1 :
名無しさん@ピンキー:
2 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 19:15:39 ID:n5y6IgoV
新スレ立てました。
まさかあんなスピードで前スレが埋まるとは・・・
前スレ
>>365 ディモレア氏、まさかここで円卓の鬼神に会えるとは思えなかった。
しかしオレにはネタバレだった。
GJ、いや、あえてここは。PJ!
同じく前スレ
>>371 よかった。とにかくよかった。
GJ。
3 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 20:01:37 ID:n5y6IgoV
すまん、すれ違いだと言う事はよくわかってるんだが、
今起こった事を放して起きたい。
ドラゴンオーブを4つ集めて、塔に向かおうとしたが依頼を受けるのを忘れてたんだ。
それに気がついて、天架ける橋の海底迷宮側の魔法球で帰ろうとしたら……
「パルタクス学園に戻りますがよろしいでしょうか?」
と出たんだ。まぁ、誤字だろうとハイを選んだ俺を待ってたのは……
帰り道を教えてくれ。俺はまだ黒パーネ先生を見てないんだ!!
>>3 校長室から帰れるよ
ちなみにwikiのバグ欄にも書いてある
そこのアイテム買ってPT強化とか出来るけど
なんかあんまりな感じだからやらなかったけどw
5 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 21:51:22 ID:n5y6IgoV
>>4 ありがとう!
もどって黒パーネ先生を拝むよ!
>>乙
前スレ
>>365 ディアボロスが堕天使で銃装備とかどうでもいいとこばかり気になった
>>2 イエス、PJ!
つい最近友人に進められて買ったらハマってしまったのですよ。
PJのカッコ良さってあの青臭い所にあると思うんです。Fateの士郎を見ているような、あの青臭いけど熱い所が。
>>6 普通科だったら銃装備可能な所が凄かったり。普通科って凄いなと思いました。
堕天使に転科したのは語り手のセレスティアなんですが……まぁ、その辺誤解招いたのかも、失礼。
そして今夜は第5話を持ってきました。
モンスターの追跡を振り切り、ギルガメシュは壁に背をもたれて一息ついた。
パルタクス学園に入学してはや数ヶ月。大抵の生徒ならパーティを組んでいる時期だが、ギルガメシュは組んでいなかった。
特別ずば抜けている訳では無いがセレスティアにしては力のあるギルガメシュにパーティの誘いが無い訳では無かったが、それらは全て断り、ギルガメシュは1人でいる事を続けた。
何処までも、1人でやれる所まで強くなりたかったからだ。そう、1人で、いける所まで。
だがしかし、こんな現状を見ていると恥ずかしくなる。
手にしているロングソードは刃こぼれが起きている。肩や脇腹に出来た傷口はさっきから血が止まる様子は無い。血が抜けてきたせいか意識も朦朧としている。
「……クソ」
ギルガメシュは呟く。
ずっと昔の記憶。幼い頃、ほんの少しだけ憧れた強い人に。
いつも1人だったけれど。それだけ強かった彼に少しでも近づきたくて。
そしてもう1つ。冒険者であった彼が死んだ時に姉が流した涙を、もう見たくなかった。
だから、たった1人でどこまでも強くなろうと思った。
それなのに、今はどうしてこんな所で。そんな昔の事を思い返していたのだろう。
「……死ぬ前に、昔の事を思い出すって、迷信、だよ、な……?」
ごふ、と口元から血が漏れた。
せめて血を止めよう、と道具袋を探ったが持ち込んだアイテムが昨日の夜に尽きた事を思い出した。
がらくたと金では血は止められないし、ここで死んだらもう意味のないものだ。
「…………死ぬ、のか?」
嫌だ、とギルガメシュは思う。こんな所で、死にたくなんか無い。けれども。
モンスターの唸り声が響き、足音が迫ってくる。ぼんやりとする視界の隅に、モンスターの姿が現れた。
「……おでまし、か…………」
口の中に溜まった血を吐きだし、ロングソードを真っ直ぐに構える。
「いい、度胸だ! この俺を、殺ってみろ!」
だが、そのロングソードが振られる事は無かった。
横の通路から飛びだした魔法がモンスターの一体を吹っ飛ばし、雄叫びと共にバハムーンの少女が先頭にいたモンスターにその大剣で斬りかかった。
続いて飛びだしたセレスティアの少女が槍を振るうと2体目が串刺しになり、三体目は後衛に控えていたノームの魔法で蹴散らされる。
4体目、5体目と十体近い数だったモンスター全てが倒されるまで、そう長い時間は掛からなかった。
「…………………」
最後のモンスターが倒される時、ギルガメシュは膝をついて荒い息を吐いていた。
「大丈夫ですか?」
セレスティアの少女が、そう声をかけてくる。
「あれ、あんたまさか……」
先頭に立っていたバハムーンの少女が思い出したように呟く。
「あんた確かギルガメシュじゃない? ちょうどいいや、よいしょっと」
バハムーンはギルガメシュに手を伸ばすと、そのまま引っぱり上げて肩に担いだ。
「……なにしやがる」
「あんたを探してくれっていう依頼が出てたんだよ」
バハムーンの言葉に、ギルガメシュは「はぁ?」と呟く。そもそも誰が自分を心配してそんな依頼を出したのかが謎だ。
「マクスター君ですよ」
セレスティアの少女がそう答えると同時に「あ。バハムーンさん待って」と口を開く。
「どうした?」
「ギルガメシュ君、怪我してるから……」
「ああー………」
バハムーンが足を止め、セレスティアがギルガメシュに近づいてヒールをかける。
傷ついた身体が、癒されていくのが解る。
「……………別に、保健室にでも置いてくれりゃいいんじゃねぇのかよ?」
「え? まぁ、そうと言えばそうなんですけど……」
ギルガメシュの言葉にセレスティアは困ったように言葉を濁す。
「……まぁ、その、同じセレスティアのよしみです」
「………………」
「でも、ギルガメシュ君凄いですね。1人でこんなダンジョンに潜って何日も経つのに、生き延びてるなんて」
「バカ言え。こんな無様な姿で凄い訳ねぇさ」
セレスティアの言葉にギルガメシュはぶすりと答える。
「いえ、でも凄いですよ。私にはきっと出来ませんもん」
「けどなー、こんなレベルのダンジョンに1人で潜るとはなー。まぁ、死にかけてたのもいい薬じゃん? あんた、腕はいいんだからどこのパーティでも歓迎されるよ?」
バハムーンが笑いながら呟き、他の面々もそうだとばかりに頷く。
「放っとけ。俺は1人でいる方が性にあってる」
「…ディアボロスじゃないんですからそんな事言わないで下さい。今みたいに危なくなったらどうするの?」
セレスティアはギルガメシュの言葉に心配そうに声をかける。
「死ななきゃいい」
「…今の現状見て言える台詞かそれ」
バハムーンは呆れたようにため息をつくと同時に、ギルガメシュを抱え直す。
「とにかく学園に帰るぞ。あんたの親友が首を長くして待ってるんだから」
「……………」
「ギルガメシュ君はどう思うか解りませんけど……誰か頼れる人が側にいる事は、凄くいい事だって、私は思いますよ?」
「………………」
「誘ってくれるなら、私でもいいですけど」
セレスティアはそう言って微笑んだ。
その言葉を聞きつけたノームが「あなたは彼に気があるのですか?」と問いかけ、それを聞いた他の面々も笑う。
その時、セレスティアとしてはほんの些細な冗談だったのかも知れない。
だが、ギルガメシュという男に、その言葉は一筋の光のように見えた。
パルタクスに入学して以来、極力孤高の存在であり続けたギルガメシュ。だが、そんな彼に対して頼れる人に自分がなっても構わない、そう宣言した彼女の言葉。
セレスティアはもう覚えていないのかも知れない。
だが、6年に渡る学園生活の中でギルガメシュはそれを忘れた事は無い。
腕を磨き、4年生にして『学園最凶』と畏れられ、親友のマクスター共々生徒会に入って5年生では副会長、及び学年トップの成績を手に入れ、マシュレニアやランツレートでもその名を知られるようになった。
孤高の存在である事に代わりは無かったがそれでも友人と呼べる存在を多く創ったし、生徒会副会長としてそれなりに慕われ、後輩達からの信頼もそれなりに得ている。
いつの頃からか、彼女の姿を追うようになった。自分に道を示した彼女の姿を。
しかし、学園最凶と呼ばれても孤高の存在であった彼に、学園のアイドルに等しくなるほど美しくなった彼女に声をかける事を躊躇わせていた。何時の日か、何時の日か、と先延ばしにして、誤魔化していた。
自分らしくないとギルガメシュも思っていた。だが、勇気が無かった。側に行って、話しかけて好きだと言う。たったそれだけの勇気が出てこない。学園の誰よりも強い存在だと言うのに。
そんな自分が、情けなかった。
そして彼女をあっさり奪われた事が悔しかった。自分の方が、ディアボロスよりもずっと優れている筈なのに。
悔しかった。悲しかった。憎いと思った。
そして、そのディアボロスがディモレアの息子だと知った。
学園を震撼させた宿敵であるディモレアに、セレスティアの弟が殺された話は偶然知っていた。だから、敢えてディモレアの元へ向かい、ディアボロスがやってくるように仕向けた。
セレスティアがやってくるアクシデントはあった。しかし、それでもディアボロスにセレスティアを諦めさせれば、それで良かった。
卑怯だと思ってはいた。だが、彼ではセレスティアを幸せに出来ないと、そんな些細な話で解っていた。だからだった。
後悔は、しなかった。
ギルガメシュが喋り終えた時、遠くの方に夕陽が沈もうとしていた。
サラは黙っていた。マクスターも黙っていた。そして、ユーノがゆっくりと口を開いた。
「……マクスター。この一件、お前にも責任があるって事は解ってるな」
「……はい」
「けど、1番デカいのはギルガメシュ。やはりお前だよ」
ユーノの言葉に、ギルガメシュは視線をあげる。
「醜い。ああ、醜いよギルガメシュ。情けないって自分で解ってる。そして諦めきれない。そんな気持ちは、あたしにも解る。けどねギルガメシュ。お前のやった事は本当に醜い。
お前がどんな奴であれ、くっついた者同士を無理に傷つけ合わせたのは本当に醜くて、卑怯だ。平たく言えば、お前は最低だ」
「……………」
「ディアボロスがセレスティアに自分がディモレアの子供だって黙っていたのは本人に聞かなきゃ解らない。それがあいつら自身だけの問題で決着がつけば、それはそれで良かったんだと思う。
けどな、その問題を第三者であるお前が煽った挙げ句に火をつけちまったのが問題だ。ディアボロスを刺したのがセレスティアでも、そんな風にさせてしまったのはお前だ」
ユーノは淡々と、だが静かな怒りが刻まれた口調で言葉を続ける。
ギルガメシュは答えない。
「恥を知れ」
「………………」
「……どうするかは、お前が決めろ。ただ」
ユーノはギルガメシュに視線を合わせると、強い口調で続ける。
「人の恋を壊して、そうやって奪った恋愛なんかにまともな結末は待ってないよ」
ユーノはそう言い放つと、屋上から離れていった。
残された三人は顔を見合わせる。
「……どうするんだ、ギル」
「………………わかんねぇ」
ギルガメシュは小さく呟いて首を振る。そう、誰にだって、解る筈が無かった。
どうなってしまおうと、どうなろうと。どんな結末が待っているのか。
「…………おおっと」
ギルガメシュは何かを思い出したのか、屋上の片隅に拙い字で『立ち入り禁止』と書かれた看板の元へと向かった。
「どうしたんだ、ギル?」
「この前漬けた漬物がちょうど食べごろだと思い出した」
立ち入り禁止の看板の先には封をされた瓶が幾つも置かれており、それぞれ『梅干』『浅漬け』などと書かれた紙が貼られていた。ギルガメシュのささやかな趣味として漬物作りがあげられる。
「やれやれ、ギルらしいなぁ」
マクスターは苦笑しつつ呟く。答えに詰まった時や何かに悩んだ時、ギルガメシュは決まって漬物の事を話題にするのだ。
ギルガメシュは神妙な面持ちのまま封を開けた時、ギルガメシュは「げ」と呟いた。
「……どうした?」
「マック。福神漬けが誰かに喰われた。犯人を探すぞ! 俺の福神漬けを盗み食いしやがった奴を殴りに」
ギルガメシュがそこまで叫んだ時、屋上の扉が開いて2人の人影が顔を出した。
「ギルガメシュ、何を怒ってるんだ?」
戻ってきたユーノと、その後ろから現れたのは戦術担当にして、ギルガメシュやマクスターの担任でもあるライナ教頭だった。
「ギルガメシュ君、随分と大変な問題を起こしたものですね……あれ、どうしました? 怒っているみたいですが」
「ライナ先生、俺の福神漬けが誰かに盗み食いされまして」
「……その漬物は君のだったんですね。美味しそうな匂いにつられて屋上に来たら漬物が沢山あってちょうど食べごろな福神漬けがあったのでつい」
「だからといって一瓶全部食べ尽くす事無いでしょう! 福神漬けは俺の好物なのに! てか。明日から学食のカレーにつける福神漬けが無くなるじゃないですか!」
腹ぺこの呪いをかけられた為に常に空腹に悩むライナ先生はギルガメシュの怒声にもすました顔で「まぁまぁ。とても美味しゅう御座いました」と答えていた。
「そうそう、柴漬けも少し頂きましたけどギルガメシュ君、漬物屋でも始めたらどうでしょう? とても美味しかったですよ」
「進路として考えときます。で、何の用ですかライナ先生?」
「ああ、そうでした。忘れてましたね。ギルガメシュ君にお説教をしに来たんです」
ライナはギルガメシュの肩をたたくと、これまでない程の笑顔を向けた。
「今夜は眠らない事を覚悟してください」
ギルガメシュは天を仰いだ。
ずきり、と身体に痛みが走った。
ほんの少しだけ意識が戻り、ディアボロスはゆっくりと目を開ける。
見慣れた実家の寝室。窓から月の光が差し込んでいるあたり、時間は夜のようだ。
どれぐらい眠っていたのだろう。セレスティアはどうしたのか、先輩達は……。ディアボロスがそう思いつつ身体を起こそうとする、身体に再び痛みが走る。
「っ………」
ふと、すぐ脇の椅子に誰かが座っているのが解った。
暗闇に目を凝らすと、母親だった。目も閉じられ、頭が時折揺れていることから眠っているのだろう。
一晩中、すぐ側で看病してくれていたのだろう。
幼い頃に病を患った時も、母親は必死になって看病してくれたのを覚えている。
「母さん……」
「……ん? ああ、起きた?」
ディモレアは目を覚ますと、ディアボロスに視線を向ける。
「大丈夫?」
「大丈夫、だと思う……どれぐらい、経ったの?」
「ちょうど、1晩ぐらいね」
「そう、なんだ……」
ディアボロスはゆっくりと身体を起こしかけ、ディモレアは慌ててそれを止める。
「無茶しないで。まだ、傷口塞がりきってないわよ」
「……平気だよ。母さん、それより……」
「……なぁに?」
「ごめん……迷惑ばっかかけて」
「ううん、いいのよ」
ディモレアはベッドに横たわる息子を優しく撫でる。
息子が傷ついたのも、ひとえに自分が起こした惨劇が原因だと解っている。そう、息子は。
好きになった相手に、刺されてしまった。自分のせいで。
「……ごめんね。悪いお母さんで」
ディモレアは小さく呟いた。
「母さん」
ディアボロスは少しだけ声の調子を落とす。
「俺さ、もう……いいよ」
「え? 何がいいの」
「母さんが行かせてくれたけど……母さんにだって迷惑かかるよ、きっと。だから俺、もう学校辞めるよ。友達も、好きになった人も、もう要らないよ。
母さんにこんな心配かけすぎるの、俺、嫌だよ。もう、多分学校いられないだろうし……俺、もうパルタクス辞めるよ」
「……………」
ディモレアは絶句する。息子の言葉が、あまりにも意外すぎた。
けれども、納得出来る言葉ではあった。自分の事が知られた以上、息子が学園に残り続けると余計な問題も発生してしまうかも知れない。
だが……。
「いいの? それで」
ディモレアはゆっくりと口を開く。
「やっと手に入れた、好きな人なんでしょ?」
「……………」
ディアボロスは首を左右に振った。
「もう、いいよ。もう……」
忘れてしまおう、とディアボロスは思った。
何もかも、忘れてしまえば良かったのだ。そう、何もかも。友人も、恋人も。何も、かも。全てを。
屋上ではライナの説経がまだ続いていたが、もう夜も遅いからという理由でサラとマクスターはユーノと共に屋上から降りる事にした。
「………しかし、ギルガメシュの奴が嫉妬に狂った事するなんて、また意外というか意外だな」
「ああ見えて、ギルは結構熱い奴なんですよ。ユーノ先生。ところでそこでしっかり抱きしめてる瓶は?」
「ん? ああ、柴漬けをちょっと。酒のつまみにちょうどいいっつーか」
「……漬物作りはギルの数少ない趣味なんですから、後でどうなっても知りませんよ」
マクスターはため息をつき、サラは「ギルの漬物美味しいもんね。ご飯進むし」と言葉を合わせる。
ユーノが苦笑しつつ足を進めた時、「おろ」と呟いた。
「お前ら、そこで何してるんだこんな時間に?」
ユーノが声をかけた先に立っていたのは、ディアボロスのルームメイトのフェルパーだった。
「サラを探してたら、ここで見たって奴がいたから……」
「あたしに?」
フェルパーは頷くと、サラに真剣な顔で口を開いた。
「なぁ、あいつの家の場所、知らないか?」
「………えーと」
サラは迷う。確かに知っていなくも無いが、昨日の夜のディモレアから逃げてきただけに、もしかしたら下手に行けば殺されるかも知れない。
「やっぱりさ。皆、心配してるし……連絡取れないし。だから一旦家に行った方がいいかなって」
「彼のパーティ仲間は?」
マクスターの言葉に、フェルパーは返事をする。
「皆すっごく心配してる。何処にいるか解らないからって、あちこち探し回ってた奴もいたし」
「……噂については、聞いたか?」
「聞きましたよ。ユーノ先生。そしたら、バハムーンの奴が激怒して。『何で話してくれなかったんだ、俺らの事信じて貰ってないようなもんじゃないか』って。
びっくりですよ。まぁ、俺だって思いますよ。あいつがディモレアの子供だろうが、あいつはあいつで俺のルームメイトですから」
フェルパーの言葉に、マクスターとサラは顔を見合わせる。
「……彼、すっごく心配されてるんだね」
「ああ」
サラの言葉に、マクスターは頷くと、フェルパーの肩をたたいた。
「もう1日だけ」
「え?」
「もう1日だけ、様子を見てやろう。それから考えても遅くはない」
「……はい!」
フェルパーが去っていき、マクスターはため息をついた。
「さて、次はセレスティアの方だな。どうしたものか」
「……マクスター。何か考えた?」
「何も考えてない」
直後、マクスターの後頭部にユーノの拳骨が降ってきた。
投下完了。
冒頭から2レス目までは一応ギルガメシュの過去の回想です。
でも、1年生のギルガメシュ先輩って目つきが悪いやんちゃなガキというイメージも出て来たり。
少し大人っぽすぎたかも知れないと反省中;
ディモレアさん家の作者さんGJです!うああ続きが気になる!
もう一度1をやりたくなってきた・・・いややろう!
と、ここでエロパネェ先生の続きが出来たんですが
・NTR(?) ・足コキ ・欝っぽいエンド ・微レズ ・長い
という感じに。もう最初にリクしてくれた方のとは違う方向に・・・。
投下していいものか悩んでるので誰かから需要があれば投下しますね;
>>14 欝、レズ要素ktkr!そういうの好みだ!需要ならここにあるぞ!
ディモレアさん家、GJ! ディアボロス……(つД`)
>14
わっちも微レズとか足コキには大いに興味そそられるでありんス!
それでは、第4話を投下させていただきます。
-----------------------------------------------------
『クロスティーニ学園せい春日記』
その4.星空の下のディスタンス
「ん〜、ちぃーーっと早過ぎたかなぁ」
ルーフェスやグノーと話した翌日、俺は学園の図書館の前のベンチでデートの約束をしたディアナが来るのを待っていた。
じつのところ、ヘタレと言われている俺だって、この一週間何もしなかったワケじゃない。
冒険の合間に学園に帰ってきた時は、必ず夕食にディアナを誘ったし、数少ない座学の授業時も教室で隣りに座るよう努めた。ダンジョンで休息する際も極力彼女に話しかけるようしていた。
我ながらいぢましい努力だが、幸いディアナもそれを嫌がることなく、むしろ嬉しそうに受け入れてくれてた……と思う、たぶん、メイビー。
実際、昨日と一昨日の晩は、夕飯後に寮の部屋まで送った時は、軽くだけどほっぺにchu!とかしてくれたし。
ニヘラ〜
ヤバい、つい顔がニヤケてしまう。この緩みきったダラシない顔をディアナに見せるワケにはいかんだろう。うむ、ヒューイよ、紳士たれ!
「あのぅ、どうかしたんですか、ヒューイさん? ひとりでガッツポーズなんかして……」
……とか言ってるウチに、ディアナが来ターーーーーッ!?
「あ、いや何でもない、何でもない。ちょーっと気合い入れてただけだから」
「? それならいいんですけど……あのぅ、もしかして、お待たせしちゃいました?」
「いやいや、俺も今来たところだから」
おぉう、デートで男が言いたい定番台詞のひとつを、よもやこの俺が口にする日が来ようとは!
そう言えば、私服着てるディアナを見るのは、初対面の時以来だな。
学園では大概制服だし、冒険中はアイドルの正装……の上から防具付けてるし。
偶然なんだろうが以前俺が夢に見たときみたいな薄水色のワンピースの上に、ブルーのサマーセーターを羽織っている。足元は編み上げのサンダルだ。
「や、その……気の利いた言い回しができなくて申し訳ないんだけど、ディアナちゃんの私服姿って、新鮮な感じがするな。よく似あってる」
「え、そ、そうですか? ありがとうございます……よかったぁ」
ポッと照れながらも安堵の表情を浮かべるディアナ。
「?」
「あ、いえ、休日とは言え、学園内ですから制服を着るべきかとも思ったんですけれど……グノーがこれを着てけって」
(グノーさん、GJ! やるときゃヤルじゃん!)
心の中で密かにノームの女性に感謝しつつ、俺は彼女と共に図書館に入った。
一応、今日は魔法に関して、色々調べることになっている。
専門職ほどではないにせよ、普通科の俺もいくつかの魔法が使える(と言っても、まだヒールとファイア、アクアくらいしか覚えてないけど)し、アイドルの彼女は歌魔法を唱える……つーか歌うのが本業だからな。
それに、今後転科するときのことも考えておかないといけない。
「じつは、レベル9か10になったら、転科するつもりなんです。その頃になったら、魔力も相応に成長してると思いますし、わたしたちのパーティって、生命の歌の援護もあまり必要ないですから」
「まぁ、確かに"チート魔法使い"と"なんちゃってレンジャー"がいるしなぁ」
フェリアは賢者呪文を全修得したうえでの今さらの魔法使いだし、グノーに至っては普通科だけでなく錬金術師の経験もあることは間違いない。あのアイテムの数々は、往時に作ったものの残りだろう。
「ええ、多分……どうやら、パーティ用とは別に個人でも倉庫持ってるみたいですし……」
ゲッ……どんだけ在庫抱えてるんだよ!?
「まぁ、グノーもフェリアほどじゃないにせよ、過剰に攻撃魔法で出しゃばる気はないみたいだけど。錬金術師って本来攻撃魔法が主体だよな?」
おそらく、俺達ヒヨッコに実戦経験を積ませるのが狙いだろう。やれやれスパルタなおねーさま達だこと。
「それで、ディアナは将来何になるつもりなんだ? ……おっと、"お嫁さん"は別にしてな」
「ふぇっ!? ど、どうしてわたしの夢を知ってるんです?」
あー、やっぱりな。ディアナみたいな娘なら、子供の頃から一度は憧れると思ったんだ。
「ま、そっちの方の夢は、ディアナに異論がなければ、俺が必ずかなえてやるからさ」
「ほ、本当ですか!?」
真っ赤になって、唐突にガタンと椅子から立ち上がりかけるディアナ。休日なんで、図書館内にはさほど人はいなかったけど、それでも周囲の視線が集中する。
「こらこら、館内は静粛に、だぜ」
「あ……すみません」
すごすごと座り直すディアナに、俺も幾分声を落として尋ねた。
「でも、一体どうしたんだよ。俺の気持ちはディアナちゃんには事ある毎に伝えてるはずだし、今さらだと思うけど?」
「その……ですね。わたしの夢って、"花嫁さん"というか……正確には、その"お母さん"なんです」
「? まぁ、ある意味、似たようなモンだよな。普通、お嫁さんになったその次は順当にいけば母親になるもんだし」
でも、わざわざこだわるってコトは、きっと"お母さん"に何がしかの思い入れがあるんだろうな。
そう言えば、グノーはディアナの母親の友人――正確にはディアナの母親がグノーの恩人、なんだっけか?
「いえ、ですから……お母さんになるってことは、当然わたしが子供を産むってことですし……」
?? まぁ、養子をひきとるとかしない限りは、そうなるわな。
「そのぅ……そこから連想して、自分が妊娠してる場面まで想像しちゃって、相手は誰かなって……」
! あ〜、やっと理解した。ごめんな、鈍くて。
「で、俺が旦那で、もしかしたら"そーいうこと"をしてる場面まで、想像しちゃった?」
「きゃーきゃー、い、言わないでくださいぃ〜」
両掌で頬を押さえて顔を背けるディアナは、顔どころか頭や首筋まで真っ赤っかだ。
おっとり落ち着いた娘だと思ってたけど(そしてそれも決して間違いじゃないんだけど)、たまにこういう歳相応の仕草を見せられると、一段と萌えるなぁ。
「いやいや、俺としては未来の伴侶候補として想定してもらっただけでも感謝感激だよ。でも……もしかしてディアナちゃんって、意外にエッチ?」
「はうっ!」
おろろ、机に突っ伏しちまったか。
まぁ、これ以上からかって嫌われたら元も子もないよな。
俺は笑って謝罪すると、ちょっと早めだったけど、招待券をもらったカフェバーに行くことを提案した。
グノーおススメのカフェバーは、俺達がいつも使っている学食とはちょうど校舎はさんで逆の方角にあった。
新装開店というだけあって、なかなか混み合っていたけど、招待券を持っていた俺達は、さほど待つこともなく店内に通される。
「へぇ、なかかな雰囲気のいいところだな」
「ヒューイさんは、こういうところによく来るんですか? 実はわたし、初めてで……」
ああ、ちょっと落ち着かないのはそのせいか。いかにも保護者のグノーが過保護そうだしなぁ。
「まぁ、俺も下町の酒場くらいしか経験ねーけど。こういうオシャレな店は初めてだよ」
とは言え、しょせんは学園付属の飲食店。規模からしても、たぶん教職員相手がメインなんだろうけど、一部の強いアルコール類以外は、生徒にもちゃんと出してくれるみたいだ。
もちろん、健全安全好青年たる俺は、ディアナを酔いつぶして「お持ち帰りぃ〜」とかそういうやましいコトは一切考えてない……ほ、ホントですヨ?
第一、ほら、俺の部屋にはルーフェスもいるしさ。
――「そや、ヒューイ。今晩ワイはフェリアんトコ泊まるさかい。鍵かけといてもらってエエで」
――「またか。同室の娘のコトもたまには考えてやれよ〜」
――「ああ、大丈夫や。その娘の方も、今日は彼女のトコ行くらしいさかい」
――「そっちもか! ……ってか、"彼女"!? レズっ娘かよ!!」
出がけにルーフェスと交わした会話が、脳裏に甦る。
や、でも、ディアナが帰んないと、グノーが心配して怒鳴り込んでくるかもしれないし……。
――「――ヒューイさん。唐突ですが、私、本日は生理が重いので保健室のお世話になる所存です」
――「いやいやいや、アンタ、ノームでしょうが! 擬体の身で生理って……」
――「――知らないのですか? 最近の擬体は進んでいますから、さほど生身と変わりませんよ。切れば血が出ますし、頭叩けば気絶します。最高級品なら、生理・妊娠・出産までひととおりエミュレート可能です」
――「ウソ〜ん!?」
――「……ああ、そう言えば、この気分の悪さは、生理ではなく悪阻かも……あの晩、私が「ら、らめぇ、膣内に出しちゃらめぇ〜! 妊娠しちゃうぅ〜」と言ったのに、ヒューイさんがいっぱいいっぱい注ぎ込むから……ポッ」
――「記憶を捏造するなーーーッ!!」
ヤな記憶も思い出しちゃったぞ、ヲイ。
いやいや、こういう時こそ、男の甲斐性が問われるのだ!
「あ、ウェイトレスさん、俺にはエールを。彼女には甘めのカクテルをお願い」
や、口当たりがよくて飲みやすいと思ったからです! 他意はないッ!
そして1時間後。
……ごめん、ディアボロスの肝臓、ナメてた。
すでに10杯以上グラスを重ねてるのに、ディアナは、ほのかに頬が赤いくらいで、いっこうに酔った気配がない。
人間、悪いコトはできんとゆーことだな、ウン。
ま、そもそも酒の勢いを借りようと言うのが間違いか。
当初の予定どおり、展望台へと行ってイイ雰囲気に持ち込んで、今日のところは何とかファーストキッスまで漕ぎ着けるというコトを目標にしよう。
そもそも、俺はディアナの心が欲しいんだし……いや、身体がまったくいらないと言うコトもないんだけどさ。ホラ、わっかいオトコノコですから。
それでも、ディアナの気持ちを傷つけてまで、この子を無理やり抱こうとは思わない。
お、今、俺ちょっとカッコいいこと言った?
……などと心の中でひとり漫才しつつ、俺は彼女を「星空の見える展望台」へと誘ったのだった。
* * *
「わぁ、ホントにすごくたくさん星が見えるんですね。綺麗……」
デートコースの〆としては陳腐過ぎるか? とも思ってたんだけど、存外ディアナは喜んでくれた。
それに、正直俺も、学園裏手の展望台から見える光景にはちょっと圧倒されていた。
そこそこ大きめな町育ちの俺にとって、こうしてほぼ360度全天の星を暗がりの中で見た経験は、ほとんどなかったからだ。
初めの森での冒険を始めてからも、夜空を見るどころじゃなかったし。
「ああ、ホントにキレイだな……」
だからそう口にしたのは追従なんかじゃなく間違いなく本心だ。
もっとも、その対象が、数多の星々に対してなのか、あるいは三日月と星を散りばめた夜空を背景に立つディアナに対してなのかは、自分でもわからなかったけれど。
「……あのぅ、聞いていい事かわからないんですけど、ヒューイさんのご両親って健在なのですか?」
「ん? ああ、話したことなかったっけ? 父母揃ってピンピンしてるよ。いくつになっても落ち着かない親どもだから、バカ息子がいなくなって、今頃第二の新婚気分でも満喫してるんじゃないかね」
「仲がよろしいんですね。何をなさってるんですか?」
「元々はそこそこ腕利きの冒険者らしい。まぁ、現役時代に稼いだ金が相応にあるし、今は何か厄介事が起こって頼まれれば仕事するってスタンスだけどな」
それでも、一度"仕事"に出れば、普通の市民の家族4人が余裕で半年は遊んで暮らせるくらいの金を稼いでくるんだから、流石と言うべきなんだろう。
学生とは言え自分も駆け出し冒険者の端くれになったことで、かえってその凄さがわかるようになった……少々癪だけど。
「あ、もしかして、結婚したあとの舅と姑のことでも気にしてる? 大丈夫、親父もお袋もディアナみたいないい娘がドラ息子の嫁に来てくれたら、大喜びだって」
「もぅ、気が早過ぎますよぅ!」
クスクス笑いながらも頭からは否定されなかったので、内心ガッツポーズな俺。
「……わたしの母のことはちょっとだけお話しましたよね」
「うん、確かディアナちゃんが10歳の時に亡くなったんだっけ」
それ以来、グノーが母代わ「──あ・ね・が・わ・り、です」……お姉さん代わりになって、一緒に暮らしてきたらしい。もっとも、グノー自身との面識は、それ以前からあったらしいが。
「母が亡くなる直前に打ち明けてくれたんですけど、わたしには父がいたんだそうです」
まぁ、そりゃ処女懐胎でもない限り、父親はいるよな。……ん? そうか。「いた」のか。
「はい。ずーっと以前、わたしが生まれる前に亡くなったんだそうです。ただ、父は、ディアボロスではなくエルフ……いえ、ハーフエルフだったんです」
「! こう言っちゃなんだが、そりゃまたレアな……」
この世界に住む広義の人間──ヒューマン、エルフ、ノーム、ドワーフ、クラッズ、フェアリー、フェルパー、バハムーン、ディアボロス、セレスティアと言う10種類の種族は、実のところ同族間でなくとも交配は可能だ(ノームは、ちと特別だけど)。
無論、その受胎率は同族同士に比べて著しく下がる。比較的可能性が高いと言われるヒューマンとエルフ、クラッズとドワーフのあいだでさえ、同族同士におけるそれの50%に届くかどうか。
まして、種族としてかけ離れたもの同士ほど、受胎率は下がる。
俺達の知り合いで言えば、ルーフェスとフェリアが連日暇を見つけては励んでらっしゃるが、10年あの状態を続けても、ひとりデキるかどうか難しいところだ。
(もっとも、フェリアにはすでに亡夫とのあいだに娘がいるらしいから、無理に産む必要はないのかもしれないが)
で。異種族間で子を為した場合、唯一の例外を除いて母系優先──つまり子供は母親の種族になるのが普通だ。
もちろん、多少は父方の特徴も受け継ぐものの、基本的にはフェアリーが生んだ子はフェアリーで、バハムーンが生んだ子はバハムーンになる。
その唯一の例外というのが人間とエルフの場合で、ごく稀に両者の特質を併せ持った"ハーフエルフ"と呼ばれる存在が誕生することがある。
外見的にはエルフに近いが、その気質はむしろ人間に近い。能力的には両者のいいとこどりをしたように優秀だが、同時にどちらの種族にも属さない、ある意味孤独な存在とも言える。
多くはその素性を隠して、姿形の近いエルフに交じって暮らしているらしいが……。
「ですが、父は人間のあいだで養父母に育てられたそうです」
当然のことながら、ディアナの父親は若いころから色々苦労したらしい。
いつか世間を見返してやる、という思いを胸に、こことは異なる冒険者学校に入学し、精霊使いとして、優秀な成績で卒業したのだとか。
ディアナの母とも同じパーティを組んでた仲間だったらしい。
あるいは、同じ世間のハジカレ者同士、共鳴する部分があったのかもしれない。
「ですが、学園を卒業してまもなく父は姿をくらまし……ひと月後、行方がわかった時には、とんでもない企ての首謀者として世間に名を知られていました」
なんでも、古代の恐ろしい力を秘めた"塔"の主となり、各国に向けて宣戦布告したらしい。
そして……彼女の母を含む昔の仲間に倒された。
あとで"塔"を調べたところ、実際に世界を滅ぼすまでの力は無かったものの、解放されれば一地方に壊滅的な打撃を与えるには十分なだけの破壊力が秘められていたらしい。
だから、彼女の母達のパーティはちょっとした"英雄"になった。
けれど。
「ほかの人達が何を言おうと、母達にとっては父は仲間で、母にとってはお腹の子──わたしのことですね──の父親だったんです」
間もなくパーティは解散。5人はそれぞれの道を歩むようになった。
ディアナの母も名前を変え、英雄ではなく一介のディアボロス女性として娘を育てる道を選んだのだと言う。
「……本当は、母と同じ冒険者になることは、グノーには反対されてました。でも、どうしても母が、そして父が通った道を見てみたくなって……。
でも、その一方で、るごく普通の"奥さん"として"旦那さま"と一緒に暮らすことにも憧れはあるんです」
わたしは、"お父さん"のいる家庭というものを知りませんから……と寂しそうに笑うディアナ。
「そうか……」
こんな時に、巧い言葉で出てこない自分の不器用さが恨めしい。
「ねぇ、ヒューイさん、わたし、たぶん……ううん、きっとヒューイさんのことが好きです。"仲間"としてだけでなく、頼れる、そばにいてほしい"男性"として。
でも……両親のことを考えると、どうしてもあと一歩を踏み出せないんです」
彼女らしくない儚げな笑みを浮かべるディアナに歩み寄ると、俺は力一杯抱きしめた。
「あ……」
「約束する……いや、誓う。俺は、絶対にディアナをひとりにしない。だから、ディアナもずっと俺のそばにいてくれ」
「──そんなこと簡単に言っちゃっていいんですか? わたし、ほんとは結構我がままで欲張りですよ?」
普段のおとなしい性格は、半分演技入ってますし。いわゆる"しょせーじゅつ"ってヤツです……と悪びれてみせるディアナ。
ルーフェスも言っていたが、一見したところ彼女の属性はいかにも"善"に見える。しかし、実際には"中立"だ。
だが、逆にこうも考えられる。もし彼女が"善"なら"悪"属性の人間に煙たがられるだろうし、"悪"なら"善"属性の者から反発をくらうだろう。
だからこそ、彼女はあえて波風の立たない"中立"の状態に自分の身を置いているのではないか。それが彼女の言う"処世術"なのだろう。ただでさえ、世間受けの悪いディアボロスの少女としては、無理もない選択だ。
けれど……。
「半分、ってことは、残りの半分は地なんだろ? だったら十二分に好意に値するよ」
「え!?」
「つまり……相変わらず大好きってことさ」
きょとんとしてしている彼女の肩に手を置いて、そのまま唇を奪う。
「!!」
不意打ちみたいで卑怯かもしれないけど、ここは半端に引くべき時じゃない、と俺の勘が告げている。
──たぶん、今夜を逃したら、ディアナは俺に二度と接近してくることはない。
体じゃなくて心の話だ。
だから、多少強引にでも、俺の決意と想いを彼女の体と心に刻みつけておく必要があった。
「……」
一瞬だけ体を強張らせたディアナだったが、すぐに目を閉じて俺に体を預けてくれた。
コレは……OK、ってことでいいんだよな。
内心の自信の無さを隠そうとして……すぐに俺は考えを変えた。
「……プハッ! ごめん、ちょいと歯があたったな。まぁ、初キスなんで許してくれ」
無理に見栄を張ったって仕方がない。ありのままの自分でいること。それが、たぶんディアナにとって一番必要なキーワードなんだと思う。
「フフ、ヒューイさん、ちょっとカッコ悪いです」
その証拠にちょっと微笑いながらも、ディアナはコトンと俺の胸に頭をもたせかけてくれたのだから。
* * *
<Girl's view>
「ふぅ……やっと着きましたわ」
流石のわたくしにも、単独での山道踏破はキツかったですわね。
でも、おかげで戦士としてのレベルがひとつふたつ上がった気がしますし、結果オーライですわ!
「とりあえず、職員室で入学手続きをしないといけませんわね……あら?」
あそこの展望台にいるのって、もしかして彼ではありませんこと?
え? 「500メートル以上離れてるのに、人相がわかるのか」?
ふ……乙女の勘をナメてもらっては困りますますわ。
んん〜? でも、ヘンですわね。彼のすぐ側に、誰か女の子がいるみたい。
奥手な彼がナンパしてるとも思えませんし……。
!
いいい、今のは!?
いえ、きっと、目の錯覚、気の迷いですわ!
彼が、わたくし以外の女性と…抱き合って…くちづけをかわしてイタナンテ……。
<つづく>
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
以上です。
しかしキャラを描くとその分Hシーンまでの道が遠のくという罠。エロとキャラ性を両立させてる人はスゴいなぁ。
あ、受胎うんぬんはもちろん勝手設定ですのであしからず。ホントのところはどーなんだろ。
ご覧のとおり、本格的修羅場は次回に持ち越しです。……スクイズ?
*セーレス
セレスティア・女・善/戦士→剣士
典型的な高飛車お嬢様。ヒューイの幼馴染で、町を牛耳る名家の娘。実はヒューイに気があるのだが、彼の前では素直になれないツンデレさん。
セレスティアとしては知、筋、命は高いが、運と速がやや低め。
突然町を飛び出したヒューイのあとを追うべく、親を説得して学園に来てみれば、当のヒューイはポッと出のディアボロスとくっついてたという寝耳に水な状況。彼を取り返すべく半ば強引にパーティに加入する。
※イメージは、「セレスティア・女・戦士」を銀髪でツリ目にした感じ。ただし、体型は同アイドルなみ(つまり、ひんぬー)
ヒャッハー!ディアナだー!可愛いなぁ・・・。
次回にwktkせざるを得ない・・・!
さて、話は変わりまして恐れ多くもお二方から「需要アリ」と言われましたので
えろぱねぇ先生投下!でもえろいのはエル子!詐欺だ!
ちょっと長いのですがご容赦を。
鬱エンドとかダメな人にはドン引きされるかもしれないのでダメな方は飛ばしてくださいませ。
「ちょっと聞いてるのヒュム男!」
パカーン!
非常に景気のいい音を立てて参考書の角がヒュム男の側頭部にめり込んだ。
声を上げることも出来なかったのか彼は机の上で突っ伏して悶絶している。
「一瞬、お花畑が見えたが・・・何の話だっけ、エル子」
「数学のノート見せてって言ってるの!」
見せてくれと頼んでいる立場なのにエル子は白い頬を膨らませている。
エル子はヒュム男と幼馴染で、同い年なのだが小さい頃から姉と弟のような関係だった。
「戦士学科の私にこんなの判る訳ないじゃない!そこで魔法学科のヒュム男の出番よ」
「お前な・・っと、予鈴だ。授業が始まるぞ。また後でな」
「え、ちょっ・・・」
予鈴が鳴り生徒たちが席に着き終わる頃、静かに教室のドアが開いた。
そこから入ってきたのは白い天使・・と形容しても差し支えない、パーネ先生だった。
コッ、コッと細いヒールの音が響き、教壇に名簿を広げると、柔らかな笑顔で挨拶をする。
「おはようございます、皆さん。必修科目数学の時間です。頑張りましょうね」
その笑顔に大半の男子生徒は魅了され、だらけた顔になる。
エル子の隣に座っているヒュム男もその大半の中に入っていた。特に最近重症で、顔をにやけさせるくらいなら
まだいいが、熱の篭った特別な視線でパーネ先生を見ているようなのだ。
それが腹立たしくて、思わず鉛筆の尻を噛み潰したエル子は容赦のない踏み付けをヒュム男のつま先に見舞った。
理不尽な激痛に声を我慢して悶絶するヒュム男にふん!とそっぽを向く。
と、こそっ、とペンダントにしている指輪を胸元から取り出す。
(これの事忘れちゃったのかなぁ・・・)
それはどう見てもオモチャで出来た指輪だった。露店などで売られているようなモノである。
だが、エル子にとっては特別なものだった。
小さい頃の話だが、二人だけで祭りに出かけたことがあった。その時この指輪を物欲しそうにしてるエル子に、
ヒュム男はなけなしの小遣いをはたいてプレゼントしたのだ。
・・・・思えば、この時からだった。ヒュム男を意識し始めたのは。
「・・・ル子さん?エル子さん?」
はっ!と思い出から戻ると、クラスの視線が集まっていた。意識がどこか行ってしまってる間に
指されたのだ。赤面すると同時に極度に焦り、必死に教科書をめくる。が、何のために指されたのかさえ判らない。
涙目になりかけた所に、隣のヒュム男がトントン、と自分のノートをペンで指し示した。
しどろもどろになりながら答えるエル子。
解に至るまでの式などわからなかったが今はそれどころではなかった。
「ふふ、その通りですね。今回はそれでよしとしてあげます。では、そこから導き出される解を使って・・」
くす、と微笑みながらエル子のズルを見逃すパーネ。流麗な字で黒板に解説を書いていく。
「ヒュム男君、その次の発展形の問題、判りますか?」
「はい!それはですね、問1を応用して・・」
難を逃れホッとしていたエル子だったが、答えるヒュム男を見て神経を逆撫でされてしまった。
エル子は自分が人より嫉妬しやすい性格だと判っている。
努めて冷静でいようとするが、ヒュム男の姿勢、熱意、どれを取っても自分には向けられない物だった。
必死に解説をして、パーネから気に入られようとしている。これには嫉妬を抑えることが出来なかった。
・・・・気に入らない。何処がいいのよ、あんなの。
知らないうちに、めき、と鉛筆にヒビが入っていた。
「はい、そうですね、完璧な答えです。よくできました、ヒュム男君」
パーネが満面の笑みを浮かべ、また黒板に解説を書いていく。
一方のヒュム男は顔を綻ばせ、パーネの後姿に見入っていた。
「なぁエル子見たか、パーネ先生に褒められた・・ぜ・・・・?」
ここに来てようやくエル子の態度が先ほどとは違う事に気がついた。
机の上にエル子の手の中から細かい木片がぱらぱらと落ちてきている。
「そう・・・よかったね」
あからさまに拒絶する、絶対零度の声色。この時間、ヒュム男はエル子に怯えながら過ごした。
カラーン、カラーン。終業の鐘がクロスティーニ学園に響き渡った。強い西日が差し込んでいた。
その日一日かけてエル子は少しずつ機嫌を直すようにした。とても面白くなかったが、
ずっとつっけんどんにしていてもヒュム男に嫌われるだけである。
最後の授業の時間にはまたヒュム男と冗談を言い合えるようになっていた。
「はぁ、今日もよく勉強したぁ・・・・。ヒュム男、明日戦術カリキュラムの課題写させて!」
「お前・・・・。まぁ、いつもの事だしな。でもきちんと自分でも勉強しろよ?」
はいはい、わかってるって。エル子はいつも通りの笑みで答え、いつも通りの笑みで言った。
「ヒュム男、一緒帰ろっか。帰りに買い物に付き合っ・・・」
「あ、悪ぃ・・・・。この後パーネ先生に勉強を見てもらう予定なんだ」
ぐらっ、ときた。
パーネ。パーネ。またパーネなのか。
どす黒い感情が渦を巻くのが判った。黒い、墨を流したような。西日で出来る自分の濃く黒い影はその写し身に見えた。
ずっと好きなのに。貴女よりずっと彼の事を知っているのに。私から奪うつもりなのか。生徒と教師の恋愛なんて許されない。
でも、もし、もし・・・・。
さまざまな思いや感情が混ざり合い、エル子の思考を乱していく。
その時カラーン、とまた鐘が鳴った。
「うお、これじゃ遅れちまう。またなエル子!」
そう言うとヒュム男はカバンを掴んで校舎の奥に消えていった。
西日の中立ち尽くすエル子。どんどんと影が伸びていく。
エル子の周りで他の生徒達が次々と下校していくが、立ったままのエル子は目立ったが誰も声をかけようとはしなかった。
触れれば切られる。そんな雰囲気だった。
・・・どれくらい経っただろうか。もう日が沈もうかという頃に突然動きを止めていたエル子は動き出した。
(ダメダメ、動かなきゃ・・・!動かないと始まらない、ヒュム男は私のこと見てくれない・・・!)
(パーネ先生なんか、いなきゃいいのよ・・・!あの人がいなければ・・!)
感情も定まらぬまま、走り出した。己の内に内包するのが恋慕、嫉妬、あるいは殺意であると気づかずに。
日の当らぬ東校舎。薄暗い部屋に、ぬちゃぬちゃと粘着質な水音が響く。
絶えず何かを堪える低い声と、それを嘲笑うかのような澄んだ声もする。
部屋には数人の生徒と、美しい白い天使がいた。
使われなくなった机に天使が座り、そこに傅くように生徒が床に座っていた。
「ふふ、今日はよく頑張ってましたねヒュム男君。どうです、久々に順番が回ってきた気分は?」
よく手入れされているであろうきれいな足の親指がヒュム男の肉棒の裏筋をなぞりあげる。
そのまま鈴口をこちょこちょとくすぐり、また裏筋をなぞる。甘美な刺激にヒュム男の口から声が漏れる。
「くふ、あぁっ・・・最高です、パーネ様ぁっ・・・」
「このご褒美ペットたちに大人気なんですよ・・・・同じペットのヒュム男君にも気に入ってもらえると思いました」
足の親指と人差し指の間に肉棒を挟みこみ、ずちゅずちゅとしごきあげる。だらだらと溢れて止まらない
粘り気のある我慢汁がパーネの造形美ともいえる足を汚していた。美しい天使の足を自分の体液で
汚していることにヒュム男は興奮を覚えた。
「ほら、飼い主にお礼も言えない駄犬は捨ててしまいますよ・・・?」
座っているヒュム男を見下しながら空いていたもう片方の足でヒュム男の袋にこりこり・・と力をかける。
絶妙な力加減、一歩間違えば・・・という緊張感がヒュム男のモノを大きくし、ぶるりと身震いさせた。
「あ、うあぁ・・・も、申し訳ございません・・・!ありがとうございますパーネ様っ・・!」
「くすくす、こんな事をされて喜ぶのですね・・・・とんだ変態ペットを拾ったものですね・・・」
そのまま笑みを絶やすことなく、机に座ったまま両の足でヒュム男のモノを弄ぶ。
きれいに整った足の十本指で肉棒を包み込んだかと思うと上下させ刺激を与え、カリに指を擦りつける。
汁を溢れさせ続ける鈴口を執拗に親指で撫で回すともう片方の足の親指と人差し指で肉棒を挟み込み、ずりゅずりゅと
いじり倒す。ヒュム男の肉棒はパーネの両足に好きなようにされていた。
しかし散々いじり倒された肉棒はそれでもビクビクと脈打っている。射精感に耐え、歯を食いしばる様を見てパーネが心底おかしいという風に笑う。
くっくっ、という低い笑いで、邪な笑いだった。
パーネの「遊び」はまだ続いていた。
隙のある生徒を見つけては肉欲に堕落させ、魂の欠片を抜き取り虜にする。
クラスや学科を問わず、多くの生徒がパーネに魅了されていた。この部屋に集まっているのは、全て彼女の「下僕(ペット)」。
毎晩のようにこの部屋に集め、パーネの暇を潰すために犯され、より深く魂を抜き取られる。
そうやって生気のない操り人形が何人も出来上がっていた。
「ああ、ヒュム男君。お願いしていた例の件、どうなりました?」
にこり、と天使の笑みでヒュム男に優しく問いかけるパーネ。
その顔を見る限りでは、とても今足元で男のモノを足蹴にしている人物とは思えない。
笑みだけは、教師パーネの笑みだった。
「も、申し訳ありません、調査がはかどら・・・ぎぃぃぃいぃっ!」
悲痛なヒュム男の声が響き渡った。パーネが足の指を使い、ヒュム男の袋を掴んだのだ。
力いっぱい、ごりごりと握りつけた。笑みを微塵も崩さぬまま。
「ヒュム男君・・・それは、先週も聞きましたよ?」
ごりごり、ぐぢゅぐぢゅ。
袋を握ったまま、暴発しそうな肉棒を容赦なく扱きあげる。苦痛と快感の同時責めにヒュム男の意識が
明滅する。白いパーネの足はヒュム男のカウパーでべとべとに汚れていたが構わずヒュム男を攻め立てる。
「やはりあなたは駄犬だったようですね・・・?」
ごりごりっ、ぎりぎりっ。
袋を掴んだ足はそのままに、根元を親指と人差し指で挟み込み締め上げる。臨界点に来た射精感と
潰されるのではないかという恐怖にヒュム男の身体がガクガクと震え始める。
「このまま去勢してさしあげましょうか・・・」
ぐぐっ、とパーネが足に力を込めた。
バンッ!
その瞬間、部屋のドアが乱暴に開け放たれた。
「な、なん、なのよ、コレ・・・っ」
部屋に転がり込んできた人物は、開口一番この部屋の異様さに驚いていた。
部屋の左右に十名ほどの生徒が並んでいる。学科はさまざまで統一感はないが、皆首輪を嵌め、
目には生気がない。そして部屋の中央では・・・下半身を剥かれたヒュム男のモノを、パーネが足蹴にしていたのだ。
そう口にする以外なかった。
戸惑い状況を飲み込めないエル子だったがこの部屋の主はいつもと変わらぬ顔で闖入者を迎え入れた。
「あら・・・エル子さんいらっしゃい」
「これは・・・何・・!?それに、ヒュム男・・・」
部屋に飛び込んだ時の勢いはどこへやら、呆然と下半身を剥きだしにしたヒュム男を見ている。
初めて見るヒュム男の物に驚きもしたが、それ以上にこの状況が理解を超えていた。
くすくす、と笑みを浮かべながらエル子に語りかけるパーネ。
「すごいでしょう?この子たち、皆先生のペットなのよ?」
「ぺ、ペッ・・ト・・?な、何言ってるか判らない・・・!おかしいわよこんなの・・・!」
びちゃ、びちゃと濡れた足音を立てながらエル子に近づくパーネ。それに反して、少しずつ後ずさるエル子。
笑顔を浮かべた、このセレスティアがとてつもなく恐ろしいモノに見えてきた。
実際、恐ろしい。理解を超えたこの状況で変わらぬ笑みを浮かべるこのパーネが、恐ろしい。
ガクガクと足が震え動悸が激しい。エル子の第六感は全力で逃げろと言っていた。
だが、そのスキを突かれた。
刹那、後ろから取り押さえられ床に叩きつけられる。パーネの言う「ペット」が彼女を取り押さえたのだ。
その拍子に唇を切ったが、それがエル子にせめてもの気力を与えた。
「この・・・ッ!魔女!悪魔ッ!人でなし!ヒュム男を・・・ヒュム男を返せっ!」
ボキャブラリーは豊富な方ではなかったが、ありったけの殺意と侮蔑の念を込めてパーネに言い放った。
こいつ!と取り押さえたペットたちが更に押さえつけるが、パーネは変わらぬ笑みでそれを制した。
エル子のそばにしゃがみこむと、エル子の頬にそっと触れた。
あまりに労わるような・・・・場違いともいえる触り方で一瞬エル子は目を丸くするが、それはただの錯覚だとすぐに思い知った。
バシン!
身体に電流を流された、と感じた。手足に痺れがあった。それどころか、呂律も回らない。
(な、何・・・!?私、どうしちゃったの・・)
パーネは手だけでペットたちを所定の位置に戻らせると、エル子の上半身を抱きかかえひざの上に乗せた。
ちょうど膝枕をされている状態だ。
「今日は特別にゲストのエル子さんのために魔術カリキュラム応用編をここで行いますね」
くす、とパーネはエル子に微笑んだ。しかしその笑みは暗く、冷たく、エル子の気力をねじ伏せ恐怖させた。
柔らかい笑みだったが、その眼を覗き込んだとたん震えが止まらなかった。何処までも深い闇を覗き込んだかのようだった。
逆らえば死ぬ。本能が抵抗をやめさせた。
怯えるエル子をよそに、服を丁寧な手つきでパーネは脱がせていく。
するする、とスカートを脱がされ、足首までずり下ろされ、ピンクのショーツが露になる。
タイも解かれ、制服の前を肌蹴させられてしまった。ショーツとおそろいのピンクの可愛いブラジャーに包まれた小ぶりな大きさの胸が現れた。
(やめて!これ以上は・・!)
恐ろしくもあったが、まだ誰にも見せたことのない自分の下着姿を見られるのが恥ずかしかった。
その時、憔悴した顔でこちらを見ていたヒュム男と眼が合った。エル子の長い耳までかぁ、と赤く染まる。
間違いなく今から自分は辱めを受けるのだろう。それをヒュム男に見られると思うと、もう死んでしまいたかった。
「エル子さんにかけた魔法はパラライズです。人形遣い学科の方にはお馴染みの魔法ですね」
柔らかな手つきで、パーネはエル子のすべすべした腹を撫で回した。細い美しい指がエル子の腹を這い回る。
その指にビクッ!と強い反応をエル子は示した。身体を駆け抜ける感覚。
エル子自身がそれを何かと認識する前に、パーネの指がエル子の腹の上を再び滑りだした。
そのまま何度もパーネの指に翻弄され、意識を持っていかれる。
パーネのひざの上でエル子は顔を真っ赤にしながら何度も小刻みに震えた。
(私・・・どうしちゃったの・・!?)
戸惑うエル子自身とは対照的に、股間にむず痒さに似た感覚を覚え、僅かに動く足でつい内股を擦り合わせる。
「本来は相手の感覚器官をすべて麻痺させる魔法ですが・・・応用すればこんな事もできるんです」
そう言うとパーネはブラジャーの中に手を入れ、くにゅ、と優しい手つきでエル子の乳房を揉みしだいた。
(ひやぁっ!)
瞬間、エル子の意識がどこかに飛ばされた。意識を何かがさらっていく。
なおも容赦なくパーネの指はエル子の乳房をもみつづける。時に卵を掴むように優しく、時に絞るように乳首を強く摘んだ。
緩急のついた責めにエル子の意識ががくがくと揺さぶられ思考も乱していく。その間にもまた股間が疼き、
ショーツを濡らした。パーネの手ひとつにエル子は翻弄される。
触れられるたびにビクビクと反応するのはまるで玩具のようだった。
歯を食いしばり耐えようとするが、声が漏れるのを抑えることは出来なかった。
「脳に直接働きかけるよう呪文を組み立てると・・・生娘のエル子さんもこんなに感度がよくなってしまうんですよ?」
手におさめた乳房、その乳首をパーネはぺろり、と舐めた。
「きゃ、ああっ!」
抑えることも出来ずエル子は声を漏らしていた。びくん、と身体を強張らせ視界がぐるぐる回る。
頭の中はチカチカと明滅して正気を保てない。しかしパーネはその手・・・舌を緩めず、なおも攻め立てる。
ピンク色の綺麗な、しかし容赦ない責めで硬くしこってしまった乳首をパーネの舌が嘗め回した。
舌先がちとちろと焦らすようにくすぐる。そのまま乳輪をなぞったかと思うと、口をすぼめてちゅう、と吸いたてられた。
「あ、ああぁー!ん、ひぃうっ!あぁっ!」
せめて手で口を覆えれば、とエル子は千々に乱された意識の中で思った。声が、抑えられない。
異様に高められてしまった感度に、パーネの舌技に身体が快感を拒否できない。
パーネが舌を這わせるたびに快感が全身を蝕み、甘い喘ぎ声を発する。痺れの残る身体で、快感が
走り抜けるたび僅かに身をよじらせた。ショーツがぐしょぐしょに濡れてふとももまで垂れているのを知りながら、止める術はなかった。
乳首を舌でいいように弄ばれながら、パーネの細い指がショーツに潜り込み、直に割れ目を擦る。
深すぎず浅すぎず。絶妙な指使いで秘裂を撫で、エル子を追い込んでいく。
「それはそうとエル子さん、関心しませんよ?」
「ひ、いやぁっ!やめ、あ、や、ああっ!」
「先生に向かってあんな事言うなんて・・・エル子さん快活だけどいい子だと思ってたのに残念です」
「そこ、あ、や、だめ、あぁ!やめてへぇぇ・・!」
涙目になり、許しを請うエル子を責め立て強制的に感じさせるパーネ。
エル子はパーネのテクニックの前にとろとろに蕩かされていた。
大好きなヒュム男ではなく、同じ女、それもパーネに弄ばれていることがエル子の羞恥心を余計に煽った。
自らの膝の上で悶えるエルフを見るパーネの顔には酷薄な笑みが張り付いている。
「先生にそんな事を言う人には厳しいお仕置きが必要ですね」
不意に割れ目をなぞる指を止め、クリトリスを摘みあげる。
一瞬にしてエル子の世界は反転した。
「ぎっ・・・!?」
途端にガクン、と身体を持ち上げ身体を弓なりに緊張させ、エル子がぶるぶると震える。
思考は彼方に飛ばされ、視界がぼやけ快感の渦に飲まれる。
強すぎる快感に自分を蕩かされ、快感を無理やり混ぜ合わされて自身を見失う。
「どんなお仕置きがいいかしら・・・エル子さん、お望みのお仕置きはありますか?」
「あ゛、あ゛ぁーっ!あ、うああっ!!」
柔らかく問いかけるパーネ。だが責めの手は休めるどころかより激しくエル子の敏感な部分を責めたてる。
時に強く、時に優しく。絶頂を迎えさせず手前で止め絶望に陥れるパーネの仕打ちにエル子の正気がだんだんと
削られていく。動物的な喘ぎを絶え間なく漏らしながら快楽の海に浮き沈みする。
ココロが、溶かされる。カラダが、何かに飲まれていく。
エル子の精神が、快楽に蝕まれカタチをなくしていった。
どのくらいそうしていたのか、不意にパーネが手を止めた。何時間も続いていたのか、実は数分のことだったのか。
時間の感覚を失うほどエル子は消耗していた。何度も寸止めされているうちに顔は汗に涙、唾液で汚れきっていた。
呼吸を乱し、パーネの膝の上で息も絶え絶えになっている。
「そうだわ、いいことを思いつきました。エル子さん、ちょっとここに座ってね」
パーネがエル子を机の上に座らせるが、もはやエル子に抵抗するだけの気力も体力もなかった。
生殺し状態のまま何度も責められ、どちらとも既に摩滅していたのだ。
「エル子さん、ヒュム男君と仲がいいんですよね。幼馴染・・・かな」
その言葉に、はっ、と我に返る。そうだ、自分は何をしに来たのか。
動けるだけの体力はないけど、諦めたら終わりなのだ。何も始まらない。エル子は僅かな力をぐっと
手に込めた。
「じゃあ、ヒュム男君に選んでもらいましょう。エル子さんと私、どっちがいいのか」
「え・・・?」
動かすのも気だるい首をなんとか上げると、正面にはヒュム男が立たされていた。
下半身は裸のままだったが、今のエル子の痴態を見ていたのか股間のモノは大きく反り返っていた。
と、パーネがエル子が座っている机とは別の机に腰掛け、長いローブを捲くった。
露になる、しなやかな白い脚とパーネの秘部。自分とは違う「女」の匂いがエル子の鼻腔をくすぐった。
「さぁ、ヒュム男君はどっちのおまんこに入れたいのかしら」
くすくす、と心底楽しそうにパーネが笑った。
この人、おかしい。狂ってる---。
エル子はパーネの笑顔を見ながら生気のない声でそうつぶやいた。
この人はおかしい。狂って、狂って、狂うだけ狂って---「狂ったままマトモに戻ってきた人」。
絶望の思考がエル子を支配する。こんな、常識も何も通用しない相手に、私は----。
その時ようやくゆら、ゆらと幽鬼のような足取りでヒュム男が動き出す。
しかし気力を振り絞り、ヒュム男に必死に語りかける。
「ねぇヒュム男、思い出してよ・・・。小さい頃、あなたに買ってもらった・・・指輪ね・・・私まだ大事にしてるんだよ・・・・」
泣きそうな顔で、ヒュム男に語りかける。
もう彼女に出来ることはこれくらいしかなかった。
でも、その時エル子には判ってしまった。その眼は、何も見えていない。虚ろな眼には、何も----。
いや、「パーネ以外何も見えていない」。
-----ああ、そっか
よたよたとした足取りのヒュム男が二人に近づく。
傍から見れば、どちらを選ぶか判らない。だが、当の三人は結果を知っている。
とんだ出来レースだ。
-----何も始まらない、じゃないんだ
おぼつかない足取りのヒュム男はエル子に見向きもせず・・・パーネに抱きついた。
母親に甘える子供のように力いっぱい抱きつく。
「パーネ様、パーネ様っ・・・!」
「ふふ、よく私を選んでくれましたねヒュム男君。ご褒美です、そこに寝転がって」
ヒュム男を机の上に寝転がるよう指示すると、寝転んだヒュム男の身体をパーネがまたいだ。
屹立した肉棒がずぷずぷとパーネの中に飲まれていく。熟れた果実はヒュム男を飲み込み、天上の快楽を与えた。
その快楽にヒュム男の顔は綻び、至福の笑みを浮かべた。
-----もう、何もかも、終わってたんだ。何もかも、遅すぎたんだ・・・。
エル子の口からはは、は、と乾いた笑いが零れる。焦点の定まらぬ瞳から滂沱に涙が溢れた。
「パーネ様、くあっ・・!すぐに搾り取られそうです・・・!」
「ふふ、前より大きく感じますよ、ヒュム男君?」
エル子の目の前で、パーネとヒュム男が交わる。肉の悦びに蕩けた顔で腰を打ち付けあう。ぱんぱんと肉のぶつかりあう音。
一突きするたびに極上の肉壷に飲まれていく。一突きする度に膣内を凶悪な肉棒が抉り進む。
ごつごつとヒュム男の肉棒の先端はパーネの子宮を小突く。
「く、ふぅっ・・!ふふ、こんな大きなモノだったなんて・・・やっぱり私のペットでいさせてあげますね」
「あ、ありがとうございますパーネ様ぁ!」
悦びに打ち震え、腰を滅茶苦茶に振るヒュム男。激しい肉の打ち付けあう音がする。
と、そこでパーネは他のペットたちの事を思い出した。飼い主たるもの、ペットはなるべく平等に扱わなくては。
「ああ、ペットの皆さん・・・・。そこにいるエル子さんを好きにしていいですよ。もう壊れてしまっているかもしれませんけどね・・」
くつくつと心底愉快そうにパーネが笑った。その言葉を聴くとペット達はエル子を机に押し倒し、
自身のモノをエル子に突きつけた。だが、反応はない。虚ろな目で、乾いた声を出すのみだ。
軽い舌打ちをしつつペットの一人---バハムーンがその巨根をエル子に突き立てた。
勢いのまま、ぷちぷち、と何かを突き破る。
「き、ひぁっ・・・。ふああっ・・・」
途端、エル子の口から声が漏れた。結合部にどろり、と赤いモノが滲む。
反応があったことに気をよくしたバハムーンはそのままエル子の中をかき回し始めた。暫くするとエル子の声が変わり始めた。
「あ、はぁっ。あはあぁっ・・すごい・・・・きもちひぃ・・・っ」
眼は相変わらず虚ろだったが顔は快楽の悦びに変わった。尚もつき入れ、かき回すと自ら腰を振り
足まで絡めてきた。
「ん、ひっ!きもち、ひ、あっ!もっとしてっ!」
声を隠そうともせず、足をしっかりと絡ませ、僅かな快楽も漏らすまいとする。
快楽のまま腰を動かす。壊れた人形のように。
「ふふ、完全に壊れちゃったようですね・・・ヒュム男君?」
壊れたエル子を見つめながら、満足そうにパーネが呟いた。
「はぁ、あ、パーネ様っ・・!?な、何か仰いましたか・・?」
「いいえ、何も・・・。さぁ、私を気持ちよくさせてくださいね?」
パーネが腰の動きを早め、絶頂へと上りつめようとする。エル子もまた腕まで絡め、バハムーンを逃すまいとした。
「ん、あっ、あっ、ああっ!きちゃう、何かきちゃうっ!」
「そうそう、上手ですよヒュム男君・・んっ・・・。私の腰の動きに合わせて・・・」
「だめ、イく、イっちゃぅ・・・!ようやくイくのっ!」
「ん、あっ、く・・・。さぁ、私の中で果てなさい・・・」
示し合わせたかのように、二人とも極限まで上り詰め・・・
「イくっ!ああああっ!」
「んっ・・・!は、ああっ・・・!」
びゅるびゅる、と膣内に白濁が注ぎ込まれていく。膣内が汚されていく。
しかしそれで終わりではない。パーネはなおもヒュム男を攻めたて、エル子もまた次のペットのモノを迎え入れた。
その壊れた眼は絶望と狂気で光を一切映してはいなかった。
待ちきれないほかのペットたちがエル子を裸に剥き、床に押さえつけた。その時一緒に何か「大事なもの」を取られてしまった
気がしたが、もうどうでもよくなっていた。
(ばいばい、ヒュム男・・・・)
膣内に、口内に肉棒を捻じ込まれる。頭の中が快楽で埋め尽くされた。
エル子が意識を保っていられたのはここまでが限界だった。
こつ、こつと暗い校舎にヒールの音が響いた。
白銀の髪をさらりとかきあげ、涼しげな顔で校舎を後にしようとした。
「・・・・・・また『食った』のか」
「あら、ダンテ先生こんばんは。いい月夜ですね」
振り返ると、ダンテが鬼の形相でパーネを睨み付けていた。しかしパーネは至って涼しい笑顔で
返した。僅かな静寂。
しかし耳を澄ませば、風に乗って未だ肉の宴に浸り続けるエル子の声が微かに聞こえた。
「食べるなんで人聞きが悪いですよ。私はただ生徒たちと『遊んでいた』だけですもの」
「・・・・・」
「ああ・・・。そういえばエル子さんはあなたのクラスでしたわね。ふふふ」
月の光にパーネの笑顔が照らし出される。
この世のものとは思えない、美しく神秘的な笑み。だが、見てはいけない、触れてはいけない。
その笑みは、すなわちこの月光(ルナティック)。猛毒の狂った光。
一度魅せられれば猛毒で爛れ死に至る。
「では、また明日。ごきげんよう、ダンテ先生」
いつも通りに笑うと楽しそうにパーネはダンテの前から去っていった。
がばっ、とベッドから勢いよく身を起こした。
とても静かな朝。小鳥がさえずり、柔らかな光が窓から差し込んだ。
ぼやける意識で背伸びをするとベッドから降り、ブラシで髪を梳かし---何でだろう、ひどく髪がごわごわする--ながら、
よろよろと---昨日そんなに疲れてたかな---した足取りで姿見の前まで歩いていく。
そこで姿見に映った自分の姿に驚いた。服も何も着ていなかった。
(おかしいなぁ。昨日何があったか思い出せない)
そこで自分の汗のにおいとそれに混じって何か別の匂いがすることに気がついた。
(やだ、臭い・・・学校に行く前にお風呂入らないと・・)
その時だった。それに気づいたのは。
胸元に、何か大事なモノがない。何かは思い出せないけど。
正体不明の、大きな喪失感を覚えた。
ふっ、と自分のあまりのおかしさに彼女はふきだしてしまった。
だって、髪もごわごわ、足取りは疲れきって、理由もわからずに裸のまま。
しかも何か大事な物を「無くした」らしいなんて----。
「あれ…?」
ぽた、と手の甲に暖かいものが落ちた。
ぽた、ぽた。何度も手の甲を濡らした。
「・・・何で?」
エル子は姿見に映る自分を見ながらそう口にした。
理由もないのに。とても、悲しい。涙が止まらない。
理由がない筈なのに、必死に胸を触る。もう何もないのに。
-------もう全て失ってしまったのに。何を失ったかも思い出せないのに。
「・・・ホント、おかしいわ・・・」
エル子は鏡の中の泣き続ける自分をいつまでも見ていた。いつまでも----。
・・・はい、えー。どう見てもバッドエンドです本当に(ry
ぱねぇ先生が悪役すぎますね。さすが黒幕。黒すぎたかも orz
しかし自分で書いてドン引きしました今回は。エル子ごめんよ!
最後のエル子は本編中のマッパ・・・いやコッパと同じような感じです。ご都合主義バンザイ!
あとぱねぇ先生が言ってた例の件ですが、ドラゴンオーブの在処の調査です。なので争奪戦前の
話になります。どうでもいいですね!そろそろ逃げたくなったので逃げます。
ヒャア!我慢できねぇ!張り逃げだ!
パーネ様!パーネ様!パーネ様!
…ふぅ
今回は思いックソ鬱路線ですね
事後のダンテ先生とエル子がより一層に鬱さを引き立ててると感じました
哀れ、パーネ様の肉人形となってしまったエル子の明日はどっちだ!?
ゲームのパネェ先生のあまりに雰囲気に、全オレが泣いた!
……ってコトで、「実はパーネ先生のアレは演技じゃなく二重人格」という妄想をデッチあげてみる。
無論、真の人格は黒パーネなんだけど、それでは潜入任務に不適だからという理由で、暗示によって自らの中にもうひとつのペルソナを作った。それが、あの表の白パーネ先生。
別世界のことも知らず、清楚で優しく、生徒のことを親身になって考えるよき先生にしてよきお姉さん。ダンテ先生のことも同僚として頼りにしている。
一方、ダンテの方は真相を知ってるので、複雑な気分。このまま、ずっとただの教師として過ごせれば……と願ってるワケだけど、当然かなわず、プレイヤーキャラたちが入学した前後に、「彼女を目覚めさせよ」という指令がくるわけだ。
ダンテが自分からパーネ(白)をデートに誘い、そのまま初めて一夜を共にしたのち、ベッドの上でシーツにくるまって照れまくるパーネさんの耳に、ダンテが囁く……。
「目覚めよ、今こそ解き放たれん。我は汝の僕なり。汝は我の主なり」と。
それが、黒パーネ解放のキーワードだったりするんだよね。
当初は不安定で短時間しか表に出られなかった黒も、徐々に自分の体を取り戻し、やがて完全に元に戻るに至る。
でも、偽りの白パーネも完全に消えたわけじゃなくて、ときどきフッとダンテの前で蘇って、彼を苦しめるワケ。
最終決戦で、ダンテが黒パーネに完全に取り込まれずにすんだのも、白パーネのかけらが彼を守っていた……とかだと、泣けない?
いや、まだラストまで行ってないんだけど。
33 :
32:2009/07/23(木) 11:17:33 ID:AW/onevK
>ゲームのパネェ先生のあまりに「雰囲気」に、全オレが泣いた!
「不人気」だ……orz
>>30 さいあくのあさだ…
涼しくって爽やかで、泊まり込みの仕事明けで、あとは寝るだけだったのに…
凄いものを読んでしまったw
さいあくでさいこうのあさになったよ
>>30 これは良い欝エンド。GJ!
パーネ先生エロいよパーネ先生。
こういう陵辱色が強いのも大好きだ
けどこういうの見てるとパーネ先生もぐっちょんグッチョンにしてやりたくもなる
元々パーネ先生によからぬ事を企んでて馬鹿みたいにレベル上げまくってて実力だけは異常なほど高い悪男6人PTが
パーネ先生が敵になった時にこれ幸いとばかりに襲いに行くとか
パーネや我を(ryの攻撃テキストが少しエロくて吹いたw
モンスターの名前とか時々変だしこういう密かなネタ好きだなあ
38 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:55:19 ID:BJULofSw
>>13 なんだかギルガメシュに腹が立って……
相変わらず焦らしますね。こっちはもう待ちきれませんよw
ディモレア氏はFateも知っているのか!話が合いそうだ。
ん、ギルガメシュ……いや、まさかね……
>>21 ヒューイ、良い男になってきたな。目指せa lostヒューマン。
>>35 すまん……オレには重すぎる……かな?
ようやく黒パーネ先生が見れた。
へ、ヘソ出し!?
ディモレア氏の小ネタを見ていたらついメラメラきてしまった。
某ゲームのOPを、ととモノ。に合うよう変えてみた。エロはない。てか入れようがない。
途中の英語も地味に変わってます。
反省はしている。だが後悔はしていない。
ああ、それと、無駄に長いです。
39 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:57:08 ID:BJULofSw
「あいつのことか。ああ、知っている。話せば長い。そう、古い話だ……」
「知ってるか?冒険者は3つに分けられる。強さを求める奴、自由に生きる奴、仲間と生きる奴。この3つだ」
「あいつは―」
彼は『片羽の妖精』と呼ばれた冒険者
『彼』の相棒だったフェアリー
「よう相棒、いい眺めだ。ここから見ればどの国も大して変わらん」
私は『彼』を追っている
「あれは雪の降る寒い日だった」
PROJECT ACQUIRE
"New Blood, New ADVENTURES"
「『B7R』で大規模な戦闘!」
「援軍か?どこのパーティだ!」
「冒険者達へ、途中帰還は許可できない」
「だろうな!報酬上乗せだ!」
A RECORD OF
THE LABYRINTH WAR
「こちら普通科のPJ!可能な限り援護する!」
「死ぬなら俺の見えないところで頼む!」
迷宮には謎が多い
誰もが正義となり
誰もが悪となる
そして誰が被害者で
誰が加害者か
一体『冒険』とは何か
「多数のモンスターが接近。全て撃退し、そのフロアを確保しろ」
「玄関でお出迎えだ!」
40 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:57:47 ID:BJULofSw
HUGE LABYRINTH B7R
"THE ROUND TABLE"
巨大迷宮B7R−通称『円卓』
A GRAND STAGE FOR
MASTERS OF THE LABYRINTH
冒険者たちに与えられた舞台
「野犬狩りだ」
A ADVENTURER THAT
LIVES BY FREEDOM
THE STRATEGIST
「円卓の魔物だ!油断すんな!」
A MAN WHO
UPHOLDS HONOR
「円卓がなんだ!俺がやってやる!」
THE FALLEN
THE
BRINGER OF DEATH
A MAN WHO
LIVED FOR FORCE
「迷宮にルールは無い。ただ敵を殺すだけ」
THE REBORN VETERAN
「この戦いは、どちらか死ぬまで終わらない!」
A WOMAN WHO
UNDYING FAITH
A REVOLUTIONARY
41 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:58:13 ID:BJULofSw
THEY CALLED THEM
"THE KNIGHTS OF
THE ROUND TABLE"
人は彼らを『円卓の騎士』と呼んだ
「受け入れろ小僧!これが迷宮だ!」
CHANGING
ENCOUNTERS
変化する出会い
TWISTING
FATE
変わる運命
「王国の犬が!」
AN UNCHANGEABLE
WORLD
変われない世界
「撃てよ臆病者!」
「Comeoooooon!!」
KENTO MAHOUTO GAKUENMONO ZERO
THE LABYRINTH WAR
THERE IS ONLY ONE ULTIMATE RULE IN EDUCATIONAL−
校則は唯一つ
「生き残るぞ!ガルム1!」
SURVIVE
”生き残れ”
42 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 01:01:22 ID:BJULofSw
以上。
無駄に長い……
エスコン好きの俺から言わせてもらう。
GJ!
>>38 イエス、ギルガメシュ先輩は当初はあの一人称我様の英雄王みたいな性格でもっと自分勝手でした。
で、学園に対して叛旗を翻したりエストレッタお嬢様とアイラ会長相手に鬼畜3Pを行ったりするような設定だったり。
………今ではぶっ飛んではいるけど当初より大分マトモになってしまったのです。
そしてGJ!
是非映像付きで本気で見てみたい。きっとPJは相変わらず死亡フラグを立てるのですね?w
「俺、学校で恋人できたんですよ。学校戻ったらプロポーズしようと、花束も買ってあったりして」
「何か迫ってくるぞ! 皆避けろ!」
「よう、相棒。戦う理由は見つかったか?」
確かに妖精なだけにピクシーがフェアリーなのは合っている……。
滅茶苦茶強いんだろうな。サイコビームを指で捻じ曲げて薙ぎ払ったりとかしそうでw
今夜は第六話投下であります。
夜が明けた。
ディアボロスが校門をくぐった時、彼に気付いた生徒の何人かがぎょっとしたような顔をする。
時折聞こえるひそひそ声から、恐らく自分の一件が学園中に知れ渡っているのだという事が解った。
「……………」
踵を返して、職員室へと一歩を踏み出す。
片手に握りしめた1枚の紙を渡せば全部終わる。そう。退学届を出してしまえば、もう全部。
この学校に来るのも、ここを歩くのも、今日が最後なのだ。
「思えば、色々あったな……」
ディアボロスは呟く。
ライフゴーレム達が姉や友人代わり。友達も幼なじみもいない、まったくのゼロから始まった学園生活。
人見知りするけど気のいいルームメイトが最初の友達、入学一週間目にして4年生の不良を脅迫していた図書委員会の級友と知り合ったり、パーティ組もうぜと誘ってくれた熱血漢のバハムーン。
同族故に気の合う所も多く、人付き合いについて相談しあった事もあるディアボロスの女子や、委員会で出会った先輩達や後輩達。
そして、初めて好きになった人と出会った。
とても、その人を傷つけてしまったけれど、それでもやっぱり。
本当は好きなままだ。
けれども、離れた方が1番いい。これ以上、好きになった人を傷つけない為にも。1人になった方がいい。
何もかも、全て捨ててしまって母親に魔法を学び続ける人生も悪くないだろう。
錬金術士の道も諦めて魔導師になってもそれなりに役立つだろうから。
ディアボロスがそこまで考えた時、遠くの方で「あ!」という声がした。
「いた、ようやく帰ってきた〜!」
遠くの方から走ってきたそれは凄い勢いでディアボロスに向かって突撃してきた。
ディアボロスが咄嗟にそれを受け止めた時、腹部にその突撃してきた彼女の頭部が直撃する。そう、傷口がまだ塞がりきってない腹部に。
「ぐほっ!?」
ディアボロスが床に倒れると同時に、突撃してきた彼女――――同じパーティのクラッズは口を開いた。
「どうしたの!? すっごい心配したんだよ、帰ってこないし連絡取れないし! それに顔色悪……大丈夫?」
「な、なんとか……」
ディアボロスは立ち上がると同時に、手にしていた筈の書類を手放していた事に気付いた。
「おい、クラッズうるせーぞ……帰ってきたのかよ、この野郎。遅すぎるぞ」
廊下の隅から同じパーティのバハムーンが姿を現す。同時に、彼は何かを踏んづけた。
「ん? 何だこりゃ? 退学届……」
バハムーンが拾い上げ、その文面に視線を送った時、顔つきが一瞬で変わった。
バハムーンの強烈な拳が、ディアボロスに直撃した。
「っ!」
「テメェ、何だよコレ!」
壁に叩き付けられたディアボロスの胸倉をつかんで引っぱり上げ、バハムーンはもう1度拳を叩き込んだ。
クラッズが何事かとばかりにバハムーンが落とした書類を見て、その意味を理解する。
「……ディアボロス君、これどうしたの!?」
クラッズとバハムーンの2人に掴みかかられ、更に何事かとばかりに騒ぎを聞きつけたのか、同じパーティのディアボロスの女子、フェルパー、フェアリーも姿を現した。
「おい、バハムーンどうしたんだよ!? 帰ってきてるのにいきなり」
「お前ら、そこに落ちてるの見てみろ」
三人が床に落ちた書類を覗き込み、それぞれ顔色を変えた。
「…………これ。お前、正気か!? どうしたんだよ、一体!?」
「そうだぞ、幾ら何でも連絡が取れないまま帰ってきたと思ったら退学届って何だそれは!?」
「そうだよ、訳が解らないままいなくなられるの嫌だよ! どうしたの!?」
「……………」
「なぁ、俺ら仲間だろ?」
バハムーンが手を放し、その両手をディアボロスの肩に置きながら呟く。
「頼むよ……お前がどんな思いかは知らねぇけどよ。そんな顔してさ。見ろよ、この書類。すっげぇ嫌なもんだぜ。血ぃ出るまで握りしめててさ。
………お前の母親がさ、学校の連中に恨まれてるのは知ってる。それだけの事をしたってのもな。けどよ、お前がその子供だからって、俺らはお前を見捨てたりはしねぇさ。
他の誰かが何と言おうと、俺らのパーティにはお前がいるから俺らのパーティなんだよ」
バハムーンの言葉に、フェアリーもうんうんと頷いた。
「錬金術士だから成長は遅くても、それでも充分過ぎるほど頑張ってる。バハムーンだけじゃないよ、私達皆の仲間なんだよ。そんな辛い顔してるなら、私達頼ってくれればいいよ。
仲間だもん。辛いなら辛いって言ってくれればいいよ。私たちにだって、出来る事はあるもん」
「他の連中がなんと言おうと、お前は俺らの大切な仲間なんだよ! お前がいなくなったら、俺ら明日からどうすりゃいいんだ!」
「例えそれで私達が恨まれても構わない。全身全霊で仲間を守ってやる。私達は仲間だ。仲間を結ぶ絆は、何よりも強い」
「今までずっと助け合って、どんな困難だって、あたし達は乗り越えてきた。それなのに、1人で抱え込んで1人で逃げ出しちゃうわけ?」
バハムーン、フェアリー、フェルパー、ディアボロス、クラッズ。
皆、彼の仲間だ。そう、仲間だ。深い絆で結ばれた、どんな時も助け合ってきた、心強い仲間達。
「で、でも俺……俺は、俺は、皆の友達とか、先輩とか……色んな人を傷つけたのかも知れない。好きになった、先輩だって傷つけてしまった」
「それがどうした」
「咄嗟に割って入った。先輩はただ、仇を取ろうとしただけだった。けど、俺には母さんが殺されそうになったようにしか見えなくて」
「だからなんだよ」
「俺はもう戻れない場所に……」
「勝手に決めんな!」
ディアボロス頭に、同族の女子の拳が突き刺さる。
「そんな事で壊れてしまうような、そんな些細な気持ちで、好きだなんて言ったのか? そうだとしたらお前は最低だぞ。そんな些細な事で壊れてしまうような関係なんか、最初から無い方がマシだ!
本当に好きになったんだろう? お前も男なら、壊れてしまってもやり直そうとは思わないのか!?」
「けど、それは……」
「けどもくそも無い! それに……さっき言っただろう?」
同族女子に続けて、フェルパーが笑う。
「困ったら頼れよ。助けてくれってな。そのひと言さえあればいいよ。俺達は、助ける」
その為にいるんだとばかりに、仲間達は胸を張る。
ディアボロスは、ふと床に落ちた退学届が、ひどく無様なものに見えた。
「……………皆」
口だけなら幾らでも言える、という言葉はある。けど、ディアボロスにとって、仲間達の言葉は嘘じゃないと信じられる。
だって、それが本当だって、解っている。いや、解るのだ。
「……ありがとう……」
「お、おい泣くなよ! 男がそんなにボロボロすんな!」
バハムーンが慌ててディアボロスの背中をばしばし叩き、他の面々も良かったと言わんばかりに背中を撫でる。
「で、ともかく何があったんだ?」
「あ、ああ………その……」
「……の前に、廊下じゃ話しにくいよ。部屋戻ろうよ」
クラッズの言葉で、仲間達も「そうだな」と立ち上がり、ディアボロスは仲間達に手を引かれて、部屋へと向かった。
1日だけ空けていたのに、もう何日も帰ってなかったかのような気分になった。
「お帰り。遅かったな」
ルームメイトのフェルパーはそう笑いかけると、ディアボロスを部屋に招き入れる。
続けてディアボロスのパーティの面々まで入ってきたので部屋には7人が入ることになってしまった。
「……ただいま」
そう言えばこのフェルパーは確か自分の母親の事を知っていた。そう、今までずっと黙ってくれていたのだ。
「ごめん、ありがとな」
「ん? まぁ、気にすんな」
ルームメイトはそう言って笑うと、人数分のカップとお茶の用意を始める。
「で、どうなったんだ?」
バハムーンが話を促し、ディアボロスはゆっくりと口を開く。
「ああ……その……先輩の、弟が、俺の母さんの一件で死んだって話を聞いた。ギルガメシュ先輩が、そう話してくれた」
「ギルガメシュ先輩が? あ、そういやあの人お前に宣戦布告だーなんて言ってたな」
「……なんか昨日とてつもなくライナ先生に怒られて停学2週間+反省文三〇〇枚喰らったっつー話聞いたけど」
何をしたんだ、ギルガメシュ先輩。
「ギルガメシュ先輩は……けどさ。あの人、凄い事言われたよ。あの人、俺の母さん相当嫌いなみたいだ。完全に敵に回したよ……」
「だろうな。何せあの人案外真面目なトコあるしな」
フェルパーがそう言って笑う。
「それで、どうなったの?」
フェアリーが後を促し、ディアボロスは頷く。
「先輩と対峙した時、委員長が……彼女が、やってきた。俺の母親がディモレアだって事、それで理解したんだと思う。槍を向けられたよ。
けど、俺に『どいて』って言ってた。けど、俺、どかなかった。だから、さ……刺された。母さんを守る為にそれがいいって思ってた。けど、けどさ。
本当は違った。彼女の心を傷つけて、それで……きっと、辛い思いをしてると思う。彼女は、とっても、優しい人、だから」
復讐なんて、まったく似合わないほど。
「………けど、それじゃさ。セレスティアの、彼女自身がどう思ってるかって事だよな」
「うん、まぁそうなんだよ」
今でもまだ、母親の事を恨んでいるのか。そしてディアボロスも、恨んでいるのか。
「それが、解んない」
「なるほど……」
部屋の入り口から声が響く、部屋にいた7人全員が飛び上がる。
「お話は聞かせて頂きました」
隣りの部屋の住人であるエルフの少年は背後に連れたヒューマン共々、顎に手を当てて考え込む。
「彼女の気持ちをどうにかして聞くのに……良い方法があります」
「お前、いつから聞いてたんだって本当か?」
ルームメイトの言葉にエルフは「ええ」と頷く。
「僕の従姉がちょうど彼女のルームメイトでして。……実はこの2日間、美化委員長の姿を見かけた人はいないんです。しかし、部屋にはちゃんといるようです。
だとすると従姉が何とかしているに違いありません。僕が従姉にかけあって何とかしてみましょう」
「……下手にこじれさせる気じゃないだろうな、お前」
バハムーンの言葉にエルフは首を左右に振って「そんな事ありません」と口を開く。
「…………解った、頼む」
ディアボロスはエルフに頭を下げ、エルフは頷いて即座に部屋を出ていった。
肩身狭そうにしていたヒューマンが「お、俺も何か聞いてこよう。そうだ、ギルガメシュ先輩がどうしてるかって聞いて来よう」と呟いて出ていく。
ルームメイトは2人を優しく見送った後、口を開いた。
「お前の味方、少なくないみたいだぜ。それに、変わった奴もいるし」
「変わった奴?」
「うちのパーティ、学年混合だから色々といてさ。まぁ、この前の1年のクラッズの他にもいるんだけど。三年に俺の妹がいるんだけど、妹の友達のヒューマンなんだが魔法が凄く上手いんだ。
ほら、『業火の剣』なんてあだ名ついてる奴だよ」
「ああ……あのパルタクス三強の一角と言われてる……噂には聞いた事あるな」
パルタクス三強『業火の剣』。
ディアボロスも彼女の噂は聞いた事がある。1年生で入学した時は超術士、だが2年生にして魔術士に転科、そして3年生現在僧侶と1年ごとで転科している。
しかし、その魔法キャパシティには目を見張る。転科する1年でその魔法のほぼ全てをマスターし、魔法壁で防御しつつ歩いてMPを回復しモンスターが出れば倍化魔法を叩き込む。
ビッグバムやサイコビームを文字通り地獄のように薙ぎ払うかの如く乱発する事からついたあだ名は『業火の剣』。
ランツレート六歌仙で同じく人を焼き尽くす事にかけては天才的な『爆裂大華祭』と並ぶ術士と言っても過言では無い。『爆裂大華祭』はビッグバムしか撃たないが。
あだ名を持つ生徒の中でも更に選ばれた生徒だけが数えられるという称号のランツレート六歌仙、マシュレニア四賢、ゼイフェア五人衆と並ぶパルタクス三強に入ってるだけあってその実力は確かだ。
「で、その『業火の剣』がどうかしたのか?」
「俺の妹から兄貴のルームメイト、即ちお前がディモレアの息子だーなんて聞いて『是非その先輩を通じてディモレア様に弟子入りしたい、てかさせるよう頼んでー』とか言ったんだよ」
「……どんな奴だよ」
その頼みが本気だとすれば彼女は相当酔狂な人物らしい。
「……とまぁ、そんな奴もいるからお前も決して孤独じゃないよ」
「ああ……そうだな」
ディアボロスを悪く言う奴だけじゃなくて、そんな奴もいると。ディアボロスはそう思った。
部屋の扉をノックする音が響き、セレスティアは目を覚ました。
「……私。気分はどうですの?」
ルームメイトのエルフはリンゴと果物ナイフを片手に部屋に入ると、セレスティアの顔を見る。
「眠れた?」
「……少し、ね。けど……」
目を閉じると、やはり蘇るのは、彼を刺した瞬間。
悪夢のように、延々と、ただフラッシュバックだけが起こる。
「……今、聞いてきたんだけど。彼、生きてるよ」
「え?」
「うん。学校に戻ってきたって、さっき下級生が話してましたわ」
「……本当!?」
彼が、戻ってきてる。
セレスティアはベッドから跳ね起きた。
今すぐ、彼の元へ――――――と思いかけて、ふと足を止める。
「…………でも、私……」
彼を刺してしまった。そう、彼の母親を殺そうとして。割って入った彼を。彼個人としては、どうだろう。
恨んでいるのだろうか。セレスティアを。
「…………ねぇ」
「なぁに?」
「私さ。彼と……別れた方がいいのかな?」
「…………」
エルフは何も答えない。
そこへ、ノックの音が聞こえエルフが立ち上がる。
扉が閉じられ、しばしの沈黙。そしてエルフが戻ってきた時、エルフはセレスティアの前に座った。
「彼、あなたの事を心配してたって。従弟が教えてくれた」
「……本当?」
セレスティアは驚いた。まさか彼が自分の事を心配していたとは。
「復讐なんて似合わない。それぐらい優しい人だから、自分を刺して、辛い思いしてるに違いないって。まさにその通りですわね」
「………………」
「知らなかったんだと思うわ。けど、彼に悪気は無い筈よ」
それがどんな悲劇であったとしても。
彼はきっと、セレスティアの事を好きでいてくれるだろう。エルフはそう確信している。
2人なら、きっと。
「…………」
エルフは背中を撫でる。ふと、カレンダーに視線を送った時、思い出す。
「セレスティア、あんた!」
「ど、どうしたのいきなり?」
「今日が何の日だか分かる?」
エルフの言葉に、セレスティアは首を傾げる。何の日だろう、と思ってカレンダーに視線を送る。
その時、セレスティアは思い出した。
セレスティア自身がかき込んだ日程。彼と花火に行くと。
今日は、ハウラー湖畔花火大会の日。
「………大丈夫。今から私に任せなさい。従弟も動員して、何とかするわ」
エルフは、セレスティアの肩を優しく掴んで、力強く頷いた。
そう、今日は。ある意味、本番の日なのだ。
投下完了。
あと2話は続きます。
最終章まで近づいてくるのが何か凄い感じがする……その前に俺は2を終わらせなくてはorz
51 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 00:42:59 ID:enQVtE+A
>>50 GJ!
あと二話ですか……ホントに二話ですか?
終わるのが惜しい作品ですから、疑いたくなります。
ディアボロス、良いパーティだな。
そしてギルガメシュ先輩、三〇〇枚はきついでしょうwww
後二話、頑張ってください!
>>44 やはりですか……
そう言えば自分の書きかけのととモノ。にも我様をモチーフにしたキャラはいますね。
食堂で、お気に入りの席で食事をしている生徒を見つけて、
「そこの雑種、そこをどけ。その席は我が座る為に存在するのだ」
とか言ってました。ディアボロスです。主人公です。ヒロインフェアリーです。
書けない……ww
投下したエスコンネタがGJをもらえてめちゃくちゃ嬉しいですw
PJの死亡フラグはひどいですよね。僅か5秒でフラグを立ててその5秒後には回収するあのスピード。
空飛ぶ死亡フラグは伊達じゃない。
エスコンが分かる人がそれなり(2人ですが)いるので、いっそのこと続きを書こうかなと思ってます。
しかし、ピクシーがフェアリーって……どんな体格でどんな顔をしてるんだ。
ジョルジオ先生の体で顔は戦士のセレスティナ……
だめだ、エプロンが消えない。
いいなぁ、ディモレア家……。あと2回ってのは、「夏休み事情」が、ってことですよね?
パーネ×エルフは、正直、ちょっと凹みました。いえ、想像の斜め上いってたもので。
で、予告編に続いて本篇はいつから始まるんでけすか?(真剣) >エスコン風の予告
それでは、稚拙ながらわたくしも、偽予告などを。
-----------------------------------------------------
今作「剣と魔法と学園モノ。2」から遡ること16年──。
前作「剣と魔法と学園モノ。」より、さらに前の時代。
そこにも、やはり剣戟(Sword)と魔法戦(Sorcery)と学園生活(School)……そして恋があった!
『レイジング・デイズ 〜「SSS」オルタナティブ〜』
原因不明の災厄に、少しずつ疲弊する大地、荒廃する人心。
そんな状況でも、人々は希望を求めて奔走する。
冒険者養成学校のとある一団(パーティ)も、そんな明日の希望を求めて今日をさ迷う者たちのひとつだった。
「OK、ここまで来たんだ、俺に傷の一つでもつけてみろよ!
パニーニ学院剣士筆頭マサムネ、推して参る!」
──普段はお調子者だが、決して仲間を見捨てないフェルパーの剣士。
「命短し、人よ恋せよ。いいか、惚れた女は死んでも守れ…それが男の役目だぜ!」
──豪放にして磊落。泰然にして自若たるドワーフの狂戦士。
「夜は……嫌いじゃない。太陽は、眩しいから……」
──心に闇を秘めながら、光に憧れ、温もりを求めるハーフエルフの精霊使い。
「私の、私たちの全てはまだ始まってもいない。
だから、ホントの自分を始めるために、今までの自分を、終わらせましょう」
──いつも寂しい瞳(め)をした片翼の堕天使。
「世界は、いつだって………こんなはずではないことばかりじゃ。
無論、こんなはずではない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由。
なれど……自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでよい権利など、どこの誰にもありはせぬ!!」
──小さな体に不屈の意志を秘めしフェアリーの賢者。
そして……。
「くっ、悪魔(ディアボロス)め………」
「悪魔、か……。ウン、悪魔でいいよ。でも、ならば悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから!!」
──"悪魔"とも"魔王"とも呼ばれながら、最後まで手の届く全てを救うために全力で走り続けた死霊使い。
後に"奇跡の6人"(ミラクルヘキサゴン)と呼ばれる若者たちの、冒険と友情、そして恋愛の日々。
彼らの尽力と、彼らが周囲に築いた絆のおかげで、災厄はその爪痕を各地に残しつつ収束するはずだった。
だが……。
「封印すべき忌まわしき魔器ファニージュエル……それを持って、あの男性(ひと)はどこへ?」
仲間のひとりの失踪。そして、よもやの裏切り。
残された5人は、ケジメをつけるべく動き出す。
「いいねいいねぇ、ゾクゾクする! さぁ、Partyとシャレこもうぜ!!
おい、ドワンガ、後ろの守りは任せるぞ!」
「ハッ、あんたがここに来て、俺がここにいる。巡り合わせってヤツぁ、粋だね。
いいだろう、パーフェバル、あんたの背中は、この俺に預けな!」
叛逆の精霊使いの待つ塔へ、彼らはたった5人で特攻をかける。
「ふむ。雑魚とは言え、これだけの数をようもこの短期間で集めたものよの。
これは、妾(わらわ)も、ちと本気を見せねばならんか。
我…誓約を持って、命ずるものなり。
風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に
この身にさらなる魔力を!」
「──少し分かったことがあるの。友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだね」
「……レスティーナ」
「永遠なんて、ないよ。みんな変わってく、変わっていかなきゃいけないんだ。
だから、あなたは正しい、ディアノイア。行って、そして彼を止めてあげて!」
「なぜだ!? 覚めること無い眠りのうちに終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢、それは永遠に続く幸福であろうが!?」
「まだ、わかんないの、この駄々っ子!
こうなったら、力ずくでも目を覚まさせてあげる!
いくよ、これが、あたしの全力全開!! ゴドーワード・ビッグバムーーーーッ!!」
ディアナ達の親の世代、グノーと彼女らの出会いなどが描かれる番外編、「レイジング・デイズ」、2009年夏公開未定。
--------------------------------
……うん、ごめんなさい。センスないですね。さっさと5話書く作業に戻りまする。
物語はバッドエンドより、ベタでもハッピーエンドがいいね!
とは、断じて思わない。
そんなわけで、メインパーティの奴等は一旦置いといて鬱エンドもの。お相手は堕天使セレ子。
お口に合えば幸いです。
その日は朝から、遺跡への道にじとじとと雨が降っていた。石畳の地面に水滴が踊り、土の地面は水が溜まり、ぬかるみと化している。
かつての栄光を窺わせる朽ちた遺跡は、灰色の雨と相まってひどく陰鬱に映る。
ひたり、ひたりと、小さな足音が響く。雨の中を傘も差さず、たった一人で歩く男。体中に巻きつけた呪符と、口元まで隠すマントを
身に付け、周囲の景色以上に陰鬱な雰囲気を纏い、しかし眼光は鋭く、辺りを油断なく窺っている。
ゆっくりと歩く足が、不意に止まる。それと同時に、前方の土がぼこぼこと蠢き、ガイコツナイトが這い出てきた。
ディアボロスの目がスッと細くなる。そしてゆっくりと身構え、懐から一枚のタロットを取り出す。それを顔の前にかざし、勢いよく
腕を振り下ろすと同時に、まるで扇子を広げるように指を動かすと、たった一枚だったはずのタロットが、何枚にもなって広げられる。
ガイコツナイトが剣を振りかざし、走った。それを見ながら、彼はタロットを掲げた。
「迷いし腐った魂よ、肉体と共に滅びて消えろ」
タロットの一枚が浮かび上がり、直後、ディアボロスは右腕を振り下ろした。瞬間、空中に浮かんだタロットからいくつもの魂が現れ、
ガイコツナイトの体に吸い込まれていった。ガイコツナイトの動きが止まり、一瞬の間を置いて、ガイコツナイトの体は灰となり、
土の中へと消えていった。
そのまま腕を振りぬき、円を描いて左頬の横で止める。そこに先ほどのタロットが吸い込まれるように戻ると、扇子を畳むように
指を動かす。タロットはたちまち一枚に戻り、彼の懐に納まった。
何事もなかったかのように、彼は再び歩き出す。が、またすぐにその足が止まる。
前方に、二体のマインドスピリッツが見える。相手はまだこちらに気付いていないらしい。
そっと、タロットを取り出す。しかし攻撃に出ようとして、ディアボロスはふと手を止めた。
どうも、様子がおかしい。近くには他のマインドスピリッツの死体が転がっており、残る二体は怯えたように辺りを見回している。
一体何をしているのかと訝しんだ瞬間、空中から黒い塊が襲い掛かって行った。
湾曲した刃が一閃し、マインドスピリッツの首が落ちる。残る一体がその異変に気付いたときには、既に黒い塊は消えていた。
とうとう、マインドスピリッツはその場を逃げ出した。が、その先に黒い塊が回りこみ、直後、刃の描く曲線そのままに、鎌が獲物に
突き刺さった。断末魔の悲鳴が上がり、マインドスピリッツが痙攣する。やがて、その動きが止まると、ようやく鎌の刃が引き抜かれる。
それはセレスティアだった。ただし、一般に見られる純白の翼を持つセレスティアではなく、禍々しい黒い翼を持った、異形の
セレスティアである。見たところ女らしいが、その情け容赦ない戦いぶりは、とてもそうは見えない。
ついつい物珍しさから眺めていると、彼女が気付いた。
「……誰かと思えば、魔族のディアボロスですか。不快ですので、さっさと消えてください」
ひどく冷たい物言いではあったが、ディアボロスは気にする風もなく笑う。
「お前こそ、いるべき場所から追われた、醜い堕天使じゃないか。人のことを魔族だ何だと罵る前に、まずは自分の姿を鏡で見たら
どうだい」
その言葉に、セレスティアは顔を歪める。
「死者の魂を弄ぶ死霊使い風情が……あなたの命、この場で刈らせていただきます」
「やる気かい、いいだろう。お前も、俺の眷属にしてやるよ」
二人はお互いを睨みながら武器を構えた。が、ディアボロスがふと視線を横に滑らせる。
「……っと、ちょっと待て。その前に戦うべき相手ができた」
見ると、こちらに向かってセイントゴーレムが近づいてきている。この場で彼女と殺しあえば、二人とも共倒れになるだろう。
「ふん。運のいい方ですね。では、わたくしは…」
そう言って立ち去ろうとしたセレスティアの足が止まる。後ろからは、ファイアードレイクが迫っていた。
「……よくよく、お互い運がないようだな」
「お生憎ですね。わたくしには、翼があります」
背中の翼を大きく羽ばたくと、セレスティアはふわりと浮かび上がった。
「ずるいぞ、おい」
「何とでも言ってください。とにかく、わたくしはこれで失礼……きゃあっ!?」
突然、空中の彼女に何かが飛びかかった。セレスティアは危ういところで攻撃を防ぐが、地上に叩き落されてしまう。
「いたたた…!」
「ポランクドラゴンと、空飛ぶ黒板消し、か。一人で逃げようとするからだ」
「もう、何なんですかぁー!!こんなのが出るなんて、聞いてませんよぉー!!」
今までと違い、まるで少女のように喚くセレスティア。そんな彼女を、ディアボロスは呆れたように見つめる。
「制空権を奪われては、翼をもがれたも同じだな。晴れて俺の仲間入りってわけだ」
冗談っぽく言うと、ディアボロスは目元だけで笑う。
「ともかく、殺し合いはお預けにしようじゃないか。こいつら相手では、俺一人ではきつい。お前もそれは同じだろう?」
「こ、こんな相手ぐらい、わたくし一人だってっ……で、でも、仲間はいた方が、心強いかもしれませんけどねっ!」
「だろうな。不本意だが、ここは共闘しようじゃないか」
ゆっくりと、モンスター達が二人を囲む。武器を構えながら、二人は背中を合わせる。
「いくぞ」
「命令しないでください!」
セレスティアが鎌を振りかざし、ポランクドラゴンに襲い掛かる。しかし、大振りの一撃はあっさりとかわされる。
「穢れた偽りの魂よ、かりそめの器が残せるは、貴様の終焉の叫びのみ」
腕を振り抜き、空中に浮かんだタロットから魂が呼び出され、空飛ぶ黒板消し達に吸い込まれる。その全てがただの物体となって
落ちるのを見届けると、ディアボロスは後ろを振り返った。
セレスティアが空中に飛び上がる。しかし、ポランクドラゴンに邪魔され、飛び立つことが出来ない。その間にセイントゴーレムが
間合いを詰め、セレスティアは辛うじてその攻撃を避ける。そしてまた飛び立とうとするが、やはりドラゴンに邪魔されている。
「あぅ……うぅ〜…!」
「おい、何をしてる!?真面目に戦え!!」
「こ、これでも真面目ですー!!」
「ふざけるな!!さっきからお前何がしたいんだ!?」
「そんなに言うんなら、このドラゴンをどうにかしてくださいよぅ!!これじゃ何もできません!!」
顔を見る限り、どうやら本気で言っているらしい。そのまま逃げられるのではという疑念もあったが、ともかくも協力してやろうと、
ディアボロスは再び詠唱を始める。
「まったく、手のかかる…!力に驕りし蜥蜴の王よ、今貴様を滅ぼす咆哮を聞け」
ポランクドラゴンに死霊が襲い掛かり、たちまちその命を奪っていく。その隙に、セレスティアは空中に飛び上がり、あっという間に
姿を消した。
「……やはり逃げたか。まあ、いい囮にはなってた、か」
だが、残るのはセイントゴーレムとファイアードレイクである。決して楽観できる相手ではない。危険な相手と倒しやすい相手と、
さてどちらから戦うかと首を巡らせる。その瞬間、突然ファイアードレイクの体がざっくりと切り裂かれた。
「……逃げたわけじゃなかったのか」
「ちょっ……話しかけないでくださ…!」
セイントゴーレムが後ろにいるセレスティアに気付き、腕を振り上げる。
「きゃああぁぁ!!!」
「悪かったな。止めは任せろ」
ディアボロスは素早く魔法を詠唱し、間一髪でセイントゴーレムを破壊する。ようやく動く相手がいなくなり、ディアボロスは軽く
溜め息をつく。セレスティアの方は、ぺたんとその場にへたり込んでしまった。
「おい、大丈夫…」
「ひ、人がせっかく隠れたのに話しかけるとか、何考えてるんですかっ!?おかげでわたくし、死ぬところだったじゃないですかっ!」
「だが生きてるだろう。ならいいじゃないか」
「よくないですっ!!また同じようなことがあったら、どうするつもり…!」
「ん?『また』?お前、また俺と一緒に戦うつもりなのか?」
「あ…」
セレスティアはハッと口を押さえた。そして見る間に、顔が真っ赤に染まっていく。
「しょ、しょうがないじゃないですかっ!!!そんなことがないとも限らないし、いや、ない方がいいんですけど!!でもその…!」
「とりあえず落ち着け。とにかく、もう殺し合いはしなくていいということだな?」
「え?あ……ああ、そ、そうですね。きょ、今日は見逃してあげますっ!ふんっ!」
どうもよくわからない奴だと、ディアボロスは心の中で笑った。性格はよくないらしいが、その分彼としては、話していて面白い。
「それより、お前の戦い方を見る限り、まだ実力不足じゃないのか?死角から不意打ちでもしないと、当たりもしないじゃないか」
「う、うるさいですっ!しょうがないじゃないですかっ!!転科してから、まだそんなに経ってないんですっ!!」
よくよく聞いてみると、彼女は元魔法使いで、『色んな事情があって』堕天使学科に転科したのだという。助ける義理はないが、
何だか放っておくことも出来ない相手である。実力もさほど高くなく、おまけに多少抜けているのでなおさらだ。
「お前、俺と一緒に来る気はないか?」
「わ、わたくしがどうしてディアボロスなんかとっ!?」
「だろうな。じゃあ、また…」
「ま、待ってくださいよ!!誘っておいて、一回断ったらすぐさようならとか、これだからディアボロスは…!
「………」
「べ、別にいいですよ!わたくしとしても、まだ一人だと不安……いえっ!ひ、一人よりは二人の方が心強いですし!」
「はは。そういうことにしといてやる」
「しておいてやる、とは何ですかっ!!」
その声を無視し、ディアボロスはタロットを取り出すと、慣れた手つきで切り始め、やがて一枚のカードを引いた。
「……なるほど、面白い。じゃあ行くぞ」
「あ、待ってくださいよ!それ、何の意味があるんですかー!?」
さっさと歩き出すディアボロス。それを慌てて追いかけるセレスティア。
彼の引いたカードは、運命の輪の正位置。
その意味は、転換期や好機、そして、運命の出会いを示していた。
ディアボロスとセレスティア。相反する種族の二人は、主に反発しつつも二人での冒険を続けた。セレスティアはディアボロスに何かと
突っかかり、ディアボロスも当然の如く応酬する。それでも、ずっと二人でいれば少しずつ、ひどくゆっくりではあっても、打ち解けて
くるものである。
「……死神、か。あんたに似てるな」
「ふざけないでください、この死霊使い!!あなたの方が、よっぽど似てるじゃないですかっ!!……で、何を占ってたんですか?」
「いや、この先の、漠然とした未来をね」
「じゃあ、よくないって事ですね、そんなカード引いたんですから」
セレスティアが言うと、ディアボロスは笑った。
「そうでもない。確かに死神は悪い象徴だが、これは逆位置だ。つまり、逆にいい意味だってことだな」
「そんなのもあるんですか……その、それって他のことも占えます?」
「今日の運勢でも占うかい。気になるならやってやるが」
「あ……う……や、やっぱりいいですっ!あ、悪魔なんかに占いを頼む人が、どこにいるんですか!?」
「あんただって堕天使じゃないか。それとも、運命は神のみぞ知るって方が、性に合うかい?」
笑いながら、ディアボロスはカードを切り、その中から一枚を引いた。
「……節制の正位置。ま、良くも悪くも安定だってことだ。無理しなきゃな」
「そうなんですか〜。じゃあ、今日は悪くない日……って、いいって言ったじゃないですか!!どうして勝手に占うんですかっ!!」
「俺が気になったからだ」
初対面のとき、いきなり殺し合いになりそうだったとは、誰が聞いても信じられないであろう。今では二人とも、お互いに
いいパートナーである。もっとも、セレスティアはそれを全力で否定するが。
二人はお互いのことを知らない。知ってることといえば、二人とも以前は魔法使い学科だったこと、一人で探索をしていたこと、
そして現在の学科と力量ぐらいのものである。それでも、別に不都合もなく、また知る必要も無いと思っていた。
時が経ち、力をつけ、極々ゆっくりと打ち解ける。
元々、性格の違いから、お互いにそれほど強い嫌悪感があったわけではなく、一般に考えられるセレスティアとディアボロスよりは、
二人の仲が深まるのは早かった。
「ディアボロスさん、今日の占いはどうでした?」
「吊るされた男の正位置。我慢の日ってことだな」
「じゃ、気をつけないといけませんね」
「ああ、そうだな。それから、今日の君の運勢は星の正位置。恋愛運は悪魔の逆位置で、金銭運は節制の正位置。ラッキーカラーは緑だ」
「……ラッキーカラーとか、適当に言ってませんか?」
「気のせいだ」
二人とも、今まで一人で過ごしていたためか、仲良くなるまでには時間がかかったが、一度仲良くなれば、打ち解けるのは早かった。
暗かったディアボロスの顔も、笑顔がよく浮かぶようになり、セレスティアも時々は笑顔を見せる。
一人は孤独ではあったが、気楽だった。他人の絡む楽しみもない分、それと同じか、あるいはそれよりずっと多い苦しみがないからだ。
ディアボロスという種族柄、人との関わりは苦痛の方が多かった。だからこそ、彼は一人を選んだ。それがどういうわけか、今では
最も苦手なはずのセレスティアと、たった二人で旅をしており、しかも彼女と一緒にいるのが、とても楽しく思えている。
「……なあ、セレスティア」
「何ですか?」
「呼びかけに誰かが答えてくれるってのは、いいもんだなぁ」
しみじみと、ディアボロスは言った。
「あなたなら、死霊ともお話できるんじゃないですか?」
「いや、できなかぁねえが、こいつらは俺の眷属だ。ただの話相手ってのは、ちょっと違う」
そう言いつつも、彼はまとわりつく死霊と指でじゃれている。
「そもそも、こいつら死んでるからな。温もりってもんがねえ」
「つまり、わたくしが温かいって言いたいんですか?だとしたら、あなたのこと馬鹿だと思いますけど」
「ずいぶん温かいと思うがな?何しろ、頭ん中がいっつも春のお花畑だ」
たちまち、セレスティアの顔が真っ赤に染まる。
「な、何を言うんですかっ!?これだから、ディアボロスは性格が悪くって頭も悪いって言われるんですっ!」
「いや、頭はいいだろ。性格も君よりはずっといいと思うが」
「そうだとしても、あなたは馬鹿です!!それにわたくしにとっては、性格悪いです!!おまけに勘も…!」
「ん?勘?」
「いえいえいえ、何でもないですっ!!!と、とにかく、わたくしはあなたが思うほど温かくないですし……そ、それに馬鹿じゃ
ありませんっ!!!」
「ああ、そのようだ。少なくとも、馬鹿にされたってことがわかるぐらいには利口だな」
「……嫌いっ!」
そんな会話をしつつも、二人はやはり、仲が良かった。ディアボロスはもう、今では彼女がいない日々など考えられなくなっていた。
一人では決して得られない幸福。それは彼にとって、もはやなくてはならないものとなっていた。
そんな、ある日のことだった。
グラニータ雪原を越え、氷河基地を経由して氷河の迷宮に入る。そこで二人は探索を続けていたが、どうもセレスティアの様子が
おかしい。時折、ひどくボーっとしていることがあるのだ。
「おい、どうした?大丈夫か?」
「……え、ええ。大丈夫です。気にしないでください」
そうは言うものの、ボーっとするだけならまだしも、時にはうつむいたまま動かなくなったり、彼女は明らかに調子が悪そうだった。
さすがに心配になり、ディアボロスは何度も戻ろうと言ったのだが、セレスティア自身が頑強に拒否する。
性格が悪に分類される者は、主に自分本位の考えをする。ならば、そうひどいことにはなるまいと、ディアボロスはそう考えていた。
それが、致命的な失敗となった。
どさりと倒れる音。後ろを振り返ると、セレスティアが倒れていた。
「おい、セレスティア!?どうした、大丈夫か!?」
「さ……触ら……ない、で…」
彼女の言葉を無視して抱き上げた瞬間、ディアボロスはゾッとした。彼女の体は、冷え切るどころか、異常なほどに熱い。
「……おい、これはどういうことだ!?すごい熱じゃないか!どうして言わなかったんだ!?」
しかし、セレスティアは目を逸らし、答えない。
「いや、今はそれどころじゃない!帰るぞ!」
「……い、嫌…」
帰還札を取り出そうとすると、セレスティアはその手を押さえた。
「わたくし…………あなたの……邪魔に、なりたく……ない…」
「お前……まさか、そんな理由で…!?」
よくよく考えてみると、グラニータ氷原から、彼女はおかしかった。最近では珍しく、攻撃をよく外し、よく食らっていた。寒さと
敵の強さゆえだろうと思っていたのだが、恐らくはその時点で体調を崩していたのだろう。それを、彼女は隠し続けた。
理由はただ、自分の足手まといになりたくないが故に。
例え倒れることになろうとも、邪魔になりたくないがために。
彼女は本当に、自分本位でしか、物事を考えなかったのだ。
「……馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが、ここまで馬鹿かよ…!ここまでこじらせる方が、よっぽど迷惑だろ!!」
「ごめんなさい…………ごめん……なさい…!」
震える声で呟き、セレスティアは涙を流した。その涙の軌跡が、迷宮の寒さにたちまち薄氷となる。
「くそ、話は後だ!すぐに帰るぞ!!」
有無を言わせず、ディアボロスは帰還札を使い、グラニータ氷原基地へと戻った。
外は猛吹雪であった。必死の思いで治療所にたどり着き、彼女を寝かせる。だが、そこの医者から聞かされた話は、彼を絶望のどん底に
叩き落した。
吹雪のせいで、薬が届けられない。在庫は尽きている。飛竜召喚札も売っておらず、転移札を利用しようにも、迷宮にたどり着くまでに
凍死するほどの吹雪である。そして、彼女の容態は一刻を争うほどに、重い。
それでも、ディアボロスは何とか彼女を助けようと、転移札を買って基地を飛び出した。しかし吹雪に方向を見失い、彼はその転移札を、
自分が生き残るために使う羽目となった。
再び治療所に戻った彼を、セレスティアは弱々しい笑顔で迎えた。
「おかえり……なさい…。無事で……よかった…」
「君が無事じゃねえと、何ら意味がねえんだがな……くそっ!」
もう、出来ることはなかった。彼に出来ることといえば、せいぜい彼女の側にいてやることぐらいである。
吹雪が納まる気配はなく、そのまま夜になった。
「……また、明日来る」
そう言って席を立った瞬間、セレスティアは彼の服の裾を、しっかりと掴んだ。
「いや……行かないで……一人にしないで…」
その力は思いのほか強く、その目は真剣だった。
「もう……一人は、いや……一人に、なりたくない…」
「……わかった」
再び椅子に座りながら、ディアボロスは密かにタロットを引いた。
引かれたカードを見て、一瞬彼の表情が強張る。だが、すぐに何事もなかったかのように、無表情に戻った。
「……わたくし……本当は、一人じゃなかったんです…」
セレスティアが、弱々しい声で喋り始めた。
「セレスティア、あまり喋らない方が…」
「でも、性格も悪くて…………戦う方が、好きで……魔法使いから、堕天使学科に、転科したんです……でも…」
彼女は苦しげな顔に、胸の痛くなるような笑みを浮かべた。
「わたくし……何の役にも、立てなくなりました…………戦士の方より、弱くて……魔法使いより、魔法が使いこなせなくて……それに、
隠れ方も……教えて……もらってないから……襲撃の仕方は、知ってても…………見つかっちゃって…」
「………」
「役立たずって……呼ばれたんです…。それで、喧嘩して……わたくしは、一人になっちゃったんです…」
それを聞いて、かねてからの疑問がようやく解消された。初めて会ったとき、彼女は実力に見合わない迷宮にいたが、それは仲間と一緒に
そこまで来たからなのだ。
「でも、あなたは……わたくしを、必要としてくれて……大っ嫌いなのに、大好きになって…」
「セレスティア、もういい。それ以上喋るな。体に障る」
静かに言うと、そっと彼女の手を握る。すると、セレスティアは何がおかしいのか、ふふっと笑った。
「……そんな宣言して、触る人……初めて、見ました…」
「……ばぁか。体に触れる、じゃなくて、体に悪い、の意味だ」
きっといつもなら、ここで噴き出しただろう。しかし、今の彼女を見ていると、とても笑うことなどできない。
「っ!……し、知ってましたよ…!た、ただ、えっと……あなたが、暗い顔してるから……笑わせようと思って…」
「嘘つけ。とにかく、もう喋るな。俺はずっとここにいるから、ゆっくり休め」
「……嘘じゃ、ないですもん……本当に、どこにも、行かないでくださいね…」
それから、ディアボロスは彼女が眠るまで、ずっと手を握っていた。そして、セレスティアが小さな寝息を立て始めると、その手を
祈るように額に当てる。
さっき引いたカードが、彼の瞼にしっかりと焼き付いて離れない。
それは死神のカード。そして正位置。事態は望まない方向へと、進んでいる。
それから三日。吹雪は未だ収まることを知らず、基地では食料の心配もされ始めている。セレスティアの容態はますます悪くなり、
もはや誰の目にも、限界が近いことは明らかだった。そんな彼女の隣に、ディアボロスはずっと付き添っていた。
「セレスティア、大丈夫か。着替えなくて気持ち悪くないか」
「ふふ、エッチですね……着替えるとこ、見るつもりですか…?」
セレスティアは時折、軽口を叩く。しかし、今まで彼女が軽口を言うようなことはほとんどなく、それが逆に彼女の容態が危険だと
いうことを物語っている。
「や、そういうわけじゃないが…」
「それに……確か、ラッキーカラー……ピンクでしたよね…?これ、ラッキーカラーですし…」
「ああ、だからそのリボン……って、それはあくまであの日のラッキーカラーであって、今日はまた……いや、まあいいか」
今はもう、二人は宿屋に来ていた。手の施しようもなく、病気の人間が治療所にいれば、他の患者に感染の危険があるからという、
極めて無情な判断によるものである。いわば、二人は宿屋の一室に隔離されているのだ。だが、おかげでずっと二人でいられることは、
セレスティアにとっては喜ばしいことだった。
「静かですね…」
「……ああ」
外は風が轟々と唸り、窓はガタガタと揺れている。彼女の意識は、少しずつ混濁し始めているらしい。
「ディアボロスさん……もし、わたくしが死んだら…」
「おいセレスティア…!」
「そうしたら……わたくしを、あなたの眷属に……してくださいね…………そしたら、わたくし……一人ぼっちに、なりません…」
「……治せばいいさ。そうすりゃ、そんな手間も省ける」
頭を優しく撫で、ディアボロスは優しく語り掛ける。しかし、セレスティアは首を振った。
「わたくしの、体ですもん……わたくしが、一番……よく、わかってます…………もう、長くは……ありません…」
「……言うな、そんなことは」
辛かった。彼女を失うなど、想像するだけで胸が張り裂けそうだった。しかし、恐らくそれは現実のものとなる。
「わたくし、幸せです……仲間と、別れても……あなたが、いてくれた…。こんなになっても……側に、いてくれる…」
「………」
「ディアボロスさん…」
セレスティアは一度大きく息を吸い込み、口を開いた。
「わたくし、あなたが好きです…」
掠れた声で、しかし確かに彼女は言った。
「っ…!」
「ほんとに好きで、大好きで……本当に、いつ死んでもいいってくらい、幸せでした……でも、一個だけ、心残りが…」
「……なんだ?何でもしてやる。言ってみろ」
ディアボロスが言うと、彼女はそっと上目遣いに彼を見つめた。
「じゃ……わたくしを、抱いてください…」
「……え?」
一瞬その意味がわからず、ディアボロスは思わず聞き返した。しかしセレスティアが答える前に、彼はすぐ口を開いた。
「ば、馬鹿なこと言うな!そんな状態で、そんなことしたら…!」
「嘘つき……何でもしてくれるって……言ったじゃないですかぁ…」
「い、いや、それは言ったが……けどっ、そんな状態でしたら、君はっ…!」
「……そうじゃなくっても……もう、長くないんです……でしたら……その前に、あなたの体を、感じたい……わたくしに、
あなたの体の、消えない印……つけてください…」
その言葉に応えることは、即ち彼女の生を諦めるということに繋がる。しかし、このまま吹雪が止まなければ、応えずとも彼女は死ぬ。
なら、せめて彼女の言葉に応えたいという思いも、少なからず生まれる。
一瞬の間に、頭の中を様々な思いが駆け巡った。これまでの彼女との旅。出会い。倒れた彼女の姿。一人で旅をしていた頃。彼女と
話したこと。今まで共に過ごした、大切な記憶。
彼の口に、今まで一度も言ったことのない言葉がこみ上げた。
「……俺は、君が好きだ」
セレスティアが、僅かに目を見開く。
「だからこそ、迷った。俺は、君を失いたくない。だけど……だけど、君を失うしかないのなら……そして君が望むなら……俺は、
君の言葉に、応えよう」
そっと、頬を撫でる。セレスティアは嬉しそうに目を細め、そこに自分の手を重ねる。
「嬉しい、です…」
「……失いたく、なかった…」
こみ上げる涙を堪え、ディアボロスはそっと顔を近づける。セレスティアは目を瞑り、自分からも顔を近づける。
唇が触れると、二人は少し驚いたように顔を引き、やがておずおずと、再び触れ合う。
最初は、唇だけで怖々と。少しずつ、お互いに唇を吸うように深く。いつしか、お互いに相手の首を掻き抱き、舌を絡める。
貪るような激しいキスを交わしながら、ディアボロスはそっと彼女の服に手をかけた。一つ一つボタンを外し、全てのボタンが外れると、
セレスティアは首に回した手を引き、自ら服を脱ぎ捨てる。
胸元が露わになると、むっと熱気が立ち上る。セレスティアはどこかぼんやりした笑顔で、ディアボロスを見つめている。
ゆっくりと、白いブラジャーに手を伸ばす。その上から胸に触れると、彼女の柔らかさと、異常なまでの熱が伝わる。
「ん……誰かに、そんなところ触られるの、初めてです…」
「……俺も、触るのは初めてだ」
そっと、指に力を入れる。そのまま指が沈み込むような感触に、ディアボロスはしばらくそれを楽しんでいた。が、セレスティアが
口を開く。
「あの……もっと、強くていいですよ…」
「痛くないか?」
「それくらいだと、あんまり、感じないですから……そ、それ、に…」
不意に口ごもると、セレスティアは恥ずかしげに視線を逸らした。
「い、いつも……あなたを思って…………一人で……して……ましたし…」
「……こ、光栄だ…」
普段なら絶対に言わない言葉。もう彼女に先はないのだと、改めて思い知らされる。
ディアボロスはさらに力を入れ、胸を握り潰すように揉み始める。一瞬痛がるかと思ったが、セレスティアは苦しげな表情の中で、
うっとりとした視線を投げかける。
「それ……んんっ……いいです…!」
もはや、まともな感覚がないのだろう。今の彼女は、もう繊細な刺激を感じることは出来ないのだ。
ブラジャーを外し、大きな胸に直接触れる。セレスティアは胸を隠しはしなくとも、恥ずかしげに身を捩る。
強く胸を揉みしだき、乳首をつねるように摘む。それでも、セレスティアは痛みを訴えず、それどころか快感の吐息を漏らす。
「ふぅ……あっ…!い、いいですぅ…」
どこか甘えたような声を出すセレスティア。正直なところ、こんな状態の彼女に、ディアボロスのモノはほとんど反応して
いなかったのだが、彼女の声と、手に伝わる感触が、徐々に男としての欲望を目覚めさせる。
一度胸から手を離すと、スカートに手をかけ、彼女の顔を見る。
「こっちも、いいか?」
「もう、ですか…?ふふ……エッチ…」
そう言ってから、セレスティアは彼に微笑みかけ、小さく頷いた。
スカートにかけた手に、グッと力を入れる。すると、スカートの下からは、可愛らしいピンク色のショーツが現れた。
「……ここもか」
「ふふ……だって、ラッキーカラー……ですから…」
堕天使でありながら、こんなにも無邪気な一面を持つ彼女。他愛もない占いを、純粋に信じてくれた彼女。
萎えかける気持ちを全力で奮い立たせ、ディアボロスはそこに手を伸ばす。
なだらかな膨らみに指を当て、つぅっと下に滑らせる。やがて、薄布越しにぷっくりとした膨らみを感じ、少し力を入れれば、
指が吸い付くように沈み込む。同時に、セレスティアの体がピクッと跳ねた。
「ふあ……そ、そこ、もっと強く……んん…!して、ください…!」
指を軽く沈み込ませ、ゆっくりと前後に擦る。さすがにここは多少敏感らしく、さほど強く刺激しなくとも、セレスティアは
可愛らしく鼻を鳴らす。
じわりと、ショーツに黒い染みが広がる。ディアボロスが指を離すと、それはねっとりと指に絡みつき、彼女との間に糸を引く。
「……脱がせるぞ」
「はい…」
少し気持ち悪かったのか、ディアボロスがショーツを下げると、セレスティアは腰を少し浮かせてそれを助ける。とはいえ、さすがに
直接見られるのは恥ずかしいらしく、セレスティアはぴっちりと足を閉じている。
太腿の間に手を割り込ませ、秘裂に直接指が触れる。
「ふっ……ん、あっ…!」
ビクリと体が跳ねる。ディアボロスはそのまま、ゆっくりと彼女の中に指を埋め込んでいく。
「うっ……あぁっ…!は、入って…!」
指に、ぬるぬるした感触と、彼女の異常な体温が伝わる。しかし、その熱さは快感にも繋がり、そこは彼の指を、ぎゅうぎゅうときつく
締め付けてくる。
辛うじて欲望を押し止め、ディアボロスは彼女の中をじっくりと解していく。ゆっくりと突き入れ、指を曲げて内側を撫で、そのまま
指を引き抜く。その度に、セレスティアは可愛らしい喘ぎ声を出し、快感に身を震わせる。
不意に、セレスティアがディアボロスの肩に翼で触れた。
「ん?どうした?」
「あの……ごめん、なさい。ほんとなら……わたくしも、お返ししたいん……ですけど…」
苦しそうに息をしつつ、申し訳なさそうに言う彼女の頭を、ディアボロスは優しく撫でた。
「気にするな。その気持ちだけで、十分だ」
声を聞く限り、彼女は既にかなり消耗している。できれば、もっとじっくり慣らしてやりたいのだが、時間をかければ、それだけ彼女の
負担は増大する。
「それより……そろそろ、いいか?」
「え…?あ、えっと…」
熱のためか、羞恥からか、耳まで真っ赤に染まった顔で、セレスティアは注意しないとわからないぐらいに頷いた。
服を脱ぎ捨て、そっと彼女と体を重ねる。セレスティアは僅かに震えながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「体……冷たいですよ…」
「それは……あ、いや、そうだな。なら、君が温めてくれ」
震える手を伸ばし、セレスティアはディアボロスの顔を撫でる。
「ずっと……口元、隠してましたけど……思ったより……かっこいい、顔、ですね…」
「ありがとう」
ディアボロスは慎重に、自身のモノを彼女の秘部に押し当てる。セレスティアは少し怖がっているようだったが、彼を拒みはしなかった。
「……いくよ」
「……はい」
ゆっくりと、腰を突き出す。それに従い、ぬめった彼女の中の感触と、体温と、そして肉を強引に押し分ける感触が伝わる。彼女の中は
かなりきつく、緊張からか、さらにきつく締め付けてくる。その熱さと締め付けに、ディアボロスは強い快感を覚える。
「んあっ……う、く…………うあっ!」
一瞬、何かに引っかかった感触があり、その抵抗がなくなると同時に、ズッと根元までが入り込んだ。
「セレスティア……大丈夫か?」
ディアボロスが尋ねると、セレスティアは弱々しくも嬉しそうな笑みを浮かべた。
「はぁ……はぁ……はい、ちょっと……びっくり、しました……けど……思った、より……痛く、なかったです、よ…」
本来なら、痛くないわけがない。現に、結合部には血が伝い落ちている。しかし、もう彼女は、ほとんど痛みを感じることが
できないのだ。彼女の感覚は、どんどん失われていっている。
「そうか。なら、動いても、平気か?」
「ええ……あなたのこと、いっぱい……感じさせて……ください…」
念のため、ゆっくりと腰を動かす。一瞬、セレスティアの体がピクッと震えたが、痛みによるものではないらしかった。
最初こそ、反応を探るように、ゆっくりと動いていた。しかし、すぐに中の熱さと締め付けに、彼の動きは速く、荒くなっていく。
「ふあっ……あん…!ディアっ……ボロス、さんっ…!」
それでも、彼女は痛みを訴えなかった。もう彼女は苦痛を感じることがなくなっており、残った数少ない感覚の、快感だけが
生きていた。
「ディア……う、ううぅぅ…!」
突然、セレスティアが涙を流す。それに驚き、ディアボロスは一度動きを止めた。
「す、すまない。痛かったか?」
「ち、違うんです……わたくし、嬉しい、です……わたくし……本当、に、あなたに……すきって……初めてが、あなたで……わたくし、
いま、あなたに抱かれて…」
「……わかった、わかったよ。無理に喋らないでいい」
並べる言葉は文にならず、舌も時折回っていない。思った以上に、彼女は消耗していた。
そんな彼女を、ディアボロスは強く抱き締めた。
「……君を、失いたくない…!ずっと、一緒にいたかった…!」
「……わたくし、も、です……ずっと、ずっと、一緒にいて……いさせて……ください…」
「ああ、ああ…!絶対、放すもんか…!」
混濁する彼女の意識とは裏腹に、体は正直に反応している。締め付けがさらに強くなり、結合部には多量の愛液が滴り落ちる。
それに比例して、彼の快感もどんどん高まり、再び腰を強く動かす。やがて、腰の辺りから強い快感が湧き上がり、ディアボロスは
セレスティアを強く抱き締める。
「セレスティア……セレスティア…!もうっ…!」
その声に応えるように、セレスティアも強くディアボロスにしがみついた。それと同時に、ディアボロスは彼女の中に
思い切り精を放った。
「……中、動いて……ますぅ…。ディアボロス……さんの…」
どこか虚ろな、それでいて陶然とした声で、セレスティアが呟いた。そんな彼女を、ディアボロスはただただ、強く抱き締める。
強い快感と共に、何度も彼女の中に精液を注ぎこむ。セレスティアは嬉しそうに微笑みながら、ディアボロスにしがみついている。
やがて、全てを彼女の中に注ぎ込むと、ディアボロスはゆっくりと自身のモノを引き抜いた。
その時、ふと二人の目が合った。セレスティアの目には、さっきまで失われていた理性の光が戻っている。
「……セレスティア、疲れただろう?」
「はい……ちょっと、だけ…」
そう言って微笑む彼女の頭を、ディアボロスは優しく抱き寄せ、撫でてやる。
「ずっと、こうしててやる。今日はもう、ゆっくり眠れ」
「ふふ……嬉しい、な……気持ちいい…」
少女のような笑みを浮かべ、セレスティアは目を瞑った。
「……ディアボロス、さん…」
「ん?」
「ずっと……ずっと……一緒にいて…………くださいね…」
「ああ、約束する。安心しろ」
安らいだ笑顔を浮かべ、セレスティアは静かに息を吐いた。そして、ディアボロスに体を預け、彼女は静かに眠った。
それから、もう二度と、セレスティアは目を覚まさなかった。その顔は安らかで、今にも目を開けて、いつものように
微笑みかけてきそうだった。しかし、その胸は既に呼吸を忘れ、心臓が音色を立てることもない。
ディアボロスはずっと、彼女の体を抱いていた。一晩経ち、二晩経ち、そして一週間が過ぎた頃に、ようやく吹雪は止んだ。
窓の外を覗けば、今までの吹雪が嘘のように、外には明るい日差しが降り注いでいる。
「……もう少し、早ければ…」
ぽつりと、そう口にする。しかし、もう全ては過ぎたこと。今更何を言おうと、現実は変わらない。
セレスティアの体を抱きかかえ、ディアボロスは宿を出た。病気の人間がいなくなることで、宿の主人は少なからずホッとしている
ようだったが、彼女の悲惨な末路に、心を痛めてもいる様子だった。いずれにしろ、彼を責めることは出来ない。
氷河基地を出て、ディアボロスは歩き続ける。その腕には、セレスティアが横抱きに抱かれている。
「……君の気持ちは、嬉しい」
もはや何も答えぬ彼女に、ディアボロスは話しかける。
「だけど、君の気持ちを裏切ることになるけど、俺は君を眷属にはしない」
彼はゆっくりと、氷河の迷宮へと歩を進める。
「君を使役するなんて、俺にはできない。俺、君のことが好きだ。君は、俺の奴隷じゃない」
迷宮に入ると、彼はフロトルを唱え、足元の雪を気にせず再び歩き出す。
「好きだ。大好きだった。俺は、ずっと一人だった。仲間なんて、いなくていいと思ってた。そうすれば、人間関係のしがらみもないし、
気を使うこともなく……こんなに悲しい思いを、することも、ない」
セレスティアは答えない。あの熱かった体は既に凍りつくほど冷たく、白い肌はより一層、白く映える。
「だけど、俺は君に会ったこと、後悔はしていない。俺は、ただ生きることだけが目的だった。君に会って、俺は君と共に生きる
喜びを知った。それだけでも、俺は君との出会いを、後悔しない」
ディアボロスは立ち止まり、愛用のタロットを取り出した。そして、セレスティアを抱いたままで、器用に一枚のカードを抜き取る。
そのカードを見て、ディアボロスは笑った。
「……世界の正位置。目的の成就、成功、完成、新たな出発……さすが、よく当たる」
じっと足元を見つめる。そこは、氷の迷宮にあって、凍らずに原形を止める水溜り。底の見えないほどに深い地底湖、ディープゾーン。
「セレスティア。君を眷属には出来ないけれど、俺は君との約束を違えたりしない」
横抱きにしていた体を、まるで抱き合うように抱え直す。力なく揺れるセレスティアの体を、ディアボロスは力いっぱい抱き締めた。
「君が思うほど、俺は強くない。君が思うほど、俺は冷たくない。セレスティア……決して、一人にはしない。俺も……もう、一人には
なりたくない。セレスティア……ずっと、一緒だよ」
そして、ディアボロスは魔法を詠唱した。それは死霊魔法ではなく、魔法使いの使う魔法。
全ての魔法効果を打ち消す、解呪魔法、インバリル。
静寂の支配する氷の迷宮に、水音が響いた。それは一瞬のことで、迷宮はすぐに、いつもの静寂を取り戻す。
未だ波紋の残るディープゾーンのすぐ近く。雪の残る地面の上に、何かが落ちていた。
一つは、ひとひらの黒い羽根。その傍らには、一枚のタロットカード。その絵柄は、恋人。
その二つは、まるで恋人同士が仲良く寄り添っているように、静かな迷宮の中で、重なり合っていた。
以上、投下終了。
この二学科、微妙の極み。堕天使愛用してるけれど。
魔法の詠唱に関しては、マジックザギャザリングのカードの下に書いてある文が好きだった。
それではこの辺で。
泣いた(´Д⊂
GJ!
鬱エンドとか言うから鬼畜陵辱ものかと思ってwktkしてたら・・・
こんな・・・
こんな・・・・・・
・・・グッジョーーーーーォォォブ!!!
それにしても氏の芸風の幅広さには感服せざるを得ない
70 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 00:13:18 ID:z/Mc9TzS
GJ。
なんだかジーンと来る。泣く……。
ってあれ、どうしよう、コレ俺の中じゃハッピーエンドに分類されるんだが……
ああ、そうか。無理矢理じゃなければ良いのか、俺は……。
お互いがお互いを愛していれば、そして離れなければ、いかなる結末もハッピーエンドと言える。
と俺は思った。
エスコン、どうしよう。
ストーリーはZEROを元にしてととモノ風にすれば良いとして、戦闘がなぁ。
いっそのこと飛竜に乗って空中戦としゃれ込もうかな……。
戦争で大量の飛竜が死んだせいで飛竜召喚札は貴重品になった。とか色々できるけど…。書けるかどうか。
オーソドックスな戦闘か、飛竜を操る空中戦か……。
そこが決まらないんだ……。
皆はどう思う?
GJ
氏の作品は相変わらず凄いな
泣いたよ
……同時にセレスティア剣士を陵辱ものを書き進めてる自分を汚いと思ってしまった
>>70 フロトルの強化版っていう設定の魔法で戦うっていうのはどうかな
それに対抗して飛竜とか
>67
な、泣いてへん! 泣いてへんで……これは、心の汗や!
──誠にGJでございます。こういう「透きとおった悲恋」物が書けるのは、すごいなぁ。
>70
WizXthだと「空飛ぶ古代文明の機械」が出てもさほど無理ないんだけど、ととモノだとさすがに違和感ありますしね。パンツァードラグーンみたく「空飛ぶ生体兵器」かなぁ。
いえ、本人達が魔法でヒュンヒュン飛ぶのも、なのは好きとしては見たくもありますが。
それでは、「学園日記」の5話、投下させていただきます
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『クロスティーニ学園せい春日記』
その5.星空の下のディスタンス
休養日の翌朝、俺達パーティはついに待望の6人目のメンバー、しかも前衛を迎えていた!
……いたんだが。
「…………」ムスッ!(怒
「…………」ダラダラ(汗
「…………」ニコニコ(笑
く、空気が重ぇ〜!
──そして、そんな中でもルンルン♪気分全開で、俺の左手を握っててくださるディアナに、ある意味感嘆する。
何とゆーか、普段はあれほど敏感に空気を察する気配り屋さんなのに、こういう時に限りスルーですかそうですか。
いや、そりゃね。好きな人(つまり俺)と一夜を共にした翌朝なんだから、幸せボケしてるのも無理はないと思うけどさ。
「……なぁ、ヒューイ、自分と、このセレスティアのねーちゃん、知り合いなんやろ?」
声を潜めて聞いてくるルーフェスに、渋々答を返す。
「一応……世間一般的には"幼馴染"と言われるのが妥当な気がしなくもない」
ピクリ! と目の前のセレスティア少女は眉をひそめたものの、特に何かを言うことはなかった。
「ふむ。旧知の仲のお主を頼ってパーティを組みに来た、と言うワケかの。それにしては、随分と挑戦的な態度じゃが」
ま、コイツはこーいうヤツだから。俺らの町の名士のご令嬢だから人に頭下げた経験があまりねーんだよ。
「──トゲのある言い方ですが、あまり仲はよろしくないのですか?」
さて、ね。昔……小さなころは、それなりに仲良く遊んだ記憶もあるんだけどな。
「……随分な言われようですわね。けれど、確かにわたくしも頭に血が上っていささか礼儀を欠いていたコトは認めましょう。改めて自己紹介致しますわ。
わたくしの名はセーレス・ヴァンガード。選択教科は戦士ですわ。そこの軟弱女タラシのリーダーさんとは、一応、子供の頃からの知り合い……ということになりますかしら。
皆様、以後よろしくお願い致しますわ」
優雅に一礼してみせるセーレス。
はぁ……いったい、何でこんなコトになったのやら。
* * *
今朝、目が覚めた時の気分は、まさに「サイコー!」だった。
だってな〜、憧れの、いや今や"最愛"と言ってしかるべき女の子と昨夜結ばれて、その娘の部屋で目が覚めたんだぜ。
ほら、今だって、すぐ隣りに柔らかくていい匂いのする温かい存在が寝ているのを感じるし……って、あんましあったかくないな。
ディアボロスってヒューマンより体温低いんだっけか? 昨晩は熱いくらいだったんだけど……はは、ありゃ、単に火照ってだけか。
「ん……」
お、掛け布団の中から色っぽい声が。
……まだ寝てるみたいだから、ちと悪戯してみるか。
そーっと胸の辺りに右の掌を這わせる。
ムニュン♪
おお、何度触っても飽きない感触。昨日は何だかんだ言ってテンパってたから気づかなかったけど、こうして直に触ると、ディアナって結構着痩せするんだな。
ムニムニムニ……
「──あぁン、ダメです。乳首のあたりは感覚素子が大量に埋め込まれて敏感な部位なのですから、もっと優しく」
……って、この声は、もしやグノーさんッ!?
「──はい、貴方のグノーです、まいだーりん」
いや、マイダーリンじゃなくて! 何してるんですか、こんなところで!?
「? ここは私とディアナの部屋ですが……」
ええ、そりゃわかってますよ。俺が聞きたいのは、どうして俺の隣で寝ているかってことです!
「──見て分かりませんか? 添い寝です」
何で? WHY?
そもそも、ここにいたはずのディアナは、どこに行ったんですか?
「──ああ、なるほど。それでしたら……」
ガチャ……
「グノー、ヒューイさんを起こしてくれたぁ?」
「貴方と一緒に食べる朝食の用意をしていますが」
嗚呼、時が凍るってこういうコトかと思ったね。
けど、ディアナは、ベッドにいるグノーと俺を見ても微笑んだままだった。
「もぅ、お寝坊さんですね、ヒューイさん。早くしないと朝ご飯食べてる時間、なくなっちゃいますよ?」
「あ、うん、ごめん。今すぐ支度するよ、ディアナちゃん」
──ディアナが焼いてくれたパンケーキは大変美味しかったことを付け加えておこう。
しかし……あの光景を見ても何も言われないとは。
いや、ヘンな方向に嫉妬されてヤンデレられるのは確かに御免だけどさ。
「──ひとつには、今のディアナは"信じる心"を装備しているからでしょうね」
何、そのインチキくせぇアイテム名? てか、それって装備できんの!?
「──ほら、ココに」
グノーは、ディアナの右手をつかんで持ち上げて見せる。
「? どうかしたの、グノー?」
「──いえ、シャイボーイなヒューイさんが、ディアナと手を繋ぎたそうにモヂモヂされていましたので」
「な〜んだ」 ニッコリ
その満開の花のような笑顔が眩しいよ、ディアナちゃん。
それも、昨日までが道端でひっそり花開くタンポポだとすると、今日の笑顔は人の背よりも高い位置で太陽に向かって咲く向日葵くらいの勢いだ。
「えへ、もしそうだとしたら、わたしをそんな風に変えてくれたのは、きっとヒューイさんなんですよ?」
そんなけなげなことを言いつつ、キュッと手を繋いでくる。
しかも、コレは指と指をからめた俗称"恋人つなぎ"!?
グハッ……ディアナ、恐ろしい娘!
無論、俺に異論があろうはずもない。ついニヤニヤしてたが、ディアナの右中指に何か指輪らしきものがハマっていることに気づく。
「これは……友好の指輪か?」
"信じる心"って、もしかしてコレのことかよ!
「──イェ〜ス、ザッツ・ライト。正確には、+2相当の品ですが。心配されずとも左手の薬指は、ヒューイさん用に空けてあります」
なるほど。これで種族間の相性補正を無効化してるワケね。
ん? でも、これって心理的な沈静効果まであるものなのか?
「──その点については、ほんの気休め程度でしょうね。ですから、ディアナのヒューイさんに対する絶大なる信頼が為せるわざなのでしょう」
はは、そう正面きって言われると、ちと照れるな。
「──ところで、一夜を共にした割には、ディアナの歩き方が、存外普通なのですが……」
しげしげとディアナの脚運びを見ながら、グノーは首をひねる。セクハラだぞ、ヲイ。
「──かと言って、ヒューイさんもサッパリした顔されてますし。土壇場でヘタレてミッション失敗という風でもないですね。あぁ……」
ポンと手を打つグノーさん。
「──痛がるディアナに遠慮して、貫通は失敗したものの、素股で済ませたのですか」
ブッ!!
「?? "すまた"って何ですか、ヒューイさん?」
シッ、女の子が道端でそんな言葉口にしちゃ、いけません!
「──あるいは私が一昨日言ったことを気にしてらしたのでしょうか。しかし、中途半端な気遣いは……」
「ちげーっての! あのな、グノー。俺が普通科の生徒だってこと忘れてねぇか?」
コトがすんだ後、寝る前にヒールの呪文、ディアナにかけておいたんだって!
「──成る程。盲点でした」
納得顔のグノーと、まだハテナ顔のディアナの表情が見事に対照的だ。
「──しかし……少し早まりましたね、ヒューイさん。終わってすぐに回復呪文を使われたとすると……傷と一緒に"膜"まで再生されているかもしれません」
いいっ、マヂで?
「──ええ、真剣と書いて"まじ"と読むくらいマジです」
うぅ、そいつは困ったなぁ。
「──乙女の純潔を2度も奪えると言うのは、男子の浪漫ではないのですか?」
「ンなわけあるかい! 膜の有無で女の子の価値判断するほど外道じゃねーっての。
大体、誰よりも護ってあげたい大好きな女の子が痛がってるのに無理して続けるのって、すんごく男としても心が痛むンですよ?」
「「……」」
え!? 何、この空気?
「ヒューイさん♪」
「──たまーに、素で殺し文句吐きますね、この少年は……」
??
まぁ、そんなコトを話しながら、俺達はいつものパーティの集合場所──校門前の中庭まで足を運んだんだが……。
「……せやから、ヒューイがどこにおるかなんて、知らんて! ワイも今日はほとんど朝帰りやったんやさかい」
「あさっ…風紀が乱れきってますわね、この学園は!」
なんだか騒がしいな。あの声は多分、ルーフェスだと思うんだが。
「小娘、この学園は必要な部分以外は、あくまで生徒の自主性に委ねて運営されておる。授業外でプライベートをどのように過ごそうと、他人に口出しされる筋合いはないぞえ」
あ、やべ、フェリアさんの声に険呑な響きが混じってきてる。ここは……。
「お〜い、どーしたんだ? 朝から騒がしいゾぉ」
できるだけ肩の力を抜いた間抜けな口調で声をかける。
「あ、ヒューイ」「小僧」
え? なんかふたりの視線が微妙に尖ってるんですけど?
ありゃ、そこにいるのは、確かオリーブの知り合いのジェラートとかいう、アイツと瓜二つなお嬢様……だっけ。
なるほど、タカビー女が、また何か無理難題フッかけてきたってワケか。
うし、ここはパーティリーダーとして、ビシッと言ってやらねば。
「え〜と、どんなトラブルがあったのかは知らないけど、俺達、今日も外へ実習に行く予定なんだ。用があるなら帰ってからにしてくれ。悪いけど、失礼するぜ、ジェラート」
よし。過剰にケンカ腰にならないよう気をつけつつ、とりあえず生徒間の不文律──他のパーティの冒険を邪魔してはならない──を盾に、この場を有耶無耶にする、我ながら巧みな弁論だッ!
しかし……。
「まがりなりにも幼馴染の顔を見間違える人がありますかッ!!」
DOCOOOOOOOOMMMMMMM!
ニコやかな顔のまま、こめかみに井桁マークを貼り付けた"ジェラート"……もといセーレスの痛烈なアッパーカットを受けて、俺は宙に舞うハメになったのだった。
* * *
で、まぁ、冒頭のシーンに至ると。
つまり俺が前にも言ってた故郷の町で旧知のセレスティアの娘であるコイツは、俺に対抗心燃やして、このクロスティーニ学園に入学してきたらしい。
とは言え、さすがに入学式から一週間も経った今くらいになると、大体の生徒はすでにパーティを組んでいる。
そこで、5人しかいないウチのパーティに白羽の矢が立ったようだ。
「ほ、本来は貴方程度をライバルと言うのもおこがましいのですけれど、近くにいてその差を見せつけてさし上げるのも一興ですしね」
むか。あとから無理矢理パーティに入って来て、その言い草はねぇだろう。
「そ、それに、貴方のご両親から息子のことを頼むとお願いされてますし……」
はぁ? ウソつけ、ウチの親父たちが、そんなコト言うタマかよ!
俺がこの学校入るって言った時も、「そっか。で、いつ出るんだ?」「お弁当は今夜の残り物でいいわよね?」と、まるで隣町に遊びに出かける時みたいな気安さだったんだぞ。
もっとも、出かける前日に切り出した俺も俺だけど。
「そ、それは……い、一応、"幼馴染"ですからね、不本意ながら。貴方の素行が乱れていないかご両親に報告するのが"幼馴染"の義務というものですわ」
大きなお世話だっつーの!
「そうはまいりませんわ! そ、そもそも! この学校に入ってまだ一週間だというのに、パーティ内の女性ふたりにちょっかいをかけてるなんて、弛んでいる証拠ですわ! 不謹慎な!」
えーと、ふたりって……ディアナはわかるとして、もうひとりは?
「──それは私とスズメが言った」
うわっ、グノーさん、いつの間に俺の右腕を抱え込んでらっしゃるので?
「──ついさっきだりゅん、だーりん」スリスリ……
や、やめてくださいぃ、俺には妻と子供……は、いないけど、「好きな人ができました」と胸張って両親に紹介したいよくできた恋人はいるんスから……ってか、その娘、アンタの妹分でしょーが!
「──フフフ、もちろん可愛い妹ですとも。ですから、その未来の旦那さまと、義姉として親交を深めているだけりゅん」
あぁっ、やめ、当たってる、当たってるから! それと、りゅんりゅん電波な語尾も禁止!
「──ショボン」(´・ω・`)
口で言うな! ってか表情が全然変わってないのがむしろコワいよ!
「……随分と楽しそうにじゃれておられますわね?」
底冷えのする口調でツッコミを入れられて、俺は話の腰を折られた当人に気づく。
「オッホン! と、とにかく。この女性は、恋人だとかそーいうのじゃ全然ないから」
「──ええ、単なるセフレで「ちがーーーう!!」……チッ」
ちょっとは自重してくれ、この性悪ノーム。なんでこの人の属性が悪じゃないんだろう。
(……初めて会った時は、頼りになりそうなお姉さんだと思ったんだがなぁ)
あの山道での第一印象は、もはや天空の彼方へと飛び去って久しい。
「で! 俺の恋人はこっち! ディアナちゃん、ほら挨拶挨拶」
俺の左手にぶら下がったまま、「ふみゅ〜ん」と言った感じで幸せそうにタレている彼女をつっつく。どうやら、先ほどのグノーとのやりとりも、ほとんど聞き流していたらしい。
「え? あ、はい、ディアナ・セルネと申します。僭越ながらこのパーティにアイドルとして参加させていただいてる身です。よろしくお願い致しますね、ヴァンガードさん」
と、ニッコリと眩しい笑みを浮かべながら、深々とお辞儀をするディアナ。
昨晩、「無邪気なのは演技」みたいなこと言ってたけど、今の様子を見る限り、どうみても地だよなぁ。
ブッちゃけ、今この場に無関係な人100人連れて来て、このディアナの微笑みと、視線で人がヌッ殺せそうなくらい不機嫌な表情を浮かべているセーレスを見せたら、95人までが、ふたりの種族を取り違えるのではないだろーか?
「ふ、不謹慎ですわ! 冒険のために組んだばかりのパーティの女性メンバーとねんごろになるなんて!」
むッ……。
「言っとくけどな、そもそも彼女とはこの学園に入る前からの知り合りなんだ。
どちらかと言うと、一緒にいて互いを守りつつ成長するためにパーティ組んでるってほうが正しいんだからな。
それに、成り行きとかいい加減な気持ちじゃなくて、将来的な伴侶としても視野に入れて付き合ってるんだ。第三者にとやかく言われる筋合いはねぇ!」
……知り合ったのがココに来る一日前だったことは伏せておこう。
「!! そ、そんな……」
ありゃ、セーレスの奴、なんか妙に凹んだ顔してやがる。そんなに俺に言い負かされたことがショックだったのかな?
* * *
<Other's View>
いかにも気丈そうなセレスティアのねーちゃんが、ヒューイの言葉を聞いて蒼白になっとる。
……にしても、ヒューイのヤツ、ほんまに気づいとらんのか?
「朴念仁……と言うのもないではなかろうが、何やら因縁めいたものがあるのやもしれぬな」
「──ええ、彼が彼女について発言する時、嫌悪と同時にどこか親しみを感じていることが語調から読み取れましたから、おそらくは」
だからこそ、あれだけバレバレなツンデレねーちゃんの好意に、ヒューイが気づかん……と言うか認めることを無意識に拒絶しとるワケか。
は〜、相変わらずフェリアやグノー姐さんの観察眼はスゴいのぅ。
「なに、観察眼と言うほどのものでもないわえ。強いて言うなら、"女の勘"じゃ」
さいでっか。
「──それにしても、これはディアナにとってもいい機会かもしれませんね」
なんでやねん? あの3人、これから下手したら修羅場やで?
「──だからこそ、です。あの子は今まで他人と争ってまで何かが欲しいと言うことはありませんでした。無欲と言えば聞こえはよいでしょうが、それは単に逃げてるだけとも言えます」
まぁ、そやな。永久に争いごとから逃げ続けるなんて、無理な話やし。
「──けれど、さすがに彼に関しては話は別でしょう。勝つにせよ、負けるにせよ、必ずあの子にとって得るものがあると、私は信じています」
はぁ、なんやかんや言ぅて、しっかりおねーさんしとるんやな。
……つまらんコト聞くけど、引き分けやったらどないするんや? つまり、ヒューイの奴が「どっちも選べん!」って二股かけよったら。
「──それでふたりを泣かせるようなら、もちろんシメます。
ですが、もしふたりとも笑顔でいられるような甲斐性が彼にあるのでしたら……」
そこで言葉を切ると、ニヤリと獰猛な、それでいて艶っぽい笑みをグノー姐さんは浮かべよった。
「──そのご褒美に私もセットで差し上げてもよいかもしれません」
<つづく>
-----------------------------------------
以上です。
すみません、5話のサブタイトルは「ほろ苦くて、甘い香り」です。変えるの忘れてました。
肝心のヒューイとディアナの初Hを次回番外編として挟みつつ、その次の第6話にて、このお話はひとまず第一部完結する予定です。拙い文章ですが、それまでお付き合いいただければ幸いです。
>>51 イエス、夏休み事情は後2話です。
ディモレアさん家の息子さんのお話は確かに終わりが近づきつつありますが。
でも、この物語の3分の一ぐらいはギルガメシュ先輩のものです。
自分ならば飛竜の空中戦を所望します!王の谷を抜ける時のアレを見てみたい、とか。
自分も書きたいですし。
……でも、そう考えるとV2がどうなるのかって楽しみだなぁと。
自分は6のシャンデリアに憧れたり。(ただしX箱360を持ってないのでプレイ済みの友人にステージを見せてもらうしかない;)
>>学園日記氏
夏休み事情は。ディアボロスが主人公の話も夏休み事情が終われば最後の話ですしねぇ。
結構気に入ってるキャラなのでもっと登場させたいなと思っていたり。
セーレスは見事なツンデレだ。ヒューイに少しだけ合掌。
>> ◆BEO9EFkUEQ氏
ああ……氏の作品はどうしてこんなに泣けるのか!
GJの嵐です。そう言えば氏もアトガキモドキ氏に次いでの古参ですよねぇ。本当に見事というか……。
氏の文才を1ミリぐらい分けて欲しいなと。
仲の悪い異種族間の恋愛妄想が出来る所もとともの。の魅力だと思うのですよ。
……さぁて、7話を書く前に明日の試験勉強でもするか。
wktkしたり泣いたりニヤけたり忙しかったけど『GJの嵐』で『ジョルジオの嵐』というフレーズが浮かんだ。
いったい俺にどうしろってんだ。
>>78 「アタシ達のこと」
「後ろから襲うつもりだったんでしょ」
「気付かないフリしとけばよかったわぁ〜」
「それにしても」
「若い肌って」
「いいわぁ…」
「「「「「「いっただっきま〜す」」」」」」
こういうことか
思いのほか、早くふたりのHが書けたので、投下させていだきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
学園せい春日記 番外編『Now I say”love you,I miss you close to me...”』
展望台での初キスの後、ヒューイさんはわたしを部屋まで送ってくださいました。
「えっ、と……そ、それじゃあ、明日も早いから、おやすみ」
そう言って踵を返そうとされているヒューイさんの服の裾を、わたしはとっさに掴んでしまいます。
「ぐぁ……ディ、ディアナ?」
あ、いけない! 後ろから引き止めたせいか、ヒューイのの襟首が絞まってしまったようです。
「す、すみません! あ、あのぅ……折角ですから、お茶でも飲んでいかれませんか?」
そう言葉を続けたのですが、ヒューイさんはうって変わって真面目な顔で、わたしに語りかけられました。
「――ディアナちゃん、それがどういう意味か、分かって言ってる?」
「え……」
「今日は確かグノーさんはいないんだよな? つまりこんな夜中に俺と部屋で二人きりになるってことだぞ。
お茶だけで済むと思うか?」
「あ……」
いくらわたしが奥手な方だからって、さすがにそこまで言われれば理解できます。
つまり、いま部屋にヒューイさんを入れるってことは、わたしとヒューイさんがオトナなカンケーになるってことで……。
えーと、部屋は出がけに掃除したから綺麗なはずです。
下着はおニューの縞々のを履いてますから、ヒューイさんに見られても子供っぽいとは言われないはず。でも、どうせならこの前グノーにもらった、紫のアダルトちっくな"あぶない下着"の方がよかったかも。
お酒を飲んだからちょっと汗かいてますけど、これは仕方ありません。
晩ご飯も、匂いのキツいモノは食べてませんし、そもそもさっきキスしたんですから……って、わたし、随分とテンパってますね。
でも……うん、嫌じゃないです。ヒューイさんとそういうコトをするのは――ちょっと恐いという気持ちはありますけど、少なくとも相手がヒューイさんなら、わたし、嫌じゃない。
そうですよね。わたしたち、正式に恋人になったんですもの。遠からずそういうコトをしてもおかしくはないワケですし……。
「……迷ってるんなら、また今度にしようか?」
優しく問いかける"彼氏"の言葉に、わたしは首を横に振りました。
「いいえ、今晩がいいです。ヒューイさん、わたしを……抱いてください」
* * *
ディアナに招かれて彼女たちの部屋に入った俺は、まずは彼女を抱き締めて、その柔らかな唇に自分のそれを重ね、口をふさぐ。
「んぅ……!」
舌を入れて、唾液を交換しあう。
チュプ、チュプ…と、官能的な音が室内に響く。
彼女とキスを交わすのは、まだ3回目だけど、すっかり彼女は俺を受け入れてくれているみたいだ。
その唇を堪能する頃には、唇も頬も完全に桜色に火照って、深紅の目はとろんと蕩けていた。
グイッ!
俺はディアナの肩の後ろに右腕をまわす。さらに、もう片方の腕を彼女の両膝の下にまわして、一気に抱えあげた。
「きゃッ」
「ああ、ゴメン、いきなり過ぎたか? でも、彼女が出来たら、一度はやってみたかったんだよ、この"お姫様抱っこ"ってヤツ。女の子としては、どうかな?」
「え、あ……嬉しいです、ヒューイさん♪」
俺の腕の中で、ディアナはポポッと頬を染めながら恥ずかしそうに微笑んだ。
……ああ、もぅ、どうしてこんなに可愛いかなぁ、この娘は!」
「それはですね、ヒューイさんに美味しく食べてもらうためです♪」
え?
「もしかして、また、俺、声に出してた?」
「ハイ、しっかりと」
うーむ、いい加減ひとり言漏らすクセは改めんとなぁ。
そんな事を考えながら、ディアナを抱いたまま部屋の奥のベッドまで歩み寄る。
「向かって右が、わたしのベッドです……」
耳元で囁くディアナに、軽く頷きながら指示された方のベッドに彼女を横たえる。
一瞬、あえてグノーの寝台のほうを使ってやろうか、なんて天の邪鬼な考えも浮かんだけど、あの人の場合、俺達の情事の痕跡があっても、平気な顔して逆にクンクン匂いとか嗅いで悶えそうなので止めておく。
(――私は別に構いませんのに……)
……何でだろう、普段無表情なグノーが心なしか残念そうな顔してる絵が脳裏に浮かんだぞ?
軽く頭を振って雑念を振り払うと、俺はディアナの横に寝転がり、そのまま彼女の上に覆い被さるようにして、ゆっくりと服を脱がせていく。
部屋に来る前サマーセーターはすでに脱いで手にもっていたので、いまのディアナは薄手のワンピース一枚だ。
前止めの胸元をはだけると、そこには服の上から見えていた以上の二つの巨大な丘が、清楚な白のブラジャーに包まれて姿を現した。
「お〜! これが、夢にまで見た、ディアナちゃんの胸か……」
操られたように、俺の両掌が下着越しにディアナの乳房に触れる。
柔らかくて、ほんのりあたたかい……。
「あ……ヒュー、イ…さん……」
甘い吐息を漏らしながら、ディアナの瞳が次第にうつろになっていく。
「ひぁん……!」
胸の頂きに咲く二つの赤い花を俺が口に含むと、さすがに彼女も上ずった声をあげた。
――ちゅぱ、ちゅぱ……
そ知らぬ顔で、俺は夢中になって、ディアナの"花"を吸い続けた。
もちろん、口で攻めてるのと逆の方の"花"も指で刺激する。撫で回し、ぎゅっとつまみ、周囲をなぞって、爪を立てて、また撫でる。
ディアナの吐息はすでにだいぶ荒い。時折ぎゅっと口をつぐむのは、あえぐ声が漏れるのを堪えているのだろう。
(夢の時も思ったけど、この寮の防音対策ってどーなってるんだろーな?)
そんな事がチラリと頭をかすめたものの、すぐに気にならなくなる。
……と言うより、正直そんな余裕は俺にもない。
ここまで多少は手慣れた風に振る舞えたのも例の夢のおかげ。ここから先は完全に未踏領域だ。
* * *
ヒューイさんは、再びわたしを布団の上に寝かすと、今度はボタンを全部外すと、完全に脱がせてしまいました。
一緒にブラジャーも取られちゃったので、今、わたしはストライプのショーツしか身に着けていません。
それさえも、ヒューイさんはゆっくりとズリ下ろしてきます。
うぅ……いくら好きな人とは言え、生まれたままの姿の見られるのは、さすがに恥ずかしいです。
ましてや、下半身のアソコをじっくり見られたことなんて、お母さんにもグノーにもありません。
両足を広げられると、わたしのソコからとろりと蜜が垂れているのが、自分でもわかります。
「へぇ、ディアナって、けっこう濡れやすい体質なんだな」
し、知りませんよォ、もうっ!
目をつぶって、自分の中からこみあげる何かの感情に必死で耐えるんですけど、わたしの顔は、さらに真っ赤に染まっていることでしょう。
「ひゃっ!」
ヒューイさんが、そっとわたしの割れ目をいじり始めました。
優しい指使いで、わたしの大事な所を愛撫してくれます。
「にゃあっ! んっ……そ、そこ、い、じっちゃ、らめぇ!」
結構気は使ってくれているのでしょうが、あまりの刺激に耐え切れず、小さくあえぐ声が漏れちゃいます。
「あ、もしかして強過ぎた?」
「い、ぃえ、その……はい」
ふむ、と少し考えた後、ヒューイさんは体勢を変え、私の脚を広げさせて、今度は自分の頭をわたしの股間の前にもってきました。
「お願いですぅ…そんなに見つめないでぇ…」
「何で? ディアナのココ、桜色ですっごく綺麗だよ?」
そ、そんなトコ褒められても、恥ずかしいだけですよぅ!
「それに見るだけじゃないんだな、これが」
ま、まさか……。
わたしの予感通り、ヒューイさんは舌をそっと伸ばし……。
「ひぁっ! きっ、きた、なっ、いです、そ、んっ、なっ、と、こっ……あぁーっ!」
「そんなワケない。ディアナの身体に汚い所なんてあるもんか」
う、嬉しいというか複雑です。
そんなわたしの気分とは裏腹に、ヒューイさんの舌が直接割れ目をなぞる度に、わたしの身体はガクガクと震えてしまいます。
やがてわたしの胎内から流れ出る液体の量が、溢れ出るほどになった頃、ヒューイさんはやっと舐めるのを止めてくれました。
とは言え、わたしの方は、もう抵抗のての字もありません。全裸のまま、桜色に上気した身体で息を荒げながら、横たわっているばかりです。
「えっと、じゃあ、もうそろそろイイかな、ディアナ?」
散々わたしを鳴かせたクセに、そこだけ妙に自信なさげな口調で尋ねるヒューイさんの様子が何だかおかしくて、わたしは微笑みながら頷いてました。
* * *
テント状態で突っ張るズボンをなんとか脱いだ俺は、手で屹立するナニの具合を確かめた。
うむ、コンディションオールグリーン、出力120パーセントを越えてなおも増大中。
腰の辺りに手を伸ばし、わずかにディアナの下半身を持ち上げる。
「じゃあ、ディアナ、入れるよ。極力、やさしくするから、力を抜いてくれ……」
彼女が再び小さくコクンと頷いたのを確認してから、俺は自分のモノの先っちょをディアナの亀裂にあてがった。
くぉっ、ちょっ……コレだけでもかなり気持ちよくてイキそうなんですけど!?
い、イカンイカン。
童貞と処女の初体験で男が入れる前に漏らしちゃうってのは、コレか。
頭ン中で、必死に今までに覚えた呪文の文章をリピートして、内圧を下げる。
ふぅ……何とか堪えたか。でも、長くは保たんな、こりゃ。
「ディアナ……ごめん」
「ふぇ?」
「あんまり優しくできないかも」
彼女の返事を待たずに、いきり立った分身でディアナの花びらを貫いていく。
「……ッく! だ、だいじょうぶ、です」
俺の分身が、ディアナの体内にずぶずぶと埋まっていくにつれ、彼女は目の端に涙を滲ませながらも、決して泣き言は漏らさなかった。
やがて、俺の先端がナニカに当たるのを感じる。
(ここが、最大の難関か。下手に長引かせるのはかえって酷だってゆーし……)
無言でふるふる震えるディアナの痛ましい様子に挫けそうになるが、あえて心を鬼にしてそのまま突き込む。
ぶちぶち……ぷちっ!
「きゃああっ!」
さすがに堪えきれなかったのか、ディアナが悲鳴を漏らすとともに、俺のモノはほぼ根元まで彼女の胎内に入り込んでいた。
「痛い……よな、やっぱ?」
「ええ、まぁ……でも、一昨日ヤマタノトカゲに噛まれた時ほどじゃ、ないですから」
たぶん、ウソだな。確かに、ヤマタノトカゲ戦でディアナは傷を負ってはいたけど、ヒール一発で治る程度のものだった。
でも、彼女が嘘をついてまで気を使ってくれてるんだから、彼氏としては、この際、できるだけ優しく、気持ちよくさせてやるのが義務だろう。
よく見ると、ディアナの割れ目から粘性のある透明な液に混じって、ツーッと一筋の赤いものが流れ出ている。
「あは……でも、わたし、ヒューイさんとひとつになれたんですね」
眉をしかめながらも笑顔を見せる彼女が愛しくて、俺は思い切りきつくディアナの身体を抱き締めた。
「ああ、そうだ。ディアナちゃんの初めては俺がもらった。……でも、その代わり俺の初めての女性(ひと)も、ディアナちゃんってコトだぜ?」
「う、嬉しいです」
本当に嬉しそうな目つきで俺を見つめるディアナ。
「じゃあ、そろそろ動かすよ、いいか?」
「ええ、だいぶ楽になりましたから」
多少強がりが入っているだろうその言葉に甘えて、俺はディアナの両肩をつかんで、ゆっくり腰を振り始めた。
(まずは入り口から慣らしていかねーとな)
先端から半分ぐらいまでを、グッと突き入れ、その後抜く寸前まで後退させ、また突き入れる。
――ぬちょ、ぬちょ、ぬちょ……
何度か繰り返すうちに、身体が慣れてきたのか、ディアナの口から甘い喘ぎが漏れ始めた。
「っ……はっ、はっ、ひゃあん!」
その声に勇気づけられた俺は、突入の速度を早める。
じゅぷじゅぷと淫猥な水音が響き、彼女の膣内のひだひだが、俺のナニを搾り取るように刺激する。
「あぁ、ひゅーいさぁん」
切なげに呻くディアナの頭を俺はそっと抱きしめ、唇にキスをした。
ただし、その間も、俺の腰は半ば自律的に激しく動いているワケだが。
「む…むぅ……ふうん……」
俺に口を塞がれながらも、ディアナはしきりに声をあげている。
プハッ……
「ふぁっ……いっ、いい、いいよぅ、きもひ、いいっ!!」
唇を放すと同時に、彼女の口から、あられもない嬌声が飛び出した。
(いかん、もぅ何も考えられん)
愛しい彼女の狂態に、恍惚が脳の深いところにまで拡がり、俺の方もかなりいっぱいいっぱいだ。
夢中で、腰を動かし続ける。
* * *
ついに根元まで埋まったヒューイさんの先端が、わたしの子宮口をこんこんと刺激しています。
未知なる快楽に、すっかり敏感になったわたしは、押さえきれずに隣りの部屋まで聞こえそうな大きな声でよがります。
「あふぅ、んきゃぅぅぅ! おっ、奥にっ、あたっ、あたってますぅ……すご、すごひあああっ!」
も、もう、限界。
そう思った時、ヒューイさんが苦しそうな声をかけてきました。
「でぃ、ディアナ、そろそろ、一緒に……」
「はっ、はいっ、いっしょ、にっ、あっ…ああああああーーーっ!!!」
返事を返すより一瞬早く、わたしはイッてしまったようです。ですが……。
「ディアナ! 愛してるぞーー!」
初めてのその言葉を吠えるように叫びながら、ヒューイさんが大きく一回わたしを突くと同時に、その分身が大量の白濁をわたしの胎内にドクドクとぶちまけてきます。
「ら、らめぇ、そんなすぐに……はああぁんーーーーーッッ!」
絶頂直後ですごく敏感になっていたわたしは、射精による鮮烈な刺激を受けて、そのまま二度目の絶頂に押し上げられました。
ドサリ、とヒューイさんの身体がわたしのすぐ横に倒れてきます。
「ふぅ……すこかったな。大丈夫か、ディアナ? ……ディアナ?」
ヒューイさんには悪いのですが、正直、返事をする気力もありません。
完全に力が抜け切ったわたしを見て、気絶したと思ったのか、彼が優しくわたしの髪を撫でてくれます。
「だいぶ無理させちまったからなぁ。お、そーだ」
聞き覚えのある呪文を彼の口が紡ぐと同時に、ジンジンとした疼痛を訴えていたわたしのアソコから、スーッと熱が引くように痛みが消えていきます。
「これでよし、と。これならディアナも明日ツラくないだろ」
あの"痛み"は、わたしが貴方に"女"にしてもらった証ですから、正直、もう少し味わっていてもよかったのですけれど……。
でも、こんな時でもわたしを気づかってくださる、ヒューイさんのその優しさが大好きです。
ヒューイさん、以後、末永く可愛がってくださいましね。
−FIN−
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
以上。やっぱりHは実用?に耐える文章が書けませんね、私。精進します。
ちなみに、ディアナの私服は、某未来人メイドが主人公との初デートで着て来た服をイメージしてます。
そう言えば、ディアナ自身も彼女のイメージが多少投影されてるのかも(正確には大並みの有能さと小並の愛らしさを兼ね備えた感じですが)。
そうなると、セーレスが団長? まぁ、合ってる気がしなくもないです。もっとも、今のところ完全にみ●るがリードしてますけど。
一段落する6話は来週中に投下できるかとは思います。
85 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 22:50:03 ID:z/Mc9TzS
>>84 おお、やっと続きが来たぞ!!夢の続きが!
GJ!!
初め未来人メイドとは誰ぞなと思ったが、未来人バニーのことか。
しかし、意外とあてはまるんじゃないか、このパーティ
ヒューイ→主人公
ディアナ→未来人
セーレス→団長
グノー→宇宙人(またはにょろーん)
フェリア→にょろーん(または宇宙人)
ルーフェス→まっがーれ
ぴったし6人wwwなんか結構合ってる気がするww
ACE COMBAT×ととモノ。
戦闘は飛竜に乗っての空中戦にします。
本人達が空を飛ぶのも良いけど空飛んでるのが魔法少女じゃなくて30、40越えのおっさんじゃな……
新手の地獄絵図になっちまう。
タイトルとかはまだ未定で、思いついたら付けるつもり。まぁいいや、サァいくか
>>84乙です
ヒューイの「愛してるぞー!」で不覚にも吹いてしまった
本当こういうベタベタなのは大好きです
ニヤニヤがとまらないww
頑張れヒューイ!
>>84 キャラクターの名前は種族名をもじっているんだろうけど、そっくりそのまま俺の1軍(初期段階)と同じ構成で吹いたw
名前に職業までモロ被りって、世間は結構狭いんだな。さすがに性格設定までは違うけど。
ヒューイ君には是非とも頑張ってもらいたい所存である。
作者さんも頑張ってくだしい
いつの間にか前スレ500K超えてたのか。
気づかずにずっと待ってた俺アホス
91 :
前357:2009/07/28(火) 21:02:08 ID:yyBLsX8P
こんばんは。人×竜ではありません。ごめんなさい。
今回は少々鬱系の短編、魔×幼……げふんげふん魔×妖です。
ではどうぞ。
92 :
前357:2009/07/28(火) 21:02:44 ID:yyBLsX8P
どこにでもイレギュラーというのは存在する。
「おい、新入り。ジュース買ってこい、ジュース」
それは例えば、悪に墜ちたエルフ。
「先輩、僕今……お金、無いん、ですけど……」
「……」
それは例えば、弱気で優柔不断なディアボロスとか、無口でしかし慈悲の心を持ったフェアリー。
「あぁ? 何か言ったか?」
「ひっ……な、何でもありません!」
「キャハハハ! クラッズこわーい☆」
「どーでもいいから、早く行ってきて下さい」
それは例えば、三白眼で人を脅すのが好きなクラッズとか、他人の不幸を笑うのが趣味のセレスティアとか、誰とも協調しようとしないノームとかである。
そのイレギュラーたる存在は、大抵が社会の輪から外れ、コミュニティを築き、独自のルールを作る。
そうして、彼らは井戸の中で頂点になり、小魚を虐げる蛙となっていった。
そしてその蛙が先のエルフ、クラッズ、セレスティア、ノームであり、小魚がディアボロス、フェアリーだった。
これ自体はイレギュラーな事ではない。どんな場所にもある当然の光景。それだけである。
「はぁ……どうしよう……」
「……私が出すよ」
「い、いいよ! 僕が何とかするから!」
どこにでもある負のたまり場で、彼らは今日も自分の不幸を呪いながら、一日を過ごしていた。
「とりあえず……購買に行こう。もしかしたらツケにしてくれるかも」
「……そう」
彼らはそう話し合うと、購買部へと道を曲がった。
――ドン。
「うわっ!?」
「ん?」
さて、話は戻る。イレギュラーな存在である彼らだが、当然それに対局してあるべき存在がある。
「す、すいません、急いでいるもので!」
「……ゴメンナサイ」
「あーちょっといいかな? 少年」
それはコインの裏表のような存在。
「はい……?」
「あぁ、ぶつかった事じゃない。そんな事は些細なことだ。ちょっと気になることがあってね」
「はぁ……何でしょう?」
改まって言うほどではないその存在。それは『レギュラー』。それが『彼』。
「ん。ちょっとコッチ来てくれないか?」
「はい? 何か……」
ディアボロスはグシャリと、潰れる音を聞いた。それが自分の頭だと知ったのは激痛が走ってからだった。
「あ、ぁああぁぁあぁああ!?」
彼の名は、『ラース』。
「悪魔の癖にクネクネするな、ガキ」
種族はディアボロス。性格は悪。純粋な悪魔である――。
93 :
前357:2009/07/28(火) 21:03:22 ID:yyBLsX8P
ある晴れた日の『クロスティーニ学園』のとある廃教室。
そこには二人のディアボロスと一人のフェアリーがいた。
片方のディアボロスは放り投げられ、床に寝た状態で、片方のディアボロスはそれを酷くねじ曲がった笑みで見ていた。
フェアリーは突然の惨劇に口を抑え、見ていることでやっとだった。
「うぁ……ぁあぁあああ……」
「オイオイ、痛がっている隙があったら――」
彼――『ラース』はディアボロスの両耳にそれぞれ添えるように手を置いて、
「――反撃の一つぐらいしたらどうだ?」
パァンと、鼓膜を潰した。
「!? ……ぁ」
余りの激痛に何も言えずに気を失うディアボロス。ラースはそれに喜び半分、不満半分の表情であった。
「こんなのが……同族とはな……最近平和続きで脳みそに蛆虫でも湧いたか?」
そう苛々しながら、どれ。暇つぶしに二、三箇所程骨を折ろうかと思い、拳を握る。そこへ小さな声が聞こえた。
「……て、下さい」
「ん?」
それは付き人のフェアリーだった。
「そこを……どいて下さい!」
「……あぁ、何? コイツを治す気か?」
そう言ってラースはディアボロスの少年を蹴る。
「! どいて下さい!」
「へぇ……回復役の使命、か? それとも恋人なのか……」
茶化すようなラースの言葉に対してもフェアリーは変わらず叫ぶ。
「そこを、どいて下さい!」
「……」
その小さな体に関わらず、堂々とした態度に、ディアボロスは苛立ちを覚える。
どうにかして、この女を屈服させたい。彼はねじ曲がった笑みを再び浮かべ、ある事を告げた。
「そんなにどいて欲しいなら……そうだな、ストリップしょーでもしてもらおうか」
「……!」
ラースの言葉にフェアリーは息を呑んだ。その顔には、困惑と怒りが見える。
ラースは楽しみになってきた。
どうせ最後は泣き落としにくるに決まっている。そうすれば、この生意気なフェアリーの服を引き裂いて、縄で縛り、ここら辺にでも放置する。後は発情した誰かがコイツを犯すだろう。
無論、全部脱いだら脱いだでその時は自分が犯す。
ラースはとりあえずの暇つぶしのプランを頭の中で立て、挑発するように告げる。
「どうした? 嫌なら嫌で言えばいい。その時は……そうだな……骨を三本ほど折る。分かったか?」
「っ……!」
フェアリーはキッ、とラースを睨み付けた後、学生服を静かに脱ぎ始めた。
94 :
前357:2009/07/28(火) 21:04:02 ID:yyBLsX8P
一枚、一枚と服を脱いでいくフェアリー。雪のように白い肌が、露わになったくびれや体つきが、そのフェアリーが女性である事を強調していく。
ラースは一瞬、その肢体に目を奪われ、泣き落としても自分が犯そうと考えを改めた。改めただけだった。
「さて……後は下着だけだな? なるべく誘うように頼むぜ?」
「……」
ラースの挑発にフェアリーは呟くのみ。
「あぁ? 何か言ったか?」
「……ね」
よく聞き取れないその言葉にラースは苛々しながら顔を寄せ、確かに聞いた。
「死ね」
ラースはヒュッと、自分の首に何かが飛んできたのを見た。
「あ?」
それをラースは難なく避ける。そして刃向かったフェアリーをどうしようかと目を向けた。
「あぁ?」
しかし、いなかった。代わりと言わんばかりにうしさんがコテンと転がっていた。振り向けば、あの少年もいなかった。
「……変わり身か」
フェアリーが投げたであろうソレを見る。
針だ。縫い針程の針が壁に突き刺さっていた。
おそらくフェアリーは針を投げた瞬間、テレポルで少年に近付き、またテレポルで戦線離脱。ご丁寧に視線を逸らす為のうしさん付き。教科書を実践したかのような逃走だった。
理論上は簡単そうだが、度胸がなければ失敗して変な所へ跳ぶかあるいは跳ぶ事さえ出来ない何て事もある。
「フフフ、フハハ、ハーハッハッハッハッハッハッ!」
それを彼女はやってのけた。新入生とは思えないその動きにラースは笑う。
自ずと、うしさんを握りしめる拳がギリギリと締まってゆき、とうとうブチィ! と布が千切れる音が廃教室に響く。哀れうしさんはミンチより酷いことになった。
「ゼッッテェ、逃さねえぇ! 久々の上物だ……! 絶対に俺の物にしてやる!」
ラースは暫くぶりの獲物に狂った様にして笑う。
それは彼女が聞けば、背筋も凍るモノだったろう。
廃教室には狂喜の悪魔の笑い声が何時までも響いていた。
こうして、イレギュラーな存在であったフェアリーは、レギュラーな存在であるディアボロスに追われる日々が続く。
何時終わるか分からない、フェアリーの逃走が今、悪魔の雄叫びと共に始まった。
95 :
前357:2009/07/28(火) 21:04:42 ID:yyBLsX8P
「こんばんは」
「いや、何普通に俺の部屋に来てんの? お前は」
かに見えた。
ラースは明日からあのフェアリーをどんな目に合わせるか部屋の中で試行錯誤していたのに、夜中の礼儀正しい三回ノック。
怒りを覚えながら出てみれば、あら不思議。そこには件のフェアリーがいた。
「……」
「ラース……お前、とうとう身を固めたんだな? いやぁ、お父さんは嬉しいよ!」
「とりあえずお前は死んでくれ」
同室のヒューマンの悪ふざけをサラリと流し、フェアリーに告げる。
「何の用かは知らんが、俺は疲れたから明日にしろ」
「犯されに来た」
その言葉に、ラースの時が止まった。
「ラース、良かったな! お前の好きな尽くすタイプじゃないか!」
「とりあえずお前は死ね」
ヒューマンの妄言に死刑宣告を下し、フェアリーに告げる。
「お前、馬鹿だろ?」
「胸は大きい方がいい?」
質問は質問文で返ってきた。会話が成立しないことに頭が痛くなるラース。
「ラース。例えお前がロリコンでも、俺はお前の味方だ。いや、寧ろ同志にランクアップだ!」
「死ねよロリコン」
ヒューマンの戯れ言を一言で叩き斬って、フェアリーに命令する。
「帰って、寝ろ」
「お邪魔します」
帰宅命令はテレポルで侵入という新しい方法で却下された。もう現実逃避したくなるラース。
「あ、今お茶出すから。そうそう、ちなみにラースはロングヘアー派だから髪は伸ばした方がいいよ。
でも年下派だと思っていたけどまさかロリコンとは……いやー人は見かけによらないものだなぁ! ハッハッハッハッ!」
「……」
「グハァ!?」
ゴギィ! とラースはヒューマンの首を締めて意識をシャットダウンさせる。そのまま再起動しないで一生眠ったらいいのにと、ラースは思った。
フェアリーを見れば、ちょこんと部屋の真ん中に正座していた。その無表情からは彼女が何を思っているのかは分からない。
ラースは彼女の前に胡座になり、一つ尋ねた。
「で? 『本当は』何しに来た」
「!?」
いきなりの核心にその無表情は崩れる。何で? と彼女は疑問を持った目でラースを見た。
「誤魔化しきれると思ったのか? 手、震えてるぞ」
「あ……」
ずっと無表情だった彼女だが、自分の手が僅かに震えているのを見て、声を漏らす。
「大方、あのガキを助けてくれってとこだろ?」
「……」
96 :
前357:2009/07/28(火) 21:05:14 ID:yyBLsX8P
「また黙りか。一応言っておくがな、俺は自分にメリットがないのには一切関わらねえ主義なんだ。そう言うのはセレスティアとかその辺当たれ」
そう言ってラースはベッドに入る。フェアリーは目線を床に向け、俯いたままだった。
「ま、どーしてもって言うならせめて十万は持って――」
「一回、5000G」
「は?」
ラースは突然のフェアリーの言葉に思わず振り向く。
そこには小さなしかし確かに女性の姿の、手を後ろに回した全裸のフェアリーがいた。
「どんな時でも、どんな場所でも、どんなプレイでも、貴方が私を抱いた分だけ一回5000G分……だから二十回、貴方に抱かれる。
そしたら、貴方は彼を救う。それじゃあ……駄目?」
それは魅力的な提案だった。正直、ラースは彼女の体に対して今までの中で一番の体だと思っていた。
しかもコチラは殆どタダに同じだ。実習成績上位の彼にかかれば、三下相手には『空飛ぶ黒板消し』にも同じ。
その魅力的な誘いに、当然ラースは喜んで乗る。ハズだった。
「……断る」
何故だろうか、コレほどまで好条件なのに彼の心は拒絶している。何かが引っ掛かる。その引っ掛かりが、彼女を拒絶した。
「……分かりました」
そう言って脱いだ服を着ていくフェアリー。その顔は殆ど変わらず、ただ目の前を向いていた。
ふと、彼女は彼を見た後、少し考えてある提案をする。
「あの……何としてでも、十万は用意するので……必ず、払いますので、後払いで引き受けてはくれませんか……?」
「――!?」
その提案にラースは言葉を失った。
つまり、彼女は『自分以外の誰かに抱かれて金を工面』すると言っているのだ。それを理解したラースは怒りを込め、叫んだ。
「ふざけんじゃねぇぞ、ガキがっ!!」
叫ぶなり、フェアリーを床に押し倒して動きを封じる。右手は口を、左手は胴体を押し潰すかのように力を込めた。
97 :
前357:2009/07/28(火) 21:05:35 ID:yyBLsX8P
フェアリーは痛みに顔を歪ませ、必死で叫ぼうとする。
「んっ! んんっ……!」
「オイオイ、あの時の目はどうした? あの時の殺気を含んだ目はよぉぉおお!」
彼女の制服を破き、その破いた制服で手足を縛る。下着は無理矢理剥ぎ取り、そこら辺に放り投げた。
「そんなにあのガキを救いたいのか、偽善者! そんなに自己犠牲が好きなら……オメェが壊れるまでヤってやるまでだ」
ラースは実質死亡宣告のようにそれを告げた。今まで彼がしてきたように、慈悲も何もないただラースの歪んだ欲求を満たすだけの行為。それをして、今にも壊れそうな彼女がどうなろうと知ったことではない。
そんな獣の様なラースに、彼女は一言だけ告げた。
「……フィリス」
「あ?」
「私の名は……フィリス、です。名前が無い、と……困るでしょうから……」
「ッッ!!」
「ふっ……ん……」
ラースは何も言わずに、いや何も言えずに彼女を襲い始めた。
彼は気付いているだろうか。気付いていても認めるだろうか。
彼が最初にしたのはいつもの激痛を狙った挿入ではなく、少し乱暴な――だけどどこか優しい、キスから始めたことに。
彼は、気付いているだろうか。
98 :
前357:2009/07/28(火) 21:07:49 ID:yyBLsX8P
以上です。鬼畜です。変態です。
ん〜、幼精最高!
GJ
フェアリーは賢者が一番かわいい
異論は認める
>>100ゲットかな?こんばんは。アトガキモドキです。
しばらく来ないうちに秀作が次々とうpされているではありませんか。まずは作者の皆様にGJを。
今夜のメニューはエル×クラです。シリアスとか鬼畜を期待する方は気分を害します。回れ右。
だいぶぬるいデザートコースに挑む自信と余裕がある方々は、どうぞ。
学生やってると、お金がかかる。寮で暮らすとなおさら必要。
銭勘定は下手な学問より、社会のためになる頭脳労働かも。
道を極めれば鉄壁のお財布と、初歩的な偽装隠蔽の技術を約束します。策士なあなたに、ぜひ。
「えー、オホン。願いましては〜……」
わざとらしい咳払いを合図に、そろばんの玉が乱舞する。乾いた音は耳に心地よい。
パーティの財務を一手に引き受けるレンジャー科のクラッズは愛用の帳簿と睨み合い、学生寮の倉庫で「仕事」をしている。
迷宮帰りに必ず行う荷物整理の総仕上げなので、他のメンバーはお預け状態だ。
「それにしても……毎度のことながら、相変わらず速いな」
「ホントよね〜。でもま、そういうヤツだから」
フェルパーのぼやきにフェアリーは軽く合せるが、実際眼にも止まらぬ早業である。
指先だけ違う生物のように盤上で上下運動を繰り返し、正確な数字を弾き出す。
「ほい出た。うーん……ちと厳しいかな」
手先が止まるなり顔をしかめて頭をかき、微妙な決算に唸りを上げる。小さい腕を組めばなかなか様になった。
「でもさ、別に急いでるワケじゃないんだし、黒字ならまだマシなほうなんじゃないの?」
「なんて言うけどね。どうせ転科したら、単位を買い戻すつもりでしょ?最近じゃ、交易所の値札も優しくないんだよ」
冒険者養成学校の特例として、募金行為を学校への貢献ととらえ、額に応じて単位が免除される制度がある。
学科を変えてすぐに募金箱を使ってパーティの足並みをそろえる作戦は、新入生でも考えつく。
「いっぺんに四人も転科するんだ。今はみんなでガマンして、思いつく限りのやりくりをするのさ」
喋り終わるとそろばんから眼を放し、すぐ横に立っていたディアボロスに向かって流れるように平手を差し出す。
「ディアっち、ポケットに小銭あるでしょ。皆のために使うから、それもちょーだい」
「え、だってこれ、ボクの食費だよ?学食代とかおやつとか……」
「500Gの豪華なランチを、250Gの日替わりにすればいい。おやつ食べてもお釣りがくるよ」
「このっ、毎日の楽しみを!」
「まあまてディア子。普段からパーティの財布を管理してる帳簿方の言うことだ。ここは俺達のためだと思って、な?」
キャットテイルを引っ掴んで腕を振り上げたが、バハムーンが間に入ってそれを止めにかかる。
そういえば何日か前に、バハムーンに告白するための小道具として、ディアボロスが化粧水を失敬しに尋ねたのを思い出した。
想いを寄せる相手にいさめられた彼女はとうとう観念して、上着の収納から硬貨を取り出して机の上に叩きつけた。
「ちぇっ。今回はくれてやるよ。けど、単位ローンの返済が終わったら、みんなでおいしいもの食べてやるからな!」
クラッズを指差して怒鳴り散らすが、ローン返済という表現と、腹いせに皆でする贅沢が、なんだか妙に可笑しい感じ。
苦笑いを決め込む他のメンバーともども、めでたく単位が戻った暁には、何か奢ってやるべきだろうか。
気分を害したディアボロスは早々に席を立ち、トラブル回避のためバハムーンが後を追う。
大雑把な素材やがらくたの整理は、フェルパーやフェアリーが手伝ってくれた。
「んー、それはそっち。あ、これはむこうに置いといて。そこらへんにあるのは触んなくていいよ」
羽ペン片手に絶え間なく荷物の行き先を指し示す様は、さながら小柄なオーケストラ指揮者。判断と指示の感覚は短い。
「よっこら、せっと。だいぶ片付いたか?」
「そう……だね。もういいや、お疲れちゃん」
「あー終わったおわった。フェルパー、お茶しに行こ!」
フェルパーに腕を絡めぐいぐいと引っ張るフェアリー。内気な彼と強気な彼女は、なんだかんだでいいコンビだ。
重度のカフェイン中毒は知っているが、さっきフェアリーの前でもあれほど節約しろと言ったばかりなのに。
だが肉体労働に駆りだした手前、ねぎらいのティータイムに反対はしづらい。実はあのコ、けっこう世渡り上手だったりして。
「……ま、カップルのひと時くらい、好きにすればいいってもんさ」
誰に言うでもなく呟くと、もうひとり残っている仲間を一瞥する。
いつも倉庫の管理を補佐してくれている、魔法使い学科の女子生徒。
「やあ、いつも悪いね。細かいところはエルっちじゃないと任せらんなくて」
「それって、頼りにしてくれてるってことよね?それにわたし、こういうの嫌いじゃないから」
粉物の素材を仕分けするエルフは、爽やかな笑顔で返事をよこした。
初めてパーティで迷宮に出たその日から、進んで道具の整頓に協力してくれる。
今では二人して最後まで倉庫に居残り、獲得した品々と戯れるのが日常と化す日々が続いている。
「えーっと……これで全部かしら。他はあの二人がやってくれたみたいだし」
「終わった?そしたら、後は帳簿つけるだけだから、先にあがっててもいいよ」
「そう?じゃあついでだから、宿題やらせてね」
エルフがおもむろに鞄から出したのは、先の尖った鉛筆とスケッチブック。
静物でも書くのかと思いきや、真剣な眼でクラッズを凝視する。
「宿題って……もしかして、それ?」
「集中力と観察力を養うらしいわ。適当に書くと単位が貰えないの。動いてもいいから、普通にしてて」
普通に、などと言うが、普段通りを意識させられるほど平常でいられなくなることもない。
そもそも動く人物をモデルにできるのか怪しいが、哀れクラッズには絵心がないので実際のところなんとも言えない。
少し落ち着かない気分だったが、そろばんと帳簿を手元に置けば、自然とやる気が湧いてきた。
「エルっちってさ、いつもすごく楽しそうに道具を片付けてくれるけど、整理整頓するの好きなの?」
ただ見られているのは思ったよりせわしなくて、クラッズはどうでもいい雑談に助けを求めた。
「わたしね、小さいときから、絵本をたくさん読んで育ったの。その中に、こんなお話があったわ」
話している間も休まず、手にした羽ペンで会計を書き続ける。そろばんの結果に従えばいいから簡単だ。
そういえばエルフの身の上話は、今まで一度も聴いたことがない。
「部屋を綺麗にしていると、何がどこにあるか迷わずにすむでしょ?そうすると、ものを失くしにくいの」
「まあ、整理整頓ってそういうことだけど」
「それはね、寿命を生きていく上でも、すっごく大切なことなんだって。だから、幸運の神様は綺麗好きなのよ」
「な〜るほどね。ま、言われてみれば、確かにそうかもしれないや」
「それに、なんだか嬉しいじゃない。自分の力で綺麗になるって」
柔らかい微笑みをたたえて語るエルフ。今時よく出来たお嬢さんだ。
「ねえ。前から聞いてみたかったんだけど、そろばんの使い方は誰に教わったの?お父さん?それともお母さん?」
好奇心に眼を光らせ身を乗り出し、作業の手を止めて尋ねてきた。
羽ペンの穂先がわずかに静止したが、すぐに作業を再開して問かけに答える。
「オイラの父ちゃんと母ちゃんは特級のレンジャーで、二人とも公安の救助チームだったんだ」
「へえ、すごいじゃない!今はどうしてるの?」
「父ちゃんは山でひとを助けて死んだ。母ちゃんは川の洪水を止めに行って、そのまま濁流に飲まれて死んだ」
ここでは喋らないが、どちらも壮絶な死に様で、母親に至っては亡骸も残らない。
あまり他人に話したことはなかったが、聴かれた以上は答えるべきだろう。
根っからの善人であるエルフはやっぱりというか口をつぐみ、下を向いて粛々となってしまう。
「そろばんは父ちゃんがロストしてすぐに、覚えておくと損しないって、母ちゃんからみっちり教わったんだ」
「……ごめんなさい。へんなこと聞いて」
うなだれたエルフは謝罪の言葉を口にする。元の容姿が美麗なおかげで、憂い顔でもそれはそれで絵になるが。
しかし、美人には涙より笑顔で華を持たせてやるのが、クラッズのポリシー。
「別に謝ることなんかなんもないよ。オイラは聞かれたから答えたまでさ」
「でも……嫌なこと、思い出させちゃったでしょう?ひとには話したくないことだろうし……」
「オイラ、嫌なことは笑い飛ばす主義だ。それに父ちゃんも母ちゃんも、あれで本望だったと思うよ」
記憶の中の父は窮地にも迷わず命がけで自然と闘い抜き、母は息子が強く生きるよう願って氾濫した河川のもとへ出動した。
「二人とも、めちゃくちゃカッコよくてさ。いつかオイラも、世界中が助けを求める最強のレンジャーになってやるんだ」
「……ふふっ。クラ君、強いのね。応援してるわ。がんばって!」
ぐだぐた喚いたところでロストしてしまえば一向に蘇らないし、文句を言うだけ無駄な気もしていた。
それが当たり前だと思っていたので、面と向かってそれを褒められると、クラッズはいやに照れ臭かった。
帳簿をつけ終え、締めの点検を含め全てを済ませて背伸びをするころには、時計が四時を回っていた。
「いょ〜ぅし、あがりぃ〜!はー、くたびれた」
「お疲れさま。ねえ、さっきはごめんね」
「別にいいって。オイラは怒ってないし、どうせいつか話すことだもの。気にしなさんな」
ひらひらと手を振りはにかむクラッズ。種族柄しかたがないのだが、笑うと本当に子供の顔になる。
さぁてと肩で深呼吸をして、こめかみの辺りを軽くひっかく。
「なんか、甘いもの食べたいな……エルっち、倉庫の食べ物ちょろまかして、二人だけでこっそりおやつにしない?」
弁解しておくと、学食や購買での買い食いと違って、獲得した食糧には賞味期限がある。
「わたしはそれでもべつにいいけど、勝手に食べて大丈夫?」
「だぁ〜いじょ〜ぶ、大丈夫。腹に入るものは痛まないうち、ってね」
言ったそばから、軽食になりえる食料品を物色する。
幼少よりつまみ食いは得意とするところで、後ろめたい気持ちは何ひとつない。
「フレンチトースト……でいいや。ほい、エルっち」
素手で触るにはややべたつく食品だが、口移しするわけにもいかない。そのままエルフに手渡すと、両手でそっと受け取った。
「あ、うん。ありがと」
「んじゃ、いっただっきま〜す」
大口を開いてかぶりつく。ストレートな糖分の味がする。
時間帯を考えると夕食前には少々重い間食だが、後の祭り。今更そんなことは気にしない。
「そういやさ、ディアっちはバハっちに告白したんだよね?」
「え?ええ。あの様子だと、たぶんうまくいったと思うんだけれど」
「んで、フェルっちとフェアっちは恋人同士だよね?」
「そうね、あの二人がくっついてないって考えるほうが難しい気がするわ……」
のんきにのたまうエルフに対し、クラッズは意地悪い不意打ちをかます。
「オイラ達も、付き合っちゃう?」
「ふぇ!?ウソ、いきなりそんな……本気なの?」
「冗談だよ、とはあんまり言いたかないね。オイラはけっこうまじめだよ」
火事場泥棒のようにせこい作戦を選んでおいてなんだが、これは告白のうちに入るのだろうか。
突然の発言にエルフは慌てふためき、茹で上がるがごとく赤面する。
「う、う〜んと、その、すぐには、ちょっと……」
「へへ、真っ先に否定されなくてよかったよ。今すぐに答えなくてもいいから、今夜一晩、考えといて」
そう言って、すでに蓋が空いたビン入りジュースをエルフの目前まで持って行く。
顔が赤いまま無言でビンを掴むと、むせそうな勢いで喉を鳴らしていた。
予想通りの対応を前にしてか、尻あがりに頬がにやけるのを、クラッズは抑えることができなかった。
一日の最後に食べた食事はほとんど味がしなかった。風呂場ではのぼせるまで夢うつつ。
夜になってもまったく意識が定まらず、相部屋のフェアリーとディアボロスにそろって心配されてしまうほど。
二人が寝息を立て始めた夜中になっても、頭が沸騰して眠れない。
「ああ……わたし……どうしちゃったのかしら……」
昼間クラッズに言われたことが無性に気になってしかたがない。
確かに六人パーティのうち、二組のカップルが成立している。
それはつまり、自分を除く四人もが、恋仲であることを証明していた。
クラッズは少し現実主義的な面があるけれど、悪い奴ではないし、嫌いな男子でもない。
むしろ単純に好きか嫌いかで言えば、間違いなく前者の部類だろう。必要以上に意識してしまうのがその証拠。
「……だめ。身体が、火照って……熱いわ」
これはベッドの寝苦しさが原因ではない。それは己がよく理解している。
年頃の身体が欲求を溜め込み、寂しさが慰めを求める、この感覚。
「ん……やだ、もうこんなに濡れてる……わたし、そんなにクラ君のこと……」
下着の上から軽く触るだけで、陰部の湿り気が指に伝わる。
「はぁ……もうがまんできない……オナニー、しちゃおうかしら……」
理性はけたたましく警鐘を鳴らしたが、沸き上がる欲求は抑えきれなかった。
言い終わるより若干早く、指先は陰毛をかき分ける。
「うう……ふぁっ!何これ?こんなに感じて……んんっ!」
今まで数えるほどしか自慰の経験はないが、序盤からこれほどまで敏感に刺激が伝わってきた覚えはない。
触れる前から水気を漏らしていた割れ目に指をくい込ませ、ひっかき回す。
かき混ぜるたびに燃えたぎるような熱い快感が這い上がってくる。背筋は震え、吐息が乱れる。
「わ、わたし、こんなはしたないことを……すぐ隣りで、みんなが寝ているのに……っ」
ベッドを挟んで廊下側のルームメイトなど、もはや羞恥心を煽る材料となるばかり。
大きさにはあまり自身が持てない果実を、気が付けば夢中になって弄っていた。
「あっ、ああっ、だめ、わたし……んぐうっ!」
歯を食い縛って声を押し殺し、背中を弓なりに反らして果てる。
余韻を残しつつ指を引き抜くと、粘ついた蜜が糸を引いた。
窓から漏れる月明かりに照らされたそれは、すだれ状に露が連なる蜘蛛の巣にも似て、皮肉なことにとことん美しい。
「はぁ……はぁ……まだ、おさまんない……どうにかしてよ、クラ君……」
うわごとに出た彼の名前は、脳髄を麻痺させる魔法のようだった。
ただ一度の絶頂を迎えたところで、エルフの肉体は満足しなかった。
汗を吸った寝間着を脱ぎ制服に着替えて、部屋を出て見回りの教師や通りすがりの生徒に見つからないよう廊下を進む。
やっとの思いで目的の扉に辿り着くと、一瞬のためらいも構わず最小限の音量でノックする。
「は〜い、こんばんは〜……あっれ、エルっち。どうしたの?こんな時間に」
ドアを開けてまず出迎えたのは、最初の挨拶がどこかおかしい間延びしたクラッズの声だった。
低い頭の上から確認出来るベッドはシングルひとつしかない。人数調整の都合上、彼は個室に住んでいると聞いた覚えがある。
「うん……ちょっと、お話したいことがあって」
「へえ。まあ立ち話もなんだから、嫌じゃなきゃ中に入って話そうよ」
戸を開け広げ室内に招き入れてくれたので、生返事をして足を踏み入れる。
家具や教材がぴしっと整列した空間には、女の子だけの部屋とは異なる、独特の匂いと雰囲気があった。
あまりきょろきょろしないように注意を払いつつ、静かにベッドへ腰を下ろす。
「で、話ってのはなんだい?せっかく夜遅く来たんだ、なんでも聞くよ」
クラッズがエルフの隣に跳びはねて、スプリングが小さな悲鳴を上げた。
微弱なバネの反動にも、下半身は過敏に反応してしまう。
「んっ!……あ、あのね、クラ君」
「どったの?エルっち、顔まっかだよ」
「あう、えっと、これは……っ!」
ついに辛抱たまらなくなったエルフは、全体重をかけてのしかかりクラッズの肩を押し倒した。
「うひゃあ!な、なんだなんだ、どうした?」
「クラ君!わたしのこと、ほんとに好き?」
自覚する以上に錯乱している。耳打ちのつもりが叫ぶような大声を出し、いつもの何倍も早口だ。
力の限り抱き締めているせいで、クラッズの胸に自身のそれが当たる。僅かだが、相手の鼓動も伝わる。
「え、う、うん……好きだよ?」
「ほんとに、ほんとに、本気で好き?わたしが無茶なお願いしても、聞いてくれる?」
「だから、オイラは本気だってば。少し落ち着きなよ。お願いってなんなのさ?」
決して大きくないクラッズの手が、そっとブロンドのショートヘアを撫でつける。
五本の指が穏やかに髪をすく。優しく諭すように、あやすように。
ひと撫でごとに彼への愛おしさが膨らみ、最後の防壁が崩れ去った。
「わたし……とっても切ないの。バージンあげてもいい、あなたが欲しいわ」
せめてもの誘惑にエルフが出来たことは、熱い吐息を耳に吹きかけるくらいである。
「エルっち……言ってる意味、自分で分かるよね?」
うなじの辺りで撫でる手を止めて、クラッズが真剣な調子で尋ねた。
「確かにオイラ、付き合いたいとは言ったよ。けど、こういうことするのは、早い気がする」
「……ええ。分かってるわ」
「勢いでヤッちゃうのは簡単だけどさ、初めては一回しかないんだよ?オイラはいいけど、オイラでいいの?」
「本気でわたしのことを好きでいてくれるクラ君なら、奪われてもいいの……お願い、わたしを女にして」
自分の口を突き出て行く言葉に、乙女としてこの上ない恥を知る。
身体はもう制御すら出来ないのに、淫らな女だとは思われたくない。語彙の限りを尽くして正当化を図る。
覚悟を決め沈黙とともに待っていると、エルフの華奢な両肩を掴みクラッズが上体を持ち上げた。
「それじゃあ、エルっちの初めてを貰うよ。今夜一晩、この身体はオイラのものだ」
窓枠から差し込む月光にライトアップされたクラッズの微笑は、日頃よりずっと大人びていて視界を釘付けにした。
「クラ君……うむっ!」
見とれている隙に唇を奪われる。両側のこめかみをしっかり押さえられ、柔らかく甘い感触が伝わる。
クラッズはそこから舌を伸ばして、エルフの口をこじ開けてきた。
「んんっ、んふぅ……っ」
「んく、んあっ……はぁん」
最初こそなすがままだったエルフも、自らの舌でクラッズの愛撫に応える。
徐々にディープキスの感覚も慣れ、やがて積極的に舌を絡ませる。
咥内で混ざり合ったお互いの唾液が淫靡で水っぽい音を奏で、その音色に理性と抑制が麻痺していく。
「はふ……きゃん!やだ、どこ触って……」
いつの間にかクラッズの手は下半身に伸び、エルフの股をさすっていた。
「あれ、キスだけでベトベトじゃん。エルっち、けっこう感じやすいのかな?」
「だ、だって、キスしたのも、初めてなのに……クラ君、ちょっと激しすぎよ……」
「キスも初めてだったの?なら言ってくれれば、もっとやんわりやったのに」
未体験のファーストをあんな性的なものにされてはたまらない。
ただでさえここに来る前に一度、彼の名を浮かべながら気をやっているというのに。
「でも、嫌じゃないでしょ?ここ、いじるの」
「あんっ、ふぁっ、そんな、しないで……」
もはやずぶ濡れの下着に浮き出た筋を、クラッズの指先が何度もなぞる。
めしべの上を往復するたび、電流にも似た刺激が脳まで這い上がった。
そのうちに彼の指は上部へと位置をずらし、パンティの中へゆっくりと潜り込んでいく。
「んっ、あっ、自分でするより、やんっ!ずっと、気持ち……はあぁっ!」
中指と人差し指を挿入されて、しゃくりあげるように股間の亀裂を愛撫される。
クラッズの指使いは想像以上に巧みで、あられもない喘ぎが薄明かりの部屋に満ちていった。
「女の子のアソコってすごいね。指二本だけでヌルヌルのキツキツだ」
「そ、それはっ、クラ君がぁ……」
猛烈な手淫に淫語責め。経験のないエルフは長く持たない。
「やあっ、はうっ、わたしっ、も、もうだめ、きちゃう!」
「イキそう?オイラの指でイッちゃいそう?」
「あっ、はっ、くうん、やっ、あ、ああーーーっ!」
全身が弧を描き、男を知らない純潔が異性の手にかかり、昇天した。
がくがくと腰が震え、独りで及ぶときとは桁違いの快楽が脳裏に押し寄せる。
蜜壺からは愛液が噴き出し、水分を吸収出来なくなったパンティからは雫が滴り落ち、クラッズのベッドに水たまりを作った。
「どお?エルっち。気持ちよかった?」
「あ……頭の中、ぼーっとするの……知らないわ、こんな感覚……」
足先から脳天まで甘く痺れさせる行為の余韻に溺れていく。
予測不能な他人による前戯は、未知の快感と例えて差し支えなかった。
「……ねえ。今度は、オイラを気持ちよくしてよ」
衣ずれの音がするので見てみれば、クラッズがパンツもろともズボンを下ろしていた。
驚きのあまり、悲鳴も出ない。初めて見る男性器は充血してそそり立ち、心なしか種族にしては巨大だ。
空気に晒されたそれはぴくりと脈打つ。これから行うことへの認識を、エルフの中で改めさせる。
「すごい……これ、どうすればいいの?」
「そうだね……とりあえず、触ってみてよ」
脱力した身体でなんとか起き上がり、勃起して上を向いたイチモツに近づく。
恐るおそる触れると小さく跳ねた。そっと手の中へ包み込み、触覚や視覚で観察を始める。
「あ……ぴくぴく動いてる……それに、なんだか不思議なにおい」
「平気かな?じゃあ次は、軽くしごいてみて」
「えっと、こすればいいのね。分かったわ」
加減や方法などまったく分からないので、クラッズに頼まれたまま指で摩擦する。
少しずつ手の中でモノは硬くなり、そのうちエルフのしごく速度も暗黙のうちにだんだんと上がっていく。
「どうかしら。わたし、ちゃんと出来てる?」
「うん。大丈夫。気持ちイイよ、エルっち。慣れてきたら、口に咥えてみて」
「え?これを……いいわ、舐めるのね」
正直、今見たばかりのこれを口に含むのには抵抗があった。
それでも彼が望むことなら、なんだってする覚悟で訪ねてきたはずだ。
何か透明な液体が分泌され始めた先端に、おずおずと紅い舌先を伸ばす。
「あふっ、ちろちろ、はむ、くぷ、ちゅぷ」
青臭いオスの臭いも、次第にメスの本能をかき立てる香りに代わっていた。
亀頭の周りを丁寧に舐め上げ、髪をかきあげて肉棒を咥え込む。
ぎこちない奉仕しか出来ないが、クラッズは敏感に反応してくれる。
「はあ〜、気持ちイイや。エルっち、うまいよ」
「じゅぷ、ちゅぶ、ぐぽっ、じゅるるっ」
「あ〜ヤバい、待って、ストップストップ!」
必死に男根をねぶり回している途中で、頭を押さえられ咥淫を中断する。
「ん……ぷはっ。どうしたの?わたし、なにかまずいことしちゃったかしら?」
「ううん、気持ちよすぎるんだ。これ以上されたら、オイラもたないよ」
「あ、ごめんなさい。えっと、それじゃあ、その……」
「横になりな。オイラに任せてりゃ大丈夫さ」
やはり勝手が分からないため、言われるがままに身体を横たえる。
上着も脱いで完全に裸のクラッズが覆い被さり、エルフの着衣を脱がせていく。
「……あのさ。オイラ、始める前に、エルっちに謝らなきゃいけないことがあるんだ」
魔法使い学科の指定制服を手際よく剥ぎ取りながらクラッズが切り出す。
「え?謝るって……なんのこと?」
「オイラ、媚薬をエルっちに飲ませた。ピクシーの秘薬って、知ってるかな。昼間のジュースに混ぜてあったんだ」
制服の上下を丁寧に脱がされ、どちらも下着一枚になる。
眼を丸くして見つめ返すが、クラッズは視線を合わせてくれない。
「あのとき、エルっちが付き合いたくないって言ったら、あのジュースは出さないつもりだったんだ」
「……それじゃあ、身体がこんなに火照るのは……」
「今夜はたっぷりメロメロにさせて、明日その気にさせるつもりだった。けども、エルっちが来ちゃったじゃない」
どうやら媚薬の効果に耐え切れず、夜のうちに部屋まで押しかけられることは計算外だったらしい。
「最初に見たときから……一目惚れってやつさ。薬の力まで借りた賭けだったけど……オイラのこと、嫌いになった?」
眉を八の字にし眼尻の垂れたクラッズは、見たこともない弱気の顔をしていた。
しかし、少女を裸に剥いた挙句、自らも全裸では説得力は皆無。
これが向こうから襲いかかって来たのならば、エルフも見切りをつけただろうに。
「……ファーストキス奪って、あそこに触って、おちんちんまで咥えさせたくせに、今更なんてこと言ってるのよ」
「どうしても夢中にさせたかったんだ。汚いやり方で、本当にゴメンよ」
「もう……あなたが選んだ卑怯な手のせいで、こんなにわたしを切なくして……きちんと責任とってよね」
たまらなく男を欲した結果、行きつく先がクラッズの部屋なのだから仕方がない。
柔和な笑みを浮かべるエルフに、策士の少年は力なく笑った。
「それじゃあ……挿入れるよ」
「え、ええ……来て。クラ君」
そっとクラッズの首に手を回す。ホックが外れ乳房が露わになり、すっかり蜜漬けになったパンティを下ろされる。
くびれた腰を両手で掴まれて、エルフの唾液にまみれたオスの象徴が、花弁の中央に狙いを定めた。
矛先だけめり込むように埋まると、一気に最奥まで突き立てられる。
「うう……くあぁ!」
ついに乙女の清純が破られた。結合部にはじわりと血が滲む。
媚薬の効き目か想像したほどの痛みはないが、無意識にクラッズの身体にしがみ付く。
「全部、挿入ったかな……エルっち、痛かないかい?」
「ううん、ちょっとだけ。意外とつらくないわ。それとも、薬のせいかしら」
「もうたっぷりお汁垂らしてたからね……動いても、大丈夫そうだ」
分身に付着した姦淫の証である紅い水を刷り込むように腰が動き始めた。
陰茎が子宮を一突きするたび、震えあがるほどの快楽が襲い来る。
少しずつ奥を貫く速度が上がり、より深く、より強く性を実感する。
「ふぁん、ひゃうっ!気持ちいい!そこ、そこがいいの!もっと突いてぇ!」
「エルっちのオマンコ、絡み付いてくるよ!アツアツで、トロトロで、グチュグチュだ!」
「ああんすごい!クラ君、とっても上手!どんどんエッチになっちゃうよぉ!」
いやらしい言葉を連発してしまうのは、決して媚薬のせいだけではない。
かすかな苦痛は完全に消え去り、自ずから肉欲を求めて腰を振る。
「あっはっ、ひああ!乳首、吸っちゃらめぇ!」
「んむ、ぷはぁ。エルっちのおっぱい、小振りだけど綺麗で美味しいよ」
自己を主張する桃色の果実に、クラッズの舌と唇が吸い付く。
張りのよい膨らみを赤ん坊のように舐め回し、時折前歯で甘噛みする。
極部二か所を同時に愛され、とたんにぞくぞくと興奮が昇り詰める。
「ああだめ!わたしまた、またおかしくなっちゃうっ!」
「うっ、オイラもイキそう……エルっち、イクときは外がいい?それとも、中に射精しちゃう?」
「やあっ、初めては、中がいいのっ!このまま射精してっ!一緒に、いっしょにぃ!」
初めてのひとは運命のひと。最初に異性を知るときは、奥まで愛し合って同時に達したい。
女の慰めを覚えたその日から、ずっと心に決めていたこと。
「じゃあこのまま……あーイク!射精すよ!……うはあっ!」
「ひゃあああ!だめ、だめ、だめええええっ!」
今日だけで三度目の絶頂を迎える。ペニスを絞り出そうとする肉襞に、吐き出された精液の熱を感じた。
しばらくはお互いに強烈な快感の余韻から抜け出せず、荒く息を吐いて呻きながら抱き合っていた。
やがてクラッズが正気に戻り、エルフの胸元に顔を擦りつける。
「ふぅー……たっぷり射精たぁ。エルっちの身体、もうサイコーだよ」
「わたしも……気持ちよすぎて、死んじゃうかと思ったわ」
「なはは。ホント綺麗で可愛くて、感度も抜群。おまけに清楚で優等生なエルっちを抱けるなんて、夢みたいだ」
純真無垢な笑顔でそこまで言われると、ああ、このひとが最初の相手でよかった。とか思う。
「いったんコレ抜くからね。よ……っと」
繋がっていた部位が引き抜かれる。栓をしていたものがなくなり、空いた穴から白濁の粘液が零れる。
名残惜しい気分も多少あったが、度重なる到達で全身が脱力し、これ以上は続ける気が起きない。
クラッズはエルフの太ももに二人の混合液を擦りつけて、残った精子を放ち身震いしていた。
「ん……ふぅ。そういやさ、エルっちはなんでこの学校に入ったの?」
頭ひとつ分クラッズが詰め寄り、素朴な好奇心を孕んだ質問をぶつけられる。
「えっ?わ、わたし?」
「うん。オイラは先に話したからさ、エルっちの理由も聞きたいな」
動機としては、なんら不自然なものではない。聴かれたから、聴きたい。それだけ。
だがエルフにはどうしても、これを語るのにはためらいが生じる。
出来ることなら隠しておきたいのだが、クラッズは自分の過去を見せてくれた。半ば仕方なしに、エルフは口を開く。
「……あのね、ぜったい、バカにしないでね?引いたり、嫌いになったりしないって、約束する?」
「?するする。どんと来いだよ」
「その……えっと……花婿、捜し?」
裸の女体を晒すこととは無関係にかっと体温が上がる。恥じらいながらエルフは続ける。
「お父さんがね、生涯を預けるに値する男と結婚しろって、きかないの。それで、クロスティーニまで……」
最後の方は掌で口を覆い、蚊の鳴くような声になってしまう。
身内についての話題を出すのは、今も昔も大の苦手。父親が遠くでブレスの出そうな特大のくしゃみをする姿が思い浮かぶ。
「……ちゃぶ台返しの似合いそうな親父さんだね。オイラはいつかそのひとに、娘さんを下さいって頭下げに行くのかな」
「当然じゃない!わたしをここまでキズものにしたんだもの、幸せにしてよね!」
苦笑いのクラッズはけっこうレアだが、冗談は微塵も含まれていない。
経緯はどうあれ、さんざんファーストやらバージンやらを捧げてきたわけだし、これはエルフ自身の問題でもあるのだ。
いつか薬に頼らずメロメロにしてね。などとおねだりしてみると、もちろん。虜にしてあげるよ。なんて軽口を返される。
でも、悪い気分は全然しない。きっと、エルフもクラッズが好きだから。
あ、そうそう。宿題に出されたスケッチ。タイトルを決めなきゃいけなかったのよね。
彼をモデルに描いた鉛筆画の題名は……「世にも小さな大旦那」……うん。それがいいわ。
アトガキモドキが現れた!
アトガキモドキからは敵意を感じない。
というわけで、お嬢様エル子×田舎者クラ坊です。いつもよりギシアンに傾いた仕上がりかな。
次はたぶん、フェル×フェアになると思います。俺、パーティキャラコンプしたら、また誰かにリク貰うんだ。
亀進行のシナリオは現在、裏世界に入ってすぐのところです。鈍行列車が私のプレイスタイル。
生徒から志願して兵隊になり、荒れ果てた世界で戦争を繰り広げる。中二病なこのシチュが大好物です。
戦場!勝利!友情!ラヴ・ロマンス!ジャンプ読者にはたまんねええぇ!
いつかネタにする日が来るでしょう。とりあえず今日はこれにて。それではノシ
アトガキモドキは挨拶をして立ち去った。
GJ先生
それにしても、設定凝ってていいなあ
募金箱の解釈は人によって違うから面白いw
114 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 02:13:57 ID:boKiAExf
GJ!
う〜ん、クラッズは良い。フェアリーとはまた違った良さだ。
乙です。策士クラッズ。なんかしっくり来る。
シナリオの進み具合が同じだww
またいつかリクエストさせてもらいます。
>>113 GJ先生wwwなるほどwww
>>アトガキモドキ氏
相変わらずいい仕事してますねぇ。
クラ坊ってカワイイな。クラッズはどうしてあんなに可愛いのか。幼児体型だからです←カワイイ
2のエルフかぁ……実はいうと2のエルフはあんまり作ってないけど一体作ろうかなと思うように。
セラフィム先生の精霊使いですら作ってない自分orz
今夜は第7話、夏休み事情もいよいよ大詰めであります。
「僕に任せてください」
そう言った隣人のエルフの少年に連れられていった先はハウラー湖畔。
団扇と財布だけを渡されてエルフはさっさと帰ってしまい、ディアボロスは日が西に沈み始めたハウラー湖畔を歩く。
「何か妙に人が多いな……」
少なくとも普段はこんなに人はいないし露店も出ていない。露店?
ディアボロスは今日の日付を頭の中で思い出す。そして、気付いた。
「あ、そうか……今日は花火大会か……」
少し周囲を見渡せばパルタクスやランツレートの生徒も見える。すっかり忘れていた。
そう、自分がセレスティアを花火に誘ったことすらも。忘れていた。
「……そうだった」
エルフがどんな魔法を使うかは分からないが、彼女はディアボロスに会って、どんな事を思うのだろう。
それが少しだけ怖い。まだ恨まれているのか、それとも。
ディアボロスがそんな事を考えていると、背後で足音がした。
「ああ、いましたわね。じゃあ、お願いしますね」
そう声が響くと同時に、背中に誰かがぶつかった。
誰かと思って見た時、ディアボロスは思わず固まった。
「あ……」「あ……ディアボロス、君?」
セレスティアは慌てて離れる。
「……ごめんなさい」
「いえ、俺も……」
視線をそらす。ディアボロスは、セレスティアに会いたくはあった。けど、正直な話、何を話していいか分からなかった。
何せ誰かに後押しされるまで告白する勇気すら無かった彼である。
「……………」
「……………」
どうしよう、とディアボロスが思った時、ふと視線に露店が止まった。
「あ、え、えーと。何か食べません?」
「………そう、ですね……」
「……何がいいかな?」
「ん……」
2人で考え込む。
「………あの」
「………なに?」
「先輩、俺、言おうと思ってる事があって」
ディアボロスは視線を少しだけそらすと、セレスティアに一歩だけ歩み寄る。手を伸ばして、そっと、握る。
「俺は、先輩の弟が……母さんに殺されたって事、俺は知りませんでした。けど、それでも……それでも、それが事実である事に代わりはない筈です。
俺が謝ってどうにかなるって事じゃないですけど、でも……ごめんなさい」
「…………」
ディアボロスの言葉に、セレスティアは黙っていた。
「ええと、その………それと、もう1つ……あって……」
ディアボロスはそれでも言葉を続ける。今、言わなくて。言えなくなる。そして、本当に何にも出来なくなる。
それが嫌だと、思っていた。これから先に踏み込まなきゃ駄目なのだ。傷つくかも知れないと思っても。それでも、足を踏み入れないといけない。
それが、ディアボロスの使命なのだと。
「どいてって言われたのに、どかなくてごめんなさい」
そうして、セレスティアに辛い思いをさせて。そうまでして母親を守りたくて。けど、それで余計に人を傷つけて。何になるというのだろう。
「…………先輩。もしもまだ俺の母さんに……」
「もういい」
「え?」
「……もう、いいです」
セレスティアはディアボロスに視線を合わせると、そっと。
その唇をゆっくりと塞いだ。
「!?」
あまりにも突然のことで、ディアボロスは思わず頭が真っ白になった。
「……例え、ディアボロス君がどんな人の子供でも、ディアボロス君がディアボロス君である事ははっきり解ったし、それに……あの日の夜、私が刺しちゃった後……。
ディモレアが貴方に駆け寄ったのを見て、思ったの。私がしちゃったのはとんでもない事だって。もしあの時、私がディモレアを刺していたら、きっとディアボロス君が怒ってたと思う」
「…………」
「それに、ディアボロス君は言ってくれた」
「私には、復讐なんか似合わないほそ優しい人だって」
セレスティアのその言葉に、ディアボロスは思わず頬を染める。
少しだけ恥ずかしくなる。てっきり罵倒されるかとでも思ったのに。
でも、それとは違う。
「……ありがとう、先輩」
ディアボロスはそう言って笑う。
セレスティアも笑った。
その時。遠くの方で、空に華が咲いた。
「あ……花火」
「そっか、もうそんな時間か……」
一発目に続いて、二発目、三発目と次々と打ち上がる。夏の夜空を彩る、花火が。
「綺麗……」
セレスティアは、そう呟く。
パルタクスに入学してから何度もこの花火を見に来ている。けれども、好意を抱いた人と、2人だけで見るのは初めてだった。
仲間や、友人達だけで見るのとは違って、どこかまた。
ディアボロスの腕が、セレスティアの身体を近くに抱き寄せ、もう1度だけ接吻を交わした。
「!」
次は、セレスティアの方が驚く番だった。
彼がこんなに積極的なのは、いや、こんな風に彼がやってくるのはあの日、告白された日の夜以来―――――。
「……もう1度だけ、貴女を抱いていいですか?」
ディアボロスの、少しだけ遠い言葉が耳に届く。
けど、セレスティアは拒否しなかった。自らの体を彼に委ねる。それが肯定。
結ばれた恋の印はもう、途切れる事は無いのだろう。例え2人がどんな傷を負ったとしても。もう、離れはしないのだろう。
ハウラー湖畔花火大会の終わりは、集まった生徒達を帰るか泊まるかの2択を迫らせていた。
帰る生徒は地下道の魔法球か飛竜召喚札を使って帰る事になるが、飛竜待機所は行列が出来ており、魔法球もこれまた行列が出来ていて学園の門限までに帰れるかというと甚だ疑問である。
門限を過ぎれば反省文なので結局ハウラー湖畔で宿を取る羽目になった生徒もいた。
そんな中でディアボロスとセレスティアが宿の部屋を取れたのはある意味幸運だったのかも知れない。
夜は確実に更けようとしている。
「……なんか、学校の人達、皆驚いてましたね……」
「そう、ですね……」
宿で見かけたパルタクスの生徒は2人が一緒に入ってきたのを見て全員驚いた顔をしていた。
どうやら噂が沈静化するのにはまだまだ時間が必要なようだ。
「……夏休みに入れば、ほとぼりも冷めればいいんですけど」
「そうですね、きっと……その時は、お願いしますね」
「ええ……」
明かりが消える。
月明かりだけが窓から差し込む中で、セレスティアは目を閉じる。
すぐ隣りでディアボロスが身体を動かし、背後から手を伸ばしてくるのが解った。さして変わらない体格の手。
錬金術士として場数をこなしてきたのか、傷だらけの手。
「……ん………」
身体を反転させ、唇がゆっくりと塞がれる。
その唇から口内に進入した舌が伸ばされ、その舌を絡めあう。何度も何度も。深い深い接吻。何度目になるかも解らない。
けど、どんな時も彼はいつも、その深い接吻から始まるとセレスティアは思った。
接吻を繰り返している間、手も動いていた。
セレスティアの上衣へ手を伸ばしたディアボロスはその衣服の間に手を入れ、片手の手探りで下着を探り始めた。少しだけくすぐったくなり、セレスティアは小さく声をあげた。
「すいません……」
「いえ……もう少し上……ひぅっ!」
やがて下着を探り当てたのか、下着が外された。
いつもと違う感覚に、セレスティアは少しだけ頬を染める。だが、それより先に、ディアボロスの手はセレスティアのカタチの良い乳房へと伸ばされた。
胸をもみくだし、ディアボロスは接吻を唇から、首筋へと移動する。冥界の血を引く魔族が獲物を狙うかのように、セレスティアの白い首筋をなめ回す。何度も何度も。
「んんっ……」
やがて胸をもみくだすのに飽きたのか、ディアボロスは下に手を伸ばした。
スカートの下から外された下着。自らのものを突き付け、ディアボロスは顔を歪めて笑った。
時折魔族としての血が目覚めるのか、そういう時にだけディアボロスは怖くなる、とセレスティアは思った。
直後、セレスティアの秘部に、それが突き入れられた。
「っ……!」
二度目は、最初の時ほど痛くは無かった。
ただ、自分以外のそれが進入してくるのが、少し怖いと思っただけで。
「んんっ……!」
その中でゆっくりと動かされたそれが、何度となく奥を打ち付け始める。
そう、何度も。同じ事ばかりを繰り返すのが彼。けれども、その時だけは、魔族の彼が戻ってくる。
「……誤解しないでください」
セレスティアの耳元で、ディアボロスが囁いた。
「俺が貴女を愛しているのは、貴女なら、きっと……貴女となら、俺を受け入れてくれるかもと思ったから」
ディアボロスの呟き。
けれども、セレスティアは遠くなる意識の中で、その言葉をしっかりと聞いていた。
隠されていた、本当の言葉。でも、それは本当の意味を持った、確かな言葉。
ハウラー湖畔の宿屋からは明かりは消えたが、深夜を過ぎた今でも明かりの灯る場所があった。
四角い卓を4人の人影が囲んでおり、ただひたすらにトランプのシャッフルを続けている。
「ギルガメシュよぉ、停学処分だって?」
卓の一角に座るランツレートの制服に身を包んだバハムーンがそう口を開き、隣りに座る同じランツレート生のヒューマンも笑う。
「で、その停学の原因が女関係ってなにしちゃったんですか、ギルガメシュ君は?」
「おい、ヒューマン。それ以上余計な口叩いたら本気で殺るぞ」
ギルガメシュがトランプのシャッフルを終え、均等に五枚ずつ配って残りを山札として置きながらそう答える。
だが、ヒューマンは逆にクスクスと笑った。
「おいおい、停学中を抜け出してポーカーなんざやりに来てるんだぜ? 余計に問題起こしたら下手すりゃ退学処分になっちまうでねぇか」
ヒューマンがそう口を開いた時、ヒューマンの目の前に短剣が楔のように打ち込まれた。
「……なんか言ったか?」
「い、いいえナにも……本当に冗談の通じない奴め」
ヒューマンの言葉に、最後の1人でマシュレニアの制服に身を包んだドワーフが口を開いた。
「今のはお前らが悪い。で、ギルガメシュ、お前これからどうする気だ?」
「どうするって何をだ? 二枚チェンジ」
ギルガメシュの言葉にドワーフは口を開く。
「例の件についてだよ。あの子、結局ディアボロスと仲直りしたらしいぜ?」
「……なに?」
ギルガメシュはトランプを動かす手を止める。
「……まぁ、要はお前フラれちまったな」
「二度目か。サラちゃんに続いて。あ。俺一枚チェンジな」
「……………」
確かにそうかも知れない、とギルガメシュは思う。
ただサラの時は向こうからアタックをかけられて向こうにフラれたという感じだったが。
「まぁ、ギルガメシュ。お前がどうお思ってるか知らねぇけどよ。サラはきっとお前の事、本気だったと思うぜ? 敵に回したら学園追放は免れないというあのサラ相手に」
「その噂の発生源は何処からが気になるな」
バハムーンの言葉にギルガメシュはそう返事をしつつ五枚の手札をまとめる。
「くそ、今回は降りさせて貰う」
「んじゃ、最初の掛け金は俺達がもらうけどいいのかいギルガメシュ?」
「構わん」
ギルガメシュはそう呟くと自分の手札を卓に投げ捨てた。
「これじゃ勝てん」
ハートの3、4、5、6、と後一枚続けばストレートフラッシュ、だがそこにあったのはクローバーのJという場違いさだった。
そう、要は見事なまでに役無し。
それを見た他の三人は少し笑うと、それぞれ新たに掛け金を上乗せしたりしなかったりする。そして、手札公開。
「フルハウス」
「ストレート」
「スリーカード」
フルハウスを出したドワーフが山札の隣りに載せた掛け金をごっそり引き寄せていくのを眺めつつ、ギルガメシュは口を開いた。
「そうか、サラか……」
「ん? どした?」
「いや、サラは俺の事をどう思ってんのかって思っちまってな」
「そりゃあ……どうだろう」
他の三人が同時に考え込む。
「まぁ、サラも酔狂な奴だからギルガメシュに好意を抱くような酔狂な事はそうそうしないと思うし、おいギルガメシュだからデュランダルを抜くんじゃない」
バハムーンが必死に身体を反らしながらそう口を開き、ドワーフとヒューマンがギルガメシュを止める。
「まぁそれはともかくとしてだ……案外、今でも好きなのかも知れないぜ。女の子って難しい生き物だし」
「セレスティアの方がお前に振り向く事は無いだろうけど」
ドワーフはそう言った後、地雷を踏んだと思って青ざめたがギルガメシュは何も言わなかった。
「……まぁ、俺もサラは嫌いじゃねぇ」
「けど、セレスティアの方が大きかったのかい?」
「ん? ああ、まぁな」
ギルガメシュは再び配られてきた五枚のトランプを受け取る前に財布から800Gばかり掴みだすと、卓へと置く。
「……けど、ああなっちまった以上、見事に玉砕としか言い様がない」
「だろうな。でもギルガメシュ、何か不満そうだなまだまだ」
「当たり前だバカヤロウ」
バハムーンは五枚のトランプを受け取りつつ、財布から3000Gほどまとめて卓に放り出した。
「このまま終われるか……ディモレアの方な」
「え? 後輩のお母さんに手を出すのか?」
「よーし、ヒューマンそこから動くなよ? 望み通り殺ってやる。安心しろ、一瞬だ。俺みたいな達人になると痛くねぇらしいし」
「だから冗談ですギルガメシュ君、マジでデュランダルだけは勘弁を」
「………ディモレアをあのまま放置する訳にも行かねぇ。けどな、倒すにしてもディアボロスがまた邪魔に入るだろうな。アイツは……」
「どんな奴でも親は親。子が親を守りたいと思うのは普通だ」
バハムーンの言葉に、ギルガメシュは頷く。
「だからな。ディモレアが動くようにすればいい。他人を巻き込むなって言われたから……巻き込まねぇ方法でだ」
ユーノとライナからの説経はギルガメシュに結構答えたのか、ギルガメシュは苦笑しつつそう呟く。
「で、それはどうやって?」
「あ? 決まってるだろ?」
ギルガメシュは「二枚チェンジ」と呟いて口を開いた。
「タイマンだ」
ギルガメシュは、頭は良くてもどこまでも力技な奴なのだろうかと。
他の三人はこの時深く思った。そして。
「……ロイヤルストレートフラッシュだ。文句は言わせねぇ。さぁ、掛け金寄越しやがれ全部な」
「待て待て待て待て、それは掛け金じゃなくて俺の財布!」
「人をいちいち怒らせた迷惑料だ、貰ってくぞヒューマン」
「それは強盗だぞギルガメシュ!?」
この後、1晩続いた賭けポーカーは最終的にギルガメシュが勝ったらしい。
投下完了。
………エロシーン有りです、二度目です。
相も変わらずディアボロスがエロシーンの時だけ酷い事になってるのは本性だからです。
ポーカーはカード交換前と交換後に一回ずつ賭けているので二回金を出してます。
122 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 00:48:54 ID:HQ4DlUPj
GJ!
ディアボロスも結構ネコ被りだな。
というより、ディアボロスと言う種族自体結構ネコ被りというか、素直じゃないと言うか。
まぁ、ギルガメシュ先輩みたいに素直すぎても困るけど。
掛け金じゃなくて財布に笑ったw
続きがきになる。
といかディモレアの旦那が気になる。
>>123 男ってのは皆素直じゃないからかも知れない……ただし欲望に忠実すぎる先輩。
賭けポーカーは節度を守ってやりましょう、本当にトンでもない事になる事もあるので(実話)
んな訳で今夜は夏休み事情の最終話です。
ディモレアの旦那さんについては……そうですね。番外編みたいなカタチで少し書くのもアリか。
今夜の話あたりからとともの。本来のシナリオからズレてくるかも。(1・2共に含めて)
夜が明けた。
「……ん……」
セレスティアが目を開いた時、ディアボロスは部屋の隅に置かれた椅子に座り、ただひたすらルー●ックキ●ーブを続けていた。
「……おはようございます、先輩」
「おはよう、ディアボロス君……。あれ? それ、何か変ですね?」
「え? ああ。通常の二倍の大きさなんですよ、これ」
本来3×3×3のルービッ●キュ●ブだが、ディアボロスが解いていたのは6×6×6面になっていた。通常よりも揃えるパターンが更に多くなり、難易度は跳ね上がっている。
「ディアボロスの男の子って、結構やってますね。それ……」
「ディアボロス男子のトレンドみたいなものなので。流行ってるんですよ」
「流行ってるんですか……」
ディアボロスの言葉に、セレスティアは苦笑する。元々彼がパズル好きだとは聞いた事あるが、まさかそこまで難解なものまで所持しているとは思わなかった。
「………それにしても、昨日はとても賑やかだったのに、静かですね」
「ええ……」
祭りの後の静けさ、というのだろうか。本当に、静かだ。
一昨日の夜は、悲しさと悔しさで一杯だったというのに。昨日の夜は幸せの絶頂にいた。
果たして、この差は何なのだろうとディアボロスは思う。
「………けど」
けれども、もうセレスティアを苦しめようとは思わない。彼女の泣き顔も、見たくない。
「よし、完成!」
「え? 完成……凄い、本当に6面全部揃ってる!」
「1晩続けた甲斐がありましたよ!」
ディアボロスはそう言って笑うと、セレスティアも拍手を送った。
そう、こんな風にセレスティアに恥ずかしくないような自分にならなきゃと、ディアボロスは思った。
「………ふふ、それにしても凄いですね。昨日の夕方まで、ディアボロス君、凄い暗い顔してたのに。そんなに嬉しそうにしてて」
「………そうですね。先輩のお陰ですよ」
正確には他の色んな皆の後押しがあったから、だけど。
もしも廊下でクラッズ達に会わなかったら、きっとパルタクスを退学して今はもうこの場にいなかっただろうから。
「……皆にも、感謝しないとな……」
ディアボロスは少しだけ目を閉じる。
同時に、ふと脳裏にギルガメシュの事が過った。
「あの、先輩」
「なんですか?」
ディアボロスは着替え始めたセレスティアの方を見ないようにしながら口を開く。
「ギルガメシュ先輩の事なんですけど」
「……ギルガメシュ君の?」
「はい……多分、先輩は納得してないだろうから」
あのギルガメシュなら有りえなくもない。ディアボロスはともかく、ディモレアの事を彼は決して許しはしないだろう。
だから次は、どんなカタチで動くか解らない。
「そう言えばギルガメシュ君、今どうしてるんでしょうね」
「停学処分になったとは聞きましたけど……でも、ギルガメシュ先輩は諦めないでしょうね。何があっても」
「………そう言えば、この前思い出したんですけど、ギルガメシュ君の事」
「え?」
セレスティアは恥ずかしそうに言葉を続ける。
「いえ、一年生の時にですね。ダンジョンで危なかったギルガメシュ君を助けた事があるんです。で、ギルガメシュ君は自尊心が強い人ですから、1人でパーティも組まないじゃないですか。
でも、私、そんな彼に『頼るなら頼ってもいい』なんて事を言ってたなぁって。もしかしたら、それが原因かも知れないですね」
「…………」
ギルガメシュ先輩、それはまた凄い思い込みでは無いでしょうか。
「……もしかして、ギルガメシュ先輩、6年間ずっと覚えてたとか」
「彼、結構頭いい人だから覚えてたのかも……」
ギルガメシュについての知識そのいちとして執着心が強いな、とディアボロスは思った。
何せ一年生の時に言われた事を覚えていたのなら相当な記憶力だ。
魔法球を使って学園に戻り、教師に見つからないように部屋に戻ってから数時間後。
ギルガメシュが目を覚ましたのは既に夕方になろうとしている時間だった。
「やべぇ、もうこんな時間か……」
徹夜でポーカーに興じていたのはいいが、どうやらその後眠りすぎたらしい。
身体を起こし、同時に脳裏を過ったのは。
サラの事と、ディモレアの事だった。
「ディモレア……」
前に先輩パーティ達が倒した時と、自分がこの前戦った時とはまるで違う。
そう、まるで先人達と戦った時に彼女は本気を出していなかったかのような。自分と戦った時こそが本番というか。
「……死ぬかもな、俺」
ギルガメシュは本気で戦えば自分が死ぬかも知れない、とも思う。今まで死を覚悟した事は何度もある。
だが、それは迷宮に中で追い詰められた時だけで、今、こうして次に戦う相手をイメージして死ぬかも知れないと思ったのは初めてだ。
首を左右に振る。
「バッカ野郎、何考えてやがんだ」
頭を軽く小突く。戦う前から死ぬことなんて考えてどうする。
「だよな、そりゃ負けたら死ぬよな……」
そして何よりも。ディモレアと戦う前に、ディアボロスを倒したいとも思う。
いや、そっちの方がディモレアも明確な殺意を持って向かってくるだろう。数日前、ディアボロスが刺された後のディモレアは文字通り凄まじいものだった。
再び世界の危機が戻ってきてもおかしくないほどに。
だがもし、自分が死んだら……サラは、泣くのだろうか。
「……サラ」
イマイチどうなのか解らない。いつも笑ったり怪しい笑みを浮かべたり教師を脅迫したりしている付き合いの長い下級生の事は。
けど、彼女の涙なんて、見たくも何ともない、とも思った。
「……クソ。俺もヤキが回ったか?」
頭を抱えそうになった。何で今さら、サラの事ばっかり?
けど、もし……。
サラが今でも自分に思いを抱いているなら。どうすればよいのだろう。
「……やっぱ言った方がいいか? 止められる可能性もあるな……」
だがしかし、それは男として言わなきゃいけない事なのかも知れない。
実家を飛びだした時、誰にも何も言わずに出ていった事とは違って。
「そういやぁ……」
幼すぎる妹は、周りの煩い幼なじみ達と元気にやっているだろうか。
資産家で故郷の町と同じ名前を付けられた娘とそれと張り合う少女、姉の旦那の弟で事実上の義兄弟になったバハムーン、ヒーローに憧れているおバカな毛玉とそれを心配する少女。
ほんの数年前の事なのに、凄く懐かしい気がする。
「………けど、あのままあそこにいたら、俺はパルタクスにはいなかったな」
ギルガメシュは昔の事を思い出してそう苦笑する。
でも、今はもう戻れない。何も知らない、ただ純粋で笑うだけで良かったあの頃に。
ギルガメシュは、もう戻れない所まで来てしまっているのだから。
「おい、ギル公。反省文は書き上がったか?」
夕食の準備が終わり、多くの生徒が食堂へと急ぎ始めた頃、彼女はギルガメシュの部屋を唐突に訪れた。
「誰がギル公だ。で、何の用だ? 風紀委員長」
学園の秩序を取りまとめる風紀委員会をまとめる風紀委員長のバハムーンは「来ちゃ悪いか」とばかりにギルガメシュに視線を向ける。
……ただ、彼女の身長は極端に低いのでギルガメシュを見上げるようなカタチになっているのだが。
「そりゃお前が反省文を書き上げたか見に来たんだ。風紀委員長だからな」
バハムーンはギルガメシュの机を覗き込むと、山と積まれた原稿用紙の大半が白紙である事に気付いた。
「なんだ、全然書いてないじゃないか」
「そりゃ三〇〇枚も出されればな」
「昨日1晩何してたんだよ、お前は……」
バハムーンはため息をつくと、ギルガメシュの机にペンや書きかけの紙が放置されたままなのを見てため息をつく。
「そもそも、今回の一件。お前が原因なのに何でお前は反省してないんだ」
「失礼な、少しは反省してるさ」
「ほう? なら少しは書き進んでいるべきじゃないのか? 生徒会の副会長として」
「肩書きは関係ねぇだろ」
ギルガメシュの言葉に、バハムーンはため息をつく。
「いや、要は他の生徒の模範になれって奴だよ……って言っても、お前は他の誰よりも不良っぽいけどな」
「やかましい。ああ、ついでに聞きたい事があってな」
「何だ?」
「遺書ってどうやって書くんだ?」
バハムーンはこの時、一瞬だけ文字通り全身真っ白になってフリーズしかけた。
「……はぁ? 遺書ぉ?」
「知らねぇならいいか」
「ちょいと待ちなさいギルガメシュ。遺書なんて書いてどうするの」
「死ぬかも知れねぇからな」
「!?」
バハムーンは思わずギルガメシュの首をひっ掴むと、思いきり前後に揺さぶった。
「今すぐ説明しろ! 何があったギルガメシュ!?」
「落ち着け、少し説明させろ」
「だーかーらー、その説明を要求し―――――はぐぅっ!?」
「よーし、これで頭は冷えたか?」
興奮したまま収まらないバハムーンに強烈な拳骨を叩き込んだ事で黙らせると、ギルガメシュは息を吐いた。
「あいつの母親がディモレアだっつー事ぐらい知ってるよな?」
「……ん、まぁそれは噂に……てか、事実なのかそれ」
「ああ。で、だ。ディモレア相手に一戦やらかす事にする。前に散々学園を脅かしたんだ。それが生きてたとなりゃ、それなりに大きな問題だ。解るだろ?」
「あ、まぁ、な……そりゃ、先輩達が倒したって言って、あたしらが安心して学園生活送ってた訳だし……」
ディモレアが討伐されて、学園の空気は本当に明るくなったのだ。
「……この学校をこれからも守る為さ。仕方ねぇのさ。けどな」
「………ディモレアを、倒すのかギルガメシュ?」
「ああ」
ギルガメシュの手が、珍しく震えていた。
「だからだよ」
「バカかお前は」
バハムーンはギルガメシュの頭を軽く小突いた。
「そんなんだったら遺書なんか書くな。自分から死ぬ心配させてどーする」
「……………」
「お前はそんな奴じゃない。だったらこの部屋に延々と閉じ込めてやる」
「…………悪かった。そうだな。死ぬこと考えるなんざ、俺らしくもねぇ」
まったく。随分と困った奴だな、俺も。
ギルガメシュは小さく呟いて笑う。
「勝ってくる」
「ちょっと待て、今から行くのか!?」
「バカ。準備に色々とあるだけだ」
ギルガメシュは部屋の扉を開けると、バハムーンに視線を向けて言葉を続ける。
「んじゃ、またな」
扉が閉じる。
「………あ。反省文……」
バハムーンは追跡をしよう、と思ったが諦める事にした。今、そんな事を言うのは無粋というものだ。
「ギルが逃げた」
その日の夕食後、職員室を訪れたサラはマクスターからそう告げられた。
「え?」
「だから言っての通りなんだ」
「……あのバカ、ディモレア相手に一戦やらかすって言って部屋から逃げたらしい。停学中なのに」
マクスターに続けて近くの席に座っていたユーノが頭を抱えながらそう呟いたが、ギルガメシュの担任であるライナは案外すました顔をしていた。
「まぁ、彼なりに何か考えているのかも知れませんね。……感心は出来ませんけど」
「だからと言って部屋から逃げ出すとは……ああ、そうだ。あのディアボロスにも伝えないと。ちょいと出て来ます」
ユーノが職員室を出ていき、職員室に残った教員達も「しかし彼もこの時期に」「処分更に重くなるぞ」と議論を始める。
ギルガメシュは成績で見ればかなり優秀な部類に入るので、実際彼の将来を期待している教師は多い。
「………ギル」
サラの脳裏に過ったのは、セレスティアがディアボロスを刺した夜に見た殺意と憎悪に溢れたディモレアだった。
ギルガメシュが如何に強いとはいえ、あのディモレア相手に1人で、とサラがそこまでイメージした時だった。
「風紀委員長の話によると、奴は遺書の作成まで考えてたらしいぜ」
「!?」
「おい、サラ?」
サラは思わず真っ青になり、マクスターが慌てて駆け寄る。
「……サラ、大丈夫か? 部屋に戻った方が……」
「……う、うん」
けれども、どうしようとサラは思う。
ギルガメシュとディモレアが戦っても、例え勝ったとしても無事ではすまないだろう。そしてディモレアを母に持つあのディアボロスもきっと。傷つくに違いない。
でも、ここの所ずっと。
ギルガメシュは誰かが傷つく事を望んでいるかのような。
元々強さへと執着はあったけれど、それ程までに強さに執着するのに何が彼を動かしているのか。それが解らない。
「サラ、部屋に戻ろう」
マクスターに支えられ、サラは部屋に戻る事にした。
「ありがと……」
「ぐっすり眠ればいい。とにかく、明日までに何とかする」
マクスターが部屋を出ていき、サラは部屋のベッドに座る。その時だった。
「マックはもう帰ったか?」
ちょうど扉からは死角になるクローゼットの前に、ギルガメシュが立っていた。
「ギル!?」
「あんま大声出すな、バカ。夜だぞもう」
「〜!〜!〜!」
とにかく言葉にならない声で、サラはギルガメシュの体をポカポカと殴る。
「……ディモレアと戦うって」
「マジだ。けど、その前にお前に言わなきゃならねぇ事がある」
ギルガメシュはサラのすぐ横に座ると、視線を向けた。
「お前には悪い事してた。本当に、すまなかった」
「……へ?」
「………………鏡、見てみろ。お前凄い顔してるぞ。お前にそんな顔は似合わないけど、そんな顔にしちまったのは俺なんだからな。少しは責任取らねぇと」
サラが慌てて手鏡を見ると、確かに普段無いような自分の顔が映っていた。
そう、そこには歳相応の。
「……死ぬかも知れないってのは本当だ。幾ら俺でも、今回ばっかしはな」
「………なら、今すぐにでもやめれば」
「けどな。家出た時に、どこまでも強くなるって決めた。だから、決めちまったからには引けねぇ」
「………ギルって本当にガンコだよね」
人の気持ちも知らないで、とサラが続けようとした時、ギルガメシュは口を開いた。
「ああ。だから約束させてくれ。必ず俺はお前の所に戻る。だから、俺が戻ってくるまで、待っててくれ」
「…………」
「約束する」
ギルガメシュの言葉に、サラは思わず戸惑う。
今までギルガメシュがそんな風に搾り出すような声で話してきた事は無かった。
けど、中身は本当にしっかりして、ずっしりして、重すぎるほどだった。
「……本当に」
「本当だ。俺は死なない。絶対に勝ってこの場所に戻ってくる。だからその時は」
「もう一度、俺の事を好きになってくれるか?」
ギルガメシュの誓いに近い言葉に、サラは少しだけ笑う。
「その返事は、帰ってきた時に答えるよ」
「……了解」
ギルガメシュも笑った。
思い残す事は、これで無い。
後は戦って、勝つだけなのだ。
戦いへの、扉はゆっくりと開こうとしていた。
To be NEXT Episode…『ディモレアさん家の決戦事情』
はい、夏休み事情投下完了であります。8話に渡ってお付き合いありがとうございます。
……ギルガメシュの回想でどっかで聞いたような連中だなぁと思った皆様、それは間違いなく正解です。
一応、先輩にも男らしい所はあるのですよ。
>アトガキモドキの人
クラッズ&フェアリーは、なんかエロいことしてても、ほのぼのするなぁ。GJです。
>「ディモレア家」
いよいよ大詰めですね。ドキドキするなぁ。次章も期待しておりまする。
巧い人の直後は気が少々気がひけますが、明日丸一日PCに触れない環境ですので、僭越ながら私も投下させていただきます。
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『クロスティーニ学園せい春日記』
その6.おれたちにつばさはない
セーレスを加えて早2週間。ついに6人揃った俺たちのパーティは、意外なほど順調に、探索と冒険者としてのレベルアップを進めていた。
当初は、そのタカビー気味な性格ゆえに他のメンバーとの協調性が心配されたセーレスだったが、予想に反してそれなりにうまくパーティに溶け込んでいる。
……まぁ、あの口調と態度に関しては、俺達の方でジェラートという瓜二つな先達がいたため慣れてた、という部分がないでもないが。
それでも、元高位賢者のフェリアや元凄腕錬金術師のグノーにはそれなりに敬意を払って接してるみたいだし、同じ前衛に立って肩を並べて戦うルーフェスに関しても、戦友に対する信頼らしきものは抱いているようだ。
問題は、残りのふたり。俺とディアナだ……いや、正確にはディアナだけ、か。
予想外なことに俺に対しては、棘が抜けたとは言い難いもののそれなりに軽口やからかいの言葉は投げてきているからな。
ある意味、故郷の町での関係の再現と言ってもよいが、周りに取り巻きがいないぶん、かつてのような陰湿な状況は引き起こしていない。
──故郷で俺がハブにされた事態も、おそらくセーレスの本意ではなかったのだろう。町を離れて、俺もそれが理解できる程度には自分達を客観視できるようにはなっている。
ところが、ディアナに関してだけは、セーレスの奴、パーティとしての必要最小限以上に話しかけることをしないのだ。
いくら"友好の指輪"をしてるとはいえ、元々セレスティアとディアボロスが犬猿の仲なことは俺も百も承知だ。
無理もないといえば無理もないのだが、ディアナの方が何かと気を使って仲良くしようとしているのに、それをことごとく潰すようなセーレスの態度はあまりに不自然だった。
そもそもアイツは──かつてのアニキの一件があったせいか──それほどディアボロスを差別するような事は今までなかったのだが……。
「はぁ〜、どうしたモンかねー」
「おや、どうしたんだい、ヒューイ君?」
学食でひとり朝飯を食べながらたそがれていると、顔見知りの上級生が声をかけてきた。
「あ、ヒュウガ先輩、おはようさんっス」
ヒュウガ先輩は、同じヒューマン族の男で、つい先日ガンナーに転科するまではやはり普通科の学生だったので、俺もけっこう親しくしてもらってる。
もっとも、あちらの平均レベルは18(それも全員転科済みでだ)で、相応の修羅場を潜り抜けており、その中でも常に前線に立ってパーティを引っ張ってきたヒュウガ先輩には全然及ばないのが悔しいところだけど。
冒険者やパーティリーダーとしてだけではなく、ひとりの男としても、俺は、ちょっとヒュウガ先輩にコンプレックスを持ってる。
俺より頭半分高い身長とガッチリした体格。ルックスも美形というほどじゃなくてもそれなりに整っており、「お笑い系」といわれる俺とは大違いだ。
父子家庭で苦労して育ったらしいが、それでも気さくで面倒見がいい。
──なんつーか、幼いころアニキに憧れた俺が「なりたかった自分」を見せられているような気分になる。
新入生の俺のことを気にかけてくれるイイ人なだけに、少々後ろめたいのだが。
「珍しいね、君がひとりで学食に来てるなんて」
「え、そースかね?」
まぁ、確かに恋人同士になってからは、朝はディアナ(とグノー)の部屋で手料理を御馳走になる機会が多いのは事実だけど。
「それはむしろ先輩のほーじゃないスか?」
この人は同じパーティの前衛であるセレスティアの剣士と恋仲なのだ。レスティさんというのだが、彼女の場合、ある意味、"世間一般の人が抱くセレスティアのイメージ"に極めて近い女性だ。
すなわち、「清楚で、美しく、優しい」、まるで伝説の"天使"のような存在。
(元々セレスティア自体が"天使の末裔"と言われているワケだが)
ちなみに、セレスティアの実情を知ってる人間の場合、抱くイメージはむしろセーレスの方が近い。「タカビーでワガママ」というヤツだな。
そんな天使のごとき女性と半同棲(寮の同室の者同士が恋人になったので、半ば部屋を交換してるようなものらしい)していながら、それでも「ヒュウガなら仕方ない」と周囲に納得させているのだ、この人は。
いかに人望と手腕を兼ね備えた傑物かはわかるだろう。
「アハハ、いやぁ、実は後輩の子に料理を教えてほしいと頼まれたらしくてね、部屋を追い出されちゃったんだよ」
試食とかしたかったんだけどね、と屈託なく笑うヒュウガ先輩。
成程、そういうワケか。レスティ先輩は去年の文化祭の料理コンテストで準優勝した腕前らしいからなぁ。
「……で、どうしたんだい、何だか気落ちしてるみたいだったけど」
「ええ、ちょっとパーティ内の人間関係で悩みが」
パーティ内のルーフェスやフェリアにも相談したことはあるんだが、呆れたような、可哀想なものを見るような目で見られただけだったしなぁ。(え? グノー? そんな恐ろしいコト聞けるワケないだろ!)
この際だから、部外者の意見も参考にしようと、俺はここのところ頭を悩ませている問題──セーレスとディアナの不仲について、飯を食いながら相談してみた。
「うーん、確認するけど、君はそのディアナって娘と、この学園に来てから恋人になったんだよね? で、セーレスって娘とは幼馴染だ、と」
「ええ、そうです」
種族とか昔のしがらみとかブッ飛ばして要約すれば、そういうコトになるだろうな、ウン。
「ヒューイ君……それ、嫉妬だよ」
「は?」
聞き返す俺の顔は、さぞかしマヌケな表情をしていたことだろう。
「いやいやいや、そりゃありえませんって!」
あのタカビーセレスティアなアイツが、俺にそんな感情を抱くなんて……なぁ?
「嫉妬って、別に恋愛がらみだけで発生する感情じゃないよ? 同性の友人や、時には家族間でさえ、やきもちをやくってことは、多々あるんじゃないかな」
たとえば、弟が生まれることで両親の愛情を取られると思って拗ねる兄や姉の話とか、聞いたことないかい? と尋ねるヒュウガ先輩。
「まぁ、そういう話を耳にした覚えはありますけど……」
「あるいは……そうだな。君、寮で同室の子とは仲がいいかい?」
ええ、お互い恋人持ちとは言え、時には男同士でツルみたいこともありますし、そういう時は大概ヤツと一緒っスね。
「で、だ。その人が、君の知らない誰かと君を無視して盛り上がって騒いでいたら、ちょっと面白くないんじゃないかな?」
うーーーん、そう言われるとちょっと納得だ。
要するに、アイツは腐れ縁とは言え一番つきあいの長い幼馴染である自分を放り出して、俺が恋人とイチャイチャしてばかりいるのが腹立たしいわけだ。
で、その恋人であるディアナに八つ当たりしてる、と。
だから、その反面、俺に構われると妙に嬉しそうなんだな。
しかし……。
「でも、それって解決するのが難しそーっスね」
模範的な解答は、俺がディアナとラブラブしてる光景をなるべく見せず、かつ適度にアイツにかまってやるコトだろう。
あるいはパーティの"和"だけを考えればそれが一番なのかもしれないが、だからって恋人より友人を優先するのもなー。
「うん。だから、いずれにせよ当事者間で腹を割って話し合う必要があるかもしれないね」
それが最適解だとはわかっても、実行するには多大な勇気と根性が必要そうだ。
「悪いね、あまり助けになれなくて」
「いえいえ、問題の本質がわかっただけでも、大きな進歩っス。ありがとうございました」
などと俺が頭を下げてるところに、当事者のひとりであるディアナが誰かと一緒に学食へとやってきた。
「すみません、ヒュウガ先輩、せっかくの休日にお邪魔しちゃって……って、ヒューイさん?」
「ディアナちゃん? なんで……?」
「あらあら〜、ディアナちゃんお知り合いかしら?」
珍しくグノーさん以外の女性と一緒にいると思ったら、よりによってレスティ先輩? てことは、先輩に料理教えてもらってたのって……。
「ええっ、なんでご存知なんですか?」
「ん? ああ、ヒュウガ先輩とちょっと話してたから」
「はぅ〜、コッソリ練習して驚かせようと思ってたんですけど……」
念のため言っておくと、ディアナの料理の腕前は、世間一般の主婦並程度はあるんだぜ? それに愛情と言うスパイスが加われば無敵だし。
「うふふふ、素敵な彼氏さんじゃないですか〜」
ニコニコと目を細めたレスティ先輩は、いかにも微笑ましいという風に、俺とディアナを等分に見つめてくるので、さすがにちょっと照れくさい。
「えへ、ありがとうございます」
はにかみながらも、お礼を言う天然なディアナ。
うわ〜、このふたり、似たもの同士って言うか、グノーとは違った意味で種族の壁を越えて姉妹っぽく見えるな。
善人オーラと癒し系オーラが周囲に惜しげもなく振り撒かれていて、俺とヒュウガ先輩のみならず、朝の学食全体がほんわかした空気に包まれている。
ああ、ここにパーネ先生とかが加わったら、究極無敵なヒーリング空間が展開するかも……。
「うーん、パーネ先生、ね。優しそうに見えて案外あの人、シビアだよ?」
もっとも、ヒュウガ先輩は首をヒネっているけど。
* * *
今日はこのままディアナとふたりで過ごそうかとも思ったんだが、折角先輩にアドバイスをもらったんだし、セーレスとの問題解決に動いてみるか。
とにもかくにも、3人で膝を突き合わせて話をしようと、女子寮のセーレスの部屋行こうかと思ったんだが……。
「──さすがに、それはKY過ぎるので止めておくべきか、と」
アイツの部屋の手前でグノーに止められた。
「いや、まぁ、確かにスマートな方法じゃないのはわかってるけどさ。正直、俺としては、あとは真正面からぶつかるくらいしか思いつかないんだよ」
「やれやれ、お主にいらぬ知恵を入れたのは、ヒュウガ殿かえ? あの坊の言うことは確かに正論じゃが、故に聞く者の耳に痛い」
フェリアもいたのか。……知ってるさ。でも、だからこそ、正しい。
自分のことだろうと他人のことだろうと、俺なんかが目を逸らしちまう痛い部分も、あの人は真っ直ぐ見据えて言葉にしちまうからな。
「──その指摘された正しさの痛みを受け入れられるだけ、貴方も強い人間だということです。
ですが、世の中は"正しさ"だけで回っているわけではありませんし、痛みを受け入れられない人もいるのですよ?」
言われるまでもないさ。そもそも、その正しさだって立場が変われば絶対的なものじゃないだろうし。俺達冒険者のあいだでさえ、善・悪・中立って行動規範があるくらいだからな。
でも……俺は、少なくとも自分が肯定すべき正解から目を背けたくない。
それは、俺が知る限りではセーレスも……あの日、アニキの妹分だったアイツだって同じはずなんだ。
「人は変わるものじゃぞ?」
「根っこは変わらないって信じてる。
……ごめん、確かにパーティリーダーにあるまじき我儘言ってるよな、俺」
もし、この話し合いの末、気まずくなったら、せっかくうまくいきかけているパーティのバランスさえ崩してしまうかもしれないんだから。
でも、もし、仮にディアナが俺の恋人でなかったとしても、今みたいにアイツが無視しているのを見たら、やっぱり俺、動いてたと思う。
「そこまで覚悟しておるなら」
「──仕方ありません」
渋々ながら、グノーとフェリアが道を開けてくれたので、俺は扉を開けようとしたんだが……あろうことか、傍らのディアナが俺の肩に手をかけたのだ。
「ヒューイさん……」
「お、おいおい、この期に及んでディアナちゃんまで俺を、止める気か?」
「いえ、逆です。これは、きっとわたしがセーレスさんと解決するべき問題なんです」
そりゃ、当事者っちゃあこれ以上ない当事者だけどさ。
「ですから、わたし、ふたりでお話してみます!」
いいっ!? 俺抜きでってこと?
「はいっ」
いや、でも、大丈夫か? さすがに刃傷沙汰にはならんと思いたいけど……。
「ホホホ、さすがはディアノイアの娘、よぅわかっておるの」
「──ディアナがそう決めたのなら、私は喜んで道をあけましょう」
ヲイヲイ、なんか俺ン時と随分対応がちがくねぇ?
「いい歳した男がひがむでないわ」
「──お暇でしたら、このクエストを解決してきてください。ちょうどひとり用みたいですので」
「婿殿に回そうかと思ぅておったのじゃが、昨晩、ちと腰を痛めての。今日一日はベッドで安静じゃ」
そ、そーか。フェリアの「ハチマキ+タンクトップ+ブルマ」という格好が気になってはいたんだが、おおよそ何があったかは見当はついた……ま、お大事に。それとほどほどにな。
と言うわけで、せっかくの休日だと言うのに、いきなり手持ち無沙汰になってしまった俺は、グノーに言われた単独用クエストとやらをクリアーしとくことにした。
依頼主は隣のクラスのティラミスで、内容的には1時間もかからずに済む程度の簡単(というか脱力系)なものだったが、実はその中で考えさせられる部分もあった。
(ヒーロー、か)
人によって憧れる対象は様々だろうが、俺にとっての"ヒーロー"は、幼いころ出会ったアニキ──たった一週間だけ共に過ごした、あのディアボロスの冒険者だろう。
たぶん戦士とおぼしき彼が戦っているところを見たワケじゃないし、もしかしたら剣の実力は大したことがないのかもしれないが、それはどうでもよかった。
俺が憧れ、追いつきたいと真に願ったのは、その心の有り様なのだから。
あの時……セーレスの糞親父の手下に追い立てられて、アニキが満身創痍で町を去る時、俺は我慢できなくなって、こっそり町はずれから彼を追いかけたのだ。
泣きながら、"妹分"だったはずのセーレスが裏切ったかもしれないことを告げた俺に、アニキは黙ってゲンコツを落とした。
「馬鹿野郎! 確証もないことで、自分の友達(ダチ)を疑うんじゃねぇ!」
「で、でも……」
状況証拠は明らかにクロだ。そんなことは10歳にもならない俺でもわかる。それに、彼女も否定しなかった。
「オレは、セレを信じる。俺の"妹"が、理由もなく人を売るような真似をするヤツじゃないってな」
「じゃ、じゃあ……理由があったら?」
「ハッ!」
片方の瞼が腫れあがった顔でニカッと笑うと、アニキは俺の頭をグリグリ撫でた。
「だったら、仕方ねぇじゃねぇか。兄貴分を売るほどなんだ、よっぽどの理由があったんだろうさ。やっぱり怨む気はねーな」
その言葉を聞いたとき、俺は「ああ、この人には一生勝てねーな」と思ったね。
「いいか、ヒュー。いっぺん人を信じたら疑うな、そして裏切るな。信じるってことは、その相手の人生ごと信じて受け止めるってことなんだ」
「でも……ごめん、僕、いまのセレは信じられないよ」
アニキの言いたいことは何となくわかったけど、それでも素直に頷くことはできなかった。
「そっか。だったら……オレを信じろ」
「え?」
「オマエ自身がアイツを信じれなくても、オレのことは信じられるんだろう? アイツのことを信じてるこのオレを」
「あ……うんっ!」
(まったく、滅茶苦茶な理屈だよな……)
あの頃のアニキと同じ年ごろになった俺からしてみれば苦笑せざるを得ない屁理屈なんだけど、それでも一概に否定する気にはなれないんだよなぁ。
アニキのあの言葉があったからこそ、俺はねじ曲がらずにすんだんだと思う。
たとえ、それから丸3年アイツと会うことがなくとも、会った早々に大ゲンカするハメになっても、アイツに反論することで周囲から人がいなくなったとしても。
「アニキ、今頃、どーしてんのかなぁ……」
あれから6年……ってことは、たぶん20歳過ぎくらいか。
冒険者稼業に危険はつきものだけど、どういうワケか、アニキがくたばってるとは思えねーんだよな。
コッパじゃねーけど、今度会った時は、少しはアニキの助けになれるぐらい、いろんな意味で強くなりたいモンだ。
さてと。
それじゃあ、その"信じるべき幼馴染"との"お話合い"は、いったいどうなったんだろな。
* * *
<Girl's View>
「ところでディアナ。お主、セーレスの不機嫌の理由には、見当がついておるのかえ?」
ヒューイさんがブツブツ言いながらも、図書館の方に消えたのを見計らって、フェリアさんが、真面目な顔でわたしに問い掛けました。
「ええ、確信はありませんけど……」
わたしだって、まがりなりにも"女"です。
(ヒューイさんのせいで「乙女です」とは言い切れなくなっちゃいましたけど♪)
まして、傍目(ヒュウガ&レスティ先輩)から見ても明らかにそうとわかるとあっては、決してわたしの気のせいということもないのでしょうから。
「──確かにヒューイさんが言うとおり、本来は貴方がた3人で話すのが筋なのでしょうが、彼の隣りに貴女がいる限り、彼女は決して本音を見せないでしょう」
その点で、彼に席を外させたのは、ナイスですディアナ……と、グノーは褒めてくれます。
「問題は、それをいかにしてあの嬢の口から吐露させるかじゃの」
え? いえ、それもそうですけど、そのあとが問題なのでは……。
「なに、ああいうタイプのおなごはの、いっぺん公に認めてしまえば案外カラッと吹っ切れるものよ」
「──もっとも、逆方向に吹っ切れる可能もありますので、ディアナもうかうかしてられないかもしれませんが」
え? え!?
「さて、それでは、ツンデレ娘のブッチャケ本音トークショウ、強制開幕といくかの」
「──自白剤、催眠香から各種アルコール類まで、とり揃えていますから、3時間もあれば、ゲロさせるのは楽勝でしょう」
ビッ!
ちょっと! 妙にイイ笑顔でサムズアップなんかしてますけど、待ってくださいぃ!
「せ、セーレスさんとは、まずわたしがお話します!!
それで、必ず彼女の真意を聞きだしてみせますから」
このままふたりの"姉"に任せておいては、どうなるかわからない。
そういう危惧に襲われたわたしは、慌ててセーレスさんの部屋のドアをノックしたのでした。
* * *
<Another View>
「やれやれ、若いというのは難儀なコトじゃの」
セーレスの部屋に招き入れられるディアナの姿を通路の曲がり角から見送りながら、フェリアがつぶやいた。
「──その台詞が出た時点で、自分は若くないと認めるようなモノですが」
グノーの冷静なツッコミにも、なぜかフェリアは力ない笑みを返した。
「認めとぅはないが、事実は事実じゃからな。あのように真っ直ぐな瞳で毎日を全力投球する真似なぞ、ワシにはもうできぬよ」
かつて、グノーが冒険者を始めたころと、ほとんど変わらぬ幼さを残した美貌に、隠しきれない疲労がにじんでいた。
「──もしかして、フェリア、貴女……」
「おっと、その先は、ヒューイ達には秘密じゃぞ?」
「──ルーフェスと連日ヤり過ぎて疲れが溜まっているのでは?」
スッテーン!
常時宙に浮いているはずのフェアリーがズッコケるという、世にも珍しい光景をグノーは目にすることとなった。
「きさまぁ! 言うにコト欠いて、ワシがド淫乱雌豚フェアリーじゃと!?」
「──いや、そこまで言ってませんから」
お約束どおり裏拳でツッコミを入れてから、溜息をつくグノー。
「……いいじゃないですか。ニンフォマニアでも魔性の妖精(おんな)でも。一児がいる身で、その子と同年代の若いツバメ囲って、ラブラブいちゃいちゃ好き放題されてるんですから」
うらめしや〜と言いたげな目つきで下から見上げられて流石のフェリアも、落ち着かない気分になる。
「な、何と言うか、お主、昔と随分性格が変わったの。しれっとした顔で毒を吐くのは変わらんが、以前はもう少し超然としとったように思うが……」
「──思春期の女の子のお姉ちゃん代わりを5年もやってれば、自然と情緒も発達します。それに、この擬体(からだ)に変えてから、生身の欲求をほぼダイレクトに感じるようになりましたので」
どうやら以前、ヒューイに告げたことは嘘ではなかったらしい。
「ほほぅ! それはまた、精度の高い擬体じゃな」
元賢者として、ノーム族が使う擬体の構造についてもある程度知識を持つフェリアは感嘆の言葉を漏らす。
なにせノーム族のごく平均的な擬体の場合、少し前までは、飲食はおろか顔の表情すらロクに変えられない簡素な構造のものも珍しくなかったのだ。
……まぁ、さすがに最近では、そこまで簡略化されたものは稀で、他種族との付き合いも考慮して飲み食いくらいはできるのが大半だが。
とは言え、視・聴・触覚に加えて、嗅覚と味覚、さらに飲食物の消化や生殖行為(性感含む)まで可能としたグノーのボディクラスのものは、かなり希少だ。
「──ですが、その代償に今までほとんど知らなかった欲望も持つようになりました」
考えれば当たり前の話だ。
食べることを知れば食欲が生じる。
セックスを知れば、時には男が欲しいとも思うであろう。
「なるほど。難儀な話じゃない」
「──ええ。もっとも、それが"生きる"ということかとも思いますが」
その意味では、私たちのノーム族の大半が生きてないのかもしれませんね、と呟くグノーだった。
* * *
お昼を少し回った時間帯、初めの森から帰った俺がおそるおそるセーレスの部屋のドアの前に立つと、意外なことに楽しそうな女の子たちの笑い声が聞こえてきた。
もしかして同室の娘とおしゃべりでもしてるのかと思ったが、漏れ聞こえてくるのは確かにセーレスとディアナの声だ。
(畜生、やっぱアノ時の声とか、周囲にまる聞こえだなぁ、コリャ……)
以前から気になっていた学生寮の壁の防音性について、こんなところで確証を得つつ、俺はドアをノックした。
「どなたかしら?」
「あー、俺俺」
「その手の詐欺行為はお断りしているのですが」
「……わかってて言ってんだろ? ヒューイだよ」
「ふふん。まぁ、入れて差し上げてもよくってよ…………ってちょっとお待ちなさい!」
いかにも高慢に許可を出した後、一拍おいて慌てたような声で制止するセーレスだったが、生憎、その声が聞こえた時にはすでに俺はドアを開けて室内に足を踏み入れていた。
──目の前に、3人のメイドさんが立っていた。
ひとりは、青メイド。胸元の大きく開いた青い半袖ワンピースに、はたしてエプロンの役目を果たしているのか疑問なほどフリルの過剰な白いエプロン。スカートは超ミニで、ちょっと動くだけで中身が見えそうだ。
太腿の半ばまである白のサイハイソックスを履いているとは言ええ、扇情度がハンパでない。肝心の着用者は、我が愛しのディアナたん。うむうむ、花マルをあげやう。
ひとりは緑メイド。ディアナとは対照的にオーソドックスなロング丈&長袖の濃緑色のエプロンドレス。胸元の赤いリボンなどは多少派手めだが、このまま大金持ちの邸宅に紛れ込んでいても違和感なさそうだ。
しずしずと静謐なたたずまいを見せているのはグノー。ニヤリと微笑むところを見ると……そうか、アンタが首謀者だな? グッジョブ!
そして最後ひとりが黒メイド。こちらも長袖ワンピなんだけど、なんつーか、ディアナの着てるの以上にフリフリなレースの装飾が多い。しかもスカートの短さは、どっこいだ。
着用者はもちろん、この部屋の主セーレスその人だ。
「お、お待ちなさいって言ったでしょう?」
「や、悪い。それ聞いた時には、もうドア開けてたし」
そう言いながら、3人の格好を順繰りに眺める。
「どうですか、ヒューイさん♪」
銀色のトレイを胸元で抱きしめるように持ったディアナが上目遣いに聞いてくる。
「無論、似合ってるさ、可愛いですとも!」
ああ、このまま部屋までお持ち帰りしたいなぁ。
「──おや、その賛辞はディアナに対してだけですか?」
いえいえ、貴女も大変お似合いですよ、グノーさん。そのまま"いけないメイドにお仕置きするご主人様ごっこ"をしたくなるほどに。
「──流石、ヒューイさん。私の期待を裏切らない漢前なご意見ですね。では、彼女はどうでしょう?」
どうって……セーレス、ですか?
「な、何か文句ありますの?」
んーーー、いや、馬子にも衣裳っつーか、よく似合ってるし可愛いと思うぞ、意外だが。
「ふ、フン! 当然ですわね。このわたくしが、わざわざこのような格好を……って、どこ見てますの?」
しっかし……それなりに胸元が開いてるにも関わらず、谷間がまったく見えんとは……不憫な。
「おっ、大きなお世話ですわ!」
真っ赤になって胸元を押えて後退するセーレスを見て、不覚にも萌えちまったのは、ここだけの内緒だぜ?
「そ、それにそう思うんなら……(貴方が大きくしてくださっても)」
ん? 何か言ったか?
「なんでもありません!」
それから俺は昼飯に、3人のなんちゃってメイドさんの作った手料理を、3人の給仕付きで食べるハメになったワケだ。
何が何だか、よくわからんが、ディテアとセーレスが仲良くなってるみたいだから、結果オーライ……なのかなぁ?
「いいですか? 今日のところは、ディアナさんに免じて手加減してさしあげましたけど、明日からは、これまで以上に積極的に攻めていきますわよ!」
「お、おぅ、気合入ってんな、セレ」
新入生のあいだじゃ、俺達のパーティは結構進んでる方なんだけどなー。
「! い、今、"セレ"って呼ばれましたか?」
「あ、わりぃ。子供のころのクセがつい出た」
「……いいえいいえ、貴方にならそう呼ばれても構いません。いえ、貴方には、そう呼んでほしいのです」
「おぅ。じゃあ、俺のことも昔みたく"ヒュー"でいいぜ」
「はい…はい……」
な、なんか感涙にむせんでいるみてーだけど……そうか。12歳の時、再会してから壁が出来て寂しかったのは、俺だけじゃなかったってことか。
ハハ……アニキ、やっぱアンタはすげーよ。"妹分"の気持ちなんて、アンタちゃんとお見通しだったんだな。
「よかったですね」と優しくセーレスを抱きしめるディアナと、彼女の腕の中で涙を流すセーレスを見てると、明日からの冒険は、これまで以上にはかどりそうな気がしてくる俺だった。
「──おそるべし、鈍感王。いえ、ここは「こ、これが天然ジゴロの力かぁ!」と呻くべきでしょうか」
−とりあえずFIN−
以上。ひとまずの第一部(完)です。もっとも、多くの連載漫画同様、二部の予定は未定ですが、少なくともセレ視点での女の子同士の密談風景は番外編として書きます。
アニキの台詞は某アニメと似て非なるもの。かつて"祝福"だったそれは、いずれ(2部があれば)ヒューイにとって乗り越えるべき"枷"となることでしょう。
私的脳内設定としては、この話で出てきたヒュウガ先輩達のパーティが「2」の某先生を倒す予定(現在レベル25)。ヒュウガのイメージは人間男ガンナーの目元を優しくした感じ。レスティは、セレスティア女剣士まんまです。
ヒューイたちのパーティっとて、実はウチでは二軍だったり。もっとも、メインストーリーにからむ以外の細かいクエストは、ほぼヒューイたちに解決してもらってます。何と言うか、町の便利屋さん?
この世界、ひと握りの英雄以外にも腕利きやベテランは数多くいるし、また必要とされると思うのです。
さて、長々と駄文にお付き合いいただき、時には支援と乙もいただき、誠にありがとうございました。もしかしたら続編番外編などをご披露できるかもしれませんが、その節はよろしくお願いいたします。
139 :
130:2009/07/31(金) 00:27:12 ID:13iA5QF5
>アトガキモドキ様
すんません、訂正。
「クラッズ&フェアリー」じゃなくて「クラッズ&エルフ」だった……。
脳内イメージ修正。びみょーに背徳的でエロいかも。
もうどうにでもなぁれ
乙です
変な捨て台詞残すからアニキの死亡がほぼ確定してしまう
あからさな死亡フラグ立てて新しく出来た弟分にスキルを継承させ真っ白に燃え尽きたに違いない
142 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 08:40:11 ID:pQzxTegS
>>129 GJ。よかった、続いて・・・
しかし、ディモレアにもギルガメシュにも負けて欲しくないんだよな。
負ければロスト確定の勝負、どっちも消えて欲しくない。
とにかく、次章楽しみにしてます。
>>138 乙です。
なんか頭の中でディアナ×ヒューイ×セーレスの3Pが浮かんだのは内緒。
143 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 02:53:38 ID:KfWLnDjI
剣と魔法とACE COMBATがなかなか進まないので暇つぶしに作って見た。
元ネタはZEROの梟へのインタビューと、自分のパーティを襲った悲劇です。
語っているのはうちのパーティのバハムーンです。
宝箱を開ける前から妙な気がしてたんだ。
何てこずってんだ、たった一つ相手にってな。
まぁ、混乱も今だけ、もう終わってんだろうと思った。
レンジャーってのはみんな罠外しのプロなんだ。
でもあれを見て冗談かと思ったぜ。
思わずサーチルの失敗を疑ったくらいだ。
罠がまだ残ってやがる。
何度サーチルをかけても同じ反応だ。
ああ、こりゃ現実だってな。
迷宮ではたまにそんな事が起こる。
異常事態ってやつだ。
俺は目を凝らして状況を確認した。
地形、宝箱の外見―
罠の種類、危険度、残りMP。
いけると踏んだ。
だが予想を越えてた。
こっちの目に狂いは無かったんだがな。
しまった!罠はメデューサの瞳だった!
全滅しました
教訓その1
アンロックは覚えよう。
教訓その2
レンジャーに過信しちゃいけない。
教訓その3
セーブはこまめに……ね
144 :
学園日記の人:2009/08/04(火) 02:14:06 ID:tiurEwXz
>142
3Pかぁ……じつは、それに一番抵抗示すのがヒューイ本人だったり。
(女の子たちはいろんな意味で覚悟を決めてるので)
>143
自分もMH3のおかげでSS書く気力と時間がゴリゴリ削られてます。
レンジャーはそれほど致命的なミスはしてないんですが、第一パーティでガンナーと風水師に転科させた直後に罠引きまくったのがトラウマです。
そりゃ、罠解除能力劣るとは書いてあるけどさぁ。
番外の「女の子どうしのナイショ話」について、もし待っててくださる方がいるのなら、もうしばらくお待ちください。
むしろ、先にフェリア×ルーフェスのデート&H話を書くかもしれません。
二周目データをメインに上書き。すごいやっちゃった感。また柿まで戻したけど……さらば妖刀。
ようやくメインパーティのお話。今回は削っても60kb超になってしまったので、二回に分けて投下します。
それでは、楽しんでいただければ幸いです。
ドワーフがアイドル学科に転科をし、ある程度の実力をつけたところで、一行は再び図書館に出される依頼をこなし始めた。
だが、一行の間の空気は、以前とはどこか異なっている。
ヴェーゼレポート3の受領を終えて職員室を出ると、ヒューマンが口を開いた。
「なあ。どうせだから、今出てる依頼、できるだけ受けちまわねえか?行き先が被ることもあるだろうしさ」
「そうじゃね〜。ここは、あんたの意見に従っておくのもいいかもね」
いつからか、クラッズはヒューマンのことを『あんた』と呼ぶようになっている。些細な違いではあるのだが、『ヒュマ君』から
『あんた』への変化は、聞き様によってはかなりの変化とも取れる。
「私も、クラッズちゃんと同じかな」
ドワーフは、ヒューマンと直接言葉を交わそうとしない。必ず間にクラッズが挟まり、ここしばらく、彼女がヒューマンと話している
姿を見た者はいない。
表面上は、相変わらず仲がいい。だが、それらの変化に気を配ると、水面下で何が起こっているかは一目瞭然である。
普通なら、こんな状況は周りにいてもいたたまれないだろう。だが、彼等の事情を知るノームに、マイペースを貫くフェルパーに、
究極の癒し空間、フェルパーの隣が指定席のディアボロスという面子のおかげで、パーティの空気はそれ以上悪くなっていない。
というよりは、フェルパーとディアボロスは二人の世界に浸っており、ノームはその状況を心から楽しんでいるため、三人はある意味で
放っておかれているとも言える。
「しかし、一度にあまり多く受けることもないだろう。面倒だし、適当に頑張れるぐらいがいいな」
「ディアボロス……会ったばっかりの頃のお前はどこへ行った…」
「とはいえ、多く受けすぎないって言うのは、僕も賛成だな。僕等だけで依頼を全部終わらせちゃ、他の人の迷惑になる可能性もある」
「うーん、それもそうか……じゃ、あと一つぐらいにしとくか」
ヒューマンはちらりとドワーフを見た。一瞬迷い、口を開く。
「あの……ドワ…」
「ねえドワちゃん。ドワちゃんは受けるならどんな依頼がいい?」
ヒューマンの言葉を遮り、クラッズがドワーフに尋ねる。ドワーフは二人を困ったように見つめ、やがてクラッズの方へ視線を向ける。
「んっと……ジョルジオ先生の、受けてみようか?」
「うわ、ジョルジオ先生か……でも、悪い先生じゃないもんね〜」
ヒューマンは二人を見つめ、重い溜め息をついた。
最近は、いつもこうである。ヒューマンがドワーフに話しかけようとすれば、必ずクラッズの妨害が入る。そんなクラッズの態度に、
ドワーフも気兼ねしてしまうのか、彼女がヒューマンに話しかけることもない。一人のときを狙おうにも、二人はいつも一緒にいる。
これでは、ただ話すことはおろか、以前のことを謝ることすら出来ない。クラッズに対して怒りが湧かないわけではないが、
元はといえば自分が悪いという負い目もあり、もはやヒューマンとしては打つ手なしの状態に追い込まれつつある。
ともかくも、次の目的地が決まり、一行は実験室へと向かった。だが、ジョルジオ先生の姿が見えない。どこへ行ったのかと
訝しんだ瞬間、不意に部屋の照明が消えた。
「んふ、若い肌っていいわぁ〜……いっただっきま〜す」
彼等は力の限り暴れた。手当たり次第に物を投げた。
部屋の照明が戻ったとき、実験室は惨憺たる有様であった。ヒューマンは弾切れを起こした銃の引き金をまだガチガチと引いており、
ディアボロスは息の続く限りブレスを吐いたおかげで、周囲のものは炭と化している。ドワーフは床にへたり込んで子供のように
泣きじゃくっており、その隣ではクラッズが殺しも辞さないという顔で魔法壁を張り、手近にあったフラスコをいくつも持っている。
ノームのみ、まったくのいつも通りであり、フェルパーは行方不明になっている。
「いった〜い!もう!冗談なんだから!そんなに激しくしないでよ〜」
「先生。僕だけならともかく、慣れていない人には冗談がきついですよ」
「嘘だ……嘘だ……絶対本気だっただろ…!」
「ほ、ほんとよ!生徒に手を出したりしないんだから!……でも……ちょっとぐらい…」
危機が去ったと見たのか、フェルパーがディアボロスの近くにある机の下から這い出してきた。他の仲間もそれぞれに、落ち着きを
取り戻し始めている。
「……ノーム、細かい話聞くのは任せるわ……俺、もうここ出る…」
その場をノームに任せ、五人は疲れ切った足取りで実験室を後にした。
「はぁ……ドワ…」
「ドワちゃん、大丈夫?少し休んでく?」
またしても言葉を遮られ、ヒューマンはただでさえ疲れた体が、さらに重くなるのを感じた。ただ、クラッズを見ると本気で心配そうな
顔をしており、ヒューマンのことなど見てもいないため、今のはただの偶然らしい。とはいえ、言葉を遮られたという事実は変わらず、
今のヒューマンにはそれすら、偶然を装った行動にしか見えない。
徐々に溜まっていく疲労とストレスは、冒険にも影響を与え始めていた。
モンスターを倒し、持っていた宝箱を調べるヒューマン。以前ほどではないが、やはり盗賊技能を習っている彼は、宝箱の調査と開錠を
任されている。
「……悪魔の呪いか」
「なかなかスリリングな罠だね。気をつけてくれよ」
「わかってるって。けど、こんな罠ぐらい、簡単に外せ…」
直後、宝箱からボフッと煙が舞い上がり、今までヒューマンのいた場所には灰の山が落ちていた。
「うわわわ!?ヒュマ君ー!?」
「きゃー!!ヒューマン君が灰になっちゃったよぉ!!」
「と、とにかく一度戻るぞ!探索は中止だ!」
大慌ての女性陣に比べ、男性陣は呆れたように元ヒューマンを見つめている。
「簡単って言ってたのに…」
「……こいつ、面白いな」
結局、彼を生き返らせるために中継地点へと戻り、その日はそこで一泊することとなった。
幸い、ヒューマンも無事に生き返り、今は全員で揃って、宿の大浴場に来ている。
「あ〜……凹むぜ、畜生……失敗するなんてなぁ…」
「疲れてるんじゃないのかい。無理もない話ではあるけど」
体をゴシゴシと擦りつつ、ヒューマンはひたすらぼやいており、ノームは湯船の縁に腰かけている。フェルパーは二股の尻尾を
気持ちよさそうにくねらせつつ、湯船に浸かっている。
「……あまり、大きな声で話したくねえな…」
「それは失礼」
隣の女湯とは、二メートルほどの壁で仕切られているだけである。当然、向こう側の声もこちらにはよく聞こえる。
「ディアちゃん、石鹸で直接洗う派なんじゃねー」
「ああ。泡立てたのを体につけても、石鹸で洗ったという気がしないからな」
「にしても、やっぱ胸大きいなー。戦士でその胸は反則でしょ」
「べ、別に、好きで大きくしたわけじゃ…」
「ドワちゃんも何気に大きいし、羨ましいのぅ〜」
「あ、あんまりそういうこと言わないでよぉ……恥ずかしい…」
そんな会話が聞こえ、ノームがポツリと呟いた。
「今すぐそこの壁を飛び越えたい衝動に駆られるね、男として」
「ついてねえお前が言う台詞か」
「心の中にはついてるさ」
「意味ねえ……あっと!」
ヒューマンの手から石鹸が滑り、それは拾う間もなく、排水溝に流れて行ってしまった。
「やっべ、流しちまった……ノーム、石鹸持ってねえ?」
「僕はないな。フェルパー、君はどうだい」
「…………ん?あ、ごめんね、石鹸は臭い嫌いだから、持ってきてないんだ」
「誰も持ってねえのか……まあしょうがね…」
その時、湯船からフェルパーが立ち上がり、タオルを腰に巻いた。
直後、彼は勢いよく湯船から飛び上がり、仕切りの壁に手をかけると、
そこから身を乗り出した。
「石鹸貸してー」
一瞬、静寂があり、直後凄まじい悲鳴が響いた。
「きゃあああぁぁっ!!!」
「ばかぁ!!へんたいー!!」
さらにいくつかの悲鳴が上がり、やがてガンッと鈍い音と共に、彼の頭にタライがぶつけられた。さすがにフェルパーは手を放し、
涙目になって額を押さえている。
「痛ぁい…」
「ば、馬鹿かお前は!?あんなことしたら当たり前だろ!!」
「……お、ヒューマン。貸してもらえたぞ、石鹸」
見ると、フェルパーにぶつけられたタライの中には、まだほとんど使われていない石鹸が入っていた。
「あ、ほんとだ。まさかほんとに貸してもらえるとは…」
「ディアボロス、ありがとねー」
「それはお前らにやるから、二度と覗くな、馬鹿!!」
「はぁい」
「悪い、ありがとな」
ヒューマンはもらった石鹸で再び体を洗い始め、ノームはフェルパーにヒールを唱えてから、ヒューマンの背後に歩み寄った。
「……どうだい、その後のシナリオは」
小さな声で囁くと、ヒューマンの手が止まった。
「……どうにもできねえ気がしてきたよ、ほんと……もう、手遅れだよ…」
「らしくないな。それに、悪いのは君だ。それぐらい仕方ないだろう」
「きついな、お前……でも、それが事実だからな……くそ…」
ヒューマンはがっくりとうなだれた。相当に追い詰められてきていることは、誰の目にも明らかである。
「女の子の嫌がらせって、ほんと怖いよ……いっそ、さっきのでロストすりゃよかったって思うくらいだ…」
「ああ。あのクラッズはうまいね。一気に切るより、じわじわと少しずつ刻んでいく。そうすることによって、傷の治りは遅くなり、
やがて腐る。それは心も体も一緒さ。彼女は、種族の中じゃトップの秀才らしいし、色々知恵が回るんだろう」
うなだれたヒューマンの肩を叩き、ノームはタオルで彼の背中を擦り始めた。
「おい、何を…」
「疲れてるんだろう。僕に出来るのは、これぐらいしかないからね」
「お前は、観客じゃなかったのか?」
「ああ、観客さ。でも、君の友人でもある。シナリオには口を出さないけど、疲れた君を放っておくほど、薄情でもないさ」
「……お前は時々、わかんねえ奴だよな…」
「すぐに底が知れるほど、浅い奴じゃないってね」
ヒューマンは背中に彼を感じながら、不思議と心が安らぐのを感じた。考えてみれば、彼はいつも一緒にいたのだ。入学以来、ずっと
自分について来てくれている友人に、ヒューマンは初めて感謝の念を感じた。
「背中は僕がやるから、君は顔でも洗えばどうだい」
「ん、ああ、そうだな」
久々に安らいだ気持ちになったところで、手に持った石鹸を泡立て、それを顔につける。すると、それを見計らったように、
ノームの声がいつもの大きさに戻った。
「ところでヒューマン。君が今顔を洗ってる石鹸、確かディアボロスからもらったものだったね」
その時、確かに空気が凍った。
「確か、ディアボロスは直接つける派だって言ってたよね。それで顔を洗うってことは…」
「お、お前らああぁぁ!!!返せ!!すぐにその石鹸を返せ!!!ああいや、やっぱり返さなくていい!!焼いてやるー!!」
「ちょ、ちょっ!!ディアちゃん、落ち着いて!!そこ登ったら見えちゃうでしょ!!」
「てめえノーム!!!わかってて勧めたな!?初めからこうするつもりだったなてめええぇぇ!!!」
「さあ、何のことだかね」
そらとぼけるノーム。だが、その顔には口元だけの笑みが浮かんでいた。
「ダメだよぉー!こんなところで暴れたら、大変なことになっちゃうよー!」
「私が今、大変なことになってるんだぁ!!くそー、お前等放せぇ!!」
「ディアボロス、ダメだよぉ。少し落ち着こうよー」
おっとりした声で、フェルパーがディアボロスを宥める。ただし、再び身を乗り出し、ディアボロスの目を真っ直ぐに見つめながら。
「きゃあああぁぁぁ!!!!」
「やぁーん!!もうやだぁ!!」
「フェルパー、貴様ぁ!!」
「え、なんで僕が怒られ……痛い痛い、引っ張らないで。落ちるから、そっちに落ちちゃ……わっ!」
「いやあああぁぁぁぁ!!!!!」
「おい……ノーム、大惨事だぞ…」
「いや、さすがにあれは僕も予想してないハプニングだ。とりあえず、逃げるか」
かくして、ノームのせいで浴場は大変な修羅場と化し、その後延々と、浴場には女性陣とフェルパーの悲鳴が響いていた。
フェルパーを瀕死に追い込んでから、女性陣はようやく落ち着きを取り戻した。ディアボロスは我に返ると、彼に大変なことを
してしまったと、今にも泣きそうな顔でフェルパーを部屋に連れて行った。それを見届けてから、ドワーフとクラッズも部屋に帰る。
「あーもう、散々じゃったね。お風呂ぐらいゆっくり入りたいのに」
「ディアボロスちゃんって、ちょっと抜けてるところあるよね。前はもっとしっかりしてたのに」
「フェル君と一緒にいるようになって、のんびり屋さんが移っちゃったんじゃね」
クラッズは既に、髪も大体乾いており、椅子に座って寛いでいる。ドワーフはまだ少し体毛が湿っているらしく、全身を念入りに
タオルで拭いている。
「ま、水は低い方に流れるって言うしね」
「でも、今のディアボロスちゃんの方が、私は好きだなー。前はちょっと怖かったし、近寄りにくかったもん」
その言葉を聞くと、クラッズはニマーッと笑い、ドワーフの隣に座った。
「じゃ、あたしは?」
「え?」
「今のあたしは、好き?」
「そ、それは、えっと…」
ドワーフが言葉に詰まったのを見計らい、クラッズは彼女の頬を優しく撫でた。
「あたしは、ドワちゃんが大好き。前も、今も、これからも」
別に、強制されたわけではない。また、そうしなければいけないわけでもない。だが、彼女の一言で、ドワーフの言うべき言葉は
一つに絞られた。
「……私も……好き」
「ふふっ、嬉しいな!」
「あっ…!」
本当に嬉しそうに言うと、クラッズはドワーフを押し倒した。
「ま、またするのぉ…?」
「うん、したいな」
「体、洗ったばっかりなのにぃ…」
「もっかいお風呂入ればいいじゃない。そしたら、今度は二人だけじゃし、ゆっくり入れるよ」
言いながら、クラッズが顔を寄せる。それに、ドワーフは目を閉じて応える。
最初こそ、抵抗もあった。だが、体を重ねるたび、その抵抗が消えていく。それに対して、慣れていく自分への嫌悪感を覚えもした。
しかしそれすら、今では消えつつある。
体を重ねることに対する抵抗、自分への嫌悪感、ヒューマンへの気持ち。彼女を繋ぎ止めるものが、一つ一つ消えていく。
手遅れだと思っているのは、ヒューマンだけではなかった。行為に慣れ、自分に慣れ、愛する者はクラッズだと自分に言い聞かせ、
ドワーフは半ば自棄になって、ヒューマンを忘れようとし始めていた。
そんなドワーフを腕に抱きつつ、クラッズは笑う。ドワーフが自分だけのものになろうとしていることは、彼女にはよくわかっていた。
ヒューマンも、ドワーフも、既に相手を諦めつつある。もう、あと一押しするだけで、彼女は自分のものになる。
―――ドワちゃん、もうちょっと待ってね…。
そして、彼女が自分のものになったその時こそ、彼女を本当に幸せにしてやろうと、クラッズはほのかに痛む胸の奥で、そう思っていた。
その頃、ヒューマンは決心を固め、ドワーフとクラッズの部屋に向かっていた。今日こそは、クラッズが何と言おうと、ドワーフに
あの時のことを謝ろうと、固く決意していた。
重くなりかける足を何とか動かし、一歩一歩、彼女達の部屋へと近づいていく。そして、いよいよ部屋の前に立ち、ドアをノックしようと
手を上げた瞬間、中から声が響いてきた。
「やぁん…!クラッズちゃん、そんなとこ……はうぅ…!そんなとこ、舐めちゃ、ダメぇ…!」
「ここ、気持ちいいでしょ?ほら、もうちょっと足開いて」
「やあ、ぁ…!ダメだよぉ…!汚れちゃう……あんっ!」
「ふふっ、ドワちゃんの、おいしいよ。もっと奥まで、してあげる」
気持ちが急速に萎え、固い決意があっさりと崩れていく。ヒューマンはそのまま手を下ろし、とぼとぼと自分の部屋へと戻った。
「ん、ずいぶん早いじゃないか。また逃げたのかい」
「………」
ノームの言葉にも、もはや答える気力はなかった。その様子に、ノームも少し心配そうに彼を見つめる。
「……顔色、悪いぞ。何があったんだい」
「……もう、無理だ……ダメだ、もう……ドワーフも、もうあいつと、さ……あぁ、くそ…」
力なく呟くと、ヒューマンはベッドに倒れこんだ。それを見て、ノームは大体何があったのかを察した。
「バッドタイミングだったみたいだね。ひと段落ついたら、また行けばいいじゃないか」
「一回ヤり終わったらってか。はぁ……ドワーフも、あんま嫌がってなかったしな……もう、手遅れだ…」
「そうか、思ったよりずっと早いな。でも、君は本当にそれでいいのかい」
ノームの問いに、ヒューマンはどんよりとした目を向けた。
「……あいつに近づかねえ方が……きっと、お互い幸せさ…」
疲れ切った声で言い、ヒューマンは目を瞑った。やがて、彼がそのまま寝息を立て始めると、ノームはぽつりと呟いた。
「クラッズの方が、一枚上手だったか。でも、今諦めたら、それこそ彼女が勝つんだけどな」
いつものように、口元だけに浮かぶ笑み。その顔は、佳境に差し掛かった劇を見る観客の顔に、よく似ていた。
関係が何一つ変わらぬまま、月日だけが過ぎていく。あれから一ヶ月が経ち、一行はブルスケッタ学院に来ていた。
ヒューマンはここ最近、半ば現実逃避気味に、フェルパーやディアボロスと遊んでいることが多い。クラッズやドワーフとでは
遊べるわけもなく、ノームは事情を知っていて、しかもそれを楽しんでいるため、ヒューマンとしては一緒にいるのが辛いのだ。
「別に、私のところに来るのは構わんがな」
ディアボロスはベッドの縁に座り、フェルパーの耳を撫でながら口を開く。
「最近は、クラッズとドワーフと、仲が悪いのか?ほとんど喋ってないじゃないか」
「ゴロゴロゴロ、グルグルグル…」
フェルパーはディアボロスの太腿を枕にしつつ、気持ちよさそうに目を閉じ、喉を鳴らしている。尻尾も実に気持ちよさそうに、
パタタン、パタタンとゆっくりベッドを叩いている。
「まあ、な……ちっと、色々な…」
「ふむ。まあ、詳しく聞きはしないが、意外だな。お前達はかなり仲がいいと思っていたんだが」
「悪くはなかったよ。でも、仲が悪くなるのなんて、一瞬だよ…」
「ゴロゴロゴロ、グルグルグル」
「なるほど。それも言えるだろうが、だが、あれだけ仲の良かったお前達だ。仲直りすることだって、できるんじゃないのか」
「ゴロゴロゴロ……うなぁ〜……グルグルグル…」
「俺も、最初はそう思ってたよ。でも、もう……無理だよ…」
「ゴロゴロゴロ、グルグルグル」
「ところで、この猫黙らせてくれねえか?」
「無理を言うな。それに、私はこれを聞いていると落ち着く。そもそも、お前は今、大事な話をしていたんじゃないのか?この程度で
気が散るようなことならば、その話はお前にとって、その程度なのかもしれないがな」
意外にきついことを言われ、ヒューマンは閉口した。
「……そうだよな……全部、俺が悪いんだよな…」
「お前、鬱になってきてるんじゃないのか?一度、ガレノス先生にでも相談してはどうだ?」
「ガレノス先生とジョルジオ先生は苦手だ。二人とも、いい先生らしいけどさあ…」
「グルグルグルグル……ねえねえ、話聞いてて思ったんだけど、悪いことしたなら謝ればいいじゃない」
不意に、フェルパーが口を開いた。
「え?」
「何か、悪いことしちゃったんなら、謝らなきゃ。悪いことしたのに謝らない人じゃ、僕だって許したくなくなっちゃうもの」
「それは、そうだけど……今更謝ったって、何になるんだよ…」
「遅くなっても、謝るのと謝らないのじゃ、全然違うよぉ。今から謝ってきたら?」
「面倒臭がりのお前が今からとか、よく言うよ」
その言葉に、フェルパーはムッとした顔をして体を起こした。
「ひどいなあ。僕だって、悪いことしたら、すぐ謝るよ。君は、謝るのが面倒臭いと思ってるの?」
「え?あ、いや……その…」
「もう遅いとか、面倒臭いとか、言い訳ばっかり用意して。そんな態度とるんだったら、僕だって君のことなんか許せないよ。
謝りたくないんなら、そのままにすればいいじゃない。謝りもしないで仲直りしたいとか、甘ったれた事言ってるんだったら、僕怒るよ」
普段おっとりとしたフェルパーとは思えないほど、きつい口調だった。そして、言葉の一つ一つが、ヒューマンの胸に突き刺さる。
やがて、ヒューマンは重い溜め息と共に、がっくりとうなだれた。
「……ごめん……今のは、俺が悪かった……ほんと、ごめん…」
「君、最近、変だもの。きっと、疲れてるんだよ」
そんな彼の顔を見て、ディアボロスは本気で心配そうな顔をした。
「……お前、今日はここで寝ていくか?」
「はっ!?な、何を急に…!?」
「お前を一人にすると、銃を自分に向けそうだ。そうだ、それがいい。泊まっていけ」
「いや、その、俺は…」
「いいね、それー。三人で一緒に寝ようよー」
「いや、それはちょっと、俺はちょっと…」
「うるさい。お前の意見など聞いていない。フェルパー、ちょっと詰めてくれ。こいつの寝る分も空けなきゃいけないからな」
ベッドに寝転がりつつ、ヒューマンはぼんやりと考え事をしていた。
―――どうして、こうなったんだ…。
フェルパーを中心に、壁側にディアボロス、逆側に自分が寝ている。フェルパーは実に幸せそうな寝顔をしており、ディアボロスも
安らかな寝息を立てている。
―――こいつら、どうしてこの状況で眠れるんだ、ほんと…。
しかも、枕が一つしかないため、ディアボロスとヒューマンはフェルパーの腕を枕にしている。案外、腕がちょうどいい太さで、
首の辺りにぴったりと納まって寝心地はいいのだが、居心地は悪い。おまけに爪が怖い。
だが、それでも心のどこかで、ヒューマンは二人に感謝していた。普通なら、恋人同士で一緒にいる部屋になど、いくら仲間とはいえ
泊めたりしないだろう。しかし、二人はむしろ積極的に引き止めてくれた。
―――色々、気を使ってくれてるんだろうなぁ。
恐らくは二人とも、仲間というものに強い想いがあるのだろう。仲間意識の非常に強い種族であるフェルパーに、ほとんどの種族から
嫌われるディアボロス。そんな二人であるが故に、仲間というものの大切さをよく知っているのだろう。
「……ありがとな、二人とも」
声に出して呟く。もちろん、二人とも安らかな寝息を立てており、聞こえてはいない。
少しだけ気分が軽くなり、ヒューマンも目を瞑った。ここ数日、どうにも寝つきが悪かったのだが、今日はスッと意識が沈んでいく。
久しぶりによく眠れそうだと、ヒューマンは意識を手放しながら、ぼんやりと思っていた。
翌日、一行はブルスケッタで『ストレガという組織』という依頼を受けた。何でも、以前調べた黒いローブの組織が、怪しげな儀式を
しているので調べてほしいということだった。
広大な魔女の森を歩き回るうち、雨が降り始めた。雨宿りも兼ねて踏み入れた、信仰を捧げる場所。そこで、黒いローブの集団を
見つけたとき、地面に描かれた魔法陣の中心から、今まさに悪魔が這い出ようとしているところだった。
「な、何だこいつ!?」
「悪魔、か。それを召喚してるところに出くわすなんて、ある意味でラッキーだね」
「ラッキーどころか、最悪じゃと思うけど!?しかもゴアデーモンなんて……みんな、気をつけて!」
それなりに、腕には自信があった。それ故、この敵に対しても、一行はそれほど強い危機感を持たなかった。
しかし、相手の力は予想をはるかに上回っていた。魔法壁は一撃で割られ、攻撃はかわされ、それに焦る間もなく、ゴアデーモンは
次々と仲間を倒していった。ディアボロスが腹を切り裂かれ、ヒューマンも顔を引っかかれ、左胸を刺され、ノームは首を落とされた。
そのままなら、全員が即座に倒されただろう。しかし、ディアボロスが倒れたことで、フェルパーが怒りのままにゴアデーモンに
襲い掛かる。怒りに我を忘れてはいるが、それが辛うじてゴアデーモンの攻撃を止める。ドワーフとクラッズは、それを必死で
援護する。しかし、相手があまりに悪かった。ゴアデーモンがデモンズラッシュを繰り出し、魔法壁が割れ、二人はフェルパーの死を
信じた。だが、ゴアデーモンは急に標的を変えると、ドワーフ目掛けて突っ込んできた。
「ドワちゃん!!!」
「くっ…!」
体力には自信がある。だが、あの攻撃を耐え切れるかは、ほぼ賭けである。それでも覚悟を決め、できる限りの抵抗をしようと
心に決めた瞬間。
スッと、後ろから手が伸びた。
「耳、塞ぎな」
反射的に耳を押さえた瞬間、パン!と炸裂音が響き、ゴアデーモンが膝をついた。一瞬遅れて、辺りに火薬の臭いが満ちる。
「どうだい、膝を撃ちゃあ少しは効くだろ?」
「う、嘘?ヒューマン君…!?」
銃の反動を受け流すように腕を直角に曲げ、ヒューマンは笑っていた。しかし、その顔は血塗れで、左腕もだらりと垂れ下がっている。
「あんた、生きて…!?」
「伊達に、あんな構え取ってるわけじゃねえよ。見ての通り、左腕は折れたし、左目もやられちまったが、急所だけは防いだぜ」
ともかくも、一時的に危機は脱した。クラッズが魔法壁を張り直すと同時に、再びフェルパーが襲い掛かっていく。
「……それより、ドワーフ。久しぶりに、お前と話したな」
「え…?う、うん…」
「なあ……少し、聞いてくれるか?」
ヒューマンの言葉に、ドワーフは黙って頷いた。
「俺、ずっと後悔してたんだ。あの時、お前にとんでもないこと言っちまって、泣かせちまったこと…」
「………」
「今更もう、許してくれなんて言えねえよ。だけど、それだって構わない。お前に、謝らなきゃって…」
その時、ヒューマンはクラッズが何も言わないのを疑問に思い、ちらりとそちらに目をやった。すると、クラッズは『早く続けろ』と
言うように、顎でヒューマンを促した。
「……ドワーフ。あの時、本当に悪かった。言い訳はしねえ。本当に、ごめん」
「ヒューマン君…」
「それと……あの時、言おうとして言えなかったこと。アイドル学科、すっげえ似合ってる。最初、お前だって気付かなかったぐらい、
かわいくなってた。ほんとに、よく似合ってるよ」
突然のことに、ドワーフはしばらく複雑な表情をしていた。だが、やがてその表情が、少しずつ笑顔に変わっていく。
「……ぐす、えへへ…!ヒューマン君、ありがとね」
「ほんっとに、今更じゃね。どうして、今この状況で、そんなこと言うの?」
クラッズが、不快そうというよりは、無表情な声で尋ねた。
「今この状況だから、だよ。俺、ここで死ぬかもしれねえ。死んだら、二度と伝えられねえ。許されないのは自業自得だけど、
謝らないで死ぬのは嫌だ」
「……大丈夫だよ」
ドワーフが小さな声で、しかしはっきりと言った。
「絶対、死なせない!みんなで、あいつ倒そう!」
「おう。やれるだけ、やってやらぁ!」
「……ふん!あたしも、死ぬのは嫌じゃからね!援護は任せて!」
魔法壁が砕け、フェルパーにゴアデーモンが迫る。そこに、クラッズが間一髪で魔法壁を張り直した。
「ドワーフ、一曲頼むぜ。できれば、痛みが吹っ飛ぶような、元気の出る奴をな」
「うん!それじゃ、革命の歌、いくよぉー!」
再びドワーフの歌声が響き、フェルパーとヒューマンの傷が少しずつ塞がっていく。ゴアデーモンはドワーフを危険と見なしたのか、
フェルパーとの戦いを中断し、彼女に襲い掛かった。
「やらせるかよ!」
ヒューマンが残った右目で相手を見据え、狙い済ました銃撃を食らわせる。一瞬、ゴアデーモンの動きが鈍り、そこにフェルパーが
飛び掛る。
「ドワーフ、お前は何も気にしなくていい。盾にはなれねえけど、絶対にあいつは近づかせねえ」
「うん。ヒューマン君、信じてるよ!」
「盾なら、あたしがいるよ、っと!」
空中に手を触れ、魔法壁を作り出す。たった一撃で壊されはするが、それでも一撃を確実に防ぐ、優秀な盾である。
ドワーフが歌い、クラッズが壁を作り、フェルパーが攻め、ヒューマンが牽制する。形としては立派に機能しているが、
やはりフェルパーが危険である。我を忘れてがむしゃらに突っ込む彼は、援護する側に多大な負担を強いている。
「くっ…!魔法壁張るの、間に合わないよ…!」
「くっそ……あいつがやられたら、洒落になんねえぞ…!」
何度も、フェルパーに下がれと声をかけた。しかし、今の彼には仲間の声など聞こえていないらしく、ただ力の限り暴れるだけである。
もう、その援護も限界だと思った瞬間、鋭い声が響いた。
「フェルパー、突出しすぎだ!下がれ!」
その瞬間、フェルパーの耳がピンと立ち、一瞬にしてゴアデーモンから離れた。そして、本当に嬉しそうな顔で、喉をゴロゴロと鳴らす。
「よかったぁ〜!よかったよぉ!君、死んじゃったんだと…!」
「言っただろう?皮膚は丈夫でな。深くは裂かれたが、死ぬほどじゃあない。まあ、少し気を失ってしまったがな」
まだじくじくと出血する腹を押さえつつ、ディアボロスは立ち上がっていた。その目には、既に闘志が溢れている。
「ドワーフ、助かったぞ。おかげで、痛みはだいぶ消えた」
「えへへ、そう言ってくれると嬉しいな。私、もっと頑張るよ!」
その時、ゴアデーモンがデモンズラッシュの構えを見せた。ヒューマンは即座に銃を撃ったが、相手も追い詰められてきているのか、
今までと違って怯みはしなかった。
「な、マジかよ!?くそ、弾が…!」
「やっぱり、銃はストッピングパワーが足りないな」
無感情な声が響き、次の瞬間、矢が唸りをあげて飛んだ。矢に足を貫かれ、さすがにゴアデーモンは怯んだ。
「……う、うわっ!?」
「きゃあ!?な、何、何、何ぃ!?」
首のないノームの体が、平然と立ち上がっていた。それどころか、その状態で弓を射たのである。五人はゴアデーモンより、味方である
ノームに恐怖した。
「そんなに驚くことないだろう。僕等ノームは、君等の体とは違うんだ」
地面に落ちた首が喋っている。その髪を掴むと、ノームは自分の首を持ち上げ、脇に抱えた。
「君等みたいに、即死するようなウィークポイントなんて、あるもんか。とはいえ、今のは死ぬところだったけど」
「ある意味、一番の化け物じゃなぁ…」
「お褒めの言葉、ありがとう」
「いや、誰も褒めてねえだろ」
ともかくも、再び全員が揃った。一行は改めて、ゴアデーモンを睨みつける。
「さあ、終わらせようぜ!」
ヒューマンの言葉を合図に、全員が動いた。ノームとヒューマンが敵を撃ち、ディアボロスとフェルパーが挟み撃ちを仕掛ける。
その間に、ドワーフは再び革命の歌を歌い、クラッズはひたすらに魔法壁を張り続ける。
少しずつではあるが、確実にゴアデーモンは追い詰められて来ていた。やがて、ゴアデーモンは二人の攻撃をすり抜けると、
ドワーフ目掛けて突っ込んできた。今度ばかりは、足を撃とうと、体を射抜こうと、止まりはしない。
「ドワちゃん、危ない!」
「ドワーフ、逃げろ!」
「ううん、大丈夫!私だって、守ってもらうばっかりじゃない!みんなみたいに、戦える!」
その目には強い光が宿っており、彼女の言葉を信じさせるだけの力があった。
「……わかった、信じるぞ!」
「うん、ありがとう!」
魔法壁を砕き、ゴアデーモンが襲い掛かる。だが、ドワーフは相手を見据えたまま、動こうとしない。そして、ゴアデーモンが
腕を突き出した。
「ぐっ……あうぅ…!」
「ドワーフ!!」
体を折り曲げ、ドワーフはよろめいた。が、不意に顔を上げる。
「……な〜んてね。残念でーしたー」
いたずらっ子のような笑みを浮かべ、ぺろりと舌を出すドワーフ。確かに腕が突き刺さったはずなのだが、体からは一滴の血も
流れてはいなかった。
「アイドル舐めないでよね!体汚さないために、すっごく気、使ってるんだから!」
言いながら、ドワーフはマイクを振り上げた。至近距離であるため、ゴアデーモンに逃げ場はない。
「でぇーい!」
マイクとはいえ、冒険者用に作られたそれは、ほぼ鈍器である。その直撃を受け、ゴアデーモンはよろめいた。ドワーフはさらに、
カイザーナックルのはまった左手を引き付けた。
「たぁー!!」
元々屈強な体つきのドワーフの、思い切り溜めの入ったストレートである。ゴアデーモンは派手に吹っ飛び、地面を転がって
動かなくなった。だが、まだ倒したわけではない。
「チャンスだな。ここで決めるぞ」
「よっしゃ、終わりにしようぜ!」
倒れたゴアデーモンに、全員が狙いを定める。相手が立ち上がる前に、ヒューマンが叫んだ。
「いけぇ!!集中砲火だ!!」
フェルパーが相手を滅茶苦茶に引っ掻き、ディアボロスが背中をレイピアで貫く。そこをクラッズのマリオネットが殴りつけ、
ドワーフがマイクを振り下ろし、カイザーナックルで殴り、ヒューマンとノームが遠距離から撃ち抜く。止めに、フェルパーは相手の
喉に食らいつくと、そのまま肉を食い破った。
いくら悪魔とて、それほどの攻撃を受けては生きているはずもない。ズブズブと迷宮の床に消えていくゴアデーモンを見て、一行は
歓声を上げた。
「やったぁ!!勝った、勝ったぞ!!」
「苦戦はしたが、全員生還とはな。よく生きてたものだ」
「やったね!!みんな、お疲れ様ー!!」
思い思いの言葉を口にし、喜び合う一行。ヒューマンも一緒になって喜んでいたが、不意に景色が揺らいだ。
「あ……れ…?」
「ちょ、ちょっとヒューマン君、大丈夫!?」
ドワーフの声が聞こえる。だが、声が遠い。それでも、大丈夫だと答えようとしたが、その前にヒューマンの意識は闇に溶けていった。
ブルスケッタに帰ると、怪我のひどいディアボロスとノーム、そして意識不明のヒューマンは保健室に直行となった。出血がひどいだけの
ディアボロスと、依代の修正で済むノームはまだしも、ヒューマンは左目を爪で裂かれ、左腕は骨折という重傷である。
魔法でほとんどは治せるのだが、それでも念のためということで、三人は保健室に泊まることとなった。残りの三人も、さすがに
疲労しきっており、その日はそれぞれ部屋に戻ると、泥のように眠り込んだ。
その翌日。保健室に運び込まれた三人も元気になり、探索に行こうかという話も出たが、まだ少し疲れが残っていたこともあり、
結局は休むことにした。
パーティの雰囲気は、少しだけ変わっていた。昨日までは、ヒューマンとドワーフが話すことはなかったのだが、それまでが嘘のように、
二人とも楽しげに話している。それだけでも、ギスギスしていた空気がだいぶ和やかになっている。そんな二人を、クラッズは
何も感じていないかのように、無表情に見つめているばかりである。
食事をし、話をし、少しだけ各自の学科の鍛錬をし、揃って夕飯を食べ、部屋に戻る。
いつも一緒の、ドワーフとクラッズの部屋。だがこの日の室内は、いつになく重苦しいものだった。
二人はベッドに座り、ただただ黙り込んでいる。ドワーフは何か言いたそうにしているのだが、どうしても言葉が出ないらしい。
そんな彼女を、クラッズはじっと見つめていたが、やがて口を開いた。
「それで、話したいことって、なぁに?」
クラッズの言葉に、ドワーフの耳がへたっと垂れる。そして尻尾も、落ち着きなく左右に振られ始めた。
「あ……あの……あの、ね…」
クラッズの目を見ず、うつむいたままで、ドワーフは話し出した。
「私……ずっと、ずっとね、ヒューマン君のこと……好きだったの…」
「………」
「で、でも、前にちょっと、色々あって……嫌いに、なりそうだったけど……でも……あの、でも…」
苦しげに顔を歪め、ドワーフは必死に声を絞り出す。
「……や、やっぱり……嫌いに、なれないよぉ……昨日、あの時のこと、謝ってくれて……ひどい怪我してたのに、頑張ってくれて……
それに、私のこと、信じてくれて…!だからっ……でも…!」
「……もう、いいよ。ドワちゃん」
まるで子供に語りかけるような優しい声で言うと、クラッズはそっとドワーフを抱き締めた。
「元々、あたしが無理矢理、こっちに引きずり込んだだけじゃもんね」
「わ、私っ……クラッズちゃんも、好きなのぉ!!」
とうとう堪えきれなくなったのか、ドワーフは涙を流して叫んだ。
「ありがとう、ドワちゃん。じゃけど、もう無理しないで…」
「ち、違うのぉ!!」
涙も拭わず、ドワーフは子供のようにかぶりを振った。
「最初は、嫌だったけどっ……クラッズちゃん、ずっと優しくしてくれて……一緒にいてくれて…!今は、クラッズちゃんのことも、
大好きになってっ……愛して……うえぇ…!ど……どうしたら…!私、どうしたらいいのぉ…!?」
今までも痛んできたクラッズの胸が、かつてないほどに痛み始めた。
ドワーフに愛されることが、彼女の目標だった。それは、確かに達成された。だが、そのせいで今、ドワーフはひどく苦しんでいるのだ。
どちらも好きで、どちらも捨てられず、選べず、好きな相手を悲しませたくないが故に、彼女は苦しい思いをしている。
クラッズは思った。ドワーフは迷っている。なら、もしここで自分を選べと言えば、彼女は自分を選ぶはずだ、と。
そして、クラッズは口を開いた。
「……いいよ、ドワちゃん。ヒュマ君のところ、行ってあげなよ」
「……クラッズちゃん…」
「あいつ、あたしが散々嫌がらせしたし、最近、調子悪そうじゃったもんね。ドワちゃんが行って、慰めてあげればいいよ」
「……ぐす……ひっく…!クラッズちゃん……ご、ごめん……ごめんねぇ…」
「あーもー、謝らなくていいんじゃって!元はといえば、あたしが全部勝手にやったことなんじゃから!じゃから、ね?ほら、
いつもみたいに笑ってさ!その方がかわいいよ!」
「ぐす……うん…!」
泣き顔に弱々しい笑顔を浮かべ、ドワーフは頷いた。そして涙を拭き、ベッドからそっと立ち上がる。
「ドワちゃん、頑張ってね!」
ポンと肩を叩くと、ドワーフは嬉しそうに微笑んだ。
「クラッズちゃん……ありがとう」
ドワーフが部屋を出るまで、クラッズはずっと笑顔で見送った。やがて、彼女が部屋を出て、ドアがパタンと閉まると、その顔から
笑顔が消える。
何だか気の抜けた表情になり、クラッズはベッドに寝転がった。が、すぐに体を起こし、ベッドから降りて道具袋を漁る。
中から取り出したのは、ドワーフが転科するときに切った、二本のお下げだった。それを手にしてベッドに戻ると、クラッズは短い方の
お下げを持ち、そっと鼻を埋める。
「……ドワちゃん…」
そこに残る彼女の匂いを嗅ぎつつ、もう片方の手を自分の胸に這わせる。
「んんっ……ん…!ドワちゃん…!」
薄い胸を触り、頂点を指先で弄ぶ。くりくりと擦るように撫で、そこがやや硬くなったところで、その手を下へと滑らせる。
秘裂に指を沈め、指先を曲げる。瞬間、背筋を駆け上がる快感に、クラッズは身を震わせた。
「はあっ……ん…!」
指を突き入れ、自身の中をくちゅくちゅと掻き回す。その度に、未発達な体が快感に震え、鼻にかかった喘ぎを漏らす。
やがて、そこがじわりと湿り気を帯びると、クラッズは指を引き抜いた。指と秘裂の間に、つぅっと粘液が糸を引く。
短いお下げはそのままに、クラッズは一度体を起こし、長い方のお下げを手に取った。それは解けないように、根元の側にもしっかりと
リボンが結わえてある。
服を脱ぎ、短いお下げをベッドに置き、その傍らに寝ると、長いお下げを股間に挟む。
ゆっくりと、それを引っ張る。三つ編みに結ったお下げが敏感な突起に擦れ、クラッズの体が跳ねる。
「んあっ!はぁ……くぅっ…!ドワ……ちゃん…!」
お下げに愛液が吸われてしまい、少しだけ痛みが走る。だが、ドワーフの匂いと、自分の秘所を刺激するものがドワーフの髪であるという
事実が、その痛みを消してしまう。
何度も何度も、繰り返し前後に擦る。凹凸が秘裂を刺激し、突起を撫で、ドワーフの匂いがその快感をさらに高める。
そのせいもあり、クラッズの呼吸は急速に荒くなり、行為も自然と激しさを増す。
「ドワちゃん…!くっ……あっ!!ドワちゃん、ドワちゃんっ…!」
何度もドワーフを呼び、クラッズはただ快感だけを求め、行為に没頭する。やがて、縮めていた足がピンと伸び、全身が強張る。
「うあぁ!!ド、ドワ……ちゃ…!んっ、うううぅぅ!!!」
一際大きい、抑えた嬌声が上がり、クラッズの全身がガクガクと震えた。同時に、シーツに黒い染みがじわりと広がる。
クラッズはしばらく荒い息をついていたが、やがて小さく溜め息をつく。
「……何やってんじゃろう、あたし…」
自嘲とも悲しみともつかない声で呟くと、クラッズはのそりと体を起こした。そのままベッドから降り、汚してしまったお下げを
しっかりと洗うと、再びそれを道具袋の中へ戻す。
もう一度、深い溜め息をつく。そして、クラッズは服を着ると、ゆっくりと部屋から出て行った。
以上、投下終了。
少々半端なところで切れてしまいましたが、そこはお目こぼしを。
とりあえず、せっかく取っておいたものなので使っていただいた。
それではこの辺で。
乙!待ってた!
クエスト進行に合わせての人間模様は新鮮だなぁ
……ヒューマンの目が失明してたら
眼帯つけたりしたんだろうかとろくでもないことを思う俺。
GJ!相変わらず文章がうまくて読みやすかった。戦闘の描写とか本当にドキドキしたw
ヒューマンとドワーフが幸せになれそうでホッとする反面、クラッズが気になる・・・
思いついたので書いてみた。
「うーん、どうしようか、コレ・・・。」
剣士の山道。パニーニ学院に繋がるその場所の入り口付近で、3人の少女が何やら考え込んでいた。
彼女達は、クロスティーニ学園に所属する生徒達である。
最近入学した新入生ではあるが、既にいくつかの依頼を達成し、
学年の中でも割と成長の早いパーティーとして皆の注目を集めていた。
そんな彼女達に目をつけたクラスメイトのオリーブに決闘の代理を頼まれ、
ついさっきその戦闘に彼女達は勝利したばかりである。
戦闘自体は新入生の中でも優秀な彼女達がそこまで苦戦することもなく、
あとは付近の宿泊所で待機する残りの仲間達と合流するだけ、なのだが・・・。
決闘相手に去り際に渡された「戦利品」が、彼女達の頭を悩ませていた。
「あぶないパンツかー。まさかそんなものをくれるとは思わなかったよー。」
クラッズの少女が手に持った小さな布きれをぴらぴらと掲げると、
セレスティアの少女が顔を真っ赤にしてそれを取り上げた。
「ク、クラ子ちゃん!下着をそんな風に広げちゃ駄目っ・・・!!」
そのあまりの慌てっぷりに、ヒューマンの少女が思わず噴出した。
二人は幼馴染なので、お嬢様なセレ子が昔から純粋なのをヒュマ子は知っているが、
それでも真っ赤になって慌てふためくその様子はおかしかった。
「セレ子は昔からウブなんだから・・・一応これ防具だよ?」
「防具って言っても・・・どう見ても下着じゃない・・・そ、それに、・・・」
「かなりえっちぃパンツだよねー、これ。」
クラ子の率直な表現に、セレ子はさらに赤面した。
赤面し硬直したセレ子の手から問題の品を取り上げ、クラ子はそれをしげしげと観察する。
「生地も薄いし、小さいし・・・パンツとしてもどうなんだろ。」
上等なレースで縁取られたそれは、手に持っているだけでも透けるくらい薄い生地でできている。
その上小さめに作られているので、履いたら生地が伸びてさらに透け、ほとんど下着の意味を成さないだろう。
前面は一応布があるが、後ろに当たる部分は紐しかない。
単純に興味本位で、面白半分に下着を伸ばしたりしていたクラ子が、ふと手を止めた。
「これ、穴あいてる・・・。」
ちょうどクロッチにあたる部分に、大きくスリットが入っていた。
履いた時に、ちょうど大事な部分が見えるように作られているらしい。
それでは下着の意味が無い気がするが。
流石のクラ子も、これには絶句して思わず赤面する。
「でもこれ、+9なんだよね・・・。」
横から一緒になってパンツを眺めていたヒュマ子がため息をついた。
さっきから3人が悩んでいる一番の理由はそれであった。
まだそこまで装備が充実していない現在、+9はかなり魅力的である。
実際、この下着を押し付けた張本人であるジェラートも、拾ったものの捨てるに捨てられなかったらしい。
購買に持っていくのも恥ずかしく、道具袋や倉庫に入れるのもためらわれて困っていたと言っていた。
だからといって、戦利品として他人にこんなものを押し付けるのはどうかと思うが、まぁ悪気はないのだろう。
・・・やっぱり、もしかしたら負けた腹いせかもしれないが。
「問題はこれを装備するかどうか、だよねー。」
クラ子の言葉に、今まで硬直したままだったセレ子が慌てて抗議するような声をあげた。
「装備って、こ、これを!?」
「まぁ、確かに+9は魅力的だけど・・・」
ヒュマ子は剣士であり、前衛なので普段後衛の二人よりも防具の性能が気になるらしい。
「でも、見ただけで赤面してるセレちゃんがこれをはけるとは思えないなぁー」
クラ子は手でその布切れを弄びながら、笑いながら言う。
「ちょ、ちょっと待って!ど、どうして、わ、わ、私がはくことで決定しているの!?」
聞き捨てならない言葉に悲鳴に近い声をあげるセレ子に、クラ子がしれっと答えた。
「だって、まだセレちゃんだけ学園の制服の下、着てるじゃん」
「そ、それは・・・」
魔法使いであり後衛であるセレ子は必然的に装備は後回しにされることが多かった。
上はこの前拾ったお古のジャージを装備しているが、下だけは未だ制服のままである。
あまりにも動揺する幼馴染の様子に、苦笑しながらヒュマ子がフォローを出した。
「別に無理して装備する必要はないよ?流石にこれは誰だって恥ずかしいし、ね・・・」
「そうだね。あたしもこれははくの勇気いると思う・・・ごめんねセレちゃん、無理言っちゃって」
クラ子がしゅんとして謝ると、セレ子も少し落ち着いたようだった。
「私こそごめんなさい。思わず動揺しちゃって・・・。」
まだ顔は赤かったが、笑顔になったセレ子に、二人も安心したように笑った。
「それじゃ、帰ろうか。フェル男達も待ってるし。」
ヒュマ子が伸びをして、改めて帰り道を振り返った。
「そだねー。じゃあ、これ、どうしようか?」
クラ子が手に持っていたパンツを道具袋に入れようとして、少し躊躇した様子で呟く。
おにぎりなどの食料やどくけしなどの薬品と一緒にこれを入れるのは、防具とはいえ問題があるように思えた。
今はジェラート達との決闘のため女子だけで行動しているが、
決闘にあたって男女でパーティーを分けたので、待っている仲間は皆男子である。
道具袋はパーティーで共有しているので、男子達が道具を使うときに見つけてしまうかもしれない。
クラスメイトの異性にこれを見られるのは、何だか想像するだけで恥ずかしかった。
「とりあえず、セレ子預かっててくれないかな?畳めば制服のポケットに入るよね?」
「そうね・・・あんまり男の子達には見られたくないものね・・・」
ヒュマ子に頼まれ、セレ子は戸惑いつつも下着を受け取り、小さく畳んでポケットに押し込んだ。
「よし、帰ろ帰ろー。」
とりあえず問題は片付いた、とばかりにクラ子が二人の手を引いた。
「うん、早く皆と合流しないとね。」
「ええ。戻りましょう。」
ヒュマ子とセレ子もそれに同意し、3人は来た道を戻り仲間が待つ宿泊所を目指したのだった。
「お帰り。遅かったな。」
宿泊所に戻ると、パーティーの仲間であるフェア男が3人を出迎えた。
「ただいまー。」
「うーん、疲れたー。」
クラ子は宿泊所に入るなり、ロビーのソファーに座り込んだ。
「決闘はどうなった?」
「勝ったよ。もちろん。」
「お疲れ。まぁ、怪我はないみたいで良かったよ。」
「あれ、そういえばフェル男とバハ男は?」
姿の見えない仲間にヒュム子が首をかしげる。
「ああ、あいつらなら運動しに行くってさ。さっき出て行ったよ」
フェル男とバハ男は前衛である戦士学科な上に体育会系である。
学園にいる時もたまの休息の時も、暇さえあれば身体を動かしている。
同じ前衛のヒュマ子もたまには一緒に手合わせなどしたりするが、それでもあの二人には付き合いきれない。
ため息まじりに答えたフェア男に、ヒュム子もため息をついた。
「もう、あの二人ホントじっとしてられないんだから・・・」
「何処行ったかフェア男は知らないの?」
クラ子の言葉に、フェア男は首をひねった。
「うーん、その辺走ってくる、ってそれだけしか聞いてないからな・・・。」
その様子だと、本当に体力が尽きるまで走り回ってしばらくは戻ってこないだろう。
「まぁ、しばらくしたら戻ってくると思うから、適当に待ってようぜ。」
クラ子の横に座ったフェア男は、さっきまで読んでいたらしい雑誌を手に取った。
ヒュマ子も「そうしよっか」、とフェア男の横に腰を下ろし、セレ子に声をかけた。
「あ、セレ子、さっきの戦闘で魔法使ったし、ちょっとだけでも休んできたら?」
「そうね。クラ子ちゃんはどうする?」
セレ子は頷くと同じく魔法系学科である人形遣い学科のクラ子に声をかける。
「うーん、あたしはそこまで魔法使ってないからいいや。」
クラ子は基本的に補助や人形での援護が中心なのであまり魔法は使わない。
「じゃあ、私は休んでくるわね。」
フロントに料金を払いに行くセレ子に、「バハ男達が戻ってきたら呼びに行くねー」とヒュマ子が声をかけた。
それに笑顔で答えて、セレ子は一人部屋に向かったのだった。
「ふぅ・・・」
部屋で一人になると、セレ子はため息をついた。
戦闘ではそこまで苦戦していないのに、なんだか凄く疲れた気がする。
その理由をぼんやり考え、セレ子はポケットの中の下着を思い出した。
「これ、どうしましょう・・・」
ポケットから引っ張り出し、改めて眺める。
実はさっきは恥ずかしくてまともに見ていなかった。
一見レースで縁取られたそれは綺麗だが、デザインはとんでもなく下品である。
「こ、こんな下着があるなんて・・・」
お嬢様育ちで品行方正なセレ子には、それはあまりにはしたない物に思えた。
「・・・でも、+9なのよね・・・」
こんな下着をつけるなんて、想像するだけで恥ずかしくて死にそうだが、
セレ子もまだ入学して間もないとはいえ、れっきとした冒険者である。
優秀な防具、という点ではちょっと気になっている部分もあった。
「こんな薄くて布地が少ないのに、どこにそんな防御力があるのかしら・・・」
一人でぶつぶつ言いながら下着を眺めるセレ子は傍から見れば異常である。
しかし、本人は考えることに夢中で気づいていないようだった。
どれだけ眺めても、ただの卑猥な下着にしか見えない。
数値だけで見れば制服の9倍の防御力があるのだが。
魔法系学科に所属するセレ子は、人より学ぶことが好きで探究心旺盛なほうであった。
一度気になることがあると、解決するまで考え込んでしまう。
一人になって恥ずかしさが薄れたことにより、好奇心が恥ずかしさを若干上回ったようだった。
相変わらず赤面してはいるが、下着を伸ばしてみたり引っ張ってみたり、どこかに秘密がないか調べてみる。
しかし、生地も普通のレースであり、やっぱりいくら眺めてもそれはただの下着だった。
「やっぱり、はいてみないとわからないかしら・・・」
呟いてから、セレ子は自分の言ったことに気づき慌てて口を押さえた。
誰もいないのに、思わずあたりを見回してしまった。
改めて誰もいないことにほっとしてから、膝の上に落ちた下着を見下ろした。
「・・・こ、こんな下着を身につけるなんて・・・」
しかし、いくら考えても答えは出そうにない。
結局、やはり好奇心が恥ずかしさを上回ったようだった。
「だ、誰も見てないし、ちょっとはいてみるだけなら・・・。」
意味もなく弁解するようなことを呟きながら、立ち上がってもう一度誰もいないことを確認した。
制服のスカートをたくしあげると、自分のはいている下着を脱いぐ。
セレ子のはいているそれは、学生らしい白で清潔なデザインのものだった。
自分のはいていた下着をベッドの上に置くと、あぶないパンツを手に取り、
数秒躊躇した後、意を決したようにそれに足を通した。
小さく感じたそれは、想像よりはよく生地が伸び、腰まで持ってくるとぴったりとフィットした。
「す、スースーするわ・・・」
薄い生地は頼りなく、やはりそんなに防御力があるようには思えないけど、とセレ子は考え込んだ。
Tバックなんてはいたことがないので、お尻に食い込む感触が慣れない。
ふと、スカートをたくしあげたまま俯いて考え込んでいた視線を上げた。
視線の先にあった部屋の姿見が目に入る。
そこに映った自分の姿を見て、セレ子は赤面した。
「・・・っ!!!」
上は制服のままなのに、まるで下半身だけ裸のようだった。
薄い生地は肌がほとんど透けていて、うっすら生えている薄い金色の陰毛まで見えている。
しかも股の部分は完全にスリットが開いていて、ちょうど割れ目がのぞき秘所が丸見えであった。
あまりの自分の卑猥な姿に、セレ子はそのまま鏡の前で固まった。
改めて、自分の行動に恥ずかしくなり、思考が停止してしまう。
どうしてこんな、とか恥ずかしい、とかそんな言葉ばかりがセレ子の頭の中を意味もなくぐるぐると回っていた。
時間にしては数秒もないだろう。しかし、思考が停止しているセレ子にとってはとても長く感じる。
しかし、そのまま永遠に停止するかと思った状況は、セレ子にとっては最悪な形で破られた。
「おーい、セレ子。そろそろ行こうぜー」
ノックも無しにドアが開き、そこからひょい、と仲間であるフェル男が顔を出した。
ヒュマ子とセレ子の幼馴染であるフェル男は、昔から仲が良くお互いの家を家族のように行き来していた。
そのせいで、部屋に入るときもあまり気を使わず、ノックもせずに気軽に入ってくる。
小さな頃は問題なかったが、年頃になってからはよくヒュマ子とセレ子に説教されていた。
「・・・あ、あ、あ、」
硬直していたセレ子は、静寂が破られたことで改めて自分の格好に気がついた。
「・・・セレ子?」
不幸中の幸いで、姿見はドアと反対側にあったのでセレ子はフェル男に背を向ける形になっていた。
後ろから見た状態では、セレ子が何をしているかなんて気づかないだろうが、パニックに陥ったセレ子は気づかない。
セレ子が振り返り、部屋に入ってきた相手が目に入った瞬間。
「おい、どうしたセ「サンダガン!!!!!」
セレ子はやっぱり冒険者であったらしい。
悲鳴より先に出たのは使い慣れた呪文であった。
その日、何故か宿泊所に近年で最大級の雷が落ちたという。
「もう、だから人の部屋に入るときはノックしろっていつも言ってるじゃない!」
「ごめんって・・・俺が悪かった・・・」
ヒュマ子の説教に、フェル男は項垂れてもう何度目かわからない謝罪を口にした。
セレ子の魔法の直撃を受け、来ている服がところどころ焦げている。
耳はぺたんと伏せられ、縮こまるその姿はいつもの威勢の良い彼からは想像もつかなくて、
学園で彼らと会ったばかりであるバハ男とフェア男とクラ子は、顔を見合わせて苦笑している。
セレ子は、走り回って疲れていた上に魔法をくらい、体力の減ったフェル男にヒールをかけながら、
自分のしていたことがばれなかったことに改めて安堵していた。
背中を向けていたとはいえ、正面の姿見に映る姿を見られていたらお仕舞いだった。
咄嗟に悲鳴より先に呪文が出た自分に、改めて拍手を送りたい。
幸い、床が少々焦げたくらいで宿泊所に被害はなかったので、
室内で攻撃魔法を使ったことに関してはそれほど怒られなかった。
血気盛んな冒険者が集まる宿泊所では、生徒同士の喧嘩等で室内で魔法が使われることは日常茶飯事らしい。
あれから雷の轟音で改めて駆けつけて来たメンバーに、フェル男を引き渡し、
状況を察したヒュマ子にフェル男が説教され、今に至る。
結局セレ子は下着をはきかえるタイミングを逃し、まだあぶないパンツをはいたままである。
自分の下着は慌ててポケットに押し込んだものの、
大事なところが丸見えな下着をはいたままであるのは、ものすごく落ち着かなかった。
秘所が空気に晒される感覚に何かぞくぞくとしたものを背筋に感じながら、
セレ子はどうにかしてこの場から抜け出そう、と必死に考えるのだった。
続きません。パンツが想像できない人は「オープンショーツ」でググってください。
清楚な魔法使いセレ子が実は卑猥な下着を身につけてるかと思うと・・・!!
あぶないパンツやブルマとか三人娘から剥ぎ取ってると思ってたw
うちは女パーティだが男いたらいけないな…
あれはブルマがジェラート、あぶないパンツがティラミス、あぶない下着がパンナだと信じてるw
ところでパーネって何で最後の最後までダンテを自分の隣に置いてたんだろうね。
ドラゴンオーブ三つ揃った時点でもう神パワーゲットしたようなもんなんだから側近とか不要じゃない?
あの性格を考えると普通ならバルバレスコみたいに排除されるんじゃないかなぁ。
実は自覚していなかったんだけどダンテに好意を持っていた、とかそんなネタでSSいけそうだ。
>>165 GJ!なるほど、あぶない下着恐るべし……。意外と便利な装備なんだけどねぇ。
さて、遂に最終章突入であります。
ギルガメシュの魂の結末や如何に、てか微妙にエロシーン有りだったり。
一話目なのに……。
セレスティアとの蟠りも無くなり、仲間達が支えてくれるという事実が嬉しかったのか、ディアボロスは上機嫌だった。
未だに残っていた極彩色そうめんの山を前にしても文句1つ言わずに啜り続けている。
「お前、随分嬉しそうだな」
「そうか?」
ルームメイトのフェルパーの言葉に、ディアボロスはそう聞き返す。
「まぁ、そりゃあ上機嫌にもなるのも解るけどな」
「皆のお陰さ」
ディアボロスは山のようなそうめんを一つかみすると、つゆの中へ投入する。
これで問題は殆ど残っていない筈、ディアボロスはあくまでもそう思っていた。
「おいディアボロス、起きてるか?」
そんな声と共に、部屋がノックされるまでは。
「……ユーノ先生?」
部屋に入ってきたユーノはそうめんを啜る2人を見て「今さら晩飯か」と呟く。
「違います、腹が減ったので夜食です」
「つーかなんつーものを喰ってる。マズそうだな……じゃない、そうだ。お前に話があるんだ」
「俺に?」
「ああ」
ユーノは近くの椅子に座ると、口を開いた。
「ギルガメシュが停学中なのは知ってるな?」
「はい。昨日聞きました」
「その……今日の夕方に逃げたんだ。『ディモレア相手に一戦やらかす』って言い残してな」
ディアボロスは、その言葉が一瞬だけ理解できなかった。
意味に気付いた瞬間、思わず飛び上がった。
「え!? せ、先輩が……まだやる気だったんですか?」
「ああ。しかも遺書まで用意する直前だったらしい。まったく、何を考えているんだあのバカは……」
ギルガメシュ先輩の行動力に驚きである。
「………でも、それって」
それは、もしかするとディアボロスの母親であるディモレアに、危機が及ぶ事。
ギルガメシュの実力は解る。ディモレアと激突すれば、どちらも無事では済まない。だから。
「………………」
「とりあえず、お前には伝えた方がいいと思ってな」
「そうですか」
ユーノが出ていき、ディアボロスとフェルパーだけが部屋に残された。
「………お前の母さん、お前の事を大切に思ってる、よな」
「……ああ」
だからこそ、あの日の夜と同じように、今すぐにでも駆け付けたくなる。
だが相手はギルガメシュ。先日と同じように言いくるめられるのだろうか。それとも、ただ無残な死体を晒すだけになるのか。
「……先輩の事、どうしたいと思う」
「止めたいとは思う」
「なら迷う事は無いさ」
フェルパーは笑いながら肩をたたく。
「止めに行けばいい。大丈夫、お前なら出来る」
「けど」
「心配するなよ。余計な血を流したいなんて誰も思っちゃいない。それに……お前にとっちゃたった1人の母親だろ?」
フェルパーの言葉が優しく響く。ディアボロスは迷っていた思いが、鎮まっていくのが解った。
そう、何を迷う必要があるというのだ。自分は自分、ギルガメシュはギルガメシュなのだ。
守りたいのならば、守りに行けばいい。戦える自分がいるのだから。
この戦い。本当に、誰かの死は避けられないのかも知れないと思った。
ディモレアとギルガメシュが全力で激突する事。それだけは、何があっても阻止しなければならない。でも、その為にするべき事。それが思いつかない。
相手は最強にして天才ギルガメシュである。何を仕掛けてくるか解らない所が怖いのだ。
「なぁ、フェルパー。今、思いついたんだけど」
「なんだ?」
「ギルガメシュ先輩と正面からやりあって、勝つ可能性は?」
「…………」
フェルパーはディアボロスに視線を送った後、ゆっくりと口を開いた。
「勝てる」
唐突に、そして意外すぎるその言葉を発したのは一秒後だった。
「勝てる……って、俺がか?」
「勿論さ。幾ら最強でも、お前だって充分強いもん。負ける要素が見つからないさ」
フェルパーはお世辞のつもりで言っているのか、本気で言っているのかそれは判別がつかない。だがしかし、それでも彼の言いたい事はディアボロスにはよく解った。
戦い方によっては勝てる。攻略不能な敵なんていないから。要はそう言っているのである。
「例えば?」
「まぁ、例えば先輩に出来なくてお前に出来る特技を生かすとか? ほら、えーと……そうだ。戦術一般中級の授業で習ったじゃん?
自分よりも強大な敵と遭遇し、逃げられない時は自らの力をフルに活かして戦う事が大事。その為に自分の力を把握しておけってさ」
「……お前、そういう授業はちゃんと聞いてたんだな」
「失敬な、お前のパーティのフェルパーとは違って真面目なんだよ俺は。にゃあ!」
「すまんすまん」
そんな会話をしつつ、ディアボロスは確かにフェルパーの言う通りかも知れないなと思った。
何せ相手が相手とはいえ、自分もそれなりに実力を身に付けてはいるのだ。必ず勝てる、とまでは行かなくても良い勝負までは出来るかも知れない。
それがどこまでかが問題だが。
「……そうだな。よし。行くか!」
「おー、その意気だぞ! 頑張れよ、パルタクス三強同士の対決」
その言葉に、ディアボロスは一瞬だけ呆気に取られた。
「へ?」
「いや、だから言っての通りさ」
ギルガメシュがパルタクスの実力者へのあだ名である『パルタクス三強』の中で筆頭の地位を与えられているのは知っている。
だが……そう言えば後1人は僧侶学科の三年生のヒューマンぐらいしか数えられておらず、最後の1人は全く聞いた覚えが無い。
「で、それがお前。『三強』の二番手」
「……俺!?」
ディアボロスの言葉に、フェルパーは「うん」と頷く。一瞬だけ信じられない。
「俺、いつの間にそんな大層なものに!?」
「普通の錬金術士はビッグバム連発したりとかテレポルで瞬間移動しながらグレネードばらまいて吶喊したりしねーよ」
「……俺そんな事してたっけ?」
「してたからそうなったんじゃねーか?」
「…………」
自覚が無い事って恐ろしい。
ディアボロスは頭を抱えるのであった。
夜が更けていく。
月は中央から西へと傾きつつあり、朝が刻一刻と近づいていくのが解る。
「……このまま、この夜が明けなければいいのに」
サラは、ゆっくりとそう呟いた。
背後で眠りこけているギルガメシュは起きている気配が無い。普段はギルガメシュの方が遅くまで起きているのだが、今夜だけは逆だった。
そう、普段とは違う。
「……ねぇ、ギル。知ってる? あたしさ、パルタクスに来た時からずっと好きだったんだよ?」
返事は返ってこないと解っていても。それでも話しかけずにはいられない。
今夜が最後になってしまうかも知れないから。
今でも、昔のように思い出す事がある。
入学したばかりの時、上級生の不良グループに絡まれていた同級生を助けて、目を付けられた事があった。
助けた同級生も必死に戦ったが多勢に無勢、だがそこへ文字通りすっ飛んできたのが―――――二年生のギルガメシュ。
少し遅れて同級生の兄であるマクスターも来たけれど、それでもギルガメシュがその不良グループを殆ど1人でのしてしまった。
二年生にしてその強さ。そして、誇り高かった彼に。
その時から惹かれていて。少しでも気に留めて貰えるように、何でもやった。同級生のタークや、ギルガメシュの親友マクスターにも協力してもらって。
4人でいる事が、いつの頃からか楽しかった。
誰か1人でも欠けたら嫌なのだと、自分でも解っている。
ずっとずっと好きでいたい。彼の事だけを、好きでいたい。だから、私だけを、見て欲しい。
そして今夜。
私の事だけを見てくれた、彼がいた。
「………なーんて言っても、今さらやめてはくれないよね」
「昔決めた事、だからな」
「!?」
サラの呟きに、背後からそんな相槌が帰ってくる。
「強くなりたいって思ったのさ。何も出来ない自分が嫌でな……強くなりたいが負けたくないに変わるのに、そんな時間はかからなかった。
強く有ればそれだけ負ける事ぁ無い。負ける事が無ければ、惨めな気持ちにはならねぇ。昔、そんな気持ちになった事があってさ。その時に、何か嫌だった。
何も出来ない俺が嫌だったんだ。だから、強くなりたいなんて思ってた。ただ、貪欲に」
「………それが?」
「ああ。けどな……なんつーんだろうな、もし俺が死んだらお前を泣かすからな。それも嫌だ。今はそれもくっついてるっつーか」
ギルガメシュはそこで「ふぅ」とため息をつく。
彼は本当に変わらない。どんな時も、負け知らずでいたいのだろう。
いつもそうだった訳じゃないけど、それでも戦える限り戦う。でも、それはただ己の為だけじゃない。
誰かの為にも、戦いたいと願う時があるのだろう。
「お前と出会えたからかな、本当に」
ギルガメシュはそう呟くと、サラの身体をゆっくりと抱きしめる。
すぐ背後から伝わってくる息遣い、体温。
その全てが、サラを優しく包み込む。荒々しい普段の印象とはまるで違う。
「心配するな。俺ぁ約束は守る方なんでな」
「うん、それは解ってる」
「だから今夜は側にいるよ。今だけは」
そう、今だけはせめて。
2人の唇が重なる。
しばしの間、重なっていた唇が離れた後、ギルガメシュが口を開く。
「なぁ……」
「うん……」
「やるか?」
単調だが、それでも恥ずかしそうにしているのは彼なりの羞恥の現れなのだろうか。
ギルガメシュ自身は行為そのものに積極的ではない。むしろサラの方が積極的で、今夜のようにギルガメシュの方から提案してくるのは初めての事だ。
ぱちり、という音ともに、上衣が脱がされていく。
その時にギルガメシュの背中に生える白い翼がサラの両脇を包むかのように動き、覆った。誰かから見られないようにする為に、とでも言うかのように。
上衣の下のブラに手をかけ、ギルガメシュは丁寧に外した。サラのちょうど平均ぐらいの乳房が露になり、ギルガメシュは口を近づけ、乳首を軽くちゅうっと吸った。
「ひくっ!?」
「悪い」
だがそう呟きつつも、彼は辞める気配は無く、サラの上半身を丁寧に舐めていく。
その肢体を堪能するのに、そう長い時間はかからない。
ギルガメシュの丁寧な舌と、時折動いて身体をくすぐる羽。そして何よりも、今夜は彼がサラだけを見ているという事実。
いつの間にか火照り始めたサラはギルガメシュの体に自ら抱きついた。
濡れそぼった下半身に、ギルガメシュの分身が触れているのが解る。すぐにでも、突き入れられていきそうな。
だが、普段とは違う。強烈な意志を持った、これが最後になりそうで、これが最後にしたくないとばかりに。
「っ……!」
入った。奥底まで打ち付けられるかのような感覚。
激しい。だが、気持ちイイ。
「うおっ……!」
奥まで何度も打ちながらも、それでも出す事を極力拒否していたギルガメシュの分身がむくむくと勃ち上がり、ギルガメシュ本人にもそれが吐き出されようとしているのが解った。
「……お前、今日……」
そう言えば聞いていなかった、と問いかけたがサラは首を横に振った。
「いいよ、ギルなら……まぁ、安全日だけど……」
「……びっくりしたぜ、まったく」
そうは言いつつも、ギルガメシュの脳裏に、一瞬だけイメージとして、サラと家庭を築いた自身の姿が過った。
「お、俺個人として女の子がいいなと……」
「何を言いだすのギルはこんな時に……」
「気にするな」
いつもお前に言っている世迷い言だ。
「嘘だけどね」
「え?」
どの言葉が嘘なのか、と思うより先にそれは既に、中へと吐き出されていた。
一瞬だけ真っ白になった、ギルガメシュの思考。
「……どれが嘘だったんだよ、サラ」
「何が、だろうね……?」
「…………ええい、こん畜生、今こんな事を言うのも何だがな! 全部終わったら俺の嫁に来い! 俺の故郷は遠いが、親に会いに行くぞ!
……もう8年ぐらい音信不通になってるけど」
「……え? よ、嫁に来いって」
「マジだ」
きっぱりと言い放つ。嘘偽りの無い、真っ直ぐな気持ち。
「お前しかいないんだよ。俺の事を受け止めてくれそうなの」
今も、きっとこれからも。そうなのかも知れない。
世界の人間全てに会った事がある訳じゃないけれど。それでも、彼女がいてくれるなら。もう、それで構わない。
「けど、ギルは明日……」
「バカ。その為に約束したんだ。必ず帰ってくるってな」
サラの元へ帰る。そう、生きて帰る事こそが重要だ。
今、ここで約束したからには。
「俺は、約束は守る男だーァッ!」
魂すらも揺がす、本気の誓いを叫ぶ事。
誰よりも何よりも、約束として刻みつける事。刻み続ける事。
朝陽が昇りつつあり、パルタクス学園の食堂が開いた直後、2人の生徒が早くもやってきた。
冒険者養成学校である故か、朝早くから迷宮探索に出掛ける生徒の為に早朝から開いている食堂だが、夏休みに入った今ではあまり生徒は詰め掛けない筈なのに、2人もやって来たのは調理のおばちゃん達も驚きだった。
そして何よりも、その2人の生徒が問題だった。
「あれ?」
「……ん? 早いな」
ディアボロスとギルガメシュである。広すぎる食堂に2人しかいないという恐ろしい事実。
「……先輩、停学中なのに逃げたって聞きましたけど」
「バカ言え。校内だから問題ねぇ」
「そーゆー問題じゃないと思いますけど。おばちゃん、卵かけご飯セット1つ」
「卵かけご飯セット……って、お前もかよ」
「いいじゃないですか、卵かけご飯」
同じメニューを頼むのも癪だと思いはしても変えたら譲る気がするのか、お互いにメニューを変えずに卵かけご飯セットを受け取る。
「で、テメェはこんな朝早くから何を企んでいるんだ?」
「先輩こそ、昨日母さん相手に一戦やらかすって言って逃げ出したそうじゃないですから。風紀委員長から」
「ん? ああ、そういやそんな事したな」
卵をご飯に割りいれ、醤油を垂らしつつギルガメシュが口を開く。
ディアボロスは卵を割りいれるのに変わりはないが醤油ではなくめんつゆである。ダシが利いてるので美味しい。
「テメェの母親だろうが何だろうが、ディモレアは学園を恐怖に陥れたからな。それに……」
「それに?」
「俺は更に強くなりたいんでな。その為に、倒すべき相手だ」
「……意外と自分勝手な理由ですね」
「放っとけ」
卵かけご飯をぐるぐるかき回しながらギルガメシュはそう答える。
かき混ぜ終わった後、文字通り流し込む間、2人は無言だった。だがしかし、それは食べている短い間だけだ。
「で、お前は何を企んでやがる?」
「先輩が、母さん相手に戦うっていうなら、俺も考えがあるからです」
「……俺と、やる気か?」
「ええ」
「……………」
「……………」
空になった丼を前に、2人の視線が交差する。殺気と、闘志に溢れた視線を。
「……この前と、違う」
ギルガメシュは思わずそう呟いた。
この前、戦う直前になった時とは違い、今のディアボロスにはギルガメシュにも負けないという闘志に溢れている。
まだ、話し合いで解決を図ろうとしていたあの時とは違う。
「……ハッ!」
ギルガメシュは笑う。
ならば面白い。
「やってやろーじゃねぇか。親子揃って地獄にたたき落としてやる。その代わりに逃げんじゃねーぞ」
「先輩こそ物おじして逃げ出さないで下さいね? 下級生如きに負ける最強伝説じゃ話になりませんしね」
「……言ったな。おーし、殺ってやるから覚悟しろよ?」
「先輩こそ。俺も、負けるつもりはありませんしね」
広い食堂のちょうど真ん中、2人だけが放つ殺気と闘志のオーラ。
朝早く迷宮探索に出掛けようとしたパーティ達を恐怖させるには充分な威力だったのか、彼らは朝食を食べるのが遅れる羽目になった。
「んで、だ。どこでやる?」
ギルガメシュは椅子に座ると同時に地図を広げる。
「おや、ここで決めるんですか?」
「お互いに合意の上で決めた方がフェアだろうが」
あくまでも対等の立場で戦いたいのだろう。前回は奇襲みたいなものだったが正々堂々戦う決闘みたいなものか、とディアボロスは思った。
「そうですね、どこでやりましょうか」
パルタクス学園校則第五十一条・生徒間同士の決闘は双方の合意があったとしても禁止。他校の生徒が相手である場合も禁止である。但し相手が生徒で無ければその限りではない。
ギルガメシュ・パルタクス学園生徒会副会長。ディアボロス・パルタクス学園美化委員会副委員長。
本来校則を守って生徒の模範となるべき肩書き持ちの2人が校則を平気で無視するのもアレである。
校則で禁止されてはいるが生徒間同士の決闘そのものは少ない訳ではなく、時たま戦場として選ばれるのが学校近隣である場合が多い。
しかし今回は事情が事情である。下手に学校近隣で戦えば他の生徒を巻き込みかねない。
「……ヤムハスなんてどうだ」
「大森林が焼失しますよ。母さんが本気で暴れれば」
「冗談だ。ボストハスかゼイフェア地下道中央、だな」
「……ゼイフェア中央が妥当ですね」
ゼイフェア地下道中央。
中心部にちょうど正方形の場所があるし、壁や柱も適度に邪魔にならないが盾にはなる程度に立っている。
地下道なので崩落の危険性はあるが、それでもディアボロスがギルガメシュを倒してしまえば問題はない。
「………解った」
ギルガメシュは頷き、ディアボロスも頷く。
「じゃあ、後でな」
「ええ。待ってますよ」
戦場で、また会おう。次は敵だと。
2人は椅子から立ち上がると、お互いに反対方向へと歩いていった。次に会う場所はもう、戦場なのだから。
投下完了。次回より戦闘開始。
しまった、ミスして一コタイトル間違えた;
>>165 オープンショーツってなんのメリットが有るんだ?
さっぱり判らん……
これだったら、はいてないのと同じだろう。
着衣エロというジャンルがあるからな
つまりはそういう事なんだろう
オープンショーツは下着っていうより感覚としてはセックスアピールの為のアクセサリーに近い
脱がさずヤれるっていう大人のアイテムだろ。
俺もCROSS†CHANNEL位でしか存在を知らなかったが
179 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 10:55:57 ID:uSKGrGX1
>>159 GJです。やっとあのパーティに出番が来た。
今回、どのキャラにも同情は出来ないな。あ、フェルパーにはできるけど。
戦闘シーンが燃えた。ノームの即死無効便利。でも怖い。
>>166 あまり深く考えなかったけどあぶない下着ってそんな感じなのかな?
というよりオープンショーツなんて初めて聞いたな。
>>175 ギルガメシュ先輩とディアボロスの対決……
セレ子が泣きそうです。
「クラ子さんクラ子さん」
「どうしたんだいヒュマ男くん」
「俺、あぶないパンツを勘違いしてたんだ」
「もしかして、ショーツの類だと思っていたのかね」
「だって、あぶないの上装備は下着って明言されてるんだもん!
でも、知らない奴等にパンツ見せてみたら…」
「変わったズボンだと言われたわけだ」
「クラ子さん、俺はどうすればいいんでしょう」
「どうもしないでいいよヒュマ男くん
あぶないパンツなんて忘れるんだ
ほら」
「…うん
純白ふわふわのあぶなくない方が
ドキドキすると再認識した」
未鑑定名称がズボンだったのでついやってしまった
反省はしていない
クラ子愛してる
あぶないパンツはもちろんパンツなんだけど
ショーツでは無かったのか
182 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 17:42:47 ID:uSKGrGX1
かぼちゃ?
>>158の続き投下します。
こちらも楽しんでいただければ幸いです
その頃、ヒューマンは部屋で一人ゴロゴロしていた。銃の手入れも終わり、明日の探索の準備も終わり、あとは寝るだけなのだが、
寝るにはまだ少し早い。ノームの部屋にでも行こうかとは思ったものの、それも何だか面倒になり、結局一人で過ごしている。
そんな彼の耳に、コンコンというノックの音が聞こえた。
「ん?誰だ?」
「私だけど、入っていい?」
「ドワーフ!?あ、ああ。どうぞどうぞ」
ベッドから飛び降り、すぐに鍵を開ける。ドワーフはヒューマンの顔を見ると、にっこりと微笑んだ。
「急に来ちゃったけど、大丈夫?」
「ああ、別に何もしてなかったし、大丈夫。とにかく入れよ」
二人は部屋に入ると、椅子ではなくベッドに並んで腰かけた。ヒューマンはそのまま、ドワーフが何か言うのを待ったが、彼女は
黙ったまま、何も言わない。微妙な居心地の悪さを感じつつ、彼女の顔を見ていると、ふと目元の毛が黒くなっているのに気付いた。
「あれ、ドワーフ?お前、泣いてたりした?」
「え?あ……うん、ちょっとね」
寂しそうに笑い、ドワーフは頷いた。だが、それ以上のことを喋りはしない。
「………」
「ねえ、ヒューマン君」
「ん?」
「私、ね。今日は、言いたいことがあって、来たの」
表情を見る限り、それはかなり大切なことらしい。ヒューマンは何も言わず、黙って耳を傾ける。
「えっとね……昨日、ヒューマン君が、謝ってくれたの……嬉しかった。褒めてくれたのも、すっごく嬉しかった。それに、私のこと、
信じてくれて、ひどい怪我してたのに、頑張って守ってくれて……すっごく、すっごく嬉しかった」
そこで一旦言葉を切ると、ドワーフは大きく息を吸った。
「私ね、それまで、ヒューマン君のこと、嫌いになろうとしてたの。でも……その、やっぱり……できないよ…。私……私…」
「悪い、ドワーフ。俺に先に言わせてくれ」
言いかけるドワーフの言葉を、ヒューマンが遮った。そして、彼女の顔をしっかりと見据える。
「俺、お前のことが、好きだ」
その言葉に、ビクッとドワーフの体が震える。
「ずっと前から、好きだった。本当に、大好きだったんだ。でも…」
ヒューマンは声を落とし、視線を落とした。
「俺は、お前を好きになる資格なんか、ない。お前には、クラッズがいるし、あんなにお前を傷つけた俺が…」
「……ねえ、ヒューマン君。それでも、私はここに来たよ?」
どこか寂しげな笑顔で、ドワーフはヒューマンの顔を覗きこんだ。
「ね、なんでだと思う?」
「え……なんでって…」
「……クラッズちゃんはね、ちゃんとこの事、知ってるよ。クラッズちゃんとは、もう…」
たちまち溢れそうになった涙を、ドワーフは慌てて拭った。そしてすぐに、口を開く。
「私ねっ、ヒューマン君のことが、好き!ヒューマン君がどう思ってても、私は大好き!資格とか何とか、そういうのって
よくわからないけど、とにかく好きなの!」
「うわっ!?」
迷いを振り払うように叫ぶと、ドワーフはガバッとヒューマンに抱きついた。危うく押し倒されそうになりつつも何とか抱き止めると、
彼女はヒューマンの腰の上に座りながら、震える声で尋ねる。
「ねえ……好きなだけじゃ、ダメ?二人とも、好きだっていうだけじゃダメなんてこと、ないよね?」
縋るような目つきで見上げるドワーフ。そんな彼女を見ていると、ヒューマンの中にあった迷いが消えていく。
今まであった、彼女に対しての負い目、躊躇い、気恥ずかしさ。それらは全て、もう何の必要ないものだった。
自分も、彼女も、気持ちは同じなのだから。ならば、もう迷うことはない。
「……あるわけないだろ、そんなこと」
優しく呟き、ドワーフを抱き締める。その行動は予想していなかったのか、ドワーフは尻尾を振りつつも、体を離そうとする。しかし、
ヒューマンは彼女をしっかりと抱き締め、放さない。それでもしばらく、ドワーフは体を離そうとしていたが、やがて諦めたのか、
自分からもぎゅっとヒューマンに抱きついた。
しばらく、二人はそうして抱き合っていた。部屋の中には、ただパタパタと、尻尾がベッドに擦れる音が響く。ややあって、ドワーフが
ふと体を離し、目を丸くして腰の辺りを見つめた。
「……ん?何か当たる…?」
「ちょっ、ちょっと悪い!!ちょっとどいてくれ!!」
慌てて、ヒューマンがドワーフを押し返す。しかしそれによって、ドワーフは彼の異変に気付いてしまった。
「わっ…」
「い、いや、その……これは…」
ヒューマンのズボンが、内側から押し上げられている。それが、ドワーフの腰に当たっていたのだ。
「お、お前、俺の上に座って尻尾振るから……腰が動いて……グリグリされて…」
「え……あっ……わっ、私、そんなつもりなかったんだけど…!」
それ以上何を言えばいいかもわからず、二人は黙り込んでしまった。僅か数十秒前の雰囲気など、一瞬にして消えてしまい、代わりに
とてつもなく気まずい沈黙が訪れる。
その沈黙を先に破ったのは、ドワーフだった。
「……あの、さ。やっぱり、その……ヒューマン君、も、私とそういうの、したいと、思う……の?」
「えっ!?あ……ま、まあ……その…………うん…」
「その、ね。クラッズちゃんも、さ。私と……私のこと、好きだって……それで、したくなるんだって…」
そこまで言って、ドワーフは一旦言葉を切った。
「……私、クラッズちゃんとも、そういうこと、したんだよ?それでも……ほんとに、いいの…?」
ドワーフはだいぶ混乱しているようで、ヒューマンがその内容を理解するまでには、多少の時間を要した。つまり彼女は、クラッズと
関係を持ったことを、ヒューマンが気にしないかと不安なのだ。
怯えたように見つめるドワーフに、ヒューマンはそっと手を伸ばした。
「そんなことは気にしねえよ。俺は、その……お前が好きだ」
気の利いた言葉が浮かばず、ヒューマンはとにかく正直な気持ちを口にする。しかし、彼女にはそれで正解だった。
何のごまかしも利かない、率直な言葉。不安でいっぱいだったドワーフの胸に、その言葉は強く響いた。
頬を撫でる手に、そっと手を添える。そして、ドワーフは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「私も……だよ。ヒューマン君のこと、大好き」
そんなドワーフに、ヒューマンも微笑みかける。もう、それ以上の言葉は必要なかった。
ごく自然に、二人の顔が近づく。ドワーフが目を閉じ、ヒューマンは彼女の頬から首へと手を回し、そっと唇を重ねる。
ふわふわとした肌触り。和毛が口元をくすぐり、軽く押し付ければ、唇がふにっと柔らかく受け止める。
唇に当たる毛の感触、彼女の唇の柔らかさ、温かさ。それら全てが、たまらなく愛おしく感じる。
ふと、唇に何か柔らかい物が当たった。一瞬遅れて、それが彼女の舌だと気付く。
口を軽く開くと、その隙間をこじ開けるように、ドワーフの舌が入り込んだ。意外と積極的なことに驚きつつも、ヒューマンはその舌を
舐めるように、自身の舌を絡める。
薄く平たく、長い舌。ヒューマンがどう動かそうと、その舌はさながら子犬がじゃれ付くように後を追い、ヒューマンがそれに
応えれば、嬉しそうにまとわりつく。そんな彼女が可愛らしく、ヒューマンは積極的に舌を絡めてやる。
しばらくそうやってじゃれあってから、二人はどちらからともなく唇を離した。唾液が名残惜しげに糸を引き、ドワーフは蕩けるような
笑顔でヒューマンを見つめる。
「ふふ、嬉しいな。ヒューマン君と、キスしちゃった」
「お前、思ったより積極的なんだな。びっくりしたよ」
「ヒューマン君のこと好きだし、キスは慣れてる……から」
一瞬、少しだけ寂しそうな笑みを見せたが、ドワーフはすぐに顔を上げた。
「ヒューマン君。続き、してくれる?」
「それは構わないけど、いいのか?アイドル学科なのに」
冗談めかして尋ねると、ドワーフははにかみながら答える。
「いいの、ヒューマン君となら。私だって……ヒューマン君と、してみたいもん」
それだけ聞けば、もう十分だった。ヒューマンは彼女の服に手を伸ばし、慣れない手つきで一つ一つボタンを外す。全てのボタンを外し、
上着を脱がせると、形のいい胸が露わになる。
「ちょっと、恥ずかしいな…」
「……触っても、いいか?」
ドワーフが頷くと、ヒューマンは恐る恐るといった感じで手を伸ばす。彼の手が体毛に触れると、ドワーフはピクッと身を引いた。
しかし、それ以上逃げはしない。
そっと、掌で包み込むように触れてみる。
「んぅ…!」
ぎゅっと目を瞑り、鼻を鳴らすドワーフ。そのままゆっくりと、捏ねるように揉みしだく。
掌に伝わる柔らかい感触と、手触りのいい艶のある体毛。肌に直接触れるのとはまた違う、独特の温かみと手触り。
その中に僅かな突起の存在を感じ、ヒューマンはそこを指先でくすぐる。
「んあっ…!ヒューマン君……気持ち、いいよ…!」
ドワーフの体がピクリと跳ね、熱い吐息が漏れる。その反応に気を良くし、ヒューマンはさらにじっくりと揉み始める。
ヒューマンの手が動く度、双丘が柔らかく形を崩し、ドワーフが鼻を鳴らす。揉むだけでなく、時には先端の突起を指先で弄る。
不意に、ドワーフがその手をそっと掴んだ。
「ん、嫌だったか?」
「ううん、違うの。えっとね…」
ドワーフは一瞬、躊躇うような仕草を見せたが、やがてもじもじしつつも口を開いた。
「あの、私も、ヒューマン君に、何かしてあげたいな…」
「えっ?あ、ああ、気持ちは嬉しいけど……触らせてくれるだけでも、結構嬉しいんだけどな」
「でも、その、それじゃ不公平だもん。えっと……こことか、触るといいんだっけ?」
言いながら、ドワーフはヒューマンの股間に手を伸ばし、ズボンの上から、中で立ち上がっているモノの先端を撫でた。
「うっ…!」
「いいのかな?これぐらいなら、私もしてあげられるもん」
触るか触らないかといった強さで、先端をゆっくりと撫でる。力の入れ具合がわからないらしく、刺激としてはひどくもどかしい。
やはり一度も経験はなく、クラッズにもされるばかりだったため、その手つきは非常に拙い。だがヒューマンにとっては、その覚束ない
手つきが、逆にとても気持ちよく感じる。
「ど、どう?気持ちいい?」
「ああ……くっ……いいよ…!」
「よかった、えへへ」
尻尾が、再びパタパタと動き始める。嬉しそうな顔でそこを撫で続けるドワーフ。しかし、確かに気持ちいいのだが、ヒューマンは
何となく彼女に対抗心を煽られていた。
「うっく……おい、ドワーフ…!今度は、お前ばっかりになってるじゃねえかよ……くっ…!」
「え?あ、そうだね。でも、私はこれでもいいよ?」
「それじゃ不公平だって、お前が言い出したんだろ。だから、その、俺もお前に……同じこと、していいよな?」
その意味を一瞬考え、途端にドワーフの尻尾が止まり、体毛がぶわっと膨らんだ。
「あ、う、うん、いいけど……あの、優しく、してね…?」
一度手を離し、お互いに体をぴったりと寄せる。そしてヒューマンが手を伸ばすと、ドワーフはすぐにその手を捕らえた。
「ん、ダメなのか?」
「あ、ううん。そういうことじゃなくって……あの、出来れば脱がせてほしいな。じゃないと、汚れちゃうし……ヒューマン君のこと、
直接感じたいし、さ」
「ああ、そういうことか。わかったよ」
ドワーフが手を放すと、ヒューマンはまず自分の服に手をかけ、手早く脱ぎ捨てる。下着までもベッドの下に脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿に
なってから、ドワーフのショートパンツに手をかける。
「あ、尻尾、大丈夫か?」
「うん、平気」
ヒューマンが脱がせるのに合わせ、ドワーフはうまく尻尾を動かし、それを手伝う。ショートパンツが脱がされ、その下のショーツまで
脱がされると、さすがにドワーフは尻尾で股間を隠す。
「尻尾、どかしてくれねえか?それだと触れねえ」
「う、うん。でも、ちょっと恥ずかしいな……ヒューマン君、堂々としてるよね」
「まあ……今更、恥ずかしがる状況でもねえしさ」
「そういうとこ、男らしくってかっこいい、かな?えへへ」
全身の毛を膨らませつつ、ドワーフはゆっくりと尻尾をどかした。そこに、ヒューマンがそっと手を伸ばす。
割れ目に、軽く指が沈み込む。ドワーフの体が、ピクッと震えた。
「んんっ…!」
「大丈夫か?」
「ん……うん。続けて、いいよ…」
指に、柔らかく熱い感触が伝わる。既にそこは僅かながら湿っており、触れればぬるぬるとした粘液が指にまとわりつく。
ゆっくりと秘裂を擦ると、彼女の体がピクリと跳ね、同時に指をきゅっと締め付けてくる。
「んっ……あ…!な、何かヒューマン君の……んんっ……さっきより、大きくなってる…」
「そりゃ、まあ…」
ドワーフもおずおずと、ヒューマンのモノに手を伸ばし、そっと握ってみる。
「く…!」
「えっと……握っても、平気?」
「う……ああ、あんまり強くなければ…」
やはり慣れない手つきで、ドワーフは恐る恐るヒューマンのモノを扱き始める。
「わ……硬いし、熱いんだ……あんっ!」
「お前だって、こんなに熱くなってる…」
それまで、割れ目をなぞるように撫でていたヒューマンは、そっと指の角度を変え、彼女の中に突き入れた。途端に、ドワーフの体が
ビクンと跳ねる。
「い、痛っ!ヒューマン君っ……まだ、ちょっと……待って…!」
「ご、ごめん!大丈夫だった!?」
慌てて指を引き抜き、ヒューマンはドワーフの顔を覗きこむ。
「入れられるの、あんまり慣れてなくって……だから、もうちょっと濡れてから…」
「ごめんな。その、俺、その辺よくわかんなくて…」
何だかしゅんとしてしまったヒューマンに、ドワーフは優しい笑顔を向けた。
「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃったけど、そこまで痛かったわけじゃないから」
「そ、そうか?悪かったな、今度は痛くしねえから」
気を取り直し、ヒューマンは再び手を伸ばした。今度は優しく、周囲から揉み解すように撫でる。
割れ目に指を沈み込ませ、親指で敏感な突起に触れると、途端にドワーフは熱い吐息を漏らす。
「あっ!そこ、好きぃ…!もっと、してぇ…!」
甘い声でねだるドワーフ。その姿は意外でもあったが、同時にひどく扇情的だった。声だけですら、十分な刺激である。
「お前、意外と積極的なんだな。もっと大人しいイメージだったけど」
ヒューマンが言うと、ドワーフは快感に潤んだ瞳の中に、僅かな悲しみの色を浮かべた。
「言わないで……お願い、今はヒューマン君だけを、感じさせて」
その言葉で、ヒューマンは気付いた。ドワーフは、クラッズを忘れたいのだ。
「……ああ、悪かったよ」
お詫びに口付けをし、指での刺激をさらに強める。ドワーフもお返しとばかりに、彼のモノを扱いているが、その手はやや
止まりがちである。
「あんっ、あっ!ヒュ、ヒューマンくぅん…!」
ドワーフのそこは、既に十分濡れ始めていた。溢れる愛液は指を濡らすだけに留まらず、ドワーフの毛を伝い、今にもベッドに
滴りそうになっている。ヒューマンも、ずっとお返しを受けているため、既にそこははちきれんばかりに怒張している。
「ドワーフ……俺、もう…」
ヒューマンが囁くと、ドワーフは恥ずかしげに笑い、頷いてみせる。そんな彼女を押し倒そうとすると、ドワーフはその体を
全力で押し返した。
「ま、待って、ごめん。あの……恥ずかしいけど、わ、私に、させてくれない……かな…?入れられるのって、ちょっと怖い…」
「ああ……そうか。まあ、それでもいいけど」
今度は逆に、ドワーフがヒューマンの体を押す。尻餅をついた体勢のヒューマンに、ドワーフはそっと乗りかかる。
「ドワーフ、大丈夫か?」
「う、うん、たぶん…」
「その……経験は、あるん……だよな?」
「でも、血、出たことないし……こんなにおっきいの、入れたことないから…」
「……無理するなよ?」
ヒューマンのモノを掴み、ドワーフは自身の秘裂にあてがうと、不安げな顔をしつつも、少しずつ腰を落とし始める。
ちゅく、と、先端が押し当てられる。そして、ドワーフが体重をかけると、花唇がゆっくりと開かれ、少しずつヒューマンのモノを
飲み込み始める。
「んっ……お、思ったよりは……平気かも…」
顔をしかめつつも、ドワーフはさらに体重をかける。彼女の中は熱くぬめり、それでいて強く締め付けてくる。初めての感覚に、
ヒューマンは歯を食い縛って耐えている。
「う……くっ…!」
「んんんっ…!ど、どぉ…?もう……だいぶ、入った…?」
痛みが出てきたのか、ドワーフは苦しげに顔を歪ませ、掠れた声で尋ねる。
「う……まだ半分くらいだ…!」
「ま、まだそれだけぇ…!?わかった……もうちょっと、がんばる…!」
そう言うと、ドワーフは一旦呼吸を整え、息を止めると、グッと体重をかけた。途端に、今までの抵抗が突然なくなり、一気に根元までが
彼女の中に入り込んだ。
「うあっ!」
「あぐうっ!あ……つぅ…!」
完全にヒューマンの腰に座り、苦しげな息をつくドワーフ。一方のヒューマンも、今までにない快感に、必死に耐えていた。
「く……ドワーフ、平気か…?」
「痛っ……痛たた…!ちょ、ちょっと痛かったけど、聞いてたほどじゃないから、平気……でも、ちょっと待って……いたぁ…」
確かに、結合部には僅かに血が滲む程度で、大した出血はしていないようだった。恐らくはクラッズと経験があったため、
あまり緊張せずに受け入れられたのだろう。
じっとしていても、ドワーフの中はまるで生き物のように動き、ヒューマンのモノをぎゅうぎゅうと締め付けてくる。思わず腰を
突き上げたくなる衝動と戦いながら、ヒューマンは優しくドワーフの体を抱いてやる。
「はぁ……はぁ……無理、するなよ…?」
「あ、あはは……ヒューマン君も、辛そうだね…」
少し涙を滲ませつつも、元気そうに振舞うドワーフの姿は、何とも可愛らしかった。ヒューマンは彼女の首を抱き寄せ、優しく
キスをする。ドワーフは少し驚いたようだったが、すぐにそれに応え、自分から舌を絡める。
お互いに向かい合って座り、深く繋がったまま、キスを楽しむ。そうしていると、不思議とドワーフの痛みも薄らいできた。
自然と、尻尾が振れる。さすがに勢いはよくないものの、それでも多少は振動が腰に伝わる。繋がったまま、腰をぐりぐりと動かされ、
さらに加わった快感に、ヒューマンは呻き声を上げる。
「うくっ……お前、また尻尾…」
「ん?あ、ごめんね。でも、何か嬉しくってさ……えへ」
「もう、痛くないのか?」
「うん、平気。だから……動いても、いいよ…」
そう言われると、ヒューマンは少し苦笑いを浮かべた。
「けど、その……気持ちよすぎて、動いたらすぐ出ちまいそう…」
「そ、そう?でも、なんか嬉しいな……私で、気持ちよくなってくれてるって…」
再び、尻尾がパタパタと動き出し、ヒューマンが呻く。
「あ、ごめん」
「……いいや、もう。痛かったら、すぐ言えよ」
ヒューマンが、軽く腰を動かす。一瞬、ドワーフはビクッと身を震わせたが、痛みによるものではないらしい。
かなり動き辛いものの、ヒューマンはゆっくりと腰を動かす。突き上げる度、ドワーフの中はぎゅっと締め付け、彼女自身も鼻を鳴らす。
「んっ……はぁ…!ヒューマン、君…!」
甘えるように言って、ドワーフはヒューマンに抱きつく。そんな彼女を、ヒューマンも強く抱き返す。
「ドワーフ……中、すげえ熱くって……気持ちいい…!」
「んあっ!あぁっ!うっ……あんっ!私、も……気持ち、いいよぉ…!」
蕩けるような声で言うと、ドワーフもゆっくりと腰を動かし始めた。
「うあっ!?ド、ドワーフ……くっ…!」
「あっ、んっ!ヒューマンくぅん…!」
腰をくねらせ、前後に動かし、中は強くヒューマンのモノを締め付ける。ぬるぬるとした膣内で強く扱かれ、熱い粘液が彼のモノを
包み込む。その刺激に、ただでさえ限界近かったヒューマンは、一気に追い詰められた。
「ドワーフっ!もう、出るっ!くっ……あっ…!」
「い、いいよ…!ヒューマン君……好き…!そのまま、いいよ…!」
「ドワーフっ……ぐっ……あぁ!」
より強くドワーフを抱き締め、ヒューマンは彼女の中に思い切り精を放った。
「うあっ、あ……ヒューマンくん、の……あついぃ…!」
ビクビクと彼のモノが脈打ち、その度にドワーフの体内に精液が注ぎ込まれる。二度、三度と彼のモノが体内で跳ねるのを感じ、
その度にドワーフはえもいわれぬ幸福感を覚える。
やがて、その動きがなくなり、じきに大きかったモノが、少しずつ小さくなり始める。二人は抱き合い、荒い息をついていたが、
ヒューマンが口を開く。
「はぁ……はぁ……大丈夫、か…?」
それに、ドワーフは笑って答えた。
「うん、平気…。ヒューマン君も、大丈夫…?」
「ああ……俺は平気だよ」
ヒューマンが座り直すように腰を引くと、あらかた小さくなっていたモノが、ちゅるりとドワーフの中から抜け出た。
「んっ…!ヒューマン君……好き…」
甘えるような、それでいてどこか縋るような視線で、ドワーフはヒューマンを見つめる。
「……俺も、好きだ。ドワーフ、大好きだ」
二人はまた、キスを交わした。しっかりと抱き合い、お互いの感触を求め合う。二人はお互いに甘えるように、いつまでもそうしていた。
「……それにしても、珍しいね。君が僕の部屋に来るなんて」
「行くとこないんじゃもん……はぁ…」
ベッドに突っ伏すクラッズ。ノームは足を組んで椅子に座り、クラッズをじっと見つめている。
「結局ね、あたしはドワちゃんを、余計苦しめただけじゃったわけよ……あの子の好きな人を傷つけて、遠ざけて、おまけに余計な
恋人まで作っちゃって、泣かせて……あんなにいい子、おらんのに……は〜ぁ…」
「でも、ドワーフは悩んでたんだろう。それなら、君のものにすればよかったじゃないか」
「出来るわけないでしょ〜!?元々、あの子はヒュマ君が好きじゃったわけじゃし、あたしは後から好きにさせただけで……ふ〜…」
「だったら、仲直りなんかさせなければよかったんだ。どうして君は、あの時ヒューマンに謝るチャンスを与えたんだい」
ノームが尋ねると、クラッズはむくりと体を起こした。
「……狸寝入りして盗み見なんて、趣味悪い奴じゃなー」
「失礼な。あの時、僕は首を切られてたんだ。まともに体が動かせなくって、僕は僕で苦労してたんだよ。わざとじゃない」
「ああ、それはごめん。けど……ねえ……あたしは、ドワちゃんが好きなんじゃもん……ドワちゃんを、苦しめたいわけじゃないし、
泣く姿なんか、見たくないもん…」
「意外とピュアなんだね。それにしても、君は泣いたりしないんだな」
その言葉に、クラッズは自嘲の笑みを浮かべた。
「全部、あたしのせいじゃもん。自分で仕掛けたことが失敗して、『あ〜あたしが可哀想〜』なんて、泣けると思う?そこまでは、
さすがに見損なわないでよ」
「なるほど、それは失礼。しかし、君は本当に、ドワーフのことを第一に考えてたんだな」
「結局泣かせて、苦しませて、あたしもヒュマ君のこと、言えなくなったけどね…」
落ち込んだ声で言うと、クラッズは再び突っ伏した。そんな彼女を見て、ノームの口元が僅かに吊り上がる。
「けど、一ついいかい」
「……な〜に?」
「どうして、わざわざドワーフと恋人の縁を切る必要があったんだい」
「は!?」
思いもよらない言葉に、クラッズはガバッと体を起こした。
「ドワーフは、君のことも好きなんだろ。なら、恋人のままでいればいいじゃないか」
「ばっ、馬鹿言わないでよ!?じゃから、あの子はヒュマ君がおるんじゃし…!」
「好きな人が一人じゃなきゃいけないなんて、誰が決めたんだい。君とドワーフと、ヒューマンで付き合えばいいじゃないか」
「はぁ〜!?あんた、何言ってんの!?あたしが!?ヒュマ君と!?馬鹿言わないで!!どうしてあたしが…!」
「君は、ヒューマンを嫌ってるわけじゃないだろ」
「嫌いじゃってのっ!!!どうしてあたしが、あんな見栄張ってドワちゃんを泣かせるような奴と…!」
「そう、君が嫌いなのは、『ドワーフを泣かせたヒューマン』だ。君等は、パーティ結成当初はフレンドリーだったし、
そうでなくとも、君は今もあいつを影で『ヒュマ君』って呼んでる。本当に嫌いなら、そんな呼び方はしない。それに、チャンスを
与えるようなことだって、するわけない。いわば、かわいさ余って憎さ百倍ってとこだろ。違うかい」
ノームの言葉に、クラッズは言葉が出なかった。言い返そうとしても、反論できる言葉がなかったのだ。
やがて、クラッズは大きな溜め息をつき、肩を落とした。
「……ほんと、よく見てるのぅ…。言われてみれば、そうなんじゃよね…」
「いいじゃないか。ドワーフは君もヒューマンも好きで、君もヒューマンも、ドワーフが好きで、お互い嫌いではない。別に、
君とヒューマンは付き合わなくたって、同じドワーフを好きな人同士、仲良くすればいいじゃないか」
クラッズはゆっくりと顔を上げ、ノームの顔を見つめた。その疲れた顔に、少しずつ笑顔が蘇ってくる。
「……なかなか面白いこと考えるのぅ〜。そうじゃよね、ドワちゃんに確認取ったわけでもないんじゃし」
「今からでも行ってくればいいさ。彼女のことだから、きっと受け入れてくれると思うよ」
ノームが言うと、クラッズはベッドからぴょんと飛び降りた。
「よし!じゃああたし、行ってくる!ノーム君、ありがとね!大好きじゃよ!」
「ああ、お礼のキスは結構だよ。ヒューマンとかドワちゃんに嫉妬されても困る」
「あっははは、しないしない!でも、してあげてもいい気分じゃけどね〜!とにかく、行ってくるね!!」
今までとは打って変わって、クラッズは弾んだ足取りで部屋を出て行った。それを見届けると、ノームは口元だけの笑みを浮かべる。
「さーて、これでますます面白くなりそうだ」
その頃、ヒューマンとドワーフはベッドの上で、仲良く寄り添って座っていた。言葉はなくとも、お互いの温もりを感じられるのが、
とても幸せだった。
突然、鍵がガチャリと音を立てて外され、続いてドアが勢いよく開かれた。
「お邪魔しまーす!」
「どわぁ!?」
「きゃあぁぁ!?」
入ってきたのは、紛れもないあのクラッズだった。服も着ていない二人は、慌てて布団を胸元まで引き上げる。
「お、お前どうやって…!?」
「そりゃーアンロックに決まってるでしょ!それにしても、あ〜……ちょっと遅かったかぁ。もう一発ヤッちゃった後みたいじゃね。
大丈夫?痛くなかった?あたしが一緒なら、絶対痛くさせなかったのに〜」
「ク、ク、クラッズちゃん…!?あの、どうして…!?」
混乱しつつもドワーフが尋ねると、クラッズはにんまりと笑った。
「うん、ちょっとノーム君と話したんじゃけど、別れる必要はなかったかなーって」
「え?えっ……と…?」
「ドワちゃん、あたしのこと、好き?」
不意に、クラッズは真面目な顔で尋ねた。それに対し、ドワーフは即座に答えた。
「うん……大好き、だよ」
「よかったー!あたしも、大好き!お互い好きなんじゃから、別に別れる必要ないよね!ちょっと男臭くなっちゃったみたいじゃけど、
それでもドワちゃんのこと、大好き!」
言いながら、クラッズは当然のようにベッドに上がり、もそもそとドワーフの隣に潜り込んだ。
「お、おい、クラッズ…」
「あ〜、安心して。別にあんたからドワちゃん盗ろうってわけじゃないから……あ、違うか」
クラッズはヒューマンの顔を見つめながら、心を落ち着けるように一つ息をついた。
「あんたじゃなくて……ヒュマ君、じゃね。お互い、色々あったけどさ、ドワちゃんを好きな人同士、仲直りしてほしいな」
彼女の意外な言葉に、ヒューマンは目を丸くする。
「いや、その、それは別にいいけどよ……けど、ドワーフは…」
言いかけてドワーフを見ると、彼女はもじもじしつつ、口を開いた。
「あ、あの……私は、二人とも、大好き…。だから……クラッズちゃんとも、別れなくていいなら、嬉しいな…」
「……つまり、俺とお前とクラッズとの関係で、構わないと…?」
ドワーフは恥ずかしげに顔を伏せ、こっくりと頷いた。
「……マジかよ…」
「ま、そういうわけじゃからさ!ああ、でもあたし、ヒュマ君とはヤらないから、ドワちゃん安心して!」
「……えへへ、嬉しいな…!やっぱり私、クラッズちゃんとも、別れたくなかったもん……ぐす…!」
「あーもー!かわいいなぁドワちゃんは!んじゃまあ、ヒュマ君、これからよろしく!」
「………」
嬉しそうなクラッズとドワーフを尻目に、ヒューマンはこの予想も付かない成り行きに、ただただ絶句するばかりだった。
その翌日、ヒューマンは目を覚ますと即座にノームの部屋へと乗り込んだ。
「おいコラノーム!お前、クラッズに変な入れ知恵しただろてめー!!」
そんなヒューマンに、ノームは椅子に座りながら、いつもの口元だけの笑顔で答える。
「変な入れ知恵とは、失礼だな君は。僕はただ、パーティ全員が一番幸せになれる道を、指し示しただけじゃないか。君だって、
クラッズと仲直りできたわけだし、女の子二人と同時に付き合えるんだぜ」
「そ、そりゃ仲直りはよかったけどよ……でも、その、何か違わねえか!?」
「ドワーフだって、クラッズと別れるのは辛かったんだ。君はまた、君一人の都合でドワーフを不幸にする気かい」
「ぐっ……お前、地味に痛えとこ突くよな…」
「最後には結局、インナモラーティは結ばれるものさ。今回は、ちょっとおまけがついてるけどね。スラップスティックとしては、
なかなかよかったじゃないか」
楽しそうに語るノームを、ヒューマンは呆れきった顔で見つめた。
「……お前、自分は観客だとか言ってたけどよ、絶対観客じゃねえだろ。お前みたいなトリックスター、見たことねえよ」
「あっははは。光栄だなあ、その言葉は」
実に楽しそうに、ノームは笑った。いつもの口元だけのものではなく、目も少し笑っている。
「けど、ヒューマン。ドワーフとするときは気をつけてくれよ」
「あん?何にだよ?」
「君はガンナーなんだ。命中率は高いからね」
言葉の意味が判らず、ヒューマンは首を傾げた。
「ああ、でも君のことだ。フィニッシュはやっぱりヘッドショットがお好みかい。けど、ドワーフ相手じゃ、毛が大変な事になるし、
ほどほどにしてやれよ」
「……てめえこの野郎ーーー!!!」
ヒューマンが殴りかかった瞬間、ノームはふわりと体を浮かせ、開けっ放しの窓から外へと飛び出した。
「ははは、そんなに怒るなよ。ちょっとしたジョークじゃないか」
「一発殴らせろ、てめえ!」
「お断りするよ。まあともかく、今度はドワーフともクラッズとも、仲良くやってくれよ。僕としては、親友が苦しむ姿なんて、
あまり見たくないんだ」
「……お前は、危なくなると友情を盾にするんだな…」
「結果的にそうなっただけで、本心だよ。とにかく、僕はこれで失礼。また前みたいに、みんなで仲良く探索できるのを、
楽しみにしてるよ」
そう言うと、ノームはゆっくりと地面に降り、悠々と歩き去っていった。それを窓から見つめ、ヒューマンは溜め息をつく。
「……感謝はするけどよ……ったく…」
呆れたように呟き、ヒューマンは部屋を出た。するとすぐに声がかけられる。
「あ、ヒューマン君、ここにいたんだ」
「ノーム君にお礼でも言ってた?ヒュマ君もまめじゃのぅ」
仲良く並んで歩く、ドワーフにクラッズ。言い換えると、現在の恋人に、その恋人の恋人。
「……ま、そんなとこだ」
「でもヒュマ君〜、黙って出てっちゃダメじゃよ?起きたら好きな人が隣にいないって、すっごく不安なんじゃから」
「ああ……ごめん。悪かったよ」
「……ま、おかげであたしが、ドワちゃん独り占めできたけどね〜」
「明日は、ヒューマン君も一緒に起きようね」
純真な笑顔で言うドワーフ。そんな顔を見ていると、ヒューマンは何だか、どんな問題も些細なものに思えてしまった。
「……そうだな、そうしよう。ドワーフ、体は大丈夫か?」
「うん、平気だよ。心配してくれて、ありがとね」
「あ、今度するときは、あたしもちゃんと混ぜてね〜。ドワちゃんのこと、すっごく気持ちよくしてあげるからさ!」
「えへへ……恥ずかしいけど、嬉しいな」
既に、すっかりこの状況に馴染んでいるドワーフにクラッズ。そんな二人を見ていると、もはやそんなことで悩んでいるのが
馬鹿らしく思えてくる。半ば自棄ではあるが、少なくとも以前のギスギスした関係よりは、何百倍もマシである。
「んじゃ、朝飯は三人で食うか。せっかく会ったんだし、学食行こうぜ」
「さんせーい!ごはんごはん〜」
「あっははは。ドワちゃんは相変わらずじゃのぅ〜」
仲良く歩き出す三人。そこには、今まであった確執など、きれいさっぱり消え去っていた。むしろ、以前よりさらに仲良く見える
ほどである。今の彼等を見て、つい数日前まで喧嘩をしていた者同士だとは、誰も思わないだろう。
雨降って地固まる、という言葉がある。しかしこれは固まりすぎだろうと、ヒューマンはぼんやりと思った。
当然のように三角関係を受け入れる三人。しかもそれがうまく回る現実。普通なら、ちょっとありえない構図だろう。
そのありえない構図が、通用する一行。
クロスティーニきっての仲良しパーティ。または学園一の成長株。あるいは、最も混沌とした人間関係を持つパーティ。
やはり色んな意味で特別なパーティだと、彼等は結局、学園で話題のパーティになるのであった。
以上、投下終了。
ドワ子が延々振り回されっぱなしのような気がしてきた。考えないことにしよう。
それではこの辺で。
乙です。
ヒュム男とドワ子でくっつくのかと思ったらクラ子まで一緒になるとは…
さすが氏だぜ、予想の遥か上をいってくれる
196 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 00:24:10 ID:yQ8z/9Xb
GJ&乙です。
クラッズとノームがくっつくかと思ったが……読みが浅かった。
いつもながら師の書く人間関係は複雑で面白い。
しかしこれでノームは一人者確定……でもいいのか、観客って言ってるし。
そういや全然関係ないけどこの世界、親が種族違うと子の種族ってどーなるんだ?
番長達やダンテのとこみたいにどっちかの親に準じるのかな
半分ずつのハーフって生まれないのかな
198 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 02:46:33 ID:yQ8z/9Xb
>>197 一応『クロスティーニ学園せい春日記』の中にそれっぽいものはあったぞ。
正確に言うなら
>>19の31行目から下。
俺は大体上のようなものだと考えている。
半分ずつのハーフがいるとすると混血が進んで大変なことになるんじゃないか?
へたすりゃ全種族の特徴を持った子供が生まれるし。
エルフの長耳と
ドワーフのふさふさと
ノームの体と
クラッズの小柄さと
フェルパーの尻尾と
ディアボロスの角と
バハムーンの翼と
セレスティアの翼と
フェアリーの翼(計枚羽根)を
ヒューマン的に平均して併せ持つ最強の種族!
単純に母親依存で極稀にハーフって考えだな
リアル思考いれたら遺伝子操作でもしないと子供なんて作れないだろうし
203 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 12:19:59 ID:yQ8z/9Xb
>>199 その種族の相性補正が気になる。
俺はフィフティ・フィフティだと思うぞ。
そもそも子供が出来る確率が低くて、生まれる子供自体が少ないだろうし。
タークやマクスターのように種族の違う兄弟もいるし。
204 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 12:34:04 ID:NdWDPLMx
一部例外で基本他種族との交配は不可能とかだとなんか切なくなる
原作では相性めっちゃ悪いはずのディアとセレに二組も兄弟・兄妹が出てくるってのも興味深いな
相性悪いくせに子供は作れるんかい!w
「か、勘違いしないでくださいね! 私は貴方が好きなのではなく、ただ身体の相性がいいから……!」
「俺だってお前なんか身体目当てでしかねぇよ! ただのセフレが変な心配してんじゃねぇっ!」
こんな悪態つきながらもう毎晩毎晩……ツンデレ同士のカップルほどうぜーもんはないな
種族間の相性は悪くてもあっちの相性は最高なんですね、分かります
そしてお互い「体目当ての最低な種族」と認識して
ますます仲違いが起こるんですね
乙!
あー、そうなるんだやっぱり。3P本番までは
行かなかったみたいだけど……でも結構危うい均衡だよねぇ。
俺もこんな感じになったことあったが長続きしなかったし、
彼らの行く先が明るい事を願ってやまないw
>>205 ツンデレ同士は絶対に誰かのフォローが必要だからな
本人だけだと確実にろくなことにならないw
209 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 19:31:31 ID:yQ8z/9Xb
>>205 その状態で子供を二人も作るのか。
良く考えたらそのツンデレカップル、本人達はいいかもしれないが、
両親同士で変ないざこざ起きそうだよな。
少なくとも、嫁姑関係は酷そうだ。
しかし相性最悪とはいえ、セレスティアから見ると
ディアボロス>性格の合わないクラッズ>性格の合わない同種族
なんだぜ。思ったほどには壁は高くないのかもしれん
211 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 20:38:38 ID:NdWDPLMx
>>209以外と年とると丸くなる種族だったりして
相性はヒューマンの偏見とステレオタイプでできていて実際には血液型占い並みに信憑性の薄いものだと思ってる。信じているのもヒューマンだけとか
ダンジョンで全員麻痺っちゃったんで別のパーティで助けてきたんだけどさ
なんかそれ以来ドワ子の様子がおかしい
モンスターを凄い勢いで怖がるようになったししきり体調を気にしてる
一ヶ月過ぎた辺りから情緒不安定になってきたし
月経来ないぐらいで何がそんなに恐ろしいのか
213 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 20:48:36 ID:yQ8z/9Xb
>>211 ヒューマンが作った割には他の種族の相性まで作られてる。
多分各種族ごとに100人ぐらいからアンケートとってそれをまとめたものじゃないかな。
「あなたが一番付き合いやすい種族は?5段階評価でお答えください」みたいな。
>>212 たった一言ドワ子に言ってあげればいいんだ
おめでとうって
冒険者も世間様も夏真っ盛り。こんばんは、アトガキモドキです。
さて、フェル×フェアの予定でしたが……今回は「エロなし」です。
言い訳は最後に見苦しくやりますが、そういうわけで、あらかじめ御了承ください。
また、暴力的な表現を含みます。苦手な方、遠慮なく流して下さって構いません。
以上の要素を御理解頂いた上で、お楽しみください。
突然ですが、一般的な飼い猫のしぐさ講座を行います。
視線をそらす……信頼の確認。猫はじっと見つめ合うのが苦手。
前足をたたむ……安心している。俗に香箱を組むといいます。
頬ずりをする……愛情表現。このコは、自分だけのもの。
「あれ?……あーっ!いたいた、フェルパー!」
学校の敷地内、塀の角の茂み。校舎の窓からではそこに背を向けうずくまって隠れる少年を発見出来なかった。
昼休みからいないと騒ぎになって、延々と続く校内の捜索に見切りをつけたのは正解だったらしい。
首を回して少年は振り向いたものの、すぐ縮こまって、再び体育座り。
「みんな捜してるよ。ほら、早く戻ろ?」
「……嫌だ。戻りたくない」
種族特有の猫耳を伏せ、意気消沈した低い声で口ごもる。
少年がこうなった経緯を知るフェアリーの少女はむっとして、目くじらを立てて頬を膨らます。
「だって、フェルパーも悪いんでしょ?ケンカしたなら、謝りに行かなきゃ」
「あいつが先に突っかかってきたんだ。殴られたから、殴り返した。何かいけないのか?」
「ウソつき。パンチ一発の仕返しなのに、相手の子、ひどい大ケガしてたよ?」
保健室に担ぎ込まれた同級生は、痣やミミズ腫ればかりでは済まずに随所の皮が剥け、鼻血も出ていたのだ。
「ふん、いい気味だ。オレをバカにして。これで少しは思い知っただろ」
「それじゃダメでしょ。だからって相手をコテンパンにしていい理由にはならないよ」
「だったら、オレだけがまんしろってのか。あっちはやりたい放題なのに」
「なら、そんなヤツほっとけばいいじゃない。男の子のくせに、みっともない」
少女はフェルパーの少年ではなく、彼を怒らせた相手を非難したつもりだろう。
それを聞いて少年は眼を見開き身を震わす。髪と同じ色の黒い尻尾を、せわしなく振り回し反抗した。
「なんだァ、それ……こっちだけやられっぱなしかよ」
「バカ相手に怒ったってしょうがないじゃん。相手にしてやるだけムダだって」
「そうやっていつまでものさばらせておくから!野郎、調子に乗り始めるんだよ!」
怒号を浴びせるだけにとどまらず、少年は少女に襲いかかった。
前触れもなく強引に肩を引き込まれ、刹那の悲鳴が植え込みに沈む。
ぎらついた少年の眼は黄金の満月。凶暴なほど美しく、恐怖するまでに正円だった。
「フェアちゃん、どうしたの?顔色がよくないわよ?」
「う〜ん、昨日見た夢が、ちょっとね」
「悪い夢でも見たのかい?それとも、なれないベッドで寝不足かな?」
「ああ、いいの。平気へーき。大したことないから」
チームメイトであるエルフとディアボロスに気を使わせる。他人の眼に映る今の自分は、よほどやつれて見えるのだろうか。
昨晩のそれは確かに愉快なものではなく、起きたころには寝間着がじっとり汗をかき、脈拍が定まらなかった。
それでも制服に着替え、仲間と他愛ない会話を交わすと気分が入れ替わり、今では不快感を忘れつつある。
「ところでさ、転科って、いつまでかかるのかな。早くバハ男に会いたいよ」
「さあね。朝のうちに済むって言うから、そろそろじゃないの?もうずっと待ってるけど」
クロスティーニ学園の姉妹校、パニーニ学院の学生寮に一泊し、朝食後の食堂で時間を潰し始めて、はや一時間弱。
彼女達を待ちぼうけさせる男連中は、今朝正式な学科の変更を申請、承諾、完了すべく、職員室に詰めている。
約二週間に及ぶ修行と勉強、その成果である適性検査等々はとっくに全てが終わっており、残るは書類関係の総仕上げのみ。
最終的に単位を買い戻すため、転科する予定のない帳簿方を含めて、今日は朝からパーティの男子全員が全員、出払っていた。
昼前には終わるよ。その言葉を信じつつ三杯目のコーヒーから湯気が消えたころ、聴き慣れた陽気な声色が話しかけた。
「やあやあ。待たせたね。やっとこさ終わったよ」
いつもと変わらぬ、レンジャー科のクラッズ。その後について歩く、なんだか久しぶりに姿を見せたバハムーンとフェルパー。
元、格闘家学科である両名の壮絶な変わりようは、女性陣を軽い混乱に陥れる。
「よう、ディア子!いま帰ったぞ!」
「ば、バハ男……だよね?なんか、だいぶ雰囲気変わった?」
「おうよ。これでやっと身を呈して、大事なお前達の盾になれるってもんだ!なあ!」
蒼い翼や総立ちの髪の毛は濃厚な赤にとって代わり、動きやすい空手着を纏っていた上下には、重厚な鎧が装着されている。
竜騎士となったバハムーンは、人目があるのも構わずディアボロスの肩を抱き寄せる。以前ならしなかった、豪快な行動。
唐突な抱擁を受けた彼女は、彼の髪色に引けをとらないくらい赤面して、そのまま硬直した。
「バハ君……性格まで変わってる気がするわ」
「先生が言うには、よくあることだってさ。別人に見えるくらいが普通らしいよ」
もちろん、変化が激しいのはバハムーンだけではない。ビーストに転科したフェルパーもまた、容姿に大きな変革がある。
黒光りする硬質な爪は、おそらくそのままで刃物になりうる。制服には意図的な裂け目が刻まれ、双頭に割れた尾が印象的。
特に頭髪や尻尾の毛、猫耳や肘先にかけての皮膚は、突然変異ばりに変色している。バハムーンが赤色なら、こちらは紅色か。
小柄な彼に不釣り合いなほど巨大な鈴が付いた首輪をはめ、野生を通り越して妖しげな、もはや物の怪のシルエット。
「フェアリー……ただいま」
「おかえり。フェルパー、ずいぶん変わったね」
「ん……なあ。今のオレ……どう思う?」
ちらちらと視線を脇にそらしながら、フェアリーの反応をうかがうフェルパー。こちらは内面の変化が薄いらしい。
「そうね。すごく猫っぽくて、かわいい!」
冗談を疑う気も失せるほど、直球の笑顔で即答される。
パーティ全体の爆笑を買ったが、恥ずかしげなフェルパー本人も、わりとまんざらではないようだ。
魔法系学科を専攻するブルスケッタ学院。今度はこちらでエルフとフェアリーがお世話になる。
これは余談だが、成績の理由から、二人の転科に五日とかからなかった。
もちろん、野郎共はそれまで仲良く待機である。あくまで男同志の見解だが、ここのベッドはパニーニより好評であった。
事前にクラッズが単位分の金額を預け、その日は判が押されるのを待つばかり。午前中で終わるかと思いきや。
「くあぁ〜……腹減ったー。皆まだかなァ」
「じっと待ってろ。こんなとき女子はな、予想より長いことかかるんだよ」
空腹に寝くたばり情けなく間延びした声で訴えるフェルパーを尻目に、ひたすら耐え忍ぶバハムーンは識者だった。
別に運命の再会というわけでもないのだ、そこまでめかし込む必要があるものか。たかだか数日、会っていないだけなのに。
きっとこの心理は女にしか分からない。正午を過ぎても、三人は待ち続けた。
「みんな、お待たせ。二人とも終わったよ」
迎えに出したディアボロスが帰って来る。その横には、晴れて精霊使いとなったエルフの姿があった。
以前より装飾され、ひらひらした制服。ブーツを履くニーソックスにもフリルが付き、各所に優雅なイメージを醸し出す。
「あ。エルっち、髪伸ばしたんだね」
「ええ。どうかしら?わたしのロングヘアー」
すくように金髪を撫でつけながら、そこそこ自慢げにエルフは尋ねる。
「うん。似合ってるよ。ますます美人だ」
「そ、そう?やだもう、クラ君ったら……」
「……平和だなあ、この二人は」
臆面もなく褒めちぎるクラッズと、顔を手で押さえ恥じらうエルフ。両人を遠目にディアボロスが呟く。
背景に絵の具で花畑を描き散らして、鳩でも飛ばせておきたくなるカップルだ。
「なあ、フェアリーは?フェアリーはどこだ?」
春模様な彼らの会話をよそに、フェルパーはぐるぐると周囲を見渡す。
「あら?フェアちゃん、まだ来てないのかしら?用事が済んだときは、いっしょだったけれど」
「ごめ〜ん。ちょっとゴタゴタして、遅くなっちゃった。あ、もうみんな揃ってるね」
ムードメーカーの甲高い声は、聴き慣れた身としては懐かしくさえあった。
幾日ぶりに姿を表したフェアリーは、少し厚手になった程度の、さして変化もない制服を着込んでいる。
だが短い緑髪は背中を覆う長さの赤毛に変身し、サファイア・ブルーの瞳には、心なしか深みが増したようだ。
「ねえねえ、フェルパー。見てみて、あたし、賢者よ!」
くるりとその場で一回転し、両手を広げてアピールする。長髪がふわりと宙に踊った。
口を半開きにするフェルパーは、眼のやり所に困ってかしどろもどろ。
「あ……うん。奇麗に、なったな」
「……ちょっと。どこ見てんのよ、えっち」
胸を手で覆うふりをして、大袈裟に身を引くフェアリー。決して錯覚などではなく、転科前より胸囲が大幅に増えているのだ。
「や、ち、違う!そ、そんなんじゃない!ただ、着痩せするほうなのかな、って……」
案の定フェルパーは過剰に動揺する。慌てて弁解を図る間も、ちらちらと立派な実りを気にしている。
転科したメンバーで最も外見が別人に近いフェアリーは、呆れているのか、小さく嘆息した。
「……ふふっ。ウソうそ、冗談。もう、フェルパーったら、子供なんだから!」
フェアリーが鼻の頭を指先でつんと触る。その先にはフェルパーが知る幼馴染の、変わらない笑顔が満開に咲いていた。
一連の転科を終えたパーティが最初に受けたクエストは、パーネ先生の「ゾンビパウダー」だった。
カッサータ砂漠の王墓に住まうデスワイトなる強力なアンデッドから、依頼の名にある粉末を入手するものなのだが。
「ふぅ……大したこたぁなかったな」
噴き出した瘴気を吸い込んだことによる毒をカエルの肝で治癒しながら、バハムーンは額をぬぐい独りごちた。
上級学科の装備や技は、漠然と判断しても抜きん出て強い。魔法壁と召喚獣のサポートで、思いのほか早急に決着が付く。
あっけなく灰と崩れたかつての不死王を、せっせと袋に詰め込んでいく。これを持って帰れば、クエスト完了だ。
「それにしても、いやに静かだよね。他にモンスターいないのかな?」
「……ニャアーオ」
合いの手にしては不気味な猫の鳴き声。ディアボロスは肩を引き攣らせ、即座にバハムーンがフェルパーを睨む。
「うおお。こらフェルパー!変な声出すんじゃねえ!」
「違う。オレはこんな高い声で鳴けない」
「えっ。でもこれ、猫の声だよ。フェルパーじゃないなら、他に誰が――」
憮然と答えるフェルパーに対して、ディアボロスからの文句はそこで途切れた。
鈍器で殴るような鈍い音が響き、次いで彼女が視界から高速でスライドする。壁に叩きつけられる重い音色がこだました。
ようやく脳が追い付き視線が動いた先には、ぐったりと頭を垂れ吐血したディアボロス。何者かが急襲をしかけてきたのだ。
「でぃ……ディア子ぉ!くそっ、なにもんだ!」
バハムーンのジャベリンの矛先が、狡猾な襲撃者に向けられる。
前脚を舐めて毛づくろいをする一匹の黒猫がパーティを見つめていた。手足を動かすたび、鎖付きの枷が喚く。
「こいつ……獣系のモンスターか?」
「一発でディアっちふっ飛ばしたんだ、フツーの猫ちゃんとは言いたくないね」
クラッズがクロスボウに矢を装填し、フェルパーも姿勢低く身構える。後ろでは魔法系の二人が戦闘の補佐をしてくれるはず。
「え……なあに?にゃんきー……チェーン?」
エルフの話し声が耳に届いた。召喚獣と会話が出来るのは、精霊使いである彼女ただひとり。
「どったの?召喚獣、なんか言ってる?」
「ウナアァオ!」
敵から注意をそらした一瞬、黒猫は雄叫びをあげクラッズに殴りかかった。
主人の元から飛び出し、小人のような身体をめいっぱいに広げて召喚獣、ウンディーネが立ち塞がる。
ねこパンチの直撃を受け一撃で砕け散り、召喚獣の血や肉片は、その場で煙となって消えていった。
「あ……あの子が、言ってたわ。戦ってはだめ……みんな、逃げて!」
しきりに奥歯を鳴らし、震えながら声を絞り出して絶叫するエルフに、再び黒猫が襲いかかった。
「きゃああっ!」
「このっ……くそったれがぁ!」
すくみあがるエルフとにゃんきー・チェーンの間に、バハムーンが飛び込み割って入る。
あちらにしてみれば、軟弱な獲物の内一匹に狩猟の邪魔をされたところで、さしたる妨害にもならない。
弄ぶように蹴る殴るを繰り返し、乱舞の締めは強烈なサマーソルト。大柄なバハムーンがぼろ雑巾のようだ。
「フシャアアアアアァ!」
竜騎士を容易く葬った魔物に、体毛を逆立ていきり立ったフェルパーが、守りも構わず突撃する。
にやんきー・チェーンは格闘家も顔負けのフットワークを見せつけて、軽やかに捨て身のバグナウを回避する。
「フーッ!フーッ!」
「フェルパー、落ち着いて!言うこと聴きなさい!」
「ガアアアァ!」
恐怖や興奮が激昂と錯乱を呼び、再度敵の懐中に突進する。ひょうひょうとかわされているが、当然防御の面は隙だらけだ。
平常時ならすぐ従うフェアリーの呼びかけなど意にも介さず、絶えず背中を丸め、尻尾を針山にして威嚇する。
フェルパーの空威張りを嘲笑いつつ、黒猫はふっと床に伏せた。直前に頭部があった空間を、破魔矢が一本、鋭く射抜く。
「あ、いけね、外した」
「クラ君、よけてぇ!」
隠れていたところを発見され、殺人的なねこパンチに狙いをつけられても、クラッズは下手によけようとはしなかった。
「フェルっち、けむり玉だ!二人だけでも逃がせぇっ!」
猛烈な早口でヒントを残し、小柄な頭が真紅に弾ける。
この隙にすぐさま逃げるべきだったが、砂色の床に描かれた紅い大輪に、フェルパーの視界は釘付けにされた。
「――何してんの!動け、フェルパー!」
フェアリーの怒号で我に帰ったときには、にゃんきー・チェーンが目前に迫っていた。
ディアボロスを即死させた足でレンガを蹴り、バハムーンをいたぶったときよりも大きく跳ぶ。
軽快に壁を走り抜け、クラッズの首を刎ねた前脚が振りかぶった。かわすには、距離も時間も足りない。
「……グッ!」
軽く突き飛ばされた程度の衝撃。一撃死は存外、痛くはないのだろうか。
よろける身体が踏み止まるのと、長い髪よりも赤い水を脇腹から吹き出し賢者が崩れ落ちたのは、感覚的には同時だった。
「ア……あ……」
「……おバカ。この……臆病者。エルちゃん、死なせたら……許さない……よ……」
最後の一言は猫の聴覚でも聞き取りづらいほどか細くなっていた。やがて眼を瞑ったフェアリーの顔から、生気が消えていく。
「……ゴルニャーオ」
消え入りそうな虫の息さえ本当に聞こえなくなったとき、にゃんきー・チェーンがぺろりと笑う。
くっと彼女の仇を睨み上げ、四つん這いの格好で両腕を踏ん張り、フェルパーは大きく首を振った。
「ギャウウゥウアアァウウウゥウオオオオオオォ!」
いつしかと同じ金色に満ちみちた月を両目に宿し、咆哮する。首に付いた鈴がじゃらじゃらと騒いだ。
煌めく眼とうずく爪と餓えた牙をむき出し、紅の弾丸が横たわるフェアリーを飛び越える。
どれくらい眠っていただろう。重たい瞼を持ち上げ最初にとらえたのは、殺風景な木製の天井。
身体にかけられたシーツと、寝心地が悪い枕。保健室のベッドに寝かされていたと考えが至るのに時間はかからなかった。
「あ。やっと起きたね、フェアリー。心配したよ。気分はどう?」
窓際に置かれたおんぼろの椅子にディアボロスが腰かけ覗きこんでいる。
「うん……あんまり、よくないかな。他のみんなは?クエストはどうなったの?」
「それは、俺から説明するぜ」
甘い香りの軽食を詰めたバスケットを抱えて、仕切りのカーテンからバハムーンが現れた。
彼の後に続いてクラッズが顔を出し、わずかに遅れてエルフもやって来る。
「俺が起きたのは三時間前で、ちなみに今は夕飯時だ。聞きたいことは山ほどあるだろうが、順番に話すぞ。質問は最後にな」
転科する前と比べ、バハムーンは思い切りがよくなった気がする。フェアリーは黙ってうなずいた。
「結論から言うと、クエストは成功した。エル子から先生にブツも収めた」
「あの猫は?にゃんきー……チェーン、だっけ?」
説明の切りがいいところで質問する。バハムーンは複雑な顔になり、小手をはめたままで後頭部を掻く。
「フェル君が……やっつけてくれたわ。おかげで、わたしは生き残れたの」
「フェルパーが?とどめまで刺したの?」
「全身傷だらけで血みどろになりながら、相手の原型がなくなるまでね」
眉をひそめ、静かに告げるエルフ。喋り終わると唇をきつく噛み締めた。
フェアリーは胸の前で右手を強く握り、その上に自らの左手を重ねる。
「ここにはいないみたいだけど……あのコは今、どこで何してるの?」
「ガレノス先生がつきっきりだ。悪いが俺達には、ちょっと手が出せねぇ」
「それどういうこと。まさか、あのおバカ!」
「うんにゃ。フェルっちは生きてるよ。今のところ、手術が必要な大ケガもない」
真剣な面持ちのクラッズから先読みの利いた答えを貰うが、フェアリーはそれだけで納得しなかった。
「今の……ところ?それじゃあ、ひょっとしてまだ暴れてるんじゃ……」
ディアボロスとバハムーンの表情は変わらないが、クラッズの顔が歪み、エルフは眼をそらす。
なぜ最初に気付いてやれなかったのか。長い付き合いだ、フェルパーが暴走したときから、どこかで分かっていたはずなのに。
今すぐベッドから飛んでいきたい衝動を、ぎりぎりのところで押さえ込む。バハムーンに目線で確認を求めた。
「……あいつのことは、よく分かってるつもりだ。こいつらにも言えることは全部話した。後は、煮るも焼くもお前次第だ」
上半身を覆い隠せそうな翼の生えた背を向けられる。今となっては逞しい後ろ姿も、小さい頃から飽きるほど見てきた。
ベッドから身を乗り出すと、ディアボロスがブーツを揃えてくれた。短く礼を言って靴を履き、自前の羽で宙に浮く。
保健室を飛び出す前に、エルフが場所を教えてくれた。また謝礼をして廊下に向き直り、寝起きの身体に加速をかける。
生徒指導室。授業では一切使わず鍵までかけられているこの部屋は、いわゆる反省部屋である。
同級生と喧嘩をしたり、教師に剣を抜いた生徒を閉じ込め、大人しくなるまで隔離しておくのだ。
日常では空き部屋として見られているこの教室に灯りがともり、男子生徒の叫び声が聞こえる様はおぞましい。
扉の前で見張りを務めるのが、保険医ガレノスとなってはなお不気味だ。
「どうしました?ここは立ち入り禁止ですよ。それとも、私に何か用事ですか?」
この教師から耳障りないつもの笑いが途絶えるときは機嫌が悪いか、緊急事態。今回はくしくも後者だが。
尻あがりに半笑いの口元が、珍しく上向きに弧を描いている。壁の向こうから響く野太い唸り声は、まだ鳴りやまない。
「この教室に、ビースト学科のフェルパーがいると伺いました。あたしの、チームメイトなんです」
「残念ですが、面会謝絶です。今、彼を外に出す訳にはいかない」
「こうなった原因が、あたしにもあるんです。いざってときの覚悟は出来てます。一目でいいから、お願いします!」
嘘をついた覚えも、方便を使ったつもりもない。これまでの生涯で最も直角に近いであろうおじぎをする。
頭の上でガレノスがわざとらしく、深く溜めた息を吐き出した。
「万一のときには、すぐに追い出します。自分の身は、自分で守ってくださいよ」
「先生……ありがとうございます!」
フェアリーが繰り返し腰を折ると、ガレノスが白衣のポケットから鍵束を取り出し、その中のひとつで南京錠を外す。
鍵を挿したままのそれを懐にしまい、ほこりっぽく軋む引き戸を片手で開けた。
おおかた予想はしていた光景が、四隅のたいまつに照らされ露わになる。
「ガアァッ!フシュルルル、グアアァオオゥ!」
両手足と窓枠の鉄格子をチェーンで繋がれ、四脚が束縛されている、我を見失ったフェルパーの痛々しい姿。
いつからここで囚われているのだろう。手首の擦り傷からにじんだ血液で錆色に染まった枷が見るに堪えない。
「もうずっとこんな調子です。極限の恐怖でパニックに陥り、すっかり野生化してしまいました」
「…………そう、ですか」
「ビースト学科の生徒や、彼らの制服に、生傷が絶えない理由を知っていますか?」
「……戦闘でないなら、分かりません」
「彼らは溜まってゆく欲求不満を、全て攻撃に回してしまいます。早い話、ストレスで自虐に走るのです」
フェルパーはいまだに猛り狂っている。鎖を引っ張っているというより、逆に鎖のほうから突き放されて見える。
「可哀そうですが、ああなってしまうと、体力を使い果たすまで放っておくしかないのですよ。もう今日のところは……」
ガレノスの話を最後まで聞かずに、フェアリーはフェルパーのもとへ歩み寄った。
一歩、また一歩。じわじわと距離を詰める間も、紅い猫の発狂は止まらない。首根っこの鈴は、がらがらとやかましい。
なんのつもりか、見張っているガレノスから引き止められる気配はない。そのまま手を伸ばせば触れられる距離に近づく。
「どうしたの?もうどこにも、敵なんかいないよ。だから、暴れなくてもいいんだよ」
努めて穏やかに語りかけると、フェルパーが肢体の動きを止めた。
相変わらず毛を逆立ててはいるが、鎖はやっと静かになった。声が届いたのは幸いだ。
「怖かったよね。みんなやられちゃうんだもん。でもここには、フェルパーを傷つけたりするひとはいないから。ね?」
そっと手を伸ばし、グローブをはめたままフェルパーの頬に触れようとする。
途端、怒れるビーストは頭から飛びかかり、容赦なくフェアリーの華奢な肩に噛みついた。
無論その威力は、骨ごと噛み砕かれてもなんら不思議ではない、肉食動物の主兵装。制服の肩部に天然の赤インクがにじむ。
「グルルルル……フウウウゥ……」
「っ……ほら、大丈夫。何もしないよ。あたしは、フェルパーの味方だから……」
酸っぱい臭いがする紅い髪を、あやすように優しく撫でてやる。小さいころ、やはり同じことをしてやった覚えがある。
フェルパーは肩から離れなかったが、やがて唸りが止み、顎が脱力し、荒ぶる手足から怒気が消えた。
「……キャットベル。いわゆる猫の鈴は、愛嬌と友好の象徴とさせています。なぜ、そんなものがビーストについているのか」
いつの間にか、すぐそばにガレノスが立っていた。白衣の収納に手を突っ込んでいる。
「それは、相手に存在を知られるより、味方が存在を認知出来ないほうが、パーティにとって危険だからです」
「…………」
「要するに、その鈴は鳴子なんですよ。ビーストを独りにさせてはいけないし、決してビーストとはぐれてはいけない」
さっきの束とは別物の、くたびれた鍵を握っている。それをフェルパーの枷に差し込み、鉄鎖の拘束を自由にする。
ようやくなだめられた野獣を緊縛から解放した鍵をポケットにしまって、しかし手錠は片付けない。
「少なくとも、今はあなたしか見えていないようですから、相手をしてやりなさい」
「……ガレノス先生」
鍵だけ持ってさっさとこの場を立ち去ろうとするガレノスは、振り返ることなく、はっきりと喋った。
「その男子生徒を任せます。この教室は開けておきますので、今夜はここに泊まりなさい。一晩もすれば、回復するでしょう」
この一言の後、日も暮れて薄闇に染まったであろう廊下に、大人が歩く足音が響いた。
愛想もなく部屋を後にする保険医に、フェアリーは背中越しながら、心の中で思い付く限りを尽くして感謝の意を述べた。
「……あれ……フェアリー?」
不意に耳元でくすぐったく囁かれた、子猫の甘え声。それが意識を取り戻したフェルパーのものだとは、判断するまでもない。
「なんでだろ……ずっと暴れてたみたいだ。フェアリー……ごめん」
「……よしよし。あたしは平気だよ。乱暴したって自分で分かるなら、それで充分。頑張ったね」
痛みを気にせず、全力で抱き締めてやる。こんな傷、後でヒールでもかければいい。
訳が分からずされるがままだったフェルパーも、ぎこちなく抱き返してくる。手を添えるだけの、簡単なそれ。
フェアリーは汗など掻いていないのに、ぬるい水滴が頬を伝った。フェルパーの鈴が、しゃらんと、歌った。
アトガキモドキが現れた!
アトガキモドキは突然、襲いかかってきた!
「 前 編 は こ こ ま で 。 後 編 に 続 く 」
……どう見ても言い訳です。本当n(ry
あっ、やめて、痛いいたい。裁きの石をぶつけないで。
えー……何が言いたいかと申しますと、あまりにもこの二人が難産だったのです。
削りに削っても、前座が長すぎる。そのため苦肉の策として、前後編に分けることに致しました。
お詫びに後編ではちゅっちゅ分増し増しでお送りしたいと存じます。イチャイチャってもう死語なのかしら。
今回はこれでカンベンなすってください。ヒャア、すいません!ゴメンナサーイ!
アトガキモドキは逃げ出した!
>>213それよりも
「ドワーフって犬っぽいからフェルパーに嫌われてんじゃね?」とか「ディアボロスって悪魔だからみんな嫌ってるよね」とか挙げ句のはてに「ノームって『ロボット』だから誰とでも仲良くできそうだよな?」みたいな感覚で作られてそう
226 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 03:17:40 ID:DKzkO6Ha
>>224 GJ!
にゃんきーチェーン……セラフィム先生がいなければ全滅するところだった。
初めてアトガキモドキが襲い掛かってきた!
魔法壁が無ければ即死だった……
>>225 それを書いたヒューマンさんは後日謎の失踪を遂げました。
>>アトガキモドキ氏
ああ、ご心配なさらず……難産な作品ってキツいですものね。解ります。
大丈夫、まだ使ってる奴はいますとも。新型インフルのせいで昨日まで試験やる羽目になった大学生とか。
今夜は第2話、遂に戦闘開始であります。
てか、半分近くバトルシーンです。そんなの出来るかというのは妄想で……orz
ハウラー湖畔から道に逸れて進んでしばらくの場所にディモレアの現在の住まいであり、ディアボロスの実家である場所は存在した。
夏休みに入っただけあってか生徒に会わなかったのは幸運だったのかも知れない。セレスティアとの蟠りが解けたとはいえ、噂そのものはディアボロスについて回っているのだから。
「ただいまー……」
ディアボロスが扉をノックしつつそう告げると、母親はすぐに気付いたのか奥の部屋から玄関まで出て来た。
「お帰り。あれ? 荷物とかは?」
その時、ディアボロスは自分が2日程前に実家を出た時、退学届を出してくると告げた事を思い出した。
「いや、退学するのを辞める。まだ、パルタクスにいる事にした」
「……そう。じゃあ、まだいるのね。解ったわ」
ディモレアは少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべた後「で、どうしたの?」と声をかけてくる。
それ以外にも訪ねてきた理由があると察知したのだろう。ディアボロスは奥の部屋へと進む。
「実はさ。この前、ギルガメシュ先輩が母さんの所に来たけど」
「来たわね。あの子、結構強かったけど」
ディモレアが先日の事を思い出しながら呟く。息子の手前、結構強かったとは言ったが、事実ギルガメシュはかなり強いレベルといえる。
彼が自身の力を未だに最大限発揮出来るレベルにまで達していなかったから戦えたもので、あれ以上強くなったら勝てたとしてもただでは済まないに違いない。
迷宮の遺産を使ってでも。勝てるかどうか解らないバケモノになる可能性を秘めている。
「きっとあの子、まだまだ強くなるわね」
「……先輩は、母さんを本気で殺すつもりらしい」
ディアボロスの言葉に、ディモレアは一瞬だけ言葉が詰まる。
「……そう」
「けど、そんな事させない。だから、俺は先輩を倒すつもりでいる」
「…………あんたと?」
ディモレアの言葉に、ディアボロスは頷く。
「ああ。負けるつもりなんかないさ」
「けど、あの子は結構」
「解ってるよ。母さんが驚くような相手だって事も。けど、それでもまるっきり勝ち目がない訳じゃない。俺もパルタクスで5年も錬金術にかまけてた訳じゃないんだ」
はっきりとした言葉。負けるつもりなんか無い。勝つ為の自信に溢れた言葉。
「……勝てるの?」
「勝つんだよ!」
ディアボロスが立ち上がった時、ディモレアはゆっくりと口を開いた。
「……本当に、大きくなったわね。ついこの前まで、あたしの側にずっといたのに。気が付いたらそこまで大きくなってるなんてね。けど、あんたは勝つって言ってる。
それは嬉しいし、あたしだってそれを信じたいと思うわ。けどね、もうあたしには、あんたしかいないって事を覚えておいて。あんただけは、いなくならないでって。あたしは言った筈よ」
「うん、覚えてる」
授業参観の時にやってきた母親が教えてくれた、父親の事の1つ。
滅多に弱音を吐かない母親の、数少ない弱さだと思っていた。けれども。それもまた、約束の1つなのだ。
母親に迷惑をかけたくないという思いは、ディアボロスの中にずっとあるのだから。
「大丈夫だよ。俺は、平気さ」
「……そう」
ディモレアはそう言ってディアボロスの頭を撫でる。
「だから、母さんは待っててくれればいい。俺が何とかするから」
「………気を付けてね」
ディアボロスとディモレア。母親と息子の会話。
今まで何度も何度も交わしてきた言葉なのに、途端に名残惜しいなと思ったのは気のせいだろうか、とディアボロスは思った。
いや、それは。
これから起こる事を、予感していたのだろうか。
本当は朝早く出ようと思ったのだがディアボロスが出発してしまったのでホルデア周辺で時間を潰し、ゼイフェア地下道に向けて出発したのは昼過ぎ。
ゼイフェアまで行くのに飛竜に乗れば手っ取り早いが、飛竜を使えばその分目立つ為、ギルガメシュは敢えて地下道を通る事に決めた。
……ホルデアで大量に買い込んだ転移札を使ってさっさと出掛けてしまうに限るのである。
「……ああ、もうそろそろランツレートか」
ザスキア氷河を抜ければもうランツレートについてしまう。ランツレートで一休みするのも悪くない。
下手すれば死ぬかも知れないのだから。
ギルガメシュが道を急いだ時、前方にパルタクスの生徒が2人ほど見える事に気付いた。
「……2人?」
余程腕前に自信があるのか、それともただ無謀なだけなのか。
1人はヒューマンの女子で、手にしているのは強力な鎚の1つであるジャッジメント。戦士学科か、と思いきや被っているのは僧侶学科だけが装備出来る聖人の証のリングオブマリアだった。
つまり、彼女は僧侶学科。しかも実力は高いという事だ。
そしてもう1人はエルフの男子で、ヒューマンの女子に必死に追い付こうとしている。彼が手にしているのはそこそこ良い弓のアーバレストで、彼が狩人学科だと推測出来る。
しかし意外な事に、その2人は明らかに下級生で本来ザスキア周辺をうろうろしているような学年では無いというのが驚きだった。
エルフよりも年上に見えるヒューマンも三年生ぐらいだろう。
「……何なんだ、アイツら」
ギルガメシュは小さく呟くと、その2人を無視してさっさと行こうとした。……行くべきだった。
「あ、ようやく見つけた学園最強!」
「え? うお、本当だ……確かに、ギルガメシュ先輩だ!」
ヒューマンの言葉にエルフが反応し、2人は即座にギルガメシュの進路の前へと現れた。
どうやら2人はギルガメシュを探しに来たのだろうか。だが、風紀委員などが探しに来るにしても2人から敵意を感じない。そして何よりパルタクスの生徒は余程の事が無い限りギルガメシュに戦いを挑んできたりはしない。
ギルガメシュが起こる喧嘩は大抵相手の何らかの行動にキレたギルガメシュが牙を剥くからである。
「……何の用だ」
ギルガメシュが呟いた時、2人は同時に口を開いた。
「いつか先輩を越える為だぁ!」
「あんたの背中を追い掛けに来たんだ!」
上がヒューマン、下がエルフである。ヒューマンはともかくエルフの言葉は意外なのか、ギルガメシュは少し驚く。
背中を追い掛けに来た、という事は即ち憧れか何かの感情を抱いているのだろう。他の生徒はギルガメシュを畏れはしても憧れはしないから、少しだけ意外だ。
「お前、幾つだ」
「狩人学科の2年です。あ、こっちの先輩はギルガメシュ先輩も知ってますよね? ほら、パルタクス三強の……」
「『業火の剣』とはあたしの事だ! 魔法をどこまでも極めて、それでいつか最強の座をあたしが頂くために!」
「ああ……」
ギルガメシュはこのヒューマンが下級生どころかパルタクスの中でも類稀に見る魔法の才能の持ち主で有名な三年生である事を思い出した。
パルタクス三強なんて大層なあだ名を貰ったのはギルガメシュが学園最強と言われ始めた4年生の時だったから、彼女の方が少しだけ早い事になる。
「で、そんなテメェらが何の用だ」
「学園最強がディモレアを倒しに行くと聞いた。けど、あたしは魔法の才能を更に高めたいのでディモレアさんに弟子入りしたい! けど、どこにいるか知らない!
学園最強が場所知ってるかも知れないから追い掛けてきた! あ、このエルフはおまけね。なんか学園最強を追い掛けてきたから」
「うわ、先輩酷っ。あ、俺は……先輩に憧れてパルタクスに入ったんです。当時、4年生だったけどパルタクス三強とか選ばれて、無茶苦茶強くて。非情だけど無駄が無い、そんな戦い方が出来る先輩に憧れたんです!
だから、お願いします! 先輩の舎弟にして下さい! 後一年無いの解ってます! けど、俺は先輩についていきたいんです!」
「………………」
このよく解らない2人が何で一緒に来たのかギルガメシュは不思議に思った。
だがしかし。
「…………面白い事言う連中だぜ、まったく」
特にヒューマンの方である。パルタクス最強を自負するギルガメシュの目の前で最強の座を頂く為にとはいい度胸である。
だがしかし、ギルガメシュは似たような発言を昔自分もした事を思い出した。そう、4年生の時、『王の中の王』というあだ名を持っていた当時の生徒会長に。
「………おい、エルフ。俺に憧れたとか言ってたな」
「はい!」
「俺なんかを憧れにするよりマックかタークでも追っかけてた方が為になるぞ」
「……でも、俺は先輩についていきたいんです!」
どうやら意志は固いらしい。
このまま放っておけばついてくるだろう。同時に、ギルガメシュはふと思い立つ。
ディモレア、もしくはディアボロスと自分の戦いを、記憶する人物が必要かも知れないと。
ヒューマンはディモレアに弟子入りしたいと発言している、あのディアボロスとも仲良くやれるだろう。彼女はあちら側として、そしてこのエルフはギルガメシュの側として。
この戦いを記憶する、証人が必要だと思った。まさに、2人なら適任かも知れない。
「……まぁ、いいさ。ついてこいよ、オメーら」
ギルガメシュは少しだけ笑むと、ゼイフェア地下道目指して歩く事にした。
「うぉい、何勝手にあたしを部下みたいに扱ってんだこの不良副会長め!」
「先輩、それ暴言っス! ああ、ギルガメシュ先輩おいてかないで下さい〜!」
ヒューマンとエルフはなんやかんや発言しながらついてくるのだった。
ボストハスを越え、空への門へと至る。
アイザ、ハイント、そしてゼイフェア。三つの道に解れている空への門。
前人未到の地、アイザ地下道を抜けた者は知らないが、ハイントを踏み越える者はいたのかも知れない。ギルガメシュはそう思いつつ、ゼイフェア地下道へと目指す。
「おい、オメェら」
「なんですか?」
「んー?」
ギルガメシュの問いに、エルフとヒューマンが返事をする。
「……これから俺はある奴と戦うが、お前らはそれを見ていろ」
「「へ?」」
「こんな戦いがあったと、記憶しろ」
「……それは、命令ですか?」
「命令だ」
ギルガメシュの言葉に、エルフは力強く頷く。ヒューマンは「え〜」と口を尖らせたがすぐに諦めたのか頷いた。
ゼイフェア地下道へと、入っていく。
中央に至るまでに、そんな時間はかからなかった。
エルフとヒューマンはゼイフェア地下道中央の真ん中、それへと至る通路の前で立ち止まり、ギルガメシュは奥へと進む。
ディアボロスは、もう待っていた。
「よう」
「こんにちは、先輩」
ディアボロスは、ギルガメシュが来た事で、ついに来たなと思った。
戦う覚悟は出来ている。だが、今回は相手が相手なので、少しだけ緊張する。そう、目の前に、最強と呼ばれた男がいる。
その彼の放つ闘気だけでも、周辺を凍りつかせるには充分だった。
「………この前戦った時とは違うな、ディアボロス」
「戦ってはいないでしょう。会っただけですよ」
「いいや。剣を向けた時点で、既にそれは戦いさ。俺はそう思ってる。少なくとも。今のテメェは、この前よりもずっといい顔してる。戦おうって意志が見えるさ」
「お世辞だとしてもどうも」
ディアボロスは笑う。
ゼイフェア地下道中央の本当に中央。後ろの岸へと繋がる二つの通路以外はただの正方形。柱が四本立っているだけの、戦うに相応しすぎる場所である。
余計な障害物も、罠もない。まるで戦う為だけにあるかのような場所。
「……ディモレアはどうした?」
「家にいますよ。俺が先輩を倒せば、先輩と母さんが戦う必要はないでしょう」
「ハッ、大きく出たなディアボロス。安心しろ、そんな時間はかからねぇ。俺がテメェをぶっ殺すにはな」
「解らないですよ? 最強伝説を叩き落とすのは三強の二番手かも知れない」
「三強の二番手?」
「俺がいつの間にか二位らしいです。先輩が筆頭で」
ディアボロスは昨日知った事実を呟いて笑う。そう、最強と最強に一番近い者の戦い。例えるなら頂点を決めるチャンピォンとそれに挑む挑戦者。
剣に手をかける前に、ディアボロスも、ギルガメシュも視線を交わす。
「で、だ。お前は死ぬつもりは無いんだな?」
「勿論です」
「……意地と意地の戦いたぁよく言ったもんさ……俺ぁ、今……最高にハイな気分だ。テメェを倒して、ディモレアを倒して、サラの元に帰る。それが俺の望みだ」
「俺は……あなたを止める。母さんを助けて、後は……会いに行くだけですよ、先輩を」
「そうか。そうだな、そん時ゃ仲良くやれよ。あんないい女は、そうそういねぇよ」
「あはは、先輩こそサラの事大事にしてやってくださいよ」
「当たり前だバカ野郎」
「当たり前ですよオタンコナス」
そして2人は、同時に剣を抜いた。
「行くぞ、ディアボロス! 棺の用意はしてきたか!」
「来いよ、ギルガメシュ! 最強の伝説は、今日が最後だ!」
先に仕掛けたのはディアボロスだった。愛用している精霊の剣を抜き、両手でしっかりと構えて斬りかかる。
両手で二刀流として扱っても良いが、それでもあえて両手で掴んだのは両手の方が力強く振れるからだ。しかし、ギルガメシュもまた普段使っているデュランダルを一本しか抜いていなかった。
両手で使う剣を片手で振り回せるにも関わらず。
力強い剣の振りが、何合もぶつかり合う。何合も、何合も。
「チッ!」
一本では押し切れないと判断したのか、ギルガメシュは片手で二本目のデュランダルを抜いた。
2本と一本では大分違う。1つの斬撃を裁いたとしてももう片方の手で2撃目が襲ってくる。そちらに気を取られれば一本目の方で3撃目が、という感じである。
そしてギルガメシュは力強さがその強さの大元。普通の生徒が両手剣を両手で振る速度よりも両手剣を片手で振る速度の方が圧倒的に早い。
その風圧で何かが斬れそうなほどに、早いのだ。
「(早い、なら……)」
「まだまだ!」
ギルガメシュはディアボロスが守勢に回ったのを見て、更に剣を力強く叩き付ける。力強く、素早い斬撃を繰り出しはしてもその分大振りになりつつある。
ディアボロスは、見逃しはしない。
「これでも、喰らいやがれ!」
「このっ!」
「!」
ギルガメシュが力強く振り下ろした時、その斬撃を避けたディアボロスはギルガメシュ目掛けてグレネードを投げつけた。
それに気付き、咄嗟に距離を取るが距離を取った時にディアボロスは更に2個目、そして3個目を投げる。
道具乱舞。道具に精通する錬金術士だけが使える、道具を一〇個も連続使用する荒技である。そしてグレネードは火薬として使う分には充分。そして、距離を取った事でギルガメシュが積極的に得意分野の近接戦闘を仕掛けることが難しくなる。
「くそっ、卑怯な手を」
「そう言われても、それもまた戦法ですよ、先ぱ……い!?」
ディアボロスがそう呟いた直後、ギルガメシュの指先から放たれたサイコビームがかすめていく。
無詠唱での上級魔法。
「確かにそうだな。不意打ちもまた戦法だ」
「………先輩、魔法も凄いんですね」
だから最強だ、とギルガメシュが呟いた時、ディアボロスは地下道の床を蹴り、突如姿を消した。
「……テレポルか!」
転移魔法を使うテレポルを応用して優位な位置から攻撃する、という戦法も無くは無い。ギルガメシュが反応出来るようにデュランダルを構えた時、そこへディアボロスが現れた。
ギルガメシュのすぐ目の前に。そして。
ギルガメシュの腹部に手を置き、ギルガメシュが剣を振り下ろす前に、ディアボロスは呟く。
「ゼロ距離・ビッグバム!」
そして爆発が起こる。
広範囲に爆発を起こすビッグバムだが、その範囲内に敵がいなければ何ら意味は無い。
魔法全般にいえる事だが外しては意味がない。ならばどうすれば良いかと言う事だが、至近距離で撃てば命中率は上がる。しかし、ビッグバムのように広範囲魔法は至近距離では自分も巻き込みかねない。
だが、しかし。
ディアボロスは、そんなビッグバムを、魔力を前面だけに向ける事で自分への被害をゼロにし、超至近距離、即ち密着状態でも撃てるようにまで昇華させた。
前面だけに破壊を集中する事により、自分及び自分の後ろ側への被害はゼロ、更にはビッグバムであるからその威力は折り紙付きである。前衛で戦う彼に出来る事であり、まさに1人で爆裂拳を放っているようなものである。
壁に突っ込んだギルガメシュを見送り、ディアボロスは息を吐く。
倒せたかどうかは解らない。だが、二〇〇発ものダクネスガンを乗りきったギルガメシュである以上、倒せてはいないだろう。ダメージを与えたとしても。
「………の野郎」
口にたまった血を吐きだし、ギルガメシュは剣を数回振る。
「テレポルの瞬間移動から、破壊を前面だけに絞ったビッグバム。よくやるぜ……だが、遊びはここまでだ」
ギルガメシュは腰を落とし、そして腕を大きく振った。
ディアボロスは、何か暴風のようなものが迫ってくるのを感じた。
咄嗟に剣を抜き、弾く。弾いたそれが床に落ちた時、それが何であるかに気付いた。
「……モーニングスター?」
「もう一発!」
再びモーニングスターが飛んでくる、しかし今度は軌道が読める、と思った時、突如投げられたそれの速度が上がった。
慌てて回避しようと横へ飛んだ時、モーニングスターと共に光の珠が飛来してくるのが見える。光属性の基本魔法、シャインだ。
「シャインの連射ぐらいで!」
「まだまだ!」
シャインとモーニングスターによる2段攻撃。
モーニングスターが飛んでくると思えばシャインが無数に飛来してくるし、シャインをかわし切ったと思えば次はモーニングスターである。
速度・威力共に文句無しの攻撃。
「くそっ、なかなか」
今度はディアボロスが逃げに回る番だった。
反撃する為に魔法を使おうにも、それよりも先に放たれる攻撃のせいで上手く行かない。
「おらおら、どうした?」
「…………ビッグバム!」
ギルガメシュがモーニングスターを再び投げた時、ディアボロスはビッグバムを叩き込もうとした、その時だった。
「隙有り!」
モーニングスターから手を放し、飛んでいくモーニングスターに紛れて、幾つか次々と投げていく。
とてもではないがビッグバムでは叩き落とせない。避けるか弾くしかない。
「サイコビーム!」
サイコビームの一発。弾いて叩き落としたのはただの小刀。当たっても脅威ではない。
2発目を放つ。弾いたのは、意外にもひらめだった。それでもまだ脅威ではない。
しかし三発目を撃とうとした時、目の前に迫った其れを見て、ディアボロスは息を飲んだ。
デビルアックスだったのだ。
重さのある一撃が、ディアボロスの肩を掠っていく。
直撃こそしなかったが、あふれ出た血が肩から床を濡らした。
「………!」
「掠っただけか」
「……やっぱ先輩は違う」
ディアボロスは首を振りつつ呟く。一筋縄では勝てない。ディアボロスは考える。如何にして戦うか。
直後、再びギルガメシュが投げつけ攻撃を始めた。
ハンマーブ●スよろしく6つも投げられた金槌をディアボロスはよける事無く、身構えて地面を蹴り、そして。
光が走った直後、迷宮の床にただの鉄の塊が六つほど落ちてきた。
「………今、何した?」
「分解したんです。錬金術で」
「分解、か。武器を廃品にしたのか」
錬金術は錬成で武器を作る。しかし逆に分解する事も可能である。金槌を全て分解してしまったのだ。
分解してしまえば武器としては役に立たなくなる。
「なるほどな、よく考える」
ギルガメシュは笑った。
「だが、まだまだ甘い」
再びモーニングスターが飛んでくる。今度は左右両方から。
軌道が読みやすい、とディアボロスが上に跳んで回避しようとした時、ぶつかりあった二つのモーニングスターから、爆発と、雷が襲ってきた。
「んなっ!?」
空中で体勢を崩されると建て直せない、地面に叩き付けられ、数回跳ねて慌てて立ち上がる。
しかし、その隙にギルガメシュは距離をつめてデュランダルで斬りかかろうとしていた。
「ビッグバム!」
再びビッグバムを使って距離を取る。危ない所だった。
「今のモーニングスター……」
「ああ。雷の封呪を付けたのとナパーム付きの二つだ。ちょっといじってつけてみたのさ」
武器を改造している時点でちょっとというレベルではない気がしないでも無い。
「まったく、恐ろしい先輩だ……」
「しぶといヤローだぜ」
「お次はこっちだ!」
ディアボロスは精霊の剣だけでなく、もう片方の手で背中に背負っていた鬼徹を引き抜いた。
精霊の剣と鬼徹の二刀流。普通では少し考えられなかった。
ギルガメシュも負けてはいない。デュランダル2本に持ち替え、斬りかかる。
「けむり玉!」
まさに打ち合うその瞬間、ディアボロスがけむり玉を使う。一瞬で視界が奪われ、ギルガメシュは慌てて後ろへ跳ぼうとした。
直後、そこへダクネスがラッシュの如く撃ちだされてきた。
咄嗟の攻撃にギルガメシュは反応出来ず、何発か直撃を喰らう。
「ぐおっ……テメェ!」
「グレネード!」
更にグレネードが投げ込まれ、爆発する。
「そしてけむり玉!」
再びけむり玉が投げ込まれ、狭いフィールドながら視界が奪われ、完全に見えなくなる。
突如、ギルガメシュの耳に水の音が飛び込んできた。
ディアボロスが水の中へ逃げたのか、そう思ってギルガメシュは感覚だけを頼りに水辺へと寄ろうとして、立ち止まる。
もし、ここで水に飛び込むのであれば逃げに周りすぎである。ここまで逃げてばかりなら、戦う意志など皆無に近い筈なのに。
だが、普通に交戦してきている。と、いう事は!
ギルガメシュは背後を振り向くと同時に剣を振り下ろし、そこでちょうど斬りかかろうとしていたディアボロスの剣が直撃した。
「! やっぱり罠か」
「バレましたか」
ディアボロスが悪態をついた直後、ギルガメシュの腕がディアボロスの顔を掴んだ。
「シャイン!」
「っぁ!?」
顔面直撃弾を喰らい、ディアボロスは怯んだ。
怯んだディアボロスを掴み、周囲のディープゾーンへと蹴りと共に叩き込む。更にサイコビームを続けて打ち込む。
そう、トドメを刺して2度と浮かばぬように。
静かになった。
「………終わった、のか?」
ギルガメシュがそう呟いた時、何かが浮かび上がろうとしているのが見えた。
「!」
まだ終わっていない。ディアボロスは生きている。
ギルガメシュはいつでも斬り掛かれるように身構える。そして、浮かび上がるそれが、接近してくる―――――!
跳ね上がったそれにモーニングスターを叩き付けた、しかし。
「……身代わりかかし?」
身代わりかかし。と、いう事は本人は。
「サイコビーム・グランデ!」
かかしに気を取られたギルガメシュ目掛けて、浮かび上がったディアボロスが極太のサイコビームを放った。
すれすれで回避こそしたものの、その威力はまだ健在である事を物語っていた。
「……こん畜生」
長期戦を、覚悟しなければいけないようだ。
投下完了、と。
アイザ地下道とハイント地下道の先は空への門だけど本当にどんなカタチで繋がっているんだろうと疑問に思う事があります。
いや、自分だけなのかなそれ?
モーニングスターって攻撃回数1だけど意外と中盤にお世話になる武器でした。
>>236 乙
俺はむしろゼイフィア地下道がどう空の門とゼイフィアを繋いでるのか激しく疑問だが
深く考えてはいけない気がする
しかしディモレアさん家に影響されて踊るトカゲの像関連で書き始めたがおわんねorz
うpするとしたらいつになるんだろう
つД`)・゚・。・゜゚・*:.。..。.:*・゜
238 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 10:29:31 ID:mgfpPZAR
>>236 GJ
氏の戦闘シーンは戦術が多彩で好きだ。
俺もそれぐらい書ければ……
パルタクス地下道も気になる。
239 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 10:31:47 ID:mgfpPZAR
ところで既にスレの容量が400kbを越えたわけだが、
後何作ぐらい入るだろうか?
いや、別に俺が投下するわけではないが。
ヒュム男×ジェラート×パンナで妄想したいw
とりあえず一つ投下します。
相変わらずのスレ容量イーターですが、お目こぼしを…。
今回は鬼畜陵辱モノになります。特に後半は出血表現など多いので、苦手な方はご注意を。
お相手はディア子とセレ子。
それでは、楽しんでいただければ幸いです。
魔女の森に上位の悪魔がうろつくようになり、各学校では生徒に対し、厳重な注意を呼びかけていた。ある者は素直に忠告を聞いたが、
またある者は腕試しに出かけ、そのほとんどの消息は途絶えた。
そのまま二度と帰らなかった生徒も多い。しかし、一握りの幸運な者は、別のパーティに救助され、辛うじて生き返ることが出来た。
救助する側の多くは、ブルスケッタに行く途中のパーティか、もしくは同じく腕試しに来たパーティであることが多い。
そんな中で、ただ一つ。この上位悪魔の出現に、心躍らせるパーティがあった。
「ディアボロス、ドワーフ!こっちは俺等が引き受けるから、そいつら助けだせぇ!」
「うん!みんな、頑張って!」
「グレーターデーモンか、これはいい獲物だ。フェルパー、クラッズ、狩るぞ」
「ほんっと、おいしい相手じゃなー。強いし、倒せば感謝されるし、あたしらってもうヒーローじゃよね?」
クロスティーニきっての実力を持つ一行。彼等はこの悪魔達をちょうどいい獲物とみなし、その傍らで無謀な挑戦者の救助を行っていた。
実際、彼等が助けたパーティは数多く、グレーターデーモンの群れにも怯まず果敢に立ち向かい、勝利を収める彼等。
それはまさしく、ヒーローと呼ぶのに十分なものであった。
毎日のように悪魔と死闘を繰り広げ、急激に力をつける。そしてまた狩りが加速し、さらに力をつけていく。そんな日々が続いていたが、
ある時学食で夕飯を食べていると、ディアボロスが不意に言った。
「突然ですまないが、ちょっと聞いてくれ。実は、転科を考えているんだ」
「え?転科?」
この時期での、その思いも寄らない言葉に、全員が怪訝そうに彼女の顔を見つめた。
「ああ。私達の中には、魔法使いがいない。それでも十分にやってこられてはいるが、たまに回復する者が欲しいときはあるだろう?
ドワーフの歌でもいいが、即効性はないからな」
「それは、僕が一番思うよ。一人じゃさすがに、手が足りない」
確かに、それは懸念の一つではあった。同学年の多くのパーティは、もうメタヒーラスまで習得している魔法使いがいるパーティも
少なくない。それに比べ、彼等はヒューマンのヒール、ドワーフの歌とヒール、ノームのヒーリングしか回復手段を持っていないのだ。
なので、大抵の者は彼等の編成を見て、驚きの声をあげる。
「そうだよねえ。私も、風の歌とか歌ってると革命の歌は歌えないし…」
「だろう?だから、一度魔法使いに転科して、少し補助を充実させようと考えている。なに、戦士学科はやることが単純だ。またすぐに
追いつくさ」
彼女の提案は、確かにかなりの魅力を持っていた。補助が充実すれば、その分狩りもしやすくなり、一人一人の負担も減る。
「僕は賛成だよ。ただ、やっぱり戦力の低下が懸念材料ではあるかな」
「それに関しては、少数で魔女の森に行けばいいかと思っている。グレーターデーモンはさすがに危ないが、レッサーデーモンまでなら
三人程度でも狩れるだろう?そうすれば、すぐまた力も戻せるさ」
「じゃけど、その三人って誰にするの?あと、残った三人は?」
クラッズが尋ねると、ディアボロスは首を巡らせ、一度全員の顔を見回した。
「まず、フェルパーは外せないな」
「僕も、離れたくないなあ」
「絶対そう来ると思ったぜ、お前は」
「私情も挟んではいるが、戦力としても重要だからな。それとあと一人だが……悩むな」
戦力で言えば、ヒューマンが妥当だろう。しかし、クラッズには魔法壁があり、ドワーフは各種の歌と、見た目以上のしぶとさを
持っている。ノームは回復要員として優秀である。しばらく悩んでから、ディアボロスは口を開いた。
「そうだな。ノーム、頼めるか?」
「お、僕がノミネートされるとはね。意外だな」
「お前は攻撃力もなかなかあるし、ヒーリングも覚えている。何より、首を切られても死なないからな。不意打ちを食らった場合、
クラッズの魔法壁よりも信頼がある」
「な〜んか悔しいなあ、それ」
冗談めかして言っているものの、クラッズの目は本気で悔しそうだった。
「ともかく、そんなわけだ。お前達は、よかったらクロスティーニにでもいて、魔女の森に向かう生徒の報告でもしてくれないか?
そうすれば、何かあったときにこっちですぐ救助に向かえる」
「実質、ほぼ休憩だな。ま、あんまり差がついてもなんだし、それもいいか」
こうして話がまとまり、ヒューマン、ドワーフ、クラッズの三人はクロスティーニへ戻り、ディアボロス、フェルパー、ノームの三人は
ブルスケッタで悪魔狩りを続けることとなった。その後、一行が再び合流するのは、一ヶ月ほど後のことだった。
ブルスケッタに残った三人のうち、ディアボロスはすぐに転科手続きを行い、魔法使い学科へと移った。その彼女を守るようにして、
フェルパーとノームが主に戦い、経験を積ませる。さすがに、少人数での戦いはかなりの危険を伴うものの、それに比例して
いい経験となる。ディアボロスは瞬く間に力をつけ、十日ほどもすると、それなりの実力者となっていた。
そんな彼等を、羨望や尊敬の眼差しで見る者もいる。しかし、全員がそうであるわけではない。
まして、彼等は新入生であり、多くの生徒から見れば後輩である。そんな彼等が、不相応な実力を持っていることに不快感を持つ者も
少なくない。嫉妬や、あるいは憎悪の眼差しをも、彼等は受けていた。しかも、今彼等がいる場所は、クロスティーニの姉妹校の
ブルスケッタである。いわばクロスティーニより上位の学校でもあり、そういった眼はある意味で、母校のクロスティーニよりも
数多くあった。
そんな、一行に対して負の感情を抱く者の中に、彼等はいた。
「気に入らないですよね、あの人達」
「まったくだね。しかも、ディアボロスなんて種族までいる」
穏やかな笑みを湛えるセレスティアと、見るからに気位の高そうなエルフ。セレスティアはいかにもブルスケッタの生徒らしく、
魔法使い学科の服を身に付けているが、エルフはここの生徒にしては珍しく、戦士学科の服装をしている。
「後輩の癖に、一番の成長株とかおだてられて、調子に乗って。少し、痛い目に遭わせたいですよね」
「僕も、気持ちは同じさ。だけど実際、彼等は強いよ」
エルフが言うと、セレスティアは笑った。
「でも、知ってますか?そのディアボロスが、わたくしと同じ学科になったんですよ」
「へえ、転科したのかい」
「……それだけですか?」
いたずらっぽく微笑む彼女に、エルフは首を傾げた。
「何か、言いたげだね?」
「ふふ、鈍いんですね。チャンスだと、思いませんか?」
言われてようやく、彼は気付いた。
「……なるほど。今なら彼女は、弱いと言うわけかい。でも、他の仲間がいるよ」
「聞いた話ですけど、あの女は魔法を覚えたら、戦士に戻るつもりみたいですよ。それにあなたの言う通り、他の仲間がいる……つまり、
それに比べて弱くなってる。ということは、なるべく早く魔法を覚えようと、躍起になってるはずなんですよ」
穏やかで優しげな笑みを湛えつつ、セレスティアは続ける。
「そうでなければ、三人で悪魔となんか、戦ったりしません。それだけ焦ってるんですから、ある程度の実力がついたら、きっと一人で
戦いに出かけると思うんですよ」
「ふむ…」
「何も、あのパーティ全員を、痛い目に遭わせる必要はありません。だって、一人を痛めつければ、他の仲間は十分苦しむんですから」
そう言い、セレスティアはころころと笑った。その笑顔は、あまりに純粋だった。
「しかもですよ?ちょうどいいことに、あの女はフェルパーの方とお付き合いしてるらしいんですよ。そんな人を、一番苦しめる方法。
エルフさん、何だと思います?」
「……言いたいことは、何となくわかったよ。でも、僕にあんな女を犯せっていうのかい?」
「あの女が泣き叫ぶ姿、見たくありませんか?あの悪魔の子孫が、無様に泣き喚く姿、きっととっても面白いと思いますよ」
純粋な笑顔。透き通るほどに純粋な、比類なき悪意。それが、彼女の笑顔を作っていた。
「君とは、ずっとお預け中だっていうのにね」
「だって、わたくしはその……まだ、覚悟がつかないんですもん……やっぱり、怖いですよ…」
「いや、悪かったよ。君を責めてるわけじゃない、安心してくれ」
優しく言うと、エルフは彼女の顔を上げさせ、そっと口付けを交わした。
「君の提案……機会があれば、乗ってみるよ」
セレスティアに微笑みかけるエルフ。その笑顔もまた、彼女に負けないほどの、どす黒い悪意に満ちていた。
果たして数日後。朝から悪魔と戦い続け、そろそろ帰ろうかという話が出たとき、ディアボロスは言った。
「そろそろ夕飯時だしな。けど、悪いが先に戻ってくれないか?」
「どうしたの?」
フェルパーが尋ねると、ディアボロスは笑って答える。
「まだ魔力に余裕がある。それを使い切ってから戻ろうと思ってな」
「そう焦ることはないさ。なら、僕達も一緒にいるよ」
「いや、気持ちは嬉しいが、私もなるべく早く戦士に戻りたい。一人で訓練を積めば、魔法なんぞすぐに覚えられるしな」
「けど、危ないよぉ。僕も一緒にいるよ」
「いやいや、私とて無理をする気はない。誰もが惑わされる樹海辺りなら、いざとなればジェラートタウンに逃げ込めるし、相手も
さほど強くない。仮に、最悪の事態が起きたとしても、発見してもらえる確率も高いからな」
それでも、ノームとフェルパーは不安そうだったが、結局は彼女の言葉に従い、先に戻ることにした。
「でも、本当に気をつけてくれよ。以前ほど君は重装備していないし、立ち回りは明らかに下手になってるんだから」
「わかってるさ。絶対に無理はしない、約束する」
「なるべく早く、戻ってきてね」
「ああ。少しだけ待っててくれ」
念のため、フェルパーとノームは、彼女を誰もが惑わされる樹海まで送ってから、ブルスケッタへと戻った。それを見送ると、
ディアボロスは一人で悪魔との戦いを始めた。装備はいい物を身に付けているため、思ったよりは苦戦しない。それでも、一瞬の油断が
即、死に繋がるため、魔力の出し惜しみなど一切せず、常に全力で戦っていた。その分、実入りもいいが消耗も早い。程なく、残りの
魔力がバックドアル一回分となったところで、ディアボロスはブルスケッタに戻ろうと詠唱を始めた。
その詠唱が完成する直前、突然ディアボロスに異変が起きた。
「う……あ…!?な、何が……うぅぅ…!?」
詠唱を中断し、その場にうずくまるディアボロス。その体はガタガタと震え、呼吸はひどく乱れている。わけもわからない恐怖に、
ディアボロスはただ怯えた。
「ふふ。堕天使学科の魔法って、便利ですよね」
辺りに響く、優しげな声。岩陰から、一人のセレスティアが歩み出た。
「ま……魔法…?く、くそぉ……フィアズか…!」
自分の胸を抱き、ガタガタと震えながらも、ディアボロスは何とか立ち上がった。
「お前が……やったのか…!一体、何のつもりで…!?」
その瞬間、後ろに気配を感じた。それも、ひどく悪意の篭った、禍々しい気配を。
以前なら、その瞬間に体が動いていた。だが、魔法使い学科に転科して以来、頭を使うことに慣れた彼女は、咄嗟に魔法を
詠唱しようとした。しかし恐怖に思考が乱され、結果、最悪の事態を招いた。
背中に凄まじい衝撃。ディアボロスの体は簡単に吹っ飛び、地面に激しく打ち付けられた。飛びかける意識を必死に繋ぎ止め、何とか
首を巡らせ、襲撃者の姿を認める。そこには、クレイモアを持ったエルフの姿があった。
「へえ。剣の腹で打ったとはいえ、殺すつもりで振ったんだけどね」
端正な顔を歪め、エルフは邪悪な笑みを浮かべた。
「さすがは、ヒーロー様の一人ってところかい」
「がはっ…!お前等……何の、つもり…!」
ディアボロスは何とか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。それだけでなく、全身が意識しなければ動かせない。
そんな彼女を見て、セレスティアはおかしそうに笑った。
「あらあら、無様ですね。でも、新入生なら新入生らしく、それぐらいの方がお似合いですよ」
「な……何なんだ、お前等…!?」
自分に向けられた、いわれなき悪意の理由を、ディアボロスは理解できなかった。種族が気に入らないというのならわかるが、
彼女を見る限り、そうではなさそうだった。
「いい気になってると、ろくな目に遭わないって教えてあげるんですから、感謝してくださいね?ふふっ」
「しかし、君のことは気に入らないが……意外と、悪くないかもね」
エルフがゆっくりと近づき、ディアボロスの前にしゃがみこむ。何をするのかと思う間もなく、エルフは彼女の服に剣を引っ掛けると、
ざっくりと切り裂いた。
「うわっ!?な、何をするんだぁ!?」
服の前面を切り裂かれ、ディアボロスは慌てて胸を隠す。そんな姿を、二人は笑いながら見ていた。
「何をって?そんなの、この状況を見れば、すぐわかるだろう?」
エルフの言葉に、ディアボロスは凍りついた。彼女の中に、魔法の効果だけではない恐怖が頭をもたげる。
「や……やめろぉ…!」
思わず後ずさったディアボロスを、セレスティアが後ろから押さえつけた。
「ダメですよ、逃がしません。さ、エルフさん」
「嫌だ!やめろぉ!放せ、放してくれぇ!!」
ディアボロスは必死に叫び、暴れた。しかし、消耗した体では大した抵抗も出来ない。そんな彼女の胸に、エルフが手を伸ばす。
「ふーん、かなり大きいね。触り心地は、よさそうだ」
言うなり、エルフはディアボロスの胸を握るように掴んだ。
「いっ!!痛い!!痛い!!!」
「ああ、柔らかいなあ。それにこの顔、たまらないな」
悲鳴を上げるディアボロスを、二人は実に楽しそうに見つめている。
「でも、何だか皮膚が硬いね。やっぱり、君にはかなわないな」
「ふふ。そんな悪魔なんかと、比べないでください」
「はは、悪かったよ」
二人は実に楽しげだった。まるで、子供が新しい玩具でも見るような目で、ディアボロスを見つめている。
エルフの手が容赦なく、乳房を握り、捻り、引っ張る。絶えず襲い来る痛みと恐怖に、ディアボロスは何度も悲鳴を上げる。
「痛い!!もうやめてくれぇ!!嫌だぁ!!助けて……フェルパー、助けてくれぇ!!」
「ははは。君が自分で追い払ったんじゃないか。助けなんか、来るわけもないだろ?」
「でも、あんまりのんびりしてたら、心配して来ちゃうかもしれませんよ」
「それもそうか。よく鳴く小鳥は見ていて楽しいものだけど、仕方ないな」
実に残念そうに言うと、エルフはようやく胸から手を放した。散々に弄ばれた乳房には、乱暴に掴まれた跡が赤く残っている。
それに息つく間もなく、ショーツに手がかけられる。それを引き下げるという面倒な真似はせず、エルフはそれをダガーで切り裂いた。
「さて。それじゃあ、もっといい声を聞かせてくれよ」
返事も待たず、エルフはディアボロスの秘部に、強引に指を突っ込んだ。
「あぐぅっ!」
凄まじい痛みに、ディアボロスは顔を歪める。しかし同時に、彼女の中に僅かな反抗心が芽生えていた。
フィアズの効果は、既にだいぶ薄れている。もう、この状況では抵抗も意味を成さないことは、彼女にもよくわかっていた。
彼女に残された最後の抵抗は、彼等を楽しませないことぐらいだった。
エルフの指が、まったく濡れていない膣内を、乱暴に擦る。
「っ…!……っ…!」
「あれ、さっきみたいな悲鳴はどうしたんだい?もしかして、ささやかな反抗のつもりかい?」
歯を食い縛り、必死に痛みを耐える。それが気に入らないのか、エルフはますます乱暴に指を動かし、さらには指を曲げ、彼女の中を
がりっと引っ掻いた。さすがに耐え切れず、ディアボロスの口から短い悲鳴が漏れた。
「……ぐっ…!……ぅ…!」
「……ふ〜ん、どうあっても反抗するつもりなんだね。ならいいさ。あまり気は進まないけど、もっと痛くしてあげるよ」
言いながら、エルフはズボンを下ろし、ディアボロスの腰を持ち上げる。彼女の肩を押さえつけるセレスティアが、
口元に冷酷な笑みを浮かべた。
「濡らさないでも、入るものなんですか?」
「無理矢理やればね。僕も痛いから、本当に気は進まないんだけどさ」
「………」
ディアボロスは何も言わない。しかし、その顔は恐怖に青ざめ、呼吸も荒い。だが、エルフが彼女の顔を見ると、即座に顔を逸らす。
「……はは。まあいいさ。そうやって反抗的な態度を取られるのも、悪くはない」
片手でディアボロスの体を支え、空いた手でその秘裂を開くと、そこに自身のモノを押し当てた。そして彼女の腰を両手で掴むと、
思い切り強く腰を突き出した。
「ぐっ!!!ぐ、うっっ!!!!」
食い縛った歯の隙間から悲鳴が漏れ、あまりの痛みに、たちまち眦には涙が溢れる。一方のエルフも、決して気持ちよさそうとは
言えない顔をしている。
「くっ……さすがにきつい…!」
「うわぁ。でも、入っちゃうんですね。人の体って、すごいですよね。それとも、好き者のあなたが緩かったんでしょうか?」
「ふっ……うっ…!」
何を言われても、ディアボロスは睨みつけるような真似すらせず、ただただ無視を決め込んだ。それが彼等の神経を逆撫ですると
わかっていても、もうそれしか抵抗のしようはなかったのだ。
エルフがゆっくりと腰を動かし始める。乾いた粘膜を擦られる痛みに、ディアボロスは全身を強張らせる。
歯を食い縛り、拳を握り、それでも悲鳴すら上げず、しかし堪えきれない涙が彼女の頬を濡らす。
「がっ……ぐっ…!」
エルフが動く度に、ディアボロスの体が強張る。その激しい痛みと刺激が、やがて彼女の望まない形での反応を引き起こす。
少しずつ、水音が響き始めた。それに伴い、ディアボロスの声も小さくなっている。エルフは彼女を見下ろし、にやりと笑った。
「おやおや。君は、強姦願望でもあったのかい?」
「………」
「ほら、濡れてきてるじゃないか。ははは、無理矢理犯されて、感じてるのかい」
「……嘘……だ…!」
とうとう、ディアボロスは口を開いた。半ば自分に言い聞かせるように、エルフの言葉を否定する。
「嘘?なら、これは何だい?」
エルフは結合部から漏れる粘液を指で掬い、ディアボロスの眼前に突きつけた。
「ほら、見てみなよ。これでも濡れてないって言うのかい?」
「ふふふ。悪魔はやっぱり好き者なんですね。無理矢理されてるのに感じちゃうなんて」
「違……う…!違う、違う!!」
それは、彼女にとって耐えがたい苦痛だった。感じてなどいないと、どんなに否定しても、彼等の言葉と、実際に濡れているという
事実がある。冷静さを奪われた彼女は、それを完全に否定することが出来なかった。
「ははは。おかげで僕も、気持ちいいよ。あまりのんびりも出来ないし、早めに終わらせてもらうよ」
エルフがさらに強く突き上げる。その乱暴な動きは、まるで体の奥を殴られるような鈍い痛みをもたらす。
ディアボロスはぎゅっと目を瞑り、唇をきつく噛み締めながら、ひたすらその陵辱に耐えている。その眦には、痛みと屈辱の涙が
溜まっている。
しかし、今更抵抗を再開したところで、もはや無意味だということも、彼女にはよくわかっていた。それまでに見せた姿に、彼等はもう
十分に満足していたのだ。
やがて、その動きが一段と激しくなり、エルフが低く呻いた。
「くっ……もう、限界だ!」
最後に思い切り奥まで突き入れると、エルフはディアボロスの体内に精を放った。
「……っ…!」
体内で彼のモノが跳ねるのを感じ、ディアボロスはさらにきつく唇を噛み締めた。あまりに強く噛んだため、口元に一筋の血が伝う。
そんな彼女を満足げに見下ろしながら、エルフは全て彼女の中に注ぎ込む。それが終わると、彼はディアボロスの中から引き抜いた。
「やれやれ。終わってみると、やっぱり気分はよくないね。こんな悪魔なんかと、したなんていうのは」
言いながら、エルフはハンカチを取り出すと、先程までディアボロスの中に入っていたモノを丁寧に拭う。
「ふふっ。でも、なかなか楽しかったじゃないですか。おだてられて、いい気になってる相手が泣く姿は、やっぱりいつ見ても
面白いですよ」
「それもそうか。……ほら、君にやるよ」
あらかた拭き終わると、エルフはそのハンカチをディアボロスの傍らに放った。
「君の体液で汚れたハンカチなんて、僕は使いたくないからね。自由に使ってくれ」
「優しいですね、エルフさんは。うふふ」
押さえていた手を離し、セレスティアが立ち上がる。
「とにかく、これでわかったでしょう?ヒーローとか何とか言われて、いい気になってると、ろくな目に遭わないんですよ。あなたの
お仲間にも、よろしく言っておいてくださいね」
そう言って、セレスティアはにっこりと笑う。しかし、ディアボロスは何も答えなかった。
だが、二人はもう満足したらしく、手早く身なりを整えると、すぐにその場を立ち去った。残されたディアボロスは、
しばらくそのまま横たわっていた。
やがて、むくりと体を起こす。近くに落ちていた杖を取ると、何とか立ち上がる。その瞬間、股間に鋭い痛みが襲った。
「うあっ!」
思わず声をあげ、その場にうずくまる。そのまま、ディアボロスは長いことうずくまっていた。
ぽつりと、雨が地面に落ちる。その黒い染みはあっという間に数を増やし、一分と経たないうちに、辺りは土砂降りとなった。
それでも、ディアボロスはしばらくうずくまっていた。雨に濡れた髪から、水滴が滴り落ちる。それに混じって、頬に温かい水滴が伝う。
やがて、彼女はゆっくりと立ち上がると、震える足を押さえつけ、口の中で詠唱を始めた。だが、それはバックドアルではなく、
テレポルの詠唱である。そして詠唱が完成すると、彼女はどこへともなく消えていった。
一方、フェルパーとノームはブルスケッタに戻ると、購買でいらない物を売り払い、その足で学食へと向かった。
しかし、学食に着くなり、フェルパーがノームに話しかける。
「あ、悪いんだけど、僕はまだご飯食べないよ」
「どうしたんだい。食欲ない……わけでは、ないようだね」
フェルパーは何やらトレイを二つ持ち、それぞれに料理を載せている。
「ディアボロスも、お腹空いてると思うしさ。帰ってきたら、二人で食べるんだぁ」
「でも、彼女が戻ってくるまで待ってたら、冷めちゃうだろう」
「それでも、一緒に食べたいもの。それに、そこまで遅くはならないと思うしさ」
「そうか。いや、それならいいんだ。なら、僕は先にディナータイムとしゃれ込むよ」
「うん。ごめんね、わがまま言って」
「構わないさ。ディアボロスも、きっと喜ぶだろう」
それから、ノームはそこで食事を始め、フェルパーは無理を言って、部屋まで料理を持っていった。
テーブルにトレイを載せ、冷めないように布をかけ、フェルパーは楽しげに尻尾を振りながら彼女を待つ。少々お腹が鳴っているが、
先に手をつけようとはしない。
だが、彼女はなかなか帰らない。既にかなりの時間が経過し、料理はすっかり冷めているが、まだ帰る気配もない。
フェルパーは所在無さげに尻尾を振りつつ、それでも彼女を待つ。
もしかしたら、また魔力が回復したので、長引いているのかもしれない。そう思い、フェルパーはじっと空腹に耐える。
だが、それでも戻る気配がない。フェルパーの尻尾は力なく垂れ、時折床をパシンと叩く。外は既に日が落ち始め、
だいぶ暗くなってきている。
あまりにも、遅すぎる。それでも、もう少し待とうかと考えたのだが、やがて雨が降り始めた辺りで、フェルパーは席を立った。
部屋を出ると、真っ直ぐにノームの部屋に向かう。ドアをノックすると、ノームはすぐに出た。
「フェルパーか、どうしたんだい」
「あのね、ディアボロスがまだ戻らないんだ…」
「何だって、まだ戻ってなかったのか。嫌な予感がするな…」
「うん。あまり考えたくはないんだけど……探しに行くんだけど、ついて来てくれる?」
「もちろんさ。ああ、でもその前に、購買と実験室に寄るから、先に入り口に行っててくれ」
フェルパーはすぐに魔女の森入り口に向かい、ノームを待つ。やがてノームが姿を見せ、フェルパーに紙切れを渡してきた。
「ほら、渡しとくよ。破れた帰還札と、破れた転移札。濡らして、これ以上破らないようにしてくれよ」
「……どうして破れてるやつ?」
「買って分解したのさ。こうすると、そのまま使うよりお得なんだ。覚えておくと便利だよ。それじゃ、探しに行こうか」
ノームが破れた転移札を使い、二人は誰もが惑わされる樹海へと飛んだ。しかし、誰かがいるような気配はない。
「ディアボロス……やられちゃってないよね?無事だよね?」
「そうであることを祈るよ。僕は、ジェラートタウンを見てくる。君は、こっちで彼女を探してくれ」
「うん、わかった」
二手に分かれ、ノームはすぐにジェラートタウンへと向かった。フェルパーはディアボロスを求め、雨の中を歩き回る。
時折、悪魔が襲い掛かってくる。しかし、フェルパーにとって敵ではなく、その全てをあっさりと返り討ちにする。
―――これぐらいの相手なら、負けると思わないけど…。
それでも、万一ということがある。隅から隅までを探し回るつもりで歩いていると、ふと何かが落ちているのに気付いた。
近づいてみると、それはびしょ濡れになったハンカチのようだった。だが、ディアボロスがそんな物を持っているのは
見たことがないので、恐らくは誰かが落としたのだろう。だが、もしそれが悪魔に襲われてということならば、助ける必要がある。
フェルパーは何気なくそれを手に取り、匂いを嗅いだ。
「……っ!?」
途端に、フェルパーの表情が変わった。驚きに目を見開き、もう一度匂いを嗅ぐ。
間違いなかった。それについているのは、ディアボロスの匂いと、知らない男と、精液の臭い。
戻らないディアボロス。ハンカチに付いた臭い。それが意味するところは一つしかない。
次の瞬間、フェルパーは走り出していた。直感で、彼女はあそこにいるはずだと感じ、フェルパーは誰もが歩みを止めた道へと走る。
目印をつけて進んだ道を走り抜け、誰もが歩みを止めた道へと飛び込む。そして、いくつかのワープを潜った先に、彼女はいた。
切り裂かれて、服としての用を為さなくなった制服を身に付け、秘部に指を突っ込みんで精液を掻き出し、ディープゾーンの水を掬い、
洗い流す。何度も何度も、彼女はそれだけを繰り返していた。
「……ディアボロス…」
声をかけると、ディアボロスはゆっくりと振り向いた。
その悲しげな目を見た途端、フェルパーはそれ以上の言葉をかける勇気をなくした。
しばらくの間、二人は無言で見詰め合った。降り続く雨が、ただ二人の体を濡らしていく。
「……一人に……してくれ…………お願いだ…」
ぽつりと、ディアボロスが呟いた。それに答えられずにいると、ディアボロスはもう一度呟いた。
「……お願いだ…!」
もう、声をかけることも出来なかった。フェルパーは何度も躊躇いつつ、やがて彼女に背を向ける。歩き出そうとして、ふと足を止め、
フェルパーは彼女に歩み寄ると服を脱ぎ、彼女の肩にかけてやった。
「………」
「………」
言葉はなかった。最後に破れた帰還札を持たせると、フェルパーは今度こそ踵を返し、震える足取りで彼女から一歩一歩離れていく。
「……うっ……うっ、うぅ…!」
背中に、ディアボロスの嗚咽が突き刺さる。フェルパーの歯が、ギリッと音を立てる。その声を振り切るように、フェルパーは
駆け出した。後にはただ、一人雨に打たれて泣き続けるディアボロスだけが残されていた。
魔女の森に、凄まじい咆哮が木霊する。
「うあああぁぁぁぁ!!!!ああああぁぁぁぁぁ!!!!」
咆哮と共に、それは目に入る全てのものを破壊した。岩にざっくりと爪痕を残し、木々は倒され、立ち塞がった悪魔はたちまち無残な
肉塊と化した。その破壊から逃れられたものは、皮肉にも逃げ遅れて怯えるモンスターだけだった。
悪魔すらも怯えて逃げるほどの破壊を撒き散らしながら、フェルパーは魔女の森を歩く。もはや理性すら感じさせないその顔は、
まさにビーストと呼ぶのに相応しいものだった。
一本の木が目に入る。途端に、フェルパーはそれに掴みかかった。
「ああああああぁぁぁぁ!!!!!」
メキメキと音を立て、幹が握り潰される。やがて、音を立てて幹が折れると、フェルパーはそれを地面に叩きつけた。
「うあああぁぁぁ!!!!がああああぁぁぁ!!!」
滅茶苦茶に叫び、狂ったように爪で切り刻む。一本の木だったものは、彼の爪によってたちまち無数の破片に変えられてしまった。
と、突然フェルパーの顔に理性が戻る。たった今破壊した木屑の一つを手に取り、匂いを嗅ぐ。
雨でだいぶ流れてはいるが、間違いなかった。そこから、あのハンカチについていたものと同じ匂いを感じた。
『獲物』が近い。近くには、迷いし者が集う場所がある。雨を避けているのなら、そこにいる可能性は高い。
目的地が決まり、フェルパーは鬼気迫る表情で歩き出した。相手が近くにいる以上、もう叫び声を上げたりはしない。
そうして、迷いし者が集う場所の入り口付近まで来たとき、岩陰から何者かが現れた。
「……何を、するつもりだい」
ノームが、いつもと同じ無表情な声で尋ねる。
「………」
「いや、聞かなくても顔を見ればわかる。けど僕は、君をこの先に進ませることは出来ない」
「……グゥゥゥ…!」
低い唸りを上げ、フェルパーは手を伸ばす。爪を出来る限り引っ込め、ノームの顔に手をかけると、そっと、しかし凄まじい力で
押しのける。そのまま先に進もうとすると、ノームの手が胸倉を掴んだ。
「この先に進むのは、君の自由だよ」
押しのけられて、思い切り体を反らしつつ、ノームは続ける。
「僕は君の前に立つ以上のことはしないし、君は必要なら、僕を殺すことも出来る」
浮遊できるため、転ぶことはない。不安定な体勢のまま、ノームはフェルパーを無理矢理こちらに向けた。
「怒りの炎の命ずるままに、全てを焼き尽くすことも出来るし、その炎を内に秘め、誰かを温めることも出来る。どうするかは、
君の自由だ」
その言葉に、フェルパーはビクリと体を震わせた。
「ディアボロスは、一人にしてくれと言ったんだろう。じゃなきゃ、君はここにいない。でもね、女心って言うのは複雑なんだ。
言葉に出すだけが本心じゃなく、相反する思いもまた、彼女の本心だ」
「………」
「一人が辛いというのは、本当の孤独を知らない種族の言う言葉さ。孤独は、自分以外の誰もいないが故に、居心地のいい物だよ。
だからこそ、人は辛いとき、一人になりたいと願う。君も、それはよくわかるだろう。……けどね、時には誰かに支えてもらいたい
と思うときがある。側にいてほしいと思うときがある。それは、孤独よりも居心地のいい、誰かの隣という居場所が見つかったときさ」
「……フー……フー…!」
少しずつ、フェルパーの呼吸が荒くなっていく。しかし、それは怒りのためではない。
「……彼女は、一人にしてほしいと思っている。それは事実だ。けど同時に、君にそばにいてほしいと思っている。それもまた、事実だ」
「……フゥーッ……フゥーッ…!」
歯を食い縛り、その隙間から荒い呼吸が漏れる。雨が雫となり、涙と共に頬を流れていく。
「ウウ……ウ…!ぼ……僕…………は…!」
震える声で、フェルパーが呻くように呟く。そんな彼の頬に、ノームはそっと手を当てた。
「……君は、美しいよ」
そっと、顔を寄せる。吐息がかかるほどに顔を寄せ、ノームは口を開く。
「その頬に流れる涙のようにね。涙は、人の感情の結晶だ。怒り、喜び、悲しみ……いずれも感極まったとき、人は涙を流す。
だから、流れる涙はどんなものでも美しい。僕には与えられなかった、君達だけの宝物」
フェルパーの目を真っ直ぐに見つめ、ノームは微笑んだ。
「そんな君が、あんな奴等のために、汚れる必要はない。美しいものを汚してみたくなるのは、人間の性といえ、それはこの手で
汚すことに価値がある。君自らが進んで汚れては、話にならない」
「……?」
ノームの言葉が理解できないらしく、フェルパーは戸惑いの表情を見せる。そんな彼に、ノームは優しく言った。
「行ってやれよ。彼女を温めてあげられるのは、君だけだ。今は、その怒りの炎を内に収めて、彼女を温めてやれ。雨で汚れを
流したなら、それで冷え切った体を温める存在が必要さ。例え拒絶されても、決して彼女を放すな。君ならきっと、今の彼女にも、
受け入れてもらえるさ」
フェルパーの胸に、ノームは破れた帰還札を押し付けた。躊躇いながらもフェルパーがそれを受け取ると、ノームは静かに彼の脇を
通り抜ける。
「けど、安心してくれ。このままで終わらせる気はない」
フェルパーの頬に触れた手が、優しく撫でていく。そして、指先で彼の涙を掬い取ると、ノームはそれを口に含んだ。
「君の火種……僕が受け継いだ」
迷いし者が集う場所に、二つの人影があった。二人はぴったりと寄り添い、実に仲が良さそうに見える。
「ふう、いきなり降られたのには参ったね」
「でも、ちょうどよかったかもしれませんよ?下手に戻って、あの悪魔が仲間と合流してたら、無事じゃ済まなかったかもしれません」
「それもそうか。ほとぼりが冷めるまで、こうして隠れてた方がいいのかな」
「うふふ。あなたと一緒なら、わたくしはそれでも構いませんよ」
そう言って笑うセレスティアを、エルフはグッと抱き寄せる。そして、彼女に口付けをしようとしたとき、不意に気配を感じ、
咄嗟に身構えた。
誰かが近づいてくるのが見える。足音すら立てない移動の仕方は、恐らくノームだろう。そのノームは二人の前に来ると地面に降り、
気取った仕草で頭を下げた。
「やあ、初めまして。デートの邪魔をして悪いね」
「……何だい、君は?」
「普通科所属の、ただのノームの一人さ。ただ、君達とは少し縁がある」
「縁?縁って、どんな縁ですか?」
セレスティアが尋ねると、ノームは口元を笑みの形に持ち上げる。
「……仲間のディアボロスが、ずいぶん世話になったみたいでね」
その言葉に、二人は素早く武器を構えた。途端に、ノームの目がスッと細くなる。
「やっぱり、お前等か。しかし、こうも簡単にかかるとは……お前等も、馬鹿だな」
「……ふん。それで、どうするって?君一人で、敵討ちでもする気かい?」
「ああ、そのつもりさ。僕の大切なディボロスを、そしてフェルパーを、傷つけた罪は重いぞ」
「ふふふ。わざわざ一人で来るなんて、そういう人、嫌いじゃあないんですけど…」
穏やかな笑みを浮かべながら、セレスティアは意識を集中した。
「でも、あなたは生かして帰しませんよ!」
セレスティアがフィアズを唱えた。だが、ノームは鼻で笑う。
「ふん。魔法使いがいることなんて、想定済みさ。そんな魔法、食らうかよ」
「なら、これはどうだい!」
エルフが剣を抜き、ノーム目掛けて突きかかった。それを見て、ノームは笑った。
「ふん、甘いよ」
次の瞬間、エルフは驚きに目を見開いた。ノームは避けようとせず、自らその剣に貫かれたのだ。
「なんっ…!?」
「避けたところを狙うつもりだったんだろ。残念だったなあ。突きの後は、動きが死ぬぜ」
ノームの腕が、くるりと円を描いた。その瞬間、凄まじい悲鳴が響いた。
「ぐっ……ああああぁぁぁ!!!」
「エルフさん!?」
股間を押さえ、うずくまるエルフ。そのそばに、血に塗れた何かが落ちている。
「おっと、悪かったな。咄嗟だったもんで、切り落としちまった」
笑いながら言うと、ノームはエルフの顔を蹴り上げた。仰向けに倒れたエルフを見つつ、ノームは地面に落ちたそれを無造作に掴み、
エルフの股間に押し当て、ヒールを唱えた。途端に出血が止まり、切り落とされたモノも元通りにくっつく。
が、悲鳴が止まった瞬間、ノームはエルフの股間を思い切り蹴り飛ばした。
「がっっっ!!!!か……はっ…!!!」
内臓にめり込むほどに強く蹴り飛ばされ、エルフは悶絶した。ノームは懐から鎖を取り出すと、一端を迷宮の壁に括りつけ、もう一端を
素早くエルフの足に巻きつける。そして、そこにガチャリと錠をかける。これで、エルフの動きは封じられた。
不意に熱を感じ、ノームは腕で顔を庇った。直後、セレスティアの放ったファイアがノームに襲い掛かる。
「エルフさんに何をするんですか!離れなさい!」
「……くくくく」
不意に響いた笑い声に、セレスティアはぞくりと身を震わせる。
「フェルパーとディアボロスの味わった痛み……お前等が味わうのは、そんなものじゃ済まないぞ」
無表情なはずの瞳の奥に、セレスティアは言い様もない恐怖を感じた。言うなれば、彼の瞳は狂人のそれだった。彼は、狂気を
飼い慣らしている。ある意味では、ビーストや狂戦士に近い存在ともいえる。
「く……その濡れた体に、雷はよく効くでしょうね!」
セレスティアが魔法を詠唱する。その隙に、ノームは距離を詰める。
「逃げ場は与えませんよ!サンダガン!」
雷が放たれ、ノームの体を貫く。しかし、ノームはまったく怯まずに距離を詰めてくる。
「なんて方ですか…!でも、わたくしに追いつけますか!?」
セレスティアは翼を広げ、素早く後ろに飛んだ。さすがに素早さでは、ノームに勝ち目はない。だが、ノームは笑った。
「逃げながら魔法を撃つ気かい。さすがにそれをやられちゃ、僕も危ない。魔法は、封じさせてもらう」
「普通科の、しかもノームのあなたが、一体どうやって魔法を……なっ!?」
ノームはダガーで、自分の左腕を切り落とした。それにセレスティアが驚いた瞬間、ノームはそれを彼女に向かって放り投げた。
思わず、それを腕で受ける。すると、その腕はまるで生きているかのように動き、彼女の喉を掴んだ。
「ぐぅっ…!?ぐ、ゲホッ…!」
「ははは。こういうときには便利なもんだよ。この間、首が落ちても動ける事に気付いてね。それの応用さ」
首を掴まれては、魔法の詠唱も出来ない。その腕を振り払おうともがいていると、いつの間にかノームが目の前まで迫っていた。
ダガーの一振りを、後ろに飛んで避ける。着地しようとして、セレスティアは自分が壁際まで追い詰められているのに気付いた。
「くっ!」
足元は電流の流れる地面である。着地すれば、無事では済まない。
慌てて羽ばたき、何とか横に逃れる。だが、ノームはすぐさま追撃をかけ、執拗に攻撃する。浮遊の仕方が違う分、ノームの動きは
見た目では判断できない。後ろにやや空間が開き、思わず後ろに飛んだ瞬間、セレスティアの体がぐるりと回った。
「きゃっ!?」
目の前に壁がある。後ろも壁である。そこでようやく、セレスティアは自分がターンエリアに踏み込んだのだと知った。
そこに、ノームが現れた。大慌てで翼を開いた瞬間、ノームは彼女の腹を思い切り蹴り飛ばした。
「ぐっ、ああああぁぁぁぁぁ!!!」
壁に押し付けられ、白い火花が散る。それでもノームは、足で彼女を壁に押し当て続ける。
「あがががが!!!がっあああぁぁぁあああああ!!!」
凄まじい悲鳴を上げ、セレスティアの体が狂ったように揺れる。翼が焼け、辺りに嫌な匂いが立ち込め始めた辺りで、ノームはようやく
セレスティアを解放した。
先に投げた左手を掴み、肩に押し当ててヒールを唱える。そして、彼女の翼を無造作に掴むと、エルフの前まで引きずっていく。
エルフはまだうずくまっており、それに気付く余裕はないらしい。ノームは口元だけで笑い、セレスティアにヒーリングを唱えた。
「う……何を…?」
「死なれちゃあ困るんだ。まだ、君には生きててもらわないと」
言うなり、ノームはセレスティアの服に手をかけ、引き裂いた。
「きゃああぁぁ!!」
悲鳴を上げ、セレスティアは胸を手で隠す。
「あ……あなたは、わたくしを……あ、あの、ディアボロスと……おな、同じ目に、遭わせるつもりですか…!?」
震える声で尋ねると、ノームは口元の笑みを、一層酷薄そうに歪めた。
「そうしたいけど、僕は残念ながら、こうなんでね」
こともなげに、ノームはズボンを下ろしてみせる。そこには何も付いておらず、それこそ人形のようにのっぺりとしている。
「……でもまあ、別に必要ないか。これが付いてたって、僕はそんなものを使う気はない」
言いながら、ノームは手首を動かす。そして、セレスティアの前にしゃがみこむと、その体をしっかりと押さえつけた。
「目には目を、歯には歯を……なんて、甘いこと言うと思うなよ。地獄を見せてやる」
ノームの手が、セレスティアの股間に伸びる。中指が割れ目をなぞると、セレスティアはビクリと体を震わせた。
「や、やだ!やめてください!」
「いきなり本番になっちまっちゃ、それこそお前、死ぬぜ」
割れ目を擦り、敏感な突起を押しつぶすように刺激する。比較的敏感なのか、その度にセレスティアの体が跳ねる。
「うあっ!あっ!も、もうやめてくださいよぅ!!謝りますからぁ!!あ、痛ぁっ!!」
ノームの指が僅かに侵入すると、セレスティアは悲鳴を上げた。
「へえ、付き合ってる割には経験ないのか……ははっははははは」
楽しそうな笑い声を上げるノーム。だが、その不穏な気配を感じ、セレスティアは怯えた。その時、後ろから声がかかった。
「ぐ……セレス、ティア…!」
見れば、エルフが何とか顔を上げ、二人を見つめている。
「エ、エルフさん!助けてください!!わたくし、こんな人に初めてあげたくありません!!」
「ディアボロスには好き勝手しといて、いざお前の番となりゃその台詞かい。やれやれ……楽しませてくれるねえ」
「や、やめて……痛っ!」
中指を沈み込ませ、ノームはエルフに冷酷な笑みを向けた。
「はははは。君も見てるといいよ。君の女が……ここに、こいつを飲み込む様をさぁ」
そう言って、ノームは拳を握って見せた。その意味を理解した瞬間、セレスティアの顔が見る間に青ざめた。
「い、嫌……嫌、嫌、嫌ぁ!!!助けてぇ!!!エルフさん、助けてぇ!!!」
「はぁっははははっ。じゃあ、始めようか。さぁて、どこまで耐えられるかな」
突き入れた指が、恐怖からかぎゅっと締め付けられる。だが、それまでに多少の湿り気を帯びたそこは、指の一本程度なら自由に
出し入れ出来る程度である。
「さて、もう一本増やそうか」
「嫌だ!嫌だぁ!!やめ……い、痛い!!痛い痛い痛い!!!」
「くそ……やめ、ろぉ…!」
ノームの指が、もう一本セレスティアの体内に沈み込む。セレスティアは体を捩り、ノームの体を押し返そうと抵抗するが、
その度にノームは彼女の体内から押さえつけ、それを鎮める。
彼女をいたぶるように、ノームは二本の指を引き抜き、かと思うと強く突き入れ、回す。あまりの痛みに、セレスティアは涙を流して
悲鳴を上げるが、ノームは怯む気配すらない。
「痛い!!痛いぃ!!もうやめて!!もう許してくださいぃ!!」
「三本目、行こうか。くく、そろそろきつくなるかもな」
暴れる彼女を押さえつけ、ノームはゆっくりと三本目を突き入れる。狭い膣内を無理矢理押し広げられる感覚に、セレスティアは全身に
脂汗を浮かべ、必死に耐えている。
「あっぐ…!い……たい…!エルフさん……助け……て…!」
「セレスティア……セレスティア…!!貴様、やめろぉ…!!」
さすがに、三本目はそう簡単に入らない。セレスティアが全力で拒んでいるのに加え、そもそもがそこまでの広さではないのだ。
それを知ってなお、ノームは薄笑いを浮かべ、腕に力を込める。
「嫌だ……嫌だぁ…!も、もうやめて……誰か、誰か助け…!」
その時、ノームがさらに力を加え、途端に何かを無理矢理押し広げた感触と共に、指がずぶりと入り込んだ。同時に、セレスティアが
凄まじい悲鳴を上げる。
「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!痛いいいぃぃ!!!痛い!!痛い!!痛いいいいぃぃ!!!」
「セ、セレスティア!!!うあああぁぁ!!!」
ノームの指が赤く染まっていき、エルフも悲鳴に近い絶叫を上げる。そんな二人を見て、ノームは満足そうに笑う。
「はは、残念だったなあ。君の初めてをもらったのが、恋人じゃなくて僕だなんて。まさに一生の思い出だな、あはははは」
言いながら、ノームは激しく指を出し入れさせる。傷ついた膣内を擦られ、なお押し広げられる苦痛に、セレスティアは悲鳴を上げる。
「やだぁ!!もうやめてくださいぃぃ!!許して!!許してええぇぇ!!!」
「さて、そろそろ四本目、行こうか。くくくく、頼むから、途中で死んでくれるなよ」
小指をもまとめ、ノームが力を込める。
「やだやだやだやだぁぁぁぁ!!!!お願いですから、謝りますからああぁぁ!!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!
ごめんなさいいいぃぃ!!!もうやめて!!!もう許してええぇぇ!!!」
「はっはははは、許されるなんて思っているのかい。そんな甘い考え、どこから出てくるのやら、ね」
言うなり、ノームは思い切り腕に力を込めた。途端に、ミチミチと嫌な音を立て、指が飲み込まれていく。
「いっっっぎゃあああぁぁぁ!!!!あがっ!!!が、ああああぁぁぁぁ!!!!」
もはや女性とは思えないような悲鳴が上がる。セレスティアは白目を剥き、同時にノームの手に、ちょろちょろと黄色い液体が
かけられる。
「あーあ、さすがに失禁したかい。まあ、しょうがないね」
「もう、もうやめろおおぉぉ!!!やめてくれええぇぇ!!!うわあああぁぁ!!!」
エルフが絶望的な叫びを上げる。だが、今のノームにとっては、それはたまらなく心地いい音にしか聞こえない。
限界以上に広がり、激しく出血する膣内を乱暴に擦る。突き入れる度に血が飛び散り、引き抜く度に血と粘液の混じったものが
零れ落ちる。そして、セレスティアは気が狂ったような凄まじい悲鳴を上げ続けている。
「さあ、ラストスパートだ。いい声あげてくれよ」
「やだあああぁぁぁ!!!エルフさん助けてええぇぇ!!!助けて、助けてええぇぇ!!!殺される!!!助けて、殺されるぅ!!!」
「もうやめてくれえ!!!もう許してくれ!!!お願いだああぁぁ!!!」
「ふふ……断る」
入れやすいよう、指を窄めるように揃え、ゆっくりと彼女の中に突き入れていく。
「痛い痛い痛いぃぃ!!!もうしませんから、謝りますから、だから許してくださいお願いですからあああぁぁ!!!」
「最初からしなければ、こうならなかったのにな。ははは」
ゆっくりと、しかし容赦なく、ノームは彼女の中に指を突き入れる。既に限界を超えて押し広げられた入り口も、さすがに指の
付け根まで入ったところで、それ以上の侵入を拒む。
「もう無理!!もう無理ぃ!!!もうやめてぇ!!!」
「無理かどうか、やってみなけりゃわからない、さっ」
僅かに引き抜き、そして勢いをつけ、ノームは思い切り彼女の中へと突き入れた。そして、ブツッと嫌な音と共に、ノームの手首までが
彼女の中に入り込んだ。
「いぎゃああああぁぁぁぁ!!!!!」
「うぅ……あああぁぁぁ…!」
エルフは耳を塞ぎ、目を瞑ってその現実から逃れようとしている。セレスティアはもう痛みも限界にきたのか、身じろぎ一つせず、
ただただ荒い息をつくばかりである。
「あははは。ちゃんと入ったじゃないか。さっきまでバージンだったとは、とても思えないよ。あはははは」
言いながら、ノームは彼女の中で拳を握る。
「がぁっ!!!あぐぁっ!!!あ……あ…!」
「ほーら、これで拳が入った。ずいぶん緩くなったもんだね」
本来なら、さらに彼女を痛めつけてもよかった。だが、セレスティアは既に限界に来ているようであり、さらに別の理由から、ノームは
この辺で切り上げるべきだと判断した。
一度拳を引き抜き、ポケットから何かを取り出すと、それを握って再び拳を突き入れる。
「おご……あ…」
だが、今度はすぐに拳を引き抜くと、ノームはセレスティアに向かって魔法を詠唱する。やがて詠唱が終わり、ヒーリングが発動すると、
ひどい出血も一瞬にして治まり、セレスティアの目に生気が戻る。だが、セレスティアは急に腹を抑え、苦しみだした。
「い、痛……な、何が…!?」
「……おい、そこの君。いい加減手を放せ」
ノームはエルフの腕を掴むと、無理矢理耳から引き剥がす。
「う……な、何だ…?」
「ふふ……聞こえるかい。あの声が」
言われて耳を澄ませると、遠くで悪魔の声がする。そしてそれは少しずつ、こちらに近づいてきている。
「悪魔は血の匂いに敏感だからねえ。どうやら、嗅ぎつけられたようだ」
言いながら、ノームは腹を押さえて苦しむセレスティアに目を移す。
「君を縛る鎖の鍵は、彼女の中だ」
「え…?」
「指先で届くなんて期待は、しない方がいい。この木屑に括りつけて、横向きに置いたからね。仮に指先が届いたとしたって、
取れやしないさ」
そう言ってノームが取り出したのは、フェルパーが滅茶苦茶に切り裂いた木の破片であった。
「助かりたいなら、鍵が無いとね。でも、取り出すなら優しくしてやれよ。なんてったって、体は処女に戻ってるんだ。だけど、
急がなきゃ悪魔が先に来るかもね。そうしたら、君は死ぬね」
実に楽しそうに言って、ノームは立ち上がった。
「お、おい!!」
「ははっははははは。僕はもう帰るから、あとは君達の自由にするといいよ。二人とも、無事だといいねえ。あっははははは」
高笑いを残して、ノームはジェラートタウンで買った転移札を使い、消えていった。残された二人は、しばらくそこを見つめていたが、
やがてセレスティアが痛みを堪えて立ち上がる。
「うう、う……戻ら……ないと…!」
歩き出そうとした瞬間、その足をエルフが掴んだ。たまらず、セレスティアは転倒する。
「痛っ!な、何を…!?」
「……君は、僕を見捨てるつもりか!?」
鬼気迫る表情で、エルフが問い詰める。
「だ、だって……こんなところの鍵なんて、取れないですし……あ、後で必ず、助けに来ますから…!」
「ふざけるな……僕は、悪魔になんか殺されたくない…!」
その目にノームと同じ気配を感じ、セレスティアは逃げようとした。しかし、エルフはしっかりと足を掴み、逃がさない。
「な……何をするんですか!?何をするつもりですか!?」
「……悪く、思うな。僕は、死にたくない!」
「え…!?い、嫌です!!嫌だぁ!!もう、あんなのわたくし、嫌ですよぉ!!!」
エルフの手から逃れようと、セレスティアは地面を引っ掻き、翼を羽ばたき、必死に抵抗する。しかし、戦士学科に所属するエルフには、
まったく無駄な抵抗だった。
悪魔の声が、近くまで来ている。エルフは乱暴にセレスティアの足を開かせ、その体にのしかかる。そして、彼女の秘裂に手を当てる。
「う……嘘ですよね…!?」
「……すまない…!」
「や、やだ!!やめて!!!やめて!!!やめてえええぇぇ!!!!やだああああぁぁぁぁ!!!!!」
セレスティアの哀願の声が響き、そして一瞬遅れて、辺りに耳をつんざく悲鳴が響き渡った。
翌朝。ノームが学食に行こうと寮の廊下を歩いていると、ちょうどフェルパーとディアボロスが部屋から出てくるところだった。
「お、グッドタイミングだな。二人とも、これから朝食かい」
「あ、ノーム。おはよー」
「……おはよう、ノーム」
意外としっかりした声で、ディアボロスは言った。
「思ったより元気そうだね。でも、無理はしてないかい」
「ああ、平気だ。よくよく考えれば、別に初めてを奪われたわけでもないし、私にはこいつがいる」
そう言い、ディアボロスは愛おしげにフェルパーを見つめる。
「昨日、ずっと抱き締めていてくれたんだ。私は、こいつを拒絶したのに…」
「はは、のろけ話を始めるとはね」
仲良く三人で歩きながら、彼等は話を続ける。
「のろけ話とは失礼だな。私はフェルパーが、どれだけ優しいか……うっ!」
不意に、エルフの生徒が見えた。決して昨日のエルフではないのだが、その瞬間、ディアボロスはその場に固まり、フェルパーの腕を
ぎゅっと掴んだ。そんな彼女に、ノームは優しく声をかける。
「無理は、しなくていいさ。ショックじゃないなんてことは、いくら君でも、ないだろう」
そう言われると、ディアボロスは少し声を落とした。
「……まあ、な。だが、いつまでも沈んでいるわけにはいかないだろう。例え空元気だって、続けていれば、いつか本当の元気になるさ」
「悲しいほどに強いね、君は。でも、時には肩の力を抜いて、フェルパーにでも思いっきり甘えてくれよ。何なら、僕でも構わない」
ノームが言うと、ディアボロスは笑った。
「ははは、お前に甘える、か。それも面白いかもしれないな。気が向いたら、試させてもらうとしようか」
「おっと、フェルパーの前でそんなこと言っていいのかい。嫉妬されても困るぜ」
「お前ならいいだろう。なあ、フェルパー?」
「うん。君がいいなら、僕もいいと思うよ」
「公認か、参ったな。あははは」
そんなこんなで学食に着き、三人はそれぞれ料理を取り、席に着いた。その時、隣のグループの会話が耳に飛び込んできた。
「おい、昨日の話、知ってるか?」
「ああ。あの、エルフとセレスティアの話だろ?悪魔に襲われたんだっけ?」
「それが、よくわからないんだよなあ。セレスティアの方は、もう完全にこれだってよ」
そう言い、男は自分の頭を指差し、クルクルと回して見せた。
「エルフの方も、もう錯乱状態で何があったかわからないんだと」
「ブルスケッタの生徒がそれじゃ……絶望的だな」
「ああ。たぶんもう、二人とも退学じゃないかって話だよ」
それを聞くともなしに聞いていたフェルパーが、不意に席を立った。
「あれ、フェルパー?どこに行くんだ?」
「え?えっと……ちょっと、トイレ」
「僕も一緒に行っていいかい」
「ノーム?お前がトイレに何の用だ?」
「服にソースを零した。これを洗いたい」
そう言い、ノームは袖に付いたソースの染みを見せる。
「ああ、なるほど。なら仕方ないが……その、二人とも、なるべく早く戻ってきてくれよ」
「うん、わかってるよ。ちょっとだけ待っててね」
二人は席を立つと、揃ってトイレへと向かう。中に入ると、フェルパーは大きく溜め息をついた。
「さっきの話の……君、だよね…?」
「ああ。報いは何倍にもして返してやったよ」
「………」
だが、フェルパーの表情は浮かない。ややあって、フェルパーはぽつりと言った。
「本当なら、君にお礼言わなきゃいけないと思うんだけど……ごめん。なんか、素直にお礼、言えないよ…」
フェルパーが言うと、ノームは口元と、目にも少しの笑みを浮かべ、フェルパーの肩を叩いた。
「はははは。君は、それでいいのさ。むしろ、君が喜んで『ありがとう』なんて言ったら、僕は君をぶん殴ってた。その優しさと純粋さ、
君には失くさないでもらいたいな。白いものを汚すのは面白いにしても、あまりに白すぎるものは、汚すのが勿体無いものさ」
袖に付いた染みを洗い、ノームはドアに手をかけた。その背中に、フェルパーが声をかける。
「あ、でも、ありがとうって言えるの、あったよ」
「ん、何だい」
フェルパーはその顔に笑みを浮かべ、言った。
「ディアボロスを、助けさせてくれて……ほんとに、ありがとう」
「……はは、よせよ。それは、君と彼女本人の力さ。僕はあくまで、背中を押したに過ぎないよ」
それから、二人はディアボロスの待つ席へと戻った。
「ただいま〜」
「さすがに男は早いな。その辺は、いつも少し羨ましい」
「僕の場合、洗い物に行っただけだからね。男も何も関係ないけど」
「朝飯が終わったら、また悪魔と戦いに行こうと思うんだが……付いてきて、くれるか?」
「はは、当たり前だろ」
「そうだよ〜。今度は、君が何言っても、一緒にいるからね」
再び戻った、いつも通りの日常。少しだけ密接になった、二人の関係。彼等と距離を置きつつ、しかし誰よりも仲間を思うノーム。
壊されかけた日常は、しかし決して壊れなかった。
その後、彼等はクロスティーニに戻るまで、ずっと三人一緒だった。
そしてクロスティーニに戻るとき、試練をまた一つ乗り越えた彼等は、ほんの少しだけ、大きくなったように見えていた。
以上、投下終了。
勧善懲悪もいいけど、悪を飲み込む巨悪も好き。
それではこの辺で。
グッジョブ!
やっぱ敵に回すと一番恐ろしいのはノームか
戦い方と攻め方がえぐくて笑ったわ
フィストは死ねるだろうなぁ
261 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 14:04:54 ID:Om6EtyFh
乙
ノームこえー(ガクブル
ノーム怖かっこよすぎるGJ!
処女にフィストって鬼畜すぎるがだがそれがいい
>> ◆BEO9EFkUEQ氏
ノーム怖ぇ……。
しかしセレ子も哀れというか何というか……下手に敵に回してはいけない人物なんてどこにでもいるのですね。
と、いう訳で今夜は第3話を。
最終章もそろそろ大詰め。ついでに先輩の意外な過去もそろそろ明らかになるかも。
ディープゾーンから上がったディアボロスと、ギルガメシュは剣を抜いたまま睨み合っていた。
まだお互いに攻撃力は健在だ。魔力も残っているし、持ち替え取り換え戦う分だけの武器もあるし、道具も残っている。
だがしかし、まだこの戦いがどれだけ続くか解らないという点が、2人に攻撃の手を考えさせていた。
ディアボロスはギルガメシュを倒せば済む事だが、ギルガメシュの方はディアボロスを倒した後ディモレアとも戦わなくてはいけない。その為にも余裕を持って戦わなくてはいけない。
だが、現状はディアボロス相手に苦戦している状況である。
「くそ、なんてこった」
ギルガメシュは悪態をつき、2本のデュランダルを握りしめ、迷宮の床を蹴った。
ディアボロスも精霊の剣と鬼徹を構え、同じように迷宮の床を蹴ってギルガメシュへと迫る。だが、ギルガメシュはそこで―――――。
「うおりゃあああああああああ!!!!」
力強い一撃を三連続で叩き込む、鬼神斬りという技術が存在する。
前衛の中の前衛だけが習得出来る、最強の連続攻撃。しかし、ギルガメシュの持つデュランダルは一度の攻撃の中でも何度となく振り回せる。
十五回にも及ぶ攻撃が、ディアボロスを襲った。
そのうちの九回目まではディアボロスも防ぎきる事に成功した、だが、十回目以降は間に合わず、直撃を喰らった。
六度にも及ぶ斬撃。
口から血の塊がこぼれ落ち、すぐ背後のディープゾーンに落ちそうな所をこらえる。だが、辛うじて立っている状態だ。
「………流石ですね、先輩」
「今ので倒せなかったか。まぁ、全部当たらなかった時点で、止めてた方が良かったかも知れねぇけど」
「多彩な手数と、その力強さ……ギルガメシュ先輩、あんたは本当に最強だよ……けど」
それは、今日で終わらせる。
ディアボロスは口には出さず、剣を構える事でそう告げた。
「お前も諦めが悪い奴だ。あれだけの攻撃を喰らってもまだ立ってやがる」
「負けたくないから」
ディアボロスの呟きが、ギルガメシュの手を止める。
「そうか。お前もか」
「ええ」
「お互いに。譲れないもん抱えてるってこったな」
剣を数回振り回し、ギルガメシュは呟く。次は何を仕掛けるべきかと、考えながらも。
この戦いに、勝つのはただ一人。
「うわー、凄い戦いかも……」
ゼイフェア地下道中央より少し外れた場所で、ヒューマンとエルフは戦いを見守っていた。
「信じられない、ギルガメシュ先輩が苦戦するなんて……」
「幾ら最強だからって常勝無敗な訳ないでしょうが……」
「いえ、ギルガメシュ先輩はそれを実現する男です!」
「…………あっそう」
エルフが如何にギルガメシュを崇拝しているかがよく解ったヒューマンはため息をつく。
彼女も学年が低いとはいえパルタクス三強に選ばれる実力者である。2人の実力が拮抗している事は一目瞭然だ。
「あれがディモレアさんの息子さんなんだね……本当に凄いや」
錬金術士学科に属する、と聞いていて接近戦も魔法もそこそここなせる、というイメージを持っていたが、ある意味想像以上だった。
ヒューマンはますます彼にディモレアを紹介して欲しいと思った。
「あ、先輩!」
エルフの叫びと同時に、ギルガメシュが体勢を崩してディープゾーンに落下。ディアボロスが続けてダクネスガンを連射する。
「っ!」
「はい、エルフ君落ち着く。見ていろって言われたんじゃないの?」
弓をディアボロスに向けたエルフをヒューマンが窘めると同時に、ディープゾーンから飛びだしたギルガメシュがディアボロスに斬り掛かり、剣がぶつかり合う盛大な音が響く。
「けど、ギルガメシュ先輩が決定打を与えられないなんて……変ですよ」
「そりゃパルタクス三強同士の戦いだもん。おかしくないよ。エルフ君も今後の参考によく見といた方がいいよ。これからのパルタクスを背負うのはあたし達なんだから」
ディモレアとの戦いが終わって既に2年が過ぎ、これからの学校を背負っていくのはディモレアと直接戦いを経験したギルガメシュ達最上級生では無い。
ヒューマンやエルフといった下級生が学年が上がると共に、パルタクス学園の柱となっていくのだ。
「…………だからですよ。俺が、先輩に憧れたのは」
エルフは小さく呟いた。だが、それはヒューマンに届いていなかった。
ディアボロスのパーティメンバー全員が部屋に押し掛けてくるのは2回目になる、とルームメイトのフェルパーは思った。
ただし、今回は隣人のエルフとヒューマンのコンビがいなくて代わりにディアボロスの恋人になったセレスティアがいる事だった。
「……あいつ、また一人でほいほい出掛けるたぁ……で、何処行きやがった?」
バハムーンの怒声に近い声にフェルパーが慌てて「まぁまぁ」と仲裁に入った後口を開く。
「で、うちのディアボロスは何処に?」
「……ギルガメシュ先輩が逃げ出した話は知ってるよな? で、先輩を止めに行った」
「「「「……はぁ?」」」」
その言葉に、全員が首を傾げる。
「いや、だからさ。ギルガメシュ先輩が『ディモレアに一戦やらかしてくる』って言って逃げたから、それを阻止する為に……」
「待て」
バハムーンの目がつり上がり、ディアボロスの女子がルームメイトのフェルパーに視線を向ける。
「それで、お前は止めなかったのか?」
「当たり前だろ。俺がどうやって止めろと」
「色々方法があるだろ! 相手はギルガメシュ――――学園最強なんだぞ!」
バハムーンが叫んだ時、ルームメイトのフェルパーが口を開いた。
「あのさぁ。あいつが相当な実力者だって事、忘れてないか?」
「………勝てるのかよ?」
「勝てる。少なくとも、俺は信じてるし、あいつだって勝てると思ってる。だから挑んだのさ」
何せ、彼はディモレアの息子である。
最強とまではいかなくても、それでも充分な戦いを見せつける事が出来るだろう。
五人のパーティメンバー達はそれぞれ視線を交わしたり顔を見合わせたりしていたが、じきに同時にため息をついた。
「…………なら、信じるっきゃないか」
「そうだねー……でも、ちょっと心配かも」
「帰ってきたらご飯奢ってもらおう」
「その前にお土産ぐらい持ってきてもらうべきかも知れんな」
「ついでに俺はマタタビを」
「フェルパー、それは無い」
「酷っ!?」
パーティメンバー達がいつもの空気に戻ったのとは裏腹に、セレスティアは黙っていた。
「……先輩?」
ルームメイトのフェルパーも流石に気になったのか、セレスティアに声をかける。
だが、彼女は答えない。ただ、黙り込んだままだ。
「先輩、どうしました?」
「………本当に」
「?」
「本当にあの人達は自分勝手に暴れだしてッ!!!」
一瞬だけ、文字通り時間が止まった。
「あ……え、えーとですね、今のはその……」
セレスティアも言った後で気付いたのか、顔を真っ赤にしつつしどろもどろになる。
「先輩……」
ギルガメシュとディアボロスが戦う事。ある意味この2人が一度険悪になった事でセレスティアは知りたくない事実を知る事になり、悲劇も起こったのだ。
ディアボロスとの間に問題はもう無い。だが、ギルガメシュとは未だに解決していない。
ディアボロスもその事は言っていた筈だが、セレスティアはそれを今の今まで忘れていた。だが、その問題解決の為に。
「2人がどうしてまた傷つけあうのかって……変ですよね、ギルガメシュ君も……」
生徒間同士の決闘は禁止だし、2人が争う事を望まない者だってきっといる筈だ。
それなのに、2人はどうして戦いあうのか。それがセレスティアには解らない。きっとお互いに無事では済まない筈なのに。
「…………」
止めるしかない、とセレスティアは思う。
今、ディアボロスを止められるのは自分だけだろう。でも、ギルガメシュの方はどうすれば良いのか。
いや、止めるしかない。何があっても。自分が、この手で。止める。
セレスティアは部屋を飛びだす。
他の誰が止めるのも聞こえない。もう、走り出すしかなかった。これから起こる悲劇を、止める為にも。
ゼイフェア地下道中央の戦いはまだ続いていた。
ギルガメシュが得意の接近戦に持ち込もうと距離を詰めればディアボロスは魔法や火薬を使って距離を取り、距離を取られたギルガメシュは様々な武器を投擲して牽制する。
投擲された武器を弾いたり回避したりしつつディアボロスも距離を詰めて先制しようにも接近戦はギルガメシュの領域である。
お互いに、決定打を撃つ事が出来ない状態。
「クソッ、なんてこった」
ディアボロスは舌打ちする。
グレネードもけむり玉も、魔力だって無限ではない。まだ余裕がある状態とは言え、接近戦だけの戦いならばギルガメシュの方が圧倒的に有利だ。
魔法での戦いに持ち込もうにもギルガメシュを魔法だけで仕留めるのは至難の技である。
モンスターとの戦いもそうだが、ギルガメシュは冒険者相手の戦いにも慣れているのだろう。
幾つかの迷宮では冒険者ギルドのメンバーと遭遇する事もある。生徒相手でも容赦なしに攻撃してきたり挨拶して立ち去ったり相手によって様々だが、攻撃を仕掛けてくる相手にギルガメシュは躊躇う男ではない。
対モンスター、対冒険者の双方の戦いに長ける人材など、そうそういないだろう。
「だから、最強か」
思わず呟く。だが、弱点が無い筈は無い。
「サイコビーム!」
ディアボロスがグレネードを投げようとした時、ギルガメシュはサイコビームを放った。
慌ててグレネードを床に取り下とし、ディアボロスは即座に離れる。グレネードは床で爆発した。
「ふぅ……」
速度が早い上に一撃の殺傷能力、そして貫通力に長けるサイコビームを、ギルガメシュは主力の攻撃魔法として使っているようだ。
反応さえ出来れば回避出来るだろうが、魔法壁ですら貫通しそうな速度で撃ってくるギルガメシュの攻撃は脅威といえる。
「けど、な……」
多用しすぎである。
相当な魔力を要するサイコビームを何発も連射し続ければ集中力だって落ちる筈だ。
柱の陰に隠れたディアボロスを不審に思ったのか、ギルガメシュは首を傾げた。
「どうした? 隠れているのか? 隠れていては倒せねぇぞ」
「まさか。少し、作戦を練らして頂いているだけです」
「くだらねぇ。テメェがちゃちな作戦を立てたぐらいで俺を倒せると思うのか?」
「解りませんよ? 倒せるかも知れない」
ディアボロスはそう呟くと同時に、口でグレネードのピンを抜いた。
「ハッ! いい加減その手には飽きたぜ!」
ギルガメシュはディアボロスがグレネードを投擲してくるであろう場所を予測し、横に回り込んで柱の陰へと斬り掛かろうとする。
だがしかし、柱の陰から、ディアボロスの姿は消えていた。
「テレポルか!」
だが、次はどこへと思った時だった。
上から、何かが落ちてきた。
「……上?」
ギルガメシュが上に視線を向けた時、上空に移動していたディアボロスが両手を向ける。
「喰らえ! ランツレートの爆裂大華祭とまではいかなくても……充分な火力はあるんだ! ビッグバム、ビッグバム、ビッグバム!」
片手でグレネードを投げ、もう片方の手でビッグバムを放つ。
ギルガメシュが気付いた時、既にゼイフェア中央は爆風で揺れた。
ディープゾーンの水が天井近くまで舞い上がるほど。
三回に及ぶ、真上からの広範囲攻撃のビッグバム。
空中爆撃を喰らったに等しいギルガメシュは、床に伏していた。
「……くそっ……たれ」
まだ生きていた。
だが、流石に爆風のきつさに参ったのか、膝を折り、立ち上がるのもやっとと言った状態のようだ。
「………先輩」
ディアボロスが床へと降りる。
「もう諦めて下さい。貴方にだって、勝てないものはあります」
「…………本当に、そう思うか?」
ギルガメシュが呟く。その奇妙なまでに自信に溢れた声に、ディアボロスが首を傾げかけた時だった。
「こういうこった」
直後、一瞬の閃光の後に、ギルガメシュが立ち上がる。その傷は既に塞がっており、まだ戦闘続行可能だ。
「メタヒールさ。つい最近になって、無詠唱でも出来るようになった。ちょっと疲れるが」
「そう言えば先輩、そんな人でしたね」
本当にどこまでも諦めが悪く、どこまでも強い。それがギルガメシュという男の性格。
この戦いはまだまだ続くだろう。
「サイコビーム!」
「ビッグバム!」
ギルガメシュがサイコビームを放つと同時に、ディアボロスもビッグバムを放つ。
「流石はあのディモレアの血を継ぐ奴だ、どこまでも魔力が底なしだな!」
「先輩こそ、そこまでサイコビーム撃てるのが奇跡みたいですよ!」
「ハッ! 当たり前だバカ野郎」
ギルガメシュはそう叫ぶと、ポケットから何かを取りだし、思いきり投げる。
「?」
何か、とディアボロスが振り向こうとした時、言いようの無い殺気を感じた。
「!」
慌てて横に飛ぶと、真横を禍々しい何かが駆け抜けていった。
いや、違う。あれは禍々しい何か、何てレベルじゃない。
死を告げるもの、いや、死、そのものと言うべきだろう。
「………デス」
人を癒す僧侶が扱う魔法の一つだが、敵に確実な死を告げるその魔法を使う僧侶は殆どいない。
一つは当たりにくい事と、もう一つは躊躇う事である。
確実な死を告げるそれをモンスター相手でも躊躇う生徒は多い。ましてや対冒険者ならばもっての他である。
それなのに、ギルガメシュは今。
躊躇いを見せずに、それを放っていた。
先ほど投げたのはこの為に気を逸らす為の何かだろう。
「くそ、外したか」
「先輩、今の」
「悪いな、俺も焦ってきてる」
ギルガメシュは呟く。
「躊躇いを捨てろ、迷いを捨てろって昔っから何度もぶつかってきた。だからだ。誰よりも越える強さが欲しいと願ったガキの頃から、俺は戦い続けてきたのさ。
そして……今、この勝利の為に、卑怯と言われようと何と言われようと構いやしねぇ! 勝利のために、過程や結果なんざ、どうだっていい! 勝っちまえば生き残れる。
勝つ事だけが全てなんだよ! 冒険者ってのは、そういう生き物だ!」
「ふっ……ふざけんなぁ! 冒険者ってのはそんな生き物なんかじゃない! 戦う為に生きてる奴もいるさ。純粋に強さを求める者、自分の中の最高の極みを求める者、
古の叡知を求め手に入れる者、仲間達と結束して生きる者、なんだっているさ。けどな……けど、冒険者が掴む栄光の為に、卑怯な手だけは使わない! それが冒険者のプライドって奴だ!」
「プライドだけに生きてる奴なんざ生き残れない。俺の持つ最強のプライドは敗北しない事だが、俺はプライドの為だけに強くなってるんじゃねぇ! 最強になれば、失う事も何も無いさ!」
「ならあんたは何を失った!」
いつの間にか、お互いに距離を詰め、剣で斬りあっていた。
叫びながら、思いをぶつけ合いながら、剣をぶつけていた。何合も。
「弱さも迷いも、遠い昔に置いてきた。俺に残ってるのは、最強を求める俺だけだ!」
「強さだけ求め続けて、その先に何がある! 意味なんか無いだろ!」
「意味ならある! 何も失わない為にも、パルタクスで俺が手に入れられたもの……パルタクスで出会ったもの、その全てを守りたいと願ったからだ! 敗北がなければ、何も失わない!」
「何も得ない勝利だってあるだろうに!」
剣が再び振られる。素早い速度であるにも関わらず、そして何十合と打ち合っているにも関わらず、気が付けば息切れ一つしていなかった。
「だが、勝たなければまた失うだけだ。何であろうと、な」
「あんたに敗れた誰かが、失ったものはどうなる!」
「そいつが敗者なだけだ。俺は勝つ、ただそれだけだ」
「戯言を! そんな事を並べ立てた所で、それはあんたのエゴにしかならない!」
「エゴじゃない! エゴじゃないさ! 俺が求めてるのはそんなちっぽけなものじゃねぇ! 俺が求めるのは……ただ……」
ギルガメシュは反論しようとして、思わず剣を止める。
ディアボロスもギルガメシュが剣を止めたのを見て、距離を取って剣を構えた。
「………俺が求める者は……俺は……」
昔、故郷を出た時。
何かを求めていた筈なのに。何で今、今になって出て来ないのだろう。
ただ、これだけはいえる。
「俺は……最強の名を残したいだけだ。ギルガメシュの名前を」
口から出て来た言葉は、本心じゃない。
それを理解していたのは、ギルガメシュただ一人だった。
「……最強の名前、かぁ」
ヒューマンは小さく呟いた。
共にギルガメシュとディアボロスの戦いを見ていたエルフは「え?」とヒューマンを振り向く。
「あの人、どこまでも本気なんですね。まるで、俺達なんかと違う世界の人のように見える」
「……そうかもね。でも、エルフ君、あたしさ、最強見てて思うんだけどね」
「はい?」
「あの人、あの調子だと負けるかもね」
「はぁ?」
エルフはそのヒューマンの意外な言葉に思わず叫ぶ。
「負けるって、どうして」
「疲労してきてるんだよ、ギルガメシュ先輩」
ヒューマンの言葉に、エルフはギルガメシュに視線を向ける。
確かに攻撃力の高い魔法や積極的に接近戦を仕掛けており、相手の反撃でも結構なダメージを負っている。
だが、それでも先ほどのメタヒールで回復した筈だ、とエルフは思う。
「甘いね。ディアボロス先輩が効率の良い戦いをしているからね。魔力キャパシティはあっちの方が上だし、おまけにディアボロス先輩、接近戦でもギルガメシュ先輩相手に渡りあってるんだよ?
接近戦だけを見ればギルガメシュ先輩が有利だけど、道具や魔法の使用とかを見ればマルチに戦えるディアボロス先輩の方が有利だよ。まぁギルガメシュ先輩も魔法はそこそこいけるけど」
そこそこ、というのはあくまでもヒューマンの視点であって生徒という基準でみればギルガメシュの魔法レベルも相当なものだ。
だが、ディアボロスはそれを更に踏み越えていくレベルなのだ。
「そ、それじゃ……」
「だから焦ってきてるんだと思う。デスなんか使ってるあたり。だけど、先輩もドジだねー。さっきの一撃が当たれば勝てたのに。もう撃っても当たらないと思うよ?」
確かに、ギルガメシュが不意打ちに近いカタチで仕掛けたデスが当たれば終わっていただろう。
だが、外れてしまってはどうしようもない。
「本当に、酷い話ね」
ヒューマンはそう呟き、エルフは弓に手をかけながら、戦いを見守るしかなかった。
ギルガメシュの勝利を幾ら信じていても、少しずつそれが揺らごうとしている事に。彼は、気付いていた。
気付きながらも、何も出来なかった。
剣が何度となく、ぶつかり合う。
「あんたの名前は確かに残る筈だ。パルタクス……いや、王国の長い歴史の中でも、あんた程の奴なんてそうそういない。歴史に名を残す事も栄誉の一つさ。
だけどギルガメシュ。醜い手段でそこまで成り上がっても、誰も賞賛なんかしない筈だ。あんただけ満足しても、意味はあるのかよ!?」
「バカ言え。名前を持つ事の誇りさえあれば、賞賛も栄誉も必要無い……栄誉も名声も、所詮はちっぽけなものさ。誇りですら、簡単に敗れてしまうものだと言うのに」
「なんだって?」
「戯言だ」
ギルガメシュはそう呟くと同時に距離を詰め、剣を振りかぶる。
振り下ろされる剣。ディアボロスがそれを弾く。
「俺が生きていた証明……最強である事の誇り………それだけでも、俺は戦っていける」
けど、本当は違うとギルガメシュは叫ぼうとした。
言葉にならなかった。
「俺は、負けたくない」
「……あんたは、負けるのが怖いだけなのか?」
ギルガメシュの小さな呟きを、ディアボロスは聞きのがしたりはしなかった。
「4年生にして学園最強の称号を持った。入学した時から戦い続けた事はもう、俺ら下級生の中じゃある意味伝説の語りぐさだ。最強伝説がいつから始まったかは知らない。
けれども、最強と呼ばれた辺りから、最強の名を汚したくなくて、あんたは負けるのが怖くなった。だからただ戦い続けたのか? 何も振り向かず何も気に留めず。
最強という名前を手に入れてしまった誇りが、あんたをそこまで追い詰めたのか?」
「………バカを言うな。勝手な想像を並べ立てるんじゃねぇ」
「だから最強を求めた。負けるのが怖いから、何をしてでも勝利する。失いたくないから負けたくないなんて、そんなのあんたが勝手に作ったルールだ。
例え負けたとしても、得るものだってあるさ」
「勝手な事を抜かすな! テメェに俺の何が解る!」
「解らないさ! 解らないから、人は理解し合おうとするんだよ!」
再び剣がぶつかり合い、ギルガメシュは同時にサイコビームを放つ。
不意打ち気味に放たれたサイコビームをまともに喰らい、ディアボロスは膝を折る。
「ぐっ……!」
「俺はな……俺はなぁ……!」
ギルガメシュは剣を振り上げる。その攻撃の軌道は荒く、ディアボロスでも簡単に回避出来る。
「くそっ……たれ!」
ディアボロスは距離を置くと同時に、地面に手を置いた。
錬金術は錬成と分解の二つの使用法がある。
素材を組みあわせて新たなものを生みだす錬成。
物品を分離させて素材に戻す分解。
そして錬金術の分解も錬成も、戦闘に応用出来るのである。
ギルガメシュの足下の床が分解され、所々に罅割れが走った。
「んなっ!? 地面破壊、だと……」
床が破壊され足場が悪くなった所へディアボロスは更にビッグバムを放つ。
こちらは回避したものの、それでもギルガメシュは確実に不利な状況へと追い込まれていった。
「くそ、不甲斐ない……」
ギルガメシュは悪態をつく。
ディアボロス相手にここまで苦戦するなんて。ディモレア相手に戦って返り討ちにあったら。
みっともない。
「サラに会わせる顔がねーじゃねぇか……」
軽く舌打ちをする。
「一気に勝負を決めにかかるしかねぇ」
こちらの被害を考えている余裕なんかない。
ギルガメシュは剣を構え直すと、2本のデュランダルを引き抜いた。
「…………俺に敗北の文字はない。それが浮かんだ時は……俺が死ぬ時だけだ。勝って、戻ると、俺は決めた」
そう、パルタクスで帰りを待つサラに。約束したのだ。
勝って、必ず戻ると。
「行くぞディアボロス! 死ぬ覚悟は出来ているか!」
ギルガメシュは床を蹴ると、一気に突進した。
足場の悪さも、構いはしない。
ディアボロスが放つ牽制の魔法や火薬ですら、例え直撃してもこの足を止めない。
「うおおおおおおおっ!!!!!!!!」
勝利の為に、ただ貪欲に。
勝てる戦いに勝つ為に。俺が勝つのだと、ただ勝利だけを信じている。妄信的に。
ギルガメシュは、その剣を振り下ろした。
ディアボロスも剣を構え、反撃を試みた。
だが、ギルガメシュは最後の力を振り絞った攻勢を、一気にかけていた。
全ての力を注ぎ込み、躊躇いも無いその連続攻撃。
防ぐのがやっとのディアボロスにとって、その死に物狂いの攻撃は予想外だった。
そして最後の一撃が、ディアボロスの肩から腹まで大きく抉った。
紅い血飛沫が舞う。
「………あ……が、は……ぁっ」
「…………」
ギルガメシュは、血を吐きだして崩れ落ちそうなディアボロスを片手で掴むと、ディープゾーンへと放り投げる。
ドボン、という音と共に、ディアボロスの肉体が沈んでいく。
もう、2度と浮かび上がる事は無いだろうとギルガメシュは思った。
「……………バカ野郎」
最後にそう悪態をつくと、ギルガメシュは膝を折る。
「俺の正義は何処だよ……」
迷宮の床に倒れそうになるのを、必死にこらえて壁へと急ぐ。
だがそこに、異分子の存在を感じ取った。
急速にゼイフェア地下道中央まで近づいてくる、誰かがいると。
さっきのヒューマンやエルフではない。誰かが。
「……誰だ?」
ギルガメシュの問い掛けに、ヒューマンとエルフが不思議そうに視線を向けてくる。
自分達がいるのが変なのかとばかりに。
「お前達じゃない、違う奴だ!」
ギルガメシュが叫んだ時、反対側の、ちょうどディアボロスが入ってきたであろう側の扉が開き、迷宮の薄暗い明かりに照らされた。
「………ギルガメシュ君。ディアボロス君はどこですか?」
セレスティアだった。
手にニケの槍を構え、ギルガメシュへの警戒心を解かないまま、ディアボロスの姿を探す。
「倒した」
「!? そんな……」
遅かった、とセレスティアが呟く中、ギルガメシュは腰を下ろす。
「……強かったさ。あいつにだって、あいつの正義はある。だが、それは俺も同じだ」
「生徒間同士の決闘は禁止ですし、そして殺してしまったとなれば下手すれば退学に……」
「知るかそんな事」
今さら何を言う、とばかりにギルガメシュは呟く。
「あいつも、あいつ自身の正義の為に戦ったんだ。お前が文句言うべき事じゃない」
「そんな事……!」
セレスティアはディアボロスは何処に行ったのかと視線を彷徨わせ、ヒューマンが沈んだ場所を無言で指さした。
「おい、何をす」
ギルガメシュが何かを言うより先に、セレスティアは既に飛び込んでいた。
深いディープゾーンへと。彼の後を追うか、それとも。
彼を助ける為なのか。
ギルガメシュには、解らなかった。
投下完了。後少しで終わりか……。
先輩が貪欲に強さを求める理由は本人も語っているように最強の名を求める為じゃないんですが。
けど戦い続けた事である事をする為に強さを求めた結果、いつの間にか最強を求める事になってたという現実。
ギルガメシュ先輩も人並みに悩む子なのです。
273 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 06:57:09 ID:t7ddibBN
GJ
なんだかギルガメシュ先輩がどんどん人間に近づいてくる。
同時にディアボロスが人間離れしていく気がする。
『俺とお前は鏡のようなもんだ。向かい合って、初めて本当の自分に気付く。似てはいるが、正反対だな』
なんだか某妖精の声が聞こえてきた。
GJ
>> ◆BEO9EFkUEQ氏
ノーム((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
無茶しやがって…まだフェルパーにミンチにされたほうが良かっただろうに…。
>> ディモレアさん家の作者氏
ギルガメシュ先輩が少しづつブレていくのが感じ取れますねー。
しかしながらいい場面で区切るなぁ。
お二方ともジョルジオでした。
276 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 17:14:44 ID:qRSdEdb2
残り容量が微妙すぎる。
普通科ヒューマン♂が腹黒にみえる件
次スレ立てるのは、まだ早い?
容量が微妙だということで、短めの投下します。
今回のお相手はセレ子。前回と被ってますが大目に見てください。
では、楽しんでいただければ幸いです。
いつもの場所。いつもの時間。いつもの待ち合わせの約束。
いつも通り、予定より数分早く。いつも通り、服を気にしながら。いつも通り、髪を直しながら。
二人はまるで、申し合わせたかのように出会った。
「お?」
「あら?」
一瞬、二人の時間が止まった。お互いの顔を驚いたように見つめ、やがてすぐに、笑顔が浮かぶ。
「……久しぶりだな、セレスティア。これからデートか?」
「ええ……そうですよ。バハムーンさんも、ですよね?」
「まあな」
中庭のベンチに、それぞれ腰かける。しかし、二人は同じベンチに座ることなく、ただ隣り合ったベンチで、相手側に座るだけである。
「変わらないんだな、俺も、お前も」
「そうですね。本当に全然、変わりません」
微妙な距離を置き、二人は話す。
「そう、全然……わたくしの気持ちは、あの頃のままなんですよ」
「……やっぱり、気が合うな。俺も、まったく同じさ」
二人は同時に目を瞑り、同時に溜め息をついた。二人の距離さえなければ、まさしくお似合いのカップルに見えることだろう。
「……恋って、難しいです」
「愛なら、お前のお得意な分野なんだろうがな」
「もー、茶化さないでください」
「はは、悪かった悪かった。けど、確かに……お前の、言うとおりだな」
背もたれに寄りかかり、バハムーンは空を見上げた。
「……懐かしいな、セレスティア」
「……そうですね、バハムーンさん」
静かに答え、セレスティアも空を見上げる。あの時も、二人はこうして、空を見上げていた。
二人の中で、時間が巻き戻っていく。隣に座る、愛する者と過ごした時間へと。
恋人同士として過ごした、大切でかけがえのない時間へと。
二人は恋人同士だった。入学してすぐ結成されたパーティに、バハムーンは戦士として、セレスティアは魔法使いとして参加していた。
やはり、バハムーンは他の仲間からはいい目で見られていなかった。そんな中で、セレスティアだけが彼を他の仲間と平等に扱った。
そんな二人が恋人同士となるまで、そう長い時間はかからなかった。先頭に立って攻撃を受け止め、敵を殲滅するバハムーンに、
後ろで仲間を癒し、戦いを補佐するセレスティアは、パーティの仲間としても相性が良かった。
お互いによく話すようになり、じきに冒険以外でも一緒にいる時間が増え、やがて二人は時間が許す限り、いつでも一緒にいるように
なっていった。勉強に戦いにと汗を流し、心身ともに疲れ果てたとき、隣で支えてくれる存在は、何よりも大切だった。
初めてのデートの時は、バハムーンは普段から想像も付かないほど、全身ガチガチに固まっていた。
「バハムーンさん、そう緊張しないでください。別にやましいことじゃないんですから」
「わ、わかってる。が……どうも、な」
デートの誘いすら、彼はどもりながら必死に言葉を搾り出しているようだった。一体彼が何を言いたいのか、セレスティアが先回りして
助け舟を出すことで、ようやく達成できたほどだったのだ。しかし、そんな彼の意外な一面を見たことで、セレスティアはより彼に
惹かれていった。またバハムーンも、彼女の優しさに触れ、より一層惹かれていった。
二人は恋人同士だった。デートを重ね、共に冒険し、勉強を教えあい、体を重ねたことも、何度もあった。
初めての時は、セレスティアがすっかり怯えてしまい、バハムーンは全ての理性を総動員して、前戯だけに留めた。
「ご……ごめんなさい…。でも、でも、わたくし…」
「いや、いい。無理はするな。俺はお前を、傷つけたいわけじゃない」
その後もしばらくは、前戯だけの性交渉が続いた。セレスティアが慣れるまで、バハムーンはじっと耐えた。セレスティアも、
バハムーンにあまり我慢をさせたくはなく、慣れようと必死だった。そんな苦労があったせいもあり、二人が初めて結ばれたときは、
嬉しさもひとしおだった。
「くっ……セ、セレスティア、平気か?」
「うっ、く…!わ、わたくし、嬉しいです……やっと……やっと、バハムーンさんと…」
慣れるまでずっと我慢してくれたバハムーン。慣れるまでずっと頑張ってくれたセレスティア。そんな相手を、二人はこの上もなく
愛しく、また大切な相手だと思うようになっていた。
そのままずっと、同じ関係が続くのだと、二人は信じていた。しかし、実際はそうはならなかった。
愛し合っていた。その気持ちが揺らいだことなど、ただの一度もなかった。
だが、愛し合っているという事実に寄りかかり、いつしか二人は、恋人同士という関係を維持することに怠慢になっていった。
いるのが当たり前の相手となり、自分を愛するのが当たり前の相手となり、やがて二人は、恋人という関係ではなくなった。
愛しているはずなのに、別の異性に惹かれる。二人とも、今までは一度だって、そんな事はなかった。その事実に、二人は驚き、怯えた。
しかし、二人は気付いてしまった。どんなに愛していても、どんなに好きでも、もうお互いに、何の魅力も、刺激も、感じていない事に。
家族になるのなら、きっとそれでよかったのだろう。しかしそうでない限り、もう二人が付き合う必要はなかった。その理由は、もう
完全に消えてしまったのだから。
大好きで、誰よりも愛していて、なのに恋の出来ない相手。何度も何度も、二人は話し合った。時には涙を見せることもあった。
それでも、結果は変わらなかった。そしてとうとう、二人は別れることとなった。
だが、嫌いではないし、愛しているのだ。最後の思い出にと、二人はデートの約束を交わした。
いつもの時間に、いつもの場所で。二人のデートは、いつも変わらなかった。
予定より数分早く合流し、二人は校内を歩いた。一緒に散歩をし、一緒に食事をし、二人の間には笑顔が絶えなかった。その姿を見て、
それが二人の最後のデートなのだと思う者は、誰一人いなかっただろう。
辺りが夕焼けに染まる頃、セレスティアがポツリと呟いた。
「……どうして、好きなだけじゃダメなんでしょう?」
その言葉に、バハムーンが少し間を置いて答えた。
「好きなだけなら、家族も恋人もペットも同じだからじゃないか?」
「それぞれの形が、あるってことでしょうか。だとしたら、わたくし達がうまくいかなくなったのも……何となく、わかります」
「けど、言っておいてなんだが、俺も納得いかねえなあ。お前が、一番好きで、大切なのに……くそ、なんでだろうな」
「わたくしも、同じです。でも……しょうがないですよ。お互いを嫌いになって別れるんじゃなくって、よかったと思いましょうよ」
「そう……だな。それが、いいのかもしれないな」
夕食を一緒に食べ、そして二人はバハムーンの部屋に向かった。もう、デートも終盤だった。
「お前とも、これで最後か」
「言わないでください。寂しくなります」
恥ずかしげに服を脱ぐセレスティア。だが、彼女は今まで脱ぐのを恥ずかしがっており、いつも灯りを消した後、バハムーンが脱がせて
いたのだ。それだけを見ても、もうこれで最後なのだという事実が、はっきり突きつけられているように思えた。
「でも、そうですよね。これで最後なんですから……悔いは、残したくないですよね」
「ああ。セレスティア、今夜までは、ずっと恋人でいてくれ」
服を脱ぎ終えたセレスティアにそっと近寄り、その体を抱き締める。セレスティアは彼の首に腕を回し、静かに目を閉じた。
唇が微かに触れ合う。お互いを焦らすように、二人はしばらく唇だけで触れ合っていた。
やがて少しずつ、どちらからともなく唇を吸い、舌を絡めあう。すぐに貪るような激しいキスとなり、舌の触れ合う音が部屋に響く。
柔らかく、温かい感触。それももう、今夜を過ぎれば感じることはなくなる。だからこそ、二人はいつもより長い間、キスをしていた。
口内を舐め、舌を絡め、唇を吸う。やがてセレスティアが、そっと唇を離した。
「あの……バハムーンさん」
「ん?どうした?」
「あの……その…」
セレスティアはしばらくもじもじしていたが、やがて意を決したように顔を上げた。
「わ、わたくし、バハムーンさんの……な、舐めてあげたいんです」
「え……え!?お、お前が?俺の?」
今まで、ほぼされるばかりだったセレスティアの意外な申し出に、バハムーンは驚いた。しかし、セレスティアは真面目な顔をしている。
「だって、最後くらい……わたくしだって、バハムーンさん、気持ちよくしてあげたいですから…」
「……そうか。なら、してもらっていいか?」
「が、頑張ります」
バハムーンはベッドに座り、セレスティアはその前に跪く。いつも受け入れているものではあるが、改めて目の前に見せられると、
その大きさと形に少したじろいでしまう。
「無理するなよ?」
「い、いえ、最後ですから、無理でも頑張ります」
そっと手を伸ばし、それに触れてみる。触れた拍子にピクッと震え、セレスティアは一瞬手を離しかける、しかしすぐに気を取り直し、
優しく手で包む。そしてゆっくり扱き始めると、バハムーンが呻くような声をあげる。
「バ、バハムーンさん、どうですか?」
「あ、ああ、気持ちいい」
「ですかぁ、よかった」
本当にホッとした声で言うと、セレスティアは彼のモノを扱きつつ、じっと見つめた。何をするのかと思った瞬間、セレスティアは
口を開け、それを咥えた。
「くっ…!セ、セレスティア…!」
「んぅ……ふ、んん…」
少し苦しそうな顔をしつつ、セレスティアはゆっくりと頭を動かす。まったく経験もなく、知識も一応知っている程度なので、
その動きはひどく拙い。しかしその拙さが、彼女の純粋さを表しているようで、バハムーンにとっては大きな快感となる。
時々顎が疲れるのか、動きを止めて舌で舐め、また時には先端を咥えたまま、手で扱く。懸命に頑張っている姿と相まって、バハムーンは
たちまち追い詰められた。
「セ、セレスティア!口離せ!出る!」
「んん…!ん!」
だがセレスティアは彼のモノをしっかりと咥え、手で強く扱いた。さすがに耐え切れず、バハムーンは彼女の口内に思い切り精を放った。
口の中に注ぎこまれる精液を、セレスティアは黙って受け止めていた。しかし、予想以上に量が多い。
「んっ……うぐっ……ふあ!」
たまらず、セレスティアは途中で口を離した。残りは手で受け止め、それまでに出された精液は口の中に溜めている。
「セレスティア、吐いてきていいぞ」
「んんん…!」
セレスティアは首を振り、しっかり目を瞑った。そして思い切り顔をしかめつつ、口の中のそれを必死に飲み下す。
ごくりと大きく喉が動き、セレスティアは目を開けた。しかし、何だか気持ち悪そうな顔をしている。
「おい、セレスティア……大丈…」
「……うぶっ!」
話しかけた瞬間、セレスティアは口を押さえた。
「お、おい!大丈夫か!?無理しないでさっさと吐き出せ!」
バハムーンは慌ててハンカチを差し出したが、セレスティアは頑なにそれを受け取らず、やがてもう一度大きく喉を鳴らし、息をついた。
「……ふえぇ〜、なんとか飲めましたぁ……ケホ…」
「お、お前なあ……無茶するなよ」
「だって、今しなかったら、もうチャンスないんですもん…」
「ま、いい。じゃあ、俺もお返しだ」
「え?きゃ!?」
バハムーンはセレスティアを軽々と抱え上げ、ベッドに横たえた。そして彼女が抵抗する間もなく足を開かせ、割れ目に舌を這わせる。
「きゃあっ!バ、バハムーンさん……あっ!やぁ……舌がぁ…!」
セレスティアの体が仰け反り、体がブルブルと震える。それに構わず、バハムーンは足を動かないように押さえつつ、秘裂を舌で開き、
全体を優しく舐める。舌先で敏感な突起を突付き、丁寧に舐める。
その度に、セレスティアの体がビクビクと震え、腰が跳ね上がる。翼も時折、ばさりと開かれている。
「うあぅ…!あんっ!あっ!や、やぁ……バハムーンさん…!ま、待って!ダメです!それ以上されたらっ…!」
「……ふぅ。もう、限界か?」
口を離し、セレスティアを解放すると、彼女はぐったりと横たわった。そして、とろんとした目で彼を見つめる。
「あの……わたくし、バハムーンさんのが……ほしいです…」
「ああ、わかった」
そのまま彼女にのしかかり、秘裂にそっと自身をあてがう。彼女が頷くと、バハムーンはゆっくりと腰を突き出した。
「はうっ……うあぁ…!」
顔を歪め、苦しそうな声をあげるセレスティア。いつものことではあるのだが、やはり少し心配になってしまう。
「セレスティア、大丈夫か?」
尋ねると、セレスティアは顔を歪めつつも、嬉しそうに微笑んで見せた。
「はい……苦しいですけど、バハムーンさんを、もっと感じさせてください…」
「うあっ!?」
言いながら、セレスティアは自分から腰を動かし、バハムーンのモノをより深く飲み込む。普段はあまり深く入れられなかったのだが、
セレスティアが自分から腰を動かしたことで、バハムーンのモノが根元近くまで埋まっている。
感じたこともないほどの快感に、バハムーンの理性は一瞬で限界に来た。
「ぐっ……セレスティア、悪い…!動くぞ…!」
「はい……んあっ!うくっ!あっ!」
さらに深く押し込もうとするかのように、バハムーンは激しく腰を打ちつける。子宮の中まで入り込みそうに錯覚するほどの衝撃と、
強い鈍痛。それに加え、例えようもない快感がセレスティアを襲う。
「あっ!あっ!バハムーンさん…!もっと、もっといっぱい感じさせてください!」
「ぐうぅ…!セレスティア…!」
ベッドがギシギシと激しく軋み、二人の体から汗が流れ落ちる。腰を打ち付ける度、パン、パンと湿り気を帯びた音が響き、
結合部から愛液が飛び散る。
セレスティアの口はだらしなく開かれ、時折空気を求めるかのように、嬌声の間に掠れた呼吸音を立てる。そんな顔が可愛らしく、
バハムーンはさらに強く腰を叩きつける。
「あっく!かふっ!バハ……バハムーンさん…!わたくし……もう…!」
限界が近いのか、セレスティアの中がぎゅうっと収縮する。
「うあっ!くっ……今ので、俺も…!くっ……セレスティア…!」
彼女の体を抱き起こし、バハムーンはより深く彼女の体内を突き上げる。セレスティアはバハムーンにしがみつき、必死に彼の求めに
応じる。やがて、動きが大きく荒くなったかと思うと、バハムーンは最後に一際強く、セレスティアの体内を突き上げた。
「セレスティアっ…!」
「うあぁっ!な、中で、動いて……熱……う、あ、あああぁぁ!!!」
体内に注ぎ込まれる、熱い精液の感覚。それが止めとなり、セレスティアも全身を震わせて達してしまった。膣内が一際強く収縮し、
まるで最後の一滴まで搾り取ろうとするかのように蠢動する。それに応えるように、バハムーンのモノは何度も何度も跳ね、その度に
彼女の中へと精液を注ぎ込んでいった。
やがて、その動きも少しずつ静まり、そして止まった。二人は向かい合って座ったまま、しばらく荒い息をついていたが、
やがてどちらからともなく顔を上げた。
「……お別れ、なんですよね…?」
「……ああ」
「大好きです。本当に、大好きなんです。でも……もう、終わりなんですね…」
「俺もだ。俺も、お前が好きだ。それはきっと、ずっと変わらない」
バハムーンはセレスティアを強く抱き締めた。腕の中で、彼女は窓から空を見上げた。
「空は、ずっと変わりませんね」
言われて、バハムーンも空を見上げる。
「毎日、ずっと同じ。わたくし達も、そうなれればよかったのに…」
「空だって、季節が変われば姿を変える。星だってそうだ。変わらないわけじゃないさ」
「そう、でしたね。でも、何年経っても、変わりません……どんな変化があっても、毎年変わらず、元の姿に戻ります…」
「……好きなことだけは、変わらない。関係が変わったって、俺はお前が、ずっと好きだ」
腕の中の彼女を、バハムーンは優しく撫でた。
「……ね、バハムーンさん?」
「ん?」
「今夜はずっと……こうしててください」
「……ああ」
繋がったまま、抱き合ったまま、二人は空を見上げた。その夜がずっと明けなければいいのにと、心から願いながら。
「……太陽がきれいですね」
同じことを思い出していたのだろう。セレスティアが、ポツリと呟いた。
「明けない夜はない。空だって変わり続けるもんさ」
「わたくし達の関係も、ですよね。いきなりパーティ脱退なんて、びっくりしましたよ。気にしなくてもよかったのに」
「いや、俺達はそれでよかったが、他の奴等がかわいそうだ。あいつら、俺達に気を使ってて大変そうだったからな」
「あ、そういうわけだったんですか。そういえばクラッズさん、薬飲んでたような…」
「たぶん胃薬だろうな」
そう言って、バハムーンは笑った。釣られてセレスティアも笑う。
一頻り笑ってから、二人は表情を改めた。
「……お前との時間、俺は後悔していない」
バハムーンは、はっきりと言った。
「わたくしもです。あなたと過ごせた時間は、大切な思い出です」
セレスティアも、きっぱりと言いきった。
「今日お前と会えて、よかった」
「わたくしも、同じことを思ってました」
二人は顔を見合わせ、優しく、そしてとても悲しい笑顔を浮かべた。
彼等の間にある距離は、もう決して埋まることはない。久しぶりに会った相手は、変わらず恋人としての魅力を感じなかった。
大好きで、愛していて、しかし恋のできない相手。もう二度と、二人の道が交わることはない。それでも、二人は満足だった。
遠くから、誰かが近づいてくるのが見える。それに気付き、二人はそれぞれ別の方向へ顔を向けた。
「やあセレスティア、相変わらず早いね」
「ふふ。エルフさんは時間ぴったりですね。あ、でも急いでたんですか?服、皺になってますよ」
整った顔立ちのエルフの男。セレスティアは彼に、以前バハムーンに向けたものと同じ笑顔を向ける。
「ごめん、待ったかな」
「いや、早く来すぎただけさ。それよりノーム、寝癖付いてるぞ」
無表情で、それでいて嬉しそうな雰囲気のノーム。彼女にかける声は、以前セレスティアにかけたものと同じ優しさだった。
バハムーンとセレスティアは、一瞬相手の現在の恋人に目をやり、そしてお互いに笑顔を向けた。
「……その人は、知り合いかい?」
それに気付き、エルフが尋ねる。
「ええ。以前、一緒にパーティを組んでたんですよ」
「なるほど、それでね」
一方のノームは、寝癖をクシクシと直しつつ、セレスティアを見つめている。
「……きれいな人」
「なんだ、やきもちか?お前だって、十分かわいいんだからいいだろ」
ベンチから立ち上がり、二人は現在の恋人と共に、それぞれ別の方向へと歩き出した。
もう二度と、会うことが無いとしても。もう二度と、交わることのない道だとしても。
それでも、最も愛する人の幸福を、背中に感じるという幸福を噛み締めながら。
以上、投下終了。容量がやばそうなので、ついでに次スレ立ててきます。
ではこの辺で。
乙。
幸せそうなのに切ないな…
切ない……
乙でした
お互い相手を嫌って分かれるのでないだけよしとしよう、か…。地味に来る言葉だ
年単位で同居して『そろそろいろいろ面倒だから結婚するか』みたいな未来もあったのかなぁ
出来ちゃったで退学。冒険者への道は諦めて
二人だけのささやかな幸せを守ると言う
選択肢を選んだ生徒も多いんだろうな
..と思うのはここの見すぎなんだろうか?w
..出来ちゃったら三人かw
自爆スマソ。