【SO・VP】 トライエースSS総合スレ6 【RS・IU】
>>1さん乙です
今スレはSO4で賑わうといいなあ
ファビョニスの続きものも楽しみにしてます
ファビョニスです。続き投下させてもらいますね
スレ移行したので注意書きをもう一度書かせてもらいます
VP2エインフェリアでエルド×セレス
先に投下した『終焉』(アドニス×セレス)冒頭でセレスがエルドの手を取ってしまったら、という
BADエンドルートになりますので、セレス→アドニスな状態です
シリアスの快楽堕ちなし、序盤陵辱、その後も欝カオス捏造多めドロドロ展開
所々で血も大量に飛びます
セレス視点。プロローグとエピローグだけイージス視点です。
セレス→とても可哀想なことになってます、自殺寸前までいきますんで厳重注意願います
エルド→ヤンデレ、最低最悪な男設定。アドニスが喪だったのでこっちはヤリチンにしてみた
結末も微妙です、しつこいですが鬼畜・虐待がダメな方はお手数ですが回避の方よろしくお願いします
なおアドニス本体は出ません
NGワードは「女神(終焉BAD)」です
全体的にかなりの俺設定になってしまいました、オリキャラ等複数でます
以上ご了承のほどよろしくお願いします
今回投下分は
精神虐待要素が強い上自殺寸前まで行きますので、苦手な方、回避をどうぞよろしくお願いします
唾を吐き捨てると、朽ちかけた身体を強引に抱き寄せられる。
「疼くんだろ?しゃべる元気があるなら相手してやるよ」
瞬時に石化する。本気かと耳を疑った。
抱き締められ、あばら骨の浮き出た体をまさぐられる。
「う!……ん、ふ…っ!」
口付けられると甘い酒の味がした。
本当に残忍な男なのだと思い知る。
「あっ、あ」
あまりのことに声が出ない。
しばらく水浴びも、ましてや清拭すらしていない。汚れているのにお構いなしで迫ってくる。
弱く首を振る。
「いやっ、いや、だ」
抵抗されても構わず抱きついてきて、肉の削げた肌を蹂躙する。
「やめてぇっ……」
性欲でもなく征服欲でもなく、ただ傷つけるために繋がろうとしている。
そうとしか思えなかった。
「助けて…だれ、か、たす け、 て」
助けて。
助けて………
「アドニス…………」
その一言は、空気も、動作も全て停止させた。
「アドニス…アドニ、ス」
ただ震える唇から漏れる消え入りそうな小声だけが、一人の男の名を愚か者のように復唱していた。
この状況で他の男の名を呼ぶことがどういう仕打ちにつながるかは流石に予想がつく。
だが止められなかった。
一度声に出してしまうとどうしようもなく内側から波打ち、特別な人間なのだと思い知らされる。
逢いたい男。愛おしくてどうすることもできない男の名。
「アドニス…」
届けられない想いが喉を嚥下してじんわりと温かく広がり、沁みる。
もうすぐ二度目の死が訪れる。
なら、一つでも多く口にしよう。
最後に。
「…アドニス……」
何度も何度も好きな男の名を重ねる度、目の前の男の表情が見る見るうちにさらなる凶悪へと重ね塗られてゆく。
嗚呼、死ぬんだと他人事のように思う。
怒号とともに滅多打ちにされる、そう覚悟した。
心のどこかで、そういえば殴られるのは初めてだなと意外なことに気付いた。
これが、初めて、で、最後、か。
瞼を閉じた。
だが感情のままに殴打するのだろうと思った手は、セレスを乱暴に突き倒しただけだった。
「そんなに好きならケツでも振ってりゃ良かったじゃねえか!!どうして俺の手をとった!!」
「……」
答えようとしても声がもう出ない。
「ばかやろおぉ泣きてえのはこっちだこのクソアマっ!!散々期待させといて被害者面してんじゃねえぞ!!」
猛獣のごとく牙を剥いて罵って、腹の底から、吼えた。
「言われなくてもてめえみてえな辛気くせえ女こっちから願い下げだ!!!」
そう捨て台詞を残して、荒ぶる死神はやっと、やっと出ていった。
ホッとして床に崩れ落ちた。
張っていた糸がぷつりと切れ、力なく垂れ下がった。
涙一粒とともに、笑いが漏れた。
助かったからではない。
自分を殺したがっている相手に助けてなどと縋ってしまう、己のあまりの哀れさがおかしかった。
そして、己の中にいる彼の、あまりの存在の大きさも。
残忍な手から解放されても、体内の熱源は炎を灯すことなく、さらに冷えてゆく。
惨憺たる姿を毛布にくるみ、セレスは唯一人死に行く街に取り残されていた。
精神状態は荒廃した焼け野原そのものだった。
今更解放され、一人残されたところで、絶望で満たされた魂では逃げる気力も起こらない。
本当はここを動いた方がいい。エルドのことだから、セレスが自分の思い通りにならなかった腹いせに
他の男達にでもこの場所を言いふらしている可能性がある。
もう性的な玩具にはならなくても、鬱憤晴らしのサンドバックくらいにはなる。
嬲り殺されるまで、違う女を腕に絡みつかせながら、ニヤついて見おろしているのだろうか。
……。
本当に。
この程度の存在だったんだなあ………。
好かれているとまではいかなくてもそれなりの信頼を置かれていると思い上がっていた。
死線を共に掻い潜ってきた、絆があると。
「馬鹿みたい」
ぼそりと自嘲した。
動けない。
ボロボロだった。
動かなくても身体がきしむ。何だか神経が痛み、いやに肌が痒い。
下半身には毎夜弄ばれていた故の強い異物感が残り、数日経過した今でも未だに犯されている感覚がある。
肉が固まり、血潮が濁り、内臓が腐敗していく感覚が進行してゆく。
蹂躙された事実を振り払いたくて、そんな体を掻き毟る。
戻りたい、あの日、あの満月の夜、あの瞬間へ。
どうしてあんな奴の手をとってしまったんだろう?
後悔で満たされていると、ふっと記憶の中にいる女神が心に現れる。
―――――あなたはどこか、危ういのよ。
シルメリア・ヴァルキュリア。
もう彼の戦乙女とも繋がっていない。
彼女という大木から転げ落ちて腐り果てるのを待つだけの果実なのだろう、私は。
人を思う女神の温もりを思い出し、ひどい喪失感に満たされる。
波打つ金髪の美しい三女は、無表情に見えるが、悲しい顔をしている。
ずっと昔。
まだ魂が劣化していない頃。
使役された後、あまりの残忍さを注意されたエルドが癇癪を起こして何処かへ行ってしまったことがあった。
その後セレスが受けたのは、事を荒立てたくないので、探して連れ戻すのを手伝ってほしいとの命令だった。
何故私が?と返すと、彼は貴方の言うことなら聞くからと、優美な眼差しに困惑の色を雑じらせた。
捜索しながら歩いていると美麗な女神からため息が漏れる。
『…何だか、やっぱり失敗したかしらって思ってしまうわね。働き者ではあるけれど、いつまでも反抗的だし』
『そういう人間も混じるのが貴方の選定の味だと思うわ』
おぼつかないフォローに苦笑すると、シルメリアは考えあぐねたように見据えてきた。
『昔、彼に訊ねられた。あなたが死んだらエインフェリアにするのかと』
『そう。それが、何か?』
『え、何かって…』
人の機微を大事にする女神と、他人の機微に非常に疎い英霊。会話は絡まなかった。
『あなたって、こういうことに関しては本当に少女のままよね』
遠まわしに伝えたいことの端っこにさえ気付かないセレスに、困ったように眉根を寄せる。
セレスの方は小馬鹿にされたように感じてしまい、主人とはいえ少々むっとしてしまう。
その不満に気付いてか気付かないでか目を逸らすと、美しい戦乙女は小さく俯いた。
『でも、こういうことにあまり私が出しゃばるのもフェアじゃないかしらね……』
『?』
しばらく悩んだあげく、女神はこう言った。
『頼んでおいて何だけど』
白い布がふわふわと揺れている。
『セレス』
金色の髪がさらさらと揺れている。
『…彼には気をつけて』
翠の瞳に宿る強い光は明らかに警告を発していた。
そういう、ことだったのか。
己の愚鈍を思い知る。
警告は現実となり、彼女に再生された肉体は今や穢れきっている。
シルメリアが何を言いたかったのか今更理解しても、後悔がせり上がるのみ。
けれども、仲間だと思っていた。信じていたのだ。
愚劣すぎた。人などそう簡単に変わるわけがなかった。
私なんかを愛してるなんてそれこそ有り得ないのに、あんな安上がりな甘い言葉に簡単に酔わされたのだ。
絶望とともに羞恥と己への激しい怒りが襲ってくる。
情けない。なんという甘さだったのだろうか。
痒い。痛い……。
別の痛みで隠そうとして、肌を掻く。
涙の代わりに血が滲む。
孤独が重くのしかかる。
帰れる場所なんてない。
もう、何処にも戻れない――――――――――
最後に一度だけ、エルドが戻ってきた。
恨み言をこぼす気力もない。黒の外套を纏った姿を確認すると、無言で視線を逸らした。
「もう行くから」
余計な気遣いを鼻で笑う。
姿を見せないでくれるのが一番ありがたいこと位わかっているはずだ。
セレスは嗤った。
解放される前だったら彼女が浮かべることなど有り得なかった、歪んで淀みきった嗤い。
「正直に 言っ…ら ど…なのよ。どうなったか 見に きた…でしょ?」
挑発的な物言いにエルドは不機嫌な顔をさらに顰める。
「何だと?」
セレスはもう恥じらうこともないとばかりに上半身を晒した。
途端、エルドの目がかっと見開いた。
「う…っ」
口に手をあて後ずさる。
それ程に酷かった。
広範囲にわたり赤く発疹し、その上細かい水庖が大量に浮き出て、まさに目を背けたくなる惨状をしていた。
「何だよそれ…」
慄く演技が実にわざとらしい。面白がっているくせに。
「訊きた…のは私の方、よ。見た目、だけじゃ ないわ。身体中、折れるよ に痛い……何したの。これ、何なの?」
一瞬ぽかんとしたが、自分に嫌疑がかかっているのに気付いたエルドは更に顔を歪めた。
「おい!!俺がやったっていうのか!?ふざけんなよ何もしてねえよ!!」
「何言ってんのよ……期待どおりの 症状…な の?」
咎める女は既に目つきがおかしい。
「嘘つき……」
飽きたら奴隷市場に売り飛ばされる可能性もあると危惧していたが、まさかここまでされるとは思わなかった。
「…これ、どう なるの?私………どうなるの?」
震える己を抱き締める。
惨めすぎて笑いたくなった。
張り詰めた空気を割って、手の平を死神に差し出す。
「どうしたの……しましょうよ」
来ないのをわかっていて半笑いで誘った。
数秒後に伸ばした手がくたりと床に落ちる。
「おめでたい…わよ ね。…貴方にまで、ここまで 嫌…れてるなんて…思いも、しなかった…」
乾いた紫の唇から常軌を外れかけた狂気まじりの嗤いがぽろぽろと転がる。
空間は汚濁し、淀んでいる。
弓闘士が目を伏せ長嘆息を漏らした。もうだめだと判断したのだろう。
「もういい。しゃべるな。医者行くぞ」
そう言って近づき跪いてセレスに触れようとした。
迫る指先に苛立ちがボッと燃え上がった。
医者?
わざとらしい。一体誰がここまで追い込んだというのか。
それとも、いざ病魔に侵された姿を見たら哀れになったんだろうか。
勝手すぎる。
「貴様からの施しなど受けるかっ!!!」
思わず叫んだ後は当然のように激痛が襲ってきた。あまりの苦痛にそのまま倒れて床に突っ伏す。
「は…はぁっ、う……っ」
叫びさえ、ちゃんと言葉になったかどうかもわからない。
エルドはそんなセレスをしばらく表情も灯さず見つめていたが、
「勝手にしな」
立ち上がって外套を翻した。
逃がしてなるものか。もう思考回路も滅茶苦茶だった。
ふわりと舞った外套の端をしっかと掴む。
「待ちなさい よ……。責任、取って、いってよ。散々…遊んだんだか、ら」
「…責任?」
足を止め見下ろす死神に、悲しい要求が投げつけられた。
「殺していって」
瀕死の女に睨み上げられている男は幾度目かのため息を漏らすと、慣れた手つきでナイフを取り出した。
首にそっと刃が当てられたのがわかる。
この男は人体から魂を切り離すための刃の入れ方を知っている。
どっと安堵感が溢れた。
やっと死ねる。そう思ったからだ。
「何か言い残すことは」
言われて、少し考えた。
いろいろある。
けれど、何よりも一番大きく心を占有するのは。
「……」
姿を思い浮かべるだけでとても悲しい気持ちにさせられる、一人の男のことだけだった。
「……ごめん…な…さい………アドニ…ス…………」
掠れた涙声には深い愛情が詰まっていた。
その一言に、エルドの影は濃いが端正な顔立ちが、これでもかという程ひしゃげて歪んだ。
「冗談じゃねえ」
そう吐き捨て、ナイフを引っ込めてその狂気じみた現場から早急に離脱してしまった。
愕然とする。
何故。
血が好きなはずなのに。
「こんなめんどくせえ女なら手ぇ出すんじゃなかった」
吐き捨てて、あっという間に出て行ってしまった。
今更。
「ふ…」
これだけしておいて。
今更、それか。
「ふざけるなぁあっ!!ちゃんと……ちゃんと、殺していけぇ――――――――――――!!!!!」
死んだ港町に、かつて栄えた国で王女だった女の絶叫が轟いた。
あの活気に溢れたゾルデも昔の話、現在は疲れきった老人や行き場のない子供が大半を占める過疎地域になっていた。
あっという間の閑散。
林立する帆船もかき消えた。
後は静かに廃墟へと姿を変えてゆくのみなのだろう。
その港町の片隅で、一足先に深い暗闇へと飲み込まれ、確実に消えていこうとしている女がいた。
大剣を振るっていた勇猛な姿は既に見る影も無い。
病状は激しく悪化していた。
発疹も水疱も容赦なく広がり、白くなめらかだった肌を我が物顔で浸食していく。
「そりゃ、そう よねー」
人間どうしようもないと笑うしかない。
独り言が多くなった。
他人の目に触れれば哀れな狂女にしか見えないだろう。
「好きな人…いる のに、 …他の男、手、とっ ちゃ」
水疱を爪が掻き壊し、肉まで薄く抉る。滲んだ血が粒になって滴る。
「…有…得ないわ …よね」
もう声らしい声も出ない。独り言がちゃんと音になっているのかも疑わしい。
乾いてひりつく喉が熱い。
発疹は現在のところ胸部や腹、背中だけだが、下半身や顔にもそろそろ回ってくるのだろう。
度々激痛が突き抜ける。
得体の知れぬ病に侵された恐怖が重く纏わりつく。
一体どうなってしまうのだろう。
このまま全身を侵されてしまうのか。それともあまりの苦悶に発狂してしまうのだろうか。
まさか、腹を喰い破って化け物が………。
悪い予想ばかりが巡る。
ふうと息をついた。
潮時だな、と思う。
どうなろうとゾルデへの害悪にしかなり得ないようだ。
残された弱き民達に迷惑をかけるようなことがあってはならない。
猫が鳴く。姿は見えない。置いていかれた猫だろうか。
連れて行こうとしても行かなかったのかもしれない。猫は家につくというし。
嫌いではないが、構う元気など既にかけらもない。
死にかけた元英雄は鞘に納まった剣を抱いていた。
名剣ムーンファルクス。
あの弓闘士に捨てられたのはわかっているのだが、物音がする度怖くて手放せない。
もっとも迎撃できるのかは定かではない。
ふと、己の技術は愛する人のためだけにあると言い放ったキルケの、毅然とした態度が脳裏に浮かぶ。
かっこよかったな。黒刃、相手に。
斬鉄姫なんかより、ずっと。
ああいう方が、余程かっこいい。
「私 は…」
何もせずただ愛している人から逃げ出した。
努力さえしなかった。
嫌われていても誠実でいることは出来たはずなのに―――――
「…何処まで、 駄目な女…なのか…らね…」
いつ、こんなに駄目になったのだろう。
もう少しばかりは賢く強い女だと、自負していたのだけれど。
自惚れていたのか。もともと駄目だったのだろうか。
様々な予測が脳裏をよぎったが、本当の理由は何となくわかっていた。
恋をしたからだろう。
解放後に再戦する為とはわかっていても、顔を合わす度にあの人に守られて、助けられて、手を差し伸べられて。
大事にされることに信じられない程慣れてしまっていた。
生前あんなに多くの男達から恐れられていたのも忘れて、恥ずかしい勘違いをしていたのだ。
自嘲する。
王子様が助けにきてくれるお姫様などではないなんて、わかりきっているのに。
剣をぎゅっと抱いた。
もし機会があるのなら今度こそ大切な人に誠実でありたいと切に願う。
そしてその機会は来世であることを予感していた。
いよいよ高熱にうなされて眩暈を頻発し、幾度も幾度も白い世界に迷い込む。
小虫が飛んでいる。羽音が煩い。
己が招いた災難という意識が強いためか、あの弓闘士を恨む気持ちは薄い。
ただ、寂しい。
惨めだな。
自身の愚かしい選択のせいで、何百年が過ぎても、念願だった解放を迎えても孤独のままで。
こんな煩わしい記憶を抱えたまま生きていくのも、これ以上、無様に生き恥を晒すのもごめんだ。
「……」
弱く笑う。
ほんの少しだけ、これで良かったのかもしれないという安堵のようなものがあった。
疑問があった。
例え戦乙女に仕え、尖兵の任を果たし解放された後だとしても、私には幸せになる資格があるのかという疑問。
勝手なことばかりしていた。
大戦に参戦し、反旗を翻し、実妹の片腕を落とし。
そしてそんな斬鉄姫を裏切り陥れたのは、信頼していた仲間の弓闘士。
まさにいい気味という奴なのかもしれない。
ゾルデから、海の向こうの祖国から、王家や民衆の割れるような嘲り笑いが聞こえるような気さえしていた。
「さて、と」
大きく息をつき、背を伸ばす。それだけでもう全身が悲鳴を上げる。
もうここまできたら。
「大人しく、死ぬか…」
掻き毟って傷だらけの身体を起こす。
セレスは病気の正体も知らずに、始まったばかりの新しい生を放棄しようとしていた。
「……」
こんな結末を迎えるくらいならいっそ気持ちを伝えてしまえば良かった。
抱いていた剣を抜く。
月から落ちてきた石で作られたという剣。独特の刃文が妙にあたたかく思えた。
「流石に。貴方も、こんな…有り 得ない選択まで は、フォローできなかっ…かし ら」
剣に向かって力無く話しかけた。
この剣を入手するために材料集めに奮闘したのが懐かしく回想される。
その間中ずっと、あの人と一緒に使役された。
だからくれたのだろう。
『大丈夫よ。きっとうまくいくわ』
解放時にはこの剣を与えると約束してくれた運命の女神が小首をかしげて微笑む。
『何がうまくいくの?』
激励したつもりだったのに、察しさえしない英霊のあまりの鈍感さに、流石のシルメリアも言葉に詰まる。
『………ええと、ほら、あれよ。ある世界では、月の光は愛のメッセージって言うらしいわよ。そんな感じ』
『ぶぶぅっ!!』
背後でキルケとソファラが勢いよく吹き出し笑い転げている。
『え?何?何?』
『手放しては駄目よ?きっと正しい方向へ導いてくれるわ』
『だから何?』
『きっとうまくいくわ』
「…」
なんだろう。
剣に視線を落としたまま、セレスは濁る意識の中で疑問を抱いた。
キルケも、ソファラも。シルメリアも。
なんだったんだろう。あれ。
なんで…笑ったのかな。
どうして…嗤ったのかな……………
気にかけもしなかった主と友人達の言動が、急に不安なものになる。
打ちひしがれた精神は記憶の中にある朗らかな笑い声さえ嘲笑に変える。
気付いていたんだろうか。みんな、私の有り得ない恋心を。
彼女達も、本当は馬鹿にしていたんだろうか。
いたたまれなくて記憶を霧散させる。
無様すぎる。
息をつくと、思考が愛する男のところへ戻る。
もうあの広い背中を見つけられる気すらしない。
「俺から 逃げ切…ると思うなよ…じゃ、なかったの…しら」
追ってくる兆しすらなかった。直前逃亡した仇敵など、愛想が尽きたのかもしれない。
「その為 に、ずっと、…私を、助けてく……たんで、しょう?」
遠い昔、早く立てと差し延べられる大きな手がとても嬉しかった。
「…早く、殺しにきてよ」
そばにいれる、近くにいられる、それだけで幸せだった。
「……怖かった の。あなたに、踏み躙ら る自分が、…ひどく、惨めに思えた…のよ。
そうやって 逃げ…結果は、この通り 惨め なんてもんじゃ…ないけれど、ね」
失笑して、
「戦わな…ても、もう ずうっと 前から、……あなたの勝ちよ……」
一人、負けを認めた。
微笑みがすうと消える。
「だから、もう…いいわ、よね。もう 待って…られないの。私が、私でいられ る うち、に、…終わらせ、なきゃ」
届かないのをわかっていて呟く。
「私…………貴方のこと…………」
だが、言葉は最後まで続かなかった。
彼から逃げ出した誠意のない自分に、届かないとしても告白する資格など与えたくなかった。
もうどうしようもなく汚れている気がして。
生まれてはじめての恋。
そんなもの、するんじゃなかった。
斬鉄姫がそんなものしてはいけなかったのだ。
「さよなら」
衰えのせいでムーンファルクスを持ち上げることはもう叶わなかった。
虚ろな目を閉じ、首筋にナイフの刃を当てる。
ずいぶん長いこと情けない姿を晒してしまった。
こんな状況でも素直に助けてと思えない相手に心を奪われたなんて、本当にどうかしている。
けれど。
好き。
やっぱり好きだ。どうしようもないほどに。
今は何処にいるのだろうか。
最後に
一目でいい
逢いたい
な……………………
「セレス…」
最期を迎えようとしていた女の淀んだ目がゆっくりと見開く。
声
あの人の
――――追ってきたんだ
光芒一閃。
急に光が射した気がしたと同時に、嗚呼、ついに気が触れたのかとそんな自分を哀れんだ。
あの人は自分のことを名前で呼んでなどくれない、わかっているのに。
そう思いつつ、ふらつく身体で部屋を飛び出す。
来てくれたんだ。
もう恥も外聞も無い。
倒れても必死になって這いずり、少しでも距離を縮めたくて前方に手を伸ばす。
斬り捨てられてもいい。
幻でもいい。
そこにいて
お願い
そこにいて
「アドニス……!!」
かくして、男が一人立っていた。
開け放たれた玄関のドアから数歩進んだところで男が一人、とんでもないものを見た形相で固まっている。
「セレス………か…?」
「イー…ジス……」
かち合ったのは、髭面の魔術師。
極寒の谷でマテリアライズされた最後のエインフェリアが古巣のゾルデへ戻ってきたのはしばらく経ってからだった。
予想外のお互いの姿に衝撃を受け、硬直から解けるのに十秒程度を要した。
「え……と、赤い髪の女が住んでるって聞いたから…まさかとは思ったが…」
イージスは呆気に取られていたが、やがて視線を外し、頭をボリボリかいた。
「あ…と…わ、わりぃなアドニスじゃなくて」
申し訳なさげな言い方をされ、セレスのこけた頬にさっと赤みがさした。
こんな情けない姿を見られた、という気持ちで満たされ錯乱する。
返事も返さず来た道を戻ると乱暴にドアを閉めた。
「セレス!」
失言したとでも勘違いしたのだろうか、魔術師が慌てて階段を駆け登ってきたのがわかった。
ドア一枚隔てて気まずい雰囲気が立ち込める。
「セレス、その、何だ…」
話しかけてくる声もしどろもどろだった。
「し、新居はここなのか?いや〜奇遇だなあ!俺実はここの生まれなんだよ!は、ははっ!
エインフェリアの頃はあんま交流なかったがこれからはよろしくな!」
悪気はない、むしろ気を遣いまくりなのだろうが、どうしてもわざとらしい明るさが耳を障る。
「帰って」
「セレス」
「帰って!!」
身体に響くのも忘れて、枯れた錆声で絶叫する。
「お願い… 放っ、て、おいて…」
容赦ない疼痛が跳ね返ってきたが、必死で耐えつつ懇願する。
怖かった。
既に男が求めてくるような身体でないことはわかっていたが、気を許したら豹変するのではないか、
地獄を見た後では仕方のない恐怖にかられていた。
十数秒の沈黙の後、ドア越しの男はため息をつく。
「よーし聞けよセレス。知ってのとおり、ゾルデはもうじじいとばばあとガキばっかりだ」
「…?」
何を言い出すのかとつい耳をそばだてる。
「悪りいがはっきり言うぞ。変な病気持ってる女にいつまでも居着かれちゃ困るんだよ」
「……」
「同じ戦乙女に使役された縁だ。死に水なら俺がとってやる。開けて話を聞かせてくれ」
感情論だけではどうにもできない、迅速な対処を要する状況下。
人の上に立ったことがある者として、その気持ちは理解できた。
「……はっきり 言っ…くれる、のね」
苦笑するとほんの少し気持ちがほどけて和らいだ。
イージスは正しい。
そうだ、この男も確か即死魔法を修得しているはず。申し訳ないが世話になろう。
どのうち拒否してもドアを蹴破られるだけなのを察知して、骨の浮き出る体に毛布をかけ、深めにかぶる。
ゆっくりと、おそるおそるドアの錠を外すと、
「いい子だ」
出迎えた男がにかっと破顔した。
ああ。
普通の笑顔。人の笑顔。久しぶりに見た。
まるで光そのものだった。
イージスは特に美形という男ではない。
むしろエインフェリア時代はまばらに生えた髭が汚らしいだのむさ苦しいだのと女達から悪い意味で大評判だった。
でも、とても眩しい。
温度のある笑顔。
「いい子 って…」
苦笑すると、
「なんだよー!えっと、もう、なんか、ほら!俺らずっと戦乙女の中にいた間柄じゃんか!もう兄貴みたいなもんだろ!なっ?」
安心させようとしてくれているのか、先程から言動にかなりの無理が混じっている。
気持ちはうれしいのだがそんな気遣いをしなくてはいけないような惨状なのかと情けなくいたたまれない。
そんなセレスを前に、イージスの方もあっという間に曇る。
「はは。…なんつってな。交流もほんとどなかった奴に突然馴れ馴れしくされても困るよな」
「そんなこと…ない わよ?何度か…一緒、呼び出されたわよね?私…が 動きやすいよ…に、援護…
いろいろ 気を配ってくれて…いつも 助かって…わ」
「うわぁ…おい、気付いてるなよ。覚えてなくていいってのに。参ったな」
後頭部を掻きつつ照れまくる髭面の目が泳ぐ。
「まあ、ホラ。知らないかもしれねーが、俺はディパンの兵士だったんだ。」
「もちろん 知ってる…わ」
「そ、そうか」
歴史書で何度も名を目にしたことのある祖国の智将が、嬉しげに顔を綻ばす。
ゴホンと一つ咳をすると、きりっとした面持ちで向き直る。
「とにかく、その。信頼してほしいっつーか。何かどうもいろいろあったみてえだけど。俺はお前の味方だから」
数秒の沈黙の後、セレスはそっとその好意を受け入れた。
「ええ。 信じるわ。…人を信じ……なくなっ…ら、終わり、だものね…」
半分は己に言い聞かせるためにそう口にした。
「面倒…かけて、ごめ…なさい…」
ぜえはあと息遣いが酷い。
「…悪りい。本題行く前に遠回りしすぎた。あまり長く話させてえ状態じゃねえし、簡単に状況説明してくれるか」
「私、…悪い、病気なの。も 駄目なの。どんな 症状が出るかも、わからない、だから早く、何とか…しないといけなくて…」
息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
「そう…だ」
ふらふらと危うげに振り返り、室内にある宝物の剣を指出す。
「あれ…受け取ってほし の。どうか 大切に…し…てね」
「…」
魔術師は無言でムーンファルクスを見やる。
その近くに投げ置かれているナイフが少量の鮮血で汚れているのを発見し、眉を顰める。
セレスはもうそんな機微にも気付けない。
「近場…そう、お花畑が…あったわね。そこ…行…ましょう。死んだら 灰に…るまで 焼 いて。
お墓 …なんていらない から。捨て…置 いて、ね」
ふらつく足取りで室内に戻り、もう二度と世話になることがないと思っていた外套を纏う。
「行き…しょう か。大丈夫……歩ける」
イージスはやり切れないといった表情で首を振り、腰に手を当てた。
「……せめて理由ぐらい聞かせてくれよ」
「大方は……自業自得」
顔を伏せて自嘲する。
気まずい沈黙が支配する。向かい合っているだけでいたたまれない。
非常に頭の回転の良い男だ。状態や口にするいくつかの言葉だけで、大抵のことは読み取ってしまう気がする。
現に、先程目撃されてしまった、一番気にかかるはずである頭髪について何も聞いてこない。
「そうか。言いたくなきゃいい」
しゃべる度に魔術師の声が優しくなる。いたわりは伝わるのだが、同情も心に刺さる。
恥ずかしい。情けない。
これが、斬鉄姫、だなんて。
早く消えたい。
ぐらりとよろめく。
「セレス!」
抱きとめられて、魔術師のむき出しの手が頬に触れた。
温かい。
違う。あの男とは、全然。
人間の体温。
ギリギリで持ちこたえていた線が信じられない程あっさり切れて、とめどなく涙があふれる。
「ううっ、あ、ふう…っ」
「セレス…」
遠慮なしに号泣したのはあの壊された日以来だった。
イージスは抱きとめた状態のまま、慟哭する女の扱いにおたおたと困り果てていた。
が、、
「さわっちゃ、駄目っ!!伝染性 病気だっ ら大変!!」
はっと気付いたセレスに慌てて突き飛ばされた。もっとも今のセレスではほとんど力はこもらなかったが。
「そんときゃそんときだ」
アバウトすぎる即答に思わず気が抜ける。
「俺のことはいい。お前のことを聞かせてくれ。症状はどんな感じなんだ」
躊躇ったが、弱まっている精神は呆気なくイージスの真剣な表情に押される。
「すご く、痛…の…。赤く発疹して、そ…そこに気持ち悪…水ぶくれ、いくつも…潰しても潰しても…」
「水ぶくれだと?」
セレスの答えに軽く動揺し、慌てて咎める。
「おい、だめだそういうのは潰しちゃあ。悪化するかもしれねえし余計に広がるだけだ」
「え……」
「つうか、なんだ?他に原因の心当たりあるのか?」
「…………。わから…ない……」
答えられるわけもない。
息遣いが本気で危うくなってきたセレスを見かねたイージスは、天井を仰ぎふーと息をつくと、
「さて、医者が残ってるといいが」
玄関のある方角に目を向けた。
「え」
困ったように眉根を寄せるセレス。
「イージス…気持ち 嬉し…けど、私はもう…」
「『もう』何だよ?俺達は解放されたばっかだ。世界に慣れてねえ。出だしで一歩躓いただけだろ」
死に水を取る。優しい嘘をついた主はふんぞり返った。
「第一俺が可哀想だろ!大事な仲間にそんなことさせるのか!?なんて可哀想な俺!」
「イージス…」
へへっと笑うと、セレスの肩に手を置く。
「よくここまで頑張ったな。もう大丈夫だ」
そんな風に言ってもらえるとは夢にも思わなくて、目が丸くなる。
「その花畑にはさ、治った後に暇なガキどもでも集めてピクニックに行こうぜ!」
もはや涙腺は崩壊し子供のように泣きじゃくるしかなかった。
耐え切れず、再度魔術師の胸にしなだれかかる。
「怖かった……」
「ああ」
「怖くて…… 動けなかっ た…」
「よしよし。とりあえずちょっと水飲め。な」
寝台に誘導されて腰を下ろした。
震える手は水筒もまともに持てない。あまりの状態の酷さにイージスの面持ちが更なる深刻を含んだ。
「横になって待ってろ。医者呼んでくる」
「いや……!行かな…で…一人に、しないで……っ」
一歩踏み出したイージスに必死で縋りつく。
「セレス…」
最早大量に注がれる哀れみすら気にかける余裕がない。
そんな女に薄い毛布が被せられた。
「そうだなあ…。お前が一つ、悪かった所といえば。…不安な時はできるだけ大勢に相談しないとダメだな」
本当にその通りだった。
誰にも迷惑をかけてはいけないと気負った所為で、結局この男一人に多大な迷惑をかけている。
「ごめんなさい…」
「謝らなくていい。さあ行こうぜ」
素直に従い、イージスにおぶさった。
「うお、軽…っ」
女とはいえ成人した人間の重さを覚悟していたのだろう、痩せ細った仲間の軽さに突飛な驚嘆の声を漏らした。
存在の温もり。
イージスとは逆に、セレスは散々迷惑をかけた兄の背を思い出さずにはいられなかった。
「兄さん……」
「ん?おお兄ちゃんだぞ。これからは俺がお前の兄ちゃんだ」
何か勘違いをしたらしいイージスから優しい返答がきた。
訂正する前に、小さな微笑と大粒の涙とともにセレスは意識を失った。
本来ならそこまで悪い病気ではないことも、死神の蒔いた種ではないことも、何も知らずに。
すいません連投規制ひっかかって遅くなりました
今回は以上です。どうもありがとうございました
カオスだけど切ない…
昼間から堪能させていただきました!GJ!!
すごく続きが気になるので全裸待機続行します
ファビョニスきたー
俺も全裸でわっふるしてます
使用済ティッシュ(内訳・涙と鼻水)がえらい散らばってる件について。
とりあえず全裸待機列に黒ニーソと白ニーソとネ○ア差し入れとこう
あ、追加
このセレスにC120と高野式呼吸法を進呈したいと思ったのは俺だけで(ry
エロエロGJ
時々ある狂気の表現がゾクッとしてたまらん
全裸続行
>>17 ○ピアをいただいておこうか
つうか何で白黒ニーソなんだよw
忘れてた
>>1乙
前スレの大人な対応にちと感動した
カオス鬱だが引き込まれた。乙
エルドただの棒扱いかと思ってたが違うようだな
これからの展開を楽しみに待つ
ヤバイ、涙が止まらん。
ファビョニスGJ!!
なんだよエロかと思ったら泣けてしょうがないぞコノヤロー。
こ、この涙は全裸故の寒さから来るものじゃないんだからねっ!
騙されるなあぁぁ!シリアス展開鬱展開にほだされてんじゃねえぇ!!
ドチビの脳内解釈も大概だろうが黒刃菌と大差ねぇもん棲んでんぞ!!
寧ろモテまくった実体験が土台だから尚更タチ悪ぃわあぁぁ!!あー悪かったな非モテでよー!!!
……という電波をひっきりなしに受信中。
>>19 変態紳士の社交場の変態度を上げるのに理由がいるかい?
さて全裸に猫耳猫尻尾猫手袋猫足スリッパでヤンデレ化エルド期待待機するか。
俺も楽しみにしてるしテンション上がる気持ちはとてもよくわかるんだが
ヒートアップしすぎにはちょっと気をつけてな
次回投下をまったりと待とうぜ
さてそろそろSO4か
この板的にもSO3並の大波がくるといいんだが
レイミたんモノ期待
そしてフェイズが男で泣いた
AAAは早くイセリア主人公のゲームを作るべき
あの羽にぶっかけたい
前スレで誰かも言っていたがSO4本スレは勢いあるのにここは全然だな
まぁ、発売してからしばらくしてからだろうな
ミスティリーアとクレアたんとマリアたんにふぐふぐされたい
そんじゃあ俺はロリと猫娘に期待しとこうか
じゃあ俺はSO3のフラウ族たちに逆レイプされたい
じゃあ俺はブレアと本社のオフィスでにゃんにゃんしたい
じゃあ俺はシーハーツへの技術提供のお礼にクレアとネルにW足コキされたい
ついでにそのまま飼われたい
じゃあ俺は夢をでっかく持ってVP1&2全女エインフェリアと一発ずつやりたい
ロレンタもバッチコーイ!
ってか…
声がああでなきゃ結構美人だと思うんだけどなぁ
ロレンタ余裕
咎ならラインヒルデとフィオナの親子丼だっていける
旦那と長男に潰されそうだけど
何かこう狙ったお約束キャラ設定と小綺麗な公式絵とポリゴンだけって感じが拭えないSO4
プレイして感想変わりますように
乗り遅れたorzファビョニス乙
マユにチョコレート塗られて舐められたりスターアニスに羽で全身愛撫されるフェイトのSSでも書こうとしたけど
バレンタインに一人エロSS書いてるのが虚しくなって止めた
そういや今日バレンタインデーか
関係ないけどね
他スレならバレンタインSS投下なんてのがあるけどこのスレじゃ無理か
マントを脱ぐとチョコレート錬金コーティングな
ミスティとな?
>>24 俺はまだ希望を捨てていないぜ…!!!>フェイズ
フェイズはロリとの絡みが濃厚らしいぞ
ふざけんなロリは俺の嫁だ
じゃあロボは俺が
ピクシブ見ると
エッジ×レイミ,フェイズ×リムル,バッカス×ミュリア,エイル×メリクルになってた
なんでカルナスをラブワゴンにしたがるの?
ラブカルナースに船名変更だな
SO4のリムルのキャラ説明…
>>召喚したケルベロス
>>ある事件から心を閉ざしてしまい
>>「わんわはいい子なのよ」
…これはつまり獣か(ry
ロリよりお姉さんが仲間になって欲しかった
ええ、銀髪好きですとも
50 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 04:50:06 ID:sbhd4C4i
あー、早くエルフとイチャイチャしたあ
エッチのエッチ!
ホントにあってワロタ
全然もりあがってねえ!
まだみんなプレイ中か!
DVD三枚だし、時間がかかるのさ
というかやっと二枚目入ったあたりだけど何この幸薄いストーリー
今回、今まで以上に話が重いよな…
土壇場で阻止できましたとか間一髪助かりましたとか、そーいうの少なそう。
…ところで米軍に捕まったときのレイミが何もされてないってのは考えにくいんだがどうか。
俺もようやくディスク2入ったところ
一枚目なげーと思ってたら変なところでディスク交換しろって出てワロタ
みんなもうプレイしているんだな
俺は安くなってから中古派だが
さすがに訓練されたトライア信者だな
米軍だもん
アジア人の女に何かしないわけないもんな
58 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/22(日) 21:16:35 ID:BcMhjPca
米兵に捕まったレイミで想像が爆発したのはみんな一緒か
レイプはまあなかったとしても
ストリップやフェラぐらいは仕込まれちゃってるかな
某キャラに感情移入しちゃって中盤以降心が痛かった…
ところでメリクルがいろいろ実験されるSSまだー?
地球って本当に素晴らしいところですね
レイプ・強姦・輪姦ネタには事欠かないな……
逆にキャラ萌えとか挟んでる暇がない
ボス倒して一息ついたかと思えばすぐに誰か死んでるし
研究員にレイミが身体検査やら卑猥な実験される
SSや同人が出るのはもはや規定路線だな
レイミは尻だけで同人誌作れるな
レイミの戦闘終了は尻欲を持て余す
エッジと一緒の船になるために副司令?のデブいヤツに体要求される展開はまだでしょうか
尻穴ふやけるぐらいしゃぶってアナルグッチャグチャにレイプしたい
レイミのエロ尻のせいでおっぱい担当の女が影薄いな
リム一人でもやっつけれるのよ
簡単なのよ
尻でもはさめる。
女は膣に物隠せるからって
全裸にして大股開きのスクワットさせるってどっかの軍がやってたよな
膣に直接手を入れて探すのは捕虜虐待だからとかいって
尻ゲー
SO4のいい波きてるとこ申し訳ない
ファビョニスです
続き投下させてもらいます
注意書きは
>>4でお願いします
今回投下分はガチエロ無しです、そして暴力描写が激しいです
回避の方どうぞよろしくお願いします
目覚めると真っ白い世界にいた。
……ああ。死んだの、か。やっぱり。
イージスごめんなさい。ありがとう……。
ざっと風が舞う。一瞬の突風を受けて目を開けると、花の咲く美しい野原がどこまでも広がっていた。
穏やかな景色とは裏腹に重い息をつく。
イージスやゾルデの民に病が感染していないかと心配ではあったが、ここに留まっていてもしょうがない。
歩を進める。当然ながら浅葱色を纏う戦乙女の迎えはない。
さて、今度の死はどうなるのだろうか。
不安に満たされていると、ふっと、いやに濃い人影が浮かび上がる。
ずっと逢いたかった男が目の前にいた。
あの人だった。
驚くと同時、もう何かやらかして死んだのかと呆れる。
もっとも人のことなど言えた義理ではないのだが。
緊張しつつもそっと距離を縮める。
声をかけようか迷っていたら振り向かれて目が合った。
どぎまぎしていると小さく微笑まれて心臓が止まる。
その面持ちを崩さないまま、向こうから近寄ってくるのが信じられなかった。
手のひらがふわり、と頬を撫でる。
驚いたけど嬉しくて
嬉しくて
男の手に震える自分の両手を添える
嬉しい
足が震える
嬉しい
心が震える
嬉しい………
「本当だ…」
「え…?」
「誰だっていいんだな」
幸福に浸るセレスの世界が一気に暗転する。
どさり、地べたに投げ出された。
拒否する間も与えられず覆い被さられて呼吸が停止する。
汚れた白布の上。
あの仄暗い天井。
嗤っている。
顎をくいと掬われるとあの死神も嗤っていた。
「良かったな」
動けない
叫べない
『誰だっていいんだな』
違う
違う
わたしは
あなたを
「―――――あっ!!あああ!!!いやっいやあああやめてえええええええぇえっ!!!!」
悲痛な叫びが辺り一帯を劈いた。
「セレス!」
椅子に座ってうとうとしていたイージスが跳ね起きて、慌てて肩を抱いてくる。
それでも興奮は止まらない。夢から覚めやらぬ四肢を闇雲に振り回し、無我夢中で暴れまくる。
「あっああっいやっ!!いやあああぁああああぁあぁぁああああ」
「セレス大丈夫だ、大丈夫だからセレスっ!!」
魔術師は必死に落ち着かせようと試みるがパニック状態のセレスには何も届かない。
もみ合っていると、突然イージスの体が乱暴に押しのけられた。
バシッ!
突然現れた看護師らしき女が問答無用でセレスの頬を張り、がなり立てた。
「うるさい!!黙れッ!!ガキどもが起きるだろっ!!」
唖然とするセレスとイージス。お構いなしに往復ビンタが炸裂する。しかも3往復。
「おっおい!何すんだ病人だぞ!」
我に返ったイージスに羽交い締めにされても看護師の暴走は止まらなかった。
拘束されてもなお殺気だった顔をぬうっと近づけてくる。
絶句するセレスにドスのきいた声で状況説明を叩き込んできた。
「ここはゾルデで生きてる最後の診療所よ。
貴方はこのクソ忙しい中、勝手にお兄さんより先にこんな死地へ来て、
勝手にストレスで病気になって、担ぎこまれて3日間意識不明だったの。
お兄さんはアンタみたいな馬鹿な妹にずっと看病で付き添ってくれてたのよ。さあ理解できた?」
聞き取りづらい早口でまくしたてた後、呆然自失のセレスにさらにずいっと迫る。
「わ・か・っ・た?」
両眼は殺気立ち、憎悪を帯びていた。
「ちょ、おいっ!いい加減……!」
流石にイージスが咎めようとしたのと同時。
「ご…ごめんなさい。もう大丈夫、です」
自分を取り戻したセレスがしゅんと萎れた。
それを確認すると鼻息荒くイージスを振り払い、看護師はどすどすと出て行った。
「な…何だあれ!あれでも看護師かっ!」
「いいの。……人手が足りなくて疲れているんでしょう。目が血走って真っ赤だったわ」
その台詞を裏付けるように、看護師を求める幼い患者達の悲痛な声がいくつも響いた。
セレスが発した絶叫に怯えてしまったのだろう。
流石に胸が痛み、無意識だったとはいえ反省の念が浮かぶ。
個室。そよぐカーテンの向こうには港町と海景色と死んだ故郷。
頬に触れれば肉は薄く、頭を撫でれば毛髪はほんの少ししかない。
苦い現実をはっきり理解した後、謝らなければならないもう一人を躊躇いがちに見やる。
「イージスも……ごめんなさい」
故意ではないとはいえ暴れた時に何発か殴ってしまった。頬や腕が一部赤くなっている。
だがイージスはまったく気にしていないといった様子のまま、優しく頭を撫でてくる。
「よしよし。目が覚めて良かった」
温もりに安堵して糸が切れる。
夢中で縋りつき声を上げて泣いた。
最早異性であるという事実さえ考慮する余裕がない。
看護師の言った通り、目覚めた時は丸3日が過ぎていた。ずっと昏睡状態だったらしい。
汗だくの身体は石化したように重かったが、心なしか気分はすっきりしていた。
半時もせずにあの看護師が再来した。
少し落ち着いたようで、先程の暴力と暴言を謝罪してきた。
見るからに疲労が色濃く、目の下にはぶ厚いクマができている。どちらが病人だかわからない。
申し訳ないがつい他患者への医療過誤を心配してしまう程だ。
顔をよく見ると、アリーシャと共に行動していた頃、すれ違ったり波止場や教会で見かけたりと、幾度か
この地で見たことのある女だと気付いた。
あの頃はもっとふっくらして言動にも余裕のある美しい女だった。
ディパン崩壊後も逃げ出さずゾルデに残り、残った民のために尽力しているのでは、この変化も無理がない。
感心はするが同情も隠し得ない。
彼女に殴られた両頬は熱をもって痛んだが、とてもではないがなじる気にはなれなかった。
たった一人の老いた医者とやらもてんやわんやらしい。
患者の雨は一点集中で降り注いでくるのに、物資の支給等、助けはほぼ途絶えている。
心労も重たい程伝わってきた。
「いや、妹には俺が話すんでお気遣いなく」
イージスが気を遣ったのか、断りを入れて看護師を退室させた。
二人きりになったのを確認後、疑問を口にする。
「妹って……?」
「あー、いや。すまん。成り行きでそういうことになっちまった」
申し訳なさそうに頭をかく。
「なんせ死にかけの女おぶって突然現れた余所者のヒゲのおっさんだろ。医者もあの看護師も警戒しやがってよ。
どういう関係だって質問されて、面倒だったからつい妹だって言っちまったんだ。
暇な婆さんどもも詮索しまくってくるからうるさくて敵わねえしよ」
先刻の看護師の説明に合点がいった。
嘘がうまいというか、機転の利く男だ。
何となく感心する。
「さて、と…」
居住まいを正したイージスが、
「病状なんだが」
唐突に切り出してきた。
きたか。
セレスは小さく頷き、己を蝕む病を受け止める覚悟を示した。
「オブラートはいらないわ。病名を率直にお願い」
だがイージスの態度は彼女とは真逆だった。
「ああ。包む程のこともねえからな」
「え?」
そうして魔術師は、セレスが数日間恐れ続けていた病名を、いとも簡単に答えた。
「ヘルペス。って知ってるか。ああ、まず人には感染しない病気だから安心しろ」
「ヘルペス…」
聞いたことのある病名だった。
「精神的にやられたりして過度のストレスで弱ると、身体ん中に潜んでる水疱瘡のウイルスどもが、
今なら勝てる!って神経沿いに出てくるんだとよ。上半身の片方だけ症状酷かっただろ?それが特徴だとさ。
そんでお前ひっかいただろ。水泡を潰しちゃいけなかったんだよ。細菌入って悪化しちまった、と」
目をぱちくりさせる。
数秒の沈黙の後、肩の力ががくりと抜けたセレスの一言。
「…そ、それだけ?」
「それだけって、お前なあ。個人差ってもんを考慮しろ。お前は明らかに重篤の部類だぞ。
高熱も出てたし、ひっかいちまってたし、一秒でも早く医者にかかんなきゃいけなかったんだ」
「………」
絶句せざろうえなかった。
外部から植えつけられた菌で命に関わる病を患ったと思いこんでいただけに、正体に思わぬ拍子抜けする。
「……ヘルペスって、老人のかかる病気かと思っていたわ」
「そうでもねえらしぞ。若くても結構患者は多いらしい。稀にまだ水疱瘡にかかってねえガキがなることもあるとか何とか」
予想外に平凡な実態。
では本当にエルドのせいではなかったのか………
エルド。
その名を思い出すと同時に目が見開き心臓が跳ね、全身が凍結する。
続いてこれでもかと悪寒が走り、思わず身体を抱きしめていた。
「――――っ」
叫び出したいのをぐっと堪える。
セレスにやりたい放題して身体も精神も汚していった、嗤いながら毒矢を射る残酷な死神。
まざまざと甦る記憶を必死に押さえ込む。
大丈夫。そうだ。これだけやりたい放題していったのだから。
飽きたはずだ。完全に。二度と会うことなどないはずだ。
突然固まってしまったセレスの様子を見守っていたイージスが、さも言いにくそうに重たく口を開く。
「アドニスと何かあったんか?」
まったく関係ない、いやそこまでまったくとも言い切れないが、別の男の名を出されて、セレスは悪寒から解き放たれる。
「ど、どうしてそんなこと聞くの?」
「アドニス助けてって、ずっとうなされてたから」
無意識状態というのは何と正直なのだろう。
凄まじい羞恥に襲われた。耳まで赤くなる。
私という女は、どこまで。
「あ、あの、でも。彼と何かあったとか。そ、それだけは違うから。本当よ。信じて。
むしろ何もなかったからこういうことになったの。……詳しくは話せないけど」
想い人にかかっている疑惑をしどろもどろになりながらも慌てて解く。
そんな自分が情けなすぎて、目を伏せ自嘲のため息をついた。
「とことん無様ね」
「何で」
何で、と突っ込まれても。
「しっかし、本当に惚れてんだなあ……」
それこそ肉親のような優しい声が、困って俯くセレスの耳をくすぐった。
長嘆息する。
どうせあの死にもの狂いな呼び声を聞かれてしまったのだ。隠し通せるものでもない。
観念して事実を認める。
「そうよ。おかしいわよね。あれだけ斬るとかブチ殺すとかって言われてたのに、いつの間にか好きになってたの」
「別におかしかねえよ」
同情的な反応を想定して身構えていたのに、あっさり肯定されたので目を丸くする。
「別におかしくないって…まさか、イージス。前から気付いていたの?」
「え。うん。なんだ、その。まあ。わかるというか。むしろひょっとしてそれは隠してるつもりなのか?というか。
寧ろ気付いてない奴一人もいなかったんじゃね?っていうか」
「そ、そんなに…」
想いを皆に知られていたかもしれないという事実は、セレスを熟した果実のように赤面させた。
「恥ずかしがるこたねえって。むしろ皆であたたか〜く見守ってたんだぜ」
生温くの間違いじゃないのか。
恥ずかしさと戦いながらも伏せ目がちに会話を続ける。
「…そうよ。あの人は自らの手で決着をつけたかっただけのことなのにね。大事にされたと勘違いしてるの」
「いや、つーか、されてただろ。これでもかという程。大事に」
先程からイージスの応答はセレスにとって驚くものばかりであった。
彼女の自嘲を真顔で、すべて平然と肯定してくる。
「素直じゃねーからなーあいつ。表現も笑えるし」
からからとした笑い声が、寝台にいる女の態度により、だんだん色を失くしていった。
「おいおいまさか本気で嫌われてるとか思ってたのか?」
流石に少々呆れたといった顔つきになる。
「マジかよ。ちょっと鈍感すぎだろ」
「そんな…」
「いや、だってよ、普通にさ。全身全霊で俺の女に手を出すなってカンジだったじゃんあいつ」
俺の女。
俺の獲物の間違いだろう。
「それは……ないわよイージス…」
「どう見てもあいつの方がご執心だったろ。しかも一目惚れっぽかったぞ?話聞いてると」
一目惚れ。
カミール丘陵で視線が交わった、あの一瞬か。
……有り得ない。
「と、とにかく。そんな事実は一切ないわ。だいたい、顔を合わせる度にいつも嫌味言われたり、
死ねだの殺すだの散々怒鳴られたりしていたのよ」
「何だよそんなの。ザンデがふざけて『好きです!大好きです!あなただけです!結婚してください!!』とか
超正確に翻訳してたじゃん」
確かに言っていたが。そして怒気で燃え上がるあの人に追いかけられていたが。
動揺するセレスに、魔術師が優しい追い討ちをかける。
「お前きっと心ではさ、あいつが本当は何を言いたいのかわかってるんだよ。
すげーアレな表現の数々でも、あれだけの熱い想いを差し出されたら心が動くのも当然だ」
「……でも」
「人を好きになるのにさ。いちいちこうだから駄目ああだから駄目なんて規制かけんのは無理だぜ」
「……」
言うことはいちいち尤もなのだが、現況のセレスにその実感を伴わせることは不可能だった。
「治ったら会いに行くといい。その前にここに来るかもしれねえけど」
「無茶言わないで。私は嫌われてるのよ」
「んなことねえって。第一……」
「イージスッ」
ヒステリックな声が空気を劈く。
「やめて…気持ちは嬉しいけど、わかってるの」
イージスの諭す真実を素直に受け入れることなど、今のセレスにはできなかった。
先程見た悪夢が深くセレスを苛んでいたからだ。
あれは夢であり、現実。
言われた一言。
誰だっていいんだな。
違う。違うけれども、実際とった行動はそれを裏付けるかのようなものでしかない。
打ちのめされているセレスにはそうとしか思えなかった。
何も考えたくなかった。
「いや、別に持ち上げてるとかじゃなくて、本当にな……」
縮こまるセレスに困り果ててボリボリ頭を掻くと、魔術師は薄い苦笑を浮かべた。
心機一転とばかりに膝を叩く。
「そうだな!話はみんな、治ってからにしようか!」
頼る人間のいるありがたさを感じつつ数週間が過ぎた。
水疱はその後も皮膚の上で猛威を振るったが、だんだんと白濁し、つぶれてゆき、痕を残すのみとなった。
だが祝福されるべき退院時にも老いた医師の表情は渋いままだった。
掻き壊した傷があまりに酷かった所為だ。
尽力至らず、上半身の広範囲にわたって若い女の肌に汚い痕が残ることが確定してしまっていた。
患部に触らず、この診療所にすぐ駆け込んでいれば、苦痛も少なく、病後も跡形もないはずだった病。
「医療系の魔法をもっと叩き込んどくべきだった」などと舌打ちしつつ、イージスも書物を引っかきまわして頑張ってくれたが、
不衛生な場所でいつまでも晒していた傷跡はどうすることもできなかった。
不満げな医師と、同性としての同情を隠し切れない看護師を前に、衣類を身につけながら、
「命があっただけで良しとします」
セレスはそう微笑んだ。
どうせ二度とこの身を愛される予定もない。
イージスに付き添われて病床を後にする。まだ少しふらついていた。
雲ひとつない空は明るい水色。
隣りには支えてくれる仲間の微笑み。
イージスは本当に良くしてくれる。
年代が違うとはいえかつて仕えたディパンの王女だった女である。それ故の特別視も加味されているのだろう。
この時ばかりは流れる血を感謝した。
嫌な記憶しかない家を出て、イージスの近所へと引っ越した。
皮肉にも人のいなくなったゾルデの家並みはがらがらで空き放題なのが幸いした。
気になる頭髪はどうしても目立つので、生え揃うまで海賊巻きにすることで凌ぐ。
自暴自棄だったとはいえ、見事に剃り上げてある箇所もある。我ながら大胆にやってしまったものだ。
いっそ丸坊主にしてしまおうかしらと残された赤糸を撫でていたら、イージスにやめてくれ!いややめてください!!と
マジ泣きされたからやめた。
新居には二匹の先住の猫がいた。最初は毛を逆立てられて威嚇を受けたが、彼等とも少しずつ仲良くなり出した。
イージスが暇そうな子供達を調達してきて、本当にピクニックに連れていってくれた。
広がる花畑。ほんのり甘い花の香り。どこまでも続く青空。
静かに終わりゆく港町で、絵に描いたような優しく楽しい時間が過ぎていく。
緩やかに世界が廻る中、悪夢の時間は終わったのだと思い始めた時だった。
その夜は豪雨だった。
「参った…な」
これからイージスと夕食なのに。
熱を帯びる頬と肢体。思うままにいかない動作。ふらついてテーブルに寄りかかる。
連日、セレスは嘲笑うような疼きに悩まされていた。
あの悪魔に仕込まれた体は情けない程熱をもっていて、心底認めたくないのだが、狂おしく男を欲しがる。
何事もなかったようなふりをしていても数週間にわたる陵辱の後遺症は深刻だった。
死ぬ程欲しいのに、死ぬ程怖い。
癒えるどころか、膿んでいる。
植え付けられた生々しい記憶は日常生活にも支障をきたす。
体重はなかなか元の数値に戻らない。
安堵したことと言えば二つだけだった。
一つ目はイージスに齎された情報により、他の仲間達が自分を見捨てていったのではないとわかった事。
勝手に疑ってしまった己を恥じる。
二つ目は数日前にやっと月のものが巡ってきた事。崩れ落ち、長い間咽び泣いた。
―――――傷物。というやつなんだろうな。
二ヶ月前まで当然のようにしていた挙措端正な振る舞いは彼女からかき消されていた。
生きているだけでつらい。突発的に死にたくなる。
本当は死にたい。もう消えて無くなりたい。
だが不要の存在だったとはいえ、解放され生き残ってしまったのは事実。
つらくとも凌がなければ……生き抜かなければ。
それが生き残った者としての現世との楔。
それがなかったら既にこの世のものではなかったことだろう。
全力でサポートしてくれているイージスには絶対に言えない真実だった。
でも、口にしなくても気付かれてしまっているのだろうとも思う。
数日前。
気がつくと真夜中の森だった。
ざわめく木々の合間を縫って、イージスにおぶさり、ゆったりとゾルデへの帰路を辿っていた。
「わ…たし……?」
「ああ、起きたか」
耳を撫でる優しい声音。
実兄の背中にいるような夢見心地を味わっていたセレスだったが、すぐに消沈する。
「私、また何か?」
「んー…」
言いにくそうにしていたが、状況的に隠しても無駄と悟ったらしい。
「俺んちに宿屋の彼女が駆け込んできて。
妹さん、剣だけ持って森ん中へふらふら歩いていったが大丈夫なのか、って。わざわざ」
愕然とした。まったく覚えていない。
今日は何をしていただろうか、慌てて記憶の糸を手繰る。
夜になってから孤独と辛さでいつものようにひとしきり泣いたと思う。
そしてまた、月明かりの下で想い人を待った。
月がきれいだった。濡れた頬を照らされていたら何となく気付いた。
彼は来ない。
もう二ヶ月経ってしまった。過ぎ去った日数からは、どう考えても嘗ての妄執は感じられなかった。
多分探してすらいない。再戦から逃げ出した斬鉄姫は呆れられてしまったのだ。
でも、認めたくなかった。
そうだ。もしかしたら道に迷っているんじゃないか、だから来ないんじゃないかなどという、
あてつけに近い馬鹿なことを思いついた。
早く迎えにいかなきゃ、なんて。
そこでぷっつり切れている。
気付いてしまった。
彼は来ない。
心の何処かで、ずっとずっと、早くきて殺してくれないかなと願っていた。
自分という存在に欠片でも固執してくれるならもう何だっていい。
早くきて。
でも、
彼は来ない。
「そうだっ!剣…ムーンファルクスは……!?」
弾けるように大声をあげた。
「ああ、悪いがさっきお前見つけた場所に置いてきた。俺が明日取りにいくよ」
「降ろして。あれがないと私」
病床後のセレスは肌身離さずその剣を持ち歩いていた。
身を守る意味もあったが、女神の残してくれた譲渡品だという過剰な依存心もあった。
慌てふためくセレスを魔術師が宥める。
「じゃあ引き返そう」
くるりと向きを変え、セレスを運ぶ乗り物はもと来た道を戻り始めた。
冷静な応対を受けてセレスは情けなさを覚え、さらに消沈する。
「ごめんなさい。ほんとに迷惑かけっぱなしね」
「気にするなって言ってるだろ」
そう優しく言う男が心底から疲れているのがわかって居たたまれなかった。
その後は長く無言でいたが、
「貴方は頭のいい人だから、何があったかなんて、もう大体察しはついてるんでしょうね」
以前から不安に思っていたことを切り出した。
「うん」
否定しない。
「相手が誰だか、も?」
「うん」
だろうな、と思う。
解放された男エインフェリアは裏表なく真面目で正義感の強い者が多い。
セレスに危害を加えたい人間なんてかなり限られる、というか想い人をのぞいたら該当はほぼ一人で確定だ。
「……」
あの死神は何をしでかすかわからない。
気まずくとも、全て話しておかなければ。
「…あの夜。皆、いなくなってしまった後。私すごく不安だった。
そしたら、…その人が戻ってきてくれて。
愛してるって言ってくれたの。だからどうしても助けたいって。私、もう舞い上がってしまって」
「うん」
「嬉しかったのもあるけど。私って生前ディパンやラッセンを裏切ってロゼッタについたのは知ってるわよね。
自分の理想実現のために勝手なことばかりして、大事な人達をたくさん傷つけた。
今度の生では自分に好意を寄せてくれる人を、二度と裏切りたくなかった。
自分の気持ちなんて二の次だと思った。だから受け入れて、手を取って、一緒に逃げ出したの。
自分を愛してくれてる人と」
「うん」
「でも」
言葉が続かなかった。情けなくて限界だった。
「…嘘だったの。……それだけよ」
そう零して、終わった。
「うん…」
まさかそれ程親しくもなかったこの先達に、こんな話をする日が来るとは。
肩を掴む骨ばった手が震える。
潤み声の恨み言がぽろぽろ落ちた。
「物好きな男。私なんかを。他の女エインフェリアは美人で可愛い子ばっかりだったのに、ほんと、物好き」
そこまで零してからハッとした。
「あっ、別に他の子が身代わりになればよかったとか、そういう意味じゃ……」
「大丈夫。わかってるよ」
「……」
何を口にしても惨めだった。
「私……戦わなかった。嵐が過ぎ去るのを間抜けにずっと待っていた。…壊されるまで、続くに決まってるのに」
鼓動が荒い。涙がかさかさになった頬を伝って落ちる。
毎日が限界だった。
「もう嫌だ。もう死にたい。もういや。苦しい」
縋り付いて、震える唇からついに死を強請った。
「楽にしてイージス。お願い。私に…即死魔法を……」
「セレス……」
亡国の元王女を一人で支える魔術師は心底から困り果てていた。
長期にわたる先の見えない介護の疲労。支えても支えてもいつまでも軽くなる兆しのない回復の遅さ。無理もなかった。
凭れ掛かり過ぎていたのにやっと気付いてセレスは動揺する。
「ご……ごめんなさい。もう二度と言わないわ」
「セレス」
離れていってほしくない。たった一人の味方。ひたすら謝り続けた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。許して。嫌いにならないで」
まるで大好きな兄に嫌われるのを恐れる少女のようだった。
回想を終えてから醜い失態続きの日々にふうと息をつく。
―――――まさにあの人の吐き捨てる『うぜぇ』といったところか。本当にただのお荷物だな。
自分の存在の何もかもが重苦しかった。
扉にしっかりと鍵をしてイージスの帰りを待っている。
彼が戻ってくるまでたかが数分のことなのに。どこかで己を嘲笑っている。
現在のセレスは生前やエインフェリア時代とは別人といってもよかった。
仲間内でも格段に際立っていた凛々しさが嘘のように、不必要な程おどおどしていた。
時折、フラッシュバックを起こす。
その度にあの不快な熱を思い起こし、不安があっという間に広がり、息がうまくできなくなる。
残されたのは肉体的な問題だけではなかった。
ゆったりした日常には残酷なものなど何一つもないのに、記憶の闇は比重を増し、無慈悲に圧し掛かってくる。
さらに認めたくないが、調教を受けた体が異性を求めて強烈に疼く。
欲しい。
流石にこればかりはイージスを頼れない。
飽きるまでといいつつそういう風にしたのは実にあの悪魔らしいとも言えた。
飽きた後の獲物のことなんて考えもしないのだろう。
自分で慰めるのも何だか気が咎める。結局あの冷たい手を連想してしまい余計に惨めになるからだ。
舐めあげられた肌を全部削いで、下半身を丸ごと切り落としたかった。
生き地獄。
これはがんばって何とかなる苦しみではない。
「……っ」
激しくかぶりを振ると、やっと伸び始めた赤髪が小さく揺れた。
もう忘れよう。クレセントやクリスティや、他の子達が標的になったんじゃなくて良かったと思うようにしよう。
大丈夫。あっちだってもう忘れている。
今頃はもっと若くて可愛い女の子たちに囲まれて、ちやほやされながら楽しくやっているんだろう。
昔からそうだった。
整って中性的な、どちらかというと女性寄りで幼さを残す整った顔立ちは、ロゼッタ城にいた若い異性の多くに人気を博していた。
一度、占領したラッセンから戻ってきていると聞き、これからは同じ国に属する者同士だししこりは無くしておこうと思い、
自ら挨拶に出向いたことがあった。
多少は絡まれるのを承知で部屋の前に到着すれば、扉の中からは女達の艶かしい笑い声がする。
続いて卑猥な喘ぎ声、悦ぶ言葉、それについていく幾つもの、羨ましげな強請り声。
流石に耳を疑った。
真っ昼間から。
ゼノンの愚痴でかなりの猟色家とは聞いていたが。
僅かに漏らしてしまった動揺の気配を悟られる。
扉が開く。腰に布を巻いただけの姿は、性に関して非常に貞淑だったセレスの表情をこれでもかと歪めた。
行為中特有の色を纏う男は女を惑わす小悪魔そのもの。
セレス的には最高にお近づきになりたくないタイプだった。
萎えたのもある。お取り込み中なんで出直すわと言った。
が、無視され、品定めをするような視線で舐め回された後、遊んでかねえかと誘われた。
剣と鎧に身を包み女からは掛け離れている自分に、半裸の艶やかな女達から朗らかを装った嘲笑が聞こえる。
馬鹿にされている。
眉を顰めたが、ここで動揺を増したり、むきになったりしたら負け。
静かに誘いを断ったがさらに食い下がってきて、邪魔なら追い出すからと立てた親指を彼女達に向けた。
当然のことながら女達からは一斉に睨まれる。
それだけでも不愉快なのに、次の日には宮廷魔術師殿の情婦やら、誰にでも腰を振る売女やらと
出所がわかりすぎる陰口を叩かれている。
面倒そうなため息を漏らすゼノンに軽率だったと頭を下げる。
数日後には彼女達は暇を出されて城からいなくなっていた。
暇を出されたというのは本当なのだろうか。本当はどうなったのだろう。
戦の只中では侍女の行方など確かめる暇もなかった。ただただ後味の悪さだけが残った。
「……」
汚された身体を抱く。
そうだ。
あの男の容姿と纏う雰囲気なら、今の生でもよりどりみどりなはず。
ここまでしたのには安易な憎悪では出来ないはずだ。
やはり生前からずっと、どこか鼻持ちならない女だと嫌悪されていたのだろうか?
そうとしか思えなかった。
ディパンでは国に。ラッセンでは領主である夫に。ロゼッタではゼノンに。今はイージスに――――。
歴史書の中で華やかに描かれる自分。
褒詞の限りを尽くされる剣技も采配も、讃えられる戦士としての覇業も将軍としての功績も、何もかも。
結局自分は、どこにいても誰かに守られていただけの愚かで世間知らずな女だったのだなと実感する。
少しばかり剣技や戦略に長けていても、所詮多くの良質な材料を与えられた上でのこと。
己だけでは何もできないくせに、いい気になっていただけだ。
こうやって一人にされたらあっさりあんな男の甘言にひっかかって。
長期にわたる性暴力を無様に受け続け、異常を来たしたことに相手が気付いて止まるまで、ずっと何もできなかった。
私は―――――無力だ。
自尊心は削り取られて最早見る影も無い。
以前持ちあわせていたはずの揺ぎ無い確固たるものは、今や砂塵と化して風に舞い散った。
そこにはかつて私に続けと兵をわかせた勇将の姿は既になかった。
女神の翼から零れ落ちた哀れな女が一人いるだけだった。
劣等感を必死に霧散させる。
悪い方にばかり考えてしまう。気をまぎらわせるために食事の準備へと戻ることにした。
今日はイージスが鍋料理を持ってきてくれた。
「精がつくぞ!」とにこやかにテーブルへどかんと置いた後、「おっと隠し味を忘れたぜー」とこの嵐の中飛んで帰っていった。
すぐ戻ってくるだろう。
だが、しかし。
これは。
……果たして胃薬で間に合うのだろうか。
イージスの料理は豪快かつ独創的で、ある意味、非常にある意味芸術であった。
ごぽごぽ煮え立つ鍋からは異臭が漂い、異形の深海魚が顔を出し、何を入れればこの色になるのかというぐらい
不気味な汁色をしている。
これを食すのか。思わず口を押さえて後ずさった。
そういえば。
イージスの率いた部隊は、何か薬品投与でもしてるんじゃないかってくらい屈強だったとか何とか。
命日になるのを覚悟してしまう至高かつ究極の料理。
これか。これなのか。
気持ちは嬉しいのだが、はっきりいって食べられそうもない。腹を下すならまだしも別の生き物に変貌しそうだ。
ため息をついた時。
不意に、地獄に張り付けられていた記憶が鮮やかに甦ってきた。
「……っ」
しゃがみ込んで体をぎゅうっと抱き締める。
落ち着いて目を開けられるようになった頃には冷や汗をかいていた。
診療所で目覚めてからずっと続く迷惑な症状だった。時折唐突に苦しめられる。
あの男も、またこんな風に突然現れるのではないか――――不安と直結して吐き気を催す。
消えた振りをして不穏を内包している男。
セレスが回復したと知ればまた姿を現すやもしれない。寒心に堪えず身を震わせる。
死ぬ程つらいができる限り早いうちに、もっと正確に、自分の身に起こったことをイージスに話しておく必要がある。
何かあってから情報不足を悔やんでも仕方ないからだ。
「……」
だめだ。追い出そうとしても頭にこびり付いている。
ひどい扱いを受けた。
以前はちゃんと女だと思われているかすら疑問に思うこともあったのに、嘘のようだ。
ただ、殴られたり蹴られたり、そういう系統の暴力を受けたことだけは一度もなかった。
あれだけの言葉の鎖でつながれては当然だが。
執拗に弄ばれたとはいえ、最中に興奮されて刺されなかったのは良かったと思うべきところか。
ふと、怒鳴りつつも焦燥して壊れた女を心配するような仕草が脳裏をよぎる。
………。
そんなの。私がされるがままだったせいだ。
お気に入りの玩具が壊れるのは誰だって嫌だろう―――――
顔を覆う。
嗚呼いやだ。あの男のことなど考えたくもないのに。
イージス、早く戻ってきてくれないかしら。落ち着かない視線がドアに注がれる。
気がつくといつの間にか壁を背にしているようになっていた。
イージスですら背後に立たれるのは怖い。
本当は今もまだ、怖い。
一人が怖い。
夜、横になる時などは最悪だ。
寝台で寝起きできるまでには回復したが、闇に染まる部屋を今でも這いずり回られている気がする。
天井を見上げると縫い付けられているような感覚に陥り、あの圧し掛かってくる姿がまざまざと甦る。
嗤う口元が嫌でも逃げられなかった。
ああもう、いい加減にしろ、私。
記憶の魔の手を遮断する。
そう、これから楽しい夕食ではないか。
たくさん食べよう。凄まじい闇鍋だが。ひょっとしたら泡を吹いて死ぬかもしれないが。それはそれで。
片付けは陽の光が射し込んでからでいい。
今日は軽くお酒をいただいて。楽しい気分のまま、すぐに眠ってしまおう。
悪夢に魘される夜はもうたくさんだ――――
そうやって、何とか恐怖を払いのけた瞬間だった。
ぴちょん
それは赤い水玉が落ちて床で破裂した音だった。
豪雨の中、有り得ない程によく響いた。
突然だった。
何処から入ってきたのだろう。
一瞬の雷光。
全身ずぶ濡れで立ちすくむエルドが室内に照らし出されたのだ。
真っ青になる。
全身の血が凍る。
夢じゃ、ない。
「まったく―――――」
だが気を失って倒れるわけにもいかなかった。
「何処まで馬鹿にしてくれれば気が済むのかしら」
望まぬ再来は想定内ではあった。
立てかけておいたムーンファルクスを勢いよく抜き放つと、切っ先を悪魔に向ける。
「出ていって。早く」
真正面から向かい合うと、その全身図に思わず後ずさった。
いつと雰囲気が違う。
さらに濃い闇を纏っている。
顔に貼りついた髪と、その向こうでぎらつく双眸。荒れる海から這い出してきた死体のよう。
腕や足が腐食に負けて今にもぼとりと落ちそうな、そんな冒涜的なこの世ならぬ者の匂いをしていた。
よく見たら弓も矢も持っていない。
しかも足元をよく見ると、雨水に赤が混じっている。
不死者にでも身を堕としたかとすら思わせる姿態で、ふら、と一歩踏み出してきた。
「近寄らないで。斬るわよ」
威嚇しても策は読めない。
ククク…
何が可笑しいのかさっぱりわからない。本気であちらの世界に行ってしまったようにも思える。
死神は慄くセレスを嘲笑うかのように、あっさり間合いに入ってきた。
そして向けられていたムーンファルクスを躊躇いもせずぐっと握った。
剣をつたって鮮血がつたい、滴る。
「ちょっと……!!」
理解の範疇を越えたリアクション。身構えていたセレスも流石に動揺する。
そのままぐいと力任せに剣を投げ降ろし、バランスを崩したセレスとの距離をさらに殺してきた。
視線が交わる。
深すぎる闇色まじりの瞳。
毎夜味あわされた恐怖が瞬時に暴発する。
いや。
もう、嫌だ――――――!!
「あああっ!!」
恐怖に惑わされて喚くとともに、無意識に振り回した剣が相手の横腹に入った。
雷が二人を照らす。
目を見開くセレスと、表情を変えない死神。
やがてニタリと嗤うと、防具を纏っていたため体には届いていなかったその剣を、ぐいと自身に押し入れた。
「!!」
狂気の沙汰としか思えなかった。
驚愕で固まった身体を体重任せに押し倒される。
剣が抜け、床に投げ出されたことで、容赦なく鮮血が迸った。
打ち付けられた痛みすら感じる暇のない混沌。
顔が迫ってきたかと思うと、口内に鉄を帯びた赤い味が広がる。
こんな時までか!!
遠のいていた狂気が血と共にその場に溢れ返る。
「あ…!ああ……っ」
恐怖による麻痺で呻くしかできないセレスの耳元で、ぼそぼそ何か呟いている。雷雨の中聞こえるわけもない。
頬をぬるりと指が這う途中、一言だけ耳に届いた。
「セレス…」
場違いすぎる甘く切ない呼び声はあまりに愛おしげで、ただ戦慄するしかなかった。
闇の深い、澱んだ目がセレスを捕らえる。
「く…っ」
それでも諦めてなるものかと歯を食いしばる。
力を振り絞って渾身の平手を喰らわすが、その手すら捕らえられた。
血の流れる己の頬に押し当てて笑っている。
壊れた狂気に当てられてどうしようもない無力感が湧いてしまう。
だめだ。
狂ってる―――――
あまりのおぞましさに身体が硬直し、完全に言うことを利かなくなる。再度の絶望がセレスを襲う。
血の混じった雨水がぬるりと胸元を汚す。
「あっ、…」
息すらもうまく出来ない。見開いた両眼から涙が零れる。
もう嫌だどうしてこんな
どうして
血まみれた手が、ゆっくり、伸びてきて――――――
『クールダンセル!!!』
怒涛が起こった。
勢いよく舞い上がる氷精がドアを大破する。
「イージス!!」
魔術師が室内に走りこんでくる。電霆が彼に従う蒼く透き通る女を照らし、恐ろしい程に輝かせた。
異界の女は三度舞った。
一度目はドアを破った勢いのまま、最早異形と呼んでもいいエルドに体当たりしてセレスから引き離した。
美しい蒼の女がその反動で高く舞い上がる中、息継ぐ暇もなく召喚者が進み出て容赦ない蹴りを飛ばす。
さらに女からの掬いあげるような一撃が見舞われ、獲物の身体が軽く浮いたところへ、更なる蹴撃が襲い、叩き落とす。
連携する鮮やかな動作は水に近い魔術師故のものなのか、理解も追い着かないままセレスは目を奪われていた。
女はもう一度舞い上がると勢いをつけて突進した。
防御もままならない獲物はされるがままで、吹き飛ばされて壁に激しく打ち付けられる。
役目を終えた氷霊はそのまま地面に溶け込むようにすっと消えた。
「イージス!」
「セレスっ!!」
大きな手が震える肩を抱き寄せる。
「大丈夫だ、もう大丈夫」
信頼できる人間の登場で緊張の糸が一気に解け、安堵で崩れ落ちた。
「イージスっ……」
「よしよし。でもちょっと待ってな」
縋り付いてくるセレスを宥めて体を離すと、先達はゆっくり立ち上がった。
「…あぁ。やっぱり犯人はこいつだったか」
広がる血だまりも気に止めず、冷めた目で見下ろしている。
ここしばらく明るく優しい一面しか目にしていなかったため、セレスには豹変と言っていい程より凶悪に映った。
そうだった。
このイージスという男も、どちらかといえば闇の眷属の人間。
セレスから離れ、血を吐く男の前で仁王立ちする。
「そういやお前、氷属性への耐性低かったっけ――――――なぁ?エルド」
一瞬の雷が二人の顔を照らした。
セレスにはイージスの背中しか見えなかったが、互いに殺気が漲っているのだけは痛い程に感じられた。
張り詰めた空気が場を支配する。
「あ」
セレスの心に不安が過ぎった。
ケガをしているとはいえ、エルドは魔術師を狩る者として恐れられた暗殺者。
イージスの不利を心配したからだ。
だがその必要はまるでなかった。
反撃を起こそうとしたエルドの手を容赦なく踏み付ける。
「ぐぁ…っ!!」
それでも起き上がろうとしたエルドの顎を遠慮なく蹴り上げた。
苦痛に歪み、血で塗れた床の上を弱々しく蠢くエルドを嗤う魔術師は、
「ははっ」
少し、壊れていた。
「イージス…?」
「はははははははははははははははははははははは」
天井を仰いで高らかに笑う。
直後。
エルドの襟元を勢い任せに掴みあげた。
「お前さ。女には優しくしろよ。かなり洒落になんねえんだけど」
地面にはエルドの震えるつま先しかついていない。意外に強い腕力にセレスすら身震いした。
「影でコソコソ動き回るしか能がねえくせに」
目が座っている。
「どこまでもうす汚ねえドブネズミだ なっ!!!」
手を離した瞬間、まるで球技のごとく思い切り蹴り飛ばした。
普段は身軽な弓闘士が重たく床を転げ、赤い液体をまきながら、雷鳴にまぎれてびちゃびちゃと嫌な音を立てた。
起き上がろうとするも、行動は常にイージスの方が早い。
今度はあの鍋の取っ手を引っ掴んだのである。
「ちょっ、イージス!!」
何をするか気付いたセレスの制止も虚しく、鍋は舞った。
異臭の元が高熱を保ったままぶちまけられる。
まともにくらったエルドから猛雨さえ掻き消す断末魔の悲鳴が上がった。
「チッ……モタモタしてたら少々冷めちまいやがったか」
絶句するセレスの前方からイージスの冷酷な舌打ちと、残念そうな愚痴が漏れた。
どこまでも一方的な虐待を続ける魔術師は、すたすたと歩いていって当然のようにエルドを足蹴にする。
踏まれる男はぴくぴくと小刻みに震え、最早抵抗すらままならない状態にあった。
「逝くのか。ヘルんとこ。ならダルマで逝けや」
冷たく暴虐を宣言し、闇の中から拾い上げられた鈍色の名剣を振りかざす。
「イージスッ!!」
散々世話になったこの魔術師さえ狂気の向こう側へ行ってしまいそうに思えて、セレスは必死で呼び止めた。
濁った光を宿す瞳がゆっくりとセレスを映す。
「ああ。セレスごめんな。つい頭にきてお前のこと忘れちまった」
笑顔さえ冷たく煌く。
有り得ない程態度を軟化させ、有り得ない程にこやかにムーンファルクスの柄を差し出してきた。
「とどめ刺しな」
発された言葉はあまりに重く、理解に数秒を費やした。
「それとも、今日なら海に捨てりゃわかんねえし―――生きたまま放り込むか?溺死は苦しいぜ。俺が保証する」
「イージス…」
「ま、浮かんできた所でただのどざえもんだけどな。ならず者の」
「イージス、待って」
「こんなクソ野郎のために悲しむヤツなんて何処にもいねえもんな」
「イージス!」
「ああ――――くそ―――そうか――こんな蛆虫野郎がいたか―――――」
こめかみに拳を押さえつける。
会話も成立しない。怒りを抑えきれない様子が手にとるようにわかる。
そんな中、実にタイミング悪く、ぴくり、血みどろの弓闘士が動いた。
上目づかいに睨めつける双眸は怒りに震え、闘志滾る挑発的な炎が燃え盛っている。
それがイージスの堪忍袋の尾をぶつりと切った。
「んだそのツラはぁあっ!!簡単に死ねると思うなボケッ!!」
「イージス!!」
「てめええぇええっやりたい放題やっといて自分は簡単にくたばってんじゃねえぞカス野郎!!」
「イージスやめて!!」
「てめえこのクソドチビッ!!全員そろってたらリンチなんてもんじゃねぇぞ畜生が!!」
怒りに支配され常軌を逸した仲間の叫びは壮絶だった。
「イージス―――ッ!!!」
今のセレスでは己の混乱状態さえ治めることができず、ただ仲間の名を呼ぶしかできなかった。
叩きつけるかのような罵声。
割れる食器。
外は嵐。
乱れ落ちる雷。
地獄絵図だった。
「女の髪刻んで何がおもしれえっ!!」
「違う!髪は違うのっ!!私が自分で」
真実を言っても怒りの向こう側に届かない。
このままでは数分後には死体ができる。このままでは――――
「あいつが知ったら――――――」
「イージス!!もうやめて!!気絶してるわっ!!」
気がついた時、いつの間にか絶叫していた。
蹴られ放題だったエルドに無我夢中で覆い被さり、血まみれの彼を身を挺して守りながら。
「セレス!」
「憎いわよ!!憎いけどっ!!殺すほどじゃない……っ!!」
その台詞と、エルドに抱きつくセレスの姿は、イージスにとってこの上ない冷却剤となった。
信じられないものを見たといった表情で長い間固まっていた。
過ぎ行く時間とともに、ゆっくりと呼吸が正常に戻ってゆく。
そして言った。
「同情ならやめとけ」
一言が心に刺さる。
己にはまったくそういう意識はなかったのだが、的確な表現だったのだろう。
何に同情しているというのだろう。よくわからなかったが、考えている時ではなかった。
「どくんだ」
どいたら、死がこの小さな男を飲み込むことになる。
少し迷った後、首を横に振った。
「マジかよ……」
重い溜め息が頭上で漏れる。
「……誰にも祝福されない相手はどうかと思うぞ」
この言葉にさえショックを受けた自分が意外だった。
もうわからない。自分のことさえ、もう。
落ち着いたイージスはもう一度ため息をつくと、身を翻した。
「わかった。そのどぐされに少し時間をやろう。……変なモン連れてきてねえか見回ってくる」
嵐の中へイージスが消えてしまうと気が抜けて卒倒しそうになったが、ぐっと堪える。
すごかった、な。
まだ心臓が激しく脈打っている。
先達はとても熱いものを秘めた人だった、とは知っていたが。
だがあの攻撃力にはセレスを支える際に湧く、大量の我慢と苛立ちも加味されていたのだろう。
そう思うとエルドに悪い気もしてきた。もっともセレスをそうさせたのはエルドなのだが。
安堵に浸る暇はなかった。
何とか立ち上がると、死にかけているエルドのために、しまっておいた薬士の秘薬を取り出そうと急いだ。
嵐が去ると打って変わった静寂が街を包み、朝がきて、昼になり、また夜を迎えた。
ある意味豪雨の只中での騒動で良かったのかもしれない。
他のゾルデ住民にあんな修羅場を聞かれていたらどう思われていたことか。
大破したドアは破壊した主がすぐ手配してくれた。
ありがたかったが、新品すぎて古ぼけた家にそぐわない。小さく苦笑した。
星屑煌く闇夜。
セレスは椅子にもたれたまま、ぼうっと彼の男を見下ろしていた。
どす黒い元暗殺者は現在包帯の白い清浄に埋もれている。
診療所では先日、過労により医師も看護師もついに倒れた。
怒気を燻らせている魔術師も現況では頼れない。
薬を塗って傷を塞ぐくらいしかできなかった。
秘薬では間に合わない程に外傷だらけだったがどうしようもない。自ら剣を押し込んだ傷の深さも笑えない。
内臓は大丈夫だろうか。障害が残らないといいが。
エルドはセレスの記憶にある姿よりかなり痩せていた。
あれから一ヶ月、一体何をしていたのか。
思案に暮れていると、包帯に包まれていない片目がうっすらと開いた。
と思ったら、瞬時に青い炎が燃え上がる。
「野郎っ!!」
「動いちゃ駄目よ」
慌てて押し止める。
今にも暴発しそうな殺気を漲らせていたが、セレスに咎められると舌打ちして素直に横になった。
「……生きてんのか俺」
状況を瞬時に理解するところは流石といったところか。
「大丈夫よ。何処も千切れてないわ」
流石に怪我人だと思い、気遣いを添えて優しく伝えると、
「…何だ治してからゆっくりダルマにでもするつもりか」
大きな目でぎょろりと睨まれる。
ボロボロになっても減らず口は変わらない。
「ちょっと…とんでもないこと言わないで」
怯んで身を引くと、
「じゃあ何で生きてんだよ」
とさらに睨まれた。思慮のない言動はそのままだ。
「何でって言われても」
「殺してえ程憎いくせに。何で生かしてるんだよ」
「別に殺したくはないわ。目の前からは消えてほしいけど」
セレスの返答はこの弓闘士には実に気に食わないものらしかった。
「……だせェ」
心底から嫌そうに一人ごちる。
「貴方こそ何故戻ってきたの?」
あまり答えを聞きたくない質問を投げかけてみる。
「いや、ただ気ぃ抜いてたらそこらのしょぼい魔物にやられて大怪我したから」
「したから?」
「お前、とどめ刺したいだろうなぁなんて思いついて。せっかくだからついでに」
極論すぎて呆気にとられるしかない。
「何それ」
「何それとか聞き返すな。聞かれたから答えただけだ」
血でにじむ包帯の痛々しさとはかけ離れた口調。
「……それなら何で押し倒してきたのよ」
「ケチケチすんなよ。命くれてやるんだから最期くらいちょっと触らせてもらったっていいじゃねえか」
「ケチケチって…」
困る。どうして。
そんなに理解し難い言動しかしないのだ。
萎える心をそのまま表情に映すセレスを見て、死神の眉間に皺が刻まれる。
「なら訊くんじゃねえよ。どうせどうでもいいくせに」
この時、あ、まただ、とセレスは感付いた。
時折、常時見せている歪んだ顔つきとは別の色に出くわす。
いや、ただセレスがそれに気付くようになっただけかもしれない。
子供丸出しの幼い表情。
少量の会話でも疲れたのか、じっとセレスを映していた瞳が瞼に覆われ、程なく寝息をたて始めた。
……活動時の凶悪な言動とこの少年くさい寝顔の落差を何とかしてほしい。
どっと疲れる。
溜め息をついて退室するとイージスが廊下の壁に寄り掛かっていた。
表情には苦渋の色が浮かんでいる。
「わり。聞いちまった」
「構わないわ」
「ったく、帰郷早々穏やかじゃねぇな〜。っていうか、」
やってらんねーと言わんばかりに大袈裟なため息をつく。
「よりによって、アレか……」
「ごめんなさい」
「何で謝るんだよ」
苦笑めいた声を出しても表情はまったく笑っていなかった。
「つーかさ。望み通りにしてやった方がいいんじゃねぇか。あれ」
殺せということか。
「お前のためにも」
「……」
すぐに反論ができなかった。
口ごもるセレスに正論が畳み掛けられる。
「なあセレス。解放されたって人間なんてそんな変わらないぜ……所詮死神は死神だ。
どうせいつか何かやらかして、お前まで巻き込まれる」
あまりにも可能性の高い予測を示され、さらに口ごもるしかない。
「あいつの場合は職業柄なだけじゃねえだろ。好きなんだよ―――殺しが。
死をそこら中に撒き散らして、他人の魂を喰らうことで自らの存在を保ってるような奴だ。
女関係だってそうじゃねえの?うわべだけで引き寄せるのは得意でも長くは続けられない。
誰といても満たされない」
「……」
セレスとて、そこまでエルドという人物を把握しているわけではない。
だがイージスは今、的確な指摘を連発しているのだろうと思う。
「死神や悪魔に比喩する前に、あれはガキだ。クソガキ。年齢だけ重ねても内実が伴わない。
あれの手の内にいれば、奴は遊んでるつもりでも血まみれになってる。いつか嬲り殺されるぞ」
ただただ、その通りだと思った。
「どうしようもない人間ってのはいるんだよセレス。あれを生かすってんならお前にも責任が生じるぞ。
お前に飽きた後は次のターゲットを欲するだろう。使い棄てて次にいく。そうならないようにできるのか?」
不安を煽られまくってぐうの音も出なかった。
「俺もそこまでは面倒見切れねえよ」
沈黙が長く続いた。葛藤はやまない。
「なあセレス、話は済んだんだろ?」
業を煮やしたのかイージスから切り出してきた。
「殺そう。俺が殺ってくる。お前は何も悪くない」
「待ってお願い」
答えが出せないまま、ドアの取っ手に手をかけようとしたイージスを引き止めた。
「これだけ酷い目に遭ったわ。一緒にいたいとかでは絶対ないから。ただ…そう、どうしても聞きたいことがあるの。
だからお願い、もう少しだけ……」
「……わかった」
それでも強行に移されるのではないかと案じたが、魔術師はものわかり良く一旦退いてくれた。
「一応は大丈夫そうだから帰る」
「あ…イージス、あの……キュアプラムスを」
「あー」
視線を彷徨わせたが、
「お前に負担かかるのはどうかと思うところもあるが、悪いが全力で拒否する」
「やっぱり?」
肩を竦めるセレス。
「俺は今猛烈に苦しめばいいさと思っている」
だろうな、としか思えない。
玄関まで見送る。挨拶を交わした後、もう数え切れない程の嘆息を二人でつき合った。
「復讐する権利なんて。ずいぶんはた迷惑なプレゼントを持ってきてくれたものだわ」
「そんなの建て前に決まってるだろ。あんなん何だかんだ理由つけても、ただ……」
これを言っていいものかという感じで言い淀んだが、小首をかしげるセレスを見やると仕方なさそうに呟いた。
「……お前の顔見たかっただけさ」
「虚しくねえ?自分を強姦した男介抱してて」
無遠慮すぎる言葉の棘に思わず全身が強張った。
あの嵐の夜から数日経過した。汚れた包帯をほどき、新しく巻き直している最中でのことだった。
高慢な患者がずいと顔を近付けてきた。
必死に平静を保って作業を続ける。
「仕方ないでしょ。他に誰もいないんだから」
「へえ。お優しいことで」
小馬鹿にしている態度。
さらに距離を縮めてこられては、引き攣った表情で身を引くしかない。
それを嗤う。
「これは治ったらまた纏わりついていいってことだよな?」
「……ふざけないで」
嫌悪剥き出しで睨みつけても顔色一つ変えない。確かに虚しさが軽く過ぎった。
「……本当に馬鹿よね。何してるのかしらね私」
だが負けてなるものか。包帯を荒く巻き終え、薬箱を手に立ち上がる。
「冗談じゃないわ。治ったら出て行って。そして二度と私の前に表れないで」
身を翻した瞬間。
二の腕を掴まれたかと思うと、怪我人のものとは思えない力で寝台の上に引き倒された。
薬箱の中身が派手にぶちまけられる。
「何するの!傷が開くわ!!」
「かまいやしねえよ。何やらかしたって、どうせまた手厚く看護してくれるんだろ?お姫様」
「…あなたって人は」
「喚くなよ」
胸元の布がはだけたが、重ね着をしていたために肌色は広がらなかった。舌打ちが響く。
「ガードかてえな」
「あんな目に遭ったら当たり前でしょ!」
身体を起こそうとするも阻止される。
「じゃあ今度こそよくするからさ」
こんな状況下で真剣味を帯びる声はまさに狂人を思わせる。
服越しに痩せて薄くなった胸を揉み込んできた。手の平から痛々しい程の荒い鼓動が伝わってしまう。
「大事に、するから」
言葉とは裏腹、語気は抗うなとばかりに威圧的だった。
恐怖に支配されかけたが何とか力を振り絞って手を払いのける。
「…いやだってば」
「へえ抵抗すんのかよ」
包帯まみれの男に浮かぶ冷笑。
「意外だな。カナヅチのチンポはそんなにいいのか?」
「!!」
「どうしてもらってる?参考までに教えてくれよ」
「馬鹿っ!いい加減にして!!」
「イカスミ鎧野郎の次はヒゲ面の溺死体かよ。本当にお前は趣味が悪りいな」
方向は違っても大切な人間である二人を馬鹿にされ、思わず怒りが口を突く。
「二人ともあなたよりずっとマシだわ」
「それはそれは」
口端の歪みと共に押さえ込む力が強くなる。
首筋を這う唇は不快な程に熱かった。
「いやっ!」
迫りくる顔面を必死になって押し退けると、
「ならやめさせてみろよ」
その手首をとられた。
視線が交錯する。
片目とはいえ、こんな至近距離で長々睨み合いの視線を交えるのは初めてだった。
病的で凍りついた目は相変わらず鋭利だった。
闇が濃く、底無しに深い。
助けようと手を伸ばしたら逆に引きずりこもうとする手。
「何で殺さなかった」
負の波動に耐え切れず目を逸らしたら、顎をつままれて強引に前を向かされた。
「そんな目で睨むくせに何だよこれ」
腹立たしげに問うと、巻かれたばかりの包帯に手をかけ、思いっきり乱暴に引き裂いた。
「ちょっとっ!!何してるの!?」
「むかついてるくせに。汚されたとか陵辱されたとか思ってんだろ?あれだけ悦んで喘いでたくせによ!!」
沸点の低い男だ。声がだんだんと怒りを増していき、語尾でついに怒鳴り声となった。
包帯はあっという間に噴き出す血を吸い上げ、紅い雫をぽたぽたと滴らせる。
「どうせみんな俺が悪りいんだろ?何もかも。あれだけ大事にしてやってもッ!!」
「やめて!!」
あまりの妄挙に恐怖が迸る。
捕らえた女を下にして、その怯える様を鼻で嗤う死神。
獲物の震える頬に赤が一滴落ちた。
「だよなぁ。怖いよな。所詮お姫様ごときに俺が飼えるわけねえよな」
「エルド…」
「だから、ほら」
有無を言わさずナイフを握らされる。
「なっ何……」
「刺せよ」
「やめてってば!!」
「殺らねえなら生きてやる。死ぬまでつきまとってやるからな」
最悪な展開だった。
どう考えても助けたはずの男から受ける仕打ちではない。
せり上がる後悔と共に、何もかも投げ捨てて叫び出したくなった。
だが助けようと決意したのは他でもない自分なのだ。この男相手なら如何なる時でも暴走は想定内としなければ。
大きく深呼吸してから呟いた。
「…何も、言ってくれないのね」
「何?」
「私なりに調べたのよ。気になった点を」
負けてなど、やるものか。
「私のところへイージスが来るように誘導してくれたのは、貴方ね」
図星をついたのだろう。表情に驚きが混じり、軽く狼狽して身が少し離れた。
「様子のおかしい赤い髪の女がいて、しかも病気にかかっているらしい情報をイージスへ伝わるように仕向けたのも、
イージスが入って来れるように私がきっちり閉めておいたはずの鍵を開けておいてくれたのも、貴方なんでしょう」
死神が無言になった。そこを勘付かれ、突かれるとは思っていなかったらしい。
「何か言ってよ。理由がわからないのに殺すもへったくれもないわ」
自暴自棄だった視線が泳ぎ、大きな動揺を伝えてくる。
セレスは間をおいてから、どうしてもエルドを憎み切れない理由を伝えた。
「助けてくれたのね?そうじゃなきゃ、こんなに沢山ある空き家の一つでぽつんと死にかけてた私なんて、いくら
イージスでも間に合わなかったと思うわ」
眉間の皺が更に深く刻まれる。
「…………今更、そんな話してどうすんだよ」
苦渋に満ちたエルドから、搾り出すような返答が返ってきた。
逸らした目の中を泳ぐものは明らかに後悔の念だった。
「話したら許されるのかよ。…………許せるのかよ」
「わからない、けど。話してもらわなきゃ始まらないわ」
「無駄だろ」
「どうして勝手に結論を出してしまうの」
「うるせえっ!!」
「ぐぅっ!!」
全身が反り返った。
至近距離での大声に体内の傷が呼応して酷い痛みを吐き出したからだ。
思わず顔を歪め、乱れる息に苦しみ胸元に拳を当てた。
一瞬、セレス以外の何もかもの時が停止した。
「…何だその反応は」
答える余裕がない。波打つ痛みに耐えかねて必死に呼吸を繰り返す。
理解しかねるといった間があき、やがて勝手な結論に到達したらしく推測を吐き捨ててきた。
「演技かよ。案外セコいな」
軽視の視線を落とされたのでむっとして言い返す。
「違うわよ。病気の後遺症で神経が痛むの。結構しつこく残る痛みみたいだから仕方ないじゃない」
言った瞬間、目が見開く。
何を言ったのか自分でも一瞬わからなくなる程愚かしい発言をしたことに気付いた。
身体が完治しておらず、未だ弱っていることを自ら晒してしまったのである。
見る見る間に血の気がひいていく。
察したのか、数秒後エルドの顔色も一変した。
下にした獲物の上着を容赦なく引き千切る。
「や…っ」
思った通りの行動かと思われたが、彼の真意は違った。
「何だこれ」
露わになった上半身。その痩せた体躯の、かなりの範囲を占める傷跡の酷さに絶句している。
「いやっ!!」
思わず隙をついて突き飛ばした。
押しのけることに成功して寝台から転がり落ちる。
追撃はしてこなかった。
疼痛と震えを我慢しながら荒い息を繰り返していると、背後から疑問が投げかけられる。
「おいまさかそれ……………痕…残るとかいわねえだろうな」
「見ればわかるでしょ」
即座に答えを投げ返されて、ただでさえ白い顔がさらに色を無くしていく。
衣服の下に隠していた事実は、意外にもセレスもびっくりする程のダメージを与えたようだった。
「何で治療しねえんだ」
「してもらったわよ。でも治療って言っても限界があるわ。汚れた爪で何度もひっかいて、丹念に作ってしまった傷だもの……
完全に元に戻すなんていう方が無理でしょう」
「……」
包帯男は呆然自失状態のまま髪をかき上げる。ほんの少し震えているのが見て取れた。
「おい……マジで冗談だろ。勘弁してくれよ」
勘弁してほしいのはこちらだ。
「…これでもイージスが一生懸命回復関係の魔法を勉強してくれたから、かなり良くなったのよ。
何度も言うけどこれが限界だったの。
後は時間が経てば自然治癒で少しくらいはきれいになるかも、…そのくらいよ」
「本当にもう手の打ちようがねえのか」
無言で頷く。
重苦しい沈黙の中、渋い顔つきのまま固まっていた死神は、力尽きたとばかりその場にばったりと倒れた。
受け止めた寝台が不満げに軋む。
「流石のあなたでも萎えたかしら」
自嘲しながらの問いに、寝台からの答えは戻ってこなかった。
下手に抵抗するより反撃力が大きいとは。そんなに酷いのか、と少し悲しくなった。
だがエルドにとっては萎えたなどという問題ではなく。
己の所業により大事な女の肌に広範囲の傷跡が汚く残った―――この罪悪感のとてつもない重さを、セレスには理解できなかった。
「クズだな」
その言葉は身体を中傷されたのかと受け取ってしまったセレスを軽く傷つけたが、
「…俺は」
付け足された一言により、自嘲なのが明らかになった。
すっかり意気消沈したエルドを確認すると、セレスは息をつき、乱された衣服を整えた。
倒れていた椅子を立て直して腰を下ろす。
本当に手のかかる男だ。
昔からそうだった。仲間達からの有益な助言すら必要ねえ話しかけるなと撥ね付けてしまう。
結局それを又聞きしたセレスが助言の活用を勧める。そうすると次に使役された時取り入れている。
天井を仰いでいた片目がゆっくりと移動し、赤い短髪を映した。
彼の目には不健康に痩せて怯え傷ついた元同僚が映っている。
凛とした雰囲気も振る舞いも美貌も、何もかもが失われ、退色していた。
「私達、何でこんなことになっちゃったのかしらね…」
その女の艶やかだった唇から、自然な嘆きが漏れた。
知らぬ間に捻りあげてしまっていた女は虚ろな抜け殻のようだった。
「……ぁああくそっ!もう何でもいい」
沸点の低い男の拳が白布の上にばふんと落ちた。
「どうせくれてやろうと思ってた命だ。刺す気ねえなら何でも言うこと聞いてやる。これでどうだ」
行き当たりばったりの突拍子もない申し出。だがセレスにとって悪い発案ではなかった。
「じゃあ、早く良くなって何処かへ行って」
「芸がねえな。もっと面しれえこと言えよ」
何でもと言っておきながら即否定。期待もしていなかったが。
「かっさばくか?噴水みてーで面白いぞ」
喉元に親指を突き立て、刃物に見立ててぐいっと空を切った。
命と引き換えのショーの提案。当然ながらセレスは蹴った。
「見慣れてるわ」
「そうだったな」
失笑が漏れる。
「ひでえツラだな。笑えよ」
台詞と言い方に軽い苛立ちがわいた。
「どうやって?」
「どうやってって……」
「笑えないようにしたのは貴方じゃない。ねえどうやって?私の方が訊きたいわ」
強い態度で問い詰めると、意外にも勢いに押されて黙り込んでしまった。案外猛攻されると弱いようだ。
会話は途切れ途切れだった。
いい加減向かい合っているのも嫌になってきた頃、この男にしてほしいことが一つあったのに気付く。
「じゃあ一つ言うことを聞いて」
「…何だ」
「昨晩私の耳元で行った言葉。もう一度、言って」
頼んだ瞬間、明らかに相手の目が泳いだ。
「それは……」
「何でもって言ったわ。私の名を呼んだその後よ」
強い態度で請う。どうしても聞きたい言葉だった。
長い長い躊躇の後、その言葉はぽつりと投げ出された。
「……………………ごめんな」
そう。
あの時、耳元でそう呟いたのだ。
「うん」
舌打ちの後、部屋は静かになった。
波の音だけが耳を撫でる。
そんな一言で許せるようなことでは決して無い。
ないけれども、この男が吐いた小さなその一言はとても大きかった。
寝台の上から幾度目かの重苦しい嘆息が漏れる。
「結局俺のものにはならなかったな。……お前の勝ちだ」
意外な一言が耳に届いた。
呟きにはこの男なりの精一杯の気遣いが感じられた。
持ち上げて、この堕ち切ってしまった女を少しでも浮上させたいと思っているのだろう。
「やめてよ。勝ち負けとか。そういう問題じゃないでしょ」
「へえへえ。わかってるよ。どうせもう何言っても無駄なんだろ」
下手に出たのにはたき落とされたのが気に食わないのか、不貞腐れてごろりと背中を向けた。
子供か、この男は。半目で背中を見つめる。
……子供なんだろうな。
吐いた言葉をまとめて整理すると、論理は滅茶苦茶だが、一連の出来事に本当に悪気はなかったらしい。
最初の脅迫すら口説き落とす為の一環なのだろう。言動に善悪の見境がなさすぎる。
「エルド」
静かに名を呼ぶ。返事はない。
だいぶ迷ったが、こうしていても仕方ないという諦めが言葉になる。
彼は自分に許しを乞うている。
「もう少し良くなったら、いいわよ」
信じられないといった面持ちが、ものすごい勢いでセレスに向き返った。
「本気かよ」
「本気よ。……当然だけど本当は嫌よ。死ぬ程嫌だけど、でも」
膝の上に置かれた拳が固くなる。
「二度目の人生が始まったばかりなのよ。この先ずっと貴方の影に…貴方の手に怯えて暮らすのはごめんだわ」
このまま関係を終わりにしたのなら、仲間に騙され犯され壊されただけの哀れな女のままでしかいられない。
そこまでの害意がなかったこと、懺悔し清算したい気持ちがあることの二点がわかった今。
「悪気がなかったと言うのなら、普通に付き合って、……あの一ヶ月はその中のほんの一部だったことにして、
普通に別れたいの」
納得できる形という精神の安定を求めていた。
良くない選択肢であることは重々承知だった。だがこれ以上惨めにならないためにはこれしか残されていないのだ。
「優しくしてくれるんでしょ?」
セレスの申し出に、
「する。絶対する」
案の定思い切り食いついてきた。
真顔。
こんな時だけ邪悪さがごっそり抜け落ちて、本当に子供のような顔をする。
ずるい男だ。
「今する」
先程の強引さはなかったが、手をとられて引っ張られた。
「ちょ……いっ今っ?そ、それは無しでしょ」
「忘れるなら早い方がいいだろ」
至極真剣な表情だった。
「傷つける気はなかったって証明する」
彼にとってはこの上ない汚名返上のチャンスなのだろう。
拒絶する間もなく、解けかけた包帯をだらしなく纏う男が手の甲に口付けを落としてきた。
ぞくっとする。
退廃的な仕草も格好も無駄に似合う。
「ちょっと。身体の状態考えなさいよ。本気で死ぬわよ」
「構わねえ」
とんでもない返答しか返ってこないのはこの男の仕様なのか。
「戦乙女なんぞにもらった命だ。誤解解けてくたばるんならもう二度目の人生それでいい」
なんぞって。
「ちょっ…は、話全然聞いてないでしょ!?こらっ!」
好機を逃すまいとどんどん迫ってくるので咎める暇もない。
「だめ!我慢しなさい!腹上死なんてお断りだからね、ちょっと!」
きつく叱っても勿論止まらない。
身を乗り出してきたかと思ったら唇を重ねられた。
ただ柔らかく触れ合っただけで瞬間的に悪寒と吐き気が走る。
駄目だ。
いくら体が疼いて欲していても、まだ、無理だ。精神が受け入れられない。
突き飛ばしたかったが穏便に済ますため、隙を見逃さずに言い放つ。
「本当に悪かったと思っているなら放して」
動きがぴたりと止まった。
しばらく葛藤していたようだったが、明らかな物足りなさを充満させつつもゆるゆると身を引く。
それはセレスに申し訳なく思う気持ちがあることの証明だった。
それでも口を尖らせ恨めしげに睨みつけていたが、
「ケチ」
捨て台詞とともに、拗ねて毛布を深くかぶってしまった。
そしてものの数分後には寝息を漏らしている図太さを見せた。
ケチって…と呆れつつ、簡単に引き下がった事実に驚きつつ、ほっとする。
また性懲りもなく無理に迫ってくる可能性もあったからだ。
心臓が破裂寸前なのにやっと気がつく。
気持ちが悪いが、今のうちにまた包帯を巻き直さなければならない。
彼が無理をした所為で裂けた傷はそれ程でもないらしいことに、安堵していいのか悪いのか。
散らかった薬箱の中身を拾い上げる。
多分、戻れない沼地の道へ足を踏み入れたことを、噛み締めながら。
今回は以上です。ありがとうございました
では俺もSO4の雑談とSS楽しみにしています
ファビョニス乙です、ちょうどリアルタイムで涙垂らしながら追っかけてました
言いたいことはいろいろあるんだが一言だけ
イージスとセレスの組み合わせに今更滾って仕方ないです責任とって下さい
イージスがいい男過ぎて涙が出る。
ファビョニスGJ
エルドくたばりやぁぁぁぁ!!!と思ったが許す。
ファビョニス乙! クソドチビに吹いたw
俺も
>>94に同意したんだがどうしてくれる
素っ裸で正座して待ってますからお願いします
かえって傷つけてしまうエルドの不器用さになんか切なくなった
このイージスかっこいい同意なんだけど立ち位置は兄貴ポジション固定かな
さあここに更にSO4の波で賑わうとうれしいけど
GJ!!
おっと隠し味を忘れたぜーにワラタ
リムルんのツンデレマジ最高!
てことで誰かリムルとフェイズで書いてーなorz
>>72 ザンデww
乙!!続き待ってるよ!
そして100げと
メリクルのはみマンヤバすぎるだろJK
セラゲでエルド使ってる俺からファビョニスにGJ!次回エロそうなんで楽しみ
SO4本編クリアしたが
尻も乳もはみマンも堪能したがSO4はどうもSSの食指が動かん
てわけで職人待ち
終盤のエッチとレイミがガチすぎるな
序盤にリムルの村の村人がバカラス病の末期症状で変貌しちゃうけど、
あの時何かの間違いでリムルを村に置いてエッジ一行が出かけてたら…!
>>101 なんかカップリングがガチガチすぎるんだよな
SO3はフェイトと誰かで自由に妄想できたが
あれだけ本編でエッジとレイミで主張されるとどうもね
・同じ一団の仲間(ミリー)
・旅の最初から最後まで一緒(レナ)
・幼馴染(ソフィア)
…という歴代ヒロインのフラグ要素を全部備えてるからな、レイミ
エッジレイミで書いてみたいがかなり書きにくいってのが揃っちゃってんだよな
この二人・・・
エッジはまだ熱血野郎だがレイミが過去SOに比べてこれって特徴がない
良ヒロインだとは思うが
特徴のないのが特徴・・・
ソフィアは顔グラさえまともだったら!
一般人代表って感じで好きなんだけどな
>>106 良ヒロインの特徴をそろえてるせいで、逆に特徴が平均化してる感じみたいだよな
エッジを尻に敷きそうだな。文字通り的な意味で
つまり顔面騎じょ(ry
ドラゴンニュート×先代巫女マダー?
確かにレイミはこれといった特徴は無いが、そこが好きだ
無理に変な個性ついてるより普通の女の子の方が俺は可愛いと思う
しかしリムルもサラも最初はうざかったが、いつの間にか可愛くてしょうがなくなってた俺
今回はパフィも可愛い。それ以上にパフィの母親がいい!
しかし一番可愛いのはバッカたんだ
わんわもかわいいのよ
118 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:13:32 ID:5yWYvwi3
ageとくぜ。
バッカたんには何か目覚めかけた
わんわとリムルでオラクル来ないかな
レイミはレイプされてもすぐに身体が馴染んで感じるこ
後ろもすぐに使える特異体質
バッカスとリムルで余裕でいける
シマダ×レイミまだー?
今クリアした
一番可愛いのはルティアで一番ネタとして美味しそうなのはメリクルだったな
しかし本編でエッジがレイミと鉄板すぎるのが問題か
エッジ相手に拘る必要はないと考えろ
エイルマット×メリクル
メリクル×博士
フェイズ×リムル
バッカさん×リムル
教団×サラ陵辱
過去ミュリア×ルシオ(で合ってたかな夫の名前)
ミュリア×エッジ
メリクル実験陵辱
のカップリングがぱっと思いついた。メリクルは輪姦されてるイメージがちらつく
エイルマット×リムルを推したい。ロリコンでもいいジャマイカ!
バッカス×リムルかエイルマット×リムルorメリクルを…
しかし4はキャラが濃すぎて描くにしても書くにしてもきついw
>>126 その二人、立場的にフェイズ絡めると面白そうだなぁ
リムルの心情的な意味で
4はカップルがガチすぎるから妄想しにくい
en2の宿屋でのエッジとレイミのイベントが決戦前夜イベだとはすぐには気づかんかったw
そんなスレあったのか
こっちにもきてほしいな
SO4は冒頭しかやってないのにエロ投下
設定関係が無茶苦茶なのは大目に見てください
----------------------------------
さて、ここで少し考えてみよう。
人類が新天地を求めての宇宙開拓隊、彼らの先には非常に危険な旅路が待っているのは間違いない。
死が常に付きまとう日々の中に身を置けば、人の心はいとも容易く壊れてしまう。
一人の狂気がメンバー全員を危機に陥れることも当然ある、そして、そんな当たり前の事はUSTAも承知の上であった。
−ストレスが避けられないならば、そのぶつけ先を与えておけばよい−
スケープゴート・・・・・・一人の生贄を用意し、その人物にぶつけさせれば良い。
そして第一次開拓隊の一隻に一人ずつ生贄の少女を用意する事に決定した。
少年達の性衝動を受け止める器を、少女達の優越感を刺激する人形を、より美しくより聡明な少女を選出していった。
レイミ・サイオンジはそんな生贄に選ばれた少女が一人。
名家の生まれで美しく、そして成績も良い彼女は生贄としてまさに適任であった。
彼女は第一次開拓隊に選ばれたその日の内にシマダ副指令率いる特別隊に引き連れられ、船長に選ばれた5名に見守られながら処女を散らされた。
レイミを含む泣き叫ぶ5名を抱く男達。
その中にはクロウを含めた船長達も並び、彼らはレイミ達に謝罪の言葉を並べながらその膣内に濃い精液を吐き出していった。
そこから出発までの数週間はレイミ達にとって悪夢の時間だった。
犯されながら自分の立場を説明され、入隊時に書いた誓約書と録画された映像に逃げ場が無いことを思い知らされた。
服を身に着けることも許されず、入浴は愚か排泄までもカメラの前で行うことを強要された。
一日の半分はあらゆる性技を座学と実技で身につけさせられ、もう半分はUSTAのクルー達の肉奴隷として覚えたばかりの性技を披露させられた。
与えられた寝室には鍵が無く、誰もが頻繁に部屋を出入りし彼女らの身体を使っていった。
反抗的な態度を見せた少女はトイレの一角に繋がれ、次の日に股間からトイレ用ブラシをぶら下げながら帰ってきた。
隙を見て逃げ出そうとした少女は、レイミ達の前で犬と交尾させられながら謝罪の言葉を吐き続けていた。
そんな悪夢のような日々の中、第一次開拓隊に選ばれた少年少女を除く全員が、レイミ達の身体を使っていった。
そして出航式当日、第一次開拓隊の少年少女達に、レイミ達はお披露目された。
シマダ副指令レイミ達5人は壇上に並び、紹介された。
彼女らの役割を、そして、今日までどんな「訓練」を行ってきたのかを。
そして大勢の視線と多くのカメラに晒されながら、レイミ達は一人一人自己紹介を強要された。
アタッチメント一つで股間を曝け出せるようになったズボンの機能を説明し、自らの股間をカメラに近づけてスクリーン一杯に写りこむ自らの性器を
バックに自らの名前と肉奴隷の誓いを宣言した。
そうして最後に彼女らの訓練映像がスペースシップに記録されていることを説明すると、ざわめきの中出航式は終了した。
人類にとっての希望と
レイミ達にとっての絶望の旅が
この日、始まったのである。
さて、絶望的な状況に堕ちたレイミにも一縷の希望はあった。
一つは彼女の所属するスペースシップの船長が紳士であったこと。
そして、何よりも重要であったのが彼女の幼馴染であるエッジが出航式をサボって居たことだった。
レイミはエッジと常に共にあることを選択した。
船長やエッジと離れ一人となれば全てを知るクルー達が彼女に何を要求するかは分かっている、そして彼女はそれを拒絶できない。
だからこそ惑星エイオスでの事件の後、危険と知りつつもレイミはエッジと一緒にあることを選択した。
そして、それは間違いではなかったのである。
しかし、そんな彼女も過去の地球でまた陵辱の憂き目にあうのだが、それはまた別の話である。
向こうのスレの人?
わざわざこっちにも書いてくれてどうもありがとう!グジョーブ!!
『あること』って何だよw
まさか開拓船団が事故ったり、クルーがエッジとレイミ以外みんな死んだのは…
…おや誰か来たようだ
>>132 色々とないわ
お前の趣味が入りすぎてて引く
>>134 お前が読解力がないのは良くわかった
>>135 >趣味が入りすぎてて引く
オマエはなぜエロパロスレに居るんだよw
137 :
132:2009/03/06(金) 18:05:53 ID:mDWFIqYw
>>133 向こうのスレの人とは別人です
あっちと悩んだ末こっちへ投下しました
そうでしたか早とちりすまん
こっちに落としてくれてどうもありがとう
せっかくこんな過疎スレに投下してくれたんだからさ
スルーするか
前書きで注意書きしてくださいって頼むかにしようぜ
俺はこの設定かなりツボにはまったな
興奮したw
訓練の内容とか出航式とかレイミ視点でくわしく書いてほしいなーとかいってみたり
今更気づいたんだがリムルって15歳だったんだなw
ずっと幼女かと思ってた
『15年生きてる』だけで、肉体・精神の成長は6歳から止まってる
六歳児に欲情するフェイズはガチロリ
いつ欲情したのか全く記憶にないんだが
メリクルに発情期は無いのかね
>>132のような救いのないレイミさんの陵辱系のSSこないかな
俺はエッジとレイミの宇宙船ラブワゴンがいいぜ
132の続きです
前回注意書き等忘れてましたので一応
作品名 SO4
カップリング シマダXレイミ(になるのかな?)
注意属性 陵辱、拡張、異物挿入、スカ等々
ゲームはロリを仲間に入れてた所までしか進めてませんので、設定関係は結構無茶苦茶です
まあ、好き勝手に書かせてもらいました
-----------------------------------------------------------
さて、首尾良く自由の身となり惑星エイオスを飛び出したレイミですが、まだ問題は残っています。
そう、スペースシップに記録されている映像があるのです。
それをエッジやフェイズに見つかるのだけは何としても避けなければなりません。
そこで、彼女は映像を削除しようと、ワープ航行中、夜な夜な自室の端末に向かっていたのです。
しかしそうそう上手くいくはずがありません。
そうして苦心惨憺する彼女の元に、思いも寄らぬ場所から救いの手が伸ばされました。
事の元凶であるシマダ副指令、その人からです。
シマダ副指令はレイミが操作する端末に映像を繋ぎ、こう言ったのです。
「消すのは許可できんが、閲覧をロックするパスワードなら教えても良いぞ」と。
それが悪意ある取引なのは言うまでもありません、ありませんが、レイミはそうと分かっていてもそれに縋るし
か無かったのです。
「何をすればよろしいのでしょうか?」
「サイオンジ君のマ○コの具合はもう飽きておるからな、別の方法で楽しませてもらおう。
とりあえずもう一度奴隷の誓いでも立てて貰おうか、もちろん全裸で」
奴隷の誓い・・・・・・それは何度も何度も宣言させられた辛い記憶です。
初めてレイミを使いに来た将校全員にやらされた宣言。
全裸で大きく股を開き、笑顔を乗せてと教育された記憶はレイミにとって、とても辛いものでした。
しかし、レイミに選択権はありません。
レイミがゆっくりと首の後ろ、そして左右の腰の三箇所へと手を伸ばすと、身に着けていたスーツがあっさりと
バラバラになります。
そんなギミックに顔を曇らせながら腰を落としたレイミにシマダ副指令は口を挟みます。
「あぁ、ちょっと待ちたまえ。
こんな場所で誓いを立てても面白くないではないか、ブリッジまで移動したまえ」
「・・・・・・はい」
シマダ副指令の提案に、レイミは従うしかありませんでした。
全裸で廊下を徘徊する。
そんな行為に慣れてしまっている自分をレイミは嫌悪します。
いえ、全裸は愚か排泄まで観察され記録されていた彼女達は、それを受け入れなければ心が壊れていたのでしょう。
「そうだ、ちょっと武器庫に寄って行きたまえ」
途中、シマダ副指令の言葉に従い、レイミは武器庫へ移動します。
ひんやりと冷える武器庫の中、今となっては無駄になってしまった弾薬の山が並びます。
「レールガン用の弾薬でも、とは思うたが面白いものがあるな。
サイオンジ君、そこのミニ・ニューク・・・・・・そうだ、未開惑星での井戸掘り用に用意したそれを持って行きたまえ」
小型とはいえ男性の拳を一回り大きくしたサイズのある爆弾。
それを何に使わせようとしているのか、レイミにはすぐに理解できました。
理解できましたが、それが「使える」かは別の問題です。
ミニ・ニュークを抱きかかえた彼女はついにブリッジに到着してしまいました。
「お待ちかねだよ、サイオンジ君」
巨大なモニタにシマダ副指令の醜悪な笑顔が映っています。
殺したいほどに憎いのに従わなければならない相手、それを前に笑顔を作るのがこれほど難しいとはレイミ自身
思っていませんでした。
「ここで宣言すればよろしいでしょうか?」
「あぁ、船長用のスペースのそここそが相応しい。
そのミニ・ニュークをしっかりと咥え込んだ姿で楽しませてくれるかな」
言われるがままに弾頭を天に向けておき、その上にまたがります。
しかし、見れば見るほど巨大なその姿に、レイミは腰を落とすことが出来ません。
「いくらなんでもそもまま腰を落とすのはやめたまえ。
君達用に用意した機材がその机の隠しポケットに収納されておる、そうその筋弛緩剤とローションを使いたまえ」
言われるがままに手に取ったのは注射器とローションの瓶。
レイミはまずローションをたっぷりとミニ・ニュークにたらし、そして注射器を構えごくりと唾を飲み込んだ。
『ほら、これをクリに注射すればな・・・・・・ほらこの通り』
『すっげぇ、腕が入っちまうのかよ』
『時間さえあれば注射無しで出来るように鍛えるんだがなあ』
『おいおい、バットも入っちまうぜ、これ』
過去にあった辛い記憶がレイミの脳裏にフィードバックします。
確かにこれを使えばミニ・ニュークとて飲み込めるでしょう。
ですが、それを自分で自分の一番敏感な場所へ注射するなど、レイミにはとても出来そうにありません。
「出来ぬのなら、今からエッジ君とやらの部屋で上映会でも行おうかのう。
おおっと今にも手が滑ってボタンを押してしまいそうだ、危ない危ない」
「・・・・・・」
しかし、すぐさまシマダ副指令が声をかけてきます。
逃げ場の無いレイミは唇を強く噛み、意を決して注射器を股間に持っていきます。
ぷるぷると震える注射器が少しずつピンク色の陰核へと近づいていき・・・・・・そして突き立った。
「んぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
あまりの激痛にうめき声を上げるレイミ。
緩んだ尿道が中身を盛大にぶちまける中、レイミは何とか薬液を全部注入する。
そして数分。
ようやく起き上がれるようになったレイミに、シマダ副指令の容赦の無い命令が飛ぶ。
「休憩はそこまでだ。
さぁ、早くそれを咥え込んで奴隷の誓いを立ててもらおうか。
それで今日の所は終わりにしておいてあげよう」
「わ、分かりました」
レイミは膝を大きく左右に広げたまま、ミニ・ニュークと性器が接触するまで腰を落とします。
そして膣口に指を差し込み大きく左右に広げると、ガポリと口を開いた性器の様に表情を曇らせます。
−もう、元に戻らないのではないか?−
ヒトの男性器ならば三本は余裕で飲み込めそうな程に広がったそこは、まさに洞穴でした。
昔見たときは針の穴のようだったそこ・・・・・・それが薬のせいとはいえこんな姿になってしまった事に、そして
それをエッジが知ってしまった時の事を考え、レイミの思考はどんどんと暗く落ち込んでいきます。
「さぁ、急ぎたまえ」
しかし、シマダ副指令は待ってはくれません。
レイミは暗い思考を追い出すかのように首を振り、腰を落としていきます。
ミチ、ミチ、ミチ
肉が軋む音が響きます。
薬で広がったそこをもってしてもまだ大きいサイズのモノ。
限界ギリギリの境界でもって侵入する異物を受け入れながら、レイミの身体は愛液を分泌し始めていました。
それはきっと身体の防衛本能からなのでしょうが、レイミは垂れ堕ちるその液体に涙を浮かべながら、必死に
笑顔を作りながら、シマダ副指令の顔が映るモニタに視線を向けて宣言しました。
「私、レイミ・サイオンジはUSTAの肉奴隷です。
USTAの未来のため、存分に私のオマ○コをご利用くださいますよう、よろしくお願いします」
女として決して口にしたくはないであろう、その宣言を・・・・・・
次回「百合の花咲く幼女の丘に」
おたのしみに!!(注:次回の予定はありません)
なんという鬼畜
乙
いいね
強引にエロくスレの人のやつといい、陵辱鬼畜NTRスキーの
オレには興奮余裕でしたレイミは陵辱がよく似合うキャラだわ
苦労エンド見た
例の人に食い殺されそうだな
性的な意味で
フェイズED見てフェイズ×17歳リムルなら全然いけそうな気がしてきた。
発売前は二人とも興味なかったけど、こいつらのマジ破壊力パネェっす
× こいつらのマジ破壊力パネェっす
○ こいつらの破壊力マジパネェっす
ごめんちゃい
>>155 言語中枢まで破壊されたわけですね、わかります
17歳リムルには妙なエロさがあると思う
2年間もフェイズを思って一人……おっと、誰かきたようだ
一人でとは限らない。
なにせリムルはケルベ(ry
作品名:SO4
カップリング:ミュリア×レイミ
注意属性:レズ、アナル
>>130のスレから移動してきました。
暇で暇で仕方のない方、読んでやってください。
ミュリア・ティオニセスは性的に欲求不満だった。
亡き夫、ルシオとは毎日のように身体を重ね、愛を確かめ合っていたのだ。
復讐を誓い、クロウを追い求める禁欲の毎日、彼女の身体は他人の肌の温もりを欲していた。
ミュリア・ティオニセスは両刀遣いだった。
彼女にとっては性別、種族などは愛することへの障壁にはなりえないのだ。
ルシオと結婚する前は、他種族の女性と関係をもっていた。その前は、男性、その前は獣型種族・・・
そして初恋の相手はEnllの女の子であった。
ミュリア・ティオニセスは惑星エイオスの地面に突っ伏して泣いていた。
ルシオの仇と思いずっと追っていたクロウから渡された、ルシオの最後の言葉を聞き、泣いていた。
そして涙がでなくなった時、ミュリアの心は新たなる決意と共に、復讐の誓いから開放された。
ミュリアの決意。それはエッジ達と共に事の根源を断つこと。そしてルシオの言葉どおり、幸せになること。
ミュリアは幸せとは、お互いの身体を重ね性行為を持つことで心を通わすことであると思っていた。
事実、自分は行為の最中幸せを感じることができるからだ。
そして今、ミュリアが視線を送る先にはレイミ・サイオンジがいた。
レイミのきゅっと締まったお尻、バランスの取れた乳房、愛らしい顔立ち、明るく責任感の強い性格、
そしてエッジとの事をからかうと子供のような反応をして怒る可愛らしさ、レイミの全てに魅かれはじめていた。
肌を合わせ愛し合ってみたい、レイミのかわいく喘ぐ声を聞きたいと思っていた。
惑星エイオスを飛び立ちEnllへワープ航行中、そのチャンスはやってきた。エイルマットがPTに加わり部屋割りが変わり、
レイミとミュリアが同じ部屋に割り当てられることになったのだ。
シャワーから戻ってきたパジャマ姿のレイミに、ミュリアは用意していたドリンクをすすめた。
「お嬢ちゃん、はい、よく冷えた麦茶よ」
「あ、ありがとうございます、喉かわいてたんですよ」
レイミは美味しそうに手渡された麦茶を飲み干しベッドに腰掛けた。
・・・・・バタ。レイミはそのまま横に倒れ眠ってしまう。睡眠薬が入っていたのだ。
「・・・・・ごめんねお嬢ちゃん」
ミュリアは、レイミのパジャマを素早く脱がし、両手を上にあげ縛り、ベッドにくくりつけ、
さらに両足を広げる形で片足づつ縛って固定した。
そしてEnll製の強力な媚薬を口に含み、口移しでレイミに飲ませるのだった。
「・・・・・ん・・うん・・・・」
身体の火照りを感じレイミは目を覚ました。そして自分が裸でベッドに縛られていることに気づく。
驚いて辺りを見渡すとベッドの傍らにミュリアが肘をつく形でレイミを見つめていた。
「ミュリアさん、どういうことなんですか!すぐほどいてください!」
「しーーーーーー。大声だしちゃだめよ、しばらく大人しくしてなさい。もう少ししたら解いてあげるから」
ミュリアは人差し指を口に立て、やさしく微笑みながら言った。
レイミは、さらに抗議しようとしたが、身体の異変に気づくのだった。
(身体が・・・熱い・・・はぁはぁ・・・あそこが・・なんかへんだよ・・・)
「ミュ・・ミュリア・・・さん、私に何をしたんですか」
「んふふ、ちょ〜っと気持ちよ〜くなれる薬を飲んでもらっただけよぉ。私ねぇ、お嬢ちゃんのこと好きになっちゃったの。
あなたとエッチな事したいと思ってるの」
「え?・・私、女ですよ!?そんな・・・女同士でなんておかしいです・・・」
「あら、人を好きになるのに性別なんて関係ないのよ?でも安心して、無理矢理お嬢ちゃんをどうこうするつもりはないわ。
あなたのほうから私のこと、求めてこない限り何もしないわよ」
「私の・・・はぁはぁ・・ほぅから・・なんて・・・あぁ・・絶対ない・・・です・・・はぅん・・」
レイミは身体をくねくねさせながら身体の火照りと下腹部の奥のうずく感覚に必死に耐えていた。
身体全体から汗がにじみ、秘部からは愛液が垂れ落ちベッドに染みをつくっていた。
涙目になりながら、下唇をきゅっと噛み、湧き上がる性の衝動に耐えるレイミ。
「クスっ、随分我慢強いのねぇ。・・・お嬢ちゃんの大事なところ。指でさわって気持ちよ〜くなりたいでしょぉ?
してって言えば、とっても気持ちよくさせてあげれるわよぉ?」
ミュリアはレイミの耳に口がつくか、つかないかの距離でそう囁くと同時に、耳の外側を舌でぺろっと舐めた。
「はぅぅ!」
レイミは体をビクンと仰け反らせ声を漏らす。
「あらぁ、お穣ちゃんは耳が弱いのねぇ」
ミュリアは、はぁっと熱い息を吹きかけ耳たぶを軽く噛み、さらに耳全体をやさしく舐めまわしていく。
媚薬で極限まで感度があがっているレイミは、未だ経験したことのないこの刺激に身体を激しくくねらせる。
(だめ・・・気持ちいいの・・・耳舐められるのすごくいい・・・ああ・・・アソコを弄りたい・・指で弄って気持ちよくなりたいよ・・)
レイミは大きく開かされている両足を、股を、動かして秘部になんとか刺激を与えようとするが求める刺激は得られない。
(ああ・・アソコが熱い・・・じんじんするよ・・・こんなの我慢できないよぉ・・・触りたい!触ってほしい!)
ミュリアはレイミの耳をなおも責め続ける。耳全体が唾液でべとべとになった頃、レイミの限界がきた。
「・・・・・さい。・・・・して・・下さい。私を気持ちよくさせて・・・ほしいです」
レイミは潤んだ眼でミュリアを見つめて言った。
人は、苦痛には耐えられるが、快楽には耐えられないという。
レイミが快楽のあまり身を任せてしまうのも無理のないことなのだ。
「いい子ね、よくここまで耐えたわ、でももう大丈夫、私に身を任せなさい、とってもとっても気持ちよくしてあげるから」
ミュリアはレイミの頭をやさしくなでながら、おでこにキスをしてそう言った。
そしてそのまま眉間、鼻、上唇と、舌で舐めながらレイミの口元まで移動し口づけをする。
舌を口腔内へと進入させ、レイミの舌を絡め取る。お互いの舌を激しく絡ませあい、くちゅくちゅと音を鳴らす。
レイミの口元から二人の唾液が垂れ落ちる。ミュリアが口の中で唾液を溜め、レイミの口腔へと流し込んだ。
レイミはそれを抵抗することなく受け入れ、飲み込む。
(ああ・・・ミュリアさんの唾液・・・美味しい・・・私。おかしくなっちゃったの?・・・でも・・
もっと・・もっとほしい・・・)
レイミが舌でもっと、もっととおねだりをするのに答え、ミュリアは唾液を流し込んでいく。
激しいキスを続けながらミュリアは右手をすでにびしょびしょに濡れているレイミの秘部へとはわし、指を1本膣内へと挿入した。
レイミの身体に電撃にもにた衝撃が走る。焦らされ続け、触りたくて触りたくて仕方のなかった秘部への刺激だ。
待ち望んだ刺激、指の進入でレイミはすぐに1回目の絶頂を迎えた。
(気持ちいい・・・こんなに気持ちいいなんて・・・もっと・・もっと・・・もっとしてほしい・・・)
レイミも19歳、普通なら性交の経験くらいはあってもいい年齢だ。だが、レイミは名家の生まれでお嬢様育ちだ。
性に関してはかなり遅れていた。自慰行為ですら、机の角に当てたり、ぬいぐるみを当てて刺激を得る程度の幼稚なものだった。
そのいままでの刺激とは比べ物にならないほどの快楽にレイミは酔いしれ、求めてしまうのだった。
もう大丈夫そうね・・・ミュリアはレイミの手足を縛っていた縄をほどいた。
手足の拘束を解かれると同時に、レイミは手を自身の秘部へともっていき弄ろうとする・・・が、その手はミュリアに止められてしまった。
「あら、ダメよぉ?自分でしちゃダメ。もっとしてほしいなら、私にお願いしなさい」
「ミュリア・・さん、お願い・・します。もっと・・・もっとしてほしいです・・・私のアソコ、さわってほしいです・・・」
レイミは口をだらしなく開き、潤みきった眼でミュリアに擦り寄り懇願した。
(ああ、可愛いわ・・・この子、本当にかわいい・・)
ミュリアはレイミにニッコリと微笑むと両足を掴み、頭の方へと持ち上げ、まんぐり返しの体勢をとらせた。
さすが戦闘で鍛えられているだけあってレイミの身体は柔らかかった。お尻が完全に天井のほうを向き、レイミ視点で
秘部とアナルを見ることができるほど身体を折り曲げることができた。
ミュリアはレイミのお尻側に移動しお尻の上からレイミの顔を見つめ言った。
「ふふふ、お嬢ちゃんの大事なところ、すごいことになってるわよぉ?ほら、見えるでしょぉ、こ〜んなにべとべとに蜜を垂らしちゃって、
ここ、触ってほしいのよねぇ?私の指で弄って欲しいのよねぇ?」
意地悪く微笑みながら問うミュリアにレイミは紅潮した頬をさらに赤らめて、こくりとうなずく。
「クスっ、素直な子は好きよ。でもね、もう今日はお嬢ちゃんのココは弄ってあげない。そのかわり、こっちの可愛い穴、
お嬢ちゃんのお尻の穴をたっぷり愛して感じさせてあげる」
ミュリアはそう言うと同時に、レイミのきゅっとすぼまったアナルに舌を這わしてペロっと舐めあげた。
「ひゃっ・・・そこ、違う!・・・そんなとこ舐めないで!・・・お尻の穴なんて・・・汚いです・・」
レイミの抗議を無視し、ミュリアはアナルを舌で舐めまわしていく。穴の周りを丹念に舌を転がして舐める。
ふーっと息を吹きかけたり、舌の腹を強く押し付けたり、舌を窄ませて穴をつつき穿ったりと、いろんな愛撫を加えていく。
次第にレイミの抗議の声は、甘い喘ぎ声となり、うっとりとした表情でミュリアのアナルへの愛撫を受け入れ、感じていた。
「あん・・・お尻・・・気持ちいい・・こんなの変だよ・・あふ・・・ああ・・いい・・」
手持ち無沙汰だった右手は乳房を揉みしだき、左手は人差し指を口の中にいれちゅぱちゅぱと舌でしゃぶっていた。
アナルを愛撫されはじめて30分くらい経過しただろうか、レイミはすでに4回ほど絶頂に達し今まさに5回目を迎えようとしていた。
だが、不意に、ミュリアのアナルへの愛撫が止んだ。急に愛撫が途絶えたレイミはまんぐり返しの動けない体勢のままお尻を、
上へと必死に突き上げる動作で、もっと、もっと、とおねだりをするのだった。
その様子を見てミュリアは満足げにクスっと微笑むと言った。
「あらあら、随分お尻で感じちゃってるわねぇ、そんなに良かった?もっとしてほしいのかしらぁ?」
「はい・・・やめないで・・・もっと・・・してぇ・・・」
「だったら、両手で自分のお尻の穴、広げて、ここもっと弄って下さいってお願いしてみなさい」
レイミはミュリアのこの言葉に一瞬戸惑ったものの、顔を赤らめながらも即座に行動に移した。
お尻をさらに頭の方へくるように身体を曲げ、両手をアナルへ伸ばすと自らの肛門を左右に広げてミュリアの顔を見て懇願した。
「私の・・・私のお尻の穴、もっと舐めてください・・・もっともっと弄ってほしいです。お尻、気持ちいいんです・・・」
そのレイミの様をみてミュリアは背筋がゾクゾクっとし征服感と共に快感を覚えるのだった。
「はい、よく出来ました。お嬢ちゃんのココ、このお尻の穴にたっぷりとご褒美をあげないといけないわねぇ」
ミュリアはレイミを愛おしむ表情でうっとりと見つめ言った。
ミュリアは、もういいわよ、とレイミの手をアナルから離させ、乳房でもさわってなさいと、胸に誘導した。
そして自らの中指を愛液で溢れかえっているレイミの膣にひたし、充分に濡らすと肛門の入り口に指先をあてがった。
ズブズブ・・・ゆっくりと中指を直腸深くに沈めていく。指の付け根まで挿入すると、今度は上下に動かし始めた。
レイミはさっきまでの舌による愛撫とは、まるで違う強い刺激に、苦しそうな表情をしたものの、
すぐに順応し甘い喘ぎ声をあげ、感じ始めた。
その様子を見て、ミュリアは人差し指も挿入し、二本での愛撫へと移行する。
二本の指を直腸深くに挿入し、指を曲げたり左右に広げたり、高速に出し入れを繰り返したりとレイミのアナルを執拗に責める。
ミュリアはレイミのアナルが充分にほぐれたのを確認すると、アナル用バイブを取り出した。丸いボールのようなものが
連続でくっついているタイプのバイブだ。勿論、指二本よりは、太く長い。だが、執拗に愛撫を繰り返し、
充分にほぐれ拡張されたレイミの肛門はバイブを難なくと受け入れる。
ミュリアは根元近くまで挿入すると、今度はゆっくりと抜きはじめる。丸いボールの部分が直腸から顔を出すたびに、レイミの
肛門が大きく広がり、バイブと一緒に外側にひっぱられ、火山の噴火口を形成するかのように盛り上がり、またしぼむ。
ミュリアはバイブを挿入して抜く、この動作を徐々に早めていく。
「ひゃぅ!あふ・・・くぅん・・・・気持ちよすぎるよぅ!はふ・・・だめ・・声がでちゃうよ!」
レイミは声を大にして快楽の喘ぎを口に出していた。部屋が防音設計じゃなければ廊下にまで聞こえるほどだった。
ミュリアもレイミの有様を見ながら左手を自身の秘部へとはわし、愛撫し、息を荒くし興奮していた。
バイブで責め始めてから、すでにレイミは9回目の絶頂を迎えていた。そろそろ・・・限界かしら?
ミュリアはそうつぶやくと、バイブを、今まで以上に強く深く、レイミの直腸深くに押し込み、左手で陰核を強く、
ぎゅっとつまむと同時に、根元深くまで挿入していたバイブを一気に肛門から引き抜いた。
レイミの身体が大きく跳ね上がり、快楽の叫びと共に、10回目の絶頂を向え、そのままくたっと意識を失った。
ミュリアは、レイミの身体を易しく元の態勢へともどし、添い寝する形で横になる。
腕をレイミの頭の下にまわし、顔を向き合わせる形でぎゅっと抱きしめ、満足げに寝息をたてているレイミの
表情を愛おしげに見つめる。そしてお休みなさいレイミ・・・とつぶやき、軽く唇にキスをし、自分も眠りにつくのだった。
・
・
・
朝日が窓から部屋に・・・差さないが、とにかく朝が来た。
レイミはこめかみから頬にかけて、なにか心地よい感触を感じ、眼をさました。
眼を開くと、ミュリアの顔が視界一杯に飛び込んできた。
レイミはミュリアを抱き枕を抱くかのように両足を絡め抱きしめながら寝ていたのだ。
ミュリアはすでに眼を覚ましており、まるで愛しい伴侶を見るかのような表情でレイミを見つめながら
手でこめかみから頬をやさしく撫でていたのだ。
「おはよう、お嬢ちゃん」
「え?・・あ、おはようございます」
レイミはなぜこのような状態で寝ていたのか、頭がぼーっとしてうまく考えがまとまらない。
だがやがて、昨日のことを思い出すとはっとしてベッドから起き上がりミュリアから距離をとる。
「ミュ、ミュリアさん、昨日のア、ア、アレはその・・・あの・・ちが・・ちがう・・」
一部始終を思い出したレイミは顔を真っ赤にして何か言おうとするが言葉にならない。
ミュリアは、クスっと笑って起き上がり、レイミに近づくと、素早く右手を首に回して引き寄せ、口づけした。
レイミはびっくりして逃れようと意識したが、身体は動かなかった。ミュリアが舌をレイミの口腔内へと差し込んでくるのを
素直に受け入れ、ミュリアのリードのままにお互いの舌を絡ませあう。両手はいつしかミュリアの背中をぎゅっと抱きしめる形に
なっていた。しばらくしてミュリアが、キスを止め、顔を離す。唾液が糸のようにお互いの口をつなぎ、光っていた。
「あら、抵抗しないのね?私のこと、好きになっちゃったのかしら?」
ミュリアが意地悪く微笑みながら言った。
「ちが・・ちがいます!朝・・私、朝は弱いんです、ちょっとぼーっとしてただけです!女同士でこんな・・・絶対おかしいです!」
レイミは顔を朱色に染めながら、頬を少し膨らませてそう言うと、着替えを手に取りスタスタと部屋を出て、シャワールームへと
向かうのだった。
「ほんと、かわいい子ね・・・。坊や、悪いけど、お嬢ちゃんは私が頂いちゃうわよ」
ミュリアは唇を舌でペロリと舐め、そうつぶやき、自分も普段着に着替えてメインルームへと降りていくのだった。
まぁしかし、・・・妄想を文章にするのって難しいねw、表現が特に。
SO4初SSがこの2人とはwGJGJ
志村ー!二作目二作目!
しまった3作目かorz
何にせよお二人とも投下乙!
フェイリム好きだが、この二人のエロは想像できないんだよな・・・
にゃんこにまんざらでもない感じのエッジと
嫉妬しながらもにゃんこ可愛い状態のレイミとか
クロウの説得後、エッジになびくミュリアとか
フェイズがいなくなった後エッジにべったりになるリムとか
何故かエッジさんメインでしか妄想ができない俺
奇遇だな、俺もだ。
しかしエッジとフェイズもいけるんじゃないかと
おっと早朝から誰か来t
こんばんはファビョニスです
続き投下させてもらいます
注意書きは
>>4でお願いします
今回投下分が最もカオスなパートかと思います
暴力・流血表現有のエロが苦手な方、お手数ですが回避願います
廃都に異変が起こったのは次の日のことだった。
朝焼けが空の片隅で始まったばかりのうちに目が覚めてしまい、仕方なく起床する。
寝ぼけ眼で朝食の準備にとりかかる。
手を動かしながらイージスに何と説明しようかと頭を悩ましていると、表がなにやら騒がしい。
窓を開ければ人々の畏怖の念が海上に注がれている。
「セレス」
険しい表情のイージスが窓辺に近寄ってきた。
「どうしたの?」
「わからねえ」
どよめきが起こる。
目を戻すと重い衝撃音とともに海の上の故郷で何かが砂煙を上げた。
こんなに離れていても肉眼で確認できる変事。
立ち込める緊迫感はディパンが一晩で壊滅したあの日を髣髴とさせた。
セレスが目を見張る横で、イージスが頭を掻き毟る。
「崩壊したとはいえディパンもいろいろ問題残したまんまからな」
「……」
やがてゾルデの久しく静かだった広場ががやがやと騒がしくなる。
ざわめきは徐々に旅支度を整えた一団を形成していった。
「ディパンに残っている人達の救援に行くのかしら?」
「ああ。それに今ディパンにいるのはそいつらだけじゃねえらしいんだ。
崩壊した時に着の身着のままで慌てて逃げた連中が、丁度荷物を取りに戻っちまってるとか」
「何ですって?」
タイミングの悪い。
それともその中の誰かがこの騒ぎの原因を持ち込んだのだろうか。真相は海の向こうで不気味に蠢いている。
魔術師が渋い顔で躊躇いがちに呟いた。
「それでな。どうやらあのガキどもも、その一行に紛れてついていっちまったみたいなんだよ」
あのガキども――――。一緒にピクニックに行ってくれたあの子供達か。
塞ぎ込んでいたセレスと違ってイージスとは以後も交流があったらしい。
ほとんどが孤児。多少なりとも情が移っているのだろう。
「流石に見捨てちゃおけねえ。俺も行ってくる」
「えっ」
予想外の一言に戦慄が走った。そう言われてみるとイージスもがっつりと装備を整えている。
信頼を置く男がいなくなろうとしている。しかも今すぐに。心臓を掴み上げられた気がした。
だが引き止めることなどできない。
「そ、そうよね」
と頷きつつも、こんな大変な時にさえ私情でそばにいてほしいなどと思ってしまう自分に、苛立ちを感じる。
何を勝手に見捨てられたような気分になっているのだろう。つくづく自分が嫌になる。
覆い被さってまであの弓闘士を助けたのは自分ではないか。
目を泳がせるセレスの肩に手をおき、イージスは真剣な表情で言った。
「じゃあ俺は行くけど。わかってるよな?セレス」
「え?」
「用件とやらが済んだら殺すんだぞ」
強い語調の一言は容赦なくセレスの動揺を射抜いた。
「兄さん…」
「あれは絶対にお前のためにならない」
「兄さん、あの」
「手負いの畜生野郎にとどめ刺すぐらい、お前なら簡単だよな?斬鉄姫セレス」
ぐっと詰まる。
イージス的には激励のつもりだったのだろうが、今その二つ名を出されてもセレスには重荷でしかなかった。
私はそんなに強い女じゃない。生前ならともかく、今の私なら尚更――――。
つい平静を失い、反論めいた言葉を紡ごうとした時。
「おいいつまでくっちゃべってやがんだ。本当に行く気あんのか?」
一団のまとめ役らしき戦士からイージスに乱暴な呼び声がかかった。
「ああ悪い。わかったすぐ行く。――――それじゃあなセレス」
そうしてイージスはセレスに軽く手を振ると杖を手に行ってしまった。
背中を見送りつつ、急な展開と喪失感に襲われ、セレスは深い寂しさにかられる。
私は一体何をしているんだろう。
ぽつんと取り残されたセレスは、現在の自分の立ち位置に至極情けないものを感じざるを得なかった。
エルドという怪我人を抱えているのはわかっているし、今の自分では足手まといなだけ。置いていかれるのは当然だ。
だがこんな一大事に、将軍職に就いたことのある戦士の自分が頼られず、声すらかからないとは。
さらにディパンは崩壊したとはいえ実の故郷だ。それなのに。
甲冑に身を包んで共に急いでいなければいけない立場ではないのだろうか。惨めな思いに包まれた。
朝日に包まれて救援隊の一行は異変の巻き起こる国へと旅立っていった。
そしてなかなか帰ってこなかった。
残されたゾルデの民の不安と心配をよそに幾度となく夜は訪れる。
セレスもまた、海に浮かぶ栄華の残骸を見つめていた。
大きな変化はあの日だけだった。だがイージス達は戻ってくる気配がない。
不死者か魔物か。とにかく何者かが蠢いているようだ。イージスや子供達、その他の人々の身を案じる。
ドラゴンオーブ不在期間の影響はあまりにも大きい。
魔物の動きが活発化し続ける現状も合わせると得体の知れない恐怖にかられる。
ディパンには特に大きな不穏が内包されている。
地下、魔物の徘徊する背徳の実験場の、あの最奥部。
後日の再訪時には鍵がかかっていて入れなかった。
別の未来から来訪したあの創造神はディパンについて何か知っていたのだろうか。多少なりとも訊ねておけば良かった。
拳を握る。
本当は追いかけたい。しかし今の自分ではディパンに辿り着けるかどうかすら怪しい。
辿り着けたとしても役に立てるのかどうか。
無力。
現実が重く圧し掛かる。
「気になるのか」
不意にエルドが尋ねてきた。
ちゃんと食べて養生している分セレスよりずっと回復が早く、完治といってもよい状態にまで仕上がっていた。
どうも精神的に受けた打撃のレベルが全然違うらしい。セレスは未だに弱っているのにエルドは平然としている。
打たれ強さの面では勝負にならない。
「気になるかなんて……当たり前でしょ」
ぶっきら棒に答えると、
「冷てえな。俺ら一応付き合ってるんじゃねえの?」
さも嫌そうに口を尖らせる。
現実を直視させられる。そう、今現在セレスは紛う事なくこの男の恋人というポジションにいるのだ。
「一応でしょ。…本当に、形だけ」
自分から言い出したはずの関係なのに、実に偏屈な返答だった。
エルドの表情に明らかな不服の色が混入する。
しかしどう努力しても乱暴される以前のような目ではエルドを見れなかった。
彼に掲げた提案は、考えが甘かったというより、無理があった。
いくら頑張ったところでエルドはセレスを騙して危害を加え、死を考えるまでにいたぶってくれた、残忍な加害者なのだ。
だが今更、己が言い出したことを放り出すわけにもいかない。
欠けた月、揺らめく黒い海、死んだはずの故郷。
重苦しく嘆息する女の頬を、紛い物の恋人の指の背がそっと触れた。
「ちょっと!」
驚いて即座に払いのけた。だがエルドの表情は変わらない。
「ちょっとじゃねえよ。そろそろいいだろ。やらせてくれよ」
あまりにも直球な要求に青くなると同時、ついにきたか、とも思った。
治ったら。
そう、まさにそれだけのために、この男は長い間大人しく介抱を受けていたのだから。
「でも、まっまだ…私、心の準備が……」
動揺を隠せないセレスに迫る男がきっぱりと言い放つ。
「これ以上待たされたら老衰で勃たなくなる」
どういう表現だと思いつつも、覚悟を決める時だとも思わされる。神経からくる痛みもだいぶとれてきた。
しかしせり上がる嫌悪は否定しようもなく、どうしても決意を鈍らせる。
「…もう少しだけ待ってほしい……」
か細い声で拒絶を示し、戸惑いをそのままに目を泳がせていると、
「いいか、もう一度だけ言うぞ」
ずいっと顔を近づけられたので、思わず目を瞑ってすごい勢いで逸らした。
そんなセレスの態度を気にも留めず、加害者は噛み砕いて咀嚼させるように諭してくる。
「お前を気に入ってるってのは誓って嘘じゃねえ。傷つける気なんてさらさらない。
むしろまさかこんなことになるとは思わなかった。
俺とやった記憶が今のお前を蝕んでいるってんなら、一秒でも早く解放したいんだ。
誓う。今度は絶対に優しく、大事にする」
言葉の一つ一つが真剣で、真摯だった。だがこの男の口からではあまりに真実味が弱い。
更に間を詰められて息をのむ。無意識に押し退けようと手をあげてしまった。
程なく手首を取られる。
「暴力反対」
その一言がセレスの癇に障る。
「…暴力反対、ですって?」
思わず声が殺気を帯びる。
「殴ったり蹴ったりだけが暴力だと思ってるの?あれだけ酷いことしておいて良くそんなこと…っ」
「わかったからそんな怯えてんじゃねえよ」
「怯えてなんて!」
否定したかったが、ぐっと身を乗り出してこられると小さな悲鳴と共に身体が退路を求めた。
けれど逃げ道はない。
「体だってそろそろ限界だろ。楽にするから」
未だ継続中の激しい疼きを勘付かれている。ボッと耳まで火照る。死ぬ程恥ずかしかった。
そんな彼女の目前で、エルドは一刻も早い名誉挽回を望んでいる。
「それともまさか『大人しく寝かしつけとく為の嘘でした』とか言わねえだろうな」
静かに唸るような問いかけをされる。どうやらもう避けようがないらしい。
観念して呟く。
「…わかったわ」
それに、この毎晩の疼きから早く解き放たれたい。それは嘘ではなかった。
窓辺の椅子からすっと立ち上がる。
寝台に腰を下ろすと衣服を脱ぐ。少しずつ本来の肉付きを取り戻してきた肌が露になる。
だが表面はどうしようもない。先日干からび切った大きなかさぶたがやっと自然にとれたばかりだった。
そこまで酷いというわけでもないが、気にするなというには広すぎる傷痕。
月光の中、やるせなさで視線を伏せつつ自嘲を零す。
「……こんな体に欲情できるの?」
「もうしてる」
隣りに座った男の即答に呆れる。
「そうだったわね。貴方は物好きな上に並々ならぬ変態だったわね」
「うるせえな。何言ってもそんなツンツン返しじゃ俺だって何て言やいいんだよ」
口をつぐんで答えない女の顎をつまむ。
「愛してる。 ………って言えばいいのか?」
女の顔が一気に苦味で歪んだ。
現在のセレスにかける言葉としては、愛の告白は良い選択肢とは言えなかった。
緊張さえ瞬時にほどけて気持ちが萎える。
「そんな見え透いた嘘を喜ぶとでも?」
「決め付けかよ」
眉根を寄せるエルドを更に睨みつける。
「愛してる女にあんなことする男なんているのかしら?」
「……。ま、そうかもな」
やったことが酷すぎて言い争いでは勝ち目がない。エルドは半目を閉じ、ため息をついた。
「そんじゃお姫様に気持ち良く感じていただけるよう気合入れて真面目にやるか」
顔にかかる茶色の髪を乱雑にまとめ上げ、後頭部で縛りつける。
束からこぼれた髪がぱらぱらと頬に落ちた。
男の意気込みを感じるとセレスは逆に顔面蒼白となった。深呼吸をし、耐え凌ぐ体勢を整え始める。
本当にするんだ。また。自分を騙して生き地獄を与えたこの男と。
心の何処かで己の選択肢が信じられなかった。
もう拒む余地はなかった。静かに白布の海の上へ横たえられる。頬を優しく撫でた後に短髪を梳いてきた。
唇が近づく。
激しい嫌悪に襲われて顔を逸らす。
「キスなんかしなくていい」
「何で」
「してほしくない」
愛情の証など、いくつ唇に落とされてもどうせ嘘まみれだ。
「…わかった」
納得いかないといった顔のまま、エルドは身を引いた。
気持ちがまったく噛み合わないまま行為は始まった。
慣れた指先が首筋を流れ落ち、ぷるんと揺れた乳房をむにゅと柔らかく鷲掴む。
皮肉にも胸部の果実には傷一つない。
だがセレスの内側では、あっという間に恐怖が蘇り始めていた。
「あ。…あっ」
身じろぐ女からは喘ぎ声ではなく、痛々しい呻き声だけが悲しげに漏れる。
「何だその鳴き声。色気ねえぞおい」
「無理…言わないで…っ」
「こっちは全力で気持ち良くさせようとしてんだから無駄に怯えるなよ」
がくがくと震える身体にそっと唇が落ち、ゆったりとなめらかに滑る。
「は…っ、あ、あ」
両眼が勝手に潤む。胸の鼓動がこれでもかと乱打する。
逃げ出したい気持ちをシーツをぎゅっと掴むことで必死に押さえつける。
我慢しなくては。ここで逃げたらまた記憶に蝕まれる生き地獄が待っているだけだ。
乗り越えなくては。
「そんなに怖ええか」
「怖…い…」
今更強がったところでどうしようもない。素直に認める。
男は困惑と同情が入り混ざった微妙な面持ちで頭をがりがりと掻いた。
体も心も傷つけた女のまったく癒えていない現状が、予想以上に酷かったからだろう。
「焦らさ、ないで」
「わかってる」
「卑猥な言葉も言わないで」
「ああ」
諸悪の根源はセレスに請われるまま、全ての要求を呑み込むしかなかった。
震える長い睫毛の真横に、唇への降下を許されない口付けが甘たるく落ちる。
「そういや生前は俺の方が一つ年上だったのに」
「やっ、ん…んんっ…!」
「選定まで二年ブランクあったから肉体年齢は今じゃお前の方が一つ上か」
「と…年なんてよく、あっ、覚えて…。…っ」
「何となく気に食わねー」
「ああ、あっ」
手馴れた指先がやわやわと蠢く。
肌が焦げつくぐらいに熱い。叫び出したい程怯えているくせに、しっかりと性的快楽を感じている身体が憎たらしい。
上半身を汚す苦悶の名残。そっと触れてエルドは後悔を零した。
「…これ、ぜってー痕、残るな…」
未だ肢体に生々しく残る傷跡達。原因を作った男は舌打ちをするしかない。
「何もひっかからねえ位滑らかで白かったのに」
「ああっ」
「俺も結局しっぺ返し食らったってとこか」
死神の舌がすっかり硬くなった乳首を何度も執拗に舐めあげる。
「あ…ぅう、はっ」
ざらりと、熱い。
「まあ傷に関しちゃ俺もこんなだが」
言葉につられてふと目をやって、セレスの顔面から血の気が引いた。
エルドが自分で押し込んだ脇腹の傷はおかしな色をしていて、明らかにイージス鍋を喰らった影響を思わせる。
そこも酷いのだが、全身に古傷がありありと残っているのにも驚いた。
「包帯を巻いていた時も思ったけど、…本当に酷いわね」
自分に残る傷跡の比ではない。セレスの驚愕の視線とは真逆、エルドは呆れ顔を作る。
「包帯巻いた時じゃねえだろ?もっと前に気付いてただろ。何回寝てんだよ俺と」
むっとして言い返す。
「寝たくて寝たことなんか一度もないわ。合意があったみたいに言わないで」
過酷な現実からずっと顔を逸らしていたために相手の顔はおろか体などほとんど目にしていなかったのだ。
そう言い返されてしまうとエルドは詰まるしかない。
「…っとに、気のつえぇ女」
苛立たしげな視線が落ちてきてかち合う。
「それより、その傷跡……?」
「ああ。ガキの頃な」
子供の頃、か。あまり深く踏み込むのは失礼だと思いながらも本音が零れる。
「顔はきれいなのにどうして身体だけ……」
すると明らかに『これだからお姫様は』とでも言いたげな蔑視と嘲笑がエルドの表情に混ざった。
「身体なら服で隠れる。他人には見えねえだろ」
その台詞は加害者が身内であることを暗に示していた。
「大したこたねえよ。ガリガリで骨と皮だけだったこともあるしな」
「…意外だわ」
「そうか?いかにもだろ。普通の家に生まれて普通に育てられてたらこんな性格になるかよ」
凍りついた瞳で、平然と嗤う。『こんな性格』――――。どうやら己の性情に自覚はあるようだ。
「まあとにかくこの体で『ごめん。やっぱ…気持ち悪いよな』とか俯くと大抵の女はコロッと騙されて
『そんなことないわ!』だの何だの言って心も股も開いてくれるわけだが。普通は。」
「相変わらず最悪な思考ね」
「予想通りのお答えありがとよ」
本性を知っているのに同情などするわけがない。あまりの馬鹿らしさを一蹴した。
「おしゃべりが過ぎたな」
突然会話を強制終了され、不意に脚を開かされた。心臓が跳ねて思わずぎゅっと目を瞑る。
そこは前戯により既に十分なほどほぐれ、濡れそぼっていた。
そうでなくても日々強烈な疼きに悩まされていた躯、認めたくはないが明らかに悦んでいる。
エルドからまた何か心無い嘲笑を受ける悪寒がして、震えながら身構える。
「心配しなくとも別に何も言わねーよ」
だがセレスに圧し掛かる男は彼女の心情を見透かしてきた。
指先でちょんと紅い花芽をつつく。応じるように女体が反って甘い嬌声を漏らした。
「女の身体は貞操の危険を感じると防衛本能で濡れるんだよな」
「……」
その言葉には、自惚れ屋の男の後悔が感じられた。
「力抜け」
一言だけあっさりした忠告をすると、襞や茂みを巻き込んで苦痛を伴わないよう気をつけながら、ゆっくり自身を挿入させてきた。
「あ……っ」
言うとおりにしようとしても、寸止めや焦らしを超えたお預けの経験から、どうしても不安で胸が重くなる。
「大丈夫だから」
安心を誘うはずの優しい言葉は、やはり記憶のせいで言い様の無い嫌悪にすり替わってしまい、ぞわっと総毛立つ。
耐え抜かなければ。ここを過ぎればきっと楽になる。
ぎゅっと歯を食いしばったが、すぐに緩んだ。
「んっ。……あっ…はあ、はあっぁあん、あ…ん…あん…っ」
喉を鳴らす音は気持ちとは裏腹だった。
ここしばらく体が熱烈に要求していた異性との結合。
疼きがあっという間に満たされ、悦びの感覚が全身にじんわりと熱っぽく広がっていく。
だがそれはどうしても魂と噛み合わずに不協和音を奏でる。
体が艶やかに色付いても熱い涙は悲しい色をしたままぽろぽろと落ちた。
その落涙を舐め取る男に耳元で慰めるように囁かれる。
「ゆっくり、動くからな」
反り返る身体に緩い律動が絶え間なく波打ち、無理のない速度で高みへと誘う。
「あああっんんっ、う…ん……っ。…はっ、あっ、あああ、あ…っひゃん、あっあっあっ」
戸惑いつつも更に熱くなっていく息、紅潮する頬。
潤む瞳からまた一滴、頬をつたう。
「あっ」
片乳首に強く吸い付かれて思わず仰け反る。
瞬間、視界が真っ白になって、達したのを感じた。
「イったな?じゃ終わり」
セレスがぐったりしたのを確認すると、エルドは以前の執拗さが嘘のように、簡単に手放した。
脚をそっと閉じられる。まるで生娘に行うような交わりは終わった。
無事に事が済んで安堵する。
とても慎重だった。出し入れするだけ。確かに大したことではない。
激しさは欠片もなかった。エルドが傷ついた女に対し優しくしてくれたのはとてもよくわかった。
が、記憶はそれを超えられない。セレスの顔面は火照っているのに青ざめていて、非常におかしな色をしていた。
「どうだった?」
と問われたので、
「気持ち悪い……」
と素直に返した。
「へえへえ。所詮下賎の輩じゃ何やってもお姫様のお気に召しませんか」
男が卑屈に不貞腐れたので、そういうわけじゃないと否定しようとした時だった。
「う……っ」
「おい」
ぎょっとして固まるエルドを尻目に、吐き気を押さえきれずセレスは寝室を飛び出した。
階段を駆け下り、放置してあった水汲み用の桶を引っ掴む。
吐瀉物とともに、有無をいわさず生理的な涙があふれる。
悪寒と震えが止まらない。むしろ凶暴に強まる。暴発して嗤い出しそうな自分を必死で抱き締めて言い聞かす。
「大丈夫…大丈夫…大丈夫…大丈夫…大丈夫…大丈夫…大丈夫…大丈夫…大丈夫…………」
呪文のように繰り返す。背後から小さな舌打ちが聞こえた。
早く元に戻りたいだけだった。
早く這い上がりたいだけだった。
だが、傷の癒えていない心と体では、何もかもが早すぎた。
再度の情交は癒えかけの心傷をさらに深く抉っていった。
セレスは己の人としての価値をすっかり見失っていた。
自分を大切にするという意味さえ霧中に迷わせてしまう。
散りばめられた星屑の下。
セレスは上着を脱ぎ捨てて素肌を晒し、下着一枚という大胆な格好で男の首に手を回す。
双球が柔らかに押し当てられてもエルドは無表情だった。
この女らしからぬ異常を言動に感じているからだろう。
「しましょ」
「俺は全然構わねえが」
誘うような仕草をしていてもガタガタと震える肌は負った傷の大きさを伝えてくる。
「いいの。……早く、慣れたいの」
あんな一ヶ月は大したことじゃなかった。一刻でも早くそういうことにしたい。
寝かされて首筋に口付けられる。
男は静かに、やっと眉にかかりそうな程度に伸びた紅色の短髪を撫で付けた。
「ほんと、何でこんなことになっちまったんだか」
同情雑じりの言い方にぴくりと苛立つ。
「他人事ね。まるで自分には何も関係なかったとでも言いたげじゃない」
「そんなつもりじゃ」
「あなたは…女が死にそうになる事を遊びでする人だものね」
「やめろよ」
死神の表情に一瞬で青筋が走った。
一気に死の匂いを漂わせ睨めつけてくる暗殺者の視線。
有無をいわさぬ気迫に押され、セレスの恨み言は喉の奥で萎れるしかなかった。
「…何よ。気に入らないことがあるとそうやって威圧で黙らせるくせに」
「喧嘩なんざしたくねえんだよ」
舌打ちしてから、気まずい空気を保ったまま行為は始まった。
全身を丁寧に愛撫されしっかりと濡らされて準備を整えられた後、静かに、ゆっくりと挿入された。
男のそれの感覚。思わず強張り抗いたくなる己を必死で制止する。
それに気付いたエルドが汗の浮かぶ額を撫でてきた。
「動くな。ちゃんと優しくしてやるから」
…優しく?
……………ちゃんと?
言葉通り、気遣いがわかる律動の波を感じる。
けれども。
――――――馬鹿じゃないの。
「ううっ、…」
女は反抗するように、ぎこちなくも乱雑に腰を振った。驚いたのはエルドである。
「おい何してやがんだ」
「そんなんじゃ全然足りないわよ。もっと激しくしてよ貴方らしくもない」
「何言って…」
もうどうしようもない。
内側からざわざわする。
優しくしてくれているのはわかっている。
けれど、どうしても、どうしても許せない。
「いつも通り嘘をついて!押さえ付けて!逃げられなくして絶望させて、淫乱だって言えばいいじゃないっ!!」
交わる度にセレスの何もかもが狂気をはらんでいく。
「今更優しくなんてしてくれたって…!」
辻褄が合わないのは理解しつつも、しかし止まらない。怒りも、悔しさも、涙も。
「もう…遅いのよ…っ!!」
この世に深淵があるとしたらこんな感じだろうか。
暗い部屋でぼうっと天井をながめている。
力無く横たわる女体の上には男が一人。
一言ねだれば律儀に応じて覆い被さっている。感情は読めない。ただ優しく抱いてくれる。
――――堕ちるところまで堕ちた。そう思う。
エルドもそろそろこんな病的な女に付き合うのも耐え兼ねるレベルだろう。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
覚えていないし、調べる気にもなれない。
傷ついた肌を舌が這う。
あれからずっと、どんなにセレスが荒れても八つ当たりしてもエルドは何も言わず、ずっと優しい褥を提供してくれた。
意外だった。絶対に逆ギレすると思っていた。どうやら本当に心底から反省しているようだ。
種を蒔いた張本人とはいえこの男にしては本当に頑張ってくれた方だと認めざるを得ない。
潮時だな。そろそろ解放してあげよう。
そんなことをうっすらと考えていたら、体重減によりまた薄くなり始めた胸を揉み込む手が止まった。
「あのよ」
きた。
次の言葉で別れを請うてくる。
そろそろ勘弁してくれ、かな。いい加減にしろ、とかかな。
何でもいい。わかったわと言おう。
構えるセレスの耳に予想外の一言が落ちる。
「無表情のまま泣くのやめてくんねえか」
「……」
言われて初めて気付く。まなじりから数滴の雫が流れていた。
けれどそれが何だと言うのだ。
目をこすりながら皮肉混じりに吐き捨てる。
「正直に気色悪いって言えば?」
そうしたいわけではないのだが、口から吐き出される返答は何もかもが刺々しかった。
痛々しい女をずっと見つめていたエルドがぼそ、と呟く。
「つらいならちゃんと泣けば良かったのに」
小さな一言だったが、それはセレスにとっては危険すぎる火種だった。
「…なに?」
「ちゃんと泣かないから、まだ余裕があるのかと思ってた」
何を言い出すのか。
「何よそれ。余裕があったら三週間もあんなことしていいっていいの?」
「違うけどよ」
「ちゃんと泣けばって一体どういうことよ。ちゃんと泣かなかった私の方が悪いって言うの」
「そうは言って―――――」
苛立ちは増すばかりだった。むくりと起き上がってエルドを邪険に押し退ける。
「泣けないわよ。泣けなかったわよ。泣いたらさらに付け込んでくるんでしょ?貴方って人は」
「んなことするかよ…」
うんざり顔で視線を逸らせる。それがまた腹立たしかった。
「それにお前、逃げ出したりもしなかったし」
「逃げたらもっと酷いことするって脅したじゃないっ!!」
「そりゃ言ったがよ」
どんより重苦しいのに一触即発の張り詰めた空気が更に濃度を増す。
「言ったが、何よ!」
「俺達一応は仲間だろ。…脅したって、んな度を超えたひでーことなんかするかよ。するわけねえじゃん。
…そんなことくらい言わなくてもわかってくれてると思ってた」
目の前で疲労の滲む大きな溜め息をつかれた。
呆れられている。
あまりに勝手な言い分だとは思いつつ、何故か情けなさがこみ上げてきて身の置き場がない。
「何…よ。馬鹿……っ」
あまりの惨めさを受け止めきれず、女は震えながら咽び泣いた。
やっと回復を始めたはずの身体はまた少しずつ痩せ衰え初めている。
少し経ってから死神からぽつりと意外な言葉が呟かれた。
「反省はしてねえけどすげー後悔してる」
「何よそれ…」
「夢中だった」
「夢中って」
「だから。お前のことは以前から気に入ってたし。手に入れて浮かれてた」
「何…言ってるの」
「だから…」
察しの悪い女。平常心も欠いている。エルドは率直な言葉を告げようとした。
「俺はずっとお前のことが」
「つまらないお芝居はやめてよ!!あれ程拒絶してたのを気付かないわけないわっ!!」
薄汚れた告白など最後まで聞くのも馬鹿らしい。セレスは感情のまま怒鳴り声を飛ばした。
「本当に好きだって言ってくれるのなら、私ずっと嫌だって言ってたのにどうしてやめてくれなかったの!?」
「…そのうち、よくなるかと。大切に抱いてたし」
たどたどしくも偽り無い答えを差し出す。律儀とも言えたが、セレスには過酷なだけの音の束でしかなかった。
強姦で感じる淫乱のくせにと言われた気がした。
萎れる女から止め処なく涙があふれる。
「私…あなたの背中に腕を回したこと一度だってない…頬を撫でたことも一度だって…、寝台の上で笑ったこともないのに。
いつも泣いて、やめてって言ってたじゃない。嫌がってるのわからないわけないじゃない」
もういくら頑張っても脳裏から剥がれ落ちない。
夜の闇に行き着く度、受け入れ難い激しい羞恥に苛まれた。
宿屋に宿泊する日など最悪だった。
聞かれたくないのに止まらない喘ぎ声。余所余所しい宿主。他客からの汚物を蔑む視線。にやつきながら口笛を吹く男達――――
あの生き地獄に悪意が無かったなんて有り得るものか。
だがエルドはそれでも更に得手勝手を並べた。
「それはそうだけど。…毎回結構感じてたし。そのうち素直になるかと」
「素…直、って……」
返答にひたすら萎えると共に、あの密偵の少女のことを思い出していた。
性奴隷にでも仕込み上げるつもりだったのか。彼女と同様に人間としてすら扱われていなかったとは。
嗤いの滲む口元をさらに歪め、傷負いの女は加害者への失望を口にした。
「…ほんとに、道具なのね。あなたにとっての女って」
「違う。少なくともお前は違う」
「嘘つき」
「嘘じゃねえよ。本当に嫌だったらもっと暴れると思ってたんだ」
エルドは真剣になると言葉の選び方が上手くない。
「まさか斬鉄姫ともあろう女がただ耐えてるだけなんて思わなかった」
セレスの全てが硬直する。
その本音を吐露してしまうのは失言にも程があった。
ああやはりこの男は、私を壊れにくい玩具としか見てくれていなかったのだ。
どこまで人間離れした屈強な女だと思われていたのだろうと、どん底だと思っていた所よりもっと下まで突き落とされた。
「どうやったら……どうやったらそんな解釈ができるのっ!?
どうして!貴方はっ!!どうして…
……どうして…私は必死で耐えて震えてたのに、何で貴方は笑っているの…………」
「だから、」
勢い任せに包帯まみれの顔を上げたが、切れかけているセレスに反論はまずいと悟ったのか、そのまま力無くゆるゆると俯いた。
「……ごめん」
呟くと、それきりただでさえ小さめの身体を丸め、ちんまりしてしまった。
この男が心からの謝罪を口にする、それが滅多に無い、重みのあることなのはセレスにもわかっていた。
けれど。
ずるい。
いつもと全然違う。
その容姿で、そんな風に叱られた子供のようになってしまわれたら、こちらは怒りのやり場がない。
「やめてよ。謝ってもらって何か変わるの。謝るくらいなら最初からしないで」
心からの謝罪を受けてもどうしても許せなかった。最早支離滅裂である。
そして息切れる喉からついに本心を音にして吐いた。
「嫌い…大っ嫌い……」
絞り出すような声を耳に受けても無表情のままエルドは嗤う。
「んなこた知ってるよ」
それは落ち着いて聞いたなら、とても悲しい気持ちを反映した一言だった。
だが今のセレスにはその傷だらけの自嘲もそうとは聞こえなかった。
セレスの中に張ってあった最後の一線がぶっつりと切れた。
咄嗟に腕が勝手に拳を作り速度を上げて空を切る。
頬を殴った。
男の体が衝撃でどさりとシーツの上に投げ出される。
狂気と苛立ちがにやつきながらセレスに問いかける。
一発だけ?
まさか。
――――まさか!
「知ってるならっ!!」
圧し掛かり、馬乗り状態のまま力の限り殴り続ける。
「何で!!!何でええええぇえっ!!!!」
悲鳴に近い金切り声が空間を劈く。
血走った目は既に正常からかけ離れていた。
目の前にある憎たらしいサンドバックを問答無用で打ち続ける。
奇声と鮮血が交互に舞った。
不意に視界の端にあるナイフが目に入った。躊躇いもせず掴み取り、柄を握り締める。
初めて犯された夜。そうだ、あの時もナイフを手にするチャンスがあったのに無様に逃してしまった。
あの時躊躇ったからこんな目に遭ったんだ。
そうだイージスの言う通りだ。生かしておいても何の意味もない男。それどころかそこら中に悪意を飛散させる男。
そう。いっそ殺した方が!!
ナイフが頭上に振りかざされ、勢いのまま落下しようとした時だった。
血まみれ男は何の抵抗もせず空を仰いでいたが、死を前にして、一言だけぽつりと呟いた。
「じゃあな」
冷たすぎる別れの挨拶は逆にセレスを冷静にさせ、融点まで引き戻した。
我にかえると状況を理解するのに数秒を要す。
「あ…」
呆然としていると、乱暴に押し退けられる。
「…ったく」
突風のような暴行劇は終わった。
血反吐を吐いて口を拭うが、後から後から溢れてくるのでまったく拭えていない。
突然の暴行に怒りと青筋の浮かびまくる横顔。
殺意をぎっちりと濃縮した視線にギョロリと射抜かれてセレスの心臓が止まる。
が、
「――…馬鹿力」
とだけ呟いて、反撃など何もせず、血まみれの死神は視線を逸らしただけだった。
女の全身に震えが襲ってくる。
血まみれの手が痛い。
吐き気がする。
謝罪が喉まで出かかったが、自分を強姦し続けた男にそんな必要があるのか判断しかねて言葉にはならなかった。
それでも折れた歯を鮮血と共に吐き出すエルドを目の当たりにすると罪悪感が迸る。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
「ごめ、な、さ」
ただ理解できるのは、自分がもう人として駄目だということ。
狂ってる――――この男も、私も……。
「うっ、うう…っ」
イージスが助けにきてくれたあの時の、あふれ出る安堵とはまったく違う。
本当の絶望を感じる。
声を殺して泣く女と血を拭う男。用無しのナイフだけが床の上で月明かりを反射していた。
嵐の後はいつも、とてもとても静かだった。
慣れない暗闇の只中。セレスの全ては疲弊の極みに達していた。
光一筋さえ射さない濃暗の空間。実妹に敗北後の二年間でさえ到達し得なかった世界。
エルドはこんな世界で生きて平然としている。もう人間としての根本的な性質が全く異なる。
こんな男と渡り合おうなんて本当に甘かった。
無言で俯いたまま何も語らないセレスを淀んだ片目が映している。
彼女に制裁を喰らった男はやれやれといった風にため息をついた。
「別に俺はそんなダメージも受けてねえから落ち込むなよ」
声は平素と変わらないが、外見はとてもそうは見えない為にギャップが激しい。
セレスが泣きながら半狂乱で巻き上げた包帯が逆に痛々しさを煽る。
「闇は俺の世界だからな」
口元に薄ら笑いを浮かべる余裕がある程落ち着いている。その姿はまさに死神だった。
そっと触れるとそっと手を重ねてくる。
「痛い、わよね」
「いてえけど」
「けど?」
「慣れてる」
「……」
手を引っ込めるとセレスは先日、宿屋の女主人から何気なくもらっていた情報を提供した。
「今、宿に回復魔法が得手な魔術師が宿泊してるって聞いているわ。呼んでくる。さし歯、とかも入り用、でしょ」
この年だからまず永久歯だろう。美形が取り得の一つでもある男。取り返しのつかないことをしてしまった。
だがエルドは彼女の後悔の念をあっさり踏み躙る。
「いらねえよ。ここまでボコる程憎い男だ。ずっと怪我癒えない方がざまぁって思えるんだろ?」
「…」
嬉しくない。ぜんぜん嬉しくない。
嫌味にしか聞こえない台詞を受けてもセレスはかぶりを振るしかできなかった。
「気は晴れたか?」
「……晴れるわけ、ない」
「そりゃねえだろ…」
流石にがっくりとうな垂れるエルドに、暴力を振るったことでやっと悟った事実を伝える。
「あなたを傷つけても私は元には戻れない」
もうこの闇から這い上がるのは無理だとしか思えなかった。
「最初に乱暴された夜に見切りをつけるべきだった。普通に交わることで上塗りしようとしたって消せるわけなかったわ。
…本当に、無様」
「こっちは乱暴したつもりはねえんだがな」
「…まだそんなこと言うのね」
口元が勝手に歪む。嘲笑するしかない発言ばかりだった。
「あなただってもうキレそうなんでしょ」
「別に」
「だから、同じことしていいわ」
状況や理由はどうあれ暴力は暴力だ。
もう謝罪する気にはなれない。だから報復を受ける覚悟をした。
既に歯を食いしばる気力もない。何もかも投げやりな身体を差し出す。
この陰湿な男のことだ、『同じこと』ではおさまらないのは覚悟していた。
想定する最悪の状況を更に上回る仕打ちを覚悟して目を閉じる。
目玉も潰されるだろう。
「片目は残しておいてね。歩けないのは困る」
「…んなことしねえってば」
舌打ちの後、血の乾きゆく指先でそっと頬に触れられた。
「じゃあ何してもいいんだな?」
「拒否してもするんでしょう」
数秒後、寸前で少々躊躇ってから、そっと唇を重ねられた。
その柔らかい感触に女は顔を顰める。
同時に、それはそうか、と他人事のように思った。女を傷つけられる方法といえばまずこれだろうから。
拒み続けていたのでキスはずいぶんと久しぶりだった。何度か啄ばんでから舌と共に唾液が混ざる。
今回も嵐の夜に無理やりされたキスと同じように血の味がした。
この後は舌を噛み千切られるか、シーツを押し込められて窒息させられるか。それとも―――
悪い最期を巡らせて震えるセレスを察してか、血塗れた銀糸が躊躇いがちにつうと引く。
「ひでえことは絶対にしねえって何度言やいいんだよ」
途方に暮れたような、そんなため息がセレスの耳を障っていった。
「…髪を撫でていいか?」
「いちいち訊かなくていいわ」
短髪を指で梳き、優しく撫でた後、女体をするりと両腕で巻いて抱き締める。女の口元が嫌悪で歪んだ。
「最期まで辱めないと気が済まない?」
「違う。ただ……ただ、…大切だから。だから抱き締めたいんだ」
信じようのない穢れた愛の言葉。それを嘲笑う女の声もだんだん掠れていった。
「何で抱き締めてんのに消えちまいそうなんだよ…」
切なくほろ苦い煩悶がエルドの口から小さく投げ出された後は、長い間ただただ抱き締められていた。
静かだった。
微かな体温。
冷たい抱擁。
ぽたり、ぽたり落ちる鮮血。
最初にこんな風に優しく抱き締めてもらえていたら、血など関係ない世界で笑い合えていたのだろうか。
セレスは戦友でもあるこの弓闘士との間に、最早修復不可能な亀裂を感じていた。
「…昔はもっとあなたのこと身近に感じてた。今は、こんなに近いのに、すごく遠い」
本音が囁きとなって力鳴く零れた。
数分後。
「…あ……」
ゆっくり体重をかけられ横たえられたことで体が硬直し、小さな怯え声が漏れる。
本当にするんだ、と確信して心臓が波打った。今回ばかりは本気で何をされるかわからない。
だが死に行く身だとしても怯えを二度と悟られたくなくて、強めの語調で吐き捨てた。
「…中で出していいわよ」
と。
「何で。ガキでも出来たら困るのはお前だろ」
「関係ないでしょ。今更余計な気遣いは無用よ」
荒ぶるセレスに憮然としたままエルドが指摘を返す。
「ずいぶん死にたがりになりやがったもんだな」
この行為を終えた後にセレスが自身をどう扱うか、死神にはしっかりと読まれていた。
「自分の始末はつける。無抵抗でこうべを垂れている相手を殴打した。私はもうとっくに終わってるわ」
「だから俺は別に構わねえって」
「もういいの。もう、疲れた……」
エルドの台詞に被さるようにして、潤み声が生きることを否定した。
「安心してよ化けて出たりなんてしないから。こっちだってあなたの顔を見るのはもうたくさん」
「セレス」
「あなたは本当に死神よね。命を弄んで嬲り殺すまで嗤ってるものね」
会話など成立させる気すらなかった。ただ一人投げやりに恨み言を垂れ流す。
「これはあの人から逃げ出した時に決まってしまっていたこと。もう仕方ないのよ」
そして陥った惨状を無理矢理に結論付けた。
イージスの予言通りになってしまった。
自分は無様にこのまま死んで、この悪魔を野に放ってしまう。死を覚悟した女にはそれだけが気がかりだった。
震える手で男の腕を掴む。
「…ねえ。何でも言うことを聞いてくれるんでしょう。だったら今度は、…これからはできるだけ、殺さない生き方をしてよ」
言うだけ無駄な気もしたが、気力を失い横たわる今のセレスにはそうする他なかった。
「それから、イージスには何もしないでね」
エルドの眉間が更なる皺で刻まれる。
「おいこんな時まであの水死体かよ。あれはお前を見捨ててディパンに行っちまったんだぜ?」
「それが何よ。私みたいなどうしようもない女より未来ある子供たちを優先するのは当然だわ」
噛み付くような反撃にエルドはあっさりと押されて閉口した。
「それから。…あの人に会うことがあったら、この無様な二回目の人生を伝えて。きっと喜んでくれるから……」
彼のことを想うとどうしても悲しくなってしまうのをぐっと堪える。
「もう数ヶ月過ぎたわ。私が行き着く場所なんてどう考えてもここだけよ。なのに。
…来て、もらえなかった。本当にその程度の存在だったのよね、あの人にとっては」
切ない苦笑が漏れる。
こんなに後悔するなら告白してしまえば良かった。ただ拒絶されて傷つくのが怖かった、それだけの為にしなかった。
生涯の後悔につながる大事を察せなかったなどとは、なんと愚かなのだろうか。
セレスが並べた願い事に良い返答は一つとして戻ってこなかった。
そうだろうなとも思う。セレスは無力感でさらに精彩を失った。
沈黙が訪れる。虚ろな目で窓の外に目をやる。
「星、きれいね。数百年前に一緒に見た星空と同じ」
生前のセレスが選んだ道は真っ直ぐなようでいて見事にひずんでいた。
写本という強大な力の下に集った仲間。そして実妹により暴かれる写本の正体。愚かなロゼッタ劇場の終焉―――
重いため息のあと、
「星は同じだけど、私達は変わってしまったわね」
胸に広がりゆく空虚を口にした。
「セレス話を聞」
「もういいわ。だって貴方が何をいったところで、私が応じさえしなければ防げたことだもの」
相手の言い分など何も聞く気はなかった。
「あなたの言うとおりよ。好きな男がいるのに他の男の手をとったわ。自業自得よ。だから、もういいわ」
もう終わりが近いせいか後悔ばかりが込み上げ、行き場なく漂う。
「…私は誠実じゃなかった。だから、もう……」
エルドはしばらく弱々しい女の独白に眉根を寄せているだけだったが、
「一つ、訊かせろ。何故俺の手をとった」
と訊ねてきた。
「嬉しかったから…」
「嘘つけ」
即時の否定にむっとして睨み上げる。
「ここまできて嘘なんかつかないわ。あの時、みんな笑顔で行ってしまった。お門違いも甚だしいけれど寂しかったわ。
そんな中で貴方だけが手を差し延べてくれた。私は本当に嬉しかった」
「嬉しかったなら、なんで」
「普通に時間をかけて関係を築いていってくれるものだと思っていたのよ。
だから、私なんかを好きになってくれる人がいたのなら、応えなきゃ、信じなきゃって手をとった。
でも貴方は簡単に裏切ってくれた。…結果このザマじゃない」
「じゃ何だ?ちゃんと時間かけて口説き落としてりゃこんな悲惨な状況にはならなかったとでも言うのか?」
「他に何があるの?」
強い口調の疑問詞はほぼ断言だった。
エルドに纏わりつく苛立たしげな気配が不発のままゆるゆると萎んでいく。
「そんなこと…今更言われたってよ……」
煮え切らない口調に苛々した。ああもう、今更何なのだろうこの男は。
「とにかく。あなたは、こんなことしなくても女の子の方からいくらだって寄ってくる人なんだから。もう、しないで。
私みたいな女を騙さなくても十分第二の人生を謳歌できるでしょう」
念を押してもどんな言葉を連ねても、やはりこの弓闘士には無駄な気がして、至極虚しかった。
こういう男は女をものにすること自体が目的ではない。陥れて征服感を得ることに意味を感じているのだ。
「…言ったこと全部守ってくれるのなら、私のことは忘れてくれていいわよ」
やりとりに疲れ果てて潤んだ瞳を閉じる。無力を感じている女はそこまで譲歩してしまった。
「……話すことはもうないわ。じゃあ、先に冥界で待ってるわね」
言うだけ言った。もう伝えることはない。訪れる死を見通して目を閉じる。
そうやって暴力を覚悟し待っていること数分。
一向に激痛が降ってこないので薄目を開けると同時、彼女に圧し掛かる男が意外な行動に出た。
「ごめん。悪かった。反省する。頼むから許してくれ」
哀れっぽい湿り声。
頭を垂れて謝罪を連呼する姿はセレスを拍子抜けさせた。気がふれたかと疑った程だ。
だがすべてが軽薄で嘘くさい。
すっかり興が削がれたので男を押し退けて身体を起こす。
「どうしたのよもう。貴方らしくない」
「だからごめんっつってんだよ。お前がそんな状態だと、ほんとに、ヤバい」
「別にもうどうでもいいわよ。どうせ今の私ではあの人を斬れないし。…少し長く生きただけだわ」
遣る瀬無く俯く。
「おい、俺はお前の為にずっと言いなりになってたんだぞ。何で逆に悪化しちまってんだよ」
「あなたが下手糞だからでしょ」
すさんだ精神が直球で嫌味を言うが、
「…初めて言われた」
目を丸くして心底から驚かれただけだった。
騙すのが趣味のようなこの男のこと、場の空気作りも天才的だろうから、異性に拒まれたことがほとんどないのだろう。
……じゃあ、何で私は?
言動の一つ一つが癇に障る。
「下手糞もいいとこよ。ずっと不安で、怖くて、緊張ばかり強いられて、いつも気持ち悪かった。
上手な人ってもっと心も酔わせてくれるものだと思ってたわ。何よいつもくだらない下品な中傷まがいの戯言ばっかり。
下手糞。下手糞。ドヘタクソ。大嫌い」
爆発する不満はエルドに大変容赦ない痛烈なものだった。
数多の女を啼かせて築き上げられた自信に真っ向から砲弾を連射して瓦解を喰らわせる。
「……ごめん」
少々よろめきながらも倒れることは何とか回避しつつ、男は弱々しくも会話を続ける。
「…なあ、頼むから、こんなにボロクソに殴って罵ったんだし、そろそろ機嫌なおしてくれよ」
この男ときたらまだそんなことを。
機嫌をなおす、とか。
そんなレベルの話をしているんじゃないのに。怒りで拳が震える。
ここまで忌避すべき存在だとは思わなかった。
「本当に…何も聞いてくれていないのね。永遠にお別れだって言ってるのよ」
「聞いてる。だが死ぬなんて言うなよ。…なあ本当に一体どうすればいいんだよ?」
「知らないわよ。したいことがあるなら貴方らしく気の済むまで酷いことすれば?」
「しねえよ。お前のことは絶対殴らないって決めた」
さっきからずっと情けない音ばかり溢れ出している口元が、多少しっかりと言葉を連ねた。
「怒鳴ることも。悲しませることも、泣かせることもお前がかばって助けてくれた時に、絶対にしねえって決めたんだ」
普通なら感動を呼んでもいいレベルであろう誓いの言葉達。
「一体どこがよ」
だがエルドが言ったのでは速攻でツッコミが入る。
「口ばっかりね。だから貴方に期待なんて何もできないのよ」
「……お前ちょっと容赦なさ過ぎだろ」
いたたまれないのか激しくかぶりを振った。
「だから…本当に悪かったって言ってるじゃねえか。こっちだって打ちのめされてるんだ。これ以上どうすりゃいいんだよ…」
語気の弱い、情けなくか細い声。まさかこの男からこんな声を聴く日がくるとは。
ほとほと参り果てているといった感じだった。
「何度でも言う。ごめん。悪かったよ」
普段のエルドとはかけ離れた態度は、本当に本人なのかと存在すら疑うものだった。
何もかも投げ出して赦しを請う姿はどう見ても明らかに別人のもの。
きれいなエルドなど腹の底から信じ難い。
「…貴方って人はまだ何か企んでるの?こんな死にかけの女捕まえて」
嫌疑を向けると、
「違うっつってんだろ。ほんと、勘弁してくれ、何て言えばいいんだよ……」
疲労し切った顔を片手で覆う。
「お前がそんな状態だと、本気でつらい」
本心などわからない。
「お前が泣いてる方が痛いんだよ」
ただわかるのは、己が傷つけた女を前に、ものすごく一生懸命だということ。
そしてセレスは一生懸命に何かをしている人間が嫌いではない。
「くだらない冗談ね」
一蹴して嗤いつつも、その一方で死神を撥ね退ける堅固な何かが音を立てて崩れ始めていた。
「でも今となってはそんな嘘でも嬉しいわ……」
「嘘じゃねえよ」
「嘘よ」
エルドは断言に反発しようとしたが、分の悪さを感じたのか舌打ちしただけだった。
「じゃあそれでいい。嘘でいいから受け入れてくれ」
どういう屁理屈だとセレスが言葉を挟む余地はなく。
「気付くのが遅かった。俺はお前が本当に大事なんだ」
そして告げた。
「……好きなんだ」
鼻で笑いたくなる。
優しい言葉の何と浅薄で、似合わないことだろう。
けれど。
死にかけの仲間を前に、少しでも本当の意味で反省して、気遣っていてくれているのだとしたら。
生かそうと繋ぎ止めてくれているのだとしたら……
セレスの双眸に光が弱く点り、揺らいだ。
以前の彼女であったなら、自分を辱めた男の甘言もどきに弄されることなど決してなかったのだろう。
だが、襤褸切れの心で死を望む程の極限状態に置かれた彼女では、まともな判断力は一切機能していなかった。
孤独はまるで縋りつくように、何もかもを受け入れる。
「嘘ばっかりね」
ほんの少し残されていた理性が崩れ去る。
「でも、わかったわ。どんな思惑があるのか知らないけれどもう少し付き合ってみようかしら」
「本当かっ!?」
諦めかけていたエルドが子供のような仰天顔で身を乗り出してくる。
演技ではないと思うが、切り替えが早すぎる。少年の表情で目を輝かせている。
いつものあの表情。
ずるい男だ。
「どうせもう私は取り返しがつかなくなっちゃってるからね。…もうちょっとくらいは」
薄く苦笑うと、強い語調で共に在る為の条件を突きつけた。
「二度と酷いことしないで。二度と裏切らないで」
「裏切ったつもりは」
異議を唱える前に睨み上げられて、死神は渋々ながらも引き下がる。
「…わかった」
口約束は成立した。
男の言葉の中に潜むあまり良質ではない甘味が溶け出して、傷ついた彼女に染みていった結果だった。
見せかけの優しさでもいいと思った。
どんなに小さな温もりでもいいと思った。
さらに歪んでしまうのをわかっていて、震える腕を男の背中に回す。
もういい。もう何もかもどうでもいい。
何もかもを委ねて、初めてその存在を受け入れる。
少し見つめ合ってからどちらともなく接近し、唇を重ねる。
啄ばみ合ってから次第に深く交わってゆく。しばらくすると女側の震えも消えた。
「…ごめんなさい」
「もういい」
息継ぎの間の会話は少しだけ穏やかだった。
キスが長い。
血が甘い。
十分絡み合った後に赤く濁った銀糸をひいて離れる。
エルドはそのまま女の涙を舐め取ると、頬から首筋にかけて自然に唇を流していった。
「う、ん…」
包帯まみれの後頭部と項を抱く。一枚だけの衣類を脱がされながら再度寝かしつけられた。
衣擦れの音にはもう抵抗がない。
「んっ、待って……魔術師に怪我を診てもらってからにしましょうよ……」
「嫌だ。今したい」
「腹上死なんて嫌よ」
「わかった。腹上死しない」
気遣いさえ撥ね退けて、相変わらずの強引ぶりを発揮する。
男は死ぬ間際本能的に種を残したがるというが、それではないかと心配した。
けれども一秒でも早く精神的に和合したい気持ちも伝わってくる。
「優しくする。絶対に傷つけたりしねえから」
拒絶する理由も既にない。しかも言い出したら大抵止まらない性質の男。
ため息をつき、自ら抱き寄せて男を招き入れる。
「一回だけね」
呆れ顔のセレスにもう一度口付けて、包帯まみれは行為を開始した。
受け入れられた喜びが肌越しに伝わってくる。
「はあっ、あ…」
つうと流れた蜜を舐め取り、流れた跡を追いかけて舌が滑っていく。
身悶えて喘ぐことで甘く応える。
ほぐされ、十分濡らされるといつものように気遣いながら挿入ってきた。
「ん…」
律動の末に軽く達して頭の中が真っ白になった。
痩身をぎゅっと抱き締められる。
「愛してる…」
告白に、潤む瞳を閉じて失笑を漏らした。
「嘘つき」
その後は自分からたどたどしくも無我夢中で腰を振り、波を与え合った。
もう正常な精神など、己が何者であったかなど、ましてや倫理観なんて、欠片も気にしない。
べったりと赤を塗りたくられながら包帯まみれの男に抱かれる。
「ああっ、エルド………っ」
嗤い出したくなった。
気が違ってしまったんだ。
どうせ汚い。
どうせ醜い。
どうせ
あの人も来ない
だったらもう
何もかも
壊れてしまえ
迷い込んでいく――――
「はあっ…」
高波の絶頂を迎えると太ももを白濁で汚される。
甘美な痙攣が緩やかに鎮まる頃、ぐったりと果てた身体をやっと離された。
髪と頬に落ちる後戯のキスは柔らかい。
「…約束、守ってね?」
「ああ」
抱き合う。
堕ちて少しだけ、わだかまりが溶けた気がした。
最後に軽く啄ばみ合って行為を終える。
まだまだいちゃつき足りないらしいエルドを押し退けて衣類を身につけ、慌てて屋外に飛び出した。
宿屋に駆け込むと、女主人の紹介を受けて一人の魔術師が現れる。
その若者が医療関係に精通した魔術師だったのはセレスにとって幸運だった。
連れて帰路を駆け戻る。
若者がエルドを診ている間、ずっと怯えていた。傷は癒えるのだろうか。障害が残ったりしないだろうか――――
数分後、罪悪感に震えるセレスに投げかけられたのは、「大丈夫。傷も残りませんよ」という優しい微笑みだった。
急激な安堵で力が抜け、その場にへたり込む。
「良かった…」
そうして小一時間も経たないうちに、何もなかったというぐらいに、エルドはすっかり全快した。
当のエルドはどうでもよさそうに残りの包帯を外し始める。
性格にそぐわない大きな瞳と幼い顔立ちには確かに痕が残っていなかった。
無表情でいても陰湿で影のかかる顔。
これさえなければそれこそ年の割りにお人形のような男。
やせ我慢をして強がっているのかもと思っていたが、本当にあっけらかんとしている。
この男は精神的な衝撃や肉体的な暴力にとても強いのだ。それを再認識させられる。
過酷な状況下というものに本当に慣れているのだろう。多分、暗殺術を身につけるずっと以前から。
鈍い痛覚。
心さえも痛みに鈍感な仕様でなければ生きてこれなかったのかもしれない。
同情はするが、肉体的な快楽に心までついてくるなどと本当に思っていたのだろうか。
付き合わされるこちらはたまったものではない。
「本当に良かったわ」
気を取り直して隣りに座り、心底からの安堵を伝えると、
「見れるツラに戻ったか?」
変わらぬ挑発的な態度で迫ってくる。
先程までの弱気は何処へやら。その上あんな目に遭ったのにまったくめげていない。半ば呆れて手のひらで押し返した。
「貴方が美形なのは認めるところだからね。流石に安心したわよ」
生前は顔も大事な商売道具の一つだったのだろう。これからだってそうだ。
いつだかはわからないが、自分と別れた後で必要になるだろうから。
いつだかは、わからないが。
「マジで別に治さなくてもよかったのに」
面白くなさそうに半目で不貞腐れる。
「もう何言ってるのよ。傷を残してメリットなんてないでしょ?」
「あるさ。ちょっとばかり顔面変形でもすりゃ罪悪感が鎖になってお前を縛れる」
心底から呆れ返るしかない言い草。そんなことを考えていたのか。
「馬鹿なことばかり言ってないで」
注意をにやつきではぐらかされ、隙を縫って口付けられた。不意を突く甘い啄ばみに心臓が跳ねる。
好きな女に心を許されたためかエルドは少々浮かれているようだ。
これは和解と言えるのだろうか。腑に落ちないが今はあまり深く考えたくなかった。
「もうっ!やめてよ人の前で!」
慌てて押し退けて立ち上がり、
「ご、ごめんなさい」
一人放置してしまった物腰柔らかな魔術師に詫びた。
「構いませんよ」
真っ直ぐな目をして柔らかな微笑を湛える年若い青年だった。
ほんの少し、姪が熱をあげている吟遊詩人に似ている。
「おい、この女の方は本当にどうにもならねえのか」
エルドが唐突に割って入り話を変えてきた。この男は恩人に敬意を表す気すらない。
エルド受診後、彼の強い希望でセレスも傷痕の診察を受けていた。その答えを急いているのだ。
ダン!!とテーブルを叩きつける。
おもむろに拳を退けたその後には、数個のきらめく石が残されていた。
「冗談抜きでいくらでも出すぞ」
「エルド……」
「お役に立ちたいのは山々なのですが」
魔術師の面持ちが翳った。
「どうしようもありません。時間が経過しすぎてしまっています。後は自然治癒に任せるしかないでしょうね」
「ケッ。何だよ役に立たねえな」
吐き捨てると大してがっかりした様子も見せず、舌打ちして背を向けた。
藁にも縋る思いだったのだろうが、本当は答えなど最初からわかっていたのだろう。
ああもう、と軽く苛立ちながらもセレスは魔術師に向き直る。
「重ね重ねごめんなさい。どうか気にしないでください。彼はちょっと気が立ってて。本当に感謝してるのよ」
寛容な青年は、特に気にも留めていない様子のまま微笑んだ。
「ええそうですよね。今、大変ですものね。ディパンは本当にどうなっているのでしょう」
そして最後の言葉で微笑みを消した。
途端、セレスは真っ白になった。
海の向こうで奮闘しているだろうイージス達をすっかり忘れていたのだ。
支援支援
魔術師の言葉から察すると未だに戻ってきていないのだろう。
心底から恥じて赤くなり、直後に真っ青になる。
そんなセレスに魔術師が問いかけてきた。
「貴女はディパンに渡らないのですか?」
「えっ」
「戦士なんでしょう?立ち振る舞いでわかります」
ばれている。
だがここしばらく己の無力を実感していたので、戦士の面影を見出されたことは少し嬉しかった。
「実は僕達も今更ながら増援に向かうんですよ。仲間の一人がディパンの出身でして。
もしこれからディパンに向かわれるのであれば、宜しければ僕達とご一緒しませんか?」
願ってもない申し出だった。
本当はこの好機に飛びつきたい。イージスの元にすぐにでも駆けつけ役立ちたい。
「気持ちはありがたいのだけれど……」
が、身体は衰弱したきりで、戦士としての機能がまったく期待できない。
でも心身ともにすっきりして持ち直した今なら気力で何とかならないだろうか――――
どう考えても無理なのについ思案している隙に、蚊帳の外にしておいたエルドが報復を画策していた。
いつの間にか背後に忍び寄られ、項に口付けられて思わず悲鳴をあげる。
「さっきの続きするぞ」
「ちょっ」
「世話になった」
女の腰を抱き、最早邪魔者でしかない魔術師には無理やり宝石とオースを押し付けて冷笑する。
余計な詮索をするな。とっとと出て行け。
という言葉の代わりにしか受け取れない行動だった。
度を過ぎる無礼を慌てて取り繕おうとしたセレスの口が塞がれる。
魔術師はやれやれといった苦笑を灯して戸外に出て行き、気を遣って静かに扉を閉めた。
多分、少し変わってはいるが普通の恋人同士だと判断したのだろう。
食糧が底をついた。
お腹を空かせているとエルドが木の実を採ってきた。
旬の果実が大小様々ごろごろころころとテーブルに放り出される。
熟れた果肉の甘い芳香が嗅覚をくすぐる。
一つとって軽く拭き口に運ぶと爽やかな甘酸っぱさが広がった。
甘い。蜜がたっぷり入っている。
しゃりしゃりと良い音を立てるセレスの姿にエルドから安堵の嘆息が漏れる。
「やっと食った」
「何よ」
「今まで俺が何を持ってきても食わなかったじゃねえか」
むっとする。
「…食べなかったんじゃないわ。食べられなかったのよ」
逃げられないという絶望に満たされて食欲など欠片もわかなかった。
思い出すと表情が硬く、暗くなる。
「勿体無いなら持ってこないでって言いたかったけど、また怒鳴られそうだったし」
「あーわかったわかったもういい」
会話をぶつ切ると、墓穴を掘ったことに不貞腐れて赤い実に向け大口を開けた。
しゃく、と小気味良い音とともに果実を頬張る男を見つめる。
小柄で女顔をした男だ。髪型も女のようなのに、どこか野生的で、性別的にはちゃんと男をしている。
今セレスはこの生前からの知人である男の、女を誑かした優雅な戦歴にまんまと加わろうとしている。
星の数の一人になろうとしているのを感じ、微かな抵抗を感じた。
こんな甘たるいことをしていても、飽きたら急に冷たくなって、とっとといなくなるのだろう。
関係に先のある男ではない。
そんな男に引っかかり、今もこうして寄りかかっている。
不安が過ぎったが頭を軽く振ってかき消す。
たとえ自分を陥れた相手だとしても、後悔し、今の自分を支えてくれているのは紛う事なき真実。
今はもうこんな自分のそばにいてくれるなんて奇特な人間など、この男しかいないのだ。
そんな葛藤も知らずにエルドは肩を抱いてくる。
「そっちも少し分けてくれ」
かじっていない箇所を差し出す前に、唇をぺろりと舐められる。
濃厚な赤い実の味と混じる。
眉根をよせつつも、さらに深く交わってきても拒絶はしなかった。
旅立ってから一ヵ月ほどでイージスが戻ってきた。
出掛けた時とは違い、集団の真ん中にいる。というか追いやられている。
助けに行った子供達は全員無事らしかった。イージスの両脇にて満面笑顔でじゃれついている姿に安堵する。
胡散臭そうに彼を見ていたゾルデ住民達の態度は一変していた。まるで取り巻きのようにすら見えた。
中心にいるイージスだけがその大量の親愛の情に応えて作り笑いを四方に飛ばしつつ、困った顔をしていた。
表立ってちやほやされるのは苦手な英雄。だが今回は能ある鷹は爪を隠す、というわけにはいかなかったようだ。
どうやら彼中心に計画が組まれ物事が進み、成果を収めたのだろう。
そんなイージスがセレスの家にやってきた。
「おかえりなさい兄さん」
「ああ、ただいま」
疲れた顔に微笑を湛える。
一躍英雄へと転身した魔術師は少し痩せていた。
茶で一息つくと、徘徊する不死者や魔物といった輩が急増した悲惨なディパンの現状や、
今回の件に関しては建物・備品の損壊等の他は被害の拡大防止を図れたこと等を、丁寧に報告してきた。
「結局最初のあれは何だったの?」
「わかんねえ。その場にいたらしき数人はみんな死んじまってたし。でも多分」
納得いかない、といった顔で廃都を睨む。
「地下のなんかが、出てきちまったんじゃないかな」
セレスも怪訝な顔になった。
ディパンが崩壊し、王呼の秘法が発動した後。
あれからあの邪悪な魔術師二人も、そして望まぬゾンビパウダーで壊れてしまったのであろうアリーシャの幼馴染も、
何もせずに野放しだ。
彼等を考慮しないとしても、あの地下には不気味な実験体が大量に放置されている。
奇妙に光る水槽の中で蠢く異形達がまざまざと思い出された。
神妙な面持ちを続けていたセレスに、突然話題の切り替えが襲ってくる。
「それはそうと――――死体どうした?ちゃんと始末できたか?」
まるで妹にお片付けができたか、と問う兄のように、こそこそと耳打ちしてくる。
殺害を完遂したと当然のように思っているようだ。
「あ、あのね…」
セレスが顔を上げ、説得を開始しようと意を決した時。
「悪かったなちゃんと腐乱死体になってなくてよ」
彼女の声に被さって、家の奥から勝ち誇った声が這い出てきた。
イージスが目を見開き硬直する。
多分イージスが今最も生きていてほしくない弓闘士が、全快の上に余裕綽々などという最悪な姿で闇から現れた。
「おっと」
元ディパン兵士が反射的に元王女を庇おうとしたが、悪者の方が一瞬早かった。
ぐいと引っ張られたセレスがエルドの腕の中に収まる。
「おいおい勝手にきったねえ手でさわんじゃねえよ。人の女に」
強調された最後の言葉に、イージスの眉間の皺が深く刻まれる。
「お前何を……」
「見ての通りだ。正式に俺のお姫様になったんだからよ」
セレスを掴めなかった手が伸ばされたまま硬直している。
「セレス…」
イージスには信じられないといった表情が張り付いていた。
「エ…エルドッ!」
すっかり勢いを殺がれてしまい、イージスの視線に言いつけを守らなかった時の実兄を思い出し、目を逸らしてしまう。
「そういうこった」
魔術師の胸中を見透かした残酷な肯定が叩きつけられる。
「もう!奥にいてって言ったじゃない。ややこしくなるのよ」
「いいじゃねえかお姫様。一緒にいてえんだよ」
イージスの後悔を煽るためだろう、これみよがしにべたべたと抱きついてくる。
兄代わりの男は即時厳しい表情に戻ったが、流れを読んでいたエルドの方が先制した。
「勘違いしてんじゃねーよ糞髭野郎。なんかほざける立場だとでも思ってんのか?
わきまえろ。テメエはこいつを見捨ててあの廃都にのこのこ出向いていっちまったんだぜ」
押し戻そうとするセレスを強引に抱き寄せ、その白い首筋に顔を寄せながら嘲笑う。
「不安定になってるこいつのそばにいてやるより見ず知らずのバカどもの英雄になる方をとったんだろ?
まあそりゃそうだよな。テメエは余生をこの死地でこそこそ生きてくんだ。他の連中に力の程をみせとかねえとな」
軽蔑の視線がお互いに容赦なく注がれる。
「斬鉄姫なんて二つ名で買い被りすぎたな。こいつ結構要領悪りいだけのただの女だぞ」
「ちょっとどういう意味よ」
手中の女から反発を受けながらも魔術師への嘲りは絶やさない。
「手前の煽りも入れ知恵もなしでこいつに俺が殺せるかよ」
凶悪な形相を隠そうともせずある意味での真実を口にした。
「セレス、そいつは」
「みんな手前のせいだ」
「エルド!」
「何だよお前だって言ってたじゃねえか。あいつは死にかけの自分なんかより子供達をとったんだって」
「ちょ…っ!馬鹿っ!!」
セレスの口から咎めの声が上がるのと、イージスの表情が凍り付いたのが同時だった。
ここぞとばかりに追い討ちをかける。
「精神的にも参ってるのわかってたくせに。俺が危険な因子だとわかっていながら二人きりにするなんざ、見殺しとどう違う?」
貶めた相手は、二の句が告げられない、そんな顔をしていた。
エルドの顔いっぱいに満足げな嗤いが広がる。
明らかなる死神の勝利だった。
「エルド!いい加減に――――」
抗う女を抱えたまま魔術師を強引に家から追い出し、ドアを閉める直前にもう一度嘲笑った。
「せいぜい悔しがってろ。クソの役にもたたねえ屑が」
「エルドってば!」
バン!!
ドアの強打が外界とセレスを遮断した。
「見たかよあのツラ」
唖然とするセレスを離すとエルドはこれでもかと高笑いした。
自分への態度は大幅に軟化したが他人にはこれといって変化はない。
あの穏やかな若い魔術師の時も感じたそれを、セレスは改めて確認する。
「あんな言い方しなくていいじゃない!」
「怒んなって。俺にとっちゃ嬲り殺しかけてくれた仇敵だぞ」
双眸には褪せぬ怒りが燃えていた。
「おいこの件に関しては咎められる筋合いはねえぞ。お前がうるせえからこの程度で我慢してやってんだぜ?必死によ。
本当は何日もかけてじっくりぶっ殺してえんだ。あれくらいは見逃してくれよお姫様」
顎をつまむ手を払いのけ、セレスはイージスの後を追った。飛び出す時に舌打ちを背後に感じつつ。
だが、ごく僅かな時間差でも命取りだった。
イージスは既に敬意の眼差しの群れにあっという間に取り囲まれてしまっていた。
壁は厚く二人を阻む。
待ち侘びた帰還だったのにさらに遠くに行ってしまった気がして、セレスは意気消沈した。
また、後にしよう。人気者に昇格したイージスを前に、そう思う他なかった。
しょ気返ってとぼとぼと帰路につく。
頭の中では選んだ男の半端ない陰険さを再認識していた。
多分、現状で出来うる限りの辛辣な復讐を果たしたのだろう。
放つ言葉まで鋭く、当然のように人を裂き、傷つけていく。
セレスは自身もまたその切っ先に傷つけられることを予感していた。
遠ざかるイージスが人ごみの向こうにちらと見えた。
横顔には心底からの疲労が湛えられていた。セレスは彼の善導を振り切って死神側についたのだ。
様々な意味で申し訳なくて心臓が痛かった。
『兄さん』は、時代を超えても変わらず英雄のまま。
現在の自分との明らかな隔たりを感じた。
生前ついた何倍もの嘆息をこの数ヶ月でついたことにふと気付く。
人の女、か。
潮風が凪いだ。
本当にそうなったんだな……。
言霊は力を持つ。
翌日にはセレスとイージスは以前と同じように会話し、談笑していた。
だがエルドが蒔いた種は発芽し、根付いて二人の間にできた亀裂を固定し、なかなか萎れることがなかった。
暮れ泥む空もやがては星と月を招く。
波の音が子守唄を歌う。
満点の星空の下で交わるのは何度目だろうか。もう数えることもできない。
「ね…聞いてるの?」
窓の向こうに広がるは月夜の海。
懐かしい潮の匂いが穏やかな二人を優しく包みこんでくる。
最早この男と裸で抱き合っている状態を、覆い被さられている事実を、否定する気すら起こらない。
当然のように一つの寝台の上で蠢いている。
「イージスと仲直りしてよ」
「知るか」
セレスの発する懇願はことごとく撥ね返されていた。
砂糖の塊のような甘たるい情事は滞ること無く進行する。欲のままに、強く抱き締められて両胸を潰されるのにも慣れた。
「ひあ、ああっ、あぁぁ……っ」
胸の頂きに急に強く吸い付かれて思わず仰け反る。
既に体中満遍なく撫でられ舐めあげられた。身体の表面で指と舌を這わされていない箇所はもう無いだろう。
ほんのり色付いた女の肢体を大事に抱きかかえ、
「ベッドの上で他の男の名前なんざ出すからだ。仕返し」
悪戯っ子のように口端を歪めた。
「ばか……っ」
体の相性がいいとか悪いとかなんてさっぱりわからない。
が、この男はものすごく上手いのだけは認めざるを得ない。
暗殺の為に散々利用して磨き上げた快楽の手管。食い扶持と直結していたそれは、とても実用的なのだろう。
「ああ…ぁん」
必死で抑えようとする喘ぎ声とともに布の海がうねる。
「イイか?」
少し不安げに問われたので、愉悦の合間に必死で頷く。
童顔がふ、と薄く安堵に染まった。
邪気の少ない、少しだけ優しい笑み。
どうやら。
傷つける気はなかった、それだけは本当らしい。
肉体的な快楽より何よりセレスが一番嬉しいのはそれだった。
少なくとも精神的な面で加虐対象でなかったことだけは彼女を深く安堵させた。
最初からこうあるべきだった関係。ここまでくるまで本当にこじれたな、とも思う。
「エルド」
主導権は常にエルド側だが、セレスが後頭部に手を回されて引き寄せたところで何の抵抗もない。
「不安か」
見透かされたので正直に頷くと、
「当分はしょうがねえな。ゆっくりと優しくするから」
傷だらけの女体を強めに抱き締める。
「うっ」
未だ残る痛みが灯り、小さく呻いた。即座に男の両腕で作られた輪が緩む。
「まだ痛むのか…」
「大丈夫よ。もうかなり良くなってきてるんだから」
と苦笑しても、彼女が気を遣っているのは明白だった。
そっと抱きかかえ直される。今度は柔らかく、優しくだった。
「約束する。二度と傷つけるようなことはしねえ」
「…うん」
本当だろうか。信じ切りたくてもどうしても疑惑は消せない。
でも、それでもいい。
「んん…」
愛戯は続く。二の腕を寄せて作られた深い谷間に男の頭部が遠慮無く埋もれる。
「ああ…エ…ル、ド…ッ」
吐息を漏らす女には大きな傷があるとはいえ非常に扇情的で、異様な程の妖艶が漂う。
鎖骨を舌でゆっくりなぞられると、それはそのまま首筋を這い、耳に辿り着いた。
「はあ…っ」
初夜には考えられなかった甘い喘ぎを吐く。
「キスして…」
即座に応じて顔が近づき、唇が重ねられる。
あれから褥での要求は何でも通してくれるようになった。
余計な言葉は機嫌を損ねることを学習したのだろう、卑猥な台詞も一切吐かなくなった。
ただ優しく、それでいて濃厚な交わり。
「んんっ」
口付ける間にも活動を続ける指先がするすると腹を伝わり、緩い刺激を与えながら降りていく。
「あ…っ。や、ん」
脚の付け根にある花芽を何度も愛撫されると耐え切れず、火照った体が蠢き仰け反った。
さらに芽の真下をじゅぷ、ずちゅぐちゅ……と指にかき混ぜられて水音が響く。
「ああぁあっ」
酔わされる泣き声と啼き声。女に心身の十分な潤みを確認すると、男は静かに自身を挿入してきた。
不安による胸の鼓動を鎮めるように優しく指を絡めてくる。
緩やかだが何度も奥まで届く律動は次第に彼女を融かしていった。
その間にも音を立てていくつも肌に落ちる口付け。
とてもとても大切にされているのがわかる。
「はあっあんっあ、あん、ふぁ……」
正常位の体勢で体をぴったり密着させて、尻を鷲掴みにして引き寄せながら、ゆっくり根元まで
押し込んでは戻る。時間をかけてそんな出し入れをした。
セレスが必要以上に怯えることなく、必ず感じるやり方。
「はぁっ、はっ…ああっ。イイ…の……っ」
女が乱れ、水音が淫猥に響く。
己の快楽よりずっと優先されているのがわかった。
行為そのものより、相手が自分を気遣っている、その事実が何よりも嬉しかった。
けれど毎度の褥で自分ばかりがこの調子だとさすがに悪い気がしてくる。
「言いたいことがあるなら言え」
戸惑いを勘付かれ、問われた。
「もうすれ違ってややこしくなるのはごめんだぜ」
首筋を舌が這う。
「ん……っ」
「どんなキモくてデカい化け物よりお前のヒステリーのが万倍怖えーよ。さ、言え」
「何よその言い方……あっ。ちょ……。も、うっ」
耳朶を食まれた後にそっと項を舐めあげられた。
次の言葉を誘うかのような仕草は至極甘たるい。
優しくした後はじっと顔を見つめてくる。
「何だよ。早く言えって」
「…貴方はいいのか、と思って」
「お前は?」
「私は言うことないけど……」
「ならそれでいい。余計な気ぃ遣うな」
セレスの戸惑いを一蹴すると、更に高く昇る為の本格的な愛撫を始める。その度に女体が応じて弓なりに曲がる。
「あぁっ!ん、…んん…はあっ、は…エルド。…んっ、エル、ドぉ……っ」
うわ言のように名を呼んでいたら、
「セレス」
耳元にて掠れ声で名を呼び返されて飛びそうになり、ぎゅっと目を瞑り己を留めた。
初めて行為中に名を呼び合ったのが何だかこそばゆい。
濡れそぼった秘裂から蜜の纏わる指を引き抜いてから、もう一度だけ耳元で囁いた。
「じゃ…俺も少しばかり良くなっていいか?」
頷く。
座位の体勢を求められたので言われるがままに体を預ける。
まず口付けをして、糸を引く。
甘く融けた女の瞳には恍惚の炎がちらちらと揺れている。
同時にその光源が諦めと深い悲しみであることもわかった。
「……」
理由を知るエルドは不満に満たされる。
それでも彼は迷うことなどしない。大事な女。頬にも鎖骨にも口付けを落とす。
やっと手に入れ、和解まで漕ぎ着けた。言葉などなくてもいい。手の内に居さえすれば、今は。
「ああ…、んっ」
セレスは相手の思惑など気付かない。最早気付こうともしない。
胸を両脇から寄せ上げることで一段と深くなる峡谷。埋もれる男の後頭部をぼうっと見つめている。
腰を浮かせと言われたので言う通りにすると、それの先端が当たった。
挿入される男根の記憶だけ先行して、ぞくりと波打ち、熱く疼く。
「捕まってろ」
腕を回すと腰を抱かれた。始まるのだと震える。
「大丈夫だから」
「…うん」
一つ頷いてから静かに腰を沈めた。
甘い蜜がけの言葉を紡ぐ唇が、かすかに触れたのを感じて静かに目を閉じる。
大きな波が来て、昇りつめたら優しい後戯を受けて、枕元でいくつか吐息混じりの言葉を交わした後、
潮騒を子守唄に抱き合って眠る。
甘さに紛れて毒を仕込んであることくらいは知っている。
後から効いてくる厄介な毒であることも気付いている。
これに溺れたらどこまでも身を持ち崩すことも、わかっている。
でも、それでもいい。
「あっ、エル……あっ、ひゃんっ…熱いっ、熱い……っ」
快楽に逆らうことなく身をくねらす。
大事にしてくれるのなら、都合の悪いことはもう何も見ない。
「あ…ん」
ぐちゅぐちゅと乱れる水音と共に何度も何度も出し入れされる。
耐え切れずに落ちた腰がそれを根元まで飲み込んだ。
「ぁああぁぁあんっ!!」
ひときわ高い嬌声には抗いがもう含まれていない。
荒い息をしたままぎゅっと抱き締められ、ゆっくり寝台に降ろされて正常位になった。
尻肉を鷲掴まれて再度ぐっと引き寄せられると、蜜に促されてより結合が強まる。
そこにさらなる律動。
「あぁ…エルド、エルドすごっ、あっふぁっごめっ、もう…だめぇ……ッ!はぁあっ!イッちゃうっ、あっ、ああ…。お願い……っ」
切なげな懇願はすぐに叶えられる。
「―――――…っ…」
速度を上げられると声もあげる間もなく絶頂を迎えた。
終わった後も余韻を味わいつつ唇を重ね合わせ、ぴちゃぴちゃと水音を響かせる。
足掻かなければ本当に濃密で優しい時間。
「どうだった?」
「…うん……すごく気持ち………よかった」
欲しがっていたお強請りだって卑猥な台詞だって惜しみなく吐いてやる。
悦んでくれるかと思っていたのに、ふうと一つ息をつくとエルドは不満を漏らした。
「こんな大事にしてやってんのにいつまでも悲しそうな顔してんなよ」
「え…っ?」
驚くしかない指摘だった。己ではまったく自覚がないからだ。
卑猥な快楽にどっぷり溺れていると信じ込んでいる。
「そんなことないわよ」
だが本心は違う。
不安定な宙吊りの精神ではとても邂逅と呼べるものではなかった。
微笑みはとても悲しげで、無理をしているのがよくわかるものだった。
でもそうしていないと本当に壊れてしまう。
「そんなことより。……もっと、して」
自分を陥れた男に抱きつき、惨めにならないために必死で正当化しようとしている。
もうそれさえ認めることができない。
「大丈夫なのか」
「してほしいの」
「けど」
流石のエルドも自暴自棄がちな女の態度に躊躇したのがわかった。それを無理矢理引き寄せる。
「いいから、忘れさせて。みんな……忘れさせて………」
「…………わかった」
了承して、またゆっくりと覆い被さってきた。
そして何度弾かれても諦める事なくその言葉を紡ぐ。
「愛してる」
「わ…わたし…、……っ」
同意を返そうとしたが、うまく言えなかった。
溺惑しようとしても心の中でまだ何かが抵抗しているのを感じる。
心の中にいる誰かが、岸の向こうから戻ってこいと手を伸ばしている。
多分、あの人は……
そんな揺らめくかげろうを必死に振り払う。
今そばにいて、離れないでいてくれる男が耳元で吹き込んでくる甘い言葉に、何とかして酔おうとしている。
エルドは完全に心を許されていない現実に少々不満げな色を醸しつつも、行為を続ける。
半ば狂ったような嬌声。セレスに備わる喜びの機能が変質し、正常を失っていく。
蕩けてゆく。腰の感覚がなくなってくる。思考も想いも何もかも剥がれ落ちてゆく。
けれど、いい。
そのうち勝手に淫猥が言葉となって口からこぼれ落ちるようになるのだろうから。
何も拒まない。
何も考えない。
明日がどういう日になろうが、もう何とも思わない。
暗い海に映る月が崩れ、ゆらゆらと揺れている。
私はこの男が好きなんだ。
この先に何があろうとも、
それでいい。
それで……
今回は以上です、今回は特に遅くなって申し訳ありませんでした
>>186さん支援ありがとうございました
なんつーカオス展開だ
俺は好きだけど
エロ多めでGJ!!
ファビョニスきたー!
正座してもう3回ぐらい読み直してくる
ファビョニスありがとう!!!
今回は、って事は続きがあるのか。
wktkしながら正座してまってる!!!ザンデスタイルで。
朝っぱらから一気に読んでしまった…
GJ!
どんな展開でもと身構えて読むんだがいつも最後まで読めちゃってるな
ラストまでつき合えそうなんで私も期待して正座してます
おお続き来てるじゃん
茶でも淹れてゆっくり読むか
GJ
何とも切ない気分になるな
次回投下待ってる
気のせいか…前回から微妙にエルドがアホかわいいのは気のせいか…。
GJ
発売から一か月すぎたな
SO4は3作来たが他にSS書いてる職人さんいる?
なぜか未だ浮かんでくるのがクレアたん乱交だからこまる
地球レイミ書いてはいるんだがまだまとまらない
>202
乱交させればいいじゃない。
YOU書いちゃいなよ。
出発前のシマダ×レイミ書いてるが、ヘタなせいで長文になって困ってる
>>205 厳しい事言うようだけど、ここはお前の日記じゃない
チラシの裏にでも書いてろ
フェイズ関連が多くなると思ったら以外と無いもんだな。
>>207 カプスレに行けばエロ厨がたくさんいるから行ってこいよ
リムル孕ませネタまでいってるからお勧め
>>209 申し訳無いんだが場所教えてくれないか・・・?
探しても見つからないんだ・・・。
・・・・ちゃん・・・・嬢ちゃん・・・・
レイミは頬をつんつん、とつつかれる感触で、眼を覚ました。
ミュリアがしゃがみながら、自分を見下ろしているのが視界に入る。
「・・・ん・・、あれ、ミュリアさん?」
「お嬢ちゃん、こんなとこで寝てたら、風邪ひいちゃうわよ?」
こんなとこ?レイミは思考をめぐらせる・・・!!
すぐにシマダとの事を思い出し、さらに自分の今の格好がとんでもないことになっていることに気づく。
「ひゃっ・・・あわわわ・・・・あの、これはその・・・あの」
身体を起し、床に両膝をつく姿勢になりうろたえるレイミ。
ひぃ!?・・・お尻にすごい異物感を感じて、手をお尻にもっていくと何か物体が深々と自身のアナルに
挿入されていることに気づく。あのときのバイブレーターだ・・・。
とんでもない所を見られてしまった。レイミはひどく狼狽し、弁解する言葉を発することすらできずにいた。
そんなレイミの様子を察したのかミュリアは言った。
「あら、そんなに動揺しなくてもいいのよ。オナニーしてたんでしょ?それに分かるわー
人に見られるかもっていう場所でする背徳感が堪らなくいいんでしょ?」
(違います!私はそんな変態じゃありませんから!)
だが、話を合わせるより他はない、他にうまく説明できる状況じゃないのだ。
「あはは・・・そうなんですよ、私露出プレイ大好きなんです」
などと言ってしまうのだった。
「それにしても、お嬢ちゃんもやるわね、お尻でそんな大きなものでオナニーなんてね
もっと清純な子なのかと思ってたけど、意外だったわ(笑)」
「あはは・・・私お尻が大好きなんですよね・・ははは・・・」
(うう・・・バッカスさんの時といい、またこの展開なの・・・なんだか私の
みんなからのイメージが変な方向にいっちゃってるよ・・・)
「ほら、もうすぐみんな降りてきちゃうわよ、早く部屋にもどったほうがいいわよ」
「あ、はい!・・・あ、あの・・ミュリアさん・・」
「分ってるわ、この事は誰にも言わないわ、特に坊やには絶対言わないから安心しなさい(笑)」
からかい半分に笑いながら言うミュリアに、言い返す気力もなく、ICルームを後にする。
部屋の前を通り過ぎ、そのままシャワールームへと入る。
レイミは気になることがあった。そう、自身の秘部から太ももに伝う白い液体についてだ。
恐る恐る、両手で秘部を開いてみる。ゴポ・・・白く泡立つ液体が膣内から溢れ、床に垂れ落ちる。
その液体を指ですくい、匂いを嗅いでみる・・・地球で初めて嗅いだ匂いと同じだ・・・。
(そんな・・・うそでしょ・・・どうして・・)
レイミは強いショックを受け軽くめまいを覚える。だがある考えにたどり着いた。
(そうだ、あのシマダのことだもの、ICでやばいネバネバに改良を加えて、それらしいのを作って
私の愕然とする顔を見て、楽しむつもりだったんだわ・・・そうに決まってる)
レイミはそう自分に言い聞かせ、気を楽にさせるのだった。
部屋にもどると、レイミはベッドに横になる。そしてシマダとの情事を思い出してしまうのだった。
レイミは、シマダに抱かれてしまったことよりも、後半、快楽を感じて声をあげて乱れてしまった
自分に自己嫌悪していた。・・・そしてレイミは気づいてしまった。
ムーアの適応能力が快楽を我慢しようとする意識を削り取り、素直に気持ちよくなりなさいと言うがごとく
快楽に適応し助長するということに・・・。
・・・またこの能力のせいで・・・もう嫌だよ・・・。
レイミは、布団を頭から被り、泣いた。シマダに抱かれてしまったこと。自分の能力のこと。
さらに、地球のことまでも思い出し、涙を流し、声を押し殺しながらひたすらに泣くのだった。
そして布団が涙でべとべとに濡れた頃、レイミは眠りについた。
その寝顔は、さっきまでとはうってかわって、笑みを浮かべていた。エッジとの楽しい
思い出でも夢に見ているのだろうか・・・。
だが現実はまだまだレイミを過酷な状況へといざなうことは確実であった・・・。
・
・
・
惑星エイオス基地へのワープアウトまで、あと1日。シマダとの情事から数日が過ぎていた。
その日の深夜、レイミはICルームへと足を運んでいた。
そう、またシマダに呼び出されたのだ。暗い気持ちでICルームの扉を開き起動させる。
「やぁ、レイミ君、前回はすごかったな!ワシも愕いたよ!キミがあんなに淫乱に乱れるとは
思ってなかったのでね」
「・・・っく。あの、それよりも副長官、あの白い液体・・・はICで作った悪戯ですよね?」
ずっと気になっていたことを恐る恐る聞く。
「ああ、アレかね。アレに関してはワシも後悔しておるのだよ。つい興奮にながされて説明する
前にイッてしまったからな。では、また少し自慢話を聞かせてやろう。今、我がUSTAでは転送技術を
開発しておってな、試作でようやくタバコの箱くらいの体積なら転送できるようになったのだよ。
そしてそれを各機に実装したのだ、さすがにこれにはワシの私財を投入せざるをえなかったがな。
つまり、ワシのイチモツから放たれる精子がレイミ君の膣内へと転送されたわけだ。
すごいだろう!プククククク」
技術的にはすごいのだろう、だがその利用方法はまさに、ろくでもないの極地であった。
「え?・・・うそ・・でしょ?いやだよ・・そんなのいやだよ・・・ひどい・・・いやぁぁ!」
そのあんまりな事実に泣き崩れるレイミ。
「・・・いやだよ・・・いやだよ・・・」
ガクリと両手と膝を床につき、涙をぽろぽろと流しながら力のない声でつぶやき続けるレイミに、
シマダは満面の笑みを浮かべ言う。
「それだよ!その絶望に満ちた表情!!それが見たくてワシは私財の50%を投入してまでこの極秘技術を
実装したのだよ!!!」
たいした男である、シマダ。己の欲望のためならば私財すら平気でなげうつ。ムーンベースの仕官が定食のAランチか
Bランチか迷っている横で、高級料亭から出前を頼むほどの男は一味違うのだ。
「あー、ところでレイミ君、今日キミを呼びつけたのはだね、たった今ワシを支援して下さる政治家の先生方との会談が
終了したところなのだがね、先生方にぜひキミの素晴らしい身体を味わってもらい、ご足労頂いた労をねぎらおうと
おもった訳なのだよ。・・・・・おーい、レイミ君聞いているのかね?」
「・・・・はい・・・聞いてます」
「ふむ、12人と多少多いが、キミなら大丈夫だろう。ワシに恥をかかさぬ様、サービスしてくれたまえよ」
レイミはもう完全に諦めていた。嫌だといったところで、シマダがどういう手段にでるかは明白だ。
エッジに知られるくらいなら親父共の肉棒を咥え込むほうが、レイミにとってはまだマシなのだ。
だが、ひとつだけ、どうしても許してもらいたい事柄があった。これだけは死んでも避けたい事柄だ。
「あの・・・副長官、ひとつだけお願いがあります。私・・・その今日から危険日なんです。ですから・・・その・・・」
そう、レイミは今日から排卵日、いわゆる危険日なのだ。もちろん先のシマダの体内射精も排卵日から一週間以内と、
精子が生き続ける日数的には、妊娠の可能性が無いとはいえない。だが排卵日ともなると妊娠の危険度は段違いなのである。
悲壮な表情で、これだけは、許して下さいと必死に懇願するレイミにシマダは言った。
「ふむ・・・そうだな、危険日に中だしさせるのはさすがに、鬼畜すぎるか。よかろう、先生方には
体外で出すようにいってやろうじゃないか。その代わり、しっかり奉仕してくれたまえ、いいな。
あと、コレを耳の中に入れたまえ、ワシの声だけが聞こえる小型無線機だ。先生方への返答に失礼があってはいかんからな。
ワシがこれでキミに指示を出すというわけだ。」
レイミはシマダがあっさりと訴えを承諾したことに、不安を抱かなかった訳ではないが、今はこのシマダの言葉を
信用するしかないのである。
「では、服をぬぎ裸になってその中央付近に立ちたまえ、SHIMADAシステムオン!」
ブゥ・・・ン。ICルームはムーンベースの接客室へと姿を変える。
やや薄暗いその部屋には、レイミを中央として丸く囲むように皮製のゆったりとした椅子が12個並べられていた。
円卓の卓がない状態だ。そしてその椅子には40〜60代くらいまでの閣僚達がどしりと全裸で座っていた。
シマダから無線を通して指示が入る。
「レイミ・サイオンジです。本日はご足労頂き有難うございました。まだあまり経験のない未熟者ですが、一生懸命
ご奉仕致しますので、心ゆくまで私の身体を存分にお使い、お楽しみ下さい」
レイミは手を頭の後ろで組み、周りに身体を見せ付けるようにゆっくりと360度回転する。
平静を装ってはいるが、恥ずかしさの余り声は微かに震え、足もカクカクと震え気を抜くと倒れこんでしまいそうだった。
『ほぅ・・・これはこれは、中々の上玉ですな』
『うむ、素晴らしい体つきだ。特に尻が素晴らしい』
『羞恥に耐えるその表情も、初々しくて実にいいですなぁ、ククク』
『穴のほうのしまりも、これは期待できそうだ』
様々な言葉がレイミに浴びせかけられる。
(ううう・・・何で私がこんな目に・・・こんな大勢のオジサン達にされちゃうなんて嫌だよ・・・)
「お喜び頂きこのシマダ、光栄至極であります。ですがひとつだけ先生方にお願いがあります。この娘、今日は危ない日
でありまして、射精の折には体外にてお願いしたい次第であります。」
『ふむ、ワシは別にこの娘がどうなろうと知ったことではないが・・・シマダ君の顔も立てねばなるまいな』
『左様ですな、これほどの上玉を味わえるのだ、それくらいは目をつぶりましょうか』
『ワシは、後ろ専門だからな、問題ない』
この言葉を聞き、ホッと胸を撫で下ろすレイミであった。最悪の状況だが、少しだけ救われた気分になる。
『では、私からやらせて貰おう、娘、四つん這いになりなさい』
一人の男が椅子から立ち上がり中央のレイミの所へ移動する。
中央での行為を周りが見て、楽しむ、これはそういう趣向でもあるのだ。
「どう・・ぞ、膣でも・・・お尻でも、お好きなほうをご・・・ご堪能ください。」
レイミはシマダからの指示通り、四つん這いの体勢で、自らのアソコを後ろ手に開いて見せた。
男は何も言わず、レイミの尻をガシっと両手で掴むと無造作にペニスを膣内へと挿入した。
痛っ・・・まだ全く濡れていなかった膣内にいきなり挿入され痛みに顔を歪ませる。
だが、すぐにレイミの身体は順応し、蜜液を分泌し痛みから快楽へと変化させる。
男は欲望の赴くままに激しく腰をレイミの臀部に打ち付ける。
レイミはこのような異常な状況ですら、早くも湧き上がってくる快楽の衝動に嫌悪し、必死に声を押し殺す。
『っく、すごい締め付けだ・・・もう出そうだ、娘!顔をこっちに向け口をあけなさい!』
男は、ペニスを素早く膣内から抜くとレイミの口内へと熱い欲望を放った。
うぇっ・・・・レイミは濃い精子のむせ返るような臭いと、ねばねばの感触に気持ち悪くなり、手に出そうとするが・・・
『出すな!いいと言うまで口に溜めておきたまえ!』
男はそう言い放ち、自分の椅子へと戻っていく。
次の男、その次の男も同様にレイミの膣内を堪能し、口に射精した。勿論まだ精子を飲み込むことは許されない。
5人目の男の精子を口に受けた辺りで、レイミの口内は男達の精液で一杯になり閉じた口の端からタラリとよだれのように
白い液体が垂れ落ちる。
(くさい・・・くさいよ・・・気持ち悪い!口から出したい!もう嫌ぁ・・・)
6人目の男がレイミに近づき言った。
「娘、顔をこちらに向け、口を大きく開けて見せてみなさい。」
レイミは言われるままに男のほうを見上げ、口を開いてみせる。
「んん?娘、君はひょっとして西園寺家の?昨年、君のお父上が開かれたパーティーに招かれてね。
あの時の君はまさに名家、西園寺のご令嬢といった感じで清楚で素晴らしく美しい娘だと思ったものだが・・・
とんだ淫乱娘だったというわけだ、お父上が、ザーメンを口に溜めてバカみたいに口を開けて見せている
今の君の姿を見たらさぞ驚くだろうなぁ。今度招待されたら、今の君の写真でも見せてやろうか(笑)」
「!?ん、んーーーーんん!!!」
首を左右に振り必死にいやいやをするレイミを楽しそうに見つめ、四つん這いの体勢に戻るように命令する。
「さぁ!お父上ご自慢の娘の膣内の具合はどうかな!」
「おぅ!これはすごい!6人目だというのにこの締め付け、わしのペニスを離すまいと肉ひだが絡み付いてきよるわ!
まったく、まだ19歳だというのにたいした娘だな君は!」
「むぅ!もう我慢できん、ほら、口を開けろ!」
すでに口内一杯に精液が溜まっていたレイミにさらに男は射精する。収まりきらずにだらだらと口からこぼれ、床に白に
白い水溜りをつくっていく。
「うむ、もういいぞ、全部飲み込みたまえ、ゆっくりとだ、高級ワインを味わうがごとく、ゆっくりと舌で転がすように、だ」
レイミは言われるままに、男達の精液をゆっくりと飲み込んでいく、コクコク・・・レイミの喉が鳴り、口内の泡だった白濁液が
喉の奥へと消えていく。
「味は、どうだったかね?感想をいってみたまえ」
けほっけほっ・・・生臭く粘つく濃い精子を飲み込み、むせ返るレイミにシマダの指示が飛ぶ。
「はい・・・皆様の精液、とっても美味し・・・かったです。有難うございました。」
目じりに涙を溜めながら精一杯にっこりと微笑んで見せるレイミであった。
7人目の男が立ち上がろうとしたとき、シマダが声を発した。
「皆様、たったいまスペシャルゲストが到着致しました。ご紹介しましょう、光速のスティーブこと、スティーブ・D・ケニーです」
ざわざわ・・・・・ざわざわ・・・・
『ほぉ、彼があの・・・』
『わしも実物を見るのは初めてだ』
さすが英雄とまで言われる男だ、姿を現しただけで場の空気をかえてしまう。
「さぁ、スティーブ君!君もこのレイミ君の身体を存分に楽しみたまえ、ワシからの日ごろの感謝の気持ちだよ、わははは!」
「・・・副長官、私はそのような年端もいかぬ娘となど、ご用件がこれなのでしたら、退席させて頂く。」
「まちたまえ!このワシに恥をかかせるきかね?」
『そうだぞ、君、上司の労いには素直に答えたまえ』
『スティーブ君、我々の力、甘くみてはいないかね?キミの家族全員路頭に迷うようなことがあっては困るだろう?』
『つまらぬ意地を張らずに、早くその娘を犯してみせたまえ』
「っく・・・」
(ほら、レイミ君、キミも彼のことを尊敬しているのだろう?キミのほうから誘ってあげたまえ、彼の性格じゃ恐らく
従わずに、立場を悪くしてしまうぞ)
シマダの悪魔の囁きがレイミの耳に届く。確かにレイミはこの英雄を尊敬している、SRF隊員なら当然のことだ。
まさに雲の上の存在といったところだろう。それだけに、今のこの自分の姿を見られたのは情けなくて涙がでてくる。
それなのに、シマダは自分からこの英雄に入れてくださいと言えというのだ。
だがもはやレイミに逆らうすべなどない。意を決したレイミはシマダの言うがままに行動に移した。
「カルナス副官、レイミ・サイオンジ・・です。司令のことは尊敬しておりました。どうぞ、私の・・・おま・・オマ○コに
司令の、ペニスを・・・入れて・・・ください、お願いします。気持ちよくさせて・・・ください」
レイミは四つん這いの体勢でお尻をスティーブのほうへと突き上げ、すっかり蜜液で濡れ光っている自身の膣を両手で
大きく開き、笑顔で言った。・・・笑顔ではあったが、頬には涙がつたっていた。
「・・・すまん・・・」
一言そういうと、スティーブはズボンをおろし、自身のペニスをレイミの膣の入り口に添えた。
ずぶ・・ずぶ・・尊敬する英雄のペニスが自分の膣内へと入っていくのを感じ、大粒の涙があふれてくる。
スティーブは、奥まで入ったのを確認し、腰を動かす・・・1,2,3・・・
3回目の奥深くへの挿入の瞬間、「うっ・・・でるっ・・・」
ドクっドクっ・・・レイミの膣内深くに熱い精液をぶちまけたのだ。膣内に濃い精子が注ぎ込まれていく。
「・・・え?・・・・え?、中・・・で?うそ・・・だよね?」
唖然とするレイミ、状況がよく理解できていないのだろう。だが、自身の下腹部に熱く注がれる感触が残酷に事実を伝える。
「え・・・・嫌・・・うそ・・・・そん・・・な・・・嫌あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
レイミの絶叫が部屋に響く。これほどにレイミが取り乱し、泣き叫ぶのは地球からこっち一度たりともなかった。
それほどまでに、排卵日に膣内射精されてしまったことがショックだったのだ。
一方スティーブのほうも、びっくりしていた。シマダからは避妊済みだから
中でだせ、と先ほど挿入する前に耳打ちされていたからだ。
だが、このレイミの反応をみるに、騙されたのだ・・・と気づくがすでにどうしようもなかった。
呆然としながらもペニスを抜くスティーブ。ゴポ・・・ボトボト・・・かなり溜まっていたのだろうか、膣内に入りきらない
精子がペニスを抜くと同時に、こぼれ落ちる。
「・・・・妊娠しちゃうよぅ・・・・妊娠しちゃうよぅ・・・」
レイミは床に横たわったまま微動だにせず、光を失った瞳に涙をため、ぼそぼそと、そうつぶやきつづけていた。
「おいおいスティーブ君、ひどい男だなキミは、レイミ君は危険日なのだぞ?」
怒りで身を震わせシマダを睨むが、言葉はでてこない。何をいっても状況は変わらないのだから・・・。
「それにしても、キミィ、早すぎるんじゃないかね?たった3擦りで射精するなど・・・・
今日から【光速のスティーブ】から【早漏のスティーブ】に通り名を変えたほうがいいんじゃないのかね、ブハハハハハ!!!」
『ガハハハ、傑作だ、それはいい!』
『光速の英雄様は、射精も早いってか』
『プークスクス』
『ヒーーーはははは、笑いが止まらんわ』
「ほら、もう退席したまえ、十分楽しませてもらったよ、お疲れさん(笑)」
下半身まるだしの状態で肩を落し、とぼとぼと退席する英雄であった。
・
・
・
まだ床に横たわったまま、ぶつぶつとつぶやき続けるレイミを尻目に一人の男が言った。
『ところでシマダ君、我々が紳士にも体外で出してやってるのに、彼だけが中で出すなど不公平ではないかね』
『まったくだ!これでは納得できんよ』
『うむ、いいじゃないか、その娘が孕もうが我々には関係ないことだ』
「はっ、全くおっしゃる通りでございます。ほら、レイミ君、先生方にお答えしたまえ!」
シマダは、放心状態のレイミの身体を強引に起こし、頬をパンパンと叩いた。
(ほら、しゃんとしたまえ!こうなってはもう後には引けん!一連の動画をエッジ君はおろか実家やSRF全隊員の
端末に送られたくなければ、覚悟を決めたまえ!なーに100%妊娠するとは限らん、もし仮に孕んだとしても
エッジ君とさっさと既成事実を作ってしまえば、出来ちゃったのぉ♪、とか言えるじゃないかね、ブゥワハハハ!)
実は、最初からこういう筋書きだったのではないか、と思えるほど悲惨な展開だ。
レイミはもう、好きにすればいい・・・動画でも写真でもばら撒けばいい・・・みんなに、陵辱され犯されてる姿を
見られてもいい、こんな目にあうくらいならもうどうでも・・・そう自暴自棄になりかけていた。
だが、そのとき頭の中にエッジの昔の言葉が思い出された。
−−−大きくなったら、あの輝く星にレイミを連れて行ってあげるよ−−−
小さいころ星空をエッジと一緒に見上げながら交わした約束の言葉だ・・・。
レイミの瞳に光がもどる。挫けちゃダメ!エッジにだけは知られたくない!大丈夫、妊娠なんてしないよ。
絶対・・・絶対大丈夫なんだから!自らを奮い立たせるように活をいれ、キっとシマダを睨み身体を起こす。
そして正座の体勢で、震える声でなんとかシマダの命令通りのセリフを口にするのだった。
「我がままいってすいませんでした。もう大丈夫・・です。中に・・・だ・・だして下さって構いません。
皆様の子種を・・・たっぷりと私のココに・・・そ・・注いで・・・下さい・・・」
『エェェクセレェェントォォ!』
『素晴らしい!よく言った!』
『シマダ君、君も大したものだな、よくここまで躾けたものだ』
『ククク、次は私の番でしたな。そら娘、さっさと立ち上がるのだ』
7人目のこの男、この中では一番若く体つきもいい。そして背が高くかなりの大男だった。
地球で処女を奪われた最初の兵士のペニスも大きかったが、この男のものはそれよりもさらに大きく
まさに、規格外の大きさだった。まさに巨根といえる大きさだ。
男はレイミの臀部に手をまわし軽々と持ち上げると、直立の体勢のまま自分のペニスの上に誘導し、
その巨大なペニスを膣内へと沈めていく。ぐぱぁ・・・男のものを必死に受け入れようとレイミの秘部が大きく広がる。
亀頭が膣内へと消えるもカリの部分が大きすぎて、なかなかそこから入らない。
(ひぃ・・・大きすぎる・・・ぐはぅ・・・アソコが壊れちゃうよ・・)
レイミは下腹部のものすごい圧迫感に顔を歪ませる。男が駅弁の体位のまま突如円を描くように歩き始めた。
メリメリ・・ミチィ・・男の歩調の動きに合わせてペニスが膣内へと少しづつ姿を消していく。
規格外の巨根にもレイミの膣内は早くも順応を始め分泌液を大量に垂らし、3割くらい入った辺りからはスムーズに受け入れ始めた。
そして男のものが8割がた膣内へと姿を消したあたりで、コツンとレイミの子宮の入口にペニスの先端が当たった。
大きすぎて全てを収めることができなかったのだ。
男はレイミの太ももに手を回しゆっくりとペニスに上下運動を加え始めた。今までの男達と違い、がむしゃらに自らの欲望の
赴くままに突くのではなく、回転運動を加えたり上下運動に緩急をつけたりと、女に快楽を与えることを目的とした動きだった。
レイミの表情はすでに最初の苦悶のそれではなく、込み上げる快楽に必死に耐える表情へと変化していた。
じゅぷ、じゅぷ、じゅぼ、くちゅ、結合部分からは大量の蜜液が溢れいやらしい音を発していた。
(うぁ・・・・気持ちいい・・・中できつく擦れるのがすごく・・いいよぅ・・・声が・・でちゃぅ・・
くぅ・・ダメ、我慢しなくちゃ・・・感情に流されちゃだめ・・・なん・・だから)
男の亀頭とサオの間の大きく段差になっている部位、カリの部分が膣内にすごい刺激を与えていた。
レイミの頬は朱に染まり熱い吐息が口から漏れる。体は火照り、全身に汗が滲んでいた。
男はその様子を見、ニヤリと口元を緩める。そしてペニスの上下運動を速く、激しいものへと変化させていく。
レイミの膣内を物凄い快感が襲う。
ペニスの先端が子宮口に強く衝突するたび、体の奥から全身へと、レイミにとって未知の快楽の衝動が駆け巡る。
不意にレイミのうなじの紋章が淡い輝きを放った。と同時に、快楽への必死の抵抗に亀裂が走り一気に崩壊する。
「ひぁ、すごい・・・はひぃ・・・いい、すごく・・・気持ちいいよぉ!」
手は男の首へとまわし両足も男の腰の後ろでぎゅっと組み、より深い挿入感を得ようと締め付ける。
膣内全体がもっと強い摩擦を得ようと男のペニスをきゅぅっと強く圧迫する。
『くは!すごい締め付けだ、これほど具合のいいマ○コは今までお目にかかったことがないぞ!』
『次はワシだな、もう見てるのは我慢できん、後ろを使わせてもらう!』
ガタっと椅子を揺らし立ち上がり8番目の男が駅弁の体位で激しく交わっているレイミの後ろへと回り込む。
そしてその限界まで膨張したペニスをレイミの肛門へとあてがい一気に突き入れた。
ずぷぷぅ!・・・すっかり異物を受け入れることを覚えたレイミの肛門は難なくペニスを受け入れ、
こちらも、きゅぅきゅぅと男のものを締め付ける。
膣内と直腸に同時にペニスを挿入され、深く突きまくられる。
二人の男の手はすでにレイミの身体を支えてはいなかった。レイミの身体は2本のペニスによってのみ
支えられ、空中に固定されていたのだ。2本のペニスに突き上げられ、自らの体重が重力に従ってまた深くペニスを咥え込む。
「うあぁっ!こ、こんなのダメぇぇ!き、気持ちいいのぉ!アソコとお尻、すごいぃぃ!」
男二人に挟まれ、前と後ろにそれぞれのペニスを挿入され、快楽の声をあげ感じまくるレイミ。
もはや普段の貞淑そうなレイミの面影はなく、1匹の欲情に身を任せた雌がいるのみだった。
後ろを犯していた男が限界に達し、直腸に熱い欲望を放った。だが、すでに次の男が待ち構えており
すぐに肛門がペニスで塞がれる。交代した男も、そのすごい締め付けにすぐに達してしまう。・・・それが繰り返され、
レイミの肛門に6本目のペニスが挿入されたとき・・・、前を犯していた男が動きを止め、深く挿入した状態で停止した。
涎を垂らし、だらしなく口を開き、快楽に耽り、あとすこしで絶頂に達する所だったレイミは自ら動き刺激を得ようとするが
男が手を腰にやりしっかりと固定していて思うような刺激が得られない。
『ククク、娘!つらいか?もっと突いてほしいか?どうして欲しいか言ってみろ!』
「ああぁぁ・・・意地悪しないで・・もっと、もっとおち○ちんで突いてほしいです・・・気持ちよくさせて下さいぃ!」
『だが、ワシももう限界だ、中で出してしまうことになるが、いいのかな?』
「かまいません!・・・中に、中に出して下さい!・・・だから、早く、早く動いてぇぇぇ!おかしくなりそうなのぉ!」
『やれやれ、女ってのは怖いものですなぁ』
『いやいや、こんなものですよ、快楽に耐えられるものなどいやしませんて』
男達が再び、ペニスを突き上げる動作を再開すると、レイミはうっとりとした表情で再び、愉悦の声をあげはじめる。
前を犯している男も、もう限界にきていた。ラストスパートとばかりにこれまで以上に腰を激しく動かす。
ゴツンゴツンとペニスの先端が子宮口に打ち付けられる。排卵日で平常より緩くなっていたその入口が徐々に口を開く。
『くは!もうだめだ!出る!』
男は叫びと共に、思いっきりペニスを突き上げる、ぐぽんっ男のペニスの亀頭が子宮口を貫き、子宮の最奥へと侵入した。
びゅっびゅくんっどぶっ、その瞬間、濃い精子が先端からほとばしり、レイミの子宮を満たしていく。
後ろを犯している男も、同調するかのように直腸に放出する。
・・・そしてレイミもまた、下腹部に注がれる熱い感覚を感じながら大きく声をだし絶頂を迎えるのだった。
ずず・・ずぽっ・・・前を犯していた男がその巨根を引き抜く。ゴポ・・ドロリ・・よほど大量に射精したのだろう、
子宮内に収まりきらなかった男の濃い精子が、ポッカリと開ききったレイミの膣内より大量に垂れ、床に落ちる。
後ろを犯していた男も同様に、ペニスを引き抜く・・・が、こちらは6人分の精子を腸内に溜め込んだまま
きゅっと肛門がすぐにしまる。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
床に降ろされたレイミは両膝をつき、興奮からまだ覚めやらぬまま、息を荒げ放心状態であった。
だが、自らの膣内から次から次へと白濁液が垂れ落ち、床に白い水溜りを作っている状況と、
下腹部に残る熱い精子の異物感とが、レイミを急速に現実へと引き戻す。
つぅっと大粒の涙が紅潮した頬を伝う。
(あはは・・・こんなに一杯・・・中に出されちゃったんだ・・・あはは・・・)
諦めにもにたひきつった笑みを浮かべるレイミだった・・・っ!?突如お腹がきゅるるっと鳴り排泄感に
お腹を押さえ、うずくまる。6人分の大量の精子が腸内を圧迫し、体外に排出されようとしているのだ。
「あの・・・お願いします、お手洗いに行かせて欲しいのですが・・・」
全てを理解している男達はニヤリと口元を歪める。その様子を見て、シマダは洗面器をレイミのほうへと放り投げる。
無言のままニヤニヤとレイミを凝視する男達とシマダ。レイミは自分の成さねばならないことを悟り青くなる。
だがすぐに、頬を赤に染め、羞恥に身体を震わせながらも洗面器の上へとまたがる体勢をとった。
(うう・・・こんなのって・・・やだ・・やだよ・・・)
ぐっと我慢を続けるも、すぐに限界がやってくる。きゅるるる・・・レイミのお腹が大きく鳴ると同時に
肛門から精液を勢い良く噴出させる。びゅぅぅぅ、止め処なく放出される精子は白からやがて茶色交じりになる。
え!?・・・あ!ダメ!!やだ!!!うそ!!!そんな!止まってぇぇぇ!
突如襲う別の排泄感に心の底から恐怖し、止めようとするも、一度緩まった肛門は言うことを聞いてはくれなかった。
ぶっぶぶぶ・・・ぶぼおぉぉっ、茶色の固形物が勢いよく洗面器へと放出されていった。
「やだ!!見ないでぇ!見ないで下さいぃ!やだやだ、止まらないよぉぉ!」
『がはははは!こいつは傑作だ、なんとこの娘、クソまでもらしおったわ!』
『なんとまぁ・・・やれやれだ、これが名家西園寺のお嬢様とはな』
『シマダ君、この様子、全て映像に収めておるのだろうな?』
『こんな大勢の前で排泄する変態娘などみたことないわ、ぐははは』
「・・・・ああ・・・もう嫌ぁ・・・・」
既に事は終了したものの、羞恥心で顔を上げられず、身体を動かすことすらできずにいるレイミだった。
・・・だが、これで終わりではなかった。男達の性欲はまだまだ、終わりではなかったのだ。
これから数時間にわたり、延々と犯され、膣内、腸内、口内、身体のあらゆるところに射精されつづけた。
そして、ようやく男達の欲望から解放された時には、レイミの身体は、白濁まみれになっていた。
自慢の長い髪の毛すらも白く染まりドロドロの有様であった。
・
・
・
もとのICルームへと姿を戻し、陵辱されつくし、体液まみれの姿で呆然と立ち尽くすレイミ。
股間と肛門からは今も白濁液が、コポコポと垂れ、太ももを伝っていた。
ICルームは、男達の放った体液で汚れ、部屋の空気も異臭を放っていた。
「・・・・・掃除・・・しなくちゃ・・・・」
ぼそっと力なくつぶやくレイミの声が、1人になった部屋に静かに響き今日の惨事に終わりを告げた。
・
・
・
惑星エイオスに到着し、クロウと再開し、グリゴリを何とか討伐する。
そして現在カルナスはEnIIへと向かっていた。
この間にもレイミはシマダに幾度となく呼び出され、様々なプレイを強要され続けた。
SHIMADAシステム携帯設置型を用いて、地球の地下公園での露出プレイでは路上生活者に奉仕させられ犯された。
エロゲ愛好者でもあるシマダの性癖で触手をホログラム化され犯された。
SRF第二期生の一部の教室で実名で紹介され壇上で大きく股を広げさせられ、自慰をさせられたのは本当につらかった。
『やだ・・あのレイミ先輩がこんなに変態だったなんて・・・』
『憧れてたのに・・・幻滅したよ・・・』
『うわぁ・・・なにあれ・・・あんなに大きなのお尻に軽々入れちゃってる・・・』
『こんな大勢の前で・・・しかもあの表情・・・本気で感じてやがるぜ・・・・』
様々な辛辣な言葉を投げかけられる中、絶頂に達するレイミの心境はいかなものだったろうか。
この事は、さすがにシマダにとっても外部へと漏れるのは不味かったのか、この教室の隊員には絶対に
口外するなと厳命され、広まることはなかったのがレイミにとって救いであった。
そして・・・閣僚達に膣内射精されてから数週間、EnIIへと到着する少し前の日。
妊娠検査キットに陽性反応がでてしまった。最悪の事態が現実のものとなってしまったのだ。
レイミはこの世の終わりがきたかのような絶望感を味うも、涙は出なかった。
ただただ呆然とし、立ち尽くすのみであった。
どうしよう・・・どうしたらいいの?・・・分からない・・・分からないよ・・・
誰にも相談など出来るわけがなかった。だが、EnIIの医療施設で中絶できるかも・・・そう思いついたレイミは
EnIIに到着すると、ジオットとの話の後セントラルシティでこっそりと医療施設へと向かった。
19歳にして中絶・・・医師に意味ありげな非難の表情を向けられながらも説明を受けるレイミ。
だが、さすがはEnII、特殊な紋章を描いた上に立ち、作動させるだけで、体内の胎児を分解し母体への影響は
まるでないのだという。あっさりと中絶が済み、施設からでたとき、レイミの瞳から涙がこぼれ落ちた。
止めようとおもっても後から後から涙が溢れ出てくる。
ほっとしたせいなのか、はたまた、望まぬ妊娠とはいえ胎児の命を奪ってしまったことへの悲しみだろうか、
涙の意味を自分ですら理解できずに、ただひたすら声を殺して泣くレイミであった。
時間は流れ、
ーーーームーンベースの副長官室ーーーー
ステーキを切り、口に頬張りながらシマダはある人物と通信していた。
「ああ、例のレイミ君との全ての映像だがね、彼女にはもう飽きてしまったのでな。
映像を売りに出してくれたまえ」
シマダの通信先は、自らが副業で経営する大手のホログラム映像レンタル店「SHIMAYA」の代表であった。
「いいんですか?顔だしで?問題になりませんかね?」
「ばか者、当然ワシと関係者はモザイク処理に決まっておる!もちろんレイミ君は実名顔出しでかまわん」
「了解しました、準備が出来次第、レンタルコーナーに並べます。コレは間違いなく、人気がでますよ」
通信を切ると、シマダのオプションズの一人が口を開いた。
「ほ、本当に大丈夫でしょうか?」
「ああ?」
「ケニー司令、エルダー艦隊、ほとんどを派兵し、いまやここは無人状態です」
「ふんっ、今回の件、全艦隊を望まねば、取り返しのつかないことになる、そうワシのゴーストが囁くのだ」
「え?何ですって???」
「カンだよ!そんな気がすると言っただけだ!」
シマダも伊達に副長官の地位まで上り詰めていない。この何かを感じ取る嗅覚、これがシマダの出世の最大の武器であった。
その嗅覚が、すべての戦力を派兵させたのだ。だが、その後の自分の運命までは分からなかったようだ・・・
「まぁ、くだらん戦いなど、奴らにまかせておけばよいのだ。おい!火がちゃんと通ってないぞ!」
「○×△ウ゛ぁ□×○!!」
その謎の言葉がシマダの最後の言葉となった。バロックダークから放たれた熱光線がムーンベースを焼いたのだ。
ーーーーーー2年後、カルナスブリッジーーーー
「レイミも一緒だ、ずっと・・・ずっとね」
「言われなくても・・・絶対離れてなんてあげないんだから♪」
地球での悲惨な出来事から、シマダに弱みを握られ様々な陵辱を受け続けてから二年。
レイミはエッジと共に、再び艦長、副艦長としてカルナスに乗っていた。
いろいろ辛い出来事はあったが、今となっては過去の事だ。レイミは今、幸せを感じていた。
エッジと共にずっといられる・・・これからエッジと一緒に幸せになるんだ、そう思い確信していた。
・・・・・二人がブリッジでらぶらぶ会話をしていた頃、地球のとある場所である出来事が沸き起こっていた。
今更文明など捨てて農作業など出来るかよ、と移民せずにこっそり地球に残ったエルダー人が経営する、
絶好調で店舗拡大中のホログラム映像レンタル店「GEOLDER」だ。
2年前・・・シマダがレイミの映像を売りに出すよう言った後、シマダが戦死しSHIMAYAも潰れ映像が流出することはなかった。
だが、その映像が最近、SHIMAYAの在庫を引き受けたレンタル店GEOLDERで発見され、日の目を見ることになったのだ。
「現役USTA隊員、レイミ・サイオンジ主演。名家西園寺のご令嬢の秘密の情事の数々が今明かされる!」
といった宣伝文句と共に、店のアダルトコーナーに並び、物凄い人気を集めていたのだ。
もちろん、男優ともに全て無修正の顔出しであった。口こみ等で爆発的に広がり、暫くしてそれはUSTAの耳にも入ることになる。
レイミは勿論のこと、男優扱いのケニー長官もこの件で地位を危ぶまれる窮地に追い込まれることになるのだが、
・・・・これはまだ少し先の事である。
【レイミ・END】
本編シマダの断末魔、キャラの好感度によって地味に変わるらしいな。
何のためにそんなギミックを入れたのか不明だがw
SO4、4本目のうち3本が鬼畜系とは・・・
イイ!もっとカモーン
エイプリルフールに新作作ってます発表とは
AAAらしいというか
だがアイレムには及ばんな
トライア様もなんかやればいいのに
アイレムとやらは何やったの?
あら、ゲーム好きには有名かと思っていたがそうでもないのか
毎年、エイプリルフールに公式HPがネタで固まるところの一つ
ゲームではR-typeとかスペランカーとか絶体絶命都市とか作っているとこ
や、俺が疎いだけなんだ
教えてくれてどうもありがとう
日の変わらないうちに公式のぞいてくる
VP3
ラジアータ2
インアン2
完全新作
さあどいつだ
完全新作しかないだろ
VPは初代を越えられないだろうし
ラジアータとインアンは前作の評判が悪く続編が売れると思えん
SO4も評判はいまいちだったからなおさら
ここは起死回生の一作を作るしかあるまい
VP並みは無理だとしても
それのような一本を
でなきゃAAAはもう立ち直れまい
クソゲーメーカーの汚名を覆す最後のチャンスだよ
個人的にはイセリア様が出てくれる限り買い続けるが
そんな妙な信者ばかりではあるまい
ついでにラジアータのイセリアが一番好き
SO4いまいちだったのか
海外では酷評だったとは聞いてるが
しかしそこで空気読めないのが変態集団AAAだと俺は信じている
完全新作が濃厚だがVPRSIUの可能性も捨てきれない
絵だけみるとインアンぽいんだよな。
SO4でちょうどAAAは10作品出したことになるから、
次回作はディシディア・トライエースだよ
その発想はなかった
AAAキャラ総出演ゲームとか
それほんとにずっと出してほしいと思ってる
さすがにラジ全員は無理だろうけど、星海シリーズのパーティキャラくらいは
全員出してほしいな
しかしぶっちゃけ俺たちみたいな信者…もといファンにしか売れんぞ
やっぱりAAAが再評価されるような一作が必要
238 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 04:55:26 ID:m1irTQV+
今度のAAAの完全新作も、
スクエニが販売するのかな?
内容は、
カペルとアーヤが3つの地域を巡って、
3つの国を興す。
一人ずつ合計3人の子孫を残していく!
個々までが、1章。
そして、100年後
2〜4章はそれぞれの国の王子×2・王女×1
の旅立ちの物語。
5章で3人が出合って、
巨悪に立ち向かって行く!。
そんなカペルとアーヤの愛がたっぷりのゲームと予想。
239 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 06:01:38 ID:CwR1pLFG
どうせまた何年も待たされるんだろうな
新作っても最低二年は待たされるな
ながけりゃ五年
アドレー×クレア
「お父様はこれから何をなされるつもりなんですか?」
突如実の父親であるアドレー・ラズバートにベッドの上に押し倒され困惑しているクレアに対して
「む?クレアが幼いころパパのお嫁さんになるっと言ってくれたではないか。」
押し倒した本人は過去に交わした幼き頃の娘との約束を思い返していた。
「それが今の状態とどう関係あるのです!」
実の父親とはいえいつ何をされるかわからない。
気を許してしまった自分を心から呪った。
「お前もおかしなことを言うのだな。お前が儂の嫁になったのであれば子作りをするのは当然のことだろう?」
「あの時のことを真に受けないでください!」
「あぁ今ではすっかりあやつに似おって…愛くるしいのう。」
「お父様…?御冗談ですよね?」
「はっはっ、久しぶりにエキサイティングしてきたわあ!!」
「ちょっと待っ……いやぁぁあぁぁぁぁぁ」
続くはすがない
それカップリングちゃう。レイプや!
クレア×アドレー
「クレアはこれから何をするつもりなのだ?」
突如実の娘であるクレア・ラズバートにベッドの上に押し倒され困惑しているアドレーに対して
「え?私は幼いころお父様のお嫁さんになるって言いましたよね?」
押し倒された本人は過去に交わした幼き頃の娘との約束を思い返していた。
「それが今の状態とどう関係あるのだ!」
実の娘とはいえいつ何をされるかわからない。
気を許してしまった自分を心から呪った。
「お父様もおかしなことをおっしゃるのですね。私がお父様のお嫁さんになったのであれば子作りをするのは当然のことでしょう?」
「あの時のことを真に受けるでないわ!」
「あぁ今ではすっかり肉棍棒になられて…愛くるしいですね。」
「クレア…?冗談だろうな?」
「はっはっ、久しぶりにエキサイティングしてきたわあ!!」
「ちょっと待っ……うぐあぁぁあぁぁぁぁぁ」
ちょっとやってみたくなった。ごめん
>>241
不覚にも笑ってしまったw
新作の正体がわかるのは10日か
5分前位からPCにはりついてる俺が見える
今日わかる
エwンwドwオwブwエwタwニwティーw
こんにちはファビョニスです
続き投下させてもらいます
注意書きは
>>4でお願いします
人生に用意された蜜月は短い。
無理のある結ばれ方をした二人なら、尚更。
心根のしっかりしているセレスが壊れていられる期間は短かった。
どん底から幾許か這いあがることができると、あっという間に視界は拓ける。
「んっ…」
初夏の宵闇。室内に忍び込んでくる夜気。
月明かりの下、二人は静かに唇を重ね合わせていた。
啄まれながら両耳をそっと塞がれる。
音が籠もり、交わる舌の音が大きく聞こえて、より淫猥に心臓に響く。
甘たるいのだがこの男相手では毒味も強い。渦巻く熱に悪酔いしてしまいそうだった。
「んっ」
舌を絡める間にも手のひらが女体を降下してゆき、指先でいやらしくまさぐってゆく。
「ちょっ…!んんっ…、も…少しは手加減してよ……っ」
一糸まとわぬ裸体。背にした壁がひんやりと冷たい。
今宵の二人は寝台の上にいなかった。
エルドから立ったままを求められたからだ。
初めての体位。
壁を背中にしているので逃げ場がない。不安と愉悦で身じろぎするセレスを責め立てる死神がじっくりと愉しんでいる。
数週間前に和解した。そして正式に恋人同士になった。
だから少しでも相手の欲求を満たしたいと思い、望まれるがままに同意した。
が。
「はぁっあんっあっあぁっ!…エルドっ、やっ、―――あああぁっ!!はっ激し……っ!」
あまりに容赦ない。
月光に晒されて連なる影が鳴動する。
「ひぁああっ」
びくりと波打つ。突然両胸の頂きを摘まれたからだ。
豊かな乳房が弾んで揺れる。セレスの肢体は以前の曲線をだいぶ取り戻していた。
死神はそのたわむ果実にゆったりと埋もれた後、先端をたっぷりと唾液をつけて舐め上げ、口に含んで吸い付く。
もう片方には途絶えることなく指先での刺激を与えつつ。
「はぁあっ!…くッ……ぅん…」
いつも見ている天井ではなく、部屋を見渡せる体勢。視界が違うと気分も昂ぶる。
凄まじい羞恥の襲来を、壁にしっかりと張り付くことで耐える。
そんな女の上気した肌を弄ぶ手が更にするすると滑り落ち、長い指を茂みに辿り着かせた。
「あっ」
緊張を含んだ吐息が甘く男の耳を撫でる。
濡れた秘部を茂みごと包み、芽と秘裂の上で指先を踊らせる。
「や、エル…ド」
「大丈夫だからじっとしてろ」
くちゅ、じゅぷ、とたっぷり濡れた秘部から零れる淫猥な水音。
すっかり慣らされた入り口は男の中指を一本、あっさりと付け根まで飲み込んだ。
「んんっ!」
思わず顎を反らす。
中で蠢かれると身悶えるしかできなくなる。
「エ、ルド…っ。こ…いうの初めてなのっ、あんまり激しくしないで」
煩悶の合間に必死に懇願しても、
「いろいろやった方が早く慣れるって」
要求は聞き入れられない。絶え間なく蜜が溢れ、つうと下肢を伝ってゆく。
「あっ…はんっ、あっ、あ…ふぁ………」
彼女の中でいやらしく蠢動して執拗に鳴かせ続ける。
やがて完璧に準備の整った女体を確認すると、淫猥な指はゆっくりと引き抜かれた。
片足を持ち上げられて、同じようにゆっくり、滾ったそれを挿入される。
「いやっ…」
指とは明らかに体積の違う熱い異物の感覚。思わずぶるるっと震えたが、
「ずいぶん慣れたな」
何度も夜伽を重ねたそれの持ち主に、半目で薄く嗤われただけだった。
まったくその通りで、セレスの体は男のそれを受け入れる態勢が早くできるようになり、事後の異物感すら
薄くなるまでになっていた。
まったくその通り。
なのだが。
「やっ!」
荒く突き上げられる。激しい快楽を纏った衝撃がずん、ずん、と重く、何度も全身を走る。
「はあっあっ!あああぁっ!激しっ、て、あ、ああぁあん!!も……もう、あっ、だめだって、ばぁ……っ!」
およそ彼女らしくない泣き言が、根性のひん捻じ曲がった男を更に煽る。
紅潮した頬に生理的な涙がつたう。
壁に張り付くのは限界だった。ただ男に凭れ掛かり、波が来る度ぎゅっと抱きついて、翻弄され続けるしかない。
「ほら。イけよ」
女の表情に限界が近いことを感じたらしい。ぐっと大きく角度を変えて、彼女の弱い所を突き貫いた。
「あぁあ――――――…っ!!……」
ひときわ高い嬌声と共に絶頂へと達し、くたりと力が抜けた。
秘裂のすぐ外で精を吐き出される。愛液と交わり、混じった熱が滴り落ちた。
汗がどっと噴きだす。艶やかな荒い息遣いだけが一人分だけ大きく響いた。
セレスはエルドに寄りかかったそのままの体勢でずるずる崩れ落ち、ぺたんと座り込んでしまった。
床の冷気が下半身をひんやりと冷やす。
体内を巡る恍惚の余韻は砂糖菓子のように甘たるい。すっかり蕩かされた体は痙攣が止まらない。
「ベッド行くぞ」
そんなセレスに更なる快楽の続行が求められた。
ぎょっとして身を引こうとしても完全にエルドの手の内である。
「やっ、もう無理だってば」
「却下」
焦燥まみれの拒絶は無視される。
床から掬い上げられると、抱きかかえられたまま、すぐ近くの寝台へ投げ出された。
「エルド!」
愛おしげに口付けられても誤魔化されるわけにはいかない。
「待ってよ!も、今日は終わりにしてよ。やだってば。ほんと、無理…っ」
顔を押し退けても、
「だらしねえなったく。じゃあこれで最後な」
『最後』を強調され、不満顔の男に脚を折られてしまう。
「……っ」
ついていけなかった。
終始押され気味で抗う隙も与えられない。
おまけに。
時折フラッシュバックを起こしてしまい怯える様相を呈すと、苦い顔つきで舌打ちをされる。
あの一ヶ月をとっとと忘れない方が悪い、と言わんばかりなのだ。
やはりセレスはエルドという男をまったく理解していなかった。
なんという短い反省期間なのだろうか。やっぱり演技だったんじゃないかと勘繰りたくなる。
「ああっ、はっ、…ぅうん……」
そんな相手とでは己の喘ぎ声さえ虚しく感じられた。
ただ最後と言ったらそれだけは必ず守ってくれるので、そんな時は彼が果てるまで待つしかない。
ひたすら情火に身を焦がすだけだった。
そんな交わりを幾度となく続けていくと、過ぎ行く時間も手伝ってセレスの頭は冷静になっていく。
何してるんだろう――――私。
そう、率直に現状を疑うようになってしまっていた。
あまりにも不誠実なエルドへの依存心は瞬く間に消え去っていた。
行為が終わると解放に安堵してぐったり横たわるだけだ。
事後の余韻は確かに甘いのだが、何だか無性に切ない。けだるさと虚しさの区別がつかない。
ただ肉欲があるだけで、愛し合っているという感覚がまったくない。
その上、真横からは不満をたっぷり纏った低い唸り声が響く。
「あ―――クソつまんね―――気ィ遣いすぎてハゲそうだマグロ最悪」
これだけやっておいて、その態度。
セレスが空虚に支配される理由は、彼女の精神状態がある程度安定したと同時、相手がこのとおり
あっという間に本性を現してきたせいでもあった。
マグロ。それぐらいのスラングは知っている。
そんな罵り方をされてはセレスも流石にふくれっ面になるしかない。
「悪かったわね。最悪で。……少しは本音隠しなさいよ」
「じゃあそろそろマグロは卒業して俺にも何かしてくれよ」
「…なんかって、何よ」
「言わせるのか?」
嘲笑に近い、にやけた声色が耳を障る。
気分を害して背を向けたセレスに、逃さないとばかり、男の腕が触手のごとく絡み付いてくる。
「教えてやるからさ。それこそ手取り足取り」
言い草に生理的嫌悪を感じる。
和解してから一ヶ月も経っていない。
いないのに、セレスは既にこの男の不実さに辟易していた毎日を送っていた。
「何だよまたご機嫌ナナメかよ」
不機嫌を察したのか、背中の向こうから文句が垂れ流される。
「だから二人でイきてえって何度もいってるだろ。俺ばっかじゃん。がんばってんの」
そう言われても、女の方から何かするなどとは、褥でも優しい夫しか知らないセレスには未知の領域だった。
だが確かにエルドばかりが努力しているのは褥での否めない事実。
セレスは息をつくと、恋人という名を冠した死神の腕をほどき、寝返りを打って向き直った。
「……そこまで言うなら私も頑張るわよ。…でもあんまり度を越えたことはできないからね」
頬を薄く赤らめつつ、行き過ぎた行為を強要されることへの牽制をすると、
「何想像してんだよ」
相手から心底面白がる視線を注がれた。
脳裏で蠢く苛立ちが声になろうとしたが、何とか仕舞い込んだ。
そんな毎日が否応無しに積み重なる。セレスは文字通りうんざりしていた。
ああ――――嫌だな。
この男のこういう、先回りして見透かしたようなことを言って得意げになってるところ。
和解したからといって傷が癒えるわけでもない。セレスは以前よりずっとすさんだ女になっていた。
けれど。
「そうよねぇ……貴方、そういうところがいいってロゼッタでは大評判だったものね」
生前のこの男を取り巻く環境を考慮すれば、納得せざるを得ないところもある。
若い女達の熱い視線。正にモテモテという表現がぴったりだった。
そういう経験をしてしまうと脳内回路がもう普通の男と違うのだろう。
というか、そう思わないとやってられない。
だが赤い髪を指に巻きつけていたエルドは、セレスからの言葉を耳にした途端表情を失くした。
そして少々間をおいた後にぼそっと零した。
「その割にはどの女とも続かなかったけどな」
「え?」
細身に見えて頑強な身体を起こし、水差しから行儀悪くそのまま水分補給する。
「覚えてるか。お前が俺の部屋来た時、俺と一緒にいた侍女どもいたじゃん。
あいつらお前の悪評広めたからってゼノンに速攻で牢屋ブチ込まれちまいやがってよ」
「えっ」
突然の吐露に思わず目を見開いた。
「俺にも原因あったしな。結構気に入ってた女どもだったし。仕方ねえ、流石に後味悪りいから逃がしてやったんだ」
唖然とする他なかった。
こんなところで生前気がかりだった事件の顛末が聞けるとは。
あの侍女達は逃がされたのか。セレスの内側で少量の安堵がじんわりと広がった。
ロゼッタでのセレスは正に女神扱いだった。あの黒刃を討ち取ったという功績も追い風だった。
勝利への象徴とも言うべきひときわ煌く存在。
そんな女の醜聞を城内で広めた。ただで済むはずがないのが常識だ。
「半端ねえ馬鹿女どもでこっちが驚いたっての。あんな状況下で斬鉄姫様の悪口なんざ死刑宣告も同然だろ」
エルドは忌々しげに吐き捨てるが、多分彼女達は青光将軍のお気に入りという後ろ盾を強く感じていたのだろう。
虎の威を借る狐とも言えたが、年若い女達では無意味に気が大きくなってしまうのも無理がない。
「何処へ逃がしてあげたの?」
「知らねえよ。金目のモン俺から巻き上げて捨て台詞たんまり吐いてから勝手に散ってった。
…………あー思い出したら腹立ってきた」
「そうだったの…」
エルドは立腹していたが、彼が侍女達を救ったのは事実だ。そんな彼をセレスは少し見直していた。
「糞女どもが。マジで背中に一発ずつブチ込んでやればよかった」
速攻でがっかりした。
ふうと息をつくと死神は天井を仰ぐ。
「ま、そんなモンだ。俺に近付いてくるのなんて一時の優越感味わいてえだけの我の強い女ばっかだったってこと。
エーレンだろ、本当の意味で人気あったって言うならよ」
驚愕が続く。エルドがあの正義を体言したような天眼の戦士を認めるとは。
どうもセレスに拒絶されたことがかなり強烈だったらしく、考え方を根本から改めたようだ。
それとも本当は昔からあった自覚なのだろうか。
理解し難い男だ。
「ま、」
思案顔を継続するセレスの横にどさりと倒れこみ、再度絡み付いてくる。
「んな昔の話なんぞもうどうでもいいがな」
お前がいるから。
暗にそう言われたような気がして、セレスの眉根が勝手に皺を刻む。
たった一つの大切なものを手に入れた、そんな言い方。
時折怖いくらいに無邪気な一面を垣間見せてくる。
普段が邪悪すぎてギャップを感じるせいもあるのだろうが、そんな時はうまく振り払えない。
されるがまま、抱き締められ髪を撫でられ軽く口付けられた。傷物というよりは宝物にする仕草。
恋人に大事にされているのだから、セレス側も本来なら喜ぶべき場面。
だがどうしても喜べない。
そんなセレスの機微をエルドも流石に勘付いている。
「何だよそのツラ。マグロ続行してストレスで過労死させる作戦でも決行中か?」
「…なに真顔で馬鹿なこと言ってるの」
「違うのか?ならちったあ笑えよ。最近仏頂面しか拝んでねえぞ」
抱かれていても何だか冷たい。
一刻でも早く心を開くのが当然と言わんばかりの不遜な態度はかえってセレスの反発心を煽る。
「ほんと物好きね」
ふいと顔を逸らすと、
「別に自分では物好きだなんて思ってねえけどな」
彼女が何度も口にする自嘲を流さず、初めて反論してきた。
意外な反撃に目を丸くするセレスに向けてつらつらと理由が重ねられる。
「とは言っても、その偏見のお陰で変な虫が無駄に寄り付かねえって特典は昔っからありがたかったけどな。
鎧着けた見た目と肩書きだけで即判断しちまう馬鹿ばっかりでよ。
剥いちまえばいい女がちゃんとお出ましになるってのは、俺は昔からわかってた」
先刻の侍女達の件といい驚嘆が連続する。
この死神に女としての評価を得ていたとは。
「……そんなこと、何でわかってたのよ?」
訝しげに問うセレスに珍しく真面目な声音の答えが返ってくる。
「いつも見てたからな」
「……」
普通なら息をのみ頬を赤らめるべき展開。
だがこんな過程で一緒になった男からでは、正直あまり嬉しさを感じることができなかった。
それが生真面目な女をより苦しめる。
和解したではないか。『恋人』から甘い言葉を与えられているのだからちゃんと喜ばなくては。
そう、恋人なのだ。いろいろあったが、ちゃんと、もっとちゃんと、この男を見なくては。
焦燥と共に思考が混濁し、彷徨い、己の感情がおかしくなったように感じる。
そんな困り顔ばかりのセレスの顎がつままれた。
「本当に全然笑わなくなったなお前。可愛くねえぞ。ちょっとは笑えよ」
「……誰のせいなのかしら」
「あぁん?10割方俺のせいですが、何か?」
ふてぶてしく開き直っている。
不遜極まりない弓闘士は一度起き上がり伸びをして、ばふんと勢いをつけてベッドに倒れ、大欠伸をした。
「つ〜かよ〜実際バター犬以下だろ今の俺〜。
将軍だのエインフェリアだの以前に人間廃業してるっつの」
「あのねえ……」
どんな表現だ…と呆れると同時、セレスはある事実にハッと気がついた。
現状、自分もまたこの男に無理のある性的関係を強いているのではないか。
それを初めて理解し、愕然としたのだった。
「そっそうよね。ご…ごめんなさい」
うろたえて身を縮める。
エルドの方が嫌がっているなどとは夢にも思わなかったからだ。頬が一気に紅潮する。
そうだった。もう、こんな体なのだ。エルドだってかなりの無理をして相手をしてくれていたに違いない。
それなのに私ときたら、早く飽きてくれないか、などと。
燃え上がりそうな程の羞恥に包まれながら、傷だらけの上半身を抱いて必死に呟いた。
「わかったわ。もういいのよ、行っても」
「は?」
「とぼけなくていいわ。自分の体の状態くらいわかってる。貴方だってもうそろそろ普通の女のきれいな肌が恋しい頃よね」
無意識に傷痕に手をあてて俯いた。
「ほんとに、いいのよ。もう」
その言葉を最後にしばらく沈黙が漂った。
だが死神は御暇を出されても動こうとはしない。
それどころかにやついた顔を近づけてきて、こう言った。
「誰が嫌なんて言った?」
「え」
「傷があろうがお前は美人だしな。胸もでかいし。抱き心地だって申し分ねえ。
きれーな女に飼われていくらでもやらしてもらえる毎日なんざ最高の駄犬生活だろ。
逃げる気なんざさらさらねえよ。余計な心配すんな。結構堪能してるんだから」
「………」
図太い。
状況に順応し、心底から楽しんでいる。
美人だきれーな女だなどと並べられても全然まったく一向に嬉しくない。
寧ろ最悪だった。
だがそんなエルドと共に生活していると、セレスもやっと一つ悟ったことがあった。
「私、気付いたわ……」
「何が」
「…貴方初めから、本当に、私に酷いことする気はなかったってこと」
多少やり口が汚かったのはこの際おいておく。
だがその一言を受けて数秒硬直していた半目のエルドに突如青筋が走った。
「あ た り ま え だ」
抗う間もなく覆い被さってきて人差し指の腹で眉間をぐりぐりされる。
「痛い痛い痛い痛い」
「ちょーっとなぁ、気付くの遅すぎねえかお姫様〜〜」
およそお姫様に向けるべきではない悪意の形相。
更に強烈なぐりぐりが襲ってきてセレスは思わず悲鳴を上げる。
「勝手に偏見で鬼畜設定して勝手に怯えてんじゃねーよ!!」
「痛い痛い。本当に痛い」
「正常位以外でやったことあったか?何か道具でも使ったことあったか?縛ったことだってねえ!!
お前がちゃんと感情表に出してりゃぜってーこんなややこしいことにはなってねーんだよっ!!」
次々と不満の矢を乱射してくる。どうやら死神側にも言い分が山積しているのは明白だった。
ぐりぐりをやめた後、胸を張って言い放たれた。
「本気で犯る気だったらこんなヌルいことばっかやってるわけねえだろ!!」
と。
「……」
ただただ、紛うことない鬼畜のくせに…と思わざるを得ない。
エルドは言いたいだけ言うとわざとらしい長嘆息を漏らし、背を向けて寝台に腰掛けた。
「つーか…」
少し気が晴れたようで落ち着きを取り戻す。茶の濃い金の髪をぼりぼりと手荒く掻き毟った。
「お互い生死の狭間を切り抜けてきた仲間だってのを過信しすぎてたみてえだな」
「……」
表情が曇る。それには同意せざろうえなかった。
セレスはエルドを過剰に信じ切っていた。
一方、エルドはセレスに心を許されたと過剰に感じていたのだろう。
結局お互いがお互いを都合よく解釈していたのだ。
そして摩擦が起こった。
騙されたとはいえ、そこまでの悪意がなかったことはわかっている。
だがセレスはうまく割り切れない。何かある度に陵辱を受けた日々ばかり思い出してしまう。
恋人という名目の下、そんな悪夢の日々を必死で忘れ去ろうとしていた。
現在の相手こそ大事にすべきなのだと頑張って自己暗示をかける。
「そろそろ眠りましょう」
気を取り直して呼びかけると、エルドは素直に毛布の中へ潜り込んできた。
求められるのが好きな男。褥でお強請りを言わせたがるのもその一環だったのだろう。
「それにしてもよ」
「何?」
「お前ほんとにゼノンとは特に何もなかったんだな」
思い直したばかりなのに、再度苛立ちを誘われてしまう。
命を賭して戦った盟友との絆に土足で踏み込まれた不快。
どうしてエルドという男はこうなのだろう。
男と女が一対いれば必ず性的な事象が起こるのなら世の中大混乱だ。
「怒るなよ。ゼノンの方は俺のセレスに手を出したらブッ殺すぞってな、そりゃ凄まじい勢いだったんだぜ」
「もう。そこはセレスじゃなくて。斬鉄姫―――――という意味でしょ」
そんなことをわからない男ではないはずなのに。嫌悪の感情が迸る。
エルドはそんな刺々しいセレスをじっと見つめている。
「やっぱまだ怒ってんのか」
「別に」
別にと言っても、怒り顔のままでは肯定でしかなかった。
「だから、悪かったよ」
あの一件の後、弓闘士はセレスには簡単に謝罪するようになった。
その方が悪い方向への昂ぶりを進行させないことを学習したのだろう。
「なー。ほんとそろそろ機嫌直せって」
エルドが強請ると、何かしてもらうことを欲する子供のような仕草に見える。
それが普段の凶暴具合とまったく噛み合わない。その落差はある意味凶悪な武器の一つ。
「そこまで繊細な女だとは思ってなかったし……」
「何よそれ」
「だから睨むなって。仕方ねえだろ。
それに血筋的にはあのガチムチの不死者王と逆ナンフトモモとアレじゃねえか」
アレ。
ガチムチと逆ナンフトモモもどうかと思うが、アレ。
「…実妹のことアレ呼ばわりされるのも気分のいいものじゃないわね…」
「アレはアレだろ」
名前さえ呼びたくないということか。
この男は何故かセレスの妹を非常に毛嫌いしている。
生前の恨みだろうか。だがそれだけではないように思う。
理由を聞きたかったが、実妹が更に罵られるのが嫌だったのでやめておく。
ため息をついて夢のほとりに行く体勢に入ろうとしたが、エルドの口は塞がらなかった。
「俺はわかってると思ってたんだがな。他の女と扱いが、 ぜんっぜん、 違うのが。何だよいつまでも」
多少恨みがましい視線が重たく注がれる。
「扱いが違うって、……貴方の私への態度のこと?…わかるわけがないわよ」
「わかるだろ普通は。全然違ったぞ」
「わからない」
「わかる。普通なら絶対わかる」
憮然としている。
これに関してはエルドは一歩も譲る気がなさそうだった。
正確に言えば、いくら鈍感なセレスとて確かに少しは気づいていた。
ただしそこに恋愛感情などを感じ取れなどとは無理すぎるものであった。
旧知の間柄であり、仲間として信用を置かれているから、くらいのものとしか思えなかったのだ。
「そんな風に責められても本当にわからなかったんだから……困るわ。
貴方のことだから『最中に死んだらユニオンプラムくれてやるよ』くらい軽く言うと思っていたし」
「…………………俺は今激しく傷ついたぞ…………………」
変な所で自分が見えていない男。
クレセントがあの人を嫌がるのと同じくらいにエルドを毛嫌いしていた気持ちも、今なら何となくわかる。
ただクレセントは、あの人へ見せる態度のような露骨な嫌がり方はしていなかった。
この小さな男が外見に見合わぬかなり激しい気質の悪人だと勘付いていたのだろう。
…クレセントのような年若い女の子が防衛本能を働かせていたのに、私ときたら。と思わなくもない。
ため息ばかりが漏れる。
つまり、こちらは毎回恥辱と絶望で死にかけていたのに、この男にはありきたりな情事だったわけで。
非常に納得のいかない部分もあるが、傷つけようとしていた訳ではない、という事実は精神的に救いだった。
しかし同時に、あの苦しみが誤解からきたもので、号泣等の素直な表現をすればすぐ終わる地獄だったという真実もつらい。
セレスに残された傷痕はあまりにも大きかった。心に残った痕も、身体に残った痕も。
それがひずみになる。
苦悩するセレスをよそに、隣りに横たわるエルドもまた考え事をしていた。
それを行動に移す。
セレスの腿に置いていた手のひらを、するっと内股に忍び込ませてきた。
「ひあっ!?」
不意打ちの襲撃。思わず素っ頓狂な悲鳴をあげ、体を大きく仰け反らせる。
「えっ!?なっ何っ!?」
慌てふためくセレスにエルドは平然と言い放った。
「ちょっとイってくれ」
「は!?ちょ、ちょっバカっ、もう終わりっ、あ……っ!」
悪びれもせず、動揺するセレスの内部で2本の指を蠢かせる。
「あっ、ひぁっ!やあ…ん、じゃ、なくて、ちょっ」
「なあ駄目か?――――これじゃ」
必死に脚を閉じても高慢な男の腕を柔らかに挟み込むだけ。
足掻いてもしっかりと場を陣取っていて内股から動かない。
「あんっ、あああっ、やめっ!!うあ、あっ!!」
ただでさえ行為を終えたばかりの出来上がっている躯。自制など効かせられるはずもない。
柔肌が迸る快感に再び震える。
流れに乗せられて抗う暇もなかった。
「あ…っ!」
軽くイかされてからやっと解放された。
びくびく痙攣しながら荒い呼吸を繰り返すセレスの様子を死神が平静に見つめている。
「……腕が鈍ったかとも思ったが。そういうわけでもなさそうだがなあ…」
そう呟いて、指に纏った蜜を舐め上げた。
「ばかっ!変態っ!!もうっ最低っ!!」
牙を剥いても、
「そんな褒めるなよ。照れるだろ」
そんな態度だから、怒鳴っても怒りが発散できない。
熱した体躯とは真逆、気持ちがどんどん萎えゆくのを感じる。
男に己との交わらない異質を感じ、こんなに体を重ねても未だ遠い存在だとつくづく思い知る。
「本当に…軽くこういうことするのね。…ついていけないわ」
震える声色で機嫌を酷く損ねたのを察知したのか、多少慌て気味に取り繕おうとしてきた。
「セレス」
「私はそろそろつらくなってきた」
聞いてやる義理もない。
つまらない女と罵られてもいい。
やはり駄目だ。
性の問題もそうだが、根本的に相容れない。
「あなたには息をするみたいなものなんでしょうけど、私は違う……。
…やっぱりこういうことは、好きな人とだけしたい」
遠まわしに好きな人ではないことを伝えたかったのだが、
「ガキみてえな言い草だな」
嘲笑めいた冷たい視線を送られただけだった。
「お前さ、いつまでも若けえ女じゃねーんだからよ」
「もう何よいちいち」
「こんだけ成熟した色香ムンムンさせといてそりゃねえだろって言ってんの」
と嗤って、胸元の深い谷間と長い脚を細めた視線で舐め回す。
それがセレスには至極不快だった。反射的に腕で隠して身を引く。それすら嗤われる。
身の置き場がない。
この男は本当に自分を愛してくれているのだろうか。
いや、そうじゃない。
自分はこの男を本当に愛しているのだろうか。
愛せるのだろうか。
問いかけの答えはいつも否定だった。
「…ごめんなさい。何とかなるって簡単に思っていたけど…やっぱり、駄目ね」
やはりエルドを好きになるなど無理だった。
仲直りというわけでもない。もともとそんなに仲が良いというわけでもなかった。けれど一応は和解した。
傷は消えない。だが自分も相手に無理強いし、暴力を振るい、何度も傷つけた。
お互い様。だからもういいと思う。
「貴方も、そろそろ飽きたんじゃない?私達、潮時…………」
セレスが別れを仄めかしたと同時。
「なー。アレまたやってくれよ。アレ」
台詞に被さるようにしてエルドが何かを強請ってきた。
「…なに」
勢いを殺がれて嘆息する。
エルドは彼女の肩を抱き、耳元で吹き込むようにそれを再現した。
「『どうしたの…しましょうよ。早くきてメチャクチャにして』」
飲みかけていたコップの水を吹き出す。
「ちょっとっ!!何それっ!?変な尾ひれつけないでよっ!!」
その台詞は病魔に侵されたセレスが死を覚悟した時、エルドに吐きかけた投げやりの挑発だった。
いくら猟色家でもこんな水疱だらけの女とできるわけがないだろうから、と。
ただし早くきてだのメチャクチャにしてだのは口が裂けても言っていない。
セレスの溢れ返る怒りを無視してエルドは不満をつらつらと漏らし続ける。
「あん時は鳥肌たつ程エロくて良かったのになぁ」
「話を聞きなさい!!」
「こんな邪険に扱われるなら我慢せずダイブしときゃよかった。勿体ねえ」
「……っ」
本音を紡がれる度、セレスの何かが凍り付いていく日々。
震える花唇が薄く開く。
聞かなければいいのに、聞かずにはいられなかった。
「………何で、しなかったの?」
「そりゃお前イカれた薄ら笑い浮かべてたから、やっちまえばそのまま発狂すんの目に見えてたからな。
あれはなかなかの葛藤だった」
さらりと答える、その思考回路に戦慄する。
ただでさえ死にかけていた時のことをネタにされて不快の限度を超えているのに。
「貴方って人は…自分さえ良ければ相手がおかしくなってもいいのね」
全身を震わすセレスに流石にまずいと感じたらしい。
「だから。どう見てもやべーからやんなかったっつう話だろ。いちいち絡むなよ」
「……そういう選択肢が浮かぶこと自体がもう信じられないのよ……」
「睨むなよ怖えーな」
墓穴を掘ったエルドは舌打ちをして視線を逸らせる。
「お前にあんな熱っぽく誘ってもらえたのに乗れなかったんだから後悔しててもしゃーねえだろ」
怒りを滾らせるセレスには死神が何を言っているのかよくわからない。遠い異国の人間のような気すらしてきた。
雰囲気に押されて更に言い訳が並べられる。
「壊れかけってのは魅惑的に感じるんだよ。それにあのお前だったら背中に手ぇ回してくれただろうからな」
「背中に手を回すくらい言えばいいじゃない」
「嫌々やられても全然嬉しくねーよ」
嫌々やられても。
やはりある程度嫌がっていたのは理解していたのだと再確認する。
エルドとこじれる度、心の中で別の自分からの激しい叱責を受ける。
己を陵辱した男といつまでも、一体何をしているのだ、と。
「もういい。今は自然に手が回ってくるしな」
「……」
憤りに支配され、返答ができなかった。
自然でにはない。最近ではいつも儀礼的に、気を悪くするだろうと思って、だ。
そんな己もまた許せなかった。
「…………」
そして最後には情けなさが重く圧し掛かってくる。
最近のセレスの表情は、この男と対面している間中、ずっと歪んでいた。
受け入れた時、もう少しばかりは歯車が潤滑に回ると思っていた。
何でここまで噛み合わないのだろうか。
この男の手を取った己の愚かさに再度気付かされる。
突拍子がなさすぎて反論する気さえ萎えゆく会話に、気がつくとどっと疲れている自分がいる。
倦怠期なんてものではない。
描き出す関係はあまりにいびつすぎる。
だめだ。
合わない。
やはりこの男と自分は合わない。
顔を見ているのも嫌になり、背を向けて横になった。
「おやすみなさい」
「おい、それなりな相手だから思いとどまったって言ってんだぞ。理解する気あるか?」
耳元での批難を、毛布をかぶることで遮断する。
そのまま無言でいると、相手からも投げやりなため息が漏れた。
「どうすりゃお気に召すんだか」
潮風が優しく吹きつける。
鮮やかな青海が夏の到来を歌っている。
「…こんな所あったのね」
茂みに覆われた狭く急な小道を抜けると鮮やかに視界が開けた。
「俺も偶然見つけた」
エルドに連れられて到着したのは、正に穴場と言っていい絶好の場所だった。
海の青の上に広がるのは、晴れやかな空の青。カモメが優雅に飛んでいる。
照り付ける陽射しと、もくもく立ち上がる真っ白い入道雲からは夏の訪れを感じる。
見渡せばぐるりと向日葵の群生が浜辺沿いを彩る。
足元には可愛らしい夏の花が咲き乱れていて、甘く爽やかな香りがゆったりと流れていった。
低い崖に囲まれた、誰にも知られていないであろう小さな楽園。
大国が消滅し、栄えた港町が掻き消されゆく只中でも、当然だが自然は変わらない。
大空と大地の狭間。
遠き日の、敗軍の将が二人。
夏草揺れる大地から焼けつく砂浜へと歩を進める。
故郷を浮かべる海景色は何故か不思議な気持ちにさせてくれる。
懐かしい磯の香りがそうさせるのかもしれない。
「いーながめ」
「そうね」
「お前が視界に入ってこそいいんだけど」
「……」
「何で嫌そうな顔すんだよ」
「…別に。連れてきてくれて感謝してるわ。ありがとう」
礼を述べても柳眉は下がったままだった。
不貞腐れるエルドの背後で流石に己を戒める。
今回はまったくの好意でこんな場所を紹介してくれたのだ。それなのに。
心の整理がうまくつかない。
邪険にしたいわけでは絶対にない。ないのだが、つい態度に出てしまう。
波打ち際まで歩を進め、強い照射を手のひらで遮る。
渚の風をまとうと穏やかさに雑じり、どこか切ない感情が沸々とわき出てくる。
あの子のことを思い出す。
あの魔術師の干渉のない世界では、志半ばで力尽きていたはずだった少女。
「……」
今でも時折、己の存在に惑う。
何故あの子が死んで、自分などが生き残っているのだろうと。
遠い昔に死んだはずの王女が在て、何故今を生きるはずの王女が逝ってしまったのだろう。
そしてまた、今ではもう歴史書に仕舞い込まれた生前を追憶する。
実妹に敗北した時、元副官が命を落とした恋人に行ったという秘術が脳裏をかすめるからだ。
換魂の法。
アリーシャに、できないかな。
体もない。時間も経過している。無理なのは重々承知。それでもついそんな奇跡を願ってしまう。
アリーシャ以外の皆はどうなったのだろう。解放された身では彼等の進退すらわからない。
本当にただの人間に戻ったのだなということを思い知らされる。
エインフェリアの死は消滅。それを切り抜けて女神から与えられた再生の肉体。
例外中の例外の生――――――
「また何か暗いこと考えてやがんな」
物思いに耽っていたら、どこに所属しようが常に問題児だった男が苦々しく唾を吐いた。
「私はもともと暗いわ」
「何だよその返事。お前最近更に冷たくなりやがらねえか」
「……」
やはりエルドも気付いている。
セレスが彼に向ける表情は日に日に影の濃さを増していた。
「…段々正気に戻ってきただけよ。だって変でしょ。お互い、散々痛めつけてくれた相手とのんびり散歩してるなんて。
……狂ってるわ」
棘のある返答をしても、エルドは眉一つ動かさずに空を仰ぐだけだった。
妙に受け流しがうまくなった。
それを細めた横目で確認してからセレスは息をつく。
案外、しつこいな。
生前の優雅なとっかえひっかえ生活を知っているので、どんなに長くても一ヶ月だと踏んでいたのに。
こんな場所に連れてきてくれることといい、お気に入りの女だというのはどうやら本当のようだ。
とはいえこの男に気に入られても申し訳ないがまったく嬉しくない。
……。
ふと過ぎった不安を無理やり消散させる。
大丈夫。
この男が飽きっぽいのは元宮廷魔術師殿のお墨付きなのだから。
ひと月後には同じ女性を連れていたためしがないとため息をついていた。
華やかな姿態で異性を引き寄せて、仕込んである毒の針を密かに、気付かれることなく打ち込み酔わせる男。
飽きたらそれで終わり。そう、そういう男だ。
己に言い聞かせ、大きく深呼吸してから青空を見上げる。
大丈夫。あわてずとも良い。
もうすぐだろう、彼の方から別れを切り出してくるのも。
今はきっと、知らずのうちに追い詰めまくってしまった負い目からくる修繕作業の一環のつもりなのだろう。
それにいつまでも男を引きつけておく魅力が自分にあるとも思えない。
それ以前にもう傷だらけで、まともな体ではない。
もうすぐ白い滑らかな肌をもった女が恋しくなって、去っていくのだ。
だったら、待とう。
セレスは世界の片隅で、静かに関係の自然な崩壊を待っていた。
情けないとも思う。
だが、
………もう、面倒はごめんだ。
真珠光を放つ貝殻が陽光をはじき、輝く。
懐かしいのだが、所詮は裏切りの身。幾許かの居心地の悪い郷愁。
少しずつ伸びてゆく赤い髪が夏風にさらさらと揺れる。
海の上に滅びた王都が浮かんで見えた。
故郷を破滅へと導いたのは、惑いに苛まれつつも任務を遂行した黒い髪の美しい戦乙女。
元王女とはいえ反逆者のセレスが彼女のことなど恨めるはずもない。
纏う鎧は漆黒色で…………
ハッとして、思い切りかぶりを振る。
どうしてこう、何かにつけて彼を連想してしまうのだ。
でも。
何をしているのだろうか。
戦場で生き、多分今回の生も戦場で死ぬ男。
今こうしている間にも、あの大剣を力いっぱい振るい、戦っているのだろうか。
それとも。
…誰か、大事な人ができて。その人を、見つめているのだろうか……
「俺がいるのにその考え事は流石に酷くねえか」
心臓が跳ね上がった。
エルドから零れた不満はセレスの淡い追慕を瞬時に叩き壊す。
見透かされている。
「ご、ごめんなさい…!」
素直に謝罪したら、
「何だマジでかよ」
引っかけだったことを知った。
見事に引っかかったセレスはぐうの音も出ない。
「別にかまわねえよ。お前の心がどっち向いてるかなんて前からわかってる。俺が好かれてねえのもわかってる」
つっけんどんに吐き捨て、ふいと身を翻して先に行ってしまう。機嫌を損ねたのは一目瞭然だった。
慌てて追いついて取り繕おうとするが、先に弓闘士からのねちっこい嫌味が飛んできた。
「白馬にでも乗って助けにきてくれるってかぁ?あの黒いのが。腹かかえて笑えるなそれ」
陰湿な台詞。謝罪も切り出せない。セレスは遣る瀬無さで目を伏せた。
嘘をついてもばれてしまうので、素直な気持ちを口にした。
「…夢見たり願ったりすることはあっても、実際に来てもらえるなんて思ったこともないわ。
私はあの人にとってお姫様なんかじゃない……ただの忌々しい、腰抜けの宿敵。それだけよ。
…………殺しにきてすらもらえないわ」
「……」
エルドの目にほんの少しだけ異議の光が灯ったが、すぐに霧消した。
気付きもせずにセレスは潮風に髪を揺らす。
愚かだと感じつつも焦がれていたのは、あの人の肩越しに見える継続する明日だった。
だがそれは戦乙女シルメリアの作る輪の中でだけの奇跡だった。
解放されると特別な時間も消えた。
覚めても消えない想いだけが残った。
気まずい空気が漂ってしまい、その後はしばらく無言で歩き続けた。
ふと顔を上げると、切り立った小高い丘が目に入った。
「あれは……」
「何だよ」
「あ…ううん。あの丘。ちょっと形は変わったけど、生きてる頃に登ったことあるかもしれない」
生きてる頃、と言う言い方も変だ。今だって生きているのだから。
「ゾルデで夏祭りがあったの。お忍びで兄がフィレスと私を連れていってくれて。その時三人で登ったのよ」
高い所からディパンを見たい。そう小さなフィレスがだだをこねて―――
ただあの時は茂みも薄く傾斜も緩かった。幼い妹の手を引いて登ることもできた。
今では頂きが地肌を見せているだけで、その下部はうっそうと繁茂している。
「無理ね」
セレスの諦めと同時。
「行ってみるか」
エルドは何の苦もないとばかり、セレスの答えも待たずにがさがさと茂みを掻き分け、太い蔦を引っ張り選別した。
そして難なくひょいと登る。猫のように軽快な姿態。
「ん」
高みから手を差し延べられる。
躊躇ったが、流石に無視も悪いと思い手を伸ばす。
重なった瞬間に思い切り引っ張り上げられる。
指示された狭い足場に着地し、エルドがまた登り、また彼女を導く。
それを数回繰り返したら頂きに到達して視界が一気に拓けた。
広々見渡せる青一色の世界に、ぽつんと壊れた故郷が浮かんでいる。
「ありがとうエルド」
「ここだったか?」
「……わからない……」
だが記憶は鮮明に甦る。
あの頃は夢も希望も憧れも願い事も、すべてが波間と一緒にきらきらと輝いていた。
兄の肩車ではしゃぐ、丸い丸い、きらめくあの子の瞳―――――
ほんの少しだけあの夏の匂いがした気がして、やるせなさで目を伏せた。
本当に、遠いところまで来てしまったと実感する。
「解放されるのなら、自分ではなくてフィレスを指名できたらよかった」
そんな都合のいい肉体再生は不可能と知りつつ、ついそう願ってしまう。
無意識にぽつりと漏れただけの本音だったのに、
「何だ今度はアレの話かよ」
エルドにまるで汚いものを罵るように唾を吐かれた。
いつまでもセレスの思考経路に自分の出番が来ないことを苛立っているようだ。
わかっていても妹への度を越えた侮辱は聞き流せない。
「あの子だったら貴方みたいな酷い男に引っかかるようなこともなかったでしょうしね」
負けじと皮肉雑じりの流し目を送る。
「冗っ談。俺にだって最低限を選ぶ権利ぐらいくれよ」
セレスとて身内としての情がある。最低限などという言葉を持ち出されては流石にかちんときた。
「あの子を罵るのはいい加減にしてよ。姉の私が言うのもなんだけどフィレスは十分可愛いでしょ」
すると死神は冷や汗をかきつつ真顔で迫ってきた。
「無理だろ…!58とか常識的に考えて………ッ!!」
「誰がそんなこと言った」
追憶の向こうにいる実妹。容姿も性格も全然違う。飾ることをしない、揺らめく炎。
それにしてもエルドのこの、実妹へ向ける憎悪の正体は何なのだろう。
疑問を放置しておくのは好きではない。この際思い切って問いただしてみることにした。
「そこまで嫌うのは、貴方が占拠してたラッセンに包囲網を敷いた張本人だから?」
「やなこと思い出させるなよ」
童顔が見る見るうちに渋味で染まる。
17歳の少女が幾つもの大国を巻き込んで巡らせた壮大な策略。
エルドは生前それでラッセンに孤立させられ、追い詰められて奮戦虚しく死亡した。
それでも最後まで足掻き、血反吐を吐きながらも矢をつがえ、まさしく鬼神の戦いぶりだったと聞き及んでいる。
「まあ、それも勿論だが。それ抜きにしてもどうも好かねえ」
「もう。何でよ」
「知らねえよ。多分お前射抜いた女だからじゃねえの」
息が止まった。
エルドの怖いところがもう一つ露呈される。
時折不意に、心臓をぐっと掴むような台詞を無意識に吐くところ。
何の飾りもつけない本音がセレスの心にぐっと堪えるのだ。
そしてそれはまた一つ彼を振り払えなくなる重石となる。
この男は、何だかんだでセレスのことをちゃんと想っている、その事実確定。
セレスにとっては非常に切なく心苦しい、重い現実。
「帰るか」
「…えっ?……え、ええ」
慌てて同意した。
下方を見降ろす。登るのは比較的楽だったが、降りるのは難しそうだ。
斜面の泥で汚れることを覚悟する。
だがエルドはセレスの手をとり、ぐいと逆方向へといざなった。
「え?」
ざっと茂みを掻き分ける。
すると茂みの向こうに隠れていた、なだらかな迂回路が正体を現した。
「…………」
唖然としているセレスの隣りにいる男がそっぽを向き、声を殺して嗤っている。
「知ってたのね?」
わざわざ蔦をつたって泥にまみれなくても――――わざわざ手をつながなくても良かったのだ。
「さーぁ」
「〜〜〜〜〜〜っ」
先程のやりとりで培われたある種の温もりが一瞬で消滅した。
手を振りほどこうとするがほどけない。
この男にも苛立つが、あれ程狡猾な手段で貶められた経験をしたくせに、
まったく学習できていない自分にも腹が立つ。
眉間に皺を寄せたまま、手を引かれて歩き出した。
「ちょっと!本気で怒ってるのよ聞いてるの!?」
怒鳴りつけた相手が顔を上げた。
髪が強い陽の光を浴びて光の輪を作り、金色に輝く。
「いいだろ繋いでたって。どうせ予定なしのお留守状態なんだからよ」
絶句する。目を見張るしかできない。
一瞬、相手が誰だかわからなかった。
嗤っていない。
笑っている。
うだるような熱さのせいで視界がひしゃげているのだろうか。
そう思いたい。
「帰ろうぜ」
困る。
――――――何故、笑う。
そんな風に新しい一面を見せられたって、変わっていかれたって、もうすぐお別れなのに。
困る。
戸惑うことしかできない。
真夏の潮風に吹かれ、『恋人』の手を引く男は確実に幸福を感じている。
振り払えない。
息が詰まる。
本当に何だか、小さな子供のよう………。
陽射しの照りつけで目が覚めた。
寝ぼけ眼で天井を見つめていたら、裸体を抱かれているのに気付いてびくりと跳ねる。
「…」
硬直したままで昨夜の伽を思い出す。
快楽の途中で記憶がぶつりと切れている。
そうだ、途中で気を失ってしまったんだ。
迂闊。
いやだ変なことされてないでしょうね
との疑惑が脳裏をかすめたが、もう散々されてることに気付いてがくりとうなだれた。
こちらがある程度慣れて落ち着いたのを察したからか、最近さらに濃密な絡みを要求してくる。
困る。
……いいからなお困る。
寝息をたてる男を横目で見やる。
眠っている姿は何とも無放備で、表情がないとその未成熟な顔立ちがより強調されて見える。
邪気の宿らない素顔は幼く、正直に表現してしまえば、可愛らしい。
本当に子供みたいな男だ。
見た目だけは。
とても自分と一つ違いの肉体年齢とは思えない。
背が低いのは遺伝か、それとも生まれ落ちた先の不運から受けた何らかの妨げによるものか。
こういう容姿の男が好きな女にはたまらないんだろうけど……。
青息吐息と共にそう思う。
夏の間にまた少し元の長さに戻りつつある紅い髪に埋もれてぬくぬくと眠っている。
以前は目が覚めると既に不在の場合が多かったが、最近は起きてもベッドに残っている率がいやに高い。
気を許されたのか、それともさらにナメられてしまったのか、
どちらにせよこの男ではまったく嬉しくない。
……。
違和感を感じる。
なんだか。気のせいだろうか。
また背が縮んで小さくなってないかこの男?
ただでさえ自分と大して変わらない…いや、実際は自分より…な身の丈なのに。
…………。
さすがに。
「そんなわけない…か」
それにしても童顔な男。
この現場を押さえられたら自分の方が少年趣味の性癖有りとして変な目で見られそうだ。
時折成人もしていない少年と閨を共にしているような妙な背徳の情に苛まれる。
この少年に振り回されているのかと思うといっそう情けなくなる。
嘆息する。
そうじゃない。
この男と私なんていう、有り得ない組み合わせがそもそもの違和感なのだ。
ただ、同じ国に属し同じ戦乙女に選定されほんの少しだけ道が交わっただけの、まったくの他人。
本当に。
なんで、こんなことに。
この男との一夜を望む女なら、ロゼッタにいた頃それこそ星の数ほどいたのに。
何故私。
世の中とはうまくいかないものだ。
認めたくはないのだが――――どうやら私はこの男に、非常に弱い。
強引なやり方に常に翻弄され、ごまかされ押し切られ、知らぬ間にペースに巻き込まれている。
……苦手なはずだ。
海はゆらりと揺らぐ碧。
夏が終わろうとしていた。
依然関係は続いている。
「……」
柳眉が歪む。
甘味も強いが、苦味も渋味も強く、最早味覚が崩壊しているような生活。
時は移ろい、ヴァルキリーに解放されてから既に数ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。
セレスの希望的予測ではとうに終わっているはずの関係。
すぐ飽きるとかいう台詞は一体何処へ行ったのだろうか?
流石に先行きに不安を強く感じ始める。
唯一つ意外なのは、口では滅茶苦茶なことを言っても、セレスに対しかなりの負い目の念を継続していること。
快楽は常にセレス優先を心がけており、白布の上ではこの上なく甘たるい。
強引だが、強めの怯えを見せた場合は決して無理強いをしてこない。
最近さらに調子に乗ってきて変な体位やプレイをしたがるのは困ったものだが。
溜め息をついてから呟く。
どうせ起きているのだ。
「ねえ…放してくれない。起きたいんだけど」
返事がない。ただの狸寝入りのようだ。仕方なく挨拶してみる。
「おはよう」
ぶらつき癖のある男と未だ完全回復せず沈みがちな女。二人の生活は自堕落になりがちだった。
せめて生活の基本として挨拶くらいはきちんとしましょうと、無理やり承諾させた。
放っておくと気が向いた時、ごくたまにしかしないからだ。
空寝男はやがてもぞもぞと動き出し、
「おはようお姫様」
わざとらしく首筋に口付けてきた。
「今日もエロいな」
「あなた程じゃないわ」
朝っぱらからどういう会話だと思いつつ、束縛を解いて身を起こす。
腰掛けたセレスの腰に腕が絡みつく。
「身体戻った…」
嬉しげに頬をよせ、肌ざわりを楽しんでいる。
女体は豊潤を取り戻し、傷跡の他はほぼ元の体型に戻っていた。
肉感的で抱き心地の良い肢体。
纏わりつく腕を払いのけると豊かな胸がたゆんで柔らかに揺れる。
皮肉にも胸のふくらみは無傷だった。
が、その谷間に埋もれて、深い傷跡がある。
「…どこが『戻った』のよ?」
忌々しげな疑問符が、喉から嫌味を纏って出て行く。
朝の柔らかい光が女を包む。艶麗な曲線を描くが、同時に生き地獄の跡も浮き立った。
既に鎮痛したが、絶望の爪痕は上半身のあちこちで黒ずみ、汚く肌に残っている。
見た目はわからないところでも、触れると凹凸がわかる。
生死の境目から脱した時は命があっただけ、と思えたものだが、セレスとて一応は女、
時間が経てばひどくつらく思う。
この傷跡はあとどのくらい消えてくれるのだろう。
この男が去るころには少しはきれいになっているだろうか。
「こんな傷物の女といつまでも。本当に物好きね」
自尊心も補修が追いついていない。セレスは不必要なまでに己を卑下するようになっていた。
そろそろ放っておくと邪魔になってきた後ろ髪をまとめていると、あらわになった項に優しい口付けが落ちた。
「やめて」
と言ってもやめる相手ではない。
むにゅと豊穣の果実に埋もれ、谷間に舌を這わせる。
猫か。
呆れるも、そうやって傷を愛でるのは罪悪感からくる行為なのだろうなと思うと、無下にするのも躊躇われる。
口付けの軽い音を立ててから、ぼそりと本音が落ちた。
「俺がやったようなもんだからな」
「……」
心身共に穢された躯。こんな風に男と交わるのはこの死神が最後だろうなとセレスは薄々感じていた。
それにしても。
「あなたって存外ベタベタするの好きな人だったのねぇ……」
肌に降り注ぐ口付けは一向にやむ気配がない。セレスも最早好きにしてくれ状態である。
気まぐれな男。行為に及ばずとも、放っておけば一日中くっついている日もある。
こんな一面もあったのか。戦場ではわからなかった。
「お前の肌は甘い」
口付けられながらゆっくりと押し倒されたので、流石にそこまではと退け払って身体を起こす。
「じゃあ次はそういうの好きな子選ばないといけないわね」
心に一定以上近寄られない為の棘を撒くと、
「ひっ!!」
不意打ちで腰から肩に舌を這わされる迎撃を食らい、思わず悲鳴を上げる。
「ばかっもう!変態っ!!朝になったら区別つけなさいよっ!!」
枕でばふばふと殴りつけてベッドから退避する。
退治した小さな怪獣から忍び笑いが聞こえる。
その音に含まれるからかうような余裕に、いささか苛立つ。
「腹減った。メシ」
「はいはい……」
「頼むから食えるもん出してくれよ」
「…ならご自分でどうぞ」
冷ややかな返答と視線しか送れない。
放っておくと朝飯はお前でいいとか言い出しそうなのでさっさと着替えを始める。
会話で示された通り、セレスは料理が下手だった。
食べられれば良いと思っているし、食べさせて喜ばせたい相手もいないので、上達もしない。
エルドの方がまともなものを作る。しかもかなり美味しい。あまりやってはくれないが。
着替え終えてちらとベッドを見やると、まだ眠たげな視線とかち合う。
細すぎるわけでもなく、かといって筋肉隆々というわけでもない。
身長はともかく均整のとれた肉体は無駄のない筋肉で構成され、狩りのための体躯だと納得させられる。
闇から闇へ疾走する姿はあたかも自身が放つ弓矢のよう。
鋭い牙。暗躍するための音を連れてこない脚。硬そうでいて柔らかい姿態。
集団での狩りには向いていない。単独猟で最大限の力を発揮するタイプ。
数百年前、これに捕らわれた。
強い陽射しが髪を濃く照らしつけると、らしからぬ金色に染まる。
見つめ続けていると死神の寝ぼけ眼はすうと消えた。目は細まり口元は歪む。
その挑発的な表情から目をそらす。
多分。
この男の方は、バランスの偏っている二人の力関係を、至極心地よく思っている。
「何」
上目遣いでも変化のない凶悪な視線が注がれる。
多分それは、獲物を見る目。
捕らえた獲物に反逆の隙を与えないよう用心深く見張る視線。
そんな目で見澄まされては、つい反感の炎が灯ってしまう。
「別に。本当背が小さくて細い男だなと思ってただけ」
つんとそっぽを向くと、
「悪かったな」
弱点を突かれ興ざめしたのだろうか、嗤いが消えて口が尖る。
「嫌味か?それとも男に細いだなんて褒め言葉になると思ってんのか?」
エルドと同じように不機嫌なまま無言でいると、
「へえへえ。どうせお姫様は無駄にムキムキなのがお好みなんだろ」
そんな嫌味で返してきた。
「……特に好みってわけじゃないわ。好きになった男がそうだっただけよ」
皮肉の応酬は当然気まずい雰囲気を醸し出す。
「ったく。もっとスカッとした性格だと思ってたがよ、ずいぶん辛気くせえ女だったんだな」
「どこの誰かしらね。拍車をかけたのは」
「…っと、かわいくねえ」
ドアを閉める瞬間に舌打ちが聞こえた。
ため息ばかりの毎日。疲労がますます色濃くなる。
エルドはこんな生活で楽しいのだろうか?
言い争いは好きではない。だが気付くとどうしてもそうなってしまっている。
「好きになった男、か…」
自分で口にすると無駄に自覚してしまい、いっそう気落ちする。
虚無感に支配されつつ食事の用意を開始した。
嫌だな、エルドのあの喋り方。
何でこんなに嫌なんだろう。
あの人だってすごく嫌味で突っ掛かってくる人だったのに、どうして。
「………」
動作がふと停止する。
そういえば何故だろう。疑問がむくりと頭をもたげる。
嫌味の質が違うのだろうか。あの人もかなりの粘着質だったわけだが。
疑問への自己解決は早かった。
あの人の言動は、私を私のままでいさせてくれる。
あの人とは対等だった。やったらやられる、仕掛けたら仕掛けられる関係。
悪乗りすることも多かったが、そう、こちらが付け入る隙を必ず残しておいてくれた。
罵りつつも、私という女を認めてくれていた。
いい意味での間抜けさ。かと思えばそれらがすべて演技だったのかと疑うような、圧倒的な戦力を惜しげなく振る舞う。
豪放な太刀筋。纏う気迫と相手を捕らえる強固な眼差し。そんなギャップがセレスには、
死ぬ程愛おしかった。
大きくて広い背中。この男が味方、その心強さと深い安心感―――――
そこまで回想して、セレスは突如その追慕を強制遮断した。
比較してしまったからだ。エルドは本当にただ一方的なだけ、と。
信じられなくて罪悪感と共に大きく戸惑う。
「……最低ね」
醜態を恥じて歪んだ顔を覆った。
合わない相手との同棲生活ほどつらいものもない。セレスも限界が近かった。
先程の言い争いだってどうだ。どうすることもできない身体的な特徴を罵るなんてどうかしている。
エルドへというよりは己への嫌悪と軽蔑が日に日に重量を増してゆく。
だんだん嫌な女になっていくな、私――――――
肌に残る情交の感覚がいつも虚しさに変わる。
エルドにもいいところは沢山あるのだ。
ただ、私とは合わない。
長い苦悩の末到達した結論だった。
やはりこの関係はおかしい。食事を終えたら今日こそ別れを切り出そう、そう決意した時だった。
「作る気ねえならどけよ。腹減った」
背後の気配にびくりと波打つ。いつの間にかエルドが真後ろに立っていた。
返事をする前に退けられ、朝食の支度を交代される。
料理に関してはエルドの方が手際も良い。その上認めたくはないが正直かなり美味い。
同じ材料、器具、調味料を使ってこの違い。
何だか悔しい。
「意外か?」
文句のつけようがない鮮やかな腕前を披露しつつ、隣りに立つ女の微妙な面持ちを楽しんで訊ねてくる。
「ええ」
素直に答える。
「昔、どうしてもこっち向かせたかった女がいてな。そいつの為に腕磨いた」
突然持ち出された打ち明け話。
セレスは驚いて目を見張った。いたのか、この男に。そんな女が。
「どんな人?」
「気になるか?」
「ええ。是非正反対な女になりたいから」
「あーったくいちいち噛み付くんじゃねえよ朝っぱらから。乳揉みしだくぞ」
あれだけ揉んでおいてまだ足りないのかこの変態
と罵りたいところだが、ぐっと堪えて答えを急いた。
「教えて」
「予想つくだろ。俺を腹から出した阿婆擦れだよ」
絶句するセレスと作業を続けるエルドの間を、肉と卵の焼ける香ばしい匂いが漂う。
「害虫の餓鬼はどう足掻こうが害虫だ」
自嘲というよりは真実を告げる口調だった。
立ち尽くすセレスを置いて作業は進み、朝食の支度は終了した。
「冷めないうちにどうぞ?お姫様」
何と会話をつなげばいいかわからないまま、無言で椅子に腰を下ろす。
「安心しろって。変なモンなんて混ぜちゃねえよ」
「…わかってるわ」
綺麗に盛り付けられた料理を口に運ぶ。
美味しい。
エルドの良いところをあげるとすれば、這い上がらない人間を嫌い、生まれ落ちた先の不運を愚痴らないところだった。
恵まれていたセレスと自分を比較したりなどしない。
羨み妬む、その醜さを知っているからだと言った。そこには先刻阿婆擦れなどと蔑んだ母親の影がちらついた。
微かな同情が湧き出る。だがその分蹴落とそうとする男なので素直に評価できない。
食事が済むとセレスは片づけを始めた。
終わる頃、背後からの不満声が耳に届く。
「何だよまた気に入らねえのかよ」
ソファに移動したエルドの手中できらめく貴金属がちゃらちゃらと揺れた。
エルドは宝石や貴金属の類を運んできてはセレスに渡すのだが、無情にもすべて返却の刑に処せられていた。
困り顔のセレスが濡れた手を拭きながら返答する。
「気に入らない以前に、いらないって何度も言ってるじゃない」
「何で」
「悪いけどあなたから貰い物をしても困るだけなのよ」
高価なものなど受け取っては後で何を要求されるかわからない。
感情表現の苦手な子供が気を引くために物をくれるのに似ている姿が切ないのだけれども、
それ以上に、ちゃんと家賃入れてるけど何か?と暗に言われているような気がして嫌過ぎるのだった。
「似合うと思うがな。これとか」
すっと手をとられて指輪を一つ填められた。
おぞましさに一瞬凝固してしまった。
銀色の光が、あろうことか左手の薬指できらめいたからだ。
「やめてっ!!」
払いのけ、悪寒の元を指から引き抜いて投げ捨てる。
環状の貴金属がコツンと音を立て、小さく跳ねて転がった。
「ひでえ」
真っ青になって肩を震わすセレスに、どうでもよさそうな非難が漏れる。予想はついていたのだろう。
「冗談でもやっていいことと悪いことがあるでしょ!」
怒鳴られるとエルドは嗤い、左手の薬指を右手の人差し指で指した。
「何故左手の薬指に結婚指輪をはめるか。一説、知ってるか」
無言のセレスに解説が続く。
「奴隷の証だ。大昔左手の薬指の血管は心臓に直結すると信じられていた。切れ目のない輪をはめることは所有を示す。
どんなに足掻こうがお前は俺のもの。どこにも逃げられない。逃がすつもりはない―――ってな」
「……」
冷笑雑じりの死神はあまりにおぞましかった。
だがセレスとて負けてばかりいられない。悪鬼の形相で睨み返すと、
「冗談だっての。おー怖ええ怖ええ」
左手をひらひらさせた後、そのまま手の甲を差し出してきた。
相も変わらずにやついたままで。
「むしろ俺にハメてほしいんだけど」
下手に出ているような台詞を吐いても戯言の一つ一つが挑発的なので余計に癪に障る。
セレスは殺気立ったまま悪戯の主を見下ろしていた。
「ねえ本気でいい加減にしてよ………………それとも本当は、私が苦しんでいるのを楽しんでるの?」
「ちげーよ。冗談じゃん。何でそういちいち重苦しく受け取るんだよ」
「……何処が冗談なの………?」
無音が支配した。お互いを理解できない表情が苦々しい。
場違いに、きらきらと光を反射する宝石達。
このまま気まずいままいても仕方ないので、セレスは気にかかっていたことを一つ訊ねてみた。
「…もしかして慰謝料のつもりなの?」
「別に。慰謝料なら毎晩返してるだろ?体で」
あまりに馬鹿馬鹿しい発言に長嘆するしかなかった。
「まあ話を元に戻すと、ご高潔なお姫様のお眼鏡に叶うモンが一つくらいねえかなと」
「そういうのやめて。全然嬉しくないのよ」
「へえへえ」
辛辣な言葉など吐きたくないが、いくら言っても堪えない男なのでどうしようもない。
「だいたい、これ、みんな…どうやって手に入れたの?まさか汚い手段を用いて手に入れたものじゃないでしょうね」
「しねーよ。いいからほら、減るもんじゃねえんだ、もらっとけよ」
「いらないって言ってる!しつこい!!」
ついに怒鳴り声をあげ、乱暴に押し返した。
「お願いだから、やめて。いらないのよ。別れる時後腐れないようにしたいの。もうすぐでしょ?」
早口の中に何気なく終わりを匂わせてみたが反応はない。
ずっとはぐらかされ続けている。セレスも流石に痺れを切らした。
「ねえエルド、私達そろそろ終わりにしましょうよ」
提案に、やれやれといった風な反応を示す。
「何だよ。次のいいチンポ見つかったのか?」
「…あなたのその下品な所が大嫌いだわ」
沸き起こる嫌悪を隠さず睨み付けてもびくともしない。平然と身を乗り出してくる。
「じゃやめてやる。で?そのステキなビチグソ野郎のお名前は?」
「……もしいたとして、聞いてどうするのよ」
「決まってんだろ。今日は暇だし念入りに嬲り殺してくる」
悪意で固めたその言い草にため息ばかりが漏れる。
そんなセレスを得体の知れない生き物を観察するような双眸がじっと見据えている。
「女に先に飽きられるなんざ初めてだ」
「何で貴方ってそう見当違いな方向に飛んでいくのかしら…」
「飽きたんじゃねえのか?じゃ他に男が出来たと疑われてもしょうがねえだろ」
冷笑には渦巻く嫉妬が見え隠れする。美形なのだからそんなもの感じなくていいのに。
「わかってるくせに」
「何が」
「こんな傷跡だらけの体で次の男も何もないってこと」
お堅い女でもある。恋仲になっていざ服を脱いだらこの有様では詐欺だと思い込んでいた。
それに。
「それに…………他の男…なんて……………」
小さく消え行く呟きの裏には一人の男の存在が感じられた。
「ならいいじゃねえか別に。俺で」
それでもエルドの結論は斜め右上を飛んでゆく。
「よくないわよ。私、不実過ぎるでしょう。こんな……最悪の関係、早いとこ終わりにしたいわ」
と言って口ごもるセレスに、恋人もどきから長嘆息が漏れた。
「お前ほんっとにクソ真面目だな」
クソ真面目と罵られた女が顔を上げる。その表情には心底からの苦渋と悲哀が滲み出ていた。
「ちゃんと、愛したいけど。合わないの。どうしてもうまくいかないのよ……」
真実の告白は苦しげで痛々しい。
「だぁからそんな悲しい顔すんなって。俺は別にどうでもいいんだから」
「嘘。貴方だって本当は頭にきてるんでしょ」
否定で切り返されたエルドは目を細めた。
「ああむかつくな。そりゃそうだろ」
やはり納得いかない部分も多いらしい。滲み出る毒気にセレスは怯む。
だがそのどす黒さはすぐに引っ込められた。
「けど仕方ねえよ。俺はそれだけのことしたんだろ。好きなだけ当たり散らしゃいい。
あの黒いののことだって、無理して忘れるこたねえよ。好きなままでいればいい」
「え…っ」
驚嘆して目を見開くセレスに、
「その代わり、しばらく手放す気はねえがな」
やはりかと思わざるを得ない残酷な追い討ちがかけられた。
だが、『しばらく』。その響きは重荷にも救いにも感じられる。
継続はされるが、必ず終わりを運んでくる言葉。
エルドが手のひらをこちらに差し出す。重ねなければならないのは暗黙の了解。
嫌だったが手を添えた。
手をつないだまま、そっとソファに腰掛けるよう誘導された。
「俺がいなくなると困るだろ?」
甲に口付けが落ちた後、そのまま腕を這い上がり舌が流れる。
「…っ」
甘く柔らかな刺激。快感がぞわぞわと背筋を這い上がってくる。仕込まれた躯がつい反応してしまい、ぴくりと眉が歪む。
「……我慢するわ」
「する必要ねえじゃん」
「もう、いやなの。……考え方がまるで違ってはじき合ってばかりなのに、こんな関係おかしすぎるわ」
「そりゃま、俺は別に好かれようなんて思っちゃねぇからな。
何をしたかくらい覚えてる。本気になったところでどうせお前が困るだけだろ」
つまり本気ではない。遠まわしに言われたことでセレスの心に微かな安堵が広がった。
同時に、本気ではないのにこんなに苦しめられているという苛立ちも募る。
「…わかってるじゃない。安心したわ」
そう返すセレスの表情にも、いつの間にかエルドに似た闇色が濃くなっていた。
どちらも退かない。
思い通りにならない女に舌打ちしてから顔を寄せてきた。
「ほんと、だんだんそっけなくなってくな。最近名前すらちゃんと呼んでくれねえのはどういうわけだ?」
更に距離を狭めてきた唇が嫌で、顔を背ける。
「ひ…っ」
ぞくりと泡立つ。
拒絶された唇が首筋に吸い着いたのだ。
「やめ…っ!」
「今更」
「いやっ!」
もみ合いながらも死神側が優勢を崩さない。もがくセレスを腕に抱き、耳たぶを甘噛みながら嗤う。
バランスを崩し、どさっ、と押し倒された。
抵抗する両手首を捕らえられ、頭上で押さえつけられる。
圧し掛かってきた男は、にやつきをすうと消して真顔を見せた。
「あんま怒らせんなよお姫様。俺が悪りいのはわかっちゃいるがよ、そっけねえのも度を超えると流石にむかついてくる」
脅迫としか感じられなかった。
駄目だ。
駄目なんだ、この男は。
もう処置の届かない場所まで闇が巣くって病んでいる。
ただでさえ心の折れた私の手に負える相手ではない。
絶望を確信して青ざめるセレスに更なる距離感を感じたのか、圧力を消し、慌てて宥めてくる。
「だからさ。そんなツンツンすんなって。今はまだ俺の女なんだからよ。反抗しなけりゃちゃんと可愛がってやるから」
猫なで声を与えられても傷を負ったとはいえ元将軍、大人しく言うことを聞く女でもない。
突き飛ばすとソファから飛び退き、十分な距離をとった。
「…結局そうやって脅すのね。女?……奴隷の間違いでしょ」
荒い息をしつつも毒を放つ。
暗闇から引っ張りあげようとしても、もうかなり昔に手遅れになっている男。
それを選んだ女は消沈してうな垂れる。
「あなたのその強引な束縛がいいって女もいるんでしょうね。でも私は大嫌い。私達やっぱり合わないわね」
「だから何でそう反抗的なんだか」
すっと立ち上がり、近寄って、眉根をよせたままの女の顎を持ち上げる。
今もまだエルドは彼女からの自然な微笑みを享受できていない。
「眠り姫してる時はめちゃくちゃ可愛いんだがなあ」
「できれば普段もそう在りたかったわ。でも、無理よ」
「無理で結構」
そう嗤うと、再び腰を抱かれて引き寄せられた。
「やめて!嫌だって言ったでしょ!?」
今度はいくら足掻いても聞き入れられない。
「嫌っ!」
「なあお姫様。俺は謝ったよな。命乞いみてえに必死こいて、哀れなくれえに頭下げて。
あんな情けねえ思いさせてくれたのはあの阿婆擦れの他じゃお姫様が初めてだ。この責任はきっちり取れよ?」
「何言って……!!」
ぐっと抱き締められた瞬間、身体中の毛がぞわっと逆立った。
そして気付く。
愛情ではない。
これは、狂人の執着。
「あの女と正反対の女になりたいって言ったよな。安心しな、もう十分正反対だから。
けど残念だったな。俺が欲しかったのはその正反対の女なんだ」
絶望しそうになった。
だが力を振り絞って必死で踏ん張る。立ち込める闇の匂いに惑わされぬよう強く睨みつけた。
「貴方、今度の生でもずっとこんなこと続けるつもり?」
斬りつけるような一言を放つ。心の琴線に触れたようで、死神は眉をひそめ、束縛を緩めた。
その隙を逃さずもう一度突き飛ばす。
自由になってから深呼吸を重ね、言葉を続けた。
「あなたもう青光将軍でも暗殺者でもないのよ。せっかく真っ白な状態で自由になれたのにいつまでもこんなこと…
真っ当な人生を歩んでみたいとか思わないの?」
震える自身を抱き締めながら諭すセレスは、口調とは裏腹に心底から怯えているのが明白だった。
エルドはずっと無表情でいたが、
「そうだな。考えとく」
毒気を抜かれたらしい。どうでもよさそうに空を仰いでソファに沈んだ。
殺気立った空気は消えた。修羅場を切り抜けたことに安堵する。
以前の覇気を失ったセレスには毎日が苦闘の連続だった。
息が整った頃、疲労困憊に耐え切れず椅子に腰掛けたセレスの背後から腕が回される。
「悪かった」
「やめて。軽く言われても嘘にしか聞こえない」
「俺さぁ――――最近気付いたんだけど」
拒絶を無視して紅の髪を梳いてくる。
「俺に興味示さねえ女ってすっげー好き」
高圧的だが低く甘たるい声色。ただただゾッとする他なかった。
「やめてって言ってるの。気分じゃないわ」
「拒むなよ今更」
「…どうしても嫌な時は嫌って言うわ。…その時はやめてくれる約束でしょ?」
「さあ?」
「さあって…」
強張る表情を楽しみながら顎をつまみ、唇同士が接触する寸前に嗤った。
「お前次第じゃねえの」
今回は以上です。ありがとうございました。終わりまであと4回になると思います
また連投規制にひっかかり遅い投下ですみません。
GJ!
セレスの葛藤がいいです
引き続き正座待機
今回初めて注意書き読んだ
アドニス来ないのかよ!
どうなるのかと展開待つ
乙そしてGJ
乙です
毎回楽しませてもらってますホントどうなるんだ
SO4ももっとこないかな…orz
やっぱりエルドムカつくなwww
セレス頑張れ。
続きも楽しみにしてます。
エッジレイミは鉄板すぎるし
フェイズリムルはエロよりほのぼの愛でたいファンが多そう
作品内ツートップがこうだとなあ
俺はクロウとレイミがいい感じになるんじゃねーかなと読んでたんだが
そんなこと考える暇ないくらいエッジエッジエッジだったからなぁ…
異色だろうがクロウとレイミ見てみたいな。
面白そうだ。
作品名 SO4
カップリング フェイズ×リムル
注意属性 和姦でハードじゃないのでそっち期待してる人は注意。
ほのぼのでエロでもいいじゃない。
若干長くなりそうなので小分けにして行きます。まだエロには入っていないので読み飛ばしておk
「っ…ん…ふぅ…ひぁ…んっ!」
その小さな身体で初めて受ける感覚に戸惑いながらも、リムルはそれを懸命に受け止めていた
決してすべてが快感という訳ではなく、
くすぐったいだの、何だか変な感じという気分の方が強かった。
だけど目の前で、いや自分に跨ってゆっくりと、丁寧に丁寧に自分に触れる彼を見ていると
何だかそんな気分も全てがふぁっと暖かい感覚へと変わっていくようだった。
事の発端は、彼の21歳の誕生日プレゼントの内容の相談を、
彼の親友に行ったことだった。
「けーたん。フェイズは何が好きなのよ?リムはフェイズに何かあっと驚くプレゼントをしてやりたいのよ」
彼の長年の親友はうーん…と首をひねって考え込むと
「えーとねえ…リムちゃん!かな!」
と自信たっぷりで答える。
「そそそそそんな訳ないのよ!けーたん!」
予想外の返答の内容を慌てて否定する。
「いや違わないって!いやいやホント!親友が言うんだからマジマジ!…」
「だからな、リムちゃん。こういうのはどうだ?」
と言って何かをポソポソと耳元でささやく
「な、何言ってるのよ…そんな事リムがしても…フェイズは…フェイズは…
ふーんそうですか!って言って流すのよ!絶対なのよ!」
驚き慌てふためくリムルの様子を楽しむようにニヤニヤ眺めながら彼の親友は
「いやいやいや。それしたら絶対喜ぶから!絶対だ!な?試してみようよ!そして結果は…
あ、フェイズから聞くから!な?」
彼の親友から何だか頭がクラクラする提案を持ちかけられて、リムルはふらふらになりながら、
彼と住む家路につく
いくら長年の親友お墨付きの『フェイズが喜ぶこと』とは言え
恐らくけーたんが期待している結果とは程遠くなるような気がして
普通のプレゼントも用意しておく事に決めた。
寒がりの彼が風邪をひかないように、セーターを編むのだ。
ただし今から間に合うかはよく分からないのが難点だが…
一日に編み物に費やせる時間と自分の作業速度から割り出すと、何とか間に合う計算になった。
だからきっと大丈夫。そう思って彼女は決戦の日に向けて準備を進めた。
そしてついに2月3日が訪れた
結局セーターは間に合わなかった。やはり色々予定通りにはいかないもので、
あと少しというところで間に合わなかったのだ。
フェイズはエルダーの同胞が祝ってくれるらしく、昨日からそちらへ訪問していた。
リムルも一緒に行かないかと誘われたが、セーターの事もあるから、
弟子に教える約束があるからと嘘をついて、いつもより少し軽やかな彼の後姿を見送った。
夕方には帰ってくると言う言葉を、自分にもお祝いをして欲しいと思っていると都合よく解釈し、
それまでには間に合うようにとひたすらひたすら寝る間も惜しんで編み続けた。
「…目が覚めましたか?リムル」
「!!え?フェイズ……どうして…!?」
気がついた時には夕方まで戻らないはずの彼が目の前にいるではないか!
「…夕方には戻ると言ったでしょう?」
……ばかばかばか。リムはおばかさんなのよと彼女は自分の中で彼女を何発か殴る
セーターは当然だとしても、まだ何も誕生日パーティーの準備が出来ていない
あったかいスープもないし、昨日から準備していたローストビーフもまだ形になっていない。
そしてクッキーなんてまだ小麦粉と牛乳とお砂糖とに分離したままだ。
「フェ…あの…ごめんなのよ…」
「どうして君が謝る必要があるんですか?」
と言ってくすりと笑う。
「だってフェイズの誕生日なのに…準備が何も……」
「いいんですよ、エルダーの村でたくさんごちそうになりましたし…それに」
彼は今までひた隠しにしていた編みかけのセーターにも気付いているだろう
「僕のために頑張っていてくれてたって事が分かりましたから」
「ちっち違うのよ!これはフェイズの為なんかじゃあ…!」
何だか必至になだめられているような気がして、悲しくなっていつもみたいにバカな意地を張ってしまう
「じゃあそういう事にしておきます」
料理もセーターも、何一つ形となった物をあげられない自分が悔しかった。
何か、何かないか。何か何か何か…あ、ひとつだけあった。アレだけど…
もうやぶれかぶれだ。ケイの言葉を信じて実行するしかない。
「フェ、フェイズ…こ、これがぷ…プレゼント…なのよ…っ!」
そう言ってリムルは彼の方めがけて突撃し、膝の上に跨った。
そして彼の唇を奪うと、更に彼の上唇を彼女自信の唇で柔らかく食み、ちゅうっと音を立てて吸い、
そして顔を離し、か弱く震える声で言った
「リ…リムがププププレゼントなのよ…煮るなり焼くなり…
フェイズのすすす好きにすれば…!いいのよ!」
彼女にはその台詞の真の意図はつかめなかったが、
顔から火が出る程こっ恥ずかしいセリフだったという事を、口にして改めて思い知る。
きっと彼は「何を言ってるんですリムル。君がプレゼントだなんて僕はゴメンですよ」
とか言って軽くあしらうにきまっているのだ。だって自分なら自分をプレゼントされてもうれしくない。
こんな意地っ張りの子なんて…
台詞を言ってしまってから、そんな考えがグルグルギュルギュル回ってしまっている彼女に対する
彼の返答は、彼女の想像とは180度違っていた。
「…ほ、本当に…いいんですか?」
とりあえず今回はキリがいいのでここまで
次回からはフェイズ視点で行きます。
基本的にリムかわいいよリムたんハァハァするだけです。
>>280 フェイリムキタ――(´∀`) 乙乙
続き楽しみにしてます。
流れぶったぎっちゃって済まないけど、スタオでのMPダメージって吸収ネタとして使えばエロいかもとか妄想した。
例シチュとしては、ソフィア辺りがFD人との戦いに敗北後、磔にされた上におっぱいをギロチン台みたいな所に拘束されて乳首からMPを吸収(ダメージを与えられ続ける)とか。
んで、吸い尽くされた後もただの死亡じゃなく身体は生きてる植物人間に近い状態になって一生凌辱されるとか……スマン、今たぶん頭に蛆が沸いてる。
284 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/13(月) 22:49:57 ID:5fhkypOE
>>277 の続きです
これからずっとフェイズ視点で行こうかと思ったけど悩む
リム視点の方がリムたんはぁはぁできるかな
とりあえずEDのリムはエロい。これは真理
エルダー人にとって21の誕生日は特別だ
21になるとエルダーでは成人として認められるのだ。
そして今まで規制されていた色々な事が許されるのだ。
彼も今日生まれて初めて酒を口にし、その慣れない味に戸惑いつつも上機嫌であった。
「リムちゃんは誕生日プレゼント何くれるつもりなんだろうな?」
皆が自分の誕生日を祝ってくれて、いつもよりハイテンションな中、
いつも通りのニヤニヤ笑いを浮かべたケイがやってきた
「……多分編み物の類だと思うよ。最近夜中まで遅く起きて何かしてるし、
勝手に僕の服を取り出してるみたいだし…」
「へーえ。愛されてるねーフェイズ。通りで先週会った時眠そうだった訳だ。
俺はてっきりフェイズが寝かせてないのかと…」
「どういう意味だよケイ!僕たちはそんな関係じゃ……!」
声を荒げるフェイズに対して親友は、
「まあまあ。そんなに荒れるなよ。ところではい、これ。お前への成人のお祝いだよ」
そう言って彼の手に握りしめさせられたものは……
「なっなななな!なんだよこれ!要らないよ!!」
童貞の彼から見ても明らかにわかるそれはどう見てもゴムだった。
レムリックの文明レベルでは到底存在できない代物。過去のエルダーの最新技術を使った代物だ
「大体どうしてこんなのが残ってるんだよ?!バレたら…!!」
するとケイはちっちっちと指を振り
「大丈夫。後3つしか残ってないから!」と自信満々に答える
「良くないだろ?!って使ってるのかよ!と、とにかく僕はいらないよ!」
そう言ってもう一度親友の手の中にそれを押し込んだ
こんなの持ってたら勢いに任せてしまうかもしれない…という事は絶対ケイには言えないけれど
「へー。後悔しないの?この後家に帰って、せっかくの21の誕生日の夜に、
リムちゃんがごちそうとプレゼント用意して待ってるんだぞ?」
「無・関・係!大きなお世話だよ、ケイ!」
そう言って余計な事を吹き込む親友から慌てて離れると、その後は何事もなく宴会を楽しんだ。
しかし彼はきっとリムルが張り切ってあまり頼りにならない腕をふるっていると思っていたので、
懐かしのエルダー伝統料理を腹八分目までにとどめておいた。
青年は帰路に着く途中、彼女と自分との事を考えていた。
毎日毎日同じ釜の飯を食べ、同じ部屋で寝起きし、生活する。
冒険をしている最中だと仲間という名の運命共同体で通ったが、
今は冒険をしているだけでもない。でも肉体関係はない。
お互いそれで居心地がいいのだからそれで問題ないとは思う。
しかしそれももうすでにそれが辛くなってきている事も、青年は自覚していた。
リムルは僕をどう思ってくれているんだろう。きちんと男として見てくれているのかどうか
という事を、日に10回以上は考える。
でも考えるたびに、彼女はそんな事を望んでいないという結論に達してしまう。
彼女は姿は成長した。心もこんなバカな自分を助けてくれるほどに広くて優しい子だと思う。
だけど知識は…知識だけはどうやら偏っているらしく
自分と夜二人きりだというのによく寒いからという理由で布団に潜り込んできたり、
夏場は薄いスリップドレス一枚で就寝についたり、そのほかにも事あるごとに
自分に接触してくる。
わざとやってるのではないかと疑う事もあったがどうやらそういう訳ではないらしく、
いつも自分に触れると彼女は本当に安心して眠るのだ。
そういう姿を見ると男として見られていないのだという事を痛感しへこんでしまう。
でも、今日で21になった。もう大人なのだ!
今度彼女がそんなそぶりを見せたら、思い切って聞いてみよう!と彼は心に決めた。
陽も落ちかけたころに二人の家に到着すると…
彼女は、今までずっと隠していただろう編みかけのセーターらしき物体と一緒に眠りに落ちていた。
「………」
これは見なかったことにするのが優しさだろうか
しかしいくら寝不足とはいえ家に帰ってきたことにさえ全く気付かないとは…相変わらず不用心すぎる。
これだから心配なのだ。しかも当の彼女はすーすーと気持のよさそうな寝息を立て。長いまつげを一定間隔で上下させている。
……寝顔は天使なんだけどなあ…
しばらくじーっと見つめていたが、その視線に何か感じるものがあったのか彼女が目を瞬かせた。
自分の存在に気づきガバっと体を起こした彼女は慌てふためいて、酷く落胆していたようだった。
彼女の涙や悲しむ姿に自分が弱いことは十分承知しているので、何とか落ち着かせようとしていたのだが…
何を思ったか彼女はこちらに突進してきて膝にまたがり、あろう事か唇を奪ってきて
更に耳を疑うような言葉が彼女から飛び出たのだった。
いつもの自分ならははは、と何とか交わしたかもしれない。
でも21の誕生日、ケイの言葉、そして何よりも今なお右膝に続く少女の柔らかな太股と股間節の触感に抗えるわけがない。
むしろ抗ってはいけないような気がするのだ
「…ほ、本当に…いいんですか?意味わかって言ってるんですか?」
すると顔をほんのりと赤らめたリムルは目をそらしながら恐る恐る口にする
「…ちょっとは知ってるけど…でもあんまりよく分からないのよ……」
「血が出るかも知れないんですよ?多分すごく痛いですよ?」
「で、でも…」
蚊の泣くような小さな小さな息を、彼女は僕にふりかけた。
フェイズが…リムでいいって思ってくれているなら…リム……がんばるのよ
どうしてそう一歩引いてしまうのか。自分では精いっぱいのつもりだったが愛情の示し方が足りないのか
そう思うと頭の中で何かが爆発するような感じがしてその爆風に押されるかのように、
いつの間にか僕はリムルの両腕を掴んでベッドに押さえつけていた。
白いワンピースが重力に従うと共に、彼女の華奢な身体のラインを露わにする。
あまり大きいとは言えない自分の腕の中にすっぽりと納まるその身体に自分の身体を重ねる。
「僕はリムルがいいんですよ」
思えば、初めてこんな風に力ずくで彼女の行動を制御した気がする。
やはりその為だろうか。明らかに彼女の目は小動物のように震えている。
しかしその上目遣いと潤んだ瞳がが堪らなく下半身を刺激するのだ。
目が赤くなってはいないだろうか。彼女はこの目を見ると酷く怯えるだろうから
細心の注意を払い、リムルに、僕に言い聞かせる。
「いいですか?今からいくつか注意点を述べます。よく聞いて下さい」
「は、はいなのよ…」
まるで教師が生徒に言い聞かせるようだが、残念ながらそんな余裕は僕にはない
押さえつけていた腕を離し、指に指を絡ませ、上半身全体を、まつ毛とまつ毛が触れそうな位の距離にへと寄せる
「まず…僕も初めてなので…よく分かりません。リムルも…初めてですよね?」
確認するように彼女に問うと、彼女はコクンと頷いた。
「ですから上手くいかないかもしれません。もちろん最大限の努力をしようと思います。」
彼女はまたコクンと頷き、
「最初からうまくはいかないのよ。諦めなければいつか成功するのよ」と言う。
僕はできるだけ優しく笑うとまた続けた。
「後…途中で辛かったり痛かったり怖かったり…とにかく止めてほしいって思った時には遠慮なく力いっぱい僕を殴ってください。
もしそれでも止まらなかったら遠慮なくファイアボルトを放ってもいいですし、
若しくはケルベロスを呼んでも構いません。それだけは本当に…悲しい思いをさせたい訳じゃ無いんです」
自分でも途中で何を言っているかよく分からない。もう大分思考が麻痺してきたようだ。
彼女は何度も頷いて
「大丈夫なのよ。フェイズが優しいことは…リムよく分かってるのよ」
そう言うと、彼女はすべて了解したと言わんばかりに瞳を閉じた。
「そ、それでは失礼します…」
そして僕は恐る恐る彼女身体に指を伸ばした。
とりあえずここまでで。やっとここまできた…前置き長くてすまん
後二人がナチュラルに同棲したりするけど気にするな
フェイリム続きキター!!
GJです!!
しかしここで寸止めとは中々のSっぷりですね
続きが投下されるまでwktkしながら正座して待ってます
全裸で
>>289 乙です。続き楽しみにしてます!
二人とも可愛い。しかしケイが美味し過ぎるww
フェイリム可愛いなぁ〜
全裸で続きをお待ちしております
投下乙
すまないが投下中は名前欄にタイトルでも何でもいいからNGワード指定できるよう言葉を入れて
前書きで
NGワードは○○ですと誘導してもらえないだろうか
お手数だけどお願いします
自衛くらいしろやカス
その自衛のためのNGワードだろカス
他スレなら職人が文句言われない為の自衛でやってるぞカス
本来職人自らしなきゃいけないものを下手に出て頼んでる人の
どこがおかしいんだよカス
てか自衛って意味なんだかわかってる?wカス
自分が見てるスレは作中にNGワード指定とか無いスレばかりだけど
投下する前に前置きレスがあるんだからIDをNGにすればいいじゃない
ずいぶん特殊なスレばっかにいるようだけど
この板の普通はNGワード指定ですよ
自分の普通を板一般の普通にすんなよ
やめるのよ、わたしのためにあらそわないでなのよ
フェイズの包茎チンカスくちゃいのよ
確かにNGワード指定はあったほうがいいわな
今まで無くても上手く行ってたけどねー
今更今までなんて持ち出してもな
つうか
上手く行ってた(キリッ
www
一応NGワードはこの板の常識だし
>>293のお願いしますで
職人さんが「おk」と次回からNGワード入れてくれる
それだけの話なんだよ…
頼むから事を荒立てないでくれ
>>294-305除リムルたん
>>293 おk
タイトル考えるのメドイからNGワードは前回のid「ID:fNqJ24Xw」でよろ
ちなみに規制に巻き込まれて今は携帯からなのでしばらく投下できないけどその間に書き溜めておく
苦手なものを、NGしなきゃスルーもできないカスが増えてきてるしな
便所の落書きに大声あげながら唾を吐くように
NGした上で喚く奴が出なきゃいいけど
はいキターw
NGワードなんて当然のこと頼む人が気に食わないから中傷したら反論されちゃった?
すごい悔しいねーwww
NGしても喚くなんていもしない敵妄想して
勝手に一人で戦ってて楽しいか?wwwwww
カスすぎだろwww
>>307 うぷ主だよね?続き楽しみにしてるよ〜。
>便所の落書きに大声あげながら唾を吐くように
なんつーか…
自己紹介乙
NGつければ何書いてもおk?
遅まきながら先日SO4クリア
いまだSO3の女キャラ達から心が離れない
レイミが悪いというわけじゃ絶対ないが、むしろレイミはとてもいいが
3の自由度味わうとどうしても窮屈に感じる
せめて猫娘とおっぱい様とくらいはキャラ別恋愛EDほしかった
おっぱい様とかあんだけ迫ってきたのに思わせぶりだけって
ねーよorz
ルティねーとアミナなんて脇役にはもったいないくらい可愛いだろおい
わかってないAAAわかってないよ
流れはすっかりSO4って感じかね。
今更SO3のクリエイター達、っていうかスターアニスたんの話書いても誰得だろうか。
>>314 SO4の個別エンディングは≠カップルエンディングなんだよなぁ
俺的にはそれだけが不満。エッジさんとにゃんこ、おっぱい、リムの絡みとか、ねぇ……
>>316 アニス好きな俺得。
というわけでしり込みしないでうpうp
>>317 3の自由度味わってると不満だよな
正史はレイミでいいから他女キャラとのカップルEDをだな……
>>317 ドウーイ
エーたんエーたん言うリムルに惚れたんだよ俺は
>>316 SO3はクレアとか今もたまにレスつくじゃん
インアンと咎なんて…
日野理恵で抜ける俺に隙はなかった
前スレのこれを未だ待ってるのだが
860 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/10(土) 01:09:00 ID:hG3y/z3W
朝6時までに書き込みあったら、IUDで何か一本書く
861 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/10(土) 02:50:15 ID:mTBuqmno
>860
よろしく。
862 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/10(土) 06:58:47 ID:hG3y/z3W
>861
了解した。来週中には書く。
>>317 把握。お前のために頑張ってみる。スターアニスは可愛いよな!
ただ、単に溜まった萌えを書き殴るだけだから期待はしてくれるな。
いつ書き上げられるかも分からん。
>>320 ごめん。確かにクレアの人気は異常だな
俺も箱○持ってれば、あるいは……
ミスティとマスターさんの不埒な関係
>>323 がんば
そう言われてみればインアンと咎はまだ一作ずつか…
来ただけマシじゃね
もうこんな時間でビックリだ
>>288の続きからで
アンチドートが何か時々変態だけどそれは俺が変態だからだ
後視点とか考えるの面倒になってきた
ちょっとは知ってるとは言ったけれども、実はよく分かっていない。
じーちゃんにもついてて多分フェイズにもある……おちんちんをリムの中に入れるという事しか分かっていない。
というかそもそもそんな穴がちゃんと自分にあるのかがよく分からない…
そもそもそんなよく分からない穴に入るのか、少なくともじーちゃんのは大きかった記憶がある。
もし、もし入らなかったらフェイズを失望させてしまうのだろうか
こんなに自分に気を使ってくれているのが触れた肌から、柔らかい表情からも、言葉からもわかる。
出来ればそんな彼を落胆させたくはない…
フェイズから伝えられた注意点に頷きながらそんな事を考えていた。
失礼しますとの彼の合図を聞くと、準備はできたぞとばかりにぎゅっと目を瞑る。
「ふゃっ!」
今まで己の指と絡んでいた彼の指が軽く首筋にあたり、情けない声が出てしまうと同時に無意識に身体が彼の指から離れようとする
「すみません、強かったですか?!」
そ眉をひそめて尋ねられると、首を素早く二回程横に振って答える
「だ、だいじょうぶなのよ。ちょっとビックリしただけなのよ……」
「つ、続けるのよ」
自分を落ち着かせるつもりもで言ったのにまだ心臓のバクバクが止まらない。
いやむしろどんどん加速している。さっきと同じように目を瞑っていた方がまだドキドキしないかもしれない。
だが、眼球は彼の一挙一動を完全に追い、次の行動の予測を頭の中で必死に組み立てているのだ。
すると不意に両腕で頭をつかまれ、口付けでもされるのかと思えば、
耳たぶをふにふにと甘噛みされ、続いて耳の中に舌を入れられる
「んっひゃぁ……ひぅ…ん…」
まるで自分の声とは思えないような甘ったるい声が喉から生じる。
歯と唾液でどろどろに侵されていく耳に全神経が集中し、何とか気をそらそうとするがままならない。
「そっか…耳、弱いんだなぁ…」
まるで研究対象を観察するかのようにフェイズが呟くともうしばらく舌で舐り、徐々に身体の中心部へと下がっていく。
そしてその間も常に唾液でベトベトにされ、柔らかく首筋を齧られる。
身体の中心が熱くなっていくが、それと同時に不安が襲ってくる。
自分が想像していた事とは何かが違う。何かがおかしい
「フェ…ズ…ぁっ…!」
名前を呼んだ瞬間、首筋を強く吸われ「ぢゅうぅっ」っと音が鳴った。
「な、何してるのよ…?!」吸われた首筋が痛む。痕になってるかもしれない。
「へ、何って…その…嫌でしたか?」
「べ、別に…その、触られるのが嫌な訳じゃないのよ…けどリムは…その、いきなり……その…入れるものだと思っていたから…」
「いきなりは…入らないんじゃないでしょうか…?ですからちょっとずつ慣らして……すみません。嘘です」
なるほど、彼曰くいきなり入れるものではないらしい。そしてその後のフェイズの言葉で身体が凍りつく。
「僕がずっとリムルにしたかっ事を…今…しています」
その言葉を聞いたとたん気恥ずかしくてたまらなくなった。自分としてはいつも特段何も考えずに
ただ居心地が良いからという理由で彼に寄り添っていたのだがまさかその隣でフェイズがそんな事を考えていたなんて…
「わ、わかったのよ。今まで我慢させてばかりで悪かったのよ。
フェイズの好きな様にをすればいいのよ。でも、リムは何をすればいいのよ?」
「いえ、特に何かする事は…女の子は初めては男に身を任せるものとも言いますし…そうですね……」
じゃあこれをお願いしますと言ってもう一度、今度は散々弄った耳とは反対側の耳元に唇を寄せて呟く。
素直になってくださいね。
「じゃあ練習しましょうか。リムル、僕の事好きですか?」
頬に頬を寄せて尋ねてくる。そして匂いをかがれているのか、いつもより少し強い鼻息が耳に当たる。
「……嫌いじゃないのよ…」
そういえば今日はフェイズが帰ってくる前でいいやと思って水を浴びてない。変な匂いがしていたらどうしよう。
「………それじゃあだめですよ」
息がかかるたびに心臓が跳ね上がりそうになる。きっとフェイズはそんな自分を見て楽しんでいるに違いない。
フェイズのくせに。悔しい。
「…じゃあフェイズはどうなのよ」
「好きじゃない子にこんな事しませんよ…」
「フェイズも素直じゃないのよ…」
それからどちらからともなくぷっと吹き出し、クスクスと言った笑い声が小さな家の中で響く。
「こんなやり取り久々の気がしますね…でもよかった。やっと笑ってくれました…」
「服、そろそろ脱がしますね?」
そう言うと返事も聞かずにフェイズはリムルの前開きのワンピースに手を伸ばし、左手でぷちぷちとボタンを外していく。
「そ…それは自分で…」
するからと言おうとすると、右手で乳房に手を添えられ、またも体が反応してしまう。
少しずつ強弱をつけて蠢き始める手の動きと布の擦れる感触に溜まらず声をあげてしまう。
「ゃぁ…ん…ぁふぅ…んんっ!」
探るようにこねられていた右手が乳房の先端を捕えてそこをくりくりと刺激され、
艶がかった声が出そうになると今度は口を封じられ、口内に舌の侵入を許してしまう。
口の中でさながら蛇のように動く舌は自分自身の舌を絡め取り、きゅっと吸い上げられる。
「!!」
目をきつく瞑り、口と手の攻撃に懸命に耐えていると、気づいた時には
リムルの上半身を包む物はは薄手のスリップドレス一枚になってしまっていた。
しかもそれは不慣れな愛撫への心地よさと緊張からか汗ばんだ身体にぴったりと張り付き、
乳房、腰、太腿、下腹部のラインを露わにし、
刺激によって敏感になっている両の乳首は、早く触ってほしいと懇願するかのようにその存在を主張し、
うっすらとした桜色が見え隠れしている。
そんなリムルの肢体の隅から隅まで視線で汚しながら、フェイズもおもむろに上半身を覆う衣服を脱ぎだす
何度か見たはずなのに、初めて見た物のような気がして、すっと視線をそらしてしまう。
「こっち見てよ…」
「だ、だって…」そう言われると腕で顔を反射的に隠してしまう。
きっと今自分はひどい顔をしているに違いないから…
そしてしゃべり方がいつものような敬語ではなくなっていることに気づく。
ケイや友達にしゃべっているような、素のフェイズの喋り方。
今まで何度言っても敬語遣いを止めてくれなかったフェイズが……
そう思うと嬉しくてたまらなく、もっともっと体も顔も熱くなるのだ。
そんな自分の様子に少し溜息をつくと、フェイズはリムルの汗ばんだ身体からスリップドレスをまくりあげる。
布が少しずつ身体からはずれる、そのわずかな感触にさえ反応してしまうほど体は敏感になっているのだ。
まだ少し幼さの残る腰回りと、小さな二つの膨らみと、可愛らしく尖ったさきっぽがが初めて男の人の目の前にさらされる。
恥ずかしくて死んでしまいたい。
「…可愛い…」そうぽつりと呟くと、彼は再び自分の方に腕と身体を伸ばしてきた。
「……っふぇ…」
卑怯だ。普段は絶対こんな事面と向かって言ってくれないのに。だから不安になるのに、どうしてこんな時ばっかり…
そんな事を考えてると、新たな刺激が襲ってくる。
「っ…ん…ふぁ…っん!!」
あろうことかフェイズは、まるで赤ん坊の様に胸の先端に舌を伸ばしてきたのだ。
最初は小さな乳輪から円を描くように舐め、そして乳首の側面に舌を添わせ、先端に丹念に唾液を塗りたくる。
それだけでも全身がビクリとするのに、あろうことか
乳首をまるで果実の様に唇で含み何度も甘噛みと引っ張りを繰り返し、終いにちゅっと吸い上げて飴玉の様に舌先で転がされる。
「ぁっ…んんっ…やぁ……そこ…だめ…」
ピリっとゆるい電気が走ったような感覚と、きゅうっと下半身が熱くなるような二つの感覚に対し、
腰をくねらせて抵抗しようとすると、腕でガっと抑えこまれ、反対の乳房をわしづかみ、もみくちゃにされた。
「やわらかい…すごいや…」
「…っ…あ…で、でも…ごめんなのよ…んっぁ!…リムのお胸大きく…んっ…ないから…」
「でも…すっごく敏感で……可愛くて…」
「…フェ…ズ……っのばか…!んっくぅ…んっ!」
「ほら、顔隠さないで。リムルの感じてる顔、もっと見たい」
そんな事言わないでと言おうとする前に、リムルが今まで顔を隠していた細い手首を掴み、そして指をからめ取って強く握り、
逃げ場を無くさせる。変な方向に力が入り思わず腕が軋む。
「っ!…っつ!!フェ…ズ…」
当の彼は優しくリムルの行動の自由を奪うと、もう片方の胸も同じように愛し、そして上半身全体を
くまなく味わい、その舌は徐々に下腹部へと移っていった。
そして黒いタイツに覆われた太腿に手をかけ、上下に揺らしながら優しく上へ上へと移っていき、
ついにはリムルの身体の中心部の最も熱い部分へと到達した。
「っあ…、そ、そこはダメ…!」
タイツから浮き上がるぷっくりとした乙女の入口を指の腹でふにふにと弄られ、
その指が上下する度にくぐもった声が自然とあふれだしてしまう。
「…タイツまで染みてきてる……嬉しい。僕にさわられて感じてくれてるんだ…」
「そろそろこっちも…いい……?」
少し横を向いて視線をそらしたまま頷くと、フェイズは一度深く深呼吸をしてからタイツに手をかける。
「あ…明かり、付けてもいいかな?」
「えっ……な、何言ってるの…よ…」突拍子も無い提案に身体が震える。
確かにもう日は落ちて、辺りは薄暗い。とは言っても見えない暗さでもない。
「リムルをもっと見たいんだけど……嫌かな?」
自分は逆に見られたくないのに。
「えっと…そ、その………」返答に詰まっているとフェイズの釣り気味の眉毛が段々ハの字に下がっていくのが分かった
「……い、いいのよ……」
「じゃあいつもみたいにお願い」
この家では火を灯すのはもちろんリムルの役目だった。しかし自分で自分の裸を照らすために炎を出すというのは気が引ける…
多分自分の反応を面白がっているのだろう。
「………へんたい…なのよ」
そう言うと、半ば諦めたようにリムルは近くの蜀台に向けて小さな炎を放った。
すぐに蜀台に火が灯り、二人の裸体が不規則に揺れる光に包まれる。
とりあえず今回はここまで
リムのフェラ書きたいけどなんかこのまま挿入して終わりそうだ
GJ!!!!
リムたん可愛いよリムたん
続き超気になる…!
フェイズの変態っぷりが良いなwwww
続き楽しみです
フェイズがむっつりすぎるwwwリムたん可愛いよ
続きを待ってます!
>>331の続き
このフェイズはエルダーでAV見過ぎたフェイズ
無言のままタイツを、続いて下着にも手をかけ、するすると同じようにずり下げ、そして身体から離れたそれを丁寧に折りたたんでベッドの脇に置く。
そして足の指先から太腿に向かって舌をつっと軽く舌を這わせるが、
視線はずっと、まだ毛の生えていない幼さの残る裂け目に集中しているのだ。
それに気づいて無意識の内に力を込めて両足を閉じてしまう。
「っ…!!どうしたのよフェイズ…ど、どうして黙ってるのよ…」
「…………」
問いかけるが彼は返答せず、狭い空間の中で淫媚な水音だけが反響する。
そこで彼の瞳がいつもの紫から真紅へと変化している事に気づき、途端に背筋が凍る。
「…な、何かしゃべってほしいのよ!…そうじゃないと…リム…っやっ!」
不安に駆られ彼女が暴れだそうとすると、
突然腰の辺り枕を宛がわれ、カチカチに固まった両の膝頭を、力づくで無理やり引き離し、
まるでひっくり返ったカエルのように身体を開かされる。
その衝撃で今まで閉じていた桃色の割れ目が開き、今までの刺激と愛撫で溜まりに溜まった愛液が
ポタポタと滑り落ち、シーツに染みを作っていった。
ふとももを完全に抑え込んだままその割れ目を観察日記を付けるかのように、フェイズはまじまじと覗きこむ。
「…すごい…全部きれいなピンクだ…」
そう言うと愛液ですでにぐちょぐちょの膣口の周囲を人差し指でそっと撫で回す。
「や、やぁ…見ないで…なのよ……んんっ」
そして指の腹でぴょこっと勃っている小さな肉芽を抑え込んで、くにゅっと潰す。
「ひゃぅうん!!!」
今までで一番強い刺激が全身を襲う。足がピーンと張って一瞬何も考えられなくなってしまった。
「あはは、やっぱりここが一番効くんだ。」
抑え込んでた両の腕が胸まで伸びてきて、ぐっと両胸を掴まれる。
そうされる事によって足が頭の近くにまで接地し、自分の恥部と彼の顔が一直線上に見える
その光景に耐えられなくなり、目をぎゅううっとつぶる。目の端が熱くなるのを感じ、
抜けた身体の力を振り絞って腕を顔の上に置いた。
両の親指と人差し指の腹で両胸の先端を優しく撫でつつ、小陰唇を唇全体で吸い上げる。
それから単念に膣の周囲を舌で優しく冷たく撫であげられる。
「んっ…ふっ…んん!…ぁ…んっ!だめ…そこ…汚いのよ…んっぁあ!」
「リムルのだから大丈夫。汚くなんかないよ」
小さな訴えなど彼の耳にはもう入らないらしい。もうこのまま身を任せるしかない。そう腹をくくった。
しかし肉体は敏感な三点の性感帯から与えられる快感に耐えきれず、
また顔を隠す事に集中していたためか、口元が緩んで涎が流れ始める。
「ぅ…うぇ…んっ…ぅくっ…!」
しかし不安定な気持ちとは裏腹に、
おあずけを食らい続けていたクリトリスは先ほどより大きさを増し、ピクピクと震え、
ぬらぬらと愛液にまみれつつも、楚々としたサクランボのようにフェイズだけを誘っている。
食べ頃になったかなと言わんばかりのしたり顔でクリトリスに近づくと、歯でちゅぷっと軽く噛みしだき、
舌先でころころと堪能する。」
「ぁ…んっ…や、やぁ、ああぁああああん!」
先ほどクリを弄られたときよりも、もっともっと甘い刺激が駆け巡り、ふぁっと頭がおかしくなる。
ドロリとした愛液がまた一層膣から溢れだし、それをすする音がずずっと聞こえた。
このままどうなっちゃうんだろう。勢いで始めてしまった事だったけど、やっぱり間違いだったのか。
自分の体も怖いけど、フェイズが変わってしまってることが凄く怖いのだ。
でも今さらやめてくれなんて言えない。
胸の中から熱く何かがこみあげる。
「っ…ん……ぅぇ…」
「どーしたんですか?涎まで垂らして…」
そう言うとフェイズはリムルの口元に顔を寄せてよだれをずずっと音を立てて吸い上げる。
「ほら、また顔を隠して…だめですよ、もっと…」
顔を必死に隠していた腕を強引につかみ上げて感じている顔を見ようとしたフェイズだったが、
当のリムルの顔を見て愕然とし、はっと我に帰る。
「リム…ル……?」
両の目からは涙が滲み、目は赤くはれ上がっている。泣きたくてもじっとじっと我慢している。
リムルがこんな顔をするのは三年前のあの時以来だ
「…怖かったり…痛かったですか…?それとも…僕が嫌でしたか…?」
喉の奥が熱くてまだうまく答えられそうにないから、ふるふると必死になって首を振る。
「フェイズ…何だか変…なのよ。目が…赤いのよ」
目が赤いと言われてフェイズははっとなって顔を押さえる。
「それから……何だか好きにされてる感じがして………ほんとに、ほんとうにちょっとだけ…
怖かったのよ…」
ひっくひっくと泣きじゃくるリムルのをぎゅっと抱きしめて
「目が…赤くなるのは…興奮してしまうとこうなってしまうので…こればっかりはどうしようもないですけど…」
「調子に乗りすぎました…すみません………本当に殴ってくれて良かったんですけど…」
はははと乾いた笑いをこぼす。
「だって…フェイズが…」
「…僕が、どうしたんです?」あまり大きくない手がリムルの頭を優しく撫でる。
「リムに……夢中になってくれてたから…その…怖いけど…止められなかった…のよ」
最後の方はフェイズの耳にはよく聞こえなかったが、そもそも聞き終わる前にリムルの頭と背中全体をぎゅうっと抱きしめていた。
「すみません…本当なら…男としては女性を泣かせた時点ででやめるべきなんだと思いますけど……
もう、ちょっと我慢出来そうにないです……その、いいですか?」
フェイズが無意識の内に腰をリムルの陰部に押しつけて、それの存在を主張した。
この言葉の指す意味と、当たるそれを理解すると、
リムルは両の腕でフェイズを抱きしめ返し、鎖骨辺りにちゅっと口付けをする。
短いけどここまでです。
やっと挿入だ…来週は仕事の都合であまりうpできないかも
リムは身体柔らかいからまんぐり返しも楽勝に違いない
フェイリム期待保守
敵に捕まったレイミとミュリアと猫がぐちょんぐちょんに犯されるヤツ希望
急に静かになった
345 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/25(土) 16:39:07 ID:bLRWsZsJ
フェイリムエロあげ!
フェイリムエロまだ?
エンドオブマタニティの地雷臭に泣いた
これでAAA終了なんてことになりませんように
SO3を最後にクソゲーしか出さなくなっちまったしなあ
SO3がクソゲーではないと言いたげだな
ていうかAAAゲーって昔からクソゲーと紙一重なものばっかりな気がするけど
クソゲーがどうかは置いといて保管庫のSO3の作品の多さは凄い
クソゲかどうはともかくとして
人を選ぶのは確かだな
どこかの会社に吸収されたらいい気がしてきた
なんか間違っているんだよな
グラばっかの会社だからな…乳揺れとか乳揺れとか乳揺れとか
でかけりゃいいってモンじゃないけど(胸)
小さけりゃいいってモンでもないのよ(文字)
>>353 GBCのブルースフィアですら乳揺れあったしな・・・
DSの咎ですら…
VP咎の半分はエーリスのおっぱいで出来ています
今の所VPシリーズで一番のバインバインだからな。
アリーシャだってむっちんボデ・・・・・・あれ、なんでそんな怖い顔しておられるんです?
エーリスの胸で窒息したい
咎…てっきりレナスちゃんを復讐なんていう名目でつけまわしちゃうゲーかと思ったら違ったでござる
全然いいけどね(´д`*)
エンドオブマタニティとは別にPS3で新作プロジェクト動いてるらしいけど
今度はVPかな
ついにアーリィ様の主演作が・・・・・・ねーか
>363
アーリィ様はツンデレな敵役でこそ輝く子。
365 :
名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 04:20:57 ID:i4HF2LUi
むむ
こんにちはファビョニスです。遅くなってすみません
続き投下させてもらいます
注意書きは
>>4でお願いします
木の葉が萎び、舞い散り始めた。
「今年は寒くなるだろうね」
しわがれた声で老女がぼやく。
彼女が零したのは季節的な寒さの話に限らない。
一気に民が流出したゾルデは最早廃墟に近かった。
集落としての弱体化を嘲笑うように木枯らしが吹く。
大量の空き家群を狙う盗賊の輩も格段に増えた。
セレスも数日前、偶然野盗の一団に出くわし、それを蹴散らしたところだ。
安全な地とはお世辞にも言えない。
またひと家族、全員が暗い表情を湛え、この地を捨てて出て行った。
ぼろぼろ欠けゆく港町。栄えていた分、更に痛々しい。
終わりゆく街を暗闇が包む。
その中で、月明かりだけが青白く世界を照らしている。
行き場なくその地に残る亡霊のような女も。
その夜もまた拒否する事ができず、白布の上で彼の男を受け入れていた。
「………はあっ…ぁん、…あん、あ…。や…ん」
喘ぎ声が甘たるく何も無い街の一室を撫でる。だがその音源は常に悲しげだった。
不穏な関係は小康状態を保ったままだった。
追い出したくても、すいとかわされてしまう。
今夜も迫られ、仕方なく体を許していた。
「うぅ…、くうっ」
とはいえ今宵の褥は格別の羞恥に襲われている。
小刻みに揺れ動く裸体の女は膝をつく体勢を必死で維持していた。
股下には男の頭部。
舌が震える芽と割れ目をちろちろと舐め回している。
いくつ手札を持っているのだろう。つくづく変態としか言い様がない。
「もっ…やあっ…」
最早了承して跨ったことを後悔するしかできない。
羞恥心を煽り立てるとんでもない体位である。
何とか体勢を維持しているのに、絶妙な舌技で執拗に責めたててくる。
「やっ!」
また女体がびくりと弾ける。
「はあっ、あ…ぅ――あっ」
頬を染めつつも快楽の波に揺蕩うしかできなかった。
言葉巧みに誘導されたとはいえ、うっかり要求に応えてしまった自分も自分だと蔑む。
「ああっ、んっ。ほんとにもう――――はあぁあっ」
肌はじっとりと汗ばみ、肩より伸びた髪を淫らに貼り付かせている。
恍惚に翻弄されていても女の表情は暗かった。
あれから何度も何度も別れ話を持ち出した。さり気無く、時にははっきりと。
だがその都度見事になあなあにされて、爛れた関係は不安定に継続していた。
生前のセレスなら有り得ない醜態。
だが染み込まされた恐怖と怯えは彼女からなかなか消えない。
悪い言い方をすれば、言いなりだった。
消え行くゾルデではこんな現状を相談できる相手もいない。
今では街のまとめ役の地位についた、というか追いやられたイージスとは接点が少なくなってしまっていた。
それでも顔を合わす度、いつも心配そうな面持ちを向けられるのがいたたまれない。
「あっ!」
ひときわ高い嬌声が飛ぶ。
尻肉をやわやわと揉み込まれ、更なる快楽を煽られたからだ。
「やあぁ…っ」
悶えて身をくねらせる。
肉体はこんなに悦んでいるのに魂は心底から怯えて縮こまっている。
現実をどうしても受け入れたくなかった。
逃げ場を求める精神が過去へと迷い込む。
そういえば生前、エルドが連れていた女にギロリと睨まれる、なんてことがあった。
不快だった。
どうしてそんな目で睨まれなければならないのか。
そもそも睨む必要があるのか。
見ればわかるじゃない。
私はどう見てもそんなんじゃない――――そんなんじゃ………………。
だが今思えば、あれは彼女の女の勘というやつだったのだろうか。
いくら睨まれたところで、こちらとて全然嬉しくないのに。
……結局。
ずっと、この男の手の内なんじゃないかと、気付きたくないことに気付いてしまう。
何故私。
かわいい女の子なら、シルメリアのエインフェリアにもあんなにたくさんいたのに。
気の合う子もいたんじゃないだろうか。
何故私。
虚しい。
生理的に滲む涙がつうと伝い滴る。
瞳に光は灯っていない。
―――――何、してんだろ…私………。
「ひあっ!?」
突如現実に引き戻される。
舌を深くねじ込まれ、唇まで駆使して本格的にねぶり始めたからだ。
「やっ、ちょ……っ!あっ、くぅ…ん!はあぁっ」
あられもない声とともに、腰が抜けそうになるのを必死で堪える。
それ以外の行動がとれない。
「待っ…、ねえっも、もうやだ…っああ、あああぁあんっ!!ひっ!んああぁっ」
より敏感になっている肉芽に鼻があたり、思わず反り返る。
それでも腰は落とせない。どうしても落とせない。
「んんっ、は、はああ…」
頑張って耐え凌いでいるのに、お構いなしに強く吸い付かれて蜜を吸い取られる。
「ああああぁぁあっ!!」
上半身を支える膝はとうに限界で、情けないぐらいに震えていた。
ここまでくるとある種の拷問にも思えてくる。
「も、だめっ、やめてえっ、お願い…っ」
だが懇願はことごとく無視だった。底意地の悪さのせいか、唐突に冷えた息を吹きつけてくる。
「あぁああっ!!」
過敏になっている箇所へのとんでもない追い討ち。
眩暈にぐらつきながらも、何とかしなければという思いが、手段の一つとしてあまり口にしたくない言葉を
脳裏に浮かび上がらせていた。
「……っ」
意を決する。
意識が飛びそうになるのを何とか耐え、ぎゅっと目を瞑った後で相手を罵った。
「馬鹿っ嫌い、エルドなんて、きらい……っ!」
口にするのも躊躇われるレベルの、子供じみた台詞。
だが実際これが一番効くのだからどうしようもない。
それはいつの間にか『これ以上やったら本気で拒絶する』という暗黙の了解になっていた。
あっさりと激動が止まる。
股の下から明らかに物足りたいといった舌打ちが聞こえると、頭部がすっと引き抜かれる。
やっと責め苦から解放された。
安堵でぺたんと座り込む。震える髪を伝って汗の雫が落ちた。
「ここからが本番だってのに」
全身の発熱に耐えるセレスに向け、責めあげていた男から不満全開な愚痴が零される。
「何でそこまで耐えるんだよ。普通に腰落とせばいいじゃん」
「ばか!圧迫死したいの!?」
叱られても死神は超真顔で返答するだけだ。
「本望」
「ばかぁあっ!!色情魔!!もうっ筋金入りのド変態なんだからっ!!」
真っ赤になって怒っても、相手は楽しげに笑うだけ。
その似つかわしい無邪気さについ怒りが失せ、身を引いてしまう。
いろいろな意味で恐ろしかった。
やっぱりこの男は変わった。
笑顔の色が違う。笑い声も透き通っていて、高い。
時折見せる、特有の邪気が失せた、新たな一面。
もうすぐ別れるのに、そんな素の、本物の少年のような笑顔を向けられても意味がない。
鈍感なセレスとはいえ流石に現状の異質を感じていた。
これは。
何だか非常にまずい、状況ではないだろうか……
「…もう…」
だが確証はない。
戸惑いを隠すために背を向けるしかできなかった。
深まりゆく秋。だんだんと温度が下がっていく。
望まない関係でも、人肌の温もりが時折優しく感じられてしまう。
こんな時期に隙を見せては恰好の餌食と化すだけだ。
しっかりしなくてはと思い直していたら、背後からぎゅっと抱きかかえられた。
「ちょっ」
「ここで終わっておさまりつくのかよ」
絡みつく腕は素早い。
首筋に舌、片胸に右手、秘部に左手。
同時に責め立てられて激しい快楽が襲ってくる。
「あっ!やめ…んんっ!」
反り返るともたれかかるような格好になり、にやついた相手の手中へと完全に堕ちてしまう。
「ぁああっ!」
「俺じゃなくてお前がエロいんだよ」
「そんな、こと…!あっああん、はっ、あ…やっ、いやあ…!ん…」
喉でとどめたい喘ぎ声がどうしても制止できない。撫で回され、紅潮した頬が更に彩を増す。
「感じやすいのはいいことだ」
胸のふくらみは柔らかく量感があり、拒否感とは裏腹に鷲掴む指を深く沈めてしまう。
「んんっ、んーっ」
指を出し入れされる下半身からは、じゅぷっぐちゅぐちゅ…と、あまりにも卑猥な水音。
耐え切れずにくねり、身悶える。
「やだっ、や……あっ、くぅ…っん」
どうしても相手の方が常に主導権を握っている。ひっくり返すことは不可能だ。
女の痴態に浮かべる冷笑はあまりにも落ち着いている。
踏んだ場数が違う。余裕が全然違う。
恍惚を扇動しながら耳元で勝手なことを囁いてくる。
「やべえなお姫様。すっかりエロくなっちまって。もう欲しいのかよ」
「ち…違っ、だいたい貴方がっ、あっはあぁ」
台詞の途中で肉芽を優しく擦り付けられ、びくんと跳ねる。
「しっかし何つうか」
両手がするすると熱のこもる女体を登っていき、その豊胸を鷲掴んだ。
手馴れた指づかいで巧みに揉みしだき、先端を擦り上げながら、妙に扇情的な呟きを漏らす。
「熟れてんのにあんま手垢ついてねえとことか」
「はあっ、はあ、はっ」
「たまんねえな…」
いやに小悪魔的な響き。
不穏と快楽の混じったそれが耳から体内に流れてきて、セレスは思わずぎゅっと目を瞑る。
ただでさえ不安なのに。
この淫欲の底からどう這い出ればいいかわからない。
きっともうすぐ本格的におかしくなってしまうんだ――――
精神的な拒絶を貫く反面、もう駄目なのだという諦めも日増しに強まっていた。
セレスは生前の彼女だったら嫌悪を感じる程に無気力になってしまっていた。
自覚すると悲しくなる。
責め上げられて吐き出す荒い吐息の合間、嘆きに近い凍えた呟きが一言、自然に漏れる。
「も、や……だ……」
感情は喉から出る音へと反映する。
そうでなくても既に達する寸前状態が続き、苦しくて堪らなかった。
察したのか、彼女を責め立てる手と唇と舌がぴたりと止まる。
必要以上に高めてセレスの機嫌が損なわれることを、エルド側も警戒しているらしい。
「大人しくしてろ。ちゃんとイかせてやるから」
束縛を解き、ゆっくり仰向けに寝かすと膝に手をかけ、脚を割る。
「や…待って」
身を乗り出してきたので慌てて拒絶する。
ただ全てを任せていたら何をされるかわかったものではないからだ。
「……今日は上がいい」
「構わねえけど」
提案は簡単に容認される。
さっさと寝転がって誘導するエルドにおどおどと跨った。
闇の中で濃さを増す茶の髪がシーツに流れている。
傷だらけのくせに、妙に背徳的な色艶を備えた男。
これでどのくらいの女を捕らえてきたのだろう。
不安げなセレスを見上げながら余裕綽々でにやついている。
「お姫様は騎乗位がお好き、と」
「…ほんとに、嫌な男ね、あなた」
上になった女に睨まれてもびくともしない。
「斬鉄姫様に犯していただくなんて光栄の極みだな」
「……」
蝶のような蛾。
そんな男が吐く冗談は面白くも何ともない。セレスの眉根に一段と深い皺が刻まれる。
何故理解してくれないのだろう。
正常位だと好き勝手に弄んでくるから。そうされると陵辱の恐怖が甦ってくる確率が高いから、怖いだけなのに。
最近ではセレスの表情は常に愁いを帯び、笑顔とは更に縁遠くなっていた。
本当に、何をしているんだろう、私。こんな大きな痛手を与えた相手と、いつまでも。
けれど散々舐め回された体は男のそれが欲しくて欲しくてたまらない。
結局はただの、同じ欲望を共有する雌雄。
なら今更潔癖を装っても仕方がない。
導かれるまま熱り立つそれの上に腰を沈め、ゆっくりと動き出す。
「あっ、ん」
揺れる様子は淫らで悩ましい。
だが上になる経験が少ない上、必要以上の狂い咲きに抵抗を持つ彼女では、動きはぎこちない。
「はあっ、…んん…っ」
それでも何とか相手も感じさせようと必死で腰を振り続ける。
やられっぱなしでは、流石に悔しいのだ。
結合部からぐちゅぐちゅ、ぬぷ、と卑猥な水音が迸る。
熱い。
「……っ、は…」
苦しい。
敏感に察した相手が眉を顰めた。
「いいからイけよ。お前がイきゃいいんだ。変な気遣うな」
「……」
遠まわしに下手だと言われた気がした。
少々気落ちするも、残念ながら真実。
言う通りにするしかないようだった。
気を取り直し、自分のためだけに腰を振る。
伸びた赤髪と豊かな双球が動きに合わせて揺れる。
傷があっても造形の整った女。上気して色づく肌がいっそう艶かしい。
「いい眺めだ」
懸命なセレスを半目でにやつきながら見上げ、エルドはエルドなりに楽しんでいる。
「つうか乳揺らしすぎ」
「ばか!へん、たい…っ!」
思わず罵ると、
「誰だよ。そんな変態と毎日のようにヤってんの」
冷笑を返された。
「………っ」
撫で回されるよりましとはいえ、男のそれを使って自慰を強要されているような交わりは至極落ち着かない。
一瞬視線が交わって、すぐ逸らす。囚われるのを恐れたからだ。怯えで目が泳ぐのを気付かれたくなかった。
「はあっ…あぁ、あんっ、んっ、ん、んん…っ」
ぬちゅ…と完全に腰を沈めた瞬間、達する波に乗ったのを感じた。
「ほらイけよ」
「やっ」
腰から太ももまでのラインを妖しく撫でられ愉悦を促される。
もう止まることなどできない。腰の速度を増しつつ、ぎゅっと目を瞑る。
「――――…っ」
数秒後には快楽が駆け抜けていった。
動けないでいると繋がったまま上半身を抱き寄せられる。
ぐったり身を任せていれば、愛おしげに後頭部を撫でられた。
男の腕の中、女の荒い息遣いだけが響く。
「うまくなったじゃん」
褒められても喜んでいいものか。
「ど、どうだった……?」
聞くまでもないが、尋ねてしまう。
「あぁん?俺か?」
問われた男は眉を歪めて軽く思案した後、
「5点」
素直な点数を遠慮なくはじき出した。
「……」
わかっていた事とはいえ、セレスはふくれっ面で身を起こす。
「………悪かったわね。下手糞すぎて」
「ていうか俺に何かしたつもりなのか今のは」
「……………」
悪戯の好きな男。
不機嫌に染まりきったセレスを少々からかいたくなったらしい。
「せめてこれくらいはできねえかな」
突然強引にセレスの腰を固定した。
「えっ」
目を丸くしてももう遅い。
女性上位の体位ですら、主導権を渡す気はまったくない男だということに気付いても。
「ちょ!ちょっとやっ、ひあぁっ!!」
腰を大きくグラインドされた。
強烈な高波と沸騰するような熱を与えられ、あまりの快楽に思わず仰け反る。
「エルド!!」
諌められても止まる男ではない。
問答無用で突き上げてくる。
「やだっ、やめっ―――ああぁあ!」
さらに腰が浮いたところですかさず手を突っ込んできて、芽を愛撫してくる。
ぷっくり色づいたそれは最も過敏な箇所になっていた。
「ああぁあっ!やっ!!ちょっとふざけない……でぇっ!!」
立て続けの攻勢に蜜はさらに溢れ、下にいる男に伝う。
「ああぁ――――」
真っ白になりかけて必死で抗った。
耐えられたものではない。
ぐらりと反り返って後方に体勢を崩しかけたところで、
「倒れるならこっちにしろよ」
二の腕をつかまれ、前のめりに倒されて再度腕の中におさまった。
今度はきつく抱き締められる。
「エルド!いやっ!!」
「あーおもしれぇ」
半泣きで叫んでも、既に足掻く暇はない。
そのまま腰を押さえつけられながら荒く何度も突き上げられて、欲望のままに中をかき回される。
強引な展開。だが意思に反して愉楽が荒波と化し、押し寄せてくる。
「あっ!ひゃっぁぁああん!待っ!やっ、ほんっ待って!!あんっはっ激し……!」
意識を手放さないよう必死でシーツに縋りつき、望まぬ嬌声をあげ続ける。
自分で動いたのとは比べ物にならない大きな波、それがもうすぐ来襲するのがわかった。
その直感と共に、あまりに急激すぎて達するのが一瞬怖くなった。
途端に奥にしまい込んだはずの古傷が呼応してしまう。
セレスの双眸が見開かれた。
闇夜。
絡みつく腕。
どん底。
嗤い。
「いっ」
この男の持つどこか幼く、不安定な感じに激しく揺さぶられ、それが余計に悪寒を引き込む。
「いやあぁあああぁああああっっ!!!」
気がつくと、喉に留める間もなく絶叫していた。
ひときわ強い拒絶――――明らかに数ヶ月前の地獄がフラッシュバックしたのであろう、腹の底からの甲高い絶叫。
即座に男の手が凍りつく。
突然、何もかもが静まり返った。
荒く息を吐き続ける合間に声を振り絞る。
「も…、や…めて…放して、お願い……」
嘗て戦場を駆けた英雄のものとは思えないほどの、哀れで惨めっぽい涙声だった。
けれど今はそれしかできない。
熱くて熱くて自分からは動けなかったからだ。
沸き起こり暴れ狂う灼熱に必死で耐えるだけだった。
「……」
懇願されずともこの惨状を招く原因を作ったエルドには最早引くしか手段はない。
「降ろすぞ」
繋がったままだとは思えない冷えた声だった。
そっと体勢を変え、彼女の身体をベッドに降ろし、体を離す。
「や!う、動かなっ」
慌てたが、それは聞き入れられなかった。
「んっ……」
全身が過敏になっている。
振動による摩擦とそれを引き抜かれた愉悦で軽く達してしまいそうになった。
「……」
そうして、やっと解放された。
だが嫌だったはずなのに躯は感じ入っている。
強い羞恥に襲われつつもビクビクと痙攣する身体を抱き締め、何とか堪えた。
「ご…めんな、さ…」
場を一気に白けさせたのが情けなくて謝罪したが、
「俺に謝るこたねえんじゃねえの」
抑揚の無い返事が返ってきた。
「……」
重苦しい雰囲気が気まずく立ち込める。
いびつな関係だが、夜毎気を遣って抱いてくれていることぐらいは流石にわかっている。
激しくはあるが、何かあったら即時退けるよう、常に仕込まれている気配り。
セレスはそれにうまく応えることができなかった。
どうして私はこうなのだろうと、遣る瀬無く身を縮めているばかりのけだるい事後。
そんな女の背中が、死神の濁った両眼に静かに映っている。
セレスは気付けていなかったが、エルドが抱く思いは彼女の予想とは裏腹だった。
良心の呵責。
自分にもそんなものがあるとはな、と自嘲する。
暗い双眸の中では二度、無理やり捕らえた女が傷つき震えている。
一度目はあの化け物じみた宮廷魔術師へ送り届けなければならない特注品だった。
理想実現の為に必須と謳われた一枚の強力なカード。正直、個人的な興味はなかった。
青光将軍という立場上、いやそうでなくとも、他人などという存在は物に近い存在だったからだ。
故に力加減の調節は容易だった。ただ捕縛し差し出せばいい。
だが自らの意思で捕らえた、今回は。
――――どうしてこんなことになってしまったんだろうか。
身体を折り曲げ縮こまる姿は、毟られた翼を震わせたままで耐え忍ぶ鳥を思わせた。
羽を毟りあげて飛べないようにしたのは、紛れもなく自分。
最初の一ヶ月で知らずのうちに与えた生き地獄。今もなお癒えず、傷口生々しいのは知っている。
それでも以前はまだ、飛び立とうとばたついていたが、現在ではすっかり諦め縮こまるばかりになってしまった。
あでやかだった赤髪にも今では艶がない。
本来なら。
本来なら今頃、惚れた男の腕の中、幸せを噛み締めているはずの女。
それがどうだろう。
自分の腕の中では凛とした雰囲気は散り果て、双眸の輝きは失せ褪せて濁ってしまった。
まるで隣りにいる男に似せたように。
「……」
わかっている。
だが鎖を解いたら――――
すぐに飛んでいってしまう。
エルドは現実に眉根を寄せたまま、飛べない鳥にふわりと毛布をかけた。
それはこれ以上は絶対にしないという終わりの合図。
「おやすみ」
以降はさざ波だけが音を醸していた。
セレスは現実逃避も兼ねて早く眠りたかった。
だが実際は寸止めの状態で終了されたのだからたまらない。
もう交わりたくなどない。だがいくら太ももをすり合わせても疼きは消えない。
焦らしで散々弄ばれたセレスには余計苦痛だった。
一晩この状態ではおかしくなってしまう。
「――――……」
意を決して呼びかけた。
「続き、して」
数秒後、背後から無機質な問いかけが返ってくる。
「大丈夫なのかよ」
「足りない……の」
正直に答え、緊張した面持ちをエルドに向ける。
戸惑い隠せぬ虚ろな目に、紅潮したままの頬。
「大丈夫……。…続けて」
自分から誘うのは久しぶりだった。
求められた男の口元が歪んでひん捻じ曲がる。
「素直じゃん」
早速覆い被さってきて彼女の脚を開く。
「じゃ遠慮なく」
女の心は手元にない。
だから男には、体で繋ぐしか方法がなかった。
圧し掛かられ、体を重ねられると、圧迫感が急激に不安を煽る。
ぎゅっと目を瞑り耐える態勢に入ったセレスの頬を不意に手のひらが撫でた。
驚いて薄目を開けると、
「信じろよ」
彼女を真正面から見据える男がそう言った。
いつもと少し違う顔つきなのが少々ひっかかったが、頷く。
念の為だろうか、既に十分濡れたそこへ指を這わし、濡れ具合を確認してきた。
つぷ、といやらしい音を立てて挿入ってくる。
「ひあっ、ああん…」
優しく蠢く中指。どうしても体はびくんと跳ね、吐息は悦を含む。
「どうする?このままイっとくか?」
「……」
ふるふると首を振ると、相手の冷笑が一段と増した。
指を引き抜かれ、望みのものを入り口にあてがわれた。全神経が集中する。
心の準備をする余地もなく、一気に貫かれた。
「ああぁっ」
反り返る。女として慣らされた躯。自分の声とは思えないほどに甘く狂おしい悲鳴。
「ちょ、ちょっ、と……っ、待っ」
「イイだろ?」
認め難いがとても気持ちいい。熱い楔を穿たれると、結合部から全身に快楽が回ってゆく。
「腕回せよ」
くらくらする頭のまま、請われた通りにゆっくり首に絡ませた。
「いくぞ」
囁きの吐息にさえびくりと反応してしまう。
その後は貪るように突かれた。
経験からくる不安さえ踏みつけて全てを狂わせてようとしてくる。
「やああっ!!あっ、ああああぁっあっ――――」
体内の激しい沸騰。一度簡単に達してしまったが、高波を超えた体が熱に揺られて再度疼く。
それに気付いたエルドはもう誰にも止められない。
「もう一回イけそうだな」
と嗤って女体を抱き直した。
「や…私はもうっ、いいから!貴方だけ……」
慌てて離れようとしても尻肉を掴まれしっかりと繋がれる。
「遠慮すんなって」
「だめっ!!もういいって、ばっ、イっちゃ、あああああっ!!」
二度目の昇天はひときわ高かった。
女の表情と痙攣する肢体に満足すると、男も早々に自身を引き抜き、白を撒いた。
「ん…」
根元まで咥え込まされていたものの喪失感。それがまた甘い。
蕩けきった女体と荒れる息遣いを楽しみ、落ち着いてきたのを見計らってそっと口付けられた。
「んっ、んん。ふ…っ」
終わりの合図である後戯のキスは浅く優しいが、いつも念入りだった。
甘くて、苦い。
銀糸をひくと漸く終わりがきた。
「やれやれ」
精根尽き果てた女の愛液まみれな太腿に手をおく。
「やっとまともにヤれるようになったか。あークソ長かった」
感慨深げに長嘆息した。
これはまともと言うのだろうか…。
反論したかったが、やり合う元気がないのでやめておいた。
けだるい。
―――虚しい。
現状という現実に、与えられた熱が急激に冷めてしまう。
遠回りをしたとはいえ、結局この男の思惑通りな気がする。
そういえばこの男は最初、どんな関係を思い描いて私に近付いたのだろう。
どんな――――
浮かんだ一案に悪寒が走り、慌てて叩き潰す。
大丈夫。
この男は飽きっぽいんだから。
もうすぐ終わり。
もうすぐ…
…なのに。
終わりが全然見えてこないのは、何故なのだろう。
「何か言えよお姫様。今日もよかっただろ?」
この理解不能な耽溺は何なのだろう。
私はそんな大した女じゃない。可愛くもないし、傷痕残る肌も汚い。
「俺はすげーよかった」
やはり征服欲なのだろうか、まずそう思った。
自分より背の高い女。大剣を振るい女の身で兵を率い戦場を駆けていたなどという生意気な存在。
歴史に名を残した女を下にして大声で喘がせている、その優越感に酔っているんだろうか。
しかしただ喘がせたいだけなら他に適当な方法がいくらでもあるはず。こんな面倒で遠回りな手段を用いずとも良い。
よくわからない。
わかりたくない。
「なぁってば。声聞かせろよ」
苦悩する女の腕を男の手がつたっていって、手の甲を優しく包む。
まるで愛し合っている恋人のように。
嫌悪でセレスの表情が歪む。
「…ねえ」
「なんだ」
躊躇うばかりでは話は一向に進まない。背後から抱きしめてくる腕の主に提案した。
「そろそろホントに終わりにしましょうよ」
いくら繋がっても心が伴わない事実を改めて主張する。
数秒の凍てつく時間が吹き荒んだ後、
「…お前せっかくいい気分なのに…」
満悦を台無しにされたとばかりに耳元で不服が漏れた。
「無理しなくていいのよ。本当はもう嫌なんでしょ?こんな傷まみれで、しかも仏頂面ばかりの女。
突然思い出して叫んだりして興ざめもいいとこだわ」
「だいぶ率は低くなった。構わねえ」
ひねくれ者のくせにこんなところだけ猛烈に前向きである。
だが本心は違うはずだ。必死でそう思い込む。
「貴方はよくやってくれたわ。本当にもういいのよ」
負けずに粘ると、
「あー」
何とか別離につなげたいセレスを嘲笑うかのように、
「いいケツだ」
桃尻を撫で回し、むにゅと掴み上げてくるのだった。
苛々しながら厚かましい手を払いのける。
最近は特に、何を言ってもこんな感じだ。
本当はわかっているくせに。
「はぐらかさないで。真面目に話してるのよ」
「こっちも真面目に揉んでんだが」
「もう!」
距離を再度詰めてきた男をひっぺがす。
「貴方が出ていかないなら私が出ていくわ」
付き合いきれないとばかり寝台から去ろうとすると、
「待てって」
即座に引っ張り戻されてしまった。
「何がそんなに不満なんだよ。言ってみろ」
「放して」
「言えよ。直すから」
ぐいと近づけられた童顔。真剣な眼差しに強く押される。
本気ではない。そう宣言したはずの男に灯るあまりにも確固たる炎。
それに水をかけたくて、本音という残酷な冷水を浴びせる。
「……虚しいの。貴方としていると」
「ずいぶんだな」
「時々、無性に傷つけたくなる」
「構わねえ。傷つけろよ」
「簡単に言わないで」
「別れるぐれえなら傷つけられた方がましだ」
エルドも対応に慣れたようだ。セレスの反抗に、狂気を孕んだ本音で迎撃してきた。
おののく女を楽しみ、その肌に甘えてくる。
それが嫌で嫌でたまらなくて突き放す。
「もう嫌!おかしすぎるわよこんなの!!」
「何で」
あくまでもはぐらかそうとする相手。それを振り払えない自分―――
「…あなたといる自分が大嫌いよ。たまらなく惨めさわ」
刺々しいセレスの耳元で小悪魔の容姿をした死神が囁く。
「まだ怖いのか?」
まだ、という単語に強い嫌悪を感じて顔をそらす。
「まだも何も。一生このままよ。完全に消えることなんてないわ」
投げやりな返答。流石のエルドも気まずそうに舌打ちして身を引いた。
一ヶ月間の記憶は今も平常を蝕み、歪める。
「…簡単に忘れられるなら、どんなにいいか」
浮上したと思ってもすぐに沈んでしまう女。原因を作った男は身体を起こし、茶色の髪をがりがりと掻き毟る。
「ったく何十回頭下げさせりゃ気が済むんだよ。大体―――あんなことになるなんて思わねーじゃん普通」
「…普通なるわよ」
「ならねーよ」
「なる」
「ならねえ」
この言い合いに退かないのは、セレスの変容が本当に想定外だったからだろう。
己が与える快楽に屈して当然。女はそういう生き物でなくてはおかしい。
単純な思考が読めて余計に腹が立つ。
「頭なんて下げてくれなくていいわ。…そんな暇があるなら、早くいなくなって」
つっけんどんな拒絶に、
「いやだね」
間髪いれずの即答。
嫌悪を隠さぬ女と挑発的な男の距離は相変わらずぎちぎちとした落ち着かないものだった。
互いに譲らず、つかず離れず、じりじりと間隔を保つ。
変化しない微妙な空気に、本当はもっと心身共に近寄りたい男がいじけてぶうたれる。
「っとによ、何が気にいらねえんだよ。ずっと大事に抱いてやったろ。今だってそうだ」
どこが。
身勝手な元同僚を流し目で睨みつける。
「生前だって、何人かはいたでしょ?貴方を拒絶する女くらい。私はその子達と同じなだけよ。
無理やり迫ったら嫌だって、号泣されたことぐらいあるでしょう」
問いかけを吐き捨てると相手の表情がふっと消えた。
しばらく目を泳がせ記憶を探っていたようだったが、数十秒後、きっぱりと答えを返してくる。
「ねえな。女に拒絶されたこと自体あんましなかったからなぁ俺」
「…」
呆れざるを得ない。
素だ……。思いっきり素で答えた。
とんでもないことを。
「貴方ねえ……」
だがこの件に関しては、思い込みではなくて、多分本当にいないのだ。
ロゼッタ時代、無骨な兵士達に嫌われまくっていた遠因の一つは明らかにコレだろう。
どっと疲れる。
どこがいいのだ。異性に関しては非常に豪奢な経歴、名を刻む女達一人ひとりに問いかけたくなる。
容姿か。纏う雰囲気か。強引な手法か。
少し悪い男の方がモテる、というヤツなのだろうか。
…少しどころの話ではないようにも思えるが。
しかし、やはり応える女もいたのだな、と再認識する。それもかなりの率で……どうも10割近い勢いで。
蟲惑的な男ではある。
あるが、そこまでだろうか?
いや、そうじゃない。
セレスはある種の確信に導かれて冷ややかな言葉を紡ぐ。
「…貴方は誰も彼もに受け入れられたわけではないと思う。自分から、無意識にそういう女を見定めてるのよ」
「へぇ」
蔑みを込めた流し目もまた冷ややかだった。
「ご高察を承りましょうかお姫様」
「そんな大したものではないけど」
嫌味を言ったつもりなのに更に促された。セレスは嫌そうにため息をつく。
「生前から貴方には、すぐに陥落できる女を選別してる感があったなと思っただけ」
過ぎた理性は己を追い詰める。だったら迎合した方がずっと楽。惨めになるのは誰だって嫌だ。
一種の順応性、適応性。それを備えた女がこの死神に選ばれる。
生き延びる為に不可欠なもの。
自分にはなかったもの。
エルドは耳に届く非難を最初は面白がっていたが、意味を咀嚼したのか、次第に不貞腐れていった。
ぶすっとした表情から察するに多少は気に障ったのだろう。
「まぁ、ご推察の通りかもな。俺基本的に面倒そうな女はパス」
「面倒な女………」
思わず人さし指を自分に指すセレス。途端に青筋の走る歪んだ童顔を近づけられた。
「思い上がるな。お前は面倒通り越して試練の域だ」
「…そんな試練受けなくていいわよ…」
渋い顔で目を伏せるセレスを再度押し倒す。
「っとに何だかんだとほじくり返してうるっせえなお姫様は。昔の女の話なんてもうどうだっていいんだよ」
豊かな胸に柔軟に埋もれ、身勝手な男は心底からの上機嫌で言う。
「すげーいい気分なんだから」
「……」
物好きにも程がある。
だが二人で在ることを悦ばれる度、悲しい気持ちで満たされる。
応えられないからだ。
いくらなあなあで済ませようと仕掛けてこられても、絶対に譲れないものがある。
「…貴方を取り巻く女には、大きく分けて二種類いると思うの。貴方を受け入れる女と受け入れられない女」
「自分は後者だって言わんばかりだな」
「聞くまでもないでしょう」
「まあな」
示す拒絶さえ軽く流し、白い首筋に顔を埋める。耐えかねてそれを振り払った。
「とにかく、いつまでも壊した玩具を構ってなくていいのよ。貴方モテるんだから」
棘を撒いてばかりいたら、
「なぁお姫様よ」
くいと顎を持ち上げられた。
「くだらねえ言い回しばっかしてねえで率直に本心言えよ。
必要以上に傷つけまいって思ってんのかもしれねえが逆効果だぜ」
「……」
不覚にも、はっとさせられた。
その通りかもと思わざるを得なかった。
このところ拗れを恐れて遠まわしにばかり伝えている気がする。
「そう…ね」
横になったまま伝える真実ではない。
起き上がり、真っ直ぐに閨の相手を見つめた。
「わかったわ。正直に言うわよ」
ふうと息をつく。
「……といってももう何度も言っているような気がするけど……。エルド、別れましょう」
「理由は」
「一つは、最初の一ヶ月が忘れられないから。一つは、好きな人が心の中にいるから」
代わり映えの無い二つの理由。わかりきっていることばかりだった。
「貴方の手をとった時、振り回されることはそこそこ覚悟していたわ。それでもある程度までは我慢するつもりだった。
けれど貴方は簡単に限度を超えた。
…あんな風に踏み躙られたのに黙って関係を続けていこうなんて、それこそ正気の沙汰じゃない」
本心という刃を向け、不快に染まりゆく相手を見据えた。
「終わりにしましょう」
既に両手の指では数え切れない数の別れを請われている男は、半目のまま呟く。
「だからよ、正直に言えっつってんだよ。一秒でも早く死んでほしいくらい大嫌いだ、顔も見たくないって」
「……そういうわけじゃないけど…」
困って言葉を濁す。流石に死ねとまでは思っていないので、要求された言葉は口にできない。
それがまた誤解を招く。
「何とか俺がつけいれる可能性はねえのかよ?」
この問いには、セレスはすぐに首を横に振る。
「こればっかりはどうしようもない。心までは…」
目を伏せる。瞼の裏には一人の男。
これだけはセレスがセレスである限り、どうしても消せないのだ。
「ごめんなさい」
珍しく真面目な空気が立ち込めていた。もしかして今夜ついに…という期待が過ぎる。
が。
しばらくの無言の後、
「却下」
たった一言。
いつも通りの展開だった。
「もう――――」
空回りを喰らったセレスが眉根を寄せた時だった。
「いいじゃんこのままだって。お前だって頭ん中じゃいつもあいつとやってんだろ」
鋭利すぎる言葉の矢。
呆れ返っていたセレスの頬が即座にぴくりと反応した。
「……何よそれ」
「図星か?」
凭れていた空気が悪い方向に急速に張り詰めた。
わかっていて、死神はなおも紡ぐ。
「声も似てるしよ。いつアドニス〜イイ〜とか叫ばれないもんかと毎晩ヒヤヒヤもんだぜ」
唐突で驚愕な発言だった。
セレスの表情が一気に歪み、引き攣る。
エルドからはククク…と小ばかにした笑いが漏れ続ける。
次の瞬間、パン、という平手の音が空気を割った。
あまりにも節度の無い発言。無意識に相手の頬を張っていたのだ。
「馬鹿にするのもいい加減にしてよ」
殴られてもニタニタ嗤っている。
「馬鹿になんかしてねえよ。本当のこと言っただけだろ」
「…している最中に、他の男のことなんて考えてない!」
声を張り上げる。
確かに脳裏にいる男がよぎり、己の不実を苛むことはある。だがいつも必死で霧散させている。
どんな夜でも目の前の相手を見つめるべき、いつだってそう思っているのに。
「…自分がされて嫌なことはしないわ」
自信ゆえにきっぱりと否定する。
その完璧な否定に、疑惑と嫉妬で固められた相手の邪悪な面持ちが、ゆるゆると解けていった。
「へえ」
意外そうに目を丸くしている。
「じゃあお前、毎晩俺としてんだ。普通に」
「当たり前でしょ。ばか!!」
「へー……」
間抜けな相槌は幾分か音が弾んでいる。その理由がセレスにはわからなかった。
「本当に信じられない。そんなこと考えながらしてたのね。もういい」
今度こそ、とばかりに手中から抜け出そうとした彼女を、逃がす気のない男の腕が捕らえる。
再度背後から抱き締められる形になった。
「やっ!」
「待てって。悪かったよ」
「放して!」
「すげー嬉しいんだけど。あいつの代わりくれえにしか思われてねえと思ってたからさ」
腕にぎゅっと力を込められ、体温が伝わってきた。
そんな風に思っていたのか。
心底からの嬉しげな様子に少々気が緩んだが、情に流されてはいけないと踏みとどまる。
「もう放して…!」
「いいのかよそんな俺を喜ばす台詞吐いて」
「別に喜ばせたつもりはないわ」
「手前の惚れてる女にちゃんと存在認められてるってわかったら喜ぶだろ」
「何よそれ………」
「さぁて何だろうな?」
笑っている。
よくわからない。
言葉も時間も適当に流されてゆく。
その後も少々会話を交わしたが、だんだんと静けさが漂ってきた。
それはどちらともなく眠りにつく合図。
気負っても、流石にこの時刻に荷物をまとめ出て行くわけにもいかない。
いつも通りの流れだと思った。
弱々しい抵抗ではあっさり抑え込まれてしまう。逃げ出す気力も捻り切られてしまった。
いつも通りのなあなあの収束。
「…おやすみなさい」
束縛を解くと、また今日もはぐらかされたと嘆息しつつ横になり、寝返りを打つ。
いつも通りの夜。そう思った。
だがセレスの隣りにいる男にとっては違った。
その童顔に収まる双眸を閉じ、静かに開けた時、完全に纏う空気が変わっていた。
少なくとも『代わり』ではなく、ちゃんと一人の男として認識されている。
与えられた確証が、止めなければならないはずの歯車に勢いをつけてしまった。
「なあ――――――セレス」
疲労から早速うとうとし始めていたセレスの目が見開く。
覆い被さり彼女を仰向けにした男が、至極真面目な面持ちで迫ってきたからだ。
今まで一度も見たことの無い表情だった。
「口説いていいか」
「ちょっと…」
「口説かせろ」
様子がおかしい。嫌な予感に眉根をよせる。
「…必要ないじゃない。これだけしてるのに。寧ろ無駄ってものよ」
「体だけの話してんじゃねーよ。中身も欲しい」
「何言ってるの?」
突然の豹変に戸惑う。
エルドらしからぬ真摯な空気は変化せずいつまでも継続する。
あの日、セレスを騙した時、顔に貼り付けていた真面目さとは明らかに違う誠実な表情。
「らしくないわよ。やめてよ」
「俺、顔はかなり悪くねえだろ。金だってたんまり稼いでこれる。そこまで悪りい物件じゃねえと思うんだがな」
「だから何言ってるのって聞いてるの」
おののく赤髪を撫でつけ、唇で傷跡の一つに触れた。
「責任、とろうと思って。こんなにしちまった」
そして優しく舐める。まるで愛でるように。
だがされた本人は即座に拒絶する。
「とらなくていい」
「そう言うなよ。お前が言ったんじゃねえか。今回の人生は落ち着けって」
「言ったけど、でも」
「お前といると心地いい。このままずっとやってける気がする」
この死神が何を言いたいのか。
鈍感な女でも、流石に理解せざるを得ない流れだった。
全身から血の気が引き、ぞわぞわと気持ち悪いものがせり上がってくる。
「ちゃんと全部俺のものにしたい」
最悪の展開だった。
心臓が破裂しそうだったが何とか冷静を保とうとする。
「一体どの口がそんなこと言うのかしら」
「この口」
動揺する瞳を見透かされ、口付けられる。
数秒間の接吻。とってつけたような甘い味。
衝撃で硬直した体躯では拒絶することさえかなわなかった。
緩やかに銀糸が引かれた後も唇は震えていた。
「…無理よ」
「無理じゃねえだろ。摩擦はあるが実際これだけ上手くやれてる」
「上手くって、どこが……っ」
「外も内も全部欲しい」
ぐいと乗り出し、憤るセレスの勢いを殺ぐ。
室内を覆うのは、とても愛の告白があったとは思えない緊迫した空気。
「本当に……何もかもとことんまで陥落させないと気がすまないのね」
「はぐらかすなよ」
非難して距離をとろうとしてもぐっと連れ戻される。
蒼白の頬に手を添えられた。
「一生の話をしてる」
決定的な一言。
じゃらり、氷の鎖を全身にかけられた気がした。
「冗談じゃないわ!!」
ぶっつりと堪忍袋の緒が切れる。
猛攻に耐え兼ねてついに柳眉を逆立てた。
迫る男を乱暴に振り払って起き上がる。寝台から離れた女の双眸は怒りで燃え盛っていた。
「ふざけないでよ!すぐ飽きるって言ったわだからずっと、穏便に済ませるためにずっと我慢してたのよ!!
わかってるくせに……っ!!」
牙を剥くセレスに幾許かの気迫が戻る。が、エルドも負けじと口角をつり上げた。
「我慢してたわりには毎晩艶めいた声聞かせてくれるじゃねえか」
「それは…っ!」
「まさか幻聴とは言わせねえぞ」
手強い女に居丈高な言動で畳み掛けてくる。
あっという間に壁に追い詰められ、手首をとられて足掻くしかなかった。
「とりあえず毎晩体許してくれてたってこたあよ、そこまで嫌じゃねえんだろ?」
「嫌!!本当に嫌だったらっ!!」
「悪りいけど俺はお前に決めた」
鋭い切っ先。言葉に含まれる決意にセレスは青ざめるばかりだった。
「いや。絶対に嫌!!」
「そんな嫌がるなよ。傷つくだろ」
冷静を欠くセレスに苦笑いのようなものをしたかと思うと、突然すっと解放した。
驚くセレスを置いてすたすたと寝台へ戻る。
「今は嫌でも、気が変わる。時間たっぷりあるし」
この男には似つかわしい真摯な語調の連続。
「変えてみせる」
愕然とするセレスに背を向ける。
「おやすみ」
そしてまるで何事も無かったかのように毛布を被り、夢のほとりへと向かってしまった。
会話が途切れる。
悪魔の告白を受けた女はただ呆然と立ち尽くす他なかった。
すぐ飽きるから。
心の支えにしてきたその言葉。
死神は、自分から言い出したそれを、あっさり反故にしようとしている。
如何に見下されているのかを理解した。
硬直していた身体がわなわなと震えだす。
不安を現実にされてしまったことで、セレスはすっぽりと闇に喰われてしまった。
しばらくの静寂の後、くっくっくっと、死神の嗤いが室内に響き出す。
だがそれはエルドから発されたものではなかった。
異常に気付いて身体を起こしたエルドの目に、髪をかき上げる女が映る。
狂おしい程、自分によく似た嗤いを浮かべて。
「何よ。好きとか、嘘ばっかり。やっぱり、ずっと…弄んでただけだったのね」
裏切られ続けたという酷い劣等感が、海に浮かぶ廃都の王女であった女を急速に蝕んでいった。
流石のエルドも困惑にまみれた顔つきを見せる。
「だから違うって…」
「一生って何時まで?私が狂うまで?私が死ぬまで?」
ひん捻じ曲がった男の告白はひん捻じ曲がってしか伝わらなかった。
エルドは遣り切れないといった渋い表情でため息をつく。
「…おいマジで勘弁しろよ。…一応、一世一代の告白のつもりだったんだが」
ため息と同時、対面する女が勢いよく剣を抜き放つ。
名剣は月光を浴びて鈍く輝いた。
「お生憎様ね。嬲り殺されるまで付き合えるほどお人よしじゃないの」
「おいセレス」
悲しい顔なんかしても無駄だ。
「出てって!!もう、出てってよっ!!二度と私の前に現れないで!!」
涙を滲ませた金切り声が空間を劈く。
「セレス」
「笑わせないで!!好きな女にこんな仕打ち一生続けたいなんて男が何処にいるのよっ!!」
怒号はエルドに飛ばしているようでいて、実際はほぼ叫んだ主へと向かっていた。
わかりきっていたことなのに。
こんな最低の男と何ヶ月一緒に生活してしまったのだろう。
何度閨を共にしてしまったのだろう。
穏便に済ませたい、なんて。馬鹿じゃないのか。有り得るわけがないのに。
また判断を誤ったのだ。
心底からの惨めな気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
「もう苦しめないで……」
襤褸切れのような懇願を搾り出した。
セレスの惨状にエルドは重く息をつくと、むくりと起き上がり寝台から離れる。
「わかった。今は出てく」
「今はじゃないでしょう!?二度と来ないで!!」
背後から嵐のような拒絶を受けながらの着替えは、仕込みも何も無しで至極手早かった。
最後に愛用の弓を手にすると、
「少し空ける。考えておいてくれ」
と当然のように口走った。
「ほとほとしつこいわね」
負けじとギロリ睨みつける。
「これが最後よ。次、来たら戦うわ。…本気だからね」
凶器を向けられてもエルドの視線は揺るがず冷ややかだった。
「戦えるのか?お姫様」
それはセレスの戦士としての弱体化をわかっていての、遠まわしな暴言だった。
しかしセレスもここで退けない。
「それじゃ射殺されるか、猿轡をかまされる前に舌を噛み千切るかのどちらかね」
女は覚悟を決めている。容赦ない殺気を注がれる相手は萎えた様子で愚痴った。
「嫌われたもんだな」
そして上の空で呟く。
「……もっと心動かすモンもってこねえと駄目か」
そんなものはいらない、どう叫ぼうとした時。
ドアが突如ガンガン力任せに殴打されて軋んだ。
「セレス!どうした!!」
大声を上げ続けたせいだろう、遅ればせながらも近隣のイージスが慌ててやってきたのだ。
「ちっ」
厄介者の来襲に舌打ちをすると同時、死神は挨拶もせず足早に家を出た。
途端に罵声が飛び交う事態は免れなかった。
「うぜえ!!何の関係もねえだろ!どけ糞カナヅチっ!!」
生前から変わらぬ粗雑な怒鳴り声、それに応じるイージスへの罵声。
どちらも思い通りにならないことへの苛立ちを伝えてくる。
しばらく聞くに堪えない中傷の応酬が続いたが、エルドの声が遠のいていって、消えた。
室内には真っ白になったセレスだけが残される。
「セレス無事………おっと」
室内に突入してきたイージスが慌てて背を向けた。
セレスには既に裸体を目撃されたことすら恥じる余裕がなかった。
剣を突き立てたまま、その場にずるずると崩れ落ちる。
鋭い刃が肌を薄く裂いて血を零しても、何も感じなかった。
潮風が凪ぐ。
やっと死神が去った一室。けれど一時的なもの。
穏やかな快晴とは真逆、ぐったりと、生気なく腰掛けるセレスがいた。
告白が本気かはわからない。けれど一生付き纏うという宣告はあまりに重圧だった。
「もういいんだよ」
対面する先達からの優しい声音。
柔らかく心を撫でるが、この先達がこんな話し方をしなければならない程、己は落ちぶれたのか。
「お前は何も悪くないだろ」
言い聞かせるような語調は、耳に快いものでも、障るものでもあった。
己の感情さえもう理解できない。
「大丈夫……」
隣りに移動してきたイージスにそっと頭を抱かれる。
「次来たら今度こそ殺そうな」
優しい口調とは裏腹のとんでもない台詞だった。
だが道を踏み外し続けたセレスには、もう、『兄さん』の誘導に逆らう力は残されていなかった。
反論が返ってこないことに、先達の汚い髭面が歪んだ。
優しさの中にひと欠片、ついに反撃を許されたことへの狂喜が舞い踊った気がした。
いつ戻ってくるかわからない。
一人暮らしなど到底継続できたものではなかった。
イージス宅の一室を借り、ひっそりと生活していた。
いや、生きていたという方が正しいだろう。
窓を締め切った真っ暗い部屋で、ただただ植物のように寝転がっていた。
先達は慕われているので、家にはゾルデの他住民が頻繁に出入りする。
特に子供達が多い。
甲高い声がドアの外という異界から響いてくる。
閉じこもっているので、セレスのことは存在すら知らない者もいる。
知っている子供達にはイージスと違って変な大人だと思われていることだろう。
早く死神再来の対策を練らねばならない。だが精神的な圧迫はあまりにも強烈だった。
逃げられない。
何とかしないと一生まとわりつかれるんだという恐れがセレスを全て飲み込んでしまっていた。
堕ち果ててあの男を受け入れ、欲望のままに絡み付けば楽になるのだろうか。
かぶりを振る。
それだけは……それだけは、どうしても。
どちらにせよこんな毎日ばかり送っていてはいけない。
抵抗するためにも、せめて身体だけでもつくっておかなくては。
そう思ってのそり寝台から這い出そうとしたが、ぼとり、無様に床へ落ちた。
蝕みは思いのほか急速に侵攻していて、気が付いた時には立てなくなっていた。
「何もかも、兄さんの言うとおりだったわね」
数時間後イージスに発見され、慌てて寝台に戻された時、呟いた。
一歩退いたら、十歩踏み込んできた。
選んだのはそういう男だった。
「ごめんなさい」
「……」
哀れむ先達からの返答はなかった。もう何と声をかけていいのかわからないのだろう。
扉がゆっくり閉まって、また酷い孤独が胸を締め付ける。
それが更に無力感を呼び、蓄積させてゆく。
最初は確かに匂引かされた被害者の位置にいたのかもしれない。
だが今は違う。救いの手を振り払い、己からあの死神を引き寄せた。
己の気持ちを自覚していたくせに他の男と寝続けた。
ただただ楽になりたい一心で。
救いようがない。
消えてしまいそうな孤独に苛まれているといろいろなものが見えてきた。
今までたくさんの人に支えられて生きてきたんだな、ということ。
一人では何もできない女。何もかも皆のお陰だったのだ。
今更ながら深い感謝の念がわき、同じぐらいの後悔もせり上がる。
そうだそもそも、夫を裏切った私に幸せになる権利、なんてなかったんだ。
どん底の精神ではネガティブな思考は止まらなかった。
もう涙も出ない。
乾ききってしまった。
焼け付くような渇きを覚える。
水さえも飲む気力がない。
海から与えられた命。
使わないなら、海に還すだけ、か……
『大丈夫よ。きっとうまくいくわ』
絶望に浸る女の耳を、過去からの声がそっと撫でた。
神々しい乙女の金の髪がふわりと波打つ。
『手放しては駄目よ?きっと正しい方向へ導いてくれるわ』
「……」
肌身離さず抱いている剣のことを、あの女神はそう言った。
本当にそんな力があるのなら。
今、導いて……
満ちた月。
その夜もまた、鞘に納まったムーンファルクスを抱いて横になった。
水の中たゆとう。
まどろみ、ゆらり、揺らめく。
光踊る浅瀬。海中。こぽこぽ空気が昇る心地よい音がする。
ふわふわと雪が舞う。
違う。女神の羽だ。
きれい。
手のひらに舞い落ちた懐かしい純白をそっと胸に抱く。
淡い色をした記憶の花が咲いて溶け、懐かしい声がこぼれる。
「エーレーン」
クレセントが精悍な顔立ちをした戦士に走り寄って行く。
あれが赤光将軍、天眼のエーレン。
エインフェリアに選定されてから初めて顔を合わせた同僚。
クレセントが言う通りの、素敵な人ね。
白光将軍は弾けんばかりの笑顔で慕う男を見上げている。
可愛いな。
私もあんな風に好きな人に素直になれたらいいのだけれど。
どうせ気持ち悪がられるだけだし。実際気持ち悪いし。
自嘲していたら幸せそうな二人はふっと消えた。
此処は何処なんだろう。
夢か。夢だろうな。夢の中で夢だと自覚するのもおかしな話だけれど。
ひとときの、ひとひらの夢。
辺りを見渡すと、明るさとは縁の無い端っこの闇に、膝をかかえる幼女が見えた。
嗚呼―――またアリーシャが縮こまって泣いてる。
こんなに小さいのに幽閉だなんて。
シルメリア、そんなに強く言わないで。アリーシャはまだ小さいんだから。
己の声はアリーシャには届けられない。
身体がほしい。あの射られて痛みばかりがのさばる身体でもいいから。
兄さんの血の流れる子供。
抱き締めたい。
鏡に映るのは実兄の面影を微かに残した王女の泣き顔。触れたら淡く溶けそうな色をしたきれいな髪。
さらさら流れる黄金色の絹糸。
少々質は違うが、実妹のフィレスもそうだった。
金の髪。昔は羨ましかったっけ。
でも、今は、そこまででもない。
赤はあの人と同じ色だから。
あの人と―――――
思い出す度に胸がしめつけられる。
いつから。
いつからこんな気持ちになったのだろう。
シルメリアに使役されてずっと一緒だったから――――
違う。
本当は
認めたくないけれど
本当は生前から
そう
ずっと昔から
あの血みどろの丘で
貴方と目が合った一瞬から
私は兵を率いて小高い丘から
貴方は低い平地にばら撒いた屍の上から
あの瞬間から
本当は
ずっとずっとずっとずっと
本当は………
けれどあの暴虐な漆黒にそんな感情を認めるわけにはいかなかった。
そう、戦が終わり、私はラッセンへ嫁ぐのだから。
ラッセン……
視界ががらりと変わる。
エインフェリアに選定された後、同じ時間軸で活躍していたラッセン出身の英霊を一人、知った。
ファーラント。
寛大な心の持ち主で、裏切り者の女にも優しくしてくれる。微笑んでくれる。
でもそれは努力しているから。
その強く優しい瞳の奥底に揺らめいているものの正体を知っている。
整った顔立ちから滲む、微かな憎悪は当然のもの。
無理もない。
その炎は消せるはずなんてない。
人間だもの。
拉致した側に寝返った上、敬愛する領主に子供すら残さなかった女。
そう。
結婚生活に四年も費やしながら夫との間には子供ができなかった。
苦渋を滲ませた医師の言葉によると、原因は領主側にあるらしかった。
成程、中性的な男で、女を求める欲求も通常の年代と比べて薄めで、褥も常に行為できる状態ではなかった。
が、世間というものは必ず女を悪者にする。
しかもあの斬鉄姫。囃し立てるには恰好の的だったのだろう。陰では色々言われていたようだ。
気にするなと言っても、彼はいつもそれを気に病んでいたっけ。
でも、中傷自体は本当に気になんてしていなかった。
彼との夜はいつも優しかったから。
体が満足できなかった夜でも抱かれて眠るのはこの上ない幸せだった。
幸せだったのに――――
静かな昼下がり。
陽だまりの下、夫の頭を膝に乗せて髪を撫でている。
可愛い人だ。
どこか遠くへ行きたいな
誰も私達を傷つけないところへ
そう願っても、
城の中しか知らない、城の中でしか生きられない、どこか枷を引きずっている、つがいの鳥なのを知っている。
そんな夫に一度だけ、激しく叱咤された経験がある。
夫が声を荒げるのを久しぶりに聞いた。
「驚いたわ。どうしたの」
と問うと、面白くないからその話はやめてくれと憤っている。
何故機嫌を損ねたのだろう。大した話はしていないはずだが。
戸惑っていると、君はその男の話をする時、何だか違うと吐き捨てられた。
「…そりゃ戦場で傍若無人に暴れまわってる男の話だもの」
言いながら、嗚呼、とセレスは当時の己の愚鈍を恥じて目を伏せる。
今更合点がいく。
夫には見えていたのだろう。
気付かないふりをするだけで己まで騙せているつもりの、女の本心を。
「気に障ったなら謝るわ」
夫は謝罪を受けた後もしばらく拗ねていたが、
君は私の妻なのだから他の男なんて気に留めないでいい、というようなことを言った。
「勿論よ」
迷わず肯定する。
夫は幾許かの納得のいかなさを持て余していたが、とりあえず不貞腐れるのをやめると、また膝の上に頭部を預けてきた。
子供みたいな人。
この人が教えてくれたのは、戦い血を流すことの虚しさだった。
だからセレスは統一国家による平和な新世界を夢見た。
だがいくら写本持ちの宮廷魔術師の甘言に乗せられたとはいえ、裏切り者が背負う罪は同じ。
ラッセン領主夫人として、愚行を許される日など来ないのだろう。
自業自得なのだ。
追憶から抜け落ちて再度暗い深淵に取り残され、うずくまる。
そう、勝手に一人ぼっちになったんだから。
仕方のないこと……
「でも個人的には」
ふと背後で懐かしい声がした。
「許してあげる」
振り向いた先にいた男には見覚えがあった。
「あなた…」
「さあ、そろそろ立ちなさい」
懐かしい男から手のひらを差し伸べられる。
信じられなかった。
「…はい」
だが勝手な夢だとわかっていても安堵と喜びが溢れる。
「……はい、あなた」
手を重ねて立ち上がると、優しく微笑まれた。
涙が出る程懐かしい笑顔――――
「さよならセレス」
別れの言葉と同時、温もりを残したまま記憶が散じて羽が舞った。
輝く羽の向こうには、彼の戦乙女が待っていた。
手招きしている。
シルメリア。
待って。
やっぱり私、あなたから離れるべきじゃなかった。
女神を見失うまいと無我夢中で走りこむ。
もう少しで手が届きそうだったのに、ぐん、と引かれて体が揺らぎ、前進を妨げられた。
不意の妨害。
驚いて振り返ると、服の裾を細すぎる手に掴まれていた。
「え……」
それは膝を抱えて俯いている小さな子供だった。
ぼさぼさの頭髪。汚れた衣服。傷と痣にまみれた骨のような腕。
即座に誰だかわかった。
「……」
だが今のセレスも他者を構ってやれる余裕などない。
「ごめんなさい…」
罪悪感に苛まれつつもそっと振り払い、シルメリアの姿を追った。
手招きに導かれて辿り着いたのは、お世辞にもきれいとは言えない一室だった。
何故このような場所に。
最初は戸惑ったが、どうしてここにいざなわれたのか、ゆっくりと理解が浸透してゆく。
多分ここは道を踏み外さなかった世界。
ヴィルノアで
私、ここで生活していて
そう、私、待ってる
もう数ヶ月経ったけど、きっと帰ってきてくれる
信じなきゃ
あの人を
でも今は、仲間達が遊びにきてくれているから。
早く昼食の準備をしなきゃ。
大量の食材を抱えいそいそ移動していると、ソファで仰向けになって寝ている男が目についた。
正直、今回彼も来るとは思っていなかった。
こういう集まりは好まない男だと思っていたからだ。
顔を覗き込む。
「眠ってるの?」
問いかけに応じて薄目が開いた。
相変わらずの、童顔に似合わぬ濁った眼光。
「…だよ。起こすな殺すぞ」
殺意雑じりの視線に貫かれたが、
「なんだ…お前か」
すぐに解消された。
「疲れたんだ…眠らせてくれ」
と、面倒そうにごろんと背を向ける。
「ソファを占領しないで。眠るなら客室のベッドを用意するから」
「うるせえ話しかけるな」
「もう」
呆れるも、あまり強く言って機嫌を損ねる方が面倒だ。
諦めたセレスが去ろうとすると、身勝手な弓闘士からぼそりと呟きが零れた。
「お前が隣りに来るならいくらでも空けるけどよ」
「え?」
「どうせ来る気すらねえんだろ…」
「………」
ソファを占拠する暴君の背中を見つめる。
どうして。
「そんなこたわかってる」
どうして、そんな声で、そんな言い方をするのだろう。
「わかってるよ…」
ずるい男。
散々邪悪を撒き散らしておきながら、そんな態度ばかりとって、女の気持ちを絡め取る。
振り払えないわけだ、と嘆息する。
近寄って髪に触れてやると、少量驚きを含めた流し目と共に小さく微笑んだ。
嬉しげなのが伝わってくる。
やめてよ。そんな態度、貴方らしくないんだから。
貴方は、もっと。もっと―――――
目を瞬かせた瞬間だった。
一気に世界が暗転し、闇の中からあの子供が、肉の削げ落ちた顔におさまる大きな目玉でぎょろり、
セレスを見上げていた。
衝撃で息をのむ。
有無を言わさず抱きつかれた。
痩せ細っているのにあまりにも重い。
やめて
私には無理なの
子供なら、貴方が本当にまだ小さな子供なら、いくらでも努力するけれど
貴方はもう大人になっていて
その棘だらけの手でどうしようもなく傷つけられるだけ
私の手に負えるレベルじゃない
もうやめて
エルド
「どうかしましたか?」
はっと我に返った。
闇が消えた。
汗だくのセレスを、可愛らしい少女が心配そうに首をかしげて見つめている。
アリーシャ。
「真っ青ですよ?」
小首をかしげると輝く金の髪が揺れた。
おどおどした態度なのが懐かしい。
「何でも…ない…わ」
「そうですか?ならいいのですが」
王女は下がり眉のままで柔弱に微笑む。
「あの、でも…見つかりませんね」
「…そうね」
そうだ。シルメリアに言われて何処かに行ってしまった同僚を探している最中だった。
草木をかき分けて森を捜索する。見つからない。
本当に面倒をかけてくれる。
「エルドさんて、解放された後も、あんな調子で大丈夫なんでしょうか…」
他人の心配をした後に苦笑いして俯く。
「…私も、人のこと言えませんけど」
そんなことない。
優しいアリーシャ。
強くなった。
旅路の果てで戦乙女三姉妹と融合し、散り果て、その短い生涯を全うした。
アリーシャ
兄さんの子孫
不死者にまで身を堕として
マテリアライズまで出切る様になって
前に進む為、成長してゆく度、どんどん人間からかけ離れて行く
私はただそれを見守るだけの過去にゆらめく亡霊だった
結局何もしてあげられなかったのね
輝く六枚羽の女神に手を伸ばしても、空しく空を切る。
闇の向こう、その先に別の輝く切っ先が見えた。
場面が切り替わる。
フィレス。
普段とは打って変わった鋭い気迫。
真っ直ぐな淀みない眼差しがこちらを見据えている。
たった二人の従者と供に、棘の道を切り開きここまで追い詰めてきた実妹。
あの日、写本が燃えて、一年戦争は終わった。
射られるとわかっていても逃れることはできなかった。
フィレス―――――
そんな、仲良し姉妹というわけでもなかったけど。
実姉を狙い撃つとはどのような気持ちなのだろう。
8つも離れた妹。
可哀想なことをさせた、ね。
ごめんね。
「ごめんね〜じゃないわよ。ずいぶんやり込められちゃってるじゃない姉さん」
浸っているところに突然声をかけられてびくりと身を震わせる。
「フィレス…」
「らしくないんじゃない?しょ〜じき意外」
パルティアの地に佇む年老いた妹の背中が見えた。
包むべき腕のない布地が、はらりと揺れる。姉を射抜く代償に斬り落とされた片腕。
でも、老いてもなんと大きいのだろう。
あんなに小さかったあの子が。
「止めてほしかったんでしょ?あの時はさぁ。でももうアタシはそこにいないわ。へばってないで早いとこ自力で何とかしなさいよ」
「……」
こんな何百年と経過した世界でさえこの子に心配をかけるか。
本当に、私は。
「…そうね。ごめんなさい」
「あ〜はいそこでそんな顔しな〜い!アタシに謝ってるヒマあるならそのどヘタクソな生き方何とかしたらぁ?」
遠慮せず言うだけ言ってから、にっと笑う妹。
相変わらずねえ……
そう、つられて微笑んだ瞬間だった。
言い表し難い異質が大きく口を開けたのがわかった。
シルメリアの導きとは明らかに違う何か。
それが凍りつくセレスを捕らえようと手を伸ばしてきたのだ。
フィレスが慌てて手を差し延べてきた。
手をとりかけたが、妹を巻き込むと判断した思考回路が彼女を拒絶した。
あっという間、闇に包まれた。
気がつくと汚れた床の上に倒れていた。
半崩壊しているが、頗る見覚えのある場所。
王座には王冠を乗せた白骨が座っている。
「おかえりなさい」
心臓が飛び跳ねる。即座に起き上がり剣をとった。
不愉快に耳を撫でたのは、あまりにも聞き覚えのある忌まわしい声だった。
抜け殻の王。その周辺には、命を賭して彼を守ろうとした騎士達の白い残骸が散らばっている。
彼等を気遣いもなく無残に踏み躙り、王座の背後からのそりと青年が現れた。
神々しいと感じた姿は今では影も形もない。禍々しい空気を纏い不必要な程に圧迫してくる。
「…ゼノン」
ロゼッタ。
突如歴史の大舞台に踊り出た、荘厳で華やかな夢の都。
急激に膨れ上がって破裂したハリボテ仕立ての大国。
全てを惑わせ破滅へと導いたその立役者が、セレスの目前で怪しく微笑んでいた。
違う。
ゼノンじゃない。彼はもう解き放たれた。
現在は反省と共に、二度目の生をミッドガルドの為に全うしようと奮闘しているはず。
だったら、これは。
「写本か――――」
セレスの視線の鋭さが増す。
手にはあの、不可思議な文様を刻むぶ厚い本。
言い当てられるとゼノンの端正な顔立ちがこれでもかと歪んだ。
セレスは今でも隻眼の写本という存在の正確な正体を知らない。
ゼノンという依代に憑依して全てを操っていたのか、それともゼノンという人格を基礎として言動を狂わせていたのか。
終わってしまった後では知ろうとも思わなかった。
彼と見た夢は本当に大それた夢だった。
神に抗い、新世界を創造する。
大きすぎた夢だった。
警戒するセレスとは対照的に、ゼノンの姿をしたそれは平然と佇んでいる。
王冠付きの骸骨は彼に軽く殴りつけられただけであっさりと崩れ落ちた。
座席にたまった屍をごみ掃除のように払い除け、そこにゆったりと腰を降ろす。
既に敬意の一つも示す気がない。
「戻ってきたんだね。英雄王女フィレスの経歴を彩る具材の一つでしかない愚かな姉君」
「……」
身構えるセレスに更なる戦慄が走る。
戻ってきた?
それに、さっき。
おかえりなさいと、言わなかったか。
「安心しなよ。今の俺に貴女をどうこうする力はない。ここは記憶の片隅みたいな所だ」
「どういうこと?」
剣を構えたまま、できる限り隙は見せないように。
極度の緊張で脂汗が滲む。
「数ヶ月前に君を蝕み、玉の肌へ傷痕を残していったあの病と同じだよ。君の心の奥底で息を殺して潜み…」
また、喰らいつける日を心待ちにしている、か。
言わずともわかった。
ムーンファルクスを握る手にいっそうの力がこもる。
企みが読めない。
「貴女は騒乱の種子みたいな素晴らしい女性だ。大事な大事な俺の駒だからね」
不気味な含み笑いには明らかな嘲りが混じっていた。
金の髪。純白のローブ。涼やかな目元。なのにどす黒い。
どうして当時はわからなかったのだろう。
どうして。
「怖いかい」
立ち上がり、コツコツと前に進み出た。
靴音が耳に障る。
「そうやって抗うからいけないんだよ。開き直ってしまえば解放されるのに」
「戯言を…」
「貴女は本当に隠すのがうまい。いや、抑圧するのが、と言った方が正しいかな」
不可思議ではっきりしない言い方。
その先を聞いてはいけないと本能が告げた。
が、何故か聞きたがる自分を止められなかった。
「何を…言ってるの…?」
食いついてきた獲物にオーディンの欠片は鳥肌ものの薄笑いを浮かべる。
「貴女は何もかも喰らい尽くす獰猛な魔獣を奥の方に閉じ込めてる。でも、完璧ではない」
「……」
「そう、あなたは愛しい男と違って、それを制御できない」
全身が情けない程びくりと波打った。
汗が噴き出す。
対面する相手は言葉で弄びながら楽しげに嗤う。
「一度出してしまうと手がつけられない。あの丘陵でそれに気付いた。常に血腥さを欲している自分に。
だから必死で押し込めようとする。戦場から遠ざかろうとするんだね」
「違う…」
「平和や統一への理想なんて二の次だ。俺に賛同したなんて嘘だ。本当は、ただ――――もっと殺したかったんだよね?」
全てを決め付けるかのような言い草はあまりにも力を孕んでいた。
だめだ。違うのに、絶対に違うのに、反論がうまく紡げない。
舌の回る気配が微塵もない。
流されている。
心臓が破裂寸前だった。
「ラッセンとかいうどうでもいい国に政略結婚で押し込められてから4年、貴女の火は消えたかに思えた」
獲物の動揺を嗤い、軽んじる微笑みを湛えながら、ゆっくりと階段を降りてくる。
「だがある日貴女を解放する男が現れた。炎で真っ赤に焼いた鉄みたいな男。彼との一騎打ちという夢のような時間が訪れた。
しかし至福の時間は短い。彼は首をごろりと落として死んでしまった。
貴女は数年ぶりに目覚めた反面、自らを恐れ、その輝かしい勝利を何としても偶然の産物とやらにしたかった」
引きずり込まれる。
「だから次の贄を与えてくれる俺を選んだ」
逃げなきゃ。
また囚われる前に――――
階段を降り終えた悪魔は突如、脱出の隙をうかがうセレスの気を殺ぐ話題を持ち出してきた。
「それにしても驚いたな。貴女をここまで追い詰めるなんて。ちょっとは使えるんだねえあのドブネズミも」
あからさまにエルドを指す比喩を用い、高らかに笑った。
嫌悪が走る。
改めて目の前の存在がゼノンではないことを確信する。彼だったらこの類の嘲りは決して好まない。
「あれはしつこいだろう?水子だよ。然るべき時期に与えられて当然のはずの愛情を与えられなかった。
それを求めて彷徨う飢えた魂だ。可哀想だね」
可哀想。
そう言いながらも語調には、愚かな言動を繰り返す男への侮蔑が大量に含まれている。
「貴女には本当に災難だったね。でも、あれはあれで一生懸命なんだよ。下手糞なやり方だけど、愛してもらおうと必死なんだ」
「……」
沈黙するセレスへと、冷ややかに問うた。
「さて、今の貴女にあの男を救えるのかい?」
無理だ。
わかってはいるのだが、このゼノンの姿を借りた悪意の存在に安易に同意できない。
セレスがじりっと後ずさると、また突然話題を切り替えし、その場に縛り付けようとする。
「セレス貴女が彼の男に抱いている想いは、それは恋じゃないよ」
その唐突さがいちいちセレスの心を抉る。
「君はあの男の―――同じものを持ちながら制御ができる人間の、庇護下に入りたいんだよね」
「何を…!」
「恋慕の情というのは面倒くさいね。そんなに好きなら行けばいいのに。死に別れたわけじゃなし」
「いい加減…っ」
「でもそれでは面白くないね。戦姫にそんな庇護は必要ない」
言うだけ言うと、白いローブの悪魔はすっと手のひらを差し伸べてきた。
「さあまた踊っておくれ紅蓮の君――――――」
その場に留まるのは限界だった。引きずり込まれ、必死に隠しているものを、本気で暴かれてしまう。
「おいで」
数歩後ずさった後、ついに踵を返して走り出した。
「逃げても無駄だよ」
必死で走る。
「逃げるな」
写本でない誰かにも引き止めるが、構っていられない。
だがそれはお構いなしに逃走を妨害してくる。
誰よ。痛い。髪を引っ張らないで。
一歩でも遠のきたいのに。
「立ち向かえ」
できない、できない。もうそんなこと。
説教なんてたくさんよ。
「足元を見ろ」
えっ、と気付いた時にはもう遅かった。
息をのむ。
ぽっかりと大穴が開いていて、なす術も無く吸い込まれていった。
淀んで濁った水の中。
ごぽごぽと息を吐くが苦しくはない。
もう既に汚れているからだろう。
沈んでいく。
嗚呼、でも、これで。
暗く冷たい底へ堕ちゆきながら、ぼうっと、泡粒が昇っていくのを見ていた。
遠のく意識に逆らわず身を任せてしまう。
これで楽に……
目を閉じようとした瞬間。
突如腕を乱暴につかまれた。
ぐんぐん浮上していく。
痛い。やめて。誰なの一体。余計なことしないで。望んでいない。
もう楽にさせて。
もがいても上昇はやまない。
ばしゃんと水を割る破裂音がする。
空気を吸い上げた後目を見張った。
水面で出迎えてきたのは、ずっとずっと焦がれていた男だった。
硬直するセレスに、見慣れた漆黒が鼻先で怒鳴りつけてくる。
「しっかりしろボケ!!この豚野郎っ!!情けねえないつまでもクサってんじゃねえよっ!!!」
罵声を浴びせられているのに、ひと目姿を見ただけで、怒りも悲しみもすべて消えてしまう。
「あ……」
思考の巡る余地などなかった。ただ彼を感じたくて、消えてほしくなくて、後先構わず抱きついていた。
「ああっあ、ああ…」
呂律が回らず、言葉にならないのがもどかしかった。
狂おしい程に縋り付く。
ほのかな体温を感じられた気がして言い表せないくらいに幸せだった。
もういいと思った。何もかも、もう。
至福のまま、このまま。
拒絶と刃を覚悟していると、代わりに襲ってきたのは力強い抱擁だった。
驚いて目を見開く。思考が停止する。
「いいか、立て。とにかく立て」
壊れるほど抱きしめられて乾ききった彼女を水滴が穿つ。
冷え切った魂に熱が灯る。
「戦士なら何があろうとも目を開けてろ」
深い部分から潤って、諦めきっていた何もかもが変わっていく。
満たされる。
「そうすりゃ道なんぞ勝手に開ける」
水滴に混じって涙が伝った。
「うん」
世界に光が射し、一段と透き通る。
「……うん」
嬉しい
嬉しい
嬉しい…………
「……………未練がましいとは正にこのことね…………」
開口一番に口から零れたのは自嘲だった。
汗だくでの目覚め。だが悪い気分はしていなかった。
追憶の中にいる大事な人達の笑顔と優しい言葉達、そして最後に彼の姿を見れたからだろう。
「……」
馬鹿みたい。
勝手な解釈ばかり。
あんな風にしてくれるわけ、言ってくれるわけ、ないのに。
それでも心からは優しいものが溢れてくる。
乾ききったと思った身体から汗が流れてゆく。
抱きしめていた剣をそっと脇に置くと、水差しに手を伸ばし、水分を補給した。
痛めた喉に障る。
だが美味しかった。
生物を構成する素が身体中に巡り、染み込んでゆく。
体内にすうっと取り込まれて、瑞々しさと柔らかさを供給する。
生きている証。
「…何よ」
口を拭って一人ごちる。
夢の中でまで怒鳴り散らして。
「私はもう戦士じゃないっていうのに」
馬鹿みたい。
どきどきしている。
「殺したいくせに」
上半身を起こす。
「何で生きろって言うのよ」
何日もろくに動かしていない身体はなかなか言う事を聞かなかった。
だが悲鳴をあげて倒れようとしても、ぐっと力を入れ堪える。
「…ばか」
そうして、自分の力で立ち上がった。
まだどうしてもふらつく。数歩進んで冷たい壁に手をつき、もたれて大きく息を吐く。
立ち上がれたことへの喜びで満ち、変にすっきりした気分だった。
窓の外では水平線が燃えている。
血の海みたいな朝焼けが、血の海みたいな男を待つ女を照らす。
赤い世界。
思い出す男。
追ってこない男。
悠遠の彼方にいる男。
「でも」
朝がくる。
「来ては、くれないのね」
空と海を鮮やかに焼き焦がして光をもたらす。
セレスにとっては新しい夜明けだった。
でもそこに彼はいない。
勝手な夢を見ただけ。
終わったんだ。
そう、終わったんだ……
なのに。
「もう忘れなきゃ…」
言葉とは裏腹に心は幸せだった時間を再生する。
いつもそばにいれた。
ああそうか、シルメリアの翼に抱かれて、彼がいて、みんながいて、
つらいことも多かったけど、
――――あそこは、楽園だったんだな。
「……」
好きな男を想う。
もし私に誰かを幸せにできる力があるのなら、この世に貴方だけなのに。
私はここよ。
ここにいるのに、あれだけ執着してくれていたのに、――――どうして来てくれないの?
勝手な思考ばかりが目覚めたセレスの心を駆け巡る。
忘れられない………
目覚めを待つ静けさの中で、募るばかりの想いを自覚した。
彼は生前、この手で終わらせた相手。
たとえ狂っているとしか表現できない想いでも。
どうして。
どうして、離れてしまったんだろう?
あの日なら話をすることも、食事をすることも喧嘩することも、何とでもできたのに。
貴方のそばにいられるなら
他になんにもいらないのに
何故努力すらせずに逃げたんだろう
こんなに好きなのに……
泣きたくなるのを誤魔化すかのようにかぶりを振り、髪をかき上げ、はあっと息を吐く。
似合わない。
こんな感情、自分には―――とりわけ今の自分ごときには。
でも。
今ではもう、残された痛みさえ愛おしい――――
この夜明けは一体どこからくるのだろう?
「…どうやって忘れればいいのよ」
壁から離れ、よろけつつも立ち上がり、一人死んだ港に佇む。
紅に包まれていたら自然に答えが出ていた。
あの人が来ないなら、自分で見つけに行こう。
そうだ。
翼はなくとも、私にはこの二本の足がある。
この事態を招いた禍根を断ち、決着をつけたら、そしたら旅立とう―――
あの人に会いに行こう。
自分の足で地面を踏みしめて、
どうしても伝えたい言葉を伝えに、
大切な人に会いに行こう。
今回は以上です。ありがとうございました。
ファビョニス乙
…これほんとにアドニス助けに来ないのか
どんな展開でも覚悟しつつ全裸待機
アドニスktkr!!と思ったら夢かよ…orz
切ないな…セレス。切ないよ……。
ファビョニスGJ!!
俺も温かくなってきたから393の隣で全裸待機。
ふぅ…。ふぅ…。ふぅ…。
俺はずっと全裸待機
続き投下GJ
エロ度に関しては俺的にはエルドの圧勝
待ってましたよー!!!
いつもいつもありがとうございます!
エルドは確かに嫌なやつなんだけど、セレスへの気持ちだけは真直ぐで純粋だなぁ…と思うと応援したくなってしまう。
不覚にもちょびっと泣いた
職人さんGJです
もう20回以上やり直してるけどエルドでねー
こいつ本気でやな奴だな
職人さんGJ!!
>>398 奴は運だからな
一発で来たって人もいりゃ60回目でやっと出たって人もいる
粘れ
ありがとう。がんばってみる
フェイリムの人続きマダー
>>402 すまん
一応書き上げてはいるんだがずっとPCの方で全鯖規制かかっててるんす
気長に待っていただけると嬉しい
書き上がってるなら投下代行してくれるスレの人に頼んだらどうかな
待ってる人何人かはいるみたいだし
と思ってスレ探したら引っ掛からなかった
なんてスレタイだったか
クレアさんへケフィアぶっかけ大会まだー?
フェイリムの続きwktk待ち
フェイトとリムル……だと……?
と一瞬読み間違えた
ものすごく久しぶりに来たけど、保管庫見る限り咎を背負う者ではまだ俺しか書いてないのか…
なんか寂しいな
>>410 二次創作ハーレム王フェイトならやりかねん
と一瞬思ってしまった
「……さあ、一思いにやっちゃうのよ…」
そう言ってはみたが、一瞬目に入った彼のソレからどうしても目をそむけてしまう
自分が予想していたよりも、ソレは大きかったのだ。
そもそも共に風呂に入っていた状態の祖父の一物を基準にしていた彼女にとって、
フェイズのソレは明らかに彼女の想像の範囲を超えた物体だった。
まずそもそも大きさが違う。でもこれは人種的な違いだろうからどうこう言っても仕方無い。
そして明らかに異質な点はその形だった
垂れ下がったものを想像していた彼女にとって、目の前の愛する青年の股間にあるそそり立ったそれは…
物をどうしても目を入れる事が出来ないのだ。
同祖なのだから、物体の機能的には何ら差はないはずである…が
あれが身体の中に入るなんて信じられないのだ
目を背けている自分に気付いているのかフェイズはリムルの長い髪を梳いた。
「で、出来る限り優しくするつもりですから…」
「わ、分かってるのよそんなの…」
「…じゃあ足を少し曲げてもらえますか?その方が多分角度的に入れやすいように思うので…」
そう促されると先ほどとは違い自分から体を開く。
しかし緊張からか足の先はプルプルと身体全体がプルプルと震える。
「力…抜きましょうね?それと…僕の事だけ考えてくれてたら嬉しいです。じゃあ…行きますよ」
いよいよなのだ…そう自覚するとぎゅっとフェイズの背中に手をまわし、彼の言葉とは裏腹にグっと力を込めてしまう。
そんな自分の様子を見て、力を抜かせようとしたのか、フェイズは優しくキスをして、リムルの唇をこじ開ける。
「んっ…ふっ…ぁ…!」
お互いの周囲の空気を奪い合うかのように口付けしながら、フェイズは右手で小さなリムルの身体全体を抱きしめ、
左手を一物に添えながらリムルの小さな小さな割れ目に添わせる。
既に溢れているリムルの愛液と、フェイズの先走り汁が溶け合ってぬめっとした感触が拡がっていく。
「んん…っ…やっ…ぁぅ…!!」
その感触に意識を集中させないように、フェイズは口内の攻めを激しくし、
歯の裏側の襞を舐めあげ、未だに戸惑うリムルの舌を絡め取り、口から引っ張り出すと、
それを優しく噛んで吸い上げる。
「ふん…っ…は……っ…ぁ…ふぇ…ず…」
舌を貪られたせいか、膣口への緊張が和らいだ一瞬を狙って、フェイズは勢いをつけてリムルの中に侵入した。
亀頭の先端が体内を割ってに入ってくることを感じた瞬間、足の先がピンと張り、背筋とから腰に向けた下半身に、
電気が走るようなビリビリとした痛みが襲いかかる。
ミチミチと肉を裂いて異物が侵入してくる違和感に耐えられず、無意識の内にフェイズの背中に回した爪先に力が入ってしまう。
いくら溢れ出すほど濡れてはいても、まだ男を受け入れたことのない小さな少女の狭い膣の中を進んでいくことは容易ではなく、
ギュッギュと少しずつ歩みを進める。
その度に身体がビクっと震え、そしてフェイズが必死に頭と身体全体をなでるのだ。
ある程度まで入り込んだ所で、突然今までとは違う痛みが襲ってくる。
「っ…ぃたぁっ…っ!」
初めての性器を挿入する感覚に集中していたフェイズが、痛みを訴える声を聞いて慌てて問いただす。
「い、痛いですよね?!や、やめましょう!まだ早いんですよ!」
そう言うと慌てて自らのペニスをリムルから引き抜こうとする。
「ま、待つのよフェイズ!」
慌てて制止の声をかける。
「リムは、痛いから痛いって言っただけなのよ」
「じゃあなおさら…」フェイズが困ったような残念なような顔をする。こんな顔は見たくない。
「でも、止めてほしい訳じゃないのよ……」
「でも……」また言葉を濁す。
「もう!鈍いのよ…リムはフェ、フェイズの為なら……えっと…その、リムもフェイズと一緒に…じゃなくて…
つまり、フェイズ…!が、頑張るのよ!」
その言葉を聞くと、
「それじゃあ、頑張らないわけにはいかないですね。…リムル…大好きですよ」
「リムも……だいすき…なのよ」
さっきは言えなかった恥ずかしい台詞がするすると出てしまう自分に驚きながら、すっと目を伏せる。
フェイズが片手をリムルの腰に当てて狙いを定め、「んっ!」と声をあげて一気にリムルのまだ幼さの残る身体を貫く。
「ゃっ…ぁぁあぁあああああぁっ!!」
殆ど悲鳴と言っても良いくらいの呻き声が部屋中に響き渡る。
ぶちぶちぶちぶちっと処女を示す肉襞が破れる感覚が身体中に巡り、その勢いに任せてペニスの先端が最奥の子宮口にまで届き、コツンと当たる
白いシーツにうっすら赤い破瓜の印が拡がり、染みわたる。
「ぁ…はぁ…はぁ…リムル…すみません!大丈夫ですか?!」
勿論彼はその声を聞くなりすぐぎゅっと両腕で小さな身体を強く抱きしめる
「ご…ごめんなのよ…大きな声出して…ビックリさせちゃったのよ…」
「いえ、いいんですよ…リムル。ありがとうございます…まだ痛いです…か?」
「うん…まだ少し…だからもう少しこのままがいいのよ…えと、その…あの、ね。今フェイズがリムの中に…いるのよね?」
すると、了解したと言わんばかりに彼はリムルの髪を梳いてその質感を楽しむように手で遊び、頬をすりよせる。
「はい…やっと一つになれました…僕は凄く嬉しいです……リムルはどうですか?」
「リムもうれしいのよ、フェイズ…でも何だかお腹の中が変な感じなのよ…中でフェイズがビクンビクンってしてるのが分かるのよ…」
その言葉を聞くと、フェイズがあーとかうーとか悩んだ声を上げた後、ポツっと言った
「すみません…えっと。リムルの中が…ぬるぬるして、あったかくて…絡みついて
それから、それから…ぎゅって包まれてる感じがして、凄く気持ち良いんです…だから
ビクビクしちゃうんです…」
「…フェイズのばか…何、言ってるのよ…もう」
色々な言葉で説明され、気恥ずかしくなってぷいと顔を背けてしまう。
しかし、ふとフェイズの顔を見ると何かを必死で我慢しているような、余裕のない表情だった。
声がいつもと変わらなかったので特段気にしてはいないかったが…
「フェイズ…苦しいのよ?」
「い、いえ…決してそんな事は…」
「大丈夫なのよ。リム、もう痛くないから。だからフェイズの好きにしていいのよ」
本当はまだ痛い。けど、入れただけでは彼が満足できない事は、知識の浅い自分でも知っている。「せーえき」というものを出さないと、男の人は終われないのだ。
「あは…は。本当言うと僕ももうちょっと限界なんですけどね…じゃあちょっとだけ動きますよ」
コクンと小さく頷くと。フェイズは両腕を自分の両腕に重ねてきた。
それから腰を密着させたまま、一物で中を掻き混ぜるように回転させ、
抜けるか抜けないか位の位置まで腰を引くと、もう一度奥まで、今度はリムルの膣の感触を楽しむかのように、
色々な部分を優しく擦りつけるかのように再度侵入してくる。
「ん、んん………ぁひゃん!」
腹側のコリっとした部分を弄られ、一際ビクンと膣内が反応し、フェイズがくうっと呻き声をあげる。
腹側のコリっとした部分を弄られ、一際ビクンと膣内が反応し、フェイズがくうっと呻き声をあげる。
「ぁ…はぁ…リム…リムルっ…!」
「フェ…ズ…すき…フェイ…ズぅ…!!」
彼ももう限界が近いのだろう。額に玉のような汗が浮かび、それがぽつぽつと己に降りかかる。
「はぁ…あ…僕も…!リムル…ぁ…はぁ!」
奥の子宮口にペニスが辺り、その感覚に耐えられず知らず知らずの内に下腹部にキュッと力を入れてしまい、
彼のモノをぎゅううっと搾り取るように締め上げてしまう
「ぁ!あぁあぁンっ!フェイズ、フェイズぅうう!ふぁぁん!」
「リムル…僕、ぼくもう……うぁあっ!」
ビュク!ビュルル!ドクン!
その瞬間、何か熱い物がリムルの中で発射された事を感じる
今までの彼の三年間分の思いがリムルの中に注ぎ込まれているのである。
それはとても濃く、どろっとしていてその思いの強さを感じさせるものだった。
「はぁ…はぁ…はっ…はぁ…」
お互い目に涙と、体に大量の汗をにじませ、肩で呼吸する。
「…フェイズ、せーえき出たのよ?」確認するように問いただす。
「ぁ、…はい、出ちゃいました……すみません、早くて…本当はもっと…」
少し残念そうにしょぼくれる彼に対して、
「別にいいのよ。フェイズはよく頑張ったのよ、うん。いい子いい子なのよ」
と小さな子をあやすように頭を撫でてやる。
するとフェイズはかなり照れくさそうに顔を赤くし、今度は逆にリムルを抱きしめる
「リムルもよく頑張ってくれました…ありがとうございます。痛くしてしまったみたいですみません…
こんなに血も出してしまって……」
大きく広がる血に染められた体液の染みを眺め、満足気の笑みを浮かべる。
「いいのよ。リム、初めてがフェイズで…ちょっとだけ嬉しいのよ…」
「僕も同じです。リムル凄く可愛かったですよ。」
「な、何言ってるのよ……へ、へくちっ!」
不意にくしゃみが出てしまう。身体の火照りで忘れていたが今は二月だ。
もちろん寒い。
「あはは、ちょっと休みましょうか。僕も今日はヘトヘトですし、リムルも寝不足でしょう」
そう言うと、フェイズはペニスをリムルの中から引き抜くと、
リムルの膣に残っていた白い液体がトロトロと大量に溢れ出した。
「わ……すごいのよ…フェイズの、こんなにたくさん」
それを見ると、フェイズがばつの悪そうな顔をして
「…しまったな…こんな事ならケイにゴムもらってくるべきだったかな…」と呟く
「リム、赤ちゃん出来ちゃうの?」首を傾げる。
「いえ…まだ分からないです…けど…す、すみません。その…中で…しかも生で出してしまって……」
リムルには何故フェイズがこんなに沈んでいるか分からない。レムリックでは身篭ったと分かれば皆から祝福される。とても嬉しい事のハズなのだ。
エルダーでは身篭ることはよくないことなのか、それとも……
「リム、赤ちゃんや子供は好きなのよ…フェイズは…リムとの赤ちゃんは欲しくないのよ…?」
二人とも今現在生活力はある。子供が出来ても困ることは無いのだ。だから当人間の気持ち次第ということになるが…
フェイズはどうなのだろうか。リムルには、彼が気持も無くこういう行為をするとは思えない。少なくとも大切に思われている事は分かる。
「いえ、そういう事ではなく、えと、その、まだ未婚の女の子に対してですね、その、そういう事をするのは倫理的にどうなのかという事で…
と…とにかく、後で、ギムドさんと、リムルのお父様とお母様の所に挨拶に行きましょう」
実質上のプロポーズと解釈しても良い言葉に何と答えていいのか分からず、身体の向きを変えてフェイズの目線から離れようとすると
「……………っつ…!」
ふいに下腹部にズキリ痛みが走る。
「どうしたんですか…?」眉をハの字にさせてフェイズがあわてる。
「何か、まだ中にフェイズがいるような感じがして……変な感じなのよ」
「痛い、ですか……?」
じっと覗き込んでくる瞳に対して、目をそらしながら軽く頷く。
フェイズは眉をハの字型に曲げ、申し訳そうな顔をしながら、
「そうですか……本当に今日はありがとうございました……最高の誕生日プレゼントでしたよ…。セーターの完成も楽しみにしてますけどね」
と言って作りかけのセーターのある方向を見つめながら微笑む
「……本当はセーターだけのつもりだったのよ。…なのにセーターももらおうだなんてフェイズは欲張りなのよ」
「リムルからもらえるものは何でも嬉しいんですよ。」
そういうと、フェイズはリムルの肩を抱き寄せて彼女の頭を彼の二の腕に乗せる
「……もういいのよ、分かったのよ……フェイズ…お願いがあるのよ」
「何ですか?」
「リムが起きるまでちゃんと腕枕しておくのよ。リムより先に起きちゃだめなのよ」
「どんな逆関白宣言ですかそれは…でもいいですよ。リムルが起きたら一緒に晩御飯を作りましょう」
先手を打たれた気がした。本当は全部作っておく予定だったのだ。
「…あれはリムが準備してたんだからフェイズはいいのよ」
「でも、作るのも食べるのも二人でした方が何でも楽しいですよ。ね?」
「むー…フェイズは乙女心が分かってないのよ。鈍感なのよ」
頬を膨らませてぐりぐりと頭を胸に寄せる。
そして気づいたときにはもう意識はなく、二人とも目が覚めたときには次の朝を迎えており、
結局本当の二人きりの誕生日パーティーは「誕生日と一日経過した日」のパーティーとなったのだった。
おしまい
おわりです。
時間開いて、そして名前間違ってるの今まで気づかなくてすまん
リムかわいいよリム
レムリックのおいしいキノコとかマンドラゴラにおいしくいただかれるシチュとかでも良いと思う
>>418 何ヶ月待った事かwwwww本当にGJでした
GJ!
そーいえばあの世界の植物系モンスターは
粘液吐いたり触手振り回したりキノコだったりとエロいのばっかだなw
>418
GJ!!!!!
ごちそうさまでした。
じゃあ箱○とSO4買いに行ってくるわ。
>>411 ニコ厨なおかげで、プレイもしてないのにハマった自分みたいなのもいる
負けないで何か書いて下さいお願いします
殺しちゃいけない的なアンチテーゼが隠されてるせいか、根は良い人が多いんだよね
エーリス抜かしてもヒロイン臭い仲間が2人くらいいるというw
もうリーゼたんとかタマランわ
いやいやフィオナたんもたまらんぞ。
フィオナはダメ兄貴(性能はルシオ2号?)の影がちらついてなぁ…
スタイル的にナタリアさんの方が好みってのもあるわ
妙に陵辱ものが映えそうな気がする
咎は明確なカップリングが無いから書きづらいのもあるかも
強いて挙げるなら番犬ウィルとか厨二爺婆あたりか?
あとDSプレイヤー層と職人層があまりかぶってなさそう・・・
個人的にはフィオナを推すぜ
>>422 プレイしてみろよw話はそれからだ
( ´,_ゝ`)プッ
>>422 314 :名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 03:20:47 ID:h+HjSOi4
プレイできたらニコ厨なっとらんわ
環境あったら〇゙ビサ〇゙とか〇Eとかと一緒にやって
…ないな、動画見てなきゃ或いは忘れ、或いは音楽聴かずに誤解しっ放し、或いはパラと顔と序章にブチギレ
そしてこっちもせっかく他キャラの話題振ってたんだから
あの態度はねーべさ
特定厨だとか半初心者に向かって主張する事じゃないからな
挙句ジジババだけを厨二呼ばわり?ないわ〜
316 :名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 03:43:09 ID:h+HjSOi4
大体、他作品に遠慮しすぎて雑談慣れしてないように見えるんだけどwすげー卑屈
元ネタ自体に初っ端からケチつけてるようじゃ、ネタもパターン化するしかないし(断言)
1や2とキャラやネタの分布具合を比較してみるとか、
各キャラみたいなのがリアルにいたらどんな女かとか
視野広く持てば、くだらねーネタ振りは幾らでもできるようになると思うけどねえ
ただし、小ネタこそ読みやすく詰めるのがムズいという罠。
保守職人になりたい…
スルーしようぜ
こんばんはファビョニスです
毎度遅くてすみませんがやっとできたので投下させてもらおうと思います
次回投下で500KBいくので次スレ立ててから投下させてもらいます
特にテンプレ変更議論等なければ明後日あたりやらせてもらいますね
おぉ待ってました
楽しみにしてます
EOEもまだ先だしテンプレ変更点は特にないかな?
投下お待ちしています
秋ももうすぐ終わる。
いよいよ冷え込みが強まってくる。
本格的な冬の到来を前に他所への移住を決行する者達が絶えない。
残っているのは、年寄りと物好きだけ―――以前誰かがぼやいていた通りの現状が無残に横たわる。
大国の崩壊、人口の著しい流出。当然ながらゾルデの地域社会としての動力は停止寸前だった。
活気を支える働き手が抜けて行けば、治安も日に日に悪くなるのは必然。
セレスもいつまでも遊惰な生活を送っているわけにはいかなかった。
崩壊した自治・警備機能を維持する為編成された自警団へ所属している。
本当は別の仕事がしたかった。だがもうこの街に武器を扱える者など数える程。選択の余地はなかった。
長嘆ばかりの日々から抜け出して戦乙女に渡された剣をかざす。
いざ表に出ると、その赤い髪とは裏腹に冷酷で不気味な女だと陰口を叩かれる日々が待っていた。
輝かしい経歴など過去のもの。もうディパンの王女ですらない。
現在のセレスを守るのはただイージスの妹、そんな肩書きだけだった。
方々から注がれる陰湿な視線は降り注ぐ矢のようだったが、格別苛立ったりはしなかった。
鏡に映る女を見れば仕方が無いと思えるからだ。
どん底からは抜け出したとはいえ、陰鬱な表情が張り付き、暗く影のかかった、まさに死んだ魚のような瞳。
闇に少し引っ張り込まれれば途端に堕ちていきそうな雰囲気。
これでは確かに近寄り難い。
だが即時の改善は無理だ。
皆に受け入れられる為、これから頑張って仕事をして成果を収め、認められてゆくしかないのだろう。
鏡に触れる。
――――私、こんな女だったのか。
向こう側の女が哀しげに眉をひそめた。
エーレンとクレセントがゾルデに来訪したのは突然だった。
風の噂でセレスがいると聞きつけたらしい。
所在など何処から漏れ伝わったのだろうだろうか。
驚きつつ、せっかく来てくれたのにと頭痛がする程悩んだが、どうしても再会は躊躇われた。
結局イージスに頼み込んで居留守を決め込んだ。
現況を絶対に言わないでと何度も念を押して。
壁の向こうでクレセントの声がする。
セレス様は?セレス様は?とまるで鳴き声のように呼ぶクレセントは、何も変わっていない愛らしさだった。
自分に尊敬の念を抱いてくれている年下の女性。
どうしても彼女の中にいる自分を壊したくなかった。
なけなしの自尊心が傷を抉って呻く。
あの妹分はセレスがこんなことになっているなんて想像だにしていないのだろう。
本当はちゃんと向き合い、現状打開への助力を仰いだ方がいいのはわかっている。
だが原因を追及されたらこの惨めたらしい数ヶ月を洗いざらい話さなければならない。
正義感の塊のような男とその養子。二人は原因となった男をどう思うのだろうか。
話し合いで解決できる気配がまるでない。仲間同士で血の雨など論外だった。
己への疑念と罪悪感に苛まれたまま、数日後、ソール通りからゾルデを去ってゆく二人の背中を遠くから見送った。
しょんぼりするクレセントを慰めつつ、不意にエーレンが振り返ったので慌てて隠れる。
一瞬だけ見えたのは何とも言い難い、困ったような顔だった。
ああ――――
勘がいい。いくら隠れても彼はあらかたのことに気付いているのだろうな。
羞恥と情けなさが溢れてきて、ずるずると崩れ落ちた。
遠のく二人はやがて点となり、消えた。
淀んだ日々が過ぎてゆく。
だがあの夢を見る以前のように、闇に呑まれているばかりの毎日ではなかった。
決意は心の支えとなる。
春になったらゾルデを出るつもりだ。
前向きな考えと立ち直りをイージスも大変喜んでくれた。
だがゾルデの状況はあまりに芳しくなく、忙殺で知らぬ間にその話も流されてしまっていた。
深刻な人手不足。物資補給経路の崩壊。ゾルデは更に孤立してゆく。
何とか活動機能を維持しているのは支援を受けられる教会ぐらいだろうか。
先が深い霧で見えぬままでも、がむしゃらに進むしか術はなかった。
共に働いていると、あまり表立って行動するのを好まないイージスの本心が見え隠れする。
本当はセレスにまとめ役の任に就いてもらい、自分は補佐役に回りたいのだ。
元はディパンの兵士。敬愛してきた王族への敬慕と期待が沁みついているのだろう。
彼の期待に応えられないことは悔やまれるが、今のセレスでは到底こなせそうにない大役だった。
だからその分身を粉にして働く。
数少ない歯車の一つになって回る。
だが本当に春になったら旅立てるのだろうか。
一抹の不安を、ただただ日常が押し流してゆく。
主を失った書物庫に入り、大量に残された歴史書を紐解く。
昔の自分が悠然と活字になって踊っている。
若かった頃。理想があった。勢いがあった。
女に生まれたとて男になど負けはしない。意地があった。
今では何もかも泡沫。
記憶はあるのに書物内で活躍する自分はまるで別人のようだった。
何冊か手にとると、捕虜になった時に何かあったに違いないと囃し立てる下卑た書物もあった。
明らかに性的な虐待を期待する文章。
ため息をつく。
教えてやりたい。その時は何もなかった、と。――――その時は。
「そこまで自虐しなくてもいいと思うけど」
ログンの港でぼうっとしていると、過ぎた自嘲への戒めをやんわりと受けた。
ゾルデで出来た数少ない友人が隣りにいる。
「じゃあ何でこんなに皆から色々言われているのかしら」
「そりゃあんた。美人で有能でスタイル抜群で色気たっぷりでどこかミステリアスで男の目をひくからでしょ」
「……何それ?」
持ち上げられる場面ではない。理解不能といった表情で翳るセレスに、
「何で嫌われてるのかわかるでしょ。って話」
そんな回答を投げつけてくる。
微笑むと艶かしい色気が勝手に零れ落ちる女。
物怖じせずはっきりした性格がセレスとあう。
活気があった頃は荒くれた船乗り相手に娼婦をしていた女だった。
現在は惚れ合った男と結ばれ、主婦として穏やかに生活している。
口を出す関係者達がゾルデを去ったことで皮肉にも男と一緒になれた。
そんな友人の、励ましだか罵倒だかわからない台詞にセレスは苦笑する。
色気か。
無理やり引きずり出された女の艶。
美意識など欠片もないのにどうやら勝手にそんな女になっているらしい。己のことながら迷惑な話である。
「あのずいぶん可愛いおちびさんがアンタの鎖みたいね」
意表を突かれてぎくりと心臓が跳ねた。
闇の匂い。わかる人間にはわかるのだろう。
「…棘だらけのね」
からくも返答すると友人は少量の笑いをこぼしたが、その長い睫毛の向こうには過去に何かあったことを察知する、
同類への憐れみが見えた。
友人に悪気はないのだろう。だが憫笑を買うような立場なのだと自覚してしまい、気が滅入る。
「…大変ね」
死んだ港、爽やかな潮風。
友の呟きに、何も返せなかった。
一方、自警団でのセレスはまた別の顔を見せていた。
突出した能力。
所詮女の剣とナメ切っていた豪腕揃いの戦士達が、並んで目を真ん丸にしている。
実力故に一定の評価を受けてこそいたが、実際に動いてみての自己評価は酷かった。
ブランクは大きい。しかも剣技にはまるで余裕がない。
その割には動作に無駄が多く、切れ味も鈍い。解放前なら話にもならない敵に信じられない程手間取る。
どの方面にも戸惑いと怯え、迷いが濃厚に出てしまっている。
冷静にね。そんな忠告を、一体どの口が口走っていたのであろうか。
能力の低下を感じる度、思う。
私はやはり一度死んだのだと。
あの戦争から二年後に迎えた死のことではない。
逃げる為、再戦を放棄し、あの死神の手をとった時に。
もう『セレス』は死んだのだ。
そうとしか思えなかった。
老人に、お前のような女があの斬鉄姫と同じ名を持つなどと何たる冒涜だなどと面と向かって言われてしまうこともあった。
どこか浮世離れした、それでいて揺らめく光明を持つ、おかしな女。
退廃的だがそれ故に醸し出される妖しい魅力があり、それに惑う男も少なくなかった。
愛の告白も何度か受けた。生前だったら信じられない世界だ。
だが明らかに体だけが目当ての輩も多く、いやらしい下心に苛立たされることも少なくない。
その陰で不健全な魅力を振り撒いていると罵られている。
しかし自分では何がどうなのかさっぱりわからない。
彼女を追って様々な視線がいくつも振り返るのが、セレスの心労を濃くする一因だった。
目立つことなど欠片も望んでいないのに、死神によって培われた色が他人を魅きつけるらしい。
必要ないのに――――そんなもの……
釈然としないものを感じつつも日々は刻々と過ぎてゆく。
その日も一人で見回りをしていた。
突然茂みから躍り出てきた子供に驚かされる。
「もう。びっくりするじゃない」
目的を達成した子供から朗らかな笑い声が響く。
抱きついてきたので撫でてやると特有の陽の匂いがした。
子供はいい。気持ちがあたたかくなる。
この子の母親は良い女だ。セレスの働きを正当に評価し、子供達に勝手な偏見を持たぬようにと言い聞かせてくれている。
どうしても中傷の声というのは大きく聞こえがちだ。
だが、こうしてわかってくれる人々もいる。
頑張ってみようと前向きになる。
そう、腐らずに。
ご機嫌の子供と手をつないで帰路についた時だった。
小道の真ん中。
無遠慮に行く手を遮る障害物があった。
なんだろう。
更に一歩近付く。
瞬間、セレスの手は反射的に子供の目を覆っていた。
子供は遊びの一環と受け取ったようで、突然の暗転にけたたましく笑い転げる。
抱き上げて胸に子供の顔を押し付けることで笑い声を遮断し、セレスは一目散に走り出した。
「ふふっ、何かしらね――――」
何も疑わない小さな子供で助かったと思う。
そのまま安全なところまで疾走した。
ゾルデに戻り子供を降ろす。子供は『遊び』の続きをねだる。焦るセレスには子供特有の甲高い笑声すら狂気に聞こえた。
そこでちょうど子供を捜していた母親と出くわしたのは幸いだった。
子供を渡すと、素早く耳打ちして言伝を頼む。
固まる母親と手を振る子供を尻目に、駆けて問題の現場に戻った。
「……」
見下ろす先には、ぼとり、腕が落ちていた。
血溜まりの赤が鮮やか。胴体から離されて間もないらしく、生きた色を失っていない。
特有の鉄を帯びた生臭さが漂う。
筋肉がついたごつい男の腕。頑丈な手甲をしている。戦闘の心得がある者だろう。
いや、だった、か。
セレスの表情がいっそう険しさを増す。身体を冷たい矢が通り過ぎていった。
「帰ってきたのね……」
何の躊躇いもないすっぱりとした切り口。
見覚えのある残忍さに目を伏せた後、剣の柄を握り締めた。
エルド、だ。
否定したくてもあまりにも確定的だった。
まさに今、付近で殺戮を行っている。
大量の獲物を、猟奇的に。
冷静を要する場面とはいえ迸る恐怖を抑え切れなかった。
木々達は丸坊主になっているが、それでもここは森の中。
エインフェリア時代、障害物が多く死角に潜み易い場所は彼の独壇場だった。
あの狩人の体躯で疾走し、闇から闇へ飛び移りながら命を奪う計算は、誰よりも素早い。
狩られているであろう哀れな獲物達の、狂おしい断末魔の悲鳴が耳を障った。
今現在この森には大量の、彼が言うところの『カモ』がいるようだ。
焦燥と苛立ちが同時に襲ってきて、ぎりっと歯を食いしばる。
揺らがないよう鋭い眼光を維持したまま、身も心も惑わされない為にきっちり前を見据えながら進んだ。
一体何をしているのだこんな所で。
何処か遠くでやればいいのに、わざわざこんな所で。
まさか言いなりにならない私への嫌がらせ?これからゾルデの他の民にも危害を?
悪い考えばかりが先行して焦りが増す。
あの男はセレスが関係のない他人への迷惑を最も嫌がるのを知っている。
止めなきゃ―――いや、止める。
イージスには『目当てはお前なんだから何が起ころうとお前は絶対に逃げろ』と言われていた。
が、とてもではないがそんな状況ではない。
そしてそのイージスは現在出張にてゾルデ不在である。
私がしっかりしなければ。
セレスの顔つきがいっそう凶悪を帯びる。
大丈夫――――私はもう大丈夫。何度も己に言い聞かす。
二度とこの身に触れることなど許さない。
今度こそ命を賭した戦いになるだろう。
大丈夫。
全部終わりにして、春に旅立つんだから。
決意と覚悟を胸に顔を上げる。
だが現状、駒は己という一騎のみ。失敗は許されない。
まず一体何が起こっているのかを正確に把握せねばならない。
場合によっては引き返し、ゾルデの仲間達と合流した方が良さそうだ。
慎重に進んでいく途中でいくつかの死体を目の当たりにした。
とりあえず皆ゾルデの者ではなさそうだ。
死への歪みを抜きにしてもあまり様相のよろしくない死体達に、セレスの顔がさらに顰められる。
よく見ると何人か、いや何体かに見覚えがあった。
以前ゾルデに来襲してきた盗賊団の連中に似ている。
疑念に苛まれつつも気配に気を付けながら少し行くと、突然開けた場所に出た。
その奥でついにエルドの後ろ姿を捕らえた。
小柄な体のどこにそんな力があるのだろう。大柄な男を一人、大木に押し付けている。
エルドの足下には用済みの獲物達が魂を手放して折り重なっている。
皆一様に苦悶の表情を浮かべており、処々に弓矢を喰らい、無残な切り口を晒していた。
「……」
息が詰まる。
遊んでいる。
エルドにどう逆立ちしようと敵わない点。
人殺しが好きな点。
「悪りぃなあ…」
声が嗤っている。
「あれ俺んのなんだわ」
そう言うと、必死の命乞いをあっさりと無視して命を奪った。
死体と化した男がずるずると崩れ落ち、何もなかったかのように静寂は戻る。
命への冒涜を感じる程静かに殺める。
鮮血で濡れた得物から雫を落としつつ、横顔には陰惨な笑みを浮かべていた。
楽しそうだ……。
彼にとって殺すことは紛れもない快楽なのだろう。
激しい嫌悪に包まれつつも木の影で息を潜めていると、突如ものすごい勢いでこちらを振り返られた。
童顔におさまる大きな双眸と視線がかち合う。
えっ……
硬直した瞬間、セレスの真後ろでどさりと音がした。
慌てて音のした方へ目をやると、仰向けで倒れている男が一人。
急所近く、防具のほんの少しの隙間を縫って、深々とナイフが刺さっていた。
血だまりが面積を増してゆく。
男の震える手には短刀が握られていた。
セレスを殺そうとしたのか。それとも羽交い絞めにして人質にしようとしたのか。
どちらにしても加害の意思があったのは間違いない。
「て…め……」
震える声が、凶器を放った相手――――エルドへの怒りを伝えてきた。
その顔と声質にはっとする。
この男も知っている。見たことのある賊だ。
確か、裕福だった家に侵入しては嘲笑いながらしこたま略奪してゆく夜盗団の一人。
自警団の者が何人も死傷している。
セレスも一度だけ現場に遭遇し、かろうじて撃退したことがあった。
「そ…いうことかよ……」
死にゆく男とエルドだけしか通じない会話。
交じれないセレスには理解が追いつかない。
動揺するセレスの腰を、いつの間にか近付いてきていた死神が突然かき抱く。
表情は勝ち誇っていた。
「そういうことだ」
盗賊の男は顔いっぱいに無念を滲ませると、エルドの言葉が終わると同時、絶命した。
一瞬の惨劇。
我に返って死神の手を払いのけ、慌てて距離をとる。
心拍速度は増したまま。全身の震えも止まらない。
急な展開にもついていけなかったが、盗賊の害意にまったく気付けなかった己の愚鈍さにも愕然としていた。
「いくら何でもちょっとたるみ過ぎじゃねえのお姫様」
エルドにまで呆れられる。
目が合うと、それまでの冷たさとは別の微笑みを浮かべられた。
「ただいま」
「……二度と来るなって言ったわよね。私にそんな表情を与えられても困るだけなんだけど」
本来なら礼を言うべき場面である。だがそんなことをしたら即付け入られる。
ふいとそらして刺々しい返事を返すと、相手からは忌々しい、耳障りな嘲笑が零れた。
理解不能の余裕に鳥肌が立つ。
すぐにも離れたいが情報を引き出さなければならない。
このような場所で大量殺戮に及んだのは、自分に迷惑をかける為ではとの疑心暗鬼に捕らわれていたのだが、
息を引き取った盗賊の死に際の態度からして、どうやら違うらしい。
「……彼等は、何?」
「オトモダチだ」
嫌な発音にはあからさまな嘲りが混じっていた。
「真剣に答えて」
「へえへえ。こいつらだ。この前話してただろ。散歩してた夫婦だかを襲って殺したの」
警戒するセレスの目が思いがけぬ真実に大きく見開かれる。
数ヶ月前、治安悪化の一例として、町外れで惨殺された夫婦の話をエルドにしたことがあった。
その時は聞いているのかいないのかというぐらいの興味なさげな態度であったが。
「本当?」
「本当も糞も。ここに来る途中、武勇伝気取りでご披露いただいた話がほぼお前から聞いた話の内容と一致してた」
嘘をついている気配がない。どうやら間違いなさそうだ。
だが、何故この死神が、彼等と。
「どういうことなの……」
疑心を募らすセレスに向けて解説が続く。
「お前におん出された後、さてどうするかとそこらの街ぶらついてたらよ。
久々に嗅ぎ覚えのあるわかりやすくて間抜けな悪意が、こうビチグソ的に臭ってきて。
ホイホイ覗き見たらもう何十人も集まってやがるじゃねえか。
『ゾルデ急襲してもう手前らは終わってるんだってことをわからせてやらねえと!!』とかやってて。
もう成功したと言わんばかりに盛った犬丸出しで大興奮の渦まいてた」
汚い言い回しでドス黒いことをどうでもよさそうに話す。
思いもかけない真実に、緊張が痛いくらいにセレスの体内を迸る。
この死体と化した者達が、ゾルデへの計画的な犯行を画策していたというのか。
「それはともかくお前、自警団に入ったんだってな」
「……どうして知ってるの」
「最近ゾルデに移り住んできた男がいただろう?ここ数日姿が見えないはずだが。
そいつが間者だったんだ。ヒゲも案外間抜けだな。こっちに情報駄々漏れてきたぜ。
今ヒゲが精鋭引き連れてゾルデ不在なのも計算済みだ。
ああ、その間者の馬鹿はそこらでくたばってるはずだから後で確認しろ」
眩暈がする。セレスにも分け隔てなく接してくれたあの優しげな大人しい青年が、そんな――――
恐ろしく急激な展開についていけなかった。
反応の鈍いセレスに業を煮やしたエルドが結論を急ぐ。
「で、俺はこの通り、こいつらんとこ潜入して、こうして内側から計画潰してやったんだよ」
それは高く跳ね上げられ、そのまま落下し地面に叩きつけられたような衝撃だった。
冷や汗が流れる。
すべて真実なら。
――――借りなどというレベルではない。
険しい顔つきで固まるセレスに、死神がにやりと嗤う。
「あんまり遠くで片付けちまうと証明も面倒だしな」
そうだ、お前の為にやってやったんだ。そうと言わんばかりの姿。
余裕綽々の正体がセレスに重く圧し掛かってきた。
「俺も少しは役に立つだろ?お姫様」
「……」
「何だよ信じてもらえねえのかよ。
じゃあ…ああそうだ、確か、殺された夫婦のガキ2匹は生き残ってんだよな。今すぐ呼んで確認させろよ」
死体を指すエルドに、セレスの眉間の皺がさらに深く刻まれる。
夫婦が何度も刺されながらも守り抜き、まさに死に物狂いで逃がした子供達。
「何言ってるの。あの子達はまだ11歳と9歳なのよ、こんな惨状見せられるわけないでしょ」
死神はそんな怒りの抗議を鼻で嗤った。
弄んでいたナイフをすっと立て、びゅんと振ってセレスに向ける。
「勝手に判断しねえ」
「何よ」
「餓鬼だって所詮人間、そんなおきれいにゃできてねえよ。
大事な両親殺した連中が無様に葬られたんだぜ。喜ぶ他に何がある?」
「……何でも貴方基準で考えないで」
意見の却下とともに叱られても、なお嗤っている。
薄ら寒かった。
そう。どう跳ね除けようが、エルドはゾルデにとって物凄い貢献をやってのけたのだ。
そしてセレスにも。
顔面蒼白だった。
しかしやはり礼は言わなければ。
「……ありがとう。ゾルデやあの子達の為に、かたきをとってくれたのね」
「は?まさか。そんなもんついでに決まってんだろ」
「え……」
驚愕の連続で頭が回らない。すっかり場の主導権を獲りあげられている。
エルドがおもむろに歩いていって、一人の男を蹴り上げた。
死体かと思ったが、息がある。むしろ無傷に近い。泡を吹いて失神している。
「こいつがアタマな。一応生かしといた」
ごろんと仰向けになった醜い巨体には微かな見覚えがあった。
「覚えてね?」
問われて、あっと息をのむ。
セレスが一度追い返した野盗の頭だ。
「そうだ。こいつが今回このチンピラどもかき集めた首謀者。
お前のこと半端なく恨んでるぞ。ものすげー執念深い」
恨まれているのは言われなくてもわかっている。
最初に追い払った時、振り向き様の憎悪に染まった顔を今も覚えているからだ。
その上セレスが自警団に加入してから盗賊の類の撃退率は大幅に上がっている。
恨まれていないわけがない。
「調子のっててよ。赤い髪した女に借りがあるとかずーっと憎々しげに愚痴ってた。
だから適当に相槌打ってたらご機嫌になってすぐ仲間に引き入れてくれたぜ。
実は俺もあの女に虐げられたことがあるんです――――って同調してたらな。
ま、それはあながち嘘じゃねえけど」
少量の嫌味のこもる辛辣な発言。
過敏になっているセレスは降り注ぐ悪寒にびくりと身震いした。
想定外。
まさか、こんな。
「もう何匹か吐かせ用に残しとくつもりだったんだがなぁ。ノッちまって。
本当はそこの奴も生かしとくつもりだったが、つい。やりすぎたな」
半目で嘲笑いながら、先程木に押し付けて首をかっ切った男に親指を向ける。
『あれ俺んのなんだわ』
先程の台詞が脳裏によみがえっていた。
多分その男もセレスに対し巨大な悪意を抱いていたのだろう。
真っ青なセレスに帰還した死神が音なく近付く。
「さて、お褒めの言葉をどうぞ。お姫様」
要求を受けて更に色をなくしたセレスが思わず後ずさる。
と同時。
「セレスさんっ!!」
子供の母親から報告を受けたのか、騒ぎを聞きつけたかはわからないが、ゾルデの若者が数人、
へっぴり腰ながらも慌ててこちらに向かい駆けつけてきた。
エルドにとっては邪魔者達のご登場。だが舌打ちしても笑みはまた浮かぶ。
「贈り物は今度こそお気に召していただけただろ?」
そして余裕に満ちた表情で、この状況下で拒絶できない一言を穏やかに叩きつけてきた。
「ただいま?」
「…………………おかえりなさい」
「本格的に終わりだなこの港町も」
床にどさりと荷が降ろされる。酒の瓶が見えた。揺れる鮮やかな液体。
「能無しチンピラの寄せ集めとはいえ、あの程度の人数で陥落できると思われたんだからな」
当然とばかりに装備を解いてゆく音。
「後ろ盾のある連中じゃなくて良かったな。ギルドだなんだと出てこられちゃ糞面倒だ」
二度と受け入れるものか。そう思っていた男が平然と室内に戻り、楽な格好になろうとしている。
「海賊どもは来襲したことあるのか?」
何処からそんなに出てくるのか、外された装備から仕込みのナイフがいくつも鋭く光った。
押し黙っているとジロリと睨まれる。
「会話くらいしろよ」
「……」
要求されても強張るしかできない。
これから身に起こる悪夢を考えれば会話など、とてもそんな気にはなれなかった。
まさに生きた心地がしない。
数十分前。
阻止されたとはいえ、突然叩きつけられた強烈な害意にゾルデは騒然となった。
集まってきた人々の顔色は一様に青い。
「で、残ったのは……主犯格も入れて………た、たった3人、か」
「そいつらは?」
「牢に……」
遺体はすべて確認された。
エルドの言った通り、そのほとんどがならず者で、一度または数度のゾルデへの来襲歴があり、
街や民に危害を加えたことのある輩が大半を占めていた。
「あ、あんた一人で殺ったのか」
「ああ」
冷淡な男に皆がうろたえている。
セレスの家以外では常に仄暗い闇に紛れていた男。エルドの存在を知る者はほとんどいない。
「で、でもさぁ……いくらなんでもこ、殺すこたあ無かったんじゃねえの、と思うんだけど」
青年の一人がおどおどと視線をそらす。
「だよなあ…」
波紋のようにざわめきが広がる。
だがそれもすぐに掻き消える。
「俺は別にそれでも良かったんだが――――」
エルドが声を張り上げると場は水を打ったように静まりかえった。
不可解な人物の一挙手一投足に注目が集まる。
少し離れたところでセレスが黙って立ち尽くしている。
「今の状態で悪人を一人逃したら一体どうなると思う?悪評ってのはあっという間に広まるぜ。
今回こそ撃退されちまったが、ゾルデはもう、ちょっとつつきゃすぐ崩壊しちまうレベルまで落ちぶれ果ててるってな。
そうとわかればすぐに新しい悪党どもを補充してもっと強固に編成して、次こそはとばかり、がーっと押し寄せてくる。
死にかけた街は一巻の終わりだ」
「そうとは限らないだろう。懲りて二度とこないかもしれないじゃないか」
エルドへの不信感を露にする青年が声を上げた。
「そんな綺麗事で済むのなら俺だって動かねえよ」
落ち着いた応対を続けるエルドがセレスの双眸に静かに映っている。
この弓闘士は大勢の前で大立ち回りをしたがるような男じゃない。
では、何故今それをしているか。意図がつかめない。
監視しているだけで冷や汗が流れる。
「見下してる連中に反撃喰らうのは誰だって嫌なもんだ。ましてや撃退されたなんて恥もいいとこ」
変にもったいぶった、言い聞かせるような弁舌をふるう。
「こっちは欠けてくだけだ。だがあっちはいくらだって欠員を補える。知恵つけた連中の餌食になりたくねえだろ?」
そんな陳腐な演説でも不安に満たされた民は見事な程簡単に足元をすくわれ、流されてゆく。
恐怖に支配されたざわめきがやまない。
「しかし……」
だが流れに逆らう者もいる。
エルドはそんな、なおも食い下がろうとする青年の相手が面倒になったらしい。
「いいよなぁあんたは若けえからお気楽でよ。女でもねえし。ヤバくなったらいくらでもトンズラこけるもんな。一人で」
性格の悪さが滲み出る。最後の『一人で』を異様なまでに強調した。
「え?いや、そんなつもり」
「年寄りや女だっているんだぜ。少しは考えてやれよ」
台詞と共に、女達からの軽蔑の視線が青年に向かってギョロリと集中砲火した。
いやらしい誘導。
軽薄な青年に仕立てられてしまった若者は発言権を奪われ、議論の場からの退場を強いられた。
「連中は…このゾルデをどうするつもりだったんだ?」
別の男が訊ねる。
「まだそんなことほざくのか。聞くまでもねえだろ。
野郎なんぞ連中には邪魔なだけだからな。まず皆殺しだ。制圧してからの若い女の配分もきっちり決まってた。
しばらく遊び呆けて、飽きたら売り飛ばして泡銭でも稼ぐつもりだったようだが」
男達の顔からは血の気がひき、女達の顔には恐怖と嫌悪が満ちる。
そこでしばらく間があいた。
明らかに自分の引いた線路に引きずり込まれてゆく聴衆を楽しんでいる。
「まあこれで一応の面目は保っただろ。今回でとりあえずまだ自衛機能有りって示されたわけだ。
やったの俺一人だけどな」
「……あんた一体何者なんだ」
「昔、ちょっとな。これでもそれなりの地位に就いたこともある」
嘘ではない。
「なぁ?」
流し目を送られたので、
「…ええ」
渋々だが同意した。
元青光将軍がにやりと嗤う。
セレスの隣りにいた女が彼女に向けておどおどと口を開く。
「ご姉弟なんですか?あんまり似ていらっしゃらないようですが……」
だがその問いを聞き逃さず先に答えたのはエルドだった。
「おいおいやめてくれよ。見りゃわかるだろ」
血縁ではなくて、同居している。そしてこの台詞と苦笑い。
一般的にそれが意味する関係は一つ。
意図を理解したセレスの顔色がいっそう悪くなった。だがこの大演説を止める術は彼女にはない。
一点集中する視線の只中、エルドは貼り付けた穏やかさを決して剥がさなかった。
「わかってくれよ。残忍だと感じるのは尤もだ。だがくたばりかけのこの街を守るには仕方なかったんだ」
目を閉じる。
口元は嗤っていた。
「――――彼女も困るしな」
ぞっとして強張るセレスの心情を汲み取れる者はその場にいなかった。
女の為だった。そしてその女は人の目を引き、妖しく美しい。
納得と理解による安堵がさあっと一帯に広がる。
セレスだけが固まっていた。
仕掛けた罠に嵌った獲物のように。
「し、しかし……」
それでも食い下がろうとする若者もいたが、
「ふん腰抜けどもが、文句並べるだけならいっちょまえだね」
それまで押し黙っていた老婆に突然毒づかれ、すごすごと身をひいた。
その老婆がゆっくりと進み出てくる。
「私の息子も連中に殺されました。仇をうってくださったのですね。本当にありがとうございました」
感謝を差し出されると、エルドの童顔にはゆっくりと営業用の笑顔が浮かぶ。
「お役に立てて光栄だ」
わざとらしい。だが弓闘士の本意を理解できるのはこの場にはセレスぐらいしかいない。
やがて老婆はセレスに向き直り、皺くちゃの顔で微笑んだ。
「この方は英雄ですよ。ゆっくり休ませてあげてくださいね」
柔らかな態度に驚く。この老婆にはあまり好かれていなかったはず。
息子の敵を討った男の恋人という誤解が、老婆の中のセレスの地位を一気に跳ね上げたのだ。
「え…ええ…」
ぎこちない微笑を浮かべて頷くしかできなかった。
『もっと心動かすモン持ってこねえとだめか』
去り際に呟いたあの一言が、心に重く圧し掛かってきた。
セレスにはとんでもない手土産だった。
事後処理は他の者に任せ、家に戻る。
ちろちろと背中を舐め回す好奇の視線。扉を閉じることで全て遮断した。
二度と敷居を跨がせないと誓っていたはずのエルドを、先に中へ入れてから。
「邪魔」
『英雄』はソファに近付くと、セレスの膝の上で丸まっていた猫を追い払った。
空いた彼女の膝に頭を納める。まるで自分の席だとでも言うように。
黒ブチの猫は抗議の一声をあげたがさっさと退室してしまった。
満足げな男に無表情の女の視線が落ちてくる。
先刻まで真っ赤に血塗れていた指で女の唇をなぞった。
言葉にしなくてもわかっている。
女を欲しがっている。
殺しをしたから高揚しているのだろう。
血と女は繋がっているらしい。
「……」
どうせ拒否権などない。
あれだけの功績をあげられてはそうとしか思えなかった。
エルドがあの盗賊団に手を下さなければ一体自分はどうなっていたかなど、安易に想像できる。
怨恨と嗜虐性の塊のような男達。
ならず者から守ってやったという枷はずしりと重かった。
エルドが作成した死体の数は、32体。気絶している主犯格を入れれば33。
生き残っていた男達を入れれば総勢35――――――
今の自分にどうにかできただろうか。
さすがに、そんな大勢から凄惨な暴行を受け、死ぬまで嬲られるよりは、エルド一人の方がずっとましだとは思う。
わかってはいるのだが、現実は重い。
これから自らをもって、その殺戮の灼熱を鎮めなければならないのだから。
「いいよな」
隣りに座り直した男が一応の了承を得ようとする。
逃げ道はない。
「…寝室に」
「ここでいい」
待ち侘びていたようだ。
言葉も吐き終わらぬうちに顎をくいと持ち上げられて口付けられた。
舌を絡ませたまま、髪を、頬を撫でられる。
「ふっ。…ん…は……」
啄ばみと水音を途切れさせることなく、衣服は器用に脱がされてゆく。
抗えなかった。
「逢いたかった」
甘い声色にぞわっと総毛立つ。
むき出しになった胸元に唇が落ちる。
「何で固まってんだよお姫様。これだけの手柄立てて戻ったんだ、もう流石にお許しいただけたよな?」
だがエルドの耳にはセレスからの良い返事は返ってこなかった。
許すどころか苦渋を滲ませている女に眉をひそめる。
「それともまさか」
ソファに押し倒される。セレスは歯を食いしばる他なかった。
「あんな連中の慰み物になる方が良かったのか?囲まれて、引きずり回されて血まみれになって?
殴られ蹴られ骨は砕かれ内臓は破裂しながら上も下も何十本も咥え込まされて?
お姫様にそういう趣味があるとは思わなかったな」
本当なら、今頃セレスの身に起こっていたであろう惨劇の羅列。
度を越えた嫌味でしかなかった。持ち堪えようとぎゅっと目を瞑る。
剥かれて傷ついた全裸が晒された。冷気と恐怖が肌を粟立たせる。
乳房が小さく弾んで埋もれてくる男を受け止めた。
「う…っ」
そのまま抱き締められたので思わず反り返る。
数ヶ月間エルドと共に生活していたことで、学習してしまったことがある。
殺しをした直後のこの男に抗う。それは最高に危険な行為。
拒絶したら最後、押さえつけて文字通り喰らいついてくるからだ。
こういう時は人形になる。それしか術がない。
ただ猛りを鎮める為当然のごとく求めてくるのだから。
狩りの続き。
自分もまた獲物なのだろう。
慄く女の瞳に映るのは、茶色の長髪からのぞく狩人の眼光。
どちらが獣だかわからない獰猛な鋭い光。
「ん……。…ふぅ、んん…」
キスの間にも指は肌を這い回る。髪を撫で付けられて後ろに流され、代わりに茶色い髪が頬にかかる。
ちゅ、といくつも音がする。赤い小花が咲く。いくつも、いくつも。
「あっ」
仕込まれた体は仕込んだ主の指使いに素直に反応する。
どういう関係かと問われたら伴侶とも恋人とも程遠い。
また望まぬまま、繋がれようとしている。
「こっちむけ。って、言った」
耐えてそっぽを向いていたら顎をぐいと持ち上げられた。
死神は薄く涙ぐむ女の態度を怒っている。
「おいマジでそりゃねえだろ。こっちは命かけて助けてやったんだぞ。一歩間違えりゃ俺が集団リンチだ」
彼からすればそうだろう。
感謝の念は勿論ある。
だがセレスからすれば逃げ道のない、この上ない災難へと繋がっていたのだ。
どうしようもない。
「……わかってるわ。逃げられない、のよね」
「何だその言い草」
冷遇への不満顔が覗いてくる。
「助かったわ。お礼の言いようがない。それは本当よ。でももう貴方とはしたくなかった。
もう二度と……絶対に嫌だって思ってた」
童顔に青筋が増え、苛立ちに危険な匂いが増してゆく。
「流石にあんまりじゃねえか。俺が動いてなかったら今頃お前はどうなってた?」
鋭利な問いかけが突き刺さる。
「わかってる。だからこうやって大人しく言いなりになってるんじゃない」
顔面蒼白で睨み上げる女の瞳から雫が落ちた。
「なら何でそんな惨めったらしいツラ晒してんだよ」
「……貴方に乱暴されてから、惨めじゃない日なんて一日だってないわ」
「へぇ」
エルドの唇が醜いまでに歪んだ。
拒絶を貫き通すセレスの態度により、それ以上の会話が無駄だと悟ったらしい。
「そうか。わかった。悪りィなそれじゃ好き勝手にやらせてもらうぜ」
切れる寸前といった男から陰湿な宣言を受けた。
言うや否やセレスを粗雑に扱い出す。
豊かで柔らかな膨らみを乱暴に鷲掴んできた。
「う……」
「俺は久っ々でものすげー欲情してるもんでな。覚悟しろよ」
無遠慮に揉みしだかれて先端を擦られる。
「……っ」
いい様にされても、女の心はいつまでも死神を拒み続ける。
恐怖に凍える女の表情のせいか、手荒さが多少緩和した。
「お前を好き勝手できんのはいいが、こう仏頂面じゃな」
腹を降下し、臍を撫でられる。
「笑えよ。せめて、昔みたいに」
こんなことをされているのに、できるわけがない。
無言でいると相手の苛立ちは再び募ったらしい。
何の前触れもなく開脚させられる。秘部を襲う突然の冷気。羞恥と共に思わず呻いた。
「や、だ」
怯えが零れる。だがにべもなく拒絶される。
茂みを撫でられて、更にその向こうを愛撫される。
久しぶりの異物の感覚。指を何本も出し入れられる。
「あ…あ……っ」
たっぷり濡らされると秘部にそれをあてがわれて目を閉じた。
普段より薄い前戲で早めに挿入されたが、苦痛はまったくない。むしろあっさり受け入れる。
身体がこの男に慣れたのもあるのだろう。彼はそれを承知している。
意思に反して快楽がじんわり広がる。
「あ―――ああ」
勝手に迸る嬌声が嫌だった。自ら口を塞いでいたら、乱暴に手首をとられる。
「冗談だろ。聞かせろよ」
口元は笑っているが、目は笑っていない。
「ああっ…ふぅ……ん、やだ、や」
心とは裏腹に、体は久々の異性を殴りつけたくなるくらい悦んでいる。
その抗いようのない事実に眉根を寄せるしかできない。
今までこの男と共にした褥は、挿入に痛みを伴ったことなどほとんどない。
その分、心が痛む。
「あっあっあぁあ や、あ ―――ぐ、ぅっ」
抱きしめられて傷だらけの肌が重なる。
「やだ、やっ、いやぁ…っ」
妥協を宣言して体を許したところで、明らかに精神はついていけない。魂が悲鳴をあげる。
吸われた乳首からつうと唾液が垂れた。
下半身は当然のように律動しながら更に深く、奥へと侵入していく。
「やあぁ…」
完全に同意していないことで逆に悩ましさを煽る。
熱い。摩擦と共に熱も迸る。体はコントロールできない。内側で痙攣し男のものを締め上げていた。
「あっ、あ…あ…あ…」
一度入り口まで引き抜いて、一気に貫かれる。
「――――――っ………」
声が出なかった。
はあ…はあ…
痺れが甘い。真っ白な世界から戻ると、荒い息遣いだけが室内に響く。
引き抜かれると耐え難い喪失感が甘い波となって押し寄せてくる。
あのただ耐え抜いた長い長い日々を思い出す冷たい交わりだった。
エルドはソファから零れ落ちて震えている女の様子に舌打ちすると、
「そんなに嫌なら奉仕でもしてくれよ」
それをセレスの目の前に突き出された。
「……」
目をそらしても口淫を求められている事実からは逃げられない。
拒否したらまた乱暴に抱かれる。心は諦めに支配されていた。
つい数十秒前まで己を責め立てていたそれに、震えながら舌を這わせる。
水音だけが響く。
ぬるり、気持ちが悪い。苦くて我慢できない。
口淫はまだ両手で数える程もしたことがない。不慣れだった。
竿を舐めあげ、鈴口を吸い、舌を尖らせて突っつく。
惚れてもいない男のものを口にしていると置かれた立場を再認識する。
嫌がっているのも、歯をたてないのも、抵抗しないのもわかっている。
一体自分は何をしているんだろうと、ひどく悲しくなって目を閉じる。
虚しさを隠すように行為に没頭した。
教えられた通りに。
突然口内で体積を増され、嘔吐いてむせた。
思わず口を離してげほげほとせきをする。
そんなセレスを見下ろす蔑みを含む視線は冷ややかだった。
「へたくそ」
「……」
涙が一筋つたう。
罵倒によるものではなく、絶望からくる一滴であることは明白だった。
「うまそうにしゃぶれとまでは言わねえけどさ」
顎をくいと持ち上げられる。淀んだ瞳には光がささない。
「あんまつれねえ態度続けるなら顔面ぶっかけるぞ」
脅迫を受けてもどうしようもない。もう投げやりだった。
「好きにすればいい」
「何だよそれ」
「嫌だって言ったって、結局するんでしょう」
二人の関係は最早取り繕う隙さえない。
「ああそうかよ」
再度ソファの上に乱暴に投げ戻され、手酷い扱いで圧し掛かられた。
「うぅ…」
身に起ころうとしている仕打ちを察し、呻く。
へたくそでも、ちゃんと口でしたのに。やはりこの死神は嘘つきだ。
狭いソファの上。
先程まで剣を握っていたのに、あっという間に女にされた。
性感帯は開発されて全て把握されている。
うつ伏せにされると腰を持ち上げられ、獣の交尾を思わせる体位を強いられた。
突き出した腰の丸みを撫で回しながら芽と秘裂を愛でられる。
「あ…ふぁっ、あ」
勝手に漏れる吐息が憎たらしい。
「はぁっ ん、はあ…っい、や……」
必死にソファにしがみ付き、いつ挿入を受けてもいいよう身構えていると、
「えっ!?」
予想外のところへの愛撫に電流が走った。
桃尻の奥の蕾を指がなぞる。
「ちょっ」
不浄のはずの箇所を舐め回されて顔がさらに火照る。
「や…やだ、そんな……」
「好きにしろって言ったろ」
声が冷たい。
本気だ。
「いやっ」
振り返ろうとしたら背中をぐいと押し付けられた。
余計に腰を突き出す格好になり、蒼白と火照りが混じる。
「やめて、いや」
「ああそうだ目隠しもしていいよな」
完全に加虐心に火をつけてしまったらしい。
しゅると布の音がしてあっという間に視界が暗転する。
「ちょっ!いっいや…っ!何すっ」
慌ててももう遅い。
「後ろ手で縛ってもいいんだよな?」
抵抗する間もなく両腕の自由まで奪われた。
「いやっ!!」
視覚を失い、腕まで縛りあげられた。さらなる恐怖が嵐のごとくこみ上げる。
エルドはソファの真ん中に座り直すと、膝の上に女体をうつ伏せに置いた。
「いやっ」
必死に抗い、身をくねらすが、すべて男の腕力で押さえ込まれる。
したことのない体勢。物そのものの扱い。
右手で局部を弄ばれる。何本も指を出し挿れされた。指使いは先刻よりずっと激しい。
「あ…ぁああっ。いや…はぁっ、はあっ…」
左手で軽く上半身を抱き上げられ、胸を揉み込まれて耳を食まれる。
「んっ、やめて」
ぞくぞくと背中を競り上がってゆく何かに飲まれるのが怖くて無我夢中で抵抗する。
だがいくら身をよじっても逃げ場はない。
その上視界を遮断されるとより感じやすくなっている。
抱くんじゃない。
犯す気だ。
「エルド――――」
こんなのはいやだ。
いや。
いや……
「いやだってばっ!!!」
弾けたように、ありったけの声で叫んだ。
舌打ちの音が聞こえたと思うと、手首の束縛が消える。
身の自由を得たセレスは同時にソファから転げ落ち、目隠しを解いて視界を取り戻した。
「なら好きにしろなんて偉そうにほざくなよ」
頭上から冷酷な台詞が吐き捨てられた。
「……」
与えられた恐怖は消えず、古傷を抉る。
がたがたと震えていくつも涙をこぼす姿に、死神側も流石にやっていいことの限度を超えたと気付いたらしい。
「…………わりぃ。調子乗りすぎた」
後味の悪さを隠さず謝罪してきた。
だが、後悔先に立たず。女は打ち震えたまま涙と嗚咽を繰り返す。
「……」
体が近くても心は遠い。
エルドは思い通りにならない苛立ちを拡散するようにかぶりを振る。
ばさっと外套を床に敷いた。闇色が床に広がる。
「悪りいけど、足りねえ。…来てくれ」
嫌だった。
「ひでえこたしねえから」
猫撫で声が余計に耳障りだった。
これだけしておいてよくもそんな言葉を。
だが現在一番無難な突破口は大人しく従うことだ。
叫んで助けを呼んだところで本性を剥き出したエルドに敵う者など今ゾルデにいない。
その前に、誰も助けになどきてくれないだろう――――私などの為に。
「セレス」
孕みきって破裂寸前の狂気と隣り合わせの状態。
下手に抗うとまた痛い目を見る、それが無力感へとつながる。
絶望が手招いて早く楽になれと片隅で嗤った。
「……」
選択肢は一つだけだった。
ただただ劣情を吐き出させるためだけに、床の上に敷かれた外套に横になった。
狩人の広げた黒い海の上で、獲物の白い肢体が震えている。
こんな男に再び圧屈するなんて。
情けないことこの上なかった。悔しさがぼろぼろと、涙となって滴下する。
「泣くなよ。何で泣くんだよ。俺はお前を最悪の事態から助けたんじゃねえか」
エルドも弱り果てているらしい。困惑と苛立ちが混じって渦になり、それが声色に表れる。
だがセレスから彼への返答はない。
「……。勝手にしろ」
望まぬ時間が再開した。
揉みしだかれて乳房が幾度も変形する。
「んっ、んっんん、ん」
首筋に唇が這う。触手のように花弁の内で蠢く指は止まらない。
じっとり汗ばむ肌。乱れる息と共に、くちゅくちゅと卑猥な水音がする。
「俺を拒むな」
命令なのか懇願なのかわからない。
指を挿れている手のひらの、手首に近い柔らかい部分で、赤く色付く芽をつぶされた。
「あぐぅ…っ!」
柔肉からはとろとろと蜜が溢れる。
「何でだよ?こんなに尽くしてやってんのに」
「あ……あ、あっはぁっ!ああぁ」
「ふざけんじゃねえよ」
突然指を鉤状に曲げられてびくんと仰け反る。
「ああぁぁっ」
嬌声を放って軽く達しても残るのは悲しさだけ。死神に覆い被さられたまま続行する行為は苦痛でしかない。
「や…はあ、ああ…っ。いやっ、も、…もういやっ…いやあぁ……」
「そんな震えるなよ……」
うんざりしているなら、もうやめてくれればいいのに。
やがて再び挿入され、激しく突き上げられる。
「あっ!ひあぁんっ!!」
快楽でつま先までぴんと伸びる。嬌声は怯えを含んで冷たく、それでいて甘い。
体内でまた体積を増され、それをいっそう締め上げてしまう。
「はあぁあっ!!いや、や…やだっ。はあっはぁ、ああぁあ、あ…」
勝手に艶色は増し、表情には扇情的な苦みが雑ざる。
その後もしばらく、もし正義感の強い人間が耳にしたら問答無用でドアを蹴破られそうな
悲しげな喘ぎ声が、誰にも気付かれずに小さく小さく窓辺から漏れていた。
うまく立ち回ることなど、媚びることなどセレスには出来ない。
過酷な状況の連続で、諦めることにあまりにも慣れてしまっていた。
幾度か気をやり、最後にひときわ高い頂まで昇りつめた後、白濁にまみれた身体をやっと解放される。
「うぅ…はあ……っ、は…」
残る余韻は気持ちのいいものではない。
むしろ、不快。
殺された盗賊達のように一瞬で命を吹き消される方がましなのではないかとさえ思う。
ただ、『使える』から手元に残された、それだけの気がしてきた。
売り飛ばされた虜囚とどう違うのだろうか。
終わりの見えない、いつまでも続く生き地獄。
欲望を叩きつけられるだけの時間が漸く終わる。
犯したばかりの女を下にして、死神が指の背で頬を撫でた。
「笑えよ」
滲む視界を、瞼を閉じることで闇に閉ざす。
「……どうやって笑えばいいの」
情欲は去った。
エルドの手元に残ったのはぐったり横たわる女と、恐ろしいほど気まずい空気だけだった。
床の上に紅い髪が流れ落ちている。
同じ色をした睫毛の向こうでは、光の灯らない双眸が虚ろに開いていた。
やがてむくりと起き上がり、エルドを置いてふらふらと退室していった。
女は悔恨の情で満たされている。
相変わらずの判断の甘さを痛感するしかない。
心は耐え切れず、再び暗闇に堕ちていた。
階段を昇れば下半身に久々の異物感が響く。
再び穢された体が重い。
ぼんやりしたまま自室で着替えを始める。
拭いても拭いても汚れがとれない気がした。
「おい」
扉の隙間から躊躇いがちな呼び声がした。
「その、なんだ……突然すぎたか。悪かった」
取り繕いにきたらしい。
ふと、何か包みを手にしているのが目に入った。
「何それ?」
裸身のまま近づいて奪い取り、中身を確認する。
洋紅色の布でできた、上品な刺繍があしらってあるイブニングドレスだった。
瞬時に丸めて投げ捨てたくなった。
面白くも何ともないのに笑ってしまう。
「何よこれ。どこまで辱めれば気が済むの?」
平静を取り戻した弓闘士は狂女まがいの元同僚にすっかり気圧されている。
「……似合うかと思って買っただけだ。嫌ならいい」
「いいわよ。着てあげるわ。どうせもう…」
最早何もかも投げやりだった。
「……」
身に着けてみて軽く驚愕した。
露出度は高いが傷跡が程よく隠れて目立たない。
しかも身体にぴったりと、まるで測ったように寸分の狂いもない。
口付けで咲いた小花もしっかりと覆い隠した。計算していたのか。
何もかもを知られてしまっていることが恐ろしかった。
いや、実際既に黒子の数、位置さえ、本人より正確に把握しているのだろう。
如何にこの男の手の内かを思い知らされる。
それが更に絶望を煽り、セレスを自棄にさせてゆく。
どうせ逃れられない虜の身ならどうでもいい。
「その。……悪かった」
そこまで追い詰めておいてまた謝罪を吐く。
愚かな男。セレスは冷ややかに吐き捨てる。
「いいわね。あんな強姦まがいなことをしても適当な謝罪の言葉で済ませられるんだから」
同じ部屋にいたくなかった。
エルドを置いて階下に降りると丁度来客があった。
借り物を返しに訪れた宿屋の女性だった。
セレスの姿を見ると、目を輝かせてきゃあきゃあと歓喜する。
「そうよ。貴方は美人なんだからもっとこういう格好をしてもいいと思うわ」
優しい褒め言葉もセレスの心を素通りしてゆく。
つられて女達が入ってきた。
対応を面倒臭がったエルドは二階から降りてこない。
なので女達の興味は一斉にセレスへと注がれた。
それは感謝というよりこれから先を見据えての行動だった。
最早セレスはただの得体の知れない不気味な女などではない。
この死地で、強者という必須の駒を動かせる唯一の存在なのだ。
髪を結い上げられ、薄化粧を施される。唇に鮮やかな紅までさされた。
まさに輝かんばかりの姿だが、悲しげな両眼に宿る光は薄く儚い。
整えてもらっても、どうせ乱されるだけなのがわかっている。
供物として飾り立てられる生贄のようだと思った。
「さあそろそろ二人にしてあげましょう」
女達はセレスを飾り立てると、気を利かせる風を装い出て行ってしまった。
が、
「セレス!」
最後に友人が物凄い勢いで飛び込んできた。
勢いのまま、美しく彩られたセレスに軽く抱きつく。
「ふーん。きれいね。まああんた素材いいもんね。やっぱりむかつくわ」
いつも通り微妙な褒め言葉を吐くと、耳元でそっと呟いた。
「とりあえず枯れるまで泣いてみせてやりなさい」
「え……」
「変に我慢するより泣いた方が男には効くから」
それだけ助言すると、友人は宿屋の女性に促されて素直に出て行った。
扉が閉められた直後にがくりと膝をつく。
来てくれたのか。
共にいる男が非常に危険な輩だと知っているはずなのに。
友人の言動がセレスの張り詰めた糸をほぐし、ぶっつりと切る。
「うっ、ううっ、ふっ……」
言われた通り素直に感情のまま涙をこぼした。
悲しい慟哭が、二階で壁によりかかる男の耳に届いていた。
気がつくとかなりの時間が過ぎていた。
泣き疲れて疲労困憊のまま椅子にもたれている。
化粧は剥げ、整髪は乱れてしまった。
質の良い布地をあてても、露出度の高い服を着せても、肝心の中身がこれでは何の意味もない。
その見本のような姿だった。
だが勇気を取り戻したセレスはこのまま諦める気など毛頭なかった。
そうだ、諦めてなどやるものか。
イージスが戻ってくるまで。それまで何とか持ち堪えるんだ。
なんとか―――――
食卓は今までにない豪勢な食事で彩られている。
老若問わぬ女達が我先にといそいそ運んできたようだ。
家の奥で一人泣いていたので過程はわからない。
「気に入らないことがあるなら言えよ」
テーブルを挟み対面する男から言葉を促されて顔を上げる。
多少反省点は見えているのだろうが、やはり納得いかないといった表情をしている。
「感謝はしてるわ。でも、……もう此処には来ないで」
「直球かよ」
不機嫌そのものだった。
「お前さあ、ほんっ…とにかわいくねえな」
罵りに苛立ちが募り、語調が強くなる。
「どうして?どうして貴方の前でかわいい女でいなくちゃいけないの?」
棘だらけの返答。エルドは眉根を寄せ、舌打ちして食事をがつがつ貪り始めた。
「…私が、自分をかわいいと思ってほしい人なんて、…この世に一人しかいないわ」
ギロリと睨まれたが本当のことなのでどうしようもない。
「…生前だって、ここまで自分の性別を呪ったことはなかった。
何よ嘘ばっかり。二度と酷いことしないって言ったくせに」
火がついてしまうと恨み言は止まらなかった。
エルドはそれをすべて耳で受け止めながら、手持ち無沙汰とばかりに手当たり次第喰らう。
腹が膨れても心は満たされないのはわかっているのだろうが。
「こんな女と一緒にいても楽しくないでしょ。もう別れて」
「嫌だね」
「…こんな、毎回顔を歪めて歯を食いしばってるだけの女を相手にしていて本当に面白いの?」
別れを請う姿は常に悲しげだった。それは如何に虐げられているかの証。
対面する相手は敵わないとばかりに酒を煽って愚痴をこぼす。
「しばらく会わずにいたから少しは余裕できたかと思って期待して戻ったんだがな。このザマか」
「貴方が戻るとわかっているのに安らげたと思ってる?毎日毎日不安が増していっただけよ」
返答は回を増すごとに鋭くヒステリックになる。
「貴方がいない間、全然落ち着かなかった。
いつ戻ってくるかわからない。あんな追い出し方をしたんだから怒ってるだろうって頭から離れない。
何処から現れて、何をされるか。忘れようと努力してもいつもそればかり。
貴方が去ってから私、しばらく立てなくなっていたのよ?
追い出しても結局貴方からは逃れられないんだと思い知らされただけだった」
「完全に悪役設定だな。………っとによ、泣きてえのはこっちだ」
深いため息の後、陰湿な眼光がいっそう鋭くなる。
「まさかさっきのもまた強姦されたとか思ってんのか」
あまりはっきり言わないでほしい。
本当にデリカシーのかけらもない男だ。
「答えろ。思ってんのか」
「流石にそこまではいかないけど。……追い払えない自分に腹が立つだけ」
言葉を濁すのは肯定でしかなかった。
「思ってんじゃねえか」
壁に投げつけた食器が激突して割れた。
詰んだ。完全に詰んだ。そう判断したのだろう。
行き場のない苛立ちを持て余し、がしがしと頭を掻き毟る。
彼もまたどうしようもない濃霧の中で彷徨う心境なのが伝わってきた。
とことん合わない。
「畜生こんだけしてやってもこの扱いかよ。どうしようもねーなおい」
「よく言うわよ。思惑通り、なんでしょ」
手の動きがぴたりと止まり、顔色が更に険しくなる。
「どういう意味だ」
「…これでもう私に逃げ場はない。これだけのことをしてくれた『英雄』に反抗なんかしたら、
それこそゾルデに居場所がなくなる。兄さ……イージスにも迷惑がかかる。
逃げられないようにこんな手の込んだ工作までして。ほんとやってくれるわね。
苦しめる、為に戻ってきたんでしょう」
以前のセレスなら有り得ない、あまりにも後ろ向きで否定的な考え方だった。
エルドはしばらく目を見開き呆気にとられていたが、やがて終わったと言わんばかり、背もたれにずるりと凭れた。
次にこれでもかという大きな長嘆息を漏らす。
「命懸けだったんだぜ。まさかここまでして助けたのにそこまで言われて泣かれるとは思わなかった」
賛美を一身に受ける功績者であるはずなのに。
待遇の最悪さを嘆いた後、ぽつり呟いた。
「死にかけの港町なんぞにいるから暗くなるんだよ。こんなシケた街捨ててどっかいかね」
この期に及んでまだ赤い髪の主を他所へといざなう。
「今度こそちゃんと連れてく。いいとこへ」
「信じろって言うの?」
「信じろよ。近場でいいとこ色々と連れてったろ」
立ち上がってセレスに近付くと、伸びた赤髪を摘み、いつものように顔を接近させる。
生前英雄だった女のうつろな瞳に、変わらずの死神が映る。
「私はここにいるわ」
そしていつも通りの拒絶を喰らう。
「故郷も見える。私には天国よ。ここはもう、私と同様、終わってくだけの場所……」
言葉が既に力無い。
苛烈な姿が嘘のよう。セレスはずいぶんと儚い印象を与える女になっていた。
凛とした雰囲気は失せ、虚無感が漂い、生気に欠ける。
己で比喩しているとおりの亡霊のようだ。
回復はした。
が、壊れて治らない箇所もある。
自覚もあるので、傷を与えた主の目にはいっそう痛々しく映る。
「私はもう、害意のある者以外は誰も傷つけなくていい。
もうすぐ誰もいなくなる。誰も私を傷つけない……貴方以外はね」
「……」
イージスもこの町を見届けると言ってるし……。そう何気なく言い足そうとして思いとどまる。
エルドとイージスは最早険悪の極みとしか言い様が無い状態に突入しているからだった。
イージスもまた、腹の底で何を企てているかわからない男。
二人がやりあわない互いの言い分は、「セレスが止めるから」。ただそれだけ。
そんなことを思い返しながら、エルドがすごすご椅子へと退却する動作をぼうっと見ていた。
数分の沈黙の後に呟く。
「ほんと、未だにあなたの隣りにいるなんてね。変な感じ。自分がこんなに情けない女だとは思わなかった」
苦笑を伴う自嘲。
「面白いんでしょうね。斬鉄姫なんて呼ばれて偉そうにしてた女がこんな惨めな姿晒してると」
「そう思いたきゃ思ってろ」
「……ふんぞり返られても困るわ」
無表情の危険な双眸。暴発の可能性を臭わせながら静かにセレスを見つめている。
「もう何しようがぜってーに許さねえってことか」
「……許さないんじゃないわ。許せないの」
沈黙が何度も二人の間に挟み込まれる。
「みんなお前の為だぞ。盗賊どもの只中で勘付かれないよう動くのにどんだけ苦労したと思ってるんだ」
「だから言いなりになれと?」
互いに譲らない。
やがて口を尖らせ、頬杖をついて流し目でセレスを見やる。
「やな女だな」
冷たい口元は歪めていても、決して笑ってはいない。
そんな凍りつく視線にも慣れてしまった。
同じぐらいにセレスも冷たくなってしまったからかもしれない。
「どうして……どうして私なの?何で、私なんか」
「確信みたいなもんが一つあるだけだ。お前とならうまくやってける」
「…うまく、やってけるですって?冗談でしょう?こんな毎日……私は削られていくだけじゃない」
女の扱いがうまい男。
長くうまくやっていきたいはずの女を、こんな状態にするわけがない。
「茶番ね。いい加減、はぐらかすのはやめて正直に言いなさいよ。苦しめるのが楽しいんでしょう」
苛立ちと共に本音を吐き捨てた。
「好きな女をここまで追い詰められる男なんていない」
痛い箇所を指摘されたのかエルドは押し黙った。むすっとして、依然口を尖らせている。
「いつもそう。あなたはいつも嘘ばかり。何も真実を話してくれない」
「へぇ。ゲロったらこの最悪な状況を打破できるとでも言うのか?」
「打破まではわからないけど、全然違うわ。本当に、…本当にその気があるのなら、話してよ。全部話して」
できないだろう。できるわけがない。虚妄で塗り固めたはりぼての愛情でなど。
だが袋小路に追い詰められた相手は、観念したとばかりの溜め息をついた。
「どこから話しゃいい」
「えっ」
「生前からか。戦乙女の奴隷になってからか」
突然流れが変わった。
意外だった。セレスの要求に応じる気があるようだ。
「……全部。全部よ」
欲張りかとも思ったがすべて知りたい。
「これだからお姫様は」
催促された男は視線をそらし、
「…そうだなぁ……」
髪をかき上げた。
整った童顔には薄く諦めが見えた。
「俺はお前が嫌いだった」
「そう」
「と思ってた」
「何よそれ」
「まあ最後まで聞けよ」
投げやり気味の告白に早速不満げなセレスだったが、渋々口を閉じる。
「生前はお前の噂聞いただけで虫唾が走った。地位にも才能にも何もかもに恵まれた完全無欠のお姫様。
何が斬鉄姫だ。偉そうに。どうせ女だ、そこらの売女と砂粒ほども変わんねえ。
ブチこみゃアンアン鳴いて自分から腰振るくせに。
所詮女だってことをわからせてやりてえってずっと思ってた」
「……」
「睨むなよ。お前がねだった話だぜ」
険悪な雰囲気が濃さを増す。
「こっち側に引き込むことになった時ゃあおもしれえ巡りあわせだと思ったもんだがな。
状況が状況だ。大事な駒、ゼノンのガードもきつい。手を出すなんて夢のまた夢だった。
だから気分が良かった。戦乙女の中から見てたぜ実妹様にブチのめされるまでの完全敗北をよ。
それから蛆虫のごとく生き長らえた二年間。ずっと嗤ってた。ざまあねえってな。」
「そう」
挑発には慣れている。静かに相槌を返した。
「それで……そう、変態の塔だったか」
「……」
いくら事実でも呼び名がすっかり変態で定着しているのはどうかと思う。
が、話の流れを止めたくなくて、訂正する隙がない。
「草原の広がる階層だった」
話の流れと共に騒動を追憶する。
歪んだ男の創造した新世界はことのほか美しかった。
「まがい物の太陽とはいえ気分が良かったんだろうな……ふと振り返った時、お前は光に照らされて薄く微笑んでた。
正直息が詰まった。なんだ。大人しくしてりゃずいぶん綺麗な女じゃねえか、と」
とくとくと手酌で注ぎ足される果実酒。セレスの元にも甘たるい香りが漂い、鼻をくすぐる。
「それでちょっと欲しくなったんだよ。それだけの話だ」
「それだけって……」
呆れる。ちょっとどころの話ではない上、とんでもなく即物的である。
「確かに軽くかんがえたなー。3、4発もやらしてもらえりゃ飽きてこんな熱も冷めるだろみたいな」
軽々しい告白に聞き手は肩を落とす。
世間知らずの元お姫様はこんな男に引っかかって生き地獄を見たのだ。
「ほんと、貴方らしいわ」
消沈したセレスに言い訳が続く。
「言っとくが、最初から酷いことなんてする気はさらさらなかったぞ。本当に和姦のつもりだった」
どこが。
つっこみどころ満載の告白だったが、ここで止めたら今度はいつ機会があるかわからない。
話の腰を折ることだけは回避したいと口ごもる。
「まさか斬るだの殺すだの散々脅してた奴にそこまで惚れてるなんて思わなかったし。
斬鉄姫様なら本当に嫌な時はもっと激しく抵抗するだろうと思ってた」
「……」
さっきからたまにちろちろとセレスを盗み見て観察している。
告白内容にセレスが噴火しないか恐れているらしい。
げんなりする。これだけしておいて何だその態度は。
「案外簡単に手に入ったって、その時は思った。
俺はもう有頂天だっての。あの斬鉄姫セレス様にハメてんだぜ。もう浮かれるしかねえだろ。
おまけにずいぶん体の相性もいいときた。3、4発の予定なんて吹っ飛んでた。
笑えるよなー。あと何日もすりゃ笑って一緒にメシ食えるとか本気で思ってたんだぜ」
「……」
「少し経てば、あいつを見る同じ目、いやそれ以上の目で見てもらえると思ってたんだよ」
しかし彼を待ち受けていた現実は違った。
「ある日唐突に楽園の夢は醒めた。
いきなり泣き出したかと思ったら殺してなんてほざき出して、仕舞いに自分から丸坊主になって壊れちまった」
甘たるい酒を苦々しく飲み干す。
「こっちはずっと優しくしてやってたつもりだったからな。おまけにもうすぐもっと仲良くなれると思ってた。
衝撃なんてもんじゃなかったぜ。だんだんお前がお前じゃなくなってく。
声は嗄れて死にそうだし目が虚ろになってく一方だし食わねえから身体は痩せてくし正直俺の方が泣きそうだった」
つい苦笑が漏れる。
「貴方が?泣きそうに?」
セレスの反応に童顔が不服で満たされる。
「嗤うなよ。こっちにしてみりゃ天国から一気に地獄だったんだぜ」
体を繋いだだけで心まで手に入れた気になっていたのだろう。苛立ちとともに、多少哀れにも思う。
「こっちだってパニクるだろ普通。お前相手じゃ適当にのせて繕う気にもならなかったしな〜」
「何よその言い方。私には甘い言葉は似合わないってわけ?」
むっとする女に、男は酒臭い息で長嘆息した。
「本命の女に適当な嘘つくのは気が引けるって意味だ。疑う前に少しは察せよお姫様」
答えは真摯を帯びて重い。怒りすらもぐっと押し戻される。
「……話がぶっ飛んでて理解の範疇を超えてるんだもの」
ふくれてそっぽを向くと、
「とにかく」
話の軌道を修正された。
「こっちはさしてひでえことしてるつもりはなかったっつってんだろ。なのにお前は目ぇ開けたまま壊れてくんだよ。
おまけにあの病気だ。正体がわかった今ならともかくあの時は仰天した。
まさかこのまま生きたまま腐っちまうのかと思ったら気が気じゃねーよ誰だって。
嫌なら嫌って言や良かったじゃねえかってすげえムカついてたけど必死だった。何とかしねえと何とかしねえとって」
「……」
「ま、嫌われちまったのはよくわかったなー。俺は何だかんだ言っても結構好かれてるって思ってたからな」
酒臭い息とともに自嘲が漏れる。
視覚からくる、子供の飲酒のような不快感。嫌悪がさらに増す。
エルド側の表情も苦々しい。今宵の酒はお世辞にも良いものではないだろう。
「さてここからが更なるお笑い草…とは言ってもお前は笑えねえか」
「……」
沈黙に促されて先が続く。
「めんどくせえが、とにかく何とかしてやらねえと。
そしたら丁度良く帰郷してきたヒゲ糞野郎がのこのこ歩いてくるじゃねえか。
仕方ねえこいつ使うか。
お前が気付いた通り、せこせこ工作してあいつがお前んとこ行くよう仕向けた。
でもあの土左衛門がお前の名を呼んでドアを開けた時、しまった、って後悔した。
あのきったねえ水死体なんか行かせても、逆に怖がらせるだけじゃねえかってな。
――――“俺でさえ拒絶されてるのに、あんな男を受け入れるわけがない”」
「…エルド」
セレスの表情が言い表し様のない微妙な色に染まり、歪む。
「そ。その時点ですら、お前にとってまだそこそこの存在なんだと思い込んでたわけよ。
今はちょっと気まずいが、あんな溺死大先生なんぞ足元にも及ばない位置にいるってな」
ところが現実は彼に無慈悲だった。
「先達とはいえ大して交流もなかったはずの仲間。そいつに拒絶どころか速攻気を許して大号泣。
完全に頼り切ってさっさとおぶさられて病院へ行っちまった。
その場に残された俺は愕然とした。
他人以下か。俺の前じゃ決して心を許さなかったくせに。
――――俺は他人以下かよ。
部屋を見渡したら血のついたナイフが落ちてた。冗談だろ。本気で自殺するつもりだったのか。
俺と寝たのがそんなに嫌だったのか。
ここでやっと――――」
真実に照らされると生者達の曲解は静かにほぐされる。
物語が緩やかに、セレスの予想だにしなかった方向へと滑り始めていた。
「とんでもねえことをしたと、認める気になった。
本当はずっと前からわかってたことだがな。わからないフリはもう出来なかった」
独白の他はさざ波だけがよせて還す。
「飲むか」
「結構よ」
「俺には甘えわ」
これしかないから仕方ないといった風に愚痴る。
「ったく、礼ならまず酒だろ普通。気のきいたモン持ってこいっての。これだから婆さんどもは」
文句と共に欠けた杯を煽った。甘い酒。果実と花びらを使った酒。液体はセレスの紅色に似ている。
自分のために選んでくれたのがわかる。
本当は一緒に楽しく飲みたいのだろう。
「退院したら声をかけてみるかとも思ってたが、出てきたお前、ほぼ骨と皮だったし。
様子もおかしいままだ。俺が出てったら発狂するんじゃねえかって雰囲気だった。
こもりがちで、いつも泣いてて。いつも月をじーっと見つめてて。俺じゃない別の男を待っていた」
言葉につられ、本心が自然とこぼれる。
「…………今も、待っているわ」
「知ってる」
目を伏せた男から抑揚のない返事が返ってきた。
「まあ俺がお呼びじゃねえのはよくわかった。
お前も峠は越えたようだ。後腐れは悪りいがそろそろ俺もゾルデから退散するかと思ってたらよ。
気が付いたら何か身体が死ぬほど、歩けないレベルに重いわけよ」
「えっ?」
回想に意外な転機が訪れた。
「どうかしたの?」
訊かれて、嫌そうに顔をしかめる。
「あんま思い出したくねえなあ。マジで地獄だったし」
「やだ。私の病気、伝染ってたとか?」
流石に動揺する。伝染しないと言われている病気だが、実際はよくあるらしいからだ。
「いや。最初はそうかと疑ったが。それなら事前に神経の軋みがあるはずだから症状が違う。
やべえなって冷や汗が出た。本気で歩けねえし。もうとにかく立ってるのもつれえし、その前に存在してんのがつれえ。
動けねえ。でもじっとしてんのもまたキツい」
セレスの想像とはまったくかけ離れた事実が、彼女の耳の向こうへと注ぎ込まれる。
「何があったの。はっきり言って」
「だから……」
らしくなく口ごもる。視線を泳がせ、首筋を撫でている。酒のせいか、何だか頬がほんのり赤い。
「……?」
「なんかもう。あれだ。言葉にしにくいがいろいろだよいろいろ。
お前は嫌がってたのに勝手に一人で有頂天だったとか。恥ずかしいなんてもんじゃねえだろ。
死ぬほどムカつくし情けなかった。
もう自分のことすらよくわかんねえ。
何故だ。上手くはなかったが、生前から大嫌いだった女を陥れ叩き落として、ずっといだいてた願望は叶ったのに。
どうして。
ああそうだ、―――かどわかしを暴露した時の感謝の笑顔が最後だった。
あれから一度も笑ってもらってねえ。最初の三週間でどうしてそんな簡単なことに気付かなかった」
少し間があいた。
「……それで?」
促すと大きな舌打ちをされた。更に言葉遣いがしどろもどろになる。
「だから、つまり。あれだ。嫌ってるんじゃなくて本当はずっと気になってたってことがわかったんだ。
お前が死んだ時も、戦乙女の手中とはいえ、本当はまた一緒の輪になれてすげー嬉しかった。
散々焦らしたのも屈服なんかより、ただお前の方から求めてほしい一心だったんだ。
体の相性も特に良かったわけじゃねえ。ただもっと抱き締めたり口付けたり…そういうことがしてえ女だって気付いた。
やっとわかったんだ。
だから、認めたくなかった、どうしても。完全に嫌われた、とか」
最後の言葉は格別に言い難そうにしていたが、ついに吐き出した。
「お前に本気でどうしようもなく惚れてるって事実を全面的に受け入れざるを得なかった」
会話がぶっつり途切れる。
照れ隠しも兼ねて勢いく酒を飲み干すエルドの視界で、その想い人が言葉を失い、目を丸くしている。
波音は撫でるように静かだった。
くっくっくっ。酔いの混じった嗤いがこぼれる。
小馬鹿にする嗤いのようでいて、それは自嘲。
そんな変化が、セレスには手に取るようにわかるようになっていた。
ヤマ場を超えて自棄になったらしい。急に口調が滑らかに戻った。
「どうするよ。やりたい放題やって。自殺する寸前まで追い詰めといて。今更そんなこと気付いても。
もう慰めたくても抱き締めたくても近寄ることすら許されない」
告白の内容が心に浸透してきたセレスの頬にもだんだんと赤味がさしてゆく。