【貴方なしでは】依存スレッド6【生きられない】

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1名無しさん@ピンキー
・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
 ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!

エロパロ依存スレ保管庫
http://wiki.livedoor.jp/izon_matome/

前スレ 【貴方なしでは】依存スレッド5【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249429297/
2名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 02:09:06 ID:61g1ZyYj
いち乙
3名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 02:31:17 ID:VucVVtx9
>>1
4名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 03:30:44 ID:SMcK6u+f
たまには普通に>>1
でも大規模規制ど真ん中の今時分に立てると即死しそうな予感がしてうんたらかんたら
5春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/31(土) 03:33:32 ID:qJL0iktW
>>1乙です。

すいません途切れてしまいました…。
前スレ>>708の続き投下します。
6春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/31(土) 03:35:40 ID:qJL0iktW

――数年前にハルのお父さんから預かった合鍵を持っているので、それを使って、なるべく音をたてずに扉を開けて中に入る。


「……」
中に入るとすぐにまた音をたてずに扉を閉め、少しの間身動きせず耳をすませる…。

家の中は耳が痛くなるほどの静寂に包まれており、誰かが住んでいるとは思えないほど殺風景。

これが昼間の風景なら異常なのかも知れない。
しかし、今は深夜の一時――それに、この時間帯を狙ってハルの家に来ているのだから可笑しい事なんて一つもない。



――暗闇の中、少し目が慣れてきたので周りを見渡すと、ふと足元にある雑に転ぶ靴が目に入った。

「ふぅ…しょうがないわね…」
ゆっくりと座り、靴を綺麗に揃える。

仕方なく並べている……周りの人が見ればそう感じさせる行動なのだろう…しかし、私の心情はまったく違う。

嬉しくて仕方ないのだ。
まだこういった子供の部分が残っていると母親として必要とされている気がする。

もう高校生―――私からすれば、まだ高校生。

「ふふ……ちゃんと寝てるかしら?」
玄関で靴を脱ぎ、ハルの靴の隣に揃えると、二階にあるハルの部屋へとすぐさま向かった。
7春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/31(土) 03:37:01 ID:qJL0iktW

階段を登ると嫌でも軋む音がする…。
ハルが起きないかと少し心配したが、あの子は基本一度寝たら朝まで起きることは無いので少しの物音ぐらいなら大丈夫なはずだ。




――「……ふぅ。」
5分程かけてハルの部屋の前へと到着すると、まず扉に耳を当ててハルが寝ているかを確認する。
話し声や物音は一切しない…。
寝ていると確信した私は、迷わず…それでいて慎重にゆっくりと扉を開け、ハルの部屋へと侵入した――。



中に入ると、まず息を潜め、その場に座り込んだ。

「……」
先ほどと変わらず物音や声はしない――大丈夫…ハルは起きていない…。

もう一度立ち上がり、今度は床を確認する。
たまに床で寝ている事があるので蹴りでもしたら大事になる可能性がある。
暗闇の中、目を細めて床を睨む。
誰もいないみたい……だとすると後はベッド。
床にいないのなら間違いなくハルはベッドで寝ているのだろう。

ここからでは全く見えないので、いつも通り音が出ないように摺り足でベッドに近寄ると、恐る恐るベッドを覗き込んだ―――。
8春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/31(土) 03:38:12 ID:qJL0iktW




――「………かわいい…」
やはり私の予想通り、ハルはベッドの上で気持ち良さそうに寝息をたてていた。
ハルの寝顔を見て思わず声が漏れてしまったが、これぐらいでは起きないだろう……。
徐にベッドの際に座り込むと、もっと近くで顔を見るために、ハルの顔がある場所へと自分の顔を近づけた。




「……ハル」
ハルの耳元で小さく呟く……また「お母さん」と呼んでくれるかと期待していつも呼びかけるのだが、ハルから返事が返ってくることは無い…。



いつ見ても変わらない寝顔で寝ている――私の子供――私の息子。
本当は堂々とハルの寝顔を見に来たいのだけど、大きな時間と身勝手な私の心が私とハルの間に溝を作ってしまった…。

だから、泥棒のように夜な夜なハルの寝顔を見たいが為にハルの部屋へと来ているのだ。
ハルにバレたら私は母親としてだけではなく、人としてハルに軽蔑されるかも知れない。
だが、私はどこかハルなら許してくれると確信していた。

いや――母親なのだから息子の寝顔を見にくるぐらい当たり前のこと……そう自分に言い聞かせないと、こんな大胆なこと出来るハズがない。
9春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/31(土) 03:43:57 ID:qJL0iktW


――「……あら?」
いつもの様にハルのお腹を布団越しに撫でようとした時、ハルの横に大きな膨らみがあるのに気がついた。

(なに…なにか…いる…?)
恐怖を感じ少し後退りする…。

だが、このまま逃げる訳にもいかない。ハルに危険があるかも知れないと思い、恐る恐る震える手で布団をめくる事にした…。






――「ッきッゃ!!?」
布団をめくった瞬間、予想だにしなかった光景に、大きな悲鳴が口から出そうになった。
慌てて両手で口を塞いで難を逃れることができたが、軽く腰を抜かして立てなくなってしまったようだ…。




(なに、誰!?)
膨らみの中身――それはハルとは違うもう一つの小さな頭。

頭……と言うより人間?


(すうー…はぁ〜…すぅー…はぁ〜…)
呼吸を整える為に深呼吸をして再度その子の顔を眺める。

見間違いでは無い――スラッとした美形な子がハルの肩にしがみつき、静かに寝息をたてている。

(友達?それにしても…)



なぜ、男同士一緒のベッドで寝ているのだろうか?

一瞬ハルの彼女かと思ったが、じっくり見ると小柄な男の子だと確認できた。
女の子と寝ていたらそれはそれでショックだけど、これはこれで…。
10春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/31(土) 03:45:16 ID:qJL0iktW



「う、う〜ん…」

「ッ!?」

布団をかけ直すのを忘れていたので隣の男の子がぐずりだしてしまった。
慌てて布団を男の子に被せると、少し後ろに下がって様子を伺う。







「………Zzz…」


(……はぁ…ビックリした……)
寝返りをうっただけで起きてはいないようだ…。
しかし、このままこの場所に留まるのは少々危ない気がする。
ハルが起きなくてもこの子が起きるかも知れない…。
もう少しハルの寝顔を見ていたかったけど、もう止めておこう。





また来ればいい――私はハルの母親なのだから。




(おやすみ…ハル…)

ハルの頭を優しく撫でて、口にださずに別れを告げる。

焦れったそうに身をすくめるハルの子供っぽさを目に焼き付けて、来たとき同様、大きな罪悪感と共に静かに部屋を後にした――。
11春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/31(土) 03:46:35 ID:qJL0iktW
ありがとうございました。投下終了します。
次はなるべく早く投下します…。
12名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 13:09:36 ID:dEvQVdQ/
作品の容量調べりゃスレ容量が埋まってしまうことくらいわかるだろうが
途切れてしまいましたじゃねーよボケ。ちょっとは考えて投下しろや
つーか無駄にレス使うな。つまんない上に中身スカスカすぎるだろ
13名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 13:46:59 ID:qJL0iktW
>>12
次から気を付けます。
14名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 16:20:48 ID:aqBH81FE
なんかやたらと春夏秋冬嫌ってる人がいるな…。
まぁ気にしないわけにもいかないだろうけど頑張れ
15名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 16:40:13 ID:pfQHYGSc
>>11
GJ!

>>14
いや、春春夏秋冬に限らずこのスレで投下するとどれも荒らしは食って掛かるし、過疎ってるスレで目立つと荒らされるのはよくあること。
それに、文章見たら荒らしてるカス一匹だって分かるだろ。
イチイチ 相手すると荒らしはつけ上がるからほっとけ。
16名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 17:35:54 ID:QuYfK4uT
>>1
乙彼
17名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 18:20:58 ID:g1if90Y6
>>1>>11めっちゃ乙、そしてGJ!
お母さんのスーパー夜這いタイムにニヤニヤが止まらん
18名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 20:15:19 ID:Sqhnq3BH
>>11
乙!
19名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 23:15:47 ID:mXYuv2FJ
GJ!!毎回クォリティー高いなぁ

依存キャラだらけの関係ってステキやね
そういえばお母さんは初登場だっけ?
20名無しさん@ピンキー:2009/11/01(日) 02:56:28 ID:MY322NJM
>>19
ハルの本当の母親は死んでるから出てないけど、赤部家の母親なら何回かでてるよ。
21栄耀、静寂、快楽:2009/11/01(日) 06:12:47 ID:+QizK317
1も春春夏秋冬も乙
ところでパソコンがアクセス規制くらったので、しばし待って頂ければ幸いです
22名無しさん@ピンキー:2009/11/01(日) 10:52:38 ID:MY322NJM
>>21
ゆっくり頑張ってください。
期待しています。
23栄耀、静寂、快楽:2009/11/02(月) 22:06:48 ID:XS6NTxsu
携帯からやってみます。
改行、その他変でしたらすみません
24栄耀、静寂、快楽:2009/11/02(月) 22:09:00 ID:XS6NTxsu
「とんだ屑だな、私は」
 ぽつりと呟いた言葉は、夜闇には溶けず脳内に反響する。自嘲を零したはずが、くく、と喉が引きつるだけだった。
 自室のベッドに横たわり、クロエに払いのけられた手を顔前に翳す。ぱし、という乾いた音。手の甲の痛み。自分を拒絶するクロエの、目。ロイドは手のひらで顔を覆う。
 神父ではない自分は、存外子供っぽいのだ。それは優等生だった幼少時の反動かもしれないし、神の下僕として抑圧された状態の発散かもしれない。あるいは、もとよりそういう性質なのか。
 クロエに拒絶されて、つい「どこへでも行けばいい」などと心にもないことを言ってしまった。
 堪え性のない子供が思い通りにいかないことを「もう知らない」と投げ出すようなものだ。その実未練は一杯で、ふてくされていれば母親がなんとかしてくれると思っているから始末におえない。

 ロイドには、クロエならば何も言わずに自分を受け入れてくれるだろうという甘えがあったのだ。
 ――何を根拠に
 ロイドには絶対に逆らえない状況のクロエに言うことを聞かせていただけだ。それをいつの間にか勘違いしていた。
 いつの間にか、窓の外ではしとしとと雨が降っている。月光を反射して地へと落ちていく銀色の筋を見つめて、ロイドは僧衣の袖を握り締めた。
 ――謝ろう。何もかも
 無理矢理体を暴いたことも、きつく当たったことも、出ていけと言ったことも。そして、共に生きてはくれぬかと嘆願してみよう。
 許して貰えないかもしれない。此処を出た方が幸せならば、クロエを止めはしまい。顔だけは広いから、住み込みの仕事くらい紹介してやれる。
 冷たい窓硝子に触れる。手のひらの形に窓硝子が曇っていく。結露が手首を伝って落ちた。
 ロイドはベッドから跳ね起きる。ドアを蹴り破るようにして通り抜け、薄ら寒く暗い廊下を足早に通り抜けた。だが、クロエの部屋の前ではたと立ち止まる。
 ――なんと言おうか
 真鍮製のドアノブに手をかけたまま、ロイドは考える。
 ――ごめんね、ごめんなさい、すみませんでした、申し訳ない……
 謝罪の言葉が浮かんでは消えていくが、どれもしっくり来ない気がした。
 ロイドは軽く唇を噛み、ドアノブを握った手に力を入れる。そうやって、ぐだぐだと悩んでばかりだから、いつも駄目になるのだ。
「クロエ、話があるのだけれど」
25栄耀、静寂、快楽:2009/11/02(月) 22:12:28 ID:XS6NTxsu

 木製のドアをノックするも、返事は無い。やはりまだ怒っているのか。いや、クロエのことだからひたすらに自分を責めているかもしれない。
「クロエ……」
 名を呼ぶ。暗い廊下にクロエの名は、すうと溶けた。
「クロエ、入るよ」
 きい、とドアが軋む。
 部屋の中には誰もいない。燭台に火を入れた気配もなく、ひんやりとしている。とくり、とロイドの心臓が不穏げに鳴った。
 薄闇に目を凝らせば、ベッドの上に綺麗に畳まれた僧衣を見つけて、ロイドは自分の血の気が引く音を聞いた。壁に掛けられていたはずのワンピース――クロエが此処に転がり込んだ時に着ていたものだ――が無くなっているのを見つけて、息を詰まらせる。
 黒い僧衣の上に白い紙が置かれていた。慌ててそれを手に取ると、ロイドが教えたばかりのたどたどしい字で「ごめぬなさい」とだけ書いてあった。
 ロイドはくくく、と笑う。悲しくて、寂しくて、惨めで、腹の底から笑いがこみあげてくる。
「……はっ、ははっ、……あは、あはははは!」
 引きつったように笑いながら、手近な椅子を薙ぎ倒す。小さな古い椅子はいとも簡単に倒れてがたんと大きな音をたてた。
「ああ、くそっ!なんだってんだ!いつもいつもいつもいつも……!」
 半狂乱に叫んで、力無くベッドに身を預ける。は、は、と短く息を吐いて、部屋に設置された小さな偶像を睨み付けた。
「これもあんたの言う試練なら、私は此処に火をつけてやる」
 幼い頃、父母を亡くして孤児院に預けられた自分に「気を落としてはいけません。これも神が与えたもうた試練です」としたり顔で語ってみせた中年の修道女の顔を思い出して、ロイドはありったけの呪詛の言葉を吐き捨てた。
26栄耀、静寂、快楽:2009/11/02(月) 22:13:20 ID:XS6NTxsu
******

 しとしととした雨の降る夜だ。霧のようにけぶる雨を眺めて、アシュレイ郷は馬車から外を眺めていた。
 こんな夜は、邸に籠もるに限る。アシュレイ郷は知人の食事会の誘いを断って、家路を急いでいた。
 洒落も通じぬ無粋な男と交わす酒ほど不味いものはない。自慢話しか能の無いヒキガエルのような男を向かい合っているよりも、一人酒杯を傾ける方が余程ましである。
 ほう、とシガレットの煙を吐く。細く開けられた馬車の窓から白い煙がたなびいて後ろへ流れていく。その行方を視線で追って、アシュレイ郷は御者に声をかけた。
「おい、馬車を停めろ」
 馬の嘶きと共に馬車が停まる。車輪が回る音が消え、代わりに馬車の屋根を雨が打つ音がした。
 アシュレイ郷は御者が差し出す傘を手に馬車を降りる。パン屋の軒先に座り込むびしょ濡れの少女の前に立った。
「どうしたのかな、可愛いお嬢さん」
 緑色の瞳が、アシュレイ郷を見上げる。常であればウィンプルに詰め込まれていた黒い髪は、夜の冷たい雨を含んで青白い顔に貼りついている。
「……アシュレイ郷」
 アシュレイ郷は薄い唇に笑みを浮かべて少女に傘を持った手を差し伸べた。
「こんな所に座っていては凍えてしまう。お嬢さん……クレアだったかな」
「いいえ、クロエです。アシュレイ郷」
 青ざめた唇がかすかに笑みに似た表情を形作ろうとした。ふふ、とアシュレイ郷は笑う。
「どうしたのかな、こんなところで。神父殿が心配するだろうに」
 途端にクロエの顔は強張り、震える手がスカートに皺を寄せた。アシュレイ郷はそれを見て、ついと目を細める。
 ――深淵を覗いたか。馬鹿な男だ
 だからせめてもの親切心から言ったのだ。可愛い人形、と。
 いくら外見が美しかろうと人は人だ。内には薄汚い臓腑と、どろりとした感情が詰まっている。
 彼の男はこの少女に深入りしすぎたのだ。ひたすら人形を愛でるように接していれば、絶望など知りようも無かったというのに。深淵を覗く者は、同時に深淵に覗かれていると言ったのは誰であったか。アシュレイ郷はふとそう思う。
 それは顔に出さず、クロエに手を差し伸べた。アシュレイ郷は神を信じぬ男だが、もしも神が居るのならばその趣向を誉めてやってもいい。
「おいで、私の邸に来るといい」
 そう言うと、クロエは目を丸くして次いで困ったように眉を下げた。でも、と煮え切らない言葉を吐く。
27栄耀、静寂、快楽:2009/11/02(月) 22:14:37 ID:XS6NTxsu
 アシュレイ郷はそれを見て、大袈裟に肩をすくめる。
「クロエ。私はね、今日友人と喧嘩別れをしてしまったのだよ。こんな雨の夜に一人ぼっちで酒を飲むなんて、寂しいのだ。そうだろう?」
 寂しいのだ、と言うとクロエはぴくりと肩を震わせた。緑色の瞳が揺れたのを見て、アシュレイ郷は揺さぶりをかける。
「そうだな。もしも君が来ないというのなら、私はうっかり神父殿に君のことを話してしまうかもしれないね」
 手袋を嵌めた手で顎をするりと撫でると、クロエの顔色がさっと変わった。アシュレイ郷はくつりと笑って、もう一度手を差し伸べる。
「私の邸においで」
 おずおずと手が重ねられた。手袋越しにも分かる少女の手の冷たさに、アシュレイ郷は密やかに唇を歪める。舌なめずりしそうな顔で、クロエの冷たい手を引いた。


 温かいチョコレートミルクがふわりとよい香りを漂わせる。青と白のカップに注がれたそれに唇をつけるクロエをアシュレイ郷はとっくりと眺めていた。
 アシュレイ郷はクロエを一目見た時から、欲しくてたまらなかったのだ。美術品の収集家としてもちょっと名の知られているアシュレイ郷である。美しいものには目がない。
 絵画や彫刻、陶磁器や刀剣に至るまで、アシュレイ郷の収集はとどまるところを知らない。高名な人形師による磁器人形も、海を渡った向こうの木の人形もたくさん持っていたが、そんなものよりもクロエの方がずっと綺麗だった。
 髪は上等の絹糸のようであるし、肌は名高い窯で焼かれた白磁より美しい。大きな緑色の瞳は、くり抜いてブローチに出来たらどんなに素敵だろうか。
 頬に落ちる睫毛の影を見て、アシュレイ郷は満足げに頷く。
 育ちがあまりよろしくないのか、立ち居振る舞いは上品とは言えないが、それを自覚していて万事控え目であるのには好感が持てた。尤も、アシュレイ郷が興味を持っているのはクロエの美貌だけであるから、生まれなどはどうでもいい。
 気に入った美術品はどんな無名の作者の物でも大切に手元に置いておく。逆に気に入らないものは、先祖伝来の由緒正しい作品でも売り払ってしまう。アシュレイ郷はそういう男であった。
「申し訳ないね。年若いお嬢さんを迎える機会など少ないものだから、そんなものしか用意できない。なんなら、もっと刺激的な飲み物を用意させようか」
28栄耀、静寂、快楽:2009/11/02(月) 22:15:43 ID:XS6NTxsu
 壁に陳列されたウイスキーの瓶に視線を向けると、クロエは慌てて首を振った。それは残念だ、と苦笑するとシガレットを探して懐を探る。が、はたと手を止めテーブルの上で指を組んだ。
 美術品の鑑賞の際には、シガレットを吸わないのがマナーだ。ヤニでせっかくの美しさを損ねてしまうし、何よりこの少女には紫煙の匂いよりもチョコレートミルクの甘い香りの方がよく似合っている。
 ――私は君のように愚かではないよ
 内側など覗かなければいい。美しい外見をひたすらに愛でていればいい。泥を並々と注いでいても、外さえ汚れていなければ器の美しさは損なわれるものではない。
 それをあちこち弄り回すから、汚れが零れてきてしまう。ふと自分の手も汚れていることに気付いてしまうのだ。それだけならばいい。その汚れが外見まで汚してしまうなどあってはならないことだ。
「それを飲んだならば、ゆっくりと眠るといい。今、寝室を整えさせているから」
 クロエは気弱に笑って、ありがとうございますと頭を下げる。アシュレイ郷はクロエの顔をじいと見つめて数度深く頷いた。
29栄耀、静寂、快楽:2009/11/02(月) 22:16:13 ID:XS6NTxsu
投下終了
30名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 22:45:42 ID:3KcRw/jC
GJ!だけど鬱展開な匂いが…
31名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 16:54:17 ID:OVq2/UBY
アシュレイ卿が何もしなくても、クロエの方から体開きそうだな。
クロエの依存先が、アシュレイ卿に変わった感じ。
32名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 22:14:01 ID:Q0BlncgD
>>29GJです!!
ここからはアシュレイ郷のターンか!?
書き手のやり方に口を出すつもりはないが、物語が終わるときには三者共に何らかの救いがあってほしい。
依存SSは精神的に弱い人が多く出るから、その人が打ちのめされたまんまだとこっちも滅入る。
>>29みたいな、感情移入しやすい良いSSだと特に。
33名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 22:16:15 ID:UkJ1gyQH
>>32
アシュレイGO!わろすw
いやすまん、茶化すつもりじゃないわけじゃないんだが。
34名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 22:55:34 ID:ZhpUlEE8
>>33
じゃないわけじゃないだが?
日本語がややこしいw
35名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 17:23:18 ID:Le+kLr1F
ゲーパロ氏の「私が私」読んでたんだけど
工藤健子で爆笑してしまった…
36名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 23:57:41 ID:cd6qrw+F
このスレが無いと生きていけない……
37名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 20:44:46 ID:QC1yznXf
ゲーパロさんの「私が私」って未完?
38名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 22:02:40 ID:o0jAvFAY
>>37
保管庫に完結って書いてないから、未完じゃないかな
39名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 23:15:51 ID:L5IYTmpZ
いや、あれはあれで終わりなんじゃない?

続きがあるとしたら、「私が私」の続きを書かず違う作品書いてるんだからタチが悪いな。
てゆうか一年経って続き投下されなかったらもう飽きたと思った方がいいだろ。
40Doc&Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/11/08(日) 00:59:17 ID:ftZeIvs7
長い割りに、依存もエロも薄いです
初期状態というとこで……
***********************************************
しのつく雨の中、猫を拾った



うっとおしい小雨降りしきる夜
俺は一人、のそのそとヤサに向かう
傘を持つことすら億劫
目深に被った帽子で雨を受けながら、コートの肩を湿らせた
薄暗い角を曲がると、切れかけてチカチカと点滅を繰り返す街灯
その根元のゴミバケツと一緒に、ボロの塊が転がっている
避ける気力もない俺は、そのままふんずけて通った
「グッ……」
押し潰すような呻き声
「ン?」
爪先でボロ布を引っ掛け、蹴り剥がす
下から別のボロが現れた
全身ズブ濡れ、ドロだらけ
オマケに、そこらじゅう怪我もしているようだ
憔悴しきった半裸のガリガリの身体
正直、小僧かアマかの区別もつかない
だが、そんな状態でも唯一、ギラギラと光らせた瞳が、強い意思を示していた
「…………」
「…………」
暫し見つめ合う
こちらは何をする気もないのだが、あちらは何もすることが出来ないようだ
ただ、警戒心に満ちた視線を送るだけ
逃げるどころか、身動ぎも儘ならない様子
放っとけば、明日の朝を待たずに、隣のバケツの中身と同じ物に化すだろう
『ああ、面倒くせえ……』
ハァッーー……
睨めっこにも飽き、ため息一つ
『コイツぁ猫だ』
面倒なんで、そう決めた
恩なんて、きせるつもりはないから、ぜひ3日で忘れてくれ

バサッ
コートを脱いで、ひっ被せる
ガサガサ
不意を付かれたヤツは、おそらく全力の、それでもほとんど意味のない抵抗を示す
ヒョイッ
繰るんだコートごと抱き上げた
『軽いな……』
見た目よりも、更に頼りない手応え
モゾモゾ暴れているのに、ちっとも堪えない
「プハッ!あんたっ……、モガッ」
「食ってろ」
やっと頭を出し吠えかけた
喧しいのは御免なので、ポケットにあったチョコバーを突っ込む
なかなかの効果があったようだ
モゴモゴと口だけで、夢中でかじっている
あっという間に食い尽くしたが、時間稼ぎにはなった
その間に、古びたアパートの鍵を開け、灯りをつける
41Doc&Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/11/08(日) 01:03:18 ID:ftZeIvs7
外観のボロに比べれば、なかなかまともな部屋
元は、ボスの隠れ家だったそうだ
多少カビ臭いのは、ほったらかしの期間が長かったから仕方がない
とりあえず荷物をソファーに降ろした
暴れはしないが警戒した目で、ジッとこっちを睨んでいる
投げてやったタオルを使おうともしない
俺は上着を脱ぎ捨て、ガシガシと頭を拭いながら、キッチンに向かう
当たり前だが、ろくなものがない
有るのは酒と缶詰ぐらいだ
とりあえず見つけた缶スープを温め、部屋に戻る
ヤツは、部屋を出た時と同じ格好で、コチラを睨んでいた
「ホレ」
匙を突っ込んだスープ皿を、前に置いてやる
スープ皿と俺のツラを、忙しなく視線が往復するが、

グキュルル〜〜……

腹の虫が全力で主張するにいたって、葛藤を終結させた
ヤツはついに、手を伸ばし匙を掴む
しかし……
カチャン
「……ッ!」
直ぐに取り落とし、苦痛を抑えるかのように、その手を胸元に抱えた
「怪我か?」
よく見ればその両手には、ボロ布を巻き付けてある
そのままでは状態がわからない
「診せてみろ」
手を伸ばし診ようとするが、
ガチッ!!
「うおっ!?」
咬みつかれそうになり、慌てて手を引く
「フウッ、フウッ〜〜」
痛みに息を上げながらも、なお、こちらを睨みつけていた
『ヤレヤレ……』
ほっとく訳にもいかず、もう一度手を伸ばす
ガフッ
今度は避けずに咬ませた
覚悟してりゃあ大したこともない
咬ませながら、逆の手で匙を拾う
スープを掬い、差し出した
「ウウ〜〜……」
当然、口はふさがっている
俺の腕を放すことなく、ただ威嚇の唸り声を上げた

ズズッ
「!?」
俺は、スープを自分で啜る
なかなか旨い
もうひと匙
ヤツの視線は、匙に釘付けになり、咬む力も弛んできた
「ホレ」
三匙目を、改めて差し出す
バクッ!!
ヤツは飛びつくように、匙ごと食らいついた
「慌てるな」
やっと解放された手で皿を持ち、ひと匙ひと匙飲ませてやる
直ぐに飲み干し、もう一杯
結局、スープ三杯と台所にあったつまみのクラッカーひと袋を平らげた
42Doc&Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/11/08(日) 01:05:52 ID:ftZeIvs7
腹が脹れると、少しは警戒が緩んだようだ
俺は救急箱を取りだし、道具を並べる
「診せろ」
手は出さず、ヤツが自分から応じるのを待った
今度は逆らわない
恐々とだが、俺のコートの隙間から両手を差し出す
いい加減に巻き付けられた布切れを外し、状態を確認した
「…………」
ほとんどの、爪が剥がれている
指も何本かは、折れているようだ
掌骨も怪しい
拳の擦り傷から観ると、全力で闘ったのだろう
力およぶ訳もなく捕まり、そして……
「痛むぞ」
グイッ
「…………っ!!」
骨を継ぐ
消耗しきった躰が、恐ろしい力で跳ね上がった
無理もない
野蛮な衛生兵上がりの闇医者の流儀では、この程度で麻酔を使いはしない
下手すれば、折られた時より痛んだはずだ
暴れる体を抑え込みながら、両手とも骨の位置を戻し終えた
ヤツは放心したように、脱力している
一仕事終えたと思った
しかし、

チョロチョロ……
まあ、無理もない
さりげなく、タオルで始末する
……ついでに、メスと判明した

接ぎ木を当て治療し終わっても、ほとんど失神したまま
まあ、無理に起こすこともない
その間に、他のところを診ていく
ボロで巻かれた両足も酷いものだった
手と同じように爪を剥がれ、足裏の皮は火傷でズル剥けている
アイロンで足の裏を焼かれたのだろう
チンピラがよくやる拷問
それでも、この足で走って逃げたのだ
何度も転びながら……
痩せた膝にも、骨の透けるような腿にも、無数の傷を作っていた
「脱がすぞ」
未だにくるまっていたコートを剥ぐ
その下には、透けるビスチェ
正確には、だったであろう、ずぶ濡れのボロ切れのみ
それに勝るほどの、ボロボロの躰が晒された
浮き出た鎖骨、肋骨
病的なまでに白い肌には、そこかしこに青アザを残していた
ほとんど膨らみを見せない胸
だが、その幼いニップルには、ピアス穴が穿たれている
まだ、作られたばかりらしく、裂けて血が滲んでいた
薄い背中から尻にかけて、無数の鞭跡、火傷の跡
いや、細かく見れば、全身に噛み傷や切り傷引っ掻き傷、平手の跡やロープ跡に包まれている
全く叢のない幼いヴァギナも、ピッチリ閉ざされていながら、酷く腫れ上がっていた
肉のついてない、とんがった尻
それゆえ、後ろから見ると丸見えになってしまうアナルにも、幾つもの深い裂傷が残る
そして、それらを作ったであろう者共の残跡が、ネットリと溢れ出していた
43Doc&Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/11/08(日) 01:08:59 ID:ftZeIvs7
見た目はともかく、手足ほど深い傷は無い
『消毒が先だな』
冷えきった身体を暖める為にも、風呂に入れといたほうが良いだろう
再び抱き上げる
ビクリと身体をすくませたが、大人しく従い、俺の懐に身を委ねた
浴室に運び、とりあえずは纏っていたボロを脱がしても、何の抵抗も無い
さっきまでの反骨ぶりとは、エライ違いだ
まあ、疚しいところがある訳じゃなし、面倒がないことはいいことである
ヤツの、手足の包帯にはビニールをつけ、湯船に放り込む
たちまち真っ黒になる湯を、何度も換えながら、丁寧に身体を流してやった
しかし、酷い汚れっぷりだ
売り物ならちったぁ手入れするだろうし、多分野良が、ヘマこいて取っ捕まったんだろうな
最初は、傷に滲みたようで唸っていたが、今は湯に蕩けている
俺も何故だか、髪まで透いてやっていた
長く伸ばした髪を、一本の長い三つ編みに結っている
まるで、尻尾だ
解すと、ドロだらけでわからなかったが、なかなか質の良いプラチナブロンドだ
その長い髪を、撫でるように洗っていくと、気持ち良さそうに喉をならす
『猫だな。こりゃあ』
いや、猫は水が嫌いだそうだから、虎……
『子虎ってとこか……』

十分清め、暖めたところで風呂から出して、手当ての続きをする
怪我は広く多岐にわたったが、幸い深いものはほとんど無かった
ペタペタ
薬を塗りつけ、包帯を巻く
湿布を貼りつけ、包帯を巻く
ミイラのように、ほとんど肌が隠れた
まあ、下着代わりにゃなるか
とどめに、鎮痛剤と化膿止め、ついでに栄養剤をを飲ませておく
念のため、解熱と避妊用の座薬も……
ボスはこの部屋を、本気で俺用に用意したらしい
薬も器具も、エラく充実していた
治療を終え、夜着代わりに俺のシャツを着せる
頭に巻いてたタオルを外すと、しっとりと濡れたシルバーブロンド
なんとなく、ワシワシと拭くのが躊躇われた
ブォ〜〜……
ドライヤーを当てながら、丁寧にブラッシングする
『こんなもん、自分にだって使ったことねえんだがな』
おとなしく、髪を弄られながら、うつらうつらし始める
緩めの三つ編みにまとめ、ベッドにほうりこむ
十秒待たない内に寝息が聞こえてきた


「ふぅ〜い……」
ドサッ
俺は、さっきまでヤツが占領していたソファーに崩れ落ちた
酒が欲しいが、もはや取りにいくのも億劫だ
考えてみれば、帰ってきてから自分のことは、何一つしていない
濡れた服さえ着替えて無かった
「何やってんだろうなぁ……」
何をやるもなにも、そもそもする事など無くなっていた
ボスの葬式を終えた、今となっては……
44Doc&Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/11/08(日) 01:11:25 ID:ftZeIvs7
ボスである先代は死んだ
あれだけの悪さをしでかしながら、ベッドでくたばったんだから大往生ってもんだ
だが、代が替わり、組には俺の居場所などない
元々、当代の元につきたく無いから、先代の面倒をみると、ついていたのだ
また、元の闇医に戻るのも億劫である
ヤサはボスが残してくれた
金もそこそこあるが、する事が全くない
「まあいい。明日考えよう」
戻ってきた倦怠感に襲われながら、俺は睡魔の訪れに身を委ねた


………………
…………
……

ピチャッ、ピチャッ……
『なんだ?』
何か、気持ちいい夢を見てたような……

「動くな」
「ワアッ!?」
臆病な方ではない
孤児院、軍隊、ヤクザと、順当に暴力がモノを言う世界を渡り歩いてきた俺だ
大抵のことじゃ、ビクともしない
しかし、寝起きにペニスをくわえられてたら、そりゃあ平常心を保つのは無理だ
「なっ、なんだ!?」
「うるさい。見んな」
ガリッ
「グオッ!」
噛まれた
大事なセガレを質にとられ、抵抗を封じられる
ピチャ、ピチャッ
抵抗を制すると、再び行為を続けた
ぎこちない
ありていに言って、下手くそだ
まあ、俺が玄人専門だってこともある
わざわざ女を引っ掛けるほど、油っ気を残してない
『三十チョイの若僧が、そんなことでどうする』と、
ボスによく笑われた
そもそもこいつは、俺の好みの対極にいる
痩せっぽっちのガキだ
俺は乳も尻もデカイ、成熟した女しか相手にしたことがない

……なのになんで
「ウッ」
ビュビュッ……

やられた

自己嫌悪に天を仰ぐ
股間のガキは、下からなのに見下ろす勢い
ペッ!
口中のザーメンを吐き捨る
ニヤリ
勝ち誇った笑みを残し、ズルズルとベッドに這い戻って行った

「悪夢だ」

捨て猫なんざ拾った判断を、心底後悔した
45Doc&Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/11/08(日) 01:13:47 ID:ftZeIvs7
ガン!
「グオッ!?」
頭部への激痛で目を覚ます
「さっさと起きろ、おっさん」
ソファーにへたった格好のまま、眠りこけていた俺に、頭突きをかましやがったのは、
やはり昨日の猫だった
『夢であって欲しかった』
ボケた頭で願うが
「腹減った。メシを出せ」
立場もわきまえんと、偉そうに喚き立てやがる
「何もネエよ」
事実を述べるが、
「じゃあ、買ってこい」
部屋を追い出された
『何なんだ、いったい……』
ぶつくさいいながら、寂れた裏道を抜け、ストリートにでる
いくつかの屋台で食い物を買った
ホットドッグ、ベーグルサンド、ハンバーガー、ドーナツ、タコス、サンドイッチ……
帰り道、ドラッグストアにより、パンやミルク、卵にハムにジャムなど、簡単な物を買い込む
結局、両手が塞がるほどの荷物を抱え、部屋に戻った
「遅い」
帰るなり、罵声が飛ぶ
取り合う気にもならず、食い物をテーブルに広げる
「ドーナツ」
「あン?」
何のつもりだ
いぶかしむ俺に、包帯で包まれた両手を見せつけた
「サッサとしろ」
『食わせろってか』
呆れながらも、一つ摘まんで口に運んでやる
「コーラ」
「買ってネエよ、そんなもん」
「使えないヤツ
じゃあ、ミルク。暖めて」
キッチンに立ち、鍋で暖めた
マグカップで飲ませてやるが、ヤレ、ヌルいの、甘くないの……
大騒ぎして食い散らかすと、またソファーで眠りコケた

『なにやってんだ、俺は……』
昨日から、幾度となく繰り返す自問
絶対に、マメな方でない
どちらかと言わなくとも、ものぐさでやる気のない俺が、何でこんな世話をやいてんだ?

死にかけていたからか
ガキだからか
傷だらけだったからか
犯されていたからか

冗談じゃねえ
敗戦からこの先、そんな話は掃いて捨てるほどありふれている
馬鹿馬鹿しい
俺の葛藤を余所に、ノンキに寝くれてやがるガキ
襟首掴んで、放り出してやろうか
寝顔を睨みつつ、食い残しのドーナツを拾い上げる
これも残ってたミルクにつけ、口に放り込んだ
甘ったるさが、身体中に染み渡っていった


結局のところ、俺はヤツが目覚めるまで、呆けたように寝顔を眺めていたのであった
46名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 01:17:17 ID:ftZeIvs7
投下終了。一応続く予定

某サイトにあげたヤツの続きです
47名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 01:20:12 ID:51vVe+J2
一番槍GJ!
48名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 01:21:20 ID:awtFn7bq

好きな雰囲気だ
49名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 02:03:13 ID:M5YYB2k/
乙!乙!
好きな感じ。続きが楽しみ。
50名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 02:53:14 ID:T08sWl9L
51名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 16:12:44 ID:ugMDVo5n
乙 好きな雰囲気の主人公だ。

キンパツンデレさいこー
52栄耀、静寂、快楽:2009/11/08(日) 23:19:16 ID:XsJ4empJ
前の方が投下からちょっと早いかもしれませんが、投下させてください。
53栄耀、静寂、快楽:2009/11/08(日) 23:20:20 ID:XsJ4empJ
 白いカップに注がれた、紅いお茶の水面に自分の顔が揺れる。そこからついと視線を下げて、上等な緑のベルベット地で作られたドレスを見下ろした。
 あろうことか、その品のよいドレスを纏っているのは自分である。それどころか、マホガニーの大きなテーブルセットも、その上のティーセットも、甘いお菓子も、あまつさえこの部屋すら自分のものであるという。
 クロエは銀の華奢なフォークで皿の上のケーキをつついた。
 一口分だけ欠けたケーキは今まで食べたことがないほど美味しい。それなのに、そのはずなのに、なんだか味気ないような気がして、クロエはフォークを置いてしまった。
「気に入らないかね」
 向かいに座るアシュレイ郷にそう声を掛けられて、思わず肩が震える。上目遣いにアシュレイ郷を窺うと、彼はテーブルに肘をついてこちらを見ていた。
「下げさせよう」
 テーブルの端のベルに手を伸ばす様を見て、クロエは慌てて首を振る。
「いいえ、美味しいです。とっても」
 やっとフォークを手に取ると、アシュレイ郷は満足げに目を細めた。
 さく、とケーキをフォークで切り、一片に口を付ける。さくさくとしたタルト生地にはとろとろのクリームと色とりどりの果物が溢れんばかりに盛り付けられている。
 見た目も可愛らしい、豪華なケーキだ。だが、クロエは別の物を思い描いていた。
 ――エマのおばあちゃんが作ったパウンドケーキ、美味しかったなぁ
 教会に遊びに来たエマにエマの祖母が持たせてくれたパウンドケーキ。抱えるほどに大きいケーキだった。
 もちろん、とろとろのクリームも色とりどりの果物も無かった。
 ――でも、ロイドさんと一緒だった
 クロエは染み一つ無いテーブルクロスを見つめる。
 アシュレイ郷は、クロエと共に食事は取らない。クロエに与えた部屋まで食事を運ばせて、食事をするクロエをひたすら眺めている。今もクロエの部屋にお茶とケーキを一つずつだけ運ばせていた。
 部屋を出ること以外ならば、なんでも叶う。毎日綺麗な洋服を着て、アシュレイ郷のお手伝いさんに髪を結ってもらう。食事だってほっぺたが落ちるほどに美味しい。
 それでも、クロエは物足りなかった。
54栄耀、静寂、快楽:2009/11/08(日) 23:20:40 ID:XsJ4empJ
 ――どうしてだろう
 クロエはケーキを咀嚼する。口の中いっぱいに甘味が広がった。
 ――ロイドさんがいないから?
 ならば、それは何故?クロエは自問する。ケーキを嚥下する頃になっても答えは見つからない。
「そうだ。今晩は客人がいらっしゃる」
 アシュレイ郷の言葉にクロエは曖昧に笑って返した。どうせ、クロエの知らない人である。たとえ知っていたとしても、クロエが人前に出ることはない。
「クレア、どうしたのかね」
 クロエは俯きがちに首を振る。アシュレイ郷はクロエをクレアと呼んだ。異国風の発音であるから、呼びにくいのだろうか。だが、なにか落ち着かない。
「クレア、分かっているね」
「はいアシュレイ郷。部屋は出ません。物音もたてません」
 読み上げるように言うクロエにアシュレイ郷は唇を歪めて頷いた。席を立ち、クロエの背後へ回ると華奢な肩に優しく手を置く。
「何も君に意地悪をしているわけではないんだ。外から来るものが君に悪影響を与えないとは言い切れない。分かるね」
 クロエは黙って頷く。アシュレイ郷はにこりと笑って離れ、重いドアに手をかけた。
 アシュレイ郷は、よい人だ。行き場の無いクロエに居場所を与えてくれた。クロエの望んだ以上のものを与えてくれる。
 だが、何かが決定的に欠けている。それが何かかは、よく分からないのだが。 だから、クロエはアシュレイ郷が少しだけ怖い。どうしてこんなに自分に良くしてくれるのかが分からないし、何よりその冷たい目が怖い。
 クロエは閉ざされるドアを眺めて、一人ぼっちで部屋を見回す。
 ――……広い
 広い。一人で居るにはあまりに広い部屋。きっちりと整えられた部屋は、さらに無機質な感覚をクロエに与える。
 さながらドールハウスのように、瀟洒で小洒落た内装。壁に作りつけられた本棚には美しい装丁の本が並んでいるが、読み書きが不自由なクロエにはなんの意味もなさない。
 ――なんで私ここに居るんだろう
 クロエはことりと首を傾げる。紅い水面に映る自分の顔がぐらりと歪んだ。
 ――……なんで私生きてるんだろう
 ロイドのもとを飛び出してしまって、クロエの手の中には何も無くなってしまった。
 アシュレイ郷はたくさんの品物を与えてくれるけれど、それはクロエの手のひらをすり抜けて足下につもるばかりだ。
 クロエはマホガニーのテーブルに頬を付ける。丁寧に巻かれた黒い髪が白いクロスの上に散らばる。
 ――どうして、教会から飛び出したのだったか
 ――ああ、そうだ。子が……
 クロエは真っ白なクロスの上に苦々しい笑みを零す。結局、あの後すぐに月のものは来たのだ。
 少しだけ残念に思うのと同時に、安堵した。そして微かな希望を見いだした。ロイドのもとへ戻れるのではないか、と。
 だが、クロエはそれを自ら打ち消した。
 ――潮時だったんだ
 決して豊かとは言えない教会で、食い扶持が一人増えたのだ。それが家族でも友人でも、恋人でもない行きずりの小娘であったならば、今まで養って貰った恩を感謝こそすれ恨むようなことはない。
 ――これで良いんだ。これで良かったんだ
 自分に言い聞かせるようにクロエは心の中で呟く。
55栄耀、静寂、快楽:2009/11/08(日) 23:21:08 ID:XsJ4empJ
 クロスの規則正しい織り目を憑かれたように目でなぞりながら、クロエは深い溜め息をついた。
 何やら外が騒がしいような気がする。テーブルの上に頬をつけたまま窓の外に視線をやる。大きな屋敷の窓から見えるのは、街の中心の時計台と青く抜けるような空だけだ。
 クロエは妙な胸騒ぎがして、そっと部屋のドアを開ける。
 アシュレイ郷が何か知っているかもしれない。まだ客人も見えていないだろうし、部屋を出ても構わないだろうと判断した。
 中央の階段を下りようとすると、玄関の立派なドアまで執事が出向いていた。
「いやはや、ここに来るまでにだいぶ時間がかかった。どうやら子供が溺れ死んだらしくてな、野次馬が酷くて馬車が進まなかった」
「左様で」
 でっぷりと太った、人間よりも蛙によく似た男が従者に帽子を渡しながら続ける。
「確か、靴屋の倅であったかな。ほら、あの赤毛の」
「左様で」
 執事らしく不必要なことは何一つしゃべらないその様子にうんざりしたのか、男は下世話に輝かせていた顔をわずかにしかめた。
 だがクロエはそれどころではない。
 ――ティミーだ……
 この街で赤毛の靴屋の息子と言ったら一人しかいない。クロエは口元を手で押さえて息を殺した。
 そんな馬鹿な、と唇を噛む。ぶっきらぼうで不器用で、それでいて人一倍優しいティミーが。そんな馬鹿なことがあってたまるものか。
 クロエは音をたてないように足早に自室に向かう。震える手を握りしめ、窓に手をかけた。
 ――この木枠に足をかけて、向こうの植木に届けば外に出られる
 自分の目で確かめるまで、そんなことを信じたくはなかった。
 クロエは周囲に人がいないのを確認すると、手慣れた身軽さで木枠に足をかけた。
56栄耀、静寂、快楽:2009/11/08(日) 23:21:50 ID:XsJ4empJ
*****


 教会の裏に繋がる質素なつくりの居住区は、もう一週間ほどロイド一人しか足を踏み入れていない。
 一応の仕事を終えたロイドは、軋む椅子に身を預けて小さく咳き込んだ。まだ日は高く、黄味がかった陽光がすうと入ってきてロイドの手の甲を温める。
 ロイドはぎゅ、と手を握り締めた。
 ――昼飯はどうしようか
 昼飯にはやや遅いが、夕飯まではまだまだある。ロイドは細く長く息を吐く。
 もそもそと立ち上がり、こぢんまりとした厨房を覗いた。そこに居るべき人が居ないだけで、まるで廃墟のように寂れて見える。
 竃に掛けられたままの鍋には、一昨日に隣家の女性からお裾分けされたスープが少しだけ残っていた。ロイドはそれを温め直すこともせずに皿に移す。
 スープは一人分には少しばかり足りず、適当に水を足してみる。その場でスプーンを使わずに皿に口をつけてスープをすすり、なんとも言い難い不味さに顔をしかめた。
 ――飲めないこともない、か
 ロイドとて一人の期間がそれなりに長いから、煮炊きが出来ないわけではない。
 ――おかしいだろう
 たった数ヶ月を共にしただけの少女が居なくなっただけで、この体たらくだ。
 そんな馬鹿な事があってたまるか、と薄いスープを飲み干す。皿を水桶に放り、窓の外を睨みつけた。
 クロエは何処に居るのだろうか。この街に居るのか、或いはとうに遠い街へ行ったか。ひょっとすると祖国へ帰ったやもしれない。
 本当は、無理矢理にでも連れ戻したい。顔が広く人望の篤い街の神父である自分には、それが可能なのだ。クロエが居なくなってすぐに、乗り合い馬車の御者にクロエを見かけたら止めさせることも、街の店という店に根回しすることも出来たはずなのだ。
 それをしなかったのは、クロエがそれを――自分から離れることを――望んだならば、それを阻むいわれは無いからだ。それがクロエにとって幸せならば、自分は甘んじて受け入れようと思う。
 ――ただ、最後に謝りたかったかな。なんて
 ふ、とロイドは小さく笑った。
「神父様!ロイド神父!いらっしゃいますか!」
 ドンドン、と扉を叩く音がする。一瞬で表情を仕事用に変えて、ロイドは扉を開けた。
「どうしましたか」
 新聞売りのコーディが、膝に手を置いて肩で息をしている。コーディは喘ぎ喘ぎ言った。
「ティミーが!ティミーが井戸に落ちて!それで、それで……神父様を呼べって」
 ああ、そうか。自分が呼ばれるのか。ロイドは暗い顔で頷く。
「分かりました。先に行ってすぐに向かうと伝えてください」
 コーディは神妙な顔で踵を返す。それを見送り、胸の十字架を握った。


「ティミー!ティミー!ティモシー!」
 喉が裂けんばかりに泣き叫ぶシンシアが、井戸の傍らに寝かせられたティミーを抱いていた。ティミーの周囲には水たまりが出来ていて、シンシアのスミレ色のエプロンドレスも濡れている。
「目を開けて!お願いよ!」
 浮気してばかりの女でも、我が子は可愛いものだろうか。それが冴えない男との子だとしても。
 シンシアの旦那、靴屋の主人――さて、名は失念してしまった――が、シンシアの肩を抱いた。シンシアはあれほど嫌っていた男の胸に顔を押し付けて泣く。
 ロイドはティミーの顔を見る。血色の良かった丸い顔は、蒼白で蝋のようだ。白い唇が痛々しい。
「ミセス・シンシア。ティミーは、神の御許へ帰られたのです」
 固く握りしめられた白い手に、十字架をかける。
「悲しんではなりません……」
 十字架を投げ捨て、シンシアはロイドを睨み上げた。
「返して!神だかなんだか知らないけど!ティミーを返しなさいよ!」
「シンシア、そんなことを言っては駄目だよ……」
 おどおどと靴屋の主人が口を挟む。
 だが、ロイドはそれどころではなかった。「男にかまけて息子から目を離したんだろうよ」「尻軽なアバズレさね」と口々に囁き合う野次馬を押しのける一人の女性から目が離せない。
 深緑のドレスを纏った、両家のお嬢様風の少女。美しく巻かれた黒い髪。驚愕に見開かれた緑色の瞳。白い絹の手袋をした手で、口元を覆っている。
 心臓が早鐘のように鳴った。それなのに、同時に酷く安堵した。
 ――ああ、なんだ。近くに居たんじゃないか
 がやがやとした喧騒も、シンシアが泣き叫ぶ声も、全て遠退いて掻き消える。
 クロエの緑色の瞳が、ロイドを捉えて僅かに揺れた。そのまますいと消えた姿を目に焼き付けて、ロイドは穏やかな気持ちでシンシアに手を差し伸べた。


57栄耀、静寂、快楽:2009/11/08(日) 23:25:04 ID:XsJ4empJ
投下終了。
ところで前スレで純愛系な依存ではなくて物質や行為への依存云々、という話題で突発的に書いてしまいました。
趣味が暴走した上に依存少なめで世界観萌えなウザイ文章で良ければ是非
58国家公務員と狼少女のほのぼの昼下がり:2009/11/08(日) 23:28:09 ID:XsJ4empJ
  人狼と言えば一昔前までは架空の化け物を指したが、現在では人狼病という病の患者を指す。人狼病とは強い感染力を持ったウイルスによる伝染病である。いつから発生したのか、原因が何なのかも不明。
 ただ分かっているのは、罹患者の唾液が傷口から侵入することによって感染することだけだ。
 症状も様々である。骨が変形するものが最も一般に知られている。背骨は真っ直ぐに伸び、そのため二足歩行が困難になる。皮膚が爛れて溶け落ちる者もいる。逆に、体毛が極めて濃くなる症例も報告されている。
 だが、共通点もある。驚異的な身体能力の向上と意識の喪失。そして生命力が飛躍的に跳ね上がること。罹患者はウイルスの増殖のためにその身体能力と凶暴性で人間を襲い、仲間を増やしていくのだ。
 人の形をした肉塊に成り果てた彼らを治療する術はなく、人間に残された道は患者たちを肉片も残さず焼くことだけだった。
 だがそれすら容易ではない。人狼病患者は痛みも感じない。すなわち怯むことも恐怖することもない。
 動きを止めるには、起き上がれない程に身体をバラバラにするか、頭部を砕くしかない。腹に風穴を開けたくらいでは、人狼はびくともしない。
 だが、人間だって馬鹿ではない。個々の国で対人狼の組織を作っていた。それに伴い、対人狼用の兵器も開発された。
 対人狼用の兵器には一つの制約があった。それは「小型であること」何故なら、人間を襲う人狼は人間の周囲で群れを作る。
 ウイルスが発見された当初は大型の重火器で都市ごと吹き飛ばすような荒療治も行われていたが、大都市の路地裏で人狼の群れが確認されて以来行われなくなった。


〈――……藤村二尉!F-138号が命令外の行動を取っている!即刻制止せよ!〉
 耳元に装着された小型無線機からの声に、俺は少しの焦りと共に「了解」と応えた。
 まったく、あの馬鹿なにをやっていやがる。と内心毒づいて、手にした小銃の裝弾を確認した。
 対人狼用特殊炸裂弾と専用小銃「silver bullet」だ。銃の名前が「銀の弾丸」というあたり、何か神秘的な銃かとも思うがそういうわけではない。
 弾頭が着弾と同時に炸裂し、標的の骨肉を広範囲に渡って吹き飛ばすという狂気じみた代物だ。
 俺はそれを脇に抱え、身を潜めていた茂みを飛び出す。小さなモニターに点滅する赤い点が示す場所へ走った。
 途中、二三体の人狼の死骸を見送る。あいつの仕業に違いない。引き裂かれたような無残な死骸に顔をしかめた。
 その時ガサ、と背後の茂みがざわめく。俺はとっさに銃を構えると息を潜めた。
 グググ、と獣の唸るような声がかすかにする。俺は唾を飲んで後ずさりした。
 俺だってそれなりに訓練された人狼処理部隊の一員である。手には対人狼用兵器だって持っている。それでも、一人ではせいぜい一匹を仕留めるので精一杯だ。敵が同時に二匹以上襲いかかってきた場合諦める他ない。
 黒い影が茂みから踊り出る。それの額に目測をつけて弾丸を撃ち込んだ。ぎゃん、と犬のような悲鳴をあげて人狼は跳びすさる。
 ――外したか
 だが、人狼の頭部は半分ほど吹き飛び、おびただしい血があたりを汚し、白っぽい脳がぼたぼたと地面に落ちた。
 それでも死なないのだ。死ねないのかもしれない。あるいは、既に「死んで」いるのか。
 俺は人狼を正面から睨み付け、再び引き金に力をかける。が、背後から別の気配を感じる。
 ――嘘だろ。もう一匹いるのか
 盛大な唸り声に振り向くと、眼前には赤い口内にずらりと並んだ牙がすぐそこまで迫っていた。
「くそっ……!」
59国家公務員と狼少女のほのぼの昼下がり:2009/11/08(日) 23:29:33 ID:XsJ4empJ
 間に合わない。そう思ったその時に横から空を斬るようにして人影が飛び込んできた。
 それは獣のような身軽さで人狼の肩の上に組み付き、人狼を蹴飛ばして地面に着地する。その一瞬で目を抉られた人狼は地面に倒れてのたうち回った。
「朧!」
 俺はその人影に声をかける。濃い灰色の髪をしたその人は、右目が潰れて白濁し周囲の皮膚が爛れていることを除けばどこにでもいそうな少女である。
「朧、仕留めろ!」
 俺の指示を聞くが早いか、朧は人狼との距離を一息に詰めると、頭が半分吹き飛んだ方に蹴りを入れ、目を潰した方の頸部を素手でねじ切った。
 ぐしゃり、と水っぽい音がする。人狼は二匹とも血を吹き出しながら地に倒れる。それに五秒もかからなかった。
 朧。人狼用生物兵器F-138号もまた人狼である。しかし、人工的に作られた人狼だ。
 時折、人狼病に感染しても理性を失わない者がいるらしい。それに研究者は目を付けた。
 驚異的な身体能力と生命力。それを併せ持った人間に人狼を処理させようという計画だ。
 研究の結果、若年であればあるほど理性を失わない確率が高いことが分かった。つまり、赤子ほど成功の可能性は高い。
 政府は特定の施設で堕胎をした女性には、補助金を支払う制度を作った。その代わり、中絶された胎児はウイルスを植え付けられる。ウイルスによる生命力の向上で胎内から引きずり出されても胎児が死ぬことはない。
 ここ数年での中絶手術の進歩は目覚ましく、母子共に傷付くことは無くなった。もちろん、中絶の件数は激増したため一概には喜べないが。
 凶暴化すればすぐさま焼却され、成功すれば成長するのを待ち人狼の駆逐に利用される。俺が言うのも何ではあるが、ひどい人生である。
 当たり前の事ながら、人道的な問題や性モラルの低下を叫ぶ声もあったが、そんなことはこの未曽有のバイオハザードに比べれば瑣末事である。


 朧は二匹の死骸を見下ろして、思い出したように背負った銃を手にした。
 ガン、ガン、ガン
 銃声が響く。既に息絶えた骸をさらに粉々にしながら朧は幸せそうな顔をしていた。
 頬は紅潮し、瞳は恍惚と揺れていて、口元には笑みすら刻んでいる。それを見て、俺はぞっとした。こればかりはいまだに慣れない。
 朧は殺人に快楽を覚えるようだ。本人に確認したことが無いからはっきりとしたことは分からないが、そうとしか言いようが無い。いっそ、殺人に依存していると言ってもいい。
 久しぶりの任務である。久しぶりの殺戮だ。居ても立っても居られず、命令を無視して人狼を殺して回っていたのだろう。
 俺はとり憑かれたようにトリガーを引く朧の手を、そっと上から銃ごと握った。
「気はすんだか。そろそろやめとけよ」
 わざとぶっきらぼうに言う。朧は少しだけ残念そうな顔をして、こくりと頷くと銃を下ろした。
 朧は喋らない。ウイルスが声帯を侵したために声を発することが出来ないからだ。同じく右目も盲目である。
 それでもここまで人の形を保っているのは珍しい方だ。普通はもっと化け物じみた外見になる。尤もどちらが幸か不幸かなど分かりはしないが。
 俺と揃いの軍服は、人狼の血と脳漿にまみれてぐちゃぐちゃだ。これさえ無ければ、朧は実に優秀な猟犬である。事実、様々な賞も受けているのだ。
 俺は朧の汚れた髪を梳いた。右目の傷跡を隠すように長く伸ばされた前髪を梳き、うなじの辺りの毛先をいじる。
 朧はわずかに肩を震わせた。
 俺は、朧が楽しげに人狼を殺すたびになにか悲しい気分になる。別に人狼に同情しているわけではない。ただ、恍惚とした瞳の奥の朧の心情を思うと言い知れず不快であった。
 血の生臭さを無視して俺は朧の首筋へ顔をうずめる。かすかに甘い女の肌の香りがした。
「あーあ、またお前が命令違反するから俺まで怒られんだ」
 顔をうずめたまま言うと朧はくすぐったさに身をよじり体を離すと、俺の顔を見上げた。一つしかない黒い瞳はくるりと大きくややつり上がり気味で、まるで猫のようである。
「反省したか?」
 朧は俺の体を遠慮がちに押しのけて、こくこくと二回頷いた。。
 俺は「よし」と殊更に明るく言うと朧の頭をぽんと撫でる。
「よし、じゃあ新山三佐に怒られてくるぞ」
 荷を担ぐ俺を追いかけ小走りで付いてくる朧から視線を外し、空を見上げる。抜けるように青い晴れた空には、太陽が俺を嘲笑うかのように輝いていた。

60国家公務員と狼少女のほのぼの昼下がり:2009/11/08(日) 23:29:56 ID:XsJ4empJ
投下終了。
お目汚し失礼
61名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 00:34:19 ID:7y67wcYD
>>46>>57>>60
みんなGJ!
こんなに投下があるなんてなんて幸せな週末だろう
明日からの活力になるよ
続き期待してます
62名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 04:35:09 ID:ALKDTYMw
時間あけて投下しろよ

とか思ったけど、今日から平日だからしょうがなかったんだな
みんなgj
63名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 07:33:38 ID:n5jvN1a4
別にすぐなら問題ないだろ。
64Doc&Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/11/09(月) 08:39:53 ID:E+lr3SMJ
早く続きよみたかったから、まったく問題ないです

GJ!
65名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 21:26:36 ID:FgbynpUJ
っつーか、>>57>>60は同じ方でしょ?


>>46>>57もお二人ともGJでした!
664-263:2009/11/09(月) 23:35:43 ID:jQCd0lib
あ。はい。同一人物です。
紛らわしくて申し訳ない
67名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 20:21:55 ID:YyUniW4q
GJ!
68名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 23:52:35 ID:q6CiMYT/
俺、このスレの住人になる
69名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 14:08:31 ID:CuQ94NOX
>>68
ようこそ
まずは保管庫の作品を全部読んでおいで
70名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 23:55:04 ID:WiilzDuZ
指名手配犯人の女を匿う話を思いついたぞ!
71名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 01:20:45 ID:jm5o8Dxr
で?
72名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 08:04:42 ID:YNpZWSmx
つまりあれか
外にも出れず全部男に頼りっきりになる女逃亡者。
女の世話をしているうちに次第に依存していく孤独だった男。
お礼は体で払うという名目で様々なプレイをしていくうちにどっぷりと依存していくわけだ。
そんな生活を続けていくうちに女は次第に不安になっていく。このままで良いわけがないと。
いつ来るかわからない破滅に怯えながらも甘い日々に溺れる2人。そしてついに女が妊娠する。
子供を産むか下ろすか。悶々と悩み続けた女はついに男に打ち明ける。
男は喜び産んでくれと言うが、しかし女は素直に喜べず、下ろそうかと思うと打ち明けた。
出産すればアシがついて捕まる可能性が非常に高い。
生まれてくる子供は不幸になるし、匿ってくれていた男に迷惑をかけることになる。
捕まって男と離れ離れになるのは耐えられない。しかし3人の未来を考えたら罪を償うべき。
男は2人でどこかに逃げて子供を産んで3人で幸せになろうと言う。
女は悩み抜いた末に、ある決断を下した――

1・女自首コース
2・一人で逃亡→逮捕コース
3・2人で逃避行コース
4・まさかの冤罪でした真犯人は別にいたコース

とかこんなネタじゃなかろうな
73名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 09:02:30 ID:QVIl/I4U
4が見たいなw
スレ的には3か
74名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 09:06:30 ID:OW1fR9DT
>>72
男に頼らないと生きていけない女の子堪んねぇ。
75名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 10:37:59 ID:F1C5qthf
>>60
お話の世界観その他は好きだけど、
人狼の駆逐方法が・・・
そんなに体液飛び散らせてたらウイルスがそこら中に蔓延して
あっという間に人類滅亡しそうな悪寒・・・
76名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 12:46:10 ID:YNpZWSmx
>>73
>>74
きっと>>70がもっと面白い話を執筆しているはずだから安心して全裸で待ってろ
つーか時事ネタは不謹慎な内容もあるから>>72を書いといてなんだが扱いづらいものでもあるわな
77名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 16:15:09 ID:Lc71GlAK
規制の嵐だな。
78栄耀、静寂、快楽:2009/11/14(土) 09:19:59 ID:onmZiQZG
>>75
極端に空気に弱いウイルスでそのために唾液から傷口経由で感染させる特殊な進化をした。
とか駄目ですかね。
あんまり詳しく考えてません。勢いで書いたものですみません。

投下します
79栄耀、静寂、快楽:2009/11/14(土) 09:20:27 ID:onmZiQZG
 は、は、とクロエは乱れた息を整える。震える膝を手で押さえて、民家の白い壁に寄りかかった。ティミーの事故を野次馬しに行ったのか、家の中から人の気配はしない。
 ――早く、アシュレイ郷の邸に帰らなければ
 勝手に外出したことがバレてしまう。
 でも、本当は、ロイドのもとへ帰りたいのではないか。ぽつりとそんなことを思いながら、クロエは人目につかないように小走りにアシュレイ邸へ向かう。
 伊達に毎日窓から外を見ていたのではない。門番の立ち位置も動きも大抵把握している。もちろん最初から部屋を抜け出すつもりであったわけではないが。
 事前に拝借していた使用人用の裏門の鍵を開け、中へ侵入する。綺麗に整えられた庭に誰もいないのを確認して、先ほど伝い降りてきた木をよじ登った。
 柔らかなカーペットに降り立ち、静かに窓を閉める。ベッドに倒れ込んで、クロエは大きく息を吐いた。分厚い毛布を手繰り寄せ、抱きしめる。
 ――ロイドさんと一緒に居たい
 たまたまロイドを見かけて、思わず走りよりそうになった。走りよって、その広い胸に飛び込んで、「勝手に飛び出してごめんなさい」と謝りたかった。「なんでもするから、一緒に居させてください」と懇願したかった。
 そうしていたら、ロイドさんは自分を受け入れてくれただろうか。大きな手のひらでクロエの頭を撫でて「おかえり」と微笑んでくれただろうか。

 ――そんな、そんな馬鹿なことがあるか

 全ては幻想。自分の悲しい妄想だ。クロエは毛布を握り締める。じとり、と手に汗が滲んだ。

 居場所が欲しいだけなら、此処の方がずっと居心地が良い。たくさんの使用人がいるから、家事もする必要はない。毎日美味しい料理と可愛いお菓子を食べ、綺麗に着飾らせて貰える。
 ――そうだ。何もロイドさんのところに戻らなくてもいいじゃないか
 それなのに、どうして自分は街の小さな教会の一人の神父にこれほどまで執着しているのだ。
 自分は保身のためだけに体を売った卑しい売女だ。ならば、さらに高ランクな買い手のアシュレイ郷に脚を開いてやればいい。でもそれが出来ない。
 ――ロイドさんが、私を必要としてくれたから
 ロイドさんは優しくて、皆に慕われていて、それでいて寂しげだった。クロエと居るときだけは、どこか子供っぽいところも見せてきて、それがどこか満たされた様子で、勘違いかもしれないと思ってもクロエはとても嬉しかった。
 アシュレイ郷もクロエを必要としているけれど、その目はクロエの記憶にある奴隷商人の値踏みするような目に似ている。

 ――ああ、そうだ
 クロエは高い天井を見上げた。今更に気がついた自分の心の真実にくしゃりと顔を歪める。
 ――ロイドさんのことが、好きなんだ
 気がつかないようにしていたのだ。ついこの間まで晩飯の心配しかしていなかったような少女の心には、その感情はあまりに重すぎた。
 それは聖典に記載されていた親愛でも敬愛でもない。綺麗事では済まされぬ、汚濁と甘露を練り上げだような。
 クロエは乾いた唇を薄く開いた。ゆっくり、小さな声で言葉を紡ぐ。

「あ、い、し、て、る」
80栄耀、静寂、快楽:2009/11/14(土) 09:21:06 ID:onmZiQZG
 ふつり、と何かが千切れた音がしたような気がする。
 未発達な少女の心はもうとっくに限界を超えていた。もろもろと崩れて壊れていく。
(帰りたい)
 ロイドさんのところに帰りたい。ロイドさんの、隣に。ロイドさんの、ロイドさんは、ロイドさんロイドさんロイドさんロイドさん。
 帰りたい。帰りたい。
 ロイドさんの、ロイドさんの教会の、広い。ロイドさんが、ロイドさんの声が。
 ロイドさんに、もう一度、抱いて欲しい。もう一度だけ。乱暴でもいいから、冷たくされてもいいから、もう一度だけ。

 怒ったらいいのか、泣いたらいいのか、笑ったらいいのか、分からなくて、クロエはぼんやりと宙を見つめていた。
 部屋の扉がノックされる。クロエは僅かに顔を上げる。
 ロイドさんだ。ロイドさんが、来て、そして、また、一緒に。
 だが、扉を開けたのは六十を過ぎた男である。

 ああ、なんだ。
 ちがうじゃないか。

 男は冷たい双眸でクロエを見下ろし、口元に嘘臭い笑みを浮かべた。
「客人がいらっしゃる前に君の食事を済ませておこう」
 男の後ろからぞろぞろと女達が入ってきて、白い皿の上に置かれた粘土細工を並べて去っていく。
「どうしたのかね、クレア。席につきなさい」

 クレアって誰。
 ロイドさんはどこにいるの。
 エマのおばあちゃんのケーキは。
 隣のおばさんの作るスープは。
 私がロイドさんのために焼いたパンは。

 クロエは小さく首を振る。男は訝しげにクロエを見つめた。クロエは怯えて震える。
 そうだった。
 ここを出られないんだった。
 悲しい。ロイドさんに、ロイドさんのところに、行けない。
「体調でも悪いのかね」
 かさかさとした骨のような手がクロエの額に触れた。クロエはそれを振り払おうともせずに宙を見つめ続ける。ずっとそこを見つめていれば、ロイドさんが居るようになるような気がした。
「熱は無いようだが」
 男はふむと唸って顎に手をやる。クロエは男を見上げた。
「帰りたいの」
「なんだね」
 小さな声が聞き取れなかったのか、男は眉を顰めて聞き返す。
「帰りたいの」
 底が抜け落ちて、全て流れ出てしまったクロエの中に残ったのはただ一つだった。
81栄耀、静寂、快楽:2009/11/14(土) 09:21:51 ID:onmZiQZG
******

 広々とした丘を風が撫でていく。死臭を孕んだ風が、墓標に乱されている。
 地味な夫に色狂いと評判の妻だ。もとより友人は少なかったのだろう。葬儀も終わり静まり返った墓場で、すすり泣くシンシアの肩を靴屋の主人が抱いていた。
 ロイドは心此処にあらずと空を見る。
「泣かないで、シンシア」
 靴屋の主人がシンシアの金髪を撫でた。シンシアも今日ばかりは地味な喪服に身を包んでいる。ロイドはそちらの方がよほど彼女に似合っている気がした。

「泣かないでシンシア。ティミーは私の子供じゃないんだから」

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。ロイドは靴屋の主人を見る。シンシアも同じような顔をして旦那を見ている。
「はは、知らないわけないだろう。私が、君のことで知らないことなんて何一つ無いよ」
 靴屋の主人は優しげに微笑んだ。顔を青くして旦那の体を押しのけようとするシンシアを、彼はより一層強く抱き寄せる。
「神父様」
 彼の白髪交じりの赤毛が風になびいた。答えあぐねたロイドの返答を待たずに靴屋の主人は続ける。
「私はね、妻を愛していますよ。何よりもだ。神に誓っても良い」
 気の弱そうな印象を受ける顔に恍惚の表情が浮かんだ。
「妻だって私を愛しています。その証拠に、何度不義を働いても私のもとに帰ってくる」
 ね、と靴屋の主人はシンシアに同意を求めたが、彼女は金髪を振り乱して首を振る。
 ロイドは二人の血走った様子に不気味な何かを感じた。

「ティミーはね、私の子供じゃないんですよ。ほら、貿易商のドラ息子がいたでしょう。赤毛の。あれが半分です」
 シンシアが目を剥いて激昂する。聞こえないかのように、うふふ、と靴屋の主人は墓前に手向けられた花を手に取った。
「でもね、私はティミーも愛していましたよ。だって、半分はシンシアだ。ティミーはシンシアの一部ですから」
 シンシアは暴れて口汚く旦那を罵る。気味の悪い男。気持ち悪いったらない。死んじまえ。
 だが、ロイドはこの恍惚とした告解を聞いていた。何より、うすぼんやりとしてると思っていた男の意外な様子に意表をつかれた。そして、何故か惹かれた。
「ティミーはいい子でしたよ。シンシアに似て、恥ずかしがり屋だけど根は素直で可愛い」
82栄耀、静寂、快楽:2009/11/14(土) 09:22:31 ID:onmZiQZG

 でもねぇ、と靴屋の主人は我が子を慈しむように手元の花を見つめていた顔をふと上げた。ぎらぎらと狂気じみた目をして虚空を睨む。
「そのドラ息子が死んだんですよ。阿片のやりすぎでね。そうしたら、一人息子を亡くした貿易商夫婦が何と言ったと思いますか」
 あの薄汚い豚共。と靴屋の主人はぎりぎりと歯を鳴らした。みるみるうちに目は血走り顔面は蒼白になる。シンシアは「ひっ」と小さく息を飲んだ。

「ティミーを寄越せだと!冗談じゃない!ティミーの半分はシンシアなのに!シンシアは私のものだ!肉の一片だろうが渡すものか!」

 シンシアはとうとう泣き出してしまった。泣きながら、旦那の腕の中から逃れようとする。
 それを、靴屋の主人はシンシアの肋骨が軋むほど強く抱きしめた。
「あんな豚共にやるくらいならば、こわした方がよほどましですよ」
 シンシアが目を見開いて旦那を見上げる。青ざめた唇をぱくぱくと金魚のように開閉している。
 靴屋の主人はにっこりと笑ってシンシアの髪に花を挿した。
 別に井戸に落としたわけじゃない。井戸に誤って落ちたティミーを、眺めていただけ。「助けて、お父さん!」残念だけど、君のお父さんは私じゃない。
 シンシアはがっくりと脱力して旦那の腕の中で死体のようになってしまった。
 彼はそれを子供をあやすかのように揺さぶった。
「さあ、帰ろう。そして子供を作ろう。半分は私で半分は君だ。私に似て、君のことが大好きな子供だ」
 靴屋の主人はシンシアを立たせると、抱えて引きずるかのように立ち去ろうとする。
 ロイドはその姿に一種尊敬にも似た感情を抱いた。とどまるところを知らない欲望。剥き出しの狂気。
 それらにいっそ神々しささえ感じる。
 靴屋の主人ははたと足を止めた。首だけで振り返り、ロイドに微笑みかける。
「シスター・クロエはアシュレイ郷のところですよ。雨の夜にアシュレイ郷の馬車に乗せられて行くのを見ましたから」
 ロイドはひゅうと息を飲んだ。
 次いで、穏やかに笑うと軽く会釈する。

「貴方に神の御加護があらんことを」
83栄耀、静寂、快楽:2009/11/14(土) 09:23:18 ID:onmZiQZG
投下終了
84名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 12:07:07 ID:nSZswu1q
もう少し丹念に描写してほしいとかあまり先急ぐように書かないでほしいとか
もっとねっとりと思う存分やってほしいとか余計な事を言いたくなるくらい依存させる気かッ!!
あんたみたいな書き手にはアルファベット二文字で充分だ。もう俺をこれ以上依存させるな!!

G J ! !
85名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 16:24:55 ID:YJgXMgmW
クロエ壊れた
86名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 03:43:11 ID:Z8NjMFI/
GJ!!
クロエ大丈夫だろうか
87名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 04:38:36 ID:W2B7dfni
クロエ?
クレアの間違いだろ?
88名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 09:30:42 ID:o9mtwx4a
>>87も壊れたか
しかし靴屋の主人も良い旦那だな。この物語で一番好きなキャラになったわw
最後のロイドの一言が巧すぎる。きっと靴屋の主人は幸せになれるに違いない
89名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 16:06:23 ID:L1NjV8hu
靴屋の主人にたぎった。こんな伏兵がいるとは…。
依存いいよ依存GJ!
90名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 16:20:25 ID:hq9PFCu+
靴屋の主人は、奥さんに依存してる自分に正直なのが好感持てるな。
91名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 22:58:03 ID:8XodGI9C
靴屋夫婦の馴れ初めとか読みたいな
ところで此処って過疎スレなの?
92名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 23:14:27 ID:W2B7dfni
>>91
そんな事ないんじゃない?
定期的に投下あるよ。
ただ、過疎スレだと思って練習程度に半端に書いて終わらせていなくなる奴が多いから人があまり寄り付かないんじゃない?
93名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 07:36:25 ID:PThBHqck
過疎じゃない、少数精鋭と呼べ
94名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 09:43:29 ID:sFdgmPkW
最近はどのスレでも過疎ってるだろ。
95名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 10:04:05 ID:itfNRb7+
規制の制もあるしな
96名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 22:56:49 ID:eERl2BMr
>>95
kwsk

何で最近規制多いんだ?
97名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 23:42:00 ID:oqiP84io
vipper達が運営板に突撃したとかなんとか
何でそんなことしてんのかは忘れた
98名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 23:42:12 ID:Hwl2TKK7
さすがVIP。
糞の集まりだな。
99名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 07:18:16 ID:VVAyxntr
彼らもVIPに依存しているのだよ
100名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 16:06:05 ID:ZRMOIikh
お得意様に依存してる店が、女の子を貢ぐ。
101名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 17:25:50 ID:p/NJDUOQ
>>100
悪いけどそれは依存ではない。
102夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:36:16 ID:erqo56o6
前の投下から少し日数が経ってしまい申し訳ないです。
投下します。
103夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:37:30 ID:erqo56o6
――ボルゾ。

――スケイプ。

――ミクシー。

一部の人間からすれば、この三種族はただのモンスター…。
今でもそういった差別が無くなる事はなく、人間しか入れない国も残念ながら多い…。

だからそういった差別の目から逃れる為に、田舎町に逃げてくるミクシーが後をたたないのだ。
都会に馴染めなくなったミクシーが田舎に来ること自体はなんら問題は無い。
逆に交流関係が大幅に広がるので嬉しいと言う人間の意見も多いはず。

実際人間とミクシーやスケイプが結婚する事だってあるのだ。

種族は違えど意志疎通ができるのだからお互い通じるモノはやはり持っている。

しかし、残念ながらモンスター(主にボルゾ)に知人や家族、恋人を殺された人間が数多く存在している事も事実。
そういった人間は、ボルゾに限らずミクシーやスケイプも皆同じに見えてしまうのだ。


俺も昔、最愛の人――母を殺された。
だから許せなかった…。
ボルゾであろうが、ミクシーであろうが、スケイプであろうが…。

この気持ちは変わることなく死ぬまで続くものだと思っていた。

あるミクシーの少女に出会うまでは―――――――――。
104夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:38:21 ID:erqo56o6

◆◇◆†◆◇◆





「こ、こらっ、メノウッ、こっちに来いっ!」

「きゃははは〜!」
狭い部屋の中を半裸で器用に素早く走り回る一人のミクシーの少女。
それを上半身裸の男が追いかける。
事情を知らない人間がこの光景を見れば間違いなく変質者だと勘違いされるだろう…。
しかし、俺は理由無しに少女を追いかけている訳では無い。
ちゃんとした理由があるのだ。



――簡単に理由を説明すると、妖精を見た帰りにミクシーの少女……メノウが俺の背中でやらかしたのだ。

走って家に帰り、メノウをお風呂にいれようとしたのだが、「ライトも一緒に入らないとメノウも入らない!」と、やらかした服のまま抱きついてくるので、仕方なく俺も一緒に入るハメに。

そしてお風呂を出た今――メノウにパンツを履かせようと一人奮闘している最中なのだ。

「はぁ、はぁ、メノウおまえっ、はぁ、はぁ。」

「むにゃ〜にゃっ、ふふ〜ん。」
俺のベッドに寝転び、おちょくった様にお尻を突き出して尻尾を振る。

その姿に少しだけイラッときたが、ここで追いかけるとまた走り回らないといけなくなる。
メノウの思うつぼだ。




「はぁ〜あ…。やめた、やめた…。」
105夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:39:18 ID:erqo56o6

めんどくさそうに呟く俺の言葉を聞くと、あれだけ振っていた尻尾がピタッと止まり、突き出していたお尻がゆっくりとベッドに沈んでいった。
お尻の代わりにメノウの顔がゆっくりと持ち上がる。

「言うことを聞かない悪い子はあれだな…」
薄い緑色の大きな瞳が俺の顔を凝視する。
それに耳が立っている……俺の言葉を聞こうと神経を耳に集中しているようだ。





――「ワンワンに来てもらわなきゃダメだな…」

「ッ!?」
その言葉を聞いた瞬間、物凄い勢いでベッドから飛び起きて俺の前へと移動した。

「わんわんいやっ、やっ!」
ワンワンを呼びに(実際はいないが)玄関へと向かう俺を必死に部屋の中に連れ戻そうとする。

「はい、はいたよ!メノウちゃんと一人ではけたっ!」
俺の手から猫柄パンツを奪い取ると、俺が見える様にわざわざ前に回り込んでパンツを履きだした。

「そっか…偉いなメノウ。
……ワンワン呼ばなくて良いのか?」

「わんわん呼ばなくていい!」

「本当に?」

「ほんと!」
本当に嫌なのだろう…目が潤みだした。
面白いのでもうちょっと遊びたいのだが、これ以上やると本気で泣き出す可能性があるので止める事にした。
106夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:40:21 ID:erqo56o6

「そっか、ならワンワンは呼ばない…。その代わり大人しくできるか?」

「うん……メノウ大人しくする。」
先ほどとは違い、尻尾も耳も項垂れている。
やっと落ち着いたようだ。
いつも素直なら楽なのに…と思いかけたが頭から消した。
素直が当たり前のメノウなんて想像できないし、今のメノウが一番メノウらしい。
俺が知ってるメノウは元気が取り柄のメノウなのだ。



「それじゃ、運動してお腹減ったし、飯にするか?」

「うんっ、メノウも手伝う!」
うつむいていた顔が元気よくあがる。
先ほどまでの泣き顔から一転、光るほどの満面の笑みがパァッと広がる。項垂れていた耳も、ピンっと上がった。
わかりやすいと言うか、純粋と言うか、食い意地がはってると言うか…。

「それじゃ、俺の特性ハンバーグを作るからメノウ、ボール二つ出して。」
まとわりつくメノウに手伝いをさせるために、戸棚からひき肉を混ぜる為に必要なボールを出すようにお願いする。

「メノウとライトのとくせいだからね!」
怒った様に声をあげながらも、素直に戸棚からプラスチックのボールを二つだして来てくれた。
107夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:41:38 ID:erqo56o6

この家のキッチンに俺以外の人(ミクシーだが)が立つのはいつ以来だろう…。母が死んでからずっと一人暮らしだったので、二人でキッチンに立つのが妙に新鮮に感じた。
横目でチラッとメノウを見る。
ボールを両手で持ったまま、次の指示を待つように俺の顔を眺めているメノウと目があった。

「ボールここに置いていいぞ。」
テーブルの上を人差し指で軽くコンッコンッと叩くと、指示通りその場所に二つのボールを並べた。

「はい、メノウえらい?」

「あぁ、メノウはいい子だな。」
頭を軽く撫でると、気持ち良さそうに目を細めて喉をクゥ〜と鳴らした。

その表情を見てどこか胸が暖かくなるのを感じた。
母もこんな感じだったのだろうか?
母の手伝いをすると何かする度に頭を撫でてくれた。
それが嬉しくて何度も母の手伝いを自分から進んでしていた気がする。
多分一人でする方が何倍も早かったに違いない。
嫌な顔一つせず、「ライトはいい子だね」と微笑む母の笑顔を今でもたまに思い出す…。

俺も母と同じように自然と笑えているのだろうか――?
108夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:42:45 ID:erqo56o6
「ライト?」
フライパンを持ったまま考え込む俺の肘をメノウが軽く引っ張る。早く料理を始めろと言う意味だろう。

「あぁ、悪い。」
使い古したフライパンをコンロの上に置き、服が汚れないようにメノウに着せるエプロンを引き出しから手早く引きずり出した。



――エプロン掴んだ瞬間、ふとある人物が頭に浮かんだ。
この家に一枚しか無いエプロン――母のモノは嵐の乱で母が襲われた時に母が着用していたので今はもう無い…。
無論俺もエプロンなどしない。
――じゃあ誰のかって言うと、俺にはホーキンズの他にもう一人幼なじみがいるのだ。
活発な行動力でいつも先頭を歩かなきゃ気がすまないぐらいの強気な性格。
喧嘩やゲームは勝たなきゃ気がすまない。
俺やホーキンズは毎日の様に引きずり回されていたっけ…。

今はもうこの町には住んでおらず、三年前に「ノクタールを守る事がこの地域一帯を守る事になるんだ。」と大口を叩いて町を飛び出しので、今も多分ノクタールにいるはず。
最後に会ったのが二年前の冬になるが、元気でやっているのだろうか?
二年前は城の雑用係だったが、今は何処まで登り詰めたのか…剣の才能はあったのでいいところまで行ってるだろう…。
109夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:43:27 ID:erqo56o6
まぁ、向こうは俺の事を忘れて楽しくやっているに違いない。
悲しいが会うことがあったとしても昔みたいに軽口を言い合える仲では無くなってしまった…。



何故かと言うと、二年前――俺は、そのもう一人の幼なじみに完膚なきまでに叩きのめされたのだ。
勿論、剣と剣との平等な試合で…。

今思い出しても情けない。
俺が振る剣が当たらないどころか、剣先すらかすりもしなかったのだ。いや…当たるとか、かする以前の問題で気迫負けしていた。

地面へと倒れ込む俺を見下ろしながら、俺にノクタールへ一緒に来いと小さく呟いた。
その返事を断った直後、後頭部に強い衝撃を受け、気絶してしまった。
最後に聞いたアイツの言葉は今でも忘れない。

――剣、捨てたら?貴方が持っていても誰も守れないんじゃない?

意識を取り戻したのはその3日後、協会の中だった。
神父が協会裏の花畑で倒れ込んでる俺を見つけてくれたそうだ。

――それ以来、アイツとは一度も顔を合わせていない。生きてるのか死んでるのか…。
110夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:44:16 ID:erqo56o6
いくらボコボコにされたからといって、死んでほしいなんて一度も思ったことは無い。
やはり昔の馴染みとして気がかりではあるのだ…。



「……ん?」

――昔の思い出に軽くふけっていると、隣下から動物のような鋭い視線を感じとった。
隣にはメノウしかいないので、無意識に隣にいるメノウへと視線を落とす。

……メノウが怒った様に俺の顔を睨み付けていた。

「あぁ、ごめん、ごめん。ハンバーグだったな。」
お腹をぐぅ〜っと鳴らしながら此方を睨むメノウにすまんと謝り、手早くメノウにエプロンを装着する。今から作り始めるのに既にメノウの口からはヨダレが垂れそうだ。

モヤモヤと頭に浮かんでくるもう一人の幼なじみの顔をハンバーグの映像で無理矢理かき消すと、メノウにボールの中にヨダレを垂らすなよ?と深く注意をし、メノウと初めての共同作業に行動を移した。
111夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:48:45 ID:erqo56o6


◆◇◆†◆◇◆




「なにッ!?まだバレンの船が海門を抜けていないだと!!」

「はい…海門兵によると、海門を抜けた船は三隻のみで三隻共にバレンとは違う国の船だと。」

「……ユードか……。」

「えぇ…間違いなく奴等はユードにいるものと思われます。奴ら、嵐が過ぎ去るのを待っているのかと…。」

「海門内の領土で、法を犯す行為を見過ごすわけにはいかん……嵐が過ぎ去る前に、騎士団をユードへ向かわせろ!」

「承知致しました。おいっ、将軍をここに呼んでこい!」

「はっ、只今!」



「バレンか……戦争だけは避けねばな…。」


――
―――
――――
―――――

ノクタール王国――東大陸唯一の王国で、全大陸で一番大きな大国として名を馳せている。
今は400年前から守られ続けている休戦条約のおかげで人間同士の大きな戦争はないが、小さな小競り合いは今でも多々ある状態…またいつ戦争が起きるか…。

平和と正義を掲げる我が国から戦争を仕掛ける事はまずないが、他国から戦争を仕掛けられれば此方も国と民を守る為に戦わなければならなくなる。
そうなればノクタールの周りに点在する村や町を巻き込まざるおえなくなる。
112夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:49:33 ID:erqo56o6

私の生まれ育った町――ユードも例外では無い。
自然に囲まれた町で、町の上には小さな協会がある。協会裏の花畑の丘から見える海は、どこから見る海よりも広く綺麗で神秘的な場所として有名だ。

戦争とは無縁の平和な町……私はその平凡な生活から飛び出して、ノクタール兵として生きている。
始めこそ女と言うだけで酷い扱いを受けたが、今では平民出の私にすれば、誰にも負けない強さと称号を手に入れたと思っている。

今私がいるこの城内にある一室も、国王陛下に用意して頂いた一室。
国王陛下からの信頼を得た私に、性別などもはや意味を持たなかったのだ。
同じ様に上へあがる者を叩き落として登り詰めた今の地位に不満は無い。最近では会議など重要な場での意見も許されるようになってきた。
しかし、私の心はいつも砂漠のように乾いている。
モンスターを殺しても盗賊を殺しても、勲章を手に入れても私の心を潤す物は何一つ無かった。

だから剣を降った。
無心になり剣だけでこの地位まで登り詰めた。
登り詰めたのに……何故か私の心は未だ鉛を背負った様に底に沈んだまま。
何かが足りない…何かが欠けている…私に足りないもの…。
113夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:53:07 ID:erqo56o6

脳裏に一人の男が浮かんだが、スグに底へと消えていった。
もう、私には関係ない…二年前の冬――私から切り離したのだから…。

私にはこの剣さえあれば生きていける…誰にも負けないこの剣と腕さえあれば――。




――コンッ、コンッ。

「副長様、将軍様がお呼びです…。」
扉を叩く音と共に扉の向こう側から男性の声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声――扉の向こう側に立っているのは大臣の一人だろう…。

「分かった、すぐに行く。」
そう扉の向こうにいる人物に話しかけると、私の返答に何の返答もせず、扉前からは人の気配がゆっくりと遠ざかっていった。

大臣の態度に少なからずイラつきを覚えたが、大臣と同等の地位に居座る平民出の女の私を気に入らない人間は城内に数多くいるのだ。
イチイチ相手をしていると頭が痛くなるので無視をしているが、影でコソコソと針でつつく様な行動には心底呆れている。

「はぁ……行かなければ。」
姫の護衛から帰ってきたばかりで少し休みたいのだが、将軍の呼び出しならそうも言っていられない…。
大きくため息を吐くと、先ほど置いた剣をもう一度腰に装着させ、静かに部屋を後にした。
114夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:54:05 ID:erqo56o6


◆◇◆†◆◇◆




「おい、おい……もう少しゆっくり食べろよ。別に誰もとらないから…。」
ハンバーグを作り終えた俺とメノウは今、少し遅い昼食を食べていた。
美味しそうにハンバーグを頬張るメノウ。食べている時のメノウは本当に幸せそうな顔をしている。
アンナさんがよく「私が作った料理をメノウに食べてもらうのが、一番楽しい」と言っているが、分かる気がする。こんなに美味しそうに食べてくれるなら、作りがいもあるだろう。
フォークとナイフをぎこちなく使い、小さく切ったハンバーグの切れはしを口に運ぶ……その姿を見ていると、どこか心が暖かくなった。

何も言わずメノウの頬についたデミグラスソースを布巾で拭き取る。
食べる行為を邪魔された事により少し眉間にシワを寄せたが、頬を拭き終わると何事もなかったかのように、また夢中でハンバーグを口に運び始めた。
――食べ初めから笑顔無言だったが、結局食べ終わるまでメノウは口から言葉を発する事は無かった。
115夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:56:16 ID:erqo56o6

昼食を食べ終えると、休憩することなく自分の食器を洗う作業へと移る。
こう言った小さな事を後回しにすると、何日も放置する事になるからだ。

勿論メノウの食器はメノウに洗わせる。
メノウは俺の横に立って楽しそうに洗っているが、正直この時間が一番めんどくさい…。
今は暖かいから問題ないが、冬になると水の冷たさも相まって水に触れるのも嫌になる。
主婦はこれを毎日してるのかと思うと感心の一言だ。

「よし、終わッぐッ!?」
最後にコップを洗い終え、タオルで手を拭いていると、メノウが俺の腹へと飛び込んできた。先ほど食べたハンバーグが逆流しそうになるのを寸前の所で耐える。

「今からお花畑いこっ!」
お腹に頭を擦り付けるメノウを押し退け、大きく息を吸う。
先ほど昼食を食べたばかりなのに、何故こうも元気なのか…。メノウの辞書には「休む」と言う文字が無いようだ。

「少しだけ休ませろ。」
メノウに満腹で今は動けない事を告げ、ベッドの方へと一人歩いていく。
メノウの口から不満の声が聞こえたが、今は何もする気が起きないのだから仕方がない。
116夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:57:59 ID:erqo56o6

メノウの声を無視し、ベッドに仰向けで寝転ぶ。
メノウから何らかの追撃がくると予想して腹筋に力を入れたのだが……何故かメノウからの追撃がいつまでたっても来ない。

不思議に思いメノウに視線を送ると、扉の方を見つめて、何も言わずに立ち尽くしているのが視界に入ってきた。
尻尾はまったく動いていないのだが、耳がピクピク上下に動いているので、何かを聞き取ろうとしているようだ。
メノウが見ている扉を同じ様に見るが、これていっておかしな物は無い。


「よっと………どうした、メノウ?」
ベッドから立ち上がり、メノウの背後へと近寄る…。



――バンッ!!

その瞬間、扉が勢いよく開けられ外から一人の老人が転がり込んできた。
その光景を見たメノウはビクッと飛びはね、俺の後ろへと隠れると、目を見開いて男性を凝視した。

「ラッ、ライトッ!」
勝手に入ってきた老人はメノウの行動に見向きもせず俺へと近づいてくる。

「な、なんだよっ……てっ、町長さんじゃないですか。」
いきなりの事で誰かなんて確認できなかったが、近くに来てようやくこの町の町長だと気付いた。
117夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 05:59:22 ID:erqo56o6

人の家にノック無しに転がり込んでくるなんて町長だろうが、なんだろうが許される行為では無いのだが何か理由があるのだろう…。
かなり急いで走ってきたのか、呼吸困難に近い症状がでている。

理由を聞く為に町長に話しかけようとすると、此方から話しかけるより早く町長が一言叫んだ。

「モンスターが町に!!」
町長のその一言で事の重大さが分かった。
町長の驚きよう…多分民家が密集してる場所にモンスターが現れたに違いない。
民家沿いにはコンクリートの壁でモンスターが森から町に侵入出来ないようにしているのだが、どこか亀裂が出来てそこから入ったのかも知れない。

(そんなこと後から考えればいい…まずはモンスターを何とかしないと…)
今は亀裂がどうのとかの問題ではない。
一刻の有余も無いのだ。

「わかりました!その場所に案内してくださいっ!」
壁に立て掛けている剣と木製ボーガンと矢を数本掴むと、防具を着けずに外へと飛び出した。

「メノウ、すぐに帰ってくるから家で待ってろッ!」

「やだ!!メノウも行く!」
そう言うと裸足のまま、俺の後を追いかけてきた。

「くっ……メノウ…後から花畑に連れてってやるから…なっ?」
118夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 06:01:08 ID:erqo56o6

立ち止まり大きな声で怒鳴りそうになったが、メノウを諭すように小さく話しかけた。

「いやっ!ライトそれ持って危ないことするんでしょ!?だからダメ!!」
そう言うと俺の腰に抱きつき先に進めないように踏ん張った。
メノウの言うことは分かるがこんな所で言い合いをしてる場合では無い。

「町長さん、モンスターが出た場所を教えてくださいっ!!」

「えっ?こ、この坂を降ったマーリンの店前だが…」
嫌な汗が額を流れる…。
マーリンの店の隣にホーキンズの店があるのだ。

「町長さん!終わるまでメノウをよろしくお願いします!!」
そう言い放つと、メノウを無理矢理引き離し、町長に預けた。

「やっ!ライト!ライト!!メノウもッ!待って、置いていかないで!!」
後ろで泣き叫ぶメノウを置いて、全速力で坂を走って降る。
メノウの声に胸が酷く痛んだが、今はホーキンズの方が心配だ…。

――十分ほど走ると、人々が反対側から逃げるように此方に走ってくるのが目に入った。それと同時に女性の悲鳴や、男性の叫び声も数多く聞こえてくる。


「はぁ、はぁッ、み、見つけたっ、アイツか!!」
道路の真ん中で大暴れしているモンスターを視界に捕らえた。
119夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 06:02:04 ID:erqo56o6

全身黒い毛で覆われており、目は血を吸ったように赤く、牙は鋭いナイフのように尖っている。身長は一メートル程しかないが、一目で凶暴な純モンスター=ボルゾだと判断できた。

爪には人が着ていたであろう衣服の切れはしが引っかかっている…。
ボルゾの周りを確認すると男性と女性の二人が倒れているのが目に入った。
ボルゾにやられたのか……生きてるかどうか分からないが、早く助けないと。

有難い事に向こうはまだ、俺の存在に気がついていない…ソッと手に持っているボーガンを目の前に持ちあげ、矢を三本、箱から取り出す。

ボーガンに矢を装着すると、ゆっくりとボルゾにボーガンを向けて、狙いを定める。



(まずは…右足だ…)




――「グギァッ!!?」
勢いよく放たれたボーガンの矢は、狙い通りボルゾの右足に突き刺さった。
その瞬間、ボルゾの赤い目がギロリと此方を睨み付けた。
その目に怯まず、もう一本矢を装着させた。
そうこうしている内に、ボルゾの標的が俺へと変わる。

此方に走り寄ってくるボルゾにもう一度ボーガンを向けて、狙いを定める。



(次は…左足…)
120夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 06:03:10 ID:erqo56o6

――「グャガァッ!!?」
放った二本目の矢も狙い通り左足に突き刺さる。
ボルゾのスピードが落ちたと思うと、その場へ無防備に倒れ込んだ。



――「おおぉおぉぉ、スゲェー!!」
周りから歓声が沸き上がるが、それを無視してもう一本の矢をボーガンに装着する。
足を狙って動きを鈍くさせただけで、まだ生きているのだ。

「ぐるるるるッ……」
案の定ボルゾはゆっくりと立ち上がり、此方を睨みつけている。
死んだと思い込んでいた周りの民衆からは驚きの声と悲鳴があがった。

ボルゾが立ち上がる事は想定内の出来事……大きく深呼吸をして、最後の矢が装着されたボーガンをボルゾに向ける。

(ふぅ…最後は頭だ…)

ボルゾも俺だけをターゲットにしたようだ…周りの声に耳を貸さず此方だけを睨み付けている。

ボルゾが二足歩行から四足歩行へと変わる。

ボルゾと俺の距離は、二十メートルほど…三秒もあれば俺の元へと来るだろう…。




「ぐがぁあぁぁぁ!!」
大きな雄叫びをあげると、勢いよく此方に突進してきた。

冷静さを失えば間違いなく殺される…ゆっくりと息を止めてボルゾの眉間へ狙いを定める。
121夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/20(金) 06:07:05 ID:erqo56o6



「(今だッ!)……ふっ!」
小さく息を吐くと、二メートル程に迫ったボルゾの眉間目掛けて、強く矢を放った――。



「ガァッ!」
勢いよくボルゾの眉間に突き刺さった矢――ボルゾの頭が不自然に後ろに仰け反る。

その隙を見逃さなかった。



「ああぁあぁぁっ!!」
腰に着いているホルダーから剣を抜き、ボルゾの首へ目掛けて一閃する。

その瞬間、ボルゾの首から上だけが綺麗に跳ね飛び、体は少しの間さ迷った後、その場に無造作に倒れ込んだ。

「………ふぅ…」
倒れ込んだボルゾの体を見下ろす。
先ほどの様に起き上がることは愚か、ピクリともしない。
息絶えたのだろう――張り詰めていた緊張の糸が緩み、ようやく普通に呼吸ができるようになった。


ここでもう一度周りから歓喜の声があがる予定だったのだが――ボルゾを退治して気が緩んでいた俺はもう一匹ボルゾが潜んでいる事に気がつかなかった。

その事実に気がついた時にはすでに遅く、振り向いた時にはもう、ボルゾが俺の背後へと迫っていた。




――「危ないッ!!」

剣を構える暇もなく、ボルゾの鋭い爪が容赦なく振り下ろされた――。
122名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 06:08:44 ID:erqo56o6
>>83
GJです。いつも楽しみにしています。

これで投下終了です。
ありがとうございました。
123名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 08:48:42 ID:/hm3c7wj
待ってたよ。メノウいいな
124名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 12:54:44 ID:oEX3gChe
GJ!

春春夏秋冬の続きもみたいなー
125夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:17:39 ID:xPqnGh2Q
投下します。
126夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:20:37 ID:xPqnGh2Q

ノクタール宮殿の中には二百近くの豪華な部屋があるが、本来私如き平民が出入りできる部屋ではない。

王族の親類がいくつかの部屋を使っているようだが、意味を持たない部屋も数多く存在する。
何らかのパーティーが行われる際に遠くの国から来られる貴族にも定期的に貸し出されているようだが、それでも何十年と使われていない部屋は腐るほどある。
しかし、どの部屋もゴミは愚か埃や塵一つ落ちてはいない徹底ぶり。


その現実離れした宮殿の通路を私は一人歩いていた。

大きな城なので、三年経った今でも宮殿の中で迷うことがあるのだが、将軍が居る部屋は決まって同じなので迷うことなく行ける。
通路を歩いていると突き当たりに一際豪華な扉が視界に入ってきた。
私が覚えている数少ない宮殿の中の一室――アルベル将軍の私室――。

その扉の前に立ち、身だしなみを整えると、右手で優しく扉を四回ノックをする。


――コンッコンッ、コンッコンッ。


「誰だ?」
ノックをした数秒後に部屋の中から男性の声が聞こえた。
勿論部屋の中に居るのはアルベル将軍。
アルベル将軍の問いかけに声を張って答える。

「私です。騎士団副長のティーナです。」
127夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:24:45 ID:xPqnGh2Q

――本名はロゼス・ティーナと言うのだが、皆の中ではティーナで通っているのでアルベル将軍にも伝わるはずだ。
案の定部屋の中から一言「入れ。」と聞こえてきた。


「はい、失礼します。」
そう言うと、ゆっくりドアノブを回して部屋の中へと一歩入る。

――部屋の中へと入ると、真っ先にイスに腰を掛けたアルベル将軍が視界に入ってきた。
黒い短髪に、鋭い切れ目。綺麗に着こなした服装は一目で貴族だと分かるだろう…。

何やら書類に目を通しているようで、難しい表情を浮かべている。

政治の事はあまり分からないが、アルベル将軍と参謀の二足のわらじを履いているので人一倍忙しいのだろう…。
一番国の為に尽くしているのは間違いなくこの人だと言える。

忙しそうに書類に目を通すアルベル将軍を見て少し時間がかかりそうだと感じた私は、アルベル将軍から少し目を離して周りを見渡した。

アルベル将軍がいる机の隣には大きなノクタール騎士団の旗が飾られている。
真っ白な旗に大きな盾が描かれており、その真ん中には剣をクロスした赤十字の絵が描かれている。この赤十字こそ我らノクタール王国の象徴。
128夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:26:20 ID:xPqnGh2Q

ちなみにノクタール王国の紋章は平和の意味合いを込めて、剣ではなく天使の羽根が描かれている。

「ふぅ…すまん。待たせた。」
声につられてアルベル将軍の方へと再度顔を向ける。

「いえ、それで用とは?」
単刀直入に用件を聞くと少し苦笑いをされてしまった。

「八日前にバレンの店を出店禁止にしたのを覚えているか…?」

「えぇ、覚えてます。」
八日前、このノクタール王国の城下町――コンスタンでノクタール王国生誕100周年を記念するパレードが盛大に行われた。

各国からコンスタンに大勢の商人が押し寄せ、規制して見回るのに物凄く苦労したのを覚えている。
その中には良からぬ物を商売に稼ごうとする輩も数多くいた。その中にサーカスと言う項目で怪しい生物を見せていると通報を受けたのだ。
その店がバレン国の店だった。

無論直ちに辞めさせ、テントを撤去させた。
バレン側に滞在の期間を少しの間に与えて、三日前にノクタールを出て国へと帰ったはずだが…。

「バレンが未だに海門を通過していないそうだ。」

「……どういう事ですか?」

「海門前にあるユードの町で滞在している恐れがある………いや、間違いなくユードにいるだろう。」
129夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:27:15 ID:xPqnGh2Q

ユードと言う言葉を聞いた瞬間、浮かび上がる故郷の景色と、馴染み深い男の顔と声が頭の中で再生される。




――ティーナは剣を振るのとハンバーグを作るのだけは上手いな。


(別に何の感情も湧かない……もう昔の事…)

「ティーナ副長?」
アルベル将軍の声で現実に引き戻される。

「いえ…何でもありません。」
そうアルベル将軍に言うと、誰に言われる訳でもなく自分から姿勢を正した。

昔を引きずるのは辞めよう…。
私はノクタール騎士団副長なのだ…故郷を捨ててノクタールの民となったのだからノクタールが故郷だ。

「そうか…ティーナ副長は確かユード出身だったな。」

「…」

「……まぁ、いい。」
私の返答が無いことを察してくれたのか、追求せずイスから立ち上がり、部屋の隅にある鎧へと手を掛けた。

「今からユードへと向かう。東海域に嵐が近づいている為に船は出せない……意味が分かるな?」

「はい…。」

「よし…それでは兵を集めろ。」

「わかりました。それではまた後ほど…。」
アルベル将軍に深く頭を下げ、部屋を後にする。

――二年ぶりに故郷へ帰るというのに、その事実は底無し沼に沈んだ様に私の心を酷く憂鬱にさせた。
130夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:28:18 ID:xPqnGh2Q


◆◇◆†◆◇◆



「いやぁ〜、危なかったですね〜?」

「な、なんだ…何が起きたんだ?」
俺の前には何故かボルゾでは無く、白衣を着こんだ男が立っている。
髪は金髪のボサボサで眼鏡を掛けており、歳は分からないがえらく老けて見えるのだが…。

何が起きたのか今一分からないが、このヘナヘナした男に助けられようだ。

「てゆうか早くトドメささないと、また暴れますよ?」
そう言うと俺の後ろを指差した。
意味が分からず後ろを振り向く…。

「……なっ!!?」
そこには何故か自分の顔を押さえて、悶えるボルゾの姿が…。

「ギャアァガッアガウアァアガァアッ!?」
かなり苦しそうだ。
いったいこの白衣のオッサンは何をしたんだ…?
ボルゾから目を離し白衣のオッサンに視線を移すが俺の顔を見ながらニコニコと笑っているだけで何も話さない。

(まぁ…今はボルゾを片付けよう。)

また暴れだしたら敵わないので、悶えるボルゾの喉を力を込めて剣で一突する。
あれほど苦しんでいたボルゾは急所を突かれると、小さな悲鳴をあげて、あっけなくその場に倒れ込んだ。

次はちゃんと注意深く周りを見渡す……ボルゾはこの二匹だけのようだ。
131夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:29:45 ID:xPqnGh2Q

「いやぁ〜、凄いですねぇ〜?黒ヒヒを二匹も倒すなんて…。」
そう言いながら無防備に此方に歩み寄ってくると、俺を通り過ぎボルゾが倒れ込んだ場所まで歩いていく。

「これ、ちゃんと効きましたね?」
そう言うと何か小さな袋を俺に見せた。

「なんだ、それ?」

「まぁ…目潰しみたいな物ですね。試したことが無かったので一か八かだったんですが…。まぁ結果オーライって事で。」
立ち上がりその袋を無造作にポケットに放り込んだ。

「それじゃ、あんたがそれをボルゾに投げつけて助けてくれたのか?」

「まぁ、そうなりますね。」
誇らしげに頭を掻くと、眼鏡をクイッと中指で上げた。

何にしろこのオッサンの助けが無かったら、今頃死んでいたかも知れない。

「そうか…助けてくれてありがとう。感謝する。」
礼の言葉を述べ、頭を下げる。

「別に構わないよ。人は皆助け合わなきゃね。それよりあの二人は大丈夫かな…。」
心配そうに道路に目を向ける。
そこにはボルゾにやられた人が横たわっていた。
ボルゾと戦う事に必死で忘れていた…早く助けなければ。
132夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:30:51 ID:xPqnGh2Q

倒れている二人に走りよって行くと、周りの民衆も戦いが終わったと気がついたのだろう…。
何人かの男が此方に走りよって来た。

正直、医学の事に関してはまったくの無知なので、二人の状態が今一よく分からない…。
白衣のオッサンに目を向けるが大きく両手でバツを作り医者では無いことを知らされた。
仕方なくもう一度倒れている人に目を向ける。
動かしてもいいのか、一刻も早く診療所に連れて行かなければならないのか…。
少しの間悩んだ結果、近くに来た男達数名に二人を診療所へ運ぶ事をお願いした。

「まかせとけ!」と快く男達は承諾すると、俺とボルゾが戦ってる間に布の担架を持って来ていたみたいで、それに二人を乗せて診療所へと向かった。


「大丈夫ですよ…。助かります。」
後ろから白衣のオッサンに声をかけられ肩を掴まれる。

気休めにしか聞こえなかったが、その気休めが気持ちを楽にしてくれた。



――「おい、ライト大丈夫かッ!?」
聞き慣れた声に名前を呼ばれて後ろを振り替えると、此方にエプロン姿のホーキンズが走ってきた。

「おぉ、ホーキンズ無事だったか?」
ホーキンズを見る限り何処かを怪我してる様な素振りは無い。
133夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:31:51 ID:xPqnGh2Q

「あぁ、俺は大丈夫だよ。ってゆうか一部始終見てたぞ?おまえスゲェーじゃねーかっ!!」
一部始終見てたなら助けに来いよと少し思ったが、自分の事の様に喜ぶホーキンズを見て何故かホッとした。

ホーキンズの笑い声に緊張が中和したのか、周りの民衆からも歓声と大きな拍手を頂いた。

「ライト大人気だな……ってゆうかお前ら二人知り合いだったんだな?」
恨めしそうに呟くが命を張って倒したんだから文句を言わないでもらいたい。

「……ってゆうか知り合いってなんだ…?」

「いや、ハロルドだよ。」
ホーキンズが指差す先には……白衣のオッサンが立っている。
この白衣のオッサンがハロルドって名前なのか?

「いや、今会ったばっかりだけど?」

「ふ〜ん、まぁ、いいや……明日自己紹介するのめんどくさいから今紹介するよ。
このハロルドがお前の悩みを取り除いてくれるかも知れない人だ。」
ホーキンズが馴れ馴れしくハロルドの肩に手を乗せる。ハロルドはそれを嫌がる訳でもなくただ笑っている。
知り合いと言うのは嘘では無さそうだ。

しかし、俺の悩みを取り除いてくれるかも知れない人って言うのはどういう意味だ?
134夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:33:12 ID:xPqnGh2Q

こんなオッサンに打ち明ける悩みなんて持っていないが…。

「なんだお前…?今日の朝の出来事をもう忘れたのか?」
ため息を吐き、少し呆れた様に呟くホーキンズの言葉を聞いてやっと分かった。


「妖精の事…か?」
恐る恐るホーキンズに聞き返すと、満面の笑みで親指を立てた。

(マジか…?)
確かに見た感じ変な物を集めてる感じはする…。
ボルゾを怯ます程の薬を持っている辺り、そっちの話しもかなり詳しそうなのだが…どこか胡散臭い…。

助けて貰って悪いが、大丈夫なのか…?とホーキンズに聞いてみたくなるほど胡散臭いのだ。

「ほ〜……妖精ねぇ………もしかして中央広場の事かい?」

「おぉ、知ってんのか?なら、話しが早い。コイツ俺の幼なじみでライトって言うんだけど、妖精の事で聞きたいことがあるらしいんだ。」
ハロルドの横から俺の横に移動すると今度は俺の肩に手を置いた。

「別に僕はいいですよ?何を聞きたいんですか?」

「いや…あの…ここじゃちょっと…。」

ハロルドの問いかけにしどろもどろになる。
こんな人だかりが出来ている場所で話せる事では無いのだ。
万が一誰かに聞かれたら恥ずかしくて死ぬ。
135夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:33:58 ID:xPqnGh2Q

「何を恥ずかしがってんだよ…コイツ、妖精から助けを求められたんだってよ?
しかも会話じゃなくて頭の中に直接話しかけられたらしいんだよ。」

「ホーキンズッ!」
ホーキンズを睨み付け会話を止めさせようとすると、先ほどまで笑顔だったハロルドが顔をしかめた。

「どうした、ハロルド?」
ホーキンズの問いかけに答えず、そのまま下を向いて考え込むと、何も言わず黙ってしまった。
ホーキンズもハロルドの行動の意味が分からないのだろう……俺に「なにしてんのコイツ?」と言った感じの視線を送ってくるが、二十分ほど前に初めて会った人物の行動なんて把握できる訳がない。
おまえの知り合いなんだからお前が状況を把握しろと小さな声で言いかけた時、ハロルドがゆっくりと顔をあげた。

「それって無理矢理連れ去られた……って事だよね?」
先ほどとは違い、真剣な眼差しと口調で俺へと話しかけるハロルド。
あまりにもガラッと雰囲気が変わったので一瞬二重人格かと思ってしまった。

「あぁ…多分そうだな…ここから逃してって言ってたし…。」
テントの中で妖精に言われた言葉をそのままハロルドに言う。



――「そっか………わかったよ。」
136夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:35:02 ID:xPqnGh2Q

ハロルドが悟ったように小さく呟いた。
解決の糸口を掴んでくれたのかと思い、ハロルドに近づき内容を聞こうとすると、とんでもない事を口走った。




――「君の悩みは妖精をどうしたら助けに行けるか……だねっ!?」
自信満々に言うハロルドの言葉に近づきかけた足が止まる。


「は……?いや、ちy「あぁ、そうだっ!」
俺の言葉を遮るように、ホーキンズが前にでる。

「やはりそうでしたか…。それなら私も協力致しましょう…。バレンの船がこの町から出港するのは嵐が過ぎてからですので、まだ時間はあります。また明日詳しく話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、良いぜ。明日の朝に俺の家に来いよ。それからライトの家に行って作戦会議だ。」

「分かりました。それでは私はこれで。」
そう言うとハロルドはそそくさと人混みの中へと消えていった。
話しに取り残された俺はハロルドが去った道を見ながら一人呆然としていた。

助けに行く…?
誰が?

「おい、ホーキンズ…。」

「んっ?なんだよ?」
ハロルドに手を振っていたホーキンズが俺の声と共に此方に振り返る。

「妖精を助けるって……誰が助けるんだよ?」
137夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:36:44 ID:xPqnGh2Q

「そんなの決まってんじゃん……俺達三人だよ。」
当たり前の様に言うホーキンズの話しを何処か他人事の様に思えてきた…。
コイツは頭がおかしいのか?
バレンの兵士がわんさかいる中、妖精をどうやって助けにいく。

絶対に殺されるだろ…。

「じゅあ、まだ仕事が残ってるから行くわ。また、明日なっ!」
身勝手にそう言い放つと、俺の返答を聞かず自分の店へと引っ込んだ。

「また明日って……マジかよ…。」
確かに俺から悩みを打ち明けたのだが、まさかここまで話が飛ぶとは思ってもみなかった…。
ホーキンズの事だ……間違いなく明日の朝早く、俺の家に来るに違いない。





――「おぉ、ライト。やってくれたかっ!」
明日のホーキンズ対策を考えていると、騒がしい野次馬の中から、町長が姿を現した。

「えぇ…そこに転がってるボルゾ、二匹だけのようでした。」

死んでいるボルゾを指すと、町長が恐る恐る首から上が無いボルゾに近づき生死を確認している。
首から上が飛んでいるのだから死んでいるに決まっている。
最後のボルゾも首を跳ねてはいないが急所を突いたので息絶えているはずだ。
138夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:37:28 ID:xPqnGh2Q

「もう、死んでますから大丈夫ですよ…」
そう言うと安心したのかボルゾの体を憎たらしそうに町長が蹴り飛ばした。

「このっ、くそったれっ!」

「おっ、俺もっ!」
町の皆が町長の行為を見て次々にボルゾの屍を蹴って行く。

醜い――単純に一言頭に浮かんだ。
殺した張本人が言う事じゃないが、こういった光景を目の当たりにすると人間は本当に弱く汚い生き物だと実感させられる。

この気持ちは純粋なメノウに会った時からより一層強くなった気がする。



「……メノウ?」
ふと、町長の方を見る…。
皆に混ざりボルゾを蹴る事に一心不乱になり周りを見ていない。

確か、この場所に来る前に町長にメノウを預けたはず…。

「町長さん…メノウは何処ですか?」

「はっ?メノウ…?」

「ここに来る前に町長に預けた女の子だよっ!」
俺の声に蹴り続けていた民衆の足が止まる。

「あ、あぁ…あの子なら、ワシの手を振り払っておまえの家へと泣きながら逃げ込んだぞ?」

「そうですか…分かりました。町の裏にある壁に何処か亀裂ができてるのかも知れません…。
早急に確かめないと次々にボルゾが町に入ってきますよ?」
139夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:39:45 ID:xPqnGh2Q

町長の顔色が一瞬で青ざめる。周りの人間も同じ様に焦っている。

「それでは俺はこれで…失礼します。」

「おっ、おいっ、ライトッ!」
町長の言葉を無視して、走り出す。

町長に「子守もできねーのか!」と怒鳴りたかったが、預けた俺もかなり軽率だった…。

メノウは俺、神父、アンナさん以外に心を開かない事をすっかり忘れていたのだ…。



――二十分ほど走るとようやく自宅に到着する事ができた。
行きは降り坂なので早かったが。帰りは上り坂&ボルゾとの戦闘での疲れで、倍近く時間がかかってしまったのだ。


(…すぅー…はぁ〜…すうー…はぁ〜……よしっ…。)
扉の前で大きく深呼吸をすると、ゆっくりと扉を開けて中へと入る。

当たり前の事だが、部屋の中は飛び出して来た時と何ら変わりはしなかった…。
メノウの姿を探す為にまずベッドの上を確認する。

(あれ…?いない…)
ベッドの中で膨れているか、泣いているかのどちらかと思っていたので、少し不安を覚えた。
ゆっくりと奥へと進んで行き、一番奥にある風呂場を確認するが、そこにもメノウはいなかった。


(なんだアイツ…協会に帰ったのか…?)
140夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:41:08 ID:xPqnGh2Q
そう思い、協会に様子を見に行くために家を出ようとした時――ガタッと何かがぶつかる音が聞こえた…。

「…」
音が聞こえた方へと近づく――物音が聞こえた場所…それは一番始めに確認したベッドだった。
(ベッドの下か…)
そう思いベッドの下を恐る恐る覗き込む…。



(はぁ……いた…)
予想通り、ベッドの下に潜り込んで小さく丸まっていた。
心なしか震えている気がする…。

「メノウ…帰ってきたぞ?」
優しく話しかける…がメノウからの反応は無い。
それどころかより一層メノウの震えが増すばかり。
流石におかしいと思い、右手をベッド下に突っ込んでメノウを引きずり出そうと考えたのだが、体をビクつかせたので止めた。

「ほら…メノウ…花畑に行くんだろ?早く出てこいよ。」
もう一度、メノウの背中に話しかける…やはり返答が無い。


(ただ、単に拗ねてるだけか?)
そう判断するか少し迷ったが、こんな事は初めてなので、よく分からなかった。

(仕方ない…か…)
機嫌が良くなれば出てくるだろう…。そう考えた俺は、メノウが自分で出てくるまで待つ事にした。
メノウから目を離しイスを取りに行くために立ち上がる――






――ママ…パパ…
141夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:42:04 ID:xPqnGh2Q

「ッ!?」
小さな泣き声に体が硬直する。
今の声は間違いなくメノウの声だ。
もう一度座り直し、ベッド下にいるメノウを確認する。

背中しか見えないが水でもかけられた様に震えている。
ベッドから毛布を取り、音を立てずに俺もベッドの下へと潜り込んだ。

「メノウ…」

「ッ!?」
メノウの後ろに着くと後ろから優しく頭を撫でる。
その瞬間体をビクつかせ、より一層体を小さく丸めた。

「大丈夫、俺は何処にも行かないから…。」
そう耳元で呟くと、初めて声がメノウの耳へと届いたようにゆっくりと此方に振り向いた。




「ラ…イト?」
俺の顔を見て、初めて俺と確認出来た様に呟く。
その目は真っ赤に充血し、瞼が少し腫れている…かなり泣いたようだ。髪の毛もかなり乱れている。


「ラ、ライトッ……ヒッ…うぇっ…ッ…うわあぁあぁぁあぁぁんッ!!! 」
俺の顔を確認すると安心したように大声で泣きだした。
狭いベッドの下でメノウを引き寄せると、胸にしがみついて来た。
「ライドッ…うッ…うぅっ…ライトぉ…ヒックッ…もうっ…置いてッ…ヒッ…いかなっ」

「分かってるよ…分かってる。」
142夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:43:06 ID:xPqnGh2Q

メノウの背中に手を回し背中を撫でていると、ふと端に何かの塊の様な物が視界に入ってきた。



(あれは………メノウ吐いたのか…)
昼に食べたハンバーグを全て吐き出してしまったようだ…。

まさかここまで酷い事になるなんて思ってもみなかった…。
しかし、モンスターが暴れている場所にメノウを連れていく訳にはいかない……一体どうすればよかったんだ?
頭の中で答えを探すが一向に答えは出てこなかった。

(今はメノウの事だけを考えよう…ボルゾの事も妖精の事も忘れて…。)

「メノウ…ベッドで寝よっか?ここ狭いだろ?」

「…」
小さく頷くと俺の服を掴んだまま、ゆっくりとベッドの下から這い出てきた。
二人一緒に立ち上がると、メノウをベッドへと寝かせる。
メノウが吐いた物を片付けないと…。
そう思いリビングに向かって歩いたのがいけなかった。


「ライトまってッ…やだっ!、メ、メノウも行く!!」
パニックを起こしたメノウが俺の服を掴み、しがみついてきた。

(これは無理だな…仕方ない。片付けは明日すればいいか…)
今のままメノウを離すのは正直危ない気がしてきた。
それに、アンナさんが帰ってくるまでに何とかしないと…。
143夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:44:25 ID:xPqnGh2Q

(それにしても、アンナさんや神父はこんなメノウを毎日見ているのか…?)
いや、あり得ない。
こんな状態が毎日続くとメノウ本人が壊れてしまう…。

それに、メノウの口から親の事を聞くのは今日が初めて…アンナさんが言うようにメノウが親を恋しく思うような挙動は今までまったく見られかった…。

だとすると、一時的に精神不安定になっただけなのか…?
しかし、十四歳とは言え、メノウの精神年齢はまだ五歳なのだ。
五歳の子供が親を恋しく思うのは当たり前じゃないか…。

「それじゃ、寝るか…?」
今日ぐらいメノウの父親になってやろう――明日になれば、アンナさんが帰ってくる…母親代わりのアンナさんが帰ってくればメノウの精神も落ち着くだろう…。
そう考え、メノウより先にベッドに寝転ぶ。
すかさずメノウも俺の横に寝転ぶと、半分俺の上に乗るようにしがみついてきた。
これでメノウが安心するなら問題はないのだが……何かに怯えるメノウの姿を見て頭にある一つの考えが浮かんだ。

推測だが、メノウは人が突然居なくなる事で親の事がフラッシュバックするのかもしれないと…。
144夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:45:08 ID:xPqnGh2Q

突然居なくなる=戻ってこない…。
信頼していた親が突然居なくなり、知らない土地に置き去りにされたら誰だって状況なんて理解出来る訳がない…。今でもメノウは親が迎えに来てくれると信じきっている…。
そう考えると見たことも無いメノウの親に強い怒りを覚えた。
どんな理由であれ自分の娘を捨てるなんて…。

メノウの顔を見る…メノウも同じ様に俺の顔をジーっとを見続けていた。
何処かに行かないか、監視をしているように…。

「大丈夫だから…何処にも行かないから…ちょっと疲れただろ?少しの間寝よう。夜飯になれば起こしてやるから。」

「……どこにもいかない?。」

「あぁ、絶対に行かない。」

「……うん…」
納得したように目を瞑ると、胸の上で小さく寝息をたて始めた。


(これで一安心だな…)
妖精――ボルゾの侵入――メノウの事――今日一日えらく濃い日になった。
もうこんな日はごめんだな…と小さく呟き、メノウと同じ様に目を閉じた。





――…ママ…うぅ…。

「……」
――夢でも見ているのだろうか…?
アンナさんが言うように、寝ている間メノウは涙を流しながら愛する親のことを呟いていた――。
145 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/21(土) 19:46:57 ID:xPqnGh2Q
ありがとうございました、投下終了します。
今月中には春春夏秋冬の続きも投下させてもらいます。

では。
146名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 23:16:02 ID:qk18xHuK
すげえ……
なんでそんなに筆が早いんだ。なんでそんなに登場人物出せるんだ。
俺はメインの2人+αでいっぱいいっぱいなのに……素直に凄いなあと思います。夢の国の世界観好きです。楽しみにしてます。

そんな俺は4ー263。
とりあえず明日続きあげます。分量少なくて恥ずかしいですが、一応予告しておきます。
147名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 03:44:49 ID:+SDkQ0BH
二人とも頑張ってほしいわw
GJ!!&期待
148栄耀、静寂、快楽:2009/11/22(日) 13:41:37 ID:MVqQiebH
また前の人から早いかもしれませんが、用事があるので投下させてください。
申し訳ないです。
149栄耀、静寂、快楽:2009/11/22(日) 13:42:35 ID:MVqQiebH
 アシュレイ郷のもとに、クロエがいる。
 そう知っただけで心が弾む。足取りも軽く、スキップでもしそうになった。
 冷静に考えれば、それは事態が好転したとは言い難い。そこらの民家に拾われたのとは話が違う。曲がりなりにも貴族の家だ。クロエを返してくれと言ったところで、追い出される可能性は高い。だが、ロイドの意識は「クロエを取り返さねば」とそれだけだった。

 人はそれを狂気と呼ぶだろうか。望むところである。自分の純粋な、このどこまでも一途な思いを狂気と嘲る世界こそが狂っている。
 その証拠に、靴屋の主人はあんなに幸せそうだったではないか。

 足を踏み入れた教会は、やはり何かを欠いている。クロエがいない。クロエがいないなんて、そんなのは間違っている。
 ロイドはあちこち部屋中にぶつかりながら、文机に向かい便箋に文字を認める。邸を伺いたい旨を遠回しに記した。
 以前から、アシュレイ郷は幾度かロイドを自邸に招待したがっていたのだ。急にこんな手紙を送りつけるのは不躾だろうか。だが、これでも今すぐアシュレイ邸に押しかけたいのを我慢しているのだ。
 ロイドは教会の窓を開ける。向こう側から開けようとしていたらしいコーディが驚き、手を引っ込めた。
「ああ、コーディ。丁度いいところに」
 目を丸くするコーディににこやかに手紙を差し出す。
「これを、アシュレイ郷の邸宅にお願い出来るかな」
 封筒に入れられた便箋を受け取りコーディは浮かない顔で俯いた。「あの、さ……」おずおずと顔を上げる。
「神父様。駄賃はいらないからさ。あの花、貰ってもいい?」
 コーディは教会の庭の花を指差した。
「ティミーのお墓に供えたいんだ」
 庭の花は、クロエが大事に世話をしていたものだ。コーディもそれを知っていて遠慮していたのだろう。
「ええ、構いませんよ」
 クロエの大切にしていた花だ。少し前ならば渋っただろうが、クロエが帰ってくる可能性のある今、それにいかばかりの価値があろうか。
 ありがとう。とコーディは頭を下げる。
「あいつさ、俺のこと、にいちゃんにいちゃんって付いて来て。俺、馬鹿だからさ。鬱陶しくてついつい付いてくんなとか言っちゃってさ……」
 コーディの榛色の目が涙に潤む。面皰の目立つ頬がひくりと引きつった。
「死ぬ前に、俺、あいつのことおっぱらっちゃって。ねえ神父様、俺があいつと一緒にいたら、あいつ死ななかったのに!俺、ティミーのこと殺しちゃった!」
 堪えきれないようにコーディの目からは涙が溢れる。ロイドは窓越しにコーディの頭を撫でた。
「そんなことはありませんよ。ティミーは主の御許に帰られたのだから。誰のせいなんてことは無いのです」
 でも、としゃくりあげるコーディにロイドは笑いかける。敢えて言うとするならば、ティミーを殺したのは運命だったのだ。
「早くティミーの所に行っておいで。ティミーはあの大きな薔薇の花が好きだったよ」
 クロエも、その大きな薔薇を大層気に入っていた。手が傷だらけになるのも厭わずに手ずから剪定をしていた。濃い紅色の華やかな薔薇だ。
 そうだ。クロエを迎える時は、部屋に薔薇を飾っておこう。
「では、お願いしますね。コーディ」
 涙を拭って走り去るコーディの背を見送りながら、ロイドはにいと笑った。
150栄耀、静寂、快楽:2009/11/22(日) 13:43:00 ID:MVqQiebH

 コーディは大きな薔薇を抱えて、アシュレイ邸の周りを歩いていた。手紙は門番に預ければ良いだろう。ロイドの署名入りの便箋だ。無碍に扱われることもあるまい。
 ロイドという神父を、コーディは心から尊敬していた。穏やかで、優しくて、物知りだ。
 この街の人はみんなそうだ。ロイドの悪口を言う者などいない。だが、コーディは時折不安になる。そんな完璧な人間など居るのだろうか。ロイドの非の打ち所の無い笑みを見ていると、なんだか今にも崩れ落ちそうにも見えた。

 真鍮製の細かな飾りのついた鉄柵に囲まれた、アシュレイ邸の庭園を覗き込む。コーディが抱える薔薇よりも、ずっと立派な花々が咲き乱れていた。
 ふ、とコーディの視界の端を紅色がよぎる。そちらに目を向けると、深紅のドレスを纏い、上に黒いレースのカーディガンを羽織った少女がこちらをじいと見ていた。
 綺麗な女の子。まるで薔薇の妖精みたいだ。コーディは思う。でも、その宝石のような緑色の瞳はぼんやりと宙をさまよっている。
 アシュレイ郷の娘、ということは無いだろう。孫娘か、親類か。けれど、コーディはなんとなくその顔に見覚えがある気がした。
 少女はコーディを、正確にはコーディの抱える花を見つめて、近寄ってくる。鉄柵越しに、少女は立ち止まる。可愛い女の子に間近で見つめられ、コーディは思わず顔が熱くなった。
「それ……」
 か細い声で少女は言う。鉄柵ごしに、すうと白い手が伸びた。
「あ!」
 コーディが止める暇もなく、少女は彼が抱えていた薔薇を掴む。棘も抜いていない薔薇だ。コーディですら紙にくるんでいたのに、少女の華奢な手は痛くないのだろうか。
 コーディの心配をよそに少女はその薔薇を抱え込む。しかし、強く掴みすぎたせいで薔薇はぐしゃぐしゃになってしまっていて、少女の細い腕がぎりぎり通る鉄柵の隙間に入りきらずにばらばらになってしまった。
 少女は薔薇の残骸を見つめて、生気を感じられない瞳からぽろぽろと涙を零した。表情一つ変えず、言葉も発さず。零れ落ちる涙が宝石に変わりそうなほど綺麗な女の子だが、コーディは不気味に思って一歩後ずさった。
 それを見て少女は目を見開き鉄柵に取り付く。
「あ、あぁ……」
 白い手が鉄柵の狭間から伸びて空を掻いた。泣き声ともつかない声をあげて少女は涙を零す。薔薇が、欲しいのだろうか。
 薔薇など、これよりも立派なものがいくらでも鉄柵の向こうに咲いているのに。

「何をやっているのだね、クレア」

 少女はクレアというらしい。少女は声をかけられると肩を震わせ怯えたように振り向く。視線の先では誰でもないアシュレイ郷その人が立っていた。
151栄耀、静寂、快楽:2009/11/22(日) 13:43:29 ID:MVqQiebH

 アシュレイ郷はちらりとコーディの方を冷たく一瞥すると、少女――クレアの方に向き直った。
「ああ、ああ。こんなに手を傷だらけにしてしまって」
 やはり、手を怪我していたのだ。クレアは首をふりながら俯く。
「ちがう……クレアじゃない……ちがうの」
 花弁のような唇は青ざめ震えている。しきりに違うと訴えるクレアを無視してアシュレイ郷は続ける。
「ふむ。外の空気を吸えば気分転換になるかと思ったが、逆効果だったようだ」
 コーディは全く状況が読めず、立ち尽くしていた。まるでコーディが居ないかのように事態は進んでいく。
「かえりたい。かえりたいの。かえりたいよ」
 クレアはぼうと宙を見つめてかえりたいと繰り返している。その様子は少しばかり尋常ではない。
「かえりたいよぅ……ロイドさん……」
 クレアの口から漏れた名前に、コーディは唐突に自分の仕事を思い出した。封筒を鉄柵の隙間からアシュレイ郷に差し出す。
「ア、アシュレイ郷!これをお届けに参りました!」
 アシュレイ郷は煩そうに封筒を受け取ると、その署名をみて薄い唇に笑みを刻んだ。待ちきれない様子で封筒を開けて便箋に目を通す。くく、と喉を震わせて笑った。
「そうか。そうかね。存外に遅かったな」
 ひどく楽しげにアシュレイ郷は酷薄な表情をする。
「君、彼に伝えたまえ。今晩にでも……いや、今晩は駄目だ私は留守だ」
 面倒なことだ。とアシュレイ郷は一瞬顔を歪めたが、すぐに楽しそうな表情を取り戻した。
「明日の晩餐に招待しよう。私は、君の来訪を心から楽しみにしている。とね」
 それだけ言うとアシュレイ郷は使用人に声をかけた。
「クレアを部屋に連れて帰ってやってくれ」
 血だらけの手で握りしめられた薔薇の残骸を見て、アシュレイ郷は付け足す。
「そうだな。それから、部屋に薔薇を飾ってやりなさい」
 帰りたい帰りたいと呟き続ける少女は使用人に連れられてどこかへ消えてしまった。
 アシュレイ郷に睨まれ、コーディは慌てて踵を返す。そして、ああと気付いた。あのクレアという少女、シスターに似ている。
 コーディ自身は、あまりシスターと面識はない。だがティミーが随分なついていた。僧衣姿を数えるほどしか見たことはないから断定は出来ない。だが、あの少女は「ロイドさん」と言っていた。
 今となっては、確認する術も無い。
152栄耀、静寂、快楽:2009/11/22(日) 13:44:35 ID:MVqQiebH

 教会まで走って戻ると、ロイドは庭の手入れをしていた。草むしりをしていた手を止める。
「早かったね、コーディ。ありがとう」
 ロイドは相変わらず穏やかな笑みでそう言った。
「神父様。アシュレイ郷が、明日の晩餐に招待するって言っていました」
 ロイドはふと表情を固くした。
「それだけ?」
 初めて見るロイドの表情にコーディは唾を飲む。
「あ、あと、それから……。神父様が来るのを楽しみにしてるって……」
 そうか。とロイドは手元を見つめる。
 シスターによく似た少女がいたことを伝えようかと思ったが、とてもそんな空気ではない。
「じゃあ、俺、ティミーの墓参りしてきます」
 コーディは逃げるように走り去る。だから、その時ロイドがどんな顔をしていたか、知る由も無かった。
153栄耀、静寂、快楽:2009/11/22(日) 13:47:21 ID:MVqQiebH
投下終了。
余談ですが、前スレで「神父といったらアンデルセン神父しか思い浮かばない」とあり、興味があってヘルシングうっかり大人買いしてはまりました。
久々に面白い漫画に出合うことが出来ました。
この場を借りてお礼させてください。
154名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 14:28:16 ID:+SDkQ0BH
GJ!
盛り上がってきたなw
155名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 14:42:04 ID:gg8z1335
GJ
156名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 17:49:10 ID:jVI8tZgO
>>149
一周回って落ち着いとるw
靴屋の主人が幸せに映るとは。まあ、奥さんと一緒に暮らせてるからな。
157名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 17:54:14 ID:VS4J0FU/
GJ!これは面白くなってまいりました!
アシュレイ卿=ムスカ大佐
靴屋の親父=マリオ
靴屋の妻=ピーチ姫
息子=キノピオ
なんかこんな脳内再生されてるから困る
158名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 21:10:56 ID:0aTmzhd6
GJ!
盛り上がってきましたな。

…ところで、そろそろ卿が郷になってませんか?とツッコんでいいだろうか……。
159名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 21:17:16 ID:INaU1Lw+

アシュレイ・ゴウという名前の人なんだよ…
ヒロミ・ゴウとも何かの関係があるらしいよ。
1604ー263:2009/11/22(日) 21:43:42 ID:Gx9fTFNg
ほぎゃー。アシュレイ卿です。形が似てるもんで、うっかり。
無知無学が露呈しました。
枕に突っ伏してじたばたしながら辞書登録なおしてくる……
161名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 09:31:38 ID:7nteyi0w
>>160
市中引き回しのうえ打ち首切腹晒し首の刑に処す
162名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 11:13:13 ID:y5cYr/0u
と称して、戸籍を剥奪した後にいちゃいちゃしまくるんですね。
とてもわかります
163名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 11:44:55 ID:MiEDY0ap
4ー263が突然姿を消したのは11月22日のことだった。
死を賜ったとも中央政庁での秘密の仕事の抜擢を受けたのだとも言われたが詳細は一切不明のままで、
彼を慕ってきた領民たちはただ無事を祈ることしかできなかった。

だが4ー263は生きていた。
某A卿の秘密の館の奥深くで、密かに卿の専属詩人として囚われていたのだ。

「ほら君、まだここが『郷』のままだ」
「…」
「ふふ、その文字を綴り直す細い指、苦悩に歪む眉間、すべてが美しい…」
「――あんたは神父に恋着しているのではなかったのか?」
「神父?…ああ、あの男か。君が手に入った今となってはあの男など…」
「や、やめてくれ!字を間違えたことは謝るから、もうやめて…あ、そ、やめ…んあ…」
「間違い?――違うね。必然だったのだよ、私たちがこうなるための…ほら…」
「ああああッー!」
164名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 11:48:28 ID:sS7QmwdX
>>162
死んだことにして隠すとは、なんというヤンデレ。
165名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 13:08:01 ID:y5cYr/0u
だって↓(しょぼん)……そうしたら
ずっと私を見ててくれるし、
だれかの隣になんて絶対行かないし、
なんでもして上げられるし、
そんなのってすごく幸せじゃない?
そう、だから決めたんだ。
貴方をかえちゃえば、いいんだって。
これから行くね今日からまたはじめましてだね


11/23(月)、とある人間の手記より

>>163
神すぐるwGJです

>>164
こんな感じ?
166名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 21:09:16 ID:YS6xCFUH
>>165
こういうの見たらヤンデレと依存の境界線がが本当にスレスレなんだと思い知らされる。
167栄耀、静寂、快楽:2009/11/23(月) 23:35:41 ID:PfbmZC/d
>>165
俺の肛門は排泄専門です

投下します
168栄耀、静寂、快楽:2009/11/23(月) 23:36:07 ID:PfbmZC/d
 いつものように僧衣を纏い、ロイドはアシュレイ邸を見上げた。宵闇に紛れるように黒い僧衣は風に靡く。昨日の午後から今まで、こんなに時間の流れを遅く感じたことはない。時計が狂っているのかとすら思った。
 アシュレイ邸は驚く程に広いわけではないが、建物に緻密に細工された彫刻や装飾も美しく品があり、人を圧倒する。
 門を守る守衛に軽く会釈すると、守衛は一糸乱れぬ動作で敬礼した。真鍮で装飾された門が軋んで開かれる。
 敷地内に一歩踏み入れる。全身を巡る血がざわざわと落ち着かない。クロエがいるのだ。そう思うだけで体中がざわめく。
 整えられた芝の上を、白い石畳が点々と続いていた。それを辿り、歩いていく。足元でかつかつと固い音が鳴るたびに高揚した。
 彫刻された小鳥までが見える頃、石畳の先の木製の扉が若い使用人の手によって開けられた。傍らには執事らしき初老の男が静かな笑みをたたえてロイドを迎える。
「お待ちしておりました。神父様」
 若い使用人がロイドの外套を受け取り、執事がロイドの前に立ち先導する。白い手袋をはめた手が、薄暗い玄関ホールにひらめいた。
「どうぞ、こちらへ。旦那様がお待ちになっております」
「クロエはどこです」
 気がはやるのを抑えて、努めて冷静にそう問う。若い使用人はかすかに肩を震わせて、ロイドの外套を手に逃げるように去っていった。
 執事は眉一つ動かさず、先の台詞を繰り返す。
「どうぞ、広間へ。旦那様がお待ちになっております」
169栄耀、静寂、快楽:2009/11/23(月) 23:36:43 ID:PfbmZC/d


 落ち着いた色調で統一された広間には、白いクロスで覆われた円卓が鎮座している。何人がけだろうか、だが大きなそれには二人分のテーブルセッティングしかなされていない。
 壁面をぐるりと覆うアンティーク調のランプの灯りを反射して、空のワイングラスがきらきらと輝いていた。
「久しいね、神父殿」
 椅子に腰掛け、アシュレイ卿はロイドに笑みかける。その灰色の瞳には橙の柔らかな光が映り込んではいたが、刺すように冷たい。
「何度招いてもはぐらかされるから、私は嫌われているものと思っていたよ。それとも、それは駆け引きというやつだったのかね?」
 くつくつと小さく笑いながらアシュレイ卿は言う。その上品とは言い難い冗談を遮るように、ロイドは静かに切り出した。
「クロエはどこです」
 アシュレイ卿は笑うのを止める。だが、唇に含みのある笑みを滲ませながら手で座席を指し示した。
「掛けたまえ」
 ロイドは微動だにせず、再び問うた。一言一言ゆっくりと噛み締めるように。
「クロエは、どこです」
 アシュレイ卿はふと笑みを消した。
「もう一度だけ言おう、掛けたまえ。君は晩餐に招待された。私は晩餐に招待した。それだけだ。そうだろう?」
 そこでアシュレイ卿はいやらしく唇を歪める。
「尤も、君の態度如何では楽しいお土産がないわけではないがね」
 苦い表情をして、ロイドは渋々腰掛ける。断る暇もなく流れるような動作で給仕がグラスに食前酒を注いだ。ロイドは酒に詳しくない。黄色みがかった透明の酒の、独特の酒気がつんと鼻をついた。
 アシュレイ卿はちらりとこちらにグラスを傾け、軽く会釈して酒を一口含んだ。ロイドは給仕にグラスを下げさせる。
「酒は不得手かね?オレンジジュースでも用意させようか」
 アシュレイ卿の子に語りかけるような口調にロイドは固い表情のまま首を横に振る。
「いえ、結構です」
 酒が苦手なわけではない。ただ、この男の目前でだけは酔いたくなかった。ロイドのグラスを下げた給仕が、銀の盆に載せた別のグラスをロイドの前に置く。
 匂いはない。水のようだ。ロイドはそれを口に含んだ。
「クロエを返してください」
 クロエ、と言葉にする度に控える使用人や給仕は落ち着かない様子で目を泳がせた。アシュレイ卿は酒をランプの灯りに透かし、ついと目を細める。
「君は勘違いをしていないかね?何も私は彼女を拐かしたわけではない。冷たい雨に濡れて凍える彼女に手を差し伸べただけだ。善意以外の何物でもない」
 アシュレイ卿はロイドが予想していたより遥かに容易に事を認めた。
「全く、何があったというのだろうね。花のかんばせを悲しみに歪めて、彼女は泣いていたよ」
 白いクロスの上で知らないうちにロイドの拳は握り締められていた。自分のせいだ。全ては自分が元凶だ。だから自ら幕を引かなければ。
 給仕がおずおずとロイドの目の前にスープ皿を置く。アシュレイ卿にも同じものが配膳され、アシュレイ卿はそれを銀のスプーンで掬うと美味そうに啜る。
「おやおや、徳の高い神父殿の来訪とあってコックも腕をふるったようだ」
 ロイドもそれに倣いスープを口にする。とろりとしたポタージュは確かに美味い、が、味わっている心の余裕などなかった。
 ところで。とアシュレイ卿はスプーンを置く。半分ほどしか減っていないスープ皿を手の動きだけで給仕に下げさせた。
「靴屋の息子が亡くなったのはご存知かな?それでクロエは心を痛めていてね」
 ティミーはクロエによく懐いていた。クロエが悲しむのも当然だろう。アシュレイ卿はテーブルに肘をつき深く溜め息をついた。
「すっかり意気消沈してしまった。彼女の美貌は罪だな。あんなになってしまった彼女を見ると誰もが彼女に盲目的に同情してしまう。まるで私が悪者のようだ」
 だから、先ほどから使用人の様子がおかしいのだろうか。クロエがそんな状態であると聞き、ロイドは居ても立ってもいられず低く唸った。
「クロエはどこです。クロエは私が連れて帰ります」
「連れて帰ってどうするのだね」
 ロイドが言い切らないうちにアシュレイ卿は声をあげる。芝居がかった仕草で両腕を広げた。
170栄耀、静寂、快楽:2009/11/23(月) 23:37:05 ID:PfbmZC/d

「彼女には何一つ不自由させていない。広い部屋を与えている。柔らかい寝台も、食事も。衣服も一級品だ。彼女の心も一流の医師に治療させよう」
 ロイドは、その何一つとして与えてやることが出来ない。もしかしたら、クロエはアシュレイ卿のもとに居た方が幸せなのかもしれない。だが、ロイドはクロエを諦められない。諦める気もない。
 無言でアシュレイ卿を睨むとアシュレイ卿は心底楽しそうに唇の端を吊り上げた。
「よろしい、実に結構だ!ウォルター、彼女をここに連れて来なさい。目隠しをして、ね」
 執事は一礼すると広間を後にする。アシュレイ卿はもう一度笑って給仕に片手を掲げた。
「神父殿のスープは下げなさい。メインディッシュだ」
 
 やがていい香りをふりまく肉料理が運ばれ、テーブルにもたれながら、アシュレイ卿はナイフとフォークを弄んだ。
「ミスター・エルバートは実に素晴らしい男だ。尊敬に値する」
 肉を優雅な動作で切り分けながら、アシュレイ卿は言う。ロイドはそれどころではなく、執事が消えた扉の方をじっと睨みつけていた。そんなロイドの様子を見て何を勘違いしたのかアシュレイ卿は呆れたように目を丸くする。
「靴屋の主人の名だよ。まさか知らなかったわけではあるまい。息子が亡くなったと聞いて私も心を痛めたものだよ」
 答えないロイドを無視してアシュレイ卿は続ける。
「実に、実に素晴らしい。彼は己の欲望に忠実だ。それを貫いている。人間誰しもそうありたいものだ。否、そうあって然るべきだ。そうは思わないかね」
 そこでアシュレイ卿は目を細めて宙を眺めた。嘲るように鼻を鳴らす。
「まあ尤も、彼は奥方以外のことについてはあまりに無欲すぎる」
 アシュレイ卿は一口肉を口にして、ゆっくりと咀嚼、嚥下すると再び何か話そうと口を開く。そのとき、広間の扉が叩かれた。アシュレイ卿は目を閉じて、何かに浸るように指先を揺らすと片目を開けてにいと笑う。
「私が良いと言うまで声を発してはいけないよ」
 発すればクロエは返さない。と言外に含ませる。
 きい、と厚い木の扉が押し開かれる。その間から執事と、彼に手をひかれてクロエが現れた。
 クロエは髪を綺麗に結い上げ、まるで喪服のように爪先まで黒一色の姿である。緑色の瞳は、黒いベルベットのリボンで隠されている。頬に色は無く、青い唇が震えていた。足取りも弱々しく覚束ない。
 その姿のあまりの痛々しさにロイドの喉がひきつる。声をかけそうになったのをアシュレイ卿が目で制した。
「彼女は靴屋の息子の死に心を痛めた、と言ったがね。あれは嘘だよ。君を傷付けないための」
 どういうことかと口を開きかけて、ロイドは唇を噛んだ。視線だけでアシュレイ卿に先を促す。
「彼女の心はね、君の思いを受け止めきれずに溢れてしまった。彼女がああなったのは君のせいだよ」
 ぐらりと脳が回る。座っているのか立っているのか分からない。周りの景色がぐにゃぐにゃと歪む。
「嘆かわしいことだ。明るく優しかった彼女が、今は一日呆けて君の名を呼ぶばかりとは」
 ロイドには聞こえていなかった。ぐるぐると頭の中を思考が巡る。クロエが、自分のせいで、壊れてしまった。自分のせいで、何もかもが、壊れてしまった。
「君が彼女を連れて帰ってどうする?彼女の心は君の傍にいることに耐えられるか。さあ、どうする、ロイド神父殿!」
 唐突に名を呼ばれて、ロイドはこちら側に引き戻された。クロエがアシュレイ卿の声にゆるゆると顔をあげる。青ざめた唇が戦慄いた。
「ロ……ロイド、さん。ロイドさんのところに帰りたい。帰りたい。帰りたい」
 糸の切れた人形のようだったのに、急に譫言のように呟き出す。その姿にロイドは思わず呟いた。
「……クロエ」
 びくん、とクロエの肩が跳ねる。リボンにじわじわと水が滲む。
「あ、あ、ぁ……、ロイドさん?ロイドさん!ロイドさん!ご、めんなさい!ロイドさんごめんなさい!もう、手を叩かないから!ちゃんと、ちゃんとするからっ!帰りたい!ロイドさんごめんなさい!」
 目隠しをしたまま走り寄ろうとするクロエを執事が制した。執事の腕の中でクロエはもがく。ロイドは思わず立ち上がり歯噛みする。
「クロエに触るな。手を離せ」
 殺気すらこもった言葉にも執事は動じない。かわりにクロエがガタガタと震えながら執事の腕の中でへたり込む。
「あ、あ゛あぁ……ごめんなさい、……ごめんなさい」
 アシュレイ卿は今にも殴りかかりそうな顔で執事を睨みつけるロイドを眺めてにやにやと笑っていた。
「どうする?君が彼女を連れ帰っても、彼女は壊れていくばかりだ。それは彼女にとって幸せか?」
171栄耀、静寂、快楽:2009/11/23(月) 23:37:54 ID:PfbmZC/d

 ロイドはねじが切れたかのようにすとんと椅子の上に落ちた。それを見て、アシュレイ卿はつまらなそうに表情を無くす。
「そうかね、では彼女は私が責任をもって――」
 いきなり、ガシャンと大きな音をたててロイドは大きなテーブルに両拳を叩きつけた。銀のスプーンやフォークがばらばらと床に落ちる。
「知ったことか!クロエは私が連れて帰る!たとえ死体でも抜け殻でもクロエは私のものだ!」
 ロイドは口角泡を飛ばしてまくし立てる。アシュレイ卿は冷たい瞳を爛々と輝かせた。
「仮に、それを彼女が望まなかったとしても?抵抗したとしても?」
「クロエを殺してでも死体だけ連れて帰る」
 アシュレイ卿は俯いて肩を震わせた。笑っているのだ。徐々に震えが大きくなり、アシュレイ卿は天井を仰いで哄笑した。
「はは、あははははは!素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!実に素晴らしい!私は君の欲望を肯定しよう!!」
 アシュレイ卿は執事に指示してクロエの目隠しを外させる。緑色の虚ろな瞳がロイドを捉えて見開かれた。
「私は君が嫌いだった!厭うた!嫌悪した!涼しい顔で何も求めようとしない君が!この世に欲の無い人間がいるか?いるわけがない!聖職者だろうが僧衣を脱げばただの人だ!そうだろう?」
 アシュレイ卿は狂ったように先を続ける。
「私は間違っていなかった!欲望こそがこの世の真理だ!欲しがりたまえ!他を踏みつけて傷付けて己の欲望を優先しろ!それが人間だ!」
 執事に手を離すようにアシュレイ卿は手の動きで命じた。
「連れて帰りたくば私を殺して行けと言いたいところだが、生憎私はやりたいことも欲しい物もたくさんある。遠慮させてもらおう」
 戒めを解かれたクロエは転がるようにロイドにしがみついた。目の縁は赤く腫れている。焦点の合わない目でロイドを見上げた。
「ロイドさん、ロイドさんだ、ロイドさんロイドさんロイドさん」
 ひとしきり笑って、アシュレイ卿は常の紳士然とした面持ちを取り戻した。
「おや、そちらへ行くのかね。その服は私のものだ。返してもらおうか」
 クロエは怯えたように震えながら、自身の胸のボタンを引き千切るように外していく。白い胸元が露わになるのをアシュレイ卿はにやつきながら眺めていた。ロイドはそれを慌てて制する。
「後でお返しします。それで良いでしょう」
 聞こえないかのようにアシュレイ卿は口を開いた。
「君の食事もただではないのだよ」
 クロエはかくんと床に崩れ落ち、しばし口を半開きにしたまま呆けて宙を見ていた。が、不意に床に落ちていた銀のナイフを掴み自身の左肩に振り下ろす。
「クロエ!」
 とっさにロイドが手首を押さえたが、ナイフの切っ先が半裸のクロエの肩口を浅く切り裂いた。鮮血が白いクロスを点々と汚す。
「……ぜんぶ、ぜんぶ置いていくから……。かえる。ロイドさんとかえるの」
 かたかたと震えながら、クロエは自身の左腕を切り落とそうともがく。必死に押しとどめるロイドをせせら笑い、アシュレイ卿は言った。
「ふふ、冗談だよ。神父殿の醜くも純粋な欲望に免じて全て君へプレゼントしよう」
 からん、とナイフが床に落ちた。ひっ、ひっ、とひきつるような呼吸を繰り返すクロエの背を撫でると、クロエはロイドの僧衣をぎゅうと握りしめた。
「貴方は……狂っている」
 ロイドが吐き捨てるとアシュレイ卿は涼しい顔で穏やかに笑んだ。
「狂っている?私が?ならば、それは世界が狂っているのだよ。神父殿」
 ロイドは唇に血が滲むほど噛み締めて、立ち上がる。クロエは自身の手から僧衣がすり抜けたことに不安気に瞳を潤ませた。
「クロエ、帰ろうか」
 手を差し伸べると、クロエの華奢な手がすがりつくような力強さでロイドの手を握る。小さな頼りない体を抱き上げるようにして踵を返した。
「またいつでも来たまえ、歓迎しよう」
 使用人が差し出す外套をクロエに羽織らせ、アシュレイ邸を後にする。もうすっかり夜になり、朧な月が空に浮いていた。


172栄耀、静寂、快楽:2009/11/23(月) 23:39:55 ID:PfbmZC/d
投下終了

>>166
ヤンデレは壊れた女の子のある種形式美を愛でるものだと思ってる。
依存は結果よりも過程を大事にしてる。

という俺の勝手な偏見。
173名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 23:50:20 ID:MiEDY0ap
>>172
おおおお…GJ!

「世界の終わり」という歌の歌詞を思い出したよ。久しぶりに聞いてみるかのう。
174名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 00:40:10 ID:UEUH/HsB
>>172
GJ

広義のヤンデレの場合ははともかく狭義のヤンデレが好きな奴にとっては壊れていく過程は
とても大切なものなんだぜっと一ヤンデレスキーの見解を述べてみる
175名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 08:00:54 ID:Xrs7PLJF
>>171
三人とも欲望に正直で素敵です。

俺は、女の子に依存されたい。
女の子がヤンデレになったら、治したい。
まあ、ヤれりゃいいんですがね。
176名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 08:06:19 ID:cPkHmDZt
>>175
サイテー…
177名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 13:50:49 ID:yFLYb6eK
>>175
己の欲望に忠実すぎて本音が溢れとるがなw

ここから物語がどう進むのかちょっと想像つかないな。ヒキが上手い
178名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 18:48:42 ID:zH+dMNwh
>>175
アメリカだったら訴えられて裁判だな。ウクライナだったら石投げつけられても文句言えんぞ

>>172
GJ!しかしこれは面白い。教会に帰ったらどうなることやら……
過程は大事だが依存までの無駄な過程や無駄な描写が多すぎるとうんざりはするな
後に繋がる伏線つきなら良いが無駄が多すぎるとダレる。つーか無駄に感じさせないのが一番なんだけどさ
その点これは余計なものが無くて良い。毎度続きを期待して待ってる
179名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 20:57:01 ID:GKEyTSd6
>>172
GJ!
続き待ってるよ
180春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:29:15 ID:F1f7fRiQ
春春夏秋冬の続きです。
依存度少ないですが、あしからず。
181春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:30:13 ID:F1f7fRiQ

近くを流れている川に咲く、杜若の花が柔らかく香るこの季節。
春とはまた違う花の香りを漂わせて部屋の中の空気を変えていく。

これから夏が来ますよという、自然からの警告なのだろう。
無論季節に応じて温度も変わるのだが…。




暑い―――目を覚まして一番始めに頭に浮かんだ言葉だ。
初夏とはいえ、まだ梅雨にも入っていないのに何故か汗が額を流れている。

ベッドの大きさは余裕で二人は寝れる程の大きさ…しかし、なぜか後ろから圧迫されてるかのように寝返りが打てないのだ…。


(…っく…動けない…)
後ろを振り返ろうにも何かが俺の動きを封じている。

金縛りほど動けない訳では無いので、何とか寝返りを打とうとモゾモゾしていると、窓ガラスから射し込む朝日の光に照らされて、黒い人影が立っているのに気がついた。


(そう言えば鈴村が家に泊まってるんだったっけ…)
トイレにでも行くんだろう…そう思い、影に向かって「トイレは廊下の突き当たりにあるぞ…」とトイレの場所を教えてやるが、何故か影からの返答は無かった…。
返答のかわりに、無言のままベッドにゆっくりと近づいてくる影…。
182春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:30:39 ID:F1f7fRiQ
その鈴村であろう影の行動に少なからず違和感を覚えた俺は、ダルい体を持ち上げるようにベッドから立ち上がろうとした。


「鈴村……なんっ…ぐふぅッ…!?」
――影がベッドに近づいた瞬間、俺のお腹目掛けて力強く踏んづけてきた。

(な、なんだッ!?)
影に目を向ける――何も言わず、悶え苦しむ俺の姿を見下ろしている

(鈴村じゃないっ!?)
始めは鈴村が俺を踏んづけたのかと思ったが、鈴村が人に暴力を振るう事はまず無い。
俺の家に勝手に入ってきて、俺を蹴る可能性がある人間――それは夏美以外考えられない。
そう思い、俺の頭で鈴村から夏美へと変わった影を睨み付けた。


「春樹……話があるからリビングに降りてこい。」

影が始めて喋った声は女の夏美ではなく、紛れもない男の声だった。

また頭の中で、夏美から鈴村に変わる。
しかし、鈴村は俺の事を春樹なんて呼ばない。夏美もそうだ。


「だ、誰だよおまえ!?」
頭の中で想像するのが難しくなってきたので、耐えきれず影に向かって問いかける事にした。

すると部屋から出ていこうとする影がピタッと止まり、ゆっくりと此方を振り返った…。




――「おまえは親の顔も忘れたのか?」
183春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:31:59 ID:F1f7fRiQ

めんどくさそうに呟く影からとんでもない言葉が飛び出した。

「親?…親父ッ!?」
そう叫ぶとベッドから飛び起き影の前へと立った。
薄暗い中目を細めて確かめる。

間違いない――父だ。

しかし、なぜ父がこの部屋にいるのだろうか?
昨日のメールでは確かに帰ってくると書いていた。
だが、早すぎるだろ?
ニューヨークってそんなに近いのか?
父からメールが届いてまだ六時間ほどしか経っていないはず。

混乱する俺とは裏腹に父は冷静な表情を浮かべている…。

「…おまえ…彼女できたのか?」
なぜニューヨークから帰って来てすぐに俺の彼女の話しになるんだ?
どこか冷めたように呟く父に「なんで?」と聞き返すと、何も言わずにベッドを指差した。

「はぁ…?いったいなんな…ん?………だ…」





「……Zzz…」
――父が指差す場所にはさっきまで俺が寝てたはず…。
なのにどうして鈴村が寝ているんだ?
俺が起きて親父の前に立った隙をついて俺の布団に潜り込んだのか?

何故そんな事を……





「仲良さそうに、イチャイチャ抱きつきながら寝てたが?」
俺の考えを土台から蹴り崩す様な父の言葉に頭が真っ白になった…。
184春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:33:30 ID:F1f7fRiQ

俺は間違ったのか――?
寝ている鈴村を確認するが、しっかりと服を着込んでいるので大丈夫なはず……いや…大丈夫だと思いたい。


しかし、なぜ鈴村は俺の横で寝ているんだ?
幸せそうに俺の枕を抱え込んで寝ているが…。

「お、おいっ、鈴村。」
理由を聞くために仕方なく鈴村の肩を掴んで揺らす。


「う、う〜ん…なぁにぃ〜…?」
眠たそうに身をよじると、目を擦りながら俺の方へと視線を向けた。

ぼーっと俺の顔を見ている…まだ能が上手く働いていないのだろう。

「なぁ…鈴村…」

「ふぁ〜あッ……なに夕凪くん…もう朝?」

「いや……おまえ何で俺と同じベッドで寝てるんだ?」
恐る恐る鈴村に問いかける…。

「何でって…」
掛け布団を捲り、ゆっくりと上半身を持ち上げ、座ると昨日の出来事を話し出した。



「夕凪くんが昨日、僕がお風呂へ入ってる時に一人先に寝るからでしょ…?
それに夕凪くんお風呂入って無いでしょ?
昨日いっぱい汗かいたから、お風呂入りたいって夕凪くん言ってたのに…。だから昨日一緒にお風呂入ったらよかったんだよ。」

無垢な発言ほど恐い物は無いな…と、どこか他人事の様に考えてる自分がそこにはいた。
185春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:34:31 ID:F1f7fRiQ

俺の人格が今、失われようとしている――頭の中では分かっているのだが、何をどう説明すればいいのか、まったく分からなかった。

「……下にいるからな…」
そう言うと、父は扉を閉めて一階のリビングへ降りて行った。

「あの人誰なの?」
鈴村が不思議そうに呟く。
説明するのもめんどくさいので、誤解を解く為に鈴村に早々に制服を着るように言い、自分も制服へと着替える事にした。

制服に着替えて一階のリビングへと向かうと、父が朝食を用意してくれていた。

リビングに入ってくる俺の顔を見ても顔色一つ変えなかった癖に、鈴村の姿を見て、ビックリしたように目を見開いた。
そりゃ、そうだろう…父は一目見て鈴村を女の子だと勘違いしたに違いない。
その女の子が男子の学生服を着ているのだから、我が目を疑うだろう…。

「す、座っていいよ。ほら、春樹も。」

「あっ…はい、ありがとうございます。」
しどろもどろになりながらも、鈴村にイスへ座るよう言うと、鈴村も父に頭を下げ、イスに腰を掛けた。

仕方なく鈴村の隣に腰を掛ける。
目の前のテーブルにはシンプルにサラダとトースト、ゆで卵がお皿の上に乗せられている。
186春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:35:53 ID:F1f7fRiQ

それをすべて胃に流し込むと、鈴村が食べ終わるのを待たずして俺は今朝の誤解を解きにかかった。

「こいつ俺の友達で鈴村って言うんだ。」

「あっ、初めまして。夕凪くんの同級生で鈴村 光っていいます。」
突然の自己紹介に慌てた鈴村は、手に持っていたトーストをお皿の上に戻して、礼儀正しく父に頭を下げた。

「あぁ、春樹がいつもお世話になってるね。。」
そう言い返すと、父も鈴村と同じ様に頭を下げた。
お互い堅苦しい挨拶が終わり、またトーストへと視線を向ける…。
父は明らかに俺達の関係を疑っている…。
鈴村も何処と無く変な空気に気づいているのだろう…あまり口を開かない。

このままだと父の中で俺は道を踏み外した愚息として見られ兼ねない。
それだけは避けたい…。

「それにしても親父、なんでこんなに早かったの?
昨日ニューヨークから日本に帰ってくるってメールで書いてたよな?
まだ朝の六時間半だよ?。」
まず、疑問に思っていることを父にぶつけた。
俺はてっきり今日の夜に帰ってくるものだとばかり思っていた。

「ん?三日前にはもう日本に帰って来てたぞ?昨日ホテルを出て、此方に帰ってきたんだ。」
187春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:38:51 ID:F1f7fRiQ

なるほど…そう言うことか。
確かに父はニューヨークから家に帰るとは一文字もメールに書いていなかった。

ただ、紛らわしくて仕方がない…。

「そっか…てゆうか、かなりビックリしたぞ?いきなり部屋に立ってるんだもん。」

「ははっ…お父さんもビックリしたな…まさか二人で寝てるなんてな…」
会話が重い…久しぶりに会ったのに何故こんなに空気が重い話をしなければならないのだ。
なんとか誤解を解く方法を頭で考えているとトーストを食べ終えた鈴村から救いの手が差し伸べられた。

「あの…今朝の事なんですが…昨日夕凪くんが僕が寝る布団を出し忘れてしまって…仕方なく一緒に寝る事になってしまったんです。」

「えっ?……そ、そうなのか春樹?」
鈴村の話を聞き終えると、不安そうに父が俺に問いかけた。

「あぁ、鈴村を先に風呂に入れて二階のベッドで横になってたら、いつの間にか眠ってたんだ。夜遅くまで夏美達が家に来て飯を食べていたから、ちょっと疲れたんだと思う。」
昨日あった出来事を話す。
すると夏美の名前が出たからなのか、安心したように小さくため息を吐いた。
本当に俺と鈴村の中を疑っていたのだろう…物凄く疲れた顔をしている。
188春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:42:24 ID:F1f7fRiQ

「なら、問題は無いんだ…悪かったな………それより、学校は何時に行くんだ?」
父が左手にはめている時計を見て時間を確認している。
同じ様に携帯をポケットから取り出して、時間を確認する…6時30分。
まだ学校に向かうには早いのだが美幸ちゃんの事もある…なるべく早く家を出て美幸ちゃんと話をしたほうがよさそうだ…。

「いや、もう行くよ。」

父にそう告げると、携帯へともう一度目を向ける。
いつもの待ち合わせより早く来てもらうために、『話があるから、少し早く駅に来てくれない?7時ぐらいで。』それだけ書くと、美幸ちゃんへメールを送信する。

昨日の今日で美幸ちゃんとは顔を合わせ辛いが、長引かせるともっと会いづらくなってしまうだろう…。

――父との久しい再会もそこそこに、俺と鈴村は美幸ちゃんが待つであろう駅へと急ぎ足で向かった。

――駅に到着すると、まず携帯を確認する。
美幸ちゃんからのメールは……無い。

改札口を抜けていくのは皆、サラリーマンばかり。
まだ7時になっていないので学生服を着ているのは俺と鈴村ぐらいしか見当たらない。

「美幸ちゃんからメールこないの?」
隣に立つ鈴村が話しかけてくる。
189春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:43:13 ID:F1f7fRiQ

「あぁ…。」

「多分携帯見てないんだよ。駅のベンチで待ってようよ。」
鈴村の言葉に促されて、駅の中へと入っていく。
確かに鈴村が言うように美幸ちゃんが携帯を見ていない可能性もある…。しかし、俺が送るメールに対して美幸ちゃんが10分以内に返信をしなかった事は一度も無い。

美幸ちゃんにメールを送って、かれこれ20分…。
この余計な10分が、不安を煽るのだ。

ベンチに座り美幸ちゃんを待っていると、手に持っていた携帯が鳴った。

美幸ちゃんかと思い携帯を開く…。




「………なんだよ?」

『………なんだよ?じゃねーよ!』
携帯に電話をしてきたのは美幸ちゃんでは無く、夏美だった。

『勝手に先に行くんじゃねー!行くなら行くってメールしろや!!』
何故夏美に言わなくちゃならないんだ?と思ったが、多分俺を起こしに来てくれたのだろう。
素直に謝っていた方がよさそうだ。

「いや、悪かったよ。鈴村が居たから朝早く起きれたんだ。」

『あっそ…それと春兄のお父さん帰って来てるぞ?鉢合わせしてめちゃくちゃビックリした。』

「あぁ、まぁ…親父の事は後で話すから遅刻しないでちゃんと来いよ?」
190春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:44:04 ID:F1f7fRiQ

『駅にいるんだろ?今から行くから待ってて。それじゃね。』
言いたいことを言い終わると、勝手に切ってしまった。

「ったく…」
夏美に振り回されるのは慣れているが、朝にあのテンションは少し頭が痛くなる。

夏美との電話を終え、再度時間を確認する。7時5分―――7時を過ぎてしまった…。
もう一度、美幸ちゃんにメールを送ろうか迷ったのだが、どうせ駅に来るだろう…そう考えてメールを送らないことにした。

目を閉じて昨日の出来事を思い出す…。
あの時…何故おじさんは、あんな話を俺にしたのだろうか?
前にも一度顔を合わせたとはいえ、あの時は怪我をしていたので好印象をおじさんに与えれなかったはず…。
そして昨日…おじさんとは実質二回目の顔を合わせ。
その初対面同然の俺に何故美幸ちゃんの過去を話したのか…。

最後におじさんが口走った「高校生の君に言うことじゃ…」という言葉。

おじさんもかなり切羽詰まっていた感じだった…。

「はぁ…」
考えれば考えるほど頭が痛くなる。
今まで美幸ちゃんの行動…お母さんに花を買って帰ったり、電話をしたり。
普通の人が知れば少なからず気味悪がったかも知れない…。
正直俺も始めは怖かった…。
191春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:46:04 ID:F1f7fRiQ

だけど冷静になった今では美幸ちゃんの事を怖いとは微塵にも感じていなかった。

ただ、後悔だけ…。

「もう7時30分になっちゃったね…。」
鈴村が何故か申し訳なさそうに呟く。
鈴村はまったく悪くないのだからもっと堂々としていてほしい…。

――「春兄おはよう!あと鈴村先輩も。」
美幸ちゃんより早く、改札口から夏美が入ってきた。
走ってきたのだろうか?少し金髪が乱れている。
それを指摘すると、慌てたようにカバンから鏡を出して、ベンチに座り手で髪を整えだした。

夏美から目を離し、改札口に目を向ける

――電車が到着するまで美幸ちゃんが来るのを待ったのだが、残念ながら、今日、朝のホームに美幸ちゃんが来ることは無かった…。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「それじゃ、また今日の夕方に来るからっ!またね、おじさんッ!」

「はいよ、遅刻するなよ〜。」
来たと思ったら元気よく飛び出していった金髪の女の子…隣に住んでいる赤部家の三女、夏美ちゃん。
家に入ってきた時は誰が入って来たか、まったく分からなかった。
192春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:46:56 ID:F1f7fRiQ

一年前は髪の毛が黒かったし、どこか幼さが残る顔立ちをしていたが、一年ぶりに再開すると、しっかりとした大人の女性に成長していた。
秋音ちゃんと、冬子ちゃんはまだ見ていないが、多分立派に育っているだろう…。


「それに比べて……はぁ…」
情けなくてため息が出る…。
まさか男を連れ込むなんて…。
あの二人は否定していたが、かなり怪しかった。
家に帰らず仕事ばかりしてきた人間なだけに息子の気持ちが今一分からない。

「まぁ、今日から親として春樹のそばに居れば何か分かるかも知れん。」
朝、春樹に言いそびれたが、今日からまた私もこの家に住むようになった。
だから家族の時間も作れるだろう。

まずは春樹を銭湯に連れていって男同士の裸の付き合いを…。



――「あら?夕凪さん!?」
春樹とのこれからを考えていると、また一人チャイムも無しに女性がリビングに入ってきた。

「あぁ、久しぶりですね、赤部さん。」
先ほど入ってきた金髪の少女のお母さん――恵さん。
柔らかい雰囲気に母性を感じる女性。
そりゃ、三人も子供を産んだら母性も出てくるか…。

「勝手に入ってきてごめんなさいね?」

「いえ、いつもご迷惑をかけます。」
193春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:48:25 ID:F1f7fRiQ

別にチャイムを押さず入ってきたからといって怒る事はまず無い。

恵さんには春樹の母親役として、私が海外へ長期出張の時も常に春樹の味方であり続けてくれた人なので、むしろ感謝している。

春樹もお母さん、お母さんとなついていたが……。春香ちゃんの事があった辺りから恵さんの事をお母さんと呼ばなくなっていた…。

「当たり前か…」

「何がですか…?」
恵さんが掃除機を片手にコンセントがある方へと歩いていく。
リビングを掃除してくれるようだ…。

「いえ、それより赤部さん…悪いので私がしますよ。」

「ふふっ、大丈夫です。日課になっているので。」
そう言うと、コンセントにプラグを差し込んだ。

「日課……すいません…何から何まで。明日からは私もこの家に戻ってくることになったので、私がします。」
恵さんは三人の子持ち。
離婚してパートにもでているはず…自分の家の事をしながら、まさか毎日、掃除に来てくれてるとは思っていなかった。

春樹もいい年だ…流石に恵さんばかりに甘えていたら悪い。

「あら?それじゃハルも喜ぶわね。料理も作る量が増えるけど、楽しみだわ。」

「料理…?まさか料理まで恵さんが作ってるんですかッ!?」
194春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:49:55 ID:F1f7fRiQ

「えぇ、毎日私が作ってますよ?」
掃除機をかけながら当たり前の様に言っているが、今まで知らなかった私は親としてどうこうより人間としてダメなんじゃないのか?

それに、春樹は一人で飯もろくに作れないのか…。
私のダメな部分を多く受け継ぎ過ぎたのかも知れない。

「本当にすいません…明日からきっちりと私がしますので…あと今までの食費の事です…が…?」
何故か、恵さんの顔から先ほどの笑顔が無くなり、見たことないような無表情に変わっている。

「……ダメです。ハルの食事は私が作ります。」
そう言うとまた掃除機をかけだした。
何か機嫌に触る様な発言をしたのか?

「いや、しかし…ずっと赤部さんに甘える訳にもいきませんから。春樹もそろそろ独り立ちをy「独り立ちする必要ありません。まだ子供です。」

此方を向いていないが、背中から「その話をやめろ」と言わんばかりに黒いオーラが出ている。


「春樹はもう18ですよ…?」

「まだ18です。昨日も寝ている時、頭を撫でてあげましたらから。」

「は…?頭を撫でた?」
どういう意味だ…?
春樹は恵さんに頭を撫でてもらわないと寝ないのか?
あいつ、そんなに精神年齢低いのか…。
195春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:51:02 ID:F1f7fRiQ

頭が痛くなってきた…。
やはり父親の私がなんとかしなければ。

「すいません…今朝帰って来たばかりなので少し休ませてもらってもいいですか?」

「えぇ、掃除もすぐに終わりますから。」
恵さんに頭を下げ、私室へと向かう。
私室にはこの家に引っ越してきた時からあるダブルベッドが置いてある…この場所にくると妻の事を思い出す。



「……はぁ…」
春樹が帰ってきたら二人で妻の墓に行こう…。
春樹はまだ、行ったことが無いはずだ。
ちゃんと自立させないとアイツに怒られる。

無防備にベッドに倒れ込むと、ゆっくり目を閉じた…。

始めは鬱陶しく聞こえていた掃除機の騒音。
その騒音がいつしか子守唄の様に心地よく聞こえてくるようになり、騒音が止まると同時に操られているかの様に此方も気持ちよく意識を手放した――。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇



放課後――一部の生徒は学校生活の中で一番待ち望んでいる時間帯かもしれない。
授業が終わると各々目的は違えど、楽しそうな声を響かせて教室から出ていく。

本来、帰宅部の俺はこのまま家に帰るのだが――。
196春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:54:55 ID:F1f7fRiQ
今向かっている場所は下駄箱では無く、三階にある一年の教室だ。
目的は勿論、美幸ちゃん。
朝のメールの返事が無いので昼休みにもう一度メールを送ってみた。
『放課後、話がある。』
一行だと素っ気ない感じがしたのだが、会って話せばいい…そう思い、短いメールを送った。

結果返事は返ってこなかった…。

このままだと、帰りも美幸ちゃんと会う確率は低いだろう…それなら、此方から美幸ちゃんが帰る前に教室に行けばいい…。

それを考えたのが今俺の隣を歩いている鈴村だ。

俺は美幸ちゃんの迷惑になるから、止めようと言ったのだが、別に友達を迎えに行くだけなんだから問題無いと鈴村は言い張った。

実際一年の廊下を歩くだけで、「なんで三年が?」という視線が痛々しく感じる。


「ほら、美幸ちゃんの教室に着いたよ?」

「あぁ、分かってるよ…」
ここまで来たなら仕方ない…頭ではそう思っているのだが、中々身体が動かない。
鈴村が呆れたように俺の顔を覗き込むと、俺より先に教室へと足を踏み入れてくれた。
深呼吸をすると、鈴村の後に続き俺も中へと入る…。――教室の中に入ると、まず一つの机を囲んで雑談をしている女の子達が視界に入ってきた。
197春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:58:14 ID:F1f7fRiQ

「すいませ〜ん…。」
鈴村が小さく小言のように呟く…。
別に誰か個人に向けて言ったのではなく、教室の中へ言ったのだろう…。
しかし、雑談していた女の子は自分達に声をかけられたと勘違いをしたようだ…。
雑談をしていた五、六人の女の子が皆、雑談を止めて此方に顔を向けた。なにかヒソヒソと此方を見ながら話しているが、一々相手をしていられないので軽く無視をして、美幸ちゃんの姿を探す…。



「美幸ちゃんは……居ないみたいだね…」

「あぁ…。」
何人かの生徒がいるが、美幸ちゃんの姿は見当たらない。


「……なぁ。」

「は、はいっ!?」
仕方なく、此方をチラチラと見ている女子生徒に近づき、話しかける。

話しかけられるとは思っていなかったのだろう…ポニーテールにした髪の女の子が肩をビクつかせてイスから立ち上がった。

「いや…美幸ちゃんってこのクラスだよね?」
恐がらせてしまったと思い慌てて柔らかい言葉に変える。

「み、美幸ちゃん?」
下の名前だけでは分からなかったのだろう…オロオロしだすと、周りの生徒に助けを求める様な視線を送りだした。


「あぁ、ごめんね?山下 美幸ちゃんってこのクラスだよね?」
198春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 00:59:22 ID:F1f7fRiQ

俺の隣にいた鈴村が間違いを訂正するように再度、美幸ちゃんのフルネームで聞き直す。

「あっ…はい。山下さんはこのクラスです。」
思い出した様に答えると端にある机に視線を向けた。
その机が美幸ちゃんの机なのだろう…やはりそこにも美幸ちゃんの姿は無い。

先に帰ってしまったのだろうか…。机を見ても美幸ちゃんのカバンらしき物は見当たらない。

「美幸ちゃんは何処に行ったか分かるかな?」
俺が話すより自分が話した方が話が進むと考えたのだろう…鈴村が緊張する女子生徒に優しく問いかけた。

「えっ…と…今日山下さん来てた?」
ポニーテールの女の子が後ろにいる友達に聞くが、後ろにいる生徒は首を横に振るだけで口を開かない。
そんなに三年と話すことに緊張するのだろうか?

「来てないみたいだね…」
残念そうに呟く鈴村の肩にポンッと手を置き、気にするなと告げる。

「んじゃ、帰るか…。ありがとね。」
美幸ちゃんが居ないこの教室にいる意味は無い…。
女子生徒にお礼を言うと、すぐに教室を後にした――。

避けられてると思っていたのだが、ただ学校に来ていなかっただけなのか…。しかし、メールを送って返ってこないのはどういうことだ?
199春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 01:00:15 ID:F1f7fRiQ
病気で寝込んでいるのか…それとも、やはり避けられてるのか…。
どちらにしろ美幸ちゃんと話さなければ、先に進めない。


――そんな事を考えながら、下駄箱ロッカーの前で上履きから私靴に履き替えていると、狙ったようにブレザーのポケットに入っている携帯が震えた。
慌てて携帯を取り出して誰かを確認する。



――「おっ、美幸ちゃんだ。」

「えっ、本当に!?」
待ちに待った人からの着信に声が出てしまった。
その声を聞き付けて鈴村も俺の携帯を覗き込む。


『美幸ちゃん』
携帯の画面には大きく美幸ちゃんの名前が書かれている。

メールでは無く、電話をしてきた事に少し驚いたが、震える親指で通話ボタンを押すと、恐る恐る耳元へと携帯をもっていった。




――「もしもし…美幸ちゃん?」

『…………すまん…美幸では無いんだ。』

「えっ?」

『美幸の父だよ。』
電話の相手――それは美幸ちゃんでは無く、美幸ちゃんのお父さんだった。

(なぜ美幸ちゃんの携帯から、おじさんが掛かってくるんだ?)
不思議に思い、理由を聞こうとすると、おじさんから「少し、話をしたいんだが…今日大丈夫かな?」と先に切り出された…。
200春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 01:01:10 ID:F1f7fRiQ




――「はい…大丈夫です。」
断れる訳もなく渋々OKすると、5時に美幸ちゃんの家へ行く約束をしてしまった…。
はぁ〜っ、とため息を吐き、携帯をポケットにしまい込む。

「僕も一緒にいこうか?」
私靴に履き替えた鈴村が俺の横に並ぶと、心強い言葉を投げ掛けてくれた。


「…いや、一人で行くよ…ありがとう。」
鈴村の提案に頷きそうになったが、美幸ちゃんは俺が鈴村に相談したことを知らない。
変に勘違いをされたら誤解の種が増えるので一人で言った方が良いだろう…。また、あのような場面に出くわすのかと少し脳裏を過ったが、次は逃げずにちゃんと美幸ちゃんの話を聞いてあげようと思う。
それが俺の美幸ちゃんへの罪滅ぼしであり、唯一他人の俺が美幸ちゃんにできる事だろう…。

「……なんか雨降りそう…」
鈴村が空を見上げながら呟く。
同じ様に空を見上げると、いつの間にか雨雲が空一面を覆っているのに気がついた。




(ッチ……なんでこんな時に…)

空を強く睨み付けるが、残念ながら雨雲が消える事は無く、不安を煽るようにより一層黒い雲を重ねるばかりだった――。
201春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 01:04:09 ID:F1f7fRiQ
投下終わります。
次は春香の話を書きます。
202 ◆ou.3Y1vhqc :2009/11/25(水) 01:06:13 ID:F1f7fRiQ
>>172
GJ!
めちゃくちゃ続き楽しみにしてます。
203名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 01:18:47 ID:0+1sIgLm
超GJ!!!
やっと春香の話しか…。
続き期待してます。
204名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 01:36:40 ID:/VeaQO+x
>>172
遅れたが乙!!
しかし執事がウォルターなのはヘルシングの影響かw
205名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 09:28:41 ID:O64YQDkS
>>172
マジでクロエ幸せにしてあげたい
GJ

>>201
GJ!次回が読みたいんだぜ
206名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 23:24:00 ID:vSMXNXA1
GJ
207名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 03:08:36 ID:UGPLKTCt
GJだ!
208名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 05:02:21 ID:jSmCiF9+
闇医者が少女拾う奴の続きマダー?
209名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 08:23:05 ID:6L4njKlt
続きが気になるんなら自分で書けば?
210名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 12:18:42 ID:blZRgqJH
ヤメテ〜
頑張って書いてるから、俺に書かせて〜
年内にはなんとか……
211栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:28:34 ID:453IS2ad
>>210期待してる
>>204その通りです。俺の中で執事といったらセバスチャンよりウォルターです
212栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:30:59 ID:453IS2ad
 春とはいえ夜の風は冷たい。ロイドが身を震わせると、クロエは申し訳なさそうにロイドを見上げて外套に手をかける。ロイドはそれをやんわりと押しとどめた。
「……でも」
「いいから」
 クロエはごめんなさいと俯く。小さな手は、先ほどから僧衣を握り締めて離そうとしない。べったりと貼り付くクロエに歩幅を合わせながら歩くのは少しだけ億劫だったが、その煩わしさが愛おしい。
 ロイドはクロエの頬に触れる。記憶の中のクロエの頬は、もう少しふっくらとしていた。
「私こそ、ごめんね」
 何が、とは言わない。だが、クロエは俯いたまま首を横に振った。ほつれた髪が白いうなじを滑り落ちる。
 二人とも、何も喋らない。ざくざくと地を踏む音ばかりが響く。時折、野犬の吠える声やパブの喧騒を耳にすると、クロエは顔を青くして怯えた。
 ロイドの腰にすがりつくクロエをなだめ、大丈夫だよと囁く。尋常でない怯えかたに罪悪感を覚えながら、そんなクロエを可愛いと思ってしまう。自分もどこかおかしいのかもしれない。
 本当にクロエのことを思うならば、クロエをアシュレイ卿に託せば良かったのだ。
 頭を下げて頼めば、アシュレイ卿はつまらなそうにしながらもクロエを淑女として育てただろう。ロイドに「おまえの手を離れたクロエはこんなにも幸せだ」と見せつけるために。アシュレイ卿はそういう男だ。
 自分も大概身勝手なことだ。ロイドは溜め息をつく。自分が責められたと思ったのかクロエの肩が震え、僧衣をより強く握った。ロイドはクロエの頭を撫でる。
 教会の裏口に回り、アシュレイ邸と比べるのもおこがましい質素な門を開ける。腰あたりまでしかない錆びた門扉は歯の浮くようないやな音をたてた。
「おかえり、クロエ」
 門の内側に引き入れながらクロエに言う。クロエはロイドをじいと見上げて、それから目を伏せた。光の宿らない目の奥が、僅かに揺らぐ。
「た、ただいま……ロイドさん」
 ロイドは満ち足りた気持ちでクロエの手を引く。やはり、クロエがいなくてはならない。クロエがいて、初めて教会はロイドの居場所となる。
「今日はもう遅いから休みなさい。部屋はそのままになっているから」
 自室に向かうように促すが、クロエはロイドの僧衣を掴んで離さない。クロエ、と名を呼んで肩を軽く押すが、クロエは体を固くして俯いたままだ。
 どうしたものか。とロイドはクロエの旋毛を見つめる。ひゅう、と吐息にも似た声が聞こえた。
「どうしたの?」
 クロエは二三度唇を開けたり閉めたりして、ぽつぽつと言葉を吐き出した。
「……いかないで、一人にしないで……ロイドさんおねがい」
 心臓を鷲掴みにされたら、こんな風に胸が震えるのだろうか。震える背をあやすように撫でて、ロイドはクロエを抱き寄せた。
「仕方のない子だね」
 言って、自室のドアを開ける。
「おいで。今日だけだよ」
 俯きがちに頷き、クロエはロイドの部屋に足を踏み入れた。ドアを閉めて、ロイドは苦笑する。
「お茶でもいれようか?」
213栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:31:41 ID:453IS2ad
 こんな狭い部屋に二人閉じこもったところですることがない。ロイドの提案にクロエは首を振って答えた。
 狭い部屋の目につく位置にロイドがいるから安心したのだろうか。クロエは僧衣から手を離す。白い指先は所在なさげにさまよって、最終的に黒いスカートを握り締めた。
 ロイドは寝台に座る。自身の隣のひんやりとしたシーツをぽんぽんと叩くと、クロエはロイドの周囲をうろうろした後ぽすんと軽い音をたててロイドの隣に座った。寝台が浅く沈み込む。
 クロエの白い頬を、青い月の光がすうと横切っていた。光の筋をなぞるように頬に触れると、クロエは長い睫毛を伏せる。頬に青い影が落ちた。
 するすると衣擦れの音をたてて、クロエはロイドの肩によりかかる。触れた箇所がじんわりと暖かい。髪を結わえる黒いリボンをほどくと、柔らかい髪が落ちてロイドの手をくすぐる。
 クロエの唇が薄く開いた。緑色の瞳がロイドを見つめて、ふいと視線がそらされる。
「あのね、ロイドさん」
 ぽつん、とクロエは呟く。あのね、ともう一度繰り返した。
「ロイドさんに迷惑かけちゃいけないってずっと我慢してたの。我慢して、我慢して、我慢して、本当に我慢したの」
 ロイドの手に、クロエの小さな手が重ねられる。うん、とロイドは頷く。熱に浮かされたように喋るクロエの頭を撫でた。
「でも、そうしてたらなんだか何も分からなくなっちゃって。この辺りが、ぐるぐるしてきて」
 クロエの手が自分の胸の辺りをきゅうと握る。うん、とロイドは頷く。
「何も出来なくなって、アシュレイ卿にも迷惑かけて、ロイドさんが……、ロイドさんの……」
 クロエの肩が震える。ひゅ、ひゅ、と痙攣的な呼吸を繰り返す。うん、とロイドは頷いてクロエの肩を抱いた。
「ロイドさんのことが好きなの。ロイドさんがいないと何も出来ないくらい好き」
 ロイドの手の甲に、ぽたぽたと涙が落ちてくる。うん、とロイドは頷いて、手の甲の涙を舐めとった。
 寄る辺無い少女の心の隙間につけ込んで、内側からぼろぼろに壊してそれで満足か。僅かな良心が己を責めるが、それはすぐに塗り替えられる。ロイドは今までに無いほど満ち足りていた。この上なく満足だった。
「……此処に居たいの。ロイドさんが私のこと嫌いでもいいから、私なんでもするから、だから……」
 ロイドは震えるクロエの唇に口付ける。食むように優しく、だけど逃がさないようにクロエの頭をしっかりと押さえながら。
 クロエは可哀想なくらいに震えていた。だが、舌先で唇をつつくと、赤い舌が飢えたようにロイドの舌に絡みついてくる。所有権を主張するようにクロエの中に唾液を流し込むと、クロエはそれを嬉しそうに飲んだ。
 脱力したクロエの上体はするりとロイドの膝の上に横たわる。黒い髪を白いシーツに広げながらクロエはロイドの膝でまろぶ。
「嬉しい?」
 問うと、壊れたようにクロエは頷く。ロイドは逡巡する。言っていいものかどうか。多分、言ったらそれで最後だ。クロエを見えない縄で縛って、その片側を持つことになる。
「私も」
 クロエは目を丸くした。言葉の続きをじっとして待つクロエの様子を見下ろしてロイドは続ける。
「好きだよ……多分ね」
 最後の最後に自分に保険をかけた。どこまでも利己的で自分勝手だ。ロイドは苦笑いする。
 しかしクロエは嬉しそうに笑って、ロイドに両の手を差し出した。赤子のような汚れ無さで、クロエはロイドを求める。当たり前だ。今、クロエの中にロイドへの欲求以外は何もない。自分がそう差し向けた。
 ロイドはクロエの手を握る。小さな手はロイドの手を強く握り返した。クロエの手を引き、脚の間に後ろから抱き込むように座らせる。
 うなじに口付けながら、手探りでボタンを外し衣服を脱がせる。露出した肩には乾いた血がこびりついていた。傷口の周りを撫でるように舐める。首筋からかすかにアシュレイ卿と同じ匂いがするのがひどく気に入らなかった。
 一刻も早くアシュレイ卿の痕跡を消し去ろうとクロエのドレスを脱がせていく。焦れば焦るほど指先は上手く動かなかったが、ドレスはやっと力無く床に落ちた。下着も手早く脱がせて床に落とす。クロエは一糸纏わぬ姿でロイドの腕の中にいた。
「白いね」
 滑らかな背中の肌に唇をすべらせる。今まで数度体を重ねたが、クロエの体を貪るのに精一杯でゆっくりとその様子をを見たことは無かった。
 腕の中のクロエは、白くて小さくて、可愛い。背骨の作る淡い陰影をなぞると、クロエはくすぐったげに身をよじらせた。
「最後までしようか」
 脇腹を撫でられ、頬を赤くするクロエに囁く。答えが一つしか無いのを知っているくせに、さも選ばせてやるかのような態度をとった。クロエはこくりと頷く。
214栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:32:28 ID:453IS2ad
 その返事を見て、ロイドはクロエを抱き上げるようにして布団の中に引き込んだ。白い裸体を月明かりに晒すのすら惜しい。
 クロエに覆い被さり、額に、瞼に、唇に口付けていく。クロエはとろけた表情をして、目を細めた。うふふ、とくすぐったそうな、恥ずかしそうな笑みを零す。
 ロイドは自身の上着のボタンに手をかける。が、クロエの手がそれを引き止めた。クロエは上着のボタンを外していく。それから、中のシャツのボタンも外していく。
 そこでクロエの手が止まった。ロイドがクロエにそうしたように、体に腕を回して衣服を脱がせることも、抱き上げて脱がせた衣服を落とすことも、クロエの細腕では出来やしない。
 途方に暮れるクロエを眺めて、ロイドは自ら衣服を床に落とす。クロエの手によってベルトだけ外されていたズボンも共に床に落とす。ベルトのバックルが床にぶつかりカチンと音を立てた。
 ロイドはクロエの傍らに体を横たえる。クロエはロイドの裸の胸に頬を寄せ、嬉しそうにロイドに触れる。
 幼子の無垢さで、嬉しそうに楽しそうにロイドの腕の中丸くなる。まるで遊んでいるようだ。その実、淫らな遊びであるが。
 薄い胸の豊かとは言い難い乳房を撫でられ、クロエは身じろぐ。片手が背筋をすうと下りて腰のあたりをなぞると、ぞわぞわとした感覚に息を吐いた。
 柔らかな身体の感触を確かめるようにゆるやかな愛撫を施す。白い頬がほんのりと色づき、熱っぽい吐息が零れた。
「あっ……」
 ロイドの指の背が胸の頂を掠め、クロエは思わず声を漏らす。ぱっと口元を手で覆うと気まずそうにロイドを上目に窺った。ロイドはクロエの手を取り口元から引き離し、再び露わになった唇を舐める。
「もう我慢しなくていいよ」
 笑いながら言うとクロエは困惑したように眉を下げる。
「いじ、わるっ……」
 ぴんと立つ乳首をくにくにと指先でこね回すと、困惑の表情は快感に濡れた。上気した身体から甘くいやらしい香りがする。
 手のひらサイズの乳房を揉み、時折先端を責め立てる。密着していた下腹部が、触れてもいないのにひくんと震えるのが伝わってきた。胸への愛撫だけで子宮まで震わせている。
「あん、……や、ロイドさん」
「ん?どうしたの」
 涼しい顔でクロエの胸に顔を近付けた。とくとくと早い鼓動が聞こえる。過不足なく確かにクロエはそこで生きていて、ロイドはそれが幸せだった。
 触れてほしい、とまるで蜂をおびき寄せる花弁のように鮮やかに充血した乳首がロイドを誘う。ロイドは本能のままにそれに吸い付いた。
「ひゃあぁ!」
 生ぬるい感触にクロエは逃げようと身を引く。ロイドはぐいとクロエを押さえて思うがままに蹂躙する。
 乳首に吸い付き、押しつぶし、甘噛みし、そのたびにクロエはかみ殺した悲鳴をあげた。
「ひゃ、ぁ……ロ、イドさんっ!」
 クロエはロイドの頭を抱き締める。早鐘のような鼓動がロイドに興奮を伝える。
 こつん、とクロエの膝がロイドの腿をつついた。強請るように滑らかな太腿をこすりつけられる。
「触って欲しい?」
 腿を撫でるとクロエの体が強張るのが分かる。いつもとは逆に、ロイドがクロエを見上げる。クロエは目に涙を浮かべ、頬を染めて頷いた。
 ロイドは腿を撫でていた手を、すうとその中心まで滑らせる。薄く柔らかな茂みに触れて丘を指で挟む。ぐにぐにと揉むとクロエはもどかしげに膝をすりあわせた。
「ロイドさん……。いじわるしないでぇ……」
 ロイドは中心でひくつく箇所には触れず、その周囲をなぞる。にも関わらず、ロイドの指先が湿った。おさまりきらない愛液が溢れている。
 二本の指で陰唇ごと陰核をこねる。柔らかい肉の向こうで固いしこりが転がる。
「うぅ……、ロイドさん、も、やだぁ」
 クロエの細い指先がロイドの陰茎をさする。徐々に立ち上がりつつあったそれはクロエの指の動きで硬さを増した。
「欲しいよぅ……ロイドさん、おねがい」
 クロエはくうと鼻を鳴らしてロイドに甘える。ロイドはクロエの手をとり握る。
「まだ、駄ァ目」
215栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:32:59 ID:453IS2ad

 期待に潤むクロエの瞳を覗き、にいと笑うと陰核をじかにこする。
「あ、あぅ、うぅ……」
 クロエの瞳が期待はずれに一度落胆の色を見せ、すぐに恍惚とした色を浮かべる。
 ロイドは問う。
「アシュレイ卿に抱かれた?」
 自分でも驚くほどに冷たい声が出た。クロエは悲しそうに眉を下げて首を横に振る。
「本当に?」
「ほん、と……にっ!」
 クロエはだだをこねる子供のように泣きそうな顔をした。
「ふぅん、じゃあ、信じるよ」
「ふあぁっ!」
 くんっ、とクロエの腰が引けた。それを抱き寄せ、クロエの唇に口付ける。
「あふ、ふうぅ……」
 ロイドの口の中に喘ぎを零しながら、クロエはロイドの唇からは逃げようとしない。ロイドはクロエの陰核をさすり、押し潰す。透明の液が溢れ出てはロイドの指を濡らした。
「ふぁ、ふ、んっ、うぅ」
 執拗に舌を絡めながら陰核を愛撫する。くちゅくちゅと水音が上の口からも下の口からも漏れた。クロエの太ももがきゅうとロイドの手を挟んで震える。
 くちゅ、ぐちゅ、と指の動きにあわせて音は止まない。
「ふ、ん、んん、んうぅーー!!」
 びくびくとクロエの体が跳ねた。固く充血していた陰核はとろけて柔らかくなり、その下の膣口がひくひくと痙攣している。下腹が波打ち、クロエはロイドにぎゅうとしがみついた。汗ばんだ腕がロイドに絡みつく。
「はぁ……はぁ……」
 ロイドが粘液にまみれた陰唇を撫でるだけでクロエの腰が浮き、震える。ロイドがそっとクロエを抱きしめ返すと、やっと安心したように脱力した。
 快感に呆然としたクロエの顔がロイドにすうと近づいた。ちゅ、と小さな音をたててロイドの目の下に口付ける。
「ロイドさん……」
 ぎゅ、とロイドはクロエを抱き締めた。クロエはロイドの腕の中で苦しそうに息を漏らす。
「生きてる?」
「え?」
 ロイドの問いにクロエは首を傾げた。ロイドはクロエの片耳を自身の胸に押し付ける。
「私が」
 クロエは目を伏せ、ロイドの胸に耳を澄ませる。熱っぽい吐息が胸を掠める。
「とくとく言ってる」
 ぽつり、とクロエは呟いた。それを聞いてロイドは笑う。
「そっか、良かった」
 クロエの傍らから体を起こし、クロエに覆い被さった。熱を持った陰茎を濡れそぼった膣口にあてがう。クロエの震える指がロイドの背に回される。なだめるように数度撫でられ、ロイドは小さく笑った。
 ――これではいつもと立場が逆だ
 細い脚を抱えて、腰を突き込む。ぐちゃぐちゃにロイドを求めるそこは、抵抗なくじゅぷ、と陰茎を根元までくわえ込んだ。クロエはひゅうと息を詰まらせる。
「どうしたの?欲しかったんでしょう?」
 ロイドは意地悪く問う。腰を軽く揺すりながらクロエの耳元で囁いた。
「ん……、なんか、へんなかんじ」
 クロエはロイドにしがみつきながら答える。緩やかな快感にうっとりと目を細めた。
「なんだか……すごい、きもちいい」
 予想外の返答に目を丸くして、腰の振り幅を徐々に大きくする。
「今までは気持ちよくなかった?」
「そうじゃ、ないですけど……」
 内部の肉はロイドの陰茎に絡みつき、貪欲に精を搾り取ろうとする。クロエの吐息に喘ぎ声が混ざりだした。ロイドは指先でクロエ乳首を撫でる。ふるりとクロエの唇が震えた。
「あ、うぅ……」
216栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:34:13 ID:453IS2ad
 じゅっぽじゅっぽとゆっくりと体内を行き来する肉の塊の感触に酔いしれる。血管や筋の一本まで認識出来そうなほど、クロエはロイドを感じていた。
「はうぅ……!?」
 抜かれ、押し込まれる陰茎がクロエの膣壁を抉る。ある一点を擦りあげたその時、クロエの体を未知の快感が走った。ロイドはクロエの反応が変わったのを見逃さず、そこを執拗に責め立てる。
「ここ?」
「あひゃぅ!やっ、やめっ、あっ、へん!へんだよぅ!」
「気持ちいい?」
「あ、あぁぁっ、はぅ、あうぅっ!」
 いやだいやだと泣く割に、クロエの腰は揺れてより強く擦りつけてくる。膣壁が陰茎を食い締め、快感を訴えた。
「ひぁ、あ、あん、だめっ」
 ロイドはその一点を責めながら、激しく腰を動かす。クロエの中がびく、びく、とゆっくり痙攣する。
 一際強く膣壁を抉ると、クロエは悲鳴をあげて腰を引いた。力に任せて押さえつけ、一点を抉り続ける。クロエは泣きながらもがいた。
「やっ、やだっ、やだやだやだっ!へん!へんなのいっぱい……!?」
 びくんっ、とクロエの体が大きく跳ねる。ロイドの下腹をクロエの膣が噴き出した透明の液体が濡らした。
「え?えぅ?なにっ……これぇ……」
 クロエはびゅっ、びゅっ、と噴き出す潮を手で押さえて止めようとする。が、止まるわけもない。クロエの手と、ロイドの下腹と、シーツを濡らしてやっと治まった。
「あ、あ、ごめんなさい……ごめんなさい……」
 粗相をしたとでも思ったのか、クロエはぽろぽろと泣きながら謝る。ロイドは笑み、クロエの涙を拭った。
「気持ちよかったんだもんね?気持ちよすぎて、潮噴いちゃったね」
 クロエの体をいたわり、ゆっくりと陰茎を抜く。そうしてさえクロエの体は抜く時にぷしゅ、と軽く潮を噴いた。ロイドはクロエの震える脚を寝台に下ろす。クロエの体に覆い被さったまま、シーツに流れる黒い髪を撫でた。
 クロエは浅い呼吸を繰り返し、ロイドにしがみついて離れようとしない。
 クロエの知る情交は、力任せになぶられ押し込められるものだ。丁寧に愛撫されて自身の内側から湧き上がる快感の理由が分からず、幼子のように泣いている。
 ロイドは優しくクロエの頬を撫でた。涙が幾筋も落ちる頬に触れると、指先が湿る。
「大丈夫だよ」
 そう一言言うと虚ろをさまよっていたクロエの視線がロイドを捉えた。ふ、とクロエは笑う。気持ちよかった?と問うと、クロエは恥ずかしそうにしながら頷いた。
 ロイドはクロエを四つん這いになるように促す。クロエの背後に回り、白い尻を撫でた。濡れてひくひくとロイドを求めるそこが、ロイドの目の前に晒される。ロイドは舌なめずりでもしそうな気分でクロエの体を一息に貫いた。
 クロエは息を漏らす。小さな尻に腰を叩きつけ、奥まで陰茎を突き入れて、ロイドはクロエの肉の柔らかさを堪能する。
 クロエはシーツを掴んでいた手で口を塞いだ。声を上げさせられる恥ずかしさからだろうか。ロイドはクロエの手をとり背で纏めてそれを止める。
 嬌声があがるだろうと思っていたクロエの赤い唇からは、抑えた嗚咽が漏れた。ぎょっとしてクロエの顔を覗き込むと、クロエは苦しそうな顔をして唇を噛んでいる。緑色の瞳からはとめどなく涙が落ちる。
 ロイドはクロエの体内から陰茎を抜き取った。クロエの体を起こしてやる。
217栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:34:45 ID:453IS2ad
「どうしたの?痛かった?」
 クロエは首を横に振る。細い腕がロイドの首に回された。
「ロイドさんが見えてないといやなの……」
 とく、と胸が鳴る。ロイドは寝台の縁に座り、クロエに膝を跨がせた。少し高い位置からクロエはロイドを見下ろす。
「これでいい?」
 クロエはこくりと頷いた。それから、でも……と言いよどむ。
「は……はずかしい」
「これ以上の我が儘は聞けないなぁ」
「あっ……」
 ずぷん、と陰茎がクロエの中に飲み込まれる。クロエは喉を震わせ、ロイドの上で身をよじった。そのたびにロイドの目の前で小さな乳房がふるふると揺れる。
「いい眺め」
「やぁん……っ」
 クロエはロイドの首の後ろに手を回していたが、強く抱き締めると自分の胸をロイドの顔に押し付けることになる。どっちつかずの姿勢のまま、ロイドの好きなように揺さぶられていた。
「あっ、……はぁ、あ、あ」
 腹の奥を押し上げられ、先ほどまでともまた違う快感に翻弄される。粗相でもしたかのように脚の間はびしょびしょで、体にも力が入らなかった。
 陰茎の先端が子宮口にぶつかりくちゅんと衝撃が体中を痺れさせるたびに、自分がロイドを好きなことを自覚していく。侵入した陰茎に悦ぶ体がそれを教えてくれる。
「うくぅ、んっ、ロイド、さんっ、も、むり、また、いっちゃう……!」
 半ば夢見心地でそう宣言すると、ロイドも余裕の無い様子で息を吐いた。ロイドの大きな手がクロエの腰をがっしりと掴み、めちゃくちゃに揺さぶり突き上げる。
「っ、いいよ、いきなさい」
 許しを貰ったはしたない体は、ロイドの陰茎を締め上げながら昇り詰める。それをコントロール出来るわけもなく、クロエは喉を反らせた。
「ひっ、ひぁ、ああぁぁぁっ!」
 ぎゅう、と陰茎を締め付けられ、ロイドは堪らずクロエの膣内に精液を吐き出した。どくんどくんと脈打ちながら、白濁はクロエの体内に撒かれていく。
 くたりと脱力したクロエの体が寄りかかって来て、ロイドはそれを抱き止め寝台に横たわった。眠たげな半眼はロイドを見つめ、柔らかな笑みをたたえる。
「ロイドさん……好きぃ」
 クロエはそれだけ言うと、ロイドの胸に額を押し付けてすうすうと寝息をたてはじめた。もしかしたら、ほとんど失神していたのかもしれない。
 ロイドは泣きはらした瞼に口付け「私も」と囁いた。
218栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:35:24 ID:453IS2ad
******

 時の流れは平等だ。その筈なのに、クロエのいないねじ切られるような苦痛を味わった十日間と、クロエを手中におさめた後の数ヶ月を比べると、誰かが月日を操作しているとしか思えない。
 朝の礼拝堂には、飽きもせず町民が祈りを捧げに来ていた。ロイドは彼らのまえで滔々と神の教えを説く。時折、町民を裏切る背徳感に苛まれた。だが、そんなことは些末事である。
 祈りの言葉を唱え終わり、聖典を閉じる。教会の隅に靴屋の主人と細君の姿を認めて、人が少なくなった頃に声をかけた。
「ミスター・エルバート。おはようございます」
 靴屋の主人――エルバートはそののっぺりとした顔に曖昧な微笑を浮かべた。
「おはようございます、神父様。ほら、シンシア。神父様に挨拶なさい」
 シンシアはどろりと濁った瞳をロイドに向けた。ふっくりとしていた頬はこけ、金髪は艶を失っている。男好きする魅惑的な唇は、乾燥して血が滲んでいた。
 体の線をはっきりと示していたドレスはしまいこまれ、今はゆったりとしたマタニティドレスにカーディガンを羽織っている。半ば死体のようなシンシアの様子と対象的に、膨れた腹が生命を暗示した。
「シンシア、挨拶なさい。……出来ないの?」
 にっこりと首を傾げたエルバートの問いに、シンシアはかたかたと震える。乾いた唇がかさりと戦慄いた。
「おはようございますしんぷさま」
 もはや声ではない、音である。エルバートの声を真似しただけの音だ。ロイドはシンシアに軽く会釈してエルバートに言葉をかける。
「そろそろですか?」
「いえ、まだまだですよ。あと三月か、四月か」
 二人は不思議なほどに膨れ上がったシンシアの腹を眺めた。
「いいですよ、子供は」
 エルバートは笑う。
「愛すべき人が増えるのは喜ばしいことですから」
 ロイドは苦笑した。
「私はそこまで大人にはなれませんよ。愛した人に自分以外の愛すべき人が出来るのは許せない」
 それにはエルバートが苦笑する。ロイドは続けた。
「それに、私は神に仕える身ですから。妻帯は出来ません」
 エルバートは愛おしげにシンシアの腹を撫でながら、くすくすと忍び笑う。
「ああ、そういえばそうでしたね」
 慈しむようにシンシアの手を取り、立たせると帰り支度を始めた。ロイドはそれを黙って見送る。
「ミスター・エルバート、男の子がいいですか?それとも女の子?」
 エルバートはゆっくりと振り返り、優しく微笑む。
「男の子ですよ。私によく似て母親思いの」
 呪詛にも似た言葉にシンシアは怯えた。小さく縮こまり震える姿が扉の向こうへ消えるまで、ロイドはずっと彼らを見つめていた。

「ロイドさん」
 クロエがロイドを呼び止める。伏せられた睫毛が震えた。
「何を話していたんですか」
 気弱にそう首を傾げる。
「うん?ミスター・エルバートとね。ちょっと挨拶を」
「……そうですか」
 クロエは眉を下げ、小さく笑う。ロイドには分かる。自分がシンシアに話しかけていたのが、クロエは厭なのだ。だがクロエはそれ以上追及しない。泣きそうに表情を歪め、それを隠すように俯いた。
 ロイドはクロエの肩を抱き、ぽんぽんと軽く叩いてなだめる。周囲にはクロエの仕事を励ましているようにしか見えないだろう。
 クロエは視界からロイドが消えるのを極端に嫌がった。ロイドが他の女性に話しかけるたびに苦しそうな顔をする。病的なほどの反応に、ロイドの欲望は満たされていった。
「大丈夫だよ、クロエ」
 クロエは俯いたまま「はい」と頷く。やはり表情は暗いままで、ロイドは薄暗く笑った。
 白い頬を指先でつつくとクロエは上目遣いにロイドを見る。いまだ思いつめたような顔をするクロエに、誰にも見えないように軽く口付けた。やっとクロエは目元を緩ませる。

 こんなどうしようもない男を信じて教会に訪れる、視界の端を蠢く町民達が、こんなどうしようもない男に絡めとられて身動き出来ないクロエが、ひどく哀れだった。



219栄耀、静寂、快楽:2009/12/02(水) 21:36:36 ID:453IS2ad
一応最終回です
お付き合いいただきありがとうございました
俺の書くエロシーンはエロくないと思います。こう、ねっとり感が足りない
精進します
220名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 22:17:45 ID:Dd4WameJ
イチャイチャベチョベチョしすぎ!
十分エロくて面白かったよ
221名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 22:38:18 ID:7lgcjMqV
>>219
GJでした!
いやー投下を待ってる時間も楽しませてもらいました。ありがとう。
ロイドには完全な救済を与えないあたり、すごく上手いです。しっくりと腑に落ちました。
次も楽しみにしています。
222名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 07:04:20 ID:tyTsYDCu
お疲れさん。
223名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 12:52:13 ID:oBtMh3G8
ホントにGJ!
クロエは絶対幸せだと思うんだ
お疲れ様
224名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 17:44:50 ID:+jZ0vjmn
>>217
GJ
自分に依存してる女の子とヤるのっていいね。
靴屋の夫婦も幸せそうで何より。
225名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 21:03:00 ID:0NqjBLH0
  
226名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 11:29:31 ID:vLeLed7f
GッッッJッッッ!! いやー面白かった。素晴らしい。
灰色のハッピーエンドって感じで物足りなさを感じるのも合わさって良かった。
終わってしまって残念だけど次回作の予定はあるんですかね? 是非とも期待してます。
2274ー263:2009/12/06(日) 00:20:47 ID:5Tq/R1ae
まとめ管理人様、私の「アシュレイ郷」というひどい間違いを修正してくださりありがとうございました。
常日頃の更新や、問い合わせなどへの迅速な対応にいつも感謝をしております。
このスレの住人は書き手、読み手問わず管理人様に依存していることでしょう。
これからもよろしくお願いします。


パーフェクトだ管理人
228名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 15:18:27 ID:WoYx+esB
確かにここの保管庫は更新速いよな
これからも頼むぜ

>>219
GJ!
229名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 15:35:26 ID:Gy/pZrL7
保守
230名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 15:52:13 ID:21LOJ2jD
投下ないね
231名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 16:19:20 ID:Gl9INw13
なにいつもの事だ。
232名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 00:39:30 ID:N8kXYiZM
投下あるじゃん
233名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 00:42:12 ID:3f2Jrocq
4ー263の投下の間隔が短かったから投下が無くなったようにかんじるけど、これが通常だよな
234名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 05:17:16 ID:0XDNQdGF
その少女が光を失ったのはもう何年も前の事だった。
もはや原因はよくわからない。
一応、本当に一応だが、父親と呼べるものから彼女が逃げ出すまで、
顔や頭を毎日のように殴られ続けたからなのか、それとも、病気か何かか。
いずれにしろ彼女の眼はもはや用を成さなかったが、
彼女はさほどそれを気にする様子も、悲しむ様子も見せなかった。

…この世界は彼女にとって何の価値も無かった。
彼女はもはや、自分の命にすら意味を見出すことが出来なくなっていた。
それでも、彼女が生き続けてきたのは、とある青年が、いつも彼女の傍らに付いていたから。

その青年を悲しませたくない、それが、唯一の彼女の生きる理由にして、彼女の全て。



…という感じで盲目依存娘で書いてみようとしましたが
自分の文才の無さに萎えたので寝ます。
235名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 12:05:55 ID:cEvjbNLV
諦めんなよ
諦めんなよ、お前!!
どうしてそこでやめるんだ、そこで!!
もう少し頑張ってみろよ!
236名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 13:15:41 ID:3Srb1QHb
ニコ厨はニコニコ動画へ帰ってください
237Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/12/13(日) 21:41:19 ID:s9U+nhNY
雨にそぼ濡れた、野良犬と出逢った



『……死んてたまるか』
魂だけは、抗い続ける
現実には、指一本動かせなかった
冷たい雨は、微かに残った体力も、容赦なく奪いとる
身に纏うボロ布は、体を隠す以外の機能を、とうに放棄していた
砕けた両の手は、感覚を失っている
両足は、歩く度に灼熱の針の山を踏み抜くよう
全身に刻まれた傷は、個々を区別出来ないほど、まんべんなく分布していた
逃げ出してから、雨水と泥水しか口にしていない
いや、何日かもわからない捕まっていた間すら、口にしたのはケダモノどもの腐汁だけ
ゴミバケツを漁る力も無く、その根元に崩れ堕ちた
固い石畳が、柔らかなベッドのように、アタシを眠りに誘う
『寝たら死ぬ』
苦痛の終焉の誘惑に抗いながら、ただ、眼を開けていることにだけに、全力を尽くした

ギュッ
「グッ……」
そんな絶望的な闘いに、不粋な水を差される
何かに押しつぶされ、肺から息が漏れた
『見つかった!?』
危険に対応する間も無く
バッ
最後の盾だった、ボロ布が引き剥がされる

『……死神?』
ユラリと立ち尽くし、アタシを見下ろす男の姿
追手のチンピラにはあり得ない、虚無の匂いを漂わせていた
質感をもった、死の恐怖に震える
せめてもの抵抗で、迫る死を睨み付けた

「 ハァッーー……」
暫しの睨み合いの末、ソイツは不意に、力無いため息を漏らす
印象が一気に代わった
怠惰な野良犬……
いや
寄る辺を亡くし、虚無感に満ちた番犬
何故かそんなイメージが湧く
ふと、緊張が緩んだ瞬間
バサッ
世界は闇に包まれた
238Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/12/13(日) 21:44:30 ID:s9U+nhNY
『!?』
事態が把握出来ない
一瞬、狼狽えていると、体が浮き上がる
昇天なんてものでは無い
男に捕まったのだ
ガサガサ
必死に脱出を試みる
幸い出口は近かった
「プハッ!」
被さった、男のコートらしきものから頭を出す
アタシを捕らえた男を睨み、怒鳴り付け……
「あんたっ……、モガッ!?」
……られなかった
口に突っ込まれた、甘いチョコバー
ムグムグ……
食べ物と理解するより早く、体が咀嚼を始めていた

パッ
『ウッ!?』
闇になれた目が、灯りに眩む
『しまった!』
夢中でかじっている間に、どこかに連れ込まれてた
抵抗する前に、無造作にソファーに降ろされる
ウロウロと歩き廻る男を、見極めようと凝視した
そもそも不審すぎる男だ
痩せ型の長身
若いんだか歳なんだかも判明しない
やけにくたびれた印象は、年齢を感じさせるが、肌の張りをみると結構若いのでは
眉間には、神経質な険しいシワが寄り、黒い瞳は生気無く、深く暗い光を宿す
不健康に痩けた頬に、尖り気味の顎
ポツポツと不精髭が伸びていた
黒髪をいい加減に、後ろに撫で付けている
身繕いに構わなそうなわりに、コートもスーツも、かなり金がかかっているように見えた
恐らくヤクザ者だと思うが、それだけでは無いような……
兵隊崩れの雰囲気も滲ませる

しかし、その印象以上に感じられる虚無感
生き死にを超越した、死人の空気
『ヤバいヤツに拾われたか』
警戒を強めた

パサッ
こちらにタオルが放られる
取ろうとして躊躇した
『指が動かない』
ほぼ、感覚を失っていたが、少しでも動かすと激痛が襲い掛かる
弱味を見せる訳にはいかない
タオルを無視して、警戒心をあらわにした
気にも止めない素振りで、部屋を出た男が、何かをもって戻って来る
「ホレ」
湯気の出るスープが、アタシの前に置かれた
239Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/12/13(日) 21:47:56 ID:s9U+nhNY
警戒と食欲の狭間に揺れるが、

グキュルル〜〜……

胃袋が、早急な決断を促す
喰わねばどっちみち死ぬのだ
意を決して、匙に手を伸ばすが……
カチャン
「……ッ!」
動かぬ指は、取り落とす
しまった!
動かない手を、覚られてしまった
痛みに耐えながら、自分のミスを悔やんだ

「怪我か?診せてみろ」
男が手を伸ばして来る
ガチッ!!
「うおっ!?」
その手を威嚇
咬みつかれそうになり、慌てて手を引く
「フウッ、フウッ〜〜」
勝てないまでも、ナメられたら終わりだ
せめて、牙が抜かれて無いことを示す

スッ……
性懲りもなく、男は手を伸ばして来た
ガフッ
今度は、その腕を捕える
ギリギリと噛みつくが、全然歯が立たない
男も平然としたままだ
ゆっくり匙を取り、掬ったスープを差し出す
芳香が食欲を誘うが、口は一つだけ
「ウウ〜〜……」
噛み続けるアタシから、匙は離れ……
ズズッ
男の口に消えた
「!?」
更にもう一匙
自分の糧が、減っていくことに焦れるアタシ
再度、口元に運ばれた匙に、抗うことは出来なかった
バクッ!!
飛び付くアタシ
「慌てるな」
そんな姿を見て、ホンの少し
ホンの少しだけ、男は相貌を崩す
少しだけ……

フン!
騙されるもんか

給餌の姿は、全く似合わないが、何故か妙に手慣れている
結局、スープ三杯と湿気ったクラッカーひと袋を平らげた

こびりついた分まで舐め回したい欲求を堪え、下げられる皿を見送る
戻ってきた男は、救急箱を開けると、慣れた手つきで治療器具を並べた
240Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/12/13(日) 21:51:39 ID:s9U+nhNY
「診せろ」
抑えた声だが、奇妙な強制力がある
確かに、このまま動かなくなったら、野垂れ死ぬしかないのだ
覚悟を決めて、手を差し伸べる
間に合わせで巻いていたボロ布が、手際よく解かれた
「クッ……」
自分でも、正視しかねるヒドイ状態
爪が剥がれ、指がねじくれ、ドス黒く腫れ上がっている
『チクショウ……』
悔しさが鮮明に蘇った



バリッ!
「ギャアア〜〜〜……」
抑えられない悲鳴がほとばしる
ポトッ
剥がされた爪が、無造作に棄てられた
「まあ、こんなところか
オイ、ちゃんと撮ってるだろうな」
「クライアントの希望さ
金になるなら、ぬかりはネエよ」
クソ共は、ヘラヘラと作業を続ける

最悪だった
いや、生きてはいるんだ
最悪の一歩手前
何の慰めにもならないが……

チンピラ共の野良狩り
シマ内の、浮浪児たちの掃除だ
ゴミを漁り、カッパライを繰り返す
ほっとけば育って、徒党を組みだしたり、勝手な売りを始める
サッサと始末しておくに限る
使えるなら使えばいいし、使い棄てても惜しくない
奴らの定期的な、単なる仕事だ
必死に凌ぎ続けていたが、遂にヘマをした

ドサッ……
吐き出し終えたオス共に、無造作に放り出される
「ヘッ、ペド野郎が
そんな鶏ガラ、シャブって楽しいのかよ」
「しっかりシャブらせておいて、よく言うぜ」
ズボンをズリあげながら、ヘラヘラと笑うチンピラ共
『逃げ…る……』
何日も、好き放題犯され、ボロボロだがまだ生きている
とびきりの変態に捕まったことは、幸いだったと思えばいいのだろうか……

241Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/12/13(日) 21:55:44 ID:s9U+nhNY
ヴァギナも、口も、アナルも、当たり前のように犯された
何人も同時に、入れ替わり立ち替わり……
楽しみのためだけに傷つけられた
拳で、歯で、爪で
鞭で、棒で、針で、
蝋燭で、煙草で、焼きゴテで……
縄で、鎖で、手錠で拘束され、性具でこじり廻される
乳首をピアスで穿たれ、紐に繋がれ引き回される
浣腸で排便を、放尿を強制される
精液どころか、小便までも浴びせかけられ、床に零れた物まで舐め取らされる

そんな姿を照明に照らし出され、フィルムに撮られた
何度も、逃げようとして捕まり、爪を剥がれ、アイロンで足を焼かれた

奴らは、スナッフを撮るつもりだったのだろう
最期の撮影場所にボロ船が選ばれたことだけが、本当の幸運だった
奴らに媚びて、便所に行った
舟の、垂れ流しの便所
最期の力を振り絞り、便器を叩き割る
小さな穴が空き、水面が見えた
折れた指に構うことなく、ヘドロまみれの運河に飛び込む
奴らの叫びを後に、腐った水を掻き分け泳ぎ続けた

何処をどう逃げたのかわからない
体力の限界を通りすぎ、倒れていた時にこの男に拾われたのだ



「痛むぞ」
グイッ
「…………っ!!」
警戒を解いたのは間違いだった
傷付いた手を、捏ね回される
必死の抵抗にも、ビクともしない
軽々と抑え込まれ、好き放題なぶられた
限界を越え、力が抜ける

チョロチョロ……
股間に熱いモノを感じながら、ほとんど意識を飛ばす
「……女の子か」
その直前、男の呟きが耳に入った

「脱がすぞ」
結局、この男も……
『どうでもいいや』
別に、何時ものこと
殺されなければ、何をされたって……
辛くなんかない
期待なんかしていないから

纏っていたコートを取られる
元々着てたビスチェは、ハサミで切り開かれた
男は身体中を、まさぐり始める
手足も、背中も
胸や、尻も
ヴァギナやアナルまで……
242Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/12/13(日) 21:58:31 ID:s9U+nhNY
一通り、弄り廻られた
何処を触られても、痛みが走る
傷に埋もれた、貧弱な身体
むしろ、不要とみなされたら……
もう一度、ゴミバケツの横に放り出されたら……

グイッ
そんな、不安な気持ちを感づかれたか、男はアタシを抱き上げた
ブルッ
恐怖に身震いするアタシ
『このまま、助けを乞うてしまおうか……』
不様な考えが、頭をよぎる
『ダメだ』
今、乞うたら、本当に心が折れる
騙すのはいい
いくらだって媚びて見せるし、身体だって差し出す
でも、心を折られたら、すがる生き方しか出来なくなる
そんなヤツラを、何度も見てきた
そして、そんなヤツラは、ことごとく早死にしていった

『生きてやる』
それだけの為に、恐怖に耐え、苦痛を堪えてきたのだ
服を剥がれたのは、むしろ幸運と思い込む
覚悟を決めるアタシ

ザブン
「クッ……」
全身に、針で刺されるような、刺激が走った
十分ヌルイお湯でも、傷に染みる
でも……
「アアッ……」
凍えた身体が蕩けるような、快感にひたった

湯舟なんて、何年ぶりだろう
売るとき意外は、シャワーだって浴びられない
いや、それだって大抵は、道や建物の陰でだから……

男は、贅沢に湯を流し続け、丁寧に洗いだした
自分の服も脱がずに……
髪までほどいて、ゆっくりと透く
アタシの唯一の自慢
いくら邪魔でも、一度も切らずに、伸ばし続けている
母さまと同じ色の髪
誰にも、触らせたことは無かったが……

ホコホコと湯気のたつ体を、タオルで繰るまれた
ソファーに戻り、傷の手当てがされる
そう言えば、掌と足だけは、先に済ませてあった
『アレ、治療だったんだ……』
固定された指を見て、さっきの拷問を思い直す
足の火傷も、大分楽になった気がした
他の傷も、男は手際よく治療していく
終わった頃には、ほぼ全身に包帯が巻きつけられた
243Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/12/13(日) 22:01:07 ID:s9U+nhNY
体が楽になり、気が抜けたのだろう
男が差し出す薬を、無警戒に飲んでしまった
トンでも無いことだ
見ず知らずの男に差し出された薬を飲むなんて、自殺行為でしかない
それなのに……
あろうことか、アナルとヴァギナへの、座薬まで受け入れてしまった

男が、シャツを脱ぎ出した時、アタシはむしろ安心した
『結局、コイツもこういう男なんだ』
見返りがない行為には不安が伴う
代償は分かりやすいほうがいい
無感動に、受け入れるつもりになった
フサッ
プチプチ
『えっ?』
脱いだシャツが着せられ、ボタンが止められた
ソファーの後ろに回り、髪を乾かし始める男
『なんなんだ、コイツ』
理解出来ない
どう見ても、親切なヤツではあり得ない
横のものを 縦にもしないタイプのヤツだ
身体が目当てという訳でもなさそうだ
アタシの身体を見る目は、電気屋が壊れたラジオを見る目と同じだった
手際の良さからみても、たぶん医者、それも軍医くずれだろう
それにしても、なにがしたいのか、さっぱり分からない
今も、アタシの髪を丁寧な手つきで透いている
無意識だろう
低く鼻唄まで洩らしながら……

混乱も限界に来た
体力が尽き、急速に睡魔が襲う
諦めて、思考を止める
『寝てる内に、犯られてもいいや』
再び、男の胸に抱えられる感触を得ながら、転がるように眠りに就いていった





投下終了
244名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 22:07:55 ID:+qsc+mcv
>>237
GJ!
続きを期待してます
245名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 22:16:13 ID:O1aYaAGz
>>243
投下感謝
246名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 23:43:20 ID:s+D5xQMH
GJ!

続き超期待
247名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 01:15:21 ID:JvR5RRkv
期待してるぜええ!
248名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 03:26:47 ID:lbPCY2OF
術者に会うと脳内麻薬が大量分泌されて幸福感に浸り、
術者に会えないと不安に苛まれる魔法というか呪いを考えてるが、
これは依存というよりMCですかね。
249名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 03:55:50 ID:VpE9QfuM
>>243
前に男性視点で書いてましたよね?
250名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 04:09:48 ID:xC5J7KdY
>>248
通称抹茶っていうMCサイトにそういう復讐モノあったな
251Cat ◆tsGpSwX8mo :2009/12/14(月) 09:30:16 ID:fK6DDR56
>>249
スミマセン
前置き、忘れてました

>>40-45のDoc&Catの続き……、てか、視点チェンジ
同じ辺りまでいったら、また視点が変わるかも

続き、早く書けたらいいな
252名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 13:44:13 ID:b3tG5Zfj
前置き…?
253名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 15:50:12 ID:Pt2k3xeT
期待
254名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 18:18:09 ID:E+sKjRLm
保守
255名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 15:15:31 ID:nRDTF5AI
このスレはもう…
256名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 16:39:43 ID:zpkGSPAO
>>255
書き手に依存しなきゃ生きていけない。
257名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 17:07:27 ID:umrEhUKg
「このスレはもう…」

何度そのセリフが老人や女たちの口からこぼれるのを聞いただろうか。
スカイネットの奴らの攻撃に怯え、次に還ってこないのは自分の愛する人(書き手)ではないかと怯える日々。
目的を喪ってこのスレを出て行く者も絶えない――出たところで行く場所があるわけでもないのに。


こんな文章を思いついたのは私がサラコナークロニクルをまとめて見たからなのは明白だ。
しかし私がやらなくて誰がやると言うのだろう。
私はジョンに頼まれるまでもなく、過去に遡るために青白く煌めくSS保管庫へと飛び込んだ。
戦うぞ!アグネスや削ジェンヌの魔の手からスレを守るために!
258名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 07:47:36 ID:IL5b4j1y
>>257
過去に依存してるんだな。
259名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 18:46:15 ID:Afw3KyFG
保守
260名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 19:46:41 ID:SY2tnAjq
う〜ん……ダメかぁ…。
261Cat:2009/12/26(土) 12:13:02 ID:ExGf48Ow
>>237-243の続き
>>40-45の別視点

************************************************
目覚めると檻の中
首には犬のように、ガッチリと首輪が嵌められている
それだけが唯一、アタシの身に纏う物

ジャラン
ゴツイ鎖で、引きずり出される
取り囲むケダモノ共
身を隠すモノは何もない
暗闇の中、アタシだけが、肌を焼くようなライトで、照らし出された
貧弱な身体
胸も尻もペッタンコ
それ以前に、ろくに肉もついてない
鎖骨も肋骨も、浮き出ている
生っ白い肌は、シャワーも浴びられず、泥だらけ垢だらけ
更には、虐待で傷とアザに埋もれていた
こんな身体ですら、漁ろうとするクズはいる

ワラワラとよってくるケダモノ共
冷たい床に引き倒されて、両手両足を抑え付けられた
『いいさ。好きにしろ』
どうせ、勝ち目はない
身体なんて、いくら汚されても構わなかった
今は、コイツらに貪らせたって、必ず逃げてやる
グチャグチャと、ヌメるような複数の手が、アタシの肌に絡み付いてきた

髪に、首に、背筋に、
口に、耳に、鼻孔に
乳房に、乳首に、尻たぶに……
ヴァギナに、アナルに、尿道に

掴まれ、抉られ、引きちぎられる
抵抗しようにも、抗う腕は無くなっていた
逃げ出そうにも、走り出す足は消え失せていた
今のアタシは、穴の空いた、ただのイモムシ
全身から血を吹き出し、便所穴を埋められる
でも、心は折れなかった
『……アイツがいる』
アイツって?
『アイツだよ』
だから、アイツって誰?
『あの、変な……』
コイツのこと?

のし掛かる男は、痩せ犬のような死神

「イヤァ〜〜〜……」


262Cat:2009/12/26(土) 12:16:14 ID:ExGf48Ow
ガバッ!
「クウッ!!」
激しい痛みが走る
全身、バラバラになりそうだ
でも、これは治る痛み
傷をふさぐ力を無くしてた昨日までは、感覚が無くなっていたのだ
痛みを堪えて、状況を確認する
暗い部屋の中
小さな常夜灯と、開け放したドアから洩れる光で、部屋の中がうっすら見える
アタシは、大きなベッドに、一人、寝かされていた
少しカビ臭いが、埋もれるような、上等で清潔な寝具
全身に巻き付く包帯と、男物のシャツ

思い出した
捕まった
逃げ出した
拾われた……

辺りを見渡し、最後の記憶だけは、夢であると確認
「ハァ〜〜〜……」
大きく、安堵のため息をつく
『!?』
その、自らの行為に、猛然と怒りが込み上げてきた

『なに、安心してんだ』
得体の知れない男のヤサに連れ込まれ、好きに弄くり廻されたんだぞ
挙げ句に……
『認めない
あんな夢、絶対認めない』
目の眩む程の激情
利用するならいい
すがるのは許せない
身を捩り、ベッドから這い落ちる
立ち上がろうとするが……
「……ッ!」
足の傷は、それを許さない
不様に這いずり、それでも移動する
隣の居間に、ヤツはいた
ソファーに腰掛けたまま、グッタリと眠っている
前のテーブルには、広げたままの治療道具
その中に、大きなハサミ
これなら一刺しで……
『……殺してやる』
アタシを、アタシでいられなくするヤツ
身体を汚されることなんて何でもない
心を犯そうとするヤツは、絶対に許さない
ハサミを手に取……
カチャン
傷付き、固定された指は、武器を握ることが出来ない
牙を持つことが……
ガッ!
這いつくばって、ハサミの柄に喰いつく
口中に広がる、血にも似た鉄の味
男は、ソファーの背に仰け反って寝ている
喉を狙う為、横によじ登った
263名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 12:19:32 ID:3ak3bogY
支援
264Cat:2009/12/26(土) 12:21:31 ID:ExGf48Ow
『!?』
ボスッ……
驚きに開いた口から、ハサミが落ちる
天を仰ぐように、仰け反った男
表情の消え去った、空虚な寝顔
その閉ざされた目から、流れる一筋の雫
疲れ果て、空っぽになった、男の涙

辛い顔だった
苦しい顔だった
哀しい顔だった
ただ、呆然と見つめ続けた

チュッ

バッ!
唇を抑え、飛び退く
『アタシ何を!?』
自分が何をしたのかわからない

ドサッ
「クウッ!!」
弾みでソファーから落ちた
手足が痛む
その痛みが、アタシを我に返らせる
ごちゃごちゃ考えるのは止めた
とにかく、コイツは治療が出来るのだ
今はまだ、殺したら駄目だ
要するに、コイツが何をしたいのかわからないから、不安なんだ
理由をこっちで作ってやる
結局、男なんてコレが目的なんだ
ジ、ジジー……
クズ共に仕込まれた技術だろうが、何でも使う
口だけでチャックを下ろし、ペニスを引きずり出した
『あるな』
まあ、それなりに、ってか、かなり立派なモノをぶら下げている
手を出してこないから、ひょっとして無いのかと思った

アムッ
くわえる
ムクムク……
反応は良い
直ぐに脹らみ、ガチガチに立ち上がった
少し満足
男なんて、結局こんなもんだ

ピチャッ、ピチャッ……
「ウ、ウ〜ン」
順調にこなしていると、頭上からうめき声
チッ!
起きたか

265Cat:2009/12/26(土) 12:24:08 ID:ExGf48Ow
「動くな」
「ワアッ!?
なっ、なんだ!?」
狼狽える男
今の内に、主導権を奪っておこう
「うるさい。見んな」
ガリッ
亀頭部分に歯を当てる
「グオッ!」
大人しくなった
ピチャ、ピチャッ……
不快な記憶を思いだし思いだし、男のペニスを責め立てる
孤児院に居た頃、仕込まれた
街で浮浪してた頃、押し付けられた、下らない技術
積極的に使うのは、余り無かった
媚びるより、下手くそとなじられ、殴られる方を選んでいたから

しかし、
「ウッ」
ビュビュッ……
男は、あっさり達した
しかも、凄い量
放す間もなく、口一杯に放出される
『勝った』
勝ち誇るアタシに、天を仰ぐ男

ペッ
これ見よがしに、口中のザーメンを吐き捨てた
『アタシのケツを舐めな』
挑発するように尻を振りながら、四つん這いでベッドに戻る
追って来るかと思ったが、ソファーでヘタったままのようだ
まあいい
とりあえず、施しを受けるだけでは無くなった、満足感に浸る
男の匂いが、口中に残っていた
唾液を溜めて、こそぎ落とす
『喉、……渇いた』
コクリ
飲み下し、枕に頭を埋める

『何、してんだろ……』
落ち着くと、自らの行為に、頭が混乱してきた
我ながら、何がしたいのか、サッパリわからない
でも、余り深く考えると、不快な考えに落ち込みそうな予感はした
ふと、匂いに気づく
酒と煙草、ポマードと汗……
大っ嫌いな男の匂い
だが今、肌に纏うシャツから漂う匂いは、妙な安心を与えた

「止めた」
思考を放棄して、柔らかな温もりの中、体を丸める
問題は後回しにして、眠りに身を投じることにした……
266Cat:2009/12/26(土) 12:26:51 ID:ExGf48Ow
クゥ〜〜……
疲労が強すぎると、眠りも続けては取れないようだ
また、数時間で目が覚める
相変わらず身体が痛むが、それより腹が減った
モゾモゾ起き出し、居間へ向かう
男は、夕べのまま、ペニスまで丸出しで寝くれていた

ムカッ
自分のしたこととは言え、何と無く腹が立つ

ガン!
「グオッ!?」
頭突きをかます
「さっさと起きろ、おっさん」
頭を抑えて、のたうち回る男
「腹減った。メシを出せ」
主導権を握る為に、高圧的に出た
「何もネエよ」
「じゃあ、買ってこい」
アタシの命令に従い、のそのそと出ていく
なんか、素直過ぎて拍子抜け
『まさか、アタシを売るつもりじゃ……』
不安が頭をよぎるが、そんなチンケなことを企むヤツには見えなかった
もっとも、小娘のパシリに甘んずるような男には、なお見えなかったが……
しばらくたって、男が帰って来た
呆れるほどの、荷物を抱えて……

ホッとする心を隠して
「遅い」
と、罵る

気にも留めない素振りで、男は食糧をテーブルに並べていった

ホットドッグ、ベーグルサンド、ハンバーガー、ドーナツ、タコス、サンドイッチ……
他にも紙袋一杯に、パンやミルク、卵にハムにジャムなどがつまっている

夢のような光景
ストリートで、指をくわえて眺めてた
ゴミ箱から漁ったり、マヌケから引ったくったりした時も、
奪われないよう、味わう暇もなく詰め込むモノ
それが、湯気を立てた状態で、目の前に広げられている
飛び付きたい心を抑え、
「ドーナツ」
極力、冷静に命令する
「あン?」
いぶかしむ男
察しの悪いヤツだ
黙って、包帯で包まれた両手を見せつけた
「サッサとしろ」
アタシは再度、催促する
呆れた顔を見せながらも、一つ摘まんで口に運んでくる
口で迎えに行かないよう、必死に堪えた

267Cat:2009/12/26(土) 12:34:39 ID:ExGf48Ow
パクっ
『ああっ……』
口一杯に、優しい甘さが広がる
揚げたての温かいドーナツなんて、何年ぶりだろう
涙が出そうだ
誤魔化さねば……

「コーラ」
袋に無かったのを思い出しながら、注文する
「買ってネエよ、そんなもん」
「使えないヤツ
じゃあ、ミルク。暖めて」
男は、ブツクサ言いながらも、キッチンに発ちホットミルクを作り始めた
行く前に、アタシの口に、ドーナツを突っ込んでから……
モグモグと咀嚼しながら、幸せな甘味を楽しんだ
同時に、こぼれそうな目尻の涙を拭っておく
男が、カップを抱えて戻って来た
心まで温まるようなホットミルク
「ヌルい」「甘くない」など、文句をつけた
平気で聞き流しながら、男は給餌する
アタシは、出来る限りの余裕を見せながら、アレコレを口に運ばせた

ケフッ
もっと食べたかったが、縮んだ胃には、たいして入らない
惜しいけど、諦める
腹の皮が突っ張ると、また、目蓋が緩んできた

ふと、男が帰って来た時の姿が頭に浮かぶ
素肌の上半身に、ジャケットだけ羽織り、両手一杯に紙袋を抱えてた
物凄く、不釣り合い
それにしても、
『朝日が似合わない男だよな』
クスクス
思いだし、笑ってしまった
笑いながら、穏やかな眠気に、身を委ねた
幸せな眠気に……





投下完了
やっと、「Doc&Cat」のラス迄、たどり着いた
この後も交互でいくか、人称変えるかは未定です
268名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 12:53:09 ID:3ak3bogY
>>265
GJ
心を侵略されてく女の子、いい。
269名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 14:34:25 ID:jB+YL5Pd
是非ともハッピーエンドにしてほしいもんだ
270名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 08:28:51 ID:YJI0SADG
すごくいいわ
GJGJ!

依存し始めてからの破壊力やばそうだな
271名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 22:41:53 ID:lbyBsmP+
GJ
まじ期待
272名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 18:18:19 ID:5F2zchK8
保守
273名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 23:56:04 ID:suWeiT0d
あけおめ保守
274名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 03:01:25 ID:BiDhDiiy
今年こそwkzの人に深空さんの続編を書いてもらいたいのだ…
275名無しさん@ピンキー:2010/01/06(水) 08:59:59 ID:JURxmbaQ
>>274
あれは別スレじゃない?
276名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 10:31:17 ID:jK3IKWAm
保守
277名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 00:26:34 ID:8JYIiNVM
肉体的にも精神的にも寝取られが一切ないお勧めの作家さんを↓から教えて。
http://wiki.livedoor.jp/izon_matome/d/%ba%ee%bc%d4%ca%cc%a4%de%a4%c8%a4%e1
278名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 00:17:18 ID:1tvvhm/W
保守
279名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 15:43:59 ID:G6Ncnr5I
唐突に過疎ッたな
280名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 17:13:31 ID:0E0DOm5b
今年に入ってから新SS無しか・・・
規制でも食らってるのかねぇ?
281名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 17:28:42 ID:P5VH74Q3
保守保守
282名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 22:50:35 ID:L2fhCv3l
規制が…
283春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 19:41:50 ID:h3jRW3/q
お久しぶりです。

投下しますね。
284春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 19:42:40 ID:h3jRW3/q

夢でもいい――会えたら一時、幸せになれるのだから…。
夢が毎日続けばいいのに…そしたらお母さんが毎日一緒に居てくれる。
一緒に料理作ったり、一緒にお買い物行ったり、一緒にお話しをしたり――。最近は夢じゃなく、現実の世界でも楽しい事がいっぱいあった…。
一緒に料理を食べたり、一緒に散歩をしたり、一緒にゲームをしたり――。
楽しかったのに…。

――夢から覚めたように一瞬で消え去った。

あの日――私の前から遠ざかる春樹先輩の表情は嫌悪感一色だった…。それの影響か、昨日見た夢は母の夢では無く、春樹先輩に突き放される夢…。
何度叫んでも――謝っても――春樹先輩は私から走って逃げた。

それが悲しくて――悔しくて――誰にもぶつけられない怒りを覚えた。
春樹先輩なら絶対に私の側に居てくれる――心の何処かで私から離れないだろうと思い込んでいた…。
実際は違った。やはり春樹先輩も所詮は他人と言うことだ。

もういい……離れていくなら初めからいらない――私しか見えないお母さんとずっと一緒にいる。

ずっと――ずっと―――。
285春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 19:43:39 ID:h3jRW3/q

「美幸…」
扉の向こう側から聞こえてくる声――お父さんの声だ。
私の幸せを奪った張本人……始めはお父さんを恨んだが、いずれ春樹先輩にもバレていたはず。
早いか遅いかの違い。

――そう割りきれたらどんなに楽だろうか?

お父さんの声に返事を返さずベッドにうつ伏せになる。枕に顔を押し付け、涙を出さないように我慢するが、涙腺が壊れたかのように涙が止まらないのだ。

いくら頭の中で消しても春樹先輩の顔が浮かぶ。
困った顔――呆れた顔――怒った顔――どれも表情は違えど、どこか優しさが見え隠れしていた。
あの顔をもう一度見たい…もう一度話したい…もう一度触れたい…。
叶わない夢だと分かっているが、感情が爆発しそうになる…。

「美幸…。」
扉の向こう側からまた声がかけられる。

もう、一人にしてほしい…。
誰も信用しない――春樹先輩に会いたい――誰も信用しない――お母さんに会いたい――。


「春樹くんが公園で美幸の事を待ってるよ?」

「……えっ?」
扉の向こう側から唐突に投げ掛けられた言葉に心臓がキュッとなる。

春樹先輩が私を待ってる――?
なぜ?
春樹先輩はもう私から離れた人なのに…。
286春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 19:44:54 ID:h3jRW3/q

――春樹先輩から直接私に近づくなと言うため?

「いや……いや……いやっ!」
両手で耳を塞ぎ布団の中へと潜り込む。
春樹先輩の声で直接言われたら私は耐えきれないっ!
でも春樹先輩に会いたい。
会って全部話して楽になりたいっ!

春樹先輩…春樹先輩…春樹先輩…春樹先輩…。


「…春樹くんなら、分かってくれるよ。」

「お父さんに何が分かるのよっ!!」
小さく聞こえてくる言葉に怒鳴り返す。
お父さんに分かる訳がない。
やっとできた、大好きな……信頼できる人を失う苦しみがお父さんに分かる訳がない。

「うぅーっ……うぅ…」
枕に噛みつき必死に怒りを堪える。

苦しい――誰にも言えない悩みがこんなに苦しいなんて…。

誰かにこの苦しみをぶつけたい…。



「…春樹先輩…」
……そうだ――どうせ嫌われるなら最後に春樹先輩の顔を見てから嫌われよう。

ゆっくりとベッドから立ち上がりクローゼットに向かうと、中から適当に私服を引きずり出した。


「待っててください…今すぐ行きますから」

――春樹先―輩――
287春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 19:47:41 ID:h3jRW3/q

―――――
――――
―――
――


「なんでこんな場所にしたんだ…?」
今俺は、おじさんの提案で、とある公園に来ていた。

本来なら騒がしい子供達がサッカーボールを追いかけ回しているのだろうが、この天気じゃサッカーは愚か、鬼ごっこすらできないだろう……。

鈴村の言う通り、やはり雨が降ってきたのだ。
面倒くさい事に傘なんて持って来ていない。なんとか屋根付きのベンチで雨宿りをさせてもらっているが、帰りどうすればいいのだろうか?携帯で夏美あたりに助けを求める事だってできるのだが、状況が状況なだけに夏美を呼ぶ事はできない。


「それにしても…美幸ちゃん本当に来るのか?」
周りを見渡すが人影らしき姿は誰一人見当たらない。

おじさんから「美幸を連れて行くから公園で待っててほしい」とメールで知らされて、一人待っているのだが…。



「おっ…来たか?」
ベンチに座りながら公園の入口を眺めていると、傘をさした男性と女性が入ってきた。
顔は傘で隠れて見えないが、多分美幸ちゃんとおじさんだろう。

公園の前で少し立ち止まった後、俺の存在に気がついたのか、二つの傘は此方にゆっくりと近づいてきた。
288春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 19:48:28 ID:h3jRW3/q
「遅れて申し訳ない…」
男性の方が此方に向かってそう言うと、俺が雨宿りしている屋根の中へ、革靴の音と共に入って来た。
水を切りながら傘を閉じる――想像通り、傘の中から顔を出したのは美幸ちゃんのお父さんだ。

「…」
だとすると女性の方は美幸ちゃんで……いいのか…?
しかし、なぜか傘をさした美幸ちゃんらしき女性は屋根の中へ入ってこようとしない。
傘で顔が隠れているため、表情は伺えないが、小刻みに震えているのが分かった…。

それが、寒さからか――また、別の何かなのか俺には区別がつかない…。

「ほら、美幸も来なさい。」
おじさんが後ろを振り返り、急かすように傘をさした女性に向かって話しかける。

(…やっぱり美幸ちゃんか…)
先ほどまでの不安が確信へと変わった。
顔が見えないので100%美幸ちゃんだと断言できなかったが、おじさんが言うんだから間違いないだろう。
――おじさんの声に反応したのか、少しの間の後ゆっくりと屋根の中へと入ってきた。

「…美幸ちゃん?」
屋根の中へと入れば雨は侵入してこないのだが…。
なぜか、美幸ちゃんは傘を頭上から動かそうとしない。
いや――俺に見えないように顔を隠しているようだ。
289春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 19:52:18 ID:h3jRW3/q
「美幸…」
オドオドする俺を見かねたのか、おじさんが美幸ちゃんの肩を掴み傘を閉じるよう促した。

「…」
しかし、おじさんの声とは裏腹に美幸ちゃんがさしている傘が閉じることはない。
なぜ屋根の中に入っているにも関わらず、傘を頭上から動かさないのか――美幸ちゃんの行動に少なからず動揺した俺は、おじさんへと戸惑いの目を向けた。





――お父さん…

おじさんに目を向けた直後――傘の中から小さく、震えた女の子の声が聞こえてきた。
その声につられて、再度おじさんから美幸ちゃんの方へと視線をずらす。
間違いなく美幸ちゃんの声――。雨の音にかき消される程の小さい声なのだが、何故か耳の奥へとはっきりと聞こえた。

「…」
美幸ちゃんの次の発言を待つために、俺とおじさんは何も声を出さなかった。
短い沈黙――時間にすれば10秒そこらだろう…しかし、待つ側には何時間にも感じる程の苦痛な時間となった。

その沈黙を破ったのは、勿論沈黙を作った張本人の美幸ちゃんだった。


「…春樹先輩と二人で話がしたいから…」
美幸ちゃんの口から発せられた言葉はそれだけ…そしてまた沈黙。
290名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 20:01:31 ID:l6NI9tg7
shien
291春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:35:08 ID:h3jRW3/q
ただ、先ほどの様に長い沈黙に包まれる事は無かった。

「春樹くん…」
おじさんの声に反応した俺は、視線と共に自然と体もおじさんの方へと向ける形となる。
おじさんの言いたい事は、何となく分かる…。「二人で話してくれないか?」っと他人の俺へ、おじさんからは言いづらいのだろう…。

「俺は大丈夫ですよ?」
おじさんの気持ちを察しておじさんにそう伝えると、心なしか美幸ちゃんの傘が少しだけ動いた様な気がした。

「そうか…本当にすまない。門の前にある車の中でいるから、何かあれば呼んでくれ。」

「はい、分かりました。」
申し訳なさそうに俺へ一礼すると、美幸ちゃんの方をチラッと一見してから傘をさして来た道をゆっくりと戻って行った。



(……はぁ…どうしよう…)
門から出ていくおじさんの背中から目を離し、美幸ちゃんへと目を向ける。おじさんが居なくなった今も、先ほどと変わらず美幸ちゃんは動く気配を見せない。

「美幸ちゃん…立ってると疲れるでしょ?ベンチに座ったら?」
美幸ちゃんからの言葉に期待が出来なかったので、此方から美幸ちゃんへと話しかける事にした。
あまり、重たい空気にならないように軽く前にあるベンチをポンッと叩く
292春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:35:40 ID:h3jRW3/q

「…」
俺の気持ちが届いたのか、何も言わずにベンチの前へと移動すると、ゆっくりと腰を降ろしてくれた――。
それと同時に、スッと傘が美幸ちゃんの頭上から離れていく。

「美幸ちゃん……」

「…」
――ビニールの壁が無くなり、美幸ちゃんの顔が露になる。

美幸ちゃんの髪型は短いボブカットで綺麗に切り揃えられているのだが、何故か表情が見えない…。下を向いている訳でも無く、此方を見ている訳でも無い…強いて言うなら空間を見ているようだ。

「今日、学校休んだんだね?ビックリしたよ…風邪かなにか?」
なんとか重い空気を取り払う為に何時もの様に美幸ちゃんへと話しかける。

「いいえ、少しだけ…疲れていた…ので…」
そう小さく呟くと、今度は完全に下を向いてしまった。


「……ふぅ〜…」
項垂れる美幸ちゃんとは逆に、俺は鬱陶しい気持ちを振り払う様に空を仰いだ。空を仰いだと言っても空なんて見えない…見えるのは古ぼけた木の屋根。

その屋根の切れ目を眺めながら考える。
どうするか――俺からお母さんの話に触れていいのか――美幸ちゃんから話し始めるのを待つか――いろんな対処法を考えていると、ふと昨日の出来事が脳裏に浮かんできた。
293春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:36:11 ID:h3jRW3/q

(そうだ…まず、俺がしなきゃいけない事があったんだった…)

そう、俺が美幸ちゃんにしなければいけないこと……それは――。



「美幸ちゃん……昨日は本当にごめん。」

「えっ…」
ベンチから立ち上がり美幸ちゃんに頭を下げる。

そう…俺が始めに美幸ちゃんにしなきゃいけないこと。それは美幸ちゃんへの謝罪。
大切な友達に助けを求められたのに…その手を握ってあげる事すらできなかった。

頭を下げる最中、膝に置かれた美幸ちゃんの手がビクッと震えるのが視界に入った。

「や、やめてくださいっ!!」
美幸ちゃんの許しがでるまで頭を下げてるつもりだったのだが、美幸ちゃんの手のよって阻止されてしまった。
美幸ちゃんに肩を掴まれ、無理矢理ベンチに座らされる。
その時、やっと美幸ちゃんの表情を確認する事ができた。

その顔に浮かんでいる表情は初めてみる美幸ちゃんの顔だった。
悲しみ…怒り……どの表現とも受け取れる顔をしている。

「美幸ちゃん…」

「ッ!?」
俺と目があった瞬間、顔を歪めると、勢いよく俺の肩から手を離し、もう一度ベンチへと腰を降ろした。
そして、先ほどと同じ様に沈黙――。
294春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:37:02 ID:h3jRW3/q
先ほどと違う点――それは美幸ちゃんが俺の顔を凝視している事。

いや、俺の顔を凝視していると言うより、俺の目を睨み付ける様にまっすぐ見ている…。
此方から目を反らしてしまいそうなほどに。

――「春樹先輩…」
お互い何も言葉を発せず5分ほど視線を合わせていると、美幸ちゃんから話を振ってきてくれた…。正直、この状況が後一分続いていたら気絶していたかも知れない。
大袈裟かも知れないが、本当にそう考えてしまうほどの空気に押し潰されそうだったのだ。

「私…もう、春樹先輩に話しかけません…。」

「………えっ?」
小さく、壊れそうな美幸ちゃんの声が耳の奥で反響する。

「だから安心してください…もう、あんな事も言わないですから…。」
あんなこと?
昨日美幸ちゃんに言われたことか?

美幸ちゃんの話を止める為に、話を遮ろうと頑張るが俺の声が聞こえないのか美幸ちゃんは止まらない。

「き、気持ち悪いですよね?死んだ…ッ…おっ、お母さんの声が聞こえるなんて…」

そんなこと無い…その一言が口からでない。
俺が戸惑っている間も美幸ちゃんの悲痛な声が止まる事は無い。
295春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:37:48 ID:h3jRW3/q

「でも、私は聞こえるんです。誰がなんて言おうとお母さんは…私の…私の側に居てくれ…て…ッ」
視点が合わない美幸ちゃんの目から一筋の涙が頬を伝う。
それを機に美幸ちゃんの瞳から大粒の涙が溢れだす。

「……美幸ちゃん…」
――その大粒の涙が水の玉となって、頬伝い落ちていく。
無意識にその涙の雫を目で追う…。

1秒間――たった一秒の間、空中をさ迷った後、涙の雫は美幸ちゃんの綺麗な白い手の上へと重く落ち、心地よく弾――け――――。





―――ハル――ごめんね――?



「ッ……ぁ…」
美幸ちゃんの涙が手の甲に落ちた瞬間、優しい「あの声」が頭に響いた。

美幸ちゃんの涙が過去の記憶を甦らせる…。
あの時――俺はどうすればいいか分からず、ただ、春香の顔を眺めていた。
手を握る事しかできず、春香の言う「ごめんね?」の意味さえ分からなかった。

俺はまた同じことを繰り返そうとしている…。そう考えると、行動は早かった。

「美幸ちゃん…。」

「私のお母さッ……ぇ…春樹先…輩…?」
ベンチから立ち上がり、おもむろに美幸ちゃんへと近づくと、ゆっくりと美幸ちゃんの背中に手を伸ばし、抱き寄せた。
296春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:38:40 ID:h3jRW3/q
「大丈夫…大丈夫だから…」

「…ぁ…の…」
抱きしめる腕の中で戸惑う美幸ちゃんに優しく話しかける。

「美幸ちゃんは本当にお母さんが好きなんだね…。」

「なッ!?」
美幸ちゃんの表情が歪む…。
その表情を無視して、俺は美幸ちゃんの背中を撫でながら、言葉を繋いだ。

「美幸ちゃんはおかしくない……ましてや気持ち悪いなんて思った事も無い。」

「くッ……春樹先輩の嘘つきッ!」
そう言うと、美幸ちゃんが俺の腕から逃れようと暴れだした。

「嘘じゃない…俺は美幸ちゃんの事を怖がったり、離れようと思った事は一度も無いよ。」
暴れ狂う小さい美幸ちゃんを放さないようにしっかりと包み込む。

「なんでそんな嘘つくんですかっ!!?昨日ッ…昨日私から逃げたじゃないですかあぁあぁぁぁッ!!!」
そう叫ぶと、今度は本格的に俺の腕の中から逃れようとしだした。

「違うんだッ!逃げたのはッ…逃げたのは美幸ちゃんが怖かったんじゃない…自分が怖かったんだッ!!」
俺の足を蹴り飛ばし、背中に爪をたてて叫びながらもがく美幸ちゃんに一際大きな声でそう叫ぶと、あれほど暴れていた美幸ちゃんが嘘のように静かになった。
297春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:39:56 ID:h3jRW3/q

「……」
真っ赤に充血した痛々しい目が腕の隙間から覗き込む。


「俺があの時…美幸ちゃんの手を握ることができなかったのは、自分でもまだ許されないモノを…背負ってるモノがあるからなんだ。」
あの時…俺は美幸ちゃんから伸びる手が恐いと思っていた――いや、勘違いしていた。

美幸ちゃんが恐いんじゃない――本当は、美幸ちゃんの人生を変える程の出来事に、俺ごときが関わったらまた人の人生を狂わせてしまうんじゃないか…簡単に言えば自分可愛さに逃げていたのだ。

「背負って…る……?」
そう枯れ声で聞き返す美幸ちゃんの頭を優しく撫でると、ゆっくりと話を進めた。

「そう…俺が死ぬまで償わないといけないモノ。」
大きく息を吸い、震える腕を無理矢理静める。
最終的に軽蔑されても仕方がない――俺が今から話す事で美幸ちゃんが救われるなら。

ゆっくりと瞼を閉じ、春香に「ごめん」と謝ると、目を開け美幸ちゃんへと視線を落とした。
――美幸ちゃんと視線が交差する。

その大きな瞳をしっかりと見据え、美幸ちゃんが予想だにしないであろう、現実離れした言葉を美幸ちゃんに向けて言い放った。







――俺は人を……恋人を殺してるんだ…。
298春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:41:18 ID:h3jRW3/q

―――――
――――
―――
――


恋人を殺してるんだ。



「………ぇ…」
――春樹先輩の言葉に頭の芯が凍りつく。
春樹先輩に抱き締められてるにも関わらず、体が冷たくなっていく。
今春樹先輩はなんて……人を殺し…た…?

――確かに春樹先輩は殺した…と呟いた。
春樹先輩が人を殺す?

ありえない――春樹先輩が人殺しなんて…ましてや恋人を…。
それじゃなぜ?

私を遠ざけるため―――だからこんな嘘を?

いや、春樹先輩は人の生き死を冗談で話す様な人じゃない。
だとすると春樹先輩の口から発せられた人を殺したって言う言葉は…。



――事実?





「春樹先輩はそんな事しませんッ!!!」
――頭の中に残酷な言葉が浮かび上がった瞬間――無意識のうちに私は春樹先輩の顔を睨み付け声を張り上げていた。

「びッ、びっくりしたぁ〜。」
私の声に驚いた春樹先輩の表情を確認して初めて自分の失態に気がつく。

「ごっ、ごめんなさい…つい…。」
我を取り戻し、恥ずかしい気持ちを隠す為に春樹先輩から顔を背ける。
いや、恥ずかしいというより悔しかった…。
299春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:42:20 ID:h3jRW3/q

私は春樹先輩に見捨てられる覚悟でこの場所に来たはず…。春樹先輩の口から発せられる言葉が『拒絶』だとしても、春樹先輩が私を思い、私を見て、私に話しかけてくれるのなら……。
そう自分に言い聞かせて春樹先輩に会いに来たのに…。

いざ、春樹先輩を目の前にすると今までの感情が津波の様に大きく波立って押し寄せてくる。


「あの……もし迷惑じゃなかったら…」

「んっ?」


――もう一人の私が、春樹先輩を放そうとしない。


「……春香さんと春樹先輩の事を聞かせてもらってもいいですか?」
――なぜ、こんな事を春樹先輩に言ったのか自分でも分からない…。

先ほど春樹先輩が発した言葉の内容を察するに、春樹先輩は余程掘り出したく無い過去なのは他人の私でも分かる。

それなのに、私は春樹先輩の気持ちを考えずに入り込もうとしている。

「まぁ……聞いても良いことないよ?」
複雑そうな表情を浮かべて呟く春樹先輩に胸が痛くなる――。

「……はい…お願いします。」
ただ……ただ、春樹先輩の過去に触れれば春樹先輩に対する私への存在理由が見つかる――。
そう安易で自分勝手な考えが頭を支配したとしか説明できなかった。
300 ◆ou.3Y1vhqc :2010/01/29(金) 20:43:50 ID:h3jRW3/q
投下終了です。
続きはもう書き終わってるのでなるべく早く投下します。
遅れて申し訳ありませんでした。

それでは。
301名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:16:51 ID:hwiKpsKa
乙。
おもしろくなってきたぜ

あと正直言うとこのスレのこと少し忘れてたw
302名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 01:42:09 ID:Bi+jSzhO
GJ

続きマダー
303名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 12:34:47 ID:+FiPgoL2
続きマダー
304名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 09:28:25 ID:sqoYeeL+
GJGJ!
待ってた!待ってたよ!
305名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 17:56:43 ID:lLbVJ8SG
規制
306名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 18:49:08 ID:HPH+0/O/
保守
307名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 22:54:04 ID:FKSGtRqj
保守だ保守保守
308名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 03:44:57 ID:iKFXCzq5
長編を書いてみたいと思い書いてみた。とりあえず冒頭部のみ投下。

俺……白澄秀(しらずみ しげる)が中学を卒業して数日経ったある日のことだ。彼女……黒崎綾音(くろさき あやね)が家に来たのは。
 黒崎綾音は正直気味が悪く、まるで幽霊のようだった。長く綺麗な黒髪も整えられることもなく、髪からたまに覗く目にも生気は宿らず。ただ存在しているだけ、死んでいないだけとしか表現できないありさまだった。
 彼女が何故家に来たのか? 俺は勿論両親に聞いた。理由は両親の親しい友人であり、彼女の両親である人が事故で死に、親戚がいなかった為人の良い両親が引き取ったらしい。
 結局俺はさすがに気味が悪いから追い出してくれ等と我侭言えずにとりあえず彼女によろしくと言って自分の部屋へ戻った。
 その日の夕食。彼女が着たからかいつもより豪華な食事だった。ただ、主賓である彼女がまだ到着していない。
「秀。綾音ちゃんを呼んで来てくれない?」
「……分かった」
 正直彼女と関わるのは極力避けたかったが、これから一緒に住むのだ。そうも言ってられないだろう。
「……黒崎さん。ご飯だぞ」
 俺の隣りにある彼女の部屋(元・空き部屋)をノックして返事を待つ。返事が無いので再びノックして呼びかける。
「……黒崎さん。……入るぞ?」
 寝ているのかもしれないので一回断りをいれてドアノブを捻る。幸い鍵は掛かってなかった。
「……黒崎さん? 電気すらつけないでどうした?」
 電気をつけてみると、彼女はベッドに座ったままだった。トランクもそのままなので部屋に入ってからずっとそのままなのだろう。
「黒崎さん? 父さんと母さんが待ってるからとりあえず来なよ」
 俺は手を取って立ち上がらせた。そのまま引っ張って食事場まで誘導。
「それじゃ揃ったところで、いただきます」
 父さんの号令で食べ始める。ただ黒崎さんは箸すら持っていない。
「どうしたの? 嫌いな物あった?」
 母さんが心配そうに黒崎さんに聞く。しかし無反応。
「食欲が無いのかい?」
 父さんも心配そうに聞く。やはり無反応。
 俺は我関せずとただ箸を進めるばかり。
「……困ったわね。食べないと体に悪いわよ?」
「ちょっとだけでも食べて……ね?」
 二人とも必死に構うが無反応な彼女。やれやれ。
「……あ〜ん」
 試しに具を一つ摘んで彼女の口元まで持っていってみた。無反応だが口に当てると口を開けたのでそのまま入れる。
「おいしいか?」
 やはり無反応の彼女だが、口は動かしている。飲み込むのを待ってから次はご飯を食べさせてみる。次は口元に持っていっただけで口を開けたので放り込む。
 それからいつもの倍以上の時間をかけて夕食は終わりを迎えた。
309名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 03:48:59 ID:iKFXCzq5
短いですが投下終了。
長編は始めて書くので推敲しつつ書いていくので投下ペースはゆっくりになると思います。
何かアドバイスや指摘があればどうぞ。
310名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 04:09:49 ID:6tvA2MT3
GJだけど短かすぎるだろw

311名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 13:39:27 ID:J3rwSzhj
俺こういう世話する話好きだわ〜 gj
312名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 00:48:27 ID:cUReqYO2
好きな感じだけどもう少し貯めてから投下した方がいいかも
313名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 10:50:45 ID:URF2/31H
一年ちょい前に別スレに途中まで投下してたんだけど、
すっかり忘れてて今更投下するのも気まずいんで、最初からココに投下しても良いですか?
内容は依存で、スレ違いではないと思うんですが。
314名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 11:01:37 ID:gyJYIoI6
>>313
前置きはいいから早く投下するんだ
315名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 12:11:26 ID:URF2/31H
次から投下します。
316『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 12:15:48 ID:URF2/31H
1
 高校入学と同時に、ボク達二人は付き合い出した。
 産まれた日も、病院も、時間も一緒。ベッドも隣同士。
 毎日暗くなるまで遊び、周りの連中に冷やかされても関係なく遊び、二人で揃って成長する。
 そんな幼馴染みが大好きで、手放したくなくて、溜め込んだ想いを全て吐き出して告白して、やっと二人は恋人になった。
 その後すぐに幼馴染みの両親へ挨拶に行き、ヨロシク頼むと了承を貰う。
 ただし、条件は三つ。

・高校を卒業したら、幼馴染みの両親がトップを勤める会社の社員になる事。
・幼馴染みとは結婚を前提に付き合う事。
・ボクと幼馴染みが高校を卒業するまではセックスしない事。

 以上が出された条件。
 つまり、ボクを婿に迎え入れて後を継がせたいと言うのだ。セックスするなってのも、ボクの我慢強さを見る為。
 きちんと仕事を続けられるか?
 他の社員に誘惑されても浮気せずにいられるか?
 それを計ろうしているだけ。
 なんて事は無い。ボクには歳の離れた兄が居るから婿に行っても大丈夫だし、幼馴染みも心から愛してる。三年間セックスをしなければ、ボク達の幸せな未来は確定なんだ。
 思えば、ここまでは良かった。
 ここまでは、順調だった……
 二人の関係が暗礁に乗り上げたのは高校一年の夏休み。その初日。ボクは時期外れな肺炎に掛かり入院した。
 手術を受け、薬漬けで横たわり、奇跡的簡単に回復し、夏休みの終わる前日に退院となった時……ボクの身体に異変が起こる。
 この異変こそが、暗礁に乗り上げた原因。条件を守ろうとする意志を揺るがす悪魔。

 ボクの身体は、美味しくなったのだ。

 中毒性の高い、この世で最も極上なカレー味に……

 そして幼馴染みは、重羽 美月(おもはね みつき)は、
 双海 砂耶(ふたみ さや)の、ボクの味に魅了された。




  『この世で最も華麗な彼氏』



 気温を挑発する太陽。鳴き止まぬ蝉の声。身体は本の海に沈む。
 学校の昼休み、静かな図書室の奥底で、卑猥な水音は響き続ける。
 本棚の波を幾つも掻き分けて辿り着いた、広い図書室の底。ソコでボクの指をしゃぶるのは、一年前に愛を打ち明けた幼馴染み。
「んっ、んっ、んっ♪ んっ♪ ぢゅるちゅっ♪ ちゅぷっ、はぁぁっ……とても、おいひいよ砂耶♪ さやのっ、とってもぉっ……んぢゅぅ〜〜〜〜〜ッ!!!」
 ピリピリと、快楽の電流が全身を貫いた。肉体的では無く、精神的にボクの呼吸を荒くさせる。そうさ、誰だってこうなるよ。
 自分の愛して止まない人が、上目使いで、瞳を潤ませ、耳まで紅潮させて、差し延べた左手の指を膝立ちになって口に咥えたら、誰だってこうなる。
 手首を両手で持ち、人差し指と中指の二本をぽってりとした唇に挟んで顔を前後させ、肉厚な舌で情熱的に締め付けられたら、誰だってこうなるんだよ!
 もちゅぅっ、もぐゅもぢゅもぢゅ、ぢゅぢゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!
「ねぇ美月ぃっ、まだ……ふうっ!? 終わら、ないのっ?」

 美月が変わったのはアノ日から。
 それまでは欠点らしい欠点さえ見当たらない、自慢の幼馴染みだったのに。
 背は170センチ後半でボクより20センチも高くて、スタイルも良いし胸も大きいし足だって長いし、髪だってサラサラで、綺麗で、勉強もできて何でも熟す、自慢の恋人だった。
 でも……変わった。ボクの味を知った日から。その日から、美月は変わった。
317『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 12:17:32 ID:URF2/31H
2
 最初は「砂耶って変な味するな?」の一言。でも、次は十日後。次は一週間後。次は五日後。求めて来て、日を増すごとに間隔が短くなって行く。今はもう毎日。
 印象に残ってるのは去年秋のマラソン大会。走り終わった後、美月に「汗を舐めさせて!」と泣き付かれる。
 汚いから駄目だと断っても、校庭隅に生えてる大木の影に引きずり込まれ、押さえ付けられて、頬っぺたと首をベトベトになるまで舐められた。
 家のトイレでオシッコした時、台所で手を洗おうとしたら、捕まえられて指を舐められた事も有る。
 その後にビクビクと震えてヘタレ込んでたけど。

 どうやらボクの体内から出る分泌液には中毒性が有るようだ。そしてボクの感情が高まると更に美味しくなるらしい。
 だから、いちいちイヤラシイ舐め方をする。 唾液をたっぷり絡ませ、顔を前後させて挿入感を煽って。

 セックスはしちゃイケない、美月もわかってる筈なのに、わざと……興奮させるんだ。
 たった一年で、ボクを舐める為だけに進化して伸びた美月の舌。顎舌のラインに垂れるまでに長い。
 こっちも意地でサポーターを付けて勃起してるのを悟られないようにしてるけど、こんなんじゃ約束を守れない。いずれ間違いを起こす。
 そう思ったから、夕食後に美月をボクの部屋に呼んで、「もうボクの身体を舐めるな!」とキツく言った。
 大声で泣かれたけど、首を縦に振り、納得してくれたんだ。納得してくれたと勘違いしていた。だから翌日に思い知らされる。

 翌日、息苦しさで目を覚ますと、美月がボクの上に乗っかって顔を押さえ付け、舌を差し込んで咥内からジュルジュルとヨダレを啜(すす)っていた。
 グッバイ、ファーストキス。「あんな事を言う砂耶がイケないの! 私は砂耶が居ないと生きてけない身体にされちゃったんだよ?」と開き直り、美月は完璧に末期症状。ちなみに、唾液は汗より美味しいらしい。
 それでボクも諦め、一日一回。激しくならないように学校で舐めさせてる。
 美月はその一回を濃厚に味わい尽くすだけ。胸元を開けて、淫語を連発して、ボクを興奮させて。
 
 ああ、無理だよ。こんなんじゃ堪えれない。
 今は高二の夏。卒業するまで後一年半。やっぱり堪えれないよ。毎日、毎日、美月を想ってオナニーするだけじゃ堪えれない。
 だけど、それでも、二人の未来を考えて堪える。


 ボクの味は、感情が高まれば高まるほど美味しい。
 何も無いより汗が、汗より唾液が美味しい。
 感情が高まった時に出る液が特にオイシイ。

 じゃあ、ボクのアレは?




続く。
318『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 12:20:37 ID:URF2/31H
3
 ずっと、考えてた。
 あの日から一年間、ずっと、ずっと。
 本当にボクの身体はオイシイのかって、ずっと考えてた……

 自分で自分の指を舐めたって味はしない。
 証明してくれるのは幼馴染みだけ。同じ日に産まれ、同じ時間を共有して来た幼馴染みだけ。ボクが恋焦がれた重羽美月だけだ。
 美月だけがオイシイと言う。他の人には絶対に舐めさせるなと言う。美月だけが、ボクの味を知ってる。
 でもこれってオカシクない? もしかしたら味がするってのは全部ウソで、ボクを挑発して、約束を守れるかどうかを試しているのかも知れない。
 高校卒業までエッチしないって約束を守れるかどうかを。
「はんっ」
 守れるさ! 何年越しの想いだと思ってるの!? どんな誘惑をされたって守ってみせる。
 だから……もう断らないと。もうボクを誘惑しなくて良いよって。ボクの指を舐めなくて良いよって。言わないと。
 だいたい、身体がカレーの味するなんて有る訳無いんだよ!
 でも万が一、億が一にもボクの身体が本当に美味しいなら? それを調べる為にも、美月以外の誰かに指を舐めて貰うとか?
 うん、そうだよ! そうしよう! 美月と同い年の、美月と同性の人に舐めて貰おう。ジュースでも奢れば首を振ってくれそうな人……真理(まこと)、かな?
 だね。こんな事を頼めるのも、美月以外で気兼ね無く話し掛けれる女性も、美月以外じゃ真理だけ。決まりだっ!
 

 ――キーンコーンカーンコーン。


 テスト終了の、全日程終了のチャイムが鳴り、突っ伏した机から顔を上げる。
 テストはバッチリ。考える時間もたくさん取れた。後は覚悟、幼馴染みを疑う覚悟。
「真理、ちょっと付き合って」
 二つも深呼吸して真理の背中を軽く叩く。
「えっ?」
 ボクの席は廊下側の後ろから二番目。真理はボクの真ん前。美月は窓側の先頭。美月とボクはほぼ対角。
 だったらイケる。挨拶が終わって、帰る支度をして、美月がこっちを振り向くよりも早く。
「きりーつ、れーい」
 テストが回収され、挨拶が終わると同時に真理の手を引いて教室を抜け出す。
「ちょっとぉ、どうしたの砂耶?」
 教室を出て、廊下を駆け、無人の図書室に入り、その奥。
 昼休みにボクとミツキの秘め事が行われる場所。そこで漸く立ち止まり、真理を窓際に。ボクは少し離れて向かい合う。
「はぁっ、はぁっ……んっ、ゴメンねマコトちゃん。実は、内緒でお願いがあるんだ」
 むくれた表情の真理に謝罪して、すぐに本題へ。
 美月に似た切れ長の瞳に高身長。健康的に日焼けした褐色の肌に、多分にシャギーが入ったショートヘア。美月がグラマラスなら真理はスレンダー。
 美月を除いて、ボクが普通に話せる女の子……真理。
「でっ、お願いって何?」

 目を細め、口元を吊り上げる。いつもの表情。ボクの言葉を値踏みする、いつもの真理。ツマラナイ事だったら許さないと物語ってる。
 いきなりこんな所に連れ込まれたら当然だと思うけど、それでもボクは確かめたい。
「ジュース奢るからさ……マコトちゃん、ボクの指を舐めて」
 右腕を真っ直ぐに伸ばして肩の位置より上、真理の顔前に五指を開いて差し出し、好きな指を選ばせる。
「意味、わかんないんだけど?」
 そう否定しながらも、ボクの人差し指以外を折り畳み、一つの指を選択してくれた。
 本来ならきちんと理由を教えるものだと思うけど、ボクの身体はカレーの味するらしいから舐めて……なんて言えないよ。頭のおかしな人にされちゃう。
「お願いマコトちゃん……ボクの、ゆびを、なめて」
 だから全部、全部、舐めて貰ってから判定すれば良い。ボクはオイシイのか、ミツキが嘘を付いてるのかを。
 美味しいなら美月に謝ろう。疑ってゴメンねって。
 嘘なら言おう。もうボクを舐めるなって。約束は守るから誘惑なんてしなくて良いよって。
「ふっ!? ああっ……それじゃあ、舐めるよ砂耶?」
 マコトちゃんは一度だけブルリと全身を震わせると、許可を取って口を拡げ、舌を垂らして指に近付ける。
「うんっ、やさしく、やさしく、ねっ?」
 そして、唇の間に指が挟まれようとして、

「ダメだ砂耶っ!!」
319『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 12:23:01 ID:URF2/31H
4
 唐突な否定で後ろへと引っ張られた。
「えっ、うわっ!?」
 三歩も下がり、首に腕を掛けられ、胸に手を回され、羽交い締めにされる形。
 聞き慣れた声、ボクよりもずっと高い身長、後頭部に当たる柔らかくておっきな膨らみ。そこから導かれる解答は……
「みつ、き?」
 99%の自信を持って見上げる。
 すると目の前に映るのは正解。怒った顔でボクを覗き込む幼馴染み。
「真理、砂耶から言われた事は忘れてくれ……ほらっ、砂耶には大事な話しが有るからちょっと来いっ!」
 美月はそのまま、引きずるようにボクを真理から離して行く。
 真理はご愁傷様と、僅かに笑いながら手を振ってた。
「恥ずかしいから、せめて手だけにしてよぉ」
 ズルズルと図書室から出され、そこからは手首をしっかり掴まれて引っ張られる。
 女の子に引っ張られて抵抗できないボク……我ながら情けない。
 でもこれで決まりだ。美月が必死に止めたのは嘘がバレるから。味なんてしないから真理に舐めさせたくなかった。
 じゃあ言わなきゃ。もう舐めるなって、もう舐めさせないって。
 先を早足で歩く美月は長い髪を左右に揺らし、階段を降り、渡り廊下を越え、テスト日により静かな体育館に入り、重い扉を開けて更に静かな用具倉庫へ。
「おっ、わわっ!?」 
 跳び箱。バスケットボール。バレーネット。薄暗く微かにカビ臭い部屋。
 そこでボクは大きな着地用マットの上に仰向けで押し倒され、美月は後ろ手に扉を閉じる。

 薄暗い室内。互いに視線を交差させ、互いに一つの深呼吸。

「なんで、舐めさせようとしたんだサヤ?」
「なんで、舐めさせちゃダメなのミツキ?」

 互いの初言が重なった。
 ボクは仰向けで美月を見上げ、美月はボクの腰を跨いで見下ろす。空色のパンツが見えてるよ美月。見せてるの? またボクを挑発するんだね?
「うっ……前に言ったろ砂耶? 一回味わったら終わりなんだ。真理も私みたいになるんだぞ?」
 美月は真剣。それは伝わる。そんな逃げ道も有るって伝わる。いや、それしかないんだ。
 もしボクが本当に美味しくて、真理がまた求めて来ても、二度と与えたりしないよ。
 与えた結果がボクの幼馴染みだから。ボクに依存し過ぎてる美月だから。そんな風には絶対しない。
 だから美月も、そろそろリハビリしようよ。休みの日だってずっとボクと一緒に居て、好きな事を何もしてないじゃないか!? 束縛してるようで……心苦しいんだ!!
「わかったよ美月……もう誰にも舐めさせない。その代わり、美月にも舐めさせないから。我慢して、リハビリしよっ?」
 最初は辛いかもしれないけど、一ヶ月もしたら平気になるさ。
 ねっ、ミツキ? そんなに涙を浮かべるぐらいに辛いのも、ちょっとだけだから。
「ひっ、う、そ……だよな砂耶? そんなのっ、わたし、うくっ……しんじゃうよぉっ」
 綺麗な瞳を悲しさで潤ませ、眉をしかめ、手をギュッと握り締めて懇願する。
 ボクは顔を反らして立ち上がり、無言で美月を通り過ぎて重い扉をスライドさせた。
 すぐに馴れるから。ボクも我慢するから。だからミツキ……高校を卒業したら、ちゃんとした恋人になろうね?
 そう思って、用具倉庫から出て、聞こえたのは低い笑い声。誰に聞かせる訳でも無い、呟くような独り言。

「そっかそっかぁっ……そんなこと言っちゃうんだぁっ? ふっ、ふふっ、ふははははははははっ♪ あぁあっ……そうくるのかサヤ? ぐっ、絶対にっ……イプしてやるわっ!!」

 ボクを無理矢理に犯すって犯罪宣言。
 それを聞き届け、体育館に続く渡り廊下を帰りながら、プライドはイラッと反応する。
 ボクは男だぞ? そりゃ女顔だし、ミツキより背は低いけど、女の子一人にレイプされたりなんかしない。逆に押さえ込んでやるんだ!
「ははっ♪」
 そう決まれば気分も軽くなる。
 だってこれから始まるのは、誰にも邪魔されない、ボクの、ボクだけの時間。
 そこでミツキは、ボクの命令に服従する犬になる。
320名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 12:24:02 ID:URF2/31H
一旦ここまでです。続きはすぐに。
321名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 13:26:11 ID:gyJYIoI6
GJ!!
続きに期待
322名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 14:13:17 ID:URF2/31H
次から続き
323『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 14:16:04 ID:URF2/31H
5
 太陽は堕ち、気温は落ち、空は雲無く朱く色付く。
 家の中。部屋の中。勉強机に肘を掛け、キャスター付きの椅子に座り、ベッド上の恥態を眺める。
「はやく、ナカ出しっ、しなさいよ……ごーかんまっ!!」
 意気がるのは女。年齢7つの子供。第二次成長も迎えてない、小学校低学年の女子児童。
 そんな子供が全裸で四つん這いになり、俺に尻を向けて虚勢を張り、膣内射精を懇願している。
 怒った形の眉、涙を溜める瞳、上気した肌、言葉だけの反抗。
 ああ、口元が吊り上がる。笑いが止まらない。
 嗚呼、興奮するよ。何度だってイケそうだ。
「はっ? よく聞こえなかったなぁ……俺の、コレを、どうして欲しいって?」
 ただ、そんな乞われ方じゃ頷けない。中出しなんてしてやらない。
 だから見せ付けるように。教え込むように。ゆっくりとズボンのジッパーを下げ、血管が浮き出る程に勃起したガチガチのペニスを取り出す。
 女は更に頬を赤く染め、悔しそうに唇を震わせるだけ。
 極上の媚薬を塗りたくられ、幼い性器からトロットロの蜜を垂らしても、プライドが降伏する事を否定しているのだ。
「挿れなさいよっ! どーせ、そのおっきなオチンチンでズボズボしてぇっ……わたしにぃ、んふっ、はぁぁっ……ちつないシャセイするんでしょ?
 ヤメてって言っても、オナカがパンパンになるまでセーエキをびゅるびゅるするんだよね? ぜんぶ、わかってりゅんだからねハンザイシャ!!」
 四つん這いのまま後ろを、俺を睨む泣きそうな顔が堪らない。
 ああっ、駄目だ。生意気な声が、態度が、ペニスからどんどんカウパーを滲ませる。
 女も自分で気付いてるのか? 頭じゃどんなにまともを装っていても、身体は快楽の肉欲に負けたのだと。
 その証拠に、自らの両手で粘液の源泉口を左右に拡げ、媚薬ですっかり弛緩しきったピンク色の肉穴を晒す。
 掻き分けるように幼いペニス容れを開き、クリトリスをシコらせ、オシッコの穴まで透明な液を溢れさせてぷっくりと膨らませる。挿れた瞬間に失禁しそうだ。
 長い髪は汗で背中に貼り付き、訴える瞳は空気を読めと言っている。
 私は犯罪者に捕まり、媚薬を塗られる不幸なヒロイン。身体の疼きを解消する為に仕方無く犯されてやるから、バイブ代わりにしてやるから、さっさと挿れて中出ししろ……って女を演じているだけなんだからと。
 それくらいわかってるでしょ? と、それくらいわかれ! と、そう瞳は言っている。裏腹の言葉と思い。
 だけど無理だ。精液を注ぎ込まれるまで熱を持つ媚薬。それを塗布されたら最後、初潮前だとか、処女だとか、生理だとか、そんなヘリクツは消えて無くなる。
 唯々、男を挑発し、ペニスから精液を搾り取り、中出しアクメを繰り返す雌になるのだ。俺はそれが見たい!
 俺は、女を、コイツを、○○○を、屈伏させたいんだ。
「もっと女らしく誘えよ○○○。俺は自分の手でしても良いんだぜ?」
 それだけを目的として、これほどに高級な据え膳を野放しにする。
 本能はこの女を、チビを、今すぐにでもバックから突き捲くって喘がせたいが、それじゃあ目的は達せられない。

 ぬちゅぅっ、ヌチュヌチュヌチュ、ヌチュッ……

 ローションを右掌に垂らし馴染ませ、粘度の増した指でペニスを鈍い水音を立てながら扱いていく。

 素っ裸の子供をオカズに、自慰で性感を高める行為。このままでも俺はイケるだろう。だが……
「あ、あ、あっ、ふああっ……うわあぁぁぁぁぁぁぁん!!! やだやだやだぁっ!!!
 ひくっ、なんで、そんなに……ぐすっ、イジワルするのぉっ? わたしのこと、キライなのっ? ううっ、おちんち……いれてよぉっ!!」
 コイツは違う。ペニスで子宮を小突かれ、気を失うまでハメ回して貰わなくては治らないのだ。
 故に必死。プライドを投げ捨てて俺に挿入を縋(すが)る。自慰で射精されてしまっては、挿れて貰えなくなるから。
 大声でポロポロ涙を零して泣き、耳まで紅潮させ、それでも性器は拡げ続ける。
「ははっ、そうまで言われたら仕方無いなぁっ……ふぅっ、ふぅぅっ! 奥まで、ズリズリしてあげるからねっ!」
 勝った。最高だっ! この時、この瞬間は、いつも『ボクを』イカせてくれる。ボクが何度繰り返しても浸れる優越感。
 まだボクより小さかった頃の○○○を、ボクの思い通りにさせた。
324『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 14:19:53 ID:URF2/31H
6
 今じゃできないから、無理矢理に女装させられてイタズラされるのがオチだから、有り得ないのに、こうまで逆になる。
 強気になったボクが、まだボクより小さかった頃のミツキをイジメて、泣かせる……妄想。オナニーする時だけの歪んだ想い。
「美月、ミツキ、みつきっ、みつきぃっ!」
 ベッドを背もたれにして床に座り、ズボンを下ろして自慰に耽る。
 息が荒い。息が乱れる。いつもと同じ格好。いつもと同じ妄想。
 左手に微笑んでる美月の写真を持って、右手に非貫通型のオナニーホールを持って、大好きな幼馴染みの名前を呼びながらチンコを扱く。
 手へ匂いが付くのを防ぐ為に通販で買ったオナニーホール。ローションをたっぷりと入れ、小さな穴に根元まで呑ませて、柔らかな感触を思い出す……ボクの指を、舐めて、咥える、美月の口の中を。
 とても熱く、蕩(とろ)けて溶けちゃいそうな唾液に、
 きゅきゅぅっと吸い付き、咥え込んで離さない唇に、
 ざらざらとした細かい突起が無数に存在し、縦横無尽に妖しくうねり絡み付く、肉厚で、長い、ボクを興奮させて舐める為だけに進化したベロ。
 そんなヤラシイ器官が集まった中に、指じゃなくてアレを挿れられたら、どんなに気持ち良いだろう?
 妄想は叶わない。美月には敵わないから、後一年半我慢して、ちゃんとした恋人同士になったら、頭を下げて、土下座して、美月にフェラして貰おう。
 イジメたりはできないから、もう一つの妄想、もう一つの夢、あのエッチな、口の中に……挿れたいよ。

 ああ、ああっ、ミツキの、クチのナカ。

「きもちいいよぉ、みつきぃっ……ふっ、ふぅっ、ふぅっ、うぎいぃっ!!?」
 勢い良く上下していた右手が止まった。ビュクビュクとオナニーホールに中出しし、射精した余韻に震えてる。
「ぅうっ、はぁぁっ……くっ、バカかボクはっ!? ちくしょう、ちっくしょう」
 終わった後は決まって自己嫌悪。誰より大切にしたいのに、誰よりも汚してしまう。きっとこれからも、何度も、何度も。
 だってしょうがないよ。あんなふうに舐められたら……あーあ、ミツキのせいにしちゃってるし、ほんとボクって……さいってー。
 でもさ、やっぱり気持ち良いんだ。美月を想ってオナニーすると、凄く、すっごく。
「みつき……怒ってないかなぁ?」
 視線を左に流すと、写真はイッた瞬間に握り締められ、幾つもの折り目が付いていた。
 ゴメンねって謝って天井を見上げる。明日になったら、本人に言おう。ゴメンねって。舐めるのは我慢してって。二人で乗り越えようって。よしっ、きまりっ!!
 そこまで考えて、


 ――タトン、タトン。


「ふぇっ?」
 思考は近付く足音に中断された。
 もちろんボクのじゃない。玄関の鍵は確実に掛けた。父親は単身赴任でしばらく帰って来ないし、母親も付いて行ったからいない。
325『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 14:21:27 ID:URF2/31H
7
 じゃあ、残るのは、唯一家族以外で合い鍵を持ってる幼馴染み。美月が、ボクの部屋に来る為に、階段を上ってる。
「うそ、でしょ!?」
 こんな姿なんか見せられない。しかも、たった今までオナペットにしてた人なんかと!
「もうっ、どーして急にくるんだよぅ!!」
 静かに、素早く、クローゼットの中に身を隠し、Yシャツの胸ポケットに入っていた携帯の電源を切る。これで完璧……と溜め息を吐こうとして、ばかぁっ!! と自分を罵った。
 なぜなら、美月の写真も、脱ぎっぱなしのパンツも、抜け堕ちてたオナニーホールも、全部がそのまんま。言い訳の効かない状況だよ。
「ゴメン、あやまりたくてさ……入るからね砂耶?」
 しかも返事して無いのに、ノック三回で入って来ちゃってるしー! あー、もうっ!!
 美月は部屋を見渡しながら中央まで進み、ボクはクローゼットの隙間から覗き見る。
「サヤ、いないんだ? あっ、コレっ……」
 そして気付いた。ボクじゃなく、美月が、オナニーの残骸に。
 その場で正座して腰を下ろし、シワくちゃの写真を眺めて、口を三日月の形にして笑う。

 あーわーわーっ! 何する気なの美月!? 早く帰ってよー!!
「ふぅん……サヤったら、私をオカズにしておちんちんシコシコしてるんだね?」
 やっぱりバレた、死にたい。明日からどんな顔して会えばいーの!?
 でも、そんなのより、もっと衝撃的な事。
「ふふっ、なーにがリハビリしようよ……もう末期で手遅れなのに、サヤ中毒なのに、それなのにっ!
 私をオカズにして、一人だけ気持ち良くなって、こんなえっちぃシミつくってっ、ズルイっ!
 はぁぁっ、はあぁぁん……まぁったくぅっ、おつゆ染み込ませすぎよぉっ♪ わたしもぉ、きもちよ……あむっ♪♪」
 美月がトランクスを両手で持ち、それを裏返して顔に寄せて、ボクのアレが当たっていた場所を、何の躊躇(ちゅうちょ)も無く口に含む。
 えっ、えっ、ええぇぇぇぇぇぇぇっ!!? なにしてるのミツキ!?
 まるでフライドチキンにでもカブリ付くように、骨までしゃぶり尽くすように、目を細めて美味しそうに、ぢゅぷっ、ぢゅくぢゅくぢゅく、ぢゅぷり……味わう。
「あ、あ、あっ、ぁあぁっ……なに、コレ? なにコレ? なにコレ、なにコレぇぇぇぇぇっ!!?
 こんなのダメだよぉっ、アセより、ヨダレより……んひゅぅっ、すごしゅぎるうっ♪ オシッコしゅごい、セーエキしゅごいよぉぉぉぉぉぉっ♪♪」
 口元から唾液を垂らし、長い髪を垂らし、舌足らずな艶声で歓喜しまくっている。
 その光景を盗み見て、ボクの手はいつの間にか再び勃起していたペニスを握り、無意識で力強く扱いていた。
 だってさっきまでオナペットにしてた人が、クチが、卑猥な淫音を響かせてる。ボクも舐めてよミツキ! パンツじゃなくて、ボクの、ボクのぉっ!!
「ぢゅちゅる! んっ……はぁぁっ、あじ、しなくなっちゃった」
 べっとりと糸を引かせ、濡れて重量感の増した下着が手を離れて床に落ちた。美月の興味が無くなったから。美月の目は次のモノが釘付けているから。
 肌色で柔らかく、クリトリスの造形まで施された筒状のゴム。穴が空いてて、非貫通で、ローションと精液が大量に混じり合って溜まってるオナニーホール。
 それを両手で包み持ち、パンツの代わりに、ソフトクリームでも舐めるよう口元に寄せる。
「さすがにコレは駄目よ、ダメよ美月! こんなの舐めたら、本当に戻れなくなっちゃう! 変態さんになっちゃう!
 砂耶から離れられなくなって、毎日セーエキ飲ませて貰わなくちゃ生きられなくなっちゃうよぅ!!
 ううっ、ううぅっ、でもぉ、でもぉっ……変態でいい、かな? ゴメンね砂耶……幼馴染みがヘンタイでゴメンねっ」
 息は荒く、頬は赤く、答えの決定していた葛藤で、視線は挿入口にガンジガラメ。
 そして、居ない筈のボクに謝罪して、舌をダラリと伸ばして、

 ぢゅぶぶぶぶぶぶっ……

 オナニーホールの中に差し挿れた。
326名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 14:23:38 ID:URF2/31H
8
 まるでアリクイ。小さく狭い穴に、長く厚い舌を差し込んで、精液とローションのミックスジュースを啜り上げてる。
 一生懸命に、一滴も残さずに、恍惚とした表情で、ぢゅるぢゅると卑猥な音を立てて飲み干して行く。
 餌を貪(むさぼ)るアリクイ。
 だけどアリクイの顔は、熱い吐息は、大きな胸は、細い腰は、丸い尻は、その姿はっ!
 この世の誰よりも魅力的で、この世の誰よりもエロティック。
 そんな幾つ美辞麗句を並べても足りない幼馴染みが、たった一つ、我慢できなかったモノ……罪悪感に狩られながらも、誘惑に負けて、オナニーホールの中を舌で掻き回す。
 口内でテイスティングして、唾液と混ぜてクチュクチュ咀嚼して、ゆっくりと咽を鳴らして胃に収める。

 ボクの好きな、ボクの大好きな美月が、ボクの目の前で。
「ふぅっ、ふぅっ、ふっ……みつきぃ、みつきぃっ、ボクっ、もぅ……イッちゃう、よぉっ」
 ボクは四角いクローゼットの中。隙間から『おかず』を眺めて、左手は声が漏れない様に口を塞ぎ、右手はドロドロにヌメるチンコを扱く。
「きもちいいよ、みつきぃっ……あっ、はあぁっ、みつきのクチのナカ、とっても、きもちっ」
 限界は早い。今までの中でも恐らく最速。だって、いつも妄想で犯してる人が、ボクの前で恥態を見せてくれてる。
 だから、だからっ、いつもよりリアルに美月のクチを思い浮かべて、幼馴染みをたんなるオナペットに格下げして、性欲の吐け口に。
 美月は全て吸い付くしたオナニーホールを強く握り、微かに滲み出る残り汁を名残惜しそうに舐め取ってる。
 ばかっ! えっちぃすぎるんだよっ! エロみつき!!
 何で階段上がる時に後ろ押さえないの!? 下から丸見えだって分かってるのに、何で短いスカート穿くの!? 何でボクに押さえさせるの!? ボクにお尻を触らせるのっ!?
 お昼はフルンクフルトばっかり食べて……ボクもう、許さないんだからねっ!!
 ボクの身長が伸びて、美月よりも力持ちになったら、絶対にイラマチオしてやるんだ!! あのクチのナカに無理矢理……あっ、イキそっ。
「ぁっ、あっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、美月、ミツキ、みつき、みつきっ……んっ、ふぎぃっ!?」
 弾けた。クローゼットの内扉に向けて、しこたま射精する。バレないように声を殺して、イッた後も扱き続けて、びゅる、びゅる、びゅびゅぅぅぅっ。
 シテたのは自分の手なのに、今までで一番の快感だった。
 さきっちょからは、さっき出したばかりとは思え無い程の精液が飛び散り、最高のけだるさが全身を包む。
「はぁっ、はぁっ、んっ……すきっ、大好きだよ美月。ボクも、我慢するからねっ」
 そして冷静になった頭で、改めて誓う。約束は絶対に守るって。
 美月を、ボクの彼女にするんだ!
 変更しない決意を固め、フラフラと立ち上がった幼馴染みを見詰める。
「ははっ、私……何やってるんだろ? へんたーい、へんたい美月っ、あははぁっ……あーあ、コレ私がやったってバレちゃうよね? はあぁっ、帰ろっ」
 美月は冷めた声で自らを卑下して笑うと、濡れて重くなった下着を左手に、オナニーホールを右手に持って部屋から出ていってしまった。

 持って帰っちゃダメぇぇぇぇぇっ!!!

   
327『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 14:39:01 ID:URF2/31H
9
 にんじんさーん、じゃがいもさーん、メインディシュのおにくさん〜♪♪

 ――トントントントン。

 こんな頭悪い歌が浮かぶなんて……死にたい。でも死ぬ前に美月とエッチしたい。あーあぁっ、死にたい。
 ハーフパンツとアルバのTシャツに着替え、その上から青いストライプのエプロン。
 キッチンに立ち、包丁を持って、野菜を一口サイズに。牛肉も軽く火を通して、同じく一口サイズに切る。
「あした、なんて声かけたらいーの? よー美月、俺様のオナホ知らねーか? って、軽く言えたら苦労しないんだよなぁ……はあぁぁっ」
 オナニーして気持ち良くなった後、冷静になって、脳内がクリアになって、夕食のカレーを作りながら自己嫌悪。
 インスタント以外はカレーとチャーハンとハンバーグしか作れないし、別な料理教えてって言おうかな?
 うん……そう、だねっ。自然に、自然にっと。
「頑張ろっ、ファイトだボク!!」
 煮えたナベに切り終えた食材を放り込み、フタをして加減を中火に落とす。
 そして、待ってる間にサラダでも作ろうとキャベツをまな板に乗せた時、
「おかえり砂耶……」
 ピクリ。大好きな声がボクの名前を呼ぶ。
「みつ、き?」
 振り返ればやっぱり。やっぱり幼馴染み。繋がったリビングキッチンのリビング側。その入り口に、元気無く微笑む美月が居た。
「あのっ、あのっ……チャイム押しても反応ないし、でもっ……明かり付いてたから」
 前倒しになっちゃうけど良いかな。まっ、取り敢えずはっ、
「もうちょっとでカレーできるから、一緒に食べよ? ほらっ、ソファーに座ってテレビでも見てて」
 話しを逸らそう。視線をまな板に戻し、慌てないように深呼吸して、キャベツ玉の1/4カットを千切りに。
 タントンタントンタントントン♪ 手早く切って大皿に乗せ、水洗いしたプチトマトを回りに盛り付ける。
 後はキクラゲを上にまぶせば、サラダの完せ……
「ねぇ砂耶? 私、ね……考えたの、このままじゃ駄目だって。砂耶だって嫌でしょ? パンツを盗んでオナニーする幼馴染みなんて」
 する間際。いつの間にか美月に真後ろへ立たれ、肩に手を乗せられ、頭におっぱいを当てられていた。
 プラスされて真剣な告白。美月はボクに、何か大切な事を言おうとしてる。
 てか、オナニーして来たんだ?
 ははっ、でもね美月……そんなんじゃ軽蔑しないよ? ボクを好きなんだって、逆に嬉しいくらい。
「ううん、ボクは嬉しい。知ってると思うけど、ボクも美月の写真を見ながらシテるから……」
 だから。恥ずかしいから。頬っぺたが赤くなってるってわかるから。
328『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 14:41:18 ID:URF2/31H
10
 振り向かず、まな板に視線を落としたまま、ボクの『おかず』は美月だよって告白する。
「はあぁっ……そんな言い方するなんて、ズルイよ砂耶。カラダだけじゃなくて、ココロまで砂耶無しじゃ生きていけなくする気なの?」
 肩へ置かれた手に力が篭り、熱い吐息が耳に掛かり、トクン、トクン、と美月の鼓動が全身に伝う。
 ボクのだって爆発寸前。二人の鼓動は紡ぎ合い、繋がり合い、相乗効果でもっと大きく。

 キスしたい。

 心からそう思って……
「みつき、ちゅーしよっ?」
 優しく手を払い、ゆっくりと振り返る。
「えっ……う、うん。うんっ!!」
 爪先立ちして背伸びして、両手も伸ばし、美月の後頭部でぶら下がる様に組む。
 戸惑いながらも頬を染め、目尻に大粒の涙を浮かべる美月を見て、ボクもニッコリ笑顔。
 寝てる時にファーストキスを奪われて以来、軽いトラウマになってボクからキスするなんて無かった。
 唾液目的かもって、頭の端っこをいつも過ぎるから。
 でも、でもね美月? もう、それでも良いかなって思うんだ。それぐらい、美月が大好きだよっ。
「んっ」
 目を閉じて唇を突き出す。
「さやぁっ……」
 するとボクの顔がてのひらで挟まれて、

「「ちゅっ」」

 二人の唇が重なった。
 背が伸びたら、ボクがリードするからね美月。
 それまでは、情けない幼馴染みで許してね。


 コトコト。カレーが煮える音。
 だけど今は、そんな音も交ぜたくない。
「ちゅ……みつき、吸って」
 一旦クチを離してペロリと舌を出し、組んだ手を解いて美月の耳を塞ぐ。
「うんっ」
 美月もすぐにボクの耳を塞ぎ、今度は少し口を開いてキス。
 ちゅるちゅる、ぢゅっ、ちゅちゅぅっ……
 ボクの舌を上下の唇でしっかりと挟んで咥え、きゅきゅぅっと長い舌を巻き付けて吸い上げる。
 どこまでも卑猥に、絡み合う音だけが脳内に響く。他は何も聞こえない。
 ボクの舌をトロトロにして、裏側まで余す所無く舐めて、気持ち良く……してくれる。


 ちゅっ、ちゅっ、ちゅうっ……

 あっヤバイ、朦朧として来た。こんなの久し振りだもんなー。
「んっ、はあぁぁっ……ゴメン、なさいサヤ。ふっ……んぢゅっ」
 再び唇が離されて、三度の接吻。
「んんっ!!? あっ……んぐっ」
 だけど違った。これはキスじゃない。
 まるでさっき、さっきのアリクイ、オナニーホール。
 ボクの口に舌を差し挿れ、喉の奥まで押し込んで、無理矢理に『何か』を飲ませた。小さくて、固形の何か。
「んっ、ぷはっ! いきなり何するの美月っ!?」
 慌てて口を離し、舌をズルズルと引き抜き、美月の肩を押して数歩も後ろに下がる。
 怒ってると意志表示して美月の瞳を睨み付けた。甘ったるい雰囲気は、あっと言う間にブチ壊し。
329『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 14:43:39 ID:URF2/31H
11
 僕は間違い無く睨んでる。美月の目を見据えて、低く唸り声を上げて。
 間違い無く、口元を吊り上げて、目を三日月の形にして笑う美月を睨んでる。
「ふふっ……ねぇ? 砂耶って、Mでしょ?」
 それなのに、反省した様子も無く、ボクの問いにも答えない。
 しかもボクをMだって……あはははははっ♪ 検討外れだよ美月? 背が低いから? ボクが美月よりちっちゃいからそう思うの?
 ちょっと頭に来たし、教えて……あげようかな?
「ボクはSだよ美月。頭の中じゃいつも……あ、あっ、ああっ……うわああぁぁああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 言葉は途切れた。吐き出せない。
 突然に、それも一瞬で、全身がもの凄い熱を持ったから。
「ゴメンね砂耶、マカ王バイアグラって言うんだけどね……飲ませちゃった♪」
 急いでエプロンを外して床に叩き付け、未だに微笑む美月を押し退けてリビングに出る。
「あっ!? うぐうぅっ……」
 足の力は抜け、もつれて転ぶ。
 それでも歩伏前進で、何とかソファーまで辿り着き、浅く腰掛けて背もたれに上体を倒す。
 ダメだ。腰から下が動かなくて、立つ事さえできない。

「はぁぁっ、はぁぁっ……はぁぁっ!!」
 息が、顔が、身体が、膨大な量の熱を蓄えてる。
 口も閉じれないから、ヨダレを垂らしっぱなしで舌も垂らしっぱなし。
 それを拭おうとしても、ダルさで手が脳からの命令を拒否してる。
「はぁっ、はぁぁっ、あつぃ……よぉっ」
 ただ、一部分だけ。
 足の間に在るチンポだけが、まるで全身の力を吸収したかの様に激しく勃起してる。
 ハーフパンツを持ち上げ、くっきりと形を示し、早く楽にしてと訴えてる。
 服を脱ぐとかそんなんじゃなくて、もう二回も出してるのに、まるで足らない。
 痛いんだ。射精して、射精して、射精しまくって、この熱を体外に放出しないと、気が狂ってしまいそう。

 そんなに苦しんでるのに……
「ふふっ、随分と……大変そうね?」
 美月は目の前で、右手には鋏(はさみ)を持って、ボクを見下して笑うだけ。
 美月がやったクセに。
 美月のせいなのにっ。
 言いたい事は山程ある。でもっ、それよりも今は!
「はぁっ、帰って美月っ!! 今すぐに帰ってぇぇぇぇぇっ!!!」
 オナニーしたい! はやくっ、いっぱいシコシコして出さないとっ、オカシクなるぅっ!!
 だから本気で、できる限りの大声で、美月の目を見て叫び吠えた。
「私が、楽にしてあげるよ?」
 けど、そんな訴えは通じない。
330『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/02/11(木) 14:48:54 ID:URF2/31H
12
 美月はボクの足の間で膝立ちになると、一呼吸も置かずにジョキン。
 鋏をチンコの付け根ら辺に当て、左手で少しハーフパンツを引っ張ると、下着ごとハーフパンツに小さな切れ目を入れた。
「だめっ、だめぇっ! みつきダメぇぇっ!!」
 そして、鋏をキッチンまで床を滑らせて放ると、作った切れ目に両手の指を突っ込み、
「やだやだっ! 私、見たいもん……砂耶のおちんちん見たいのっ!!」
 そのままビリビリと、左右にハーフパンツを引き裂いた。
 チンコを中心に、丸く破けて穴が空く。
 あー、見られちゃった。バキバキに勃起したボクの……見られないように、して、たのにっ!
「ボクをっ、どうする、気なの、みつきぃ?」
 美月は飲んでない筈なのに、ボクと同じく肩で息をして、ボクのチンコに釘付けになって、瞳は潤み蕩けて、冷静なフリで、興奮してる。
 それはそうだろう。アリクイの好きな味のモノが、ここから出るんだから。
「ふぅぅっ、ふぅぅっ……だって砂耶、Sなんでしょ? ねっ、私が……試してあげるわ」
 美月はチンコからボクの顔に視線を移すと、上の制服を脱ぎ捨て、鋏と同じくキッチンへ。
 すると出て来たのは、美月が制服の下に来てたのは、見覚え有る布製の白い半袖。
 パツンパツンにフィットしてる、ボクの、中学生時代の、体操服。しかも大きな胸に引き伸ばされて、可愛いおヘソが丸見えになってる。
「ゴメンね砂耶。雑巾にするからって貰ったけど、実はぁっ……ふふっ、パジャマにしてたの♪」
 美月は尖った乳首の形が浮かんでるのも気にそず、自らの胸元に指を入れると、谷間に挟んでいた細いボトルを取り出した。
 これも見覚えが有る。ボクも持ってるし、いつも使ってるモノ。
「ほら砂耶っ……」
 それを、ローションを。フタを開け、逆さまに持って、ドボドボと自分の上半身にブッ掛けた。
 一瞬で美月は濡れ、服はブラも付けてない素肌に張り付き、ピンク色の乳首を透視させ、テラテラと艶めいて粘着質な水音を立てる。
「砂耶の趣味はバレてるんだから……私にたった一言、お願いするだけでいいんだよ? 着衣パイズリって、して欲しいんでしょ?」
 更に乳首の下位置までスソを捲くり、両胸を左右から押し付け合うようにして挟み持つ。
 ローションで塗れて糸を引かせ、ここに挿れて良いよって、ここに精液ビュルビュルして良いよって誘惑してるんだ。

「ああっ、ああっ、そんなぁっ」
 だけど、セックスはしないって……でも、でもっ!
 こんなの、こんなのってないよぉっ!!
 射精したいのに、オナニーしたいのに、足は動かなくて、美月は目の前。
 はっ……だったら、だったら仕方ないよね?
 これはセックスじゃないって最低の言い訳で、
「みつきぃ、みつきのオッパイで、きもちよく、してっ……」
 美月を求めたって。



続く。
331名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 14:50:40 ID:URF2/31H
取り敢えずここまでです。
続きは規制に巻き込まれなかったら、近い内に。
332名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 15:28:02 ID:5l9KbZQH
超GJだよ!!
続きも楽しみにしてますよ。
333名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 01:14:56 ID:gtyQ+sgT
おお、GJ
いい感じのネトネト感でした
334名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 12:26:54 ID:q6Cd6nvx
GJ!
ずっと続きを待ってたんだぞ!
335308:2010/02/13(土) 18:39:57 ID:UHb4O6GK
>>308の続き。とりあえずしばらくはエロ無しなので勘弁。

 夕食後。お風呂から出て部屋に戻る途中で母さんがお風呂空いたな彼女に伝えてと言われたので彼女の部屋をノックしてみた。やはり返事はない。
「黒崎さん。入るぞ」
 やはりベッドに座ったままの彼女。とりあえず寝てないなら風呂に入れと言ったのは聞えただろうし部屋に戻ることにした。

 それから二時間ほど経った頃。全く物音がしない隣りを不思議に思い、もはやイラナイだろうと思いつつもノックをし、案の定無反応だったので入ると、さっきと寸分狂わずベッドに座っている彼女を発見。
「……どうしたもんか」
 さすがに俺が風呂に入れるのはまずいだろう。という訳で母さんに言いにいこうとリビングを覗いてみると真っ暗で誰もいなかった。そういえば明日は朝早くから出かけると母さんが言っていた気がする。だから早めに寝たのだろう。
「……しょうがないか」
 一日ぐらい風呂に入らなくても平気だろう。今日は放っておこうと思い部屋を後にしようと思ったが……よく見ると髪はボサボサで服も汚れている。それに少し臭う気がする。
「……風呂何日ぐらい入ってない?」
 無反応。分かってはいたが。しかし、風呂に入らず臭う女の子なんて、女子に幻想を抱いている思春期男子としては見過ごせないわけで。
「……やってやる!」
 俺は彼女の衣服などが入っているであろうトランクを開け、パジャマと下着の替えを持って彼女の手を引っ張りつつ風呂場へ向かった。
「服を……脱いでって言ってもやらないか……」
 本当に無反応というか、最早息をする人形だ。仕方なく背中側から服を脱がせてから服を洗濯機に入れてバスルームへ押し込んだ。
「ほら、お湯かけるぞ」
 シャワーを頭からかけた。髪が長いので纏めて持つと水分を吸った髪は案外重い。
「シャンプーするぞ。目瞑っとけ」
 シャンプーを手に取って髪を洗う。手入れをしていなかった為か絡まってたりして洗いにくい。
「!?」
 髪を洗っているとビクッと跳ねた。どうやら泡が目に入ったらしい。
「だから目瞑っとけって言ったのに!」
 目をシャンプーで洗い、手で無理やり、目蓋を閉じさせた。一応痛覚は生きてるらしい。
「さて、体はどうするかな……」
 とりあえず背中は既に洗い終わっている。問題は前だ。
「……よし!」
 まずはスポンジを持たせてみよう。
「使い方は分かったよな? さあ、やってみろ」
 無反応。いい加減分かりきってたことでも辛い。まあいい、まだ手はある。
「まず用意するものはタオル。これで目隠しします」
 後は彼女の手を取って前を洗わせる。俺はヘタレじゃないよ。例えヘタレだとしてもヘタレという名の紳士だよ。
 そして女の子を風呂に入れるというミッションは途中、何か柔らかい(腹部より上で鎖骨より下の部位らへんにある)モノに触れて俺の鼓動を早めたりしたこと以外は何のハプニングも無く終了を告げた。
336308:2010/02/13(土) 18:40:38 ID:UHb4O6GK
「……疲れた」
 今日だけで飯食わせて、風呂に入れて、着替えさせてと本当に疲れた。別に俺がやるべきことでも無いのだけれど。
「そうだ……もしかして……」
 自分の部屋を出て隣りの部屋へ入る。ノックは省略。部屋に入ると案の定、彼女はベッドに座っていた。
「……寝ないのか?」
 無反応。これには今日だけで慣れた。
「はぁ」
 押して座ってる状態から横にさせる。そのまま手で目を閉じさせる。
「おやすみ」
 電気を消して部屋を出る。寝れるかどうかは知らないが座ってる状態よりは休めるだろう。
337308:2010/02/13(土) 18:41:06 ID:UHb4O6GK
 黒崎綾音が家に来てから一週間が経った。その間に変わった所と言えば食事の時、俺が具を掴んだら口を開けるようになったこと。風呂は母さんと入るようになったこと。後は格好が少々綺麗になったことか。ただし相変わらず目に生気は無い。
「やれやれ」
 両親が死んだのが相当ショックなのだろう。それは分かる。俺も親がいきなり死んだら平静でいられないだろうし。
「だからって」
 死にたいとは思っていないだろう。飯は食べてるのだから。ただ生きたいとも思っていない。流されるまま。例えば俺が殺そうとしたら何の抵抗もなくそのまま殺されるだろう。あいつは既に人間としての意思が死んでいるのだろうか? それとも眠っているだけなのだろうか?
「死んでいるなら手遅れか」
 手の施しようがない。ただ存在するだけになる。まあ、もし眠ってるだけなら……
「……起こせばいいだけの話しだな」
 起こす手段なんていくらでもある。揺さ振ったり、声掛け続けたりしたら大体の人間は起きるだろうし、眠りが深い奴だって最終的には起きるんだ。眠り姫だって100年も眠っていたけど最後は起きたしな。
「死んでいるか寝ているかは分からないが、しばらくは揺さ振り続けてやるさ」
 暇だからそんなことを考えていたら。
「秀ご飯よ〜」
 なんて母さんの声が聞えた。
「はいはいっと」
 ベッドから腰を上げ隣りの彼女に飯だってよと呼びかける。
「反応は無いのは分かってるんだけどな……さて、迎えに……」
 そこで俺の言葉は止まった。何故って? ……目の前に彼女が立っていたからさ。
「うおっ」
 あまりの出来事と不意打ちでビックリした。だってそうだろう? 今まで自分から動きもしない彼女が扉の前にいるなんて考えもしなかった。
「……よう。何でここに?」
「………」
 その問いかけにもいつも通り無反応……では無かった。言葉は無いが手を差し出してきたのだ。
「おお」
 これには二度目の驚愕だ。扉の前に立っているだけなら両親が俺の部屋の前に何故かは知らないが放置したという可能性も無くはないのだから。
 しかし、自ら手を差し出したということは今目の前で起こった事実であり、これで隣りから扉の前まで迎えに来たという可能性も高くなったわけだ。
「……いくか?」
 首を縦に振ってはくれないかと期待してみて聞いたが、無反応。しかし手は差し出したまま。心なしか少し俺に近づけた気がする。
 俺はその手を握って食事場へ。黒崎綾音という少女は眠り姫ならぬ居眠り姫なのかもしれない。
338308:2010/02/13(土) 18:47:54 ID:UHb4O6GK
投下終了。
うわ〜結構長く書いたつもりなのに3レスで終わった。すみません。
てか実質2レスですむ量ですよね。投下ミスです。申し訳ない。
メモ帳じゃ長さ分かりづらいんですよね〜ってかワードの存在に投下してから気づきました。サーセン。
次からワードで10ページぐらい書いてから投下します。
339名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 20:42:18 ID:/r7qgnH1
gj
340名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 20:48:18 ID:qY6JwHO0
>>381
どこかで見た文体と思ったら…。
GJでした。

>>388
GJです。
期待してます。
341名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 23:35:23 ID:nuVLzV0H
gjgj
未来アンカだなw
342名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 23:53:15 ID:alJHGpoY
GJ
343名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 00:18:07 ID:K0n56oRP
>>340
なにを間違えたらそうなるw
344名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 05:50:18 ID:inxMGetv
>>388へとksk
345340:2010/02/14(日) 11:07:08 ID:t8MNv04J
げえっ!
何やってるんだ、自分…。
3464-263:2010/02/14(日) 13:49:48 ID:sFxO7P5O
kskついでに投下。
続かない。
347no title:2010/02/14(日) 13:51:40 ID:sFxO7P5O
「ああ、じゃあ、まあ、そこらへんに荷物置いて……。座ってていいから」
 俺はいかにも平静を装って、ソファを勧めた。そのままそそくさと自室に閉じこもり息をつく。
 しゅる、と黒いネクタイをほどきダブルのスーツを脱ぎ捨てる。めったに着ることのないそのスーツには、樟脳と焼香の匂いが染み付いていた。

 兄嫁が死んだ。
 兄、といっても昨年死んだ年の離れた兄で、俺や姉が小学生のときに既に家を出ていたから、兄という気はしない。
 たまに帰ってくる親戚の気さくな兄ちゃんと言う風で、それはそれで兄を慕っていた。明るくて優しい兄だった。
 そんな兄だから家庭にも恵まれていた。美人で優しい奥さんと、高校生の娘を置いて逝った兄を俺は内心で詰った。
 ――なんだよ、あんなにいい奥さんがいて、可愛い娘までいて、なんで自殺なんか!
 兄は兄で思うところがあったのだろう。それは分かってはいたのだが、通夜ですっかり憔悴している兄嫁を見ていられなかった。
 
 それから兄嫁は心を患ってしまった。心も体も日に日に弱っていき、布団の上で眠るように亡くなっていたという。
 通夜で棺の中、白菊に囲まれて眠る兄嫁は、少しやつれてはいたがやはり綺麗だった。思えば、兄嫁が俺の初恋だったのかもしれない。

 そんな中、青白い顔をして佇む姪に俺は声をかけた。
「雪ちゃん、本当に……残念で。俺、なんていったらいいか分かんないけど」
 黒いセーラー服のせいなのか、雪の顔色は一層紙のように白く見えた。雪は兄嫁によく似た顔で、にこりとぎこちなく笑う。
「叔父さん……、うん、大丈夫だよ」
 雪はどこかぼんやりとした目つきでそう呟いた。
 三十前にしてオジサンと呼ばれることにはとうに慣れている。俺はどうしていいか分からずに雪の頭を撫でた。
 そうしてから、もう雪は高校生で、よく遊んでいたときのような少女ではないことに気がつく。思わず「ごめん」と手をひっこっめると、雪は小さく微笑む。
 俺は慌てて話題を変えた。
「俺、ちょっと挨拶してくるから」
「うん、……いってらっしゃい」

348no title:2010/02/14(日) 13:52:01 ID:sFxO7P5O
 そそくさと兄嫁方の親戚に当たり障りの無い挨拶をする。言葉では丁寧に礼を言われても、その態度にありありと「自殺した旦那の弟」「あいつさえいなかったら美咲は死ななかったのに」と表れていて、いたたまれない。
 何よりそれが真実であるということが一番辛かった。
「ねえ、あの子の面倒は誰が見るのよ。私、いやよ」
「おい、やめろよ。こんな席で」
 ひそひそと話す声を聞いて、俺は足を止めた。
 兄嫁は両親を早くに亡くしている。だから、両親を亡くした雪はどこかの親戚にひきとられるのだろう。
「だって、あんな陰気な子。愛想笑いの一つもしないのよ?」
「そりゃ、美咲さんだって陽気な人ではなかったし……」
「ねえ、あの子誰が預かるの?」
「……やっぱり施設しかないよな」
「もう高校生よ?……高校も辞めて就職させればいいのかしら?」
 母親が死んで笑っている娘がいるかよ!と怒鳴りつけたい気持ちを抑えて、ちらりと雪のほうを見る。
 思えば、雪は故人の実の娘だというのに、葬儀場の片隅においやられてただ立ち尽くしていた。雪は諦観と悲観の入り混じった表情で笑み返した。
 俺は、焼香もそこそこに雪のほうへ歩み寄る。
「雪ちゃん、この後の予定は決まってる?」
「え?」
 雪の鳶色の目がくるりと丸くなる。
「予定は……無いよ。私、どうすればいいんだろう?」
 雪は泣きそうな笑い顔で俯いた。多分、自分が歓迎されていないことを肌で感じているのだろう。
 俺は雪の手を引いた。ひんやりとした華奢な手を握る。
「俺のとこに来よう」
「でも……」
「今後のことは落ち着いてから考えればいい。それともここにいる?」
 雪は親戚のほうをじいと見て、唇をかんだ。
「叔父さんと一緒に行く」
「そっか。じゃあ、まず雪ちゃんの家に行こう。必要な荷物をまとめて、それから俺のアパートに行こう」


349no title:2010/02/14(日) 13:52:40 ID:sFxO7P5O
 一片の下心も無いといえば嘘になる。だが、幼い頃から親しんでいた雪が辛い生活に身を落とすさまを、おめおめ見ていられなかったのが一番の理由だった。
――それにしても緊張する
 俺はジーパンを履き、部屋着のよれよれのパーカーに手をかけるが、考え直してその隣の真新しいシャツを手に取った。
 この間までオムツをしている子供だと思っていたのに、雪はもう立派な女性に成長していた。おずおずと居間へのドアを開けると、雪は冷たいフローリングに座り込んでいた。
 雪はちらちらと窓の向こうを気にしているように見える。ブラインドからはすでに赤々とした西日が差し込み、雪の白い頬にすうと朱色の線をひいていた。
「ソファに座りなよ」
 部屋の隅で膝を抱えていた雪はびくりと肩を震わせた。
 俺はその様子に違和を感じる。俺の知る限り、雪はここまで人見知りをするような子ではなかった。特別陽気な娘でもなかったが、はきはきと物を言う子であった。
 父親と母親を同時に亡くしたショックもあるのかもしれないが、なんだか異様なおびえ方である。
「と、とりあえず、夕飯だな!何か食べたいもの、あるか?」
 雪は無言で首を横に振った。空気を明るくしようと目論んだのだが、今のは俺があまりにも無神経だったかもしれない。
 俺はソファに雪を引き上げた。
 あまり自炊をしない俺の部屋の冷蔵庫には、食料らしい食料は入っていない。せめて葬式饅頭か通夜振舞くらいせしめてくるんだった、と後悔してももう遅い。
 俺は埃の積もったマグカップを食器棚から引っ張り出し、軽くゆすいでそれになみなみと紅茶を注いだ。安いティーバッグをポット一杯に煮出して砂糖を入れたものを、俺は部屋に常備している。
「俺さ、美咲さんのこと好きだったよ」
 雪の傍らに座り、ぽつり、と呟く。
「うん……」
 雪はマグカップに口をつけた。
「すげーいい人だった。すげー、綺麗だったし」
「うん」
 俺は雪の頭を撫でる。雪は少しだけ目を細めた。
「だからさ……」
 気を落とすな?元気を出せ?俺はなんと言ったらいいか分からずに、黙り込んだ。
「甘い……」
 雪はほうと微笑む。それを見て、俺はまあいいかと足を伸ばした。
350no title:2010/02/14(日) 13:53:09 ID:sFxO7P5O
 それから俺たちは色々な話をした。
 テレビでは色とりどりのタレントたちが、クイズに興じている。それをBGMにして、俺と雪は思い出話をした。
 兄が彼女を連れてきて驚いたこと。産まれたばかりの雪を抱かせて貰ったこと。
 まだせいぜい五歳ほどだった雪と、遊園地へ行ったこと。そのとき高校生だった俺は、小さな女の子にどう接したら良いか分からずにおたつき、兄と兄嫁にひどく笑われた。
「だって、雪ちゃん両手にポップコーン抱えてさ。どっちも食べる!ってきかないんだよ」
「うそだぁ!」
 雪はくすくすと笑う。
 俺は藍色になりはじめた空を見て、ブラインドを閉めた。
「雪ちゃん、さきに風呂入っていいよ」
 これ以上話を続けると、兄が死んだときの話になってしまう。だから俺は話をそうそうに切り上げた。
「そこの廊下の突き当たり。バスタオルとかは棚にあるの、勝手に使っていいから」
 雪は急に表情を暗くして俯く。糊のきいたプリーツスカートをぎゅうと握り締め、視線を泳がせた。
「あの……ね」
「ん?どうしたの?」
「一人が、怖いから……」
 俺はお茶を吹きかけた。なんだ?一緒に入れとでも言うのだろうか?それなんてエロゲ?
「だから、……近くにいてほしくて……駄目?」
「えっと、その……それは」
「脱衣所にいてもらってもいい?」
 俺はがくりと脱力した。いや、それでも随分と役得ではあるのだが、期待が大きかった分落胆も大きい。
「ごめん」
「ああ、うん。いいよ、別に」
 両親を立て続けに亡くして、ショックでないわけが無いのだ。俺は邪な落胆を押し隠して好青年風に笑った。

351no title:2010/02/14(日) 13:53:41 ID:sFxO7P5O

 すりガラスに肌色がちらついて、俺はそれを横目で眺める。さあさあというシャワーの音に耳を傾けて、俺は場にそぐわない劣情を噛み殺す。
――落ち着けよ、俺。相手は雪ちゃんだぞ!姪っ子だぞ!
 男って悲しい生き物だなあ。と俺は溜息をついた。
「叔父さん、いる?」
「ああ、いるよ」
 これで三度目のやりとりを繰り返す。
 脱衣所に準備されたバスタオルの下には、雪の下着が用意されているはずだ。確認するかしまいか本能と倫理観に挟まれ葛藤しているうちに、風呂場から声をかけられた。
「あの、もうあがってもいい?」
「いいよー。出ておいでー」
 冗談交じりにそう言うと、すりガラスの向こうが静まり返った。どうやらこの手の冗談は苦手らしい。
「ごめんごめん、俺、リビングに戻ってるから」
 立ち上がった途端、雪は慌てて声をあげた。
「ううん!ごめんなさい!あの、廊下にいてもらってもいい?急いで着替えるから!」
「はいはい」
 廊下に出て、俺は「いいよ」と中に声をかけた。風呂場のドアが開く音がして、しゅるしゅると衣擦れの音がいやに鮮烈に響く。
「叔父さんもお風呂入るの?」
 ひょい、と雪は廊下に顔を出した。クリーム色のタオル地のパジャマがよく似合う。
「入るよ、どうする?リビングにいる?」
 俺は半ばわざとそう聞いた。雪はふるふると首を振る。
「の、覗かないから、ここにいていい?」
 覗かないから?俺は苦笑する。
「覗いてもいいし、ここにいてもいいよ」
「覗かないよ!」
 笑いながら、俺は上着を脱いだ。


352no title:2010/02/14(日) 13:54:31 ID:sFxO7P5O
「とりあえず、俺はソファで寝るから雪ちゃんは俺の部屋で寝て」
 先程からやたらと背後をついてくる雪に、俺はそう提案した。雪は驚いたように目を見開く。
「えっ、でも、悪いし……」
「だからって一緒に寝るわけにはいかないでしょ」
 雪は俺のスウェットの裾をきゅうと引っ張った。
「一人、怖いの。暗いところで一人は……駄目なの」
 俺はごくりと生唾を飲んだ。
「い、一緒に寝よ?……私、ベッドのはじっこでいいから」
 俺は夢を見ているのだろうか。もしくは妄想のあまりの幻聴か。それならば、相当頭がいかれている。
「え、でも……」
 俺、男だし。その一言がどうしても出てこなかった。心細さにつけこみ、丸め込んで一緒に寝たかったからではない。  
 幼い頃から知っている雪を異性と認め、自分を異性と認識させるのがなんとなく恥ずかしかった。

「ええと、んじゃあ、まあ、……おやすみなさい」
 結局俺はどっちつかずのまま、曖昧な欲望に逆らうことが出来なかった。
 雪はいそいそとふとんに潜り込む。布団に入りあぐねた俺の手を、くいくいと引いた。
「ね、早く」
 俺の脳味噌はオーバーヒート寸前だ。
――なんなの!イマドキの女子高生は皆こんなに積極的なの?!オジサンびっくりだよ!
 ぐるぐると、そんなどうしようもない思考が巡る。
「はあ、お、お邪魔します」
 もそもそと布団に身を入れると、ふわとよい香りがした。同じシャンプーとボディーソープを使っているにも関わらず、雪は甘い香りがする。
 しん、と気まずい沈黙が部屋に滞る。俺の胸の辺りで丸くなった雪から、小さく呼吸する音だけが耳についた。
 心労続きで疲れていたのだろう。雪のまぶたはすでに重たげで、今にも眠ってしまいそうだった。
「一人だと、いやなの。暗いところだと、あいつが来るの……」
 ぽそぽそと雪が呟く。寝ぼけているのだろうか。不安げに呟く雪の頭を、俺は優しく撫でた。父親も母親もいなくなって、どんなにか辛かっただろう。俺は、その時ばかりは一片の下心も無く、雪の華奢な体を抱きしめた。
 不規則な生活が身に染み付いているせいか、夜もまだまだこれからという時間帯では眠気を感じない。俺は、数度寝返りを打つ。すうすうと寝息をたてる雪の、白い頬をつついてみた。
 反応は無い。ぐっすりと眠っているようだ。
 不意に尿意を感じて、俺はそっと布団を抜けた。雪の安息を邪魔しないように、静かに部屋を抜け出す。
 灯りが漏れ出し雪を起こすことがないよう、勝手知ったる自分の家を手探りで進む。さすがにトイレには電気をつけた。スウェットをずりさげ、一物を手にして鼻歌交じりに用を足す。
 その時、がん!とトイレのドアを叩く音がして、俺は小便を撒き散らしそうになるほど飛び上がった。
「なっ、なんだっ!?」
 がんがんがんがん!とドアは割れんばかりに叩かれる。がちゃがちゃがちゃがちゃ!と狂ったようにドアノブが暴れる。
「叔父さんっ!開けてよっ!叔父さんっ、叔父さん!」
「ゆっ、雪ちゃん!?」
 むしろ雪以外であったならば、俺は本気で引越しを考えなければなるまい。
「開けて!やだっ!いやだぁっ!一人はいやぁっ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
 俺は慌てて一物をしまい込む。がんがんと壊れそうなほど殴られる扉を開けると、雪が泣きながら飛び込んできた。ひゅう、ひゅう、と荒い息をする雪を俺は恐る恐るなだめる。
353no title:2010/02/14(日) 13:54:59 ID:sFxO7P5O
「ご、ごめん……」
 雪はがたがたと震えて、俺にすがりついた。
「や、やだよ……怖いよ。あいつがくる。あいつがくるの」
「分かった。分かったから俺の部屋に帰ろう」
 雪は震えながらこくりと頷いた。
 俺は雪を抱きかかえるようにして寝室に帰る。まだ二人の温もりの残るベッドに潜り込んだ。
「大丈夫?落ち着いた?」
 雪は俺の胸に額を押し付け、震えている。俺はその背をぽんぽんと撫でた。
「寝ようか、俺――」
 もう、どこにも行かないから。と言い掛けたが、言葉になることは無かった。雪の唇が俺の唇を塞ぐ。慣れていないのだろう、がちんと前歯が当たった。
「ちょっ、え?!雪ちゃん?!んっ」
 もう一度、口付けられる。
 雪の冷たい手が、俺の手を掴んだ。その手は雪に導かれるままに、雪の胸元へ向かう。
「ひっ、ひとりにしないで。なんでも、するから。学校辞めるから。が、学校辞めて働くから。叔父さんの、好きにしていいから」
 だから、おねがいだからいっしょにいて。
 雪の小振りな、だが柔らかな胸が手に触れた。
「雪ちゃん、しっかりして!」
 大きな声をあげると、雪はびくりと肩を震わせる。蒼白な顔が引き攣った。
「ご、めんなさい」
 雪の細い指がスウェットにかけられる。するりとぎこちない指先が一物に触れた。異常事態にも関わらず、ずくりとかすかな快感が背筋を這い上がる。
「ごめんなさい、分かんないけど、これから勉強するから……」
「そうじゃなくて!」
 雪はふいと顔をあげた。俺は真正面から雪の顔を見る。怯えて潤む雪の瞳は、恐怖に戦慄く表情は、たまらなく扇情的で、俺のちんけな葛藤はいとも簡単にどこかへ吹き飛んだ。
 ごめんなさい。すみません。と俺は心の中で兄に、兄嫁に、そして雪に謝り倒す。
「ん、んふうぅ……」
 俺は思い切り雪の口内をかき乱す。多分、初めてなのだろう。舌を使ったキスに雪は戸惑い、応えることも出来ないでいた。
 俺は雪の華奢な体をまさぐる。乳首を指先で撫でると、雪は小さく声をあげた。俺は左手で乳首を弄りながら、雪の服を脱がせる。
「あ、あんっ、あいつのせいで、……お母さんも、ひゃぁうぅ」
「雪ちゃん、ちゃんと俺のこと見て」
 俺はふと視線を感じて顔をあげた。
 部屋の隅で俺を睨む兄と目が合った。

3544-263:2010/02/14(日) 13:55:34 ID:sFxO7P5O
終了。
エロくなくてすまん
355名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 14:34:55 ID:W5l2S154
ホラー!?
356名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 17:24:51 ID:f/e3j01c
>>354
ちょwwwここで終わりとか! 怖いよGJ!
357名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 17:28:22 ID:yIPTyYJO
えっ?えっ!?
358名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 17:43:37 ID:Ns8+g8BI
これは恐ろしい
359名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 20:14:44 ID:uC/lq4ZV
いやいや、写真だよな?
そうと言ってくれ。GJ!
360名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 23:23:52 ID:12R7LbuB
続きを希望するセオリーだ
361名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 23:39:09 ID:IFpenMbF
>>360
弟子の養育はどうするプロセスだゲイリン
362名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 14:49:44 ID:ZezVC/pR
>>354
仏像を掴ませようとして髪の毛を掴まれるフラグですか?
363名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 16:24:32 ID:r7fr04GU
>>360
意味がまったくわからん。
364名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 18:08:46 ID:G2kFe00C
>>362
自殺した兄が兄嫁を連れて行って、娘も連れて行こうとしてんだろ?

え、違うの?
365名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 18:37:00 ID:TJvSCu5Y
保守
366名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 01:33:47 ID:8/3ZQtNg
何このSS怖い
367名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 20:41:02 ID:0giz/f/S
ゴクリ
368名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 14:53:08 ID:yxTXG4IL
たんッタタッたんたんッ
369名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 09:57:14 ID:B0gvSEyW
保守
370名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 12:55:24 ID:pB3RJxkA
保守だ保守保守
371名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 21:59:05 ID:9vq3p+rq
一番好きなスレなんだが、投下少ないな…。
保守。
372名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 01:27:13 ID:mQp/nK5l
ツンデレを病ませて最終的に依存へ
373名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 02:50:41 ID:RTnYBeeQ
誰かこれで書いてくれ。幼馴染で元々好きなんだけど素直になれず主人公に突っかかる。
主人公は子供の頃は惹かれていたけど、今は微妙なライン。
で主人公が他に好きななりそうな人がいて、そこで初めて告白。
じゃあ今までの態度はなんだったのと、怒る(もちろんわざと)
それで拒絶されてると思い込み
恋人ではなく奴隷でもいいので側において的な。

テンプレすぎですね分かります。だがそれがいい。
374名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 05:14:20 ID:CmaLmM/C
>>373
そこまでプロットを組めたなら、後は自分で書き出すだけだ。
375名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 07:48:18 ID:EJY7LWVj
「大人になったら結婚しようね!」
「うん!いいよ」
なんて子供の時、幼なじみと約束したなんて話はたまにあるが自分の場合そうだった。
そして約10年経ち、高校生になった頃には覚えてないわけで。だが俺は覚えてたし幼なじみのことを今でも好きだ。あいつはもうそんなこと覚えて無いだろうけどさ。
そして高校二年の文化祭、俺は幼なじみではない女子に恋をした。


「なあ、竹法(たけのり)よ」
「ん?どうした昭久(あきひさ)」
「早紀(さき)ちゃんって・・・可愛いよね」
「お前には菫(すみれ)ちゃんがいるじゃないか!」
「いや、何でそうなる」
俺には幼なじみがいる、幼稚園から高校までクラスが一緒になるという奇跡が起こるほど。だから周囲からはつき合ってるとか言われてる。実際は付き合ってない。
「まさかお前ら付き合ってないのか!」
「何時付き合ってるとか言った?」
「朴念仁」
「何でそうなる」
親友の竹法からの朴念仁と何故言われたかがよくわからん。
「はあ〜まあいい。いつか気付くだろうし、取りあえずは早紀ちゃんだっけ?」
やっと本題に入るようだ。時間を無駄にしやがって


>>373を元に書いたら一番最初がこうなったんだが。頑張ってちょびちょび書いていく予定。
376名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 09:15:15 ID:wzznDqVO
断言しよう。
この世界(スレ)には神が居ると!(キリッ
377名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 10:51:39 ID:QW2oi/O0
神がいるとそれに執着して依存しちゃうのが人間です・・・
378てす:2010/03/07(日) 19:34:10 ID:qnkD6mxK
続き投下
379名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 19:34:49 ID:qnkD6mxK
スマン、まつがえまつた……
380名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 19:50:49 ID:RI/F08a6
いいから投下するんだ!
381名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 19:51:31 ID:JeND8E4K
をゐ
382名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 21:58:09 ID:t12lmmXs
間違えたではすまされない問題だな。
383名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 00:36:06 ID:TyuvGOQT
こうどなじょうほうせんがはじまったぞ!


まじそういう釣りはやめてくれ><
384名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 11:12:34 ID:8ZcQxiV1
何、間違えた?失態だな、378くん。どう責任を取るつもりだ?
385名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 12:52:36 ID:BOEXiLjB
378が居なきゃ生きていけない依存っ娘12人(内一名は男の娘)に一生まとわり憑かれる刑
386春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:15:02 ID:Zp4QxuYp
少し間があいてしまいました、すいません。
では、投下します。
387春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:16:00 ID:Zp4QxuYp
俺がまだ幼少の頃、大桜の木には小さな桜の精が住んでいると恵さんから聞いたことがある。
多分俺や春香達を楽しませる為に恵さんが作った作り話なのだろう…。
しかし、幼少の頃の俺は恵さんの作り話に疑う心を持たず、本当に桜の精がいると信じきっていた。

無論、同じように育った春香も同様に……。

恵さんからその話を聞いた次の日、俺と春香は学校帰りに町にある桜の木、一つ一つに話しかけてまわった。
桜の精から返事の無い木を蹴り飛ばして、春香に怒られたりもした。

――今でも春香と一緒にしたことや、出来事は鮮明に覚えているし、俺の宝物…。

そんな感じで夕方まで走りまわって最後にたどり着いたのが町にある唯一の神社……「この裏に何かあるかもっ!」と春香の思い付きで自分の身長より高い草木を手でかき分け、やっとの思いで裏へ回ると、視界一面に見たこともない風景が目に飛び込んできた。

夕焼けに照らされた桜の木が町を見守る様に丘の上から優しく咲き乱れていたのだ――。

その丘はその瞬間から俺と春香の秘密の場所になり、同時に特別な場所にもなった。
388春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:16:38 ID:Zp4QxuYp

その桜の丘を見つけた次の日から、毎日毎日桜の丘へと足を運んだ。

桜の精を呼び出す為に木に向かってその日あった事を話す。その日あった事と言っても常に俺も一緒なのだから俺から木に話すことはあまり無かった。

そんな新しく新鮮な日々もそう長くは続かない…。

あれだけ綺麗に咲いていた桜が使命を果たした様に散っていくのだ――。

流石に俺達二人ではどうしようもなく、泣きながら家に帰り恵さんに助けを求めたが、桜は春にしか咲かない事を知らされて酷くショックをした。特に春香の落ち込みようは酷く、恵さんに必要以上に何故桜は春にしか咲かないのか聞いていた。

恵さんが「皆に幸せになってほしいから一年に一度だけ、頑張って綺麗に咲くの。」と言うと、春香は泣き声を一際大きくあげて泣いた。

高校生になった今なら理解もできるのだが、純粋な子供には散る=桜の精が死ぬという答えに自然と繋がってしまうのだ…。

泣き続ける俺達の気持ちを察した恵さんが、でもねと続けると優しく春香と俺を抱きしめ「次の春も…その次の春も桜は咲くのよ?死んじゃうんじゃないの。少しだけ疲れたから眠るのよ。だから桜の精さんにありがとうって言って来なさい。」
389春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:17:37 ID:Zp4QxuYp
その言葉で俺達の気持ちは晴れ、その足で家を飛び出し、桜の丘へと向かうと、次の春までの別れを告げた。
この時、桜の木へと別れを告げる春香を横目に放したくないと子供心に強く願ったのを高校生になった今でも覚えている――。

それから毎年、桜が咲く季節になると桜の丘へと足を運ぶ事が決まりごとになり、それを繰り返す度に春香との絆はより一層強くなっていった。
なにより「絆」と言う言葉を一番気に入ってたのは他の誰でも無い春香なのだ。

見えない絆…。
誰にも傷つけられない絆。
そんな物が本当にあると春香は本当に信用していた。
勿論俺も信用していた…。




桜の丘を見つけた日から数年後――俺と春香は地元の中学校へと通っていた。
若干女子柔道が強いぐらいで、他にこれと言って目立つ要素がない普通の田舎中学校。
その田舎中学校で、俺と春香はちょっとした有名人になっていた。

一番仲の良いカップルとして――。
390春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:18:23 ID:Zp4QxuYp

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇


「なんでよっ!!」
家の中どころか外にも響き渡る様な声で俺に向かって怒りを露にする女性――。この女性とは産まれた日から今までずっと一緒に過ごしている仲なのだが、中学に入学したその日に女性から「入学祝いにこれに書き込んで。」と婚姻届を渡され付き合う事になった。
周りの皆には内緒にしているつもりなのだが、外でも家でも学校でも常に一緒にいるので周りにはバレバレなのだ…。


「さっきから言ってるだろ、田中達が(学校の友達)カラオケに誘ってきたんだよ…。」
その女性が今、俺を鬼の如く睨み付け、怒りを全力でぶつけている。

「それって私との約束忘れてたって事でしょっ!?」

「いや、だから…悪かったって…」
何かを飲み込むようにもごもごと話す俺により一層怒りが増したようだ。強く出ようにも、俺の相手に対応する腰の低さを見た通り此方が悪いので強くでる事が出来ない。

「もう、知らないから!一緒に寝てほしいってっ言っても絶対に寝てあげないからねっ!」
そう言うと、近くにあったクマのぬいぐるみを俺に投げつけ、踵を返して部屋を出ていってしまった。
391春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:19:08 ID:Zp4QxuYp
「寝てほしいって、俺から一緒に寝てほしいなんて言った事無いだろ…。」
女性がいなくなった部屋で独り言を呟き、ベッドへと体を重く預けた。ぼふっと重い音と心地いい肌触りが体を包み込む。
このまま意識を手放したいのだが、頭に先ほどの女性の顔が張り付いて寝るどころではない。

「はぁ〜、どうしたもんか…………んっ?。」
どうやって謝ろうか枕に顔を埋めて考えていると、ガチャッ、と思考を遮断するように扉の開ける音が耳へと侵入してきた。
先ほどの女性が戻って来たのかと慌てて顔を上げるが、想像していた人物とは違い、見覚えのある女の子が部屋の中を覗き込んできた。

――「……春兄、春姉ちゃんと喧嘩したの?」
その女の子は心配そうな表情を浮かべ、こちらの様子を伺っている。

「あぁ、なんだ……夏美か。」
入ってきたショートカットが似合う女の子の名前を呟くと、おずおずと言った感じで部屋の中へと入ってきた。
先ほど俺に怒りを向けた女性――春香の妹の夏美だ。
部屋に入り、寝転んでいる俺へと近づくと、当たり前の様に夏美は隣へと腰を降ろした。その行動に何を言うでもなく、夏美から視線をずらしてまた春香の事を頭に浮かべ天井を眺める。
392春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:19:45 ID:Zp4QxuYp
先ほどの事もそうだが春香とは最近小さな小競り合いが多い気がする…。お母さんいわく(正確には春香のお母さん)
「お互い思春期だからしかたないわよ。」らしいのだが…。

「夏美も早く寝る習慣つけないと、明後日から中学生だろ?」
時計を指差し夏美に10の数字を指している事を教える。

今日は4月6日。短い春休みが終わり、明後日から新学期に入る。
俺と春香は二年へと進級し、夏美が俺達と同じ中学校へ新入生として入ってくるのだが、人見知りな夏美が上手くやっていけるのか少し心配だ。

「あっ、本当だ…それじゃ、もう寝るね?それと、明後日一緒に学校行こうね。」

「あぁ、分かってるよ。おやすみ。」
部屋から出ていく夏美の背中を眺め、窓際へと移動する。
玄関から出ていく夏美に手お振り、家の中へ入るのを確認すると、窓を閉め、もう一度ベッドに横たわる。

目を瞑ると、ふと夏美の制服姿が脳裏に写し出された。
想像では制服を着ていると言うより着られているといった感じになるが…。

「まぁ、入学した頃は皆同じか…俺と春香だって一年前は初々しいって言われまくったからな…。」
俺と春香が入学した時のお母さんの喜び様は凄かった。
393春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:20:26 ID:Zp4QxuYp

制服姿の写真も50枚近く撮られたし、何故か赤飯も炊かれた。
多分本人より喜んでたかも知れない…。

「ははっ、夏美の時もそうなるだろうな。春香の時だって……春香時……春香………はぁ…。」
そう言えば春香と喧嘩してるんだった…。
春休みは一日も休まず春香と遊びまくったんだから一日ぐらい…。まぁ、春香と約束した俺が悪いのだが…。

「まぁ……明日謝るか。」
いつもならどっちが悪かろうが春香から謝ってくるのだが、今回ばかりは約束を破った此方から謝らないと……。





――翌日。
爆睡している俺の耳へ、睡眠を妨げる不愉快な音が耳へと入り込んできた。
この聞き慣れた騒がしい音は掃除機の排気音だ。

「…」
上半身を持ち上げ、無言で目覚まし時計に手を伸ばす。

……まだ七時か…。
こんな朝早く掃除をしているのは間違いなくお母さんだ。
この家には俺以外誰もいない…。
父は海外へ長期出張してるし、本当のお母さんは既に亡くなっている。
だから掃除する人物は隣に住んでいる赤部家の主、赤部 恵さん以外誰も居ないのだ。
394春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:21:17 ID:Zp4QxuYp
少し前まで長女の秋音さんも手伝ってくれてたみたいだが、秋音さんは今年大学を卒業するので多忙になり他人の家の掃除にまで手が回せないのだ。
なんでも教師になりたいそうで、よく「中学卒業したら私が働く学校に入学しなさい。」と既に内定を貰ったかのごとく話すことがある。
まぁ、俊才秋音さんの事だから当たり前の様に来年教師になっているだろう…。
綺麗な黒髪をなびかせてクールに教鞭をふるう姿が目に浮かぶ。

――「ハル、起きてる?」
寝ぼける頭で二度寝しようかリビングに降りるか考えていると、リビングからお母さんが二階へ上がってきてしまった。
一瞬寝たフリをしようか悩んだが、お母さんの前で寝たフリをすると、昔から頭を撫で回してくるのだ。どうせ起こされるのだから、座っていればいい。

「あら、起こしちゃったかしら?」
そう言うお母さんの手にはしっかりと掃除機が握りしめられていた。
始めから起こす気だったようだ…。

「大丈夫だよ。」
一言そう答え、笑顔で部屋の中へと入ってくると、コンセントを挿し掃除機で掃除を始めた。
395春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:22:29 ID:Zp4QxuYp

ベッドに座り掃除するお母さんの後ろ姿をボケ〜っと眺めてみる…。
毎日見ているのだが、見た目はまだ二十代で通るほど若く見える。肌も白いしシミなんて一つもない。職場でもモテるようで花束を貰って帰ってくることもあるぐらいだ…。

離婚し、女手一つで今まで皆を育ててきたのだが(俺を含め)再婚する気はないのだろうか……この若さで所帯染みているのは勿体無い気がする。

「ねぇ…お母さん…」

「ん〜、なぁに〜?」
此方に振り返らず掃除機をかけている。
聞いていいのか分からないが、気になるので聞いてみよう…。

「お母さんさぁ……彼氏って言うか……再婚とかしないの?」
掃除をしていたお母さんの動きがピタッと止まる。
まずい事を聞いてしまったのかと思い、焦ったのだが掃除機のスイッチを切り、此方に振り返ったお母さんの顔はいつもの様に笑顔だった。

「ふふっ、どうしたのいきなり?」
そう小さく答えると掃除機をフローリングに置き、此方に歩み寄ってきた。

「いや、お母さんってまだ若いからさ……彼氏ぐらいいるだろうなぁって……。」

「彼氏?お母さんはいないわよ?再婚する予定も無いわね。
でも、いきなりどうしてそんなこと聞くの?」
396春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:23:12 ID:Zp4QxuYp
不思議そうに顔を傾げるお母さんに笑いながら返す。

「いや、再婚したらお母さんがこの家を掃除することなくなるだろ?
そしたら親父の所に行かなきゃな〜、なんてね。ははっ。」
綺麗だから勿体無いなんて恥ずかしくて言えない。咄嗟に思いついた冗談で誤魔化した。


それが間違いだった――。





――「ハル、そういう考えは今すぐ辞めなさい。」

「え?」
あれ…?いつの間にか笑顔が消え、どこか怒った様な表情をしている。

「あの…お母さん…」
おずおずお母さんに話しかける。が、怒色を混ぜた目の色はまったく変わらない。

「お母さんは何年経ってもお母さんよ?今もこれからも……ハルは私の子供。」
まっすぐ目を見つめてくるお母さんに萎縮してしまった…。
小さくなる俺を数秒睨んだ後、また掃除機を手にとり、スイッチを入れ、掃除を再開する。




――「……次は本当に怒るわよ?」
その言葉を最後に無言のまま掃除を続けるお母さんを見て、この話を切り出した事を後悔した。
やはり再婚話はタブーのようだ…。

――お母さんの怒りに触れた後、部屋に居づらくなった俺はそそくさと部屋を後にし、リビングへと一人降りる事にした。
397春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:23:51 ID:Zp4QxuYp
あの場所に居座れば空気に耐えきれず胃に穴があくのは時間の問題。ここは少し時間を置いて謝るのが一番だろう…。

リビングのソファーに腰を掛け、部屋から出た時咄嗟に手に掴んだ携帯に目を向ける。
ピカッ、ピカッ、と青い光が点滅している。
この光はメールがきていますよと教えてくれているのだ。
携帯を開きメールを確認する。

『明後日、昼の12時からで大丈夫か?』

「あぁ……そう言えば田中達と約束してたっけ……はぁ…。」
それと同時に春香と喧嘩しているのも思い出した。

「しょうがない……謝りにいくか。」
ギクシャクしたまま新学期なんて迎えたくない。
重い腰を持ち上げ家を後にし隣にある赤部家へと向かう。
いつもの様にインターホンも鳴らさず、わが家の様に扉を開ける。


「あっ、春くんだ!」
扉を開ける音に反応したのか、末っ子の冬子がリビングから飛び出してきた。顔を見るや否や此方に向かってダイブする。
ぐふっ、と口から息が漏れたが所詮小学生なので倒れたりはしない。

「春くんっ!」
今年から晴れて高学年の仲間入りを果たした冬子なのだが、誰に似たのか甘えん坊でしかたない。
398春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:25:59 ID:Zp4QxuYp
今も両手を大きく広げニコニコしながら抱っこしろのポーズをしているが、悪いけど今はつきあってる暇はないのだ。

「冬子、春香はまだ寝てるのか?」

「春ちゃん?春ちゃんなら市民体育館に行ったよ?今日は柔道の日だよ、忘れたの?」
そう言えば、そうだった……。
春香は週に一度、小さい子供達に柔道を教える為に市民体育館へと足を運んでいるのだ。
小学生から学んでいる柔道は中学に入学した後も、女子柔道部に入るぐらい好きらしく、唯一俺と春香の接点が無い『モノ』が柔道になる。

「春くん、春ちゃんと喧嘩したんでしょ?夕方に終わるから迎えに行ってあげなよ。」
冬子にまで伝わってるのか……。
まとわりつく冬子を片手で制し携帯を取り出し眺める…。
春香にメールをしようか悩んだが、口で謝らないと機嫌は治らないだろう…そう考えた俺は取り出した携帯を再度ポケットに放り込んだ。

――春香の柔道講座が終わる夕方まで冬子の相手をして時間を潰した俺は、春香を迎えに行く為に赤部家を後にした。
市民体育館はそんなに離れた場所にある訳ではないので、歩いていく事にする。
399春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:26:48 ID:Zp4QxuYp
最近歩く行為そのものがめんどくさくなっていたので自転車に頼りたいのだが、残念ながらパンク中…。
秋音さんいわく車に乗れば余計に歩く事がめんどくさくなるらしいのだが……それでも短時間で遠距離を移動できる車は魅力的である。

――桜木が並ぶ道を一人ぶらぶらと歩きながら途中のコンビニでスポーツドリンクを二つ購入し、二十分ほど歩いて目的地の市民体育館へと到着することができた。
体育館の玄関前までくると、中からは元気な声が男女入り乱れて聞こえてくる。

「まだ、終わってないのか…。」
外で待っててもよかったのだが、体育館の中でも邪魔にならない場所なら問題無いだろうと考え中へ入る事にした。

「失礼しま〜す。おぉ、案外人数多いな。」
扉を開けて中へと入ると、熱い熱気が身体全体を包み込んだ。
間違いなく熱気は今目の前で行われている「柔道」から発せられているのだろう。
人数は80人近くいるんじゃないだろうか?
人口密度はかなり濃く感じた。

「スゲーな…。人数増えてるんじゃねーか?」
前に一度、見学しにきた事があるのだが確か30人程度だった気がする。
俺が入ってきた事に誰も気がつかず、各々対戦相手と真剣に取り組みをしている。
400春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:27:23 ID:Zp4QxuYp

指導者の大人は4〜5人いるが、これだけの人数を全部教えるのは一苦労だろう。
そんな事を考えながら周りを見渡していると、小さな小学生グループを発見した。

その小学生グループの中に一人、柔道着に身を包んだ見覚えのある女の子が小学生達を指導している。

「腰をもっと低く落としてっ!相手を掴んだら脇を締めるのっ!」
肩口の所で切り揃えられた髪を後ろで一つに縛り、汗を流しながら一生懸命子供達に教えている。
子供達もその声を一生懸命聞きながら頑張っている。

その姿を壁にもたれながら見ていると、小学生を指導している女性が俺の存在に気がついた。
一瞬、顔を緩ませたがすぐに険しい顔に戻り、また子供達に手取り足取り教えだした。





――「それじゃ、今日はここまで!」

「「「ありがとうございましたぁ〜!」」」

結局終わったのが18時を回った頃だった。
外は暗いとまではいかないが、太陽は殆ど沈みかかっており、小学生組は親御さんが迎えに来ているようだ。

「お疲れさん。」
大人の指導者と雑談している女性――春香に近よりスポーツドリンクを手渡す。

「今、話してるんだから後でもいいじゃない?」
401春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:27:59 ID:Zp4QxuYp

「まぁ、そう言うなよ。」
冷めた様に話す春香に対して軽く返答する。
その対応を見た春香は、面白くないのかスポーツドリンクを乱暴に開けて一気に飲み干した。
春香の考えてる事は分かっている。
俺が嫉妬してる姿を見たいのだろう。しかし、四十代の既婚者相手に嫉妬しろと言うほうが無理な話しだ。
嫉妬させたいなら同学年か少し年上を選ばないとな。

「帰ろう、春香。」
そんな事は口にださす、なるべく穏やかに話しかける。
キッと俺の顔を一睨みすると、ため息を吐き項垂れながら更衣室へて一人歩いていった。
少し嫉妬の真似をしたほうがよかったのかと考えたが、春香に嘘をつくと後々怖いので嘘はつけないのだ…。

――着替えを終えた春香と体育館を後にし、少し遠回りをして帰る事にした。
勿論謝る為に…。
春香も空気を察しているのだろう…隣を歩いたまま無言を通している。

(って言っても…どう謝れば…。)

「…」
謝る為にわざわざ遠回りして帰っているのにこのままじゃ、遠回りした意味が無くなる。

「あのさ……ちょっと川原の道のほう歩いていかないか?」
小さな橋に差し掛かった時、隣を流れている川を見て咄嗟にでた言葉だった。
402春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:28:45 ID:Zp4QxuYp
「…まぁ、いいけど。」
数秒の間をあけて不機嫌そうに春香が呟いた。謝る機会を与えてくれているのだろう…。
早く謝らないと。

帰宅する道から一本外れ、川が流れている歩道をゆっくり二人で歩く。

――川のせせらぎ、赤みがかった空。
状況が状況なら良い雰囲気なのだが、川原の清々しい空気とは逆に俺と春香の周りの空気だけ暗くよどんでいる気がする。いや、実際重い。
早くこの空気を変えなくては。

「あのさ…春香。」

「…なに?」
立ち止まり、春香に話しかける。春香も此方に振り返る。

「昨日は悪かった…ごめん。」
うだうだ言い訳をするよりも、一言手っ取り早く言ったほうがいいだろう。
春香に頭を下げ、一言謝罪した。
少しの沈黙の後、頭上から、ふぅ、と小さなため息が聞こえた。それと同時に髪を何かが撫でる。

「…」
頭を撫でる「何か」の存在は、すぐに春香の手だと理解した。

「もう、怒ってないから。」
呆れたように言う春香の声を聞き、やっと許してくれた事を悟った。

「あぁ、ありがとう。まぁ、明後日の約束はちゃんと守るよ。田中達の誘いは断る。」
本当の事を言うと、春香と喧嘩した時にはもう田中達の約束は断ろうと決めていた。
403春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:29:48 ID:Zp4QxuYp
田中達はどうせゲーセンとかカラオケとかで遊ぶつもりなのだろう。
田中達には悪いが、それなら春香の約束を守ることのほうが有意義に時間を使えると言うものだ。

そう思い春香に田中達の約束を断る事を伝えたのだが、香は俺の発言を却下し「私の約束はいつでもいいから。どうせ毎日一緒にいるんだし。」と言われ田中達と遊ぶ方を優先しろと怒られてしまった。
まぁ、夕方になれば家に帰れるだろうし夕方から春香の約束を守ればいい。
そう春香に伝えると、満面の笑みで目を瞑り顔を前にだしてきた。

「……ここで?」

「……んーッ…」
早くキスをしろという意味だろう…。一応周りを一通り見渡し、春香の顔に恐る恐る顔を近づけ唇を合わせる。

「…んっ」

「は、はいっ、もう終わりっ!」
恥ずかしくなり顔を勢いよく背けた。
えぇ〜っ、と不満げな声をあげているが背中越しでも分かる……春香は間違いなくニヤけている。

先ほどの気まずさとは違い別の意味でこの場所から逃げ出したくなった。
それに、此方が悪い手前、春香に口答すらできない状態だ。



「うっ……か、帰るぞッ!」
――考え抜いた結果、この現状から逃げるという一番男らしくない選択肢を選んだ。
404春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:31:49 ID:Zp4QxuYp

春香から「ハル〜、照れてる〜?」とからかわれたが、赤い顔を見られるのが嫌で無視をしながら歩く。すると、えいっと言う掛け声と共に春香が背中に飛び乗ってきた。

「おいっ。」

「えへへ〜、ハル好き好きぃ〜。」
先ほどのおちょくりモードから一転、春香は背中にへばりつき甘えモードに早変わり。
仕方なく地面に落ちない様に春香の足を掴み、家を目指すことにした。


「ねぇ…ハル。」

「ん〜、なんだぁ〜?」
春香をおんぶし、川を眺めながら歩いていると耳元で春香に声をかけられた。

「……ずっと一緒にいようね?」

「……あたりまえだろ、バカ。」
照れ隠し…とまではいかないが少しキツイ言葉になってしまった。

「ふふ…そうだよね、私とハルが一緒にいるのは当たり前の事だもんね。」
少し怒ると思っていたのだが、俺が発した言葉に機嫌を悪くすることは無く、それどころか逆に機嫌良さそうに家へ着くまで首筋に顔を埋めて鼻歌を歌っていた。




――余談になるが、俺と春香の春休み最終日に起きた最後の出来事は、春香をおんぶして帰宅した事に激怒&大泣きした冬子の機嫌とりだった。
405 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/09(火) 16:43:27 ID:Zp4QxuYp
投下終了です。
続きはなるべく早く投下させてもらいます。
夢の国の続きも書き終わってるので早く投下します。それでは。

>>375
凄く好きなシチュエーションなんで期待してます。
406名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 19:57:13 ID:7NpQLrap
投下乙!
407名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 20:05:07 ID:JoabPj5H
乙ー 甘くていい感じでした!
408名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 00:05:22 ID:2Ylsfuo4
春春夏秋冬いいわぁ
409名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 00:11:32 ID:nnJFCqwp
甘くもあるけど同時に切なくもある
いずれ壊れるのだから…
410名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 00:59:32 ID:W9DQCLc6
乙!
すんげー続き気になる。
でもこの先春香は……。
411名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 16:32:44 ID:AHZXmwzS

スレ自体はスローペースだけど作品の質がいいなあここ
412名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 16:58:25 ID:LqOq/gbj
スローすぎて落ちそうになることも多々あるがな
413名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 17:15:07 ID:fK70ER47
途中で書くの辞める人がいっぱいいるからねぇ…。
完結までちゃんと書いてくれるのは嬉しいよね。
414名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 20:16:08 ID:+uhoWxbZ
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242308022/l50

ここの330-338が依存っぽいかな?
特殊なシチュだけどこういうのもありかなとおもう。
415名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 11:21:41 ID:ZqU6ORiA
 その瞳は赤く輝いて。その唇は赤く艶めいて。その舌は赤く長く、自信の頬に付着したザーメンをペロリと舐めとる。
 響き渡る少年の呻き声にも棒立ちで微動だにせず、腕を組んで見下ろし、冷めた微笑みを浮かべるだけ。
 産まれたままの姿で、産まれたままの姿の弟を拷問に掛けている。何故なら弟は犯罪者だから。姉はそれを罰する意味で拷問しているのだ。
 罪名は『かわいすぎ』。ショタコンでブラコンでサディストの姉が、弟を拷問するには充分な理由である。
「うーっ! うーっ!!」
 アイマスクで目隠しをして、ギャグを噛ませ、すっかり弛筋したアナルを犯したとしても、それは誰からも同意を得れる仕方の無い事。
 足をM字の形に広げ、その状態でそれぞれの手首と足首をガムテープでグルグル巻きに固定しても、誰にも非難できない仕方の無い事だ。
 カワイイ、だから犯す。好きだ、だから犯す。愛している、だから犯す。お腹が減った、だから犯す。トイレに行きたい、だから犯す。
416名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 11:23:08 ID:ZqU6ORiA
ああ、久々に誤爆……

スルーしてくだつぁい
417名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 12:39:35 ID:ko9wSKwC
いつも思うんだけど、誤爆ってなんで起きるの?
確認しないで書き込むってあり得ないだろ。
418名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 12:52:57 ID:HUMf+FzJ
タブを沢山開いてよそ見しながらレスを書くとたまにしそうになる。
JaneStyleってブラウザは誤爆確認してくれる。
419名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 17:29:06 ID:5MJLhfHk
あー。何か書きたい。
誰かネタくれ
420名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 19:24:00 ID:BmYJFsf9
まあ言ってる通りスルーしてやろうぜ
あんまり続くと誘い受けでうざいけどな

>>419
先輩の前では小生意気だけど、一人だと途端に不安になっちゃうような後輩依存娘をぜひ……
421名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 22:26:14 ID:1EoSfIDz
>>419
誰かにネタもらわないと書けないくらいなら書かない方がいいと思う
ネタが思いつかないってことは想像力が乏しい。ってことは話を作って纏める想像力がない
大抵最初だけ思いついて途中まで頑張ってみるが、結局は最後まで書ききれないパターンだろ
本当に創作意欲があって書きたいやつはまず自分でネタを想像して楽しむことから始める
自分が心底楽しめないと文章ってのは最後まで書ききれないもんだろ。出だしで他人任せな時点で期待すらできん

つーか逆じゃね?面白いネタを思いついて書きたくなるのが普通のパターンだと思うんだけどな
422名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 22:33:48 ID:1EoSfIDz
まあ書きたいって創作意欲だけはあるけど、どうしてもネタが思いつかないってのもあるかもな
ネタ出し尽くして枯渇したから提供してほしいって場合もあるし別の場合もある
書き込んでから一概には言えんなと気づいた。言い過ぎと思ってほんの少し反省してる
423名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 00:25:52 ID:Hrje9Cmp
仮に提供されたネタで作品書き上げてもあらすじがモロバレだからなぁ
424419:2010/03/12(金) 00:51:38 ID:mqdnVAxd
何度か投下してるんだけど、自分で考えたネタだとどれも同じような気がするのでお題を募ってみた
生意気な後輩と苦労人な先輩で書いてみる。ネタ提供してくれてありがとうございます

学生ネタは初めてかもしれない。大抵オッサン×少女なので
425名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 00:55:08 ID:hf2dPzwm
それは是非読みたい
楽しみにしています
426名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 02:04:59 ID:4ewRF/iD
>>424
期待してます、頑張ってくださいっ!
427名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 02:36:38 ID:9ZYdX1s2
ごめん ネタは色々あるけど。
文はかけないぜ?w
428名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 05:00:19 ID:+Qo0jqgm
プロの乙一氏なんかでも
喫茶店の店員が犯人みたいなネタを何度も使い回した挙げ句
ネタに困って、乙一再生工場だとか一般人からネタ募集しだす始末だしなw
429夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:20:57 ID:4ewRF/iD
夢の国投下させてもらいますね。
430夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:21:31 ID:4ewRF/iD

森――私達人間が絶対に踏み込んではいけない場所。
まだ私が幼少の頃、母から何百回聞かされたか…。
森に立ち入ればモンスターに食べられる。それが嫌なら防護壁から外へは出るな。
子供心に森は絶対に侵入してはいけない場所だと認識していた気がする。だからだろう…私は好奇心旺盛な方だがその言い付けだけは絶対に守っていた。
何故かと言うと、私の父親は町を囲む防護壁の外側を修理する為に森に入りモンスターに喰い殺されたからだ。

――そんな誰も入らない危険な森の獣道を私達騎士団は今、鎧を身に纏い馬に股がり颯爽と駆け抜けていた。
夜が開け日差しが木々の間から射している。
ノクタールからもう、十時間ほど走り続けているだろうか……同じような獣道ばかりなので飽々してきた。



――「前方三十メートル先に三体ッ!」
前を走っている騎兵がボルゾを視界に入れたようだ。
大きな声を張り上げ、真後ろを走る私達にボルゾの数と距離を教える。
その声を頼りに走っている騎兵二名が銃を構えた。

「撃てぇえッ!」
私の声と共に銃声が三回連続で鳴り響く。

それと同時に前方の道を塞いでいたボルゾは三体すべてその場に倒れ込んだ。


「命中しました!」
431夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:23:25 ID:4ewRF/iD
「いい腕だな。左は崖だ、前と右の林だけを注意しろっ!」

私の隣を走るアルベル将軍の声に騎士団全員雄叫びで答えると、何事もなかったように先ほど撃ち殺したボルゾの死骸の上を走り抜ける。

腐るほどいるボルゾのごく一部に足止めをされる訳にはいかない。
何故かと言うと、もうすぐ嵐がくるのだ。空からも小粒の雨が降りだした。木々も風の力でざわつき始めている。

「もう少しでユードだ!ユードの外門まで気を抜かずに進め!」

「「「おぉっ!」」」
今騎士団が馬を走らせている場所…それは海門手前にあるユードの町だ。
私の故郷であり、ノクタール近隣で最も小さな町でもある。

その町に滞在しているであろうバレン船の偵察に私達騎士団は今、向かっているのだ。

バレンの人間をコンスタンの街から追い出す時に我々が海門まで誘導していればこんな問題は起きなかったのだが…。

我が国の生誕祭パレードに我々騎士団が出ない訳にはいかず、何十国と集まる生誕祭の日に他かだか一国の商人船を誘導する時間なんて多忙の我々には割けなかったのだ。

――「また、前方20メートル先に二体いまッ!?右の林からも一体きますッ!」
432夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:24:38 ID:4ewRF/iD
「お前達は前方にいるヤツを殺れっ!林の中のヤツは私がッ―――ふんっ!」
前を走る騎兵の声にいち早く反応した私は、林から飛び出して来た黒く醜いボルゾの胸に剣を突き刺し、馬の足を止める事なく大木に叩きつけた。
グシャッ!っという何かが潰れた音と共にボルゾの重みは一瞬で剣から消え去っていた。
前にいたボルゾも射撃手が殺したのか、いつの間にか地面に倒れている。

「うわぁ〜、ティーナ副長えげつなぁ〜…。」

「スゲェ〜…ボルゾ持ち上げたぞ…どんな力してんだ。」

「アホ共……聞こえているぞ?」

風の音で聞こえないと思っていたのだろう…私が睨みつけると団員達は慌てて前を向き、手綱を握り直した。

素人が見たら細い女の腕で百キロ近くあるボルゾを持ち上げた様に見えるだろうが、馬の走る勢いを味方にしただけの話だ。

仮にもノクタール騎士団の団員なのだからそれぐらい見抜け!と言いたい所だが見抜ける人間は残念ながら騎士団の中でも数人しかいないだろう。
最強のノクタール騎士団の中にも戦知らずの貴族が何人もいると言うことだ…。

「それにしても……思っていたよりボルゾの数が少ないな。」
隣を駆ける将軍が不思議そうに呟いた。
433夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:26:34 ID:4ewRF/iD
確かにここ数年ボルゾの数が減っている気がする。
いや…東大陸の森に住むボルゾの数こそ減ってはいないが、ノクタール近辺の森にいるボルゾの数は少なくなっている気がする。

「あぁ、それはあれじゃないですかね?今から向かうユードに一人、ボルゾを駆除してる男がいるらしいですよ?」
前を駆ける騎兵が後ろ振り返り話に割り込んでくる。

「男?…一人でか?」
将軍はその態度に何を言うでもなく、その騎兵の話に耳を傾けた。

「はい。自分もよく分からないんですが、なんでも町に侵入したり町の周りをうろつくボルゾを駆除してるって話を……だからボルゾ達もユードから此方側の森に入ってこれないんじゃないですか?まぁ、噂程度なんで信憑性は皆無ですがね。」
そう鼻で笑うと騎兵は頭を軽く下げ、前方に目を向けた。

「そんな奴がいたら是非とも騎士団にほしいな、ティーナ副団長。」

「はい、そうですね。」
そう冗談混じりの笑みを浮かべると、将軍は「先を急ぐぞ!」と皆に渇を入れ、前に向き直った。

将軍もただの噂話と受け取っているようだ。
無論私も嘘話だと考えている。
ボルゾに立ち向かう人間なんて私が知る限りあの町には居ないからだ―――――。
434夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:27:21 ID:4ewRF/iD


◆◇◆†◆◇◆


「あぁ〜、雨が降ってきやがった…」
何やら水音がすると思い、窓を開け確認すると、案の定空から小雨がふっていた。

これなら嵐が来るは早そうだ…。

「ライト、早く作戦会議の続きをするぞ!」後ろから投げ掛けられる声にチッと一度舌打ちをすると、窓を閉め、部屋の中へと戻った。

――今俺は、幼馴染みのホーキンズと昨日助けられた白衣のメガネ男、ハロルドの三人で作戦会議を行っていた。

何の作戦会議かと言うと、バレンの見せ物小屋にいる妖精の助けだす方法についてだ。
他の人間が聞けば間違いなく笑われるだろうが、ホーキンズとハロルドは本気で助け出そうとしているようだ。

「ライトッ、酒をだせっ!」
我が家の様にベッドに横たわるホーキンズが偉そうに声をあげる。

「朝っぱらから酒なんて飲もうとするな。ほらよっ。」
ホーキンズに水が入ったコップを差し出す。
「みずっ!?せめてお茶だせよっ!」

「ハロルド…ホーキンズいらなかったんじゃないか?」
ホーキンズの突っ込みを無視してハロルドに問いかける。

「まぁ、いいじゃないですか。囮ぐらいにはなると思いますよ?」
435夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:29:29 ID:4ewRF/iD

お茶を啜りながら呟くハロルドにホーキンズがぎゃー、ぎゃー騒ぎ立てている。
こんなんで本当に妖精を助け出す事ができるのか?
先ほどから何一つ助け出す提案が出ない今の状況を見る限り、絶望的なのは誰が見ても分かるだろう…。

「そう言えば、ライト。たしかお前の家にメノウ泊まったよな?メノウはどうしたよ?」
そう言うと、ベッドに横たわっていたホーキンズが周りを見渡しだした。

「あぁ、アンナさんと神父が連れて帰ったよ。」

「神父さん?もう、帰ってたんだな。」
今朝早く、アンナさんと神父が同じ始発船で戻って来たのだ。
なんでも嵐の影響で、今日の始発船を逃せば4日足止めをくらうとか。
あれだけ酷かったメノウの精神状態も朝起きれば元に戻っており、教会に帰るのを多少嫌がったが、アンナさんが「アップルパイを作ってあげる」と言うと、アンナさんと神父の腕を掴み教会へと帰っていった。
俺も連れていかれそうになったが、用事がある事をメノウに伝えなんとか辞退させてもらった。それでもメノウを教会へ帰らせるのに三人がかりで一時間近く掛かってしまったのだ…。

その後、すぐホーキンズ達が家に来て作戦会議…。
昨日から疲れる事ばかりだ。
436夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:31:37 ID:4ewRF/iD
「それで……何かいい案は浮かんだか?」

「…」
沈黙。
先ほどから同じような事をずっと繰り返している。
やはりバレン兵の目を潜り抜けて妖精を助けるなんて無理な話なんだ。
見つかれば間違いなく殺される…。
それでもこんな作戦会議に付き合っているのは、どこかあの妖精を助け出したいという、ちっぽけな正義感から来てるのだろうか…。

よく分からないが、自分自身あの妖精が気になってる事は確かだ。

「嵐が過ぎればバレン船は海門を抜けてしまいます。それまで何とかしないと…。」
深刻そうに呟くハロルドの声にまた部屋の中を静寂が包む。




――「………嵐……か…。」
ホーキンズが何気なしに呟く。
その声にいち早く反応したのがハロルドだった。


「……そうですよ。嵐ですよっ!」
机を両手でバンッと叩き、立ち上がる。
何か良い案を思いついたようだ。

「嵐がなんだよ?」
嫌な予感がするのだが、一応聞いてみよう。

「ふふふっ……私の予想では今日の夜に嵐がこの町に来ます。」

「あぁ…そうかもな。」
ホーキンズはもう気がついているようだ…顔がニヤニヤしている。勿論俺もハロルドがこれから発する言葉の内容を予測している。
437夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:32:16 ID:4ewRF/iD
――「…その嵐に紛れて妖精を助け出しましょう!」
ほら来た…無茶振り。
拳を握り、やる気を見せるハロルドに対して俺は逆に項垂れていた。
ハロルドの提案が浮かばなかった訳では無い。
ただリスクが高すぎるのだ。
町を囲む壁が壊れてボルゾが侵入してこないとも限らない。
嵐の夜、外を出歩くと言うことは死を意味するのだ。

「嵐の夜なら警備も手薄になるでしょう…助けるならその時ですっ!」
確かに警備も手薄なはず。いや、嵐の影響で警備兵が居ない可能性もある。

「だけど、どうやってその妖精の場所を特定するんだよ?」
そう、妖精があのコンテナや船に戻されるとは限らないのだ。
バレン兵が用心して宿に妖精を連れていく可能性だってある。

「それなんですよねぇ…問題は。」
ハロルドも分かっていた様だ。
やはり助けようが無いのか…。




――「んっ、なんだ?外が騒がしいぞ。」
外の異変に気がついたのか、ホーキンズがベッドから立ち上がり、窓へと歩きだした。

確かに外から騒ぎ声が聞こえる。また妖精を見せ物に一儲けしているのだろうか?

ホーキンズが窓を開け外を確認する。
438夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:34:27 ID:4ewRF/iD
同じように俺とハロルドも窓に近づき外を確認すると、大勢の町人達が急ぎ足で坂を降っている姿を確認できた。中には走っている町人もいる。

「おい、何かあったのかっ!?」
不思議に思い、家の外に出た俺達は急ぐ人の群れから一人の男性を止めて何が起きてるのか説明を求めた。

「ノクタール騎士団の連中が森を抜けてこの町まで辿り着いたみたいだぜッ!?今、中央広場にいるみたいだから俺も見に行くんだよ!」
その男は興奮したように説明すると、自らまた人混みに飲み込まれていった。

ノクタール騎士団――だからこんなに町入は興奮しているのか。
確かに滅多に目にする事ができないモノだ。

騎士団と言うのは王族直接の兵隊の軍団の事で、近隣の町に住んでいてもお目にかかる事なんて無いほど、本当に稀な存在なのだ。

実際俺も見たことが無い。


「ノクタール騎士団?この町に何の用だ?」
ホーキンズが首を傾げ、人混みを見ている。
ホーキンズが言うようにこんな田舎町に騎士団が来るなんてあり得ない事なのだ。
この町に何かあったのか……中央広場と言えば昨日バレン兵達が見せ物小屋を開いていた場所だが…。
439夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:35:32 ID:4ewRF/iD
そう言えばバレンの連中、コンスタンで出店を出せなかったと言っていた…それと関係しているのかも知れない。

「まぁ、見たことも無いし、どんな連中か見に行って見るか?」

「そうだな…。見るだけ行ってみるか。」

「はい、行きましょう。」
妖精を助けるヒントが見つかるかも知れない…。そう考えた俺は、ノクタール騎士団を見物しに行く事にした。
―――――
――――
―――
――


「今すぐこのテントを撤去しろっ!我々ノクタールの領土内で怪しい物を売るのは禁止だと通告したはずだ!」

「ぐっ…ノクタールから離れたんだから問題無いだろっ!」
中央広場に到着した俺達三人が見たもの――それは、重々しく派手な鎧を身に纏った連中とバレン兵が対峙する光景だった。

殺気混じりの気を放っている鎧の連中に対してバレン兵達がえらく小いさく見える。
「格が違う」とはこの光景の事を言うのだろう。
一応噛みついてはいるが、バレン兵は完全に飲み込まれている。

「あれがノクタール騎士団ですか?なんかいろいろと凄いですね…。」
唖然とした様にハロルドが呟く。
ハロルドが言うようにあの鎧の連中が騎士団なのだろう。
440夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:36:21 ID:4ewRF/iD

隣にいるホーキンズも口を開け、騎士団をアホヅラで眺めている。

「海門内は我々の領土内だ!何のための海門だと思っている!」
騎士団の先頭に立ち、バレン兵達に向かって声を荒げる人物がいる。
他の騎士団は皆、肩部分に小さな赤い十字架が描かれているのだが、先頭に立っている人物が纏っている鎧には肩部分に十字架は描かれておらず、背中部分に大きな赤い十字架が描かれており、冑の形も他の者とは全く異なっているのだ。
一番の違いは何と行っても他の騎士が身に着けている鉄色のプレートアーマーとは違い、全身黄金色に輝いていることだ。

趣味が悪いのか、なんなのか…戦に出たら一番目につきそうだ。
確か噂によると、あの鎧を身に纏っている人物は王族の人間でなんとか将軍だった気がする…。
ノクタール王国の中でもかなり腕がたつらしく、ノクタールでは英雄扱いされているらしい。

ふとその隣に立つ人物に目を向けた。
鎧は他の者と同じなのだが、多少身長が低く、此方の鎧にも将軍同様、背中に赤い十字架が描かれている…。

他の騎士団とは違い、此方の人物も特別な階級の持ち主の様だ。




――「くっ……テントを撤去するぞっ!」
441夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:36:59 ID:4ewRF/iD
昨日ステージの上で妖精を見せ物にしていた団長が悔しそうにテントの方へと歩いていった。

これ以上居座れば只じゃすまないと判断したのだろう…他の兵士達も苛つきを隠さずテント撤去へと向かった。

「なんだ、もう終わりかよ…。」

「もっとやれよっ!バレン根性ねーなぁー!」
先ほどの殺伐とした空気が薄れたのか、野次馬から愚痴の声が聞こえだした。

野次馬の声に気がついたのか、将軍の隣にいる騎士が数名の団員を引き連れて、此方に歩み寄ってきた。

「ほら、テントを撤去させたからこれ以上、この場所に居ても何も起きないぞ。邪魔になるから解散しろ。」
此処にいる皆は一目騎士団の姿を見たかっただけなのだろう…騎士の声に従い町人達はバラバラと散らばっていった。

(それにしてもあの騎士の声……女だったのか…どうりで小柄だと思った。)
女の騎士とは珍しい……そんな事を考えながら騎士を眺めていると、見られている事に気がついたのか騎士が此方に視線を向けてきた。

「も……もう、帰ろうぜ(やばい…目があった)」
俺達もこの場所にいる意味が無くなったのでこの場を後にする。
決して居づらくなった訳では無い。






――「おい。」
442夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:37:44 ID:4ewRF/iD

「えっ?」
後ろからかけられる声に対して条件反射で振り返ってしまった――。先ほど目があった騎士が此方に歩み寄ってくる。
周りの町人も何事かと静まり返り、騎士に目を向けている。


「な、なんだよ…。」
ホーキンズも逃げ腰になっている。
こればかりは仕方がない……相手の表情が冑に隠れて見えないのだ。
怒っているのか、笑っているのかまったく分からない。
そんな不安を察する事なく鎧姿の騎士殿は金属音と共に此方に歩み寄ってくる。



――「久しぶりだな。ライト、ホーキンズ。」
親しげに俺とホーキンズの名前を呼ぶと、冑に両手てを掛け、取り外す。
冑の中に隠れていた金色の長髪がファサッと肩にもたれ掛かった。

「数年ぶりかな?元気にしてたか?」
続けてそう話しかけてくる女性の顔を見て唖然とした。
間違いなくホーキンズも俺と同じ気持だろう…。

――なんでお前が騎士団なんだ?
確か、平民は騎士団に入れなかったはず…。目の前に立ち、鎧を身に纏っているこの女性は間違いなく平民だった。

俺達と同じこの町に産まれ、一緒に遊んだ幼馴染み――二年前、俺を完膚無きまでに叩きのめした幼馴染み――ロゼス・ティーナが俺の前に立っていた。
443夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:38:23 ID:4ewRF/iD


◆◇◆†◆◇◆


「いやぁ〜、マジで久しぶりだなっ!まさか騎士団の兵士になってるなんて思いもしなかったよ。」

「ふふっ、ホーキンズは相変わらずだね。まだパン屋をやっているのか?」
――俺達幼馴染み三人は今、とある店に足を運んでいた。
久しぶりの再開に喜んだホーキンズが無理矢理ティーナを誘ったのだ。
俺は絶対に断られると思っていたのだが「許可を貰ってくる」と言い、ティーナが将軍の元へ駆け寄ること数分、呆気なく許可をもらい今に至る。

ハロルドは気を聞かせて席を外してくれたらしいのだが、俺からすればいらん世話だった…。
ホーキンズがいるからまだ大丈夫だが、正直気まずい。
別に恨んではいないが、あれだけ派手にボコボコにされたのだ…どう顔を合わせていいのか戸惑ってしまう。

「ははっ、俺は一生涯パン屋だよ。それにしてもティーナ…美人になったなお前。」

「私を誉めても、何も返せないぞ?」
ホーキンズの軽口に機嫌を悪くする訳でもなく、小さく笑みを浮かべている。
昔からホーキンズの女癖の悪さをしっているからだろう……ホーキンズの言葉遊びを軽くかわして流している。
てゆうか幼馴染みを口説くなよアホホーキンズ…。
444夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:39:37 ID:4ewRF/iD

――まぁ…ホーキンズの気持ちも分からんでもない。
昔から多少可愛いと言われていたが、この二年でティーナは本当に綺麗になったと思う。垢抜けた…と言ったほうがいいだろうか?
都会に行けば変わると言うが、まさかここまで変わるとは…。

「ライトもそう思うだろ?ティーナ綺麗になったよな?」

「んっ?あ、あぁ…そうだな。」
いきなり話を振られ、一人焦ってしまった…。
話の相手がホーキンズから俺に移行したと思ったのか、ティーナが此方に視線を向けてきた。

「ま、まぁ俺は騎士団の副団長になってる事が一番驚いたかな。」
そう…綺麗になってる事もビックリしたのだが、俺が一番驚いたのはティーナが騎士団副長の肩書きを持っていることだった。

ティーナは嫌がるだろうが、騎士団の騎士…しかも副団長をこの町から生み出したと言う事実は、この町に住む皆の自慢話になるかも知れない。

「まぁ、私はこれしか脳が無いからな。毎日こればかり振っていたよ。」
腰に装着している剣をポンっと軽く叩き笑顔を見せる。

二年前の事など無かったように――。

ティーナにとって二年前の事はもう過去として片付いているようだ。
445夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:41:27 ID:4ewRF/iD
しかし、なんだろう…ティーナが俺を見るときに見せるあの目……どこか鳥肌が立つ様なモノを感じる。

二年前の出来事が尾を引いているのかも知れないが…何か変な…。

――「それじゃ、私は任務があるからもう行くよ。町長の所にも行かなくてはいけない…。
二人共、本当に元気で良かった。」
そう言うと、ティーナは亭主を呼びつけ、勘定を済ませ、椅子から立ち上がった。

「えぇ〜?」

「ホーキンズ辞めとけって…無理矢理連れてきたんだからもう行かせてやれ。
それじゃあな、ティーナ…元気でやれよ。」
不満の声をあげるホーキンズを宥め、ティーナに別れを告げる。
これでまた数年間会う事も無くなるだろう…内心俺はホッとしていた。



――「……言い忘れたが、私達騎士団は嵐が過ぎるまでこの町に留まる事になっている。
ノクタールに帰る前にもう一度ぐらい会えるかもな。」
此方に振り返らず背中越しに…無機質な声でそう告げると、俺達の返答を待たずに早々と店を出ていった。
昔から勘の鋭い奴だったので、俺の考えている事を読まれたのかも知れない…。

「いや〜、それにしてもティーナが騎士団かぁ……変な事もあるもんだな。」

「まぁな……。」
446夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:42:06 ID:4ewRF/iD

店から出ていくティーナの背中を見送った後すぐ、俺達二人もティーナ同様に店を後にする事にした――。
ハロルドを俺の家で待たせているからだ。

まだ妖精を助ける作戦会議の途中……それに騎士団の存在でまた一段とややこしくなってきて……騎士団…。

「なぁ、ホーキンズ。」

「んっ、なんだよ?」

「騎士団がいるって事は、宿に妖精を連れていくのはまず無理なんじゃないか?」
ふと、思った事をホーキンズに問いかけてみた。
騎士団の介入で宿や港は騎士団が監視しているはず。
宿に妖精が入ったカゴを持ち込むと、間違いなく騎士団の目に止まるだろう…目に止まればその日に海門を潜らされ嵐の中、危険な航海の可能性だって出てくるのだ。

それぐらいバレンの連中も分かっているはず。

「確かに…それじゃ、中央広場にあるコンテナか、港にある船のどちらかになるのか…」

「いや…中央広場にあるコンテナも船に戻すだろう…もうこの場所で商売ができなくなったんだ…この場所にコンテナを置く意味が無い。」
そう…商売をしないのに商売道具を置いておく意味が無いのだ。
テントと一緒にコンテナも船に戻しているはず。

「それじゃあ、港の船か…。」
447夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:45:11 ID:4ewRF/iD

「あぁ…そうなるだろうな…。」

「ハロルドに報告だ…家に帰って作戦会議の続きだっ!」
人が行き交う往来で高らかに叫ぶと、俺の家に向かって走り出した。
小さく息を吐き捨て、俺もその後を追いかける。
いつの間にか助ける事が決定事項になっているが不思議と後悔はしていなかった。
――それは、大出世した幼馴染みの姿を目の当たりにした直後だからだろう……背中を押された感じになってしまったが、ここまで来て逃げる気は毛頭無かった。

◆◇◆†◆◇◆


狭い町の中…嵐が過ぎるまで滞在する予定なのだから何時かは会うと思っていたが……まさか到着してすぐ再会するとは思っていなかった。

幼馴染み二人――。

ホーキンズは良い意味で変わっていなかった。
ライトは悪い意味で変わっていなかった気がする。

まぁ、良い…どうせ会うのも此所を出発する日だけだろう…。

「……」
しかし、何故私はあの店を出る時、あの様な言葉を二人に投げ掛けたのか…。
いや、二人と言うより…。

「あの…副長様?」

「んっ?あぁ、失礼…。」
私の機嫌を損ねたと勘違いしたのだろう…町長がおどおどしながら話かけてきた。
448夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:46:03 ID:4ewRF/iD
隣にいる将軍も私の顔を眺めている。
故郷に帰って気が緩んでいるのかも知れない…
しっかりしなくては。

「話はそれだけだ。次は何かあれば私達に報告するように。」

「はい、分かりました。気を付けます。」
将軍の短い注意が終わったのか、町長は安堵の表情を浮かべている。
別に悪行を働いた訳でもあるまいし、堂々としていればいいのに…。

まぁ、無理な話か…。

――「あぁ、最後に一つ町長に聞きたい事がある。」

「な、なんでしょうか?」
再度町長の身体が硬直する。
死刑宣告を待っているみたいで何処か面白い。



――「この町に侵入するボルゾを駆除している人物がいると聞いたのだが…本当か?」

「アルベル将軍…」
まさか本気にしていたのか…。
冗談話として受け取っているとばかり思っていたが…。
案外、おとぎ話とか神話の類いを信用しそうだ。



――「駆除?あぁ、ライトの事ですか?。」

「……は?」

……ライト?今、町長の口からライトと言う名前が聞こえた気が…。

聞き間違えか?

「ライト?その駆除してる奴の名前がライトと言うのか?」
449夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:47:46 ID:4ewRF/iD
「えぇ…教会の道をおりてすぐの民家に住んでいまして、よく教会に預けられた14才の少女を世話しているとか…。」
聞き間違えでは無い…ライトがこの町に侵入するボルゾを駆除している…。

それもたった一人で…。



――「ふふっ…あはっ、ははっ……」
やはりライトをこんな田舎町に置いておくのは勿体無かったのだ。
二年前…気絶したライトを無理矢理縛り上げてノクタールに連れてこれば良かった。
そうすれば私の背中を守れる唯一の人間になれたはず…。
それなのに今はモンスター退治に孤児の面倒か…。

「どうしたティーナ副長?やけに嬉しそうだな。」
私の笑う姿が珍しいのだろう…将軍が不思議そうに私の顔を見ている。


「いいえ…?ただ昔の悪い癖が再発しそうになっただけです。」

「悪い癖?なんだそれ?」
――私はライトの事を諦めたと思い込んでいた…。役に立たないのなら捨てていくと…。
それが大きな間違いだったのだ。
簡単な話、役に立たないのなら私が一から育てればいい。
私の背中には一番信用できる者を置く――。



「私……昔から人一倍諦めが悪いんです。自分の欲しいモノなら特に―――ね。」
450 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/12(金) 16:51:29 ID:4ewRF/iD
投下終了します。
451名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 01:51:24 ID:y6hcfu32
GJ
452名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 08:31:01 ID:01V8V7MC
投下も何もしていない俺でも一つだけ言える事がある。
GJ!!
4534-263:2010/03/14(日) 14:58:19 ID:nKOzh6qr
419です。
生意気(?)な後輩と苦労人な先輩。
期待には添えないかもしれませんが、書いてて楽しかったです。
454隣の:2010/03/14(日) 14:58:57 ID:nKOzh6qr
「あ。おかえり先輩。鍋、美味しいですよ」

(えー、俺は何を言うのが適切なのだろうか)

 久瀬義秋は、今し方帰宅したばかりの殺風景な自室でぐつぐつと煮えた土鍋と、飄然と鍋をつつく少女の姿に呆然と視線をそそいだ。

「美弥子、俺の部屋で何してるの?」
「鍋です。……あ、水炊きです」
「そういうことを聞いてるわけじゃあないんだけどな」

 義秋がぼやくと少女、桐生美弥子はくるりと目を丸くした。
 美弥子は図書委員である。そして義秋は図書委員長だ。義秋は一つ年下のこの少女を非常に扱いあぐねていた。
 最初は図書当番で二人になる程度の付き合いであったのだが、そのうち下宿が隣室であることに気がついた。それから徐々に徐々に美弥子が義秋の生活に侵入するようになって、そして今に至る。
 美弥子はにっこりと笑って椀を義秋に差し出した。

「はい、先輩。部活お疲れ様です」
「おう、美味そう」
 受け取り、胸一杯に白菜の煮えた甘い香りを吸い込む。そして、はたと(いや、そうじゃない!)と気がついた。
「どうやって部屋に入ったんだよ!鍵、閉まってただろ?」
「やーだなぁ、先輩。鍵開けくらい乙女の嗜みですよ」

 にい、と笑って美弥子は前髪を留めているヘアピンを指でつついた。

「ピ、ピッキング!?犯罪だろ!」

 こいつならやりかねない。と、思わず声を大きくする義秋に美弥子はけらけらと面白そうに笑う。

「冗談ですよ。もう、私がそんなことするわけないじゃないですか。ベランダ伝いにお邪魔したんです」

 古びた下宿の三階であるから、戸締まりを怠ってしまったらしい。それにしても、不法侵入には変わりはないのだが。義秋は肩を落とし、鞄を床に放った。
 椀を片手に美弥子の向かいに座る。準備よく並べられた箸を手に、ポン酢をかけた白菜を一口かじった。美味い。
455隣の:2010/03/14(日) 14:59:23 ID:nKOzh6qr
「なんで人の部屋で鍋をしようと思ったんだ」
「白菜が安かったんですよ」
「……いや、意味わからん」

 何がわからないんだ愚鈍なやつめ。と言わんばかりの目つきで美弥子は義秋をじろりと睨んだ。いつの間にか常備されるようになった美弥子専用の赤い塗り箸をびしりと突きつけられる。

「旬には旬のものをシンプルに食べる!これ、すなわち、日本人の心!」
「……おー」
「やっと分かってくれましたか」
「俺が言いたいのはそういうことじゃないって分かってくれ」

 溜め息をついて鶏肉を咀嚼する。やはり美味かった。
 そんな義秋の様子を見て、美弥子は芝居がかった様子で肩をすくめてみせた。

「まったく、先輩も困った人ですね」
「おまえにだけは言われたくない」
「部活動から疲れて帰宅したら、可愛い後輩の女の子が“せぇんぱぁい!ご飯にする?お風呂にする?それとも、あ、た、し?”なんて男のロマンでしょうに」
「じゃあ風呂」
「沸いてません」
「……じゃあおまえ」
「ふざけないでください。この破廉恥大魔神」
「大魔神!?」

 エッチ!でも、変態!でもなく破廉恥大魔神などと言われたのは初めてだ。もちろんエッチも変態も言われたことはない。義秋はごくごく真面目な高校生である。

「俺に一言、あるだろ?」

 そう言って義秋が厳しげな顔つきをしてみせれば、美弥子はことんと首を傾げた。
 思わず可愛いと感じてしまった自分を殴りたくなる。義秋は女性経験に乏しいので、はっきりとは分からないが、美弥子は可愛いのだと思う。
 テレビで見るタレントやアイドルのようなぱっと目をひく華やかさはないが、例えば進学校のダサい制服も美弥子が着るとむしろノスタルジックで洒落て見える。美弥子はそういう美人だ。
 ああ!と美弥子は手を打った。

「調味料お借りしました」
「いやそうではなく……。え、ここで料理したの?」

美弥子は義秋に親指を立てて見せた。

「勝手知ったる他人の家」
「……まあ、間取りは同じだしな」

 義秋はもう何もかも諦めて食べることに専念する。よく煮えた白菜は柔らかくて甘い。逆に鶏肉は火が通り過ぎて少し固かった。
 でも美味しい。親が作り置きしてくれたおかず以外はほとんど買い食いである義秋だ。それに比べれば、いや比べるべくもなく美味しい。
456隣の:2010/03/14(日) 14:59:55 ID:nKOzh6qr
「先輩こそ、私に一言あるでしょう?」

 一足先に食べ始めていた美弥子は空の椀に手を合わせると、そう言って義秋をちろりと見た。義秋は、むうと唸る。

「……美味いっす」

 不承不承という風に零すと、美弥子は満足気ににこにこと笑った。
 無心で食事を続ける義秋の向かいで、美弥子はテーブルの下からセカンドバッグを引っ張り出した。その中の筆記用具と数学のテキストをテーブルの上に広げる。

「何してるの?」
「んん、数学の小テストが近いんですよ」

 なるほど、と義秋はその様子を眺める。緑高校名物の数学小テストだ。七割とるまで魔の再テストが続く。
 一発は無理でも早めに受かりたいものだろう。テキストとノートに目を落とす美弥子の鼻筋と睫毛の影に、少しだけどきりとした。

「分かんない……。先輩、これ分かります?」
「分からん」
「……見てないじゃないですか。ちゃんと見てくださいよ」
「俺、数学、嫌い」

 だから文系を選んだのだ。魔の再テストも数え切れないほど受けた。
 美弥子は頬を膨らませる。ノートに視線を下ろして、静かになったと思ったのも束の間だ。

「せんぱーい。これってどうやって不等式を求めるんでしたっけ?」
「せんぱーい。図形の面積がマイナスになっちゃったー」
「せんぱーい。複素数ってなんでしたっけ?」
「せんぱーい……」
「ああ、もう、うるさい!」

 義秋は箸をテーブルに放った。わざとらしく怒ってみせる。

「俺だって自分の勉強しなきゃないんだから、おまえは帰れ!」
 ほんの冗談のつもりで、美弥子がまた奇妙な理論を展開するのを心の底で期待していたのだが、それに反して美弥子はすいと立ち上がった。
「……ごめんなさい」
 悲しそうにアーモンド型の目を細めて美弥子は俯く。義秋は今更「冗談だ」とも言えずに、美弥子が荷物を纏める様子を眺めるしかなかった。
「お邪魔しました……」

 名残惜しげにとぼとぼと立ち去る美弥子の背中を見送る。金属製の薄いドアが閉まる一瞬、美弥子が寂しそうにこちらを見た気がした。
 義秋は急にしんと静まり返った室内で、呆然と閉まったドアを見ていた。白菜の汁気をすする、ぐしゅりという音ばかりが室内に響く。
 空の鍋を一瞥して溜め息をついた。わざとガチャガチャと音をたてながら流しへ鍋と皿を運ぶ。
457隣の:2010/03/14(日) 15:00:19 ID:nKOzh6qr
「あー、やっとうるさいのがいなくなった」

 声に出して言ってみるが、余計むなしいばかりだった。
 忘れるように水をじゃあじゃあと流しながら皿を洗う。そういえば朝に流しに置きっぱなしであった洗い物も全て片付けられている。義秋は情けないような気分になって、黙々と皿を洗った。
 洗い終わっても気分は晴れず、義秋はもやもやとした気持ちのままテレビのスイッチを入れる。予習をする気にもなれなかったが、カラフルなバラエティー番組の内容も頭に入ってこなかった。
 しばらくぼんやりと煩雑な画面を見つめて、テレビのスイッチを切る。耳をすませば隣室からぱたぱたと歩き回る音が聞こえる。
 それを聞いてさらに陰鬱な気持ちになった。

「なんだかなぁ」

 義秋は床にごろりと横になり、天井を見つめる。明日、謝ろう。そんなことを考えていると、控えめにインターホンが鳴った。
 美弥子だろうか。と思うが、まさか違うだろう。それに美弥子はこんなに行儀良く入ってはこない。
 はて、ゴミの分別は守っているはずだが――
 ドアを開けると、いつもとは違ってしおらしげな美弥子がおずおずと義秋を見上げた。
 義秋は驚いて固まってしまう。美弥子は義秋にそうっと大きな皿を差し出した。

「あ、あの……ケーキ食べませんか?一緒に」
「お、おお……おまえ、お菓子とか作れたんだな」

 そんな皮肉めいた言葉しか出ない自分に幻滅する。
 美弥子は弱々しく笑って、靴を脱いだ。

 二人は黙々とケーキを頬張る。卵の香りのする素朴なそれは、まだほんのり温かい。

「美味いな」

 返事は、無い。

「どうやって作ったんだ?」
「……炊飯器です」

 それっきり、また黙り込んでしまう。どうしたものか、と悩む義秋に美弥子はぽつりと問いかけた。
458隣の:2010/03/14(日) 15:01:25 ID:nKOzh6qr
「先輩は一人で寂しくないですか?」

 義秋は慎重に言葉を選ぶ。

「いや……俺、両親共働きで鍵っ子だったし、あんまり寂しくはない、かな」

 美弥子はそれを聞いてくしゃりと笑った。

「私は、寂しいんです。ずっと一人で部屋にいると気が滅入ります」

 美弥子はぎゅうと膝を抱える。

「だから、先輩のところに来ちゃうんですけど……迷惑でしたね」
「そんなことないよ!」

 自分で思ったより力強い声が出て、義秋は驚いて目を丸くした。美弥子も目を丸くして義秋を見る。二人して間抜け面で見つめ合った。

「あ、……うん。いやじゃないよ。……むしろ楽しいし嬉しい」

 赤くなりながらぼそぼそと呟くと、美弥子は目に見えて表情を明るくした。
 ずりずりと膝でにじり寄って、ぴたりと義秋の肩に額をつける。

「さすが先輩。そうこなくちゃ」
「おい、現金すぎるだろ」

 義秋は美弥子の頭をびしりと叩いた。美弥子は頭を押さえてえへへと笑う。
 義秋はこんなとき、俗なことに「ねえ、俺達って付き合ってるのかな?」と聞きたくて仕方なくなる。
 でも、聞いたところで美弥子はうんと言わないだろうし、はぐらかされて煙にまかれて、逆に自分がやられてしまうことが分かっているので、義秋は余計なことを口にはしない。
 この微妙な距離感が、もどかしくも心地よいのだ。

4594-263:2010/03/14(日) 15:02:37 ID:nKOzh6qr
ありがとうございました。
投下してから気付いたのですが「〜っけ?」という喋り方って方言でしたっけ?

そうだったらすみません
460名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 17:09:24 ID:ZQiqq0/I
GJ

こういう明るい?依存もいいな
続きも読みたいんだぜ
461名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 03:17:04 ID:iCx4K3V+
続きが見たいな
GJ
462名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 03:56:14 ID:QBpoIGeS
GJ

良い後輩だった
そして先輩のほうが徐々にこの後輩に依存しはじめるんですね。
463名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 09:51:34 ID:S49JMbl0
いろいろな依存話があるねぇ…。
464名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 16:32:11 ID:GYxUZqJI
〜だっけ
〜でしたっけ
とかは普通に使うから方言じゃないと思う

俺が方言だと気づかないで使ってるだけかもしれないけど
465名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 00:40:52 ID:oubup0B1
方言ではありませんか。安心しました。

単発のつもりで書いたので、続きは書きません。というよりも書けません。
誰か書いてください。
466名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 12:39:07 ID:F+2WY9XY
単発ならこれでやめといた方がいいな。
他の人が書くと間違いなく半端に書いて辞めるから。
467名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 21:21:47 ID:/MtyUMC5
GJなんだぜ
468名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 14:43:38 ID:YVGMaiiV
保守
469名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 14:43:51 ID:9Ps6VS1y
そして原形をとどめないくらいにいい加減にいじり倒して終わるからな>他人
470夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:50:08 ID:1+d9iC5A
夢の国、投下します。
注意。
依存は皆無に等しいです。
次の話の繋ぎ程度に読んでくれれば…。
それでは投下します。
471夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:51:25 ID:1+d9iC5A

闇を切り裂くようなボルゾの鳴き声が響き渡る深夜の森――。
普段ならその鳴き声で寝不足になることもあるのだが、今その鳴き声はまったく聞こえない状態になっている。

鳴いていない訳では無いのだろう…ただ、違う音でかき消されているのだ。

――ザァァァァァァァァァァァッ。

――「これ、本当に大丈夫かぁー!?」
そう大声で叫ぶが、目の前を死に物狂いで歩いているホーキンズには声が届いていないらしい…。
届かなくて当たり前だ……こんな強風豪雨吹き荒れる嵐の中、外出しているのは俺達三人の他に居るわけが無い――。
風が音を消し、雨が視界を遮る。
雨合羽を着ているが意味を成していない。
それに雨が物凄く痛いのだ…。
早く目的を果して暖まりたいものだ…。


――俺達三人は今、港に停泊してあるバレン船に侵入するべく嵐の町中を歩いていた。
ボルゾの侵入を恐れて武器を持ってきたが、こんな雨風じゃあボルゾも巣から出てこないだろう。

毎晩ボルゾの鳴き声に不安を煽れていたが、今は別の意味で不安だらけだ。
俺達が今からしようとしている事は間違いなく犯罪…。
しかもバレンの連中が居る船…見つかれば十中八九殺されるだろう。
472夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:52:37 ID:1+d9iC5A
しかし、もう家を出てしまったのだ。
後戻りは出来るが、するつもりは無い。

「見えてきましたよ!」
俺のすぐ後ろを歩いていたハロルドが大声で叫ぶ。
普段なら何事かと、住人達が騒ぎだすだろうが、嵐の音にハロルドの声はすぐかき消されてしまった。

「よし、まずは隠れて様子を見よう!」
前を歩いていたホーキンズが角材の山に身を潜めるよう俺達に促す。
雨音と共に小さく聞こえるホーキンズの声に俺とハロルドはコクッと頷いた。

角材の山に身を潜め、船を見る。
灯りは…見る限りついていない。
ここからでは人の気配は無いみたいだが、80メートルほど離れているので分からないと言った方が正解か…。

「これから、どうするんだ?」

「…作戦会議したでしょう?作戦通りに行けば大丈夫ですよ。」
ハロルドが俺の肩にポンッと手を置き、自信満々に胸を張る。
本来なら頼もしい言葉なのだが――。


「ははっ、作戦か………作戦なんてねーだろっ!」

「バ、バカっ、立ち上がるな!それと、デカイ声もだすなって…」
ホーキンズが立ち上がる俺の肩を掴み無理矢理座らせる。

はぁ〜っと盛大にため息を吐き、俺は頭を抱えた。
473夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:53:33 ID:1+d9iC5A
俺達の作戦――それは船に侵入して敵を倒し、妖精を救う――ただこれだけだ。
簡単に言うと、大の男三人揃って良い作戦を思い付かなかったのだ…。
しかし、ここまで来てしまったのだ。頭を切り替えて行こう…このままでは本当に犬死にしそうだ…。


「それで…何処から侵入するんだ?」
頭から悪い想像を消し去り、船の周りを見渡す。
人が入れる場所は見当たらない…確か、コンテナを出し入れする入り口があったはずだが、こんな嵐の中開いてる訳が無い。


――「ふふっ、これですよ…。」
俺の問いかけに対して意味深ににやけると、ハロルドが腰に着いてる袋の中からロープを取り出した。

「…ロープ?」
ロープでどうやって?…っとハロルドに問いかけようとしたが、ロープの先端部分に何か付いている事に気がついた。



「――鉤?」
そう呟く俺に一度だけコクッと頷くと、ハロルドが周りに兵士がいないかもう一度確かめ、船の下へと走っていった。

ハロルドの行動に対して一瞬焦ったが、行動に出た以上、覚悟を決めてハロルドが鉤を船に掛け次第、突入する事にした……のだが。

「アイツなにやってんだよ……。」
474夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:54:49 ID:1+d9iC5A
ハロルドが船の下へと辿り着いたのは良いのだが……えいっ、えいっと一生懸命に船の上へと鉤つきロープを投げるのだが、届く気配を見せてくれない…。嵐の影響もあるのだろう…風で思う様にならないようだ。



「……ったく」
仕方なくハロルドの元へと駆け寄り、船に向かって投げ続けるロープを横から奪い取った。
後ろからいきなり奪い取られたのでビックリしたのだろう…肩をびくつかせたが、それを無視し、近くに落ちていた石を鉤下にくくりつけ、素早く勢いをつけて船へと投げた。

音は聞こえないが、間違いなく鉤が引っ掛かるガチャッという心地よい音が鳴ったであろう手応えが手に伝わってきた。
隣で拍手の真似をしていたハロルドに船の安全を確認する事を伝えて、角材の山へと戻らせる。


――「ふっ…はっ…と……よいしょっ……と……ふぅ…。」
ロープが切れるか心配したが、その心配は無く、楽に船の上へと侵入する事に成功した。

近くの物陰に身を潜め、周りを確認する。
……甲板は安全そうだ。人の気配は無い。

「おい…大丈夫そうだぞ…」
その事をハロルド達に無線機で伝えると、ホーキンズだけが此方に走りよってきた。
475夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:57:06 ID:1+d9iC5A

――「はッ…ほっ…よしょっ…と……ふぅ。」
ホーキンズと船の上へで合流すると、再度物陰へと身を潜めた。

『無事に辿り着いたみたいですね……』
無線機からハロルドの声が聞こえる。
ハロルドは外から船に近寄る人間を見張ってもらう。もし誰か来てもすぐに逃げ出せる様に。

『あぁ。何かあれば報告してくれ。』

『分かりました…それでは気を付けて。』
そう言うと、ブツッという音と共に無線機からハロルドの声が聞こえなくなった。

この無線機…ハロルドが持っていた物なのだが、一番役に立つ物がこれかも知れない。

なんでも商人から譲り受けた物らしいのだが、昔の人々の知恵が詰まっているモノらしい…。まぁ空を飛ぶ機械もあったぐらいだから大昔の人々は偉大だったって事だ。
本来進化しなければならない人間がここまで退化した今の時代を大昔の人間が見れば間違いなく呆れるだろうな…。
自虐的にふけたい気持が込み上げて来たが、今は敵船の上。
バレン兵に見つかる前に目的を探さなければ…。

「よし…ホーキンズ行くぞ。」

「おうっ。」
周りを警戒しながらゆっくり足を進め、船の中へと侵入するべく扉前まで前進する。
476夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:58:10 ID:1+d9iC5A
扉に耳を当て、物音を確認する…何も聞こえない。

「よし…中に入るぞ。」

「あぁ…」



――ガチャッ。

ゆっくり扉を開け、中を確認する。
暗くて良く分からないが、人の気配は無い。

「おっ、おいッ…」

「早く中に入れって…」
ホーキンズもそう感じたのだろう…急かす様に俺を中に押し込むと開けた時同様扉をゆっくりと閉めた。

先ほどから続いていた嵐の音から一転、船の中は無音に近い状態だった。
気持ちの問題か、空気も冷たい…一気に緊張の糸か張り詰める。

「……潜入成功だな。」

「あぁ…なるべく早く探そう…。」
探す…と言っても一つ一つの部屋を探す訳では無い。
俺達が目指す場所は、下部にあるコンテナ。

その場所にいるであろう、妖精を助け出す手筈なのだがコンテナに妖精がいなければ……お手上げだ。
こんな穴だらけの作戦誰も実行しないだろう。
だか、俺達は大真面目にそれを実行しているのだ。コンテナにいなければ一つ一つの部屋を探すしか無い…。
多分朝が来てバレン兵に見つかり殺されるのがオチだろうが…。



「……」
――最大限周りに注意を払い、下へと降りていく。
477夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:58:45 ID:1+d9iC5A
何も聞こえないと言うことがここまで恐怖を煽るとは…ボルゾの鳴き声がどこか恋しく感じる。

「おっ、ここか?」
前を歩いていたホーキンズが、俺の方へと振り返る。

この場所に来たのはホーキンズと同じく初めてなのだから、俺に聞かれても分からない。

だが、朝見たコンテナが目の前にあるのは確かだ。
――湿った通路を長々と歩いていたが、やっと開けた場所まで来ることができた。
周りを見渡すと同じようなコンテナが何個か置いてあるが、全部色が違う。
たしか、妖精の声が聞こえたコンテナの色は青かった。

青色コンテナを探し、中を歩き回る。ホーキンズも一つ一つコンテナに耳を当てて中を確認している様だ。


「………あったっ!」
見つけた事で、声をあげてしまった事に慌てて口を押さえる。
間違いなく俺達が朝見たコンテナだ。

俺の声に気がついたのかホーキンズも此方に駆け寄ってきた。

「おぉ、これだ……よっしゃ…それじゃ手っ取り早く中を確認しようぜ。」
幸いコンテナには鍵が掛かっていないようだ…。

コンテナの扉の前に立ち、ノブに手を掛ける。



――ガチャッ。

「…暗いな……ってなんだこ…れ…」
478夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 00:59:47 ID:1+d9iC5A
色々な商売道具があるのだが――その商売道具が異常だった――。

「バレンの人間は一体何がしたいんだよ…。」
――コンテナの中には大小様々な檻が設置されており、その檻の中には見たことも無い動物が閉じ込められていた。
いや――動物と言うような可愛らしい物では無い…見た目は様々だが、どれも動物らしい動物の原型を留めていない物体ばかりだ。

「あれって…犬か…?」

プルプルと震える手でホーキンズが指差す檻の中には確かに犬らしき動物が横たわっている。
しかし、犬と言って良いのか…目を真っ赤にし、牙が剥き出しにしており、体のあちこちから触手の様な物が動いている。

一体何なんだコレは…。
頭がクラクラしてきた。

「早く探そう…バレン兵に見つかる。」
早くこの場所から離れたかったのだが本来の目的である妖精を探さなくては…。
慎重に一つ一つの檻を確認していく。
檻に閉じ込められてる「なにか」を刺激しないように静かに…。

コンテナの奥に行くにつれて、檻がでかくなる。檻がでかくなると言うことは、中に入ってるモノも大きくなると言うことだ…

――グルルルルルルゥッ

「おっ、おい……ヤバイんじゃないか…?」
479夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:01:20 ID:1+d9iC5A
「声をだすなってッ」
今声をだせば間違いなく檻にいる奴が騒ぎ出す…。いや、前後左右檻に囲まれた俺達がこの檻の住人達に殺される可能性も無い訳ではないのだ。
コイツらが手を伸ばせば簡単に俺達に届く…。
それに早くしなければ精神的にもヤバイ。
後ろを歩くホーキンズも弱音を吐きだした。先ほどまで先陣を切って歩いていたのに…。

まぁ、こんな光景を見れば逃げたくなる気持ちも分かるが………んっ?。


「…(お、おい…!)」

「…(んっ?)」
周りを警戒しているホーキンズの肩を乱暴に叩き、一番奥にある布の被った箱らしき物に指をさす。

布の隙間から青白い光が微かに漏れている…。間違いなくコレだ。

「…(ゆっくりだぞ!)

「…(あぁ…)」
ホーキンズが言うように恐る恐る布に手を掛け、布を取り除く――。
――すると、中から小さな檻が姿を表した。
あの時、妖精が入れられていた檻だ。
二人揃ってそぉ〜っと顔を近づけ、中を確認する…。

「……見つけた。」
予想通り―――作戦通りと言った方がいいだろうか?
中には金色の髪をした妖精が横たわっていた。

歓喜の声をあげたい衝動に刈られたのだが、早くこのコンテナから抜け出したい…。
480夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:02:24 ID:1+d9iC5A

「…(ホーキンズ…早く出るぞ。)」

「…(よっしゃ!)」
妖精が入っている檻を掴み、ゆっくりと歩き出す――




――グルルルルルルッ!

「なっ、ヤバッ!」

「えっ、痛ッ!?」
ドカッ、と前を歩いていたホーキンズを蹴り飛ばす。
勢いよく倒れたホーキンズが俺を睨み付ける。が、すぐにその目は恐怖に染まり、腰を抜かしたように後退りしだした。

ホーキンズが先ほど立っていた場所に檻の隙間から出た鋭い爪が飛び出していたのだ。
コイツ――間違いなくホーキンズを狙ってた。

「ホーキンズ早く外に出るぞ!」

「あっ、あぁ、行こう。」
声を隠す事を忘れ、俺達は早々にコンテナから抜け出そうとした――。


「ギシャャャャッ!」

――ザシュッ!

「がはッ!?」

「ライトッ!!」
背中に強い衝撃を受け、今度は俺が地面に倒れ込んだ。
手に持っていた妖精入りの檻が転がっていく。
――な、なんだ…なにされた?背中が熱い。

「ライト!早くここから抜け出すぞッ!」
ホーキンズに腕を掴まれ強引に立たされる。
抜け出すも何も足に力が入らないのだ。

ガクガクする足で踏ん張り、妖精の檻を掴み、コンテナの出口を目指す。
481夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:03:22 ID:1+d9iC5A

「ぐっ、この!」

――グギャッ!?

「いてっ!コイツ!」

――ギャギャッ

これはヤバイ…次々に檻の中から攻撃を仕掛けてくる物体に成す術がない。
一刻も早くこのコンテナから抜け出す方法…それは反撃をせず走り抜ける事だった。




――「もう少しッ……よっしゃあぁぁぁ!」

「バカっ、コンテナの入り口を閉めろ!」
やっとの思いで転がり出たコンテナを素早く閉める。
触手なんか伸ばされて引きずり込まれたら間違いなく喰われて終りだ。

「ふぅ〜、危なかったな…」

「あぁ…今回ばかりは本気で死ぬかと思った。さっさとこの船から出よう…。」
危機を乗り越えたばかりなのだが、早くこの船を降りないと背中の痛みで気絶しそうなのだ。
骨は折れていないだろうが、間違いなく皮膚は裂けているだろう…。

「よし、脱出だ!」
元気よく叫ぶホーキンズの声に頷き、もと来た道を戻る為に振り返える――。






――「お前ら何をしている!!」
482夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:04:44 ID:1+d9iC5A
……そう言えば敵船の中だった。
あれだけ声をあげれば見つかるか…。

「逃げるぞ!」

「あぁっ!」
そんな余裕を見せている場合では無い。
早く逃げないと仲間を呼ばれてしまう。
バレン船員の横をすり抜け逃走する。後ろから叫び声と追いかけてくる足音が聞こえるが構っている暇は無い…。

「待てぇー!」

「はぁっ、はぁっ、誰が待つかよ!」
ホーキンズはまだ喋る余裕があるようだ。

「はぁっ…はぁっ…!」
ホーキンズとは違い俺は余裕など無かった。
背中の傷から血を流しすぎたようだ…。

「はぁっ、はぁっ、あの曲がり角を曲がれば出口だ!」
後ろを走るホーキンズが叫ぶ。
やっと出口か…。
早くこの船から出たい一心で走るスピードを止めず曲がり角を曲がる。



――ドンッ!


「ぐッ!?」

「なっ!?」
――勢いよく曲がり角を曲がった瞬間、何かと激突した。

瞬時にバレン兵と鉢合わせした事を察知した俺は背中の痛みを忘れ、バレン兵と対峙する。

「なっ、なんだお前達!この船で何をしている!」

「くっ!」
後ろからもバレン船員の走る足音と声が聞こえてきている。
483夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:05:17 ID:1+d9iC5A

このままでは挟み撃ちになり捕まる…。そう判断した俺は、念のために腰に装着していた剣を取り出しバレン兵へと構えた。

「ヒッ!?」
殺されると思ったのだろう…剣を取り出した事に怯んだバレン兵に素早く近づき、鞘で後頭部を強打する。

――ガツッ!

「がッ…くそっ……おま……え…?」

「ッ!?」
気絶する直前、俺の顔を隠してある布を掴みバレン兵は地面へと倒れ込んだ。

「早く行くぞ!」

「あ、あぁ…(くそ…見られたか?)」
気絶したバレン兵の手に掴かまれた布を奪い返し、急かすホーキンズの後を追ってバレン船を後にした――。



一抹の不安をその場所に残して…。
484夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:05:54 ID:1+d9iC5A

◆◇◆†◆◇◆

この家に来たのはもう何年振りだろうか?
幼い頃に見ていた家具がえらく小さく見える。それだけ私が成長したということか…。

身長が高くなるだけでここまで新鮮に感じるとは…。
机や箪笥などの配置は多少変わっているからか、知らない家に来ているみたいだ。

「しかし、あのバカ…こんな嵐の中どこに行ったんだ…?」
あのバカ…とは幼馴染みのライト・レイアンの事である。

ライトに話があって、わざわざ来てやったのに、あいつはこんな嵐の中外出しているらしい…アホだ。

――「……まぁ、私も宿を抜け出してこの家に来たのだから人の事を言えないか…。」
自分の身だしなみを見て、苦笑いを浮かべる。
嵐の中走って来たのだから、濡れるのは分かっていたが、まさかここまでとは……髪も風でほざぼさになっている。
この姿を見て思うが、ライトがいなくて良かったのかも知れない…。

「ふぅ…どうしたものか。」
独り言を呟き、近くにあった椅子に腰を降ろす。
――私がこの家に来た理由――それはライトを騎士団へ誘うためだ。
無論すぐに騎士団へ入れる訳では無い。
実際平民が騎士団へ入った歴史は今まで私以外いないのだから…。
485夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:06:47 ID:1+d9iC5A

しかし、私はライトを二年…いや、一年で騎士団へ入れる自信があった。
何故その様な自信があるのかと言うと、私が今いるノクタール騎士団、副長という地位があれば騎士団内の人間は私の発言を聞かざるえないからだ。
それプラス、王と姫様の信頼もそれなりにある……勿論、実績を残してきたからこそ、手に入れたものだ。

この力を使えば私の隊へ一人平民を入れる事など、それほど問題は無いはず。

後は本人――ライトをどうノクタールへ連れていくかだ…。

片足を切り落として強引に連れ帰ってもいいのだが、五体満足のライトじゃないと意味が無い。

「どうしたものか………んっ?」
椅子から立ち上がり、テーブルの前まで歩いていく。
テーブルの上には落書きされた紙が置いてある。

「なんだこれは?……落書き?」
手に取り、落書きされた紙を目の前に持ってくる。

「これは……ライト?」
紙に描かれていたモノ――それは色々な色をしたライトであろう人物だった。
その横には……知らない女性の様な人物が描かれている。
幼い子が書いたのだろうか?
描かれている人物の上には名前が書いてある。
ライト…やはり描かれている一人の男性はライトだ。
486夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:07:43 ID:1+d9iC5A

そして、もう一人描かれている女性の名前は――。



「………メノウ…」
どこかで聞いた事のある名前…。
たしか町長が言ってた教会に捨てられた孤児がそんな名前だった様な…。

その孤児がライトと手を繋ぎ花畑の中、笑顔で描かれている。



「――ふん、くだらない。」
その絵を真ん中から綺麗に破ると、女性が描かれている側の絵をクシャクシャに丸め、ゴミ箱へ投げ捨てる。

ライトが描かれている絵も少し眺めた後、同じようにゴミ箱へと捨てた。

こういったライトの人の良さも治さなければ…いつか痛い目にあうだろう。

「……今日は戻るか…。」
まだノクタールに帰るまで時間はある。
それまでにライトを説得できるか怪しいが、タダで諦めるつもりは無い。




――「そう言えば…どこかの国の姫様もメノウとかいう名前だった様な……まぁ、気のせいか。」
あり得ない考えが頭を過ったが、すぐに底へと沈んでいった。
487夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:08:44 ID:1+d9iC5A

◆◇◆†◆◇◆

「ふぅ…これで、大丈夫だと思います…。ですが明日一応、診療所へ行ってくださいね。」
檻の住人にやられた背中の治療を終えたのか、ハロルドが俺の肩をゆっくりポンッと叩くと妖精の元へと歩いていった。
多分俺より妖精の方が気がかりなのだろう…俺は命に別状は無かったが、妖精は危ないらしい…。
衰弱しきっており、俺達の声もまったく届いていないようだ。

「あぁ、ありがとうハロルド。」
ハロルドにお礼を言い、用意された服に袖を通す。
ハロルドいわく、白衣が私服らしいが、ちゃんとした民服もあるじゃないか。

「微かに息をしていますが…本当に弱っています。できるだけの事はしますが医療の知識があまり無いので助かるかどうか…。それに妖精となると本頼りになりますし…」

「あぁ……まぁ、頑張ってくれ。なにか俺達にできる事があれば手伝うから。」
弱気なハロルドの不安を少しでも軽くする為に笑いながらバシッと肩を叩く。

「…分かりました。絶対に助けてみせます!」
そう言うと、妖精の檻に手を掛け、檻についてある鍵を外し始めた。
鍵と格闘するハロルドの後ろ姿を数秒眺めた後、ホーキンズへ視線を落とした。
488夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:09:20 ID:1+d9iC5A

疲れたのだろう…ハロルドの家だというのにベッドを独占し、爆睡している。

「貴方も寝ていいですよ?」

「いや、俺は…」

「妖精を救い出したのは貴方達です……次は私がこの妖精を助ける番です。」
そう言うと、毛布をクローゼットから取り出し俺に手渡した。

「それじゃ…任せる」
逆らわずハロルドの言うことを聞いとこう…。
背中の痛みで眠れるか分からないが、体力を大幅に消耗したのだ…回復はしとかないと。

毛布を手にソファーへと歩いていく。
背中を庇う様にうつ伏せに横たわると、ゆっくりと目を閉じた。

バレン船での事を思い浮かべる。
曲がり角でぶつかったバレン兵――たしか昨日の朝、ハロルドと言い合いになった兵士だった。
俺の顔を覚えているかどうか分からないが、用心だけはしとかないと…。
どうせ、バレン船は嵐が過ぎ去り次第、この町を離れる。
それまで目立たない様に心がければ大丈夫だろう。

深く考えず雨の音に耳を傾けていると、それがいつしか子守唄効果になり、背中の痛みを忘れる程の深い眠りに落ちていた。

そう…達成感から出た、安らかな気持ちで…。





二日後――俺は殺人者として騎士団に捕まる事になる。
489 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/20(土) 01:14:13 ID:1+d9iC5A
ありがとうございました、投下終了です。
次は春春夏秋冬の投下になります。
遅れましたが、保管庫更新お疲れ様でした。
それでは。
490名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 11:35:17 ID:rdtVUHNQ
なげーYO!
491名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 11:47:21 ID:ajcBPfJu
素晴らしいな
ファンタジーものはやはりいい
492名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 13:48:29 ID:vpzGxDdl
依存なくても面白いなw GJ!
これからどんな依存ワールドになっていくのか楽しみ
493春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:27:17 ID:vaTy+5r8
続けての投下申し訳ないです。
少し短いですが、よろしくお願いします。
494春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:28:10 ID:vaTy+5r8

「冬子早くおりなさい!」

「嫌だよ〜だっ!」

周りを歩く人達が何かを見守る様に微笑みながら通りすぐていく…。
微笑ましい光景に見えるのだろうか?被害を受けている張本人からすれば「疲れる」の一言だ。

「はぁ…変な約束したなぁ…」
空を見上げ昨日の出来事を思い出す。
――昨日、春香をおんぶして帰った事を冬子に見られた俺達は、激怒する冬子を宥めるのにある約束をしてしまった。

その約束とは――。


「冬子ッ、いい加減にしなさいぃ〜ッ!」

「痛ッ、いたいいたいいたぁ〜いッ!」

「ぐッ、苦じいっ!あぶッ、危なっ!?春香転ぶっで!」
俺の背中に乗っている冬子を春香が強引に降ろそうとする。
冬子はそれに従わず、懸命に離れまいと俺の首に腕を巻き付けロックしている。

そう…冬子との約束は小学校の近くまで冬子をおんぶする事だった――。
春香も渋々と言った感じで納得していたのだが…赤部家で朝食をご馳走して貰っている時に秋音さんが言い放った言葉に春香が難色を示したのだ。

――それじゃ、次の日は私ね。

秋音さんのこの言葉に普段大人しい夏美まで「私も!」と言う始末。
495春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:29:01 ID:vaTy+5r8
公平にしろと言う秋音さんに、春香は「冬子には朝限定で貸してるだけだから無理!」と人をモノ呼ばわり…。
冬子は「春くんの背中に乗って良いのは私だけ!」と乗り物呼ばわり…。
それから春香と冬子の言い合いが始まり、今に至るのだ。

「ねぇ〜、早く行かないと遅刻するんじゃない?私入学式に遅刻なんて嫌だよ…。」
夏美が俺の袖を引っ張り不安そうに呟く。

時間的にはまだ余裕があるのだが、新入生は余裕なんてないのだろう。

「大丈夫だよ。俺と春香もいるんだから。」
そう言い夏美の頭を撫でると、恥ずかしそうに俺から目を背けた。

「あぁ、もう夏美も中学生だもんな…子供扱いはダメだよな。」

「べ、別に大丈夫だよ…頭撫でるぐらい…私も安心する…から…。」

「コラーッ!イチャイチャするなぁー!」
俺と夏美の間に春香が割り込んでくる。
俺の顔をキッと一睨みすると、俺の腕を掴んでズカズカと歩きだした。

「わかった、わかった、一人で歩けるって……はぁ。」
新学期そうそう姉妹喧嘩に巻き込まれるとは…ついていないと言うかいつも通りと言うか…。
496春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:30:15 ID:vaTy+5r8

――学校まで連れていけと言う冬子をなんとか小学校近くで降ろした俺達は、やっと中学校へと向かう事ができた。

気分的にはサボりたいのだが、新学期早々にサボる訳にもいかない…。
今日はお母さんも来るだろう…もしサボっている事がバレたら飯抜きどころか………やめよう。
考えただけで背筋が凍りつく。

中学校へと到着すると、夏美は三階の一年の教室へ…俺と春香は二階の二年の新しい教室へと向かった。
俺達と別れる瞬間、夏美が不安一杯の笑顔を此方に浮かべて階段を登っていったが……大丈夫だろうか?
小学校からの友達もいる訳だから大丈夫だと思うが…。



「ハルッ!」

「ん?なんだよ…春…か…」
後ろから春香に呼ばれたので後ろを振り返ると、両手を大きく広げ、上目遣いで此方を見ている春香が視界に入った。
多分おんぶをしろ…という意味だろう。

「…早く行くぞ。」

「あっ、待ってよ〜!」
こんな場所でおんぶすれば、間違いなく話題の的になる。
いや…もうなっているのだがこれ以上酷くなるのは避けたい。

――春香を無視し、今日からお世話になる教室に足を踏み入れ、周りを見渡すと、知らない顔も知ってる顔もみんな仲良く雑談していた。
497春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:31:03 ID:vaTy+5r8
「おぉ〜、ここが新しい教室かぁ…」
俺の後を追う様に春香がバタバタと教室へ走り込んでくる。

入ってくるなり俺の腕に手を絡めてくると、新鮮な物を見るように周りを見渡しだした。

別に何か変わっている訳では無いのだが、春香には新鮮に感じるのだろうか…。

それより、早く手を放してほしい…。
周りの目が痛くなってきた。
春香を強引に引き剥がし、自分の席に腰を降ろす。
春香も渋々自分の席がある、俺の斜め前の椅子へと腰を降ろした。

「ねぇ、貴女席変わってくれない?私ハルの隣じゃないと不安でオシッコ漏らy「やめろバカ春香!」
周りを躊躇なく巻き込む春香を見て、新学期早々に不安が高まる一日になった…。
498春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:31:29 ID:vaTy+5r8

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

初々しい一年生の入学式が終り、帰宅できる事になった俺達二年生は、各々帰る支度をしていた。
中には新しい友達と仲を深めようと一緒に帰る者もいる。
普通なら俺達もその輪に溶け込んで仲良く皆と帰るのかも知れないが、俺と春香は違う。

これも毎年の事なのだが、これから二人で桜の丘へと花見をしに行くのだ。
二人だけの秘密の場所であり特別な場所。
赤部家の皆も知らない大桜の木がある場所だ。

「夏美はまだ時間が掛かると思うから、先に帰っちゃおっか?」

「あぁ、帰りはお母さんと一緒に帰ってくるだろ。」

「あぁ、そうだ。お母さんいたんだった……くくっ、お母さん凄かったね?」
式を思い出したのか、春香が突然笑いを堪えだした。

まぁ、あれだけ入学式途中に写真をパシャパシャ撮る人も珍しいか……夏美は恥ずかしそうにずっと下を向いていたが、あの後どうなったんだろうか…。
周りからはクスクスと笑い声が漏れていたが…。今日家から帰って来たら夏美に聞いてみる事にしよう…。

「まぁ…帰るか。」

「うん!」
499春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:31:58 ID:vaTy+5r8

――桜舞う通学路を通り家に帰宅すると、お互いの家に戻り早々と私服に着替える事にした。
桜の木は逃げないと言うと、「時間が勿体無いでしょ!」…だそうだ。

「ハルゥー、早くー!」
制服を脱いでいると窓の外から元気な春香の声が聞こえてきた。
まだ帰宅して5分程しか経っていないのに…。窓の側まで歩いていき外を確認すると、春らしく可愛らしいワンピースを着こんだ春香が此方を見上げていた。
恥ずかしいが、正直に可愛いと思う…。

「すぐに降りて行くから待ってろ!」
二階から下に居る春香に聞こえる様に返答すると、制服を脱ぎ捨て、私服に着替えて、部屋を後にした。
―――――
――――
―――
――



「久しぶりだねぇ〜、会いたかったよ〜!」

「ははっ、走ると転ぶぞ。」
自転車に乗り、神社裏に到着した俺と春香は、久しぶりに会う桜の木に歓喜していた。

特に春香は毎年そうだが、いつも初めて見た様な顔をするので此方も嬉しくなる。

「う〜ん、桜ちゃ〜ん!」
嬉しそうに声をあげると、お母さんが作ってくれた弁当をほっぽりだして桜の木に突進していった。

「ったく。」
地面に転がる弁当を手に取り俺も桜の木に近づく。
500春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:33:00 ID:vaTy+5r8

上を見上げて、桜の表情を確認する。ピンクの花びらが気持ち良さそうにそよいでいるのがわかった。

今年も綺麗に咲いてくれたようだ。

「う〜ん、チュ、ちゅっ」

「おいおい…やりすぎだ。」
桜の木にしがみつきキスの嵐をかます春香を強引に引き剥がす。
こんな事ばかりしてるから桜の精も出てこないんじゃないだろうか…?
不満そうに此方を見てくる春香に弁当箱をちらつかせる。
すると、春香の顔は一転、自分が投げたくせに俺の手から弁当箱を奪い取りその場に座り込んだ。
その分かりやすい行動に笑みが溢れそうになったが、やれやれと言った感じで俺もその場所に腰を降ろした。
別に下に何を敷かなくても一面緑の絨毯なので問題無い。
むしろ自然の絨毯があるのに上から人工的な物を敷く理由が思い付かない。

――その緑の絨毯の上にお母さんが作った弁当を広げ、食べることにする。

普段からお母さんには弁当を作って貰っているが、何故桜の木の下で食べる弁当は格段に美味く感じるのだろうか?
いや、実際もの凄く美味しい。
だし巻き玉子にタコさんウインナー…唐揚げに惣菜と普段食べている物となんら変わらないものばかりなのに…遠足効果だろうか?。
501春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:33:37 ID:vaTy+5r8
「あっ、そうだ。」
唐揚げを頬張る春香が何かを思い出したように箸を下に置いた。

「最近ねぇ、体育館にもの凄く可愛い男の子が来るようになったんだよ?」

「……へぇ…」
食べていた箸がピタッと止まる。

「その子私達と同い年なんだけど、女の子みたいで柔道全然強くないのよ。」

「うん…。」

「いつも私が手取り足取り教えてあげるんだけどっ…てハル?」
楽しそうに話す春香が俺の手を見て、話すのを辞めた。

「えっ、なに……ってあっ!」
手元に目線を落とすと、自分が持ってる割り箸が折れてる事に気がついた。

自分でも気づかなかったが、折っていたらしい…。

「ふふっ…ハル…もしかして嫉妬したの?」
俺の行動に春香が笑みを浮かべて顔を見てきた。
悔しい事に多分俺は嫉妬していたのだろう…。
俺の初めての行動に気を良くしたのか何も言わずに笑顔で黙々と食べ続けた。
俺も春香がいないと生きていけないということだろうか…?
あまり深く考えた事は無いが春香がいなければ俺はどんな人間になっていたのだろう…?
自分自身まったく想像がつかない。
今こうして当たり前のように春香と一緒に日常を過ごしているが、家が隣同士では無かったら…。
502春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:36:56 ID:vaTy+5r8
――「やめよう…」
今が楽しければそれでいいんだ。
隣で笑ってくれているだけで――。

「さぁ、弁当も食べ終わったし……桜ちゃんに挨拶して帰ろっか?」

「食べたら終わりかよ…」

「うるさい!ふふっ、桜ちゃ〜ん、最後のチュ〜!」
再度桜の木に抱きつき熱い包容とキスをしている。

コイツの場合、飯を食べに来てるだけの様な気がするが…まぁ、楽しそうだから言わないでおこう。
弁当箱を片付け、立ち上がる。
目の前には桜の木で色付けされた町の姿がある。
多分俺と春香はこの町に住んでいる人達よりも少し得をしているのだと思う。

桜の精と一緒に町を見渡せるこの秘密の場所――大切に育ててくれたお母さん――仲良くしてくれる姉妹達――産まれたその日から一緒の運命の恋人。

「また来るな…。」
見えない桜の精に別れを告げ桜の丘を後にする――。

「……」

「んっ?どうした春香、プルプルして。」



「さっ、桜ちゃんの枝が唇に刺さッ…。」



「…」



――運命の…恋人か………はぁ。
503春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:37:25 ID:vaTy+5r8

―――――
――――
―――
――


「はぁ〜、今日は楽しかった〜。久しぶりに桜ちゃんにも会えたし。」
パジャマ姿の春香が天井を見上げ、笑顔を浮かべている。
その顔は充実した一日であったことを表していた。

「そうだな、また会いに行くか?」

「うん!」
桜が散る前にもう一度ぐらい見に行くのもいいだろう…。
この笑顔を何度でも見れるなら…と臭い考えが頭を過ったが、口にだすのは流石に恥ずかしかった。

「それじゃ、寝よっか?」

「ふふっ、お邪魔しま〜す。」
電気を消し、ベッドに入ると春香も後を追ってすぐに潜り込んできた。
目だけを布団から出し、俺の顔を眺めている。
何がしたいのだろうか?

「あぁ、そうだ。約束の話なんだけど、どこに見に行くんだ?」

「う〜ん…○○センターでいいんじゃない?」
○○センター……確か隣町にあったな…まぁ、春香の求めている物はこの町に無いのだから仕方無いか…。

「でも、どうしていきなり壁紙なんか変えたいの?」
――春香が求めているもの…それは、真っ白な壁紙だった。
壁紙の中には花柄や動物柄の可愛らしい物がいっぱいあるのに春香は真っ白な壁紙に変えたいそうなのだ。
504春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:38:26 ID:vaTy+5r8
「ん?単純に壁紙が汚れてきたからだけど?」

「それなら可愛い壁紙にすればいいだろ?犬とか…」

「ふふ…真っ白な壁紙にね…私とハルが少しずつ色をつけていくの。」

「色?」

「そう…私とハルがこれから成長していくにつれて、この部屋の景色が変わっていくんだよ。」

「ほぉ〜…ってこの部屋っ!?」
勢いよく布団を捲り上げ春香を見下ろす。
「寒いぃ〜」と呟きながら俺の手を掴むと、横になるように急かした。
仕方なくまた寝そべり掛け布団を掛けなおす。
まさか自分の部屋では無く俺の部屋のリフォームだったとは…。

「私とハルが結婚して私達の子供に壁紙を見せて、思い出をいっぱい教えてあげるの。」
嬉しそうに壁を指差すと、未来の事を語りだした。
結婚、子供…夢が広がる単語がでてくる。

春香との結婚式――おじさん来てくれるかな…?

春香との子供――男の子かな…女の子かな…可愛いだろうな…。

春香のお婆ちゃん姿――俺は横にまだ居るだろうか…?





――死ぬとき、本当に一緒に逝けるだろうか…。
505春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:38:54 ID:vaTy+5r8

色々な考えが頭に浮かぶが、これからゆっくり春香と感じていけばいい…。

「ねぇ…ハル。」

「うん?」
まだ壁紙の話が続いていると思っていたのだが、いつの間にか終わっていたようだ。
先ほどの笑顔は影を潜め、どこか真剣な表情を浮かべている。

何か言いたいのだろうか…?





――「あんまり……隣の子と仲良くしないでね…?」

「…は?」

「おっ、おやすみっ!」
暗くて確認できないが、多分顔を真っ赤にしているのだろう。
バッと掛け布団を頭まで被ると、話しかける俺の声に対して無反応を押し通した。

「ふ……おやすみ。」
春香の頭を布団越しに撫で、眠る為に目を閉じた。


――明日、春香に何か買ってやろう……別に誕生日や特別な日では無いのだが、不思議と何かをプレゼントしたいという気持ちが純粋に溢れてきた――。
506春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/21(日) 00:41:35 ID:vaTy+5r8
ありがとうございました、投下終了です。
この次で春香の過去話は終わりになります。

この話ももう後半なので後少々お付き合いください。
それでは。
507名無しさん@ピンキー:2010/03/21(日) 00:58:53 ID:sutlyJuC
やべぇ凄く面白い。心からGJ!!!
回想の切なさがひしひしと伝わってくる! 春香可愛い!
もう一度GJ!!!
508名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 10:29:55 ID:1jB1fXov
保守
509夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:01:07 ID:aLgioWvR


「お前がライト・レイアンだな!」

「はっ?そうだけど…なんだよお前ら?」
人々を押し退け、俺の周りを囲む男達。
重々しい鎧を身に纏い皆、此方に殺気を放っている。
そう――俺を囲む奴らは騎士団の連中だ。

「お前を殺人容疑で拘束するっ!取り押さえろ!」
一斉に此方に飛び掛かってきた。剣を抜こうとしたが、人数が多すぎる上に鎧を着ているので分が悪すぎる。

「はっ!?殺人容疑ってッ、離せよクソっ!」

「抵抗するな!!」

――ドカッ!

「ぐッ!?」
何かで殴られたのか、頭に激痛を感じその場に倒れ込んでしまった。

(殺人容疑ってなんだよ…俺は人を殺したことなんて…)
朦朧とする意識の中、最後に視界に入ったのは、ゆっくりと歩み寄る鎧姿の幼馴染みだった――。

◆◇◆†◆◇◆

「おいっ、マジでふざけるなよ!ライトが人を殺す訳無いだろッ!!」
机を叩き立ち上がると、私に向かってホーキンズが怒鳴り散らした。

「落ち着けホーキンズ。今調査中だ。」
怒りを露にするホーキンズに対し、再度椅子に座るよう宥める。

「くそッ!」
近くにある鉢を蹴り上げると、怒りをおさめられないっと言った感じで椅子にドカッと腰を降ろした。
510夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:02:24 ID:aLgioWvR
その行動に何を言うでもなく、外に目を向け考える。

――ホーキンズが怒るのも無理はない…幼馴染みが殺人者として捕まったのだから。

何故ライトが殺人容疑で捕まったのかと言うと、ライトの自宅でこの町の権力者である神父が死体で発見されたのだ――。
しかも、えげつない事に家を燃やして証拠隠滅までして…。

第一発見者は、教会の手伝いをしているアンナと言うミクシーの女。
なんでも教会で食事会があったらしく、神父がライトを呼びに言って戻って来ないことを不振に思ったミクシーの女がライト宅に出向いて、燃えているのを発見したとの事…。

それが今日の昼の出来事――家の中には、焼けた神父の異体が横たわり、胸にはグッサリとナイフが刺さっていた。
死因はナイフによる胸部殺傷の失血死らしいが、具体的な事は何一つ分かっていないのが現状だ…。

しかし、一つだけ分かっていることがある…それは、ライトが神父を殺すことなどあり得ないと言うことだ。
あれだけ神父の事を慕っていたのだ…それに、神父に不満があったなら間違いなくホーキンズがライトの異変に気づいたはず。

だとすると、物盗りの類いに殺されたと考えるのが妥当か…。
511夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:02:55 ID:aLgioWvR
「今から私はライトの家に行ってみるよ。何かあれば報告する。」

「…あぁ、頼むよ。」
疲れた表情を浮かべるホーキンズと別れ、ライト宅へと足を運ばせる事にした…。

――ライト宅に到着すると、騎士団の皆が焼け跡の処理に当たっている最中だった。

残念な事にライトの家は全焼――周りの家に火が移らなかっただけまだマシなのだろうが、ライトはこの先…。

権力者である神父を慕っていた人間はこの町に限らずノクタール城の下町、コンスタントの人間もいたはず…。

神に仕える聖職者を殺害した罪は死をもって償わなければならない――どの国でも常識だ。

「あっ、副団長!」

「んっ、なんだ?」
処理に当たっていた団員が私に気がついたのか、此方に走りよってきた。

「これを…。」

「なんだこれは…?」
団員の手には小さなバッジが握られていた。
ただのバッジかと思ったのだが彫られている紋章を見て、体が硬直した――。

「それって勲章ですよね……しかも…」

「……この事は誰にも他言するな。」

「えっ?…でも。」

「これは私が預かる。お前は処理に戻れ。」

「はっ、はい!」
私に頭を下げ、逃げる様に慌てて団員は処理に戻った。
512夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:03:28 ID:aLgioWvR


これでライトが犯人じゃ無いことがわかった。
しかし、何故ライトの家で神父が……殺した動機が分からない。

本当に物盗り目的で侵入して、偶然鉢合わせした神父を殺害したのか?
それだけならまだしも、家を燃やすなど…。

――勲章を指先でつまみ上げ、見つめる。

その勲章には鷹の紋章が彫られている――そう、バレンの紋章が…。

◆◇◆†◆◇◆



ここは何処だ?暗い…それに寒い…。
何時間気絶していたのだろうか?
周りからは何の気配も感じない。どこかの倉庫みたいだが…。


「いつッ……いたたた。」
横たわる体を持ち上げ座ろうとしたが、ロープで後ろ手に縛られており、思うように体を動かせない。
それに後頭部がズキズキする。

「はぁ〜…いったいなんなんだ。」
座る事を諦め、体を再度寝かせる。
天井のシミなど数える気分でもない…とゆうか暗くてシミなんて見えない。


騎士団の連中は確かに俺を殺人容疑と言っていた。
俺は産まれて一度も人を殺めた事は無いし、その予定もない。
多分何かの勘違いだと思うのだが…。


――ガラガラガラッ。

「やっと、起きたか……どうだ、体の調子は?」
513夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:04:35 ID:aLgioWvR

けたたましい音と共に目の前から小さな明かりが射してくる。
月明かりだろうか…?
だとしたらかなりの時間気絶していたらしい。
その月明かりに照らされて地面に影が揺れている。
それに聞き覚えのある声…。

「悪いね…こんな場所に閉じ込めて。」
俺の前に立ち見下ろす人物、それは幼馴染みであり騎士団副団長のティーナだった。

「状況がまったく飲み込めないんだが……なぜ俺はこんな場所に閉じ込められているんだ?」
今思っている事をそのまま伝える。

「あぁ…ライトには今、殺人容疑がかけられている。」

「俺を捕まえた奴らも同じことほざいてたな。だが俺は殺人なんて物騒な事件は起こしていないぞ?」
と言った後、バレン船の事を思い出した。
そう言えば出るとき、気絶させるために後頭部を強打したんだった…まさか、あれで死んだのか?
そしたら立派な人殺しだ…。





「――死んだ人間は神父だ…。」

「……はっ?」
神父?何故神父の名前がでるんだ?
バレン兵では無いのか…?
いや、そんなことどうでもいい。

「神父が死んだっ…て…」

「あぁ…今日の朝、君の家で殺害されたそうだ。ご丁寧に家に火をつけてな。」

「家に火…?」
514夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:05:11 ID:aLgioWvR

「あぁ、残念だがライトの家はもう無い…全焼したからな。」
サラッと言い放ったがコイツさっきから何を話してるんだ?
俺の家が燃えただの、神父が殺されただの…俺は夢を見ているのか?

目を瞑れば現実に…



「寝るなっ。」

「ぐふッ!?」
腹に蹴られ現実に戻される。
やはり、夢ではなく現実のようだ。

「明日…お前の生死が決まる。それまでゆっくりと人生を振り返るんだな。」
そう冷たい声を俺に浴びせると、背中を向けて倉庫を出ていこうとする。

「まっ、待ってくれ!俺は殺していないぞ!」
このままティーナを行かせれば、間違いなく明日俺の命は無くなる。
聖職者を殺めると言うことは、理由関係なしに死刑と決まっているのだ。

「そう……でも何か証拠が無ければ助けようがないのだ…。」
そう呟くと、入って来た扉を閉めず、そのまま倉庫を後にした。

風が扉の外から容赦なく吹き付けてくる…開けるんなら、ちゃんと閉めていけよ…。





――ザシュッ、ブシュッ…ドサッ。

「…?」
何の音だ?
誰か外にいるのだろうか?

「誰かいるのか〜?」

――………

外からの返答は無い。
もう一度確認するべく、大きく息を吸う。
515夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:05:51 ID:aLgioWvR

――ガラガラガラ、ガチャン…。

再度声をあげようとしたら、静かに扉が閉まってしまった…。

「なんだ?」
いったいなんだったんだ?ティーナのイタズラか?
まぁ、扉を閉めてくれたから風が入ってこなくなったのでよしとしよう…。

しかし、これからどうすればいいのだろうか?
殺していないのだから、明日解放されると思うのだが…。

「しかし、誰が神父を…」
尊敬される事はあっても恨まれる事なんてないはず…。昔から人が良いを売りにしている様な人だったから殺されるなんて。

「メノウ大丈夫かな…」
ふと、メノウの笑顔が頭に浮かんだ。
悲しんでるだろうな……それに俺を恨んでいるかもしれない…家も無いとなるとこれからどうすれば…。
地面に額を擦り付け、はぁ〜っと大きなため息を吐いたが、内側からは吐息しか出ず、モヤモヤしたものは一切体の中から消えなかった。


◆◇◆†◆◇◆

「……ふん」
剣を引き抜き鞘に収める。
引き抜く瞬間、絶命した体がビクッと跳ねたが硬直したのだろう…。

私の足元に死体が二つ…多分バレンの人間だ。
私が宿を出た時から後をつけていたが、目的が分からず正体が分かるまで泳がせておいたやった。
516夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:06:48 ID:aLgioWvR

結果、私が目的では無くライトが目的だと分かった。多分何らかの理由でライトを殺しにきたのだろう…。

「神父を殺したのもコイツらか…」
手には神父の胸に突き刺さっていたナイフと同じモノが握られている。
ライトを殺害しようとして家に忍び込み、ライトを呼びに来た神父と鉢合わせして殺したのか…。

「それにしてもコイツら…頭が弱いのか?」
死骸の頭を軽く蹴ると、横たわっていた死体がゴロッと仰向けになった。
目は閉じられる事は無く、口は半開きにし、血を流している。
人の死というものはどこまでも醜いモノだ…。

「まさか、こんな簡単な罠に引っかかるとはね…。」
――鍵を掛けず、罠まるだしで扉を開けっ放しにしたら案の定、影からコソコソと二人組が出てきてくれた。
私がそいつらの後ろに立つと、いきなり腰からナイフをだし襲いかかってきたので、正当防衛を利用して殺した。

「くくっ…この辺のボルゾは見境がないから骨も残らないぞ?」
死体に警告するが、返答がある訳もなく、無言で横たわっている。

『誰かいるのか〜?』

「…」
先ほど出てきた倉庫からライトの声が聞こえる。
少しうるさくしすぎたか…。
扉に近づき、ゆっくりと閉める。
517夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:07:33 ID:aLgioWvR
ライトも諦めたのか、倉庫の中から聞こえてくる声は一切聞こえなくなった。

「ふふ…明日が楽しみだ…」
ライトの悲痛の顔が目に浮かぶ。
それと同時に、私の考えている事も実行できるのだ。
嬉しい気持ちが込み上げてくる…がそれよりもまずはこの死体の処理をしなければ…。

めんどくさいが、死体をこのままこの場所に置き去りにする訳にもいかない…仕方なくバレン人の足を掴み森へと歩きだす。

――ズルズル

「よいしょっと……これでいい…」門の外に二人の死体を並べる、これで明日になれば跡形も無く食い尽くされるはず。
死体の処理はやはり森に限る…。

「それじゃ、明日またくるよ、ライト。」
ライトがいる倉庫に別れを告げ、その場所を後にした――。

―――――
――――
―――
――


翌朝、扉を開ける音と共に騎士団の連中がなだれ込んできる。

「立て!」

「ぐっ!」
手を掴まれ無理矢理立たされる。
ロープが手首に食い込み骨が悲鳴をあげるが、お構い無しに倉庫から引きずり出された。

騎士団の俺に対する対応を見て、まだ誤解が解けていない事が確認できた。

「歩けッ!」

「くっ、押すなよ!」
518夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:08:07 ID:aLgioWvR
背中を強く押され、その場所に倒れかかったが、何とか踏ん張った。

後ろ手に縛られた手を解かれる事は無く、町中を縛られた状態で歩いていく。


――あいつが神父様を…――。
あぁ―人殺し――。

町人がヒソヒソ話ながら俺の顔を指差す。
(まる聞こえなんだよ…くそ…)
何故俺がこんなことされないといけないんだ?
無罪なのに犯罪者の様なこの扱い…。
まぁ、不法侵入や気絶させたりしたけど…。だけど、俺は人を殺したりなんか絶対にしない…ましてや父親代わりの神父を手にかけるなんて…。「ほら、到着したぞ。」
後ろにいる兵が俺の肩を強く押し、前へと押し出す。


「……マジかよ…。」
無い……本当に俺の家が無くなっている――。
確かに一昨日までこの場所に存在していたはず。じゃあ、ティーナが言っていた事は…。

「神父様は入り口を入ってすぐの場所に倒れていた。胸に深くナイフを突き刺してな。」
騎士団兵が俺の顔を一睨みすると、扉があったであろう場所へと歩いていった。

周りを見渡すが焼け焦げた物は殆ど撤去されているようだ。



「…」
――本当に無くなってるんだな……。
519夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:09:24 ID:aLgioWvR

現実感がないからか、家が無いと言うことをどこかふわふわした心情で捉えていた。

当たり前の様に住んでいた場所が無くなったのだ……じゃあ俺は次からどこにいけば…。


――「この人殺しっ!」


――ガツッ!

「ッ!?」
呆けている俺のこめかみめがけて何かが飛んできた。

「ぐっ…なん…」
その衝撃でよろけ倒れた俺の手元に何か固いものが当たる……。

――「…石?」
こめかみに当たった物…それはコブシほどの石だった。

ツーッと額から血が流れる。

――「神父様を返せ!」

「ッ!」
次は缶が飛んできた…。それがキッカケとなり、周りにいた町人達が次々と罵声と物を投げ始める。

――「返せ!」

――「ふざけるな!」

「ぐ…うッ…ッ」
大丈夫…解決すればまた元通りだ。
今は耐えて――耐え――




「やめろお前達ッ!」
声が町中に響き渡ると、投げ続けられる石やゴミが止み、罵声も一瞬で消え失せた。

「大丈夫かライト?」
声の主はティーナだった。
俺の事を笑いに来たのだろうか?
しかし、俺の予想と反しティーナは俺の前に立ちはだかり、民衆を睨み付けた。
520夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:09:50 ID:aLgioWvR
「我々は今からバレン船を海門まで送り届ける。それとライト…お前の有罪無罪はノクタールで決めることになった。」

「なっ!?」
あり得ない。
ティーナは曖昧な事を言っているが、ノクタールへわざわざ出向くって事は有罪と言うことだ。こんな早く有罪扱いされる訳が無い。

「まてよ!人が死んでるんだぞ!!普通もう少し慎重にッy「神父はノクタールにとっても重要な人物だから我々騎士団だけでは決められないのだ…。とにかくっ!有罪無罪が決まるまでライトに手を出すことは許されない!分かったかっ!」
俺の言葉を遮り、民衆へ声を荒げる。
その声を聞いた民衆は皆、目線を反らし声をこもらせた。その反応に満足したのかティーナは一足先に港へと歩いていった。


「くッ…なんで…」
なんでこんな事に――俺は絶対に殺していないのに…。実際家が燃えた日、ホーキンズやハロルドと一緒にハロルドの家で妖精の様子を見ていたのだ。
だから証人はちゃんといる…なのになぜ俺の話が通らないのだ…。

「さっさと歩けッ!」

「ぐっ…くそ…」
逃げようにも前後左右騎士団の連中に固められているので逃げられない…それに腕を縛られているのだ。従うしか無いのか…。
521夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:10:21 ID:aLgioWvR

――「ライトを放してっ!」




「うおっ、な、なんだこのガキっ!」
掛け声と共に横にいる兵に女の子が飛び付いた。
見覚えのある緑の目に可愛らしい耳――尻尾を立て精一杯威嚇しているミクシーの女の子――。


「め、メノウッ!?」

「ライトッ!」
俺を助けに来たのだろうか?
いや、そんな事はどうでもいい。
早くメノウをやめさせないと。

「メノウやめろッ!俺は大丈夫だから!」

「ライトをいじめちゃダメ!!」
俺の声が届いていないのか、鎧の上から小さな手を叩きつけている。

「このガキっ!」

――ドカッ!

「きゃっ!」

「メノウッ!」
兵に蹴り飛ばされたメノウが地面を転がる。

「テメェ、相手は小さな女の子だぞ!何考えてんだッ!」

――ガツッ!

「ぐはっ!?」
メノウを蹴り飛ばした兵を、冑の上から蹴り上げる。
足は自由なのだから、蹴ることはいくらでもできるのだ。

「このっ、暴れるな!」

「ぐッ、離せッ!」
他の兵が俺の背中に飛び掛かってきた。人数が多すぎる…やはり足だけではどうする事もできないのか…。

「やめてっ!ライトを連れていかないで!!」
522夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:10:47 ID:aLgioWvR
引きずられる様に馬車の荷台に乗せられると、顔に布の袋を被せられ、強制的に港へと向かわされた。
馬車の走る音に混じりメノウの叫び声と泣き声が聞こえてくる…。
馬車を走って追いかけて来ているのだろう…しかし、馬車には追い付けず次第に声も小さくなっていった――。

◆◇◆†◆◇◆


「予備船を用意できましたが……出港しますか?」
海門近くの町にはそれぞれノクタール専用の緊急予備船を配置している。

「いや…まだ罪人が船に乗っていない。」
自分が言った罪人と言う言葉に少し笑ってしまった。

――ライトはどんな気持ちだっただろうか?
助けてきた町人達に石を投げられ、罵倒され、罪を擦り付けられ…。

誰も助けてくれない状況を味わえば…おのずと精神的にも孤立する。
その時――差し伸べられた私の手が、どれだけ大切か思い知るだろう。
いや、勘違いするの方が正しいか…。


「くくっ、楽しみだなぁ…ライト?」
馬車にのせられたライトを視界に入れた時、私は酷い笑みを浮かべていたに違いない。

馬車が船の中に入るのを確認すると同時に私は船から飛び降り、地面に着地した。
523夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:11:14 ID:aLgioWvR

私は船には乗船しない…船に乗れない残りの騎士団を皆、先導するために抜けて来た森をまたノクタールまで走り戻るのだ。

それに私には他にしなければいけない事がある…。

「出港しますっ!」
騎士団の声と共に船が港から離れていく。バレンの船も同様に港からゆっくり離れていく。
これでライトはノクタールに…。





――「あは…ははッ……あっはははははははッ!」
止めることのできない感情が笑い声となって溢れ出る。

「ふっ、副長…どうしたんですか?」
周りにいた団員が此方に歩み寄ってきた。気が触れたとでも思ったのだろうか…?いや、実際気が触れそうだった。

あんなに嫌がっていたライトをあっさりとこの町から離す事に成功したのだ。

これもバレンのアホのお陰か…。
先ほど、バレンの人間から船員二名が行方不明だと報告を受けたが、我々が一緒に船内を探すと提案すると、あっさり引いた。

多分我々に見られたくない物が船にあるのだろう…それに、船員がいなくなる何てことは日常茶飯事。
「ボルゾに食われた」この一言で片付くほど当たり前の様に行方不明になるのだ。
その殆どが言葉の通りボルゾに殺されるから…。

「副長そろそろ…」
524夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:11:42 ID:aLgioWvR

「あぁ…。」

団員が小屋から連れてきてくれた馬に股がり、町人達を見渡す。

助けられてきた人間を憎み、証拠も無いのに犯罪者扱い……ほとほと呆れる。

――ボルゾに襲われても他人に頼ることしかできない分際で――


(まぁ、それもこれで終わる…)

――これから私は町長の元へいき、バレン勲章の存在とライトの無罪を伝える。
その後、町の皆へも町長から報告させライトの無罪を伝えさせる。

ボルゾを排除しなくなった人間がいなくなると、この町がどうなるか――今まで呆けていたぶん、これからは自分の身は自分自身で守ってもらう。

「皆外門の前に集合させておけ!私も後からすぐ向かう!」

騎士団の皆を外門へ集めさせ、私は町長の家へと馬を走らせた。

ホーキンズを騙す形になってしまった事には多少罪悪感を感じるが、もう、この町にも来ることは無いだろう…。




最後に――何もしないで日常を過ごして来た事がどれだけ罪だったかをこの町の者達に教えてやる。
525夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/03/23(火) 22:14:39 ID:aLgioWvR
ありがとうございました。投下終了します。
これで夢の国は一つの区切りなので、次からは春春夏秋冬の方をメインに書いていきます。

あとすいません、投下しますって書き忘れました。
526名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 11:54:53 ID:O/dkD13R
>>525へ惜しみないGJを

どちらも毎回wktkすぎてたまらんw



さて、引き続き全裸待機しますかね…
527名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 22:04:25 ID:EKfgQb0k
>>525
面白いから俺は好きだけど、違う所で書いた方が良いんじゃねーの?
ここ人いなさすぎだろ。
違う所ならちゃんと見てくれる人もいるだろうし。
528名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 22:43:31 ID:5W9i7ldC
>>527
ROM専は多いと思うんだ
529名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 23:41:41 ID:I2csPX6+
毎日巡回してるがな? こことMCスレがおれのジャスティス。
530名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 00:15:49 ID:KaizMgI7
俺はめったにカキコしないけど見てるぜ
531名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 00:37:05 ID:qvkJNpWg
すいません、ROM専です。
見てますアピール!
532名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 00:44:20 ID:F0Ft1z86
6スレ目だぞ甘く見てはいかん
533名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 13:26:55 ID:G0IXONWH
両作品に惜しみなくGJを。




私も普段ROMだけど、いつも見に来てます。
534名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 15:29:06 ID:oAUNO46x
止めろ辞めろつまんねーよ
535名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 15:36:28 ID:25Hie6q0
>>534
んじゃ、見んなよカス。
536名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 20:17:49 ID:ZnxewPJH
>>534
気持ちは分かるがハッキリと言ってはいけない。俺も我慢してんだから
537名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 20:39:19 ID:rqn0L5xZ
我慢してるんなら息抜きに一生来るなよ。誰も我慢してまで見てほしいと思わねーだろ。
何も書けない癖に荒らす事だけはいっちょまえだな。
538名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 21:51:54 ID:Obe64miu
みんなこのスレに依存してるな。早く卒業しようぜ。
539名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 22:59:47 ID:ZnxewPJH
>>537
書いてから気づいたが、言葉が少なくて誤解させたようだね
俺の我慢の意味は好きな書き手の作品が来るまで我慢してるって意味なんだ
つまらないと思った作品は読まないよ。批判もしないし荒らしたりもしない。ただスルーするだけ

そんな風になんでもかんでも朝鮮野良犬みたく噛みついてるとスレ荒れるし荒らし扱いされるよ
540名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 23:06:58 ID:gCbSpqHu
あの流れじゃ「文句言うのを我慢してる」としか取れんな
まぁROMも良いけど、ROMって作者からしたら居ないのと同じだよなぁ
541名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 00:38:15 ID:7koT97jF
てゆうか平和にゆっくりとしたスレなんだらソッとしてほしい…。
542名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 07:29:00 ID:tuPuAVLk
単独の職人しか来ないスレだとその人を潰しさえすればスレごと潰せるからな
543名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 08:59:59 ID:VEJnPK4o
>>542
毎度ながら、そんな事しか楽しみが無いなんて、歪んだ人間も居たもんだと思うよな。
まあ、結局はスルーが一番なんだよね。
544名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 00:17:48 ID:2bAQBstF
でもスレが分類化しすぎな気もするんだよね
どこのアホかしらんが大量に分類スレ作ったやつなんだったんだろ・・・
545名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 11:47:03 ID:XydMZ7Wr
どす黒依存見てみたいな。
546名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 20:14:59 ID:Tr8Q1q8J
>>545
それってヤンデレでは?
547名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 20:52:42 ID:XydMZ7Wr
>>546
いや、腹黒い依存って言った方がいいのかな……ん〜、難しいね。
548名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 03:12:06 ID:BOy/kksv
奴隷属性持ちの女性が男性を何とかご主人様として目覚めてもらおうといろいろと画策する話とか
相手に依存を受け入れて貰うために相手を誘導したり追い詰めたりする陰謀策略大好きっ娘とか
自分を売り込むために他の女性を調教して自分とセットで抱き合わせ販売するとか

なんか違うなぁしっくりこない
依存はどうしても受身ってイメージがあるから、裏とはいえポジティブに動くイメージがある腹黒とは相性が悪いのが原因か
549名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 12:38:19 ID:3d4yiF/d
相手が自分から離れていかないように色々策略を謀るみたいな感じか?
550名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 14:59:40 ID:/aPvDlGy
相手を自分に依存させるように仕向けるとか。
551名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:09:02 ID:49pzn+08
男側がそれやるのならすごい見たいね。
552名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 00:58:28 ID:gMEeaUoy
どす黒依存をどすこい依存と読んでしまった。
553名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 01:39:19 ID:PRIyxxWX
このスレ初期の頃に、オチが実は女性は相撲取りに似ていたな作品があったなwww
554名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 16:32:19 ID:VJZeHUHb
>>330の続き
次から投下。
555『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/04/02(金) 16:34:57 ID:VJZeHUHb
13
「みつきぃ、みつきのオッパイで、きもちよく、してっ……おっきな、お胸でぇっ、ボクのチンコ気持ちよくしてぇっ!!」
 もぅ我慢できないんだ。このままだとオカシクなりそうなんだ!
 必死で訴えて、必死で訴えたけど、

「イ、ヤ、よっ♪」

 その必死さは1/3の純情な感情よりも伝わらない。
 美月はその場で床に手を着き、膝立ちから四つん這いに体制を変えて、更に目を細めて妖しく微笑む。
 ボクの顔を見上げて見つめて、フーっとチンコの裏側に熱い吐息を吹き掛ける。
「ふんん!? そん、なぁ……うぅっ、もっ、ヤあぁっ……せーしビュルビュルさせてよぉっ」
 今はそんな微かな刺激でも、身体が勝手に反応して振るえちゃう。
 けど、そんなんじゃいつまでもイケないし、中途半端に煽られて逆にツラい。
「じゃあ、約束してよサヤ? 私が言う事を復唱してくれるだけで良いから」
 ふく、しょう? 繰り返せばオッパイでしてくれるの?
 わからない。思考がまとまらない。舌が回らないのにぐるぐるぐるぐる世界は回る。
 ただただ、ただただ、美月の問いに頷くだけ。


「よろしいっ♪ いくよ? すぅぅっ……ボクは、毎朝おチンポをペロペロされて起きます」
「ボクは、ミツキにおチンポぺろぺろさせましゅ」


「外でも、学校でも、授業中でも、誰かに見られてても、どこでもペロペロさせます。イクまでヤメさせません」
「どこれも、ぺろぺろさせりゅ」


「オナニーはしません。オナホールは使いません。シたくなったら、美月の頭を掴んで腰を振ります」
「オナニ、はぁっ、ひません……ねぇ? もぅいいでしょ? イカせてよっ!!」
 ぐるぐる。喋ってるだけで、体力も気力も根こそぎ持ってかれる感じ。
 ぐるぐる。チンコの奥でスタンバイしてる精子達が、マダかマダかって中で暴れて痛い。
 ぐるぐる。手で三回くらいシコシコしてくれるだけで気持ち良くイケそうなのに、美月はそこで微笑んだまま。
 なんでっ!? ボク言ったよ! ちゃんと言ったよ!! なんでシてくれないのぉっ!!?
「ふふっ、泣いちゃって可愛い♪ 慌てないでサヤ……順序よく、ねっ?」
「うぅっ……じらさないでぇ、はやくオッパイでイカせてよぉっ」
 ヨダレだけじゃなくて、涙もながれてるのボク? きっと、酷い顔してるんだね。ミツキが、酷い事するからっ!!
 涙を流して、ヨダレを垂らして、それでも頑張ってお願いしてるのに、やっぱり彼女は動かない。目を細めて微笑んで、時折エッチなクチの中を広げて見せ付けるだけ。
「早くって言われても、私は着衣パイズリしてあげたいよ? でも経験がないから……どこにしてあげれば良いかわからないの」
 ウソばっかり。笑いを堪えてるじゃない? ボクのチンコを露出させて、オッパイをローションでグチュグチュにさせてるじゃない!?
556『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/04/02(金) 16:36:33 ID:VJZeHUHb
14
 奥底でグツグツせーしが煮え立ってる感覚。本当に爆発しちゃいそうで、爆発したらボク死んじゃう!
 翌朝のニュースで、『昨日、仙台市の少年が射精をさせてもらえずに死にました。なお、死因はチンポ爆発と思われ……』って大々的に放送されちゃうよ!!
 だから、だからっ、はやくぅっ!!

「ミツキのお胸でチンチンはさ……ふんん!!?」

 ボクの懇願を遮り、ひんやりとした柔肌がチンコの裏スジをなぞる。
 右手の人差し指で上から下へ、いたずらにカリ首を引っ掻いたりしながら、ナデナデ、カリカリ。
「ちんちん? コレが? そんな可愛らしい呼び方じゃないよねコレ? チンポ? ペニス? 肉棒? 太いし、硬いし、はあぁっ……おっきくて、血管浮き出てるし。私でも少し引いちゃったもん、グロいよね? グロちんだね♪♪」
 ボクのチンコを罵倒して、エッチな液で濡れてる先っちょを、くちゅくちゅと指先で押し潰すように弄る。
 中指でカリ首をカリカリして、人差し指で先っちょをクチュクチュ。
 くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅり。
「んんっ、みつきぃ……ひぐっ、ふっ、ふあぁぁっ!? ボクっ、もうイッ……ふぇっ? なんでっ、なんでっ!!?」

 イケない。本当に後少しのところで放された。
 離れた指先にはカウパーが糸を引いて付着し、美月はそれを心から美味しそうに舐め取ってる。
「レロっ、ちゅっ、ぢゅっ、ふふっ……おいしっ♪ 明日からコレが、私の朝ごはんになるんだね?」
「もぅ……ない。みつきな……いだ」
 その姿を眺め、マイナス温度で感情がクールダウンしてく。
 チンコは勃起したままだけど、ああ、美月はボクをイカせる気が無いんだなって思ったら、一気に醒めて涙も止まる。
「えっ? なんて言ったのサヤ?」
 お願いしたのに、何回もお願いしたのに、本気でお願いしてるって分かってた筈なのに、それでもイカせてくれなかった幼馴染み。
 手で良かったんだ。胸でなくても、手でシコシコしてくれたら、それで良かったんだよ。
 でも醒めた、冷めた。大好きだって思いも弾けて消えた。その変化を美月も感じ取ったのか、微笑みを捨てて身体を硬直させる。

「もう要らない。美月なんてイラナイ。ダイキライだっ!!」

 ボクの言葉に口をパクパクさせて、初めて睨まれて、小さく首を左右に振って、あ、あ、っと声にもならない声を吐き出す。
「あっ、えっと……そうだ。手でするね?」
「しなくていいよ気持ち悪いんでしょ? 無理しなくていいから」
 美月は拒絶されても構わずに手を伸ばすと、白濁のカウパーを漏らすチンコを握って擦り始める。
 チュク、チュク、チュク、チュク……
 唾液で濡れ、床に零れたローションを掬い、ボクの汁と合わせたモノを潤滑油にして上下に扱く。
557『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/04/02(金) 16:40:03 ID:VJZeHUHb
15
「砂耶のケイレンが、私の手に伝わってくるよ? 血管がビクビクゆってるよ? イキそうなんだよね?」
 根元から先っちょまでの、チンコ全体をカバーするストローク。
 擦り上げる時は触れるか触れないかの絶妙な力加減で、優しく、ゆっくり、擦り上げ、
 擦り下げる時はギュッと握り、形なりにユルい曲線を描きながら力強く下ろして挿入感を煽る。
「ふっ、んっ、ぜんぜん……きもちくないしっ!」
 スゴく気持ちいい。上手すぎるよっ。自分でするのと全く違う。冷めた筈の心はすぐに再点火。
 チンコを気持ちよくされただけで舞い踊る、なんて単純なボク。
「スキなのっ、サヤが大好きなのぉっ……私、一生サヤのおチンポしかいらないよ? このおチンポとしかエッチしないよ? サヤの赤ちゃんいっぱい産むんだもん!!」
 チュクチュク、にゅちにゅちにゅちにゅち、シコシコシコシコ……
 焦らし責めの繰り返しで塞き止められていたネバネバせーしが、管を押し拡げながら噴き上がって来るのを感じる。
 それに合わせて動かなかった背中がググッと反り、ブリッジでもするかのように腰を、チンコを、美月の顔へ突き出してしまう。
「ふあっ、ぁ、あ、あっ、あん! もっ、イッちゃう!! イッちゃうからぁっ!! 飲んでミツキ、ボクのぜんぶゴックンしてぇっ!!!」
 もうどうでも良いんだ。ボクがどうなっても、ミツキが戻れなくなっても。
 今は長い舌に巻き付かれ、トロけさせられながら、夢にまで見たクチの中で射精したい。
「ぅん、うん! がんばってペロペロするから、いっぱいイッて砂耶……ふぅっ、んっ、はむっ、ぢゅぷちゅっ♪♪」
 ミツキの淀んでいた表情が、これ以上ない笑顔に返り咲く。
 そして先っちょに軽くキスした後、あ〜んと口を大きく広げ、

 ジュプジュプぢゅぷぢゅぷ!!
 一気に根元まで咥え込んだ。
 奥の奥まで引き入れられ、ノドを通り越して食道にまで歓迎される超ディープスロート。
 中はアツくて、柔らかくて、ねっとりしてて、きゅきゅぅぅっ……って、精子ほしい精子ほしいって、気持ち良く締め付けて吸い上げて来る。
 コレは想像より遥かにスゴい。ボクのミシュラン5つ星ぃっ!!
「ぐっ、ふぎぃっ!? でるっ、でちゃうぅぅぅぅぅぅううう!!!」

 ビュルッ! びゅぐびゅっ!! ドプドプどぷどぷぅっ、ドクンドクンドクンドクン……

「ふんんんんんっ!!? んっ、んっ、んんっ、んくっ、んくっ、ふっ……ふぅぅっ、ふぅぅっ」
 美月はボクの顔を上目遣いで見つめながら、終わりを感じさせない射精を、大量の精液を、ノドを鳴らせて飲み下していく。
 勢いに負けて飲み切れなかった分が唇の隙間から逆流して溢れても、ボタボタと床に垂れ落ちてても、苦しそうな仕草は見せず、恍惚とした表情で咥え続ける。
558『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/04/02(金) 16:41:45 ID:VJZeHUHb
16
 頬を赤く染め、フーっ、フーっ、っと肩で荒く呼吸をするだけ。
 こんな献身的な姿を晒されたら、好きになるなと言うのが無理なわけで。
「あのね美月、あの……すきっ」
 そしたら無意識に、本当の想いを呟いてた。
「んむぅっ!? ぷふっ、ぷはああぁっ!! ゲホッ、ゲホッ、けふっ……」
「うわっ!? だ、だいじょうぶミツキ?」
 ズルリとチンコが引き抜かれ、美月は両手を重ねて咳き込む自分の口を塞ぐ。
 床にお尻を着いたアヒル座りで、咳をする度に指の間から精液がと零れ、なんだかとってもエロス。
「んっ……初めて、サヤから好きって言われた」
 瞳は潤んでウルウル、うるるん滞在記。
 でも待って、感動してくれるのは嬉しいんだけど、美月のセリフには喜べない。
 だってボク、今まで何回もスキだって言ったよ? 告白する時……は付き合ってくださいだけだったかな? だけど他にもたくさん、たくさん言ったはずだ。

 たとえば、例えば……アレっ?

 思い出せない。もしかして、言った事なかった?
「あのー、えーっと、んーっと、卒業してちゃんと付き合い始めたら、なるべく言うようにするよ」
 何となく恥ずかしくて、謝るのも変な気がするから、目標を掲げて誤魔化して、何となく先延ばしにする。
 今はこの雰囲気をもう少し、もう少しだけ、このままで居させて。
 そう想いを籠め、自分で自分を抱き締めて震える、大好きな幼馴染みにニッコリと微笑み掛けた。そんな想いは伝わらない。
「それじゃあ足りないのサヤ、満たされないの。好きって言われたら身体がキュンキュンして、切なくて、ペロペロしたくて、泣かせたくて、喘がせたくて、困らせたくて……」




 ──私は、砂耶をイジメたくて堪らないの。





続く。
559名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 16:42:55 ID:VJZeHUHb
今回はここまでです。
560名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 22:09:05 ID:aDJT4lIf
エロい乙
561名無しさん@ピンキー:2010/04/03(土) 09:24:20 ID:/hlUUuCt
これは良いGJ!!
562名無しさん@ピンキー:2010/04/03(土) 16:54:01 ID:SXEmvlOB
仙台市という言葉で余計GJ
563名無しさん@ピンキー:2010/04/03(土) 23:39:20 ID:2kg8DX/k
GJ!
仙台良いとこ一度はおいで。
特に七夕期間中は、電車とかバスとか浴衣の女の子でみっちりになるでよ。
564名無しさん@ピンキー:2010/04/04(日) 22:19:48 ID:LCv4/uGH
ほう・・・
565名無しさん@ピンキー:2010/04/06(火) 15:17:13 ID:tmrwQ8Mc
その時期の仙台はスリと痴漢冤罪の発生件数が北日本一だからなぁ
このリスクを負える猛者だけが逝くべきだな
566名無しさん@ピンキー:2010/04/06(火) 21:00:35 ID:cPfGBh7D
じゃあちょいと北上して、岩手盛岡のさんさ踊りはどうですか。
古風な花笠の踊り装束や煌びやかな創作衣装の踊り子達と、町に溢れる浴衣姿の女の子達は目の保養になりますよーっと。
567名無しさん@ピンキー:2010/04/07(水) 01:26:20 ID:fbRwsYek
岩手には依存娘が多いのか。
568名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 22:44:16 ID:MeH7Rorc
保守
無題を書いてた人の長編がもう一回読みたい。
まだここ見てるかな?時間がかかってもいいからお願いしたい
569名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 11:06:25 ID:AHMJl4cv
保守
570春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:01:17 ID:mfszTpY0
春春夏秋冬投下させてもらいます。
571春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:02:17 ID:mfszTpY0

「あぁ、もうすぐ家出るから…うん…うん…分かった。それじゃ。」

「…」
電話を終え、携帯をポケットに入れる。その行動を何も言わずにジーっと眺める春香。
別に機嫌が悪い訳では無い。電話が終わるのを待っていてくれたのだろう。
案の定、電話が終わると春香から話しかけてきた。

「それじゃ、夕方まで寂しく部屋でこもって待ってるねっ!」
満面の笑顔で嫌味を言いながら俺隣へと移動してくる。

「まぁ、何かあればメールでも電話でもすればいいよ。どうせカラオケとか少し買い物するだけだから。」
嫌味を軽く流し、時計を気にしながら忙しなく出掛ける支度をする。
しかし、それを春香は忙しなく邪魔をする…。

服を脱ごうとすれば、袖を下に引っ張り脱ぐ事を許さず、私服を出す為にクローゼットを開ければ、すかさず春香が閉める。靴下を履けばもう片っ方の靴下を俺から奪い取り春香が履く。

先ほどから30分ほどこのような意味の分からない事を繰り返しているのだ。

昨日、春香から許可を貰ったはずなのだが…。今朝春香から私も連れていけといきなり言い出したのだ。
その理由は分かっている。
572春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:03:07 ID:mfszTpY0
今日遊ぶ友達の中に極度のナンパ癖のある奴が混じっている事を今朝知られてしまったのだ。
前にそのナンパ癖のある友達に無理矢理ナンパに駆り出された事があるのだが、後々春香にバレてしまい一週間ほど顔から痣が消えなかった事がある。

そんな前科が俺とソイツにはあるので、今朝春香に遊ぶ連中のリストを伝えた瞬間、春香の中で考えが変わったのだろう。
俺は春香を連れていってもいいのだが、友達が「目の前でイチャイチャされたら、自殺するかもしれない。」と電話越しに殺気をみせたので連れていく事も難しいのだ。

――時計に目を向ける。
約束の時間まで後10分…駅前で待ち合わせなので10分もあれば遅刻しないと思うが、このままいけば間違いなく遅刻してしまう。

「わかった…それじゃ春香に何かプレゼントを買ってきてやるよ。」

「プレゼント?」
しがみつく春香を引き剥がし、ソファーに座らせた。
今考えた様な素振りを春香に見せたが、昨日から春香にプレゼントを買う事は決まっていたのだ。
驚かす為に黙っておこうと思ったけど、春香を納得させる為には仕方がない。

「あぁ、何か欲しいモノあるか?」

「う〜ん、欲しいモノかぁ〜。」
573春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:04:15 ID:mfszTpY0
考え込む様に天井を見上げる事数分…何かを思い出した様にいきなり立ち上がると、時計を気にする俺の前に歩み寄ってきた。

「それじゃ、あれ書いてよ。」

「あれ?」
春香が唐突に言う、「あれ」を考える。

「ほらっ、私とハルが付き合う時に見せたあれ!ハルの机の中に入ってるんでしょ?」
「あれ」があるであろう机を指差している。
その言葉を聞いて春香の言っている事がやっと分かった――。

春香の言う「あれ」と言うのは婚姻届けの事だろう。
付き合う時、ある程度春香が書く欄が埋まった婚姻届けを渡されて付き合う事になったのだが、俺はまだ書いていなかったっけ…。
今の歳では書く場所も限られていたので、机の引き出しに入れっぱなしだったのだが…。

「あぁ、分かった。壁紙見に行って帰ってきたら書くよ。」
別に嫌で書かなかった訳では無いので、快く春香の提案に頷いた。

「やったー!」
その言葉に春香は歓喜の声をあげ、徐に俺のベッドから枕に抱きつくと、フローリングの上をゴロゴロと転がりだした。

そんなに嬉しかったのだろうか?
574春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:05:33 ID:mfszTpY0
まぁ、婚姻届けに二人の名前が並ぶと「結婚」と言う二文字が現実味を帯びてくるかもしれないが、すぐに結婚できる訳でも無いのに書く意味があるのだろうか?
そんな野暮な事は春香の嬉しそうな顔を見たら言えなくなる…。


「あっ、でもこれは秋音ちゃんに言ったらダメだからね?」

「言える訳が無いだろ…。」
長女の秋音さんが最近婚約していた彼氏と別れてしまったのだ。
一度だけ秋音さんの彼氏を見た事があるが、普通に男前だった気がする。

大学を卒業したら結婚すると言っていたのだが、なぜ今になって別れてしまったのだろうか…?
秋音さんに理由を聞くと「他に好きな人がいるからよ。まぁ、彼女持ちだから無理なんだけどね…。」と悲しそうに呟いたのが強く印象的だった。

秋音さんの事だから半端な気持ちで結婚なんてできなかったのだろう…相手の彼氏は可哀想だと思うがしょうがない事だ。


「って、もうこんな時間だ…。」
時計を確認すると既に待ち合わせ時間を5分程過ぎてしまっている。

「んじゃ、もう行くわ…夕方にまたメールするから。」
財布を後ろポケットに押し込み、玄関へと向かう。同じように春香も後を追ってきた。
575春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:06:20 ID:mfszTpY0
玄関に着き、靴を履いていると、人の気配を感じリビングに目を向けた。
リビングの椅子に座り、此方を眺めている秋音さんと目があった。

数秒間視線を合わせた後、何故かニコッと笑い最後に此方へキスする仕草を見せたと思うと、奥の間へと消えていった。

「(なんだ今の?秋音さんなりの冗談か?あの秋音さんが……?)」

「こら、ハル聞いてるのッ!」
後ろに立つ春香が話を聞いていない俺の首根っこを掴みグラグラと揺らす。

「揺らすな、ちゃんと聞いてるって…。」

「いい?知らない人について行っちゃ駄目だからね?」

「はっ?……あ、あぁ…それじゃ、行ってくるよ。」
おちょくってるのか本気なのか……母親みたいに心配する春香の頭を軽く撫で、急いで家を後にした――。

愛くるしい笑顔の春香を目に焼き付けて……。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「あぁ〜、最悪だな…」
空を見上げ、憂鬱そうに隣で立つ友達が呟いた。
その声に対して此方も軽く頷く。
先ほどまであんなに晴れていたのに、カラオケを終え、店を出たらいつの間にか大粒の雨がアスファルトを叩いているのだ。
576春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:07:10 ID:mfszTpY0
周りに居る他の友達もめんどくさそうに携帯をいじっている。
迎えに親でも呼ぶのだろうか?
周りと同じように携帯をポケットから取り出す、別に迎えを呼ぶ為に携帯を取り出したのでは無い。春香に今日の夕方壁紙を見に行くと約束をしていたので、中止にするかメールで確かめるのだ。

春香に『雨降ってるけど、行くのか?』とメールを送り、ポケットに放り込むと、すぐにメールが返ってきた。

『行く!』
携帯を握り締めでもしていたのだろうか?
春香からの返信が一分もかかっていない。
それだけ楽しみにしていたのだろう……春香を置いて遊んでいるこの状況に少し罪悪感を感じる。

『それじゃ、今から駅まで来れるか?傘持って無いから、別に俺の傘を一つ持ってきてくれ。』
雨なんて降るとは思っていなかったので傘なんて持っていないのだ。

『OK!でも、傘は一つで問題ねーよね!』日本語かよく分からないが、言いたい事は良く分かる。
恋人がするあの恥ずかしい行動の事だろう…。
どうせ反論しても言うことを聞かないので『大きな傘でお願いな〜。』とバカップル丸出しのメールを春香へ送った。
なんだかんだ言って春香に甘えられるのが自分自身、嬉しいのだ。
577春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:08:05 ID:mfszTpY0
「なんだよ、今から赤部とデートか?」
春香からくるメールを待っていると、隣に立つ友達が俺の携帯を覗き見てきた。

「あぁ、そうだよ……って見るなよアホ。」
携帯を閉じ、ポケットに放り込む。

「俺も彼女欲しいなぁ〜。赤部は可愛いけど、赤部は春樹しか見えてないもんなぁ。」

「そうそう、春樹と赤部は二つで一つって感じだよね。」

「なぁ、春樹がトイレで教室からいなくなったら赤部が何してるか知ってるか?春樹が帰ってくるまでずっと捨てられた子犬みたいにドアから目を放さないんだぜ?あれは誰も声かけられねーよ。」

「ははっ、可愛いじゃん。」
周りにいた友達が次々と話に割り込んでくる。
コイツら何故か恋愛の話になるとやたら盛り上がるのだ。

皆が言うように、俺と春香は学校内で仲が良いと有名なので、よく知らない奴からも羨ましいと言われる事が多々ある。まぁ、嬉しい事なのでいいのだが少し恥ずかしい…。

「おいおい、お前ら何も分かってねーなぁ。」

「何がだよ?」
一人の友達がため息を吐きながら、話の輪に強引に割り込んできた。

「赤部は子犬なんて可愛らしい動物じゃねーよ。なぁ、春樹?」
578春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:08:54 ID:mfszTpY0
少しイラッときたが、コイツが言うように春香は子犬とは少し違う。
いや、寂しい時は本当に子犬と言った感じなのだが、怒らせると……まぁ、口では表せないほど怖い存在へと変貌するのだ。
目の当たりにしないと分からないが、本当に怖い…。

意味有りげに話すコイツもその春香の怖い部分に触れた一人なのだ。
まぁ、簡単に言うと朝に春香が俺を遊びに行かせたくない理由がコイツ…。
ナンパなんぞに付き合わされ、挙げ句のはてに春香にバレて鉄拳制裁。
勿論俺だけでは無く、俺を連れていったコイツも春香の餌食に…。

「俺も一回赤部に脛椎やられてるし……だから、赤部の機嫌を損ねない為にも春樹を早く赤部の元に返さないとマジでヤバイぞ?」
不安を煽る様にソイツが周りに言うと、皆の顔色も面白い様に変わっていった。

「まぁ、そういう事だから行くわ。」

「さ、さっさと帰れ!」
先ほどまであれだけ羨ましいだの、彼女ほしいだのほざいてたのに、いきなり俺を帰らせようとしだした。
まぁ、早く戻れるならそれにこした事は無い……数人の友からの罵倒や嫌味を背に受け、雨の中を一人で走って駅へと向かうことにした――。
579春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:09:35 ID:mfszTpY0
―――――
――――
―――
――


最寄り駅へ着くと、回りを見渡す事もせず携帯を取り出し春香へと電話した。

「もしもし?春香今何処にいるんだ?」

『今?コンビニの前だから、もうすぐ到着するよ〜。』

「おぉ、そうか…ってもう見えてるな。」
駅前の坂から春香が降りてくるのが視界に入ってきた。
春香も遠目に俺に気がついたのか、満面の笑みを浮かべて頭上で大きく手を振っている。

それに対して此方も小さく手を振り返す。

『あははっ、ハル恥ずかしいんでしょ?』

「当たり前だろ…恥ずかしいよ普通に。早く来てくれ…。」
雨とはいえ、この辺は人通りも多いのだ。
目立つような行動はあまりしたくない。

『はいはい、いきますよ〜。』
春香はそう言うが、まったく歩くスピードをあげようとしない。
電話を切れば走ってくるかも知れないが、機嫌が悪くなる可能性もあるのだ…。
仕方なく春香が来たくなる様な提案をしてみた。

「あと三分で来れたら、春香の願い事一つ聞いてやるよ――。」

『本当に!?』
遠目なので春香の表情は分かりづらいが、声を聞く限り春香自信はヤル気満々のようだ。

「はい、今からだからな。よ〜い、スタート!」
580春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:10:31 ID:mfszTpY0
『あっ、ずるい!』
電話越しに文句を言いながら、此方に走って降ってくる春香。
電話からは春香の吐息しか聞こえてこない――。

『はぁ、はぁ、はぁ。』

「はは、頑張れ〜。」
他人事の様に春香の姿を眺める。
ふと、周りに目を向けると殆どの人が春香の方に目を向けている事に気がついた。
全力疾走とまではいかないが、雨の中を女の子が走る姿が珍しいのだろう。
途端に恥ずかしくなり電話越しに春香に走る事を中断させる……と言っても春香はもう50メートル程先の交差点まで降って来ていた。

『はぁ、はぁ、駄目だからね!約束はちゃんと守ってよね!』

「分かった、分かった。」
しかし、三分まで…と言ったが多分春香は三分までこの場所にたどり着く事は出来ないだろう。
何故かと言うと、残念な事に交差点の赤信号に引っかかってしまっているのだ。
待ちきれないのかソワソワと左を見たり右を見たり忙しなく周りを見渡している。

「赤信号を無視すると願い事は一生叶わないですよ〜。」
念のために釘を刺す。

『分かってるって!無視なんかする訳ないじゃないっ!』
赤信号に苛立っているのか、信号機を睨み付けている。
581春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:11:07 ID:mfszTpY0
睨み付けても変わるものでは無いのだが…。

――「あれ?」

ふと、雨が止んでる事に意識を反らされた。
先ほどまであれほど降っていたのに…残念だがこれじゃあ傘は不必要になってしまう…。
まぁ、雨が降っていなくても曇りだし少しぐらいなら相合い傘で一緒に歩けるか…。


携帯を耳に当てたまま、空へと目線をあげる――。







キィィィィィィッ――――ドンッ!!――グシャッ!







………………………………………………………………えっ?


…………何の音だ?。

携帯から聞こえた音は何かが潰れた様な…。

もう片方の耳からは何かと何かがぶつかった音。

恐る恐る視線を空から春香のいる交差点へと目を向けた――。


「………………………………はる……か…?」
交差点に春香の姿は無い――。
なぜか交差点の白線上には黒の乗用車が一台不自然に停車しているだけ…。
その不自然さがより一層不安を掻き立てる。

「もし…もし…?」

『………』

「……はるか?」

『……』

「…」

『…』

携帯からは春香の声はしない…携帯から聞こえてくるのは知らない女性の悲鳴とノイズの様な機械音――。
582春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:11:53 ID:mfszTpY0
携帯を耳から放しても同じように知らない女性の悲鳴が響いている。

「きゅ、救急車ぁあぁあぁぁッ!」
知らない男性が携帯を取り出して何処かに電話をしている。

どこに?あぁ、誰か車にひかれたのか……ダレガ――?
改札窓口の扉から駅員数人が飛び出してきた。
ドンッと俺の肩にぶつかりながらも交差点の方へと走っていく。

俺もあそこに……あれ?
足が動か…な…。

再度携帯を耳に当て、春香の名前を何度も呼ぶ。

「春香?お前ふざけんなよ?なぁ、春香?春香…はる…」

『…』

……………………………………………………………行かなきゃ。

棒になった足を無理矢理動かし、交差点へと運ばせる。
交差点へ近づくにつれて、胸の痛みと頭痛が激しくなる。

それでも行かなきゃ……。

もうすでに交差点の周りには人だかりが出来ており、叫び声の様な悲鳴がそこらじゅうから聞こえてきた。
無理矢理に人混みを掻き分け、前へと進む。

そんなはずは無い!
だって俺と春香は約束したはずだ!
今日、壁紙を見に行くって!帰ってきたら婚姻届けを書いて……それで――。


「ハ――ル―」
583春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:12:21 ID:mfszTpY0

「ウソ…だ……あぁ、あぁあッ、は、春香ぁッ!!?」
この光景は多分一生涯忘れる事は無いだろう…。
黒い乗用車の下に最愛の女性――春香が下敷きになっていたのだ。
震える足で春香に駆け寄り、春香の顔を覗き込む。
顔は血で染まり、身体の半分は車の中へ巻き込まれ、弱々しく開く口は、何かをしきりに呟いている。





「ごめ――ね?」
「バカッ!すぐに救急車くるから!それまでッ…くそっ!」
我を忘れて乗用車を押し返そうとする…が所詮中学生の力ビクともしない。

「くそがぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!早く車どけてくれぇぇぇぇぇッ!」
俺の悲痛な叫び声に答えるわけでもなく、乗用車は動く気配を見せてくれない。

「やめなさい!今動かせば危ないかもしれないじゃないかッ!」
数人がかりで取り押さえられるが、その言葉を理解できる訳も無く、関係ない春香を苦しませるあの車を早く退かせてやりたかった。


――ハ―ル―


「ッ!?」

――ハル…。

取り押さえてくる人々を振り払い、春香の元へと駆け寄る。
584春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:13:10 ID:mfszTpY0

「大丈夫だからな!もっ、もうすぐ救急車もッくるからッ!」
春香に触れて良いのかもわからない…。
こんなに近くにいるのに……苦しんでる最愛の人を助けられない――。

「いた…いた……いょ…ハル……。」

「あぁ、痛いよな。でも、もうすぐ救急車くるからッ。」
血で染まる頬を涙が伝う。
春香の痛みが伝染したように身体中が痛くなる。

「大丈夫、大丈夫、絶対に大丈夫だッ!」
自分に言い聞かせる様に叫び続けた。
その間も春香は痛そうに表情を歪ませている。

「なんで救急車こないんだよッ!!」
救急車が来ているか人だかりの外を確認する為に立ち上がる――。




――い…ない……で…

震える手で俺のズボンを力無く掴む春香の手…弱々しいのに――まったく足が動かない。

「ッ!?……分かった、絶対に何処にも行かないから!ずっと一緒だって約束したもんな?なっ?」
我に返り、再度しゃがみこむと春香の手を両手で優しく握った。
しかし、春香の手が俺の手を握り返す事は無く、冷たくなる春香の手を温める為に両手で包み込む事しかできない…。

「なんだよこれ…なんでこんなことに…っ!」
585春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:13:46 ID:mfszTpY0

さっきまであれだけ元気に手を振っていたのに…なんでこんな事に。

「救急車来たぞッ!」
近くに居た男性が救急車が来た事を伝えてくれた。

「春香、救急車来たから!もう、もう大丈夫だ!」

「道をあけてくださいッ!」
二台の救急車が到着すると、担架を持った救急隊員らしき男性が二人車から降りてきた。
もう一つの救急車からも担架を持った男性が二人降りてくる。
なぜ二台も?と疑問に思ったが、車の運転席を見て状況を把握した。
運転していたであろう人物も車の中で大怪我を負っているようだ。
いや、今はそんなことどうでもいい。

「お願いします!助けてください!大切なッ大切な!」

「落ち着いてください!今から救急病院へ搬送しますから!まずは車の運転手を救急車に運べ!」

「なっ!?ふざけんなよ!なんで春香が先じゃねーんだよ!車にひかれた春香の方が優先されるのが普通だろ!!」

「車を退かせないとこの女の子は救急車に運ぶ事もできないんです!」
隊員の男性が俺の肩を掴み、車から強引に離れさせる。
隊員が言ってる事は正しいのだろう、しかしなぜ事故を起こした奴が先に救急車へ運ばれるのか…どうしようもない怒りが込み上げてきた。
586春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:14:31 ID:mfszTpY0

運転席から男性が担架に乗せられ救急車ね中へと運ばれていく。
運転手を乗せた救急車は、急いでサイレンを鳴らし元来た道を戻って行った。
病院へと向かうのだろう…。

「よし、早く車を退けるぞ!」
そうこうしている内に春香の上にある車が隊員によりゆっくりと移動していく。

「春香ッ!」
やっと春香の上から車が退けられ、久しぶりに春香の下半身が姿を表せる。
無惨に破れたスカートの隙間から赤い血がスカートを染めている…。
その姿を見た隊員が表情を険しくした。
その表情が不安を限界まで煽ってくる…。

「ゆっくりと担架にのせるぞ!せーのっ!」
隊員が地面から春香の身体が離れる時、バリッと何かが剥がれる様な音がした。
固まった血が春香の衣服に染み込み、アスファルトにへばりついていたのだろう。

春香を救急車へ乗せ、一刻も早く救急病院へと直行する。

「キミはこの子の家族?」
忙しなく春香を治療している隊員が俺に話しかけてきた。

「違います!春香大丈夫だからな!?」

「キミまだ中学生だよね?それじゃ、家族の方に電話して○○病院まで来てもらえる様に電話で伝えてくれる?」

「は、はい、分かりました!」
587春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:26:32 ID:mfszTpY0

隊員が言うようにポケットから慌てて携帯を取り出し、仕事中であろうお母さんへと電話した。

『はい、もしもし。』

「お母さん!春香が、春香がっ!」

『えっ、どうしたの!?ハル落ち着いて!春香がなに!?』

「春香が車にッy「携帯代わってもらえる?」
パニックを起こす俺の携帯を隊員の男性が横から取り上げ、俺の代わりにお母さんに事情を話しだした。
数分後、話が終わったのか、携帯を切り俺に渡してきた。

その携帯をイスの上に置き、春香の横へ移動する。
隊員から常に春香へ話しかけるよう言われたので、春香の耳元で春香に話しかけ続ける。
血で染まった手を握り締め、春香の名前を叫び続ける――。
こんな事で離ればなれになる訳がない。
いつも一緒だったんだ。これからもずっと――




「―ッ―ル―」

「な、なんだ春香っ!?」
小さな春香の口の動きを見逃さなかった俺は、素早く春香の口元に耳を近づけた。









――約束、守れなくてごめんね。




これが春香の最後の言葉だった。
588春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:27:28 ID:mfszTpY0
―――――――――――――――――――――――――病院に着く頃には春香は心肺停止状態になっており、お母さん達が病院に着いた時にはもう出来る限りの事は全て手を尽くされた後で、泣き崩れるお母さんの背中を眺める事しかできなかった。

俺の横から春香が居なくなる?有り得ない。だって、春香と約束したから――産まれた日も一緒だったんだから、天国に行く時も一緒だって。

春香のためなら願い事だっていくらでも叶える。
婚姻届けも何枚でも書いてやる。
壁紙だって隙間が無くなるぐらい色々な色で染める。
――でも、それは全部俺一人で出来る事じゃないんだ。
俺と春香は二人で一人なんだから…お前が居なくなると俺はどうすればいいんだよ?

なぁ、春香…。


「どうしてっ!どうして春香がッ!」
お母さんが俺に掴みかかる――。
夏美、冬子、秋音さん…皆が春香にしがみつき泣き叫んでいる。

なんで?

――春香が死んだから。

もう会えない?

――春香が死んだ。

誰が春香を?

――春香が。

あの時春香を急かしたのは?

「うわぁぁぁぁぁぁッ、春香を返してよぉぉぉーーーーーッ!!」





あぁ……俺が春香を殺したのか――。
589 ◆ou.3Y1vhqc :2010/04/17(土) 21:32:06 ID:mfszTpY0
ありがとうございました、過去の話はこれで終了です。

>>559
GJ!続きも頑張ってください。
590名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 00:48:40 ID:1mhIfVCt
うあああ面白い面白い面白い! GJです! 
591名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 02:19:39 ID:hUv6EOXv
gjgj
592名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 17:48:45 ID:fRqxKTO8
むしろここからが本番か……
593名無しさん@ピンキー:2010/04/19(月) 14:57:03 ID:hBTtp3ld
GJ
594名無しさん@ピンキー:2010/04/19(月) 23:09:27 ID:XElC8/Lz
続きが気になるぜ
595名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 01:48:09 ID:NcAAfO9t
商業作品ではあるが依存っぽいものを見つけたので紹介
good!アフタヌーンで連載されてる「こはるの日々」
単行本一巻が出て、ネットじゃヤンデレだというので買ってみた
あらすじや概要はwikipediaででも見てくれ
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%81%AF%E3%82%8B%E3%81%AE%E6%97%A5%E3%80%85

ヤンデレとも依存ともはっきりと断定できないが、
純粋無垢で行動力無限大な無自覚ストーカーのヒロインは個人的にヒットした
え?そんなヒロインは病んでるだろだって?うーん、心が病んでるというよりは、
恋の病で病んでいるというか、恋は盲目を極めているというか……
一種の精神病ではあるが、一般的な(包丁振り回しているような)ヤンデレとは
違う感じだったな。上手くいえないが
596名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 12:09:41 ID:gWuxgwkL
読んでみたいけど、依存では無いかもね。
てゆうかリコーダー舐めた時点でアウトー!でしょw
597名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 23:18:37 ID:fWE7pzpq
で、結局の所買いなのか?
598名無しさん@ピンキー:2010/04/24(土) 00:53:05 ID:u1XjpUI4
お前は買うか買わないかの判断でさえ他人に依存するのかw
599名無しさん@ピンキー:2010/04/25(日) 11:34:23 ID:xKavmtwo
過疎だねー
600名無しさん@ピンキー:2010/04/25(日) 12:24:00 ID:l0qOfi2O
過疎……か?
601名無しさん@ピンキー:2010/04/25(日) 21:10:01 ID:6b7Y4syf
過疎猫のスレ
602名無しさん@ピンキー:2010/04/29(木) 14:25:29 ID:kgM9twoc
次から
>>558の続き投下
603『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/04/29(木) 14:27:55 ID:kgM9twoc
17
 もう将来がどうなっても進むしかない。二人はハチミツより甘く、トロトロに溶けて行く。
 朝は美月のフェラチオで起こされ、慣れるどころかどんどん上手く気持ち良くなって、それが普通になって、オカシイとさえ思わなくなって。
 だけどそれでも、美月は物足りない顔をするようになる。ボクをもっと、美味しくしようとする。
 行為で、言葉で、シチュエーションで、興奮させて美味しくして、じゅるじゅる下品な音を立てて精液をすする。
 そう。こうなるのは時間の問題だったんだ。ボクの感情が高まれば高まる程、興奮すればする程、ボクの味は極上に近付くんだから……
 卒業するまでセックスはしない。そんな大切な約束も、美月の中では薄っぺらになって、ボクを興奮させる材料にしかならなくなった。
 そして今朝、チンコの気持ち良さで目覚めたら、何も見えない真っ暗闇。
 たぶんアイマスクで視界を消され、下半身だけ裸にされ、手足は大の字に伸ばされた状態で、手首と足首をロープか何かで縛られてベッドの脚と繋がれてる。
 多少は身体を揺すったりできるけど、それが限界。そうしたのは……

「ねぇっ、どっちに入ってるか当ててよサヤ? 正解だったらヤメてあげる」

 きゅきゅっ、きゅきゅぅぅぅっ、ってチンコを強気に締め上げる、とってもエッチな幼馴染み。ボクの初体験はレイプで、童貞はこうして美月に奪われた。
 初めての時はボクがリードするはずだったのに、胸に両手を着かれて押さえ付けられ、チンコを気持ち良い穴に閉じ込められ、パンパンと肉をぶつけて摩擦して、思いっきり腰を振られてる。
「ひぐぅっ!? おっ、ぉま……こ」
 限界まで説得したけど、美月の意志は曲げられない。だったらとこちらが折れて、恥ずかしいのを我慢して、オマンコとオシリ、運命の二択を決める。
 ゴムなんて付けて無いから、不正解なら中出しするまでヤメてくれないだろうから、それなら前だと言っとけば、前での射精は避けられるから。言った、けど……

「きこえな〜い♪♪ 早くしないとイカせちゃうよ? 朝勃ちチンポに中出しされちゃうよ? イヤだよね? ほらっ、だったら……ぎゅっぽぎゅっぽして精子を搾り取ろうとするイケない穴は、どっちか答えて?」

 それじゃあ美月は許してくれない。熱の籠った声で愉しそうにはしゃぎ、より一層に激しく腰を振り立てる。
 精子は出口を求めてグングン尿道を競り上がり、ボクのチンコは爆発寸前。このままじゃ、本当に膣内射精しそうだから……
「ぉま、んこ、おまんこ、オマンコ、おまんこおまんこおまんこおまんこおまんこぉぉぉぉぉおお!!!」
 できる限りの大声で、女性器の名称を連呼した。
 まだどちらかも分からない肉穴の中へ、ビュクビュクと信じられないぐらい大量の精子を吐き出して。




「んっ……」
 夢から覚めた。気付けば学校、教室、机に突っ伏し、開き始めた視線を前に向ければ、時計は授業終了五分前を指してる。
 そして、ふうぅっ。重い重い溜め息。見ていたのは今朝の、童貞を卒業した二時間前の出来事。
 お尻からは泡立った精液が溢れてるのに、それを拭おうともせず、チンコへしゃぶりついて一心不乱に残り汁を吸い上げる美月。凄くドキドキした。凄く、気持ち良かった。
 っ……やっぱりダメだ!! こんな事を続けてちゃ。早くなんとか、何とかしないと。本当に手遅れになる。
604『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/04/29(木) 14:28:55 ID:kgM9twoc
18
 この高校は全生徒数が千五百を超える県屈指のマンモス校。
 特徴は巨大な室内プールで、夏場には市民に一般開放される。そこまでに水泳が盛んで何人も競泳選手を排出している学校。体育授業の殆どが水泳なのが有名。
 年中温室の室内は、中央位置に10レーンも有る五十メートルプールと高い飛び込み台。その横には通常の二十五メートルプールと深さ五十センチ程の子供用プールが囲むように存在し、サウナルームやシャワールーム、だだっ広い更衣室まで完備されている。
 体育は三クラス合同で行われ、男女合わせて百二十の大人数。そして今日の授業内容は、月に一度の自由行動。サウナに入ろうが、子供用プールでプカプカ浮いてようが、文句の一つも言われない。
 そこでボクは二十五メートルプールに入り、適当に歩きながら顔だけを水面に出して辺りを見渡してた。
「ん〜〜っ、美月どこに行っちゃったんだろ?」
 特徴的な外見をしてるからすぐに見つかると思ったけど、幼馴染みの姿は全く見つけられない。
 メインプール以外は水泳キャップを被らなくて良いし、僅かに赤く色付く天然のロングヘアーは学年で唯一。髪が黒じゃない=美月だから、目を引く筈なんだけど。
「サウナに入っちゃったのかな?」
 どこにもいない。代わりに目を引くのは、プールサイドに座り、みんなと同じくスクール水着で、足だけを水につけてる女子生徒。
 去年までは男子生徒の人気を独占してたけど、今はそれも無くなった。
 何故なら、彼女は優しそうな瞳で自分のお腹を撫でてるから。まだ目立たずに痩せてるけど、どうやら妊娠しているらしい。相手……誰なんだろ?

「人には言えない相手なんじゃない?」

 ポニョンと、後頭部に柔らかな感触が当てられる。裸だったらボクの顔さえ挟めるぐらいの、大きな胸の感触。
「人には言えない? 例えば……援助交際してて、とか。奥さんが居る男の人の不倫相手、とか?」
「ううん。学校の先生とか、実の兄……とかよ、想像なんだけど。けどね砂耶? どうして彼女を見てたの? ねぇ……ぢゅっ、レロちゅ♪ どーひて?」
 声の主は両腕を後ろから抱き締める様にボクの前へ回し、耳元で小さく、どうして? と囁く。
 長い舌を伸ばして、耳の中までチロチロ舐め上げながら、心の隅に産まれた最低な想いを見透かして来る。
「ひゃん!? ちょっと美月……みんなにバレちゃうよぉっ」
 別に彼女を綺麗だとは思っても、好きだとは思わなかった。彼女に負けない素敵な幼馴染みがボクには居たから。
 だけどさっき彼女に目を止めたのは、妊娠してるって話しを聞いたからだ。
 人気が有って、誰からの告白も断っていた彼女。それが急に妊婦さんになったって事はつまり……セックスして、中出しされたって事。ちつ、ない、シャセイ。
「ちゅぴゅっ♪♪ ふふっ、わかるよサヤ? 砂耶わね? 膣内射精がしたいのよ、しかも危険日に。ねぇ……させてあげよっか? 砂耶ので彼女みたいになってあげよっか? お尻でシた時も凄く興奮してたもんね?」
 美月の手がボクの身体を撫でながら、ゆっくりと下りて行く。
 海パンの紐をほどき、ゆるめ、僅かに下げズラし、中から勃起したチンコを取り出して握り締める。
605『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/04/29(木) 14:30:03 ID:kgM9twoc
19
 少しは驚いたけど、抵抗はしない。
「あっ……」 
 たくさん人が居るのに、見つかっちゃうかも知れないのに、そう思うとドキドキして、美月のドキドキも伝わって来る。
 二人して落ちるとこまで落ちて、授業中なのに、バレたら停学させられちゃうのに、だからこそエッチな事がしたい。
「ふ〜ん、ヤメてって言わないんだ? それならちょっと早いけど、お昼ごはん貰っちゃうね?」
 すぅぅっと息を吸い込む音が聞こえ、静かに、静かに、沈んで行く。
 振り返っても美月は居ない。精液を求めるアリクイは今、水面下で好物のエサにしゃぶりついているのだから。
「ふぁ、ぁ、あ、あっ、ああっ……」

 じゅぷ、ぢゅぷっ、ちゅくちゅくちゅぐちゅむ、ちゅぢゅる!!

 ボクの前に回り、腰に抱き着き、ねっとりフェラでジュプジュプジュプジュプ。冷たい水と熱い口内、ダブルテイストでとっても気持ちいい。
 無意識に顔は天井を見上げ、ライトの光が眩しくて目を細める。途切れず響き渡るのは、無邪気にはしゃぐ同級生達の楽し気な声。
 みんなゴメンね、みんなが使うプールで、公共の場所で、ボク……精子だしちゃうからっ!!
 美月の動きはボクを快感に溺れさせるものでは無く、食事を得る為だけの強制的な搾取。長い舌をカリ首へピンポイントに巻き付け、ゾリゾリと擦りながら締め上げる、射精へ導く最後の一押し。
「いっ、ぷぐぷっ!!」
 イク瞬間、プールに顔を潜らせて声を殺すと、チンコを苦しそうな表情で咥える美月と視線が交差する。
 そりゃそうだ、息を止めてなくちゃならないんだから。でもそれでも、咥え込んだチンコは放さない。
 頬をすぼませてモゴモゴさせて、早くイッてと訴えかけてる。
 すごく、えっちぃよ……美月、ミツキっ、みつきぃぃぃぃぃっ!!

 びゅぎゅるるっ!!! ドクンドクンドクンドクン……

 今朝したばっかりなのに、とてつもない量の精液が美月の中へ流れて行く。
「ぷはぁっ、んっ……はあぁぁっ、だしちゃった」
 本当にゴメンみんな。ボクの精子入りプールで泳いでね。
「んぷっ、げほっ、けほっ! ふぅぅぅっ……ごちそうさま♪」
 目の前で浮上した幼馴染みはニッコリと笑い、息を整えながら赤い髪を掻き上げる。
 やっぱり苦しかったんだ? ボクを気持ち良くする為じゃなくて、ただ精液が欲しかっただけだとしても、苦しいのを我慢して舐めてくれたんだと思ったら、胸がキュンキュン。
 キュンキュンときめいたから、

「みつきっ!!」
「えっ!?」

 不意に美月の首へ腕を回して抱き着いて、そのまま水の中へと押し倒した。激しい水音に激しい水しぶきを上げて、千分の一の世界で二人は沈む。
 ゆっくり、ゆっくり、時間が止まっているかのような錯覚に満たされて、プールの底に落ちるまでゆっくりと、美月の唇を塞ぎながら二人で沈む。
 すき、好き、たくさんの好きがキスから伝わって来て、ボクも負けないくらい好き、すき、スキって送り返す。

 このまま、死んじゃっても良い、かな?
606『この世で最も華麗な彼氏』 ◆uC4PiS7dQ6 :2010/04/29(木) 14:33:13 ID:kgM9twoc
20
 でもやっぱり死にたくなかった。
 空から照らすのはまーるい太陽。気温はポカポカ陽気分で、誘われた生徒達は設置されてるベンチを久し振りに埋め尽くす。
 そこの一つ、午前最後の授業が終わり、二人は学校の屋上でベンチに座り、二人並んで昼ご飯を食べる。
「あのさっ、美月……もうしないから、機嫌なおしてよぉ」
 ボクは横目で隣をチラ見しながら、ゼリー飲料のチューブを咥えてボーっと空を眺めてる美月に何度も謝りながら。
 ちゅるちゅるちゅる……少しずつ減って行く十秒チャージの音を聞く。
「んっ? ん〜〜っ、機嫌わるくないよ? ただね、幸せだから……余韻に浸ってたの。あのまま砂耶と一緒なら、死んじゃっても良かったかなーってね」
 そして突然、七回目の謝罪でようやく返答してくれた。頬を染めて、ボクの頭を撫でて、無視してゴメンと優しく微笑む。
 嬉しくて、その言葉と笑顔が嬉しくて、ボクの頬っぺも弛んじゃう。気持ち悪い顔で笑ってるんだろーなー。
 だから今かなって思った。お願いするなら、心地好い空気が流れてる今だって。
「あのね美月? おクチでしてくれるのは良いんだけど、今朝みたいな事はもうヤメて欲しいんだ。ゴムだって着けてなかったし、今ならまだ約束は守られてると思うし、やっぱりエッチは卒業してか……」
 美月の両親との約束は守って、その上で美月とはきちんと交際したい。本気で考えてたけど、

「なにフザケた事を言ってるの?」
「ぷぎゅっ!?」

 ペチンと顔を両手で挟まれ、上を向かされ、鼻が触れ合うまで冷たい視線が近付く。
 さっきまで笑ってたのに、幸せだって言ってくれてたのに、一瞬で表情が消え、瞳から光が失せた。
「砂耶は好き。砂耶に好きって言われるだけでイケるぐらい好き。砂耶となら死んでもいいって言うのも嘘じゃない。だけどね? 『コレ』と『ソレ』とはイコールじゃないの」
「ふぇっ? へっ?」
 美月の想いが、本音が、直接に心へ届く。けど、好きだって言われたのに、ボクの好きな人から言われたのに、何故かあんまり嬉しくてない。
 それよりも妖しくて、恐くて、肩を押して引き離そうとしても、ボクの力じゃ動かない。
 妖しくて、恐くて、冷たくて、絡み付いて熱い瞳は、ボクを捕らえて放さない。
「泣かせたい、鳴かせたい、なかせたいなかせたいなかせたい……泣きながら出した精液が一番おいしいの」
 ああ、やっぱり。やっぱりあの時に求めちゃいけなかったんだ。ボクが我慢できずに求めたから可笑しくなっちゃったんだ。ボクが、おっぱいの誘惑にあっさり負けたから。
 っ、駄目だこのままじゃ!! 何とか、早く何とかしないとっ!!
「だからこれからも、困らせて、興奮させて、泣かせるよ? だって、もう……もう、砂耶なしじゃ生きて行けそうにないから」


 チュッ。


「んっ」
 キス、された。みんな見てるのに、たくさん視線を感じるのに、長い舌がボクのクチ深くまで入り込み、ペロペロとノドチンコを転がすように舐め上げる。
 ちょっと苦しいけど、嫌がったらもっと危険だとわかるから、されるがまま。
 ぢゅるっ、ちゅるっ、ちゅっ、レロちゅっ……
 明日から、明日からもっと強く意志を持つんだ!! どんなエッチな誘惑にも屈しない鋼鉄の意志を!!
「んぢゅっ、ぷっ、はあぁぁっ……ねぇ砂耶、帰りにデパート行こう? それでね、試着室の中で……ねっ? ドキドキしたいよね?」

 あした、から。
607名無しさん@ピンキー:2010/04/29(木) 14:33:52 ID:kgM9twoc
今回はここまでです。
608名無しさん@ピンキー:2010/04/29(木) 19:00:48 ID:Q1v1oDVr
GJ!
これはいいw
609sage:2010/04/30(金) 00:50:18 ID:kIZXFLfy
俺もドキドキしたい!!gj!!
610名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 17:31:21 ID:l3n1XDsh
ほし
611名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 17:43:52 ID:LmZofnxF
これは作者可哀想だな…。書く気が失せるのも無理は無い。
612名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 18:15:50 ID:DQv6ao/L
ドーナツ食べて思い出した
犬と猫の人、続きまだかなーwktk
613名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 18:48:07 ID:TqInNrPx
てst
614名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 18:49:20 ID:TqInNrPx
あ、書き込めた。
書き込めない間に作者さん達乙です。
615春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:50:43 ID:cjYc/gSj
春春夏秋冬投下しますね。
616春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:51:12 ID:cjYc/gSj

「美幸ちゃん泣き止んでくれないかな…?」

「ごめ、ヒッ…さい…土足で踏み込む様な事をっ…でもッ…ヒック…だって春樹先輩はっ…悪くないじゃッ、ヒック…うぅっ。」
困った様に苦笑いをした春樹先輩は、突然泣き出した私の頭を優しく撫でてくれている。

嬉しい反面物凄く苦しい…その手から春樹先輩の心の痛みが身体全体に染み込んでくるのだから…。

「まぁ、そう簡単な話じゃないんだよ…。」
そう呟き、ゆっくりと立ち上がる春樹先輩の目は悲しそうに色を失っていた。
しかし、何故春樹先輩はそこまで深い話を私にしてくれたのだろうか?
いや、私から春樹先輩に無理を言って聞き出したのだけど…。

「あの、春樹先輩…なんでその話を私に?」色々考えたあげく、モヤモヤするのは嫌なので春樹先輩に思い切って聞いてみる事にした。
こんな時にも私の悪い癖がでてしまうなんて…。

「んっ?なんでって…自分でもなんでか分からないけど……まぁ、春香ちゃんのお母さんを思う気持ちは誰も馬鹿にできないってことだよ。」

「えっ?」
ポカンとする私に春樹先輩は言葉を続ける。
「俺もね…春香の声が聞こえるんだよ。」
617春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:51:52 ID:cjYc/gSj
春樹先輩も…聞こえる?亡くなった大切な人の声が春樹先輩も聞こえる…。

「まぁ、そんなに日常茶飯事聞こえる訳じゃないんだけどね。春香の命日に墓に行くと…ね…。」
自虐的な笑みを浮かべ、頭を人差し指で掻き、気まずそうに目を背けた。

「だから、春香ちゃんがおかしいなんて思わないし、大切な人の声が聞こえるのは、それだけ強く心が繋がってるんだと思うんだ。」

「俺も春香が居なくなった時は酷かったよ?毎日春香の携帯に電話してたし、春香が起こしにくるまでベッドに潜り込んでた事もある。春香の部屋に行って『本当は春香隠れて騙してるんじゃねーの?』って部屋の中を何時間も探したり――。」

「……」
次々と話す春樹先輩の言葉に驚いて声もでなかった――。
いや、驚いたなんてモノじゃない。何故かと言うと、私も同じことを何度となく繰り返していたから…。
亡くなった後、お母さんを玄関の前で待ち、お母さんのベッドに潜り込んでお母さんが来てくれるのを願って待ち続けた。
春樹先輩は私と同じ気持ち――。
私と春樹先輩は同じ空間を共有できる唯一の人なのだ。
運命と言う言葉の他にピッタリとくる言葉は無いぐらい、私と春樹先輩の気持ちがシンクロする。
618春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:52:29 ID:cjYc/gSj

「まぁ、おじさんも春香ちゃんの事を思って俺に相談したんだと思うんだ…だからおじさんとも仲良くね?」

「はい、そうですね。お父さんにも酷いこといっぱい言っちゃったので、謝ります。」
私と同じ苦しみを知ってる人が近くに居る…それだけで私の心は先ほどの泥沼の様な濁りは嘘の様に一切無くなり、晴れ渡る空の様に清々しい気持ちになっていた。

「それじゃ、帰ろっか?おじさん待たせちゃったし。」
先ほどの自虐的な笑みとは違い、いつもの優しい春樹先輩の笑顔に戻っている。
その笑顔に頬が熱くなるのを感じたが、春樹先輩にバレ無い様に此方も笑顔で春樹先輩に笑いかける。
「はい、あのっ…春樹先輩……ここから家は近いので歩いて一緒に帰りませんか?」
もっと話したい事がある…謝りたい事も…聞いてほしい事も。

「んっ?俺は歩いて帰るつもりだったから大丈夫だけど…。」

「それじゃ、お父さんに先に帰ってもらうように伝えてきます!」
そう春樹先輩に伝えると、ベンチから立ち上がりお父さんが待っている、公園門まで雨で濡れた地面を滑らない様に急いで走った。

今日なら…今なら春樹先輩に言えるかも知れない。

春樹先輩に対する私の想いを――。
619春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:52:59 ID:cjYc/gSj

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

雨は憂鬱にさせると言うけど……本当にそうだと思う――。
まぁ、私を憂鬱にさせてるのは雨のせいではないのだけど…。

「……ムカつく。」
小さく呟く私の声は雨に消され、歩道を歩く人々は私の声に反応しない。
買い物袋を抱えたセーラー服姿の女子中学生がブツブツ呟くのはあまりよろしくない事は分かっているのだけど…。

――それじゃ、春樹先――輩も――

―美幸ちゃ――だって――だろ?

「……」
20メートルほど先を歩く、見知った男性と仲良く肩を並べて歩く女性の声が私の耳の中へと入ってくる。

別に仲良くしようが、私には関係無い…。
春くんとは別に恋愛関係になるつもりは無いし、春くんも私を一人の女性と見ていないだろう…少し悔しいが、しょうがない。
長い時間一緒にいすぎたのだ……それに関しては不満なんてこれっぽっちも無い。

ただ、意味が分からない感情で腹が立つだけ…。
間に割り込んで隣にいる女性…確か、美幸ちゃんだっけ……あの子を突き飛ばしてもいいのだけど、そんなことしても誰も喜ばないからやらない。
それぐらいの感情しか彼女には抱かない。
620春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:53:46 ID:cjYc/gSj
腹が立つのはあの子にじゃなくて、へらへらしている春くんに、だ。
何を笑いながら話しているのだろうか?
二人きりで居る所を見ると、春くんの事だからまたあの子に何か心配な出来事があったか、相談されたから慰めていた…そんな、ところだろう…。
春くんは少し強くても相手を拒否するべきだと思う。
優しくされれば勘違いをすると何度も春くんに警告をしてきたのに…。
春ちゃんが見たらどう思うか…春くんは鈍感なのだろうか?


「………(あれ、どうしたんだろう?)」
春くんの隣をゆっくりと歩く美幸ちゃんがその場にしゃがみ込んだ。

その行動に歩いていた春くんの足が止まる。勿論私も歩くのを辞める。

数秒後、同じように春くんもその場にしゃがみ込んだ。二人の傘が邪魔で何をしているか分からないが、何かを話しているようだ。

傘で顔を隠し、少しだけ近づき耳を澄ませる。




――大丈夫?

――はい、少し痛みますが、大丈夫です。

をどうやら足を痛めたようだ。
別に何も無い場所なのだけど……もしかして、あの子心配してもらう為にわざとしてるんじゃ……。




「……チッ」

苛立ちが増してきた……。
621春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:54:20 ID:cjYc/gSj
このまま立ち止まっていても歩行者の邪魔になるだけなので、春くんに声をかける為に歩み寄ることにした。

隠れて後ろを追う様な真似をする必要なんて無い…。それに、買い物袋も食材の重さで指に食い込んで、痺れてきた。

「はぁ……(ついでに家まで春くんに買い物袋を持ってもらえばいっか。)」

人混みを避け、春くんへと近寄って行く。






「春くんこんなとy「歩けないみたいだね……しょうがないから背中に乗ってくれる?家まで運ぶから。」

「えぇっ!?あ、あの…えっと……はい…お願いします…。」







…………………………………………なにしてるの?

「ははっ、美幸ちゃん軽いね。」

「そ、そうですか?すいません、ご迷惑を…。」

――春く――待―。

「それじゃ、帰ろっか。」

「はいっ。」

雨の音にかき消された私の声は、春くんの耳には届かず、立ち尽くす私からどんどん離れていく。
私の事など初めから知らない他人の様に――。





「……」
遠ざかる春くんの背中……その背中には私では無く違う人――。





――嘘つき。

傘や買い物袋を地面に落としたのも拾わず、自然と春くんを追いかける。
622春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:54:46 ID:cjYc/gSj
後ろから歩行者が何かを話しかけてきたが、何を言ってるのか聞こえなかった――。
雨のせいで聞こえなかったのでは無い。

雨の音も聞こえないのだ――。



ただ、私の中にある何かが、弾けて壊れた音だけはハッキリと聞こえた…。



「裏切り者…めちゃくちゃにした癖に…許さない…絶対に許せない……春くんだけは絶対に――ッ。」

――――――
―――――
――――
―――
――



「雨、全然止まないね?」

「そうですね…。たしか夕方から晴れるって天気予報で聞いた気がするんですけど。」

足を挫いた美幸ちゃんを背負い、人混みの中を歩く…思ったより疲れるものだ。
それに、一本の傘を二人でさしているので、肩が雨に濡れている。美幸ちゃんも気を使って濡れない様に傘の位置を頭上で色々変えているけど、小さな傘に二人入っているのだから仕方ない。


「でも、私嬉しいです…。」
背負っている美幸ちゃんが唐突に耳元で呟いた。
恥ずかしいことに美幸ちゃんの息が耳にあたり、顔が赤くなるほどドキッとしてしまった。

「なにが嬉しいの?」
平然を装い、美幸ちゃんに問いかける。
623春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:55:18 ID:cjYc/gSj

「だって、春樹先輩におんぶしてもらってるんですよ?なんだか…その…特別な存在…に…」

「んっ、なに?」
雨の音が混じり、よく聞こえなかった。

「なっ!なんでもねで、な、ないだッ、です!!」
慌てた様に言葉を噛み倒すと、はわわっと可愛らしい声をあげて背中に顔を埋めてしまった。
こういうのを「萌え」と言うのだろうか?

「ふぅ〜、後もう少しだね。」

「すいません…本当に…。」

「んっ?あぁ、美幸ちゃんは軽いから全然大丈夫だよ?夏美と比べたら軽い軽い。美幸ちゃんは冬子と同じぐらいかな?」
夏美が太っている訳では無いのだが、(逆にスタイルは良いほう。)やはり冬子や美幸ちゃんと比べたら重く感じてしまう。
まぁ、本人の前で言ったら何するか分からないから言わないけど…。

そんな事を考えながら歩いていると、突然、携帯の着信音らしき音が聞こえてきた。

自分の携帯かと思い、美幸ちゃんを落とさない様にポケットに手を突っ込んで取り出す。

「あ、私だ…。」
俺ではなく美幸ちゃんの携帯だったらしい。再度携帯をポケットに押し込み歩きだす。

「メール?誰からだろ……え……冬子ちゃん?」


「はっ?冬子?」
624春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:55:46 ID:cjYc/gSj

美幸ちゃんのメールの相手が冬子?
美幸ちゃんと冬子ってメールするほど仲良かったのか?

「初めてメールもらいました……すいません…一度降ろしてもらっていいですか?」

「んっ、ちょっと待ってね。」
大きな交差点に差し掛かっていたので、仕方なく後ろに下がり歩行者信号のある場所まで戻る。

「はい、降ろすね。」

「ありがとうございます。」
そう言うと、背中から心地よい重みがスッと消えていった。

美幸ちゃんから傘を預かり、美幸ちゃんが濡れない様に頭上へと差し出す。
美幸ちゃんは片手で携帯をいじれないようだ。
両手で携帯を掴み、必死にメールを確認している。

それにしても、冬子から美幸ちゃんにメールなんて……冬子からメールがきたのは初めてと美幸ちゃんは言っていたのだが…冬子が美幸ちゃんに何の用事なのだろうか?
さすがに他人の携帯を覗き込むなんて事は出来ないので美幸ちゃんがメールを確認し終わるまで待つことにする。
625春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:56:18 ID:cjYc/gSj


――「あれっ?」
知らない間に傘を叩く雨水の音が聞こえなくなっていた。
傘を横にずらして空を見上げる。

「おぉ、晴れてきた。」
美幸ちゃんが見た、天気予報は当たったようだ。雲の切れ目から太陽の光がカーテンの様に射し込んでいる。




「えっ、どういう意味…。」

「どうしたの?」

「いや、冬子ちゃんのメール…。」

美幸ちゃんから携帯を預かり画面を見る。


『返せ』

返せ?意味が分からない。

「美幸ちゃんが冬子に何かを借りたってこと?」

「えっ?私は何も…」
じゃあ間違いメールか。
冬子の間違いメールだから気にしなくていいよと美幸ちゃんに伝え、携帯を返す。

「んっ?今度は俺だ……」
何かを見計らった様に今度は俺の携帯が鳴る。
メールでは無く、着信。
相手は冬子だ。


「もしもし?冬子、どうかしたのか?」








「嘘つき」
626春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:56:54 ID:cjYc/gSj





――ドンッ



何かに背中を押され、身体が前へ押し出された。
段差に足を取られ、白線上へと倒れる。
思考が追いつかず、倒れたままその場に硬直していると、後ろから美幸ちゃんの悲鳴に近い叫び声が聞こえた。

「ッ!?」
その瞬間、横からゴツンッ!!と強い衝撃が身体を襲い、空中へと身体が投げ出される。
数秒後、ドンッと頭から勢いよく地面へ叩きつけられた。

「がはッ!!!」
身体全体に激痛が走り、叫び声を挙げそうになるが、肋骨が折れたのか声が出なかった。

耳鳴りが酷く、視界もボヤけている。

「ぅあ…(痛いッ!…いったい何がッ…」
身体はまったく動かない、自分が冷たいアスファルトの上に寝転がっている…それだけしか分からない。

微かに動く首を横にずらして状況を確認しようとする。

歩道側にいる人々が悲鳴をあげて慌ただしく何かをしている。


歩道?
じゃあ、今倒れている場所は…。

(……車にひかれた…のか?)
どうりで…この光景を見たことがあると思った。

「いやぁあッ――輩ッ!」
美幸ち――の声が聞―える…。

先輩なのに心配――てる…せめて―笑わ――いと…。
627春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:57:21 ID:cjYc/gSj
「はっ…はは…あっぁいッ…がぁぁあッうぁぁッッ…!」
痛みが笑うことを拒んでいる…。

「だれ――!春――先輩―助け――」

「大丈ッ…だ…美ッ…幸ち…ゃん…」

「春樹先輩ッ!もうすッ――ッ!―――!!―」
何か美幸ちゃんが叫んでいる…
それに周りの人達も同じ方向に大きく手をあげ、必死に何かを止めようとしているようだ。



(あっ…ダメ…だ…)
意識が朦朧とする中、ボヤけて瞳に写る光景は、真っ白い光が此方に勢いよく向かってくる光景――。

「いやぁあぁぁあぁぁぁぁッ!!止まってぇぇえぇぇぇえええッ!!!!」





―――グシャッ!!!

それが車のヘッドラインだと気がついた時にはもうすでに遅く、二回目の強い衝撃は俺の意識を脆くも奪い去っていった――。
628春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:58:17 ID:cjYc/gSj

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「ハルは、ハルは大丈夫なんですかッ!?」

「全力は尽くします…。」
そう言うと、白衣を着た男性は手術室の中へと入って行った。

「待ってくださいッ!そ、そんなッ!全力っ…て…」

「お、お母さん!?」
その場にへたり込んだお母さんを慌てて抱き上げ、休憩できる個室まで看護師と一緒に連れていく。

ベッドに寝かせたが、目はどこか虚ろで、春の名前を仕切りに呟いている。

「…」
私だって電話で春が車にひかれたと聞いたとき、目の前が真っ暗になった。
身体が動かず、携帯を握り締めたまま、血の気がひいていく感覚だけが身体を支配した。

それでも無理矢理身体を動かして、病院にたどり着いた。
私が来た時にはお母さんも夏美も来ていた。

何故か、山下 美幸も来ていたのだが、話を聞くと山下が一緒にいる時に車にひかれたそうだ。
その話を聞いた瞬間、夏美が見たことも無い様な形相で山下に掴み掛かった。
何とか看護師合わせて四人がかりで夏美を山下から剥がして個室に連れていこうとしたのだが、春兄の側から離れない!と近くにあったベンチにしがみつき離れようとしないのだ。
629春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:58:51 ID:cjYc/gSj
泣きわめく夏美をなんとか落ち着かせ、山下に事情を聞くと、車に轢かれた原因は春が後ろから誰かに突き飛ばされたからだそうだ。

「いったい誰が…。」
突き飛ばした相手に殺意に近い感情がふつふつと沸き上がってきたが、感情むき出しで行動すれば間違いなく、みんなパニックを起こす。私がしっかりしないと…。

「先輩…春樹先輩…春樹先輩…」
山下には他に聞きたい事があるのだけど、身体の震えが止まらないらしく、涙を流しきった目を赤くしながら立ち尽くしている。

絶望――言葉にすればこの一言。
私は見ていないのだが、先回りした夏美が病院に運ばれてきた春を見たらしく「見た時、春兄かわからなかった」と言うほどだからかなり危ない状態なのだろう…。

医者が言うには長い手術になるそうなのだが…。


「一度、家に帰ってみんなの服を取りに帰らないと…」
多分みんな家に帰る事を拒むだろう…無論私もこの場所に残りたい。春の側にいたい。
しかし、冬子はこの事態を知らないのだ。
家に帰って冬子に事情を話さなければ…。


――「私が家に戻るわ…」
休憩していたお母さんが個室の扉から出てきた。

「お母さん……体は大丈夫なの?」
630春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:59:18 ID:cjYc/gSj
体の体調が良くなったのだろうか?
顔色は悪いままだけど……。

「えぇ、一度家に帰って冬子も連れてくるわ…ハルのお父さんにも連絡しなきゃいけないし。」
椅子に置いてあるカバンを雑に掴むと、そのまま玄関へと一人歩いていった。


「……春…」
長椅子に腰を掛け、扉上にある、赤く光る手術中の文字を眺める。

――今、春は生死をさ迷っている。
二回も車に轢かれたのだ…。
小さな怪我では無い事ぐらい容易に想像がつく。

「大丈夫…大丈夫…大丈夫に決まってる…」
春香と同じになる訳が無い。
春はこれからずっと長生きするのだ。
生きて、生きて、生きて、生きて、生きて……色々な物を見てもらわないと…。

「うぅっ…はる…お願いッ…私の前から居なくならないで…」
私の声が春に届く事を願い、祈りを込める。

しかし、頭に浮かぶのは悪い想像だけ……春が春香と一緒に遠くに行く―――私の胸を包む不安は膨らんでいく一方だった。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

悪くない……私は絶対に悪くない。

春くんが私達から離れようとしたから…だから仕方がなかった――。
631春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 21:59:48 ID:cjYc/gSj
約束したのに――春くんの背中は私しか――。

「約束したのにっ!!!」
誰もいないリビングで大声を張り上げる。
響き渡る自分の声にキーンと耳が痛くなった。

「だって、春くんはッ春くんは私のお兄ちゃんになるって!それなのにっ!!!」
情緒不安定になる私の独り言は誰も聞いてくれない。
だって誰もいないのだから――。

「春くんもッ春ちゃんもッ!勝手に私の前から―なる――にッ!!」

もう、家族にはなれない。
春くんも絶対に怒ったはず。

「あは、あはははッははッ」
もう春くんとは家族になれない――お母さんを笑わせられない――

「あぁあぁぁぁあぁぁぁぁッッ!!!」
近くにある物を片っ端から壊していく。

春くんがいつも座る椅子――お母さんが大切にしていた湯飲み。夏美ちゃんが作った木の時計。
春香ちゃんが選んだカーテン。
全部――全部――全部!!!


「冬子やめなさい!」
後ろから覆い被さる様に誰かが私を止めに入る。
暴れたりない私は後ろにいる人物に肘を打ち付け、その場から逃れる。
632春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 22:00:24 ID:cjYc/gSj
「えっ……お母さん?」

「うぅ……どうしたの冬子?」

殴った?私はお母さんを殴った?
大切なお母さん――を――

「お、お母さんっ!?」
慌てて倒れているお母さんに駆け寄る。
私が投げた花瓶の破片で腕を切ったのだろつ…腕から血が流れている。

「ごめんなさい!お母さんって知らなっ――!」

「大丈夫だから、落ち着きなさい!」
パニックを起こす私を優しく抱き締める。

「何があったか知らないけど…今はそれどころじゃないの!ハルが車に轢かれて重体で病院に運ばれたの!」

春くん……。

「あの……お母さん…」
言わなきゃ…お母さんに言わなきゃ…。

「今からハルの所に行くから用意しなさい!」

「あ、あの、お母さん!」

「え?な、なに?」
私の声のでかさに驚いたお母さんがビクッと肩を竦める。

「あの…私が春くんをy『プルルルルルルッ』
私の言葉を遮る様に電話の音が鳴り響く。


「……ちょっと待ってて…。」
何を言うのか分かったのだろうか?お母さんの顔が一瞬険しくなった。

私の横をすり抜け、子機がある棚まで歩いていく。

「…はい、もしもし」
一呼吸置き、電話にでる。
633春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 22:09:09 ID:cjYc/gSj

――「はい…私ですが?はい……えっ?……意味が分か………いえ…すぐに向かいます…それ…では。」
震える手で子機を戻し、お母さんが私に向き直る。

「お母さ…」

「…」
その目は完全に生色を失っていた。
この瞬間私は取り返しのつかない事をしたのだと、やっと気がついた。
あの暖かい日常も――優しいお母さんの笑顔も――大きな春くんの背中も――私はすべて潰した――一時の嫉妬で未来を自分で壊したのだ。

「支度をしなさい…………病院に行った後…警察に行くから。」
あれだけ大切にしていた温もり――今ではもう、思い出す事すらできなかった。



「……はい。」




――その夜、私の大切な家族は一筋の涙を流した後、静かに息を引き取った――
634 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 22:14:24 ID:cjYc/gSj
ありがとうございました、投下終了します。

>>607
超GJです!。
楽しみにしてますので頑張ってください。
635 ◆ou.3Y1vhqc :2010/05/05(水) 22:47:16 ID:cjYc/gSj
>>627に書かれている最後の部分。

>車のヘッドラインだと気がついた時にはもうすでに遅く、ではなく

車のヘッドライトだと気がついた時にはもうすでに遅く。です。

すいませんでした。
636名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 23:09:41 ID:cjYc/gSj
名前間違いまくり…

>>616
「んっ?なんでって…自分でもなんでか分からないけど……まぁ、春香ちゃんのお母さんを思う気持ちは誰も馬鹿にできないってことだよ。」

>>617
「だから、春香ちゃんがおかしいなんて思わないし、大切な人の声が聞こえるのは、それだけ強く心が繋がってるんだと思うんだ。」

>>618
「まぁ、おじさんも春香ちゃんの事を思って俺に相談したんだと思うんだ…だからおじさんとも仲良くね?」




これに書かれている「春香ちゃん」を「美幸ちゃん」に変換して読んでください。
本当に申し訳ないです。
637名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 23:18:42 ID:b/DCbd5s
一番槍GJ
やはり冬子が爆弾だったか…
赤部家の誰ともくっついてほしくはないと思ってたが…こうなるとはね
春樹はあの世で幸せになるといいよ、あの世があるならだけど

後はとにかく救いようの無い結末を望む次第(美幸ちゃん除く
638名無しさん@ピンキー:2010/05/06(木) 04:27:40 ID:0pdZcpOC
投稿乙


何もハルを殺さなくても・・・
最初の頃からずっと思ってるけど冬子救い様の無い糞野郎だな。
639名無しさん@ピンキー:2010/05/06(木) 11:55:30 ID:8hhOrW9R
なんという事だ……
完全に家庭崩壊か?
640名無しさん@ピンキー:2010/05/06(木) 13:53:40 ID:XgRs2qMr
何かエロ無しのまま終わりそうだなぁ…無いなら無いでも俺は満足だが
かといって死人が生き返りましたとかいう超展開でも困るし
作品2本進めてるから片方終わらせようと急ぎすぎた結果じゃないよな?
641名無しさん@ピンキー:2010/05/06(木) 15:09:47 ID:16Zhp3aK
この作者キモウトスレでは滅茶苦茶エロいの書いてるのにw
642名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 00:09:50 ID:jahmgQer
作者さんGJ!
643名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 18:47:21 ID:Xy38CHXF
ちょ、これどうなるんだよ…
644名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 19:46:27 ID:SPFjxOQG
し、主役が死んだ…だと…!?
645名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 20:08:12 ID:2heJOPqU
>>640
もう25話もいってるんだ…十分だろ
そろそろ最終回かな?
646名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 03:53:23 ID:u0sGmBsh
待て、まだ慌てるような時間じゃない。
…死んだのが春樹だとは、一言も書かれていない
647名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 04:42:45 ID:exGyoP/i
ある 特殊
648名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 04:43:10 ID:exGyoP/i
派手 主役
649名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 05:14:17 ID:IA0H6zV7
帰マン一話な展開にでも、ならない限り生存出来ないわな…。

…ハルはこれから、幽霊化か?
650名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 07:04:50 ID:iQHow32G
>>648
いろんなスレ回りやがって、死ねや。
651名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 09:14:40 ID:BORmY33N
gj 面白かった。
652名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 11:07:07 ID:UlNYeCfa
なんだ結局BAD ENDに逃げるのかつまらん。

ちょい依存のSSで理想郷に「援交処女とサラリーマン」という
のがあった。
序章は寝取られから始まるんだけどね。
653名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 12:12:59 ID:exR2+HQN
つまらんとか言うなよ
654名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 13:20:48 ID:xT8s8Kx9
きっと実生活でまともな人間関係も築けてない可哀想な人なんだよ

人を思いやることができないってのは、往々にしてそういうことになる
655名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 13:32:51 ID:K3ZuQ/IA
>>652
なにをもって結局って言ってるの?
何度もBAD END引き込んでるみたいに書いてるけど。

あとそんな情報どうでもいい。
656名無しさん@ピンキー:2010/05/10(月) 00:48:49 ID:PKYv/FoH
このスレは依存がメインなんだよ
なくなって気づく大切さってあるじゃん
主人公が死ぬことよって更なる依存につながるのかもしれん

それとエロがないとか、ハッピーエンドじゃないとか
自分の予想していた展開と違うからって文句いうのはよくない
657名無しさん@ピンキー:2010/05/10(月) 14:12:49 ID:Ng40h9II
まあ…このまま生かしといても誰とも幸せになれそうにないからこれで正解なのかもね
あとほんのちょっとでも「春香が死んで良かった」と思ってそうな奴…
例えば春香が死んだら私が春樹と…とか考えた奴は逝ってよし
658名無しさん@ピンキー:2010/05/11(火) 05:41:37 ID:QmJIOfJO
冬子の頭の悪さはもはや奇跡
659名無しさん@ピンキー:2010/05/11(火) 09:52:02 ID:oMRq5PMj
視野狭窄状態に頭いいも悪いもないだろうが……

ともあれ依存してたものを失った赤部家が次に何を依存するのかが気になるな
660名無しさん@ピンキー:2010/05/11(火) 12:57:19 ID:RnWLmdRb
>>641
見てきたけど、エロい通り越して変態になってたw
でもあれを此方のスレでも活用してくれると有り難いな。
661名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 16:22:55 ID:aVHEuawT
テスト
662名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 16:25:26 ID:aVHEuawT
ようやく戻れたか。お前らただいま。
東方二次でSM色強い作品だが…依存っぽいというか心情書かれていたり
展開はベタだけど好みの張るわ。
ttp://yotogi.com/yotogi/?mode=read&key=1231265024&log=9
続きは 衣玖×天子タグから探せるはず。
663名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 20:54:12 ID:W/4VmO4f
マジで規制のせいで、このスレ……というか2ch終わるなー

p2の書き込みモリタポ値上とかいい加減にしろ
664名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 01:34:25 ID:Xa8GNM6v
一時間程度で考えたから内容微妙だけど投下するよ
665名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 01:34:54 ID:Xa8GNM6v
「本当に恭介は私が居ないと駄目なんだから」
得意そうな顔で俺に言っていた優香の顔を思い浮かぶ。
当の本人は涙をにじませながら必死で俺のモノをしゃぶり続けている。
初めての経験である以上、仕方ないがただ口の中に含むだけのつまらないフェラチオ
だが、それでも当人は本気でやっているらしく、たまにモノをほおばりながら「気持いい?」と聞いてくる。
俺は少し間を空けて、
「ああ……気持いいよ」とだけ答えてやった。それだけで頭の回る優香はそれが嘘だと
気づき、さらに努力するが、頑張ろうとすればするほどモノが優香の歯に当たり鈍い痛みとなって俺の顔をゆがませる。
その後、たっぷり15分間程やらせてやったが当然のことながら射精には至らず、わざとため息をつきながら彼女の口からモノを抜く。
「ご、ごめんね……下手で」
顔を俯かせながら、ためらいがちに言うその姿だけで射精してしまいそうになるのを耐えて俺は優しく彼女の頬を撫でてやる。
「大丈夫だよ。初めてだからしょうがないさ、優香は演劇だけ勉強してきたんだからな」
彼女の大きな瞳が動いて潤んでいく。 あえて傷口を優しく痛めつけるこの瞬間。
俺は我慢出来ずパンツの中で射精した。 
666名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 01:36:36 ID:Xa8GNM6v
俺、近藤恭介と瀬能優香は幼馴染だ。 幼、小、中とおよそ十年間一緒に過ごしている。
人見知りだった俺に対して優香は物怖じせず友達も多かった。
幼稚園、小学校のころは良かった。俺は優香の後ろに常に居て彼女のオコボレに預かるように遊び
、孤立することは無かった。
俺がモジモジと情けなく黙っていると彼女がすぐに来て『本当に恭介は私が居ないと駄目なんだから』と言って
手を引っ張っていってくれる。
だから彼女が中学生になって演劇部に入ると聞いたときに俺も迷わずに入部した。
優香は天性の女優だった。 演劇部に入るとすぐに持ち前のリーダーシップと人当たりのよさであっという間に
部の中心人物になっていく。市がやっている演劇コンクールで、市民劇団を打ち破って優勝したのを見たとき、絶望的なまでに彼女と俺の差を認識してしまった。
 優香は蝶だ。美しい羽を広げて大空を美しく飛びあがる。対して俺は何だ?美しい蝶の周りを邪魔するように飛ぶ蛾か?それとも地面に這いつくばってただ餌が来るのを待っている蜘蛛か?
 まぶしいスポットライトの中でキラキラと光る青色の演劇衣装を身にまとった優香を緞帳の傍で見ていた俺はそんなことを考えていた。
 俺は優香のことが好きなんだろう。優香がどう思っているのかはどうでもいい。もし仮に俺のことが好きだったとしても蛾であり蜘蛛である近藤恭介という人間はそれを喜べない。
どうしてかって?あまりにも美しすぎる蝶は蛾の羽の醜さを気づかせ、蜘蛛の巣にかかって動かない蝶はただの置物となってしまうからだ。
だから蛾のように醜く、蜘蛛のように醜悪な俺は彼女を地面に落とすことにした。
667名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 01:40:19 ID:Xa8GNM6v
まず彼女が使った演劇衣装をはさみで引き裂いてやった。 
優香はその場では笑っていたが、俺との帰り道、涙を流して悔しがっていた。
その姿を見てすごく興奮した。
次に演劇部の部費を少しばかり拝借してやった。部費を入れている金庫の鍵を優香が担当している日にだ。
騒ぐ部員を顧問の教師と一緒に落ち着かせ、かばんを確認したときの優香の青い顔はとても美しかった。 
嬉しいことに優香はかばんの中に部費の一部と思われる金が入っていたことを俺に相談してくれた。嬉しかった。だから俺は今更名乗り出たら
疑われると彼女を説得してその金を神社の賽銭箱に捨てさせる。
優香は罪悪感を浮かべて俺にどうしようと言った。 
後で匿名の手紙で部費を盗んだのは瀬能優香と名指しした手紙を学校に届けてやった。
後は簡単だった。 一度嫌われてしまえば密かに優香に反感を持っていた部員達を中心にどんどん孤立していく。
たまに優香に好意を持った男が声をかけてきたが、そこはうまく幼馴染としての信頼を使って優香から離れさせるように仕向けた。
そして優香は蝶では無くなった。おどおどと何かに恐れるように人と話すようになって、それでも反発され、最後に残った俺との絆を
まるでそれが無くなってしまったら死んでしまうかのようにすがりつく。
優香はすでに俺以下の存在へと成り果てていた。
立場が逆転した俺は安心して優香に愛の告白をする。孤独で追い詰められていたのか、それとも元々好意を持っていてくれたのか嬉しそうに笑いながら
OKをくれた。
久しぶりに見る笑顔だった。 
彼女は今も孤独で、醜い蛾以上に嫌われ、地面に這いつくばりながら木の枝に巣をかける蜘蛛を見上げるイモムシのような存在になった。
俺は満足だ。 これで優香を安心して愛せることが出来る。
フェラチオの失敗を気に病み、まだ生々しく残っている傷にツメを立てられた優香の潤む瞳に微笑を浮かべた自分を写し、優しく抱きしめながら耳元で、
「本当に優香は俺が居ないと駄目なんだな」
と囁く。
彼女は「うん、そうなの」とホッとしたような嬉しいように肯定した。



668名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 01:41:38 ID:Xa8GNM6v
なんか微妙にスレ違いなような気もするし、エロ無いけど
思いついたらまた投下します。おやすみ
669名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 02:36:14 ID:1HE+Atwz
なんたる下種w

だがそれがいいGJ!
670名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 06:17:31 ID:VpVGkk9p
クソ男すぎるけどこれもスレの守備範囲か
671名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 07:33:37 ID:ufR/86N4
これもまた依存か
672名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 07:44:03 ID:CHGfl2Xo
前誰かが書いてた 男が女を依存させるってこう言うのを言うのか
673名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 08:54:39 ID:3YuOk/Ge
寝てる間に最高なのが投下されてるじゃないか
また書いてくれ
674名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 13:12:52 ID:dSVWVwx4
GJ
675名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 13:19:42 ID:dSVWVwx4
あと、祝・保管庫一周年
ここの保管庫の管理人はめっちゃ更新早い上にスレででしゃばらないから好きだ
これからも頼んだ
676名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 15:45:27 ID:FLCO6uTg
>>667
GJ!!!

さて容量的に次スレの時期かな
677名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 18:30:09 ID:9DqAYy+5
>>667
こういうのも良いね。gj!!

春春夏秋冬とフェラのやつも次スレで楽しみにしてます!!
678名無しさん@ピンキー:2010/05/14(金) 14:36:44 ID:YxygTXwW
このスレもとうとう7スレめに突入か。
679名無しさん@ピンキー:2010/05/14(金) 17:54:32 ID:Fh+Ii3d2
次スレ

【貴方なしでは】依存スレッド7【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1273827110/
680名無しさん@ピンキー:2010/05/14(金) 19:08:27 ID:YxygTXwW
>>679
こっちも乙
681名無しさん@ピンキー:2010/05/14(金) 20:12:31 ID:d3y9HY/P
>>668
GJ!こういう狡猾な依存を待っていた!!

>>679
おつ
682名無しさん@ピンキー:2010/05/16(日) 23:54:59 ID:ZsL+GyH7
お互いに依存しているというのはこのスレ的にはOKかな?
例えば男の子の方も女の子の方も出会うまでずっと独りぼっちだったとかいうの
683名無しさん@ピンキー:2010/05/17(月) 00:29:56 ID:9rtK5oep
勿論おkに決まっているじゃないか。と相依存主義な俺が言ってみるテスト
684名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 16:17:36 ID:ByQF5HyZ
ウメーィ
685名無しさん@ピンキー:2010/05/23(日) 13:13:22 ID:ZjcPD01J
test
686名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 23:06:42 ID:9QpnjQKW
687名無しさん@ピンキー:2010/05/25(火) 19:39:09 ID:MI1tp40Z
うーめ
688名無しさん@ピンキー:2010/05/25(火) 20:11:12 ID:iNfrr24f
鈴村ふたなりルートを期待していたのは俺だけでいい
689名無しさん@ピンキー
>>688
同志よ…