【田村くん】竹宮ゆゆこ 11皿目【とらドラ!】

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1名無しさん@ピンキー
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 10皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/

過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
【田村くん】竹宮ゆゆこ 3皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
【田村くん】竹宮ゆゆこ 4皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
【田村くん】竹宮ゆゆこ 5皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
【田村くん】竹宮ゆゆこ 6皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
【田村くん】竹宮ゆゆこ 7皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
【田村くん】竹宮ゆゆこ 8皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
【田村くん】竹宮ゆゆこ 9皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
2名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 16:13:56 ID:EYhLPuzR
☆☆☆狩野すみれ兄貴の質問コーナー☆☆☆


Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
3名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 16:18:08 ID:hzgq1Sdc
>>1乙です
4名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 16:36:50 ID:rTMuR0CG
いてぃうぉとぅ
5名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 16:38:19 ID:I7Z+t39V
>>1乙です。
奈々子様もので構想中なんですが、出来たら投下します。
6名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 16:45:25 ID:kDNyski+
暖房が壊れてるってのにまた紳士スタイルかよ……
7名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 17:05:49 ID:1ghRLlLb
6〜7レス位投下しますよ〜
8我が家の腹黒様:2009/02/28(土) 17:06:56 ID:1ghRLlLb
鼻息荒く、鈍い光を灯した三白眼の男の正体は、
かの有名な、『怪人トンカラトン』…とかでは、無い。
したがって、贄を欲して徘徊している訳では、無い。
現在の彼の頭の中は、
−−−大河のアホが弁当箱を学校に忘れて来た。
と、いう事で占められている。
別に、憤りを感じている訳では無い。
この程度、迷惑の内には入らない。忘れたんなら、取って来てやる。
ただ、家に着いて、すぐに弁当箱を洗えないのが、気になるのだ。
彼、高須竜児は、究極のお人好しにして、至高のきっちり屋であった。
一刻も早く、弁当箱を綺麗に洗いたい。
そんな、一種、病的な几帳面さから、竜児はダッシュでやってきた。
「WAWAWA☆忘れもの〜♪」
着いた。これで、洗える。弁当箱を。
自作の歌など歌いつつ、上機嫌で、教室の扉に手をかけた。
ガラガラガラガラガラガラ
「お、おう!?」
「あっ…」
扉を開けた、その先で、女が四つん這いになっていた。
見上げる瞳は、どこか不安気で、口元のホクロは、今日もなんだか、色っぽい。
「か、香椎…な、なにしてんだ?」
「え…と、ちょ、ちょっとね。何でも無いのよ。ホント。
高須君こそ、どうしたの?もしかして、忘れ物?」
放課後の教室で四つん這い。何でも無い訳は無い。
無いが、そんな事より、随分、扇情的な姿ではないか。
ともすると、情熱、持て余…しそうになるが、
奈々子はスッと立ち上がり、手近の椅子を引いた。
「べ、弁当箱を忘れたんだ。それで、取りに。」
つとめて平静に、竜児は返した。
「そうなんだ。高須君も案外ドジね。
いつも、タイガーちゃんのお世話を焼いてるから、しっかり者だって思ってた。」
言いながら、奈々子は引いた椅子に腰を下ろす。
「そうでもねぇよ。」
と、無愛想に返し、
「さて、弁当…弁当…おう!?」
ある事に気付いた。問題発生。奈々子が腰掛けているのは大河の席だった。
弁当箱は机の横のUに吊り下げられている。
つまり、位置的に奈々子に遮られている。
−−−あの〜スイマセンが弁当箱取りたいので、どいて下さい。
とは、言えない。先の流れで、自分の弁当箱を取りに来た事になってしまった。
別に、隠した訳では無かったが、今更、訂正し難い。
それこそ、変に勘ぐられそうだ。
9我が家の腹黒様:2009/02/28(土) 17:07:25 ID:1ghRLlLb
う〜ん。どうしたものか……、と
しばし、逡巡してしると、不意に、
「ねぇ、どいて欲しい?」
と、奈々子。
「!?」
いつ解った?どうして解った?こいつ、エスパーか?
そんな、竜児の表情を読み取ったのか、
「ウフフ。初めからよ。
ゴメンなさいね。知ってて、からかってみたの。」
ひょいと脇に吊してあった弁当箱を摘んでみせる。
「はい。お弁当箱。」
「お、おう。サンキュ。」
「けど、高須君がタイガーちゃんのお弁当箱取りに来るなんて、あの噂はホントなのかしら?」
噂?噂って何?正直、心あたりがありすぎる。
「何だよ、噂って?」
どうせ、ロクな噂じゃないだろう。
解ってはいるが、一応、聞いてみる。
「高須君とタイガーちゃんが同棲してるって話よ。」
ニンマリと言った表情で答える奈々子。
「ど、同棲なんて、大河とは家が隣同士だから、それだけで。
弁当だって、一人分も二人分も対して変わらないから作ってるだけで…。」
「あら、そんなに焦らなくても良いのに。
結構、カワイイのね、高須君て。
っていうか、お弁当、高須君が作ってるんだ。
タイガーちゃんの愛妻弁当だと、思ってたのに、意外ね。
あ、でも、タイガーちゃんはお料理苦手だったっけ?」
「おう。アイツの料理の腕ときたら、そりゃ、もう。」
「うふふ。なんだか、解る気がするわ。」
それから、クッキー、お粥、目玉焼きの失敗談から、一般的な雑談へと話は流れた。
香椎とこんなに、話が弾むとはなぁ…
ひょっとしたら、今日だけで、今までの累計の倍は話てるんじゃ。
ふと、そんな事を竜児が考えていると、
チラッと一瞬、だけ、奈々子の視線が黒板の上に掛けられた時計へと向けられた。
「あ、悪い。すっかり、話しこんじまって。
じゃあ、俺、そろそろ帰るよ。
弁当箱、洗っちまわないといけねぇし。」
「え?あ、そんな、気にしなくて良いわよ。
随分、楽しかったわ。あたしの方こそ、引き止めちゃってゴメンなさいね。」
奈々子の表情が、少し、残念そうに見えた。
独りにしないで。もう少し、お話しましょうよ?みたいな。
「なぁ、香椎?お前さ、もしかして……」
10我が家の腹黒様:2009/02/28(土) 17:09:37 ID:1ghRLlLb
一拍置いて。溜めて。溜めて。
「家の鍵でも、無くしたのか?」
と、尋ねていた。
時間を気にする素振りを見せたわりに、急ぐ気配が感じられない。
なにより、今、感じた、話相手が居なくなって寂しい。
独りにされると困る。という奈々子の表情に、竜児は心当たりがあった。
小学生の自分である。あの時の自分はきっと、こんな表情をしていたハズ。
竜児は思い返していた。
―――その日の竜児 は独りだった。
泰子は早番で、昼から家を出ている。
つまり、鍵なんて落としたら、深夜まで閉め出される。
そんな日だった。そんな日に限って、落とした。
もう、己が悲運を呪うしかない。いくら、探しても見つからないし、
だんだんと、人気のなくなりゆく教室の中では、
そうするより他、仕方がなかった。ちょっと泣いた。
最終的には、机に突っ伏していた所を、見回りの事務員さんに発見され、保護。
ストーブとお茶と事務員さんの温もりに咽び泣いたのであった。
「!?」
いきなりの問い掛けに、目を丸くする奈々子。
「もし、無くしたんなら、俺も一緒に探すぞ?」
そういえば、先程、床に這いつくばってたのは、隙間に落ち込んでないか探してたのか?
教室って。本棚とか何やらで、色々、隙間があるからな。
とか、言って、別にそんな事は無かったぜ。
って、オチだったら、かなり恥ずかしいよな、俺。
などと、竜児が杞憂していると、
「…何で、解っちゃったの?」
うん。我ながら、よく気付いたものだ。
何か、閃いたんだよな。天啓というか。
正解と解ったとたん、竜児の思考は、かくの如く変化。
「でも、良いよ。一通り、探したけど、見つからなかったし。
それに、洗い物があるんでしょう?邪魔しちゃ悪いもの。」
「困ってる時は、遠慮すんなよ。
大丈夫。俺は、有事にそなえて、自分のロッカーにスポンジを1ダースは置いてある。
最近では、自分のロッカーにばかり、掃除用具が偏るのはどうかと思い、
大河のロッカーにも保管させてある。常にリスクの分散は怠らない。
そういう訳だから、今、行って洗ってくる。
ついでに、高須棒も取ってくる。
隙間の奥の方に、あった場合、手じゃ届かねぇだろうし。」
11我が家の腹黒様:2009/02/28(土) 17:10:09 ID:1ghRLlLb
「でも、」
「じゃあ、ちょっと待っててくれ。すぐ戻ってくるから。」
「あ、ちょっと…」
でも、やっぱり悪いから。
と、続けようとした奈々子の言葉も聞かずに、竜児は走って行ってしまった。
もう…。ぷぅ、と方頬を膨らませる奈々子は、考えていた。高須竜児について。
高須君、一度も『してやる。』って言わなかったなぁ。
大河の弁当を作ってる。俺も探す。高須棒を取ってくる。
作ってやってる。探してやる。取ってきてやる。
とは、言わなかった。本当に優しい人なんだ。
困ってる人に手を差し伸べるのは、癖の様な感じなのかしら?高須竜児の優しさを感じ、気づけば心が温もっていた。
ほっこり日向ぼっこ、そんな感傷に浸っていた。

***

「おう。お待たせ。じゃあ、やろうか?」
「やろうか?って……
どうするのソレ?」
本当にすぐに戻って来た竜児は、大掃除児星人であった。
手に雑巾。バケツ。ちりとり。箒(大)と(小)
「せっかくだから、教室丸ごと掃除しちまおうと思ってさ。
ほら、部屋掃除してたら、無くしたと思ってた物とか色々出てくるだろ?
埃溜まってる隙間なんて許せねぇし。」
これはヒドイ。何という、潔癖症。
「香椎も綺麗な教室と汚い教室だったら、綺麗な方が良いだろ?」
「…う〜ん。そうね。普通に探しても見つかりそうにないし。
それも、良いかもしれないわね。」
正直、教室の掃除(否当番)など、冗談ではない。
でも、今は何だか、それも良いかな、と思う奈々子だった。
「けど、制服だと大変そう。
そうね。ジャージに着替えたいんだけど、良いかしら?」
「お、おう。」
「…少し、外して欲しいんだけど?」
「お、おう!?あ、そうか、すまん。
じゃあ、出てるから着替えたら呼んでくれ。」
「…解ってると、思うけど、もし、覗いたりしたら、
そうね、明日、タイガーちゃんに密告しちゃうかも。」
「ば、ばか。そんな事しないからッ。
じゃあ、出てるぞ。」
12我が家の腹黒様:2009/02/28(土) 17:14:07 ID:1ghRLlLb
と、慌てて、外に出る竜児。両手にバケツを持ったままで。
うふふ。からかい甲斐があるわね。
優しくて、カワイイ、か……ホント、人は見かけによらないなぁ。
そんな事を考えながら、奈々子はスカートのファスナーに手をかけた。
扉一枚隔てた所に男子が居る。
そう思うと、何だか妙な気持ちになった。
スリルというか、一種の背徳感というか、今まで、感じた事の無い。
気付けば、もう奈々子は竜児を意識し始めていた。

***

「ふぅ。随分、綺麗になったわね。」
「おう。俺、基準で舐められるまで、が掃除の鉄則だからな。
こんくらい磨けば、合格だ。
…けど、鍵見つからなかったな。」
「あ、そういえば、鍵、探してたんだったわね。」
「おい。」
「うふふ。冗談よ。
それでも、掃除に夢中になって、時間は忘れちゃってたわね。ほら。」
ピッ。と奈々子が指差す先。
掛け時計が、有史以来の高須家の晩飯時を知らせていた。
「あ、ヤベェ。夕飯、何も用意してねぇ。
あ、来る前に、米だけ研いで来たっけ?
仕方ない、今夜は、ありあわせでなんとかするか……」
ブツブツと呪詛を唱える竜児。
「ホント、付き合わせちゃってゴメンね。
もう、下校時間だし、諦めて帰りましょ?
あたしは、ファミレスででも、時間を潰す事にするわ。
ちょうど、お腹も空いて来たしね。
…あ、そうだ。良かったら、高須君も一緒に来ない?
付き合ってくれたお礼に、ご馳走するわ。ね?」
「へ?い、いやいや、そんな気にしなくて良いって。
全然、大した事してねぇし。結局、見つからなかったしさ。」
「良いの。あたし、高須君が居てくれてすっごく助かったもの。」
奈々子は、本当に、嬉しそうな顔をする。
竜児は、こういう女の子の表情に弱かった。
「………そ、そっか。
でも、やっぱ、遠慮しとくよ。
俺が飯作らねぇと餓えちまう奴が居るから。」
「そう。残念ね。」
そう言うと、本当に残念そうに、シュンと奈々子の表情が萎れてしまった。
その表情に、ドキンとする。
あ…やっぱ独りで飯は寂しいよな……
竜児は、女の子の弱った表情にも滅法弱い。そんな男だった。
「そ、それより、香椎こそ、俺ん家に夕飯食べに来ないか?」
13我が家の腹黒様:2009/02/28(土) 17:15:29 ID:1ghRLlLb
慌てて言い繕った結果がコレだよ。
「家に?高須君って結構、大胆なのね。
夜に女の子を家に連れこもうだなんて。」
ジト目で見据えられ、微妙な空気になる。
「あ、いや、だから、違くて。そうじゃなくて。
香椎の家、遅くまで帰れないんだろ?
それに、大河も飯食いに来るハズだから、別に2人きりじゃないし…
そういうつもりは、全然、無いんだ。
俺は、ただ、ファミレスよりは、家の方が良いだろうから、その。」
「ウフフフフ。ホント、高須君ってカワイイ反応するよね。
高須君が変な事考えてる訳じゃない事、ちゃんと解ってる。
だって、考えてたら、今の方が危ない状況だもの。
だから、信じれる。そんな人じゃないって。
…で、タイガーちゃんも、って?」
少し、語尾に怒気がこもる。本当に、ほんの少し。
それは、奈々子、当人でさえ気づかない。無意識的な怒気。
奈々子と付き合いの長い、麻耶や、他人の感情に賢い亜美ならば、
もしかしたら、気付けたかもしれないが、竜児には気付けない。だから、
「ああ、毎日、大河はうちで飯食うんだ。
もう、習慣みたいなもんで。ほとんど、家族同然だよ。」
と、包み隠さずに話てしまった。
勿論、これは大きなミステイク。言ってはいけない一言。
「ふぅん。そう…なんだ。
……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら。
けど、本当は、あたしの方がお礼しなきゃいけないのに…ホントに良いの?」
「いや、そんな、ホント気にすんなよ。困ってる時はお互い様だって。」
「う、うん…」
「どうしても気になるんだったら、飯作るの手伝ってくれ、
正直、今から、一人じゃ間に合わんかもしれん。
それで、おあいこにしようぜ?な?」
「解ったわ。あたし、結構、料理得意なのよ。任せておいて。」
「お、おう。それじゃ、頼むな。」
「ええ。それじゃ、また外してくれる?
流石に、ジャージじゃ、外、歩けないし。
……今度は、もし、覗いても黙っててあげる。」
「ばっ、ばか。俺は、掃除用具、片してくるから。
帰る準備しててくれ。」
「ウフフフ。やっぱり、カワイイ。」

***

帰路を行く二人。
大河以外の女子と二人っきりの下校に、若干、胸弾む竜児。
その一歩後ろを歩く、奈々子は、この瞬間が永遠に続いて欲しいと願い、
この後の、高須家で待ち構えているであろう超難強に奮うのであった。
一歩も退かない。負けない。
自覚する。竜司への想いを。
14我が家の腹黒様:2009/02/28(土) 17:16:35 ID:1ghRLlLb
負けられない。呟く、小さな声。
太陽は沈み、月はまだ出ない空の下。
15名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 17:17:44 ID:1ghRLlLb
終わりです。次回はお料理編だよ。
ゆっくり読んでいってね。
16名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 17:20:20 ID:odj3fy50
>>1乙&>>15 GJ!

奈々子様はかわいいな。
17名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 17:28:24 ID:AtEy+cNJ
>>15
GJよかった!……けど
奈々子様はタイガーのことをちゃんづけで呼ばない……
18名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 17:32:53 ID:1ghRLlLb
>>17
マジすか!?
スピンオフ2の、「大丈夫よ。タイガーちゃん」のシーンを参考にしちゃったよ。
本編では呼んでなかったのか。ミスった。
19名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 17:38:50 ID:A6pbB/2C
>>15
乙!
鍵がないことを察する竜児サンマジ男前
次回のド修羅場にも期待しております
20名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 17:56:54 ID:q030Sk5/
>>18
GJ!!俺は特に気にならなかったよ
21名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 17:57:40 ID:Rq0a9edf
>>1>>15
高須をカワイイと評価する奈々子様がカワイイ ってか2828がとまらないなw
22名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 18:06:01 ID:m915C5ao
>>15
GJ!! 新手のななドラだ〜!
スレも新しくなったし、ななどら。の人も来るかな〜?
23名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 18:21:19 ID:ebSkfbnY
なんだろうな、メイン三人娘に比べて奈々子の場合は多少んっ?と思っても
原作で全て出し切ってる訳じゃないから、こういう感じもあるか、と思ってしまうわ
そこが良いとこでもあり、反面書くのが難しいとこでもあるんだろうな
24名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 18:43:05 ID:QC/wwlBd
>>15
奈々子様が実は鍵を無くしてなくて、一緒に居たい為に嘘をついてると思ったんだが違ったかw
とにかくななドラ派が増えてきてるようでなによりです。ゲームも奈々子ルート作ってくれれば良いのにね。
作者様、乙です。ありがとう。読み易かったし、凄く良かったよ。
25名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 19:05:48 ID:3C21q/3D
ななドラGJ
まぁ妄想膨らむキャラ設定ではあるよなぁ
片親で竜二と共通点あるとことか…あと巨乳とか巨乳とか
26名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 19:14:36 ID:OPp2LTOe
>>15
まさかの続きものktkr
次回も期待してます
27名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 20:56:42 ID:a0CoAzLg
ななドラGJ!それと、>>1乙です。

天下の奈々子様の良作の後に、空気を読まずにみのドラの駄作を投稿します。
…さながら、死刑台に全力疾走するような気分だぜ。

前スレ、バレンタインに投稿した「デラウェア」の続きで、文量は6レスになります。
28名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 20:57:19 ID:a0CoAzLg
 実乃梨と想いが通じ合った翌日、幸せな日々が始まると思ったその日。

 おかしい――

 そう気づくのに大して時間は掛からなかった。
 何がおかしいかと言えば、実乃梨と大河の様子がおかしい。っていうか、朝から二人がギクシャクしている。
 あの二人が朝から全く口を聞いていない。それどころか目すら合わそうとしていないのは、もう異常と言うしかない。
 あとは帰るだけだってのに、何でこんなことに……
 バルコニーで浜辺の風を浴びながら考える。…いや、考えるまでもねぇ。
 俺が実乃梨に告白して、実乃梨が乙女会議ってのを開くって言って…その会議で何かあったに違いない。
 そこで何があったかなんて分かりっこねぇけど、少なくとも俺と実乃梨のことが何かのきっかけになったことは間違いない。
 そうだとすれば…

 「高須君が負い目を感じることないと思うけど?」
 川嶋が後ろから声を掛けてくる。いきなり第一声がそれか。
 つーか……お前は俺の心が読めるのか?
 「まあね。亜美ちゃんに掛かれば、単純バカの高須君の考えなんてお見通しってこと。」
 してやったりという笑みでこちらを見る川嶋。
 単純バカとかいうな。…クソ、何か悔しい。いや、それよりもだ。
 「昨日、あの二人に何があったか知ってるか?」
 「知ってるよ。私もその乙女会議ってのに参加させられたしね。」
 それなら、何があったか教えてくれ。頼む。
 「…詳しくは本人達から聞いて。まぁ要するに、あの二人が不器用すぎるってだけの話。本当、ガキかっつーの。」
 どういうことだ?さっぱり意味が分からねぇ。
 「何て言うか、二人とも相手の様子ばっか窺って身動きが取れない感じ?何かしようとしても、やっぱり相手のことが気になって…って所かな。」
 よく分からない。けど、少なくとも、二人が喧嘩している訳ではないらしい。
 「こんな不自然な状況を続けても誰のためにもならない、大怪我するだけだって気はしてた。だから…」
 …話の途中で悪いが、話に付いていけてない。
 「…とにかく、これは避けられない事故みたいなものだから、高須君は後悔なんかしなくていいってこと。」
 俺を気遣ってくれてるのか。…サンキューな。

 「ところで、いきなり告白なんて…どういう心境の変化だったわけ?」
 やっぱり俺が告白してたことは聞いてたんだな。まぁ不都合はないけど。
 「…大切なことも言えずに、どっか遠くに行かれちまうのは嫌だって思った。それで、今は大切な人に隠し事や遠慮は要らないんじゃねぇかって思ってる。」
 心境の変化ってほどのことか分からねぇけど。
 俺の言葉に、川嶋の目が見開かれる。…当たり前すぎて悪かったな。呆れないでくれ。
 「ふーん。ちょっと見直しちゃった。てっきりヘタレだと思ってたから。」
 ヘタレとかゆーな。ていうか、お前が俺を誉めるとか何かの前兆か?
 「少なくとも、死亡フラグじゃないと思うから安心して。」
 …そんな笑顔で言われると、すっげー死亡フラグのような気がしてくるから止めてくれ。
29名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 20:57:56 ID:a0CoAzLg
 「…高須君。私からのお願い、聞いてくれる?」
 川嶋の声のトーンが下がる。ん?何だ、急に?
 「高須君は不器用でヘタレな二人の後押しをしてあげて。支えてあげて。そう誓って。」
 何か明確な意志の込められた視線と言葉に驚く。
 お前も二人のことが心配なんだな。
 「さあ?…私もよく分かんない。思い浮かんだ言葉をそのまま言ってみただけ。」
 川嶋の意外な変化に少し顔が綻ぶ。この想いは裏切れないと思った。
 「おう。分かった。誓う。」
 この状況を何とかする。実乃梨と大河の支えになる。
 自分のせいだとかはこの際関係なしで、あの二人がこのままで言い訳ねぇって思うから。
 それでもって、二人を支えたいってのは純粋な俺の本心だから。

 俺の言葉を聞き届けた川嶋は微笑んで、そのまま俺に背を向ける。
 「あと、今更だけど、おめでと。高須君がちょっとだけ成長したみたいだし、ひょっとしたら上手くいくかもね。実乃梨ちゃんと。」
 まぁ私としては…対等だって言われたそばで、一歩先を行かれた気分だけど。
 「え?」
 去り際、川嶋に言葉を投げかけられる。
 「鈍いとそのうち怪我するよ。」

 二人を支える、この状況を何とかする――川嶋に固く誓った癖に、その後も何も出来なかった。
 情けない話だが、二人にどう声を掛ければ良いかすら分からなかった。何つーか…空気が重い。
 バスや新幹線では北村が頑張って場を盛り上げようとしてくれたが、それも不発に終わった。…すまねぇ、北村。

 結局、気まずい雰囲気のまま、地元の駅まで戻ってきた。
 「それじゃ、頑張ってね。応援してるから。」
 「じゃあな。よく分からんが、仲良くなー…」
 口裏を合わせていたのか、川嶋と北村がそそくさと帰っていく。
 川嶋、ありがとな。北村もありがとな、ゆっくり休んでくれ。
 結果的に俺たち三人が残される。二人から事情を聞くなら今しかない。
 「なぁ、これから三人で…」
 「あんたはみのりんと二人で帰りなさい。」
 俺の話を遮って、大河は一方的に告げて前を歩き出した。
 「え?お、おい!大河…」
 「…私は大丈夫だから。」
 辛うじて聞こえるくらいの弱々しい声を残して、大河は走っていった。

 …大丈夫に見えないから心配してるんだろ。
 「竜児君。」
 「お、おう。」
 大河の後姿を見送ると、今度は実乃梨に声を掛けられる。
 昨日以上に真剣な眼差しに思わず怯む。
 「ちょっといいかな?話があるんだ。」
30名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 20:58:39 ID:a0CoAzLg
 ――実乃梨の後を追って歩く。
 出来れば隣を歩きたかったけど、そんなことができる感じじゃなかった。
 歩いてる間、お互い無言のままだった。実乃梨が何か話すまで黙っておいた方が良い気がして、俺も黙っていた。
 「ちょっと座って話そっか。」
 近くの公園に入った所でやっと実乃梨が口を開いた。
 「おう…」

 誰もいない公園のベンチで、無言のまま座ってる俺達…これは気まずい。
 「今日はごめん。全部、私のせいなんだ。」
 が、割とすぐに実乃梨の声が公園に響く。
 「よく分からねぇけど、誰が悪いとかじゃねぇと思う。だから、気にすんな。」
 「いいや。私が浅はかだったせいだ。みんなに、いや大河に正直になって欲しかったんだけど…浮かれてただけだった。」
 …乙女会議のことか。
 「うん。私、調子に乗って何も考えてなかった。大河の気持ちも何も。」
 「聞いていいか。何があったか。」
 「…いきなり私が竜児君と付き合うなんて言ったせいで、大河を混乱させちゃったんだ。」
 「混乱?あいつはずっと、俺達のこと応援してくれてたのにか?今回の幽霊騒動だって…」
 俺の疑問には答えず、実乃梨は続ける。
 「それで、どう接すれば良いか分かんなくなって、何か気まずくてなっちゃって…その結果がこれ。何やってんだろうね、本当に。」
 力のない笑顔で自嘲する姿を見て気付く。
 実乃梨だって傷ついてる。それなのに、気丈にそれを隠してる。
 これ以上は聞いちゃいけない気がした。
 「な、なぁ、何か別の関係ない話をしないか?これ以上…」
 「大丈夫だよ、竜児君。」
 それなのに、実乃梨は話を続けようとする。微笑みながら。
 自分の傷口を広げることになるって分かっているはずのに。

 「…実はさ、竜児君に好きって言ったこと、後悔してるんだ。」
 「え?」

 好きって言えさえすれば上手くいくなんてずっと思ってたけど、実際はそんな上手くいかないもんだって分かった。
 もちろん、想いが通じ合えて嬉しかったし、今も竜児君の隣に居られて幸せなはずなんだけど。
 だけど、何かが心の奥にグサって刺さってるっていうかさ。苦しくて、逃げ出したくなるんだ。
 それに…

 「隠し事はなし、だったよね?」
 「いや、もういいんだ。無理に話す必要なんかないんだ。」
 「ううん、大丈夫。馬鹿だって思うかも知れないけど、聞いて。」
 「…おう。」
31名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 20:59:08 ID:a0CoAzLg
 本当はさ、竜児君は大河のことが好きなんだと思う。今はまだ気付いてないだけでさ。
 だから、本当は私なんかと付き合っちゃダメなんだって思うんだ。
 
 「そんなわけ……」
 「…それでも。」

 それでもさ、竜児君が欲しかった。好きって言われたら、もっともっと欲しくなって…自分の気持ちが抑えられなくなった。
 そのうち竜児君が私から離れて行っちゃって、傷つくことになるって分かってても、竜児君と一緒に居たい、出来ればずっと隣に居たいって思っちゃった。

 それどころか……心のどっかでは、二人が本当の気持ちに気付く前に、竜児君が大河の所に行っちゃう前に、私のモノにしちゃえって思ってた。
 竜児君は優しいから私を見続けてくれるだろうし、大河もきっと私達のこと応援して引いてくれるだろうって。そうすれば、竜児君と離れないで済む、傷つかないで済むってさ。
 そんな汚いことをどうしても考えちゃってた。

 私ってさ、傲慢で狡くて本当に――

 「とんだ馬鹿野郎、だよね……」
 実乃梨から涙が零れ落ちる。その表情は、このまま消えてしまうんじゃねぇかって思うくらい辛そうで、哀しそうで…
 それでも、自分を傷つけながら、全てを…自分の醜い部分まで包み隠さず話してくれた。
 なのに、それなのに、この悲痛な表情に何て言葉を掛ければ良いか全く分からない。
 
 「…竜児君。私たち、別れよう。」
 な…!?な、何言ってんだ!?
 「ごめん…でも、このまま竜児君と幸せになる度胸がないんだ。二人が素直になる邪魔して、大河を傷つけて…そこまでして得る幸せってなんだろうって思っちゃうんだ。」
 実乃梨がベンチから立ち上がる。…行くな。
 「ほんの一時だけだったけど、櫛枝は幽霊を見られて幸せでした。もう十分だ。ありがとう。」
 涙を隠そうともしないまま、敬礼して微笑みながら、か細い声を何とか絞り出す実乃梨。
 …頼む、ちょっと待ってくれ!
 「ごめん、竜児君。話はこれで終わりだ。…さようなら。」
 「…実乃梨!」
 走り出した実乃梨を追いかけて、その手を掴む。

 実乃梨が本当に不器用で、脆くて、弱いことを知った。
 どこか遠くに行ってしまうのは絶対に嫌だって思った。
 ――傍にいたい、支えてやりたい。心からそう思った。

 気付いたときには、実乃梨を抱きしめていた。
32名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 20:59:38 ID:a0CoAzLg
 「正直、自分の心の底がどうとかはよく分からねぇ。確かに大河のことは大切な存在だって思う。この気持ちはひょっとしたら本物なのかも知れない。」
 言葉が自然と口からこぼれていく。
 「でも。それでも、実乃梨の傍にいたい、抱きしめたいって思ってる今の気持ちが偽者だとは思えねぇ。実乃梨が遠くに行っちまうのは絶対に嫌なんだ。」
 この気持ちは、この気持ちだけは本当にどうやっても抑えられないんだ。
 「だから、俺は心の底から実乃梨のことが好きだって思う。」
 これ以上、自分のことは分からねぇ。けど、これが正真正銘の俺の本音だ。
 「…竜児君。私、もう分かんないよ。どうすれば……」
 「とりあえず、実乃梨が落ち着くまでこうさせてくれ。…受け止めるから。」
 
 実乃梨の心の奥底から溢れ出る涙を胸で受け止める。
 これで全てを洗い流せるわけではないと思うけど、少しでも実乃梨に楽になってもらいたい。心の重荷を降ろして欲しい。
 実乃梨の頭を撫でる。実乃梨を少しでも落ち着かせるために、俺自身が実乃梨の存在を確認するために。さらさらの髪から心地いい香りが伝わってきて、穏やかな気分になる。
 しばらくそうしていると、しゃくり上げる声が少しずつ収まってきた。ひとまず安心する。

 …それは良いんだが、やっぱり公園のど真ん中で抱き合ってるってのはやっぱり恥ずかしいな、おい。
 「も、もういいか?何つーか、恥ずかしいんだ。」
 逃げるように言ってから思う。自分で抱きついといて情けねぇ…
 「…やーなこった、パンナコッタ。泣き顔なんてダサくて見せられねぇ。それに、もう少しこうされてたい。上手く言えないけど、竜児君なんだなって安心できるし。」
 顔を俺の胸に埋めたまま、離されまいと抵抗する実乃梨。
 頬ずりされる感触が、むず痒いというか…照れる。
 「そ、そうか。でも、立ったままじゃ疲れるだろ?またベンチに座らないか?」
 「うん、そうだね。…ありがとう。」

 ベンチまで戻って再び抱き合う俺と実乃梨。…自分で言ってて恥ずかしいな。
 二度目の抱擁はさっきよりも余裕があるせいか、実乃梨の体温とか香りとかに加えて、何つーか、その…諸々の柔らかい感触なんかが伝わってくるのが分かる。
 マズイ、お陰で脳から何かがドバドバ出てくる感覚やら男の波動やらが…
 「……えっち。さっきより手つきがやらしいぞ、竜児君。」
 顔を伏せたままツッコミを入れてくる。そ、そんなつもりはねぇ、っつーか……
 「ごめんなさい。」
 謝りながらも、腕は離せない。…我ながら変態だ。
 「ごめんで済むなら警察いらねぇ。けど、まぁぶっちゃけ満更ではないよ。」
 え?ま、マジか?
 「ジョーダンっ。えっちなのはいけないです。」
 実乃梨がこちらを見上げて微笑む。眼は真っ赤だし涙の跡もまだ残ってる。
 けど、ちょっとずつ冗談が言える位には元気が出てきたみたいだ。
33名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 21:00:09 ID:a0CoAzLg
 「…竜児君。私、決めたよ。」
 実乃梨の表情が真剣なものに変わる。
 「ん、何をだ?」
 「んん、ちょっと待ちたまえ。すぅーはぁー。」
 俺の肩に寄りかかって、深呼吸して息を整える実乃梨。悪い、苦しかったか?
 「大丈夫。まぁその何だ、嬉しかったしさ。…よしっ、誓います。」
 「お、おう。」
 「宣誓ー。私、櫛枝実乃梨は大河にも…誰にも負けないように、竜児君にもっともっと好きになってもらえるように、精一杯頑張ることを誓いますっ。」
 凛とした声が公園に響き渡る。
 「もちろん、部活もバイトも頑張る。…夢があってね、そっちも手を抜けないんだ。けど、竜児君とのこともおんなじ位、いや、それ以上に頑張りたいって思う。」
 表情と声から、はっきりと決意の色が見て取れる。
 あれだけ傷ついた後だってのに…実乃梨はやっぱり強い。弱くなんかないって認識を改めさせられる。
 「また迷っちゃったり、逃げ出したくなるかも知れない。でも、私のためにも、竜児君のためにも、絶対に途中で逃げ出したりしない。真っ正面から全力で頑張る。だから…」
 実乃梨が見せる一日ぶりの笑顔――
 「だから、やっぱり別れ話はなし!」
 その笑顔はまだいつも程の眩しさはないかも知れないけど、いつも以上に輝いてるように見えた。

 「ありがとう、竜児君。もう大丈夫だ。甘えっ放しでごめん。」
 実乃梨が俺の胸から離れる。…正直、名残惜しい。
 「私もだよ。ちょっとっていうか、かなり名残惜しい。けど…」
 実乃梨の顔が曇る。
 そうだ。これで解決ってわけじゃない。むしろ、まだ何も終わっちゃいねぇ。
 「竜児君。大河のことなんだけど…」
 「おう。任せろ。」
 「…流石だ、竜児君。」
 俺の返事に実乃梨が微笑む。
 「ごめん、大河のことは任せた。竜児君じゃなきゃダメなんだ。」
 そうだ、もう決心はついてるんだ。
 「おう。何とかする。」

 この状況を絶対に何とかする。
 二人を支える、そう誓ったから。

続く
34名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 21:00:42 ID:a0CoAzLg
以上です。
前回「続く?」とか書いておきながら、実際は続ける気満々でした。すいません。

それでは、続きが出来たら、またよろしくお願いします。
…みのりんブーム、もっかい来い!
35名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 21:06:00 ID:oJkHLM73
続き頼む!!
36名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 21:26:24 ID:QC/wwlBd
>>34
作者様乙です。しっかりと読み応えありましたよ。応援してます〜
本編で報われない分こういうのが読めると嬉しいです。
37名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 21:35:10 ID:2RMFsOs5
>>34
おお!超GJ。
ああ、そこで大河を追いかけるとみのりんとのエッチイベントフラグが・・・
38名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 21:44:09 ID:v5jvlUPT
近頃は「続く」が多くてwktkが止まらない。
>>15>>34もGJ!

前スレの855も能登が切なくて染みたよ…
39名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 21:47:35 ID:MB2a0QpH
>>34
無茶苦茶続編期待してたんだぞ!
GJ!!!
40名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 22:07:16 ID:81KakFAj
>>34
乙かれー
41名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 22:55:31 ID:wsJYygQr
前スレ296くらいの奈々子ものの続きを、5分後くらいに投下します。
今回も地味に長いので……。
42名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:01:34 ID:TIKZZHD2
リアル遭遇ktkr

wktk過ぎるw
43名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:02:28 ID:wsJYygQr

 病院の待合室に溢れる老人たちを見て、奈々子は溜め息を漏らした。
 ついつい、待合室にかけられている時計に目をやってしまう。昼の11時を過ぎていた。
 病院で診察の手続きをしたのは10時過ぎで、もう1時間近く待たされていることになる。
 これだけ老人がいれば仕方が無いのかもしれない。そう考えながら、ずっと興味も無い車関係の雑誌を眺めていた。
 父親が隣に座っているので、女性週刊誌を読むのも変だったし、他には絵本くらいしかない。
 退屈が過ぎて、奈々子は息を吐いた。そして、竜児のことを脳裏に描く。

 昨日の夕方に自転車で転び、足を痛めた。そこに通りかかった竜児に助けられて、治療をしてもらった。
 そうこうしているうちに、竜児の優しさに触れて、奈々子は竜児に好意を抱くようになっていた。

「しかし、転んで怪我するとはなぁ」
 隣に座る父から話しかけられて、奈々子はぼうっとしていた思考を現実に戻した。
「仕方ないじゃない」
 隣に座っている父親に、わずかに視線を向ける。短い髪をがりがりと掻きながら、壁にかけられた時計を見上げていた。
 昨日の夜に、帰ってきた父へ怪我をしたことを告げた。
 そして、明日の朝に病院へ連れて行ってほしいと頼んだのだ。
 父の仕事は昼過ぎからが多いので、朝なら病院に連れて行ってもらえると思ったのだ。
 そして連れてきてもらって、診察の順番待ちをしている。
「まぁ、これからは気をつけろよ」
「わかってるわよ」
 そう答えたところで、ようやく名前が呼ばれて奈々子は右足で立ち上がった。
 診察室の前で待つ看護師のもとまで歩くのも大変だった。ようやく左足に体重をかけても、あまり痛まない程度にはなった。
 早く冷やしたのがよかったのかもしれない。

 診察室に入って、事情を医師に話す。足首のあちこちに触れて、痛む箇所をすぐに割り出した。
 どうやらたいした怪我でもないらしく、診察はすぐに終わった。
 もし一週間経ってまだ痛むようなら、もう一度来るようにとのことだ。
 待った時間に比べて、診察時間の短さに、奈々子はつい溜め息が漏れてしまう。
 昨日、竜児がしてくれたように、看護師が湿布を貼って、新しい包帯を巻いてくれる。
「あの、その包帯、貰えますか?」
 ついそんな言葉が出てしまう。竜児が巻いてくれた包帯を、失いたくなかった。

44名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:03:05 ID:wsJYygQr

「どうだったんだ奈々子」
「捻挫だって。別に骨にヒビが入ったりとかそういうのじゃないらしいわ」
「ふーん……。まぁ、大事に至らなくてよかったじゃないか」
「そうね」
 会計と、処方される薬を出してもらうまで、またしばらく待たなければいけなかった。
 父は待つ時間が嫌になったのか、500円玉を取り出した後で財布を奈々子に渡して外へタバコを吸いに出かけてしまった。
 病院の中なので、携帯電話は使えない。本当だったら、麻耶とメールでもしていたかった。
 朝方にもメールの交換をしていたが、麻耶も学校へ行かなければいけなかったし、奈々子も病院へ行く準備をしなければいけなかった。

 ふっと、足元に視線を落とす。
 ローファーに素足という、ちぐはぐな足元。左足首には、足の甲と行き来するようにして包帯が巻かれている。
 ズボンのような服は着られないので、ワンピースしか選択肢がなかった。ブーツも今は履けそうにない。

 学校はどうなってるだろう。そう思って、奈々子はソファにもたれて天井を仰いだ。
 外に出て携帯電話を使おうにも、今の足で動くのは億劫でその気になれない。
 待合室の老人たちは、本当に病気なのかどうかもわからない快活さで会話を交わしている。
 外の天気は、昨日とうってかわっての快晴。そのせいか、肌を叩くかのような冷たい空気に満ちていた。
 
 奈々子は自分の髪を撫でながら、竜児のことを考えていた。
「うーん、どうしようかしら」
 わずかに首を傾げて、髪に指を通す。
 竜児を口説くにはどうしたらいいのだろう。
 その方法が思いつかない。

 そもそも、竜児には他に好きな人がいるという。
 その事実は奈々子にとって重かった。
「ゆっくりと、距離を縮めていくしかないのかしら……」
 会話作りのきっかけは、すでに用意してある。

 ひとつは、竜児の家に制服と下着を置いてきたこと。
 もうひとつは、竜児のハンカチを今も持っていること。

 これだけで、2回は自然と話せるはずだった。
 この2回を有効に使って、その後も自然と話ができるように関係になればいい。
 そんなことを考えていた。

「……さすがにパンツを置いてくるのはやりすぎたかしら」
 あの時はあまり深く考えていなかったが、今になって恥ずかしくなってくる。
 一日履いていたものを、男の子の家に置いてきたのだから。もし、あれに竜児が気づいたらどんなリアクションをするのだろう。
 泰子になんとかしてもらうのが、一番可能性が高いかもしれない。
 手にとって、竜児が匂いを嗅いでハァハァしてたらどうしよう。下着フェチでないことを、祈った。
「高須くんは、そんな人じゃないわよね……。でも」
 あの下着を、竜児はどうしたのだろうと考えてしまう。
 できることなら、ハァハァせずに竜児が自分のことを考えてほしいと思った。
「でもやっぱりパンツはさすがに……」
「パンツがどうしたんだ奈々子?」
「うわぁっ?! な、なによお父さん。いきなり近づかないでよ。びっくりしたじゃない」
「いきなりって……。ちゃんと話しかけただろうが。ほら、どっちにする」
 父親が差し出した2本の缶コーヒーを見て、奈々子は深く考えずに甘そうなほうを選ぶ。
「で、パンツがなんだって?」
「な、なんでもないわよ」
 話をはぐらかそうとしたところで、ちょうど受付から声がかかった。
 奈々子は父親に財布を押し付けると、受付に向かわせた。
45名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:03:34 ID:wsJYygQr

 車の中で、奈々子はずっと外を眺めていた。2車線の国道は空いていて、奈々子の乗った車はすいすいと進む。
 膝の上に乗せたハンバーガーセットが揺れないように、手で押さえた。昼食を作る気にもなれなかったので、ドライブスルーで手早く済ませることにしたのだ。
 学校は今頃昼休みかと思って、奈々子は携帯を開く。麻耶から送られてきたメールが3件溜まっていた。
 麻耶に返信のメールを打ちながら、学校のことを聞いてみる。いつもと変わったようなことはないらしい。
 溜め息を吐いて、奈々子は携帯をバッグに放り込んだ。竜児のことを麻耶に尋ねてみようかと思ったが、聞けなかった。

 髪を撫でながら、再び外の眺めに目を移す。
「奈々子、遠く見ながら髪を撫でるなよ」
「んー? なによいきなり」
 肘掛に肘をついたまま、奈々子が父親に視線を向ける。前方を見たまま、父親がぽつりと声を漏らした。
「それされると腹が立つ」
「そう……、でも仕方ないでしょ、髪が気になるのは」
 父親が何を言いたいのかは、なんとなく理解できた。
「男か?」
「さぁ?」
「っておーい……。はぐらかすなよ。否定してくれなきゃ」
「別に、お母さんみたいに出て行くわけじゃないから心配しないで。そもそも付き合ってもいないし、友達かどうかも怪しいくらいよ」
「まったく、なんでこう、おまえって奴は変に気が回るというか」
 肩を落とした父親に、苦笑してしまう。きっと、母も同じように髪を撫でながら遠くを見ていたのだろう。
 父ではなく、他の誰かのことを思って自分の髪を撫でていたに違いない。そして、二人は破局した。
 母は、奈々子と父を捨てて他の男と一緒になり、新しい家庭を作った。

「まぁいいけど。友達かどうかってことは、同級生か? ふーん、意外だな」
 余計な情報まで与えてしまったことに、奈々子は舌打ちしそうになった。
「もうっ、放っておいてよ」
「そりゃ放っておくけどな。奈々子はしっかりしてるし、いい子だし、心配はしてないさ」
 少しは心配してくれたっていいのに。奈々子はそんなことを考えてしまう。
「お父さんも、仕事ばっかりじゃなくて、たまには休んだら? 今日も遅いんでしょ」
「まぁ休みもあるんだけどな。ただ休みの日でも、色々やることがあるからゆっくりできないだけだ」
 そう言われて奈々子は目を細めた。
「仕事ばっかりしてるからお母さんに捨てられるのよ」
「おいおい、酷いことを言う奴だな……」
「あら、本当じゃない。ずっと仕事仕事で、ロクに家族サービスもしないで働いてばっかりで」
「……まぁ、それを言われると辛いが、仕方が無いだろ。盆も正月も休みが無いような仕事なんだから」
 忙しいからそうなったのではなくて、父の場合は仕事が何よりも楽しいからそうなっただけだ。
 仕事を通じて沢山の人に喜んでもらえるのは何よりも嬉しいのだという。
 その姿勢は奈々子にとって好ましいものだったが、それにしても限度があるだろうと思わずにはいられない。
 母と何度もケンカを繰り返し、結局は出て行かれてしまった。
「あたしは、結婚するなら家庭を大事にしてくれる人を選ぶわ」
「そうか……。まぁ、奈々子が選ぶのなら、大丈夫だろうけどな」
 目を細めて、奈々子は唇を噛んだ。不機嫌な表情を見られないように、窓の外へと顔を向ける。
 なんにもわかってない。

46名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:04:06 ID:wsJYygQr

 驚愕のメールが届いたのは、家に帰ってハンバーガーを食べ終え、テレビを見ていた時だった。
 父親はすでに仕事にでかけて、一人でごろごろしている時に、麻耶からのメールが届いた。
『なんか高須くんが奈々子に会いたいんだって。あたしもお見舞いに行きたいし一緒に行っていい?』
 そんな内容を、絵文字をふんだんに使って伝えてきた。思わず何度か読み返して、本当なのかどうかを疑ってしまう。

「えっ? 高須くんが来るの?」
 家に帰ってきてからは、スウェットパンツにトレーナーというこのままでは外に出られない格好をしていた。
 髪も、シュシュで簡単に束ねているだけ。

 とりあえず、麻耶に返信をしないと。そう思って、携帯電話のボタンを操作して、文字を打ち込んでいく。
 けれど、ここでどう返すべきなのかがわからない。そもそも、どういう経緯で竜児が来るというのだろう。
 竜児と麻耶が何か会話をしたのだろうけれど、その内容まではわからない。

 時計を見ると、もう放課後のようだった。
 奈々子は電源ボタンを連打した後、リダイヤルから麻耶の電話番号を呼び出す。
 呼び出し音が鳴る暇もなく、麻耶が電話口に出た。

「あっ、奈々子ーっ? ねぇ、大丈夫なの? 捻挫って言ってたけど、大丈夫?」
 電話口に出た麻耶がまくしたててきて、奈々子はわずかに電話を耳元から離した。
「うん、ごめんね心配かけて。大丈夫だから。もうだいぶマシになったから」
「ほんと? よかったぁ、心配したんだよ本当に。ほんとビックリしちゃったんだから」
「うんうん、大丈夫……。えっと、それより、お見舞いに来るって?」
 竜児の名前を出すことに躊躇ってしまう。
「うん、そのつもりなんだけどー。どうなの、いい?」
「もちろん、大歓迎よ。暇で暇で、大変なんだから」
「あはは、そうなんだ。それでさー、高須くんも連れていっていい?」
「えっ? う、うん大丈夫。でも、なんで高須くんが?」
 その理由が、まだわからない。
 もしかしたら、制服と下着を持ってくるつもりなのだろうか。
 けれど、洗濯したにしては随分早い気もする。

「え? だって、昨日怪我して高須くんの家に行ったんでしょ?」
「そう、だけど」
 竜児が、そんなことまで麻耶に話していたことに驚いた。
 正直、昨日のことはかなり恥ずかしいことが多くて、あまり知られたくないものも多い。
「なんか成り行きで気になるんだってさ。ほんと、高須くんって世話焼きだよねー」
「そうね……」
 麻耶はどこまで聞かされたのだろう。それがわからない。
「んでさー、高須くんもね、なんか家に取りに行くものがあるからって、先帰っちゃってさー。なにそれって感じじゃない? スドバで待っててくれってさぁ」
「うん、うん」
 相槌を打ちながら、麻耶の話に耳を傾ける。
 パンツ、持って来る気なんだ……。
「あっ、でもね。高須くんが、ほら、こう来て、あたしと奈々子とでさ、説得して……」
 今頃になって気づいたが、自分の気持ちは麻耶の中にある思惑も壊してしまうことになる。
 もっとも、麻耶は竜児自体はどうでもいいようなので、あまり気にしなくてもいいかもしれない。
「うん、だからそっちに行くね。なんか持ってったほうがいい?」
「いいよ、気にしないで」
「うん、じゃあね」
「うん、待ってるわね」
 電話を切った瞬間に、奈々子は立ち上がって着替えをはじめる。
 決意を秘めた表情で、この後の対策を頭の中で練り始めた。
47名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:04:42 ID:wsJYygQr

 痛む足を引き摺って洗面所に行き、シュシュを髪から外した。ヘアバンドで髪をあげてから、蛇口を捻ってお湯を出す。
 乳液までつけると、肌に馴染むまでの時間がかかりすぎるかもしれないと、洗顔をした後で化粧水だけ顔に伸ばしていった。
 さすがにテカテカの顔で二人を迎える気にはなれない。
 化粧水が馴染んできた頃を見計らって、髪を櫛で梳かしていく。コテを使う時間もないようだった。
 髪質が硬く色が黒いのもあって、空気感が足りないと見た目が重たくなりすぎる。
 家にいるのに、あまり気合を入れて髪を整えるのも変に見られるかもしれない。そう思って、奈々子はシュシュで髪をまとめて肩越しにおろした。
 体育の時はいつもこうしていたし、変に見えることはないと思う。
 次に部屋へ戻ってからブラウンのワンピースに着替えを済ませた。家の中なのに、移動するのは一苦労で、急ごうと思ったら片足で飛び跳ねるしかない。 

「あーもうっ、病院行くときからちゃんとしとけばよかった」
 今更後悔しても遅い。自分の家に、竜児がやってくる。
 これは、距離を縮める絶好の機会かもしれない。ここで、しっかりと竜児の中に自分の存在を打ち付けておきたかった。

 とりあえず、身なりを整えた後は、キッチンに行って何か食べられそうなものはないかと探す。
 ところが何も見当たらない。お茶請けになりそうなものが何も無かった。
 お茶請けは諦めよう、そう思った瞬間に、チャイムが鳴った。

「うそっ? もう来たの」
 リビングの壁にある、インターフォンの受話器に向かって、不器用に足を引き摺りながら歩く。少しの間だけなら体重をかけても、なんとかなった。
 受話器を取ってディスプレイを覗き込むと、そこには制服姿の麻耶が映っていた。広角レンズで映されて歪んだ玄関の前の画像には、竜児の姿もあった。
「ごめん、勝手に入ってくれない? 玄関まで行くのがちょっと億劫で」
「そうなの? じゃあ勝手に、おじゃましまーす。ほら、高須くんも、早く」
「お、おう。いいのか?」
 ディスプレイに映った竜児は、制服姿のままだった。お手製のエコバッグと、もうひとつ紙袋を提げている。
 やっぱり、持ってきたんだ……。中身は、制服だろう。
 きっと、制服がないと困るに違いないとすぐに洗濯して乾燥させたに違いない。

 玄関で麻耶と竜児が話している声が聞こえて、奈々子はゆっくりとリビングの扉を開けた。
「いらっしゃい」
「あっ、奈々子ー。大丈夫? うわっ、足痛そー」
「歩いて大丈夫なのか香椎?」
 二人同時に話しかけられる。
「うん、少しくらいなら歩いても大丈夫みたい」
 竜児は足元を見ながら、瞬きをしている。
 麻耶は自分の問いよりも竜児に対して先に答えたことに、首を傾げた。
「とりあえず、立ち話もなんだからこっちに来て座ってよ」
48名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:05:29 ID:wsJYygQr
 竜児を目の前にしても、どうにか平静を保つことができたことに、奈々子は安堵の息を吐いた。
 あの顔を見た瞬間に、フラッシュバックのように昨日のことが思い出されて血が顔面に集まってきたのだ。
 あんな迫り方をした翌日だったから、上手く竜児の顔を見ることができない。ここでなんとかしないといけないのに。

 緑茶を淹れながら、奈々子は心を落ち着ける。
 湯飲みに急須からお茶を注ぎながら、奈々子はこの後に自分がどう出るべきなのかを考えた。
 とにかく、竜児に自分を意識してもらわなければ、自分の恋は進展しない。
 しかし、さっき現れた竜児は、奈々子のことを特に意識しているようには見えなかった。
 意外といえば意外。恥ずかしがって目を背けるくらいのことはしそうな気がしていたけれど、そうではなかった。
 
 うろたえることがないように、ちゃんとしっかり気を持たなきゃ。

 奈々子は意を新たにして、唇を結んだ。そう、竜児の気持ちを自分に向けさせるために頑張らないと。
 そして、思いが通じたら、また髪を撫でてもらおう、抱き締めてもらおう。もちろん、その先だって……。
「やっぱ手伝おうか?」
「きゃあっ?!」
 キッチンに突然現れた竜児を見て、奈々子は思わずお盆をひっくり返しそうになった。
「うわぁ、な、なんだよいきなり。驚きすぎだろ」
「えっ? 違うのこれは、その、びっくりしちゃって」
「それを驚くって言うんじゃねぇか」
 呆れた表情で、竜児は奈々子の傍に近づいて、お盆を持った。
「その足じゃこういうの持って歩くの大変だろ? 揺れるしな」
「……そうね、じゃあお願いするわ」
 髪を払いながら、奈々子は視線を床に落としてしまう。
 竜児はそんな奈々子に構うこともなく、お盆を持ってすぐにリビングへと戻っていった。

 え? もしかして、あたし全然意識されてない?
 奈々子は目を瞬かせて、顎に手を添えた。
49名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:06:17 ID:wsJYygQr

 おかしい。
 昨日、あれだけ密着して会話をしたのだし、少しくらい女として意識してくれてもいいのに。
 奈々子は対面に座ってお茶を啜る竜児をわずかに見て、下唇を噛んだ。
 さっきから、麻耶ばかりが喋っていて、竜児が会話に参加する気配がない。
 今日のまるお報告に相槌を打ちながら、奈々子は竜児が黙ったままでいるのを不審気に眺めていた。
「それでさぁ、高須くん、タイガーとのことなんだけど……」
 もしかしたら、今までの会話は前振りだったのかもしれない。
 麻耶は意を決したように、両手で拳を作って隣に座る竜児に話しかけた。
「っていうかどうなってんの? 実はさ、ここだけの話なんだけど、あたし、高須くんが櫛枝に振られたって聞いてさぁ」
「……え? いや、それは」
「ほんと、全然気づかなかったし。櫛枝? なんで櫛枝なの。つーか櫛枝のことが好きだったのに、あんなタイガーとべったりしてたの? そのわりにたいがーって叫ぶしさー」
 奈々子にとって、麻耶の質問には配慮というものがあまり感じられなかった。
 デリケートなところに、あっさりと踏み込んでいる。しかし、気にならないわけではなかった。
 奈々子も大河と竜児がただの友達以上の関係にあるものだとばかり思っていた。しかし、そうではなかったらしい。
 竜児は困惑したように、麻耶から距離を取ろうと椅子の端に寄る。

「ねぇ、奈々子も気になるよね。つか、高須くん、本当に櫛枝のことが好きだったらさ、あんな誤解されるようなことしなきゃいいのに」
 奈々子が返事するよりも早く、麻耶は竜児に話しかけていた。
「いや、別に。それはあいつが腹空かしてて、そんでなんか食わせてるうちに……。ほっとけなくなって。ただそれだけだっつの」
「じゃあ高須くんはあれなの、ただ世話焼いてただけのつもりなの」
「お、おう」
 その言葉を聞いて、奈々子は胸をなでおろした。もし、大河に好意を持っているのだとしたら、二人の関係に勝る関係を作っていくのは難しいと感じていた。
「んでさぁ、それはともかくとして、そしたらタイガーってさ……。やっぱりまるおのこと好きなの?」
 その問いに、竜児は目を見開き、慌ててお茶に手を伸ばした。
「さ、さぁ、それは知らねぇけど」
「あっ、なんか嘘っぽい」
 麻耶が竜児を指して大きな声をあげる。確かに、奈々子から見ても不審な動作だった。はぐらかそうという意図が見える。
「やっぱ、タイガーってまるおのこと……。っていうかさ、高須くんはあたしの味方じゃなかったの? そこんとこどうなのよ」
「どうなのとか言われても、俺は最初っから別に協力しようとか、んなこと考えてたわけじゃ」
「ちょっとー、それって酷くない? っていうか、櫛枝のこと好きなら最初っから言ってよ! そしたら別の方法があったかもしれないのに」
 ヒートアップして机をバンと叩く麻耶に気圧されて、竜児が視線をうろうろと動かしていた。
 仕方なく、奈々子は竜児のフォローに回る。
「ほら、もうそのあたりにしといたら。高須くんも困ってるみたいだし」
「えーっ?!」
「誰が好きとか嫌いとか、そんなのなかなか言えないじゃない」
「そりゃ……。簡単に好きとか言えたら楽だけど」
 麻耶も本当に好きな相手に自分の気持ちを伝えれば、それが一番だとわかっている。
 けれどそれが出来ないから、人の協力を取り付けてもっといい関係になってから好意を伝えようと思っていた。
 自分の想いが高まれば高まるほど、落ちた時の痛みは強くなる。それを恐れる気持ちはよくわかった。
50名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:06:47 ID:wsJYygQr
 自分への詰問が終わったのかと思ったのか、お茶を飲み干した竜児が声をあげた。
「と、とにかく、俺はこれ持ってきただけだから」
 テーブルの下に置いていた紙袋を、麻耶から見えないように奈々子の足元に滑らせる。
 足元に来た紙袋を、奈々子は自分の椅子の隣に置いた。中身は、どうやら制服らしい。
 不審な動きに、麻耶が首を傾けてテーブルの下を覗き込む。
「あっ、そういえばそれ何? 高須くんに聞いても答えてくれないしさ」
「いや別にたいしたもんじゃねぇから。後で開けてくれ。んじゃ、俺はこれで」
 竜児が椅子から立ち上がり、学生鞄とエコバッグを持ち上げる。

 まさかもう帰るつもり?
 もっと話をしていくものだと思っていたのに、制服だけ渡して帰るのだという。
 昨日、肩を寄せ合って話をして、誘惑するようなことまでしたのに、全然意識してないの?
 それに、服と下着まで置いていって、普通に洗濯しただけ?
 もうちょっと、あたしのこと考えてくれると思ってたのに。
 すべての内臓が冷たい石にでもなったかのように、全身に重い感情が広がる。

 奈々子は足元の紙袋を拾い上げると、テーブルの上に置いた。
 そして、その中身をすべてテーブルの上に取り出す。出てきたのは、綺麗にアイロンまでかけられた制服。
 制服だけでなく、下に着ていたブラウスやキャミソール。それと、白の下着。
「えっ、なにこれ」
 麻耶が顔をしかめて、テーブルの上に広げられた制服と下着に目を向けた。
「お、おい香椎開けるなよ!」
 帰ろうとしていた竜児が、慌てて制服に手を伸ばそうとするが、途中でその手を止めた。
「わざわざ洗ってくれたんだ。ちゃんとアイロンまでかけて、高須くんって本当に主婦みたいね」
「……それは」
 竜児が言葉を継ごうとして、途中で詰まる。
「うそっ! 高須くんが洗ったのこれ。ま、マジで?」
「そうじゃないかしら。こんなに丁寧に、スカートのプリーツまでひとつひとつアイロンがけしてくれて」
「それは、仕方ねぇだろ。結構急ぎでやったから、スチームアイロンかけとかないと縮むし」
「ふーん、そうなんだ。これも、高須くんが洗ったの?」
 奈々子は白のショーツを竜児に見えるように持ち上げた。
「あたしのパンツ。高須くんが洗ったんだ」
 口角をわずかに引いて、奈々子はじっと竜児を見つめた。竜児はその視線から逃れるように床へ目を向ける。
「こっちのブラも、高須くんが触ったんだ……。ねぇ、どんな気持ちになった?」
「な、奈々子? どうしたの。ほら、とりあえずこれ仕舞ってさ」
 麻耶の言葉を無視して、奈々子は竜児に話しかける。
「ねぇ、高須くんはさ、あたしの下着触ってなに考えてたの? もしかして、匂いとか嗅いだりした?」
「そんなことしてねぇよ」
 床に視線を向けたまま、竜児は滲ませるように言葉を紡いだ。
「あら、してくれてもよかったのに。昨日助けてくれたんだから、それくらい」
「ちょっと奈々子? ど、どうしたの」
 奈々子は、下着を洗う時に竜児が平静を保っていられたとは思わなかった。
 少しは自分のことを考えてくれていたはず。それが劣情だったとしても構わない。
 昨日の今日で自分の前に現れておいて、竜児は何事も無かったかのように接してきた。

51名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:07:18 ID:wsJYygQr

 麻耶は何故奈々子がこんなことをしているのかが理解できず、うろたえて顔を二人の間に彷徨わせていた。
「ねぇどうなの高須くん。あたしのパンツ見て、変な気持ちになったりした?」
「ならねぇよ」
 竜児は唇を噛みながら拳を握り締めた。
「あら、恥ずかしがらなくてもいいのに。正直に言ってくれても怒らないわよ」
 奈々子の言葉に、竜児は細く息を吐いた。鞄を肩に背負いなおし、背を向ける。
「もう帰るの? ゆっくりしていってよ」
 背を向けた竜児に、慌てて奈々子が声をかける。竜児は一度振り向いて、眉を吊り上げながら言い放った。
「……お前のこと助けるんじゃなかったよ」
「え?」
 助けるんじゃなかった?
 どういう意味?

 竜児はリビングの扉を開けると、そのまま廊下へと出て行ってしまう。
 奈々子は、筒の中から覗くような狭い視界の中でそれを見ていた。竜児が去っていく。
 慌てて立ち上がろうとして、左足が鋭く痛んだ。テーブルの上に倒れこみそうになっても、奈々子は手を突いて耐える。
 手を伸ばして駆け出そうとして、また転びそうになった。足が痛い。
 けれど、竜児が怒りをぶつけたまま去っていくようが何よりも痛かった。
「ま、待ってよ」
 喉を絞って大きな声をあげる。不恰好な走り方で、廊下を出ると、竜児は靴を履こうとしているところだった。
「じゃあな」
「待ってよ、ねぇ待ってってば!」
「ちゃんと返すもんは返したぞ」
 竜児の元に駆け寄ろうとして、奈々子はついに転んだ。昨日すりむいた膝を廊下にぶつけて、叫び声をあげそうになる。
 廊下に転んだ奈々子を見て、竜児が宙に手を伸ばした。

「ま、待ってってば」
「おい大丈夫か?」
「ねぇ、どうして怒ってるの? あたし、何か悪いことした?」
 膝に手を当てるよりも、奈々子は無事な右足で廊下を蹴って、這うように竜児の元へ辿り着く。
「どうしたんだよ、何やってんだお前」
 うろたえたように手を伸ばして、竜児は奈々子の膝を見る。スカートの裾から伸びた白く細い足に貼られた絆創膏は剥がれ、また血が滲んでいる。
「大丈夫か?」
「ねぇ、どうして怒ってるの?」
「お、怒ってるって別に俺は……」
 靴を履きかけたままだった竜児が、廊下に荷物を置く。
「そりゃ、香椎が怒るのも仕方ないだろうけどさ……。やっぱ放っとけないから、制服とか、その下着とか洗ってだな……」
 奈々子はわずかに這って、竜児のズボンの裾を摘んだ。
「そういうの、やっぱ嫌だろ。でも、制服が無いと困るからと思って、すぐに洗って乾燥させてアイロンかけて」
「うん……」
「でもやっぱ男に洗われたとか嫌だろうし、それに人前でそんなもん渡されても困るだろうし、その、こっそり返してだな」
 裾を掴まれていた竜児は、奈々子と視線の高さを合わせようと、廊下の縁に腰掛ける。
 俯いたままの奈々子を見て視線がうろうろと定まらず、つい玄関の置物の類に目を走らせた。
「それで、お前が困るかもしれないと思って、すぐ洗って、こっそり返して終わりにしようとしてたのに」
 一度そこで言葉を切ってから、竜児は口をもごもごと動かす。
「あんなふうに引っ張り出して、そんでその、いやらしいこと考えてたみたいに言われたら、そりゃ腹も立つけど……。べ、別にそんな怒ってるわけじゃなくてだな」
 竜児は俯いたままの奈々子を見て、励ますように声を明るくした。

52名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:07:58 ID:wsJYygQr

「ごめんなさい……。ごめんなさい、ごめんなさい」
「お、おい、香椎?」
 奈々子は自分の視界がぼろぼろに滲んでいることに気づいた。竜児の顔も、濡れたガラスの向こう側のように滲んで見える。
 泣いていることに気づいても、涙を止めることができなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 竜児の顔が見えなくて、奈々子は手を伸ばした。竜児の学ランを掴んで、強く引っ張る。
「香椎? な、なんで」
「ちょっとーーっ!!! なにやってるのよ高須くん! 奈々子に何したのよ!」
 どたどたと足音をあげて、麻耶が走ってくる。そして、竜児から奈々子を引き離そうとして奈々子の頭を抱き寄せる。
 しかし、奈々子は竜児の制服を強く掴んだままで、竜児と奈々子を引き離すことができない。

「高須くん! 奈々子になにしたの! 最悪ッ!」
 麻耶は目を尖らせ、歯をむき出しにして竜児を睨んだ。その目に当てられて、竜児が怯む。
「違うの、怒らないで……。あたしが、あたしが悪いの」
 怒りを隠さずにぶつけている麻耶の体を、奈々子は体を揺すって振りほどこうとした。
 そんな奈々子に、麻耶は首を捻る。
「ごめんなさい……。あたし、酷いことしちゃって」
「いや、待てよ香椎。俺は別にそんな気にしてねぇから」
「ごめんなさい、嫌いにならないで……」
「だ、だから香椎。落ち着けって」

 奈々子の心に、後悔が生まれる。
 自分の浅はかさに嫌悪した。

 竜児は、自分のことを何よりも考えていた。
 制服がなければ困るだろうと、すぐに洗濯をしてくれた。それをしたのは夜だっただろう。
 水は冷たくて、手はかじかんだはずだ。そして洗濯を終えて乾燥させて、アイロンまでかけた。
 これだけの量にアイロンをかけるのは、それなりに時間がかかる。けれど、手を抜いた様子はなかった。
 プリーツはきっちりと折り目がつけられていたし、ブラウスの襟も形をきちんと作られていた。
 それだけのことをしても、竜児はそれを誇ろうともしない。恩に着せるようなこともしない。
 洗っといてやったぞ、なんて言わなかった。

 そして、もし男の手で下着や制服が洗われたことを他人に知られたら、奈々子が恥を掻くだろうと思った。
 だから何も言わずに、そっと返すことにした。

 それに対して、自分がしたことはなんだっただろう。
 自分のことを考えてくれてないんじゃないかと思って、酷いことをした。
 竜児の前で、制服を広げ、下着を広げて、竜児がいやらしいことを考えていたのかだなんて訊いた。
 そんなわけがないのに。

 奈々子が困らないように、恥を掻かないようにと、気を遣ってくれた。
 それをすべて台無しにした。
53名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:08:33 ID:wsJYygQr

「ごめんなさい……」
 竜児のズボンの裾を掴んだまま、奈々子は顔を伏して縮こまっていた。
 酷いことをしてしまった。強く裾を掴んで、奈々子は涙をぼろぼろとこぼす。
「い、いや全然気にしてねぇって、泣くなよ香椎」
 そっと竜児が奈々子の肩に手を置いた。
「ちょっと高須くん、奈々子に何したの?」
「えっ?! いや、俺は」
 麻耶に詰め寄られて、竜児が怯む。

 奈々子は自分の顔を隠すように、腕で口元を覆った。垂れてきた鼻水を啜りながら、顔をあげる。
「高須くん……。あのね、あたし、あなたのことが好き」
「は?」
「え?」
 突然の言葉に、麻耶と竜児が声を失う。まったく意味がわからないというように目を丸くして、竜児は奈々子を見ていた。
 麻耶は目を瞬かせて奈々子と竜児を交互に伺う。

「って、ええええええッ?! 俺、俺か?! な、なにが起こったんだ。どうなってんだ? え、じょ、冗談?」
 竜児は慌てて口をぱくぱくと動かして言葉を捜す。両手で頭を抱えて、視線を自分の足に向けた。
「冗談じゃないの。高須くん、あなたのことが好き……」
 奈々子はうろたえている竜児の学ランを掴んで、その顔をやや下から見上げた。
 もう、奈々子でさえ自分が何をしているのかがわからなくなっていた。竜児が離れていく、そう思ったらたまらなかった。
「本当に、好きなの。お願い……、嫌いにならないで」
「ちょ、ちょっと待て、いや、なんだ、何がどうなってんだ」
 正面から奈々子に覗き込まれて、竜児の頬が赤く染まる。

「ちょっと、高須くん!!」
 麻耶は竜児の襟元を掴んで自分の顔に向けさせると、竜児の顔を睨んだ。
「奈々子がこんなこと言ってるんだけど、どうなってんの? っていうか、もちろん奈々子がここまで言ってるんだからオッケーでしょ?」
「いや、な、なんだ? なに、どうなってんの?」
 面と向かって告白されるのは、竜児にとって初めてだった。しかも、予想もしていなかった想いに頭がついていかない。
「もちろんオッケーでしょ。ほら、頭を縦に振って」
 麻耶は強引に竜児の頭を掴むとそれを下げさせる。
 奈々子はそんな麻耶を見て、言葉を挟んだ。
「いいの、やめて」
「っていうか奈々子もなに? どうなってんの。意味わかんないですけど。えっ? 高須くんが好きって、マジ?」
 よくよく考えてみれば、親友の自分でさえ奈々子が竜児に好意を持っているなどとは考えたこともなかった。
 展開がまったくわからないけれど、とりあえず親友が告白したんだからその想いが通じればいいとしか考えなかった。
 しかし、思い返すと今の状況がいったいどういうものなのかがさっぱりわからない。
「あわわわわ、ど、どうなってんのよこれ! ちょっと高須くん、どういうことなの? 説明してよ」
「お、俺にだってわかんねぇよ!」
 
54名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:09:32 ID:wsJYygQr

 落ち着くまで、誰もが無言だった。奈々子は自分の行動が信じられなくて、手で顔を覆ったままうな垂れる。
 麻耶はこめかみに手を当てて、じっと目を閉じていた。竜児も顎に手を添えて、思案に耽る。
 玄関で座り込んだまま、奈々子がゆっくりと口を開いた。
「あ、あの、いい?」
「……おう」
 強面を強張らせて、竜児は唾を飲んだ。奈々子は顔をあげて、竜児の顔をちらりと見る。
 だが、その顔を直視することができない。泣いてしまうし、鼻水はずるずると鳴っているしで、自分の顔を見られるのが嫌だった。
「あらためて言うのもなんだけど……。高須くんのことが、好き」
「お、おう……」
 それだけ答えて、再び沈黙が降りる。竜児も俯いて、黙ってしまった。
 見かねた麻耶が竜児の肩を叩く。
「ほら、返事は? はいとか、喜んでとかこちらこそとかあるでしょー」
「って、全部イエスじゃねぇか」
「はぁ? それ以外あるわけないじゃん」
 竜児の凶悪な顔面を鋭く睨みながら、麻耶は首を傾げた。

「いや、状況がその、飲み込めなくてだな……。え? 俺のことが好きって、マジ?」
「……本当よ。何回も言わせないでよ」
 その言葉を聞いて、竜児は唇を結んだ。鼻に手を当てて、じっと自分の膝を見る。
 奈々子はその様子を見て、心臓を刷毛でくすぐられたような焦燥感に襲われた。
 竜児の中に、奈々子の存在はまったく無い。そのことがわかってしまった。
「あ、あのね高須くん! 今すぐじゃなくていいから返事。あたしが、高須くんのことが好きだってこと、知っててくれたらいいから」
「奈々子? それでいいの、っていうか今すぐ高須くんがはっきり言えばいいんじゃない」
「いいの、まだ……。だから、高須くん。あの、考えておいてね」
「お、おう……」
 
55名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:09:55 ID:wsJYygQr

 自分の部屋に一人で戻った奈々子は、後ろ手に扉を閉めた。静まり返った部屋の匂いを嗅ぐように、鼻から息を吸い込む。
 そして、声をあげた。
「ああもうっ!! なにしてるのあたし!!」
 奈々子は頭を抱え込んだ。ふらふらと吸い寄せられるように、ベッドに向かってゆっくりと歩く。
 ベッドの上に倒れこんで、強く目を閉じた。

 静かな部屋で、エアコンもつけずにベッドの上にうつ伏せて頭を抱える。
 こんなことになるなんて。
「信じられない、なんでこうなったの?」
 がばっと顔をあげて、思い出す。

 竜児に酷いことをしてしまった。怒っている竜児を追いかけて、泣きついた。
 泣いただけでも相当格好悪いのに、その後に告白までしてしまった。
 あれには自分でも情けないと思う。もっとゆっくりと関係を深めていくつもりが、告白までしてしまった。
 
 ベッドのシーツが乱れるのも気にせずに、奈々子は転げまわった。
「えっ? あたし、告白したんだよね……」
 思わずさっきのことが自分の白昼夢か何かだと思ってしまう。しかし、実際に告白をしてしまったのだ。
 情けないぼろぼろの泣き顔で、好きだなんて言って。恥ずかしさで奈々子の顔が熱くなる。
 首を振っても、頭を抱えても、自分の恥ずかしい姿が思い出されてしまう。
 洗っても洗っても落ちない汚れのように、奈々子の脳裏に焼きついた痴態が胸を苛んだ。
「うぅ……。どうしたらいいのかしら」
 溜め息を吐いてから、ごろんと仰向けになった。

 誰もいない家は静かで、時計だけがカチコチと音を立てている。
 わずかに冷たい空気に晒されて、奈々子はワンピースのまま布団の中にもぐりこんだ。
 皺ができるかもしれないが、今はそんなことを気にしていられる状態ではなかった。

 毛布の暖かさに包まれて、奈々子は息を吐く。こんな予定じゃなかった。
 もっと自分のことを知ってもらって、ゆっくりと関係を築いていくことを望んでいたのに。
 結果は、まだ自分に好意を抱いてくれていない相手に、思い切り告白してしまった。

「高須くん……」
 名前を呟いてから、目を閉じて竜児の姿を思い浮かべる。
 告白してもすぐに返事をくれなかったのは、自分に好意がまったく向いていなかったから。
 それは仕方が無い。はっきり言って、今までたいした接点もなく、会話もなかったのだから。
 こんな短時間で、急激に人を好きになってしまった自分にも呆れてしまう。

 竜児は、奈々子が思っていたよりも紳士で、優しい男だった。
 自分の下着や制服を、きちんと洗って返してくれた。そこになんの邪気もなく、奈々子のためにと一生懸命になってくれた。
 竜児のことを考えているだけで鼓動が弾む。
 奈々子は毛布を抱き寄せて、抱き枕の代わりにした。何かを抱き締めていないと、体が暴れてしまいそうだった。
「ほんとに、好きなんだから……」
 脳裏に浮かぶ竜児に、もう一度想いを告げる。
 あの優しさにもっと触れたかった。竜児がどんなことを考えたりしているのかを知りたい。
 優しくしてほしい。頭をそっと撫でてくれたことが思い出されて、奈々子は身をよじった。
56名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:10:34 ID:wsJYygQr

「んっ……」
 脳裏に竜児の姿を思い浮かべているだけで、心臓は高鳴り肌が火照る。
 毛布をぎゅっと抱き締めた奈々子は、丸めた毛布を足の間に挟みこんだ。
「高須くん、本当に、好きなの」
 手が大きくて、指が細かった。あの指で、触れて欲しい。髪を撫でてくれたら、どんなに気持ちがいいだろう。
 頭を撫でて、優しく抱き締めてほしかった。

 太ももの間に挟んだ毛布に、自分の太ももを擦り付ける。体の動きが止められない。
 肌のすべてが熱くなって、何かに触れていないと気が治まらない。痒みに似た、止められない内側からの衝動は、奈々子の全身に広がった。
 呼吸がいつのまにか浅くなり、口の中が渇く。強く目を閉じて、毛布を強く強く抱き締めた。
「はぁ、んっ」
 体が熱い。
 悪夢にうなされているかのように、全身に汗が滲む。腹部が、きゅんといなないて奈々子を責めた。
 熱に浮かされたように、奈々子は想い人の名前を口にする。

「高須くぅん」
 自分の口からこぼれ出た言葉に、奈々子は目を見開いた。
 鼻にかかった甘い声。愛しい人の名前を呼んだ瞬間に、自分の中に芽生えたものが何なのかを理解する。
 両脚の間に挟んだ毛布に、自然と股間を擦りつけていた。
「うそっ?」
 自分を苛んでいるものは、性欲だった。
 竜児のことを考えているだけで、体が疼いていく。肌を満たした熱い火照りが、ゆっくりと脊髄を昇っていった。
 脳を侵す衝動に、奈々子の体が震える。
 
 止められない。
 自覚してしまった。

 毛布を抱き締めて、肌を擦り付ける。腰はもぞもぞと動き、スカートがめくれあがった。
 目を閉じて、竜児のことを思い浮かべる。両脚は行き場を求めて動き回り、そのたびに太ももが擦れて気持ちが良かった。

「あ、んん……」
 唇から甘い声が漏れないようにと思うが、息苦しくてそれどころではない。
 胸郭が何度も何度も収縮を繰り返し、そのたびに頭の中身が白く染まっていく。
 熱湯に溶かした片栗粉のように、理性はトロトロと溶け出した。疼きがとまらない。
 体が熱い。竜児に触ってほしい。竜児に撫でてほしい。体を、抱き締めて欲しい。

 けれど、竜児がいない。
 奈々子の傍に、瞳の裏に浮かんだ人はいなかった。

 毛布を抱き締めても、心が満たされない。
 奈々子は閉じた瞼から、じわっと涙が染み出していくのを感じた。
「……ぅ」
 肺の中身が凍りついたように、冷たい感情が染み出していく。
 
57名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:11:17 ID:wsJYygQr

 奈々子は自分の手を、股間に伸ばしていった。めくれあがったスカートの中に手を入れて、ショーツの上から触れる。
 途端に尾骨から脳髄へと電撃が駆け上がった。声が、奈々子の喉を突く。両脚の間に差し入れた手で、指先をショーツに触れさせた。
 股間から染み出た液体で、ショーツが濡れている。指先が触れると、小さな水の音が鳴った。
 触れているだけでも、肌にぴりぴりとしたものが溢れていく。呼吸さえ自分のものにならなくて、奈々子は腹に力を入れた。
 こんな気分になるのは初めてのことだった。なのに、指先の動きを止めることができない。

 くちゅくちゅと音がして、奈々子は耳を塞ぎたくなる。自分の股間に触れて、そして気持ちよくなっている。こんな姿を誰かに見られたら死んでしまう。
 自分が快感を覚えていることに、わずかな嫌悪感が芽生えた。けれど、止められない。
 空いた手で、胸を揉みはじめた。ブラの上から胸の形を変えるだけでも、奈々子に快感が訪れる。

「あ、ぅん」
 声の色は甘く切ないものになる。口から漏らすまいと、どうにか唇を閉じるのだが、喉で生まれた音は鼻に抜けてしまう。
 息苦しくて、息をする度に喘ぎが生まれた。
「う、うぅ、だめぇ」
 胸を揉みながら、ショーツの上からぐちゅぐちゅと股間を刺激する。直接触らなくても、奈々子の脳は焼け切れそうなほどの快感に襲われていた。
 暴力的なまでに快感は奈々子を攻め立てて、すべてを白に染めていこうとする。
 ひとりで気持ちよくなって、そのたびに竜児がいないことに胸が冷たくなった。
 寂しさを紛らわせるために、慰める指先を強く動かす。
58名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:11:58 ID:wsJYygQr

 奈々子は毛布を跳ね飛ばして、仰向けに転がった。
 膝を立てて足を開く。ワンピースの裾を思い切りまくりあげて、自分の部屋の中に股間を曝け出した。
「高須くん……。高須くん」
 もし、竜児が自分に触れてくれたらどうなるんだろう。そんなことを考えると、奈々子の腰がきゅぅきゅぅと泣き始めた。
 白い腿は外気に晒される。大きな胸はブラの上からでも形を変えていく。
 加速していく。竜児への想いが止まらない。竜児を思う。

 竜児が奈々子に触れる。指で、下着越しに奈々子の秘部をこする。
「ああっ、あぅ」
 奈々子の頬は朱に染まり、火照った体を写すように吐息が熱くなる。
 めくれあがったスカートの中身を見せ付けるように、腰をわずかにあげた。
 大きく股を開く。膝は外を向き、誰にも見せないようにしている股間が晒される。

 解け残った砂糖のようなどろどろの理性が、恥ずかしいと声をあげるが、その声は奈々子自身の喘ぎに掻き消えた。
 ついに、奈々子はショーツの中へと手を差し込んでいった。陰毛のさわさわした感触を通り越し、熱く濡れた襞に指先を触れさせる。
 膣の奥からじゅんじゅんと溢れ出た液体が、奈々子の指先に絡みついた。中指でそっと割れ目をなぞりながら、奈々子は胸を揉み続ける。
 長く黒い髪はベッドの上に散らばり、奈々子の唇からこぼれた唾液がシーツに染みを作る。
 瞳は潤んで焦点が合わず、遠くの想い人にだけ寄せられた。
 濡れそぼった唇は、好きな男の名前を喘ぎ声に混ぜて送り出し、細い喉からは甘い声が溢れ出た。

 耐えられなくなって、奈々子は膣の入り口に指を沿わせて、そこをくりくりと弄りだす。
 腰が浮く。膝は震え、爪先は行き場をなくして彷徨う。
 加速する。快感が暴れまわる。
 ショーツの中で蠢く指は、竜児の指。胸を揉むこの手は竜児の手。
 腰が溶けていく。快感は痛みに近づき奈々子を苛む。心の中には竜児の面影。

「高須くんっ、んっ、ああっ」
 瞼の裏に描いた竜児の姿が、白く霞んでいく。指の動きは加速して、気持ち居場所を捜し求めていた。
「もっと、もっと触って」
 腰が意思とは無関係に動き出して、自分の指を求める。つぅと指を滑らせて、奈々子は皮に包まれた敏感な場所へ指を伸ばした。
 触れるのと同時に、大きな声が出て奈々子は首を仰け反らせる。
 強く目を閉じて、息を繰り返し、竜児を呼ぶ。
 もう耐えられない。すべてが真っ白に染まろうとしていた。

「高須くん、あぅっ、んんっ!」
 指先が包皮に包まれた小さな蕾に触れる。
 奈々子の全身に絶頂への鞭が振られる。同時に、奈々子は一際大きな声をあげた。
 
59名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:12:40 ID:wsJYygQr

 湯船に大きくもたれて、奈々子は足を伸ばした。
 浴室を満たした湯気は奈々子の顔を包む。お湯の温かさが全身に染み込んで、奈々子は熱い息を漏らした。
 トリートメントの匂いがわずかに落ちてきて、奈々子は髪に巻いたタオルを軽く手で押さえた。
 湯船に浸かってどれだけの時間が経っただろう。もう随分長い間ここにいるような気がした。
 風呂に浸かってぼんやりとするのは何よりも好きだったが、今はそれに心地よさを感じなかった。
 体を包んでいるのは、泥のような倦怠感だけ。

「はぁ……」
 溜め息を吐いてから、奈々子は風呂場の縁に手を伸ばし、二の腕に自分の頬を乗せた。
 本当に溜め息しか出てこない。こんなに恥ずかしい一日は、今までに無かった。

「高須くんに告白して……。高須くんのことを思って、ひとりで、あんな、はしたないことを……」
 気持ちよかった。本当に気持ちよかったのは認める。
 けれど行為後の心は、スチールウールで磨いたかのようにぼろぼろだった。
「あたしって、自分で思ってたよりもダメね……」
 大人っぽいなどと口々に言われて、自分もそのつもりになっていた。
 確かに、幼児性の抜けない同級生に比べれば落ち着いていたかもしれない。
 けれど中身を開ければ、そこには目も向けられないような醜いものが詰まっていた。

「はぁ……。どうしよう」
 呟いた声が浴室に消える。
 左足首の痛みは随分治まってきていた。しかし、ここで暖めてしまうと腫れてしまうかもしれない。
 けれど風呂に入らないという選択を採ることはできなかった。下着はぐっしょりと濡れていたし、服はあちこちに皺ができていた。
 髪も変に跳ねていたし、何よりも全身に汗をかいていた。

 告白、してしまった。
 どうしてあのタイミングで言ってしまったんだろうと、今更ながらに後悔してしまう。
 竜児の気遣いを無碍にした挙句、竜児のことをいやらしい人のように扱って、嫌われてしまった。
 嫌われたくなかった。泣いて、竜児のズボンの裾を掴んで、離れないようにと願った。
 
 ふぅと息を吐いて、ぼんやりと開いた目から指先を見る。
 これから、どうしたらいいのだろう。そんなことを考えてしまう。
 竜児の顔がまともに見られるのかどうかだってわからなかった。
 
60名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:13:18 ID:wsJYygQr

 お風呂を出て、髪をドライヤーに当てながらつい自分の顔を見てしまう。
 そこそこに整った顔だとは思うが、それでも亜美には到底かなわないと思ってしまう。
 きっと竜児には亜美の美しさが理解できないのだろうと、奈々子は息を吐いた。
 本当に、亜美は別格の存在だ。どの角度からどう見てもかわいい女の子なんて、少なくとも自分の知る限りでは亜美だけだった。
 さらに美容に関する知識も豊富だった。現に、奈々子も基礎化粧品のラインをすべて亜美のお薦めに変えたし、それで効果が出てることも実感している。
 長い髪はさらさらで麗しく、乳白色の肌にはシミひとつ無い。体型は神様が自らノミを振るって作ったのではないかと思うほど綺麗に整っている。
 日本人離れした細く長い足、女性らしく細い指、美しい爪。
 美しい宝石の原石でありながら、それを自分の努力で磨き続ける亜美には、どうしたって敵わないと思ってしまう。
 
 大河も奈々子から見れば十分に綺麗な存在だった。異国の人形のような顔立ち、子どものような愛らしい瞳。
 あのふわふわの長い髪も羨ましかった。何よりも、一番竜児の傍にいる。

 そんな二人がすぐ近くにいるのに、竜児は実乃梨のことが好きだという。
「ままならないわね……」
 きっと、実乃梨のあの明るい性格に惹かれたのだろう。けれど、奈々子は自分の性格が明るいものではないことを知っていた。

 容姿も、性格も、自分は竜児の好みではない。
 今はそれが辛かった。さらに好意を寄せられているわけでもないし、むしろ嫌われてしまったかもしれない。
 なんて望みの薄い恋なのだろうと、奈々子は突っ伏したくなった。
 だからといって、諦めることもできそうにない。
 
 現実的な思考で、これからを考える。
 竜児は優しいから、奈々子が傷つかないように言葉を選んで奈々子を振るだろう。
 その時、見苦しくならないように自分は去らなければいけない。
 諦めきれない気持ちを抱えたまま、竜児が困らないように、身を引く。
 そして、行き場を失くした想いを抱えたまま、今日のように自分で自分の体を慰める日々が続くのだろう。
 あまりにも惨めな未来が予想できて、奈々子は瞳から涙をはらはらと流した。
 ドライヤーを鏡台に置いて、両手で顔を覆う。

 ギロチン台に首を置いて、その刃が落ちてくるのを待つような気分だった。
 自分は竜児に振られてしまう。それが予想できて、辛かった。
 かといって、竜児の気を惹くような何かがあるわけでもない。
 
61名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:15:21 ID:wsJYygQr

 部屋に戻って明かりを点ける。ベッドの脇に腰掛けて、仰向けに転がった。
 束ねた髪を肩の上に置いて、天井を眺めながら、奈々子は置きっぱなしにしていた携帯に手を伸ばす。
 携帯電話の画面を見ると、麻耶からメールが送られていた。
『高須くんにガツンって言っといたから』
 そんな文言を見て、奈々子は細く息を吐いた。一体なにを言ったのだろう。
 メールを打ち返すのが面倒で、奈々子は麻耶に電話をかけることにした。

「あっ、もしもし、奈々子?」
 電話越しに明るい麻耶の声が聞こえて、奈々子の顔がわずかに綻んだ。
 自分のために一生懸命になってくれたことを思い出す。
「ごめんね、今大丈夫?」
「うんうん、全然だいじょぶ。っていうか奈々子、どうなってんの? いやマジでわかんないんですけど」
「そうね……。あたしにもさっぱり」
 溜め息混じりの言葉は、本心から出た言葉だった。どうかしていたのだろうか。
 きっと、昼に飲んだ痛み止めで意識が朦朧としていたに違いない。つい、何かの所為にしたくなる。
「えっと、マジで高須くんのこと好きなの?」
「うん……」
「すっごく意外でさぁ、びっくりしちゃった。っていうか奈々子年上派じゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけど、高須くんにやられちゃったわ」
「ふーん、高須くんにねぇ……。あっ、そうだ。高須くんなんだけど、あの後ちゃんと言っといたからね!」
 何を言ったのだろう。余計なことを言ってなければいいのだけど、と奈々子は心配になった。
 ベッドから体を起こして、腰掛ける。少しだけ湿った髪を撫でながら、奈々子は受話器に耳を傾けた。
62名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:15:54 ID:wsJYygQr

「しっかり、奈々子のことアピっといたから。奈々子のいいところ言いまくってね、そんで絶対付き合ったほうがいいよって勧めといたよ」
「……そう」
 奈々子の胸に、ちくりと痛みが走る。麻耶の言い方から、竜児がしっかりとした返答をしていないことが推測できた。
 もし竜児が麻耶の言葉に耳を傾けて、その通りだと感じたなら、竜児は麻耶に自身の意見を伝えていただろう。
「高須くんもまんざらじゃなかったみたいだし」
「えっ? うそっ、なに言ってたの?」
 俯いた顔をあげて、携帯電話を強く耳に押し当てる。
「ぷっ、なにその反応、めちゃ早いじゃん」
「あ、うん。まぁ、ね」
 電話越しに、麻耶が笑いを堪えているのが聞こえてきた。
 少しだけ恥ずかしくなって、下唇を軽く噛む。
「奈々子は綺麗だし、好きだって言われて嬉しかったって言ってたよ」
「ほ、本当なの?」
 逸る気持ちを抑えるように、奈々子は声のトーンを沈めた。
「うんうん、マジだって。なんかそんなこと言ってたし」
「そう……」
 自分に告白されて嬉しかったのだとすれば、まだ望みはあるかもしれない。
 もっとも、麻耶が大袈裟に伝えているだけで、真実とは違うのかもしれないけれど。
「奈々子のこと応援するし、上手くいくように協力もするし」
「ありがと、助かるわ」
「奈々子のためだもん。全然いいよ」
 おせっかいな友人の励ましに、少しだけ心が楽になった。
「それでね、亜美ちゃんにも奈々子が高須くん好きになって大変なんだけどーってメールしたんだけど、まだ返事無いんだよねー。仕事終わんないのかなぁ」
 本当に、おせっかいね……。
 奈々子は目の前が暗くなったような気がして、ベッドに倒れこんだ。


 麻耶との通話を終えた後、奈々子はベッドの上で仰向けに転がり、部屋の蛍光灯の明かりを遮るように目の上に腕を置いて考え事に耽っていた。
 このままでは、竜児との関係が深まるとは思えない。そこに、亜美に自分の恋心を知られてしまったという。
 亜美が自分に対してどうしてくるのか、奈々子には想像がつかなかった。
 いや、亜美がどうするかより、自分がどうするのかを考えないといけない。まだ、諦めるには早いはず。
「……望みは、あるのかしら」
 ふと呟いてみても、誰も答えてくれるわけがない。自分で考えて、決めないといけない。
 竜児の気持ちを、自分にだけ向けさせることが出来るだろうか。
 卑怯な手段を、使わなければいけないかもしれない。もう一度、色香で惑わすようなことをするかもしれない。

 竜児ほど優しくて、気遣いができる男は他に見たことがない。
 もし、竜児と一緒になれたなら……。幸せな家庭が、作れるかもしれない。
 想像の中で生まれた未来に奈々子は強く惹かれた。
 諦めてたまるものか。情けないことになるかもしれないし、みっともないかもしれないけど、沢山の犠牲を払っても竜児を手に入れたい。
 絶対に、やってみせる。

 奈々子は口元に微笑みを浮かべて、明日のことを思った。



63名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:19:35 ID:wsJYygQr
とりあえずここまでで。
エロなのを投下前に告げるのを忘れてました。
そして長い。

あと、今更ですけど題名つけるのを忘れていました。
今後は「ななこい」で投稿しようかと思います。

それと今後もエロ展開があるかもしれないので、そこらへんは勘弁してください。
64名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:23:50 ID:TIKZZHD2
gjが止まらないぃぃー!

神展開過ぎるー、続きが楽しみ過ぎてもうね、文化祭の時の狂った能登みたいな心境
65名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:24:54 ID:QC/wwlBd
>>63
作者様乙です。凄い分量でとても大興奮です。
こういった形でキャラを広げて補完してくれるのは凄くありがたいです。
エロ描写も濃密でビックリしましたがw奈々子様のせつない感じが良かったです。
今からもう一度読み返そうかと思っています。続き楽しみにしてますよ〜
66名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:47:17 ID:q030Sk5/
>>63
GJっす!
にしても木原ウゼぇ
67名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:48:36 ID:LtwIUTEm
>>63
GJ!
ななドラ大好物です
続編での大河&亜美ちゃんとの修羅場も楽しみにしてます
68名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:49:19 ID:raPBa9Kf
ギュッってしてあげたいよ、奈々子
あと捻挫箇所は湯に入れちゃだめよ
69名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:54:49 ID:z3vCvPgA
GJ!!!!                                               奈々子が可愛すぎてさっきからニヤニヤがとまらんw  
70名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 00:11:09 ID:YfRaTd6e
>>63
乙 大人びてるようなんだけど不器用な奈々子様か いいね
これから川嶋はどう出てくるか・・・
71名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 00:13:34 ID:R4ePtONO
奈々子様のはしたない遊びキタ━━━━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━━━━!!!!

・・・というのはさておいて、なんて可愛い奈々子。
楚々としたルックスと行動のギャップにやられてしまった⊂⌒~⊃。Д。)⊃
72名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 00:21:08 ID:RUkdflEp
なんだろう、サブキャラといえオリキャラに近いくらいの広げ方なのに
終わりの方の数レスはマジでニヤニヤしてしまった
この先の修羅場もしくは絶対零度の空気を醸し出す水面下の火花散る探り合い待ってます
73名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 00:23:12 ID:PrEABbf3
木原は空気読めないなw
74名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 00:35:24 ID:59FpkcGk
とらドラで空気を読めるのはインコちゃんだけ
75名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 00:38:22 ID:XqzAdDil
奈々子が竜児の家に行くとインコちゃんが
「な、ななっ、っなな、なめこ」
とか言い出すんですねわかります
76名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:06:06 ID:WPyQ9sBA
ななどら。
ななこい
そして腹黒様
もはやこのスレの三強だな。

ところで、奈々子の父親の仕事って何だろうな。
アニメで父子家庭っていうとおジャ魔女どれみのあいちゃんのイメージが強烈なせいか
タクシー運転手を連想してしまう。
77名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:15:19 ID:9d8k7QFr
>三強
全部奈々子様関係かよw
大河スキーの俺はとらドラ待ってるよ
78名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:19:53 ID:WPyQ9sBA
>>77
それはキャラスレで補充してる。
79名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:22:48 ID:yI9u59Nt
ななドラGJ!
ここにきて亜美ちゃん参戦フラグかなw
いやぁ本当にGJですわw
80名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:33:14 ID:cwlSLLOC
>>34
遅くなったが乙
一瞬本気で別れるかと思ってハラハラした、パンナコッタ
81名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:43:40 ID:QIej38Fb
前スレで埋めネタ投下しようと思ったら500kb超えたから書き込めなくなってオワタ\(^0^)/

今から投下します。このななこい、みのドラの雰囲気の中、あみ×ドラで。

「喰わずなんとか」
エロは無いんで申し訳。9レスほどいただきます。
よろしくお願いします。
82名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:43:48 ID:ATT5hrPC
また前スレが埋めネタの途中で容量オーバーに!!

ちくしょう!こっちにも投下してくれ!!
83名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:44:09 ID:QIej38Fb
「おはようございまーす」

超人気モデル川嶋亜美は元気よく挨拶して都内スタジオに入った。
午前中にモデルの撮影を終え、これからは人気番組に初出演で
内容は相手のキライな食べ物を当てるゲームだ。

「あぁ、君が川嶋亜美ちゃん?すごくかわいいねぇ〜今日はよろしくね」
「あ、はい。初めまして川嶋亜美です。よろしくお願いします」
「そうそう亜美ちゃん、今日裏で料理作ってくれる人の中にすごい目つきの悪い奴が居るから目を合わせないようにね」
「そんな人居るんですか?亜美ちゃんこわーい!」
「そんなときはおじちゃんが守ってあげるから!」
「じゃあ助けてくださいね!(ウゼーwww)」
「僕はね、君のお母さんの安奈さんとは昔から…」

と背の高い二人組みと挨拶して軽く談笑する。
スタッフが二人組みを呼び、打ち合わせに行くと亜美は興味本位で裏を覗きに行くことにした。
(まさか高須君より怖い目つきなんてそうそう居ないわよね〜)
セットの裏に回り、ヒョコッと顔だけ出して目の前に広がる光景に驚愕した。
84名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:44:49 ID:QIej38Fb

       * * *

時を遡る事昨夜。高須竜二は『毘沙門天国』で料理を作ることになっていた。
泰子こと高須竜二の母親が仕事場『毘沙門天国』でつい息子自慢をしてしまい
料理ができるという事を証明するために今、調理場で腕を振るっている最中だった。

「魅羅乃ちゃんの息子さん!料理ホントに美味しいよ!」
「ありがとうございます」
「でしょ〜?竜ちゃんは本っ当にいい子なの!!」
「じゃあ、魅羅乃ちゃん、ちょっとお願いなんだけど息子さん貸してくれない?」
「ダメ〜!竜ちゃんは貸し出し禁止〜!」
「え〜!? とりあえず聞いてよ〜。僕の職場に料理番組?みたいのがあるんだけど
 今料理のアシスタントが居なくてね〜
 ちゃんと交通費+日給だすからさぁ〜奮発するし日曜日だし〜」
「ど〜するぅ〜竜ちゃ〜ん?」

竜二は悩んでいた、いや、悩んだのは一瞬だった。
プロの料理を見てみたいしお金ももらえるなんて素晴らしいじゃないか!

「その話是非お受けたいのですが…」
「本当かい!?じゃあ明日9:00に大橋駅で!大丈夫かい?」
「分かりました!」

そして竜二は翌朝車で都内スタジオに案内され、今日の料理スタッフとしてプロデューサーに紹介された。
その目つきでその場に居たスタッフは全員凍りついたのは(故意にではない)想定の範囲内の話。
85名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:45:00 ID:3ms1gM9r
>>81
前スレでは竜児の名前が間違ってたから訂正してもらえるとありがたいです
86名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:45:19 ID:QIej38Fb
      * * *

「すごいじゃない君!!アシスタントで来てくれたのに私より上手いんじゃない!?」
「あ、いや、そんなこと無いですよ。」
「いやいや、高校生でこんなにできるなんて、今日は楽だね」
「あはは」
「それにしても目つきが悪いね」
「よく言われます」

な、なんで高須君がここに居るの?事情が飲み込めない亜美は頭にいくつもの?マークが浮かんでいた。
というよりあの女は高須君に馴れ馴れしいのよ!!

「うん、これなら順調にいきそうね。高須君だっけ?本番まで休憩にしましょう」
「はい。分かりました。」

そう言ってできる限りの後片付けをし、振り返りながら進むと目に入ったのはセットから顔だけ出し
少し睨んでこちら覗いている同級生。

「よう、川嶋。奇遇だな」
「奇遇というよりも何で高須君がここに居るのよ!?テレビ番組なんて縁が無いじゃない!」

竜二は目の前で頭に?マークを浮かべながら怒っている亜美に今日の経緯を説明した。

「なるほどね〜」

話しながら移動し、自販機のボタンを押し、休憩所に座った。

「てか高須君その目つきじゃ警備員さんに止められちゃうよ」
「すでに止められたよ」
「あははは」
「というか川嶋お前嫌いな食べ物とかあったんだな」
「そりゃ誰だってあるでしょ。もしかして高須君ってバカァ〜?」
「ばかじゃねぇよ!」
「あははは」


「すいませーん!そろそろ本番いきまーす!!皆さん準備お願いしまーす!!」



「あ、本番始まる。じゃあね。 高須君…私この後仕事ないから、一緒に帰ろうよ」
「おぅ、いいぞ」
87名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:46:09 ID:8B3JFZuQ
他のエロパロに比べ良作が多いスレだな。
てかここがエロパロだということを忘れていたよ。
奈々子マジ良いわ。
88名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:46:41 ID:QIej38Fb
>85

今すぐ直す!サンクス!!
89名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:47:09 ID:ieNVQepH
エロパロスレだというのに
はしたない遊びは全部ふっとばしたw

奈々子物はクオリティ高須
90名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:51:38 ID:QIej38Fb
>86の続きです。主人公の名前を間違えるなんてorzすんませんでした。


       * * *


本番まで、10秒前〜! 8!7! … 

 ・
 ・
 ・

お疲れ様でした〜


       * * *


「いや〜魅羅乃ちゃんの息子さん。今日はありがとうね。これ今日のお給料。
 料理長の評判も良かったからまた呼ぶかもしれないんで無理じゃなければ来てね」
「はい、ありがとうございました!」
「じゃあ魅羅乃ちゃんによろしくね〜 あ、タクシー用意しといたから。
 あと、さっき亜美ちゃんから聞いたんだけど亜美ちゃんと同級生なんだって?
 それに家の方角も一緒みたいで。それでお願いなんだけど相乗りでいいかな?
 亜美ちゃんとマネージャーさんからはOKもらってるから」
「あ、大丈夫です」
「ホント?ありがとうね。ホントはタレントと一般人じゃ相乗りなんてありえなんだけど、
 お互い知ってるみたいだし一人分でも足代が浮くとこちらとしても嬉しいんだ」
「了解です。お疲れ様でした。」

そう言うと竜児はスタジオの外に停めてあるタクシーに向かった。
そこにはもう亜美が乗っていた。竜二は少し早歩きで向かい乗り込んだ。

「おそ〜い!こんなかわいい亜美ちゃんを待たせるなんてヒドーイ!」
「ひどいって… しょうがないだろこちらと後片付けがあるんだから。」
「じゃあ、運転手さん大橋駅までお願いします。
 亜美ちゃんを待たせたバツとして駅から私の家まで送り届けること!」
「わかったよ。まったく」

91名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:52:28 ID:QIej38Fb
ゆっくりと走り出したタクシーに揺られる事10分、亜美は朝からモデルの撮影、
午後は先ほどのテレビとなかなか多忙だった。そのせいか単調に揺れるタクシーの
振動で睡魔が襲ってきた。


「川嶋」
「ん…? なに高須君?」

亜美は眠い頭で隣からの声に耳を傾けた


「その… 眠いなら肩貸すぜ?」


一瞬顔を赤らめた亜美はこの一言で目が覚めてしまったのは事実。
でもここは恋する乙女亜美ちゃん。使わない手はない。

「じゃあ、借りちゃおうかな」

そう言うと亜美は竜児の右肩にちょこんと小さい頭を乗せすぐに寝息をたてた。


       * * *


「おい、川嶋。着いたぞ」

その声で亜美が目を覚ます。
え!?うそ?ずっと寝ちゃってたの?ありえない!せっかく高須君と二人きりになってたのに!
でもすっごく気持ちよかったな。高須君の肩。などと物思いにふけっていると、

「そうだ、川嶋。プロデューサーさんからこのタクシーのチケット
 もらっただろ?それくれよ」
「え!?あ、いいよ高須君。使い方分からないでしょ?私やっとっくから先出てて」
「そうか?じゃあ頼んだぞ」

そう言うと竜児はタクシーから降りた。
あわててバッグの中を探し出す亜美、その時タクシーの運ちゃんがつぶやく

「おじちゃんいいもん見ちゃったな。あはは」
「え!?」

亜美はチケットを探す手を一瞬止めた。そして何事も無かったように手を動かす。

なんか嫌な予感がする…

「な…何かあったんですか?」
「え!?あ、ああ、お、おじちゃんは何も見てないよ」

亜美は疑問を持ちながらもチケットに金額と時間を書き運ちゃんに渡しタクシーから降りる。
92名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:53:25 ID:QIej38Fb


「高須君お待たせ」
「お、おう」

街灯に照らされた竜児の顔が赤いのに亜美は気づいた。
だが竜児はすぐに歩き出してしまったので少ししか見れなかった。
もう一度見ようと横に並び竜児の顔を見ようと覗くが
竜児は自身の前髪を弄りながら反対側向いてしまう。

「さっきタクシーの運ちゃんが言ってたんだけど、私が寝てるときに高須君なんかした?」

竜児は顔を真っ赤にしたまんまだった。
黙っているだけでなかなか喋らない竜児にイラついたのか
悪ふざけのように愛くるしいチワワのような動作で
竜児の腕に抱きついた。

「ねぇ〜た・か・すくぅ〜ん。なにがあったのかな〜?亜美ちゃんわかんないなぁ〜?」

竜児が口を開く

「…コレだよ」
「…え!?」

亜美が固まる。




「今みたいに寝ぼけて抱きついてきたんだ」
「ちょちょちょちょっと待って!!」

亜美の顔が赤くなる。
93名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:56:11 ID:QIej38Fb
「よほど疲れてたのか俺の肩に頭を乗せるとすぐ寝息をたてんだ。
 そして少したった後『たかす…く…ん』なんていうからそっち見たんだよ。
 そしたらいきなりお前が腕に抱きついてきたんだよ。その直後、頭がズリ落ちて
 その、お、俺の、こ、股間に川嶋の頭が落ちてきたんだよ…
 んで俺の腕に絡んできたお前の腕が俺のふとももに乗るわけだ。
 さ「ス、ストーップ!!!」

亜美は下を見ながら両手を広げ竜児の前に立つ。竜児は喋るのを止めた。
自分の心臓がやばい!顔も熱いし赤い!
てか私寝ぼけてるのに大胆!ってそんなこと考えてる場合じゃない!


「おい川嶋大丈夫か?顔赤いぞ?」
「… 私は」
「ん?」
「…私はその後どうなったの?」
「え?」
「その… 私がた、高須君の股間にか、顔をうずめた後」





ぎゃー!!!わざわざ私は何を聞いてるんだろうか!???
自分で言っといて恥ずかしくなってきた。

「いや、さすがに体勢はまずいんで俺の肩に戻したよ。
 運ちゃんには口止めしたと思ったけどダメだったか」
「そ、そう。ごめんね高須君」
「い、いや。いいよいいよ。」

亜美は少し冷静になり竜児と共に歩き出した。

「それであの背が高いやつ私のお母さんの話しかしないしやになっちゃう」
「あはは あ、そろそろ川嶋の家だな」
「あ、送ってくれてありがとう… もし良かったらあがってく?
 そして… タクシーの続きでも?」
「な、何言ってんだよ川嶋!」
「あはは!んなわけないじゃーん!! だまされてやんの!」
「川嶋…お前、男の純情を…!」
「じゃあ、また明日学校でね!高須君!」
「おぅ、明日な。」



94名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:58:06 ID:QIej38Fb
終わりです。
前スレにて中途半端&竜児の名前間違いでもう俺はダメだ('A`)
ROMに戻りますノシ

指摘してくれた>>85、催促してくれた>>82
ありがとうございました。
95名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:59:09 ID:QIej38Fb
しかも7レスだった。もうだめかもしれん。スレ汚し失礼しました。
9685:2009/03/01(日) 02:06:15 ID:3ms1gM9r
>>94
割り込んでしまってすみません
また、氏名の快く訂正に応じて頂いてありがとうございました

作品の方ですが、亜美ちゃんの仕事場に竜児が行くって状況は、
そうでもなければ学校外で二人が会う機会はないだろうと思うので、
説得力があると思いました
デレデレの亜美ちゃん最高ですので、続編を是非お願いします
97名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:07:30 ID:ATT5hrPC
>>94
ニヤニヤGJ!
98名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:08:10 ID:WPyQ9sBA
>>95
いやいやGJ!! GJ!!
切ない系のななドラも好きだが甘々のちわドラも好物だぜ。
99名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:08:14 ID:ArWQ3cbx
>>95
GJ!
あまり気にしないでまた続き的なの書いてみてくれ
100名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:13:27 ID:SuZ2WTDv
>>95
なにいってんだGJだってばよ!
2828したぜww
また書いたら読ませてくださいな
101名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:49:35 ID:4iC59lK8
この流れだと、職人さんが投下を躊躇しそうな予感
102名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 03:30:04 ID:RetxUraS
>>63
エロパロ板でエロいのを言い訳する必要ないだろJK

それにしてもはしたない遊びGJ!


あみドラ派のおいらがななドラ派に鞍替えしそうです
103名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 03:36:29 ID:RetxUraS
と、思ったのだが>>95でまたあみドラ派に揺り戻された

あみドラ職人GJ!
104名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 05:48:20 ID:SM8DljvI
あまり見かけないのでもうそうばくはつ。

さくらと幸太だよ。

『すみれは見た』               小ネタだよ。
105名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 05:48:50 ID:SM8DljvI
「うんっ、あぁ、そこッ…」
「ああぁ〜………あっ、あっ、ああぁん」

またか。ったく、うちの妹はどうしてこうエロいんだか…

「おいコラッ、たかがテスト勉強で変な声出してんじゃねぇよ」

ティーセットを載せたトレイを持ちながら扉を開ける。
そこには…

「あっ、あっ、あっ、あうぅ…ん?」
「げッ、か…会長ッ!?」

制服のままベッドの上で幸太が妹のさくらに覆いかぶさり、
さくらの体の熱さでとろけるような白い足は大きく開かれ、
左足の膝のあたりにはさくらが穿いていたオレンジのショーツがひっかかっていて…

2人は…つながっていて………

「お邪魔しました…」
106名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 05:49:22 ID:SM8DljvI
おわり
107名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 06:08:19 ID:JbHyb8Fm
>>106
GJwww
こういう小ネタは大好きですww
108名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 08:01:40 ID:YnXWjvn4
>>106
会長クソ気まずいww
GJ
109名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 08:07:02 ID:4NFv7sz+
奈々子様のはしたない遊びが…きたあああぁぁぁぉぁぁぉああああ━━━━!!!!!!!!!…と、それは置いといて
>>15>>34>>63>>95>>106

みんな超GJなんだぜ!

特に奈々子様スキーな俺にとって『我が家の腹黒様』と『ななこい』は悶絶しながら読みますたw

『我が家の腹黒様』の竜児の反応を楽しむ魅惑的な奈々子様には2828が止まりませんwww新たな奈々子様の降臨にwktkしながら続き待ってます!

それと『ななこい』の奈々子様なんだが…職人様は俺の事を悶え殺す気なのかな?奈々子様のせつない気持ちが半端無く伝わってきて朝からガチで発狂しそうになったジャマイカ!w(特に竜児に告白するシーンとはしたない遊びのシーンが)

てか、このままだと1レス分の感想を書きそうなので、ここで止めときますwでわ続きの話しを裸族になってカバディしながら待ってますwww
110名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 09:39:59 ID:YFF+/wub
ここまで奈々子様人気あるのって3人娘がある意味尖がってるから清涼剤的な意味もあるのかなって思う今日この頃。
111名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 10:51:21 ID:YfRaTd6e
>>95
乙かれ
川嶋の仕事場で一緒なら帰りは2人きり・・・
これなら登場タイミングが遅かった川嶋でもいけるか!?
>>106
良小ネタ乙
このあとの空気、そうとう気まずいだろうなwww
ってかテスト勉強中になんてことやってんだwww
112名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 11:50:18 ID:vQaToLnD
>110
つーかSSを書く「余地」が一番大きいからだと思う
他のキャラだと原作全部読んで整合性取らないとそのキャラらしくならないからな
113名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 11:56:24 ID:dnlcY+q1
奈々子は半分エロパロオリジナルのキャラだな
114名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 14:23:12 ID:Kh2zz8Aw
俺も奈々子様のパンツ洗いたい…
115名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 14:39:22 ID:bxIq7bY8
>>112
ハルヒで言うと鶴屋さんや眉毛さんみたいなポジションか
116名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 15:00:32 ID:YnXWjvn4
眉毛で思いだしたけど・・・眉毛とあーみんなんか被らね?
見かけだけだが
117名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 15:05:56 ID:Nax+UFfr
>>43-62
奈々子の自慰シーンが凄ェ
118名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 15:08:38 ID:ATT5hrPC
119名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 15:37:58 ID:OQzzAkRZ
>>118
眉毛が…

いやしかしななドラとあみドラいいな、職人さんGJ
120名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 19:48:58 ID:i/fqNBaO
奈々子さまになじられたいよ
121名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 21:33:47 ID:qm3OLsEC
GJ!

みんなSUGEeeeee!!
122名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 23:11:15 ID:9jkled37
>>116
んー、そっちよりフルメタのハリセン娘のが似てると思うんだけど。
123名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 23:21:41 ID:X+QFzwnu
ああ、ヤベー。
最高だよ。なんだこの良作ラッシュは。
鼻血でてくるわ。
124名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 00:50:19 ID:w62l3Nyl
俺は鼻血どころか体中の穴とゆう穴から謎の液体が噴き出してるwwwww
125名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 02:11:35 ID:J4i7YqI/
>>124
大丈夫? エボラ出血熱じゃないの?
126名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 02:36:10 ID:s0EfA9UA
血ではないらしい。
127車輪の唄〜For→高須×実乃梨 :2009/03/02(月) 04:50:25 ID:r216f42t
…ここは神の巣窟か。
職人さん全員GJ過ぎです!

そしていきなりで恐縮、携帯からで申し訳ないのですが、文才無さ男のクセに衝動書きしたみの×どらを投下します。
BUMP OF CHICKENの[車輪の唄]の主人公にこの2人を移したらぴったりだったので思わず書いちゃいました。
モチーフなんて生易しい物ではありません、殺したくなるくらいパクリです。(一部セリフとか)
内容はちょっとシリアスで、ソフト推薦で遠くの学校に行ってしまうみのりんの話です。
以上を踏まえてNGがある方はスルーして下さい、では次スレからスタートです。
128車輪の唄〜For→高須×実乃梨<1>:2009/03/02(月) 04:54:41 ID:r216f42t
錆び付いた車輪は悲鳴をあげながらも俺と櫛枝を運ぶ、明け方の駅へと。
ペダルを漕ぐ俺の腰には櫛枝の細い腕がしっかりとまわされていて、寄りかかる櫛枝、背中に伝わってくる確かな温もりに耳から頬にかけてが自然と火照り、熱くなっていくのが自分でも分かった。
「いや〜悪いね高須君、こんな朝早くにわざわざと」
櫛枝は、いやはや‥と申し訳なさそうに笑う。
「お、おぅ‥いや、別にいいって。元々俺が言い出した事…だし」
「‥やっぱり優しいぜ、高須キュンキュンッ」
櫛枝は、へっへっへ‥と若干親父クサく笑いながら、何を思ったか先程より一層強く俺の背中に体を押し付ける。
「お、おい櫛枝!?」
「うぉっと!なんだい高須キュン!?」
あまりの事に思わず俺は一瞬車軸のバランスを失いかけるが、必死にハンドルを戻すと、何とか体勢を持ちこたえる。
しかしその間にも、背中には二つのやわかぁいモノが…。
「…その、なんだ‥当たってるぞ?」
「てやんでぃ、当ててんのさ!…うぉ〜遂に言っちまったぜぃ!!まさか我が身を持ってこの伝説のセリフを唱和してしまう日が来ようとは!」
櫛枝は、か〜!‥とまたまた親父クサさ全開であまり意味が分からない事を言う。
櫛枝は時々、今みたいに調子を明るく装い、会話にわざと少しふざけたニュアンスを含ませる。そして今日も。いつも通り櫛枝は笑う、それが当たり前のように‥
「…っ」
途端に俺の中でやり場のない悲しみが暴れだす。俺は波打つように押し寄せる激情を、下唇を噛みしめ必死に抑え込んだ。櫛枝には見えないように俯きながら。
道は線路沿いの上り坂に差し掛かろうとしていた。
129車輪の唄〜For→高須×実乃梨<2>:2009/03/02(月) 05:04:37 ID:r216f42t
線路沿いの上り坂にペダルは一気に重くなった。
一人でも厳しいこの坂道を、いくら女の子とはいえ二人乗りで上るのは正直キツい。
「ほら〜高須くん!ガンバだぜぃ?」
そんな必死にペダルを漕ぐ俺の後ろ、櫛枝はもうちょっとあと少しと楽しそうにエールを送ってくる。
「お、重い‥」
「ナンダって高須キュン!?この櫛枝実乃梨、通称みのりんが重いだとこんちくしょー〜!!撤回〜!ただちに前言を撤回しろ〜!!」
俺が半分ボヤくように呟いたその一言にさえ過敏なまでに反応すると、櫛枝は泣きながら俺の背中をポカポカと叩いてくる。
「わ、悪い。今の言葉のあやっていうか‥櫛枝は断じて重くないぞ?更に言えば軽すぎる位だ」
俺が懸命に言い繕うと、俺を叩く手をピタリと止め、櫛枝は
「ふむ、孤高のダイエット戦士は非常にナイーブでプライドも高いのだ。以後気をつけるように、高須竜児国務長官」
敬礼!‥と自分の額にビシッと手をかざした。
「国務長官に就任した覚えはねーよ」
俺は軽く笑いながらそう言うと、更にペダルに体重を乗せる。
「へへへ…ねぇ高須君」
少し櫛枝の声の調子が変わる。普段、今さっきのようにわざと明るく振る舞うような素振りを見せない。本当の櫛枝の声音。
「‥街。シーン‥ってしてるね」
「‥そりゃあまだ朝だからな」
「ねぇ高須君」
「お、おぅ」
櫛枝は静かに瞳を閉じ、ゆっくりと俺の肩に頭を傾けた。
「…こうしてるとさ、私と高須君だけ。まるで世界中に二人ぼっちみたいだよね‥」

…その時、俺と櫛枝は同時に言葉をなくした。坂を上りきった時。
俺たちを迎えてくれた朝焼けが、あまりにキレイ過ぎて。
「うわ〜キレイだぜ〜!」
櫛枝は笑った。俺の後ろ側で。
しかし、俺は振り返る事が出来ない。声を出す事さえも出来ない。
俺は泣いてたから。
130車輪の唄〜For→高須×実乃梨<3>:2009/03/02(月) 05:14:34 ID:r216f42t
「ひょえ〜やっぱ高いぜぃ!」
櫛枝はオーバーなリアクションを見せながら、財布からお札を数枚取り出すと券売機の前に立った。
櫛枝が買うのは券売機の一番端の、一番高い切符で、俺はその切符が向かってしまう街をよくは知らなかった。
「…ありゃ?高須君?」
櫛枝は不思議そうに俺を見つめた。
俺は櫛枝に続き券売機の前に立つと、その中でも一番安い入場券を買った。そして、すぐに使ってしまうのにも関わらずその切符を大事にしまうと、櫛枝に向き直り
「…下まで送るよ。ギリギリまで櫛枝の側にいたい」
言いながら、俺は照れ隠しに前髪をいじる。
櫛枝はそんな俺を黙って見つめ、静かに微笑み頷いた。

///
駅のプラットホームには朝方という事もあってかあまり人はいなかった。
俺と櫛枝は近くにベンチを見つけると、どちらともなくお互い腰を下ろした。
「…ちょっと早く来すぎたね」
「お、おぅ。そうだな」
「高須君のバイクリングテクニックを甘く見すぎていた私の計算ミスだぜ…!」
「なんだそりゃ」
クッ…奥歯を噛みしめ固く拳を握り締める櫛枝に、俺は小さく笑みをこぼした。
すると櫛枝も俺につられてか声をあげて笑う。
「あははは…へくちッ!‥う〜」
櫛枝は笑みと一緒にくしゃみをこぼした。そのまま大きく一度、ぶるりと身を震わせる。
「大丈夫か櫛枝?」
「く〜!終冬、初春の風が心に沁みるぜ〜…ふぁ?」
俺は自分の赤いマフラーを外すと、櫛枝の首に巻き付けた。
「あ、あの高須君?」
「これで少しはマシになるだろ」
「で、でもダメだよ!これじゃあ高須君が‥」
「いいから。俺がやりたいだけだし」
「…ありがとう」
「おぅ」
櫛枝はそう言って静かに微笑むと、俺のマフラーに顔を埋める。
「えへへへ〜、高須キュンの匂いがするよ〜」
「あ、当たり前だろ。俺のマフラーなんだから」
俺は気恥ずかしさから櫛枝から顔を逸らした。
マフラーを外したというのに、さっきよりも熱くなっていく自分の顔を隠すように。
131車輪の唄〜For→高須×実乃梨<4>:2009/03/02(月) 05:18:25 ID:r216f42t
「高須君はさ」
櫛枝は下を向きながら足をパタパタと浮かせる。
「私の事が好きなんだよね?」
「ぅえ!?お、お前いきなり何を!!」「あれ?みのりんの勘違いだったかな?」
「!!ち、ちが」
「あははは」
櫛枝は俺の言葉を遮るように笑う。下を向いたまま。
「‥うん。分かってるよ。高須君は優しいからさ」
「………」
「私が高須君の事好きなの知ってるんだ高須君は。‥それでも自分の思いを私に伝えないのはきっと高須君、それが君の優しさなんだよね」
えへへ‥と櫛枝は子どものように笑うと、ゆっくりと上を向き、空を仰ぐ。
俺は何も言わない。言えないんだ。

―――その時だった、プラットホームに最後を告げるベルの音が響いた。
132車輪の唄〜For→高須×実乃梨<5>:2009/03/02(月) 05:23:22 ID:r216f42t
目の前で開いたこの扉は、きっと櫛枝だけのドアなのだろうと俺は感じた。
だって決して俺は向こうへは行けない。
しかし櫛枝はそっちの向こうへと踏み出す、それは何万歩より距離のある一歩に思えるくらい悲しい距離だった。
「…じゃあ高須君」
櫛枝はドアの向こうでくるりと回りこちらを向くと、静かにマフラーを外し、さっき俺がしたようにそのままそれを俺の首に巻き付けた。
「マフラーありがとう、みのりんとっても感謝だ!それに今までありがとうだったぜぃ!な〜に、今生の別れってわけじゃねーんだ。約束だ、いつの日かまた会おう高須国務長官!!」
敬礼!…と櫛枝は額に手をかざした。
「‥ばぃばぃ、高須君」
櫛枝の声、俺は答えられず俯いたまま、ただ手を振った。振る事しか出来なかった。
そのまま、びっくりする程に呆気なく、音を立てて目の前のドアは閉まってしまった。
もう一度プラットホームに響く始まりを告げるベルの音。

間違いじゃない‥櫛枝、お前‥今…

―――気づけば俺は走り出していた。
133車輪の唄〜For→高須×実乃梨<6>:2009/03/02(月) 05:27:51 ID:r216f42t
線路沿いの下り坂を、風よりも早く飛ばしていく。お前に追いつけと。
錆び付いた車輪悲鳴を上げ、精一杯電車と並ぶけれど、ゆっくり離されていく。

―――櫛枝は泣いてたんだ。ドアの向こう側で。
顔を見なくても分かってた、俯いていた俺にも聞こえた。
だって声が震えてたから。
「櫛枝ー!!」
俺はもう悲鳴に近い声を張り上げる。
「約束だ!いつの日か‥いつの日か絶対また会おう!絶対だ!!」
涙で霞む視界の先、離れていく櫛枝に見えるように、俺は大きく手を振った。

///
一人の帰り道に、街は賑わいだしていた。
「…はは、なぁ櫛枝」
俺は空虚に語りかける。
「何でだろうな‥街はこんなにも賑わいだし始めたっつーのに俺…世界中に一人だけみたいだよ」
そう自嘲気味に笑いながら呟く俺に、やはり返事はない。
錆び付いた車輪は悲鳴をあげながら、残された俺を運んでいく。
マフラーから櫛枝の温もりがまだ微かに感じられた…。<END>
134車輪の唄〜For→高須×実乃梨<あとがき>:2009/03/02(月) 05:35:11 ID:r216f42t
終わりです。
初投下で緊張しちまって気づかなかったことを激白します。

…エロねぇぇぇ!
エロパロ板なのに微塵もエロスを含まない作品を投下してしまい誠にすいませんでした!
そしてやはり…パクリ自重ですね‥。
でも書いてて自分自身楽しかったりしました。
では、機会があればまた。
135名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 05:38:26 ID:i4TlwQVE
>>134
車輪の唄聴きながら読んだら涙が止まらない・・・
これからテストなのに目が・・・
GJすぎる。そしてこのスレで初めて泣いたorz
136名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 05:42:05 ID:/mPUrmb5
うつだ……ハッピーEND投下しよう。ってことでもうそうばくはつ。

今日も投下するよ。

『インコのくせに』        ハッピーENDだよ。
137名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 05:42:44 ID:/mPUrmb5
「はぁ?こんなのいらねぇし…」
「そんなこと言うなよ。急に大河、櫛枝んとこでメシ食うって言うしさ。だからとっとけ」
「んなこと言ったって、亜美ちゃん料理とかしねぇし…………つか出来ないし」
「なら俺ん家来るか?メシなら俺が作るぞ?」
「えっ!?だ、だれがッ」
「いや、お前だよ。どうせ家帰っても菓子ばっか食ってんだろ?」
「そんなに食べてねぇよッ、亜美ちゃんモデルだもん」
「結局食ってんじゃねぇか…あぁ、そうか。いや、悪かったな。俺ん家なんか来たくねぇよな」
「べ、別に行かないなんて言ってないでしょ。…行く。…こんなのもらってもどうしようも無いし」

夕日に染まる道を2人並んで歩く。2人の距離はいつもより少し離れ気味だ。
だ、大丈夫。ただ一緒にゴハンを食べるだけ。それに、高須君のお母さんもいるし。
竜児が玄関のドアを開ける。
「ただいま……………あれ、泰子?」
竜児が居間の方へ進んでいく。それに倣い、亜美も廊下を進む。
「なんだ、まだ寝てんのか。ほら、起きろ。もうすぐメシにすっから。」
「うぅ〜ん…竜ちゃん、おはよ…。ん…?あー、竜ちゃんが彼女連れてきたー。」
「ち、ちがッ!?そんなんじゃねぇよッ、友達だ、友達。なっ?」
「えっ?……あ、あはは。そうですよ。ただの友達ですよ。………ただの」
「ほんとに?」
「ホント!ほんとに友達だからッ」
「え〜、ざんね〜ん。亜美ちゃんならぁ、娘になってもいいんだよ?」

そして今日、大河が来ないことと、亜美が夕飯を食べていくことを伝えると、
泰子は店の準備のためか、また部屋に戻っていった。
竜児は、まだ挨拶をしていないこの家の住人、インコちゃんに話しかける。
「ただいまー、インコちゃん。今日は川嶋と一緒にメシ食うからな。ほら、自己紹介」
名前を呼ばれた不気味な鳥は、くちばしの間から紫がかった舌をはみ出し、
濁った眼はそれぞれ別の方向を向いていて…とても正常だとは思えなかった。
やがて、そのくちばしを開き、自己紹介をするのか声を出す。
その様子を、亜美も揃って見守る。

「イ、イ…、イン…、」
「さぁ、インコちゃん、自分の名前を言うんだッ!言ってくれッ」
しばらくインコちゃんがどこかの芸人みたいにつっかえる。
2人はその無限とも思える時間を固唾をのんでじっと見つめる。
そしてッ――
138名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 05:43:16 ID:/mPUrmb5

「インド」
「「くだらねぇ」」
今回もインコちゃんの自己紹介は失敗に終わってしまった。
竜児は若干落ち込みつつも、夕飯の支度をするため、台所へ向かう。
「何か手伝おっか?ただ食べるだけじゃ悪いし…」
「なら、食器出しといてくれ。」
確かに料理は出来ないが、もう少し他にすることは無いのかと、
むくれながら食器を運ぶ。

運び終えると、もうすることが無いので、亜美はインコちゃんに言葉を投げる。
「飼い主よりも、ペットのが不細工」
「ぐ…、ぐぇ?」
台所では、腕がもう2本生えたかのような速さで、竜児が夕飯を作っている。
亜美は一方的に話し続ける。この鳥なら、ろくに喋ることも出来ないと思ったからだ。

「友達…だって。ただの………友達」
「と、も…びき?」
「友達」
「とも、ダチ?」
「はぁ……何で彼女じゃないってソッコー言うわけ?まぁ確かに彼女じゃないけど…」
「ごが、ぎぎ?」
「別に彼女だって言ってくれてもよかったのに」
「か、かの、かの…のじょ、じゃ…ない」
「分かってるっつーの」
「ごえぇ」
「私は高須君の彼女じゃない。でもほんとは、彼女になりたい…」
「むす…、むす?」
「…うん。ずっと高須君のそばに居たい。高須君のお母さんの娘にもなりたいよ…」

いつの間にかインコちゃんと亜美の間には会話が成立していた(言葉を理解しているかは不明だが)。
「それにしても、アンタ本ッ当に気持ち悪いわ」
「きも…、キモカワイイ?」
「何勝手にプラスに持ってこうとしてんの!?気持ち悪い、き、も、いっての」
「おい川嶋、そんなにうちのインコちゃんをいじめんなよな」
どうやら料理が完成したらしい。泰子も支度を終えてやってきた。
139名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 05:43:49 ID:/mPUrmb5

竜児はインコちゃんのエサ箱にエサをいれると、食卓に着いた。
「今日は竜児特製とんかつだ。まだおかわりあるからな。それじゃ…」
「「「いただきます」」」
亜美は早速、竜児特製のとんかつを口に入れる。
その大きさは測られたかのようにぴったり口に収まるサイズだ。
噛むと衣はサクサク、肉はやわらか、ジューシーな肉汁が口の中に広がる。
教えたわけでもないのに、脂身の部分は取り除かれている。
「ん〜、竜ちゃんの料理はやっぱりおいしいねぇ」
「うんっ、すごくおいしいっ。これプロにも負けないって」
「そ、それは褒めすぎだって」
それでも竜児はまんざらでもない様子だ。
亜美としても、料理を褒められたことで嬉しそうにしている竜児を見ていると、心が温かくなった。

そのときインコちゃんが口を開いた。
「ほんとは、彼女になりたい」
「!?ごッ、ゲほッ、ゴほッ」
「ずっと高須君のそばに居たい。高須君のお母さんの娘にもなりたいよ…」
「こ、このブサインコッ!なに言ってんのッ!」
「あ〜、やっぱりただの友達じゃないんだねぇ、なら娘ってことでぇ、いいよね?」
やられてしまった。まさか鳥に自分の気持ちを暴露されるとは。
背筋が凍っていく。きっと断られる。だって…

「川嶋…お前、本当に?俺でいいのか?」
「あぁ、そうですよ。私は高須君のことが好き。大好きなのッ!
 でも分かってるッ、高須君は実乃梨ちゃんの、……こ…とが?」
途中までわけがわからないまま、まくし立てたため気付くことが遅れた。
「今、…なんて?」
「お、おぅ、俺でいいのかって…」
「で、でも高須君は、実乃梨ちゃんのことが…」
「あぁ、好きだと思ってた。でも、お前んとこの別荘からもどって、考えてさ。
 櫛枝って、憧れではあったけど好きとは違うんじゃねぇかって。でもさ、
 お前は俺と対等だって言ってくれた。それで気付いたんだ。ほんとに好きなのは…お前だって。」
「やった〜、それじゃあ、亜美ちゃんはぁ、やっちゃんの娘ってことでいい?」
「あ、あ…、アっ……アコガレイ?」
最後に何か聞こえたが赦す。
認めよう、見た目ブサだが、私と高須君を結び付けてくれたのはこのインコなのだ。
だから、少しは感謝してやってもいい。
だが、少しだけだ。
私が高須君と結ばれることができたのは、ほとんどが、この天使のような可愛さなのだから。
140名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 05:44:27 ID:/mPUrmb5
おわり
141名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 05:55:47 ID:r216f42t
>>135
ありがとうございます!
>>140
クッ!みのりん派の俺なのに…GJ!!
142名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 05:57:17 ID:r216f42t
さげ忘れた!すいません!!気をつけます‥
143名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 07:16:07 ID:JpvtDo0x
GJ!!
GJの嵐ダァーッ!
144名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 10:13:20 ID:jDZ6c/Jq
Bump of chickenの車輪の唄・・・
同じくBump of chickenの「メーデー」「涙のふるさと」、GReeeeNの「キセキ」とかでも
作品が作れそうだな。
145名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 12:38:16 ID:Dcyt9uhm
歌からインスパイアというのは厨臭いと思うな俺は。
146名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 12:49:37 ID:JpvtDo0x
ただひとつ言えることは続きが気になるということだな
147名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 14:17:11 ID:YSPD3BVs
ちょっと(7レス位)通りますよ。
148我が家の腹黒様:2009/03/02(月) 14:18:09 ID:YSPD3BVs
−−−ピーッ!!
午後七時二十三分二件ノ伝言ヲ預カッテヲリマス。
「あ〜今日はみのりんとご飯食べに行くから。
てか、あんたも誘ってあげようと思ったのに、なかなか帰って来ないし。
携帯はちゃんと持ち歩きなさいよ。それじゃ。」
「あ〜あ〜。そうゆう事だから、大河借りてくぜッ。
ちゃんと、お土産買ってくっから。
悪く思わないでくれぃ。じゃね。アヂュ〜。」
………
「て、事らしい。どうする?」
お留守番をしていた携帯電話が真っ暗な部屋の中で、チカチカと赤く点灯していた。
奈々子と二人、家に帰って来た竜児を待っていたのは、実に薄情な伝言だった。
ったく。あいつの弁当箱を取りに行ってたってのに…
それにしても、櫛枝と飯か。ちょっと惜しかったな、と思うが、
帰りが遅いのも、携帯を家に置いて来たのも自分であり、
「ホントに2人っきりになっちゃったわね…
でも、あたし、だったらかまわないわ。
もう、あなたの家に来ちゃったんだし…
お夕飯、作っちゃいましょ?」
ね?とウインク。奈々子の艶っぽい仕草に、少しドキリとする。
ああ、櫛枝と飯食う機会は逃してしまったけれど、
それでも、こうして新しい縁が出来たのだから、良かったのかもしれない。
と、感じていた。
竜児にとって、櫛枝実乃梨は愛しい人。長年の想い人である。
心に決めた女性。決して軽い気持ちじゃない。
本当にどうしようも無く、好きで、好きで、好きな人。竜児自身はそう、考えていた。
しかし、だからと言って、他の女性など、目に入らないか?
と、問われると、別に、そんな事はなかったりする。
可愛いものは可愛い。好きな人が居るとか、どうとかは、また別問題なのだ。
つまり、結論から言えば、竜児は奈々子について、『カワイイ』と感じていた。
元々、あまり接点のある関係では無く、特に親しい訳では無かった。
友達の友達。防衛庁とテロリストまで結べる様な希薄な関係である。
ただ、奈々子はクラスでも目立つ存在ではあったから、
竜児にしても、遠巻きに、美人だな。と、思う事もあった。
それが、今日、急に親しくなり、カワイイ。と、感じたのである。
149我が家の腹黒様:2009/03/02(月) 14:18:30 ID:YSPD3BVs
話してみると、結構、良かった。
奈々子にとってそうであった様に、竜児にとっても、また、そうであった。
実際のところ、二人の間には、多少の温度差がありはするのだが…
「お米は、もう研いであるみた…って、三合!?
高須君って結構、食べるのね。」
「あ、いや、俺は、基本一膳しか食わねぇけど…
その、後は、泰子と大河の分だ。あ、泰子っていうのは、俺の母親。」
「…そっか、大河ちゃんね…なるほど…
じゃあ、ちょっと味が落ちちゃうけど、ご飯は快速炊きにして、
その間に、オカズを作っちゃいましょう。
オカズは、何にするの?」
「ん、え〜と、ちょっと待ってくれ、確か、冷蔵庫に……」
冷蔵庫に吸われるように歩いて行き、
「おう。これだけあれば、オカズになるな。よしよし…」
と、冷蔵庫に半身をカップンチョされた状態で、何やら考えている。
端から見ている奈々子には、そんな竜司の格好はひどく滑稽で、
ついつい、表情が緩んでしまう。
「それじゃ、今日は、豚コマとキャベツの味噌炒めにしようと思うんだけど、良いか?」
と、恐怖!冷蔵庫の巻。から、生還した竜児が答えた。
「良いわよ。それじゃ、高須君は、食器出して座ってて。
ささっと、作っちゃうから。」
「へ?香椎が作るのか?」
「手伝うって言ったじゃないの。任せておいて。
本当に料理は得意なのよ、あたし。」
「お、おう。そうか?じゃあ、お願いするよ。
エプロンは、そこに掛けてるの使ってくれ。
俺のだが、バッチリ洗濯してアイロン掛けてある。
制服、汚しちまったら大変だから。
それじゃ、俺は、食器だしとくから、何かあったら呼んでくれ。」
と、言い残し、竜児は居間へ帰って行った。
残る奈々子は、台所の端に掛けあるエプロンを手にとり、
ふと、顔を近づけみた。
キチンと洗濯された、ふわふわの感触と太陽に匂いが心地良い。
ウフフ。高須君の匂い…なんて、何してんだろ、あたし。
それにしても、スゴイ洗濯スキル。まるで、クリーニングに出したみたい。
これ、高須君が洗濯してるんだとしたら、スゴイわ。
150我が家の腹黒様:2009/03/02(月) 14:23:00 ID:YSPD3BVs
そういえば、聞いた事がある。
高須君の家事スキルは、ほとんどチートだって。何やらせてもプロ並だって。
確か、亜美ちゃんが言ってたかしら?
あの時は、興味の無い話題だし、チートってどういう意味なのか解らなかったから、
適当に、相槌打って流したけど、ホントだったんだ……
さっきも、ほとんど一人で教室ピカピカにしてたし…
この分じゃ料理の腕だって……
ああ、マズイわ。美味しく作って、アピールのつもりだったのに…
あたしが、サポートに回った方が良かったんじゃあ……
でも、今更悩んでも仕方がない。
あたしだって、料理は得意なんだからッ。
こうなったら、本気で勝負するだけよッ。
と、奈々子が、ガラにもなく、奮い立ち、
エプロン装着、長い髪は後ろにまとめて、いざ!!と、いう所に
「食器、出しといたぞ〜」
竜児が、台所へ帰ってきた。
「ありがとう。こっちも、すぐに作っちゃうわ。」
「………」
思わず、息を飲んだ。
奈々子のエプロン姿は、実に魅力的だった。
制服の上に、大きめのサイズのエプロンが何とも…
緩くウェーブの掛かった長い髪をポニーテールに結い上げているのもイイ…
台所に立つ姿は、まさに、新妻といった佇まいで、これは…クル…
「ん?あら?どうしたの?ぼ〜〜としちゃって」
ぼ〜っと見惚れていた竜児だったが、
奈々子の言葉で、何とか、正気に戻る。
「お、おう。似合うな、エプロン。」
戻って無かった。思っている事、ダダ漏れ。
産地直送源泉掛け湯垂れ流し。
そんなストレート過ぎる竜児に、奈々子は、
朱の差した頬を両手で覆い、伏し目がちにモジモジしつつ、
「!?そんな…もう。
ありがとう。…嬉しい。」
と、返した。
その様子が、また、竜児的にgood。
この感じ、悪くないな…いや、むしろ…イイ…
「けど、もしかして、皆にそんな事言ってるんじゃないの?」
と、続く。先程より、少し、厳しい口調で、
「お、おう!?
そ、そんな事、ねぇよ…
こんな事、思ってたってなかなか言えないんだぞ?
…言っちまったけど 。」
何か、調子、狂うな…いや、狂わされてるのか?
151我が家の腹黒様:2009/03/02(月) 14:23:20 ID:YSPD3BVs
そうか。と、竜児は得心がいった。
これが、香椎奈々子っていう女の子なんだな。
普段のおっとりした感じと、こうしてたまに見せる、鋭さ、というか…
そういうギャップが、この娘の魅力なんだな。
能登辺りが、奈々子様と呼ぶ、理由がなんとなく解った。
このままだと、本当に好きになる…かも。
でも、良いのか?櫛枝は?俺は、櫛枝が好きなんじゃないのか?
俺は、そんな軽い男だったのか?そんな易々と鞍替えみたいな…
『ふぅん。あんたってば、結局、女の子だったら、誰だって良いんだ?
見損なった。良いわよ。もう、好きにすれば?
私としても、大事なみのりんにそんな野郎を近付たくないし。』
ち、違うんだ。大河 。俺はそんな軽薄な野郎じゃない。
櫛枝への気持ちが揺らいだ事、なんて今まで無かったんだ…
だから、俺だって今、どうしよう…って思ってるんじゃないか…
脳内大河の罵声に必死に言い訳してしまう。
解ってくれよ…俺だって自分が解らねぇんだ…
「何か顔色悪いよ?大丈夫?
すぐ、作って、持って行くから、座って待っててよ。」
「お、おう。あ、ちょっと喉乾いちまって…
お茶、取りに来たんだ。」
そういって、また、冷蔵庫に半身を捧げる。……少し、頭が冷えた。
取り出したお茶を、ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら、一気に行く。
「わぁ。スゴイ飲みっぷりね…
よっぽど、喉乾いてたのね。」
「香椎も飲むか?」
「あ、あたしは、後で、ご飯の時に頂くわ。」
「お、おう。そうか。」
「ええ。でも、今の高須君、何だか格好良かったわよ。男らしくって。
と、言っても、呑んべは嫌いなんだけどね…
あ…あたしは、格好良いなんて、誰にでも思わないわよ?
そうね、同年代の男性なら、高須君…あなたが初めてよ。」
ウフフ、とからかう様に奈々子。
何気ない一言でも、余裕の無い、今の竜児にはたまらなかった。
このまま、奈々子を抱きしめて、自分のものにしてしまいたい。
そんな、黒い囁きが擡げるが……
152我が家の腹黒様:2009/03/02(月) 14:25:33 ID:YSPD3BVs
『信じられるから…』
奈々子の言葉が、ブレーキになって、なんとか、踏み留まれていた…
ダメだダメだダメだ…
香椎は、俺が変な事しないって信じてくれてんだ。
裏切れねぇ…せっかく、仲良くなれたんだ…
嫌われなくねぇ…
「俺も、作るよ。
もう、食器は出したから。
そうだな、簡単に味噌汁と出汁巻きなんか。」
「ホントに?うん、じゃ…一緒に作りましょっか。」
「おう。」
確かめよう。こうして、香椎の隣に居て。
そうしたら、解る、かも。俺は、香椎が好きなのか…違うのか…

***

ジューーと、小気味よい音ん立て、
竜児が操るフライパンでは、卵が見事な玉の形を築いていた。
単なる卵焼きじゃない、ホントに料亭の玉みたい。
自分の味噌炒めを焦がし過ぎないよう…
グリングリンと、楕円の軌跡で、混ぜ込みつつ
「高須君て、ホントにスゴイのね…
あたし、感心しちゃった…」
と、話しかけた。
「香椎の方こそ。スゲェじゃねぇか。」
「う…ん、あたしは、毎日、やってるもの…。
男の子で、そんなに料理が得意だなんて、やっぱりスゴイわよ。」
「俺も、毎日、やってるからな。
…あのさ、男が、料理得意って…やっぱ変か?」
竜児のトーンが半オクターブ下がる。
「あ、ううん。ゴメンなさい。
そういう意味じゃないの。
今のって問題発言だったわよね。ゴメンなさい。
あたしは、全然、変じゃないって思う。
だって、レストランのシェフだって、男の人が多いじゃない?
素敵だな。って思う。
家事が得意な男性って、何だか…好きよ?」
「お、おう……」
微妙な、空気になる。
今のって…高須君の事、好きだって…そんな風にとれるわよね…
…好きには違いないんだけど…
ああ、早まっちゃったかしら…
「高須君は今すぐにでも、良いお嫁さんになれるわね。」
ウフフ。と、精一杯、冗談ですよ、とフォロー
「なら、香椎が貰ってくれるか?」
と、竜児も冗談めいて返す。
153我が家の腹黒様:2009/03/02(月) 14:26:04 ID:YSPD3BVs
「さあ?ウフフ。どうしようかしら?」
「でもよ、香椎の方こそ、マジで良いお嫁さんになれるぞ。
綺麗だし、家事も出来て、良妻賢母って奴かな。
香椎と結婚する奴は、幸せだな。」
割と、真剣な口調で竜児が言う。
ありふれたテンプレートな常套句、とは解っていても…
「あ…」
と、黙ってしまう。
顔が火照って、胸がドキドキする。
チラッと竜児の方に目をやると…
「………」
「………」
目があった。
それから、双方、何だか、気恥ずかしい雰囲気まま、時間は過ぎた。

***

そして、
「なあ、香椎?デザート食うか?」
と、竜児から沈黙を破った。
先程の、気恥ずかしい雰囲気で、食事。
さらに、食後、
「俺が皿洗う。」
「そんな、あたしが洗うわよ。」
と、俺があたしがと、茶番劇を繰り広げ、
例によって、二人で洗い物をした。
お約束の通り、奈々子が落として拾おうとした、菜箸を竜児も…
も、やった。なんだか、もう完全に新婚気分。
「良いの?」
「おう。三個で、100円の徳用プリンだけどな。」
「それじゃあ、頂こうかしら。」
100円プリンを上品に食べる香椎を尻目に、
ああ、いつも大河が食ってる奴とは、違うプリンじゃないか?
竜児は、そんな事を考えていた。
もし、大河にバレたら、ダダでは済まなさそうだが。
それから、2人、テレビも何だかつまらないという事で、
オセロなどを興じていた。
実力は、やや、奈々子の方が上。
平和なオセロであった。途中までは。

***

勝者の余裕からか、奈々子は、とんでもない事を言い出した。
「ねぇ、何か賭けない?」
「ん?そりゃあ、良いけど…何を賭けるんだ?
自慢じゃないけど、金なら無いぞ?」
「もう。ゲームでお金賭けるのって違法なのよ?
ん〜っとそうねぇ…じゃあ、あたしが負けたら一枚ずつ脱ぐっていうのは?」
「ブッ…。ちょ、おま、そっちの方が問題あるだろ?」
「そうかしら?ねぇ、高須君は見たくないの?
あたし、結構、自信あったりするのよ?」
「……川島みてぇな事、言うなよ…」
「ふぅん。高須君、亜美ちゃんと、そんな事したんだぁ?」
154我が家の腹黒様:2009/03/02(月) 14:27:38 ID:YSPD3BVs
「し、してねぇよ?誓ってしてねぇ。
いっつも、あいつが一方的にからかってくるだけで…
そんな事、絶対してないから。」
「そう。あたしは本気だよ?
そりゃあ、亜美ちゃん程じゃあないけど、
それでも、見て損はさせないわ。」
「…うぅ。だ、ダメだ…
来る前に、変な事、しねぇって約束したんだ。
だから、ダメだ。」
と、断腸の思いで、キッパリ断る竜児。
「ウフフ。高須君ってさ、詐欺に引っ掛かっちゃうタイプだね?」
「はぁ?」
「だってさ、あたしは負けたら、一枚脱ぐっていっただけで、
高須君が、負けた場合の事、あたしは言ってないのよ?」
…あ、と、竜児は目と口を丸くする。
「お前…はぁ、危ない所だった。
俺に一体、何させる気だったんだよ?」
「ウフフ、さぁ?」
「さぁ、て…」
「けど、嬉しいな。高須君は、約束ちゃ〜んと守るんだね。
女の子を大切にするタイプなんだ。
あたしの方から、言い出したんだから、そんなの反故にして、
やっちゃっても、責められる事ないのに。」
「…そういうは何か嫌なんだ。」
「素敵。だと、思うわ。
あたし、そういう人が好き。
もし、付き合うなら、そんな人が良いわ。」
え…それって…竜児の胸に期待が高まる。
言っている奈々子は、竜児以上にドキドキものなのだが、
「ウフフ。高須君が負けた場合の事、思いついたわ。
もし、高須君が、負けたら、一つ質問に答えてもらうわ。
ノーコメントはダメ。嘘もダメ。
嘘ついてるかどうかなんて、あたしには解らないけど…
高須君は信頼に足る人物だって思うもの。
あ、それと、あたしの方は靴下とか、リボンとか、どんどん使うわよ?
そんなに簡単に見せてあげるつもりは無いわ。
ねぇ、どう?してくれない?
と、いうか、これでしてくれないと、
あたしってそんなに魅力ないの?って、
逆に落ち込んじゃうわ。」
ね?と、ウインクされ、口元のホクロが今日もやけに色っぽい。
気圧されて。お、おう。と、竜児は、思わず首を立てに振った。
おもえば、2人のパワーバランスは、この時点である程度、定まっていたと、
後々、気が付く事になるのであった。
155我が家の腹黒様:2009/03/02(月) 14:28:37 ID:YSPD3BVs
終わりです。
次回は脱衣オセロ編。
ゆっくり想像していってね。
156名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 14:37:27 ID:H8OmXmRX
まさかの脱衣オセロワロタwwwww
GJだぜw
157名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 14:44:36 ID:VYHXgTSJ
>>155
GJ!
この奈々子様はチェスとか将棋とかが強そうな雰囲気だね
脱衣オセロでも余裕で勝てるのに、途中まではわざと負けるんだろうな
158 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 14:52:39 ID:DnSDPXXc
皆さんこんにちは。
ちわドラを書いてみたので投下させて頂きます。
前作の感想を下さった方々、まとめて下さった方ありがとうございます。
題名は[伝えたい言葉]です。
注:原作7巻P132からのifストーリーです。
159 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 14:53:38 ID:DnSDPXXc
絡まった糸を解くのって…結構、厄介。
上手く解ける場合もあれば、余計に絡まる事もある。
ここが解けたと思ったら、別の場所で玉結び…、それを直したら次は…
そんな感じで結局は……グッチャグチャ。
嫌になる。何で私はこんな事してるんだろう?
別に私が必死こいて動き回る必要なんて無いよね。
でも…しなきゃ駄目なの。
ここまでややこしくなったのは私のせい。
そして、糸を解いた先に見えるだろう答を見たいから。
その一つが私だったらな……って、はは…亜美ちゃんバカみてぇ。
そんなの、ある訳無いじゃん。端から分かってるし…。
解こうとしている糸の先は、大河と実乃梨ちゃんしか居ないんだもの。
……高須君の探る『糸』の中に『川嶋亜美』は居ない。
だけど『もしかしたら』って想いを馳せてしまう。
入り込む余地なんて無いと解ってても…。
ねぇ、高須君…私も見てよ。
お願い。からかってるんじゃ無いんだよ?
好き………キミに恋してるの。
………諦めきれないよ。
.
[伝えたい言葉]
.
薄暗い体育倉庫の中、私と高須君は『居た』
クリスマスパーティーの準備の喧騒も何処か遠くに聞こえる。

160 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 14:54:22 ID:DnSDPXXc
『大怪我する前に目を覚ましたら。全部チャラにしなよ。
それで一から始めたらいいじゃん。
…あたしのことも、一から入れてよ』
私はマットの上に寝転がり、彼に背を向けて、そう言った…。
打算があって言った訳じゃない。
ただ私の願望の発露として、唇が勝手に言葉を紡いだだけ。
「な、あ。川嶋…今、何て?」
高須君が私に聞き返す。
戸惑いを隠せて無い声で…。
やっちまったなぁ…あいたたたっ…。
『ごっめ〜ん☆冗談!冗談!本気にしたぁ?高須君の反応マジでウケる。亜美ちゃん腹痛てぇ!』
とか笑って誤魔化そう。
これ以上、糸がこんがらがったら嫌だもん。
朴念仁とアホとドジが右往左往してるの見てたらムカつくし…。
早くスッキリして楽になれば良いのに…、イライラするんだよね、アンタら見てると。
うんうん。そうだ。流石、亜美ちゃん解ってるぅ。
『いつも通り』に言えば良いのだ。
からかっただけ、って…。
「……私も、選択肢の一つに……入れてよ…」
でもね…考えとは真逆の事を、私は言ってしまう。
胎児の様に丸く身体を縮こませて…。

161 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 14:55:05 ID:DnSDPXXc
「選択肢って…、あ。……いや、川嶋。そのゴメンな。それは…」
背後から聞こえる申し訳なさそうな高須君の声は、私の心を抉る。「俺…好きな人が居るから、さ…」
苦しい。胸が張り裂けそうな残酷な一言。
こう言われる事なんて解ってた。
でも、本人の口から言われると辛くて…悲しい。
親指の爪をグッと噛んで、零れてしまいそうな涙を堪える。
「…何で駄目なの?大河や実乃梨ちゃんは…良くて、私は…私は駄目な訳?」
適当にお茶を濁せば良いのに…。
もう傷付きたくなんか無いのに…、私は更に深く聞いてしまう。
「ん…その内、俺なんかより、もっと良いヤツが見つかるぜ?川嶋に釣り合うヤツがさ」
と、テンプレートな言葉で、やんわりと断られる。
それ、『優しさ』のつもりで言ってるでしょ?
違うよ『否定』だよ。
『俺はお前が好みじゃない』
そう言っているのと同じだ。
「っ…。何だよ、それ。っん。高須君…って酷いよね」
私は絞る様に紡ぐ。
「私じゃ嫌?そうなら、そうって言ってよ?辛いよ…半端な言葉で生殺しにしないでよ!」
もう抑える事なんか出来なかった。

162 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 14:56:08 ID:DnSDPXXc
「お、落着け!川嶋、どうしたんだ!?訳が分からねぇよ」
肩に置かれた手を振りほどいて、私は起き上がった。
「…っ!私だって!私だって訳が分からないわよ!でも…でもっ!」
彼を睨み付けながら、その先を言おうとして、私は正気に戻る。
…落着け、川嶋亜美。
その先は取り返しがつかないよ?
一割にも満たない確率に掛けるなんて無謀だ。
言ったら、ただでさえややこしい関係が更に複雑になる。
私は深呼吸し、一呼吸置いて彼に言った。
「ゴメン…。何でも無い。あはは…今のは忘れて?」
うん…これで良いんだよね?
どうせ、実らないんだ…。
無かった事にしよう。
これ以上は傷付きたく無い…知りたく無いし、見たくない。
「お、うっ。大丈夫か?」
そう高須君が言ったの。
何でだろう?大丈夫に決まってるじゃん。亜美ちゃんは……強いから大丈夫。
でも本当は………。
「…わっけわかんね。高須君が何言ってんのか分かんねぇし」
私は強がりを言う。煙に巻く言葉を…。
「でも…。川嶋、泣いてるし」
は?泣いてる?私が?
何言ってんだ、このチンピラ顔。
この位で泣く訳ねぇ。
……私は強いんだから。


163 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 14:57:01 ID:DnSDPXXc
私は頬に指を滑らせる。
あれ?
おかしいなぁ…何だろ?これ…。
ああ、そっか。
私、涙が出てるんだ…。きっとさっき堪えていた涙…だよね?
「あ、あれ?な、何でだろ、な…私、泣いて…。え…う…」
高須君の言っていた事…泣いてるって本当だったんだ。
そう理解した瞬間、私は溢れ出る熱い涙を止められなくなる。
「ぐすっ!ち、違…うっ!悲しくな、んかっない!わ、たしはっ…っふ!泣いてなんかっ!っ…」
違う!違う!辛くなんか無い!
こんな事より辛い事は、もっとあった!
母親の七光だって陰口を叩かれた事

…名前を売る為だからって、枕営業をさせられそうになった事だってある。
それらに比べたら、こんな事…大した事無い!
「ほ、ほら!これ使えよ!」
私に差し延べられたのはハンカチ…。
これが大河や実乃梨ちゃんだったら、ハンカチじゃなくて、優しく抱き締めてあげたりするのかな?
きっとそう。これが私と高須君との距離…。
彼女達との数ヶ月の差…縮まる事の無い絶対の差。
「川嶋。俺が悪かった…。何か酷い事言っちまったみたいだ。悪かった…ゴメンな」

164 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 14:57:35 ID:DnSDPXXc
そう高須君が言って、私の頭を撫でる。
大河を見守る時の目でさ…。
卑怯だよ…優しくしないでよ。
それが『生殺し』なんだから。
期待させる様な優しさが…私を受け入れてくれる優しさが…。
どうせなら拒絶してよ。
泣いてる私なんか放っておいて…さ。皆で準備なり何なりすれば良いのに…。
高須君なんか…高須君…。
「うっ…うぅ!う…うわぁあああんっっ!」
私は彼の身体に抱き付いて泣きじゃくる。
「おう…」
解ってる…彼が私を突き放さないのは『優しい』からなんだと。
フラれたも同然の男に泣き付いて、傍目だと無様だと思う。
でも今だけは良いよね…高須君に甘えたい。ただ胸を貸してくれているだけで良い。
落ち着いたら『いつもの川嶋亜美』に戻るから。
だけど今は『女の子の川嶋亜美』で居させてね、高須君…。
.
こんなに思いっきり泣いたのは、いつ以来だろう。頭がボーッとする。
「よし…泣きやんだな。ほらハンカチ」
再び差し出されたハンカチを受け取って、目元の涙を拭く。
「ん…ありがとう…」
そう言った後は言葉が続かなくなる…。
私達は沈黙し、ただただ時間だけが過ぎていく。

165 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 14:58:05 ID:DnSDPXXc
落ち着いてくると、私はある事に気付く。
もしかして…いや、私は事態を余計に悪化させてしまった…、と。
高須君は気付いてしまったと思う。
私が、彼に抱いている想いを…。
あんな言い方したら、どんなに鈍感なヤツだって気付くだろう。
あの時、自制が効いていたなら…、無い事にしてしまえたら…。
もう無理…頭の中がグチャグチャだよ…最悪。
このまま接点を無くして、疎遠になったら…忘れてくれるかな、ううん。
やっぱり嫌だ…。
他人に嘘は付けても、自分に嘘は、付けないもん。
高須君の事が大好きだから…諦めれないよ。
もう我慢はしない…。
回りくどく
『私の事も見て』
じゃなくてストレートに
『私に目を向けさせて』
みせる。
大河や実乃梨ちゃんと同じスタートじゃなくても、同じ『土俵』には立ってやる。
その上で高須君に…。
だから『お節介』は止める。
「ねぇ、高須君。ちょっとお話しようか?」
「おう。何だ?」
今からの私の行動が、今後の関係にどう影響しようが構わないや。
大河も実乃梨ちゃんも、そして高須君もハッキリしないからいけないんだよ?

高須君に『忘れる事の出来ない』川嶋亜美を刻んであげる。

続く

166 ◆KARsW3gC4M :2009/03/02(月) 15:00:12 ID:DnSDPXXc
今回は以上です。
次回はエロ有り。
あとタイトルに(1)と付けるのを忘れていました。まとめて下さる時に追加して、頂けたら有り難いです。
申し訳無い…。
では
ノシ
167名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 15:39:59 ID:/eBBzVmP
>>158-166
GJ!!
168名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 15:49:01 ID:/mPUrmb5
暇つぶしに小ネタを投下。

「りゅうじぃ〜、おなかへったよぉ」
「大河、それドロップやないッ」            おわり
169名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 15:49:03 ID:nnlOCoKR
>>156といい>166といい今日も良作だらけだなあ!ふたりとも乙
170名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 16:26:01 ID:GftdjDE4
平日の真っ昼間からグッジョブってかゴッドジョブなんだぜ職人様共

次回も超期待
171名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 16:45:38 ID:sOLTtt8g
>>155
素晴らしい!
ニヤニヤしまくったぜGJ
奈々子にはこういう小悪魔的な魅力が実によく似合う
172名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 18:32:43 ID:JpvtDo0x
キタ━━━(゚∀゚)━━ !!!
GJ!!
God Job!!

続きも頼むぜ!
173名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 18:43:57 ID:OyjRZkPQ
皆々様GJです
ずいぶん前に前編だけ投下してずっとほったらかしだった『にせドラ!』が完成したのですが
結構長くなってしまったので他の方の邪魔をしないよう12時くらいにでも投下したいと思います
雑文ですがよろしくお願いします
174名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 19:04:14 ID:athhLO1E
>>166 あみドラGJだぜ!!

>>168に不覚にも吹いたwww
175名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 20:22:09 ID:kbFxuZmQ
>>173
待つ必要なんてないさ
さあ
ハリーハリーハリーハリー
176名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 20:46:52 ID:xzlnNsua
177名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 20:53:34 ID:r216f42t
>>176
私的に四番目の画像がGJ!
178名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 20:56:19 ID:Ast6MvVl
腹黒様の奈々子は狼と香辛料のホロを彷彿とさせるような気がするのは俺だけ?
179名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 21:06:22 ID:q0hHnjn/
メガミマガジン4月号のみのりんと大河のバニー姿が可愛すぎた
ちょっくら気合入れて、コスプレ喫茶のSSでも書いてみるべさ
180名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 21:08:03 ID:xzlnNsua
181名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 21:17:39 ID:3W+bWh6d
>>179
期待してます。
がんばってください
182名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 23:00:26 ID:NEskG2lZ
>>179
頑張れ、期待してるぜ。
個人的には、表紙のポニテ(ちょんまげ?)みのりんが兵器級の破壊力だった。
183名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 23:09:25 ID:i4TlwQVE
>>179
期待しとるww
ポニテ
184名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 23:15:03 ID:xiAb2puj
>>144
大河なら、「スノースマイル」だな。
185名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 23:55:56 ID:3w8iLGnJ
>>173
保管庫で前編読んできた。
楽しみにしてます
186名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 23:57:02 ID:ND1El9D0
神ラッシュGJ!
187名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:09:15 ID:fV5e74F1
12時過ぎたが、そろそろ続きが投下されるのかな?
188名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:16:17 ID:HB5+ln3M
ではにせドラの続きをわくわくしながら待つとしよう
189名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:17:50 ID:Z53DzYUf
>>173ですが遅くなったけど投下します
いろいろ忘れててちょこっと変えたので前編ももう一度投下します
お許しください

ニセとら!読んでない人は意味不明です
190名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:18:28 ID:Z53DzYUf
「あれ?竜児?」
ふと大河は、竜児の姿が見えなくなったことに気づいた。
7月7日、七夕の夜。
どうしても行きたいと駄々をこねる竜児に仕方なーく付き合い(大河談)、
商店街の祭りにやってきた二人だったが、出店を巡っている最中、
突然の夏の雨に驚く人波が、二人をバラバラにしてしまったようだ。

小さな体を精一杯伸ばし、左右にきょろきょろ、しかし見当たらない。
「竜児!竜児ー!どこ行ったのよー!」
しかし周りの人々が一瞬振り返っただけで、竜児は姿を現さない。
「迷子になるなんて、なに考えてんのよ!使えない犬ね!」
ケッと吐き捨てる。

小さな体によく似合っている浴衣で、周りの男達の視線を集めまくっているが
イラつく虎の危険性を本能で察知しているらしい、誰も近づこうとはしない。
突然の雨で皆パニックなはずなのに、大河が雨宿りしている商店街の一軒には、見事に大河が一人きり。
雨脚は徐々に強くなっている。

「ったく、バカ犬。」
傘も持たず、荷物は全て置いてきたし、鍵は竜児が持っている。
持っているものといったら綿飴やあんず飴、それに水風船だけ。
今のままじゃ何もできない。
しかも、さきほど慌てた際に足を痛めてしまったようだ。
己の足を見下ろすと、鼻緒が擦れていたらしく、皮がめくれて血が少しにじんでいた。
チッ、舌打ちし、大河は周りを見回した。
相変わらず周りは一歩引いていて、誰も……、いや、一人いた。

「……呪詛全般、満願成就、特製短冊はいらんかね〜。」
その声に大河は音もなく素早く振り返る。
いつの間にか大河から1メートルほどの距離の路地の隙間に、
「………なんでも願いが叶う短冊だよ〜。
 ………一枚三千円。この世ならざる住人の、召還法にも使えるよ〜。」
黒マントに腰まで伸びた黒髪、うさんくささ120%の少女がそこにいた。
必死に低い声で迫力を出そうとしているが、滑ってて痛々しい。
しかしその瞳は、不思議な魔力に包まれているかのように輝いていた。

小さな体を丸めるようにして座っているその少女は、
現実感のない体の首だけを持ち上げ、その怪しく燃える双眸を大河に向けていた。
191名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:19:00 ID:Z53DzYUf


「………。」
思いがけない言葉に、流石の大河も目が点になった。
なによこいつ。
敵には容赦なく噛み付く大河も、対応に詰まって一瞬停止。
よく見ると中学生ぐらいのようだが、
白い肌に細い手足、あまり健康的とはいえないその痩躯には見覚えはない。

「……はっ!」
声をあげ、少女は停止している大河の頭からつま先まで2秒ほどかけて舐めるように凝視した。
そして立ち上がり、甲高い声で叫ぶ。
「しまった!間違えて金持ってなさそうな子供に声をかけてしまったぁ!」
ピクッ、そのあまりの失礼な物言いに大河の短い堪忍袋の尾が切れる。
「私としたことが、なんたる失態。ならばここはむぎゅっ…」
セリフは最後まで言えなかった。
あっさりぶち切れた大河が座ったままの少女の頭を掴み、片手で持ち上げたのだ。
少女は慌てて立ち上がりバランスを取った。

「失礼なガキね、躾が足りないんじゃないの。」
「くっ、何をする!
 痛い、うぅ、離せ!今すぐ離せ下郎!
 さもなくば……、えぇい、食らえ聖なる灰っ!」
「うわっ!……何これ、ぺっぺっ、あぅ、目がぁ……。」
「くっくっく……、あーっはっはっは!
 ……この玉井伊欧、もとい涙夜、……貴様のような悪鬼には屈せぬのだ!
 我が呪いに身を縛られ、冥界の底で苦しむがいい、さらばだっ!」
「げほっ、にが……逃がすかこのクソガキーッ!」
「ぎゃっ、何をするか!やめろ、やめて、やめて痛い痛いあぅぅ………」
暴れる少女、伊欧の突然の攻撃に怯んだ大河だが、
目をくらます粉のようなものにもひるまず、勘だけを頼りに逃げる伊欧の首根っこを鷲掴みにした。
雨空に伊欧の悲鳴が響いた。


192名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:19:33 ID:Z53DzYUf
「………高校……二年?」
「なによその口の利き方は。あんた中学生でしょ。言葉遣いってものを体で教えて欲しいわけ?」
「あぅ……ご、ごめんなさい。」
腕を組み、薄い胸を張って見下ろす大河と、心なしか憔悴してへたりこむ伊欧。
咳と涙が止まるまで二分間ほど大河に捕まれ続け、もはや先ほどまでのテンションの高さはない。
「うぅ……私が悪かったです……魂の……本質に……気づけなかったなんて……観察者失格だわ……」
涙ぐみ、弱弱しく呟くも、その瞳の輝きだけは失われていない。

伊欧と名乗ったその少女の異常な言動には、さすがの大河もついていけなかった。
肩を落とし、嘆息する。
竜児や実乃梨のように、どこか変わった友人に囲まれて生活しているが、
こんな変なやつは初めてだった。
なんだろうか、背伸びする子供独特の痛々しさの中に、
なにかこう、不思議な魔力のようなものがあるような……。

「それなのに、つい……最凶の呪法をかけてしまって……私としたことが………」
大河の本能が全力で警告する。
これ以上この少女に関わるべきではない。
先ほど思わず両手に持っていた綿飴やあんず飴を取り落としてしまったが、
なんだかそれらを責める気にもなれない。
こんなところで油を売ってないで早く竜児を見つけよう。
そしてまた買わせればいいや。
回れ右、大河は伊欧に背を向け、
「……ったく、竜児はどこでなにをやってるのよ、バカ犬。」
ポツリと、忌々しそうに呟いた。



ピクッっと、その声に反応する伊欧。
双眸を再び怪しく燃やし、声を上げて問う。
「りゅう……じ……って男?まさか、男と来てたの?」
「うるさいわね。男っていうほどのもんじゃないわ。
 ご主人様ほったらかして迷子になってる駄犬よ駄犬。
 ったく、チワワでも追いかけてるんじゃないでしょうね。」
再度伊欧の方を向き吐き捨てるように言い放つ。
ったくなんで私は反応してんのよ、無視したらいいでしょ。
大河のイライラも再びピークに達しようとしているが、しかし伊欧は気づかない。
「し……神聖なる祭事に男と………しかも主従プレイを!?そんな……そんなの………」
伊欧は言いながら立ち上がり、髪を振り回し、
「ふ・け・つ・よ―――――っ!!!!」
雨雲を切り裂くように絶叫。
193名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:20:04 ID:Z53DzYUf
「うるせええええええええええええええ!!!!!!」
脳天に突き刺さるようなその声に大河は再びあっさりぶちキレた。
両手でガシっと頭を掴み、左右に激しくシェイク。
「あんたさっきからグダグダグダグダわけのわかんないこと言って、
 あげくなによ、主従プレイ?頭わいてるんじゃないの?」
「いたたたたたた、やめてやだやだあぅぅぅぅ……」
今度は両目でばっちり標的を掴み、万力のごとく締め上げたのだった。



「それで、えーと、あんたが私に呪いをかけてしまった、と。」
「……そうよ。……貴女はすぐにこの呪法の恐ろしさを身をもって知ることになるわ。」
漆黒の瞳にわずかな涙を浮かべ、それでもなおキャラは崩さない。
大河は腕を組んだまま問う。
「どう恐ろしいのよ。」
「クックックック……この呪法に囚われた者は……部屋の片づけができなくなるのよ……。」
「あっそう……。それで、そのお詫びにこれをくれるっていうのね。」
あまりに馬鹿馬鹿しい呪いに突っ込む気にもなれず、
大河はさきほど手渡された小さな紙に目を落とした。
「そう……満願成就の短冊よ……。これに願いを書くがいい……。」
「はぁ、めんどくさ。………はい、これで満足?」
心底めんどくさそうに書き殴り、短冊を伊欧に渡した。

「ふむふむ……『竜児が見つかる』ね、はぐれた彼氏に逢いたいってことね。」
「彼氏なんかじゃないわ。世話したいっていうからさせてやってるだけ。
 あいつバカだし、グズだし、根性もないし。」
「……フン……そんな男をはべらすなんて変な趣味。」
「うるさいわね。竜児のこと別に嫌いとかってわけじゃないのよ。
 その……いつも一緒にいてくれるし、……一緒にいると苦しくないし、
 ……傍にいてほしいって思ったときは、いつだって真っ先に駆けつけてくれるし。」
なんで私こんなこと喋ってるんだろう、大河は自分でも理由がわからない。
ただ、他人に竜児を悪く言われると、なぜだか黙っていられなかったのだ。
饒舌に語る大河を伊欧は無言のまま見つめていた。
194名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:20:36 ID:Z53DzYUf
「……じゃあなんで付き合わないの?」
「なんでって……あいつは他に好きな子がいるし……」
それに私だって、と続けようとする大河を遮り、
「なるほど、つまり、『そういうこと』なわけね。わかったわ……書き加えておいてあげる。」
勝手にうなずき、勝手に納得、なにやら短冊に書き込み始めた伊欧。
嘆息し、大河は今度こそと背を向ける。
「もう好きにして。じゃあね。」

「私の……ことが……好きな……っと、これでよーし……。
 クックックック……貴女の願いっ、聞き入れたぁ!」
背中に突き刺さる伊欧の声とただならぬ気配。
大河は振り返り、それを見た。
「なっ!」
伊欧のマントを翻すつむじ風、それが突風となり大河を襲った。
目を瞑りその風に耐え、奥歯を噛み締める。
暗闇の中、溶けるように伊欧の気配が消えることを感じ、
そして同時に大河を襲う風が止んだ。
ふいに感じる猛烈な違和感に大河は硬く閉じていた双眸を見開いた。
伊欧の姿は消え、あんなに降っていた雨もいつの間にか止んでいた。

「………なん…なのよ……。」
大河は五感を澄ませる。
周囲の人間も、周りの空気も、世界自体も、どこかが変で、嘘くさい。
一瞬にして目に映る全てがペンキで一気に塗り替えられたような、猛烈な違和感を感じ、そして、

「大丈夫か、大河!」

背後からかけられたその声に振り返る。
いつの間にいたのだろう、そこに竜児が立っていた。
「あんたっ、今までどこに……」
上目遣いに竜児を見上げ、口から飛び出す罵声。
しかし、大河は最後まで言葉を続けられなかった。

ぎゅっ

「心配したんだぞ、ったく。」
包み込むように大河を抱きしめ、髪を撫でながら、竜児は優しく呟いた。


195名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:21:08 ID:Z53DzYUf
「……っ!!!」
突然の抱擁に、まるで路上に飛び出し車に轢かれそうになっている子猫のように硬直するも、
数秒後、我に返った大河は、目の前にある竜児の胸に両手を乗せて、その身体を全力で引き剥がした。
一足飛びで距離を取り、髪を逆立てながら叫ぶ。
「あ、あああんた!いきなり何すんのよ!」
「何って、はぐれて心配してただけじゃないか。」
動揺と混乱でテンパり、声が上擦る大河のそんな様子をポカーンと見つめ、
竜児は訳が分からないといった口ぶりで答えた。
大河は、一歩近づく竜児を目で牽制する。
「そういうことじゃないわ!いきなりセクハラかますなんていい度胸じゃない!」
心臓の鼓動をかき消そうと声を上げる。
自分ばかりが慌てているようで、それが腹立たしかった。

きょとんとしたままの竜児は、そんな大河の気配を無視し、さらに一歩近づいた。
その場に膝をつき、うつむく大河の手を優しく掴んで、大河の顔を見上げる。
大河はその瞳を見てハっとなった。
「ごめんな、見失っててごめん。」
一点の曇りのない瞳。
「ずっと一緒にいるって、決して離さないって約束したのに、ごめんな。」
その瞳には、大河しか映っていなかった。





「すんません、ラムネ二本ください。」
「あいよ。兄ちゃん、彼女とデートかい?可愛い娘さんだね。」
「そんなところです。」
笑顔の、しかし能面のようにどこか奇妙な表情のラムネ屋の店主からラムネを二本受け取り、
店主のからかいを軽く流し、竜児が振り返った。
自信に満ち溢れたような迷いのない笑顔で、ラムネを持った手を伸ばしてくる。
「ほら、お前の分だ。冷たいぞ。すぐ飲むか?」
「えっと、歩きながらだと飲みにくいから、いい……。」
196名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:21:46 ID:Z53DzYUf
抱きしめられパニックになるも、大河はそのまま言われるままに竜児の後ろをトコトコとついて行った。
人波に大河がさらわれよう掻き分けながら、竜児はラムネ屋の前で立ち止まり、二人分のラムネを購入。
大河は差し出されたラムネを見て初めて、
自分の喉がカラカラに渇いていること、そしてそれを竜児が察してラムネを買ったことに気づいた。

「じゃあどこかに座るか。」
「あっ……」
竜児はラムネを持っていないほうの手で、今だ混乱気味の大河の手を掴み歩きだした。
振りほどくこともできず、引かれるままに大河は歩き出した。
人波を掻き分け、大河を守るようにして歩を進める竜児の大きな背中を、
大河はただ見つめることしかできなかった。



竜児に連れられるままに歩き、着いたところは騒がしい祭りから少し離れた静かな神社だった。
「ほら、ここならゆっくり休めるぞ。」
「あ、ありがとう……。」
境内に設置されているベンチの前で立ち止まり、
言われるままに大河はそこに座った。
クラスメイトが見たら驚くだろう、そのしおらしい態度だが、
誰よりも大河自身が驚いていた。
なんなのよ、竜児にペースを握られっぱなしだなんて……。
すでに周りに人影はなく、遠くから祭りの喧騒がかすかに聞こえるだけだった。

葛藤する大河の隣に座り、竜児は手に持っていたラムネのビンのガラス玉に親指をかける。
「……よっ!」
力をいれて押し込むと、ラムネは勢いよく泡を吐き出した。
「あっ!」
「おっと、危ない危ない。」
あふれ出し大河の浴衣に泡が落ちる直前、
竜児は大河をかばうように大河の身体の間にビンを持っていない方の腕を滑り込ませる。
「………っ!」
倒れこむようにして自然と密着してきた竜児の顔が、大河の顔のわずか数センチの距離に近づいた。
たったそれだけで心臓のメーターが一気に跳ね上がり、しかし身体は動かない。
竜児はすぐに身体を起こし、硬直する大河に微笑んだ。
「大丈夫か、大河?汚れなかったか?」
「あっ……ありがと……大丈夫……。」
なんとか口を開くのが精一杯だった。
197名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:22:17 ID:Z53DzYUf
そんな大河の様子に満足そうにうなずき、竜児はこぼれたラムネをハンカチで拭いて大河に差し出す。
大河はなんとか手を持ち上げてラムネを受け取った。
「ほら、飲めよ。冷えてるか?」
「……ん、しゅわしゅわする……。」
一口飲み、喉を刺激する炭酸に思わず舌を出す。
そんな大河の様子がおかしかったのか、竜児は再び微笑み、ラムネを口に含む。
寄り添い触れ合う肩が火傷するように熱い。

そのまましばしの間無言でラムネを飲みながら、大河はこの妙な状況について考えた。
さっきからずっと感じる違和感。
こうして座っている今も、目が、耳が、鼻が、違和感を伝えてくる。
伊欧にかけられたあの灰みたいなもののせいだろうか、大河は思い出し、眉をひそめた。
不愉快なことを思い出してしまった、大河は呷るようにラムネのビンを傾ける。
そうすることでこの違和感も、身体を縛るこの妙な気持ちも洗い流してしまいたかった。
カラッと音を立てて、ラムネのビンの中のガラスのビー玉が揺れた。
揺れながら街灯の光を反射するビー玉。
そのビー玉を見て、大河の脳裏を先ほど見た竜児の瞳がよぎる。
曇りのない、透き通った瞳、己の姿だけが映った透明な瞳。

「……ビー玉、欲しいのか?」
よほど物欲しそうに見ていたのだろうか、
そんな竜児の突然の問いに、大河は飛び上がりそうになった。
どうやらずっと横顔を見られていたらしい。
「う、うん……、綺麗だから……。」
竜児の瞳みたいだから、とは言えない。
大河は頬が熱を帯びていることを自覚する。
「後で取ってやるよ、ビンの蓋の口を壊して。」
「ほんとう?」
「あぁ、……ただし、全部飲んでからな。」
言って、微笑む竜児。
つられて、大河も笑った。


198名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:22:47 ID:Z53DzYUf
大河がラムネを飲み終えると、竜児はビンの口をきつく捻って外し、
手際よく二本のビンの中に入っているビー玉を取り出した。
「よっと!……ほら、取れたぞ、ビー玉。」
「あ……ありがと……。」
手渡せたビー玉を受け取る。
ラムネに濡れたままのビー玉は周囲の明かりを反射し、幻想的な輝きを放った。
「……きれい………。」
小さく呟き、手のひらで転がす。
同じくビー玉をしばし見つめ、竜児は口を開いた。
「……まるで、お前の瞳みたいだな。」
「えっ?」
「曇りがなくて、美しく輝いていて、まるでお前の瞳みたいだ。」
竜児は視線を上げ、優しく微笑んだ。
「そんな真っ直ぐなお前の瞳が、好きなんだ。」



告白されたのだ、と気づくまでに数秒かかった。
数秒かかって、理解して、そして全身が沸騰したかのような錯覚に陥った。
身体が震え、和太鼓を乱打したかのような心臓の鼓動の音と、
それにかき消されること無く耳の奥でこだまする竜児の言葉が鼓膜を支配する。
しかし、そんな動揺もつかの間だった。
竜児と目が合う。
そのまま動くことができず、ただ無言で見つめ合うと、
不思議と動揺は消え、心も身体も落ち着いていった。

「………竜……児……。」
透き通った竜児の瞳に、吸い込まれそうになる。
いや、本当に吸い込まれているのかもしれない。
どうしようもないぐらいに、惹かれる。
「………大河……。」
少しずつ、近づいてくる竜児を、大河は拒否することができなかった。
竜児の吐息を感じる。
瞳が、閉じられていく………


199名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:23:28 ID:Z53DzYUf
街灯が描く二人の影が重なり合う、まさにその時、竜児の足が大河の足に当たった。
痛めて、皮がめくれている足だった。
「……いたっ………。」
思わず呟く。
大河は怪我していたことをすっかり忘れていた。
っていうか、私は、何をしようとして………。
顔をしかめる大河を見て竜児は慌てる。
「ど、どうした!?大丈夫か大河!?」
「ん、ちょっと……、足が……。」
「足?怪我したのか?」
しゃがみ込み、傷に気づいた竜児は声を上げる。
「うわ!どうしたんだよこれ!いつから痛かったんだ!?」
「さっき、はぐれたとき……走ったから……。」
でもこれぐらい大丈夫、言い聞かせるようにそう口にし、立ち上がる大河を、
「すまん、気づかなかった。」
竜児はそっと、包み込むように抱きしめた。

「すまん……。」
不思議な気分だった。
先ほど再会したときに抱きしめられたときと違って、今度は大河は動揺しなかった。
まるで抱きしめられることが当たり前のような、そんな不思議な気分。
「……別に謝らなくったって、いいわよ。」
暖かく、心地よい。
そのまま溶けてしまいそうなそんな感覚。
「でも、俺……、全然気づかなかった。お前が苦しんでるとき、いつも気づかなくて……」
竜児の一言一言が全身を巡る。
心の壁も、溶かされていく。
「もう絶対にお前を一人にさせたりしない。
 お前だけを見て、お前と共に生きていく。」

そんな竜児の言葉に大河は目を見開いた。
言葉にできない歓喜が胸の中で踊っている。
欲しかったものが、ついに見つかったんだと唐突に理解できた。
一人ぼっちの自分を、見てくれている人が見つかった。
自分はもう、一人ぼっちじゃないんだとわかった。
例えそれが、現実のものじゃなかったとしても。
200名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:24:53 ID:Z53DzYUf
そう、わかっている。
この世界も、人々も、竜児も、
現実のものではないことくらい、とっくにわかっている。
でも、このままでもいいんじゃないだろうか。
竜児の胸に抱かれ、大河は思った。

このままでもいいんじゃないだろうか。
この竜児は自分だけを見てくれている。
私は一人ではないんだ。

生きてる限り、ずっと一人なんだと思っていた。
そんな運命の元に生まれたんだと諦めていた。
みのりんと親友になり、北村くんに恋をして、竜児と出会った。
充実した日々が忘れさせてくれていたけれど、
結局最後には、私は一人になるんだって思っていた。

だけどここでは、一人ぼっちで牙を剥きながら生きていく必要はないのだ。
誰かに縋って生きていってもいいのだ。
全てが曖昧で、誰も何も自分を傷つけない世界。
私だけを見ていてくれている人がいる世界。

このままでもいいんじゃないだろうか、大河は瞳を閉じて、そう思った。
無言のままゆっくりと両手を竜児の背中に回し、その時だった。


『大河ー!』


大河は自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
聞きなれたその声はひび割れた心の隅々に流れ込み、魂を癒していく気がした。
高鳴る鼓動と共に、大河はゆっくりと竜児の胸から身体を離した。
201名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:25:36 ID:Z53DzYUf
「大河?」
訝しげに大河を見下ろす竜児のビー玉のような瞳を真っ直ぐに見つめる。
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「もう、行くわね。」
その言葉に驚いたのか、目を見開く竜児。
「なっ、なんでだよ!なんで行っちゃうんだよ!」
大河の両肩を掴もうとするも、大河はスルリとかわす。
「あいつが、私を捜してるみたい。だから、もう行くね。」
踵を返し、感じるままに足を動かす。
とにかく声の聞こえた方向に行こうと、大河は思った。
「ここはお前が望んだ世界だろ!なんで、なんでだよ!」
背後で聞こえる竜児の叫び。
その声に一度歩みを止め、振り返らずそのまま呟く。
「……あいつは……あいつは私の傍にいるって言ってるから……だから……」

『大河ー!どこだー!』

再び脳裏に響く、あいつの声。
あいつが、竜児がいるなら、空虚な現実だって、残酷な運命だって……
「だから、私は帰るね。」
顔を上げ、大河は走り始めた。





走る。走る。真っ直ぐに走る。
人々の隙間を縫って………、見つけた!

「……特製短冊はいらんかね〜。」

先ほどまでと同様に、路地と路地の隙間で怪しい商品を売る少女、伊欧の姿。
「ちょっと!あんた!」
大河はキッチリ1メートルの距離で急停止、
顔を持ち上げた伊欧の両目を真っ直ぐに見据える。
「あら……、貴女はさっきの……。どうかしたの?願いは叶ったのでしょう?」
「あんなもんを勝手に願いにするんじゃねえ!この訳のわかんない世界を今すぐなんとかしなさい!」
大河の剣幕を受け流すように、伊欧は一度鼻で笑い、そして謎の決めポーズ。
怒れる虎に気づくことなく、得意のセリフ回しを披露しようとし……、
「訳のわかんないとは失礼ね……。これはこの涙夜のうぐっ……」
「………御託はいいのよ。さっさとしろっ!」
本日三度目の鷲づかみで、またも伊欧の身体は持ち上げられた。
202名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:26:13 ID:Z53DzYUf



「もう一度この短冊に書けばいいのね。」
「えっと、一枚三千え……なんでもない、です……。」
へたりこんだまま上目遣いで口を開こうとした伊欧を視線で黙らせ、
大河は奪い取った短冊にサインペンを走らせる。
「………はい、これでいいわね。」
迷いなく短冊に大きく『いつもの竜児が見つかる』とだけ書き、伊欧に渡した。
舐めるようにその短冊を見つめ、伊欧は念を押す。
「……本当にこれでいいのね?」
「いいのよ、これでいいの。」
漆黒の瞳を睨みつけるようにする大河のその言葉に、
伊欧は唇を歪めるようにして笑った。
「……心得たっ!さすれば……」
立ち上がり、大袈裟にポーズを決め、伊欧は叫んだ。
その燃える双眸を大河に向けたまま腕を振り上げる。
「……さらばだ、逢坂大河!」
あれ、名前教えたっけ?
そんな疑問が大河の脳裏をよぎるのとほぼ同時、
再び巻き起こった突風が大河を襲った。



大河は無言のまま目を閉じ突風に耐えながら、頭の中では別のことを考えていた。
それは、竜児のことだった。
なぜ、竜児の声が聞こえたんだろう。
北村くんでも、みのりんでもなく、なぜ竜児の声だったのだろうか。
牙を剥く必要のない、弱い私のままでも生きていける、
そんなこの世界にそのまま溶けてしまいそうだった私の心を、
なぜ竜児の声はあれほどまでに震わせたのだろうか。
私は、私は………
自問が心の中を巡る中、瞼の外の世界は再び塗り替えられていく………




203名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:26:45 ID:Z53DzYUf
「………っ!」
大河は周囲の喧騒で目を覚ました。
どうやら雨宿りしていた路地の隙間で、いつの間にやら壁にもたれかかりながらウトウトしていたようだ。
「……ゆ、夢?」
なんだろう、とんでもない夢を見ていた気がする。
心地のいい、不思議な夢だったような……。
反芻しながら大河はゆっくりと身体を伸ばし、ふいに思い出す。
「そうだっ!あのガキは!」
小さな顔を左右にきょろきょろ、あの無礼な少女を探すも見つからない。
伊欧と名乗ったあの妙な少女に変な薬品のようなものをかけられ、その後の記憶があいまいだ。
そのままずっとここにいたのだろうか。
なにかいろいろなことがあったような気がするが思い出せない。

うーん、と唸り、ふと気づく。
「あれ、綿飴は?あんず飴は?」
手に持っていたはずの物がなくなっていた。
地面にも落ちていない。
雨に濡れて溶けてしまったのか、これまた思い出せない。
「うー、最悪。」
言いながらゆっくりと頭を持ち上げると、
周囲の人間が皆大河のほうをチラチラと見下ろすように見ていることに気づいた。
視線が集まっていることに、大河は猛烈な不快感を感じた。
「………なによ。なに見てんのよ。」
吐き捨てるようにつぶやき、牙をむく。
爆発するように撒き散らされた殺気を感じたのだろう、皆一斉に背を向けた。

ムカつく、イライラする。
先ほどまで感じていた不思議な心地よさはとうに霧散し、もはや不愉快さしか感じない。
人も、物も、何もかも、全てが不快で仕方がない。
「ったく、……竜児!ねえ、竜児!」
そう呼びかけ、大河は思い出す。
そうだ、竜児とはぐれていたんだ。
途端に全身を、言いようのない寂しさと不安が襲う。
「なによ……、傍らに居続けるなんて言っておきながらっ!」
バカ犬、と叫ぶと同時、左右を彷徨っていた視線はあるものを捕捉する。
鋭い視線の先、そこにあるものは、
「七夕祭り、迷子センター……。」
小さく呟き、名案が浮かんだ。
嘆息し、今だ降り続ける雨の中を大河は歩き始めた。
204名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:27:25 ID:Z53DzYUf





「…………ったく……お前こそ高校生のくせして迷子センターなんか行くんじゃねえ。」
「でもそのおかげで会えたでしょ。感謝してよ。崇めてよ。年貢を納めてよ。」
大河は竜児の背中の上から、手に持った水風船でポヨンと攻撃。
結局放送直後、竜児はすぐに迎えにやってきた。
マシンガンの如く罵声を浴びせる大河に怯みながらも足の怪我に気づいていたらしい竜児は、
暴れる大河を半ば強引に背負い上げ、大河をなだめつつ迷子センターを立ち去ったのだった。

「ほんっとに、なんちゅう変な体験だったんだろ。」
祭りも終わり、竜児は傘を差しながら周囲の流れに乗って家路を歩く。
大河は竜児に身体を預け、竜児の首筋にこすりつけるように頭を押し付けた。。
なぜだろうか、こうしてすぐ側に竜児の存在を感じるのは、ずいぶんと久しぶりのような気がする。
ほんの僅かな時間、はぐれていただけのはずなのに……。

「いっそお前と対決させたかったよ……。」
目を瞑る。竜児の声も、匂いも、温もりも、心臓の鼓動も、全てが心地よい。
ふと、先ほどまでに全身を縛っていた寂しさも不安ももう消えていることに大河は気づいた。
うぅ、と小さく唸る。
きっと疲れているのだろう、眠いからなのだろう。
大河は言い聞かすようにして、再度今にもまどろみに落ちていきそうな頭を竜児の首筋に押し付ける。
こんなふうに感じるのだから、そうに違いない。
じゃなきゃ、じゃなきゃ……、これでは……まるで………

「本当に変な女でな、大河。……大河?」
「すぅ……すぅ……」
背後から聞こえてきた穏やかな寝息に竜児は嘆息する。
「……勝手なやつだよ、緊張感とかねえのか?」
竜児はゆすってみるが、大河はまったく目覚めることなく、
強く竜児の背中にしがみついている。
しょうがねえやつ、つぶやき、
一度かぶりを振って、竜児はそのまま歩き続けた。

―――だから、竜児は気づかなかった。
   大河が、眠りに落ちた大河が、幸せそのものといった笑顔を浮かべていたことを。


END
205名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:27:56 ID:Z53DzYUf
以上、長々と失礼
206名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:31:46 ID:fV5e74F1
GJキタ━━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!

サイコーダァーッ!

そして奈々子様が自転車でこけるやつって保管庫にあったっけ?
207名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:39:49 ID:HB5+ln3M
>>205
綿飴よりもあんず飴よりもベタベタで甘くて、最高だ
リアクションが大河らしくて感動したぜGJ
208名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 01:27:37 ID:9p+OUxwx
やべぇみんなGJすぎだ!
こんなの見せられたら…
ルール違反だけどゴメン
月と太陽の続き考えた方が良いのかな?
自信ないうえに良作ラッシュだと…
裸族になる人いないかもだし…
209名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 01:29:01 ID:CKM8993O
にせトラをちゃんと読んだ事ない俺にはこれが普通に本物に見えたぜ
本物のにせトラは、大河の偽物、可愛い大河が出てくるんだっけ?
210名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 01:31:05 ID:+A6wO/S0
夜は冷えるから早くしてくれ
211名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 02:15:12 ID:pvvXgC6U
>>208
黙って書くんだ。鬱ネタとかじゃない限りとりあえず読むから。
212名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 02:52:31 ID:qgoUmKem
初投降なんだが、そして非エロなんだがいいかな?
時期は年越しして3学期始まる前位を想定して書いてみたんだ

「はぁ…」
スーパーで買い物中聞き覚えのあるため息が聞こえたので振り返ってみたらクラスメイトの香椎がいた
あまり親しい訳でもないないので聞き流そうと思ったがかなり落ち込んでいるようだったので
つい声をかけてしまった
「でっかいため息だな」
「え?あっ高須君。こんな所で会うなんてどうしたの?って買物以外無いか」
香椎は急に声をかけられびっくりしたようにこっちを見てこう言った。
「おう。今日は秘蔵の高須コレクションが切れてたから補充にな。この辺で一番調味料の品揃えがいいのはここだからな。ちょっと高いけど」
「あぁ確かに品揃えいいものね」
「だよな。で、香椎は何してんだよ。てか何でこんなとこでそんなでっかいため息ついてんだよ」
表情は普段と変わらないがやっぱり普段、クラスで見るより元気が無いように見える。
あまり、それほど親しい訳では無いので、少し躊躇したがため息をついていた時の表情が気になって
つい聞いてしまった。
「私は夕飯の買物よ。ため息は…ね。自分の分だけ作る時ってどうしてもやる気出ないじゃない?」
「へー香椎って家事やるんだな。知らなかった」
つい口に出してしまった。クラスでは川嶋と木原とつるんでいつも目立っている彼女が家事をやるとは全く思っていなかった龍時の素直な感想だった。
「高須君知らないんだ。家片親なんだ。だから家事は全部私がしてるのよ。
親はゴミ捨て位しか出来無いし。お互い男親だと苦労するよね」
そんな失礼な台詞に対して奈々子は嫌な顔一つせず笑顔で答えた。
奈々子は自分の親が片親という事は知っていたらしい。
そして自分が家事万能なので勘違いをしているようだ。
「おう?家は母親だぞ。」
奈々子がきょとんとした表情になる。全く予想外だったらしい。
「え?そうなんだ。でも家事は全部高須君がやってるんだよね」
「おう。泰子は、っと俺の母親な。何にも出来ないんだよ。本当に。」
えーほんとに?とかなんとかいつつ奈々子が笑った。
もしかしたら自分のびっくりしていた表情に気付いての照れ隠しなのかも知れ無いが、
さっきより全然いい顔になったのを見て、声をかけて良かった。と思った。
そこで、本題に入る。折角笑顔になったんだから話を戻すなとも思いつつ、
気になった事はやっぱり気になり、自分の世話焼き体質に半ば呆れつつも聞いてしまう。
「で、何で落ち込んでるんだよ。買い物楽しくないのか?俺は楽しいぞ」
「普段は嫌じゃないんだけどね。今、父親が出張で居なくて、それで自分の分だけ作らなくちゃいけないのよ。普段はそういう時は有り合わせで作っちゃうんだけど今日は材料が無くって仕方なく。ね…」
213名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 02:53:32 ID:qgoUmKem
この気持ちはとてもよく理解出来た。
大河と飯を食うようになる前は普通だったのに、大河が居なくなり一人で朝飯を食っていると
自分の家の居間がとても広く寂しい部屋になってしまったように思えた。
奈々子も多分同じ様な感覚なのだろう。
だから、つい
「じゃ、家来いよ。家で飯食ってけよ。」
と言ってしまった。
奈々子は全く予想していなかったのかまたきょとんとした表情をしている。
自分で言ってしまった事なのに恥ずかしくなり勢いでまくし立てる。
段々早口になっているのが自分でも分かるが止められない。
「丁度俺も同じ感じなんだよ。泰子は急に同伴出勤だっつって飯いらねーって言うし
大河は年があけてから全然寄り付かないしで夕食作りすぎちまったんだよ」
「タイガー?」
「あ、あぁ。あいつ家が隣でさ、ほっといたら餓えて死にそうだから家で飯食わせてやってたんだよ。
でも何でか、年があけてからあいつ全然家に顔出さねーんだよ。」
何か言わなくてもいい事まで言っている気がする。
奈々子はへーだのふーんだの楽しそうに相槌をうっている。
「作る気が無いんなら家で食ってけ」
「ふーん…高須君って結構大胆だね。」
あqwせdfghjきぉ;p:@
もう完全に思考停止である。完全に反射で否定する。
「え?ちょっ何言ってんだよ。そんな気ねーよっ!」
「ふっふ。慌てちゃって。高須君って意外とかわいいよね。」
「何だよ。折角人が誘ってやってんのに。嫌ならいいよ。来んなよ」
奈々子は楽しそうだ。どうやら自分の思い通りの反応をする龍時をからかうのが楽しいらしい。
「でもま、お言葉に甘えちゃおうかな。」
恥ずかしくてもう付いて来ても家に入れてやら無いと思っていたが、奈々子の笑顔につい首を縦に振ってしまう。
まぁ、いっか。
214名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 03:15:31 ID:pgRRSyWI
規制か?一応支援
215名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 03:24:34 ID:qgoUmKem
すいませんそこで終わりです。
竜二と奈々子だとそんな感じかなーと思って書いてみました

正直にゃんにゃんする場面とかまんどくせ…
216名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 03:32:48 ID:pgRRSyWI
ここで終わりでしたか。GJ
しかし続きが気になるんだぜ
217名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 06:19:51 ID:RWt6yk3C
>>205
すごい良かった
>>200の大河の揺らぎとかクマサンタと踊ってるときに通じるものがあるなあと思って切ない
218名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 07:50:13 ID:fV5e74F1
GJ!
最近GJの嵐でいいねぇ〜
219名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 08:26:53 ID:pjsw9bVw
名前間違えすぎワロタw
220名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 09:49:52 ID:KWu6NVf4
龍時は新しいな
221名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 09:57:22 ID:pAy9Bu2f
カープカープカープ広島
ひろしーまーカープー
222名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 11:17:08 ID:G0q02mwi
みなさんGJです!
ところで最近ななドラ書く人急に増えた気がするんだけど、アニメとか漫画でなんかあったの?
223名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 11:26:57 ID:fV5e74F1
二度目ですまないが、奈々子様が自転車で
怪我するやつの
タイトルを教えてください。
224名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 11:36:56 ID:KWu6NVf4
タイトルはわからんが
10皿目の272とこのスレの43だ
225名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 11:44:18 ID:PBJyTn49
>>222
「なんかあった」のはここ。
一つ良作が投下されると、それが呼び水になって次々と同じカップリングの作品が投下されるんだよ。
226名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 11:46:34 ID:PBJyTn49
227名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 12:00:12 ID:fV5e74F1
>>224、226
サンクス!
228名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 12:42:57 ID:Oiz91d2C
奈々子が正ヒロイン化してる本スレ。
もう奈々ドラの名前でスレ立てても大丈夫なんじゃないのか?
ちょっと奈々ドラ書いてくる。
229名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 13:08:08 ID:CIg9Bc5K
香椎が主役のssが良作過ぎて冗談抜きに奈々子様が俺のなかでぶっち切りで1位です。
230名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 15:17:04 ID:fV5e74F1
マジで奈々子様スレ立てるのか?

立てるなら大歓迎だがww
231名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 15:43:42 ID:PppXakYu
スレ分割だけは止めとけって
両方寂れて共倒れになるぞ
232名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 15:45:09 ID:rJHqUu46

アニメ板の話じゃないのか?
233名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 16:50:43 ID:GK03UN3w
なんでもいいが過度のクレクレはやめとけ
他カプ作品の投下を尻込みする職人がでてくんぞ
それこそアニキャラ板に個別スレたててそこでやったほうがいい、竜虎カプみたいにな
234名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 18:21:39 ID:XvbwlUln
確かにそうかもな。
カプによって極度にGJの差が激しかったりするのも・・・
235名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 19:05:34 ID:pvvXgC6U
>>234
そういうのは需要の差だってあんだから仕方ないだろ。クレクレ君はいないほうがいいのは同意だけど
236名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 19:16:26 ID:2cm08z1a
龍時クソワロタ
237名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 19:20:28 ID:vz2Syv+B
小ネタを思いついたので一つ。
///
こんにちは、奈々子の父です。
いきなりなのですが、最近娘の様子が少しおかしいのです。

え?どうおかしいかって?

はい、ふと見てみればいつもボーっとしているし、そのたびに結構な頻度で物思いに溜め息も吐いていたりしてるんですよ。

女の子にはよくある事?違うんです違うんです。

…実はこの前、誤って‥誤ってですよ?ホントのホントに故意に娘の入浴シーンを覗く形をとってしまったのですが…それすらも何も言わないんですよ。
これはもうラッキー以外の…否、恐怖以外の何物でもありません。
普段なら間違いなく「最低!!」‥とか「キモい!!」‥とか「死ね!!」…とか‥…うぅ…罵って‥ひっく…お父さん泣いちゃうよォ奈々子ォ。
ひっく…え?これで涙をふけって?…有り難うございます、優しいですね‥

…それでね?これは間違いなくおかしいって思ってね…そしたらこの前ね‥分かっちゃったんですよ、見ちゃったんですよ。
奈々子が学校の帰り道、目つきの異様に悪い同級生らしき男の子と‥悔しくも談笑しながら歩いているのを!それも2人っきりで‥このお父さんですらここ数年、奈々子に笑顔なんて向けられた事なんてないのに!!
奈々子〜お前もお父さんを捨てるのか〜ー!ぐっそ〜女なんてみんな糞く‥ら、えー…



「あれ〜香椎さんー?寝ちゃいましたか〜?……ふぅ、やっと潰れてくれたー」
私は深く溜め息を吐くと、座ったままフロントに振り返り、そこにいた同僚に投げやりに呼びかける。
「香椎さんとこのお父さん寝ちゃったからタクシー呼んじゃってー」
「あ、分かりました。…それにしても、泰子さんも大変ですね〜。香椎さん、ここ最近毎日来てはずっと泰子さんにべったりじゃないですか」
「お仕事だし仕方ないよ〜竜ちゃんにも頑張れって言われてるし!」
泰っちゃん頑張る〜…と泰子は笑った。
238名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 19:24:58 ID:fV5e74F1
そうだよな。。。
これだけ差が激し過ぎると職人さん達が不快感覚えるかもしれないからな

これからは気をつけるようにするよ
239名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 19:41:19 ID:ogtQ8+wI
>>236
龍時はこれなんだぜ
ttp://www.bunshun.co.jp/book_db/7/68/70/9784167687014.shtml
古本屋や本屋巡って無かったからアマゾンで先週買ったんだ…
IME先生の記憶力っぱねぇ
240名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 20:10:55 ID:PBJyTn49
>>237
GJ!!
街で一軒きりのスナックのママだからなぁ。十分にありえる話だぜ。
241名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 21:36:47 ID:12qbPazB
まとめサイト更新

管理人さん乙


つーかACE COMBAT ZEROを彼は知ってるのか。少し意外。
242名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 21:38:16 ID:/sgRwf28
管理人さんありがとう
243名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 21:38:46 ID:fV5e74F1
管理人様乙です!
244名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 21:39:40 ID:vz2Syv+B
管理人さん乙!
245名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 21:43:34 ID:fV5e74F1
今日ってひな祭りだから、そのネタが来るかと期待してたが流石に無いかw

まとめサイトのNEWってとらドラPネタが多過ぎてワロタ
246名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 23:20:57 ID:4DtaMOqF
最近のナナドラ見てると思うんだけど、奈々子って綺麗な亜美ちゃんだよね?性格的な意味で。
色香で誘惑するし、ちょい腹黒だけど、基本良い子っていうのが亜美ちゃんで
それで、言葉遣いが丁寧で肝心な場面で照れ隠ししちゃわないのが奈々子様
みたいな。勝手なイメージだけど。
247名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 23:25:52 ID:ogtQ8+wI
どうだろうなー亜美とはタイプが大分違うと思う
亜美はグループのリーダータイプで奈々子様は取巻きタイプだと思う
あんまり自己主張はしないけど自分の意見はちゃんと言う方だとは思うけどね
248名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 23:33:22 ID:joDfzof1
流されるだけじゃなくて自分の意見はちゃんと言える子だよね
例の修羅場シーンでも、盲目的に亜美を庇ったりせず、ちゃんと謝罪を促してたし
249名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 23:59:38 ID:GK03UN3w
なにが原作でなにが虹作品なのかわからんくなってきたが
奈々子は片親だからそこらへんちがうな
250名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 00:03:10 ID:XvbwlUln
あーみんとみのりんの喧嘩で仲裁的立場にたった
木原、香椎はえらい。

普通の女子って、ああいうところで問いつめたりするよな
251名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 00:08:33 ID:e+DlqGlp
奈々子様はいい子に決まってるだろ?
252名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 00:25:38 ID:TfMQgn5k
実は家では真っ黒で親父をコキ使う奈々子様
253名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 00:31:20 ID:Cs/uJOx9
菜々子みたいなモブは設定がないから好きなように書ける反面、
254名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 00:32:45 ID:ovbbLh2s
>>252
ぱっと見
家では親父の真っ黒いのを手コキする奈々子様
に見える
255名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 00:39:17 ID:rLnP6lZd
>>250
あそこで全責任なすりつけられても
怒らなかった能登のことも思い出して下さい
256名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 01:34:30 ID:pcjOkpm+
>>254
よう俺
257名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 01:59:51 ID:1ZtTg+EX
なんで独神はモテないんだろいな
普通あんな先生いたら男子に人気になると思うのに
258名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 02:28:26 ID:aQ0e0/pm
>>257
なんか問題があるんだろ
寝相が殺人的に悪いだとか
性欲が異常に強いとか
病的なまでの焼き餅妬きだとか
259名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 02:40:24 ID:Bv7+2v2C
単純に男に飢えているのを見て、ドン引きしたとか
260名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 02:48:57 ID:xsiH4g/V
女教師って実際は男子にあんま人気なくね?
舐められる対象にしかならんというか・・・

あと単純に独神オーラが強すぎて引いてるとしかww
261名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 02:50:49 ID:d8UfuzGw
あの必死さは男子高校生にはキツかろうって事なんだろう
262名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 02:54:57 ID:ux7EJWRL
ちょっと投下したいと思います。
六レス位お邪魔しますYO
263我が家の腹黒様:2009/03/04(水) 02:58:05 ID:ux7EJWRL
「ああっ、ひでぇ。4隅全部取られた……」
「ウフフ。第一局はあたしの勝ちね。」
ラブラブ・脱衣オセロ、第一局は、奈々子が、圧倒的な力を以て、竜児を下した。
「…お前、今まで本気でやって無かったろ?」
「あら、バレちゃったわね。
でも、高須君だって、今、本気じゃなかったでしょ?
だって、急に、弱くなっちゃったもの。」
「うっ…」
「いきなり、本気でやったら、がっついてるみたいで、みっともない…
と、いうところかしら?」
「ううっ…」
参ったな…見透かされてる…
不思議な気分だった。
先程から、ずっと奈々子にペースを握られ、翻弄されっぱなしの様な気がする。
けれど、それが随分、心地良くて…
なんていうか…俺、香椎にハマっちまってるのか?
など、と考えている竜児に、奈々子は、すぅと目を細め、不敵に微笑みかけた。
「高須君が、手加減した分を計算に入れても…
50%。つまり、MAXパワーの半分も出せば、盤上を真っ黒に塗り替える事が出来るのよ?」
「……何かそれ、どっかで聞いた事あるぞ…
確か、不動産会社の社長で、私の月収は 53万です。って奴。」
「最近ね、麻耶に借りた漫画に、こういう台詞があったのよ。
男の子向けの漫画だって言ってたから、
もしかしたら、高須君も知ってるかな?って思って。」
「ああ、知ってるよ。
結構、前の漫画じゃなかったか?」
「今、読んでるところだから、あんまり詳しくは無いんだけどね。
ああ、でも、やっぱり高須君は男の子なのね。
今更だけど、男の子の部屋で2人っきりでオセロしてるんだって思ったら…
何だか、ドキドキして…恥ずかしくって…」
「………」
ホント。今更なんだけどね、ぼそりと付け加える。
ぽっと朱が差した頬と、しっとりと潤んだ瞳が、非常に魅力的で、
「………」
返す言葉もなく、竜児は押し黙ってしまった。
「それじゃあ、一局目はあたしが勝った事だし、
高須君には、質問に答えて貰おうかしら?」
264我が家の腹黒様:2009/03/04(水) 02:58:28 ID:ux7EJWRL
「約束だからな。
この際、何でも、正直に答えるよ。」
「…ん、そうね、じゃあ…
高須君は今、彼女とか居るのかしら?」
「へ?」
何を聞かれるんだろう?と、思ってたけど、
まさか、こういう質問が来るとは…
これって、もしかして、そうゆう事なのか?
香椎も俺に、ちょっとは気が…ある…とか?
いや、まさか、そんな俺なんか…
単に興味本位で聞いてるだけ、かもしれねぇ。
きっと、そうだ。俺なんかが、そんな…
「……どうしたの?聞いちゃ…マズかった?」
なかなか答えない竜児に奈々子は、恐る恐る不安気に尋ねる。
もしかして、マズったのかしら…、と。
「あ、いやいや、そんな事ねぇよ。うん、大丈夫。
俺は、彼女とか居ねえよ。完璧、独り身だ。」
「そうなの?フフ。良かった。」
良かった?俺に彼女が居ないと香椎は良いのか?
これは、何かアレか?脈アリか!?脈アリなのかぁ!?
色々、考えてしまって、竜児は、もはやオセロどころでは、なかった。
にも、かかわらず、
「あら、負けちゃったわ…」
何だか、よく解らないうちに勝ってしまっていた。
無意識下で、秘められた竜児の何かが覚醒したか…
で、なければ奈々子がわざと負けたかのどちらか、であるが、
ともあれ負けは負け、約束通り、奈々子は衣服を一枚脱がなければならない。
「…マジで…脱ぐのか?」
「約束だもの。高須君に守らせて、あたしだけ反故には出来ないわよ。
さて、前言の通り、リボンかソックスのどちらかを…
と、思うのだけど…ねぇ…どっちが良い?高須君に選ばせてあげるわ。」
と、右手の親指と人差し指で胸元のリボンを摘み、
左手も同様にソックスの縁を摘まんでいる。
「…ん、と、じゃ、じゃあ、ソックスで。」
「そう、わかったわ。」
スルスルと奈々子はソックスを剥いていく。
先程から、ずっと、竜児が感じている事だが、
菜々子の一挙手一投足は、実に色っぽい。
端的にいうとエロイ。
竜児は己のリビドーにこだわりを持っていた。
それは、内から滲み出る色香の重視と言うか…
具体的に言うなら、露出度の高いビキニではなく、
パレオ着き水着にパーカーを羽織る姿の方がそそる、というか、
そう、いつぞやの解きたい紐水着の様な…
265我が家の腹黒様:2009/03/04(水) 03:01:09 ID:ux7EJWRL
服を着ていてもエロイ。
それが竜児の嗜好であり、また、奈々子のキャラであった。
これまで、あまり接点の無い間柄だったが、案外、相性は良かったのだ。
「お、おぅ…」
思わず、竜児は唸った。晒された奈々子の足は、それ程、見事だった。
普段の、おっとりとした印象から、線が緩く見られがちだが、
実際は、ほっそりとした絹の様な色白の脚に、足首などは、キュッと括れていた。
爪先は、今時の女子高生らしく、薄くラメが塗られている。
メイクは控えめだが、こういう見えない所でオシャレなんて…やっぱり、女の子だなぁ…
と、竜児はしみじみ思う。
そして、そういう所に、親しみが沸く。
綺麗な脚が、現実味を帯び、一層なまめかしく(誤用)感じる。
「あんまり、見つめないでよ…恥ずかしいから…」
「お、おう、悪ぃ…
その、あんまり綺麗だったから…つい。」
今、自分は、どんな顔をしていたんだろう…特に目…
思いっきり、凝視してしまっていたけど…
我が事ながら、想像するだに恐ろしい。
てか、今のセクハラだよな?
何てことだ…これじゃあ北村じゃねぇか…
と、いう様な竜児の懸念を余所に
「ホントに?嬉しいわ。
高須君に、そう言って貰えたら、
普段、頑張ってる甲斐があったってものだもの。」
と、ご満悦だった。さらに、
「でも、片方だけ、裸足なんて…何だか可笑しいわよね…
うん、両方、脱いじゃいましょう♪」
と、余程、嬉しいかったのか、大サービス。
「じゃあ、第3局。行きましょうか。」
対局中、奈々子は始終、足の指を折ったり伸ばしたりしていた。
その仕草が、どうにも扇情的で、竜児としては、
どうにか、脚の方へ目が行かない様にしたのだけど、
そうすると、今度は奈々子と目が合ったりしちゃって、
全く、これっぽっちも集中できなかった…のだが、
「あら、また負けちゃったわ。」
これは、本当に竜児が、見開きで、ドン!!!!!!してしまったか、
まだまだ、奈々子が余裕を見せているのか…
「それじゃあ…次はリボンね。」
胸元の蝶々結びが、ツゥ〜っと、一本の紐に解けてゆく。
266我が家の腹黒様:2009/03/04(水) 03:01:31 ID:ux7EJWRL
仕草こそ、奈々子(と書いてセンジョウテキと読む)であったが、
視覚的には、それ程変化は無い。
と、いうかリボンを失った事で、制服としては、かえって不格好である。
奈々子自身、そう感じたのか、
「これじゃあ、面白く無いわよね…」
プチプチと、シャツのボタンを外していった。
「ちょ、おま、何を!?」
このままじゃ…胸がぁ〜〜ッ!!
動揺しまくる竜児に、ニッコリと微笑みかけながら、第三ボタンに手を置き、
「ウフフ。今は、ここまでよ。」
と、ボタンを外した。
ここまで、たって…鎖骨の辺りまで見えちゃってるし…
うわ、今、チラッと下着見えた様な…黒?黒なのか?
香椎は黒か…何か意外な様なピッタリな様な…
女物の下着については、普段から、洗濯なり、なんなりしているので、
それなりに抵抗はある…訳ない。
目の前の女の子の下着なんて、正直、ドキドキものだ。
けど、流石に、それを態度に出すのは、ダメだろ?
そういう事を考えてる。ってわかったら、香椎だって、きっと嫌な気分になるだろうし。
冷静に、冷静に。頭の中で呪詛の如く念じつづけ、
「それじゃあ、次、ね。」
冷静に、冷静に。
「次、負けちゃったら…あたし…」
冷静に、冷静に。
……なれる訳無かった。
一体、何がどうなって、こうなったのか…
盤上は、漆黒に塗りつぶされていた。
「あたしの勝ちね。…残念。だって、思ってる?」
「え、いや、そんな事…
負けた事は悔しいけど、そんな事は…」
思ってねぇよ。それは、心からの言葉だった。
奈々子のあられもない姿を見てみたい、という気持ちが、
一mmもないかと、言われば、もちろんある。男だから。
しかし、それ以上に、安心している。
これも本当だ。要するに、奈々子の下着姿を直視するだけの、勇気と度量が、自分には無い。
そう、竜児は己について分析した。
ギリギリ、爆発寸前の心臓とは違って、脳の一部分が、嫌に冴えて客観視している。
267我が家の腹黒様:2009/03/04(水) 03:05:17 ID:ux7EJWRL
奈々子も同様に、心臓はドクンドクンと、マグマの如く煮立っていたが、
心のどこかは、やはり、冷静でいた。だから、竜児の言葉、態度から、
竜児の真意を、恐らくは、正確に理解できた。
「…もし、ここで、残念だって、思う様だったら…
あたし、高須君に幻滅しちゃったかも…
けど、残念だって思ってくれなかったら、くれなかったで…
あたし、魅力無いのかな?って…そんな風に思っちゃう。
女心って…ホント、複雑よね…」
ワガママでゴメンね。と、消え入る様に呟く。
違うんだ。そうじゃなくて。
弁明したくても、言葉が見つからない。
「………」
何も、答える事の出来ない竜児に奈々子が告げた。
「それじゃあ、質問…してもいいかしら?
高須君は今、好きな人居る?」
櫛枝だ。昨日までの、竜児なら、迷わずにこう答えた事だろう。
気恥ずかしくたって、櫛枝が好きな事に迷いなど無かった。
拒否権が無い質問なら、答えは明確に櫛枝実乃梨だった。
「………」
しかし、沈黙。竜児 の沈黙に対して、奈々子も今度は、話しかけなかった。
奈々子も押し黙り。沈黙の中、答えを待った。
やや、あって。
「あの、変な事言っちまうけど、本当に、俺の今の気持ちだから…
ちゃんと、聞いてくれるか?」
と、切り出した。えぇ、勿論よ。ちゃんと聞くわ。
頷く奈々子に、竜児は腹を決めた。
「俺は、好きな人がいる。ずっとずっと好きで好きで好きだった人がいる。
揺らぐことなんて無いって思ってた。真剣な恋だって。
けど、今は、他の子の事で、頭がいっぱいで…胸が苦しくて…
変だよな?こんなの。
解ってるんだけど…自分じゃ、どうしたってうまく整理出来なくて…」
これだけで、竜児の様に、鈍感にも不器用にも出来ていない奈々子には理解できた。
高須竜児の気持ちは今、自分に傾きつつある。
実のところ、食事の辺りから、竜児が自分を意識してくれている事に気がついていた。
268我が家の腹黒様:2009/03/04(水) 03:06:09 ID:ux7EJWRL
だから、勝負に出たのだ。
脱衣オセロなんて、男性の弱みに付け込んだ卑怯なアプローチだ。
自覚はあった。親しくなったばかりで、こんな事、不意打ちも良いところだ。
高須君にしてみたら、辻斬りにあったみたいなもの。
それに、予期しなかった事とは言え、逢坂大河の留守を突いたのも卑怯だ。
竜児を好きになってしまった時から、逢坂大河との対決は避けられないだろうと感じていた。
恐らく、川嶋亜美、櫛枝実乃梨も…
だけど、この三人に対して、自分が劣っているのは、事実。
女として、では無い。竜児との絆の深さで。
何しろ、自分は、今日、初めて2人っきりで話したのだから。
しかし、だからと言って、退く気は無かった。
諦められない。やらないで後悔するより、やって後悔した方が良い。
小さい時から、怪我する事を恐れ、危ない場所へは、絶対に近付かなかった自分が、
こんな風に思える。奈々子にとって竜児は、そこまで魅力ある男性だった。
だから、最後まで、卑怯になる。ズルイ女だって構わない。
高須君、あたしもよ。あたしも、あなたが好き。
ともすれば、吐き出してしまいそうになる想いも、グッと堪えて、呑み込んだ。
全ては、竜児の口から奈々子が好きだと言わすため。
先に言って貰ってから、自分は返事をしよう。
「他の子って誰なの?」
と、想いの代わりに吐いた。
「……軽い男だって思うかもしれないけど…
俺は、か……」
ピンポーン。と、空気を読まないチャイムが竜児の声に重なった。
『おぉ〜い。お土産買って来たぜぇ〜入れてけろ〜』
『あ、鍵あるから、チャイム要らないのに…
それと、騒いだら、大家がうるさいよ?』
『そかそか、いやぁ〜失敬。失敬。』
なにやら、玄関先が騒がしい。
虎が自らの巣穴にご帰還なさったようである。

コレカラトンデモナイコトニナル
全てを知るインコちゃんは、己に火の粉が降りかからない事を祈り、
今日という日を、一足早く、終結させる事にした。
アシタマタアサヒガノボリマスヨウニ。
269名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 03:08:18 ID:ux7EJWRL
終わりです。
最近、奈々子スレになりつつあるので、ここは一つ
次回、修羅場編の前に別キャラの話を書きたいなと思ったり
ゆっくり悶えていってね。
270名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 03:21:10 ID:KDSQgM78
GJ!
ゆっくり続きを楽しみにしてます。こういう修羅場は大好きです!
271名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 03:23:38 ID:CXDQk4+O
あああああGJ
272名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 03:28:57 ID:cOfTmubD
>>269
な…なんたるGJな奈々子様

俺が竜児の立場だったら即陥落してるだろう

それと今の流れを読んでの別作品の投下予告…アンタァ…漢だぜ!悶絶しながら待ってるぜ!
273名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 03:32:46 ID:ovbbLh2s
>>269
GJ超GJ超GJ

しかしゆっくり悶えろとはなんだぁぁぁぁぁぁあ
てか、大河くうきよめよぉぉぉぉぉぉぉおorz
274名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 03:46:47 ID:bBtzplTo
>>269
ふん、みのりん派の俺には痛くも痒くも…

おい、ソコの鏡の向こうの奴、なにニヤケながらガンつけてんだ…
275名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 04:01:43 ID:xsiH4g/V
>>269
色気で明らかに誘惑してくる女子って苦手なのに・・・・・・GJ
276名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 04:15:34 ID:OxwjayQK
リボンを外し胸元はだけ、何故か素足の香椎に、大河と実乃梨が遭遇だと…
(´・ω・`)竜児カワイソス
277名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 04:19:49 ID:kedNJM5k
色仕掛けスレにもいけそうな位素晴らしい
足りない部分を理解して、それを埋めるために頑張ってるのが素敵だ
若いっていい
278名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 04:28:19 ID:1ZtTg+EX
>>269
あーみん派の俺もGJを贈らざるをえない
てかこのスレのおかげでどんなカプでも美味しくいただけるようになりました
279名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 05:57:02 ID:3uv32XYK
>>269
GJであります。
ゆっくりと悶え待ちしております。ええ、Mですが何か?
280名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 06:13:49 ID:AidKnE6k
>>269
GJダヨ…GJダヨアンタ!!
281名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 06:20:21 ID:e+DlqGlp
GJ!

続きが来になって仕方が無いぜぇ〜
282名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 06:37:36 ID:OxwjayQK
奈々子良作が続くと、原点の大河物が見たくなるな
「竜虎 〜〜」のシリーズの職人さんあたり続き書いてくれないかなぁ
283名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 06:58:23 ID:trdO4MU4
朝ですよ〜
お初にお目にかかります
みのドラ発作的に書いてしまったんだが投下するよ
ポータブル発売に先駆けて記憶喪失ネタで
長くなりそうなんでボチボチ投下していきたいと思います
284名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 07:01:02 ID:trdO4MU4
 幽霊なんているはずがないと、思っていた。

 自称霊感人間たちは、それがさも当たり前にいるかのように言うけれど、私は今まで見たことがなかったから。
 そして、見たいと思ってもいなかったから――。
 そんな私が、少しずつ幽霊の存在を信じ始めるようになったのは、いつからだったんだろう。


『……幽霊がいることを、信じさせたかった。幽霊を、お前に、見せたかった。嘘なんかじゃねぇ、お前は蚊帳の外なんかじゃねぇ、だから――だから、だよ』


 そんなことは、本当は分かっていた。
 でも、私は、どこまでも怖がりだった。
 幽霊も心霊現象も、好きだなんて言っている自分は、嘘なのだ。
 本当は見たくない。とても怖い。見たらどうしていいかきっと分からなくなるから、見てしまえば自分はそれを決して見なかったことに出来ないから。
 けれど私は、きっとあの瞬間。

 自分にそっと降り立った、温もりにも似た淡い幽霊を、見てしまったのだ――。
285名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 07:04:30 ID:trdO4MU4
『GHOST and HOLY』

24,December

 人生最悪のクリスマス・イヴが終わりを告げようとしていた。

 深く被ったニット帽はそのままに、櫛枝実乃利は自分の部屋のドアに背を預けたまま、ずっと動くことが出来ずに、早三時間経過していたのだった。
 ニット帽に隠れて見えないその表情は、普段は太陽のように明るい笑顔を振りまくそれとは、遠くかけ離れていることだろう。
 自分がやったことは、きっと彼を深く傷つけてしまっただろう。それはもう二度と治せないほど、深く、残酷に、冷たく――。
 わかっていた。自分が幽霊を見てしまえば、自分の親友から何もかも奪ってしまうことになると、ずっと前からわかっていたのだ。けれど、幽霊を見て、見つけてしまった。
 そうなると、もう自分の気持ちに歯止めは効かず。
 もっと近付こうとして、もっと知ろうとして。怖くて怖くて、仕方がないのに、それでもどうしようもなくて――高須竜児を、好きになってしまったのだ。
 竜児に触れていく度に、自分の新しい世界が開いていくのがわかった。
 竜児と話す度に、自分の知らなかった色んなものを見ることが出来た。
 竜児はその容貌からは想像のつかないほどに、温かな優しさを持っていた。
 竜児はどこまでも優しくて――それは自分の欺瞞に満ちた優しさなどではなく、本当の、優しさだったから、だから、恋をした。

『直る』

 ぽたり、と音を立てて何かが床に落ちる。
 先ほどから不定期に音を立てて落ちるものの正体が、己の涙であると気付かないほど、実乃梨は心を空っぽにしたまま立ち尽くしていた。
286名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 07:07:42 ID:trdO4MU4
「あ、あれ……? おっかしいなぁ……。なんで、私泣いちゃったりしてるのさ」

 これは自分で決めたことであるはずなのに。
 竜児の気持ちを受け入れない、自分の気持ちも押し殺して、それで今までどおりに――。
 けれど涙は溢れて止まらない。必死にせき止めようとしているのに、涙の奔流はさらに勢いを増すばかりだった。固く閉ざしたはずの心の奥が、まだあれから――竜児と別れてから数時間しか経っていないというのに、いとも簡単に決壊している。

「お、おっかしいなぁ」


『直るんだ、何度でも』


「…………っ」

 直るかどうか、私には、わからないよ、高須くん……。

「あ、う……、うぅ、……ああっ」

 ついに、実乃梨は声をあげて、顔をくしゃくしゃにして、泣き始めた。
 ずるずると、ドアを背に床へ吸い込まれるように、へたり込む。深く深く、奈落の底へ落ちていく気分だった。
 これが、自分の選択した結果。
 自分も、大河も、竜児も、皆が幸せになれると思った――そう自分に言い聞かせた、嘘をついた結果だった。
 心が痛くて、傷ついて、まるで血が溢れ出ているように、涙はいっこうに止まらない。
 こんなに苦しいのなら、こんなに痛いのなら、恋なんてしなければ良かった。竜児を好きにならなければよかった。
 しかしそう思っている自分の心でさえ、嘘だった。どこまでも嘘、嘘。本当は好きで好きで、竜児のことが愛しくてたまらないのに、そのことを声に出して叫べない、愚かな嘘つきの末路。
 ずるくて、傲慢で、愚かで。あまりの自己嫌悪で頭がどうかなりそうだった。
 傷つくのも傷つけるのも怖くて、けれども繋がりを絶ちたくないなんて、どこまで浅はかで醜い考えなんだろう。

「たか、す、くん、高須くんっ…………」

 愛しい人の名前を呼んでも、もう時間は二度と戻らない。竜児との関係もきっと、元通りにはならない。
 自分に、何もかも捨てて、好きだと、竜児のことが大好きだと叫べる強さがあれば、真っ直ぐに竜児の元へ駆け寄れる強さがあれば、こうはならなかったのだろうか。
 悔やんでも遅い、結局悪いのは全部自分なのだ。
 親友に遠慮をしてしまったことは、もう理由にならないだろう。自分が頑として彼の気持ちを否定してしまったから、もう二度と、自分の気持ちを伝えるなんてことは、出来ない。それをしてしまえば、今度は本当に何もかもを裏切ってしまうことになるから。

「……ん……な、さい……。ごめんなさい、ごめ、んっ、な、さい……」

 謝ったのは誰に対してか、わからなかった。竜児に対してか、大河に対してか、それともただ懺悔していないと心が保てそうになかったからか。

 実乃梨は、すがるように、それが贖罪の印であるかのように、うわ言でごめんなさいと、嗚咽に混じった声で絞り出しながら、泣き続けた。
287名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 07:10:38 ID:trdO4MU4
一応ハッピーエンドで終わる予定なんですがいきなり鬱っぽくてすいません
1レスごとにどれだけ書き込めばいいかわかんなくて最後だけ長くなりました。。
読みにくかったらすいません

また明日ぐらいに投下しようと思います、長文失礼しました
288名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 07:33:16 ID:xsiH4g/V
>>287
GJ
メチャクチャ期待してるよ
バンバン書き込んでくれ
289名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 07:40:13 ID:koDYIIew
原作がもうすぐ終わっちゃうからみのりんものは貴重だわ
GJ!
290名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 08:02:45 ID:+GZ+oGpp
とらドラ!次巻で最終じゃないかもしれんぞ・・・?
アニメイトから配られた新巻発売日表のとらドラ!のタイトル横に、(完)と書いていなかったから。
完結する他のマンガや小説のタイトル横にはあったのに、とらドラ!だけに無いのはおかしいと思う。
ストーリー的には完結で、文学少女みたいにスピンオフは出し続けるのかもしれん。
なんて、希望を抱かせてみたり。
291名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 08:11:43 ID:t2IfdSDy
まあ大河が幸せになってくれたらなんでもいいよ
292名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 09:17:12 ID:AidKnE6k
俺は陰ながらみのりんの幸せを願ってるんだぜっ
293名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 09:36:14 ID:Mj+Z+wGp
スピンオフ3が出るのは規定事項だろうjk…

にせとら!とかドラゴン食堂とかゲーム付属の書き下ろしとか
文庫未収録のままになったら泣くぞ俺。
いやゲームは限定版予約済みなんですけどね。

電撃学園RPGの予約特典書き下ろしの方は他作品との兼ね合いで収録されなさそうで怖いぜ…
ノーマル大河のねんどろぷちが付くし買うべきだろうか…
294名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 11:37:31 ID:dVs9RX9T
>>269
うふふふふふ。虎だけじゃなくて実乃梨も一緒のようですなぁ。
続きが待ち遠しいぜぇ。
295ユートピア:2009/03/04(水) 12:59:29 ID:CJWiQyV0
今から連投します。心のオアシスの続きです。
カップリングは亜美×竜児です。
あと、本当に程度は軽いですが、暴力的なシーンが含まれるので、嫌いな人は見ないことを勧めます。
296ユートピア:2009/03/04(水) 13:01:09 ID:CJWiQyV0
心のオアシス〜3〜





「は〜い、朝のホームルーム始めるわよ。みんな席に着いて〜。」

秋の暖かな温度もなりを潜めて、冬の冷気が肌に染みるようになってきた今日この頃。
2−Cの教室に独身こと、恋ヶ窪ゆりの声が響いた。その声に反応して、友達と雑談などをしていた者や、自分の席にいなかった者が、自分の席に戻っていく。

「みんな席に着いたわね。じゃ、クラス委員さん、号令お願い。」

「起立、礼。」

先生の声に対して、起立、礼の号令を出したのは、高須竜児だ。
今までならクラス委員の北村祐作の仕事だった。しかし、北村は元会長の狩野すみれの留学に合わせて学校を自主退学をして、すみれについて行ってしまった。
したがって、クラス委員がいない状態になってしまったのだ。
そこでクラス委員に抜擢されたのが、北村と仲が良かった高須竜児だ。責任感もあり、北村と仲が良かったことでクラス委員の仕事を度々手伝っていたことから、竜児が任命されたのだ。

「え〜、今日の連絡事項は……」

またいつもの日常が始まる。
しかし、川嶋亜美にとって、今日はいつもとは少し違う、ほんの少しだけ特別な日となる。

297名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 13:01:35 ID:EFj38gH1
>>269 >>287
GJ!何という良作ラッシュ!スレの流れが早すぎる!

保管庫管理人様、更新お疲れ様です。
ミラーの方と比較して確認しましたが、
「とらドラ!P〜ぷろろーぐ「それ何てエロゲ」〜」
のリンクが間違っているようです。
ご多忙でしょうが、修正お願いします。
298ユートピア:2009/03/04(水) 13:05:10 ID:CJWiQyV0
午前中の四つの授業を受け終えて、今は昼休み。成長期の高校生にとって、一日の学校生活の中で一番楽しみにしている時間帯だ。友達で集まって雑談しながら昼食を食べたり、恋人同士でイチャイチャしながら昼食をとったり、各自好きな方法で昼休みを満喫している。

「ふぅ……」

そんな中、亜美は昼食を早く切り上げていた。木原や香椎の誘いも断り、一人で昼食を済ませ、ある場所に来ていた。
そこは、校舎内の一角に設けられた自動販売機コーナー、そこにある自動販売機の間だ。転校してきてから、亜美は度々この場所に一人で来てたのだ。主な使用目的は、自分ひとりで考え事をしたいとき。
今も例に漏れず、静かなこの空間で一人、思考に没頭する。
ここに来てすぐ買ったミルクティーをチビチビと飲みながら、考えることはたった一つ。

高須竜児のことだけだ。

少し前、幼馴染みの一言により、前から薄々とは気付いていた自身の気持ちを明確に理解してしまった。
川嶋亜美は、高須竜児のことが好きだ。
亜美自身、今までは何で竜児の事が好きなのか、分からなかった。
顔はお世辞にも良いとは言えない。どころかヤンキーにしか見えないほど顔が怖い。小さい子供なら目が合っただけでトラウマになる程の破壊力だ。
だが、そんな顔にもかかわらず、竜児の趣味は家事全般。特に掃除には強いこだわりを持っている。学校の掃除の時間は三白眼をギラつかせ、少しでも汚れている所を見つけると口元が禍々しく歪む。
(本人はただ汚れを見つけて微笑んでいる程度だが、周りからはそう認識されてしまう)。
299ユートピア:2009/03/04(水) 13:06:10 ID:CJWiQyV0
「顔はあんなんだし、おばさんみたいだし、いつもならあんな奴、相手にもしないのに……」

亜美は一人、そう呟く。
何で好きになったのか、今なら簡単に分かる。

「あたしの本性知っても、離れていかなかった……」

ストーカーを追いかけていたとき、我慢しきれずに本性をさらけ出した。今までの人なら、その時点で亜美に関心を無くしていた。
しかし竜児は違った。亜美の本性を知っても、離れていったりはしなかった。
それが、亜美にとっては凄く嬉しかった。かつて無いほどの喜びが胸に溢れた。

「それで舞い上がっちゃって、高須君に迫った時もあったっけ……」

ストーカーを撃退した後、竜児は亜美を自宅に入れた。その際、亜美は竜児に迫った。結局は邪魔者が入って未遂に終わったが、もし誰も入ってこなかったら……

「……っ!」

その先を想像してしまい、一気に顔を赤くする亜美。顔を冷まそうと両手を顔に当てる。

「うぅ……何やってんのよ、あたし……」

勝手に好きな人とのエッチを想像して、勝手に照れて顔を赤くしている。そんな自分が妙に情けなく思える。
未だに火照っている自身の顔を冷まそうと、ミルクティーに口につける。
その時、亜美の上から声がかけられた。
300ユートピア:2009/03/04(水) 13:07:11 ID:CJWiQyV0
「何だ川嶋、またこんな所にいたのか」

この声を聞いたとたん、亜美はガバッっと顔を上げる。
亜美の目に映ったのは、亜美の想い人であり、今までずっと考えていた対象である高須竜児がいた。

「そんなのあたしの勝手じゃん、高須君には関係ないわよ。」

そんな竜児に、亜美は素っ気無い返事をしてしまう。

「ああ、そうだな。俺には関係ないよな。」

そう空返事をしながら、竜児は自動販売機で缶コーヒーを買った。
そしてそのまま、教室に帰ろうとする。
その時、北村の言葉が脳裏を掠めた。

『素直になれ、亜美。今までみたいに素直にならずにいたら、高須との距離はいつまで経っても縮まらないぞ?』

そしてその言葉が頭に浮かんだ瞬間、亜美は竜児のズボンの裾を掴んで、竜児を引き止めていた。

「何してるんだ川嶋、離してくれねえか?」

竜児が亜美に掴まれた部分を見下ろしながら聞いた。

「な、何でもう帰っちゃうのよ。」

唇を尖らせ、そして若干頬を赤くしながら亜美は言った。
数少ない竜児との二人っきりの時間だ。こんなチャンスを、みすみす手放す亜美ではなかった。
301ユートピア:2009/03/04(水) 13:08:23 ID:CJWiQyV0
「何でって、俺は缶コーヒー買うためにここに来たんだぞ。缶コーヒー買ったら帰るのが普通だろ?」

「そうだけど……」

亜美はどうにか竜児が教室に帰らないようにしたいのだが、生憎とそんな都合の良い方法は簡単には思いつかない。

「ははぁ〜ん、高須君、そんなに早く教室に帰りたいんだぁ〜。その理由は、ちびトラに色々言われるから?それとも、誰かさんの顔を早く見たいためかなぁ?」

だから亜美は、いつもの竜児をからかう時にする態度でしか、竜児を引き止めれなかった。

元来、竜児と亜美は話自体は沢山してきたが、内心を全部さらけ出すようなこと自体はしなかった。
その理由は、亜美の性格故にだ。
亜美は高校生という若さに関わらず、モデルの仕事をしている。仕事の世界では自分の考えや気持ちを押さえ込まないといけない時が多々ある。そんな世界で過ごした亜美は、無意識にだが、いつしか友達にも素の自分を隠すようになってしまった。
そんな亜美に、いきなり素直になれというのは無理な話である。

「だ、誰がそんなこと……!」

亜美の予想通り、竜児は赤くなりながらうろたえる。
そんな竜児の様子に、チクリと胸に痛みが走る。
この痛みも、竜児への想いを理解した時からは頻繁に感じるようになっていた。
302ユートピア:2009/03/04(水) 13:09:15 ID:CJWiQyV0
「だったらそんなに早く帰る必要ないじゃなぁい?」

「……分かったよ。」

ため息をつき、肩を落としながら竜児は亜美の正面に座り込む。

「怒った、高須君?」

「別に。お前がそういう奴だって知ってるからな。もう慣れた。」

「ふ〜ん、高須君って優しいんだね。」

「そんな感情篭ってない声で言われても嬉しくねえぞ……」

そう言いながら、竜児は買った缶コーヒーのプルを開け、コーヒーを飲む。
それから亜美はしばしの間、竜児との会話を楽しむ。
その内容は、とりとめの無いものばかりだ。お互いの近況やら、友達がどうだったとか、至って普通な内容だった。

「んで、あたしが服を選んでるときにお客の一人があたしに気付いちゃって、そっからはもう大変だったわよ。サインせがまれるわ、握手求められるわ。お陰で買い物は出来なかった、マジ最悪。」

今は亜美のプライベートに関する話だ。
内容としては、休日に買い物に行って服を選んでいたときに、自分が芸能人と気付かれてしまった。
そうなったら、後はもう混沌の極み。やんややんやと亜美に押し寄せる人、人、人。状況を見た店員が止めに入らなければ、いつまで続いていたか分からない程だった。
303ユートピア:2009/03/04(水) 13:10:47 ID:CJWiQyV0
「芸能人も大変だな。俺は実際にそんな場面に遭遇した事も、見たことも無いから分からねえが、きっと大変だったんだな。」

「大変なんてものじゃないわよ。まあ、日常茶飯事だから、もう慣れちゃったけどね。」

「嫌な慣れだな……」

苦笑いをしながらそう言った竜児。
次の瞬間、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

「あ……」

亜美の表情に影がさす。竜児との時間が終わりを告げたからだ。

「お、もう時間か。川嶋、戻るぞ。」

言いながら、竜児は立ち上がる。そして、教室に戻ろうとする。
仕方なく、亜美も立ち上がる。
竜児の後について教室に向かう。教室に着いたら、竜児はある人物に独り占めされてしまう。
その人物は逢坂大河。生活力が限りなくゼロ、もしかしたらマイナス側にまで傾いているかもしれない程の女子だ。
そんな大河を、世話焼きな竜児は、生活の全てにおいて干渉している。洗濯や掃除、食事や朝の起床まで、あらゆる面で大河は竜児に依存している。一週間毎日だ。土曜も日曜も。
そう亜美は考えると、胸に苛立ちが生じた。
その苛立ちは時間が経つにつれて大きくなり、亜美をある行動へと後押しする。
亜美は竜児の手を掴んで立ち止まった。
304ユートピア:2009/03/04(水) 13:12:21 ID:CJWiQyV0
「っと、どうした、川嶋?」

「高須君……」

途端に心臓が暴れだす。これから竜児に言うことを考えるだけで、顔が赤くなるのが分かる。

「どうしたんだ、川嶋。黙ってちゃ分からないぞ?」

「……」

一度、落ち着くために深呼吸をする。そして勇気を持って顔を上げて、竜児の顔を真正面から向き合った。

「高須君は、今週の日曜、空いてる?」

「は?日曜?特に用事はねえけど……」

「じゃあさ、亜美ちゃんの買い物に付き合ってくれない?」

言った、遂に言った。今まで恥ずかしくて言えなかった事が、やっと言えた。
思えば、竜児への気持ちに気付いてから、何度思ったか。竜児と一緒に買い物に。特別なことなんて何にも無い、恋人同士がするみたいな普通のデートを。
その夢が、言えた。亜美の胸に小さな達成感が湧き上がる。

「別にいいが、何で俺なんだ?」

「えっ……?」

そう言われ、亜美は戸惑った。
ここで自分の気持ちを言う勇気はないし、適当な嘘も思いつかない。
亜美の頭の中は今、パニックという名の混沌と化していた。
305ユートピア:2009/03/04(水) 13:13:27 ID:CJWiQyV0
「どうした川嶋?急に黙って。」

そう言われたから、亜美は反射的に竜児の顔を見た。
相変わらず、怖い。特にその目。この目に睨まれて逃げ出さない人は恐らくいないだろう。
そう思ったところで、亜美は思いついた。

「え、えっと、高須君がついて来てくれれば、例えあたしに気付かれても近づいて来ないじゃん?
いくら亜美ちゃんが可愛くて魅力的で輝いていて話しかけずにはいられないような美しい存在でも、高須君の顔見たらそんな気も失せるじゃない?」

と、亜美は上手く誤魔化した。

「はぁ、俺は虫除けかよ……」

「いいじゃない、虫除けでも亜美ちゃんと一緒に買い物に行けるんだから。そこらの男子高校生に聞いたら泣いて喜ぶわよ?」

「……」

それでも、竜児はまだ渋っている。腕を組みながら「うーん……」と唸っている。

「もしかして、何か予定とかあった……?」

「いや、さっきも言ったが予定はない、けど……」

「けど?」

「……お前は良いのかよ?」
306ユートピア:2009/03/04(水) 13:14:00 ID:CJWiQyV0
竜児の問いかけに、亜美は「は?」と首を傾げる。
何でそんなことを聞くのか、亜美には理解できなかった。こっちから誘ったんだから、後は竜児が承諾すればいいだけの話である。
それなのに竜児は、亜美に了承を求めてきた。

「あたしから誘ったんだよ?何で高須君がそんなこと聞くの?高須君ってバカなの?」

亜美は自分の疑問を竜児に投げかける。
そんな亜美に、竜児は答えた。

「いや、川嶋は売れてるモデルだろ?そんな川嶋と、俺なんかが一緒にいていいのかなって……」

竜児の答えに、亜美は小さく、フッと笑った。

「そんなに構えなくていいよ。ただ、普通に買い物に行くだけだから。」

そう言われ、竜児は一瞬考え込んで、

「……分かった、行くよ。」
307ユートピア:2009/03/04(水) 13:15:12 ID:CJWiQyV0
と答えた。
そう竜児が言った瞬間、亜美の顔が笑顔に弾けた。
今までのような作り物の笑顔や愛想笑いではなく、一切の偽りのない純粋で無垢な笑顔だった。
そんな亜美の笑顔は、竜児が今まで見てきた亜美のどの表情よりも輝いて見えた。
そんな亜美に見とれてしまうのは、仕方の無いことだった。

「約束だよ、高須君!もし破ったら、亜美ちゃん何するか分からないからね!?」

「お、おう。」

竜児は癖で前髪を手でいじる。しかしそれは、亜美の笑顔に顔を赤くしていることを隠す為だった。
そんな竜児に、亜美は気づいていない。日曜日のことを思い、はしゃいでいる。

「そろそろ戻るぞ、川嶋。5限目が始まっちまう。」

「そうだね、高須君!」

そして二人は、教室に向かって歩き出す。竜児は歩きで、亜美は少しステップ気味に。
こうして、亜美にとっての少し特別な日、竜児を二人っきりのデートに初めて誘えた日は終わりを迎えた。







時は過ぎて日曜日。亜美と竜児の初のデートの日になった。
天気はデート日和な快晴。ちなみに、亜美は竜児とのデートの日が決まったら、可愛いことに照る照る坊主を作って毎日晴れになるように祈っていた。
308ユートピア:2009/03/04(水) 13:16:24 ID:CJWiQyV0
今亜美は、待ち合わせ場所である大橋駅の前に向かっていた。
デートを決めたあの日、待ち合わせ場所などを決めるために帰りに二人で須藤スタンドコーヒーバー、通称スドバに寄っていた。そこで話した結果、待ち合わせ場所は大橋駅前、時間は午後の2時、ということになった。
ちなみに、亜美はこの時しっかり竜児と携帯番号とアドレスを交換しておいた。

駅前に向かう亜美。いつも通り、周りに可愛さを振りまいている。道行く男は皆が皆、亜美の可愛さにすれ違いざまに振り返る。
そんな様子に、亜美は気付いていない。いま亜美の頭は、竜児とのデートで一杯だった。期待や不安、喜びに戸惑い、色々な感情が胸の中で渦巻いていた。

「ふぅ、まだ来てないか。」

自身の携帯で時間を確認する亜美が呟く。先に待ち合わせ場所に着いてしまった。
それも当然、亜美が着いた時刻は1時半。待ち合わせの時間より30分も早い。
その理由として、亜美が楽しみにしていたという事も少なからず影響しているが、大半は亜美の職業による。
働くようになると、今までより格段に重要になるものがある。それは、時間だ。特に亜美のような芸能人は、時間厳守の世界だ。それ故に、亜美はいつも待ち合わせには余裕を持ってくるのだった。

竜児が来るまで時間を潰すために、携帯をいじる。
するとすぐに、亜美に声がかけられた。

「ねえ君、今一人?良かったら、今から俺たちと遊びに行かない?」

声に反応して顔を上げたら、前にはいかにも遊んでいそうなチャラチャラした男が二人いた。
亜美は大きなため息を吐く。
309ユートピア:2009/03/04(水) 13:17:10 ID:CJWiQyV0
(またか……しかも、よりによってこんな時に……)

内心鬱陶しく感じながらも、亜美はいつもの作り笑顔で対応する。

「すみません、あたし今から友達と予定あるんですよぉ。」

「ええ!?そうなの?」

「そうなんですよぉ、だからごめんなさい、他の人をあたって下さい。」

「でもさでもさ、君みたいな可愛い子を待たせるなんて、その友達も酷くない?そんな友達放っておいて、俺たちと遊ぼうよ!」

一向に食い下がらない二人に対し、亜美は内心で舌打ちをした。

(うっせぇな、お前らなんか眼中に無いっての……)

だが、そんな内心は顔に出さず、何とかして二人を追っ払おうとした。

「ごめんなさい、本当に無理なんですよぉ。」

胸の前で手を左右に振って、ついて行く意思が無いことを示す。

「……」

そんな亜美を、男二人は今までと一転した、さも面倒くさそうな目で睨む。

「はぁ……あのさぁ、お前、ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃねえの?」

「え……」

今までと違う雰囲気になった二人に、戸惑う亜美。
310ユートピア:2009/03/04(水) 13:17:45 ID:CJWiQyV0
「可愛いのなんて今だけだぜ?声かけられるのも今だけ。そのチャンスを見逃しちゃってもいいのか?」

「で、ですから、さっきから言ってる通り……」

そう亜美が言ってる時に、「チッ」っという舌打ちが聞こえてきた。

「グダグダ言ってねえでついて来いよ!!」

痺れを切らした二人のうちの一人が、亜美の手を掴んで強引に連れて行かれそうになる。

「ちょ、ちょっと、離して下さい……!」

相手の手を解こうと腕に力を入れるが、男の力に適うはずもなく、びくともしない。
相手の成すがままになっている亜美。
怖い。とても怖い。
亜美の心は今、「怖い」という感情に支配されていた。このままどうなるのか。何をされるのか。恐怖心は想像力を助長し、亜美に色々なことを想像させる。

(やだ、やだ……!怖い……!!誰か、誰でもいいから、助けて……!!)

誰でもいいから助けて。
頭の中で、何度もその言葉をリピートする。
しかし、その思いも空しく、亜美と男二人の行動を見ている周りの誰も、亜美を助けようとしない。誰もが気付いていながら、面倒事に巻き込まれたくないとでも言うように、何もしない。
311ユートピア:2009/03/04(水) 13:18:36 ID:CJWiQyV0
「大丈夫だって、君も絶対に気持ちよくなるから。今までの女だって皆そうなってたぜ?最後には自分から腰振って、『もっともっと』ってお願いしてくるんだからよ。」

怯えている亜美に、絶望の言葉が投げかけられた。
最初から薄々は気付いていた。しかし、気付かないようにしていた。だが、今の言葉で確信してしまった。

(あたしは、こいつらに犯されるの……!?)

言葉にならない程の絶望感が胸に溢れた。
恐怖と絶望から、亜美の瞳から涙が溢れた。

(誰か、誰か……)

亜美の頭に顔が浮かぶ。
目つきが悪く、どう見てもヤンキーにしか見えない顔が。しかしその顔は見た目だけで、中身は驚くほど優しく、様々な魅力に満ちている、男の顔を。

「助けて……」

知らず知らず、口から言葉が出ていた。
ここに現れてくれることを信じて、愛しい人の名前を。

「助けて、高須君……!」






そう言った瞬間、亜美を引っ張っている男が立ち止まった。
312名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 13:20:53 ID:OxwjayQK
>>287
GJだ
職人さんのSSだと、実乃梨が泣いてるシーンは、大河の泣いてたシーンの直後にあって
竜児を思い号泣しながら、しかしマンションの前で止まり追い掛けられない大河と
竜児に告白させないで、家に帰ってから独り泣いてしまう実乃梨が
良い感じで相乗効果になってより泣けるな
313名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 13:28:14 ID:TfMQgn5k
>>311
終わりかな?お疲れ様です
今から超読むぜ〜
314ユートピア:2009/03/04(水) 13:28:47 ID:CJWiQyV0
「何だてめぇ、邪魔だ、どけ。」

それと同時に、その男はそう言った。
亜美が顔を上げてみると、前の男二人の前に、一人の男が立っていた。
その男は、全力で走ってきたのか、膝に手をつきながら肩で息をしている。

「おい、聞こえねえのか、ああ!?」

男の言葉に、息を切らしている男はゆっくりと顔を上げる。

「「っ!?」」

亜美を連れていこうとしていた二人が同時に、息を呑む音が亜美に聞こえた。
それも当然か。

男二人の前に立ちはだかったのは、高須竜児。
今はそのヤンキー顔を、息を切らしているせいか、歪ませていていつもの10倍増しの怖さだ。今の顔の竜児をどこかのヤクザの次期組長と言われても、納得できるほどの怖さだ。

「お前ら、何しようとしている……?」

竜児が声を出す。その声は、いつも友達に出しているような優しい声ではなく、途轍もなく低い、相手に恐怖心を与えるほどの声だった。
息を切らしていたせいもあるが、竜児にこんな声を出させたのは、男二人に対する憤激。かつて無いほどの怒りの感情が、竜児の身体に渦巻いていた。

「その子は、俺の友達だ……
もしその子に何かあったら、許さねえぞ。」

竜児はあえて怒鳴らなかった。限りなくドスの利いた声で男二人に言い放つ。
それが、男たちには堪らない恐怖を呼んだ。
315ユートピア:2009/03/04(水) 13:29:21 ID:CJWiQyV0
「「ひ、ひいいいいぃぃぃぃ……」」

男二人は、すぐさま回れ右。一目散に竜児から逃げていった。

「……」

竜児は、少しの間逃げ出していった男二人の背中を睨みつけていた。
そしてすぐに、その視線に心配の色を乗せて亜美の方に向ける。
亜美は地面に座り込み、俯いて身体全体を震わせていた。

「大丈夫か、川嶋!」

すぐさま、亜美の傍にしゃがみ込み、肩に両手を置く。

「悪い、川嶋……俺が遅れたばっかりに、お前に怖い思いさせちまって……」

「高須君っ!!」

竜児が言い終わらないうちに、亜美が竜児に抱きついてきた。いや、しがみ付いてきた、という方が正しい。
そしてそのまま、竜児の胸に顔をうずめて泣き出した。余程怖かったのだろう、周りの事は気にしないで、感情の赴くままに涙を流す。

「高須君……高須君っ……!」

「怖かったな、川嶋。もう大丈夫だ、俺がいるから、安心しろ。」

そんな亜美の身体を、竜児は包み込むように優しく抱きしめる。右手は亜美の背中をさすり、左手は亜美の頭に置いて優しく撫でる。
少しでも亜美に安心してもらおうと、自分に出来る限りの優しい声で言う。
亜美には安心してもらおうと、竜児は「大丈夫」と言ってはいるが、あの二人に腕っ節で適うとは微塵も思ってない。
竜児は顔こそ怖いが、普通の高校生だ。本気の殴り合いなんてしたことはない。あの二人に勝てる要素なんて一つもなかった。
だから竜児は、最後の手段をとった。自分の最大のコンプレックスであった、昔から嫌いで嫌いで仕方が無かった、怖い顔での威嚇。
亜美のためなら、竜児はその自分の嫌いな顔を使うことを辞さなかった。
竜児は今日、生まれて初めて自分の怖い顔に感謝した。
316ユートピア:2009/03/04(水) 13:29:55 ID:CJWiQyV0
竜児は亜美が落ち着くまでずっと亜美を抱きしめて、頭を撫でていた。
しばらくすると、亜美も幾分か落ち着いたのか、竜児の胸から顔を離す。

「もういいのか、川嶋?」

「うん、さっきよりは、大分落ち着いたから……」

そう言う川嶋の声は普通に戻ってはいるが、まだまだ弱弱しかった。
その声を聞いた竜児は、もう今日は買い物には行かない方がいいと判断した。

「川嶋、帰るか?」

「え……?」

「今日はもう無理だろ?」

「でも……」

竜児の提案に、亜美は渋る。

「でも?」

「買い物に、行きたい……」

亜美は、今日の竜児との買い物を本当に楽しみにしていた。どうしても、竜児と買い物に行きたかった。

「買い物ならいつでも行けるだろ?川嶋が望むなら俺もついて行く。だから、今日は帰るぞ?」

「本当……?」

「おう、本当だ。」

「なら、帰る……」

竜児の言葉に、素直になる亜美。そして立ち上がろうとする。
しかし、
317ユートピア:2009/03/04(水) 13:30:34 ID:CJWiQyV0
「おっと……」

腰が抜けているのか、よろめく亜美。そんな亜美を、竜児が手を伸ばして支える。

「大丈夫か?」

「大丈夫……じゃないか。フラフラして、上手く立てない……」

いつもからは想像できないほど、元気の無い笑顔を浮かべる亜美。
そしてそう言いながら、亜美は竜児の片腕に自分の両腕を絡ませる。

「お、おい、川嶋!?」

「上手く立てないから、高須君が支えて?」

竜児の目を見つめながら、上目遣いで言う。

「お、おう。」

そんな亜美に、竜児は赤面する。瞳が潤んでおり、いつもの亜美の表情より艶やかで魅力的に見える。
しかも亜美の顔は竜児の顔の至近距離。顔を赤くするなという方が無理な話だ。

「じゃ、じゃあ帰るけど、お前の家ってどっちだ?」

「ん、こっちよ。」

亜美は自身の家の方向を指差す。
その方向に、二人は歩き出した。
318ユートピア:2009/03/04(水) 13:31:07 ID:CJWiQyV0
亜美は自分の家までの少しの間、竜児との二人っきりの時間を満喫した。
恋人同士じゃなきゃ接近できない程、近づいた。しかも、竜児の片腕に抱きつきながら、街中を歩くことが出来た。
買い物に行けなかったのは残念だったが、それに匹敵するほどの価値があることだった。

「ここが、あたしの家。」

自分の家に視線を向けてそう言いながら、亜美は抱きついていた竜児の腕から離れる。

「今日は本当にありがとう。あのままあいつ等に連れて行かれてたら、今頃あたしは大変なことになってた。」

「いや、礼を言われるほどのことじゃねえよ。俺は当然のことをしただけだしな。」

そう竜児が言ったら、亜美は小さく笑みをこぼした。

「どうした、川嶋?」

「ううん、何でもない。ただ……」

「ただ?」

「あの時の高須君、凄くカッコよかったな、って……」

「なっ!?」

亜美の言葉に、顔を赤くする竜児。

「な、何だよ、いきなり……!」

「別に、ただそう思っただけ。」
319ユートピア:2009/03/04(水) 13:31:43 ID:CJWiQyV0
そう言いながら、亜美は玄関の方にスタスタと歩いていく。
鍵を取り出し、玄関の鍵を開ける。
そして、竜児に振り返る。

「しつこい様だけど、今日は本当にありがとう。高須君には、言葉にならないほど感謝してる。」

「おう、もうあんな奴等に捕まるなよ。」

「うん、気をつける。」

そして、少しの間をおいて、亜美が再び喋りだす。

「でももし捕まっても、高須君が助けてくれるから大丈夫かな?」

悪戯好きな子供みたいな顔で、亜美はそう言う。

「ば、ばか!んな都合よくいくかよ!」

「ふふ、冗談よ。」

そう亜美に言われ、竜児は肩を落としながらため息を吐く。

「お前はまた俺をおちょくって……」

「でも」

亜美は目を閉じて、助けに来てくれた高須の姿を思い出す。

「高須君が凄いカッコよかったっていうのは本当。まるで、私だけの王子様みたいだった。」

そして、顔を赤らめながらそう言った。
その言葉は、嘘も偽りも無い、亜美の本心だった。

「じゃあね、高須君。」

そう言って、亜美は足早に玄関に入っていった。理由としては、自分の言葉に顔を赤くして、その顔を竜児には見られたくないためだ。
誰もいない、亜美の家の玄関。

「本当に、私だけの王子様になってくれたら、どんなに嬉しいか……」

それ故に、今の亜美の言葉を聞いた者は誰もおらず、妙に寒い玄関の中に溶けていった。

320ユートピア:2009/03/04(水) 13:32:23 ID:CJWiQyV0








竜児は今、自分の家に向かって考え事をしながら歩いている。
その考え事は、自分の気持ちだった。

(何で、俺はあんなに怒ったんだろう……知り合いが拉致られそうになってたからか?)

連れて行かれそうになっていた亜美を見た瞬間、竜児はかつて無いほどの怒りを感じた。
だが、自分が何故そこまで怒るか分からなかった。
同じようなことが、昔あった。中学のとき、同じクラスの女子が今日と同じように不良に絡まれていた。
見過ごすことも出来ず、その不良たちを眼光一つで追っ払った。
その時は、「大変だ」とは思ったが、今日ほどの怒りを感じることは無かった。

(やっぱ、友達だったからか……?それとも別に理由があるのか……?)

竜児は何とも言えないモヤモヤを感じながら、自分の家に向かって歩いていった。
321ユートピア:2009/03/04(水) 13:35:58 ID:CJWiQyV0
今回はこれで終わりです。
すいません、連続投稿が原因でアクセス制限になってしまって、途中間が空いてしまいました。
一様、まだ続きます。
今回、ありえない状況が出てきましたが、小説ということで一つ、許してください。
最後に、稚拙な文章を読んでいただき、ありがとうございました。
322名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 13:38:54 ID:TfMQgn5k
>>321
おもいっきり割り込みレスしちゃった
ほんとごめんなさい

お疲れ様ですー
323名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 13:39:34 ID:EFj38gH1
>>321
GJ!初っ端での割り込み申し訳無い。
というかやっぱり連投規制有るんだね。
324名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 13:40:58 ID:egyeNuHA
>>321 GJだぜ!!
続き楽しみに待ってます!
325名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 15:14:05 ID:CszU52qh
>>321
GJ! いい作品でした。

ここはほんと賑わってるし、いい職人さんが多いな。
326名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 15:26:47 ID:Yxb2Rq0u
>>312の空気の読めなさすぎる割り込みに全俺が泣いた。 
にしてもあみドラGJすぎる!続編期待!!
327名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 16:32:53 ID:22haeAzS
明日最終巻最速フラゲですよー
328名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 16:50:32 ID:3n0sPQYA
これから投下します。とら×ドラ派の逆襲だ!
■オフィシャル海賊本「電撃h&p(はじまり&ピリオド)」掲載、「ドラゴン食堂へようこそ」の(勝手な)続編です。■
■未読の方は……未収録作品&書き下ろし掲載「スピンオフ3!」発売を願って、西新宿(の電撃文庫編集部)を拝め!>arl■

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「ラブレター、返せ――――っっ!!」

フリルひらひらワンピース姿の、可愛い恋文差出人。
その受取人(間違いだけど)、竜児の胸よりずっとずっと低い身長なのに、
とんでもない怪力で男の襟首つかんで開店前の店内に引きずり込んで、椅子やら机やら片っ端からなぎ倒し、喉元に木刀突きつける奴なんて、
こんな女他にいるわけない。

決してこいつ、赤字続きの店に返済を迫りに来た極道借金取りではない。
……たぶん顔だけなら、こっちが非道なヤクザ高利貸しに見えるだろうが、こいつは昨日、日替わりBランチ(サバ味噌定食)を食い逃げしてった奴なのだ。
本来ならこっちが御代払ってもらう立場じゃないだろうか――なのに、何で、なんで、朝っぱらからラブレターに、ワンピースに、木刀、木刀?! ひー!

「選びなさい。あんたには、3つ選択肢があるわ」

 1、私に半殺しにされて、店も営業出来なくされる。
 2、脳みそから今朝のラブレターの記憶全部なくす。
 3、それが嫌なら私に協力する、そう奴隷のように。

「……どれも嫌だっ!」
「じゃあ死んでっっ!」

逢坂大河。実乃梨の女子高時代からの大親友。ずっとニート中の、どこぞのお嬢様。
数少ない店の常連客。いつもいい食べっぷりの、料理人冥利に尽きる大事なお客様。

今日もフリルとレースたくさんの乙女ファッション、淡い色の綺麗なウェーブヘア。
永遠の少女のような華奢なスタイルと、アンバランスなほどの硬質かつ精緻な美貌、
……それを神が与えたとしたら、なんでそれと反比例するような乱暴で凶暴で、最強かつ最凶の性格までこいつに与えちゃったのか。

だから、人はこいつをこう呼ぶ――――猛虎、手乗りタイガーと。


「な、何を、協力しろって?」

実乃梨と何の進展もないまま死ぬのも嫌だし、脱サラして借金して開店したばかりの自分の店を壊されるのも嫌だ。
だから、だいたい解っていたけど――解りたくなかったけど、木刀を避けながら手乗りタイガーに訊いてみる。

「それのことよ、それ! ラ・ブ・レ・ター!」

竜児が手にした、薄桃色のきれいな封筒。宛名は北村祐作さま、差出人は、手乗りタイガー。
さすがにどう見たって、こいつは決闘の果たし状でも、組からの破門絶縁の義理回状でも、はたまた活字を切り張りした古めかしい脅迫状でもないだろう。
要するに手乗りタイガーは、イチかバチかの本丸突撃、デット・オア・ライブなラブアタックを敢行し、『ドラゴン食堂』にラブレターを届けたのだ。
……しかもドジな事に、相手を間違えて。

***
「ここ北村くんの店だと、ずっと思ってたのに!」
「俺の、店だ! あいつは大学院居残りオーバードクター、暇な時手伝いに来てるだけで、そもそもアルバイトでもねえ」
「……北村くんに給与も払えないってことね。このダメ店主」

まだ開店前だが、とりあえず手乗りタイガーをカウンター椅子に座らせ、お冷やのグラスを出してやって。

逢坂大河。店の扉を毎日どかーんと吹っ飛ばす勢いでやって来る、『ドラゴン食堂』の貴重な常連客。
櫛枝実乃梨の親友。いつもランチのご飯は大盛り&おかわり、小さいくせに絶対3人分は食べてる。
性格は獰猛かつ傍若無人、こうやって店内で木刀を振り回し竜児の命を狙うような、気性の荒い女。
――そして、実乃梨の大学時代のサークル仲間、北村祐作に、ずっと密かな想いを寄せている(らしい)。

「あ、あんたが大人しくそのラブレター渡してれば、こんなことにならなかったのよ……」
「そもそも今朝は北村、店に来ねーよ。昨日言ってただろ、幼馴染の女が帰ってきたって」「う……」

……朝、北村が電話してきたのだ。すまん今日の昼の部、店に出られない、と。
昨日の夜、ヨーロッパから帰国してきたという元モデルのあいつの幼馴染、川嶋亜美なのだけど、
『ずっと海外ブラブラしてたから、実家帰ると親がうるさいのー』とかで、トランク抱えて北村のワンルームに転がり込んで、
『時差ボケひどいしー』と1つしかないベッド、無理矢理奪ってしまったとか何とか。

ラブレター出した相手が、昨晩一人暮らしアパートの部屋に女を連れ込んで、今日は店をお休み。
美人の幼馴染……再会した、オトナになった二人……ひとつ屋根の下……セクシャルバイオレットNo.1……かどうかは知らないが、
それはこいつには黙ってた方がいいだろう、大事な親友のプライベートに関わることだし。
それに、片想い手乗りタイガーにとってそれは死刑宣告に等しいかもしれない。――喋って死ぬのは竜児かもしれないが。


……ああ、まったくもう。
いきなり木刀で襲い掛かるような乱暴者、手乗りタイガーの一件に関わりたくなど無かったのだけど、
出来るなら何も見なかったことにしたかったのだけど、

「……この封筒も、そのせいなんだろ」「……」

ずっと片想いしてる相手に幼馴染の女がいるって聞いて、『亜美』と親しく名前で呼ぶのを聞いて、
ショックで顔は真っ青、はじめてランチは食べ残し、代金も払わずふらふら糸が切れたように帰って。
……いつもは見たこと無いそんな姿を、昨日カウンター越しに竜児は、見てたから。
おまけに今日、こうやって「手乗りタイガー」の名に相応しくないほど、見るからに落ち込んで、
力なく黙り込んで瞳を伏せる姿を目にしたら、目元に光るちいさな涙、見せられたら。

「――よく判らないけど、判った。何か力になれるなら、手伝ってやる」
「え……協力、してくれるの? 本当に?」

――たとえさっきまで木刀で襲われてた相手であっても、女の涙には弱いのだ、胸の奥がつんと痛くなって、何だか堪らない気持ちになってしまうのだ。
こんな顔つきではあるが、竜児という男は、そういうふうに優しく出来ているのだ。

***
「つまりこの封筒を渡して何とかしたかったんだろ、あいつに」
「ち、ちょっと待って! やっぱりその、ラブレターって、この年齢になってそれはちょっと、どうなのかな……?」
「って、まさか27にもなって【ラブレターで告白→お付き合い→プロポーズされる→ウェディング】とか、乙女みたいな事考えてたんじゃないだろ?」「……」

あいさかの へんじが ない。――ずぼしだった ようだ。

「な、な、何よ〜! 私のことバカにしてっ!……う、ううっ、やっぱりお前を、殺すっ!」
「だ、だから泣くなっ! 木刀はよせっ! 店が破壊されるっ!」

ああ、こんなやりとり他人に見られたら、どんな噂になるか判ったもんじゃない。……ただでさえご近所では、開店以来『ヤクザの店』と根も葉もない噂が流れ、
売り上げだって【びっくり! 君の帳簿もまっ赤っか!】状態な、この店だ。
これで、ヤクザ店主が女を泣かせていた、財布を忘れた客を「無銭飲食だと? 上のお口の分は下のお口でしっかり返してもらうぜ、その身体で払ってもらおうか――!」と無理矢理乱暴したに違いない、などと噂された日には。
……間違いなく逮捕有罪クサい飯、この店は潰れ二階の借家からも追い出され、泰子とインコちゃんは借金抱えて路頭に迷う羽目に。いや鳥は保証人になれないけど。


「何よ……力になるっての、嘘だったの……」

つまり、この手乗りタイガーは、
ごく自然に毎日北村と一緒にいられて、会話もたくさんできて、時には2人きりでお出かけしたりして、
いつかはトランク1つで相手の部屋に転がり込んじゃうような仲、ご飯とベッドを共にするようなステディな関係になりたい……と言うのだ、それに竜児も、協力しろと。
おい待てよ、そんな都合良すぎな方法あるわけないだろ、もしあるなら、この俺が知りたいぞ!
そうすれば……夢じゃなく現実に、実乃梨とお付き合いして……結婚して……一緒に、この店を経営して……。

――――ちょっと待て。
あった、ちょうどあるではないか。
都合いい方法が、この店の、壁に!

***

 定食屋『ドラゴン食堂』接客アルバイト募集(女性)。
 資格不要、未経験者歓迎。給与待遇委細面談、制服貸与、交通費支給、賄いつき。


「アルバイト――募集??」
「そう。北村の本業は未来の考古学者だし、どう笑顔作っても俺の人相は客商売向けじゃない。自分で言うのも何だが」
「確かに、料理はおいしいのにね……絶対、その顔で損してるわ」
「北村は、大学院が暇だと店に手伝いに来る。そこに新しいアルバイトとして入った女の子。いろいろ先輩を頼るのは当たり前だし、北村はとても面倒見のいい奴だ、昔から」

……毎日一緒に働いてれば会話も進むし、同じ職場の仲間としての連帯感、毎日客として来るより仲良くなりやすいはず。
『もう夜遅いから』と仕事明けに家まで送ってもらったり、2人で買出しに行ったり、職場の福利厚生で慰安旅行とか。
そして、いつしか2人は互いに惹かれ逢う様になり……。

「どうだ?」
「……よ、嫁に行くときは、絶対あんたも結婚式に呼ぶからっ!」
「いや、新郎友人として普通に出席するつもりだ。当然2次会はうちで開催、3次会は泰子のスナックで。――いいんだな?」
「ちょ、ちょっと待って! ウェイトレスなんてできるかどうか……だって私、すごいドジなのよ! 働いたりしたら、皿やグラスは割れ、転んでテーブルは倒し、厨房はガス爆発……」
「いやいや、ミスを北村にフォローしてもらう、ドジって落ち込んだら慰めてもらう……急接近のチャンス、だろ? まあ火と刃物は使うな」
「っていうか、そんな、あまりに都合良過ぎて、夢みたいで、ほんとうに信じていいか……」
「もちろん、賄いメシつきだ。昼と夜の部、2食食べていい」
「お、おかわりも? 大盛りも? デザートも?!」
「……ほどほどに、な」「やったあ♪」

――驚いた。手乗りタイガーが、へへへ! と、笑ってる。
この店では「フン!」といつも機嫌悪そうにしてたのに、竜児を睨んだり舌打ちしたりしてたのに、
今日はこんな、こんな可愛い笑顔をしてるのだ、今まで見たことない素敵な表情を、してるのだ。

「逢坂、大河さん……だっけ。俺は、高須竜児。店では店長って呼んでくれれば――」
「わかったわ、竜児! 明日から出勤でいい?」「いや、店長って……」
333名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 16:57:39 ID:3n0sPQYA
大河×竜児。
タイトル、台湾で発売されてる『とらドラ!』中国版タイトル【TIGER×DRAGON!】から。
先日旅行の際に台北のコミケ【FancyFrontier 開拓動漫祭 13】のカタログ貰ってきましたが、
表紙が練り餡、ゲストが藍ぽんと鈴平……って、ココ台湾だったよな?

……わ、とらドラ本出してるサークルがある!!

今回「もしも彼らの出会いが10年遅かったら……?!」というifに加えて、
「もしゆゆぽが『ドラゴン食堂』の続きを書いたら……?!」というダブルif展開、
あとで続き投下します。
334名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 18:37:58 ID:dVs9RX9T
>>333
GJ!! GJ!! でもゆゆぽのネタが潰れてないか心配w
335名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 19:12:53 ID:cOfTmubD
>>287
>>321
>>333

マジでGJ!!ガチでGJ!!

俺はどんなカプでも逝けるから続きをゆっくり期待してるぜ!
336名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 19:21:49 ID:t2IfdSDy
>>333
パンツ神に期待
337名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 19:41:07 ID:RQx2HgJ0
まさかここまで良スレだとは
338名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 19:51:55 ID:1ZtTg+EX
ここまで投下が続くと胃もたれ起こしそうだ…
みんな超GJ!!!
339名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 19:57:21 ID:xsiH4g/V
>>333
ナイスだ!GJ

>>338
大丈夫かww
340名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 20:00:56 ID:ODJ2pQ4e
タイガー&ドラゴンと聞くと
漫才しか思い浮かばんw
341名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 20:11:55 ID:gM5xPqS2
落語じゃなくて?
342名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 20:36:30 ID:e+DlqGlp
GJ!

やべぇ。。。興奮しすぎて鼻血出そうw
343名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 20:39:41 ID:AidKnE6k
ただ、ひたすらに GJ !
344名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 20:52:33 ID:84QZJ7YG
いまだかつてこんなに良作がぽんぽん投下されるスレなんて見たことがない
無駄に荒れてた昔が嘘のようだ
345名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 21:07:00 ID:t2IfdSDy
元々昨年秋くらいから常時祭りみたいなスレだったんだがな
職人の入れ代わりも激しい新陳代謝すごいスレだわ
346名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 21:19:04 ID:ih5vNgcv
春田が大河に>>345の二行目を読ませると・・・
347名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 21:27:58 ID:xsiH4g/V
>>346
ちんちん代謝ですね、わかります
348名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 22:02:00 ID:M0RvRGPB
GJだ!!!!
てかSSを携帯で見れたらいいのになぁ・・・?
349名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 22:07:11 ID:xsiH4g/V
>>348
ん?普通に見れると思うぞ
俺携帯でも見てるし
350名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 22:33:05 ID:e+DlqGlp
保管庫のほうは若干読みづらい気がしなくもないがな
351名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 22:38:27 ID:BkSIY759
スレよりは読みやすいと思う
352名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 22:44:04 ID:1ZtTg+EX
携帯でもファイルシーク使えばPCサイトも大丈夫
353名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 23:08:45 ID:abzFtXUH
今日も職人の皆様ありがとうございます。マジいいスレだぁ!

>>290
ななせ派の俺は知ってるが、文学少女は作家に(完)がうってあったよ。その後にコラボやらスピンオフがしらっとでてるのはご存知の通り。

で、ここからは俺の予想なんだが、完結編とあらすじに書かれているのは、起承転結の結の部分にツッコミますよっていう合図なんじゃないかと。
1〜3が起。4〜6が承。7〜9が転。10〜?が結。的なノリで。つっても11ぐらいで終わりそうだけどね。
354名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 23:14:12 ID:0bcrtpe4
普通に、本筋は10巻で終わりだけど、とらドラシリーズはスピンオフその他でまだまだ続きます!
って事じゃないかな、と
355イチロー ◆nlz/k.a/CE :2009/03/05(木) 00:05:15 ID:a3dDoVLp
はじめましてイチローです。
いきなり、登場して空気読まず携帯から投下ですw
竜児×実乃梨
北村×大河
題名「幸せの日々」

初なんで、俺の妄想ですw
356イチロー ◆nlz/k.a/CE :2009/03/05(木) 00:06:20 ID:a3dDoVLp

 三白眼のおかげで、散々ヤンキーやら、裏社会で名を馳せてる、将来は、世界のマフィアや、やの付く職業の人達の頂点に立つ男やら……
実際は、何処にでも居る高校生…料理がプロ級趣味が掃除、だけど心優しく、純情な男
 それが、高須竜児
そんな男にも、恋人が出来た。
紆余曲折合ったが、一年以上想い人【櫛枝実乃梨】だ
357イチロー ◆nlz/k.a/CE :2009/03/05(木) 00:06:55 ID:a3dDoVLp

 不意な事から、手乗りタイガー事…逢坂大河と、秘密を共有した。
お互いの親友の事が、好きだったのだ。

 お互い協力しあって、見事に、大河と北村、俺と櫛枝が恋人同士になったんだ。

 「竜児〜この服似合ってるかな?明日デートなんだ。」
「おぅ…似合ってる、可愛いと思う。北村も惚れ直すな」
「えへへ…」
はにかんだ顔をしている大河を見ると、嬉しくなる。
 あれほど、恐れられていた手乗りタイガーの面影は、微塵も無く本人曰わく
「ふんっ…北村君と、恋人同士になれたんだもん。前の私は、モグ‥モルグに捨ててやったわ」
などと言っていたり‥

前みたいに、家で飯を食うことも無くなり、今や料理を教わりに来るぐらいだ。
358イチロー ◆nlz/k.a/CE :2009/03/05(木) 00:08:38 ID:z2l5JVLu

 愛の力?と言うのか?めきめきと料理の腕も、良くなり、何時お嫁に、出しても良いぐらいのレベルに達した。

娘を送り出す親父の気持ちだったりする。

 「竜児こそ、みのりんと喧嘩とかしてない?
泣かしたら、※すよ?」
 あの〜〜大河様その髪と目は、どうしましたか?
赤いですが?…キャラ違ってますよ?

「安心しろよ!泣かしたりしてないからさ…マントと、剣を収めろ」
「なら、良いけど。絶対に、泣かすな!浮気するな!親友なんだから、みのりんは!」
「分かってるから、ずっと一緒って誓うから」

「じゃあ、約束しよ……将来私と北村君竜児とみのりんのダブル結婚式を挙げる」
「おぅ…約束だ!」

 俺達は、力強く握手をした。
359イチロー ◆nlz/k.a/CE :2009/03/05(木) 00:09:26 ID:z2l5JVLu

 ━━五年後━━
「竜児どうかな?」
「おぅ…綺麗だよ実乃梨…」
 大河と約束した日から、五年後俺達は、今日結婚する。

 同時に、大河と北村も同じ日に、結婚式を挙げる。

更に、偶然にも実乃梨と大河のお腹にも新しい命が宿っている。

どうか…神様赤ちゃんは、俺に似ないようにしてください。

fin
360イチロー ◆nlz/k.a/CE :2009/03/05(木) 00:13:17 ID:z2l5JVLu
起承転結も糞もありませんw

こんな感じもあったら、良いなぁ〜って思ったから書きました。
才能もありませんw

お面汚しごめんなさい
361名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 00:48:04 ID:Fqd/AYn8
>>360
ふぉっふぉっふぉっ

まだまだ職人としては荒削りだが良い魂(妄想力)を持っておるのぉ

日々、精進するのじゃぞ
362名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 00:58:10 ID:V3uelUwB
バルタン星人?
363名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 01:01:54 ID:NweRN/Ll
>>360
みのりんと竜児の結婚はあっぱれ天晴れ!
でも出来ればもうちょっと文章を詰めて欲しいかな?
頑張って下さい!
364名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 02:18:30 ID:k//+HhZU
>>360
GJ
文章力はこれから鍛えればいいさ
ちょいとにやけてしまった
365名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 06:16:42 ID:mhiChMyg
このスレの住人の優しさに全俺が泣いたww
366恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/05(木) 06:29:52 ID:NweRN/Ll
この数々の良作ラッシュの中、その中で、あえてトップの人気を誇るななドラ!を書いた愚か者です!!
因みにIDが変わって分かりにくいと思いますが、俺は>>237を投下した馬鹿ですので、微妙にそっちとリンクしてたりします。
では、次スレからスタートです。
367恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/05(木) 06:34:21 ID:NweRN/Ll
「う〜ん…ポークカレーとチキンカレーとどっちにしようかしら」
スーパーのお肉売場、私は両手に持った豚肉、鶏肉を天秤に掛けるように見比べていた。
「迷うわ…ってあれ?」
そんな最中、偶然泳がせた視線が彼を捉えた。
「…高須君だわ。へぇ〜彼でもこんな所に来たりするんだ。‥あ、そういえば」
そこで私はこの前亜美ちゃんに聞いた話を思い出した。
亜美ちゃん曰わく、なんと高須竜児はそのヤンキーな見掛けとは裏腹に、家事全般そつなくこなすスーパー高校生との事らしい。
その話を正直信じていなかった私は、視線の先で食材を珍妙している高須君をしばらくぼーっと眺めていた。
しかし次の瞬間私はある事を思いつき、一人ニヤリと笑うと、一旦両手に持ったお肉を二つともあった場所に戻し、ひっそりと彼に歩み寄る。
高須君の容姿さながらに、今の私の心境は万引きGメンそのもの。そしてその目論み通り、彼は私がすぐ後ろまで迫っているのにも関わらず、未だ私の存在に気づく素振りすら見せない。
そんな高須君の様子に、私はクツクツと必死に笑いを堪えながら、静かにその耳元に口を近づけ、いきなり彼に声を掛けた。
「高須君?何してんの?」
瞬間、高須君はビクリと体を跳ね上げ、余程驚いたのか面白いくらいに慌てふためきながらこちらに振り返った。
「ッ!?‥な、何だ。香椎か…」
「あら、何だとは何よ。失礼ね」
私はクスリと笑いながらそう言うと、ヒョイと勝手に高須君の買い物かごを覗いてみた。
「あら、高須家の今日のメニューはお鍋かしら」
覗き込んだかごの中には魚介類の商品が、綺麗に並べられている。きっとこういう所にも性格がにじみ出ているのだろう。
「いや、今日はシーフードカレーにしようと思ってたんだ」
「シーフードカレーって…またそんな手間のかかるモノを」
私は高須君に視線を戻す。
「でもな、ここで一つの問題が発生したんだよ」
「?どうしたの?」
不思議そうに小首を傾げて問う私に、高須君は腕を組み、神妙な顔つきで唸るながら返答する。正直怖い。
「あぁ、実は家の冷凍庫にな?豚のミンチ肉があるのを思い出したんだよ。しかもそれ買ったの結構前だから、そろそろ調理しないとヤバいかもだしよー‥ハンバーグカレーもいいかなってさ」
「シーフードカレーとハンバーグカレー…」
私はさっきまでポークカレーとチキンカレーで著しく悩んでいた自分が無性に恥ずかしくなってしまった。
368恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/05(木) 06:42:34 ID:NweRN/Ll
「そう言うお前ん家はどうなんだよ」
香椎家の今日のメニュー…そう高須君は少しイタズラな調子の声音、軽く微笑みながら私に問う。
「う、うん、実は私の家も今日はカレーなの。奇遇ね」
高須君の笑顔に、一瞬胸の鼓動が大きく音を立てた。
「へ〜香椎が三食、飯作ってんだもんな。お互い大変だな」
そう言いながら尚も笑い続ける高須君。
私はばたつく心境を間違っても高須君なんかに気取られないよう、必死に平然を装うと、精一杯の笑顔で笑い返した。

【〜恋の相手はおばさん男子〜】
///
「‥はぁ〜…」
私はまた一つ溜め息を吐いた。
「奈々子、食事中に溜め息を吐くな。行儀が悪いぞ。」
そんな私を見かねてか、お父さんはテーブル越しに私をチラリと一瞥すると、お父さんの分際で私を注意する。
「はいはい分かってるよ。…はぁ〜‥」
私はそのまま、微塵も反省する態度を見せず生返事を返すと、ぼーっと意識を飛ばし、先ほどの高須君との一連の出来事を思い出してみた。

結局、高須君とはあの後も一緒に買い物を楽しみ、私たちは帰り道の際に別れた。
それらの最中、高須君と私は色んな話をした。
話題は主に料理や家事のノウハウなどで、お世辞にも異性、それも今を花咲く高校生男女の会話とは言い難いものではあったけど、それだけに普段の友人とは出来ないような会話で、高須君と話していて私はとても楽しかった。
更に彼と会話をしている内に、今まで私が高須竜児という男性に対して抱いていた印象が、大方の筋で間違っていた事が分かった。
それはと言うのも、ホントの高須君はあの見掛けにも関わらず思いのほか紳士で大人っぽく、逆に少し子どものような一面も持っていて、そこの所をからかうと凄くカワイイ。
それに他の人に対しての気遣いもしっかり出来て、そして何よりとても[優しかった]。
…って、あれ?高須君て完璧じゃない?
瞬間、自分の顔が急に熱くなる。ちょ、ちょっと待ってよ‥これじゃあまるで私が高須君の事…好き‥みたいじゃない…
「‥ん?どうした奈々子、顔が赤…「うううるさい!あぁもう!!ご馳走様でした!!」
私はそうお父さんに吐き捨てるように言い放つと、使った食器を持って席を立ち上がり、せかせかとキッチンに回り込む。
そして目の前の流しに食器を乱暴に置き捨てると、すぐに自分の部屋に向かった。



「うぅ…奈々子ォ〜」
リビングには中年男性のすすり泣く音がただ響いていた。
369恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/05(木) 06:50:46 ID:NweRN/Ll
私は自分の部屋に入るとすぐに、隠れるようにベッドに潜り込んだ。
…私、どうしちゃったんだろ。
少し息苦しいベッドの中、私は膝を抱え小さく丸くなる。
さっきからずっと高須君が頭から離れてくれない、彼の声が壊れたテープレコーダーの様に自分の中でいつまでも再生されていた。
「落ち着け…落ち着けって奈々子‥!」
私は自分にそう言い聞かせ、意味なくベッドの中でジタバタする。
暖かい布団に包まれしばらくそんな事をしている内に、やっと心が落ち着いてきた私は、改めて彼の事を考えてみた。
…正直に言えば、彼は自分の理想を全て兼ね備えている。
というか、この世の女性のその大半が男性に対して求める需要の、その殆どを彼は秘めているのではないだろうか。
顔だって少し目つきが悪いだけで、別に顔つき自体が不細工なわけではない。
それにこうして彼の内面を知った今にしてみたら、その悪人面さえも性格との絶妙なギャップを演出しているみたいで、あまりマイナスに見えないから不思議だ。
「…私は、高須君の事が‥好き」 ついに発してしまったその言葉に後悔してももう遅い、私の口を出るやいなや、途端に一人のベッドの中、愛の囁きは私の体を弄び始める。
それは一度言ってしまえば最後、ただただ果てるまでその言葉に溺れ、その中に快楽を求めるだけであった。
「はぅ‥高須…君っ」
気づけば勝手に両の手は衣服の下へと伝い、それらは行き場を探すように蠢き始める。
「ん…あぁ、ひゃぁ!」
高須君が私の胸をグニュグニュと揉み込みながら、官能的な水音をあげ、まるで貪るように吸い付いて来る。
そして胸への愛撫はそのままに、高須君の手指が私の秘部、だらしなく涎を垂らした割れ目を下から上、ゆっくりと這うように伝い撫であげた。
そんな悲しいくらいに一人よがりな、イメージ。それによるオーガニズム。
しかし、今の私に官能的なモノに対しての羞恥の感情などあるはずもない。
この瞬間、私の心、肉体が求めるものは刹那的快楽だけ。それ以外考えられない。
「ふぁ!高‥須君…高須君っ!!」
高須君の指は、そこに突起物を発見すると、必用にそこを攻め弄り始める。
「ぃや‥あぁんっ!ん、ダ…メ」
私はそのあまりの快感に、更に自分を慰める手腕を動かす。
何も考えられない。口からは淫らに垂れた唾液がその口元の黒子に妖媚に伝う。
「んぁ‥ひゃぁ!ゃだ…イ…く‥〜ッ!!」
370恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/05(木) 06:57:01 ID:NweRN/Ll
瞬間、私は全身を駆け巡った麻薬的なまでの快感に、言葉にならない悲鳴をあげながら、ブルッと身を震わせた。
「高須…君‥」
虚ろな瞳、私は最後に妄想の彼を見つめ、名を呟いた。

///
事が済んでからの所為はヒドいものだった。
途方もない空しさ、虚無感に脱力した体は汗にまみれ、私は凄まじい自己嫌悪に苛まれた。
そのまま無気力に向かったお風呂場、大好きなお風呂も今日ばかりはちっとも気持ちよくなかった。
だって、頭の中はやっぱり高須君の事ばっか。
途中、お父さんが覗いてきた。
しかし、それすらどうでも良かった。
―――私の頭の中は高須君の事ばっかりだった。
371恋の相手はおばさん男子!?【あとがき】:2009/03/05(木) 07:05:09 ID:NweRN/Ll
終わりです。
いや…まぁそうです。
えぇ…お察しの通り、ただ奈々子様のはしたない遊びが書きたかっただけです。

そして、実はエロ描写を書いたのは今回が初めてなんですが…う〜ん難しい!
俺の拙い文章に付き合って貰って有難うございました!
そして、もちろんまだ続きますのでこれからも付き合って貰えると嬉しいです。
では、またの機会に。
372名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 07:37:30 ID:9zJNHLy3
朝ですよ〜
疲れた……夜勤明けでビールが飲みたいです
なんかレスが急激に伸びてますね、職人さんたちGJと言わざるを得ません
昨日の投下したみのドラ、『GHOST and HOLY』の続きです
皆さんレスありがとうございます

昨日言い忘れてたのですが、エロ、多分ありません
期待してた方申し訳ないです
俺の力量ではそういうシーンは書けそうにもないんです、ごめんなさい。。

というわけで、続きです
恐ろしくペースが遅いんですが、明後日あたり休みなのでたくさん投下できればいいな〜とか思ってます
では、どうぞ
373名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 07:43:22 ID:9zJNHLy3
A Ghost’s Dream

 夢を見た。
 

 何度となく、夢で繰り返し映し出されるのは、雪が降る川辺の前で、誰かを必死に引きとめようとしている――あれは、クマの着ぐるみだ。
 クマは、その誰かの名前を、声の限り叫んでいた。声は、着ぐるみを通してでも、明瞭に響く。降り注ぐ雪をかき消すように、誰かに、声を届けようとしている。
 それを他人事のように見つめる彼は、その様子を空の高みから見ていた。まるで幽霊のようにふわふわと頼りなく浮いている。なんとなく、この光景は自分の経験が生み出した幻影なのだと、彼は思う。
 きっとあのクマは自分で、あの誰かは、知り合いなのだろう。
 その誰かは、少女、だった。間違いなくその少女を知っているはずなのに、夢の中の彼はその姿を少女に靄がかかっているように、捉えきれない。

 少女は、誰だったか。


(幽霊って、見たことある?)


 その光景とは無関係に、急に彼の中でいつかの言葉が蘇った。
 幽霊ならここにいるよ、と彼はひとり答えた。夢の中の彼は、幽霊そのものだったから。
 その言葉は、誰が言ったものだったか。今なら、幽霊の存在を証明できるのに――。


(夢見たい、見ちゃったよ)


 また、声が聞こえた。その声は、喜びに満ちていた。
 ああ、そうか、そうだった。彼女はもう見ているのだったか。いや、幽霊を見たのか、それとももっと違う別の何か、例えばUFOとか、とにかく、不思議な何かを、見ているのか。
 なら、自分のことをわざわざ、少女に見てもらう必要はないな。
 彼はそこまで考えて、また夢の光景を見下した――はずだったが、なぜか自分は先ほどの高さより、うんと低い位置にまで降りてきていた。ちょうど、クマの斜め上ぐらいだった。
 まるで、自分の存在を主張するように。ここにいる、気付いてくれと言わんばかりに。
 クマと同じくらいの高さで、少女を見つめる。少女は下を向いたままで、クマの声に反応する様子はなかった。なぜか、耳をふさぎたいのに、ふさげない、小さな矛盾を彼は感じる。
 ああ、そうか、きっと少女には聞こえていないのだ。クマの声は、自分の声。だってこれは自分の夢なのだから。
 けれど、彼に未練はなかった。だってもう彼女は――

 あれ? と彼は怪訝に思う。
 少女は、彼女ではなかったのか?
 彼はもう一度、靄がかかった少女の姿を、その先の心の奥まで覗くように見る。


(ごめん、先に言わせて)


 ばん、とブレーカーが落ちたように、景色が暗転した。
 気付くとそこは雪が降っていた川辺ではなく、今まで繰り返し見てきた光景とは、違う場所だった。
 しかし、クマと少女はそのままだった。彼の位置も、クマの少し上にある。
 胸が、痛かった。無性に、涙が溢れそうになる。これは、いつの、どこの誰の記憶だ?
 その時彼はもう自分が幽霊であることを忘れて、そのクマになっていた。クマとの位置は変わらないのに、クマと自分の気持ちは同じだと彼は思ったからだ。
 なら、少女はやはり、彼女なのか?
 そもそも、彼女って、誰だ?
(――は、これで帰ります)
 少女が何かを言った瞬間、彼の身体は物凄い勢いで急上昇を始めた。
先ほどまで目の前にあった二人の姿は、みるみる遠くなっていく。その中、少女が駆け足でその場から去っていくのがぼんやりと見える。そして、クマはその場で立ち尽くしていたかと思うと、気を失ったように地面へ――

 どさり。

 そこで夢は途切れた。 

 
374名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 07:44:55 ID:9zJNHLy3
ここまでです
短いし、物語始まってないしですいません。。。
次投下するときには多分、動き出すと思うんで……
ではまた〜
375名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 07:46:55 ID:mhiChMyg
GJ!
最近大河、亜美ネタが衰退する一方な希ガス。。。
376名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 07:53:12 ID:Y9BKxd+W
恋の相手はおばさん男子!?

次回を期待してます
377名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 07:58:25 ID:uyq5fO4C
>>371 >>374
朝からGJ
続き待ってるぜ。
>>376
一応言うけど、sageは半角でな。
378名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 08:29:10 ID:dfUFqft8
朝からGJの嵐ですね。
今日も一日、仕事頑張れそうだw
379名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 10:06:03 ID:UFN0yhMj
朝からみんなGJ!
380名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 10:43:30 ID:T16AVhAI
>>371
ななどらグッジョブ。俺もつづきを楽しみにしてるぜ。


ああ、一言だけ言わせてくれ。
親父、風呂覗くな( ゚∀゚)
381名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 10:54:38 ID:Bf7444Tc
>>372
前から思ってたんだがタイトルの由来ってブギポ?
382名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 12:38:17 ID:SGlvLq2t
>>375
ならば自分で書くんだ
383名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 12:56:00 ID:nNyFpdQv
38 名前:この名無しがすごい! 投稿日:2009/03/05(木) 12:18:33 ID:0grzIooM
読み終わった

簡単に粗筋

プロポーズして川に落ちて亜美宅へ

やっちゃん家出して学校で大河母から退避、やっちゃん実家で仲直り

大河は母のとこへ戻ってそのまま戻らず、進級

俺達の恋愛はこれからだ!
384名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 13:46:49 ID:ueXN1nA1
会長が>>2でおっしゃってるようにここはネタバレ厳禁だ!
ネタじゃなく粗筋だ!って>>383は言うかもしれんが、そんな理屈が本気で通ると思ってるなら、そもそもここにこれるような年齢ではないだろ。
ここの大人たちはこんな釣り針には俺以外掛からないぜ。まぁ、てんさいには何をいっても無駄だとはおもうが


さてと、とりあえずしかっておいたんで後のネタバレ系のレスはみなさんスルーでいきましょう。どうしてもネタバレが嫌なら暫くスレから離れることをまじでオススメします。せいぜい5日程度ですしね。
385名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 14:50:35 ID:mhiChMyg
あぶねぇーっ!
新しいSSかと思って1行読んで気がついた
もし全部読んでたら(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
386ユートピア:2009/03/05(木) 15:15:34 ID:z4uYGhEX
全部読んでしまった……
こ、今月の楽しみがorz
387名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 15:28:59 ID:nNyFpdQv
146 名前:この名無しがすごい! [sage] 投稿日:2009/03/05(木) 13:32:05 ID:M1hnLBGF
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader941059.jpg
http://www3.vipper.org/vip1135838.jpg
http://www.vipper.org/vip1135839.jpg
竜児と大河が駆け落ち→川に落ちたりいろいろあって(ここで竜虎初キス)、行く当てなくなって亜美の家へ

やっぱ一度親と話をしようってことになって別れる。→学校で出会い、エスケープ開始

泰子の実家へ、泰子の親に泰子を許してくれるよう説得。竜児、泰子と和解

竜と虎の濃厚キスシーン(挿絵あり)。大河、竜児に別れを告げて母親のもとへ

新学期になり、大河は竜児の前に戻ってくる(卒業したら結婚予定)
「俺と大河の恋愛はこれからだ!」

補足
大河は新学期に復帰、卒業までは弟の面倒見るってことで母宅にいるとのこと。学校は休学扱いに母が変更してくれた
みのりは竜を完全に吹っ切れた。亜とみのりと和解。カラオケに誘う仲
能登は麻耶と和解したがくっつかず。竜児の進路は結局不明。三十路は結婚。
今後短編の予定あり
388名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 15:51:01 ID:Wnj3V7iH
>>382
は?お前もクレクレじゃねぇか!ウザ―


さぁそう言う事でアンタも早く書くんだ
389名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 16:05:34 ID:dfUFqft8
>>387&388
Fuckin'shit
390名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 16:09:01 ID:tWCYZRWo
コピペ相手にするとかおまいらどんだけにわかなんだよwww>>384必死すぎwwww
391名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 16:11:00 ID:k//+HhZU
まぁ落ち着け・・・
せっかく良作ラッシュが続いてるんだから
392名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 16:32:16 ID:mhiChMyg
そうだね
また荒れたら悲惨だしね。。。
393名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 16:36:48 ID:m5mxQp+7
みんなNGワード、ネタバレ
NGID、nNyFpdQvにしとけよ
394名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 16:58:32 ID:GJI2qRPh
10巻発売までスレから離れた方が無難そうだな。
395名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 18:10:55 ID:Wnj3V7iH
いや、読み終わったからこそ書く人もいるんじゃないか?
書けたら書きたいもん今
396名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 18:18:22 ID:03yhFXLt
何つ〜かモチベーション落ちる。
397名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 18:26:12 ID:m5mxQp+7
今読み終わってる人間て、とらドラ読者全体の2、3割いってないよな
あきれるしかない
398名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 19:17:21 ID:j8JbXIEP
ネタバレ含む場合は宣言して頂くと助かります
399名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 19:23:46 ID:W03ODNfS
この時期にネタバレ警戒はデフォだしな。特に2周辺は
慣れれば見てみぬフリが上手になるw
400名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 19:26:59 ID:k//+HhZU
どのスレにも転がってるけど、大したネタばれじゃない気がする…
401名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 20:05:50 ID:Wg0qD7SR
ネタバレかぁ?果たしてそうかな?
とりあえず亜美ドラか奈々ドラが本編なんでそこんとこよろしく。
402名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 20:16:28 ID:EprQnIfe
>>400
酷いネタバレかって言うよりどっちかというと見た人がどう思うかじゃないかな。
俺は気にしないけど、どんな些細な情報でも見たくないって人がいるのは分かる。

まあネタバレはすんなってことだ。
403名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 20:38:24 ID:jK15E9Tc
>>401
良いこと言ったww
激しく同意だ
404名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 20:50:22 ID:UFN0yhMj
俺の中の妄想ENDがとらドラ!だからさ
ぶっちゃけ10巻がどうなろうと知ったこっちゃないけどww
405名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 21:41:09 ID:dfUFqft8
じゃあ、正史はななドラで良いですね。
406名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 21:42:55 ID:yrrIwt7j
本編終わったけど、短編はまだ書くみたいだし奈々子様の話書いてくれるといいな
407名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 21:47:15 ID:xv++BPd+
10巻に奈々子様の出番が全く無さそうな件
悲しいから、ここで、ななどらと腹黒様とおばさん男読んで自分を慰めるお
408名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 21:51:09 ID:YKf2el6S
ずいぶん久しぶりに来たが、なんだ、なにが起こってる?
毎日レスがあるじゃないか
それに田村は?相馬は?俺のウサギちゃんは?

もしや俺は生きる化石となってしまったのか?
409名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 22:25:19 ID:Wg0qD7SR
相馬は奈々子に、田村は竜児に転生してこのスレでよろしくやってるから安心しな。
410名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 22:26:07 ID:xv++BPd+
>>408
六スレ目あたりから見てるけど、田村君は無かったと思う。
流れ的に、まず、みのりんブームが来て、あ〜みんブーム、ほんで奈々子様ブーム←今ココ。だよ。
投下されれば、みのりんもあ〜みんも大河もそれぞれ喜ばれるけどね。
雑談で一番、名前が出るのが奈々子様。
ホントによく解らないけど大人気。
今、人気投票やったら、奈々子様が六位くらいに入って作者ビックリみたいな感じ。
キン肉マンでいうとウォーズマン
411名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 22:48:02 ID:dI+xdtz4
奈々子は設定皆無(あるのが「ホクロ」「片親」「クラスで一番乳がでかい(アニメ設定?)」)
だけなんで自由な想像が…というか書いたモン勝ち。
この手の設定無いサブキャラがメイン張るようになったら、いわゆる二次創作界の「ブーム」も
主役キャラを「掘り尽くして」行き着くとこまで行き着いたということ。
412名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 22:56:39 ID:YKf2el6S
その無かったとまで言われる田村くんメインのときしか・・・
そもそもたらスパの話ばかりしてた気がするんだが
ええい、いったい何作品呼んでくればいいんだ
楽しみなのかそうじゃないのかわからなくて思わず愚痴っちまったよこんちくしょう

マスター落ち着きたいんだたらスパをくれ
413名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 23:00:38 ID:YKf2el6S
あっでも会長に貰う方が嬉しいかな、でへへ(は〜と)
414名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 23:07:24 ID:xv++BPd+
>>412
まとめサイトさんで読むんだったらオススメは
やすどら、ななどら、本年サミット、我が家の腹黒様
だよ。個人的にだけど。
415名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 23:24:41 ID:Fqd/AYn8
>>414
よう!俺!
416名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 23:26:33 ID:D0w24C2c
>>404
本編よりも妄想のほうがただしい


ミザリーがベッドとまな板とハンマーで結末を書き換えたように
おまいも妄想で結末を書き換えるんだ
417恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/06(金) 03:21:11 ID:h+4eMaYy
恋の相手はおばさん男子!?の続きをこしらえたので投下します!

今回はあまり多分、話が進まないかもです…エロスもありません。
では、次スレからスタートです。
418恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/06(金) 03:27:30 ID:h+4eMaYy
その日は酷い雨模様だった。
深々と雨音が響く誰もいない放課後の教室、私は頬杖をつき、一人佇むようにただぼんやりと窓の外を眺めていた。
「…全く、今日みたいに傘を忘れた日に限って天気予報ってよく当たるのよね…」
私はそう言って軽く肩をすくめると、小さく溜め息を洩らした。
普段なら友達の亜美ちゃんか麻耶に頼っていたのだろうけど、亜美ちゃんはモデルの仕事の関係で、麻耶は風邪で、頼みの綱の二人は揃いも揃って今日は学校に来ていなかった。
かと言って自分で言うのもおかしいが、私は社交的な性格ではない。
亜美ちゃんと麻耶、この二人以外、他のクラスメートに気兼ねなく相合い傘の申し出なんて出来るわけがなかった。(5〜6人の男子に誘われたけど全て丁重にお断りした)
そして今に至る。
私は窓の外、止むよしを伺えない神様の気まぐれを心底恨みつつ、また一つ余計に溜め息を吐いた。「あ〜ヒマだわ〜…」
そう呟きながら、私は一度窓から視線を逸らすと、何気ない素振りで教室全体を見渡してみた。
「………ん」
そんな私の目線はある物を見つけ、ピタリと止まる。
そして一度その存在を認知してしまうと後はそれに釘付け、まるで魅入られたように、私はそこから目が離せなくなっていた。
視線の先にある物、それは何て事のないただの机、彼の机。
私はほぼ無意識に席を立つと、ゆっくりとその机に歩み寄って行った。
419恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/06(金) 03:38:33 ID:h+4eMaYy
そして、その目前まで近づいた所で私は立ち止まり、斜め上からその机を見下ろす。
「…高須君の机‥」
私はゴクリと一度喉を鳴らすと、キョロキョロと必用に周りを気にしつつ、少しだけ震える手をゆっくりと高須君の机に降ろし伝うようにそれに触れる。
「…はぅ‥」
瞬間、私の中の何かが小さく疼いた。
再度、私は机をさする指を早める。そのスピードがあがるにつれて、私の中の疼きも、まるでにじり寄る様に膨張していく。
「…はぁ‥んっ」
…これじゃあ変態じゃん‥私。


「…何やってんだ?」
「―っ!?」
その時、突然の後ろからの声に一瞬心臓は止まりかけ、振り返ってみるとそこには不思議そうな表情を浮かべながら立っている高須君がいた。
「たたた高須君!?」
突然過ぎる高須君の登場に、私は思わず後ずさってしまう。
「お、おい!危ないぞ!!」
「え?‥キャ!!」
そんな高須君の忠告も空しく、私は後ろに置きっぱなし、きっと誰かがかたずけるのを忘れたのであろう椅子に足を引っ掛けてしまい、そのまま盛大に尻餅をついてしまった。
「痛たたた…」
「お、おい…大丈夫か?」
高須君は心配そうな声音でそう言うと、涙目でお尻をさする私に歩み寄り、スッと私に向け手を伸ばした。
「…え?何」
私は自分に差し伸べられたものの意図を理解する事が出来ず、ジー…っとそれを伺うように見つめた。
「何って‥一人じゃ立てないだろ?」
だから、ほら…と高須君は更に私に差し出した右手を伸ばす。
420恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/06(金) 03:43:13 ID:h+4eMaYy
「え!?そそんな!いいいいわよ別に、一人で立てるから!!…キャ!」
私はそんな高須君の申し出に見て取れるように取り乱すと、慌てて立ち上がろとする。
しかし、床に膝を立てた瞬間、思いのほか腰に力が入らず、もう一度、またしても後ろに尻餅をついてしまった。
「痛たたた…」
「はぁ…たく‥何やってんだよお前は」
「……あっ」
そんな私を見かねてか、高須君は強引に私の手を取ると、力強く自分の方へと引き寄せる。
「よっと‥香椎、ほんと大丈夫か?頭とか打ってないよな?」
高須君は随分心配そうな顔で私を見つめてくる。
「ぅ‥うん大丈夫。で、でも…」
「おぅ。何だ?」

「…ちょっと‥顔が…ちち近いかな‥?」
私の斜めすぐ上、至近距離に私を見下ろす高須君の顔。どうやら、私が起き上がった時の反動が少し強過ぎたようだ。
本来の射程距離から随分と外れてしまい、私はそのまま彼の腕の中にスッポリと包まれてしまっていた。
そんな思わぬ幸福に私は神様に感謝すると、しかし恥ずかしさから頬を赤くに染め、出来るだけ遠くに視線を逸らす。
「え?‥―ッ!?わ、悪ぃ!」
すると高須君はやっと自分たちの体制に気づいたのか、パッと体を離した。
そしてそのまま、ひどく狼狽した様子であたふたと顔を真っ赤にして、必死に何かを取り繕うようにブツブツと言葉を呟く。
「…ふふ」
「…?何がおかしいんだよ」
そんな彼にたまらず笑みをこぼした私を見て、高須君は不思議そうな、そして少し怒ったような表情を浮かべる。
しかし、その顔がまたしてもつぼにハマり、私は更に笑ってしまう。

…だって、必死に言葉を言い繕っていた最中にも、そして今も彼は私の身を案じて、その右手だけは私の左手を離す事はしていなかったのだから。
421恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/06(金) 03:52:10 ID:h+4eMaYy
「…で、高須君は何でまだ学校に残ってるの?」
大分落ち着いてきた私は、一番最初に浮かんだ疑問を高須君にぶつけてみた。
「ん?‥あぁ、ちょっと当番の掃除で少々手強いカビがあって、ソイツに苦戦しててな!」
気づいたらこんな時間になっちまってた…そう言って、高須君は苦笑しながら自分の机の前まで近づくと、その場で少し屈み込んだ。
そして、その中からヒョイと弁当箱を取り出すと、ヒラヒラと私に見せてみる。
「んで、教室にこれ忘れたから取りに来たんだよ」
「…!!そ、そう」
それを見て、私は心底胸を撫で下ろした。
だって、もし高須君が来るのがもう少し遅く、そして私がその弁当箱を見つけてしまった後だったら…
そんな事を考えてしまった私は、今更のようにこの前我慢出来ずに高須君を想いしてしまった、はしたない遊びの事をつい思い出してしまい、耳から顔全体に掛けてが熱くなるのを感じた。
「それより香椎こそどうしたんだよ。こんな時間に教室なんかに一人で」
「え!?う、うん。…実は傘忘れちゃってさ、雨宿り中‥」
言って、私は軽く舌をだしながら苦笑する。

「…なぁ、さっきからお前見てて思ったんだけどよ」
そんな私を見て、高須君の声音が少し真剣になる。
瞬間、私は高須君のそのただならない雰囲気に、思わず固唾を飲む。
そして彼はそこで一拍置き…言った。
422恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/06(金) 03:54:41 ID:h+4eMaYy


「…香椎ってさ、結構ドジなんだな」

「………へ?」
全く予想外だった高須君の言葉に、私は思わず間抜けな声をあげてしまった。
しかし、そんな私の様子に気づかず、高須君は更に続ける。
「いや、椅子に足引っかけて転けたりよ、傘忘れて学校で雨宿りとか。香椎ってもっと‥何て言うか、こう…しっかりしてるイメージが…て香椎?お前、何怒ってんだよ」
私はプイッと高須君から顔を背けると、少し頬を膨らませた。
「ふんっ、ドジで悪かったわね。何よ‥人の気も知らないで…」
一瞬期待しちゃった私が馬鹿みたいじゃない…。
「俺が香椎の事をドジなんて言ったから怒ってるのか?なら悪い、謝るよ」
ご機嫌を損ねた私に、そうやって彼は見当外れな事を言ってくる。
そこで、不意に私はある事を思いつき、彼に見えないようにニヤリと笑みを浮かべた。
「…ホントに悪いと思ってる?」
私はそう、顔を高須君から背けたまま、わざと少し拗ねた感じの声音で言った。
「あぁ、本当に悪かった。許してくれ」
これくらいの事で律儀にも謝ってくる高須君を内心可愛いと思いつつ、私は高須君にある提案をした。
423恋の相手はおばさん男子!?:2009/03/06(金) 03:56:26 ID:h+4eMaYy
終わりです。
まぁ、皆さんお分かりだと思いますが、次回のお話は2人で相合い傘だっ!
楽しみにしてくれたら嬉しいです。

では、またの機会に。
424名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 04:00:10 ID:i0nkmCwS
奈々子カワユス


最終的にラブラブえっちシーンにまでたどり着くんだろうな?
そこまで行かなかったらお前を取って喰う(byチョビ)
425名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 05:49:44 ID:qnxl6qrW
やれやれ…この寒さの中服着るヒマがねえよ

なにがいいたいかというとGJ!
続きを所望して止まない!!!
426名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 06:21:11 ID:bkxijepT
GJなのは言うまでもない!

こんな生殺し状態で一日を過ごさねばならないとは

GJ!
427名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 06:47:29 ID:sPHc6RiT
GJ
最近はこう、ちょっとずつの更新が多いな・・・
楽しみなのだが気になってしょうがない
428名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 07:45:15 ID:EtAIJ5ES
>>423
乙ー
続き待ってる

ところで
>次スレからスタートです。
は突っ込んじゃダメなところ?
429名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 07:47:23 ID:bkxijepT
>>428
そこは生暖かく見守ればいいよ
430名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 07:56:53 ID:AEsqU0E6
先に他キャラの話を書き始めたのに、
気が付いたら、奈々子が先に完成した。
仕方ないね。
と、いう訳で投下
431我が家の腹黒様:2009/03/06(金) 07:57:20 ID:AEsqU0E6
「玄関の方から聞こえるのって、タイガーちゃんと実乃梨ちゃんの声じゃないかしら?
出てあげた方が良いんじゃない?」
もう、ちょっとだったのに…良いところで…
あまりの間の悪さに、泣きたくなる奈々子であったが、
「話の続きは、後で聞かせて。」
と、保留の意志を告げる。苦渋の選択である。
「お、おう。」
言われた竜児は、一瞬、躊躇するが、
お願い。出てあげて。と奈々子に促され、ゆっくりと、腰を上げた。
背を向けて、玄関に向けて一歩踏み出そうとした、その時、
グイッと、強い力で後ろに引っ張られた。
見れば、奈々子が座ったままの体勢で、手だけを伸ばし、腰の辺りを掴んでいる。
「!?…香椎?」
「あたし、待ってるから…」
「……おう。すぐ、だから。待っててくれ。」
「うん。」
ニッコリと笑った奈々子の目尻には、涙が溜まっていた。
それでも、パッと手を離して、行ってらっしゃい、と、送りだしてくれた。
自分はこの子に心を預けよう。もう迷う事なんか無い。
そう、決めたのは、この笑顔だった。

***

「こんばんは、高須君ッ。
いやぁ〜スマンネ。スマンネ。
高須君だけ、置いてけにして、行っちゃってさ〜
大河の奴が、お腹減りすぎで死んじゃう〜っとか、いうもんだから…
ほれ、お詫びに肉まん買って来たから、コレで許してくれぃ。」
「結構、待ってたのに、帰って来なかった竜児だって悪いのよ?
まあ、それでも、みのりんが可哀想だからって、お土産買ってきてくれたんだから…
せいぜい、感涙にむせびながら、噛み締めるが良いわ!!」
「あ、その、スマン。ありがとな。」
「ヘッへッヘ。良いって事よ。
って、そんな大袈裟なもんでも、無いんだけど…
それ、コンビニの肉まんだし。
……ん?おやぁ?何か靴が一個多いね。
先客さんかな?見たトコうちの高校の靴みたいだけど…
私が、思うに…あ〜みん、かな?」
「なにぃ!?アンタ、また、ばかちー家に連れこんで…
ったく、何してんのよ、この発情犬がッ!!
ばかちーにも、一言言って来てやるわ。
コルァ〜ばかち〜ッ!!」
432我が家の腹黒様:2009/03/06(金) 07:58:26 ID:AEsqU0E6
無遠慮にズカズカと、居間へ勇んで来た大河を待っていたのは、
意外な人物だった。(大河的に考えて)
「こんばんわ。どうしたの?タイガーちゃん…
そんなに驚かなくたって良いじゃない。」
大きな瞳をまん丸にして、口ポカーン。相当な、マヌケ面だった。
そりゃそうだろう、大河にとって、香椎奈々子は、同じクラスのお色気その一、位のポジションであった。
まさか、留守中に、竜児が、たらしこんだ(未遂)女が、
奈々子だとは、つゆとも思わなかった。
想定の範囲外にも程がある。てっきり、亜美だと思っていたし、
え?そんな選択肢あるの?みたいな、
一周クリアしないとフラグ立たないキャラ、みたいな、
まさにそういう感じだった。
勿論、そんな事は奈々子自身、十分に承知している訳だが、
「何だか、傷付いちゃうわ。」
口元に手を添えて、わざとらしく言う。
ちなみに、先の脱衣オセロで、乱れた箇所は、キチンと元通りにしている。
覚悟を決めた奈々子は強かった。虎に臆さず堂々と正面から向き合える。
元々、大河が、腹芸だの、顔芸だのを苦手としている事もあって、
「あ、あああアンタ…」
と、奈々子が優勢であった。そこへ、
「ありゃりゃ〜てっきり、あ〜みんだと思ってたけど…
靴の主は、奈々子さんでしたかぁ〜
夜更けに密会とは、何だか怪しい雰囲気ですな〜
てか、お二人ってそんな仲良かったっけ?」
親友のピンチを見かねて、腹芸も顔芸も得意な女が割り込んできた。
「今日、仲良くなったのよ。けど、別に怪しくは無いわ。
あたしが、家の鍵無くしちゃってね。困ってた所を高須君に助けて貰ったのよ。」
ね?っと竜児に向かってwink。
2人だけの秘密。目と目だけで通じ合うと、
何だか、照れ臭くて、思わず、赤くなる。
「ほほぉう。そいつは大変でしたな〜。」
と、にこやかに実乃梨。しかし、目は全然、笑っていなくって…
「ウフフ。そうでもないわよ。今日は随分、楽しかったもの。」
勿論、奈々子も笑ってはいない。
あとは、互いの視線と視線とが、ぶつかり合って、高須家に雷鳴を轟かせる。

***
433我が家の腹黒様:2009/03/06(金) 08:00:38 ID:AEsqU0E6

「………と、いう訳なの。」
鍵無くして、教室掃除して、ご飯作って、オセロしていた顛末を、奈々子なりに説明した。
「ふぅん。そうなの。」
ふぁ…お腹いっぱいだから、ねみゅい…
と、面白くもなさそうに大河。
「なるほど高須君が帰って来なかったのは、そういう訳でしたかぁ〜
てか、大河が、弁当箱忘れたのが、イケないんじゃん!?
こらッ大河!!メッだよ!?
二度と忘れて帰ったりしない様に。」
と、実乃梨。
「えぇ〜そんなのムリだよぉ〜。」
「おだまりっ!!」
などと、一連のコントに対して、
「まぁまぁ、お陰で、あたしは助かったんだから、実乃梨ちゃんも、その辺で。」
と、奈々子が無粋に横槍を入れたりして(勿論、わざと)
終始、和やかなムードで、会話は進んだ。
流石に、女3人寄れば、かしましく、話は尽きない様に思われたが、
「あ、イッケネ。もう、こんな時間かぁ〜
じゃ、来たばっかで悪いんだけど、
私は、そろそろおいとまさせて頂きやすぜ。」
と、意外と早い時間に実乃梨が、脱退の意志を告げた。
「親がうるさいとか、そんなんは無いんだけど、
見たいテレビがあってさぁ。」
ニヘヘ、と舌を出しながら、付け足した、次の瞬間、
「お、おう。せっかく来てくれたのに悪いな。
お茶も出さなくて。暗いから、気をつけて帰れよ。」
意外な竜児の対応に、
ありゃりゃ?これは、もしかして……
これだけで、大体の筋書きが読めてきた実乃梨。
もう。何、気の利かない事言ってんのよ!!バカ。
『テレビなら、うちで見ていけよ。
今、お茶淹れてくるから、ゆっくりしてってくれ。
あ、プリンとか食うか?(注・奈々子が美味しく頂きました)』
くらい、言いなさいよ。まったく。
「え?みのりん、もう帰っちゃうの?もっとゆっくりしていけば良いのに…
ちょっと竜児。アンタ、みのりん送って行ってあげなさいよ。
夜道、みのりん一人じゃ不安でしょ?
今こそ、アンタの目つきの悪さが役に立つってもんだわ。さあ、行けッ!!」
竜児の気の利かなさに、呆れつつも、彼の恋路のため、
さりげなく、助け舟を出してやる大河。
434我が家の腹黒様:2009/03/06(金) 08:01:12 ID:AEsqU0E6
無意識の内にでも、心を削りだした、大河の健気な助け舟も、
「え…いや、でも…」
「……そんな、良いって良いって。
私は、一人で、大丈夫だから。」
竜児の煮えきらない態度によって、ご破算になりかけたが、
「せめて、下まで見送りしてあげたら?ね?」
「お、おう。櫛枝、じゃ、下まで送ってくよ。」
「……む?そうかい?すまんね。」
奈々子の一言で、一命を取り留めた。
違和感バリバリの竜児に、いつもと何かが違う。
とは、思いつつ。一体、何が、どう違うかは、未だ、理解し得ない大河であった。

***

カツン。カツン。と、錆びた階段を降りて、
竜児と実乃梨の2人は、ひんやりと張り詰めた空の下に並んだ。
季節は、もう、すっかり秋だ。
「ねぇねぇ、高須君?
ちょっと話があるんだ。良いかい?」
と、実乃梨が切り出した。
実乃梨から、こんな事を言われれば、本当にドキドキものだ。
実際、何度、想像し、妄想し、夢想した場面か知れない。
ただ、今日からは、事情が違った。
この時、竜児が感じたドキドキは、以前とは種の事なるドキドキであった。
「私、高須君に謝らないとイケない事があるんだ。」
「え?……何の話だ?」
「私が、始めの頃、大河を泣かしたら許さない。
大河を捨てたらお仕置きだべぇ〜。って言ったの覚えてる?」
「…お、おう。」
「それ、もう、忘れて。」
「…は?」
「考えてみれば、ヒドイ話だよね。
高須君だって、自分の幸せを手に入れなきゃイケないんだよ。
なのに、私、高須君に枷をはめる様な事した。
それを、謝りたかったんだ。
つまり、これから、高須君は、誰かの為じゃなくて、
自分の為に、思う通りにしな、って事。
それだけ。じゃ、おやすみなさい。明日、学校でね。」
言うだけ言って、スタスタと、自分の道を歩いて行く実乃梨。
途中、一度だけ振り返り、
「あ、高須君が大河いらないんだったら、私におくれ。
なんつって。アハハハ。ジョーク。イッツ・ジョーク。
ここは、ジョーク・アベニュー。」
などと、言いながら、角へ消えて行った。
今の、櫛枝の言葉はどういう意味だったんだろう?
実乃梨の言葉がどうあれ、今は、
実乃梨を前にしても、胸が痛まなくなった事実の方が
竜児にとっては重要であった。
435我が家の腹黒様:2009/03/06(金) 08:03:29 ID:AEsqU0E6

***

一方その頃、高須家では、
「ねぇ?大河ちゃん、少しお話があるの。
とても、大切なお話。良いかしら?」
「…うん?何よ?」 奈々子が大河に仕掛けていた。
「単刀直入に言うわ。あたし、高須君の事、好きになっちゃったの。」
「………ッ!?はぁ?アンタ正気?」
「大マジよ。だから、大河ちゃんにだけは言っておくべきだと思って。」
「………ふぅん。アンタも物好きな奴ね。
てか、なんだって、私に言う訳?
本人に言いなさいよ。そういう事は。」
「勿論、そのつもり。」
「………一応、教えておいてあげるけど、
アイツ今、好きな人居るよ?」
「そんなの、関係ないわ。」
「……そう。別に、止めはしないわよ。
もし、アイツがアンタを受け入れたって、振ったって…
それは、アンタ達の問題。私の知った事じゃない。」
「ええ。そうね。」
「フン。あんな奴…どこが良いんだか…」
バカみたい…呟く大河の言葉は、己の胸に、楔の様に突き刺さった。

***

「私、帰るわ。今日はもう、お風呂入って寝る。
「あたしも、そろそろ家に帰るわ。
もう、お父さんが帰ってる時間だと思うから。」
実乃梨を見送り、戻った竜児に2人は、こう告げた。
「お、おう。そうか、じゃあ、家まで送って行くよ。」
竜児の言葉に、大河は、あからさまにイヤそうな顔をする。
「いいわよ。んなモン。1人で帰れるっつの。
アンタは、この子だけ送って来な。
私は勝手に帰るから。ほれ、早く、行った、行った。」
半ば、強引に、2人は大河によって、家を追い立てられた。

***

道すがら、他愛もない雑談に、秋の空気が、より深くなっていた。
「香椎、そこ曲がった所に公園があるんだけど…
ちょっと、寄らないか?…話もあるし。」
「ええ、いいわよ。」
夜の公園は、誰も居なかった。
地面に、散らばるスコップやバケツ、半分、崩れた砂の城が、余計に寂しさを演出し、
今、世界には、2人しか居ない。そう、感じられた。
隅っこでポツンと佇むベンチ。
「ここ、座ろうぜ。」
「うん。」
そうして、2人だけの世界が始まった。
436我が家の腹黒様:2009/03/06(金) 08:04:03 ID:AEsqU0E6
「さっきの話の続きなんだけど…
俺は今、香椎が、好き…」
ボスン。
「だ……え!?」
竜児が最後まで、言い切る前に、奈々子は竜児にもたれかかった。
顔を竜児の胸に押し付け…埋め…
「あたし…もよ。あなたが…好き。」
竜児の胸の中で、奈々子は、ふるふると、力弱く震えていた。
「寒い…のか?」
震える奈々子を、慈しむ様に、二本の腕でしっかりと抱きしめる。
「あったかい…」
今宵、奈々子にとって、一生で一番、暖かな夜であった。

***

「ありがとう。送ってくれて。
ホントは竜児君をお父さんに紹介したい所なんだけど…
また、日を改めて…ね?
そうだ。今日のお礼に一度、ちゃんと、あたしの家に招待するわ。
あ、アドレス交換しておかないと。
竜児君の携帯、赤外線付いてる?」
竜児はポケットから、携帯を取り出し、しげしげと見つめつつ
「え、と…付いてるの…か?
確か、付いてるハズなんだけど…」
頼りない返事。
奈々子にサッと、手から携帯を取り上げられ
「どれどれ。あ、コレね。
送信…と。これで大丈夫ね。
コレがあたしのアドレスと番号だから、登録しておいて。はい。」
そして、ポンと携帯を手渡される。
ああ、これだ。これが、恋人同士って感じだよな…
竜児は、初めて出来た恋人との甘い一時を噛み締めていると…
「ねぇ、竜児君。ちょっと耳貸してくれない?」
「お、おう。何だ?」
奈々子の言葉を聞き取りやすい様、膝を曲げて、
奈々子の口元に耳を添える。
「大好きだよ。」
そっと、囁かれる甘い声に惚けていると、
チュッ、と。唇を塞がれる。
「んん…」
甘い甘い、恋人達の時間。
「俺も大好きだよ奈々子。」
一息ついて、もう一度。

***

それじゃあ、おやすみなさい。
おう、おやすみ。
竜児の姿が見えなくなるまで、手を振っていた奈々子は、
実に、久片ぶりに家へ入った。
ホントに、今日は、色々あって、見慣れ我が家も
なんだか、新鮮な気分だ。
ちなみに、父は未だ帰宅して居ない。
奈々子は自分の鍵を使って家に入った。
437我が家の腹黒様:2009/03/06(金) 08:05:32 ID:AEsqU0E6
実は、ポケットに入っていた。
灯台元暮らし。探し物は手近にあるのが世の常である。
ジャージに着替える時、チャリ〜ンと姿を表したのだが、
今更、恥ずかしくて、結局、最後まで、言えなかったのだ。
途中から、意図的に隠し、竜児を引き留める材料にしていたが、
別に悪気がある訳ではない。この、乙女の可愛い嘘には、閻魔様だって目を瞑る事だろう。
ベッドに腰掛け、竜児の温もりと、キスの余韻に浸り、
しばらくして電話を掛けた。
父親不在を良いことに家電で。
だって、もし、電話中に、竜児から、電話かメールがあったら困るじゃない。
「もしもし?麻耶?
うん。ちょっとね。
実は、今日、彼氏出来ちゅったの。
え?うん、マジだよ。相手は、ねぇ〜……」
そうして、一晩かけて、ゆっくり、親友に自慢してやった。
438名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 08:07:59 ID:AEsqU0E6
終わりです。
きっとこの後は、麻耶が色々絡んできて、色々膨らませるね。
亜美ちゃんはスルーしたけど、扱いが難しいから仕方ないね。
俺、最終巻読んだら、これの続き書くんだ。
439名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 08:08:49 ID:4QofR0+h
天才現わる
440名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 08:11:23 ID:UKZsBqbj
>>438
神職人GJ!!
441名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 08:14:19 ID:VexwVSbg
良かったなぁ奈々子。
俺、このスレが奈々ドラで満スレになったら、故郷の神社で結婚するんだ。
みんな、祝ってくれよ?
442名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 08:29:28 ID:1F6kXhCs
>>438

GJ過ぎる
443名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 08:31:13 ID:h+4eMaYy
>>438
ぐっじょぶ・グッジョブ・GJ!

も一つオマケに具っ所部だ!!
444名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 08:40:56 ID:sALH1Vxb
>>438
グッジョブ
…俺としては、大河がどういう反応を示すのかが気になる。
竜児が奈々子とくっ付いたら、すんなり諦めるのだろうか( ゚∀゚)
445名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 08:58:28 ID:mfvxikvg
>>438 GJ!
続きが気になるぜ
446名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 09:08:07 ID:qnxl6qrW
>>441の死亡フラグ回避のため
ゆりドラでもデッチ上げようかと思った俺がいる

おっと>>438GJ!
447名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 10:37:39 ID:TsLOphsi
奈々子様に惚れた
>>438GJ
448名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 10:38:02 ID:TsLOphsi
すまん下げ忘れた
449名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 12:52:19 ID:bkxijepT
ヤベー!
GJ!!
それ以外に言葉がないよ
450名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 15:13:04 ID:ETYtcD36
>>423
>>438

最高だったぜ!ほんの気持ちだ!とっといてくれ!

   ___
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451名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 16:40:07 ID:9zWhEX6P
>>438
乙 今すぐ俺の10巻貸して続き書いて欲しいよ
これぐらい初期に高須が誰かと結ばれていたら7〜10巻までの一連の苦しみは無かったかもな
まあそれらの出来事があったからあのENDになったのかもしれないが
452名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 17:13:50 ID:crquYlox
全く…全裸待機からようやく服を着れたと思ったら、また全裸か…
職人さまGJもうずっとスッポンポンで暮らすわ
453名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 17:40:14 ID:qLW0fgR6
いやぁ奈々子様いいねぇ。原作ではみのりん派のおらがやられちまったぜ
454名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 18:43:33 ID:QvImhOWV
早く解禁されて10巻で出て来た設定使って、その後とか職人さんに書いてほしいぜ
解禁に向けて書き始めてる職人さんとかいないかなぁ
455名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 18:48:23 ID:8OS/V7ZA
>>454
ノシ
まぁそこまで深く10巻の設定に入り込む訳じゃないが。
456名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 18:50:02 ID:MLb/nV3u
>>438
GJです。最終巻読んだら気力を充実させてくださいな。
……自分だったら無理だ。元々の派閥の忠誠度を限界まで引き上げられちゃったんで、10巻に。
457名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 20:12:11 ID:QvImhOWV
>>455
最敬礼しつつ待っております
458名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 21:11:10 ID:35bQ0NrK
職人様GJ…

裸でお待ちしております
459名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 22:08:47 ID:8OS/V7ZA
>>458
裸で待たれても・・・www
エロ無しだからね。
とりあえず解禁日に投下予定。
460名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 22:21:14 ID:Po0r5bsm
最新刊の奈々子様成分
巻き髪
耳年増
能登の気持ち(木原LOVE)に気付いてるっぽい?
461名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 22:34:39 ID:bkxijepT
>>460
それってネタバレに引っ掛からないか?
462名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 23:37:57 ID:k7rDC89d
10巻読んだ
やっぱゆゆぽはすげえわ
なんか俺ごときが二次創作でSSとか書くことが犯罪行為な気がしてきた
今までしょうもないSS投下したりしてたけどもうだめだ俺
みんな今までありがとう
463名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 23:45:31 ID:KNbNJcpx
別にその報告はいらないです
464名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 00:24:49 ID:hpi9NyYX
プロの書く作品といちいち比べてショック受けてるようじゃ二次小説なんて書けないぜ?
てか10巻読んだっつー報告いらん。さすがにウザい。
465名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 01:04:48 ID:r+ie4JiN
462はおそらくss投下してない
466名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 01:13:26 ID:i+SLSC3x
待ち給え!10巻読んだという君たち。
もう、発売されたのかい!?
なら、みのりんは本当に龍児を諦めたのかだけ、教えてけれ。
467名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 01:17:42 ID:r+ie4JiN
いや、ネタバレが解禁されるまで待てや…
468名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 01:21:52 ID:/gcLFxky
469名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 06:11:55 ID:Ggm3BCOq
最終巻読みました。
テンション上がりきっての投下。ゴー。
470我が家の腹黒様:2009/03/07(土) 06:12:25 ID:Ggm3BCOq
『ええぇぇ〜〜!?高須君なの?
マジで?高須君ってあの高須君?
同姓の別人とかいうオチじゃなくてぇ〜?クラスの高須君?』
大袈裟に驚く、親友に、ちょっとムッとする。
「そうよ、竜児君よ。
それ以外に居ないでしょ?」
まあ、麻耶の言いたい事も、解らないでは、無いけれど。つまり、
『え〜〜〜…以外に、とか言われても…
あたし、奈々子と高須君が話してるトコなんか見た事ないんですけど…
一体、いつの間に知り合ったの?』
って事なんだろう。
「ん〜…今日よ。今日、仲良くなって、告白して…
あ、違うや…告白してくれるの待って、それで、付き合う事にしたの。」
『はぁ!?今日なの?
何か、らしくないなぁ…
奈々子って結構、ガード堅いじゃん?
あ、でも、向こうに、告白させるのは、奈々子らしいか…限りなく…』
「あたしだって、ビックリよ。
けど、本気で、好きになっちゃったんだから、仕方ないじゃない?
一目惚れな上、マジ惚れよ?
あたしだって、そりゃ必死になるわよ。」
『はぁ…いっつも、年上の素敵な彼を待ってるのぉ〜、
とか、言ってた奈々子がねぇ〜』
「ちょっと!!そんな事、誰が、いつ言ったのよ?
あたしは単に、年上の包容力ある大人な男性と恋がしたい。って言っただけよ。
竜児君てさ、同年代だけど、ホント素敵なんだから…」
『はいはい。ワロスワロス。
奈々子に限って、大丈夫だとは思うけど…
最初は、ちゃんと出し惜しみしなよ?
男なんて、すぐ調子に乗るんだから…』
「あ、今日、もうキスまで、しちゃったわ。」
『早ッ!?アンタねぇ〜
普段、言ってた事と違うじゃん…ホント大丈夫?』
「えぇ〜〜……と、どうなのかしら…
あたしから奪いに行く分には、
別に構わないんじゃ無いかしら?
って、今は、思ってるけど。」
『ふぅん。まあ、その辺りは、任せるけどさ…
あ〜あ、奈々子に先、越されちゃったよ〜
あたしも、格好いい彼氏欲しいなぁ〜良いなぁ〜羨ましいなぁ〜』
「麻耶は、まるお君狙い…なんでしょ?」
『う〜ん。そうなんだけどさぁ〜
……あ、コレって問題発生じゃん!?
高須君は、タイガーの相手してもらうつもりだったのに…
高須君が、奈々子と付き合っちゃったら、
あたしがサシで、タイガーと張り合わなきゃイケないじゃん!?
…勝てる気しないんですけど…」
471我が家の腹黒様:2009/03/07(土) 06:13:00 ID:Ggm3BCOq
気は強い癖に、意外とヘタレ。
そんな、親友の泣き事を聞き、
「あら、そんなに悲観したものでも無いわよ?」
『え?…何で?』
奈々子に、ある秘策が浮かんだ。
「だって、竜児君とまるお君は親友同士じゃない?
で、あたし達も親友同士…後は、解るわよね?」
『あ、…ダブルデートだ?』
「その通り。私と竜児君のデートに、あなた達が付き添うの…良いと思わない?」
『良い良い良いッ!!最ッ高じゃん、それ…
あ…でも、それだと、あたし達お邪魔じゃない?』
「ご心配なく。あたしは竜児君と2人で、どっか行っちゃうから。
麻耶とまるお君、2人で、あたし達を探してよ。」
『…奈々子ぉ〜〜。ありがとう…ぐすん…』
無邪気に泣き、心から、感謝する親友に、
奈々子は、ちょっぴりの罪悪感を感じていた。
実のところ、奈々子自身、竜児をデートに誘えるかどうか不安だったのだ。
2人は付き合っているのだから、そんな事は簡単だ。
そう思えるかも知れないが、竜児と離れた今でさえ、
胸が熱くて、ドキドキしてパンクしそうなのに、
明日、顔を合わせて、キチンと言えるか、どうか。
それに、もし、断られでもしたら…
竜児にだって、どうしても外せない用事位あるだろう。
以前から、言っているのなら、竜児も、奈々子とのデートの日は、空けておくだろう。
しかし、今日、付き合ったばかりで、いきなりデートに誘う訳だから、
スケジュールの調整が、つかない可能性はある。
つまり、親友の恋の応援は、奈々子にとっても、良い口実なのだ。
これなら、切り出し易いし、断れても、そんなに凹まない。
断れたのは、デートじゃなくて、親友の応援。そう、思う事にする。
まあ、行ったら、行ったで、思い切りデートを楽しむつもりだが…
そんな訳で、奈々子は麻耶に、多少の後ろ暗さを感じていた。
ダシにしてゴメンね…と。
しかし、麻耶は、麻耶で、そんな事は、承知している。
その上で、なお、親友に感謝しているのだ。心から。
472我が家の腹黒様:2009/03/07(土) 06:14:59 ID:Ggm3BCOq
奈々子が、自分に何かを提案する時、それは、大抵、何か裏がある。
でも、それを抜きにしたって、奈々子が自分の為を思っていてくれている。
その事に変わりは無い。だったら、それで良いじゃない。
ちょっと位、腹黒くても、奈々子は優しくて良い子。
2人は、互いに、互いを、正しく、理解し合う。
まぎれもなく、親友だった。

***

奈々子が眠れないでいる夜。(電話中)
竜児も、また同様に眠れずにいた。
目を瞑って横になれば、寝られるかと、思ったが、
高揚する気分を鎮める事が出来ず、頭が冴えっぱなしだった。
ずっと、同じ体勢でいるものだから、何だか、背中が痛いし、
熱もこもってきて、ベッドが、蒸し風呂天国になっている。
…外の空気でも吸おう。
ガラガラと、雨戸を開け放ち、のそのそとベランダへ。
う゛ゃあああああうまひぃ〜〜〜!!
冷たく澄み切った空気が肺へと運ばれる。
ひんやりとした、外気に触れ、高揚した気分の何割かが、鎮静化。
そして、ただ、ぼんやりと空を眺めていた。
綺麗な星だとか、丸い月だとか、そういったものがある訳では無く、
例えて言うなら、まるで海の様な、そんな夜空だった。
奈々子の事を考えていた。
あいつの目って、こんな色してたよな…
など、と惚けていると…
ガラッ!!
向かいの部屋の窓が、勢いよく、開け放たれた。
「ワッ…もう、なんだよ、ビックリするだろ?
てか、お前、風呂入って寝たんじゃなかったの?」
大河だった。ウィンドウの中に収まっていたのは、
髪ボサボサ、フリフリパジャマに、いつもの不機嫌面をぶら下げた、タイガだった。
「窓の外で人影が、ゆらゆらしてるから、気になって、開けみたのよ。」
寝起きでテンションが下がっているのだろう。
いつもより、やや低い声。
「あ、俺が起こしちまったのか?スマン。」
「フン。別に良いわよ。どうせ、寝付けなかったし。」
別に寝起きじゃないのか…
だとすると…単に機嫌が悪いのだろう。
羊でも数えて、さっさと寝ろ。明日、起きれねぇぞ。
と、竜児が口を開く前に、
473我が家の腹黒様:2009/03/07(土) 06:15:27 ID:Ggm3BCOq
「それよりアンタ何してんの?そんなトコで。」
先に、言われてしまった。
「え…、いや、別に何も。」
何だか、イヤな予感がして、適当に誤魔化すが、
「浮かれポンチな顔しちゃって、まぁ。
あの子と何かあったんでしょ?
何があったのか、話してみなさいよ。」
大河は、逃がしてはくれなかった。

***

「ふ〜ん。で、付き合う事にしたんだ?」
「ス、スマン。」
「…何で、謝んのよ?
アンタが選んだ道でしょ?
謝ってんじゃないわよ。」
「そ、その事じゃねぇよ。
奈々子を選んだ事について謝ってんじゃねぇ。
そこは誰が何と言おうと、絶対、譲らないし、謝らねぇ。
俺が謝ってんのは、今まで、お前が、俺と櫛枝の仲を取り持ってくれた事。
それを、無にする事になる。っていうか、もう、した。
そこを謝ってんだ。」
「…アンタ、何か、勘違いしてない?
別に、私は、アンタと、みのりんが付き合って欲しいとか、
そんな事、思ってたんじゃないのよ。」
「…はぁ?」
「アンタがみのりんを好きだって言うから、
だから、協力してただけよ。
もう、みのりんの事が好きじゃないなら、
それは、それで、良いんじゃん?」
「…そうなのか?」
「そうよ。…一度しか、言わないから、良く聞きなさい?
私はね、アンタの幸せの為を思って、色々してきたのよ。
アンタが、幸せでありさえすれば、何だって良い。
…勘違いするんじゃないよ。
これは、別に、アンタへの好意じゃない。
ただ、ご飯作ってくれたり、色々、世話してくれた事に対する恩義よ。
話、聞く限りじゃあ、アンタ幸せそうだし、
なら、別に、私は、それで良いのよ。」
「…大河。」
「フン。でも、気を付けなさいよ?
あの、お色気ボクロ、ああ見えて、なかなか、したたかな感じよ?
ウカウカしてたら、アンタ絶対、尻に敷かれるわ。
ま、それも良いんでしょうけど。
あ、それと、しばらくは、私、アンタと距離置く事にするわ。
付き合い出して、最初の頃は、色々、あるだろうから。
ま、せいぜい、楽しみな。」
474我が家の腹黒様:2009/03/07(土) 06:17:07 ID:Ggm3BCOq
くちゅん。
小さな体を震わせてくしゃみをする。
「あぁ、さぶっ。
風邪引いたらヤダし、私はもう寝るわ。
アンタも、さっさと寝なさいよ?
そんなトコに、立ってられたら気になっちゃうじゃん…
じゃね。バイバイ。おやすみ。竜児。」
ピシャリと窓は、閉じられ、それきり開く事はなかった。
大河…。ありがとう。
俺は幸せになるから。
だから、お前も、ちゃんと見つけろよ?
一緒には、探してやれないけど、きっと、見つけろよ?
閉じられた窓の向こう。
遠くに居る、大切な奴の幸せを、竜児は祈った。

***

明けて翌日、大河は宣言通り、食卓に姿を見せなかった。
「ねぇ、竜ちゃ〜んまた喧嘩でもしたの?」
など、と泰子は心配していたが、
「してねぇよ。」
と、だけ、答えておいた。
俺に彼女が出来たから、アイツは遠慮して来ねぇ。
と、言っても良かったのだが、それはまたにした。
それは、先に奈々子を紹介してからの方が良いだろうと、判断したのだ。
「じゃあ、行ってくる。」
「行ってらっしゃ〜い。」
カツンカツンと錆びた階段を降りながら、
竜児は考えていた。これからの事…などという未来的な事では無く、
この先、30分後、やってくる、ある事柄について。
学校で奈々子に、どう接しよう?どんな顔で話そう?何を話そう?
最初、に何て声掛けよう?昼飯は一緒?休み時間は?下校は?放課後は?
「おはよう竜児君。良い朝ね。」
家を出て30秒。不意に掛けられた声により、
30分あると思われた猶予は、砂となって流れ落ちた。
475名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 06:19:25 ID:Ggm3BCOq
終わりです。短いです。
でも、いっぱい前振りしたから、次は楽だぞ〜やっほぅ
476名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 06:43:54 ID:2urnGS6c
GJ!
朝一の良作に、早起きは三文の得を始めて実感した!!w
477名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 07:55:32 ID:PAHGFwKG

このスレってネタバレ解禁は原作本スレと同じか?
478名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 08:36:16 ID:dudobuPc
>>477
>>1を見るんだ
479名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 09:43:33 ID:ykJWev/P
フォォォー!
キタ━━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!

GJ!GJだよ!

次回も期待させていただきます!
480名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 11:15:59 ID:/gcLFxky
大河があっさり引いたのがかえって怖い
481名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 11:22:22 ID:iM9dsLWp
>>475
GJ
お待ちしてますぞ
482名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 11:32:35 ID:As22lpxL
腹黒様シリーズ、付き合うってなったときは、あぁ無理な展開だなと思ったが
一応ちゃんと大河をうまく納めてきたな
奈々子はサブキャラとはいえオリジナルに近いからキャラ性格が読む奴に合うかで
作品評価が多少決まってしまうけど
腹黒様は自分的にキャラとしてななドラ、ななこいの次くらいの奈々子様なのに
今の所十分楽しめてるわ

ところで亜美は大河や実乃梨相手ならともかく、奈々子なら参戦しそうじゃね
483名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 13:08:02 ID:1BqOMgRE
>>482
随分と上から目線の感想ですね。
484174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:31:20 ID:PQCTy3by
SS投下
完全なオリキャラじゃないけど、そういうのがダメな人は除けてください。

「NOET」
485174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:31:55 ID:PQCTy3by

「あれ、高っちゃんどこ行くんだろ?」

──────昼休み──────
日々代わり映えのしない学生生活の中で、授業の合間に一時でも安らぎを得られる時間。
真面目に授業を受けていようと寝ていようと、等しく訪れるもの。
それが昼休みである。
その過ごし方は十人十色、人それぞれ好きなように過ごせばいいが、
大抵は気の合う友達同士で、昼食をしながらのお喋りに花を咲かせたりするものだろう。
中にはついつい授業中に弁当を平らげてしまい、それでも足りずに学食へ突撃していく者・・・・・・・・・
所属している部活の会合に出席していく者・・・・・・
いつもなら勝手に寄ってくる友達と机をくっ付けて、実の無い話を延々と続けながらヒマを潰しているのに
今日に限ってそんな気になれず、自販機の間でちびちびとお茶を飲んでは溜め息を吐いている者・・・

午後の授業が始まるまでの間、自由な過ごし方をしていい時間。
そんな時間を「お前らホモダチなんじゃねーの?」と変な疑惑をかけられそうな程、常日頃ワンセットで学生生活を過ごす二人・・・
脱ぎたがりのメガネの影に隠れていまいち目立てない地味な方のメガネ・能登久光と、
純白のスーツでも着せてイケメンを自称させれば、それなりに笑いを取れるかもしれない男・春田浩次ことアホロン毛は、
今日も今日とて二人一緒に昼休みを過ごしていた。

「めずらしーよなー、高っちゃんが昼休みにどっか行くなんて」

大橋高校に在籍しているものなら一度は耳にした事があるだろう『手乗りタイガー』と『ヤンキー高須』の名前とその噂。
前者は完全に本人が作った武勇伝からなる、後者は完全に本人以外によって作られたのは言うまでもない。
そして『ヤンキー高須』こと高須竜児は、本職も避けて通るような強面を持っていながらその中身は驚く程に歳相応の高校生である。
強いて言えば所帯染みた性格をしてはいるが、あの目つきさえどうにかできればその辺を歩いている一男子生徒でしかない。
そんな竜児にとって、ただ歩いているだけでモーゼの如く人の流れが割れて道ができたり、
頼んだ訳でもないのに勝手に財布を差し出されるというのは日常茶飯事であり、彼自身その日常を激しく疎ましく思っている。

そういう理由からか、後始末(主に『落し物』を事務に届けに行ったり)等の自分に降りかかる面倒や居心地の悪さもあり
竜児は普段あまり教室から外に出歩かない。
と言うより出たがらない。
勿論トイレは普通に行くが、今しがた春田が指摘したようにこの場合は普段とは明らかに違う、目立つ部分が竜児にはあった。

「さっき弁当食ってたのに、弁当箱なんて持ってどこ行くんだろーな、高っちゃん」

そう。
竜児は既に昼食を済ませているのに、何故か手に弁当箱を提げた格好で教室の外に出て行ったのである。
・・・・・・断りを入れておくと、竜児は別に
教室に居場所がないために泣く泣くトイレの個室で弁当を広げ、昼休み終了まで篭っている・・・という事をしにいった訳ではない。
そんな事をしていたら、今頃そのトイレは大橋高校の七不思議として『番長皿屋敷』なんて名前でも付けられるか、
竜児の喫煙所と誤解されて人も寄らないだろう。
二年の男子達にとっては迷惑極まりない。

「きっとウンコかなんかかなー、アハハー」

教室に残ったアホは、竜児が弁当箱を持っているのを見ていたにも関わらずTPOを弁えずにアホな事を言ってしまい、
まだ食事中のクラスメートからアホを見るような目を向けられている。
そんなアホの隣にいて、ずっと話を聞いていた能登は途中まで手を付けていた弁当を慌てた手つきでしまうと、
一冊のノートとペンを手に取って立ち上がった。

「悪い、俺ちょっと用ができたから・・・お先」

「ハハ・・・どうしたんだよみんな、そんな顔して・・・・・・・・・あ、ちょっちょっと待ってくれよ、俺も行くって」
486174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:32:38 ID:PQCTy3by

そう言った能登はわたわたと残りの弁当をかき込む春田を残して、さっさと教室を出て行ってしまった。
咽ながらも持っていたお茶を流し込んで弁当を片付け、とても行儀の良い食べ方をしたとは言えない証を口元に散りばめたまま
能登を追いかける春田。
さすがに教室中から突き刺さる視線に耐え切る自信が無かったのだろう。
だが、教室に居たクラスメートの大半は逃げた春田の評価を殊更に下げ、極一部は「やっぱホモダチか・・・」と疑惑を深め、
更に極々一部では「ツン能登攻めのヘタレアホ受けで鉄板」という腐った会話をしていたりしなかったり・・・と。
教室から去った事は賢明だったかもしれないが、既に2-C内に自らの居場所が消えかかっている事を、この時の春田はまだ知らない。
・・・・・・もしかしたら、トイレの個室に篭るようになるのは春田かもしれない・・・・・・

「・・・あのアホ、マジで裏口なんじゃないの? 食事中にサイテー・・・ね、奈々子」

「そうねぇ・・・・・・」


                              ・
                              ・
                              ・


「お、いたいた。お〜い能登〜〜」

──────場所は変わって、一年生の教室がある階──────
口元の米粒を撒き散らしながら、ブンブン手を振って寄ってくる春田を特に気にした様子もなく。
何故か廊下の曲がり角に身を潜めるようにしている能登は、時折曲がり角から顔を出しては教室を出る時に手にしていた
ノートに何かを書き綴っている。

「なぁなぁ、何で置いてくんだよー・・・てか何してんだよ? こんな所で」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ダメガネ」

「誰がダメガネだこのアホロン毛・・・allくらい書けるようになってから出直して来い・・・・・・」

「なんだ、ちゃんと聞こえてんじゃん。無視すんなよ〜」

「・・・俺は今集中してんだよ、話なら後にしてくれ」

そう言うと、能登はまた曲がり角の向こう・・・一年の教室が並んでいる方を気にしだした。
教室から出れさえすれば後は何も考えていなかった春田も、ヒマ潰しと好奇心から能登のマネをして曲がり角から頭を出してみる。
すると・・・・・・・・・

「なんだ、高っちゃんじゃん。一年の教室の前で何を」

「シーッ! 春田、ちょっと静かに・・・・・・お・・・?」

頭を出した春田に向かって能登が注意したのと同時に、竜児の方に動きがあった。
一先ず春田に「見るなら静かにしてろ」と小声で言うと、能登は先程と同じようにノートとペンを持って構える。
春田も妙な緊張感を放つ能登の言う事を聞いて、息を殺して竜児の方に集中し始めた。

二人の視線の先で、周りの生徒・・・しかも殆どが一年であり、一番竜児に対しての情報が少なく
『ヤンキー高須』のイメージしか持たれていないような生徒達の中、竜児は必死に顔を俯けて棒のように立っている。
が、春田と能登が覗き始めて数瞬もしない内に顔を上げたかと思うと、提げていた弁当箱を持ち直して誰かに渡した。

(・・・なぁ、高っちゃん何してんの? こっからじゃ見づらいんだけど)

(慌てるな・・・・・・よし、見えた)
487174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:33:19 ID:PQCTy3by

「・・・・・・悪いな、わざわざ弁当なんて」

「い、いいんです・・・・・・こんなの、まだお礼の内にも入らないし・・・・・・迷惑じゃありませんでしたか?」

「そんなことないぞ。栄養も偏らないようにできてたし、うまかったって」

「ほんとうですか? ・・・よかったぁ・・・早起きして作った甲斐がありました・・・・・・」

春田と能登が見ているとは思ってもいないだろう。
竜児は一年生の女子とやたら親しげに話している。
それにどうやら、先程から竜児が持っていた弁当箱の中身はその女子生徒の手作りらしい。
手渡された弁当箱を抱きしめて喜んでいるその女子生徒を、竜児が意外そうに見ている。

「あれ、全部自分で作ったのか?」

「ぁ・・・はい・・・あ、でも、お母さんに教えてもらいながらだったから、自分で作ったって言うのかな・・・」

「それでも、あれだけできればスゲェと思うけど・・・おだててるんじゃなくて、本当にうまかったって思うぞ、俺は」

「・・・・・・え、えへへ・・・そんなに褒めてもらえるなんて・・・・・・」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

唖然としている春田と、竜児達を気にしながらも一言一句間違わないようノートに竜児と女子生徒の会話を書き記している能登。
やけに冷静な能登と違い、こんな場面に出くわすとは欠片も考えていなかった春田は状況に付いていくのでやっとだろう。
だが、竜児達の会話が途切れた事で若干は余裕を取り戻したらしい。
アホはアホなりに、今起きている出来事の理由を解明しようとした。

(能登、これどうなってんの!? 何で俺じゃなくて、高っちゃんがあんな可愛い子から手作り弁当貰ってんだよ!?)

(・・・・・・教えてやるから乗っかるなよ、春田。書きづらいだろ)

興奮気味に能登に食って掛かる春田だったが、あくまでも冷静に対処する能登に言われてとりあえずは気を落ち着ける。
「教えてやる」ということは、少なくとも能登は何かしらの事情を知っているんだろうと、春田の少ないお頭が奇跡的に思い至ったのだ。

(『・・・・・・褒めてくれるなんて』・・・と)

竜児と女子生徒の会話を記録し終えた能登は一度溜め息を吐いた後、指を解すようにプラプラと動かしている。
それも終わるともう一度溜め息を吐いて、自分の頭上にいる春田に意識を向けて考えだした。

───このまま帰したら高須に直接聞きに行きかねないし、そうなったら・・・やっぱマズイよな・・・・・・───

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

───こいつは口は軽いしアホだけど、アホだから明日になったら忘れてるだろ・・・・・・───

極力この事は秘密にしておきたかった能登だが、春田に黙ったままでいるリスクと話した場合のメリットを天秤にかけた結果・・・
教えてやるとも言ってしまったし、話した後で口止めをしておけばとりあえずはいいだろうという結論に達した。

その日の内に、能登はこの決断を後悔する事になる。
488174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:34:01 ID:PQCTy3by

(・・・なぁ、あの娘に見覚えはあるか? 春田も絶対見てるぞ)

(はぁ? 急に言われても・・・・・・あー・・・だめだ、わっかんねー・・・ホントに俺も見た事あんのかよ)

(・・・文化祭、ミスコン、メイド・・・)

(あぁ、どっかで見たと思ったらタイガーに命令されてた娘じゃん。いや、マジでここまで出かかってたんだけどな〜)

(そう、その娘で合ってる。1年A組の光井百合子ちゃんだ)

(く、詳しいんだな・・・・・・で、なんであの娘が高っちゃんに手作り弁当なんて作ってくんだよ。俺だってそんなの貰った事ないのに)

(それは不思議がる事じゃないだろう・・・睨むなよ。それにあの娘が高須とイチャイチャしてる理由なら言うって。
 ・・・先週の放課後、学校の近くであの娘が絡まれてたんだよ。けっこうガラの悪そうな連中に)

(あぁ、それを高っちゃんが助けたのね・・・けど、高っちゃんってケンカとかすんだ・・・意外って言ったら意外だ・・・)

(まぁ・・・だけど、春田の予想とはちょっと違うな。確かに高須はあの娘とその連中の間に割って入ったけど・・・
 あの娘・・・百合子ちゃん、高須が来た途端に泣き出しちまったんだよね・・・『親玉が来たー』みたいな感じで)

(・・・うわー・・・・・・そっちか・・・・・・)

(でな、百合子ちゃんに絡んでた連中は高須に『すいませんでした!! 高須クンのスケだって知らなかったんス!!』・・・
 そう言って土下座して、有り金やらなんやら置いて走ってっちまった)

(・・・つくづく高っちゃんてエリートヤンキーなのな・・・・・・)

(で・・・取り残された高須は大泣きしてる百合子ちゃんを必死に慰めてたんだよ・・・それはもう必死に。
 人目もそれなりにあったんだけど、目線を合わせて話を聞いたり、頭撫でてやったり・・・・・・極めつけは抱っこしてた。
 いや、百合子ちゃんから抱きつきに行ってたんだけど・・・まぁ、高須の事を安全だと判断したんだろ。そう思おうぜ。
 ・・・タイガーがその場にいたら嫉妬に狂ってたんじゃないかって、本気で思う・・・・・・というよりも、事実そうなった)

そこで一旦話を区切ると、能登は一度頭を出して竜児と話の中心人物である女子生徒・・・光井百合子が
どんな会話をしているか聞き耳を立てる。
話の内容がたわいない料理関係の事で盛り上がっていると分かると、ノートに一言『雑談。特記すべき点は無し』と書いて丸で囲み、
春田に話の続きを語りだした。

(あれは凄かった・・・なんせタイミングも悪かったしな・・・よりにもよって高須と百合子ちゃんが抱き合ってる場面に出くわすとか・・・
 なんか、タイガーの後ろに大口開けたマンガみたいな虎が見えてさ・・・気のせいだろうけど)

(しゅ、修羅場にも程があんじゃね!?)

(あぁ・・・正しく修羅場だった・・・タイガーのやつ、『誰よ、その女・・・どういう関係か言いなさい、駄犬・・・』って詰め寄ってって・・・
 正直見てる俺も引くほど迫力あったくらいだから、百合子ちゃんまた泣きそうになっちゃってさ・・・咄嗟に高須の首にしがみ付いたんだよ。
 そしたらタイガー、分かりやすいほど動揺して・・・『うろたえた』って方がしっくりくるな。で・・・・・・)

(・・・・・・で?)

(『りゅ、りゅりゅりゅ、竜児は私にょなんだから離れにゃさいよ! この泥棒猫!! 間女!! バカバカバーカ! バカァッ!』
 ・・・一瞬何が起こったのか分からなかった・・・それくらい衝撃的だった。あの女は本当に高校生かよって疑ったくらいだ・・・・・・
 まぁ、直後にタイガーが泣き出した事もそれなりに衝撃的だったんだけど)

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

(丁度百合子ちゃんも今の春田みたいにポカーンと口開けてたなぁ。お前の方がよっぽどアホ面だけど。
 ・・・・・・お、噂をすれば・・・見ろよ、タイガーが向こうから走ってきたぞ)
489174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:34:40 ID:PQCTy3by

竜児達が立っている位置よりも、更に奥の方を指差している能登に倣い、目線を動かした春田が見たものは

「ぬぁにしてんのよバカ犬ぅぅぅぅぅぅう!! 私に黙ってぇぇぇぇえええ!!」

廊下を歩いている男子を除雪車を彷彿とさせながら轢き飛ばし、雄叫びという表現がピッタリ合うほどの大声でこちら・・・
竜児目掛けて突進してくる手乗りタイガー。
腰の位置よりも伸びた長い髪を靡かせながら、力強さとしなやかさを兼ね備えたフォームで疾走するその姿は、
そこだけ切り取れば陸上選手でなくとも羨ましがるかもしれない。

だが、元々人形のような可憐な顔をしていようと、どれだけ美しい走り方をしていようと・・・・・・
鬼みたいな形相で喚きながら通行人を撥ねまくって爆走する少女なんて、ただただ恐いだけであって。

「りゅうじぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!! そっから動くなぁぁぁぁっ!!」

「あれ、大河? どうし」

「こんのぉ・・・・・・ぅわきものぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

大河がシャイニングウィザードのような飛び膝蹴りで竜児の意識を刈る頃には、憩いの時間であるはずの昼休みは
一年生にとっては恐怖と混乱によって阿鼻叫喚さながらの、憩いの『い』の字も存在しない時間に変貌していた・・・・・・・・・

「・・・・・・お前なぁ、何であんなに怒ってたんだよ。見ろよ、そこいら中に大河がのしちまった奴らが転がってんじゃねぇか」

(一番強烈にのされたのはお前だろう・・・何でもうピンピンしてんだよ・・・・・・)
これは春田と能登に限らず、一年男子生徒ほぼ全員の共通した心の声である。大河にのされて夢の世界にいる者も、きっと同じ思いだろう。
硬い物同士がぶつかるような音をさせていたから、確実に竜児は頭蓋骨で大河の膝を受け止めたはずだ。
にも関わらず、竜児は一瞬・・・時間にしておよそ10秒ほど沈黙したかと思ったらすぐに
「・・・・・・・・・痛ってぇな! 大河!? お前いきなり何すんだよ!」と・・・・・・
獲物を追い込んだ虎のような動きで、ジリジリと百合子ににじり寄っていく大河を掴まえてそう言った。
周囲の生徒が驚きで息を飲む中、大河だけは驚きもせずに暴れていたから、竜児と大河にとってはこの程度は普通なのだろう。
誰も気付かない内に、目つきが悪いだけの高校生だった竜児は、目の前でむくれている少女によって鍛えられていたようだ。

「う、うううるさいわね! 竜児が悪いのよ、教室に帰ったらどっか行っちゃってて・・・・・・」

「何で俺のせいになるんだ・・・・・・それにどうして俺がここに居るって分かったんだ? 言ってないよな、俺」

「そんなの、竜児の匂いを辿ってきたに決まってんじゃない。まぁあんたに近づくにつれて、余計な匂いもプンプンしてたけどね・・・・・・
 そ・れ・とっ! 竜児は私んだって言ったでしょ! あんた、なに勝手に人のもんに手ぇ出してんのよ!!」

「ひっ・・・あ、あのあの、私・・・・・・わたし・・・・・・」

「やめろって・・・どうしてお前はこの娘に突っかかるんだ? こないだだって、今みたいに訳の分かんねぇ事言って・・・・・・」

床に転がっている男子に手を貸したり、しっちゃかめっちゃかになってしまっている廊下を手早く片付けている竜児と、
その背に隠れるようにして竜児を手伝っている百合子。
その百合子をどうにかして竜児から引っぺがそうと躍起になっている大河。そしてその度に大河を宥める竜児・・・・・・
しばらく似たようなやり取りを繰り返した後、元々人がぶっ倒れている以外は大して片付けるほどでもなかったという事もあって
思っていたよりは早目に廊下の惨状は片付け終わった。

「・・・なんか、悪かったな。いろいろと迷惑かけたみたいで」

「い、いいんです、高須先輩が悪いわけじゃ・・・それに、ケガだってなかったし・・・」

「あぁ・・・ケガがなくて本当によかった。女の子にケガでもさせちまったら、どう責任取ればいいんだ」

「せ、せきにん・・・・・・? ・・・・・・そんな、でも・・・・・・」
490174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:35:29 ID:PQCTy3by

被害を被った生徒が居る教室一つ一つに頭を下げ終わり、用も済んだと帰ろうとする竜児に挨拶をしていた百合子が真っ赤になる。
どのような想像をしたかは本人にしか分かりようが無いが、大河には百合子の反応がえらく気に入らなかったらしい。
80年代のスケ番のように舌打ちを連発して竜児を急かしてくる。
直接飛びかからなかっただけマシかもしれないが、それでも先程の暴れっぷりに加え威嚇行動のような舌打ちをかます大河に
百合子以外の生徒も完全に怯えている。

「わ、分かったからそれやめろよ、大河・・・じゃあ、弁当まで作ってくれてありがとうな」

「・・・・・・ぁの、た、高須先輩!」

「おぅ」

「・・・・・・こ・・・今度! えっと・・・またお弁当作ってきますから、食べてもらってもいいですか!!」

顔を真っ赤にした百合子が、尋ねるようなイントネーションではなく宣言するような強い語調で竜児に問いかける。
百合子にしてみれば、こんな事言ってしまったら大河に何をされるか分からない恐怖の中、ありったけの勇気を出して言ったのだ。
それこそ、大河に取って食われる自分が見えたほど。
だが、百合子にとっては追い風が吹いたらしい。
大河は何もしてこなかった。
・・・・・・正確に言うと、あれだけ威嚇したあの草食動物みたいな娘が、ここで動くなんて予想していなかったことと
どう脅かせば百合子に前言を撤回させる事ができるか考えている間に、竜児は返事をしてしまった。

「おぅ。作ってもらってばっかりもなんだから、今度は俺も作ってくるよ。苦手な物とか、リクエストがあるんなら今・・・・・・」

「ぃ、いいんですか・・・? ・・・あ、ないです! 苦手な物・・・・・・高須先輩が作ってきてくれるんだもん・・・・・・」

「じゃあ、都合がいい日ができたらメールで教えてくれないか? こっちはいつでもいいから」

「は、はい・・・明日は・・・・・・だめ、ちゃんと練習してこないと・・・」

「・・・・・・竜児! もういいでしょ、さっさと行くわよ!」

「お、おぅ・・・大河、そんなに引っ張んなよ」

「うるさい! ・・・・・・ね、ねぇ・・・お弁当くらい私だって作ってあげるわよ・・・? うぅん、作るもん。
 決めた! 明日のお弁当、私が作ってあげるね、竜児」

大河に引きずられながら去っていく竜児を、一年の男子は片目を羨望で、もう片目を嫉妬で全開にしながら見送っていた。
(付き合うのは考え物だけど、あんな可愛い彼女がいるのにこっちの有望株に唾付けていきやがって・・・舎弟になるにはどうすれば・・・)
そして廊下の向こう・・・竜児達が歩いていったのとは反対方向にいた春田も、似たような事を考えていた。

「・・・・・・高っちゃん、うちのクラスの女子だっていっぱい持ってってんだからさ・・・一人くらい回してよマジで。そうすればなー・・・」

いや、口に出してる上に言ってる内容が直球すぎる分、確実に一年のルーキー達よりも汚れているのが窺える。

遅まきながら騒ぎを聞きつけて、収めがてら自慢の筋肉を誇示しようとしゃしゃり出てきた黒間が能登達の後ろ側からやって来ており
通り過ぎる際に春田のセリフを聞き、アホを見るような目を春田に向けたのを能登は見逃さなかった。
が、当の春田は妄想の世界にドップリと浸かり込んでおり、黒間が横を通り過ぎた事にも気付いていない。黒間も特に注意しない。
能登も能登なりの優しさで、黒間が遠ざかるまでは春田の好きなようにさせていた。
それにやる事も残ってる。
491174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:36:12 ID:PQCTy3by

「『『・・・・・・明日のお弁当、私が作ってあげるね、竜児』そう言ったタイガーは、高須を引きずって帰っていった』・・・よし。
 おい春田、俺達も・・・・・・まだやってんのか・・・」

「うへへへへ〜〜・・・亜美ちゅあ〜ん、ここが良いんだろ? ほらほら〜」

「・・・・・・もう行くぞ、アホ。いい加減見失っちまう」

「でへへへー・・・・・・ちょ、みんな順番守ってって、俺はどこにも行かないぜ」

パンッ

「・・・・・・あれ? 能登、高っちゃん達は?」

「先行っちまったよ。俺達も行こうぜ」

「ん〜・・・・・・なんか顔痛てー・・・・・・・・・」

いつまで経っても降りてこない春田に痺れを切らせた能登が、軽く頬を張ってやって無理やり春田を起こした。
能登の仕事はこれで終わった訳ではないので、最悪春田は置いていってもよかったのだが・・・・・・
まだ口止めをしていない春田を放っておいたら、後で何を言い触らすか分からない。
昼休みが終わるまでまだ時間はあるし、その間は能登も自分の仕事に集中したい。
このまま春田も付きあわせて、放課後にスドバで奢ってやれば十分口止めになるだろう。
そう決めて、能登は今日の仕事・・・・・・いや、今日も仕事に気合を入れた。
お伴はアホだ、いつもよりも注意しろ・・・・・・・・・と。


                              ・
                              ・
                              ・


「なー、さっきの話だけどさ」

「・・・・・・何の話だっけ?」

「あれだよ、高っちゃんとタイガーとさっきの娘の修羅場で、タイガーが泣いたって話。
 あれって、あそこで終わりなのか?」

「あぁ、その話か・・・いや、あれには続きがある。っていっても、すぐ終わりなんだけどな。
 ・・・・・・泣き出したタイガーを高須があやしてそのまま帰っていった。弁当なんかの約束は、さっき高須が言ってたようなメールだろうな。
 ベソかいてたタイガーに気ぃ遣いながらアドレス交換してたのが印象的だった。異様すぎて」

「へー・・・よく見てんな〜そんな所」

「俺だってあんなもん見たくねぇんだけど、これに書かないとさ・・・・・・」

「・・・・・・なぁ、気になってたんだけどよ・・・そのノートって」

「いたぞ・・・・・・悪い、後にしてくれよ春田。それよりも急いで靴履き替えろ」

「外かー・・・・・・」
492174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:36:49 ID:PQCTy3by

──────校庭──────
さっきまで大河に引きずられていたはずの竜児が、何故か一人で歩いている。
昼食を終えてテキトーにボール遊びに興じていた運動好きの生徒がチラホラいるが、自分達に接近してくる大橋の魔王に気付いた途端に
蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
かの名プレーヤーの言葉を借りれば、今まで自分達が蹴っ飛ばして遊んでいた友達を置き去りにして。
離れた位置にいた生徒も、さり気なさを装いつつ校舎に近づいていく。
それもしっかりと見てしまった竜児は、一度深い溜め息を吐いて気を取り直すと、
目の前に転がってきたサッカーボールを手に取って今来た道を戻りだした。

「俺、今度の昼休みにサッカーやろうぜって高っちゃん誘ってみるわ」

「あぁ、その時は俺も混ぜてくれ。他の奴も誘って、なるべく大勢でやろうな」

メガネを外して上を向く能登と、逆に下を向いて髪の毛で顔を隠す春田。
竜児が目つきだけは異常に凶悪なせいでそれなりに苦労している事を知ってても、
実際に目の当たりすると、頬を伝う物を我慢できなかったらしい。
あまりにも竜児が不憫でならない・・・・・・が、いつまでも泣いている訳にはいかない。
こんな所で男二人が泣いていてもハッキリ言って気味が悪いし、このままでは竜児を見失ってしまう。
能登はメガネを掛け直し、春田は制服の袖で鼻水を拭うと、竜児が歩いていった方に向かって進みだした。

「・・・・・・それはそうと、タイガーはどこ行ったんだろ? 高っちゃんも何で表に・・・」

「・・・・・・さっきの会話の流れから勝手に推測すると、『な、なによ! 私にだってお弁当くらい作れるわよ! バカにしないで!』的な
 方向に話が行っちまったんだろ。あとは怒ったタイガーに追いかけられてる内に校庭に出てたって感じじゃないか?」

「あれだけ足速ぇし鼻も利くタイガーからよく逃げれんな〜高っちゃん」

「た、確かに・・・・・・」

竜児に見つからないようにしながら後をつける春田と能登。
まるで慣れているかのような自然な動きで、一定の間隔を空けながら竜児をつける能登とは対照的に、春田の動きは
思わず能登が(昔アニメで見たなぁ、『ササッ!』って口で言っちゃってる尾行とか・・・)と思ってしまうような派手なものである。
それでも自分が尾行されている事に気付いていない竜児は、体育用具室まで来ると手に持っていたボールをカゴに放り込んで・・・
そのまま用具室の中の片付けを始めてしまった。

(・・・・・・なんか高っちゃんって、掃除とかしてる間は感じ変わるよな・・・おっかねー方に)

(まぁこの程度はいつもやってる事だから気にすんなよ。それに二週間前なんか放課後に掃除してて閉じ込められたんだぞ、高須)

(あそこに一人で!? マジィ!?)

用具室なんてある程度物が散らばっていて当たり前だというのに、目に付いた物からテキパキと片付けていく竜児・・・
上機嫌な証拠に口元が歪んでいる。Vシネマなら活躍できそうな危ない笑顔だ。
そんな竜児を覗き見している春田と能登。
・・・級友が狭い茂みの中で身を縮め、更に密着するほど身を寄せ合って自分の様子を覗いていると知ったら、竜児はどう思うだろう・・・
それと・・・・・・竜児に気付かれる心配が少ないからといって、なにも茂みの中に隠れる必要があるのだろうか?
まぁ、「こういう時は茂みに隠れるもんなんだって」と力説するからには、春田の中にはそれなりの根拠があるのかもしれないが。

(確かあの時は・・・・・・櫛枝が高須に用があるから、部活が終わるまで待っててくれって言って、高須もOKしたんだよ)

(あ、それで待ってる間に掃除してたのか。
 それはそれでどうかと思うけど、ヒマ潰しにあんな所掃除しようなんて高っちゃん偉いな・・・でも閉じ込められるなんてなー・・・)

(いや、少し事情が・・・あの時さぁ、高須の奴はソフト部の練習見ながら櫛枝の事待ってたんだけど・・・・・・
 ・・・・・・隣にタイガーがピッタリくっ付いてたんだよ・・・・・・俺の言いたい事、分かるか?)

(俺には修羅場っていう単語くらいしか出てこねーんだけど)
493174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:37:31 ID:PQCTy3by

(十分だ。櫛枝は高須と二人っきりで・・・っていうつもりだったんだろうけど、高須はタイガーも一緒だと勘違いしてたんだろうな。
 で・・・そんなの聞いてなかったタイガーは放課後、高須にくっ付いて校庭まで来た所で『・・・へぇ、みのりんが・・・そう・・・』と・・・
 あとは練習が始まって何分もしない内に、タイガーが乱入して櫛枝に詰め寄ってった)

(あいつら、仲良かったんだけどなぁ・・・・・・・・・前は・・・・・・)

(今はお互い吹っ切れたんだろ・・・それからはタイガーと櫛枝の追いかけっこだよ。グラウンド中を。
 『大河、ちょっと落ち着いて話し合おうよ!』『竜児に用ってなぁに、みのりん?』『・・・・・・・・・』『みのりーーーん!』とか
 大声で喋っててさ・・・他の部活の用具とか蹴飛ばしたりしてもお構いなしで、しかも二人ともそのまま外に出て行っちまったもんだから)

(だから櫛枝、こないだジャージで来てたのか。そりゃそのまま帰っちまったらしょうがねーよな)

(そう、それの前日だ・・・・・・だけど・・・・・・ちょっと待て、誰か来た)

話を遮って竜児の方を指差した能登は、春田が「だけど?」と口を開こうとした時には
既にノートを広げて書きやすいような姿勢を取っていた。
何が能登をそこまでさせるのだろう・・・・・・疑問に思いながらも、今の能登は竜児の方に集中していて聞くだけ無駄だろう、と
珍しく学習能力を発揮した春田も黙って竜児の方に目をやった。
そこには・・・・・・・・・

「よぅ、こないだはお互いついてなかったな」

「そうね、あんなのはもう二度とごめんよ」

春田と能登の目に飛び込んできたのは、特に気負いもしないで竜児に近づいていく女子という信じられない光景だった。
普通はさっき校庭に居た連中同様、竜児が近づいてくると気付いたら逃げるか避けるかするものを、
その女子は竜児が用具室を片付けていると分かると、逆に自分から近づいていったのだ。
そして二人の会話・・・まるで一緒に災難にでも遭ったようなセリフに、春田の頭に嫌な考えが過ぎる。

(・・・・・・能登・・・高っちゃんは一人であそこに閉じ込められたんだよな? そうだよな? そうだって言えよ)

(いいや。あそこで高須の手伝いをしてる娘いるだろ?
 あの娘ソフト部のマネージャーやってんだけど、あの娘と一緒に閉じ込められたんだよ。用具室に)

何も言わないで竜児の手伝いを始めた女子と、その事に特に声をかけるでもなく片付けを続ける竜児の行動を、逐一ノートに記しながら
能登は春田の方を見向きもせずに残酷な事実を告げる・・・・・・春田にとっては、だが。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

(落ち着けよ。そんな石っころ七個も並べたって神龍が出てこないのは、いくらお前がアホだって分かってんだろ)

(・・・・・・タッカラプト ポッポルンガ プピリットパロ)

(ポルンガだって出てこねぇよ・・・・・・そんなもん覚えてられるのに、何でallの綴りをarlなんて間違えちまうんだよ・・・・・・)

(・・・・・・高っちゃんばっかズルくね・・・何気に良い思いしまくってんじゃんよ・・・・・・俺と代わってくれよー・・・)

(本音が駄々漏れだぞ、春田。見苦しいからその辺にしとこうぜ・・・・・・)

(・・・・・・ギャルのパン)

(お・・・・・・そろそろ終わるみたいだな。ウーロン、ちょっと静かにしてろよ)

現実を認めようとしないで、今どき小学生でもしないようなアホな事をやっている春田に少々キツイ事を言いつつ、
動きがあればいつでも反応できるようにノートを広げていた能登の瀬線の先では、額に汗を浮かべ、埃で汚れた格好の竜児が。
一仕事終えたような爽やかな雰囲気と、一仕事殺り終えたような顔という様は見る人が見れば即通報するかもしれない。
もしくは、刑期を全うして久しぶりに娑婆に出てきたかと錯覚させるような絵面だ。
そんな竜児の後から、用具室から出てくる人影が。
494174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:38:20 ID:PQCTy3by

「悪いな、手伝ってもらっちまって」

「いいのよ、練習で使う物がちゃんとあるか見に来たついでだし・・・・・・
 それに高須くんだって、当番でもないのに勝手に片付けてたんでしょ?」

「あぁ、まぁ・・・そうなんだけどな。なんとなくだ、なんとなく」

「なんとなくでお礼言われてもなぁ・・・本当、高須くんって見かけと全然ちがうよね。この間も・・・・・・」

(この間ってなに? 高っちゃん、あの娘と一緒にあんな狭い所に閉じ込められて一体どんな事を・・・やべ、鼻血出てきた)

(お前・・・・・・後でちゃんと教えてやるけど、少なくとも春田が思っている程過激な事は無かったぞ)

「俺が思っているよりはソフトな何かがあったのか?」と、鼻を押さえながらいろいろと考えを巡らす春田だったが、
いきなり能登の持つペンの動きが早くなった事で竜児達の方に向き直る。

「ねぇ・・・この間のことなんだけど・・・・・・」

「おんや〜? この間? どの間のことを言ってるのかな〜・・・・・・私にも教えてくれるかい? く・わ・し・く」

「ぇ・・・・・・ぶ、部長!? ・・・どうして・・・・・・だって、まだミーティングやってるはずじゃ・・・・・・」

「おぅ、櫛枝。珍しいな、こんな所で何やってんだ?」

竜児に向かって何事か言おうとしていたソフト部マネージャーの背後から、突然実乃梨が現れた。
これには春田もそうだが、能登も驚きを隠せない。
主に竜児の方に意識が集中していても、それなりに回りに気を配っていたつもりだったのに、あそこまで近づくまで気付く事ができなかった。
本当に実乃梨は突然出てきたのだ。
一瞬能登の脳裏に嫌な記憶がフラッシュバックする。

「ん〜? ソフト部のミーティングに来ない、いけないマネージャーを探してたんだよねぇ・・・・・・
 で、この辺探してたらこの高須くんレゲフンゲフン! ・・・みのりんレーダーがビビビッと反応してね、来てみたんだよ。
 そしたらなんと、こんな所で高須くんとお喋りなんかしてるんだもん。なんじゃこりゃーだよホント」

「・・・・・・だ、だけど部長? 私、今日のミーティングには出ないって確かに他の子に・・・・・・」

「それ、先週も言ってたよね? そんでもって休み時間になるとちょくちょくここで誰かを待ってるよね?」

「な・・・んで、それを・・・・・・」
 
「大橋の母は何でも知っとりますぞ。例えば私が大河に追っかけられてた間、そこの用具室で何があったか・・・とかもね。
 大変だったねーあれは。だけど良かったね、高須くんが身を挺して・・・っと、あんまり話すのもヤボってもんですな。
 ・・・・・・ミーティングをサボるのと関係あるんじゃないのかな〜って私は考えちゃうんだけど・・・まっさかねー?」

「・・・・・・うそ・・・だ、誰に聞いたんですか・・・・・・」

「誰だろうね〜・・・教えてあげるから、ちょっと部室まで行こう。部長としてもマネージャーに話があるからさ・・・・・・
 じゃ、高須くん。私ちょっくら大切な用事ができたからまたね!」

「お、おぅ・・・だけど櫛枝、もうすぐ授業始まるぞ」

「おぉっと、こいつぁ急がないと! ありがとう高須くん。それと・・・今度はソフト部の部室の掃除、手伝ってもらってもいいかな?
 すっごい迷惑だとは分かってるんだけど・・・どうしてかその日に限って、みんな都合つかなくってさ・・・
 私一人だとちょっと大変なんだ・・・・・・お願いしていい?」

「部長! 私いつでも空けときますから、だから」

「答えは今度でいいよ、高須くん? ・・・・・・あ、前みたいに大河に言わなくていいからね? ほら、迷惑だろうし」
495174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:39:02 ID:PQCTy3by

自称大橋の母はその細腕からは想像できないような力で、マネージャーの肩に回した腕でもって彼女の身動きを封じた。
更に言い逃れなんて許さないとばかりに、早口でマネージャーの痛い所を突きまくった挙句、何をするつもりかは分からないが
ソフトボール部部室まで連行しようとしている。
ニコニコと笑っている実乃梨と、これから自分の身に降りかかる『なにか』を想像しているのか、
声も出せずに顔を青くするばかりのマネージャーを、申し訳無さそうに眺めている竜児・・・・・・
きっとミーティングに出ないで、自分を手伝った事を咎められると思っているのだろう。

そんな方向にしか考えられないから、周りの・・・・・・例を挙げるなら、能登が今一番被害を受けるハメに・・・・・・

そして竜児に掃除を手伝ってくれと頼む実乃梨だが、明らかに目的は掃除ではないだろう。明白すぎる。
自分一人では大変だから手伝ってくれ、だけど大河は呼ぶな・・・・・・と。
首を小脇に抱えられるような格好を強いられているマネージャーが即座に立候補しても、さらりと聞き流して・・・
それで本当に部室の掃除なんてする気があるのかどうか、非常に怪しい。
それに部員の都合がつかないというのも実乃梨がセッティングしたのかもしれないし、
部室の掃除をするなんて話自体、ソフト部部員にはされていない可能性もある。
要は、部室に誰もいない状況なら実乃梨的には問題無いのだから。
前日にでも明日の練習は休みとだけ言っておけば、それで準備完了だ。

「俺でよければいくらでも付き合うぞ、櫛枝。運動部の部室か・・・・・・掃除のし甲斐がありそうだな」

「ホントに? ありがとう! 高須くんなら、きっとそう言ってくれると思ってたぜ!」

「そんなに感謝される事じゃねぇって。それと・・・あんまり怒んないでやってくれよ、そいつの事。
 ミーティングを欠席したのにも理由があるだろうし、関係ないのに俺の事手伝ってくれてたんだよ」

「た、高須くん・・・! ・・・・・・ありがとう・・・私、うれし」

「オッケー! じゃあ後でね!!」

そんな事、当然考えつく訳もなく。
竜児は特に考える事もなく、その場で実乃梨の頼みを聞いてしまった。
まぁ、何もかも実乃梨の思い通りという訳にはならなかったが。
実乃梨はまだ何事かを話そうとしていたマネージャーを両腕で抱えなおすと、全部言い切らせる前に走り去ってしまった。

(・・・・・・行っちまったな、高っちゃんも櫛枝も)

(『・・・・・・櫛枝達が見えなくなった後、高須もその場から離れていった』と・・・そうだな、俺達も行くか)

(その前に能登・・・・・・)

(うん? ・・・あぁ、用具室に閉じ込められた高須の話か? ・・・・・・高須が行っちまうから、歩きながら説明させてくれよ)

(おう、分か・・・・・・ったったった〜〜っとぉ!?)

今まで茂みの中で事の始終を覗いていた春田と能登が、竜児達が去っていった事でようやく動き出した。
二人並んでズボッ! っと音を立てながら頭を茂みから出すと、辺りを確認して立ち上がる。
その際、能登に続いて歩き出そうとした春田がうっかり転んでしまい、慌てて手を土に付けて茂みの中で倒立したために
俗に『スケキヨ』と呼ばれる状態を陸で再現してしまったのを、たまたま通りがかった不幸な男子が見てしまい、
既に一年生から広まりつつある『手乗りタイガー、真っ昼間から痴情の縺れで大暴れ』に併せて
『用具室の前の茂みに現れる、苛めを苦に自殺した大橋高生の逆テケテケ』の噂が流行る事になるのだが・・・
当然この時の春田は知る由もないし、そのお化けの正体が自分だなんて分かるはずもなく。
おまけに2-C内で真っ先に広めようとしてまたアホ扱いされるのだが、それはもう少し後の話。
不幸な男子が泣きながら逃げた後、背中から転ぶと春田は何事もなかったように立ち上がり、急かす能登にくっ付いて歩き出した。
496174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:40:14 ID:PQCTy3by


                              ・
                              ・
                              ・



「あ〜あ〜、ドロ付いちまったよ・・・・・・そうそう、何があったんだよ? てか、櫛枝も知ってるっぽかったんだけど」

「・・・・・・タイガーと櫛枝が外に出た後、さっき一年にしたみたいに、高須がグラウンドを使って練習してた連中に頭下げに行って
 おまけに後片付けも買って出たんだよ・・・当然そんなの『ヤンキー高須』には怖くてさせられないって感じだったんだけど
 高須も譲らなくってさ・・・タイガーと櫛枝の責任を全部肩代わりしたっていうか・・・・・・」

「・・・・・・もう高っちゃんが親父みたいだよな、タイガーの・・・タイガーの父ちゃん? 竜なのにな」

「まぁ、最終的には用具室の物だけを返しに行ってくれって事で話がついて・・・それに付いてったのがあのマネージャーの娘だ。
 最初はスッゲー嫌そうにしてたんだよ・・・・・・たらい回しだった用具室の鍵、押し付けるみたいに渡されて」

「それ、さっきと全然反応が違う気がすんだけど・・・・・・」

「話は最後まで聞けよ。用具室に着いたら、例の如く高須の悪い癖っつーか・・・嬉々として中を掃除し始めて・・・・・・
 あのマネージャーの娘も最初は困惑してたんだけど、高須が大真面目に掃除してるのだけは伝わったのか、ビビリながらも手伝い始めて・・・
 そしたらイタズラのつもりか知らねーけど、用具室の扉閉めてった奴がいてよ・・・運の悪い事に、扉には鍵が付けっ放しの錠がな・・・・・・
 しかもそいつ、鍵かけた後にその鍵持ってっちまった」

「げ・・・高っちゃんが中に居るって知っててやったのか? そいつ。恐いもの知らずだな・・・つーかさ、見てたんなら止めろよ・・・・・・」

「お、俺にもいろいろあんだよ・・・鍵自体は見回りに来た事務員が持ってたから、盗んだ奴が返したんだろうけど
 大体二時間くらいは高須とあの娘、一緒にいた事になるな。あの暗くて狭い用具室の中に、二人っきりで・・・・・・春田、鼻血拭けよ」

「うぉっと・・・・・・なぁ、お前ニ時間も何してんの? まさかそれ・・・その間もノートつけてた訳じゃ」

「言うなよ・・・悪いと思ってんだよ、俺だって・・・何度も何度も人呼んで来ようと思ったんだけど、その度にこれが目に入って・・・・・・」

「ちょ、おい・・・・・・高っちゃんだって能登の事、別に怨んでねーって。だから泣くなよ」

「・・・悪い・・・あぁ、話の続きだったな。確かあの後・・・ギリギリまで近づいて用具室の中に聞き耳立ててたら、あの娘の悲鳴が・・・・・・
 ・・・何かと思ったら、棚の上から落ちてきた荷物の下敷きになりそうだったあの娘を、高須が庇ったっぽいんだ。
 少なくとも、声と物音だけだと俺はそう判断した・・・その後は見回りが助けに来るまでずっとあの娘、高須の事心配しててさ。
 高須もけっこう打ち解けたみたいだな、あの様子だと」

「へー・・・・・・高っちゃんカッケー」

「そうだな・・・多分胸くらいは触っちまったんだろうけど、咄嗟に庇うなんてカッコいい事したんだから別にいいよな」

「へー・・・・・・いい訳ねぇだろ。どういう事だよそれ・・・・・・」

「俺も実際には見てないから何とも言えないけど『・・・・・・あ、ありがと・・・だけどその・・・手が当たってて・・・・・・』って聞こえたんだ。
 ・・・・・・胸じゃないんなら相当マズイし、逆にあの娘の手が高須のどっかに当たってたらなおマズイだろ・・・・・・
 だから俺は『高須が彼女の胸を触ったかもしれない』ってこれに書いた・・・俺はウソは書いてないからな、ちゃんと『かもしれない』って」

「誰もそこまで・・・・・・だけどいいよなぁ高っちゃんはさ・・・そんなマンガかドラマみたいなシチュでよ、女の子と・・・」

「俺は全然羨ましくないけどな・・・高須達が用具室から出てきて、事務員にいろいろ説明してやっと帰った後、俺も帰ろうとしたんだけど・・・
 さっきまで俺等が隠れてた茂みの傍に木が立ってたろ・・・その木の上から誰かが降っててきたんだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・は、はぁ? お前いきなり何を」
497174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:41:18 ID:PQCTy3by

「そいつらはこう言いながら、どっか行っちまったよ・・・・・・
 『まったくあのバカ、とっとと帰ってればいいのに・・・ケガまでして、おまけにまた増やして・・・全部みのりんのせいだからね』
 『私のせいじゃなくて大河が・・・もういいよ、その話はやめよ? それよりも中の様子・・・本当に全部聞こえたの、大河?』
 『もちろんよ。みのりん所のマネージャーが竜児にベタベタ触ってた音までバッチシね・・・・・・そっちの事はやってくれるんでしょ?』
 『う〜ん・・・部員だったら校外500週くらいはさせるんだけど、マネージャーだしなぁ・・・まぁ、いろいろ考えとくべさ』
 『じゃあ私は竜児を閉じ込めたガキとっ掴まえて、よぉくお礼しとくわ』
 『オッケーっくちゅん・・・さ、さみ〜・・・あーあ、制服どうしよ・・・』ってな・・・どうだ? こんな事されてても、まだ高須が羨ましいか?」

「あ、あああ、あいつら帰ってたんじゃねーの!? てか何で木の上なんかに!? ・・・・・・い、いつから居たんだよ!? いつの間に!?」

「知るかよ・・・だけど本当にいたんだよ、櫛枝もタイガーも・・・しかもタイガー、高須達が中で何してたか全部聞いてたって言ってたぞ・・・
 ありえねーだろ? あんな離れた位置から聞いてたのもそうだけど、もう何かいろいろとさ。
 ・・・・・・それ考えてたら、家帰っても眠れなかった・・・いや、正直に言うとスッゲー怖くって・・・・・・」

「能登・・・・・・じゃあさっき櫛枝があの娘に言ってた事って・・・マジだったのか・・・・・・」

「・・・俺はこの話はお前にしかしてないぞ。付け加えると、高須は『恥ずかしいからあんまり他人に言わないで』ってあの娘に言われてた。
 ・・・・・・タイガーのやつ、ホントに聞こえてたんだろうな・・・・・・」

「・・・・・・もうタイガーのいるとこで下手な事言えねー・・・・・・盗聴器よか恐ぇよ、あいつ」

──────自販機前・階段──────
付かず離れずの距離で竜児の後をつけていた春田と能登。
その顔には、とても昼休み中に出るような物とは思えない程の疲労の色が・・・・・・特に春田の方はあからさまに顔に出ている。
・・・元々、自分の失言からとはいえ教室中から向けられる視線から逃れたかっただけであり、能登の様に何かに追い立てられる程
竜児の行動に興味のない春田としては、能登の話を聞く度に首を突っ込むのを本気で止めたかった・・・だが・・・・・・

「・・・・・・あぁ、やっと今日の大仕事が・・・・・・これで高須が何もしないで帰ってくれれば、明日までは休める」

ここで能登と別れても特に何とも思われないだろうが、春田の方には自分だけ逃げたような、そんな後味の悪さだけが残る。
どうせもう昼休みも長くない。後は竜児にバレないようにしながらつけてれば、それで自分は解放される。
能登はその後も竜児を追いかけるんだろうが、さすがにそこまでは・・・・・・
疲れているせいか、顔を俯かせながらも足だけは動かして、そう考えている春田。

現実はそんなに甘くない。
この言葉を、春田は数時間後に身を持って知ることになる。

一方、今日の大仕事が終わりを見せ始めて、少し緊張の糸が緩んだのか。
能登も竜児から一瞬目を離し、今日の竜児の行動がビッシリと書き込まれているノートのチェックをしていると。

「よぅ、川嶋。また一人でお茶か?」

「・・・・・・そう言う高須くんは珍しく一人なんだ。
 あんまりないよね、クソチビと一緒じゃないのって。痴話ゲンカでもしてるの?」

昼休み中、自販機の間で一人でお茶していた亜美に竜児が声をかけた。
能登と春田は慌てて階下に下がって、今まで同様竜児にバレないように注意しながら聞き耳を立てる。

・・・・・・さっきから亜美に声をかけてくる男子は何人もいたが、二言目には『じゃあね』と言っては追い返していたのに、
何故か亜美は竜児とだけは会話を続けている。
まぁ、下心丸見えで近づいてきて、膝を抱えて座っている亜美の前に来ようとするような奴ばっかりだったのも
原因の一つかもしれないが・・・・・・

「本当に減らねぇ口だな・・・・・・まぁ、もう慣れたけど」

「亜美ちゃんの口は本当の事しか言ってないも〜ん」
498174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:42:10 ID:PQCTy3by

竜児が来た途端にからかいモード全開で竜児をいじり回す亜美の顔は、さっきまで静かにお茶を飲んでいた時の暗い物とは打って変わり
花が咲いたような笑顔になっている。
おそらく竜児は自分をからかって楽しんでいるだけだろうとしか考えていないが、周りはそうは思わないだろう。

(俺、そろそろどうにかなりそうなんだけど)

(大丈夫だ。人間、自分で思ってるよりも案外持つもんだぞ? そうじゃなきゃあ、今頃俺がどうにかなってる)

(な、なんだかやたら重いな・・・・・・)

自販機の前で、普段は表に出さない亜美相手に普通に会話している竜児を、そこに居るものとして壁越しに睨んでいる春田。
竜児達が見える所まで行くと自分達も見つかってしまうため、良い雰囲気をぶち壊しに行きたいのを我慢して、
壁に向かって呪詛みたいにぶつぶつ「俺と代わってくれ」と唱えている。
「憎しみで人が殺せたら」とはよく言うが、春田の場合は「憎しみで竜児と入れ代われたら」という程度だろう。
それ程羨ましがっているのも事実だが。
能登の方は特に竜児を羨ましがるでもなく、聞こえてくる声をただただノートに書き写す作業に没頭している。

「・・・・・・でよ、急にこっちに来たと思ったら大河のやつ、いきなり蹴り喰らわしてきて・・・・・・」

「それ、どうせ高須くんが悪いんじゃないの? チビ虎の肩持つ訳じゃないけど」

自販機でコーヒーを一本買った竜児は、昼間の大河との事を愚痴交じりに亜美に話していく。
その都度辛辣な事を言われても、元から亜美の口の悪さを知っている竜児は大して気にするでもなく、普通に会話を続けていると

「・・・・・・ねぇ、高須くん? そんなにタイガーが鬱陶しいならさ、気晴らしに亜美ちゃんと」

「高須くん、なにしてるの? もうすぐ授業が・・・・・・あら・・・・・・」

「た、高須くんいたんだ・・・・・・ね、ねぇ、亜美ちゃん知らない?」

「おでかけ・・・・・・・・・な、奈々子? 麻耶? いつからそこに・・・・・・」

「・・・・・・お邪魔だったかしら? ごめんね、亜美ちゃん」

「あ、亜美ちゃんいたいた。こんなとこいないで、早く教室戻ろうよ」

(奈々子様と木原じゃん。亜美ちゃん呼びに来たのかな)

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

もう昼休みも終わるというのに帰ってこない亜美を探しに来た奈々子と麻耶が、竜児と亜美の会話に割って入った。
申し出を中断された亜美は、言い切れなかったセリフが竜児ではなく奈々子に聞かれたと分かると、恥ずかしさから軽く頬を染めている。

そして竜児と亜美の会話に割って入ってきた麻耶と奈々子の声を聞いた瞬間、何故か能登の様子が一変した。
ペン先をブルブルと震わせ、広げていたノートを落としても拾おうとせず、ダラダラと汗まで流しだした。

「香椎達こそ、こんなとこで何やってんだ?」

「あたしも麻耶も、亜美ちゃんがあんまり遅いから呼びに来たんだけど・・・来ない方がよかったわね」

「・・・・・・何でだ?」

「ふふ・・・あたしじゃなくて、亜美ちゃんに聞いてみたら?」

「ちょっと奈々子! ・・・・・・へ、変なこと言ってないでさ、もう教室戻らない? 始まるんでしょ、授業」

「てか、あたしらが亜美ちゃんにそれ言いに・・・・・・」
499174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:43:02 ID:PQCTy3by

竜児と奈々子の会話に、今度は慌てて亜美が割って入る。
風邪でも引いたんじゃないかと竜児が思ってしまうほど、さっきよりも顔を赤くしている亜美は立ち上がって自販機の間から抜け出ると、
竜児の方は見ようとしないで、奈々子と麻耶の間に入って教室に戻ろうとする。
竜児に一言『それじゃあね』と言おうと振り返った奈々子と、まだ苦手意識があるのか、
なるべく竜児から離れていた麻耶が階段の縁から足を滑らせたのは殆ど一緒だった。

「きゃ・・・・・・」

「危ねぇ!!」

カラン、と・・・次いで、何か重たい物が落ちる音が階段に響く。
竜児が飲み終えた缶コーヒーを落とした音と、麻耶ごと竜児が階段を滑り落ちていった音。

奈々子や麻耶よりも一歩先を歩いていた亜美と、竜児の方を向いていた奈々子は
階段から落ちそうになる麻耶を助けようと、咄嗟に上げた竜児の声に一瞬硬直する。
その一瞬の間に竜児は駆け寄って麻耶を引っ張ろうとするが、逆に自分もバランスを崩してしまい・・・・・・
引き戻すのが無理だと分かると、竜児は麻耶を抱きしめて精一杯体を捻り、自分を下敷きにして階段から落ちていった。
振り返った亜美と奈々子の目には、踊り場に仰向けで倒れている竜児と、竜児の上で目を瞑っている麻耶の姿が写る。
あまりのショックに、亜美も奈々子も起こった事を受け入れられずに動けなかったが、
竜児の体が揺れているのが見えると弾かれたように、駆け足で階段を降り出す。

「痛ってぇ・・・・・・木原、大丈夫か?」

「・・・・・・・・・ぇ・・・・・・ぁ・・・高須くん・・・・・・? ・・・・・・!? ちょ、ちょっと!? ドコ触ってんのよ!」

「ケガは・・・・・・無いみたいだな。よかった」

「ひ、人に抱きついといてケガとか、なに言って・・・・・・あれ・・・?」

階段の上から亜美と奈々子が降りてくるのが見えて、やっと麻耶は自分が階段から落ちた事に気がついたようだ。竜児と一緒に。
その割には、自分の体に痛む所は感じられない・・・だけど、今も下敷きになっている竜児は痛がってなかったか?
抱きつかれたままそろそろと目線を動かすと、心配そうにこっちを見ている三白眼という珍しい物を麻耶は見た。
その目を見た途端勝手に体が逃げ出そうとするが、ガッチリ竜児に抱きしめられていて逃げ出せない。
だけど、じっとこっちを見つめている竜児と目を合わせていると、自分を心配しているのが伝わってくるようで・・・・・・

「・・・・・・ぁ・・・・・・」

「高須くん、大丈夫!?」

「麻耶、ケガは・・・・・・それに高須くんも・・・・・・」

麻耶が何か言う前に、階段から降りてきた亜美と奈々子が竜児達の下に寄って来る。
慌てて竜児から離れた麻耶は立ち上がり、いろいろと聞いてくる奈々子から竜児が自分を助けてくれたのだと聞かされると
亜美と一緒になって竜児の心配をしだした。

「あ、あたしはどこも痛くないんだけど、高須くんが・・・ど、どうしよう、あたしのせいで・・・・・・」

「高須くん、どっかケガしたの!?」

「いや、俺もそんなに大げさなもんじゃ・・・木原こそ、ホントに大丈夫なのか? どっか打ってたりとかしてないか?」

「え・・・・・・う、うん・・・あたしは、その・・・・・・高須くんが守ってくれたじゃない? ホント、マジでどこも痛くないから。
 ・・・さっきはごめんね・・・・・・目を開けたら高須くんが目の前にいて、それで・・・助けてもらったのに、あたし・・・」

「気にしてねぇよ。そんな事より、ケガが無くてなによりだ」

「・・・・・・ありがと・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
500174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:44:09 ID:PQCTy3by

取り乱す亜美に答えながらも、立ち上がった竜児は麻耶を心配してケガがないか聞く。
妙に赤くなりながら答える麻耶の顔が、竜児のセリフで更に赤くなっていく。
・・・・・・半分スルーされた気になっている亜美は、別の意味で顔を赤くしている。
それでも表情筋を総動員させて心配そうな顔を作っている辺り、見上げたモデル根性としか言いようがない。
たまにこめかみや口元がヒクついているが、竜児と麻耶は全然気付いていない。
・・・今気付いているのは、竜児から麻耶を借りてお説教中の奈々子くらいだ。

「もぅ・・・階段から落ちるなんて、子供じゃないんだから・・・あんまり心配させないでね、麻耶」

「ごめん・・・だけど、そんなに怒んないでよ。あたしだって反省してるんだから・・・今思い出すと恐かったし・・・・・・」

「そぅ・・・けどよかったわね、高須くんに助けてもらって・・・・・・」

「そ、その話はもうやめてよ、奈々子・・・・・・あ! もう授業始まるじゃん。
 ほらほら、亜美ちゃんも奈々子も急いで急いで・・・・・・高須くんも、行こ?」

「おぅ・・・・・・川嶋? どうしたんだ?」

茶化してくる奈々子から逃げようと、麻耶は全員を教室に戻るよう急かす。
既に昼休みは終わっているし、自分も麻耶も保健室に行くほどのケガもしてないので授業には差し支えない。
早く教室に戻らないと授業に間に合わない・・・
そう思っている竜児の腕を引っ張った亜美は、無言で竜児の腕を抱きしめると、そのまま竜児に並んで歩き出した。

「だって〜、高須くん階段から落ちたんだよ? 肩ぐらい貸してあげるわよ、亜美ちゃん超優しいから」

「そんなに大した事ないし、もう痛くねぇから平気だって」

「あ、あたしも! 元はと言えば、あたしが悪いんだし・・・教室まで肩貸してあげる」

「いや、だからいいって・・・・・・木原もそんなに気にすんなよ。自分だって危なかったんだから」

「・・・・・・う、うん・・・いや、だけどあたしも」

「ねぇ高須くん、いつおでかけしよっか? 亜美ちゃん、買いたい物が色々あって・・・・・・そうだ! 高須くん選んでくれない?
 亜美ちゃん前から指輪とか欲しくってぇ・・・・・・どうせならペアリングにしちゃおっかな? そっちの方がらしくていいよね」

「川嶋も、さっきから何言って・・・・・・」

「あ、お金なら亜美ちゃん出したげるから気にしないでいいよ? 大切にしてくれればそれでいいの・・・
 だけどね、左手でも右手でもいいけど、ちゃんと薬指に付けててくれないと亜美ちゃん別れちゃうんだから。いい?
 やっべ、今から超楽しみなんだけど・・・いつ行こっか、高須くん?」

「だから何を・・・・・・」

「亜美ちゃん! それあたしも連れてって! いいでしょ? ね? いついつ?」

「ふふ・・・高須くん、モテモテね・・・麻耶も行くんなら、あたしも行こうかな」

「ちょ、ちょっと!? 麻耶も奈々子もなに勝手に・・・・・・」

「・・・・・・なぁ、本当に遅れそうだからダベってないで早く行こうぜ」

勝手にいろいろと予定を決めていく亜美と、そんな亜美に負けじと、北村の事も忘れて張り合う麻耶に、クスクス笑っている奈々子。
竜児を中心に、亜美達は盛大に騒ぎながら教室へと帰っていった。
・・・・・・階下で聞き耳を立てていた春田は、その場に両膝と両手を着いた体勢で、ブツブツとまだ何事か唱えている。
501174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:44:58 ID:PQCTy3by

「・・・・・・高っちゃんばっか高っちゃんばっか高っちゃんばっか高っちゃんばっか高っちゃんばっか高っちゃんばっか・・・・・・
 なあ、もう高っちゃんをスケコマシの容疑で逮捕してもらおうぜ。嘆願書でも出せばきっと・・・・・・能登? どうした?」

「え? ・・・・・・あ、あぁ・・・悪い、少し考え事してて。高須達、先に行っちまったのか・・・・・・何してんだ、行くぞ。俺達も遅れんだろ」

「お、おう・・・・・・だけど、ちょっと」

「くだらねぇ事言ってんなよ・・・これでいいだろ。早くしないと欠席扱いだぞ」

「あんまりじゃねー・・・・・・てか、次の授業ってゆりちゃんだからそれは無いんじゃ・・・あっ待てよ、能登〜〜〜・・・・・・・・・」

いつも通りバカな事を言っている春田に、特にツッコミを入れるでもなくノートを脇に立ち上がった能登。
「そんな罪状ねぇだろ。気持ちは分かるけど、泣いてないで行くぞ」と、厳しい中にも自分を慰める言葉を期待していた春田は、
ボーっとしていると思ったらいきなり冷たい言葉を吐いて先に行ってしまった能登を追いかけていった。

昼休みの間中竜児を追い掛け回し、ようやく戻ってきた能登と春田が教室の戸を開けて最初に見たのは、
散々探した挙句に亜美と腕を組んで戻ってきた竜児にブチギレて、独身の制止も聞かずに暴れている大河だった。

能登は溜め息を一つ吐くと例のノートを広げる。
春田は戸を開けてすぐに、大河がぶん投げた椅子の直撃を喰らって倒れている。
そんな春田に気付いているにも関わらず、無視して能登は竜児の方に集中する。
・・・・・・能登以外に誰も気付いてくれない上に、能登からも放置された春田は、床に転がったまま目から水を流し続けていた・・・・・・

・・・・・・その日の5限は、暴れる大河を何とかしてほしいと竜児に泣きついた独身を見て、更にキレて暴れた大河のおかげで丸々潰された。
竜児に抱きつきながら「高須くん・・・おねがい・・・・・・ん・・・・・・」と言って目を瞑っていた独身に、
本当に大河をどうにかしようという気があったのか甚だ疑問ではあるが、結果的に大河の神経を逆撫でしただけなのは間違いない。
実乃梨と亜美の二人がかりで押さえつけられ、それでも大河は竜児と、竜児に抱きついている独身に向かってズンズン歩いていく。
竜児に頼まれてからやっと動いた北村も、大河への抑止力には成りえずに右の一撃で沈んだ。
・・・・・・最終的にこれ以上暴れると晩飯を抜くと竜児に言い渡され、それで怯んだところを実乃梨が全力で取り押さえ、
亜美が持っていたお菓子を竜児が手ずから与えてやって、やっと大河は動きを止めた。
竜児の手ごと食い千切りそうな勢いでお菓子を平らげ、ふて腐れながら「これでいいでしょ・・・晩ご飯抜いちゃヤだ・・・」と言う大河に、
今も床で咽び泣く春田と気絶している北村以外の全員が安堵していると、感謝のつもりだろうか。
独身が「すごいわ高須くん! 先生、とってもうれしい・・・・・・」とまた竜児に抱きつき・・・・・・
大人しくなる前よりも怒気を撒き散らす大河と、いい加減独身の目に余る行動に我慢できなくなった実乃梨と亜美等の手によって
独身は教室から連れ出され・・・5限目が終わる直前になって戻ってきた。
・・・・・・・・・大河達だけ・・・・・・・・・

結局5限の間に戻ってこなかった独身は、HRには何事も無かったように現れて、普通に挨拶だけしていった。
事情を知らない春田と北村以外の生徒は露骨に安心していたのに対し、大河達はどうという顔もしていなかったが・・・
・・・・・・一体何があったのだろう。
それを疑問に思う者は多くいたが、誰も聞く事はできなかった。
自分達が独身と同じような目に合わされたら、無事に帰ってこれるかどうか分からないから・・・・・・


                              ・
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「能登のやつ、すぐに終わるとか言ってたくせに・・・・・・」

──────放課後──────
既に大半の生徒は帰るか部活に行ってしまい、どの教室にも人気が感じられない。
人が居ないだけで全く雰囲気が異なる廊下を、春田は一人教室───2年C組の教室まで歩いている。
502174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:45:40 ID:PQCTy3by

HR終了後、てっきり竜児を追いかけるものと思っていた能登が、スドバに寄っていこうと春田を誘った。
しかも能登の奢りという。
速攻でOKを出した春田に『やる事があるから』と、校門で能登が来るのを待っていた春田だったが・・・・・・
いつまで経っても能登がやって来ない。
なんべんもケータイにかけてみても、呼び出し音が鳴るばかりで能登は出ない。

「いつまで待たせんだよ・・・・・・」

痺れを切らせた春田は、多分教室に行けば能登が居るだろうと当たりをつけて呼びに来たのだ。

「ったくよー・・・これでやっぱり奢りじゃないとか言われたらどうすりゃ・・・・・・あん? 声?」

ブツブツと文句を言っている内に、教室は目と鼻の先という所まで歩いていた春田だったが、突然その歩みが止まった。
能登くらいしか残ってないだろうと思っていた教室内から、人の・・・男と女の声が聞こえてきたから。

(誰も居ないはずの教室に男と女が二人で・・・男の方は能登だよな? ・・・まさかあの野郎、俺に奢る約束も忘れて・・・・・・!)

声だけで男の方を能登だと判断した春田は、能登が自分との約束をすっぽかして女と・・・・・・
そう考えて、なるべく音を立てないように教室まで近づいていき、戸を少しだけ開けて中を覗く。
もし本当に能登が誰かと乳繰り合っていたら、それはそれで気まずいし・・・・・・
普通に女子と談笑してるだけなら、そのまま引きずっていこう。こんな時間まで待たせやがって、と。
そのつもりで中を覗いた春田だったが・・・

(・・・・・・眩し・・・何してんだあいつ?)

春田の目に最初に入ってきたのは、窓から入ってきた夕日と、次いで座っている女子と・・・・・・
その女子の前に正座させられている能登という、春田が考えていたような物とはかけ離れた物だった。
まさか本当に能登が女子と・・・・・・と思っていた訳では無いが、別の意味で信じられない物を見てしまった春田は教室に入ることも
忘れてポカーンと中を見ている事しかできない。
そんな春田が覗いていると、正座したままの能登は椅子に座って自分を見下ろしている女子に向かって口を開いた。

「あの・・・・・・時間も時間だし、俺も人を待たせてるんで・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「えーっと・・・だから、か、帰っても・・・・・・」

「・・・・・・そうねぇ」

逆光でよく見えないが、その女子は考えるような仕草をした後、机の上に手を伸ばして何かを取った。
どうやらノートみたいだ。
この時点で春田の頭にとてつもなく嫌な予感が・・・・・・
これ以上見ているのはマズイ、今すぐ逃げたい・・・だが、どういう訳か目を離せない。

手に取ったノートをペラペラと捲っていき・・・目当てのページを見つけると、女子はじっとそれに目を通していく。
まだ顔は分からないが、それでも段々と目が慣れてきた春田は、そのノートがさっきまで能登が持ち歩いていた・・・・・・
竜児の行動が端から端までビッチリ書き込まれているあのノートだと完全に確信する。
能登が言っていた用とは、目の前の女子にあのノートを渡す事だったようだ。

「・・・・・・今日もご苦労さま、能登くん。いつも助かるわ」

「じゃ、じゃあ今日はもう」

「だけど・・・・・・うふふ・・・・・・」
503174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:47:15 ID:PQCTy3by

女子はノートを能登に向けて見せると、ある部分を指差す。

「・・・・・・この間は生徒会の書記さん・・・その前は家庭科部の部長・・・もっと前はスーパーのパートさん・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「不思議ね・・・あんなに恐い顔してるのに・・・今度は下級生にソフト部のマネージャー・・・・・・それに麻耶まで・・・・・・
 あたしもメイド服着て、『先輩、これどうぞ』ってタオルでも渡してみようかしら・・・ギャルメイクで」

「それはちょっと・・・」

(それどんなイメクラだよ・・・・・・行った事ないけど)

想像してみる春田だが、あまりのミスマッチぶりに思わず噴出しそうになって慌てて口元を押さえる。
能登も似たようなものを想像したのか、声が少し震えている。
そんな二人に反して意外と乗り気だったのか、女子は能登に向かって「そぉ?」とだけ言うと、また黙ってしまった。

時間だけが過ぎる中、長時間正座の姿勢を強いられて限界を迎えたのだろうか。
体を揺すりだした能登が、さっきから黙ってしまっている女子に対して再度尋ねる。

「お、俺もう帰ってもいいか? ていうか帰りたいんだけど・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・?」

(・・・・・・・・・なんだ?)

女子は無言のまま立ち上がると、能登に背を向けて窓際まで歩いていき、
丁度真ん中の窓に手を添えると、能登の問いには答えずに逆に問いかける。

「・・・・・・ねぇ、能登くんに高須くんのことお願いするようになって、どれくらいになるかしら」

「・・・一月か、一月半か・・・・・・二ヶ月は経ってないはずだけど」

「そぅ・・・その間、そのノートにあたしの名前を書いたことは・・・ある?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・そぅ・・・・・・」

どうやら能登は一月半前には、竜児を追っかけてはあのノートに竜児の行動を記していたようである。
しかもあのノート・・・竜児の女性関係を綴ったノートに、おそらくはノートを渡しただろう女子の名前は入っていないようだ。
足の痺れであれだけ震えていた能登が、更にガタガタと震えて黙っている事からも分かる。
それはとてもよろしくない事なのだろう。

そもそも、週一のペースであのノートを持ち帰ってる目の前の女子が、ノートの内容を知らないはずが無い。
それでもわざわざ聞いてくるとなると、ひょっとして自分に責があると言われるんじゃ・・・・・・
そんな能登の思考が伝わったのか、クスリと笑った女子は安心させるように、優しい口調で能登に話しかけた。

「べつに能登くんのせいじゃないんだから、気にしなくていいのよ・・・・・・
 やっぱり、あたしからも行かなきゃだめよね・・・待ってるだけじゃ、麻耶にも置いてかれそうだもの」

「そんな事は・・・木原は北村の事が」

「うぅん、それだけじゃない・・・タイガーも櫛枝も亜美ちゃんも、どんどん高須くんを追い詰めてるし・・・
 さっきの人達以外にも、まだいるかもしれないし・・・独身だって怪しいのよ? 目つきで分かるし、今日だってあんなに・・・」
504174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:48:59 ID:PQCTy3by

指折り数えて、竜児を狙ってると思われる人物を挙げていく女子・・・・・・
興奮しているのか、能登のかける声を無視しているのにも気付かないでいる。
そしてとうとう・・・・・・

「・・・・・・決めたわ。明日、タイガーが高須くんにお弁当作ってくるんでしょう・・・?
 あたしも作ってくるわ、お弁当。喜んでくれるかな・・・・・・高須くん・・・・・・」

振り返った女子。
能登は元より、逆光の中でも十分に目の慣れた春田にも、今度はしっかりとその顔が見えた。

「だけど、奈々子さ」

「奈々子様ァッ!?」

「なっ!? ・・・・・・は、春田ぁっ!?」

「あ・・・ヤベ・・・・・・」

「・・・・・・あら・・・・・・」

───能登に竜児の行動を監視させていたのは、能登と春田同様、学生生活の殆どを木原麻耶と一緒に過ごす生徒・・・・・・

香椎奈々子だった。

奈々子はうかつにも声を出してしまった春田に気付くと、能登に『おねがい』して春田を捕まえさせた。
必死に逃げようとしていた春田だったが、『おねがい』されただけにも関わらず死に物狂いで追いかけてくる能登の手によって、
あともう少しで外という所で捕まってしまった。
・・・・・・たとえ家に逃げ帰る事が出来たとしても、能登は春田を無理やりにでも教室に連れ戻していたことだろう。
それくらいはしそうな顔をしていた。

「俺だってこんな事したくねぇんだよ・・・だけど頼むよ、俺を助けると思って・・・な? 俺達、友達だろ?」

「いやだあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」

教室に辿り着くまで、春田の絶叫が止むことは無かった・・・・・・・・・

「うふふ・・・・・・春田くん、覗き見はいけないわよ。えっちなんだから」

「・・・・・・高っちゃんにするのはいいのか?」

「まぁ・・・・・・能登くんったら、喋っちゃったのね・・・クスクスクス・・・やぁね、もぅ・・・」

教室まで連れ戻された春田に、開口一番にそう言う奈々子。
春田の、聞き様によっては舐めたような返答にも心底楽しそうな顔をしている。機嫌も良いのか時折含み笑いまでしている。
対照的に、能登の顔は引き攣りすぎてえらい事になっている・・・
今頃になって春田を連れ回すんじゃなかったと後悔しても、後の祭りだというのに。

「・・・・・・仕方なかったんだ。こいつが勝手に付いてきて、だから仕方なく・・・・・・」

「あら、いいのよ? 怒ってる訳じゃないの。ただ、ちょっとビックリしちゃって・・・ねぇ春田くん」

「な、なんだよ・・・い、痛くしないで・・・・・・」

「ふふ・・・そんなに恐がらないで。ヒドいことなんてするつもりないわ・・・ちょっとこれ見てくれる?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
505174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:49:49 ID:PQCTy3by

無理やり椅子に座らせられている春田に、奈々子はゆっくりと近づいていき、一冊の・・・例のノートを見せつける。
何をされるか内心ビビリまくりの春田が待ってると、奈々子はそのノートをパラパラと捲っていく。
意味が分からずに交互に奈々子とノートを見ている春田に、後ろで春田を押さえつけている能登が説明を入れた。

「・・・そのノートが高須の素行調査っていうか・・・お前にも分かるように言うと、観察日記だって事は分かるよな?」

「そりゃあ、まぁ・・・・・・それが何だよ」

実際には観察よりも監視日記みたいなものだろう。もしくは、浮気調査の報告書。
さしづめ奈々子は、浮気性の夫である竜児を、能登を興信所の所員に仕立てて見張らせてるようなものだろうか。

「・・・・・・それを書いてんのが俺だって事も、ちゃんと分かるよな?」

「だから、それが何なんだよ・・・・・・」

変な事を言う能登だ。そんなの、今日の昼休みだけで嫌というほど知っているのに。
春田がそう思っていると、『パン』っとノートを閉じて、奈々子が春田に告げる。

「春田くんには、能登くんのお手伝いを頼みたいの」

「・・・・・・はぁ・・・」

訳が分からず、生返事した次の瞬間

「・・・はあぁぁぁぁっ!? なんで俺が!?」

当然拒否しようとする春田・・・・・・あの一時間少々の尾行でも、今もって回復しきれない疲労とストレスを味あわされている。
この上、あんな光景を毎日見て、それを詳細に記録していくなんてマネ絶対にしたくない。

「だって・・・能登くんたらずっと『辞めたい』『辞めたい』って言うんだもの・・・・・・だけど、辞めてもらう訳にいかなくって」

「だからって、何で俺がそんな・・・・・・」

「ちょ、ちょっと・・・俺もそんな風には・・・ただ、そろそろ高須にも申し訳ないしって・・・・・・」

「だからね・・・二人一緒ならその分負担も少なくて済むでしょう? 春田くん、お願いできないかしら・・・・・・?」

申し訳無さそうな顔をしていながら、言っている事は激しく一方通行である。
それでも、女の子の頼み事に何かしらの見返りがあるかも・・・と心が揺さぶられそうになる春田だったが、これはさすがに度が過ぎている。
もしかしなくても犯罪だし、昨今のプライバシーを守り、それを違反した者への風当たりの強さは尋常じゃない。
もし誰かにバレたりしたら・・・残りの高校生活を、まさか男をストーカーした男というレッテルを貼られて過ごすのか?
『お〜い、掘る田!』と、掘った訳でも掘られた訳でも無いのに、不愉快以外の何物でもないあだ名で呼ばれるんじゃないか?

「い、いやだ・・・掘る田はいやだぁ・・・・・・」

「お、おい・・・急にどうしたんだよ春田」

「・・・・・・俺は絶対にいやだ・・・何が楽しくて高っちゃんをストーキングしなくちゃいけないんだよ・・・」

そう答える春田の声は、既に涙混じりの物に・・・・・・よっぽど掘る田というあだ名が我慢できなかったようだ。
そうでなくても男をつけるなんて事、春田には何の面白味もやり甲斐も感じられそうに・・・いや、感じられなかったというのに。

断固拒否の姿勢を貫こうとしている春田を、この場に似つかわしくない穏やかな笑みで見ていた奈々子が
制服のポケットに手を入れてケータイを取り出した。
「まさか仲間でも呼ばれて、ホントに掘る田にされちまうんじゃ・・・」と怯える春田に、ケータイを操作しながら奈々子が語りかける。
506174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:50:37 ID:PQCTy3by

「ねぇ、春田くん・・・・・・どうしてもお手伝いしてくれない? どうしても?」

「そ、そんな目で見たって、俺は絶対にやらないからな・・・・・・この事は誰にも話さないから、もう勘弁してくれよ・・・」

「・・・・・・そぅ・・・・・・残念ね」

「へ?」

諦めた・・・・・・?
驚くほどあっさりした奈々子の反応に、このまま帰れるかもしれないと思った春田だが、その希望は瞬く間に絶望に変わる。

「・・・・・・能登くんも最初は今の春田くんみたいに・・・うぅん、もっと意固地だったわ」

「は?」

「ちょっちょっと・・・・・・」

「だけど、何度も何度もお願いしたらね、最後には折れてくれて・・・感謝してもしきれないわね、能登くんには・・・あ、あった」

何を言ってるのか分からない春田と、何か思い当たる節がある能登に、奈々子は持っていたケータイを見せる。
反射的に画面を見る春田と、そのケータイを何とかして奪おうと能登が手を伸ばした瞬間、画面上にある動画が再生された。

『ジジ・・・あ〜・・・やっぱ亜美ちゃん、良い匂いしてるなぁ・・・・・・俺もう死んでもいいかも』

・・・・・・奈々子のケータイの画面には、能登だろうか? 倍率を上げて録画したためかかなり画質が荒いが、それでも大体は分かる。
そこには、メガネを掛けた変態が椅子・・・十中八九亜美のだろう椅子に顔を擦り付けて悦に入っている映像が映し出されていた。

「これ、いつだったかしら・・・もう大分前に、たまたま忘れ物取りに戻ってきたら偶然居合わせちゃって・・・ビックリして撮っちゃった」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

一々白々しいフレーズを織り交ぜながら、奈々子が独り言のように言っている。
見ているのがいたたまれなくなり、最後まで見ずに春田は顔を背けているのに、それでも能登の消し去りたい過去を
映し続ける奈々子のケータイ・・・・・・
ようやく若気の至りムービーが終了すると、妙な間を入れてから春田が口を開いた。

「・・・・・・能登・・・・・・お前、何であんな事・・・・・・」

「言うな、聞くな・・・俺を見ないでくれ・・・・・・あの時は本当に魔が差したんだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

日頃真面目とまではいかないまでも、それなりに普通の学生で、友達だと思っていたクラスメートの痛すぎる性癖に言葉を失う春田・・・・・・
能登はもう羞恥から顔を真っ赤にしている・・・もしそこに穴があったら、一生引き篭もる覚悟で入るかもしれない。

『ジジ・・・だけど木原も捨てがたい・・・・・・誰もいないよな・・・・・・『ヂィィィィィ』・・・・・・・・・』

「なぁに、最後の『ヂィィィィィ』って音?」

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「痛っ! いだだだだ! 能登、指! 指が食い込んでるって! 目があぁ〜〜〜!!」
507174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:51:24 ID:PQCTy3by

再度奈々子がケータイを操作すると、さっきの物とは違う動画が再生された。
不意打ち気味に春田と能登の目に飛び込んできたのは、別の椅子に顔を擦り付けているメガネがズボンに手をかけ・・・・・・
能登はそれ以上先を春田に見せるのを許さず、手で春田の目を覆うと耳元で絶叫する。
それでも一瞬ナニをしてるか見てしまった春田だったが、その後何度も「見たろ」と尋ねてくる能登を、
これ以上泣かさないために「見ていない」とシラを切り通した。

「・・・・・・春田くん、お願い・・・ちょっとでいいの、ほんのちょっとだけ・・・あたしを助けて」

・・・・・・能登が落ち着くまで待つと、奈々子は笑みを消して、泣きそうな顔になって懇願するように春田に縋る。
肘に当たる柔らかい感触に勝手に口が緩むが、後ろで自分を押さえつけている悲惨な男が自分の末路だと考えると、
どうしても首を縦に振る訳にはいかない。
あんなのごめんだ。
春田はもげそうな勢いで首を横に振る。

「・・・・・・そぅ・・・・・・もぅ、本当に残念だわ」

「・・・・・・もういいだろ・・・ここで見た事なんか誰にも言わないから、だから俺を」

『ジジ・・・・・・』

帰してくれ・・・そう続けようとした春田のセリフは、奈々子のケータイから流れてくる音によって遮られた。
あれより酷い能登の醜態なんかあるのかよ・・・・・・元より見る気の起きない春田は顔を逸らしていたが、
ケータイからは能登の醜態よりも、もっと意外な映像が映し出された。

『ジジ・・・・・・すぅぅぅ・・・むっはー、亜美た〜ん! ・・・・・・たまんねー!!』

「・・・・・・うぇ!?」

「げ・・・・・・」

「うふふ」

てっきり能登の人生の汚点トップ3の、いよいよ三つ目が流れると思っていた春田は、
ケータイから聞こえる声が能登のものではないと分かるとチラリと目を向けて見てみる。
そこには、能登の代わりに見覚えがありすぎる髪型をした男が・・・・・・

『俺もう死んでもいいかもー・・・ここは天国だー・・・『ヂィィィィィ』・・・・・・』

・・・・・・能登の時と同じで大分画質が荒いが、誰が何をしているかはハッキリと分かる。
画面の中では、軽薄そうなロン毛をした変態がスカート・・・十中八九亜美の物だろうスカートに顔を押し付けてるシーンが映っていた。

「これは割と最近なんだけど、体育の授業中に忘れ物取りに来たら偶然ね・・・・・・
 春田くんも大胆よね、更衣室に忍び込んじゃうなんて・・・もぅ、本当にえっちね」

「春田・・・・・・」

「ち、違うんだ・・・これは何かの間違いだって・・・・・・お、俺じゃないからな! それでも俺はやってねぇんだって!」

またも白々しい説明を入れる奈々子と、春田を押さえつける事も忘れて同情する能登・・・・・・
今一番春田の気持ちを分かってやれるのは能登だけだろう。
そして証拠を突きつけられながらも、それを認めようとしないで言い訳を繰り返す春田・・・・・・
この期に及んで、まだ言い逃れできると信じているのか?

数分後・・・・・・言い訳も尽きて黙りこくってしまった春田に頃合だと判断して、奈々子は最後の確認を取りにきた。

「あのね、春田くん・・・・・・あたしのこと・・・助けてくれる?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
508174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:52:26 ID:PQCTy3by

力なく首を横に振る春田。
ここまで来ると、もはや意地や損得勘定よりも反射で首を振っているだけだろう。
それほどまでに春田は追い詰められている。

そして奈々子は、既に十分追い詰められている春田にダメ押しとばかりに追い討ちをかけた。

「・・・・・・この後も撮っちゃったんだけど・・・春田くん、まだ見たいのかしら?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「じゃあ、再生するわね」

「・・・・・・やめてくれ・・・・・・いや、やめてください・・・・・・」

「・・・能登くんもそうだったんだけど、『ヂィィィィィ』って音はなんなのかしらねぇ。今度亜美ちゃんに聞いてみようかな」

「やめて・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・俺は能登の手伝いでいいんだよな? 他に何もしなくていいんだよな?」

「えぇ、もちろん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ガクン・・・・・・

・・・・・・ついに・・・春田は首を縦に振ってしまった・・・・・・
能登の様子を見ていればそんな約束、紙よりも薄っぺらいものだって分かりきっているのに・・・
これ以上の恥辱に耐えられなかったのだろう・・・分かってて、それでも奈々子の『おねがい』を春田は聞いてしまった。
きっと能登もこの手で落ちたに違いない。

奈々子はお礼とばかりに春田に抱きつくと、耳元に優しく息を吹きかける。
久しぶりに背中に走った悪寒以外の何かに春田が驚いていると、抱きついたままの体勢で奈々子は呟いた。

「ありがとう、春田くん。本当に嬉しいわ・・・・・・これからもよろしくね」


                              ・
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「うふふふ・・・今日はいい事があったわ・・・・・・だけど」

───あれから・・・・・・
うな垂れる春田を連れた能登は、奈々子に帰る旨を伝えて教室から出て行った。
一人残った奈々子は、椅子に座りながら何度も読み返したノートをまだ見ている。

「・・・・・・今日もなのね・・・・・・」

はぁ・・・・・・と。
指を文字の上で滑らせながら、溜め息を吐いた奈々子は落胆の色を顔に浮かべる。
いくら読み返しても、どのページを開いても、このノートに奈々子の名前は書かれていない。
・・・・・・竜児と奈々子の間に、何かがあった訳ではないから。
509174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:54:22 ID:PQCTy3by

能登に竜児の行動を見張らせて一月以上・・・・・・その間・・・・・・
大河はまるで甘える子猫のようにベッタリと竜児に張り付き・・・・・・
今まで以上に実乃梨は竜児と一緒の時は明るく笑い・・・・・・
亜美は竜児の前では素とも、外面とも違う顔を見せ・・・・・・
それ以外にも、学校の内外を問わず竜児は何かと女性と接点を持っているのに。
竜児に露骨に怯えていたあの独身だって、最近は竜児を気にしているというのに。

・・・・・・それなのに・・・・・・

「なんであたしには・・・・・・」

奈々子は制服の胸ポケットから、一冊の手帳を取り出した。
いかにも女の子が使いそうな可愛らしい物ではなく、落ち着いた色合いの、コンパクトな手帳。
一番最初のページを開くと、小さな文字で日付とその日の出来事が簡潔に書いてある。
それこそ穴が開くほど読み返したのに、今朝だって読み返したのに。
奈々子はまた、その数行に目を滑らせる。

『放課後、麻耶と別れて帰っていると後ろから声をかけられた。
 振り返ると、初対面のくせに馴れ馴れしい男達に囲まれた。
 いきなり肩に手を回されて、胸も触られた。
 人を呼ぶと言ったら、酷い事をすると怒鳴られて恐かった。
 
 高須くんが助けてくれた。
 うれしかった。』

「・・・・・・それだけ・・・なのよね・・・・・・」

女の子らしくない簡素な日記だと、奈々子はごちる。
そう見える風にわざと書いたんじゃない、とも。

言ってしまえば、何の事はない。
あの一年生の女子同様、見知らぬ男数人に絡まれていた自分に、ただ通りがかっただけの高須くんが声をかけてくれただけ。

それだけ。

それだけで無理やり自分を連れて行こうとしていた男達はどこかに消えて。
それだけで自分は高須くんに感謝以上の何かを感じてしまっただけ。

それだけ。

奈々子は、あの時の事を思い出す度にそう思う。


                              ・
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────── 一月半前、能登を呼び出して『おねがい』を聞いてもらう少し前──────
一人で歩いていた奈々子に、趣味の悪いアクセサリーをジャラジャラ付けた男達が声をかけた。
表面には嫌悪感を出さないようにしていた奈々子に向かって、その連中は遊びに連れてってやると強引に迫る。
穏便に断り続ける奈々子に、しつこく誘い続ける男達は断りも無くベタベタと奈々子の体を撫で回し、
それに耐えられなくなった奈々子は男達に対して距離を空けると、これ以上しつこいと人を呼ぶと警告した。
途端に態度を急変させた男達は、奈々子が普段耳にしないような罵声を浴びせて脅しをかけた。

助けを呼ぼうにも周りを通り過ぎていく人間はみんな見て見ぬふりを決め込んでおり、誰も奈々子を助けようとはしない。
必死に身を捩じらせて逃げようとしても、男達は奈々子の腕を掴んで離そうとしない。
声も出せず、ただ震えるだけの奈々子を男達が連れ去ろうと歩き始めた時
510174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:55:13 ID:PQCTy3by

「・・・・・・あれ? 香椎か? 香椎だよな?」

ネギやら大根やらが飛び出ている手製のエコバッグを提げた竜児が、覚えの無い連中と一緒に歩いている奈々子に気付いて声をかけた。
自分に声をかけてきたのが竜児だと最初は分からなかった奈々子だったが、俯けていた顔を上げて竜児と目が合うと
掴まれていた腕に痛みが走るのも構わず無理やり振りほどいて、駆け足で竜児の背中に隠れる。
奈々子に絡んでいた連中は最初こそ声を張り上げて竜児を襲おうとしていたが、
仲間の一人が、相手があの『ヤンキー高須』である事に気付いて逃げ出した事と、
ただ目を細めただけのつもりだった竜児のメンチに、他の連中も恐れをなして逃げ出してしまった。

「何だったんだ、あいつら・・・・・・何かあったのか?」

「・・・っ・・・・・・っ・・・っ・・・・・・・・・っ・・・・・・っ・・・・・・」

竜児が首だけ後ろに向けると、背中にしがみ付いたまま、奈々子は浅い呼吸を繰り返して苦しそうにしている。
心配した竜児が事情を聞こうと振り返ったら、奈々子は男達が去っていった事に今気付いたらしい。
辺りをキョロキョロと見回して、ここに居るのが竜児だけだと分かるとその場でポロポロと泣き出してしまった。

「・・・・・・高須くん・・・あた、あたし・・・ひっ・・・・・・あたし・・・・・・あの人達が、いきなり・・・・・・」

「・・・・・・あいつらならどっか行っちまったから、もう心配ねぇよ」

「周りの・・・人も、何もしてくれなくて・・・ぐす・・・・・・大声で脅かされて・・・っく・・・恐かった・・・恐かったのぉ・・・・・・」

「だから、ここには俺と香椎だけだからもう大丈夫だって・・・少し落ち着けよ、無理に話さなくていいから」

「うん・・・うん・・・・・・」

竜児に何があったか説明しようとしても、頭が上手く回らない。嗚咽も止まない。
知らない男に体を触られ、大声で罵倒され、助けを求めて周りに目をやっても見てみぬふりをされ、
奈々子は、今日ほど他人が恐いと思った事はないだろう。

だから、自分を助けてくれて、泣き止むまで傍に居てくれた竜児が奈々子は心の底から嬉しかった。

竜児の格好を見れば、買い物の帰りにたまたま自分を見つけて声をかけた事くらいすぐに分かる。
それが自分をあの連中から助けるためでない事も、あの連中を追い払うために特に竜児が何かした訳ではない事も分かる。
竜児からしてみれば、声をかけたクラスメートに群がっていた連中が、自分を見て勝手に逃げていった。
その程度にしか考えていない事も、なんとなく分かる。

それでも奈々子には十分すぎるほど嬉しかったし、竜児が泣いている自分にあれこれと気を遣ってくれる度に
胸の中に暖かい何かを感じた。

「・・・・・・ぁ・・・ありがとう・・・高須くん・・・・・・」


                              ・
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───結局あの後自宅まで送ってくれた竜児に、奈々子は『ありがとう』や『ごめんなさい』くらいしか言えなかった。
言いたい事がいっぱいありすぎて、何から言えばいいか分からなくて・・・・・・
それに子供みたいに泣いていた自分が恥ずかしくって、奈々子は送ってくれてる間も、家に着いて挨拶を交わしている時も、
竜児に言いたかった事はほとんど言えずに、その日はそのまま別れてしまった。

あれだけ恐い目にあったにも関わらず、何のお礼もできないまま竜児を帰してしまった後悔が奈々子の頭一杯に広がる。
511174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:56:12 ID:PQCTy3by

───ドコかでお茶でも・・・そうだ、家に上がってもらって夕飯をご馳走したら・・・あ、あんな時間から作ってたんじゃ待たせちゃうかしら・・・
それに高須くんも夕飯の買い物してたみたいだし・・・迷惑だって思われたらヤだな・・・・・・パパにもなんて言えば・・・・・・
・・・なんであのままさよならしちゃったんだろう・・・助けてもらったのにお礼もしないで、薄情な女だって思われちゃったらどうしよう・・・
だけど、もし『家に上がってかない? お礼がしたいの』って言えて、高須くんもOKしてくれたら・・・・・・───

制服のままなのも気にしないで、ベッドにもぐり込んだ奈々子は後悔とも妄想ともつかない考えに耽る。
頭の中で作った展開に落ち込んだり期待したりを繰り返していると、よっぽど疲れていたのか、奈々子はそのまま眠ってしまっていた。
翌日のまだ早い時間、目が覚めた奈々子はいつも通りの自分の部屋、いつも通りの朝に一瞬『昨日あった事は夢なんじゃ』そう思うが

「夢だったら・・・こんな気持ちにならないわよね・・・・・・」

腕に走る痛みよりも、胸一杯に広がる感情に、奈々子は『あれは夢ではない』と・・・そう思い直した。

ベッドから起き出た奈々子は、制服の胸ポケットに入れっぱなしだった手帳を取り出す。
父親が高校の入学祝に贈ってくれたそれは、奈々子の趣味と全然合わない訳ではないが、女の子が使うにはちょっと地味だ。
学校ではちゃんとそれ用の、麻耶とお揃いで買った手帳を持っていって使っている。
この手帳は、贈ってくれた父親には悪いが奈々子は持ち歩いているだけで、使ったことはない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

だけど、今日使おう。
奈々子はそう決めて、わざと素っ気無い風を装って昨日の出来事をその手帳に記す。
いつも持ち歩いている手帳だから。
あのゴテゴテした麻耶とお揃いの手帳よりもずっと小さくて、肌身離さず持っていられるから。
きっと今日以外は、使わないままの手帳だから。
・・・・・・いや・・・・・・

これからは、竜児との間にあった事をこの手帳に書くようにしよう。

「ふふ・・・・・・そうね、その方が・・・・・・うん・・・・・・」

奈々子は気恥ずかしくって入れられなかった文字を、書き終わったはずの文章に付け加える。

───うれしかった───

今度こそ書き終えた奈々子は、昨日そのまま寝てしまったために浴び忘れたシャワーを浴びに部屋を出て行った。
いろいろと大変だったとはいえ夕食の用意もしないで、父親にも可哀想な事をした。
それに他にも・・・・・・高須くんにお礼だって・・・・・・

ブツブツとそんな事を言っている奈々子の顔が、まだシャワーを浴びてもいないのに真っ赤になっていた事は誰も知らない。
鐘のように胸を高鳴らせていた、奈々子以外は・・・・・・・・・


                              ・
                              ・
                              ・


「・・・・・・あたしも、ちゃんとお礼の約束するんだったわ・・・・・・」

パタン、と。
奈々子は手帳を閉じると、また胸ポケットにしまっておく。
これがないと、最近は何だか寂しい気すらする。
奈々子には無くてはならない、大事な手帳だ。
512174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:57:00 ID:PQCTy3by

あの日、竜児が奈々子を助けた翌日・・・
どんな顔をしたらいいか、何て言ってお礼の事を切り出そうか・・・緊張しながら竜児に声をかけようとしていた奈々子だったが・・・
奈々子が竜児に声をかける事はなかった。
大河達が代わる代わる竜児と話してて、『高須くん、昨日はありがとう。お礼がしたいんだけど・・・』なんて言えるタイミングが無く、
竜児は竜児で嫌な事なんて早目に忘れた方が良いと思っていたのか、奈々子が近くに来てもあの時の事には触れないでいたために
その日は竜児と話す事ができず・・・・・・
あれから一月半以上も経つ今になっても、奈々子はあの時のお礼どころか特に竜児との間を進展させた訳でもない。

伝えたい想いと、焦りばかりが奈々子の胸に募っていくのに。

「・・・・・・そろそろ帰らないと・・・・・・」

気がつくと、辺りは真っ暗だ。
既に部活動で残っていた生徒も帰ってしまっている。
さすがに残りすぎてしまった。早く帰って夕飯の支度をしないと・・・・・・
バッグを手に取り、次いで竜児の事が書いてあるあのノートに手を翳すと、そこで手が止まる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

このノートを見る度に、竜児が自分以外の女の子と仲良くなっているのを見せつけられてるようで嫌な気分になる。
・・・・・・自分の名前は、まだ入ってないから。
最初は竜児の趣味や好みを知りたくって、それだけで能登に『おねがい』して後をつけてもらい、竜児が誰とどんな事をしたかを
調べてもらって・・・そこからどんな風に竜児に接すればいいか考えようとしていただけだったのに。
いつの間にか、このノートは奈々子が考えていたような使い方はされなくなった。

能登に『おねがい』する前から大河、実乃梨、亜美・・・・・・
竜児と親しくしている女の子の名前は頻繁にノートに出てくるだろう事は予想していたが、
竜児は上級生、同級生、下級生でのグランドスラムを早々に達成し、更には担任の女教師や行きつけのスーパーの店員・・・・・・
これは能登が直接調べた訳ではなく、噂を拾ってきたのだが・・・あろう事か母親やペットのインコまで。
母親やペットを抜かしても、竜児はかなりの数の女性から好意を抱かれ、更には大河達から日々苛烈とも言えるモーションをかけられている。
不思議な事に、竜児自身は滅多にその手の好意に気がつく事がないのが奈々子にとっては幸いだったが。

性別が雌なら歳も種族も関係なしに、竜児に好意を持っている人物と、竜児が好意を持たれた原因が
このノートには事細かく記されている。
たまにメガネをかけたソフトマッチョの裸族も何らかのイベントを起こすが、奈々子の方から『男子は数えなくていいのよ』と・・・
以前間違ってカウントしてしまった能登にそう注意しているから、今は野郎との事はノートに書かれていない。

・・・・・・ともかく、日々女の子の名前と、竜児にかけられるアタックの内容が増えていくこのノートに、奈々子の名前が書かれた事はない。

「・・・・・・嫌な女の子・・・・・・」

人を使ってこんな物を書かせているくせに、その事に不満を感じている自分を、奈々子はそう思っている。
竜児の好みを知るために、いけない事と分かりつつも・・・・・・・・・
そのつもりだったのに、能登から渡されるノートの中では自分以外の女の子が竜児との仲を進めていく。
その事に嫉妬している自分に、奈々子は『卑怯者の嫌な女』という評価を下している。

今日だって、ついこの間自分と全く同じシチュエーションで竜児に助けられた下級生の女子が
自分よりも先に歩を進めた事が我慢できなくなり、それで能登に八つ当たりして正座を強要させていた。
覗いていた春田を責める資格なんて無いのに、能登同様たまたま撮っていた彼等の恥ずかしい動画を使って、
自分の言う事を聞けと脅迫した。
亜美がいなかったら、階段から落ちていった竜児を見て泣いていたかもしれない。原因を作った麻耶に手を上げていたかもしれない。

独りよがりで卑怯者で最悪な、惨めな女・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

いつだって、やりすぎている自覚はあった。
それに伴う罪悪感は、日増しに大きくなっていくのに・・・・・・
513174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:58:10 ID:PQCTy3by

それでも、竜児の事を想うと、どうしても止められなくって。
助けてくれて、心配して傍にいてくれて・・・そんな竜児の事が忘れられなくて。
悩んで悩んで、眠れないくらい悩んで・・・きっと自分はどこか壊れてしまったんだと思ってしまうくらい悩んで。
悩み抜いた末に、奈々子は放課後の教室に能登を呼び出して、あの動画を見せた。
額に脂汗をビッシリ掻きながら、財布を手に自分が言った『おねがい』を聞いていた時の能登の顔は今でも覚えている。
あのときから、もう止まる訳にはいかなくなった。
・・・・・・止まるのは竜児と関係を持った時と、持てなくなったって諦めた時だけ。
奈々子はそう決めて、能登にあのノートを渡したのだ。

「ほんと、嫌な女の子」

───いいじゃない、嫌な女の子で・・・・・・今だけは、嫌な女の子のままじゃないと他の娘に追いつけない。
追いつけなかったら・・・そんなの嫌よ・・・・・・亜美ちゃんには悪いけど、あたしだって引けないの。
女の子にも、意地があるんだから。
・・・・・・女の子にしかない意地だって、きっとあるんだから。
他の娘に負けたくない。
・・・・・・うぅん、そんな小さな事よりも・・・なによりも

高須くんがいい・・・高須くん以外はイヤなの・・・高須くんだけは・・・高須くんと、もっと一緒に・・・高須くんとどうしても・・・・・・

高須くんじゃなきゃ、もうあたしはダメみたいだから。
高須くんじゃなくっちゃ、ダメにされちゃったんだもの。
高須くんの傍にいられるようにするには、酷いやり方でもなんでもしなきゃ、誰かに先を越されちゃう・・・・・・
いや・・・ヤだ・・・絶対に嫌。
身勝手だってなんだって、今はこうやって高須くんと他の娘の情報を握らなきゃなにもできないもの・・・そういう所が、卑怯よね───

「本当に勝手なんだから・・・能登くんと春田くんにはしっかり謝って、ちゃんとお礼するだけでいいでしょって・・・・・・
 こんな風に考えてるなんて知られたら、怒られちゃうわね・・・・・・」

───謝って許される事じゃないけど、いつかあの二人にはしっかり謝らなくっちゃ・・・
能登くんには随分無理させてきたし、春田くんだってそう・・・もう嫌われてるかもしれないけど・・・その時はその時で頭を下げましょ。
その『いつか』は、できるなら高須くんの隣に居られるようになってからがいいな・・・そうでなきゃ、全部徒労に終わっちゃう。
そんなのは・・・・・・ヤだな・・・・・・───

「結局・・・これに頼っちゃうのに、二人のことは蔑ろにしてるんだから・・・・・・あんまりよね、それじゃあ。
 ・・・・・・高須くんにさえ嫌われなければ、それでいいだなんて考えて・・・・・・ほんと、嫌な女の子・・・・・・」

───このノートは、今のあたしと高須くんを繋いでくれるたった一つの物だから・・・・・・
このノートにあたしの名前が入るまでちゃんと待ってよう。
あたしが勝手にそう思ってて、そう決めてるだけだけど・・・そう思った方が、がんばれそうだから。
他の娘の名前が先に書かれても、タイガー達のあの過激なアプローチが追加されようと
・・・・・・それで嫉妬したって、持っていようよ。
わがまま聞いてくれて、いつも頑張ってくれてる能登くんにも申し訳ないしね───
514174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:58:56 ID:PQCTy3by

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ガサガサとバッグにノートを突っ込むと、奈々子は既に真っ暗になっている教室から出た。
いつ見回りが来てもおかしくない。
足音を立てないように校舎から出ると、街灯で照らされた道を一人で歩く。
他には誰も見当たらない、無機質な明かりだけがポツポツと照らしてるだけの道を。
幾度目かの街灯を横切った時、ふと思った。

───街灯なんかなくったって、高須くんが傍にいてくれればいいんだけど───

自分でも脈絡もなにもあったもんじゃないと、自然と苦笑が漏れる。
もうちょっと考えれば、なにか・・・・・・

───高須くんさえ傍にいてくれたら、他になにもいらないのに───

「・・・・・・いいかも・・・・・・ふふ」

街灯一つから随分と突飛な考えになったものだと、今度はクスクス笑ってしまった。
満更でもないと思っている自分に気付くと、奈々子は誰もいないのに赤くなった顔を隠す。
それでも、さっきよりは心が軽くなった気がする。
何か良い事が起きそうな、そんな予感さえしてくる。
・・・・・・そういえば、明日は大河が竜児にお弁当を作ってくると言っていた。
自分も対抗して作ってくると、能登相手に宣言したし・・・・・・
奈々子は瞬時に頭を切り替えて、明日の事に想いを馳せる。
二番煎じだし、大河が邪魔してくるかもしれないし、そもそも受け取ってくれなかったらどうしよう・・・・・・
そんな後ろ向きな考えが、いくつも浮かんでは消えていく。

だけど、ただ一言『おいしい』と言ってくれる竜児を想像したら

「・・・・・・明日のお弁当、なに作ろうかしら・・・なるべく高須くんの好きそうな物を・・・・・・」

ズルだけど、これ見て決めよ。
奈々子はバッグ越しに、中に入ってるノートを見るとそう呟く。
あの一年生は勿論、大河・・・・・・いや、他の誰の作ったお弁当よりも、おいしいって思ってもらうお弁当にしよう。
味にはうるさい竜児を唸らせる事ができたら、少しは近づく事ができるかもしれない・・・と、そう思いながら
奈々子は家に帰るまでの道すがら、どんなお弁当なら竜児が喜んでくれるかを考えていた。

「・・・・・・・・・高須くん、喜んでくれるかしら・・・喜んでくれるといいな・・・・・・・・・」

───あのノートだけじゃなくって・・・・・・この手帳にも、もっと沢山書きたいしね───

ぎゅっと。
制服の上から、まだ一ページしか書かれていない、女の子が使うには少し地味な手帳を押さえながら。
515174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 13:59:49 ID:PQCTy3by


                              ・
                              ・
                              ・


「・・・・・・・・・・・・・・・なぁ」

「・・・・・・・・・・・・・・・なんだよ」

「・・・・・・亜美ちゃん、どんな匂いしてた?」

「そんなの、直にスカートに顔くっ付けてたお前が聞くのか・・・・・・?」

「・・・・・・だな・・・あ〜、それにしてもよー・・・・・・」

「今度はなんだよ」

「・・・・・・俺ら二人して・・・あれだよ、あんな事してさ・・・バッチリケータイにまで撮られてて・・・しかも気付かないとか、本当にアホだよな」

「お前と一緒にすんじゃ・・・いや・・・一緒だな・・・・・・確かにアホだよなー、俺もお前も・・・・・・」

「だろ? ・・・・・・それとさー・・・・・・」

「なぁ、いい加減にしろよ。さっきっからアホな事ばっか言って」

「・・・・・・奈々子様ってさ・・・なんかご褒美くれたりしねーの?」

「・・・・・・差し入れは何度かあった。クッキーとか、他にも手作りっぽいもんを・・・きっと高須にあげる練習でもしてたんだろうな・・・
 それ考えると泣けてきたけど、味は全然うまかった」

「・・・・・・がんばればパンツとか」

「もう帰ってくれよ、この変態」

「はぁっ!? ひ、酷くね!? 俺が変態なら、能登だって変態じゃんか! 椅子なんかに顔擦り付けて!」

「そ、その事は言うなよ・・・・・・それに俺なんかより、よっぽど春田の方が変態だろ!
 更衣室にまで忍び込みやがって・・・・・・言え、あそこは一体どんなだったか洗いざらい言え!」

「天国だった・・・・・・つか、そもそも俺は変態じゃないから! 仮に変態だとしても、変態という名の紳士だからな!」

「なに、訳分かんねぇ事を・・・・・・そんな事よりも言え、天国がどんな匂いだったか俺にも教えろ!! 教えてください!」

516174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 14:00:29 ID:PQCTy3by
                              ・
                              ・
                              ・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・おい大河。鍋から煙出てるぞ」

「・・・・・・ふぇ? ・・・・・・あぁ〜!? ・・・焦げてる・・・もう! なんで教えないのよ!」

「何言ってんだ、さっきから声かけてたのに・・・ボーっとしてた大河が悪いんだろ」

「・・・・・・だって・・・なんだかいやな予感がしたのよ。地味な方がなにかしてきそうな・・・・・・それで・・・・・・
 だ、だからお鍋焦がしちゃったのは私のせいじゃ」

「分かったから、早いとこ作り直さねぇと泰子が遅刻しちまうだろ。
 明日の弁当に入れるおかずだって今から作っとけば心配ないし、どうしても弁当作らせろって言ったのは大河じゃねぇか。
 だから今日は晩飯も大河に任せてんのに・・・・・・それでもう二つ目だぞ、鍋焦がしたの」

「今日の晩ご飯は大河ちゃんのお手伝〜い♪やっちゃん楽しみぃ♪」

「ぐ、ぐげげ・・・なべ・・・なべ・・・・・・なべあつ?」

「・・・・・・ぐ・・・わ、分かったわよ! ちゃんとご飯作って、絶対あんたに吠え面かかせてやるんだから。
 私が作ったご飯とお弁当の、そのあまりのおいしさに『女将を呼べぇいっ!』って言うがいいわ・・・そ、それで・・・その後は・・・・・・」

「だから、そんなんじゃまた焦がすって・・・・・・ほら見ろ、言ったそばから・・・・・・」

「・・・・・・ふぇ? ・・・・・・あぁ〜!? ・・・また焦がした・・・い、いいわ・・・何度だってやってやるわよ! 竜児、次のお鍋出してっ!!」

「やっぱり止めときゃよかった・・・何で急に弁当なんて・・・・・・大河、それはまだ捨てるな。勿体無いから後で俺が作り直す」

「大河ちゃん、晩ご飯と一緒におべんと作ってるんだぁ・・・・・・
 竜ちゃん、今度やっちゃんにもおべんと作って♪卵焼きはうんと甘くしてぇ、ウインナーはタコさんにしてぇ・・・」

「ぐえぇ・・・たた、たまごはや、やめて・・・・・・おねがいだから・・・・・・か、かわ、かわう・・・かわいそう・・・・・・」

「なに言ってんの、あのブサインコ。ブサインコのブッサイクな卵なんて使うわけないでしょ。
 どうせブッサイ目玉焼きしかできないんだから・・・そもそもブサインコ、卵なんて産んでないじゃない」

「ぐぇ・・・ぶ、ぶさ、ぶさぶさ・・・・・・ぶぶ、ぶさたいがー」

「・・・・・・竜児、焼き鳥ってどうやって作るの? 私、焼き鳥ならおいしく作れそうな気がしてきたわ」

「焼き鳥ぃ? やっちゃんも食べた〜い♪」

「・・・・・・教えてやってもいいけど、インコちゃんを焼くのは止めろ」

「・・・・・・まぁいいわ。私はご飯作んなきゃいけないんだから、キモいブサインコなんかに付き合ってらんないのよ。
 見てなさい、竜児! 絶対ご飯もお弁当もキチンとおいしく作るんだから! ・・・だから、いい、今からそにょ、あにょ・・・ご褒美とか」

「だったら鍋から目を離すんじゃねぇ! ・・・・・・もう換えの鍋なんて無いのに・・・どうすんだよ、それ」

「・・・・・・ふぇ? ・・・・・・あぁ〜!?」



                              〜おわり〜
517174 ◆TNwhNl8TZY :2009/03/07(土) 14:02:51 ID:PQCTy3by
おわり
いけね、★入っちゃってた・・・保管庫の管理人の方、お手数ですがそこだけ修正しておいて下さい。
本当は昨日投下したかったけど・・・泡盛って恐い・・・木曜に飲んで、金曜丸一日潰されるとか。

「×××ドラ!」の続きがこれの半分も書けてないのは、もう申し開きのし様がありません。
書けなかったからこれ書いちゃったわけで・・・・・・あんまり妊娠妊娠考えてて、俺が妊娠しそう。

それと・・・・・・・・・
ストーカー行為は犯罪です。だめ、ぜったい。
けど、奈々子様だから許される・・・っていうか、女の子は許されていいと思う。
人より恋愛の仕方がちょっとだけ不器用で、しつこくて、陰湿なだけの、可愛い娘だと思うんだよ、みんな。
独身なんてその極みに立ってそう。
518名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 14:32:07 ID:jIw0Jryl
グッジョブ。
黒い奈々子様と変態春田&能登、そして特級フラグ建築士の竜児(・∀・)イイ
519名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 14:47:07 ID:ykJWev/P
GJ!
竜児がフラグたてすぎでワロタwww
520名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 14:48:42 ID:icvf7Rb8
もうここまで来ると竜児が羨ましく見えねえ
頑張ってくれメインヒロイン竜児
521名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 15:17:11 ID:LJkcCfq4
なにこの超大作
GJしても物足りないくらいだ!!
522名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 15:31:58 ID:dAGOMzqA
恐ろしいくらいGJ!
大河が一番リードしてるのは分かるが、フラグを片っ端から立てまくるヒロイン竜児に苦労してるだろうな女性陣w
523名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 15:43:53 ID:F5911PU+
GJ!!

つーか、グラウンドに一人取り残される竜児に対する能登と春田の優しさに全俺が泣いた。
524名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 15:45:41 ID:z1LohgLl
GJー!
『ヂィィィィ』のくだりを見て幕張思い出したわw
525名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 16:03:41 ID:COD7ICeo
GJですわぁ
いやぁ黒いね奈々子様ww
あと竜児いいかげんにせぇwww
526名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 17:07:18 ID:vR6Zh4Vn
保管庫にあった性別転換ものの設定をみてて思ったけど、高須の設定って厨キャラだよな。生活スキルMAXで優しくて包容力もあって勉強もできて、顔も目つきが悪いとはいいつつ顔が悪いとは言われてないし
527名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 17:12:39 ID:icvf7Rb8
元運動部だからスポーツもできるぞ
528名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 19:14:27 ID:wD6dlIRi
運動部じゃなくて茶道部や手芸部なら良かったのに
529名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 19:21:53 ID:X9n8BDGO
これで乳首が黒くなければ…
530名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 19:49:36 ID:ykJWev/P
黒いわけないだろwww
531名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 19:49:36 ID:uYXdWxxV
竜児なら武道系がいいと思うな。
弓道や剣道とか。
532名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 19:59:58 ID:dPTKxwKf
道着はヤクザ顔に似合うしな
あーみんの道着姿も良さそうだ
533名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 20:06:38 ID:uYXdWxxV
竜児が弓を引いて、放った矢が的を射抜くなんてかっこよすぎるぞ。
534名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 20:16:01 ID:zrZAF4X5
>>533
とらドラ戦国無双という単語が思い浮かんだw
535名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 20:16:30 ID:2urnGS6c
女子のハートもまとめて射抜いちゃうくらいの破壊力はあるなw
536名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 20:19:00 ID:4fOU3ss1
>>517
フラッグラー竜児のフラグ乱立にワロタwww

それと奈々子様の腹黒さとは逆の何が何でも竜児を手に入れたいと思う恋する少女の一面にはげしく萌えた俺ガイルwww

神職人様ありがとう!超GJだったぜ!
537名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 20:24:04 ID:uYXdWxxV
>>535
俺は高校のときの部活が弓道部だったんよ。

そして、当時、結構鋭い目つきの先輩がいたんだよ。鷹の目みたいな鋭い眼光をたたえる目でさ。
その人は性格は竜児ほどではないにせよ、やっぱり温厚で、勉強も出来て。まぁさすがに当時は調理実習程度でしか料理できなかったけど、今は1人暮らしで料理が得意らしい。
あの人が弓を引いているのはかっこよかったなぁ。
男子校だったから彼女は居なかったが、共学なら確実にもてていただろう
538名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 21:35:39 ID:wD6dlIRi
>>534
タイガー→織田信長
みのりん→豊臣秀吉
会長→武田信玄
奈々子様→徳川家康
みたいな感じか
あーみんはワカンネ
539名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 21:52:55 ID:X/4wqD0Z
会長→上杉謙信
あーみん→松永久秀
540名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 22:07:03 ID:4oxMSmD0
やめて自爆やめて
541名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 22:14:24 ID:SJksUQ3B
遅まきながら職人さんGJ

竜児のフラグ立てっぷりマジパネェ!!
ここまでくると、メイン女性陣の間で竜児の共有協定が結ばれ、曜日の割り振りがされそう
そして、それを知った奈々子様が暗躍する…といった怖い想像をしてしまった
542名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 22:15:53 ID:4oxMSmD0
そしてフラグ群雄割拠時代、大橋ラグナロクへ…
543名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 22:49:49 ID:q5X+0qgk
>>517
遅ればせながらGJ!DBネタにフイタww

無双ネタか…竜児は三国で言うと蜀だな。
良い家臣、良い友、良き伴侶にめぐり合って過ごしていく…みたいな感じで
544名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 23:14:51 ID:F2m4YJZ3
恋姫が出てくる俺は末期か

それはそうと
>>517GJ!
めったに無い能登と春田を主体にってのがすごいです
545名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 23:46:00 ID:h/G3Haa6
竜備にするか劉児にするか悩むなぁ
546名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 00:26:22 ID:Dh3ylUwa
ここのスレで気付かされたよ
俺はハーレム物が好きなんだな、本性バレとかさっきの奈々子とかニヤニヤがとまらん
547名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 00:49:11 ID:llb5nbFi
>>542
戦国ラグナロク自重www
ヴィーナス亜美ちゃんとかファラオ奈々子様が出るわけか
548名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 01:38:24 ID:VtZNGRbU
ファラオ奈々子様が
フェラチオ奈々子様
に見えた。

目ん玉洗ってきます(´・ω・`)
549名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 02:30:33 ID:aEOMjgxW
能登と春田イイキャラしてるなぁ〜
早朝バイトで5時起きだけど一気に読んでしまった!
ホントGJが止まらないです…
550名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 03:44:39 ID:dM4yvF/k
だめだ
こんな超大作読んじまったら寝れねえ!
もう一回読も!
551名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 04:03:13 ID:QeJzobAQ
うわっ!何だ?めっちゃ長いの投下されてるじゃん!時間無いのに…



なんだ…神か…
552名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 07:14:25 ID:LmTc5qmp
朝ですよ〜

どうも、レスが遅くなってすいません
みのドラ、『GHOST and HOLY』の続きです

休みもらえなかったんで遅くなったorz
とらドラ10巻読んでテンションダダ上がりです
しかし本編終わっちゃったのはやはり寂しい……

というわけで、皆さんレスありがとうございます
>>381お気づきになりましたか
その通りです、ブギーポップシリーズの
ホーリィ&ゴーストが題名の元ネタです
ブギポはずっと好きだったのでつい借用しました

長くなりましたが続きどうぞ
553名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 07:20:52 ID:LmTc5qmp
29,December


「…………」

 目を覚ますと、朝の光が自分を照らしているのがわかった。どうして朝かわかったかと言うと、雀の鳴き声が遠く聞こえたからだ。清々しい朝だな、と少年は思った。
 まだ頭がぼーっとしている。頭だけじゃなく、全身にうまく力が入らない。かけてある布団を半分だけめくると、ぶるっ、と寒さで身体が震えた。自分の格好はやけに薄着で、白いシャツ一枚、下はジャージのパンツだった。
汗を吸っているのがわかる。どうやら、自分は長く寝込んでいたようだった。
  首だけを動かして辺りを見回すと、どうやらここは病院の一室らしいことがわかる。それに、自分の腕に刺してある針の先――管の先に、あれは、なんだったか。
 よく入院と言えばこれをするのが病人らしい、と聞いた覚えがあるが。

「あ」

 ああ、そうだ、点滴だ。まだ頭が覚醒していないのか、そんなことも思い出せないなんて。ともかくそれが自分にうってあるのだから、ここは病院で間違いないのだろう。

 それにしても、そこまでひどい病気だったのか。少年は確かに自分の身体が正常ではないことは認識したが、どんな状態で病院に来たか思い出せなかった。
 とりあえず、まだ醒め切っていないこの頭をどうにかしなければと思い、ゆっくりと身体をベッドから起こした。が、重い。まるで全身に重石をつけているかのように、身体はずっしりと重かった。
 こりゃひどいな、と顔をしかめながら少年はなんとか上体を起こしたが、立てるかどうかは微妙だった。試しに足を布団の中でもぞもぞと動かしてみたが、まるで力が入っておらず頼りなかった。
けれど、このままではまた眠りに落ちてしまいそうだったので、ベッドの柵を支えにして何とか立ち上がる。裸足でついた床は、ひんやりと冷たかった。
 ふと、そういえばここはどこの病院なんだろうと、少年は思い出したかのように疑問を抱いた。それに、今はいつなんだろう。今朝はとても寒いから、夏ではないことはわかるが――。

 そこで、軽い衝撃が走ったのを少年は感じた。

 待て、今は何月何日だ?

 驚くことに、思い出せなかった。いくら寝込んでいたとは言え、日にちの感覚まで失うなんてどうかしている。半年も入院している重病患者ではあるまいし――。
 次は重く、衝撃が走った。
 半年、半年? 自分はいつからここにいたのか、思い出せない。しかも、ここに来る前、そう、何週間か何日か前か、もしかしたらもっと前かもしれないが、ともかく、今ここにいる以前の、いろんなことが、

「あ、れ……、思い、出せねぇ」

 
554名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 07:22:25 ID:LmTc5qmp
 どっと、冷たい汗が背中から吹き出た。思い出せない。何も思い出せなかった。
 どういう経緯で病院へ来たのか、そもそも、どんな暮らしをしていたのか、全く思い出せない。知り合いの名前も、誰一人として浮かんでこない。

「お、おい、ちょっと待ってくれよ……!」

 少年は焦った。おかしい、さっきは点滴の名前をちゃんと思い出したではないか、なのにこんな簡単なことも、そう、自分の名前さえも思い出せないなんて、自分の、名前……?
 ぎくりとした。なんてことだろう、自分の名前もわからない。いよいよもって少年はパニックに陥りかけた。足元がふらついて、ようやく立つことが出来たのにまたベッドへ腰を下ろしてしまう。
頭を掻き毟るが、本当に自分の名前さえ浮かんでこない。そこにあったのはどこまでも空白だけだった。

「……嘘、だろ」

 額に手を当てて、少年はようやくここで頭が覚醒していることに気付く。しかし、それは寝覚めの悪い、重いハンマーで殴られたような、目覚めだった。

「そ、そうだ! 顔! 顔を見れば一気に思いだせるだろう!」

 少年は挫折しかけた心をなんとか持ち直す。そうだ、今までの自分がどんな人間だったかわからないが、ともかく鏡を毎日見ないような不精者だったなんてことは……たぶんないだろう。
そう思い、ばっと立ち上がろうとするが、重い身体はなかなか言うことを聞いてくれなかった。腰を浮かした瞬間に気だるさが全身にこみ上げて、またベッドに吸い込まれてしまう。

「くそっ」

 少年は苛々した。なんでこんな時に自分の身体はうまく動かないのか。
 逸る気持ちを抑え、なんとか立ち上がる。点滴で刺してある針がちくりと腕に痛みを与えたが、気にしない。ともかく、鏡だ。
 鏡は病室の入り口の前、洗面所にかけてあった。足を一歩踏み出すたびに、けたたましく鳴る鼓動は何度も全身に響く。冷たい床は、まるで剣山の上を歩いているようにちくちくと足の裏を指した。
 大丈夫だ、鏡を見れば、自分の顔を見れば思い出せる。たまたま頭が、そう、ちゃんと本当の意味で醒めてないだけだ。
 少年はそう焦る自分に言い聞かす。
 そして、大人にしかられて出方を伺っている子供のように、そっと顔をあげ、鏡に写る自分の顔を、


「おうっ!?」
555名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 07:24:22 ID:LmTc5qmp
見た。
 危うく腰を抜かしそうになり、洗面台にしがみつく。
 そこに写っていたのは、それは恐ろしい顔だった。なんというか、恐ろしい顔だった。
 鏡に映ったのは、若い男の顔だった。髪は洗っていないのかぼさぼさで、顔も少しこけた印象を抱かせる。
 そんなことより、目だ。目つきがやばかった。
 はっきり言って、これでは丸っきり犯罪者の顔だった。
 大きくもない目は釣りあがっていて、黒い瞳は白い部分に比べてえらく小さい。これは、そう、三白眼、というやつだった。
 自分の顔なのに、ここまでの衝撃を受けるとは、少年は思ってみなかった。そして、やはり何も思い出せないことに落胆する。
「は、あ……どうなってんだよ……」
 鏡の自分に問いかけるが、そこにあるのは凶悪犯顔負けのヤンキーしかいなかった。そいつは禍々しい顔をしかめていっそう恐ろしくするだけで、何も答えてはくれない。
 少年は自分の空恐ろしい顔をばしゃばしゃと水で洗ってみたが、何の効果もなかった。仕方なく、いそいそと自分が寝ていたベッドへ戻る。がらがらと点滴の台車が音を立ててついてくるのが妙に腹が立った。
 どさりとベッドへ倒れこむと、少年はもしかしなくても大変な状況になっている自分を、改めて呪う。
 いったい何があれば記憶喪失――ここで初めて自分が記憶喪失であると自覚できたが、そうなってしまうのだろうか。全くとんだ迷惑だ、と自分自身に文句を垂れてみるが、かなり虚しかった。
 ふと、ベッドの側に備え付けてある棚に目を向けると、置手紙があった。

『竜ちゃんへ
 やっちゃんまたお昼なったら様子見に来るからね〜
 バナナはおやつに入らないの☆』

 短い文だったが、手がかりが見つかったことに歓喜する。少年はそれを手にとって食い入るように見た。
 竜ちゃん、とは自分のことだろう。竜がつく名前ということか。
 やっちゃん、だけではその人物とどんな関係なのかわからない。恋人かもしれないし、友達かもしれない。……いや、こんな凶悪な面をした男に彼女ができるはずもないだろうから、恋人の線は薄いだろう。
「バナナ、うん、バナナはわかるぞ」
 そう、物の名称はわかるし、思い出せる。食べ物で言えば、カレーとか、ハンバーグとか、さば味噌。例えばパンの種類とかだったらどうだろう。
 食パン、コロッケパン、コッペパン、アンパン。
 やはり、よどみなく出てきた。要は、エピソードというものが完全に抜け落ちているということか。
556名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 07:30:10 ID:LmTc5qmp
まるで餡子のはいっていないアンパンみたいだ、と少年は思った。知識という生地はしっかりしているのに、餡子という記憶、アンパンがアンパンであることを決定付ける要素がない。中身のない、スカスカの自分。
 少年は見舞いの品であろうバナナの皮を剥きながら考える。
 とりあえずは、この昼になれば様子を見に来るという、『やっちゃん』に話してみることにした。医者にいきなり記憶喪失なんですと切り出すのは、なんとなく気が引けたからだ。
 時計を見ると、まだ朝の八時を回っていなかった。時間を確認して、少年は気付いた。ここは病院なのだから、おそらく看護士が巡回に来るだろう。なんとかうまく誤魔化さないとやっかいなことになりそうだ。

「はぁ……。なるようになるしかねぇ、よな……」
 
 記憶喪失であることはショックだが、本当に思い出せないのだからじたばたしてもどうしようもないのだ、少年は開き直ろうと思った。
 何はともあれ、腹ごしらえだ。ほおばったバナナはいい具合に熟れていて、甘くて美味しかった。今まで食事をとっていなかったのか、食べ終えるのに一分とかからなかった。よほど空腹だったらしい。
 身体に栄養を摂取したおかげか、少し元気が出た。少年は気を取り直して、ベッドの上であぐらをかく。改めて自分の周りを観察した。
 ふと、自分の枕元に何か長方形のものが光っているのを見つける。定期的に光を発するあれは、誰かからの着信を意味する――

「携帯電話か」

 なんてことだ、こんなすぐ傍に大きな手がかりがあったとは。携帯電話なら、知り合いや友人の連絡先や、もしかしたら自分のプロフィールなんかも載っているかもしれない。
 ぱかりと、携帯を開く。携帯のディスプレイに表示されている日付は、十二月二十九日、だった。ということはもうすぐ、年が明ける。そうだ、正月ではないか、なんて不幸なんだ、と少年は落胆する。
初詣に行けるかどうかは分からないが、もしお参りすることになれば、記憶が戻りますように、などと祈願しなければならないのか。少年は自分が可哀相で仕方がなかった。
 気を取り直して、左手を使い、慣れた手つきで携帯を操作していく。こういうことは記憶を失っても覚えているものなのかと、少年は変に感心した。
 電話帳を開き、あ行から順に見ていくが、やはり各人名前と電話番号ぐらいしか載っていなかった。


「櫛枝、実乃梨……」
557名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 07:33:57 ID:LmTc5qmp
なんとなく、目に付いた人物の名前を口に出してみるが、やはり何も思い出せなかった。
 電話帳を一通り見てわかったことは、どうやら自分の名前は高須竜児というらしいことと、連絡先の九割は友人であるということだった。自分の名前は、電話帳の中に竜がつく名前がそれしかなかったのもあるが、
なにより区分けが「自宅」となっていた。流石に、他人の名前を間違えて入れたりはしていないだろう。

「高須竜児、か……」

 記憶を失った少年――竜児には、それは他人の名前にしか思えなかった。
 高須竜児なる自分は、一体何が原因で記憶を失ってしまったのだろう。病院に担ぎ込まれる前に、頭を打ったか、とてつもない精神的痛手を負ったか。試しに後頭部をさすってみるが、別段痛みは感じなかった。
しかし、後者はなんとなく違うような気もした。例えば目の前で大事な人が亡くなったりしたら、どうなんだろう。竜児はそれで記憶を失ってしまったなんて事例は……そこまで考えて、やめた。
聞いたことがあっても思い出せないことに気付いたからだ。とことん記憶喪失は不便極まりないなと、竜児はひとりごちる。
 このときの竜児には、ともかく外傷は目立たないが、頭を強く打ったりしたのだろうと結論付けるしかなかった。それは遠からず当たっていたのだが、そのことを竜児は知る由もなかった。

 これ以上できることは、おそらくなさそうだったので、竜児は何気なく窓の外に目を向ける。
 朝の陽射しが眩しい。自分を照らす太陽はあれほどまでに輝きを持っているというのに、今の自分は、雲に隠された月みたいだった。皆は月の正体を知っている。けれど、宵闇と暗雲に隠匿された月は、自分の光を主張できない。
 羨望にも似た眼差しで、陽射しを望んだ。
 竜児は思う。自分もあの太陽のように輝けるのだろうか。暗雲を振り払って、光を放てるのだろうか。
 もう二度と思い出せないまま、そんなのはごめんだ。
 真っ白なキャンバス、それに絵を描いていくのはいい。だけど、自分が描いていた絵を見つけ出さないことには、何も始まらない、そんな気がするのだ。
 時計を見ると、さきほど確認した時から一時間ほどが経過していた。九時五分前。そろそろ、看護士が見回りに来てもおかしくない。
 竜児はどう反応をしようか思案する。やっちゃんが来るまで狸寝入りを決め込むか、適当に挨拶をするか――。


 考えていた矢先、がらりと、病室のドアが開く音が聞こえた。

 竜児はびくりと身体を硬直させる。額に汗が浮かんで、真っ白なはずの頭の中は、さらに強い白で、塗りつぶされた。
 激しく脈打つ動悸を、なんとか抑えようと竜児は必死になる。
 落ち着け、なんのことはない、軽くおはようございますと言って、気分はいいです、と答えればいい――。
558名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 07:39:48 ID:LmTc5qmp
「竜児?」

 予想外に、入ってきた人物は、竜児を苗字ではなく名前で呼んだ。ということは、自分の知り合いということか。
 おそるおそる、病室の入り口に目を向ける。
 思ったとおり、看護士さん、ではなかった。息を、呑んだ。


 それは、少女、だった。背は低く、おそろしく華奢な女の子だった。灰色に光る不思議な色合いの長い髪は腰まで届く勢いで、その端麗な顔は精巧な人形を思わせた。
 朝陽に照らされたその少女は、まさに天使のようだった。竜児は、その姿に目を奪われたまま動けない。
 そして、竜児は驚きを隠せなかった。こんな強面の男に、これほどの美少女が知り合いだったとは、驚天動地としか言いようがない。
 少女に見惚れたのも数秒、我に返った竜児は、どう切り返せばいいのかわからず慌てふためいた。

 単刀直入に記憶喪失であることを打ち明けるべきなのだろうか。
 しかし、少女の全てを吸い込むような、その瞳を見ていると、きなり全てを忘れてしまったことを告げるのは、ひどくためらわれた。

「あ、あの……ええと」

 竜児は病室の入り口で立つ少女に対して、なんと声をかければよいのかわからない。
 しかし、少女はそんな竜児のことなどわかるはずもなく――。
 少女は、瞳にじわりと涙を溜めて、

「え? ええ?」

 狼狽する竜児をよそに、


「こ、こ、こんの……バカ犬ぅ――――っ!!」


 と叫んだかと思うと、竜児にタックルをかます勢いで――実際にタックルされたようなものだったが――竜児の胸に、飛び込んだ。

「お、おうっ!?」


 それが、記憶を失ってしまった高須竜児と、逢坂大河の、二度目の出会いだった。


 この瞬間、竜児の逆戻りして静止していた時計は、確かに、元の時間へと、針を動かし始めた。
559名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 07:43:23 ID:LmTc5qmp
はい、ここまでです

……えーと、一応、この話はみのドラです
大河が早くもメインっぽいですけど、みのドラです
でも、最初に出会うのはやっぱり大河じゃないとダメだと思うんです

みのりん、出番は次回からということで……多分


ほんと遅々たるペースですが、お付き合い頂ければ光栄です

では、また〜
560名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 08:36:23 ID:7ATBCkMk
>>559
いえーいGJ

ところでネタバレってわけじゃないけど
10巻読んでこんなネタ妄想

大河と竜児が結婚して17年後の未来
二人の間にできた娘も今年から高校生活が始まる。

しかし彼女には普通とは呼べない家族関係が!

叔父さんは18歳?
2コ年上の高校三年生!
いつまでたってもラブラブな色ボケ両親!
若々しい祖母と曾祖母!

さらに周囲を彩る個性的な関係者

担任教師は体育教師、独神櫛枝先生
憧れの女優、川島亜美
志望大学で准教授を勤める北村大先生
他にも個性的な仲間達が

とらぅドラ!
新たな伝説が、今始まる!
561名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 09:54:46 ID:boEbDdoJ
>>559
GJ! 記憶喪失ネタは大好きだぜw

>>560
>大河と竜児が結婚して
これだけでも一応ネタバレだと思うんだ
562名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 10:01:31 ID:BkG05ISs
>>559
GJ
マジ期待できるな・・・wktk

>>560
お前の妄想なんだな?!
ならよし!
563名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 10:44:23 ID:g+sKagnH
>>561
呼んでないやつからは普通に妄想だとしか思えないんだが
564名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 10:46:43 ID:123T5doC
>>559
GJ!続き、楽しみにしています!
565名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 10:54:07 ID:BoV1LMtt
昨日本屋に行ってラノベコーナー行ったのに新巻を見逃した俺が通りますよ(´・ω・`)ショボーン
566名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 11:05:02 ID:fsln9X+8
消えろ
567名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 11:09:18 ID:5Zr5lzov
>>559
GJ
まるでアニメを待ちわびる子供になった感じだぜ……

>>560
とらぅドラ!…この『ぅ』は何なんだww
568名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 14:51:59 ID:t8ODsk5E
独櫛枝・・・竜虎の子供が16で竜虎の年齢が・・・ということは
現独神を凌ぐさんじゅ・・・
569名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 15:47:20 ID:UgKMXTmP
>>568
シーッ!
570名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 15:50:39 ID:lPxG+7nZ
>>484-517
「×××ドラ!」の続きも頑張ってください
あと酒に気をつけろ
571名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 17:14:50 ID:BkG05ISs
>>568
おまww
そこは触れるな・・・
572名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 17:26:33 ID:ec44S1tw
>>568
とるぜ〜超歳とるぜ〜


おや?宅配便が着たみたいだ
573名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 18:28:30 ID:o/03LRaO
作品を書き上げたので、どうせだから投下予告。11日午前0時より投下予定。10巻ネタバレ要素含み。
タイトル『―My load, Your load and Our load―』
注意書きなどは投下前にするつもり。
574名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 18:29:12 ID:llb5nbFi
>>573
……Roadじゃなくてか
期待
575名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 18:36:22 ID:o/03LRaO
>>574
やっちまった・・・orz
はいroadです。loadじゃなくて。
■オフィシャル海賊本「電撃h&p(はじまり&ピリオド)」掲載、「ドラゴン食堂へようこそ」の(勝手な)続編です。■
■未読の方は……未収録作品掲載「スピンオフ3!」を電撃に発売希望するんだ! 出さなきゃお前をとって喰う(byチョビ)■

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「いらっしゃいませー! みのりん、今日はホタテと野菜のソテー・ハーブチキンのバンバンジー・超でっかいメンチカツの三択だよ!」
「うおう、今日も迷うな〜……よし、出でよ運命のコイン、お前のフェイス・オア・バックで、俺の運命(と書いてランチ)は、決まる!」
「コイントスで三択って、どう決めるの……?」「占い用にコイン2枚くっつけて、絶対裏が出ないコイン作ったドラマあったな」
「行くぜ! 表ならAランチ、裏ならB、コインが立ったら、Cーっ!」

ちゃりーん。

「竜児ー、Bランチひとーつ!」「おっしゃー!……って! え、え――――っ?!」

今日もランチしに来てくれた彼女――櫛枝実乃梨が、手に持つハンドポーチと、眩しい笑顔を、磨かれた店の床に落っことして。
だって彼女の目の前には、竜児や北村とお揃いエプロン、ウェイトレス姿の親友、手乗りタイガーが!

「……う、ウェイトレス? 大河が、ウェイトレスー?! えっ、ど、どうして大河がっ?! ま、まさか、店へのツケが膨れ上がって、身体で返すことに――」
「ならないって櫛枝。今日から逢坂、この店で俺と一緒に働く事になったんだ」
「そ、そーなのみのりん。はい座って座って、おしぼりとお冷や持ってくから」

『ドラゴン食堂』の先輩従業員(バイト代払ってないけど)北村は、まったく何の不思議も疑問も見せることなく、
キラッ☆と眼鏡を光らせながら「今日から頑張ろうな、逢坂!」「……う、うん」と新しいアルバイト、逢坂を受け入れ、
今こそ普通のOL、しかし実は高校の時から就職するまでファミレスでウェイトレスのバイトしてましたー、
それも、胸を強調するデザイン&超ミニスカートな制服で大人気のお店で!(「あんな衣装、もー無理!」・櫛枝談)……という実乃梨も、

「大河……そうか、お主もウェイトレス界に足を踏み入れる覚悟を決めたのか――。
では教えてやろう、【最強のウェイトレス】を決めるべく、年に一度行われる、裏の格闘技大会のことを――」
「……く、櫛枝、メシはいつも通り玄米だな?」「おー、白ゴマトッピングで〜」

などと、最初は驚いてたけど、晴れて脱無職・脱ニートの一歩を踏み出した親友に実乃梨も喜んで、
「笑顔で挨拶、笑ってお仕事! ビルの奴もそー言ってたぜ、さあ大河! 北村くんも! 俺様に、続けー!」……とか、箸片手に接客業の秘訣など教えてたり。

『いらっしゃいませ!』にこっ!
『ご注文はお決まりですか?』にこにこっ!
『またお越しくださいませ!』にっこり!

「だめだー! そんなんじゃベトナム行く前に営業時間が終わっちゃうぞー! もう一度〜!」

鬼軍曹ウェイトレス(客だけど)、実乃梨も笑顔、テーブル拭きながら、北村も笑顔。
まだまだぎこちないけど、逢坂も笑顔。厨房で包丁握ってる竜児だって、一緒に笑顔。

「うわっ、何その鬼般若ズラ?! 竜児、あんたは厨房で調理だけしてればいーの」「おう……」

***
手乗りタイガー……逢坂大河、よく毎日店に来てメシ食ってくなーと思ってたら、実はこいつ、『ドラゴン食堂』の隣に立つ十階建て超豪華マンションの住人。
一人暮らししてるマンションから店まで徒歩30秒、交通費支給の必要がなくて、竜児の財布にも優しい。

とても職住近接なもんだから、仕事明け、北村にバイクで家まで送ってもらったりすることもなく……逆に毎朝、遅刻しないように(11時開店だが)竜児がマンションまで、迎えに行くことに。
昼と夜、1日2食の賄いメシが、いつしか朝食まで竜児ごはん。……それどころか、日曜祝日の『ドラゴン食堂』休業日には、あろうことか「これも従業員の福利厚生よ!」と、二階の高須家でがつがつメシ食らってる有り様。

「竜児、おかわり!」「……休業日でも、店の大きな炊飯器でご飯炊かなきゃならんのか?」

いったいこの身長145センチの小さなお嬢さんの華奢な身体のどこに入ってるのか、おかわり3杯も。
――でも何だかんだ言って、「しょうがねえな……」とか口では言いつつも、こうやって自分のご飯を実に美味しそうに食べてくれるのは、すごく嬉しいのだ。
そうでなかったら、「竜児、ご飯!」とやって来る手乗りタイガーのために、逢坂用に茶碗や湯のみをわざわざ用意したりなんか、しないのだ。

毎朝、きれいに洗濯しノリのきいたエプロン持って、寝坊しないようマンションまで迎えに行く。
逢坂に支度をさせ、髪の毛も上手にやってやって(ポニーテールがかわいい)、一緒に家を出る。
店ではちいさな看板娘ウェイトレスとして頑張り、竜児と共に北村好感度アップ作戦を実行……でもまあ、日々失敗続き。北村の前だと緊張し過ぎて、テンパって、ドジや失敗ばかり。

これでは北村と逢坂に買出しを頼もうにも、あいつはどんなドジをやらかすことやら……もっとも、店の食材調達は、
「だめだ! あいつの眼鏡は曇ってる、材料の良し悪しを見抜く心眼を持たねぇ奴に、大事な食材の調達はまかせられねぇ!」と、いつも竜児が自ら買出しに行っていて――その車の助手席に、逢坂もいつも一緒に乗って。

だって竜児が『ドラゴン食堂』日替わりメニュー決めるのは、まずウェイトレスさんのリクエスト聞いてから。
そもそもこいつの賄いメシでもあるし、「ね、これ食べたい! 竜児、作って!」と言うのは、当然のこと。
……杏仁豆腐とか柚子寒天とか、新たに日替わりメニューにデザートがつくようになったのも、当然のこと。

「何かえらい大ドジをやらかすんじゃないかなー……って思ってたけど、大河、ちゃんとウェイトレスやれてんじゃん!
でも、夜な夜な古井戸から『お皿が一枚……二枚……』『九枚……一枚足りない……今日も割られた……あのドジに……』と皿を数える亡霊の恨めしげな声が聞こえ――ってことはないよね、店長ー?」
「だいじょーぶみのりん、お皿下げとかドジっても、来てくれるお客さんには迷惑かけてないから。……料理運んでる時にすっ転んだら、お客さんまた待たせるし、せっかくの美味しい料理はもったいないし、それに作ってる竜児にも悪いし」
「ほーお……なんかバイト始めて変わったねー、大河ー」

***
逢坂が働き始めて数ヶ月、最近近所では『ヤクザの店』から『小さいウェイトレスさんのいる店』になったと評判のお店。
夜の賄いメシは、夜のお勤めに出撃する泰子といっしょに(親子そろって『店長』なのだ。雇われママだけど)。泰子も、「大河ちゃん〜☆」と、逢坂をまるで我が子同様に受け入れている。
――最初、二階の高須家に連れていった時には、
「うわぁ♪……竜ちゃんがぁ、かーわいいおよめさんつれて来た〜!」「ち、違――うっ!!」なんてやり取りあったけど。

閉店後も逢坂はすぐマンションに帰らず、いつも店で余ったデザートを高須家で満足げに平らげながら、毎晩のように、

「竜児、小さいエプロンないの? 私には大きすぎるの」「そうだな、俺や北村サイズだもんな、今度作ってやるから」とか、
「それ、カロリー計算?」「ああ、試行錯誤して求められる完璧な数値! ……帳簿計算より幸せな瞬間だ……」とか、
「泰子から店のビール無料券貰ったけど、皆で行くか? 職場の慰安代わりに」「私お酒ダメだし、北村くん、酔うと……真っ裸に脱ぐ癖あるし……女の子いても」「あ・い・つ・は……!」とか。

――つまり高須竜児と逢坂大河、気がつけば職住近接どころか、ほどんど職住一致状態。
そんな共同生活を毎晩のようにしてたら、気づけば深夜居間の畳の上、2人してぐーぐー寝こけてしまってたり。

「起きろ、逢坂、自分ん家で寝ろー」
「う……んんー……」

規則的な寝息。安心しきった寝顔。……こんな可愛い顔を、するんだ。
逢坂、大河。人呼んで手乗りタイガー。実乃梨の親友。店の貴重な常連客。
北村に、想いを寄せている。凶暴だけど、結構ドジ。でも、とても頑張り屋。
ラブレターと木刀。エプロンとウェイトレス。三食ご飯、デザートつき。
『ドラゴン食堂』の、大事な大事な看板娘。朝から晩までずっと一緒。……いつしか店でも家でも、馴れ合い関係なふたり。

「……しょうがねえな」

ワンピース姿ですやすや眠るちいさな身体をお姫様のように抱き上げ、今日だけな……と、自室のベッドに寝かしてやる。
気持ちよさそうに寝てる逢坂を起こしたくなかったし……それに、寝てるこいつをマンションまで連れて行くのを誰かに目撃されたら、
「指名手配写真に載ってそうな顔の男が、深夜身動きしない美少女を抱えて! きっとクロロホルムを嗅がせて眠らせて……」とか、警察に通報されるんじゃないかと。いや俺が巡回中の警官なら間違いなく職務質問だ、俺を。

でも、何だろう。手乗りタイガーに毎日のように店で睨み付けられたり、以前木刀で襲われたりしたことが、まるで嘘みたいだ。
こうやって寝息が聞こえるぐらいの至近距離。結構まつ毛長いよなー、とか、うわうなじ真っ白だとか、なんだか甘い花みたいな匂いがする、とか。

竜児はまだ知らない。
……鏡の前でどんなに笑みを作ってみても、愛想よくふるまっても、礼儀よく接してもダメだったこの忌々しい『ヤクザ顔』が、
逢坂と一緒の時は、自然と優しい、いい笑顔になれてることを。

***
『ドラゴン食堂』開店まで、あと30分。今日も仕込みの寸胴鍋マスター、コンロに向かう表情は鋭く吊り上がり、
店のすぐ隣の豪華マンション、この小さな借家から日照権を奪ったブルジョアジー伏魔殿の住民に対して報復兵器を放つ、店長にして厨房の鬼神、高須竜児。
……貴様らの! 貴様らの存在のせいで、うちは一日中、日光が当たらないのだ!
この怒りを思い知れ、必殺・換気扇から食欲そそる、おいしい匂い攻撃! ――お前らも! 今夜は! カレーにしたくなる!!

一見「ヒャッハー! 住人を恐怖のカタストロフに叩き込んでやるぜ!」……って感じだが、実際はせいぜい、マンション印度化計画程度。
こんな禍々しい顔つきではあるが、竜児にできるのは全世界を巻き込むカタストロフなどではなく、美味しいストロガノフなのだ。

そのマンション住人であり、ウェイトレスである、逢坂大河。
週に1回だけの限定メニュー、スパイスや秘密の隠し味をふんだんに使った竜児特製カレーライスは大好きメニュー、いい匂いにちょっとお腹空いてきた、ちゃんと私のは甘口にしてね。
それに、今日の日替わりデザートは私の好きな自家製フルーツヨーグルトっ♪と、いつもより笑顔で、上機嫌にスプーンとフォーク、ぴかぴかに磨いてる。

「あっ、北村くん、おは――」
「よっ、逢坂! 高須もおはよう」「――おはようございまぁす」

そして、最近本業の大学院と副業のお店手伝いが逆転してるっぽい、北村祐作と……一緒にいる、いつも通りじゃない八頭身美人。
細身のデニムにシルクブラウスというシンプルないでたち、サラツヤ感たっぷりの柔らかストレートロング、
長身細身ながら出る所はしっかり出てるスタイル、誰もが振り返る、美しくそれでいて愛らしい、その美貌。
彼女こそ、北村の幼馴染で元モデル、現在押しかけ同居中の、川嶋亜美。

「あ、え、えっ……?」
「ああ、逢坂にはまだ紹介してなかったっけか。川嶋亜美。俺のいわゆる幼馴染って奴で、」「……」
「その、近いうちに『北村亜美』になる、予定です。よろしくね」「……!」
「――ということなんだ、皆に報告しようと思ってさ。って逢坂、今日は調子悪いのか?」

逢坂の顔色が、赤から青へ、そして真っ白へ。
ガチャチャチャン! と大きな音立ててスプーンやフォークを床に落とし、
「だ、大丈夫なの? 逢坂さん」と手を差し伸べた亜美の指に、きらりと光る婚約指輪が――。
580名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 19:23:10 ID:oa+O1jQq
大河×竜児。……ところで亜美ママの名は「川嶋安奈」と「川嶋杏奈」のどっちが正しいんでしょうか。
2巻なんかファミレスでは「安奈」、ストバでは「杏奈」。
これが麻枝言うとこの『最後に「もちろん」と間違えて「もろちn」って書いてないか検索しろ。製品版で
見つかったら死にたくなるから』って奴ですか。

……【タイガー×ドラゴン食堂】人呼んで「竜虎の軒」w、次回で終わりの予定です。
581名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 19:35:50 ID:CkPH5Yyj
>>580
やばい・・・10巻読んだ後だけによけい2828できる・・・
GJこれで明日も仕事がんばれますだ
582名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 19:38:28 ID:BA4dI0QE
GJ
北村×亜美とは珍しい組合せ
原作の設定をねじ曲げてありえないカップリングを妄想するのも二次創作の醍醐味ですな
583名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 20:31:32 ID:123T5doC
>>580
乙!

原作とは大幅に違うパラレル物とは珍しいが、とても楽しく拝見した。
584名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 22:20:51 ID:N3gDJ6rt
リクエストいいかな?
ドラマCD第一巻での夏祭りでの龍児×実乃梨のエロSSをお願いします。
585名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 22:58:00 ID:BkG05ISs
>>580
乙&GJ
妄想力がなかなかだな
>>584
それ、俺書こうかと思ってたww
586名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 23:31:10 ID:Tv8WGRjI
最後10巻知らないが、
亜美と結ばれないんだろ?

その願望をとらドラPで晴らせばいいの…か?
587名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 23:33:45 ID:dFOZGNhn
>>586
このスレ的にはおまいさんがSSを書けばOK
588名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 23:52:17 ID:ec44S1tw
結ばれない方が色んな妄想出来るから何ら問題ない
589名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 23:53:24 ID:OeJT/Pwb
>>586
結論。
大河 は 大河ママの家に引っ越します。マンションから。
590名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 23:57:46 ID:Tv8WGRjI
>>587
妄想がたまったら駄文でも書いてみます
とりあえずPC規制ウザイ
591名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 00:51:13 ID:HYd3lztQ
>>560 大河と竜児の子供が男女の双子とかだったらおもしろそうだなぁ
592名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 01:03:19 ID:QkwIKTgv
>>560って面白い設定だな。
数日前に某ラノベスレでも娘ネタが流行ってたみたいだが。
593名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 01:31:59 ID:JUAa2blN
ゆゆぽんの竜児は大河を選んだ。ならウチの竜児は亜美を選ばせるわ。
二人の子供の名前は、そーだな。「竜姫(たつき)」でどうだろうか?
姫は亜美の性格からとってみたり。
594SL66:2009/03/09(月) 01:37:06 ID:e5LKn1Qe
次スレで、「横浜紀行」の続編を投下します。
例によって長いので、前後編に分けて投下と相成ります。
595名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 01:42:42 ID:BJNgk87c
数百レスに渡る大長編で、スレ一つ丸ごと消費するとかでなければ
まとめて投下しちゃっても問題ないと思うけど。
スレが埋まるのが多少早くなったところで特になにか支障があるわけでもないし。
596名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 01:47:07 ID:aCMEn4/c
最近174氏といいSL66氏といい、息の長い職人さんが読みごたえのあるもの投下して&しくれるってんで俺ウハウハ
>>594
超待ってる
597名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 01:59:01 ID:bimuVIqp
職人のみなさんほんとGJいろんなキャラが楽しめてウハウハ>>594首長くして待ってます!
598名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 02:52:48 ID:VPPk/udm
>>594
よッ!
待ってました!!

・・・っていうか、このスレで投下してもいいんじゃないかな?
かな?
599名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 03:15:45 ID:a6Bj6pgo
10巻読み終わって来てみれば……!
なぜ竜児×大河がないのだ……!
600名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 03:28:41 ID:AXc0GARH
>>558
続き期待し過ぎて吐きそう
601名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 04:05:25 ID:JjQ2CwkK
10巻の「眠れる〜」の続きを待ち望む
602名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 07:31:29 ID:b7sla9fN
ちわドラまだかよ?
寒いから早くしてくれw
603名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 07:39:29 ID:zHp4solY
>>599
大河SSは書きづらい……
604業者1号:2009/03/09(月) 09:02:31 ID:rpN54CSD
>>567
『ぅ』は虎と辰の間の子だぜ、ねーうし とら うー たつ みー
どっかで言ってたネタ拾ってきた
>>591
男が竜児似の性格大河、娘は大河似の性格竜児ですね、わか(ry
妹にだけ頭が上がらないとかだったら悶え死にそうだ。
>>592
妄想設定は得意だぜ
605名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 10:27:16 ID:k5ASqWE9
>>585じゃ、書いて超書いて!
606名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 10:30:50 ID:Rck2CnQ9
>>548
黒革ボンテ衣装の奈々子様が、ご褒美として下僕二名を両脇に勃たせてダブルF(ry
ですね、わかります。
607名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 13:21:36 ID:HYd3lztQ
>>604 いやおれの妄想では息子が逢坂くん(仮)みたいなかんじだけど
根は竜児みたいな感じで櫛枝先生に惚れちゃったりしたりして
娘は息子と逆で身長高くておとなしいんだけど眼は竜児を継いじゃって
コンプレックスになっていて しかもキレると大河なみになるからマジ893
大河の弟に憧れちゃったりして・・・
スマンヤリスギタ
608名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 15:00:45 ID:P24qiX3B
>>560
俺のしてた妄想と同じすぎワラタ
俺の妄想では子供は男女の双子だったが
まぁ自分ではSSなんて書けないんですけどね
609名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 16:20:19 ID:kb2kBYL0
子供SSはそれなりに楽しそうだが、そこまでひろげるなら
まずその前に奈々子様SSなみの麻耶SSやゆりちゃんSSをみてみたいのは俺だけ?
610名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 17:21:26 ID:+RKcz4xk
ゆりちゃんか……イイねぇ
゚ω゚)=3
611名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 17:23:46 ID:bSMj39fb
612名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 18:37:01 ID:x+ve6eHv
誰と結ばれても竜児の娘は間違なくファザコンになるな
613名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 18:52:32 ID:yZAMJQed
目つきが悪いが、心は純情。

良いねぇ…
614名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 19:05:55 ID:D5z8Xtr8
誰も喜ばない親父END後(ネウロのパロ)

孤軍奮闘し大河父の会社をなんとか立て直した竜児、
ストレス解消に会社中の大掃除をしている所に大河父から携帯が

陸郎『竜児君 重大な問題が発生した』
竜児「どうした!? トラブルか?」
陸郎『2面のボスの弱点がわからない』
竜児「炎だよッ!! 見るからに氷っぽい外見してんだろーが!!」
大河「へー・・・寒い環境で上手くやってるみたいじゃない」
竜児「なにがうまいもんかよ ロクな社長がいないせいでこの苦労・・・」
ピロリロリロ
竜児「!」
陸郎『竜児君 2面のボスが変形したんだが』
竜児「上乗っかれやァ!! ジャンプして下撃ってりゃ楽勝だよ!!」
プチ
大河「アハハ、苦労してるしてる」
竜児「うるせー!!」
615名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 19:28:50 ID:7Zt9OrjI
今朝見た夢の話し。某特撮の影響だと思うが…
超設定が嫌いな人読み飛ばしてくれ

ラブ×2な日々を送っていた大河と竜児。そんな二人の前に突如8人の美少女が現れる。
彼女らはそれぞれ亜美・みのりん・麻耶・奈々子・独神・兄貴・北村の娘だといい、父親は全て竜児だという。
彼女達は驚くべき事を語り出した。自分達は竜児が大河以外と添い遂げた並行世界の未来からやってきたと。そしてある日突然並行世界の竜児が消滅し、唯一この世界の竜児だけが存在しているのだと…
彼女らの目的は自分の世界に連れ帰る事。
逆上する大河と、竜児を奪い合う少女たち。そんな修羅場に駆け付けた8人目の少女。彼女こそ大河と竜児の娘ゆうか。彼女は両親を守る為に未来からやってきたのだ。
竜児は大河との愛を守る為、この異常事態の謎を説き明かす為に、娘から渡されたベルトで変身する!
そしてさらに現れる竜児を父と呼ぶ少女
「お前の母親は一体誰なんだ!!」
「あんた…どれだけの女に発情すれば気が済むのよ…この駄犬!!」

『とらドライダー竜児 The Movie』
同時上映
『毘沙門天国の熱い夜』


ここに書いて少しは落ち着いたwスレ汚しごめん!
616名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 19:38:29 ID:mXKqjKv6
>>615
  北村と竜児の娘…

       ヽ|/
     / ̄ ̄ ̄`ヽ、
    /         ヽ
   /  \,, ,,/    |
   | (●) (●)|||  |
   |  / ̄⌒ ̄ヽ U.|   ・・・・・・・・ゴクリ。
   |  | .l~ ̄~ヽ |   |
   |U ヽ  ̄~ ̄ ノ   |
   |    ̄ ̄ ̄    |
617名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 19:49:53 ID:v+NKVoth
北村が女性であるパラレルワールドと考えれば…
いや、やっぱ厳しいわ
618名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 19:54:02 ID:x+ve6eHv
北村が旦那で竜児が奥さんなんだよな
619名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 20:12:22 ID:JUAa2blN
みのりん「私はもう迷わない!」
ばかちー「あーうざ。アンタと話してると生理中みたいな気分」
みのりん「迷わない!絶対...」
ばかちー「・・・・・・」
みのりん「絶対、北村君が攻めだって・・・、迷わない・・・!迷わないから!!」
ばかちー「ーーーーうっせ」
竜児「なんの話だよ!?」
620名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 20:52:37 ID:kb2kBYL0
腐女子なら、やっぱりタカキタじゃなくキタタカだよ、とかいうのかな
621名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 21:04:24 ID:D41TAcgq
北村(女)露出狂か!?
622名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 21:05:00 ID:zHp4solY
まあみのりんがタチであーみんがネコだよね
623名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 21:08:48 ID:cMcJDarM
>>621
別荘での露出シーンなんかもうご褒美じゃん
痴女だ痴女
624名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 21:22:16 ID:kb2kBYL0
>>623
高須の声が聞こえたからとバスタオル一枚でこちらに来る北村(女)
露骨な手段にキレる亜美
625名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 21:25:14 ID:MAWpuhIr
エロかわいいかぁー!?
626北村図鑑:2009/03/09(月) 21:41:47 ID:LbztLhzI
新キタムラ「露出痴女」

愛想が良くてクラスの人気者。でもことあるごとに
何故かスカートがストンと落ちてしまう
竜児には親友と位置づけられ女としては見られていない
百合っ娘との噂も
627名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 21:54:46 ID:LhVpHwcl
北村女体化ってーと
眼鏡生徒会長で露出多め
いいじゃまいか
628名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 22:19:43 ID:gTixotio
>>626
みのりんレーダーは反応しますか?
629名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 23:04:52 ID:x+ve6eHv
これは、まさかの女北村ブーム到来かw
630名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 23:09:56 ID:fsJsnNnk
苦手だから女体化ss書くなら注意書かなんか頼む
631名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 23:31:59 ID:zHp4solY
完全にオリキャラだしな
まあ奈々子も半分オリキャラなわけだが
632名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 23:43:41 ID:CllZxB3S
よし
633名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 23:51:15 ID:uAnvHJNu
ちょっとゲームで負けた憂さ晴らしに、
一発叫びます。
みのりんんんんんんんんんんんんん
とおお
りゅうううじーーーのおお
じゃすたうぇーーーーーいいいい

あー、すっきりした。
634名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 23:58:39 ID:rtAZlHMj
「今から夕飯の買い物しないといけないからここで」

「分かった、じゃあね奈々子」

ふぅ、まるおの話はいい加減飽きた、結局いつも堂々巡りで終わってしまう。

それよりあんな裸体野郎のどこがいいのだろうか?と頭半分で考えもう半分で晩御飯の献立を考える。

「今日は確かお肉が安かったはずね」

そんなことを考えつつ生肉売り場に行くとタイムセールもかち合い売り場は満員御礼・売り切れごめんの状態だった。

「こんな時大河ちゃんなら突進するんだろうな…はぁあきらめようかしら」

やっぱり魚にしようと考えてると後ろから

「なんだ香椎じゃないか」

三白眼って中学まではどんな目か分からなかったけど今なら至極簡単に理解できる、泣く子も黙る大橋高校二大巨星ヤンキー高須がそこいた

「あいかわらず怖い顔ね…」

とからかいつつ話しかける。ヤンキーも

「笑点の紫も真っ青になる腹黒さをお持ちの奈々子様には言われたくないな」

とテンプレートな切り替えしが返信されてきた。

「いい加減そのネタに飽きたわ、もっと他にないの?」

「おぅ…わりぃ、考えとくわ。 ところで香椎も肉狙いか?」

「全くもって話を変えるのが下手ね…そうよ何かまずいことでもある?」

彼とこんな冗談を言い合える関係になるとは私自身考えてもみなかった。

はっきり言って第一印象は超がつくほど悪く、原因はひとえにあの三白眼だった。

一年の頃からたまに噂を聞いてたが内容は大概同じ

「ヤンキー高須がだれだれを殺った」

そして二年の春、運命のクラス替え…偶然なのか必然なのか同じクラスになってしまった。

635名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:00:06 ID:rtAZlHMj
最初は話す気もなかったのにあんなことやこんなことがあり、いつの間にかお互いメールをする仲になっていた。

二人とも片親で家事一般をお互いが担当する私たちの話題は自然に家庭的な話題に偏っていく、最近も料理の話で盛り上がったことがあった。

あんまり人付き合いが得意ではないのにこんなに気軽に話せる男性がこんな近くにできるとは思わなかった。

こないだなんか春田に

「二人が結婚したら最強じゃね?」とまで言われた。

彼は顔を赤くしながら否定して、私も合わせて否定したが本心は悪い気がしなかった。

その時視線が三方向から感じたことはみんなには内緒…

「いやこれといって理由はないさ、しかしひどい混みようだな。よし、香椎ちょっと待ってろ」

そう言って彼はおば様軍団の城壁に突撃し、そして彼は無事に帰ってきた。

「香椎は1パックでよかったか?」

「ええ、ありがとう、もうすこしでメニューを変更するところだったわ」

「どういたしまして、これぐらいなお安いごようさ」

「それにしてもたくさん買うのね、今日はホームパーティでもあるの?」

「へっ?…あぁこれは大河のせいだ、あいつ今朝たまたまここの広告見てて言ってきたんだよ」

「駄犬、今日は肉が安いわよ、肉が、だから晩御飯は肉にしてよねって」

「ふ〜ん、なるほどね。大河ちゃんあのなりでたくさん食べるものね」

「まったくだ!!でもつくりがいはあるぜ、まぁ家計は火の車だけどな」

ニヤニヤしながら彼は答え、その顔をみた子供が小さな悲鳴をあげていた。

「楽しそうね」

「そうか?」

「ええ、とっても楽しそう」

「確かに他人に自分の料理をおいしく食べてもらうは嬉しいし楽しいしな」

ここで一つ冗談を言ってみる。
636名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:00:42 ID:rtAZlHMj
「ねぇ、今度は私のためにお弁当を作ってくれないかしら?」

そこで彼が前髪を持って顔を赤くすれば冗談は成立…のはずだった。

「おう、いいぞ」

予想外の答えが返ってきた。

「その代わりに木原がオレの弁当作ってくれよな」

彼は流暢に話してくる。

「木原が料理得意なのは知っていたが実際に食べたことはないからな、それに他人の料理はいい刺激になりそうだ」

こっちの気も知らないで面白そうに笑っている、やばい…ただの冗談が現実になってしまった。

「やべっ、また詳しいことはメールで、これ以上遅くなるとアイツの逆鱗にふれる、じゃあな木原」

そう言って彼はそそくさとレジに向かっていた。

「あーどうしよう、ただの冗談が…とりあえず時間をずらして会計を済ませよう」

家についたら愕然とした。

「さっきの件だけどいつにする?来週の月曜日でいいか?」

とノリノリのヤンキーからメールが来た。なんで、こんなノリノリなのよ。

「わかったわ、月曜日ね、楽しみにしているわ」

あーなんで私も私でこんなノリノリなのよ。

確かに料理以外の家事一般も得意だし、頭もいい部類だし、女の子に対してもやさしいわ

顔だって確かにアレだけど不細工ってわけではないわ。そうただのクラスメイトなのよ、そう、そうよ…

なのに私がこんな意識しないといけないのよ。

帰りにわざわざ本屋に寄って「彼が喜ぶお弁当術」「みんなが喜ぶお弁当」なんて買わないといけないのよ。

「はぁ、今日は寝よ」

そういって読みかけの雑誌二つを枕元において夢の世界に逃げていった。
637名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:01:33 ID:rtAZlHMj
「あした朝はやいから朝と昼の飯は作らなくていいぞ」

そうお父さんは言ってきたが実際それどころではなかった。月曜日が明日に迫っていた。

昨日も随分と彼とメールをした、お互いの好き嫌いで始まり、勉強やTVの話にまで話が発展した、そして彼とのやり取りは楽しかった。

「付き合ってるみたいね」

そう思った途端顔が熱くなった…

間髪いれずにぼさぼさ頭の父の言葉で余計に顔が熱くなった。

「奈々子、顔が赤いぞ、風邪でもひいたか?」

「なんでもないわ…ねぇ、お父さん、私に彼氏が出来たら悲しい?」

「奈々子、お前まさか…」

「冗談よ」

「だよな、そうだよな」

「でも、もうじき出来るかもね、ウフフ」

そういって自分の部屋に戻る。

「えっ…」

情けない声が聞こえてきた。

「あー眠い、まだ5時過ぎなのに」

でも不思議とめんどくさいとは思わなかった。むしろ少しわくわくしていた。

私と彼がお弁当を作りあってるなんて知ったらあの3人はどんな顔するのかしら。

にやにやしながら考えたメニューを思い出す。

・ご飯は鳥そぼろと卵そぼろの二色ご飯
・チーズを乗せたミニハンバーグ
・アスパラのベーコンまき
・にんじんのグラッセ
・ブロッコリーのマヨネーズチーズ焼き
・紅茶のシフォンケーキ

「すごい高カロリーになっちゃた、男の子だしまぁいいか」

「めずらしいわね、奈々子が予鈴ギリギリなんて」

「たまにはこんなこともあるのよ、それにしてもホントにギリギリだったわね」

息を整える暇も無く独神が教室に入り出席を取り始めた
638名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:02:54 ID:rtAZlHMj

「よし、それじゃあ委員長号令」

「起立、ありがとうございました」

「やっと午前の授業終わったよ、あ〜腹減った」

馬鹿がみんなの気持ちを代弁していた。

それぞれのグループでもろもろ机をくっつけ輪を囲みだした。

「あれれ〜今日たかっちゃんお弁当ちっちゃくない?そしてかわいくない?」

「あぁ、これはオレのじゃなくて、はい木原お前の弁当だ!」

空気が凍った、空気が張り詰める。

事前に渡し方の打ち合わせを言っておけばよかった、ここでそんなこと言ったら…

案の定いろいろ視線が痛い。

「えっ、何々!?奈々子様の分なの?まさか二人はこんな関係?」

馬鹿が指でハートを作る。

「馬鹿!そんなんじゃない、俺と木原は単にお互いを高めるためにだなぁ」

必死の言い訳も馬鹿には通じず馬鹿はより騒ぐ、まるおはまるおで

「クラスメイトが仲がいいのはいいことだな!!うん、うん」

と自己完結する始末だった。

ここまで来ると流せないからありがとうと言ってお弁当を受け取り、持ってきたお弁当を渡す

「ありがとう、木原」

と照れくさそうに微笑みながら言ってくる。
639名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:03:50 ID:wy0qskn2
心が躍る
社交儀礼の挨拶なのに
たった一言だけなのに
彼のささいな表情に

その時麻耶が耳打ちしてきた。

「もしかして今日ギリギリの登校ってあれのせい?」

「ええ、そうよ」

「はぁ、よりにもよって奈々子まで…」

「何か文句でもある?」

「ううん、ないわ、頑張ってね応援するから」

どうやら麻耶の中では私は彼の事が好きらしい。

そして私の中の私も彼の事が好きらしい。

「他人に自分の料理をおいしく食べてもらうは嬉しいし楽しいしな」

確かに彼はそう言った。彼の中の他人には家族と大河がメインなんだと思うけれど

でも私の対象には彼がいる、三白眼の彼がいる。

彼が喜んでくれればそれでいい。

「木原、お弁当ありがとう、おいしかったぜ、弁当箱は洗って返すな」

「私もおいしいお弁当ありがとう、弁当箱なんだけど、こんな提案はどうかしら?」

「おっ…おう、木原がいいなら、オレはかまわないぜ」

「ええ、おねがいするわ」

「高須ーそろそろ行くぞ!」

「分かった!じゃあな、木原」

最近男子はサッカーにはまってるらしくグラウンドに駆けていった。

麻耶はまるおの勇姿を見ようと窓際にたたずんでいた。
640名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:05:04 ID:rtAZlHMj
残されたのは例の3人+私

大河はぶつぶつ一人ごとを言ってるし、櫛枝はもくもくとご飯を食べてるけれど心ここにあらずだし、亜美ちゃんにいたっては箸が止まっていた。

「あのさ、三人に聞いてほしいんだけど」

生暖かい視線が三つ飛んでくる。

「わたしも争奪戦に参加させて貰うわ、それだけよ、それじゃ」

そそくさとお弁当を片付けて席を立ち図書室に向かう。

明日はどんなお弁当にしようかしら。そんなことを考えながら料理雑誌を開き熟考する。

「それにしても滑稽だったわね、三人の顔、三人目が、ウフフ…」

教室の出来事を思い出す、あんな顔見るの始めてだった。

スタート位置は三人のはるか後方だけど負ける気がしない。

三人の行動を見てれば彼に対するアプローチの仕方なんて容易に考えれる。

八方美人で流されやすく、情にもろい彼のことだ、ある程度押し通せばいいだけだ。

最後の一押しは女の武器を使えばいいだけ。

私は負けない、彼を得るためならどんな犠牲も払わない。

身なりだって、お料理だって誰にもまけないその覚悟が心にある。

「私はね私のためにかわいいの」

昔読んだ漫画にのっていた、昔は子供ながら感心したけれど今は違う。

「私はねあなたのためにかわいいの」

帰りにファッション雑誌を買っておこう、そう思いつつページをめくる、気に入ったところに付箋をはさんで

だって明日も彼のお弁当をつくるのだから。

彼のために、高須君のために…いえ竜児のために。

おしまい
641名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:09:00 ID:wy0qskn2
最近の奈々子様×りゅうじのSSが楽しくていてもたってもいられず書きました。
もう少しスキルをあげて次は亜美ねたを書こうかなと思います
タイトルは遅くなりましたが「お弁当」が一番しっくりするんで「お弁当」にします。
642名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:11:05 ID:ZqkVLrwx
これはひどい
643名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:12:50 ID:bteHe59r
sageていれば良かったんだが・・・
とりあえずGJ
644名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:13:20 ID:iu1LbLKy
最初はみんなはじめて
徐々に腕を磨いていけば良いのさ
645名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:20:25 ID:nSWNhN0m
木原菜々子…これは新しい
646名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:22:29 ID:3RppfWQc
コピペ改変か?
途中から木原に麻耶が話し掛けてる??
647名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:23:18 ID:SwJENf2K
オリジナルキャラなら最初にそう書いてくれれば良かったのに
648名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:25:06 ID:tdmprOcy
これ以上触れるな。荒れるから。
649名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:27:26 ID:wy0qskn2
最近の奈々子様×りゅうじのSSが楽しくていてもたってもいられず書きました。
もう少しスキルをあげて次は亜美ねたを書こうかなと思います
タイトルは遅くなりましたが「お弁当」が一番しっくりするんで「お弁当」にします。
650名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:27:29 ID:MaXf0GR8
奈々子様好きとしては嬉しい限りだw
これからもどんどん投下してくれー
651名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:31:09 ID:e+AT3o6A
木原・・・だと・・・?
652名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:38:15 ID:qbdxw8OQ
グ、グ…グッジョビ?
653名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:43:24 ID:tTWc7MH+
木原だと・・・
654名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:45:43 ID:bsUwMV+W
ツッコミたいことはあるがあえてGJだけ申そう
655名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:46:59 ID:oQU/AFqQ
途中混乱したがGJ!
次回作に期待してる
656名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:51:23 ID:wy0qskn2
>>634>>640の者です
ひどい間違いが多々ありました、情けないです、すいません
以下訂正について
会話で竜児が「木原」とよんでいるところはすべて「香椎」の間違いです。
お見苦しく申し訳ありませんでした
657名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:52:29 ID:/WSsi9d7
奈々子様の姓は香椎です。そこだけ気をつけて。
GJ次回作期待してます。
658名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:53:31 ID:Vu6I15wK
>>601
俺も「眠れるわけなど」からの分岐をずっと期待してるんだぜ!

昂りを抑えきれなくなった竜児は、大河を強く抱き締めるとそのままゆっくりと覆いかぶさっていった。
これから起ころうとしていることを悟った大河は「ひッく」としゃっくりみたいな悲鳴を洩らして一瞬
抵抗するようにもがいたが、悪態をつこうとした拍子に竜児の身体から発散される女を求める若い雄の匂いを
思いきり吸い込んでしまう。
押し返そうと身体の間に割り込ませた手はその力を失ってシーツの上にぽとりと落ち、がつんと
ぶつけてやるはずだった拒絶の言葉も「ばかぁ……っ、やっちゃんに、聞かれちゃうよお……っ」と熱く
擦れた囁きにしかならず、むしろ竜児の興奮をさらに高めることになった。
とどめに至近距離から見つめられて、
「俺、お前が欲しい」
飾りッ気なし、隠し立てなしに自分を求める言葉を聞かされた大河は、これ以上ないほどに頬を真っ赤に
染めると、顔を枕に押しつけるようにして視線を逸らしてしまう。竜児の身体の重みを感じながら得た迷いの時間は、しかし長くは続かなかった。
大河は瞳を潤ませて竜児を見上げると、小さく、だがはっきりと頷いた。
どちらともなく顔を寄せ、静かに唇を重ねる。
愛し合う誰もが通る儀式の始まりを告げる口づけだった。

みたいな感じ頼むって言うか自分で少し書いてしまったが
659名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:54:13 ID:f6YRON3O
>>658
最後まで書け
書かないとお前を取って食う
660名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 00:59:46 ID:+kWckzfj
素晴らしいな続きを
661名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 01:02:44 ID:OCa0cq5W
おまいE−mailの欄にsageを入れるんだ!
SSはGJだったぜb!
662名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 01:10:33 ID:3RppfWQc
一応解禁は明日の零時だぞ
かっちり守ってるスレは皆無だが…
663名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 01:21:35 ID:CMQw3ZC5
>>658
最後まで書け
664名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 01:22:18 ID:CMQw3ZC5
>>658
最後まで書け書かないと>>659を取って食う
665名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 01:23:44 ID:CMQw3ZC5
ミスったぁ
くそ、
…脱ぐか
666名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 01:34:50 ID:mMkMx1YI
>>641
いや、文章は普通に読みやすかったし結構良かったよ。
sageと名前と妙に隙間開いてるのが気になったけど。
667名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 04:51:50 ID:CMQw3ZC5
うーん何つーか
とらドラ!っぽさが無いんだよなぁ…
668名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 07:02:24 ID:w7piKrJR
>>656
「お弁当」の作者さん

作品投下前の「投下開始」レスと作品投下後の「投下終了」レスそれとメール欄にsageを入れるのを忘れずにね

作品自体は超GJだったからキャラの名前さえ気をつければ大丈夫だぜ!これからもガンガレ!
669名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 08:02:08 ID:eIhl+iq0
エロパロスレでここまでヌクモリティがあるのもここだけだろうな。俺の涙を返してくれ。
670名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 08:15:28 ID:W261nZQp
っていうかもう474KBか!?凄いな。
671名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 08:31:52 ID:MVWsotss
エロパロ板は「sage」ないと下がらない(他板ではメル欄に解凍PASSWORD書いたり
してもsageになる所も)、メル欄空白だったり「亜美は俺の嫁」とか書くと上がって
しまうんだ。
672名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 10:02:32 ID:TF2NPN3+
今日の24時から10巻ネタバレが解禁されるし、
>>573の投下も予定されてるから次スレ立てたほうが良いのではないか。

673名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 10:18:22 ID:0gfIftWe
凄い早さだな
というか充実してるのか
674名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 10:25:07 ID:jDxxRAiQ
次スレはみのりん祭りワショーイ!!になればいいな〜とか思ってる俺なんだぜっ。
675【田村くん】竹宮ゆゆこ 12皿目【とらドラ!】:2009/03/10(火) 10:34:41 ID:zMYiBNUZ
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 11皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/

過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/


↑てんぷ〜れせいりしてみた〜のおれはたてれなかった〜の
676名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 10:55:47 ID:w5p/UXDY
10日で殆どスレが埋まるとは、ホントに凄いな
677名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 15:42:56 ID:X/mOq90s
たてーた
【田村くん】竹宮ゆゆこ 12皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
678名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 15:52:20 ID:Tm7f0de1

だけどわざわざ改悪テンプレを使わなくても
679名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 18:43:15 ID:5meOVQJX
>>658
最後まで書かないとチョビがお前を取って食う
680名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 19:04:40 ID:xgAyEjmr
>>658
最後まで書かなきゃたらこスパ禁止な
681名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 21:58:43 ID:X/mOq90s
容量あるから短い方がいいかと思って使ったんだがな
682名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 23:01:34 ID:iB6ToN07
新テンプレは過去スレ部分が詰まりすぎてて、ぱっと見バランスが悪く感じるから、
個人的には前の形態のが好きだな
スレが続いていく内に一レスに収まり切らなくなったら2レスに分割すればいいだけだし
683名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 01:15:59 ID:1sLO/SGG
新スレが立って、あっちにも作品が落とされ始めたので、こっちを埋めるために少々短めのお話を。
10巻未読の方はスルー頂ければ幸いです。

では、次レスからいきます。

タイトルは『Fortuity』です。
684『Fortuity』:2009/03/11(水) 01:24:47 ID:1sLO/SGG
「ほら、これ、頼まれてた奴な」
「おお〜っ、あんがとあんがと。やっぱ持つべきものは鞆の浦だよ」
何故そこで某映画のモチーフでありそのおかげでいざこざが発生している西日本の名所が出てくるのか、
相も変わらずのクラス一のアホっぷりをみせてくれる友人のボケをあえて無視し、すでに日課と化しつつ
ある「禊ぎ」に赴くこちらは優等生な友人の後ろ姿を見やるはかわいくない眼鏡こと能登久光。
「あれぇ〜、高っちゃんは今日もおつとめ?」
そしてその背中を見守ることもろくにできないのはそのうち国語辞典にアホの意味として載るのではないかと
一部でささやかれている春田浩次。まだ寒さの残るフィ〜バリ〜(春田談。おそらくはFで始まる月のことと
思われる)の後半でも、そのぬるさは一向に衰えもみせない。高校生としては色々瀬戸際に立っているはず
なのだが、少なくとも本人にその自覚はないだろう。
「おう、だからお前らは先に帰っててくれよ。今日も激戦が待ってそうだしな」
現代に蘇った魔王を彷彿とさせるギラギラした目を、ゆっくりと二人の級友に向けるのは高須竜児。別に
呼び止められたことにむかついて一寸刻みにしてやろうと策を巡らせているわけではない。友人達の視線が
むずがゆかっただけである。
もはやクラスはおろか学校中に知れ渡った少年の強く、激しくそれでいて切ない想いがそうさせるのか、竜児
からはほんの数週間前まで漂わせていた負のオーラがまるで魔法にかけられたように消えていた。自分に

ついて常にマイナスから考える悪癖を拭い去ったことも効いているのだろう。名は体を表す、その言葉が彼に
似つかわしくなる日もそう遠くはないのかもしれない。
「お前も、いい加減覚えろよな。昨日しなかったんなら今日はあるに決まってんじゃん」
能登が自分のことでもないのにぼやいたのは、全く同じやりとりを一昨日もしたからである。なんとなく明後日
も同じことを言うような気がする。なんでこんなアホにあんな年上美人さんが構ってくれるんだ、俺なんて……
と事実を整理すると余計ブルーになりそうなのでスイッチオフ。
「そ〜だっけ。大変だね〜。能登っち、俺等もこっそり手伝おっか?」
「気持ちだけ受け取っとくよ。これ以上迷惑かけたくねえし、何よりあれは」
俺の仕事だ、と口以上に目が語る。春田曰く「おつとめ」は竜児にとって負担というよりやりがいのある責務であり、
自分の望む未来に向かうための大事な一歩でもある。五感では認識できない道程を心の全てを占めているもの
とともに進むには、今ある力だけでは足りないと分かっているから。
気付けば教室の中には自分たち三人しかいない。学年末が近づき、ゆったりとした時間を過ごせる人間の方が
珍しい時期だから、驚くには値しないことだが、なんとなく不思議な状況ではある。
まるでそれがベストだ、とでも言いたいような空気が流れる。
685名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 01:25:51 ID:achrhR3g
いつもここから完全に埋まるまでに時間がかかるから
次スレ建てるの485kbを越えたらにしないかと提案しようとした矢先に……


ってもこないな
686『Fortuity』:2009/03/11(水) 01:29:54 ID:1sLO/SGG
「ところで、そのMDどうしたんだ?」
友人の申し出を断ったことにほんの少し罪悪感を覚えたのか、竜児は話題を自分からかえることにした。聞こえてきた限りでは能登が持ってきたようだったが。
「最近のヒット曲とか、気になった歌とかまとめてもらったんだ〜。能登っちそういうのに強いし」
「お前が弱すぎるんじゃないかと思うぞ。いわれたとおりにしてやったけど、ジャンルがめちゃくちゃだし、まだ市販されてない曲までリクエストしやがって」
まさかあの彼女に聴かせようとかいうんじゃないだろうな、とちょっとすねた調子で依頼主をねめつける(やはりかわいくない)。それをぶんぶんと頭と手を振って否定しつつ。
「そ〜だ、高っちゃんちょい時間ある?」
ポケットからだいぶ傷んだ袋に包まれたプレーヤーを取り出して能登謹製ディスクを差し込みながら出し抜けに春田が問いかける。教室の時計が指す時刻は約束の時間の少し前だが、急げば多少の余裕は作れそうだ。だからいいだろうと頷くと。
「こないだテレビ見てて気に入った奴なんだけど、高っちゃんのご意見をお耳にしたくてさ〜」
リモコンを操作して試し聴きをしてから、アニメの曲なんだけどね〜、とお気楽に補足しながらイヤホンを手渡す。装着を確認して春田は再生ボタンを押したのだろう、曲が流れ始めた。


……
………

その場に居合わせたのが自分達だけでよかった、能登は純粋にそう思った。
というより、どうして俺はこのアホを止めなかったのだろうか、とも。
「お前、今流してるの何曲目だ?」
ものすごく嫌な予感がする。アニメソングは確か4曲くらい入っていたはずだ。自分が知っているものも知らないものも、どちらにせよ共通項がない選曲だったからあんまりしっかりとは覚えていないが。
「え〜と、13番目」
やっぱりか。
「……お前、さぁ……」
それはドボンだ。自分も聴いたことがあるし、使われているアニメも見ている。かなり息の長いシリーズ作品だ。内容について春田とだべったことだってある。アホは理屈っぽい部分は完全にスルーしてたが。
「あれ、高っちゃん?」
アホがようやく竜児の異変に気付いたらしい。本当にアホだ。
正直なところ、MD作成中にも思ったことだが、やはりそうだと確信する。
この曲を、今の高須に聴かせてはいけなかった、と。
687名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 01:29:54 ID:achrhR3g
おお来てたか


でも十巻未読の人はスルー推奨なら次スレの方がよくないか?
発売日に手に入れることの出来ない人もいるかもだし
688『Fortuity』:2009/03/11(水) 01:31:34 ID:1sLO/SGG
竜児はイヤホンを外すと丁寧に耳当て部分を未使用のハンカチで拭いてから春田に返した。
空気が重い。いや、理由は能登にははっきりしているし、アホにも多少は通じるだろう。
「でさ、高っちゃん、どうよ、これ?」
前言撤回。やっぱり分かってないよ、こいつ。
悪い曲ではないと思う。アニメの展開、いいたい事とも合致しているのだろう。だが、やっぱり拙いだろ、普通に考えてさ。
「……春田」
地獄の底から這い出してくるような響きを持っているように感じたのは、自分だけなのか。
能登は一刻も早く逃げ出したかった。なんてことをしてしまったのか、俺達は。
「いや、能登に頼んだ方がいいな。あのさ……」
「本当にごめん! あまりに無神経だった! つうか春田が言い出した段階で気付いて」
「この曲、本当にいいな。俺の分もダビングしてくれねえかな。もちろん、費用は負担するぞ」
「こんな思い出させるような、って、なんだって?」
視線を外していたから表情を窺っていなかったが、改めて友の顔を見る。いつも通りのヤンキーフェイス。
そう、いつも通りの。
「どったの、能登っち。なんかすっごくキョドってるけど」
春田がマヌケそのものな顔してこっちを見る。つか、見んな。こっち見んな。見ないでください。
一番のマヌケは、どう考えても眼鏡の方だった。


すっかり脱力してしまった能登を春田に任せ、竜児は一人戦場に向かう。
その歩みには少しの迷いも恐れもない。
全く、いい友達を持ったよ、俺は。
正直、最初は面食らった。凄く驚いた。どんな罠だよ、とも思った。
しかしそれはすぐに氷解した。感想は二人に伝えたとおり。そして、自分の心が応じたとおり。
春田は何も考えてなかっただろうし、能登は多分考えすぎだ。
廊下から見る景色に浮かぶのは、これからつかの間の休みを得るであろう太陽。自分の好きな空。
竜児に見えるのは世界のほんの一部。その中に彼の求める存在は、今のところはいない。
だとしても今はそれでいい。よくはないけれど、それでもいい。
今はまだ、望みが叶っていないのだから。
今はまだ、一人で進む道の途上だから。
道を進むのは、その理由は、はっきりと定まっているのだから。
眼光鋭く、竜児は己にみなぎる確かな力を感じていた。

その日の彼の戦功は、本来ならばその恩恵を受ける人々を震え上がらせるものであったという。

689名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 01:36:27 ID:1sLO/SGG
以上です。1レス目で改行がおかしいのはご容赦下さい。

>>687
確かにそれもいいかもと考えたんですが、ネタがやや被り気味だったので、埋めネタとして使わせてもらいました。
ネタバレ解禁が今日ということなので、一応こっちもOKと思ったんですけど、お気に障ったのなら謝ります。
お騒がせしました。
690名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:16:15 ID:E9FCjBnz
どうも、>>95です。10皿目に引き続きまた埋めネタ投下したいと思います。
GJをいくつももらってしまい続きなどと言われ調子に乗って書いてしまいました。
亜美の仕事場に竜児が現れるやつの続編です。すんませんがエロなしです。
今度はスレ計500kb越えないあたりで終わるはず…!

ではよろしくお願いします。

「ビストロSMOP」

691名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:17:12 ID:E9FCjBnz
いつもの昼休み。現役の女子高生で超人気モデル。なのに自販機と自販機の間に挟まるのが好き(?)な変わった子、川嶋亜美だ。
亜美は膝を抱えながら右手の指先で持った手帳を眺める。


「あ〜あ、また土日も仕事か。しかも土曜はビストロかぁ〜。これじゃあゆっくりできないわね」


パタンと手帳を閉じ、ポケットにしまう。左手にある飲みかけの缶ジュースを口に運ぶ。そして膝にあごを乗せながらため息まじりに一言。


「むしろ、高須君が作ってくれないかなぁ…、そしたら亜美ちゃん頑張れちゃうのに」
「なんかいったか?川嶋?」


亜美はガバッと顔を上げ自販機の前に立つ男を見る。そこには今にでも川嶋亜美に襲いかかりそうな目をした男がいた。けどホントは
自販機の間から声が聞こえてきたが聞き取れなかったので不思議そうに亜美を見つめる男、高須竜児だ。


「た、高須君!?いつの間に居たのよ!?」
「いや、今来たばかりだが…」
「もう! びっくりさせないでよね!」
「す、すまん」
「全く… 何、タイガーのお使い?」
「いや、自分のためだよ。あと、お前に話があってな」
「そう、…って私に!?」
「あぁ。ってゆうか何もそんな驚く事じゃないだろ」


亜美は驚いている。まさか言葉にした人物が目の前に現れて、しかも普段は誰かさんのお世話している高須竜児が自分に用があるなんて。
てかさっきの言葉聞かれてないよね?聞かれたらはずかしいっていうか、あえて聞かれてもよかったっていうか…
と、とりあえず高須君が私に用があるんだから聞かないとね!


「それで用って何?」
「あぁ、前一緒に仕事しただろう?その時のプロデューサーさんがまた俺を貸してほしいって」
「あぁ〜、またあの番組?」
「それもあるんだけど、あの時のシェフが違う番組も担当していてそっちもアシスタントが欲しいからって。それで経験のある俺の名が挙がったそうだ」
「あのシェフか…(けっ。高須君は渡さないからね!)で、いつ?どんな番組?」
「あぁ、それが今週の土曜、日曜。日曜は前回と同じで、土曜は有名アイドルが料理するヤツ。その下準備だとさ。」
「高須君も大変ねぇ〜。高校生なんだから断ればいいのに」
「あぁ、でも前回すっげぇ学べることあったし、それに泰子ももうダメって言ってるから今回だけだな」
「ふ〜ん。土曜かぁ〜、私も料理番組なんd…あれ?」
「ん?」
「その番組ってもしかして…」
「あぁ、ビストロSMOP」



…一緒じゃん。…早く土曜来い。
692名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:18:45 ID:E9FCjBnz
       * * *




「おはようござまーす」


今朝はすがすがしかった。いつもテレビのお仕事だとこんなにも気分は良くないのだけれど、こうも期待していちゃ胸も高鳴るってもんよ。
亜美はいつもより声を張り上げスタジオに入った。そこには二つのでかいキッチン、セットのところどころには高級食材が並んでいる。
これは高須君が目を輝かせそう… スタジオをぐるっと見渡すと端のほうに見たことのある少年が。亜美のほほが緩む。
先ほど楽屋にて某アイドルに挨拶をすませ先にスタジオに来ていたので若干時間がある。亜美は覗くことにした。


「じゃあ後はそこの食材をある程度ざっくり切っといてくれ。そしたら終わりだ」
「わかりました」


おぉー。やってるやってる。声は聞こえないがこうして高須君の仕事する姿をちゃんと見るのは初めてかも。前回は驚きすぎてまともに見てなかったし。
てかあのシェフ近すぎじゃない?シッシッ。しかし高須君あの目は怖いなー。でも真剣な目。…カッコいいじゃん。亜美の頬がさらに緩む。


「終わりました」
「じゃあ、セットに運んでもらおう。おーいスタッフゥ〜!スタッフゥ〜!!」
「は〜い!いつもお疲れ様です。今日もありがとうございます。あ、シェフ、今日の料理過程についてメンバーが質問があるそうです」
「わかった。今行く。あ、高須、本番後でもやることがちょっとあるから見学でもして待ってなさい」
「わかりました」
「よろしくお願いします!じゃあ君、見学はこっちで。そこに椅子があるから座っといて」
「わざわざありがとうございます」
693名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:19:49 ID:E9FCjBnz

      * * *




本番まで〜3、2、1…



「いらっしゃいませ。ご予約のお名前は?」
「川嶋亜美です」
「当店は一切メニューはございません。ご希望のメニューを作らさせていただきます」
「はい、じゃあはちみつ入りホットミルクに合う朝食セットで」


チリンチリンチリ〜ン♪


「オ〜ダァ〜!!『はちみつ入りホットミルクに合う朝食セット』!!!!」
「「「「ウィームッシュ!!」」」」


少し年を取ったリーダー的存在が鐘を鳴らし若干しゃがれた声を張り、それに答える4人の返事。二人一組になりそれぞれが持ち場につく。


「川嶋さんははじめましてかな?SMOPの中井です。それにしても今日のメニューのはちみつ入りホットミルク、
 そのモデル体形の秘訣がこれなのかな??」
「いやぁ〜そんな事無いですよ。ただ、(チラッと高須を見る)…」


竜児は不意に来た視線にびっくりしたのか目を合わしたまま固まる。


「(フフッ)私がこれを選んだのは、このはちみつ入りホットミルクを飲んだとき体がとても暖かくなったからですよ。
 それから毎朝飲んでます。その際、何かお腹に入れたいので皆さんに作っていただこうかなと」
「あぁ〜、なるほど〜。僕も飲んでみようかな?あはは」
「是非お勧めします♪」


亜美は竜児を見る。竜児は少し顔を赤らめて下に目をそらす。
694名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:20:26 ID:E9FCjBnz

      * * *



『はい!!オーケーでーす!! お疲れ様でした!!!』
「お疲れ〜」うぃ〜」あー終わった終わった」ちょっと髪型ずれてなかった?」みなさん、地デジに変えましたか?」

メンバーはぞろぞろと楽屋に戻る。亜美はセットから降り竜児の下へ向かう。



「お疲れ♪ 今日の赤チームの朝食考えたの高須クンでしょ?」
「おう、お疲れ。…なんでわかった?」
「亜美ちゃんは優秀だからなんでもわかっちゃうの!高須君ってバカァ〜?」
「おい、お前バカはねぇだろ…」
「…でも、すごく体に気を使ったメニューでうれしかった。ありがとう。それにメンバーからの評判もすごい良かったし。やっぱ高須君は違うな」
「よ、よせよ」
「でも本当に高須君っておせっかいだよね。 笑っちゃうくらい。多分こうやってメニューに悩んでる人が居たらパッと作っちゃうんだろうな」


亜美はスタジオで高須提案の料理に見とれる。


「…俺が」
「なぁに?」


亜美は竜児の方を見る。


「俺が、今回メニューに口を出したのは川嶋、お前だったからだ」
「えっ?」
「親元から離れて暮らしてるお前は多分、栄養とか足りてねぇんだろうし、仕事上外食とか多いんだろうし。
 だから朝にはこんなの喰ってもらいたいって、考えてたからつい口出しちまったんだ。前回、仕事をまっとうしているお前見てたら
 なんかこう、すげぇ心配になってな。それで、今は体調とか崩したりしてねぇの?」

「…高須君って本当にお節介やきなんだね」


ここで会話が止まる。周りにはスタッフも誰も居ない。まだスタジオにはセットや小道具などが置きっぱなしだ。おそらく別室で
次の企画の打ち合わせでもしているのだろうか。ただ、亜美には好都合だった。
こうして竜児とふたりっきりになれるなんて学校ではせいぜい昼休み程度。
ただ、これ以上の会話が進まない。どう返せばいいのだろう?体調なんて日によって変わるし…
亜美が悩んでいる中沈黙を破ったのは、打ち合わせが終わったのか入り口から片付けのため何人か入ってくる景色だった。
695名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:21:24 ID:E9FCjBnz
「お疲れサマです!川嶋さん!!」
「あ、はい。お疲れさまです。」
「あの、プロデューサーが呼んでましたよ」
「あ、はい、わかりました。じゃあ、高須君。今日も一緒に帰れると思うからちょっと待ってて」
「お、おぅ」


高須竜児は見学の時に座っていた椅子にドサッと座り、一息つく。
今日は疲れた…。まさかホントにメニューが通るなんて…。シェフが良い人で良かった。
それに川嶋にも食べてもらえたし… あいつの笑顔、冗談の顔じゃなかったよな…


「高須くーん。またタクシー出るって!」
「あぁ、ホントか?そりゃまた贅沢だな」
「まぁそういうことは亜美ちゃんに任せなさい!」
「ありがとうな川嶋」


そして亜美が楽屋回りやスタッフさんに挨拶をし、竜児はシェフに挨拶をしスタジオの外に出てタクシーに乗り込む。
竜児は気疲れとタクシーの揺れのせいか睡魔に襲われていた。


「高須君」
「…なんだ。川嶋」
「今度は私が肩貸してあげようか?」
「いや、俺は窓の方に頭置くから大丈夫だよ。川嶋、お前が眠くなったら俺の肩いつでも使っていいからな」
「…ダメだよ高須君!前回は私が借りたんだから今回は高須君が借りなきゃダメだよ!」
「んなこといいってンン?…」


竜児が言ってる間に亜美は竜児の頭を無理やり自分の肩に乗せた。


「着いたら起こしてあげるから寝ててよ。今日のお礼」


竜児は不本意ながらも亜美の肩を借りることにした。自分の母親以外の女性からのぬくもりを感じるのは初めてで、
一種の興奮を覚えたが、疲れが意外と溜まっていたのか目を閉じるとすんなり眠ってしまった。
696名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:22:51 ID:E9FCjBnz

      * * *




「高須くん!着いたよ!」
「あ?あぁ。」

目をこすりながら頭を上げる竜児。亜美はすでにタクシーの運ちゃんにチケットを渡していた。
タクシーを降りようと体の向きを変える瞬間、運ちゃんの顔がちらりと見える。あれこの運ちゃん…


「ほら、高須君。早く出て」
「あ、あぁ。川嶋、ありがとな。おかげで良く眠れたぜ」
「ううん、全然いいの。じゃ行こっか」
「あぁ。」


ゆっくりと歩き出す二人。


「そういえば、俺は寝てる間川嶋に何もしなかったよな?」
「え!?」
「…まさか俺」
「いやいや!高須君は何もしてないよ!?」
「俺は…?」
「…え!?私だって何もしてないよ?わ、私が何かするわけ無いじゃん!高須君ってバカァ〜!?」
「…ならいいけど」


そういって亜美を送った竜児は家に着き出勤前の泰子にご飯を作り風呂に入って明日に備え床につく。
その瞬間ケータイが鳴った。


「メールか、誰だ?」


送り主は川嶋亜美だった。


「『ごめーん高須君の寝顔が可愛くて撮っちゃいました♪でも亜美ちゃんとのツーショットだから許してくれるよね!?』」


竜児はうなだれた。そこには亜美の肩に頭を乗せ夢見る竜児と両手でピースをしている亜美の姿だった。


「まったく… ってか川嶋両手が写ってるって事は」


浮かんだ人物は一人しか居ない。


「あの運ちゃんめ…!!」
697名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:23:57 ID:E9FCjBnz
終わりです。ありがとうございました!
もう続きなんて浮かばない!けど思いついたら書きます。
あと、保管庫の方、「喰わずなんとか」の竜児の名前の訂正ありがとうございました!
698名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:26:06 ID:CGlw054I
>>697
うおおおおお!寝る前にリアルタイム投下ktkr
超GJ!続きが浮かぶ事を期待しつつ全裸で待ってます!
699名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:43:25 ID:e1uBUfW+
>>697
ちわドラはいいなあ。
亜美ちゃん様が竜児と結婚する平行世界があってもいいよな。
700名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 03:56:54 ID:tb82N8jL
>>697
GJでさ!
シリーズ化希望ww
701名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 04:16:31 ID:h39fnIa/
>>697
あみドラを読むと顔がニヨニヨしてしまう自分がいる
外でケータイで読んでたら通報されかねないくらいだ

このシリーズ大好きだから続いてほしいな
エチーなシーンもあったら嬉しいけどなくても全然OKなんだぜ
膝枕とか耳掻きとかそーいうていどの接触でも全然OKOK
702名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 04:55:19 ID:q8olOQZt
地デジに変わります
で爆笑してしまった、不意打ちだったぜw
703名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 06:40:22 ID:E4eVutph
>>697
超GJ!俺もこのシリーズは好きだから、また思いついた時でいいから書いてくれ!
704名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 06:56:11 ID:z8oMaWDD
>>697

GJ!
ちわドラはいい
本当2828がとまらない
705名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 08:58:06 ID:1sLO/SGG
>>697
このノリの良さ、GJです。1対1(実は違うけど)でこそ素直になれるってシチュは大好物です。思いつく日を楽しみに待ってます。
706名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 11:14:36 ID:hwmTMZU8
y
707名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 20:14:50 ID:+CZGslOP
708名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 23:27:58 ID:WSiyqWAc
>>697
お姫様をBGMにしてたから最高に2828してしまったんだぜw
地デジもかなり吹いたww 好きだな〜、このセンス。

運ちゃん視点で読み直すと、また別の2828がw
709名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 00:19:19 ID:Lr3/HjKO
新スレがすごいけどこっちも埋め
710名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 00:22:36 ID:pnTJOgQF
埋めるぜぇ〜
711名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 00:50:05 ID:AhlYkC5H
超埋めるぜぇ〜
712名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 00:56:54 ID:7qJCmk1k
埋めネタを待ちたいとこだけどあと2kじゃ厳しいかな
713名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 01:00:30 ID:f+aQXAv2
さて埋めようか
714名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 01:14:53 ID:FMqSNXsU
>>705
一対一?
どゆこと?
715名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 01:30:16 ID:zUf5QBE7
うめうめ
716名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 01:48:28 ID:vZK4Wbp9
うめええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
717名無しさん@ピンキー
こっちにも埋め支援

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