【男勝りな】ボクっ子、オレっ子でエロパロ【女子】

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1名無しさん@ピンキー
一人称が「僕」、「俺」
そんな男勝りな女の子のためのスレです

さあ行ってみよう!
2名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 23:15:38 ID:8ZY2wtzP
2get
3名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 23:39:23 ID:w/V2oK6t
>>1
これがあるやん

【処女】ボーイッシュ五人目【貧乳】
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1203759527/l50
4名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 23:57:17 ID:Zy+D4XjX
>>3
うーん、ボーイッシュとは違うと思ったんだが・・・
まあ需要なかったら落としてくれ
5名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 01:48:12 ID:1Zhx4lr4
なんて無責任なやつだ
新規シチュを建てるならまず短編一本でも良いから用意して来い
6名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 12:22:05 ID:zUoSfzQl
俺っ娘好きの俺には需要あるよ

書かないけど
7名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 13:30:40 ID:+WFJf1N9
悪くないんだけど「ボクっ娘オレっ娘」かつ「男勝り」っていうと限定的過ぎるなぁ
特殊一人称スレか男勝り娘スレかのどっちかにしてほしい
8名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 22:35:05 ID:EKhv434w
男勝りはナシにする方向を希望
ようじょもの落としづらくなると思うんだ

判る奴だけ判れば良いが、アバタールチューナーのボクっ娘は萌えた
「開けてよー、あーけーてーよ〜」
  た  ま  ら  ん  ね  。
9名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 01:03:26 ID:QHxD8Af+
男勝りの要素がいらないなら余計にボーイッシュスレでいいですやん
10名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 01:52:52 ID:vS6Bi2C1
どっちかっていうと男勝りがボーイッシュじゃないか?
11名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 06:54:59 ID:G/kghx1P
一次って過疎りがちだから、細分化はなるべく避けたほうがいいのでは
12名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 07:28:31 ID:FSlxkiZN
ここは・・・あれだ、ボーイッシュスレと違って
「がはは、オレが抜いてやるぜ!」的な非処女も許容されるんだろう
同い年とか年下だと姉御スレも微妙になるし

とはいえどっちも過疎だからなあ
13名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 12:02:11 ID:vS6Bi2C1
俺は両儀式みたいな女の子を想像してる
14名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 00:09:50 ID:6HO9gtzI
期待age
15名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 00:18:35 ID:gciLUHqQ
ボーイッシュとボクっ子って同ジャンルなのか?
俺の中では全く別と言っても過言ではないのだが…

今だから言える。
中学の時いたボクっ子には萌えていた。
人の噂には疎い俺でさえ、変人って聞いた事があったが、一体何やってたんだか。
人の噂には疎いから発展するネタはない。
16名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 00:22:36 ID:4BeHu/Nz
僕女俺女ってのは
同人やってるヤツにとってマサに天敵だったな
17名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 01:22:21 ID:6HO9gtzI
>>16
なぜに?
18名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 10:38:27 ID:3UfhcuPV
>>15
小中くらいまでは惨事でも可愛い子は可愛いよね。
19名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 01:15:55 ID:A/l4E1LW
ボクっ子のSSは見たことあるけどオレっ子はないなー
20名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 20:17:05 ID:2gXAdHrb
孕ませスレ保管庫で見たことあるな>オレっ娘
21名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 20:31:12 ID:eDNOT6/i
>>20
どれよ?
22名無しさん@ピンキー:2009/07/01(水) 00:52:17 ID:6DZfCsmX
オレっ子期待

あ、もちろんボクっ子も見たいです
23名無しさん@ピンキー:2009/07/01(水) 05:09:25 ID:8imhIRVF
>>21
「子供ほしいね」
24名無しさん@ピンキー:2009/07/01(水) 19:47:42 ID:6DZfCsmX
あげ
25名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 11:41:14 ID:/okDgsHt
>>23
サンクス
オレっ子でヤクザっ子とはレアだなあ
26名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 17:06:44 ID:la+ZNDuD
「僕」と「俺」しか駄目なの?
「我」とか「予」とかは範囲外なの?
27名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 23:33:27 ID:JcJQZ0vS
「うぬ」とか「汝」とか「貴公」とか言いそうだな
28名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 00:46:09 ID:f9FBNwH3
何その世紀末救世主っ子
29名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 11:22:09 ID:Xt2i7vW8
一人称を「僕」にしている女子は「甘えん坊」なんだって、
何かで読んだ。
「俺」とかも分析してくれてれば良かったのに…
30名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 17:40:14 ID:Rjt8KnIm
>>29
>ボク
俺の読んだ本には、自分の中の女性性を否定しているって。
31名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 23:18:27 ID:yc6WPm1W
ボクっ子なんて現実にいないだろ・・・
32名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 14:25:00 ID:c8nTCkkc
ボクっ子ですぐ思いつくのは、わとさんです。
誰か、たのむよ。
33名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 14:46:09 ID:HQikLlRY
俺の妹はオレっ子だが俺を『お兄ちゃん』と呼ぶ。
34名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 19:47:59 ID:5OKJXYv1
【not】俺女僕女被害報告スレ49@同人【human.】
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/2chbook/1246406550/

このスレ思い出した
35名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 20:03:07 ID://QNYdZ+
一人称は「ボク」「オレ」なのに心は乙女
いいと思います
36名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 23:09:06 ID:p/lCLtXu
スレタイ嫁
37名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 00:22:24 ID:xwLVqhaB
>>29>>30
本のタイトル教えて!
38名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 01:15:25 ID:LXDgfF1r
ここまで投下なし
39名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 01:47:01 ID:lRAoc22t
>>37
29っす。
本だったかなぁ、サイトだったかも、心理学系の…ゆうきゆうだったか??
(全く関係ないけどゆうきゆうの「セクシー心理学」は面白いですよ、馬鹿な意味でw)
違ったかなぁ、雑誌のコラムだった可能性も有り。
病院とか銀行で待ち時間に女性誌とか、そういう普段まったく買わないのを暇つぶしに読んだ時…
だった様な…

お役に立てず、ゴメン。
4030:2009/07/06(月) 13:47:37 ID:XONwJQia
>>37
xenogearsのPW
41名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 19:35:20 ID:/DA95D1o
>>40
マルーか。しかしこれは特殊な例じゃね?
幼い頃にバルトが彼女を庇って拷問を一手に引き受けてしまった経験から「か弱さ」という女性性を否定した結果
・一人称がボク
・第二次性徴を無意識に拒絶しているために子供っぽい
ということだったはず。
42名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 01:25:26 ID:qhALO7Xd
>>40
どこかで見たような文だと思ったらそれかw
43名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 09:38:02 ID:TjNBx/o9
期待あげ
44名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 11:35:39 ID:FvzGghAm
おいおい…この過疎気味なスレでゼノギアスのパーフェクトワークス持ってるヤツ大杉だろw
45名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 00:05:31 ID:9j9iApyY
マルーはいいボクっ子だった
46名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 00:25:31 ID:rNeJehWq
ティアーズ・トゥ・ティアラのラスティは男の子なのかボクっ子なのかがわからない
47名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 11:15:00 ID:sOP8vu9W
僕っ子
4837:2009/07/11(土) 08:51:41 ID:KKoSNFck
>>39>>40
ありがと!
49名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 13:17:39 ID:ZBRIcUPU
ヤンデレスレの保管庫でオレっ子発見
タイトルは『コウヘイッ、タイマンじゃあ!!』
50名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 03:32:07 ID:t1GfgiGB
あげ
51名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 22:31:09 ID:1G5T0pPi
>>49読んだよ、普通に萌えた
それとどっかで見たことあると思ったら
イカサレノートの人かwww
52名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 23:15:48 ID:wMD2Hz0T
ここまで投下なし
53名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 01:15:52 ID:7bkh7Kz7
>>49
ボクッ娘はないの?
54名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 07:06:37 ID:ESWBImJS
イスピンがいるじゃないか
55名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 14:55:08 ID:CddRqi2Y
あげ
56名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 12:53:05 ID:JWU/2Sle
保守っ
57名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 01:18:53 ID:2yMlPxMp
ボーイッシュスレの親戚?
58名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 13:19:02 ID:hP7Qb3H1
>>57
「一人称が男」というのが大事。
59名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 13:57:33 ID:MVnsXeYL
ほしゅ
60名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 22:31:07 ID:Pq/oxa+q
投下が一つもないのに保守とな
61名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 20:40:28 ID:Jr5qIXJu
ボクっ子代表:佐々木
オレっ子代表:エーブ、両儀式

異論は認める
62名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 02:12:35 ID:2xilx4Y0
保守
63名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 13:38:51 ID:H6amw7JQ
真昼間だが投下します。俺っ子SS。お気に召さない場合はスルーの方向で。
64ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 13:39:33 ID:H6amw7JQ
 子供の頃から、疑問に思っていた。俺を受け入れてくれる人間なんて、この世に居るのかと。この世界に、俺の居場所なんてあるのかと。


「弥里(みさと)くーん、お昼、一緒に食べよ?」
「あいよー」
 昼休み。声を掛けられ、俺は席を立つ。教室の入り口のところで、隣のクラスの赤倉由香里(あかくら ゆかり)が手を振っているのが見えた。
「あ、じゃあ俺も一緒に行くかな」
「私もー」
 仲の良いクラスメイトの数人が次々名乗りを上げる。ああ、俺って愛されてんなぁ、と思ったのも束の間、由香里は得意げに無い胸を反り返らせて言った。
「駄目だよーん。今日は一週間に一回だけの食堂デートの日だもんねー」
 うん、由香里。俺の常識が正しければな、学食まで俺と一緒に飯を食いに行くのはデートって言わないんだぞ?あと、別に一週間に一回必ず行くとも決めちゃいねえからな?
「普段は皆と一緒なんだから、今日ぐらいは私が弥里君のこと独り占めするんだよー」
 聞けよこの洗濯板。やおら俺の腕に抱き付いてくねくねと身体を揺らし始めた馬鹿にデコピンを見舞う。ばつん、と言う炸裂音に続いて由香里がのけぞった。
「痛ーい!弥里君デコピン禁止って言ったじゃん!痛いから禁止!」
「やかましい。腕に抱きつくなってーの。歩き辛いだろうが」
「ん?もしかして当ってた?いやん、弥里君のラッキースケベ」
「どの胸下げて言ってんだこの洗濯板が」
「うわーん気にしてるのにー!弥里君のセクハラさーん!」
65ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 13:40:07 ID:H6amw7JQ
 俺たちのふざけた掛け合いに、クラスの連中が大爆笑する。それから、俺の周りをちょこまかと走ってちょっかいを掛けてくる由香里を適当にあしらいつつ、俺達は食堂へ向かった。

********************

 弥里と由香里が出て行った教室では、弁当持参の生徒達が思い思いに輪を作り、食事を摂り始めていた。
「いやー、しかしあいつらマジ面白いよなー」
「見てて飽きないわよねえ、あの二人」
「あれで本当に付き合ってないのかどうか疑問だよな」
「あんたそれ、弥里の前で言わない方が良いわよ。あたし前にそれ言ってすごい顔で睨まれたから」
「へー・・・なあなあ、お前はどう思う、夏目(なつめ)」
 夏目、と呼ばれた生徒・・・物静かな雰囲気を纏った背の高い人影は、手にした文庫本を閉じて、無表情のまま一言。
「どうでも良い」
 それだけ言うと、長い髪を靡かせながら教室を出た。

********************

「はー、やっぱり昼はコレだな」
 俺はそう言って、鶏五目蕎麦の鶏肉を齧る。ぎゅむ、とゴムでも噛んだ感触がして、遅れて濃厚な肉汁が口の中に広がる。うむ、美味。
「よく毎回毎回飽きないよね、弥里君も」
 向かいで日替わりのレディースランチを食っている由香里が、俺の昼食を見てうんざりと言う。
「うるっさいなー、お前知らないのか?鶏肉は美容に良いんだぞ。なんなら一切れ食うか?」
「・・・ううん、止めとく。コラーゲンは魅力的だけど脂肪分の割合を考えるとやっぱり怖いわ」
 差し出した箸の先にある鶏もも肉から視線を逸らし、げんなりと言った。次いで由香里は、俺の方に向き直る。
「・・・ねえ弥里君。手首のところの傷、隠れてないよ」
 言われて俺は、制服の右の袖口の辺りを手で押さえる。・・・しまった、こいつの両目が2,0だという事を忘れていた。
「まーたどっかで喧嘩してきたんでしょー」
「・・・一年生の女子が絡まれてたんだよ。放っておけるか」
66ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 13:40:34 ID:H6amw7JQ
 ぶっきらぼうに俺が言うと、由香里はやれやれと頭を振って溜息をつく。
「もう、美容がどうとか言う前に自分からボロボロになってちゃ駄目でしょ」
「やかましい。女の子見捨てるぐらいなら殴られる方がマシだ」
 言って、残った蕎麦をずるずると啜り始める俺。そんな俺を見て、由香里はまたも溜息を吐いた。


 図書室から借りていた本の返却期限を思い出して、由香里とは学食で別れた。一度教室に戻って机から本を取り出し、それを持って図書室へ行く。カウンターに、図書委員がいない。
「・・・あ?」
 待て、図書委員ってのは図書室に居るモンだろうが。なんで居ないんだよ。不審に思い、ちょうど帰るところだった別の生徒を捕まえて話を聞く。
「図書委員がどこ行ったか知らない?」
 面識の無い生徒だったので、少しばかり丁寧な言葉遣いで聞く。
「ああ、さっきまでそこに座ってた人なら、お昼ご飯食べに行きましたけど・・・あれ、交代の人、まだ来てないんですか?」
 その生徒の話だと、昼休み前半を担当する委員は、自分の職務を全うして食堂へと向かったらしい。すると、後半を担当する生徒との間に打ち合わせ不足があったのか。
「ま、良いや。ありがとう」
 その生徒に礼を言って、俺は図書室の中へ歩を進める。返却しようにも出来ないのなら、次に借りる本を決めておいた方が有意義だろう。

 課題を片付けるのに使う資料を探そうと思い、専門書のコーナーへと入る。どうでも良いけど生徒がリクエストしたライトノベルとかは目立つ所に置かれるのに何でこういう大事な本は奥に引っ込むんだ。
「おい」
 ああもう、この辺り照明が届かないから暗くて嫌なんだよなあ。生徒会め、文化祭で変な企画作るくらいならこういう所に金使えっての。
67ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 13:40:58 ID:H6amw7JQ
「おい・・・!」
 それにしても今日はなんか騒がしいな。ここは図書館だろうが。静かに使え、静かに・・・
「おい!なにシカトしてんだ!」
「うっせえな!なんだよさっきから・・・って・・・」
 怒鳴りながら振り返ると、見覚えのある男子生徒が二人、俺を取り囲むように立っていた。いずれも、絆創膏に張り付かれた顔面を怒りに歪めている。
・・・昼に話題に上った、一年生の女子にちょっかいを掛けていた男子だった。
「てめえ・・・こんなところに居やがったか・・・!」
「こないだは一年生の前で大恥掻かせてくれたなぁ!?」
 男子生徒二人は図書委員が居ない事を知っているのか、結構な大声で俺を威嚇する・・・あれ、俺結構ヤバイ?
「ちょ、お、落ち着こうって。他の人もいる事だしさ」
「んなモン居ねえよ。お前の事見つけた所で他のやつらは追い出したからな」
 周到っすね。この分じゃ出入り口に鍵とかも掛けてるよ、絶対。
「さんっざんな目に合わされたからなぁ・・・お前でたっぷり楽しませてもらうぞ・・・!」
 や、ヤバイ!こいつら目が完全にイっちゃってる!
「くそっ!」
「ぐあっ!?」
 俺は二人から逃げるべく、咄嗟に行動を起こす。左側に居た男に体当たりを食らわせて、その隙に逃げるが・・・
「っ、舐めんなぁっ!」
 倒れながら男が放ったキックをまともに喰らって、本棚に身体を叩きつけられる。
「ぃだっ!」
 衝撃に頭を揺さぶられて、俺はその場に座り込む。
68ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 13:41:19 ID:H6amw7JQ
(・・・や、ば・・・あしが・・・うごか、な・・・)
「んのヤロォ、手こずらせやがって・・・」
 朦朧とした意識の中で・・・男の手が、自分に向かって伸びてくるのが見えて・・・
「・・・い―――」
 思わず悲鳴を上げそうになったその時。


「図書館ではお静かに」



 場違いなほど落ち着いた声が聞こえた。次いで―――
「ぎゃぁああああっ!?」
 男の一人がいきなり、悲鳴を上げる。よく見ると、腕を背中側で何かに掴まれ、ありえない方向に関節を曲げられていた。そのまま崩れ落ち、先程まで自分の後ろに立っていた人影を見る。
「て、てっめええっ!何しやがんだあっ!」
「図書館ではお静かにと言っただろうが」
 ごきゃ、とか言う音と共に背中を踏まれ、その男は動かなくなった。
「な、なんだよてめえ!」
 もう一人・・・今しがた俺の体当たりを食らった男が言う。
69ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 13:41:41 ID:H6amw7JQ
「その前に質問に答えてもらおうか」
 声の主はそう言って、男に詰め寄る。
「て、てめえ何ふざけた事を・・・!」
「良いから質問に答えろ。お前もこうなりたいのか」
 声の主は、自分の足の下で伸びている男を、もう一度ぐりっと踏み付ける。悲鳴も無く死体(違う)がびくんと震えた。
「まず一つ。貴様らはここで『婦女暴行』未遂をはたらいた。それで合ってるか」
「あ、合ってる!」
「次。ここの扉は内側からも鍵が必要だったはずだが、どうやった」
「か、カウンターだ!カウンターのところに鍵があった!」
「ふむ・・・最後だ。貴様のクラスと氏名、それと出席番号を答えろ。氏名は苗字だけでも構わんぞ」
「に、二年A組十二番の村田だ!」
「それが分かれば逝って良し」
 言うが早いか、村田の脳天に運動靴の踵が突き刺さった。ぶっ倒れた村田を踏みながら、声の主・・・俺と同じクラスの図書委員長、夏目恭介(なつめ きょうすけ)は俺に近付いてくる。
「やれやれ、女性を相手に卑怯な事をする。大丈夫か、弥里」
 そう言って、俺に手を伸ばし・・・
70ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 13:42:04 ID:H6amw7JQ


「ぁ・・・い、いやっ!」


 俺は、反射的にその手を払っていた。
「・・・あ、ご、ごめん」
「・・・いや、俺の方こそスマン。ちょっと無神経だったか」
 驚きはしていたが、さして怒った様子も無く、夏目は俺から離れる。気絶している男子生徒二人をずるずると引き摺りながら、出入り口の方へ歩いていった。
「こいつらを外に捨ててくる。落ち着くまでそこに居てくれ」
「あ、ああ。わかった・・・」
 そう言われて、俺はようやく立ち上がり、『スカートの皺』を直し、乱れてしまった髪をもう一度後ろで纏める。


 言い忘れていたが、俺・・・白木弥里(しらき みさと)は、正真正銘女性である。
71ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 13:43:27 ID:H6amw7JQ
今回は以上です。こういうヒロイン書いた事無いから難しいわー・・・
では、お目汚し失礼しました。
72名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 13:50:02 ID:KX3UPaWr
名前を見た瞬間リトバだと思った
73名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 14:36:28 ID:Qe7TuFhd
GJ。
不良2人返り討ちかと思ったが、思わぬヒーロー登場w
7463:2009/09/11(金) 15:48:34 ID:H6amw7JQ
暇を持て余して第二話を速攻で書いてみた。反省はしていない
75ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 15:49:30 ID:H6amw7JQ
 数分ほどして、夏目が戻ってきた。そのまま俺の方まで歩いてきて、両手に持っていた缶ジュースの片方を俺の傍に置き、俺の向かいの席に座った。
「疲れた時は甘いものが一番だ。ほら、お前の分」
「ん・・・さんきゅ」
 ありがたくご馳走になる。乾ききった喉にオレンジジュースの爽やかな甘さが広がった。ふと夏目を見ると、奴もまた、ジュースのプルタブを開けて、一気に呷っていた。
「良いのかよ、図書委員長。図書室で飲食なんかして」
「図書室では俺がルールだ。なんたって委員長だからな」
 誰だこんな奴図書委員長に推薦したの。生徒会選挙の時は俺もこいつに投票したけどさ。だって誰がなってもどうでも良かったもん。
(結局、よく知らないけど同じクラスだから、って、こいつに票入れたんだっけか)
・・・考えてみると、この男とこうしてサシで話すのは初めてだ。二年になってから同じクラスになったが、特に話す機会があった訳でもないので、俺は夏目の事をあまり知らない。
「そういえば夏目、なんで俺を助けてくれたの?」
 気になっていた事を聞いてみる。
「偶然だ。今日の昼休み前半は俺が担当の委員だったんだがな。時間になって学食行ったら、ここで財布を落としたみたいでよ。慌てて戻ってきたら、お前があいつらに囲まれてた」
「そうだったのか・・・でもあいつら、鍵とかかけてなかったのか?」
 俺の問いに、夏目はふふーんと言って胸ポケットから小さな鍵を取り出す。
「図書委員長ってのは毎年、図書室の鍵の個人携行を許可されるんだよ」
「うわ、この学校って施設の管理甘いなぁ・・・まあ何にせよ助かったよ」
 俺がそう言うと、夏目は気にすんな、と言って椅子を何個か横に並べる。
76ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 15:49:54 ID:H6amw7JQ
「なにしてんだよ」
「チャイム鳴るまで寝る。腹も減ったし、他にする事も無いしな」
 言われて、時計を見ると、とっくの昔に五限目が始まっている。今から行っても殆ど意味は無いだろう。
「なるほど・・・っておいコラそこで寝るな」
 夏目は俺の向かいでごろっと横になったのだが・・・その位置からだとまあ、どこかの誰かさんのスカートの中が丸見えになるわけで。
「うん?・・・お、眼福」
「ばっ、お前なぁ!・・・いたっ」
 ズキ、と右足を走った痛みに、俺は小さく呻く。
「どうした・・・って弥里!?おま、足!」
 テーブルの陰になっているので表情は見えないが、多分夏目も気付いたのだろう。自分の目で確認すると、ハイソックスの膝の辺りが赤黒くなっている。
「怪我してんのか!?おいっ、大丈夫なのか!」
「落ち着けって・・・っつーかてめえいい加減そのアングルから見んな!蹴るぞうらぁっ!」
 馬鹿みたいに騒いでから、俺は右のハイソックスを下ろす。さっき村田に蹴られたときにぶつけたんだろう。膝の皮膚が擦り剥けて、真っ赤な血が流れていた。
 夏目が息を呑み、俺の方に駆け寄ってくる。
「おいおい結構な傷じゃねえか。保健室で手当てしてもらって・・・」
「い、良いよ!この位自分で処置できるから」
 俺が足を庇うように背を曲げると、夏目がイラついた声で言う。
「おま、馬鹿か!良いから消毒液だけでも―――」
 夏目が俺の腕を捕ろうとして・・・
77ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 15:50:19 ID:H6amw7JQ
「っ、やぁっ!さ、触んないでっ!」
 息を呑み、自分の両肩を抱いて。また、俺は叫ぶ。
「え・・・」
「・・・っ、あ・・・」
 気まずい沈黙が、図書室を支配した。硬直する夏目を見ていられなくて、俺は目を逸らす。
「・・・みさ、と・・・?」
「・・・触れないんだ」
 重苦しい空気に耐え切れず、俺はポツリと呟く。
「さわれ・・・え?」
「・・・男に触るの、できなくて・・・その、凄く怖いんだ・・・」
「男性恐怖症って奴か・・・」
「殴ったりとか、蹴ったりとかは出来るんだけど・・・こう、普通に手を握ったりとかは・・・」
「・・・要するに、悪意無しで男性に触れることが出来ない、と」
 俺がコクン、と頷くと、そんな症例あったかなーと言って、夏目が頭を掻く。
「あの・・・ごめん」
「いや、弥里が謝る事でもねーだろ。俺だってガキの頃ミミズが触れなかったし・・・ってこれは違うか。何かあったのか?」
 問われて、体が無意識に震える。・・・原因は分かっていた。俺がこうなってしまった、一番初めの出来事は。
「・・・ごめん、出来れば話したくない」
 そう言って、俺は俯いてしまう。・・・嫌な事を思い出して泣きそうになった顔を、同じクラスのこいつに見られたくなかった。
「そっか・・・ふむ」
78ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 15:50:46 ID:H6amw7JQ
 それから、夏目は顎に手を当てて何かを考えていた。眉間に皺を寄せたその表情からは、何を考えているのか推し量る事は出来ない。やがて顎に当てていた右手を握ると、左の掌をぽん、と打つ。
 そして、真顔で言い放った。
「よし、弥里。俺、今日からお前の友達な」
「は・・・?」
 何を言っているのか、この男は。俺の間抜けな声などお構いなく、夏目は言葉を続ける。
「俺はお前に何があったのか聞かないし、決してお前に不用意に触らない。もし破ったら思いっきり殴ってくれて構わん。その代わり、今日から俺はお前と積極的に仲良くなろうと思う」
 いや、ちょっと待て。破るも何もそんな約束勝手に作るな。あと捉え方によってはストーカー宣言だぞそれ。
「赤倉だけじゃお前のフォローは難しいだろ。クラスにいる間は俺を頼れ。もちろん俺はいつでも大歓迎だ」
 聞けよオイ。
「つー訳で宜しく」
「何が宜しくだ、何が!」
 俺が尚も抗議しようと口を開くが、時間と言うものは空気を読まずに訪れるもので。
79ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 15:51:20 ID:H6amw7JQ

―――キーンコーンカーンコーン・・・

「お、チャイム鳴った。よし、保健室寄ってから戻るぞ弥里。次は線形だからな、出ないと拙い」
 言うが早いか、夏目は踵を返して歩き始めた。
「ちょ、待て!俺を置いていくな!」
 呆然としていた俺だったが、鍵を閉められては堪らないので慌てて後を追う。廊下に出ると、真顔のまんまの夏目が立っていた。
「一つだけ聞かせろ、夏目。お前、なんでそんな事・・・いや、なんでそこまでしてくれるんだよ?」
 廊下を歩きながら俺が言うと、夏目はしばし黙考してから、いつも通りの無表情で言った。
「ま、言うなれば・・・『同じ自販機のジュースを飲んだ仲』ってことで一つ」
 そんな事を、大真面目なツラで言って、照れているのか何なのか、手すりに掴まってゆっくり降りて来い、と俺に言うと、自分は一段飛ばして階段を駆け降りて行った。
「・・・・・・ぶっ」
・・・うん、もう駄目だ。可笑し過ぎる。
「・・・っ、くくっ・・・な、なんだそりゃ・・・ぶははっ!そ、それを言うなら『同じ釜の飯』だろうが・・・っぷ、あはははっ!」
 先程までの暗い気分は何処へやら。破天荒なクラスメイトの言葉に、俺は心の底から笑い声を上げた。


 こうして、夏目恭介と俺は『友達』になった。
80ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/11(金) 15:52:11 ID:H6amw7JQ
続きは反応を見てから投下します。ではまた
81名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 21:05:19 ID:Qe7TuFhd
GJ
夏目が思ったよりフランクなキャラだったな。
一話冒頭の「どうでも良い」の辺りでクールなキャラだとばっかり思ってたよ。
82名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 05:35:46 ID:VPRgwJ7r
GJ
8363:2009/09/19(土) 00:26:07 ID:3FWUBR36
ロンリィ・ウルフ・ハウリング 第三話投下します。
84ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/19(土) 00:27:12 ID:3FWUBR36
 翌日から、俺と夏目は友達同士、という事で昼食を共にする事にした。もちろん、他の奴らも何人か誘ってではあるが。
「弥里、学食行こう」
「ん、今行く」
 それでも、一度クラスに定着した俺のイメージはなかなか強固な物だったらしい。
「おーい、俺たち学食行くけど他に・・・うわぁっ!?」
 他に行く奴居るか、と言いながら振り返った俺だったが、視線の先にあった光景に、驚きの声を上げる。うん、ちょっと怖かったんだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 クラスの数人・・・というか、さっきまで俺と喋っていた女子が、俺の事を凝視していた。その内の一人がつかつかつか、と詰め寄ってきていきなり俺の肩を掴む。
「み、弥里ぉっ!?」
「うわわわ、な、何だよ!?」
「どうしちゃったの!?急に人間の女の子らしくなっちゃって!まさか食堂で食中毒にでも・・・!」
「殴るぞコラ」
「あ、うんごめん殴らないで。・・・じゃなくて!何かあったの!?」
 アホな漫才をしていると、既に教室の入り口に立っていた夏目が、こちらを見て頬を掻く。
「弥里、俺腹減って死にそうだから先行くぞ」
「真顔でガキみたいな事言ってないで大人しく待て」
「だって腹減ったし。もうお腹と背中がくっ付いて肝臓と腎臓と膵臓が圧死しそうなんだよ」
 だから、眉一つ動かさずに死にそうとか言っても説得力無いんだよ、そこの鉄仮面。
85ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/19(土) 00:27:43 ID:3FWUBR36
「先行くんなら日替わりランチの食券買っといてくれ」
「お駄賃は?」
「五限目の倫理のノート」
「よし乗った」
 短く言い残して、夏目は小走りで学食へ向かった。未だに事態が呑み込めていない友人達の混乱を晴らすべく、取り敢えず俺は一度、席に着いた。
「で、何だって?」
「何って・・・なんでいきなり、夏目と仲良くなってるの!?」
 女子の一人・・・隣の席の尚子(なおこ)が、まるで宇宙人と会話する日本人でも見たように言う。あれ、宇宙人じゃなくて異星人だっけ。どうでも良いや。
「えーっと、いろいろあって友達付き合いするようになりました、としか言えないぞ俺は」
 気の効いた説明をしようにもこれ以上の要素が何も無いのだから、ボキャブラリーを付け足すのもままならない。昨日の騒ぎを一から説明する気にはなれないし。
「・・・つまり、お友達から始めましょうって奴?」
「違うから。取り敢えず、お前が想像しているような事態には陥っちゃいねえから」
 下世話な想像を始めた尚子を軽くあしらい、俺は再び席を立った。いい加減俺も腹が減ってきたしな。
「じゃ、俺も学食行くわ。お先ー」
 ひらひらと手を振りながら、俺は教室を後にした。結局、俺と夏目は二人で飯を食うことになった。

86ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/19(土) 00:28:05 ID:3FWUBR36
********************

 弥里が出て行ってから、尚子と数人の女子達は寄り集まって昼食を摂り始めた。
「いやー、しっかしあの弥里がねぇ」
「夏目も夏目で何考えてるのか分からないけど、弥里も似たようなところあるし、お似合いっちゃお似合いじゃない?」
 どうやら彼女達の脳内では、先程の弥里の否定は効果を発揮してはいなかったようである。既に二人がカップル、あるいはカップル予備軍であるという前提の下に話が進む。
「いつから付き合ってんのかな?」
「まだ友達の範囲とは言うものの・・・」
「あんな事や・・・」
「こんな事まで・・・」
「いやいやでもあの二人だし」
「わかんないよー?」
 げに恐るべしは、女の想像力というか何というか。当事者達を置いてきぼりに、ガールズトークは止まる事無く一人歩きする。
「しっかし・・・うち等が独り身だってのに、弥里に彼氏かぁ・・・」
 尚子がしみじみとつぶやいた、次の瞬間。
「・・・それ、どういう事?」
 後方から聞こえた声に尚子が振り向くと。

********************

87ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/19(土) 00:28:35 ID:3FWUBR36
「・・・なんだ、そんなにじっと見て」
 日替わりランチをもしゃもしゃと頬張っていると、夏目の視線に気付いた。
「いや、ンな風にがっつり昼飯食う女子って俺はじめて見たから」
「やかまし。運動すると体力使うんだよ」
「お前、また喧嘩したのか」
 溜息と共に言う夏目。ええい、由香里みたいに言いやがって。
「なんで俺が運動したイコール喧嘩なんだよ」
「クラスの連中はみんなそう思っている」
「・・・まぢ?」
「冗談だ」
 脛を蹴る。
「ぶっ、がふっ!」
「・・・クソ真面目なツラでつまんねー事言ってんじゃねえ」
 蹴られた拍子に米を喉に詰まらせたと思しき夏目をぎろりと睨みながら言う。あ、そういえばこいつが表情変えたところはじめて見た。
 悶絶していた夏目だが、水を飲んで落ち着いたらしく、先程までと同じような表情でこちらを見る。
「痛いぞ、弥里」
「ならもうちょっと痛そうな表情で言え」
 鰤の味噌焼きを箸でつまみながら俺が言うと、夏目は眉間に皺を寄せて問う。
「なあ、俺ってそんなに表情変わらないのか?」
「・・・はぁ?」
 あまりに唐突な質問に、箸の先から鰤が落ちた。ていうか、やっぱり俺以外の奴にも言われてたのか。
「どうも中学の時から、顔に関して良いイメージが無いみたいでな。その時の友達に『お前に表情があったことが中学生活最大の驚きだ』と声を揃えて言われた」
88ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/19(土) 00:29:00 ID:3FWUBR36
「そりゃそうだ。お前、鉄面皮とか言われなかった?」
「言われた言われた。鉄面皮の他にも鉄仮面とか冷血野郎とかカラッゾ・ロナとか散々に言われたな」
 誰だ最後の。
「お前も碌な中学生活送って無いじゃん」
「ま、否定はしないけどよ」
 そんな事を言いながら、俺達は飯を食っていた。やがて、俺よりも先に日替わりランチを食い終わった夏目が、ポケットから何かを取り出して目を通し始めた。文庫本である。
「食堂で本読むなよ」
「大丈夫、こっちは私物だから汚しても問題ない」
 そういう問題じゃねえだろ。
(・・・もしかして、こいつが変わってるって思われてたのって、表情の他にもこういう事を平然とやる奴だったからじゃ・・・)
 などと、割と深い事を考えていた俺だったのだが。

「みーさーとーくーんっ!!」

 後方から聞こえてきた甲高い声に、一瞬だけ、不覚にも硬直した。が、後はもう慣れたもので、椅子に座ったまま腹筋の辺りに力を入れ、衝撃に備える。
(ああそういえばそうだよ、俺の近くにも周囲を省みない馬鹿が一人居たんだよちくしょー・・・)
 直後、どーん、とかいう擬音と共に、由香里が俺にボディアタックをかまして来た。
「弥里君っ!これはどういう事!?弥里君に彼氏が居たなんて私一言も聞いてないよ!?」
「由香里、周りの視線が痛いからもうちょっと声のトーン下げような・・・」
 抱き付いて来た洗濯板をべりっと引き剥がしてから隣の椅子に座らせる。洗濯物の気分を味わった俺は、再び日替わりランチの皿に箸を運ぶ。
「何落ち着いてんのよー!弥里君ってば一足先に彼氏持ちになったからって余裕ぶってー!」
「由香里、取り敢えず尚子を張り倒して来い。話はそれからだ」
「おーい、出来れば静かにして欲しいんだが」
89ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/19(土) 00:29:27 ID:3FWUBR36
 流石に騒音に耐えかねたらしく、夏目がこっちに視線を向ける。
「すまん夏目。こいつも実はもうちょっと大人しいんだが、腹が減って気が立ってるんだろ。ほれ、由香里。どうどう」
「私馬扱いっ!?っていうか夏目君とご飯食べてるって事はやっぱり本当に付き合ってるの!?」
「だからまずは尚子を張り倒して来い。たぶんあいつが全ての元凶だから」

 で、場面変わって。俺達は図書館にいた。由香里が大騒ぎしたせいで食堂の料理長が厨房から飛び出してきて、騒ぐ奴ぁ出て行け、と締め出されたのである。
「だからってなんで図書館なのよう」
「黙れまな板。お前が騒いだから俺と夏目まで追い出されただろうが」
 ぶつくさと言う由香里を小突いてから、俺は適当な椅子に腰掛ける。夏目も俺と由香里の向かいに腰掛け、さっきの文庫本を読んでいた。
「・・・お前はさっきから何読んでんだよ」
「剣客商売だ、面白いぞ。弥里も読むか?」
「・・・いい。真面目な本キライ」
 俺はそう言って、新装版と書かれた表紙から目を逸らすのだが・・・
「夏目君もそれ読んでるの!?」
・・・おや?
「も、って事は・・・赤倉、お前もか!?」
 夏目が言うと由香里は、持って来ていた自分の鞄から文庫本を取り出す。巻数は違うが、どちらも池波正太郎の名が入っていた。
「感激だ。こんな近くに同じ本を読む人間が居たとは」
「私も私もー!弥里君ってばこういうの読むとすぐ寝ちゃうからお話できないんだよー」
「なに、それはけしからんな。池波正太郎だけが気に入らないというのなら好みの違いでまだ許せるが文学が嫌いとなるとこの図書委員長が黙っちゃいねえぞ」
「そーそー、弥里君も少しは漫画以外の本も読みなよ。受験でも国語はあるんだよ?今のうちに読んで置かないと人生で損するよ?」
・・・えーっと、何だ、この流れ。
「まあ待て赤倉。別に池波から入らせなくても、ここには素晴らしき文学作品が溢れている」
「そうだねー。まずは最近の作品から入ってみようか。中也なんか良いんじゃない?」
「『よごれっちまった悲しみに』か。たしか新しい文庫本があったはずだな。探してくる。赤倉はここで弥里が逃げないように見張っててくれ」
「イエッサ!」
 言うが早いか、鉄面皮の図書委員長は本棚の森へと駆け足で突っ込み、親友にはガッチリと両肩をホールドされた。
・・・あれ?もう一回言うけど、なんだ、この流れ?
90ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/19(土) 00:31:13 ID:3FWUBR36
今回は以上です。さあ、隠れ文学オタク二人組の波状攻撃に、弥里の精神はもつのでしょうか!?(笑)
では、失礼します。
91名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 01:05:21 ID:NoNZ22Q4
良いぞ、もっとやれwww
続きwktk
92名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 01:20:22 ID:RJMnWboh
急に意気投合しやがったwwwww
93名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 10:34:50 ID:pOF6U0Sb
GJ
9463:2009/09/20(日) 22:53:12 ID:X/+cUIMT
こんばんは。第4話投下します。
95ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/20(日) 22:54:07 ID:X/+cUIMT
 夢を見た。どこか分からない場所、時間の概念すら危うい、脆く儚げな夢の世界。
(・・・これは)
 時たま見るあの悪夢かと思った。できれば忘れてしまいたかった、『私』が男になろうと決めるきっかけになった事件。
(やめてくれ・・・『私』はもう、あんな事は思い出したくも無い・・・!)
 いくら願っても、夢から醒める事は出来ない。『私』は諦め、せめてもの抵抗に、目を瞑る。けれど、視界は明るいままだった。
・・・『私』は、過去から目を背けることさえ、許されないというのか。
(やめろ・・・やめろ!・・・嫌、もうやめて・・・!)
 叫びながら、訪れるであろう光景に備える。本当は、そんな事に意味が無い事は分かっていた。これまでだって、いくら叫んでも、夢の中の『私』は耳を塞ぐ事すら出来なかった。
 今度こそ諦め、『私』は悪夢を待った。


 ただ、今日は違った。

96ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/20(日) 22:54:36 ID:X/+cUIMT
『いやはや、これは美味い』
・・・目の前で、国語の教科書で見かけた軍医が飯を食っていた。茶碗に盛った米の上に饅頭を乗っけて、そこに緑茶をかけて茶漬けにしている。
『甘いものがあるのと無いのでは世界の輝きに違いが出ますな』
 その隣では、黒猫から見た人間の話で有名な教師がビスケットをぼりぼりと食っている。
『ううむ・・・やはり食い物は消毒してこそ食える』
 さらに少し離れた所では、食物嫌悪から来る病的な潔癖症で有名な作家がこのクソ暑いのに鍋をつついていた。煮沸した物じゃないと食えなかったらしい。
(えーっと・・・そういえば昼間、あの二人に散々教えられたっけな・・・饅頭茶漬けは森鴎外で、ビスケットは夏目漱石で、潔癖症が泉鏡花だったな・・・うん、合ってる)
 ぼんやりと考える『私』だが、そろそろ自分の頭が麻痺している事に気付いた。

・・・もう良い。何だこのカオスな空間は。

 取り敢えず逃げようと思って後ろを向くが、すると帽子を被ったダダイスト詩人がべろんべろんに酔っ払って奇声を発していた。あー、昼間にこの人の詩集読んだなあ。
 更に向きを変えると、今度は女性が立っている。この人の詩も国語の教科書にはよく出てくる。反戦と弟の無事を願う詩は『私』もちょっと涙腺が潤んだ。
・・・が、何故にほうれん草の胡麻和えを持って詰め寄ってくる。やめろ。寄るな。こっち来んな。
『おー、気味の悪いこと、まるで青がえるのはらわたのようですね。切り方が長すぎるのです』
「うおああああああっ!」



97ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/20(日) 22:55:16 ID:X/+cUIMT
―――ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピ・・・
「・・・・・・はっ!?」
 混乱がピークに達したところで、目覚まし時計の音に意識を引き上げられる。慌てて周りを見渡すが、酔っ払った中原中也も、嫁いびりに精を出す与謝野晶子も居ない。
「ゆ、夢か・・・」
 鼻梁に浮かんだ汗を手で拭い、俺は枕元の文庫本に視線を巡らせる。夏目と由香里に「まずは作家の食生活から見て親しみを覚えよう」と押し付けられた本だ。
「・・・二度と読まねえぞ、くそぅ」
 『文人悪食』と書かれた表紙をそっと裏返し、俺は静かな決意を固めた。今日ほど、目覚まし時計の存在に感謝した日は無かった。
・・・ああ、本っ当に怖かった・・・

 着替えを済ませて一階に降りると、俺より三つ年上の美月(みづき)姉さんが朝食を作っていた。
「あら、お早う。今日は随分早起きね」
「うん・・・ちょっと、変な夢見た・・・」
 ぐったりとした俺を見て、姉さんが苦笑する。それから姉さんは、香ばしい匂いのするベーコンエッグと、瑞々しい御浸しをテーブルに並べる。
・・・あれ、これは。
「姉さん、これ・・・」
「ほうれん草の胡麻和えよ。職場の友達に美味しいって聞いて作ってみたの」
 冷や汗を流す俺に気付かず、姉さんは楽しげに言う。
「お姉ちゃん今日は時間あるから、お弁当詰めてあげるわ。残しちゃ駄目よ?」
「う、うん」
 忙しい中で弁当を作ってくれる姉さんには心底申し訳無いが、これは由香里か夏目に押し付けるとしよう。俺は心中で決断した。
98ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/20(日) 22:56:33 ID:X/+cUIMT
 それから俺は姉さんと共に家を出る。我が家に両親は居ない。俺がまだ小さい頃、事故で亡くなった。俺の男性恐怖症が原因で親戚の世話になる事も出来ず、俺達はずっと二人で暮らしている。
 当時まだ小学生だった俺を養う為、姉さんは高校を辞めて働き始めた。俺も卒業したらそうなるのだろう。ただでさえ姉さんの負担は大きいのに俺だけ大学に進むなんて出来ない。
 まだ由香里には言っていない。というか、誰にも話していない。俺が高校に通っているのも、殆ど就職の為だけだ。本当は中学を出た時点で働きたかったが、姉さんに叱られたのである。
『甘ったれるんじゃありません』
 まあ、いきなりデコピンされてそう言われた時は流石に頭に血が上ったが。
『私の時と違って、今じゃ中卒なんてどこでも雇ってくれやしないわよ。本当に私に心配かけたくないんだったら、ちゃんと高校は出ておきなさい』
 正座させられて真面目な顔でそんな事を言われたものだから、俺としても何も言えなかった。そうして俺は、周りのみんなの進路希望を聞き流しながら、日々を過ごしていた。

 欠伸を噛み殺しながら歩いていくと、学校が見えてくる十字路で、由香里を見つける。が、今日はそれだけじゃなかった。
「夏目?」
「うっす」
 いつも通りの無表情だが、普段よりも目が微妙に細くなっている辺り、やはりこいつも眠いのだろう。
「さっき弥里君のこと待ってたら夏目君も来てね。どうせだから三人で行こうって思って」
 さっさと学校に向かおうとした夏目を、由香里がとっ捕まえたらしい。傍迷惑な友人である。
「そうだ、これ」
 鞄の中の本の存在を思い出し、今朝まで枕元に置いていた文庫本を夏目に手渡す。文人悪食が、やっと俺の手を離れた。
「おう。どうだった?俺は漱石と鴎外の甘党エピソードなんかウケたが」
「・・・すまん、出来ればそれだけは、二度と読みたくない」
 俺が苦虫を噛み潰した表情で言うと、由香里は意味不明、という顔をして、夏目は無表情のまま、二人揃って首を傾げていた・・・いや、説明するのは恥ずかしいから、うん。
99ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/09/20(日) 22:57:21 ID:X/+cUIMT
 登校の道のりでも、二人の会話は止まらなかった。電車やバスの中で隣に外人の集団が立っていたらこんな気分だろうか。いや、その方がまだ良い。
 横から聞こえてくる内容は、間違いなく日本語のはずなんだけど、俺には全く意味が分からなかった。
「・・・いやいやちょっと待て。乱歩の作品の魅力は全体的な精神分野に限るエロさにだな」
「えー?猟奇は猟奇で見てたからそういう所は私気付かなかったけど」
 隣を歩いているこっちにとってはこの二人の方がよっぽど猟奇的である。主に俺の脳へのダメージ的な意味で。
「あ、あのさ二人とも」
 特に用事が有った訳でもないのだが、これ以上文学談義を隣で炸裂されては堪らないので口を挟む。
「ん、ちょっと待ってくれ弥里。赤倉、そうは言うが乱歩は実は非常に常識的な生活を送っていたんだぞ」
「うそ!?私が読んだ本では男色趣味を公言して憚らないって。馴染みのゲイバーもあったし」
「でもちゃんと奥さん居るじゃん。一説によると奥さんに頭が上がらなかったと言う話だ」
・・・もう、どうにでもなれ。朝からこんな調子では、今日俺は一体何を読まされるのかと思い、俺は二人から少しだけ距離を取った。
「あ、そうだ弥里。お前に用事があったんだ」
 声を掛けられ、少しばかり驚く。まるで自分が空気になったような気分がしていたからな。
「さっき赤倉とも話したてんだけど・・・ってこら距離をとるな。話してたっつっても文学談義じゃないから」
「・・・本当か?」
「本当だからこっち戻れ。話しづらい」
 よかった・・・これ以上乱歩の話なんて聞かされたら俺の脳みそが猟奇な事になる所だった。
「昨日お前に中也の詩ぃ読ませた時に思ったんだけどさ、弥里ってもしかして、漢字が苦手だったりするか?」
 ぎくり。
「もしそうだったら、これから図書館で勉強会とかやろうかと思ってな。どうだ?」
「あ、えっと」
 咄嗟に返事が出来なかった。正直、就職に漢字は必要無いと思っていたからさほど気が乗らないんだ。
「昨日の話じゃないけどよ、やっぱり受験には必要だろう」
 夏目が言った言葉に、ずき、と胸が痛む。
(・・・そうだよな。こいつらには、俺が就職希望だって話してないもんな)
 別に言う必要は無いと思ったんだ。たぶん、就職しても、同じ町に居りゃどこかでばったり会うだろうと思っていたから。
 それに、そんな事をする時間があるなら、俺は少しでも家に居て、姉さんの負担を減らしたかった。
「弥里?」
「弥里君?」
 俺が無言なのが気になったのだろう。夏目と由香里が足を止めて俺を見る。俺は、断るべきだと思ったが・・・
「・・・わかった。俺も参加する」
 それでも、そんな風に答えてしまったのは、人と一緒に居るのが心地よいと、俺が気付いているからなのだろう。そこに、由香里や夏目が含まれているのかは、まだ分からないけれど。

 少なくとも、今日の朝。頻繁に見ていた悪夢が、意味の分からない馬鹿な夢にいつの間にか摩り替わっていたのはこいつらのおかげなんだろうと思った。
10063:2009/09/20(日) 23:00:21 ID:X/+cUIMT
今回は以上です。うん、まあ、ふざけ過ぎました。最初の方滅茶苦茶だけど、できれば読んであげて。

因みに文中で出て来た『文人悪食』は新潮社から実際に出版されてます。面白いので時間と興味のある方は是非。
では、失礼します。
101名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 19:32:12 ID:4a79fuYq
>>100
GJ
こんなスレで『文人悪食』に会うとは思わなんだww
102名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 15:42:33 ID:cCOi+phY
>>100
超GJ
103名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 19:55:50 ID:fOHjEV+Q
保守
104名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 12:57:04 ID:ng8kVNZV
105名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 19:43:56 ID:IK4jEnyn
保守
106名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 23:25:04 ID:MVW9BmZ5
亀なうえ、流れ者ですがGJ
面白かったです
文学コンビ、仲良いなぁw
10763:2009/11/11(水) 23:46:28 ID:nVPIfKZT
規制解けたんで、第五話の投下行きます。
108ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/11/11(水) 23:47:08 ID:nVPIfKZT
 放課後になって、俺達は図書室に集まった。広い室内の一角に教科書とノートを広げ、勉強会が始まった。都合よく、俺達はそれぞれ得意教科が違ったので、教科と指導役を三十分おきに変えて取り組む事にした。
 で、今は歴史の教科書を読んで、それの関連問題を解いていたのだが・・・
「『鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす』はい弥里君、これは誰の台詞でしょう」
「えーっと徳川家康!」
「弥里、小学校からやり直して来た方が良いと思うぞ」
 正解は織田信長だった。あぅ。

 少なくとも文系科目の時間内は俺の天下は無いと覚悟しては居たのだが、ここまでフルボッコになるとは思わなかった。さっきから夏目と由香里の出題に俺が答えているが手も足も出ない。
「・・・なあ、マジでやばくないか?弥里よ。言っちゃなんだが、ここまで清々しいほどに誤答だらけの答案を、俺は初めて見たぞ」
 数分前に俺が解いた日本史と古文の問題集を見ながら、夏目が言う。勉強会は始まってから三十分ほどで、『白木弥里の文系科目嫌いを克服しようの会』になっていた。何このずっと俺のターン。
「ううう・・・理系なら、理系科目なら俺の天下なのに・・・!」
「にしたって極端すぎるだろ。鴎外を見習え。医者やりつつ作家としても優秀だったんだぞ」
「たまに思うけど、弥里君って何でこの学校受かったの・・・?」
 ナイフのように鋭い夏目の突っ込みと、由香里から送られてくる心底悲痛な視線が、とても痛かった・・・
109ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/11/11(水) 23:48:20 ID:nVPIfKZT
「・・・少し、休憩すっか」
 夏目の提案に、俺は一気に机に崩れ落ちる。
「はぁぁぁ・・・おわっだぁぁぁぁぁ・・・」
「み、弥里君が腐りかけてる・・・」
「ここまで限りなくゾンビに近付いた人間は初めて見るな・・・」
 うるせーやい。人をモンスターみたいに言ってんじゃねえよ文学オタク組。
「ふむ、飲み物でも買ってくるか。二人とも、何が良い?」
「オレンジジュース・・・」
「あたしミルクココアー」
 俺と由香里のリクエストに、夏目が自分の財布を持って席を立つ。って、自分の財布?
「お、おい。奢らせちゃ悪いって」
「いーからいーから。俺としても死人に鞭打つ真似はどうかと思うし」
 慌てて自分の鞄から財布を取り出す俺だったが、夏目は俺をやんわりと手で制すると、淡々と気前よく言う・・・だから、人を死人扱いすんなってーのに。
「お前は少し休んどけ。残り三十分はレベル上げるぞ」
「うぐっ」
 どこか楽しげに死刑宣告されて、俺は言葉を詰まらせてしまう。結局俺は、その姿が廊下へ消えるのを見送っただけだった。

 夏目が出て行くと、俺は再び、酷使した脳細胞に休息を取らせる為に机に突っ伏して目を閉じる。
・・・なんか、ここ最近は変化に富んだ日々だ。いきなり夏目に友達宣言されて。いきなり夏目と由香里が意気投合して。で、今日はいきなり勉強会に参加する事になって。
(・・・小学校中学校では、こんな事無かったんだけどなぁ)
 自分で言うのも何だが、俺は友達が少なかったんだ。特に、一人の男友達とここまで親交が深くなるとは思ってもみなかった。そもそも小学校ではさほど友達も出来なかっ・・・
110ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/11/11(水) 23:48:54 ID:nVPIfKZT
「ほらほら弥里君、いつまでも腐ってないの。寝ちゃうと頭の働き鈍っちゃうんだからー」
・・・否。いた、ここに。小学校以来の友人が。
「由香里よぅ。腐れ縁に免じて見逃してくれ」
「やだ」
「・・・即答か」
「んー、だって弥里君、このままじゃ本当にやばいじゃん。幾ら理系科目は良くったって、文系科目は必修だよ?そもそも単位足りてる?」
 くっ・・・見た目軽そうに見えてデキる奴ぁこれだから・・・っ
「んじゃ、うちのお母さんに頼んで、今日はうちでご飯食べるっていうご褒美ならどう?もちろん美月さんも」
「がんばります」
 即答した。いや、これには訳がある。
 由香里の家では、駅前の大通りで小さなレストランを経営している。安くて美味いので地元ではなかなか評判の店なのだ。俺は小さい頃から友達のよしみで、よく賄い飯の世話になっている。
・・・あの、ピリッと辛くそれでいてさっぱりとしたチキンソテーの魔力ときたら、もう。
 ま、それはさておき。ただでさえ家計の苦しい我が家にとってはかなり嬉しいご褒美である。お前が食いたいだけだろ、と言われたら否定はしないが、多分姉さんも喜ぶだろう。
「ご飯がどうしたってー?」
 間延びした声で言いながら、手にジュースを持った夏目が現れた。俺達はそれぞれジュースを受け取ると、さっきの話をそのまま話してみる。
「えっとね、今日残りの三十分頑張ったら、うちで晩御飯ご馳走しようと思って」
「ふーん、良いなあ。赤倉の家って、駅前のレストランだったか?美味いって評判だよな」
 意外な事に、夏目は食い付いて来た。いつものこいつなら、ふーん、で終了かと思ったんだが。それは由香里も考えたようで、俺達は揃って夏目に聞いてみる。
「夏目、もしかして来たいのか?」
「良かったら、夏目君も来る?」
「ん、良いのか?」
 疑問符のコンボが見事に決まった。
111ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/11/11(水) 23:49:48 ID:nVPIfKZT
「夏目君だったら大歓迎だよー。うちのお店、木曜日はあまり賑わわないから賄いのお客さんが増えても大丈夫だし」
「んー・・・じゃ、お邪魔するか」
 そんな事を話しつつ、残りの三十分は、割と早めに過ぎた。・・・うん、ここまでは特に何の問題も無く話が進んだんだが、な。問題は、下校時刻になって、帰ろうという時に起きた。
「でもさー。急に誘っちゃって、夏目君大丈夫?お家の人とか心配しないの?」
「・・・・・・」
 由香里は、誘った身としての配慮からそう言ったんだろうけど、夏目は反応しなかった。黙り込んでしまった夏目を不審に思った俺と由香里は、思わず奴の顔を覗き込み・・・
「・・・そういや、話して無かったか。俺、家族いなくて今は一人暮らし」
『え』
 思わぬ不意打ちに、完全に硬直した。
「何年か前に、交通事故でぽっくりとな。俺だけ留守番してたもんだから助かったんだよ」
 それだけ言うと夏目は、先程まで机に広げていた参考書を鞄にしまい始めた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・き、気まずい。気まず過ぎる・・・!誰か何とかしてくれ、俺はこの空気の中に居たくない!
「あ、わ、私、家に連絡して準備しててもらうね!?」
 がたっ、と立ち上がった由香里が。入り口に向けてばたばたと走り始め。がらぴしゃん、と廊下の奥へ消えたのは、それから僅か二秒後の事だった。
(・・・先越されたっ!?あんっのまな板あああああっ!!)
 心の中で親友を呪う俺。おのれ、今日の夕ご飯は奴の分まで取り上げて食ってやる。いや、ご飯だけではない、デザートもだ。
「・・・えと、ごめんな夏目。無神経な事聞いて」
「ん、気にしてねえ。それよかさっさと片付けようぜ」
 ひたすら気まずい空気の中、俺達は問題集を本棚へとしまい始める。窓から差し込んで放課後の図書室を照らす眩しい西日が、何故か今日は腹の底から鬱陶しかった。
112ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2009/11/11(水) 23:51:41 ID:nVPIfKZT
今回は以上です。
夏目の家族については後付けっぽいけど、一応最初っから考えていた設定っす。
では、また。
113名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 00:19:49 ID:iXJd7xV9
GJ
114名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 11:32:41 ID:yPuOkazL
続き期待wktk
115名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 23:59:46 ID:yXoaSYMw
GJ!
ゆっくり期待待ち
116名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 22:36:14 ID:kKiOnT9E
117名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 10:58:37 ID:o6uDSuzi
待ちほ
118名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 20:05:56 ID:G2xtuWjE
ほしゅ
119名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 11:23:01 ID:5RnvLLjl
保守
120名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 02:34:13 ID:U0rlwkAk
保守ばっかりね
12163:2010/01/01(金) 17:42:53 ID:MbMXlwyX
すまん、もうちょっと待ってくれ・・・てか俺以外に書いてる人居ないのか・・・
122名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 18:55:24 ID:dTOJ9Bsy
>>121
気長に待っとる。今年もよろしく。
123名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 23:34:58 ID:oWfCTKAn
カラッゾ・ロナに吹いた
124名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 17:12:48 ID:i8Uo3n4J
あけおめ
125名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 00:05:11 ID:ulvESIv7
ことよろ
126名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 23:21:01 ID:XAwc/Oft
諦めません勝つまでは
127名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 17:27:28 ID:e9/iLHnU
ロンリィまだかな……
128名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 20:40:08 ID:QhdMOqAv
とにかく待つべし。そして守り抜くべし
129名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 12:39:31 ID:5DofMObE
オレっ子といえばCV.沢城みゆきというイメージ
130名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 23:17:26 ID:qRFetBlv
立ちションする女の子に似合う一人称は?
131名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 06:54:51 ID:jLJbo1Ki
ワシ
132名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 23:19:07 ID:hJaxr+x3
ワラワ
133名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 03:07:56 ID:bR6q66Yv
ワガハイ
134名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 03:13:38 ID:qtH8AOwo
おいら
135名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 05:56:06 ID:0akdI9+W
小生(しょうせい)っ娘は? 
136名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 13:37:25 ID:666sDkbs
137名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 03:37:21 ID:Qo1XFztU
>>136
朕子と申すか
138名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 04:35:54 ID:D3ycy1xR
男勝りならスポーツやってないとな
個人的に卓球がいいな
139名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 20:57:47 ID:el/w+CKS
オレ的にゃサッカーが良さげ。
14063:2010/02/28(日) 02:33:59 ID:c9LUE6q3
お久しぶりですこんばんは。なんかもう遅筆過ぎて焼き土下座するしかないかなーとか軽く思ってる63です。
いや、前回すんげー中途半端且つ気まずいシーンで終わってしまった為に、なかなか納得の行く書き出しが書けずにいます。まあ自業自得ですが。
そんな訳で、出来れば三月に入ったら再開しますんで、それまでお待ち下さい。
では、今日は失礼します。


追伸:休日出勤なんて単語は絶滅すれば良いと思う。
141名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 08:47:55 ID:pLbsY5Ks
お仕事頑張ってね
142名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 08:03:52 ID:hmaxv143
書いてくれるだけでもありがたいので、まったり待ってます
国民休日?俺は仕事だよ!(バババ
143名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 14:53:47 ID:F70ocveh
ほしゅっとくぜ
144名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 21:36:14 ID:LUN4O21I
ほしゅっとこう
14563:2010/03/23(火) 01:00:42 ID:06u297As
お久しぶりですごめんなさいまだ書けてませんorz
繋ぎとしてちょいとした小話を


 そいつと出会ったのは、小学校五年生の時。
『あっははは!お前、よっえーなー!』
 二歳年下のガキに、剣道の試合でコテンパンにノされた。
『くっそー・・・こんなガキに・・・』
『そのガキに負けたのはお前だろ?』
『うるっせえ!』
 生まれて初めて年下に負けたのがショックで、しばらく道場を休んだ。
『なー。お前今日も稽古休むのかー?』
 なのにそいつは三日と空けずに遊びに来た。そんで、結局俺は道場に再び行こうと思った。あいつにも迷惑かけたし、ちゃんと謝ろうと思って。その、次の日。
『よーっす!』
『なんだ、お前か・・・って、え!?』
 俺はびっくりした。
『ん?俺の顔になんか付いてる?』
『・・・いや、ランドセル・・・』
 指差した先にあったランドセルは、赤かった。
『あー、今日学校から直接来た。いちいち帰ってから行くの面倒だし・・・どうした?』
『・・・・・・女の子、だったの?』
 数秒の沈黙。そして。
『・・・てっめぇぇーーーーっ!俺のどこが男に見えんだあぁぁーーーーーーっ!!!』
 ぼっこぼこにされて、結局道場に行けたのは、次の日からでしたとさ。


以上、実体験を基に。因みにスポーツネタで思い出したけど中学の時の憧れの先輩は女子空手部のエースでした。
では、今度こそ続き書き終わってから来ます!
146名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 13:10:16 ID:qX2X6ghI
乙だが一つだけ言わせてくれ

ここはあんたの専用スレじゃない
ここまで書いたよ、とかまだ書けてない、とか日記まがいの書き込みしたいならブログでもやってろ
147名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 23:42:22 ID:di5YzgTJ

「…うあ…あ…」

結の低い呻きはやっぱり男の子じみていて、僕はやっぱり普通のセックスが良かったなあ、と思った。しかし陸上競技で鍛えた結の大臀筋及び括約筋は、容赦なく僕のペニスを締め上げる。

「…オ、オレのケツ、気持ちいいか?」

女子高生が四つん這いで『オレのケツ』もないもんだ。とにかく早くセックスしたかった童貞僕と、体育会系BL大好き結の妥協点。僕たちはいささかロマンのない腸洗浄の後、西日射す彼女の部屋で結ばれた。

「…うん…」

ぬらぬらと結の肛門を出入りする自分の一物を眺めながら、僕は気弱げに呟く。ヘソを曲げられて行為を拒否されては元も子もないからだが、やはり逞しい彼女の背中を見ていると…男の子の尻を犯しているとしか思えない。

「…な、前に挿れちゃ駄目?」
「…駄目。アソコ…は恥ずかしい」

尻穴剥き出しで吠えながら何が恥ずかしいのか知らないが、とにかく膣挿入は厳禁。結のわがまま通りひたすら狭い肛門を突く。そのたび彼女が洩らす喘ぎからして、充分うしろで感じているらしい。

「ん…」

日灼けした結の背中にのしかかって、うっすら汗ばんだショートの襟足を舐める。やっぱり、甘い女の子の香りだ。片手で揉みしだく乳房も、柔らかく熱を帯びて掌に吸い付いてくる。

「…結、おまえ…繋がる男同士の肉体…とか、嫌な妄想してるだろ?」
「んあ…あ…」

這い降りた僕の指先は腹筋と薄い毛を超えて、小さい金魚のように滑る肉に触れた。ぬるりと開いた襞を撫でると、僕を呑み込んだ尻穴がグイグイとまた締まる。
『男の子として愛されたい』という、僕には理解出来ない結の欲求。でもまあ、彼女が愛しているのは僕だけ、という事はしっかり理解している。
…もしも彼女が本当に男だったら…そう想像すると少し目眩いがしたが、それでもやっぱり可愛くて仕方がない結の首筋に、僕はもう一度深々と顔を埋めた。

保守終わり

148名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 02:56:38 ID:0EnMM7gT


>>146
それはちょっと心無いな。
気持ちは分かるが、数少ない、というか一人しかいない書き手だ。
もうちょっと目を瞑ってあげよ。
もっとひどいスレも、あるんだからさ……

ところで「わし」とか「じゃ」とか田舎の年寄り言葉の子、ぐっと来ないかい?もちろん男勝りで。
149名無しさん@ピンキー:2010/04/05(月) 12:23:09 ID:A6VVqfIk
うぉっ見ない間に更新来てた!
帰ったら読ませていただきます



わしは「俺っ娘」を押すけんのぉ
150名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 16:02:43 ID:lsMexefl
保守
151名無しさん@ピンキー:2010/04/30(金) 13:55:43 ID:dtecxeqZ
保守
152名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 22:44:57 ID:8A5NZyko
保守上げ
15363:2010/05/15(土) 22:51:20 ID:ZmBDsU64
こんばんは。遅くなって済まない皆さん。
ロンリィ第6話投下します。

>>146
確かに生存報告にしてはいらない事書き過ぎたな・・・申し訳無い、以後気をつける。
154ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/05/15(土) 22:52:22 ID:ZmBDsU64
 相変わらず俺達は二人並んで本を片付けている。気まずい。本っ気で気まずい。いやもうほんとダレカタスケテ。
「弥里」
「ひゃい!?」
 いきなり声を掛けられて派手に噛んだ。何かと思い振り向くと、夏目がこちらを見て怪訝そうな表情を浮かべていた。
「な、なに」
「いや、その本はこっちだ」
 言われて、俺は手元を見る。国語の本の棚に歴史の参考書を捻じ込もうとしている馬鹿女が一人。要するに俺。
「あ、ご、ごめん」
「・・・気にすんなって言ってんだけどなぁ」
 夏目が苦笑しながら言う。つっても、あんなヘヴィな話をされて気にするなと言う方が無茶だろ。俺はそこまで神経図太いつもりは無い。
「あんな話されたら、誰だって気にするだろ・・・」
「俺はさほど気にしないと思うが」
 確かにこいつなら気にしなさそう・・・つーか、気にしてても顔に出ないからわかんねえんだろうな。
「けどよ・・・」
「だー、お前といい赤倉といい何そんな腫れ物触るみたいな扱いするんだよ」
「なんでって・・・」
 一瞬だけ、俺の家庭の事をこいつに教えてしまおうかとも思う。が、それよりも早く。
「ともかく、この話は終いだ。これ以上突っ込まれても答えんからな、俺は」
 夏目が面倒くさそうに言って、締めくくった。

155ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/05/15(土) 22:52:57 ID:ZmBDsU64
「あっ、遅かったね二人ともげきゅっ!?」
「よーし、行こうぜ夏目」
 人を見捨てておいて能天気にほざく洗濯板の顔面に渾身のアイアンクローを喰らわしてから俺はさらっと言った。
「・・・なあ弥里。今、赤倉の頭蓋骨から凄い不吉な音がしたような気がするんだが・・・」
「空耳だろ」
「ううう・・・お嫁に行けなくなったらどうしてくれんのよぅ・・・」
 俺が先頭に立ち、心配そうに由香里を見遣る夏目が続き、恨めしげに俺を睨む由香里が後を追う形になった。あー、早く着かないかなー。

 何分か歩いて、駅前の小さな料理店が見えてくる。赤倉屋、と何の捻りもないネーミングの店名が記された看板の前を通り、俺達三人は店の中へと入って行った。
「ただーいまー」
「お邪魔しまーす」
 由香里と俺がそれぞれに言いながら、店の奥へと入っていく。
「あ、由香里お帰りー。弥里ちゃんもいらっしゃい」
 店に入ると、穏やかな雰囲気の女性が俺達を出迎えてくれた。由香里の母の由里恵(ゆりえ)小母さんだ。小母さんは俺と由香里を見てにこやかに微笑むと、次に夏目を見た。
「・・・こちらは?」
「クラスメイトの夏目です」
 俺が代わりに紹介すると、夏目は小母さんに向かってぺこりと頭を下げた。
「夏目恭介です。はじめまして」
 簡潔にそれだけ言った夏目。すると小母さんは何やらびっくりしたような表情を浮かべると。
「あらあらあら。まあまあまあ。うちの娘が遂に彼氏連れてきたわ」
「ちょっとお母さんっ!?初対面の人に洒落にならないジョーク飛ばさないでよっ!!」
「あら、違ったの?」
「友達もう一人連れてくって電話したじゃんっ、もうっ!」
 本気で驚いている小母さんと、性質の悪い冗談に憤慨する由香里。俺達はそうやってふざけながら、ひとまず席に着いた。
156ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/05/15(土) 22:53:22 ID:ZmBDsU64
「ったくもう、お母さんは・・・」
「まあ落ち着けよ。小母さんも心配なんだろ、お前があんまりにも浮いた話が無いもんだから。うちのクラスじゃ『由香里はレズかも』なんて言ってる馬鹿もいるし」
「それ私じゃなくて弥里君の一人称のせいじゃん!夏目君も少しは否定してよ!」
「赤倉、そこまで言われると流石に俺でも傷つくぞ・・・」
 心底憤慨する由香里と、男として少しショックを受けている夏目を宥めて、俺はテーブルに付いた。そのまま、料理が出てくるまでの間に雑談が再び始まった。
 話している内にまたも話題が文学談義にシフトしたのだが、俺の悲痛な視線による物言わぬ抗議によって今回のお題は素人にも優しい『ライトノベル』に。まあ結局俺にはチンプンカンプンだけど。
「・・・然るに最近のライトノベルは『萌え』が主体になり過ぎてる傾向があるな。あの、くさかんむりの字の方」
「あー、確かに・・・女としてはあーゆーの見てるとさ、『こんな女が現実に居て堪るかぁああっ!』って気分になるのよねー」
 由香里、そのラノベに出て来る女もお前には言われたくないと思う。お前、自分が一部の男子生徒から凄い人気者だって知らないだろ。合法ロリとか言われてるのも。
「中学の時は色々と無節操に買ってたんだけど、大体ラブコメに走り始めた辺りから真面目に読まなくなるんだよなぁ。続き気になるから立ち読みはしたけど、それで済ましてたし」
「・・・実は羨ましかっただけなんじゃねーの?ラブコメに走るまでのくだりが」
「弥里君それ禁句。浮いた話が一つもないのは弥里君もでしょーが」
 言葉の矢がぐさっと刺さる。ちくしょうこのまな板め。
157ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/05/15(土) 22:53:50 ID:ZmBDsU64
「はいはい、いい若者が小難しい話してんじゃないの。これでも食べて少しは明るい話題で盛り上がりなさい」
 トレーを持ってやってきた小母さんが、俺達のテーブルに湯気を立てる皿を置く。わお、今日の新作料理はラム肉の赤ワイン煮込みだ。おいしそー。
「さ、召し上がれ」
「いっただっきまーす!」
 言うが早いか、俺達は目の前の料理にフォークを伸ばした。ああ、美味しい・・・
「・・・しかし」
 ん、何やら夏目が俺を見ている。口元に付いてるとかそういうベタな展開だろうか。
「こないだの昼飯の時にも思ったんだが、弥里ってなんかこう・・・心底美味そうに飯食うよなぁ」
「あ、わかるわかるー!それで居て弥里君ってば全然太らないんだもん、ずるいよねー!」
「んぐ、なんでそうなるんだよ・・・ごくん」
 反論してから、口の中にあった肉を飲み込む。いかんな、今のはマナー違反だった。姉さんが居たら怒られてしまう。
「そっちのクラスの女子とか、弥里君みたいなスタイルになりたくて食生活真似たりしてるのに逆に太ったとか言ってるんだよ?」
「初耳もいいところだぞ、それ」
「私なんて運動しても全然スタイルよくならないってのにー・・・」
「馬鹿言え、ただでさえ寸胴なのにお前がそれ以上痩せたらゴボウになるってーの」
「あー!またさりげなく胸の事言われたー!」
「ほんと、この子ってばどうして胸周りだけお父さんに似ちゃったのかしらねー」
「お母さんまで言う!?お母さんの育て方も原因の一環でしょ!?」
 俺達が不毛な言い争いをしていると、小母さんまでもが乗ってきた。それにしてもこの親子ノリだけはそっくりである。因みに小母さんの方は胸はそれなりにある。
158ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/05/15(土) 22:54:20 ID:ZmBDsU64
 もう一つついでに言えば、毎日厨房でフライパンを振るっている小父さんの胸周りはと言うと、アスリートもかくやと言わんばかりのゴリマッチョである。料理って本当に重労働らしい。
「ところで・・・夏目君、だったかしら」
「はい?」
 話題が胸の事にシフトした事で、この場で唯一の男性な為に参加しづらかったのだろう。先ほどから無言で肉を食っていた夏目は、小母さんに声を掛けられて少々驚いたように顔を上げた。
「夏目君はどっちが好み?」
「は?」
・・・おい、ちょっと待て。このパターンはまさか。
「だーかーらー・・・由香里みたいに小さいのと弥里ちゃんみたいに大きいのと、どっちが良い?」
「・・・え゛?」
(何訊いてんだああああああっっっ!?)
 っていうか俺を引き合いに出すな!それ以前に俺と由香里へのセクハラだろーがああああっ!
「お、小母さん!?ちょ、何訊いて・・・」
「・・・あの、質問の意図が見えないのですが・・・」
「んー、単純にゴシップ好きによるものよ♪もしかしたら娘の彼氏に発展するかもしれない男の子の意見も聞いておきたくて」
「だからそのネタいつまで引き摺ってんのよお母さんっ!」
 大騒ぎする俺と由香里、フリーズする夏目には構わずに、小母さんは超絶楽しそうにのたまる。由香里も年食うとこんな風になるんだろうか。嫌だ、もしそうなったら二秒で殴り倒す自信がある。
「さあさあさあ、どっち?答えないと今日のご飯有料にしちゃうわよ?」
「あーもうっ!お母さんいい加減に・・・」
「やかましいわねぇ、大草原の小さな胸は黙ってなさい」
「なんだとぉーーーーっ!!貧乳はステータスだもん!希少価値だもん!!」
「あぁら、所詮は行動停止型のプライドね。『俺は俺だ、何を言われようと生き方を変えたりしねー』とか言ってるタイプの駄目人間ね」
「うぎーーーーっっっ!夏目君、まな板もいける人だよね!?っていうかまな板の方が興奮する人だよね!?」
 ってお前まで暴走すんなっ!俺一人で小母さんとお前に突っ込みいれるのは難しいから!
159ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/05/15(土) 22:55:20 ID:ZmBDsU64
「ちょ、ちょっと!由香里も落ち着けってば!」
「大丈夫!夏目君なら分かってくれるって信じてる!狭隘な価値観しか持たない男共と夏目君は違うって私には分かる!!」
「駄目だこいつ色々と手遅れだーーーっ!?」
 漫画風に言えば、本来眼球があるべき位置にぐるぐると渦巻きが描かれているとでも言うんだろうか。怒りに駆られた由香里の目は、既に正常な人間のそれから大分遠ざかっていた。
「さあ!」
「どっち!?」
「え・・・えー・・・っと」
 状況に頭が追い付いていないらしい夏目は、迫ってくる赤倉親子に明らかに気圧されている。こいつがここまで焦った表情を浮かべるのは初めて見た。
「・・・個人的にはその・・・さほど着眼はしていないと言いますか・・・女性の価値を胸で判断してはいませんので・・・」
「第三の選択肢を選んだ場合、無回答と見なします。いいから素直に答えなさい」
「・・・・・・・・・・大きい方っす」
 小母さんの悪魔の囁きに、夏目の抵抗力が白旗を上げた。関係ないけど、鬼の形相を浮かべた由香里に詰め寄られてるこの状況で自分の好みを素直に言えるこの男は強い人間だなぁと思った。
「あらあら、今回は弥里ちゃんの大勝利ねー」
「だ、だから小母さんその言い方はっ!」
「うわーーん!!夏目君の裏切り者ーーーっ!」
「え、悪いの俺か!?」
 カオスな食卓を囲んでいると、おろおろしている夏目と目が合う。すると、なんとなく気恥ずかしくなって互いに目を逸らしてしまった。


 そっか、夏目って胸大きいほうが好みなのか・・・って、何考えてんだ俺は。
160ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/05/15(土) 22:55:47 ID:ZmBDsU64
今回は以上です。では、失礼します。
161名無しさん@ピンキー:2010/05/16(日) 08:12:05 ID:41paNsZA
http://chibatetsuya.com/mt/x6v90du
久々に大口の相手だったので、頑張りすぎて腰が……

まぁ、結構いい額の謝礼もらったんで暫く寝て過ごします(笑)
162名無しさん@ピンキー:2010/05/16(日) 22:16:04 ID:KHL7Dbyw
GJGJ!!
通りすぎたけど面白かった、次まで待つわ
163名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 13:13:00 ID:nl/Jebwz
ちまたではワシっ子が流行っていないのじゃろうか?
164名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 13:30:45 ID:dtLB2+/q
広島弁ならアリ
165名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 23:35:25 ID:DV0emHWq
>>160
GJ!
相変わらずのどたばただなww
前回は弥里が置いてけぼりだったけど今回は夏目の番か。
なんだか三人、うまくローテーションしているような気もする。
続きが来るまでこのスレを落とさないようにしておく。ガンバ。

ワシっ子はええもんじゃい。
166名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 15:36:49 ID:Q1JJ5XWj
保守
167名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 17:16:31 ID:IETB1Vjy
保守
168名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 10:13:45 ID:dRJkh7sJ
新潟のおばあちゃんが俺と言っていた
169名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 11:30:41 ID:S1buSRun
170名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 01:59:26 ID:UAFf/WJ/
装甲悪鬼村正の光は一人称が「おれ」だな。
平仮名で「おれ」って、なんか可愛いよな。
171名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 07:41:06 ID:iAB4zuP/
刺々しさがなくなるな。平仮名の「おれ」
172名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 20:11:00 ID:3fHSrTQi
かふぇ☆おれ
173名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 01:01:57 ID:WWMCeoYi
保守

17463:2010/08/04(水) 00:35:20 ID:VZq5A82x
生存報告。なんとか生きてます。八月下旬までには投下再開するかと思われますのでどうかご容赦下さい。
175名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 18:42:20 ID:rpgDIH1s
生きている間はここも生きてるよ保守
176名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 01:46:53 ID:n/QYdrkB
彼女がオレっ娘なんだが
177名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 02:06:30 ID:i+fOFO3P
それは自慢か? 自慢なのか!?





大事にしろよ
178名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 05:20:02 ID:/cluUGYW
ボクっ子とかオレっ子って意外にいるよな
179名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 07:55:11 ID:LsyYChWa
少しつけ加えて
「オレっち」とかはどうだ
180名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 07:09:10 ID:P9TLdech
>>138を見たら何かできてた


カン、カツーン、コン、コツーン

「ところでさー、君ボクのことキライでしょー」

カン、カツーン、コン、コツーン

「でもさー、ボクは君のことさー」

カン、カツーン

「けっこー好きだよ」

コン……カコッ


「あっ!動揺した!どーよ!?」

「意味わかんねぇ。そもそもなんで卓球なんだよしかもラリー勝負……」

「あれぇ知らなかったの?ボク卓球部のぶちょーだもん。王子サーブだって打てちゃうよー16種類くらい。すごいだろー敬えー」

「知らん」

「む。つまりねーボクが本気を出して試合すれば、君なんか軽〜く瞬殺できちゃうレベルってことだよー。しゃもじで」

「しゃもじで!?……ってことはお前は俺に絶対に勝てる勝負を仕掛けて、尚且つ手を抜いてたってわけか」

「あったり前田のクラウザー様だろー。『勝負は何でもいい』って言ったのは君なんだからね。ほらほら武士に二言は無し死人に口無しだろー?」

「武士じゃねえし死んでねえよ!!」

「と、いうわけでありまして耐久ラリー勝負はボクの勝ち〜」


ヤツはわぁいと嬉しそうに勝利宣言をすると、いそいそとラケットをケースに仕舞いこんだ。
そしてくるりと俺の方を振り向くと、小憎たらしいことこの上ない表情でふっへっへと変な笑い声を出す。
本人は精一杯不敵に笑っているつもりなのだ。

それから、脱いでいた学ランを床から拾い上げこれ見よがしにゆっくりと肩に引っ掛けると

「じゃーね風紀委員長。何度言われようとボクはごめんだね、セーラー服なんてさ」

涼やかな声で捨て台詞と共に軽やかな足取りで卓球場から去っていった。

無念。
今日も俺は「彼女」に一杯食わされたらしい。

181名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 19:48:58 ID:Askswjh9
GJ!この娘絶対風紀委員長ラヴだ
しかも自覚無っぽい
18263:2010/08/19(木) 22:24:56 ID:61qrn5Rt
おお、しばらく来ないうちに良作が。GJです。シリーズ化されることを期待してます。
では自分も、ロンリィ第7話、投下行きます。
183ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/08/19(木) 22:26:17 ID:61qrn5Rt
 微妙に気まずい空気になってしまった俺とどこか疲れ気味の夏目、そしてさっきからこの世の全てを呪い殺さんばかりの暗いオーラを発している由香里は、その後もぐちぐちと話しながら食事を取った。
 やがて、皿の上のラム肉もそろそろ腹の中に消えるかな、という時に、俺はふと思い出した。
「そういえば、姉さん遅いな・・・」
 そう。姉さんがまだ来ない。いつもならこの時間は家に居る頃だし、学校からの帰り際に携帯電話に連絡も入れたから伝わってない筈は無いんだけど。
「美月さん?そういえば来ないね」
「美月さんって誰だ?」
 この場で一人、俺の姉の名前を知らない夏目が訊ねる。
「あ、夏目君は知らないっけ。弥里君のお姉さんだよ。白木美月さん」
「へぇ・・・・・・・・・・・・白木、美月?」
 頷き、間を置いてから夏目が訊ねて来る。姉さんの名前に何か心当たりでもあったんだろうか。
「どうした?もしかして知り合いだったとか」
「いや、ちょっと知り合いに名前が似てただけだ」
 そう言った夏目の表情は、いつも通りの硬い表情だった。考えてもみれば、俺とそこまで親しくなかったのに、年齢の違う姉さんとは知り合い、というのもおかしな話だった。


 暫く経って、俺達以外に客の居なくなった赤倉屋だったが、不意にからんころん、とドアベルが鳴った。
「お邪魔しまーす!ごめんね弥里、由香里ちゃんも・・・」
 そこに居たのは、スーツに身を包み、ハンドバッグを抱えた女性・・・美月姉さんだった。走ってきたのだろうか。息が荒く、顔も赤かった。
「姉さん、どうしたの?」
「やー、帰り支度してたら部長が書類失くしたって大騒ぎし始めてね・・・」
 姉さんの話によると、定時になってさあ帰ろうという時になって、姉さんの上司が叫び声を上げたそうだ。結局、皆で隅から隅まで室内を探し、コピー機の中に置きっぱなしにしていたのを誰かが見つけたそうだ。
 なんだ、それならそうと連絡してくれれば良かったのに。
「携帯どうしたの?電池切れてた?」
「ん、まあそんなトコ。それよりお腹空いちゃったー!」
184ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/08/19(木) 22:26:41 ID:61qrn5Rt
 姉さんが空腹を訴えると、タイミング良く小母さんが、俺達に出したのと同じようなプレートを持ってきた。メニューは違っていたが、どうやらそちらも新作料理らしい。
「んー、おいし♪・・・あ、そういえば・・・」
 やがて、俺達のテーブルに見慣れない人物が居る事に、ようやく気付いたらしい。姉さんは夏目を見てから、俺の方を向き直り。
「由香里ちゃんの彼氏?」

ガシャンっ!!

・・・小母さんと同じ事を言って、俺達三人を勢い良くテーブルに突っ伏させた。
「美月さんっ!」
「姉さんっ!」
「なんで弥里のお姉さんにまで言われるんだろうな・・・」
 大騒ぎする俺と由香里、そして何やら憔悴している夏目を見て、姉さんは悪びれもせずけらけらと笑う。どうして俺の周りの大人というのは皆こんなノリなんだろうか。
「あああ、マジでごめん夏目・・・姉さんには後できつく言っておくから」
「いや、気にすんな。そろそろ慣れて来た・・・」
「あら違ったの?」
 リアクションまで小母さんと同じだ。
「妹さんのクラスメイトの夏目です。初めまして」
 夏目が改めて自己紹介をする。すると姉さんもそれに応じた。
「弥里の姉の美月よ。宜しくね、夏目君」
「はぁ・・・ども」
 それから二人は軽く会釈をしあって、また食事に戻り始めた。
185ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/08/19(木) 22:27:26 ID:61qrn5Rt
 俺達の学校での様子、更に社会人一名の愚痴などと共に、あっという間に二時間近い時間が費やされた。由香里に本当に彼氏が居ないのかという話題でこっそり小父さんが聞き耳を立てていたのはご愛嬌だったり。
 そんなこんなで俺達は赤倉屋を辞して、それぞれ解散した。俺と姉さんは自宅の方向へ、夏目もまた一人暮らしのアパートへ。行きがけに夏目が、俺達を送ると言ってくれたのだが。
「大丈夫大丈夫、私こう見えても空手の有段者だから。因みに弥里にも負けたこと無いわよ?」
 姉さんの一言に、夏目は大人しく引き下がった・・・何やら気に入らないワードがあった気がするが、俺は敢えて気にしないことにした。

「いい子ね、さっきの夏目君って」
「まあ、悪い奴では無いよ。俺が学校で膝擦り剥いた時も、手当てしてくれようとしたし」
「あら〜?何よ弥里ったら、そんな漫画みたいなシチュエーション体験したの?」
「・・・いやまあ、うん・・・」
「ふふっ、羨ましいわねぇ」
 ・・・ううう、ごめんね姉さん・・・別にあいつとの出会いはそんな甘酸っぱいものじゃなくて、俺が男子二人と図書室で喧嘩して夏目が止めに入ったとかそんな殺伐とした感じなんです・・・!
 しかしそんな事を言えるはずも無く。気が付けば姉さんは夢見る乙女みたいな表情を浮かべている。これはあれだ。絶対にいろいろと漫画染みたことを考えている。例えば。


186ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/08/19(木) 22:27:54 ID:61qrn5Rt
―――保健室の一角に、奇妙な空気が流れていた。所謂、『ピンク色の空気』である。
『ほ、本当に大丈夫だから・・・』
『良いって。目の前で女の子が怪我してたんなら、助けるのが男ってモンだろ?』
 少年はそう言いながら、丸いすに腰掛けた少女の前に跪く。
『ほら、擦り剥いたところ見せて』
 絆創膏と包帯を手にして声を掛けてくる少年に、少女は恥ずかしげに、血の滲んだハイソックスをくるくると手繰り降ろしていく。
『んー・・・思ったよりも酷くは無いな』
『あ、あの・・・あんまり、見ないで・・・』
 頬を朱に染めた少女の懇願に、少年はようやく自分と少女の位置関係と、そこから見えるいろいろな物に気付いた。
『あ・・・ご、ごめん』
 言い訳するようにして少年は、目の前の傷口に視線を集中する。
『まだちょっと血が出てるかな』
 言って少年は、傷口に顔を近づけると。
『えっ、あの・・・』
 そこに唇を寄せ、流れていた真っ赤な血を吸い取った。


「―――なんて展開になってたり?」
「するかぁぁぁぁぁ!!!」
 何やら気持ち悪い声色とジェスチャーを織り交ぜて語って聞かせてきた姉さんに渾身のアッパーカットを放つが、あっさりかわされる。あのな姉さん、それもう、俺と夏目以外の人間だろう。明らかに。
「もったいないわねぇ、結構レベル高かったのに」
「だああっ!!姉さん給料入ってまた何か漫画買ったなっ!?何か悪い物読んだろ!?」
 そう。姉さんの隠れた趣味は少女漫画だったりする。いやまあ、女性が少女漫画を読むのは自然な事だし、そもそもそういうのに興味を持つ時期には俺のせいで働きに出てたから何も言えないんだけど。
 姉さんの『青春』の教科書が少女漫画だってのは分かるが、だからといって俺にそんな甘酸っぱい日常を期待するのは間違っているというものだろう。
187ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/08/19(木) 22:28:25 ID:61qrn5Rt
「そもそも俺は男なんて・・・」
「まあ、でもさ」
 言いさした俺を遮り、姉さんが言う。
「女友達も大事だけど。それでも、気遣い無く話せる異性ってのは、貴重なモンよ、弥里?」
 そんな事を、真顔で言ってくる。俺だって分かってる。今まで俺に、特に親しい友達は由香里しか居なかった。それは、今までの俺にとって今の夏目という存在がイレギュラーである事を示していた。
 それでも、俺はあの二人と一緒に居られる時間がとても楽しいものだと、自覚し始めていた。
「・・・・・・わかってる」
 多少むくれて言うと、姉さんは俺の手を握ってけらけらと笑う。
「ま、今日はいい事もあったし!帰ったら久しぶりに二人でお風呂はいろっか?」
「げっ!?ちょ、姉さんそれは・・・」
「いやー、お姉ちゃんとしてはね〜。妹がどれ位成長したのか興味あるかな〜?」
 先程までの真面目な雰囲気はどこへやら。姉さんは指をワキワキと動かしながら俺に迫ってくる。
「へ、変態っぽいぞ!その指の動き!」
「酷いわねえ、姉の心を踏みにじる発言よそれ。これはお仕置きが必要かしら?懐かしのおしりぺんぺんとかで」
「由香里ーーーーっ!!!夏目でも良いから助けてぇぇぇーーーーっ!!!」
 そうして俺達は、家に付くまで、何年ぶりかの鬼ごっこを楽しんだ。もっとも、体力面では俺を軽く凌ぐ人が相手なので、俺にそんな余裕は無かった。
 だから。


「しかし、立派になったわねぇ、あの泣き虫坊やが」


 家に入る直前の姉さんの呟きにも、気付く事がなかった。
188ロンリィ・ウルフ・ハウリング:2010/08/19(木) 22:30:03 ID:61qrn5Rt
今回は以上です。いわゆる、『導入編の最終回』に当たるかと・・・ちゃんと完結できれば良いなあ・・・
では、失礼します。
189名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 21:01:17 ID:2XiJbj5j
続きキテター!
楽しみにしてましたよ!
190名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 21:35:36 ID:AYOMokli
GJ
まだまだ話は助走段階のようだが、しっかり書いていってくれ
まあ気長にやろうやあ
191名無しさん@ピンキー:2010/08/28(土) 16:25:18 ID:+9TXmZYf
保守
192名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 15:01:31 ID:rk46KHxN
両方ともGJ!
193名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 22:53:57 ID:2z70v8LZ
保守
194名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 23:07:37 ID:qWlYFi8x
ほしゅ
195名無しさん@ピンキー:2010/09/27(月) 13:04:30 ID:WBqfVWvq
ボク子オレ子ワシ子

他にはあるかな?
196名無しさん@ピンキー:2010/09/28(火) 17:41:19 ID:6KwVQ51C
>>195
漢字かひらがな(カタカナ)かってのはある?
197名無しさん@ピンキー:2010/10/04(月) 00:21:09 ID:Ad7hBEbc
あり
198名無しさん@ピンキー:2010/10/14(木) 23:32:33 ID:oUD4Ww6b
GJ!
199名無しさん@ピンキー
上げ保守