キモ姉&キモウトの小説を書こう! part22

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1名無しさん@ピンキー
ここは、キモ姉&キモウトの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○キモ姉&キモウトの小説やネタやプロットは大歓迎です。
愛しいお兄ちゃん又は弟くんに欲情してしまったキモ姉又はキモウトによる
尋常ではない独占欲から・・ライバルの泥棒猫を抹殺するまでの

お兄ちゃん、どいてそいつ殺せない!! とハードなネタまで・・。

主にキモ姉&キモウトの常識外の行動を扱うSSスレです。

■関連サイト

キモ姉&キモウトの小説を書こう第二保管庫@ ウィキ
http://www7.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1.html

キモ姉&キモウト小説まとめサイト
http://matomeya.web.fc2.com/

■前スレ
キモ姉&キモウト小説を書こう!part20
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1245379966/
2名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 22:01:26 ID:2ESFAcqf
■20スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242318704/
■19スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1237810118/
■18スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234811862/
■17スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1231856153/
■16スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1228375917/
■15スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225361041/
■14スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1219681216/
■13スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1214584636/
■12スレ目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1211102097/
■11スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part10
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1208334060/
■10スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part10
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1204530288/
■9スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part9
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1202484150/
■8スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part8
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1200062906/
■7スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part7
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1196281702/
■6スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part6
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1193888223/
■5スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1190487974/
■4スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part4
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187005483/
■3スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part3
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1181762579/
■2スレ目
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1179863962/
■初代
キモ姉&キモウト小説を書こう!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1176013240/
3名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 22:03:41 ID:2ESFAcqf
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
4名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 22:04:36 ID:2ESFAcqf
■誘導用スレ

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 第55章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241841361/
ヤンデレの小説を書こう!Part25
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1248569652/
お姉さん大好き PART6
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1216187910/
いもうと大好きスレッド! Part5
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230646963/
5名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 22:32:01 ID:usvD2811
>>1
6名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 22:33:56 ID:ynUApiq8
>>1 お兄ちゃんお疲れ♪
7名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 22:59:31 ID:lpmDxHV4
>>1 お兄ちゃん!
お兄ちゃんが立てたキモ姉キモウトスレって何!?
お兄ちゃんのことを大好きな可愛い妹をキモいとか思ってるわけ!?
どうやらお兄ちゃんとはよく話し合う必要がありそうだね!
今夜は寝られない夜になると思いなさいね!
8名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 23:48:48 ID:rD0h25p2
>>1乙!
>>1に彼女ができますように
9名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 01:40:38 ID:ePp8oHMz
>>8
妹か姉か
10名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 03:36:51 ID:pQjPcZZG
>>9
それは彼女じゃなくて妻だ
11名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 10:07:50 ID:5p8fL/uL
>>7
とりあえず不法行為をやめたほうが兄弟の愛を受けられる確率は高くなると思うよ
可愛い姉妹から普通に迫られて堕ちない男なんてそうそういないと思うしさ
姉妹なんていないからよくわかんないけど
12名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 13:50:16 ID:/07tNQnU
>>1乙です

>>11、あなたに今まで黙っていたことがあるの
…ほら、こっちにいらっしゃい
この娘が生き別れの(ry
13 ◆YMBoSzu9pw :2009/07/28(火) 20:44:16 ID:+V3YdPHP
創作意欲の残ってるうちに2作目を書いてみた。
投下する。
14キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw :2009/07/28(火) 20:46:01 ID:+V3YdPHP
「慎二、ちょっと理香を呼んできてくれない?」
 母さんが、申し訳なさそうな様子で頼んできた。俺は露骨に嫌な顔をして答える。
「えっ……? んー……あんまり行きたくないなあ……」
「だってあの子、私が行くと暴れるんですもの」母さんは憂鬱そうにため息をついた。「『私の部屋に入らないで! 入ってきったら手首切って死んでやる!』なんて言われたら、さすがに行けないわよ」
 まあ、いつものことだししょうがないかと、俺は渋々承諾した。
 本当にごめんね、という母さんの声を背中に受けつつ、俺は重い足取りで二階の姉さんの部屋に向かう。
 姉さんは、外出をしないのはもちろん、基本的に部屋から出てこない。風呂に入らず、排泄も部屋で済ませ、食事もドアの前に置かれたものを引き入れて食べるだけだ。俗に言う引きこもりである。
 俺は姉さんの部屋の前につくと、ゆっくりと二回、ドアをノックした。
「姉さん、慎二だけど。開けるよ」
「ししし、慎二? ちょっとっ、ま、待って! ああ開けないで!」
 姉さんの焦った声とともに何やらガサガサと音が聞こえるが、俺は無視してドアノブを回した。
 ドアを開けた途端、強烈な臭いが鼻をつく。思わず鼻を抑えるが、これも毎度のことなので、我慢して部屋へと足を踏み入れる。
 部屋の中は、相変わらずひどい有り様だった。床にはゴミが散乱し、ゴキブリが何匹か這い回っているのが見える。ベッドの白いシーツはあちこち汚れ、黄色い大きなシミもある。おそらく姉さんの小水だろう。
 さらに部屋の隅に目を向けると、何かの入ったビニール袋が散らばっていた。ひどい臭いはここからしており、どうやら姉さんの便らしかった。
 そんな中で姉さんはというと、鏡を持ちながら必死に手で髪をとかしている。どうやら俺に会うにあたって、髪だけでも整えようとしているらしい。だがもう一ヶ月以上も洗っていない髪はボサボサで、姉さんの必死な努力にも関わらず髪はまとまろうとはしなかった。
 諦めたのか、それとも本人なりに満足いく髪型になったのか、姉さんはボサボサの髪のままでこちらを向き、挨拶をしてきた。
「しし、慎二、ひ、久し、ぶり」
 いつも家にいながら久しぶりというというのも変だが、実際姉さんと顔を合わすのは実に二週間ぶりだった。
15キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw :2009/07/28(火) 20:47:14 ID:+V3YdPHP
「久しぶり、姉さん」
 そう言いながら、俺は姉さんの体を眺めた。その様子は、前にも増してひどい有り様だった。着ている服はヨレヨレで、あちこちにシミが見られる。
 特に股間の辺りには、以前はなかった大きなシミが出来ている。どうやら排尿をするに当たって、ズボンを降ろすことさえ面倒くさくなったようだ。
 さらに肌は荒れ、あちこちに吹き出物が出来ていた。頬はこけ、黒く見える。細長い腕を辿って指先を見ると、爪は伸び放題で凶器のようになっていた。その風貌には、かつて美人と評判だった頃の面影もない。
「ああ、しし、し、慎二、やっと、ああ会いに、来て、くくれた、のね」
 姉さんは必死に言葉を吐きながら、手を前に出して覚束ない足取りでヨロヨロとこちらに歩いてきた。抱きつく気だ。俺は思わず避けてしまいそうになるが、そうするとパニックになって余計面倒くさいことになるのでぐっと我慢した。
 だが臭いのきつい姉に抱きつかれることも躊躇われ、俺は近付いてくる姉の肩を掴んで止めた。
「ちょ、ちょっと、姉さん」
「なな、なあに? あ、ああ、私と、キ、キ、キスでもし、したいの?」
 自分で言いながら、姉さんは頬をぽっと染めた。俺は唇が迫ってくる前に答える。
「いや、ごめん姉さん。そういうつもりで来たんじゃないんだ」
「あ……そ、そうなんだ……」
 姉さんはしゅんと落ち込んで下を向いた。俺は少々気の毒に思いながらも、用件を伝える。
「今日はさ、用事があって来たんだ」
「よよ、用事?」
「うん。母さんが、ちょっと下に来て欲しいんだって」
 姉が大きく目を見開いた。体を震わせ、ペタンと座り込んだ。
「かか、かかか母さんが? え、んん、いいいや、いや、い、いやあ!」
 姉さんは頭を激しく左右に振り、泣き出してしまった。
 怯えているのだ。母さんに、というよりも、俺以外の人間に。
16キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw :2009/07/28(火) 20:48:24 ID:+V3YdPHP
 姉さんがこんな風になってしまったのは、俺への好意が原因だった。
 本人によると、小さい頃から俺のことが好きだったが、弟を愛するわけにもいかず、ずっと我慢し続けていたそうだ。いつかはこの思いも静まるだろうと考えていたのだが、同じ屋根の下で暮らしていると弟への思いは募るばかりだった。
 そしてついに高校を卒業した頃、蓄積された思いが最悪の形で爆発した。慎二のことが好きだと泣き叫び、俺は危うく逆レイプされそうにもなった。親と協力してその場は何とか収められたが、その際に親に、そして俺にまでその思いを否定され、心を病んでしまったのだ。
 弟を愛することがタブーであるにせよ、もっと早く思いを誰かに打ち明けていればこんなことにはならなかったかもしれない。姉さんの強い倫理意識が自らをきつく縛り、悲劇をもたらしてしまったのだ。


 俺は泣きじゃくる姉さんを、下までどうやって連れていこうかと考える。話し合っても無駄なことはわかっているので、俺はとりあえず姉さんの腕をとって引っ張ってみた。だが姉さんはがんとして動こうとせず、余計激しく泣き出してしまった。
 自然と、ため息が漏れる。
「はあ……姉さん……」
「ひっぐ、ひっぐ、行きたくない……うぅ、行きたくないよおおぉ、ひっぐ」
「……行きたくないって、どうしてさ? 母さんと会うだけだろう?」
「怖いの、ひっぐ、怖いのぉぉ! ううぅ」
 俺はどうしたものかと考えて、姉さんの頭をぽんっと叩いて撫でてみた。
「姉さん……怖くない。怖くないよ」
「うぅ……慎二……ひっぐ……」
「俺も一緒に行ってあげるからさ。さあ、立って」
 そう言って俺が手を差し出すと、姉さんは俺の差し出した手をじっと見つめたあと、手をとってヨロヨロと立ち上がった。どうやらうまくいったようだ。
「一緒に……ひっぐ……慎二……うぅ」
 長い引きこもり生活で足の弱った姉さんを支えつつ、俺は姉さんと廊下に出た。漂ってくるきつい臭いに顔が歪むし、正直気持ち悪いが、我慢するしかない。
 階段を降りる途中、姉さんの様子を伺いながら言ってみた。
「部屋さ、綺麗にしないと駄目だよ。それに小便とかもさ、姉さん、女の子なんだから。ちゃんとトイレに行ってしないと」
「だ、だって……うぅっ……し、し、慎二のこと、考えると……ぼ、ぼうっと、ししちゃって……なな何も、手に、つつつつかなくて……」
17キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw :2009/07/28(火) 20:50:23 ID:+V3YdPHP
「……不衛生な人は、嫌いだよ」
 俺がそう言った途端、姉さんの目にまた大粒の涙が溜まり始めた。しまった、そう思った俺はあわててフォローする。
「で、でも姉さんがちゃんと綺麗にするなら、好きになるかもしれない」
 その言葉に、姉さんがじっと俺の顔を見つめてくる。
「お部屋、き、綺麗にしたら……すすす、す、好きに、なってくれるの?」
「う、うん……かも、ね」
「私……し、慎二のためなら……お部屋、綺麗にする」
 俺は、ほっと安心する。
 だが実は前にも同じようなことを言っていて、それで今の有り様なので、正直あまり期待していない。


 リビングに入ると、既に母さんがテーブルに座って待っていた。二階から泣き声が聞こえたときから待っていたのだろう。
 その向かいに姉さんを座らせ、俺も隣に座る。さっきのように激しくはないが、また泣き出してしまったので背中をさすってやった。
 母さんがゆっくりと口を開いた。
「理香……」
「かか、母さん……うぅ……ひっぐ」
「今日はね、今後のことについて話し合おうと思って呼んだの」
「こん、ご……? ……ひっぐ」
「そう。昨日、お父さんと話しあったんだけどね。理香ももう二十歳でしょ? いつまでも引きこもってるわけにはいかないんじゃないかな、って。
 ちょっとずつ、最初は家の中だけでもいいから、外に出るように頑張ってみない? 私たちも……もちろん慎二も、協力するから、ね?」
 激しく泣き出そうとする理香を見て、慌てて『慎二も』と付け足したようだった。まあ、姉さんが引きこもりを脱出するためならもちろん俺も協力する。
「私は……私は……」理香が何かモゴモゴと言っている。「わわ、わたしは、慎二が、私を、すす、すきに……なって、くくくれるまで……おお部屋で、ま、ま……待ってるの」
 いつもの言葉だった。このままじゃ何も進展しないので、俺も姉さんのために言ってみる。
「姉さん、俺も昔みたいにちゃんと部屋から出て、普通に生活したほうがいいと思うよ」
「……そ、そ、そう? そしたら、す、すきに、なってくれる?」
 本心ではないが、先程と同じように俺が曖昧に肯定の返事を返そうとしたところで、母さんが先に口を開いた。
「理香」
「ひっ……! は、は、はい」
18キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw :2009/07/28(火) 20:51:40 ID:+V3YdPHP
「あのね、そうやっていつまでも慎二への思いを引きずるのはやめなさい? あなたたちは、姉弟なんだからね」
「で、でも、わ、わ、わた、わたしは、慎二を、し、慎二を……うぅ……ううっ! 慎二ぃ、慎二ぃぃぃ!!」
 母さんのきつい言葉に、姉さんはまたわんわんと大声で泣き出してしまった。

 とにかくまず姉さんを立ち直らせることを優先させる自分に対して、母さんは姉さんの俺への思いを断ち切ることを優先していた。それこそが姉さんの問題の大元なのだから、それをどうにかするのが第一だと考えているのだ。
 心を病んでしまったのはそれを否定したことが原因なのだから、とりあえずまずはその思いを認めてあげることが一番大事だと俺は考えるのだけれど。まあ、思いを受け入れる気はないけど。

 なかなか泣き止まない姉さんに、母さんも俺も困ってしまった。しょうがなく、俺は姉さんの頭を胸の辺りに抱き寄せる。姉さんがうっうっと声をあげる。
 俺は母さんのほうを向くと、少し強い口調で非難した。
「母さん。そんなこと言ったって、いきなりは無理だよ。今、姉さんは肉体的にも精神的にもすごく衰弱してる状態なんだから。少しずつ、少しずつ、頑張っていかないと」
「……そうね、今のは母さんも少し言い過ぎたわ」
 そうして俺は何度もゆっくりと姉さんの頭を撫でていると、次第に泣き声が収まってきた。
「ひっぐ……うう……」
「姉さん……落ち着いて。ほら、母さんもちょっと言い過ぎただけだって」
「慎二……ひっぐ……慎二……うう……落ち着く……し、慎二の、腕の中……落ち着く……」
 そう言うと、姉さんは頭を俺の胸にもたれかけさせて目を瞑った。まるで小さい子供のようだ。
 気持ち悪い姉さんだけど、こういうときはかわいいな。そんなことを考えていると、下のほうからピチャピチャと音がしだした。
 いったい何かと思って下を向くと、床に黄色い液体がポタポタと垂れていた。姉さんが小便を漏らしている。
「ね、姉さん!」
 俺の驚いた声に、姉さんがビクリと体を竦めた。尿の放出がピタリと止まる。
「ん、な、なに? 慎二、ど、どうしたの?」
「どうしたのって! お、おしっこ、漏らしてるじゃないか!」
「あ、ご、ごめん……なさい……しし、慎二に、だ、だ、抱かれて、あ、安心、しししたら、つ、つい」
 ……前言撤回、やっぱり姉さんは気持ち悪い。
「し、慎二! きき嫌いにならないでぇ! 慎二ぃぃ!!」
19キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw :2009/07/28(火) 20:53:45 ID:+V3YdPHP
投下終わり。
何回も長すぎる行がありますって怒られてしまった。
何文字までだっけ、あとで見てこよう。


ハアハアの範囲を逸脱した、文字通り「キモい」姉を書くつもりが、何だか可哀想な姉になってしまった。
20名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 21:27:00 ID:v5kmVTcm
GJです
21名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 22:39:05 ID:2rUKPE9O
>>19
すごく……キモイです……
GJ
22名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 22:43:44 ID:WVxtT8rr
GJ
これは面白い 
早く続きがみたいな
23名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 22:49:02 ID:+V3YdPHP
ごめん続きはないんだ
微妙な終わりかただけど>>18で終わり
24名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 22:53:03 ID:pnEoqWYK
>>23
なん…だと?

ま、いっか
とにかくGJだw
25名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 23:27:12 ID:t7Te4OnJ
Gj

でも、続編ないってかわいそうだろう
世間体優先で近親キモいが先に立つ両親に対して家族としては姉を愛してる弟が
それ、おかしいって怒って姉のために動き出して実は弟の方がキモ弟の素質があったってオチがまだだ
26名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 23:31:59 ID:uOQ6H2U1
続きは彼の中にはないんだから他の人が書いても文句は出ないはず
お前が書け
27名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 23:34:22 ID:EP33DXOj
これで終わりだと…
ああん!悶々として今日は眠れないよぉ!
28名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 23:36:29 ID:+8QY6ZBw
GJ
すげえ、純然たるキモ姉だ
29名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 23:40:33 ID:pQjPcZZG
キモい姉だからキモ姉。
とってもキモかったですGJ。
もし次意欲がわいたらぜひ書いてください
30名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 23:57:00 ID:NdNq7wUt
GJ
31 ◆YMBoSzu9pw :2009/07/29(水) 00:07:30 ID:88TBb6HK
自分で書きながら萌えられないと、書く意欲がわかない
続編書きたい人がいればどうぞ
32名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:43:47 ID:CLyA1ECq
汚い姉だなぁ
33名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:54:17 ID:SVGAwXFm
汚い?キモイの間違いじゃないか?
34名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:59:16 ID:Gmp3feg0
まあ…なんか汚いのは俺も抵抗あるな
女を放棄して弟に好かれる努力もせずに逃げ続けてるこの状態だと、普通に精神病んでるヒキさんだな
35名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:59:53 ID:100nLsVm
>>31
生殺しかYO!!
36名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 01:15:15 ID:SuXoj0y0
お姉ちゃんはいい女になれば好きになってもらえると考え更生し、
今では札束風呂で弟をはべらせ、パワーストーンの広告になったりしながら、
弟にヴェルタースオリジナルを口移しでもらったりあげたりして暮らしています。めでたしめでたし。
37名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 01:15:37 ID:zwzvWknA
でも、ヒキの原因は母親からの徹底的な否定にあるみたいだし
姉だけが悪いみたいな空気で放置、廃棄ENDというのはすっきりしないな
BADでもいいからオチはほしいぞ
38名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 02:09:36 ID:XFjZcJtI
>>19
GJ!姉可愛いよ
39名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 02:49:08 ID:ScJaMN8j
なぜかおっきした
40名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 04:26:39 ID:OI18kB4J
よく見たら、キモ姉&キモウト小説を書こう!からキモ姉&キモウトの小説を書こう!にスレタイが若干変化してるね
41名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 10:09:38 ID:ScJaMN8j
ホントダ
42名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 12:04:32 ID:W/KR18jp
キモ姉、キモウトは無駄にスペックが高い場合が多いからたまには本当に駄目なのもありだと思う
43名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 12:23:23 ID:ZHKMKw+o
ヘンゼルしま・・・いえ、なんでもないです。
44名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 12:45:35 ID:VYu4/zg9
ともこシリーz……いえ、なんでもないです
45コピペ改変ネタ ◆YMBoSzu9pw :2009/07/29(水) 22:13:01 ID:88TBb6HK
お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃぁぁあああぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんぁああぁわぁああああん!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!お兄ちゃんのくっさいオチンチンをクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!ペロペロしたいお!!ペロペロ!オチンチンペロペロ!パクパクペロペロ…じゅぶじゅぶゴクン!!
お兄ちゃんのザーメンティッシュいぃよぉおぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
盗撮カメラに映るのお兄ちゃんの自慰かわいぃよおぉぉおぉ!あぁあああああ!かわいい!お兄ちゃん!かわいい!あっああぁああ!
今日もお兄ちゃんの妹で嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!お兄ちゃんて兄じゃん!!!!あ…結婚とか子作りってよく考えたら…
お 兄 ち ゃ ん と は で き な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!近親こおぉおおおおん!!
この!ちきしょー!やめてやる!!妹なんかやめ…て…え!?見…てる?お兄ちゃんがキモウトスレを見てる?
お兄ちゃんがキモウトにハアハアしてるぞ!キモウトにハアハアしてるぞ!キモウトに興奮してるぞ!!キモウトをおかずに抜いてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!私にはお兄ちゃんがいる!!やったよ母さん!!ひとりでできるもん!!!
あ、イっちゃったお兄ちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあお兄様ぁ!!あ、兄貴!!お兄たぁああああああん!!!兄者ァぁあああ!!
ううっうぅうう!!私の想いよお兄ちゃんへ届け!!鈍感なお兄ちゃんへ届け!
46名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 22:54:10 ID:VYu4/zg9
兄宮病患者Lv.5だ!!
末期症状の兄宮病患者が来たぞ!

くそっ……姉貴、手を貸せ!
病院が逃げるまで、俺たち2人で食い止めるんだ!!
47名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 23:01:16 ID:XmBEDd+D
5レベって低いなw
48名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 23:03:14 ID:BO9GNbg/
低いのかw
49名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 23:05:32 ID:RP4pMekO
レベルは100まであります
50名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 23:14:10 ID:OI18kB4J
まず、兄宮病ってのがよく分からん
51名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 23:21:28 ID:xtQsze55
元は釘だろ
52名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 23:31:35 ID:XmBEDd+D
俄声優オタの釘宮のおだてっぷりはキモイって事でここはお開きとしましょうか




キモ姐ってかなり良いと思うんだ、もちろん一人称は俺
53姉verとか:2009/07/29(水) 23:32:34 ID:6OU4tA7g
弟くん!弟くん!弟くん!弟くぅぅうううぅうううううううううううううううううううううううん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!弟くん弟くん弟くぅううぅうぅううううん!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!弟くんのぶっといオチンチンをクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!ペロペロしたいお!!ペロペロ!オチンチンペロペロ!パクパクペロペロ…じゅぶじゅぶゴクン!!
弟くんのザーメンティッシュいぃよぉおぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
盗撮カメラに映るの弟くんの自慰かわいぃよおぉぉおぉ!あぁあああああ!かわいい!弟くん!かわいい!あっああぁああ!
今日も弟くんのお姉ちゃんで嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!弟くんて弟じゃん!!!!あ…結婚とか子作りってよく考えたら…
弟 く ん と は で き な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!近親こおぉおおおおん!!
この!ちきしょー!やめてやる!!姉なんかやめ…て…え!?見…てる?弟くんがキモ姉スレを見てる?
弟くんがキモ姉にハアハアしてるぞ!キモ姉にハアハアしてるぞ!キモ姉に興奮してるぞ!!キモ姉をおかずに抜いてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!私には弟くんがいる!!やったよ母さん!!ひとりでできるもん!!!
あ、イっちゃった弟くぅううううううううううううううん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあ弟ちゃん!!弟!!弟者ァぁあああ!!
ううっうぅうう!!私の想いよお弟くんへ届け!!鈍感な弟くんへ届け!
54名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 23:51:25 ID:FBMUutl2
兄はキモ姉ネタで、弟はキモウトネタで抜いていた、ってオチなんじゃない?
55名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 23:57:24 ID:VYu4/zg9
いや、>>45の兄と>>53の弟は同一人物かもしれん……

姉(>>53) ↑年上
兄(弟)
妹(>>45) ↓年下

こんな感じ
56名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 00:49:00 ID:X1E2TDKP
つまり姉と妹の部屋に挟まれた位置に自分の部屋があるので
>>45>>53が両サイドから聞こえてくるんだな
57名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 02:04:12 ID:RGDNdIp/
そんな状況、俺だったら家出して友達の部屋にでも匿ってもらうぞ
58名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 02:21:02 ID:rM4cFY2m
>>57
で、その友達が泥棒猫なんですね
59名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 03:34:49 ID:YuLL5UtR
>>57
逃げてええええええええええ
60名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 05:53:07 ID:itvtBTs9
>>56

>>45>>53が同一人物という可能性もあるぞ

配列
「兄の部屋」「>>45=>>53の部屋」「弟の部屋」
61名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 07:24:32 ID:ztSXQvqq
>>60
こういうキモ好意ってのは好意の対象は一人だからそれは無い
62 ◆EY23GivUEuGq :2009/07/30(木) 07:54:52 ID:DXDwcUD6
ハァハァ・・・約束通り姉ネタ書いてきたよお姉ちゃん・・・


と言うわけで投下。
ちょっと長くなったので前後編でお送りするです。
63二進法に生きる僕達・前編 ◆EY23GivUEuGq :2009/07/30(木) 07:57:03 ID:DXDwcUD6
「ほら、この画面を見てごらん?」

パソコンに映し出されているのは『0』と『1』という数字のみ。
このたった二つの数字が複雑に、法則性も無く、ただただ画面いっぱいに広がっていた。

「なあに、これ?」
「これはね、この世界のすべてよ」

姉はまるで魅入っているかのようにウットリと画面を見つめている。
幼い僕はそれが何なのか、そして姉の答えの意味すらわからぬまま同じようにパソコンの画面を見つめた。

「このパソコンの中ではね、0と1しか存在しないの。このたった二つの数字だけ、ね」
「うそだぁ! だってぼくが、この前つかったときはちゃんと他の数字がでたもん!」
「そうね。でも、その他の数字はこの0と1によって作られた、いわば『偽りの存在』でしかないの」

姉はギュッと僕の肩を抱き、細く白い指で優しく髪を梳いてくれた。

「例えば、01・・・これが『2』。10・・・これが『3』。100が『4』。101が『5』。110が『6』・・・」
「う〜? わかんない・・・」
「・・・ごめんね。宗一にはまだ難しかったかな」

Deleteキーを押し、打ち込んだ数字を消してゆく。そしてもう一度力強く僕を抱きしめた。
背中越しに感じる体温は温かく、心が安らぐ。甘えたい年頃の僕は姉に全体重を預け、心地よい感覚に酔いしれた。

「つまりね、このパソコンの中では0と1があればその他全ての数字が表せるの。0と1さえあれば・・・他の数字の存在は必要無いのよ」

カタカタ・・・と今度は漢字で『零』と『一』を書き出した。

「あ、この漢字しってる! お姉ちゃんとぼくのなまえ!」
「大変よくできました」

にっこりと笑って僕の頭をグリグリと撫でる。そして空いた手で姉と僕の名前を打ち込んでゆく。

            天沼 零那(あまぬま れいな)
            天沼 宗一(あまぬま そういち)

はしゃぐ僕をあやしながら姉は何を考えていたのだろう。今になって思うのはそんな事ばかりだ。
0と1。この頃から姉は僕のことを『そんな風に』見ていたのだろうか。できれば知りたくは無かった、あんな事を。

「そういえば。ねぇ宗一、この『0』と『1』って数字、男と女の『アレ』に似てると思わない?」
「『アレ』? ・・・ってなに?」

心底不思議そうな顔をする僕に姉は「もう少し大人になったらわかるわ」とだけ答え、パソコンを閉じた。
64二進法に生きる僕達・前編 ◆EY23GivUEuGq :2009/07/30(木) 07:59:18 ID:DXDwcUD6
**************************************************

僕の姉、天沼零那を人は「神童」と呼ぶ。
主にその才能は数学に関して発揮され、僅か9歳で世界の数学者が頭を悩ませている数式をいとも容易く解いてしまうという怪物ぶり。
まだ小学生の子が、それも美少女が世界的な学者を抑えての快挙を成し遂げたとして、メディアはこぞって姉を取材した。
その後もいくつかの数式を解読し、発表するとその名は海外まで知れ渡り、一躍姉は時の人となった。
が、こうした姉の露出にいい顔をしない者たちも居た。そう、世界の数学者達である。
長年の学者としてのプライドをズタズタに引き裂かれ、その研究者としての価値さえも消えそうになった時、彼らは強行策に出た。
プライドを捨ててでも、学者としてい続けたい。彼らは姉から高額で学会で発表する「権利」を買い取り、姉の手柄を手に入れたのだ。
姉が一つの数式を解くと学者たちは我先にと金額を張り合い、その数式を自分のものにしようと争いだした。
結果、神童・天沼零那の名は次第に忘れ去られ、我が家に残ったのは家族が一生分遊んで暮らせるだけの莫大なお金だけだった。


「あらぁ? なにしてるのよ宗一」
「何って・・・受験勉強だよ」
中学3年生の夏休みといえば決まっている。無論、受験勉強である。
3年間続けてきた部活動を引退し、いよいよ勉学に力を入れていくと決め、問題集のページを開いた矢先だ。
豪華なネグリジェに身を包んだ母が寝起きの顔を晒して僕の部屋に現れたのだ。
「今日から夏休みだろ。この夏は最低3冊は問題集を終わらせるって決めてたん・・・」
「なぁにあんた、まだ高校行くつもりなのぉ?」
はい出たよ・・・。勉強しろ、の怒声もそうだがこういった受験をしないこと前提の台詞も酷くテンションが下がる。
走り出したはずのペンは動きを止め、ウンザリした顔でジロリと母を睨んだ。
「高校なんて行く必要ないわよぉ。将来働く必要だってないんだしぃ。中卒で十分じゃなぁい」
「・・・あのね母さん」
コメカミあたりがピクピクしてるのを感じながらできるだけ穏やかに答える。
「僕は中卒なんてまっぴら御免なんだよ。出来るだけいい高校に入って、いい大学を出て、いい会社に就職して・・・」
「ふぅん、いい高校ね・・・。で、その高校はいくら払えば入学できるのぉ?」
「なんでそこで裏口入学の話になるんだよ!? 僕は自分の力で合格したいんだってば!」
「義務教育でもないのになんでわざわざ高校なんかに行きたいわけぇ? パパやママみたいに遊んで暮らしましょうよぉ」

なんで、なのだろう。たぶん理由としては2つある。
1つはこの両親の反面教師、ということ。
「裕福すぎる生活は人間を堕落させてしまう」他でもない姉の言葉だ。僕自身もその通りだと思う。
この両親を見ていればわかる。いかにお金に溺れた者の心が醜くなるのかを。
だから、こうはなるまいと。お金に頼らず自分の力で人より偉くなって見せると。そう決めていた。
もう1つは姉の存在である。
前述の通り、姉は神童と呼ばれる天才児だ。今の僕の歳にはもう特別編入した大学を卒業し、様々な研究室から声が掛かっていたはずだ。
そんな神童の血を分けた弟であるはずの僕は? ・・・残念ながら普通の人間としか言い様がない。
何かに天才的な才能があるわけでもなく、勉強も、事もあろうに数学が一番苦手というのがなんとも皮肉が効いている。
そんな姉に少しでも近づきたくて、彼女の弟と言われても恥ずかしくない人間になりたくて。
がむしゃらに良い高校、良い大学、良い会社を求め、結果を残そうと奮戦しているのだ。

「何をしているの、母さん」
母の後ろから影のように近づいてきたのは、正真正銘我が姉、生ける天才・天沼零那その人である。
僕より7つ年上の22歳。幼少の頃の美しい顔立ちはそのままに、スタイル良し、器量良し、おまけに富豪という完璧ぶりだ。
今まで何回お見合いの類の話が舞い込んできたかは定かではないが、とにかくまぁモテる。有り得んくらいモテなさる。
とはいえ、その全ての話を蹴って未だ僕にべったりなのは彼女がブラコンだからなのだろうか。
いや、考えすぎか。
65二進法に生きる僕達・前編 ◆EY23GivUEuGq :2009/07/30(木) 08:01:17 ID:DXDwcUD6
「お、おおお、おはよう、零那ちゃん」
母の寝起きのボケ顔がみるみる引きつり、曲がっていた腰はシャキッと伸びた。相変わらずこの変化は見ていて愉快だ。
「宗一に何を言ったの?」
眉一つ動かさずに姉は淡々と詰め寄った。
母は、というより両親は姉に頭が上がらない。それもそのはず、今の富豪生活は姉のもたらしたものだからだ。
もし姉の機嫌を損ねようものなら、両親が現在湯水のように使っているお金が使えなくなる。
最悪、親を捨てとっとと一人暮らしでもするかもしれない。そう考えているのだ。
そう考えると姉のお見合い事情も、両親の思惑が絡んで意図的に破棄させている可能性もある。
「な、何も言ってないわよ? べべ勉強頑張ってるかなって思って・・・ねぇ?」
母が祈るような顔でちらりとこちらに目を配らせる。
反論しようと思ったが、面倒なことになりそうなのでやめておいた。素直に頷いておく。
「そう」
スタスタと母の前を横切り、僕の肩越しに机を覗き見る。
「あら、新しい問題集ね。どう? 進んでる?」
「今始めたばっかりだよ」
母さんのせいで手が止まったけど、と付け加えようとしたが母が手を擦り合わせて拝んでいるのを見てこちらもまた止めておく。
なんというか、母親の威厳のようなものがまるで感じられないのはいかがな物だろうか。
兎にも角にも母は去り、姉の監督の下再び勉強が再開されることとなった。


カリカリカリ・・・。聞こえるのは僕の奏でるペンの音と外の蝉の鳴き声。姉は物音一つ立てずに僕のペンを見つめる。
「宗一はどこの高校を狙っているの?」
僕の勉強の邪魔をしない為か、小さく掠れる様な声でそう尋ねられた。
「うーん・・・。とりあえず第一志望は陽明院(ようめいいん)かなぁ・・・」
「あら、県下一のとこじゃない。実力のほうは追いついているの?」
「・・・あー・・・合格判定20%未満・・・」
どこまでも凡人というのは苦労する。目の前に迫る高校受験でさえ、遥か高い壁となって立ち塞がる。
こんなところで燻っていながら、姉に追いついてみせる? 無理に決まってる、と心のどこかで叫ぶのが聞こえた。
ペンが止まり、目の前が霞む。ひょっとして僕はあまりに無謀な事にチャレンジしているのではないか。
凡人がいくら頑張ったところで、天才になれる筈も無い。やはり両親の言うとおり、全てを捨てて快楽の生活を選ぶほうが賢いのだろうか。

「まったく。幾つになっても宗一は泣き虫さんね」
え、と反応する前に姉の寝巻きの袖で頬を拭われる。どうやら無意識のうちに涙を流していたようだ。
慌てて後ろを向き、ゴシゴシと乱暴に目を擦る。と、後ろから伸びてきた腕に頭を捕縛され、後頭部から姉の胸元に引き寄せられた。
夏だというのに姉は長袖の寝巻きを好む。その袖の部分で僕の目を覆い、もう片方の手は優しく頭を撫でていた。
「無理をするのはよくないわ」
まるで僕の心を見透かしたかのように、静かに話しかける。
薄手の寝巻き越しに伝わる温かさと柔らかさ、そして顔全体を包むいい匂いによってざわついていた心はみるみる落ち着いていった。
「自分に合った、自分のレベルの高校にしなさい。体面を飾ったところで自分の本質を偽ることは出来ないのよ」
それはつまり、僕にはこの高校は無理だという意味が込められている。
姉の言うことは、過程はどうあれ結果的に正解となる場合がほとんどだ。数学とは基本的に答えは一つであり、その答えへと導く数式を
いかにして解くかを考えるものである。
天才的な数学の才能を持つ姉は、人生においても「最良へ至る過程」を瞬時に、正確に導き出すことが出来るのだ。
「でも・・・。僕は姉さんの弟なのに、結局普通の人間だ。何かの天才でもなければ、凄い才能がある訳でもない。
 姉さんの弟と胸を張って言える為には、結局努力でどうにかなる勉強しか・・・」
「宗一」
66二進法に生きる僕達・前編 ◆EY23GivUEuGq :2009/07/30(木) 08:03:24 ID:DXDwcUD6
頭を撫でていた手を止め、今度は力を込めて抱きしめた。姉は何か大事な話をするときは決まって僕を抱きしめる傾向がある。
「努力をする事は勿論大事なことよ。でも、誰かのために自分を変える必要なんて無いのよ」
「・・・姉さんは恥ずかしくないの? こんな何の取り柄もない僕なんかが弟だなんて言われて。
 クラスの奴も言ってるよ。凡人の僕なんかが弟なのは勿体無い、僕の存在が姉さんへの侮辱だって」
別に学校で虐められているわけではない。だが、一時とはいえテレビや新聞で騒がれ、おまけに美人な姉である。
学年を問わず、学校行事などでよく顔を出す姉を半ば狂信者のように崇拝し、親衛隊やファンクラブを名乗る者達までいる始末だ。
クラスの友達だって、その半数以上は僕を通して姉とお近づきになりたい、という一心で仲良くしているだけに過ぎない。
そんな彼らが、よくデパート等で一緒にべったりと買い物をしている姉と僕を見かけてジェラシーを感じないはずが無いわけであって。
「まったく・・・。赤の他人が勝手に宗一の存在を侮辱扱いしないで欲しいわ」
ゆっくりとため息をつき、よしよし、と肩をポンポンと叩かれる。
どうやらクラスでの陰口を思い出してまた涙が溢れてきたらしい。姉の言うとおり、やっぱり泣き虫なんだな、僕は。

「まぁ、そのクラスの連中はあとでぶん殴りに行くとして」
一通り僕が落ち着いた後、姉は顎を僕の頭に乗せ、優しく語り掛ける。
「私は宗一を恥ずかしい、なんて思ったことは一度だって無いわよ。これまで15年間、ずっと見てきたからわかる。
 いつだって胸を張って言えるわ。宗一はどこに出しても恥ずかしくない、私の自慢の弟です、って。」
抱きしめる腕に更に力がこもる。包み込む温もりや甘い香りが一層強くなった。
「誰が何と言おうと、あなたは私のたった一人の血を分けた弟なのよ。天才だとか何だとか、そんなの関係ない。
 無理してありのままの自分を否定しなくても、私だけはちゃんとそのままの宗一の存在を受け入れてあげるから」
それじゃ駄目? と付け加え、もう一度体全体を使って強く抱きしめられる。


今まで、僕は自分のことを姉の「いらないオプションパーツ」としてしか認識してこなかった。
『お前なんかが』 『君は何が出来るの?』 『それよりお姉さんの話を聞かせてよ』 『本当に弟なの?』 『何も出来ないくせに』
『やっぱり信じられないなぁ』 『DNA鑑定とかちゃんとした?』 『このくらい簡単だろ?』 『なんかがっかり』 『もういいよお前』
比較対象があまりにも凄くて。みんなから愛され、敬われて。結局僕には、皆が期待するものは残されていなかった。
僕は僕としての存在意義が無い。天才と呼ばれる人間の、単なる「おまけ」であり、パーツに過ぎないのだと。
だから自分を変えたかった。誰が聞いても、流石彼女の弟と言ってくれるために。何より姉本人に認めてもらうために。
そうする事でしか、自己のアイデンティティを確立する術は残されていないと思った。

けれども。変わることは無い、そう言ってくれた。
おまけでもパーツでもなく、一人の人間として、自慢の弟と言って認めてくれる人がいた。
凡人でもいいじゃないか。
認められなくてもいいじゃないか。
誰からも見向きもされない人生という耐久レースの中でたった一人、立ち止まって待っていてくれる人がいるじゃないか。


「台詞が臭いよ、姉さん」
「あら、私が言うと絵になるでしょ?」
冷房の効いた部屋の中で姉の体温は心地よく、結局この朝はずっと姉に抱きしめられていた。
もっとも、夏休み初日の朝から勉強なんて馬鹿馬鹿しい、と凡人じみた考えのもと意図的にペンを握らなかったのだが。

「言ったでしょう? 0と1だって」
「は?」
「私にとっても宗一にとっても、互いの存在によって無限の数字を生み出すことが出来るのよ。世界中の人間全てに認められなくても、
 私がいさえすれば、宗一は何でも作り出すことが出来る。何だって出来るのよ」
「はは、少なくともデジタルの中では僕らは神様になれるね」
ここで昼食の準備だ出来た、と内線が入った。もう大丈夫、と立ち上がり僕らは連れ立ってリビングへ降りていった。
67二進法に生きる僕達・前編 ◆EY23GivUEuGq :2009/07/30(木) 08:05:29 ID:DXDwcUD6
姉の見つめている世界とは何なのだろうか。
たびたび口にする「0」と「1」。二進法で構成されているデジタルなデータではこの2つこそが絶対である。
「零」那と宗「一」。偶然かどうか分からないが、僕らの名に使われているこの数字のことだとすると、姉は僕と二人でならどんなこと
でも出来るのだと、そう言っているのだろうか。
ならば、姉は僕と何を作り出そうとしているのだろう?
容姿でも、富でも、世の女性であれば羨むほどのレベルに達している姉が、それほどまでに欲しいもの、それは一体なんだ?
「女性の・・・欲しいもの・・・?」
小物やアクセサリーについては違う。姉はあまり興味を示さない。ファッションについても同じだ。
考えれば考えるほど、その全ては基本的に姉の容姿と金で手に入れることが出来る。僕の出る幕は無い。

―――じゃあ僕の存在とは?
姉は言ってくれた。誰が認めなくても、自分だけは僕の存在を受け入れてくれると。
―――なぜ?
弟だから。家族だから。少なくとも他人が見てブラコンだと思われる程度には僕に愛着を持ってくれているのだろう。
―――どうしてブラコン気味?
歳の離れた弟だから可愛いのだろう。僕を抱きしめるのが大好きだし、外を歩くときは人目を気にせず腕を組むし。
―――人目を気にしないの?
恥ずかしくないのかな、あれ。少なくとも僕は恥ずかしいけど。
それとなく姉に聞いたときは「自分の気持ちに正直に。偽りの姿は見せたくない」とか言ってたっけ。
―――偽り?
そういえば姉は「偽り」という言葉をよく使う。数学には「真偽」という分野も有るから、そのせいだろうか。
最初にこの「偽り」って言葉を聞いたのは、確かまだ僕が小学校に上がる前、姉が初めて「0」と「1」を教えてくれたときだった。
 
『そうね。でも、その他の数字はこの0と1によって作られた、いわば『偽りの存在』でしかないの』

なぜだかあの日のことは、今でも鮮明に覚えている。幼い僕を膝に乗せ、0と1だらけの画面の前でキーを叩いていた。
他にも色々なことを喋っていたはずだ。

『つまりね、このパソコンの中では0と1があればその他全ての数字が表せるの。0と1さえあれば・・・他の数字の存在は必要無いのよ』

必要無い・・・?
姉は何かを欲しがっていたのではないのか? 0と1、姉と僕とで何かを作り出そうとしていたのではないのか?
0と1さえあれば、他の数字は必要ない。それはつまり、姉と僕以外のものは必要無いということで・・・?
何だろう。
何かとても嫌な予感が、これ以上は考えてはいけないような気がした。
しかし、頭の中の記憶は過去の場面をリロードし、ついに最後の台詞を思い出してしまう。

『そういえば』

いけない。思い出してはいけない。姉の言葉に隠された真意に気づいてはいけない。

『ねぇ宗一』

「0」。記号的には穴のように見えなくも無い。「1」は見たまんま、棒だ。「穴」と「棒」、男と女の「穴」と「棒」。

『この『0』と『1』って数字、男と女の『アレ』に似てると思わない?』

姉の言葉はいつだって正解に基づく過程で構成されている。
あの頃から、姉は僕のことを「性的に」欲していた。他の存在を消去し、0と1だけの世界を望んでいたのだ。
68 ◆EY23GivUEuGq :2009/07/30(木) 08:07:25 ID:DXDwcUD6
前編終了。
てか前編だけでも物語が完結してるわ・・・。


後編は近いうちに投下できると思うよ、お姉ちゃん。
69名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 08:14:24 ID:/0Olv2Cq
朝からGJ
後編も楽しみにしてます
70名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 08:51:09 ID:np28lui2
これは楽しみです
71名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 08:56:22 ID:nRRmORWN
>>68
GJ!
この姉弟の問答だけでも、なにやら引き込まれたような気がする。
しかし姉はまだ本性を出してないのか……
この理知的な姉が、どのような方向にキモくなっていくのか。
後編の投下、楽しみにしています。
72名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 13:12:34 ID:jFUhOUiX
>>68GJ
73名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 13:33:40 ID:T+GYhses
wktkしながら消失を待つぜw
74名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 17:14:06 ID:tqwzEWmd
GJ!

てスナイパー姉とクノイチ妹のキモ姉妹が言ってた
75名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 20:17:57 ID:zcOUk9B6
>>68
GJ。でも2進数の4は11だぜ
76名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 20:33:34 ID:gK3YUFqv
GJ
後編が楽しみです。

2が10 3が11 4が100かと指を立て立て小一時間
77名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 21:13:59 ID:Bjb69sEd
だよね!?だよね!?
なんか誰もツっこまなかったから自分が間違ってんのかと思ってた!よかった!
78名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 21:18:30 ID:QgEBVSes
まあ2って数が重要なんだろうなあ

79名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 23:13:33 ID:bBLA55WQ
今まとめWIKI見てるが、とんでもないものと出会ってしまった
80名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 23:18:37 ID:TdUXN2uO
>とんでもないものと出会ってしまった

生き別れの妹(姉)か?
81名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 01:34:47 ID:hAKmlmhD
まとめのTOP更新してほしいです。
82名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 04:46:17 ID:S6qwzwJE
>>79
自分とお姉ちゃんの名前で書いてある小説が有ったらびっくりするわよね…。
83名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 08:44:56 ID:ETV2gxuG
冗談抜きで、俺のリアル従妹の名前が聖理(さとり)。月ヶ瀬じゃないけど

だからめっちゃビビった。
まぁこんなキモヲタなんか相手してくれませんがね\(^o^)/
84名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 08:50:42 ID:eplY+nRQ
二進法だと
2が10 3が11 4が100
で正解じゃないの。

4が11なのは三進法では?

85名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 08:59:43 ID:2Afdw2fd
>>83
俺の親父、あなたのいm…従妹の地元の市役所で戸籍係やってんだけどさ、最近えらく羽振りがいいんだよ。
シガーなんか吸い出すし、パテックの腕時計なんか着け出したし。
かといってサラ金で借りているようでもないしなあ。何か知っているかい?
86リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:36:57 ID:NdEcvS9y
投下します。規制されたらごめんなさい。
後編です。
87リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:37:27 ID:NdEcvS9y
  /


 兄が意識不明の状態から目を覚ましたのは、あれから十日後のことだった。
 母にまだこっちに来るなって怒られた、という兄はあんなことがあった後だと言うのに、朗らかに笑った。
 私を見ると、
「舞、目の下が腫れてるぞ」
 と言ってきた。
 私は、たくさんの感情が一気に押し寄せてきて、どう表現していいのか分からず、馬鹿、とだけ口にした。
 馬鹿。
 たぶん、兄にも言いたかったし、自分にも言いたかった。
 奇跡的な回復だった。脳死に近い状態になるかもしれない、といわれた時からすれば今の状態など考えられない。
なにしろ、あんなに血がたくさん出ていたのだ。
 私自身、もし兄があと四日過ぎても目を覚まさなければ自殺しようと決めていた。
 もうすぐ二月も半ばにさしかかる。
「なあ、舞。退院って、いつできるんだ」
 兄の体力はもうだいぶ戻っているようだ。手術が思いのほか簡単に済んだおかげかもしれない。
 私はちらりと兄のお腹に視線を向ける。
 直径十センチの刺し傷。きっと、元通りには二度とならない。
「……何言ってるの?」
「え? いや、俺、もうお腹が少し痛いだけだし、早く退院したいんだけど」
「あのねえ! そんなことできるわけがないでしょう! 退院なんて、もっとずっと先よ!」
 そう言って私は病室の窓を開けた。ちょうど真下に銀杏の木が枝だけ残して生えている。
 中庭の風景。
 自分が何の病気かわからずはしゃいでまわる子ども。すべてを悟ったかのようにどっしりと車椅子に座る老人。傍観者の看護師。
 兄は、あの人たちよりも、幸せだろうか。
「なあ、ここへはどうやって来たんだ?」
 私が持ってきた文庫本を物色しながら兄が言った。
「え? バスで、だけど」
「へー、バスで。ふーん。そうかそうか」
 言うとにやりと笑みを深くした。私は、なんだかむずがゆい感じがして、どうしてそんなことを聞くの、と問いただしたが、彼は笑って話をそらすだけだった。
88リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:38:03 ID:NdEcvS9y
「梶原さん、調子はどうですか」
 私が花瓶の水を換えていると、コンコンと言う控え目なノックの後、一人の看護師がドアの隙間から顔をのぞかせた。
「ああ、菫さん」
 兄は菫と呼ばれた看護師を見ると嬉しそうに居住まいを正して出迎える。私は黙りながらも一礼した。初めて会う女の人だった。
 二人が談笑を始める。他愛無い話。女の短い髪がゆらゆらと揺れ、人懐っこい顔がころころと変化した。
「妹さんも来てたんだ」
「ええ」
「じゃあ、お邪魔だったかな」
「いや、菫さんが邪魔だなんて、そんなことないですよ」
「ふふ、ありがとう。すごく嬉しい」
 上品に手を口に当てて微笑む。男に好かれるような笑い方だと思った。
 私は急に居心地が悪くなって、部屋の中を意味もなく見回す。
 兄の入院しているところは個室だ。家には多少お金に余裕があるため、そういうふうに取り計らった。
 そのため、兄と看護師の仲はこんなにもいいのだろうかと勘繰ってしまう。こうやって観察していると、まるで……仲のいい、何か、みたい。
「午後からまた診察に来るから」
「あ、本当ですか。ありがとうございます」
 ふと、思う。この看護士はなぜ手ぶらでここに来たのだろう。いや、それ以前に何をしにここに来たのか。
「妹さん、どこか調子悪いの」
 菫が心配そうにこちらを見た。そのついでとばかりに兄の肩にそっと手を置いたのを私は見逃さなかった。
「そうなのか、舞」
 兄は心配して、手で額の熱を測ろうとしてくる。私は、わざと驚いた顔をして、
「珍しいわね」
 と言った。
「珍しいって?」
「だって、いつもお兄ちゃん、熱を測るときは額をひっつけなくっちゃ駄目だっていって、キスできるくらいに近くまで顔を寄せてくるじゃない」
 菫が、ぴくりと反応する。それが面白くて、私はさらに続けた。
「ああ、悪かったわ。こういうこと、他の人の前だと言わない方がいいのよね。だったら、言いなおすわ。そんなことをしたことは一度もないです」
 兄は苦笑いをしながら、菫の方を向いて弁明したが、当の本人は、兄ではなく私を見ていた。
 丁度、兄が背中を向けていたので、私は薄く笑った。声には出さず口で、ドブス、とも言っておいた。
 目を細めた菫は、また来るから、と言ってでていった。またね俊介君、と私の方はもう見もしないで。
89リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:39:00 ID:NdEcvS9y
「何であんな嘘言うんだよ」
 また二人になった病室で、兄はふてくされたように私を咎めた。私は立ち上がって、兄に背を向け、また花瓶の水を入れ替える。
「お兄ちゃん、あの人のことが好きなの」
「え? あー、どうかな」
「ごまかさないでよ。私に嘘、つかないで」
「うーん。でもこういうことは言いにくいからな……うん、まあ、嫌いじゃないよ」
「好きなの」
「好き、かな?」
「ふーん」
 その言葉は、どういうわけか、私をひどくせつなくした。このひとと自分は、ずっと一緒なのに、いつも共にいるわけではないのだ。
 そして兄は、余計なことまで言う。
「優しいんだ、すごく」
 言い方が癪に障る。そんな声で言わなくてもいいのに。
「そりゃあ、看護師だからね。優しいのは当たり前なんじゃないの」
「うん。まあ、それはわかってるけどさ。でも」
「でも?」
「こないだのバレンタインでチョコレート、もらったんだよね」
 義理かどうかなど、訊かなくてもわかった。
 窓の外の中庭。いつの間にか誰もいなくなっている。
 本当に馬鹿だ、私。
 看護師にやきもちを焼いたりして。さらにはあんなことまで言って。私と兄はただの兄妹なのに。絶対、結ばれることなんか、ないのに。
「へえ」
 最後に言った言葉は、精一杯の強がりだった。
 食料をスーパーで買い、家に戻ると、私は最近では日課になりつつある料理に取りかかった。
テーブルの上に本を広げ、暗証した後に取りかかる。
「バレンタインデーか」
 家に帰ったというのに、また口が勝手に動いた。
 すでに日にちは過ぎている。今から渡しても、兄は喜ばないだろう。
 忘れていたわけではない。その日の数日前からチョコレートを作っていた。
けれど、出来なかった。うまく作れなかった。だって、料理なんて、何かを作るなんて、生まれてから一度もしたことがなかったのだ。
「できた」
 皿にハンバーグを乗せる。パセリとニンジンをトッピングすると、以前からは考えられないような上等なものが出来上がった。
「でも、もう遅いのよね」
 自嘲して、一人で夕食を済ませた。

90リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:39:42 ID:NdEcvS9y
  /


 次の日はたっぷりと長い一日だった。
 昼に兄の入院している病院に行くと、受付で医者に呼ばれたので面会室に出向いた。そこには菫もいて、昨日と同じように薄目を開けて私を見てきた。
しかし、そんなことを吹き飛ばすようなことを医者から告げられた。
 どうやら、来月には兄は退院できる、とのことらしい。
 私は嬉しくなって、ありがとうございます、と深く頭を下げた。下げた瞬間、菫が靴で煙草を揉み消すようにぐりぐりと地面を擦ったが、気にしなかった。
「まあ、本当はもっと早く退院できたんだけどね」
 私の態度に気を良くしたのか、医者が唐突に言い出した。
「どういうことですか」
「刺された傷は確かにひどかったよ。血もかなり出血していた。でもね、目が覚めてからは驚くほど回復していたんだ。本人だって、自分で歩いてトイレに行ったりしていただろう?」
「じゃあ、なんで二か月も?」
 私が尋ねると、
「先生」
 と、さっきまで黙っていた菫が制した。
 狸のような顔をした医者は、それを聞くとわははと豪胆に笑って話をやめた。
 もしや、と思って菫を見ると、彼女が医者の後ろから唇だけを動かして言う。
 ドブス、と。ご丁寧に親指を下にまで向けて。
 その後は、いつものように兄の元に向かった。病室に行くと兄は退屈なのかぱらぱらと文庫本のページだけを捲っていた。
「お兄ちゃん、来月の十四日に退院できるって」
「ああ。それ俺も菫さんから今日聞いたよ」
 兄が窓を開けながら言う。
「まあ、こんなに元気なんだから。そりゃあ、そうだよなあ」
「でも、まだ危ないことはしないでよね」
「わかってる……って言いたいところだけど、もうすでに外出許可をもらったんだよね」
 私は驚いて、
「外出って、どこかに行く気なの。まだ危ないわよ」
 と言った。
 兄は、困った顔をしながら、
「よかったら、舞もついてきてくれないか」
 と共犯をそそのかすように誘う。
「なあ、舞。お母さんのお墓、行ったか」
 私が悩んでいると、さらに兄が言った。
「……行ってないわ」
「本当は、あの買い物の後、二人で母さんの墓に行くつもりだったんだ。出かける前にも少し言ってただろ」
 具合よく、開いた窓から風が入ってくる。母譲りの私の髪がさらさらと揺れた。
91リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:40:46 ID:NdEcvS9y
「ねえ、聞いてもいい?」
 兄の目の前まで行く。正面に来ると、まだ幼さを含んだ顔が優しく微笑んだ。
「なんで、パンダのキーホルダーだったの」
 それは、ずっと聞きたいことだった。
 今、ペンダントにして胸から下げているキーホルダー。兄の血が取れない、それ。なぜ、キーホルダー、パンダだったのか。
「それしかなかったんだよ」
 照れたように兄がそっぽを向く。
「これしかなかったって、他にもいっぱいお店はあったじゃない。それに……」
「はは、今時キーホルダーだもんな。気に入らなかったか?」
「そんなこと、ないけど」
「でも、キーホルダーしかパンダがなかったんだよ」
「なんでパンダにこだわるのよ」
「だって舞、パンダ好きだろ」
「え?」
「昔、動物園に行った時も、ぬいぐるみを買う時も、水族館に行ったときだって、あるわけないのにパンダが欲しいって言ってたじゃないか」
 兄の言葉が私を捉えて射抜く。
 そんな――昔のことを覚えていたと言うのか。あんな小さい時のことを、ずっと。
「……昔のことじゃない」
 私は本当に馬鹿で、こんな時ですらプライドが邪魔して、天邪鬼になってしまう。
「俺は、あんまり舞のこと知らないから」
 そんなことない。
 私だ。私が兄のことを何も知らないのだ。
 好きなものも、好きなことも、嫌いなものも、嫌いなことも、趣味も。何一つ。
 もっと私が素直ならば聞けただろうか。
 運動は得意なの。いつもは部屋で何してるの。どれぐらい友達がいるの。何をして遊ぶの。
 好きな人は、いるの? と。
「いつ、お墓に行くの?」
「今から」
 兄の言葉を聞くと、私は涙を見せないように、準備を始めたのだった。
92リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:41:12 ID:NdEcvS9y
 母の墓に到着したのは、午後三時を過ぎていた。
 兄は久しぶりの外出が嬉しいのか、嬰児のようにきょろきょろと周囲を見回しながら歩いた。
 町はずれの丘に、母の墓はある。
 平凡な小さな墓だ。母らしい、ひっそりとした隅っこにあるにもかかわらずなんだかその部分だけ他の墓とは違うような感覚。
地面から生えたようなずっしりとした墓ではなく、上から降ってきたようなふわふわした違和感があるのだ。
「水、汲んでくるから」
 母の墓の前までくると、兄はそう言って走って行った。
 計算していたような、わざとらしいタイミングだったが、私は何も言わず黙って見送った。
 一人、母と向き合う。
 何を言ったらいいのか。来るときずっとそう思っていた。
 泣く、懐かしむ、憎まれ口を叩く、はたまた奇妙に自立でも宣言する。どれを言うべきだろう。
「久しぶり」
 結局、その後、
「お母さん、私、お兄ちゃんが好き」
 と見当はずれなこと言った。
「怒る? でもごめんね。もう、ちょっと無理かな」
 そう言って私は続ける。
 きらりきらりと墓石が光り、風が言葉に応えるように凪いだ。
「お兄ちゃんのこと、好きになっちゃった。すごいでしょ。自分のことしか興味なかったのに」
 好きな人が走って行った方向へ視線を投げる。すると、近くにあった木が揺れて葉を落とし、瞳を隠した。
「だめよ。邪魔なんかさせない。誰にも。だって、お母さんはもう、ここにしかいなくて、お兄ちゃんは生きてるんだもの」
 水汲み場から兄が戻ってくる。小さい子みたいにブンブン手を振っているのがやたらとおかしかった。
「またね、お母さん」
 私は笑いながら、兄のもとへと走る。
 もうそれ以上、喋ることはない。だって、母はおそらく反対するから。
 壊れる前の母は眉を寄せて説教を始め、後の彼女は、兄に私が取られると思って泣くに決まっているのだ。
 だから、これでいい。
 私の世界にいるのは三人で。母はすでにおらず、今は兄しかいないのだ。

93リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:41:36 ID:NdEcvS9y
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 三月七日。晴れ。
 兄には、今日は家で勉強をするからお見舞いに来られない、と言っておいた。
彼は一瞬驚いたが、何事か思案すると嬉しそうに頷いてくれる。ゆっくりでいいからな、とも言った。
 兄を刺したおじさんがこの扉の向こうにいる。病院だ。兄のいる病院の三階の角部屋。
 中には、担当の菫もいるようだ。
「……」
 そっと扉を開けた。どうやら部屋には二人しかいないよう。おじさんは一番端の窓の傍のベッドで何か威勢良く菫に話しかけている。
「君、かわいいねえ」
「やだ、川岸さん。褒めても何も出ませんよ」
「いやいや、俺は本当のことしか言わねえよ。……どうだい、これで下の世話もしてくれないかい」
 下卑た笑みを浮かべながら、指を三本立てた。
 菫は僅かに止まったが、何言ってるんですかと言うと、川岸の手を布団の中へとしまう。
 最高に運がいい、と私は思った。ドアを握る手に力がこもる。
 間違いなくあの時のおじさんだ。あのいやらしい考え方。気持ちいいぐらいに腹が立つ。
 川岸はさらに指の数を増やして、菫の顔を窺う。
「まだ足りない?」
 その言葉を聞くと、私はもう逆に嬉しくなって、最後まで見ることなく、その場を離れた。
94リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:41:58 ID:NdEcvS9y
 インターネットカフェに着いたころには太陽が沈みかけていた。青の帳がはがれ、茜色の空が広がっていた。
 急がなければならない。
 私は受付で一時間だけ角にある個室を借りたい、と言った。面倒くさそうな男の店員がしぶしぶ部屋に案内してくれたが、招かれた部屋は汚かった。
たばこの吸い殻、ごみ箱の中身が放置されたまま残されている。
「じゃあ、ごゆっくり」
 男の店員が去ると、ます周囲をぐるっと見て監視カメラがないことを確認した。念のため、隣の個室に人がいないことも確かめる。
それからパソコンの電源を入れた。
 通販のページを開く。
「届くまで六日か……ぎりぎり、かな」
 用を済ませると、私はカフェ内にある自販機で紙コップにジュースを入れて持ってきた。
 それを飲み干し、持っていたバッグから油をしみこませたハンカチを取り出す。
 紙コップの中に入れ、そのまま逆さまに向けた。
「それと」
 灰皿から吸い殻の煙草を一本取る。都合のいいことに半分ほどしか吸っておらず、まだ使えるようだ。
 紙コップの真ん中に煙草と同じぐらいの大きさの穴を開け、そこに火をつけたものを突き刺す。
「よし」
 準備が終わると、それから素早く支払いを済ませ、店を出た。
 出来るだけ遠くに行った方がいい、とは思ったが、きちんと成功しているかどうか確認することの方が大事だ。
 何一つ証拠はない、と言うことを確信しながらも初めてのこと。心臓の動悸が早くなりながらもその場に止まる。
 落ち着いた方がいい。息を大きく吐くと、私はインターネットカフェの向かいにある飲食店に入った。
 ドリンクだけ注文して、窓からさっきまで自分のいた店を見た。
 すると、
「おい、あそこ火事じゃないか?」
 と、後ろの席に座っていた男が騒ぎ出した。それを聞いた、周囲にいた人たちが伝染するように喚きだす。
 時間が経つにすれ、誰かが通報したのか消防車までやってきた。
 私は、黒い煙がもくもくと点に上るのを確認すると、やっと肩を落とし椅子に深く腰掛けた。
「だって私、パソコンには詳しくないから、他にやり方がわからないのよ」
 私の声は雑音にかき消された。

95リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:42:22 ID:NdEcvS9y
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 三月十四日、雨。
 病院の受付はにわかに騒がしくなっていた。
 私が兄に面会しに来たことを伝える。しかし、いつものように感心するような声はなく、半ばおざなりに、わかりました、と言われた。
 兄の部屋にまで行くと、彼はベッドで落ち着きなく天井を眺めたり窓の外を眺めたりしていた。
「どうしたのよ、そわそわして」
 私が部屋に入ってくるのを確認すると、兄はふうとため息をつく。そして私に、
「なあ、菫さん見なかったか」
 と聞いてきた。
「知らない。見てないわ」
 私がそう答えると、兄は聞いているのかいないのか、そうか、と単調な声で返す。
 兄がこんなに挙動不審になっている原因はわかっている。
 きっと今日がホワイトデーだから菫にお返しを上げようと思っているのだろう。見れば入口からは見えない反対側のベッドのふちに、何かの袋が置いてある。
「……」
 私は気付かないふりをして、近くにあった椅子を手にとって座った。頭一つ分、兄の視線が下がる。
 柔和な目だ。私とは正反対の澄んだ瞳。
 私は幸せだ、と思った。こうしているだけで完全に幸福だと思った。
「そう言えば、今日は看護師の人たちが忙しそうだな」
「何かあったんじゃないの」
「急患ってことか? でもそんなの病院なんだから、こう言っちゃなんだけど、見慣れてるだろ?」
「じゃあ、患者さんと看護師さんの間で何か問題があったとか?」
「そんなことあるわけないだろ」
 笑う。
 でも、お兄ちゃんがしようとしていることは、そういうことじゃないのだろうか。
 それに――、
「わからないわよ。薬でも飲まされて感情が高ぶっちゃった、とか」
 ということだってある。
 もちろん、例えば、の話だけれど。
「どこの藪医者だよ」
96リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:42:45 ID:NdEcvS9y
 その後は、退院した後何をするかについて話した。
 兄が何かを言い、私が諫める。以前と逆の構図だ。でも、そんなことがいちいち嬉しい。
 緩やかな時間。最近よく思う。兄といるとき、時間は蜜のように甘くゆるやかに流れる、と。
 こんこん。
 そんな中、見知らぬ看護師が乱暴なノックをして入ってきた。
「こんにちは」
 兄が挨拶をする。私は二人きりの時間が邪魔されたことに腹を立てたが、入ってきた看護師の顔を見ると機嫌を直した。
 看護師はじろり、と睨んで来て、具合はどうですか、と尋ねてきた。
「少し、お腹が痛いですけど、それ以外は」
「耐えられない痛み?」
「いいえ」
「そう、じゃあ、次回からその程度の痛みなら報告しないでね」
 彼女は低い声で言う。
「今日は、す……田中さんじゃないんですか」
「そうよ。問題ある?」
「……いえ」
「……ちょっと、色々あってね。……あの人はここを辞めると思うわ」
 兄が呆けたように口を開けて驚いた。看護師はそんな兄を一瞥すると、さっきまでとは少し雰囲気が変わって、何か言うべきか迷っているような感じになった。
けれど、何か悔しそうに思い直した後、力なく首を振って口を閉ざした。
 私は、その表情にわずかに心を痛め、とっさにあらぬ方向を見る。窓の外だ。硝子に映った看護師と示し合わせたかのように目があった。
 どうしてだろう。
 その表情は、看護師の顔ではなく、まして菫でもなく、少し前の私の顔と同じように見えた。哀しそうな、そんな。
「どうしてですか」
 そして、矢継ぎ早にされる質問に、看護師は答えることなく去っていった。
 兄は泣くだろうか。
 この人はいつもだれか近しい人が傍からいなくなると泣く。幼稚園のときだって自分をいじめる男の子が引っ越すというのに、悲しくて泣いていた。
父が、家から出ていく時も。
 そこに、私は答えがあるような気がするのだが、また一人になりたいかと言われると首を縦には絶対に振れない。
97リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:43:09 ID:NdEcvS9y
 私は何かを求めるように兄の顔をじっと見た。
 ここにいていいのだ、そう言ってほしかったのだ。
「ねえ」
 気がつくと兄ではなく、私が泣いていた。
 馬鹿みたい。何を今更、後悔しているのだ。もう二人で生きていくと決めたんじゃないのか。馬鹿。
 こんなことを考えていること自体、バレンタインに本命のチョコレートを渡せないこと自体、
私たちが結ばれてはいけない兄妹だということを証明しているというのに。
「ねえ」
 そして、改めて自分は妹なのだと思うと、余計な言葉が口をついて出た。
「あげないで」
 すぐにやめようと思う。
 早く泣き止んで、少し怒って言ってやればいいのだ。お兄ちゃん。私にもプレゼントちょうだいよ、と。
「それ、私にちょうだい?」
 なのに。
「好き。好き」
 私は、いや――舞は、感情的にまくし立てる。
 まずいということはわかっていた。兄はかなり倫理観に固い人間だし、妹が好きだなどと言っても、応えることはなく、むしろ強制させる可能性さえある。
 また、一人になってしまうかもしれないのだ。
 しかし、それなのに舞は言う。
「好きなの。他の人にあげないで」
 と。
 兄妹の絆を打ち破れることを願って。
 卑怯なことさえ、許されると願って。
 計算も何もなく、めちゃくちゃに。
 でこぼこ。がたがた。
 リアス。
 結局、私のすべてはそれなのだ。
「……」
 静かだ。静かになった。
 兄はまだ、ぽかんと私を見ている。しゃっくりだけが響く室内。
98リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:44:02 ID:NdEcvS9y
「……知ってたのか?」
 兄はそう言うと、泣いているのなんかお構いなしに、隠していた袋をベッドの上に持ち出して、一つのぬいぐるみを出した。
 なぐさめているつもりなのか、ぽんぽんと頭をやさしく叩かれたが、どちらかというと隠していたことを見事に言い当てたことに値する称賛のような感じだった。
「本当はもっと、他にあげたいものがあったんだよな、キーホルダーなんかじゃなくて」
 出てきたのは、大きなパンダのぬいぐるみだった。
「これ」
「ああ、墓参りの時に見つけておいたんだ。外出はそのためでもあったし」
「もしかして、だからあの時きょろきょろしてたの? それに今日も」
「よく見てるなあ」
「でも、菫さんのは? 私、この袋、菫さんへのお返しだと思ってた」
「菫さんにも、お返ししようと思ったんだけどな。彼女、昨日から見当たらなくて」
 兄はそう言って、横の机の引き出しからラッピングされた小さな袋を出した。中にはクッキーが入っている。
「でも、菫さん、辞めちゃうみたいだし、どうしらいいかな」
 兄が訊いてきたので、私は彼の顔をグーで殴ることにした。思いきり。
 そして、彼の耳にあー、と大きい声で叫んだ。
 何でそんなことをされるのかわかっていないようだったが、それがさらに腹が立ったので反対の耳にも叫んでやった。
 しかし、さっきまでの自分と違って、ゆっくり大きく息を吐く。外を見れば、さっきまで降っていた雨が止んでいた。
 馬鹿馬鹿しいな、と思った。何もかもが。誰かの死も。母のことも。自分自身さえ。
 きっと私はまだ弱くて、何かに脅えていたのだ。一人にされてしまうような訳のわからない死が怖かったのだ。
 私はおそらく、世界で一番弱い。できることは、二人で生きていくことだけなのだ。それだけには一途でいよう。
 そう思うと、初めて強くなれた気がした。
「ねえ、お兄ちゃん」
 ひょいっと兄の手からクッキーを奪う。
「これ、ちょうだい?」
「いや、これは菫さんに」
「いいじゃない。彼女はもういないんだから」
 兄は怒ったが、もう一度はっきり言っておいた方がいいと思ったので、
「それに私は、好きだって言ったじゃない」
 と言った。妹にそんなこと言われると照れるなと兄は笑った。
 私はもうおかしくてたまらなくなってしまって、二人の世界にすでに菫も川岸もいないのだから、とりあえず抱きついておこうと思った。
「退院おめでとう、お兄ちゃん」
 私の声が空へと昇る。
 母もどこかから見ているのだろうか。

99リアス ◆P/77s4v.cI :2009/07/31(金) 18:45:00 ID:NdEcvS9y
投下終了です。リアスはこれで終わりです。
本編も忘れないでいてくれると嬉しいです。
100名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 18:53:01 ID:kNs/mfhE
キモくない妹がキモくなる瞬間は何時見ても心が踊るぜ!
101名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 19:24:16 ID:DgHNSKNa
>>99
おお、後編きてたGJ!
舞の覚醒……というか、しょっぱなからやることエグイな。

忘れないうちに、また本編の続きが投下されるのを待っています。
102名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 23:51:17 ID:cUfXe0B5
>>99

兄の優しさがいい感じです
GJです

↓5レスほど借ります
103かいじゅう 1:2009/07/31(金) 23:53:24 ID:cUfXe0B5
これは人類の危機を救った勇気ある地球防衛軍の記録である

ある日の東京
突如として地面が割れて巨大な怪獣が出現した
…本当は世界観とか、予兆とか、混乱の様子を描写するべきだろうが、ここは敢えて割愛して想像に任せるとしよう
とにかく怪獣は強かった
地球防衛軍の戦車や戦闘機が出動したが、お約束通り手も足も出ず壊滅した

防衛軍が壊滅すると、出番を見計らったように人類の味方が現れた
銀テカの体に赤いラインが入った光の勇者とか
高速回転しながら空を飛ぶた巨大なカメとか
原色の全身タイツを着た5人組が呼び出した巨大ロボットとか
放射能の炎を吐くゴジラとか…いけね、名前出しちゃった

まあ色々都合よく戦ってくれたけど現実は厳しい
みんな怪獣にいいようにボコられてスゴスゴと家に帰って行ったのだった

「もうだめっスね」
すっかり諦めムードの防衛軍指令室で若い隊員が新聞を広げながら呟いた
岡田真澄に似たダンディな長官は何やら思案していたが、やがて意を決したようにその重い口を開いた
「やむを得ん…オペレーションKを発動しよう」
104かいじゅう 2:2009/07/31(金) 23:56:04 ID:cUfXe0B5
「何を言い出すんスか」
「危ないことはやめましょうや長官」
「僕は嫌ですからね」
あちこちから役人特有の倦怠感を口調に滲ませた異論が出る
「ん〜…」
長官は葉巻をくゆらせながら少し考え込んだ
「だけど、怪獣倒せなかったら責任とらされるの僕らなんだよね」

長官の熱い思いが若い隊員の胸をうち、最後の手段、即ちオペレーションKの発動が決定した
105かいじゅう 3:2009/07/31(金) 23:56:54 ID:cUfXe0B5
その数時間後
ハズレくじを引いたパイロットの操縦する戦闘機が怪獣の頭上を通過し、十個余りのパラシュートが降下した
怪獣の直近に降下したのはいずれ劣らぬ屈強の兵士…ではなく、どこにでもいそうな10代の若者だった
境遇も外見もバラバラだったが真面目で大人しそうな、そして取り立てて取り柄も無く、何となく周りに流されやすそうな雰囲気だけは共通していた

恐らく何も聞かされてないのだろう
誰もが、どうしていいか分からずに、物陰に隠れたり、オロオロしたり、とりあえず怪獣に石を投げたりした
106かいじゅう 4:2009/07/31(金) 23:57:47 ID:cUfXe0B5
何だこいつら―怪獣もよく分からなさそうな感じだったが、何だか鬱陶しいその連中を踏み潰そうとして―――

その数分後にはバラバラの肉塊と化していた


「大丈夫?お兄ちゃん」
少年の1人に駆け寄ったのは、先ほど怪獣の目玉を素手でえぐり出したツインテールの少女

「よかった…アナタが死んだらお姉ちゃんも生きてられない」
逃げ出した怪獣の尻尾を掴んで数十回地面に叩きつけた清楚な黒髪の女性が泣き崩れた

「兄さんを苛めていいのは私だけ。そうだよね」
倒れて痙攣する怪獣の腹を引き裂いて、あはははは、と嗤いながら臓物を投げ散らかしたショートヘアの美少女が最愛の兄を抱きしめて囁いた

(中略)

地球は守られたのだった。
107かいじゅう 5:2009/07/31(金) 23:58:46 ID:cUfXe0B5
「ところでさあ」
巨大な鉄骨を怪獣の頭に叩きつけつトドメをさした少女がふと呟いた

「誰が兄貴達をこんな危険な目に合わせたんだろ」

いずれ劣らぬ可憐な少女達は互いに顔を見合わせて…全員同時にあどけない表情でクスリと笑った

もう一度言おう
地球は守られた

だが、その後の地球防衛軍が守られたかどうかは誰にも分からなかった


それからも人類は宇宙人の侵略やら太古の邪神やら幾多の危機を迎えることとなる
しかし、この作戦が二度と発動されなかったことを付け加えておこう

108名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 00:05:52 ID:p53iti++
職人さん、お二方ともGJです。

キモ覚醒シーンって案外少ないから貴重。キモ覚醒分補給させていただきました。

『かいじゅう』パネェ……キモ姉妹はその気になれば地球人類全滅させれるのでは?
109名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 00:07:42 ID:G+XYe4lz
以上失礼しました
110名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 00:10:15 ID:aJzBOrRg
やべぇ、くしゃみが止んねぇ!
111名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 00:13:01 ID:pNpzULpJ
>>102
投下お疲れ様です。
なんてやる気のない地球防衛軍。
なんて適当な最終兵器――当て馬キモ姉妹。
こんな地球の守られ方は嫌すぎる。
112名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 00:40:17 ID:/Yj8e+6C
さすがオペレーション『キモ姉妹』www
彼女等がいれば、宇宙怪獣だろうがヤックデカルチャーだろうが地球は安泰だなwww
113名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 01:01:28 ID:07NksPqV
ツインテールはエビの味…な旨さなそうな
114名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 01:24:34 ID:X+D0GcBb
>>112

       _,,..,,,,_ モシャ
   (( ./ ・ω・ヽ ))
   (( l    , ', ´l  モシャ
、、、、、、、`'ー---‐´wwwwwwwwwwwwww
115 ◆EY23GivUEuGq :2009/08/01(土) 02:51:59 ID:byAGdTuc
>>99>>102
二人ともGJ。覚醒するキモ姉妹も凄いが覚醒しきったキモ姉妹怖いなぁ・・・


後編投下。
上で言われてる二進法の間違いについてはスルーの方向でorz
そもそもガチガチ文系の俺がこんなネタで書いたのが間違いだったようだ・・・。
116二進法に生きる僕達・後編 ◆EY23GivUEuGq :2009/08/01(土) 02:54:04 ID:byAGdTuc
コンコン、と扉がノックされ、昼食を食べ終えた姉が入ってきた。
「あら、どうしたの? 顔が真っ青よ」
姉が僕に、性的感情を抱いている・・・。通常では有り得ない事だが、思い当たる節が無いわけでもない。
例えば、姉は思春期であるにもかかわらず僕に「そういった類」の物の所持、そして自慰行為を厳しくチェックしていた。
「したくなったら、お姉ちゃんに言いなさい」と、あの時は冗談、もしくは自慰禁制の為のプレッシャーだと思っていた。
また、中学に上がって以降、お風呂場に乱入されたのも一度や二度ではない。
そして、何故か断り続けるお見合いの話・・・。

勿論、確証があるわけではない。凡人たる僕の推理なのだから、恐らく間違っている可能性のほうが高いだろう。
しかし、正否の事は別にしても一度「そういう答えに至った」という事実は、僕の目にフィルターとして焼きついてしまった。
「具合でも悪い―――」
頭で考えたわけではなかった。ただ、姉に頬を触れられたとたん、体が、本能が反応し、刹那的に手を振り払っていた。
「あ・・・」
ごめんなさい、と言おうとしたが声は出ず、気まずい沈黙だけが流れた。
何をしているんだ僕は。たった一人、僕を認めてくれた姉に対しこの仕打ちは酷いだろう。
心が、頭がそんなことを叫んでいても実際僕は動けなかった。そして姉はまるで魂を失った様に固まっている。
「ご、ごめん姉さん・・・」
なんとかかんとか、謝罪の台詞だけは発することが出来た。が、依然姉は固まっており、その口だけが僅かに動いていた。
「・・・00・・・110・・・+101101・・・」
(数式・・・?)
どうやら姉は、固まりながら何かの数式を解いているようだった。耳を澄ませばブツブツと、小さく姉の声が聞こえる。
やがて、唐突に黙り込んだかと思うと両手で顔を覆い、二、三度深呼吸をすると普段の姉の顔に戻っていた。
「あら、どうしたの? 顔が真っ青よ」
先程と、部屋に入ってきたときと全く同じ声色、音声、テンポで呼びかけた。
そっくりと言うよりは、まるで先程の光景を巻き戻し、再生したと言ったほうが正しい。
そして、もう一度同じタイミングで僕の頬に手を伸ばした。
「具合でも悪いの?」
これまたさっきと怖いほど同じだ。違うとすればそのまま手を払わなかった為、温かい掌で顔を撫でられたということだ。
まるで何事も無かったかのように、心配そうな顔で抱きしめられる。温もりが顔全体に広がった。


姉の提案でベッドに横になった僕の頭を、心配そうに何度も丁寧に撫でられた。
「夏バテには少し早すぎるんじゃない?」
クスクス笑う姉を見て、僕は先程の自分の行いを深く恥じた。
「あのさ姉さん、さっきはごめんね」
「さっき?」
「いや、手、振り払っちゃったろ? まったく、どうかしてたよ僕」
「え? 何言ってるのよ宗一ったら。手なんか振り払ってないじゃない」
・・・? あれ? なんなのだろうかこの違和感は。姉の顔は心底、全くと言っていいほどに疑問の表情が浮かんでいた。
「え、と。だからさ、その前に一回手を振り払っちゃったじゃ・・・」
「そんなことしてないわ」
ピシャリ、と一喝するように言い放った。あまりにも強引で、まるで「本当にそんなことが無かったかのような」反応だ。
117二進法に生きる僕達・後編 ◆EY23GivUEuGq :2009/08/01(土) 02:56:10 ID:byAGdTuc
「宗一がそんなことをするわけが無いじゃない」
何か、この一言が重大な、決定的な部分を含んでいるように聞こえた。
姉が自分のことをどう思っているのか、自分に何を求めているのか、そして何を考えているのか。
「あの、姉さん・・・」
「少し休みなさい」
ゆっくりと、静かに「命令」した。
「やっぱり少し疲れているのよ。ずっと傍にいてあげるからちょっと眠りなさい」
掌で僕の瞼を覆い、優しく語り掛ける。姉の言葉はいつだって正しかった。だからこのまま眠ってしまうことに素直に従った。


目が覚めたのは陽の沈みかけた夕刻だった。
姉は言葉通り、僕が目覚めるまでずっと離れなかったらしい。僕に気がつくと読んでいた本を閉じ顔を覗きこんだ。
「おはよう。気分はどう?」
「ん・・・。悪くは無いよ」
頭が覚醒していくに従って、昼間の出来事が沸々と思い出されてくる。姉が僕のことをどんな目で見ているのかということ、一連の行動に
ついて全く覚えていないこと。
「あのさ、姉さん。昼間のことなんだけど・・・」
言いかけて止めた。確信は無かったが、きっと何を言ったところで無駄だろうと思った。下手をすればまた眠らされるかもしれない。
(何がなんだか分からない・・・。もう頭がぐちゃぐちゃだ・・・)
凡人の頭は、小難しいことをあれこれ考える程容量に余裕があるわけではなかった。
結局、姉には何も聞けない、考えは纏まらない、何も解決せずに夏休み初日は幕を閉じ―――なかった。


深夜、何度目かの時計確認で現時刻は午前3時半だと分かった。昼間に寝てしまった為、ツケが回ってきたのだ。
「やっぱ眠れないよなぁ・・・」
小さく独り言を呟く。もっとも、無音の暗闇は考え事をするのに丁度良かった為、もう一度姉について思い出してみた。
―――姉さんは本当に何も覚えてなかったんだろうか。
そういえば、手を振り払った後の姉さんはどこかおかしかった。虚無の表情と言うか、何も見ていないというか。
それに、あのとき口走っていた数式も気になるところだ。
こうやって考えてみると、いままでずっと姉と一緒だったのに僕は知らない事だらけだ。
姉さんの僕に対する考えだって、家族愛なのか、それ以上なのか、何とも言えない感じがする。
(一体姉さんは何を考えているのだろう・・・)
「0」と「1」。この二つが何かのキーワードであるのは間違いないと思うのだけど・・・。

―――ギィィ・・・

不意に、部屋の扉が開いた。反射的に眠った振りをするが、別に起きている事を隠す理由は無い。とりあえず様子を伺う事にする。
「宗一・・・」
入ってきたのはどうやら姉のようだ。目を開けられないため顔は分からないが、ベッドの横に立っているのは気配で分かった。
「さぁ、今日も一杯出そうね」
次の瞬間、口にハンカチのようなものを押し当てられた。鼻から口に掛けて、グリグリと押し付けられる。
(―――まさか睡眠薬とかじゃないだろうな!?)
これまた反射的に鼻と口の呼吸を止め、ハンカチが取り除かれるのを待った。それにしても今姉は気になることを言っていたような。
―――「今日『も』」・・・?
まさか、こんなことを毎晩行っていたとでも言うのだろうか。一体何のために?
やがてハンカチが取り除かれ、呼吸確認の為に姉が掌を僕の口のすぐ上へと持ってきた。
「そろそろいいかしらね」
118二進法に生きる僕達・後編 ◆EY23GivUEuGq :2009/08/01(土) 02:58:17 ID:byAGdTuc
ちゃんと眠っていることを確認した姉は、ゆっくりと僕の腹にかかっているタオルケットを剥ぎ、寝巻きのハーフパンツを引き下げた。
(何だ・・・!? 何をしているんだ・・・!?)
心臓の鼓動が早くなり、手に汗がにじむ。落ち着かなければ姉に気づかれてしまいそうだ。
やがて姉はトランクスをも引き下げ、外気に晒された僕の陰茎を手で揉み解し始めた。
―――『アネハ ボクヲ セイテキナメデ ミテイル』―――
信じたくは無かった。可能性としてでも考えたくは無かった。
この時点で僕は自分の推理が当たっていること、即ち『姉は僕に性的欲求を求めている』という仮定が事実となったのである。
姉は既に片手で己の秘所を弄りながら、もう片手で僕の陰茎を支え、その先端を口に含んでいた。
「はんっ・・・むぅ・・・れろっ・・・ちゅぅっ、じゅるっ・・・」
こういった経験は無かったが、姉が初めてではない程のテクニックを持っていることは分かった。
つまり、僕は夜な夜な姉に睡眠薬を嗅がされ、フェラチオをされていたのだ。
優しい姉。厳しい姉。笑った姉。抱きしめてくれた姉。頭を撫でてくれた姉。勉強を教えてくれた姉。一緒に買い物をした姉。
色々な姉が浮かんでは、消えていった。あれはすべて「偽り」。これが、これこそが姉の本当の姿だったなんて・・・。
「じゅぽっ! じゅぽっ! じゅぽっ! ・・・」
規則正しく卑猥な音が部屋に木霊する。
唯でさえ性欲を持て余す思春期なのに、その上自慰禁止を言い渡されている。
想像以上の快楽が下半身全体を包み、とにかくあれこれと考える間もなく姉の口の中に放出してしまった。
「んむぅぅっ・・・!! ゴクゴクッ、じゅるる、ゴクン・・・」

吐き出される精子を一滴も零すことなく、姉は僕の陰茎に吸い付き、全てを綺麗に飲み干した。
「なんで・・・」
声が出てしまった。いや、そんなことは最早どうでも良い。とにかく本当の事が知りたかった。
「ずっと・・・僕のことをそんな風に見てたんだ・・・?」
最初こそビクッた反応した姉であったが、ゆっくり振り向くといつもの笑顔がそこにあった。
「言ったでしょ? したくなったらお姉ちゃんがしてあげるって」
「!! ・・・そんなこと頼んだ覚えは無いだろっ! なんでっ!? どうして・・・こんな・・・」
最後はもう言葉にならなかった。信じていた人に裏切られたような、何とも言えない憤怒の感情が、どこへ発散されるでもなくただただ
痛みとなり心に突き刺さった。
「無理をしちゃいけないと言ったでしょう?」
馬乗りになりながら向きを変え、こちらににじり寄った。笑顔は崩さず、手を伸ばす。
「自分を偽ってはいけないわ。思春期の子が性欲を発散・・・」
「いい加減にしてくれよッッ!!」
姉の伸ばした手を叩き落とし、枕を掴んで投げつける。もう、僕の脳みそはオーバーヒートしていた。
「どこに自分の弟の性欲を発散させる姉がいるんだよッ!? こんなの普通じゃない!! おかしいだろ!!」
姉弟なのだから。これは普通じゃない。有ってはいけないことなのだ。
信じていた姉が、大好きだった姉が、尊敬していた姉が、音を立てて崩れ落ちてゆく。
「『あの時』からずっと・・・ずっと僕のことをそんな風に見てたのかよっ・・・どうなんだよッッ!!」
姉は何も答えない。少し気を落ち着かせて暗闇の中の姉の顔を見ると、その顔は昼間の「魂のない顔」になっていた。
「・・・10100×・・・000・・・110−0010・・・」
ブツブツと、呪詛のような数式が聞こえてくるのも昼間と同じだ。
やがて両手で顔を覆い、深呼吸を済ませる。と、やはりいつもの笑顔の戻がそこにあった。
「無理をしちゃいけないと言ったでしょう?」
まただ、同じシーンの繰り返し。動作も先程と寸分違わず同じタイミングで腕を伸ばす。
「自分を偽ってはいけないわ。思春期の・・・」
「やめろよッッ!!」
今度は腕を掴み、そのままベッドに押し倒す。キッと睨み付けたはいいものの、姉の顔はまたしても無表情になっていた。
119二進法に生きる僕達・後編 ◆EY23GivUEuGq :2009/08/01(土) 03:00:15 ID:byAGdTuc
「質問に答えてくれよ姉さん! ずっと、俺のことを・・・」
自分の言葉が通じていないことはすぐにわかった。まるでただの肉片と化したような姉は、やはり同じく数式を唱え始める。
そして数式が途切れた瞬間、女性とは思えぬ圧倒的な力で僕を逆に押し倒し、先程と同じポジションに戻った。
両手で顔を覆い、深呼吸。
「無理をしちゃいけないと言ったでしょう?」
三度、同じ光景が眼前に広がった。腕を伸ばし、笑顔のまま、何事も無かったかのようににじり寄る。
「自分を偽ってはいけないわ。思春期の子が性欲を発散したいと考えるのは自然なことよ」
柔らかなタッチで頭を撫でる。先程まで秘所を弄っていた左手のせいで、僕の髪にヌルヌルとした粘液が付着した。
そして、僕は気づいてしまった。この、姉の一連の動作の関係性に。
「だから、お姉ちゃんが手伝ってあげる。偽りの玩具で気持ち良くな―――」
パシッと腕を振り払う。姉はまたしても表情を失い、数式を唱え始めた。

そう、姉の考えは、思考は数式で構成されている。そして、たった一つの正解へと至る最良の方法を導き出すことが出来る。
だが、人生は数学ではない。人の生きる道において「たった一つの正解」なんて有りはしないのだ。
では、姉の導き出す「答え」とは? 誰にとっての「答え」を見出しているというんだ?
―――他でもない、姉自身である。
故に、数式によってはじき出された「道筋」以外のパターンが起きてしまった時―――昼間僕が姉の手を振り払ってしまった時―――姉の
脳内では「バグ」が発生する。
予想外のパターンとなった時の「記憶の数式」を脳内の数式から除去し「完全にその時の記憶を忘れ去る」ことを行っているのだ。
唱える数式は、いわば記憶を消去する自己暗示のようなものだ。
そしてもう一度、いや、何度だって同じ方法を繰り返す。何故なら姉にとっての答えは一つであり、それ以外の選択肢は「脳内で計算され
ていない」から。完成された人生と言う莫大な量の数式を、手順通りにこなすだけなのだ。

「無理をしちゃいけないと言ったでしょう?」
そう、何度だって繰り返す。「姉にとっての答え」へ至るまで、僕がどんなアクションを起こそうとも必ず繰り返すのだ。
「自分を偽ってはいけないわ。思春期の子が性欲を発散したいと考えるのは自然なことよ」
では姉の望む答えとは? 姉の導き出した計算は、「0」と「1」は、どのような数式で答えが出ているんだ?
「だから、お姉ちゃんが手伝ってあげる。偽りの玩具で気持ち良くなってはいけないわ。0と1が揃えば何だって、どんなことでも出来る
 もの」
―――偽り。
姉にとって、僕以外の物質は全て偽りなのだ。
例えるならば、母は「2」。父は「3」。近所のおばさんは「4」、向かいのおじさんは「5」・・・。
人だけじゃない。犬や猫といった動物も、車や標識も、この部屋も、ベッドも、服も、何もかも。


二進法に生きている姉にとって、「1」である僕以外は全て「偽りの数字」なのである。
「0」と「1」。
僕がいるから姉にとっての「世界」が構築されているのであり、僕以外の物質は無限に続くただの「数字」でしかないのだ。


「ね、一緒に気持ち良くなろう? 一緒に、どこまでも、永遠に・・・」
それが姉の願い。姉の数式の終着点。
僕と永遠に一つになり、「0」と「1」だけの完全な「二進法の世界」へ。

「10101000000010101111101010011111001010001001010111は邪魔だから脱いじゃおうね」
姉から見た僕のTシャツは、そんな数字なのだろうか。最早姉には、抵抗する気力の失せた僕以外何も見えていない。
素肌を晒す僕を、いつもの優しい笑顔でゆっくりと抱きしめる。頭を撫で、髪を梳き、力強く抱擁する。

120二進法に生きる僕達・後編 ◆EY23GivUEuGq :2009/08/01(土) 03:02:33 ID:byAGdTuc
「ああ・・・宗一、宗一・・・宗一・・・」
姉と一つになった時、僕はどんなことを考えていたのだろう。
今となってはもうどうだっていい。ただ、下半身からの強烈な快感と、口内を侵食する姉の舌の感覚。
一つになるというのは、こんなにも気持ちのいいものなのか。脳が、神経が、存在そのものが溶けていくようだ。
「あっ・・・ああんっ! ・・・いい、よぉ・・・宗・・・い、ち・・・っ!」
0と1の融合で他の数字が作れるのならば、僕達のこうした行為は何かを創造することになるのだろうか。
肩に食い込む姉の爪が、絶頂間近であることを告げる。僕の男としての本能は腰の動きを早め、快楽の瞬間を迎える。
「ッッ――――――!!」
開放はあっけなかった。それが禁忌であるとわかっていたはずなのに、止めようとは思わなかった。
そして僕は―――直に出されてもなお動き続ける姉を見つめながら、ゆっくりと意識を手放した・・・。


―――身体の感覚が無い。ここは一体どこなのだろう。
―――夢の中のような空間。何も見えず、何も感じず、虚ろな魂だけで漂っているような気もする。
―――僕は死んだのだろうか。それとも、これが姉の言う「二進法の世界」なのだろうか。

何も見えないはずなのに、目の前には姉が立っていた。あの優しい笑顔を投げかけ、そっと頬に触れる。
そしてごめんね、と唇だけで呟きながらそのまま頭を撫でられた。
第六感、とでもいえばいいのだろうか。とにかく僕はその行為が酷く悲しい物のように思えた。
感覚が無いはずなのに僕は涙を流し、姉にすがりつき激しく泣いた。
「まったくもう。本当に泣き虫が治らないわね」
はっきりと、声が聞こえる。頭を撫でる手の感覚も、温かさも、浮かべる微笑みも、次第に鮮明に見えてくる。
「忘れないでね宗一。私と貴方は「0」と「1」。互いが互いを必要としている限り、私達はどんなことだって、どんな物だって作り出す
 ことができる。不可能なことなんて何も無いのよ。
 世界中の全てのものに目を背けられても、私だけ、お姉ちゃんだけはずっとあなたを見つめているから」
抱きしめる温もりが、次第に消えていく。そして姉の姿が、言葉が、霞み朧となってゆく。

いつだって、あなたを・・・―――

叫びたいのに声が出ない。姉であったものの欠片が最後に消えてゆくその瞬間、僕はどんな顔をしていたのだろうか。


目が覚めたのは病院の一室だった。信じられないことに、僕は丸三日昏睡し続けていたのだと言う。
別段身体に異常は無く健康体そのものだったためか、その後すぐに退院することができたのは素直に嬉しかった。

あの日、僕の怒声や姉との性交の音に不審がった両親が僕の部屋で見たものは、気絶している僕相手に狂ったように腰を振る姉の姿だった。
慌ててなんとか引き離すも、数式を唱え何度も僕と繋がろうとする姉。父が押さえ、母の呼んだ警察の手により姉はその場で未成年相手の
強制わいせつ罪の現行犯で逮捕された。
そして姉は精神不安定と診断され、そのまま精神病院のほうへ収容されることになった。
実名が報道されたことでマスコミや地域住民は大騒ぎ。もちろん支払われていた学者達からのお金も停止し、僕と両親は逃げるように街を
後にした・・・。


「まさか、『こんなもの』が創造できるなんてね」
ゆっくりと、弟にしてやったみたいに腹を撫でる。ドクン、ドクンと、生命が脈打っているのがわかる。
あの日、0と1との融合の「残痕」は、こんなところに根付き、育み、存在していた。
「あなたは、「0」? それとも「1」? ・・・ああ、違うわ。何なのかしら。これはちょっと再計算が必要ね」

                                              ――END――

121 ◆EY23GivUEuGq :2009/08/01(土) 03:04:49 ID:byAGdTuc
以上で終了。
ハッピーエンドじゃないからお姉ちゃんが怒ってる・・・。

ちょっと従姉妹に匿ってもらってくるわ。
122名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 03:07:04 ID:tIOqYAVh
GJ!
まさかこの時間にリアルタイムで読めるとはw
ちょwwwマテ監禁フラグwww
123名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 03:07:33 ID:uYlpePob
想像以上にキモロードへと突入した姉に心からGJ!
124名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 09:48:29 ID:pNpzULpJ
>>121
やった後編きてたGJ!
天才としての欠陥と、キモ姉としての逸脱から訪れた崩壊か……
悲しいけど、これが最適解(True end)なのよね、たぶん。

また次回作を楽しみにしています。
125名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 11:01:50 ID:6shF7glt
天才を理解することは凡人には不可能なんだろう。
弟君がある程度姉を理解できたのは血の繋がりと一緒にいた時間が膨大だったからなんだろうな。

何か感想になって無い気もするけど、GJでした。
126名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 12:53:49 ID:jwfOYTTk
キモ道とは、狂うことと見つけたり by木模田キモ衛門

お見事にござる。>>121どのは良い仕事をなされたのぅ…。
さて、姉上どのが寝室でお待ちになっておられるゆえ、どうぞごゆるりと…
127名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 13:03:34 ID:G+XYe4lz
>>121

結末の重さが心地良いです…
GJでした
128名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 13:19:53 ID:p53iti++
お子さんのお名前は進さんですか?
129名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 13:44:39 ID:fQ7bTG4+
GJ
天才故の思考が終わったな。面白かったです
最後の再計算は三進数にでもなるのかな?
130時給650円:2009/08/01(土) 15:38:50 ID:MS1Ah0ri
投下します
131名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 15:39:31 ID:U1nhYSCV
支援
132桔梗の剣(その2):2009/08/01(土) 15:42:17 ID:MS1Ah0ri

 元気良くさえずる雀の声が、雲一つ無い早朝の空に心地良い。
 季節柄、風はまだまだ冷たいが、ここまで空が高ければ降雪は無いだろう。気温がそれほど高くなるとは思えないが、それでも今日はいい天気になりそうだ。
 お藤は水瓶から冷たい水を汲むと、鍋に移し、かまどの火をつける。
(そろそろ葵さんが降りてくる頃ね)
 葵が嫁いできてからまだ三ヶ月。いかにも初々しい息子の新妻は、新谷家における「家庭の味」をかろうじて再現できるようになってきた。そこに喜びを覚えこそすれ、息子を取られてしまう寂しさなど感じたりはしない。
 お藤にとって葵は、いまや息子本人よりもはるかに親しみを覚える存在であり、彼女と並んで台所に立つことは、お藤にとっての数少ない一日の娯楽であると言える時間でさえあったのだ。

 かつん、かつん、と庭の隅で誰かが薪を割っている音がする。
 家僕の弥八か――と思ったが、どうやら違うようだ。
 楯山藩剣術指南役の家に嫁いで二十余年。剣をたしなむ者と不器用な弥八とでは、薪を割る音一つ取っても違う。かつては夫の源左衛門も、よく稽古代わりだと言って薪を割っていたものだったから、さすがに聞き分ける事くらいは彼女にもできる。
(桔梗ね、多分)
 普段の又十郎なら、この時間は眠っている。だから脳中で消去法をするまでもない。
 思わずお藤は溜め息をついた。

 息子の又十郎がなんとか一人前に育ってくれたのは嬉しいが、まさか、いまさら娘の桔梗にここまで手を焼く事になるとは、お藤にも予想外だったと言うしかない。
 幼い頃から竹刀を振り回し、炊事洗濯針仕事といった花嫁修業には見向きもしなかった一人娘。なまじ又十郎以上に恵まれた天分に、夫の源左衛門は子供のように喜んだが、それでもお藤は、そんな娘に心配以外の感情を抱けなかった。
 そんな桔梗が嫁に行った時は、
(これで少しは肩の荷が下りた……)
 とさえ思ったのだが、まさかその三年後、又十郎が祝言を挙げた直後に、婚家からいきなり出戻ってくるとは、いくら何でも想像の範疇外だ。こんな顛末を一体誰が想像しようか。
 しかも噂によれば、何らかの不始末で婚家から追われたわけではなく、自分から無理やり去り状を書かせ、家を飛び出してきたらしい。
 もはや桔梗が何を考えているのか、この小心な母親には見当もつかないと言っていい。

「お義母様、洗濯物を干し終わりました」

 振り返ると、葵がにっこり微笑んでいた。
 だが、その微笑に含まれている一分の翳りが、お藤の心を少なからず刺し貫く。
 桔梗がこの家に帰ってくる前までは、葵は満開の花のような顔で笑う、可憐で素直な若妻だった。しかしそれが今では……。
「そろそろあの人を起こしてきますね」
 そう言うと、葵はそのまま背を向けた。その背中も――お藤には小さく見えた。

 無理もないと思う。
 桔梗が葵に対し、又十郎のいないところでは白眼と冷笑と侮蔑を以って接していることも、そしてその事実を又十郎が気付いていないということも知っている。また、わざと葵に見せつけるように、桔梗はことさら兄に甘える態度を取っていることも。
 そんな日常を送っていながら、以前のように笑えという方がムチャな話だ。

 だが、そんな桔梗を母は叱れなかった。
 お藤は恐ろしかったのだ――この自分の娘が。
 婚家で何があったのか、お藤は知らない。桔梗は嫁入りしてから一度も実家に帰ってこなかったし、手紙一通寄越さなかったからだ。
 まるで人変わりしたような――と言ったが、ならば、そもそも桔梗がどういう人間だったのかと問われれば、お藤は答えられない。娘時代の桔梗は、母とともに家事に勤しむよりも、道場で一日中でも竹刀を振り回しているような女の子だったからだ。
 無論、お藤も母として、桔梗とコミュニケーションを取ろうと努力はしていた。実の娘が可愛くないはずが無い。一組の母娘として睦まじくありたいと欲するのは当然の心理だ。
 しかし結論から言えば、それでも桔梗は、お藤にはあまり懐かなかった。
133名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 15:43:59 ID:LbL1QSPr
後五分後ぐらいに投下。
外見描写してないんで大丈夫かと思いますが、冒頭にぬる〜〜いロリエロが有るんで、苦手な方は『はのん来訪者』でNGお願いします。
それと一部、別スレに投下したSSの文を流用してる箇所があるんですが、もし見た覚えがあっても、それはさらりと流してね。
134桔梗の剣(その2):2009/08/01(土) 15:44:44 ID:MS1Ah0ri

 そんな娘に一抹の寂しさを覚えても、しかしお藤が、自分たちの関係を不審に思ったことも無い。こういう母と娘も世間には決して珍しくないと聞いていたからだ。
 だから嫁入りした桔梗から、手紙一通届かない現実に、お藤は何も不審を覚えなかった。
 つまり、お藤という一個の母親が、桔梗という娘はこういう人間だったのかと思い知ったのは、彼女が新谷家に舞い戻り、やりたい放題に振舞い始めてからであった。

 又十郎のことはいい。
 三日に一度は稽古と称して、深夜の道場で桔梗にぶちのめされていることも当然知っているが、その件に関してお藤は特に意見は無い。むしろ源左衛門から皆伝まで許されておきながら、以前と変わらず妹に打ち勝てない長男には、失望さえ感じるくらいだ。
 だが、葵に対してお藤は、言い尽くせない後ろめたさと罪悪感を覚える。そして桔梗に対し、叱るどころか逆に怯え、説教一つできない脆弱な自分自身に、お藤は羞恥さえ伴う深い絶望を覚えるのだ。
(せめて、あの人がいてくれたら……)
 だが、源左衛門はいま、この新谷家から数百里離れた江戸にいる。


 葵はよく出来た嫁だと思う。
 正直言って、又十郎には勿体無いくらいの嫁だとさえ思う瞬間が、お藤にはある。
 実を言うと、お藤は最初、この葵――というより葵の実家の大杉家――との縁談に懐疑的だった。

 大杉家はこの楯山藩屈指の名門であり、葵の父である大杉忠兵衛は、国家老の筆頭として、執政――と呼ばれる藩政府の首脳閣僚たち――を牛耳る、藩内随一の有力者である。
 禄高は千石。この数字は三万石の小藩でしかない楯山藩においては、藩主一門やその御連枝に次ぐものであり、いわば彼らは藩における歴然たる上流階級であった。本来ならば家格でも家禄においても新谷家などと釣り合う家ではない。
 そんな堂々たる藩貴族の御令嬢に、藩主の指南役とはいえ、経済的には禄高百石の“中流”でしかない新谷家の嫁御寮人が勤まるかどうか、お藤には疑問だったのだ。だが、葵はあらゆる意味でお藤の悪い予感を裏切った。

 葵は、文字通り清純無垢な女性だった。
 セレブにありがちな、やたらと他人を見下したり無意味な浪費をしたりという悪癖を、葵はほとんど持ち合わせておらず、その気性も、鷹揚どころか天然に近い程にゆったりとした、接する者の心を温かくできる人間だった。
 そんな葵なればこそ、彼女自身にまったく縁の無い「剣」という地平に生きる又十郎を素直に慕い、愛する事も出来たのだろう。三年間の婚約期間のうち、むしろ新谷家に祝言を一番せっついたのは、他でもない葵だったとさえ言える。
 そして、葵は正式に輿入れしてからも、可能な限り新谷家のよき嫁たらんとし、源左衛門やお藤のことも、夫の両親として何の疑いもなく尊敬してくれた。
 炊事洗濯もヘタクソで、家計簿の計算も頻繁にミスを繰り返し、一家の嫁としては、まだまだ頼りないのも事実だが、それでもお藤にとって葵は、道場にいりびたりだった実の娘よりも遥かに身近な存在だったのだ。
 それだけに、この縁談をまとめた夫に、お藤は感謝さえしていた。家格の違いから、本来ならば成立しないはずの新谷家との縁組み――それを葵の実父である大杉忠兵衛が申し込んできたのも、それこそ相手が新谷源左衛門の嫡男なればこその話だからだ。

―――――


 いつもは鐘と同時に起きる。いや、葵に起こされる。
 だが、目覚めた時、又十郎は反射的に明け六つ(午前六時)の鐘は鳴っていないと判断していた。
 根拠は特に無い。
 しいて言えば腹時計とでも言うべきか。
 階下から味噌汁のいい匂いが漂ってくる。それと一緒に響く、薪を割る小気味のいい音も。
(――桔梗、か)
 眠気が一瞬のうちに消し飛ぶ。
135桔梗の剣(その2):2009/08/01(土) 15:45:55 ID:MS1Ah0ri

 昨日やった妹との仕合内容は、一部始終思い出せる。
 だが、そこから先の記憶は無い。
 どうやら、またぶちのめされた挙げ句失神して、この部屋に担ぎ込まれたらしい。
 知らず知らずの内に眉間が険しくなるのをこらえ、耳を澄ます。
 かつん、かつんと一定のリズムが刻まれる。たかが薪割りではあるが、音を聞けばそのナタさばきの手際くらいは又十郎にも見当がつく。
――いい腕だ。俺でもこんないい音は出せねえ。
 若干の苦さを噛みしめ、蒲団の中から上体を起こす。
「んっ!?」
 胸の筋肉がぎしりと悲鳴をあげる。昨日、桔梗の二段突きを喰らった箇所だ。いや、そこだけではない。身体中の筋肉や関節が軋むような痛みを発している。
(あいつに勝てる日が果たしてくるのだろうか)
 今まで何度となく感じていた疑問が、また疼く。
 だが、それ以上は考えない。考え始めると止まらなくなるからだ。

 立ち上がると、又十郎はそこで初めて自分が下帯一丁の裸身であった事に気付いた。
(ブザマすぎる……)
 寝床に横たえられ、服まで剥かれ、それでも前後不覚になったまま眼を覚まさなかったというのか。これで一藩の剣術指南役になろうと言うのだからお笑い草だ。
 だが、反省と違って自嘲は何も生み出さない。
 又十郎は自分の両頬をぱんと叩くと、そのまま部屋を出る。井戸端で水でも浴びて、気持ちを切り替えねばならない。こんな心持ちでは、桔梗の顔どころか葵の顔さえもまともに見られないだろう。
 そう思った矢先だった。

「あっ、あなっ、たっ……!?」

 そんな又十郎を、頬を真っ赤に染めながら葵が見つめ上げていた。
「お、おはよう」
 思わず間抜けな声を又十郎が出す。
 おそらく彼を起こしにきたところだったのだろう。
 結婚してもう三ヶ月。
 初夜以来、何度となく寝床を共にしてきた若夫婦であるはずなのに、それでも彼女は夫の裸身をまともに見ることに、まだまだ羞恥を覚えるらしい。
 井戸端で水でも浴びて気持ちを切り替えようなどと――そんな不安もどこへやらだ。
 まるで子供のように初心なことを言うな妻女に、知らずして又十郎は頬を緩めた。

「いまさら恥ずかしがる事もないだろう。そろそろ慣れたらどうだ」
「でも……その……あなたの体をまともに陽の下で見るのは……やっぱり恥かしいです」

 又十郎は笑う。
 こんなかわいい言葉を吐く葵が、寝室の灯りを吹き消した瞬間に、どれほどいやらしい女に変貌するか、夫として思い知っているからだ。
「とりあえず……その……お召し物を着て下さいません? いますぐ御用意いたしますから」
 消え入りそうに呟きつつ、衣紋掛けからいつもの着物を下ろそうとする葵に、又十郎は背後から優しい声を掛けた。
「葵、今日はお城に上る日だから、あとで裃も出しておいてくれ」
 そう言った瞬間、早朝の空に鳴り響く明け六つの鐘の音が、夫婦の耳に届いた。

(まるでママゴトだな)
 そう思いながらも、しかし又十郎は心中温かいものが込み上げてくる。
 だが、あまりボヤボヤもしていられない。
 今日は五日に一度の出仕の日。
 登城して、源左衛門の代行として、藩主家の若君に新谷一刀流の稽古をつけねばならないのだ。
 若君といっても嫡男ではなく、山城守が国許にいる側室に産ませた妾腹の子である。だが、それでも藩主家の令息には違いない。だから、その少年相手の稽古――とは名ばかりの竹刀遊び――の監督官でしかない自分に、又十郎はさほどジレンマを覚える事もない。
 剣技の教授こそ自分の役目であるが、それでも若君をただの門下生と一緒には出来ない。その少年に剣を教える目的は一個の剣客を作り上げる事ではないのだから。彼の心身を適度に鍛え、必要最低限の自己防衛技術を覚えてもらえば、一藩の指南役としては事が足りるのだ。
 だが、――それでも、時に一抹の空しさが胸中を走るのを止められない。
 特に、妹と意識を失うまで打ち合うような稽古をした翌朝は。
(おれが血反吐を吐きながら剣を学んだのは、子供のお守りをするためではないはずだ)
 そう思う自分を制止できない。
136桔梗の剣(その2):2009/08/01(土) 15:47:52 ID:MS1Ah0ri

「あなた?」

 着替えを手伝いながら、葵が不安げに又十郎を見ている。
 またしても気付かぬうちに険しい目をしていたらしい。
「なんでもないよ」
 優しく言って妻の頭を撫でる。恥かしそうに、けれども嬉しそうに葵がむずがる。

(親父なら何と言うだろうか)
 江戸にいるはずの父に思いを馳せる。
 かつて源左衛門は、剣の稽古は踊りではないと主張して、前藩主に門弟同様のハードトレーニングを強要した挙げ句、しばらくお召しをホサれていた時期があったという――まさに指南役としては前代未聞の経歴を持っていた。
 しかし、それも過去の話だ。
 新谷源左衛門はこれまで何度も既述したとおり、楯山藩における現役の武芸指南役であるが、いまやそれだけの人物ではない。むしろ彼は現在、指南役としてよりも、現藩主・久世山城守の寵臣として藩内に知られていた。


 無論、剣客としての父は高名である。
 新谷源左衛門は若き日に藩を離れて武者修行に出ており、その剣名は数十年前に楯山藩で開催された諸流大試合(おおよせ)に、圧倒的な強さで優勝することで頂点を極めた。
 そのまま源左衛門は父――又十郎にとっては祖父だが――の後を継いで指南役に就く。
 前藩主――久世政綱は、藩政・学問・武芸のいずれにも関心を持たず、酒と女のみを楽しみに生きるという、きわめて典型的な「お殿様」であったが、源左衛門はこの主君にかなり不満であったらしい。彼が藩主に不興を買ったのはこの当時の話だ。
 そして、そのまま彼は政綱に遠ざけられたが、その後にお家騒動が起こり、世子(将来その大名家を相続する事を公式に認められた嫡男)が藩主を強引に隠居させて久世家を継ぐに当たり、源左衛門もふたたび登用された。
――その世子こそが現藩主・山城守為綱である。
 つまり源左衛門は指南役というよりも、当時お家騒動の余燼納まりきらぬ山城守の“護衛”として君側に配されたといってもいい。
 しかし、これこそが源左衛門の出世の糸口になった。

 主君のセキュリティを守る者なれば、当然彼は日常的に山城守の傍らに侍り、行住坐臥に注意を怠らず、剣を手放さない。だが、源左衛門の仕事はそれで終わらない。
 常に身近に居るということは、つまり藩主の格好の話し相手にもなる場合があるということだ。そして、そういう意味でも、源左衛門は剣と同じく達者だった。
 若き日の彼とは違う。早い話が、源左衛門も歳を取って丸くなっていた。
 一派一門を率いる剣客らしい剛直さと、趣味人独特の洒脱さを併せ持つ彼は、山城守にとって側役や小姓以上にウマの合う、いわゆる「話の分かるジジイ」だったのだ。
 気がつけば、彼は主君のお気に入りとして、山城守から公私の区別なく相談を受ける立場になっていた。――つまりそれは、藩主に対して発言力・影響力を発揮できる立場にあるとも言える。
 又十郎には俄かに信じがたいが、現に、山城守が源左衛門の助言を受けて決断したと言われる藩政上の重要案件が、これまでいくつも存在したと世の噂に聞いた事があるのだ。

 普通、そこまでの信頼を主君から得たならば、間違いなく生活環境は変化する。それも確実にプラスの方向に。
 新たなる有力者の周りに人が群がるのは世の常だし、主君にしても、自分の友人の待遇をよくしたいと考えるのは当然の人間心理であるからだ。
 だが、源左衛門の生活は何も変わらない。
 実際、話はあった。
 山城守は、新谷家の禄高加増や藩政府上の高職就任を源左衛門に持ちかけたし、源左衛門に賄賂を贈ろうとする人間はどこにでもいた。だが、父はことごとくそんな栄達を辞し、あるいは突っ返し、清廉潔白な剣人の一分を守り通した。
 そして、彼のそんな一面をますます気に入った山城守は、以前にも増して源左衛門を重用するようになっていった。
137桔梗の剣(その2):2009/08/01(土) 15:50:06 ID:MS1Ah0ri

 山城守はまだ若い。
 気骨もあり、学問に優れ、なにより藩主として現実に対する明快な理想を持っている。
 それだけに領内の政治責任をすべて執政に投げ渡して、退屈を満喫しようとする、前藩主のような太平楽な殿様ではない。
 家臣団のトップとして、大杉忠兵衛はこのアクティブな藩主を多少持て余していたらしい。果てしない討論を連日繰り返して、または長年の経験則に基づいてようやく決定した執政たちの政策を、藩主はあっさり覆すことが出来るのだから。
 だから――藩主の私設相談役というべきポジションに存在する新谷源左衛門に、娘を嫁がせて縁を繋ごうとしたのも、政治的寝技に長じた大杉忠兵衛らしいと言えないことも無い。

 だが、そんなことは又十郎にとってはどうでもいい。
 過程はともあれ、忠兵衛の娘である葵は、自分にとってよき妻である。この事実の前には、そんな藩内のきな臭い政治情勢など、何の意味も持たないからだ。
 又十郎は妻の頭を撫でながら、もう一度、自分に言い聞かせるように言った。
「なんでもないよ」
 と。

―――――

 
 かつん――。
 乾いた音を立てて最後の薪が割れた。
 これで、少なくとも今日一日分の燃料には事欠かないはずだ。
 桔梗は、手の甲で額の汗を拭った。
 あまり切れ味の良くないナタではあるが、手首の返しと刃の立て具合でかなり作業能率を高めることが出来る。
 かつて父もよく薪割りに勤しんでいたが、いまにして桔梗には理解できる。竹刀木剣での打ち合いにいくら長じても、刃物の扱いに習熟できるわけではない。そして刃物の扱いに慣れぬ者に“刀”という凶器を使いこなすことは出来ないのだ。
――ふふん。
 桔梗の口元にしぶい笑いが浮かぶ。

 かつて四隣に知られた名剣士・新谷源左衛門はもう「いない」。
 今の父など、歳とともに急速に老け込み、兄にさえ三本に二本を取られる“元”名剣士に過ぎない。
(まあ、それでも殿様の護衛くらいは、どうにかこうにか勤まる程度の体力はあるようだけどね……)
 だが、技の衰えた現在の父など、桔梗にとっては所詮、恐れるに足る存在ではない
 全盛時の父と今の自分とならばどっちが上であろうか――これまで何度となく頭に浮かんだ疑問が、ふたたび頭を掠める。
 まあ、その頃には彼女など生まれてもいないので、それこそ勝負の行方など想像のしようがないが。だが桔梗としてもむざむざ負ける気はしない。
 彼女は立ち上がり、ナタを鞘に収め、散らばった薪を拾い集めた。
 馬蹄の音とともに、騎乗の使者の声が新谷家の玄関先に鳴り響いたのは、まさにその時だった。
「新谷さま! どうか御開門下さいませ! 城からの早馬でございますぞ!!」


「江戸表からの火急の御下知だそうじゃ。新谷流の手練れ十名を選りすぐり、急ぎ江戸に下れと」
「えっ、江戸に!?」
 厳しい声で発される兄の言葉に、反射的に母が声を上げた。
 何が起こったのかは分からないが、よほどの緊急事態が江戸で起こったらしい。
 ちょうど葵が用意できた朝餉を台所から運んできたところであったが、又十郎はもはや食膳に見向きもしない。そのまま厳しい目付きで家族を見回した。
「城の御使者の方が申されるには、本日は出仕するには及ばぬと。準備が整い次第、楯山を発てとの仰せだ。とりあえず一刻も早く江戸に参着せよ、と」
「でっ、でもあなた……」
 何か言おうとした妻を制するように、又十郎は言う。
「葵、新しい草鞋(わらじ)と手甲脚半を用意してくれ。あと、今朝の炊き残しの米で握り飯を頼む。出来る限り多くだ。それと――」


「待ってよお兄様、手練れ十名って、いったい誰を連れて行くつもりなんだい」

138桔梗の剣(その2):2009/08/01(土) 15:52:18 ID:MS1Ah0ri

 その桔梗の一言に、又十郎の視線がさらに険しくなった。
 それは彼としても痛いところを突かれた、という思いがあったからだろう。
 だが、無視するでもなく黙れと叫ぶでもなく、又十郎は沈鬱な表情で口を開いた。
「一刻も早くということなれば、残念ながら席次の順に上から十人というわけにも行くまい。関口や興津はともかく、小和田や牧では今日いきなり出立すると言っても無理な話だろうしな……」
 部屋住みの若者ならともかく、皆それぞれ遊んで日を過ごしているわけではない。勤めもあれば都合もある。それは桔梗にも分かっている。
 たとえば――新谷道場の首席剣士である小和田逸平は、現在、城下町から遠く離れた農村に郡奉行の書役として出向しているし、席次二番の島崎与之助は現役の勘定奉行であるため、業務の引継ぎに最低三日はかかるであろう。
 席次三番の牧文四郎は、家禄わずか五石の極貧足軽であるために、急な出立ではとても路銀を用意できまい。他にも冷静に考えてみると、新谷一門の高弟たちは――奇妙なほどに――緊急の出府という条件を満たせない者が多い。
 結局、腕の順ではなく、即時出立という条件を満たせる者たちの中から十人選ぶか、もしくは出発できない使い手たちを後発組にまわすという形で、時間を与えるかのどちらかしかない。
 だが、桔梗の言いたいことは、当然そんな“どうでもいい連中”のことではない。
「桔梗も連れて行ってよお兄様。絶対に役に立つからさ」


 母と兄嫁の顔色が真っ青になる。
 だが又十郎は驚きもしない。太い溜め息をつき、何かを諦めたようにゴリゴリと頭を掻くだけだ。
 どうやら桔梗が何を言いたいか、うすうす感付いていたのだろうか。いや、兄はそんな目から鼻へ抜けるような勘働きの鋭い男ではない。
 つまり――。

「親父殿からも伝言だそうだ。その十人とは別に、桔梗を必ず同道せよ、とな」

(やっぱり)
 桔梗は、我が意を得たりとばかりにニタリと笑った。
 別式女(べつしきめ)で有名な仙台藩伊達家ならともかく、普通の大名家には、男並みに腕の立つ女武芸者という人材はあまりいない。
 無論、そういう女性の需要はある。大名屋敷には普通の武士が入れないエリアが厳然と存在するからだ。
 すなわち上屋敷の“奥”に存在するハーレム区画――藩主の正室側室が住まうプライベート空間――などは当然男子禁制なわけだが、普段は薙刀などで武装した奥女中が警備の任に当たっている。だが、しょせん彼女たちは戦闘の専門職ではない。
 つまり藩主のセキュリティを万全にしようとするなら、並みの剣客と同レベルで腕が立ち、なおかつ目端の利く女がどうしても不可欠になる。
 桔梗の知る源左衛門ならば、そんな局面で桔梗という駒を遊ばせておくはずがない。何といっても父は、より素質に優れた者の血を残すためだと言って、桔梗に婿養子を取って家を継がせ、一人息子の又十郎を廃嫡しようとしたほどの機能主義者なのだから。

「お兄様が呼ばれた御役目に桔梗が必要だと……お父様は仰せなんだね?」
「らしい」
「わかった」
 桔梗は頷いた。
 兄とともに働くことが出来る。
 兄のために働くことが出来る。
 これ以上の喜びがあるだろうか。
 いや、それよりも――、
 桔梗は立ち上がり、葵に向かって高らかに言った。
「そういうわけで桔梗はお兄様と一緒に行くことになりました。お義姉様はお母様と一緒に、この家の留守をお願いします」

 大きく見開かれた葵の瞳が、きゅっと揺れた。
139桔梗の剣(その2):2009/08/01(土) 15:54:44 ID:MS1Ah0ri


 日が暮れた。
 国境を越えて、もうかなり経つ。


 結局、又十郎は時間を優先した。
 本来ならば、命令どおり十人の精鋭を揃えて城下を出発したかったのだが、そうも言ってはいられない。腕利きの剣士が一刻も早く必要だ、ということならば、まずは又十郎と桔梗だけでも江戸に入府しておく方がいいだろう。
 とりあえずリストアップした面々に文をしたため、城からの使者が持参した道中手形を一枚ずつ添えて彼らの家に届ける。それが済み次第、又十郎は妹を伴い出発した。
 メンツは――かなり迷ったが――やはり席次の順に上から十人。今日いきなりの出国は無理でも、彼らも武士だ。主君の意思以上に優先すべきものは何もない。二・三日中、遅くとも四・五日中には必ずや国許を出て、三々五々、江戸に向かうだろう。
 彼らとの合流を焦るあまり無駄に時間を浪費し、江戸の殿を待たせることこそ避けねばならない。
 そう思った上での又十郎での判断だった。


 次の宿場までそろそろだ。そこで宿を取るかとも思ったが、又十郎はそれほど下半身に疲労を覚えてはいなかった。
 だが、まだ初日だ。
 江戸まであと何里歩き続けねばならないかは分からないが、ペースを上げすぎた挙げ句、疲れを明日に残しては話にならない。一定の歩速で確実に距離を稼ぐことこそ、結果として一番早く目的地に着くことに繋がるからだ。
 しかも自分だけならばともかく女連れときては、そうそう無理は出来ない。
 そう思って、ちらりと背後の桔梗を振り返った瞬間だった。

「お兄様、桔梗に遠慮することはないよ。今宵は行けるところまで行こうよ」

 又十郎が振り返ろうとするのを待っていたように、桔梗が微笑する。
 バカ言え、と又十郎は返す。
「行けるところまでも何も、次の宿場で泊まらなきゃ、もう今晩は屋根の下では寝られないぞ」
「野宿すればいいじゃないか」
「いいわけあるか。おれ一人ならともかく、こんな季節にオマエに野宿なんかさせられるものかよ」
「怖いの?」

140桔梗の剣(その2):2009/08/01(土) 15:55:57 ID:MS1Ah0ri

 その瞬間、又十郎はぽかんとなった。
 桔梗が何を言い出したのか、よく分からなかったのだ。
「怖いって何が? ……追い剥ぎとかのことか?」
 又十郎の言葉に、妹はぷっと吹き出した。
――まさか、何言ってるんだよお兄様。桔梗とお兄様が二人並んで歩いてるんだよ。そんな連中何人いても斬り捨てれば済む話じゃない。
 そう言うと、妹は又十郎にずいっと体を寄せた。
 反射的に又十郎は後ずさって距離を取ろうとするが、桔梗は彼の反応を見越していたかのように、さらに一歩大股で踏み込んで間合いを詰め、彼の頬に唇が触れそうになるギリギリまで接近する。
 剣の勝負であったなら、確実にこのまま一本取られていたところだ。
「もう一度訊くよ。……怖いの?」
 そんな―― 子供相手に怪談話をするように声を潜める桔梗に、又十郎は少し苛ついていた。大人気ないとは思いながらも、眉をしかめる。
「だから怖いって、何が!?」


「――桔梗が、だよ」


 又十郎はその一言に反応しなかった。
 むしろ一切の表情を意図的に消した、と言ってもよかった。
 だが、又十郎は動揺していなかったかと言えばそんなことはない。
 手の平に粘つく汗の感触がある。
 顔に出さないだけで精一杯だったのだ。
 その数瞬後、自分が迂闊だったと又十郎は気付く。
――何を言ってるんだ、兄が妹の何を怖がる?
 どこにでもいる当然の兄妹のように、そう言って一睨みすればよかったのだ。
 だが、もう遅い。敢えて無表情を装い、無難にやり過ごそうとした自分の不自然な反応に、この妹は気付いてしまっているだろう。

 そう、言われて初めて気付いたが、確かに又十郎は、この妹に怯えていた。
 もしいま現在、第三者の存在があれば、こんな奇妙な感情を桔梗に抱きはしなかっただろう。
 だが、いま兄妹は二人きり。そしてこの妹は又十郎と二人になった瞬間に人格が変わる。とんでもなく傲慢で凶暴で理不尽な、一匹の暴君に変貌するのだ。
 月も星も出ているとはいえ、こんな薄闇の中、そんな何を言い出すかも分からない妹と連れ立って歩く道中に、何ら不安を覚えていないと言えば……やはり嘘に近い。

 そのまま妹は又十郎の頬にそっと指を伸ばした。
「大丈夫だよ、お兄様」
 なにが?
「桔梗はお兄様に何もしない。というか、お兄様は桔梗が守ってあげる。誰にも指一本触れさせないよ。だからさ……」
 だから?
「お兄様も、あまり下らないこと言って桔梗を苛つかせたりしちゃダメだよ?」
 その瞬間、優しく触れるだけだった桔梗の爪が、がりっと又十郎の頬を引っ掻いた。

141時給650円:2009/08/01(土) 15:56:58 ID:MS1Ah0ri
投稿は以上です
142名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 15:59:06 ID:LbL1QSPr
邪魔してゴメンよ……orz
じっくり読ませていただきますです

143名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 16:08:49 ID:U1nhYSCV
乙だー!
144名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 16:17:48 ID:PbJ3Wn0b
>>141
リアルタイムGJ
次回は2人っきりのドキドキ峠越えタイムですな。
てか葵さんが着々とヤンデレフラグを歩んでる・・・
145名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 16:21:33 ID:g8ag5sYC
>>142
ん?お前さんも投下してもおkなんだぜ?
146名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 16:47:41 ID:upcu9Fr2
>>141GJ
147名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 16:53:48 ID:G+XYe4lz
うおぉ、桔梗の剣キタ!
うん、読み進めるのが結構怖いけどGJです。
148名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 18:09:28 ID:M/NBvk8W
>>121


寄生し続けた挙句、自ら宿主に止めを刺す両親が馬鹿すぎる…

>>141
GJ
これは怖い
149名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 19:35:28 ID:jwfOYTTk
>>141
良い仕事をなされた!ぐっじょぶにござる!ぐっじょぶにござるッ!!
150名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 21:35:18 ID:5WuwwqNm
141
この妹は、何だか胸がざわざわするぞ
151名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 21:46:59 ID:EKNmWwJ1
葵かわいいよ葵
152名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 22:18:33 ID:raTKHL+M
自給650円という所だけ心に残る
153名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 22:41:43 ID:pNpzULpJ
>>141
あれ? 実は続き物だったのかGJ!
現時点で実力的に桔梗を止められるのが、現役では又十郎しかいないのに、既に呑まれてる……
このまま桔梗の1人勝ちで兄妹エンドに押し切られるか、それとも……
次回も楽しみにしています。

ああそれと、規制解除おめでとうございます。
154名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 23:45:49 ID:s4XgBAfV
>>141

相変わらず文章うまいなあ。読みやすい。
同じ書き手として羨ましい
155名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 00:12:31 ID:wePiiWRk
実は葵は忍びというオチだったり
156名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 00:28:11 ID:H1LBJtNE
兄がなんらかの事故で剣が振るえなくなったら桔梗はどうなるだろ?
兄との繋がりが剣だけみたいなこと言ってたから
157名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 01:49:01 ID:KQ+7EuY/
>>156
HEY YOU!展開予想的なレスはマナー違反って奴だ。
心の中に仕舞っておくのが紳士ってもんだぜ。
158名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 02:45:26 ID:Ltg/XZRg
>>141
ご苦労でござった。
拙者も楽しく読ませて頂いた。続きをば全裸でお待ちしておるでござる。
159名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 03:39:11 ID:LL5pIYV2
>>141
GJ
唇の艶やかな妹〜〜〜!!!
160名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 10:25:29 ID:SYXtysHy
葵は不幸にしないで!!!!
>>141GJ!
ていうかヤバいよ!作者GJ!葵可愛いよ!
161名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 12:27:40 ID:GyvjRbfY
GJ
162名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 21:30:35 ID:xWmlAwPZ
>>23
メチャクチャ亀レスだが、キモすぎる姉よかったぜ
ここで終わるのは勿体無い作品だ
もし良かったら俺が続き書いちゃダメかな?
嫌なら止めとくし、どうかな?もちろんPCで書くぜ。すっげえ文章下手だけどなw


あと全く同じストーリーが嫌なら俺の方で少し変えてみるし

いい返事待ってる
163名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 23:44:18 ID:327ZwkMl
みんなきっちりスルーするんだな。
……自分はどうも我慢できないや。ごめんなさい。

>>162
書きたきゃ勝手に書けばいい。
そんで投下するならご自由に。
いちいちスレ住民に確認すんな。
書いても見せずに、最初から下手なんざ言い訳すんな。
どんな媒体で書こうが、そんなん自由だし、知らんよ。
そんな書き手の事情なんざ、基本的に作品投下の後で喋ればいいよ。
というわけで、その「続き」の投下を楽しみにしています。

……自分で書いといて、なんて痛い長文だコレ……
164名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 00:37:29 ID:S8Cb0IVG
>>163
常に誰かが見てるという考えは捨てろ。ここはチャットじゃない
165名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 01:48:33 ID:m3SP2smL
>>162
作者じゃないが、個人的には書いてほしいなw
あのキモイはずの姉が俺にはかわいく思えてしょうがないから
あそこで終わるのは惜しい気がするしw
166名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 04:03:46 ID:Fjwqw4RG
なぜ人の続きを書きたがるのかわからん。
ストーリーぐらい自分で考えるのが常識じゃないの?
第一違う人が書いたら違和感しか残らねーだろ。
167名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 06:13:40 ID:CDwPT+wE
正直いうと自分は>23の話の続きが見たい。
たとえ他の人が書いたやつでも。

あの続きを妄想しすぎたあまり、
あの姉を風呂場で洗う夢まで見たくらい末期だ。
16821歳のキモウト〜水○灯変〜 (1/3):2009/08/03(月) 06:17:53 ID:f+WVxoa+
空気を読まずに投下してみる



「ただいま…」
「乳酸菌とってるぅ〜?」

玄関を開けると、ゴスロリの女性がいた。

「…すみません。部屋を間違えました」
「あっ!ちょっと待った待った!」

即座に扉を閉めようとして、足を挟まれる。ちっ!

「で、今度は誰にそそのかされたんだ?」
「別にそそのかされた訳じゃないけど…」
「じゃあコレはお前の趣味か」
「ちょっとスレの空気を読んでみました♪」
「随分遅レスだなオイ」

ちなみに舞の格好は、某銀髪赤眼の薔薇人形の姿である。
正直に言おう。20を過ぎてのコスプレはイタイぞ。

「どこからそんな衣装を持ってきたんだ?」
「バイト先の衣装を無断借用」
「ちょっとマテ」

そういや、こいつがバイトしてるのは知ってたけど、どこで働いているかは聞いてなかったな。

「なぁ舞。お前どこでバイトしてるんだ?」
「制服パブ」

をい愚妹。

「お前そんなところで働いてたのか。別にお前のバイト先がどこであろうと干渉する気は無いが、悪い客に引っかからないようにしろよ?」
「冗談に決まってるでしょうが」

冷めた目でボソリと呟く舞。その後の「兄さん以外の男に酌するなんて御免よ」という言葉は聞かなかったことにしよう。

「で、本当はどこでバイトしてるんだ?」
「単なるモデルよ。隣町のね」
「ふ〜ん」

舞曰く、友人と買い物をしている最中に声をかけられたらしい。まあこいつは見かけ『だけ』はいいからな。

「ねぇ兄さん♪な〜にかとっても失礼〜なことを考えてないかなぁ♪」
「うん」
「…………」
16921歳のキモウト〜水○灯変〜 (2/3):2009/08/03(月) 06:18:23 ID:f+WVxoa+

臆面も無く肯定した俺に沈黙する舞。ふっ、俺とて、いつもしてやられるばかりではぬぁい!

「あ〜っ、こんなところに兄さん秘蔵のエッチDVDが〜」
「ちょっ、おまっ!」
「まぁ大変。こんな有害なものは、即刻処分しなくては〜」
「ごめんなさい!勘弁してください!ってかそれ借りもんだから!マジで!壊すと弁償だからホントにやめて〜!」
「ごめんなさいは?」
「ごぉめんなさぁぁぁいっ!!」

所詮男なんてこんなもんさ…orz

「ところで兄さん、私の格好を見て何か言うことはありませんか?」
「年を考えろ」
「…………」
「大体お前、ゴスロリの意味って知ってるか?」

とある服飾店に勤めている友人から聞きかじった話だが、ゴスロリ、『ゴシック・アンド・ロリータ』は、15歳未満の少女向けに作られた、フリルとレースがたっぷりついた服に、ロックシンガーが身につけるような小物を合わせて着るというファッションだ。
さらに、ゴスロリにはもう一つの面があって。『自分に似合う洋服を着る』のではなく、『洋服に似合う自分になる』という意味もある。

「そういう意味で、お前は二重の意味で似合っていないぞ」

こいつにはドレスとかの方が似合うんじゃないか?淡い色合いの。

「なるほど。つまり私にウェディングドレスを着ろって言うのね!?」
「どこからそういう話になったんだ?」
「本当は結婚式までとっておくつもりだったけど、兄さんのリクエストとなれば話は別よ!待っててね!今から忍び込…いえ時間外営業してもらって、ちょっと強だt…借りてくるから!」
「好きにしろ。ただしお前が警察に捕まっても知らぬ存ぜぬを貫かせてもらうが」

『本気で相手にしない』
これが同居開始から1ヶ月で学んだ、我が妹に対する最大の処世術である。

「じゃあね兄さん!行って来るわ!」
「気をつけてな。後、明日の講義には遅れないように」
「帰ってきたら早速結婚式ね!」



「だ が 断 る !」



兄妹で結婚なぞできるはずがないだろう。

「私は兄さんを婿にするわ!いいわよね!?答えは聞いてない!!」
17021歳のキモウト〜水○灯変〜 (3/3):2009/08/03(月) 06:19:14 ID:f+WVxoa+

そう言うと、本当に答えも聞かずに飛び出して行ってしまった。

「やれやれ…ん?」

ふと部屋を見渡すと、片隅にビールの空き缶が10本ほど転がっていた。

「…あいつ酔っ払ってたのか…」

通りでいつもより言動がぶっとんでると思った。

「酒癖悪いなあいつ…おっと、こうしちゃいられん」

素面でバカをやる分にはどこで何をしようと知ったことではないが、酒が入った時のあいつは少しばかり倫理や道徳が緩むことがある。

「さて、酔っ払いのお姫様を回収に行きますかね」

俺は脱いだばかりの靴を履き直した。





以上、おわり。21歳っぽさを出すのって難しいです…
171名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 06:48:27 ID:m6/b/qWI
GJ
もっと話を発展させるんだ
その過程で21歳らしさの演出を
172名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 07:12:48 ID:z8cx8/B1
未成年お断りの話が堂々とできるわけですね
わかります
173名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 20:12:52 ID:d3Sv+YjU
>>170
おお、久しぶりGJ!
21にもなってアホな求愛ばかりする痛いキモウト。
なんだかんだで付き合いと面倒見のいい大人な兄。
そんなに設定も悪くないし、この調子でつっぱしってほしいです。

また次回の予定がありましたら、投下を楽しみにしています。
174名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 23:07:15 ID:h3O/J7+s
夏ですね。
小ネタでもどうぞ。

       ∩∩  < 弟がセックルしてくれるまで襲うのをやめない!
       | |,,| | ∩∩
    。ヘ( ゚ω゚) | | | |  。
       Дヽ (゚  ) ノ < ちょ、なにやって
     。J ゝへ_丿
175夏の風景(ペットボトル編):2009/08/03(月) 23:08:03 ID:h3O/J7+s
姉と二人で扇風機を浴びて映画を見ながらジュースを飲む。
夏はダラダラできていいねぇー。

おっと飲んでばかりいたらトイレが近くなってきたな…
とりあえずテーブルにジュースを置いてトイレに行こう!



(数秒後)


夏場のトイレはクソ暑いぜー。
もうTシャツがビショビショだわ。
せめてトイレだけでもエアコンの設置を母ちゃんにでも頼むかな。

あ!姉ちゃん!
何、勝手に人のC.C.○モン(サントリー製)飲もうとしてんだよ!

今ちょっと汗かいて喉かわいてんだよ。全部飲むなよ!

バタバタバタ。

なんだよ赤い顔して走っていっちゃったよ。

それにしても暑いよなぁ。
おっと続き続き!

プシュ!ゴクゴク。

一口含んでちょっと違和感。

何か…少し変な味?


さっき飲んでたジュースより微かにしょっぱいんだけど?


夏場だからちょっと放置しただけで痛んだのかぁー?

腹を壊しても困るのでそのまま台所にて廃棄させてもらった。
背後で、…チッと舌打ちが聴こえたのは気のせいだろう。
176 ◆.mKflUwGZk :2009/08/03(月) 23:12:37 ID:gCsfjqBj
投下します。5レス消費します。
177 ◆.mKflUwGZk :2009/08/03(月) 23:13:39 ID:gCsfjqBj
すみません、重なりました。延期します。
178夏の風景(ペットボトル編):2009/08/03(月) 23:18:43 ID:h3O/J7+s
妹と二人で扇風機を浴びてジュースを飲みながらホラーゲーム。
やっぱホラーゲームは夏の醍醐味だねぇー。。

うぅ…何度も背筋がゾクッとするシーン見てたらトイレが行きたくなってきたな…
とりあえずテーブルにジュースを置いてトイレに行こう。



(数秒後)


夏場のトイレでもホラーシーン見てから入ると随分涼しいもんだな。
一気に冷えたわ。


ん?おいー勝手に人のジュース飲んでるんだよ妹。
俺のジンジャエール(コカコーラ製)残り少ないんだから自分のやつ飲めよー。


え?飲んでないの?

なるほど、増やしてたのか。
かわいい俺の妹が姉ちゃんみたいな事するはずもないよなぁ。

でもなんでなくなりそうだったジンジャエールが開封前の状態の量まで戻ってるんだ…
妹はなぜかスッキリ?した表情で無理やり汗も染み込んでいないシャツを回収して部屋から出て行ったし。


とりあえず窓から隣の雑木林に向かって、少し泡立ったジンジャエール?を全力投球で廃棄させてもらった。
その瞬間背後で、チクショォォォォオオオオオーーー!!!とデカくてかわいい雄たけびが聴こえてきたのは気のせいだろう。

今年も暑い夏はまだ始まったばっかりだ。
きっと都会に住んでる従兄弟の2人の姉ちゃん達や4人の妹達もこの夏に帰省するらしい。

とりあえず今の姉妹と、この家で暮らす状況と変わって少しでもマシになればいいなぁ。(泣)

※夏休みだからって家が監獄になるんじゃないんだから!!!か…勘違いしないでよねっ!!!
179名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 23:19:59 ID:h3O/J7+s
小ネタ終了。

                          ,. --ヾ- ,,.. ._
                        .´ス;/;::;:::::::::::::::::ヽ
                         レ|i゙|A:::,::::,::::::::::::ヽ、
                         r'´-ミレ|::/::::::::::::::゙i゙iヽ
                     は  └.、″|r.y::::::::::::::| ゙!|
                     あ   `┘ ,.-"::::::::::/W 
                          ` ̄| /ル;/レ
           は             / ̄`゙  \
           あ       ,.- 、    !   r  , 、|
              / ̄ヽ /   ヽ   ゙!  .| ノ | .|
            /    \ .i.  ヽ   |゙i  i  ' ./   は
           /   入.   \゙i  n_\/ | ゙i   /|    あ
         /  ,.-'  ∧.     \|ヨιソ .| ` | / |
  n、    ./  ,._'´`-.、/ 入     `-"  ゙i  .|/"´
  ミ ` - ノ  / `' .、 , /   \      、|  |
  ^ー-、 , /     ヽ_.」'    \    , | .|
     .ー´              ` 、__.ノ_r'" ヽ
                         ゝ!_'uu_/

↓ごめんなさいどうぞ
180名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 07:52:40 ID:AJD+tfZj
>>174 GJ & シリーズ化希望W

>>176 wktkしてお待ちしてます
181名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 09:20:37 ID:POZRnMP2
>>178
GJ

>>176
毎回思うんだがまさか投下は日を空けたほうがいいなんていうどこぞのバカがいったことやってるのかな?
あんな制度他じゃ見たこと無いんだが…
まぁwktkしながら待ってる
182名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 14:12:47 ID:mocYp2i/
リアスの川岸と菫の顛末がよく分からない…
舞がネカフェから媚薬か何かを注文して、火を着けたのは証拠隠滅でいいんだろうか?
それで薬を盛られた菫が川岸と関係を持って、その後責任を取る形で病院を辞めるって事?
183名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 16:46:08 ID:+YmWGNbu
わからないとか言いながら自分で解決してる件
184 ◆.mKflUwGZk :2009/08/04(火) 22:12:19 ID:FZPA4iXV
投下します。5レス消費します。
185転生恋生 第十二幕(1/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/04(火) 22:13:30 ID:FZPA4iXV
 せっかくのゴールデンウィークを病院で過ごさなければならないお袋は気の毒だと最初は思った。けどまあ、考えてみれば専業主婦のお袋にとってはあまりゴールデンウィークのメリットはないし、むしろ家事から解放されるから、本当の意味で骨休めになるのかもしれない。
 現在大阪に単身赴任中の親父は、お袋が入院したという話を聴いて最初は心配したようだが、すぐに退院できると知って安心すると、急に関心をなくしてしまった。
「それじゃあ、家に帰ってこないのか? 1度くらい見舞いに行ったら?」
「虫垂炎ならどうってことないだろう。わざわざ金と時間を費やして戻る必要があるとは思わん」
「久しぶりに我が家に帰ろうとは思わないわけ?」
「母さんがいるならゆっくりできるが、入院中の家事は仁恵がやることになるんだろう? 父さんの面倒まで見させるのはかわいそうだ。少しでも負担を軽くするために父さんは大阪に残る」
 俺としては姉貴の関心が少しでも親父に向いて、俺の負担が軽減されることを期待したんだが、親父は察してくれなかった。
「母さんの留守をしっかり守れよ。仁恵に全部押しつけないで、太郎も少しは手伝うんだぞ」
 いっそ、姉貴の魔の手から俺を守ってほしいと泣いてすがりつくべきだろうか。
「それじゃあ、元気でな」
 そう言って親父は電話を切ってしまった。
 やれやれ、俺はこれから5日間、独力で貞操を守らなければならないわけだ。
 ……どんなに希望的観測を重ねたシミュレーションを繰り返しても、陥落必至という答えしか出ない。なんとかして親父を呼び戻す手を考えなきゃならんな。
「たろーちゃん、夕食にしましょう」
 ダイニングから姉貴の声が聴こえてきた。お袋は夕食の支度中に倒れて病院へ運ばれたわけだが、俺たちふたりで入院手続きを済ませて帰宅してから、姉貴が作りかけの夕食を完成させた。これからいつもより遅い夕食だ。
 こういう点は姉貴がいてくれてよかったとは思うが、どうにも素直に感謝できない。
 食卓に向かい合って座り、「いただきます」とハモってから食事にかかる。
「ねぇ、こうしてふたりっきりでご飯食べてるとさぁ……」
 姉貴がニコニコしながら話しかけてきた。食卓に会話があってもいいとは思うが、姉貴とふたりきりの場合は「黙って食え」と言いたくなる。どうせくだらない話題だろう。この後の姉貴の台詞も想像がつく。
「まるで新婚夫婦みたいだよね、私たち」
 相変わらず予想を外さない。無視しようかとも思ったが、暴走するくらいなら適度に相手をしてやって、多少方向性を修正しようと試みる。
「産まれてこのかた、十年以上も一緒に暮らしてるんだから、新婚なんていうほど初々しくないだろ」
「そうだね。もう、酸いも甘いもかみ分けて、お互いのことは性感帯も好きなプレイも全て知り尽くしてる熟年夫婦だよね」
 俺は姉貴の性感帯なんか知らないし、知りたくもない。
「熟年夫婦ってゆーか、むしろ倦怠期だな」
「それじゃあ、刺激を取り戻すために過激なプレイに挑戦しようよ」
 俺の方向修正の努力をものともせず、姉貴は姉弟相姦に向けて突っ走り続ける。もう、これ以上話すと食欲が失せそうなので、黙って食うことにした。
 俺が食っている間も、姉貴は延々とラブラブ会話をひとりで続けた。そのせいで食事が遅れていたが、俺が「ごちそうさま」と言って席を立つと物凄い勢いで食べ終える。
「さあ、一緒にお風呂に入ろうね」
 歯を磨き終えたところで俺は姉貴に拘束された。有無を言わさず風呂場へ引きずられていき、服を剥がされて洗い場へ連れ込まれる。とりあえず腕力ではかなわないので、俺は無駄な抵抗はしなかった。
「うふふ……、今夜はふたりっきりだから、長い夜にしようね。大声あげても誰も来ないから」
 本人はムードを出しているつもりだろうが、途中からまるっきり強姦魔の口調だ。
 
 世の男たちは一生のうち何人の女と一緒に風呂に入ることができるだろうか。まあ、恋人ないし夫婦関係になる女の数とほぼ等しいだろう。
 では17歳でそのような経験ができる男は全体の何パーセントか。これはかなり小さい数字になると予想できる。
 だが、そのような経験ができて、なおかつ相手が実の姉だという男は、日本でも片手で数える程度しか存在しないだろう。
 幸か不幸か、俺がまさにその一人だ。
186転生恋生 第十二幕(2/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/04(火) 22:14:32 ID:FZPA4iXV
 現在、俺と姉貴は真っ裸で浴室にいる。俺は椅子に腰掛け、姉貴は鼻歌交じりで俺の背中を流しているという構図だ。
「たろーちゃんの背中は広いねー」
 俺の背中は石鹸の泡で包まれ、弾力のある感触が上下に往復している。姉貴が胸を押しつけて洗っているのだ。
 ……まあ、風俗物のAVで見たことがあるから、ソープランドでそういう洗い方をするというのは、知識としては知っている。
 だけど、どう考えてもこんな洗い方で垢が落ちるわけがないよな。姉貴はさっきから鼻息を荒くするばかりだが、俺は全く反応しない。
「じゃあ、今度は腕ね」
 姉貴が右側に回り、俺の二の腕を胸の谷間に挟み込んで上下にこする。更に手の先を股間にこすりつける。
 ……陰毛があるから、まだしも摩擦が働くか。スポンジたわしみたいなものかな。まあ、逆に何かが付着しそうな気がするが。
 同じことを左腕にもやり、続いて俺の足に跨って股間をこすりつけた。姉貴は息が荒くなる一方だが、俺は相変わらず反応しない。
 いくらプロポーションがよくても、美人でも、身内の体なんて肉と脂肪の塊でしかない。普通のAVやエロ雑誌なら興奮するわけだから、相手が姉貴であるということが唯一最大の要因なわけだ。
「たろーちゃん、どう? 気持ちいい?」
 いつの間にやら、姉貴は俺にのしかかって、俺の胸に乳房を押しつけている。俺が平然としているのに気づいているのかいないのか、まるっきり風俗嬢のノリだ。
 身内にこんなことをされると、どんどん気分が悪くなる一方だ。なんでわからないんだろう?
「それじゃあ、いよいよ……」
 目をぎらつかせながら、姉貴は俺の前に膝をついて、泡まみれの両掌で俺のペニスを包み込む。竿と玉袋にまんべんなく泡をまぶし、優しくしごく。
 傍から見ると鼻血モノの光景のはずだが、俺としては気持ち悪くて仕方がなかった。肉親に性器をいじられるなんておぞましいと思う俺が異常なんだろうか。
 いや、俺が正常だ。断じて異常ではない。そうでなければ、世界は異常者で満ち満ちていることになってしまう。姉貴の方が異常なんだ。
 姉貴は目を血走らせて興奮しまくっているが、どうしてこんなことができるんだろう?
 ……俺のことを弟と思っていないからか。それはそれでショックだな。
 死んだ恋人の代償として俺相手に性欲を発散させようとしているのだと思うと、裏切られた気分だ。
 俺は姉貴をキモいと思うが、肉親に対する愛情は持っているつもりだ。それが一方通行な思いで、姉貴は俺を都合のよい肉人形か何かとして扱っているとなると、本気で凹む。
 もう、いい加減終わりにするか。
「姉貴さぁ」
「なぁに?」
「さっきから色々やってるけどさ。俺は全然気持ちよくないぞ。むしろ気持ち悪い。手を離してくれ」
 姉貴はがっくりと肩を落とした。
「ごめんね。私が下手で」
「そういう問題じゃないよ。巧くてもダメだと思う」
「まさか、そんな……」
 姉貴は青くなった。
「たろーちゃん、女に興味がないなんて言わないわよね? 男が好きだなんて……」
「違うよ!」
 途方もない誤解が生じそうになったので、俺は慌てた。
「俺はノーマルだよ。普通にAVも見るし」
「ああ、よかった」
 姉貴は胸を撫で下ろした。
187転生恋生 第十二幕(3/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/04(火) 22:15:37 ID:FZPA4iXV
「でも、それならどうして私に反応しないの? 自分で言うのもなんだけど、スタイルには自信があるのよ。たろーちゃんに気に入ってもらえるように努力して磨いてきたんだから」
 確かに、姉貴はスタイルがいい。バストの大きさや形、ウェストからヒップにかけてのラインなんかは申し分ない。だけど、姉貴の体というだけで台無しだ。
「姉貴の体じゃ興奮しないんだよ。手コキされたって同じことだ。自分でする方がよっぽどいい」
「なんですって!」
 右手にも劣ると言われて、さすがに姉貴は傷ついたらしい。上体が揺れて、床のタイルに手をついた。よろめいてしまったんだな。
「思うにさ、姉貴は俺に裸を見せ過ぎたんだ。見慣れちまったんだよ」
 物心ついた頃から一緒に風呂に入っていたし、胸を押しつけられるのもペニスをしごかれるのも日常茶飯事だ。非日常的な刺激こそが最良の媚薬だということが、姉貴にはわかっていないんだな。
 エロ本だって、今にして思えば中学生の頃に人目を気にしながらコンビニでこっそり立ち読みするのが一番興奮した。姉貴のアソコなんか、散々拝まされてきたから、ありがたくもなんともない。
「どうしてよ? 私はたろーちゃんの体を見るだけで濡れるわよ」
「でも、俺の方は見飽きたんだよ」
「ひどい! 私の体に飽きただなんて……!」
 誤解を招くような言い方をするな。……いや、ある意味正しいか。
「さっきさ、熟年夫婦に喩えただろ? 実際、夫婦も長年一緒にいると異性として意識しなくなるらしいしさ。姉と弟だって同じだよ」
「同じじゃないもん! 私は物心ついた頃からたろーちゃんに欲情し続けてきたもん! 私とたろーちゃんがセックスできる年齢になるまで、一日千秋の思いで待ち続けてきたのよ!」
 知るか、そんなこと。物心ついた頃からって、姉貴が幼稚園児で、俺がまだよちよち歩きの頃からか? 嫌過ぎる幼児だな。
「とにかく、俺は姉貴を異性としては見られないんだよ」
 俺は自分でシャワーを使って泡を洗い流すと、湯船に浸かった。姉貴は恨みがましい目つきで俺を見やったが、この場は諦めたのか、自分の髪と体を洗い始めた。
 さっさと風呂場を出ようかとも考えたが、これからの数日間を考えると、いやこの先の人生を考えると、どこかで腹を割って話さないといけない。
 姉貴が体を洗って湯船に入ってくるのを待って、俺は極力真剣な声を出して語りかけた。
「姉貴さ、さっきの続きだけど、大学行けよ。そしてちゃんと仕事しろ。それが姉貴のためだし、俺がそうしてほしい」  
「たろーちゃんは、嫁に家にいてほしくないの?」
 この場合の「嫁」が一人称であることは明らかだった。俺はため息をつきたくなるのをこらえる。
「そうだな、どっちかっていうと、働く女の人が好みだな」
 おふくろは専業主婦だが、一日中家にいて退屈じゃないだろうかと思う。友達の話を聴いても、共働きの母親の方が若々しい気がする。
「じゃあ、考える」
 案外素直に姉貴は前言を撤回した。そうか、こういう言い方をすれば説得できるのか。
「学校へも進路希望を出し直しておけよ」
「でも、たろーちゃんと同じ大学に行きたいから一浪する」
 わかってねーよ!
「そういうの、もういい加減にやめてくれよ! 姉貴の人生は姉貴の人生だろ! いつまでも俺にべったりくっつくのはお互いのためにならないんだよ!」 
 堪えきれずに声を荒げた俺に対して、姉貴は浴槽の中で体を寄せてきた。湯に浮く乳房が俺に押しつけられる。
「私たちはずっと一緒にいなければいけないの! そう誓ったんだもの! やっとめぐり逢えたのに、離れ離れになるなんて考えられない!」
 姉貴も珍しく声を苛立たせている。まるで姉貴の話を理解できない俺が悪いと言いたげだ。いや、本気でそう思っているんだろうな。
「やっとめぐり逢えたって、どういう意味だよ。ずっと家族として一緒に暮らしているっていうのに」
「千年ぶりに逢えたって意味だよ」
188転生恋生 第十二幕(4/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/04(火) 22:16:34 ID:FZPA4iXV
 またその話か。もううんざりだ。
 いよいよ俺は切り札を出すことにする。
「姉貴、俺はもう知っているんだ」
「何を?」
「姉貴が俺以外の男に恋をして、その相手に死なれたせいで、俺を身代わりにしようとしているってことさ」
 姉貴の顔色が変わった。やっぱり、一番の急所を突かれたせいだろう。
「悲しい恋の終わり方をした姉貴には同情するよ。だけど、俺をその男の身代わりにするのは間違っている。早く吹っ切って、新しい出会いを……」
「何の話をしているの!」
 姉貴が血相を変えて俺を遮った。こんな表情の姉貴を見るのは初めてだ。ちょっと怖いが、勇気を奮って続ける。
「だから、姉貴が前に付き合っていた男の話だよ」
「そんな人はいないわ! 私がたろーちゃん以外の男を好きになるわけないでしょ! 誰の話をしているの!」
「誰かは知らないけどさ、当事者から聴いたんだよ」
「誰よ! 誰がそんな嘘を吹き込んだの!」
 姉貴が俺の両肩をつかんで詰め寄る。指が食い込んで痛い。雉野先輩の名前を出したくはなかったが、痛みと怯えのせいで口を滑らせて閉まった。
「雉野先輩から聴いたんだよ」
「あのクソキジが! あいつが何を言ったの!」
 ますます指が食い込んできた。皮膚を破って血が出そうだ。
「昔、雉野先輩とその友達が取り巻きをやっていた男を姉貴が奪い取って、その後男が死んでしまったせいで、姉貴と先輩たちの関係が悪くなったって、雉野先輩から聴いたんだよ」
 姉貴はキツネにつままれたような顔をした。俺の肩をつかむ力が急に脱けていく。俺は姉貴の手を振り払ってまくし立てた。
「元はといえば、姉貴が他人の男にちょっかいを出したのが原因だろ? そりゃ、恋愛は自由だし、好きになったものはしょうがないだろうけどさ。姉貴が恨まれるのは当然だよ。何より、俺を巻き込むのはやめてくれ!」
 湯の中で叫ぶのは意外と体力を使うらしい。俺は少し息が荒くなっていた。
 黙って聴いていた姉貴だったが、いつの間にか冷静な表情に戻っていた。
「なーんだ、そのこと」
 拍子抜けしたように言う。
「たろーちゃん、誤解してるよ。あのクソキジが紛らわしい言い方をしたせいだね」
「どういう意味だよ。雉野先輩が嘘を言ったっていうのか?」
「嘘というわけではないわね。まあ事実を歪めているけど」
「男を奪い合ったっていうのは事実なんだろ?」
「本当のことよ」
 あっさり認めやがった。改めて本人の口から聴くと、ちょっとショックだな。あれだけ俺にべったりしておきながら、他の男を好きになっていたなんて。
 だが、姉貴は俺が全く予想していなかったことを言った。
「だって、その男ってたろーちゃんのことだもの」
 何を言っているんだ、このキモ姉貴は。
「クソキジが言ったのは千年前のことよ。あいつら、たろーちゃんの家来だったの。でも、私がたろーちゃんと愛し合うようになって、嫉妬に駆られて主人を裏切ったのよ」
「おい、ちょっと待て」
「まるで私のせいでたろーちゃんが命を落としたように言うなんて、本当にクズだわ。性根が腐っているのは相変わらずね」
 当時のことを思い出したかのような口ぶりだが、それはおかしいだろ。
189転生恋生 第十二幕(5/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/04(火) 22:17:15 ID:FZPA4iXV
「さすがに刑事事件になったら面倒だと思って見逃していたけど、今度もまた私とたろーちゃんの仲を引き裂こうとするなら、本格的に痛めつけてやらないと……」
「待てって言ってるだろ!」
 俺が怒鳴ったせいで、姉貴はひとり語りをやめた。
「何?」
「俺は姉貴の妄想話のことなんか訊いちゃいない。姉貴が雉野先輩と奪い合った男の話をしているんだ」
「だから、千年前の話だって言ってるんじゃない」
「違うだろ! せいぜい一昨年かそこらの話のはずだ。おおかた、俺が中学生のときに高校で付き合っていた男がいたんだろ?」
「そんなわけないじゃない。私はたろーちゃん一筋なんだから」
 憤慨したように言う。待て待て、どうにも話が噛み合わない。姉貴は俺を死んだ彼氏の身代わりにする為に、千年前からの絆云々の話をでっち上げて、俺にまとわりついていたんじゃないのか?
 ……いや、でも確かに姉貴は物心ついた頃から俺にべったりだった。生まれ変わりの話も随分昔から口にしていた。昨日今日作った話じゃない。
 だとすると……、馬鹿な、そんなことあるわけないじゃないか。
「姉貴、雉野先輩と男を奪い合ったこと自体は認めるんだな」
「そうよ。前から何度も話しているじゃない。私とたろーちゃんは千年前からの絆があるって。……ああ、そうか」
 姉貴は腑に落ちたという顔になる。
「考えてみれば、千年前に私とたろーちゃんがあいつらのせいで命を落としたという話はしなかったわね。あんまり思い出したくなかったし、私たちが愛し合っていたということの方が大切だから」
「じゃあ、雉野先輩は千年前のことをさも最近のできごとのように話したっていうのか?」
「そのとおりよ」
「それだと、雉野先輩は千年前の仇の生まれ変わりで、しかもその記憶を持っているっていうことになるぞ!」
「別に不思議なことじゃないでしょ」
 わかりきったことといわんばかりの姉貴に、俺は一気に湯冷めしそうなほどの寒気を覚えた。
 姉貴がイカレているのはいい。今に始まったことじゃない。だが、雉野先輩まで姉貴に話を合わせているだと?
 どういうことだ? 雉野先輩が仲の悪い姉貴と話を合わせる必要があるのか? そんなわけがない。
 雉野先輩が嘘を言った? 何のために? 俺はふたりの仲が悪い理由を教えてほしいと頼んだ。その理由を説明するのに、もっともらしい嘘をついたのか?
 だが、姉貴は雉野先輩の話は本当のことだと言う。仲の悪い先輩をかばう必要はない。やっぱり、ふたりが意図的に話を合わせたとすると不自然なことになる。
 とすると、ふたりとも嘘は言っていないと考えるしかない。同じ男を奪い合ったことは事実だ。
 でもそれは千年前のことだと? それじゃあ、それじゃあ……、雉野先輩も姉貴の同類で、千年前の生まれ変わりがどうのなんて話を信じているサイコ女なのか!?
 いや、辻褄が合いすぎる。千年前の話が事実だと思うしか……。
 そんなことあってたまるか!
「顔が赤いよ。そろそろ出ようね」
 長く湯に浸かりすぎたせいか、湯当たりしてしまったらしい。
 ぼうっとして頭がふらつく俺を、姉貴が抱きかかえて風呂場から連れ出した。姉貴の腕力なら、どうってことなく軽々と俺を運べる。
 そのまま姉貴はふたりして全裸のまま俺の寝室に入り、俺をベッドに寝かせて絡みついてきた。体中を撫で回され、特に局部を刺激されたが、やっぱり俺は反応しなかった。
 最終的に姉貴は添い寝するだけで満足することにしたようだが、俺は雉野先輩のことが頭の中をぐるぐると駆けめぐり、なかなか寝つけなかった。
 あの笑顔の裏で、エロ親父な態度の裏で、俺を千年前に失った男として見ていたのか……?
 確かめないといけない。でも確かめるのは怖い。雉野先輩が姉貴の同類だとしたら、今までどおり接することはできない。
 唯一の逃げ道は姉貴が嘘をついていると思うことだ。そう思うことにしよう。
 その結論に達して、ようやく俺は眠りにつくことができた。既に明け方近かった。
190 ◆.mKflUwGZk :2009/08/04(火) 22:19:15 ID:FZPA4iXV
投下終了です。
191名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 22:54:46 ID:mocYp2i/
>>183
いや、二人とも残忍な方法で消すのかと思ったから
それだと川岸おいしいなあと気になって
192名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 22:57:38 ID:D+8weYF3
>>190
乙乙
たろーちゃん姉勃起不全かぁ…
193名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 22:59:49 ID:O+9Vrlvt
>190
実にGJだ。
はたしてこの件が主人公前世覚醒フラグなるか。
194名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 23:38:16 ID:57s6G9+S
GJ!
ありえん、続きが楽しみスグル
195名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 00:23:45 ID:jalAI5JP
>>190
ぐっじょぶ!
家来3人組の逆襲に超期待!!!
196名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 04:32:07 ID:nL35qWWl
197名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 06:35:23 ID:LPKM6gq0
198名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 06:58:27 ID:5c/iYT4q
こんなキモウト考えた:『>>1000なら兄は俺を嫁』で1スレ全部うめるキモウト
199名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 15:13:34 ID:R/Zzq+U1
>>198
荒らし以外の何物でもないんじゃないか?
200名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 15:44:59 ID:KBSldR4T
お兄さんからスレ削除依頼が出ました〜
201名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 15:58:27 ID:XLt9JD2v
IDが同じだから、兄が自作自演したのだと見られてすなわち妹の思うつぼってわけだ
わかる わかるぞ
20221歳のキモウト〜最終回変〜 1/7:2009/08/05(水) 23:49:33 ID:R/Zzq+U1
最終回ネタということで一つ



「…………」

やぁみんな、こんばんわ。俺の名は七志野…え?タイトルを見れば解る?それは失敬。
でだ。俺は今、自分の家(アパート)の扉の前にいる。どうしてさっさと開けないのかって?
聞かなくても解るだろう?詳しくは過去作品を参照してくれ。

「…ふぅ」

いつまでもこうしているわけには行かない。そろそろ覚悟を決めるか…いい加減腹も減ってきたし。

「ただいま…」

ドアを開けてただいまの挨拶。さて、あの愚妹は今日はどんな格好で…

「お帰りなさい、兄さん」
「…あれ?」

今日はどんな姿で出迎えるのかと思いきや、いつものコスプレ系の服ではなく、ごく普通の私服(ライトグリーンのTシャツに薄いピンク色のミニスカート、そして白い薄手のカーディガン)に、黄色のエプロンを着ていた。

「?どうしたの兄さん」
「いや…」

今日はどうやって突っ込んでやろうかと思っていたが、拍子抜けしてしまった。

「あ〜、とりあえずただいま」
「おかえり兄さん。御飯にする?お風呂はあと5分くらいで温まるけど」
「んじゃあ飯にするか」
「わかった。あ、その前に背広渡して。ハンガーにかけとくから」
「ん、頼む」

あれ?

「はい、兄さん」
「ああ、ありがとう。いただきます…」
「どう?」
「普通に美味い」
「よかった」

あれれ??

「兄さん、お風呂温まったよ?」
「じゃあ入るか」
「あっ、今日は洗濯する日だから、お風呂に入る前に、洗濯機のスイッチを入れておいてね」
「了解」

あれれれれ????
20321歳のキモウト〜最終回変〜 2/7:2009/08/05(水) 23:50:01 ID:R/Zzq+U1

「ふぅ…さっぱりした」
「何か飲む?ビールとか」
「酒はいいや。麦茶あるか?」
「補充したばっかりだから少し薄いけど」
「じゃあ何かジュースくれ」
「はい、ポ○リ」
「俺はアク○リアスの方が好きなんだけどな…」
「文句言わないの」
「へいへい」

…………

「っじゃねえ!!」
「何よ急に」
「どうしたんだお前!?熱でもあるのか!?それともどこか調子悪いのか!?」
「は?」
「こうしちゃいられん!救急車!110番!…じゃなかった119番だ!」
「もしもし?」
「えーと、夜間でもやってる病院は…」
「とりあえず落ち着けバカ兄貴」
「あふんっ!?」

か、踵落とし…ミニスカで繰り出す技じゃないぞ。

「落ち着いた?」
「ああ、すまん。少し動転していたようだ」
「そ、ならいいけど」
「で、何があった?」
「何って?」
「いつもなら、俺が帰ったと同時にコスプレで出迎え、キチ○イじみた言動を繰り広げては勝手に暴走、自滅のコンボを決めるではないか」
「自滅って…」
「何かあったのか?」
「別に。ただ、たまには普通に出迎えようかなって思っただけだよ」
「そうだったのか。すまん、妙な勘繰りをしてしまったみたいだな」
「あとネタが無かったし」
「マテ」

随分メタな発言だな。

「まぁいい。明日は休日だが、どうする?夜更かしでもするか?」
「それなんだけど…」

何やら口ごもる舞。

「ねえ兄さん、一緒に寝よう?」
「だ が 断「何もしないから」…る?」
「お願い。襲わないから。誘惑しないから。何もしないから。本当に、ただ寝るだけでいいから。だからお願い。一緒に寝よう?…お兄ちゃん」
「何かあったのか?」
「…………」
「…まあいい。約束だぞ」
「うん…」
20421歳のキモウト〜最終回変〜 3/7:2009/08/05(水) 23:50:34 ID:R/Zzq+U1
電気を消し、二人でベッドに入る。どうせ寝に帰る部屋だからと、思い切ってダブルベッドを買っていたのだが、今日、それが初めて役に立った。
(いつもは舞がベッドで、俺が床で布団を敷いて寝ている)

「ねえ兄さん。こっち向いて?」

僅かな逡巡の後、俺は舞の方へ身体を向ける。

「…………」

『綺麗だ…』
思わずそう口走ってしまいそうだった。
元々美形の舞だが、月の光に照らされていると、ある意味神秘的な雰囲気を醸し出している。

「うふふ♪えいっ!」
「なっ!?おまっ!?」

少しの間魅入っていたようだ。その隙に、半人分の空間を一気に詰め、舞に身体を密着させられた。

「どうしたの?兄さん」
「お前…何もしないって…」
「私は何もしてないよ?ただ抱きついただけだもん」

くっ!…た、確かに、この程度では『誘惑』とは言えまい。むしろ過剰反応すれば、この妹に何を言われるかわかったものではない。
後、俺の左腕を腕枕にするな。人間の頭って結構重いんだぞ。

「久しぶり…兄さんの胸の中…」

うっとりした声で呟く舞。意外にも本当に抱きついているだけで、アレをアレしたりコレをコレされたりすることは無かった。
『アレ』や『コレ』では解らないって?君達のお姉さんか妹に聞いてみなさい。

「最後に抱っこしてもらったのって、いつだったっけ」
「日曜に俺が昼寝していた時」
「もう!そうじゃないよ!」
「悪い悪い。そうだな、確か舞が中学に上がった頃くらいまでじゃないか?」
「そうだったね…」

別の言い方をすれば、俺が高二になった頃でもある。
さすがにその頃になると、舞も女らしくなってきていて、密着されるのが苦痛だったりした。
ちなみに、一緒に風呂に入るのを止めたのもその頃だ。
こう見えても結構ストイックな人間だったのである。
…ごめん。ただもてなかっただけです…orz

「泣き虫でいつも虐められていた舞がな…随分大きくなったもんだ」
「当たり前だよ。私だって、いつまでも子供じゃないよ?」
「そうだな。でも俺にとって、舞はいつまでも可愛い妹のままだよ」
「それ、あんまり嬉しくない」
「そうか?」
20521歳のキモウト〜最終回変〜 4/7:2009/08/05(水) 23:51:02 ID:R/Zzq+U1

いつもの攻防(性的な意味で)を忘れて、昔話に花を咲かせる。

「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「好き」
「…………」
「私はお兄ちゃんが大好き」
「舞…?」
「兄としてじゃなくて、一人の男の人として、私はお兄ちゃんが、蛍さんが好き」

不意打ちだった。今までも性的な意味で襲われていたので、舞が俺をそういう目で見ていることには気付いていた。
だが、『ひょっとしてからかっているのではないか?』という希望的な考えもあったのだ。
しかし、それが今全て覆された。

「…舞、俺は…」
「解ってる。兄さんが私のこと、妹としてしか見ていないって。妹としか見ようとしないって」
「…………」
「兄さん知ってる?私結構、ううん、かなりもてるんだよ?」
「そりゃミスキャンパスだからな」
「正確にはセミキャンパスだけどね。今まで沢山の人に告白されたよ。3桁、もしかしたら4桁行ってるかも」
「中学の頃からラブレターもらいまくってたもんな。ある意味羨ましいよ全く」
「中には2〜3回告白してきた人もいたなぁ」
「それだけ本気だったってことだ。でも結局は振ったんだろう?」
「うん」

臆面もなく肯定する舞。実は一度、俺は告白の現場に偶然居合わせたことがある。

『ごめんなさい。私、好きな人がいるんです。世界で一番、好きな人がいるんです』

その時の舞はそう言っていた。思えばその頃から、舞は俺を男として見ていたんだろう。

「お前は理想が高すぎなんだよ」
「誰のせいだと思ってるの」

そこで俺に振るか。

「今まで告白してくれた人の中には、兄さんよりも素敵な人もいたよ。兄さんよりカッコよくて、兄さんより頭
がよくて、兄さんよりしっかりしてて、兄さんより優しい人もいたよ」
「そりゃあ、俺は中の中、凡人って言葉が服着て歩いてるようなもんだからな。で、そいつはどうしたんだ?付き合ったのか?」
「振った」

バッサリだなお前。

「ダメなの。どうしても。どうしても兄さんと比べちゃうの。相手が完璧であればあるほど。相手が兄さんに似ていれば似ているほど。『どうしてこの人は兄さんじゃないんだろう』って」
「…………」
「ねえ兄さん。多分私は、兄さんがいる限り普通の恋愛って出来ないんだと思う」
「…………」
「兄さんが私の手の届くところにいる限り、私が兄さんに期待している限り、私は他の男の人を『そういう』目で見られないんだと思うんだ」
「…俺にどうしろってんだよ」
「…結婚して」
「へ!?」
「私以外の人と結婚して。私以外の女の人と結婚して、私以外の人の赤ちゃんを作って」
「…舞…?」
「そこまでしないと、私はきっと兄さんを諦めない。私より素敵な人を見つけて。私より綺麗で、私より優しくて、私より兄さんを愛している人と結婚して!そうでないと私…わたし…」
20621歳のキモウト〜最終回変〜 5/7:2009/08/05(水) 23:51:30 ID:R/Zzq+U1
舞の声が震えだす。密着しているから顔を見なくてもわかる。

「舞…泣くな…」
「お兄…ちゃん…!」

舞の背中に右腕を回し、左手で舞の頭を撫でる。

「落ち着いたか?」
「…ぅん…」

5分…いや、10分くらい経っただろうか?
ようやく舞の嗚咽が止み始める。

「ごめんな舞。そこまで思いつめてるなんて知らなかったよ」
「いいの。本当はね、兄さんと一緒に、暮らすつもりは、無かったんだ。どこか、遠いところで、兄さんのいない、ところで、兄さんのこと、思い出せなく、なるくらい、遠いところで、生きるつもり、だった、のにっ!」

嗚咽で詰まらせながらも、必死に言葉を紡ぐ舞。

「でも、ダメだった。私は、兄さんがいないとダメなの!私には兄さんしかいないの!兄さんがいてくれないと生きていけないの!」
「舞、俺が結婚すれば、お前は生きていけるんだな?お前が勝ち目が無いって思えるくらいの相手と結ばれれば、お前は俺が居なくても生きていけるんだな?」
「…うん…」
「…解った」

腕に力を入れ、舞の身体を強く抱きしめる。

「俺、きっと見つけるよ。お前よりいい女を。お前より愛せる人を。お前より愛してくれる人をさ…」
「…うん…」

今日が最初で最後だろう。妹を女として、抱いて眠る夜は。

「ねえ兄さん」
「ん?」
「キス、して」
「え?」
「約束の、キス…」
「…解った。目、閉じろ」

15年ぶりの妹の唇は涙の味がした。
20721歳のキモウト〜最終回変〜 6/7:2009/08/05(水) 23:53:31 ID:R/Zzq+U1





「ごめんなさい、兄さん…」

兄が寝静まってから、私は小さな声で謝罪した。

「私、きっと諦めない。きっと諦めきれない」

兄のためなら、自分は何でもする。兄を愛するためなら、自分は何でもできる。

「どんな女と結ばれても、その女と子供を作っても、きっと私は、全てを壊す」

私はそういう女だ。独占欲と嫉妬の塊。いや、狂愛で生きる人間というべきか。

「兄さんを取り返すために。兄さんの愛を奪い取るために」

思い出すのも忌まわしい。8年前、私は一人の人間をこの手にかけた。
兄に好意を抱く女性だ。名前は確か…いや、どうでもいいことだ。
兄にとって最初の、そして最後の恋人。

可愛らしい女性だった。そして優しい女(ヒト)だった。
兄が初めて『その女』を家に招いた時は、家族総出で驚いたものだ。
父はしきりに『信じられん』と繰り返し、母は『天変地異の前触れか』と経文を唱えだす始末。
兄は憮然とし、その女は愛想笑いをしていた。
私は…多分苦笑していた、いや、苦笑している振りをしていたと思う。
なぜなら、その時私の心を支配していたのは、抑え切れない憎悪だったからだ。

『兄さんに微笑まないで!』

『兄さんに触らないで!』

『兄さんの名を呼ばないで!』

『兄さんを返して!』

少しでも気を緩めれば、そんな言葉を叫んでしまいそうで、私は挨拶も早々に、部屋へ引きこもってしまった。

3ヶ月。たった3ヶ月。私が耐えられたのはたったそれだけ。でも、それが限界だった。
当時の私は13歳。中学1年生。子供であるはずの私が、一人の人間を殺したのだ。それも何の躊躇も無く。

「そのために、兄さんの幸せを壊してしまう…」

正直、自分がそこまでする人間だとは思わなかった。同時に理解した。

『私がいる限り、兄さんは誰とも結ばれない』

狂喜した。そして絶望した。

「だからお願い。守ってあげて」

兄さん…

「私からその人を守ってあげて」
20821歳のキモウト〜最終回変〜 7/7:2009/08/05(水) 23:53:58 ID:R/Zzq+U1

愛してる…

「私を愛さないで」

私を見て…

「私を憎んで」

私を愛して…

「私を殺して…」

兄さんに殺されるなら

「兄さん…愛してる…」

地獄に堕ちても

「…アイシテル…」

きっと、笑顔でいられるから…





「…………」
「どう?兄さん」
「とりあえず一言言っていいか?」
「うん」
「妄想乙」
「それほどでも〜」
「褒めてねぇよ。で、こんな嘘99.9%の文章読ませてどうする気だ?」
「『キモ姉&キモウトの小説を書こう』のスレに投下しようと思って」
「投下するのはいいけど実名は止めろ」
「ごめん、もう投下しちゃった♪」
「ちょっ、おま」
「言ったでしょ?私は最初から兄さんにLOVEだって!」
「いつ言った。全国の七志野・蛍さんと七志野・舞さん。ごめんなさい…orz」
「と言う訳で兄さん!早速私達も結ばれましょう!」
「脈絡が全然無いぞ。そしてあえて言おう」

「だ が 断 る!」

「そう言うと思ったよ。でも今日という今日は逃がさない。最初に言っておく!私は色々な意味で、
か〜な〜り、限界だ!」



「その後、兄は妹の愛を受け入れ、末永く幸せに暮らしましたとさ。

21歳のキモウトシリーズ…完!」
「嘘をつくな」
209名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 23:55:09 ID:R/Zzq+U1
後になると投下する気がなくなりそうなので、今のうちに書き込んでおくことにした

んじゃ
ノシ
210名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 00:01:40 ID:4VKliPQU
つまんね。寒いギャグ削れば少しはよくなりそうだが
211名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 00:04:52 ID:bPOZ/S5O
>>209
GJ!!
新シリーズに期待w
212名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 00:08:29 ID:7j2hbYa+
263 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/08/05(水) 15:17:35 ID:4VKliPQU
おい荒らすな死ね

273 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/08/05(水) 22:50:22 ID:4VKliPQU
だから荒らすな。死ねよ

275 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/08/05(水) 23:10:02 ID:4VKliPQU
で、何がしたいんだ?

282 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/08/05(水) 23:58:29 ID:4VKliPQU
>>276
荒らし乙。死ねよ
213名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 00:16:00 ID:iUhvvZF3
誤爆か?まぁいいや>>209GJ
214未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 00:59:41 ID:055kfvnu
間があきましたが投下します。
あるキャラの過去話となります。スーパースレチタイムでキモウト話ではありません。読み飛ばす人はどうぞ飛ばしてください。
あまりにスレチなので書き貯めておくつもりでしたが、予想以上に時間がかかったのでさっさと出してしまうことにしました。
ギャグです。
215未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:00:10 ID:055kfvnu
人には誰しも触れられたくない過去がある。
それは熱意に任せた過ちだったり、若き日の考え方だったり、かつて受けた屈辱だったりする。
過去のことは変えようがなく、それを現在に対するバネにする人間もいるが、大多数は記憶の底に封印することで処理している。
けして忘れているわけではなく、ただ考えないようにしているだけのそれは、時々脳裏をよぎっては所有者を苦しめる。
そんなことばかり経験してきた彼女の、最大の黒歴史は、夫と結婚したことそのものだった。


榊太郎子の黒歴史な人生


さかき、たろうこ、と読む。
女性の名前である。
名前が既に黒歴史だった。
この奇天烈な名前を名付けたのは紛れもなく彼女の両親だが、そこにはちょっとした経緯がある。
太郎子を両親が授かったのは晩年になってからだった。母親が四十を超えていたのだから、立派な高齢出産である。
とはいえ、子供がいなかったわけではない。既に二人の娘がおり、当時既に中学生と小学生だった。
いや、だからこそ両親は喜んだ。二人はずっと息子を欲しがっており、そのことを口には出さないにも残念に思っていたのだ。
加えて、この時父親は胃ガンを患っていた。後年これが原因で命を落とすことになるが、どちらにしろこれ以上子供は望むべくもなかった。
だから三人目の娘が生まれた時、つい未練で、男っぽい名前を付けてしまったのだ。
聞くも涙、語るも涙である。
他人事なら笑い話で済むが、本人にとってはたまったものではない。
それでも幼稚園や小学校低学年の間は問題も少なかった。なにしろ漢字もわからない年代である。
精々が、経緯を知る身内から生暖かい目で見られたり、名前を知った教師にぎょっとされる程度だった。
太郎子が自分の名前の異常に気付いたのは小学三年生の時である。
「ねえねえちいねえちゃん。あたしの名前って、へんなの? だんしなの?」
「ぷ、気付くの遅すぎ、プギャー! どう見てもおかしいだろ、ゲラゲラ」
「うあーん!」
翌日から彼女のあだ名は『タロウ』に大決定した。ウルトラな兄弟の末っ子的ニュアンス。
「おーいタロウ」「タロウの奴どうしたんだ?」「タロウちゃん、給食係だよ」「タロウ、タロウ、タロウ〜♪」
イジメというよりはナチュラルに定着しただけで、そもそも以前からタロウ呼ばわりは頻繁にされていたので、単に受け取る側の問題とも言えた。
とはいえ、気付いてしまえば太郎子という名前は女子にはあまりにも酷である。
彼女はいじけて、へそを曲げた。
『タロウ』と自分を呼ぶ相手を全て無視すると決めて、三日間誰とも話せなくて半泣きになったりした。
元々彼女はお転婆な少女で、日々を元気いっぱいに生きていた。人生の通過儀礼とも言える最初のワンパンチを食らっただけなのだが、それが思わぬ方向からのブローでどうすればいいのかさっぱりわからないのだった。名前は変えれない。
「セルフ無視乙。名前に合わせて男装キャラとして生きていけばいいんじゃね? ブプー!」
次女はさておき。
216未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:00:46 ID:055kfvnu
そんなある日、太郎子がとぼとぼと家に帰ってくると、玄関に見慣れない靴が大小一セットずつあった。居間を覗くと両親と見知らぬ女性が何かを話してる、客らしい。
そうっと居間を避けて自分の部屋に向かう。見つかって名前を紹介されるのは避けたかったのだ。しかし何故だか自室は次女と見知らぬ少年に占拠されていた。
「おー、帰ってきたか。この美少年は薫(かおる)。ウチの遠縁らしい。このちびっこいのは太郎子。ここ、笑うところな。うひゃひゃひゃひゃ」
「むきー!」
ぽかぽかと両手をぐるぐる回して殴りかかる太郎子だったが、次女は妹の頭を押しのけることで全ての攻撃を空転させた。小学生と高校生のリーチ差は絶望的だ。
この次女は、温厚誠実が基本路線の榊家に於いて血の繋がりを疑う程に意地と口が悪かった。太郎子にとっては天敵も良いところである。
しかし見知らぬ少年は、太郎子の名前に驚くでも馬鹿にするでもなく、ただ淡々としていた。
「岡本薫です。よろしくお願いします。今日は母の付き添いできました」
カーペットの上に正座し、まっすぐ背筋を伸ばして自己紹介する少年。その様は、太郎子のベッドに寝転がる次女よりも下手したら大人びて見えた。
太郎子よりも一つか二つは年上だろう。次女が美少年と評したように、顔立ちと体付きはスラリと整っていた。居間にいた女性の面影がある。カオルという名前もあり、黙っていたら少女でも通じる容姿だった。
そのまま薫はここにいる経緯を述べる。最近こちらに越してきたこと、親戚の家に挨拶に来たこと、居間で座っていたら次女に引きずられてきたこと、母親の話が終わったら暇すること。
そんな少年を前にして、太郎子はぽかんと口を半開きにしていた。戸惑っているのだ。
彼女の知る男子というのは、もっと短絡的で馬鹿で乱暴な口調だった。上級生となれば、体が大きくて怖いというイメージが付くぐらいだ。
なのだが、まるで様子が違う。これはいったい何なんだ、という感じである。
太郎子は知る由もないが、この年齢の男子ならば無理をしてしゃちほこばり、礼儀正しく振る舞うこともできる。
が、薫の態度には何一つとして不自然な部分はなかった。礼儀作法を習ってきたわけではない。子供特有の、有り余る元気というものが根こそぎ枯渇しているような落ち着き方なのだ。
太郎子が本能でうっすらと感じていたのは、そんな些細な違和感であり、彼を毛嫌いすることになる最初の種でもあった。
ともあれ、それが、榊太郎子の人生で最悪の出会いだった。
217未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:01:20 ID:055kfvnu

時は流れる。
彼女は結局、自分のあだ名を別のものにしてもらうように周囲に徹底し、若干の実力行使はあったものの、その提案は受け入れられた。
ちなみに次のあだ名はタロウコ→『タラコ』になった。彼女の唇は別に厚くなく、次女に腹を抱えて爆笑された太郎子は両手両足を振り回して床を転がったが、後の祭りである。
薫はちょくちょく榊家を訪ねるようになっていた。どうも両親や次女が何かと理由をつけては呼んでいるのだと、太郎子が知ったのは割と後のことである。
ちなみにこの時期、長女は東京の大学に上京している。榊家は両親と娘二人の四人暮らし。
岡本家は母子の二人暮らしで、住居も一軒家ではなくアパートのようだった。薫の母が若い頃に街を出ていき、子供を産んだ後に戻ってきたのだ。
太郎子と薫は年齢も近いので遊び相手として引き合わされることも多く、カードゲームやボードゲーム、テレビゲームや庭での遊びをよく一緒にやったが、それはまさしく一緒にやるだけだった。
太郎子も相当、付き合わされている感だったが。薫の作業的なところはある意味見事なものだった。しかもほぼ全戦全勝で、勝っても負けても嬉しそうでも悔しそうでもない。太郎子でなくても嫌になる。
ふたつもとしうえなのにずるいじゃない!
と幾度も文句を垂れたが、その大人げないというところこそが少年の本質なのだと思い知るようになるのはずっと後でのことだった。

さて、そうして太郎子が小学校を卒業して中学生になった頃、幾つか事件が起きる。
一つ目は、次女が大学進学を期に一人暮らしを始めたこと。長女は大学卒業後、現地で就職しているので家にいる娘は太郎子だけになった。
地元に近い大学なので次女は良く帰ってくるが、それでも天敵が去ったことに太郎子はこの上ない開放感を覚えていた。が、以後続く事件でそれも台無しになる。
二つ目は、中学進学を期にイジメを食らったこと。
発端は言うまでもなく本名の件で、本人が頑強に抵抗したので更に延焼した。
というか、タラコ呼ばわりも端から見れば普通にイジメであるので周囲も勘違いした面もある。
紆余曲折を経た結果、複数女子による髪の引っ張り合いが発生。教師にも双方注意され、太郎子は腫れ物のような扱いになる。
唯一喜ぶべきことは、タラコも廃止されて呼び名は名字で統一されたことだろうか。
ともあれ彼女の中学生活は、教室で一人ぽつんと過ごすことになる。
事件の三つ目は、岡本薫の母親が首を吊ったこと。
頸椎骨折、即死である。現場はアパートの自室。第一発見者は息子。動機は生活苦と見なされた。
息子の体には度重なる虐待の痕跡有り、習慣的なノイローゼに陥っていた模様。
多少の揉め事はあったものの、岡本薫は榊家に引き取られた。他にめぼしい血縁はいなかったし、榊家の夫妻がそれを強く望んだからだ。
それは同情と言うより、ずっと息子を欲しがっていたことの方が強いかもしれない。
ちなみに夫妻は副業で親の代から継いだ不動産を幾つか営んでおり、収入に問題はなかった。娘全員を大学に行かせるぐらいなのだから。
部屋は次女の使っていた部屋を片づけて使うことになり、それについては本人もわざわざ帰ってきて許可を出した。弟ができたと喜んでいたぐらいである。
寝耳に水なのは末っ子だった。
以前から反りの合わなかった相手が、今度は一緒に住むことになったのだから、快諾などできるわけがない。
学校で安らげる場所がなく、更に家での安らぎも奪われるとあっては、最近内弁慶外地蔵傾向にある彼女にとってはたまったものではなかった。
じたばたと暴れ、わめき、それでも両親と次女が断固として頷かないのを見て、とうとう太郎子は家出した。
もちろん行く当てなどあるわけがない。結局、彼女は身も心も子供だったのだ。黒歴史の一つである。

218未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:02:03 ID:055kfvnu

リュックにありったけのお菓子を詰めた太郎子は、とりあえず近くの公園に行くことにした。一人で遊ぶための道具は幾つも持っている。季節は春、時刻は夕方。
春の天気は変わりやすい。日暮れと共に天気は夕焼けから一転、豪雨になった。
傘や合羽の類をさっぱり忘れた彼女は、びしょびしょになって公衆トイレに逃げ込んだ。濡れるし寒いし臭いしでもう最悪である。
あまりに雨が強くて、帰るに帰れない。水をふんだんに含んだリュックと服はひどく重く、鍵をかけて閉じこもった個室の便器からは鼻の曲がりそうな悪臭が漂ってくる。お腹が減ったが、お菓子を食べる気にもなれない。
みじめだった。
みじめ、ということを認めそうになっていた。
自分の名前のおかしさに直面してから、これまで頑として認めようとしなかった事実に、打ちのめされそうになっていた。
だがその時
どんどんどん、と個室の薄っぺらい扉が乱暴に叩かれた。雨の降る夜中の公衆トイレ。人気は極限までない。
太郎子は恐怖と驚愕のあまり、ちびった。
じわりと股間に染みが広がり、湯気と共にちょろちょろと床を濡らす。場所がトイレであることは不幸中の幸いだった。ついでに腰を抜かしてぺたんと座り込む。
そうして、声も上げられない太郎子から見て、扉の上から人の頭が出て覗き込んできた。個室の扉に手をかけてよじ登ったのは、髪をくすんだ金髪に染めた女だった。
高校生前後と思わしき年齢の彼女は、腰を抜かしてちびった太郎子を一瞥して
「あのよお、こっちも漏れそうなんだけど、終わったんなら早く代わってくれねえ?」
運命の出会いだった。

女は割と面倒見が良く、ひょんなことから拾った太郎子を自分のねぐらに連れて行って一晩世話した。友達の家に泊まると連絡をさせてではあるが。
帰りたくないと喚いていた太郎子は、最初こそ怯えていたが生来の能天気さですぐに打ち解け、寝るころには家出した事情を話すようになっていた。
見た目通りレディースの一員でもあった女は、後日彼女を仲間に紹介する。チームの面子も(経過はともあれ)同じような境遇の人間は多く、太郎子を良く可愛がった。
思い思いに髪を染め、ピアスをつけ、二輪を乗り回す彼女等にやはり太郎子はかなりビビっていたが、そこを新たな居場所と見出すのに時間はかからなかった。
こうして太郎子は不良の道を歩んでいく。
髪を茶色に染め、長スカートを履き、はすっぱな言葉遣いになり、舐められないことに心血を注ぎ、外泊が多くなった。
当然、級友からは腫れ物扱いになり夫妻からは非難されたが、どうせ元から無視していた人間とこんな名前をつけた張本人である、聞く由縁もない。
結局「まあ反抗期だろう」ということで片付けられ、夫妻としては生暖かく見守るという方針で落ち着くことになった。岡本薫という新しい住人の世話もあったことだし。
その岡本薫だが、普通に生きていた。
榊家に入る時は一礼し、以後ずっと居候としての分をわきまえて生活している。
趣味も恋人も見当たらず、成績優秀で家事も積極的に手伝っていた。高校へは通っているが、金のかかる大学進学は辞退している。理想的な養子と言えた(実際は養子縁組は結んでいない)。
ただし、榊家の夫妻も薫のことを随分と可愛がったが、彼はただの一度も笑顔を見せることはなかった。
それは首を吊った母親の件が後を引いているのだと、身内は解釈していたが。約一名だけは、そんなものではないと直感していた。
そんなある日。
榊太郎子十五歳、岡本薫十七歳の夏。
219未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:03:43 ID:055kfvnu

その頃太郎子は金に困っていた。
チームの一員として来年、姉御(太郎子を拾った女子高生。現在チームのヘッド)からバイクのお古を譲ってもらえることになったのだが。
誕生日に合わせて二輪免許を取るための金が、どうしても足りないのだった。
彼女たちは万引きやカツアゲをするようなチームではなかったため、仲間内で物のやりとりをするくらいで金はない。かといって両親に無心など不良としては死んでも避けたい。
となれば後は両親以外の身内だが、上の姉はこの時既に東京で結婚しているので無心に出向くのは難がある。次女にはダメ元で頼んでみたが
「不良のくせに姉のすねかじりに来るなんてどんな気持ち? 働きゃ良いじゃないか。ん? 厨房が雇ってくれないならパンツでも売ればいいんじゃね。大体金貯めてないお前が悪いだろ、プギャー!」
マジ喧嘩になった。太郎子はチームでは舎弟兼鉄砲玉のような位置にあり、気性の荒さは有名だ。殴り合いも随分強くなった。特攻隊の狼女と言えば少しは知られている。
別に嘘ばかり付くからではない。周囲には『ロウコ』と呼ばせているのも一因かもしれない。たぬき。
それもまた、後年の彼女にとっては拭いがたい黒歴史ではあるのだが。
さておき太郎子はどうしてもお金が必要であり、恥を忍んで両親に頭を下げたり御法度のカツアゲなどをする前に、もう一人だけ心当たりがあった。
彼女が声をかけたのは、両親は近所の集まりで出かけた夏休みのある日。障子を開け放った居間で薫がノートと教科書を積んで夏休みの課題をしている時だった。
「おい、お前」
「なんですか」
太郎子は薫の名前を呼ばない。用事がある時は常に「おい」で済ませている。対して薫も、家主はともかく年下にさえ常に敬語で接していた。
そのため二人は、親戚であり、同年代であり、同じ屋根の下に住む幼馴染みでありながら、妙な余所余所しさがあった。
薫は美しい少年に成長していた。
背はスラリと高く、野暮ったい黒縁メガネをかけてはいるが顔立ちは女性のように整っている。態度は常に礼儀正しく、こうして一人で書き物をしている時も正座を崩さない。
運動能力は並よりやや上程度だが、学力に於いては中学高校とトップレベルにあった。中学三年生で生徒会長を務めたこともあり、女生徒からの人気はかなりのレベルにある。
それでいて不思議なことに恋人はいない。太郎子はその理由について聞かれると、性格が最悪だからすぐ別れるんだと吹聴していた。
実のところ太郎子が中学入学して即いじめられたのは、当時生徒会長だった薫と同居していることに対するやっかみも含まれていたりする。
しかしそんなこととは全く関係なく、太郎子は薫を毛嫌いしていた。そもそも小さい頃から見知った間柄として、容姿などどうでも良い要素に過ぎないのだ。
それでも、そんな相手にすら頭を下げなければいけないのが今の太郎子の辛いところだった。
「あのよ、金貸してくれねえか?」
「幾らですか」
「十万」
「いいですよ」
あっさりと薫は頷いた。
びり、とノートを一枚綺麗に破き、ボールペンで何かを書き込んでいく。貸付人、借受人、金額、日時、返済期限。それは見る間に契約書の体裁を整えていった。
その様子を、太郎子はイライラとしながら見ていた。がしがしと爪を噛む。姉御にはやめろと言われている癖だった。
これについて紙に残すこと自体は、まあ良い。十万は大金だ。太郎子としても踏み倒すつもりもないが、不安に思うのも仕方ないだろう。
しかし薫は、これが百円だろうと同じことをしただろうという確信が彼女にはある。というか、実際やられたことがある。
ただのケチなら我慢もするが、太郎子が抱いている不快感はそういった物ではない。つまり
岡本薫は、榊家の人間に対して、何一つとして信頼や特別を抱いていないのでは?という疑惑である。
もっと言うならば隣人に対する最低限の思いやりすらなく、路傍の石ころのように見ているのではないのだろうか。
そんな風に感じてしまう以上、家族と言われても反発するのが当然だった。
220未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:04:16 ID:055kfvnu
「ところで、太郎子さん」
「あたしをその名前で呼ぶんじゃねえ!」
拳が飛んだ、体を倒してかわす薫。
彼はお互いの署名が終わった後、珍しく自分から切り出したのだった。
「進学はするつもりですか」
「ん、ああ、そりゃまあな。姉御の高校に行くつもりだけどな」
「準備はできているのでしょうか」
太郎子が挙げたのは地元にある女子校だった。偏差値は低く、彼女が慕う姉御を含むチーム面子の半数近くが在籍している。
とはいえ、幾ら偏差値が低いとは言っても受験勉強は必要だった。なにしろ太郎子は不良らしく授業サボりの常習犯である。成績は極限の低空飛行を描いている。
しかし身に染みついた勉強蔑視は拭いがたく、受験勉強など冬に入ってからで良いと侮っていた。彼女自身は知る由もないが、このままではまず落ちる。
「んなもんなんとかなるだろ」
「受験勉強は遅くとも既に始める時期に入っていますよ。良ければ僕が教えましょうか?」
「は……?」
間の抜けた声を挙げて、反射的に幼馴染みを睨め付けるヤンキー少女。ぎろりと、それなり以上の年季の入った眼光だったが薫は何処吹く風だった。
たしかに借りを返すのならこのいけ好かない男のために(主に暴力的な面で)一肌脱いでも構わないとは思っていたが、話の順序が逆だ。
「おい、あたしがお前を手伝うならともかく、なんで逆なんだよ」
「君の手助けが必要な事柄はさしあたって存在しませんが」
「ああ、そうかもしれねえな。けどそれなら何でだよ。お前はあたしに借りなんてない、わざわざあたしを手助けする理由もないだろうがよ」
ここで『家族だから』『知人として心配だから』という返答が返ってきたのなら、ツンデレ的な展開もあったかもしれない。
しかし岡本薫という少年に、そういうことを期待するにはあまりにも酷すぎた。
「いえ、ただ叔父さんと叔母さんに頼まれていますから」
「ああん?」
薫が言っているのは太郎子の両親のことである。血縁はもっと遠いが、便宜的に叔父叔母と呼称しているのだ。
直後
太郎子は、居間の真ん中にある低くて広い机を思い切り蹴り上げた。
ぐらり、と机が半ばまで持ち上がり、その後重力に従ってどすんと畳を叩いた。上に乗っていた教科書ノートやコップはばさばさがしゃんとまとめて落下する。
それが収まると太郎子は机の反対側に回って、麦茶で濡れた紙束の中から先刻の契約書を拾い上げてびりりと破り捨てた。
薫は無反応。
そうして、太郎子は激高した。
「っざけんじゃねえ! あのクソ親父どもが、あたしにこんな名前を付けておいて一体今更何様のつもりなんだ! あんまり舐めた真似してると、お前もろともバイクで引きずり回すぞ!」
「いや、君は自動二輪も免許も持っていないから無理でしょう」
ボディに一発。
物理的にうずくまった幼馴染を尻目に、太郎子は怒髪天を突いたままのしのしと居間を後にした。
庭の蝉が五月蠅い、ある夏の出来事だった。

そんな風にして、彼等の中学高校時代は過ぎていった。
結局、免許のための金はあちこちに借りて工面した。返却は高校生になってからのバイトと、腕力沙汰への助っ人行為によって賄った。
親から小遣いはもらっていたが、それを不良としての行動にはできる限り使わない、というのが太郎子の小さな意地だったのだ。
彼女があの時、あれほどまでに激高したのは何故か。
それは薫がはっきりと、両親の側に立っていると明言したからだった。
元々、自分にふざけた名前を付けた両親に反発するために不良をやっているような物なのだ(と、後になって彼女は分析している)
そんな身内が敵という状況で、心の何処かで(たとえいがみあう相手だとしても)薫には味方であって欲しいと願っていたのだった。
だから、両親の側だと明言したことで裏切られたと感じ、ヤンキー的に裏切りに対して激高したのだ。勝手な話である。
そうして、二人の間はいっそう疎遠になり。結局、十代の間にはほとんど話すこともなかった。

221未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:05:26 ID:055kfvnu

日々は過ぎていく。
姉御本人から諭された太郎子は受験勉強に奮起して、なんとか女子校に進学した。半年の鬱憤を晴らすために派手に暴れて補導されたりもした。
高校生になっても、太郎子は不良としての立ち位置を崩すことはなかった。
けれどその間も、彼女の周りの環境は大なり小なりゆっくりと変わっていく。
一つは(中学の時の話だが)上の姉が大学時代から付き合っていた恋人と結婚し、東京の方で新居を構えて子供を産んだこと。
太郎子も何度か、挨拶に来た相手を見たことがある。外見は悪くないが、若干心が捻くれていそうな青年だった。上の姉はほんわかとした母性の塊のような女性なので、相性は悪くなさそうだった。子供は猿みたいだと思った。
一つは、下の姉が地元の大学を卒業し、そのまま院生として留まったこと。
彼女は榊家においては例外的に理系方面で有能だった。それは大学でも貴重なレベルの才能だったらしく、将来は研究員を嘱望されているという。本人も研究というライフワークには乗り気で、滅多に実家に帰ってくることはなくなっていた。
一つは、岡本薫が高校を卒業し、榊家の両親の伝手を辿って隣町の商社に就職したこと。
あの慇懃無礼で営業なんて勤まるのかと太郎子は不審に思っていたが、実際に勤めてみれば飲み込みの異様に早い薫は社会人としてすぐに適応していた。所詮社会は仕事ができるかできないかである。
一つは、太郎子の慕う姉御が卒業を機にすっぱりと不良から足を洗い、チームを後任に任せたこと。
太郎子は現役メンバーでは最古参だが、ヘッドを譲られたのは別の少女だった。それが不満でないとなれば嘘になるし、実際にチームを割りかける騒ぎにすらなった。
そうして、それから。榊太郎子が高校三年生の秋。
両親が死んだ。

深夜の榊家。
夕方から夜にかけてひっきりなしに訪れていた弔問客も、すっかり途絶えた頃だった。その人数は、故人が生前に慕われていたことを示している。
軒先には赤々と提灯がともり、家にはまだ灯りがついているが、人の気配はまるでなかった。窓から路上に照らされる光が、ひどく空しい。
そんな榊家に、髪を染めた少女が玄関から入っていった。がらがらと戸を開け、勝手知ったるとばかりに玄関で靴を脱ぎ捨てて居間に向かう。
居間は調度品や机の類が片づけられ、白木の棺と焼香台、それから大量の座布団がしつらえられていた。棺は顔の部分が開いており、女性の顔が覗いている。
初老にさしかかってはいるが、まだ死ぬような年ではない。彼女は先月、夫の葬式をしたばかりだった。榊家の居間にこういうものが揃えられるのは二ヶ月連続となる。
夫は十年前から胃ガンを患っており、闘病生活の末に先週没した。延命治療は本人の希望で行われず、彼女は夫を支え続けて、最後は喪主を務めた。そうして納骨さえ済ませる前に、風邪を拗らせて後を追うようにあっさり逝ってしまったのだった。
棺から覗く死に顔は、化粧もあってまるで眠っているだけのようだった。
悄然と居間で立ちつくす太郎子に、背後から声が掛かる。
「やっと帰ってきやがったか、一番忙しいところを押しつけやがって。仮でも喪主なんぞやるもんじゃないな。さっさと焼香して私と番を代われよ」
「ちい姉……」
振り向けば、次女がアクビをしながら台所から出てくるところだった。喪服姿で夜食のカップヌードルを手にしている。右手には割り箸。
母が死んでいるのを見つけたのは太郎子だった。
父の葬式が終わってから、長女と次女が子供の世話と研究のために帰った後。母はここ数日、体調が悪いと臥せっていた。
薫も仕事があり、太郎子も(一応)学校がある。そうしてその日、太郎子が帰ってくると母が布団の中で冷たくなっていた。
死に顔は安らかだったと彼女は記憶している。それ以上はわからない。薫に電話してすぐ、逃げ出したからだ。
「薫だったら寝てるぜ。医者に連絡に手続きに業者の手配、全部こなして流石に疲れたみたいだな。姉貴は旦那と一緒に明日の朝には着くとよ」
「んだよ……じゃあちい姉何もしてねえじゃんか」
「ふああ……馬鹿妹、客の相手でどれだけ頭を下げたと思ってるんだ。しかもこっちはレポートの提出で徹夜明けだったんだぞ」
「ああそうかい」
のろのろと正座して、太郎子は香を摘んで香炉に撒く。つんと、線香の臭いが鼻を突いた。
手を合わせて黙祷。
沈黙。
「で、お前は一体何をしたかったんだ?」
「……わりい」
222未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:06:25 ID:055kfvnu
「ああ、いや、勘違いするんじゃないぞ。別に今日トンズラこいたことじゃあない。私だって母が死んでればビビるだろうさ。
 そんな風に親父とお袋に意地を張って、一体何をしたかったんだってことだ。
 名前なんて今更だろ。慣れる奴は慣れるし、それを理由に弾圧してくるのは元から下衆なだけだ。それ以上でも以下でもない。
 そういう連中に対してDQNになって対抗するってなら、まあ正当防衛かもしれないな。
 けど、その責任が本当に、親父やお袋にあると思ってたのか? お前はただ責任を転嫁したかっただけじゃないのか?
 まあ、お前が何を訴えたかったのかは知らんがな、どっちにしろもう伝わらん。墓に布団は着せられぬ だ。
 で、太郎子。お前は一体何がしたかったんだ?」
「……説教かよ」
「説教さ。現状、不本意ながら私に役が回ってきたんでね。それにしても幾らおしどり夫婦でも、仲良く逝かれると本人は良くても残された方は迷惑だな」
ずるずる、と次女が麺を啜った。それを食べ終わるまで、太郎子はじっと手を合わせて黙祷している。
この時、彼女は既に不良から足を洗うことを決めていた。
次女の言う通り、名前に対する劣等感はほぼ消えている。それは気にせず付き合ってくれた、チームの仲間のおかげだった。
そのチームでも、現在の太郎子は外れたところにいた。元々太郎子を可愛がっていたのは姉御を中心とした先代のグループであり、彼女の帰属意識もそちらにあった。チームを割りかけたのもいわゆる派閥の問題だ。
抗争のようなものも当分なさそうで。現状、特攻隊長的な太郎子が必要かと言えば、そうではないのだ。むしろ邪魔ですらある。
223未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:06:47 ID:055kfvnu
ところで次女との姉妹話はもう少し続きがあった。
焼香を終えた太郎子がカップラーメンで軽く食事をとっていると、ふと次女が切り出した。
「ああ、そういえば薫をくれ」
「はあ?」
「親父とお袋が死んで姉貴は嫁入りとなれば、資産の管理は私に来る。相続税で大分減るが、それでも結構なもんだ。
 しかし私は研究に専念したいんで、そんな面倒ごとはごめんなんだ。だから管理と運用は奴に丸投げしようと思ってな」
「ああ……まあ、よくわからんがいいんじゃね?」
あまり興味もなさそうに太郎子が生返事を返す。母親が死んだ後に遺産の話をする姉に若干腹が立っていた。
榊家は幾つか不動産を所有しており、両親は副業としてその運用でそれなりの収入を得ていた。生活は標準だが小金持ちの部類に入るだろう。
とはいえ榊家の人間は金銭欲が薄いらしく、遺産を巡って骨肉の争いなどにはならなかった。父親が死んだ時点で、各自相談して権利の大部分は次女が相続している。
長女が他家に嫁入りしたので、次女が婿を取って榊家を継ぐという約束をしていた。資産の運用は当分母が行うはずだったが、それだけは予定がずれている。そこで次女が白羽の矢を立てたのが薫だった。
「ただ、家族同然とは言え奴はただの居候だからな。あまり大金を預けるのも問題がある。大体どこかに婿入りでもされたら、また一から選び直しだ」
「はあ……で?」
「ならば簡単だ。薫を、正式に榊家の人間にしてしまえばいい。幸い、親父と養子縁組は結んでいないからな。結婚は可能だ」
「は……はあっ!? け、結婚て、誰がだよ!」
「当年とって二十五歳。何ら問題のない適齢期だろう」
次女の年齢である。ちなみに長女が三十一、薫が二十、太郎子が十八となる。
その時、太郎子の胸中に沸き上がったものは嫉妬――――などでは、断じてなかった。
何よりも彼女が強く感じたのは『正気か!?』という驚愕である。それだけ、太郎子にとって薫は恋愛対象として有り得なかった。
兄弟同然に過ごしてきたから、ではない。一度たりとて兄と呼んだことも思ったこともない。
単純に女として『いくら顔がよくてもこいつだけはない』と評価しているだけだ。
太郎子とて年頃の女子である。仲間内で少女漫画の回し読みはよくやった。異性に縁などなかったが、恋に憧れる気持ちはある。
それでも太郎子にとって岡本薫は有り得ない。故に姉の言い出したことに正気かと問うたのである。
「お、おいおい正気か? 奴だけは有り得ないだろ。そんなに男に飢えてるのかよ?」
「理系の研究職など男社会の最たるものだ、言い寄ってくる輩などいくらでもいる。お前と一緒にするんじゃない」
「んじゃ、あいつのことが好きなのかよ?」
「んー、それなりの親しみはあるが恋愛感情まではいってないな。まあお互い静かなものだからな、それなりに相性はいいだろう」
「静かっておい、あれはそういうのとは違うんじゃね?」
薫があまり喋らないのは静寂を好むというわけではなく、言うべきことがあるときにしか喋らないだけだと太郎子は見抜いていた。
しかも話す時は結論から口にするから他人にとってはわけがわからなくなる。
ただし偏屈な部分は次女もまたお互い様だ。というか、口を開けば長広毒舌ばかりで太郎子としては『静かとかギャグで言ってんのか』と言いたい。
大体、とてもではないが恋愛沙汰に向いているとは思えない二人だ。割とうまくいくか、即倦怠期のどちらかだろう。
「なんだ嫉妬か? 姉妹から同時に迫られるなんてどんなギャルゲーという感じだが、それならそれで堂々と……」
「んなわけがあるか馬鹿姉が! 勝手に結婚でも何でもしてやがれ!」
224未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:07:22 ID:055kfvnu
この時、本当に
榊太郎子は、岡本薫に一片たりとも恋愛感情はなかったし、嫉妬があるとしたら『幸せになりやがって』という薄暗いものでしかない。
むしろ彼女にとっては姉のほうが好敵手とでも言える存在だったため『おいおい、あんな相手で大丈夫かよ』という妹心的心配のほうが大きかった。
とはいえ本人の自由なのだから、と太郎子は距離を置くことにする。
葬式が終わった後、太郎子はきっぱりと不良から足を洗った。
筋金入りの硬派だった太郎子の変遷にメンバーは戸惑い、いくらか波風は立ったが特に問題もなく抜けることができた。自発的にけじめをつけようとする太郎子の方が止められたぐらいである。
そうしていささか時期は遅かったが彼女は受験勉強に入り、東京の方の短大を受けて合格した。
大してレベルは高くない。上京するためだけのような進学だ。下宿先を引き払って実家に戻ってきた次女に気を利かせたということもあるが、何より過去の自分を知る人間がいない場所で、一から出直したかった。
名前のことは何とか克服した太郎子だったが、両親が死ぬまで突っ張ったことに対する後悔から、今度は不良の過去が触れられたくない黒歴史となったのだ。
上京した彼女は髪を黒く染めなおし、言葉遣いもヤンキー言葉から改めた。家事にはまったく自信がなかったので長女の家庭に居候したが、逆にみっちりと家事を仕込まれた。とはいえ、この経験は主婦となってから生きることになる。
ついでに、喋りがうつった。
「は〜い、太郎子ちゃん。今日もご飯の支度手伝ってね〜」
「おう、しゃーねえ……じゃない。うん、わかったわ」
榊太郎子という人間は
良く言えば一本気だし、悪く言えば騙されやすい人間だった。何かに影響を受けた時、疑いもせずに染まってしまう性質がある。
だからこそ、後で目が覚めた時にやってきたことに丸ごと後悔するのだが。彼女は黒歴史として封印してしまうので、全く改善されずに繰り返すのだ。
ところで、更生した太郎子だが。短大に通う内に、当たり前のようにまたハマったものがあった。
同人誌である。
225未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:08:04 ID:055kfvnu

切っ掛けは、短大でできた最初の友人が弱小サークルの同人作家だったことである。運の尽きともいう。
仮に友人Aと呼称しよう。ぐるぐるメガネと野暮ったい三つ編みがチャームポイントの女史は、それなりに仲良くなってから太郎子にアシスタントの要請をし、彼女は快く了承した。
内容がハードなエログロ触手ものだと知ったのは部屋に招かれてからである。悲鳴を上げた。新世界へようこそ。
それまでその手の文化にさっぱり無縁だった太郎子だが、友人Aが頻繁に鑑賞会を開催したりBOXを貸し出され、また女史のサークルアシスタントを繰り返す内に急速に洗脳、もとい理解が進んでいった。
短大二年目に入る頃には正式なサークルメンバーとなり、榊太郎子の同人阿修羅生活が幕を開ける。
もちろん、彼女は絵心など持ち合わせていない。短期集中で仕込まれたのはベタやトーン、せいぜいが背景の書き込みである。請け負ったのは主に雑務で、買い出しや掃除に炊き出し、書類の申請や印刷所への連絡などである。
それからもう一つ。同人誌などよほどの大手でなければ赤字決済が当たり前で、損失を埋めるために太郎子は居酒屋でバイトを始めていた。
もちろん他のメンバーも補填は行っていたが、太郎子が半分近くの貢献をしている。そのことについて、友人Aと少し揉めたこともある。
「太郎子ちゃん……そんなにお金入れてくれなくても……ていうか、悪いよ……」
「大丈夫よ、他に趣味なんてないし。それに私は絵を描いてないんだからその分貢献しないとね」
「でも、太郎子ちゃんが一番後に入ってきたのにどうしてそこまで……えっ、もしかして……好きな人がいる、とか?」
「いやいやいやいや〜、サークルメンバー全員女じゃない。レズとかないから、ね? ね?」
「そうなんだ、よかった……」
太郎子の感覚からすれば、それは大しておかしなことでもなかった。
元々彼女は(いくら黒歴史として言葉遣いを改めようと)ヤンキーである。犬の群のように、自分の事情よりも所属する社会を優先する傾向が強かった。
居心地の良い場所というものがどれだけ貴重で心休まるものか思い知っている太郎子にとって、金や労働を納めることは義務ですらあったのだ。実際、彼女は喜んでそうしてきた。
実のところ太郎子は、不良であることや同人活動そのものに対しては、強い思い入れがあるわけではない。それが居場所を提供してくれるルールであるからこそ従事してきたのであり、だから割と簡単に足を洗うこともできるのだ。
太郎子の貢献もあり、サークルは弱小と中堅の境目位までは成り上がった。太郎子が友人Aと揃って留年してしまい、長女に懇々と諭されたりもしたが。
サークル同士の交流が増え、合併という形で規模も拡大した。活動三年目を迎えた頃、太郎子にとってショッキングな出来事が起きる。
友人Aに恋人ができたのだ。
相手は、以前から交流があり、合併相手ともなったサークルの美大生。どうしてこんな世界にいるのかよくわからない好青年だった。
正直、一体いつからアプローチがあったのか、太郎子は全く気付かなかった。それどころか青年に淡い好意を抱いていたぐらいだ。卒業したら結婚するとのことだから、相当進んでいたのは間違いない。
太郎子は不意に、猛烈な危機感を覚えた。はっきり言って友人Aは冴えない女である。外見も性格も、地味という表現がそのまま当てはまる。心の何処かで、自分は彼女よりはマシだと安心していたのは否めない。
それが女として後れをとった。もしかしたら自分はこの先結婚できないのではないのか、こんなことをしていて良いのか、という危機感である。
太郎子が初めて抱く、将来への不安だった。この時二十一歳。焦るにはまだ早すぎたが思いこんだら一直線である。
ちなみに。後日、飲み会の際に件の青年に友人Aを選んだ理由を聞いてみたところ曰く「いやあ、俺ってメガネッ娘萌えなんで」とのことだった。
226未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:08:36 ID:055kfvnu

短大卒業と同時に太郎子は同人活動からも足を洗った。当初は卒業後も何年かはフリーターをしながらサークル活動を支えるつもりだったが、最早自体は緊急を要する(と思いこんでいた)
友人Aは家庭に入っても同人活動を続けるそうで、既に筋金入りだった。女としての勝ち負けはともあれ、太郎子と友人Aの間には以後長きに渡る友情が続いている。
結婚に向けて行動すると決めた太郎子は、まず身の回りを綺麗にした。具体的には、同人活動の痕跡を全て黒歴史に放り込んだ。その世界で三年生き、一般人にはとても受け入れられない趣味だと理解している故である。
とはいえ、意中の男性がいるわけでもない。さしあたりの行動に困った太郎子は、卒業したことだし一度実家に帰ることにした。長女とその家族に丁寧にお礼をし、三年世話になった家を後にする。
そういえばあれから連絡はなかったが、次女は予定通りに薫をコマしたのだろうか。あいつを義兄さんとか呼ぶのは嫌だなあ。
そんなことを思い出しながら帰省した太郎子を待っていたのは、榊家で一人暮らしをする薫だった。
「へ?」
「お帰りなさい、太郎子ちゃん」
「い、一体どうしたの?」
「貴女が一体どうしたんですか」
上京する前後の太郎子のビフォーアフターぶりは、薫を以てして戸惑わせるのに充分だった。すぐに慣れたが。
対して岡本薫は三年前とほとんど全く変わっていなかった。貫禄というものが着いてきたぐらいである。病は気からというか、この影響されにくい青年は他人よりも老化が遅い傾向にある。
さておき、次女は一体どうしたのかといえば一年前に、どこかにある研究所に勤めるために家を出ていったとのことだった。早速電話をしてみると、例によって毒舌の次女が出た。
『ああ、なんだ誰かと思えば太郎子か。ということはあの話だな』
「わかってるなら話が早いわ。婿入りの話はどうなったのか教えてよ」
『誰だ貴様。というか、姉の喋りがうつってるぞ、気持ち悪いな』
「よけいなお世話よ」
ヤンキーな過去など黒歴史である。
三年ぶりの心温まる姉妹の会話は結局大して実りもなく終わった。婿入り云々の話になると、次女が異常に不機嫌になるのだ。終いには『本人に聞け』と電話を切ってしまった。
しかしそれだけでも、今の太郎子にはぴんと来た。今の太郎子自身が直面している問題でもある。
つまり次女は振られたのだ。それも他の女性がいるという、極めて屈辱的な理由だろう。なにしろ自分を全否定されたに等しいのだから、それは不機嫌にもなる。
太郎子は心底次女に同情した。今度酒でも一緒に飲もうと心に決める。いがみ合ってばかりの相手だったが、初めて肩を組めそうだった。
同時に、薫が選んだ相手というのも気になった。なにしろ木の股から生まれてきたんじゃないかと(母親を目にしているにも関わらず)思う程に朴念仁な男である。そもそも岡本薫に物理的に可能なのか、という次元だ。
聞いてみる。
「確かに婿入りの申し入れはありましたが、辞退させてもらいました。資産の管理は行わせてもらっています」
「それって、もう決めた人がいるからでしょ?」
「そうですね。約束した人がいますから」
「へえ〜。それってどんな人なの?」
「貴女です」
「――――は?」
榊太郎子、生涯最大の衝撃だった。
ショックと黒歴史の繰り返しだった彼女の人生だが、以前にも以後にも、これ以上の衝撃はなかった(黒歴史なら最大がある)
繰り返しになるが、太郎子は薫に一片たりとも恋愛感情など抱いていない。また、薫に物理的にそういったアクションが可能だとも思っていなかった。
それが一体どうして、そういう話になるのか。
続く会話でその疑問は氷解する。
「え、あ、いや、で、でも、だって、や、約束なんて、してない……よね?」
動揺しすぎである。
小さな頃に結婚の約束をしたというのは、少し前まで太郎子のいた世界では鉄板とも言えるパターンだったが、覚えている限りそんな記憶はない。
しかし憶えていないと言うのもパターンの一つである以上、断言できずに不安な言い回しになるのは仕方がなかった。
とはいえ実際のところ、太郎子と薫の仲は出会った当初から全く変わっておらず、そんな約束は交わす余地が存在しない。
「はい。約束をしたのは貴女ではありません」
「え、じゃあ、え、ど、どういうこと?」
「約束したのは叔父さんと叔母さんです。太郎子をよろしく頼む、と」
「ああ〜、なるほど〜」
三年の封印を破って太郎子アッパーが炸裂した。
227未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:09:09 ID:055kfvnu

既に夫妻が死んでいる以上、確認すべくもない話だが
岡本薫という少年は榊家に買われてきた、ということなのかもしれない。
衣食住と進学の世話を受ける代わりに、榊家の礎となるという未来を強制させられたのかもしれない。
であれば、引き取りながら養子縁組を結ばなかった理由もつく。そうすれば、榊家の娘とも婚姻が可能なのだから。
そうして、何故夫妻がそこまでしたのかといえば。
彼等が出来心で奇天烈な名前を付けてしまった娘に対する、人生の補償だったのかもしれない。
普通に考えて。太郎子、等という女性は結婚相手として名前の時点ではねられる。ならば手前で用意してしまえば確実だ。
そのために、岡本薫は榊家に買われてきた。
そういう考え方もある。
既に夫妻が死んでいる以上、確認すべくもないことだが
少なくとも、薫本人はそのように判断していた。

揉めた。
これほど揉めたことも、彼女の人生で初めてである。
両親が薫を引き取ったり、不良としての道を邁進したり、同人活動について長女に怒られたり、彼女の人生は身内との揉め事が多かったが。それらのレコードを軽々と塗り替えた。
将来に直接関わる重要事だと言うこともあるが、何よりの原因は太郎子が極度に感情的になり、薫が全く退かないことにあった。
それでいいのか。
いいですよ。
なにがいいのか。
質問の意味がわかりません。
だから、その、それでいいのか。
質問の意味がわかりません。
そんな、そんな人生で良いのか。
構いません。
どうして。
別に。
別に!?
いえ。

いい加減、太郎子も気付いていた。
この男は物事を極めて客観的に見ることができるが、それはつまり、自分を含む全てのものに全く価値を見出していないからなのだということを。
石ころを見るような目で見られたとしても、それに腹を立てるのは筋違いだ。
何故なら、薫は自分を含めたあらゆるものに、石ころ以上の価値を見出してはいないのだから。ここまで平等な人間はそうもいない。
端的に言うと頭がおかしい。
どうして薫がそんな人間になったのかは既に知る由もない。元々生まれつきだったのか。母親から虐待を受ける内に自己防衛のためにそういう精神になったのか。
どちらにしろ、この青年は既に石より固まってしまっている。それを溶かす方法など見当も付かない。
それに、理性でのみ判断して結婚を主張すると言うことは、太郎子にはこの先恋人はできないと判断しているに等しい。冗談ではなかった。
(とはいえ実際、太郎子には異性と知り合う繋がりはともかく、積極的にアプローチをかける勇気などなかった。所詮女社会で生きてきた箱入りである)
また、この頭のおかしい男を押しつけられてはたまらない、という生臭い気持ちも当然ある。適当な担当先としては次女がいるのだ。気分はババ抜きである。
ただし身勝手な話だが、心揺れる気持ちも確かにあった。薫に対する恋愛感情などでは断じて、ないが。
なんだかんだ言ってもこの青年は美形である。収入も安定しているし将来も有望だ。スペックだけなら太郎子が今まで会った人間の中でも屈指を誇る。
しかし、なにより太郎子を揺さぶったのは。もしかしたらこの機会を逃したら、金輪際結婚などできないのではないのかという思いこみである。その不安が時間を経るにつれ徐々に太郎子を蝕んでいく。
悪いことにこの件については誰にも相談できなかった。長女は「薫ちゃんは太郎子ちゃんのことが好きなのね〜」と話にならない誤解をしているし、次女に至っては「知るか、氏ねっ!」と罵倒が帰ってくる。
友人Aはこの件については最大のライバルであり完全結婚肯定派に転向している。結局太郎子が『そんなに焦る必要はなかった』と気付くのは結婚後だった。まさに死ぬ程後悔したが後の祭りである。
228未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:09:53 ID:055kfvnu
結論から言えば、太郎子は折れた。
トドメとなったのは友人Aの結婚式で。一張羅を着て東京にまで出向き、嫌になる程仲睦まじいところを見せつけられ、ブーケまで頂戴した彼女は独身仲間としこたま呑んだ。
ぐでんぐでんに酔っぱらった太郎子が、タクシーと新幹線を駆使して榊家に帰ってきたのは深夜である。おぼつかない足取りで家に入り、ぐっすりと寝ている薫にエルボードロップをかまして叩き起こした。
開口一番、近所迷惑にも叫ぶ。
「結婚したいーー!」
「はあ。ではしましょうか?」
「仕方ねえな、結婚してやるよ。けど勘違いするなよ、別にお前のことが好きでもなんでもないんだからねっ!」
「そうですか」
薫にツンデレネタなど通じるわけもなかった。
ともあれそんなわけで、榊太郎子二十一歳と岡本薫二十三歳は結婚することと相成る。思いっきり酒の勢いである。
もちろん翌日の太郎子は二日酔いの頭を抱えながら盛大に後悔したが、結局訂正はしなかった。頭痛で気力が沸かなかったせいもあるが、幸せそうな友人Aの姿に心底打ちのめされたのが最大の原因である。
一度決まってしまえば、式の段取りはとんとん拍子に進んだ。この手の段取りにおいてもやはり薫は有能だった。片方の親族が全くいなかったのも話の早かった一因である。
その間、太郎子には全く自覚もなかった。彼女のやっていたことといえば、花嫁修業と称して家事をしながらバイト情報誌をゴロ見するという、それまでとあまり変わらない日々ものだった。未だに処女である。
そうして、結婚式の日取りになった。
式は神前式で行われた。出席は身内のみで、長女夫婦に次女、それから親戚が幾人か。新郎側の親族は一人もいない。
白無垢に身を包んだ太郎子は、この期に及んでぽかーんとしていた。なんで自分がこんなところにいるのか、考え直してみてもさっぱり分からないのだった。実際、必然性も愛もなく、ただの惰性と妥協である。
新婦の魂が抜けていても式は粛々と進み、人生で最大の晴れ舞台ともいえる時間は何の感慨もなくあっさりと終わった。薫は榊家に婿入りし、榊薫となる。
そうして
榊太郎子にとって、それまで黒歴史に放り込んできたツケをまとめて支払わなければならない最悪の時間が幕を開けた。
披露宴である。
229未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:10:23 ID:055kfvnu
披露宴は婚礼会社のホールを貸しきって行われ、それなりに盛況だった。
まず客層がおかしい。
新郎の勤め先の上司や同僚、姉夫婦に次女と親類、友人Aとその夫はともかく。
妙に貫禄のある女性を筆頭に、目つきの悪い明らかに元レディースと思わしき集団が会場の一角を占拠していた。会場にバイクで乗りつけたのは、中学高校時代の新婦の『友人』である。高校の制服姿を着た少女までいる。現ヘッドらしい。
かと思えば、反対側に固まっている妙に統一感のない同年代の男女は「義理の美形メガネ兄と結婚とかなん乙女ゲー? 兄妹もの?」「幼馴染キャラ隠しておくなんて太郎子ひどいよねー」等と一般人には意味不明な会話をしている。百戦錬磨の同人作家たちである。
浮いた空気が混ざり合い、ひどいことになっている。太郎子の経歴のカオスさを示す良い指針といえた。
友人Aと姉御は別格として、どちらの方々も太郎子にとっては黒歴史に封印したまま二度と出てきてほしくなくなかった人種である。
事前に太郎子は式場案内を用意する薫を殴ってでも止めるべきだったのだが。魂が抜けていたせいでそんなことすら思いつかなかったのだ。後悔先に立たずとはまさにこのことだと新婦は影でのた打ち回った。
そうしていよいよ地獄が幕を開ける。
口火を切ったのは次女だった。両翼を警戒していた新婦にとっては後ろから撃たれたに等しい。最初の一撃がすでに致命傷だった。
何をしたのかといえば、新婦の半生を写真入りで振り返るドキュメンタリーを上映したのだ。結婚式の常套であり普通の人間にとっては気恥ずかしい程度でも、黒歴史の塊である太郎子にとってはそれどころでは済まない。
『両親は男の子のように元気に育って欲しいという願いを込めて、太郎子と名付け――――』
『友達の少なかった新婦ですが、中学に入って流行のイメチェンをしてからはこのようにたくさんのお友達が――――』
『短大では一転して文系活動に取り組み、同人もとい自費出版の様々な創作物を即売会で販売し――――』
爆笑の渦である。
ちなみにナレーションを行っているのは次女本人。自分に恥をかかせた弟妹に復讐するために、実に一年も前から調査編集してきていたのだった。非常に楽しそうである。
会場が程良く暖まったところで、打ち合わせをしていたとしか思えないように来賓が一斉に動き出す。
当時の太郎子の武勇伝を、元レディース達が次々と語ったり(最後は現ヘッドが特攻隊長称えて締め)
友人Aが太郎子をモデルにした同人誌をプレゼントしたり(曰く「大丈夫……触手は浮気じゃないから……」)
オタク連中が太郎子のためと称してアニメソングをデュエットで延々と歌ったり(「私の彼〜は、パイロット〜」)
今はミュージシャンを志しているという姉御が、ギター一本でバラードを唄ってくれたり(これには太郎子も普通に涙ぐんだ)
気が緩んだところで、長女が懇切丁寧に高校当時の思い出を振り返って(無自覚に)閉じかけていた傷口を更に抉ったり。
太郎子は信号機のように赤くなったり青くなったり白くなったりし、終いには拳を振りかざして切れかかったが「お色直しでござる、お色直しでござる」とその度によってたかって押さえつけられては休憩となった。
この日の出来事は、結婚したこと自体も含めて、彼女の中で最大の黒歴史となる。
最悪も良いところだった。
230未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:11:51 ID:055kfvnu

榊太郎子の最初の二十年はそんな風にして過ぎていき、恐るべきことに後の十数年も似たような調子で過ぎていった。何かの星を背負ってるとしか思えない。
問題が山積みのままで結婚した夫婦であり、それを乗り越えていくための愛すらなかった。
ただしお互いのことは嫌と言う程に理解しており、幻想などは欠片も存在しなかったために現状維持は容易く続いた。元々家族同然の関係だったのだ。
それでも少しずつ変化は訪れていった。
「最初に約束して欲しいことがあるんだけど」
「なんでしょう」
「そう、それよそれ。あのね、身内では敬語はやめて」
「そうですか、わかりました…………いや、わかった」
「(あら、結構新鮮かも)」
「それでは今日はもう寝ようか。明日から旅行だから早く休んだ方がいいだろう」
「新婚初夜よーっ!」
とにかく、彼女の夫は何かが欠落しているとしか思えない朴念仁で、その度に太郎子は躾に忙殺された。
子供の世話などその最たるもので、幸せな子供時代も父親も知らない薫は「子供の世話は君に任せる」とテンプレ通りの発言をしてしばかれたこともある。
愛想が尽きかけたのも一度や二度ではない。というか、尽きたとしても何も変わらない。最初から倦怠期が続いていたようなものだ。
それでも
息子と娘を産み、育てていく内に家庭は紛れもなく彼等の居場所となっていった。
太郎子はいい加減この夫に対して悟りを開いて丸くなっていたし、その性質を発揮して居場所を守るための努力を惜しまなかった。
薫も当初と比べれば段違いにマシになっていき、特に息子に対しては愛情めいたものを示すようになるまで変化していた。
後に娘が、父と自分を同類だと評しているが。太郎子に言わせれば娘の性格など(多少ブラコン気味ではあるが)全然普通の範囲である。麻痺している。
ともあれ
夫の奇行もマシになったし、息子も娘も恋人の影すらないが、非行に走るでもオタク趣味に精を出しているわけでもない。
結婚して十数年。ここ数年は大きな事件もなく、彼女はそれなりに幸せな家庭を手に入れようとしていた。
燃えるような恋は知らないが、夫と家族を含めた居場所というものを愛している。それで良いと納得できていた。諦めとも言う。


だが運命は非情である。少なくとも、榊太郎子の頭上に輝く星はかなり残酷なタチをしている。
ある夜。週に一度、夫婦で外食をする日。レストランで食事をした後の雑談にて
「ところで君に提案したいことがある」
「はいはい、なあに?」
「離婚しないか」
「ぶーーーっ!?」
啜っていた食後のアイスコーヒーを盛大に吹き出す妻。夫の美形が台無しになる。
もう何度目かは忘れたが、榊太郎子の人生は再び風雲急を告げつつあった。
231未来のあなたへ10.5:2009/08/06(木) 01:17:06 ID:055kfvnu
以上です。変な名前でも連呼してると意外に慣れます。
無駄に長文失礼しました。両親キャラを動かすための練習だったんですが、予想以上に量が嵩みました。
次は本編に戻ります。
232名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 01:41:12 ID:gXgSEcGI
未来のあなたへキター!!
……あの妹の親御さんだから只モンじゃねぇとは思っていたが……
うっかりお母さんに萌えてしまうところだったZE☆

いや毎度GJですー。続きを全裸正座でお待ちしてます。
233名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 01:41:59 ID:gev+lDAn
>>231
GJ!
ってか、リアルに飲んでたジョージアふいちまったw
とんでもねえな薫wPCに当たらなくてよかったw
234名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 01:57:51 ID:1ZwI516J
おつ
相変わらず中身濃い
母親、ブラコンだって見抜いてるんだなー
235名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 02:33:47 ID:ONbmj/sG
相変わらずおもしろい!母に萌えてしまった。
これからは親のラブコメもみれるんですねw
でも離婚しても子供は結婚できない><
236名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 03:09:57 ID:xOMEVNu9
この設定を踏まえて今までの読むと母に萌えるな

しかしすげえ父さんだ
237名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 03:23:58 ID:eTsj6U/7
離婚を持ちかけた原因が嫉妬だったら…
とか考えて父さんにニヤニヤしちゃう
238名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 07:08:02 ID:5MJZXxuA
すげえ、キチ○イしか出てこねえ(褒め言葉)
GJ!
239名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 08:11:10 ID:+fBMBNEf
GJ
この一族はもう駄目だ…
240名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 10:33:33 ID:CyIPm5kP
GJ
241名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 14:57:52 ID:RzkYKsGb
>>231
あんまりキモ姉妹関係なかったが……GJ!
まさかあの意味深な榊父じゃなくて、のんびり屋の榊母のほうがネタ満載キャラだったとは……!
そして最後の急展開は、本編にどう絡むんだろうか……?

次の投稿を楽しみにしています。
242名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 15:36:22 ID:tT5UsNTi
GJ
薫の狙いは娘に違いない
243名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 22:45:02 ID:aSd59S8U
毎度の事ながら、文章力あるなぁ。
244名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 00:12:11 ID:RqlPeHgL
>>242
娘の狙いに気づいたからこその離婚なんじゃね?
と勝手に解釈してみる
245 ◆6AvI.Mne7c :2009/08/07(金) 08:17:06 ID:rQ+D7PT7
眠くて今にも倒れそうだけど、なんとなく小ネタを投下。
タイトルは『正義少年と悪ノ姉』。姉弟モノで大体10.3KBくらい。
注意事項は……少しばかりカオスと厨弐病が含まれます。

次レスより投下開始。3レスほど借ります。投下終了宣言あり。
246正義少年と悪ノ姉 (1/3) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/07(金) 08:18:26 ID:rQ+D7PT7
 
「おーっほっほっほっ……! さあ、かかって来なさいひー君っ!」
「真央(まお)ねえ……、あんたって人は――うおおおおおおっ!」
 ここは俺の通う中学校にある、体育棟第3剣道場の練習場。
 いま俺達は、互いの大切なものをかけて、闘っているんだ。
 おっと、紹介が遅れた。俺の名前は中荷平英雄(なかがひらひでお)。
 今年14歳の、思春期真っ盛りの中学生男子、とりあえず剣道少年だ。
「うふふ、あははははっ♪ 楽しいっ、すっごく楽しいよひー君!?」
「うるせぇっ! 早く墜ちて、灯萌(ひめ)ちゃんを返しやがれ!?」
 俺の全力の打ち込みを、狂気の表情で高笑いをあげながらいなす女。
 彼女こそが俺の実の姉――真央ねえで、俺の自慢の姉――だった。
 成績優秀、容姿端麗、性格美人、運動神経抜群etc……。
 とにかく、極度のブラコンという悪癖を除けば、最高の女性だ。
 けれどその悪癖のせいで、いま俺は真央ねえと闘う羽目になっている。
 
 俺は1週間前から、同じクラスの灯萌ちゃんに、デートを申し込んでいた。
 彼女は男子からの誘いを全て断る、いわゆる『固い女』で、同時に魅力的だった。
 だから、俺は持てる全てのスペックと努力と根性で、彼女に何度もアタックした。
 その成果あって、なんとか今日の休日に、一度デートをしてもらえることになった。
 そして喜び勇んで待ち合わせ場所に行って――今回の真央ねえの犯行が発覚した。
 灯萌ちゃんは何故か弟さんと一緒に真央ねえに攫われ、どこかに監禁されてしまった。
 彼女(達)を助けるには、真央ねえから監禁場所の情報と鍵を奪わなければならない。
「なんで――なんでこんな馬鹿な真似をしたんだ、真央ねえっ!?
 俺が何か悪いことをしたのか!? なんでこんな非道を働くんだ!?」
 半ば悲鳴のように問い詰める俺。対して真央ねえは笑いながら答える。
「違うよひー君全然違うよっ!? 私はひー君が世界で1番大好きなの!
 むしろ犯したいくらい愛してるから! だからあの女を引き離したの!」
「くっ……狂ってやがるぞ真央ねえっ!? あんたは――」
「うふふあははは♪ 何とでも言いなさい、もう止まらないもん♪
 彼女とついでに弟君を助けたければ、私を倒して見せなさい!?」
 
 とにかくハイテンションで楽しそうな真央ねえに、真剣に竹刀の切っ先を向ける俺。
 真央ねえは中学入学前まで、そして俺は現役で剣道を習っている。
 今は2年以上のブランクがあるものの、引退までは県大会優勝を誇っていた真央ねえ。
 対して俺は、小中学校ともに県ベスト4の成績で、当時の真央ねえに今一歩及ばない。
 この勝負は、竹刀剣道による、無制限の無限勝負。打ち合って倒れたほうの負け。
 俺が勝ったら、灯萌ちゃんの監禁場所と鍵の在処を教えて、2度と邪魔をしない。
 俺が負けたら、灯萌ちゃんと今後は会話さえ許されず、身の安全も保障されない。
 ちなみにこの条件を提案したのは、他ならない真央ねえだ。
 
「……っ! ぐぁあっ!?」 ――ビシッ! パシィン!
「……んっ! きゃん!?」 ――バシィッ! ミシィ!
 時間が経つにつれて防御が乱れ始め、互いの竹刀が互いの身体を打ち始めた。
 制限時間のない勝負で、俺も真央ねえも体力が切れ、互いに攻撃を避けられない。
 当然避けられない攻撃は、全て互いの身体に入り、さらに体力を奪っていく。
 このままではジリ貧――果ては相討ちか――それはあまりよくない展開だ。
 真央ねえのほうもそれを感じ取ったのか、突然竹刀の間合いから離れていく。
 そして正眼に構えて、従来の剣道の型に、綺麗に構えなおす。
「このままじゃあ埒があかないし、お互い疲れるだけで不毛だもんね?」
「ああ、だから真央ねえは、剣道本来の一撃の型に構え直したんだろ?」
 俺の科白に、口元で微笑むことで応える真央ねえ。
 その表情を見て、俺も真央ねえのように――基本の型に構えて向き合う。
 結局のところ、俺も真央ねえも最後の最後で剣道バカだったようだ。
「さあ、来なさいひー君! この一撃で最後にしましょう!?」
「言われなくても――そのつもり、っだあああああああっ!?」
 俺の掛け声とともに、道場が軋み――両者の影が一直線に交錯した。
247正義少年と悪ノ姉 (2/3) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/07(金) 08:19:57 ID:rQ+D7PT7
 
 かくして、決着は着いた。
 第3剣道場の木製の床板に立っていたのは、満身創痍の俺だった。
 真央ねえは、同じく満身創痍で、道場の床に仰向けに倒れている。
「かふっ……、強くなったわね、ひー君――いいえ、英雄君。
 この私が倒れるまで、竹刀を打ち込み続けられたなんて……」
「ぜぇっ、はぁっ……、ただ単に今回は、運がよかっただけだ……!
 次にもう1回同じ条件でやったって、今度は勝てるかどうか……」
 さっきまで本気で打ち合っていたけれど、やっぱり俺達は姉弟だ。
 どこか心の底では憎みあえなくて、ただの喧嘩の後みたいな感じだ。
 
「――仕方ないか。はい、英雄君。これがあの2人のいる倉庫の鍵だよ。
 2人はここから離れた新体育館の地下倉庫に監禁しているわ……」
「――ああ、真央ねえありがとう。ちゃんと約束を守ってくれて。
 これから彼女を助けて――今度こそデートに行ってくるよ!」
「そっか、やっぱり悔しいな……! 私が英雄君を止められなくって。
 まあでも、これからいろいろあるだろうから、がんばりなさ――」
「じゃあ、ごめんよ真央ねえ。俺もう行ってくるよ!」
 そう言って、まだまだ喋りたそうな真央ねえの会話を遮って、俺は走り出す。
「ってもう、人の話をいっつも聞かないんだから……!」
 最後に愚痴った真央ねえの声を尻目に、俺は灯萌ちゃんのところへ向かった。
 
 ― ※ ― ※ ― ※ ― ※ ― ※ ― 
 
 剣道場の冷たい床に身をまかせながら、私は1人ほくそ笑む。
「……うふふ、ふふふ♪ 久々に燃えちゃったよ〜♪
 やっぱりひー君と本気でぶつかるのは楽しいな〜♪」
 ひー君が道場から出て行ったのを確認し、私は懐に手を伸ばした。
 取り出したのは、何の変哲もない携帯電話。私はそれである相手に連絡する。
 急がないと、ひー君がソコに到達したら、もう連絡が取れなくなる。
 はたして、私からの連絡は思った以上に早く相手に取ってもらえた。
「ああ、こんばんは真央さ――いいえ、中荷平先輩?
 どうですか? 連絡をくれたということは、そちらの首尾は――」
「ええ、大丈夫よ灯萌ちゃん。予定通り私が負けたわ。
 だからそちらに今、ひー君が向かっているはずよ?」
 そう、電話の相手は私に監禁されているはずの、灯萌ちゃんだった。
 
「そうですか。それで、中荷平先輩? ちゃんと鍵は渡してもらえるんですよね?
 わたしの大切な弟――王司(きみもり)君につけた、貞操帯の鍵のことですよ?」
「ええ。心配しなくても、ちゃんと鍵束に紛れ込ませてあるから。
 ひー君が持ってきた鍵束に、青色の鍵がついてるから、それを使ってね?」
 実は今回、灯萌ちゃんを脅すにあたり、まず餌として弟の王司くんを攫った。
 そしたら、ちょっとひー君に似てたし、ずっと涙目で「灯萌ねえ」って泣いてて――
 気が付いたら下半身を剥いで、アナルバイブを突っ込んで貞操帯をつけてやっていた。
 ごめんねひー君。ひー君に手を出す前に、ちょっとだけ浮気――脱線しちゃって。
 でも本当に好きなのはひー君だけだから、この件は拷問の一種と思って見逃してね?
 それにこの一件(のおかげ?)で、私の作戦があっさり上手くいったんだし。
 なんせひー君を諦めさせるために、昨日灯萌ちゃんを脅そうとして――
「さあ灯萌ちゃん、この哀れな王司くんを助けたければ、私のひー君を」
「貴女の弟さんはいらない。この可愛い王司君を、さっさと解放して?」
 まさかたった数秒で、私の思惑が半分成功するとは思わなかった。
 
「中荷平先輩、わたしは貴女に少しだけ、感謝をしているんですよ?
 貴女が弟さんを盗られまいと、わたしと王司君を攫ってくれたことに。
 そのおかげで、わたしは王司君への恋心に気付けて、幸せになれたんですから♪」
 電話の向こうには、いつもの私のような、仄暗い笑みがあるに違いない。
 実の弟を愛した者――その愛に殉じる覚悟を決めた者特有の、狂気。
 私も持っているものを、彼女はたった一晩で、容易く手に入れてしまっていた。
248正義少年と悪ノ姉 (3/3) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/07(金) 08:21:31 ID:rQ+D7PT7
 
「そりゃあ最初は貴女を恨みましたけど――まあ当然ですよね?
 わたしが弟さんに告白されたことを知って、王司君に接近したでしょう?
 そして言葉巧みに王司君の興味を引いて油断させ、連れ去ったでしょう?
 嫌がらせのように、貞操帯とアナルバイブで、王司君を虐めたでしょう?
 王司君は今回、特に何もしていないのに……。貴女は本当に酷い人です」
 わたしが自分でやりたかったのに、という感情が電話越しに伝わってくる。
 ひー君を愛する私が言うのもなんだけど、この娘も大概狂っている。
 まあでも、と彼女は続けて、電話越しの私に言い放った。
「酷い目に遭っていた王司君を眼にしたおかげで、やっと気付けました。
 わたしは王司君が好き、愛してる。彼を誰にも盗られたくないって。
 それに貴女の弟さんのこと、わたしはそんなに好きじゃない、って」
 私のひー君に好かれておいて、よくそんな酷いことを言えたものね……?
 灯萌ちゃんの勝手な言い分に少し腹が立ったけど、まあ冷静に聞き流す。
 相手が勝手にひー君のことを諦めてくれるのなら、とても楽で助かるし。
 今までみたいに、いちいち恋慕相手にプレッシャーをかけずに済むから。
 今までみたいに、わざわざ暗い夜道で、滅多打ちにしないでも済むから。

「うふふ、目の前の鉄製扉の向こう側から、何やら叫ぶ声が聞こえてきました。
 たぶん貴女がこちらに送り込んだ、貴女の弟さんがそこにいるんでしょうね?」
 電話の向こうの彼女の声に、若干の悪意と敵意が混じった――気がした。
 元はと言えば、私がひー君を取り戻すために、一連の誘拐を企んだせいだろう。
 まったく、彼女がクラスメイトのお姫さまだなんて、ひー君も見る目がないなあ。
 こんな女にひー君を渡したら、ひー君絶対不幸になってたと思うよ?
「もうすぐ倉庫の扉が開いて、貴女の弟さんは嬉しそうに、わたしに近づくでしょう。
 中荷平先輩には悪いけれど、トラウマになるほど完膚無きまでに、フッてあげます。
 なんなら弟さんの目の前で、貞操帯を外した王司君と繋がってみせてあげようかな。
 あとは貴女の思うまま、弟さんを慰めるなり、拐かすなり、ご自由にしてください。
 それでは、もう二度と中荷平先輩と話すことはないでしょうから、さようなら……」
 
 何か――おそらく携帯――を握りつぶす音が聞こえて、やがて通話が切れた。
 とりあえず、あとは彼女に――灯萌ちゃんの王司君の愛情に任せるだけ。
 灯萌ちゃんがひー君から鍵を奪って、ひー君をフってくれるのを待つだけ。
 ひー君はたぶん悲しむでしょうけど、それはもうどうしようもないことね。
 ひー君が惚れていた女が、たまたま実の弟を愛する変態娘だったんだから。
「ひー君は昔から、悪を倒す正義のヒーローにあこがれていたものね?
 でも残念だけど、現実には絶対の悪も、絶対の正義も存在しないの。
 今回みたいに、助ける女の子のほうが、酷いヤツだったりもするのよ?」
 そして私はひー君のために、それを隠したままで邪魔しようとしただけ。
 私があの女を攫ったのは、あんな女にひー君を壊されたくなかったから。
「まあ今回は、ひー君にとっていい勉強になったでしょうね」
 正しいものも、中立のものも、たやすく『悪いもの』に移り変わることを。
 そして、どんなスタンスでもひー君を守れる、私という存在がいることを。
 私だけは、正義でも悪でも中立でも、変わらずひー君の味方でいてあげる。
 だからひー君も、他のあやふやなものは捨てて、私だけを見ていて欲しい。
 
「……つつ。けどひー君も、やっはりオトコノコなんだよね? 
 手加減なしで打ち込まれたから、痛みが全く引かないんだもん……」
 自分で打てる策を打ち尽くしたら、なんだか全身の痛みがぶり返してきた。
 まだ時間がかかると思うので、冷たい道場の床に、傷む身体を預けて眼を閉じた。
 
――今度眼が覚めた時に、フラれたひー君が泣きついてくれることを祈って。 
 
 
                                      ― Neither the justice nor the evil matters ―
249正義少年と悪ノ姉 (3/3) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/07(金) 08:21:58 ID:rQ+D7PT7
 
「そりゃあ最初は貴女を恨みましたけど――まあ当然ですよね?
 わたしが弟さんに告白されたことを知って、王司君に接近したでしょう?
 そして言葉巧みに王司君の興味を引いて油断させ、連れ去ったでしょう?
 嫌がらせのように、貞操帯とアナルバイブで、王司君を虐めたでしょう?
 王司君は今回、特に何もしていないのに……。貴女は本当に酷い人です」
 わたしが自分でやりたかったのに、という感情が電話越しに伝わってくる。
 ひー君を愛する私が言うのもなんだけど、この娘も大概狂っている。
 まあでも、と彼女は続けて、電話越しの私に言い放った。
「酷い目に遭っていた王司君を眼にしたおかげで、やっと気付けました。
 わたしは王司君が好き、愛してる。彼を誰にも盗られたくないって。
 それに貴女の弟さんのこと、わたしはそんなに好きじゃない、って」
 私のひー君に好かれておいて、よくそんな酷いことを言えたものね……?
 灯萌ちゃんの勝手な言い分に少し腹が立ったけど、まあ冷静に聞き流す。
 相手が勝手にひー君のことを諦めてくれるのなら、とても楽で助かるし。
 今までみたいに、いちいち恋慕相手にプレッシャーをかけずに済むから。
 今までみたいに、わざわざ暗い夜道で、滅多打ちにしないでも済むから。

「うふふ、目の前の鉄製扉の向こう側から、何やら叫ぶ声が聞こえてきました。
 たぶん貴女がこちらに送り込んだ、貴女の弟さんがそこにいるんでしょうね?」
 電話の向こうの彼女の声に、若干の悪意と敵意が混じった――気がした。
 元はと言えば、私がひー君を取り戻すために、一連の誘拐を企んだせいだろう。
 まったく、彼女がクラスメイトのお姫さまだなんて、ひー君も見る目がないなあ。
 こんな女にひー君を渡したら、ひー君絶対不幸になってたと思うよ?
「もうすぐ倉庫の扉が開いて、貴女の弟さんは嬉しそうに、わたしに近づくでしょう。
 中荷平先輩には悪いけれど、トラウマになるほど完膚無きまでに、フッてあげます。
 なんなら弟さんの目の前で、貞操帯を外した王司君と繋がってみせてあげようかな。
 あとは貴女の思うまま、弟さんを慰めるなり、拐かすなり、ご自由にしてください。
 それでは、もう二度と中荷平先輩と話すことはないでしょうから、さようなら……」
 
 何か――おそらく携帯――を握りつぶす音が聞こえて、やがて通話が切れた。
 とりあえず、あとは彼女に――灯萌ちゃんの王司君の愛情に任せるだけ。
 灯萌ちゃんがひー君から鍵を奪って、ひー君をフってくれるのを待つだけ。
 ひー君はたぶん悲しむでしょうけど、それはもうどうしようもないことね。
 ひー君が惚れていた女が、たまたま実の弟を愛する変態娘だったんだから。
「ひー君は昔から、悪を倒す正義のヒーローにあこがれていたものね?
 でも残念だけど、現実には絶対の悪も、絶対の正義も存在しないの。
 今回みたいに、助ける女の子のほうが、酷いヤツだったりもするのよ?」
 そして私はひー君のために、それを隠したままで邪魔しようとしただけ。
 私があの女を攫ったのは、あんな女にひー君を壊されたくなかったから。
「まあ今回は、ひー君にとっていい勉強になったでしょうね」
 正しいものも、中立のものも、たやすく『悪いもの』に移り変わることを。
 そして、どんなスタンスでもひー君を守れる、私という存在がいることを。
 私だけは、正義でも悪でも中立でも、変わらずひー君の味方でいてあげる。
 だからひー君も、他のあやふやなものは捨てて、私だけを見ていて欲しい。
 
「……つつ。けどひー君も、やっはりオトコノコなんだよね? 
 手加減なしで打ち込まれたから、痛みが全く引かないんだもん……」
 自分で打てる策を打ち尽くしたら、なんだか全身の痛みがぶり返してきた。
 まだ時間がかかると思うので、冷たい道場の床に、傷む身体を預けて眼を閉じた。
 
――今度眼が覚めた時に、フラれたひー君が泣きついてくれることを祈って。 
 
 
                                      ― Neither the justice nor the evil matters ―
250 ◆6AvI.Mne7c :2009/08/07(金) 08:24:09 ID:rQ+D7PT7
以上投下終了。
あれ? 最後>>249が二重投稿になってる……ごめんなさい。

ぶっちゃけ休みだからって、眠らずにネットいじってたらシンドイ……
いろいろ今後の作品用の元ネタもストックが溜まってきた。
問題は時間的に作品を書けるかどうかだけど……
251名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 11:18:10 ID:p9oWDI8s
キモ姉連合恐るべし………。
GJです。
252名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 14:00:53 ID:TJ0TlDdN
乙!!
今度はキミモリ君の視点から書いてほしいな
253名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 14:26:38 ID:GxsrxrNX
GJ!
弟と一緒に監禁という時点で、もしかしてとは思ったけどw
254名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 00:58:04 ID:/vgNVV8D
投下します。
今回もキモ成分は少なめです。
255いつかのソラ:2009/08/08(土) 00:58:37 ID:/vgNVV8D
〈7〉

「あれ? お兄ちゃ〜ん。起きてますか〜?」

 自称、未来から来た紗那こと宙が目の前で手をヒラヒラ振る。
 残念ながら俺の貧弱な情報処理回路はシャットダウン中で、外部情報を受け付けない状態。
 多分、俺の顔面には余裕のない笑顔が張り付いてる。
「いやいや、ありえねぇし」
 引きつった顔で笑いながら、口では理論を唱える。
 未来から妹がやってくるなんて漫画だ。
 『じつは悪戯でした!! 引っかかったわね!!』なんて言われた方がまだ現実味がある。
 それでも、感情は理解している。
 紗那は、俺が育てたようなものだ。
 癖や仕草は把握している。
 それに宙には紗那の面影が強烈にある。
 メガネと髪型で偽装されていたものの、よく見れば生き写しのようにそっくり。
 それが宙に抱いていた違和感の正体。
 なるほど。納得。しっくりくる。
 宙が紗那ならば驚くほど綺麗に解決する。深夜通販の洗剤もびっくりなほど綺麗にだ。
 さりとて、それだけでは受け入れられないのも人間。
 意図せぬ方向からの衝撃を受けると混乱して揺らいでしまうのも人間。
 先程から脳内臨時総会は絶賛紛糾中。
 理性と感情がせめぎ合い、既に脳内はパンク状態。
 認めてるくせに受け入れられない、そんな収拾のつかない事態。

 ど、どうしよう。

 情けない本音が思考を駆け巡る。
 そして、いよいよ耐え切れなくなった俺は……
「あっ、そろそろ夕飯の支度を……」
「ちょっと、お兄ちゃん!! 現実逃避してる場合じゃないんだってば!!」
 うわぁ、何かさっきから宙に『お兄ちゃん』って言われてるよ俺。
 それに宙はなんか呼びなれてる。
 照れとか全然感じさせないくらいには呼びなれてる。
 よく聞いてみると紗那に声までよく似てる。
「あのさ……一時間だけ盛大に凹んでもいいかな?」
 腕の中の紗那に問いかけ見ても、返事はない。
 まるで、眠っているかのような安らかな表情。
「だから……そっちの私は寝てるんだってば!! 早く帰ってきてよ、お兄ちゃん!!」


 十分後。


「少しは落ち着いた?」
「まあ、それなりには……」
 途中、胸倉を掴まれてガクガクされたり、両頬をペシペシされたり、
 シャーペンの先でプスプスされたり、辞書の角でゴスゴスされたような気がしないでもないが、
 その甲斐もあって何とか精神的引きこもり状態からは脱したと思う。
 多少、首から上が馬鹿になってる気がしないでもないが……。
256いつかのソラ:2009/08/08(土) 00:59:15 ID:/vgNVV8D
「話を進めても大丈夫?」
「あまりパンチの効いた話でないなら大丈夫」
「いや、それ無理だから」
 はぁ、と溜め息を一つ。
 宙は疲れた表情を見せる。
「まず、私は紗那。それは大丈夫?」
「だいじょばねぇよ」

「………」
「………」

 こう、何とも言えない気まずい沈黙。
 そしてひどく残念そうな宙の表情。それが記憶にあるの紗那の泣きそうな表情と重なる。
「と、言いたい所だけど……まぁ、話も進みそうにないから保留しとく」
「……保留なんだ」
 ものすごい落ち込んでる感を臭わせる表情。
 それが記憶の中の紗那のシュンと萎んだ表情と重なる。
「……前向きに検討する」
 それでも、確証が無い。
 『何か証拠を見せてくれ』と言えば、宙は納得できるものを提示をしてくれるかもしれない。
 宙が紗那だという証明を。
 でも、本音を言えば俺はあまり聞きたくない。

 恐いんだ。

 宙が紗那だと受け入れてしまうのが。
 その理由の根ざす所は―――よくわからない。

 昨日までの常識を失う恐れ?
 友人に騙されているかもしれない恐れ?
 目の前のわけのわからないものに対する恐れ?

 どれも的外れな気がする。

 宙は不満そうな顔つきで口を尖らせるものの、
 これ以上は意味が無いと思ったのか瞬時に表情を切り替える。
257いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:00:03 ID:/vgNVV8D
「ま、いいか。時間も無いし、まったく信じてないわけでもないみたいだし」
 先程までの表情が演技だったと気付かされる瞬間。
 女性ってズルイなと思ってしまう。
 同時に宙が紗那だって信じたくなくなってくる。
 兄の欲目もあるが俺の知ってる紗那はこんな小細工はしない。真っ直ぐに育ってくれているはずだ。
「準備して。いったんここから離れないと」
 宙はソファに寝かせておいた紗那を抱えると、俺の背中に押し付ける。
「何でだよ? 俺はまだ何も聞いてない」
 宙が紗那に何をしたのか?
 宙の言う荷物がなんなのか?
 大体、鍵だって作ろうと思えば作れる。
 体育の時間には鍵が俺の手から離れる。その間に合鍵を作ってしまえばいい。
 宙が紗那であるよりもよほど現実的な考え方だ。
「説明は後。今は時間が無いの」
 対する宙も真剣な表情で詰め寄ってくる。
「いい? 自覚していないかもしれないけど、今お兄ちゃんは大きな分岐の上に立ってるの。
 ここで間違えたら一生後悔する事になる。お兄ちゃんだけじゃない、私だって苦しむ事になる。
 だから……今は私を信じて。
 一ヶ月間いっしょに過ごした私を信じてよ。今は、宙でも……かまわないから」
 真摯な願い。
 少なくとも俺にはそう聞こえた。
 他人から見れば、お人好しと馬鹿にされるかもしれない。
 宙が役者である事は先程証明されている。

「で、俺は何すればいい」

 結局、俺は馬鹿なのだ。
 あまり頭の良いほうでもない。
 『宙でもかまわない』と言うから、宙を信じた。

「二、三日泊まる準備をお願い。私はちっちゃい私の準備をしてくるから」
 そう指示する宙は心なしか嬉しそうな表情だった。
258いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:00:33 ID:/vgNVV8D
〈8〉

 準備を終えて家を出ると景色はもう夜になっていた。
 ちらほらと彩り始める家々の明かり。
 窓の隙間から薄っすらと香り立つ夕食の匂い。
 いわゆる家族の団欒を横目に俺たち三人は緩やかな坂を登ってゆく。
「結局、『荷物』ってお泊りセットのことだったのか?」
 俺と紗那、二人分の荷物。
 別段重いわけではないが、背中に紗那をおんぶしながらだとなかなか身動きが取りづらい。
「それも含まれてない事も無いけど、不正解。
 二人にはこれから家で泊まってもらう事になるんだけど、
 不測の事態に備えて必要最低限のものはこっちで用意してあるの。ってゆうか、その時いっしょにいたでしょ」
 確かに今日運んだ荷物の中には、日用品も多く入っていた。
 タオルや歯ブラシ。男物の下着。
 まさか自分で使う事になるとは思ってもみなかったので適当な事を言って適当に選んでいた。
 別段こだわりがあるわけでもないが、もう少し真面目に選んでも良かったかもしれない。
 いや、待て。
 よくよく考えると制服の女子に男物の下着を買わせている、同年代の男子。
 店員や奥様方にはどう映っていたのだろう。
 それに宙の家に泊まる? ってことは同伴登校?
 それはそれでいろいろとまずいんじゃ……
 でも、もしかしたら兄妹かもしれないわけだし……
「思い出した?」
「え、ああ……」
「何? その気の抜けた返事は」
「いや、ちょっとな」
 別の心配してました。なんて、おくびにも出せない。
「でも、ほかに持ってきたものなんて無いだろ」
「あるよ」
 俺の両手は塞がってる。宙は紗那の着替えを持ってる。
 肩から下げたスポーツバックにも着替えと教科書が入ってるだけ。
 荷物はこれで全部。
 後は……
「『私』が『荷物』なの。あそこに居られると後々いろいろと不都合があるから」
 背中に体重を預けたままの紗那に宙は暖かい眼差しを送る。
 それはまるで姉が妹を見守るような優しい眼差しと昔を懐かしむような深い羨望の感情。
「で、家のお姫様は何時になったら目覚めるんだ?」
「いやん、お姫様なんて恥ずかしい。もっと言って!!」
 お前じゃねえ。
 くねくねと身体をよじらせる宙に叩きつけてやりたくなる。
 でも、お前かもしれないから反論もできない。
 中途半端に認めるってのもなかなかに不便だ。
259いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:01:13 ID:/vgNVV8D
「お姫様は王子様のキスで目覚めるんだよ」
 ここぞとばかりに宙が耳元で囁く。
「ちなみに私の王子様は、お・に・い・ちゃ・ん」

 ピシッ!

「あうっ!!」
 デコピン一閃。
 宙の額をやや強めに弾く。
「調子にのんな」
 まったく、俺をからかって何が面白いんだか。
 片手で支えていた紗那を抱えなおすと、宙は両手で額を押さえながらそっぽを向いて口を尖らせる。
「……冗談じゃないのに」
 呟くような小さな独り言。
 はっきり言って何が言いたいのか聞こえやしない。
「何だよ、言いたい事があるなら……」
「別に、あ・り・ま・せ・ん!!」
 いぃ〜〜〜、と歯をむき出しにしてから、宙はこちらに向き直る。
「この娘は、私が“帰る”時に目覚めるようにしてある。
 同じ時間軸上で同じ人間が近くに居ると悪影響が出るから、私の用事が済むまではしばらく眠ってもらったまま」
「どんな悪影響が出るんだ?」
「え〜っと……」
 宙は脳内を探るように上を見上げて、首を軽く捻る。
 どうやらめんどくさい類の説明らしい。
「まず、未来は現在を基点として成り立ってるの。今、この瞬間が未来を支える土台。
 だから今の紗那の意志や行動は未来の紗那……つまり私に影響力を与えてしまう。
 私はここでの紗那よりも存在的に弱いから、今の紗那の思考や行動で私の在り方が変わってしまう。
 だから私はこの一ヶ月できるだけ紗那に接触しないようにしてきたの」
 丁寧に言葉を選びながら説明をしてくれる宙。
 でも、ゴメン。
 説明を求めたのはこちらだが、言っている意味がさっぱりわからない。
 そのことについては宙も感じ取っているらしく、頭を悩ませる。
「要するに、今の紗那が未来の紗那である私を見てしまったらどう感じると思う?」
「私はこんな風になるはずじゃなかった!! って嘆くだろうな」
 心のままにそう答える。
「……少々、いや多々引っかかる所があるけど……まあ、いいわ」
 平静を装ってはいるが、口元が引きつっている。
 あれは絶対、心の中では中指を立てている。
260いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:01:58 ID:/vgNVV8D
「自分の未来の姿って言うのは、絶対的な未来への指針になってしまうの。
 紗那が今の私を見てどう思うかはわからないけど、いつかそうなる自分に対して明確なイメージを持ってしまう。
 そうすると人間はそれに向かって努力したり、反発して自身を歪めようとする。
 決して、同じにはなろうとしない。同じではいられない。そうすると……今度は私が私じゃなくなってしまう」
「私が私じゃなくなるって……」
「私の器が矛盾に耐え切れなくなる。私は私ではいられなくなる。
 記憶の改ざん、精神の書き換え、肉体の変質、矛盾を補完するためにあらゆる崩壊と再生を繰り返し、その苦痛の果てに……消滅する。
 まぁ、ゆらぎ程度ならば影響はほとんどないだろうけどね」
 鼓膜を通過してゆく冗談のような話。
 だけど、宙は大真面目に語り続ける。
「想像してみて、お兄ちゃんの前にサッカー選手じゃない未来の自分が現れたらどうする?
 そう簡単に夢を捨てられる? 運命を受け入れて絶望しないでいられる?」
 そんなの……
「多分……無理だ」
 それは一瞬にして、理不尽に夢を潰される行為。
 積み重ねてきた歴史など関係なく、描いてきた夢さえ塗りつぶされ、ただ絶望的な結果を突きつけられるだけ。
 そんなものは認められない。
「そう。そしてお兄ちゃんは何らかの行動を起こし、その綻びから未来は変わってしまう。
 それは本来の未来の在るべき姿の死を意味するの。
 だから私は紗那を眠らせた。せめて目的を果たすまでは、私が私でいるために」
 いつの間にか宙の表情は硬くなっていた。
 冗談と呼べる言葉は一つもなく、その瞳には決意が滲んで見える。

「なぁ、そんな危ない橋渡ってまでして、いったい何しに来たんだ」

 投げかけられた問いに宙は笑顔で応じる。
「ヤダ。教えてあげない」
 満面の笑顔。
 まるで悪戯が成功した時みたいな性質の悪い笑顔。
261いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:02:37 ID:/vgNVV8D
「……なにそれ?」
 なんか、真面目な雰囲気がぶち壊しだ。
「要するに喋れないって事」
「喋れないって、何か理由があるのか?」
「ううん、喋りたくないだけ。でも、未来からやってくる理由なんて普通一つしかないでしょ」
 そう言われて思いつくのは確かに一つしかない。
「過去をやり直すため」
「そう。そして、未来を変えるため」
 口調は軽いが相変らず表情は硬い。
 もうこれ以上突っ込んだ所で宙は何も語らないだろう。
 ならば、もうちょっと軽いやつをぶつけてみる。

「じゃあ、未来の俺はどうなってるんだ?」

 何気ない質問にビクリと大きな反応を見せて宙は立ち止まる。
「今までの話を聞いてなかったでしょ。未来を知る事は危険なの。
 それに……そんなの知っても意味無いよ。もう、お兄ちゃんの未来は変わってるんだから」
 それ以上は話さない。
 不機嫌にも聞こえる重い声に乗って、宙の意思がこちらに伝わってくる。
「行こ。私、お腹減ってきちゃった」
 もう視界に入っているあの高級マンションに向かって宙は歩を進める。
 まったく、荒唐無稽な話ばかりだ。
 宙の語る言葉には現実味を感じない。
 結局、何一つ納得のいく説明さえ貰っていないまま。
「どうしたの? お兄ちゃん」
 それでも―――それを語る宙の表情はいつもひたむきで必死に何かを訴えていた。

「……いや、何でもない」

 もしも。
 もしも、宙が紗那だとしたら。
 未来の俺はどれだけ不甲斐ない奴なんだろう。
 宙は何も語ろうとしないけれど、未来の俺はきっと紗那を助けてやる事が出来なかった。
 でなければ、過去をやり直したいなんて口にするはずが無い。
 そして、宙がこの時間にいるということは……

 その時はそんなに遠くないのかもしれない。
262いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:03:06 ID:/vgNVV8D
〈9〉

「どうだった? 私の手料理」

 目の前でもう勝ちを確信している宙はテーブルに肘をついてニヤニヤと笑っている。
 それもそのはず、俺の目の前に置かれている食器は綺麗に平らげられている。
 結果は火を見るより明らかだ。
「ごちそうさま」
 宙は間違いなく俺の好みや嗜好を知っていて今晩の夕飯を作ってくれている。
 好物である唐揚げの味付けは唐辛子と生姜を効かせた醤油味。
 自家製のポテトサラダはマヨネーズを控え、隠し味にカレー粉を加えてあっさりめの味付け。
 葱と豆腐の味噌汁に至っては使っている味噌からして家のものと同じ。

 『これで少しは信じてくれた?』

 あのしたり顔の裏にはそんな期待があるのかもしれない。
 どれもこれも知っている、懐かしくも優しい味。
 そんな手間隙かけた食事にケチを付けるのは相手が宙であっても失礼な気がした。
「おいしかった」
 素直にそう伝えると、ニヤニヤはニコニコに変わる。
「お粗末さまでした」
 多分、今まで見た中で飛びっきりの笑顔。
 そんなに嬉しそうな顔されるのもなんだか気恥ずかしい。
「これ、姉さんに教わったのか?」
「……自分で教えたんでしょ。知らないだろうけどさ」
 そっけない返事。
 先程までの笑顔は何処へやら……そんなにマズイ質問だったのだろうか?
「片付け、手伝おうか?」
「ううん。私がやっとくからいい。
 それよりも、後でちゃんと二人に電話しておいてね。今日は泊まるって」
「二人って、親父とお袋か?」
「そう。あの引き篭もり達のこと」
「お前、そんな言い方……」
「元々お飾りみたいな両親だったでしょ。
 居て欲しい時には居てくれない。居ても私たちの欲しいものに気付いてくれない。
 本当に私達を見ていたのかさえ疑わしい」
 その言葉に胸が深く抉られる。
 生々しい現実と未来を突きつけられたかのような衝撃と不快感。
 宙は知っている。
 両親がどういう人間なのか。
263いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:03:49 ID:/vgNVV8D

『どうしておとーさんとおかーさんはかえってこないの?』

 まだ何も知らない妹の純粋な問いかけに、俺は何も答えてやる事ができなかった。
 悔しかった。
 どんなに面倒を見て、世話をしてやっても紗那に必要なのは兄ではなく親だった。
 兄弟では駄目なんだ。親でなければ。
 それなのに両親は幼い娘を置き去りにして、家にはあまり寄り付かない。
 俺や姉さんの頃はまだマシだった。他に世話をする人間はいなかったから。
 でも、紗那は違った。
 紗那の面倒を俺や姉さんが見ることができると知ると、
 二人は紗那を押し付けてさっさと会社の研究室に篭るようになる。
 子育てよりも二人には仕事の方が楽しかった。
 そして二人は夢を追う生き方を選んだ。
 紗那はその生き方の被害者。
 まだ幼い紗那にそれを打ち明けられるほど、俺は冷酷でも非情でもなかった。
 その事で紗那の笑顔が奪われることにも耐えられなかった。
 だから、俺は二人の代わりに紗那に精一杯の愛情を注いでいる。
 それには俺個人の意地もある。
 この幼い妹に両親が居なかったから不幸だったなんて思わせたくなかった。

「嫌でも電話だけは忘れないで。
 警察に通報されたりしたら面倒だし、今はお姉ちゃんとは話したくないでしょ」

 宙の言葉には感情が無い。
 憤りも悲しみも無く、すでに両親をそういうものだと受け入れてしまっている。
 だから当たり前の様にそういう言葉が出るというのは―――結果的には両親の愛情には恵まれなかった。
 そういうことなのかもしれない。

「ところで……それは何だ?」

 食器を片付け、台所から戻ってきた宙の両手には銀色の缶が二本握られていた。
「炭酸入り麦ジュース」
「いや、さすがに騙されないっすよ」
 皮肉もどこ吹く風で椅子にどっかり腰掛けると、宙は一本を俺の目の前に置いた。
「……私は今、飲みたい気分なの」
「飲みたいって、未成年だろう」
 たぶんだけれど、というか宙は何歳なんだろう。
 同じくらいの年齢に違いないだろうが、もしかしたら……もしかするのかもしれない。
「大丈夫。未来では××才からOKなんだから」
「うそつけ。百歩譲って未来でOKだとしても、今はNGなんだよ」
 手を伸ばし缶を奪い取ろうとするも、指先が触れる寸前にひょいと避けられてしまう。
「もう、うるさいなぁ〜。この家では私が法律」
 そう言われてしまうと反論できない。
 そう、主は彼女で居候が俺。俺が兄貴で彼女は妹なのに……
264いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:04:24 ID:/vgNVV8D
「ほらほら、固い事は言いっこなしだよ。私ってば強いんだから、覚悟してね!!」
 プシッ!!
 と、ガスの抜ける音が二度。
 半ば強引に受け取らされた缶はキンキンに冷えていた。
「乾杯!!」
 ゴクゴクと小気味の良い音を立てて、黄金色の液体が宙の喉に吸い込まれてゆく。
 それと共に紗那のイメージが音を立てて崩壊してゆく。
 俺は何時ごろから紗那の育て方を間違えたのだろう。未来の俺に小一時間……
 いや、やはり宙は紗那のそっくりさんだ。そう信じたほうが精神衛生上よろしい。
「乾杯!!」
 一口目から一気にあおった。

 五分後。


「お兄ちゃんには失望しました」
 目の据わってる宙がくだを巻く。
 宙の言う『強い』というのは350mlが限界らしい。
「現実って言うのも残酷だよね。
 子供の頃の私から見たお兄ちゃんってもっと大人っぽくて、落ち着いてるように見えたのに……幻滅」
 幻滅。
 未来の妹らしき顔にそう言われると結構凹む。
「なんかさ、学校では少年みたいな顔して笑ったりするんだもん。なにそれって感じ。
 私の前じゃそんな顔、一度もしなかったくせに。それじゃあガキな同年代の男子と変わらないじゃん………お兄ちゃんて、ズルイよね」
 昔の宙、今の紗那から見れば俺はスーパーマンだったのかもしれない。
 自分にできないことができて、いろいろな事を知っていて、いつも弱みを見せない。
 子供が大人を見る眼差し。
 それはただ経験量の違いだけで、同じ目線に立てば見えていなかったものが見えてくる。
 停滞した相手に実年齢が追いつくなんて珍事に宙は戸惑っているのだろう。
 スーパーマンも見栄やつよがりでツギハギされた、ただの張りぼてだった。
 それが現実。
 でも、どうして最後に突然ズルイ奴呼ばわりされるのかは意味がわかりません。
「そっちだって、未来から来たくせに普通の女の子なんだからおあいこだろ」
「ふつぅの……女の子……」
 酔いが回っているのかほわっとした表情を一瞬浮かべて、すぐに振り払う。
「は!! やっぱりズルイ。本当は全部わかってやってるんでしょ?
 そうやってわかってて期待させるようなこと言って、その反応を見て楽しんでるんでしょ?
 顔に似合わずドSだよね。鬼畜だね、鬼畜お兄ちゃん。自分の兄がこんな異常性癖の持ち主だなんて知らなかった!!」
 気が付けば俺はドSで鬼畜の異常性癖者にまで成り下がっている。
 凄まじい転落っぷりだ。
「純情な妹を弄んでさ!! こっちの気持ちも察しろつぅ〜の!!」
 そんなことした覚えは無い。もちろん紗那にもだ。
 それに察しようにも何の話を進めているのかさえわかっていない。
265いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:04:56 ID:/vgNVV8D
「なぁ、もうそろそろ……」
「なに言ってんのよ!! お兄ちゃん全然ペースが上がってないらない!!」
 とうとう呂律まで怪しくなってきた。
「もうお開きだ」
「やだやだやだ。もっとの飲むぅ〜」
 そして幼児退行。
 典型的な悪酔いだ。
「ほら、肩貸してやるから寝室に行くぞ」
「何? 押し倒すの?」
 何で嬉しそうな声なんだよ。
「アホ。妹かもしれない奴を押し倒してどうするんだよ」
 肩を貸そうと腕を取ると宙は器用に腕から背中へと這ってゆき、背後から首に腕を回してそのまま宙が体重を預けてくる。
 口から飛び出そうとする文句は……背中に当たるふくらみで打ち消される。
 一瞬だけ、さっきの冗談が洒落にならなくなると思った。
 いくら兄貴だからって無防備だろう。
「はぁ。私、こっちに来てほんの少しだけお姉ちゃんの気持ちがわかったような気がする」
 しなだれかかった宙がため息を漏らす。
 頬をくすぐるアルコールの匂いで頭が少しクラクラした。
「大体、なんで私がこんな思いしなきゃならなひんだろ……馬鹿みたい」
 相変わらず支離滅裂な事を口走りながら、おぶれと言わんばかりに背中にしがみつく。
「でも、この背中……懐かしいな……」
 しょうがなくおんぶしてやると満足したのか、間を置かずにすぅすぅと寝息を立てる。
 勝手な奴だ。
 勝手に連れ回して、勝手に兄と呼び、勝手に酔って、勝手に寝る。
 それも随所に意味不明な単語と思わせぶりな態度を織り交ぜるもんだから性質が悪い。
 夕方に背負ってきた紗那よりもいくぶんか重い身体。
 女性らしい柔らかい感触。
 酒で理性が弱まっている為か邪な感情が首をもたげる。
「まったく、育ちすぎなんだよ……」
 口から出るのは意味不明な愚痴。
 宙はどちらかといえばスレンダーな体型で俺が言いたいのは紗那と比べてほんの少し重くなったり柔らかくなったり……
 って、誰に言い訳してるんだ俺は。
 緩んだ理性の手綱を手繰り寄せながら宙を寝室まで連れて行くと、ベットが一つに布団が二つ用意されている。
 いわゆる『川』の字。
 ベットに寝かされている紗那の横に宙を寝かしつけて、その隣の布団一式を抱える。
「ほんとに無防備すぎ」
 捨て台詞を置いて寝室を後にする。
 その途中、宙が寝ていることを確認して、

「―――お前は、本当に紗那なのか?」

 答えられない相手に一番聞きたい、聞くのが怖い質問をする卑怯者がいる。
 そして返ってこない返事に安心する臆病者もいた。
 逃げるように部屋を出ると、使われていない部屋に布団を放り投げて倒れるように身を任せる。
「もう、そんなに疑ってないくせに」
 いったい何を期待して、何をしたかったのだろう。
 幸いなことに考え始める前には意識が落ちていた。
266いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:05:33 ID:/vgNVV8D
〈10〉

 深夜二時半。
 時計的な意味では翌日ではあるが、俺にとっての今日はまだ終わっていなかった。
 全身にまとわりつく妙な寝苦しさ。
 違和感に気づいて目覚めると、宙が同じ布団の中で身を寄せてこちらを見ていた。
 寝ぼけ眼が捉えた宙はニコリと微笑んでいる。

「懐かしいね」

「う、うおぉぉぉ!! な、何やってんだおまえ!!」
 余程の間抜け面を晒したのかコロコロと宙は笑う。
「ほら、昔はよくこうやって布団に潜り込んでたでしょ」
 昔。
 宙は昔と言うが、今でも紗那はこんな感じで布団に潜り込んでくることがある。
 悪夢を見たとき、不安になったとき、寂しくなったとき。
 紗那は独りが耐えられないときによくこうやって布団の中に潜り込んできた。
 とはいえ、今のこの状況はまずい。
 咄嗟に身を離そうとするも、力強くしがみつかれて動けない。
 全力をもって俺を押さえつけ、まっすぐに見つめてくる宙の表情は必死なものだった。
「今日は信じてくれてありがとう。本当は全然信じてもらえないと思ってた」
 感謝というよりは独白のような口調。
 俺は目を逸らしてしまう。
 あまり長く見詰めていられると、心の中を見透かされそうだったから。
「だからお礼に今までのこと、私の過去のことをほんの少しだけ教えてあげる」
 そう言って、宙は俺への拘束を少し緩める。
 それでも俺は宙から逃れられない。
 宙の華奢な腕よりも強く、宙の過去への興味と自身の未来への関心が俺の身体を縛り付けていた。
「今の所、私達は前回……私の過去とほぼ同じ道筋を辿ってる。同じ舞台、同じ台本。だけど―――役者が違う」
「どういう意味だ?」
「場面ごとの内容は同じ、だけどそれを演じている人物が別という意味。私達が初めて会ったときの事を覚えてる?」
「エロオヤジに絡まれてたやつだっけ?」
 帰り際に同じ学校の制服が変なオヤジに宙が言い寄られていたので、仲裁に入ってお引取り願った事がある。
 その時に絡まれていたのが転校して来たばかりの宙だった。
「そう。ホントはね、あれは別の人が巻き込まれていてお兄ちゃんはその人を助けるの。
 そしてお兄ちゃんとその人はそれがきっかけで仲を深めてゆき、付き合いを始める」
「付き合いを始めるって……」

「恋人同士になる」

 端的に宙は事実を突きつける。
 でも、まるで他人事。想像さえおぼつかない。
267いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:06:03 ID:/vgNVV8D
「だけど私はお兄ちゃんに近付くためにその人と入れ替わった。
 その結果、宙は恋人にはなれなくてもお兄ちゃんのかなり近い位置に立つことができた」
 宙はいったん話を区切ると、そのまま俯く。
「……ごめんね。
 謝って許される事じゃないのはわかってる。でも、私の目的のためには必要な事だった」
 宙は表情を隠していて、そこにある感情を読み取る事はできない。
 俺にわかっているのは、宙は何らかの目的のために俺の過去を変えた。
 それも、宙自身の身勝手のために。
 だからといってそれを悔いているわけでもない。
 それが良くない事だとわかっていて、それでも変えられずにはいられなかった事をすまないと謝っている。
「起こってもいない事を謝られても困る」
 本音として残念だとは思う。
 顔も知らない女性なのか、はたまたすぐそばにいる女性なのかは興味がある。
 だけど―――宙との出会いは俺にとってマイナスではない。
 宙と俺は気の合う友人で、実は兄妹かもしれなくて……何よりも二人でバカをやってる時は楽しかった。
 今だって有り得ない状況だけど、きっと楽しいんだ。
「正直、悲しくも辛くもないし……とにかく実感が湧かない」
 知らないことを謝られてもピンとこない。
 俺にとっては人違いと同じことだった。
 だから、この件に関しては宙の中で消化してもらうしかない。
 宙の背負っている感情を俺は理解してやることができないのだから。
「ところで、なんでわざわざ過去を辿るなんて面倒なことしてるんだ。
 せっかく未来が変えられるならババ!! っと変えちまえば楽だろうに」
「それは、私の目的を遂げる為にはお兄ちゃんの協力が必要だったからというのが一つ。
 そのために一ヶ月前からお兄ちゃんに接触して、その信頼を勝ち取る必要があった。
 いきなりやってきて妹の紗那だって言っても信じられなかったと思うから。
 もう一つはあんまり目立った動きをすると未来が予測できなくなるから。
 歴史を変えるような大きな動きをすれば未来が分岐してしまって、私が知っている未来ではなくなってしまう。
 だから、できるだけ同じになるように調整すれば先が読みやすくなるし、事前に準備したり対策を立てやすくなるの」
「なるほど…ねぇ……」
 わかったような、わからないような返事。
 事実、二つ目の理由に関しては返事どおりの理解くらいしかできていない。
 一つ目の理由に関しては宙の行動は正解だと思う。
 本音を漏らせば今だって疑っていないわけではない。でも、宙は友達だから信用してる。
「なぁ、前回とほとんど同じ流れで進んでるって言ってたよな」
「うん」
「内容は同じで、登場人物が入れ替わってるとも言ってたな」
「うん」
「じゃあ、姉さんのあれも知ってたのか?」
「……うん」
 宙は否定をしなかった。
268いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:06:48 ID:/vgNVV8D
「お兄ちゃんは放課後に恋人と部活をサボって、デートして、その帰りがけに姉さんに会う。
 恋人とのデートを目撃して逆上する姉さんを振り切って、お兄ちゃんは恋人とその場を立ち去るの」
 宙は機械のように用意されていた台本の内容を淡々と語る。
「でも、お兄ちゃんと私は恋人じゃなかった」
 ぎゅっとシャツの胸元を握られた。
「だから不安だった。お兄ちゃんがお姉ちゃんを選んだらどうしよう、って。
 お兄ちゃんの選択を知ってても……私じゃ役不足なんじゃないかって不安だった。
 ―――でも、お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんだった」
「どういう意味だ」
「それはないしょ」
 小悪魔みたいな顔して宙は笑う。
「ねぇ、気づいてる? 今日はお兄ちゃんの初めてのお泊りだったんだよ」
 また、意味のわからない問いかけ。
 別に友人の家に泊まるなんて初めてじゃない。
 妹かもしれないとはいえ、女性の家に泊まるのは初めてだけど。

 ん? 待てよ……。

 今の状況では宙とまだ見ぬ恋人が入れ替わっているのだから、元の未来では俺が泊まったのは恋人の家という事になる。
 つまり『初めてのお泊り』って……そういうことか?
「ふふ、残念そうだね。顔に書いてある」
 艶っぽい表情で肯定すると、宙はゆっくりと布団から這い出して顔を寄せてくる。
「お兄ちゃんには捻じ曲げられた今を取り戻す権利がある。
 そして私はその今を奪った張本人。だから、お兄ちゃんには私を罰する権利がある」
 至近距離。
 互いの息さえ感じられるような距離で宙の唇が動く。

「だから……してもいいよ」

 してもいい。
 何を?

 ドクン。
 と、心音が跳ね上がる。
 腕の中にある柔らかさ。
 鼻先を掠める女性の匂い。
 汗ばむ首筋からはアルコールの揮発臭。
 今まで意識の外にあった状況が、途端に現実の彩りを帯びてくる。
269いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:07:15 ID:/vgNVV8D

「お兄ちゃんは知らないだろうけど、未来では兄妹同士での結婚も許されてる」

 そんな嘘、紗那だって騙されない。
 それなのに動揺して振えが止まらない。
 目の前の光景に心臓がうるさいくらいの早鐘を打つ。
 月明かりを受けて鈍い光を放つ瞳。
 うっすら濡れた小さな唇。
 頬に触る黒くしなやかな髪。
 血の通った温もり。
 これが、俺の育てた少女。

「それに、私は宙だから」

 鼓膜を震わせ、脳髄に叩き込まれる甘い誘惑。
 身体中を這い回る、おぞましい悪夢。
 破綻してゆく理性。

 もしも……

 己の手の中で大事に育てたその果実を……
 その無垢な躯を、己の手で穢してしまえたのなら……

 それはどんなに狂った味がするのだろう。

 そしてそれはこの世界でただ一人、俺だけが知る事のできる甘く濁った蜜。

「ねぇ、お兄ちゃん……私を罰して」

 迷いを見透かしたように宙は嗤う。
 その唇に吸い寄せられそうになり、恐怖に駆られた。

 違う。
 馬鹿げてる。相手は紗那かもしれない。

 違う。
 望んでなんかいない。こんな薄汚れた願望。

 違う。
 違うんだ。俺は……

 唇が触れた。
 どちらから求めたのかはわからない。
 ただ触れ合うだけの口づけ。
 初めてのキスは、なんだか切ない味がした。

 そして、思い出す。
 単純で大切な事を。

 紗那が布団に潜り込んでくる時はいつも……孤独に耐えられなかったからだった。
270いつかのソラ:2009/08/08(土) 01:08:03 ID:/vgNVV8D
「信じる事にした」
「え?」
「もういい」
 強く宙を抱き締める。
 でも、それだけ。

 俺はまだ何も知らない。

 宙の変えたい未来も
 宙の抱えてきた苦しみも
 宙がどんな想いで俺と向き合ってきたのかも

 ただ、ずっと辛かったのかもしれない。
 自分が紗那であることを隠しながら、笑顔の裏で自分を偽らなければならなかったこと。
 周囲を騙して、家族を騙して、自分まで騙して、
 帰る場所さえ失って、頼りたいはずの家族にも会いに行く事ができない。
 目の前にいて、吐き出したい想いがあるはずなのに―――それさえも許されない。

 偽りの友人であるが故の孤独。

 それがどれだけ辛かったのか、俺には想像することしかできない。
 知っているのは、宙がそれをアルコールで誤魔化している事ぐらいなものだ。
「もういいんだ……」
 ゆっくり頭を撫でてやると宙が表情が落ち着いてくる。
 そういう所は紗那と同じ……いや、変わってないのかもしれない。

「ごめんな。紗那」

 紗那と呼ばれて、その顔がクシャリと歪む。

 俺は何をやっていたのだろう。
 紗那が最初に頼りたいのは自分だって知ってるくせに……
 紗那を一番知っているのは俺だったはずなのに……

「ぅ……ぅぅ……ぅ……」

 少女は胸の中で声を押し殺して涙を流す。
 それも―――長くは続かない。

「ぅ……ぅうあああああ……わたし、わたしぃぃぃ……
 うああああああああああああああああああああああああああああああ」

 堰を切ったように、宙の……紗那の瞳から涙が溢れる。
 顔をクシャクシャに歪ませて、大きく声を震わせながら、全てを忘れてただひたむきに泣きじゃくる。
 その姿はお世辞にも綺麗とはいえない。

 けれど、俺のよく知ってる紗那がそこにいた。
 俺の望んだ未来の紗那とは似ても似つかない性格をしていたけれど、根っこは何も変わっていない少女。

 それからしばらくの間、紗那が泣き止むまでずっと抱きしめていた。
 シャツの胸元はもうグシャグシャ。
 袖口なんかは原型の面影も無いくらいに伸びてしまっている。
 でもまぁ、今日くらいはいいだろう。
 こうやって泣き疲れて眠ってしまった顔は昔から少しも変わっていないのだから。
271 ◆JyN1LsaiM2 :2009/08/08(土) 01:09:12 ID:/vgNVV8D
ここまでです。

申し訳ありませんが終われませんでした。というか、話自体あまり進んでません。
次からはもう少し綿密な計画を心掛けたいものです。
SF考証については素人なんであまり突っ込まないでもらえると助かります。
次回こそは終わらせられるように努力します……多分。

今作は連載になってしまいましたので、一応トリつけておきます。
272名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:24:49 ID:YfU5h4fT
乙っす
たのしみにして待機してたので投下うれしいです

時をかけるキモウト。
273名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 07:30:09 ID:R1EaG4x9
>>271
彼女してる妹イイヨイイヨ

このスレには『お姉ちゃんはダメ、妹も危ない。だから同級生』という選択肢は存在しないのか……。
274名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 08:20:32 ID:6aC2WICo
>>273
同級生は姉か妹に消されるから選択肢が存在できないんだと思う。
275名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 08:40:06 ID:XpryNnSy
宙は年齢的にそれほど遠くない未来から来てるんだよな
いまのところ泥棒猫の出現フラグを壊しつつ
兄の意識を自分に向けようと頑張ってる感じだけど
それだけで終わりはしないだろうし……
続きに期待

宙の現代の自分への態度が
みくる(大)とみくる(小)の関係を思わせたり
276名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 11:31:18 ID:bqihAvNV
姉がダメで妹にはドキドキするってどういうことなの?
ってキモ姉がこっち見てます
277名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 13:41:07 ID:c9/ZXSgQ
>276
ごめん覚えてない
278名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 14:07:50 ID:xXwkzXfU
>>277
お前にはがっかりだよ。
279名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 15:05:43 ID:g9y8m8q1
>>277
君の鶏頭には心底ウンザリさせられる・・・
280名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 15:32:33 ID:b6Uu/4th
問題ないわ。私だけを見てドキドキしてくれるんだから
多少の鳥頭…じゃなくて健忘症くらいの副作用なら許容範囲内よ。
それに、「自分は物忘れがひどい」と思い込ませておけば色々吹き込めるし…
281名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 17:56:59 ID:dwN8WDlY
>>280
考えてみれば、「メメント」の主人公みたいな男とキモ姉妹の組み合わせって最悪だよな
人間関係は「24」ばりの緊張の連続なのに何も覚えてられないとか危険すぐるw
282名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 20:55:59 ID:4+O/dkW7
>>277
ユウは悪い子!
283名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 21:45:32 ID:jATk47w8
明日からまたキモウトに愛を囁く仕事が始まるお…
284名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 23:02:27 ID:bqihAvNV
何それ………
おれもキモ姉に愛を刻まれる仕事に転職するわ…
285名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 23:06:11 ID:nW4grpoI
キモウトがいれば俺は生きていける…
キモウトは俺の心のオアシス
キモウト可愛いよキモウト
286名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 00:12:30 ID:ftPmSFli
>>285
は???
何言ってんのお前wwwバカじゃねぇのwwwww
リアル妹がいるとな、んなこといえねぇぞマジでwwwwww
すんげぇウザいもんwww妹www
それがオアシスとかワロスwwwwwwww
287名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 01:04:02 ID:B/GBNnkc
>>286が書き込む時、うしろにキモ姉がいたようだな
288名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 01:56:01 ID:i0ecdRyY
ほんと妹とかないからw
289名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 01:56:44 ID:i0ecdRyY
t
290名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 02:08:48 ID:SeQS74OD
無茶しやがって AA(ry
291名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 02:09:09 ID:i0ecdRyY
いもうとさいこう
わきぺろぺろくんかくんかしたい
みずといもうとだけでいきていける
あね(わら)
292名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 02:36:48 ID:aPONStki
>>291
無茶しやがって・・・
293名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 03:37:41 ID:VHhwew2u
だからあれほど言ったんだ!
294名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 04:09:45 ID:4f5qJKHq
01:56:01〜02:09:09

たったこれだけの時間で妹は兄の調教を完了したと言うのか!?
どうやらキモウトの戦闘力を甘く見てたようだ
29521歳のキモウト〜祭り変〜:2009/08/10(月) 04:45:57 ID:gyERArXh
「ただいま」
「お帰り、兄さん」

玄関を開けると、浴衣姿の舞がいた。
本来ならここで突っ込みを入れるところだが、今回はあえてスルーをする。
というか、彼女のその姿にはれっきとした意味があるからだ。

「もう着替えていたのか?随分早いな」
「だって待ちきれなかったんだもん!」
「とりあえず落ち着け」

今にも飛び出して行きそうな勢いの舞を宥め、俺も私服に着替えることにする。

「兄さん!早く早く!」
「そんなに急がなくても祭りは逃げんぞ」

昨日から3日間、俺のアパートの近くの神社で祭りをやっている。
一人暮らしの時はボイコットしてしまったっが、舞が来てからは毎年参加している。
というか、舞に参加させられているのだ。強制的に。

「逃げなくても減るの!主に兄さんとイチャイチャする時間が!」
「そんな時間は無くなってしまえ。そして走るな、転ぶぞ」

素足に下駄という格好にも関わらず、まるで少女のようにはしゃいでいる舞。お前今年で21だろ?少し年を考え

「何か失礼なことを考えてない?兄 さ ん」
「滅相も無い」

そ知らぬ振りで殺人的な視線をスルーする。さて、そろそろ付く頃だな。



「浴衣のゆ〜は、遊郭のゆ〜♪ お兄ちゃんを暗がりに引きずりこ〜んで〜♪ 朝までズッコンバッコン♪ や〜んぜ〜つり〜ん♪ 虫除け対策は忘れずに〜♪」

酷い歌だ。

「おい舞。なんだその人聞きの悪い歌は」
「七志野・舞作詞作曲、『浴衣で誘おう、お兄ちゃん(性的に)』。現在JA○RAC申請中」
「即刻取り下げろ。後二度と歌うな」
「えー」

何が楽しいのか、家を出るなりハイテンションで、道中こんな感じだった。

「うわぁ〜!」
「ふむ。相変わらずにぎやかだな」

歩くこと10分強。件の神社にたどり着く。
そこかしこから笛や太鼓の音が聞こえ、ソースの焼けるいい匂いがする。
祭りだけあって人も多い。親子連れや友達。恋人連れも多くいるようだ。
29621歳のキモウト〜祭り変〜:2009/08/10(月) 04:46:17 ID:gyERArXh
「さて、何から手をつける?俺としては腹ごしらえから始めたいんだが?」
「あむ?」
「…………」
「ああこれ?りんご飴。祭りの定番でしょ?」
「いつの間に…」

舞の方に顔を向けてみると、いかにも体に悪そうな赤い物体を口に頬張っていた。
とりあえず、同じことをしては能が無いので、俺はたこ焼きなどを買ってみた。

「ふむ。まあまあだな」
「兄さん、一個頂戴!」
「ん」
「あ〜ん!おいしい!」
「甘いものを食べてる途中なのに味わかるのか?」
「細かいことは気にしない!はい兄さん、あ〜ん!」
「だが断る」
「えー」
「舌が真っ赤になるのは御免だ」
「大丈夫!私が舐めて直してあげるから!」
「断固辞退する」

そもそも、俺はりんご飴が嫌いだ。
林檎は丸齧りするに限る。ウサギリンゴまでなら許すが、飴でコーティングするなど邪道!

「どうしたの?兄さん」
「いや、何でもない」

その後も舞と見物がてら、出店を回った。
しかし…

「はむ…ちゅっ…ぺろぺろ…ぴちゃっ…」
「…………」
「ぷはぁ…はぁっ…熱くて…硬くて…おっきぃ…」
「…たかがフランクフルトを嘗め回してどうする。とっとと喰え」

「あはっ、真っ白♪こんなにいっぱい…うれしい♪」
「…………」
「はむっ…んぅっ…や〜ん、べとべとするぅ〜」
「さっきから綿菓子片手に何をブツブツ言っている」

「はぁっ…兄さぁん…私の、もうびちゃびちゃ…あっ♪そんなに乱暴にしたら壊れちゃうぅぅぅっ!」
「金魚掬いすら黙って出来んのかお前は」

いつからこいつは寒いギャグを飛ばすようになったのだろうか?

「おい舞」
「何?兄さん」
「…いや、なんでもない」
「そう?」
29721歳のキモウト〜祭り変〜:2009/08/10(月) 04:46:34 ID:gyERArXh
両手いっぱいに食べ物を抱えている妹を見ていると、起こる気も文句を言う気も失せる。

「とりあえず、そんなに食うと太るぞ」
「う゛っ!」

逆襲成功。半分ほど押し付けられそうになったが、全て自分で食べさせた。せいぜい体重計の前で絶望するがいい。

「兄さん!次はあっち!」
「解った解った」

小さな子供のように動き回る舞。はしゃいでいる彼女を見ていると、自分がどれだけ年を喰ったかを思い知らされる。
若いっていいなぁ…



「はぁ〜!楽しかったぁ!」
「そうか…」

あれから随分と遊び倒し、気が付けば夜の10時。神社に到着したのが6時過ぎくらいだったから、4時間近く遊んでいたことになる。

「今日はご馳走様、兄さん!」
「喜んでもらえた様で何よりだ」

小遣いとして2万ほど渡しておいたのだが、全て使い切ったらしい。まあ、祭りの食料等は割高だからな。

「…………」
「どうした?」
「ううん。ちょっと昔のことを思い出して」
「昔?」
「うん。うちの町のお祭り。毎年参加してたよね」
「そうだな」

小学生の頃、毎年故郷の町の祭りに参加していた。

「兄さん、覚えてる?昔神社の裏側で、花火を見ながらした約束のこと」
「約束?」
「いつか、私と結婚してくれるって約束」
「…また懐かしいものを持ち出してきたな」

俺達は兄妹は、昔は仲がよかった。何をするにも一緒で、片時も離れたことは無い。
だが、俺達は所詮家族。兄妹だ。血の繋がりは永遠だが、ずっと一緒に暮らせるわけではない。

「兄さん。私ね…」
「言うな」

言葉を遮る。舞が何と続けようとしたのかはわからないが、何となく、先を聞くのが怖かったのだ。

「兄さん」
「ん?」
「また、来年も参加しようね?」
「…そうだな」
29821歳のキモウト〜祭り変〜:2009/08/10(月) 04:50:48 ID:gyERArXh
以上、時事ネタ終わり。
299名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 06:33:46 ID:4OMWGt49
GJ
祭りネタはいいなあ。
しかしなぜ21歳にする必要が・・・?
300名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 07:16:41 ID:aPONStki
>>299
前スレで大人のキモウトというネタで議論が起こってだな・・・

まぁ、そのときちょっとした大人キモウトラッシュが起こったわけだよ
うん、いいね大人キモウト
301名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 09:11:53 ID:dAhN2sBM
信じられるか? このかわいい生き物、21歳なんだぜ。
302名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 09:47:53 ID:2QdIwDAN
リアの妹何かリアの妹何か・・・いらないからあげるよ。喘息持ちのな。ただデブだから
303名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 10:38:16 ID:pCD1VGXJ
>>302
丁重にお断りさせて頂きます。
304名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 10:44:22 ID:QQHZ7bqv
夢は山野を駆け巡るというからにゃー。
リアルが居れば、居ただけ、夢のイモウトが駆け巡るんじゃよ。
305名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 11:39:00 ID:DWo/xCFV
>>298
GJ!
こんな可愛い女の子が、21歳キモウトなわけ……だったな。
次回も楽しみにしています。
306名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 18:58:49 ID:fN0c2KWJ
>>302
その妹も恋すれば綺麗になるよ・・・
喘息は病弱系キモウトになるしw
307名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 21:08:08 ID:L5IYTmpZ
21歳らしさが微塵もないな。
308名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 21:21:44 ID:ftPmSFli
それがいいんだろjk
309名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 22:02:35 ID:YCbnbYKd
>>307「明日また来てください、俺が至高の21歳キモ姉を見せてやりますよ」
こういうことだろ
>>307の投下に期待
310名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 22:35:52 ID:kJdP5qTA
>>302
痩せれば綺麗になるかも知れないぞ
某ラノベで以前はピザだったキモウトと久し振りに再会したら
痩せて美少女になっていたという展開があったらしくてな
311名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 23:06:49 ID:+eAF7rLw
乙女的恋革命キモウト!!
312名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 23:14:58 ID:YCbnbYKd
なんとも素晴らしく乙女的発想でありますな同志
泥棒猫など全員、反乙女罪で死刑
313名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 00:20:02 ID:w5dA9tN+
21歳で書くなら大人な部分とのギャップが必要なのかもね
314名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 00:29:05 ID:wfTXcQOT
社会の常識と己の欲望の間で苦しむような感じか?>ギャップ
とは言っても基本的にキモ姉・キモウトって、

私は弟君(お兄ちゃん)が好き!→道徳?常識?何それ。おいしーの?→子供ができても私生児扱いにすれば無問題!

だからな…
315名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:35:42 ID:LajoDTY7
316名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:36:28 ID:LajoDTY7
>>310
302の者だが、題名を教えてくれないか?
妹に読ます
317名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 03:42:00 ID:4RRBTpeu
ID:LajoDTY7
死ね
318名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 11:10:07 ID:9U2RMqv/
仕事から帰ってくるとリビングのテーブルに一つの紙切れがコップの下に挟まれていた。

この家には兄と私しか住んでいないので、兄からの伝言なのだろう。

その紙に書いてある内容を読んでいく。

『今日は友達と食べて帰るから先に食べてていいよ。』

何度も何度も読み返して、確認する。
間違えようがない兄の文字…。

今日は私の誕生日なのに他の人間とご飯をたべるの?家族の私じゃなくて他の人間と?

仕事の疲れも、上司のセクハラも、耐えてこれたのは兄を養う為なのに…。

成人式の日約束したじゃない…。

今の仕事を辞めて家で私の帰りを待っててって…。そしたら変な虫もつかないし、臭いニオイもつかない…。

家の中でなら何をしてもいいんだよ?
ただ、私がいない時に外に出たらダメ。
そうじゃないと、兄の仕事場を倒産させた意味が無くなる。

紙切れを破り捨て、カバンから携帯を取り出す。私の携帯のメモリーには兄しか登録していないので、探し出すのは簡単。

無論兄の携帯も同様に私の番号しか入っていない。


プルルルルルッ――プルルルルル――プルルルルル――ガチャッ

『もしもし…』
319名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 11:10:59 ID:9U2RMqv/

「………なんでワンコールで出ないの?いつもすぐに電話にでてって言ってるよね…?」
『いや…友達と遊んでたからさ…』

「友達?今日私の誕生日なんだけど…」

『あぁ…おめでとう』

「ありがとう、今から車で迎えに行くから場所教えて。」

『いや…今日は…』

「場所教えてって言ってるのっ!!!」

『わ、わかったから…もう少ししたら帰るよ…』

「聞こえないの!?今から車で迎えに行くって言ってるのよ!!!」

『わ、わかった…○○っていうファミレスにいるから。』

「そう…怒鳴ってごめんね?今から迎えに行くから大人しく待っててね?」

『…』

「………返事は?」

『あ…あぁ、わかった…』

電話を切り、車のキーを掴み外に走る。

仕事帰りなのでスーツ姿のままだが着替えている時間なんてない…。
一刻も早く兄を家に連れて帰らなきゃ…。
ファミレスなんて誰が作ったからわからないような物を、兄に食べさせられない…家に帰ってきたら喉に指を入れて吐かせてあげよう。


ふふ……待っててね…お兄ちゃん…
320名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 11:12:39 ID:9U2RMqv/
>>307だけど、言われたから書いてみたけどちょっと難しいね…。

違ったらごめんなさいね。
321名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 12:20:38 ID:D17dRjGA
ナイスGJ
出きればその設定のキモ姉をお願いしたい
322名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 17:03:05 ID:JhdA0tjM
妹だからいいんじゃないか
323名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 17:28:47 ID:VCf9WT6y
キモウトがいれば僕は生きていける…
お姉ちゃんなんて…
324名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 18:50:04 ID:efnuRrBL
>>319
GJ!
こういう設定大好きです!
できれば続きを書いて下さい!!
325名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 20:13:27 ID:dB3152Xd
>>309だが本当に書いてくれるとは嬉しい誤算
いいと思う。これからも書いてくれると嬉しい。
326名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 20:51:22 ID:9U2RMqv/

車をファミレスに停めて少し待っていると、ファミレスの扉からお兄ちゃんが出てきた……横に汚いゴミを引き連れて。

「…」

「よ、よう…」

「はじめまして、妹さんですよね?」

「そうですけど…どちら様ですか?」
いつまでお兄ちゃんの横にたってんだコイツ…汚い手で誰に触れてんの?

「優君の友達です。」
優…君?
私のお兄ちゃんの名前を……汚らわしい…。

「そうですか。それじゃ、兄を連れて帰るんで離れてもらっていいですか?」

「お、おい」
兄が慌てたように私に話しかけてくる…。
この女をかばってるの…?
家に帰って教えてあげなきゃ…誰が兄の事を一番に考えてるのかを…。

「まだ遊ぶ予定だったんですけど…」

おまえの予定なんか聞いてない。

「そうですか?残念でしたね。お兄ちゃん、助手席に乗って。」
助手席の扉に手をかけて開ける。

その瞬間、女の顔色が変わるのがハッキリと分かった。

「妹さん…少しおかしくないですか?優君の話をちゃんと聞いてあげてますか?」

「はぁ?毎日話してますけど?」

優君、優君って馴れ馴れしい…
次、優君って口走ったら女の口を潰そう…うん、決めた。
327名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 20:52:07 ID:9U2RMqv/


「毎日話をしてるんじゃなくて、貴方が一方的に話してるんでしょ?」

「なんですかあなた?私と兄の間に割り込まないでもらえますか?」
人を逆撫ですることが上手い女は尻軽だと決まっている…てゆうか他人事に口出ししないでもらいたい。

「だから!優君も悩んでるんですって!!」

「馴れ馴れしい………外に出るから逃げるなよ?」
そう女に言い放つと、運転席から降りる。

今優君って言ったよね?この香水臭い娼婦…お兄ちゃんから早く離さなきゃ。

私の口調の変化に焦ったのか、女は後ろに後退り、兄の影に少し隠れた。

「やめろって!ほら、もう帰るから…悪いな、今日はもう帰るわ…」
私が女の元に着くまでにお兄ちゃんの声に足を止められた。

お兄ちゃんが助手席に入るのを確認すると私も運転席に戻った。
女は何も言わずただ眺めているだけ…このまま車で引き殺してやろうかと思ったが、女の悔しそうな顔を見れただけで満足だ。

「…それじゃ、兄のお友だちさん、サヨウナラ。」
窓から満面の笑みで笑いかける…何も言わずファミレスに戻っていった。
はじめからそうしとけ。てゆうかお兄ちゃんの前に一生現れんな汚物。
328名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 20:52:51 ID:9U2RMqv/
「それじゃ、お兄ちゃん…家に帰ろっか?」

「…そうだな。」

家まで我慢…家まで我慢…。

ファミレスを後にし、車を走らせる。

「お兄ちゃん、家に帰ったら何食べようか?なんでも作るよ?お兄ちゃんが食べたいもの言ってみて。」

「いや、ファミレスで食べたから…」

「…なに食べたの?」

「えっと…サラダとハンバーグ…かな…。」

「サラダとハンバーグ…そう…」

それぐらいなら家で作れる。
家にかえってすぐにトイレに連れていこう…全部吐き出させてまた私が作ってあげればいい。

「てゆうか、手を離せよ…片手で運転したら危ないだろ?」

「心配してくれてるの?でも大丈夫よ…私は運転うまいから。」

先ほどまでの鬱陶しい気持ちはすでに無くなり、家に帰ったらお兄ちゃんとどう過ごすかで頭がいっぱいになっていた
329名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 20:57:04 ID:9U2RMqv/
>>319の続き終わり。

ちょっとキモくなくなったかなw
暇潰しに見てくれた人ありがとうございました。
良作を待ちましょう。
330名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 22:09:02 ID:nzwqQXpA
GJと言わざるを得ない!

できればシリーズ化してもらいたいな。
331名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 22:34:57 ID:tkqOY5Pg
GJ!!
なんとまあ怖キモウトだことw
332名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 02:52:11 ID:s90RrIIl
ああこういうキモウトは大好物だ
GJ
333名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 21:16:08 ID:S7HsqvDw
>>329

GJです!
こんなキモウト大好物です!
投下します
全13レス、テキストベースで約33KB
ややNTR要素あり、獣化あり
2レスから6レスまでエロ描写ですがそれ以降は基本、バカ話
では↓
335名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 22:05:38 ID:GVYMjt6u
支援
336【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(1)】:2009/08/12(水) 22:05:45 ID:/XwQeyrG
「――きょうも帰りは遅くなると思うから、戸締りと火の元、しっかりね」
 母親に言われて、葉月(はづき)と奈月(なつき)は胸を張った。
「はーい。任せておいて、ママ」「……おいて、ママ」
「お兄ちゃんは、妹たちをよろしくな」
 父親に言われて、太地(たいち)は、ぎこちなく頷く。
「ああ……、わかった……」
「じゃあ、いってきまーす」
「いってきます」
 手を振る母親と父親に、葉月と奈月は笑顔で手を振り返し、太地もためらいがちに手を上げてみせる。
「いってらっしゃーい」「……しゃーい」
「いってらっしゃい……」
 両親が玄関を出て行き、ばたんとドアが閉まった。
「……さて、お兄ちゃん?」「……ちゃん?」
 葉月と奈月が左右から、太地の顔を見上げて、
「きょうこそ《エレクトプリズム》を守り抜いてもらうからね」「……からね」
 心の底まで見透かすような美貌の双子の眼差しに、どぎまぎしながら太地は頷く。
「あ……、ああ……」
 葉月と奈月は妖精さながらの美少女であった。
 さらさらの栗色の髪をツーテールにして、葉月は黄色の、奈月は白のリボンを結んでいる。
 小作りな顔に、部屋着の白いワンピースから伸びる、すらりと長い腕と脚。
 均整のとれた身体つきだが身長そのものは一四四センチしかない。
 睫毛の長い、ぱっちりとした眼。深い湖のような紺瑠璃の瞳。
 小さくて、かたちのいい鼻。艶やかで健康そうな桜色の唇。
 その二人が――しっかりと左右から太地に腕を絡めてきた。
 小さくてやわらかで温かな身体。ほのかに甘いシャンプーの残り香。
「わかってる、お兄ちゃん?」「……ちゃん?」
 葉月と奈月が、太地の顔を見上げて言った。
「いつまでも妹だからとか遠慮は無し。これは三人のためだよ、お兄ちゃんと葉月たちの」「……奈月たちの」
「ああ……、わかってるよ……」
 太地は頷く。
 身に沁みて、よくわかっているのだ。
 四つも年下の六年生――しかも実の妹に「そういうこと」をさせなければならない自分の弱さは……
 太地たちの母親、天野卯月(あまの・うづき)は声優であった。
 二十年ばかり前には『魔法のお嬢様バブリィメロン』という魔女っ子アニメの主役として大人気を集めた。
 現在はそのリメイク版で主人公メロンの母親役を演じて好評を博している。
 そして、太地たちの父親、陽平(ようへい)はマネージャーとして公私両面で卯月を支えていた。
 収録日には二人揃って出かけて、帰宅は深夜か翌朝になる。
 その間、太地は妹たちとともに留守番だ。
 妹たち――すなわち双子の葉月と奈月。
 そして、もう一人――二つ年下の美月(みつき)だ。
 太地は双子に両腕をとられたままリビングへ連れて行かれ、押し込むようにソファに座らされた。
 葉月と奈月が前に立って、兄の顔を見下ろす。
「美月お姉ちゃんが補習から帰って来るまでが勝負だからね」「……だからね」
 太地は渋々と頷く。
「ああ……、わかってる」
337【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(2)】:2009/08/12(水) 22:06:59 ID:/XwQeyrG
「お兄ちゃんには、どこにも行ってほしくないんだから葉月たちは」「……奈月たちは」
「わかってるよ……」
「お姉ちゃんが『してる』ようなことは、あと半年で誕生日が来ればできるよ葉月たちも」「……奈月たちも」
「うん……」
「しかも、こっちは二人で『して』あげるんだよ葉月と奈月が」「……奈月と葉月が」
「ああ……」
「だから、いまはハダカを見せるのと手とクチで『する』ので我慢だよ、お兄ちゃん」「……ちゃん」
「うぅっ……」
 太地は気押されたように、こくこくと頷く。
 葉月と奈月の真っすぐな視線が怖かった。二人は決して、兄を信用していない。
 双子は眼を見交わし、頷き合った。
 そして、二人揃ってピンク色の腕時計をはめた左手を顔の前にかざした。
 さながら魔法少女か特撮ヒーローの変身ポーズ。
 実際、玩具じみた腕時計は『バブリィメロン(リメイク版)』の劇中に登場する変身グッズそっくりだ。
 六年生にして魔女っ子アニメのヒロインごっことは幼稚なようだが――しかし。
「「イイノノセセンントト・・ププリリズズムム・・パパワワーー!!」」
 声を揃えて叫ぶと同時に、玩具の筈の腕時計が眩く白い光を放った。そして、
「「テテイイクク・・オオフフ!!」」
 次のかけ声とともに、光が葉月と奈月それぞれの全身を包み込む。
「……うわっ!?」
 たまらず太地は顔を背けた。
 やがて光が和らぎ、太地が恐る恐る、視線を戻すと――
 葉月と奈月が妖精の美裸身を晒していた。
 慎ましやかに膨らみ始めた幼げな乳房、その頂きの桜の蕾のような乳頭。
 小さな乳暈は白い肌に溶け込みそうなほど淡い色。
 衣服を身に着けていないおかげで脚の長さが際立ち、腰骨の高さもよくわかる。
 それが絶妙にウエストのくびれを形作っていた。
 双子の妖精は幼児体型など、とうに卒業している(胸の大きさを別にすれば、だが)。
 小さく縦長の愛らしい臍。
 そして、その下――なめらかな肌が両太腿の間(あわい)へと潜り込む場所。
 そこに穿たれた、一筋の柔肉の亀裂。僅かにほころび、濡れ光った桜色の花の芽が覗いているのは、まるで。
 幼子から少女への脱皮過程の一端であるかのよう。
 しかし、二人とも全裸であるわけではない。
 絹のように艶やかで純白な、肘の上までのロンググローブと太腿半ばまでのサイハイソックスを着けている。
 首にはチョーカーを着けていた。それぞれの髪のリボンと同じく、葉月は黄色、奈月は白。
 その姿は、まるで初夜に臨む妖精の姫君。寝台の上の婚礼衣装。
 そう――
 一瞬にして着衣を改めた双子姉妹は、本物の魔法少女なのだ!
「生まれたときは違えども、お兄ちゃんと葉月は」「……奈月は」「「魂の三つ子!!」」
 アニメの魔法少女の口上そのままに、声を揃えて双子は叫ぶ。
「「死すら我らを別つことなし!! 来世も再び寄り添わん!!」」
 真摯な眼差しを兄に向けて、
「「大地を照らす月、ルーミナス☆ルナ!! お兄ちゃんとの絆は永遠不滅!!」」
「あ……う……、うん……」
 太地は、かくかくと、ぎこちなく頷く。頷く以外のリアクションなどできはしない。
338【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(3)】:2009/08/12(水) 22:08:10 ID:/XwQeyrG
 葉月と奈月がソファに片膝をつき、左右から太地に身を寄せた。
「……さあ、お兄ちゃん」「……ちゃん」
 双子が頬を寄せ合いながら、兄に唇を合わせる。
 甘い吐息の、そして髪と素肌の匂いの悩ましさに、太地は肌を粟立たせた。
 ちゅっ、と、音を立てて、ついばむように唇を吸われた。
「お兄ちゃんがホントに好きなのは、葉月たちだよね?」「……奈月たちだよね?」
 ちゅっ、ちゅっ、と、左右から唇を吸われて、
「美月お姉ちゃんなんか、無理やり『やられてる』だけでしょう?」「……でしょう?」
「……んんっ……」
 太地には否定も肯定もできない。
 双子は一方的に質問するだけで、返事を待たずに唇を合わせてくるからだ。
 兄の手を片方ずつとって、葉月と奈月は、それぞれ自分の身体へ導いた。
「お兄ちゃんの好きにしていいんだよ、葉月たちの身体……」「……奈月たちの身体……」
 右手と左手、それぞれの指先が双子の妖精の秘めやかな部位に触れた。
 なめらかでやわらかで火照ったそこに穿たれている肉のスリットを、なぞらされた。
「「……んんんんっっ……!!」」
 さらに奥深く指を淹れさせられる。内部は熱く、ぬめりを帯びていた。
 ……くちゅっ……
 湿った音が聞こえて、妖精たちは羞恥に頬を染める。
「ああっ……おにぃ、ちゃん……」「……ちゃん……」
 すぐに唇を吸われた。そうしながら声を漏らすのをこらえているかのよう。
「「……んんっっ……んんくくっっ……んんくくぅぅっっ……」」
 葉月と奈月が、それぞれの空いている手を太地のズボンへ伸ばした。
 双子の手が、息の合った動きでベルトを外してしまう。
 さらにジッパーを下ろされて前を広げられ、トランクスの上からペニスに触れられた。
「……くぅっ……!」
 太地は思わず身をよじる。きつすぎるほど剛直していた。
「お兄ちゃん、選んで……」「……選んで……」
 熱っぽく潤んだ瞳で兄を見つめて、妖精たちが告げた。
「葉月がキスしたまま、奈月がクチでするのと……」「奈月がキスしたまま、葉月がクチでするのと……」
「選べないよ……」
 太地は首を振りながら答えた。
「葉月も奈月も、可愛くて大事な妹だから……」
 美月もまた大切な妹だ、という言葉は呑み込んでおく。双子の前で、それを口にするべきではない。
「じゃあ、最初はふたりで舐めてあげるね……」「……あげるね……」
 ちゅっ、と、兄の頬に左右からキスをすると。
 葉月と奈月はソファを降りて、床に跪いた。
 太地のトランクスの前が開かれ、拘束を解かれたペニスが弾けるように屹立した。
 肉茎に隆々と血管が浮き、充血した亀頭が赤黒く照り光った猛々しい男性器官だ。
「お兄ちゃん、すごい……」「……すごい……」
 葉月と奈月が顔を近づけてきて、肉茎の根元にキスをした。
 そして舌を伸ばし、左右から竿を舐め上げた。
「……ああっ……」
 ソファの上で身じろぎする兄の顔を双子の妖精が見上げ、
「ぴくぴく震えてるよ、お兄ちゃんのコレ……」「……コレ……」
339【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(4)】:2009/08/12(水) 22:09:06 ID:/XwQeyrG
「葉月と奈月が、可愛すぎるからだよ……」
 太地は曖昧な笑顔で言う。
 本当に可愛らしく、大切な妹たちに――「こんなこと」をさせている自分が後ろめたくてならない。
「「……んんっっ……んんくくっっ……んんははぁぁっっ……」」
 兄の肉竿に舌を這わせる双子の妖精。
 上目遣いに太地の顔を見て、
「……我慢しなくていいからね。いつでも出していいよ、葉月たちの顔に」「……奈月たちの顔に」
「うっ……、うん……ああっ……」
 太地は、もじもじと腰をよじる。快感がペニスから尻へ突き抜けるかのよう。
 妖精たちは舌での奉仕を続けながら、
「大好きだよ、お兄ちゃん……葉月たちだけのお兄ちゃん……」「……奈月たちだけのお兄ちゃん……」
「うぅっ……、葉月……奈月……くぅぅぅぅっ……!」
 びくんと大きく、太地は腰を突き上げた。
 さらに、びくっびくっと身を震わせて。
 ――びゅるるるっ……!
 白濁した精が勢いよく噴き出し、葉月と奈月の顔に撥ねかかった。
「はぅっ、お兄ちゃん……!」「……ちゃん……!」
 ペニスの先に双子は唇を合わせる。
 迸(ほとばし)る精液を口で受け止めようとしているのだが、ペニスを挟んでキスしているようでもある。
 奔流が収まり、どろりと最後のひとしずくが流れ出したのを、葉月と奈月は仲良く舌で舐め掬い、
「いっぱい出したね……でも、まだまだだよ……一滴も残さず搾り出さなきゃ……」「……出さなきゃ……」
 兄の精液にまみれた顔はそのままに、葉月と奈月は、すっと立ち上がった。
「お兄ちゃん、もう少し腰を前に出して……ズボン脱がせてあげるから」「……あげるから」
「ああ、うん……」
 太地は言われた通り、ソファの上で腰の位置を前にずらす。
 葉月と奈月は無言の連携で、たちまち兄のズボンとトランクスを脱がせた。さらにシャツのボタンも外し、
「上も脱がせるよ。両手、バンザイして」「……して」
 下着のタンクトップまで脱がされて、太地はほとんど丸裸になった。
「裸んぼにソックスだけ……お兄ちゃん、葉月たちとお揃いだね」「……奈月たちとお揃いだね」
 双子の妖精が再び左右から身を寄せてくる。肌が触れ合い、温もりを感じる。
 だが、和んだのはほんの僅かの間。
 なめらかなシルクのロンググローブを着けた指で乳首を転がされ、太地は呻いた。
「……くぅぅぅっ……!」
 射精したばかりのペニスが、ひくひくと震える。
 まだ堅さを喪っていないそれは、萎えることなく再び剛直することになりそうだ。
「でも、手袋はお揃いじゃないね。お兄ちゃんも欲しい、葉月たちと同じの?」「……奈月たちと同じの?」
「葉月と奈月だから似合うんだよ、そんな可愛い手袋は……くぅっ! ああっ……!」
 男の自分が乳首を責められ、声を上げて身悶えている。しかも、実の妹の手によって。
 太地は羞恥心と罪悪感に身も心も震えてしまう。
「……お兄ちゃん、可愛がって……葉月たちのオッパイも……」「……奈月たちのオッパイも……」
 双子の妖精が膨らみかけの愛らしい乳房を兄の眼前に差し出した。
「うん、じゃあ……最初は葉月から。ごめんよ、奈月……」
 ツーテールに白リボンを結んだ奈月に謝りながら、太地は黄色リボンの葉月の乳房に唇を寄せた。
 手を触れてみると、ささやかな見かけの割にやわらかだ。
 桜の蕾に口づける。
340【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(5)】:2009/08/12(水) 22:09:59 ID:/XwQeyrG
「……はぁぁぁっ……!」
 ぴくんと身を震わせ、感極まった声を上げる葉月。
 太地は愛する妹の肌から唇を離し、もう一人の愛する妹の乳頭へキス。
「待たせてごめんよ、奈月……」
「……はぁぅっ、おにぃ……ちゃん……」
 震える声で歓喜を示す奈月。
 葉月も奈月も、太地にとって心から愛する存在だ。どちらが上、下ということはない。
 それは双子同士における、お互いへの感情でも同様のようだった。
 葉月は奈月を、奈月は葉月を、それぞれ自分自身に等しい存在として尊重し合っている。
 ――なのに。
 彼ら双子と、ふたりにとって姉に当たる美月との関係は、どうして壊れきっているのか……?
「……はうぅっ!?」
 二本の人指し指で尻穴をくすぐられ、太地は悲鳴を上げた。
 葉月が眉根を寄せて怒ったように、奈月は眉の端を困惑気味に下げつつ、
「お兄ちゃん、いま心が葉月たちと一緒になかったよ?」「……奈月たちと一緒になかったよ?」
「そっ……そんなことないよ、ただ、可愛いオッパイにキスしてたらドキドキしちゃって……」
 苦笑いで誤魔化そうとする太地に、双子の妖精は今度は揃って口をとがらせ、
「嘘ついてもわかるよ、葉月たちには」「……奈月たちには」
「うぅっ……、ごめん……」
「悪いお兄ちゃんには罰だよ、お尻から搾り出しちゃうからね」「……からね」
「あ……、待って……!」
 太地は懇願したが、妖精たちは悪戯好きの本性を現したように、くすっと笑って声を揃え、
「「ダダ・・メメ!!」」
「うぅ……赦してくれよ……、それをされると声を上げすぎて喉が枯れちゃうから……」
 情けなさに涙が出そうになる。
 妹たちに尻穴を責められて逝かされるのは、男として兄として、あまりにみじめだ。
「感じすぎちゃうならいいことだよ。お兄ちゃんには枯れるまで精液を出しきってもらうよ」「……もらうよ」
 双子はそれぞれロンググローブをはめた人差し指を舐めた。
「さあ、お兄ちゃん、お股を広げて。それとも金縛りの魔法で無理やり広げる?」「……広げる?」
「うぅぅ……わ、わかったよ……」
 太地は渋々と、自ら両膝を抱えて脚をM字型に広げた。
 男性器も尻穴も妹たちの前に晒す、男として兄として屈辱極まりないポーズ。
 だが、魔法少女である妹たちの言うことに従わなければ、金縛りの術をかけられてしまう。
 そうなれば一切の抵抗を封じられた状態で、もっとみじめな仕打ちを受けることになるだろう。
「いい子だね、お兄ちゃん。すぐに気持ちよくさせてあげるからね」「……からね」
 双子は人差し指を重ね合わせ、太地の尻穴へ突きつけた。
「ひぃっ……!」
 顔を歪めて苦鳴を上げる太地に、妖精たちは、くすくす笑って、
「美月お姉ちゃんに苛められて、お尻は指を何本も呑み込めるようになってるでしょう?」「……でしょう?」
「無理やりされたんだよ! まさか葉月と奈月までお兄ちゃんを苛めたりしないだろう!?」
「苛めじゃないよ愛撫だよ、葉月たちのはね」「……奈月たちのはね」
 尻に力を入れて括約筋を締めようと足掻いたものの、これまで何度もほぐされてきた肛門の抵抗は続かない。
 ぬぷりと、二本重ねた指先が潜り込んできた。
「ぐぅっ……!」
 太地は、ぎゅっと眼をつむる。
341【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(6)】:2009/08/12(水) 22:10:54 ID:/XwQeyrG
 唇も引き結び、声を上げるのをこらえようとするが、妖精たちが空いている手で左右から乳首に触れてきて、
「ああうっ……!?」
 たまらず太地は喘いだ。
「だっ、だめだよっ……葉月っ、奈月っ! あああああっ……!」
 妖精たちは、さらに兄の乳首に口づけながら、尻穴の中では腸壁をくすぐるように指を曲げ伸ばす。
「お兄ちゃんは葉月たちだけのお兄ちゃんだよ?」「……奈月たちだけのお兄ちゃんだよ?」
「あぁぁ……うぅぅ……」
 つむった眼の端に涙を浮かべて太地は身悶える。
 尻穴を責める指の動きはピストン運動に変わった。最初はゆっくり、次第に早く――
 しかも絶妙の角度に曲げた指の腹は、腸腔に接した男性特有の性感帯――前立腺を確実に刺激している。
「あああっ!? だめっ、葉月っ、奈月っ……そんな激しくっ……!?」
「イッていいよ、お兄ちゃん。何度でもイかせてあげるから」「……あげるから」
「葉月……奈月っ! ああああああああっ!?」
 びくんっと、太地のペニスが大きく震えて。
 ――びゅっ! びゅっびゅっ……!
 再び精が迸り、双子の妖精の美裸身を汚した。
「あぁぁぁぁぁ……!」
 太地は、大きく息を吐く。また妹たちに射精させられてしまった……
 罪悪感で、眼の前が暗くなる。
 そのとき――
 かちゃり、と、音を立て、リビングのドアが開いた。
 びくりっ、と、大きく太地は身を震わせた。
 葉月と奈月も、はっとして戸口を振り返る。
 美月が立っていた。
 赤みを帯びたツーテールの髪。リボンは黒のレース。
 夏物の半袖セーラー服の胸を押し上げる豊かな胸は、妹たちとの二歳差以上のアドバンテージを示している。
 通学鞄を提げた左手には『バブリィメロン』の腕時計。
 そして――凍りついた表情の兄や妹たちとは対照的な、輝くような笑顔。
 その笑顔のまま、しかし細めた眼の奥から射るような視線を妹たちに向け、美月は吐き捨てた。
「……豚がサカってんじゃないわよ」
「……美月お姉ちゃん……」「……ちゃん……」
 葉月と奈月は顔をこわばらせながら、しかし姉から視線を逸らさないまま立ち上がる。
 太地は喉の奥から震える声を絞り出して、ようやく言った。
「……お、おかえり美月……ずいぶん、早かったじゃないか……」
「…………」
 美月は、ぎぎぃっと音を立てそうな、からくり人形じみた動きで太地に顔を向け、
「ただいまっ、お兄ちゃん♪ 早くお兄ちゃんに会いたくて、魔法でひとっ飛びで帰って来たんだよ♪」
 小首をかしげ、にっこりとしてみせる。
「夏休みの補習なんて最悪だよね? 教師どもを『GYAKU★SATSU』しなかった美月の自制心を褒めて褒めて♪」
 そう言っている美月の眼は、相変わらず笑っていないのだが。
 太地は、ぎこちない作り笑いを返し、
「そ、そっか……でも、外で魔法を使うのは母さんに禁止されてるんじゃ……」
「……家の中なら魔法は使い放題ってことかしら、そっちの泥棒豚みたいに?」
 ぎろり、と、美月の視線が再び妹たちに向いた。
 葉月と奈月は蒼ざめた顔で、しかし気丈に姉を睨み返す。
342【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(7)】:2009/08/12(水) 22:12:08 ID:/XwQeyrG
 慌てて太地はソファから立ち上がり、
「……あ、やっ、やめろよ美月も! 葉月も奈月も……!」
 妹たちの間に割って入ろうとしたが、葉月と奈月に手で制せられた。
「お兄ちゃんは下がっていて」「……いて」
 双子姉妹は美月から視線を逸らさないまま、挑戦状を叩きつけるように、きっぱりと言った。
「きょうこそお姉ちゃんの好きにはさせないよ。《エレクトプリズム》は守り抜くよ」「……抜くよ」
「豚はブーとだけ鳴いてろや」
 美月は笑顔のままに吐き捨てた。そして腕時計を顔の前にかざし、叫ぶ。
「エレクチオン・プリズム・パワー!」
 腕時計が眩く白い光を放ち、
「バインド・アップ!」
 次のかけ声とともに、光が美月の全身を包み込み、太地はたまらず眼を逸らす。
「……わあっ!?」
 やがて光が和らぐと――
 鋭角なハイレッグを尻と股間に喰い込ませ、豊満な乳房は惜しげもなく晒した紅いレザーのボンデージ姿。
 手には黒革の九尾鞭を携えた、魔法少女というより悪の魔女さながらに変身した美月が、そこに立っていた。
 そして、お約束の口上は――
 
   夜空に輝く月は一つ、
   兄照らす月も一つきり。
   その月、雲に翳りし時、
   真実(まこと)の恐怖の幕が開く。
   雲の上の月こそ狂おしく輝く!
   会敵瞬殺! ヴァニシング★ルナ、見参ッ!
 
「……あぁぁぁっ、やめろっよ、やめてくれよ三人ともっ……!」
 太地は再び妹たちの間に割って入ろうとした。
 魔法など使えない、妹たちに身体を弄ばれてばかりの情けない兄である。
 しかし兄である以上、妹同士が争うのを止める責任があるのだ。
 ましてや、争いの原因が自分にあるとすれば……
「……《ホールド・イノセンス》!」
 葉月が兄に向かって右手を差し伸ばし、そこから白い光が放たれ、太地を包み込んだ。
 正確にいえば、太地の腰回りを、だ。
「……わっ!?」
 太地は声を上げたが、苦痛や衝撃はない。
「……葉月!?」
 双子の片割れである奈月にも、葉月の行動は予想外だったようだ。
 美月も笑みを引っ込め、訝しげに眼を眇(すが)める。
 やがて、光が和らぐと――
 太地の腰回りは、白銀色に輝く褌(ふんどし)のようなものに覆われていた。
「わあっ!? なっ、なんだよこれっ……?」
 自分の腰を見下ろして慌てている太地に、
「魔法の貞操帯だよ」
 葉月が説明した。
「お兄ちゃんの《エレクトプリズム》は、これで守れるよ」
343【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(8)】:2009/08/12(水) 22:13:48 ID:/XwQeyrG
「……はッ、はッ、はァァァァァァァァッはッはッはッはッはッ!」
 美月が哄笑した。
「なるほどッ、豚にしては利口なところを見せたじゃないのさッ!」
「魔法少女が愛する人と同時に絶頂を迎えたときに生まれる魔力の結晶、それが《エレクトプリズム》」
 葉月は美月を見据えて言った。
「それを百粒集めれば、地球生まれの魔法少女でも《月の魔法界》への門(ゲート)を開くことができる」
「ええ、ええ、そうよ。そして、あたしはもう九十九粒集めたわ」
 美月は、くっくっと肩を揺らして笑う。
「あンの糞ババア、そんなルールがあるなんて教えないから、最初はお兄ちゃんに随分とムダ撃ちさせたけど」
「美月お姉ちゃんは、お兄ちゃんを苛めて愉しんでるだけだもの。お姉ちゃんのエッチには愛がないもの!」
 葉月が言うと、美月は嘲り返した。
「オマンチョでエッチもできないお子様は黙りなさい♪ あたしなんかエッチのたびに中出しだもん♪」
 自分の腹を、そこに我が子が宿っているかのように愛おしげに撫でて、
「妊娠しないのが不思議なくらいだわ♪ まあ、子供は《月の魔法界》へ行ってから作ればいいけど♪」
「葉月たちだって、すぐにお兄ちゃんの子供を作れるもん! 魔法少女の成人――十二歳まで半年だもんっ!」
「半年後には、あたしが《月の魔法界》で妊娠六ヶ月よ♪ だって、あと一粒集めればいいんだもん♪」
 美月は、ぺろりと舌なめずりした。
「それがどういう意味か、可哀想な仔豚さんたちは、わかってないみたいだけど?」
「その一粒を守り抜けばいいんだよ! 貞操帯の魔法は強力だもん!」
「そんなもの……術をかけた豚が死ねば、自然と解除されるでしょう?」
「「…………!!」」
 葉月が言葉を失った。奈月も何も言えず、唇を震わせる。
「なっ……!?」
 太地が慌てて、
「なっ、何を言ってるんだよ、美月……!?」
「《月の魔法界》に地球で犯した罪は及ばない。地球で豚を何匹殺そうが、《月の魔法界》では無罪ってこと」
 美月は太地に向かって、にっこりと笑ってみせた。
「ちなみに兄と妹の結婚も《月の魔法界》では合法だから安心してね、お兄ちゃん♪」
「そんな……そんな、僕は兄妹で結婚なんてしないぞ!」
 太地は叫ぶが、美月は笑顔で首を振り、
「《月》では魔力のない人間に拒否権はないんだよ。あたしが結婚すると決めれば、結婚は成立するの♪」
「そんなことさせない! お兄ちゃんはどこにも行かせない!」
 葉月が叫んだ。
「たとえ結婚できなくたって……お兄ちゃんと葉月たちは、この地球で幸せになるんだから!」
「あっそ。じゃあ、逝(い)ね」
 美月が九尾鞭を握った手を無造作に振るった。
「――《ギニィ・ピッグ》!」
 途端。
 どす黒く、禍々しい霧のようなものが現れ、たちまち葉月を呑み込んだ。
「……葉月!?」
 奈月が悲鳴を上げる。
「あっ、ぐぁっ……ぐむォォォォォォォォォッ!?」
 葉月の愛らしい声が、姿かたちが、たちまちおぞましいものに変質した。
 口は裂け、鼻は大きく膨らむとともに先端が潰れ、頭も膨張する一方、手足は縮こまっていく。
 それは、美月が何度も彼女をそう呼んだモノの姿――すなわち、「豚」。
344【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(9)】:2009/08/12(水) 22:15:10 ID:/XwQeyrG
 やがて黒い霧が薄らいだ。
 醜い家禽に変わり果てた葉月は、その場にうずくまって身を震わせ、眼から涙を溢れさせた。
「グフェッ、グフェッ、グフェェェェェェ……ッ!」
「葉月ッ……!!」
 奈月が双子の姉妹に覆いかぶさるようにして、その姿を兄の眼から隠そうとする。
「お兄ちゃん! 見ないであげて!」
「そいつは、ただの魔法なんかじゃないわ。《呪い》よ!」
 美月が勝ち誇ったように言った。
「つまり、あたしを殺したところで元の姿には戻らない。あたしが解除しない限りはね!」
 太地に微笑みかけて、
「まっ、ぶち殺してやってもよかったんだけど……お兄ちゃんの見てる前で、それもどうかと思って♪」
「あ……あんまりだよ、こんなっ!! 元に戻してやってくれよっ!!」
 太地は喚いたが、美月は笑顔で首を振り、
「殺さなかっただけで大サービスよ♪ 豚が一匹、どうなろうがお兄ちゃんは気にしちゃダメ♪」
「美月っ! お願いだから……!」
 太地は両手を合わせ、二歳下の妹の前で膝をついた。
 それがどんなに無様で滑稽なことか自分でもわかっている。だが、葉月を助けるために必死なのだ。
 すると、にこにこ笑顔のままで美月が言った。
「じゃあね、美月の前で、オナニーして見せて♪ 『美月たん大好き、ハァハァ』って喘ぎながら♪」
「えっ……」
 太地の顎が、かくんと落ちた。
「そっ、そんなこと、できるわけ……」
「できない? ああ、そっか貞操帯が邪魔なのね。そんなもの、こうすれば」
 美月は九尾鞭を軽く振るった。
「痛ッ……!?」
 ぺちんっ、と、鞭が当たった瞬間、太地の腰を覆う魔法の褌が消滅した。
 萎えたペニスが露出して、太地は慌てて股間を隠す。
「わあっ……!?」
「そんな……、奈月たちの魔法をあっさり無効化……?」
 奈月が愕然として声を上げ、豚に変貌した葉月も哀しげに哭く。
「グムォォォォォ……!」
「いままでは遊び半分で相手してあげてただけよ」
 美月は、奈月と葉月に向かって、にっこりと笑ってみせた。
「ママを油断させるためにもね。あたしの魔法の実力を知ったら、ママだって警戒するでしょう?」
「奈月たちでは、最初から勝てなかったの……?」
「勝てるつもりでいたの? 豚の分際で、図々しい」
 美月は、くすくすと笑い、
「でも、これで《エレクトプリズム》が揃えば地球とオサラバ。もう、ママにも手出しできない世界へ……」
「――その台詞は敗北フラグよ、美月ちゃん☆」
 戸口から声が聞こえて、美月と奈月、豚に変貌した葉月、それに太地は振り向いた。
 魔法少女――と呼ぶには年齢に難があるが、ともかく変身した姿の卯月が、そこに立っていた。
 メロンサイズの豊乳の谷間を強調する襟ぐりの深い純白のドレス姿。
 その裾は際どくも短く、すらりと長い美脚を強調している。
 足元は白いブーツ。同じく白のロンググローブをはめた手には、宝石を散りばめた魔法の杖を握っている。
 普段はロングの金色の髪は、変身したいまは娘たちと同様のツーテールだ。
345【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(10)】:2009/08/12(水) 22:16:28 ID:/XwQeyrG
 救いなのは、卯月が(魔法の効力であろうか)見た目は二十代半ばであることだ。
 とはいえ、コスプレみたいな魔法少女の姿は、スタイル抜群であるだけにむしろ痛々しい。
 救世主として現れた筈の母親に対して、そんな感想を抱いてしまう太地は罰当たりだろうか。
 でも、何度見ても実母の魔法少女姿は受け入れがたいのである……
「……ママッ!?」
 美月が愕然として声を上げた。
「し……仕事はどうしたの!?」
「休憩時間に魔法でひとっ飛び☆ 子供たちのピンチを見過ごすわけにいかないものね☆」
 卯月は言って、にっこりとする。
「《エレクトプリズム》をあと一粒まで集めた美月ちゃんが、きっと何かやらかすだろうと思ったから☆」
「そ……そっか」
 美月は笑顔をひきつらせ、しかしすぐに余裕を取り戻して、にやりと笑った。
「でも遅かったわね。葉月には呪いをかけたあとよ」
「解いて☆」
 にっこり笑って卯月が言い、美月は、「……は?」と訊き返す。
「あたしに命令? ママもわかってるでしょ、あたしの魔法の実力」
「そうね。正面からガチでやり合ったら、ママも勝てるかどうかわからない」
「でしょ? だったら、あたしに命令なんて筋違い……」
「でも解いてあげて、葉月ちゃんにかけた呪い☆」
「今度はお願いのつもり? 態度がなってないわね。このあたしにモノを頼むなら……」
「解いてくれなきゃ、お兄ちゃんを呪っちゃうわよ? えいっ☆」
 卯月が杖を振り、そこから飛んだ光の球が太地を撃った。
「……わあっ!?」
 太地が尻もちをつき、
「……お兄ちゃんっ!?」「……グムォッ!?」
 奈月と、豚に変貌した葉月が声を上げる。
「「……うそ……?」」
 美月と、我が身を見下ろす太地も声を揃えた。
 太地は葉月と――あるいは奈月とそっくりな姿に変身させられていた。しかも裸のままである。
 彼自身には見えていないが、髪のリボンは水色だ。
「……わああああっ!?」
 慌てて太地は、胸と股間を隠した。女の――しかも幼い妹の裸身なんて、いまの状況では眼の毒でしかない。
 美月が母親を睨みつけて喚いた。
「なッ……何のつもりよッ、糞ババアッ!?」
「ババアとは失礼だわ。十七歳と七十二ヶ月のママに向かって」
 卯月は、くすくす笑って、
「だから《呪い》よ。誰かさんが《エレクトプリズム》を手に入れられないようにするための」
「……ママ、十七歳に七十二ヶ月を足しても計算が合わないけど……」
 奈月がぽつりと言ったのは皆、聞き流す。
 太地が、はっと気づいたように、
「そ……そうか! 僕が女になれば、美月に《エレクトプリズム》を奪われることはない!」
「女になっただけでは意味ないんだけどね。女同士でも愛さえあれば《エレクトプリズム》は生まれるから」
「えっ!? それじゃ、いったい……」
「葉月ちゃんたちの姿ということに意味があるのよ」
 卯月は言って、にっこりとした。
346【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(11)】:2009/08/12(水) 22:17:58 ID:/XwQeyrG
「美月ちゃんが心底憎んでいる妹の姿。中身はお兄ちゃんだとわかっても、愛することができるかしら?」
「元にッ……元に戻してッ!! お兄ちゃんをお兄ちゃんの姿にッ!!」
 喚く美月に、卯月は鷹揚な笑みで答えて言った。
「それはこっちの台詞よ。葉月ちゃんを元の姿に戻してあげなさい」
「そっちが先よッ!!」
「じゃ、交渉決裂ね。葉月ちゃんは呪いの上書きで人間の姿に戻すし、お兄ちゃんは可愛いお兄ちゃんのまま」
「呪いの上書きッ!? そんなことがッ……!?」
「《月の魔法界》に伝わる秘術があるのよ。ちょっぴり手間がかかるけど」
 卯月は、にっこりとしてみせる。
「美月ちゃんの魔力は相当なものだけど経験不足。ママに喧嘩を売るのは三年と七十二ヶ月早いわ」
「ギィィィィィィィィッ!!」
 美月は九尾鞭に噛みついて地団駄踏んだ。
「糞ババアッ!! 舐めやがってッ!!」
「舐めてないからガチでは喧嘩しないで知恵を使ったんじゃない?」
 卯月は、くすくすと笑う。
「さあ、わかったら葉月ちゃんを元の姿に戻しなさい」
「そしたらお兄ちゃんも元に戻すのッ!?」
「ええ。いまの可愛い姿でもママは困らないけど、お兄ちゃんはいろいろ不便でしょうから」
「……不便というか、その……」
 妖精のような美幼女の姿になった太地は、胸と股間を隠したまま真っ赤な顔で、
「……困るよ……」
「お兄ちゃんが元に戻ったらッ、《エレクトプリズム》は貰うわよッ!」
 喚く美月に、奈月が呆れて、
「往生際が悪いよ、美月お姉ちゃん……」
「美月ちゃんの好きにするといいわ」
 しかし、あっさりと卯月が言って、太地と奈月、それに豚に変貌した葉月は愕然とした。
「なっ……!?」「ママ、なんで……!?」「グムォッ……!?」
「仕方ないでしょ。娘とガチで喧嘩して共倒れなんて、ママ、嫌だもの」
 卯月は言って、肩をすくめてみせる。
「ママはもう、ママひとりの身体じゃないし」
「えっ……それって、ママ……?」
 訊き返す奈月に、卯月は頷いて、
「葉月ちゃんと奈月ちゃんに弟ができるの。しかも双子よ、きのう検査を受けてわかったわ」
「奈月たちの弟……?」
「ええ、そう」
「生まれたら、お風呂に入れてあげていい?」
「ええ、お願いするわ」
「ミルクを飲ませてあげていい?」
「ええ」
「幼稚園に通うようになったら送り迎えしてあげても?」
「もちろんいいわ」
「小学校の授業参観も奈月たちが出てもいい?」
「構わないわよ」
「悪い虫がつかないように、幼稚園から私立の男子校に通わせても? 奈月たちがお受験の特訓するから」
「いいわよ。学費の心配はいらないわ。ママがしっかり稼ぐから」
347【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(12)】:2009/08/12(水) 22:24:50 ID:/XwQeyrG
「弟たちが大きくなっても、ずっと一緒にお風呂に入っても? 寝るのも一緒のベッドでもいい?」
「そんなの嫌だなんて言われないように、ちゃんと自分たちで躾けてね」
「弟たちが、もっと大きくなったら、奈月たちのお婿さんにしてもいい……?」
「そのときは《月の魔法界》で結婚式を挙げましょうね」
 卯月は言って、にっこりとした。
「だから、太地お兄ちゃんのことは美月ちゃんに任せなさい」
「…………、うん……」
 こくりと奈月が頷いて、太地は愕然とした。
「ええええええっ!? 母さんっ、なに言ってんだよっ!?」
「仕方ないでしょ。家族みんなが幸せになるには、これが一番なんだから」
 卯月は、にこにこしながら言う。
「それとも、おなかに赤ちゃんのいるママを美月ちゃんとガチで喧嘩させようっての?」
「僕はどうなるんだよっ!? 美月に無理やりエレクト何とかを奪われて、《月》に連れて行かれるんだっ!!」
「でも気持ちいい思いはしてるんでしょ? だから《エレクトプリズム》も生まれるんだもの」
「気持ちいいって……無理やりだよっ!! しかも実の妹にっ!!」
「あのね、太地」
 卯月は穏やかな笑顔で息子に言い聞かせた。
「無理やりも糞も妹全員とヤりまくってブッかけまくったんだろ? 一人くらいは責任とっとけや、バカ息子」
「ばっ……バカって僕は……!!」
「妹に無理やりエッチされるのが嫌ならチンポ切り落とすなり頸くくるなりケジメつけろやッ、おおッ!?」
 あくまで笑顔のままで卯月は凄む。
「毎晩、妹相手に抜いて次の日の朝は何食わぬ顔でパパとママにオハヨウゴザイマス? 舐めんな糞ガキッ!!
 イカ臭ぇパンツを洗濯機に放り込んどいて何もバレてねぇと思ってんのかッ!?」
「イカってそれは、僕の意志じゃなくて、だから無理やり……!!」
「もういい。いまからテメェを男の姿に戻す。男に戻してその腐れチンポぶった斬る!」
 卯月は魔法の杖を振り上げた。笑顔のままだが眼は笑っていない。
 太地は足がすくんで逃げることができない。
 すでにまだ見ぬ弟へ心変わりしている奈月と葉月(豚の姿)は動こうとしない。
 太地をかばったのは美月だった。卯月と太地の間に割って入って、叫んだ。
「やッ……やめてよママッ! お兄ちゃんには、あたしが責任をとらせるからッ!!」
「あんた、それでいいの? さんざんいい思いしといて、いざとなれば実の妹は嫌だとかほざくヘタレ兄貴だ」
「それでも……それでも、あたしはお兄ちゃんが好きだもん! 愛してるんだもん!」
「腐れチンポ息子はッ!? 太地ッ、あんたはどうするんだッ!?」
「ぼ……僕はっ……!」
「お兄ちゃん、あたしを選んで! あたしと一緒に《月》で幸せになろう……ね?」
 美月が太地を振り返り、潤んだ瞳で微笑みかけてくる。
 兄を愛するあまりに暴走することもある美月だが、それでも兄への愛は本物なのだ。
 太地は、ためらいながら……しかし、こくりと頷いた。
「う……、うん……」
 世間の常識的にはここで頷いてしまうほうがヘタレなのだが、この家族に常識は通用しない。
「……決まり、ね」
 卯月は魔法の杖を下ろした。そして笑顔はそのままで、ころっと元通りの口調になって、
「じゃあ、美月ちゃん。まずは葉月ちゃんを元の姿に戻してくれる?」
「あ、うん……」
 美月は頷くと、九尾鞭を振り上げ、ばしんっと地面に叩きつけた。
348【魔法の妹ヴァニシング☆ルナ(13)】:2009/08/12(水) 22:27:30 ID:/XwQeyrG
 すると、豚に変貌した葉月の全身から黒い霧が立ち上り、再びその姿が変化を始める。
 元通りの愛らしい妖精の姿へ――
「……葉月!」
 元の姿に戻った葉月に、奈月が抱きついた。
「奈月たちに弟ができるんだよ!」
「うん、うん! 聞いてたよ、奈月!」
 葉月は笑顔で奈月と抱き合い、ぴょんぴょんと二人で飛び跳ねる。
「弟だよ弟! 葉月たちに……!」「……奈月たちに……!」「「可愛い弟ができるんだ!!」」
 その様子を見た卯月は、満足そうに頷いて、
「葉月ちゃんたちは、これでよし、と。あとは美月ちゃん」
 美月に視線を戻し、
「お兄ちゃんとの《エレクトプリズム》の最後の一粒、しっかり手に入れるのよ。結婚式にはママも呼んでね」
「うん……ありがとう、ママ」
 美月は笑顔で頷き、そして頭を下げた。
「その……酷いこと言って、ごめんなさい」
「いいわよ。だってママ、まだ十七歳と七十二ヶ月よ? まだ全然、年齢のことなんて気にしてない」
「いやその七十二ヶ月って言い方自体がすでに気にしていやなんでもないですゴメンナサイ」
 美月は頭を下げておく。卯月の細めた眼から笑いの気配が消えたから。
 卯月は魔法の杖を太地に向けた。
「それじゃ、お兄ちゃんを元に戻すわ」
 杖から光の球が飛んで太地を撃つ。太地は元通りの姿に戻った。
 裸で靴下だけ履いているところまで元のままだ。
 自分の姿におかしなところがないか、きょろきょろと見回して――はっと気づいて、股間を隠す。
「わあっ!?」
 母親と美月がそばにいることを思い出したのだ。
 葉月と奈月もいるけど、二人はすでに兄のことなど気にしていない。
 卯月は、くすくすと笑って、
「そんなに慌てて隠さなくても、ママは息子の裸なんて興味ないわよ」
「ママはパパ一筋だもんね? これでまた双子が生まれたら、六人の子持ち?」
 美月が言って、卯月は笑って頷く。
「子供は天からの授かりもの、夫婦の愛の結晶よ。子だくさんで悪いことなんてないわ」
「美月もママみたいにいっぱい、子供を作りたい」
「作ればいいじゃない。お兄ちゃんに頑張ってもらって」
「……兄妹でそれは問題だとわ誰も思わないんですかそうですか……」
 太地が呟くと、卯月は笑顔のまま小首をかしげ、
「何が問題なの? ママは《月の魔法界》から来た魔法少女、お兄ちゃんと美月ちゃんはその子供よ?」
「……はいすいません愚問でした《月》では兄妹で結婚できるんですよねそうでしたよね……」
「わかっていればいいの」
 卯月は、にっこりとした。
「それじゃ、ママは仕事に戻るわ。葉月ちゃんと奈月ちゃんも連れて行くから、美月ちゃんは……」
「うん。お兄ちゃんと一緒に《エレクトプリズム》を……」
「《月の魔法界》へ行っても元気でね。何度も言うけど、結婚式には、ちゃんと呼んでね?」
 そして卯月は、葉月と奈月を伴って出かけて行った。
 太地が地球の空を見るのは、この日が最後になった。
【終わり】
投下終了
おつき合い頂きありがとうございました m(_ _)m
350名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 22:35:49 ID:hXZIsCRp
GJ!
双子は兄思いかと思いきやとんだビッチだったなw
351名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 22:45:36 ID:Uw61QbjE
兄には是非双子を選んでほしかった…
352名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:49:13 ID:H6IVN2Ta
つまらん
・三点リーダ多用しすぎ
・双子の妹が双子である意味が無い
・主人公がゴミ。美月は何故惚れた
353名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 00:02:26 ID:j+NCRCuX
>>352
お前、あんまり本読まないだろ?
ダメ出しがまるでセンスない。
354名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 00:09:01 ID:XWz9rBlA
批評してみたいお年頃だろうからほっとけ
355名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 00:12:24 ID:973ceuB1
双子の弟が生まれるなら、双子の妹達が「独り占めできる存在が生まれる」ことを強調する方が
一人しかいない兄から簡単に心変わりするのに、説得力が付いたかもしれませんね。

……と、批評してみたいお年頃に挑んでみる。
356名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 00:27:39 ID:yqdRN78E
>>353
ダメだしにまでセンスを要求するのか。本当に生き辛い世の中だ
357名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 02:21:11 ID:vy2f4nSb
>>356

ならば遠慮なく逝きなされ。
誰も求めてない批評をして、さらに批評の内容が的外れだったり納得のいかないものであれば、反論されるのは当然ですな。
358名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:15:18 ID:G1BY8bn/
面白かったっすGJ
なんてか「最終話」ってノリでしたね。

…99粒集めるまでの妹三人の死闘なんかも読んでみたかったりします。
359名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:20:20 ID:yqdRN78E
>>357
荒らし乙
360名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:30:22 ID:73oEphFw
>>359-360
荒らし乙
361名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:55:50 ID:uluCqTpH
あと二週間強もこの流れが続くのか……
362名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 04:39:26 ID:SMltb4TK
気にするな
いつもの死ねしか言えない奴が他の言葉を覚えてはしゃいでるんだよ
363名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 05:11:43 ID:yqdRN78E
364名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 06:05:32 ID:hBIrB2IK
盆に田舎に帰ったら髪被喪見ちまった。
お祓いしてもらって体の方は何ともないが、聞いた話の所為で近親相姦モノが見れなくなったorz
365名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 07:02:09 ID:NcOvekHb
>>364
と、わざわざスレに来て書いてるのもいかがなものかと思ったので
とりあえず髪被喪をググッてみた
色んなページに取り上げられてたが基本は同じ本文だった
よくできた話だけどコトリバコと一緒で創作じゃないのかな


……だから安心して愛し合お?
ね、お兄ちゃん♪
366名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 10:55:36 ID:0D0Qzs8W
髪被喪いいな。
妄想を刺激される。

兄妹がいて、母親が産んだ3人目が奇形で、凶女凶子とされて殺され、
兄妹も殺されそうになったところを逃げ、
遠い村でみなし子として生活するうちに、キモウト化してにゃんにゃん、
まで妄想した。
367名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 10:55:55 ID:gFoKmczl
おまえ・・・ググったら怖い話じゃないか。
368 ◆.mKflUwGZk :2009/08/13(木) 11:56:34 ID:HqmtN7sY
今日は休みなので真昼間から投下しますよ。
369名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 11:58:07 ID:s+Ouzomg
リアル投下wktk
370名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 11:58:09 ID:3hwBepsb
支援
371転生恋生 第十三幕(1/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/13(木) 11:59:03 ID:HqmtN7sY
 案の定というか、俺が朝目を覚ますと、姉貴が俺の股間にむしゃぶりついていた。まあ、添い寝を強要された時点で予想はしていたけどな。
 俺が勃起しているので、チャンスだと思ったらしい。だが姉貴よ、あいにくだが朝立ちは生理現象なんで、性的興奮とは関係ないぞ。
「おはよう、姉貴。さっさと飯を作ってくれ」
 姉貴はがっかりしつつも、おとなしく台所に立ってくれた。俺は寝ぼけ眼で身支度を整えたが、どうにも頭がすっきりしない。
 寝不足でふらつく俺がどうにか学校へたどり着けたのは、姉貴が腕を組んで引っ張ってくれたからだ。
「ラブラブ新婚出勤ね」
 姉貴のアホな言動に突っ込むこともできないくらい、俺は眠かった。
 だが、1時間目の保健の時間に俺の眠気はすっ飛んでしまった。原因は授業の冒頭に配布されたアンケートだ。
「はーい、今日は文部科学省の要請で皆さんにアンケートをやってもらいます。無記名ですし、プライバシーは厳守しますから、正直に答えること。いいわね?」
 草葉先生がそんな前置きをしてから、生徒全員の席を1人ずつ回って、大き目の角形封筒を配った。中を見ると、A4のプリントが5枚あって、ぎっしりと質問が印刷されていた。
 第1問 あなたが精通を迎えたのは何歳のときですか?
 ……はい?
 ……何だよ、これ?
 続けて質問を流し読みする。
 第2問 あなたが初めて自慰行為を覚えたのは何歳のときですか?
 第3問 そのときの様子をできるだけ詳しく教えてください。
 ……おいおい、いったい何の調査だ?
 遅ればせながらタイトルを見ると、「高校生の性意識調査」とあった。それにしても、こんなアンケート、去年はなかったよな。
 更に質問を見ていくと、
「自慰行為の頻度を教えてください」
「性行為の経験はありますか?」
「姉妹に性的興奮を覚えたことはありますか?」
「姉妹と性的接触をすることはありますか?」
「姉妹に性的嫌がらせを受けたことはありますか?」
などなど、際どい質問が後の方に並んでいる。
 マジかよ。こんな質問に答えなきゃいけないの? 本当に?
 そっと周囲の席を見回す。右隣の猿島は欠席していたが、その向こうの女子生徒は腕でアンケート用紙をガードしながら、顔を赤くして書き込んでいる。
 反対に左側の席を見ると、男子生徒がニヤニヤしながら書いている。
 どうやら、俺だけがこんな質問を受けたわけじゃなさそうだ。まあ、当然か。皆アンケートを配られたわけだしな。女子の場合は「初潮はいつだったか」なんて訊かれているんだろうな。
 ……セクハラじゃないのか? どんな文部官僚だよ、こんなアンケートを企画したのは。
「こら、周りをきょろきょろ見るんじゃない」
 草葉先生に注意された。しかたない、書くか。
 頑張って調査項目を埋めていったが、担当者がこの回答を見たら、日常的に姉から性的虐待を受けている男子高校生が確実に1名存在することに気づくだろう。ちゃんと対応してくれるんだろうか。
 結局そのアンケートで1時間潰れた。最後に各人が封筒にアンケート用紙を入れてシールで封をし、草葉先生が教室中を回って回収した。
 チャイムが鳴って生徒がバラバラに席を立っていく中、俺は草葉先生に呼び止められた。
「悪いんだけど、放課後に猿島さんの家へ行って、アンケートをやってきてもらえるかしら」
 俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。
372名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 11:59:44 ID:0awyAJgO
怖い話つうか、「感動の創作実話」のかほりがするげな?
373転生恋生 第十三幕(2/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/13(木) 11:59:53 ID:HqmtN7sY
「猿島さんは風邪で欠席という連絡が入っているんだけど、このアンケートは明日発送しないといけないの。だから、今日彼女に届けて記入してもらって、明日桃川君が私に提出してちょうだい」
 何故に俺? 猿島の家なんか知らないんですが。
「これが地図よ」
 いや、でも普通は親しい友達に頼むものでは?
「隣の席でしょ?」
 隣だけど親しいわけでは……と異議を唱えようとしたとき、「けいちゃん」とのデートがフラッシュバックして言葉に詰まった。
「それじゃあ、お願いね」
 草葉先生は俺にアンケートを押しつけて、教室を出て行ってしまった。次は化学の授業で移動教室だから、俺も急いで準備しないといけない。草葉先生に人選の再考をお願いする機を逸してしまった。
 まあ、いいか。どうせ放課後は暇だし、家に急いで帰っても姉貴とふたりきりだ。それなら、適当に時間を潰した方がいい。
 猿島の家にも興味あるしな。この際、引き受けてやろう。

 休み時間はずっと教室にいた。校内を出歩いて、雉野先輩に出くわすのが面倒だったからだ。例の話の真偽を確かめなければいけないと思う反面、もし先輩も電波女だったらと思うと、事実を知るのが怖かった。
 姉貴が俺にべったりで朝もゆっくりだったせいで、弁当の用意はない。俺は家から買い置きのパンを持ってきただけだった。
 昼休み、いつものように司が一緒に食事をするためにやって来たが、俺がパン1個しか持っていないと知ると、弁当のおかずを分けてくれた。
 意外と気立てのいい奴だ。初めてそう思った。
 そして授業がすべて終わり、放課後になった。俺は姉貴の携帯に「クラスメートにプリントを届けに行く」とメールを送り、地図を頼りに猿島の家へ出発した。
 学校の最寄駅であるF駅から、俺の家とは反対方向に向かう電車に乗り、3駅のところで降りた。そこからは徒歩で15分といったところだ。
 特に急ぐわけでもなく、辺りの景色を眺めながら歩く。わりと閑静な住宅街で、店の類がない。ひたすら一戸建て住宅が立ち並んでいる。
 たどり着いたのは、「猿島」と表札が掲げられた3階建て住宅だった。車が2台入る程度の大きさの庭がある。
 ……そういえば、特に電話とか入れなかったが、いきなり訪ねて大丈夫だろうか。猿島ひとりだったら、出てこられないかもしれない。
 とはいえ、今更引き返すわけにもいかないので、とりあえず玄関のインターフォンを鳴らした。返事がなければ、猿島の携帯に直接かけよう。
 すぐに返事があった。
「どちらさまですか?」
 若い女性の声がした。猿島の母親にしては若いから、お姉さんだろうか。
「あ、俺……じゃない、僕は景さんのクラスメートです。プリントを届けに来ました」
「ご丁寧にありがとうございます。少々お待ちください」
 暫くして、玄関のドアが開いた。……え? 幼女?
 3歳くらいの幼女がよちよち歩きで出てきた。まさか、この子がさっきの声の主じゃないよな。……と思ったら、すぐに大人の女性が出てきた。
「めぐちゃん、失礼しちゃダメよ。……どうぞお入りください」
「ああ、はい、どうも……」
 めぐちゃんという幼女が子犬のように俺の足にまとわりついてきたものだから、挨拶が口から出てこなかった。
 察したように、女性がめぐちゃんを抱き上げて俺を解放してくれた。
「すみません、さあどうぞ」
「失礼します」
 俺は軽く会釈してから玄関の中に入り、靴を脱いで上がらせてもらった。普通なら家の人にプリントを渡すだけだが、今回は物が物だけに、直接渡した方がいいような気がした。
 でも、会って大丈夫かな。
374転生恋生 第十三幕(3/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/13(木) 12:01:08 ID:HqmtN7sY
「ええっと、景さんには会えますか?」
「うーん、熱は下がってきてるから、大丈夫じゃないかしら」
 女性はめぐちゃんを抱いたまま、俺を先導して2階に上がり、ある部屋の前で止まった。ノックして少しドアを開ける。俺はエチケットとして中を見ないように顔をそらした。
「景ちゃん、お友達がお見舞いに来てくれたわよ」
「入ってもらって」
 けだるげな、でもわりとはっきりした声が返ってきた。女性はにっこり微笑んだ。
「どうぞ。私は下の階にいますから」
 そう言って女性はめぐちゃんと共に下の階へ降りていった。俺は深呼吸してからゆっくりドアを開けて中へ一歩踏み込む。
 考えてみれば、女の子の部屋に入るのは初めてだ。姉貴の部屋に拉致監禁されたことはあるけど、それは当然ノーカウントだ。
「……桃川君?」
 猿島はベッドの中で上体を起こしていた。髪が汗で額に貼りつき、目の光も弱かった。眼鏡をつけていないから、いつもより目が細い。
 明らかに体調が悪そうだ。さっさと用事を済ませて帰った方がいいな。
 と考えつつも、さりげなく部屋の中を観察する。カーテンとかクッションとかベッドの布団とか、ピンク系統で統一されている。部屋の隅には大きめのぬいぐるみが集められていた。
 意外なほどに女の子っぽい部屋だ。わりと大きな鏡台があって化粧品もたくさん並んでいるし、勉強机の脇の本棚には教科書とは別にファッション雑誌の一角がある。
 でも本の数が少ない。読書家だと思っていたんだが、普段読んでいる本はひょっとして図書館の本なのかな。
「わざわざお見舞いに来てくれたの?」
「いや、先生からプリントを届けるように頼まれたんだ。保健の授業でアンケート調査をやったんだ。悪いけど、明日には出さないといけない。明日は学校に来れそうか?」
「どうせ明後日から連休だから休むつもりなんだけど」
「じゃあ、今やってくれ。俺が持って帰って、明日先生に提出するから」
「熱のせいで頭がぼうっとするの。眼鏡をつけると頭痛がするから、桃川君が読み上げて、私の答えを書いてちょうだい」
 ……おいおい、それはリーズナブルではあるが、この場合はやめた方がいいんじゃないか?
「このアンケート、かなりプライバシーに踏み込むものなんだ。俺に知られるのはまずいんじゃないか?」
「面倒くさい。さっさとやって」
 俺が言うことをきかなかったからなのか、猿島は不機嫌そうにそっぽを向いた。しょうがない、ご要望に応えるとするか。どうせ第1問をきいたら気が変わるだろう。
 俺は持参した封筒から調査用紙を取り出して、シャーペン片手に読み上げた。
「じゃあ、始めるぞ。第1問、あなたが初潮を迎えたのはいつですか?」
 やっぱり、女子の場合はこういう質問か。これで猿島も自分ひとりでアンケートを記入する気になるだろう。
「小学5年生の冬休み」
 ……は? 今、お答えになりましたか?
 思わず猿島の顔をまじまじと見直したが、猿島は平然としている。というより、まるで意識していないみたいだ。俺が相手なら恥ずかしくないってことか。
 ちょっとは意識してほしいんだけどなぁ。
「第2問、あなたが自慰行為を覚えたのはいつですか?」
「そんなこと、したことないわ」
「え? そうなの?」
 信じられない。男だったら、どんなにクソ真面目なやつでも、オナニーを覚えたら病みつきになるはずだ。
 俺の場合は姉貴がいつ乱入するかわからないせいで自粛するから機会が制限されるけど、大抵のやつは毎日やってるんじゃないだろうか。俺でも覚えたてのときは1日3回とかあった。
「男の子と一緒にしないで。無闇にいじっちゃいけないって、小学校の性教育でも言われたし」
 男の場合は「おちんちんをいじってはいけません」と言われてもいじってしまうもんだが、女の子の場合はそういうものなのか。勉強になるな。
375転生恋生 第十三幕(4/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/13(木) 12:02:30 ID:HqmtN7sY
「えーっと、それじゃあ第2問がいいえ≠セから……、第5問だな。両親の性行為を見たことはありますか?」
「あるわ」
「猿島もあるのか。あれってわりとトラウマになるよな」
 俺の場合は小学校低学年くらいの頃、夜中に姉貴に叩き起こされ、無理矢理両親の寝室の覗き見に付き合わされた。俺の性欲を刺激しようとしたらしいが、これまた逆効果だった。
 ……姉貴ってやることなすこと裏目に出てばかりだな。違うか、裏目に出ることばかりやるんだよな。
「両方とも自分の親だったら、こたえたでしょうね」
「それってどういう意味?」
「今の母、さっきの女の人は継母なの」
 とっさに言葉が出てこなかった。母親にしては若いと思ったが、姉でもなかったのか。確かに、顔とかまるで似ていなかった。
「それじゃあ、実の母親は?」
「亡くなったわ。……べつに気にしなくていいわよ。もう昔のことだし」
 猿島はぼそぼそと家庭の事情について説明してくれた。猿島の父親は最初の結婚で1男1女をもうけた後、妻に先立たれ、しばらくしてから再婚した。2番目の奥さんとの間に猿島が生まれた。
 ところが猿島の母も猿島が10歳のときに病気で亡くなり、4年前に父親が再婚した。その相手がさっきの女性で、恵(めぐみ)という名の女の子が生まれたというわけだ。
 ちなみに上の兄と姉は既に社会人として独立し、家を出ているらしい。
「えーっと、つまりお父さんと今のお母さんのを?」
「私の妹を製造中の工程を見学したというわけ」
 うーむ、随分とドライなやつだな。それにしても猿島の父親って、2度も奥さんに先立たれながら、すぐに再婚相手が見つかったのか。
 しかも今の奥さんは相当齢が離れているはずだ。不運なのか幸運なのか、判断に迷う人生だな。どんな仕事をしているんだろう。
「作家なの。今も書斎で執筆中よ」
 なんでも恋愛小説の大家らしい。新聞の朝刊に中年男女の不倫をテーマにした小説を連載中なんだそうだ。全く知らなかった。猿島の読書好きは父親の影響なのか。
 そういえば、猿島の部屋に本が少ないのは何故だろう。
「本は2部屋ぶち抜きの書庫が地下にあるわ」
 3階建てだと思ったら、地下まであったのか。それにしても書庫とは恐れ入った。
 ……いかんいかん、さっさとアンケートを終わらせないと、猿島の体に障るな。
「続きだ。第6問、あなたは処女ですか?」
「処女よ。悪かったわね」
「いや、むしろ嬉しいというか、ほっとする」  
 べつに俺がもらえると期待しているわけじゃない。もちろん、もらえたら嬉しいけど。
「第7問、自分に性的魅力があると思いますか?」
「そんなの、自分じゃわからないわ」
「あると思うぞ」
 けいちゃんはコケティッシュだった。おかずにさせてもらったし。
「じゃあ、あると思うって、書いておいて」
「第8問、自分の体で自信があるのはどの部位ですか?」
「……胸は自信ないわね。お腹から腰にかけてかしら。ダンスで鍛えているから、結構引き締まっていると思う」
「俺もそう思う」
 けいちゃんのミニスカから伸びた太腿は眩しかった。絶対領域も拝めたし。
「第9問、アダルトビデオを見る習慣はありますか?」
 これは興味があるな。女の子もそういうのを見るんだろうか。
 ……あれ? 返事がないぞ。ひょっとしてアダルトビデオの意味がわからないのか? 説明した方がいいかな。
376転生恋生 第十三幕(5/5) ◆.mKflUwGZk :2009/08/13(木) 12:03:17 ID:HqmtN7sY
「……ねえ、さっきから何の質問をしているの?」
 心なしか、猿島の目つきが鋭くなった気がする。俺はもう一度保健の時間に配布されたアンケートについて説明した。
「ちょっと見せて」
 俺からアンケート用紙を受け取ると、猿島は眼鏡をかけて文面に目を通した。みるみるうちに猿島の顔が朱に染まっていく。
「何よ、これ!?」
 いや、だから保健の……。
「まるっきりプライバシーの侵害じゃないの!」
 俺もそう思うけど、お役所の指示だし。
「信じらんない! 女の子になんてこと訊くのよ!」
 自分でやることを勧めたぞ、俺は。
「せめて女子生徒を寄越しなさいよ! どうして桃川君が来たの! こんな風邪引きのみっともない顔まで見られちゃうし!」
 草葉先生の指図だ。俺が志願したわけじゃない。
「何考えているのよ、あの人は……。もう、あっちを向いていて! 自分で書くから!」
 猿島はベッドを出て勉強机に向かうと、筆記用具を取り出して、自分でアンケートを埋めていった。やっぱりさっきまでは熱のせいで頭がぼうっとしていたんだな。
 まあ、俺としては猿島の個人情報を思わぬ形で入手できたわけだが。
 俺がおとなしくドアの方を向いていると急にドアが開き、若い継母さんがトレイに紅茶の入ったカップをを載せて入ってきた。
「あら、景ちゃん元気になったのね。ふたりともお茶をどうぞ」
「あ、いただきます」
 俺は礼を言って紅茶に口をつけたが、猿島は無言で机に向かい続けている。
「あまり無理しないでね。顔が赤いわよ」
「大丈夫だから、放っておいて」
 猿島はぶっきらぼうに言った。継母さんは気を悪くした様子もなく、ニコニコしている。
「でも安心したわ。景ちゃんにもお見舞いに来てくれる男の子がいたのね。仲良くしてあげてくださいね」
 俺は恐縮しつつも、猿島が怒り出さないかと気がかりだった。けれども猿島は無反応だった。
 継母さんが出て行ってから少し後、猿島はアンケート用紙を封筒に入れて密封すると、俺に突き出した。
「これでいいでしょ。明日提出して」
「わかった。もう、無理をしないで横になってろ」
 猿島は素直にベッドに入ると、俺に背を向けた。「帰れ」ということらしい。確かに病人の部屋に長居はよくない。
「じゃあ、お大事に」
「ねえ、桃川君」
 部屋を出ようとする俺を、猿島が呼び止めた。  
「アンケートで答えたこと、誰にも言わないで」
 猿島は俺に背を向けていたから表情はわからなかったが、耳まで真っ赤になっていた。怒りと恥ずかしさが混じってるんだろうな。
「あんなこと他の人に知られたら、恥ずかしくて死んじゃうから」
「言わないよ。安心しろ」
「絶対よ」
 俺が鬼畜なやつだったら、猿島の弱みを握ったことで、色々要求するんだろうが、俺にはそんな度胸はなかった。
「ふたりだけの秘密ってことにしとこう」
「……できれば桃川君にも忘れてほしいんだけど」
「努力するよ。でも期待しないでくれ」
 忘れられるわけがないけどな。
「……今日はわざわざ来てくれてありがとう」
 部屋を出るときに、かすかにお礼の言葉が聴こえたような気がした。継母さんに挨拶してから猿島邸を後にしたが、帰りの電車の中で猿島の回答を反芻したのは言うまでもない。
 忘れない努力をしてるじゃないか、俺って……。 
377 ◆.mKflUwGZk :2009/08/13(木) 12:04:24 ID:HqmtN7sY
投下終了です。次回の投下まではちょっと間が開きそうです。
378名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 12:22:55 ID:/t+d0XGG
GJ!
次回の投下も楽しみに待ってますね。
379名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 12:53:38 ID:UyCt26Rx
猿島のターンでしたか。GJです!

犬の後輩ちゃんマダー?
380名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 16:16:37 ID:pQPMQglD
あ…姉の出番を……プリーズ
381名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 21:45:42 ID:0D0Qzs8W
桃太郎きてたーGJ
規制解除されてよかったですね。

猿の態度が急に変わったのは、
途中まで熱で頭が動いてなかったからでしょうか。
自分も犬の後輩が一番好きです。もふもふしたい。
382名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 00:36:25 ID:QlaR4IaH
司は初潮が来たら前世の記憶を思い出したと言っていたから、当然けいちゃんも記憶は戻ってるわけだ。

にしても態度が今ひとつわからんな。
383名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 00:57:51 ID:osdvwsKw
GJ!
桃太郎はまじで聖人だなwww
384名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 06:19:00 ID:SCWHgxja
>>365
スレチだからあんまりアレだけども。

自分がまとめサイトで話読んだ時に創作じゃないかなんて思ったんだけどな。
自分が見たのは妙に全体的に白っぽくて、んでなんか見るだけでもう打っ倒れそうになるほど気持ち悪くなってさ。
385名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 11:08:38 ID:5Z513he7
あ、お兄ちゃん起きた?
じゃあさっそく…え?何する気だって?決まってるでしょ。起き抜けの一発を…ちょ、ちょっと、暴れないでよ!お兄ちゃんのちんぽしこしこ出来ないでしょ。
ま、両手両足をベッドに縛り付けてあるから、暴れたってタカが知れてるんだけどね。
え?止めろって?今更何言ってるの。先に手を出してきたのはお兄ちゃんじゃない。
あたしが寝てるところに夜這いしに来てさ、イヤって言ったのにあたしのお口もおっぱいもおしりもおまんこも、まるでおもちゃみたいにぐちゃぐちゃにしてくれたよね?
理性の無いケダモノみたいだったよ。まあ、おクスリの量を間違えた私の責任なんだけど。
でもね、あたしがエッチになるクスリを入れたのは、本当は最初の一回だけなんだよ?
それ以降はなぁ〜んにも入れてないの。えへへ♪あたしを襲ったのも、あたしに中出ししたのも、ぜ〜んぶお兄ちゃんの意思なんだよ?
ま、あたしも最初の一回で、お兄ちゃんとのセックスがクセになっちゃってたから、どんとこいってかんじだったんだけどね。
さ、おしゃべりはこの辺で終わりにして、早速エッチしよ?あたしもうがまんできなぁ〜い!
えへへ♪やっぱりお兄ちゃんに愛されるより、お兄ちゃんを愛する方が性に合ってるみたい♪あたしって結構攻撃的な女なんだね?自分でもびっくりだよ。
そうだ!折角だから選ばせてあげる。お兄ちゃん、最初の一発はどこで出したい?おクチ?おっぱい?お尻?おマンコ?
あたしのおクチでじゅぽじゅぽされたい?だ液いっぱいの口マンコでどろどろにされたい?妹の舌と口で、お兄ちゃんのおちんぽ食べられたいかな?
それともおっぱい?Eカップのおっぱいで、ぷるぷるのおっぱいでおちんぽ潰されたい?女子高生の胸に挟まれてスリスリされたい?妹のぷにぷにおっぱいまんこに、こってりザーメンどぴゅってしたい?
おしりでもいいよ?ギチギチのアナルで絞られたい?ぬぷぬぷのケツ穴に入れて射精したい?妹のケツマンコに、お尻で妊娠するくらいザー汁吐き出したい?え?大丈夫、ちゃ〜んと準備してきたから♪
やっぱりマンコ?お兄ちゃんのちんぽの形に、完全に広がっちゃった下のおクチでヌきたい?毎日ズコバコされて、すっかりお兄ちゃんのおちんぽの味を覚えちゃった、妹マンコをツンツンしたい?お兄ちゃんの子種汁を毎日飲まされた、妹の子宮に孕み汁出したい?
どこでもいいよ?選ばせてあげる♪あ、もしかして『全部がいいなぁ』なんて思ってる?や〜ん!お兄ちゃんのエッチ!ヘンタイ!鬼畜!ぜつり〜ん!
しょうがないなぁ。こんな性犯罪者予備軍のお兄ちゃんは、あたしがちゃ〜んと面倒見てあげなくちゃ!
あたし以外の女の子に手を出さないように、あたし以外の女の子を襲わないように、毎日たっぷり絞ってあげなくちゃね!
え?大丈夫!あたし以外の子を襲ったら犯罪だけど、あたしはお兄ちゃんの妹だもん!妹を襲ったって犯罪にはならないんだよ?
その代わり、お兄ちゃんはずっとあたしの物ね♪今までは一方的に愛されるだけだったけど、やっぱり愛し、愛されるのが本当の夫婦だと思うの。
え?『近親相姦』?やだなぁ♪近親相姦は犯罪じゃないんだよ?だって近親相姦に対する処罰って無いんだもん!コレは本当だよ?
何か無駄話してたらたまらなくなっちゃった♪ねぇお兄ちゃん、最初はやっぱり妹マンコでいい?いいよね?だってホラ、あたしのあそこ、もうべとべとだよ?
お兄ちゃんのおちんぽハメハメして欲しくて、よだれを垂らしてるの。お兄ちゃんのちんぽで栓をしないと、愛液垂れ流しになっちゃうの。
それじゃあいくね、お兄ちゃん?あ、言い忘れてたけど、あたし今日危険日なんだよ?中出しされたら子供できちゃうね?ま、いっか。どっちみちお兄ちゃんはあたしのもの、あたしはおにいちゃんのもの。これは世界が終わるまで永久不変の宇宙の真理なんだから!
な〜んてね!そんな電波みたいなことはこの際どうでもいいの!あたしもう限界なの。お兄ちゃんの精液飲まないと、プルプルザーメン子宮に中出しされないと気が狂っちゃいそうなの。
それじゃあ入れるよ?お兄ちゃんのぱきぱきちんぽ、女子高生の妹マンコに…入れ…はぅぅぅん♪
んはっ…入っちゃった…お兄ちゃんのチンポ、あたしのオマンコに…ひはぁっ!
んっ…ごめんね、お兄ちゃん。あたし、イっちゃった♪やっぱりお兄ちゃんのちんぽすごいね?入れただけでイっちゃったよ♪
え?解ってるよ。あたしだけ満足してないで、自分もイかせろっていうんでしょ?勿論そのつもりだよ♪
さあ、ゆっくりしていってね?あたしのだぁ〜い好きな、お・に・い・ちゃ・ん♪
386名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 14:24:27 ID:qo6vcfqk
こういうの読むと
俺って淫語属性あるんだなぁって思わされる
387名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 15:48:52 ID:/h7hO9cY
gj
388名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 20:48:44 ID:mUxEFEjW
淫語いいよキモウト淫語
おっきした
389名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 01:04:26 ID:0dVP229r
結構前にここでSS書いてて、最近また書こうかなって思ったんだけどさ、
これは姉妹スレでも言えることだけどチョット前から、違う男の子を
愛するキモウト、姉が作中に複数出てくるSSが多いけど、
最初は斬新で面白いな〜〜とか思ったけど
今は何かワンパターン化してて正直あんまり面白いと思わないんだよね。
確かに、それだけでSSが深くなる気はするけど、俺はハーレム系が
書きたいんだよ。みんなはどうなの?
390名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 01:08:21 ID:4baEv9M5
だんだんわかってきたパターンがある
お兄ちゃんが優しければ優しいほど、常識的なら常識的なほど、妹は残忍になる
391名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 01:16:14 ID:P6K8xa7t
>>390
兄の失望と絶望と妹の狂気も比例する
392名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 01:23:16 ID:dfHhyDWR
兄が優しくなくて非常識ならエロくなるんですね
393名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 01:28:48 ID:P6K8xa7t
>>392
そりゃ、兄が受け入れてくれる訳だからな。

このスレに限らずヤンデレってのは、受け入れてくれないかも(擦れられるかも)しれないって不安を通り越した苦しみの、その向こう側に真価があると思う。
394名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 01:29:02 ID:Y33Ll66c
>>389
御託はいいから投下しろよ
395名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 01:33:52 ID:VCimSiEJ
>>390
妹の目からすれば、自分は愛されている、だけど私の欲しい愛はこれじゃない状態ですね。
これは愛されていないより堪えるものかもしれません。
396名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:03:24 ID:0dVP229r
>>395
みたいな妹ってキモウトなのかな・・・
俺が書いてた頃は、とにかくどんな手段でもして兄の意思なんて
無視して既成事実やらを作るのがキモウトって感じだったのに。
てか今の長編SSって、キモウト、姉のキモさを書くんじゃなくて
ストーリーにキモウトが出てくるだけってSSが多すぎる気がするんだよ・・・
何か恋敵を殺したら、それはキモウトみたいな・・・
キモウトのキモさだけをシンプルに楽しむなら、ここよりvipの方が
最近はまだましな気がするんだよね。
397名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:08:59 ID:NC0t9Rxx
トリップと作品名を晒してみなさいよ
職人偽装してるんだったら他の職人さんたちに迷惑だからやめとけ
398名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:23:37 ID:DAeOrad6
SS書く人間は、スレの作風が好みでないと感じたら、自分で好みのものを書く
そうやって自分の欲求を発散させる
そういうもんだよ
399時給650円:2009/08/15(土) 04:14:48 ID:QuQdxvrs
空気を読まずに投下します。
400桔梗の剣(その3):2009/08/15(土) 04:18:22 ID:QuQdxvrs

 新谷又十郎と桔梗の兄妹が楯山藩江戸屋敷に到着したのは、彼らが国許を出発してから十四日後のことであった。

「やっと……着いたんだね……お兄様……」
 桔梗がぽつりと呟く。
 屋敷内の長屋に案内されたのち、固く結んだ草鞋の紐を小柄で切り、タライで足を丁寧に洗うと、妹はそのまま畳の上にへたり込んだ。
「あ〜〜疲れた〜〜」
 そのままだらしなく横になって声を上げる桔梗の様子は、少なくとも既婚経験のある女性にはまず見えない。しかし、そんな妹の見苦しい様を見ても、又十郎は苦笑いを浮かべるだけで何も言わなかった。
 無理もないだろう。
 楯山から江戸までの旅程、およそ百余里。無論、その行程のほとんどが徒歩である。いかに道場で鍛え上げた桔梗であるとはいえ、疲労を覚えるのは当然なのだ。
 又十郎も、そのまま荷物を放り出すと、大小の刀を腰から引き抜き、その場に座り込む。

 馬や船を使えば、もう少し早く到着できたかも知れない。
(いや、それはないな)
 移動に金を使えば、その分ワリを食うのは食費や宿泊費だ。
 不眠不休のみならず食うや食わずの体調では、江戸までの長い旅程を完遂することは不可能だったに違いない。
 
「足……痛えな」
「うん、それにお腹もすいたよ」
「お前、汗臭いぞ」
「お兄様に言われたくないよ……」
 
 疲労が全身を蝕んでいる。
 このままだと自分も桔梗も翌朝まで寝入ってしまうだろう。だが、そうもいかない。
 又十郎は体を起こし、立ち上がった。
「お兄様……?」
「お前は寝ていろ」
 自分を召喚した父、江戸家老、そして藩主の山城守――自分たちが江戸屋敷に入ったことは、もうこの三人に報告が入っているだろう。すぐにお召しが掛かるはずだ。出来ればその前に身を清め、この汗と埃まみれの服を着替えたい。
 押入れを開き、蒲団を出す。
「夕餉の時間には起こしてやる。とりあえずは休んでいろ」
「お兄様は……?」
「おれはまだやることがある。色々とな」

「――そいつは後回しだ」

 聞き覚えのある錆びた声に振り向くと、又十郎は思わず声を上げた。
「親父殿……?」
「殿の御前では父上と呼べよ、又十郎」
 見事な白髪頭に皮肉な笑みを浮かべた初老の男が、長屋の引き戸から顔を覗かせている。
 新谷源左衛門――又十郎と桔梗の父は、そのまま、いそいそと居ずまいを正そうとしている桔梗にも声を掛けた。
「桔梗、そちにも話がある。わしらが帰ってくる前に風呂でも浴びて、汗を拭っておけ」
「え?」
 桔梗は、反射的に間の抜けた声を上げた。

―――――


(まだ歩くのか)
 うんざりするほど長い廊下を親子は歩く。
 大名屋敷といえば一般的に数千坪――大国になれば一万坪以上の敷地も珍しくない――の広大なものが当然とされているが、それでも江戸まで歩き詰めだった自分たちからすれば、やはり忌々しい。
 渡り廊下を抜けると階段を上り、そのまま角を左に曲がる。
(おれ一人では、多分もう長屋まで帰れないかもな)
 彼がそう危惧するのも当然だろう。疲労に肩まで浸かった肉体は、普段以上の脳の回転をあくまで許さず、しかもここはまるで迷路のようだ。
 又十郎はちらりと父を見る。
 源左衛門は勝手知ったる足取りで廊下を進む。自分にとっては迷宮に思えても、父の背中に迷いは無い。まるで自宅のように屋敷の構造を熟知しているのだろう。
401桔梗の剣(その3):2009/08/15(土) 04:19:32 ID:QuQdxvrs

「そろそろだぞ」

 そう言われた瞬間、又十郎は思わず表情が硬直する。
 父親は、そんな息子に悪戯っぽい目をやりながら、薄く笑っている。
「そう堅くなるな。――と言っても、無理な相談か」
 当たり前だろう。主君に謁見を果たすのだ。緊張を覚えない家臣はいない。例外があるとすれば、日常的に主君に接している、ごく少数の者たちだけだ。だが、その名誉ある少数派に父が属していることは言うまでもない。
 しかし又十郎は知っている。
 新谷源左衛門の剣が急速に衰えを見せ始めたのも、山城守の御側近くに出仕するようになってからなのだ。その事実を父はどう思っているのだろうか。

(あの親父が……変われば変わるものだ)
 又十郎が知る過去の源左衛門は、もっと剣呑な人物であった。
 道場ではともかく、屋敷内では家族に声を荒げるような粗暴な男ではなかったが、それでも――家祖伝来の村正を腰にぶち込んで山に登り、三日後に飄然とクマの首をぶら下げて帰ってくるような――そんな狂気を内包した男であったはずだ。
 もっとも、そんな程度の非常識さが無ければ、自分を廃嫡して妹に婿を取って家を継がせたいなどと言い出すはずも無い。
 無論、そんな源左衛門を、又十郎はその心底では決して許していない――。


「そちが源左の倅か。おもてを上げい」

 その腹の底から響くような声には力があった。
(お声を戴いた――おれごときに)
 そんな封建時代特有の感動に肩まで浸かりながら、又十郎は命令どおり顔を上げる。
 視線は真正面に主君には向けず、やや下を見る。高貴なる身分の者をまともに「見る」という行為は、不遜・無礼にあたる動作だからだ。
 だが、胸を満たす喜悦とは別に、それでも又十郎は視界の端に入る主君――久世山城守為綱の観察を怠ってはいない。

「余が山城じゃ。しかし……そちは親父には似ておらんの」
 そう言って笑う主君は、秀麗な容貌をした気品溢れる武門の公達――という世間一般の大名のイメージからは程遠い雰囲気の所有者だった。
 服の上からでも分かるその筋骨隆々とした体格、太い眉や分厚い唇、低音の声など、一見して海賊の若親分のような雰囲気がある。だが、それでいて、その目に灯る学者のように冷静な輝きは、彼が単なる精力漢でないことを充分に裏付けていた。
(なるほど、……これは親父が入れ込むのも分かる気がする)
 又十郎はそう思った。
 が、そんな又十郎の胸中を見抜いているかのように、山城守は皮肉っぽく言う。
「どうじゃ、初めて見る己の主君は? やはり気に入らぬか?」
「めっ、滅相もございませんっ!!」
 思考の間もなく反射的に又十郎は、深く頭を下げる。
 山城守はそんな彼をにこにこと見つめながら、源左衛門にいたずらっぽい視線を向ける。
「やはり源左には似ておらんの。いや、むしろ親父に似ずによかったと言うべきか? このような率直さは親父にはないものじゃからのう」

「どうやら、愚息は母親に似たものかと思われます」

 ブザマにまごつく息子の代わりに、父の源左衛門が主君に言葉を返す。
(みっともねえ)
 羞恥で又十郎の頬が熱くなる。
 だが、そんな彼を、山城守は鷹揚に見つめ、
「では、腕の方はどうじゃ? こっちの方まで母親似ではまずいのではないか?」
 と言った。
 三年前に免許皆伝を許されております、と又十郎は答えようとしたが、その発言はむしろ源左衛門に向けたものであったらしく、父は又十郎を見ながら山城守に苦笑を返す。
「どうにかこうにか、と言ったところでございましょうか。なれど、昔のそれがしに比べれば、まだまだと言う他はありませんな」
「老骨がまた飽きずに昔自慢か。確か――御前試合で十人抜きを決めて優勝したのは、おぬしが、この倅くらいの歳の頃であったか?」
 山城守が、やれやれと言わんばかりの口調を源左衛門に向ける。『御前試合』とは源左衛門の剣名を決定付けた、数十年前の諸流大試合のことであろう。
「じじいが自慢できることなど昔話以外にはありませんからの」
 そう言って父は笑った。
402桔梗の剣(その3):2009/08/15(土) 04:22:22 ID:QuQdxvrs

 まるで相手が主君だとは思えぬほどに肩の力を抜いた会話。
 だが、元服を済ませたばかりの小僧ならともかく、妻さえ娶って久しい成人男子にとっては、自分の頭越しに会話がなされることなど決して愉快なことではない。
 ましてや、その片方の相手が実の父親ともなれば、なおのことだ。
 だが、そんな源左衛門を苦々しく思っていたのは、どうやら又十郎だけではなさそうだった。

「しかし新谷、これは笑って済ませる話ではないぞ」
 そう言ったのは、山城守の傍らに控える――見るからに目付きの悪い、痩せぎすの中年男。
「殿が所望されたのは、確かな腕を持った新谷流の手練であったはずじゃ。たとえおぬしの息子といえど、未熟者に殿の護衛など任せられるものではないぞ」
(護衛?)
 突然の未熟呼ばわりにさすがにムッとしたが、それでも、何の話だとばかりに又十郎は父を見る。

「意地の悪いことを申すな犬飼。いま源左が申したのはあくまで謙遜じゃ謙遜。そこな又十郎が本気で役に立たぬ者ならば、いかに源左でも江戸には呼ぶまいよ」
(犬飼? ――ではこの方が江戸家老の犬飼主膳様か)
 山城守が、犬飼と呼ばれた男を苦笑しながらたしなめる。その男も一応は「畏れ入りましてございまする」と平伏するが、主君に向ける視線と源左衛門に向ける視線、さらには又十郎に向ける視線の質が露骨に違う。
 しかし、それも犬飼主膳ならば分かる話だ。
 かつて主膳は――犬飼兵馬と名乗っていた青年時代――例の大試合で源左衛門に打ち負かされた十人の一人であったと聞く。その屈辱をいまだに忘れられないとは、当時の源左衛門相手によほど酷い負け方をしたのだろう。

 しかし、護衛というのも、又十郎にとってまんざら分からない話でもない。
 大体、剣の達者をわざわざ国許から召喚したところで、任せられる仕事など限られている。上意討ちの刺客か、さもなければ刺客防ぎの護衛か、さもなくばその両方か、といったところであろう。
 だから不意の話ではあっても、特に又十郎は驚かなかった。
 だいたい、武士の仕事に前後の事情説明など不要だ。命令されたことを忠実に、確実に遂行する。それでいいのだ。余計な情報を末端の実行者が知る必要は無い。
 だが、そんな又十郎の心中を無視するように山城守は、
「なんじゃ、そちは親父からまだ何も聞いておらんのか?」
 と驚くように言うと、説明してやれとばかりに、犬飼主膳に顎をしゃくった。
 主膳は、さすがに(宜しいのですか?)という視線を山城守に向けるが、
「構わん。余は隠し事が嫌いじゃ」
 と鷹揚に言い放った。



――文久二年一月十五日早朝。のちに坂下門外の変と呼ばれる事件が勃発した。

 桜田門外で暗殺された大老・井伊直弼に代わって幕府の実権を握った安藤対馬守信正は、井伊の開国路線を引き継ぎ、さらに幕威を高めるため朝廷の岩倉具視らとともに公武合体政策を推進――その政策に基づき、時の将軍・徳川家茂と和宮親子内親王の婚姻を画策する。
 世間の攘夷志士たちは激憤した。
 井伊が刺され、幕府のトップの首がスゲ代わっても、彼らの開国路線は変更の兆しを見せない。それどころか、皇女の一人を――たとえ征夷大将軍であるとはいえ――武家に嫁するという。これほど朝廷の権威を侮辱した決定は、攘夷派にとって空前絶後であろう。
 そして、事件は起こった。
 一月十五日早朝、五十人以上の供回りを連れた安藤の行列を、水戸浪士四名を含む六人の刺客が襲撃、あわやというところで城内に逃げ込んで難を逃れたが、――それでも桜田門外の変に続くこのテロ事件は、幕府の威信を根底から揺り動かしたと言っていい。
403桔梗の剣(その3):2009/08/15(土) 04:23:50 ID:QuQdxvrs


「実は、安藤殿の老中罷免は、内々にじゃがすでに決定しておる。大公儀の権威を著しく失墜せしめたというのがその理由じゃが、それに応じて行われる人事刷新の空気の中、殿の幕閣入りが、とある筋より密かに打診されておるのじゃ」
 犬飼は、半ば誇らしげに又十郎に語る。
 それはそうだろう。
 幕閣と呼ばれる江戸幕府のトップは、ただ門閥と付け届けだけでなれるものではない。奏者番・若年寄・大坂城代・京都所司代などの要職を歴任した後、西ノ丸老中を経てようやく老中格としての扱いを受ける資格をもつに至る。
 だが、そんな過程をすっ飛ばしてイキナリ幕閣として声が掛かるなど、平時では考えられない乱暴な人事だ。しかし、それすらも認めさせてしまうのが、世評に名高い山城守の俊才ゆえということであれば、家臣としてこれほど鼻が高いこともない。
 じゃがのう――と、犬飼の言葉を引き取る形で、山城守が眉をしかめる。

「正直、有難迷惑と言えぬことも無い。幕閣入りするということは、御公儀の開国・公武合体路線に賛同するということじゃ。つまり、安藤殿と一味同心の輩と世間の攘夷派どもは見るじゃろう。なら――余の籠先に狼藉者がいつ斬り込んで来ぬとも限らぬ」
(なるほど、そのための護衛か……)
 又十郎は頷く。
「その方らには、余の命をしっかり守ってもらわねばならぬ。たとえ本音はどうあれ、やるからには余としてもきちんとした仕事を残したい。そのためにも、井伊殿や安藤殿のような悲惨な目には遭いたくないでのう」

―――――


 その後、新谷親子は退出を許され、ふたたび迷宮のような回廊を歩かされたが、又十郎はもはや疲労を忘れていた。
(あれが我が殿か……)
 又十郎は、何とも言えない感慨に耽りながら、先程の記憶を反芻する。
 貴種とも思えぬあの天空闊達の御人柄。
 いきなり幕閣に任命される英明さ。
 心を読まれたかとも思えるほどの鋭敏さ。
――あれほどのお方が我が藩を統べておられるならば、楯山藩に何の憂いもない。
 又十郎はそう思う。
 しかし、まだ疑問は残る。
「親父殿」
「――ん?」
「なぜ殿は、今この時期におれたちを呼んだのだ?」
 山城守の幕閣就任に伴う身辺警護ならば、これほど唐突な召集をかける必要はなかったはずだ。現時点では、安藤対馬守の罷免さえ実施されていない。いくら何でも自分たちを江戸に呼ぶのが早すぎると思うのだが……。

「それはワシの仕業じゃ」
「親父殿?」
「門人どもを召喚するについて殿は、さほど急がずともよいと仰せられた。そちの申す通り、安藤殿の罷免が公に内示されてからでよいとな。じゃが、思うところあってワシは『特に早急に』江戸に来るようにと書状に書いた」
「え……?」
「そう書けば、そちと桔梗だけは何を置いても飛んでくる。――そう踏んでな」
 あまりに唐突な源左衛門の言葉に、又十郎はぽかんとなった
「……なぜ?」
 
 そう問われて、父が笑った。
 しかもそれは、瞳の奥に一点の闇を感じさせる、きわめて不快な笑みであった。

「そちと桔梗に申し聞かせる話がある。江戸でなければ――とは言わぬが、少なくとも国許ではできん話じゃによってな」
――いったい何のことだ?
 とは、又十郎は訊けなかった。
 彼は源左衛門の物言いに――そして笑顔に――猛烈なまでの嫌な予感を感じていたのだ。
「部屋に着けば聞かせてやる。そう焦るな」
 そう言うと、父はふたたび息子に背を向けた。
404桔梗の剣(その3):2009/08/15(土) 04:26:25 ID:QuQdxvrs

 長屋の一室に帰った又十郎と源左衛門を待っていたのは、六畳一間の狭い一室いっぱいに兄妹二人分の蒲団を敷いて、その上で半睡状態になっていた桔梗だった。
「寝てませんから。寝てませんってば!」
 まるでオウムのように、奥座敷からやっと帰ってきた父と兄に弁解を繰り返す桔梗であったが、それでもたった今まで妹が惰眠を貪っていたのは、その腫れぼったいまぶたと充血した瞳、そして涎の匂い漂う口元を見れば一目瞭然だった。
(このたわけが……!)
 又十郎も、そして父も苦々しい顔をするが、それでも何も言わなかった。
 そもそも桔梗は、女の身でありながら強行軍を重ねて、本日やっと江戸に到着したばかりなのだ。疲労がたまっていて当然だ。主君との謁見を果たしている自分たちが帰ってくるまで、手持ち無沙汰だった彼女がうたた寝をしていても、誰がそれを咎められよう。

「でも親父殿、何故おれたちはこんな狭苦しい長屋に押し込まれねばならないんだ?」

 話題を妹から逸らすため――と言えばなんだが、しかし又十郎は江戸参着時からかねて胸に抱いていた疑問を、父にぶつけた。
 当然と言えば当然過ぎる疑問であろう。
 大名の江戸屋敷と一口に言っても、この上屋敷は藩主のための私的空間か、もしくは対外的・儀礼的な目的で使用される公的空間がメインであり、江戸詰めの藩士や勤番侍の居住空間の多くは、別邸というべき中屋敷や下屋敷に存在する。
 しかし、藩主の傍近くに仕える一部の家臣たちの屋敷は、上屋敷に別棟で建てられており、そこには当然、新谷源左衛門の屋敷も存在するはずであった。又十郎たちがわざわざ上屋敷に草鞋を脱いだのは、当然、父の屋敷に滞在できると思ったためだ。
 だが、着いてみれば、通されたのは狭苦しい長屋の一部屋。それも個室であるならばともかく、兄妹二人で一室である。扱い的には、もはや小者・中間とはいかずとも足軽に近いものがある。
 又十郎はいまだ正式に源左衛門の後を継いだわけではないが、それでも父の名代として道場で稽古をつけ、城にも出仕する身である。一人の「社会人」として簡単に納得はできない。
「説明があるならば、是非承りたい」

 源左衛門は、そんな又十郎を鼻で笑って、顎を撫でた。
「そう難しい顔をするな」
「親父殿」
 桔梗ほどに態度には出していないが、いいかげん又十郎も疲れている。
 どんな理屈であろうと、そう簡単に自分たちの予想外の冷遇を納得する気はない。
 だが、源左衛門が口に出した言葉は、さすがに彼の想像の斜め上を行き過ぎていた。
「男女のしとねは広けりゃいいってものじゃない。程よく狭いくらいの方が盛り上がるってもんだ」


 一瞬、父が何を言ったのか又十郎には分からなかった。
 そして、彼が理解していないことを承知してか、さらに被せるように父は言葉を継いだ。


「わからんか? 江戸にいる間そちたち二人は兄妹である事実を忘れ、一組の雌雄のつがいに戻れと申しておるのだ。この一室は今宵からそちたちの愛の巣になる。その間に兄妹睦み合い、子を成せ。――これは父としてではない。新谷一刀流総帥としての命令じゃ」


 分からない。
 父の言葉は、まったく又十郎には理解できない。


「桔梗、国許よりそちを呼んだはそのためじゃ。ここでは誰の邪魔も入らん。必ずや男子を産め。――大杉の娘などには望むべくもない――そちの天才を十二分に受け継いだ、新谷一刀流の名を天下に鳴り響かせる強い男児を、じゃ」


――それが、久し振りに会った実の息子と娘に対し、父が命じた言葉だった。
 
405桔梗の剣(その3):2009/08/15(土) 04:30:44 ID:QuQdxvrs
投稿は以上です。
406名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 04:31:12 ID:dfHhyDWR
GJ
まさかのキモウト大勝利
407名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 06:37:42 ID:wEd5lGon
>>405
おお、剣の人だ! GJです!
お、親父殿……、まだまだ狂気の沙汰は現役だったのか……
まさかの外堀確保に、桔梗の狂喜する姿が目に浮かぶ。
反対に兄のほうは、心中穏やかじゃないだろうから、次回からの確執が今から楽しみです。

それにしても桔梗、前回の壊れぶりが嘘のように可愛らしいな……


>>389 >>396 違和感を感じるなら、自身が納得できる作品を(ry
昔語りも好み語りも、あんまりしつこく繰り返すものじゃないよ。やりたきゃ掲示板で存分に。
テーマが違うからスレ違い、ならともかく、方向性的に別板向きなんて、乱暴すぎるし。
408名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 07:37:56 ID:MX9Dg7ju
た、種ぇ……
409名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 07:59:41 ID:sd/bKgmO
>>405
GJ!
まさかの親父殿の公認ktkr
410名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 09:48:27 ID:UALtuOuw
ああ
あれこそはキモウト必勝の構え
親父殿公認のお姿…
411名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 10:35:51 ID:+HMwwkfi
長旅で気が緩んでる桔梗かわゆすw
よだれまで垂らして無防備すぎ(^q^)

しかし幕末の話だったのか
久世というと坂下門外の変で安藤信正に連座して久世広周が失脚してるけど
山城守の楯山藩久世氏はそれとは関係のない一族(という設定)なんだろな
412名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 11:20:44 ID:VCimSiEJ
というか、三万石クラスでいきなり幕閣ってことは譜代の中でも結構な家だよね?
そこのご指南役が村正片手に熊ハントを放置してるって、殿様も相当の豪傑だ。
413名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 11:29:36 ID:qBh4Vsu8
葵「謀ったのう・・・、謀ってくれたのう・・・」
414名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 11:36:37 ID:F83BeJ7+
>>405乙&GJ!!
流石はキモウトの親父殿、近親相姦など屁でもないぜ!
415名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 15:59:54 ID:0n0hTvSK
お、親父殿……
GJ!!
416名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 17:41:51 ID:Ea9wKGlS
親父殿の人気に嫉妬w
お美事です! お美事に御座います親父殿ッ!
417名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 18:52:25 ID:r2QfpSlV
GJ!
三つ指をついての膝行は武家の子女の嗜み
「お父上 この佳き日を迎え 幸せにございまする」

桔梗か… 美しゅうなった喃

又十郎「誰か 誰かある〜〜っ」
418名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 21:24:41 ID:wVw5Qqs3
親父殿GJ!
しかし近親姦おkなら最初から廃嫡せずに子供を生ませればよかったのでは?
それともその間に桔梗がいろいろ手をまわしたのか、何にせよ次が待ち遠しい
419名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 21:26:37 ID:MX9Dg7ju
これは又十郎がチュパ衛門になったり父のうどんがぽろりとこぼれたりする予感に満ちてるな
420名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 01:03:20 ID:9FMx8xwR
親父殿よくやった
桔梗ENDも現実味を帯びてきたぜ
421名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 01:41:04 ID:jxgXJhRU
>>405
葵が好きな俺としては親父マジ余計なことしやがったって感じ。
いまさら近親相姦おkなんて言うくらいなら最初から嫁とらすなよな。
だいたい桔梗もサイアク。可愛げのねえ妹なんざ願い下げだね。
やっぱキモウトはツンでもデレでも可愛くなくちゃ。
422名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 03:37:52 ID:F7jYG6L0
>>421
あ〜あ、知らねえぞ。お前の後ろにいる妹さんが超怒ってるみたいだけど俺は知らねえからな
423名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 04:14:41 ID:368xKuHd
近親相姦は事実上奇形児が生まれる確率は高くは無いしな。
とりあえず親父殿と作者GJ
424名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 04:25:33 ID:kBXf1n0+
>>405
GJ!
そうまでして剣豪を作っても、すぐに剣の時代が終わる。親父殿あわれなり。

>>422
421の妹はきっと可愛いんだろうよ。
425名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 05:39:34 ID:3hmWwGHb
親父殿それは悪手にござる!
地獄の淵より深い情念をもつキモウトを産む機械扱いとは、神をも畏れぬ所業でござる

それはさておき、剣才が欲しいなら親父殿と桔梗が作ったほうがよくね?と思った某は腹を切ったほうがいい
426名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 06:26:26 ID:Y+2GDbnZ
>>425
そんな暴挙(父娘相姦)を提案しようものなら、親父殿は数秒後には肉片になりそうだしな……
というか親父殿、桔梗の又三郎への執着に気付いてそうだし……
ますます続きが楽しみになってきた。


現在なんだか携帯からスレ(もといエロパロ板)に繋がりにくくなってる気がする。
更新したら必ず1回は接続エラーでるし。時間的なものだろうか?
余裕がなくなってきたので、また夜になってから投下しに来ます。
427名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 19:51:08 ID:2b87He04
やっぱりキモウトはいいものだなぁ
428名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 20:20:36 ID:qXtrQscZ
嫉妬に狂った義妹に結婚を迫られたい

はずがない
429名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 20:40:24 ID:lj6zuuS5
>>428
そんなこと言ってると嫉妬に駆られた実姉に監禁調教されま
430名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 20:41:03 ID:jc2NsX07
これって、又十郎からしたら切腹ものの屈辱では?
431名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 20:56:36 ID:F7jYG6L0
般若のお面を被って日本刀を背負った白袴の女人(妹)が泥棒猫を殺めんと暗い夜道をさ迷うとか
極道の妻的な姉に罠にはめられ網走刑務所に入れられた妹が男を奪い返しに脱獄して復讐だとか
マフィアの娘(妹)が兄(後継者)の婚約を阻むため婚約者(別組織の娘)を始末しようとしたりとか
キールビール的なヤッチマイナー的な平成残酷殺戮劇場な物語も悪くないと思うんだ
432名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 22:15:44 ID:DUL2bWxT
トランスポーターの見過ぎだ
433名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 00:37:03 ID:cChJ0o0k
>>430
まぁ新谷一刀流の名を継ぐにはお前じゃ役不足って言われてるようなもんだからな
自分の妻である葵も女として馬鹿にされてるようなもんだし

キモウト桔梗にとっては(゚д゚)ウマーな展開だがw
434名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 01:03:07 ID:oUsD1dJC
なめざえもん
435名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 01:08:41 ID:naBGJ8gO
ずきんちゃん
436名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 01:15:06 ID:82uxS9Kh
場所が江戸屋敷。しかも(藩主のための特別な場所である)上屋敷とくれば、
又十郎に桔梗との子をつくれと言うのは親父の個人的な意思ではなく、
どう考えても山城守の考えなんだろう。

いくら親父殿が豪放快活な武人といえど、封建社会においては主君に気に
入られた、他の奴隷より少しだけ自由の利く奴隷に過ぎない。
「腹を切れ」と言われたら腹を切るしかない。そんな奴隷が主君の寝所を
その一部とはいえ、主君に何の断りもなく自分の好きに使うなど出来る
はずがない。

もしも男児が生まれたら、又十郎と桔梗は消されるんだろうなぁ
437名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 01:31:34 ID:SF46Kas/
無形氏が書いた止揚の赤って保管庫にない?
438長編『あまいあね』第3回 ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 03:53:18 ID:H5+wPLbx
セルフツッコミ>>426
……あ〜、しまった又十郎の名前間違えてる。だれだ又三郎って?
>>437
紅白まんじゅうの1人の話だったっけ?
たしか作者本人の希望で保管されなかった、かと思う。

まだ接続状態が悪いけど、とりあえず長編の続きを投下。
タイトルは『あまいあまいあねのあかし』。だいたい23.2KBくらい。
今回も妙に戦闘?っぽい描写があるので注意。

次レスより投下。7レス借ります。投下終了宣言あり。
439あまいあまいあねのあかし (1/7) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 03:56:30 ID:H5+wPLbx
 
「……………………あれ?」
 ある日の朝、気が付いたら目が覚めていた。
 何を当たり前のことを。なんて言われたらそれまでだけど、そうじゃない。
 ボクの朝は、夢の中にせよ現実にせよ、何か一悶着あってから始まるんだ。
 今回みたいに、ただ普通に目が覚めることなんて、ないのが普通なはずだ。
「とりあえず、いつもいるはずの姉さんは、何処にいるんだろう?」
 そう、まず最初にして最大の違和感は、姉さんがボクの部屋にいないことだ。
 いつもはボクを起こしに来て、そのまま居着くのが日課だというのに。
 
――コン、コンッ。
 そんなことを考えているうちに、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
 どうぞ、と返事をする前に、姉さんが扉を開けて、ボクに言ってきた。
「おはよう、静二。朝ごはんができたから、降りてらっしゃい?
 今が夏休みだからって、あんまり遅くまでだらけちゃ駄目よ?」
「え? あ、うん。わかったよ姉さん。先に降りて待ってて?」
「わかったわ。冷めないうちに食べてちょうだいね」
 そんな会話を交わした後、姉さんは普通に扉を閉めて、階段を降りていく。
 ボクは姉さんに言われた通りに、とりあえず着替えようとして――
「ってちょっと待って姉さんっ!? 一体何がどうしたってのさあ!?」
 あまりの違和感に反応が遅れたけれど、とりあえず姉さんの後を追いかける。
 当の姉さん本人は、作った朝食をリビングに運び終えて、待ってくれていた。
「どうしたの静二? 朝からそんなに大声を出したら、近所迷惑でしょう?」
「あ、いやその、確かにご近所の皆さんには申し訳――って違うっ!?
 ボクが聞きたいのは、なんでそんなにいつもと態度が違うかってことだよ!!」
 
 不自然だった。ボクの姉さん――雨音静香は、とにかくボクに甘えたおす人だった。
 それがたった一晩のうちに、ここまでキリっと――凛としたキャラに変貌している。
 正直言って、違和感まみれというか、ボクのほうが落ち着かなくて困る。
 どう対応しろというんだ。こんな姉さんは今まで見たことがないぞ!
「……変かしら? 別に私は、静二のために『理想的な姉』になろうとしてるだけよ?」
「り、りそうてきな……あね……?」
「……私は今まで、ず〜っとずっと、静二に甘えたおしてきてたでしょう?
 でもね、さすがに今の年齢になったらもう駄目かなって、昨日の夜思ったの。
 だからさしあたって、まずは必要以上に静二にベタベタしないようにしたの」
 それで今の態度なのか。けど、どう考えても不自然すぎるよその喋り方は。
 一人称が固くなってるし、無理に甘えをなくした口調に、ボクを呼び捨てって――
「というか、いつもの朝のドタバタがなかったのは、なんか物足りないというか……」
「これからは、朝から静二の布団に潜り込むのは、もうやめようって思ったの。
 よく考えたら、1学期は朝から甘え倒したせいで、遅刻が多かったでしょう?
 やっぱりそんなんじゃダメ。私も静二も、高校で留年するわけにはいかないしね」
 いつも(ボクに甘えるため)遅刻やずる休みを推奨する、姉さんらしからぬ発言だ。
 いったい何がここまで、姉さんを真人間(?)の道へと駆り立てているんだろうか。
 
「だって静二もみんなも、私のことを『妹みたい』って苛めるんだもの。
 私は静二の『お姉ちゃん』なのよ? そこだけは譲れないもの……!
 だから私がちゃんと姉だってこと、みんなに証明しないといけないんだもの!」
「苛めたって、もしかしなくても、昨日のアレのこと……?」
 ボクがそう言うと、姉さんはジト目になりながら、こちらを睨んでくる。
「それ以外に何があるっていうの? このいじめっこ静二?」
「あの時は本当にゴメンナサイ、姉さんっ!」
 あまりにも姉さんが怖いオーラを発していたので、思わず謝ってしまった。
440あまいあまいあねのあかし (2/7) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 03:58:30 ID:H5+wPLbx
 
 ソレは昨日、ボクら姉弟と騒太と鳴神さんの4人で集まり、街に出かけた日。
 夏休み明けの文化祭のために、必要な物を買い出しに行った時のことだった。
「あの、姉さん? なんでそんなにボクの腕に、抱きついてくるのかな?」
「……だって、せっかくのお出かけなんだもの。デートなんだもの。
 静二くんと離れないように、がっちりとくっついてるだけだもん」(ぎゅっ)
 もはやなんだか意味不明だ。突っ込みどころが多すぎる。
 先月のあのキス(事故)の件を許して以来、ずっとこんな感じだから困る。
 それより後ろにいる2人とも、黙って――笑ってないでなんか言ってよ?
「あ〜……『なんか』。これでいいか? 正直甘々すぎて見てられんわ」
「うふふ♪ じゃあ『このバカップルどもめ!』って言ってあげるわ♪」
 あまりに投げやりな2人の返答。というか悪意さえ感じる。イジメですかコレ?
 
「それにしても貴方たち、知らない人から見たら、どう見ても恋人同士だよね?」
「……違うよ。そんなんじゃなくて、単に仲の良い姉弟なだけだよ?」(ぎゅ〜〜)
「まあ姉さんの言うように、普通の姉弟なはずだよ? 最近自信がなくなってきたけど」
「おいおいしっかりしなよ静二〜? 最近静香さんに毒されてんじゃねえか〜?」
 毒されてるとか失礼な。人様の姉をなんだと思っているんだ騒太め。
 一方の姉さんも気分を害したのか、ボクの腕にくっついたまま反論する。
「……わたしは、静二くんのお姉ちゃんなの。だから静二くんにくっついてるの。
 姉が弟のことを可愛がって、何か問題でもあるの?」(ぎゅ〜〜)
 自分が姉であることを殊更強調して、さらに容赦なくくっついてくる姉さん。
 さすがにボクの腕が痺れるほど強く抱きつくのは、勘弁してほしいところだ。
「ん〜でもさぁ……、静香って、どう考えても妹キャラだよね?」
 鳴神さんのその言葉に、何故か姉さんの表情が固まった。
「え? えっ? な、何いってるの硝子(しょうこ)ちゃん?」
「だってそうでしょ? 今の静香は、兄を取られまいとする妹みたいなんだもん」
「まあ確かに、頼れる姉かと言われたら、違うと言わざるを得ないというか……」
「それでも甘えられるだけ良いじゃないか。姉でも妹でも一向に構わないだろ?」
 まるで火がついたように、ボクら3人が揃って好き勝手言って姉さんを弄る。
「……ち、違うもん。わたしは静二くんが可愛いだけだもん。お、弟として……」
 対して姉さんも反論はしてくるけど、抱きついたままなので説得力があまりない。
「まあそういうわけで、基本的に静香は妹キャラ、ということて異論のない人〜!」
「「うぃ〜〜っす!!」」
「だ〜か〜ら〜っ、わたしは静二くんのお姉ちゃん、なんだってばあぁぁぁぁ!?」 
 
 
――以上、過去回想終了。現在に至る。
 どうも姉さんには、変な意味で『姉』としての矜持があったらしい。
 いつもはあれだけ甘え倒して、姉の威厳なんて皆無なのに、だ。
 ……あれ、ボク結構ヒドイことを言っているような気がするな?
「……まあそういうわけで、これから私は静二に甘えないようにします。
 甘え過ぎて束縛なんてしないから、貴方も自分の好きなようになさい?
 じゃあ、夜の花火大会まで、ゆっくりくつろいでなさい?」
 そう言いきって、黙々と朝食の跡――食器をシンクに運ぶ姉さん。
 そのまま帰って来ずに、キッチンから水を流す音が聞こえてくる。
 いつもなら食器はボクが運んで、洗うのは夕飯の後まとめてなのに。
 どうやら本気で、きちっと大人らしく――姉らしく振る舞うつもりらしい。 
 姉さんがちゃんと独り立ち?するのは、賛成といえば賛成なんだけど――
「姉さん……。やっぱり何か勘違いしているというか、間違ってるよ……」
 そんなボクの呟きは、姉さんが食器を洗う音にかき消されていった。
441あまいあまいあねのあかし (3/7) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 04:00:39 ID:H5+wPLbx
 
 今夜は毎年夏の恒例、花火大会&夏祭り。
 ボクらの住む町――というか県には、海がないかわりに大きな川がある。
 その大きな川を使って、毎年1000発あたりの花火を打ち上げるのだ。
 特に名物のないボクらの住む街にも、この日だけはなにかと人が集まる。
 そんな集客力に便乗して、夜店が出始めたのが、今の夏祭りの始まりだ。
「姉さん、もう準備できた? 一緒に夜店巡りしたいって言ってたでしょ?
 早くしないと、花火の打ち上げが始まったら、ゆっくりできなくなるよ?」
「ええ、もう準備はできたわ。私はいいから、先に歩いていってなさい?」
 浴衣姿の姉さんが、玄関先からボクに言い放つ。
 姉さんは夏祭りには毎年、浴衣を着てボクと出向くのを楽しみにしている。
「先にって……、姉さん今日は一緒に行くって、約束してたじゃないか。
 今日は浴衣に草履も履くんでしょ? それでボクに追いつけるの?」
「あ……、ああそうだったわね。じゃあ戸締りするから、2分ほど待ってて」
 
 結局今日1日、姉さんは(間違っていると思われる)姉キャラを通し続けた。
 ボクとしてはべったりくっつかれなかったぶん、体の疲労は少なかった。
 かわりになんだか妙な違和感と窮屈さで、心の疲労のほうが多かったが。
 当の姉さん本人は、見た感じ自分のキャラ作りに適応はできているようだ。
 まあそれでも、本来のドジな部分がところどころで見え隠れしているけど。
「お待たせ、静二。どうかなこの浴衣、私に似合ってるかしら?」
「うん、薄めの色合いが姉さんの黒髪と白い肌に映えて、とても綺麗だよ」
「……そう、ありがとう静二。それじゃあ早速行きましょう?」(ぷいっ)
 そう言って、さっさとボクより先に歩き出す姉さん。
 ううん、不意打ちであのキャラを崩壊させたかったけど、失敗か……。
 というか今の科白、自分で言っておいてかなり恥ずかしいな……。
「……早くしなさい静二。お祭りの夜店は、間違いなく逃げるのよ?」
 まあ、姉として頑張るとは言っても、お祭り好きは変わらないようで。
「はいはい、今行くよ姉さん。だからそんなに焦らないでよ!」
 呆れつつ慌ててボクも、早足で歩く姉さんの後に続いた。
 
 
 夏祭りの夜店が並ぶのは、打ち上げ花火が一番よく見える高台の手前あたり。
 途中で通る神社の参道との分岐点あたりに、多くの夜店が密集している。
「やっぱり今年も人が多いわね。静二も私からはぐれちゃだめだよ?」
「いや、はぐれるっていうなら、どちらかというと姉さんのほうが危険でしょ?」
「べ、別に私は大丈夫よ。背が低いからってすぐ見失うなんて思わないで欲しいわ」
 誰もそこまで言ってないんだけど。やっぱり背の低さを気にしてたのか姉さん。
 腕に抱きついてくれていたほうが気が楽だけど、本人にその気はないらしい。
 しょうがないので、ボクのほうから歩み寄って、姉さんの手を繋ぐ。
「ちょっと静二。私は大丈夫なんだから、子供扱いは……」
「これはボクが姉さんに甘えてるだけだから。ボクが手を繋ぎたいだけだから」
「……まあ、そういうことなら構わないけど」(ぎゅっ)
 あ、なんとなくだけど、今の姉さんの扱い方が、わかったような気がした。
 
 夏祭りの夜店巡りは、例年通りとても賑やかで楽しそうだった。
 本当は騒太や鳴神さんも誘いたかったけど、2人とも用事があるらしかった。
 というわけで、去年までと同じく、姉さんと2人きりのデートなんだけど――
 どうにも姉さんの態度がアレなので、ボク的にはいまひとつ楽しみきれない。
「おう。いつもの名物、雨音姉弟じゃねえか? どうした浮かない顔して?
 いつもなら姉が弟にべったりの癖に、今年は喧嘩でもしてんのか?」
 こんな風に、毎年顔なじみの射的屋のおっちゃんにまで心配された。
「……うん、まあそんな感じで。おっちゃん、ボクと姉さん1回ずつで」
「まいど〜! 500円でなんか、仲直りできるもん当たればいいな?」
 ここでの戦果は、姉さんは全部ハズレ、ボクは花火セット一式だった。
442あまいあまいあねのあかし (4/7) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 04:03:13 ID:H5+wPLbx
 
 こんな感じで去年と違うせいか、今年は珍しくハプニングに見舞われた。
 姉さんが履いてきた草履の鼻緒が、突然切れてしまったのだ。
「……別に、裸足でも歩け――ないかな。地面があまり舗装されてないし」
 まあ土の地面に尖った砂利のささる道を、裸足で歩くのはまずいと思う。
「しょうがないなあ。じゃあ姉さん、もう夜店巡りは諦めようよ?」
「……わかった。残念だけど、歩けないんじゃしょうがないもの。
 でも最後に、さっき見かけたジャンボたこ焼きを買ってきてよ?
 それを食べながら一緒に、例の場所へ花火見物に行きましょう?」
「わかったよ、じゃあそこの簡易ベンチに座って待っててよ?」
 
 一応姉さんの草履の代わりになるものを探したけど、夜店の中にはなかった。
 家に取りに帰るには、ちょっと距離があり過ぎるから、さすがに無理だ。
 でも今の姉さんは、ボクにおんぶされるのも、拒否しそうだしなあ……。
 とか悩みながら、とりあえず姉さん所望のジャンボたこ焼きを買って戻ると――
 ベタというかなんというか、姉さんがチャラそうな男3人に、ナンパされていた。
「やめてください。私はいま男の子と待ち合わせしてるんです。
 あなたたちと遊ぶつもりなんてありません。帰ってください」
「え〜いいじゃねえかよほっといて。俺らと楽しく遊ぼうぜ〜?」
「そうそう、女の子を1人で待たせるヤツなんて、ロクな奴じゃないって!」
「まあそうだな。花火を見るいいスポットを知ってるから、一緒に行こうか?」
 ……あ〜なんというか、ベタなナンパ野郎たちだ。
 地元の連中はあまり姉さんをナンパしないから、たぶん他所から来た連中だな。
 ちなみに姉さんが地元でナンパされないのは、モテないからじゃない。
 姉さんが『砂糖菓子(シュガーシス)』と呼ばれるブラコンで有名だからだ。
 ついでに言うと、ボクもその影響で、女の子に敬遠されている――らしい。
 騒太や鳴神さんからの情報だけど、本気で信用していいものかどうか。
 
「お〜い! 迎えに来たよ、ねぇ……」
「遅いわよ静二、恋人を待たせちゃ駄目じゃないの?」
 こ、恋人!? ……ってああ、そういう筋書きでナンパを断るのか。
「なんだよ、こんなナヨっちい男なんか、どうでもいいじゃんよぉ?」
「そうそう、俺たちのほうがよっぽど楽しく、あんたを楽しませられるぜ〜?」
 ……この連中、苛立つというか、ものすごい嫌悪感を覚えるな。
 でもこの場合、ボクよりも姉さんのほうがキレやすいんだよなぁ。
「黙っててください、この○にゃ○ん共。静二を馬鹿にしないでください。
 どうでもいいあなたたちなんか、とっととお引き取りくださいね?」
 うわぁ。姉さんの七不思議のひとつ、『ボクのことでマジギレ状態』だ。
 なぜかボクがけなされると、後先考えずにブチ切れる、姉さんの悪い癖だ。
 どうやら理想のお姉さん像を心がけていたのも、一時的に忘れているらしい。
 ……いや、弟のために怒るのって、姉として正しい姿勢なのかも?
 
「あんだとこのアマ!? 優しくしてりゃあつけあがりやがって!?」
「かまわねえよ、攫ってしまえばこっちのもんだ!!」
「やりすぎんなよおまえら? あとそっちの男、適当にボコっとくか」
 あ〜まあ、そりゃ当然向こうもブチギレるよな。面倒くさいけれど。
 そう思いつつ、まずは姉さんを守ろうと、前に出ようとすると――
「大丈夫だよ静二。お姉ちゃんが守ってあげるから、ね?」
 そんな感じで、姉さん本人に全身で遮られてしまった。
 いや姉さん、どうやってその人たちを沈黙させるのさ? それも裸足で。
「…………って、しまった。いつものアレ、家に置いてきちゃった!?」
 いつものアレが不明だけど、いきなり姉さんがピンチになったらしい。
「何やってるんだよ姉さんっ! 危ないから早くボクの後ろに――」
 そうこうしているうちに、ナンパ男の1人が、平手を振りかぶっている。
 たぶん姉さんを殴って、無抵抗にして攫うつもりなんだと思う――って!?
443あまいあまいあねのあかし (5/7) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 04:06:06 ID:H5+wPLbx
 
「ああもうっ!? 危ない姉さんっ!?」
 とりあえず姉さんを庇いながら、ボクは手にしたアレを投げつける。
――べちっ、べちゃっ、べちょっ!
「「「うあっちいぃぃぃぃぃぃ!!?」」」
 うん、我ながら相変わらず、無駄にコントロールは抜群だ。
 手に持っていたジャンボたこ焼きは全部、目の前の3人組に命中した。
 もちろん、さっき買ってきたばかりの超アツアツなので、全員に効果は抜群だ。
 ああでも、あれ6個で400円もした美味しそうなヤツなのに。もったいない……。
 とりあえず今のうちに逃げよう。でももう少し時間稼ぎが欲しいな――そうだ。
「おじさん! 悪いけど3回ぶん600円で――球を何個かもらうよっ!!」
 店主のおじさんの返事を待たず、真横のスーパーボウル掬いの水槽から球を数個拾う。
 素手で水槽から掴んだから、ちょっとおじさんに怒鳴られる。今回は勘弁してほしい。
「……っ、てめえ何しやがんだ!? もういい、てめえからぶん殴って――」 
 復活したナンパ野郎の言葉を無視して、拾った球を周囲に勢いよく投げつける。
 周囲――目の前の3人組には一切当たらない、明後日の方向をめがけて。
「ん? なんだそりゃ? 一体何がしたいんだオマエは……」
 3人のうち1人が立ち止まって、不思議そうにこちらの様子を窺っている。
「はっ! かまわねえからとっととやっちま――ぐぇっ!?」
「でっ!? な、なんだ今の――いだぁっ!?」
 構わずに飛び込んできた2人が、ボクの子供だましのトラップに引っかかった。
 スーパーボウルをバウンドさせて、まったく別の方向から、時間差でぶつけたのだ。
 しかもこの類の跳弾は、直接投げつけて中てるよりも痛いから、効果は抜群だ。
 実際、中り所の悪かったらしい2人は、その場でひるんだりうずくまったりしている。
 ちなみに、ちゃんと弾道は計算して投げたので、他の見物人には中らない――はずだ。
 
「さ、今のうちに逃げるよ姉さん。走れないんだったら、ボクが背負ってくから!」
「……う、うん。でも私は…………」
 ああもう、こんな時にまでボクに甘えまいとしているのか、姉さん……!?
「おまえらひるむな! 所詮はゴム弾の投擲だ! 単に痛いだけだろソレ!?」
 とか言っているうちにも、1人冷静なヤツが、残りの2人を立ち直らせている。
 そもそも、予想外の角度から中てて、数秒間ひるませるくらいの罠だったしなあ。
「ああもう時間がない……! 悪いけど姉さん、口を閉じないと舌噛むよ!?」
「え? 舌噛むって――きゃあっ!?」
 最後までうじうじしていた姉さんを、無理やりボクの背中に乗せて、走り出す。
 さっきの騒ぎを聞いて集まった人垣は、すんなりと道をあけてくれた。
 おかげでボクと姉さんが逃げるのには、なんの支障もなかった。
 もっとも、あの3人組もそれに続いて、追いかけてきたようだけど。
 
「なんだなんだ? オマエら2人とも追われてんのか?」
 逃げる途中に、さっきの射的屋のおっちゃんに声をかけられた。
「……そうなんです! 後ろのナンパ男3人に追われて――」
 ボクの背中の姉さんが、簡単に状況を説明する。
 すると射的屋さんは1人で頷いて、懐から何かを取り出した。 
「商売道具の模擬銃は貸せねぇけど、火薬球くらいはやんよ!」
 そう言って数個の火薬球(サイズ大)を投げてよこす射的屋のおっちゃん。
「俺ら夜店の商売人は、どんな奴相手でも、祭りの客には手が出せねえ!
 祭りの実行委員会に連絡して、警備組呼んどくから、しばらく逃げな!」
「わかった!! ありがと、おっちゃん!!」
 射的屋のおっちゃんにお礼を言って、ボクらは夜店の喧騒から抜け出した。
444あまいあまいあねのあかし (6/7) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 04:08:44 ID:H5+wPLbx
 
 夜店や花火見物客たちの喧騒から離れた、石畳の細い路地まで逃げる。
 ここは神社の敷地内。でも今は花火が近いのか、人通りはない。
 もちろん、例の3人組も後ろに続いて、まだ追ってきている。
 さすがに姉さんを背負って走るボクの脚も、そろそろ疲れてきた。
 このままだと、警備組が来る前に、あいつらに追いつかれてしまう。
「ねえ静二。もう脚にキてるんじゃない? そろそろ降ろして――」
「だが断る。降ろしたって壊れた草履じゃ、姉さんは走れないだろ?」
 このへんも尖った砂利が多い。裸足で走ると、足の裏を怪我しかねない。
 だから、人気のないここで、今度こそあの連中を足止めする。
 それも警備組がすぐに駆けつけてくるような、派手な方法で。
 
「悪いけど姉さん、さっき射的屋で当てた花火を出してくれない?」
「……いいけど、何に使うのよこんなの?」
 姉さんからの質問には答えず、受け取った花火を地面や石壁に仕掛ける。
 それも一見しただけではわからないように、うまく隠しながら。
 そうこうしているうちに、例の3人組がようやく追いついてきた。
「っぜぇ……っ、っは〜……っ、やっと追いついたぞこんクソガキが!」
「は〜っ、は〜っ、ようやく観念したか! 待ってろ今からボコ……」
 そう言って近づいてくる連中を無視して、ボクは火薬球を投げつける。
 狙い通り、地面に叩きつけた火薬球は衝撃で弾け、連中の動きを数瞬止める。
 その間にボクは、反対の手に隠し持っていたモノに、こっそりと火をつける。
「うわっ、いてぇっ!? 癇癪だまか? 爆竹か!?」
「くそっ、もう許せねぇ! 少し痛い目みせてやる!」
 言いながら、怯みつつも懐からバタフライナイフを取りだす男。
 危ないのはあんたらのほうだ。気軽に刃物なんか出すんじゃない。
 武器を手にしたせいか、勝ち誇った顔で、こちらに近づいてくる連中。
 けれど途中で足に引っかかった何かを見て立ち止まり――絶句する。
 それと同時に、ボクは火のついたねずみ花火を、連中に向けて見せた。
 
「って待て待てっ!? まさかオマエ、それをこの中に?」
「ひぃ……っ、そそそれだけは勘弁してくれ……!?」
 必死で謝ってくる男連中。だけど許す気はないし、点火しちゃったからもう遅い。
「悪いんだけど、姉さんを傷つけようとする奴らに、容赦する気はないんで」
 笑顔で言って、連中の足元――さっき花火を仕掛けた辺りに、ねずみ花火を投げる。
 投げつけたねずみ花火は火を吹きながら回転し、仕掛けた棒花火に引火し――
――ばしゅゅゅう!! パンパンパンっ!!
――ぴひゅうぅぅぅ……! ぴひゅうぅぅぅ……!
「「「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
 連中の悲鳴を聞きながら、ボクは姉さんを背負ったまま、その場を離れる。
 花火セット全部(線香花火以外)を利用した、色とりどりの火柱と火球の柵。
 基本的に内側の人間に当たらないように仕掛けたのに、こらえ性のない連中だな。
 あの花火のトラップは、連中の動きを封じつつ、警備組を呼ぶためのものなのに。
 よいこのみんなは、火のついた花火は人に向けてはいけません。夏のお約束。
 
 とりあえず逃げ出して、少し離れた林の陰から様子を窺う。
 さっきの場所で、放心した男3人組が、警備組らしき人たちに連行されている。
 ありがたいことに射的屋のおっちゃん、3人組のことしか報告しなかったらしい。
 丁度いいや、花火騒ぎもあの連中のせいになったし。残骸は後で掃除しに行こう。
 遊んだ花火は全部、自分たちの手で片づけましょう。夏のお約束その2。
「……ねえ静二、私が言うのもなんだけど、ちょっとやりすぎじゃない?」
 ふと背負った姉さんから、そんな感じに諌める言葉を投げかけられる。
「……うん、まあちょっとムカっとしてたけど、あれはやり過ぎたかもしれない」
「……そっか。まあでも、私もちょっとスッとしたし、説教は勘弁してあげるわ」
「……ありがとう、姉さん」
 そんな会話を交わしながら、ボクは姉さんと高台に向かった。
 そういや結局、姉さんをずっとおんぶしたままなんだよなぁ。
445あまいあまいあねのあかし (7/7) ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 04:11:16 ID:H5+wPLbx
 
――どぉぉん! どぉぉぉん!!
 林の向こう側、川の上から打ち上げ花火の爆ぜる音。
 今日の夏祭りの目玉イベント、1000発程度の大型花火だ。
 高台――のちょっと手前の隠しスポット。他に人のいない特等席。
 ボクと姉さんは毎年、ここから花火を堪能している。そして今年も。
「た〜まや〜。か〜ぎや〜。……なんてね。
 やっぱりあんなことがあったら、テンションは上がりきらないかな?」
「……さっきのは別に、静二が気に病むことじゃないでしょ?
 私が絡まれたのが悪かったんだし、結局静二に助けられたし……」
 う〜ん、どうもさっきから姉さんがネガティブというか不機嫌すぎる。
 去年は花火を見ながらはしゃいで、ボクの腕にしがみついてきてたのに。
 
「……結局さ、姉さんはなんでそこまで、お姉ちゃんにこだわるんだよ?」
 打ち上げ花火を眺めながら、ボクはなんとなく姉さんに疑問をぶつける。
「……本当はね、『妹』扱いされたこと自体は、どうでもよかったのよ。
 でもね、みんなに言われたことを考えたら、私迷惑だったかなって」
 横目で見た、花火に照らされた姉さんの横顔に、一筋の涙がこぼれる。
「……中学生の頃は、私が弱かったせいで、静二に迷惑かけたでしょう?
 立ち直ってからもずっと、静二に甘えてばかりで、足引っ張って――」
「……そんな、別に姉さんのことを迷惑だなんて、ボクは一度も……」
「静二は優しいからそう言ってくれるけど、私はそう思えなかったの……。
 私は静二のお姉ちゃんなのに、何にもしてあげられてないんだもの……。
 それどころか私、外でもやり過ぎて、静二まで悪くいわれちゃって……。
 もう静二がこれ以上からかわれないように、なんとかしたかったの……。
 静二にとって恥ずかしくない、立派な姉になりたかっただけなのよ……」
 
 姉さん――昨日からずっと、そんなことまで気に病んでたのか……。
「昨日はごめんね、姉さん。いくらなんでも好き勝手言い過ぎたよ……」
 気がつくとボクは、隣にいる姉さんの頭を、くしゃっと撫でていた。
「姉さんはどんなに甘えんぼでも、ボクのたった1人の姉さんなんだ。
 だからそんなに肩肘張らずに、ボクに甘えて来てくれて、いいんだよ?」
 なんだかやっぱり、無理して『理想のお姉さん』ぶった姉さんは不自然だ。
 だからこそ、姉さんには我慢とかして欲しくない。全力で甘えて来てほしい。
 ……なんだか女の子に告白をしているようで、気恥ずかしい。
 ちょっと自分の顔が赤くなってきたのを感じながら、姉さんの横顔を見つめる。
 ……あの、なんだか爆発寸前の表情をしているのは、ボクの気のせいだろうか?
 
「……う、うぅう……! せ、静二きゅううぅぅぅぅん!!?」(ぎゅ〜〜っ!!)
「ってちょっと姉さん! キャラが変わり過――ぎゃあああぁぁ!?」
 突如泣きながら、浴衣姿で全力で、僕に縋りつき抱きついてくる姉さん。
「ホントはとても辛かったの! 甘えたかったの! 抱きつきたかったの!
 でも『1人前のお姉ちゃん』はそんなんじゃダメだって、我慢してたの!
 でもいいんだよね? 今日1日ぶんまとめて、甘えていいんだよねっ!?」
「だめだってやめてって! 今屋外! 花火大会中! 人がいっぱいいるから!?」
 ちょっと待って姉さん! その浴衣の下って、下着とか着けてない……!?
「ここには人がいないじゃないのっ!? だからいいでしょ! ね? ねっ?
 ああやっぱり静二きゅんの二の腕いい! 胸板も首筋もいいっ!? 全部いいっ!?
 すっごい安心するよぉ!? あったかいよぅ!? 大好き大好きいいぃぃ!?」
「あっそこはダメ……!? やっ、やめてくれねえさあああああん!!?」
 悲しいかな、ボクの悲鳴は打ち上げ花火の爆発音に紛れて消えていった。
 
――まあでも、姉さんはこうでなくちゃ、と思うボクもある意味手遅れかもしれない。
 
 
                ― "The proof" END & Next time "The old days" ―
446長編『あまいあね』第3回 ◆6AvI.Mne7c :2009/08/17(月) 04:14:50 ID:H5+wPLbx
以上、投下終了。

キモ姉を違和感なく受け入れる以上、弟もどこかブレているのが自然な気がした。
だからって、いちいち戦闘?描写をいれる必要はないんだけど。

次は夏専用の短編を投下する予定です。今月中には、なんとか……
447名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 04:17:01 ID:a7Omyycb
ぐっじょ!
448名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 04:17:28 ID:BkOfoIWr
はじめてリアルタイムで読んだ

GJ
次回作も期待してますぜ。先生
449名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 08:27:33 ID:xb5Qw3Ih
GJ!
あれ、普通にいい姉じゃね?
450名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 14:29:11 ID:wgznyz8T
GJ!

たしかにバトル展開無しでもいいとおもうけど、山場を作んないとってなると
なにより弟のシスコンさがいいね。
451名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 15:30:53 ID:SPhUOt8r
キモくない・・・
だがそれもいい
452名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 23:03:47 ID:AO4ShHgl
とりあえず実妹も実姉もGJ
453 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/18(火) 03:41:43 ID:t1uwgf6Q
やっつけで作った
投下する
454名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 03:42:12 ID:JLtkDtJH
支援
455キモ兄とキモウト ◆YMBoSzu9pw :2009/08/18(火) 03:45:01 ID:t1uwgf6Q
 私には素敵なお兄ちゃんがいる。
 優しく、かっこよくて。妹の私を可愛がってくれる。
 私がいじめられて泣いてしまったときには、泣き止むまで一晩中傍にいてくれたりもした。
 私の(ちょっと過度の)甘えも、笑って受け入れてくれる。
 そんな素敵な、愛しのお兄ちゃんなのだ。

 だが、それも昔の話。
 今のお兄ちゃんは、ほとんど毎日家に籠り、パソコンに向かって何かハアハア言っている。
 伸びきった髪はボサボサで、瓶底メガネをつけ、アニメTシャツをズボンにイン。……どんなテンプレオタクだよ。
 大学を卒業してから、もう一年もそんな状態だ。いったい何でお兄ちゃんが変わってしまったのか、それは私にもわからない。
 とにかくお兄ちゃんは、そんな気持ち悪い兄、略してキモ兄になってしまったのだ。


 もちろん、私は昔みたいなお兄ちゃんに戻って欲しい。
 そこで今日はちょっとした作戦を実行することにした。

 コンコン、とお兄ちゃんの部屋のドアをノックする。返事はないが、いつものことなので遠慮せずに開ける。
 お兄ちゃんは、いつも通りパソコンの前に座っていた。入ってきた私を無視して、パソコンの画面をじっと見ている。
 少し遠くてよく見えないが、あれは確か「にちゃんねる」とかいう気持ち悪い掲示板だ。
 私は小さく息を吸って、愛嬌たっぷりに呼びかける。
「お・に・い・ちゃ・ん」
 昨日見た、お兄ちゃんの好きなアニメキャラの声優の声を真似てみた。うん、我ながらちょっと気持ち悪いかも。語尾にハートマークがつきそうな勢いだ。
 だけどお兄ちゃんの好みにはあってるはずだ。
「……何?」
 う……、だけど返ってきたのは鈍い反応。しかも顔はパソコンに向かったまま。
 ……ちょっと落ち込むけど、ここで挫けちゃ駄目だ。
「話すときは、私の顔を見て欲しいなあ」
 プウとわざとらしく頬を膨らませて、ちょっと拗ねたように言ってみる。
 ついでに、少しモジモジした感じでもう一言付け加える。
「……私も、お兄ちゃんの顔、見たい」
 よし、これでお兄ちゃんもイチコロだ!
 そして振り返ったお兄ちゃんの顔は……あれ? 怒ってる?
「…………何?」
 しかも不機嫌な反応。
 ……お兄ちゃんはこういうの、好きじゃないのかな。
 つまりあれだ。お兄ちゃんにそういう「ぞくせい」とかいうのがないんだ。
456キモ兄とキモウト ◆YMBoSzu9pw :2009/08/18(火) 03:45:56 ID:t1uwgf6Q
 まあいい。今回の仕込みはそれだけじゃない。
 露出の多いキャミソールに、下はパンツだけ。肌はさっき入った風呂の影響で少し上気し、おまけにうる目。
 ……ふふ、いくらお兄ちゃんでも、これには少しぐっとくるでしょう。
 そう思ってお兄ちゃんの目をじっと見つめていると……
「…………何?」
 あれ、さっきより不機嫌?
 何でだろう、何かまずったかな。
 ていうかさっきから私、「何」しか言われてない……。

 むう……とりあえず、ここでお兄ちゃんを怒らせるのはまずいかもしれない。後の作戦にも支障が出る。
 この場は、普通に用件を伝えて去ることにしよう。
「お風呂あいたから、入っていいよ」
 できるだけいつもの調子に戻して喋った。
「わかった」
 無愛想な反応だ。
 だけど、見てなさいよ。ここまではまだまだ序の口。作戦の本番はこれからなんだから……!
 私は自分を鼓舞すると、お兄ちゃんの部屋を出て自分の部屋に戻った。

 作戦の準備のために着替えつつ、廊下の様子を窺う。しばらくしてお兄ちゃんが部屋を出て、風呂に向かった。
 浴室に入ったのを確認して、私は早足で再びお兄ちゃんの部屋に戻った。
 あとはお兄ちゃんを待つだけ……なんだけど、少し気になったのでパソコンのところに向かった。パソコンの電源はつけっぱなしだ。
 少しマウスを操作して、「にちゃんぶらうざ」とやらを起動する。ふふ、こんな時のために操作を勉強しておいたのだ。
 さらにいくつかクリックをすると、お兄ちゃんの見ていた「すれっど」がいくつか出てきた。
 とりあえず『二次元に行きたい』とかいう「すれっど」を開いてみる。

『二次元という名のエデン』
『三次元の女に価値などない』
『パソコンのモニタに突っ込めばいけるんじゃね?』

 うう、なんだか気持ち悪い。でもお兄ちゃんもこれを見てたってことは、同じようなことを思ってるのかな。
 待っててねお兄ちゃん、もうすぐ私が現実に引き戻してあげるからね……!
 次に『愛里たんにハアハアするスレ139』というのを見てみた。
 「愛里たん」というのが、お兄ちゃんが「嫁」と呼ぶキャラであることは調査済みだ。
457キモ兄とキモウト ◆YMBoSzu9pw :2009/08/18(火) 03:47:43 ID:t1uwgf6Q
 なになに……?

『愛里たんハアハア』
『愛里たんに踏まれたい』
『愛里たんのおしっこ飲みたい』

 な、何て気持ち悪い連中だ……! 吐き気がする。
 私は首をぐるりと回して、部屋の隅のベッドを見た。その上には「愛里たん」の抱き枕が転がっている。
 大きな口で笑うその顔を見て、一気に私の中に嫉妬の炎が燃え広がった。
 くそっ! 私は沸き上がる不快感のままに、机に置かれたハサミを手にとりベッドに駆ける。
「この泥棒猫め! 泥棒猫め!」
 抱き枕にブスブスとハサミを突き刺す。
 こいつがお兄ちゃんを……! こいつさえいなければお兄ちゃんは……!
 ブスッ! ブスッ!
「はあ、はあ……」
 何度も突き刺された抱き枕は、空いた穴から綿が飛び出し見るも無惨な姿になっていた。
「ふふ、私のお兄ちゃんに手を出すからこうなるのよ……!」
 無言で横たわる目の前の泥棒猫(抱き枕)に向かって、悪態をつく。

 ガチャリ。
「ふう…………って、え?」
「あ、お兄ちゃん」
 お兄ちゃんがお風呂から戻ってきた。ちなみに私は、無惨な泥棒猫の死体を跨いで手にハサミを持った状態である。
「な、何してるんだよ!」
「え? ……あ」
 しまった! 泥棒猫の始末に夢中になって、作戦のことをすっかり忘れていた。
 待ち伏せしてお兄ちゃんを驚かす作戦は失敗してしまったが、仕方がない。私は急いで起き上がると、お兄ちゃんに駆け寄った。
「ふふー、似合う?」
 私はスカートの裾を軽く手に持ち、ゆっくりと一周回る。
 私が着ているのは、作戦のために自分で裁縫して作ったドレスだ。何のためについてるのかよくわからない装飾に、派手な原色の生地。
 ……泥棒猫と同じ格好なのが癪だが、これがお兄ちゃんの好みなんだろうから仕方がない。「愛里たん」のコスプレではない、断じて違う。
「おにーいちゃん」
 そう言って、さらにお兄ちゃんに抱きつく。
 大きなおっぱいをムニムニと押し付ける……のは、泥棒猫のような忌々しい巨乳を持たない自分にはできないけれど。私はAカップのおっぱいを、グリグリとお兄ちゃんに押し付けた。
 ふふ、お兄ちゃん……! 三次元の魅力に目覚めなさい!
 しばらくお兄ちゃんの胸に顔を埋めてそうした後、様子を窺うために上を向く。
 ……あ、あれ? お兄ちゃん?
「あ、愛里…………! 愛里……! 愛里たぁぁぁん!!」
「きゃぁっ!」
458キモ兄とキモウト ◆YMBoSzu9pw :2009/08/18(火) 03:49:00 ID:t1uwgf6Q
 お兄ちゃんは私を突き飛ばすと、ベッドの元に横たわる泥棒猫へと駆け寄った。
「愛里たん! 愛里たん!!」
「そ、そんな……」
 私はその場にペタリと座り込んだ。
「な、何てことをしてくれたんだ!」
「わ、私は……」
「何でこんなことをしたのか知らないけど、もう僕に寄らないでくれ!!」
「わ、私はただ、お兄ちゃんを現実の世界に引き戻すために……」
「いい加減にしてくれ!!」
 その強い口調に、私はビクリとすくんだ。
「僕が何でフィクションの世界に逃げ込んだかわからないのか!? お前がそうやって迫ってくることにうんざりしたからだよ!!」
 え……? お兄ちゃんがオタクになったのは私が原因……?
「だ、だって、前は私が甘えたって、お兄ちゃんは笑って受け入れて……」
「拒めなかっただけだ! 受け入れてたわけじゃない!!」
「そ、そんな……」
「とにかくもう僕に近寄らないでくれ! 三次元の妹に迫られてもキモいだけなんだよ!!」
 三次元……妹…………キモい…………。
「そう、なんだ……」
 そうか、私は……。
 いつの間にか私の顔を、涙がツウっと流れていた。
「あ……」
 私の涙を見て我に返ったのか、お兄ちゃんが声をあげた。
「ご、ごめん、ちょっと言いす……」
「ううん、私が間違ってた……。ごめんなさい……」
 私はそう言って、何か言いたそうなお兄ちゃんの視線を背に部屋を出た。


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 次の日、パソコンのモニタに突っ込もうとしたら母に止められた。
「何やってるのよあんたは!?」
「二次元の世界に行くの!! 三次元の妹に価値なんてないのよ!!」
459キモ兄とキモウト ◆YMBoSzu9pw :2009/08/18(火) 03:49:47 ID:t1uwgf6Q
終しまい。
どうにもイメージした雰囲気が出せないなー
460名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 03:51:51 ID:t1uwgf6Q
終しまいって何だ
461名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 03:52:35 ID:vDYSjOSy
GJです。
オチが特に素晴らしい!
462名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 03:56:27 ID:xHH+8JLl
妹かわいそう
兄の人生を代償にして救済してやらにゃー
463名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 07:36:28 ID:JuUWg6Tj
>>459
GJ!
兄はこの妹に対する劣情を抑えきれなくなりそうな
自分が怖くなって虹に逃げ込んだとみた!
>>460
ついしまいと読む。その心は

終生姉妹とともにあるということ!
464名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 08:44:40 ID:wClriN+m
>>459
投下GJ こういうキモウトもまた良いな。
イメージしてたのはもっと緊迫してドロドロなふいんきだろうか。
結果的にできたのはちょっとギャグっぽい結末になってる気がする。
465名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:22:00 ID:nraeuRJZ
オチの一文であっという間にギャグになっちゃったw
466名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 12:56:41 ID:2xKVQF5p
良かった!GJ!
オチが素晴らしい!!
467名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 17:51:42 ID:xn/98yKC
落語にして欲しい
468名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 22:56:14 ID:grm+e4eu
GJ!
「終しまい」ってなんだか、渡辺淳一の小説にでも出てきそうな感じの字面だなあ。
あの人は近親相姦ものは書かないだろうけど。だからこそ安心して・・・・・・
469名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 22:37:53 ID:07Q2vO3X
兄に妹がレイプされるという内容のエロ本を
こっそり兄のコレクションに紛れ込ませるキモウト
470名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 23:35:42 ID:k9qZlCoa
>>469
そして、夜な夜な耳元で『妹をレイプしろ』と囁いて兄を洗脳していくのですね!?
471名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 23:48:41 ID:6Yl15YFr
レイプ願望のあるMキモウトか
472名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 23:50:02 ID:OUiwba0x
>>470
キモウト「レイプするぞレイプするぞレイプするぞ激しく濃厚にレイプするぞ」
473472:2009/08/19(水) 23:52:12 ID:OUiwba0x
すまないorz
姉孝行してくる・・・
474名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 23:53:27 ID:fRplpnYl
でたー!キモウトさんの1秒間に10回レイプ発言だー!!
475名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 00:07:22 ID:QOjVsQjm
>>471
妹「止めてお兄ちゃん!どうしてこんなことを!?(ハァハァ)」
兄「お前が悪いんだよ!お前が!」
妹「何よ!私が何をしたって言うの!?(ああん!お兄ちゃんったらご・う・い・ん♪)」
兄「うるさい!いつも薄着で人の前を横切りやがって!」
妹「何よ!そんなの人の勝手じゃない!(強引なお兄ちゃん…萌え)」
兄「人が風呂に入ってる時に全裸で割り込むわ、風呂上りはバスタオル一枚で俺の前をうろうろするわ!お前俺を誘ってたんだろう!?」
妹「あ、あれはたまたま間違えただけよ!それにお風呂上りは暑いんだからしょうがないでしょ!(そうだよお兄ちゃん!私ずっとこうされたかったんだよ!)
兄「黙れ!今日という今日は我慢ならん!俺が男だというところを見せてやる!」
妹「い、イヤ!止めて!いやぁ〜っ!(くぅ〜!苦節十ン年!やっとお兄ちゃんに襲われることができたわ!)」
兄「お誂え向きに、今夜は親父もお袋もいないからな。徹底的に犯してやるぜ!」
妹「ダメ!イヤ!誰かぁ〜っ!(そうだよお兄ちゃん!今夜は二人きりだから、徹底的に調教してね!)」
兄「イくぜ!」
妹「あ〜れ〜!(ハァハァハァ…危険日の子宮が疼いちゃうぅぅぅっ!)」



こうで(ry
476名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 00:16:18 ID:/KacJlg/
途中で本音と建て前が逆になるんですね
477名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 00:26:15 ID:qZKbMEz0
>>469のネタで作品を書こうとしたけど速攻で挫折したぜ orz
でも>>475見れたから良かった
478名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 00:53:18 ID:aO8DCXBL
>>477
諦めんなよ…諦めんなお前!!

どうしてそこでやめるんだそこで!!


松岡修造なキモウトが見たい
479名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 01:18:52 ID:kvOi6vCy
>>478
それキモいってかウザい
480名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 10:40:19 ID:r98aWwd3
貴様はアレか?モノが死んでるのか?
おっ勃ててるって事は生きてる様だな!
その腐れマラがどんなモノか味見してやる!ベットへ急げ!
オラ、モタついてるとブーツで蹴り殺すぞ!腐れ豚!
PCの前でマス掻けても三次で役立たずじゃ世話ねえな!
画面の向こうのお友達は三次の妹とセックルしたいとかヌカしてんぜ!
クラスの童貞マラ共が泣いてヨダレ垂らす様なイベントなんだぜ!喜べよ兄貴。
返事はどうした!クソ垂れる後にマムと付けろボケ!
泣いたり笑ったり出来なくなるまで突っ込ませてやる!立て!


合衆国海兵隊の教務軍曹な妹… 
481名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 11:31:15 ID:hDqhB//5
>>475
そうなるとefの明良みたく罪悪感で自殺してしまうからだめ
482名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 13:34:27 ID:JiSPvSXV
正直なのは感心だ 気に入った
家に来て私をファックしていいぞ
483名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 17:26:33 ID:BApEKQqh
「きゃっ!? お……ちゃん、なに、するの?」
「あんっ? 今、オメェは、このオレに押し倒されてんだぞ? レイプしかねぇだろ?」
「ふえっ!? やっ、ダメっ!! きょーだいでセックスしちゃイケないのっ!!」
「だからセックスじゃねーって、レイプだよ、わかるか? まっ、そんなの関係無く挿れちまうけどなっ♪」
 ぬぢゅっ、ぐぢゅっ、ぢゅぶぶっ……
「おー、はいったはいった♪♪ 腰うごかしちまうからなっ!」
「んっ、やらっ、うごかさないでぇっ!!」
「くあぁぁっ♪♪ 出た出たっ、こりゃ間違いなく孕んだなっ♪♪」
「うぅっ、ぐすっ、絶対に許さないんだからねお姉ちゃん!!」



って話し
484名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 18:17:27 ID:65prXCxz
>>483
粗暴系オレっ娘姉と、ナヨナヨ系ショタ弟だと……?
悪くない、むしろいいぞもっとやれ!
485名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 20:29:11 ID:CRLXVyLV
あなたはもしや、某スレに頻繁に誤爆するあの人でわ!?
486名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 21:16:15 ID:BApEKQqh
>>485
あのスレなら誤爆は良くするけど、なんでわかるの?
しかも会話文しか書いてないのに。すげーぜ。
487名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 22:57:59 ID:5nDdQQSn
>>485
kwsk

妹スレの鬼畜兄の人かと思ったが違うのか?
488名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 23:19:23 ID:zBzp/DoY
♪使う人ってなんだか珍しいから
おれもすぐわかった!

てかあれは誤爆なの?正しく使ってるような気がしたんだが
489名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 09:35:13 ID:xGBqj6mq
そらあれだけ特徴的な文章ならわかりようもの
ちなみにスレ違い誤爆は危険が危ない事が稀によくあるので注意しテ!
ここまで書いて「あれスレ違いか?」って思ったけどきにしない
490名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 12:36:06 ID:+0/bxsry
死ねよ
491名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 19:06:59 ID:JkcXhn4H
死ぬよ
492名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 19:10:09 ID:VBkKGigu
逝こう
493名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 20:55:28 ID:BbqtM04Q
お姉ちゃんと妹が後ろからついてきました
494名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 22:40:00 ID:3VUej9mw
 ぺた

   ぺた ……

 ぺた ぺたぺた

   ぺた ぺたぺた…




 ――カナカナカナカナカナ。




 蜩(ひぐらし)の鳴く初秋の夕暮れ、少年は一人、廊下に佇む。  冷たいフローリングの上、冷蔵庫からアイスキャンディーを取り出して咥え、二階へ行こうと台所を出た時、その動きをピタリと止めた。
 何故なら、数メートルも先、そこに……妹が居たから。
 顔は俯いたまま、パンツだけを穿いたほぼ全裸の格好で、妹が、いたから。
 その姿を見て、少年は、先日9歳を迎えたばかりの小学三年生、>>493は前に進めない。
 アイスキャンディーは溶けて口横から垂れ落ち、華奢(きゃしゃ)な身体をプルプルと震わせるだけです。
「おにいちゃん……こんやは……ねれ……ないよ?」
 >>493は、後ろから付いてくる足音を妹のものだと思っていたのですが、その妹が前にいたからです。
「ウソ!? まさかっ、お……さま?」
 アイスキャンディーを口から溢し、背中までびっしょりと冷や汗を掻いて、

 ぺた
   ぺた

「お……さま」
 真後ろまで近付いた足音に、>>493はゆっくりと振り向きました。
 そこには……

「おかえり>>493
 右手にオナホ、左手にローションボトル、股間に双頭ディルドを身に付けた>>493の姉が立っていました。

「おねえさまぁぁぁぁぁっ!!」

 そんな叫びも届かず、>>493は一晩中、姉と妹に犯されてしまうのでした。
495名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 02:19:55 ID:HMv3S+vE
こええwww
496名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 13:15:00 ID:z5pQ3iQ4
既に臨戦態勢な姉にワロタ
497金剛姉ちゃん:2009/08/22(土) 15:55:14 ID:oZR466Bw
空気読まずに意味不なSS投下

…………
姉「おい、弟。貴様はこんなモノが好きなのか」
姉「ね、姉ちゃん!いつのまに俺の部屋に?!」
姉「知ったことか。それよりオレの質問に答えろ。貴様は近親相姦もののビデオを見てナニをするつもりだ」
弟「どうだっていいだろ、そんなこと!」
姉「一つ屋根の下に姉と弟が暮らしているというのにビデオで自分を慰める。
  それじゃスジが通らないぜ!」
弟「って言いながら何迫ってきてるんだ!俺達姉弟だぞ!?」
姉「知った事かーっ!!」


うん、思いついたからって書いた事もないSSなんて書くものじゃないね
今は後悔している
498名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 16:42:35 ID:e2zB5p+b
>>497
いやまぁ確かにあそこの家計は女子も筋を通すけどさw
499名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 18:40:48 ID:LUaH5Xg/
>>497
なんだか学ランを着た、目付きの悪い姉御の幻視が……

後悔? 地の文がついてない時点でするのは、まだ早いさ。
さあ、諦めずに次のネタを、今度は2レス分で、やらないか?
500名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 18:59:24 ID:ZayTRnO6
誰が姉ちゃん止められるんだよw
501名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 19:01:36 ID:utBWh7YS
上の姉ちゃんだろ
502名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 19:39:11 ID:ZucSx9XU
落ちこぼれの兄が秀才の妹に良い学校に行かせてやる為に働きまくる。
妹が友達と遊びに行けなったら孤立してしまうかもしれないと、毎月の生活費の他に妹に小遣いを渡そうとしたり。
やがてついに妹の大学の合格が決まって、兄がお祝いのパーティーしようとしたら、妹が今までもらった小遣い使って料理作って恩返し。
感極まりそうになって誤魔化す兄を微笑ましそうに見る妹。そしてその恩返しパーティーの最後でまさかのサプライズ。

「今、お兄ちゃんの子がお腹の中に居るんだ」


って電波を受信した。発信元どこだよ。
503名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 19:49:57 ID:cxKRQL9Z
そんなこんなでお姉ちゃん登場



〜中略♥〜



「中にだれもいないじゃない」
504名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 20:35:29 ID:6zbKFQQ1
ダイ姉ちゃん 「ショウちゃん!嘘を言ってはいけませんよ。シマリスに謝りなさい」
ショウ姉ちゃん「ごめんよーシマリス」
シマリス    「シマリスは、シマリスは...びっくりしたのでぃ〜〜す」

は、いや、は、いや♪

ダイ姉ちゃん 「そうですとも、シマリスの子を産むのは私でなければならないのです。必然なのです」
505未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:50:11 ID:c8Jl7Oam
投下します。
後編まで書きあげてから一気に投下しようかと思ってましたが、いまいち筆が乗らないので先に前編を投下します。
淡々と急展開編。
506未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:51:22 ID:c8Jl7Oam
その日、榊優香は部活を休んだ。
理由は、昼休みの終わりごろに母親から『お願いしたいことがあるんだけど、今日早目に帰ってきてくれないかしら』という電話を受けたからである。
兄と帰れないことに若干腹も立てた優香だったが、母との仲は良好なので申し出を受けることにした。機嫌がよかったこともある。
最近の彼女はとても充実していた。愛する男を起こし、お弁当を作り、一緒に登校し、昼食を一緒にしながらいちゃつき、部活に打ち込んだ後は手を繋いで下校する。
日々エスカレートする欲求は概ねのところで受け入れられており、相手も満更ではなさそうだった。非常に良い傾向である。
このまま行き着く所まで行けるだろうと、優香にしては珍しく事態を楽観していた。それはもしかしたら、彼女が人生に希望を抱いた初めてなのかもしれなかった。
榊優香が部活を休んだのは、そんなある日のことである。六月の最後の日、本格的な夏が始まる季節のことだった。

薄く汗をかきながら帰宅した優香を出迎えたのは、リビングでぼんやりとテレビを見る母だった。
娘に気付くと慌てたように冷たい麦茶を入れたが、特に作業中というわけでもなさそうだ。わざわざ呼び出したにしては妙な様子だった。
「ごめんね、優香ちゃん」
「いえ。それでなんですか、母さん」
優香にとって、母親は『呑気な人』というイメージがある。
馬鹿正直で騙されやすく、忘れっぽくて能天気。のんびりした言動だが突発的な事態には感情的。総じて夫とは正反対の性格としており、母らしい母であり人間らしい人間だった。
二人の子供の内、娘の方を特に可愛がっており。優秀な娘を自慢する姿は凡百の母親と何一つとして変わりはしない。
優香としてもそれらの要素は最愛の男との遺伝を強く感じさせるものであり、概ね好意的に受け入れていた。
母の提案に娘が付き合う形で両者は時々買い物に出かけたり、良く料理を一緒に作ったりしている。問題なく良好な親子関係と言えた。
優香にとっての母親は、徹頭徹尾普通の人間である。それはほとんど合っているが、侮っていないと言えば嘘になる。
「あの……その、ね」
「なんですか」
「優香ちゃんは、その…………健太と付き合ってるの?」
「――――――」
507未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:52:09 ID:c8Jl7Oam
油断していた。
この数週間は何もかもが上手く進み、天が味方しているのではないのかと楽観していた。
世界を敵に回すと決めた少女は、あらゆる全てに気を許せないはずだった。けれど彼女は誰もがするように日々を満喫することを、この歳になってようやく許されていた。
しかし、それを油断と称するのは酷だろう。人生で初めて訪れた祭りのようなものだ。いずれ必ず終わる時間に、踊らないのは勿体なさ過ぎる。
それでも、榊優香は即答した。
「付き合う、ですか? よく意味がわからないのですが、時々は遊んでいますよ」
「その……男女として、よ」
「は? 私と兄は正真正銘の兄妹です。そのような関係はまず有り得ないかと思いますし、ついでに言うなら兄は大して魅力的な人間でもありませんよ」
「…………」
優香は母の問いを、馬鹿げているという口調と論理で否定した。
実の兄妹である。兄は大して魅力的な人間ではない。そのどちらも事実だが、恋人には成り得ないというのは彼女が全力を以て否定しようとしている論理だった。とはいえ一般の常識で計るのなら嘘ではない。
至極当たり前に反論された榊母は、杞憂だったと納得するのではなく、更に表情を暗くした。
脇に置いてあった封筒を手繰り寄せ、内容物をテーブルの上にバサバサと広げた。今度こそ完全に、ダイニングの空気が凍り付く。
テーブルの上に広げられたものの大部分は、榊健太の写真だった。色々なところからかき集めてきたのだろう。年代も服装もバラバラだった。ただしそれだけなら問題はない。
問題は、優香はそれらに見覚えがあることだった、見覚えのないわけがない。それらの写真をかき集めてきたのは、他でもない榊優香自身なのだから!
他にも封筒の中から出てきたのは箱状の盗聴器の写真。それから以前に作成した行動計画書と、最悪なことに(捨てるつもりだった)収集物を納めた写真もある。
それらの現物は全て、優香の部屋で厳重に隠匿、保管してあったものだ。もちろん部屋の扉を初め、全てに錠をかけて。つまり
「あの人がね、優香ちゃんの部屋を破って、探してきたの。そういうことをしたのは謝るわ。けど、けどね」
「…………」
「優香ちゃん。貴女は本当に、健太のことが好きなの……?」
榊母の口元が引きつっている。信じられなく、信じたくもない事実を前にして。それから、はっきりとした嫌悪感によって。
両親に自分の禁忌が知られる。それは彼女のような人間にとって、最大級の破滅ともいえる事態だった。
優香は少しの間目を閉じて、全てをひっくるめて思索した。この何週間の充実感を、愛する人間と共に培った暖かさを。
それらに一体何の意味があったのか、死を前にするような人間が考えることを整理していた。
一つだけ確かなことは
今、それが、終わったということだ。
そうして榊優香の地獄が口を開ける。否。彼女は本来いるべき場所に戻ってきただけだった。

「父さんは……どうしたんですか?」
「いないわ。あの人は、その……すぐ、貴方達を引き離した方が良いって言うんだけど……」
そのための手段として離婚という結論から話し出した榊父は、コーヒーまみれになった上に盛大な平手を食らった。端から見れば痴情の縺れだったことだろう。
榊母としてはそんな極論はくそくらえであり、それがこの単独無断会見に繋がっているのだった。話せばわかるという、家族に対する信頼が彼女の根底にはある。
「ね、優香ちゃん。そんなの止めよう? そうすればあの人も私も、これ以上は何も言わないわ。大体、兄妹を好きになるなんておかしなことなのよ?」
「そうですね」
野良猫を撫でるような説得に、答えた優香の声音は思いの外平静だった。
目を開けた彼女が母に向ける眼差しも、声音も、表情も、普段のものと何一つとして変わりない。
優香と榊母は、それなりに仲の良い母娘だった。たまには一緒に買い物もするし、良く一緒に食事も作る。母は娘を特別可愛がったし、娘もそれなりの親しみを母親に感じていた。
その普段通りの態度で、優香は
「ところで母さん。常々思っていたのですが。貴女は呑気な人ですね」
「え?」
攻撃に移った。
508未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:52:37 ID:c8Jl7Oam
優香がやったのは。脚を伸ばして母の座る椅子の足を甲で引っかけ、テーブルの端を掴んで思い切り前に押しつけることだった。ズズズズッとテーブルと床がこすれて音を立てる。
対面の椅子に座る榊母は当然胸をテーブルに押しつけられ、呼吸を圧迫しながら下がろうとする。しかし椅子は優香によって引っかけられており、移動しようとする上半身と留まろうとする下半身でモーメントが発生。ぐらりと椅子ごと榊母は転倒した。
「きゃっ………あぐっ!」
椅子の凹凸で背中を強く打ち付けて榊母が悲鳴を上げる。テーブルの下に転倒した榊母に向かって、優香は今度は立ち上がりながらテーブルを傾けた。
木製の中型テーブルである。重量は人間が一人でなんとか持ち上げられる程度。とはいえそれを女子の身で自由に動かせるのは、優香が普段から体を鍛えている賜物だった。
引きつけられながら片方を持ち上げることで、テーブルが垂直に立てられようとする。優香は引きつける腕に込める力で、天板の角度を調整した。狙うは榊母の首の位置。ギロチンのように、天板が床に立とうとする。
死の予感が榊母の脳裏を支配した。
「ひっ!」
「おや」
小さく悲鳴を上げながら、転がることでテーブルのギロチンから榊母が逃れる。がたんとテーブルが床に立ち、勢い余って向こう側にゆっくりと倒れていく。
意外と機敏に動いた母親に感心しながら、優香はテーブルから手を離して、転がる体に対して無造作に蹴りを入れた。脇腹に入る。柔らかい感触。
呻き声を漏らしながら、榊母は更に横転して優香に対し膝立ちになった。右の脇腹を左手で押さえている。その表情は、痛みよりも驚愕が充ち満ちていた。
ばたんと、ひどく大きな音を立ててテーブルが床に倒れる。
「ごほっ……ゆ、優香ちゃん、なんで……!?」
「意外と痛みには強いんですね。動きも実践慣れたものですし、昔なにかやっていましたか? 私と兄の格闘趣味は貴女の影響だったのかもしれませんね」
対して優香は全く平静な表情だった。怒っているわけでも、冷酷なわけですらない。普段、娘が母に声をかける時の調子そのままだった。ポシェットからスタンガンを取り出す様も自然なものだ。
彼女は別に、キレているわけでもハイになっているわけでもない。普段の榊優香そのままだった。普段のままで、それなりに親しみを保つ母を切り捨てるのが榊優香という人間なのだ。彼女の中の天秤はとうの昔に定まっている。
相手が膝立ちと混乱から立ち直る前に、優香が素早く足を踏み出した。両者の距離は近い。それだけで間合いに入る。同時に肩に向けてスタンガンを突き出す。それを、榊母は後転して間合いから逃れた。
追うように足を進める優香。狭いダイニングだ、逃げ場はない。すぐに榊母の背中が壁に付き――――その手には、途中で拾った麦茶の容器があった。
「っ」
「ふうっ!」
肩口を狙ったスタンガンの一撃を、プラスチックの容器で弾く。盾を手にした榊母だが、そんなものはお世辞にも有効な近接武器とは言えない。しかし彼女の目的は別にあった。
蓋を開いてその中身を、二撃目を繰り出そうとしていた娘にぶちまける。ばしゃりと、麦茶がスタンガンを握る腕にまともにかかった。高度差で顔を狙えなかった、のではない。あえて腕を狙ったのだ。
不純物の混じった水は導電体である。スイッチを入れていたなら、スタンガンの電撃が麦茶を伝って腕に感電する。この状況下で機転を効かせた、榊母渾身の一手だった。
「惜しい」
「っ!?」
そして優香はスイッチを入れていなかった。
正確には、母が麦茶の容器を手にした瞬間に狙いを看破して切っていた。この期に及んで平静な、優香の判断力の勝利である。
スタンガンを囮にして、先程と同じ箇所に蹴りを入れる。兄のように正式に打撃を習ったわけではない、いわゆる素人の蹴りである。
それでもまともに入れば効く。「あぐっ」という嗚咽と共にうずくまった榊母を、またいで優香は後ろに回った。
母の背中に覆い被さりながら、両腕を首に回して手を組む。スリーパーホールド、あるいは裸締めが完全に極まった。
「……! ……!」
じたばたと魚のように暴れだした母親の、胴体に両足を回してロックする。十数秒で彼女は意識を失い、ぐったりと娘に寄りかかった。脳への血流を阻害されて意識が落ちたのだ。
母親が完全に意識を失っているのを確認してから、優香は立ち上がって時計を確認した。兄が帰ってくるまではもう少しあるが、証拠隠滅と人間一人の処理を考えるとあまり時間はない。平静な思考のまま、彼女は作業に取りかかろうとして
ふと、立ち止まって呟いた。
「終わり、か……」
509未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:53:53 ID:c8Jl7Oam

今日の優香は部活を休んだらしい。
そのことと一緒に帰れないことを謝るメールが、昼休みの終わりごろに入っていた。妹が部活を休むなんて珍しい。なんだかんだ言ってあいつは柔道が好きだと思う。
そういう俺も、ふとした理由で始めたけれど空手は好きだ。今日も部活に打ち込んで、日が暮れかけた道を今日は一人で帰る。
ここしばらくは優香と一緒に帰っていた。それも手を繋いで帰ることが多かったから、少し寂しい……いや、正直かなり寂しい。
女の子と手を繋いで帰るだなんて長年の憧れだ。たとえそれが妹だとしても、柔らかい手の感触はドキドキした。
考えてみればおかしな話だなあと、てくてくと歩きながら考える。
普通、妹の手を握ったってドキドキなんてしないと思う。俺が小さい女の子や母さんに触ってもドキドキしないのと同じことだ。家族なんだから。
だけど俺は優香の手を握るとドキドキする。それはつまり、妹のことを女の子として意識しているってことだ。
……それって人間としてどうなんだろうって思う。
けど、事実は変わらない。どうやっても優香は俺にとって妹であり、同時に女の子なんだ。
そうしてきっと優香にとっても、俺は兄であり男であるんだろうと、最近気付き始めていた。そうした上で、優香はどちらの俺も想ってくれている。
俺は……
考えているうちに、自宅に着く。お腹がぺこぺこだ。家に入りながら、今日の晩御飯は何だろうかと大きく鼻で息を吸う。
「ただいまー……あれ?」
匂いがしない。カレーの香ばしい匂いや、味噌汁のだしの匂いや、焼き魚の焦げた匂い。そういうものが何もないんだ。
夕食の準備はできていない。そう思うしかなかった。けど、この時間なら母さんは夕食を用意してくれているはずだし、両親が外食に行く日じゃないはずだ。それに優香はもう帰ってきているはず。
不思議に思って声をかけながら台所を覗く。
「おーい、かあさーん、ゆうかー……あ、いるじゃん」
「お帰りなさい、兄さん」
ダイニングでは妹が一人、テーブルにぽつんと肘を付けて座っていた。何かを考えていたらしく、じっと下を向いていたけど俺の呼びかけに答えて顔を上げる。
テーブルの上には夕食も何も用意されていなくて、やけに綺麗に拭かれていた。ちなみに優香は飾り気のない水色のワンピースに着替えている。いつものポシェットは身につけていない。
「母は出かけたみたいですよ。なんでも知人に不幸があったとかで、父もそちらに行くそうです」
あれ、母さんの車はなかっただろうか。後でちらりと確認してみると、ガレージはシャッターが閉まっていた。一旦車を出した後に閉めたんだろう。いつもは開けっ放しにしてるくせに珍しい。
「ああ、そうなのか。じゃあ御飯どうする?」
「何か作ろうかと思いましたが、ちょうど食材もなかったので何か食べに行きましょう。食費も貰っています」
ひらりと優香が二本指で五千円札を取り出した。おお、母さん太っ腹だなあ。
「それじゃどっか食べに行くか。優香はどこがいい?」
「どこでもいいです」

どこでもいいということなので夕食はハンバーガーになった。俺はビッグマックで妹はチキンタッタセット。味は普通。
優香は少し、暗い雰囲気で。俺も釣られて黙々と食べるだけだった。普段から無口な奴ではあるんだけど、なんだろう。何かを思い詰めているようだった。
そうして適当に夕食を済ませた後、家に帰る途中。
道端で、服の袖を引かれた。
「ん、どした優香」
「少し、そこで話しませんか」
優香が示したのは、帰り道の横にある小さな公園だった。


榊家ガレージ
「ん〜〜! んん〜! ん〜んん〜!」
「ただいま」
「んん〜!!」
「優香か?」
「(こくこく)」
「率直に言うとあれだ、君は呑気だったな」
「んんんー! んんー! んー!」
「幸いなのは生死のやり取りを行うまでに彼女を追い詰めてはいなかったことか。ところで二人は?」
「んんんん〜〜!」
「ああ、すまない。猿轡をされたままでは明瞭に発言できないな。外そう」
「ぷはっ……いいから早く解いてって言ってるのよ馬鹿旦那!!」
510未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:55:10 ID:c8Jl7Oam

夏夜の公園は静かだった。
銀灯の周りに虫がたかっているけれど、それ以外に音はない。虫が鳴くような茂みが少ないからだろうか。
月明かりに照らされて、遊具と柵がぽつりぽつりと暗闇に浮かび上がっている。俺たちはベンチに腰掛けた。この前、優香に膝枕をしてもらった場所だ。
周囲に人気はない。隣にいる人の気配を除いて。
優香は俺にぴったりと肩を寄せるようにして座った。その距離は友人よりも家族よりも近い。
「……」
沈黙。
普段なら俺の方から軽口の一つも叩くところだけど、今の優香は何かをひどく思い詰めているようだった。
とはいえ、優香は何かを思い詰めることが多い。明晰な頭脳と責任感の強さがそうさせるんだろう。
それからもちろん、不道徳な想いをずっと抱えてきたことも、妹の自立をずっと促してきたのだと思う。
優香のことを思う。
この数週間で、優香はずっと俺のことを好きだったのだと言ってくれた。
その言葉を、今までずっと俺の知っていた優香に重ね合わせてみる。
勤勉で、文武両道で、冷静で、可愛いというよりも美人で、料理が上手くて、努力家で、年齢の割にしっかりし過ぎるほどしっかりしていて。
けれどそれは必然だった。優香は誰にも相談できない想いをずっと抱えていたのだから、全て自分で解決できるような人間になったのだ。
ぴったり、合う。優香に対して燻っていた、長年の疑問が氷解した気分だった。
けれど入れ替わりに、沸きあがってくる疑問がある。
どうして俺なんだろう、ということだ。
「……」
はっきり言えば俺は大した人間じゃない。
運動は何とか優香と同レベルだけど、勉強は完全に苦手な部類に入る。顔だって大雑把な作りだし、髪質は針金みたいにつんつんだ。モテたことなんて生まれてこの方一度もない。
家事も母親や妹に任せきりで、自立しているとはとても言えないのんべんだらりとした性格をしている。子供っぽいと言われるし、実際妹にも言われまくっていた。
どうして優香は、俺だったんだろう。優香なら他に、いくらでもよい男を選ぶことができるはずなのに。
俺は優香に釣り合うような人間じゃない。
それがどうしても納得できなかった。
妹が口を開く。

「……兄さん」
「うん」
「答えを」
「え……」
「答えを……ください」

優香が口にしたそれは
数週間前に約束したことだった。
『機会を下さい。私が努力する機会を。兄さんを振り向かせる機会を』
『私は今まで妹だった。兄さんの中で妹だったんです。けれどそれは不公平じゃないですか。私はずっと兄さんが好きだったのに、そんな基準で決められてはたまらない』
『だからせめて機会を下さい。女として意識してくれとは言いません。女として意識してくれるように努力します。選ぶのならば、せめてそれからにしてくれませんか』
妹ではなく女として見てもらうために
家族ではなく恋愛対象としてみてもらうために、努力する期間を要請し
朝甘えながら起こして、お弁当を作って、一緒に登校して、一緒にお昼を食べて、手を繋いで帰って。
そうした、まるでお互いが恋人のように振舞う日々が、今この瞬間に終わったのだということだった。
「え……今、なのか?」
「今、です」
わずかに優香を見下ろして、戸惑った声を上げる俺に
わずかに俺を見上げて、じっと強い視線をぶつけてくる優香。
その目はこの上もなく真剣だった。
夜の公園で、ベンチで座り隣り合って、じっと見詰め合う。
……俺はなんとなく、こうした日々がずっと続くように思っていた。
優香との新しい毎日が日常の一部に溶け込んでいって、同棲したカップルのように何もかもが今更になってから、なんとなく俺の方から切り出す、のだと予感していた。
実際そんな風になりかけていたと思う。優香も、そんな流れを望んでいたように思う。
だって優香はとてもとても楽しそうだったから。
遊園地で目一杯遊ぶ子供のように、今までずっと憧れていたことをついに満喫できる。そんな嬉しさに満ちていたのだ。
だから俺は、そんな毎日がずっと――――続くと
けれどそれは幻想だったのだろうか。ただの思い込みだったのだろうか。
考えてみれば、兄妹で恋愛ごっこだなんてそれだけで歪な関係だ。ずっと続くわけがない。
だけど俺は、優香に答えるための、何の準備もしていなかった。
だから俺は、優香に答えるための、最後の疑問を。
511未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:55:59 ID:c8Jl7Oam
「優香は……なんで俺なんだ?」

しばしの沈黙。
夏夜の公園で優香と寄り添い、銀灯の下の人気がないベンチで、お互いにじっと視線を重ねる。
優香は少し、何かを思い返すように目を閉じて。ポツリと呟いた。

「私は昔から……感情の起伏の少ない人間でした」


他の人が怒ったり泣いたりするような場面でも「ふうん」と流すだけだったこと。
それは私自分自身に危害が及んでも同じことで、転んでも叩かれても怒られても、泣いた覚えはないこと。
物事に対する態度も同じで、定められた水準を淡々とこなしていくだけだったこと。
そこには達成感などなく、挫折感もありはしないこと。
喜怒哀楽、快楽と苦痛、それら全ては自分にとって動機足りえないこと。
多分自分は鈍感なのだということ。
生まれつき痛みに強いということは、けして誇れるようなものではなく。他人の痛みも実感できない人間は、容易く他人を傷つけること。
それでも自分が曲がりなりにも、不適合者として社会から逸脱しないでいられるのは兄のおかげだということ。
すぐに泣いて、すぐに怒って、すぐに笑う、兄のおかげだということ。
自分の前で、物事に対して人並みの反応をする兄がいたからこそ、自分は人並みの基準というものを学ぶことができたこと。
自分の前に、誰に対しても気を使う兄がいたからこそ、自分は痛みと倫理の価値というものを知ることができたこと。
そして何より。兄がいるからこそ、自分はこの場所にいることを望んでいること。
今、自分が、友達付き合いをするのも、勉強をするのも、学校に通うのも、息をするのも、生きているのも、全て。
自分は、自身の命自体には価値など感じていない。死に対する恐怖も、無視できる大きさにすぎない。生よりも死を選ぶべきだと理性が判断すれば、躊躇なく実行できること。
自分が生き続けているのは、ここに兄がいるからだということ。
兄は普通の人だから、自分は物心ついてからずっと、普通の人間のフリを続けていること。

比翼連理。


「私は、私に欠けている全てを持った兄を想うことで……ようやく普通の人間になれるのだと信じています」
そうして
優香の、長い長い身の上話が終わった。まるで神様に罪を告白するように、その姿は真摯だった。
俺は
「…………」
俺は、言葉さえなかった。
優香は命を懸けている、と。そのことが何より雄弁に伝わってきてしまって。
俺のように、生きているから恋をするのではない。まるで逆だ。恋をしているから生きている。
恐ろしく鋭く、そして脆い刃のような生き方。俺の中で榊優香という人間が完全に一致した。
そして同時に抱いたのは――――恐怖、だった。
もしも俺が拒絶したら、優香はどうなってしまうのだろう。
優香は俺を選んでいるわけですらない。人生を生きる道標として、俺を組み込んでしまっている。
もしも俺が拒絶したら、優香は根元から壊れてしまうのではないのだろうか。
自分の行動に人間一人の命が左右されることに対する恐怖。
それが、俺が真っ先に抱いた感情だった。
「兄さん」
そうして、がくんと
優香が、俺の胸元に、両手ですがりついた。
俺の着たシャツが重みで絞られる。胸に当てられた優香の頭は下を向いて表情が見えない。
そのまま嗚咽するように、俺の妹は懇願した。
512未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:56:37 ID:c8Jl7Oam
「兄さん、好きです。好きです、兄さん。妹なのに好きになってごめんなさい。
 けれどどうか付き合ってください。貴方が私を恋人にしてくれるなら、私はきっと全てを赦して生きていける。
 こんな人間に生まれたことも、貴方の妹に生まれたことも、全て赦して生きていける。
 貴方を好きになってしまった罪は、貴方を幸せにすることで償います。
 ですからどうか、どうか。
 兄さん、好きです、付き合ってください」
…………
ぼたり、ぼたりと水滴が俺の膝を濡らした。じんわりと布地を通して染み込んでくるそれは、間違いなく妹の涙だった。
優香は全身全霊で縋り付いていた。
もしも俺が体を外したのなら、そのまま倒れて地面にぶつかり壊れてしまいそうなほどに。
俺は……
俺は……

「――――ああ、わかった」

頷、いた。


・・
・・・

「あ」

「あ、あ、あああああああああ」

「ああ、あ、ああ。にいさん」

「にいさん、にいさん――――」

優香が胸元にすがりついたまま、顔を上げる。その切れ長の瞳からは、ぼろぼろと切れ目なく涙が流れていた。
顔をくしゃくしゃにした優香の表情なんて、俺ははじめて見た。きっと優香自身を含めて、他に見た奴はいないと思う。
そのまま、魚が食いつくように優香の背が伸びる。唇に暖かい感触。
「んっ――――」
「――――!」
俺と優香は唇を合わせていた。驚いた俺の顔が、優香の瞳に映っている。そのまま妹は感極まったように瞳を閉じる。
ファーストキスはハンバーガーの味がした。
優香もきっと同じだろう。
俺もまたじっと目を閉じながら、これでいいんだと自分を言い聞かせる。
こうしてキスを交わすことで俺は確かにドキドキしている。間違いなく優香を女としても見ている。ならいいじゃないか、と。
もしも俺がここで首を振っていたら、きっと優香は壊れていた。優香を守るためにはこれしかなかった。少なくとも、今は。
だから――――優香のことが、好きじゃなくても
これでいいんだと、自分に言い聞かせた。
513未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:57:17 ID:c8Jl7Oam
「んっ!」
俺が物思いに耽っていると、優香の動きが変化した。
すごい力で胸元を引き込まれ、同時に優香が首をひねった。お互いの顔が十字に交差し、こじ開けられた粘膜が更に広い面積で滑りあう。
ドラマで見る、熱烈な恋人同士の口付けの構図そのままだった。優香の鼻息が頬に当たる。
更に、ぬるりと前歯をナメクジのようなものがぬめった。優香の舌が、俺の前歯をなめているのだ。
俺はその瞬間、驚きのあまり優香の肩を突き飛ばしてしまった。吸盤が離れるような抵抗と共に、お互いの唇が離れる。
「ゆ、ゆゆゆゆゆ優香!? な、なにしてるんだっ!」
「兄さんの唾液……美味しいです」
ぺろりと優香が舌なめずりをする。その瞳はさっきとは違う意味で潤み、頬は薄く紅潮している。
欲情という、そんな表現がぴったりだった。もちろんそんな妹の姿を見るのは初めてだ。
ぜーはーと、止めていた息を再開する俺の手を、優香が掴んで恋人繋ぎをした。熱い。体温ですら上がっている。
そうしてとんでもないことを口走った。
「兄さん。ホテルに行きましょう」
「ぶっ!?」
「駅近くの繁華街にそんなところがいくつもあります。お金は私が持ちます。行きましょう、兄さん」
「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっと待てって優香!」
立ち上がってぐいぐいと俺を引っ張る優香に必死で抵抗する。何だこの展開は。
「どうしてですか。私と兄さんは恋人同士になったんでしょう。それなら、然るべき行為でしょう」
もちろん俺だってそういう行為に興味がないわけじゃない。でも告白が成就してすぐなんて、あまりに急ぎすぎじゃないか。
「そ、そういうのは、もっとこう、時間をかけてしていけばいいだろ? さっきの今なんて早すぎるし、もっと自分を大事にしなさい!」
「……でも、私は兄さんに迷惑をかけてばかりだから、何か恩返しをしたいんです。私の体なら自由に使っても良いし、それを私も望んでいますから」
「馬鹿、だからもっと自分を大事にしろって。時間はいくらでもあるんだからさ」
「でも……」
それからも優香はなんだかんだとごねたが、不承不承といった感じで俺の説得に折れた。やれやれだ。
俺も少しは……ごめん、かなり残念だったけど(どうせ童貞だよ)優香のことを大事にしたかったし、何より自分の気持ちが固まる時間を持ちたかった。
俺は優香のことを女の子として意識はしているけれど、まだ好きかどうかわからない。少なくとも今は優香を拒絶できなかっただけだ。
せめて自分の気持ちがはっきり優香に向いてると意識してからにしたかった。
そして、それはあまり難しいことではないという予感もあった。なにしろ優香の可愛さは俺が誰より知っているのだから。
「兄さん、私のことが好きだと……言ってください」
「……ああ、優香のことが好きだよ」
「ああ、ああ、兄さん……んっ」
優香が俺を見上げて、目を閉じる。今度は俺から、愛の囁きと共に妹と唇を重ねた。

きっといつかは上手く行くのだと思っていた。
水が流れていくように、優香との毎日はこの数週間のように続いていき、いつしか俺の気持ちもはっきり固まるのだと。
もしも体を重ねるのなら、そうなってからで十分だと。俺はそんな風に考えていた。
けれど

二人で手を繋いで、家に帰ると。出かけているはずの両親が、険しい雰囲気で待っていた。

514未来のあなたへ11前編:2009/08/22(土) 20:59:07 ID:c8Jl7Oam
以上です。戦闘が入ったのは趣味です。
後編はちょっと遅くなるかもしれませんが気長にお待ちください。鋭意制作中です。
515名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 21:10:49 ID:JOK4jBF1
離婚を提案した理由はこういう事かw作者GJ
516名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 21:14:22 ID:kI6p9qw2
親バレキタァァァァアアアア!!!
GJ!
517名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 21:53:44 ID:ZayTRnO6
パパンがぶっ飛んでる作品はシリアス展開でも笑っちまうよな
GJ
518名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 22:20:21 ID:ZzBDliMO
GJ
出版してくれんかね?
俺が買う。
519名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 22:43:12 ID:1ru7uXGv
GJ!

さぁ、ここからが正念場だぞ。頑張れ優香!負けるな優香!
520名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 22:54:27 ID:KNvjMo5N
スクロールする度に心臓の鼓動が高まってきたぞGJ!
何が何でも二人で幸せになってくれ…
521名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 23:11:33 ID:rBSru+qH
ママン鈍りすぎだよママン
522名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 00:35:10 ID:6PxgLHsM
あああ〜〜いきなり急展開ですね〜。
もうちょっと幸せおバカ優香を見ていたかったけど、
この展開はドキドキしますね。

作者様、気長に待ってます。
523名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 00:46:31 ID:hucCsIPh

凄まじくGJ!

> だから――――優香のことが、好きじゃなくても
> これでいいんだと、自分に言い聞かせた。

どうしてもこの部分に不安を感じてしまうw
524名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 01:56:42 ID:J2hxoaCI
心臓と腹が痛くなる…GJ
525名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 03:37:08 ID:tKNykErb
続きにwktk
526名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 04:06:35 ID:3XTWCDI6
帰ったら天国に行くのか地獄に行くのかの瀬戸際だな。これは気になるですぜよ!
久しぶりに結末が気になる作品に出会ったまったから全力でGJ!
527名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 06:08:13 ID:ztKk96yc
GJです
パパンとママンいいなぁ

>>523
このスレでの常套句だよな、そのフラグ文w
さて、パパンがどう出るか
528名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 09:43:22 ID:REDUD8ui
GJだぁぁぁぁ!

それはそれとして。

がっちがちの理論派パパンが、兄妹恋愛を否定するのは
一般常識に照らし合わせただけなのだろーか?

……ってことが妙に気になる今日この頃
529名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 20:31:05 ID:GkZL0AT8
>>528
10.5で、子育てを経験している内に常識人に近づいていったとあったから

若き日のパパンそのままという訳では無さそうだぞ。
530名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 20:55:54 ID:86VrolbN
理詰めだけで考えても、近親相姦にメリットないし
世間敵に回すからやめとけって話になるんじゃない?
531名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 21:32:42 ID:Iw8EjGI3
愛に実利もクソもないでしょう?
532名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 21:36:37 ID:86VrolbN
いや、だからその恋愛を理解できない人だからそういう話になるって事だよ。
533名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 21:37:00 ID:Iw8EjGI3
というか、この親父の過去を見るとあまり説得されたくないw
534名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 21:50:31 ID:Iw8EjGI3
>>532
一度言ってみたかっただけなのに……


と、弟の冷たい言葉にそう返すキモ姉が思い浮かんだ。
535 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:01:53 ID:ejZ3tX0K
長編に挑戦。
投下する。
容量……大丈夫だよな。
536 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:03:15 ID:ejZ3tX0K
「おい、菊池」
 昼休み。教室で弁当を食べようとしていると、突然後ろから呼びかけられ、俺は振り向いた。
 そこにいたのは……郷田、とかいうクラスメートだ。
「何?」
「呼んでるぞ」
 郷田がクイッと廊下のほうを指し示した。
 そこにいた人物を確認して、俺は狼狽えた。美里だ。
 俺は郷田に礼を言って、急いで廊下に向かった。
「み、美里。どうしたんだよ突然」
 教室の中に聞こえないように注意しながら、小さな声で言う。
「妹が教室に訪ねてきたからって、そんなに驚かなくてもいいじゃない」
 ふふ、と笑ってそう茶化すのは、サラサラと流れるような黒の長髪、目鼻のクッキリとした整った顔を持つ美人――俺の妹、美里だ。
「だって、美里が俺の教室まで来ることなんて滅多にないからさ……」
「お弁当」
「え?」
 突然の美里の言葉に、俺は素頓狂な声をあげた。
「お弁当、たまには兄さんと一緒に食べようかと思って」
 そう言って、右手に持った弁当箱を持ち上げてみせた。
「あ、弁当……」
「そう、お弁当。どこか、別のところで食べたいんだけど」
「あ、う、うん。わかった」
 嫌な声をあげそうになるのを、すんでのところで飲み込んだ。
 俺は急いで自分の机に戻り、鞄を手にまた美里の元に戻る。
 クラスの窓際ポジションの俺が綺麗な女子とどこかに行く様子を見て、教室にいた何人かが何かヒソヒソと話していたが、気にしないようにした。

 美里に従って別棟まで歩き、そこにあった教室に入る。ドアの上には多目的室と書かれたプレートがかかっていた。
 美里がパチリと照明をつけると、机と椅子が並んだだけの殺風景な光景が目に入る。
「こんなとこ、勝手に使っていいのか?」
「鍵が開いてるんだから、別にいいのよ」
 そういう問題でもない気もするが、俺も特にそういったことを気にする質ではないのでそれ以上は何も言わなかった。
 辺りをぐるりと見回すと、机と椅子の他には本当にまったく何もない。まあ、鍵をかけなくても問題はないのだろう。
 美里が一番後ろの席に腰かけたので、俺はその隣の席に座った。
 手に持っていた鞄を床に起き、その中から弁当箱を取り出して蓋を開ける。おいしそうな匂いが鼻に届いた。
 今にも鳴りだしそうなお腹を鎮めるため、俺はすぐに箸をとった。
「いただきます」
「いただきます」
 きれいな形のだし巻き卵に箸を伸ばし、口に頬張る。
 俺の弁当は、美里の手作りだ。美里は夜寝る時間は俺と同じ筈なのに、毎朝俺より早い時間に起きて、自分と俺の、二人分の弁当を作っている。朝は毎日眠気と格闘している自分には、とてもできない芸当だ。
 おまけに、美里は料理が上手だった。作る料理はすべて俺を唸らせる美味しさで、メニューのバリエーションも多く、食卓には毎日豪華な食事が並ぶ。
 小さい頃から俺との二人暮らしで、毎日料理を作っているのだから、料理が上手いのも当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
 いや、しかし毎日料理を作っていても、いくらも上達しない人だっている。だとすれば、これは美里の器用さによるものなのだろう。
 俺はチラリと美里の様子を窺った。
 美里は無言だ。黙々と弁当箱の中の料理を口に運ぶ。
 俺と家で食事をするときも、俺と並んで学校へと歩くときも、俺と部屋に一緒にいるときも。俺と美里の間に、雑談というものはあまりない。
 友達を持たない自分にはよくわからないが、人によっては無言の時間を「気まずい」として嫌う人もいる。誰かと二人きりのときなどは特にそうなのであろう。
 別に、俺が美里に嫌われているというわけではない。何せ、本人が俺のことを「好き」だと言うのだから。
 しかしそれでいて、俺と美里の間には平気で無言の時間が存在しているのである。
 別に、それに関して俺がどうこう思うことがあるわけではない。
 ――むしろ心の中で美里を恐れる自分にとって、それは決して悪いことではなかった。
 いや、それを言うならば、そもそも美里と一緒に居るこの状況が、俺に不快感を感じさせているのであるが。
537 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:04:24 ID:ejZ3tX0K
 パタリ。
 弁当を食べ終えた美里が、弁当箱の蓋を閉じて鞄に閉まった。
 そして一足先に弁当を食べ終え、美里の様子を観察していた俺のほうを向いて言った。
「帰り、待ってもらってもいい?」
「帰り?」
「委員会の仕事が終わったあと、一緒に帰りたいんだけど」
「別に、いいけど」
 ……本当は、嫌だけど。俺が美里に、それを言うことはできない。
 いや、それよりも。俺は少し違和感を覚えた。
 普段から登校するときには一緒であるし、時間があえば下校も一緒にしている。しかし今回のように、わざわざ教室まで出向いて弁当を一緒に食べたり、一方を待ってまで一緒に帰るようなことはあまりなかった。
 弁当だけならともたく、同じ日に下校もとなると……。
 俺はその理由を考えようとして――――やめた。
 ……美里が“狂っている”ということは俺が何よりわかっていたし、そして、俺はそれに抗えないということもわかっていた。
 結局のところ、美里が何をしても俺はそれを受け入れることしかできないんだ。それはもう何年も前にわかりきっていたことだった。
「そっちは、何時ぐらいに終わりそう?」
 椅子から立ち上がりながら、美里が尋ねた。
「んー、たぶん下校時間ギリギリまで文化祭の準備するだろうから、六時ぐらいになると思うけど」
「じゃあ、たぶん三十分ぐらい待ってもらっちゃうけど」
「うん、わかった」
 そう返事をして、俺も椅子から立ち上がった。
「……ごめんね」
 不意に、美里が呟いた。
 俺は美里の顔を見た。
 ――その「ごめんね」は、俺を待たせてしまうことへの形だけの謝罪であると、そう解釈した。

 じゃあ下駄箱のところで、と約束して、俺たちは多目的室を出て、廊下の途中で別れた。
 教室に戻ると、少しクラスがざわついた。気にせず自分の席につくと、郷田が話しかけてきた。
「なあ、さっきのって、お前の彼女か?」
 郷田の顔は、好奇の笑みで満たされていた。
 ふと気がつくと、周りも俺の返答を待つようにこちらの様子を窺っている。俺はできるだけ平静を装って答えた。
「違うよ。……ただの妹」
 そう答えた途端、周りから落胆の声があがった。「なーんだつまんないの」とか、「やっぱり、菊池にあんな綺麗な彼女いるわけないよね」とか、自分勝手な文句が聞こえた。
「あれ、皆で何の話してるの?」
 声をあげたのは、ちょうど今教室に入ってきたらしい河平さんだった。河平さんはクラスのまとめ役的な存在で、男からも女からも慕われている。
 先ほどから一番騒いでいた女子が答えた。
「あ、沙耶。さっきね、菊池が綺麗な二年生と弁当食べに行ってね。皆であれって彼女かなー? って話してたの。あんな綺麗な女の子菊池には似合わないよねえ、とか、菊池のほうから無理矢理頼み込んだんじゃないの? とか」
 こいつら、そんなことまで話してたのか。
「へえ、そうなの?」
「まあ、実際は妹ちゃんだったんだけどね」
 残念、とでも言うように、その女子は大げさに肩を竦めてみせた。
 すると河平さんが言った。
「え? 菊池の妹って、美里ちゃんのこと?」
 俺は少し驚いて、河平さんの顔を見た。
 先ほどの女子も少し驚いたようだった。
「美里ちゃん? 沙耶、知ってるの? 菊池の妹のこと」
「文化祭の実行委員会で一緒だからね。けっこう話すんだ。……あー、そういえばさっき、美里ちゃん来てなかったわね」
 河平さんの言葉が少し気になって、俺は尋ねた。
「来てなかったって……?」
「あ、さっきまで委員会の集まりがあったの」
「美里、サボったのか?」
「や、昼休みの集まりはほとんど自主的に来たい人だけ、って感じだから。……でも、そういえば美里ちゃんが来なかったのって初めてね」
「へえ……」
 俺の中で先ほど捨てたはずの疑問が、再び鎌首をもたげてきた。普段は行く委員会の仕事を休んでまで、美里が俺と一緒に弁当を食べたのは何でだ……?
 そんな風に考え始めたところで、女子の集団から声があがった。
「キャー! それってどういうこと!?」
「委員会に行かないでお兄ちゃんとお弁当……ブラコン、ってやつ?」
「まあ弁当一緒に食べるってだけでも、十分怪しかったけど」
 一旦落ち着いていたクラスが、またザワザワと騒ぎ出した。
538 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:04:51 ID:ejZ3tX0K
「もう、あんまり人のこと詮索するもんじゃないよー?」
 そう言って河平さんが落ち着かせようとするが、一向に収まる気配はない。
「なあ菊池、美里ちゃん、俺に紹介してくれよ」
 騒ぎに乗じて、郷田が言ってきた。
「なあ、頼むよ。友達だろ?」
 生憎、こいつとは今日までまともに話した覚えがない。俺は何となくムカついたので無視しておいた。
「良かったねー、理沙」
 ふと見ると、河平さんが一人の女子の頭をポンと叩いていた。
「え、な、なんのこと」
 その女子はあたふたと答えた。
「またまたー。どうせ菊池が弁当食べに行ってる間、気が気じゃなかったんでしょ?」
 河平さんがチラリと俺のほうを見た。何なんだ一体。
 結局、騒ぎは五限が始まって先生が来るまで続いた。

「これ、そっちに運んでー」
 放課後、俺のクラスは三日後に迫った文化祭の準備に追われていた。
 このクラスの出し物は、手作りのプラネタリウムである。
 提案されたときはそんなもの出来るのかと思ったのだが、作成途中の投影機による試写を見たところ、なかなか様になっていた。
 俺の仕事はというと、装飾だ。
「これ、そっち貼っといて」
「うい」
 装飾と言っても、教室のデザインは女子がほとんど考えてくれている。俺はその指示に従って動くだけだ。装飾というよりは、雑用に近い。
「んー」
 苦しそうな声に横を見ると、一人の女子が背伸びをして紙を壁に貼ろうとしていた。頑張っているようだが、どう考えても彼女の身長では貼るべき場所には届きそうにない。
「俺、やるよ」
「え、あ、ありがとう」
 そのおどおどとした調子に俺は思い出した。
「さっき、河平さんと何話してたの?」
 俺は渡された紙を貼りながら尋ねた。
「え、さっき?」
 そう言って、先ほど河平にからかわれていた女子――進藤さんはポカンとした。
「昼休み、何か河平さんと話してたじゃん。俺の名前が聞こえたから気になったんだけど」
「え? ……あ! あれは、その、い、いや……」
 進藤さんは、さっき以上に慌て出してしまった。どうやら、これが進藤さんの性格らしい。
「あ、ごめん。こういうのって詮索するもんじゃないよね。嫌ならいいんだ別に、ちょっと気になっただけだし」
「う、うん。こっちもごめん」
 何なんだろう。何だか煮え切らない、ムズムズとした感じがした。

 その後も作業は続き、思った通り終わったのは下校時刻の六時が近付いた頃だった。
 作業の途中で、ある意味で文化祭恒例である男子と女子の言い争いのようなものもあったが、俺は当然のように静観していた。

 鞄を持って一旦校舎を出た俺は、美里を待つために二年生の昇降口へと歩いた。
 下駄箱に寄りかかり、美里を待つ。
 もう下校時刻を過ぎているためか人影はなく、遠くで校門を出る生徒の話し声だけが聞こえた。
 ――カタン。
 近くで音がしたのでそちらを向くと、一人の女子生徒の影が見えた。
 ――美里か?
 俺は思わず身構えた。
 だがくるりと振り向いたその顔は、美里とは似ても似つかなかった。その女子生徒はちらりとそこに立つ俺のほうを見たあと、スタスタと帰っていった。
 俺は思わずふうと息を吐いてから、そんな自分を滑稽に思った。

 それからさらに待つこと十数分、廊下のほうから何人かの足音と話し声が聞こえてきた。
「もう、あと三日ね」
「そうだねー。それにしても今日は疲れたー」
「そういえばさ、あんたのクラスの経費の話どうなったの?」
「え? あれは……」
「あ、兄さん」
539 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:05:56 ID:ejZ3tX0K
 下駄箱のところに現れた三人の女子生徒のうちの一人、美里が俺を見つけて声をあげた。
「おう」
 俺はとりあえず返事をした。
「あ、美里のお兄さん」
「へえ、美里ってお兄ちゃんいたんだ」
「あ、えーと、美里の兄です。よろしく」
 俺は何と反応すればいいのかわからず、適当にドギマギと挨拶をした。
「美里、お兄ちゃんと帰るの?」
「知らないの? 美里、よくお兄さんと一緒に帰ってるんだよ」
「今日は、私が言って待ってもらったの」
 美里が靴を履きながら言った。
「へえ、仲いいんだ。羨ましいなー」
 うちの兄貴なんてね、と話し始めたその子の話を聞きながら、俺はその三人について歩いた。三人がいろいろと喋る中、俺は話に入れずなんとなく居心地が悪かった。
 校門を出て少し歩いたところで、俺と美里は彼女たちと別れた。
「それにしても、まさか美里がブラコンだったとはねえ」
 去り際に一人がそう言ったが、美里はふふと笑うだけで何も言わなかった。

 昼間と同じく、俺と美里は無言で並んで帰った。
 電車に乗り、さらに駅から少し歩く。家に着いたときには、時計は既に七時を回っていた。
「ただいま」
「ただいま」
 俺と美里の声が、アパートの一室、人のいない1DKの室内に響く。
 俺が部屋着に着替える間、美里は制服のままでエプロンをつけてキッチンに入った。
 こういう帰りの遅い日ぐらい弁当にすればいいと思うのだが、美里はいつも料理を作りたがった。おそらく、料理を作るのが好きなのだろう。

 美里の作った夕食をたいらげた後は、俺は特にすることもなくダラダラと過ごした。横になり、テレビをつける。
「…………」
 美里が、俺の横にちょこんと座った。
「……勉強、しないのか?」
 美里は、普段ならばこの時間は授業の予習や復習をしているはずだった。
「今日は、そういう気分じゃないの」
 またひとつ、美里の行動に謎が増えた。

「風呂、空いたよ」
 風呂から出た俺は、相変わらずテレビを見続けている美里に声をかけた。
 俺はドスンとベッドに腰かける。美里はしばらくそのままで、十時を過ぎたころようやく立ち上がり、風呂に向かった。

 美里が風呂に入っている間、俺は今日の美里の行動を考えていた。
 美里の俺への好意を知っていても、今日の美里の行動には何か違和感があった。
 委員会の仕事を休んで俺と一緒に弁当を食べ、俺に待ってもらって一緒に家に帰り、家でも勉強をせずに俺と一緒にテレビを見ていた。
 いつもより俺の傍にいたがっているということはわかる。……わかるのだが、それ以上は何もわからなかった。
 結局のところ、俺に美里の思考を読むことなどできるはずもない。
 俺はふうと息を吐いて、着ていた寝間着を脱いだ。下着も脱ぎ、ベッドの横に畳んで置いておく。
 それから少しして脱衣所から美里が現れ、全裸でベッドに座る俺に気がついた。
「今日は、えらく準備がいいのね」
 裸にタオルを巻いただけの格好で、美里が俺に近づく。
「脱がす楽しみってのが、なくなっちゃうんだけど」
「オッサンくさいこと言うなよ」
 俺は一応突っ込んでおいた。
 立ったままの美里の腕が、俺の首に回された。美里の顔が近付き、俺は目を閉じてそれを待つ。
 美里の唇が、俺の唇に重ねられる。
 突き出された舌が俺の唇を開き、口の中をなめ回すように動く。俺もそれに応えるように舌を動かした。
 一分程して、ようやく美里の唇が離れた。
 美里が、俺の体をベッドに押し倒す。美里の巻いているタオルの感触が、俺の肌に感じられた。
 美里は、そのまましばらく動かなかった。うつ伏せの姿勢で、顔を俺の横につけてギュッと俺の体を抱き締めていた。
540 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:06:46 ID:ejZ3tX0K
「……なあ、美里」
「…………何?」
 言うつもりはなかったのに、つい口から言葉が飛び出した。
「何か、あったのか?」
 言ってから、すぐに俺は後悔した。
 ――これじゃまるで、俺が美里を心配してるみたいじゃないか。
 美里のことなど、嫌いなはずなのに。
 美里はそんな俺の考えをわかっているかのように、こう言った。
「……ふふ、珍しいわね。兄さんが私のこと心配してくれるの」
「そ、そうか?」
「そうよ」
 美里は腕を伸ばして顔をあげ、俺の上で嬉しそうに笑っていた。
「で、どうなんだよ」
 ここまで来たら撤回するわけにもいかず、俺は再び尋ねた。
 美里は少し考えてから言った。
「……好きな人と一緒にいたいのって、どんなときだと思う? ――ああ、もちろん好きな人っていうのは、兄さんのことよ」
 唐突にそんな質問をされても、俺にはわかるはずもない。俺は答えなかった。
「じゃあ、これならどうかしら? 兄さんが好きな人と一緒にいたいのは、どんなとき?」
 それも、誰かを好きになったことのない俺はにはわからない。だが今度は、少し考えてから答えた。
「心細くて寂しいときとか……逆に、喜びを誰かとわかちあいたいときとか、かな?」
「それなら、兄さんが私と一緒にいたいのは、どんなとき?」
 俺は狼狽えた。これは、もしかして先ほどと同じ答えを求められているのだろうか。
「え、えーと、心細くて……」
「別に、無理に答えなくてもいいわよ」
 何か、からかわれている気分だ。
「……それが、お前のことにどう関係あるのさ?」
「別に、関係はないわ」
「え?」
「ちょっと聞いてみたかっただけよ」
 ……やっぱり、俺はからかわれているらしい。
 美里に、こんなことを聞いた俺が馬鹿だった。俺は諦めて言った。
「わかったよ。じゃあさっさと続きでもしようぜ」
「……もう。ムードもへったくれもないじゃない」
 文句を言いながらも、美里は再び俺に唇を重ね、俺たちは抱き合った。


 風が吹く。
 窓から控え目に日が差し込み、晩春と呼ぶよりも、初夏と呼ぶのが相応しい暑さに俺は汗をかいていた。
「兄さん、朝よ」
 次の日の朝、俺は美里の声で目を覚ました。
 いつも通り、美里は先に起きて弁当を作っていた。香ばしい肉の焼けた匂いが漂う。豚のしょうが焼きだろうか。
 俺は美里と一緒に、テーブルを囲んで朝食をとる。
「今日も、昼は一緒に食べるのか?」
「はい」
 何となくわかってはいたが、俺はうんざりしてため息を吐きそうになった。
 もう一緒に食べるのは受け入れるしかないとして、俺は一応美里に言ってみた。
「……あのさ、できれば昨日みたいに、教室まで来るのはやめて欲しいんだけど」
「何でかしら?」
「クラスの奴にいろいろ言われるんだよ。ていうか、昨日もメールで言ってくれればよかったじゃない」
「昨日は、兄さんの困った顔が見たかったの」
 ……はた迷惑もいいところだ。
「でも、兄さんが嫌だっていうなら教室には行かないわ。お昼に、昨日の多目的室でいい?」
 あれ、何だ。意外と言ってみるもんだな。
「うん、それでいい」
 俺はそう返事をしてから、小松菜の味噌汁を飲み干して朝食を終えた。
541 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:07:14 ID:ejZ3tX0K
 その後は、放課後まで坦々と進んだ。
 美里と無言で並んで登校し、学校に着いたら別れてそれぞれの教室に行き、授業を受ける。
 四限終了のチャイムが鳴ると、俺は弁当を持って速やかに教室をでた。案の定、クラスの何人かにいろいろと言われた。

 弁当を食べている途中で、美里がこう言った。
「今日の帰りは、いつも通り別々で」
 てっきり今日も待たされるものだと思っていた俺は、少し肩透かしをくらった気分だった。
 まあ、一緒に帰らなくてすむのだから喜ぶべきなのだけれど。

 美里と一緒に弁当を食べた後、午後の授業を受けて放課後に入る。クラスの皆が、昨日と同じく手作りプラネタリウムの準備を始めた。
「菊池」
 見ると、河平さんが俺のほうに向かってきていた。
「何?」
「今日の放課後、ちょっと教室に残っててくれない?」
 河平さんは周りに聞こえないように小さな声で言った。
「教室に……?」
「そう。委員会の仕事が終わるまで待ってもらうことになっちゃうけど」
「何で……」
 問いかけた俺の言葉を、河平さんが遮った。
「じゃ、私これから委員会の仕事だから。プラネタリウムの準備頑張ってね」
 そう言って、河平さんは足早に去っていってしまった。
 いったい、河平さんが俺に何の用事だろうか。
 ……せっかく美里を待たなくて済むのに、河平さんを待つことになるとは思わなかった。

 その後、俺は考え事をしながら作業をしていた。考えていたのは、やはり美里のことだ。
 昨日ははぐらかされてしまったが、「何かあったのか」という俺の質問に対して、美里は否定しなかった。俺に言わないだけで何かあった、ということだろう。
 堂々と恥じらいもなく俺を好きだというクセに、何故こういうことは俺に隠すのだろう。……いや、好きな人相手だから言えないことというのもあるか。
 ああでもない、こうでもないと考えを巡らすうちに、ひとつのことが頭に浮かんだ。
 誕生日だ。今日から四日後、文化祭の二日後は美里の誕生日である。
 何故、こんなことを忘れていたのだろう。いや、去年も、一昨年も、その前も。美里の誕生日にプレゼントをあげたり、祝ってやったりということはしたことがないし、それは俺の誕生日に関しても同様だった。すぐに思い出せなかったのも無理がないかもしれない。
 そもそも、美里は誕生日というものにあまり意味を見出ださないタイプだと俺は考えていた。「生まれた日だからといって、何で祝わなければいけないの?」と、美里はそういう考え方をする人間なのだと思っていて、また俺もそういう人間であった。
 だが、美里は違うのかもしれない。
 考えてみれば、美里がそういう人間だというのは俺の決めつけにすぎないし、美里が俺の誕生日に何もしないのも、俺が美里の誕生日に何もしないのが原因だとも考えられる。
 そうだとすれば、美里は誕生日を祝って欲しいのだろうか。俺からプレゼントを貰ったりしたいのであろうか。
 だからといって昨日からの美里の行動の説明はつかないのだが、他に考えも浮かばなかった。
 ――何にせよ、たまには誕生日にプレゼントをあげるのもいいかもしれない。
 そんな風に思って、それからすぐに自分が美里を嫌っているということを思い出した。何を考えているんだ自分は。
 だが結局のところ、美里がそれを望むなら俺は従うしかないということもわかっていた。
 ……美里にプレゼントか、何をあげればいいのだろう。考えてみれば、美里にプレゼントをあげたことなど一度もなかった。

「何か、考え事?」
 唐突に声をかけられ、思考が中断された。声をかけたのは、進藤さんだった。
「え?」
「手、止まってたから……」
 どうやら、考えるのに没頭するあまり作業が疎かになっていたようだった。
「ああ、ごめん」
「そ、その……」
 進藤さんが、また昨日のようにモジモジし始めた。
「ん?」
 あ、そうだ。美里に何をあげればいいか、進藤さんに聞いてみるのもいいかもしれない。
「な、悩み事とかあるなら……」
「なあ、進藤さん」
「ひゃ、ひゃい!?」
 進藤さんが奇声をあげた。どうしたんだ一体。
「あ、ご、ごめん。……な、何?」
「大丈夫? ……あのさ、好きな人がプレゼントくれるとして、何を貰えたら嬉しい?」
「え? す、好きな人からプレゼント?」
 進藤さんはまだ何か慌てていた。
542 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:07:59 ID:ejZ3tX0K
「そう。好きな人からプレゼント」
「好きな人から、プレゼント……」
 進藤さんは自分を落ち着けつつ、少し考えてから答えた。
「その……好きな人からのプレゼントなら、何でも嬉しい……と思う」
 ……うーん。そう来たか。
「そっか。ありがとう」
「う、うん。あの……」
「何?」
「き、菊池君、誰かに、プレゼントあげるの?」
 進藤さんの目は、じっと俺を見つめていた。
「ああ、実は……」
 美里に、と言いかけて、美里にあげると言えば、美里が俺のことを好きだと言うようなものだと気付いた。
「……いや、ごめん。ちょっと聞いてみただけなんだ」
「そ、そう……」
 そして、俺たちはまた作業に戻った。

 下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。
 クラスメートが話しながら帰る中、俺は河平さんに言われた通り教室に残っていた。
 暇をもて遊びながらしばらく待っていると、河平さんが教室にやって来た。
「あ、いたいた」
 河平さんはそう言って俺を手招きすると、キョロキョロと教室の様子を窺った。教室にはまだ数人の生徒が残っていた。
「……ちょっと、移動するよ」
 そう言って歩き出した河平さんに、俺はついていった。
 河平さんが連れてきたのは、別棟の踊り場だった。下校時刻を過ぎたこの時間には、そこに人影はなくシーンと静まり返っていた。
「ごめん、もうちょっとだけ待っててね」
 河平さんは少し駆け足で、またどこかに言ってしまった。
 待つこと数分、美里に遅くなるかもしれないと連絡でも入れておこうかと考え始めたところで、河平さんが戻ってきた。
 河平さんの後ろには、何故か進藤さんがいた。
「お待たせー。ごめんね遅くなって。この子が、ちょっと駄々こねてさ」
「さ、沙耶ちゃん……!」
「まあまあ。ほら、理沙」
「う、うん……」
 その様子に進藤さんから何か言われるのかと思ったら、進藤さんはまたモジモジとしだして黙ってしまった。
 数分ほどそのまま時間が過ぎ、河平さんに何度か肩を小突かれて、ようやく進藤さんが深呼吸をして話し始めた。
「き、菊池くん……あ、あの……その…………わ、私と、付き合ってください!」
 そう言って、進藤さんは思いっきり頭を下げた。
 俺は――驚いて声が出せなかった。
 こ、告白? 俺が? 進藤さんから? 何で、突然?
 い、いや、それよりも。
 ――ドクン。
 俺の頭に浮かんだのは、美里のことだった。
「ちょ、ちょっと、理沙……!?」
 河平さんが、何故か驚いた様子で声をあげた。
「ど、どうしたの? 沙耶ちゃん」
「今日はメールアドレスとか、聞くだけってことじゃなかったの!?」
「え……? えっ!?」
「あんたが人前じゃメールアドレス聞けない、だけど一人でも恥ずかしくてメールアドレス聞けないって言うから、菊池を呼び出して私も一緒に来たんだけど……」
「えーと、あの、その……」
「てっきり仲良くなってから告白するもんだと思ってたんだけど……。まあ、告白しちゃったもんはしょうがないか。理沙も、奥手そうなくせしてなかなかやるわねえ」
「い、いや、私は別に……」
 ……目の前で話す二人の会話は、ほとんど俺の耳には入っていなかった。
「あ、そ、そうだ、菊池くん。もうひとつ……」
「え? あ、う、うん」
「明後日の文化祭なんだけど、私と一緒に回ってくれないかな……?」
 文化祭……一緒に……?
「あ! そ、その、嫌ならいいんだ! 断ってくれても構わないから。告白の返事も、もっと先でいいから。…………そ、それじゃ!!」
 そう言うと、進藤さんは一目散に走って踊り場から去っていった。
「ちょ、ちょっと、理沙! まったくもう。……菊池、あの子あんな慌てんぼうだけど、すごくいい子だから。強制するつもりじゃないけど、あの子が誰かを好きになるのとか初めてだから、協力してあげたいんだ。……それじゃ! よろしくね、菊池!!」
 河平さんは、進藤さんを追うように走っていった。
543 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:08:44 ID:ejZ3tX0K
 俺は、しばらくそこに立ち尽くしていた。
 頭の中にあったのは進藤さんのことではなく、美里のことだった。
 過去に俺が誰かと付き合ったことはない。だが……。
 ――俺の脳裏に浮かんだのは、ひとつの記憶だ。
 怖かった。ズキンと、頭が痛む。体が震える。
 それは、俺が美里に感じている恐怖そのものだった。
 巨大で、圧倒的で、俺の心を支配していた。俺は抗えない。
 それを感じた以上、俺に進藤さんと付き合うという選択肢はあり得なかった。

 俺は、震える足で歩き出した。
 このままでは駄目だということも、わかっていた。恐怖に押し潰された頭の片隅で、理性がそう訴えていた。
 進藤さんと付き合うことが、何かのきっかけになるなら……。
 ……いや、駄目だ。俺は抗えない……。

 家までどう帰ったのかは、よく覚えていない。
 気がつくと俺は自分の家のドアの前にいて、携帯電話の時計を見ると、帰るのにいつもの倍近くの時間がかかっていた。
 ――ドクン。
 心臓の鼓動が、大きくなった。
 ――黙っていれば、いいんだ。
 俺は、震える手で鍵を開けた。
 ――美里に言わないまま、告白を断ってしまえばいいんだ。それで何の問題もない。
 ドアノブに、手を伸ばす。
 ――だが、それで本当にいいのか?
 伸ばした手を、ピタリと止めた。
 ――このままで、俺はいいのか?
 俺の手は、動こうとしなかった。

 ――……カチャ。
 内側から、ドアが開けられた。
 驚く俺の前に、美里のいつもと同じ顔があった。
「おかえりなさい」
 美里はそれだけ言って、キッチンに戻っていった。
「鍵の開く音がしたのに、誰も入ってこなかったから」
 俺に背を向けたまま、美里が言った。
 トン、トン、トン……。
 包丁とまな板の当たる音が、リズム良く耳に届く。
 まるでそれにあわせるかのように、俺の心臓は早いテンポを刻んでいた。呼吸が荒くなる。
 俺はゆっくりと部屋に入り、後ろ手でドアを閉め、靴を脱いだ。
「随分と、帰りが遅かったのね」
 トン、トン、トン……。
 美里が料理を続けながら言う。
 コンロで火にかけられた鍋からは、グツグツと何かが煮たつ音がした。
 俺は何も答えず、無言でそこに立ち続けた。
「……どうかしたの?」
 トン、トン、トン……。
 美里が怪訝な声をあげた。
 俺は小さな声で呟く。
「……はく……れたんだ」
「え?」
 トン、トン、トン……。
「……告白……クラスの子に、告白、されたんだ」
 トン……トン、トン……。
 包丁の音が、一瞬乱れた。だがすぐに、元のリズムに戻る。
「……そうなの。良かったわね」
 トン、トン、トン……。
「…………」
 俺は、尚も無言でそこに立っていた。
544 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:09:08 ID:ejZ3tX0K
「まだ……何か、あるの?」
 トン、トン、トン……。
「きょ、許可が……欲しいんだ」
 俺は、思わず口にしていた。
 許可という言い方に、俺は自分の心の弱さを感じた。

 ――カチャ。
 美里が、包丁を置いた。
 カチリ、とコンロの火を止め、エプロンを外して側のテーブルに置く。
 そしてゆっくりと振り向き……、
 ――ゆらり。美里の顔は、笑っていた。

 それは俺を後ずらせるのに、十分な恐怖を与えた。
 美里が、心底楽しそうな調子で尋ねる。
「許可? 許可って……何の許可かしら?」
 ふふふ、と美里は笑っていた。
「……彼女と……」
 俺は、唾をゴクリと飲み込む。
「……彼女と、付き合う許可が、欲しい」

 ――ニタァ。
 美里の口が、広がる。
「ふふ………ふふふ……あははは」
 俺の全身に、ゾクリと寒気が走った。
「ふふ……あはははは! ははは! ははははは!」
 美里は腹を抱えて笑っていた。
 高笑いを続けたまま、美里が言葉を発する。
「あはは、許可!? ふふふ、何を言っているのかしら兄さんは! ふふ! あはははは!!」
 美里の笑い声が、全身に響く。
 その姿は、狂っていた。
 美里がこんな風に笑う様を見たのは、今まで一度しかなかった。
 俺は虚勢を張る。
「きょ……許可が! 欲しいんだ!!」
 絞り出した声は、震えていた。
 美里が、ゆっくりと右足を踏み出す。
 俺は思わず後ずさった。
「ふふ、兄さんも、心の底ではわかっているんでしょう? ふふふ」
 美里が迫る。
「わ、わかっているって……何の話だ?」
「私は……ふふ……私は、確かにあなたが傍にいてくれることを望んでいる。……あはは」
 美里の笑い声が、今にも溶け出しそうな脳に響く。
 後ろに下がり、ドン、と何かにぶつかった。壁だ。
「だけど私は、一度だってあなたにそれを強制したことはない」
 足が震え、崩れ落ちそうになるのをこらえる。
「だ、だからそれが……!?」
「……わかっているんでしょう?」
 美里が繰り返す。
 いつの間にか、美里の顔がすぐ目の前にあった。
「私があなたを離さないんじゃない」
 美里の吐く息が、顔にかかる。
「あなたがあなたの意思で、私から離れないのよ」
 さっきまで笑っていたその声は、冷えきっていた。
「…………っ!」
 頬が触れる。
 美里が、俺の耳元で囁く。

 ――あなたは、私から離れられない。
545 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:09:33 ID:ejZ3tX0K
投下おーわり。
駄文失礼しました。
546 ◆YMBoSzu9pw :2009/08/24(月) 01:10:58 ID:ejZ3tX0K
あ、タイトル入れ忘れた。
「歪な関係」です。
保管庫の管理人さんよろしくお願いします。
547名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 02:05:43 ID:DIemc45T
GJ!!
暗示されているかのように
美里に操られている様が読み応えがあって面白かったです。
てか、怖い

548名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 03:44:15 ID:F3GuWrIO
こいつは厄い!できればもう少し続きが欲しかったがGJ!
549名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 09:44:49 ID:UnKjYE4j
GJ!
妹強っw
なんかこのヤマ本格的にうさんくさげな空気になってきたな…。
550名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 16:48:13 ID:Bj48w3qB
>>514
ついに親バレ急展開きたかGJ!
榊母をあっさり切り捨てたり、返事をもらうと同時に健太に性的に迫ったり、相変わらずぶっ飛んでる優香さん最高です。
それにしても榊父、いくら怪しかったからって、そのテンションで娘の部屋を暴くなよ……
次回を楽しみにしています。

>>545
この兄妹、確かに厄いなGJ!
ハナから妹に、呪縛をかけられているだなんて、最高です。
それでも兄は、今の状況を妹のせいだけにしちゃいけないな。
最初に長編とあったので、続きを楽しみにしています。
551名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 19:36:28 ID:GTnrFLMX
NTRについて。
このスレの許容範囲はどれくらいですかね。

1、絶対ダメ。
2、兄弟の死後で、姉妹が幸せになる為なら。
3、百合ならOK。
4、兄弟をキモいぐらいに愛していれば、全てが免罪符。

流石に4の作品は一つもないけど、3なら幾つか保管庫にあるから、それぐらいがセーフティーラインですかね。
552名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 19:52:58 ID:ZNBKp6Cu
…ていうか、自分たち以外の人間は邪魔者として即排除した方がらしいからなぁw
553名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 19:53:08 ID:Huf4u0PH
つまりそうゆう要素の入ったSSをすでに書き上げたということか?
そうでないならわざわざここでそんな質問すんな
554名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 19:59:51 ID:cJocEj87
ほかのスレでやれ
555名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 20:06:31 ID:WkcPU/88
百合ならOKどころか、百合自体注意書きが必要なくらいだと思うが
556551:2009/08/24(月) 20:47:36 ID:GTnrFLMX
格好良いキモ姉を書いていたら、そのキモ姉に惚れる女の子が考えついてしまっただけです。
相手が男じゃなく、更に弟を狙う泥棒猫でもないから暴力的な事は出来ないし、ヒロインは全員を幸せにしないと後味の悪さが残りそうなので、上のような質問をしてみました。
書き上げる事が出来たら、注意書きと共に投下したいと思います。
ちなみに書きたいのは百合ではなく、格好良い女性が弟に向ける独占欲と変貌ぶりだけなので、百合描写はないか、あってもラストだけになると思います。
557名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 20:55:24 ID:8Bq/49dH
>書きたいのは百合ではなく、格好良い女性が弟に向ける独占欲と変貌ぶりだけ
その女の子を出す意味あるんだろうか…?
558名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 20:56:05 ID:ZNBKp6Cu
殺られ役にしか
559名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 21:38:44 ID:65lCswk0
キモ姉妹に懸想する不幸な脇役が、たまたまおなごというだけのことか。
560名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 23:14:57 ID:lVB9ywHc
561名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 23:17:26 ID:UqYT1ZND
ヤンデレスレ見てる人多いと思うの
562名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 23:24:53 ID:GiVwhBOM
確かに何故か最近需要が増えてきたよな…
563名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:07:20 ID:nlv5yAQQ
誰得な描写なら無い方が好きです
564名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:19:59 ID:IkzgEM0P
>>556
話が別方向にそれるなら
そっちメインのスレに落とした方がいいと思う
565名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:28:52 ID:DJZ1uwyk
妹がウザいので軍事に逃げてみた→消える軍服、生臭い銃身、しおりと軍服妹の写真が替わっている。
妹がウザいので鉄道に逃げてみた→イベントの時に斜め後ろの座席に座っている。しおりが駅員コスの…
妹が(略)バイクに逃げてみた→つなぎが消える、工具がべた付く。シートにシミが…
妹が(略)自殺に逃げてみた→愛の心中と喜び始めた。イヤなので旅に出ようとするが腹上死を提案される。
ネタが考えられなくなった。
566名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:31:56 ID:pT5MSOLs
よくここのSSに出てくる妹って完璧超人みたいのが多いけど
劣等生でコンプレックスだらけのキモウトが見てみたい
567名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:35:15 ID:62zHpY0F
まずは保管庫だ。短編にはたまにヘタレ系がいる
568名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:49:50 ID:WwiKLB1Q
軍事と一口に言っても、
戦車・航空機・戦略・WW1・WW2・戦史全体・南北戦争・ベトナム戦争・軍事関連の法制
ソ連(共産圏)軍・ロシア軍・アメリカ軍・自衛隊・中国軍・韓国軍・ドイツ軍・ナチスドイツ軍・イタリア軍・オーストリア軍等等等々
について広ーく浅ーく見識を深めている人間もいれば、それを重点的にやっている人もいて、さらに軍事部門と一緒くたにされる銃器に関しては、
ソ連製・日本製・ドイツ製(H&Kまたはワルサー限定)・スイス(SIG)製・イタリア製・その他いろいろヨーロッパ製
アメリカ製(ColtにS&WやアメリカのSIG ARMSにスタームルガー)・黎明期の自動拳銃・M16/M4系のバリエーション・M1911A1のバリエーション
突撃銃・拳銃・変わり種や駄銃・射撃競技等等々等々
それはそれはもう腐るほどあって、これについても先に申した通り広ーく浅ーくやってる人もいれば、それこそ変態野郎のように一つのモノにハァハァする輩もいらっしゃるんですよ。
569名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 04:05:57 ID:yNYZtej0
>>566
コンプレックスや常識に負けないために強くなった、努力派のキモ姉妹も多いと思うんだ……

>>568
まさに誰得な知識を、長文でひけらかされても、対応に困るのだけど?
570名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 08:08:16 ID:TAMg4hKK
>>560
kwsk
571名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 08:54:36 ID:6cJU2wTQ
>>569
「未来のあなたへ」の優香とか、その努力派だと思う
強くなり過ぎて、わざわざ弱さを演出した事があったけど
572名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 10:41:32 ID:5K430RCw
>>568
わかったから巣に帰れ。お前の戦場はここじゃない
573名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 11:01:18 ID:dxPALrf2
>>565
1、「俺、処女/非処女厨なんだ」
2、「俺、サド/マゾなんだ」
3、「俺、ホモなんだ」
4、ホストになる。「浮気じゃなくて仕事だから」「オフの時まで女の相手なんかしたくない」
5、ヨーロッパの人権団体に駆け込む
6、警察に相談する「姉/妹に性的虐待を受けているんですが・・・・・・」
7、ゴルゴ13にキモ姉妹暗殺を依頼する

さあ、どれにする?
574名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 12:00:48 ID:WwiKLB1Q
>>572
しかし残念ながら私の巣なんてどこにもなかったのであった^q^
575名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 12:39:09 ID:DJZ1uwyk
周りの女性が粛清される前に逃亡する。何処に逃げますか?
→共産圏に潜伏する(要、語学力)
 ソマリアで傭兵に(要、語学力・精神力)
 自衛隊に入り営内生活(要、体力・気力・順応力)

この三択が浮かんだ俺はダメかもしれない。 
576名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 12:45:13 ID:5VKgrtZv
>>575
→共同生活を行なうコミュニティに避難。
 あれ、ここって宗教系? あれれ? カルト?
 みんななんだかぎらぎらした視線で飢えたように
 俺を見てるんですけど……(ヤンデレルートに接続)
577名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 15:42:04 ID:fBrBWTH+
何この厨臭いレスの山
578名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 16:21:39 ID:7vXfr4Y8
8月終わるまではこんな感じだろ
579名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 18:53:12 ID:FCrRww1N
>>578
全くだな
スレのびてるから新作きてるかと思ったのによぉ
580565:2009/08/25(火) 18:54:05 ID:DJZ1uwyk
熟慮せずに書いた。そうしたらこんな事に…
スレ汚しスマン。
581名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 19:34:06 ID:cRf8PlL1
ところでお前らは幼なじみ、先生、学級委員のどれが好き?
582名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 20:09:56 ID:DJZ1uwyk
幼なじみ(女)。
しかしこのスレでそう告白した時、彼女の身(もしくは精神)に多大な被害を与えそうな気がして仕方ない。

電話聞き耳立ててる妹とかさ、目が笑ってない姉ちゃんとかさ…
583名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 20:55:54 ID:anuNMBWw
先生・・・・でもある妹が大好きです!
584名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 20:56:37 ID:sj/2jt6k
態々口に出してる奴も大差ない
585名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 20:57:23 ID:IfsmHxuT
幼馴染:腹違いの妹
先生:姉
学級委員:双子の姉or妹

結論:全部好き
586名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 23:21:45 ID:cRf8PlL1
>>585、お前完全に洗脳されてるぞwww

ちなみに俺は幼なじみとか先生とか学級委員より妹と姉ちゃんが好きだぜ!
血縁最高!!





たすけて
587名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 00:35:08 ID:PuvrYoAU
キモ姉のキモ膣にスリーパーされたい
キモウトのキモ子宮にヘッド(亀頭)ロックされたい











たすけて
588名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 01:45:19 ID:n6TyppaZ
はっはっは
おまいらみんな姉妹が大好きなんだな!









たすけ
589名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 01:48:41 ID:vBzPjW3v
>>588
いいよねホント!










むり
590名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 03:42:54 ID:NbTbE/Y/
うわいもうとつよい
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8020147
591名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 06:21:08 ID:IQilOmyv
死ね。VIPでやれ
592名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 07:22:02 ID:5qusLiaN
早く夏休み終わらないかなあ








いやホント
妹と24時間ひとつ屋根の下なんて無理っすから(泣
593名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 07:54:11 ID:POrxOY6X
この改行だらけの書き込みは何だ
一体何が起きたんだよ
594名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 08:03:28 ID:5BUSR7Lh
お前には見えないのか!?改行の間に姉と妹に襲われている>>586-592の姿が!?
595名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 08:19:49 ID:XWZjeqmo
埋めネタがくるかもしれんのにカスな改行なんぞやめてほしいわ
596名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 09:14:29 ID:QZ6u0gyn
>>591
上げるのもvipでやれ
597名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 10:16:53 ID:vBzPjW3v
>>595
埋めネタとか次スレ立ててからだろうがゴミクズ
598名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 17:36:45 ID:5BUSR7Lh
|ω・)コソ~リ
|ω・)つ http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1251275428/
|ミサッ
599名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 18:56:02 ID:IuYS4MGH
>>598

埋めネタでも考えてくるか
600名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 21:48:46 ID:NbTbE/Y/
いとうえいの「ぶらこんッ!!」が良い感じの姉弟、兄妹まみれだった
一般紙連載だったんでHシーンは無いが、
「兄の寝顔でヨダレ垂らす黒髪ツインテールロリ妹」とか
「いざ良い雰囲気になった瞬間に、それを全否定して弟を殴り飛ばすちょっとメンヘラ入った姉」とか

この作者、女性だが理解度高すぎるわw
601名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 22:12:47 ID:ndWC5q1U
いい雰囲気になったらそこはそのままいっちゃうだろ
殴りとばすとは何事か、せめて妹が妨害工作をしてグダグダ落ちならよかったのに…

ちょっと本屋行ってくる
602名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 23:17:26 ID:ZxQwuAcN
出版社はドコか聞いても良いかね?
603名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 23:19:06 ID:NbTbE/Y/
>>602
双葉社 否エロ本扱い
604名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 23:40:20 ID:Q30mkaA+
俺もぶらこんッ!!は本屋で見かけた瞬間買ったけどいとうえいの理解度の高さは異常
女性作家は基本的に嫌いだけど柚木N'とかいとうえいは下手な男性作家より好きなんだよなあ
605名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 23:58:03 ID:OA2THdTA
>>600

ググってみてかなりキたわw

明日本屋いってくる
606名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 03:41:37 ID:vtWfy6fT
つーかZIPでくれ
いや、ください
無理なら風化します
607名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 03:48:41 ID:VBXx9pE3
>>606
クレクレはやめなよ……
ここでやっても罵声を浴びせられて終わりだぞ
608名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 05:27:34 ID:qglujqQA
>>600
これは作者自身がキモ姉orキモウトってことなのか・・・
609名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 06:10:30 ID:nay9UdcU
>>596
夏休みの宿題でもやってろ
610名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 07:26:28 ID:qfPU5MiV
キモウトと夏休み
611名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 07:47:36 ID:FUbsz/Ny
今更思ったんだけどさ、夏休みって、キモ姉妹にとっては鴨が葱背負ってだし汁の中で居眠りしてるようなもんなんじゃないのか?
612名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 08:19:26 ID:pDd/TOPi
いや、逆に兄or弟からすれば学校に通う必要が無いから
家出をする絶好のチャンスだと思う
613名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 09:26:35 ID:sTSdhbjv
つまり先に行動した方が勝つ訳だな
でもキモ姉妹から逃げ切れるとは思えないww
614名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 11:25:17 ID:1I2N/VsZ
>>608
嵐が丘の作者はキモウトって聞いたことはある。
615名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 16:10:10 ID:BPv/Q5N/
Karen Carpenterもキモウトだった
616名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 16:54:18 ID:CvNdnoc1
>>614
エミリー・ブロンテだな。
兄が肺炎で死に、その弔いに出たとき風邪引いたけど
医者も薬も拒否して、後を追うように亡くなった。
617名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 23:17:38 ID:dBSkG2uU
埋め産め
618名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 00:06:55 ID:ddkNpPvS
キモウト産め
619名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 00:54:35 ID:IfFCx69Y
埋めネタいきます
620燃えろ! 近親戦隊ソウカンジャー:2009/08/29(土) 00:56:20 ID:IfFCx69Y
★これまでのあらすじ★
俺は何の変哲の無い普通の高校生、牛山大悟。けど俺のザーメンにはZP(ザーメンパワー)なる未知のエネルギーが宿っているらしく、そ
れを手に入れるために悪の組織・TC(シーフキャット)軍団が俺のことを狙っているんだ(ってこんな設定じゃなかっただろ・・・)。で
も俺には戦う力なんてありゃしない。嗚呼神よ仏よ天神様よ、俺ってば一体どうなってしまうのですか・・・。
そんな俺を神は見捨てなかった。俺の可愛い3人の妹達、紅音(あかね)・栖桃(すもも)・真白(ましろ)。彼女達はおれのZPを膣内で超
変化させ、正義の味方・近親戦隊ソウカンジャーに変身することができるのだ!
愛する兄の為、そして地球の平和を守る為、いたいけな彼女達の戦いは今日も続くのであった。頑張れ! 負けるな! 僕らのソウカンジャ
ー!! あとついでに毎晩のお搾りはもう少し優しくしてくれると助かります! ソウカンジャー!!


ZPを力に変えて戦う彼女達にとって、俺のザーメンはなくてはならないものなのだ。その為週に2日づつ、日曜日は4人で、妹達に中出し行
為をしなければならない。勿論俺とて罪悪感が無いわけではない。毎日のように可愛い可愛い妹達を傷物にするのだってつまるところ俺が
助かりたいが為という理由である。当然最初は断った。妹とセクロスしてまで助かりたいとは思わない。俺にかまわず3人で仲良く生きて行
け、と。しかし妹達は首を縦に振らない。目に涙を浮かばせながら俺にすがりつくのだ。

『お兄ちゃんがいない毎日なんて意味無いもん!! 逆レイプしてでもお兄ちゃんには中出ししてもらうからっ!』
あれ、紅音さんなんか目的変わってないですか?

『初めての相手が兄貴だってんなら女冥利に尽きるってモンだぜ。いいからズボン脱げよ』
なんで微妙に上から目線なんですか栖桃さん?

『お兄様。こんな美味しい設定・・・じゃなかった、悲しい運命を黙って見ている事なんて出来ませんわ!』
ねえ、今チラッと本音が出てましたよ真白さん?

まだ10歳の妹達にこんな行為をするのは絶対に嫌だ。・・・でも、それ以上に彼女達の泣き顔を見るのはもっと嫌だったんだ。俺は彼女達
の意見を尊重し、禁忌を犯す決意をしたのさ。・・・ああ、決意・・・したはずなんだけどな・・・。
「んぁぁっ!! もっとっ、もっと激しく突いてくらさいおにいひゃまぁぁっ!!」
時刻は午前2:30を回ったところか。今日は日曜日、1週間のうち俺が最も体力を消費する日だ。俺の上で卑猥に腰を振っているのはロリ巨
乳(あくまで小学生レベルで)が魅力の真白だ。腰を一突きするたびに大きなオパーイが右に左にダンシング。ごめんねアグネス。二次創
作だから許してちょんまげ。
「あっ、兄貴ぃ・・・っ! もっと舌でかき回してくれよぉっ・・・」
男の身体でな、女性を「気持ちいい」と感じさせることができる部位は3つある。指・舌・オティンティンだ。そのうち真白は俺の腰の上、
そして引き締まったヒップが眩しい栖桃は俺の顔の上でヒィヒィよがっている。一体どれだけ生産しているのか、舐めても吸ってもかき回
しても栖桃の秘所からはこれでもかと言うほど透明の粘液が滴ってくる。口はご覧のとおりご奉仕中、鼻はプニプニのお尻に埋まってしま
っているため、とにかく息が出来ない。なんとか栖桃がビクッと腰を浮かす隙に大きく息を吸う事で意識を保っている状態だ。
「あ〜ん、どっちでもいいからさっさと交代してよぉ〜」
残る紅音は指でマンマンを愛撫されてはいるが、やはり不満が残るらしい。栖桃と真白の腕を掴んで急かしている。
「ひぎぃっ! キタ! キマシタワーーー!!」
本日初となる取れ立て新鮮のザーメンが真白の膣に注ぎ込まれた。恍惚のアヘ顔、とでも形容したらいいのか。とにかく気持ちよくイッた
らしい。膣壁がキュンキュン締まり余韻に顔を綻ばせる。
「はーーい真白ちゃんしゅーーりょーー! 次は紅音の番ねーー!」
手をブンブン振り回し紅音が真白を抱え場所を空ける。とその時! 夜中にもかかわらず玄関のチャイムが鳴り響く!
621燃えろ! 近親戦隊ソウカンジャー:2009/08/29(土) 00:58:06 ID:IfFCx69Y
―――エマージェンシーコール・・・!!―――
紅音に続き、さっきまでアンアンよがっていた栖桃が、腰砕け状態の真白が瞬時に顔を引きつらせ外に飛び出す。君たちせめてパンツくら
い履きなさい。あ、変身するから別にいいのか。

『絶頂変身!!』
 
俺が玄関に辿り着くと赤ブルマの紅音、ピンクスパッツの栖桃、白スク水の真白が立っている。戦闘準備は万全だ!
「愛する兄に、捧げる純血ッ!! ソウカンブラッドレッド!!」
「蒸れる股間に、魅惑のワレメッ!! ソウカンサーモンピンク!!」
「腿に滴る、卑猥な粘液ッ!! ソウカンジェルホワイト!!」

『三つの心に六つの乳首ッ!! 近親戦隊! ソウカンジャー!!』(ドカーーン)

「ククク・・・貴様らがソウカンジャーか。話には聞いていたが本当にこんなちびっ子達だとはな」
TC軍団幹部「タンニンキョウシ」。悩殺ボディが自慢の攻撃型タイプだ。20代後半の女がかもし出すの妖艶な魅力と色気に3人は気圧されそ
うになりながらもじりじりと距離を詰めながら攻撃タイミングを計っている。
「振動剣・バイブレード!!」
「援護しますわ! 水笛・潮吹!」
紅音と真白のコンビネーションアタックで先手を取った。が、タンニンキョウシはひらりと身をかわしバックを取る!
「猪口才なガキ共め! チョーク・ブレード!!」
学校で使うチョークの中でも抜群の使用頻度を誇る白・黄のダブルブレードだ。ガードは間に合ったものの隣のおばさんの家の壁に激突し
てしまう2人。大丈夫か紅音! 頑張れ真白! 明日弁償しますおばさん!
「足元がお留守だぜっ! 突起棒・クリトリスティック!!」
一瞬の隙を突いて栖桃が間合いに入り込む! が、これを予想していたタンニンキョウシはカウンター・出席簿シールドを展開! 逆に吹
っ飛ばされてしまう。
「っきしょう・・・。ZPさえ満タンだったら・・・っ」
「どうしよう、これじゃファイナルアルティメットデスティニーが撃てないよ」
そう、合体必殺技・ファイナルアルティメットデスティニーは3人のZPが満タンで無ければ発動しないのだ。今回は途中で中断してしまった
為、真白しかZPが・・・ん? 真白?
「ふふふ。わたくしにお任せあれ、ですわ」
ゆらりと立ち上がる真白。その顔には笑みが浮かんでいる。
「フン、ハッタリは止すんだなソウカンジャー。ZPの足りん貴様らなぞ私の敵ではない」
「確かに今ZPが満タンなのはわたくししかいませんわ。―――でも貴方は一つ知らないことがあったみたいですわね」
「・・・なんだと?」
・・・なんですと?
「今わたくしの膣に溜まっているお兄様のザーメン。これは今日一番の取れたて新鮮ナンバーワン、のザーメンですのよ。つまり・・・」
ボウッと真白の周りが輝き始める。そして真白の水笛・潮吹にその輝きが集束する!
「なっ・・・まさかIZP(イノセント・ザーメンパワー)!? き、貴様っ!!」

「遅いですわ!! ソウカンジェルホワイト奥義・羅冥威空砲(らめぇ、いくぅぅぅ砲)!!」

強烈な光撃がタンニンキョウシを襲う! そしてそのままガードする間もなく吹き飛んでいった!
「ぐううっ・・・げ、月曜は遅刻するなよっ・・・!!」
断末魔の叫びは聞こえなかったがどうやら撃退したようだ。いやいやお手柄だ真白。それにしても背中に刺さる紅音と栖桃の視線が痛い。
このあとの結末は読者の皆さんにもお分かりだろう。日曜一杯、俺はベッドから降ろされる事無くこってりと搾られましたとさ。

                                                      おわり
622名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 01:00:04 ID:IfFCx69Y
以上です
さあ埋めましょう
623名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 01:01:08 ID:ekh2l3aD
GJ!!
そして埋め
624名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 02:05:29 ID:mEKntiKo
埋め立て予定地
625名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 02:18:30 ID:ih6Ksd+O
>>622
相変わらず頭のネジが緩んでるどころかネジ全部ぶっ飛んでてGJだ!
お前が俺の隣人だったら通報するレベルだぜ
626 ◆6AvI.Mne7c :2009/08/29(土) 02:31:48 ID:Gemy0m86
>>619
GJでした! まさかの続きものだったとは。

流れ的に今更だけど、自分も「ぶらこんっ!?」を表紙買いしましたよ。

眠いけどなんとなく、埋めネタらしきものを捻りだしてみた。
タイトルは「Overwrite」。姉×弟/兄×妹もの。大体2.0KB。
ぶっちゃけ夏専用短編とか他の小ネタ系に行き詰った反動で書いてます。
 
次レスより投下。1レス借ります。投下終了宣言はナシです。
627埋めネタ「Overwrite」 ◆6AvI.Mne7c :2009/08/29(土) 02:33:22 ID:Gemy0m86
 
「おはよう、兄ちゃん。今日もよく眠ってたね?」
 一番聞きたくない声――妹の甘える声で目を覚ました。
 今が朝かどうかもわからない。いや、何月何日かもわからない。
 けれど1つだけ、解っていることがある。
 目の前の妹に、俺はいろいろなものを失わされてしまった。
 大切な家族。大事な友人。最愛の恋人。自分の将来。そして、平穏。
 みんなみんな、目の前の妹が自分の欲望のために、壊してしまった。
  
 俺のことが好きだと、ある夜の公園で、実の妹に告白された。
 もちろん俺は首を横に振った。近親相姦なんて、吐き気がする。
 それに俺はもうすぐ就職で家を出るし、将来を誓った恋人もいる。
 だからこそ、ブラコンの過ぎた妹を、これ以上なく罵って貶して討ち捨てた。
 わたしは兄ちゃん以外はイヤなの、と叫ぶ妹を突き飛ばして自室に戻り。
 次の日気がついた時には、俺は妹と一緒に、知らない場所に居た。
 
 それからは、文字通りに地獄だった。
 妹からの求愛に――誘惑に応えるのを拒否する度、遠くで血飛沫が舞う。
 大事な、大切な、最愛の、人間関係が確実に、1つずつ消失していく。
 一度など、その現場を撮影したビデオ動画を見せられたから、間違いない。
「大丈夫。私が兄ちゃんの失くした大切なモノのかわりに、なってあげるから」
 その科白を最後に、俺はまた今日も、妹に犯されてしまい――
 いや、今日は少しだけ結末が違ったらしい。
 突然部屋の扉らしき建材が爆ぜ飛び、そこから懐かしい女性が現れた。
「あ、あんた……! まだ生きて――!?」
「だからどうしたの? それより、私の大事な弟ちゃん、返して――」
 そんな会話を聞きながら、俺はなぜか再び、意識を手放してしまった。
  
 
「おはよう、弟ちゃん。今日もよく眠ってたね?」
 できるなら聞きたくない――姉の甘える声で
 今が朝かどうかもわからない。いや、何月何日かもわからない。
「あのお馬鹿な妹ちゃんのせいで、辛い目に遭わされてたんだよね?
 大丈夫。私が弟ちゃんの失くした大切なモノのかわりに、なってあげるから」
 けれど1つだけ、解っていることがある。
 きっと多分、この間と同じようなことが、今これから起きるのだと。
 
――願うならどうか、誰でも良いから姉と妹以外の記憶を、俺にください……?
 
 
                                            ― ENDLESS ―
628名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 02:39:14 ID:2LnSq3OT
いいねぇ
629名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 07:18:35 ID:UL44Nl5r
埋め
630名無しさん@ピンキー
>>621,>>627
両者ともGJです!

>>621
タンニンキョウシさんは一体何をしに来たんだw

>>627
兄(弟)を奪りあうキモ姉妹。やはりキモ姉妹にとって、姉(妹)は排除すべき対象でしかないのかw