまくいったと
161キモウトに手を出した男の末路:2010/08/09(月) 21:34:11 ID:BCHk8Pae
「兄さん。実はその強姦未遂に巻き込まれてしまったのは私なんです」
「何だって!大丈夫なのか?」
「はい。機転を利かせてどうにか事を得ましたが、制服など強引に引き千切られ
、とっても怖かったです。出来る限りで構いませんから
一緒の時間を増やして貰いたいのですが」
よろしいですが、と悲痛な顔をしてお願いする
そうすれば兄のことだ、その後の展開は眼を瞑っていても想像出来る
「勿論だよ。それにしても楓にこんな大事が起こっていたのに気づかないなんで
、本当にごめんな」
「いえ、大事には至りませんでしたので大丈夫です。それより今度から出来るだ
け一緒に居てくださいね」
「ああ、約束する」
私は兄の胸に頭を擦り付け、存分に甘える
私に余計な時間を割かせたことは非常に業腹ですが、こうして兄と一緒の時間を
増やせることに成功したのですからその点につきまして
は感謝しても構いませんね
そして私たち兄妹は平穏を迎えるのでした


END
162名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 21:40:07 ID:BCHk8Pae
以上で投下は終了です
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうごさいました

ところで書いていて思ったのですが、調教などの肉体的なNTRはゲームの中だけだなと思いました
163名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 21:44:40 ID:t4lTpyHm
何という冷静沈着キモウト…恐るべし
164名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 21:50:22 ID:BCWtst8s
>>162 乙でした。冷静沈着キモウトは怖い((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
165名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 22:00:23 ID:EO9PONPE
>>164
死ね
166名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 22:06:11 ID:cxFfiANf
>>162
もちろんさ、ゲーム的なNTRなんて現実にはない
あるとするなら浮気やビッチの気まぐれ

しかし、NTRゲーをここまでキモウト化させるとは
おかげでスッキリ楽しめた、GJ!
167名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 23:26:31 ID:t4lTpyHm
調教するという発想がある、そして調教が無理と認識している。
楓さん。もしや貴女…お兄さんの調教を検討したことが…
168名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 23:46:37 ID:wrFq1qBN
169名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 01:24:39 ID:+tFXQjiR
>>162
実際にこんな冷静な妹はいないと思うが、キモウトなら仕方ないと思ってしまう。
GJでした。
170名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 01:40:27 ID:q5P8pDSX
>>168
何という歪み
171名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 02:58:49 ID:KIffpuGH
>>168
心当たりのあるお兄さんは、今すぐ夜逃げ屋本舗か、スコルツェニー大佐に連絡を取るんだ!
172名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 04:51:00 ID:pQh1NypG
>>168
キモウトと戦っても勝ち目はない! 全国の兄貴は絶対に逃げるんだ!
逃げるんだ! 逃げるんだ!
173名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 05:37:51 ID:wuOdT1r3
キモ姉かヤンデレ幼馴染みをぶつけて対消滅を図る…
174名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 08:43:08 ID:aZkuww0N
>>168
大丈夫だ落ち着くんだ
とりあえず幼馴染に告・・・・・・
いや妹に告白してください・・・はい
175名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 12:39:37 ID:D1syaw9S
>>173
どちらかが生き残ったら相手の執念とか怨念を吸収してもっと別のおぞましい何かが爆誕しそうだ。
蠱毒的な意味で。
176名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 13:52:35 ID:K7F+9TgP
>>173
男くんはたぶんテンプレ的におっぱいが一番大きい子を選ぶと思う
177名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 17:22:29 ID:rrXgiqUA
投稿します。
178三者三様:2010/08/10(火) 17:23:36 ID:rrXgiqUA

「あっ……」

 今日子は小さく声をもらした。
 バックの中に入れていたクッキーが割れている。
(どうしよう……せっかく早起きして焼いたのに……)
 おそらく手荷物保管所のアルバイトがぞんざいに扱ったのだろう。お弁当と水筒の下敷きになったクッキーの小袋はあきらかに変形し、実家のオーブンで大きめに焼いたクッキーは、もはや見る影も無く砕けてしまっているのが見て取れる。

 まあ週末の遊園地といえば、混雑するのも当然だし、手荷物保管所の仕事も平日の数割増で雑になるのもやむを得ないだろう。割れ物があるなら、むしろバッグへの詰め方自体をもっと考えるべきだったのかも知れない。
 それに、袋の中で砕けたくらいじゃクッキーの味は変わらないし、そんなことで不機嫌になるような相手といるわけでもない。
 だが、早朝五時から起きて、苦心しながら可愛らしい造型のクッキーを焼き上げた彼女の手間が無駄になったことは間違いない。
(せっかくのデートなのに……)
 今日子はちらりと隣を見る。
 そこには、十数年来のご近所づきあいの果てに、念願かなってようやく恋人になれた“彼氏”――幼馴染みの凛太郎が、壁にもたれて難しい顔で携帯を見ていた。


 それは去年のことだ。
 凛太郎が「付き合おう」と告白してきた時、今日子は、なすすべもなく泣いた。
 腰が抜けたように全身の力が抜け、何も言えず、現実感さえなかった。
 嬉しかったのだ。
 その圧倒的なまでの感情が、彼女から理性を奪い、ただの幼児に戻してしまったのだ。
 YESともNOとも言わずに、ただ小刻みに震えて、湧き水のように涙を流し続ける今日子を見て、彼は慌てふためき、何を勘違いしたのか携帯電話から救急車を呼ぼうとしたのも、あと何年か経てば「いい思い出」と言えるエピソードになるのだろう。
 なら、今日のこんな出来事も、やがては思い出すことも無い日常として記憶にうずもれてくれるだろうか。

 そう思うと、今日子は溜め息を吐き、気を取り直すことにした。
(ちょっと口惜しいけど、こんなことで私まで沈んじゃったら、折角のデートがパーになっちゃう)
 そう、今日はデートなのだ。
 楽しむ事を放棄したデートなど、親戚の法事と何も変わらないではないか。
 少女は笑顔で、保管所のアルバイトに「ありがとう」と言うと、そのまま“彼氏”のもとにぱたぱたと走り去っていった。

「凛太郎ちゃん、おまたせ。――誰から?」
 そう言いながら、彼の携帯を覗き込もうとした今日子に、大袈裟に顔色を変えた凛太郎は、とっさにかすれた声を出しながら携帯をポケットに仕舞い込んだ。
「ああ、その、なんだ、クラスの奴からだよ。宿題のレポート見せてくれってさ」
「ふーん、あやしいなあ」
 そう言いながら、今日子は悪戯っぽい目で、しげしげと凛太郎を見つめる。

 確かに今日の彼は、普段とは明らかに様子がおかしい。
 熱っぽく潤んだ――それでいてこっちをまともに見ようとしない目。
 気温に関係なく、流れ続ける滝のような汗。
 誰がどう見ても、少年が何か後ろ暗いものを隠しているようにしか見えない。
「まさか……どっかで浮気とかしてたりして」
 敢えてそう言ってみる。
 だが、その瞬間、それでも彼は真摯な光を瞳に宿し、叫んだ。
「おまっ……そんなわけないじゃないか!」
 
 周囲の人間がその大声に驚き、一斉にこっちを振り向いたのがわかった。
 でも、今日子はもはや、そんなものは気にならない。
 凛太郎が自分に、この顔を――この目を向けて叫ぶ限り、彼は自分を裏切らない。それは今日子にとって確信というより、ある種の信仰でさえあった。
「うん、知ってる」
 彼女はキスをしたくなる衝動を堪えながら、ごまかすように少年の腕にしがみ付いた。

179三者三様:2010/08/10(火) 17:25:11 ID:rrXgiqUA

 その後も二人のデートは続く。
 芝生の木陰でシートを広げて昼食を取り、砕けたクッキーをジグソーパズル代わりに遊び、ふたたび手荷物保管所にバッグを預けて、午前中に乗らなかったジェットコースターや観覧車、メリーゴーランドや急流下りなどのアトラクションに歓声を上げる。
 だが、凛太郎がいつもの屈託さが戻る事は無かった。
 頬を赤らめ、常に額は汗に濡れ、どこか遠い眼をしたまま、今日子の話もあまり耳に入らないようだった。何よりも彼が時折、何かを懸命にこらえ、死に物狂いで我慢しているような、――そんな切ない表情を浮かべているのを、今日子は何度も見かけた。
 そしてなにより、ときおり携帯を覗き込んでメールを打ち返しながら、凛太郎が後悔と罪悪感に満ちた目で自分を見ていたことを、彼女はちゃんと気付いていた。
 

「ねえ凛太郎ちゃん、怒らないから正直に言いなさい」
「え……?」
「今日、私に何か隠してるでしょう?」

 そう言われて、険しい顔で携帯を操作していた凛太郎は顔を上げた。
 むろん、その表情には焦りと困惑が同居している。
 何か隠しているかと問うて、こんな顔をされればバカでも図星を突いたと分かる。
(本当に……不器用なんだから……凛太郎ちゃんは……)
 そう思いながら口を開く。
「まあ、何を隠してるのかくらいは、私にもだいたい想像がつくけどね」
 と言うと、凛太郎は傍目に見ても分かるほど青くなった。それを見て今日子は勝ち誇ったように、ふふんと鼻で笑う。
「凛太郎ちゃん、あなたって今日ホントは――」
「お、おい今日子……」



「おなかが痛いのね?」



 弾かれたように爆笑する凛太郎に、今日子は不満気に頬を膨らませる。
「ちょっ……なによ〜〜、そんなに笑うこと無いでしょ〜〜」
「いや、その、うん、ごめん」
 腹を抱えて目を擦りながら、凛太郎は今日子の手を引き、抱き寄せると、優しく微笑み、
「今日子、愛してる」
 と囁き、そのまま衆目も憚らず、キスをした。

 さすがに今日子もその不意討ちに驚いたが、それは一瞬だけだった。
 瞼を閉じ、両手を幼馴染みの背中に回し、彼の唇と感情を受け入れる。
 どこからともなく耳に届くヴヴヴ……という振動音も、もはや気にならなかった。



////////////////////////

「ただいま」
 と言ったところで、家が無人なのは分かっている。
 両親は明日まで帰ってこないし、妹もいないのは分かっている。
 そのまま凛太郎は深い溜め息をついた。

 部屋に入り、蛍光灯をつける。
 まだ時刻は夕方の五時。夜というには早すぎる時間だ。だが、日当たりの悪い凛太郎の部屋は、昼でも薄暗いので灯りをつけないと漫画も読めない。
 そのまま窓を開け、空気を入れ替えながら、道を挟んだ真向かいの家を見ると、二階の一室のカーテンが動くのを見て、なんとはなしに安心する。
 そこは幼馴染みの今日子の部屋。
 むろん、一緒に帰ってきたのだから、彼女の部屋に人がいるのは当然だ。だが、自分の恋人が無事に自室まで帰りついたという事を確認すれば、彼氏ならホッと安心の吐息をつくのは当然であろう。
180三者三様:2010/08/10(火) 17:26:38 ID:rrXgiqUA

 あれからすぐ、今日子はデートを中止して帰ろうと言い出した。
 それは至極当然だろう。
 今日子は他人に対する当然の気遣いができる娘だ。凛太郎が体調不良であると知りながら、それでも遊園地を引っ張りまわすような無思慮な真似はしない。むしろ帰宅してから、両親が帰ってくるまで看病につくとまで言い出したが、それは凛太郎の方で遠慮しておいた。
(これ以上あいつの前で恥をかきたくないからな)
 そう思うと、凛太郎は目を閉じた。
 彼の顔はいまだ流れ出る汗で濡れて光っている。だが、それが体調不良などに端を発するものでないことは、誰よりも彼が承知していた。


 不意に、ノックもなしにドアが開いた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
 凛太郎の二つ年下の妹――蛍(ほたる)が、そこにいた。
「…………」
 凛太郎は何も言い返さない。
 お帰りもクソも無い。この妹が自分と今日子を尾行して遊園地までついて来ていたのを、彼は最初から承知していたのだから。

「デートは楽しかったですか?」
 そう言いながら蛍は淫らに笑い、遠慮もなく凛太郎の部屋に入ってくると、そのまま彼に断りなしにドアにカギをかけ、窓を閉め、カーテンをかける。
「…………」
 彼女のその行動の意味は分かっている。外部からこの部屋を隔絶するという“儀式”は、『もはや逃げられませんよ』という蛍の意思表示であり、たとえ両親が不在でも変わらない段取りなのだ。そして、やはり凛太郎としても、その瞬間は体を震わせざるを得ない。
 そんな凛太郎を横目に見つつ、ベッドに腰掛けた蛍は静かに呟く。

「でもねえお兄ちゃん、蛍は少し怒ってるんですよ?」
 
 凛太郎は大きく目を見開いて蛍を見る。
「なんで……命令には全部従ったじゃねえか……ッッ」
 妖しい光を眼に宿し、薄く笑う妹は答えない。
 こういう眼をした蛍は何を言っても聞く耳を持たないことを凛太郎は知っている。
 彼の頬に白い手を伸ばしながら蛍は囁く。

「最後のキスと愛の言葉は、余計だったんじゃないですか?」

 凛太郎は深く瞑目した。
 あれを咎められたなら、もはや彼としては言うべき言葉は何もない。
 遊園地での今日子への告白は、恋人を裏切り続けてきた凛太郎のたった一つの真実だったからだ。
 そして、それは蛍としても理解しているはずだった。彼女が何を命じようとも、今日子と別れろという指示にだけは絶対に従わないと、凛太郎はあらかじめ宣言していたからだ。そして、その言葉に蛍がどれほど怒りを覚えているのかも、彼は知っている。
 だからこそ、妹が“おしおき”として何を要求しようとも彼は甘んじて受けるつもりだった。

「とりあえず、立ってないで座ったらどうですかお兄ちゃん?」
 しかし蛍の表情に怒りは無い。
 むしろ“おしおき”の口実をむざむざ与えた兄を哀れむように笑いながら、自分が座るベッドの傍らをぽんぽんと叩く。
「…………」
 無言で妹を見つめていた凛太郎だったが、やがて意を決したように彼はそこに――妹の隣に腰を下ろした、まさにその瞬間だった――。

 ヴヴヴヴヴヴ…………!!!

 虫の羽音のような振動音が部屋に響き、凛太郎は思わず白目をむいた。
「ひうっ!!」
 思わず間抜けな声を上げてしまったが、もはや格好をつけてはいられない。尻に体重がかからないように咄嗟にうつ伏せになろうとするが、そんな兄の髪を妹は鷲掴みにすると、頭を引っ張って抱え起こしながら、
「蛍は、座れと言ったんですよ? 誰が寝ていいと言いました?」
 と、耳元でそう囁く。

181三者三様:2010/08/10(火) 17:27:59 ID:rrXgiqUA

「さぁて、お兄ちゃん、そろそろ始めましょうか」
 楽しそうにそう言いながら蛍は、凛太郎に見せつけるようにポケットからリモコンを取り出した。それも一つではない。リモコンは全部で二つあった。それが何であるかは、凛太郎は骨身に刻まれた刺激とともに教え込まれている。
「やっ、やめっ!! これ以上パワーを上げられたら……ッッ」
 だが、そんな兄の叫びを、妹は嘲笑うように無視して、一つ目のリモコンのつまみを最大まで捻る。
「ダメです。蛍はもっとブザマなお兄ちゃんが見たいんです」
「あああああああああああッッッ!!」
 俎上の魚のように跳ね回る彼の背中に蛍はしがみ付き、無理やり彼を座らせる。臀部に――早い話が肛門に彼自身の体重がかかるようにだ。そして、その上で、二つ目のリモコンのつまみを最大にする。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!」
 もはや凛太郎は声も出ない。
 そのバイブレーションは、一個目のリモコンが与える刺激とは比較にならなかった。
 尻の奥から内蔵を貫き、脳に電流が直撃するような快感を前に、凛太郎はのたうち回り、もがき苦しんだ。



 もはや全身に力が入らない。こうなってしまっては例え腕ずくでも蛍に逆らえないだろう。肛門だけではない。この妹は凛太郎の肉体に点在する快楽のツボを、すべて知り尽くしているのだから。
 もし蛍がその気になれば、薬も器具も命令さえも使用せず、純粋な愛撫だけで自分を射精させることも可能だろう。少なくとも性的テクニックという点だけなら、蛍は今日子をはるかに凌駕していることは間違いない。
 だが、魂まで売る気は無い。
 僅かに残った理性で、凛太郎はそう誓う。

 蛍が自分を兄としてではなく「男性」として愛しているのは知っている。
 だが、凛太郎が愛している「女性」は蛍ではなく、あくまで今日子なのだ。
 だから、肉体は裏切っても心までは絶対に裏切らない。
 それだけが凛太郎に残された、最後の矜持だった。
 だが、それを知ってなお、蛍は嗤う。
「いずれ、お兄ちゃんの身も心も蛍のものにして見せます。あの女の前で、蛍に愛を誓わせて見せます」
 そう言って憚らない。
 妹の笑みに慄然としながらも、凛太郎は唇を噛んでこらえる。
 それ以外にできることなど無いのだから。

 
///////////////////////

 自分のベッドで、犬のように四つん這いになった兄。
 ジーンズを膝まで下ろされ、女の子のような形のいい臀部を後方に突き出すように彼は座らされている。そんな凛太郎の尻肉を掌で軽く叩きながら、蛍は笑う。
「ふふふふ……まるで土下座しているみたいですね」
 そう言いながら、蛍は彼の尻の中心――菊座に深々と突き刺さったバイブレーターの底部をちょんと指でつつく。

「かはっ!」

 兄が、まるで喀血でもするように身悶えるが、無論、その声は病苦の末のものではない。脳が苦痛と勘違いするほどの、ほぼ100%に近い快楽刺激――前立腺に直接当たるように挿入された性的玩具が与えるエクスタシーによるものだ。
 蛍自身が手塩にかけて開発した凛太郎のアナルだ。そこらのヤリマン女の膣口に匹敵する感度があるのは承知している。
 そこに刺さった“それ”を、人差し指・中指・親指の三本指でつまむと、蛍はまるで焦らすようにゆっくりと、彼のアナルから引っ張り出す。
「あああああ……」
 兄の全身が、ふたたびマラリア患者のように震えだす。
 無理もないだろう。リモコンのつまみはもはや最大にしていないが、それでも最低限の振動はさせっ放しだ。それを引っ張り抜こうとするなら、やはりかなりのエクスタシーが、そこには発生しているであろう。
「ふふふふ……」
 歯を食いしばりながら快感を堪えている兄の顔を想像するだけで、蛍自身もイってしまいそうになる。実際、自分の股間がノンストップで体液を分泌しているのが手に取るように分かる。
 
182三者三様:2010/08/10(火) 17:29:34 ID:rrXgiqUA
 
 濡れたような音を立てて“一本目の遊具”が、彼の臀部から排泄された。
 どう客観的に見てもアナル用のものではない。
 それはAVで見かけるような太さも長さも兼ね備えた、本格的なバイブレーターだった。
「うっわ〜〜、すっごい匂い……」
 出かける前に、蛍の手によるエネマジリングで綺麗に腸内洗浄された凛太郎ではあるが、やはりバイブからはムッとするような糞臭が匂う。朝から10時間以上も直腸内に挿れっぱなしだったのだから当然だろう。
 だが、彼女は目をそむけるような真似はせずに、ウェットティッシュで綺麗に拭う。勿論あとで兄の肛門に再使用するためだ。

 ぱっくりと直径2センチほどに開いた凛太郎のアナルには、まだ蛍が仕込んだ人工物が残っている。コードレスの電動性具を二個仕込めば、与えられる振動は二倍どころか数倍に跳ね上がるからだ。
 蛍は無雑作に指を突き入れると、彼の直腸内をまさぐり始めた。
「あっ、ああああっ、ほたっ! ほたるぅぅううう!!」
 ブザマな声を上げる兄がひたすら愛しいが、これは愛撫ではない。肛門に入りっぱなしの“二個目の遊具”を取り出すための捜索であり、回収行動なのだ。
「ちょっ……ダメですよお兄ちゃん、そんなに暴れちゃ、取れなくなっても知りませんよ」
 そう言いながら優しく微笑むが、むろん蛍には、その遊具が本当に取れなくなったところで問題は無い。むしろ、兄妹二人で病院の肛門科に出かけ、兄に羞恥プレイを強要するのも一興かなとさえ思っている。
 だから指先にパールローターの硬い感触が当たった時、思わず失望の溜め息を漏らしたほどだった。



 バイブレーターとパールローター。
 この二つの性的遊具を凛太郎の肛門に仕込み、その恋人を名乗る忌々しい幼馴染み――今日子とのデートに行かせたのは、当然ながら蛍の意思だ。
 むろん、蛍はそれだけで済ます気は無かった。
 約束時間よりも一時間も早く待ち合わせ場所の公園で待機していた――そんな健気な“彼女”を横目に見ながら、その公園のトイレでの自分とのセックスを兄に強要し、「今日子よりもいいです」と言わせながら膣内射精をさせたのも気持ちよかった。
 二人が合流し、遊園地に着いてからは、兄の肛門内のローターとバイブを遠隔操作して羞恥プレイを味わわせ、さらにお化け屋敷やトイレで独りになるようにメールで指示し、早朝と同じく今日子を横目に見ながらのセックスも愉快だった。
 極めつけは帰りの電車だ。週末の満員電車の混雑に乗じて、兄のアナルを背後から、まるで痴漢モノのAVのようにジーンズに直接手を突っ込んで、たっぷりイジめてやったのだ。
 懸命に快感を堪えながら、今日子との世間話に相槌を打っていた兄の姿をミラー越しに見ていた蛍は、その光景だけで絶頂に達しそうになったほど興奮していた。

 当然の話だが、兄とのプレイは今日に始まった事ではない。
 家に帰れば二人は兄妹だ。誰憚ることなく家族として、同じ時間・空間を共有できる。バスルーム、トイレ、キッチン、そして互いの部屋など、自宅に存在する全ての空間が二人のプレイルームだ。親の目を盗みながらセックスした回数など、もはや数え切れないと言ってもいい。
 むろん、それらは全部強要だ。兄が自らの意思で蛍を抱こうとした事など一度もない。
 だが、そんな事は彼女にとっては問題ではない。
 兄とのセックスは蛍にとっても最高に気持ちいいし、兄にとってもそうであろうと予測できる。それに体を重ねる事で、少しでも彼が、蛍の肉体に今日子以上の価値を認め、耽溺してくれたなら、もはや何も言うべき言葉はないのだから。

 そして当の今日子はと言えば、まさに哀れむべき事に、凛太郎と蛍の関係に何も気付いていない。
 兄の凛太郎が懸命に快感を堪えながら平常を装っている姿も、うっとりするほど素敵だとは思うが、それ以上に、現在進行形で恋人を寝取られているとも知らない今日子の間抜け面が、蛍に圧倒的なまでのカタルシスをもたらすのだ。
――あなたが愛を捧げている男は、あなたではなく私に支配されているのですよ?
 そう言ってやりたくて仕方が無い。

 凛太郎が愛しているのは、あくまでも自分ではなく、今日子であることを蛍は知っている。
 だが、それが何だと言うのだ。
 二歳年下の実妹に性的に支配されたこの兄が、どれだけ抵抗したところで、無駄な話だ。いずれは自分がいなければ夜も眠れない体にしてやればいい。そうなれば、彼の愛などたやすく手に入るだろう。
 むしろ、この哀れむべき「恋敵」を横目に憫笑しながら、懸命に抵抗する兄を蹂躙できる今の関係こそ、蛍にとっては程よく刺激的な理想の関係とさえ言えるだろう。
183三者三様:2010/08/10(火) 17:33:38 ID:rrXgiqUA

「さあ、お尻は綺麗になりましたよお兄ちゃん」
「あ……ありがとうございます……っっ」
 蛍に尻を向けながら、おずおずと振り向き“躾”のとおりに妹に礼を言う凛太郎。
 そんな兄は、まさに震えるほどに可憐で愛らしく、握り潰したくなる程にセクシャルな空気を漂わせている。いや、もはや蛍としても我慢できなくなっていた。

「こっちを向きなさい」
 そう指示する。
 圧倒的なまでの羞恥に頬を染めた兄が、のろのろと仰向けに横たわり、そこにはすでに石のように硬くなっているペニスが、股間から聳え立っているのが見て取れる。
「あらあら、実の妹相手にこんなに堅くしちゃって……本当にみっともないですねえ」
「…………」
「ふふふ、少しは今日子さんに悪いとは思わないんですか?」
 その名前を出すと、さすがに兄は一瞬痛みを堪えるような表情をする。
 それが蛍には激しく気に入らない。
「お兄ちゃん、蛍を愛してるって言って下さい」
 そう言いながらペニスを掴むと、凛太郎の表情はさらに絶望的なものになった。
 だが、もちろん蛍は容赦する気など無い。
「言いなさい」
 命令に力を込めながら、ゆっくりペニスを上下に擦る。

「……おれは蛍を……愛しています……」

「聞こえませんッッ!!」
 声を荒げながら蛍は、ペニスをしごく右手に力を込めた。
「そんな小さい声で、蛍の心に届くと思っているのですか!? もっと心を込めて言いなさいッッ!!」
「愛してます愛してます愛してますぅッッ!!! おれは蛍を愛していますッッ!!!」
「もっとッ!! もっともっと心を込めなさいッッ!!」
 叫びながら、兄のペニスを自分の股間にあてがうと、蛍はそのまま体重を落とした。

「ひはっ!!」

 肺の中の酸素が一瞬にして吐き出される。
 オナニーなら、たっぷり絶頂二回分はあっただろう。
 それほどのエクスタシーが蛍の脳髄を瞬時に焼き上げる。
――ああ、気持ちいい……ッッ!!
 やはり、この兄とのセックスは最高だった。
 蛍はたまらず腰を振る。そのたびに快楽の高圧電流が神経を焦がす。

「あはっ♥ そうですよお兄ちゃんっ♥ もっともっと! もっともっと言って下さいっ♥」
「あいしてますあいしてますあいしてます……おれはほたるをあいしてます……」
「次は謝罪ですっ! お向かいに住む恋人さんに聞こえるように言いなさいっ!! 裏切ってごめんなさい今日子って、誠意を込めて言いなさいっ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……あああああっうらぎってごめんなさいうらぎってごめんなさい!!」

 混在する快感と絶望に押し潰されたような表情であえぐ兄。
 それを上から見下ろしながら好き放題に腰を振り、犯す蛍。
 数瞬後、子宮に直接打ち込まれる粘弾の熱さに、彼女は眼前が真っ白になった。



///////////////////////////

(ああ、二人ともイっちゃったんだ……)
 そう思い返した瞬間、今日子は自分自身も同時に絶頂に達していた事にようやく気付いた。
 ノートパソコンの画面を見ると、ベッドの上の二人はぐったりと動かない。
 傍目に羨ましくなるほどの相性の良さだ。おそらく彼らが実の兄妹である事実も無関係ではなかろう。
(実の姉妹とのセックスが一番気持ちいいって言ったのは、確かローマ皇帝の……誰だったっけ……)
184三者三様:2010/08/10(火) 17:34:37 ID:rrXgiqUA

 そんなとりとめの無いことをぼんやり考えながら、今日子は濡れた指先と股間をウェットティッシュで拭い、膝まで下ろしたショーツを穿き直そうとして――その場に脱ぎ捨てた。
 そのショーツは、すでに今日子自身の愛液でじっとりと重くなっていたからだ。面倒くさそうに溜め息をつきながら、ドレッサーの下の引き出しを開け、新しい下着を取り出す。
(まあ、仕方ないか。朝から濡れっ放しだったし……)
 なにしろ、尻にバイブを仕込まれた恋人と一日デートしていたのだ。今日子でなくとも興奮してしまうのは無理もないだろう。
 たとえ恋人を責めていたのが自分ではなかったとしても、だ。



 結論から言えば、今日子はすべてを知っている。
 自分の恋人であるはずの幼馴染みが、実の妹に性的に支配されているという事実――その発端も、経過も、そして現状も。
 むろん、今日のデートが、蛍の監視下に置かれていたことも、最初から承知の話だ。
 言うまでも無いが、今日子がすべてを知っているという事実を、あの兄妹はまるで気付いていない。


 幼馴染みというのは、便利なものだ。
 物心ついた頃から家族ぐるみの付き合いであるため、ほとんど互いに親戚扱いと言っても過言ではない。だから凛太郎の母親に「ちょっと預けたものを取りに来たんです」と言えば、彼の外出中に部屋に入室する事など簡単だった。
 とは言え、今日子が凛太郎の部屋にカメラと盗聴器を仕掛けたのは、何も蛍とのセックスを監視するためではない。仕掛けたのは今よりもっと昔――数年前の話だからだ。
 理由は、あらためて言う必要もないだろう。
 今日子は凛太郎が好きだった。だから彼の日常を覗いて見たかった。――それだけだ。
 だから、凛太郎の盗撮映像をおかずに自慰にふけるのも、今日子にとっては数年来の習慣であり、それは凛太郎本人と男女交際するようになった今でも変わらない。

 だから今日子は、蛍という少女が凛太郎に向ける熱っぽい感情にも当然気付いていた。それと同時に、自分に向ける確信的な敵意にも。
 だが、今日子はしょせん、蛍を相手にする気はなかった。
 凛太郎にとって、蛍はやはり妹でしかなく、それ以上の存在にはなりえない――という厳然たる事実を知っていたからだ。そして、その残酷な事実は、誰よりも蛍自身が理解しているはずだった。今日子はむしろ、そんな蛍に同情を禁じ得なかったくらいだ。

 だから、その日――パソコンのリアルタイム盗撮に、蛍が凛太郎に何かを飲ませ、そして意識を失った彼を拘束し、まるで強姦するように処女を捧げている画像が映し出されても、驚きこそすれ、心のどこかで「ああ、やっぱりこうなった」と思ったのも事実だった。
 特に凛太郎が今日子と交際するようになって以来、蛍の様子には、どこか狂的な雰囲気さえ漂っていたのだから――。

 それから、この兄妹の関係の推移を、今日子はずっと見ていた。
 凛太郎は不器用な男だ。たとえ逆レイプに等しい行為であっても、妹の処女を散らしてしまった自分自身を容易に許すはずが無い。
 だから、そんな彼の責任感を逆手に取り、蛍が兄を脅迫したのも、――そして凛太郎が、そんな妹に膝を屈して、性奴隷のような現状に甘んじているのも、やはり今日子にしてみれば、どこか予想通りの成り行きだといえた。

 むろん、恋人である自分以外とのセックスに喘ぐ凛太郎に、怒りを覚えなかったと言えば嘘になる。生まれてこのかた想い続けてきた男性が、理由はともかく、他の女と寝ているのだ。むしろ怒りを覚えない方が人間としてどうかしているとさえ言えるだろう。
 だが、やがて今日子は、自身に奇妙な性癖が有ることに気付いた。

 NTR属性――ネットの世界でそう呼ばれている性癖だった。

 そして、今日子は凛太郎と蛍を観察する事に夢中になった。
 凛太郎の全身の性感帯を開発し、喘がせ、悶えさせ、泣き叫ばせる蛍。
 実の妹とそんな爛れた関係を結び、罪悪感と葛藤に苛まれながらも、恋人たる今日子相手には償いのように愛を囁き、誰よりも優しくしてくれる凛太郎。
(これって、結構刺激的な関係かも……)
 今日子はいつしかそう考えるようになっていった。
185三者三様:2010/08/10(火) 17:37:10 ID:rrXgiqUA

 むろん、信頼がなければ、こんな発想は浮かばないであろう。
 どんなに蛍に汚されようが、そんなことは今日子には関係ない。
 凛太郎は、最後には必ず今日子を選ぶはずだからだ。
 むしろ、蛍は兄を理解していないのではないか、とさえ彼女は思う。

 前述したが、凛太郎はあくまで不器用な人間だ。
 彼が妹に逆らえないのは、あくまで脅迫されているからに過ぎない。
 たとえ、どれほど妹の肉体に耽溺したとしても、それを理由に今日子を捨てるような事だけは絶対にしない。肉の快楽に溺れて、自らが誓った愛を放棄するような無責任な真似は、凛太郎という男が最も嫌悪すべき行為だからだ。
 蛍は、どうとでもなると考えているようだが、それは甘いと言わざるを得ない。むしろ、肉の相性を自覚するほどに、そんな快楽ごときで実妹との関係を肯定してしまうような自分を、凛太郎は決して許さないだろう。

 それに、世間体というものもある。
 近親相姦というものが、あくまで世間的には絶対の禁忌であり、その関係の暴露が自分のみならず、蛍自身の将来に多大なる影を落とすことは間違いない以上、凛太郎が、妹を女性として選ぶことなど絶対にありえない。
 まあ、もっともそれは今日子にとっても最後の切り札でもある。
 いざとなれば、兄妹の肉体関係を、彼らの両親に密告してやればいい。凛太郎兄妹の父親は警察関係者だ。自分の子供たちの非常識な関係を認めるような真似は、社会的に考えても、決してできないだろう。

(まあ、せいぜい今の内にお兄ちゃんに甘えておくんだよ、蛍ちゃん)
 薄い笑みを浮かべて今日子はノートパソコンを閉じ、熱いシャワーを浴びるために自室を後にした。

 
186名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 17:38:15 ID:rrXgiqUA
以上です。
また読み専に戻ります
187名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 20:04:02 ID:eda2i+Wx
GJ すごく続きが欲しいです
188名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 20:36:00 ID:C+lyrO7Q
今までになかった話ですね。凄くおもしろかったです。

GJです!
189名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 21:08:21 ID:fjp/mi/3
凛太郎が途中で田中邦衛になった
190名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 23:10:10 ID:eda2i+Wx
キモウトと血の繋がってないキモウトの板挟み状態の話って需要ある?
題名は因果応報にしようと思う
191名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 23:16:51 ID:TvdWuj7p
投下しちゃいなよ!
192名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 23:53:28 ID:eda2i+Wx
俺には無理だった・・・せめて背後にいる、キモ...妹がどこかに行ってくれ...すまない俺は.....
193名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 23:56:10 ID:pioanFzz
書けもしねえで需要の有る無しなんぞ訊くんじゃねーよタコが!
194名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 00:03:58 ID:jI8uhnfl
あるでよ
195名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 00:12:32 ID:Jx88NdX9
>>193
すまない
196名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 01:50:32 ID:IqxFLgqJ
キモい義妹とキモくない実妹がいて最終的に両方キモウトになるとかどうだ
197名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 03:05:19 ID:DozKZcXf
妹ばかりだと芸が無い…そこはキモ姉やヤンデレ同級生や正統派美少女タイプの転校生等入れたい所だ。
198名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 04:49:28 ID:liRxeIYE
裏設定は全員血縁姉妹ですね わかります
199名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 08:23:55 ID:bqwtBhie
キモウトの最大の敵は姉でも幼なじみでもなくキモ母のような気がする

まあスレ的に別の嗜好が混じるんで人を選ぶかもしれんけど
200名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 08:40:24 ID:0FuxK18A
キモ母はときどき登場するね
主役のキモ姉妹のキャラが充分に魅力的(あるいは充分キモい)なら
脇役として登場する分にはアリじゃなかろうか
肉体関係描写は要注意書きだけど
(個人的にはご遠慮したい(^^;;;)
201名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 08:51:41 ID:+VfdH2g8
>>193
お前・・・後ろ見たほうがいいぞ
202名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 11:43:29 ID:1+XuK764
>>192
たったの40分で無理だとは一体何があったんだ?
まだ夏は始まったばかりですよ
203名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 16:16:01 ID:rK4OScUh
>>183

ガイウス帝(カリグラ)?
204ワイルドウエスト・クルセイダー:2010/08/11(水) 17:08:36 ID:6WeGqpW6
血啜青眼に出て来た流儀と技ってまんまハナチラの刈流兵法の盗用じゃねえか。
ヨシア・イガラスさんの魔剣昼の月喰らって反省してこい。

そうしたら蕎麦屋の娘の黄緑のたぬき喰わせてやるから。
205名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 17:21:52 ID:liRxeIYE
日本語でおk
206名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 19:21:06 ID:bTfNLx04
ちょっと何言ってるか分からないですね
207名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 19:30:39 ID:vkEmIhHX
親友キャラAの世界が面白かった
こういうメタ的な要素を持ったss他にないかな?
208名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 22:47:54 ID:/+TKRrdr
>>204
刃鳴散らすにかなり影響受けたって作者本人が言ってたと思うぞ
ログさらわにゃ確かではないが
209名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 22:51:25 ID:ERKTluvf
49 名前:血啜青眼 前篇[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 20:44:03 ID:A87FtMBq [12/12]
以上です。誤字脱字、誤設定があれば失礼。
一応、刃鳴散らすというゲームの世界観を使用してますが気にしないでも結構です。
後編はそのうち書きます。
210名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 22:52:32 ID:ERKTluvf
352 名前:血啜青眼 後篇[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 10:34:17 ID:lGcbvWxO [15/15]
以上です。
サクッと終わりましたし、未来のあなたへの執筆に戻ります。

今回のネタは以前スレで出た『義理だと思ってたのが実は実妹で、両親××して兄に告白』を拾わせてもらいました。
んでもって刃鳴散らすをネタにした話を前々から書きたかったので悪魔合体。満足です。
ネタ元には感謝を。
211名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 23:18:58 ID:Y/uhcott
おにいちゃん☆コントロールを衝動買いしてしまった。
影崎、櫻の一番からずいぶん変わったな。
212名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 23:49:47 ID:WEWHHIo6
>>211
何のことだと思ってぐぐったら理解できた
ありがとう感謝させてくれ
213名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 00:56:50 ID:UVXMro8J
作品投下かと思ったら夏厨だった
214名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 02:08:57 ID:u+Ng3XuP
何にでも夏厨認定したがるチンカス共ほどウゼェ物はないな。
お前らはなんだっつーの(♯^ω^)
「夏だなぁ」とか反応してる時点でテメーも同類だよ気づけカス
オレモナー
215名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 02:19:32 ID:e6dm7sIZ
顔文字+半角カナの自虐ネタとか何もおもしろくないし
後で恥ずかしくなるだけだからやめておけと
216名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 02:27:20 ID:u+Ng3XuP
>>215アホかお前
ウケ狙って書いてんじゃねぇよ
何にでもすぐ夏とか付けたがるキモメンピザヲタニートにいい加減ウンザリしてるから喧嘩売っただけだカス
217名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 02:35:39 ID:wvSy0ZVQ
キレんなそこの禿げども。
レスの無駄遣いサリーなんだよ。マハリクマハリタヤンデレヤンヤンヤンなんだよ。
218名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 02:41:31 ID:oZrZB24A
バカ妹クソワロタwwww

新品の歯ブラシ握って「おにぃの歯ブラシ…」とか言ってペロペロ舐めてやんのww

弟くんの歯ブラシはもう私が既にピーして、ピーーしてピーーーなんかしてピー

(省略)

まぁ要するに、弟くんの写真だけで飯3杯は軽いって話。
219名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 08:55:57 ID:dGZIGOdU
妹が通販やってたしかも音するし・・・
何だと思う?
220名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 09:03:41 ID:QLSiJjnl
取り敢えず未来のあなたへの人は、大奈良原先生に切腹して盗作を詫びるべき。
ジョインジョインアカネェみたいに。
221名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 09:11:20 ID:dGZIGOdU
・・・理解した
222名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 11:45:59 ID:c+hkC26B
ニトロ厨が気持ち悪いのは確かだが、血啜青眼の一部の文章は、ニトロ作品(装甲悪鬼村正等)のテキストの一言一句違わぬコピペであることは事実

引用の要件を満たしていないし、違法な盗用だと言われても仕方がない
223伊鳥さん:2010/08/12(木) 13:27:39 ID:QLSiJjnl
俺の股間の野太刀を喰らわす。
224名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 13:55:13 ID:XB91KCAB
盗作引用の是非はともかくそんなん投下から半年以上経ってから指摘してもなあ…
本人見てるかどうかわからないのに今このスレでやる意味あるの?
原作者かなんかしらんが黙って版元に知らせるだけでいいじゃん
それで謝罪なり賠償なり発生したならその時に騒げばいい

まあそうなってもこのスレ的には、盗作は良くないよね。で終了だと思うが
225名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 14:20:12 ID:KQ2/Qj9N
盗作イクナイ ⇒ 盗みはダメ ⇒ 泥棒猫は死ね

こうですかわかりません
226名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 14:48:49 ID:XB91KCAB
キモ姉の知らないところで弟が子供作っちゃったらどうなるかな
数年後まみえたその子は弟のちっちゃい頃にそっくりで…
227名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 15:03:08 ID:jvRHpfRM
そりゃやっぱりイタズラしちゃうんじゃない?
228名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 15:04:33 ID:aDE7yWFH
それキモ姉ちゃうただのビッチや
229名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 15:12:44 ID:41KEgeP3
だがその前にその子とその母親を消す事から始めねばならぬ

そしたらその母親というのは実はキモウトだったり…
230名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 15:36:53 ID:iEHrazeh
ボクっ娘の依存系キモウトor見た目リア充ツンデレキモウト
無言で抱きついてくるキモウトか兄をまるで恥ずかしいものかのように扱うキモウト
究極の選択だな
231名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 15:47:50 ID:jvRHpfRM
後者がいいかも
「こんな子供チンコしやがってよ!」みたいな
232名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 20:16:03 ID:yjiepXOJ
見た目リア充ツンデレキモウト→ツンデレのツン部分で私が寄り付かないと思うからバットエンド
兄をまるで恥ずかしいものかのように扱うキモウト→近くにいたら私が逃げ出すと思うからバットエンド

打たれ弱い私に選択権などなかった!
233悪質長男 第十話:2010/08/13(金) 01:29:04 ID:bDOWWnvT
お久し振りです。投稿します。
夏休みで遊びまくって
パソコンにちっともありつけていませんでした。
ではどうぞ。
234悪質長男 第十話:2010/08/13(金) 01:30:19 ID:bDOWWnvT
「え、嘘?怜二、もう風呂に入ったのですか?」

「イェス、マム。キモ姉になりたくば、そういうのは常にチェックしなさい。HAHAHA」

「姉さんが・・キモ姉とやらに・・・誘導されている」

「え?私が調教される側?」

第10話


姉妹姫が兄を性的対象として見ていた事が、3きょうだい全員に明かされた翌日。
朝から忍法で姉妹を撒いて来た怜二が学校の教室に着くや否や、
クラスメイトの王子に絡まれた。
「おはよう、未来の義弟よ!」
「なんだいその挨拶代わりは?舎弟になるのなら君の方だろうに」
「いやいや。麗華様の伴侶となるのはこの我であり・・」
次の瞬間には男子によるリンチに王子が飲み込まれる。
そして人波が引いたらボロ雑巾の名が似合う男が横たわっていた。
怜二は侮蔑の視線で一瞥すると、ニヒルな笑みを残して席に着く。
今度は怜二が人波に飲まれた。ただし女子である。
これでもいつもの光景なのである。怜二は嬉しそうだ。
「いやーなんか日常に戻ってきた感じ。昨日は別次元に居た気がしたんだな」
例の、姉妹の偏愛の事だ。右隣の女が話に乗ってきた。
「どんな体験よ?四次元から来た怜二君が?」
「怜二君は四次元から来たの!?」
天然な女の子に皆揃って冷たい目を向けた。さらに意地悪な怜二が揚げ足を取り、
「縦があって横もあって高さがある他にもう一本。さあ、何だろう?」
「えっとねぇ。お時間だよ」
「時間なら普通に在るわよ」
別の女に睨まれ、天然さんはうーんと首を傾げる。

「ううん、違うの。もっとこう、私達が共有している時間の事じゃなくて、
その人の過去や未来を司る・・線・・じゃなくて、道と言うかなんて言うか・・」

この娘を止めろと言わんばかりの視線が怜二に突き刺さり、自称紳士は不動の笑顔のまま
手で合図した。
235悪質長男 第十話:2010/08/13(金) 01:30:40 ID:bDOWWnvT
「君は四次元を信じるかい?」
「え?うん。ポケットの中にあるでしょ?」
ポケットって何でも入るよねーっと続く頃には、周りの女子が頭抑えて蹲っていた。
「いい所に気づいたね。ポケットの中でビスケットが増えるのは、
中が四次元である説があるんだ」
「へぇー」
「ちょ、怜二、あたしらはこの話を終わらせろと頼んだのに!」
ニヤリと嗤う彼の手には携帯電話があった。ただしいつものと機種が違う。
「ここに王子君の携帯があります」
小耳に挟んだ王子の顔が青くなった。彼は体中をまさぐるが、目的の物が見当たらない。
「僕のポケット内で叩けば増えるさ」
「すごーい。レアメタルの稀少さもこれで解決だね」
もうやだこの二人、と取り巻きの女子達が散っていった。


「やめろ―――――――――――!」


その間を縫う様に走る男が手を伸ばす。
王子である。


「ポケットを叩くと〜」


ボキッ


「あ――――――――――――――――――――――――――――――――――――」





まあ、そんな事で携帯電話が折れるわけが無いのだが。
236悪質長男 第十話:2010/08/13(金) 01:31:11 ID:bDOWWnvT


怜二の体験話すらうむやむになった頃、実姉に呼ばれた怜二が人気の無い場所に赴いた途端、

胸倉を掴まれ、

壁に叩きつけられ、

当たり前のように口付けされた。

顔が離れ、二人の姉弟が至近距離で睨み合う形になる。
「ずいぶんと楽しそうですね、怜二」
「はてさて何のことやら」
麗華の目が細まり、威圧的な空気が重くなる。
「これからは女子との付き合いは全て無くしてもらいます」
「断ればどうなるんだい?」

「夕飯抜きです」

「やーめーてー」

心が折れそうだった。

「私、貴方の事を好きになってから嫉妬ばかりしてました。ずっと貴方を追いかけていました。
その日は何人の女と関わっていたか。誰が怜二を触ったのか」
まあ、結局覚え切れなかったのだが。
「けれど想いを伝えてからずいぶん楽になりました。これから私達だけの貴方に染め上げ・・」
「姉弟妹なので、のーさんきゅー、ぐっぇ」
キレた麗華が怜二を締め上げ、すぐ降ろした。
「と、とにかく。貴方の行動は筒抜けなのですから、もう他の女なんて・・」
「本当に〜〜〜〜〜?」
半目の怜二に麗華は怪訝そうな顔に歪んだ。
「何か?」
「『行動は筒抜け』って言うのは、僕の制服の襟に付いてる盗聴器のお陰でしょう?」
「!?」
図星だった。まだまだだね、と純粋な笑顔を向けられた麗華は絶句するしかなかった。
「ちなみに玲は、僕の鞄に盗聴器の他に発信機も付けていた。
今はね、それに『ピエロのランランルーがウザくて夜も眠れないCD』をリピート再生で当てているの」
「・・・何CD?」
「音声は録画しているのかリアルタイムで聞いているかは知らんが、まぁあれだ。自分を犯そうと兄の声を聴こうとしたら、
ランランルーの声しか聞こえない訳で・・」
「そりゃうざい!!!!」

一年生の教室で、玲がクシャミをした。
237悪質長男 第十話:2010/08/13(金) 01:32:38 ID:bDOWWnvT






その日の放課後だった。
怜二は出来心で、いつも一緒に帰る姉妹を撒いて先に帰ってしまった。
家に待ち構えて帰ってくる姉妹の反応を妄想しながら歩いていてメールを開くと、

「・・・む?」

とある女子のアドレスに眉をひそめた。

『久々に君に会えるよ 愛に行くから 会いに行くから待っていてね
絶対だよ?絶対だよ?絶対だよ?絶対だよ?絶対だよ?
絶対だよ?絶対だよ?絶対だよ?絶対だよ?
絶対だよ?絶対だよ?絶対だよ?』

「・・・・ち」

舌打ち。

自称紳士が舌打ちした。

あの怜二が女からのメールで舌打ちしたのだ。


(こんな事なら美人なねーちゃんや可愛い妹と帰るべきだったか?
いや、そんな事より、どうすっか?下水を通るか、屋根に登って帰るか・・)

















「えへへへへへ  会いたかった―――――――――――――」





轟音

否、頭を殴られてそう聞こえただけだ。


地に堕ちる前に頭を捕まえられ揚げられ腹に膝蹴りを食らう。
手頃な壁へ、襲撃者と共に寄りかかる。
238悪質長男 第十話:2010/08/13(金) 01:33:33 ID:bDOWWnvT

苦痛に眉間に皺を寄せ、相手を睨む。


「く・・・君は・・・」

壮絶な美女だった。
麗華が太陽なら彼女は北風。肩?き出しの衣裳が涼しさを感じさせる。
恍惚とした笑顔は本当に嬉しそう。

「会いたかったよ、怜二。私よ。貴方の one of the 幼馴染にして、
貴方の初物を全て手に入れた女よん」

拳が一発。脇に入る。
彼の頭が垂れた瞬間に、耳の穴から瞼の裏、口内が彼女の舌で犯されていく。
「げほえほえお!やめ・・」
「ね。会えなかった分慰めて?大学が忙しくなって、
君の事が頭から離れた事なんて一瞬でもなかった。私、我慢したでしょ?」
「毎日電話していてまだ不満かい?恋人でも無いくせに!」
「確かに告白を受けてくれた事なんてないけど・・・
でもでも、ここ一週間ギョーザの話ばかりされる女の気持ちにもなってよ!」
「マイブームなの」

ごすっ

後頭部を壁に叩きつけられる。
怜二が怯んだ隙に、女はボタンをいくつか毟り、表れた鎖骨に吸いついた。

「愛しい人の汗がおいしい・・・。初めて交わった日の事が昨日の様に思い出せる・・・」
「小学生に性教育実習はトラウマだ!お陰で女の子を益々好きになったが、
Hに抵抗を覚えてしまったではないか」
「そうそうそんな思い出があったね。あの後も仲が良いままでいてくれたのに、
キスすら逃げるようになって、それから・・・」

ばき

今度は回し蹴りが背中を打つ。よろめいた怜二を女が支え、触れるだけのキスを重ねる。
「ねえ痛いよ?僕は不死身だが、痛いものは痛いんだ・・マゾになりきれなかった男なのさ・・・」
「うん、その後、君の弱点を探した」
今田は彼女が頭を撫でた。彼の脇をしっかり固め、自分で傷つけた事実を棚に上げるごとく、、
なだめる様に慰めるように優しく。

「君の弱点は徹底的な暴力。君は人を惑わすのが上手い。やる気を出せば空中ジャンプも出来そうな、
手品師の君。だから喋る前に殴る。逃げる前に蹴る。
君が逃げるから私は君を殴る。蹴る。それから幸せだった。君と体を重ねられた」

239悪質長男 第十話:2010/08/13(金) 01:34:25 ID:bDOWWnvT
頭を殴る。
今度こそ意識が飛びそうだった。
薄れる景色の中で、怜二は言葉を紡いだ。
「家に連れてく前に・・・」
「え?」
「家族に連絡して・・・・常識だよ・・・」
「あ、うん」
彼女は怜二の携帯でメールを打った。宛先は彼の姉と妹。

『初めまして。私は怜二の幼馴染です。
この度怜二は私の家に泊まります。明日の学校には普通に登校させますので、御心配無く
申し遅れました、私の名前は氷柱です』





このメールは麗華と玲が一緒に見ていた。二人共動かなかった。
240悪質長男 第十話:2010/08/13(金) 01:36:03 ID:bDOWWnvT

投稿終わります。
ついに物語も最終部に突入です。もう少しお付き合いください。

241名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 02:02:07 ID:IkM8EaoK

氷柱は名字なのか下の名前なのか
どっちでもありだが
242名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 18:25:40 ID:VO+QHDi/
乙ぬるぽ
243名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 19:38:07 ID:rk/0Osnh
血啜青眼のパクリの件ですが、ファンの人の感想も入れておこうと思い、ハナチラスレに意見を求めてきました。
244名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 22:31:50 ID:YbUi9L45
たかだか2ちゃんのSS
冒頭から結末まで丸写しならともかく
部分的にやらかしちまったくらいなら
どうでもいいんじゃねえかと思う
245名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 22:36:52 ID:HSVcSHye
>>238
乙っすー
相変わらず登場人物全員まともじゃねえw

そしてここに来て謎の人物、今田登場
246名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 00:03:29 ID:kWuAlx3I
つーかスレの空気悪くする(≒荒らす)ためにわざわざまとめサイト見に行ってまでご苦労なこったと思うよ
247名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 03:01:38 ID:zmfke6Rd
知らぬが仏
248名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 04:33:37 ID:WXY81eUG
盗作だのやらかしちまっただのてお前らアホか
二次創作をどういうもんだと思ってんだ
249名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 04:44:05 ID:XJ/P6Rev
面白ければドーデも良い…
250名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 05:21:55 ID:iMv8J8VK
ニトロ厨キメェw
こんなだから月厨とともにエロゲ諸板で嫌われてるんだぜ

ファンの人の感想(笑)
そんなもん権利者に言えよ
あー、キモいキモい。キモウトは大歓迎だけど、こいつは無理だわ
251名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 05:28:10 ID:WXY81eUG
向こうみりゃ要点を言わずに意図的な誘導か
しかもこっちと合わせて関連レスの間隔が四分置きとかワロス
252名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 06:53:27 ID:E6zl9Uyc
オリジナルでもない二次創作に盗作ってバカな話だな。
スレの性質を考えなよ。
地の文コピーでセリフ改変でもエロけりゃいいの。
最近あったラノベあたりの盗作さわぎとごっちゃにしてるだろ。
253名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 10:03:06 ID:ufPIBnm1
大喜利『キモ姉妹』とかどうかな
254名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 13:05:12 ID:Pvpue9mE
キモウト作文

キ…キス位いいじゃない
モ…もう我慢できないよ、お兄ちゃん
ウ…ウザい泥棒猫は始末したよ
ト…とことん愛してあげる
255名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 13:47:05 ID:Kc2RlP9g
>>254
根本的に勘違いをしてる。
作文になってないだろ。
それに文からしてキモウトである理由が皆無。
文だけ見てキモウトだと分かった時初めてキモウト作文は完成する。
256名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 14:06:52 ID:K+D8il9Z
>>255
「あいうえお作文」って聞いたことある?
257名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 15:04:00 ID:WXY81eUG
エロけりゃいいの。じゃねーよ
一部のコピーを問題視したら二次はほぼ全てグレーでこの板何なのっつー話
それをここで騒ぐのが馬鹿じゃねーの?
258渡四郎兵:2010/08/14(土) 16:45:13 ID:Gs2Zl9de
おお・・・!真の敵は瀧川商事ではありませんでした!!
伊鳥さん、浅賀流道場にデストロイバスターを!!!
259名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 16:49:45 ID:OIJKFvOx
夏ですね
260名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 16:57:00 ID:kWuAlx3I
ぶっちゃけ未来のあなたへの続きも来ないし作者もうここ見てないよな
261名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 17:08:11 ID:8w0iOrDr
>>257
なぜ蒸し返したし

>>255はあれだろ、ものすごい縦読みか斜め読みが仕込まれてるに違いない
俺にはどこがそうなのかわからなかったが
262名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 19:23:51 ID:kFlHbbnY
妹とラブ×2? ねーよw
263名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 20:40:57 ID:wqii5IW9
キモ姉妹とかけまして
悪事をした生徒達とときます。
264名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 21:09:42 ID:8w0iOrDr
溶いた悪事をした生徒達をあらかじめ刻んでおいた人参、ニラなどと共に素早く炒めます
265名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 22:44:05 ID:Kc2RlP9g
>>256
なに知ったかこいてんだよ。あいうえお作文はちゃんと作文になるだろ。

お前こそあいうえお作文の意味分かってねーじゃん。
266名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 22:49:16 ID:Kc2RlP9g
>>261
お前の頭じゃ一生わからないよ。
絵本でも読んどけ。
267名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 00:02:17 ID:qByAv6Lu
>>266
どうでもいいことだが文末の。が可愛いなwww
言葉使いも相まって作文苦手な厨房みたいで微笑ましい
268名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 03:00:39 ID:e4v9rXr0
>>265が模範例をお書きになってくださるそうです
269名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 07:51:11 ID:kypo2UMd
>>267>>268
お前らも十分な荒らしだと気づいてるのか?
270名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 09:40:32 ID:BccCunFi
>>269
スルーできなかった時点で君もこっち側だよ
271名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 11:50:56 ID:VRWVeikX
今日も暑いね
暑いのに最近妹がぴったりくっついてきて離れてくれない
かき氷を口移しで食べさせようとするし着替えや風呂、トイレにだってついて来る
なんでうちの妹はこんなにも暑苦しいんだろう

思えば3年前に死んだ姉もこんな感じだった気がする
そんなところだけ似なくてもいいのにね
272名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 12:34:39 ID:+XIts/87
>>271
お姉さんの死因って、あなたの食べた後の
アイスクリームの棒をのどに詰まらせたとか、
削った氷まみれになりイチゴやメロンのシロップを
用意してあなたを待ち構えてたら、
肺炎か低体温症だったんでしょうか。
273名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 13:26:10 ID:hA4OSnVj
>>272
いや俺は戸籍上死んだことにして別人に成り代わってクラスメートAとして潜んでいると思う
274名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 21:41:53 ID:VRWVeikX
>>273
んー、夏だし怪談話っぽい方向で
275名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 03:34:09 ID:w5yBEk2f
クラスメートが死んだはずの姉だった
だが主人公が見知らぬ女生徒の遺体を見たことで
姉が本来在籍しているクラスメートを殺してなりかわっていることに気づいてしまう
姉と話すため姉の部屋を訪れる主人公
だがそこで姉が死んだとされる年と同じくらいの女児の遺骨を見つける

この骨は一体誰のものなのか、そもそも姉は本物の姉なのか



残念なことに文才ないな俺
つかストーリー無理矢理だし
276名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 13:42:07 ID:rAdFpjfx
死んだキモ姉妹が転生して我が子…いや、これは他スレであったネタだ!ならば千年前のキモ姉の呪いで妹がキモウトに…弱いな…いっその事ダイレクトに自殺したキモウトの怨念で接触した女性が次々と怪死してしまう兄の話とか……
277名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 14:20:34 ID:soozjs2r
キモウト大勝利の話を書かなくちゃいけない気がする
278名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 14:30:39 ID:c6UUAaTf
ナガレはイマキモ姉のナガレだ‥
279名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 15:45:17 ID:zaf1NVYp
なんだその洗脳されているかのようなレスは
280名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 16:06:10 ID:BoJVrjwx
夜な夜な、兄弟の服を一枚づつ数えながら脱がしていく
姉妹の怨霊に対処すべく、美人の尼僧に身体中にお経を書いてもらった。
281名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 17:31:48 ID:T9oGxQhx
その姉妹の怨霊というのは…こんな顔をしてなかったかぁい?
よくよくお経を見るとそれはお兄ちゃんへの愛を綴ったメッセージ…
282名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 19:54:44 ID:UPT/onHV
そして只今兄と絶賛交際中の幼なじみの身体には泥棒猫を呪う文言がびっしりと…!
283三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:48:40 ID:SQFJUipB
三つの鎖 25 後編です

※以下注意
エロなし?
血のつながらない自称姉あり

投下します
284三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:49:54 ID:SQFJUipB
 いつもは学校を出る少し前まで家事をするけど、最近は時間に余裕がある。
 梓が手伝ってくれるから。
 「兄さん。洗濯物、終わったよ」
 洗濯物のかごを持った梓が言った。既にお父さんも京子さんも出勤している。この家には僕と梓の二人だけ。
 僕の担当の掃除も終わる。時計を見ると、学校に行く時間までかなり余裕がある。
 掃除機を片づけてリビングのソファーに座った。目の前のテーブルにコップが置かれる。顔を上げると、梓が僕を見ていた。
 「ありがとう」
 僕は礼を言ってコップを口にした。冷たい緑茶。おいしい。
 梓は僕の隣にちょこんと座ってコップを口にした。紅茶の香りが鼻孔をくすぐる。
 僕の腕に梓の髪が触れる。今日も梓は背中に垂らしただけの髪形。手入れはされているのか、長い髪は艶がありサラサラしている。
 最近、僕が梓の髪に触れる事は無い。手入れする事も髪形をセットする事も。
 「ポニーテールにはしないんだ」
 梓は笑った。輝くような眩しい笑顔。
 「兄さん、こっちの方が好きだもの」
 「そんな事ないよ」
 「嘘よ」
 僕にしなだれかかる梓。下から僕を見上げる。
 梓の瞳が奇妙な光を放つ。
 「兄さん、あの女の髪形が好きよね」
 「夏美ちゃんの髪はそんなに長くないよ」
 「違うわ。春子よ」
 梓の手が僕の頬に触れる。
 信じられないぐらい梓の手が熱い。
 「兄さん、いつもあの女の長い髪に見惚れているわ」
 梓は微笑んだ。笑っているのに、瞳は奇妙な光を湛えている。
 「確かにあの女の髪は綺麗だわ。烏の濡れ羽みたいに艶があって、それでいてラサラしているもの。でも、私だって負けてないわ」
 そう言って梓は僕の手を取って髪に触れさせた。
 柔らかくてサラサラしている梓の髪。
 手に春子の髪の感触が蘇る。梓と同じように長くて綺麗な髪の柔らかい手触り。
 僕はそっと梓の髪から手を離した。
 唇をかみしめてうつむく梓。
 「そうよね。兄さん、いつもあの女ばかり見ている。何で私を見てくれないの。私だってあの女と同じ髪なのに。何で私を見てくれないの」
 梓は顔をあげた。視線が僕を貫く。
 「あの女。許せない。私に隠れてこそこそして。苛々する」
 背筋に寒いものが走る。
 知っているのか。春子がお見舞いに来てくれた事を。
 「同じクラスだし、話しぐらいする」
 「気がついてないとでも思っているの」
 頬に触れる梓の手の温度が上がった気がした。
 「あの女、兄さんが臥せっている間に兄さんの部屋に来たでしょ」
 梓の瞳が奇妙な光を放ち僕を射抜く。
 「お昼休みに。毎日のように」
 梓は唇を噛みしめた。
 「許せない。あれだけ痛みつけたのに。まだ兄さんに近づくなんて。痛みつけるのが足りなかったのかしら」
 僕にもたれかかる梓。ふれる梓の体が、熱い。
 「兄さん」
 梓を引き離そうとした瞬間に、梓は僕に声をかけた。
 「何で私があの女を見逃したか分かる?」
 よく考えると、おかしい。
 春子が僕にちょっかいを出すなら、容赦しないと梓は言った。
 それなのに、梓が今回の春子を見逃した理由。
 「前に言ったよね。次に兄さんにちょっかい掛けたら、許さないって。本当ならあの女を徹底的に痛めつけてもいい」
 淡々とした口調の梓。それでも僕は知っている。
 梓が春子に暴力をふるった事を。
 「梓。お願いだから暴力は止めて」
 「兄さん次第よ」
 僕は面食らった。
 春子の事なのに、僕次第とはどういう事だろう。
 考える。結論はすぐに出た。
 「僕に何を求める」
285三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:50:39 ID:SQFJUipB
 「ふふっ。さすが兄さんね。頭の回転が速くて助かるわ」
 嬉しそうに笑う梓。
 梓が見逃していた理由。
 僕との取引材料になるから。
 「本当なら夏美と別れて欲しいけど、兄さんは断るでしょ」
 梓の両手が僕の頬を包む。
 「私を抱いて」
 梓の瞳に浮かぶ感情。鳥肌が立つほどの劣情。
 血のつながった兄と一線を越える事を望む梓。
 絶対に受け入れられない。
 「断る」
 「だったらキスして」
 梓の顔が近い。白い頬は微かに朱に染まっている。柔らかそうな唇が艶めかしく動く。
 「私にキスして。触れて。触って。抱きしめて」
 妖しく輝く梓の瞳。
 血のつながった兄を見る目ではない。男を渇望する女の目。
 「それで今回の事は目をつぶってあげる」
 僕は唇を噛みしめた。
 血のつながった実の妹に口づけする。
 夏美ちゃんを裏切る行為で、禁忌を犯す行為。
 「何を躊躇っているの?何回もしたじゃない」
 うっとりとした表情で囁く梓。熱い吐息が頬にかかる。
 血のつながった妹とは思えない、甘い香り。女の匂い。
 思わず梓の肩を押して距離をとってしまった。
 「兄さん?」
 苛立った梓の声。
 「いいの?兄さんはあの女が大切じゃないの?私は別にいいけど」
 頬を晴らした春子が脳裏に浮かぶ。
 拒否すれば、梓は容赦しない。
 「…目を閉じて」
 素直に目を閉じる梓。
 梓の背中に腕をまわし、抱きしめる。細くて柔らかくて温かい。
 顎に手を添え上を向かせる。
 目を閉じた梓。綺麗なまつ毛。柔らかそうな唇。
 僕は梓にキスした。
 啄ばむように何度もキスする。
 「んっ、ちゅっ」
 柔らかくて温かい感触。
 梓の舌が僕の唇を舐める。
 「ちゅっ、んっ、ちゅっ」
 僕も舌を出して梓の唇をつつく。
 「んっ」
 震える梓。熱い吐息。
 梓は僕の後頭部に両手を添えた。
 絡まる舌と舌。ぴちゃ、ぴちゃと唾液の絡まる音が耳につく。
 梓はぼんやりとした表情で目を開いた。
 快楽に震える梓。うっとりとした表情で舌を絡ませる。
 その表情にどうしようもなくイラつく。
 僕は梓の唇を割って口腔に舌をねじ込んだ。
 「んんっ!?」
 驚いた様な梓の声。それを無視して口腔の中を舐めまわす。
 梓も必死に舌を絡ませてくる。
 「んっ、んっ」
 苦しそうな梓の吐息。鼻につく妹の匂い。
 その匂いが、信じられないほど甘ったるい。
 梓は唇を離した。
 「はっ、はっ、はっ」
 荒い息をつく梓。
 桜色の頬。艶のある長い髪が頬にかかっている。
 うっとりとした表情で僕を見上げる梓。
286三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:51:35 ID:SQFJUipB
 嬉しそうに僕の頬に触れる。
 「好き。大好き。兄さん。愛してる」
 愛おしげに囁く梓。
 「もっとキスして。もっと触って。もっと抱きしめて」
 頬を染め囁く梓。
 その表情にイラつく。
 僕は両手で梓の頬を挟んだ。
 そのまま梓の唇を奪う。
 「ん!?」
 梓の声を無視して口腔に舌をねじ込む。
 苦しそうにもがく梓。頬に挟んだ梓の顔を固定し、口腔の中を舐めまわす。
 小さくて震えている梓の白い手が、僕の胸を押す。
 梓は必死に僕を引き離そうとするけど、できない。その非力さに嗜虐心を感じる。
 口腔を滅茶苦茶にする。唇をついばみ、歯茎を舐め、舌を絡ませる。
 「んっ!!んー!!んっ!!んんっ!!」
 苦しそうにもがく梓を押さえつけ、さらに蹂躙する。
 目に涙を浮かべる梓。苦しそうな表情に、背筋がぞくぞくする。
 血のつながった実の妹に口づけする背徳の行為と、いつも僕を力で支配しようとする梓を力ずくで押さえつける歪んだ悦び。
 気がつけば僕は梓をソファーに押さえつけてのしかかっていた。梓の両手を頭の上に押し付け、顎に手を添え頭を固定する。目に涙を浮かべ苦しそうに身をよじる梓を押さえつけ、口腔を蹂躙する。
 僕は梓の口に唾液を流し込んだ。
 「んんっ!?んーーーっ!!」
 苦しそうに声を漏らす梓。それを無視してさらに唾液を流し込む。
 梓の白い喉が苦しそうに動く。必死にこくこくと僕の唾液を呑み込む。
 苦しそうに身をよじる梓の目尻から涙がこぼれ落ちる。
 僕はゆっくりと唇を離した。僕の下で荒い息をつく梓。
 「これでも僕の事を好きって言えるのか」
 震える梓。脅えと悦びが混ざった表情。
 僕は梓の胸を乱暴に掴んだ。
 「いたっ!!いたいよ!!」
 身をよじる梓を押さえつけ、乱暴に胸を揉む。
 控えめな胸のふくらみを握り潰す。
 「やだっ!!ああっ!!ひっ!!」
 苦しそうに身をよじる梓の目尻から涙がこぼれ落ちる。
 上気した頬。荒い呼吸。押さえつけた細い腕。うるんだ瞳。流れる涙。白くて細い太もも。はだけたスカート。
 そこから覗く白い下着は見て分かるほど濡れていた。
 「乱暴にされてるのに感じているんだ」
 震える梓。
 僕に向けられる瞳に込められた感情。
 脅えと、紛れもない悦び。
 「私、兄さんになら乱暴にされてもうれしい」
 息も絶え絶えに囁く梓。
 「好きだもの。愛してるもの。兄さんにならどんな乱暴に扱われても嬉しい」
 嬉しそうに微笑む梓。その表情に、どす黒い負の感情が沸き起こる。
 僕は梓の胸を思い切りつかんだ。部屋に響く梓の悲鳴。
 梓に覆いかぶさり、唇を奪う。
 苦しそうに身をよじる梓を押さえつけ、胸を掴む。口腔に舌をねじ込む。
 柔らかい唇を舌でつつく。歯茎を舐める。舌を絡ませる。
 目に涙を浮かべ苦しそうに身をよじる梓の表情が目の前にある。
 梓の荒い吐息が頬にかかる。
 必死に舌を絡ませる梓。
 僕は再び唾液を梓の口に流し込んだ。
 苦しそうに飲み込む梓。白い喉が震える。
 梓の胸のふくらみを思い切り握る。梓の体がびくりと震える。
 頬を染めて僕を見上げる梓。目には涙が浮かぶ。
 その瞳に浮かぶ感情。痛みでも恐怖でもない。
 紛れもない悦び。
 理解できない。
 これだけ乱暴に扱っているのに、嬉しそうに微笑む梓が。
 僕は手を離した。体を起こし梓を見下ろす。
 乱れた艶のある長い髪。めくれたスカートからは細くて白い素足が覗く。
287三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:52:35 ID:SQFJUipB
 荒い息遣い。控えめな胸のふくらみが呼吸に合わせて上下する。
 頬を染めて僕を見上げる梓。脅えと紛れもない悦びの表情。血を分けた妹の、女の表情。
 「何で」
 不思議そうに僕を見上げる梓。
 「何でこんなに乱暴に扱われて、そんなに嬉しそうなんだ。いくら僕の事が好きでも、おかしい」
 嬉しそうに微笑む梓。
 「何がそんなに嬉しいんだ」
 「兄さんが私に夢中になってくれたから」
 梓の言葉が胸に突き刺さる。
 「夢中になって私に乱暴したじゃない。それが嬉しいの」
 苦しそうに身をよじる梓の表情が脳裏に浮かぶ。
 僕は、それを見てどう思った?
 楽しんでいたのか?
 「違う」
 「違わないわ」
 嬉しそうに微笑む梓。
 「だって私の兄さんだもの。血を分けた兄妹だもの。分かるよ。兄さんが考えていることも、感じていることも。嬉しかったんでしょ?楽しかったんでしょ?私を押さえつけていたぶるのが」
 楽しそうな梓。
 本当に楽しそうに話す。
 僕が、血のつながった妹をいたぶるのが、楽しいと。
 「違う!」
 気がつけば僕は叫んでいた。僕の声は虚しく響く。
 梓は何も答えない。愛おしげに僕を見つめるだけ。

 全速力で階段を駆け上る。
 何とか時間ぎりぎりに教室に滑り込む。既に教室は生徒でごった返している。
 「美奈子。ぎりぎりだよ」
 「ぜーはーぜーは」
 「…まあ落ち着いてね」
 クラスメイトと朝のあいさつを交わしながら自分の席に向かう。
 途中に夏美を発見。席についてうつむいている。超絶暗い。
 周りのクラスメイトが騒がしく話している中、ポツンとしている。
 あの日、夏美が爆発して以来、夏美はますます孤立するようになった。
 以前のように悪意のある孤立ではなく、腫れものに触れるような扱い。いえ、爆弾扱いといった方が近いかもしれない。
 それぐらいあの時の夏美は恐かった。
 いつもの明るくて少し子供っぽい夏美からは想像もできない恐ろしさだった。
 でも、私は空気を読まない女の子だから、普通に挨拶する。
 「なつみー。おはよう」
 「…おはよう」
 元気のない声。どうしたのだろう。
 さらに話しかけようとしたらチャイムが鳴る。
 すぐに担任が教室に入ってきた。
 私は慌てて自分の席に座った。
 出欠をとる担任。
 「加原は欠席か?」
 訝しげな担任の声。梓の席は空席になっている。鞄も置いていない。
 梓、どうしたのだろう。あの子は授業をさぼったりしないし、無断欠席もない。
 その時、教室の扉が開いた。
 「遅れてすいません」
 梓がニコリともせずに教室に入ってきた。
 「遅刻だぞ。次から気をつけるように」
 「はい」
 担任の注意に素直に答え、梓は席についた。
 気のせいだろうか。梓はいつも通りの無表情なのに、機嫌がいいように見える。
 そんな事を考えているうちに朝のホームルームは終わる。
 最初の授業は苦手な英語だ。私はため息をついて教科書とノートを広げた。

 チャイムが鳴った時に幸一がいなかった時は、体調不良がぶり返したのかと思ったで。
 幸一が遅刻して教室に入ってきた時はほっとしたわ。
 朝のホームルームが終わって俺は幸一に話しかけた。
288三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:54:19 ID:SQFJUipB
 「自分、今日はどないしたん?」
 「…ちょっと寝坊して」
 少し沈んだ表情の幸一。嘘やな。分かりやすい奴。
 ただ、本人がそう言うからには、聞かれたくない内容なんやろう。
 多分、梓ちゃんの事。
 「困ったら何でも言ってな」
 「ありがとう」
 そんな事を話しているうちにチャイムが鳴る。教師が教室に入ってくる。
 席に戻って教科書を広げる。
 一時間目は数学。このクラスは理系やから、数学が得意な奴は多い。
 俺は苦手やった。今は得意科目やけど。
 昔は俺も幸一も成績悪かった。幸一が赤点キング、俺が赤点エンペラーて呼ばれてた。俺の方が成績悪かった。
 幸一の場合は柔道に夢中で授業では寝てばかりだっただけ。俺の場合は両親への反発というガキ臭い理由だった。
 俺の両親。二人とも弁護士。かなりのやり手で、自分の事務所を持っている。息子の俺に事務所を継いで欲しいようで、勉強しろと口を酸っぱくして言われ続けた。それに反発して勉強をさぼっていた。
 今はそんなガキ臭い理由で勉強をさぼる事は無い。
 俺が勉強を真面目にするようになったのは幸一が変わってからや。触発されたんやと思う。理系に進んだんもその影響かもしれへん。
 ふと村田の席を見る。
 小学校も中学校も同じやったけど、一緒のクラスになる事は無かった。
 せやけど村田の事は知っとった。文武両道で美人やから有名やったし、幸一からよく話を聞いた。
 こいつら、絶対に付き合ってると思ってたのに。
 前を向いて授業を受けている村田。
 一目で分かった。こいつ、授業聞いてへん。
 心あらずの様子でぼんやりしとる。
 いつも真面目に授業を受けとるのに。どないしたんやろ。
 幸一を見ると、こいつもぼんやりとしとる。相変わらず沈んだ表情で。
 俺は高二になって幸一と村田と三人で同じクラスになった。
 まだほんの数カ月やけど、それなりに楽しく過ごしとる。
 その楽しい日々が、自分でも分からないぐらいのゆっくりな速さで浸食されている気がする。
 気がつけば幸一は元気が無いし、村田の様子もどこかおかしい。
 幸一の妹の梓ちゃんも様子がおかしい。突然幸一にべったりになったと思ったら、最近は不気味なほど怖い。
 夏美ちゃんの様子もおかしい。あれだけ元気な子やったのに、最近は暗い。
 一体何が起こっているのか、俺には分からへんかった。
 ずっと後になって考えてみると、分からない方が良かった。
 幸一が話せない内容なんも当然な事にこん時の俺は気がついてへんかった。

 お昼休みのチャイムが鳴る。
 にわかに騒がしくなる教室。僕は席を立った。耕平が近づいてくる。
 「幸一。飯は夏美ちゃんと?」
 「ああ」
 耕平は手をひらひらさせる。
 「女の子を待たせたらあかんで。行ってきい」
 僕は頷いてお弁当を片手に教室を後にした。
 今日は梓と僕でお弁当を作った。梓は自分が持つって言ったけど、断った。
 そうすると、また昨日みたいに梓が邪魔してくる。
 夏美ちゃんとの待ち合わせは屋上。風はふくし日差しは強いけど、その分人がいない。
 今日は暑そうだ。学ランを脱いで来れば良かったかもしれない。
 階段を上り屋上への扉を開く。
 そこに夏美ちゃんが立っていた。
 梓も立っていた。冷たい表情で夏美ちゃんを見つめていた。
 「兄さん」
 僕に気がついた梓が嬉しそうに駆け寄ってくる。
 「お昼、一緒に食べよ」
 嬉しそうに笑う梓。その後ろで夏美ちゃんが泣きそうな顔をしている。
 「梓。悪いけど夏美ちゃんと食べるから、席をはずしてくれないか」
 梓の表情が一変する。無表情に僕を見上げる梓。
 「何でなの」
 「夏美ちゃんと一緒にいたい」
 「私よりも」
 「そうだ」
 梓の表情が歪む。
289三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:55:28 ID:SQFJUipB
 「…じゃあ放課後は一緒にいて」
 僕は首を振った。
 「晩ご飯までには帰るから」
 梓はうつむいて唇をかみしめた。
 お弁当を持つ手が微かに震えている。
 「…何でなの」
 絞り出すように梓はつぶやいた。
 「何で夏美ばかり。私も兄さんの事が好きなのに」
 梓は顔を上げ夏美ちゃんを睨んだ。
 「何でなの。何で夏美ばかり」
 夏美ちゃんは脅えたように一歩下がった。
 「ずっと一緒にいたのに。私の方が兄さんを愛しているのに」
 「…違うよ」
 夏美ちゃんはぼそりと呟いた。
 梓はきっと夏美ちゃんを睨んだ。
 「何が違うのよ」
 「私だって、私だってお兄さんを愛してるよ!!」
 屋上に夏美ちゃんの声が響く。
 「私だって好きだよ!!お兄さんを愛してるよ!!お兄さんだって好きって言ってくれた!!」
 夏美ちゃんの瞳に光るものがたまる。
 「梓はお兄さんの妹でしょ!?一緒に住んでるじゃない!!それなのに何でよ!?何で梓はここまで来るの!?お兄さんが呼んだのは私だけだよ!!来ないでよ!!私とお兄さんの目の前からいなくなってよ!!」
 「夏美ちゃん。落ち着いて」
 僕は夏美ちゃんの両肩に手をそっと置いた。びくりと震える夏美ちゃん。
 「今のは言い過ぎだよ」
 僕の言葉に夏美ちゃんはうつむいた。
 「梓に謝って」
 「…お兄さんは梓の味方をするのですか」
 夏美ちゃんの様子がおかしい。顔から血の気は引き、寒いのを耐えるかのように震えている。今にも涙がこぼれそうな瞳は見た事もない光を放っている。
 「何でですか。何で梓の味方をするんですか」
 夏美ちゃんの声は震えていた。
 「確かに梓は呼んでもいないのについてきた。でも、夏美ちゃんも言い過ぎだよ」
 夏美ちゃんが口を開こうとした瞬間、屋上の扉が開いて女子生徒が出てきた。
 ショートヘアの活発そうな女の子。どこかで見た事があるような気がする。
 「あれ?お邪魔でしたか?」
 全く申し訳なさそうな口調で僕に話しかける女の子。
 「ま、いいや。なつみー。化学の中本先生が呼んでるよ。理科準備室まで来いだって」
 女の子は僕が答える前に夏美ちゃんに話しかけた。
 随分マイペースな子だ。
 「…中本先生が私に何の用なの?」
 「さあ。この前の実験さぼったから何か話しでもあるんじゃない?」
 夏美ちゃんはちらりと僕を見てすぐに視線を逸らした。
 「お兄さん。行ってきます」
 「…うん」
 夏美ちゃんは僕達に背を向けて屋上を去って行った。
 小さな後ろ姿が目に焼きついて離れない。
 「あずさー。よかったらお兄さんに紹介してよ」
 面倒くさそうに女の子を見る梓。紹介するつもりは無いようだ。
 「もー。梓のクラスメイトの堀田美奈子です」
 「梓の兄の加原幸一です。妹がお世話になっています」
 聞いた事のある名前。夏美ちゃんと仲のいいクラスメイトだったと思う。
 「加原先輩」
 僕を見上げる堀田さん。真剣な表情。
 「夏美、最近疲れているみたいなんです。だから支えてあげてくださいね」
 堀田さんの言葉が胸に突き刺さる。
 今日の朝、脅されたといえ僕は梓に口づけした。胸を触った。
 一線を越えないにしても、性行為と言える事を梓とした。
 夏美ちゃんという恋人がいるのに。
 「失礼します。さよなら」
 堀田さんはそう言って去って行った。
 手に柔らかくて熱い感触。
290三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:56:36 ID:SQFJUipB
 梓が僕の手を握っていた。
 「兄さん。お昼を食べよう。そんなに時間もないし」
 頬を染め嬉しそうに微笑む梓。
 「梓。これだけは言っておく」
 僕は梓を見つめた。
 「僕が女性として愛しているのは夏美ちゃんだけだ。梓の気持ちには応えられない」
 梓の表情が凍る。
 僕の手を握る梓の小さな手が震える。
 「…そんな事、言わないで」
 弱弱しい声。泣きそうな表情。僕を見上げる梓の双眸に光るものが溜まる。
 その表情に胸が痛む。
 でも、梓の気持ちには応えられない。
 僕と梓は兄妹だから。
 「…お弁当にしよう」
 そう言うのが精いっぱいだった。
 二人でベンチに座り、無言でお弁当を食べる。
 僕と梓で作ったお弁当。
 おいしい。特に梓が作ってくれたおかずが、僕好みの味付けでおいしい。
 二人でお昼ご飯を食べていると、屋上の扉が開いた。
 耕平だ。僕たちを見つけた耕平は早足に近づいてきた。
 「幸一。夏美ちゃんがすごく暗い表情で歩いてたで。大丈夫なんか?」
 心配そうな耕平。
 「夏美ちゃん、先生に呼ばれただけだよ」
 夏美ちゃんが元気の無い理由とは違うけど、本当の理由は言えない。
 「先生に?」
 不安そうな表情の耕平。
 その表情に、何か良くない予感を感じる。
 「…その先生ってまさか中本やないやろな。一年生に化学を教えている」
 「何で知っている?」
 言いづらそうに沈黙する耕平。やがて意を決したように口を開いた。
 「クソみたいな噂や。誰が言い出したんか知らへんけど」
 耕平が言うには、授業を真面目に出席していた夏美ちゃんが中本先生の授業をさぼったのは、中本先生に父親の面影を見ていて、父親を思い出してしまうからだと。
 それを知った中本先生は、夏美ちゃんを狙っていると。
 「中本はもともと女子生徒に嫌われとる。ええ年して女子をいやらしい目つきで見るからや。その中本が昼休みに夏美ちゃんを呼びだすなんておかしいで。授業をさぼった関係やったら、担任が担当やし」
 「梓はその噂を聞いた事ある?」
 「無いわ」
 首を横に振る梓。
 「耕平。その噂はどれぐらい広まっているんだ」
 「俺の感触やと、そんなに広まってはないみたいや。ただ、この手の噂は登場人物を嫌う奴に伝わりやすいから、何とも言われへん」
 悪い予感が大きくなる。
 僕は立ち上がった。
 「中本先生はどこに?」
 「多分理科準備室や。案内するわ」
 「梓。行ってくる」
 「私も行く」
 手早くお弁当をしまい立ち上がる梓。
 耕平を先頭に階段を下り、廊下を走る。
 だんだん人気が少なくなる。お昼休みに理科室や隣接する理科準備室に行く生徒はいない。
 「ここや」
 理科準備室のプレートが掲げられた教室。
 僕はノックせずにドアを開けた。
 そこに夏美ちゃんがいた。
 呆然と立ち尽くしていた。
 乱れた制服の胸元。腫れた頬。
 「夏美ちゃん!」
 僕は夏美ちゃんに駆け寄った。
 「大丈夫?」
 返事もなく呆然としている夏美ちゃん。
 夏美ちゃんの胸元と頬を確認する。胸元の制服のボタンが外れて、白いブラジャーが微かに覗いている。頬は微かに腫れている。
 大した怪我ではない。
291三つの鎖 25 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/16(月) 20:57:36 ID:SQFJUipB
 僕は学ランを脱いで夏美ちゃんの肩にかけた。
 「…おい幸一」
 耕平は僕の後ろを指差した。
 振り向いた足元に、中年の男が倒れていた。
 白衣を着た太った男。
 その頭から血が流れていた。


投下終わりです
読んでくださった方に感謝いたします
ありがとうございました
HPで登場人物の人気帳票を行っていますので、よろしければご協力ください
ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
292名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 21:02:11 ID:bPwtMWSw
リアルタイムGJ!
293名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 21:54:23 ID:4R5gr9QR
GJ!
つい感情移入して読んでしまって、幸一にイライラした。
優しいとか優柔不断とかじゃなくて、ただの阿呆だろこいつ、とか。
294名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 22:26:09 ID:UPT/onHV
GJ!
こう、なんていうか…全員悪い熱がこもってきた感じ?

>>293
順番だよな
何もないところから判断するのと、先にこれをやらないって決めてしまってから判断するのと

幸一は先に決めたことは覆せずに後から後から雁字搦めになってるから…
295名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 22:50:16 ID:EeSnECA7
幸一「だから僕が好きなのは夏美ちゃんだって何回も何回も言ってんだろ!」
梓・春子「何回も何回も聞いたけど、だから何?」

いやでも俺は延々とこの状況が続くのには同情するぜww
296名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 22:56:51 ID:rAdFpjfx
もう三人とも母親に成るしかないなw…幸一は点綴的な押しの弱い上辺倫理観男だが…今の三竦みの状態で夏美、梓、春子の誰かを選ぶと言うのは不幸な結末にしか成らない(誰一人)…幸一の覚醒を願ってgj
297名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 23:16:46 ID:dXp9uh0r
名無しの分際で自分を主張するな
298名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 00:55:02 ID:D8d7T0ls
>>297良いこと言ったわ
キモイ感想たれ流されると激しく萎える、感想は短く纏めろ
299名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 01:06:58 ID:NwPnkInI
だが書いてる方からだと、嬉しかったりする
300名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 01:18:18 ID:D8d7T0ls
>>299だとしても二言三言で良いだろ
クソ長い感想とか容量取るだけ
301名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 01:38:12 ID:5ZNjOWyr
>>300
それなら君がまずそうすればいい
喧嘩腰で罵るよりはよっぽど模範を示せる


ここ時々人が感想貰えるのが妬ましくてしょうがない子が来るんだよなあ
302名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 01:46:20 ID:M2d+3ess
>>297自治厨ww作品後のレス何か荒しじゃなきゃドーデも良い、それとも夏かねぇ〜
303名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 01:46:35 ID:LIL3coQA
容量に関しては気にすることでもないだろうに
感想が長いなら見なきゃいい話。そもそも作者さん宛てみたいなものだし
というかよく見たら感想長くないじゃないか
304名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 02:28:18 ID:la9PX7/k
>>300
お前ウザい

これで満足いったか?
305名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 02:56:31 ID:0RQSJxQ2
夏夏言う奴は夏厨
306名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 03:34:15 ID:zC+LpnHF
こういうことに過剰に反応するのって
『俺が悪いと感じたものは悪いに決まってる、みんなもそう思っているはずだから排除してやるぜ』
みたいな思考の精神的に幼い方?

自分の感覚は普遍的でもなく、絶対のものでもない
なんて当たり前のことは小学校で気付くと思うんだけど……
307名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 08:12:52 ID:5ZNjOWyr
対象が曖昧な仮定に別の仮定を重ねて答えを求められても
『そうとは限らないんじゃない?』としか言えないよね。


そんなことより何か涼しい妄想を…
雪女のキモ姉とか
夏場も抱きついてきてひんやり気持ちいいけど全体的にちょっと溶けてきてるとか
308名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 12:18:24 ID:MBLRwMV2
冷たくなったお兄ちゃん気持ち良い〜
309名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 16:02:38 ID:JE074Lx5
>>307
サンガリア「温めたら『あねゆ』になります」
310名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 16:21:38 ID:+yNPt5eu
この猛暑に弟を求めて山を降りてくる、命知らずな雪女か…
311名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 18:32:54 ID:n7hL1d3p
男が産まれると捨てなければならない雪女の掟によって離ればなれになった姉弟が再会する感動的な話ですね


…だが悲劇の始まりでもあったのである
312名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 18:58:31 ID:FCBgQH4K
>>310
暑さでまいってるキモ雪姉・・・・・・


(*´Д`*)パッション!!
313名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 21:12:54 ID:FMzlsAlS
>>310
大丈夫ですお姉さん。今の都会には、クール宅急便という便利な物が。
ここに弟さんの住所を書いて…
314名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 00:25:08 ID:XMc1TJar
しかしその時既に弟の隣には捨てられていた弟を拾った家族の義姉が
315名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 12:27:48 ID:ozp2/nb9
>>314
市役所に提出する書類を用意して、
義弟が18になる日を虎視眈々と待ち続けていた。
316名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 15:37:09 ID:ezzJH2pR
その一方で隣家に住む幼馴染の女の子が最近疎遠になった義弟との仲を取り戻すどころかそれ以上になろうと画策しており
317名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 18:18:43 ID:xwHkzKz4
義弟の通う学校の氷の女王の異名を持つ女教師は
今日も今日とてこじつけて二人きりにならんとし
318名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 19:49:48 ID:Ydcurxkb
なんだいつものキモ姉スレか
319名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 21:37:28 ID:zdYg5B1s
というか、もはや雪女の入る隙がないな。まして猛暑日の都会では…
320名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 22:25:08 ID:CuwEdfKD
雪女って夏はどうしてるんだろ〜雪女の弟って……
321名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 22:48:54 ID:XMc1TJar
邪眼とか魔界の炎でも使えるんじゃねーの
322名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 23:01:59 ID:zdYg5B1s
夏の雪女は…冬に巣穴に蓄えた雪の中で寝ている(大嘘)
雪女の弟は雪男…より普通の人間の方が話は作りやすいかな?
323名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 01:59:39 ID:Y0YifgGK
>>314-317
雪モ姉「−40℃の世界では、バナナで釘が打てます」
324名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 14:53:09 ID:29EXHp96
>>324
湯キモ姉「貴様は私が溶かすッ!」
325名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 14:58:34 ID:YlCuRFon
メドローア…
326名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 20:38:15 ID:4efS/pNX
>>323-324
合体してフレイザード姉に
327名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 23:11:59 ID:PSVh2IN/
人外姉は保管庫に狐とラミアは有ったが
328名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 03:18:33 ID:cvevTQfl
>>319
涼しい下水道を通ってくるんだけど、学校にたどり着いた頃には有害物質やドブネズミや目のない白いワニと融合して恐ろしい怪物になっているんだよ。
巨大な化け物として自衛隊の攻撃機に襲われて学校はめちゃくちゃになって
消えそうな意識の中で弟を見つけて右手に握り締めたまま東京スカイツリーにのぼって雄たけびをあげる。
そしてアメリカが日本には任せて置けないと言って戦術核を東京に打ち込んできて
お姉ちゃんの最後に残っていた意識がそのミサイルを危険だと判断して身体で受け止めて自分ごと凍結。
そしてだんだん溶けて水になって核ごと蒸発し、天に上る。
さいごに大きな柔らかい雪の塊に包まれて弟が地面に落ちてきて「お姉ちゃんが助けてくれたんだ……」

スカイツリーは平和と愛のシンボルとして世界中のキモ姉にとっての聖地となるのでした。
329名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 04:53:55 ID:r5UnIhJv
オカルトがいつの間にか怪獣映画になっとるw
その後2週間くらい死の雨が降り止まない気もするが
330名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 07:36:31 ID:yp24uM5K
夏の下水道は地上より暑いぞ。と無粋なことを言ってみる。
331名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 09:00:34 ID:HrW7/7aX
生きていますか

キモウトさん
332名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 12:52:05 ID:sF2W27/f
>>328
東宝「ぜひともウチに映像化させてください!」
松竹「登場人物の献身が報われないストーリー造りはウチの十八番だ!
    引っ込んでろ!!」
東映「アニメにして制作現場が編み出したオリジナルストーリーを交えて、
    ハッピーエンドにしてみせます!!」
333名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 13:05:35 ID:v94/xmbu
こんなキモいスレにいてられるかっ!俺は自分の部屋に帰るぞ!
334名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 13:18:40 ID:7FxKr3cn
待ってたよ、お兄ちゃん♪
と貴方のベッドの中で妹さんが下着姿or全裸で待機中
335名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 19:05:59 ID:v94/xmbu
妹ってやっぱり1番に愛すべき存在だよな
336名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 19:33:45 ID:1T00Z+RO
姉がアップを始めたようです
337名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 19:34:21 ID:6QxavZLZ
え?そこは姉でしょう、常識的に考えて
338名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 22:22:31 ID:sfJDKpSw
>>335
二番目は誰なのよっ!!
339名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 00:44:45 ID:rawsicpY
>>338
幼なじみ
340名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 01:34:21 ID:1rIAM257
双子は私がもらいます
341名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 12:24:06 ID:F+r/g3Gr
>>335
姉「与えられる愛より与える愛のほうが偉大なんですっっっ!!><」
342名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 16:15:51 ID:x4ixAiCh
長編ssでのキモウトの勝率って0%?
343名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 16:37:30 ID:wWSzsNY5
そんな事は無い
勝ち負け(バイツァ・ダスト含む)引き分け色々ございます
割合までは計算されてはおりませんが
344名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:03:17 ID:1iMOg80Q
test
345名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:05:05 ID:1iMOg80Q
今晩は、お久しぶりです。
標題についての投下のために、またスレをお借りします。
よろしくお願いします。
346名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:05:49 ID:1iMOg80Q
声が聞こえる。
どうしてこんな子を押し付けれるのかという大人のひそひそ声。
うるさい
幽霊女とけらけら嘲う子供の声。
うるさい
ざわざわ、がやがやと賑やかになって行く。
一様に、お前なんて要らないといっている。
うるさい、もう止めて
数え切れない声が重なり合い、一様に語りかける。
お前なんて要らないんだよ、けらけらけらけらけら。
うるさい、うるさい、うるさい
笑う影に拳を突き立てる、でもぽすんと軽い音がするだけ。
何度も拳を打ち立てる。
ぽすん、ぽすん、ぽすん

目が覚める、汗が張り付いて気持ち悪い。
息が詰まる、心臓の鼓動が煩い。
「大丈夫、お兄ちゃんは違う。」
私は言い聞かせる。
「お兄ちゃんは私を要らないなんて絶対言わない。」
347名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:07:37 ID:1iMOg80Q
久しぶりにとても嫌な昔の夢をみた、最悪の気分だ。 
時計を見る、もう8時だった。
これでは朝食に間に合わない。
「ごめんなさい、お兄ちゃん、姉さん。」
「おう、おはよう。
 今日は塩鮭だぞ、ほれ、旨いよ。」
「おはよう、シルフちゃん。
 珍しいね〜、お寝坊さんなんて。」
居間の机には、塩鮭、ご飯、そしてわかめの酢の物が並んでいる。
座布団が三つ置いてあり、お兄ちゃんと姉さんがふたり仲良く座っている。
私はその向かいの開いてる場所に座った。
鮭を齧る、少ししょっぱ過ぎると思う。
お兄ちゃんは機嫌良くその鮭を食べる。
「やっぱり鮭ってのは塩が吹くくらい辛くないと食った気がしないんだよな。
 最近はどこに行っても減塩ものばっかりで、腐ったらどうするんだよ、なあシルフ。」
「え、うん、私もそう思う。」
「兄さん、爺くさいよ〜。
 ついでに言うと、そこにさらに塩を振ろうとするのは正直どうかと思うよ。」
「余計なお世話だ、どうせ寝汗をかいてるんだからこれぐらい塩を取ったほうがいいんだよ。
 塩とはサラリー、つまり金だ。塩の無い食事なんて貧乏臭くてしょうがない。
 そんな貧相なもん朝から食えるかよ。いや、朝昼晩、三食ともご遠慮したいね。」
お兄ちゃんは少しでも目を離すと塩辛いものばかり食べる。
だから私がお兄ちゃんに作る料理はあまり塩を使っていない。
ひょっとしてお兄ちゃんは私のご飯に満足してくれてないのかな?
それに、やっぱり本当は今日みたいに姉さんの作る方が嬉しいのかも知れない。
そう思うと、朝の夢と相まってとても嫌な気分になった。
348名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:08:20 ID:1iMOg80Q
「兄さん、それはシルフちゃんへの当てつけかな。
 シルフちゃんは毎日兄さんの健康を考えて料理を作ってくれているんだよ。
 偶には早起きして自分で作ったらどうかな。
 兄さんが朝食を作ってくれたのは何年前か覚えてる? 
 言っておくけど、この前作ったフライパンの焦げはカウントしないからね。」
姉さんがお兄ちゃんを叱りながら、二杯目のご飯とお茶を差し出す。
「いや、それは…だな。」
しどろもどろになお兄ちゃん。
姉さんが私のほうへ崩れるように抱きつく。
……重い。
「ふふ、かわいそうなシルフちゃん。
 炊事、家事、洗濯、全部押し付けられちゃって。
 挙句には食事がまずいといびられて。
 よしよし、あんな鬼舅には、お味噌汁にも塩をたっぷり入れてあげましょうね〜。」
お兄ちゃんが楽しそうに鮭をご飯に載せて、お茶を掛ける。
ずずー、っとお茶漬けを啜る音、あ、おいしそう。
「その、兄さん、シルフちゃん。
 何か言うことは無いかな〜?」
「お茶漬け、旨いよ?」
「姉さん、暑苦しい。」
スルーされたと気づいたのか、姉さんは無言で空いた食器を台所に下げに行った、というよりも逃げた。
今日の姉さんは朝から上機嫌のようだ、ジョークは滑ったけど。 
逃げ出した姉さんを白い目で追った後に、お兄ちゃんが申し訳なさそうに私の方を振り向く。
「ええっと、別にお前の食事がどうのって言う意味じゃないからな。」
「ううん、気にしないで。
 それよりもっと注文を言ってくれたほうが遣り甲斐があるわ。」
「その、なんだ。いつもありがとうな、シルフ。」
そう言ってお兄ちゃんが笑ってくれる。
私はその優しい顔を見るのが大好き、心が落ち着くから。
349名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:09:05 ID:1iMOg80Q
私は御空路 思留風(みくうじ しるふ)、漢字だと変だからいつもはシルフで通している。
お兄ちゃんや姉さんとは血が繋がっていない、私だけ養子だから。
小さい頃に両親を失い、親戚に盥回しにされて、最後にお父さんの親友に引き取られた。
お父さんは日本人だけど、お母さんは欧州の小国出身。
容姿については、本当は言いたくないけど、お母さんと同じ、白い肌に、肩口で切った白に近い金髪、鳶色の目。
小さい時はその見た目から幽霊みたいと言われた。
今もその容姿のせいで周囲と壁ができている。
多分、私の事を受け入れてくれているのは御空路家の家族だけだと思う。
私はそれで十分だから何も構わないけど。
父さんと母さんはいつも海外に出ているので私達は殆ど3人で暮らしている。
お兄ちゃんは御空路 陽(みくうじ あきら)、姉さんは御空路 雪風(くうじ せつか)
2人は同い年で私より1つ上だけど、生まれた月は別々だ。
姉さんの姿は、色白だけど決して白すぎない肌、長くて綺麗な黒髪、黒い瞳。
明るくて、誰にでも大らかな性格。
大まかに言えば、私の上位互換だと思ってくれると分かり易い。
それからお兄ちゃんは姉さんに似ていると思う。
あと、背中にはずたずたに引き裂かれたような傷跡が残っている。
昔、私を救ってくれた時に出来た傷。
350名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:09:35 ID:1iMOg80Q
私はお兄ちゃんのことが大好きだし、
姉さんのこともちょっと苦手だけど、嫌いじゃない。

今、私は幸せだ。

欲を言えば、その、本当はもっと、できればお兄ちゃんと、って思うけど。
でも、それはこの安らげる場所を賭けること。
賭けに負ければ私はお兄ちゃんにきっと、見捨てられる。
そうしたら、ここに居られなくなる。
それはとても怖い、そんなのは嫌だ。
だから、私はずっとこのままでいい。
この日向みたいに暖かいお兄ちゃんの側にずっと居る事、それが私の幸せ。
351名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:10:32 ID:1iMOg80Q
*********************************************
胴着姿の先輩と対峙していた。
彼女が私に向けて高速のストレートを放つ、多分、プロボクサー並みだと思う。
でも、放ち切った後の腕にちょっとだけ隙があるので、しゃがみこんで避け、そのまま腕を取って投げる、背負い投げ?
びし、と畳に貼り付けられるような音がした。
その音に周りの視線が私に集まる。
少し勢いを付けて投げすぎたのか先輩は、ごほごほ、と苦しそうに咽て立ち上がれないでいる。
これで22人目。
だから、今日の練習もおしまい。
「私は先に帰ります。
 後の人も勝った人から帰ってください。」
短く挨拶をして、更衣室に戻った。
着替えを終えて部屋から出たところで声を掛けられる。
振り向くと、袴を履いた背の高い女子がいた。
私と同じ学科の人で、確か彼女も小さい頃から合気道をやっていたから一緒に入部したんだっけ。
「少し待ってくれるかしら、御空路『部長』さん。」
私はまだ一年生だけど女子武道部の部長だ。
女子武道部は色々変わっていて、どんな格好や戦い方をしても良いという事になっている。
だから私はいつも着替え易いジャージにティーシャツで練習している。
そして、一番変なのは現在の部長に勝った部員が新部長になるというシステムを採っている事だ。
私はその事を知らずに仮入部の時に腕試しの積りで前部長に挑んだ、強い人だったけど私が勝った。
そのままなし崩しで入部させられて私は部長に、元部長は再戦の為に修行中。
352名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:10:56 ID:1iMOg80Q
「あれ、今日は早かったんだ。」
「違うわ、言いたい事があるからちょっと抜けてきただけよ。
 いくら部長だからって、こういうやり方は良くないと思わないの?
 いつも自分だけ早く帰って、他の事はみんな部員任せじゃない。
 そんな事してるとみんなに嫌われちゃうって。」
「でも今日はお兄ちゃんと一緒に帰って、ご飯を作らないといけないから。」
私の言葉を聞いて彼女は額を押さえた、ちょっと失礼じゃないかなと思う。
「あ〜もう、いつもお兄ちゃん、お兄ちゃんって!!
 まあいいわ、それはもうあんたの場合今更仕方がないわ。
 でも良いかしら、少し考えてみてよ。
 あんたが大好きなお兄さんだって、あんたが皆から嫌われていたら嫌でしょ?」
「お兄ちゃんはそういう事を気にしないから、大丈夫。」
「大丈夫じゃないって!!
 あのねえ、あんたの前では言わないけど、みんな今のやり方には不満を持ってるんだよ?
 陰だと、その、酷い事いつも言われているんだよ?
 そんなので本当に良いと思うの?」
「そう。」
多分、幽霊みたいだとか、白くて気持ち悪いだとか言われているんだと思う。
353名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:11:52 ID:1iMOg80Q
「だから、そう、じゃないっての!!
 大体ねぇ、話を聞いているとあんたのお兄さんって絶対ろくでもない奴よ。
 家事も、料理も、洗濯も全部あんたとお姉さんにやらせて自分は何もしないんでしょ?
 単にめんどくさい事をあんたに押し付けてるだけじゃないの。
 そんな奴、クズよ、ク・ズ!!」 
その言葉が嫌だった。 
「……お兄ちゃんじゃないのにどうしてそんな事が分かるの?
 それに、おにいちゃんの事を何か知ってるの?」
「知らないけど、そうい……、!!」
お兄ちゃんの悪口を聞かされるのが嫌だったので、突きを喉元で寸止めさせる。
もし喋ったら、次は止めない。
こうするとみんな私の嫌な事を言うのを止めてくれる。
「何かまだ言うの?」
彼女の顔が歪んだ。
良く分からないけど、多分怒っているようだ。
「なんでもないわ、ええ良く分かったわ、それじゃあ私は練習に戻る。
 言っておくけどね、あんた、そんな事だと本当に誰からも相手にされなくなるわよ!!」
そう言い残して、道場に帰っていった。
良くは知らないけど、あの子は嘘つきだと思う。
だって、お兄ちゃんと姉さんは絶対に私を見捨てたりなんてしないのだから。
昔からそう、私に力で勝てないって分かるとみんなで私に嘘をついていじめようする。
でも、初めから私はお兄ちゃんと姉さん以外の人の事なんて信じていないから意味がない。
だから、それ以外の誰かからどれだけ嫌われても、私は気にならない。

あ、いけない、少し遅れてる。
早くお兄ちゃんたちの所に行かないと。
……ところであの子、何ていう名前だったっけ?
354名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:20:31 ID:1iMOg80Q
私と姉さん、それからお兄ちゃんの通う大学にはぼろぼろの木造校舎がある。
その廊下の一番奥のドアの今にも取れそうなプレートには「多様性美術同好会」と書いてある。
私達とそれからお兄ちゃん達の幼馴染の神田さんと新林さんの5人だけの小さな同好会だ。
お兄ちゃんは姉さんに誘われて入会した。
初めは嫌がっていたが顧問の先生にお兄ちゃんを含めてあと4人入会したら、
先生の持つ授業の単位を24単位分くれると言った途端に私と新林さんを誘って入会した。
そして、すぐに新林さんを追って神田さんが入部。
でも、お兄ちゃんと新林さんは2年生にして首席候補と言われているような人達だ。
この前、それなのにどうしてと聞いたら、単純に授業に出るのが面倒くさいからと二人揃って言っていた。
因みに、私はこの大学に入れたのが奇跡の奇跡だって言われるくらいであまり成績は良くない。
そんな同好会だから実際に活動しているのは姉さんとお兄ちゃんだけ。
姉さんは絵が好きだから、お兄ちゃんはやってみたら意外と面白かったという理由で暇な時はよくここで絵を描いている。
そして、私を含めた他の人はみんな幽霊部員だ。
私は女子武道部に入部しており、神田さんと新林さんは剣道部。
たまにみんなで集まってお茶を飲んだり、合宿と称して出かけたりする程度だ。
355名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:22:18 ID:1iMOg80Q
ドアに手を掛けてドアを開く、途端に私の肩を目がけてナイフが3本真直ぐに飛んできた。
多分、パレットナイフだと思う。
何であんな形の物を真っ直ぐ投げられるんだろう?
ええっと、まず1本目のナイフを体を反らして避け、残り2本のナイフの刃をそれぞれの手で摘む。
「お見事〜、さっすがシルフちゃん。
 サーカス団みたいだよ〜。」
姉さんが椅子に腰掛けてぱちぱちと手を叩く。
「姉さん、頼むから私がここに来る度に物を投げつけるのは止めて。」
「いいじゃない、シルフちゃんなら楽勝でしょ? これぐらい。」
「……他の人だったらどうするの?」
「大丈夫よ〜、ここのぼろ校舎を音も無く歩けるのってシルフちゃんと沙紀だけだもん。
 2人とも簡単に避けられるでしょ?」
姉さんは悪びれずに言った、実際に悪気なんて全く無いんだろうけど。
「いい? 姉さん、次にやったらお兄ちゃんに叱ってもらうから。」
「分かった次からは止めるわ、兄さんには怒られたくないしね。
 ところでシルフちゃんも今日は部活動でしょ。
 まだ1時間も経ってないんじゃないかな〜?
 いくら部長さんだからってズル休みはいけないよ。」
「大丈夫、今日も総当り戦をして全員に勝った人から抜けて良いってルールにしたから。
 私もちゃんと勝ってからここに来たよ。」
「あははは、そうなんだ。
 相変わらずシルフちゃんは強いね〜。」
そう言って姉さんが笑う。
部屋の中を見回すが姉さん以外の人が居ない。
「あれ、お兄ちゃんは?」
「兄さんなら、圭さんと一緒に先に出て行ったよ。
 今日は男子同好会員の定例会なんだって、2人しか居ないのに。
だから夕飯もいらないって。」
姉さんが詰まらなそうに答える、私も詰まらなくなった。
「そう。」
「どうする?
 今日は私達だけだけど、偶には姉さんが何か作ろっか?」
「私が作る。」
即答する。
「お願いだから姉さんは何も作らないで。 
 お兄ちゃんが居ないと、ろくなもの出す気がないでしょ。」
「あれ、先月の事まだ根に持っているのかな? 
 流石にあれは悪かったと思ってるよ〜。」
暢気そうに笑う姉さん。
356名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:22:43 ID:1iMOg80Q
あれを悪かったの一言で片付けられる姉さんの神経は太すぎると思う。
あの日の夕飯は白いご飯と、姉さんがちょっと前に鯵の開きと間違えて買ってきたくさやが一人3枚。
当然私は拒否したが、姉さんの好き嫌いは許さないという的外れなお説教と強引な押しに負けてしまった。
……次の日から私達は自主休校した。
あと、帰宅したお兄ちゃんは私と顔を会わせた瞬間、回れ右して出て行った。
そのまま新林さん、圭さんの事、の家から1週間帰って来てくれなかった。
臭いの所為で、お兄ちゃんに汚物を見るような目で見られたあの時の気持ちはとても言葉にできない。
こっそり自分だけ隠れていた姉さんの首を締め上げて軒先に吊るしてしまおうかと本気で考えた。
でも、そんな事をしたらお兄ちゃんに嫌われると思って必死に耐えた。
「ほら、兄さんあの臭い大嫌いだから居るときには焼けないし。
 換気扇回しておけば何とかなるかな〜なんて。
 大丈夫よ〜、今日はちゃんと作るから安心してね。」
姉さんが軽そうに謝る、どう見ても反省していないと思う。
姉さんはこんな人だ。
私よりも何でも出来るのに、お兄ちゃん以外の事はいつもいい加減。
357名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 20:24:40 ID:1iMOg80Q
以上です。
予定としては中編くらい?と見込んでいます。
また、プロバイダーがいつも規制されているようなところですので、避難所を何回かお借りすると思います。
最近音沙汰がないな、と思われた方は避難所を覗いていただけると幸いです。
それでは、失礼いたします。
358幸せな2人の話 1:2010/08/21(土) 20:25:59 ID:1iMOg80Q
すいません、タイトルを付けていませんでした。
表記のとおりですのでよろしくお願いいたします。
失礼します。
359名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 21:31:23 ID:U42XPy9c
>>358
乙、実妹と義妹かー
シルフも危ういし雪風も剣呑そうだし幼なじみまで完備となると…続きを期待します
360名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 22:37:46 ID:Ga86/GXw
危うい平和だな
これからの展開に期待します
361286:2010/08/22(日) 07:38:02 ID:ogvzKlOY
>>275
昔見た「僕の殺人」(だったかな?)という小説を思い出した。
見つける死体は姉じゃなく自分の死体だが。
362名無しさん@ピンキー:2010/08/22(日) 07:40:37 ID:ogvzKlOY
ぐあ、名前が。
286は全然無関係です。すまそ。
363名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 16:29:19 ID:OC4j5F2k
wiki更新しないの?
364名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 16:51:46 ID:3utBhJbP
おまえが更新しろ
365名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 22:06:38 ID:vng4DnJE
キモウトが開けたばかりのコンドームを涎まみれのグッチャグチャにして手足を拘束した兄に装着したが、口に含んだ時点で穴を空けていたという電波を受信した
366名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 23:00:59 ID:bZyzzJiY
何度言いきかせても歯を立てるバカ犬系のキモウト…
367名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 23:28:11 ID:9omWNZnr
ヒートしすぎてお兄ちゃんのマラに歯を立てるんですね。怖くて想像できません。
368名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 23:30:23 ID:S8tQGKQQ
お兄ちゃんは私の物だというマーキング兼泥棒猫に対するトラップだろ
もしお兄ちゃんと泥棒猫が事に及ぼうとしたときに不審な歯型を発見させる事で浮気を疑わせる仕組み
369名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 08:54:02 ID:bowTmvnC
校内俳句大会金賞

  妹は
   病んでるくらいが
        丁度良い

1年A組  木藻 妹子


「ふふふ、ふ、ふふふはは。さぁ兄様、約束通り入賞しましたよ。
 では其方も約束通り、今宵は私の『オモチャ』になっていただきますね」
「ま、待てよ妹子! 確かに約束はしたが……」
「あー、もう無理です。駄目です。我慢できません。
 私がこの一分一秒、どれだけ理性を抑えてきたかわかりますか?
 分かるはずないですわ。わた、わたたたしが、わか、わわかかか……」
「妹……子?」
「……理性があるうちに言っておきます。
 兄様、いえ私の愛しいオモチャ。今宵は素敵な夜にして下さいね」
「(  @  )」


問1
上記の文より、(@)に当てはまる兄の最後の説得を述べよ。<10点>

a.止めろ!俺達は兄妹じゃないか!
b.無念なり……!
c.すまん!俺はゲイなんだ!
d.k「ふふ、キスして欲しいのですか?んっ、ちゃぷ、ジュルッ」
370名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 09:41:39 ID:vCG72cmn
10点取ったらどうなるのかわからないからcで行くか
371名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 09:47:47 ID:jpYS9McT
どの道襲われるじゃないか、ベタな展開だから誰でも想像つくだろうけど
372名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 12:17:39 ID:+uANHSw1
>>370
妹子は男の名前だからcじゃ回避できない
373名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 14:13:27 ID:xru5lLir
そこまで考えているとは…>>369、恐るべし…!

…どれ選んでも10点ジャマイカ
374三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:48:04 ID:TxEfSWj7
三つの鎖 26 前編です

※以下注意
エロ無し
血のつながらない自称姉あり

投下します
375三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:49:22 ID:TxEfSWj7
三つの鎖 26

 白衣を着た中年の男が頭から血を流して倒れている。
 僕は跪いて倒れている男の脈拍と呼吸と確認した。
 異常は無い。頭を打って意識を失っているようだ。
 頬を軽くたたく。起きない。
 「耕平。救急車を呼んで。頭を打って意識を失っているって。梓は先生を呼んできて」
 「了解や」
 「…分かったわ」
 準備室を出ていく二人。
 僕は立ち上がって夏美ちゃんと向き合った。僕の学ランの襟を握ったまま震えている夏美ちゃん。
 叩かれたのか少し腫れた頬、上のボタンの取れた襟。
 何があったか明白。
 僕は夏美ちゃんを抱きしめた。
 「大丈夫?」
 「…はい」
 震える声で答える夏美ちゃん。僕の背中におずおずと腕をまわし抱きつく。
 「私は大丈夫です」
 「何があったか、話せる?」
 びくりと震える夏美ちゃん。
 「嫌なら話さなくていい」
 「…中本先生が、お父さんが死んで寂しいだろうって」
 僕の背中に回された手が震える。
 「先生の事をパパって呼んでごらんって言って抱きついてきて、止めてくださいって言ったら胸ぐらを掴まれて頬を叩かれて」
 怒りが沸き起こる。
 何という卑劣な行為。
 「抵抗したら、中本先生こけて、頭を打って動かなくなって」
 僕は震える夏美ちゃんはぎゅうっと抱きしめた。
 「大丈夫だから」
 しゃくりをあげる夏美ちゃん。僕は夏美ちゃんの涙をそっと拭った。

 えらい事になった。
 あの後、救急車が来て中本を運んで行った。頭を打って脳卒中らしい。
 自業自得や。いや、夏美ちゃんに迷惑をかけたんは許せへん。
 今、中本が運ばれた後の理科準備室で幸一と梓ちゃん、夏美ちゃん、俺と教頭がおる。
 俺はこの教頭が嫌いや。口うるさくて権威主義者。
 夏美ちゃんは真っ青になりながらも健気に何があったかを説明した。
 中本の奴、あんなアホみたいな噂を信じて夏美ちゃんに迫るなんて、頭がおかしいんちゃうんか。
 教頭は渋い顔で黙っている。
 こいつの考えていることが手に取るように分かる。この不祥事をどうやって隠そうか。
 「中村の言った事は本当なのか」
 渋い顔で口を開く教頭。
 「中本先生の勤務態度は真面目そのものだ。中村の言うような事があったとは信じがたい」
 黙っている夏美ちゃん。
 「自分に都合のいいように言っているんじゃないのか」
 握りしめた手を震わせる夏美ちゃん。
 「私、嘘は言っていません」
 「どうだか。案外、自分で誘惑したんじゃないのか」
 幸一の目がすっと細くなる。こらあかん。
 「あー。教頭先生」
 俺は口を開いた。
 「教頭先生は知らへんのですか。中本先生、女の子をいやらしく見るので有名やで。確かそれで問題になった事もあったはずですよね。保護者から抗議でしたっけ」
 押し黙る教頭。
 俺は幸一に目配せした。頷く幸一。
 頼むで。ここで爆発しても夏美ちゃんの印象が悪くなるだけや。
 「どちらにしても、中村が言った事が起きた証拠はない。これはれっきとした傷害事件だ。厳正に対処する必要がある」
 酷薄な視線を夏美ちゃんに向ける教頭。
 こいつ、全部夏美ちゃんに責任を押し付けるつもりやな。
 「教頭先生。夏美ちゃんの頬と襟を見てください。どう見ても夏美ちゃんが被害者ですよ」
 「そんなもの、いくらでも自作自演できる」
376三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:50:30 ID:TxEfSWj7
 このクソ野郎。
 教頭は夏美ちゃんを睨みつけた。
 「中村。正直に言ったらどうだ。今なら警察に言わずに対処してもいい」
 「私は言うべき事は全て言いました」
 静かに答える夏美ちゃん。教頭のこめかみがぴくぴく動く。
 …しゃあない。
 ここは警察に連絡して夏美ちゃんを保護してもらった方がええ。学校の中やと教師の権力が強い。このままやと夏美ちゃんに全ての責任が被せられる。
 幸一の親父さんは警察官やからある程度は夏美ちゃんのために手助けしてもらえるかもしれへん。気はすすまへんけど、弁護士の両親も警察とパイプがある。
 教頭は軽蔑したように夏美ちゃんを見下ろした。
 「ふん。父親が殺されて寂しさのあまり教師を誘惑した挙句、傷害事件を起こすとは。死んだ父親の教育がなっていないんじゃないか」
 こいつ。なんて事を言うんや。
 夏美ちゃんは真っ青になって震えている。
 口を開こうとして、やめた。
 幸一が夏美ちゃんを庇うように一歩前に出た。
 梓ちゃんと同じ無表情やのに、背筋が寒くなるような激情を感じさせる瞳。
 幸一はでかい。その身長でその瞳を向けられたら、洒落にならへん迫力がある。
 ビビったように一歩下がる教頭。額には汗が浮かんでいる。
 「幸一」
 俺は幸一の肩を掴んだ。ここでキレたら、夏美ちゃんの印象が悪くなるだけや。
 「大丈夫」
 そう言ってほほ笑む幸一。笑顔やのに、洒落にならへんほど恐い。
 「先生。訂正してください」
 静かな声。それなのに背筋が寒くなるほどの激情を感じる。
 額に汗を浮かべ押し黙る教頭。
 沈黙はノックの音に遮られた。
 「誰だ」
 「生徒会の村田です。お客様をお連れしました」
 村田の声。何でここに。
 返事を待たずに扉が開く。
 村田とスーツ姿の男女。
 男の方は知っとる。幸一の親父さんや。
 「警察から来ました加原です。こちらは同僚の西原です」
 無言で会釈する若い女性。ぴしっとした姿勢。間違いなく婦警さんやな。
 せやけど、誰が連絡したんや。
 「生徒さんから婦女暴行未遂が起きたと連絡を受けまいりました」
 梓ちゃんか?村田か?
 いつの間に連絡してたんや。
 「先生。生徒さんとお話しさせていただいてよろしいですか」
 幸一の親父さんの口調は丁寧やけど、お願いやなくて確認やった。
 教頭は渋い顔でうなずいた。ここで断ったらまずい事があったのを認めるのと同意義やからや。
 「西原。私は先生からお話を聞く。西原は中村さんからお話を聞いてくれ」
 「分かりました。先生、隣の教室をお借りしますね」
 若い婦警さんは夏美ちゃんの肩をそっと押して準備室から出て行った。
 心配そうにその後ろ姿を見つめる幸一。
 「先生。お話を伺えますか」
 教頭は渋い顔で説明し始めた。
 生徒に知らされてここに来ると、中本が頭から血を流して倒れていた事。
 そのそばには夏美ちゃんが茫然と立っていた事。
 恐らく、夏美ちゃんが中本を誘惑した挙句、拒絶した中本を突き飛ばして怪我をさせたと私見を伝えた。
 こいつ、警察にまで夏美ちゃんが悪いと伝えるつもりか。
 「先生のおっしゃった事を裏付ける証拠はありますか」
 「中本先生の勤務態度は真面目そのものでした。また、中村の父親は殺されて、父親の面影を中本先生に見ていたと聞いています」
 無言でメモをとる幸一の親父さん。
 「加原さん。生徒がこの様な問題を起こしたのは悲しい事ですが、厳正な対処をお願いします」
 そう言って頭を下げる教頭。
 「まだ何とも言えません」
 「何故ですか。これだけ証拠がそろっています」
 「全て推測でしかありません」
 あくまでも夏美ちゃんに罪を背負わせようとする教頭。今のところ幸一の親父さんは教頭に同調してへんけど、どこまで安心してええのか分からへん。
 「あのー。ちょっといいですか」
377三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:51:49 ID:TxEfSWj7
 村田が手を挙げた。場にそぐわないのんびりとした口調。
 「あれってビデオカメラですよね。動いているように見えるんですけど」
 村田が指差した方に視線が集中する。
 色んな標本が置かれた棚に隠れるようにビデオカメラが設置されている。
 近づこうとする教頭を幸一の親父さんが制した。
 手袋をつけビデオカメラを持つ幸一の親父さん。
 見たところテープに保存するタイプ。少し旧型っぽい。
 「まだ録画中ですね」
 そう言って幸一の親父さんは機器を操作した。録画を止め、巻き戻し、再生モードにする。
 側面のディスプレイに、中本と夏美ちゃんが映っている。
 夏美ちゃんに抱きつき、頬ずりする中本。身をよじって抵抗する夏美ちゃん。中本は逆上し、夏美ちゃんの胸ぐらを掴み、頬を叩く。
 抵抗する夏美ちゃんに突き飛ばされ、こけて動かなくなる中本。
 幸一の親父さんはビデオカメラを止めた。
 真っ青になって震える教頭。
 「生徒さんの無実を証明する証拠として警察で預かっておきます」
 「待ってください。それは中本先生の私物です。本人の承諾なしに押収するなど、許されません」
 抵抗する教頭。何て見苦しい。
 「大体、加原さんは幸一君と梓さんのお父上ですよね。中村さんは幸一くんの恋人で、梓さんは友人です。そのような方だと、公正な捜査を期待できません」
 まくしたてる教頭。
 「私達教師はあなた達警察と違って、生徒の未来に責任を持つ身です。公正な捜査を期待できないなら、生徒のためにも協力できません」
 こいつ、ホンマに人間の屑や。
 何が生徒のためや。学校の不祥事を隠すためやろ。
 「私達教師は、生徒の未来のためなら、あえて鞭を振るう事もあります。それに比べあなた達警察はどうですか。息子の恋人が関係した事件の捜査を担当するなど、警察の良識を疑います」
 勝ち誇ったように幸一の親父さんを見る教頭。
 「もし加原さんの息子さんが犯罪に関わったら、加原さんは警察の使命を果たすことができるのですか」
 「無論です」
 静かに答える幸一の親父さん。
 「警察官の使命は家族の絆に勝ります。例え血を分けた子供だろうが、その親友だろうが、恋人だろうが、罪を犯せば逮捕するのが私の職務であり役目であり使命です」
 静かな言葉だけに、幸一の親父さんの気持ちが怖いほど伝わる。
 本気だと。
 「な、ならば、もし幸一君が罪のない市民を人質に取ったら、加原さんは息子を射殺できるのですか」
 「それ以外に人質の命を救う方法が無いなら、実行します」
 腹に響く言葉。
 「ただ、現実的なお話をしますと、警察官の関係者が事件に関わった場合は担当を外されるのが普通です。そういう意味では先生のおっしゃる事は正しい。私はここにいる幸一と梓の父です。そのような立場だと捜査に疑いを持つのは当然です」
 ちょ!何言うとんねん!
 露骨に安心した表情をする教頭。
 「ではこのビデオは学校が保管します」
 「それには及びません。別の同僚が向かっている途中です。もうすぐ到着する事でしょう」
 「もう着きましたよ」
 ドアが開き、スーツ姿の男が入ってくる。細身で長身。年は恐らく30過ぎ。
 「警察の岡田です」
 警察手帳を取り出す男。
 「加原に代わりまして、私が担当します。私は今回の関係者とは何の接点もありませんので、ご安心ください」
 そう言ってニヤリと笑う男。
 「では先生、改めてお話を伺えますか」

 結局、俺たちが解放されたのは放課後になってからやった。
 警察は夏美ちゃんには何の咎も無い事を納得してくれた。
 とりあえず安心や。
 ただ、教頭の俺らに対する印象が悪くなったのは間違いない。まあしゃあないか。
 一つ残る疑問。
 結局、警察に電話したのは梓ちゃんと村田のどっちやったんやろ。
 「田中君」
 振り向くと、幸一の親父さんが立っていた。
 「今日はありがとう」
 「いえいえ、こちらこそお世話になりました」
 「君のご両親とは仕事で何度かお世話になった事がある。よろしく伝えてほしい」
 「分かりました。ところで、加原さんに連絡したのは誰だったのですか?」
 「娘だ」
 梓ちゃんが連絡したんか。
378三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:52:47 ID:TxEfSWj7
 意外っちゃ意外や。
 幸一の親父さんは視線を逸らした。その視線の先には幸一と、梓ちゃんと、夏美ちゃんと、村田がおる。
 っと。時間がヤバイ。
 「アルバイトがあるんで失礼します」
 「気をつけて」
 幸一達に挨拶しようと思って止めた。
 寄り添う夏美ちゃんと幸一。
 邪魔するのは気が引けた。
 「ちょっといいかな」
 振り向くと、スーツの男女がいた。
 さっきの警察官。男が岡田さんで、女が西原さんやったと思う。
 岡田さんが近づく。細身に見えるけど、相当鍛えているのが分かる。
 「もう帰るのかい?」
 「ええ。アルバイトがありますので」
 「よかったら送るよ」
 西原さんに目配せする岡田さん。西原さんは背を向けて歩き去った。
 「駅前でいいよね?」
 「…何で知ってるんですか?」
 「田中先生ご夫妻には何度もお世話になっている。ご子息が駅前の居酒屋でアルバイトしているって聞いたよ」
 俺は天を仰いだ。警察に俺のこと知られてるんかいな。
 「文武両道だと聞いているよ。素晴らしい」
 「それはさすがに持ち上げすぎですよ」
 「高校で柔道部に入らなかったのは何でだい?中学では主将を務めたと聞いたが」
 胸が痛む。
 確かに俺は中学で柔道部の主将やった。大会でも公立にしてはいい結果を出した。柔道で有名な高校から誘われた事もあった。
 それを、引退してからやめた。手を引いた。
 「野暮な事を聞いてすまない」
 俺がこの話題を好まないのを察したのか、岡田さんは目を伏せた。
 「警察官の習性でね。気になる事があると聞いてしまう。申し訳ない」
 「いえ、気にしてません」
 大した理由は無い。
 幸一と俺はライバルやった。いや、俺が一方的にライバル視しとった。その幸一は中学の途中で辞めた。その後、幸一は市民体育館の稽古に参加するようになって信じられへんほど腕をあげた。
 気がつけば、柔道をする気を失くしてた。
 俺は中学で柔道を頑張った。血反吐を吐く思いで努力した。その結果が公立にしては優秀な結果。
 それでも、幸一の足元にも及ばへん。
 軽くクラクションが鳴る音。
 振り向くと、車を運転する西原さんが目に入った。多分、覆面パトカーやな。
 岡田さんは後ろのドアを開けて俺を見た。
 「ささ。座って」
 できれば前の席に座りたかった。俺は仕方なしに後ろの席に座った。当然のごとく岡田さんも後ろの席に座る。
 「西原。駅前まで頼む」
 「分かりました」
 車は動き出した。
 「岡田さん」
 「何かね」
 「ええ加減に本題に入ってくれません?」
 にやりと笑う岡田さん。
 「さすが田中ご夫妻のご子息だ。話がはやくて助かる」
 岡田さんという警察官がわざわざ俺を覆面パトカーに乗せて送る理由。
 俺に今回の事件の事を聞くか、あるいは他に用事があるか。
 「ふむ。どっちだと思う?」
 俺の心を読んだかのように尋ねる岡田さん。
 くそったれ。警察官ってこんなんばっかかいな。
 西原さんが小さくため息をつく。
 「岡田さん。田中君を脅さないでください。駅前まででしたらあまり時間がありませんよ」
 「すまない。田中君。聞きたいのは中村さんの最近の様子だ」
 何で警察が夏美ちゃんの近況を俺に?
 「あらかじめ言っておくが、私も西原も中村さんのお父上の捜査には関わっていない」
 胡散臭い。意味が分からへん。
 再び西原さんがため息をついた。
379三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:54:32 ID:TxEfSWj7
 「田中君。ごめんなさいね。岡田さんが質問すると尋問になっちゃうのよ」
 「…そうかな」
 肩を落とす岡田さん。
 「岡田さん。私から話します」
 西原さんは運転しながら話しだした。
 「今回の件は私達にとって屈辱的な事件なの。夏美さんのお父上だけじゃなく、勤務中の警察官二名が殉職し、駆け付けた非番の警察官も殺害された。にもかかわらず犯人は捕まっていない。
 同じ警察官が命をかけてまで中村さんのお父上を守れなかった。犯人を逮捕しない限り、彼らの魂は報われない」
 「それと夏美ちゃんの近況がどう関係あるんですか?」
 「私達警察は夏美さんのお父上の命を守れなかった。ここで娘の夏美さんまで守れないとなれば、殉職した警察官に顔向けできない」
 真剣な表情の西原さん。ルームミラーに映る西原さんの表情は使命感に溢れていた。
 隣の岡田さんが口を開く。
 「田中君。実は今日の学校の件も、私達が志願して向かった。正直言うと、今回の件に関して言えば私が捜査に関わるのは不適切だ。私は加原さんのご子息と柔道の稽古を通じて付き合いがある。それを隠して捜査に加わったのは、中村夏美さんの事を思ってこそだ」
 「梓ちゃん、いえ加原さんの娘さんは警察に連絡した際に夏美ちゃんの事を伝えていたのですか」
 「加原さんはそう言っていた。何でも、中村夏美さんに濡れ衣をかぶせる奴がいるから、力になって欲しいと」
 皮肉な事や。教頭の言う事は半分当たってた。
 岡田さんの言う事が全て真実なら、今日来た警察官はみんな夏美ちゃんの味方なわけや。
 俺の表情から考えていることを読みとったのか、岡田さんは苦笑した。
 「無論、捜査に私情を加えたりはしない。捜査は公正に行う」
 「それは幸一の親父さんに言われましたよ」
 思い出しても怖い。仮に俺が罪を犯したら、幸一の親父さんは俺を問答無用で逮捕するに違いない。
 「中村夏美さんの近況を聞く理由を納得してくれたかな」
 笑みを浮かべて尋ねる岡田さん。
 「半分は納得しました」
 俺の言葉に不思議そうな表情をする岡田さん。その表情から動揺は見えない。
 警察官ってのは役者ばっかかいな。
 「半分、とはどういう意味だい?」
 「お二人が夏美ちゃんの事を心配して力になろうとしてくれているのは分かりました。ですが、それだけではないですよね?」
 「何を根拠に?」
 「俺よりも適任がいますよ。幸一に梓ちゃんです。
 幸一は夏美ちゃんの恋人ですから、夏美ちゃんの最近の様子をよく知っているはずです。親父さんが警察官だから、警察に抵抗は少ないはずです。岡田さんとは知り合いらしいですから、聞き出すのに都合もいいです。
 梓ちゃんは夏美ちゃんのクラスメイトです。少なくとも俺よりも夏美ちゃんの様子に詳しいはずです。
 にも関わらず俺に聞く。おかしくないですか?俺は普段は夏美ちゃんと接する機会はほとんどないですよ」
 苛々する。こいつらの考えが読めてしまう。
 岡田さんは笑顔を浮かべた。人の良さそうな笑み。その裏にあるものはなんやねん。
 「それは勘違いだ。実はね、加原さんのお子さんからはもう既にお話をうかがっている。それに加えて参考になる様に田中君からもお話を聞きたいだけだ」
 「嘘ですね。幸一はつい最近まで体調を崩して家にいました。梓ちゃんから話を聞いたかは分かりませんけど、少なくとも幸一から話を聞いたってのは嘘です」
 これはハッタリや。学校の外で幸一と警察が話をしていたとしても、俺には分からへん。
 無表情になる岡田さん。
 「さすが田中先生ご夫妻のご子息だ。頭の回転はご両親譲りだ」
 俺のハッタリはきいたみたいや。その事実は俺にとって嬉しくない。
 なぜなら、俺の考えが当たっていることを示しているからや。
 「私達が田中君に聞きたい事も分かっているようだね」
 「…夏美ちゃんのお父さんを殺した犯人として、幸一を疑っているんですね。夏美ちゃんの事を聞くのは建前で、聞きたいのは幸一の事ですね」
 無表情に俺を見つめる岡田さん。西原さんは沈黙を保っている。
 「ここからは正直に言おう。私と西原が夏美さんのお父上の件に関して捜査に関わっていないのは本当だ。加原さんのお子さん二人からお話は伺っていない。無論、村田春子さんからもだ」
 幸一の交遊関係は把握しているみたいや。
 「何で捜査に関わっていないお二人が何で捜査のまねごとを?」
 「中村夏美さんのお父上の件は、不可解な事が多いの」
 口を開く西原さん。
380三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:56:39 ID:TxEfSWj7
 「厳重な緘口令が引かれ、捜査に関係ない警察官は一切の情報を知らされていない。外からの応援も不自然なほどに多い。一般的にね、外からの応援が多い時は単純に人手が足らないという理由もあるけど、その地区の警察官が信用できないという理由の場合もあるのよ。
 例えば、不祥事を身内ぐるみで隠蔽している場合とかね」
 確かに、現役の警察官の息子が警察官を殺害したとなれば立派な不祥事や。
 「にもかかわらず加原さんは捜査に加わっている。一般的にね、警察官の身内が事件の関係者の場合、その警察官は捜査に加わらないのが普通なの。それなのに加わっている。これは加原さんを泳がしていると考えるのが自然だわ」
 西原さんの言葉に胸糞悪くなる。
 「お二人はこう考えているわけですね。
 外からの応援が不自然なほどに多い。これはこの地区の警察内部で不祥事があった可能性がある事を示している。
 その不祥事は何なのか。夏美ちゃんの親父さんの事件に関係するなら、警察関係者が犯人か、あるいは犯人を手助けしているかのどちらか。
 捜査に加わっている面子を見ると、何故か幸一の親父さんがいる。被害者の娘の恋人が息子なのに、捜査に関わっている。
 息子が恋人のために警察官である父親に捜査の内容を聞く可能性があるのにもかかわらず、捜査から外されていない。
 その理由は何か?」
 俺は吐き捨てた。
 「幸一が犯人と思われるけど証拠がない。だから父親をあえて捜査に加え、息子のために何かアクションを起こすのを待っている。そういうわけですね」
 無言の二人。痛いほどの沈黙。
 沈黙を破ったのは岡田さんだった。
 「…君は田中先生ご夫妻をこえる弁護士になれる。私が保証する」
 その言葉を他の機会に聞けば嬉しかったに違いない。
 でも、今聞いても何も嬉しくない。
 「はっきり言っておきますけど、幸一が犯人のはずありません」
 「正直なところ、私もそう思う」
 岡田さんは無表情に口を開いた。
 「重傷を負った非番の警察官はオリンピック候補に選ばれるほどの腕前だ。幸一君の腕前は高校生とは思えないほどだが、それでも到底勝てない。動機もない。知る限りでは、中村夏美さんと幸一君の仲は良好で、中村ご夫妻も幸一君を高く評価している。
 何よりも、幸一君が殺人を犯すなど思えない」
 岡田さんは疲れたようにため息をついた。
 「私は幸一君と何度も稽古をした。まっすぐな少年だ。その幸一君が恋人の父親を、警察官を殺害するなんて考えられない」
 重傷を負った警察官の試合をテレビで見た事がある。
 はっきり言って、幸一よりも遥かに上や。
 幸一の腕前も大したものや。もしかしたら百回試合すれば一回ぐらいは勝てるかもしれへん。
 それでも、無傷で、何の証拠もなく殺害するのは不可能や。
 「田中君。いいかしら」
 西原さんが口を開いた。
 「私達が私的な捜査を行っているのは、加原さん親子の疑いを晴らすためでもあるの。私は幸一君の事は知らないけど、加原さんの事は知っている。警察官の鏡よ。その加原さんにあらぬ疑いをかけているとしか思えない今回の件。
 許容できる事ではないわ。殉職した警察官の魂も報われない」
 「…他にも疑わしい点はある。四人も素手で殺傷しておいて何の証拠もないなど、ありえない。犯人につながる何らかの証拠があるはず。にもかかわらず捜査の内容は一切公表されていない。進展も発表されていない。
 今回の事件は警察に対する批判は多い。二人も殉職している。事件からこれだけの日がたっても犯人は捕まっていない。にもかかわらず、捜査に加わっている者たちから焦りは感じられない。
 何が何だか分からないといのが私達の正直な考えだ」
 俺はため息をついた。とりあえず、この二人が幸一の敵やない事だけでも確認できた。
 「分かりました。可能な限り協力します。ですけど、お話はまた今度にしてください」
 怪訝そうに俺を見る岡田さん。
 「理由を聞かせてくれるかい?」
 「バイト。遅刻です」
 多分やけど、西原さんは話を聞くためにわざと遠回りしていたのだろう。
 おかげでバイトには完全に遅刻していた。
381三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:58:15 ID:TxEfSWj7
 苛々する。
 青い顔で震える夏美ちゃんを寄り添い支える幸一くん。
 「幸一」
 振り向くと、幸一くんのお父さんがいた。
 「田中君は帰った。よろしく伝えて欲しいと」
 そう言えば耕平君がいない。気がつかなかった。興味がないから、仕方がない。
 「夏美ちゃん。僕の父です」
 「幸一の父です。いつも息子がお世話になっています」
 淡々と自己紹介するおじさん。
 「え、えっと、中村夏美です。お兄さん、いえ、加原先輩にはお世話になっています」
 「中村さんは自炊しているのですか?」
 「え?ええと、カレーばかりです」
 「中村さんさえ良ければ幸一に料理させましょうか。こう見えて、なかなかの腕前です」
 気まずそうに頷く夏美ちゃん。いつも幸一くんに作ってもらっているもんね。
 「幸一。中村さんを送って行きなさい。今日の晩ご飯はいい。私も京子も外で食べる」
 頷く幸一くん。きょとんとする夏美ちゃん。分かっていないみたい。
 要するに、夏美ちゃんと食事をしていいという事。
 今日は大変な事があったから、できるだけ夏美ちゃんの傍にいるように、って事だろう。
 おじさん、気を遣っているんだ。
 「春子ちゃん。よかったら梓と一緒にご飯を食べてきてくれないか」
 眉をひそめる梓ちゃん。
 「分かりました。任せてください。今日は父も母もいませんから、助かります」
 「いつも本当にありがとう。私は署に戻る。気をつけて」
 そう言って背中を向けるおじさん。
 「あ、あのっ!」
 夏美ちゃんの声におじさんは振り向いた。
 「その、今日はありがとうございました」
 「警察官として当然の事をしたまでです」
 言いづらそうにうつむく夏美ちゃん。
 「その、お父さんを殺した犯人は、捕まりそうですか」
 夏美ちゃんの握りしめた手が震えている。
 私は梓ちゃんの表情を横眼で確認した。相変わらずの無表情。何を考えているか、推し量れない。
 幸一くんの表情を確認する。眉一つ動かさない。それでも、握りしめた拳は微かに震えている。
 「必ず捕まえます」
 断言するおじさん。静かな声なのに、力強さと頼もしさを感じる。
 それだけ言っておじさんは去って行った。
 残される四人。少し気まずい。
 「じゃあ僕たちは行くよ」
 「今日はありがとうございました」
 そう言って幸一くんと夏美ちゃんは去って行った。
 寄り添う二人の後ろ姿。
 胸が痛い。
 梓ちゃんは無表情に去りゆく二人を見つめていた。瞳は形容しがたい感情を放っている。握る拳が震えている。
 「梓ちゃん。行こうよ。今日はおいしいご飯にしよ。やけ食いしちゃおうよ」
 私は歩き出した。梓ちゃんも何も言わずについてきた。

 今日もお父さんもお母さんもお仕事でいない。
 私の家で梓ちゃんと晩ご飯を食べた。
 二人で食べたのは本当に久しぶりだった。
 食後のお茶を梓ちゃんに渡す。梓ちゃんは無言で受け取った。
 梓ちゃんの足元にはシロが寝そべっている。
 「梓ちゃん」
 私の問いかけに視線で応じる梓ちゃん。
 「何で警察に連絡したの?」
 あの時、警察に連絡しなかったら、夏美ちゃんは退学になっていたかもしれない。
 そうなれば、梓ちゃんは学校で幸一くんを一人占め出来たのに。
 「何となくよ」
 言葉短く答える梓ちゃん。
 理由は大体想像できる。もし夏美ちゃんが退学になれば、幸一くんはますます夏美ちゃんに構うようになるだろう。それは梓ちゃんにとって楽しい事ではない。
 もちろん、私にとっても。
382三つの鎖 26 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/24(火) 20:59:16 ID:TxEfSWj7
 「春子は何でビデオカメラを指摘したの」
 今度は梓ちゃんが質問した。
 理科準備室に隠すように置かれていたビデオカメラ。
 「おじさん気がついてたよ。多分、後でこっそり回収するつもりだったんじゃないかな」
 そうすれば、今日みたいに教頭と手間のかかるやり取りをする必要が無くなる。勝手に持ち出すのは良くないけど、悪いのは学校側だから強く言えないだろう。
 だから私はビデオカメラの存在を指摘した。どうせ後で警察の手に渡るなら、幸一くんに恩を売った方がいい。
 「春子」
 梓ちゃんは私を見上げた。
 「何であんな噂を流したの」
 心臓の鼓動が微かに大きくなる。
 「春子でしょ。夏美が化学の中本に父親の面影を見ているっていう噂を流したの」
 何で分かったのだろう。
 確かに私だ。それとなく噂になるように、噂のもとが私だとばれないように細心の注意を払った。
 噂の対象をあの教師にしたのは、あの教師が生徒に欲情する変態だと知っていたからだ。この噂を耳にすれば、きっと夏美ちゃんに迫ると思った。
 あの教師がこんなに早く行動を起こすのは予想外だったけど。
 梓ちゃんは無言で私を見つめるけど、やがて飽きたように立ち上がった。
 「帰る」
 そう言ってリビングを出る梓ちゃん。シロもその後ろをついて行く。
 私は玄関まで見送った。
 「じゃあね」
 私の言葉を無視して梓ちゃんは去って行った。
 自分の部屋に戻りベッドにうつ伏せになる。
 噂を流した理由。
 夏美ちゃんをもっと幸一くんに依存させるため。
 父親を殺され、クラスで孤立し、教師まで信じられないとなれば、夏美ちゃんはもっと幸一くんに依存する。幸一くんはそんな夏美ちゃんを見捨てられない。傍にいるだろう。
 そうなると、梓ちゃんはきっと爆発する。夏美ちゃんを傷つける。
 夏美ちゃんのお父さんを殺したみたいに、夏美ちゃんを殺すのが理想だ。そうなれば、幸一くんのお父さんが容赦なく逮捕するだろう。
 そうならなくても、夏美ちゃんと幸一くんの仲は今まで通りにはいかないだろう。
 どちらにしても、私に損は無い。
 寄り添う幸一くんと夏美ちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。
 夏美ちゃんを支えるように寄り添う幸一くん。幸せそうな夏美ちゃん。
 苛々する。
 梓ちゃん、はやく爆発しないかな。
 私の方が先に爆発しそう。



投下終わりです
読んでくださった方に感謝いたします
ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければご協力お願いします

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
383名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 21:37:15 ID:7OzbJg8B
警察も絡んだ超修羅場の予感gj
そろそろ結末に動き出すのか?
次回wktk
ヒロイン達に幸有れ…
384名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 23:30:18 ID:OZJRHnkZ
春子がどんどん壊れてくな…
夏美ちゃんだけは信じてるぜ
385名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 23:32:50 ID:TfLBy2va
教頭が変態教師をかばおうとするのは
学校の体面を守るために考えられなくもない態度だけど
証拠のビデオが見つかったあとまでそれを続けてるのが疑問に感じた
難癖つけてビデオを取り返そうとしてたけど
そんなあからさまな証拠隠滅を図ったら教頭自身の立場が悪くなるし
そこは手のひら返して責任を全て変態教師に押しつけるところじゃなかろうか
教頭自身の立場>>>学校の体面>>>>>>変態教師>>>(超えられない壁)>>>一生徒(夏美)
じゃね?

まあ本筋に関係ないところけど
主要キャラの心情が巧く描けてる話だから
教頭のキャラが薄っぺらく感じられた
386名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 00:12:51 ID:6BTJz+9w
春子は策士ですね。まさか2人を同時に排除しようとするとは…。もうちょっと春子はクリーンなイメージがあったんですけどね。
それに対して梓の不器用さがまた良いですね。全然これからの展開が読めなくて楽しみです


Great Job!
387名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 00:16:20 ID:eWPjbtn/
>>382
GJ!
春子、謀略キター

>>385
学校の体面>>>教頭自身の立場なんだろ
388名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:17:00 ID:URjOQF7N
定期投下乙!他は規制に巻き込まれてるのか…
389名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:18:04 ID:c8t9NkkH
120 : 名無しさん@chs 2010/08/21(土) 22:10:20 ID:z3jB1riY
初めてキモウトをかいてみましたが、何度投稿しようとしても規制に掛かってしまうのでこちらに投下させていただきます。
題名は「普通の兄弟でありたい!」です。
※若干性的表現あり
390名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:19:02 ID:c8t9NkkH
121 : 名無しさん@chs 2010/08/21(土) 22:11:06 ID:z3jB1riY
「__さん、今日飲み会があるけど。」
  夕方、私は喫煙休憩を終えて部署に戻ってきた会社の女の先輩に飲み会の誘いを受けた。
 ぼんやりとしていた私はその言葉で現実に引き戻された。
 ぼんやりとしていたはずなのにデスクワークをこなしていたあたりは、ワーカーホリックに近いのだろうか。

「ああ、ごめんなさい、今日用事があって…せっかく誘ってくださったのに、すみません。」

 会社の先輩の誘いを断るのは正直心苦しい。
 この心苦しさがなくなる方法は無いのだろうか?と常々思う。
 「あら、そうなの。」
 先輩はそれだけ言うと自分のデスクに戻っていった。
 新人ではなく中堅でもないが、淡々と作業していても注意されることが無くなったと思ったのは何時だっただろうか。 
 そんな事が頭に浮かびながら私は今日中に仕上げなければならない書類だけ一式そろえて、上司に提出した。
 そして自分のデスクに置かれたデジタル時計が定時を過ぎたのを確認すると帰り支度をした。
 「お先に失礼します。」
 "用事"という言葉が便利な言葉と思ったのは何時のころだろうか?
「ただいまー。」
私は玄関で靴を脱ぎ、自室へと続く階段をゆっくり上った。
階段を上りきり自室へと行く途中、私はある部屋の前で足を止めた。
そこは自分の部屋の廊下を挟んで向かい側は私のたった一人の兄ちゃんの部屋だ。
私は息を潜めてそのドアに手をかける。
391名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:22:04 ID:c8t9NkkH
123 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:13:07 ID:z3jB1riY
――イケル、かな?

兄ちゃんのいろんな表情が見たい、その欲求を抑えることが出来なかった。
どんな反応してくれるんだろうと期待しながら漫画に夢中な兄ちゃんの背中に抱きついてみた。
が、反応なし。
その上に寝そべってみた。
それも反応なし。

…もう!

業を煮やした私は後ろから兄ちゃんの耳を口に含んで、甘噛みをした。

「…っぉわ!、
 てめえ何しやがる!!」
そこでようやく兄ちゃんが振り向いた。

ガッ

同時に自分の左足に痛みが走った。
兄ちゃんは必要以上に近づかれると、蹴ったり、引っ叩いたりしてくる。
そんな兄ちゃんに悲しくなって私は泣いてしまうが、私は知ってる。
「兄ちゃん」という人を。
だから、今日は、これ位でカンベンしてあげる。
でも、罰は受けてね。
私は兄ちゃんの部屋を出ると、蹴られたことを母に報告した。
そうすると、兄ちゃんは両親から罰を受けるのだ。
いつだったか隣に寄り添って座って兄ちゃんの肩に頭を乗せただけで突き飛ばされた時は、夕食抜きになったこともあった。
一旦自分の部屋に戻り、着替えてから夕飯を食べた。
食べ終えた後、リビングに設置されたテレビを付けると毎週やっているありきたりな恋愛ドラマがやっていた。
私はそれを(ありえねー)と思いながら見ていたが、ふと自分の兄ちゃんに対する気持ちこそ、
ありえないと感じてしまいあわててその思考を払拭させた。
払拭させても、言い表せない切ない気持ちが胸の奥に残ってしまっていた。
『私だけの人でいてよ!どうして駄目なの?!』
テレビから聴こえるヒロインの恋敵の悲痛な台詞。
私はいつでも恋敵に感情移入してしまうのだ。
決して結ばれることの無い運命。それでも、望みをかけて相手を振り向かせようとする。
392名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:23:30 ID:c8t9NkkH
124 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:13:48 ID:z3jB1riY
ガタン

ふと、キッチンの方から物音がした。
物音がした方向に振り向いて見ると、兄ちゃんが冷蔵庫から水の入っているペットボトルを出してそれをラッパ飲みしているところだった。
風呂上りだろうか、毛先が濡れており、飲みながら時折滴る雫を首に巻いているタオルで拭っていた。
私は兄ちゃんの水を飲み込むたびに上下するのど仏に見惚れてしまっていた。
そんな私の視線に気づいたのか、
「お前、風呂入れよ。
 あと、俺の部屋に勝手に入んな。」
と言うと、さっさと自室へ戻っていった。
何時からだろう、兄ちゃんをそういう目で見るようになったのは。
思い出せないが直接のきっかけといえば、あの日のことだ。
高校時代から、私は、勉強道具を借りたり、漫画を読ませてもらうために
よく兄ちゃんの部屋に入り浸っていた。
あの日も、ただ、参考書が借りたくて部屋まで来たのだった。
「兄ちゃん、参考書、貸し…」
なんとなしに開けた兄ちゃんの部屋のドア。
そこで私の目に飛び込んできたのは、下半身を出して自慰をする兄ちゃんの姿だった。
「ちょ、おい、またかよ!!出てけよ、おい!!」
無断で入り浸る私を咎めるのと、羞恥で顔が赤くなっている兄の複雑そうな表情を見た私が
そのとき感じたのは、
”可愛い”
”兄ちゃんも男なんだ”
ということ。
普通なら気持ちが悪いはずなのに、そんな感情は全く湧かなかった。
当時、私には付き合っていた彼氏がいたが、その彼のことが霞む位、兄ちゃんが身近な男だということを実感した。
幸いなことに我が家では部屋に鍵をかけることが禁止されてる。
それに、兄ちゃんと両親との折り合いも悪い。
兄ちゃんに蹴られる度に私は母に誇張してそのことを報告する。
だから、兄ちゃんがどんなに私から離れたく思っても、そんなことは出来ないし、させない。兄ちゃんは、根が優しいから、根気よくあきらめなければ、受け入れてくれる。
私が兄ちゃんの性格を知り尽くしているから出来ることだ。
ほら、前は胡坐に座らせてくれなかったのに、今日は座らせてくれる。
「ねえ、兄ちゃんって優しいね…。」
うれしくて不意をついてキスしてみた。
瞬間、蹴られて追い出された。
いつもの光景。
そして、両親から兄ちゃんに向けられる「妹と仲良くしろ。」の言葉。
これもいつもの光景。
393名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:24:10 ID:c8t9NkkH
125 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:14:32 ID:z3jB1riY
兄ちゃんの部屋に入り浸り始めて何時からだろう、一緒に寝るようになったのは。
正確には兄ちゃんが寝入ったところに潜り込んでいるだけだけど。
これも、あと少しで、兄ちゃん公認で習慣に出来そう。
背を向けて眠っている兄ちゃんが可愛くて、愛しくて、思わず寝巻きの裾を捲りあげて、
素肌に触れてみた。その感触が心地よくて、その背にキスをした。
それだけでは足りなくて、強く吸ってみたり、舐めてみたりした。
ふいに眠っているはずの兄ちゃんが唸り、寝返りを打ってこちらを向いてきた。
おそらく、私の愛撫がくすぐったくて無意識に反応してるみたい。
兄ちゃんは、一度眠ってしまうと、よっぽどのことが無い限りは、起きない。
こちらを向いてくれた兄の寝顔を見つめてみた。
少し開いた口、捲り上げて、露になった胸板、すべてが愛しくて思わず、その一つ一つ丁寧に唇を寄せてみる。
兄ちゃん
兄ちゃん
好き
その言葉は紛れも無い私の本心。兄ちゃんに対してそういう意味での…。
私は兄ちゃんの少し開いた口に自分のそれを合わせて、ゆっくりとその隙間から舌を滑り込ませてみた。
(今は、こんなことでしかアナタを感じられないけど…いつかは…。)
気づくと、私はおへその下にある膨らみに触れていた。
両手で撫でる度に反応するそれに思わず笑みがこぼれた。
「…可愛い…兄ちゃん、好き――」
それから兄ちゃん自身に触れていた両手をズボンの中に忍び込ませて、今度は直接触れてみた。
熱い、でも、愛しいそれ。
刹那
「…っにしてやがんだ!」
兄ちゃんが飛び起きてしまった。うそっ、いつもは熟睡しているはずなのに…。
あわてて手を引っ込めた。
「手前、何、人の股間いじくってやがんだ…!おい。」
「なに言ってるの?兄ちゃん。」
こうなってしまったらあくまで白を切る。私は寝ぼけていたと兄ちゃんに主張する。「くそっ」
短髪の頭をガシガシ掻きながら、私をにらみつける。その表情に体が震えた。
私は思わず、声が出そうになったが、押しとどめた。
「お前、いい加減俺んとこ潜り込んで寝るの止めろ。」
「じゃあ、一緒に寝ていい?」
間髪いれずに兄ちゃんに言った。その後言われる内容を想定してしまったから。
「バカ。いい年してみっともないし、一緒に寝たければ彼氏と寝ろよ。」
何言ってるの?そんなこと言わないでよ。
「それに俺なんかキモいだろ。そんな兄貴と一緒に寝てるなんてどう考えてもおかしいだろ?
 判ったら、自分の部屋で寝ろ。」
彼氏?キモい?
「それに、俺付き合ってる彼女いるから。」
は?モテナイくせに何言ってんの?
結局その日は一人で寝ることになったが、頭の中で兄ちゃんが言ったことが渦巻いて一睡も出来なかった。
394名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:25:01 ID:c8t9NkkH

126 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:15:24 ID:z3jB1riY
そして数日後、兄ちゃんは「彼女」を連れて来た。
その時私は居間で母とお煎餅を食べながらテレビを見ていた。
「あー、えーっと、紹介するよ――さん。」
兄ちゃんが「彼女」を紹介している声が遠くのほうで聞こえる。
兄ちゃんの隣には私と同じ年ぐらいの女。
私はこの女が本当に「彼女」なのか観察してみた。
「…―――。」
コイツ「彼女」じゃない、なぜかそう確信できる。
これが所謂「女のカン」というモノなのだろうか。
一見、親しい関係のようだが、微妙な「距離」を感じる。
何を思ってこんな女を当てたのか、モテナイくせに。
とにかく、兄ちゃんの隣にいる女は「彼女」じゃない。
確信してから、兄ちゃんの彼女工作する姿を想像して思わず心の中で苦笑した。
そんな事してもムダなのに。
必死で彼女をアピールする兄ちゃんの姿が可愛くて可笑しくて思わず鼻で笑ってしまった。
その時兄ちゃんがチラッと私を見た。
私の反応を伺っているのだろうか、それとも、私がニセ彼女を見破ってないかどうか伺っているのだろうか。
兄ちゃんのその反応が真実を物語っているというのに。
女が帰った後、兄ちゃんの部屋に行き単刀直入に言ってみた。
「今の、彼女じゃないでしょ?」
「な、に言ってんだよ、彼女だよ。
 なんで、そう思うんだよ。」
「女のカン。」
「ん、だよ、根拠ねーじゃんかよ。」
往生際が悪い。
私は兄ちゃんの言葉を無視して続けた。
「どうしてそんなことするの?
 そんなに私の事嫌い?」
「〜〜あのなぁ、お前は妹だぞ?」
「だから、何?」
「お前はただ、身近な男の兄である俺にちょっかい出してるだけだよ。」
どうして?
どうして?どうして?どうして?

(私だけの人でいてよ!どうして駄目なの?!)頭の中であのドラマの恋敵が言った台詞がよぎった。

そしてある日、仕事から帰ってきたら兄ちゃんが居なくなっていた。
395名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:25:48 ID:c8t9NkkH
127 : 名無しさん@chs 2010/08/21(土) 22:17:02 ID:z3jB1riY
以上です。
短編なんですが、思ったより長くなってしまったので今回はここまでです。
また近いうちに投下します。
396名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:27:51 ID:c8t9NkkH
続きも投下されていますが
連投になりそうなのでひとまずここまでにします。
397名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 01:28:49 ID:dwx+qbi7
おお
先が気になってたまらんな
398名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 02:01:14 ID:9V0Umy4b
>>396
代行乙といいたいが1レス抜けてない?
399名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 02:15:11 ID:c8t9NkkH
ほんとだorzなんでだろう
読みにくくなって申し訳ない

122 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:12:20 ID:z3jB1riY
今日も職場で自分の仕事をこなす。
自分がまるで上司や会社から与えられた仕事をこなすだけの機械みたいだと思った。
 兄ちゃん、何してるんだろう…。
こんなとき思い浮かべるのは兄のことだった。
3つ年上の私の馴一(じゅんいち)兄ちゃんは、高校を出て就職したが、職場が合わず退職。
それ以後はフリーターをしている。
私は短大を出て実家から通勤できる会社で働いている。
世間から見たら、ごく普通の成人した兄妹。
よっぽどの事が無い限りは定時で帰宅しているが、それに対して文句を言われたことは無い。
そして仕事先から帰宅して荷物だけ自分の部屋に置いたらまず兄ちゃんの部屋に行く。
これは私の日課。
 何時からだろう、こんなに兄を思い浮かべるようになったのは。
兄ちゃんなんてただ、ウザイだけの存在だった。
根暗で、だらしが無くて…
それが…どうしてなんだろう。
時折ドキッとするくらいかっこよく見えてしまう。
 今日も会社から帰宅して真っ先に兄ちゃんの部屋へ行った。
ドアを開けると、兄ちゃんはベッドの上でうつぶせになって漫画を読んでいた。
その様子を見て思わず笑みがこぼれた。
(やばい…顔がにやける。)
そこに兄ちゃんがいる、たったそれだけのことなのに。
「兄ちゃん、何読んでるの?」
とりあえず、話しかけてみた。
「あー?いいじゃん、別に何読んでても俺の勝手だろ。」
そう言ってる間に私は兄ちゃんの隣に座った。
兄ちゃんはこちらを振り向かない。
私はじっと、兄ちゃんを観察してみた。
私の兄ちゃんはいわゆるモテナイ君で彼女なんて、出来たことが無い。
これは断言できる。女の影が全く無いもの。
ただ、兄ちゃんはもう少し、お洒落とかに気を使えばモテルと思うのだ。
それも断言できる。だけど、それは本人には絶対言わないけど。
兄ちゃんの短く刈り込まれた頭髪や後姿を見つめながら、ふとイタズラ心がわいてくる。
400名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 04:32:16 ID:QIsGxrd5
>>399
作者も代理投下者も乙
そしてレス抜けに気づいた人も乙(^^;
401通りすがりの代理投下:2010/08/25(水) 05:13:57 ID:MADem/P7
131 : 名無しさん@chs 2010/08/24(火) 18:43:33 ID:/udSiF4E

「普通の兄妹でありたい!」の者です。
やはり規制で書き込めないのでこちらに続きを投稿させていただきます。
※若干性的表現あり
402普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:16:26 ID:MADem/P7
一人暮らしをはじめて半年が過ぎた。
もともと、親との折り合いが悪く、自分のことや炊事洗濯はやってたから、苦にはならなかった。
むしろ慣れない事のほうが少なくて我ながら吃驚した。
アイツは元気だろうか…。
いやいや、アイツのためだ。
これで良い、これで良いんだ。
俺は無造作に置かれていたリュックサックを手に取り、仕事へと向かった。
アイツは俺がフリーターだと思っているはずだ。
俺はアイツに気づかれないように慎重に就職活動を進めてきた。
移動資金とアパートの契約料を貯めるのに時間は掛かったが、できるだけ遠くに行きたかった。
できるだけ遠く。
アイツに気づかれないように。

部屋に入り浸る妹がうざくなかったと言えば嘘になる。
実際、うざかった。
それに対して内心喜んでる自分がいやだった。
いつからか、布団に潜り込んでいて、あれは本気で嫌だった。
兄貴の体にキスマークつけるかフツー…
ただ、あの頃は打てば離れていくと思っていた。
本当はそんなことしたくなかった。
限界だった。
こんな状態のままじゃだめだ、俺もアイツも。

だから家を出る事にしたんだ。

幸い、雇ってくれる仕事先が見つかった。
給料は以前働いていたころと比べると低い(多分アイツの給料よりも低い)が贅沢は言ってられない。
それに人付き合いがあまり得意でない俺でもできそうな仕事と上司がいい人なので、やりがいも感じてきた。
…ったく、何で俺がこんなことをしなきゃならんのか。
俺だって人並みに女性と食事したり友人と旅行に行きたいんだ。
さて、明日は休みだ。
ゆっくりゲームでも…。
俺は部屋の鍵をドアノブに挿した。
?
開いている。
俺は鍵を掛け忘れたのかと思いながら自室に入るとそこには居るはずのないアイツが居た。
403普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:21:32 ID:MADem/P7
「―――お帰り、兄ちゃん。」
な、んで。
「ご飯もう少ししたら出来るから待ってて。」
なんで。
何でだよ。
何でアイツがここにいるんだ?
「今日は兄ちゃんが好きなゴーヤのチャンプルだよ。
 どうせ、コンビニ弁当しか食べてないんでしょ?
 あとは、チキン南蛮とネギトロのサラダ作ったから。」
「あ、ああ。」
テキパキと夕食の準備をする妹に圧倒された俺は従うしかなく、結局何も言えないまま出された料理を食べた。

「ねえ、何で私がここにいるのか不思議で仕方ないんでしょ?」

だが、先に切り出したのは妹のほうだった。
食事と洗物が済んで一息ついたところだった。
妹は腕を組みながら頭を傾け俺を見つめた。
傾けたときに妹の長い髪がサラリと彼女の頬を流れていった。
俺は声を出そうにも釣上げられた魚のようにただ口をパクパクすることしかできなかった。
「兄ちゃん、ご丁寧に住民票移したんだね、そこから調べればすぐに判った。
…思ったより時間かかっちゃったけど。」
そこまでする必要あるのかよ。
「大家さんに『身内だ』って言ったらすぐに合鍵くれたわ。」
何が目的なんだよ。
俺を一人にさせてくれよ。
自立させてくれよ。

「…帰れよ。」
「帰るにしても、この辺の最寄駅から新幹線の駅へ行くまでに終電が出ちゃうわ。」
「…お前、仕事は?」
「辞めたわ。
 あ、心配しないで、こっちで職場見つけたから。
 兄ちゃんを見つけるのは何てことなかったけど、職場を見つけるのに苦労したのよ?
おかげで半年も掛かっちゃった。」
404普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:24:45 ID:MADem/P7
絶句
聞きたい事は山ほどあったが、それを声に出す事が出来なかった。
ただ判ったのは、俺の居場所なんて簡単に見つかってしまっていた事だ。
だが、住民票を移した覚えはないぞ。
「もともと、あの会社は辞めるつもりだったし…。
だから、しばらくここに居ていいかしら?
 二人で住めるくらい広い部屋は、また落ち着いてから見に行きましょ?」
眩暈がした。
妹が何を言っているのか理解出来なくなっていた。

「は、はは…。」

なぜだか笑えてきた。
ただ、理解できる事は妹が俺の部屋にいることだった。
ああ、俺だって人並みに彼女を作って友人と旅行したりしたかった。
そりゃ、人付き合いは苦手だが、幸い職場で部署は違うが気の合う同年代の野郎と仲良くなれたと思っている。

そんな事が脳内を駆け巡っていると気がつけば翌日の朝になっていて、自分のベッドで妹と向かい合って眠っていた。
枕元に置いた時計を見ると、まだ6時前。
外は薄暗い。
俺は夕べから起こった出来事を思い出そうとしたが、その記憶は曖昧になっていてよく思い出せなかった。
それから数分して、ぼんやりとだが、妹と一緒に狭い浴室に入った事や背中を流してもらった事、
体を拭いてもらって寝巻き代わりのスウェットを着せてくれた事の記憶の断片映像が甦って来た。
いい年して何をしているんだ。

なんか今までしてきた事が馬鹿らしく思えてきて、俺は寝床から起き上がり、部屋を出た。
気づけばアパートの近くを流れている河川の堤防を歩いていた。
堤防の河川側へ降りて河川沿いに腰をおろした。

一体、何のために俺はこんな地まで来たんだろう。
一体何のために…
何のために…
405普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:29:26 ID:MADem/P7
一度出直すか…俺は元来た道を戻ろうと立ち上がった瞬間立ち眩みがした。
しまった…。
後ろは河川が迫っている。

まあ、このまま落ちても良いか。
そう思いながら目を閉じたが、いつまでたっても体が濡れる感触は訪れなかった。
俺は川に落ちなかった。
ゆっくりと瞼を開けると、見覚えのある人物が抱きついていた。
妹だ。

「…何してるの?」

「立ち眩みしただけだ。」
どうしてここが判ったとは聞かなかった。
どうせ、捉ってしまうのだから。
「そんなに、吃驚した?」
「…。」
「…ふふっ。
 ねぇ、何時、部屋見に行く?
 あ、そういえば…」

「…兄ちゃん、聞いてる?
 聞いてないでしょ、私の話。」
妹は俺の顔を覗き込んだ。

「…帰るぞ。」
早くこの場から逃げ出したかった。
いや、むしろ妹から離れたかったが、そうもいかないので、妹を促そうとした。
そんな俺の腕を、妹がものすごい力で掴み引きとめた。

「車で、来たから。」

俺は妹が自家用車を所有している事を忘れていた。
促して帰るつもりが、逆に促されてしまった。
俺の手を引く妹がなぜか、遠く感じた。
助手席に促され、俺のアパートまで帰ると思いきや、町外れの安ホテルの一室に連れ込まれていた。
途中降りて逃げようと思ったが助手席のドアはチャイルドロックされており、降りることが出来なかった。
ホテルまでの道中、帰る方向が違うと言ったが、それも聞き入れてもらえなかった。
よく考えたら、夕べも自家用車で来ているのならそれで帰れと言えば良かったんだろうか。
いや、帰るはずが無い。
406普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:33:04 ID:MADem/P7
「…何のつもりだよ。俺、金もってねーよ。」

「ココでなら、ゆっくり話せそうだから…。」
ゆっくりと振り向いた妹の顔に、畏怖を感じた。
その瞳は俺を見つめてはいるが、どこを見つめているのかわからなかった。
「ねえ、あなたは私のこと嫌いなの?
 私はあなたが好きです。
 ずっと、ずっと…。
 あなたは…?」

「だから、それは…」

「私は、あなたの気持ちが聞きたいの。」
言葉を遮られた。
「…。」
今、目の前に居るのは一体誰なんだ?
妹の形をした異物に見えた。
だがしかし、兄貴に好きかどうか聞く事自体が馬鹿げてる。
こいつは俺の妹で…好き嫌いと聞かれたらもちろん前者だ。
だが、こいつが聞いているのは…。
どう考えてもおかしいだろ。
「俺はお前より収入低いし、キモオタだし、親にも嫌われているからな。
 それに比べて、お前は頭良いし、欲しいもの…」
「私は兄ちゃんが欲しいの。」
俺の言葉は鋭利な妹の言葉に遮られてしまった。
「お前みたいな美人が俺の事好きなはずねーだろ!」

「俺は兄貴だろーが、お前みたいな綺麗で頭のいい女が好きなんていうのは俺が兄貴だからだろ!
 勘違いすんな。」
何言ってんだ俺。
支離滅裂じゃねえか。

「ちくしょー…ちくしょー…。」

俺は膝から床に崩れ落ちた。
妹は中腰になり、俺を抱きしめた。
407普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:37:43 ID:MADem/P7
「ねえ、ジュンイチはワタシのこと好き?嫌い?」
妹は俺を抱きしめながら、耳元でさっき言った言葉を囁いた。

「私はずー…っと好きだよ。これからも。」
妹の唇が俺の耳朶をなぞっている様に感じた。
「俺の事は諦めてくれよ。
 お前なら、いい男できるよ。」
「そんなの要らない。」
間髪いれずに遮られた。
「…っ、俺はモテネーし、キモいし。何が良いか…」
「全部。」
妹は俺の目を見つめながら即答した。
妹の目はそれを反らす事は許さないといった迫力があった。
何度も同じ事を言うなと無言の圧も感じられた。
何も言えずにただ呆然と妹の目を見つめていたら突然キスをされた。

「だから兄ちゃんはモテナイんだよ。」
妹は首を片側に傾けて微笑んだ。

「そうやって何時までもグチグチとしてるから兄ちゃんモテナイんだよ。
 私はそんな兄ちゃんも堪らなく好きだけど。」

「モテナイクセにカッコつけちゃってさ、私に彼氏作れ?
 兄ちゃんのせいで彼氏作れなくなっちゃったんだよ?」

「この半年私がどんな思いだったか理解できる?
 もう、兄ちゃんなしじゃ生きていけないよ?」

「兄ちゃんだってずっと私の事気にしてたくせに…。」

「バレてるのよ?あなたの気持ちなんて…。」

「それにね、蹴ったり打ったりされた時兄ちゃん、顔とかお腹には絶対に打たなかった。
 知ってるよ。」

「いい加減素直になってよ…。」

俺は…。
俺は弱虫だから、壊れるのが怖かった。
408普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:42:52 ID:MADem/P7
「お前は、妹だよ…。
どうあがいたって他人にはなれない。」

「そんなの、判ってる。」

「判ってないよ、お前は。」
「だって…。」

「俺は嫌いだよ。
 どこに行くにも着いてくるし、ナニは見られるし、オナホやおかず本捨てられるし、合コン行くの妨げられるし。」
俺はそう言うと、妹は顔を上げてまた俺の顔をジッと見つめてきた。
「キモイ兄貴とばっかと居ちゃ、お前の将来が駄目になると思った。」

何が良いのか何が駄目なのかもう判らなかった。
「…嫌いだよ。」
「ウソツキ。」

「ウソツキ。」
妹は二回言うと、俺を抱きしめてきた。

「もう、何も言うな。」

今度は俺が妹の口を自分のそれで塞いだ。

すべてが白く霞んで見えてきた。
真っ白なペンキを勢いよくぶちまけるような感じだった。
ただ、白いのに何も見えないのに柔らかくて、暖かかった。

「」

気づけば夜中の丑三つ時を過ぎていて、目の前にいる女はまだ満足していないかのように喘いでいる。

「あっ、馴一好きっ、好き…!」

いつの間にか俺を呼び捨てに叫び、一心不乱に俺を求める妹。
俺は自分の中にある砦がまだ聳え立っているのを感じていた。
しかしその砦はある一言でたちまち崩れ落ちてしまう。
言ってしまえば楽にはなれる、だが…。
心のどこかで弱虫な自分が、言うなと叫んでいた。
もう、後戻りできないところまで来ているというのに。
409普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:46:37 ID:MADem/P7
「ふぅっ、好き、大好きっ。
ずっと、そばに、いて、よ…!」

コイツはこんなにも愛情表現をしてくれているのに、俺はそんな妹に対して言い知れようの無い違和感と畏怖を感じた。

それから。
何度、逝ったんだろう。
さすがに頭がぼやけて来た。
意識が朦朧としている。
だから、箍が外れてしまったのかもしれない。
それは妹と向かい合うように抱き合ったときに無意識に出た言葉だった。
言うつもりなんてもちろんなかった。

「…愛してる。」

その言葉は俺にとって死に値するものと等しくて…。
なのに…
俺は自分が何を言ったのか一瞬理解ができなくてはっと妹の顔を見ると、目から大粒の涙を流していた。
それから、妹は俺のその言葉を聴いて安心したのかのようにそのまま気を失った。
俺は妹からゆっくり離れて改めて時計を見ると、朝の6時を回ろうとしていた。
もう、何も考えたくなくて俺もそのまま眠りについた。
410普通の兄妹でありたい!:2010/08/25(水) 05:50:41 ID:MADem/P7
兄ちゃん、やっと見つけた。
もう、離れたくない、離したくない。

兄ちゃんに近づく女は許さない。
兄ちゃんと二人きりの生活…。

兄ちゃんと添い遂げたい、一生面倒見てあげたい。
兄ちゃん、馴一、ジュンイチ。

ああ、好きよ。
好き。

このまま時が止まってしまえば良いのに…。
____________

アパートに戻る途中見つけたチェーン店で一日ぶりの食事を採った。
食べている間中向かい側に座っている妹にじっと見られている気がして、なるべく妹のほうを見ないようにして食べた。
それからアパートに着き2人掛けのソファに腰を下ろた。
そのときに気がついたが思ったより体力を消耗していたらしい。
帰ってきて急に疲れが出てきた。
暫く休憩をしていると、隣に妹が寄り添うように…俺の腕を抱きしめるように座ってきた。
コイツは疲れていないのだろうか、そう聞こうと思ったが止めた。
今日はもう、ゆっくり休みたかった。
俺はふと本当にこれで良いのか自問自答してみた。
それに…
ああ!
この2日の間で俺の決意は崩れてしまった。
今はこれで良いと自己暗示してみたものの…。
いつかそれが無意味なものになってしまうのではないだろうか…。
わかんね。
妹は俺を見つめていたらしく俺と目が合うと、笑顔を浮かべた。
今の俺には妹のその笑顔が苦しく感じた。
それに、
休日は今日までで明日から仕事へ行かなければならない。
ため息が出た。



普通の兄妹でありたいのに、俺は妹から逃げられない。
411通りすがりの代理投下:2010/08/25(水) 05:56:51 ID:MADem/P7
141 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/24(火) 18:55:04 ID:/udSiF4E

以上です。
10レスも使ってしまってすみません。
なお、本スレへは、規制のため投稿していません。
どなたか転載してくださる方がいましたらお願いします。


というわけで代理投下終了。
141 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/24(火) 18:55:04 ID:/udSiF4E
↑は読みやすさ優先で省略させてもらった。

こういう健気で一途なのはいいな……ああ……
412名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 10:29:39 ID:2oj0UTqR
代理も作者もお疲れ様です
妹を重荷に感じながらも惹かれていく兄の心情が面白かった
413名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 11:16:16 ID:p6bWQ0Nl
>>411
乙です。これはいいキモウトでした!
414名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 12:19:21 ID:WvH5R2Fm
>>385
どうなんだろ?学校の不祥事は学校、学校に関わる者の評価を落とすと思うけど
一切不祥事をだしたくないっておもっているかもしれない
実際にいじめで自殺した生徒が出ても担任の、学校の責任にしないしね


それにしてもGJ!春子が裏でこそこそしてるのがいいかんじ
415名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 12:29:32 ID:WvH5R2Fm
>>411
確かにキモウトだが、兄もそうとうだなw
こんな妹が欲しかったぜ

作者、投下代理もGJ!
416名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 20:38:24 ID:jKelWITP
>>415は今ごろ実姉と妹プレイの真っ最中か……
417名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 21:21:46 ID:eWPjbtn/
姉を差し置いて年上の幼なじみにお兄ちゃんと呼ばせてる最中かもしれん
418名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 08:21:22 ID:xDDu5EZU
姉のような妹
妹のような姉
これは俺の中で始まったかも試練

姉弟(兄妹)のような幼なじみはもう卒業さ
419名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 13:08:55 ID:PgNQsNCz
>>418の父と幼馴染みの母が再婚すると聞いて
420名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 16:00:48 ID:16xrbMbd
>>419
そんなこと書いてません。
421名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 16:49:43 ID:u6M0hWuC
だよな
これからは姉弟のような夫婦になるんだから
422名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 22:46:29 ID:PHTe/1kO
SSという文字だけで、
姉のような妹、妹のような姉を表現するのは難しいな。
身体的表現では、
標準身長の兄よりも背が高く胸もある妹、
    //   背が低く胸もない姉、
性格的表現では、
世話焼き、甘えさせようとしてくる妹、
ドジっ娘、ことあるごとに甘えてくる姉、

こんな感じか?
キャラ的には既出だろうけど
423名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 23:39:57 ID:3MPoiPez
いや、過去にタイムスリップして
精神的には兄のような弟とみた
424名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 23:54:07 ID:Yjs8/OZ/
ねんれいのほうそくがみだれる!
私は妹でも姉でもない!私は貴様を愛する者だ!
425兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:16:35 ID:1TuZg/SP
ちょっとしたネタを投下していきます。
兄懇は「ぶらこん」、巌は「いわお」とお読みください。
426兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:18:39 ID:1TuZg/SP

「うん、今日のお弁当はこんなものですね」
 うなずいてから、長峰かぎりは弁当箱の蓋を閉じた。

 朝の七時。まだ家族の誰も起きてこない時間に、彼女は台所で一人で昼食のお弁当を用意していた。
 オレンジ色のプラスチックの弁当箱と、アルミ製の弁当箱。
 アルミ製のものは大きく、プラスチック容器の二倍ほどの大きさがあった。
 容器のそれぞれにゴマを振りかけた白米と、作ったばかりの色とりどりのおかずが詰まっている。
 なぜ二つの弁当箱を、長峰かぎりが用意しているのか。
 彼女が大食らいで、容器が小さいから仕方なく弁当を二つも用意している、というわけでは無い。
 そうではなく、弁当を二つ作らなければいけないからこそ、そうしているのだ。

 長峰かぎりには、高校生になってもまだ放っておけない、一つ年上の兄が居た。
 名を長峰巌。
 その名前には似つかわしくない外見をした、中肉中背の男子高校生。
 中身が冴えているか冴えていないかはともかく、彼は食事に関して無頓着だった。
 昼食時間に眠たければ、昼寝をして昼食をとらない。
 一週間分の昼食代をまとめて渡せば、一日や二日で残らず消費する。
 用意する昼食といえば、学食やコンビニで購入した、まるでお菓子のようなパンのみ。
 かぎりはそんな兄と対照的に、食事には気を遣う質だった。
 自然、彼女は自分で弁当を作るようになった。
 兄の無頓着振りに不満を覚えていたかぎりは、ある日兄にこう告げた。

『今日から、兄さんの昼食は私が作ります。文句は受け付けません!』

 動機はそんなものであった。
 しかし、弁当を作り続ける理由は不満から来るものではなく、かぎりの健気さから来ていた。
 長峰家には、仕事の都合で世帯主の父親と母親が家に居なかった。
 他に兄の弁当を作ってくれる人間が居なかったため、かぎりは兄の弁当を作り続けた。
 兄さんを放って置いたら、いつの間にか駄目になってしまう。妹の私がやらないと。
 そんな思いでいたが、弁当を作り続けているうちに、いつの間にかかぎりの心境が変化した。

 かぎりが己の心に染みついた思いを自覚するのは、巌が高校の修学旅行に出掛けたときのこと。
 巌が旅行に出掛けた翌日の朝、かぎりは二人分の弁当を作っていた。
 一日目こそ、たまたまドジをしてしまったのだと考えられた。
 しかし、二日、三日と過ぎていくうちに、その考えは覆った。
 弁当を作っていても、物足りない。いつもに比べて張り合いがない。
 しまいには作る気が湧かなくなってしまったのだ。
 かぎりの心の中で、巌の弁当作りは大事なものとなっていた。

 そのことを自覚してから、かぎりは兄の弁当作りに以前より力を入れて取り組むようになった。
 兄が自分の料理に飽きないように。兄が残さず食べてくれるように。
 いくつもの工夫と試行錯誤を繰り返してまで、かぎりは弁当を作った。

 かぎりは気付いていなかった。
 自身の心の中で、兄への想いがどれだけ大きくなり、歪んでいるのか。
 気付くきっかけがあっても、彼女は認めなかったかもしれない。
 かぎりにとって、巌は世話のかかる兄でしかなかった。物心ついたときからずっとそうだった。
 いつまでも兄と一緒に居たいという思いが深層心理にある。
 そんな事実は、模範的な学生であろうとするかぎりにはあまりにもショックで、受け入れ難かったはずだ。
427名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 01:21:17 ID:N4PATOH+
>>422
「弟君!妹ちゃんがいじめるの!助けて!」
「そこで兄さんに抱き着かない。そんなだから、私より年下に見られるのよ?」
「ひどーい!・・・でも、実年齢より上に見られるよりいいもん」
「な!私が老けてるって言いたいわけ?!」
「あ〜、自覚あるんだ〜」「くっ!それでも、胸も背もない姉さんよりもマシよ!」
「妹ちゃんが中学生のくせに大き過ぎるだけでしょ!この・・・大女!」
「大学生にもなって、補導された姉さんに言われたくないわ」
「弟君、妹ちゃんがひどいこと言うの。慰めて・・・」
「兄さんも大変でしょ?こんな幼女の相手ばかりして・・・嫌なら、はっきり言ったほうがいいわよ?」
「そんなこと無いもんね〜だ!弟君、私のこと嫌じゃ無いよね?お姉ちゃんなら甘えさせてあげるし、甘えてあげることも出来るよ」「姉さん、いつも兄さんに甘えてるだけじゃない。そんなエセ幼女より、私のほうがいいわよ。出るとこ出てるし、肌も綺麗だし」
「ワタシヨリオモイクセニ・・・弟君、お姉ちゃんなら年上の包容力があるよ!それに、合法ロリだから、私に何しても許されるんだよ!」
「ナイチチガナニイッテル・・・兄さん、成熟した身体に年相応の初々しさを持った私のほうがいいわよね?」
「コノコムスメガ・・・弟君、お姉ちゃんのほうがいいよね?」
「トシマハヒッコメ・・・兄さん、私だと言って」


「選ぶ以前に、俺達兄弟だから!てか、心の声漏れてて怖いし!道のど真ん中で、恥ずかしい言い合いするな!そして抱き着くな!」




思い付いたから書いてみたけど、余りキモくならなかった
今は反省している
428兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:21:23 ID:1TuZg/SP

 昼食時間を報せるチャイムが鳴った。
 教師は授業の片付けを始め、早々に出て行った。
 ただ、黒板に書いた文字を消すことだけはしなかった。

 長峰かぎりはカバンの中から素早く弁当箱を取り出した。
 自分のものと、巌のもの。
 二つを重ね、両手で大事そうに抱えながら、巌の居る三年の教室へ向かう。
 かぎりはほぼ毎日、昼休み時間には兄の居る教室へ向かって、弁当を手渡しする。
 家で渡してしまえばいい、とも考えたりするが、そうすると家に忘れるのでは、という不安が生まれる。
 そのため、かぎりはこうして昼休み時間を削ってまで兄の元へ向かうのだ。

「はい、巌君。あーん」
「いいって。すぐに妹が弁当持ってくるはずだから」
 三年の教室に辿り着いたかぎりが見たのは、自分の席で待っている兄の姿。
 それと、その兄に弁当を食べさせようとしている、兄の同級生の女。
 巌はまだ、かぎりがやってきたことに気付いていない。
 というのも、同級生の女が巌の顎を掴んで離さないからだった。
「こんな時間になっても来ないんだから、今日はきっと来ないわよ」
「まだ五分も過ぎてないし。ほんとにいいって。……悪いからさ」
「遠慮する事なんてないってば。はい、あーん」
 食い下がる同級生を前にして、とうとう巌は、差し出された卵焼きを口にした。
 その瞬間を、かぎりははっきりと見つめていた。
 
「あっ……」
 兄さんが卵焼きを食べている。
 私も、作ってきたんですよ、卵焼き。ねえ、兄さん。
 心の中で言っても、誰もかぎりの声には応えてくれない。
 巌は、かぎりの傍ではなく、同級生の傍に居るのだ。
「どう? 美味しいでしょ?」
「まあ、悪くはないかな。でも」
「でしょでしょ? じゃあ次はおにぎりをどうぞ。はい、あーん」

 やめてください、兄さん。
 兄さんのお弁当は私が作っています。
 人様の作ったお弁当を食べるなんていけません。
 兄さんの好みを知っているのは私だけしか居ないんです。
 私の作った、美味しいお弁当を食べたくないんですか?

「……うん、これもなかなかの塩加減。でも、やっぱり妹の方が――」
「もう巌君ったら! そんなに褒めてもらっちゃ困っちゃうよ」
 二人の周りにいる人間が、冷やかし始める。
 バカップル。恥ずかしいから屋上に行け。喧嘩売ってるなら買うぞ。
 それら全ての声に紛れ、巌の声はかき消される。人垣で姿まで見えなくなる。

「……ここに置いておきますね、兄さん」
 巌の弁当を手近にあった机の上に置き、かぎりはその場から立ち去った。
429兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:23:18 ID:1TuZg/SP

 かぎりの毎日の習慣は、兄と一緒に帰宅することだった。
 下駄箱置き場で兄がやってくるまで待っている時間は、退屈でもあったが、楽しみでもあった。
 今日学校でどんなことがあったのか、今日の晩ご飯は何にするか。
 そんな他愛のない話をして、たまに買い物をして家に帰る。
 巌が用事で遅れる時は、待ち続けることはしない。
 だが、そんな日の帰宅の道は何も面白みがなく、退屈だった。
 今日もそうだった。かぎりは一人で帰宅していた。
 ただし、今日はいつもと事情が違っていた。

 かぎりは、巌が現れるまで待つことをしなかったのだ。
 そうした理由は、もちろん昼休み時間の出来事にある。
 兄が弁当を食べてくれなかった。かぎりはそれがショックだった。
 巌のために弁当を作ったというのに、当の巌は自分以外の人間が作った弁当を食べ、満足していた。
 自分がやってきたことはなんだったのか。
 兄のためと言いつつ、実は自分の自己満足でしかなかったのか。
 兄は我慢して、自分の弁当を食べていたのだろうか。
 美味しくなかったから、他の女の弁当を食べたのか。
 暗い考えばかりが、かぎりの心を満たしていく。

 ぼうっとしたままで帰宅した。
 どの道を通って来たのか、途中で何が起こったのか、何人とすれ違ったのか、何一つとして思い出せない。
 時刻はすでに七時。外にはもうすぐ夜の帳が落ちる。
「遅い、です……」
 私の帰りも、兄さんの帰りも。

 晩ご飯を作らないといけない。兄の食事を作るのは自分の役目なんだ。
 わかっていても、かぎりは身体を動かせない。
 巌が美味しいと言ってくれるから、かぎりはどれだけ疲れていても台所に立つことができた。
 でも、今日だけは無理だった。
 出前でも頼もう。そう思ってかぎりは携帯電話を取りだした。
 そのタイミングで、携帯電話に着信があった。
 巌からだった。
「もしもし、兄さんですか」
「悪い、かぎり! 今日は晩ご飯用意しなくていいからな!」
「……何を言うんです。晩ご飯も食べないといけませんよ」
「それどころじゃねえんだって!」
 何がそれどころではないのだろう。
 常々、夕食の大事さを語ってきたというのに、まだ説教が足りないのか。
「兄さん、早く家に帰ってきてください。帰りが遅いことを怒ったりしませんから」
「ごめんなさい、それはちょっと無理だわ」
430兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:24:55 ID:1TuZg/SP

 聞こえたのは巌の声ではなかった。
 女の声。それも、聞き覚えがある。
 これは――昼休みに兄の傍に居た女の声と同じだ。
「だ、誰です!」
「私? 私は矢見野照子、っていうの。あなたのお兄さんのクラスメイト。
 そして、あなたのお兄さんの彼女よ」
「嘘を吐かないでください! 兄さんに恋人なんかいません! 兄さんには――――」
 兄さんには、なんだろう?
 自分は何を言おうとしていたんだろう。
 喉元まで来ているのに、あとちょっとなのに、口から出せない。
「今日から付き合うことになったの。巌君、もうあなたの待つ家には帰りたくないんですって。
 あなたのお弁当より、私の作ったお弁当の方が美味しいから、らしいわよ」
「嘘です、嘘です、嘘です! 兄さんがそんなことを言うはずがありません!」
「ふうん。必死ね、かぎりちゃん。やっぱり私の予想通りだったわ。
 あなたがそこでいくら叫んでも、お兄さんは帰ってこないわ。
 それじゃあ、バイバイ。明日から寂しく一人で学校に来て、寂しくお弁当を食べて、寂しく家に帰ることね」
 そして、通話が切れた。

 かぎりの心中は荒れ狂っていた。
 豪雨が絨毯爆撃し、竜巻があらゆるものを剥がして吹き飛ばし、雷雲が絶えず咆吼する。
 巌がもう帰ってこない。
 その事実は、かぎりに大きなダメージを与えていた。
 巌が居ないことが、どうしてそれほどショックなのか、当のかぎりは気付いていなかったが。

「こんなときはどうすればいいの。助けて、助けて……兄さん。にいさん……っ」
 とうとう、かぎりは床にうずくまり、動けなくなってしまった。
「わがままは言いません。良い子にします。兄さんにいちいち小言を言ったりしません。
 風呂上がりに裸で居ても文句は言いません。嫌いなゴーヤをこっそりお弁当に混ぜたりしません。
 だから……だから、帰ってきて。兄さん……お兄ちゃん……いわお、おにいちゃん」
 そんな呟きが巌に届くはずがない。巌はこの家に居ない。
 家に居るのは、かぎりだけなのだから。

 だから――本来、こんな声が聞こえてくるはずがないのだ。
 どこか面倒くさそうに喋る、男の声なんてものは。
431兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:28:29 ID:/WbSBhH5

「おい、かぎり」
「怒ったりしません。兄さんがお小遣いを無駄にしても」
「おーい−? 聞こえてるのか?」
「あんな本を買ってもすぐに捨てません。
 先月、近くのコンビニのいかがわしい本のコーナーで『月刊 制服アンドスク水フェ――」
「あー、ああー、あーー! ないない、そんな事実はない! っていうか、無視するんじゃねえよ、かぎりっ!」
 一際大きい声だった。今回ばかりはさすがにかぎりも気付いた。
 しかし、周りを見回しても何もない。
 明かりのついていない部屋の中では何も見えない。
「だ、誰……ですか」
「誰でもいいだろ。ここだよ、ここ。早く見つけろ」
「そんなことを言われても、全然見当が」
「ソファーの下だよ。ひっくり返して見てみろ」
 疑いながらも、言われるがままにソファーを傾けてみる。
 そこに何かがあるのを、暗い中でも見つけることが出来た。
 淡く光るお面があった。
 凝った意匠のない、無表情だった。
 顔全体を覆うぐらいの大きさをしていた。目と口の部分に穴が開いていて、中央に鼻のような盛り上がりがあった。

「さっきから喋っているのは、あなたですか?」
「そうだよ」
「……なんで喋ってるんですか?」
「お前はなんで自分が喋ることができるのか、説明できるかい?」
「簡単に言ってしまえば、声帯を振動させているからです」
「それは声の出し方だろう。俺が言ってるのは、喋り方さ。
 お前は、自分の脳みそで考えて、それを日本語にして声に出してるだろう?
 それと同じ事を俺もしてるだけだ。考えるパーツがあって、声を出すためのパーツがある。
 小型化の技術をなめんじゃねえぞ。限りなく日進月歩する世界なんだからな」
「納得はできませんが……実際に喋っているんだから、認めなければいけませんよね」
「そういうこった。大人になると納得いかないことばっかりだぜ」
 馴れ馴れしいお面だ、とかぎりは思った。
 そもそも、どうしてこんなところにお面があるのだろう?
 先週日曜日にソファーの下を掃除した時は、こんなものはなかったのに。

「それじゃ、早速行くとしようぜ」
「どこに?」
「お前の兄貴のところさ」
 もったいぶりもせず、お面はそう言った。
「兄さんがどこにいるか、知っているんですか? どうして?」
「そいつもくだらない質問だな。知っているからだ。かぎり、お前を兄貴の元へ連れて行くためだ」
「ですから、それはなんで、どうしてですか」
「――ええい! ごちゃごちゃと頭でっかちな奴だな!
 なんで、どうして、なぜ! そんなことを俺に向かって怒鳴ってる間にな、お前の兄貴は危険な目に合ってるんだぞ!
 いいか! お前は兄貴を助けたい、俺はお前をお前の兄貴のところに連れて行く! それでいいだろ! イッツオーライ!
 とっとと行かないと、お前に呪いをかけて体を乗っ取って、強引に連れて行くぞ!」
「くっ……一頭身にも満たないお面の分際で……」
 だが、お面の言うことももっともだった。
 兄さんのところに行かなきゃ。あの女に襲われているなら、助けなきゃ。
 
「では、案内してください。ええと……お面さん?」
「名前か? 好きに呼べよ。おすすめはアームストロングだ」
「腕なんかないじゃないですか。兄さんを見つけた後でゆっくり考えてあげます」
「それが賢明だぜ。それじゃ、案内してやるよ。俺を運んでくれ」
「わかりました。お願いします、兄さんのところまで」
432兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:32:00 ID:/WbSBhH5

 かぎりがお面の声に従って進むと、そこには確かに巌が居た。
 高校の部活棟。そこの屋上に、巌の姿があった。
「ほ、本当に居た……兄さん」
「だから言っただろ。で、やっぱり余計なのもいる、と」
 お面の言うとおり、巌の近くには誰かが居た。
 後ろ姿しか見えないが、かぎりにはわかった。あれは、昼休みに巌に弁当を食べさせていた女だ。
「早く助けに行かないと!」
「待てよ。どうやってあそこまで行くつもりだ?」
 巌は部活棟の屋上にいる。
 かぎりがいるのは、部活棟から離れた校舎の三階だ。
 部活棟は二階建てなので、巌とかぎりはほぼ同じ高さに居る。
 しかし、部活棟と校舎の距離は、中庭を挟んでいるせいで二十メートルは離れている。
「走っていくしかないでしょう。ここから向こう側にロープをかけるなんてできません」
「まあ、普通に考えればそうだよな。でも――やり方はもう一つあるんだぜ」
 かぎりの手の中で、お面が笑う。
 笑っていると言っても、お面の頬と口が動いたわけではないが。
「もったいぶらないで教えてください。さっきの電話だと、兄さんはかなり追い詰められてました」
「わかった。ならさっそくやろうぜ。かぎり、俺と合体しろ!」

 かぎりはお面の言葉を聞き、その意味を理解して――お面を全力で部活棟へ向けて放り投げた。
 緑色の淡い光が弧を描き、向かいの建物の屋上へ進んでいく。
 男の短い悲鳴と、小気味良い音が、かぎりの耳に届いた。
 それから、行きと同じだけの時間をかけて、お面はかぎりの足下へ戻ってきた。まるでブーメランのように。

「何しやがる、この馬鹿! 合体しろって言っただろ!」
「馬鹿はあなたでしょう! どうやってお面と合体しろって言うんですか!」
「変な意味だと思ったのかよ!? バーカバーカ!
 普通、お面と合体って言ったら、顔に着けるって考えるだろ!」
「それならそう言いなさい! ああもう、あなたがさっき兄さんにぶつかったから、女が近づいてる!」
「ちっ……遊んでる暇がねえか。とっとと俺を装着しろ、かぎり! ――変身だ!」
 お面を着けたところで、この状況は解決しない。そんなことはわかっていた。
 だが、焦る心は理性に従うより、お面の言葉に従った。
 言われるがまま、かぎりはお面を顔に近づけていく。

 かぎりの視界は、お面に空いた目の部分だけに限定される。
 お面の鼻が低いせいでかぎりの鼻は潰れている。自然、口だけで呼吸することになる。
「おう、そう言えば忘れてた。変身する前に言っておくぜ。
 俺を装着するってことは仮面を被るって事だ。かぎりの顔は隠れて、代わりに俺の顔になる。
 そうなると、喋り方も視界も呼吸のタイミングも、俺のやり方になる。
 そういうのを他人にコントロールされるのは気持ち悪いぜ。それでもいいな?」
「いいから、早く兄さんを!」
「威勢の良いもんだ――俺の性格とそっくりだぜ!」

 お面の声をきっかけに、かぎりの視界が閉ざされる。
 呼吸が止まる。何の匂いもしなくなる。
「かぎり、余計なことは考えるな。目的だけ考えろ。
 お前の目的はなんだ。兄貴を助けることだろう。それだけを考えるんだ。
 最短距離で、最高速度で、全力で! 巌のところへ向かうんだ!」
 単純に考える。実はそれこそがかぎりには難しいことだった。
 だったが――焦りが、息苦しさが、かぎりの思考に変化をもたらした。
 兄さんのところまで距離があっても、一直線に進んでいけばすぐじゃない。
 道がない。空中を通るから? なら――飛び越えてしまいなさい。
433兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:34:37 ID:/WbSBhH5

 窓枠に片足を乗せ、跳躍した。
 客観的に見ると自殺と間違えられそうな行いだ。間違いなく、通常の人間ならば落下して地面に衝突する。
 しかし、お面を着けた今のかぎりは、そうならなかった。
 あっさりと部活棟の屋上に到達した。飛びすぎて部活棟を飛び越えるところだった。
 当のかぎりは自身の驚異的な跳躍力に半信半疑だった。
 たかがお面を装着しただけ。こんなのは絶対におかしい。
 だが、溢れる力が確信を与えてくれる。
 今の私にはなんでもできる。兄さんを想えば不可能なものは何もない。

「なっ……なんなの、あなたは! いったいどこから!」
 矢見野照子が、突然現れたかぎりの姿を認めて言った。
「どこでもいいでしょ。どうせ、あんたがそれを知ったところで、何もできない。私を止めることはできない」
「くっ……なんだか知らないけど、邪魔をするんなら!」
 照子が取り出したのは、刃渡り二十センチはある包丁だった。
 突進してくる照子を、かぎりは一歩動いて躱した。
 続く攻撃も、かぎりの来ている制服にさえかすらない。
「なんなの、あなたは。どうして私と巌君の邪魔をするの! あなたには関係ないでしょう?!」
「関係ないですって? ……関係あるわ。大有りよ」
 襲いかかってくる包丁を、かぎりは素手で受け止めた。
 刃の部分が皮膚に食い込んでいるのに、血がにじみすらしない。
「お兄ちゃんが助けを求めるなら、いつでもどこでも駆けつける。死地で待つなら、大地を根こそぎ砕いて助け出す。
 私を呼ぶなら、しがらみ全てを捨て去り、邪魔者ははじき飛ばし、辿り着く!」
「お兄ちゃん……まさか、あなたは、長峰かぎり?!」
「長峰かぎり? 違うわよ。今の私は、かぎりじゃない。
 仮面を被っただけの、ただの妹よ。今の私に――名前は必要ない」
「巌君の妹なら、長峰かぎりじゃないのっ! どうして私の邪魔をするのよっ!」
 かぎり――いや、仮面の女が飛び、フェンスの上に立つ。
 夜空に浮かぶ満月を背中に背負い、矢見野照子を見下ろす。
434兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:38:17 ID:/WbSBhH5

「聞きなさい。泥棒猫。今の私は仮面の妹――――マスクドシスター」
「マスクド、シスター……?」
「たとえ畜生と蔑まれようと、親不孝者と嘆かれようと、私は叫ぶ!
 お兄ちゃん大好き! それが戦う理よ!」

 マスクドシスター、宙へ飛ぶ。
 矢見野照子の頭上で滞空し、構える。
「くっ、来るな!」
 漲る力の全てを右足に集める。
 兄との日常を脅かすものを打ち倒し、明日を掴む。ただそのために。
 そのためだけに、マスクドシスターは叫ぶ。
 妹を超えたキモウトの力、家族の絆を超えた兄への愛、その全てを込めて。
「直球! ブラコン!! キモウトキィィィィック!!!」
 敵の頭上から強襲する蹴り。
 マスクドシスターの全身を包む緑色の輝きが、矢見野照子の体を包んでいく。
「う、あああああぁぁぁぁぁっ!」

 直撃、緑色の爆発。そして、夜の静寂を蹴散らす断末魔。
 同時に矢見野照子の体は吹き飛んだ。
 その場から、跡形もなく。

「……ッハァッ、ハァッ、はっ……ふう、やった……」
 かぎりの顔から仮面が剥がれ落ちた。
 屋上の床にぶつかっても、お面は不満を漏らさなかった。
 常に帯びていた淡い輝きもなく、ただ沈黙を守り続けた。
 その様は、もう役目は終えた、と語っているようだった。
435兄懇直球 マスクドシスター ◆KaE2HRhLms :2010/08/27(金) 01:40:55 ID:/WbSBhH5

 巌が目を覚ましたのは、決着から三十分過ぎた頃だった。
「……あ、かぎり?」
「よかった、目を覚ましたんですね。兄さん」
 巌はしばらくぼうっとかぎりの顔を見上げていたが、あることに気付いた途端、目を見開いた。
「わ、悪い! すぐに離れるから!」
「ダメです。もうちょっとこのままで居てください。兄さんは屋上で倒れていたんですよ」
「で、でもな」
「膝枕なんて、たいしたことありませんよ」
 そう。巌はかぎりの膝を枕にして眠っていた。
 屋上の足下はコンクリート、さらに手入れもされておらず砂だらけ。
 そんな場所でも、かぎりは膝枕をするために正座をし続けた。
 痛くないと言えば嘘になるが、巌の寝顔を見られるメリットに比べれば、痛みは些細なことだった。

「ごめんな、今日弁当を食べてやれなくて。教室に置いてくれてたよな」
「……いいんです。兄さんだって事情があったんでしょう」
「まあ、そうなるかな」
「ですが、遅くまで時間に残っていたことは別問題です。
 私に電話をしてくるまで、学校でいったい何をしていたんですか?」
 かぎりは怖かった。
 もしも、あの矢見野照子という女とずっと一緒に居たとしたら。
 最悪の答えが返ってきたら、間違いなくかぎりは涙を流しただろう。
 だが、そうはならなかった。
「本当のことを言うけど、怒るなよ?
 実は――かぎりの弁当がもったいないから、授業が全部終わってから食べてたんだ。
 弁当箱を鞄に入れると多分形が悪くなるし、手に持って帰るのも恥ずかしいし。
 そしたら矢見野に見つかって――おい、どうしたんだ? なんで笑ってる?」
「……ふふっ、なんでもありませんよ、兄さん」
 かぎりに笑顔が戻る。
 そうだったんだ。やはり兄さんは私のお弁当が好きなんだ。
「明日も作ってあげますよ、兄さん」
「悪い。よろしく頼むよ」
「はい、腕によりをかけて作りますから、楽しみにしていてください」


 そんな二人を見つめながら、お面――自称アームストロングは、呟いた。
「一件落着、と。
 矢見野の奴も命はあるし。服はないけど。
 それじゃさよならだ、かぎり。また力を欲するなら、俺を呼べ。
 マスクドシスターの力は――お前達兄妹のために在るんだから」

 月の一部を雲が覆い隠し、影が生まれる。
 影に触れた途端、アームストロングは影に紛れ姿を消した。
 現れた時と同じように、何の予兆もなく。
436名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 01:42:40 ID:/WbSBhH5
終わりです。それではまた。
437名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 02:03:55 ID:N4PATOH+
>>436
乙です
そして、投下割り込んで、ごめんなさいm(._.)m
携帯から直で書き込んだら、この惨事
反省してます
438名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 03:00:13 ID:KT05TdlK
>>436すげぇよかったww
服、服w
GJ
439名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 07:49:39 ID:exK2QlRY
>>436 特撮好きの俺にはツボった GJだ

>>437 君にもあえてGJだ
440名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 09:55:33 ID:SfmQoUex
巌と聞くとどうしてもドラ12を頭ハネされた人が浮かんでしまう
441幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:28:28 ID:kZN2DQHc
今晩は。
表題のとおりで投下をいたします。
442幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:29:01 ID:kZN2DQHc
私と姉さんは向かい合わせに座っていた。
卓の上にはふんわりと焼かれたオムレツが二つ。
卵の焼けるおいしそうな匂いがする。
「はい、シルフちゃん、上手に焼けたでしょ?」
「うん。」
「どう、かな?」
「とってもおいしい。」
「ふふん、そうでしょ。
 姉さんだってね、別にサボっている訳じゃないんだよ。
 まあ、偶に失敗するけど。」
「その失敗が致命的だけどね。」
「あれ、やっぱりまだ怒ってたりするかな?」
姉さんが恐る恐る尋ねる。
「大丈夫、まだ我慢できるから。」
「ありがと〜、私優しいシルフちゃんってだ〜い好き!!」
「でも、次は我慢できないから、絶対。」
姉さんの笑顔が凍る。
「だ、大丈夫よ!! 
 姉さん、同じ失敗は繰り返さない人だから、
 今日のオムレツだっておいしいでしょ、あははは。」
姉さんの目が泳いでいた、やっぱり不安だ。
確かに今日姉さんの作ったオムレツはとってもおいしい。
でも少しだけ不思議な風味がしている、何だろう?
「あら、シルフちゃん気付いた?
 ちょっとだけブランデーを卵に垂らしてあるの。」
確かに卵にお酒を混ぜるとふっくらするけど、ブランデーは変わっていると思う。
「うん、ブランデーなのは兄さんが好きな匂いだからだよ。
 今日は兄さんは居ないけど、いつもの癖で入れちゃったんだ。
 兄さんはね、あの匂いを嗅ぐと気分が落ち着くんだって。
 だから兄さんったらお酒も飲めないくせにすごく高いブランデーを机に隠してるんだよ。
 本当はお茶に入れるくらいしかできないくせ癖に。
 変わってるよね、くすくす。」
姉さんはいつも楽しそうにお兄ちゃんの事を話す。
そして、その話に出てくるお兄ちゃんは私の知らない事ばかりだ。
443幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:29:27 ID:kZN2DQHc
「姉さんはお兄ちゃんの事を良く知ってるね……。」
「う〜ん、生まれてからずっと兄さん一緒だからなのかな。
 それでついつい甘やかしちゃっうのかもね〜。」
私は10歳の時にここへ来たから、姉さんの半分ぐらいしかお兄ちゃんを知らない。
でも、それが姉さんと私の違いだとは思わない。
姉さんとお兄ちゃんはもっと深いところで通じ合っている。
きっと、私みたいにお兄ちゃんの事で悩んだりはしない。
本音を言うと私は姉さんが羨ましい。
今朝だってそうだ、姉さんならお兄ちゃんの喜ぶ物を簡単に選べる。
私みたいに、本当は気に入らないものを食べさせてるのに気付かないなんて間抜けな事はしない。
私もお兄ちゃんの本当の妹だったら姉さんみたいになれたのかな?
多分、無理だよね。
「でも、あんまり兄さんの我侭を聞いてあげちゃうのも考え物かな。
 シルフちゃんもね、兄さんの言う事を全部聞いてたらパンクしちゃうよ?」
「大丈夫、私はお兄ちゃんに喜んでもらいたいの。」
「もう、本当にシルフちゃんは真面目なんだから。
 兄さんってね、色々と拘りが有るように見えて、実は何にも気にしてないんだよ。
 ほら、私達が何を作っても結局はおいしそうに食べるでしょ?」
「でも、お兄ちゃんがもっと喜んでくれた方が私も嬉しいから。」
そう私が言うと姉さんが困った顔をしながら笑った。
「ん〜、シルフちゃんは純真だね〜。
 でも良い、シルフちゃん?
 兄さんみたいなタイプには気をつけたほうが良いんだからね。
 ああいう人は貢がせるだけ貢がせる癖に、意外と薄情だったりするんだから。
 きっと愛人とかが出来た途端に用済みになったシルフちゃんをポイッてしちゃって……、」
ないしょの話をする時のように姉さんが楽しげに顔を近づける。
「……お兄ちゃんはそんな事しない。」
もちろん、姉さんは冗談を言っているというのは私にだって分かる。
「う〜ん、情が深いように見えても、兄さんって意外と飽きやすいから。
 知ってる? 兄さんってやっぱり昔ね〜、」
「黙って。」
でもお兄ちゃんを悪く言う冗談なんて私は大嫌いだ。
444幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:30:09 ID:kZN2DQHc
「それ以上お兄ちゃんの悪口を言うなら、姉さんでも許さない。」
そっと手を握り、腰を少しだけ捻る、これでいつでも出せる。
「ごめんね、姉さんも言い過ぎたわ。
 でも、痛いのは許してくれないかな?
 姉さんじゃ、シルフちゃんには勝てないし、それに兄さんとの約束も破っちゃうよ?」
姉さんは真剣な顔で私に言う。
その姉さんの言葉にどきりとした。
兄さんとの約束、どうしても仕方がない時にしか他の人を傷つけたりしない事。
もうずっと昔、お兄ちゃんが私を守ってくれた時にした大切な約束だったから。
「……っ、じゃあ、もう言わないで。」
「分かったわ、兄さんの悪口はもう言わない。
 もちろん、シルフちゃんを捨てたりもしない、これで大丈夫かな?」
姉さんの訂正を聞いて、私はゆっくりと拳から力を抜いた。
言葉を暴力でねじ伏せる、最低の行為だと思う。
けれど、私は人を黙らせるにはこういう方法しか分からない。
「ごめんなさい、姉さん。」
「ううん、私も言い過ぎたわ。
 そうだよね、兄さんの悪口なんて言っちゃいけないものね。
 でも、もうちょっと優しく注意してくれると姉さん嬉しい、かな?」
「ごめんなさい。」
私の謝る様子を見ながら姉さんか軽く頬を緩める。
「でも、本当に可哀想だよね、シルフも。
 こんなに兄さんに尽くしてあげてるのに、兄さんは全然振り向いてくれないし。」
「姉さん!?」
思わず声が裏返りそうになる。
「だって、シルフちゃんは兄さんの事大好きでしょ。
 ずうっと見ていたんだから分かるよ、いつも嬉しそうに兄さんの面倒を見てあげてるの。
 でもね、兄さんって鈍いから、はっきり言わないと分からないよ。
 一度言ってみなよ、大好きって。
 兄さんきっと、あうあう言いながら顔を真っ赤にするんじゃないかな?」
「止めて。」
「恋は消極的になったら負けだよ、まずは言葉にしなくっちゃ。
 そうすればきっと、」
「姉さん、言わないで、お願いだから。」
私は顔を下に向けた。
ずっと内緒にしていたのに、姉さんに気付かれているなんて思ってなかった。
でも、気付いていたのならそのまま知らないふりをしていてくれれば良かったのに。
どうして姉さんはこうやって口に出しちゃうんだろう。
やっぱり姉さんには分かってもらえないのかな、私にとってお兄ちゃんへの想いを知られる事がどれだけ怖いか。
お兄ちゃんの本当の妹の姉さんには分からないのだと思う。
445幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:30:30 ID:kZN2DQHc
「ご、ごめんね、シルフちゃん。
 別にお姉ちゃん、シルフちゃんを困らせようなんて思っていないの。
 大丈夫よ、もう聞いたりしないわ。」
姉さんがうろたえた様子で私を慰めようとする。
「ううん、私こそごめんなさい。
 多分、姉さんの言ってる事は正しいと思う。
 だけど、私は、……今のままで良いの、ありがとう。」
「良いのよ、シルフちゃんの気持ちを考えなかったお姉ちゃんが悪かったわ。」 
優しげに姉さんが笑う。
その笑顔を見ると罪悪感で胸が痛くなる。
「ごめんなさい……。」
「謝ったりなんてしなくていいよ、シルフちゃんはいい子なんだから。」
「姉さんはそう思うの?」
「うん、シルフちゃんはいい子だよ。」
はっきりと、もう一度繰り返す。
「良い子は、暴力なんて振るわないよ。」
「ううん、良い子だと思うよ。さっきだって私を黙らせたければ出来たよね。
 でも、いくら嫌でも自分の為には暴力は振るわない。
 ちゃんと兄さんとの約束を守れているよ。
 約束を守れる子は良い子だよ。」
そういって、姉さんがぎゅ〜っと私を抱きしめて、よしよしと頭を撫でてくれる。
姉さんはお兄ちゃん以外の事は適当でいい加減。
でも、とっても優しい。

「姉さん。」
「なぁ〜に、シルフちゃん?」
「暑苦しいから、止めて。」

ちょっと苦手だけど。
446幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:30:53 ID:kZN2DQHc
俺と圭は卓を囲っていた。
網の上にはジリジリとやける脂ぎった肉。
ニンニクと肉のこげる臭いが充満している。
「おい陽、そのミノ焼けたぞ。」
「ああ。」
「旨いな。」
「ああ。」
言葉少なに肉を口に運ぶ、盛り下がっているわけではない、寧ろ俺たちのテンションは高い。
圭が思い出したようにふと漏らした。
「なあ、どうして焼肉をすると口数が減るんだろうな?」
「ふん、考えるまでも無いな。
 なぜ言葉数が少ないのか、それは焼肉だからだ、単純だがそれが正解だ。
 火で肉を焼く、我々の祖先が初めて手にした最も原始的な調理法。
 焼く前には何をするか、狩だ。
 狩とは闘争だ、血を流し、流され、奪い、奪われる。
 敗者は肉となり、勝者は食す権利を得る。
 つまり肉を焼くとは、勝利するということなのだ。
 我々の肉体は、肉を焼くという行為に戦いを想起し、勝利に躍動する。
 だから、人は肉を焼く臭いに興奮する。
 だが、それだけではただの野生動物だ。
 我々には理性がある。
 火は原始であると同時に、知性の原初でもある。
 人は火によって、自然を征服し、火によって文明を興した。
 そして、文明を作る中で感覚では捉えられない人を超越した何か、つまり神を見出した。
 神とは理性の中に居られる、理性の始まりとは何か、当然火だ。
 だから、神との交信に火を使う、故に捧げ物として肉を焼いた。
 だが、そこには過去の狩のような勝利者としての傲慢さはない。
 自分たちの力の限界を知り、我らの矮小な限界の先に居られる神に救いを求める。
 そこにあるのは、闘争ではない、神の意のままに流される弱者としての祈りだ。
 だから、人は焼肉の前に口を噤むのだ。
 祈りと闘争、肉を焼く臭いは二つの相反する感情を呼び起こす。
 我々はその狭間に落ち込んで、自分は獣なのか知性なのか正体を見失う。
 本来の自分とは何かを見つけようと自己の内面でもがく。
 だから、人は焼肉をすると喋れない。
 焼肉とは単なる食事ではない。
 そこには信仰と哲学の深遠が拡がっている、……という訳なんだ。」
「あっそ、最後の一枚貰うぞ。」
「それ、俺のタンなんだけど。」
気にもせずに圭が肉を口に入れ、咀嚼し、飲み下す。
俺のタン……。
447幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:32:45 ID:kZN2DQHc
「で、本日の議題だが。
 俺はどうやればこの先生きのこれるんだ?」
肉を平らげた圭がいかにも軽そうに切り出す。
もっとも口調ほど明るい問題ではない、というよりもかなり切実だ。
「謝れ、そして諦めろ。」
俺は即答した。
新藤 圭(しんどう けい)は俺の幼馴染だ。
けれど、ちょうどシルフが来たぐらいの頃に空路家は隣町に引っ越したので疎遠だったが。
それが去年、大学に入った所で偶然の再会を遂げ今は昔のように一緒に飯を食う仲だ。
「そんな事言わないで、もっと考えてくれよ。」
「気色悪いから捨てられた子犬のような目で俺を見つめるな。
 どう考えても沙紀に謝るしかないだろう。
 もう逃げ道も潰されちまった以上、大人しく出頭するのが一番だ。」
「けど、お前だって分かってるだろ。
 謝りに沙紀の前に一度出たら、間違いなくお仕置きという名の魔女裁判だぞ。」
さて、なぜ圭が命の危険を感じているかというと俺達のもう一人の幼馴染のせいだ。
そいつは(自称)新林 沙紀(にいばやし さき)、本名を神田 沙紀という。
この町にある居合い道場の一人娘で、その実力は父である師範をも遥かに凌ぐ。
物腰は上品で、まさに今は無き大和撫子そのものという少女だ、見た目は。
だが、彼女には二つ欠点がある。
一つは、いつも刀を持ち歩いているという事だ。
本人は居合いの練習用と言っているが、あんな赤くて禍々しい練習刀があるものか。
もう一つ、良く恋は盲目というが沙紀の場合は盲目の剣鬼という感じなんだ。
つまり、圭に好意を持つ女性なら年齢、人種、国籍、宗教関係無く平等に叩き切ろうとするという悪い癖がある。
まあこれだけならちょっと嫉妬深い幼馴染かな、ぐらいで済むのだがそうはいかない。
圭が馬鹿みたいにモテるのだ、お前どこのギャルゲーの主人公だよと突っ込みたくなるぐらいに。
言うなれば俺は主人公の親友といったポジションだな。
448幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:33:14 ID:kZN2DQHc
もっとも、今までに沙紀の刀の錆になった女性は幸いまだ居ない。
ぎりぎりの所で圭が助けるからだ、ちなみに俺と雪風もよく巻き添えを食らう。
当然だが沙紀は怒る、しかも助けられた女性も余計燃え上がるという悪循環だ。
おかげで、一年の半分以上こいつは沙紀に命を脅かされているんじゃないかと思う。
で、今回例によって圭の命が風前の灯なのも沙紀の目を盗んで告白して来た後輩を彼女が膾にしようとしたのを庇った事が原因だ。
さっき雪風にメールで聞いたところによれば、沙紀は虚ろな目で校舎を一部屋一部屋廻っていたそうだ。
大学とここでは相当の距離がある、これで暫らくは安全か。
「陽の所は良いよな、2人も可愛い子が居るのに平和で。」
「お前の所に比べりゃ、大体日本はどこでも平和だよ。
 それに、うちはただの兄妹だぞ。
 まあ、お前みたいに色恋がどうのってのはお互い無いから気楽なのかもな。」
「お前、本当にそうなのか?
 実はお前と雪風がかなり怪しいって噂が拡がっているんだぞ?
 あ、シルフちゃんとの方も無い訳じゃないから安心して良いぞ?」
圭が訝しげに聞いてきやがった。
というか安心って何だ、安心って?
「んな訳あるか、馬鹿!!
 しかもよりによって雪風の方がメインかよ、うちはそんなアブノーマルな家庭じゃねえ!!」
「普通の家の兄貴は家事でも何でも全部妹にさせたりはしないと思うが?」
「あ〜、そこは少し痛いところだな。
 まあ、それについては悪いとは思うんだが面倒くさくてずるずると。」
「……お前、絶対碌な死に方しないと思うぞ。」
「そうか?
 まあ、お前の場合は絶対に無残な死に方と決まっているだろうけどな。」
2人でいずれ沙紀に見つかった後の圭の末路を考える。
いかん、俺まで鬱になってきた。
449幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:34:26 ID:kZN2DQHc
「ま、まあ、雪風は血が繋がってるから別としてもシルフちゃんもなのか?
 ほら、シルフちゃんってなんかどこか儚げでちょっと不安定っていうか。
 それに、見た目も白くて可愛いしな。
 何ていうの、ああいう弱々しい子ってつい守ってやりたくなったりしないか?」
「お前だけにはシルフは絶対にやらん、沙紀の餌食になんて絶対にさせないからな。」
「大丈夫だって、俺にその気は無い。
 何よりあの子は俺になんて興味ないんだしな。」
圭が意味ありげな視線を俺に向ける。
「大体だな、お前は勘違いしてる。
 シルフは相当強いぞ。」
「ん、そういえば、シルフちゃんはあの悪名高い女子武道部に入っているんだっけ。
 でもまあ、それでもチンピラや痴漢を撃退できるとか程度だろ、沙紀に比べれば可愛いもんだ。」
「いや、そういうレベルじゃない。
 多分得物無しなら沙紀よりも強いと思うぞ。」
「マジか!?」
圭が驚いて目を見開く。
「マジだ、これは修学旅行中の沖縄での話なんだが。
 あいつの班がガラの悪い兵隊に絡まれた訳でな。
 まあ、3名ほど海兵隊員から傷痍軍人に転職なさったみたいだ。
 向こうも女子高生にやられたとは大っぴらに言えなくて、有耶無耶にはできたんだが。」
現実離れした話のはずなのに、圭はこの話には全く驚く素振りすら見せなかった。
お前の妹は元特殊部隊のコックかよ!!、というような定番の突っ込みを俺としては期待したんだが。
「そうか、じゃあシルフちゃんの強さは大体3海兵隊以上か。
 ちなみに沙紀は刀付きなら8海兵隊ぐらいだったぞ。」
代わりに良く分からない単位で沙紀の強さを冷静に説明しだした。
いや、何となく分かるんだが、分かりたくない。
そこに至るまでに何があったんだ、お前ら。
「でも、シルフちゃんって沙紀みたいに大暴れしてるところって見た事無いな。」
「お前の行動指針は沙紀が基本かよ、相当毒されてるぞ。
 まあ、シルフは基本とても良い子だよ、素直だしな。
 その時だって同級生を守るためにやったんだ。
 でも、感謝されるどころか恐がられて余計にクラスとの溝が広がっちまった。
 ったく、やってられない話だよ。」
圭が真剣な表情で何かを考えている。
そして暫らく間をおいてから口を開いた。
450幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:34:50 ID:kZN2DQHc
「なあ、例えば刀を持った沙紀とシルフちゃんが戦ったらどっちが勝つかな?」
「知るか、絶対にシルフを沙紀と戦わせたりしないからな?」
……とは言え、ちょっと面白そうなので想像してみる。
以前、女子武道部の試合の応援に言ったところ、部員がこんな事を言っていた。
部長は間合いに入れれば2秒以内に急所への打撃、間接技、投げの何れかでどんな相手でも躊躇なく確実に潰すのがエグイんです、と。
それが本当ならばシルフ必殺の間合いである1m以内に入れれば沙紀を潰せる。
一方、沙紀の間合いは刀とあの異常な速さの踏み込みから判断して3m弱、もっともシルフを相手にして切返しの時間を取れるとは思えない。
つまり、シルフが沙紀の最初の居合いを回避できるか否かで勝負は決まる。
「多分、最初「うーん、あの子に懐まで入られちゃったらちょっと辛いから、初めに一閃できるかが鍵だよね?」
後ろを振り向くと入口に、腰まで伸ばした黒髪を束ねた和装の美少女が居た、……沙紀だ。
「な、どうしてここが分かった!?」
圭の声が震えている。
「簡単だよー。
 圭君がいないなーと思って学校を出たら、お肉の焼ける匂いと一緒に圭君のとーっても良い匂いが町中にしていたんだよ?
 これで気付かないほうがおかしいと思うなー、うふふ?」
例によって虚ろな瞳で音も無くこちらに歩いてくる、その姿は何度見ても怖い。
まずい、それどころじゃない。
さっきの会話を聞かれていたらシルフがやばい。
こいつは圭と係わった女なら誰彼構わずざくざく斬り掛かる奴なんだぞ!!
451幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:36:00 ID:kZN2DQHc
「別に大丈夫だからね、うふふふ。
 私は、圭君と私の仲を引き裂く雌豚しか斬らない主義なの。
 シルフちゃんや雪風は私が安心できる大切な友達だもん、斬ったりはしないよ?」
ライオンから我が子を守るお母さんインパラの心境で立ちはだかった俺に沙紀が笑いかける。
「あ、ああ、そうか、それなら良いんだ。
 うん、久しぶりだな沙紀。
 この前圭んとこに泊り込んで以来だな。」
「久しぶりー。
 実はね、陽君が帰ってから、すごく切れるドイツ製の包丁セットをいっぱい買ったんだよ。
 今度遊びに来たら、イッパイゴ馳走シテアゲルカラネー、ハンバーグトカ、サシミトカ。」
沙紀の目がどんどんと濁っていく。
「いや、遠慮しておくよ、あまりプライベートに割り込むのはいけないよな。
 これからは夕飯前には帰る事にするよ。」
「ウンウン、ワタシソウイウオ気遣イノ出来ル陽君ハ好キダナー。」
「ああ、そうだな圭、今日は俺のおごりだったよな。
 支払いをしてこないと。」
沙紀に道を譲り、俺はレジを目指す。
その去り際に圭と目が会った。
その僅かな瞬間に俺たちの心が通じ合う。

悪いな、俺にはお前を救えない。
それに、シルフでもやっぱり無理だ。

―――気にするな。
     それより、最期の肉、本当に旨かったよ、ありがとう。
笑う圭の顔はとても穏やかだった。

俺は会計を済ませて店を出た。
後ろは振り向かない、そこには俺が出来る事など何も無いのだから。
煙に燻されすぎたのだろう、目から涙が止まらない。

その涙を拭こうとした時、ゴンッという鈍い音と共に後ろから殴られた。
452幸せな2人の話 2:2010/08/27(金) 22:38:06 ID:kZN2DQHc
今回は以上です。
次回もよろしくお願いします、失礼します。
453名無しさん@ピンキー:2010/08/28(土) 01:03:19 ID:ZYJcHu+L
陽台詞ながっw
凄く面白かったです
GJ!
いつか圭メインの話を読みたい
454名無しさん@ピンキー:2010/08/28(土) 08:50:32 ID:9gqi6Nf/
GJです!!
最近の新作ラッシュは見ていて楽しいw
455名無しさん@ピンキー:2010/08/28(土) 20:13:22 ID:NtegEXkg
沙紀のキャラがすごいな
シルフちゃんの行動に期待
456名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 21:14:16 ID:NQQ4spwC
とりあえずウィキに一回まとめてほしいもんだ
457名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 22:10:05 ID:znjVBu/y
最近新作が増えて嬉しい限り
458wiki編集人:2010/08/29(日) 22:52:23 ID:cvBBRbzy
編集しようとしたらwikiがクソ重くて作業ならなかったので、編集は深夜か明日になりそうです御免なさい
459名無しさん@ピンキー:2010/08/30(月) 04:37:06 ID:Rrig333/
保管庫の管理ご苦労様です
最近規制が凄いがキモ姉やキモウトが
運営に圧力を掛けているのか…
460名無しさん@ピンキー:2010/08/30(月) 09:05:36 ID:QwZd2ftq
細かいけど、圭の苗字が前の話では新林なのに今回は新藤になってね?
461三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:46:57 ID:yyH+Q/WN
三つの鎖 26 後編です

※以下注意
エロ少しあり
血のつながらない自称姉あり

投下します
462三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:48:27 ID:yyH+Q/WN
 一緒に買い物を済まし、夏美ちゃんの家に向かう。
 「お兄さん。何でそんなに買ったのですか?」
 不思議そうに僕を見上げる夏美ちゃん。確かに、購入した食材は作り置きを考えても一人分じゃない。
 「夏美ちゃんさえ良ければ、今日の晩ご飯を一緒に食べていいかな」
 口元を両手で押さえて飛び上がる夏美ちゃん。
 「もちろんです!」
 嬉しそうな夏美ちゃんを見ていると、少しホッとする。
 「今日は記念すべき日です!」
 「大げさだよ」
 「だって、私の家でお兄さんと一緒に食べるのは今日が初めてです!」
 嬉しそうに笑う夏美ちゃんに胸が痛む。
 本当はもっと前に一緒に食べる機会があった。
 雄太さん。
 「お兄さん?」
 不思議そうに僕を見上げる夏美ちゃん。僕は笑ってごまかした。
 夏美ちゃんの家につく。
 和室の仏壇の前に正座し、手を合わせる。
 何があっても、夏美ちゃんを守る。
 誓いも新たに和室を出た。
 夏美ちゃんとおそろいのエプロンで料理する。
 今日の献立は焼きそば。夏美ちゃんに教えながら料理する。
 夏美ちゃんも、カレー以外の献立を覚えたほうがいい。
 作り置きとしていつも通り肉じゃがも作る。
 楽しそうに料理する夏美ちゃん。その姿にホッとする。
 食卓でも夏美ちゃんはいつも以上に饒舌だった。明るかった。楽しそうだった。嬉しそうだった。
 こんなに喜んでくれるなら、もっと早くに一緒に食事すれば良かったかもしれない。
 食後、二人で並んで食器を洗う。ここでも夏美ちゃんは楽しそうだった。
 お茶を入れて、リビングのソファーに並んで座る。
 夏美ちゃんの制服。胸元のボタンが一つ外れている。
 僕はソーイングセットを取り出した。似た形のボタンがちょうどある。
 「夏美ちゃん。動かないでね」
 僕は手早くボタンを縫い直した。くすぐったそうにする夏美ちゃん。
 「ありがとうございます」
 そう言って夏美ちゃんは僕にもたれかかった。
 背中に回される夏美ちゃんの腕。
 柔らかくて温かい感触。
 僕の胸に頬ずりする夏美ちゃん。
 「お兄さん」
 僕を見上げる夏美ちゃん。不安そうな瞳。
 「…抱いてください」
 消え入るような小さな声。
 時計を見る。もう遅い時間。こんな遅くまでいるのはよくない。
 「ごめん。もう帰らないと」
 夏美ちゃんの目が見開かれる。背中に回された夏美ちゃんの手が震える。
 様子がおかしい。
 「夏美ちゃん?」
 「わ、わたし、何もされてないです」
 夏美ちゃんの声は震えていた。
 僕を見上げる夏美ちゃん。目尻に光るものが溜まる。
 「汚れてないです。本当です」
 恐る恐る僕の頬に触れる小さな手。
 「その、頑張って気持ち良くします。ですから、その」
 僕から視線を逸らしうつむく夏美ちゃん。
 「だ、抱いてください」
 僕は馬鹿だ。
 あんな事があって平気なはずないのに。
 それを隠して必死に元気なふりをしていただけなのに。
 僕は夏美ちゃんを抱きしめた。
 「知ってる。何もなかったって。だから安心して」
 「わ、わたしの事、嫌いになったりしませんか」
463三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:49:22 ID:yyH+Q/WN
 僕は夏美ちゃんの唇をふさいだ。
 柔らかくて温かい感触。啄ばむようにキスする。
 「んっ、ちゅっ」
 微かに身をよじる夏美ちゃん。
 僕は唇をゆっくり離した。
 「夏美ちゃんを嫌いになったりなんて、絶対にしない」
 ぼんやりと僕を見上げる夏美ちゃん。
 「愛してる」
 夏美ちゃんの頬が赤く染まる。それでもなお、不安そうに僕を見上げる。
 僕の頬を白くて小さな手が挟む。温かくて柔らかい。
 「お兄さん」
 目を閉じた夏美ちゃんの顔がゆっくり近づく。僕も目を閉じた。
 唇に触れる柔らかくて温かい感触。
 啄ばむようなキスが徐々にむさぼるようなキスになる。
 お互いの舌を絡め、舐めつくす。
 「んっ、ちゅっ、んんっ」
 夏美ちゃんの息遣い。甘い香り。
 僕はゆっくりと唇を離した。
 「あの、お兄さん」
 不安そうに僕を見上げる夏美ちゃん。僕の服を握る小さな手は震えていた。
 「その、私の部屋に行きませんか」
 僕は夏美ちゃんを持ち上げた。俗にいうお姫様だっこ。
 「え?ええ?」
 戸惑うような夏美ちゃんの声。
 「お、お兄さん!おろしてください!」
 手足をばたつかせる夏美ちゃん。
 「どうして?」
 「だ、だって、私、重くないですか?」
 恥ずかしそうな夏美ちゃん。
 「軽いよ。羽みたい」
 そんなやり取りをしながら部屋につく。
 僕は夏美ちゃんをベッドにゆっくりとおろした。そのまま押し倒す。
 「いいんだね」
 僕の下で夏美ちゃんは恥ずかしそうに頷いた。

 お兄さんの大きな手が私の制服のボタンをゆっくりと外していく。
 今でも肌を見られるのは恥ずかしい。私は視線を逸らした。頬が熱い。
 ブラの上からお兄さんの手が触れる。
 「んっ」
 思わず声が出る。お兄さんを見上げると、目が合う。視線でいい?と問いかけるお兄さんに私は頷いた。
 ブラがゆっくりと外される。お兄さんに見られているのが分かる。恥ずかしい。
 お兄さんの両手が私の胸をゆっくりと揉む。
 声が漏れそうになるのを必死に我慢する。
 私の胸をゆっくりと優しく揉むお兄さんの手。気持ちいい。
 時々、乳首を軽くつままれる。それが刺激になって体がびくりと震える。
 お兄さんの方手がスカートにもぐりこみ、ショーツの上から触れる。
 「あっ」
 思わず声が漏れる。ショーツの上からお兄さんの手がゆっくりと撫でる。
 「…んっ…あっ…きゃっ…んんっ!!」
 じれったいぐらいの速さでお兄さんの手が私のショーツを上からこする。その度に我慢していた声が漏れる。
 気持ちいい。恥ずかしい。まともにお兄さんの顔を見られない。
 「夏美ちゃん。こっちを見て」
 私は恐る恐るお兄さんを見上げた。
 お兄さんの顔が近づく。私は目を閉じた。
 唇に触れる柔らかい感触。
 「んっ…ちゅっ…」
 啄ばむようなお兄さんのキス。その間も、お兄さんの両手が私に触れる。胸を揉み、スカートの下をまさぐる。
 だんだん頭がぼんやりしてくる。体がほてってくる。
 ショーツの隙間からお兄さんの手がもぐりこみ、敏感な個所に触れる。
 「んっ!」
464三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:50:31 ID:yyH+Q/WN
 思わず体が震える。お兄さんの指が膣の入り口にもぐりこむ。
 すでに濡れているのが自分でも分かる。
 「あっ!ああっ!」
 ゆっくりと膣の入り口をかき回すお兄さんの手。恥ずかしくて気持ちいい。
 いけない。私ばかり。
 私はお兄さんの胸を押した。お兄さんは私から体を起こした。
 「あの、今度は私がします」
 ベッドを下り、お兄さんの足の間に跪く。
 お兄さんのベルトをはずし、チャックを開け、トランクスからお兄さんのを取り出す。
 手に触れるお兄さんのが熱い。もうすでに硬くなっている。その事が嬉しくて恥ずかしい。私で興奮してくれているんだ。
 「あの、いきますね」
 お兄さんは無言で頷いた。
 先端をそっと舐める。お兄さんが身じろぎする。
 全体をゆっくりと舐める。いつ舐めても変な味がする。
 口にしながらお兄さんの顔を上目使いに見る。
 何かを耐えるようにじっとしておるお兄さん。気持ち良くなってくれているのだろうか。
 私の視線に気がついたのか、お兄さんは微笑みながら私の髪をすく。
 「気持ちいいよ」
 その言葉にほっとする。私はさらに続けた。
 片手でお兄さんのをゆっくりとこする。私の唾液と先走りでべとべとになっている。
 お兄さんの両手が私の肩をそっと押す。
 「もういいよ。ありがとう」
 お兄さんは立ち上がって服を脱ぎ始めた。
 逞しいお兄さんの体。恥ずかしくなって私は視線を逸らした。
 ベッドの傍にあるスキンをお兄さんは手にする。
 ハル先輩の言葉が脳裏に浮かぶ。
 お兄さんの心を、私に向ける方法。
 気がつけば私はお兄さんの手を押さえていた。
 「夏美ちゃん?」
 怪訝そうに私を見下ろすお兄さん。
 「あ、あの、私、今日は大丈夫な日です。ですから、その」
 声が震える。私、お兄さんを騙そうとしている。最低な嘘をつこうとしている。
 「ですから、今日はスキンなしで、お、お願いします」
 今日は大丈夫な日じゃない。それなのに、嘘をついて、騙して、妊娠しようとしている。
 お兄さんの手が私の頬に触れる。体がびくりと震える。
 「夏美ちゃん。僕たちはまだ高校生だよ」
 私は顔をあげた。お兄さんは真剣な表情で私を見つめていた。
 「まだ子供だよ。万が一もある。避妊しないと」
 お兄さんの言葉に種類の違う痛みが胸に走る。
 私と子供を作りたくないのですか。
 「お、お兄さんは私と子供を作りたくないのですか。わ、私は、お兄さんの子供だったら産みたいです」
 「僕も夏美ちゃんに子供を産んで欲しい」
 お兄さんの言葉に体が震える。
 嬉しい。素直にそう感じる。
 「でも、子供を産むのはそれだけの気持ちじゃ駄目だよ。僕たちは高校生だ。まだ学校に行かなきゃならない。お金もないし、収入もない。育てる事も出来ない」
 お兄さんの綺麗な瞳。誠実な眼差し。
 胸が、痛む。
 「夏美ちゃんの気持ちは凄くうれしい。でも、今は我慢しないと」
 お兄さんの言う事は正しい。私達はまだ高校生。学校に行かないといけない。収入もお金もない。子供を産んでも育てられない。
 でも、そんな事は最初から分かっている。
 お兄さんの心を手に入れたい。私だけを見て欲しい。
 もう、いやだ。
 お父さんは死んで、クラスに味方になってくれる人はいなくて、梓やハル先輩にお兄さんを奪われるんじゃないかと脅え、学校の先生まで私を…。
 それでも、お兄さんさえいてくれたら安心できる。例え世界中の人が私を嫌いになっても、お兄さんが私を好きでいてくれるなら、それでいい。
 お兄さんを欲しい。誰にも渡したくない。私だけを見て欲しい。私だけのお兄さんになって欲しい。
 そのためだったら、何だってする。
 ハル先輩だって言っていた。お兄さんのためでもあるって。
 「あの、お兄さん。変な事言ってごめんなさい」
 私はスキンを手にした。
 昨日、針で穴をあけたスキン。
465三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:51:39 ID:yyH+Q/WN
 「つけますから、じっとしていてください」
 包みを破り、スキンを取り出す。
 お兄さんのそれにスキンをゆっくりつける。
 手が震えて上手く出来ない。
 「ご、ごめんなさい。緊張して」
 「大丈夫だよ」
 私の髪を撫でてくれるお兄さん。
 胸が、痛い。
 その痛みを無視してスキンをつける。外から見ると、穴があいているようには見えない。
 無理もない。小さい穴だ。
 「で、できました」
 声が震える。
 私、ひどい事をしている。
 お兄さんを騙して妊娠しようとしている。
 生まれてくる赤ちゃんを、お兄さんの心を縛る道具にしようとしている。
 「夏美ちゃん?大丈夫?」
 お兄さんが心配そうに私を見下ろす。
 「すごく震えているよ」
 「だ、大丈夫です」
 私は立ち上がってスカートとショーツを脱ごうとした。
 手が震えるせいでうまくできない。
 「ご、ごめんなさい」
 私の不手際のせいでお兄さんを待たせている。余計に焦って失敗する。
 お兄さんは私をベッドにそっと押し倒した。お兄さんの手が私のスカートとショーツをゆっくりと脱がす。
 恥ずかしい。顔から火が出そう。
 お兄さんの手が私の足を広げる。
 一番恥ずかしい場所が丸見えになる。
 恐怖に体が震える。
 お兄さんを騙そうとしている。
 「ひっ!?」
 膣の入り口にお兄さんのが触れる感触に思わず悲鳴を上げてしまった。
 「夏美ちゃん?大丈夫」
 心配そうに私を見下ろすお兄さん。
 「だ、大丈夫です」
 震える声しか出ない。
 お兄さんはゆっくりと腰を前後させた。私の敏感な筋をお兄さんの剛直がゆっくりと撫でる。
 「んっ…あっ…」
 じれったい感触。お兄さんは挿れずに、ゆっくりと腰を動かす。
 膣に挿れられたら、妊娠するかもしれない。
 そう考えるだけで体がこわばる。震える。
 もし妊娠したらと考えるだけで、恐怖に体がすくむ。
 もしかしたら、お兄さん、妊娠した私を捨てるかもしれない。
 だって、大丈夫な日って言ったのに、妊娠したら、きっと怒られる。
 でも、これしか方法は無い。
 お兄さんを手に入れるには、これしか方法は無い。
 「お、お兄さん。大丈夫です。い、挿れてください」
 声が震える。歯がかみ合わない。視界がにじむ。
 お兄さんは体を起こした。心配そうに私を見下ろす。
 「夏美ちゃん。無理しないで」
 「む、無理なんかしていません」
 私は体を起こした。お兄さんの顔を両手で挟み顔を近づける。
 お兄さんは私の両肩をそっと押さえた。
 余りの事に頭が真っ白になる。
 お兄さんが、私を拒絶した。
 「わ、わたし、その…」
 何を言えばいいのか。分からない。
 視界がにじむ。涙がこぼれそうになる。
 「…夏美ちゃん」
 背中にお兄さんの腕が回される。
 そのまま私はお兄さんに抱きしめられた。
466三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:52:36 ID:yyH+Q/WN
 お兄さんの胸。触れる素肌と素肌が温かい。
 「無理しなくていいから」
 私は恐る恐る顔をあげた。
 お兄さんはにっこりと笑った。励ますような力強くて優しい笑み。
 「大丈夫。そばにいる」
 そう言ってお兄さんは私を抱きしめた。
 温かいお兄さんの胸。
 「夏美ちゃんが泣きやむまでこうしている」
 お兄さんの声に視界がにじむ。目頭が熱くなる。
 私、ばかだ。
 お兄さんはこんなに優しいのに。
 疑って。騙そうとして。
 涙がとめどなく溢れる。
 「お、お兄さん、そのっ、わたひっ」
 お兄さんは何も言わずに抱きしめてくれた。頬を撫でてくれた。涙をぬぐってくれた。
 私の涙でお兄さんの胸がぐちゃぐちゃになる。それでもお兄さんは腕を離さないでいてくれた。

 「…もう大丈夫です」
 私はお兄さんの胸から顔を離した。
 もう涙は出ない。
 顔をあげるとお兄さんはそっぽを向いた。その頬は微かに赤くなっている。
 今更になってお互いに裸なことに気がつく。頬が熱くなる。
 でも、私が泣いていたせいで、私もお兄さんも私の涙でべたべただ。よくこんなに泣いたのだと自分でも不思議に思う。
 「あの、タオル持ってきます」
 私はベッドから降りた。うう。裸は恥ずかしい。
 部屋の中のクローゼットからスポーツタオルを取り出す。
 振り向いて、私は言葉を失った。
 お兄さんはスキンを手に呆然としていた。
 ついさっきまでお兄さんが着けていたスキン。それが、破れている。
 「お、お兄さん?」
 私の言葉にびくりと震えるお兄さん。慌てたように私を見る。
 「ど、どうしたのですか?」
 「いや、外したら破けちゃって」
 苦笑するお兄さん。
 「もしあのままだったら、破けちゃったかもしれない。危なかった」
 「そ、そうですね」
 言葉が震える。
 そんな私を心配そうに見るお兄さん。
 「どうしたの?」
 「な、何でもないです。それよりもべとべとですよね。拭きます」
 私はお兄さんの横に座ってお兄さんの体を拭いた。
 手が震える。暑くもないのに汗が出る。
 「夏美ちゃん?突然どうしたの?」
 何でもないと言おうとして言葉を失った。
 ベッドの横の机。そこにスキンの包みが置いてある。
 私が針で穴をあけた包み。
 お兄さんを騙そうとした証拠。
 「夏美ちゃん?」
 怪訝そうに私の視線の先を見るお兄さん。
 「な、何でもないです!」
 思わず大声を出してしまった。
 いけない。余計に怪しまれる。
 「大丈夫です。本当です」
 「これがどうかしたの?」
 お兄さんは破けたスキンの包みに手を伸ばす。
 心臓の鼓動が、はっきりと聞こえる。
 止めなきゃ。
 でも今止めると怪しまれる。
 そんな事を考えている間にもお兄さんはスキンの包みを手にする。
 お兄さんの表情が変わる。
467三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:54:24 ID:yyH+Q/WN
 手にしたスキンの包みを掲げるお兄さん。
 この位置からでも見えた。
 明かりに透かされたスキンの包みに、小さな穴があいているのを。
 痛いほどの沈黙が部屋を包む。
 「…夏美ちゃん…これって…」
 お兄さんは呆然と私を見た。
 私を見つめる瞳に、頼りない光が浮かぶ。
 「…まさか…夏美ちゃんが…?」
 否定しないと。
 違うって。私じゃないって。そんなことしないって。
 それなのに、言葉が出ない。
 口から出るのは意味のない文字ばかり。
 「…どうして…?」
 お兄さんの言葉に心が軋む。
 何も、分かってくれていない。
 私の事を、何も分かってくれていない。
 「お兄さんを誰にも渡したくないんです!!」
 気がつけば私は叫んでいた。
 「お兄さんの周りには素敵な女の子がいます!!ハル先輩も!!梓も!!二人とも私より美人で、
綺麗で、可愛くて、お料理できて、頭もいいです!!私が勝っているところは何もないです!!お兄
さん知っていますか!?お兄さん、人気あるんですよ!!お兄さんのほめる人、いっぱいいます!!
お兄さんとお付き合いするようになってから、周りの人が言うんです!!釣り合わないって!!わた
しよりもハル先輩の方が釣り合うって!!付き合っているのが間違いだって!!お父さんが殺されて
可哀そうだから付き合っているって!!そんなわたしを重く思ってるって!!いつかお兄さんがわた
しを捨てるって!!みんなみんな言うんです!!違うって信じたくても、信じられないんです!!だ
ってお兄さんとわたし、釣り合わないです!!お兄さんの方がずっと素敵で立派な人です!!わたし
も分からないです!!何でお兄さんがわたしの恋人になってくれたか!!分からないんです!!だっ
て、お兄さんの周りにはわたしより素敵な女の子がいます!!わたしなんかより、ハル先輩と一緒の
方がお兄さんの幸せになるって分かっています!!それでも嫌なんです!!お兄さんを渡したくない
んです!!お兄さんの傍にいたいんです!!お兄さんの恋人でいたいんです!!だって、誰も私の傍
にいてくれません!!味方になってくれません!!お父さんは死にました!!生きていても私の傍に
いてくれません!!いつもお仕事で遠くにいます!!お母さんもです!!いつもお仕事ばかりです!!
そばにいてくれません!!お父さんが死んでもお仕事です!!三週間で帰ってくるって言っています
けど、嘘です!!わたしの事が大切っていつも言いますけど、それも嘘です!!いつもそう言って帰っ
て来ないです!!入学式も卒業式も誕生日も授業参観も三者面談も体育祭も文化祭も風邪をひいた時
も!!学校もそうです!!クラスメイトはみんな私の悪口を言います!!陰口を言います!!学校の
先生もひどいことします!!わたし、何もしていないのに!!教頭先生もです!!全部わたしのせい
にしようとして!!警察の人も!!お父さんが死んでも犯人を捕まえてくれない!!ハル先輩も不安
にさせる事ばかり言います!!梓もです!!マンションまで押し掛けます!!わたし遠慮しているの
に!!梓の家まで押し掛けないのに!!梓とお兄さんが一緒にいられる領域に足を踏み入れないのに!!
だからお見舞いに行かなかったのに!!なのに梓はここまで来るんです!!学校でもお昼休みにお兄
さんを連れていくんです!!お兄さんとお食事できるのはお昼しかないのに!!梓はいつもお兄さん
とお食事できるのに!!妹なのに!!いつもそばにいられるのに!!嫌です!!もう嫌なんです!!
みんな私にひどいことします!!わたしにはお兄さんしかいないんです!!わたし、お兄さんの事好
きです!!大好きです!!愛しています!!誰よりも愛しています!!誰にも渡したくないんです!!
なのに何でですか!!何で分かってくれないんですか!!何で私の気持ちを分かってくれないんですか!!」
 溜まりに溜まった鬱屈が言葉となって溢れ出す。
 お兄さんは何も言わなかった。黙って私の言葉を聞いていた。
 それが余計に私を苛む。苛立たせる。
 「何で黙っているのですか!!何で何も言ってくれないのですか!!」
 視界がにじむ。もう泣かないって決めたのに涙があふれる。
 お兄さんは辛そうに俯いた。
 「…ごめん…」
 絞り出すような声は震えていた。
 その声に我に返る。
 私、なんて事を。
 お兄さんに、なんてひどい事を。
 何の関係もないのに、お兄さんは私に良くしてくれているのに。
 「ご、ごめんなさい」
 無言でうつむくお兄さん。どうしようもなく傷ついた表情。
468三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:55:28 ID:yyH+Q/WN
 どうしよう。
 どうしよう。どうしよう。
 どうしよう。どうしよう。どうしよう。
 嫌われる。
 お兄さんに嫌われる。
 悪いのは私なのに。
 お兄さんを騙そうとしていたのに。
 それなのに、ひどい事言って。
 「夏美ちゃん」
 お兄さんの言葉に体が震える。
 私は恐る恐る顔をあげた。
 「ごめんね。何も気が付けなくて」
 お兄さんは微笑んでいた。いつもの笑顔だった。
 でも、分かってしまった。その笑顔の裏側で、お兄さんが泣いているのを。
 お兄さんは無言で服を着た。私は何も言えず突っ立っていた。
 「あ、あの」
 何か言おうとして、言葉が思いつかない。
 どうしようもないぐらい涙があふれる。
 お兄さんはハンカチで私の涙を拭いてくれた。
 それでも止まらない。涙がとめどなく溢れる。
 お兄さんは私の手にハンカチをそっと握らせた。
 「夏美ちゃん。今日は帰るよ。夜遅くまでごめん」
 そう言ってお兄さんは背を向けた。
 「戸締り、しっかりしてね。おやすみ」
 部屋を出ていくお兄さん。その後ろ姿を追えなかった。
 お兄さんが遠くに行く。その事に気がついて慌てて服を着て部屋を出る。
 もういない。お兄さんはもういない。
 嫌われた。
 お兄さんに嫌われた。
 部屋に戻りベッドにうつ伏せになる。
 何であんなひどい事をしてしまったのだろう。
 何であんなひどい事を言ってしまったのだろう。
 お兄さんは何も悪くないのに。
 私はお兄さんのハンカチを抱きしめた。
 ベッドの上で私は一人泣き続けた。

 体が鉛のように重い。歩いているだけなのに、疲れる。
 脳裏に浮かぶのは夏美ちゃんの事。泣きながら喚く夏美ちゃんの声が脳裏に木霊する。
 僕は馬鹿だ。
 夏美ちゃんがあんなに辛い思いをしているのに、何も気が付けなかった。力になれてなかった。支えられなかった。
 雄太さんとの約束を何も守れてない。
 (お兄さんを誰にも渡したくないんです!!)
 夏美ちゃんの悲鳴が脳裏にこだまする。
 胸に湧き上がる感情。悲しみなのか怒りなのか後悔なのか分からない。
 夏美ちゃんは僕を信じてくれていなかった。
 僕が好きな女の子は夏美ちゃんだけなのに。他の女の子を好きになる事なんてありえないのに。
 何度も言った「好き」という言葉も、夏美ちゃんは信じてくれていなかった。
 僕はかぶりを振った。夏美ちゃんは悪くない。
 お父さんが死んで、学校でも教師にひどい目にあわされて、精神的に追い詰められていただけ。
 夏美ちゃんは悪くない。
 それなのに。いや、それでも衝撃は大きい。
 僕と一緒にいるために、妊娠しようとしていた。
 無垢な命を利用しようとした。
 いまだに信じられない。夏美ちゃんがそんな事をするなんて。
 それとも、そこまでしないと信じられないのだろうか。
 僕の事を、そこまで信じていなかったのだろうか。
 目頭が熱い。涙が出そうになるのを必死でこらえた。
 何でこんなことになってしまったのだろう。何がいけなかったのだろう。
 夏美ちゃんの様子がおかしくなったのは雄太さんが死んでから。
 梓が、夏美ちゃんのお父さんを殺してから。
469三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:57:03 ID:yyH+Q/WN
 でも、梓が殺した理由は、きっと僕と関係ある。
 僕が、夏美ちゃんと恋仲だから。
 最初から夏美ちゃんと付き合わなければ、こんな事にならなかったのかもしれない。
 そうすれば夏美ちゃんのお父さんが殺される事は無かった。
 悪いのは誰で、何がいけなかったのか。
 分からない。考えたくもない。
 体が重い。僕は帰り道の途中にある公園に入り、ベンチに腰をおろした。
 今は家に帰りたくない。梓と顔を合わせたくない。
 膝の上に肘を載せ、頭を抱える。
 初めて自分が裸足なのに気がついた。夏美ちゃんの家を出る時、靴をはかずに出ていったのだろうか。
 僕は笑った。乾いた笑い。靴をはくのも忘れているなんて。それだけ衝撃的だったのだろうか。
 座っただけなのに、立ち上がる気力がわかないほど疲労しているのが分かる。
 夏美ちゃんの家から帰る時はいつも寂しかった。悲しかった。
 それでも、夏美ちゃんの笑顔を思い出すだけで温かい気持ちになれた。
 今ではもう、夏美ちゃんがどんなふうに笑ったかも思い出せない。
 脅えた表情で僕を見上げ、不安そうに眼を伏せ、涙を流す姿しか思い出せない。
 目頭が熱くなる。視界がにじむ。
 堪えようとしてできなかった。涙があふれ、頬を伝う。
 辛いのか、悲しいのか、惨めなのか、それすらも分からない。
 一人で泣いていると、物音がした。
 二種類の足音。人と、多分犬。僕の方へ近づいてくる。
 僕は腰をあげて立ち上がった。公園を出よう。泣いているところを、例え知らない人にも見られたくない。それに夜の散歩をしている人を驚かせたくない。
 「幸一くん」
 聞き覚えのある声が僕の名前を呼ぶ。
 ずっと僕の傍にいてくれて助けてくれた、大切な家族の声。
 振り向いてはいけない。
 振り向くと、情けない姿を見せてしまう。頼ってしまう。甘えてしまう。
 それなのに足が動かない。
 「幸一くんでしょ?」
 僕の肩に彼女の手が触れる。温かくて柔らかい手。
 「どうしたの?」
 心配そうな春子の声が後ろから聞こえる。
 「…何でもない」
 僕の声は震えていた。震えているのを隠しきれなかった。
 「何かあったの?こっちを向いてよ」
 シロが足に体を摺り寄せてくる。
 春子が僕の正面に回り込もうとしてきた。
 「来るな!!」
 春子の足が止まる。自分でもびっくりするぐらいの硬い声。
 「…お願いだから、来ないで」
 泣いている姿を、情けない姿を、春子に見られたくない。
 振り向いたら、きっと春子に甘えてしまう。
 「幸一くん」
 柔らかい声が僕を呼ぶ。
 背中に温かい感触。僕の前に白い腕が回される。
 僕を後ろから抱きしめた春子が囁く。
 「怖がらないで。大丈夫だよ。お姉ちゃんが傍にいるから」
 柔らかい声。その声に自分でも信じられないぐらい安心してしまう。
 「大丈夫だから。ね?こっちを向いて」
 涙がとめどなく溢れる。頬を伝い涙が落ちる。
 「僕はっ、ぐすっ、僕はっ…!」
 「お姉ちゃんの前ならどれだけ泣いてもいいから」
 もう耐えられなかった。僕は後ろを振り向いた。
 春子が笑顔で僕を見上げていた。
 僕は春子に抱きついた。
 温かくて柔らかい感触。
 春子も僕の背中に腕をまわして抱きしめてくれた。
 身長差があるから僕が春子を抱きしめているみたいだけど、それでも春子は僕を抱きしめてくれた。
 「こんなに大きくなったのに、相変わらず泣き虫だね」
 僕の腕の中で春子は笑った。その笑顔に、沈んだ心が軽くなる。
470三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 20:58:36 ID:yyH+Q/WN
 「大丈夫だから。お姉ちゃんが傍にいるから」
 春子は僕の背中をあやすように撫でた。子供をあやすような行動なのに、不快じゃなかった。心が落ち着いていく。
 「ごめん。もう大丈夫」
 僕は春子を離した。もう涙は出ない。
 「よかった。お姉ちゃん安心したよ」
 春子も一歩離れた。
 その姿を見て思わず息をのんだ。
 水色のキャミソールに白いホットパンツ。夜の闇でも眩しいぐらいの白い肌を惜しげもなくさらしている。背中まで垂れる長い髪は夜の闇にも混ざらないほど黒く、烏の濡れ羽のように艶がある。
 一瞬、梓に見えた。
 「?どうしたの?」
 不思議そうに僕を見上げる春子。
 「いや、梓みたいな格好だと思って」
 「そう言えば最近の梓ちゃんはお姉ちゃんと同じ髪型だよね」
 朗らかに笑う春子。その明るくて優しい笑顔だけは梓と違った。
 「もう大丈夫?」
 大丈夫かといわれると、そうでもない。状況は何も変わっていない。
 でも、春子と話しているだけで、気分は少し晴れた。
 「春子と話して元気が出た」
 「よかった」
 そう言って春子はにっこりと笑った。シロもわうと吠えた。
 「幸一くん。明日ひま?」
 明日。そう言えば、土曜日だ。
 予定は無い。精々、家事をするぐらい。
 「じゃあお姉ちゃんと一緒に遊びに行こうよ」
 「…嬉しいけど」
 「僕には夏美ちゃんがいる?」
 僕の言おうとした事を口にして笑う春子。
 「笑わないでよ」
 「ごめんね。でもね、聞いてくれる?」
 真剣な表情な春子。
 「幸一くんには気分転換が必要だよ。気が滅入ったままだと、また体調を崩しちゃうよ」
 確かに春子の言う通りかもしれない。
 気分転換が必要なのかもしれない。
 でも、春子と二人っきりで一緒にいた事を夏美ちゃんが知ると、また夏美ちゃんが悲しむ。
 「お姉ちゃんは幸一くんのお姉ちゃんでしょ?」
 確かにそうだけど、こういうのは理屈じゃない。でも、久しぶりに春子と出かけて遊びに行きたい気持ちもある。
 どうしよう。

 幸一くんは随分悩んでいる。
 もう。悩まなくてもいいのに。
 この公園に私が来たのはもちろん偶然じゃない。
 盗聴器で幸一くんと夏美ちゃんの会話を聞いて、家を飛び出した。
 シロに匂いをたどらせ、ここまで来た。
 私が来た時、幸一くんは見てられないぐらい傷ついていた。
 少し胸が痛んだ。私が画策したこととはいえ、ここまで傷ついている幸一くんを見ると、私も苦しく感じた。
 はやく夏美ちゃんと別れればいいのに。そうすればこんなに苦しむ事もないのに。
 幸一くんと夏美ちゃんは、もう終わりだろう。
 これ以上付き合っても、お互いを傷つけ合うだけ。
 後はほっておいても大丈夫。
 シロはゆっくりと歩く。それに合わせて私達もゆっくりと歩き始めた。
 「春子。リード持ってもいい?」
 もう。お姉ちゃんの手よりリードの方がいいんだ。そんな事を考えながらも私は幸一くんにリードを渡した。
 嬉しそうに幸一くんの周りを走るシロ。なんだか少し腹が立つ。
 「春子。その指輪、もしかしたら昔あげたやつ?」
 私の左手を見ながら幸一くんは言った。
 気がついてくれたんだ。嬉しい。
 「そうだよ。覚えてる?」
 「高校受験の前だから、中三の時だったかな。梓の誕生日のお祝いに協力してくれたお礼にあげたっけ」
 そう。梓ちゃんの14歳のお誕生日のお祝いをお手伝いしたお礼に幸一くんがプレゼントしてくれた指輪。飾り気のない銀のシンプルな指輪。
 昔は鎖を通してネックレスにしていたけど、高校に入ってからはチェックが厳しいから外していることが多かった。
471三つの鎖 26 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/08/30(月) 21:00:26 ID:yyH+Q/WN
 今日は久ぶりに指にはめた。
 「まだ持っていてくれたんだ」
 「幸一くんがプレゼントしてくれた指輪だもん。大切にしているよ」
 懐かしい思い出。指輪をはめて欲しいという私に、不思議そうな顔で左手の小指にはめてくれた。
 「春子」
 幸一くんは意を決したように私を見つめた。
 「春子さえ良ければ、明日遊びに行こう」
 私と遊びに行くだけなのに、こんなに真剣な表情をする幸一くんが微笑ましかった。
 「いいよ。ちょっと遠くに行く?」
 近場だと夏美ちゃんや梓ちゃんに遭遇するかもしれない。
 「うん。隣町のショッピングセンターに行かない?」
 「いいよ」
 待ち合わせ場所などを決めながら歩く。
 家に近づいたところで別れる事にした。近くまで行って、この前みたいに梓ちゃんに見られたら大変だから。
 「幸一くん。おやすみ」
 「春子」
 幸一くんは微笑んだ。
 「今日はありがとう。言葉に尽くせないぐらい感謝してる」
 幸一くんって本当に単純。今日の事も裏で私が手を引いてるって知ったら、どんな顔をするだろう。
 でも、そんな所も含めて好き。
 「気にしないで。また明日ね」
 「おやすみ」
 シロが小さくワンと吠えた。
 家に戻りベッドにダイブする。
 夏美ちゃん、本当に惨めだった。
 確かに夏美ちゃんの現状は悲惨だ。
 お父さんは殺害され、クラスでは孤立し、教師まで夏美ちゃんを傷つける。
 でも、幸一くんは関係ない。むしろ幸一くんは夏美ちゃんを助けようと、支えようとしている。
 うんうん。違う。幸一くんも勘違いしている。
 幸一くんは夏美ちゃんの支えになれてないと思っているけど、それは違う。
 夏美ちゃんはできた子だ。関係のない人にあそこまであたるなんてできない。
 幸一くんが夏美ちゃんにとっての支えだからこそ、あそこまで心の内を晒せた。
 それは逆説的だけど、幸一くんが夏美ちゃんの支えである証。
 本当に哀れな二人。
 幸一くん、本当に疲れている。
 もし幸一くんが疲れてないなら、私と二人きりで出掛けるなんて絶対にしない。夏美ちゃんが誤解するような行動は絶対にしない。
 明日は幸一くんとデート。
 胸がドキドキする。わくわくする。
 今日の幸一くん、私の恰好を見て顔をひきつらせていた。
 暑いからキャミにショートパンツにしたけど、梓ちゃんを連想したのかな。この格好、梓ちゃんがいつもしているのと似ているし。
 明日はどんな格好をしよう。幸一くんが好む服装ってどんなのだろう。
 そんな事を考えながら私の意識は眠りに落ちた。


投下終わりです
読んでくださった方に感謝いたします
ありがとうございました
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472名無しさん@ピンキー:2010/08/30(月) 21:30:18 ID:f2I9ZXO1
乙!

夏美乙!

春子の策略がうまくいきすぎて怖いな、そろそろ梓も動きそうだし
次回が楽しみ過ぎる
473名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 00:33:35 ID:oR2bPapX
謀略の女春子恐るべし!gjこのまま梓や夏美は出汁に使われてしまうのか…
ーーーそしてみんな病んでいった
474名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 01:49:01 ID:SbMBPyXn
スゲーとしかいえないですね。春子の策略が上手くいってますね

読んでいて気づいたんですけどポケモンみたいに相性みたいなのできてませんか?
梓→春子→夏美→梓→春子→…
みたいな感じです
春子は夏美には策略でいくらでも翻弄できるが梓に力ずくでこられたら勝てない。梓は夏美に手を出すと本気で幸一から嫌われてしまうのでなかなか手を出せない(夏美→梓がビミョーですけどね)

どうでしょう?
475名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 02:00:01 ID:CmFVg+pB
はい。
476名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 13:23:14 ID:KZzhMACG
ハルコ「夏美よ、貴様の義星とは所詮は妖星の輝きを引き立たせる屑星に過ぎんのだ!」
477名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 16:33:09 ID:iaNKvTjZ
おいばかやめろその配役では春子が死ぬぞ

その方が嬉しいけど
478名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 17:21:22 ID:LeXMR7kT
ていうかそれ全員死ぬだろw

幸一「愛故に、人は悲しまねばならん!愛故に、人は苦しまねばならん!愛ゆえに…!」
479名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 20:20:31 ID:iaNKvTjZ
南斗六聖拳のうち残るは3つ
私欲で人を殺してるから仁星や慈母星には程遠い
となると残りは殉星だが…兄への思いを抱えて散ってしまうのか

むしろラオウ?
480名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 21:45:15 ID:x2Hr/LcK
GJ
誰か幸一を助けてやれよ・・・
これだけ尽くしてる夏美にこんな目にあわされて・・・
いくら何でも可哀そう過ぎるだろ・・・
481名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 21:54:23 ID:KZzhMACG
梓「ハルコとナツミ・・・どちらが真に兄を握るに相応しいか見極める為ならば血に飢えた狼にすらなろう・・・!」
482名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 23:45:23 ID:v5t/ry2F
修羅の国なら配役はどうなる
483名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 01:54:37 ID:5de1BY/y
待て、例えが全て似た傾向になっているぞw
それぐらい殺伐、ドロドロになってきたな、GJ!
484名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 02:33:45 ID:GBSafjJ/
>>482
ケンシロウ…夏美
ヒョウ…梓
カイオウ…春子
リン…幸一
バット…耕平

>>483
だって全部同じ漫画だから…
485名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 03:02:22 ID:uAiZ9LmS
黒王…シロ(黒くてデカい)
ていうか俺らそろそろ自重

そういえばシロは性別不明だっけ?
最終的に人間に嫌気がさした幸一が種族を超えた禁断の愛に…目覚めたりはしないか
自称血のつながらない妹(犬)有り とか…ないな
486名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 04:14:28 ID:Y+DM+5sk
>>485
愛に憎しみを抱く様になって、聖帝十字陵を作る様になるかもね
487名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 07:21:09 ID:ZUAfmBZw
>>478
おいやめろ
俺の腹筋を破壊する気か
幸一がどこまで悲しめばこの話はハッピーエンドに終わるんだ
488名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 09:01:15 ID:GgGWUjg6
流れぶった切って悪いが、誰か お兄ちゃん☆コントロール ってマンガ知ってるかな
489名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 10:39:50 ID:Ue0QGbsC
>>484
おい、その配役だと最終的に幸一と耕平が
くっつくじゃんw
梓は死んじゃうのはありえるけど
490名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 12:27:34 ID:6gv7tDGm
春子は物語のポジション的にジャギだな

・基本的に「バカめ!勝てばいいんだ何を使おうが!」というスタンスで、
「お姉ちゃんより優れた弟妹なぞ存在しねえ!」な思考の持ち主
・行き過ぎた行動を梓から「貴様いい加減にしろ!」と制裁を受け、その後狂う
・夏美を「何を迷うことがある奪い取れ!」と唆すなど暗躍
等々

きっと最後には梓に「今はお前を生かしておいた私の甘さを後悔している」と言われ、
ギタギタにされた挙句「ばわ!」と断末魔をあげることになるよ
491名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 12:51:00 ID:fnrb0rkH
幸一が白痴過ぎてだんだん読むの辛くなってきた、バカだろこいつ。
聞き分けの無い女の頬を、なぜ一つ二つ張り倒せないのか。
492名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 13:49:56 ID:iJzI8rYC
主人公はへたれに徹するべき
493名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 13:54:48 ID:RbdGR0FE
>>490
おまえそれ本当に面白いと思ってるの?
494名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 14:48:22 ID:SWRXr//8
眠気を覚ますために太股の内側をつねっていたら赤い跡になってしまった。これは妹には見せられないな……。
495名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 14:50:50 ID:Z7l1C4G7
>>494
こんなとこ噛まれて感じちゃう変態さんなんですね兄さんは・・・
496名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 14:52:06 ID:46d3mNL5
兄さんの事で知らないことはないって妹が言ってた
497名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 18:34:24 ID:kAgpK3wo
う…む…このスレは
キモウト派が多いのか

しかしキモ姉派にも頑張って
欲しいところだ…
498名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 18:54:22 ID:S1Iku4Ol
キモ姉・キモウトに囲まれて暮らしたいです><
499名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 18:55:39 ID:rqajfpZA
キモウトさえいればいいです
500名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 20:26:27 ID:HhK/9oMw
ぼかぁキモ姉愛してますよ?
501名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 20:48:00 ID:GgGWUjg6
ならば開くしかないようだな……

姉妹いち武闘会をッ!!
502名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 21:35:29 ID:j5vIA1jl
僕は姉さんを愛しているッ!
503名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 21:41:00 ID:uAiZ9LmS
キモウト達の血みどろの闘いを主催者席から見下ろす長女…
もちろん優勝賞品(長男)は隣の席に
504名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 22:02:39 ID:TmNIp8V4
>>502
二人きりの姉弟なのにッ!
505名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 23:15:08 ID:4ZBJObf+
私達は2人で1人のキモ姉さ!!
506名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 00:03:14 ID:bGPQ3l7g
そしてオーガ(鬼)の異名を持つ母親にステロイドジャンキーの異母姉妹もいるのか
507名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 02:28:33 ID:v+IBYRZ8
>>502の姉はなぜに、デビルガンダムの生体コアユニットになったん?
508名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 06:36:00 ID:QQyZ8/U5
雑談はスレを腐らせるのでどんどんしてください
509名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 08:30:13 ID:PhRFLLMO
>>507
世界中の人の前で告白させれば後には引けなくなるな


…キモ姉の事だから「関係を認めてくれない」とかの理由で親を冷凍刑にさせたりとかしてそうだ
510名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 14:43:47 ID:5sC2RcrB
定期的に関係ない漫画の話題出すのやめない? そんな暇があるなら姉の蒸れた足でも舐めてこいって
511名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 15:00:34 ID:l+vzZUwM
やだやだ妹の腋の方がいい
512名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 16:07:55 ID:YzVNH+dv
臍だろJK
513名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 16:53:37 ID:TtVn4qL7
リメイクも出るし、あの姉さんの魅力にやられる人間も増えるのだろうか
というか姉さんイベント増えるのかなぁ
カマンダスガンみたいに、オ○ビア死ぬと凄いの手に入ったり
514名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 18:20:31 ID:Wpe8Ypco
相変わらずここの作品は清々しいくらい血深泥の結末しか見えないwww
…これでもほめてますのよ? 所謂GJですわ
515名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 19:11:02 ID:pN7XB0YY
>>510->>512
おまえらはキモ姉妹に喰われる側だ
516名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 00:27:35 ID:RM7ygayw
>>514
三つの鎖は八ッピーエンドで終わると俺は信じている
517名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 03:22:16 ID:qobNUml/
春子とセックスしたり
梓と往来でキスしておいて
信じてもらえなくてショックって、呆れるぐらいアホやね幸一は
518名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 03:56:23 ID:0kgSvdLb
どっちも不本意だから主体的になにかした自覚はないんだろう
自分の中の優先順位は変わってないし
519名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 04:23:20 ID:QmdukEAV
むしろ幸一がアホじゃないと萎える
アホな幸一に萌え
520名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 17:50:14 ID:L7nOeSDz
ウチはお兄が ええねん
好きでいれたら ええねん
同じ夢を見れたら ええねん
そんなステキなふたりが ええねん
心配せんで ええねん
ウチを見てれば ええねん
それでええねん
それだけで
521名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 19:40:37 ID:I92514O5
街頭で「お兄ちゃんの子供が産めたらええねん」
と書いてしまって家族会議→家出→兄の部屋に転がり込む妹
522名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 21:25:37 ID:8k7Me1eU
編集しなかったのかよサラリーマンNEOw
523名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 21:25:44 ID:KukHs+Zu
>>520
どこの言葉だよw関西弁ですらないw
524幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:26:05 ID:XpNk3qa7
今晩は。
表題のとおり投下をいたします。

その前に前回についてですが、圭の苗字は新林です。
名前を決めた当人が間違っていました、すいません。
525幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:27:28 ID:XpNk3qa7
もう1時なのに、どうしたんだろう?
いつもみたいに待っているのに、いつまでもお兄ちゃんが帰ってきてくれない。
「シルフちゃん、さっきから何回時計を見てるのかな?
 そわそわしすぎよ〜?」
姉さんが呆れ顔で紅茶の入ったマグカップを持ってきてくれた。
「だって、お兄ちゃんが連絡も無いのにこんなに遅いなんて、変だよ。」
「大丈夫だって。
 兄さんだって偶には遅くなる時ぐらいあるし、電話が出来ない時もあるわ。」
「でもこのまま帰ってこなくなったら、私は嫌。」
私はお兄ちゃんの顔を見てからじゃないと眠りたくない。
そうしないとお母さん達みたいにいなくなりそうで、怖くなるから。
「どうしても、お兄ちゃんを探しに行っちゃだめなの?」
「何回聞いても絶対にだめだよ。
 こんな時間にシルフちゃんを外に出したら、お姉ちゃんが兄さんに怒られちゃうもの。」
姉さんはちょっと厳しい顔をして答えた。
「分かってるけど。」
私はまた時計を見る、あれからもう10分も経っている。
「もう、シルフちゃんは心配性なんだから。
 あ、ほら、やっと帰ってきたみたいだね。」
526幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:28:00 ID:XpNk3qa7
ばたん、ずりずりという音を立てながらお兄ちゃんが居間に入ってきた。
だらりと力の抜けた女の人を抱えていた。
「おかえり、兄さんいくらなんでも遅すぎだよ〜、ってあれ?」
「お兄ちゃん、それに、……母さん?」
「ああ、なんだか知らないが突然帰国して、駅前で飲んでたらしいんだ。
 で、俺を見つけるや否や、頭を酒瓶で殴りやがった。
 だめだ、まだ頭がぐらぐらする。」
大丈夫? お兄ちゃん、と声を掛けようとした時に母さんが突然起き上がって私に向かってきた。
「シルフちゃ〜ん。
 ちょっと見ないうちにすっかり綺麗になっちゃって。
 うふふふ、お母さんが男だったら禁断の愛に目覚めちゃうところよ〜。」
そう言って、ぎゅうっと抱きしめて、すりすりと頬擦りされる。
暑苦しくて、酒臭い。
うう、姉さんといい、抱き癖のある血筋なのかな?
……なんで、お兄ちゃんはこういう所は母さんや姉さんに似てくれないのだろう。
「ん、どうした、シルフ?
 じーっと、こっちを見て。」
「ううん、なんでもない。」
お兄ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「うんうん、こっちもしっかり成長しているわね〜。
 Cかな〜、いえいえこの手応えはひょっとしてDかしら〜?」
母さんが今度は私の胸を右手でムニムニと揉み出す。
そして母さんの言葉にちょっとだけ姉さんの目が怖くなった気がする。
やめて欲しいけど、あ、ん……、今声を出すと……、泣きたい。
527幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:28:51 ID:XpNk3qa7
「で、今回は何の用だい、母さん。
 あと、いい加減にしないと警察呼ぶからな?」
お兄ちゃんが気まずそうに私から目線を逸らしつつ水を差し出す。
母さんが胸から右手を離しコップを取る。
今の、お兄ちゃんに気付かれていたんだ……、もう、泣いて良いよね?
「う〜ん、用って言うほど大した事では、まあ有るんだけどね〜。
 その、陽ちゃんにシルフちゃんって、青春を謳歌してたりするのかな〜って。
 いや、別にしてなくても母さん的には全然おーけーなんだけど。」
「母さん、まさか子供の素行調査の為に地球を半周してきたのか?」
「いや〜、そういうわけじゃなくてね。
 え〜と、要はね。勿論、二人ともOKならなんだけどね〜」
未だに成すがままにされている私をお兄ちゃんの方に向ける。
「その〜、陽ちゃんにシルフちゃん、二人でハッピーサマーウェディングする気とかないかな〜、なんちゃって〜。」
誤魔化すようにあははは〜、っと笑う母さん。
姉さんは母さんと同じ様に笑顔だった。
一方、開いた口の塞がらないお兄ちゃん。
あれ、お兄ちゃんの頭が真っ白になっているのって初めて見たかも。
そして私は、もし体が自由なら頭を抱えたかった。
528幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:29:22 ID:XpNk3qa7
「母さん、たちの悪い冗談なら止めてくれよ。」
一番早くショックから立ち直ったのはお兄ちゃんの様だ。
「ジョークじゃないよ〜。
 お母さん真の剣と書いて、しんけんと読む位マジだよ〜。」
「突っ込まないからな。
 本気ならそれなりに訳があるんだろうな?
 ……お兄ちゃん今から家庭内暴力に走りたくなってきたんだが。」
「うう、シルフちゃ〜ん、お兄ちゃんがぐれちゃったよ〜。」
母さんがわざとらしく泣きながら私にほお擦りする、すごく酒臭い。
「母さんいい加減離して。
 あと、私もお兄ちゃんと同じ気持ちなんだけど?」
「シルフちゃんまで!!」
私にも拒否されたのが相当ショックだったのか、今は姉さんによしよしと慰められている。
姉さんに甘えられて満足した母さんが詳細を語る。
「どういうわけかって言うとね―――。」
―――母さんの話を纏めるとこういう話だった。
以前言ったとおり、私のお父さんとお兄ちゃんの父さんは親友だった。
当時留学生だったお母さんと駆け落ち同然で結ばれたお父さんは高校を卒業してすぐに働かなければいけなかった。
お兄ちゃんの父さんは、ただの高校卒業生の身である私のお父さん達が家庭を維持する為にいろいろな手伝いをしてくれて、
時にはアルバイトをしてお金を工面してくれたりもしたそうだ。
もっとも、私やお兄ちゃん達が生まれた頃には、二人ともすっかり別の道に進んでいてめったに会える機会は無かったそうだが。
そして、ある時に二人はこんな約束をした。
お兄ちゃんと私が大きくなったら、二人を結婚させてお父さん達は本当に家族になろうと。
けれど、私のお父さんとお母さんの死のせいでその約束は果たされなかった。
529幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:29:48 ID:XpNk3qa7
「というわけでね、まあ酒の席で本人達もどこまで本気だったか分からないし。
 シルフちゃんのお父さんも亡くなっちゃったから、別に強制なんて全くしないよ。
 でも、一応本人達には話しだけでも聞いてもらおうかなって。
 ……特にシルフちゃんには知っておいて欲しかったの。
 本当はお父さんから話したかったらしいけど、今電話もまともに出来ない場所だし。
 だから、母さんが伝えにきたって訳。」
お母さんはそう言うと、再び私達に尋ねる。
「そういうわけなんだけど、陽ちゃん、シルフちゃん。
 結婚する気、あるかな?」
私はまだ気持ちの整理が付いていなかった。

分からない、私はどうすればいいのだろう?
もし、ここでYESと答えれば、ずうっと心にあった私の夢が実現するのかもしれない。
でも、それをお兄ちゃんがNOと答えてしまえば、話は無かった事にされる。
そして、お兄ちゃんに自分の本心を知られてしまった私だけが残る。
そうしたら、私とお兄ちゃんの関係は変わってしまう。
私の想いを知ったお兄ちゃんは今までのように接してくれるのだろうか。
無理だと思う、きっと私は家族と他人の中間のような位置にまで遠ざけられる。
そうすれば、私はもう二度と妹としてのあの心地よい場所には戻れない。
それだけは嫌だ、私は何があってもずっとここに居続けたい、例え、お兄ちゃんの足枷になったとしても。
それならば正解はNOだ。
でも、それは私はお兄ちゃんを異性として拒絶した事になる。
それは永遠に私は妹のままという事、私の願いを捨てる事。
何回も描いていた、ウェディングドレスを着る私、お兄ちゃんと行ってきますのキスをする私。
そして、お兄ちゃんとぎゅうって抱っこしあう私。
お兄ちゃんの側に居るのに、全部叶わなくなる。
そんなの、嫌だ。
530幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:30:26 ID:XpNk3qa7
でも、私は「まあ、ふざけた理由じゃないから多少安心したよ。
       その上での、NOだ。」
煩悶する私を尻目にお兄ちゃんが答える。
「そして、シルフの答えも当然NO。
 ったく、どう断ればいいか悩んじゃってるじゃないか。
 シルフは今の家族関係を壊されるのが心配なんだよ。
 大丈夫だぞ、俺達は十分に家族だろ、俺は全然気にしないからな。
 俺達の関係は何があっても変わらないんだ、だからはっきりと断わってやれ。」
そう言ってお兄ちゃんが笑いかける。
何でかは分からないけど、母さんの表情が険しくなった。
違うよ、私はそんな事で悩んでなんかいないの、お兄ちゃん。
でも、私はお兄ちゃんと居られるなら……。
「うん……、私の答えも……「ストーーーーップ!!」」
姉さんの大声、そのせいで私のか細い返事がかき消された。
「兄さん、いくらなんでも身勝手すぎると思うよ。
 少しはシルフちゃんの話を聞いてあげるべきじゃないのかしら?
 ねぇ、シルフちゃんはどうしたいのかはっきり言ってあげたら?」
「私は……。」
答えを出せない私に姉さんが優しく目線を合わせる。
そして、微笑みながら言った。
「そうだよね。
 いきなりこんな事言われても心の整理がつかないよね。
 あのねシルフちゃん、お母さん、それならこういうのはどうかな?
 例えば、お試し期間っていうことで少しの間、恋人になってみるの。」
531幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:30:58 ID:XpNk3qa7
そこでぱんっと母さんが自分の手を叩く。
「あら、さすがお姉ちゃんね、良い事を思いつくわ〜。
 うん、お母さんもそれがいいと思うわ。
 確かに、ずうっと家族だったんだから、いきなりって言うのは性急よね〜。
 まずは恋人として3ヶ月過ごしてみなさい、それからもう一度二人の意思を確認するわ。
 明日には母さん出国しちゃうけど、3ヵ月後にちゃんと電話するからね。
 うん、これは命令よ。
 もし従わなかったら、……え〜っと、仕送りを無くすわ。」
「おい、二人とも俺の意思は?」
「「却下」」
二人の声が重なった。
その様子にお兄ちゃんが困った顔をして答える。
「本気なんだな、母さん。
 分かったよ、はぁ、雪風も母さんも本当にそっくりだな。
 偶に何を考えているのか分からなくなる時があるよ。」
「あら、兄さん、他人の考えって全然分からないのが普通なんだよ?」
「本当にね、雪風の言うとおりよ。
 母さん、たまににあなたの育て方を間違えたと思う時があるわ。
 あなたは今からでも他人の気持ちを理解する事を学ばないと。」
「へいへい、育ちが良いと苦労しますね〜。」
お兄ちゃんは苦笑いをしていた。
姉さんと母さんは笑っていなかった。
532幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:31:39 ID:XpNk3qa7
****************************************
シルフと陽が眠った後も、まだ雪風はキッチンに残っていた。
「はい、お母さん。」
雪風がほっかほかのラーメンを差し出す。
「ありがと〜、雪風ちゃん。
 やっぱり良く分かっているわね〜。
 最後の〆はこれじゃないと。」
ずるずる、べちゃ(?)、と行儀悪く啜る。
そんな母親をにこにこと雪風が見守る。
「それにしても今日は助かったわ〜。
 全くもう、陽君は何でもかんでも一人合点するんだから。
 本当に、雪風ちゃんだけには先に教えておいて正解だったわ。」
「う〜ん、流石に私もお母さんから教えてもらったときはびっくりしたんだけどね〜。
 ところで、久しぶりのシルフちゃんはどうだった、少し変わったでしょ?」
「そうね、あの子は昔から心配な所があったけど、今はある程度安心、かな。
 少なくとも積極的に敵を見つけて、それを排除しようとはしなくなったのね。
 そういう意味では昔よりもずっと安定してきたと思うわ。
 きっとあの子はここに居場所を見出してくれたのね。
 これも雪風ちゃんに、それから陽君のおかげよ。」
「そうかしら、それならきっと兄さんのおかげだと思うよ?」
「ただ、私が本当に心配なのはそのお兄さんの方かな。
 あの子は昔から気持ち悪いくらいに勘が良い癖に、
 人の事を理解しようとはしていないなって思うところがあったから。
 そういうのってとても一人よがりで、自分も他人も傷付けるから怖いの。
 雪風ちゃんもそういう風に思う時って無かった?」
彼女は表情を曇らせながら言った。
「どうかな、私にはいつも賑やかで、優しい兄さんだったから。」
雪風は困ったように答える。
533幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:32:03 ID:XpNk3qa7
「そう、なら良いんだけど。
 ただ私は、今のままだと陽君みたいな子は大事なものを知らないうちに見失って、
 それでも本人はそれが大事だったって事さえ気付けないような人になると思うわ。
 特にあの子は中途半端に何でも出来るような子だから、余計に怖くてね。」
「私はそんな事無いと思うな。
 兄さんは何でもやれば出来る子だもの。」
「本当は、もし2人の育ち方次第では、許婚の約束があったていう話をするだけのつもりだったの。
 でも、今日会ってみて思ったわ、やっぱり二人ともまだまだ色々欠けているって。
 だから、悪いけど雪風ちゃんにはこれからも二人を見守って欲しいの。」
「ふふ、まるで私が兄さん達のお姉ちゃんみたいだね。
 それで、今日のお母さんの見立てでは二人はどうだったの?」
「そうね、多分、シルフちゃんと陽君に欠けているものは二つともぴったりだと思うわ。
 シルフちゃんには陽君が必要で、陽君にもシルフちゃんが必要。
 ただ、陽君は自分ではその事に全く気付いてないみたいだけど。」
「そうなんだ。」
この時、雪風が少しだけ不機嫌になった。
それは実の母親でも気付けない位も僅かな変化であったが。
534幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:33:57 ID:XpNk3qa7
「でも、何だかんだ言っても2人とも私にとっては自慢の息子に娘なんだけどね〜。
 お父さん達の約束もあるし、変にどこかの馬の骨にやるよりもこうした方が良いって私達は思ってもいるの。
 もちろん、ふたりともがOKならだけど、うん、それについては意外と好感触かもしれないわ。
 ああいう組み合わせってね、一度燃え上がるともう消えないものなのよ〜、ふっふっふ。
 ま、なんにせよ信頼しているわよ、雪風お姉ちゃ〜ん♪」
「くす、あらあら、それじゃあ雪風お姉ちゃんには何も足りてない物は何も無いって言うのかしら?」
「そうねえ〜。」
そう言って雪風の胸元を何となく見る、とても質素でコンパクト、所謂省エネだ。
その後で自分の豊満なそれと比べる。
あれ、シルフちゃんの方が本当の子供だっけ? と思った。
「……ふふ、母さん。
 何を思っているのかな〜、ちゃあんと雪風の目を見て喋って欲しいな〜?」
雪風はニコニコと笑いながら母に問いかけた。
彼女の瞳孔は最大限に開かれている。
「いや〜、雪風ちゃんまでグレたの〜!?
 助けて〜、陽く〜ん、シルフちゃ〜ん!!」
もっとも、その声は当人達には全く届く筈もなかったが。
535幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:34:36 ID:XpNk3qa7
***************************************************

部屋に戻ってから、私は大きな溜息を吐いた。
まだ体が熱くて、胸が鳴っている。
自分が嬉しいのか、それとも悲しいのかだって今の私には分からない。
たった3ヶ月だけど私はお兄ちゃんの恋人になる、それはずっと私の夢だった。
だからとっても嬉しいけど、こんな形になるなら私の願いなんて叶って欲しくなかった。
それから悲しい事はもう一つある。
さっきのお兄ちゃんの返事がそう、とても悲しかった。
少しくらいは悩んでくれても良かったのに、と思う。
確かに私は妹のままでもお兄ちゃんとずっと一緒に居られるならそれで良いって思ってる。
けれど、お兄ちゃんが私の気持ちに気付いてくれてて、いつか私を選んでくれる時が来るかもって本当は期待していた。
それなのにお兄ちゃんは私達の関係はいつまでも変わらないって言っていた、お兄ちゃんはすごく鈍感だと思う。
ずうっと私は好きだったのにお兄ちゃんにとって今の私は妹なんだ……。
やっぱり姉さんの言うとおり、ちゃんと言わないとお兄ちゃんには伝わらないの?
でも、こんなに大好きなんだから伝わってくれても良いよね。
536幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:35:14 ID:XpNk3qa7
ううん、そんな事を悩んでいる時間なんて無い。
もっとお兄ちゃんの好きなご飯を作って、お兄ちゃんがして欲しい事をしてあげないと。
お兄ちゃんにお嫁さんにしたいって、ちゃんと認めてもらわないと。

そこで一つ私は不思議に思った。
考えてみたら、恋人ってどうすれば良いのか私は知らない。
本や映画だと一緒にご飯を食べたり、お出かけをしたり、遊んだりしているけど。
それっていつも私達がしている事と同じだと思う。
でも、私とお兄ちゃんは恋人じゃ無かった、じゃあ何が違うんだろう?
分からないけど、がんばらなくっちゃ。
そうしないともう戻れなくなっちゃうから。

うん、がんばろう。
537幸せな2人の話 3:2010/09/03(金) 21:37:53 ID:XpNk3qa7
以上です。
来週の今頃まで、また失礼いたします。
538名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 22:36:36 ID:tM+j82KC
良かった
雪風の考えが全く読めないが今後の絡み方は気になるな
539名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 10:36:43 ID:Z8hsdPab
ぐっじょ
いい親じゃないか・・・
あとは雪風がどうなるか
540名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 13:49:36 ID:xVpt8ST7
シルフちゃんかわいいお
541名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 14:07:49 ID:3+TplzhK
うn
542名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 16:03:38 ID:o1CLE/xH
母さん、雪風に対して色々ひどすぎるような…
543三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:02:13 ID:GbsLJTLi
三つの鎖 27 です

※以下注意
  エロ無し
  血のつながらない自称姉あり

投下します
544三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:03:37 ID:GbsLJTLi
三つの鎖 27

 まだ午前中というのに、日照りが容赦ない。
 特に今の俺はフルフェイスのヘルメットをつけとる。日差しが熱うてしゃあない。
 バイクで走っとる時はええ。風が気持ちええし。でも、今みたいに信号待ちの時は汗だくになる。
 今日は一人でツーリング。バイクで遠出しようと思っとる。
 気分転換しようと思ってや。最近、俺の周りでは気が滅入る事が多い。
 親友の幸一も、その妹の梓ちゃんも、恋人の夏美ちゃんも、幼馴染の村田も様子がおかしい。
 特に夏美ちゃんが可哀そうで仕方がない。父親を殺され未だ犯人は逮捕されていない。学校では教師が夏美ちゃんに悪意を持って接する。
 あんなにいい子やのに、何であんなに辛い目にあわなあかんのやろ。
 幸一も大変や。恋人の事に加え、警察に疑われとる。
 昨日の警察とのやり取りは幸一に伝えとらへん。伝えてもしゃあない。変に警戒した行動をとると、余計に怪しまれるだけや。知らん方がええ。
 そんな事を信号待ちで考えとると、歩道を見知った顔が歩いている。
 長身の若い女の子。歩くたびに背中まである艶のある長い髪が揺れる。
 俺はバイクのエンジンを切って降りた。
 フルフェイスのヘルメットを外し、声をあげる。
 「村田!」
 村田は俺の方を見てニッコリ笑った。
 「耕平君じゃない!今からどこか行くの?」
 村田は俺の方に駆け寄ってきた。
 薄手のワンピースに薄手のカーディガン。ワンピースの下はくるぶしに近い長さやけど、夏らしい薄手の生地のせいか涼しげに見える。スカートの裾から覗く可愛らしいサンダルと白い素足。
 肌の露出が少ないけど、夏らしい涼しげな装い。
 すごく綺麗で可愛い。
 「耕平君?」
 村田の声に俺は我に返った。
 「ごめんごめん。暑うてぼんやりしとった」
 「バイク乗ってるのに危ないよ」
 くすくす笑う村田。その笑顔に頬が熱くなる。
 「村田はどこ行くん?」
 「隣町のショッピングセンター」
 「買い物やったら荷物持ちで付き合おか?」
 「ありがとう。でもいいよ」
 村田はえへへと笑った。
 輝くような幸せそうな笑顔。魅力あふれる笑顔に頬が熱くなると同時に寂しさを覚える。
 きっと、村田にとって大切な人と行くんやろう。
 胸が痛んだ。
 「さよか。気いつけてな」
 「耕平君もね。ばいばい」
 村田は手を振って離れて行った。
 後ろ姿が徐々に小さくなる。足取りが軽やかでウキウキしているのが見て分かる。
 俺はかぶりを振って飲み物を取り出した。ペットボトルのウーロン茶。
 喉を潤しため息をつく。ツーリングに行く気はとっくに失せていた。
 どないしよう。ぼんやりしとると、聞き覚えのある声。
 「耕平」
 振り向くと、幸一がおった。
 昨日とは少し違う、のんびりとした表情。
 「ぼんやりしてどうしたの」
 「バイクで遠出しようと思っとってんけど、何かやる気が出なくなってきた」
 そうなんだと笑う幸一。
 「僕、もう行くよ。また来週」
 「じゃあな」
 そう言って幸一は歩いて行った。
 俺は眉をひそめた。
 幸一の後ろ姿が徐々に小さくなる。その後ろを不審な人影が追跡している。
 背の低い女の子。夏らしい薄手にチュニックにレギンス。微かに茶色のショートヘア。多分地毛。歳は高校生ぐらいか。
 誰やあれ。見覚えがあるような無いような。
 何で幸一をつけてるんや。
 俺はバイクをロックし、その子に近づいた。
 「ちょっとええ?」
 俺の声を無視して幸一をつける女の子。いや、聞こえてへんのか?
545三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:05:07 ID:GbsLJTLi
 「あー、ちょとええかな」
 俺は女の子の肩をたたいた。
 振り向く女の子。小さい。多分、夏美ちゃんや梓ちゃんと同じぐらい。
 顔はまあまあ。俺の好みやないけど。
 女の子は不審そうに俺を見上げた。
 「ナンパなら後にしてください。忙しいので」
 そう言って背を向けて歩き出す女の子。
 「ちゃうちゃう。何で加原幸一をつけてるん?」
 俺の言葉に女の子は再び振り返った。
 「思い出しました。どこかで見た事あると思ったら、田中先輩ですね。加原先輩と同じクラスで親友って噂の」
 「…俺も思い出したわ。自分、確か堀田美奈子ちゃんやろ?夏美ちゃんや梓ちゃんと同じクラスの」
 道理で見た事がある気がするわけや。
 気味悪そうに俺を見上げる美奈子ちゃん。
 「何で私の名前を知っているのですか。やっぱり噂通り女たらしなんですね」
 美奈子ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。
 いやさ、確かに女の子は好きやし、色々チェックしとるで。でも話した事ない子にいきなりこんな事言われたらやっぱショックや。
 「まあいいです。それよりも見てください」
 俺が何か言う前に道路の先を指差す美奈子ちゃん。えらいマイペースな子や。
 美奈子ちゃんが指差したのは村田と幸一が歩いた先。
 確か、隣町に行くバス停がある。
 そこに村田と幸一がおった。
 村田は楽しそうに幸一と腕を組んでいた。
 幸せに溢れた嬉しそうな笑顔。
 その光景に胸の奥底に微かな痛みが走る。
 二人はやってきたバスに乗っていく。
 「…村田と幸一がどうかしたん」
 「何であの二人デートしているのですか。加原先輩って夏美と付き合ってるんじゃないですか」
 言われてみればそうかもしれない。
 「自分、知らへんのか?幸一と村田は幼馴染やねん」
 「知ってます。加原先輩には自分の事をお姉ちゃんって言うちょっと変な人ですよね」
 うおっ。この子きつい事言うな。
 美奈子ちゃんを見ると平然としていた。きつい事を言った自覚がないみたい。
 「幸一は誠実な奴や。浮気とかやないやろ。多分、どっちかが買い物に付き合って欲しいって言ったんやろ」
 「知っています。加原先輩と言えば紳士的で誠実という事で一年生にまで有名です。でも、もし加原先輩が噂通りの人なら、夏美がいるのに他の女の子と二人で出掛けるなんて絶対にしませんよ」
 言われてみればそうかもしれない。
 いくら村田が幸一の幼馴染でも、夏美ちゃんがいるのに二人で出掛けるなんてあるんやろうか。
 「しかも加原先輩、結構楽しそうでした」
 「そうなん?」
 「…田中先輩、村田先輩しか見ていないんですね」
 呆れたように俺を見上げる美奈子ちゃん。
 俺は慌てて話を逸らした。
 「で、美奈子ちゃんは何で幸一をつけてたん?」
 「初対面なのにちゃんづけですか。まあいいですけど。後で話します。とりあえず乗せてください」
 そう言って美奈子ちゃんは俺のバイクの後部座席に座った。
 予備のヘルメットを勝手に外し、かぶる。
 「ちょいちょい。何やってるん」
 「バスを追跡してください。わけは後で話します」
 前を見ると、バスは発進したとこやった。
 俺はため息をついてヘルメットをかぶりなおし、バイクのエンジンをかけた。
 バイクの後部座席に座っている美奈子ちゃんのヘルメットの紐を調整する。しっかり固定せんと危ない。
 「ヘルメットはブカブカやない?」
 「大丈夫です」
 「飛ばすからしっかりつかまっときや」
 俺はサイドスタンドをあげた。

 俺と美奈子ちゃんはショッピングセンター近くのバス停が見えるカフェで冷たい飲み物を飲んでいた。
 バスとバイクなら当然バイクの方が速い。俺らは先回りしてあの二人が降りるのを待っていた。
 「で、何で幸一をつけてたん?」
 俺は美奈子ちゃんに尋ねた。まさかこの子、幸一のストーカーやないやろな。
 美奈子ちゃんは行儀悪くアイスカフェオレをすすりながら口を開いた。
546三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:08:45 ID:GbsLJTLi
 「歩いていたら、村田先輩とすれ違ったんです。次に加原先輩。もしかしたら待ち合わせしてどこかに行くのかと思いまして」
 「二人が待ち合わせしてどっかに行くのに何でそんなに興味あるん?」
 「田中先輩、知らないんですか?」
 美奈子ちゃんは暗い顔で言った。
 「夏美が大変なのは知っていますよね?」
 「それなりに」
 まさか昨日大変な現場にいたなんて言われへん。
 「夏美、クラスでも孤立しています。しかも化学の中本とトラブルがあったらしいじゃないでか。詳しい内容は知りませんけど、どうせあの変態教師が変な事しようとしたんでしょう」
 もう噂になっとるんか。
 「私、本当に馬鹿な事をしました」
 暗い顔でうつむく美奈子ちゃん。そう言えば、化学の中本に呼ばれているってのを夏美ちゃんに伝えたんは美奈子ちゃんや。
 「気にせんとき。美奈子ちゃんは悪くないで」
 いくら何でもあの変態教師がここまでするなんて予想つかへんやろ。
 「最近の夏美、様子がおかしいんです。あれだけ明るくて元気な子なのに、最近は暗くて元気がないです。それにちょっと怖いです」
 「怖いって?」
 「…上手く言えませんけど、加原先輩にすごく依存しているような気がします。状況が大変なのは分かりますけど、普通じゃないです」
 「ある程度はしゃあないと思うで」
 親父が殺され、しかも犯人は捕まっていなくて、クラスでも孤立となれば幸一に頼るのも仕方がないやろ。
 「で、心配になって幸一と村田をつけた訳かいな」
 「そうです」
 真剣な表情で頷く美奈子ちゃん。
 この子、あんまり頭よくないみたいや。
 つけて、幸一と村田が一緒に買い物してるんを知って、どないするつもりやねん。
 二人に頼むんかいな。夏美ちゃんが心配するから、二人っきりになるのをやめてって。
 あほらし。
 美奈子ちゃんの心配している事は、あの三人の問題や。
 誰かから相談されたならともかく、そうでもないのにこんな事するんはお節介を超えた干渉や。
 「美奈子ちゃん。自分がやってるんは誰も望まへんお節介やで」
 美奈子ちゃんは何も言わずに俯いた。
 「そんな事をして誰が喜ぶねん。もしかしたらただの買い物かもしれへんやろ。それをつけてなんになるん。アホな事して幸一と夏美ちゃんの仲をかき回すんやったら、俺は止めるで」
 「…分かっています。でも心配なんです」
 美奈子ちゃんは顔をあげた。悲しそうな表情。
 「最近、夏美が本当につらそうで見てられないです。夏美の心の支えは梓のお兄ちゃんだけです。それなのに夏美をほったらかしにして他の女の人と出かけるなんて、心配です。しかも村田先輩とです。夏美、余計に辛い思いをします」
 あの噂か。夏美ちゃんを中傷する内容。
 夏美ちゃんより村田の方が幸一に相応しいだとか、幸一は夏美ちゃんをうっとおしく思ってるとかいうあれかいな。
 あほらし。
 「幸一は噂にあるような男やないで。あいつは夏美ちゃんに首ったけや」
 「でも、今は村田先輩と一緒にいますよ」
 美奈子ちゃんが言い終わると同時にバスがバス停にやってきた。
 バス停の窓から、幸一と村田が見えた。
 「私、行きます」
 千円札を机に置いて美奈子ちゃんは立ち上がった。
 俺はため息をついて立ち上がった。
 「俺も一緒に行くわ」
 「何でですか?」
 「勘違いせんといて。美奈子ちゃんのためやないで」
 俺は美奈子ちゃんに千円札を返した。
 「幸一と夏美ちゃんのためや。美奈子ちゃんが変な事せえへんか心配やねん。あの二人はただの買い物に来たって分かったら納得するやろ?どうせ夏美ちゃんに何かプレゼントするんを村田にアドバイスもらってるだけやで」
 びっくりしたように俺を見上げる美奈子ちゃん。
 俺は歩き出した。手早く二人分の会計を済ませ、美奈子ちゃんに声をかける。
 「行くで。二人を見失ってまう」
 美奈子ちゃんはついてきた。とことこと子犬のように俺の後ろをついてくる。
 「先輩」
 「なんや」
 「先輩っていい人ですね」
 無邪気な笑顔を俺に向ける美奈子ちゃん。
 俺はため息をついた。この子、単純すぎやろ。

 ショッピングセンターの仲は人が多い。
 家族連れ、友達グループと思わしき子供達、恋人らしき男女。
547三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:10:52 ID:GbsLJTLi
 幸一と村田は、どう見ても恋人にしか見えない。
 楽しそうに幸一の手を引き歩きまわる村田。
 幸せそうな横顔。微かに染まった頬。眩しい笑顔。
 村田の事は昔から知っとったけど、話すようになったのは高二になってからや。
 その村田が、今までに見た事のない幸せそうな笑顔を見せている。。
 その笑顔は、きっと好きな男にだけ見せる笑顔。
 「先輩?」
 美奈子ちゃんの声に我に帰る。
 「大丈夫ですか?」
 心配そうに俺を見上げる美奈子ちゃん。
 「何がや?」
 「先輩、顔色悪いですよ」
 「別に。大丈夫やで」
 俺は視線を逸らした。
 窓に映る俺の顔。しけた顔をしとる。
 「あの二人、何しに来たんでしょうね。うろうろしていますけど、何も買っていませんし」
 楽しそうに幸一を連れまわす村田。
 綺麗な横顔が、子供のようにはしゃいでいる。
 何も言わない俺を不審そうに見上げる美奈子ちゃん。
 「先輩。何でそんなに苦しそうな顔しているんですか」
 「大丈夫や」
 「もしかして、村田先輩の事好きなんですか?」
 美奈子ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。
 村田の幸せそうな横顔。他の奴といる時は、絶対にしない嬉しそうな笑顔。
 その笑顔を向けるんは、俺やない。
 視界がにじむ。目頭が熱い。
 「え?ええっ?せ、先輩?」
 焦ったような美奈子ちゃんの声が、どこか遠い。
 「ちょ、ちょっとちょっと!どうしたんですか?」
 村田の姿が徐々に小さくなる。人ごみにまぎれて遠くに行く。
 でも、その方がええ。
 今の幸せそうな村田を見るのは、つらい。
 「先輩!聞いていますか?」
 俺は声の方を振り向いた。
 「突然どうしたんですか?」
 美奈子ちゃんはハンカチを片手に俺の顔を拭う。
 「本当にどうしたのですか?何でいきなり泣き出すのですか?」
 俺は驚いて頬に触れた。
 手に触れる涙。自分が泣いていることにようやく気がつく。
 「ああもう!とりあえずこっちに来てください!」
 美奈子ちゃんは俺の手を引っ張って歩き出した。
 村田の後ろ姿が見えなくなる。
 もう、つらい光景を見なくてええ。
 それなのに涙は止まらなかった。

 俺はぼんやりと天井を見上げていた。
 周りはそれほど人がいない。ショッピングセンターの端にある休憩所は、休日にもかかわらず寂れている。
 堅そうなベンチが数個あるだけな殺風景な場所。自販機すらない。
 美奈子ちゃんは俺をここに座らせた後、どこかに消えた。村田と幸一を追っているのかもしれない。
 もう、どうでもええ。今日は、疲れた。
 自分でも信じられへんぐらいショックやった。
 村田の他には見せない幸せそうな笑顔を見るんが、本当につらかった。
 そんな事を考えていると、頬にひんやりとした感触。
 いや、ひんやりって言うか、ホンマに冷たい何かが押しあてられる。
 「うおっ!?」
 俺は思わず飛び上がった。
 「きゃっ!?」
 驚いたように尻もちをつく人影。
 美奈子ちゃんは痛そうにお尻をさすっていた。
 「も、もー!何するんですか!?」
548三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:12:07 ID:GbsLJTLi
 ぷりぷりと怒る美奈子ちゃん。
 「す、すまん」
 俺は慌てて手を差し伸べた。美奈子ちゃんの手を握り、引き起こす。
 びっくりするぐらい軽い美奈子ちゃん。
 俺は美奈子ちゃんの足元にあるコーラとカフェオレの缶を拾った。
 「はい」
 差し出す二つの缶ジュースのうち、美奈子ちゃんはカフェオレだけ受け取った。
 「そっちは私のおごりです。どうぞ」
 そう言って美奈子ちゃんはベンチに腰をおろした。
 「…ありがとう」
 礼を言って俺も美奈子ちゃんの隣に座った。
 微妙な距離。
 「その、先輩」
 「なんや」
 「ごめんなさい」
 美奈子ちゃんは申し訳なさそうに言った。
 「私、マイペースで無神経な所があるんです。だから先輩が傷つく事言ってしまったみたいで、本当にすいません」
 頭を下げる美奈子ちゃん。
 「頭をあげて。俺は気にしてへんで」
 美奈子ちゃんは頭をあげた。視線が合う。
 …気まずい。
 「それより、村田と幸一を追わなくてええん?」
 「見たところ、二人が付き合っていないのは本当そうでした。梓のお兄ちゃん、村田先輩に腕を組まれて困っていましたし」
 村田と幸一が腕を組んでいる光景が脳裏に浮かぶ。
 きっと、村田は幸せそうに笑っていたのだろう。
 視界がにじむ。
 「え、ええっ、あっ、その、…ごめんなさい」
 慌てたように俺の目元をハンカチでぬぐう美奈子ちゃん。
 「あー、ええよ。気にせんといて」
 俺は美奈子ちゃんの手をそっと遮った。美奈子ちゃんの手つきは結構乱暴で、ぶっちゃけ目が痛い。
 泣きそうな顔で俺を見る美奈子ちゃん。さらに気まずい。
 「あ、あの、先輩」
 「なんや」
 「先輩って、その、村田先輩の事好きだったんですか?」
 何でこの場面でそれを聞くねん。
 「その、もし先輩が村田先輩の事好きだったら、私、その、先輩にとんでもない事を手伝わせて」
 美奈子ちゃんが必死に喋る。
 言いたい事は大体分かる。
 俺が村田の事を好きやのに、その村田が男とデートしているのをつけまわすのを手伝わせたと思っとるんやろう。
 正直、これ以上聞かれたくない。
 「気にせんといて。俺が勝手についてきただけや」
 俺は美奈子ちゃんからもらったコーラのプルタブを開けた。
 コーラが盛大に噴き出す。
 噴き出したコーラは俺の顔と服を濡らした。
 甘ったるいコーラの香りが鼻につく。
 呆然と俺を見上げる美奈子ちゃん。
 俺は思わず笑ってしまった。
 あかん。何か泣きたくなってきた。
 美奈子ちゃんは申し訳なさそうに俺の顔を拭く。
 ひとしきり笑った後、俺は美奈子ちゃんに向き合った。
 「ごめんなー。何か笑ってもうて」
 心配そうに俺を見上げる美奈子ちゃん。
 「あの、先輩」
 やああって美奈子ちゃんは口を開いた。
 「私でよければ、お話を聞きますよ」
 正直言うで。俺は噴き出しそうになったわ。
 こんだけ空気読めなくてマイペースで無神経な女の子に、こんな事言われたら、そら笑いそうになるやろ。
 「ずっとため込んでいても、体に悪いですよ。私でよければ話してくれませんか」
 自分やったらアカンやろ。そう言おうとして俺は止めた。
 美奈子ちゃんの表情が真剣やったから。真剣に俺の事を心配していた。
549三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:13:12 ID:GbsLJTLi
 この子は確かにマイペースで無神経や。でも、悪い子やない。
 話してもええかなと思った。正直、これ以上ため込んでいるのは耐えられない気がした。
 幸一や村田には話せない内容。ある意味、美奈子ちゃんはこの話を聞くのに相応しいのかもしれない。村田とも幸一とも俺とも何の関係もない彼女は、最も中立な立場やから。
 「じゃあ聞いてくれる。俺の情けない話」
 「はい。じゃんじゃん聞きます」
 じゃんじゃん聞くんかい。

 「俺は村田の事が好きやった」
 びっくりしたように俺を見上げる美奈子ちゃん。
 「いや、今でも好きや。今日、その事を嫌というほど思い知ったわ」
 村田の幸せそうな眩しい笑顔。俺とおるときは絶対にしない表情が脳裏に浮かぶ。
 「村田の事は小学生の時から知っとった。俺は幸一とは小学校からの付き合いや。柔道の教室も一緒やった。
 せやけど、村田と話すようになったのは中学三年生の時からや。村田と一緒のクラスやなかったし、俺は幸一と村田が付き合っていると思ってたから、二人が一緒にいる時は遠慮して話しかけんかった」
 あの二人はよく一緒にいた。それだけやなくて、村田はいつも幸一の手を引いていた。
 俺だけやなくて、他の連中も二人は恋人同士やと思ってた。
 「幸一はお調子者やった。せやけど、中二のある日を境に別人のように変わった。あれだけお調子者で柔道好きやったのに、退部した。理由を聞いても教えてくれへんかった。
 あれだけ激変したらみんな戸惑う。それだけやなくて幸一は勉強をがんばる様になった。あれだけ赤点取ってたのにや。突然真面目くんになった幸一から友達は離れていった」
 俺はため息をついた。あの変わりようは本当に驚いた。
 何で変わったのかを幸一は話さなかった。それでも、おおよその察しはついとる。
 妹の梓ちゃん関係。それ以外は分からないし、知ろうとも思わへん。
 「離れていったんは俺もや。元々柔道が一番の接点やったから、柔道を止めた幸一と接点は無くなった。
 俺と幸一は柔道部のライバルみたいな関係やった。幸一の方が上手やったけど、いつか勝ったるって思ってた。それだけに幸一の行動が分からんかった。
 そんな幸一を心配するようになったのか、村田はちょくちょくクラスに来た。そんな村田を見て、気がついたら村田を好きになっていた。
 俺は根性無しやから、村田に告白するなんてできへんかった。幸一に紹介して欲しいって頼むのもできへんかった。
 村田は相変わらずちょくちょく教室に来た。幸一の事が心配やったんやろ。いきなりクラスで孤立したら、そら心配や。俺はそんな心配そうな村田を見るんがつらかった。せやから、幸一と友達付き合いを再開した」
 俺は笑った。
 「あほやろ?そんな理由で一方的に離れていった幸一ともう一回友達になってんで。別に幸一のためやない。村田のためですらない。自分のためや。好きな女の子に告白する勇気もない根性無しのおれが、村田にできる唯一の事やと思ってた。アホやろ」
 美奈子ちゃんは痛ましそうに俺を見つめている。
 「せやけど、幸一はええ奴や。できた男や。もともと仲良かったし、俺らは親友と言ってええ関係になった。今のクラスになって、村田と同じクラスになった。話す機会も増えた。
 俺は村田の事を忘れようと色んな女の子と付き合ったわ。自分では村田に惚れてたんは過去の話やと思ってた。せやけど、やっぱしあかんかったみたいや。付き合う女の子にはすぐにふられるし」
 きっと、俺と付き合っていた女の子も見抜いていたんやろう。俺が本気やないって。
 「俺な、幸一より成績悪かってん。勉強せえって言う両親に嫌気がさしててん。アホな理由や。せやけど、真面目に勉強に励む幸一を見てると、何か悔しくなってん。俺は幸一に柔道で勝ち逃げされた。せやから、勉強ぐらいは勝ちたいって。
 もしかしたら村田と仲がええのに対する嫉妬もあったかもしれへん。とにかく、幸一に勝ちたかった。せやから勉強した。今では幸一より成績がええぐらいや。大した差はないけど」
 「…先輩は、つらくないのですか?」
 美奈子ちゃんは心配そうに言った。
 「好きな女の人が、ライバルと思っている男の人といて、つらく感じないのですか?」
 胸に走る微かな痛み。
 俺はどこかで知っていた。村田が、幸一に恋しているって。
 村田は幸一の事を振るわ女の子を紹介するわで、幸一に恋しているとは思えない行動をとる。
 それでも、村田は幸一に恋しているってどこかで分かっていた。
 せやから村田に気持ちを伝えなかった。可能性が零って分かっていたから。
 どれだけ可能性が低くても、零でないんなら挑戦する。
550三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:14:54 ID:GbsLJTLi
 でも、俺は挑戦すらできんかった。いや、せんかった。
 「別につらくは無かったで」
 美奈子ちゃんは立ち上がった。俺の目の前に立ち、俺の顔を上から覗きこむ。
 落ち着いた光を放つ綺麗な瞳。子供っぽくて空気を読めない普段の様子は無い。包容力のある女性の表情が俺の目の前にある。
 「どないしたん?」
 俺の質問に答えず、美奈子ちゃんは座っている俺を抱きしめた。
 美奈子ちゃんの腕が俺の後頭部と背中に添えられる。
 「ちょっ!何すんねん!」
 慌てて立ち上がろうとする俺を美奈子ちゃんはそっと押さえた。
 「つらい時はつらいって言えないと駄目です」
 ちょ!この子何言ってんねん!
 私でよければ話を聞くって言って、今度は俺を抱きしめて、訳が分からへん。
 「つらくないはずないです。だって、村田先輩を見て泣いていたじゃないですか」
 「別に何でもないわ」
 嘘や。つらい。
 めっちゃつらい。
 好きな女の子が、俺以外の男に、幸せそうな笑顔を見せるのがつらい。
 好きな女の子が、俺にその笑顔を見せてくれないのがつらい。
 好きな女の子が、俺の事を好きになる可能性が零なのがつらい。
 でも、そんな事、認められへん。
 「つらくない」
 俺の声は震えていた。
 「嘘言わなくていいです」
 美奈子ちゃんは優しく俺を抱きしめた。まるで子供をあやすように俺の頭を撫でる。
 温かくて柔らかい感触に涙が出そうになる。
 「つらいんでしょう?」
 「…うっさいわ」
 視界がにじむ。涙がこぼれる。
 今日は泣いてばかりや。
 「つらくなんか、ない」
 俺の声は嫌になるぐらい震えていた。
 自分で認めているようなもんや。
 つらいって。
 「村田先輩が他の男の人と腕を組んでいてもですか?」
 脳裏に村田が幸一と腕を組んでいる姿が浮かぶ。
 幸せそうに笑う村田の笑顔も。
 「もうやめてえな!!」
 俺はたまらず叫んでいた。
 胸が、痛い。
 「つらいに決まっとるやろ!!惚れた女が他の男と幸せそうにしているねんで!!俺はアホな男や!!女が幸せやったらそれでええなんて格好ええ事思われへん!!」
 美奈子ちゃんがあやすように俺の背中を撫でる。
 「自分の気持ちを伝えたら、村田が断るのを分かっとる!!それが分かっていて玉砕する勇気もないんや!!」
 惨めな自分。
 せめて玉砕すれば、村田にふられたら、こんな惨めな気持から解放されるのに、その勇気もない。
 涙がとめどなく溢れ頬を伝う。
 気がつけば俺は美奈子ちゃんの背中に腕をまわして抱きしめていた。
 美奈子ちゃんは俺の背中をあやすように撫でてくれた。
 温かくて柔らかい感触に、気持ちが落ち着いてくる。
 「…ありがとう。もう大丈夫や」
 俺は美奈子ちゃんの腕をすり抜けて立ち上がった。
 自前のハンカチで涙をぬぐう。
 「…何か少しすっきりしたわ」
 これだけ大泣きしたからか、少し気持ちが落ち着いた。
 自分でも信じられへんぐらい穏やかな気持ち。
 「よかったです」
 そう言って美奈子ちゃんは俺の頭を撫でた。
 「いや、もう大丈夫やで。ありがとう」
 正直、年下の女の子に頭を撫でられるんは恥ずかしい。
 「遠慮しなくてもいいですよ。弟や妹もいつもそう言いますけど、頭を撫でられると嬉しそうですし」
 「余計に遠慮するわ!」
551三つの鎖 27 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/04(土) 23:17:45 ID:GbsLJTLi
 俺は慌てて離れた。この子、俺の事を年下と勘違いしてるんちゃうんか。
 そんな俺を見て、美奈子ちゃんはにっこりと笑った。
 「元気が出たみたいでよかったです」
 俺はため息をついた。
 何か、今日は本当に疲れた。
 俺は何で隣町のショッピングセンターまで来て初対面のこの子の前で大泣きしてもうたんやろ。
 そう言えば、元々の目的は幸一と村田がショッピングセンターに何しに来たかを確かめるためや。
 「ごめんな。美奈子ちゃんの目的、果たされへんかった」
 「いえ、目的は果たせました」
 断言する美奈子ちゃん。
 「梓のお兄ちゃん、村田先輩に浮気するつもりは無いみたいです」
 「見て分かるん?」
 言いにくそうな美奈子ちゃん。
 「どないしたん?遠慮せんでええよ」
 「その、梓のお兄ちゃん、村田先輩に手を握られたり腕を組まれたりしても、嬉しいというより困っていました」
 変な所で気を使うねんなこの子。
 「ま、納得してくれたんならそれでええわ」
 幸一は夏美ちゃん一筋や。それは間違いない。
 結局、二人は何をしにここに来たんやろう。
 どっちかの買い物に付き合って欲しいんやとは思う。
 もし幸一の買い物なら、多分夏美ちゃんへのプレゼント。
 もし村田の買い物なら、なんなんやろう。
 村田は幸一に恋している。
 その村田が幸一を買い物に誘うなら、幸一を諦めていない証拠。
 嫌な予感がした。
 村田かて幸一が夏美ちゃんにべた惚れなんを知っているはず。
 それなのに、幸一を諦めてへんのか。
 「先輩」
 美奈子ちゃんの声に俺は思考を止めた。
 「どないしたん」
 「ケーキ食べたいです」
 いきなり話が変わったな!
 「ケーキを食べ放題のお店があります。食べに行きましょう」
 そう言って美奈子ちゃんは俺の手を掴んで引っ張る様に歩き出した。
 この子はいったい何なんや!もう訳が分からへん!
 心配してくれたと思ったら、今度はケーキかいな!マイペースすぎやろ!
 「おいしい食べ物でお腹いっぱいになったら、幸せな気持ちになれますよ」
 そう言って笑う美奈子ちゃん。
 俺は、自分を恥じた。
 やけ食いすれば気持ちがすっきりするって言っているんや。
 要するに、俺の事を心配してくれてるんや。
 「よっしゃ。それもそうやな。腹いっぱい食べよか」
 「ご馳走になります」
 「奢らせる気かいな!」
 まあええわ。お礼やと思ってそれぐらい奢っても。
 あの二人、いや三人の事はきっと大丈夫やろう。
 幸一は出来た男やし、村田も幸一を不幸にするような事はせえへんやろう。
 夏美ちゃんに何があっても、幸一は傍で支える。
 村田かてその幸一の力になる。
 俺が心配するような事やない。
 きっと、大丈夫や。

投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
HPで人気投票を行っていますので、よろしければご協力お願いします。
ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
552名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 23:24:55 ID:q3wEx8Od
格好いいぞ振られ男!
ぜひ美奈子ちゃんと幸せになってください
GJ
553名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 23:25:46 ID:yoU54vBv
規制解除で久しぶりのGJ
554名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 23:26:20 ID:1rBoqydD
かっこいいな、眼中アウト男
555名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 23:37:52 ID:7pT6oNi2
GJ!
包容力のある美奈子ちゃんに惚れた。
556名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 00:02:09 ID:o1CLE/xH
>>551
GJ!やっと美奈子ちゃんに投票できた!ありがとう!

>>552>>554
ちょ、おまえらひでえw
557名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 00:10:47 ID:xzg4cQmt
何この良い雰囲気

>幸一は出来た男やし、村田も幸一を不幸にするような事はせえへんやろう。
でもこの部分は見通しが甘すぎるだろう。春子は(一時的にせよ)不幸にさせる気満々だぞ
558名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 00:14:40 ID:85x0HGhD
耕平と美奈子の話か……
インターバルとしては良いと思う乙

最近重い展開だったので、二人は付き合うのかな?
559名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 00:32:34 ID:QxjxHWGS
みんな
>>381の6行目を読めよ
耕平が哀れすぎ
でもGJ
560名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 01:51:19 ID:KYpp4epg
真実を知らない方が耕平にとっては幸せだなぁ
惚れた相手の所業を知ったら百年の恋も冷めそうだ…w
ともかくGJです
561名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 10:33:05 ID:+pwBgNPp
GJ
562名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 12:47:25 ID:jdAlncLp
ありゃ、保管庫の綾とノスタルジア作者から削除依頼出てるな
お前らも保存しとくなら今のうちかも
563名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 13:01:16 ID:FBcKsbZd
なんかあったのかな?ちょっと心配ですね
564名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 13:01:28 ID:I/xQw0F8
何故?
565名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 13:14:04 ID:y6uy+l/f
綾シリーズはともかくノスタルジアはこれで未完のまま終了って事かな
無念也
566名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 13:35:54 ID:WRmj6MwJ
どこに書いてるの?避難所?
異常なぐらい避難所が重くて接続できんから確認できないんだが
567名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 15:08:35 ID:QxghOYhx
もしかしたら自H立ち上げるからそれに改訂版載せるためひとまず削除だったりするかもしれん
まだだ、まだ終わらんよ!
568名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 23:16:18 ID:96tYkRow
小説家デビューじゃないの?
569名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 00:34:40 ID:DhzOKzcU
うわぁ・・・まだ読んでなかったのに(´;ω;`)
570名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 01:03:45 ID:4crqTeAl
マジかよ……
マジかよぉおおお!
つまりノスタルジアはもう投下されない、綾は読むこともできない、ってことか?



そろそろ、このスレを卒業する時が来たかもしれんな…
571名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 01:14:30 ID:izjwFhxx
ヒント:過去ログ
まあ、続きが来ない方はどうしようもないが
572名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 01:14:31 ID:N07ztKyZ
>>570
まぁ落ちつけよ。それ、ノスタルジア、綾以外の作品を貶めてるとも取れる発言だぞ
例え本当にそう思ってても書き込んでいいことじゃないと思う
573名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 01:26:00 ID:4crqTeAl
生ログ……持ってたらくれないか?
さっき仕事終わった俺は保存もできずにポカーンでwiki管理人の素早さに驚嘆するばかりなんだが
574名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 02:00:29 ID:sxDiaxQ1
>>573
ttp://www1.axfc.net/uploader/He/so/292831
10分先着3名お早めに pass kimosisters
575名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 02:33:01 ID:I3YDWFiI
ノスタルジアと綾シリーズの作者は同一人物か…
作者は引退するならともかく、ssを書き続けるのなら、是非消息は分かるようにして欲しいものだ
576名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 03:41:26 ID:4crqTeAl
>>574
早い……気づけなかった
577名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 03:44:03 ID:4crqTeAl
つか、先着3名は無理だって…
578名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 04:13:22 ID:I3YDWFiI
しかし‥保管庫を削除するとは、余程の事か‥
もう読む事すら許されないのか
大フアンなだけにorzの一言
後は過去ログから自分で拾って来るしかないのか
579名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 05:54:43 ID:pDqftN9D
綾シリーズは第1作が雨の綾で良いんだっけ?
ギリ全部保管した。
580名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 07:15:56 ID:G33vX94L
こんな空気で言うのも何だが……
おゆき氏は個人サイトあるぞ。
581名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 07:17:30 ID:oKGxJ3dg
68 名前: おゆき ◆ 5SPf/rHbiE 2010/09/06(月) 06:28:48 ID:2XK0aQvU

>>66
たびたび申し訳ございません。
読者の皆さまの保管を失念しておりましたので、
一旦復活させて、一週間ほど後に再び削除願いたいと思います。
wiki管理人様には手間をかけさせてしまいますが、どうぞよろしくお願いします。

良かったなお前ら
582名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 07:22:32 ID:4crqTeAl
イャフゥウゥ!!
さすが!!



個人サイトは消えてなかったっけ?
583名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 07:24:06 ID:oKGxJ3dg
>>580
あれ、閉鎖してなかったっけ?
勘違いか?
584名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 07:39:38 ID:sxDiaxQ1
個人サイトのも削除されてるな
上の発言見る限り再掲載は無さそうで‥
585名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 07:47:48 ID:G33vX94L
いや、俺も偶然たどり着いたんだが……
検索で見つけたわけではなく他サイトからのリンクだったんで、検索で行けるかはわからんが。
586名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 11:43:32 ID:ugkr3Yhz
同一作者だったんだね
綾シリーズに関してはおゆきさんがコミケかなんかでまとめた本だしたって話しあったよね?
587名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 12:00:39 ID:nwfeA6dH
未完で終わらせるデコ助野郎は死ねば良いと思うよ
作品に失礼だな、生み出した責任を最後まで取るべき
588名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 12:09:07 ID:MVT2vbi1
夏だなぁ
589名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 12:36:20 ID:nwfeA6dH
>>588何か有るとすぐ反射で夏だなあと言うお前
もう少し頭を使え
俺は間違った事は言っていない
何度でも言う、未完で終わらせるデコ助野郎は死ね
590名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 12:43:46 ID:nwfeA6dH
作品を書くだけが作者の仕事ではない
その作品の1番のファンに成ることだ
作品がどれだけクソだと言われようが笑われようが作者だけは叩いてはいけない
それがこの作品の良いところだと、個性だと言いはれ
ファンならば未完の作品を許せる筈はない、未完で終わらせる奴は作者でも何でも無い只のデコ助野郎だ
591名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 13:34:16 ID:k/cWKkXl
作者なら未完で終わらさざるをえない無念は分かち合えるだろう
読者なら先が読めない悔しさもそれまで与えてもらった感謝で押し包めるだろう

ID:nwfeA6dH、あんたは誰?
592名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 13:46:11 ID:nwfeA6dH
少なくとも無念と言う言葉で逃げる腰抜けでは無いな
自分の作品から逃げた腰抜けは今後一生筆を握る資格はない
593名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 14:20:36 ID:MVT2vbi1
589 名無しさん@ピンキー sage 2010/09/06(月) 12:36:20 ID:nwfeA6dH
>>588何か有るとすぐ反射で夏だなあと言うお前

夏だなぁ、と言われるようなレスをしたという自覚があるなら、夏厨からの脱却は近いぞ
あとは発言を自重できるようになれば、大人になれるよ
応援してるから頑張れよ
594名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 14:36:46 ID:nwfeA6dH
>>593自分の意見を主張も出来ない屑が大人なのか?
確かにそうすることで安定を得られるかもしれないな
だがそんな安定に何の価値もない
自分の殻を破れ
そうするまでお前は一生負け犬だ
595名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 15:09:39 ID:oKGxJ3dg
>>594
そんな事言ってるのはリアル厨房まで
596名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 15:25:11 ID:nwfeA6dH
自分の意見を主張出来ない屑よりリアル厨房のが上だな
下らん煽りは止めて認めるんだな
未完のまま終わらせる奴はデコ助野郎だってな
597名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:01:29 ID:majO8MUV
>>596
作者自身が作品の今後に関してなにも言及していないのに勝手に未完だと思い込み、
なおかつその勝手な思い込みを前提に、作者を「デコ助野郎」と罵倒するのはどうかと思う。
そのあなたの身勝手な身振りこそ、作者にもあなたが熱烈に擁護している作品自体にも最も失礼な態度に見えます。
598名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:07:22 ID:nwfeA6dH
>>597俺は特定の「誰か」に言ってる訳じゃないよ^^;
よく読んで下さいね
599名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:16:37 ID:majO8MUV
>>598
話や言葉には流れというものがあって、あるタイミングで発せられた言葉は、例えそれそのものに対する言及ではなくても、暗にそれそのものに対する言葉になってしまうことがあるということを、しっかりと知っておいた方がいいです。
このスレの流れであなたがした書き込みは、あなたの「「誰かに言ってる訳じゃないよ」という主張など無関係に、どう考えてもおゆきさんという特定の人物を指してしまうと思います。
600名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:21:55 ID:nwfeA6dH
>>599おかしいねぇ、俺は「未完」で終わらせる奴に言ってるのに
お前が言うに「今後に関してなにも言及していない人」には何の関係もないぞ
それを「勝手に思い込んじゃった」んだね^^;
601名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:24:35 ID:majO8MUV
>>600
ああ、もうなにを言っても無駄だとわかりました。こんな馬鹿げたやり取りでスレを汚してすみませんでした。黙ります。
602名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:25:05 ID:43oxJR72
>>590「その作品の1番のファンに成ることだ」
ここには同意だな俺は
コイツは結構的を射たこと言ってるけど言い方が悪いな
擁護するわけじゃないけどな、間違いなくコイツはゴミだ
603名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:30:34 ID:dGqJSfYI
口では何とでも言えるが結局スレを荒らして過疎らせたいという意図が丸見えだな
604名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:39:03 ID:nwfeA6dH
未完で終わらせる奴はデコ助野郎
俺が通したい事はこの1点だけだ
スレが荒れるとかは関係ないね
頭堅いアホばっかで秋田お
605名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 16:56:54 ID:F6ggSRbc
バカやろう!お前ら喧嘩してる場合か!!
この流れはキモ姉妹の策略のだとなぜ気付かないんだ
ヤツらはもうすぐそこまで来ているんd

日記はここで途絶えている
606名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 17:28:22 ID:AtGQRRn4
てすと
607キモウトとひきこもり兄V:2010/09/06(月) 17:33:16 ID:AtGQRRn4
続きができましたので投稿します
相も変わらず展開が遅いですが楽しんでいただければ僥倖です

なお途中で規制がかかったりした場合保管庫の方に続けて載せていきますのでよろしくお願いします
608キモウトとひきこもり兄V:2010/09/06(月) 17:34:11 ID:AtGQRRn4
わっ私、青木麻奈は今日とっても大変でした!!!
ま、まず、お昼ご飯の時に桜が一人くんに抱きついたりそれはもういつもとは違いすぎたり
なんか私もお菓子あげたりしたら一人くんに頭をなでられたりして…あぁああああもう!!!思い出しただけで恥ずかしいいぃいよおぉおお。
なんなんでしょうこの気持ちは!?恋なのですか(>o<)!!!!!!

(回想)

一人くんたちとお昼ごはんを食べているのですがすごく視線を感じます!!どうやら一人くんを見にきている女子が原因だからだと思うんだけど…
それでも多いですよ!!多分他のクラスからもきているんじゃないかというほどです!!!それもひとりひとりが

「はぁあ〜〜ん」
「きゃぁあああ!!!一人くんが食べているわ!!!」
「カッコイィぃイィっぃ!!」

とかすごく黄色い声援です!!!確かに一人くんはひきこもりだったのが信じられないほどイケメンさんです!!!
ですが、その黄色い声援で気まずいかというとそんなじゃなくて桜が一人くんに、な、な、な、なんていうかその、あ〜んをしているからだと思います!!
桜は私と結構仲がいいんですけどこんな桜は初めて見ましたよ!!それに男子たちが阿鼻叫喚状態です!!!
一人くんは一日にして学校の男子の殆どを敵に回してしまったようです!!!
一人くん自身気づいていないと思いますが………まぁ一人くんですからね。桜も学校でお兄さんとご飯を食べれて嬉しそうですし別にいいのかな!?

ってそんなことよくないぃぃいいいい!!!!!
目の前でイチャイチャされたら私だってむかっーっときますよ!!!紗耶ちゃんもなんか目がギラついています!!!
なんか一人くんも驚いているみたいですし、桜が暴走しています!!お兄さんなのに押し負けているってなんか変ですね(笑)

「兄さん、はい食べてください。あ〜んです。」
「さ、桜?兄さんちょっと困るかな……?いつもはこんなことしないよな?な?、なんで今日に限ってなのかな?!」
「別にいいじゃないですか兄さん。たまにこういうのアリですよ?」
「い、いやぁ〜?そういうことはだね、えぇっとその、彼氏とか彼女さんのいる人がやることでして、ね?なんか周りの空気もおかしいから、ね?」
「そこまで兄さんが言うなら無理はしませんが……その、すみませんでした…。」
「ま、まぁ桜?落ち込まないでくれよ…ちょっと心が痛むからさ。」
「あ…兄さん…すみません。…私は、その、いつも兄さんに迷惑かけていますから…。」
「あぁあああもう!!!桜!そんなに落ち込まないでくれよ。ほら…その、あーんしてもいいからさ……。」
「…あぁ兄さぁん!ガバッ!!!」

うわぁあああ!!!桜が一人くんに抱きついてます!!!!これはだめですーーーー!!兄妹でやることじゃないですーーーー!!!
桜がうらやましいぃいいよぉおおお!!!!ってそんなことじゃないー!!もうだめです!!!私がガツンと言わないとです!!!

「桜!!!一人くん困っているです!!!!それにいつもと違いすぎです!!!!」
「スリスリスリスリ……むぅ、せっかくいいところでしたのに…麻奈は空気を読めないのですか?」
「そ、そんなことないもん!!!さっきから空気読めていないのは桜のほうだよ!!一人くんが困っていますよ!!!」
「兄さんは照れているだけです。だから困ってはいないんです。兄さんのそういうのは昔からのことです。」
「そ、そんなこと言ったって…。」

「…プルプル…ちょっとアンタたちいい加減しなさいよね!!!昼ごはんを食べているときに目の前でイチャイチャされたらムカつくじゃない!!!
それに一人さんもちゃんと言いなさいよ!!!男なんだからガツンと言わないと威厳ってものがないでしょ!!?」

「はっはい?!すみまえんでしrた!!!!」


(回想終了)

なんてことがありました!!!!!もう本当に大変だったんですよ!!?
帰るときにもまた一悶着ありましたしもうなんていうか大変だったんです!!!!

「麻奈〜!!いつまでお風呂に入っているの〜。早く出てきなさい〜。」
あ!!!お風呂に入っていたことを忘れてしまいました(笑)
「母さんわかったよ〜!!!」
609キモウトとひきこもり兄V:2010/09/06(月) 17:34:58 ID:AtGQRRn4
(一人side)

足が重い、それと呼吸も少し荒い。心臓の響きが全身を激しく巡っている。
なんだろう、痛いわけではないが胸がどくどくする……違和感を感じるけれども特に体に問題はない。
運動不足は本当に恐ろしい。少しの期間でも体はすぐに鈍るものだ。
今は家に帰ってすぐに風呂をすませてベッドで横になっている。なんていうか……疲れたって言葉が似合うのかもしれない。
夕飯の時間までは結構あるはずだから少し休むことにする。
ここ数日学校に行くための仕度とか色々忙しかったし、なにより昼の桜の抱きつきが精神衛生上非常に良くない。
桜はあんなことは家でもしないはずだ。やっぱり嬉しかったのかな……。

中学校の時のあの日からずっと迷惑をかけている。妹に苦労をかける兄なんて駄目な兄だ。
両親がいないのにずっと俺が桜を苦しめていた……。
だから桜が大人になるまでは俺がしっかり支えてやらないといけない。

俺もこれから少しずつ料理とか裁縫を勉強していこうと思う。
ちょっとずつ覚えていけば2年もかからないだろうし桜の負担にならなくてすむ。
桜の誕生日にケーキを作ってみたりしたら喜んでくれるかもな。桜のことだ、目を大きくして喜んでくれるはずだ。
口は達者な妹だけど心は子供のままだもんな、今日のお昼みたいに我を忘れて抱きついてきそうだ。
桜の嬉しそうな顔が浮かんだ。想像の中でも妹の笑顔というのは可愛くてつい頬が緩んでしまう。

桜はあまりプレゼントとか欲しいものはないらしい。毎年訊いているけれど大体「いらないです。」と言われてしまう。
桜なりにお金とかそこら辺のことを考えて遠慮しているのかもしれない。
しかし青春の中でそういったモノを与えられないのは兄としても一個人としても情けないしかわいそうに思えてくる。
たしかに両親の保険のお金でまだ生活には困ってはいない。だがそれでは駄目だ。
バイトでもしてコツコツと貯金して桜に立派なプレゼントをあげれるようにしないとな。
といっても桜の好きな物とかは正直良くわからない。
部屋は共同だからゲームに良くある女の子の部屋という感じでもない。それとなく時計とタンスなんかが置いてあるだけだ。
ぬいぐるみとかが女子では流行っていると思っているのだが妹からはそんなことは微塵も感じさせない。
昔はもっと女の子って感じだったんだけどいつからか今みたいな性格になった気がする。
こうなると俺のセンスが試されるわけで、俺にとってはそういう物を売っている店すら知らないわけだからほとんど詰んでいる状態だ。

コンコンッ!
「兄さん。ご飯できました。いつでも用意出来ていますから温かいうちに来てください。」

「わかった、今いくよ。」
610キモウトとひきこもり兄V:2010/09/06(月) 17:37:35 ID:AtGQRRn4

「兄さん今日のご飯どうですか?結構自信があります。」
「いつもより美味しいよ。で、桜?」
「なんですか兄さん?」
「もう少し先に誕生日あるけど欲しいものある?」
「兄さんいくらなんでも早くないですか?私は12月生まれですよ?あと3ヶ月くらいあるじゃないですか。」
「いや、そうだけど今年は盛大にしたいからさ。何か欲しいのある?」
「ないといえばないですけど…あるといえばあります…。」
「なんだ…?遠慮しなくていいんだぞ。」
「あの…兄さんと…買い物がしたいです…。」
「買い物?本当にそんなのでいいのか?」
「はい、そろそろ服の買い替え時ですし兄さんも服を買わないと困ると思います。」
「そっか…俺も外に出たりするかもしれないからか。気を利かせて悪いな。」
「大丈夫です。それが私のお仕事みたいなものですから…(それにデートができるんですから私が感謝しないといけません)。」
「ならいいけど別に遠慮とかいらないからな?桜にはいつも悪いと思っているんだから誕生日くらいはいい思いさせてあげたいんだ。」
「兄さん…私は遠慮なんかしていません。いつも楽しいですから大丈夫です。それに兄さんはもっと自分の魅力に気づくべきです。」
「魅力…?」
「いえ、なんでもないです。それよりお買い物ですけど12月になると服買っても遅いですから今度の休みにでも行きましょうか?。」
「そのほうがよさそうだな。」

(桜side)

夏も過ぎたはずなのにやけに暑く感じます。

ベッドのフカフカが肌に心地良くて落ち着けます。
このベッドの下には兄さんが寝ています。二人の部屋です、あの頃と変わらない、何も変わらない、二人だけの世界です。

今日は私にとってとても心に残る日でした。
兄さんが学校に通うようになって麻奈や紗耶ともそれなりに仲良くなっていました。
それに兄さんが私の誕生日のことをこんなにも前から考えてくれているとは思いませんでした。
兄さんに愛されていると実感できます。私はなんて幸せなのでしょうか。
お昼の兄さんの言葉を思い出します。
思い出すだけでも興奮してくるのが分かります。

兄さんのことを想うと独りで慰めることが多くなった気がします。
兄さんが引き篭っていたときはほんのちょっとした時間で兄さんの服の匂い嗅いだりしていました。
今日のお昼だってあんなことを言われてしまっては絶頂しそうでした。
兄さんの困った顔はとてもかわいいです。あんな顔で言われてしまったら私は為す術もないです。
611キモウトとひきこもり兄V:2010/09/06(月) 17:38:23 ID:AtGQRRn4
兄さんははしたない女性は嫌いですからこんなことをしていてはダメです。
ですが兄さん、私は兄さんとの関わりがないと死にそうです。
今すぐにでも兄さんと交わりたいです。兄さんに愛の言葉を囁かれたいです。
幼い頃みたいに二人でひとつのベットを使って寝たいです。
兄さんにたっぷり甘えたいです。いつもはできないことをいっぱいしたいです。

しかし兄さんのことがこんなにも好きなのに兄さんは振り向いてくれません。
やはり昔のことで避けているのでしょうか……。
今でも兄さんはあの頃の話は一切喋りません。
不思議なのはまるで本当になかったかのように接してくれているところです。
ですが兄さんのことです、私を気遣っているのかもしれません。

あの事件以来私は兄さんを普通の兄としてみようと努力しました。
けれどそれは無理なことでした。
あんなに愛している人をどうみたって普通になんか見れません。
だから私は兄さんが私を好きになってくれるように努力しました。
料理に洗濯、家事全般は完璧と言っていいくらいにまで上手になりましたし
兄さんが好きそうな髪型やキャラをパソコンから探してマネするようになりました。

だから私は兄さんが兄さんの口から本当に愛していると言ってくれるのを信じています。
兄さんを信用できずに愛しているだなんて矛盾しています。愛しているから信用しているんです。

兄さんに死ねと言われたら迷いなく死にます。
裸になれと言われてたら大通りでも裸になります。
セックスをしろと言われたら兄さんが納得するまでします。
いわれたことなら何だって喜んでやります。
奴隷の扱いでも私は兄さんの隣にいれたらいいんです。

はぁ…熱くなりすぎてしまいました。
612キモウトとひきこもり兄V:2010/09/06(月) 17:39:04 ID:AtGQRRn4
(翌日)

「えぇ〜!!?私が一人くんにですか!!!」
「ちょ!!ちょっと麻奈ちゃん声大きいよ!!!」
「あぁ!!!すいません!!!」

「で、ホントナンデスカ?」
「うん、だって昨日のお菓子って手作りでしょ?」
「そうですけど〜私なんかでいいんですか?」
「俺…男の友達がいないしなにより名前知っているのが紗耶ちゃんと麻奈ちゃんしかいないんだ…。」
「す、スミマセンっ!なんか聞いちゃダメでしたね…。」
「い、いや別にいいけどさ…。で、大丈夫かな?」
「大丈夫ですけど…味は保証しないでくださいよ?私も人にケーキの作り方教えるのは初めてですから。」
「よかったーホッとしたよ。ありがとね麻奈ちゃん。」
「いえいえ、どういたしましてです。それでは週末にやってみますか?」
「そうだね、そうしよっか。」

スタスタッ
「どうしたんですか兄さん?」
「おお、桜か。特に何でもないよ、ちょっと麻奈ちゃんに学校のこと聞いてただけだよ。」
「そうですか、別に私に聞いても良かったんですよ?」
「桜がいなかったから私がやったんですよ〜だ。(チラッ 話はあわせておきますよ)」
「麻奈ありがとう。兄さんこの後暇ですか?」
「ん、なんかあるの?」
「私一人だと重たいので夕食の食材を持っていただけないですか?」
「今日は飯が豪華なのかそっか、じゃあ手伝うよ。」
「ありがとうございます。では早速行きましょうか。麻奈、また明日です。」
「それじゃ麻奈ちゃん気をつけてね。ばいば〜い。」
「お二人ともこそ気をつけてくださいねー!!!」


(麻奈side)

ふぅ〜それにしても桜と一人くんはお似合いですね〜。
一人くんとお菓子づくりか〜楽しみです。
はっ!?そうしたら家に一人くんが来ることになるよ!!!!
部屋とか片付けとかないと!!!!それに部屋に男の人をつれるのとかって初めてだ!!!
あぁダメです、興奮してきました…。と、とにかく準備はしとかないとっ!!

早く週末になってくれないかな。
613キモウトとひきこもり兄V:2010/09/06(月) 17:44:47 ID:AtGQRRn4
投稿終了です

前々回あたりに3,4回で終わると書きましたがネタが膨らんでしまったのでもっとつづくかもしれません

それでは
614名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 18:27:13 ID:nwfeA6dH
擬音語や顔文字、独特の表現に惹かれました
これからも頑張って下さいね
GJ!
615名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 19:05:14 ID:5b1kQq02
>>605
お前周りから嫌われてんだろ(笑)
いじめられたのが悔しいのか(笑)
616名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 19:21:52 ID:KScb/uKz
>>615
お前周りから嫌われてんだろ(笑)
いじめられたのが悔しいのか(笑)
617名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 19:59:49 ID:mao2oRDI
>>613
グッジョブ。クールな振りして内心ピンクなキモウトって素敵。
618名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 21:40:12 ID:RlcjDshU
>>613
GJ!
この時期だったらいくらでも全裸待機できる
619名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 00:12:52 ID:SB+6CKFa
投下乙
内面描写がテンション高いのは好きです
どんどん膨らめ!
620名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 07:32:26 ID:cOXogjjM
投下乙です。
ありそうでなかった雰囲気。展開が楽しみです。


おゆき氏、個人サイトのほうでも綾とノスタルジアを一時削除されているようで。
タイトルは残されているし、改稿して再収録されるものと思いたいですが。
621名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 09:33:38 ID:bSDee3Tq
君は親切にやってることだろうが、それ以上はやめろ
作者の迷惑も考えるんだ
622名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 12:15:13 ID:cOXogjjM
私が考えなしでした。申し訳ない……。
以降、ROMります。
623名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 17:39:43 ID:n6HbkFvi
>>613
乙です続き期待!
624 ◆zVBBElWdGw :2010/09/08(水) 00:35:04 ID:XFhFumQB
投下します
妄想を文字として形にするのは初めてで、勉強不足な点が多々あるかもしれません。
625はるかに、遠く ◆zVBBElWdGw :2010/09/08(水) 00:36:17 ID:XFhFumQB
 #
 夜は深く。縦長の長方形に切り取られた空から、淡く青白い月光が射しこむ。
 耳を澄まさずとも、開け放った窓からは数多の虫の声が奔流となって流れ込んでくる。
 それを騒音ととるのか、歌声ととるのかは人それぞれであろうが、神原海斗にとっては、彼の心を癒す歌声であった。
 自然の澄み切った音楽が、海斗の陰鬱と沈澱している心を清め、救ってくれるようで――
「――は」
 海斗は、知らず過っていた感傷を鼻で笑った。
 虫の声を聞きながら感傷に浸るなんて、痛すぎる。
 しかも、自身の身体に目を落としてみると、海斗は下着一枚という余りに滑稽な恰好である。
 海斗は、“苦虫をかみつぶしたような顔”というものを忠実に再現したような表情で、そっと自分の斜め下を窺った。
 薄暗く、狭い部屋。海斗が座る一人用のベッドには、しかし、もうひとつ別の姿があった。
 少女、である。それも裸の。
 タオルケットからはみ出た手足が艶めかしく、月明かりにぼんやりと照らされたその肢体は、どこか神秘的ですらあった。
 海斗のベッドで眠り姫は、穏やかな寝息を立てている。静かな呼吸音と共に、ベールに覆われた身体が上下する。
「……」
 無言のまま海斗は、そっと、少女へと手を伸ばした。
 しっとりと湿り気を含んだきめ細やかな頬が、海斗の手に優しくはりついた。
 何度見ても美しい少女だと、海斗は思う。
 さらさらとした烏の濡れ羽の如き漆黒の髪。
 長いまつげを伴った瞼に今は隠されているが、その下にはややつり目がちではあるが大きな宝石が埋め込まれている事を海斗は知っている。
 すっと筋の通った鼻梁。そして薄い桜色をした唇。
 それらすべてが絶妙なバランスでもって、少女の顔を創り上げていた。
 タオルケットに覆われ少女の躰は、隆起に乏しく、男の好みによっては大きな短所となりうるが、それもまた彼女の魅力の一つだと海斗は思っている。
 少女本人にしてみれば、それはコンプレックス以外の何物でもないようであるけれども。
 月明かりのみを照明とする今では、判別がつきづらいが、彼女の白い肌がほんのり赤く色づいている。
 まだ季節は、春。気温は至って過ごしやすいはずのこの時期に、少女の髪が幾筋、汗で頬に張り付いている。
 海斗は、それを、すっと愛おしげな表情と手つきで少女の耳へかけるようにしてかき上げた。
「満月……」
 海斗は、そっと呟いた。
 神原満月。それが少女の名前であった。そして、海斗と血のつながった実の妹である。
 実の妹である満月が、海斗のベッド、海斗の前で裸のまま無防備に眠る。
 そして、それを見下ろす海斗もまた、半裸といった状況。
 血のつながった兄妹での姦通。そして、これは、今日が初めての事ではない。
 その行為は、この日本において刑罰こそないが、犯罪に近いものとして多くの日本人の目に映る行為である。
 海斗もまた、張本人でありながら自らの行為を罪だと感じている。
 感じながらも、海斗は、満月を求めてしまうのだ。
 満月と交わっている時の快楽と、心地よい安心感の様なものに海斗は、縋って、溺れて。
 既に、自らの意志では抜け出す事も出来ないくらいに囚われてしまっている。
 麻薬の様だ。海斗は、思う。
 一度手を出してしまえば、もう戻れない禁忌のハト。
 それならば、自分はもう人間を辞めてしまっているのかもな、と海斗は自嘲した。
 しかし、だからといって満月を女性として愛せいているか問われれば、海斗は確答を出す事が出来ない。
 勿論満月の事は愛している。愛しているが、それが果して兄妹愛の枠を超えているモノなのか。
626はるかに、遠く ◆zVBBElWdGw :2010/09/08(水) 00:37:12 ID:XFhFumQB
「……今更、だな」
 そう、何を今更、である。
 海斗が満月に対して、兄としての愛情しかもっていなかったとして、海斗が繰り返している行為は、兄妹の範疇なぞとうに超えている。
 そして、それを罪だと感じながら海斗は、自ら積極的に真っ当な兄妹としての関係に戻すために動くつもりがないのである。
 心地の良い居場所に足をとられ、次第に泥濘にはまっていく。
 海斗は、こんな事になるまで、まさか自分がここまで意志の弱い人間である事を知らなかった。
 海斗の心の中にある葛藤。いや、“葛藤”と言えば言葉は良いが、ただ優柔不断なだけである。
 なぜならば、模範解答は既に出ているし、海斗もそれを知っているから。
 けれど、海斗は、分からないふりをして、答えから目を反らして。
 答えを出す事を、ずっと先送りにしている。
「でも、仕方ねぇよ……」
 知らず、海斗は声を発していた。
 仕方がない。海斗は、そう自らに言い聞かせるように何度かその言葉を転がした。
 そもそも海斗と満月がこんな爛れた関係になってしまったのには、一つの原因がある。
 それは、それほど昔ではない、ある日の事。セピア色の風景が海斗の頭の中に蘇える。
 横断歩道。赤信号に十人前後の歩行者が立ち止まった。
 その前列に海斗と満月が立っていた。
 ひっきりなしに行き交う車。その道は、駅前の大通りで海斗達が通う学校や、オフィス街へ通じる道である。
 故にこの日も朝の時間帯は、通勤、通学する人と車の数が多かった。
 海斗と満月は、時折言葉を交わしながら信号が変わるのを待っていた。
 それは、ふいに、だった。
 満月の身体が前のめりによろめいて、横断歩道へと飛び出して――
 ――海斗は軽く首を振って回想を振り払った。
 海斗にとってあの日の事は、既に済んでしまった事であるし、自らが取った行動について後悔もなかった。
 けれど、海斗があの日の事を思い出すたびに胸に去来する痛みもまた事実であった。
 海斗と満月の関係をガラリと変えた発端。この日までは、二人とも何処にでもいるような仲の良い只の兄妹だったのだ。
 海斗は、ふう、吐息を衝く。知らず握りしめていた手を解き、左手で右手をさする。
 目を細めた海斗の表情には、複雑な色合いが絡まり合っていた。
 余計な事を思い出したな、と海斗は思った。
 思い出したところで、何が変わるわけでもない。
 それが海斗にとって心地よいものではない事ならば、尚更。ただ気持ちが陰鬱に沈むだけ。
 そう海斗も思ってはいるのだが、今の様に一人で居るとどうしても過去に足をとられそうになってしまうのだった。
 それに、今夜は、もしかしたら事後の虚脱感も相まっているのかもしれない。
「……アホらし」
 海斗は、頭をガシガシとかきながら立ち上がり、ベッドのそばに脱ぎ捨ててあった衣服を身に付けた。
 そのまま、何とはなしにベランダへ続く窓へと歩み寄り、網戸を開けてベランダへ踏み出した。
 1畳弱くらいの広さのあるベランダの手摺に寄りかかり、あてもなく視線をさまよわせた。
 暗闇に沈む、見慣れた町並み。
 山と海に囲まれた自然の溢れる町と言えば聞こえはいいが、詰まる所は有り触れた田舎町である。
 海は、砂浜が狭いせいで海水浴客を呼び込むには難しく、山に至っては、何の特徴もない、たまに小、中学生が遠足で登る程度のものである。
 海斗や満月が通う学校のある隣町が小都市程度に栄えているのも、この町の人口減少に一役買っているのだろう。
627はるかに、遠く ◆zVBBElWdGw :2010/09/08(水) 00:37:35 ID:XFhFumQB
 と、外から来る人間にとってみれば何の魅力も感じられない町ではあるが、海斗は、この町を嫌いではなかった。
 この町は音楽に囲まれている、と海斗は、思っている。
 海の潮騒、海鳥の鳴き声。風にそよぐ木々、虫の鳴き声。
 機械の音に溢れた都市よりも、そんな音に囲まれた町の方が海斗にとっては過ごしやすいのだった。
 深夜の今、殆どの家屋の灯りが消え、時折車のヘッドライトが過る。
 空を見上げると、海斗の視界いっぱいに広がる深い藍色の天蓋。
 到底数え切れないくらいの星がきらきらと。
 その数多の星に守られるかの如く、月が鎮座ましましている。
 海斗は、無意識に手摺をつかむ手に力を込めていた。
 海斗の指は、一本一本が長く細い。
 それを指して、至宝の指なんて誰かが言ったのは何時のことだったか。
 ――神原海斗は、ピアニストの卵だった。それも天才的な。
 とある些細なきっかけで始めたピアノ。
 神様が気まぐれに与えた才能を開花させた海斗は、幼くして全国のコンクールを総なめにした。
 この田舎町において神原海斗の名前を知らない人間は、そう多くはないだろう。
 しかし、海斗は、今全くと言っていいほどピアノを弾いていない。
 いや、ピアノを嫌いになったわけではないので、厳密には弾けなくなった、という方が正しいだろう。
 事実、手摺をつかむ海斗の握力は、人並み以下となっている。
 ピアノを弾くためには、存外握力が必要となるが海斗のそれは、子供並みくらいしかない。
 元々そうだったわけではなく、事故の後遺症である。
 日常生活を送るにあたって不自由はないが、ピアニストとしてとなると話は違ってくる。
 今となっては、力強く鍵盤をたたきつけるくらいの勢いが持ち味だった海斗の奏法は、見る影もない。
 ピアニストとしての輝かしい未来を約束されたはずが、暗く閉ざされたのだった。
 ピアニストとしての道を閉ざされて、海斗は、自分にはピアノしかないという事を知り、その事に愕然とした。
 幼いころからピアノ漬けの日々を送って来た海斗にとって、勉強も運動もピアノ以外は、誇れるものなど何もなかった。
 多くの人にその才能を羨ましがられた天才少年が、只の凡人かそれ以下へと成り下がったのだった。
 ピアノという生きがいを失い、途方に暮れる海斗を救ったのが音楽と、満月だった。
 音楽、と言ってもピアノの曲はめっきり聞かなくなってしまったが。
 満月については、満月だけが凡人以下に落ちた海斗に手を差し伸べ、海斗がその手を掴んでしまったのだった。それが罪と知りながら。
 海斗の中に後悔の念は、勿論ある。
 けれど、明るい場所から突き落とされた海斗は、寂しさや虚しさといった感情からその手を離す事が出来ない。
 海斗と満月の間にあるのは、恋愛なんて高尚なものではない。
 他によすがをなくした海斗が只、縋っているだけ。
 きっと、傷のなめ合いですらない、海斗からの一方的な関係。
 少なくとも海斗は、そう思っていた。
 海斗は、ふっと溜息とも嘲笑ともつかない吐息をついて、月をぼんやりと見上げたまま。
 少しだけ虫の声が煩わしく感じてしまった海斗は、そっと耳をふさいだ。
 世界から音が消える。
 けれど、円い月の周りに散らばった数多の星は消える事なく、海斗を様々な感情の視線でもって見下ろしてくる。
「――……」
 海斗は、舌打ち交じりに何かを呟いて、満月の眠る自らの部屋へと戻る。
 その背中を眺める、淡く煌めく月は一体何を思うのか。
628 ◆zVBBElWdGw :2010/09/08(水) 00:41:06 ID:XFhFumQB
以上です
今回は物語のさわりの部分でかなり短くなってしまいました。
これから完結までお付き合いいただけたら光栄です
629名無しさん@ピンキー:2010/09/08(水) 00:53:42 ID:ClPt4Sdj
>>628
乙です
全体的に神秘的な雰囲気で、どんな波乱が起きるのか気になる
630名無しさん@ピンキー:2010/09/08(水) 01:29:38 ID:W2br3zEp
続くのか
久々に不思議な雰囲気の作品だな
631名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 18:47:59 ID:HeCbCFW/
あの〜、おゆきさんのサイトは結局あるのかな?無いのかな?
632名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 18:54:16 ID:HY4blH7O
>>631くうきよめにこにこあせ
633名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 23:14:25 ID:fE7wp6ZI
スルースルー

俺はキモウトすらスルーする男
634名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 23:33:25 ID:vOXOJ6hn
>>633
ニーサマ、ドウシテワタシヲムシスルノ?
635名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 23:56:53 ID:RPmxm1gB
もう君の兄様はお姉様のものだからさ
636名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 06:29:17 ID:KUl6SDqm
マジで?!
637名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 13:33:05 ID:Knd/LUTb
638名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 19:15:26 ID:BRoE7r0i
最近保管庫に常駐しているが
姉、妹、双子、幼馴染み、みたいな複数
ヒロイン話が好みなのだが…登場人物
が多いと連載は難しく成るようだな
orz
639名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 20:04:38 ID:HIq3ryJQ
複数ヒロインものは修羅場スレじゃないかな
640名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 20:18:09 ID:QGiAxuuS
でもあのスレにはほぼ未来ないし≒のヤンデレスレ勧める方がいいとおもう
641名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 20:25:17 ID:RzvA6UOY
ただそっちも時々修羅場スレから刺客が行くからなぁ
642名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 20:47:50 ID:Jjx0AYHu
この辺りのスレは姉妹が普通に三角関係に入ってるのが不思議だよね
不思議だよね?
643幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:17:04 ID:JD2bqC+/
今晩は。
表題に付きまして、投下をいたします。
よろしくお願いします。
644幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:17:40 ID:JD2bqC+/
かちゃり、とお兄ちゃんがお皿を置く。
その音にぴくん、と思わず体が震える。
「お兄ちゃん、どうだった?」
「ああ、すごく美味しかったよ。」
お兄ちゃんが笑顔で答える、それは私にとってとても嬉しい事。
でも、今までお兄ちゃんと一緒だったから知っている。
お兄ちゃんは嬉しくなくても笑ってくれる人だって。
「本当、本当においしかったの?」
だからもう一度念を押す。
「ああ、凄く旨かった、ありがとうなシルフ。」
おいしかった、じゃ私には分からない。
私は、姉さんじゃないから。
「あら、じゃあちゃんと何が美味しかったのか教えてあげないと。
 シルフちゃんだって安心できないわよ、兄さん?
 ね、シルフちゃん?」
姉さんが私の不安を見透かしたように台所からお兄ちゃんに声を掛けた。
「雪風!!」
お兄ちゃんが焦ったように姉さんの方を見る。
「うん、そうなの。
 私も教えて欲しい」
「え、ああ。
 ……そうだな、ひじきの煮つけとか、特にこの甘ったるい感じが俺の好みで」
お兄ちゃんが小鉢を持ち上げる。
それは私が作ったけど、作り方は姉さんに全部教えてもらった。
「それは姉さんの得意料理なの。
 だから姉さんに教わったとおりに作ったんだ。
 ねえ、それは、姉さんが作るよりも本当に美味しかったの?」
お兄ちゃんは、返答に困ったように言葉を詰まらせた。
その様子を見てすぐに答えが分かった。
645幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:18:07 ID:JD2bqC+/
「そう、ごめんなさい。
 明日はちゃんとするから許して。」
「許すって、何をだよ?
 シルフは何も悪いことなんてしてないぞ」
「ごめんなさい。
 その代わりに、なんでもするから。
 何かして欲しい事は無い、お兄ちゃん?」
「だから、どうしてそうなるんだよ?
 大体、いきなり何でもって言われてもなぁ」
「言って、私、何でもするから。
 例えば、お兄ちゃんの嫌いな人が居たら二度とお兄ちゃんに近づけないようにする。
 欲しいものがあったらどんな物でもお兄ちゃんにあげる。
 それに、お兄ちゃんが、その、私でそういう事がしたかったら、良いよ。
 私、お兄ちゃんがそういうのをベッドの下に隠してるの知ってるから」
それから、胸の大きい子の方が好きなのも。
……実はちょっとだけそれが嬉しかった。
一つだけ私が姉さんに勝ってる事だから。
「おい、シルフ?
 お前自分が何を言ってるか、分かってるのか?」
「分かるよ、私だってそういう事がある事くらい、知って、んむぅっ!!?」
本当は一人でしかしたことは無いけどがんばる、
って言おうとしたら、台所から慌てて戻ってきた姉さんに口を塞がれた。
「はい、シルフちゃんそこまでよ?
 そうだよね、シルフちゃんもお年頃だもんね。
 そういう事は知ってても何もおかしくはないよ?
 でも私達は、シルフちゃんにはそういう事をお口に出して欲しくないな〜?
 なんて言うのかな、イメージ的な問題ってあるから」
そして、姉さんが首から上だけをくるりとお兄ちゃんに向けて言った。
「それから兄さん、今夜はシルフちゃんの教育上よろしくない物の管理等々について雪風とお話が必要みたいだね〜?」
「前向きに善処する」
何気ない表情で答えるお兄ちゃんの顔には冷や汗がたくさん浮いていた。
646幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:18:41 ID:JD2bqC+/
「まあ何にせよ相変わらず良い判断だ、雪風。
 良いか、落ち着いて聞いてくれシルフ。
 さっきお前が言った事はどれもしなくて良い。
 俺はシルフにそんな事をしてほしいなんて全く思ってないんだ。
 大体、どうしてお前がそこまでしなくちゃいけないんだよ?」
「あ、こら、シルフちゃん」
姉さんの手を引き剥がして答える。
「だって、私は今お兄ちゃんの恋人だから。」
「恋人って言っても、母さん達が勝手に決めやがった事だぞ。
 シルフは無理やり押し付けられただけの関係なんて、本当に良いと思っているのか?
 こんな馬鹿な事に本気で付き合うのか?」
お兄ちゃんが私の目を見据える。
その目が私の本心まで射抜きそうで怖かった。
「私は……」
私は兄さんのことが好きだから、って言えれば良いだけなのに言えなかった。
「私は……、それでも、恋人だから。私は……」
その先が言えない私を見て、お兄ちゃんは溜息を吐いた。
「分かったよ、して欲しい事があればいいんだな」
「うん、言ってよ、お兄ちゃん。
 何でも言って、お願い」
私はわくわくしながらお兄ちゃんのお願いを待つ。
お兄ちゃんが私にお願いするのはこれが初めて。
やっと私にして欲しい事が出来たんだ、良かった。
「じゃあな、言いにくいんだが、その。」
「うん」
どきどきと心臓が鳴る。
「いつもどおりに戻してくれないか?」
「?、いつもどおりってどういう事?」
「まあ、母さんが来る前の関係にだな、
 戻せばいいんじゃないかな、って思うんだが。」
一瞬で、さあと体が冷え切った。
それじゃあ恋人じゃなくなっちゃう。
「そうだな、それがシルフに今して欲しい事かな……?」
そんなの、嫌……。
647幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:19:02 ID:JD2bqC+/
「兄さん!!
 さっきから黙って聞いてれば何を言ってるの!?
 それじゃあ今までと何も変わってないじゃない!?」
姉さんが怒って声を張り上げる。
「こんな事、変わる必要なんてどこにあるんだよ?」
それに対してお兄ちゃんがうんざりした様子で聞き返す。
その言葉に姉さんがさらに怒って言い返そうとする。
それがとても怖くて、私は叫んだ。
「やめて!!」
私の声に二人が静まる。
「ごめんなさい、明日はちゃんとするから。
 だから、お兄ちゃんと姉さんが喧嘩なんてしないで」
「シルフ?」
「シルフちゃん」
「それに、明日も私はお兄ちゃんの恋人なの」
そう言い残して、私は自分の部屋へ逃げ出した。
648幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:19:28 ID:JD2bqC+/
お兄ちゃんから去年貰った、お気に入りのクッションに力なく座る。
今日もだめだった。
お兄ちゃんと恋人になったはずなのに、何も変わらない。
もう3週間もこんな調子のまま。
私はお兄ちゃんの役に全然立っていない。
今日は私のせいであんなに仲良しの姉さんとお兄ちゃんが喧嘩をしそうになった。
どうしよう。
こんな事じゃお兄ちゃんに好きになってもらうどころか、嫌われる。
お兄ちゃんに嫌われる、そう思った途端、今頃になって涙が出てきた。
でもお兄ちゃんの前で泣かなくて良かった、って涙を拭きながら思った。
そうしたらもっと嫌われちゃうから。
この前姉さんに教えてもらったんだ、お兄ちゃんは明るい性格の子が好きなんだって。
「シルフちゃん。
 明かり付けないと暗いよ?」
姉さんが扉を開けた。
とっさに私は背中を向けた。
「見ないで、お願い」
「見なくても分かっちゃうよ」
「それでも、見ないで」
「分かったわ」
ぱたんという音。
でも離れていく足音はしなかった。
649幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:19:51 ID:JD2bqC+/
暫らく間を置いてから、コンコンと控えめなノックが聞こえた。
「もう大丈夫かな?」
私の気持ちが落ち着いた頃を見計らって姉さんが扉越しに声を掛ける。
「うん」
「今日の兄さんは最低だったけど、許してあげて。
 兄さんも悪気があった訳じゃないわ。
 昔からね、他人の気持ちを勝手に理解した積りになって。
 悪い癖なのに、どうしても直らないんだ。
 ほんっとうに、困ったものね?」
姉さんは扉のを閉じて、壁越しに言ってくれた。
「大丈夫、兄さんは悪くなんてない。
 全部私が悪いの。
 私が姉さんみたいになれないから、お兄ちゃんを困らせているの」
「私みたいになんてなっても、兄さんはきっと喜んでくれないよ?
 そうね、恋人って言うのは便利な道具の事じゃないってお姉ちゃんは思うな」
「それでも私は姉さんが羨ましい」
「だめだよ、そんな事を言っちゃ。
 ふふ、シルフちゃんはここのところずっと頑張り過ぎよ。
 今日はゆっくり休みなさい、これはお姉ちゃんからの命令だからね?」
「うん」
「それじゃあ、姉さんは戻るね。
 あ、そうそう。
 洗い物や片付けは全部お姉ちゃんがしておくから心配しないで良いよ。
 それに、兄さんへのお仕置きもね?」 
650幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:20:46 ID:JD2bqC+/
それは姉さんからの私への思い遣りなんだっていうのは分かる。
でも、その言葉に返って私の心は重くさせられる。
お兄ちゃんは私が居なくても困らない。
私が居なくても、お兄ちゃんには姉さんが居れば良い。
そういう風に思えてしまうから。
嫌だ、私はお兄ちゃんに必要とされたい。

ぎゅっ、と自分の体を自分で抱きしめる。
大丈夫、って自分に何度も言い聞かせる。
まだ、大丈夫。
明日も明後日もその次の日も私はお兄ちゃんの恋人だから、約束の日までは。
もう一度、自分を抱きしめる。
馬鹿らしいよね、こんな事をしても寂しくなるだけなのに。
この腕がお兄ちゃんの腕なら良かったのに。

こんなに側に居るのに、恋人なのに、お兄ちゃんがとても遠い。
651幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:21:07 ID:JD2bqC+/
**************************************************

俺と雪風は黙って絵を描いていた。
もっとも、俺の方はいまいち筆が進まない。
いつもはこうやって絵を描いていると他の事を考えなくなるんだが、
今日はどうしてもこの前のことを思い出してしまう。

俺達にとんでもない爆弾を落としやがった翌日、母さんは出国した。
どろどろのらぶらぶにやんなさいよ〜、と無責任な言葉を残して。
馬鹿らしい、いきなり恋人になれと言われて何をしろっていうんだ?
当たり前だが、俺とシルフの関係が変わったなんて事は無い。
もっとも、シルフの方はだいぶ変わっちまったようだったが。
俺が何かを言おうとしたり、ちょっと動くたびにびくり、としている。
それに、何かして欲しくないか、不満はないかと、毎日必死に聞いてくる。
その時のシルフの憔悴に駆られた不安そうな顔が痛々しくて見ていられなくなる。
あれじゃ、まるで家に来たばかりの時のシルフみたいじゃないか。
あの時よりも嫌な事があるがな、今の痛々しいシルフの原因の一端が俺っていう事だ、くそっ。
ああくそっ、母さん達は何を考えてあんな事を言ったのだろう。
二人とも、特に雪風はシルフの事を良く分かっているはずなのに、どうしてあんな余計な提案をしたんだろうと思う。
本気であんな事をシルフが望んでいるとでも思うのか?
一度、雪風にはちゃんと言わないといけないのかもな、もっとシルフの気持ちを大切にしろって。
652幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:21:30 ID:JD2bqC+/
「うーん、本当に君は上手いねー。
 何よりも筆先に全く迷いが無い」
そんな事を考えてながら、筆をいい加減に動かしていると後ろから声を掛けられた。
どうやら先生が様子見に来ていたようだ。
先生の専門は演劇だが、実は洋画家としても有名だ。
もっとも、この大学には美術系統の学部なんて無いから、学部生は先生を変な爺さんぐらいにしか思っていない。
今日みたいに先生は暇を持て余すとここに来て俺達に描き方を教えてくれる時がある。
「まあ、1年もやってれば誰でも形になりますって。」
「いやねぇ、普通は1年でこんなに上達しないよ。
 私の教えられる技術をほとんどマスターしちゃったんだから。
 本当に技能だけで見れば天才だと思うよ?」
「全部先生の教え方が良いからですよ。」
「嬉しい事言ってくれるじゃない、でもご飯は奢らないからね。」
「……分かりますか。」
「うん、君は心にも無い事を言う時ってすごく自然で滑らかに喋るからね。
 上手な役者さんみたいに。
 残念だよ、これで絵を描くことが好きだったらね。」
ちょっとこれは心外だ、俺にとってここで絵を書くのは楽しみの一つなんだが。
653幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:22:34 ID:JD2bqC+/
「俺は絵を描くのは好きですよ、結構。」
「何ていうかね、君は絵を描くっっていうよりも技能を振るう方が好きなんだと思うよ。
 言い換えれば絵を描くこと自体には興味が無いって事だね。
 普通は描きたい物があるから絵を描くんだけど、逆。
 君は、絵を描きたいから描く物を探す。
 だから君の書き方を見ていると、本当に勿体無いって思うよ。」
「流石に伊達じゃないですね、絵を見るだけでそんな事が分かるっていうのは。」 
素直に感心した、これが本職と言うやつか。
「あ、いやそういう訳でなくてね。
 それ以前の問題と言うか。」
そう言ってちょんちょんと壁の端を指差す、いろいろな物がごちゃごちゃしている。
「今までに書いたもの覚えているかい?
 果物、剥製、彫像、コップ、絵葉書、壁に掛かってる絵の模写、等々。
 君、ここにあるものを左から順に書いてるだけでしょ?」
今まで気付かなかったが言われてみるとそうだった。
「……分かりますね。」
「うん、分かるよね……。」
そんなやり取りを見た雪風がくすりと笑う。
「そういう意味では、雪風君は好きな物を描いているんだなって思うよ。
 それに陽君には及ばないが、描きたい絵を描くには十分の腕前だしね。」
「ええ、兄さんと違って私は絵を描くのが好きですから、ふふ。」
何だか馬鹿にされた気分だ。
654幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:23:15 ID:JD2bqC+/
そんなこんなで、先生は研究室に戻り、
俺達も昼飯でも食べて今日は帰ろうという時間になった。
幽霊部員ばかりなのでここに居るのは雪風と俺の二人だけだ、シルフも今日は居ない。
だから、したくもないような話がしやすい。
「雪風、聞きたい事があるんだけどいいか?」
「なぁに、兄さん。
 言っておくけど夕飯ならまだ決めてないよ?」
くすり、と雪風が笑う。
「誰もそんな話はしない」
「あら、珍しく予想が外れちゃったわ。
 では、どんな話を兄さんはご所望かしら?」
俺は一呼吸、置いた。
「どうして、こんなふざけた恋人ごっこを俺達にさせようとするんだ?
 それだけじゃない、この前シルフを困らせるような事をどうして言ったんだ?」
「ああ、その事ね」
「その事ね、じゃない。
 ちゃんと答えろ」
「それはねぇ、内緒だよ〜。」
雪風がいたずらっぽく目配せした。
「いい加減にしてくれよ。
 そんな適当な気持ちであの場をかき乱したんだったら、俺もそろそろ本気で怒るぞ?」
「う〜ん、理由はちゃんと有るんだけどね。
 どうしよっかな〜?」
人差し指を顎に当てて、いかにもわざとらしく雪風が悩む。
そして、ちらりとこちらを見てから、意地悪そうに笑う。
655幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:23:41 ID:JD2bqC+/
「くす、そうだねじゃあ、こうしよっか。
 私と賭けを今からして兄さんが勝ったら教えてあげるよ〜。
 もし負けたら兄さんは私のお願いを一つ何でも聞いてくれるの。
 どうかしら?」
「またそれかよ、ったくお前って奴は……」
雪風の緊張感の無さに、がっくりと体から力が抜ける。
俺ってそんなに威厳が無いのか?
まあ、無いな。
「あら、良いじゃない。
 兄さん、いつもみたいに私と賭けをしよう?
 兄さんが勝ったら、全部話してあげる、ついでにお昼も奢ってあげるわ」
「はぁ、ったく。
 良く分かってるな、俺はそういう理不尽な話は大好きだものな」
こういう状況でこんな事を気軽に言い出せるのは世の中で雪風ぐらいだろう。
本当に、まったく、雪風は悔しいぐらいに俺の性格を良く知っているよ。
「私は兄さんの妹だからね、兄さんの事は良く分かるよ。
 え〜とゲームは……、これでどうかしら?」
雪風はクリスタル製のチェスセットを持ち出した。
昨日はこんな物無かったと思うが、デッサンのモデルだろうか?
「チェスかぁ、将棋は分かるんだが」
「あら、別のゲームにする?」
「いや、ルールだけ教えてくれれば大丈夫だ」
雪風がしてやったり、という顔になる。
「じゃあチェスに決定ね、もう変更は無しよ?
 そうそう言い忘れたけど実はこれ、私のチェス板なの。
 アマチュア・チェス大会で優勝したときの賞品なんだよ、ふふ」
そう喋る雪風は嬉しそうだ、俺を嵌めたつもりのようだ。
ふふん、だがな我が妹よ。
そういうのは死亡フラグだから絶対に言っちゃ駄目なんだぞ。
「よし、ハンデとして先行は俺が貰うぞ」
俺は白のポーンを持ち上げた。
まあ、駒の名前くらいは分かるな。
656幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:26:19 ID:JD2bqC+/
以上です。
ありがとうございました。
書き足しながら投下しているのではっきりとはしませんが、
序盤は大体、これで終わりになるかと思います。
また来週もよろしくお願いいたします。
657名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 00:35:03 ID:UzyWSqxK
GJ!
展開がおもしろいです!
658幸せな2人の話 4:2010/09/11(土) 00:59:21 ID:JD2bqC+/
姉さんは扉のを閉じて、壁越しに言ってくれた。

申し訳ありませんが、上記の部分は消し忘れですので無視してください。
659名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 16:34:47 ID:xxd8zGpz
           /...:.:.:.:.:.:......  `}ミ:.:.:.:.....:.:.:...ヽ. `、         {  怒  抱  も
   て人  , ,/..:.:/´ ..:.:.:.:.:....  ...:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.丶:.‘,;           }  ら  き.  う
    っ  ;' 〃V:/..:.:.:.:.:.:′:.:.:.... .....:.:.i:.:..ヽ:.:.:.:.:.:ヽ:}          }  な  つ  歌
   ノ    /i`:///:/:.:.:.ノ:.:.:.:...........:.:.:.:|:.:.:.: i:.:.:...iミ/:ヽ         〈  い  い  詞
   `ヽ.   .’:{ミ}i.i' :i:.:.:./|:∧...:.:.. ..:.:.:.:.:{:..i : |:.:.:...lニ{:.:...‘,    rー〜'’ か  て.  忘
       i.八j:|i{.:.|_:厶斗七i:.:.:^乂}:.ハ:.|:.:.|}:.:.: |ノ!:.:.:.:.‘. ,  〈      ら  来.  れ
       |..:.:.}:|':!:.i/  {!ハ:l{:.:.:.:.:,介ー':!ーリ:.:.: {:.:}:.:.:. .. | ;    }  卒  :.  て.  て
       |.:.:ノ!.:八{ _、_‐ト 八:.:{/斗   }/};r‐v}:.,|.:. :.:.. |    (.  業  :   も.  も
       }.:.:!:l :.:.:V'どうミx、 N ,z≦zミ/‘ソ 厂}、:.:.:.:.:.|    }   し
      ;リ.:.:{:i:.:.:.:i} }!  ///// て ぅ'´ ‘ / 卜:.:.:. |    〈   な  ト〜ー一〜'
       ,厶廴V .: 人 {{    ,   / {i’      'ノ:.:.:..|    )  い  〉
.      ハ r‐/´ ̄` (乂r‐ 、 _ _,{ イ⌒ヽ、 ,∠⌒ヽ:.:{   ⌒i  で  {
    .′ V∨      ̄`i`ー一}       `く /⌒`i:|     〈  よ  }
.     i   }  \≧.、 {′  {ヽ ̄´|       `く    }:{     }.  ぅ  〈
   |  ,′    ̄´`ス i j}ノ  j   。    ノ    ,:.:|     〈   :  }
   | ./       /}:ノ ノ′V /|   o    {     /:.:.i て人. }.  :   {
   ,j ./      ' 〈‘ ヘ /yヘ }         }、  ∧:.:‘, っ 乂___メ
  .; }イ        八  V/}!:ハ/^}         トヽ./}:.:ト:.:.‘, ノ
    //       / o ∨/{ノ!:{〉Y!      ト  {イ:.:i} ヽ { `ヽ
   ∨         / O. {:{ /:j::∨}}{       ヽ.リ:|:. リ ハ{



こんなキモウトが欲しい
660名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 17:20:07 ID:7QPkB/oR
ヤッテヤルデス!
661三つの鎖 28 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/11(土) 19:36:03 ID:Fs9y37pK
三つの鎖 28 前編です

※以下注意
 エロ無し
 血のつながらない自称姉あり
 流血あり

投下します
662三つの鎖 28 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/11(土) 19:37:13 ID:Fs9y37pK
三つの鎖 28

 目を覚ましたら、既にお昼前だった。
 最悪の気分。たっぷり寝たのに、眠った気がしない。
 手を見ると、皺くちゃになったハンカチ。お兄さんのハンカチ。
 私はなんて事をしてしまったのだろう。
 お兄さんを騙そうとした。それも最低の偽りを。
 ため息をついて部屋を出る。足取りが重い。
 玄関の前を通る時、見覚えのある靴が視界に入る。
 お兄さんの靴。
 私は呆然と立ち尽くした。
 お兄さん、来ているの。
 私はリビングに走り出した。
 会いたい。お兄さんに会いたい。
 リビングへの扉を開く。お兄さんはいない。
 キッチンだろうか。キッチンにもいない。肉じゃががあるけど、これはお兄さんが昨日作ってくれたものだ。
 ベランダにも、お手洗いにも、洗面所にも、和室にも、お父さんとお母さんの部屋にもいない。
 何で。何でいないの。
 靴はあるのに、何でいないの。
 私は部屋に戻った。携帯で連絡を取るつもりだった。
 携帯を手にすると、お兄さんからメールが。
 開くと、短い文章。
 靴を忘れたから、また取りに行きます。
 私はその場にへたり込んだ。
 お兄さんはいないんだ。
 それだけじゃない。お兄さんは靴を一足しか持って来ていなかったはず。靴を忘れたってことは、裸足で帰ったんだ。
 靴を履き忘れるぐらい、ショックだったんだ。
 私、なんて事をしてしまったのだろう。
 涙があふれる。私はお兄さんのハンカチで涙をぬぐった。
 お兄さんに会いたかった。会って謝りたかった。

 お兄さんの作ってくれた料理を食べて、私はぼんやりとしていた。
 謝りたい。そう思っても、行動できない。
 お兄さんに電話するだけでいい。メールでもいい。それなのにできない。
 恐い。お兄さんに嫌われていると思うと、怖くて何もできない。
 今度こそ愛想を尽かされたかもしれない。
 お兄さんからは何の連絡もない。
 部屋に戻りベッドに横になる。
 お兄さんのハンカチを握りしめて私は泣いた。

 誰かが私を優しく揺らす。
 誰かが私の名前を呼ぶ。
 まどろみから私は目を覚ました。気がついたら寝ていた。
 「夏美ちゃん」
 私の名前を呼ぶ聞き覚えのある声。
 お兄さん。
 目を開けると、お兄さんがいた。起きた私を見て微笑んだ。
 これは夢なの。それとも現実なの。
 もう何が何なのか分からない。
 でも、夢でもいい。
 夢の中でも、お兄さんに会えるなら、それでいい。
 「お兄さん」
 私はお兄さんに抱きついた。
 温かい感触。
 「昨日はごめんなさい。私、本当にひどいことしました」
 怖くてお兄さんの顔を見られない。
 もし、許してくれなかったらどうしよう。
 例え夢の中でも、お兄さんに嫌われるのは耐えられない。
 そんな事を考えていると、私の頭に大きくて温かい感触。
 お兄さんが私の頭を優しく撫でてくれた。
663三つの鎖 28 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/11(土) 19:38:12 ID:Fs9y37pK
 「気にしないで。僕も夏美ちゃんが不安になっているのに気がついてあげられなかったから、僕にも責任がある」
 お兄さんの言葉に目頭が熱くなる。
 泣かないって思っても、涙があふれる。
 そんな私をお兄さんは優しく抱きしめてくれた。
 きっとこれは私の夢。私の願望が見せた幻想。
 それでもいい。幻でもいい。お兄さんが優しいのなら、それでいい。
 「ひぐっ、ぐすっ、ごめんなさいっ」
 「大丈夫」
 あくまでも優しそうなお兄さん。
 「夢でも、幻でもいいです。お願いです。傍にいてください」
 「うん。傍にいる」
 「私だけのお兄さんでいてください」
 「うん」
 私のお願いに素直に頷くお兄さん。
 例え夢でも、幻でも、嬉しい。
 「夢でもいいです。お願いです。覚めないでください。目を覚ましても、そばにいてください」
 「大丈夫」
 お兄さんは優しく微笑んだ。
 「夢じゃない。僕は傍にいる」
 お兄さんの言葉が、ゆっくりと頭に入り込む。
 抱きついた感触が、やけにリアルだ。
 「あの、夢じゃないのですか?」
 自分で言っておいて変な質問。
 「夢じゃないよ」
 徐々に思考がはっきりとしてくる。
 「でも、夢じゃないなら、どうやって入ってこれたのですか?」
 「玄関のカギが開いていたよ。インターホンを押しても電話しても出てくれないから心配したよ」
 そう言えば、昨日鍵をかけなかったような気がする。
 「あの、本当に夢じゃないのですか?」
 「本当に夢じゃないよ」
 お兄さんは私を抱きしめてすんすん鼻を鳴らした。
 そういえば、昨日からお風呂に一度も入っていない。
 恥ずかしさで頬が熱くなる。
 「わ、私、その、昨日からお風呂に入っていませんし、その」
 「大丈夫。夏美ちゃん、いい匂いがする」
 そう言って私をしっかりと抱きしめるお兄さん。
 やっぱり、夢でも幻でもない。
 だって、お兄さんがとっても意地悪だから。
 「…お兄さんって時々意地悪です。何だか、好きな人にいじわるする小学生みたいです」
 「意地悪されて困っている夏美ちゃんが可愛いんだ」
 お兄さんの言葉に頬が熱くなる。
 私の頭に顔をうずめ、鼻をすんすん鳴らすお兄さん。
 恥ずかしさで頭が爆発しそう。
 「お、お兄さん。その、お風呂に入ってきていいですか」
 「何で?」
 「で、ですから、その、昨日からお風呂に入ってないですから」
 身をよじる私をしっかりと抱きしめるお兄さん。
 逞しい腕に抱きしめられ、恥ずかしさに頬が熱くなる。
 私はお兄さんの肩をそっと押した。
 「そ、その、シャワー浴びてきます」
 私は着替えを持って部屋を出た。
 お風呂場でシャワーを浴びる。
 思考が働かない。
 さっきのお兄さんは、本当に幻じゃないのだろうか。
 分からない。
 私の身勝手な願望が作り出した虚像な気がしてならない。
 シャワーを浴び、体を拭いて着替える。
 部屋に戻ると、お兄さんはいなかった。
 私はその場に膝をついた。
 やっぱり、幻。
664三つの鎖 28 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/11(土) 19:38:51 ID:Fs9y37pK
 さっきのお兄さんは、私の作りだした虚像。
 悲しさと虚しさに目頭が熱くなる。
 「ひっぐ、おにいっ、さんっ」
 泣き声がかすれる。
 喉がからから。
 水分が欲しい。私は涙をぬぐって部屋を出た。
 途中、玄関で靴が二足あるのが見えた。
 一足は学校指定の男子の革靴。お兄さんの。
 もう一足は、革靴の同ぐらいの大きさのスニーカー。
 私は弾かれたように走った。
 転がり込むようにリビングに入る。
 そこに、お兄さんがいた。
 「夏美ちゃん?」
 不思議そうに私を見るお兄さん。
 「お兄さんっ!!」
 私はお兄さんに抱きついた。
 温かくて逞しいお兄さんの胸。
 夢でも幻でもない。
 「ひぐっ、ひっく、ぐすっ、おにいさんっ」
 涙がとめどなく溢れる。
 「大丈夫。僕はここにいるから」
 お兄さんは私をあやすように優しく抱きしめる。
 「さ、さっきのっ、お兄さんっ、ひっく、幻かとっ」
 「僕はここにいる。幻でも夢でもない」
 お兄さんの背中に回した腕で思い切り抱き締める。
 手を離したら、どこかに行ってしまいそうな気がする。
 「落ち着いた?」
 お兄さんが私の髪の撫でながら口を開く。気がつけば涙は止まっていた。
 「はい。すいません」
 声がかすれる。お兄さんはコップに入った麦茶を渡してくれた。
 お兄さん、お茶を入れていたから部屋にいなかったんだ。
 考えたら、お兄さんが来てくれたのにお茶も出していない。
 羞恥心に私はうつむきながらお茶を口にした。
 よく冷えていておいしい。
 「夏美ちゃん。聞いてほしい」
 私は顔をあげた。真剣な表情のお兄さん。
 「今日は大切な話をしに来た」
 大切な、お話。
 お兄さんの言葉が脳裏にこだまする。
 まさか。
 別れ話。
 嫌だ。
 嫌だ。嫌だ。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 聞きたくない。
 「とりあえず座って」
 そう言ってお兄さんはソファーに近づく。
 「あ、あの、お兄さん」
 無表情に私を見下ろすお兄さん。
 「その、私の部屋でいいですか?」
 「うん」
 お兄さんは素直にうなずいた。
 「先に行ってください。飲み物を持っていきますから」
 「手伝うよ」
 「いえ、大丈夫です。これぐらいさせてください」
 お兄さんは頷いてリビングを去っていった。
 とりあえず時間は稼いだ。どうしよう。
 私はふらつく足取りでキッチンに入った。
 お盆の上にコップを載せ、冷蔵庫から取り出した冷えた緑茶を入れる。
 手が震える。水面が乱れる。
665三つの鎖 28 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/11(土) 19:39:57 ID:Fs9y37pK
 お兄さんの大切なお話。
 きっと、別れ話。
 それ以外考えられない。
 今日のお兄さんが妙に優しいのも、最後だからに違いない。
 最後だから、うっとうしい私にも優しくしてくれる。
 嫌だ。
 お兄さんと別れるなんて、絶対に嫌。
 私と別れて誰と付き合うつもりなんだろう。
 ハル先輩?梓?それとも他の知らない誰か?
 私以外の女の人と仲良くしているお兄さんなんて、見たくない。
 震える手で緑茶を冷蔵庫に戻す。
 お盆に私とお兄さんのコップを載せ、その下に隠すように包丁を持つ。
 よく手入れのされた包丁。切れ味の悪くなっていた包丁を、お兄さんは丁寧に研いでくれた。おかげでよく切れる。
 もしお兄さんが私を捨てるなら、お兄さんを殺して私も死ぬ。
 だって、お兄さんに捨てられたら、生きていけない。
 お兄さんだって私の気持ちを知っているはず。私がどれだけお兄さんを好きか知っているはず。
 それなのに私を捨てるんだ。
 私にはお兄さんしかいないのに。
 お兄さんに捨てられたら、生きていけないのに。
 ひどい。ひどいよ。
 そんなの、許せない。
 誰にも渡さない。
 お兄さんは誰にも渡さない。
 私の手から離れるなら、誰の手にもできないようにする。
 例えお兄さんを殺してでも。
 お盆と包丁を手にリビングを出る。
 もう、手は震えていなかった。

 部屋に入ると、お兄さんは立っていた。
 私の部屋には椅子は一つしかない。遠慮せずに座ってくれていいのに。
 「どうぞ座ってください」
 そう言って私はベッドに腰をおろした。こうすればお兄さんは隣に座る。
 もくろみ通りお兄さんは私の隣に腰をおろした。
 「どうぞ」
 私はお兄さんにコップを渡した。中身はお兄さんが作ってくれた冷えた緑茶。
 「ありがとう」
 お兄さんは笑顔で受け取り、口にした。
 私は包丁をお盆の下に隠したまま、私の隣に置いた。いつでも取り出せるように位置を確認する。
 妙に頭がはっきりとしている。思考が信じられないぐらいクリアだ。
 今から、お兄さんを殺すのに。
 もっと動揺するかと思った。
 大好きなお兄さんを殺すのに、何でこんなに落ち着いていられるのだろう。
 お兄さんと過ごした日々は私にとってその程度だったのだろうか。
 「夏美ちゃん」
 コップを机に置いてお兄さんは私を見つめる。真剣な表情。
 今から、お兄さんに別れを告げられるんだ。
 今まで恋人だったのが、他人になる。
 そう思った瞬間、胸に痛みが走る。
 もう、お兄さんとは恋人じゃなくなる。
 そう考えるだけで、耐えがたい痛みが走る。胸が苦しくなる。
 「夏美ちゃん?どうしたの?」
 私の様子に気がついたのか、お兄さんは心配そうに私を見つめた。
 「いえ、何でもありません」
 私は無理やり笑顔を作った。泣きそうになるのを必死に我慢した。
 落ち着いているなんて、できるわけない。
 やっぱり、私はお兄さんを好きなんだ。
 どうしようもないぐらい恋している。
 別れるって言われたら、殺してしまうぐらいに恋している。
 だって、お兄さんが他の女の人のものになるなんて、絶対に我慢できない。
 私はお盆の下に手を滑り込ませた。包丁の柄の感触を確かめる。固くて冷たい感触。
666三つの鎖 28 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/09/11(土) 19:41:51 ID:Fs9y37pK
 顔をあげると、お兄さんと目が合う。真剣で誠実な瞳。
 「昨日、夏美ちゃんの家を出たあと、自分なりに考えた。どうすれば夏美ちゃんが僕を信じてくれるかを」
 胸が微かに痛む。
 信じるって何をですか?何を信じればいいんですか?
 だって、お兄さんはもう私の事を好きじゃないのですか?
 私の事を重いって思っているのじゃないですか?
 「僕は馬鹿だから、いい方法が思いつかなかった」
 何ですか、それ。
 私がお兄さんを信じるいい方法が思いつかないから、私と別れるのですか。
 そんな言い訳で、私と別れるのですか。
 正直に言ったらいいじゃないですか。
 もう、付き合いきれないって。
 他に好きな人がいるって。
 私の事が、嫌いだって。
 「これから僕が話す事が変だと感じるかもしれないけど、落ち着いて聞いてほしい」
 お兄さんはベッドから立ち上がって膝立ちになり、私と視線を合わせた。
 嫌だ。
 お兄さんの口から、別れるなんて聞きたくない。
 そんな事言われる前に、終わらせる。
 私はお盆の下に隠していた包丁を取り出し、お兄さんのお腹に突き刺した。
 固い何かに突き刺さる感触。
 お兄さんの表情が凍りつく。
 「何を、落ち着いて聞けと言うのですか」
 私は包丁を握る両手に力を込めた。固い。それでもわずかにお兄さんのお腹に包丁が食い込む。
 「別れてなんて、落ち着いて聞けるはずないですよ」
 額に汗をびっしりと浮かべるお兄さん。顔から表情は消えうせているけど、私には分かった。お兄さんが痛みを必死にこらえているのを。
 私は包丁を握ったままお兄さんに体をぶつけた。包丁が抜け、お兄さんはお腹を押さえて倒れた。
 お兄さんはお腹を押さえて立ち上がろうとして立てなかった。膝をついたまま私を見上げる。押さえた手から血が流れる。
 私はお兄さんに包丁を向けた。包丁の先っぽはお兄さんの血で濡れていた。
 「なつ、み、ちゃん」
 顔に汗を浮かべ苦しそうに言葉を紡ぐお兄さん。
 私を見上げる瞳には、恐怖と疑問が渦巻いている。
 何でだろう。何でこんなことになってしまったのだろう。
 ちょっと前まで屈託なく笑うお兄さんを見られたのに、何で今はこんな表情のお兄さんを見ているのだろう。
 私はお兄さんを好きだったのに、何で今はお兄さんを刺したのだろう。
 傍にいても、お兄さんを遠くに感じる。
 刃物で突き刺すほどの距離にいても、お兄さんを遠くに感じる。お兄さんを刺した時の感触だけが生々しく手に残っている。
 荒い息をつき震えながら私を見上げるお兄さん。その足元に血の滴が落ちる。
 血の滴る音とお兄さんの苦しそうな息遣いだけが私の部屋を満たした。



投下終わりです
読んでくださった方に感謝いたします
ありがとうございました
HPで登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければ協力お願いします

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
667名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 19:53:48 ID:v+882Q5v
>>666
GJ

夏美ェ…
668名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 20:05:20 ID:GXF/Y9Pu
投下乙!

夏美やってしまったな…これも春子の策略なのか
669名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 21:10:49 ID:ngV9oq4d
ドキドキしてきたぁー、GJ!
670名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 21:35:30 ID:wQIbBaH1
gj
夏美ー・・・
671名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 22:21:54 ID:+EBnb30g
GJ!

流血ありと書いてあったから嫌な予感はしたが
もう幸せな時間は訪れないのだろうか…
672名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 22:56:15 ID:/niYcA1k
ヤバイ!続きが超気になる!!

こんな秀逸な作品を作れる作者にGJです!
673名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 23:53:52 ID:aSlamWII
GJ!

「フハハハハハ!! 効かぬ 効かぬなあ!!!」
674名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 00:02:40 ID:aLQF/Iag
思ったんだけど…
幸一が一番まともじゃ無い様な
気がしてきた。偽善者だし
時々狂った様にSに成るし…乙

675名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 00:20:18 ID:cu0wkAV9
GJっ
676名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 00:35:10 ID:qKPsw8CB
境界性人格障害だと・・・
677名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 01:31:52 ID:dWRy1jZh
ついに夏美も壊れたか
678名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 18:38:37 ID:x2uHh4na
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれはキモウトSSを読んでいるはずが
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        いつのまにかヤンデレSSを読んでいた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも 何をされたのか わからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \   催眠術だとか超スピードだとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }   でも面白いからGJ
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ     幸一…死ぬなよ
679名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 19:58:56 ID:Eu5U+aqy
終息に向かうか…さらなるカオスか

次回で大体分かるな、幸一次第だが

後他の二人の出方も……

680wiki”管理”人 ◆oYMPPWw31U :2010/09/12(日) 21:00:52 ID:gwAxf7cb
えー一応念のためにこちらでも告知です
現在保管庫に掲載されている「綾シリーズ」及び「ノスタルジア」は約3時間後に削除されます
保存をしておきたい方はお急ぎください。
681名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 23:56:31 ID:AbfwwZXl
こういうときに限って仕事なんだよな保存するの忘れてたわ
682名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 00:03:05 ID:CeS89uFv
削除きたー
綾シリーズ、ノスタルジア今までありがとう!
683名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 00:10:36 ID:u5w8XwQ0
172 名前: おゆき ◆ 5SPf/rHbiE 2010/09/12(日) 23:58:31 ID:+JuDDS+Q

ご心配をおかけして申し訳ございません。
このたびの事情が私の個人的わがままであるため、詳細を省いて簡潔に削除要請のみとさせていただいたのですが、かえってお騒がせしてしまったことをお詫び申し上げます。
今後の状況次第では、まとめサイトに本文を再掲していただき、続きも不定期ながら書いていくつもりでいます。
繰り返しになりますが、お騒がせしてまことに申し訳ございませんでした。


続き、希望が無いわけでもないみたいですな
684名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 00:52:46 ID:tBMicgJc
おお…これはずっと待つしかないな
685名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 01:30:11 ID:H3mSv+9r
ちょうど直前に読み返してて良かった…あとは静かに再掲の日を待ちましょうか

そういえばそろそろ容量500KBに近づいてきましたので皆様ご注意を
686名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 07:57:31 ID:d7F7lScM
>>685今のペースだと490に成ってからで大丈夫だろ・・・
おゆきさん千鶴子との再会の日をお待ちしております

ありがとう!そしてお疲れ様!
またお会いしましょう
687名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 20:38:10 ID:jClnrSt4
なぜか今ごろwikiで更新されたから、フラクタル一気読みしてしまった

昔は分かってたはずの第2話の暗号が気になるしおもしれえが、
続きはあきらめが肝心っぽい
688名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 20:57:48 ID:1E6fZo9w
キモ姉妹同様諦めちゃだめなんだよ
にしても修正でもしたのかな?
689『きっと、壊れてる』第5話:2010/09/13(月) 21:10:44 ID:vNnoQMze
長かった・・。やっと規制解除されました。
きっと、壊れてる第5話を投下します。 注:エロなし
690『きっと、壊れてる』第5話(1/9):2010/09/13(月) 21:11:43 ID:vNnoQMze
「兄さん、起きて。もう朝よ」
浩介は茜の声で目が覚めた。
眩しくて、目を細めながら周りを見渡すと、そこは茜の部屋だった。
この前美佐にホテルに誘われた日の夜から1週間、浩介は茜と共に、茜の部屋で眠るようになっていた。
理由という理由はなかった。
純粋に茜を抱きながら、茜に抱かれながら、就寝するのが心地よかった。

浩介が寝ぼけてながらボーッと窓際にあるゴリラのヌイグルミを見ていると、
既にエプロンをつけていて、薄く化粧もしている茜が肩を揺する。
「ほら起きて?本当に朝が弱いわね、兄さんは」
「ん〜」
手を天井に向けてめいいっぱい伸ばし、やっと少し目が覚める。
「おはよう」
「おはよう」
いつになく優しい声。
茜は浩介の目が覚めたのを確認すると、忙しそうにリビングへ戻って行った。

部屋は茜の匂いがする。
香水などではなく、清潔感のある女性の匂い。目を閉じると、何もない高原の中心で、茜と抱き合っているかのような感覚に陥る。
浩介はこのままこの良い匂いの中で、二度寝したい衝動に駆られながらも、
これ以上茜に手間を掛けさせるわけにはいかない、と立ちあがりリビングへ向かった。

リビングで朝食を取っていると、洗い物をしていた茜が何か思い出したように、こちらに近付いてきた。
「兄さん、今日は少し遅くなるから、夕飯食べて来てくれる?」
茜は夏を感じさせる薄い青色のエプロンを外すと、椅子に置きながら言った。
「あぁわかった。仕事か?」
「えぇ、担当の人が夕方以降しか空いていないらしくて」
茜のフリーライターという仕事は、人脈が物を言う仕事だった。
それがほとんどない茜は、編集プロダクション経由のいわゆる「孫請け」の仕事をメインにしており、
今日はその打ち合わせのようだった。
「そうか、わかった。」
浩介はコーヒーを飲み干すと、新聞の経済面を見た。
浩介が属するIT業界では、大企業が軒並み景気回復の兆しを見せていて、中小もそう遠くないだろうと書かれていた。
茜の出版業界はまだ厳しい状況が続いているようだったが、茜に言っても特にメリットがない事を感じて、浩介は黙ってページを捲った。

占いのコーナーに目が止まった。
浩介は6月17日が誕生日なのでふたご座だ。

『恋愛運不調。思い出は思い出のままが吉』

『思い出は思い出のままで』とはどういう意味だろうか、と浩介は考えた。

恋愛運不調・・・今の状態なら対象は美佐になるのか。
美佐にはもう関わるなと言う意味だろうか・・・。

次に茜の星座である、おうし座の欄に目を向ける。

『待ち人来たる。周りの人間との関係も大切に』

『待ち人』というのは誰か。
茜は確かに友人も少なく社交的ではないが、自分に関係している人間には意外に誠実で、決して冷徹な人間ではない事を知っている浩介は、
『周りの人間との関係も大切に』という言葉に、『余計な御世話だ』と心の中で毒づいた。

一通り新聞を読み終わると、浩介は出勤の支度を始めた。
夏を直前に控えた太陽は、元気いっぱいの輝きを放っており、スポットライトを当てるかのように街を照らす。
今年は暑くなりそうだった。
691『きっと、壊れてる』第5話(2/9):2010/09/13(月) 21:12:40 ID:vNnoQMze
同日15時、都内某病院。
玉置美佐は少し遅めの昼食を取りながら、携帯電話を親の敵のように睨みつけ、唸っていた。
「う〜ん・・・」
「どうしたの?玉置さん」
「・・・」
一緒に休憩に入っており、心配した同僚が声を掛けたが、聞こえていないらしく、美佐は携帯電話に夢中だった。
浩介に送るメールを作成していたところで、几帳面な美佐は一字一句誤字や文言のおかしい箇所、
浩介が気を悪くしそうな表現がないかどうか、などをチェックしていたところだった。

う〜ん。どうやって誘おうかな〜。
手も繋いでくれたんだし、昔みたいに少し強引にいこうかな〜。
浩介は夜以外は基本Mだし、そっちの方が嬉しいはず。
もし、デートOKしてくれたら何処に行こうかな。
今度こそ海辺でのんびり散歩したいなぁ・・。
それで夕日が沈みそうになったら・・・腕組んで胸押し付けて。
いや〜我ながら大胆だなぁ・・・次でぜってー落としてみせる!!

「玉置さん」
「・・・」
「玉置さんってば!」
「えっ!?はっはい!」
大きな声を出されて驚いた美佐は、携帯電話を思わずパタンと閉じて、声を掛けられた方を見た。
一緒に食事を取っていた同僚ではなく、先輩の薬剤師だった。
大きなお腹をした男性だが、その風体に似合わずよく気が回り、病院内でも信頼されている人物だ。
「お客さんだよ」
「お客さん?」
「アポは取ってないみたいだよ。最初は昼休みに来たんだけど、あなた手が離せなかったから一度断ったんだけどねぇ。ず〜っと待ってたみたいだよ」
先輩薬剤師は腹を擦りながらそう言うと、自分の持ち場へ戻って行った。
誰だろう、と思いながらも美佐は指示された通り、病院の待合室へと向かう。
昼食を取りたかったが、緊急を要する用事の可能性も考え、すぐに向かう事にした。
どうやら白石という人が美佐を呼び出したようだ。

待合室に到着した。
天井が高く、掃除もよく行き届いている清潔感溢れる場所だ。
前方には大型液晶テレビが、その隣の棚には本や新聞が置いてあり、
患者達の退屈を和らげようとする病院側の気遣いを感じる事が出来る。

美佐は辺りを見渡した。
顔見知りの患者なら、わざわざこう呼び出す事もないだろう。
とすると初対面の人間だと想像できるが、あいにく今日は患者やお見舞いの人間が多く、誰が美佐を呼び出したのかわからなかった。
そういえばどういう人物か特徴を聞くのを忘れていた、と美佐は心の中で反省した。
一度引き返して確認してこようとした時、2歩目で美佐の足が止まった。
視線を感じていた。
好意でもない、悪意でもない。そう、これは芸能人を見るかのような好奇の視線。
話では聞いていたけど、実際に会うのは初めての人間に向ける視線だった。
振り返ると、そこにはまだ二十歳そこそこだろうか、若い男性が美佐の方を見つめ、立っていた。
692『きっと、壊れてる』第5話(3/9):2010/09/13(月) 21:13:14 ID:vNnoQMze
「正直いきなりで困るなぁ。変な噂が立っても困るし」
街を眺めながら、美佐は後ろに立っている青年へと喋りかけた。
空は雲一つなく、気持ちの良いほどに青く澄み渡っていたが、風だけは強く吹いており、美佐の肩まである茶色い髪をなびかせていた。
「すっすいません。終わる時間が何時かよくわからなかったもので」
「で?私に何か用?初対面だよねぇ私達?」
二人は病院の屋上に立っていた。
待合室だと、どうしても人の目と耳がある。
青年の神妙な顔を見た美佐は、屋上へと場所を移す事にしたのだった。

「あっあの」
「何?告白?いや〜ん!久しぶり」
青年の方へ振り返った美佐は、青年をからかう様におちゃらけた。
正直誰かも判らぬ人間にアポなしで呼び出され、仕事とは関係なさそうな上に食事と浩介へのメールを邪魔されたのもあって、腹が立っていた。
「ちっ違います!」
「うん、知ってる。そうだ!『いや〜ん』じゃなくて『はにゃ〜ん』って言えば良かった」
「は?」
「・・・何でもないよ。とりあえず、君の名前を聞こうか」
「はっはい!白石巧といいます」
言った後で巧は後悔した。別に実名を名乗る必要などまったくない場面だった。
「それで?白石巧君が私になんの用?」
「あっあの」
「うん」
「玉置美佐さんで間違いないですよね?」
「うん、そうだよ」

「・・・『村上浩介に二度と近付くな』だそうです」

「・・・もう一度言ってみて?」

「『村上浩介に二度と近付くな』だそうです」
「もう一度」
「えっ?・・村上浩介に二度とちか」
「ねぇ」
「えっ?・・はっはい」
「その言い方だと、君は誰かに頼まれて私にそれを伝えにきたんだよね?」
「そうですけど」
「『誰?』って聞けば、教えてくれたりする?」
「それが、オレもよくわからないんです」
「・・・その・・・君はおバカさんなのかな?それとも見返りがすごく魅力的とか?
なんでよく知らない人の頼みをわざわざ聞いてあげてるの?」
美佐は呆れたような、出来の悪い生徒を嗜める教師のような顔で巧の顔を見る。
「・・・」
美佐の言う通りだった。自分でも馬鹿で無茶な事をしていると巧は思っていたが、
あの黒髪の美女を手に入れるために、自分のできる範囲でなら何でもしたかった。
この時、巧は無意識だったが、巧は既に黒髪の美女に支配され始めていた。

「言える範囲でいいよ?見たところ、君は浩介とは何の関係もないと見た」
これはまず間違いないだろうと美佐は思っていた。
浩介の学生時代の友人は大体会った事があるし、社会人になり二十歳そこそこの男性と知り合う機会などあまりないだろう、と美佐は考えていた。

「はい、僕は村上さんという人の事は何も知りません」
「だよね。じゃあ簡単だね。君にその言付けを頼んだ人物が、浩介の関係者だよね」
「・・そうなのかもしれません」

黒髪の美女にこの話を聞いた時、巧の中で最初に浮かんだ疑問だった。
『村上浩介』という人物と黒髪の美女は一体どういう関係なのだろう、恋人か?
いや、それならば『村上浩介』か『玉置美佐』のどちらかに直接言えば済む話だ。
わざわざ、オレのような他人を使って伝える必要はない。
693『きっと、壊れてる』第5話(4/9):2010/09/13(月) 21:13:59 ID:vNnoQMze
「ん〜そうなると、容疑者は簡単に割り出せちゃうなぁ・・こんな安易なやり方、あの子らしくない」
風が強いため、髪を押さえながら、美佐は呟く。
「ねぇ」
「はい」
「君にその話を持ってきた人はどんな外見だった?」
巧は黒髪の美女に『相手が私の外見などを聞いてきた場合は、素直に答えていいわ』と言われていたのを思い出した。
「・・・黒髪で・・・長さは・・あなたより少し長い程度です。歳はオレと同じぐらい」
「他は?」
「身体は細いです。黒いワンピースを着ていました」
「・・・う〜ん・・・やっぱり茜ちゃん・・・かなぁ?・・・何考えているのかしらあの子」
美佐は巧に聞こえないように再び小さく呟くと、思考を張り巡らした。

浩介と付き合っていた頃は、別に何をされたワケでもない。
たまに浩介の家へ押し掛けても、睨みつけるとか、冷たい態度とかも特になかったしなぁ・・。
印象としては、無表情で大人しくて頭が良さそうな子、だったかな。
でも私が浩介にちょっかい出していると、顔には出さないけど茜ちゃんの空気が少しだけ変わっていた気がする。

気のせいかな?とも思ったけど、後から気付いた。きっと私も同じ種類の人間だから。
浩介を取られた気がして、はらわた煮えくり返ってたのよね?

当時はブラコンなだけだと思っていたけど、別れるきっかけとなった怪文書の件がある。
もし私と浩介の仲を引き裂きたいなら、有効な手。
さらに浩介と茜ちゃんが恋仲なら・・・。
いや、まだ茜ちゃんが犯人と確定したわけじゃない。
それに、誰であろうが動かせる人間には限りがある、その内この坊やだけじゃ足りなくなって、必ず自分で動くはず。
それまで泳がせておこうかな・・・。

美佐はあらゆる可能性を模索して、自分がどう動けば相手が一番嫌がるか、考えていた。
「あの」
「ん〜?」
「用件も伝えたので、オレはこれで失礼します」
そんなに長い間経っていたのだろうか、巧はあきらかにこの場を去りたそうにしていた。
「あっ待って!」
「はい?」
「今度、その言付けを頼んだ相手と話す事があったら、伝えておいてもらえる?『相手が悪かったね』って」
「はぁ」
変な女だ、と巧は思った。
普通あんな事を人づてに言われたら、動揺するか、激怒するかのどちらかだろう。
それなのに、この女性は『かかってこい』と言わんばかりに挑発している。
最近出会った二人の異質な女性の繋がりとなる『村上浩介』とは一体どんな人物なのだろうか、と巧は好奇心をくすぐられた。

「じゃあ頼んだわよ。あぁ!昼休み終わっちゃう!」
美佐は右手に着けた時計を見ながらそう言うと、階段に向かって小走りに駆け出した。
しかし、階段入口の手前で止まったかと思うと、振り返って巧の目をじっと見つめた。
「あぁ、言い忘れてた。・・・白石巧君」
「はい」
「私達の仕事って、ちょっとでも調剤する薬の量を間違えたりすると、大問題なの」
「はぁ」
「それを患者さんに訴えられたりしちゃうと、私の生活も危ないのよ?」
「・・・」
「だからね、あまりイライラさせちゃいやよ?もし君があまり関係のない人物でなかったとしたら・・・」
「・・・」
「・・・インスリンを連続で30回くらい注射してやるところだったわ、なんてね」
「・・・」
「今のは冗談だけど、次はないわよ?じゃあ、気をつけて帰ってね〜」
美佐はそう言って最後にニコリと笑うと、白衣をなびかせ、今度こそ階段を駆け下りていった。

巧には『インスリン』というものがどんな物かわからなかったが、
美佐のその時一瞬だけ見せた冷徹な目が、黒髪の美女の目にとてもよく似ていて、驚いたと同時に背筋が凍るようだった。
屋上は風がいつの間にか止んでいて、穏やかな空気を取り戻しつつあった。
694『きっと、壊れてる』第5話(5/9):2010/09/13(月) 21:14:38 ID:vNnoQMze
--------------------------------------------------------
From:玉置 美佐
Sub :やっほ〜ダーリン

今日もお疲れ様だっちゃ(*´∀`*)
メールするの久しぶりだね?
元気にしてた?
といっても最後に会ってから1週間ぐらいしか経ってないかぁ・・。

今日はね。遊びのお誘い。
明日どこかへお出掛けしませんか?
この前の映画もよかったけど、動物園とかどう?
最近暑いから、きっと獣臭すごいよ!!興奮してこない?
寝てるライオン見に行こうよ〜。
お弁当頑張って作るから!お弁当屋さんが(爆)

良いお返事待ってます。
ミサミサ( ´ ▽ ` )ノ

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午後19時30分。
仕事を終え、帰りの電車の中だった。
浩介は携帯電話を通勤カバンにしまうと、深いため息を吐いた。
別に美佐の積極性に嫌気がさしているわけではない。
茜との関係を断ち切るどころか、益々深みにハマってしまっている自分、
美佐との関係もとても心地が良く、楽しいと感じている自分の心に対してのため息だった。

どう返事するか迷っている間に電車は自宅最寄駅に着いていた。
駅の階段を上り、改札を抜け、外に出る。
そういえば、今日は茜がいないから晩御飯をどこかで取らなくてはと思い、駅の近くで適当な店を探す。
牛丼屋チェーン店が目に入った。
街の中でも一際目立つ、原色の看板が特徴的だ。
最近、老舗の牛丼屋チェーン店を業績で上回りそうな勢いがある、比較的新しい企業だ。
今までの牛丼屋にはなかった新メニューや、肉やご飯の量を客がカスタマイズできる自由度の高さが人気の理由になっていた。
今日はここでいいか、と思い浩介が自動ドアに向かって歩くと後ろから腕を掴まれた。
「兄さん」
茜だった。

一瞬、女性誌のモデルのような茜の姿に浩介は見惚れた。
大企業に勤めるキャリアウーマンのように、ピシリと決まっているパンツスーツ。
髪も後ろに一つで束ねていて、家での良い若奥さんのような雰囲気を持った茜とは違い、
素直に『格好が良い』と、浩介は思った。
「ビックリした。茜か。もう終わったのか?」
「えぇ。予定より早く終わったの」
「じゃあ飯は?まだなら一緒に食っていくか?」
浩介は牛丼屋を親指で指した。
「兄さん駄目よ。こういう所は栄養が偏るから」
茜は軽く首を振りながらそう言うと、いつの間にか財布を出して中身を確認していた。
「1日ぐらい構わないだろ」
「まぁね。でも今日はやっぱり私が作るわ。一緒に買い物して帰りましょう」
財布の中身で瞬時に献立を考えたのか、茜は財布を肩から掛けていたバックにしまった。
「あぁ、わかった」
たまには、こういう店でも食べたいと思った浩介だったが、食事関連の決定権を持つのは茜だった。
素直に従って、茜の横に並び歩き始める。

6月初旬から始まったクールビズで、Yシャツしか着ていない浩介の腕に茜の手が絡みついた。
なんの違和感もなかった。
二人は仲睦まじく寄り添い、いつも茜が利用しているスーパーへと向かった。
695『きっと、壊れてる』第5話(6/9):2010/09/13(月) 21:15:08 ID:vNnoQMze
野菜売り場を回って、調味料コーナーで品定めしていた時、浩介は美佐にまだメールの返信をしていない事に気付いた。
茜は今、鮮魚売り場へ向かい、浩介の好きなカツオの刺身で、安くて良い物がないか探しているところだった。

本来ならば、美佐の誘いには断る理由がなかった。
浩介に恋人はおらず、美佐は性格も明るくルックスも良い。
就いている仕事も尊敬できるし、何より一緒にいると居心地が良い。
これだけの条件を兼ね備えた女性はおそらく一生自分の前には現れないだろう、と浩介は考えていた。

しかし、そのすべての好条件を一瞬にして無にする存在、それが茜だった。
茜に無言で問い詰められると、生きた心地がしない。
どちらかと言えば、世間的に責められるべきは茜との関係のはずなのに、
浩介にとっては、美佐だけでなく茜以外のすべての女性と接する事こそが罪だった。
また、無意識にそう望んでいるのも浩介自身だった。

しかし、だからこそ浩介は考えていた。
何が茜にとって一番なのか。

刺身で良い物が見つかったのか、浩介のいる調味料コーナーから約30メートル先の冷凍食品のコーナーで、商品を選んでいる茜を浩介は見つめた。
いつの間にか、美佐のメールの事だけではなく、今までの茜との関係、これからの茜との関係も含めて、浩介は考えていた。

茜には幸せになってほしかった。
小さい頃から人との交流が苦手で、知らない人が家に来ると、いつも俺の後ろに隠れていた茜。
俺が遊びに出掛けようとすると、必死に俺の脚にしがみ付き、どこへ行くにでも着いてきた茜。
無表情なくせに『動物のぬいぐるみが好き』という、普通の女の子の側面も持っている茜。
文句の一つも言わずに、家事全般をこなしてくれる茜。
1年に2,3回程か、最高の笑顔を俺だけに見せてくれる茜。

保護欲だけではなく、俺は茜に恋をしていた。
それと同時に、目に入れても痛くない最愛の妹だった。もし茜を傷つけようとする人間がいたら、どんな手を使ってでも守るつもりだった。
ナイト気取りと言われてもいい、一生自分が守るつもりだった。それが・・なんで・・。

浩介の目からは、いつの間にか涙が溢れ、頬を伝っていた。
この世で一番幸せにしてあげたかった女を、一番不幸にしていたのは浩介自身だった。
とっくの昔に気付いていたくせに、気付かないフリをしていたのも浩介自身だった。

自分が社会人になり、ここ数日の美佐との事もあった。
客観的に、社会的に、将来的に自分達の関係を直視できるようになったのか、
ほとんどの人間が今晩のおかずの事を考えているであろうスーパーの中で、浩介は一人静かに泣き続けた。

途中、周りに顔を隠すようにしていた浩介を、スーパー内を走り回っていた小さい男児が不思議そうな顔で覗きこみ、去って行った。
茜が戻って来たのは、それから少し経った後だった。
「兄さん、おいしそうなお刺身があったから、今日はこれで良い?後、私が食べたいからサラダ代わりに、きゅうりの酢漬け」
「あぁ、それで良いよ」
浩介は先程まで泣いていた事を悟られないように、茜とは目を合わせないように答えた。
「じゃあ、そろそろ行きましょう」
茜がレジに向かい歩き始めようとした時、浩介は呼び止めた。

「茜」

浩介は決意していた。
もうこれ以上、『愛しい茜』を自分のために不幸にはしたくなかった。
もし、家に帰り茜と二人っきりになったら、二人の世界に隔離されてしまったら、決意が揺らいでしまう自分の弱さも痛いほど理解していた。

「こっちを向いてくれないか」

茜の目を直視しながら伝えなければいけない事だった。
「何?」
こちらを振り返り、浩介の真正面に立つ茜を浩介は見つめた。

緊張で足が震える。口が渇く。声が擦れる。
696『きっと、壊れてる』第5話(7/9):2010/09/13(月) 21:15:55 ID:vNnoQMze
「お前と・・・普通の兄妹に戻る。お互い違う道で幸せにならないか」

浩介はこの世で一番愛している女に、そう言い放った。
・・・
・・

浩介が茜に関係を切る旨を伝えてから、15分が経過していた。
二人は今・・15分前と同じ、調味料コーナーにいた。

茜は買う気もない調味料を手に取り、成分表を見ているフリをしている。
浩介が茜に決意を伝えてから、二人は一言も言葉を発していなかった。

15分前、茜は浩介に決意を伝えられると、特に驚く様子もなく、浩介の目を見つめたまま無言で何かを考えていた。
そして、しばらくすると浩介との距離は一定に保ち、商品を見るフリをし始めた。
最初は、単純に動揺しているのか、と浩介は思っていた。
急に、『これまで培ってきた異性としての愛情を白紙にしろ』と言われたのだ、動揺して当たり前だ、と。
嫌われても、罵倒されようとも、これがお互いの将来のためになると浩介は信じていた。

しかし、茜が落ち着くのを待ち数分経った頃、浩介の脳裏には一つの疑問が浮かび上がってきた。
茜は本当に動揺しているのか?

表情を覗く。いつもの茜と変わりはない。
手足が震えていないか確認する。その様子はない。
「!!」
浩介は気付いてしまった。

これは、浩介への裁判だった。
茜は浩介への罰を考えているのだ、と。

一度そう考えると、もう頭から離れなかった。立場が逆転し、浩介の心情と共鳴するかのように、手足が震えだした。
冷房の効いたスーパーの中で、大量の汗が浩介の体を這う。
浩介にできる事は、ただひたすら茜の審判を待つ事だけだった。

・・・
・・

どれくらい経っただろうか。
浩介は緊張感に耐えきれなくなり、息切れを起こすほどまでになっていた。

茜は依然として、調味料を手に取り、無表情のまま一言も発する事もなく何かを考えていたが、
最後に少しだけ浩介の顔を見つめると、ついにその口を開いた。

「そう、わかったわ」

まるで、質問に即答するかのような平然としたその口調に、浩介はやっと長い拘束から解かれた。
「・・・すまない」
「いいえ、私も兄さんを縛り付けてしまっていたもの、こちらこそごめんなさい」

そう言いながら、茜は目を細め浩介に微笑む。
『微笑み』は浩介が茜で一番好きな表情。可憐で愛らしい表情。
しかしこの時、浩介にはその表情が、地獄の底から地上を逆に見渡しているような不気味な表情にも感じた。

浩介は思わず、目を擦りもう一度茜を見つめる。
いつもの茜だった。
「さぁ、時間も経ってしまったし、帰りましょう?お腹減ったでしょ?」
「あぁ、ありがとう。帰ろう」
先程感じた嫌な予感に不安を覚えながらも、浩介は自分の気のせいだと思い、気持ちを切り替える。

やっと、自分は茜を解放してあげられる。
今はその事実だけで十分だった。
697『きっと、壊れてる』第5話(8/9):2010/09/13(月) 21:16:37 ID:vNnoQMze
茜の発言に違和感を覚えたのは、帰宅し二人で夕食をとり、入浴後に居間でくつろいでいたところだった。
それまでは茜に特別様子がおかしい点は、なかった。
帰り道も、今までのように寄り添う事はなく、普通の兄妹が取る間隔を空け、他愛もない会話をしながら歩いた。
唐突な提案で、家族としての絆までも失ってしまう事を恐れていた浩介は、一安心していたところだ。

「胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか」
茜が浩介を見つめながら、不意に言い出した事だった。

「はぁ?なんだいきなり?ドグラ・マグラか?」
「そう、この前読んだの。兄さんも前に読んでたわよね?」
「あぁ、ほとんど意味わからなかったけどな」

「フフッ、私も同じだから大丈夫よ。でもこの冒頭歌だけは気に入っているの。兄さんはこの冒頭歌、どういう意味だと思う?」
「う〜ん、正直よくわからないな。あの小説は俺の常識を超えているよ」
「あら、そんなに難しく考えなくてもいいのよ?冒頭歌の文言だけで判断すればいいの。」
「あそこだけでか?う〜ん・・・母親が抱いている悪意に気付いた胎児が怖がってる、とかかな」
浩介は『お手上げだ』と手を上げるジェスチャーをした。
「私はね、胎児って言うのはもちろん赤ん坊という意味も兼ねているのだけど、自分自身という意味もあると思うの」
「自分自身?」
「そう、母親のお腹にいる間は胎児は母親の一部。つまり一心同体でしょ?」
「あぁ」
「つまり、赤ん坊が恐れている事は母親も恐れている。母親は自分の考えている事が自分でも恐ろしいのよ」
「深読みしすぎじゃないかなぁ」
「あら、それが読書の楽しみ方の一つじゃない。私が個人的にそう思っただけよ」
「そうか、でもその考え方もおもしろいな」
本心だった。
本を読んでも、ほとんどの作品は著書の言いたい事を読み取ろうとする事もなく、一つの物語として右から左へ読み流すだけの浩介は素直にそう思った。
「ありがとう、じゃあお礼にクイズを出してあげるわ」
「ん?クイズ?」
「そう、クイズ」
なぜここでクイズに答えなければいけないのか、浩介にはよくわからなかったが、
他に特にする事もないので、茜のクイズとやらに付き合う事にした。

「いいよ。さぁ来い」
「じゃあ問題・・・今日で恋人のような関係は切れてしまったけど・・・私は兄さんと二人っきりの時が一番楽しかった」
「??・・・うん」
「誰か1人でも違う人間がいると、落ち着かなかった。私と兄さん以外の人間の拒絶。まるで2という数字以外は、この世に存在しないかのように」
「・・・茜」
「今日のはあくまでヒントのつもり」
「??・・・それで?」
「積み重ねて、積み上げるの」
「??・・・それから?」
「・・・」
「・・・?えっ終わり??」
「えぇ、終わり」
「最初の方以外、何言ってんだか全然わからないんだけど・・」
「・・・そうね・・・私、何を言っているのかしら。これじゃ暗号だわ」
「もう少しわかりやすく出題してくれると助かるんだけど」
「・・・ううん、もういいの。全然巧妙でもないし、自分でもクイズになっていないって・・わかってるから」
そう言った茜の表情は、ここ数年見せなかった悲しそうな表情だった。
浩介が茜に一番させたくない表情だった。
すぐにいつもの無表情に戻ると、茜は消え入るような声で呟いた。
「織姫と彦星は、最終的にどうなるのかしらね」
「茜??」
「フフッ何でもないわ。クイズ、気が向いた時で良いから、考えてみてね」
「ん?あっああ・・」
様子がおかしい茜を見て、やはり自分たちの関係の変化にまだ戸惑っているのだろうな、と浩介は思った。
698『きっと、壊れてる』第5話(9/9):2010/09/13(月) 21:17:04 ID:vNnoQMze
浩介も同じだった。
先程など、湯上り姿の茜の艶やかさに、妙な気分にもなった。
だが、もうそういう関係ではないのだ、と自分で自分の心に喝を入れていたところだった。

「じゃあそろそろ寝ましょうか」
「そうだな・・・おやすみ」

浩介は一瞬、『今日は自分の部屋で寝るよ』と言いそうになったが、普通の兄妹の関係ではその発言がいかに異常であるかを実感し、苦笑いした。
自分の部屋に戻り、CDコンポのタイマーをセットして、二人がまだ普通の兄妹だった頃に流行っていた音楽を聴く。
スローテンポで、感傷的なメロディーだ。
枕を見ると、カバーが新しくなっている。浩介が風呂に入っている間に茜が替えたのか。
ベットに入り目を閉じると、当時の茜の姿から最近の茜の姿が、曲に乗って次々と浩介の脳裏に浮かんでは消えた。

自分は本当に茜の事が好きだったのだな、と浩介は思った。
それと同時に、なんで自分達は血の繋がった兄妹として生まれてきたのだ、とも思った。
昔、誰かに『現世で兄妹として生まれた来た者達は、前世では恋人だった』という話を聞いた事がある。

本当かもしれないと浩介は思った。
本来なら、記憶がリセットされるはずが、何かの手違いで自分達だけ潜在的に記憶が残ってしまった。
だから、こんなにも愛おしい、抱きたい、抱かれたい、と感じるのだ、と。

ふと、浩介は実家の事を思い出した。
自分と茜の気持ちに整理がついたら、顔を出してみようと思った。
茜はともかく自分は門前払いされるかもしれないな、とも思ったが、外部の人間にも自分たちの関係に区切りをつけた事を周知したかった。
茜の人生の10年近くを自分に使わせてしまった事を、茜と家族全員の前で謝罪したかった。

今後の案を考えれば考えるほど、女としての茜を失う事への喪失感が浩介を襲った。
その喪失感を埋めるために、美佐の思いに答えようとしている事の残酷さに気付けないほど、浩介は恐れていた。
茜の存在が自分の生きる理由になっている事を。

今夜で最後だから・・許してくれ・・・茜の事を考えて眠るのは・・・今夜だけ・・・。

誰に懇願しているのか、浩介は心の中でそう呟きながら、体を丸めて眠りについた。
カーテンで遮られた窓の外では、いつの間にか雨が降っていて、空には星空を遮るように深く大きい雲が覆っていた。

第6話へ続く
699『きっと、壊れてる』第5話:2010/09/13(月) 21:18:23 ID:vNnoQMze
以上です。ありがとうございました。
規制の間書き溜めていたので、比較的早いペースで投下できると思います。では。
700名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 22:51:33 ID:FOs3Ph9a
GJです!!

スレに変な空気と作者さんにプレッシャーとを与えたくなかったので控えてましたがこの作品かなり好きでずーっと待ってました。気長にお待ちしております
701名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 22:53:25 ID:YR0b5NfR
>>700
最初の一言がスレの雰囲気をだなぁ‥
702名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 00:57:29 ID:43+GNhaD
GJGJ!!
703名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 17:32:30 ID:c43fc+RB
GJ
こういう静かな感じもいいな

wikiの掲示板に投稿すれば誰かしら転載してくださると思うので、今度規制されたら試してみてください
作品楽しみにしているので
704名無しさん@ピンキー:2010/09/15(水) 23:15:40 ID:9nh8YGK3
先が気になる展開だな
楽しみに待ってる
705名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 11:35:17 ID:WiF3J9IU
早いペースか
歓迎する
706名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 02:07:23 ID:LoVGTkVA
wikiの絵についてなんだけど完結してない現行してる作品の絵は控えてくれないかなぁ
707706:2010/09/17(金) 02:15:54 ID:LoVGTkVA
ごめんなさい間違えた
708名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 04:49:24 ID:o0pUD51D
709名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 12:37:52 ID:oWCxFkcg
>>707
もう来るな
710名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 18:05:16 ID:aWET0jRP
>>709
構ってちゃん乙
711幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:17:13 ID:peQxVOkY
今晩は。
表記について投下をいたします。
712幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:17:58 ID:peQxVOkY
初めはあれだけあった駒も次々と討取り、討取られ、もう盤面にまばらに散っているだけになっていた。
雪風は言うだけあってかなり強く、気付けば3時間近い熱戦が続けられている。
まあ、これで多分俺の勝ちだろうが。
黒いキングの前に白いビショップを置く。
「それで、ここでチェック・メイトって言えばいいのか?
 きざったらしいルールだな。」
「ええ、兄さんの勝ちね……」
雪風が渋い顔をする。
「序盤の展開がいい加減すぎたな。
 お前は遊んでいた積りなんだろうが、後に繋がらない手筋がいくつもあったぞ。
 要は相手が初心者だと思って手を抜きすぎるなって事だ。
 まあ、また暇なときに相手してくれ。
 勿論、その時は本気でだが?」
「本気よ、全身全霊全力の」
よく聞こえなかった。
「ん、何だ?」
「いいえ、何も言ってないわ、早くそれを片付けて。
 遅いけどお昼にしましょう、私のとっておきの店を特別に教えてあげるわ」
不機嫌そうに答える。
そういう意外と負けず嫌いな雪風を見てつい苦笑してしまう。
713幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:20:03 ID:peQxVOkY
**************************************************

少し不機嫌そうな雪風と俺は大学から地元まで戻った。
俺の住んでいる町の商店街の入口にはいつから存在したか分からない細い通路があって、
その通路の先には名前の分からない喫茶店がある。
俺は入ったことが無かったが、ここが雪風お気に入りの店だそうだ。
そこで今俺は、雪風お勧めのBセット(チキンスープ、サラダ、パン)を食べているのだが、驚いた。
スープが信じられないくらいに旨い、鶏肉にこんなポテンシャルが本当にあるのかって言うぐらい旨いんだ。
これはもう肉からして完全に別物だ、相当特別な鶏肉を使っているに違いない。
「いや、本当に旨いなこれ!!」
思わず賞賛が俺の口から漏れる。
「そうでしょ〜。
 ここはね、このチキンスープだけは本当においしいんだよ〜」
雪風が満足げに答える。
「でも注意してね、ここでの食事はこのBセット以外を頼んでは絶対に駄目だから」
「他は旨くないのか?」
「ええ、それもね、まともに喉を通らないぐらいに。
 実は私も一度だけ食べたことがあるの、吐きだしたわ、口に入れてすぐ」
よほどの味だったのだろう、思い出している雪風の顔が歪む。
「で、今日はおいしい昼ごはんえを食べて満足、という訳には行かないのが残念だな」
俺の言葉に雪風は不機嫌そうな顔をしながら、ことりとスプーンを置いた。
「ええ、ルールはルールだものね。
 良いわよ、兄さんは私に何を聞きたいのかしら?」
「何でシルフを焚き付けるような真似をした?」
714幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:20:26 ID:peQxVOkY
「何でって、私達が本当に幸せになれるようにしているだけだよ」
「私達が?」
「うん、兄さんだって分かっているんでしょ。
 シルフちゃんは兄さんの事を男の子としてずっと好きだったっていうのを」
「さあな、何かの間違いだと思うよ。」
「あはは、兄さん、こういう所は分かりやすいね。
 嫌な事を聞かれるとすぐに顔に出る癖は昔から直らないね。
 苦虫を潰したみたいだよ?」
そう言って嬉しそうに笑った。
「まあ、シルフちゃんはもっと分かりやすい子だから兄さんでも気付いちゃうよね。
 それじゃあ、いつからシルフの気持ちを知っていたのかな?」
「……ずっとだよ、初めはあいつは俺の事を唯一の理解者だと思って、ずっと俺の側に居た。
 それが、いつからか愛情とごちゃ混ぜになって、それでも段々と愛情の方が上回ってくる。
 そして、今はそれでも俺の側の居場所を選ぶか、居場所を捨ててでも愛情を選ぶかで悩んでいる。
 まあ、あくまで俺の勘だがな」
俺の言葉に雪風は目を丸くする。
「それって、全部分かっていたって事?」
「ああ」
「そこまで分かっていてずっとシルフのお兄ちゃんでいたの?
 どうして?
 普通ならそこまで来てしまったら思いに応えたり、否定したりするでしょ!?」
「それこそシルフは望んでいないからだ。
 あいつは愛情と居場所の二つを天秤にかけて居場所を選んだ。
 現状を維持し続けるって言うのはそういうことだろ?
 その居場所を俺が壊すって言うのはお兄ちゃんとしてやるべき事じゃない」
「そんな建前をよくも言えるものね。
 この前の夜シルフちゃんは泣いていたんだよ?」
昔のシルフの泣き顔を思い出して、胸が痛んだ。
けれど、今はそれを顔に出すような時じゃない。
「それでも、シルフは今の居場所を選んだ」
715幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:21:03 ID:peQxVOkY
「兄さんのやり方って、最低だね」
「どういう意味だ?」
「だって、都合の悪い事を全部私やシルフちゃんに押し付けて、自分だけは責任を被らない方法を選んでるよ?
 そうだよね、シルフちゃんの気持ちに応えるのって、受け入れるにしても、否定するにしても面倒だよね。
 だったら、初めから気付かない振りをして放っておけば、シルフちゃんは自分から兄さんへ踏み出す勇気なんて持てないもの。
 それに、例えあの子を苦しませているのを誰かに咎められても、シルフが答えを出すのを待ってるんだって辛そうに言えば良いし。
 その後であの子との複雑な家族関係でも語れば、もう誰も兄さんたちにそれ以上言えなくなるわ。
 そうすれば誰もあの子の背中を押せなくなるから、ずっとシルフちゃんは踏み出せなくなる。
 あ、あとさっき勘って言ったのも上手だよね、あくまで自分の勘なら確かめる義務なんてないもの。
 うんうん、兄さんってやっぱり頭が良いね〜」
すごいね〜、賢いね〜、と白々しく感心する。
「そんな訳無いだろ、冗談なら大概にしてくれ。
 俺はそんな事をしているつもりなんてないし、考えた事だってない」
シッテルヨ、ダカラサイテイナンダッテワカラナイノカナ?
雪風が何かを呟く。
「今、何か言ったのか?」
雪風の何かは小さすぎて聞こえなかった。
「ううん、こっちの話だから気にしないでいいわ」
「そうか、まあ良いさ。
 それよりも、私達が本当に幸せになれるっていうのはどういう事なんだ?」
雪風の追及を反らす為に話題を変えようとする。
雪風はくすりと笑った、逃がさないよ、とでも言うように。
「言ったとおりの意味よ。
 兄さんは私達がこのままの関係で良いの?
 さっき言ったみたいにシルフちゃんの想いに気付かない振りを続けるつもりかしら?」」
「良いも悪いも無い、今のままで問題なんて無いんだ。
 シルフが踏み出さないのは今の方が良いって思っているからだろ?
 それぞれ思う事はあるだろうが、それでも何も変わらないのは俺達が今の生活で満たされているからだ。
 なら、それを崩さないように見守るのが俺のすべき事なんだよ」
「そんなのが本当に、シルフちゃんや私を大切にしてるって事だって兄さんは本気で思っているの?」
俺の顔を訝しげに雪風が覗き込む。
「だから、さっきから何が言いたいんだよ?」
716幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:22:14 ID:peQxVOkY
「本当は、兄さんが自分の居心地の良い場所を手放したくないだけじゃないかな?
 自分の為なら何でもしてくれる素直な妹と自分の事なら何でも理解してくれる便利な妹。
 兄さんはそういう2人がいるのがとても心地良いの。
 でも、面倒くさいからそれ以上に私達を自分の近くにまでは寄せたくない、そういう我侭でしょ?」
いらっとした。
誰かに同じ事を言われても俺はそのまま無関心に流せるだろう。
だが、雪風に言われると、自分の心がそのとおりに変化してしまうように思えてしまう。
まるで、腹の中を抉られて、見たくも無い自分の汚物を引きずり出されて、
本当の兄さんはこんなに醜いんだよ〜、と嘲られているように感じて、不愉快になる。
「ああそうかい、だったらもう俺に付き合わなきゃ良いだろ?
 そう思われてまで、俺は雪風やシルフに側に居て欲しくなんてないし、必要も無い」
「兄さんって平気でそういう事を言うよね。
 自分の言う一言でどれだけ人を傷つけられるのか、少しは考えた方が良いよ?」
俺を見据えて毅然と雪風は言う。
けれど手の震えを隠しながら言うそれは、怯えの裏返しのようにしか思えない。
「だったら何て答えれば満足してくれるんだよ?
 本気でお前やシルフがそう思っているなら、俺なんて放っておけば良いだけだ。
 恋人を作る、両親に俺を引き離させる、俺を見捨てる方法なんて幾らでもある。
 それなのに俺の側から離れないで、俺を非難するなんて話がおかしいじゃないか?」
「理由なんて、兄さんだったら簡単に分かる事じゃないの?」
「分かる訳ないだろ」
「分かるわ」
「分からない」
「分からないの?」
「分からないよ」
そんな不毛な問答は、はあ、という雪風の大きく溜息で打ち切られた。
「そうなんだ、本当に分からないんだね?」
雪風は呆れた表情で答えを言った。
717幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:23:19 ID:peQxVOkY
「私は兄さんの側に居たいから、兄さんに捨てられたくないから。
 だから兄さんの我侭に従っているの、少なくとも私はね。
 兄さんの望みを満たしている限り、兄さんに都合の良い存在でいる限り、
 誰にだって兄さんは居場所を与え続けてくれる、兄さんはそういう人だもの」
「なあ、まるで俺がお前を玩具にしているような言い方だな?」
「違うと思っていたの? 
 私はそういう意味で言ったんだよ。
 兄さんは私を玩具にして、私で遊んで、飽きたら何の躊躇も無く私を捨てる。
 勿論、もっと良い玩具を手に入れたってそうするでしょうね」
「俺はそんな事は絶対にしないってお前なら分かるだろ。
 お前も、シルフも……」
雪風がシルフという言葉に反応して楽しそうな顔をする。
「シルフちゃん? ああ、シルフちゃんもそういう意味だととても都合が良いよね。
 ひょっとしたら血が繋がってない分雪風より便利かも。
 ほら、あの子は兄さんが言う事ならどんな事でも喜んでしてくれるよ、勿論誰にも言わないで。
 それに、兄さん好みの体つきをしているから、くすくす。
 シルフちゃんが何でもするって言ってくれたときに、本当は期待してたんじゃないの?
ねぇ例えば、兄さんのベッドの下にあったDVDみたいに、首輪を付けて四つん這いにさせて……」
「雪風、いい加減にしろよ。 
 もう喋るな」
今日の雪風は変だ。
別に雪風はいつも能天気でボケボケっていう訳じゃない、寧ろそんなのは俺達の前だけだ。
今日みたいに外に居る時は逆で、実際の歳以上に大人びている。
けれど、どんな時でも雪風は許される範囲と許されない範囲の境界をちゃんと弁えている。
俺の妹の雪風は特にこんなふざけた事は絶対に言わない。
718幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:23:45 ID:peQxVOkY
「喋るな、へぇ?
 兄さんは気に入らない事があったら、そうやって私の口を噤ますんだ?
 なら、さっき言ったとおりじゃない。
 シルフちゃんが泣いてるのを知らん振りで、兄さんはへらへら笑って?
 私にはそんな兄さんが間違ってないって言わせる気?
 それが兄さんの家族としてのあり方?
 良いわ、兄さんがお望みならいくらでもそうしてあげる」
雪風が馬鹿にするように言った。
そして、薄笑いを浮かべる。
「兄さんは正しいし、シルフちゃんが泣くのだって想いを伝えられないあの子の自業自得。
 兄さんは全然悪くない、悪いのはシルフちゃんを苛めた雪風と母さん。
 ごめんなさい、兄さん、雪風が全部悪かったわ
 これからは兄さんの言うとおりにシルフちゃんがどんなに泣いていても無視するし、あの子の相談なんて乗ってあげないわ」
本を読み上げるように澱み無く全てを言い切る、くすりと笑う。
「こういう風に私が言えば、兄さんは満足してくれるんでしょ?
 無神経で、いい加減で、自分勝手で、本当に兄さんらしい考え方よね?
 どう、これで十分なんでしょ?」
「違う、俺が言いたいのは……」
そこまで出して言葉が詰まる。
じゃあ言いたいのは、何だ?
「なぁに、言いたい事があるならちゃんと言ってくれないと分からないよ?」
「それは……」
言い返せない俺を見て勝ち誇ったように、口に手を当てて雪風が哂う。
「くすくす、ごめんなさい。
 ちょっと調子に乗りすぎたわ、さっきのチェスの仕返しね。
 でも、これはずうっと誰よりも兄さんを知っている雪風が見た、兄さんなんだよ?
 良いよ、私はそれでも。
 兄さんと居られればどう扱われても別に良いわ」
でもね、と一言間を空けてからまた言葉を続ける。
「じゃあシルフちゃんはどうかな?
 私、あの子の事までは分からないから。
 あの子は兄さんと恋人になって、ううん、その先の事をいつも夢見てる。
 それでも、シルフちゃんは今のままで幸せだって本気で言える?」
雪風が真剣な表情で俺を睨む。
俺はその視線から顔を逸らす。
「それは……、シルフが決める事だ」
「兄さん、私は質問しているんだよ?」
無言で目の前の皿に目を落とした、スープはもう冷めていた。
砂糖や胡椒と一緒に並んでいた赤い唐辛子ペーストを掴み、掬って、スープに落としてかき混ぜる。
「兄さん!!」
俺は雪風を無視して、闇雲にスプーンを口に運んだ。
それでも、雪風は言った。
「それは、……ジャムだよ、ぷっ、くっくっく、あはははは」
雪風は吹き出した。
俺は別の意味で吹き出した。

719幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:24:14 ID:peQxVOkY
**************************************************

あははは、くすくす、あははは。
夕暮れ時、人気の無い道に笑い声が聞こえる。
さっきの場面がツボにはまったらしく、帰り道でも雪風は笑いっぱなしだった。
「くすくす、本当に兄さんは面白いね。
 どうして一番重要な場面を、ああもぶち壊してくれるのかしら。
 おかげでシリアスな雰囲気が台無しになっちゃったじゃない。
 くくく、本当にもうお腹が痛くてしょうがないわ」
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい」
勿体無かったので何とか食べようとしたがジャムの味が邪魔して口に出来る味では無かった。
いや、そもそもジャム自体が一体何なのか分からない正体不明の代物だったぞ、あれ。
雪風はそんな悪戦苦闘する俺が相当面白かったらしく、何とか真剣さを保とうとしても笑いがとまらないという状態だった。
結局、諦めて素直に爆笑する事を選択してしまった。
こういう所の潔さは雪風らしいと思う。
「あ〜、笑わせてもらったわ。
 やっぱり兄さんと居ると本当に、楽しい」
そう言って大笑いする陽気ないつもの雪風は、さっき俺を問い詰めた少女と同じには見えない。
「なあ、雪風?」
「な〜に、兄さん、くくく」
「さっきお前が言った私達の幸せの、私達、にはお前も含まれているのか?」
「え? くくく、それは勿論、しっかり組み込んでいるわ、くくく」
雪風が笑った。
「それは、シルフの望みとは両立しないんじゃないか?」
笑い声が止まった。
「どうして、分かったのかしら?」
雪風が笑う、だがさっきと違いそれは全く動きの無い笑みで。
「確証は無かったが、薄々と。
 シルフと違って上手くやっていたと思うよ。
 正直なところ、ただの世話焼きな妹なんじゃないかとも思っていた。
 もっとも、さっきの話を聞いて気付かないなら相当の間抜け、だと思う。
 ついでに言えばお前のお願いの内容も大体予想がついたよ。
 そういう事なのか?」
「ふふ、兄さんは余分な事には本当に鋭いんだよね、嫌になっちゃうわ。
 あ〜あ、こんなところで私の賭けって終わっちゃうんだ」
「賭け?」
「ああ、良いのこっちの話だから兄さんはもう気にしなくて。
 本当にもう、兄さんは……、困ったものね。
 分かったわよ、私は兄さんを愛しているわ。
 勿論、女としてね、どう気持ち悪い?」
雪風が吹っ切れたように告白した。
それを言う事が義務かのように淡々とした事務的な口調で。
720幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:24:35 ID:peQxVOkY
「俺はそれでも構わない。
 お前もシルフみたいに昔からそうだったんだろ?
 それでも、今まで俺達は上手くやってきた、なら別に問題なんてない」
俺の言葉を聞いて、雪風は呆れたようにため息を吐いた。
「そうだね、兄さんならそういうかもって思っていたわ。
 あのねぇ兄さん、普通はそういう道を外れた妹なんて気持ち悪い、
 近寄るなって言って遠ざけるのが常識だと思うよ?」
「否定して欲しいのか?」
「あ〜、出来れば受け入れて欲しい、かな?」
困ったように目線を逸らす。
「なら、俺は否定したりはしないよ。
 常識は大事だが、自分の見聞きしたものをそれで否定するって言うのはおかしいと思う。
 俺と雪風はずっと一緒に居たんだからな。
 俺はお前の事が妹としてだが、信頼しているし大好きだった。
 そしてその雪風の中には今言った気持ち悪い要素も入っていたんだろ?
 なら、俺はその要素だって含めてお前を気に入っていたっていう事だ。
 今更何をどうしろって言うんだ、何も変わらないだろ?」
「ふうん、兄さんの言ってる事は理屈としては正しいのかもね。
 で、それって私は兄さんに期待しても良いって事?
 兄さんは私のお願いを聞いてくれるのかな?」
そう尋ねる雪風の笑顔は強張っていた。
「……それは無理だ、悪い。
 俺はお前と兄妹でいる事を望んでいる。
 だからって、お前の望みを否定はしない。
 少なくとも、シルフや他人を傷つけない限りは」
「はぁ、100点満点の模範的な答えね。
 本当に不器用に模範的っていうか、理不尽なくらいに寛容っていうか……。
 兄さんって、一体何の積りなの?」
その溜息には少しだけ失望が含まれているように見えた。
721幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:24:55 ID:peQxVOkY
「何って、そんなもんはお前の方が良く分かっているだろ?」
「兄さん、そういう平等って本当に大切なものが無いからできるんじゃないかな?
 普通の人は兄さんみたいにはなれないの、絶対に。
 大切なものがあるなら、私や、それにシルフちゃんみたいに偏っていて、歪んでいて、一つに傾くの」
「傾いている、雪風がか?」
「そうだよ、私の全ては兄さんに偏っているわ、それに兄さんへの想いだってそうよ。
 さっきは兄さんを愛しているって言ったけど本当はそんなに綺麗なものじゃないよ。
 兄さんが欲しいの、兄さんから全て奪って、縛り付けて、何処にも行けない様に閉じ込めたい。
 私にとっての兄さんってそういう特別な存在なんだよ?
 それでも、兄さんは今までのままでいられるの?」
さっきの俺の答えが気に入らないのだろうか、雪風は若干いらついた口調で問い直す。
「言っただろ、何も変わらないって」
俺は喫茶店で問い詰められた時と同じ事を答えた。
それを聞いて、俺に背中を向けた。
そして、兄さんには敵わないね〜と声だけは楽しそうに雪風は笑った。
「あはは、ねえ、兄さん。
 今まで兄さんに私のお願いを聞いて欲しくて賭けをしたのって何回あったか覚えてる。」
「悪い、覚えてない」
「正解は10歳の時から数えて29回でした〜。
 では、その内兄さんが勝ったのは?」
「それは簡単だな。29回、負けた記憶がないから全勝だ。」
「ふふ、正解。
 じゃあ、これから30回目の、ううん、最後のゲームをしようよ。
 くすくす、もう全部ばれちゃっているから、私、宣言するね。」
そう言ってくるりとこちらに振り返る。
雪風が俺に顔を近づける、笑っているのに笑っていない。
「私は、兄さんを雪風の物にする。
 そして、私は、兄さんを永遠に縛り付けて閉じ込める、くすくす」
「俺が約束を守らなかったら?」
「くすくす、大丈夫よ、兄さんは約束を破れない人だって知ってるもの。
 それに、別に兄さんが約束を守ってくれなくても良いわ。
 私が勝てば、私は兄さんを自由に扱う権利が有るんだっていう気持ちの整理が付くから。
 そうしたら兄さんはずっと私の物になる」
お互いの顔が俺にくっつくという時に、雪風は表情を緩めて、顔を離した。
「あ、そうそう。
 けど、安心していいよ。
 私は、兄さんもシルフも傷つけないから」
最後にそう付け加えた。
そして、物欲しそうな目をしてゆっくりと俺の胸元から顔まで視線を這わせる。
雪風がそういう目をするのを初めて見た。
722幸せな2人の話 5:2010/09/18(土) 00:26:50 ID:peQxVOkY
以上です。
また来週もよろしくお願いいたします。
723名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 00:51:12 ID:WWVwTw8n
ぐっじょ
雪風こわい、話がわかりそうなキモウトだけど
724名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 00:53:40 ID:/PgDDks7

掴みどころのない不気味な感じがイイな
725名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 02:16:05 ID:+VJdXHUr
GJ!
やっぱりヤンデレというよりやっぱりキモウトやキモ姉の方の愛情の方がなんか心地いいわ。
726名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 08:38:25 ID:ymAgYhzd
497か…そろそろ
次スレだな
727名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 08:48:56 ID:tgzQ7ugU
キモ姉&キモウト小説を書こう!part32
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1284767323/
728名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 10:19:20 ID:Sqm1nIfc
>>727
729名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 00:57:35 ID:bTjRFOlY
ついにこのスレも終わりか
730名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 00:58:51 ID:iCn2d7lC
古い姉妹を捨てて新しい姉妹に乗り換えるのは辛いけど仕方ないよ
731名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 01:31:23 ID:1/z6cZhm
732名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 04:27:26 ID:wnM/6JoG
>>727
おつ
埋め期待
733名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 08:00:53 ID:kWaeJv0O
古い姉より新しい妹だよねお兄ちゃん
734名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 15:54:30 ID:1/z6cZhm
735名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 18:22:09 ID:eIHOREmc
ウーン埋めネタって以外と難しいんだよね
大体3000〜5000文字以内位か?
736埋めネタ:2010/09/19(日) 19:27:49 ID:eIHOREmc
「この泥棒猫を抹殺して下さい…レディG」
「…………」
「お兄ちゃんを取られたくないの!」
「分かった……」
私はレディGと呼ばれている泥棒猫専門の女スナイパー
今日もキモウトから兄の幼な馴染みの抹殺を依頼された
「報酬が農協の指定口座に振り込まれた事を確認され次第仕事に取りかかる……」
「あ、ありがとうございます…レディG…クククク…お兄ちゃんは、ずぇえええったい渡さない!!!!!」
ふー依頼が終わって一人微睡む…
昔の事がフラッシュバックする
私も昔はこの女の様な時代も在ったっけ……
***************
「姉さん紹介するね、これが僕の彼女の……」
「私……と申します弟さんのお姉さんですね、よろしくお願いします。」
名前はもう記憶から出て来ない
「もう、冗談ばっかり弟は…」
「冗談では無いよ姉さん…僕達来年の6月には結婚するんだ」
「嘘でしょう…嘘だと言ってよ弟……
「ごめん……姉さん……」
「違う……違う違う違う……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!!」
「ね、姉さん!?」
「ふふふ…あは‥あははははははははははははは!!!」
「ねぇ…〇〇君、お姉さんどうしたの……」
脅えたような顔の泥棒猫…あの顔は今でも忘れない…
「わ、分からない…只、何時かはこんな日が来るとは思っていた。
姉さん! 姉弟は何時までも一緒に居られるわけじゃ無いんだ…分かってくれ…姉さん……」
弟の顔…小さい頃から私の後ろばかり付いて来て、私が居無いと何も出来無い弟、
姉思いで私が風邪をひいた時は一日中泣きながら看病してくれた…
私が難関のT大に合格出来た時は自分の事の様に喜んでくれた最愛の存在
それが……
「あなたは私の弟ではないわ」
「姉さん?」
「だってそうでしょう、私の〇〇がそんな事を言うはずないもの……」
後の事はよく覚えてない…ただ真っ赤なフィールドが掛かった世界が存在しただけだ……
そして私は実弟と婚約者を殺した犯人として全国に指名手配をされた…
それから私は自殺をしようと崖にたたずんでいたところを某国の工作員に声を掛けられ戦場を駆け回り今に至る…
「……………弟」
私は弟の遺骨で作ったバイブで自分を慰める…
私はレディG…今日も泥棒猫を抹殺する。
737名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 19:52:45 ID:1/z6cZhm
738名無しさん@ピンキー
しかしこんな長寿スレになるとは思わなかったな
よく続いてきたもんだ