ちょい上でマナタイタス17世ルートの話があったけど
男主人公なら逆にハーレムになるんじゃないかと思った俺
孕ませて産ませるより種ばらまく方が子供自体はたくさん作れるし
――がっしゃーん!
ひばり亭に破砕音が響き渡る。
音の主、アイリは転んだ体勢のまま呆然とした表情で目前の惨状を見つめている。
下げるところだったので最悪の事態だけは避けられたが、事故は事故である。
店の損害は皿二枚。
その罰は、想像するだけでもアイリの心を挫くに値する。
カウンターでにこやかに客の相手をしている店主、オハラはそういう女なのだ。
「さて、何か言い訳は?」
その夜。ひばり亭の一室。
裸の美女と裸の美少女がベッドの上で二人きり。
誰もが目を奪われるような光景である。……美少女の方が正座をしていなければ。
「……」
オハラの問いかけに、力なく首を横に振る。
失敗したのは事実。
そして何を言い訳しようともこの後の展開が変わらないことは長い付き合いでよくわかっている。
「それじゃ……オ・シ・オ・キ」
ニヤリ、という擬音が聞こえてきそうな笑み。
その手には、年季の入った張り型。
義親娘二代の処女を散らした伝説の逸品である。
「いきなり入れられるのとドロドロになるまで焦らされるの、どっちがいい?」
笑顔で放たれる極端な二択に、いくらアイリでも黙秘で返すだけの勇気はない。
「……前者」
「ふーん。望み通りじゃお仕置きにならないから後者」
言って、アイリの肩を軽く押し倒すオハラ。
その手には、張り型が握られたまま。
「っていう展開を期待してたんでしょう?」
ぎち、と。
濡れていないどころか心の準備もできない内に、アイリの秘処へ男性器を模した物体が侵入する。
「い、あ……ッ」
オハラの方が一枚も二枚も上手であった。色々な意味で。
「んー。これはさすがにちょっと痛いかも」
問答無用でぶち込んでおいてこの物言いはかなりの大物である。
痛みはあっても内部を傷つけない絶妙な力加減は、オハラの高度な技巧を示すものである。
……何者なのだろう、この女店主は。
「っはぁ……」
「ま、落ち着くまで動かすのは無しにしとこうか。代わりに、ちょっと真面目な話」
「……なに?」
まだ息が荒いが、会話をする程度の余裕は戻ってきた。
「アイリは、恋人とか作る気ないの?」
「……」
恐ろしい発言である。
ベッドの上で交わっている最中に、その状況を作り出した側の口から飛び出すとは思えない。
ついでに、あまり真面目な話にも聞こえない。
「同じような年頃の連中が集まってたんだ、そういう話があってもいいと思うけど」
「それ、は」
痛みから思考を逸らすように、遺跡探索の仲間たちの顔を思い浮かべる。
――パリス。
兄弟。それ以上の相手として見ることはない。終了。
――アルソン。
異性とかそういう意識はまずしていないだろうし、こちらも意識したことはない。
――シーフォン。
仲間って言うと嫌な顔しそう。子供っぽいとことかも含めて好みじゃない。
――メロダーク。
何考えてるか全然わからないし、陰気なのも苦手。パス。
「……ないかな」
チュナのためという目的から出発し、始祖帝の野望を経由して自らの宿命へと辿り着いた。
そんな流れの中で恋愛とか浮ついたことを考える余裕はなかった。
「はぁ、若いのにもったいないね」
その台詞はすでに若くないことを自白してるのと同義だとか。
自分も未だに独り身だろうとか。
張り型を突っ込まれたままツッコめるほどアイリは無謀ではなかった。
「じゃあ、つまみ食いした女の子とかは?」
「いない」
即答である。
即答ではあるが、多少気になることがないでもない。
自分にない明るさを持つネルや純真なフラン、世話焼きなキレハに知的なテレージャと魅力的な女性が揃っている。
エンダはさすがに射程外である。
「そか。これでも多少はあんたのことを心配してるのよ。相棒の娘として」
相棒の娘に棒を突っ込んで言うな。
「どこか危なっかしいところがあるからね。頼れる相手でも見つけて落ち着いてくれりゃいいんだけど」
「……」
その声音が一級品の演技でなければ、本当に心配しているのだろう。
しかし、今更恋愛に甘い幻想を抱けるほど純真でもない。
頼れる相手、安らげる相手として浮かぶ顔は、恋人よりも家族。
「今は、チュナがいればいい」
「はあ……」
アイリの返答に、呆れと納得の混ざった溜息を吐き出す。
「わかっちゃいたけどやっぱりシスコンだね。
ま、チュナならしっかりしてるから大丈夫か」
アイリとしても、チュナがしっかり者の自慢の妹であることに異論はない。
シスコンであることに異論はあるが、よく言われるので自覚がないだけかも知れない、と最近少し不安である。
妹を可愛がるのは人として当然の行為であり、シスコンとは関係ないというのがアイリの持論である。
「さて、一段落したところでそろそろお仕置き再開」
言うが早いか、オハラの手が妖しくアイリの股間へ伸びる。
挿入された異物に対する生理反応で、アイリのそこは潤滑液を溢れさせている。
これではもはや痛みはなく、罰にはならないだろう。
だが。
「くうっ……ん、やぁ……」
オハラの手の動きに合わせて、アイリの口から嬌声が漏れ、腰が淫靡にうねる。
豊富な経験に裏打ちされた技巧が強度の快楽を送り込む。
本人の意思とは無関係に、休む暇もなく。
逃げるように身悶えても決して緩むことがない。
「ふぁ、ぁ、んんっ」
シーツを握り締め、ただひたすらに耐える。
普段のイメージからは想像できないほどに乱れ、そしてそんな状態であることを気にかけてもいられない。
オハラもまた、仕事では見せることのない蟲惑的な笑みを浮かべている。
「や、は……ああ……ッ!!」
「イクな、とは言わないわ。イッてもやめないけどね」
半ば無理矢理絶頂に押し上げられ、弛緩するアイリに容赦ない言葉が投げかけられる。
「そっ、あ、ん……っふ」
オハラの攻めが再開されれば、反論する余裕もない。
「大丈夫。死なない程度でやめとくから」
「あ、はぁっ、ああああんっ!!!」
その夜。ひばり亭には一晩中悲鳴とも嬌声ともつかぬ声が響いていたという。
予告通り受けに回るアイリ編
アイリを攻めるんならやっぱりオハラさんが鉄板だと思うのですよ
レナとオハラがただならぬ関係だったのも鉄板
誰も聞いちゃいない俺の女主人公百合傾向としてアイリはシスコンで女好き
ウェンドリンが性別に無頓着で、マナフィーは惚れた相手が同性で戸惑う感じ
正直文章書くのが久々すぎて今回は難産ですた
初心に戻ってキレハと非エロでイチャイチャするかなあ
GJ、ラバンはもうただの爺さんですねわかりますん
>>842 ラバンはオハラさんの獲物だから…
アイリ、オハラからダブルで襲われるラバンってのもいいかもしれんが。
それにしても不甲斐ない男衆w
じゃあサブキャラ男、と思ったらあれだわ…テオル以外は殆どが
薄らハゲかジジイwww小人の国の面子は書き様がなさそうだし
巨人の国は坊さんばかりだし、頑張っても妖精さんか新鮮なゾンビかよ
ピンガーとか職人見習いとか地上の人間もどうにもならないだーよ
ともあれ
>>841 素晴らしいGJ
キレハとイチャイチャも素敵だと思います
やっとうちの地域の規制が解けた。
・
>>791の魔術師編メンバー、初見でのグッドエンド
・アベリオン×ネルとシーフォン×フィーの二組のバカップルがいちゃついてるだけ
内容?そんなもんうちにはないよ
・だいたい実話
847 :
1/4:2010/05/21(金) 20:17:31 ID:iiP0qJkZ
「俺、旅に出ようと思うんだ」
異変が終わって1ヶ月。アベリオンがそんな事を言い出した。
なんとなくそんな予想はしてた。昔から、なんとなくそんな予感はしてた。
小さい頃から英雄になりたいって言ってたし、世界を自分の目で見てみたいって言ってたし
この異変で英雄願望は収まったみたいだけど、代わりに世界に対する好奇心は大きくなったみたいだったから。
「それに、もしどこかで俺の力を誰かの役に立てられたら、って思ったんだ。
力も心もまだまだ未熟者だけどさ。だから、修行して大事なものを守れるようになりたいんだ」
もう誰にもあんな悲しい思いはさせたくない。
そういうアベリオンのまっすぐな目はかっこ良かった。
付いて行こう。
ずっとずっと前から決めてた。いつかこんな日が来たら、絶対、って。
わたしが想いを改めて言葉にしたらすごくびっくりした顔して、その直後にすごく嬉しそうな顔になった。
そして、旅立ちの日。
「わたし、医者として精一杯やるから。まだまだ父さまの代わりはできないかもしれないけど、一生懸命頑張るから。
だから、ホルムの事は心配しないでね」
フィーは町の出口のぎりぎりまで見送りに来た。大事な家族だもんね。
でも、デネロス先生はもういない。
「フィー……一人にしちまうけど……ごめんな」
「わたしは、もう一人でも平気だよ。わたしだってこれでも強くなったんだから。
父さまみたいな立派なお医者さまになるのがわたしの夢。だから謝らないで、お兄ちゃんの夢を大事にしてね。
ずっとずっとお兄ちゃんの事応援してるから。お兄ちゃんたちが帰ってこれる場所、ちゃんと守るから」
思ってたよりもずっとしっかりした声。
「お兄ちゃんのこと、よろしくね」
それからわたしの方に向き直ってにっこり笑った。
「ネルお姉さんに任せて。わたしがちゃんと付いてるから」
何気なくそう言ったら。
「ネルお姉さん、かぁ……。これからはほんとにわたしのお姉ちゃんになるんだね。なんか嬉しいな」
「え、ちょっと、そういう意味じゃ……」
そっか、わたしの家族に旅に出るって事認めてもらったってことは、つまり……
「これからは……あるんだね……」
なんだか照れくさくなって、アベリオンが気まずそうな顔してて、見たらフィーまでばつが悪そうに赤くなってて、
なんだかおかしくなってきた。
「そ、それよりも。フィー、自分のことはいいの?」
フィーにだって大好きな人がいる。今日この道を進んで旅に出てしまう人が。
「……わたしの、こと?」
『相棒。お前が旅に戻る日に俺も旅に出ようと思う。そうだな、あの分かれ道を逆の方に進もうぜ』
アベリオンが旅に出ると決めた日、そんな話をしていた。
「あの道まで行ったら、今度はいつ会えるかわからないんだよ。本当にいいの?」
「……いいよ、わたしは。もう二度と会えないけど、いいの。素敵な思い出をいっぱいもらえたから……だから大丈夫だよ」
「それじゃ相棒はお前の気持ち知らないままだぞ」
「片想いのままでもいいの。だって、断るのって断られるのと同じくらい辛いんでしょ?だったら、このままで……」
「相棒はそんなこと気にするような奴じゃねぇって。
それより自分に意気地がなくて言えないのを相棒のせいにするような奴はあいつだって好きじゃねぇと思うぞ。
自分より相手のことを大事にできるのがお前のいいところだけど、そういうのは気遣いじゃねぇよ」
「普通に怖がって避けられてるって思われてるよ。誤解されたまま二度と会えなくなってもいいの?」
「誤解されたまま……会えなくなる……」
やだ、そんなのやだよ。
俯いたフィーの口からそんな声が微かに聞こえた。
「わたし、言ってくる。最後にちゃんと誤解解いて、本当の気持ちを聞いてもらってくるね」
それでちゃんとふられてくるから、なんて言ってたけど、わたしの予想だとたぶんそうはならないと思う。
「今の相棒にならかわいい妹弟子をやってもいいかな。昔のあいつならふざけるな、って思ってたところだけど。
あいつらのことは本人たちにまかせるとして」
フィーを見送ってたアベリオンはそれよりも、って言ってわたしの方に向き直った。
「あの時、あんなんでちゃんと返事できてなかったな…」
一歩、わたしとアベリオンの距離が縮まる。
「俺、ものすごく嬉しかったよ。俺もずっとネルのことが好きだったから。どうにかなりそうなくらい嬉しかった」
わたしの方からも一歩、距離を縮めた。
手を繋いだのはずいぶん久しぶりで、こんな風に手を繋いだのは初めてだった。
848 :
2/4:2010/05/21(金) 20:18:11 ID:iiP0qJkZ
あの人は少し離れた木の下にいた。
ちょっと走ったからだけど、ちょっと走ったからじゃなく心臓がどきどきしてる。
「あ、あ、あのっ」
最初はちょっと怖かった「お兄ちゃんの友達」は、気が付けば「憧れの人」になっていた。
わたしとの間は3歩分くらい離れてる。これ以上近づけそうにない。
「何だよ?」
言いたいことはいっぱいあるのに、頭の中が真っ白になってしまって何も浮かんでこない。
『誤解されたまま二度と会えなくなってもいいの?』
そうだ、ちゃんと誤解を解かなきゃ。まず、一番伝えたいのは……
「あのね、い、今までいろいろありがとう。わ、わたし、すごく嬉しかった」
「別に。世話した覚えもねぇよ」
わかってる。片想いなのはわかってる。
でも、わがままだけど、この気持ちを聞いてほしい。
「お兄ちゃんがいなくなって不安だったとき、うちに来てくれたり、探索に誘ってくれたり……」
「あれは鍵の書目当てで行ってただけだ。別にお前の面倒を見てやってた訳じゃねぇ」
「それでも……それでも嬉しかった。わたし、ずっとあなたに憧れてたの。
どんな時でも自信と勇気があって、大きな夢があって、誇りがあって。
だから、近くにいられるだけで嬉しかったんだ……」
自分の気持ちはもう伝えだしてしまった。もう抑えられそうにない。
「好きになってもらえないってわかってたけど、嫌われてるかもって思ってたけど、
どうしてもわたしの本当の気持ちを聞いてほしかったの。
明日になったら……ううん、その別れ道を進んだら、もう今の言葉もわたしのことも忘れて……ね」
今、思い切って勇気を出さないときっと後悔する。
3歩分の距離を一気に縮めて、ありったけの勇気を出す。
「でも、もう二度と会えなくなるから、最後に一つだけ……わがままを聞いて」
思い切って背中に抱きついた。ふわりと薬草の匂いがする。
「少しだけ、このままで……」
本当の気持ちは全部伝えた。
この思い出があれば、きっと明日から一人でも頑張れるよね。
「……離せよ」
こうなる事はわかってた。だから……
「それじゃ、僕からお前が見えないだろ」
頑張って手を離して、離れかけたところで抱きしめられた。
頭の中がさっきより真っ白になって、心臓がさっきよりどきどきしてる。
「そういう大事なことはもっと早くに言えよ。それから僕は別にお前が嫌いじゃねぇ。忘れられるわけねぇだろ」
どきどきしてるのはわたしだけじゃなかった。
「……ずっと、忘れねぇよ……」
声も温もりも薬草の匂いも記憶の隅々に刻みつける。
この思い出があれば、ぜったい明日からずっと頑張れるよ。
849 :
3/4:2010/05/21(金) 20:18:48 ID:iiP0qJkZ
二人の顔を見て、フィーの予想が外れて俺たちの予想が当たった事がわかった。
フィーは分岐点ぎりぎりまで付いて来ることにしたらしい。俺もその方がいいと思う。
相棒が黙ってフィーの方を見てる。一見不機嫌そうだがあれは相当心配している。
「わたしなら平気。だって、最高の思い出をもらえたから……
お兄ちゃん、ネル……お姉ちゃん、ありがとう。思い切って勇気出してよかった」
改めてフィーの口から「ネルお姉ちゃん」と言われるとなんか照れ臭いな。そうなんだよな、そういう事になるんだよな。
分岐点に来た。ここから俺たちは右に、あいつは左に歩き出す。
「また、手紙を出すよ」
「うん、待ってるね」
父さん。
あの小さかったフィーが、今は立派に父さんの跡を継ごうとしています。
それから俺、ネルを幸せにします。
……そういえば。
「相棒。俺は一つ、ずっと気になってたことがあるんだ」
「何だよ」
忘れられない父さんの言葉。相棒の話にも時々出てきていた……
「父さんが言ってた『鍵の書』っていったい何だ?」
「はぁっ?!」
「うちにそんな物なかったしなぁ」
「なかった、って、そんな訳ねぇだろ!」
「俺ずっとあの家で暮らしてたけどそんなの見たことねぇもん」
相棒は肩を震わせていたが、知らない物は知らないんだからしょうがない。
「……お前なぁ……師匠から何かそれらしい話の一つも聞いてねぇのかよ」
「それらしい話、って言われてもなぁ……フィー、何か心当たりあるか?」
「うちのことでお兄ちゃんが知らない物をわたしが知ってるわけないよ……」
気まずい沈黙があたり一面を覆う。もしかしてまずいことでも聞いてしまったんだろうか。
そうは言ってもない物はないんだからどうしようもない。
「……もしかして、そんな本最初からなかったのかも……」
フィーがぽつりとそんなことを呟いた。
ネルが、あ、そうかと頷く。
「わたし思ったんだけど、お兄ちゃんは……その、神殿の人たちに狙われてたかもしれなかったから……」
「なるほどね。アベリオンが……アレ……だから、目を逸らすために話を作ったんだ」
俺の出生の事について気を遣ってるらしく、言葉を濁しながら話している。
「ずばり言っちまってもいいよ。俺がタイタスに作られた存在だから、未来にそうなることがわかってたから、
父さんは神殿跡からありもしない魔導書を持ち去った、って話をでっち上げたんだな」
自分はああなることがわかっていて、父さんはそんな話を作ったんだ。父さんごめん。ありがとう。
父さんが言った通り銀の塔で……アーガデウムですべての決着を付けたよ。
タイタスを倒して運命を変えたよ。俺、みんなのこと守ったよ。
850 :
4/4:2010/05/21(金) 20:19:21 ID:iiP0qJkZ
何……だと……
僕は遠くなりそうな気を必死で保っていた。
「鍵の書」はジジィが未来の弟子を守るためにでっち上げた偽書で、そんな物ここにはなかった……だと……
「僕は何をしに、何のためにこんな所まで来たんだよ……」
今までの時間と労力はいったい何だったんだよ……全部無駄足だったのかよ……
「無駄、ってことはないんじゃない?」
「そうだよ。ほら『死者の書』とか、その剣とか、いろいろ……」
確かに死者の書や母なる夜の剣は大きな収穫だった。
他にも考古学的価値のある出土品や金目のもの、現金……あぁ、結構手に入ってるな。
「フィー、何言ってるの」
「え?」
「え?じゃない。フィーがそんなこと言ってどうするの。
『わたしと出会ったことは無駄だったの?』って怒っていいところだよそこは」
「え、ええええっ?!む、無理無理無理無理そんなの無理だよぅっ!」
いやいやいやいやちょっと待て。ちょっと待て。ちょっっと待て。
「無理とか言わない。ふがいない事言ってるとお姉さん怒りますよ?」
いやそれは理不尽だろ。
「う、うん、わかったよ……あ、のね、わ、わたしと過ごした時間……無駄、だった?」
ただでさえ結構な破壊力あんのにそこでアレンジ入れてくるな!そんな怯えた仔ウサギのような目で見るな!惚れそうになるだろ!
「い、いや……それは、あまり、無駄……じゃなかったと思う……」
ちょ、マジ動揺する方向でアレンジするなってマジほんと勘弁してくれって反則だ。
「良かっ……」
「いや、もうちょっと相手にわかりやすく伝えることも大事だとお姉さん思うんだけどなー」
鬼か!絶対面白がってやってるだろ!
「それはとても有意義な時間でした!これでいいか!」
なんだよこの展開。さっきまでのシリアスな雰囲気はどこに行ったんだよ。
これから旅に出るって時にぐだぐだじゃねぇか。
「何か、その、ごめんなさい。無駄足踏ませちゃって、お兄ちゃんたちが振り回しちゃって……」
こいつが天使に見える。
まぁ思い出してみれば割と普段から天使に見えって違う僕は何をこのバカップルの発する新婚オーラに流されかけてるんだ。
「別に。お前が謝ることじゃねぇだろ」
だからそんな顔で見るな。
……ああ、うん、天使に見えるよちくしょう。
しかし一番盛り上がるところで凄絶に出鼻をくじかれたせいでやる気が出ない。
「……出発は、明日にするか……」
右の道を進んで行ったアベリオンたちを見送って元の道を引き返すことになった。なんとも締まらない状況だ。
「こんな事言ったら不謹慎っていうか、すごく申し訳ないと思うんだけど……
わたしね、もう一日一緒にいられるのが、ちょっと嬉しいの」
この小娘、人の不幸を喜びやがって。
と、言いたいところだが、不思議な事に意外と腹は立たない。
「そうか」
……そうだな、あいつにさんざん振り回された礼に、今日は一日こいつをさんざん連れ回してやるか。恨むなら兄貴を恨め。
「ちょっと、ううん、すごく嬉しい。嬉しい以上に申し訳ないなって思うんだけど、だけどすごく嬉しくて……」
フィーは僕の後ろをとてとてとついて来る。探索の時に比べて、半歩ほど近い所を歩いている。
「どこか面白そうな所に案内しろよ」
「うん!」
手を伸ばせばすぐ届くところにあったちっちゃな手を掴むと、おずおずと握り返してきた。
この流れならキスくらいしても合法だよな。
「……大好き、だよ……」
決めた。ありもしない本でこっちを振り回してきたジジィへの腹いせに、今夜は娘を部屋に呼びつけてレイプしてやろう。
合法?知るか。僕は元々こっち側だっての。
以上。
視点がネル→フィー→アベリオン→シーフォンと移りますって言うの書き忘れた、すみません。
エルバクスが倒せない、黒竜が倒せない、町の外に行く用事がなくて忘れた、
ツルハシという文明の利器を使う発想がなかった、と魔術師編専用イベントは初見を迷わせる罠だらけ。
なんてことだ…確かに俺もすっかり忘れてクリアした
てっきり風の十二方位が攻撃魔法最高位だとばかり…
すまぬ すまぬ師匠という心からのGJ
「ん……いい風」
河辺を吹き抜ける風に靡く艶やかな髪を押さえ、キレハが目を細める。
さりげない仕草の一つ一つが洗練されていて絵になる。
それを見上げる角度になるこの場所は、極上の枕までついてくる特等席である。
惜しむらくは布一枚で隔てられていて直の感触を楽しめないことだろうか。
「首とか、大丈夫?」
気遣うキレハに、問題ない旨を視線だけで伝える。
首を振ることができれば意思疎通も楽なのだが、なかなか動きにくい体勢なのだ、膝枕というのは。
「でも、そんなにいいものかしら。膝枕って」
ロマンチストの割に、浪漫を理解していない発言。
何にもわかっちゃいない、という表情を前面に押し出してやる。
「何よ、その目は」
押し倒して無理矢理立場逆転で膝枕でもしてやろうかと一瞬頭をよぎる。
が、しなやかな太ももとむくれるキレハを堪能したいという想いの方が強い。
「んもう。何とか言いなさいよ」
呆れたように苦笑する、その表情を見るために生きているといっても過言ではない。
もちろん満面の笑みも可愛らしいし、真剣な顔も美しい。
要するにただの惚気である。
「ったく、そんな気持ちよさそうな顔して。ずるい人」
気持ちがいいというのは全く嘘偽りない想いである。
ずるいと言われようがこの場を譲る気はない。
「まあ、たまにはいいかしらね。あなたはずっと頑張ってきたんだもの」
頭髪の隙間を指が通っていく。
一番の急所である頭部を完全に預けているというのに、圧倒的な安心感。
むしろ預けているから、だろうか。
そんな相手がいることが、そしてその相手がキレハであることが嬉しくてたまらない。
「眠くなったら言ってね?昼寝にはお似合いの陽気だわ」
そう言われると、眠くなってくる不思議。
暖かな日差しを浴びて。
愛する人に包まれて。
意識を手放すのが惜しくなるような環境。
「……もう、寝ちゃった?」
逆光の中で微笑むキレハが最後の記憶とは、いい夢を見られそうだ。
「――大好き、なんてね」
甘い囁きと頬に触れた柔らかな感触は夢か現か。
キレハとイチャイチャしちゃうぞ膝枕編
さっくり書き終わったと思ったら短かった
キレハは俺の嫁だけど、例によって百合派も安心な主人公無個性仕様
これキレハじゃなくてもよくね?みたいなツッコミはやめてください
自分でも薄々そんな気はしてます
>>851 やべえ、ただの脳筋だと思ってたのにアベリオンが男前すぎる
GJ
>>853 乙。
口から砂糖が吐けそうな甘さだぜ…!
キレハじゃなくてもよくね?って言うけど、シチュエーション的には
面と向かって気持ちを伝えられないキレハが一番映えそうだからOKだと思う
個人的には巫女であるテレ子さんの加護に守られながら眠るのも贅沢で捨てがたいが
キレハは狼イベントに続いてわんこネタで燃料が投下されたな
まず黒っぽいわんこと戯れる図を想像
追いかけっこしたりじゃれ付かれたり顔をぺろぺろなめられたり
その後わんこをキレハに変換
当然マッパでな
主「お手」
犬「わふわふ」
主「おかわり」
犬「わふわふ」
主「ちんちん」
犬「わふわふ」
主「おおおおおお混沌の力、超スゲェッッッ!!!」
続きものが終わらない
↓
そうだ、ヤンデレフィーを書こう←今ここ
十世×フィーのはずですが
・モブによるロリ林間、妊娠
・鬱展開にしようと頑張ったけどハッピーエンドになりました
初めて彼を知った時、自分に似ていると感じた。
いつか彼のようになりたいと思った。
動かない姿に彼が屍だと再確認した。
その頭を膝に置いて冷たい頬を撫でる。
緩やかに傷が塞がっていくのをじっと見つめる。
彼と対峙した時、その怨憎が自分の中にあるものと同じだと悟った。
それがとても嬉しかった。
子供の頃からずっと憧れていた人。
本来なら逢う事などできないはずの人物が、今ここにいる。
――目が覚めたら、また私を殺そうとするかしら。
暗唱できるほど繰り返し読んだ歴史書はもう要らない。
こうして直に触れる事ができたのだから。
再生を終えた彼の目がゆっくりと開いていく。
「おはよう」
微笑んでみると、彼は動揺して飛び起きた。
こちらに向けられた訝しむ表情は怯えているようにも見える。
――なんて可愛い人なんだろう。
彼の中の殺意が膨らんでいくのを感じた。
――憧れの人の手で死ねるなんて、素敵。
殆ど無意識の内に抱きつくと、彼は酷く狼狽えた。
「貴方のようになりたかった」
誰にも見つからないように心の底に隠していた全てを告白した。
彼は何も言わずそれを聞いてくれた。
異形故に疎まれて遠ざけられた子供。
きっと私の両親もそういった理由で気味の悪い我が子を捨てたのだろう。
師に拾われてからも、この容姿から様々な憶測が飛び交った。
住民に信頼される師のようになりたくて<いい子>でいた。
その振る舞いを嘲る人を恨みながら笑顔でいた。
石を投げつける人を憎みながら抵抗しなかった。
耐え続けている内に何も感じなくなっても、憎悪は積もっていった。
どうしても辛い時は、とうの昔に滅んでしまった国の歴史書を読む。
十番目の皇帝を羨ましいと思いながら繰り返し読む。
その境遇に自分を重ねて想像する。
私にも力があれば嫌なもの全て消してしまうのに、と。
じっと見つめてくる彼の目に胸がどきどきする。
顔を近づけて目を閉じると、彼の方から触れてきた。
首に腕を回してより深く口付ける。
絡めた舌に応じてくれる彼に、心も体も熱くなっていく。
唇を離すと少しだけ寂しくなった。
「……魔女は――」
ずっと否定していた言葉を自ら口にする。
「魔女は、男を誘惑するんだって」
「んっ……ふ、ぁ……」
向かい合った彼にしがみつき、その膝の上で腰を振る。
不安定な背を支えてくれる彼が時折唇を重ねてくる。
彼が悦ぶ姿に、その為の術を強引に教え込んだ男達にほんの少しだけ感謝する。
数え切れないほどしてきたのに、こんなにも気持ちいいのは初めてだ。
嬌声を上げて背を反らせる経験もあまり無かった。
それが、彼相手にはもう三度目になる。
体には既に疲労が溜まっているが、それでも腰を揺らし続けた。
――こんないやらしい女、彼は嫌いじゃないだろうか。
彼に腰を掴まれて下から突き上げられると、そんな疑問もすぐに消えた。
冷たい床の感触が熱を持った背中に気持ちいい。
体力の衰えない彼が奥まで貫かんばかりに激しく腰を打ちつけてくる。
その動きに身を任せ、何度も絶頂に達する。
彼を望んで緩む子宮口に先端が押しつけられ、生ぬるい精が注ぎ込まれる。
――彼の子が産めたらいいのに。
摂理に逆らい続けた胎では無理だと解っているのに望みを持ちたくなる。
私の中から彼が引き抜かれると喪失感で泣きそうになった。
それに気づいたのか、彼が抱きしめてくれた。
幾人もの相手をさせられた時よりも多量の精液が胎内に残っているのが解る。
私の全てが彼のものになったようで嬉しかった。
「好きよ……」
その言葉に応えるように彼は口付けをしてくれた。
――こんな顔もできる人なんだ。
彼の穏やかな笑みに頬が熱くなった。
私達は似ている。
異形と蔑まれて、人間の残酷さが嫌いで、何もかも消えてしまえばいいと思っている。
彼の柩の中で抱き合って眠る。
ここには私の心を乱す者は誰もいない。
意地悪で傲慢な妖術師も。
師を奪う原因を作った神殿の犬も。
他の男達と変わらないチンピラも。
何も知らずに魔女になりたいと言う幼馴染も。
私には彼がいて、彼には私がいる。
それだけで充分だった。
これを幸せと呼ぶのだろう。
その日は、私一人で留守番する事になっていた。
町の若者達が来て、薬草を採るのを手伝ってほしいと言われた。
まだ子供だった私はそれを信じた。
私は<いい子>だから、信じなければいけなかった。
「この辺でいんじゃね?」
一人がそう言った。
「え?でも、薬草が生えてるのはもう少し先……」
ニヤニヤ笑う大人達に本能的な恐怖を感じた。
逃げようとしたが遅かった。
腕を掴まれて押さえ込まれる。
「じゃ、フィーちゃん。お兄さん達といい事しよっか」
服に伸びる手から身を捩って逃れようとする。
しかし、男達の腕が四肢を捉えて離さない。
「いや!やだぁ!」
解放を願っても無駄だった。
あっという間に下着まで全て脱がされる。
「やっぱガキだな。まだ毛も生えてねえ」
「そのおかげで丸見えなんだからいいじゃねえか」
足首を掴む手に大股を開かされ、下腹部を指でまさぐられる。
「それじゃ、ご開帳といきますか」
陰裂を割り開かれて、男達がそこを覗く。
「やっぱ綺麗な色してんな」
自分でも触った事のない場所に指が触れる。
「やっ……いやぁぁ!!」
力を振り絞って暴れるが、拘束する腕は外れない。
「ほら、濡らさねえと痛いってさ」
一人が顔を近づけ、何をされるのか解って全身が粟立つ。
「ひゃっ!あ、や、やだ、そんなとこ……」
生温かくざらざらとした感触がくすぐったさと違う感覚を起こす。
「フィーちゃん気持ちいいの?やーらしい子」
「そりゃお前、魔女だからなあ」
男達の嘲笑う顔を見回す。
「魔女は男を誘って腰振るんだよ。なあ?」
――私はそんな事しない。
そう言おうとした口から言葉にならない声が出た。
「お?ここ感じちゃう?」
陰部を舐めていた男が言う。
無理矢理指で皮を剥いた小さな芯を指で摘まれる。
「いっ――やぁああっ!!」
堰を切ったように無数の手が肌を撫でる。
「ぺったんこで面白くねーな」
まだ成長の始まっていない胸を揉みながら男が言う。
「だってパイズリできねえんだぜ?」
「お前ホント乳好みだなあ」
冗談を言い合うような男達の会話が逆に恐怖心を煽る。
「よーし、じゃ、そろそろ入れっかな」
股間に顔を埋めていた男が身を起こす。
「おい、抜け駆けすんなよ」
「どうせ全員ヤるんだからいいじゃねえか」
「それもそうだな」
信じられない言葉に愕然とし、聞き入れられるわけもない哀願をする。
男達の哂う顔が歪む。
涙が止まらない。
痛みが、体を裂くような痛みが――
「――せぇっ!せんせえ、たすけて!たすけてぇ!!」
「先生は今日おでかけでしょー?知ってるよー?」
空気を求めて大きく上下する胸の先端を弄っている男が言った。
「さすがにキツ過ぎだな。痛ぇや」
私の腰を掴んで活塞している男が言った。
血と、未熟な性器を守ろうとする粘液がぐちゅぐちゅと音を立てる。
奥まで突かれる度に腹が破れるかと思った。
ぎりぎりまで抜かれる度に内蔵が引きずり出されるかと思った。
「あー、そろそろ出そう」
痛みのあまり飛びかけていた意識が戻る。
医学書で学んだ知識とはいえ、それがどんな意味を持っているのか知っていたから。
「っ!だめっ!あ、が……あかちゃ……できちゃうぅ!」
「へえ、よく知ってるねえ。お利口さんなご褒美に、いっぱい出してあげるからね」
まだ役目を知らない最奥に向けて精を放ったそれが引き抜かれても、休む間もなく次のものが入ってくる。
男達は欲望の赴くままに私の中を汚していく。
ようやく全員が終えて、ほっとしたのも束の間だった。
「第二ラウンドは俺からでいいよな?」
昂りを取り戻した一物が押し当てられ、私は奈落の底に突き落とされた。
「――からね。また明日、約束だよ」
日の沈んだ森に一人取り残された。
体を起こすと、激痛と共に赤色の混じった白く濁った液体が溢れてきた。
泣きながら痛むそこに指を入れて男達の名残を掻き出す。
涙も震えも止まらない。
――先生に言わなきゃ、せんせいに……
先生は何て言うだろうか。
汚れた私を嫌わないだろうか。
私の本当の親のように捨てたりしないだろうか。
服を引き摺って、裸のまま真っ暗な家に戻る。
風呂場で男達に嬲られた部分を洗うと、お湯が傷に沁みた。
洗っても洗っても汚れが落ちない気がした。
体も心もボロボロのまま布団の中に潜り込む。
――明日……明日も行かなきゃいけないのか。行きたくない。
真っ暗な部屋で、一人考える。
――来ないと、皆にバラしちゃうからね。
出鱈目な噂が好きな住民達はきっとそれを信じるに違いない。
先生まで非難されて町を追い出されるだろう。
目を閉じるが、扉を開けて男達が入ってくるのではないかと不安で眠れなかった。
寝不足のまま、昨日の場所へ行く。
「やあ、フィーちゃん。約束守ったんだね、偉いねえ」
昨日より人数が増えていた。
毎日のように繰り返される行為に破瓜の傷は癒える暇も無かった。
ようやく体が受け入れられるようになった頃には、後ろでも相手するように強要されていた。
早く終わらせたいならと、手や口での仕方も教えられた。
張型を入れたまま町を歩かされたりもした。
遊ぶ金欲しさから売春宿で客を取らされたりもした。
拒否すれば暴力で捻じ伏せられた。
それが何日も、何ヶ月も、何年も続いた。
ついに恐れていた事が起きた。
私が訴えた体調の変化に先生は難しい顔をして考え込んだ。
「……フィー、儂に黙っている事は無いか?」
何も答えられなかったが、先生はそれ以上追及しなかった。
検査は陽性だった。
――言わなきゃ。言わなきゃ。嫌われちゃう。捨てられちゃう。
喉がヒリヒリして声が出ないし、体の震えも止まらない。
先生は何も言わず、薬を出してくれた。
その時の先生の顔を一生忘れる事は無いだろう。
思えば、その頃から先生の飲酒量が増えた気がする。
「――可哀想だが、お主の体ではまだ育てられぬだろう」
――殺した。私が殺した。
先生が留守の間に、医学書を頼りに薬を作った。
それを瓶に入れて自分の部屋に隠した。
同じように海綿も調合素材の棚から勝手に拝借した。
それを薬液に漬して膣に入れる。
搾られるように液がぼたぼたと床に落ちる。
指で海綿を奥まで押し込み、雑巾で零れた薬を拭き取った。
それから、いつもの場所に向かった。
「……ん?なんだ、これ?」
挿入していた男が違和感に気づいて指で海綿を取り出す。
「あー、オレそれ嫌いなんだよなー」
見ていた一人が指差して言った。
「フィーちゃん詳しいねえ」
「え?なんだよそれ?なあ教えろよ」
男達が仲間の無知を哂った。
「避妊だよ。娼婦がよくやってる」
「えー、別に孕んでもいいだろ?魔女なんだからさあ」
出口の無い殺意が蛇のように絡みつく。
力では到底敵わないと解っている相手に逆らうほど愚かではない。
――いつか、いつの日か、絶対殺してやる。
私達の扱う魔術の祖が作った国の歴史書を読んだ。
不遇の皇帝が自分を受け入れなかった世界に復讐するところを何度も読み返す。
いつしかそれは憧れになっていた。
生きとし生けるもの全てを殺せる魔力が欲しかった。
全部消えてしまえば誰も私を虐げたりしないから。
彼のように自由になれるから。
――殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。
自分の手では四度。流れたのは二度。
それから、自分の体の変化に気づいた。
神様の罰が当たったんだと思ったけれど、安心した。
誰の種とも判らない子を身篭る事が無くなったのだ。
海綿を詰めては捨てられ、薬が流れるほど汚液を注がれる。
無意味な避妊をする必要が無くなったのだ。
薬棚からこっそり堕胎薬を抜き取る必要も無くなったのだ。
それを私が使った事を先生は知っているだろう。
「先生は男の人だから相談しにくいんですって」
代金を受け取らなかった事を指摘されて、自分の嘘の稚拙さを悔いた。
先生は、相変わらず深く追求しようとしない。
――気づいてるんでしょう?知ってるんでしょう?
悲しかった。
――どうして助けてくれないの?
その日は特別な日になった。
「…………フィー?」
仰向けに寝転がったまま、声のする頭上を見上げた。
目を見開いて驚く顔が規則的に揺れながら逆さまに映る。
彼は男達と言い争っていたが、私の体の揺れが止まる頃には治まっていた。
「……すまねえ」
――何を謝っているの?何に謝ってるの?
その日、私の中で一番多く果てたのは彼だった。
数少ない友人が、ただの男に成り下がった特別な日だった。
彼は二度と来なかった。
町中で会っても気まずそうに視線を逸らせた。
彼も私を助けてはくれなかった。
僧兵に呼び止められる。
先生の件で捕まるのかと思ったが、違った。
「お前、魔術師か?」
どきりとした。
そうと悟られないように普通の女の子らしい服にしたのに、何故……
「来い」
この場で抵抗するよりも、適当に誤魔化してすぐ解放してもらう方が面倒が無い。
神殿が貸し切っている宿で異端審問と称されるものが始まった。
彼らの言い分は非常に不愉快だった。
魔女は魔と交わる。だからそれを清める。
――何も知らないくせに。
黒い感情が体中を巡るが、大勢の兵士に囲まれている現状を打開する策は無い。
今までで一番多くの相手をさせられる。
治癒術によって癒される体は長時間の陵辱に耐えられた。
――そう、体は。
彼らは満足すると私に湯浴みをするよう言い、金属音のする重い袋を渡された。
無かった事にしたいのだ。
すっかり夜も更けていて、静かな通りからひばり亭に戻る。
「おい」
部屋の扉を開けたところで、面倒な相手に声を掛けられた。
「今日、糞坊主共に絡まれただろ。……何かされなかったか?」
――見てたんだ。でも、助けてくれなかった。……彼は私を嫌っているんだから当然か。
金貨の詰まった袋をシーフォンの手に押しつける。
「あげる」
「はあ?あ、おい、待てったら……」
扉を閉めて鍵を掛けた。
一人で探索に出る事が多くなったが、その度に遺跡内でシーフォンと出会う。
「……よお、お前も一人なのか?」
――白々しい。
私の後を尾けてきている事ぐらい気づいている。
あの日以来、彼は今まで以上に絡んできた。
きっとお零れを期待しているのだろう。
相手をしてもいいかと思った時、耳を掠めた声に振り返る。
狭い通路の奥にそっと近づく。
探索者の女性が仲間であろう男達に押さえつけられている様子が目に入った。
記憶と感情が溢れ出す。
どこをどう走ったのか解らない。
迷い込んだ袋小路の先に逃れようと狂ったように壁を引っ掻く。
先程の女性の泣き叫ぶ声と、結合部から溢れる赤と白の液体が消えない。
胃の中のものを全て吐き出す。
背後から足音が近づく。
肩を掴まれて、悲鳴を上げて逃げようとすると地面に押し倒された。
「――!フィー!」
――嫌だ!私はそんな事しない!したくない!
考えている事が全て口から出る。
暴れる私をシーフォンが体重を掛けて押さえつける。
どれぐらい時間が経っただろうか、喚き疲れて乾いた土の上に伏したままになる。
「……フィー?」
私の上から退いたシーフォンを逆に押し倒し、下衣に手を掛けた。
少し触っただけで硬くなったそれを彼の上に跨って呑み込む。
――怖くなんかない。こんなの怖くない。男の人なんか怖くない。
準備のできてない秘部は痛んだが、少し動かせば保護の為に分泌液が溢れてくる事は知っている。
そのまま強引に活塞すると、シーフォンは呻き声を出して呆気無く果てた。
名前を呼ばれて彼の顔を見た。
――ああ、あの時の先生と同じ。やめて。そんな目で見ないで。やめて。
再び腰を揺らすと頬を伝う雫が玉となって落ちた。
シーフォンは遺跡内だけでなく、理由をつけては宿の部屋まで押し掛けてくるようになった。
「したいならしたいって言えばいいのに」
そう言うと、彼は私の部屋に居座って行為を強請った。
まだ慣れていないらしく、射精間際に腰を引いても大半は私の中に残った。
「……できないから……中に出していいよ」
それから、彼は実を結ばないそこに種を撒くようになった。
発情した雄犬のように必死に腰を振り、恍惚の表情で絶頂に浸る。
いつもの尊大さの欠片も無いその姿は無様だ。
時折哀れむような顔を向けられるのが嫌だった。
行為が終わっても帰ろうとしないのが邪魔だった。
抱きしめられて口付けされるのが不快だった。
彼の存在自体が鬱陶しかった。
その日のシーフォンは話があると言い、いつになく真剣な顔をしていた。
何度か聞いた事のある、期待してはその度に裏切られた言葉。
彼が何の計略も無しにそんなものを口にするとは到底思えない。
――そういえば、先生の魔道書を狙ってたっけ。
「……先生が駄目だったから、今度は私を騙そうとしてるの?」
純粋な疑問からそう訊くと、頬を殴られた。
彼は自分でも驚いた顔をしていて、握ったままの拳が震えていた。
寝台に押し倒される。
どうやら怒っているようだが、それがどうしてなのか、何に対してなのか全く検討がつかない。
――この人は嫌いだ。この人も嫌いだ。
初めて会った時の事を思い出す。
敵意を剥き出しにした妖術師。
彼が周囲に与えた心象で、私まで同類だと言われるのが嫌だった。
――こんな人、死んでしまえばいいのに。
男の欲が流し込まれる度に思う事を、いつものように心の中で呟いた。
そして、今に至る。
彼が生きていた頃と同じように、静かな場所を用意しようと思っていた。
だが、彼が墓所を出られないと知ってそれは諦めた。
私は玄室の階下にある小さな都市に出入りしている。
最初は御子だ始祖の器だと騒がれていたが、諦めたのか今は住人として迎えられている。
愛しい彼と違い、生身の私は食事を摂らなければいけない。
その為に日に何度か彼の傍を離れる事は少し寂しかった。
――彼と同じになれたらいいのに……
「フィー!」
聞き覚えのある声に呼ばれた。
振り返ると、驚いた顔のシーフォンが階下に立っていた。
「お前、今までなにやってたんだよ!」
シーフォンは苛立った調子で私に詰め寄り、溜息を吐いた。
「ほら、帰るぞ」
手首を捕まえられる。
「……帰る?どこに?」
「どこって……地上に決まってるだろ」
地上。町。ホルムの町。私を虐げる町。私を……
悪寒が走る。
――嫌だ。
捉えられた腕が引っ張られた。
――嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……
必死に手を振り払って階段を駆け上がる。
「――す……てっ……たすけて!助けて!!」
掠れた声で繰り返しながら通路を駆け抜け、私の帰りを待っていた彼の胸に飛び込む。
後を追ってシーフォンが私達の部屋に入ってきた。
――ああ、思った通りだ。
彼だけは私を守ってくれた。
これだけじゃあれなんで
おまけのネル×フィー
ロリ百合
「ねえ、フィー。チュウしようよ」
友人の突飛な発言にフィーは摘み取った薬草を取り落とした。
「なっ、なに言ってるの!そんなっ、そんな……」
弱々しい色の肌が一瞬で真っ赤になる。
「……やっぱ、ダメ?」
ネルが寂しそうな顔をして首を傾げる。
「だって……チュウってケッコンした人とするんでしょ?」
火照る顔を手で覆ったフィーが恥ずかしそうに言った。
子供達は接吻に関して誤った知識を持っているようだ。
「じゃあケッコンしようよ」
「女の子同士じゃケッコンできないっておばさん言ってたじゃない」
「えー」
ネルはしょんぼりとするが、次の瞬間には復活していた。
「じゃあ、ナイショでしよう」
「うー…………一回だけだよ?」
笑顔を広げたネルが顔を寄せて……
ごちんと音を立てて額が弾かれた。
呻きながら額を押さえるフィーとは対照的に、勢いよく頭突きをかました本人はけろりとしている。
「ご、ごめんね、フィー。痛かった?」
上目遣いに見つめられたネルが、涙を浮かべた赤い目に映る自分を見た。
今度はぶつけないようにそっと顔を近づける。
触れるだけの幼い接吻。
「……もっかいしていい?」
首まで赤くなったフィーが頷いた。
二度、三度と唇を触れ合わせると、フィーの体がぐらりと傾いた。
「フィー!?ど、どうしたの、大丈夫?」
極度の緊張で気を失ってしまった友人を揺り動かす。
きっと頭を打ったせいだと思い、ネルは脱力した体を抱きかかえて彼女の家まで走っていった。
>>851 ネルもフィーも可愛いGJ
「初見での」ってそういうことか
さわやか青春グラフィティかと思ったらww
>>853 甘くてさわやかに微笑ましいGJ
キレハ可愛すぎる
>>857 素晴らしい実用性GJ
エロが濃くてすごく抜ける
おまけも可愛い
GJ!特濃のエロがたまらない。
フィーが精神的にどんどん追い詰められてすり減っていくのがたまらなくクる。
870 :
1/6:2010/05/25(火) 20:16:52 ID:7YoUNrTf
>>855 燃料が来たので書かずにはいられなくなった。
・エメク×キレハ、宮殿クリア後→オベリスクに触れる前のランダムダンジョン巡りの日々あたり
・フィーが脇役、相手役は想像にお任せしますが相当ボロクソなので通行人Aとでも
ある日、目が覚めたら、世界の全てがやけに大きかった。
違う、自分の視点がいやに低い。
何よこれ、いったいどういう事?
そう言おうと思ったら、口から出た言葉は「わん」だけだった。
慌てて鏡を見ると小さな犬が映っていた。
はぁ……これからどうしよう。
私は途方に暮れながら街中を歩くしかなかった。
あのまま部屋でじっとしていても埒は明かないし、かと言ってこの姿で遺跡に入るのも不安。
誰かに助けを求めようにも「わん」としか喋れないし。
もしかしたら一生このまま……
でも、私の血のことを考えるとその方がいいのかも……
「どうしたの?迷子かな?」
そんな考えが浮かびかけた時に、フィーに声をかけられた。
「あれ?……この子……」
かわいいと言いながらしゃがんで嬉しそうに私の頭を撫でていたフィーの手が止まった。
魔術師らしく何かを感じたらしい。
そう、私、キレハなのよ。助けて!
「ごめんね、わたしにはあなたに何が起こったのかよくわからないの。でも、大変なことになったんだね」
……って言っても、わんわん鳴いているようにしか聞こえないわよね……
「どうしよう、今日は父さまはお兄ちゃん連れて往診に行っちゃったし、ラバンおじさまも探索だし……」
そうなのよね。ラバン様がいれば相談……って言っても「わん」としか言えないけど、できたんだけど。
「そうだ!」
道の端に退いて考えていたフィーが何かを思いついたようで私を抱き上げた。
まさか、まさか、ちょっと待って!それは嫌よそれは困るわ!
私の脳内に最悪の可能性が走る。
フィー、あなたが何故か不思議な事に理解できないけど憧れてるその人はあなたが思っているようないいものじゃないわ決して!
むしろどっちかと言うと、どっちかと言わなくてもアレよ!問題が山ほどありすぎる存在よソレは!
やめて実験動物は嫌ぁぁぁ!
「きゃっ!ちょっと、おとなしくして!抱っこが嫌なら降ろすから!お願いだから言う事聞いて、一緒に神殿まで来て!ね?」
神殿?……良かった。
871 :
2/6:2010/05/25(火) 20:17:24 ID:7YoUNrTf
良かったけど、神殿には神殿でもう一つ問題があったのよね。
「こんにちはー……あ、エメクさん。よかった」
良くないわよ!なんで、なんでこんな時に、よりによってエメクがいるのよ!
アダさんとか、マナとか、テレージャとか誰かいないの?!
「こんにちは。どうしました?何か困った事でも?」
「うん、あのね、この子なんだけど……」
「これ、普通のイヌじゃないな?」
エンダがじっと見たり触ったり匂いを嗅いだり。ちょっとくすぐったいってば。
「エンダ。すみません、ちょっと見せてください」
エメクに抱き上げられた。助かったと言えば助かったけど顔が近すぎるのよ!
知らないんだからしょうがないんだけどちょっと私、心の準備ってものが!
「なんて言うか……変な力みたいなの、を感じるの。でも今日は父さまもお兄ちゃんもいなくて。
だから神殿で呪いを解いてもらえれば何とかなるかな、って思ったんだけど……」
「なるほど……」
エメクは抱きかかえた私を真剣な表情でじっと見ている。
「確かに、妙な力を感じますね。見たところは呪いの類ではなさそうですが……少しこの子をお預かりしてもいいですか?」
「はい!お願いします」
フィーはエメクに頭を下げた後よかったね、と言って私の頭を撫でる。
「そうだ、せっかくいらしたんですからお茶でもどうぞ。エンダも喜びますよ」
「そうだぞ、フィー。オチャしていってエンダと遊べ」
勧められるままにお茶を飲んで、お茶菓子を嬉しそうに食べている。
いつもは引っ込み思案なフィーがエメク相手だとあんなに楽しそうにお喋りしている。
……ちょっと、なに考えてるのよ私。
胸の奥がざらざらして、慌てて振り払った。
当たり前じゃない、幼馴染なんだから。ネルとか他の幼馴染だって何も変わらない態度じゃない。
あんな子供にやきもち妬いてどうするのよ。
だいたい、フィーにははっきりと別に好きな人がいるし、
しかもそれはどう見てもエメクとはかけ離れた、おおよそ人間の男って事くらいしか共通点なんてありえない
はっきり言ってしまえばぶっちゃけ悪趣味の極みなんだからエメクと何かがどうにかなる訳ないじゃない。
だけど、世の中には結局憧れの人とは結ばれずに優しい幼馴染と結ばれる物語って多くて……
ないわよね。だってエメクがこんな子供をそういう目で見てるなんて事ない、わよね。ない。ない。ありえない。
無意識のうちに前足で床をたしたし叩いていたらしい。
「すみません、放ったらかしにしてしまって」
「あ!それじゃわたしそろそろ帰るね。お茶ごちそうさまでした」
エンダと一緒に食器の片づけを手伝うフィーを見てるとただ普通の事をしてるだけなのに胸がざらざらする。
ただ普通に幼馴染としてお茶を飲んで、普通に片づけを手伝ってるだけのただの近所の子供なのに。頭ではよく分かってるのに。
なんだかせっかく犬なんだから、とよくわからない考えが頭に浮かんできて、近づいてきたエメクの手をぺろぺろとなめた。
甘いクリームの味がする。……あぁもう私ったらなんて事を。
「くすぐったいですよ。よしよし」
「その子、エメクさんの事が大好きなんだね」
エメクの事が、好き。
何気ない言葉に一瞬周りの時間が止まったような感じがした。
今の私はただの犬。
別に特別な意味があるわけないってわかってるんだけど。
お兄さんと食べるおみやげに、とクッキーを包んでもらって持って帰るフィーと
手を振って見送るエメクとエンダを見ながら私の頭の中はぐるぐるしっぱなしだった。
872 :
3/6:2010/05/25(火) 20:18:13 ID:7YoUNrTf
アダさんにもテレージャにも対処の仕方がわからなくて
結局その日は礼拝堂の椅子の下でエメクの仕事ぶりを見ることになった。
当たり前だけどエメクは誰にでも優しい。信徒の心のケアも神官の大事な仕事らしく熱心に話を聞いている。
そういう真剣な顔とか、いかにも優しそうな笑顔とか、ときどき眼鏡取り出して真剣に書物に向かったりとか。
あぁ、もう!弱いのよそういうの。
その日の晩、エメクの部屋に連れてこられた。
余計なものはなにもない部屋は綺麗に片付いてて、机の上に重ねられた書物もきちんと整えられている。
エメクが書いた字はすごく丁寧で、こんなところにも生真面目さが現れてる。
「礼拝堂は夜は冷えますから。こんな所ですけど今夜はここで休んでください」
抱き抱えられて部屋に来て。言葉だけならロマンチックなのに。「くうん」としか言えないのがもどかしい。
「……かわいいなぁ」
膝の上の私を撫でながらエメクが呟いた。今までこんな表情見たことない。
「あなたは本当に綺麗ですね」
あぁ、落ち着いて。エメクは犬に言ってるのよ。犬の毛並みの話なのよ。
顔が近すぎて落ち着かないとかそういうことじゃなくて。もう、そんなに近くで目をじっと見ないで。
「……おかしな話ですけどね、私の想っている人を思い出します」
え、ちょっと?
「あなたをここに連れてきた女の子がいたでしょう?あの子は私の幼馴染なんですが」
……う、嘘よね?まさかね?
目の前が一瞬暗くなりかけたけど、エメクの言葉には続きがあった。
「あの子と私は同じ悩みを持っているんですよ」
本当は、懺悔を人に話すのはいけないことなんですが。
そう言ってエメクは静かに話し始めた。
「女神様。わたしは罪深い事を考えています」
幼馴染の少女は話しはじめた。
自分が探索者の男に淡い恋心を抱いていること。
彼は異変が収まれば去ってしまう。いずれ必ず来るその別れの日を恐れていること。
「早く平和な日々に戻ってきて欲しい、もう誰にも苦しんで欲しくない。そう考えているのに……」
告解室の机の上にぽたぽたと大粒の涙が落ちる。
「このまま、ずっとこのまま探索の日々が続いてくれたら。あの人がここにずっといてくれたら。
そんな自分勝手なことを考えるようになってしまって……自分の罪深さが見苦しくて、おぞましくて、自分で自分が怖くなって……」
「彼女の言葉を聞きながら、私も酷い衝撃を受けていました」
自分も同じように異国から来た探索者の女性に心を惹かれている。同じように、彼女が去ってしまうことを恐れている。
心から異変の終息を望んでいるのに、ただ一人が去ることが怖くて異変を望んでしまいそうになる。
神官としての言葉を発しているのに、喉が固まったような気がした。
「それから、私はあの子の悩みを聞くようになったんです」
彼女からの相談を受けている間、まるで自分の悩みを聞いてもらっているような気持ちになった。
873 :
4/6:2010/05/25(火) 20:19:30 ID:7YoUNrTf
「私の心にいるその人は、綺麗な黒髪のとても美しい人なんです。翠色の瞳にすっかり心を奪われてしまって……
恥ずかしい話ですよね。神に仕える身なのに恋に焦がれて悩んでいるだなんて。
人々が苦難に耐えているこんな時に、こんな身勝手な事で苦しんでいるだなんて」
……えっと、それ、つまりその、そういう、こと、よね……?
「すみません。変な話をしてしまいましたね。
あの子の話を聞いている間は聞いてもらっている気持ちになっていましたが
それでも、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれませんね」
こんな時には「わん」としか言えないのはありがたいかもしれない。間が保たないってことがないから。
この姿なら動揺した顔を見られずに済むから。
今の私なら、関わっても何にも巻き込まないで済むかもしれない。
くんくんと鳴きながら体をすり寄せる。後ろ足で立ち上がって頬をなめる。
私だってあなたが好きなの。エメク。
「ありがとう。貴方は優しいですね」
ただ慰めているだけの一匹の犬としか思われないことに安心しながら少しだけ切なくなった。
「さぁ、そろそろ休みましょう。明日になればあなたの災難を祓う手掛かりが掴めるかもしれません」
寝ましょうと言われても、エメクの部屋で、しかもそんな話を聞かされた後で眠れるわけがない。
と、思ったけど横になって目を閉じるとだんだん眠気に包まれてきた。考えてみれば今日は疲れることがいっぱいで……
「う……ん……」
夜中になんとなく肌寒くなって目が覚めた。
見慣れない光景が目の前にあって……そういえばここはエメクの部屋だったわね。
世界の大きさが元に戻ってる。と、言うことは。
恐る恐る自分の手を見ると、人間の姿に戻っていた。
良かった……けど、良くない。私、何も着てない。
「……どうかしましたか?」
どうしよう!エメクが目を覚ましてしまった。
裸でこんな所にいて、私これじゃまるで変質者じゃない!
「……キレハ、さん……?」
エメクは寝ぼけていて夢だと思ってるみたい。って、ちょっと。
「……貴方をお慕いしています……」
夢だと思っているから容赦なく抱きつかれた。エメクには力が入ってないし私も体勢が整ってないから
お互いにもつれて倒れた結果寝台に押し倒されるような格好になる。
「神に仕える身でありながら、私は貴方に焦がれてなりません……」
嫌じゃないけどいくらなんでもまだ早すぎるわよ!
そうじゃなくてもう、落ち着かなきゃ、深呼吸して……エメクの匂いがして余計落ち着かなくなってきたじゃない!
とにかく、エメクが目を覚ます前になんとかここから出ないと……
「エメク。夢の中ででもあなたに会えて嬉しいわ」
「キレハさん……私もです……」
これはエメクの夢なんだから。そう、落ち着いて。動揺しちゃ駄目よ。無理だけど!
「少し肌寒いの。何か着るものはないかしら?」
「……これを……」
エメクの上着。ぶかぶかだしエメクの匂いがして落ち着かないけどこれを着ないとしょうがない。丈が長いのはありがたいけど。
「ありがとう。……エメク、好きよ」
これはエメクの夢なんだから、という演出のために頬にキスをする。ああもうそんなに嬉しそうな顔しないで。
「……キレハさん……」
寝顔まで綺麗すぎてずるいのよ。
874 :
5/6:2010/05/25(火) 20:20:08 ID:7YoUNrTf
あー。緊張した……
大急ぎで部屋に戻ると裸足で走った足を洗って、応急手当をかけて着替えた。
まだ心臓がおかしい。胸が切なくて苦しい。間近で見たエメクのいろんな顔が頭に浮かんで胸が痛くなる。
私、私、私、なんて事を!
今日一日の自分の行動と起こった出来事を思い起こすと恥ずかしくてたまらない気持ちになって
枕を抱えながら寝台の上でごろごろ転がる。
犬の姿だからあんな事したけど、よく考えてみればあんな事!
何度も抱きかかえられて、膝の上に乗せられて、私の方もすり付いたり、ましてやなめたりなんかして。
しかも……裸、で……
こんな時間だから大きな声は出せないけど、叫び出したいような気持ち。
枕に顔を埋めて声にならない声を出すしかない。
視界の端にエメクの上着が入る。
これも、明日どうやって返そう……
とにかくこんな夜中に返しに行くわけにもいかないし、いろいろ考えてもどうしようもないし、
今はとにかく寝よう。それ以外どうしようもないし。
寝台に潜り込みながらふと思いついて上掛けの上に上着をかぶせた。
エメクの匂いがして、目を閉じると一緒にいるような気がした。
翌朝。目が覚めるとちゃんと人間の姿だった。
昨日の上着は上掛けの上にある。
どうにかして返す方法を考えないと。とにかく綺麗にしわを伸ばして畳む。
いい方法というのは意外なところにあった。
「あ、おはよう、キレハさん。あ、あの、黒い毛並みで、このくらいの、耳はぴんとしたいぬちゃん知らない……かな?」
そう、犬の私の第一発見者が声をかけてきた。
「その子だったらこの町に来ていた貿易商の飼い犬だったそうよ。発掘品関係で呪いにかかったらしいんだけど、
今朝無事に戻ってきたって」
「そうだったんだ。良かったぁ……昨日神殿で預かったんだけど、朝になったらいなくなってたって聞いて。心配してたの」
我ながらよくこんな作り話がすらすらと。
ちょっと自分で自分に苦笑したんだけど、フィーはあっさりと信じて納得している。
そんなのだからまんまとあんなのにあっさり引っかかって……って、それこそ余計なお世話よね。
「ちょっと待ってて」
嘘をつく事に良心がきりきり痛む。けど、他に方法が思いつかない。
「これ、前にエメクに借りたんだけど。神殿に行くならついでに返してきて欲しいのよ」
一応、嘘は言ってないわよね……ほんと昨日とは別の意味で胸が痛い。
「これ、アップルパイ。よかったらお兄さんと食べてね」
せめてものお詫びというか、賄賂みたいでやっぱり良心が痛むというか……
「ありがとう!わたし、アップルパイ大好き!」
そこまで喜ばれるといろいろ複雑だわ。
「キレハさん、お料理すごく上手だし……あ、あの、よかったら、今度作り方、教えて欲しいな……」
「ええ、もちろんよ」
フィーは嬉しそうに頷いて神殿までの道を駆けて行った。
これなら、埋め合わせになる……わよね?
875 :
6/6:2010/05/25(火) 20:20:49 ID:7YoUNrTf
とは言っても上着を返すという物理的問題のみが解決しただけで、
エメクと顔を合わせたときの気まずさはただ先延ばしになっただけだった。
「……おはようございます」
「おはよう……」
どうしよう。赤くなって目を逸らされるとすごく気まずい。
「あ、上着、ありがとう……」
「いえ、役に立ったなら何よりです」
と、言いながらも微妙な顔をしている。当然よね、貸した記憶がない上着がなぜか返ってきたんだから。
「……あの夢は……もしかして……」
「夢?」
なんのことかわかってるけど白々しく聞いてみる。
「いえ、ね。昨日夢の中でキレハさんに上着を貸す夢を見たんです。
夢で貸した上着が戻ってくるなんて不思議な事があるなぁ、と」
苦笑しているエメク。いろんな意味で胸が痛い。
「不思議な出来事がいろいろあるのね」
「そう、ですね」
そういえばエメクは変な悪夢を見たって言ってたわよね……
どうしよう。無神経な事を言ってしまったのかしら。
「ごめ……」
「あの夢は……嬉しい夢でしたね」
謝りかけたところで笑顔で言われて、また沈黙。
「そうだったの?そ、そういう楽しい不思議なことだけ起こればいいのにね」
……支離滅裂だわ。もうどうにでもなーれ、なんて言いたい気分。
「……本当に、そう思います」
エメクは噛みしめるようにそう言って、一瞬だけだけどすごく真剣な目で私のほうを見た。
「では、私は探索に向かいます。キレハさん、貴方にとっては異国の祈りですが……神の祝福のあらんことを」
エメクはもともと「神官の務めに障らなければ」という条件での探索許可らしい。
数日に一度は神殿にいなければいけない、昨日がたまたまその日に当たったのは運が……いえ、運が良かったのね。
結局、私の中の混沌の力が遺跡の力に触発されて小規模な暴走を起こしたのが昨日の顛末だったらしい。
神殿という力の安定した場所に長時間いたことが良かったんだとか。
念のため、大事を取って今日は一日様子を見ることにした。
さっきのエメクの真剣な顔が頭に残っている。
あの夢が嬉しいって、私に上着を貸す夢がそんなに楽しいのかしら?
……あ。
『エメク。夢の中ででもあなたに会えて嬉しいわ』
『ありがとう。……エメク、好きよ』
私は昨日の自分の言葉を思い出して、それがエメクにとってどんな夢だったのか気が付いて
寝台に埋まりながら盛大に自爆するしかなかった。
以上。神官編でも毎日探索はできるんですが、まあ一応最初のアダさんの言いつけを守ってるってことで。
>>853 GJ!キレハがかわいすぎてたまりません。
これはキレハが一番映えると思います。
>>857 すごい、いつもながら濃くエロい。実用的GJ!
人間の悪意に晒されて弱っていくフィーがもう、たまりません。
…もう500K近くなってたのか
まとめ作ってきます
ずっと規制で書き込めなかった
職人さんたち、素敵な萌えをありがとう!
もう一周してくる…
埋めがてら ぼくのかんがえた さいきょうの てれじやさん
「どうだいおっさん、世界救うめどは立ったの。やほ、そっちも元気そうだね」
釣り馬鹿の隣に腰掛けた夜種はもじもじししていたが、振り返ってエメクから何か生肉を受け取り
もりもり食べだした。気のせいか最初にあった頃より一段と肥えたような。
「先行きは明るいぞ若いの、何しろ立派な弟子を持ったからの。例えもし儂がこの場に倒れようと、
いずれお前が受け継ぎ、必ずやり遂げる日が来るだろう」
「キー!」
「またまたー、僕じゃおっさんほどの腕にそうそう追いつけっこないよ、日々の飯だって事欠くのに」
「ああ、儂だって諦めたわけじゃないさ勿論な。飯ってのは、この前連れてきた魚丸呑み子のか?」
「うん、洞窟で拾ったんだ。妹だよ。ほっとくとカブトムシ食いだすから、婆ちゃんすげえ怒ってるの」
「そいつは難儀だな、儂の釣った魚でももって行けばいい」
「助かるよ、五匹頂戴。それじゃまたね」
「キー」
手を振って引き返す先には、大破した古い機械を熱心に観察している神官と、彼女の杖と灯りを
預かって見守るメイドが待っている。にぎやかに講釈を打ちながらそのまま奥へと歩みを進めた。
「―それで、君が分からなかった古代文字というのがあれなのかね」
「うん。イロハくらいなら読めるようになったと思ってたけど、もう自信なくした」
「そうがっかりしないでくれ給え、君はよくやってるよ。初学者しては立派なものさ、こういうものは
周縁部では文法が不正確なこともあれば、方言や独特の言い回しを多用する場合もあるんだよ、
歴史が深い分、なかなか一筋縄ではいかないものさ」
「わかった、もっと頑張る。あ、フランちゃん座ってていいよ。どうかな、これで見える?」
明かりに照らしてよく見ると、この大岩には碑文が彫られている。フランはエメクの手からそっと
ランタンをとって、見やすいように掲げてやった。
「ほほう、こいつはどうやらそう古い物ではないようだ。ご覧、この文字の書体は一見中世初期の
流麗文体に見えるが、注意すると独特の刻みから近世末期の擬古体であることが一目瞭然だよ。
港湾都市国家時代に流行していたから、恐らくは交易を通じてこの地にも持ち込まれたのだろう」
「テレージャさんのそう古いものでないっての、簡単に何百年も経ってるみたいだけど気のせい?
食べ物貰っても賞味期限とか信用できないよね」
「ロマンは時空をこえるのさ!さあ、もっとこっちへ来てノートをとり給え。私が翻訳してあげよう」
たじゅうたじろの たたまんたなかを ほれた
「……何だこりゃ」
「シーフォンにバカにしてんのかーて本の角でぶん殴られたとても危険なメッセージ、気をつけて」
「まあ彼にもわからんだろうね。見たまえ、この部分に刻まれている獣が重要だ、分かるかな?」
「なんだろうね?フランちゃんはわかる?」
「…そうですね、あたしにはなにかの獣に思えます」
「後ろ足で立ち上がり、太鼓腹を抱えるようなポーズでこちらを見ているよ。この典型的な意匠は
Nyctereutes procyonoides、つまり平たく言うとタヌキを描く時のお約束なんだ。一緒に添えられて
いる点からして、本文と何らかの関連性があると判断してよかろう。一般にタヌキというのはムジナ
もしくはマミと呼ばれることもあるんだが、森に住む獣の総称としてとくに区別せず使われることが
多いのでどこの地域の表現であるか、書き手が何を意図しているかに留意することが大切だよ」
「…ぁ」
「彼らの習性として上げられる特質はまず雑食であること、そしてどちらかが死ぬまで同じ相手を
パートナーとすること、特定の場所で糞をすることだ。仲の良い夫婦の代名詞として知られている
オシドリが繁殖期にしか行動をともにせず、毎年変わるのに比べるとむしろタヌキのほうが一夫
一婦制としては適合しているといえよう。排泄の習慣に関しては縄張り行動の一種として説明が
可能だ、彼らは自分のテリトリーに複数の排泄場所を設け、定期的に監視を兼ね利用するんだ」
「…ぁ、あの」
「またタヌキ寝入りという言葉があるけれど、由来というのは彼らに見られる非常な臆病さが上げ
られるよ。大きな音を立てるとそれだけで気絶してしまうんだが、動かなくなったタヌキを死んだと
誤認して油断するとその隙に逃がしてしまうようなことが往々にしてあるので、有名になったんだ。
今でこそどこかユーモラスな印象があるけれど、ほんの数百年前には悪戯で済まされないような
過激な嫌がらせをするとか、人をとって食うというような陰惨で驚異的なものとして描かれていた」
「ふうん。それは分かったけどさ、この碑文とはどう関係があるの」
「はっきり言わしてもらうよ、全くないんじゃないかな。あっはっは!」
「どうしよっか。うかつに唱えてなんか呼び寄せちゃっても怖いしなあ、…夜種王、とか?」
「あの…ちょっと、よろしいですか」
「勿論だとも、なんなりと言ってみたまえ」
「…あたしの郷には、こんな本があるんです」
「なあに、どんな本?」
おずおずと差し出したのは古そうな冊子で、素朴な絵と文章が載せられていた。
「この辺りの謎解きにあるものと、すこし似ているんじゃないかと思って……」
ランタンをすえ直しフランを囲んで覗き込む。おどけた笑顔の挿絵と詞書が並んでいるようだ。
はまれはここんはでゅこはまはーむこにまは ひまこがはこまのこぼはるはま
「……何だこりゃ」
「絵解きすると読めるようになる暗号なんですよ」
「この、なんか歯並びがガタガタの、ばかっぽい顔したヘンな人みたいなのは?」
「コケシという人形です。子供の供養の為に作る、昔からある木彫り人形です」
「何ていうか…こう言っては難だが、随分間が抜けた顔をしてるのにも何か意味があるのかな」
「あーわかった、フランちゃんてあったまいい!!」
神官が狐につままれたような顔をする横で広げた紙に書き写しはじめた。
「マ抜けでハ欠けでコ消しでしょ、だからタ抜きってこと。…どう?これであってる?」
キレ ん て゛ゅ ーむ lこ ひ か゛ @ lま゛ る
、
レ゛ゅつ レ゛ろ@ まん Tよかを lまキレ
「……そう、です、ね?」
惑ったように神官と顔を見合わせる。
「君は…なんだな」
「つまり、字が…アレなんだ」
<了>
>>882-884 歩く百科事典テレペディア様…もしくはウィキージャ様かわいい
そういやあそこだけは古代知識持ちじゃなくても微妙になら解読できるんだっけ
15 ◆E9zKH0kZMc 乙
このテレさんがデレる姿を想像して
ギャップに萌死
r、ー- 、
,.-'": :|!`ヽ: : : : \彡: : >ー─ァ
: ,、: : |! }:::ゝ: : : : : : : : ヽ、: : ;イ
/ |_|! /: : : : : : : : : : : : : : :`く
` - ノ::: : : :/: : :/: : : : ハ: : : : : :ヽ
_/: :/: : /: :/:/、ヽ '" }: : |: : : :}
: :/: /: : /: リ弋ソ rテァ: : |: : : :|
:,': /: |: : :ト、 〉¨イ: : |: |: :,'
: :/:/ |: ! \ -_,.イ: : : ://: :/埋めちゃってもいいかしら
:/:彡 |: |'"´ ミ: : :ヽ: /:/:/ ノ
: :彡 リ ミ: : :|: :|/ノ'"