もう飽きたしずっとレールガン書いててくれていいよ
GJでした。読者が読みたいものを書くのと、読者に読ませたいものを書くのでは、
モチュベーションも違うのではないかなと存じます。今作は前者なのでしょうか、
普通に楽しく拝読させて頂ました。そしてきっと、ご連載されている『ローマ』
に関しては後者なのかなと存じます。その場合、過度に面白くしようと、自らの
ハードルが上ってしまい、筆力のある貴殿にしても、上手く書けなくなってしま
うのではないでしょうか。正直、埋めネタの方が私的には好みなのですが、『ロ
ーマ』に関しては以前から、一読者として楽ませて頂いております上、ご納得出
来るレベルまで彫琢して頂き、投下をお待ちしたいと存じます。失礼致します。
>>346 レールガン書くなら是非せーそくにいらして下さい
お待ちしております
168レスめのものです。
書いてみたので落としに着ました。
前みたいにつまらないと言われないように頑張りました。
次レスから投下スタートです。
嫌な予感がする……。
最近大橋高校の二大番長、逢坂さんと高須君が何時も一緒に行動してる。
何か起こるかもしれない…
学校の皆もそう思ってるのかびくびくしてる。
マルオ君にもその旨を伝えてはいるんだけど、
「高須も逢坂も良い奴だっ!」
そう言って全く取り合ってくれない。
もう!何かあっても知らないんだからね!
*****
(今日の夕食は何にしようかしら?)
今日は何時も行っている、スーパーとは違うスーパーで特売があったから来て見たんだけど、特売のコンテナの回りは、少しでも夕食の食材を安く仕入れようとしている主婦で賑わっていて、とても私が入れ込めそうな気がしなかった。
多分入ったとしても、直ぐに弾き返されてしまう気がする。だけど私は、何とか入れないかと、未練がましく周りをうろうろしていた。
しばらくしてから、主婦の方々が散り散りになっていった。
「はぁ・・・」
私は溜息をつきながら、後ろに振り向いた。そして固まった。
私の視線の先には、男の子(多分4歳ぐらい)と、物凄く目付きの悪いヤクザがいた。男の子は泣いていて、ヤクザは何かしようとしている。
(どうしよう?)
周りへ視線を送って見るけど、誰一人としてそれを止めようとする人がいない。と、そんな事を考えているうちにそのヤクザが動き出した。鞄から何かを取り出そうそしている!
「…っく!」
私は、我を忘れてそのヤクザに突進した。
どんっ!
「ぐあっ!」
ヤクザは、倒れながらノートの切れ端で作った、キリンを手放した。
・・・・ん?
・・・・キリン?
・・・・ノートの切れ端?
「・・・いってぇ、何なんだよ・・・」
もし、今突き飛ばしたヤクザが、泣いている男の子を宥めようとしているだけだったら?
もし、今突き飛ばした人が、ヤクザじゃなくて目付きが悪い高校生だったら?
その目付きの悪い高校生が、同じ高校に通っていて、その高校の番長だったとしたら?
自分のクラスメイトだったとしたら?
私の次の行動はどうすればいい?
多分その答えは・・・・・・
だっ!
その場からすぐに逃げるだと思う。
「・・・あっ、おいっ!」
後ろから声がしたけど、無視して出口まで思いっきり走る。明日会うとしても今日逃げ切ればいくらでも対策は練れる!
がしっ!
「・・・っ!」
(うそっ!)
全力で走ったのに、もう追いつかれてしまった。・・・どんだけ足遅いのよ私。
「待てって」
彼・・・大橋高校の二大番長高須竜児は、薬を取られたヤクザのような目で私を見ていた。
「・・・いっ、いやっ!」
私は全力で腕を振り払おうとしたけど、やっぱり男の人には叶わなかった。
殺されるっ!
「待て待て、怒ってないから、取り合えずそれは放しとけ」
「え?・・・あっ!」
逃げるのに必死になって、買い物籠(ちなみに中身は牛乳だった)を持ったまま店を出ようとしていたみたいだった。高須君が止めてくれなかったら、危うく万引き犯になる所だった。
「大丈夫か?」
「・・・うん、ありがとう。・・・その、止めてくれて・・・」
「?・・・ああ、別にいいよ、大した事はして無いし。たださぁ、何で突き飛ばしたんだ?せめて理由を聞かせてくれ」
「えっ!・・・え〜っと・・・その・・・。たっ高須君があの子に何かしようとしてる様に見えたから。つい、ど〜んって」
ちょっと茶目っ気を出しながら言ってみたんだけど、変じゃ無いよね?
「ついって・・・お前なあ〜・・・。俺はただあの子が、俺の顔見て泣いちゃったから泣き止ませようとしてただけだよ」
「そうなんだ。私はてっきりあの子が何か見てはいけないものでも見たのかな?って思ってた」
「・・・何だよ、見てはいけないものって・・・」
「薬とか?」
言い過ぎたかしら?なんか目に見えて落ち込んでるんだけど。
「お前は俺を何だと思ってるんだよ・・・」
「大橋高校の番長」
「即答すんなよっ!」
「しかもヤクザがらみの」
「嫌な意味で過大評価しすぎだろっ!・・・はっ!」
今の高須君の形相で人が高須君を中心に離れて行っている。私もその一人だったりする。だって怖かったんだもん。
「悪かった。少し取り乱した、謝るから逃げないでくれ」
「・・・怒ってない?」
「ああ」
「殴らない?」
「ああ」
「怒鳴らない?」
「ああ」
「如何わしい所に連れて行ったりしない?」
「・・・ああ」
「薬飲ませたり、進めたりしない?」
「・・・・・・ああ」
「海に沈め「もういいだろっ!」・・・嘘ついた」
「・・・くっ、わ、悪かった」
「高須君顔怖いわ、近寄りたくない」
「生まれつきだ!」
「高須君顔怖いわ、近寄りたくない」
「2回も続けて言うなよ!」
「高須君の顔怖いわ、まるで般若みたい。近寄りたくないわ」
「グレードアップさせるなよ!余計傷つく!」
「ふふふ。高須君おもしろいわね」
「もう勘弁してくれ・・・」
高須竜児。思っていたよりも悪い人じゃないみたい。何て言うか・・・すごくからかい甲斐がある。
「そう言えば、何で般若君がスーパーなんかにいるの?」
「まだそのネタ引っ張るのかよ!」
「ふふふ、面白くてつい」
「そうかよ。ここにいた理由なんか、一つしかないだろ」
「やっぱり、親から離れた子供をさらっていくのかしら?」
「違う!それと『やっぱり』って何だよ!俺はただ特売目当てで来たんだよ!」
「特売?子供の?」
「しつこいわ!」
「口が勝手に動いちゃうの」
「じゃあ閉じとけよ!」
「む・り・♪」
「何でこんなに疲れなきゃいけないんだ・・・」
「ふふふ、ごめんなさい。謝るから許して、般若君」
「全然謝る気無いだろ!お前!」
*****
「へぇ〜高須君が家の事やってるんだ」
「ああ、そうだ。」
今聞いた話を簡単に説明するとこんな感じかな?
親が働いているから、少しでも楽できるようにと、家事をしていると言う。
それで今日は特売があったから、行きつけのスーパーではなく、こちらに来たらしい。
けど、特売目当てで来たはいいけど、予想以上に人が来ていて、大変だったみたい。
取り合えず、目当ての特売商品(胡瓜一本20円)を手に入れた後に、その人ごみから出ようとして躓いたらしい。
その拍子に顔がその男の子の目の前に来てしまって、泣かせちゃったみたい。
それで、泣き止ませようとしてノートを破ってキリンを作ったけど、全く効果が無くて、最終手段の飴を渡そうとしたところに、私が突っ込んだらしい。
「・・・何て言うか、大変だっただね(面白いね)」
「今声が2重になって聞こえたんだが」
「あら、気のせいよ」
「・・・そうか?」
「そうよ」
「まあ、いいや。」
高須君は少し疲れたしぐさをしながら、食材を見ている。
何て言うか・・・真剣に選んでいるのはいいんだけど。顔が怖いわ。
「・・・ん?香椎?どうした?」
「なっ、何でも無いわ」
「そうか。・・・そう言えば香椎は何でここに?」
「高須君と同じ理由よ」
「じゃあ、香椎も家事やってるのか?」
「そうよ」
私の家は片親だから、私がやる以外には父しかいない。
けど、その父は帰って来るのが何時も10時を過ぎてしまうので、必然的に私が家事をやらなきゃいけなくなっていた。
「それにしても高須君が家事をねぇ・・・想像出来ないわ」
「やっぱり男が家事やったりするのは変か?」
「ううん。別にそれ自体は変でもなんでもないわ。ただ、高須君が包丁持っている姿を想像できなくて」
「そうか?」
「うん。どちらかと言うと、短い日本刀を持っている方が似合いそうよね」
「ヤクザじゃねえか!」
「正解」
「肯定するなよ!」
まあ、ホンとはそんな事思ってないけどね。さっきまでの私なら間違いなくそう思っていたと思うけど。
話していると分かるけど、高須君は番長、ヤクザ等の人とは全く関係ない。何でか解らない、けどそう確信がもてる。
高須君は年相応のちょっと・・・凄く目付きが悪いただの少年で、目付きの所為で番長、ヤクザ等の人達と同じに見られているんだと思う。
そんな風に見られて、人から避けられてきたのにぐれなかったのは正直凄いと思う。もしも私が同じ立場だったら、多分想像どうりの結果になってたと思う。
目付きが物凄く悪い、でもほんとはとても優しい、まるで漫画の主人公みたい。ヒロインは・・・誰かしらね?
「まあまあ、気にしないで早く買い物済ませましょ」
「・・・たくっ。そうだな、さっさと済まして帰るか」
「そうそう、ちょっと提案なんだけど、メルアド教えてくれないかしら?」
「はあ?まあいいけど。どうして急に?」
「献立に新しい要素が欲しいからよ」
「俺そんなに珍しい料理何て作らねえぞ」
「あら、高須君にとっては普通でも、私にとっては新しいかもしれないじゃない。だから、ね♪」
「そうか?」
難しい顔をしながら、携帯を弄っている。・・・やっぱり怖い。
「ほい、送信完了。これでいいか?」
「うん、ありがと、高須君」
「へいへい」
この人が私の大切な人になるなんてこの時は思ってもみなかった
取り合えずこれで終了です。
簡素王を聞かせてくれたらうれしいです。
なかなかいいんじゃないですか簡素王陛下
>>359 普通に面白いと思います。
前回は他の方が指摘されておられました通りでしたが、
今回はその点、問題ないと思います。
あえて苦言を呈するとしたなら、『怖い人』の認識から『あれ?いい人?』
への転換が肝となる筈ですので、そこをもうちょっと丁寧に書くと更に印象が強くなるかと。
いきなり茶目っ気を出して話せるのはちょっと唐突感があるかもですね。
でも、その後はテンポよく展開してて気持ちいいです。
ではでは、続きをお持ちしておりますよん。
簡素王さま 申し上げます
GJでございます
是非とも続きをお願いいたします ねん
SS投下
「×××ドラ! ─── ×××ドラ! × ?-s ───」
縞々の模様から商品情報を読み込んだスキャナーがピッと無機質な電子音を奏でる。
表示された価格を唱えつつ次の商品を手に取り、それを数度繰り返して、最後に合計金額を知らせる。
預かった紙幣をレジに収め、取り落としてしまわないよう両手でしっかりとお釣りを返し、最後に仰々しくならない程度にお辞儀。
「ありがとうございました、またお越しくださいね」
タイムセール目当てに夕飯の買出しをしに訪れたお客さんたちが成していた群れを相手にすること数十分、ようやく忙しい時間帯を切り抜けた。
ごった返していた店内はいくぶん落ち着きを取り戻し、窓から差す夕日も落ちかけ、浮かぶ月が顔を覗かせている。
そうなると、そろそろ私も上がる時間だ。
ほぼ丸一日の間立っていた狭い仕事場を簡単に片付けてから、他のパートの方に挨拶を交わしてレジから出る。
「お疲れさまです」
それを見計らったように背後から声をかけられた。私もお疲れさまと、重たい身体で店中を忙しなく駆け回っていた彼女を労う。
うーんと大きく伸びをするとただでさえ大きな胸がたわわに揺れ、殊更に強調されている。
最近はまた大きくなったらしく、サイズの合うブラがなく、仕方なく着けない日も多いそう。
今日もそうなんだろう、シャツ一枚の背中には線が見当たらない。
彼女からすれば悩みなのはわかってはいるし、しょうがないのもわかるけど、していないなら、男の人の目があるところでそういう無防備な仕草をするのはやめてほしい。
隣にいる私が、ちょっと、みじめだから。
今通り過ぎていった、どこかで見覚えのあるような長髪をした男性客がおもむろに振り返っていたのが見えていないのだろうか。
豊かな胸もそうだけど、お腹だってこんなに大きいのに、それでも人目、特に異性の目を惹きつける彼女。
動作一つ一つから香りたつ色気は年を重ねるごとに強く、濃くなっていくように思えてならない。
そのくせ自身はあんまり気にした風でもなく。
「今日も疲れましたね」
なんて、のほほんとしている。厭味でなく、下手にでているわけでなく、あくまで普通に。
こっちが勝手に劣等感を感じているみたいで、実際そうなんだからバカらしくなってしまう。
「でも、今日はまだ楽な方じゃない。お客さんも少なかったし」
「あはは、そうですね、ホントはそれじゃいけないんですけど」
それでもこのお店は繁盛している部類に入るだろう。
以前に一度大不振に陥ったことがあるらしいここかのう屋も、少なくとも私が働いているこの数年の間、経営状態が深刻な落ち込みを見せたことはない。
それどころか黒地さえ叩き出している。現在の経済状況からすれば幸運を通り越して奇跡じみてすらいる。
これには来店してくださるお客様の力添えもさることながら、ある一人の従業員の尽力というか、活躍というか。
とにかく関係はしていると、そう私は睨んでいる。
その従業員さんは特別何かしたというわけではなく、むしろ何もしないことの方が多い。というか、できない。
頻繁に入退院を繰り返していて、これだけだとリストラ対象の筆頭と言っても過言じゃない。なのにクビにはならない。
そしてもっと不思議なのは、その従業員さんに不幸が訪れるのと反比例するように業績が上がっていくこと。
「そういえば幸太くん、さっき在庫整理してたら積んでたビールの下敷きになっちゃったんです。しかもケースごと」
他人の不幸は、きっとおいしくないんだろう。中には極上の糖蜜のような甘露に感じる人もいるんだろうけど、私はそうは思わない。
だって彼は毎回毎回どんよりとした翳を絆創膏と包帯だらけの顔に貼り付けている。
この娘が無意識に色気に磨きをかけているなら、彼もまた、生まれながらの不幸っぷりに磨きをかけているんだろう。
今では身の回りに漂う、本来なら関係のない不幸すら持っていってしまっているからなのか、彼の回りにいると悪いことは起き難い。
逆に、彼そのものに降りかかる災難も尋常じゃないけれど。
「重たいのなんのって、もう大変だったんですよ、引っ張りだすの」
それでも大事にはならなかったみたいで安心した。これで大ケガでもされていたら、なんだかこっちも寝覚めが悪い。
「あ、そうだった」
突然何か思い出したよう。手をポンと叩き、先を歩いていた彼女がその場でくるりと向き直った。
膨らんだお腹がバランスを崩させたのか、足がもつれてちょっとわたつく。
ギョッとして手を貸すと、その手を掴んで体勢を立て直した彼女は興奮気味に口を開いた。
「昨日の夜、お姉ちゃんから電話があったんです」
こちらが夜なら、向こうはまだ朝も早い時間だろうに。あの人のことだから彼女の都合に合わせたのだろう。
用件も、大方の察しはつく。帰ってくる目処がたったのね。
「お姉ちゃん来月か、早ければ今月にも帰ってくるって」
ほらやっぱり、思ったとおり。
来月はともかくいくらなんでも今月はムリな話じゃないかしら、とは言わない。
その気になれば身一つと、あの人から生まれたとは信じられない純真無垢なあの子だけを連れて即日帰国を果たしたとしても私は驚かない。
そんなことをしないという理性や常識を持ち合わせているのは知ってるけれど、それを補って余りある男らしさと胆力を併せ持っている。
とはいえ、帰国の理由が出産を控えてるからとなれば無茶なことはしないだろう。
私と、私の手をまだ握っている彼女と同じで、そのお腹はぽっこりと見事な丸みを帯びているに違いない。
そういった理由から、前回みたいな大騒動に発展するとも考えにくい。けれどもゆめゆめ忘れてはならないこともある。
あの人は、会長なのだから。
何をしでかすか見当もつかないし、ついた後でもこちら側の予想を裏切る動きをすることは必定。それこそ前回の帰国がいい例。
妹である彼女は元より誰にも何の連絡もしないで唐突に帰ってきたと思ったらすぐさまあっちへと戻ってしまった。
それはまだいい。行動力と決断力の鋭さ素早さ逞しさは学生時代からして既に折り紙つきだった。
凡人の私には及びもつかない考えがあってか、それとも、そうせざるをえない止むに止まれぬ事情ができたか。
たぶん、何事もなければ、後日になってからそういうことがあったと、誰かから聞かされた私はきっと会長らしいと笑っていた。
実際のところは何事も大有りで、笑うどころか怒り心頭で、後日そういうことがあったと後になって誰かに話した私は私らしくないと呆れられていた。
それも無理ないかも、とは冷静になった今だからこそで、あのとき、少し落ち込んでいた、というよりも嫉妬していた私はそんな反応にひどく傷ついたりもした。
宵に繰り出す人々の波をあたかも戦艦さながらに割っていく会長は、誰が持ち出したのか拡声器によって増幅された大音声のちょっと乱暴な停止勧告に決して聞く耳を持たず、
たまにその大音声にも引けを取らない凛と澄んだ声でとても女性の口から出てくるとは思えないというよりも出しちゃいけない罵詈雑言を詠い、
十重二十重にも及ぶ追っ手を時に華麗に抜き去り、時に力ずくで突破し、これを渡りきられれば捜索は一段と困難を極めるという橋上で挟み撃ちされても動じず、
及ばずながらも律儀に馳せ参じた直後の北村くん達を肉の壁かはたまた囮に使うかと思わせといて彼ら諸共私たちを、という魂胆で平然と橋の上から北村くん達を蹴り飛ばし、
いち早くその身の毛もよだつほどに恐ろしい考えを察知していた川嶋さんと香椎さんの手引きで私たちが彼らを避けるのを見やるや、
現在進行形で落下中の北村くんに向かって改めて立ち塞がれ、堰きとめていろと無理難題をお仰せ付け、北村くんと、北村くんの巻き添えをくう形で一緒に落ちた、
軽佻浮薄という言葉でできたような長髪の男子を助けに行こうとしていた辛くも紐なしバンジーを免れたメガネの男子にそれまで繋ぎをしていろと命じ、
しかしその際僅かながらも作ってしまった隙を常に先頭に立ちつつ虎視眈々とその機会をひたすら狙っていたあの逢坂さんが見逃さず、
尋常ならざる高さから川面に飛び込んだというのにすぐさま橋脚をよじ登り息を切らせた濡れ鼠な北村くんが欄干に身を預けた頃には時既に遅く、
背後から忍び寄っていった彼女は会長を取り押さえることに成功していて、発覚から延べ三時間を越える大捕り物は日付を跨いだ後になってようやく終わりを迎えた。
一件落着というにはまだまだ時間がかかったのは言うまでもなく、即刻即時その場において開かれた事情聴取の体を借りた尋問は入水自殺の通報を受けて駆けつけたお巡りさんさえ退かせる迫力やら圧力やら理力やらの何やらに満ち満ちていて、
その中心に据えられてなお気丈で居丈高な態度を崩さない会長は極一部の血気滾る過激な物言いをする娘たちの神経を逆撫でに撫でて余計に焚きつけ、全員いっぺんに相手にすることすら辞さないという構えを貫くという、
客観的に言わせてもらうなら往生際の悪さを存分に見せ、だけど、極一部の血気滾る娘たちの存在のおかげで逆に一歩引いていた私にとってはそこまでするあの人の姿が、そのときは、笑えるくらい女らしく映った。
はたして私に同じことができるだろうか。
あの子と、自分より背も高くて体重もある男性を両脇に抱えながら全力疾走を続けしかも全員が一応は女性とはいえ二桁に届く追跡者を相手に優位に立ち回るという離れ業を、じゃあない。
あんな風に、身を焦がす嫉妬を素直に曝け出せるのか。あんな風に、他人を蹴落としてまで誰かから誰かを奪おうとすることができるのか。あんな風に、今さらでも自分だけを選べと迫れるのか、懇願できるのか。
あんな、風に。
そんなことをして何になるっていうのよ。自分だけよかったらそれでいいの? 願うだけなら、そんなの、私にだって。そもそも比較対象からしておかしいじゃない。
する相手のいない言い訳はいくらでもできた。それなりの理由付けもできた。
相手のいない言い訳をすればするほど、理由を探せば探すほど、男らしさの頂で仁王立ちしていると豪語しても憚らないあの人に余計に女らしさを覚えた頃、いよいよ彼女は最後の武器を取り出していた。
それはとてもあざとくて、姑息で、いやらしい。誰にでもできて、選ばれた人にしかできない。
男らしさの頂で仁王立ちしていると豪語しても憚らないあの人には似つかわしくなくて、常の彼女をよく知っていればこそ、より効果を発揮する。
ときには、透き通るほどに透明な、まるで湖畔に芽ぐむ草葉に降る朝露のよう、という詩的な表現さえ与えられるその武器の名前はナミダ。
そんなことあるわけがない。少なくとも男の奪い合いで流される涙がそんなキレイなものでも高尚なものであるはずもない。
感情の発露にしては計算の入り込む余地だらけで、純粋と偽ったその実は不純まみれで、本来なら場違いなのに驚くほどタイミングを見計らって出てくる。
その上弱さを見せまいと背を向け、声を押し殺し、差し伸べられる手を力なく払った後に指先を指先で握り締め、絡ませ、結局は縋り。
卑怯だって、こんなのずるいって思った。憤った。歯噛みした。そこにいた、誰よりも女だった会長に。
そして私以外にも、おそらくは多かれ少なかれそういったものを感じ取ったんでしょうね。
散々好き勝手やっておいて悪びれもせず、それどころか最後の最後までやってくれる会長にもはやあるのかすら疑わしい堪忍袋そのものを腹ペコの野良わんこも遠慮しそうなズタズタの細切れにされた彼女たちは、情状酌量の余地なしという判決を満場一致で下した。
再三に渡る不服申し立ては当然棄却。
被告人と裁判長のみの法廷は夜もふけたというとってつけた理由で永久にその幕を閉じ、納得がいかず一人腹の虫のおさまらない様子でいた会長は、だけど、
彼となにか短く言葉を交わすとその場はすんなりと下がり、ご機嫌というわけでもないけど不機嫌でもない感じで、疲れて眠ってしまっていたあの子をおぶさり、おろおろしていた彼女を伴い実家へと帰っていき、
そうなるとそんな所に居残っているのも無意味で、続々と帰路につく娘たちと一緒に私も自宅へと歩みを進めた。
ちなみに彼はその日のおうち当番だった逢坂さんに揚々と首根っこを掴まれて引きずられていき、北村くん他は救急車に乗せられていずこかの病院へと搬送されていった。
いつしか一人きりになり、暗い道すがら、思い返すのはさっきのこと。振り払っても振り払っても、浮かんでは消える幻みたいに網膜に焼きついた光景が離れず、胸を妬く。
なんだか嫌になって別の景色に目を向ければ辺りは鬱蒼としていて、私の心象を切り取ったようで、それがもっと嫌で、そして気が付く。
ずいぶん遠くまで来ていた。
当たり前だ。あんなに長時間追いかけっこをしていて、入り組んだ路、途切れ途切れの街灯の下、どこを通ってきたかも覚えてない。
なにをやっているんだろう、こんな時間にポツンと突っ立って、空を仰いで。傾き始めた月にまでバカにされてる錯覚さえする。
甚だバカバカしすぎてバカになっちゃったのかもしれない。寒い事この上ない。お腹に障ったらどうしよう。早く帰ろう。
歩いているとお腹の底から幻聴がした。聞いたことがあるようなないような、実体のない声が鼓膜を叩く。
寂しいなら会いに行こうよ。むりよ。なんで? 順番があるの。今日は順番じゃない、けど、会った。それとこれは、べつ。
いけしゃあしゃあと痛いところを突く幻聴が私を嘲笑う。駆けても跳んでもべったり張り付いてくる。
こわいんだ。だから? だから何もしない。してるわ、だからこんな所を歩いてるんじゃない。うそつき。嘘なんて言ってない。
耳を塞いだ。三匹で一セットのお猿さんの、その一匹みたいに両手を耳に被せるポーズで早足をする私はアホ丸出しだけど、誰もいないからかまわない。誰かいてくれた方がよっぽどよかった。
羨ましいなら、悔しいなら、妬ましいなら、自分だってやればいいのに。できないよ、そんな、今さら。どうして。言いたくない。
血管に送るための酸素がついに尽きて、しゃにむに動かしていた足も止まり、我慢できなくなって堪らず大きく息を吸い込んだ。
いくじなしの、いじっぱり。
顔を上げたときにはそこは見知った自宅の目の前で、その言葉を最後に私の周りは静けさを取り戻した。
「───それで、これ、まだ誰にも言ってないんですけどっと、わわっ」
「きゃっ」
精彩を欠いた薄褐色の世界に色が戻ってくる。スピーカーから響くアナウンス、行き交う人々の足音、ざわつき。
埋没していた意識が引き上げられていく。急上昇するエレベーターみたいな不思議な浮遊感に一瞬地面がなくなったような感覚を味わった。
膝から力が抜けても床にへたりこまなかったのは、まだ、繋がっていたから。
「ごめんなさい、考え事してたら躓いちゃって」
「いいんですよ、そんな。お互いさまのおあいこです」
ぎゅっと握ってくる手。その手を握り返し、ありがとうと謝意を述べると、はい、と輝くような笑顔を見せる。
こういった彼女の持つ美徳というか、さりげない優しさなんかを誰かさんも持ってくれればいいのにと心の中で呟いたのは内緒。
ふんわりとした雰囲気を放つたおやかな女性像は、いくら想像しても当てはまらないし、雄渾で豪快にしてくれている方がやはり様になっている。
でも、女性らしさも兼ね備えてはいて。
「あれ、なんの話してたんだろ、あたし」
ど忘れしてしまったらしいので、直前の会話を掻い摘んで、というほど喋ってもいないけど、説明する。
「そうそう、お姉ちゃん、早く帰ってこないかな」
私はどうなのだろうか。会いたくないわけじゃないけれど、顔を合わせづらいとも感じている。そうなったらと考えると少し憂鬱。
どうすれば、いいんだろう。とりとめがなくて例えようのない感情に揺れていると、
「こないだのときだって何かしようとしたら、する前にさっさと逃げちゃって、もう。でも今度は目にもの見せてあげるんだから」
瞬間、唐突に放たれた言葉の、その言わんとするところを理解するために立ち止まった私に、彼女は変わらぬ笑みをたたえ、
「あのままやり逃げされたまんまじゃ、悔しいじゃないですか」
一部不適切な発言が見受けられたけれどそれには触れず、口にした本人である彼女はそんな細事なんて気にも留めない以前に気付きもせず、そして私の手を両手で包む。
「だから、そんなにヒドイことはたぶんやらないから、手伝ってください」
下克上、一揆、反逆、謀反、クーデター等々。脳裏を駆け巡る物騒な単語に、自分があの人にどんなイメージを抱いていたかが現れているようで無性に可笑しくなった。
彼女の言を信じるなら大それたことはしないだろう。いっても精々が他愛ないイタズラか、笑って許せる範囲での意趣返しか。
それでももし加担したことがバレれば後がこわい。何をされるかわかったものじゃない。ここは懸命な判断を下さないと。
一度深く肺に空気を取り込み、ゆっくりと吐き出すと、私は口を開いた。
「ええ、よろこんで」
ああ、私はいつからこんな悪女に。そんな自分がちょっぴり気持ちいいのはどうしてかしら。
わかってる。彼女は私を利用したいだけでありぶっちゃけたとこ手駒にできるのであればなんでもよくって、今頃ぺちゃんこになった体を休めてるであろうとある不幸な従業員さんも巻き込むことは想像に難くない。
狙ってやっているのかそうでないのかはこの際問題じゃない。だって、彼女は、会長の妹さんなんだから。
それに、会長の妹さんだから断りづらいし、パートとはいえ雇用主のお嬢さんというのも無下にできない要素ではある。
そしてそれが、万が一の事態に陥ったときの言い訳や交渉の材料にも使えるという計算を内心ではとっくに終わらせている。利用されてあげるからにはそれ相応の保険もかけておかないと。
こういうのは私らしくないと、また、呆れられるだろうか。
あなたはどう思う? やっぱり呆れちゃう、私らしくないって。
不意に湧き出た自問をお腹にぶつけてみても答えが出てくるはずがない、なのに、撫でて問うてみる。
トン、と。内壁が知覚した衝撃はただの気のせいかもしれない。
あまりにも微かだったし、こんなに狙いすましてする可能性なんて、でも、いいよって、行っちゃえって、そう背中を押してくれたように感じた。
「ふふ」
私のこぼしたそれをほくそ笑んでいると解釈したのか、お姉ちゃんに一泡ふかせてやりましょうねと奮起する彼女も負けず劣らずの悪女な笑みを、それは楽しそうに浮かべていた。
〜おわり〜
おしまい
書記女史ってどんな名前してるんだろう。
>>346 麻耶キタ━(゚∀゚)━!!イイ!!
奈々子様もイイ!!
(;´Д`)ハァハァGJハァハァ
>>359 簡素王さま……これではななドラと同じでございます……
GJ! でも幸太くん可哀想(´・ω・`)
次のも全裸で待ってます。
「ラブホテルに来るの、久しぶりだわ。坊やは初めて?」
ラブホテルに来るのは初めてだけど、その質問には二重の意味もあると聞こえる。
とにかく、間違っても「そうだ」とか言っちゃイケない。
言ったら、まるでこれから本当にエッチなんかするみたいジャマイカ。
「もう、勿体ぶっちゃって。女を抱くの初めてでしょ?
童貞君は皆経験者として見られたいって、お姉さんが見通しだからね。」
いや、お姉さんじゃなくておばさん、でしょう?ってか勿体も経験者もぶってねぇ!
人の沈黙を勝手に解釈するな! 黙秘権っていうものの存在意味も知らないのかっ!?
「ふふ、これぐらいでオロオロしちゃって、かわいい。
顔はヤンキーくんなのにね。亜美もこのギャップで落とされたのかしら?」
何でそこで川嶋が出るんだ?
「あら、知らないの?亜美が貴方にベタ惚れだってこと。
だから、この私がこうして味見するのよ。」
…川嶋のお父さんは泣いてますよ。あと、その「だから」ってのも、
俺のニュートリーノ並の大きさの頭でも理解できるようにkwsk。
「最初は、貴方を試すつもりだったけれど…
つまりね、私は貴方を誘惑して、そして貴方がそれを乗ってたら、
私は亜美を転校させて、二度と貴方に会わせない、
おまけに貴方を社会的に抹殺する、という予定だったけど。
それで私もノリノリになっちゃって…」
その物騒な計画を聞きたくない。一生知らなくていいんです。
大人が皆鬼に見えるんじゃないですか。でも実行されてなくてよかった。
いや、だからってノリノリってのもどうかと思いますが。
「何でこんなことになっちゃったのかな。」
深く考えないでください。あんたの頭がおかしいだけだ。
もう答えが分かってくれたのなら、俺のズボンとパンツを返していただきたい。
「そうだわ。坊やが可愛すぎるのが悪いわよ。」
人のせいにするな! っていうかどこをさわるんだおい!
ええい、息子よ伏せろ! これぐらいの挑発にも耐えられんかっ…!
「私の誘いに応えて、凄くうれしかいわ。」
普通に話をしながら服を脱ぐな! でも本当に見事のプロポーシy…
じゃなくて応えてない! 俺は騙されてここに来たんだ!
「あとはパンツ…よ、っと。
これで、おしゃべりはおしまい。もう、我慢できないわ。んん…」
し、舌を入れられる…俺のファーストキスを返せ!
「ん、悪くない。メインディッシュも、美味しくいただくわ」
く、喰われるぅぅぅ!!うきゃぁぁぁーーーー
ギッシー・アーーーン
おわり。
GJ
GJ
アンナでギシアンネタとは珍しい
けっこう安奈さん書く人いますねぇ
ほぼオリキャラなのにw
翼をください・エンドレスあーみんの続きが読みたい…
埋めネタで一本投下したいんですが、どなたか次スレ立ててくれませんか?
立てられなかった
>>378 お疲れ様です。ありがとうございました。
埋めネタSS投下
「やんとら」
ヤンデレ風味なのでそういうのが苦手な方、近親の要素が苦手な方、大河とやっちゃんが好きな方は注意してください。
カバンを放り投げると数秒空けて何かが割れる音がした。
力任せに投げつけたから、どこに飛んでいったのか見当がつかない。
何にぶつかったのかも、何を壊したのかも、見る気もしないからわからない。
そもそも、私はさっきまで竜児の家に居たはずなのに、いつの間にか自分の家の玄関に立っていた。
一体いつ、どうやって。
「どうでもいいわよ、そんなこと……」
呟いたその声はひどく掠れていて、私にしか聞こえなかった。
もういい。
そんなこと考えてたって、なんの意味もないし、もうなにもする気が起きない。
もうなにもしたくない。
靴を脱ごうと、今まで寄りかかっていたドアから背を離すと、チャリ、というドアに備え付けられている鎖が擦れる、小さな音が聞こえた。
振り返ると、キィ…キィ…と、小さく耳障りな金属音を立てながら、今にも動きの止まりそうな鎖が、振り子のように揺れているのが見えただけ。
自分が動いたせいで鎖が揺すられて、それで鳴った音だっていうのなんて考えなくてもわかる。
それ以外に、この鎖が揺れるような理由が、「今」は、思い当たらないから。
私以外にこの家に来る人間なんて一人しかいない。
けど、そいつが来る、わけが、ない。
だって、来た時はまずインターフォンを鳴らすだろうし、合鍵だって渡してあるんだから勝手に入ってくるはず。
今までだってそうだったから、間違いない。
だから、鎖が鳴っていたのは私のせいに違いない。
でも、ひょっとしたら。
もしかしたら、このドアのすぐ向こうに。
「まって」
誰かが勝手に掛けていた鍵とチェーンが煩わしい。
誰よ、人ん家でこんなもん勝手に掛けてくなんて。
早くしなきゃ、置いてかれちゃうじゃない。
せっかく今日は私から行ってあげて、なのに、あのバカ今日に限って寝坊なんかして、呼んでも出てこなくて。
まったくもう、だらしないわね。しょうがないんだから。
けど、怒んないわよ? 遅れちゃったけど、でもいつもどおりに、ちゃんと迎えに来てくれたんだもん。
ちょっとは言うこと聞いてもらうけど、そんなに難しいことじゃないから…そのくらい、いいでしょ?
……ううん、やっぱりそんなこと言ったりしない。
それだけじゃない。
もうワガママも言わないし、もういつもみたいにすぐ怒らないようにするし、もう自分のことは自分でするようにする。
もう困らせたりしないから。
もう迷惑なんてかけたりしないから。
だから、だから。
おねがいだから、そばにいてよ。
「お待たせ、竜児!」
バンッ!って、頑丈な作りのドアが壊れて外れそうなくらい、おもいきり勢いよく開けた。
「珍しいじゃない、あんたが寝坊するなんて。まあいいわ、今日は怒んないであげる。それよりもほら、ボサっとしてないで早く行こう…よ……」
てっきり、これでもかってほど目を見開いて、驚いた顔をした竜児がそこに立っていると思ったのに。
「危ねぇじゃねぇか、なに慌ててんだよ、大河」なんて、遅刻しそうだっていうのにとぼけたことを、きっと竜児は言う。
それを合図にいつもと同じ、代わり映えのしない今日が始まる。
そう予感めいたものがあったから、精一杯の笑顔を作った。
なのに。
ドアの向こうにも、廊下の先にも、階段にも、エレベーターの中にも、エントランスにも、マンションの外にも、どこにも竜児は居なかった。
探しても探しても、視界に入るところはくまなく探したのに竜児の影さえ見つけられない。
きっと居るはずなのに、居るに違いないのに、居なくちゃだめなのに、見当たらない。
そうこうする内に荒くなっていく呼吸、不規則に乱れる動悸、指先から消えていく感覚と共に震えだす手足、止まらない冷たい汗、散漫になる意識。
それらが猛烈に襲いかかってきて気分が悪くなる。
特別重い時のアレにも匹敵するほどの嘔吐勘が急激に込み上げてきて、ただでさえ良くない気分を一層悪くさせる。
口元を両手で押さえて前屈みになって、押し寄せる波が引くのを待ってみたけど無駄だった。
きもちわるい。踏ん張らないと立っていられない。
だけど、ガタガタと震える足にどんなに力を入れようとしても、思ったようには入らない。
それどころか抜けていく一方で、
「あ、やぁ…竜児」
とうとう耐え切れなくなって、私のなのに私のじゃなくなってしまったように言うことを聞かない体は地面に引っ張られていくように崩れていく。
咄嗟に手を伸ばしても、伸ばした手は空を切っただけだった。
いつだって手の届く所に居たはずの竜児に、無意識に助けを求めて。
いつだって手の届く所に居たはずの竜児が、どういうわけか居てくれないから。
伸ばした手をそのままに、私は道路に大の字に倒れた。
なんで竜児が受け止めてくれないの…?
なんで竜児は助け起こしに来ないの…?
なんで竜児の声も、駆け寄ってくる音も聞こえないの…?
なんで私の傍に、竜児がいないの…?
おかしいじゃない、こんなの。
「……なんで……」
段々と暗くなる視界の隅に、いつも傍にいる竜児と、いつでも優しい と、いっつもブサイクなブサインコが住む、あのアパートが見えて。
気がつくと、私はまた自宅の玄関に立っていた。
***
玄関の中、何をするでもなくボーっとしていると、突然焼けるような痛みを感じた。
「なによ、これ」
その痛みに沿って目線を下げていくと、手から血が出ている。
もっと目線を下げれば、ゆっくりと指先から滴り落ちた血が、玄関のタイルに小さな斑点をいくつも作っていた。
よくよく見れば両手とも擦り剥けちゃってるし、割れてしまった爪まである。
手だけじゃなくて足も痛い。つま先がジンジンする。
右膝も両手同様擦り剥けて血が出ているし、左の足首なんて多分捻っている。
歩き辛くて、とても痛い。
それ以外にも制服も靴も土や埃まみれで汚れて、所々ほつれちゃってる。
そんなに大袈裟に転んだのかしら。
どうすんのよ、また困らせちゃうじゃない。
制服は洗濯するのが大変だって、前に頼んだ時に竜児がそう言っていたのを思い出す。
なのに、こんなにボロボロにして。
もう困らせたりしないって、そう決めたばっかりなのに、なにやってんのよ、いったい。
今決めたことも守れないでどうすんのよ。
悔しくて涙が出そうになる。
けど、こんなことで泣いてたら竜児に嫌われるかもしれない。
傷だらけで、みすぼらしい格好して、全然女の子っぽくない私のことなんて竜児は───あるわけない。
そんなこと、絶対ない。
心の片隅に顔をのぞかせたバカな考えを頭の中でおもいっきり否定して、必死に奥歯を噛みしめて堪えた。
涙を流すことはなかったけど、真っ赤になってるだろう顔からは、目元からじゃなくて唇の端から別の何かが流れていった。
知らない間に口の中いっぱいに溜まっていた液体の中に舌を泳がせてみれば鉄の味がした。
口の中まで切ってるみたい。
転んだせいか、奥歯を噛みしめすぎたせいかは定かじゃないけど、どっちにしろ、最低なことに変わりはない。
口腔に溢れて止まらない血の味と、鼻を抜けていく生臭さに我慢できなくなって、玄関ということもあって私は床目掛けて口を開いた。
吐き出した血が玄関のタイルを汚して、跳ね返ったそれが靴を、口元から伝う赤い色をした唾液が制服に嫌な色の染みを作る。
余計に汚してしまったことと、そんな自分にうんざりしながら制服をはたいていると、またしても鎖の擦れる音が聞こえた。
振り返ると、当たり前だけどドアがあるだけ。
さっきみたいに鍵もチェーンもしっかり掛かっている、まるで私を閉じ込めているようなドア。
「……まただ」
だから誰よ、人ん家の鍵勝手に弄って、気味が悪いったらないわ。
防犯対策緩いんじゃないの、なんのために無駄に高い家賃払ってると思ってんのよ、たく。
そうだ、今度竜児が来たら相談しよう。
竜児のことだから最初は信じないわね、絶対。
自分で掛けたのを私が忘れてるだけだって、そう決めつけて。もう、人のことバカにして。
でも…あいつ、優しいから…どんなにぶっきらぼうに言ってたって、必ずどうにかしてくれる。
聞き流そうとしないで、知らんぷりしないで一緒にいてくれる。
いつだってそうだったもん、私にはわかる。
そうよ、いつだって竜児はそうだった。
初めて会った日もそう。
放課後、北村くんへの想いを託した手紙を間違って竜児のカバンに入れちゃって、竜児がやって来てからカバンを間違えていたことに気付いた。
その場は手紙を取り返すことができなくって、夜中になってから、竜児の家に忍び込んで、それで、私は、竜児のことを……。
それなのにあいつは、口ではゴチャゴチャ言ってたけれど、夜中に勝手に家に入って、自分を襲った私にチャーハンを、暖かいごはんを作ってくれた。
中身のない手紙のことで、恥ずかしさから泣きそうだった私に恥なもんかって。
悩んでるだけの自分よりもすごいじゃないかって慰めてくれた。
最初は同情かとも思った。
だけど、バカな竜児は私にあれこれと自分の妄想の産物をよこして見せた。
あんな気の遣われ方されたこと、一度もなかったっけ。
変な奴って思ったけど、不思議と嫌な気はしなかった。
上っ面だけのヤツじゃないって思えたんだと思う。今となっては、そう断言できる。
それに、あの時誓ってくれた。
そうよ、誓ったんだから。
内容なんてどうでもいい、とにかく私と竜児は誓ったのよ。
その事実は、何があったって、消えない。
次の日も、竜児のごはんはおいしかった。
ちゃんとした朝ごはんなんていつ以来だったかしら。
掃除だって頼んでもいないのにしてくれていて、お礼は素直に言葉にできなかったけど、感謝してる。
嬉しかった。
それからの日々は、少しずつ、けれど確かに変わっていった。
───竜児は優しい、私にも優しくしてくれる。
作戦だって、いつも失敗するのは私が原因なのに、何度も何度も竜児は手伝ってくれた。
私がドジを踏む度に、あいつは、それこそ体を張って助けてくれた。
───竜児だけは優しい、こんな私でも見捨てないでいてくれる。
私のせいで失敗した作戦なのに、それでも、ウジウジしていた私のことを気にかけてくれた。
手を組むって言っても、ほとんど私のワガママに巻き込んでおいて、勝手にもういいって私が突き放しても、それでも。
───竜児だけが優しい、私だけに優しい竜児。
北村くんに告白した時だって……。
あいつは、竜児は横に並んで、いつものぶっきらぼうな口調で私を慰めてくれた。
それに大河って、初めて名前を呼んでくれて。
傍らに居続けるって、そう言ってくれて。
「傍に居るって言ったんだから居なさいよ…ばか…」
呟き、いい加減中に入ろうと靴を脱ぎかけたその時、ズキリと痛みが走る。
それでも我慢して脱いで、家に上がった。
手の指みたいに爪は割れてないし、しっかり曲がるから骨はどうともないみたいだけど、ちょっと、キツイ。
すぐそこの部屋まで、なのに、遠いな。
いつも居た竜児の家は狭いけど、暖かかった。
ただ広いだけで冷たいこの家は、歩くのも億劫な今の私にはいつも以上に憎らしい。
愛着も、生活感も、居心地も、自宅だっていうのに、この家からは全然感じられない。
隣のあのボロっちいアパートの方がなにもかも揃ってる。
愛着なんて一入だし、生活感なんて半端じゃないし、居心地なんか…たまらないほど、良い。
きっと、なによりも竜児と一緒だったから。
竜児の隣だから、竜児の傍だから、竜児と居られる空間だったから。
竜児さえいれば狭いだのボロいだのなんてつまんないことだもの、どうってことない。
心が暖かくなってくようで、なにもしてないのに嬉しくなって、なにもしてなくてもドキドキしてふわふわして、心地がいい。
竜児と一緒にいるとホッとする、安心できる。
こことは大違い。いっそ無くなったらいいんだ。そうすれば竜児の家にずっと居られるのに。
本気でそう思うくらいイラつくだけの長い廊下を、凍てつく壁を支えにしながら歩いてやっと自室に入った。
カーテンに遮られてるせいで十分な日差しが届かず、少しだけ暗い部屋の中、ボロボロに汚れてしまった制服を脱ぎ捨てると、姿見の前に立ち全身をチェックする。
相っ変わらず貧相で、自分で自分を嘲ってやりたくなる。
けど、くだらないことやってないで今はやることをしないと。
「チッ」
痛みを訴える体をできる限り隅々まで鏡面に映してみた。
思わず舌打ちが漏れる。
他はどうともないみたいだけれど、やっぱり両手と片膝を擦り剥いてるのが一番目立つ。
もしかすると痕が残ってしまうかもしれない。
最悪。ホントに最悪で最低。心の底から後悔した。
この体は、もう私だけの物じゃないのに。
竜児と一つになって、竜児の物になった。
だから、傷なんてものが肌に残るなんて絶対に認めない。
小さな背で、小さな胸で、高校生にもなって「手乗りタイガー」なんてバカにされるような、子供みたいな体つきをしてても、竜児は、竜児だけは求めてくれた。
それだけで、今までコンプレックスだった背も胸も、この時のためにあったんだと感謝してしまったほど嬉しかった。
一昨日の夜。私と竜児の、初めての夜。
こんな体をしてても、竜児は綺麗だって…私のことを、大切だって、お前じゃなきゃって…そう言って、優しく抱きしめてくれた。
死ぬほど恥ずかしかったし、今手や足に感じてる痛みなんて比じゃないほど痛かったけど、竜児の想いも心も一緒に私の中に入ってくるようで、文字通り身が裂けるような痛みを、抱きしめ返して抑えつけた。
それに痛いだけじゃなかった。
痛がる私を抱きしめて落ち着かせてくれた竜児のぬくもりが。
全部入りきると、私が泣き止むまで待っていてくれた竜児の優しさが。
その後ゆっくり、慣らすように緩慢な動きで私を愛してくれた竜児の思いやりが。
生まれて初めて体に感じる異物感の、その異物感に感じた竜児の熱が。
私が求めると、呼応するように私を求めてくれた竜児が。
竜児の動き一つからでも、何かがたくさん伝わってきて、言葉にできない感じがした。
「……ん」
思い出すと、まだ腰や背筋をゾクゾクしたものが駆け上がる。
丸一日以上経ってるのに、この場に竜児が居たら、押し倒してでも始めそうな自分に、少し驚く。
クセになっちゃいそう…もうなってるのかも。
竜児だってきっとそう思ってるに違いないわよね、私がこうなっちゃうくらいだもん、きっとそう。
今度は私が主導権握らなくちゃ。
それまで我慢できるかしら?
「痛っ……」
半分夢見心地のまま体を動かしてしまい、足の痛みがぶり返し、私は我に帰った。
ムカつく。
せっかく機嫌がよくなってきそうだったってのに、鏡に映る現実を見せられてまたイライラが募る。
今の今まで感じていたものが引く代わりに、それとは逆の嫌なものが私の中に広がっていく。
この体に傷を付けていいのは竜児だけ。
「竜児の所有物」っていう痕以外は絶対に認めない。
竜児が綺麗だって言ってくれたのに、竜児以外に汚されちゃうのは許せない。
そんな考えが頭の中でグルグル回っていると、くちゅんと、突然クシャミが出た。
そういえば鏡の前でずっと裸でいたままだった。
いけない、着替えてる途中だったのに。
早く代えの制服を…いっか、もう。今から出たってどうせ出席には間に合わない。
それに一人で行ったって意味ないじゃない。竜児が一緒じゃないんなら、意味がない。
今日はサボろう、学校なんて一日くらい休んでも別にどうってことない。
元々内申なんて酷い事しか書いてないだろうし、そんなもの、明日の天気よりもどうでもいい。
教師なんかがつけた評価よりも、私には竜児が、そう、竜児。
竜児、竜児、竜児。
「大河」って名前で呼んでくれて、傍らに居続けるって言ってくれたあの時から、私達は、あそこから始まった。
心が動く音はなんて例えればいいんだろう。
キュン? クラッ? ゴトン? どれも違う気がする。
そんなもんじゃない。
あの時聞こえた音は、そんな軽い音じゃなかった。
もっと、だから私は───。
部屋着を頭から被ると、ベッドに倒れるように寝転んだ。
服やシーツに血の跡が付いちゃうのは嫌だけど、もうなにもかもめんどくさい。
気にはなるけど、目が覚めたら自分で洗濯しておけばいい、手当てもしとけばいい。
それなら竜児の迷惑にはならないはずだから問題ないわよね。
今だけは、少しでも竜児のことを想いたいから。
なにもかも忘れて竜児のことだけを考えていたいから、私はベッドに入って目を瞑った。
そうすると、いろいろと頭に浮かんでいく。
竜児はいつも一緒にいてくれた。
学校でも、帰ってきても、寝るとき以外は、私たちはほとんどの時間を一緒に過ごした。
朝起きて、最初に見るのは竜児の顔。
他の奴らは恐いって言うけど、そんなことない。
誰がなんと言おうと、あいつはカッコいい。
ドコが? と問われても、そんな連中に説明したってきっとわからないし、教えてやらない。
竜児は私の、私だけの竜児だもん。
学校にいるときも、ずっと一緒。
席が離れてるのは気に入らないけれど、このクラスになれたから竜児と知り合えた。
だから、少々のことは我慢する。
それに昼休みになって、竜児と机をくっ付けて食べるお弁当は、我慢していた分だけ余計においしく感じるから。
ホントは二人っきりがいいけど、少々のことは我慢する。
竜児の前でみんなに「邪魔だからあっち行ってて」なんて言ったら、変な娘って思われそうだもの。そんなの嫌。
学校が終わっても一緒。
帰りにスーパーで買い物をしてると、ああ、こんな日常が死ぬまで繰り返されるんだと思って、自然と笑みがこぼれる。
来年も、再来年も、十年先も、もっと先も、並んで歩く私たちだけは変わらないのよ。
なにがあっても、絶対に。
帰ってきたら、やっと私たちの時間。
あの狭いけど暖かい家の中、どこにいても目に入る所に竜児はいて。
何もしなくても、肌で竜児を感じられて。
二人っきりの時間が、あのままずっと続けばいいって、何度も思った。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。
でも、べつに、本当に二人っきりじゃなくってもいい。
あの場所にはあの二人よりも、何倍も優しい「ママ」が───
『竜ちゃんを盗るのだけはだめ! 絶対にだめぇ!』
なんだろ、今の。
変ね、私、なに考えてたのかしら。あ、そうよ、そうそう、竜児のこと。
竜児とのことを考えてたんだった。
竜児とはいろんな所へ行って、いろんなことを一緒にした。
プールも、海にも泳ぎに行って、ドッキリをしかけたら、逆にドッキリにハメられて。
あんなに楽しい夏なんて、今までなかった。
来年は二人でどっか行ければ文句ないわね。
文化祭も……あれは余計な奴のせいで竜児と擦れ違って……。
あのクソ親父だけは絶対に許さない。
私だけじゃなくて、竜児を利用して…竜児は悪くない。絶対悪くない。
あいつは私のことを真剣に考えてくれて、私のためにって、それで、私を親の元へ帰そうとしてくれただけ。
自分だって私と離れるのが寂しいのを我慢して、それが私の幸せのためだって。
胸の奥が熱くなる。
そこまで自分を想ってくれる竜児が、焼けそうな胸が裂けてしまうくらい、嬉しい。
けど、竜児は勘違いしてたのよ。
私の幸せが、竜児と離れた先にあるなんて、ほんとバカなんだから。
あの時はクソ親父が生活費も出さなかったり、竜児を都合よく言いくるめたりして、周到に根回しをしていたせい。
本当に卑怯者の、最低な親だわ。信じられない。
なによりも、あの時はクソ親父の本性をまだ知らなかった竜児の後押しもあって…今なら絶対ありえないのに、まだ竜児以外も信じてた私はすっかりクソ親父に甘えてしまった。
どうせ捨てられるのなんて、最初からわかりきってたくせに───
『大河ちゃんはぁ、やっちゃんの家族じゃないよ』
まただ。なんなのよ、もう。
私は竜児のことだけ考えてたいの、他のことなんてどうでもいいの。
邪魔しないで。
まあ、結果的に言えば、私達がもっと近づくことができたのはあの文化祭があったから、とも言える。
あれがあったからもう絶対に離ればなれになりたくないって、心からそう思うことができる。
それもやっぱり竜児のおかげ。
あのクソ親父は引っ掻き回すだけ引っ掻き回しただけよ。
あんな親、もう要らない。
私には竜児がいるもん。
竜児さえいれば、それだけで私は幸せ───
『やっちゃんと竜ちゃんの幸せを壊さないで』
やめてやめてやめて!
あんなの嘘、なにかの間違いよ。
やっちゃんはそんなこと言ったりしない、あいつらみたいに私のこと───
『竜ちゃんが寝かせてくれなくって』
私の、こと……───
朝、待っても待っても起こしに来ない竜児を逆に起こしに行くと、竜児のシャツを着て出てきたやっちゃん。
髪もボサボサで、気だるげだったやっちゃんはすっごく汗臭かった。
それに汗の臭いに混じって、生臭いような、ツンと鼻につく臭いがしてて、私はそれを、つい最近嗅いだ覚えがある。
それもやっちゃんからじゃなくて、私自身から出ていた、あの臭い。
気になって、二回も体を流したくらい独特の、アレの臭い。
でも、なんでそれがやっちゃんからしてくるのか理解できなかった。
そんな私を、やっちゃんは今まで見たことのない顔をして見ていたのもわからない。
ばかちーが見せる勝ち誇ったような顔を、百万倍煮詰めたようないやらしい……いやらしい?
いやらしい、なに?
なんでやっちゃんがそんな顔して私を見るの? どうして?
『竜ちゃん元気一杯だからぁ、最後の方はやっちゃんが参っちゃった』
本当は、はじめから、全部理解していた。
どうしてあんなにいやらしい顔で私を見てたの?
───そんなの、ほくそ笑んでたから。
どうして私を笑うの?
───私を見て笑ってたんじゃない。私を見て、優越感に浸ってたから笑ってたのよ。
どうして……。
───やっちゃんが、私から、竜児を奪ったから。
竜児が獲られた。
目の前で私を見下ろしていたのは、私の知ってる優しいやっちゃんじゃない。
竜児と体を重ねて、私から竜児を奪い取っていったあの女は、もうママでもなんでもない。
まただ。また捨てられたんだ。
あんなに優しくしてくれたやっちゃんも、他の奴らと一緒だった。
家族だって思ってたのに、ママみたいに思ってたのに、手の平を返して私を捨てた。
「……やっちゃんは、違うって思ってたのに……」
なにも初めてのことじゃない。
パパにもママにも捨てられて、パパだったクソ親父には何度も裏切られて。
そんなの、もう慣れてたはずなのに。
実のだろうが何だろうが、親なんて言っても所詮は男と女ってだけ。
結局自分が一番で、子供の事なんて二の次。ましてや他人の子供なんか歯牙にもかけない。
勝手に作っておいて、勝手な理由でほったらかしにして、厄介払いまでしておいて、平気で親の顔をしている。
養育費や生活費なんていう名前をしたお金を振り込んでおけば責任は果たしたって思ってる、ただ自己満足を満たしたいだけの骨と肉の塊。
所詮そんな程度だって思い知ってからは、変に期待することもやめたはずなのに。
でも、だけど、やっちゃんは優しかった。
見てくれは全然違うけど、こいつらは絶対親子だって、そう確信できるほど竜児に負けず劣らずやっちゃんは優しかった。
いつだって優しく抱きしめてくれた。
普段は子供っぽいのに、私と竜児がケンカをすれば、自然と間を取り持ってくれた。
聞いてるこっちが恥ずかしいくらい私のことを「かわいい」って、「大好き」って…「家族」だって言ってくれた。
こんなママが欲しかった。
やっちゃんがママだったら、どんなによかったんだろう。
ううん、竜児と家族になれば、やっちゃんは本当のママになってくれる。
私の「本当の」家族ができるんだ。
そう思ってた。思ってたのに───。
ギュウってシーツを握り締めた指先がジクジクと痛い。
割れていた爪から、私の中を駆け巡っていたなにかが滲み出してシーツを染める。
赤いはずなのに真っ黒に見えるそのなにかは熱を持っていて、指先と、目からどんどん流れ出していく。
壊れた蛇口みたいに止めようとしても止まらない。
どうすればいいんだろう。
ママみたいに思ってたやっちゃんからも裏切られて。
竜児まで獲られて。
「どうしてこうなっちゃったのよ……どうして……」
答えなんて求めてない、それはただの独り言だった、
なのに、
やっちゃんのせいでしょ。
錯覚かもしれない。
それでも、誰かの声と、誰かに背中から抱きすくめられている感覚を、その瞬間の私は確かに感じていた。
やっちゃんのせいに決まってる。
竜児が来てくれないのもそう。
竜児と離ればなれなのもそう。
竜児を抱きしめられないのもそう。
竜児が抱きしめてくれないのもそう。
全部、全部やっちゃんのせい。
私と竜児の仲を裂こうとする、やっちゃんのせい。
背後に目を向けたとき、やっぱりそこには誰もいなかった。
けれど、
そうでしょ?
私は、竜児の私はここにいた。
「そう…そうよ、やっちゃんのせいじゃない…やっちゃんが悪いに決まってる」
急に体中に感じていた痛みが引いてきた。
目から溢れて止まらなかった涙も、指先から流れてた血も、一緒に漏れ出ていた黒い何かもいつの間にか止まってる。
スッキリしなかった頭も次第に冴えてきた。
やっちゃんが愛し合う竜児と私の邪魔なんかするから、だからこんなことになったのよ。
なんでこんな簡単なことで悩んで、悲観して、諦めていたんだろう。
邪魔なモノなんて、一々覚えてらんないくらいぶっ壊してきたじゃない。
獲られた物なんか獲り返せばいいだけの話でしょ。
そう。ぶっ壊して、獲り返すのよ。
なにを誓ったか、どんな誓いを立てたかなんか覚えてない。
それでも、あのとき私と竜児は誓ったんだから。
誓ったっていう事実と、私が竜児の物になって、竜児が私の物になったっていう事実だけあれば十分。
竜児さえ獲り戻せばいくらでも誓える。
何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって。
好きだけ誓える。好きって気持ちを誓い合える。
誓い合うには竜児がいなきゃだめ、だから竜児を獲り戻す。
そのためにはやっちゃんが邪魔。
邪魔なものはどけたらいい、それだけじゃない。
それで私は幸せになれる。
竜児と一緒なら幸せになれる。
どうしてかわかんないけど、絶対なれるって自信がある。
でも、それは竜児がいなきゃ幸せになれないことと同じ。
そんなの嫌だ。
女の子は好きな人のお嫁さんになるのが一番幸せなのよって、子供の頃、ママがそう教えてくれた。
人間は幸せになるために生きているって、何かの本に書いてあった。
幸せになるために生きて、好きな人のお嫁さんになるのが幸せなら、竜児と一緒じゃなきゃ私は幸せになれない。
竜児だって私と一緒にいるのが幸せでしょ。それだけでいいでしょ。
そうに違いないのに、今までだって散々面倒を見させられてきた上に、私と引き離されて、監禁されて、無理やり……。
「フザケんじゃないわよ、ママみたいに思ってたのに」
私のことを大切にしてくれるのは竜児しかいないのに。
竜児のことが一番大切な私には竜児がいなきゃ生きていけないんだから。
誰にも、それがやっちゃんだろうと死んでも渡さない。
私から竜児を獲ろうとするなんて上等じゃない。
竜児を獲ってくやっちゃんなんてもうママじゃない。
ベッドから跳ね起きると、痛みを感じなくなった足でクローゼットまで歩いていって、開く。
奥の方に手を突っ込むと、危ないから竜児に捨てろって言われてたけど、今まで捨てずに隠しておいた木刀を取り出した。
使い込みすぎてデコボコになってる表面を一撫でして埃を拭ったら、渾身の力を込めて振り回し、具合を確かめる。
ピッと鋭い風切り音が奏でられる度、一瞬遅れてやかましい音を立てながら、室内の家具が粗大ゴミに変わっていく。
特に問題もなさそう。
馴染ませるように幾度か握っては開いてを繰り返すと、不意に、竜児の不安げな顔が頭を過ぎった。
「べつにこれでぶん殴るわけじゃないんだから心配しないで。せいぜい窓を吹き飛ばすだけ。それ以外には使わないから、安心して」
いつもの調子で、おそらくはそこに居るだろう竜児と、竜児の家を見据えて、固く握り締めた木刀の、その切っ先を虚空に突きつけ、誰に言うでもなくそう言った。
ひょっとしたら本気で殴りかねない自分に向けてかもしれない。
口に出さないままでいたら、何をするかわからない。
それで手加減や遠慮をするつもりなんか更々ありはしないけど。
「悪いのは全部、竜児と私の幸せを邪魔するやっちゃんだもん。待ってなさい竜児、今行くからね、もうちょっとだけ待っててね」
そうだ。竜児を迎えに行ったら、今日からはこっちの家で一緒に住むことにしよう。
こんなことがまた起こらないように、これからは今までよりももっと傍にいて、ずっと一緒にいて、私が竜児を護ってあげなくちゃ。
誰にも気を遣う必要なんてない、邪魔されない、この家で。
ここがダメなら、いっそ誰も知らない場所へ行ってもいい。
竜児が傍にいるんなら、どこだって怖くない。
二度と私を離さないでいてくれるのなら。
「私も竜児を離さないから」
まだ見ぬ明るい未来に弾む胸を押さえ、あらん限りの想いの丈を振り絞って目の前───私を呼んでる竜児の部屋目掛けて自室の窓から飛び降りた。
〜おわり〜
おしまい
ヤンデレったー
ヤンデレは痛みを感じないってのは、どこの作者でも共通認識なんだな
これはxxxドラの系列なのかな。
大河ならちょっと間違えばこういうことも十分ありえると思えるところが
怖いな。
どうもやっちゃんが竜児を寝取った(と言うのか?)みたいだけど
だとしたら一番病んでるのって大河よりもやっちゃんだと思うのは俺だけかな
なにはともあれGJ
まだ埋まっていないのかね
あと2KB、ガンバ
次スレは?
500KBなら色んな停滞作品が復活
大河ちゃん
亜美ちゃん
ガバッ ∧_∧
彡( ` ・ω・) ふざけるなァ!
彡 | ⊃/(___
/ └-(____/|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |/
ゴソゴソ 12週でさよならドスサントス・・・
<⌒/ヽ-、___
/<_/____/|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄