■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
スレ立てgj!
乙
乙
part16にはもう自立してもらわないと
>>9 追っては来ない。……待ち伏せているだけだ。
>>1乙
あーあ。みんなあっさり見つかりやがって…俺みたいにスケープゴート立てときゃ良かったのに…。ま、これでしばらくのんびり出来るぞっと!
乙一
>>15 フフ 兄さん、私から逃げられると思って?
18 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 21:09:07 ID:C9skc8hF
このスレッドは19を超えました。
もう書けないので兄さんはおとなしくpart16にお戻りください
待ってるから…
もし来なかったら
わかるよね
孔明ならぬ、キモウトの罠
ジャーンジャーン
22 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 00:55:31 ID:/+qBj1N9
げえっ、キモ姉!
非情の女王
聖帝 キモ姉
「こんなに苦しいのなら、弟以外の愛などいらぬっ!!」
ライバルの恋人(実は兄弟)を横恋慕し、拉致するキモウト。
愛した兄の為に命を掛けて戦い、兄の為に死ぬキモウト。
自慰をする弟に見とれてしまい、憎悪しながらも愛してしまったナルシーなキモ姉。
弟への愛深きゆえ非情になった高飛車なキモ姉。
弟を助ける為に自らの瞳を差し出し、周囲の子供も可愛がる盲目のキモ姉(但しショタ好き)。
幾度も苦難に逢いながらも、一途に兄を思い続ける病弱なキモウト。
意外にもこのスレではありふれた存在だな。
>>24 弟……この姉が幼い時より可愛がりそして育てた男
そしてその男は美しく成長した!
師匠「ならぬ! それだけはならぬぞ姉!」
姉「な……なぜ!!」
師匠「きさまがいくら想い募ったところでその願いだけはかなわぬ!!」
姉「そんなバカな!!」
師匠「いかにおまえが愛そうと結ばれぬわけがある!! よいか姉……。あの男はお前の弟!!」
姉「な!! お……弟!?」
姉「弟より愛しい男など存在しねぇ――!!」
師匠「あべしっ!」
カンフー映画的ノリか…嫌いじゃないぜ。
弟「俺は…無限の宇宙で飛びたいんだ!俺は航空学生になる!」
姉「ダメ!危なすぎるわ!お願いだから普通の学校にして!」
数カ月後…異星人との戦いが始まった。弟はいくつかの戦いにでて腕を磨いた。
弟「ついに親玉か…オハネ25テイクオフ!出るぞ!」
そして弟が攻撃した瞬間、触手に取り込まれた。
弟「うわあああああ…動け!動けよ!」
姉「やっと捕まえた。ここでずーっと一緒にいよう?そのために契約したんだから…」
弟「姉さん!元に戻ってよ!姉さんはソイツのコアとして利用されてるだけなんだ!」
姉「本体の怪しげなババア?ブッ殺したわよ?弟狙いだったから…」
マ●ロスF的ノリでやっちまった…
姉「まいったな……わたしのコレ(弟)は許しちゃくれないのよね……」
弟「姉さん…もう一度…ぬくもりを…」
サ○ザ的ノリ
キモウト「姉よ…貴女もまた強敵(とも)だった」
キモ姉「我が生涯に一片の悔いなし!!」
キモウト「…じゃあお兄ちゃんは頂いていくね」
キモ姉「悔いな死!!」
あと○塾的なノリだったら…
「ぬぅ…まさか…あれは奇猛妬発情拳…!?」
「知っているのか義姉さん!?」
「兄への狂おしい思いを気として応用する…現代では使い手が絶えたと思われていたが…」
「キモウト八人衆…恐るべき相手だ…!!」
キャプテン○なら…
「(弟の)ボールは友達、恐くない!!」
おーっと!!キモ姉君のオーバーヘッドフェラだぁー!!
「甘い!!」
キモウト三角跳びでそれを阻止す…だが間に合わない!!
しかし弟くんのバー直撃!!
弟死亡確認!!
姉「逃げちゃ駄目よ!私から、なにより自分から!」
弟「姉さんが何を言ってるのか僕には分からないよ!」
姉「人と関わるのが怖いの?自分が傷つくから?」
弟「いや…姉さんのゲンドウがコワレテいるからヒイてるだけ。」
姉「私と一つになりましょう?それはとても気持ち良いことなのよ。」
弟「逃げて良いよな逃げて良いよな全力で逃げろ!」
姉「裏切ったな!私の気持ちを父さんと同じに裏切ったんだ!」
弟「うわあああああああああ」
エ●ァ的ノリで一発
伏せ字ウザス
わかるひとだけわかってね的でオタ臭いからやめようぜ
ここまでキモ姉の自演
ここからキモウトのターン
あれ…なんで俺…ここ何処だ…頭いてぇ
ちょっと姉ちゃんに、部屋に来るように呼ばれてたんだっけ
誰がキモ姉と同じ部屋で寝るか!
俺は1人で寝るぞ!!
ガチャガチャ
アケテヨ
>>37クンアケテヨ
>>37(ドアの向こうで何か言ってる・・・
・・どうせこっちには来られないだろ)
キモウト「待ってたよ お兄ちゃん」
>>37は裸に剥かれ、立ったまま柱に手と身体を縛り付けられている。
そして目の前に置かれた腰丈程のテーブル上に、興奮剤を投与されて勃起したペニスを乗せていた。
「ごめんなさいお姉ちゃん! ヤメてぇぇぇっ!!」
姉は
>>37の真横で冷たく笑い、
「だってお姉ちゃんとセックスしたくないんでしょ? なら、そんなオチンチン要らないわよね? ギロチンポよっ♪ えいっ♪」
頭上に掲げていた五キロは有ろうかと言う重々しい百科事典を、何の躊躇も無く、
>>37のペニスに落とした。
――ドスンッ!!
「うわあぁぁああぁぁぁぁぁあっ!!?」
>>38 「せっかくだから、俺はこのドアを開けるぜ」(コンバット越前みたいな甲高い声で。)
>>39 ,,x-ー:: ":::::
,x '"::::::::::::::::::::
,、'":::::::::::::,, x-‐ ァ:
,,x '"::::::,,、- '" |:::
`"i`ー'" ヾ
! 、 、,,,,,,,,,;;;;;;;;;彡ミ
|,,,,ノi `ーヾ;; '"----、
ヾ::ヽ -┴'~
~|:/ ' ' ' `ー ' "'"
/_
l '' ) i
ヽ,,、'~` U
゙, __ ,-、_,ノ`
|/ ゙, `'" ,,y
|/ 彡 ゙、`-'"
/|/ i
/ ! ,, -'"
| `ー '"|::
| /|||ヽ
/|||||/心
|ヾ/ /`ー
42 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 20:35:18 ID:IYBLyhzw
>>前789
エロゲの「彷徨う淫らなルナティクス」がそんな感じの設定だったな
キモウト成分ありでハッピーエンドあり
兄妹姦が最初と最後だけだが
って書こうとしたら埋まったよw
>>38と
>>40を踏まえて妹の姉に対する思いを詩にしてみます。
今はいいのさ全てを忘れて兄と佇む二人きりの部屋、
この戦場で後に残れば地獄に堕ちる、
姉!姉!
殺意溢れるドアの向こうに、奴の声
姉!姉!姉!姉!姉!姉!
流れる血しぶき、後で後で拭け、狙い定める私(妹)ターゲット(抹殺対象)
姉!姉!姉!姉!姉!姉!
今はいいのさ(兄以外の)全てを捨てて獣と化した妹の私、
この戦場でもがき苦しむ地獄の炎、
姉!姉!
殺意溢れるドアの向こうに奴の声、姉!姉!姉!姉!姉!姉!
邪魔はさせない、奴を奴を殺る。覚悟を決めたわ、姉がターゲット。
姉!姉!姉!姉!姉!姉!
ノブに手をかけドア開く
生きて見つめる・・・
(唇から出た血で)赤い彗星(のような速さでやってくる)お姉ちゃんですね。わかります。
46 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 21:56:34 ID:xeTLVl8G
「いやあ、助けて、助けて…お願い、せんせぇ!!」
「何故だね? 君が助けてと言ったからスイッチを切ったんだ」
「でも、だめ、いや、寒い・・・」
薫は 必死で湯川の腰にすがり付いて顔を擦りつける
「お願い,お願い,お願いぃぃ…」
「君は言動が首尾一貫していないな。警視庁の優秀な刑事がそんなことでは」
困る、と言うと同時に、コントローラの出力を最大にしてコマンドを入力する。
G+PPP+K →↘↓↙←↖↑↗+G+P+K E+P
「やあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」
全身を満たした爆発の波動に絶叫した薫は、湯川の右手に強く噛み付き
声を押し殺すと、激しく震えて、椅子に崩れ落ち失神した。
スラックスはすでに夥しく濡れて、湯気を立てている。
湯川は、噛み付かれた右手を振り払おうとせず、ゆっくりと薫の口が開くに任せた。
長椅子に放恣な姿勢で横たわれ、唇を湯川の血で赤く染めた薫を
彼女には決して見せない優しい眼差しで見つめてから
血の流れる自分の右手を意外な物を見つけたように眺める。
「実に面白い」
呟くと、薫に覆い被さるようにかがみ込んで、
血濡れた唇に自分の唇を重ねる。*********
やっぱり鬼畜です。
この後どうしましょう?
1.縛る
2.ラブラブ
3.合体して装置を使って、二人とも失神→草薙に心中と間違えられる
4.その他
5.スレチ
5.スレチに一票 ガリレオは専用スレがあるのでそちらに投下してください。
誤爆に一票
7.そろそろ投下に一票
投下
燦燦(さんさん)と降り注ぐ太陽の日差し。飛沫になって輝く水と、方々から聞こえる歓声。
汗と海と、薄着の時節。あるいは────人によっては────UFOの、夏。
「流石に凄い人だね、兄さん」
塩の効いた液体が心地良く肌を濡らし、蒸発に従って冷まされる体温が気持ち良い。
突き刺さる陽光に眩しい砂浜、
辺りは人でごった返しているにも拘(かかわら)らず、隣に座る妹の声は不思議と涼やかに通った。
「夏だからね」
「夏だけど、だよ」
返答は少し皮肉気な笑み。クスクスと笑う声が潮風に乗る。
「夏と、海と、水着。男女が大胆になれる3種の神器────だったかな?」
海と人の波からは少し離れたビニールシートの上。パラソルの色彩が投げかける影を、妹の顔が遮る。
色彩は落ち着いた青の、だけどデザインは扇情的なビキニを貼り付けた胸が揺れた。
色白を自慢していた肌は日に焼けてしまい、影がそうする以上に色濃い。
太陽の下ならばさぞ艶のある小麦色として栄えるだろう。格好と相まって大勢の、特に異性の目を惹くに違いない。
「多いね・・・・・・カップル」
「夏、だからね」
仰ぎ見る妹の顔が、つ、と横を向いた。視線は彼方の波間。
乾き始めた黒髪が一房、凭(もた)れていた耳からはらはらと落ちる。
指先まで染みた気怠さの中で繰り返した言葉は、妹の唇から長い吐息を紡いだ。
「夏だけどだよ。兄さん。この暑さだっていうのに、熱いね・・・・・・どこも誰も」
青いシートがガサガサと音を立て、視界に現れた片手で妹が小さな額を撫でる。
「のぼせそう────────いいや、溺れそう・・・かな」
言いながら放した手は、僕の胸の上で指を広げた。
くすぐったさの後に落とされた唇が息吹き、熱のある呼気がゆっくりと肌の上を滑る。妹と一泳ぎしたばかりの僕は裸に近い。
反射的な緊張で硬直した肉体が、ゆっくりと押さえられた。
乾ききらない手を胸に、湿った頬を腹に乗せ、妹が抱きついてくる。
「ちょっと」
「大丈夫、どうせばれないよ。私と兄さんとの関係が何なのかも・・・・・・ナニをしているのかもね」
空いていた方の手が、海パンを通して僕の腰に触れた。
押し付けられる、水分を含んでザラついた布地の感触が徐々に下腹、
股間の付近を隠す唯一の布切れの中央へ這い進んでくる。
「〜〜♪」
鍵盤でも叩くような気軽さでトントンと男性に触れる指先。
疲労した肉体は理性より本能に近くて、集まる血流に熱をもったソコが膨らんでいく。
「一度こういうセリフを言ってみたかったんだ。
『体は正直』だね? 兄さん・・・・・・ん」
反論の弁もない。それでも、せめて抵抗の意思を吐くべき口も、妹の口付けによって塞がれてしまう。
海水に重くなった髪を僕の顔へ垂らし、自分の顔を傾けて唇を押し付けてくる妹。
押し付ける位置を上げた豊満な胸は重く、
鼻での呼吸をこなせる程度には慣れているはずなのに、わざと息を吹き込まれた。
匂いとも違う、どこか清涼な感覚に混じる磯の香。
鼻腔に届いた吐息は肺に送られる前に吸い戻され、替わって舌が伸びて来る。
唾液をたっぷりと乗せた柔肉は先端で僕の舌に挨拶をすると、侵入した口腔に纏った体液を塗りつけ始めた。
くねり、うねり、濡れそぼった全身で僕の口内を洗う。ザラザラとした感触に背が震えた。
血の下がる頭に、背にする砂の熱感が遠くなる。海パンごと擦られる部分が固く跳ねた。
高まっていく感覚の終点が彼方、水平線の辺りに見え始める。
「少しはそれらしい気分が出たかな?」
案の定、妹はそこで手を離した。
抜かれた舌から垂れる糸を拭い、手の甲に乗せてから改めて口付け、吸い上げる。
「体力を使い果たすには早いからね。まだ遊ぼう、兄さん。まだまだ楽しもう、2人っきりで」
深く息を吐く僕の上で、妹の表情がにこやかに踊った。
「一夏の思い出は、それからが最高だよ」
立ち上がって離れた背が、膝を曲げて手を伸ばしてくる。
覗き込んでくる瞳には微かな疑いもない。僕にその催促を断る術はなかった。
「分かった」
促されるままに背を浮かせる。しかし、手は借りなかった。
自分でもそうした理由ははっきりしない。妹の目には抵抗が映ったのだろうか。
答えてくれる唇は、立った時には一歩先で僕を誘っていた。
足のつく波間で戯れ、目標まで競い泳ぎ、水の掛け合いや駆けっこをし、ビーチバレーをし、
そうして勝敗を笑い合い、カキ氷とヤキソバを手にパラソルの影を求めて戻り、お腹を満たして。
青春というものがあるのなら充分に、いや、十二分に満喫したと思う。
振り返らなくても、欠片の後悔もないと言い切れる時間だった。
ただ。
青春とは、書いて字の如く青い春。
蕾が開く前、果実が熟すまで、まだ若い頃だけに許される刹那の時間だ。
だから、僕らに許された青春はここまで。子供の時間は終わり。
一つ大人になる僕らは、どちらかが不本意であれ花を咲かせる僕らは、だから散らさなければならない。
それまで守ってきたものを。開いた花弁の一枚を。
「もういいかな」
海水で口を濯(ゆす)いだ妹は、それだけ言って僕の手を引いた。
『ファーストキスがソース臭のするイチゴシロップ味というのは、幾ら何でもいただけないからね』
そう言った妹の顔には、まだ青い照れ臭さがあった。この時だけは、歳相応の反応だったかもしれない。
「こっちだよ、兄さん。大丈夫────下調べはしてあるから」
今日の企画・立案は妹に任せてある。そうするしかなかったから。
今日僕がここに来て、ここにい続ける理由は全て妹のため。妹の手によるものなのだから。
「足元。気をつけて」
人気(ひとけ)と海辺から離れて海沿いの岩場を目指す。
内陸では先ず見ないごつごつした形の足場を踏んで更に先へ。
妹の足が止まったのは、それから悪戦苦闘しつつの数分を歩いてからだった。
「ここだよ。さあ、気を付けて降りて」
上から見下ろしているとよく分かる、周囲の岩場の中で一箇所だけ空間の開いた場所。
潮の関係か波の浸食が深く、刳り貫いたように適度なスペースがある。
加えて満潮が近付かないと海水も届かないようで、一見して砂は乾いていた。
「ネットって奴は便利だね、一般の有益性を別にすれば大抵の情報は手に入る。
幸い他のカップ────利用者もいないようだ。どうかな兄さん。
お誂(あつら)え向きだろう?」
「そうだね」
ゆっくりと降りて、確りと足場を確認してから視線を上げる。
見れば、一足先に着地した妹が屈んで水着を埋めていた。
「万が一、脱いで波や風に流されでもしたら困るからね」
折られていた膝が戻る。
日焼けを免れていた部分が晒され、小麦色と白色のコントラストが陽射しに映えた。
歳の割に大きな胸も毛の生え揃ったソコも隠すことなく、何も恥じ入ることなどないように妹は立っている。
「ごめんね、兄さん。せっかちで」
言いながら両腕を広げ、潮風を全身に浴びて歩んで来た。
抱き締められ、何よりも強く、妹の肌から女の香が匂い立つ。
「でも、もう我慢出来そうにないんだ。だからお願いだ。
遠慮なんかしなくていい、一息に奪ってくれ。準備なら済んでる。
今日、兄さんを一目見た時から・・・・・・・・・いいや、今日のことを思った昨日の夜から濡れているんだ」
触れている体温より熱い、震えた吐息が耳を撫でる。
「さあ兄さん、私はいつでもいい。どんな風だっていい。好きなように私を使ってくれ。
叶うならいつまでも、兄さんが私の体に飽き果てるまで存分にだ。
私はそれでいい。それがいいんだ」
こんな時にだけ潮風は止み、海鳥の姿はどこにもなく、波は緩やかで静まっていた。
「兄さん。私を抱いてくれ」
返事はしなかった。僕は溺れるように、妹の体へ沈んで行った。
海水に沈めた下半身を引き上げる。こういう時に男性は楽だ。
外側を流すだけで情事の残滓を消し、表面を取り繕うことが出来る。
ついでに相手のアフターケアの余裕があれば十全だ。
まだ立てない妹の足に、砂を洗い落としたばかりの水着をかけてやる。
僕の背に爪痕をつけた手は、曲げた腕と共に太陽から顔を隠していた。
潮の音(ね)に嗚咽が混ざる。聞いて呼び起こされる感情は悲痛でも罪悪感でもなかった。
「立てるようになったら海で体を洗ってくれ。そのまま水着を着ると・・・・・・多分、分かるから」
緩く開かれた妹の股間からは、白濁した液体が溢れ出していた。
それが何なのかは言うまでもないことだ。決まっている。僕が最もよく知っている。
繰り返した放出の最後、妹に両足で挟まれた腰を引けずにそのまま出したのだ。
妹の、中に。
大丈夫ではあるだろう。問題はないと言えるのかもしれない。
でもそれこそ、そういう問題ではないのだ。
「うん。うん、ごめんね兄さん。すまない。手間をかけさせて、最後に我儘もしてしまって。
すまない、兄さん。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
妹は泣いている。嬉しさで泣いている。
その雫が悲しみか痛みのせいならば、誰かが悪いのだとして、罪が僕にあるのならば良かった。
その方がずっと分かり易い。
冬の夜は寒いけれど話は熱いな!
「でもね、兄さん」
その方が、ずっと救いがあった。
「兄さんには悪いけど私は幸せだよ。一番、世界で一番、幸せだよ。
今まで家族として愛してくれていたのは知ってる。
でも今、無理矢理であっても妹じゃなくて女として抱いてくれた。女としての私に兄さんを抱かせてくれた。
兄さん。ありがとう。ありがとう兄さん。ありがとう。ありがとう」
恋が叶った人間を悲しませる方法が、世界のどこにあるのだろうか。
暫く、妹の瞳からは塩の味がする雫が溢れた。
「次は、いつ来れるのかな・・・・・・?」
「冬か春・・・・・・遅ければ一年後、かな」
「そう。でもさよならは言わないよ、兄さん。愛してる────────たとえ、これが最後でも」
最後。迫った妹の唇を受け入れさせたのは、その言葉だったのかもしれない。
どちらにせよ、僕らの関係はこの一度きり。それが約束だった。
許されざる関係であるのではなく、許されない関係であるかもしれない僕らの、
僕がぎりぎりで妥協できた結論がそれ。
具体的な始まりがいつだったのかは、最早知りようもない。
それでも全体の切欠を求めるなら、原因は父の再婚だった。相手は、俗な言い方をすればバツイチの子連れ。
兄妹のいない僕からすればバランスは取れていたと言える。
両者の抱えている一人っ子は年齢が近く性別が異なり、伴侶を亡くした原因が同じく事故死で。
その運命的な出会いを、僕と妹にまで必然と当てはめる気はないけれど。
『お義兄(にい)さん』と僕を呼んだ妹から、兄以前の文字が消えた時には既に手遅れだったのか。
僕が『義妹』を一文字で認識する頃には、戻れない所まで来ていたのか。
僕が大学へ進学した時期には、もう間違いのだけど。
妹に異性として好かれた。弱みを握られた。帰省を口実に呼び出され、たった一度の関係を強制された。
本なら一行にも満たない過程には、果てしなく思えた紆余曲折があったけれど。
それももう終わりだ。妹は約束を守るだろう。妹は僕に嘘を付かない。そこには不思議と信頼がある。
同時に、それだけが僕の支えでもあった。
2人、熱気を上げる堤防の側を歩く。
仮に大人の足でも夏には怠さを覚えるだろう海の外周、果てなど見えなかった道。
けれど、果てがないわけじゃない。この道にも果てがある。
これまでの僕と妹の関係にも、今日の僕らの関係にも。
無意識にそれをこの道に見立てたのかもしれない。
これで終わり。
これが終点。
ここでお別れ。
歩きながら、そんな思いがあった。
僕らが2人で過ごす夏はここまで。今日の約束もここまで。
妹が約束を守るならば僕は解放され、今までと似た、ただ妹に対する何かが変わった人生が続く。
揺らいでも真っ直ぐに。陽炎が浮かぶ、夏の焼けた線路のように。
その終着駅に妹の姿はない。当然の帰結。有り触れた必然の終幕だ。
当事者の一人である僕が閉幕を願っている以上、物語の公演は続かない。
夏には終わりがあるのだから。ただ、男女としての僕らが同じものを迎えるだけ。
何もおかしなことはない。
そう思った矢先。堤防の終端、海と陸の境界線が見えた。
妹がペースを上げる。その背中を汗をかかない程度に追い、やがて追いついた。
走ればあっと言う間の距離だったから。そんな間を詰めて、妹はほんの少し、まだ先にいる。
でもそこは、堤防とその先との境目を向こう側へ越していて。
水着から着替えた服で立っていた妹が、数歩先で振り返った。
「結局、聞かなかったね? お義兄さん────────今日、私が『大丈夫な日』なのかどうか」
懐かしい呼び名が紡がれる。
緩く舞い上がったワンピースの裾が、言い終わる頃に漸(ようや)く降りた。
波の音は遠く、声を掻き消すには小さい。夏の熱気が、じりじりと意識を濁らせる。
「私は兄さんに嘘を吐けない。兄さんにだけは嘘を吐けない。
出来るのは、言わないことだけ。聞かれない限り沈黙を続けることだけ。
だから、日取りを決めた段階から、
私が────────血の繋がらない義妹が、どれだけお義兄さんに信頼されているかの賭けだったけど。
私が、血の繋がった妹以上に家族と思われているのかが鍵だったけど。
義兄を好きになって、脅して、関係を強要するような浅ましく狂った義妹が、
避妊や安全日という常識を持っていると考えてくれるかどうかが最後の分かれ目だったけど」
そこで閉じた唇が、賭けの結果を口にすることはなかった。
「いつか行くよ、兄さんに会いに。そしてまた来るよ、兄さんと此処に。その時は・・・・・・たとえ兄妹でなくても家族だ」
愛おしそうに、両手が服で見えなくなった腹部を撫でる。
「産まれる前には会いたい、かな・・・? こっちの海なら水温的にはぎりぎりで間に合うかもしれない。
次の夏は違う水着を用意しないといけないね。
2人の子供に障らないように・・・・・・・・・それとも産後のシェイプアップかな? ふふ」
踏み出す前に、今はまだ邪魔にならない腹を抱えた妹は反転していた。
妹と、異性と。更にもう一つの女の混ざり合った目が、一瞬だけ僕を見詰める。
「じゃあね────────『あなた』。また今度」
そう言って。
波間の輝きより光に満ちた笑顔を浮かべた義妹は、僕の前から去って行った。
磯の香より濃く、沖の水底よりも深い、仄(ほの)暗い予感を残してから。
終了
ちくしょう…上手いなぁ……
悔しいからGJなんて言わねえからな!こんな寒い夜に季節外れのアッツイの投下しやがってッ!
おじさんのSS好きだぜ
ぐっじょぶ!
何とかエロシーンの別個投下を!!
いいふいんきだなぁ…GJ
ちょっと一泳ぎしてくる
>>65 今日のご奉仕は温水プールですね?
わかります!!!義兄さん
おじさん!!ずっと待ってたよ!!!GJ!!!!!
68 :
Y-275:2009/01/17(土) 13:21:04 ID:mEDml/Ju
はじめまして。投下します。
エロ無し。異能モノ。
普段2次スレに投下しているため、キャラの名前が思い付かず、その辺にあるゲームや雑誌からお名前を頂戴したので、
その辺は敢えて突っ込まず生暖かい目で見てやってください。
69 :
血筋の呪い:2009/01/17(土) 13:23:33 ID:mEDml/Ju
「青大、全てはお姉ちゃんに任せてと、言っておいたはずよ。」
甘い香りが充満する部屋。
今日まで抱きつづけた違和感に足を急かされ、入った和室。
中に入った所で、僕の足がすくむ。
部屋に充満した匂いに隠された異様な光景に圧巻され、今まで聞いたことの無い、形容しがたい姉の声に搦め捕られる。
あの日、両親を失い、流れるようにたどり着いた今の生活が全て狂っていたという事実を知る。
見せられ続けた現実は、ひた隠しにされてきた真実がいとも簡単に蹂躙し、2度と戻らないモノになった。
………………………………
「青大(はると)、霞(しあ)、心して聞きなさい。母さん達が呪い殺されたわ。」
両親が死んだ。
その事実を姉が告げてきたのが3ヶ月前。
代々、この街で占術を営む我が藤堂家には、姉と、妹、そしてボクの3人が取り残された。
「幸いにも、既に最後の神托は、私が受け取ったわ。どうにか藤堂家は潰れずにもたせられると思う。」
姉が言う。
「……うえっ、えぐっ、……」
隣で嗚咽づく妹の霞。
冷静に、残されたボクと霞を守るため、姉がボクらに言った言葉よりも、悲しみの方が凌駕したらしい。
それは、ボクも一緒で、
「……………………」
簡単に折れそうになる心を奮い立たせるように無言でその場に立ち尽くすのがやっとだった。
固く拳を握りしめ、震える足を諌めながら。
最も、ボクの心を占拠したのは悲しみではなく、恐怖だった。
血に宿る能力と呪い。
藤堂家に表裏一体のモノとして預けられたもの。
能力の代償に授けられた呪い。
誓約を破れば、与えられるリスク。
今まで、両親につき、占術を学ぶ上で、みっちり叩き込まれた事だった。
それでも…
それでも、やっぱりこうして突き付けられるまで、ボクは逃げ続けていた。
いざ、こうして、現実になってしまえば、自らの身体を全て恐怖で染めあげてしまうのだから。
そして、共に両親から学び、育ってきた姉と妹もそれは同じ事なはず。
「さぁ、泣かないで霞。泣いていても何も変わらないわ。」
それでも姉として、敢えては取り乱さず、冷静に立ち振る舞う月(ゆえ)姉さんの力強いたたずまいに、
幾分かの安堵が流れ込んだのを、よく覚えている。
………………………………
藤堂家は古くは室町時代から、この街と共にある。
時代の推移と共に、明進、暗転を繰り返しながら、現代まで伝わってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫かな?」
傍らで霞が呟く。
今、ボクらは庭の離れの前にいる。
人の死に纏わり付く、現実の厄介ごとを全て執り行ったボクらは、今度は家のしきたりを執り行わなければならない。
当主の選定と、契約。
「月姉さんなら大丈夫さ。」
「そっか、そうだよね。」
離れは占術を行う場所。
神聖にして、不可侵。
だから、契約に関係の無いボクらはこうして表で待たなければならない。
いかに、その血を引こうとも、姉が時期当主として契約を履行するまでは、そこに立ち入ることは出来ない。
「お兄ちゃん……」
霞が口を開く。
「私、不安なんだ…」
「呪いの事か…」
胃に鉄を流し込まれるような不快感に、僕は顔をしかめながら言を返す。
「うん。まず、今、私達を脅かすものであることが怖い。
そして、それが、私達の子供にも引き継がれると思うと…」
そういって霞が僕の手を握る。
抗いがたい、血の宿命というやつだ。
先に述べたように、藤堂家には与えられた能力と、その報いとしての呪いが受け継がれつづける。
今、ボクらが感じる恐怖を、ご先祖様達も感じ、これから生まれてくる子孫達も感じつづける事になる。
そもそも、藤堂家の血を他に出す事はまかならない。
藤堂家は、子を3人産む。
一番年上の者が、純血を守り、占術を学び、残った2人が結婚し、子孫を残す。
そうして、完成された遺伝子はよく出来ている。
必ず男女が交互に生まれるのだ。
生まれながらにして僕の許婚である妹の霞。
彼女の言うところの私達の子供は、文字通り、将来産まれてくるボクの子供である。
こう考えると、呪縛の中でしか存在できない藤堂家を肯定することになるので、深くは考えないようにしている。
「あ、お姉ちゃん出てきた。」
思考の深淵の中にいた僕を霞の言葉が現実に引き戻す。
「お帰り、月姉さん。どうだった?」
霞の言葉に、離れから出てきた姉に声をかける。
「ええ、問題無いわ。今日から、私、藤堂 月が当主として、藤堂家を継ぎます。」
凛としたたたずまいでボクら兄妹に告げる姉。
「そっか、良かったね。お兄ちゃん。」
歓喜の声をあげる霞。
「ああ。」
肯定の意志を示すボク。
「至らない所も多いけど、これからもよろしくね、青大、霞。」
改めて告げる姉。
何の疑問も持たずにこの日からまた、同じ日々が続くと、本気でボクは思っていた。
………………………………
「姉さん!!」
風雲急を告げる。
そんな言葉がある。
後々、考えてみれば、その時がターニングポイントとなって、波乱が始まる。
的な言葉であるとボクは理解している。
この日、高校で霞が倒れたという事実を知った。
将来を約束された霞の異変に、いてもたってもいられなくなったボクは、急ぎ藤堂の家へと引き返した。
「姉さん、霞は?」
リビングで、祈るように座り込む姉に開口一番、霞の安否を尋ねる。
「……ごめん、青大……」
姉は敢えては明言せずにボクに謝罪をいれる。
呪い。
その言葉がボクの脳裏を過ぎる。
「状態はどうなんだ?」
突き付けられた言葉を拒絶するように、姉に状態を尋ねる。
「今は安定したけれど、さっきまで、ひどい熱でうなされ続けていたわ。」
「そっか…」
姉の口から、一先ずは安心だということを聞かされ、腰を落ち着ける。
姉の前に座り、急かされるように戻った自らを落ち着けていく。
「でも、……いつまた……ごめんね、青大。私が未熟なばかりに…」
腰を落ち着けたボクに姉が伝えた言葉は謝罪。
当主として、姉としての月姉さんの霞を思う気持ちが、痛いほど伝わる。
「そんな、謝らないでくれよ。姉さん。」
姉さんの気持ちがわかるから、だからこそ、気にしてほしくなかった。
気にするべきは血の宿命。
いつまでも、どこまでも、ボク達を、ボク達の過去、そして未来をも縛り続ける呪い。
「なぁ…姉さん…」
ボクは再び口を開く。
「どうしたの?青大?」
姉さんの返事を聞いて、僕は先の言葉を紡ぐ。
「呪いって解くことは出来ないのかな?」
「なにを言っているの青大?」
「呪いを解きたいんだ…」
いつまでもボクらを縛りつづけるもの、呪い。
それが有る限りは、ボクらは苦しみつづける。
まだまだ、自覚も無いし、思いは男女のソレとは勿論違うのだけれど、
将来共に歩むことを約束した霞が苦しむことは見るに耐えなかった。
そして霞がこうなったことを、自らの力量不足と気に病む姉を見るのも。
大切な人を失いたくない。
切なる願いとして、それを心に抱く。
そして、その思いの丈を、有りのままをボクは言葉として紡ぎ出す。
「そこまで思っているのね。」
ボクの言葉を受け止めた姉が思案顔をする。
「分かったわ。私が何とかする。藤堂家当主、藤堂 月として、そして、あなたの姉として。」
暫時後、姉は僕の思いを、呪いを解くために、力を貸してくれることを承諾してくれる。
「ただし、私が良いというまでは、青大は何もしないで。」
条件付きではあったが。
「実は、私は少し前に占いで、身内に良くない事が起こることを予見していたのよ。」
姉が続ける。
「それを好転させる為、ここのところはずっと、占術を施してきた。それが完成せずに、翻す訳には行かないことはわかるでしょ?」
姉が言う。
絶対的原則として、契約不履行の禁というものがある。
一度結んでしまった契約は反古する訳には行かないのである。
その上でしか占術は成り立たない。
それはボクも両親から散々習った。
「だから、すべてが終わったら、私が呼びに行くわ。それまでは、青大は待っていてちょうだい。」
姉はそこまでを口にすると、表情を変える。
ボクの心を安堵させるようなものへと。
それでも、ボクは違和感を感じた。
呪いを解きたいと言った僕の出来ることを待つ事だと言う。
そして、姉の作った表情も。
何故だろう?その表情はボクに確かに安堵を与えたはずなのに、宿る瞳の色には不安を感じざるを得なかった。
………………………………
「姉さん、姉さん、霞が、霞が!!」
離れの戸を叩く手が、朱く染まる。
姉が呪いを解くと約束してくれてから3日目の夜、霞の異変にボクは姉を呼びに離れに来ていた。
これまでの3日間はずっとこんなだった。
霞の調子がよくなると、姉は離れに篭り、占術に専念する。
やがて、容態が悪化すると看病に戻ってくる。
ボクが呼びにいくこともあったし、姉が自ら戻ってくる事もあった。
だが、今朝は違っていた。
霞が朝から高熱をだし、ひどくうなされているのに関わらず姉は無言で離れに篭ったのだ。
ボクは霞の側を離れる訳にはいかず、かといって、姉が戻ってくるはずもなく、どっちつかずのまま、時は流れた。
そんな、時間は唐突に終わりを告げる。
先刻、妹は、霞は、息を引き取ったのだ。
そのことの悲しみよりも、朝からの姉が気になって、ボクは夢中で離れへと駆けた。
固く閉ざされた門にボクはありったけの声を張り上げる。
「姉さん!!開けてよ、霞が!!霞が!!」
半狂乱。
その響を伴うボクの声が辺りにこだまする。
先程から30分以上の間、叩きつづけた扉。
扉はそれでも頑なに閉じられつづけたまま。
その扉を押し開く事はボクにはまかりならない。
その部屋は、当主以外の立入を認めない。
沈黙を語る扉。
開く事さえ叶わない、その扉は、越えることのできない壁として存在しているように思える。
そう思うと、自らがなんてちっぽけなのかと思えてくる。
絶望に打ちひしがれ、救いを求めることしか出来ない。
泣けてくる。
呪いを解きたい等と宣いながら、姉に任せることしか出来なかった自分自身に、霞を失った悲しみに。
ただ、いたずらに喉を通過する叫びは単なる音としか思えなくなる。
「ち…くしょうっ……!!」
それ以上は堪えきれなかった。
扉を叩く手を力無く弛緩させると、ボクの手は、土を掴む。
何も手応えも無い代わりに、冷たい土を。
"ギイイイィィ"
その時、戒めを解かれた扉がひとりでに開く。
ぽっかりと口を開け、ボクを飲み込もうとせんが如く、暗闇を開く。
「……………………」
禁忌。
もちろん、その中に足を踏み入れることはタブーだ。
それでも、何の手応えも無かったことが気になって仕方が無い。
ボクが飛び込むのを待たんが如く広がる闇の先に答えがあることはわかる。
そこには、ボクの呼び掛けに応じなかった姉がいるのだから。
「………………………ゴクッ……」
瞳の先に広がる漆黒にボクは知らず知らず唾を飲み込む。
踏み出す足を躊躇わさせる血の呪縛と、大切なものを失った悲しみ。
その2つを秤にかける。
こんな時でもボクを縛り付ける血の呪いが忌ま忌ましくなる。
小さい頃から共にあることが義務として育ったから。
本来は秤にかける必要等は無いのに。
かけるべき等価なモノではないのに。
「……ゴクッ……」
ボクはもう一度唾を飲み込み、足を中へと差し向けて行く。
………………………………
「青大、全てはお姉ちゃんに任せてと、言っておいたはずよ。」
甘い香りが充満する部屋。
順路に沿って、たどり着いたその部屋にあったものに驚愕する。
「な、んで…霞…が……」
そこにあったのは、磔けにされた霞の姿。
だけでなく、先日亡くなった両親の姿もある。
「見てしまったのね、青大。イケない子ね。」
そこまでを見渡してから、ボクは初めて姉と目を合わす。
虚ろな目をした月姉さんと。
「あと、少しだったのに…」
姉が呟く。
「姉さんが…」
「ねえ、青大、見える?」
ボクの言葉など無視するように姉が口を開く。
そこに見えるのは先程から変わらない、ボクの家族が磔になった姿。
「もう少しで、私達をこの血に束縛するものが無くなって、私達だけの未来がやって来るはずだったのに…」
目に映る光景に身体を奪われた、ボクの前まで姉がやって来る。
目前まで迫り、真正面から姉の吐息がかかる。
腐った果実のような匂いに目眩を覚える。
「なんで…だよ!なんで…」
「青大が言ったのでしょう?」
姉の視線に捕われてしまう。
蜘蛛のように粘つきボクの身体へ絡み付く。
「呪いを解きたい…と。」
「…………っ!!だからって、違う、その為の答えが家族を殺すことだなんて間違ってる。」
「青大……?わたしの、青大は、そんなこと言わないはずよ……?」
そういった姉の声が、ぞっとするほど冷たい声が耳朶に張り付く。
姉さんがボクを見つめる。
甘い匂いに吐き気さえ催す。
「姉さん……いったい……」
その時、ボクの視界の端が一冊の本を捕らえる。
姉の前から逃げるように、移動すると、一目散にその本に飛びつき、中を覗く。
そして、目に飛び込んで来たもの。
その内容の異常さに目を疑ってしまう。
それは日記だった。
ただし、そこに書かれていたのは……
「見たんでしょう……?青大……?それが、私達の未来よ、、」
すべてが未来の日付だった。
そこまで来て、ようやく僕は理解する。
藤堂家とは、占術とは、そして、
呪いとは何なのかを。
………………………………
甘い匂いを満たす部屋。
その真ん中、一人の少女が鎮座する。
幼い頃からここにいることを義務付けられた少女、それが藤堂 月だった。
独特の甘い匂いを発しつづけるのはお香。
人の睡眠を促す、いや、それ以上。
少女に夢を見させるもの。
夢の中で見た情報は、藤堂の血の力を借りて、部屋の中で具現化する。
幼い頃からこの部屋で夢の住人となる事を強いられた月は、自由に夢を操れるほどまでになる。
やがて、力もついて、その力はその部屋より外へも力を及ぼして行く。
それが授けられた力。
望みの未来を引き寄せる能力。
それにより、藤堂家は権威から保護された。
そして、それが血を外に流出させる訳にはいかない理由。
誰にでも授けては良いものでは無い、この力は、固く固く隠されつづけた。
その部屋の中で少女は思う。
表で元気に遊ぶ少年少女の姿を。
それは自分より年上の、未来の弟と妹の姿。
彼女の成長に合わせ、夢の中の少年少女も大きくなる。
進学、就職……そして、自らの意志で繋がる2人。
いつしか、少女はそんな2人に嫉妬を覚える。
2人の為に、今、こうして、夢と幻に生きる自分は何なのであろうという思いが変貌する。
少し早く産まれてしまったが為に手繰り寄せられなかった自分の運命。
もし、自分の方が後に産まれていれば、夢の中で結ばれるのは自分であったはずなのに……と。
離れから解放され過ごす時間の中で、少女は妹と自らを置き換えて行く。
純血を守り、家を守ることを義務付けられた中、唯一手に入れられる快楽の中で、一心に少年を求めた。
表向き、弟妹にそのことを悟られぬように繕いながら。
偽った自分。
血の能力を発揮する自分も偽りなら、そこから離れた自分も偽り。
2重の偽りの中で彼女は苦しむ。
やがて、2重の生活は混じり合い、一つになる。
幼い頃からその双肩に貸せられた重責に屈した心は、離れの中で、具現化を伴いながら、彼女に淫らな夢を見せつづけた。
それが両親にばれた時、彼女は、自らの意志で両親を能力で殺害した。
………………………………
「青大……。わたしの、愛しい……青大……」
「姉さんは、いったい、何をしようっていうんだ……」
真実を知ってしまったボクは顔を寄せる姉に言う。
「言ったでしょう、青大…あなたの望み、呪いの無い未来……それをわたしがひきよせてあげるのよ……」
「それで、なんで霞が死ななきゃならないんだよ…!!」
感情のまま、離れの前で泣き叫んだ時のような声をあげる。
「血の縛りを、束縛を、壊すのよ、青大……あなたと私しかいない世界で、私達は愛し合うの……古しえよりの誓いを破ってね……うふ」
「そんな……姉さん……!!」
「わたしと青大以外、この血を引く者は、みんなわたしたちを苦しめるのよ」
「…………」
わからない、姉さんがなにを言っているのか。
「わたしがここで能力を手に入れて、皆を助けてるのに、皆は私をのけ者にしている……」
「皆って?」
「お父さんも、お母さんも、おばさまも、霞も。青大だけ、青大だけが、わたしの側でわたしを見てくれた。」
違う。
喉までくる言葉は張り付いて声として紡ぎ出せない。
目を合わせた姉さんの瞳はどこかを見ている。
でも、姉さんはどこかも見ていない。
やがて、変わる辺りの景色。
そこでは…
そこではボクが自身の肉棒を姉さんに突き刺していた。
磔けにされた両親も、霞もそこにはいない。
ああ……そうか……
ここは、姉さんの夢幻の中。
ボクの知っている姉さんも、ボク自身もここにはいない……
「だから、やらなきゃ、わたしと青大が幸せになるためには、青大も私を大切といってくれたもの…」
傍目から見る淫靡に姉さんと繋がるボクは愛おしそうに姉さんを抱きしめる。
「う、ふ、ふ、青大、青大ぉ、もっと、もっとぉ、わたしを求めて……」
もはや、姉さんはボクの言葉を聞いていない。
そしてボクも…
部屋に立ち込める甘い匂いに耐え切れ無くなってむせてしまう。
涙で歪んだ視界の中で、ただ、獣の如く腰を動かすボク自身を見つめる。
「なにもかもをすべて反古にしなければならない。そのために呪いとわたしたちを知るものはすべて消さなければならないの。」
姉さんの声が響く。姉さんが笑う。
誰よりも愉しそうに、悲しそうに。
誰よりもボクを愛して、そして……憎んで。
「青大、わかるでしょう…?わたしたちは呪われているのよ、生まれた時から、すべてが。」
そんなことを言いながら、姉さんはボクを見ていない。
今語りかけたのは、どちらになのだろう?
夢の中のボク?
それともボク自身。
だめだ。
わからない。
「青大……、どうして悩んでいるの?青大は可愛くて、優しくて、愛おしくて……いつもいつもわたしの側にいてくれるはずよ……?」
姉さんはとっくに壊れてしまっていた。
夢と現実の間にさまよって、今と未来に引き裂かれて…
どうして、気づかなかったのだろう?
どうして、今まで……
なにもかも手遅れになる前に。
なにもかも失う前に。
"ぐいっ"
そんな思考の中で急に手が引かれる。
胸いっぱいに広がる、熟れすぎた桃の実にも似た香り。
少しずつ少しずつ頭の中に溜まっていた煙りが、急速に満ちるような錯覚を覚える。
「青大はわたしの言うことならなんでも聞いてくれる。優しいいい子なのよ……
だからこの香を……もっと、この香を吸って……!そうしてわたしと一緒に、ずっと……」
視界が揺らめく。
「青大……、わたしのかわいい青大。呪いからわたしを解放して、守ってくれる青大。わたしの、青大。」
柔らかく冷たいものに頬が包まれる。姉さんの腕と、胸。
ゆっくりと遅すぎる鼓動が聞こえる。
「そうよ……青大。わたしの言うことを聞いていれば、わたしも青大も幸せになれる……」
次第に闇が頭を支配する。
混濁してボクのすべてを覆い尽くす。
闇に身を任せてボクは自らの身体を漂わす。
姉さんは呪いをかけて、父さんを、母さんを、そして霞を殺した。
でも、姉さんが呪ったのはそれだけじゃなくて、自らを、自らの血を呪った。
そう、ボクの血は、ボクと姉さんの血は、ボクら藤堂の血は呪われている。
そんな事を思いながら、ボクは意識を手放した。
75 :
Y-275:2009/01/17(土) 13:38:10 ID:mEDml/Ju
以上です。
変なとこで区切りは入りますが、まとめた時は気にならないと思われます。
はじめてのシチュスレ投稿で、勝手の違いに戸惑いながらの投下で、
たどたどしいですが、スルーして上げてください。
キモ姉への愛おしさが溢れ出して、勢いで書いた為、ところどころ、どっかで聞いたことのある言い回しがある気がしても、気にしないのが、粋ってもんですよ。
駄文乱文失礼しました。
gj おもしろかった
GJ
南斗六聖拳でいうところの『殉星』の姉、堪能しますた。
GJ
これはまさに
happy end
俺、大学に合格したら一人暮らしするんだ・・・
(
>>80お兄ちゃんが受験に落ちて来年も家に居ますように……)
80「無い、無い、無い! 俺のセンター試験の受験票が無い!
これじゃ受験を受けることもできない!
いったいどこにいったんだ!」
>>80が大学受かったら私と一緒に住むんだよね
もう部屋も決めて引っ越しの準備もできてるんだから
合格 →姉による監禁生活はっじまっるよー!
不合格→妹による監ry
80「・・・そうだ・・・就職すればいいんだ・・・
ハハ、何で気づかなかったんだろう。これで解放されるんだ・・・」
昨今の不況の影響で高卒なんか採ってる余裕無いんですよ^^;
「高卒でも大丈夫だもん!
>>80お兄ちゃんは私に永久就職するんだからっ!」
>>85 J隊があるでないか。J隊が。
しかも陸か海ならば常にキモ姉、キモウトからも隔離された状態にある。
まあ、守衛なんかは無視してお兄ちゃん(弟くん)拉致る姉妹には効果内が。
あれ?過去に作戦中の護衛艦から拉致してきましたというツワモノがいたような…
海→キモ姉様に不可能など存在しねえ、護衛鑑から拉致ってみせる
陸→キモウトに(ry
80「J隊でも奴らは止められないのか…!!ならばそれ以上、それも脱出不可能なあの場所しか!!」
後日キモ姉妹の目をかいくぐって、アメリカの某刑務所に入った80。
刑務所の中に入ったにもかかわらず、彼の表情は晴れやかだった。
オリバVSキモ姉かw
お姉ちゃんと妹でパンツを引き合いながら殴り合うわけですね
>>91 普通にオリバの筋肉愛を上回る弟愛でキモ姉が勝ちそうw
そこで世界各国のキモ姉妹が同時に行動を起こすシンクロニシティが
最凶死刑囚の姉妹をもつ男の物語・・・ゴクリ・・・
三者面談マダー?
普通の刑務所では奴らから逃れられそうにないので、
キモ姉に跨がれる替わりの獄長の人間御輿の下の人として、
キモウトに一日中「お兄ちゃん!してぇぇぇー!!」と叫ばれる替わりの、
『鬼の哭き声』が響くカサンドラ監獄にしますた、と
>>80。
そういえば茄子のDDDで刑務所というか牢獄というなの隔離病棟に入れられた
凶悪犯な妹っていたな
なんかもうあらゆる物に耐性もっちゃう上にすごい馬鹿力で
普通にやれば勝てる相手がいないってやつ
さすがきのこキモウトには定評がある
きのこは妹に関しては定評があるよな
琥珀√の秋葉とかはなかなかよかった
このスレに避難所あるのさっき初めて知った。
>>98 もうすぐ君のもとに…
性器末求精主のキモ姉妹がやってくるぞ。
その2
俺、就職したら彼女と同棲するんだ・・・
あっ、白亜紀の岩塩層で塩漬けになっていたキモ姉妹が
>>102 俺も最近避難所の存在を知った。
あそこって、流れちゃった作品の感想とかを書くんでいいのかな?
何か最近、長編SSの前編だけ書いて去ってしまう
お兄ちゃんばっかりだね・・・・
それは全部作者のキモウト&キモ姉の仕業だと思います。
後編を書こうとしたら双方どちらかに拉致&監禁されるのはよくあること
作者「さぁ〜て、後編書、うわッ何をすrくぁwせdrftgyふじこlp;@;」
みたいな感じで・・・
んじゃ、キモウトに黙って女友達と遊んできます
兄上ドノとかいうキモウトの続き待ってるんですけど
さーて、今日も一人で寝るか…
112 :
記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U :2009/01/19(月) 00:23:36 ID:/vNrhDa7
下手な文ですが。投稿させていただきます。
113 :
記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U :2009/01/19(月) 00:26:06 ID:/vNrhDa7
猛々しい炎が森を赤く染め上げた。時々見る夢は、決まってここから始まる。
ひっくり返った乗用車から吹き出される赤い炎。夜でもなお、まぶしい鮮烈な赤に森は照らし出された。僕には何がなにやら分からない。
車から少し距離を置いたここからでは、目に見えるのは圧倒的な赤だけであった。これがいつもの夢だ。
と、右手を強く握られていることに気づいた。向けた視線の先には「彼女」が立っていた。姿は分からない。なぜなら、彼女の姿は赤の景色に染まらず、影そのものの様に黒で塗りつぶされていた。
真っ黒な「彼女」、でも僕は女性、それも僅かに歳の低い女の子であると分かった。その不自然さに、ここにいたって僕は、ようやくこれがいつもとは違う夢であることに気づく。
気づいても夢の中ではどうにもならない。すると、その影のような「彼女」がクスリと笑ったのが分かった。なぜか分からないけど分かった。
「×うやく死×でく×まし×ね」
他にも何か言っていたが、彼女の声はラジオのように途切れ途切れで、僕には上手く聞き取れなかった。が、夢の中の僕は違ったらしい。その言葉で、身体を震わせ崩れ落ちた。
僕にも流れ込んでくるこの感情は、恐怖と悲しみ、怒り。いろいろな感情がない混ぜになり、その後にはどうしようもないほどの絶望があった。
ふくれあがった強い感情に身体の震えは収まらず、涙があふれた。そんな僕を「彼女」はそっと、ようやく手に入れた宝物のように、後ろから抱きしめた。「彼女」は僕にささやく。その声には僕などでは測れないほどの、あふれ出る喜色が込められていた。
「愛×てい×す。×さん」
僕はわからない。身体が熱くて寒い。燃え上がる炎と抱きしめられた身体は熱を帯びていく。その一方で、心はどうしようもなく冷え切っていく。僕には分からない、何もかもが分からない。
「彼女」は再びクスリと笑うと僕に口づけ、そして…………
「起きろ!バカ広樹!!」
114 :
記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U :2009/01/19(月) 00:27:07 ID:/vNrhDa7
目を開けるとそこは赤の景色でもなく自室のベッドの上であった。目の前には起こしてくれたのだろう、姉さんがこちらをにらみ付け、仁王立ちしている。
「おはよう雫(しずく)姉」
とりあえず声をかけたが、ブスッとしたままの雫姉は応えずに
「広樹(ひろき)、うなされていた。またあの夢なのか」
夢については雫姉も知っている。頷くと雫姉は一瞬寂しげな目をした。何でだろう。
「なあ、思い出しそうなのか?」
今度は不安のやや混じった声であった。夢を見た事を知ると、僕に決まって聞くこの言葉に
「……分からない」
と僕はいつものように応えた。
僕の記憶は三年前までしかさかのぼれない。三年前に山奥で起きた交通事故。その影響で記憶がないのだった。一番古い記憶は運び込まれた病院の天井と薬品の匂いで始まっている。
聞いた話では事故現場は見通しの悪いカーブで車は曲がりきれず崖下に転落。僕以外の家族は死んだそうだ。悲惨な事故であったらしい。僕の思い出せない記憶である。
「おい、聞いてるのか?」
ジロリとにらみ付けているのは、雛守(ひなもり)雫。通称雫姉。本当の姉ではない。僕は一人っ子で兄弟はいなかった。なんでも僕とは従姉弟の関係なのだそうだ。
事故で家族を亡くした僕を引き取ってくれた女性で、僕は今、彼女のお屋敷にお世話になっている。今年で18歳になるが、僕と1歳しか変わらないのに、とてもしっかりして出来た女性だ。
それもそのはずで、彼女はこの国の上流社会では名の知られた、雛森家の当主なのであった。彼女も5年前に親を亡くしており、以降歴史ある雛森家の当主を務めている。
平安にまでさかのぼれる、生粋の名家、雛森家。当時13歳だった彼女が世襲することに、当然親族は猛反発したらしい。
が、彼女の大人顔負けの類い希な交渉術は親族を震え上がらせ、反対の声の一切を叩き潰したらしい。
115 :
記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U :2009/01/19(月) 00:28:12 ID:/vNrhDa7
同席していた後見人の執事長、中杉さん曰く「ご親族の皆様をキッと見据えられました、お嬢様のお顔と、一様にお顔を青く変えましたご親族との対比が傑作でありました。この日ほど、雛守家にお仕え申し上げたことが誇らしかった日はございませぬ。」だそうな。
以前から彼女と親交があったらしい僕が似たような境遇に陥ったことに、彼女は何か感じる物があったのかもしれない。入院してすぐ引き取ることを決めると、退院と同時に、この家に住まわせてくれた。家族のように扱ってくれと言われて以来、僕は「雫姉」と呼んでいる。
と、無反応の僕に、彼女の視線がさらに鋭くなりつつあることに気づいた。あわてて返事を返した。
「ごめん、なんだっけ?」
「やっぱり聞いてなかったか。『無理に思い出す必要はない』と言ったんだ。お前は今を精一杯頑張っている。それで、良いではないか」
雫姉なりに心配していたことが嬉しくて、思わず微笑むと、「うん」と返事した。
「ありがとう雫姉」
雫姉は何故か赤くなると「ばか、朝食が出来た。すぐに来い!」と慌ただしく出て行こうとした。 その背中に僕は夢で気になった事を聞いてみた。
「ねえ、雫姉。僕って一人っ子だよね?」
「どうした急に」
彼女は部屋を出て行こうとしていた足をピタリと止めると、背を向けたまま尋ねた。
「今日見た夢なんだけどね。誰かに抱きしめられていたような気がしたんだ。いつもは車が燃えている景色だけなんだけど……。今日は一緒に誰かいたんだ。
僕って、家族で出かけた帰りに事故にあったんだよね?でも夢では年の近い女の子に抱きしめられていたんだ」
雫姉は背を向けたまま無言だった。だけれど、これまでの不機嫌さとは違う、静かで寒くなる空気が背中から出ていた。僕は居心地の悪さを紛らわせるように
「夢の中の女の子ってさ。――いや、顔とか思い出せなかったけど。何となく女の子って気がしたんだけどね。あんまり親しそうにしていたから、他にも家族がいたのかなっと思って。もしかしたらさ僕の妹とかいた――」
「いない」
冗談めかした言葉に、返ってきた雫姉の声は平坦で、身をすくめるほどの冷たい響きがあった。
「でも――」
「いない!」
普段とは違う、切り捨てるような口調。まだ雫姉は背を向けたままだ。
「夢は正確ではない。時と場合でいくらでも変化する。それが夢だ。
私は以前のお前を知っているが、お前はずっとご両親との3人家族だった。夢の何もかもを信じるな。
ご両親がお亡くなりになり、今お前の家族は私だけだ。それが現実だ。いいか広樹――今の家族は私だけだ」
やはり背を向けたまま。雫姉は話は終わりだとばかりに一度深呼吸すると、
「朝食が出来ている。早く来い」
ドアに手をかけながら言った。驚きを受けたまま、僕は何も言えないでいた。
「それから、」
まだ何かあるのかと僅かに身構えた僕に、彼女はようやくちらりと視線を向けると、いつもの微笑みで
「おはよう、広樹」
と言ったのだった。
116 :
記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U :2009/01/19(月) 00:30:56 ID:/vNrhDa7
今日はこれで投稿終わります。ありがとうございます。
sage進行なので次投下する時はメール欄にsageと入力してから投下をお願いします。
続き期待してます。
すみません。以後ないようにします。
最近のキモ姉相手の弟くんの言葉遣いは俺好みだぜ!
馴々しいわけでもなく律義すぎでもない
「それから、」
まだ何かあるのかと僅かに身構えた僕に、彼女はようやくちらりと視線を向けると、いつもの微笑みで
「GJ、
>>116」
>>116 GJ!
全裸で待機もしくはソックスのみ着用して続編を待つ
投下します。
「あの、弥生さん、コーヒー飲まないと冷めますよ……?」
携帯を睨みながら、笑ったりしかめっ面をしたり、独りで百面相を続ける弥生に、呆れたように長瀬が声をかける。弥生は、そんな長瀬に済まなさそうな視線をちらりと送ると、うって変わってニヤついた眼差しを、ふたたび手元の携帯に向ける。
「…………」
長瀬透子は、そんな弥生をジト目で睨まずにはいられない。
さっき――正確には、長瀬がドリンクバーから二人分のホットコーヒーを注いで、この部屋に持って来たときには弥生は携帯の画面に夢中だったので、もう二分以上は、彼女は携帯から顔を上げていないことになる。
長瀬は、太い溜め息をつくと、冷めかけたコーヒーを、一口すすった。
駅前のカラオケボックス。
受験勉強のフラストレーションを発散する、という長瀬の誘いに乗って、このカラオケ屋に足を運んだ弥生だが、結局、二人で談笑したり歌ったりしたのは最初の10分だけだった。
携帯に、一通のメールが送られてくるや否や、弥生は長瀬そっちのけで携帯にかじりつき、ひたすら意識をそっちに集中させ始めたからだ。間を持て余した長瀬が、ドリンクバーからコーヒーのお代わりを持ってきても、弥生は心の篭もらぬ一礼を返しただけだった。
「あの……弥生さん、さっきからいったい何をなさってるんですか?」
さすがに長瀬が苛立った声を上げる。
もともと短気と傍若無人で知られた長瀬透子が、ここまで自分の存在をないがしろにされて、それでも声を荒げず、何らアクションを起こさないのは、当の相手が他ならぬ柊木弥生であるからに他ならない。
先程から弥生は、携帯にかじりついてこそいるが、別に忙しくボタンを操作してメールを打っているようでもない。むしろ何かのムービーを見ているかのような気配さえあるのだが、いかに長瀬としても、それ以上は分からない。
「ほんと、ごめんなさいね、とーこ……ちょっと何気に緊急事態だったのよ」
さすがに弥生は、長瀬の不機嫌な声を聞いてまで、携帯にかじりつくような真似はしない。少し、はにかんだような笑顔を浮かべると、ぺろりと舌を出した。
「妹からだったの。知ってるわよね、葉月のことは?」
確かに知っている。
と言うより、この桜ケ丘学園に在籍している全校生徒の中で、柊木葉月の名を知らない者はモグリ学生だと断言できるだろう。初等部入学以来、首席を貫く「完璧超人」柊木弥生の妹にして、姉をさらに凌駕するIQの所有者。
柊木冬馬が、弥生の運動面でのセンスのみを一方的に継いだ弟と言われているのと同様に、もっぱら姉の学業面での優秀さを拡大解釈した妹と言われ、その年齢で、すでに数々の論文を学会に発表し、有名大学や一流企業の研究室にも参加している中学一年生。
神童・天才と呼称される彼女の怜悧な一瞥は、授業中の教師にも多大なプレッシャーを与えるとさえ言われているが、しかし長瀬はこの少女があまり好きではなかった。
生徒会の後輩として、柊木家を訪問した時に一度紹介してもらったことがあるが、そのときの葉月はにこりともせず、機械的に名前だけを名乗って自室に去った。その時に向けられた冷たい視線を、いまでも長瀬は忘れていない。
ただの無愛想ではない。
長瀬はかつて今まで、あんな見下されたような一瞥を向けられた事が無かった。しかも、その相手が弥生以上の知能指数を誇る天才児とあらば、その侮蔑の眼差しが錯覚でないことなど、それこそ一目瞭然だった。
早い話が、葉月に関する第一印象は、長瀬の中では最悪の一言だったのだ。
だが、弥生が意外なほどに葉月という妹を可愛がっているということも知っている長瀬としては、彼女の名を聞いたところで、それほど顔をしかめるわけにも行かない。
「ふふふ……葉月ちゃんが、好きな男の子にこれから勝負をかけるって、メールが来たのよ」
「勝負をかける?」
「ええ」
そこで一度、弥生はいつくしむような視線を携帯に落とし、ウットリと言った。
「あの子、これから“初体験”をするらしいわ」
その言葉に、さすがの長瀬もあんぐりと口を開くしかなかった。
////////////////////////
冬馬の肌を見るのは初めてではない。むしろ日常では、見る機会は決して少なくないと言える。誰にも見せない自分の裸身を、彼は家族にだけは無雑作に晒すからだ。
だが、何度見ても慣れない。
葉月はそう思う。
背中に刻まれた『犬』の文字。
胸に焼き付けられた『ドレイ』の文字。
そして、その二つの文字を彩るように存在する、無数の裂傷、痣、火傷の痕跡。
さらに風呂の湯によって上昇した体温が、普段見えない傷まで浮かび上がらせ、まるでちょっとした耳無し芳一だ。すべての傷がTシャツに隠れる範囲に刻まれているというのもまた、加害者の凄まじい悪意を感じる。
だが、葉月は湯舟に浸かって硬い表情を続ける兄の裸身をを見ても、もはや心を萎えさせる気は無い。
冬馬の告白を聞いたとき、最初彼女は絶望した。
兄が性的不能者だったことに絶望したわけではない。
たとえいかなる理由に基づくものだったにしても、おれには女性を受け入れられないと言い切った兄の心が、言葉で覆せるものではないと知ったからだ。だが、とりあえず無用の挑発を続けるうちに、葉月は考えを変えた。
兄の絶望を己の絶望の理由にしている自分自身に、葉月は強い憤りを覚えたのだ。
だから、彼女は昂然と言い放った。
「証明してやる」と。
性的不能など、人が人を愛せない理由にはならないと証明して見せる、と。
――だから風呂場に行こう、と。
だが、溜め息混じりに冬馬は言った。
「とりあえず先に夕食を取ろう」
そして、その“とりあえず”の間に、葉月はようやく自分の発言の意味に気付き始めた。
たとえ性器の直接的な挿入が不可能であったとしても、互いが互いの肉体を重ね合わせる行為は、歴としたセックスにまぎれもないということに。
人並み外れた学識の所有者といったところで、しょせん彼女は13歳の中学生だ。肉体的にも精神的にも、まだまだ子供に過ぎない。いまから自分たちが行う営みが、“初体験”であると知れば、そこに尻込みを覚えるのは無理もないと言うべきであろう。
だから葉月は、姉にメールを送った。
冬馬が不能であるという事実とともに、その問題に関わる成り行きの果てに、やがて自分が兄と繰り広げるであろう“予定”を知らせたのだ。早く帰ってきてくれという意思を込めて。
どのみち、弥生がこの情報をむざむざ黙殺するとは、葉月には思えなかった。
冬馬に対する“証明作業”にしても、一対一よりは、姉と二人がかりの方が、より効率的であることは改めて言うまでもない。
だが、姉は帰ってこなかった。
“初体験”への重圧と同時に、平行して葉月はもう一つ思索を続けていたが、そのときはその考えが重要だとは思わなかった。そんな推測が正しいとも思わなかったからだ。
だが、
「もう、……やめるか?」
と言った冬馬の瞳に浮かんだ色を見て、葉月は気付いたのだ。
取りとめもないはずの自分の考えが正しかったことに。
冬馬が性的に不能になった現実によって“解放”を覚えていることに。
トラウマに膝を屈することによって、救いを得ていることに
そんな兄を、葉月は認めたくなかった。
そんな兄を、葉月は許せなかった。
その思いが、初体験へのプレッシャーに折れかけていた彼女の心を、ふたたび甦らせるよすがとなった。
しかし、葉月は不思議と兄をバカにする気にはならなかった。
冬馬は、葉月にとって理想的な兄であり、理想的な話し相手であり、そして理想的な男性であった。だから、むしろ自分に初めて弱味を見せた兄に、身が震えるような可愛らしさ――嗜虐的な笑みさえ浮かんだのだ。
それは、妹として兄を見上げる事に慣れた葉月にとって、初めて浮かんだ感情だった。
葉月にはもはや、冬馬に対する恐れはない。
プラスチックの湯桶に湯を汲み、ざばっとかぶる。
熱い。
今日の風呂の湯を張ったのは冬馬だ。湯張りといっても湯量と湯温を設定してボタンを押すだけだが、彼が設定すると、いつも湯温が熱くなる。ぬるま湯に長湯するのが好きな葉月からすれば、熱すぎる冬馬設定の湯は苦手なのだが、今は文句を言う気にはならない。
この熱めの湯が、自然と葉月に気合を入れてくれるからだ。
ボディシャンプーを手に取り、薄い胸に白い泡を塗りたくると、冬馬を振り返った。
「さあ兄さん、まずは身体を洗いましょうか」
「……そんなソープランドの真似事を、どこで覚えてくるんだ?」
いまだにしかめっ面を崩さぬ彼は、苦々しい声を出したが、葉月はニッコリ笑って受け流した。
「『オンナノコはいつでも耳年増♪』って歌があったの知ってます?」
「それひょっとして……おニャン子クラブか?」
「昨日TVでやってた、なつメロ特番で聞いたんです。兄さんがその曲を知っていたのは意外でしたけど」
「たしか「セーラー服を脱がさないで」……だっけ?」
「昔の歌って露骨ですね。ちょっとセンス的に信じられませんけど」
そう言って微笑する葉月に、苦笑とはいえ、ようやく冬馬も頬を緩めて見せる。
「葉月」
「なんですか?」
「今のお前も、そんな歌を笑えないくらい露骨だって気付いてるか?」
揶揄するように尋ねてくる兄に、一瞬素に戻ってしまう葉月だったが、
「勿論」
と、すぐに家族にしか見せない人懐っこい微笑を浮かべて言った。
――頬が羞恥に染まっていなければ完璧なのに。
そう思いつつ。
だが、そういう不器用さでなければ訴えられないものもある。葉月の無理やりな照れ隠しは、それなりに兄の情緒的な部分を直撃したらしかった。
「……よし!」
そう言って、勢いよく湯舟から立ち上がった彼は、
「うじうじすんのはもうやめだ。やるからには――楽しくやろう」
と破顔して、葉月に背を向けて座った。
「おれだって、このまま一生インポでいたいわけじゃない。おまえのおかげでおれの“男”が復活できたら、スシくらいは奢ってやらなきゃ済まねえな」
「兄さん……」
そこにいたのは、弱味を突かれて苦虫を噛み潰していた兄ではなかった。彼は陽気で元気な、いつもの――弥生と葉月が愛してやまない一人の男に戻っていた。
「期待してるぜ、妹よ」
/////////////////////
ペースを取り戻した冬馬の姿に、弥生はおもわず顔をほころばせた。
無論、彼女は、そんな弟の姿を直接見ているわけではない。弥生の熱い目が注がれているのは、携帯の画面越しの監視映像だ。
もはや長瀬は、そんな弥生に何も言わない。
ほったらかしにされて愉快であろうはずもないが、弥生の言った「妹が初体験をする」という言葉と、
――頼むから少しだけ、何も言わずに携帯をいじる自分の邪魔をしないでくれ。
という台詞に、このやんちゃな後輩は頷いた。
彼女の承諾が、半ば無理やりだということは弥生にも分かっている。
だが弥生は、今回は敢えて甘えることにした。
生徒会時代から、つねに弥生の傍にいた長瀬は、こういう眼をした弥生には逆らわない方がいいということを知り抜いているのだろう。だから、彼女は無言でカバンから文庫本を取り出し、しおりを挟んだページを開いた。それがすでに数分前だ。
そんな長瀬にすまないと思う一方で、やはり、このメールが着信した瞬間に急用を偽ってカラオケ屋を出るべきだったかと思わなくもない。他人に気を遣うことを苦にする弥生ではないが、事が事だけに、いまは長瀬の存在が少々鬱陶しい。
だが、どのみち弥生は家に帰る気はなかった。
せっかく葉月が“こちら側”に来る覚悟を決めたのだ。このままノコノコ帰宅して、葉月の“初めて”に水を差す野暮はしたくない。冬馬が不能だという話が本当ならば、挿入に伴う外傷を負うこともないだろう。
メールの文面的に、独りで兄の肉体と向かい合うことに葉月は不安を覚えているらしいが、それでも妹の覚悟を、自分と同じ土俵に乗せるための通過儀礼だと思えば、嫉妬など湧きはしない。むしろ、頑張りなさいよと画面越しに声援を送りたい気分だ。
形はどうあれ、想い人との初体験はロマンチックであるべきだ。なら自分の出る幕などある筈がない。――これがもし、弟と同席しているのが葉月でなく、どこかの雌ネコだったなら、野暮もクソも今すぐ飛んで帰って、あらゆる手段で事の成就の妨害をしただろうが。
それに、どうせ風呂場の監視映像は、自動的に弥生のパソコンのハードディスクに記録されるようになっている。いま観なくとも、帰宅してからたっぷり妹の“どきどき初体験”を拝見すればいい。あわてる必要などない。
そこまで思って、弥生は顔を上げた。
「ねえ、とーこ」
「はい?」
「あなたってバージン?」
そのイキナリ過ぎる質問に、口をパクパクさせる長瀬。
そんな彼女に、弥生は仏像のようなアルカイックスマイルを向ける。
「……中3のときに一応済ませましたけど……」
その相手が誰なのかを訊くつもりは、さすがに弥生にはない。
義務教育が満期終了せぬうちの性経験を早いとも遅いとも言う気もない。
長瀬透子が、これでも校内有数のモテ女なのは周知の事実だ。外見だけの話をすれば、彼女の美貌は弥生にさえ引けは取らない。もっとも、そのあまりに狷介な性格から、三ヶ月と交際が維持した例はないらしいが。
だから――というわけではないが、弥生はさらに悪趣味な質問をした。
「気持ちよかった?」
長瀬は、眉間に皺を寄せると、
「……いえ、あんまり」
と、呟くように言った。
「ふん?」
「痛いだけでしたから」
「でも、したのは初めてのその時だけじゃないんだよね?」
「それから三度ほど機会に恵まれましたけど、やっぱり痛いだけでした。それ以降はずっとプラトニックですよ。健全なものです」
普段の彼女からは想像しにくい覇気のない声で、吐き捨てるように長瀬は言った。
どうやら彼女といたした男たちは、凄まじく身体の相性が悪かったか、もしくは余程の下手くそぞろいだったらしい。
「弥生さんは、……まだ、なんですよね?」
「うん」
「正直言って、うらやましいです」
「まだ処女だって事が?」
「いえ、セックスに幻想を抱ける身分だってことが、です」
「…………」
バカにされた、とは弥生は思わなかった。
長瀬からすれば、彼女なりに真剣な悩みなのだろう。
性行為こそ経験済みであっても、性の快楽を知らない身であれば、自分の肉体に不安を覚えても何ら不思議ではない。ひょっとすると、自分は“男”を受け付けない体なのかも知れないという一抹の疑念は、年頃の女の子からすれば恐怖以外の何物でもないだろう。
ひょっとすると、長瀬が弥生に、ほのかに百合的な憧憬を抱いているのも(その感情に弥生本人が気付いているという事実を長瀬本人はまだ知らないが)、その不安の表れなのだろう。
そんな彼女ならば、訊いてみる価値はある。
「もし、セックスを前提としない男女交際を求められたら、とーこはどうする?」
長瀬は表情を変えなかった。
たっぷり十秒ほどの沈黙の後、彼女はようやく口を開いた。
「アリかも知れませんけど……でも多分、いずれ耐えられなくなるでしょうね。その人のことが好きになるほどに、不安になっていくと思います」
「セックスをしないことが?」
長瀬は頷いた。
「だって、どう考えても無理があるじゃないですか。60歳と70歳の交際ならともかく、肉体を重ねるという過程を経ずして男女が互いを理解できると思うほど、あたしは自惚れ屋じゃないですよ」
「でも、その過程を経たために、とーこは男を相手にすることがつらくなったんでしょう?」
「……人をレズビアンみたいに言わないで下さい」
「レズビアンは恥ずべきことなの?」
そう言われて、不意を突かれたような顔をした長瀬だが、
「……なんてね」
と言って、にっこりと微笑みを返す弥生に、彼女は恥かしげに頬を染めてそっぽを向いた。弥生は、そんな長瀬に、さらに悪戯っぽい目を向けると、静かに携帯を閉じた。
もういい。
とりあえず、いまはいい。
出来ることは、この星空の下から妹の無事と成功を祈るくらいだが、それでも弥生は、さほど深刻な心配はしていなかった。
葉月は仮にも自分の妹だ。13歳とはいえ姉がいなければ何も出来ない甘ったれではない。
そして何より、いまあの子の傍には弟がいる。冬馬がいる限り不安はない。たとえ何が起こったとしても、弟が無事に始末をつけてくれるだろう。――弥生は少なくとも、自分の弟と妹を、その能力面・人格面に於いて、ただの身内という以上に信頼していた。
彼が不能だったというのは意外だったが、それでも弥生はまるで動揺していなかった。現状はどうあれ、永久に冬馬の勃起不全が治らないとは弥生も考えてはいないからだ。
それに、いざとなれば、性器挿入というプロセスを経ずとも、セックスを楽しむ方法など幾らでも存在する。男としては少なからず意気消沈するのも当然かもしれないが、不能に伴う劣等感など、弥生からすればまるでナンセンスな感情にしか思えない。
「さ、――歌お?」
弥生は携帯をカバンにしまうと、何事もなかったかのような口調でリモコンに手を伸ばした。
//////////////////////////
兄の背中は、広く、分厚く、温かかった。
百聞は一見にしかず、百見は一触にしかず――という言葉を葉月は思い出していた。確か、冬馬の部屋にあった漫画の台詞だ。
その傷だらけの体躯を初めて直接触れて、葉月は知った。彼女にとって、兄の過去の悲惨さを物語るだけの証拠品でしかなかったその背中は、意外なほどに固い筋肉に鎧われた“男”の肉体であったことを。
ずば抜けた身体能力を誇る兄と、かたや体育全般には全く自信を持たない妹。自分の肉体のバネが旧型のディーゼルエンジンだとすれば、兄のバネは、まるで航空機用のガス・タービンエンジンだ。埋蔵されているスペックやポテンシャルがまったく違う。
“牡”を喪失したなど、とんでもない。
そのきめ細かい肌をどれほどの醜い傷が覆っていようが、それすら関係ない。
ボディシャンプーの泡越しではあったが、自分や弥生とは圧倒的に違うその肉体は、彼が単なる虐待被害者ではなく、凄惨極まる幾多の戦場をくぐりぬけて生き延びた、逞しい戦士の身体にさえ思えた。
「意外とやせっぽちでがっかりしたか?」
おれの手料理は不味かったか、と訊くような口調で、振り返りもせず冬馬が尋ねる。
「とんでもない」
葉月は泡まみれの胸を、兄の背に押し付ける。
「兄さんこそ、……わたしの身体に失望してはいませんか?」
「失望?」
「だってわたしは……弥生姉さんのように豊満な身体を所有してはいませんから……」
そう。実は、妹は予想もしていなかった。
おびただしい傷に包まれた兄の肉体。だが、後ろめたいことなど何一つないと言わんばかりに無雑作に、堂々とそこにある冬馬の身体。それを前に、まさか自分の――シミ一つない自分の身体を引け目に感じてしまうなんて。
葉月は忘れていたのだ。
“女”として、自分のボディがいまだ発展途上にあるという事を。
薄い胸。
貧しい臀部。
女としては明らかに未成熟な己の肉体。
当たり前だ。まだ彼女は13歳だ。その肉体をして異性を煽りたてるには、まだまだ早過ぎる。たとえ数年後には大輪の花を咲かす女体であっても、今の彼女は所詮、花の蕾に過ぎない。
兄と自分が互いの裸身を晒しあえば、その傷痕の醜悪さゆえに恐縮し、身を竦ませるのは兄の方だと思っていた。心を開くのは兄の方であり、兄の心を解きほぐすのは自分であると、葉月は何の疑いもなく信じていたのだ。
だが実際のところ、葉月を無雑作に受け入れた冬馬の背に、自らの肉体を恥じる卑屈さは微塵もなく、かすかな威厳すら漂っている。
「どうした葉月、元気がないな」
冬馬にそう言われて、葉月は顔を上げた。
いや、顔を上げて、彼女は初めて自分が俯いていたことに気付いたのだ。
――このままではダメだ。
――いったい、何を気落ちしている?
――まだ中学一年生でしかない自分の肉体が貧弱なのは、自明の理ではないか。そもそも兄は、そんなことで相手の評価を下げるような人ではない。
そう思って気を取り直そうとした瞬間だった。
「おれに『証明してやる』って言い放ったお前がよ。らしくないな」
それは侮蔑の言葉ではない。冬馬が自分を元気付けようとしたことは分かる。だが、兄の笑いを含んだ声を聞いて、思わずカッとなった葉月は、そのまま手を伸ばし、力任せに彼の乳首を強く捻った。
「ひっ!!」
謝罪代わりに浴場に響く、兄の悲鳴。
だが、その声を聞いた瞬間、葉月の眉がぴくりと動いた。
いや、聞き違いではない。
確かに今、冬馬があげた悲鳴の中には、快感の喜びが含まれていた。
そのとき葉月は思い出していた。
彼の肉体に刻み込まれているのは、凄惨な暴虐の痕跡だけではない。彼は、おびただしい人数の男女によって、あらゆる刺激を快感として意識できるように、全身の性感帯を開発されている、他人の手垢のついた身体を所有する者なのだ。
「兄さん……!」
葉月は笑った。
無数の男女の精と愛液にまみれ、快楽に馴らされた肉を持つ冬馬。――そんな彼を不潔と罵倒する気は葉月には毛頭ない。
彼女はただ、嬉しかったのだ。
もはや、この身で女を愛せないと叫んだ彼の肉体は、まだ死んではいない。
いや死んだどころではない。一般人なら苦痛に顔をしかめるような刺激さえ快感として受信できる鋭敏な性感は、まだまだ健在ではないか。
それが分かっただけでも大いなる収穫――いや、そんな低次元の話ではない。勃起を失った彼の身体だが、それでも性感そのものを喪失したわけではないという事実は、それこそ兄のために欣喜雀躍すべきであろう。
自分の未成熟過ぎる女体を嘆いている場合ではない。
やらねばならないことは文字通り山積みだ。
「兄さんは、……痛いのが気持ちいいんですね?」
そう言いながら、葉月はふたたび乳首を捻る指先に力を込める。
「ッッッ!!」
兄の背中がビクンと跳ねる。
逃がさない。
上体を反らした冬馬を、そのまま背後からぎゅっと抱き締め、乳首をつねりながら、葉月は眼前の耳朶に、がぶりと歯を立てた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!」
両親が在宅中なら、間違いなく風呂場にカッ飛んでくるような叫びを上げる兄。
だが、彼の背にぴたりと身を寄せる妹には分かっていた。
冬馬の心臓が、先程までとはまるで別人のような激しい動悸を刻んでいることが。
(兄さんが興奮している……興奮してくれている……!)
魂が震えるような歓喜が葉月の全身を包む。
だが、ここで手を緩める気はない。緩めるわけにはいかない。
右手を兄の股間に下ろす。
――くにゅっ。
と言いそうな柔らかい感触が葉月の指先を襲う。
途端に葉月の眉が歪んだ。
やはりダメなのか。
葉月の鼻に薫るアドレナリン臭からも、冬馬が性感に打ち震えていることは明白な事実だというのに、肝心の兄の肉棒は、まるでそこだけ別の肉体であるかのように無関心を装っている。
だが諦めはしない。
葉月はそのまま指をペニスから、さらにその下へと這わせ、思い切り握り締めた――冬馬の陰嚢を。
まるで電気椅子に座った囚人だ。
今度という今度は、悲鳴すら上げられずに、激しい痙攣を繰り返す冬馬。
じたばたと暴れる兄を必死に抱き止め、引き剥がされないように懸命になるが、ボディシャンプーの泡がぬるぬると滑り、背後から胸と股間に回した両腕だけでは振り解かれそうになる。
だが、ここで逃げられては何もかも台無しだ。
「気持ちいいくせに」
妹のその一言で、電源を引っこ抜かれたように兄の抵抗は停止する。
そして、おそるおそるこっちを振り向いた冬馬の瞳は、潤みを含んでいた。
案の定だ。
人間のマゾヒズムは、苦痛系と羞恥系という二つに大別できるが、ただ刺激や恥辱を機械的に与えられても、そこには何も発生しない。被虐を快楽と認識するためには、それらの刺激を与え、さらに葛藤を煽り立てる観察者の存在が不可欠である。
観察者とはつまり“御主人様”“女王様”と一般的に呼称される場合が多い。
――かつて精神分析の論文と学術書を読み漁ったときに初めて目にした概念『SM』。
まさか実践に応用する機会が自分の人生にあろうとは、そのときは葉月も予想だにしていなかった。だが、その機会は来た。機会に恵まれた以上は、少女独特の潔癖さから思わず目をそむけた理論であろうと、科学者としての本能が、それを活用することに躊躇を感じさせない。
「気持ちいいって言いなさい、兄さん」
睾丸を掴んだ右手を握っては緩め、苦痛のシグナルを交互に彼の脳に送る。
そして今度は、いまだ泡で真っ白になっている首筋に歯を立てて見る。無論、乳首を捻る左手の指は一切脱力させない。
「いっっ!! いやだああぁぁっっ!!」
だが、当然のように葉月はそんなワガママは許さない。
うなじに食い込ませた歯にさらに力を込め、無言の回答を返す。
「はっ、はづきぃぃぃっっっっ!!」
乳首に這わせた指を離し、間髪入れずに冬馬の臀部に移動させ、中指で肛門の入口をなぞる。
優しく。
そっと、赤ん坊の頬を撫でるように。
そして、
「あああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!」
真っ白い泡を潤滑油代わりにした葉月の指が、無言で兄のアナルをえぐった瞬間、彼の視界は消えた。
数年ぶりに味わう前立腺の感覚。
かつては日常的と言えるほどの頻度で身体に覚え込まされた、そのエクスタシー。
そんな昔馴染みの快楽は、彼の中の何かを呼び起こした。
冬馬の深層心理が、あえて眠らせることに決めた旧き記憶。
フラッシュバックの中で、パズルのピースのように――あるいは走馬灯のように、忌まわしい記憶が次々と甦る。まるでリアルタイムで人生をやり直しているかのような新鮮さを伴って。
背中に突き立てられる彫刻刀。
胸に当てられるハンダごて。
肩に押し付けられるタバコ。
腹に叩き付けられる一本鞭。
腕に突き立てられる注射針。
無駄だと分かっていても喉を嗄らす悲鳴。
慟哭。
絶叫。
嗚咽。
そんな自分に浴びせかけられる侮蔑。
嘲笑。
怒号。
我を忘れるような快感と激痛を交互に与えられ、自我がボロボロに風化してゆく感覚。
現実から目をそむけ、肉体から意識を乖離させ、日常を懸命に否定して過ごした日々。
朝、並んで食事を取ったルームメイトが夕方には発狂し、その翌朝には首吊り死体として天井からぶら下がっている光景を眺めながら、怒りも、哀れみも、まるで何も感じない自分自身に恐怖する。
これは悪夢だ。
そう、文字通り悪い夢――起きたら忘れる夢の世界でしかない。
こんなことが現実なわけがない。
本当のおれは、今頃ベッドの中で寝返りでも打っているに違いない。
だから何でも出来る。
どうせ夢だ。
おっさんのちんこをおしゃぶりすることも。
おばさんのまんこをぺろぺろ舐めることも。
小便や精液や愛液や唾液やそれら汚物一切を迷わず飲み込むことも。
だから何でも言える。
どうせ夢だ。
ごしゅじんさま、このいやらしいかちくを、どうか、かわいがってください。
このにくどれいの、きたならしいけつまんこを、ごしゅじんさまのたくましいおちんぽさまで、おもうぞんぶんおかしてください。
ぼくのおすいぬちんぽを、ごしゅじんさまのしまりのいいおまんこさまにそうにゅうさせていただいて、なんとおれいをいっていいかわかりません。
ごしゅじんさまのにくべんきとしてしようしていただいて、まことにありがとうございました。
ぼくに、にんげんとしていきるしかくはありません。ですから、これからもおすいぬとして、ごしゅじんさまによろこんでいただけるようにどりょくします。
「きもち……いいです……ごしゅじん……さま」
だらしなく萎えた一物が立ち上がっていた。
しなびた状態からは想像できないほどの膨張率と硬度を誇り、その様はまるで逞しい一本の凶器だ。そして、ぱくりと開いた鈴口からは大量の白濁液が、惜しみなく発射され、壁のタイルを真っ白に染め上げた。
その壮絶な眺めに、葉月はしばし声を忘れた。
数年分蓄積された冬馬の射精は、眼前の壁を、まるで白ペンキをぶっかけたようにデコレートしている。そんな絵を目の当たりにして、13歳の少女が絶句しないわけがない。
だが、次の瞬間には、葉月はすでに己を取り戻していた。
――成功だ。
まさかこんなにうまくいくとは思ってもいなかった。
勃起どころか射精まで完遂したのだ。弥生でも千夏でもない、他でもない自分が――この柊木葉月が、兄の不能を治したのだ。
葉月は、彼の肛門から指を抜くと、へなへなと崩れ落ちる兄の正面に回りつつ歓喜の叫びを上げた。
「やりましたよ兄さん!! 成功です!! 成功ですよ兄さん!!」
「……ああ……ゆびをぬかないでください、ごしゅじんさまぁ……ぼくのおすいぬけつまんこを、もっともっとほじほじしてくださぁい……!」
まるで幼児のような口調とともに振り返る冬馬の瞳に、もはや理性の輝きはなかった。
「…………え…………!?」
事態が把握できず、きょとんとした葉月の声は――しかし、その声に兄が応えることはなかった。彼はそのまま身を縮めて妹の爪先に口付けすると、天使のような屈託のない笑顔を浮かべた。
「こんどは、ぼくにごほうしさせてください。ごしゅじんさまのおまんこさまを、ぼくのいぬじたで、ぺろぺろさせてくださいませぇ」
そこに、葉月が知る柊木冬馬の姿はなかった。
今回はここまでです。
続きキタコレ!
>>131の方、GJを贈らせていただきます
今回の投下は少し長くなります
前スレにプッチ神父が大勢いらっしゃったのでつい影響されて後半、ネタに走りました
一度に投下しきれなかった場合は時間をおいて続きを投下させていただきます
では
朝と言うのは凡そ平均的な人類一般にとって心地良いものであると、ふと目覚めの後に思う。
その理由を説明しろと言われてもオレ如き凡人の理解が及ぶ範囲では到底不可能なこと請け合いだが、
今のところそのような事態になったことはないので苦労はしていない。
目蓋越しの光と布団越しの鳥の声。
この早朝に独特な清涼ながらも段々と温度を増していく室内の、温まった空気の眠気を誘うことに比べたら、
そんな難解な思考で安眠を遠ざける必要性は獏にでも食わせておけばいい。
朝と布団は気持ちいい。ついでに二度寝だともっと気持ちいい。これが常識である。
どんな理屈と難解な語句に溢れた論文よりも、こっちの方が全国のお子様お父様お母様の支持を得ること請け合いだ。
ビバ人類共通。ビバお日様の恵み。気持ち良すぎてまた眠くなってきたぜ。はぁ〜ビバノンノン。
さて。
しかしここで眠れば育つ年齢の諸君ならばそのまま二度寝タイムなところ、
朝寝上級者を脳内で公言する身のオレとしてはこのまま眠ったりはしない。
まあ個人差もあるだろうがオレにとって睡眠に関する最も気持ちいい時間とは、
ふと目が覚めた時にそのまま眠らずちょっとだけ意識を起こしてウトウトしている時間なのである。
考えてもみて欲しい。何故、多くの人間にとって普通に寝るよりも二度寝や昼寝の方が気持ちいいのか。
単純に寝てる時間が快楽とイコールならば前者の方が得られる満足度は高いはずである。
にも拘らず、あくまでオレとしては、
と添えることで決して自分がジコチュウなる虫や電気鼠の親戚ではないことをアピールしつつ述べさせてもらうと、
全オレによる一人脳内会議では圧倒的に後者の方がキモチイイ。まさに満場一致。異議なしコールのガンパレード。
国連も真っ青、拒否権持ちのちょっと素敵な五大国の方々が涙を流して羨ましがること間違いなしの全会一致だ。
ちなみに異論は認める。異議ありの場合は住所・年齢・性別・電話番号(出来ればケータイのやつ)と、
ここが重要なんだが顔写真を添付の上でオレの下駄箱まで投函して欲しい。
オレのメアドにメールするのもオッケーだ。その際は写メの添付を忘れないように頼む。
さてさて。
話が少々サイドステップを踏んだようだが、兎に角、オレは通常の睡眠よりも二度寝の方が気持ちいい。
勿論それなりの論拠はある。先ず、基本的に二度寝というのは一度目が覚めてからするものだ。
つまり一回目と二回目の睡眠の間には幾らかの目覚めの時間があるわけで、実はここが得られる快楽が最も大きい。
何でかと言うと、そのまま文字通りに目が覚めているからだ。
人間、記憶に残らないものは基本的に楽しめない。と言うか意識がない時だと感覚がどれだけ働いていてもあんまり関係ない。
対して二度寝、正確に言うとその直前は違う。
何せ睡眠の余韻を引きずりつつも意識があるので、しっかりとその快感を感じることが可能なのだ。
『人は目覚めている限りにおいて生きている』という有難い言葉をどこかの学者が言ったかもしれないが、
オレは諸手を挙げて同意するね。
どんな体験も体感も意識がなければ無意味。
極論を言ってしまえば、男ならプロポーズせずにはいられないような超絶美人のネーチャンに逆レイプされても、
それが寝ている時じゃあ意味がないのさ。何の有難味もない。何故って憶えていないから。
認識出来ないものはないのと同じ。
例えばクラスで人気のあの子なんかに片思いされていたとしても、それに気付けないなら不毛である。
片思いは、本人がされていることに気付かないとチャンスとして活かせないのだ。
『実はアイツってお前のことを好きだったんだぜ』なんて後に友人から聞いても後の祭り、逃した人魚は戻らない。
青春の苦い思い出である。
これで解り難いなら、酒を飲んでる時は気持ちいいが、
その気持ち良さは酔い潰れて気を失った瞬間に終わってしまうようなものだと思って欲しい。
オレ達が認識する睡眠の快感とは、正確には睡眠の直前直後の快感なのである。
この理論でいくと、
睡眠の直後であり睡眠の直前でもある二度寝前のタイミングこそが、まさに至高の快楽タイムなのだ。
意識が覚め過ぎずしかし眠らず、夢と現実の狭間にたゆたうファンタジーな時間。
幸せ絶頂である。人はこの時のために『あと五分』という名台詞を発明したのだと断言するね。
ああ、ありがとう。ありがとう。神様ありがとう。両親よありがとう。
この素晴らしき快楽タイムを味わわせるべくオレをこの世に産んでくれたアンタらに、オレは心から感謝します。
だからあと五分と言わず、オレはこの幸福な時間を少しでも長引かせるべく最大限の努力をすることにしよう。
二度寝前の気だるーい時間をちょっとでも長く味わう秘訣は、当然ながらうっかり寝ないことだ。
折角の気持ちよさも意識が途切れちゃ意味がない。眠らない、しかし起きないという絶妙な眠気の維持が肝要である。
ここで大抵の人間は舵取りを謝って夢の中に真っ逆さまだ。だがオレはそんな轍は踏まない。
伊達に朝寝上級者を自称していないのだよ。
朝起きて二度寝し、昼飯を食って昼寝して起きて二度寝し、夕飯を食って本寝して起きて二度寝すること四捨五入して20年。
無数の失敗を経験し、最近にやってようやく得たまどろみの極意、決して無駄にはしない。
まあ、そんな大層なことを言ってもちょっと目を開けるだけなんだがな。
いやー、起きてから最初に目を開ける時の、
何と言うか目蓋の外の明るさに目が慣れるまでのあの感じが丁度いい眠気覚ましになるんだ。
開けっ放しだと完全に目が覚めるから、何秒か目を開けたらまた閉じるんだが。
眠気が消えそうになったら目を閉じ、夢の世界へ行きそうになったら目を開く。
この無限ループこそが絶対にして唯一の覚醒阻止かつ二度寝防止法だ。
人はこれによって二度寝直前の快楽を味わい続けることが出来るのである。
とまあ、オレは大体そんなことを考えてから、より長く心地良くこの気持ちよさに浸るべく目を開けたんだが。
知らない、じゃなくて見慣れた、だがぼやけた天井。
お天道様の投げかける光はまだ両目に厳しく、目は半分くらい閉じたまま。
それでもふと明るい方へと目をやれば、
カーテンの隙間から部屋へ差し込み、健気にもオレの覚醒を促すお日様の光が映る。
好い感じにぬくい陽光が部屋の中を反射してキラキラと輝いていた。でもちょっと眩しい。
何か知らんが日光がやけに一箇所で反射しまくっている。キラキラを通り越してギンギラギンというレベルだ。
古いか。
それにしても開きたてのぼんやりした視界にはウザったいってレベルじゃねーぞ。
しかもその光源がゆぅらゆらと狙いを定めるみたいに揺れているもんだから堪らない。
目を閉じ直しても目蓋越しに光っているのが分かるくらいだ。
寝起きの気怠さと天秤にかけてもぎりぎりで鬱陶しい方に傾く。仕方がない。
どうも誰かに負けた気がして気が進まないが、本当に仕方なく←ここ重要、光源の排除にかかるとしよう。
決めたら即実行が成功の道。
うっかりと見始めた夢の向こうで手を振っている美人のねーちゃんの誘惑を振り切り、
オレは幾らかの勿体無さを感じながらもしっかりと目を開いて焦点を合わせた。
その木造のグリップより伸びる刃は厚みと鋭さを両立し、肉を斬る重さと扱い易さを追求したものにして、
古くは刀匠の技術を取り入れて今なお広く民に伝える一品。
その用途は野菜を切り魚を捌き肉を裂き骨を断ち、時には人間をも斬るという広範さ。一家に数本、主婦の友。
姓は持たず、名は包丁。江戸っ子でありんす。
という。
目覚めたら包丁。目を開ければ包丁。ナイフとも西洋剣とも違う独特の長さと反りを持つ刀身に、鍔のない持ち手部分。
日本人伝統の調理用具が、刃先をオレに向けて滞空していた。
新ジャンル「朝から包丁」、始まります。
って最初っからクライマックスかよ!?
「愛してるから殺したーーーーーーーいっっ!!」
「ふるおあああああぁぁぁぁぁぁあっ!?」
まさに黒ヒゲ間一髪、
殺る気満々のセリフと同時に転がったオレに遅れてザクッ、とかズバッ、じゃなくてドズゥッて感じの音が鳴る。
間違いなくマットを貫通した証拠を耳に、オレは勢い余って滑り落ちたベッドの脇から下手人を見上げた。
勿論その間にも命の危機を感じていたのは言うまでもない。
ヤバイ。トはともかくスに濁点がつくとか半端ないぞ、犯人はどこのヤの字だ。ヤスか。
「────────ちっ。
はぁい♪ お兄ちゃん。いい朝ね。太陽は今日も私のために燃えているわ」
落ちる時に受身を取り損ねて痛みを訴える頭の上、オレの顔と天井の間から舌打ちと共に声が降りる。
随分と気さくで馴れ馴れしい、そして盛大に不本意ながらも聞き覚えのある声だ。
世界広しと言えども朝一でこんな挨拶を飛ばしてくる奴を、オレは一人しか知らない。
「・・・・・・朝っぱらからどういうつもりだ? 此方(こなた)。
いくらオレでも、起きた瞬間から実の妹に命を狙われる覚えはないんだが」
「そうね。
このアタシ様の大いなる慈悲で懇切丁寧に説明してあげてもいいんだけど、先ずは起きてくれないかしら。
妹のスカートの中は見上げるものではないわよ? お兄ちゃん」
色々と言いたいことはあるが、一歩下がった妹に従って体を起こす。
立つのも面倒なのでベッドを椅子代わりにして腰掛けたが、やはり愛用の寝具には小さな裂け目ができていた。
憂鬱だ。しかも黒か、似合ってないな。
「失礼な上に今日も朝からだるそうね、お兄ちゃん。
そのくせにゴキブリのような素早さとしぶとさを発揮した点は褒めてあげるわ。
冥土の土産に被せてあげようと履いて来たパンツが台無しね」
「おい」
心の重さに拍車をかける爽やかボイス、ただし色は真っ黒である。
頭痛のしてきた額に手を当てながら視線を上げると、そこには意味不明に幸せそうな女の笑み。
と言っても一見した年齢は幼く、まだ中学生程度だ。
早朝、外に人の声もしない時間から皺一つない女子用の学生服を着込み、
とうに整えたらしいツインテールを頭の左右で揺らしている。
室内の薄い朝日を浴びて綺麗に艶を出す髪は黒く、座ったオレを見下ろすくりっとした瞳の光は強い。
「此方」
「何かしらお兄ちゃん。
アタシが褒めてあげると言ったのに話の途中で言葉を切らせるとはいい度胸ね。
それに生意気だわ。実の兄だからって名前で呼ぶことを許可した記憶はないわよ?
家族だからってあまり馴れ馴れしくしないでよね、許可するからもっと呼んで下さい」
「おい。いいから話をさせろ、此方」
「何かしらお兄様、アタシは今いい気分よ。そう、人間の一人も殺せそうなくらい」
頼むから会話を成立させる努力をしてくれ。
それと、たった今オレを刺殺しようとしたばかりだろうが。
「ノン♪ ノン♪ ノン♪ どうやら貴様の体に黒目という部位は存在しないようね、お兄ちゃん」
背を曲げ、寄せた顔の前で指を左右に振る我が妹。
思わず首を捻るオレの前に、愛用のベッドを傷物にしてくれた凶器が差し出される。
「竹光よ。このアタシ様の迸る殺気が強烈な余り、どうやらただの竹のオモチャが真剣に見えてしまったようね。
流石はアタシ、溢れんばかりの才能だわ。正直惚れる」
刃文も木目も存在しないのっぺりとした刀身は、触れさせた指を刃に沿って引いても血も出ない。
成程。確かにこれは竹光である。が。
「ちょっと待て。そもそもの行動の理由とか色々と突っ込みどころはあるが、
それは置いといてお前、今さりげなく指を振りながらもう片方の手で背中にそれを隠さなかったか?
まさかその隙に本物と入れ替えたんじゃないだろうな? 竹光でベッドを貫いたんならそれはそれで恐ろしいが」
幾らなんでも竹製の刃がギラギラと光を反射するだろうか。怪しい。
「突っ込むとはいきなりご挨拶ねお兄ちゃん。
セクハラは人類が生んだ最も低俗な意思の疎通法よ、喪男の求愛活動なら他所でヤって頂戴。
それと仮にアタシが本物の包丁を使っていたとしても大丈夫、
いくらアタシでもこんな朝っぱらから人をSATSUGAIしたりはしないわ。もうシャワー浴びちゃったもの」
「何だその返り血を落とす手間がなければ殺ってる的な発言は・・・・・・」
「何だも何もそれが真実と言うものよ?」
「あっさり認めやがった!?」
「悲しいけど、これって現実なのよね」
「うざいっ!」
ああ。まったく、なんだって睡眠を妨げられた朝からこんな会話をしければならんのか。本当に疲れる。
御境(みさかい) 此方。たった1つ違いの上に母親の腹も同じなのに、どうしてコイツはこうもこんな奴なのか。
性格を形容しようとしたのに当てはまる言葉が思いつかん。
「まあ流石にまだお兄ちゃんを殺すつもりはないわよ。
殺るならそれに相応しい格好というものがあるわ・・・・・・・・・その、ウエディングドレス・・・とか」
「随分と用途を間違った花嫁衣裳だなおい!?」
あの女性の憧れには『貴方の色に染まります』という意味があると聞いたことはあるが、
そこで血の色を想定するのはいくらなんでも間違いだろう。あと頬を染めるな。
更にさりげなくいつかはオレを殺す可能性も示唆しなくていい。兄は悲しいぞ、妹よ。
「・・・・・・はあ。分かった、取り敢えずお前の奇行に関するあれやこれは脇に投げ捨てておくとしよう」
話がサイドステップを踏むくらいならいいが、このまま行くとムーンウォークを刻みそうだからな。
「で。朝っぱらから何の用だ?」
「『で。朝っぱらから何の用だ?』ねえ・・・・・・ふうん。随分と偉くなったものねえ、お兄ちゃん。
家族相手に、それは他人行儀と言うものよ?」
文脈が解らない。
「おはようございます」
いきなり頭を下げられた。
向こう10年は白髪の心配が無さそうな頭部が目の前を縦に通り過ぎ、シャンプーの香りを振り撒いてから戻る。
何のつもりだ。
「だから『おはようございます』よ、お兄ちゃん。
まさか全国一億二千万の日本国民共通の一般常識を知らないの? 頭は大丈夫?」
少なくともお前よりは自信があるぞ、妹よ。まあ言いたいことは理解できたがな。
質問に答えるのにこんな回りくどい真似をする理由は別だが。
「はぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・おはよう、此方」
「ええ。存分におはようございます、お兄様」
人一人起こして朝の挨拶をするまでにこうも時間がかかるかね、普通。
よその家庭も兄妹ってのはこんなに複雑なのか。いやはや。面倒な話だ。
睡眠欲の次は食欲。これこそが正しい朝の順番である。寝たら食べる、起きたら食う。朝食は一日の活力だ。
そんな訳で、オレは我が家の食卓へと急いでいるのである。
「まったく。お兄ちゃんが着替えに手間取ったせいで予想より遅れてしまったわ。
冷たいものはお腹に良くないのに、冷めた味噌汁のおかげでこのアタシがお腹を下したらどう償ってくれるのかしら?
学校を休んで付きっ切りの看病を要求するわよ。
でも看病の前にアタシの健康を損なったことに関する懺悔が先だがら、
その時は土下座させて心行くまで踏んであげるわ」
そんなオレに半歩くらい先行する気の早い我が妹。
お前が部屋に残ってオレの着替えを覗こうとしなければ揉めて時間を食うこともなかったんだがな。
あと人の腕を抱きかかえながら歩くな。当たらない胸の発育具合に悲しくなる。
「当ててないのよ」
最近のツンデレが負け惜しみも兼ねるとは知らなかった。
「おはよう、彼方(かなた)姉(ねえ)」
「連れて来てあげたわよ、お姉ちゃん」
そんなやり取りをしつつ階下へ到着。食卓と同時に目に入る、台所に立つ姉の背中に声をかける。
妹である此方より背は高く髪は短く、肩口で切られた黒髪の下でエプロンの紐が学生服の上を走っていた。
「あ、おはよう在処(ありか)ちゃん。此方もご苦労様かな」
綺麗に保たれた西洋版割烹着の前がこちらを向き、朝に相応しい朗らかな声が返ってくる。
表情も柔和かつ穏やかであり、厨房で包丁を握ることへの緊張感は全くないのは手馴れている証拠だ。
家の両親は朝が早く、そのため放置プレイを放任主義と言える程に育った子供達に朝食の仕度は任せっ放しであり、
自分達は通勤途中にコンビニやチェーン店で朝の栄養摂取を済ませているような人間である。
そんな一男二女の我が家、
御境家の食卓を預かるのは主に長子にして長姉である彼方姉であり、それは今朝も変わらない様子だ。
「今、温め直しているところだからもう少しかかるかな。
ちょっとだけ待っていて欲しいかも。先に座ってて」
振り向いた姉が菜箸で食卓の方を指す途中で、腕に押された胸が形を変えた。
まだ食欲を満たす時間だというのに目と腰のやり場に困る光景である。
歳はオレと一つしか違わないのにこれが女体の神秘とでも言うのか、
性別の差が我が姉の胸に与えた果実は他の野郎に収穫されることもなく日々豊かに実りっぱなしで、
こう、何と言いますか大変にけしかりやがりませんね、はい。
前に向き直る時にヒップが描く軌道も実にグッド。
今日も朝からナイスバディ、
姉より(年齢差から来る体型的に)優れた妹などいないということを見事に体現してくれている。
眼福とはこのことだ。流石に姉相手に性欲を持て余す趣味はないがな、大佐。
「────────お兄ちゃん」
よって横から聞こえるブリザードな響きに負けてテーブルを目指す訳では決してない。
ないったらないのだ。
妹に負ける兄などいない。そう思いたいところである。
「女の胸が大きいのは夢を詰め込んだからで、小さいのは夢を与えたからよ。
悪女=ナイスバディ=非貧乳の法則を知らないのかしら・・・・・・? 豊胸は罪悪よ、憶えておきなさい」
まだ何か言っているが聞こえない。
『貧乳はステータス』と言って自己正当化に走らないだけよしとしよう。そうだろう、全国一千万の男児諸君よ。
「よっと。此方、リモコン取ってくれ」
「座る時、立つ時の掛け声は衰えの現れよお兄様。・・・・・・はいどうぞ、感謝するがいいわ」
「サンキュ」
そんな調子で引いた椅子に腰を下ろし、リモコン片手にチャンネル操作。
どう見てもバラエティにしか見えないニュース番組からマシなやつを選び出す。
最終的にボタンを二週させて決めたのは『朝ズドッ!』だった。
Tv テレビ
Crew クルー
Station ステーション
略してTCSという局が流している番組で、
司会者のみの ぶんやが主にマスコミだけの支点から勝手に世論を代弁するニュース(笑)番組である。
これがなんのかんのいって面白い。
番組の趣旨が、ぶんやが庶民にとって特に大きな問題をズドッ!と突き刺すことなのだが、
これが如何に見当外れの方に行くかを生暖かく見守るのが最近の視聴者の流行らしい。
オレも、たまに特集コーナーを引っ張り過ぎるが、扱うニュースの量もそこそこなので比較的よく見ている。
「ふーん。『○○の少女、恋敵を脅すために家を爆破!?』ねえ。正直、手段としてはどうかしら」
「海外はやることが過激だな。やっぱ日本が一番だ」
「甘いわねお兄ちゃん。日本人って派手さを嫌う分、被害は少ないけどやる時は陰湿なのよ。
アタシなら爆破なんてしないで攫(さら)って流すか埋めるか消すかするわ。
ガキ相手なら刃物をちらつかせるだけで十分だし、バレる犯罪に意味はないのよ」
「このご時勢に余り怖いことを言うな。まあ、逮捕されたら恋も何もないとは思うがな」
「『真のオタクは犯罪などしない! 来週のアニメが見れなくなる!!』ってやつ?」
「なんだそりゃ」
「メディアのオタク批判のあり方に対する有志の意見よ」
なんて会話を交わしながらまったりと待つこと数分。
「お待たせかな」
姉が温まった食事を載せた皿をオレ達に渡し、せめてもの手伝いと並べている間にエプロンを解いて席に着く。
横長のテーブルの端にオレ、左右に此方と彼方姉という形で卓が埋まった。
家族五人が食事時に揃うことは滅多にないので、使わない椅子は仕舞われているのだ。
「今朝のメインはホッケの開きの塩焼かな」
首相の『煮付け』発言で話題になったやつか。TCSでも何か言っていたかな。
確かあるにはあるって結論だった気がするが、どちらにせよホッケ自体に罪はない。
成長途中の男子としては美味しくいただくだけである。
「戴きます」
「戴きます」
「戴きます」
姉弟・兄妹の三人、合わせて合掌する。親はいないけど、それでも家族で囲む食卓だ。
家族の大切さが叫ばれる昨今、照れ臭いが温かい気分にはなる。
出される料理が美味ければ尚更で、家の姉の料理は下手な主婦顔負けだしな。
学生だから時間をかけていられないが、ちゃんと習って時間をかければ相当なものが作れるのではなかろうか。
密かにそう思わないでもないね。何にせよ手作りの料理ってのはいいもんだ。
ビバ手料理。ビバホームメイド。ちなみにビバはイタリア語で、ホームメイドは英語だ。
「へえ。ホッケって、居酒屋以外で普段から食べるものじゃない気がするけど、普通にイケルんだな」
「身が多い割には安かったし助かったかな。焼くだけだと調理も簡単。
普段よりちょっと量があるけど、朝からで大丈夫だった?」
「ああ平気平気。そのために塩焼にしてくれたんだろ?」
その位の配慮は信頼出来る。
最近は家族でも気付けない、なんてことが強調され易いが、家族だから気付けることもちゃんとあるのだ。
味付けが軽いお蔭で箸が進む進む。
もともと庶民の朝食なんてシンプルなもの、一汁一菜が基本。
ホッケを中心に、味噌汁を飲んで、たまに漬物を挟んで。
そうして体重を増やしながらあっと言う間に大部分を食べ終わってしまった。
残るホッケの頭は流石に残し、いい具合に焼かれた皮を端で切り取って白米に乗せて挟む。
「あれ? 在処ちゃんってこういうお魚の皮も残さず食べちゃう人だったかな?」
「ん? いや、大体はそうするけど」
普通はそうするよな、うん。ホッケの開きは皮も食うはず。地方とかで違うもんだったっけ。
エビフライの尻尾は否定派賛成派で分かれた気がするが。
「ふーん、そう。
じゃあお姉ちゃんの分もあげちゃおうかな。在処ちゃん、はい、あーーん」
「ぶっ!?」
などと考えたところで差し出される魚の皮。箸で挟まれ、丁寧にも下に手が添えられている。
「お姉ちゃんっ!」
妹がテーブルに掌を叩き付けた。
「此方に文句を言われる筋合いはないかな。
在処ちゃんが降りてくるのが遅かったの、原因は何?」
「ぬぐ」
が、勢いこそ良かったものの相手の質問に女らしからぬ声で詰まる。
「と言うかオレの意思の確認はないのかよ」
そこは最初に尋ねるべきではないだろうか。
「在処ちゃんは私がお箸をつけたものを食べるのは嫌かな・・・・・・?」
聞き方の再考を求める。誤解を招くぞ。
「そう。嫌なのかな」
解っててやっていませんか。
「い、いや、オレは別に彼方姉のことが嫌いではないし、
関節キスで騒ぐ年齢でもないのであって、厚意そのものも有難迷惑ではないんだがな!?」
「じゃあ問題ないかな! はいあーーーーーーんん!!」
言い切らないうちに、開いた口をロックした彼方姉の箸が突き出される。
人間、喋っている間は警戒が薄いもので隙を衝かれやすい。
これが漫画やアニメなら流れ的にも口にしてしまう展開だろう。しかし。
「────────だが断る」
この御境 在処が最も好きなことのひとつは、
それをお約束と思ってるやつに『NO』と現実を教えてやることだ。
「かなっ!?」
空中で互いの箸が激突した。予想外のことに驚愕の声が上がる。
別に叫ぶ程のことじゃあないだろ、彼方姉。
何が起きたのか。真実はたったひとつだぜ、我が姉よ。たったひとつの、単純(シンプル)な答えだ。
箸を思い切り刺し出した姉の突きを、閉じた箸を上向きにした弟の盾が防いだ。それだけさ。
不意を打とうとしたようだが、甘かったな彼方姉。
「かな・・・・・・かなッ!」
「パリィッ!」
初撃は防いだ。動揺も引きずり出した。両方やんなくっちゃあならないのがつらいところを両方こなした。
覚悟もできてる。
しかし相手も然る者、そう易々と諦めてはくれない。
一旦は引いてから箸を別角度で繰り出し、それも同じように防がれたと見るや、
ホッケの皮を挟んだまま、先端をオレが握る箸の隙間へと押し込んでくる。
間隔が無理やりに押し広げられた瞬間に咄嗟にパリィ(受け流し)へ切り替えたが、くそっ、脂で滑る!?
「かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな」
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ」
食卓の上を覆う無数のラッシュ。
飛び散る脂、響く掛け声、高速で行き交う箸が弾き合って奏でる澄んだ剣戟音。
一秒に十回『かな/アリ』発言が十秒に渡って続く。
その間に、流星のような攻防を繰り返しながら一見して互角の勝負は、僅かにオレが押されていた。
いや、時間が経つ程に押され始めていたと言うべきか。
箸の側面で受けたホッケの皮にべっとりと付いていた脂が、手に落ちて力の伝達と操作性を歪めているせいだ。
握力×体重×スピード=破壊力。
握力と体重ではオレが勝り、筋力差によるスピードは女性特有のしなやかな動きを駆使する姉が相殺。
三要素のうち二つもの舞台で上に立ちながら、にも拘らず不安定なその足場が邪魔をしている。
裸の相手を投げるのが難しいように。氷の上で体重を足に乗せながらする歩行が困難であるように。
脂による摩擦の減耗が、それを補うための余分が、オレの箸捌きから重さを奪っている。
ラッシュの速さ比べでは負けていないというのに、マズイ。
このままではディ・モールト(非常に)マズイぞッ!
このままでは敗北を免れ得ない。あの、姉が笑みと共に繰り出してくる一口を詰め込まれてしまう。
そんなのはゴメンだ、冗談じゃない。それはオレの意思じゃあない。
この歳にもなって実の姉に『あーん』なんて死んでも嫌だ。
来るべきその初体験の瞬間は、いつか、共に過ごす美しい彼女との黄金の未来へ取っておくべきもの。
そこは断固として譲れない。
仮にそれがなかったとしても。そう。
男一人に女二人の姉弟/兄妹が座る食卓で『はい、あーん』が展開されるなどと。
現実の家庭にラブコメを持ち込むがごとき思想!!!
オレにリアル萌えの趣味は断じてない。
そして脳内の嫁も夢で見る美幼女美少女美女美熟女男装麗人の皆さんで既に乗車率400%。
つまり、実姉(じつあね)の萌え要素など。
全 力 で お 断 り し ま す !
「KANAHHH!」
「PARRYYY!」
だが、残念ながらそのための手段がない!
このますます手を滑らす脂のように、血が滴るように今ッ、じわじわとオレが押し負けているのが現実!
防御の決壊は目前だ。ここは機転がいる。
初手で負ったハンデを、そのまま勝利の布石に変えるような逆転的発想がッ!
「隙ありかな? ボラーレ・ヴィーア(飛んで行きな)!」
「しまった!?」
思考のせいで生まれた間隙を思い切り殴り付けられた。
脂に塗れ、
スチュワーデスがファースト・クラスの客にサービスするワインのグラスのようにツルツルピカピカの箸が、
掴みきれなくなった手を抜けて弾き飛ばされる。
思わず、オレの手はそのちっぽけで頼りない2本の棒切れを追っていた。
「もう遅いかな! 回避不可能よッ!
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなァーーーッ」
そんなオレの顔面に叩き込まれる箸先がいやにはっきりと見える。
ああ。世界がゆっくりだ。何て言えばいいのか。
普段とは違う流れの中にいるっていうか、周囲が止まっている中で自分だけが変わらず流れているみたいな。
そんな感覚がある。
ふと、伸ばした自分の手に目が行った。
思い付き、実行する。
「・・・・・・かな?」
スローになった世界の加速は早い。
無限に引き伸ばされた一瞬が、今度は無限を凝縮した刹那になる。
二人の時間が同じ世界に重なった時、
姉の箸は────────箸を掴む『右手』は、オレの『左手』に押さえられていた。
「深い理由なんか要らねえよな。
“箸で挑んでくる相手に、何も箸で応じてやるこたあねー”。咄嗟にそう思っただけだよ」
考えてもみれば間抜けな話で、相手の流儀に合わせてやる必要なんかない。
でなくとも利き腕に、右手に握った箸が駄目になったら右手を使えばいい。
それが無理なら左手を使えばいい。
そんなのは腹を空かせた子供がお握りを両手に掴むくらい当然のことだ。
「ず、ずるい・・・っ!」
そして、この『食べない』と『食べさせる』の争いに付き合う義理もない。
そもそも食べることを拒否し続けても体力の消耗戦になるだけでオレには不毛なのである。
ではどうするか。
逆に考えるんだ、
『“姉に食べさせられる”のを拒否するんじゃなくて、“姉に”食べさせればいいさ』と考えるんだ。
「ひょいっと」
そんな訳で、まだ脂塗れの右手で姉の箸からホッケの皮を摘み出す。
「あ」
摘み出し、どうせ指ももう脂塗れなのでついでに丸め、間抜けに開かれた姉の口へ投入してやった。
「アリーヴェデルチ!(さよならだ)」
姉のホッケよ、その口へ帰れ。それがお前の運命だ。
「勝った! 今日の朝ごはん完! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅー、ご馳走様でした」
いい加減に疲れたのでテンションを下げ、手を合わせて深々と食卓に頭を垂れる。
働き出した胃が朝の少ない血液を貪欲に持って行ってくれているので、ついでに賢者タイムへ突入。
きっかり三秒。顔を上げて見ると、変わらない体勢の姉と、何故か妹まで肩を震わせていた。
「あ、あわわわわ」
「あ、あああああ」
壊れた声優音声付き目覚ましのような声を上げてから口を閉じる。
突っ込んでやった餌を飲み込んだ彼方姉の喉がごくりと鳴った。
「こ、これはこれでいいかもしれなくもないかもかなーーー!?」
「なっ、何をしてくれてんのよお姉ちゃんっ!!!」
立ち上がり、飛んでいった箸を探す。
「わ、私は何もしていないかな!? 此方っ。してくれたのは在処ちゃんの方だよ!」
どう跳ねたり転がったりしたのか、二本ともテーブルの下に落ちていた。
「お姉ちゃあぁぁぁぁあああああああんん!?!
アンタのくだらない『あーん』はこれを狙っていたのなら予想以上の効果をあげたわ!
アンタがッ! 泣くまで! 殴るのをやめないッ!」
屈みこんで拾う時にスカートから伸びてばたばた動く足が四本ほど見えたが、
血は股間より腹部に集まって来ていたし、
ニーソでもなかったためにオレの心が燃え尽きるほどヒートもしなかったので無視した。
「もう頭にきた、アタシは妹をやめるわ! お兄ちゃんッ!!
アタシは兄妹を超越する! お兄ちゃん、アナタの愛でねェーーッ!!」
剣呑な気配が渦巻く前に食器を流しへ置いて回れ右。背後の厄介毎に絡まれるはごめんだね。
御境 在処はクールに去るぜ。あらほらさっさー。
なんて。
罷り間違っても、これが毎日の日常なんてことはあるはずがないんだが。
それにしても、我が家ながら何とも疲れる食卓である。
やれやれだぜ。
向けられるお兄ちゃんの背中を見るのは、いつもツライ。
刹那でも、帰って来る保障があっても、それはお兄ちゃんがアタシから離れるということだから。
「・・・・・・行っちゃったわね。
はあ。どうして肝心な時に限って妹の方を向いてくれないのかしら」
早起きしたアタシ達と違って済ませてない登校の準備をしに行っただけだし、
終わっても外に出て待っててくれるから、どうせすぐに会えるけど。
すぐにすぐに必ず会えるはずだけど。そんな理屈はアタシの心に響かない。
「それは在処ちゃんが此方なんかに興味がないからかな」
逆のベクトルでなら、この女の声はよく響くけど。
「五月蝿いわね、馴れ馴れしく名前で呼んでるんじゃないわよ。一体いつアタシがそれを許可したのかしら?」
「それは在処ちゃんのことかな? それとも自分の名前?」
ウザイ。
「五月蝿いっつってんのよ。その馬鹿みたいな口癖を止めなさい。
お兄ちゃんの名前にちゃん付けでお姉ちゃん面をするのもね。気持ち悪い」
「くすくす。仕方のない妹」
本当に、この女は。
「そんなに羨ましかったの?」
キモチノワルイ。
「黙りなさい。それ以上、一言でも喋ったら殺すわよ」
「出来もしない癖に」
音が鳴る。握ったままの箸の先を合わせ、かちかちと姉が打ち鳴らす。
「自分が最初に協定を破って着替えを覗こうとでもしたんでしょう?
なら、私がちょっとくらい在処にアクションを起こしたって、咎めるのは筋違い」
いつも食べ終わるとすぐに食器を片付けてしまうお兄ちゃんの、
本当なら流しに浸けられて落とされてしまう唾液が少し────────でも確実についた2本の棒切れ。
もしかして。あのやり取りは、少しでも多く自分の箸にお兄ちゃんの唾液を擦りつけようとしたのか。
「つい・・・・・・お兄ちゃんを起こす以上のことをしようとしたのは謝るわ。
でも、着替えを覗くのはお兄ちゃんに対して積極的に何かをする訳じゃない。
あくまでお兄ちゃんに何かを強いたり意思を無視するような邪魔はしない、消極的な行動よ。
アンタのはそうじゃない。特に、お兄ちゃんに拒まれてまで食べさせようとしたのはやり過ぎよ」
圧(へ)し折ってやる。そう思ったのがバレたのか、姉はそれを口に入れると、しばらく舌で弄んでから抜き出した。
「ん・・・・・・ぷあ。
あれは在処の照れ隠し。嫌がられたような言い方は心外ね」
自分の唾液だけを帯びた棒切れを皿に乗せる。
「最後まで抵抗されておいてよく言えるわね。お兄ちゃんの都合を考えないのは相変わらずか」
「それは間違い。私は在処のことしか考えない」
「お兄ちゃんのことじゃなくてお兄ちゃんの都合って言ったのよ」
「同じことよ」
「違うわ」
「違わない」
「違う」
「違わない」
「違う」
「違わない」
平行線だ。
この女とアタシはいつもそう。お兄ちゃんを基点に、アタシとコイツは常に対極にいる。
まるで線を引いた境目の、此方(こちら)と彼方(あちら)にいるように。
姉妹だけど。むしろ姉妹だからこそ、求める在処に3人は居られないから。
いつかと願う其処を境界線に、これまでもこれからも対立する。し続ける。
どちらかが消えるまで。どちらかを消すまでは。
「不毛ね」
「不毛よ」
だから、アタシ達の争いはそう長く続かない。
だけど、アタシ達の諍いはいつも終わらない。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
お兄ちゃんがそうしたように手を合わせ、食事を終えて食器を流しへ運ぶ。
家族の情などなくても同じ家に住む姉妹。
いつか着けるべき決着は、いつにでも着けられる。優先事項はお互いにあった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言でお兄ちゃんの後を追う。当然に抜け駆けを監視し合いながら。
お兄ちゃんは既に外に出て待っているだろう。待たせていると言ってもいい。
玄関で、左右に置かれた鞄のうち、自分の物を取る。同時に用意を終えて顔を見合わせた。
「はん」
「ふん」
アタシが姉を殺さない理由。
コイツが妹を殺さない理由。
それは敵がお互いだけじゃなく、どこにでもいるから。どこにでも生まれる可能性があるから。
例えば、アタシとコイツがお兄ちゃんと通う学校なんかでも。
アタシがお兄ちゃんより下の、コイツがお兄ちゃんより上の、二人がお兄ちゃんの側の邪魔者を始末する。
お兄ちゃんに近寄る存在の排除。その一点が共通の利益だ。
此方から彼方まで、御境 在処の全存在をカバーする。
そのためだけに。最後のその瞬間まで、お互いがお互いを殺せない。
奇しくもお兄ちゃんを挟んだ二人の不一致が生んだ、唯一の一致だ。
時が来るまではせいぜい利用してやろう。どちらもそう思っている。
それはそう、自分がそこにいたいと思う、未来の在処を確実にするためだけに。
「「じゃあ、其処(そちら)は任せたから」」
扉を開ける。数歩先には思った通りの背中があった。
今はまだ、その背中に自分から近付いて行ける。それが出来なくなった時がどちらかの最期だ。
言葉には出さない、暗黙の決意。
胸に抱く想いを新たにしながら、アタシはお兄ちゃんに向かって歩き出した。
投下終了します
取り敢えず、前の職人がせっかく投下してくれたんだから間隔はあけよう。あんた、多いよなこうゆうの
>>148の方
すみません。気を付けるように致します
>>131の方、スレの皆様
申し訳ありませんでした
>>148の言ってることはもっともだと思う
まあGjの一言なり付け加えるべきだと思うがな…
つか
>>150は荒れるからそういうことは書き込まないでくれ
とりあえずお二方GJ
>>147 あんたはSS書く前にまず反省を覚えたほうがいいよ。
半年は投稿停止でROM専としてがんばりな。
とりあえず>>3だな
>>131 きついなあ。これはきつい。
どうなるんだろうね、胸が不安でいっぱいだ。
>>147 お疲れ。テンポがいいね。パロディの盛り込み方も素敵だ。
>>112-
>>147 すげぇ・・・投下ラッシュだ・・・
お疲れ様ですGJ!
別に他の人の作品が投下されてから間隔なんかあけなくてもよくね?
二人ともgjだと思う
>>159 それは無い
でも前の作者の投下から3時間も経過してたら充分だと思う
ちょっと神経質になりすぎのような
そうか…昔は投下ラッシュきたといってみんなで喜んでたもんだが時代が変わったか…
別に投下ラッシュしてもよかろうに・・・
荒らしはスルーしろよ
165 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 00:27:35 ID:VdsbcBWI
バレンタインデー約三週間前です。
今年もキモ姉妹の恋愛成就のために何人の神父が葬られるでしょうか
>>165 家族で恋愛なんかあるかよww
うちなんか姉とはここんとこずっと話さえしてないぞ
ところで、避難所ってどこ?
オイラなんて、姉貴夫婦に受胎告知されたよ。9月にはおじさんになるぜ…。
だいぶ育ってきてから「あなたの子なのよ」と
彼女と妹から貰う予定>バレンタインチョコ
妹は知らんが彼女のほうは手作りで作るらしくかなり気合入ってた。
今から楽しみだお。
いきなり語り出したよ…キモ姉やっちゃって><
舐めるのはチョコだけでいいの?食べるのはチョコだけでいいの?
お姉ちゃんも甘いんだよ?ほら、特に唇が美味しい部分だから、ね?
弟「うわぁwwお姉ちゃん、全身が毛だらけ!」
「ハァハァ、こっちも!そっちも!」
>>173 なんか、物凄くキスシス思い出しました。
姉はバインバインのおっぱいチョコ
妹はツルツルの下半身チョコ
当然ホワイトデーのお返しは弟(兄)のホワイトチョコ一人3ガロン
1ガロンは約3.8リットル。3ガロン×2人前×3.8=22.8リットル。一発6ミリリットルとして
38000発…アーメン。
>>177 1日五発、亜鉛パワーで二倍の量。
10年と5ヶ月でなんとかなるさ。
>>178 毎年9年5ヶ月借精が貯まるのか。
軽く死ねるな。
しかし一年間でこれを吐き出そうと思えば、一日平均50発…ええい、ここの姉妹は
サキュバスか何かか?
>>171が机にチョコレートを並べてニヤついていると、
部屋の入り口から「やめなさい!!」という一喝が響く。
171が「なんだと〜」という唸り声とともに振り向くと、
入り口に眼の細いグラマラス美人姉が立っていた。
「義理チョコごときで浮ついて情けない奴ね」と姉が小馬鹿にするようにのたまう。
椅子に座った171の肩に手を掛けて押さえつける。
「他の女なんかゴミのようなモノでしてねぇ」
「171クンの浮ついた恋心が他の女に届く前に、お姉ちゃんの愛が柔らか〜く包み込むの」
姉の唇が171の唇を塞いだ、171の口の中が甘い。
一口サイズのチョコレートを仕込んでいたようだ。
「さぁ、続けましょ・・・」
「性欲のことで困ったら、お姉ちゃんに言ってきなさい、171クンは大事な弟だから・・・」
171は勃っていた。
「お姉ちゃんにいっぱいお返しが欲しいな・・・」
171は姉の身体に深く埋もれていったのだった。
バレンタインチョコも呪術的に色々仕込まれてるアイテムではあるな
自分の体組織を仕込むか薬を仕込むか、それが問題だ
両方いれればいいじゃない
姉の体組織には有毒成分が含まれているんですね、わかります
毒が裏返った!
毒手の達人なキモ姉が、体組織を仕込むとな?
一日置きに姉の唾液(解毒剤)を摂取しないと、生きて行けない弟。
お兄ちゃん(弟)中毒という素晴らしい言葉を思いだした
お兄ちゃんの中毒症状は私が治してみせるッ!
遠い異国の腹違いの兄との幸せを思い浮かべながら、昼間から大麻吸って妄想に浸る金髪キモウトを思い浮かべた。
甲賀忍法帖の陽炎みたいなキモ姉妹。
まあ待て、チョコの前にやる事があるだろう。豆とか鬼とか恵方巻きとか
>>194 お兄(鬼)ちゃんにナニなお豆を食べてもらい、
お返しとしてお兄ちゃんの恵方巻きをパックンチョさせてもらうわけですね?
このシスコンどもめ!
それは最上級のほめ言葉ですねw
>>192 そういう退廃的というかダウナーな感じのキモウトもいいね
こんばんは、投稿します。
雫姉の機嫌は、中杉さんの運転する車が校門前に到着する頃には、完全に直っていた。
僕たちの通う高校へ着くまでの間、車内で雫姉はずっと、隣にいる僕の手を握っていた。ひんやりとした雫姉の手。なんでも、こうしていると、とても心が安らぐのだそうな。
普段人前では見せない、穏やかな笑顔は日だまりで眠る子猫のようで、小さいけれど、大切な幸せをかみしめているようであった。
天下の雛守家、しかも現当主が見せるには余りにあけすけなその表情に、僕は思わずドキリとしてしまっていた。
雫姉はいつの間にやら、僕に寄りかかっている。腰まで届く、真っ直ぐで、絹のようにきめ細かい、つややかな黒髪が僕の頬をくすぐる。女性特有の何ともいえない香りに、僕の顔は更に赤くなる。
すると、
「着きましたよ。お嬢様、広樹様」
ちょうど良いタイミングで学校へ着いたみたいだ。中杉さんは、やわらかな笑顔で車のドアを開けてくれた。運転主の中杉さんは執事長でもあり、雛守家の使用人全てを束ねている人だった。
背は低く、そろそろ還暦に手が届くそうだが、それを感じさせない洗練された所作と、ハキハキとした物言い。
ピシリと線が入ったように真っ直ぐな背筋と、親しみの持てる笑顔、そしてひょうきんな性格を持つ、矍鑠(かくしゃく)とした人である。
僕は、そんな高齢の人から恭しくされるのには未だに慣れる事が出来ない。「すみません」と一言。おずおずと下車した。
そこを見ると雫姉は慣れたもので、「ふむ」とうなずくと、「下校時刻はいつも通りに」と告げ、すでにさっさと車を降りてしまっている。
先ほどまでの安らいだ表情はもう無い。あるのはいつもの涼しげで、凜とした表情だった。
僕たちが通うのは私立連翹(れんぎょう)学園。財閥などの資産家、家柄のある家庭の子女だけが通うことの出来る名門校だった。馬鹿高い学費と寄付金が必要な学校。それだけあって敷地は広く、設備は行き届いている。
記憶をなくした3年前から、僕はここに通っている。雫姉1人だけだが、事情をよく知る、知り合いがいた方が心細くないだろう、という雫姉の心遣いだった。
訳あってお金をあまり持っていない僕に、「金は気にするな」と雫姉は一言、その後、学費から生活費の何もかもを出してくれている。
しえん
「昼休みにそちらに行く。昼は一緒に食べよう」
弁当のはいった手提げ袋を胸元に掲げ、静かだが少し弾んだ声でそう告げる雫姉。多忙な雫姉は暇を見つけては、一緒に昼食を食べにくる。弁当は雫姉の手作りだ。
弁当だけでなく、朝食といった、僕の食事の一切は雫姉が作ってくれる。
僕が家にきたばかりの頃は、屋敷お抱えの料理人が作ってくれていたのだが、しきりに味を褒める僕を見て、彼女は一瞬不機嫌になると「私が作る」といいだした。
いきなりのセリフに驚いた僕に、彼女は恨めしげな顔で、「家族の食事は、家族が作る物だ。それとも……イヤなのか」と言ってきかない。以降は、料理人に教わりながら僕に作ってくれている。
おいしいから良いのだけれど、忙しすぎて身体をこわさないか雫姉が心配だ。でも今日は……。
「ごめん、雫姉今日はちょっと……」
てっきり、僕が頷くと思っていたのだろう雫姉は僅かに目を見張ると
「なんだ、私との食事を断るのだ。一体どんな用事だ」
先ほどまでの弾んだ声はどこへやら。一転して低い声に変わった。
「うん。クラス委員の仕事のお手伝い。どうしてもと頼まれて……」
「昼食を食べる時間ぐらい、なんとかならんのか?」
「打ち合わせをしたいからって……その、ごめん」
涼しげな目の奥にある、優しげな光は消え失せ視線が針のように鋭くとがる。
「約束しちゃったから。……雫姉も約束は守れって言っているよね?」
少し意地悪な言い方だが、そうでも言わなくては承知しない感じだった。
ムッとした様子の雫姉が口を開いたとき、
「広樹くーん。おはよー!!」
良く通る、元気な声が耳に届いた。
振り向くとそこには、ショートカットのかわいい女の子。この子が手伝いを約束した、楠真琴(くすのき まこと)さんだった。
「おはよう。楠さん」
「やだなあ、真琴で良いって言ってるじゃん。何度言わせるのさぁ」
ニコニコとした楠――いや真琴さんは、今日も元気を身体いっぱいで表していた。何が楽しいのかハハハと笑ったかと思うと、あろう事か飛びつくように、僕をギュッと抱きしめてきた。ソフトボール部の真琴さんの身体は引き締まっている。
先ほどまで早朝練習をしていたのだろう、タイトな身体から、甘い女の子の汗の香りがした。どうにか逃げだそうとするが身長が155センチになるかどうか位に低い僕は、長身の真琴さんのなすがままだ。それでも必死に抜け出そうとしていると、
「おい、なんだ。この失礼な娘は」
言うやいなや、雫姉は僕を真琴さんから引きはがした。すかさず僕を守るように抱き寄せる。かなり強く握ったのか、腕を握る雫姉さんの手は痛かった。今度は女性らしい柔らかな身体に抱きすくまれて、とうとう僕は動けなくなる。
案の定、雫姉は怒っていた。と、そこで何かに気づいたらしく、
「まて、楠といったな……お前まさか――」
「ああ、雛守のお姫様か。おはようございます。そうです、その『楠』ですよ」
真琴さんは今雫姉さんの存在に気づいたとでも言うように、クスリと小さく笑った。
両者の視線が絡む。ギチリと空気が重く硬化していく。
先に目をそらしたのは真琴さんだった
「さあ、広樹くん。『約束』のお仕事だよ!朝からうんざりする程働いてもらうんだからね」
明るく告げると、にらみ合いの時に雫姉から抜け出していた、僕の手を引き意気揚々と歩き出した。さっきのアレは何だったのだろう。とっさに僕は、雫姉の手提げ袋から、自分の弁当箱を取り出す。雫姉はもどかしげに
「広樹……私は――」
と何かを言おうとした。捨てられた猫のような目に、僕は何か言わなければいけない気がして、よく分からなかったが「大丈夫」と返しておいた。
その間にも真琴さんは僕をずんずんと引っ張っていく。雫姉の伏せた顔は前髪に隠れて見えなかったが、寂しげにたたずむ姿は酷く印象的だった。
雫姉から十分に離れたとき、ようやく真琴さんは足の速度をゆるめた。
「広樹くんさ。存外かなりのシスコンなんだね。」
後ろの雫姉に意識が向いていた僕は、いきなりそんなことを言われるとは思っていなかったので、驚きながらも、とりあえず「そうかな?」と返した。
「そうだよ!あんなにお姉さんとベタベタしててさ」
気に入らないらしくぷりぷりとしている。
「そうなの?」
「そうなの!!」
そもそもさ、と彼女は続けた。
「いつまでもお姉さんだけって、それって気持ち悪い。すごく気持ち悪い」
いつになく平坦な言い方に、僕も考えてしまう。
「大体さ、だったらもっとあたしとさ……」
考えていたので聞き逃していた。思わず聞き返すと真っ赤な顔で「別に!!」と言われてしまった。
再びぐいぐいと引っ張られる。繋いだままの真琴さんの手は、雫姉とは違う温かな手の平だった。
――なんだあの娘は、
広樹とあの女が去った、校門前。雫は未だそこに佇んでいた。登校する他の生徒達の、何事かとうかがう目にはとっくに気づいていたが、そんなことは今の雫にとって取るに足らないことだった。
広樹にも広樹のつきあいがある。ある程度は譲歩するつもりだった。そもそも広樹から昼食の件について告げられたとき、怒って見せたが、あれはあわてる彼を見て楽しんでやろうと思ったからだ。不満が無いわけではない。が、こんなことは初めてではない。
今週末にでも、今回のことを『埋め合わせ』としてどこかに連れて行かせるつもりであった。だから我慢できないわけではない。
しかし、
――よりにもよって楠家だと?
あの家は非常にやっかいだ。今更ながら友人は良く選べと言っていなかったことが悔やまれる。しかしそれ以上に気に入らないのは――
――あの娘の目だ。
一見快活な様子で接していたが、あの娘が広樹を抱きしめた瞬間、彼女の目が確かに媚びをはらんだ色をたたえたことを、雫は見抜いていた。そして、雫が広樹と取り返した瞬間、気色ばんだ視線でこちらを見据えていたことにも、やはり気づいていた。
あの目は間違いなく広樹に思いを寄せている。雫には分かる。そのことが雫にはたまらなく我慢ならない。あのような汚らしい目で広樹を辱めていることに我慢ならない。
――あいつは――広樹は私のものだ!!
きつく噛み締めた歯からはギチリと音がした。感情が身体を支配する。荒々しく燃え上がる怒りの熱が体内をうねり、駆け抜ける。雫の心の奥の奥、そこにある鬱蒼とした闇。それがゆっくりだが、確実に外へと這い出してこようとしていた。
そこへ、ずっと佇んで身動きしない雫を心配して、女生徒の一人が声をかけようとしたが、
「ヒッ――」
前髪の間から見えた雫の視線に、色を失い、身体を恐怖で震わせる。雫はそれでようやく我に返ると、呼吸を落ち着けた。視線を上げ自分のクラスに足を向ける。だが、未だ、広樹の去っていた方向に目は向いたままであった。
「真琴といったか、あの娘。邪魔だな」
どうすればここまで底冷えのする声が出せるのか。
晴れやかな朝の空気を、静かな氷の声が引き裂いた。
今日はここで投稿終わります。ありがとうございました。
>>205 盛り上がって参りました!
続きが楽しみだー
完結まで応援するよ
クールな姉最高!
>>205 広樹くんは雫と真琴のキャットファイトに割って入って、命を落とすんじゃ・・・
いや、なんでもない、gj。
>>205 GJ! niceキモ姉!
俺の姉とは大違いだ
>>211 怪しい日本語(例:ゼンジー北京、ブラックラグーンのシェンホア)
を操るキモ姉ですかね。
ノスタルジアマダー?
秋冬to玉恵
待ってます・・・
避難所でやれ
このスレの住人には
是非小川未明氏の「港に着いた黒んぼ」を読んでもらいたいな
いや、その話に登場する姉はかなりキモ姉とは違うベクトルの姉だけど
それなりに通じる物があるし
>>217 ググったら粗筋が見つかったけど
黒んぼが登場する必然性は全くないのね
ただの船乗りでいいじゃんかと思った
あと弟に逃げられてる時点でキモ姉としてはD判定
兄または弟と相思相愛なのに
親や友人の前では二人の関係を隠さなくちゃいけないことがストレスになって
次第に心が壊れていく妹または姉……
なんてパターンを、こないだから考えてるけど
まったくもって書いてる暇がない
未完のSSがあちこちに……だめぽ orz
>>220 お、キモ姉妹の新パターンじゃね?それ
応援してるぜ、がんばって書き終えてくれ
大好きな兄がナムに引っ張られて以来、大麻漬けになったメリケンさんのキモウト。
兄がナムで死んだと通知が来てからもキモウト特有の思い込みと大麻パワーを合わせてますます幻想の兄との世界に入り浸る。
で、ある事件がきっかけでキモウトの家に回されてきた親戚の子供を兄だと思いはじめて、大麻とセックスで溢れた監禁生活が始まって……
駄目だ。ここまでしか書けない
日本なら芋虫でアメリカならジョニーだな。
未帰還兵の兄を救出するべくヴィエトニャムへ単独潜入を試みるランボーな妹
共産政府軍や密林の猛獣との死闘の末、山奥の村でついに兄と再会
ところが兄はヴィエトニャム美人とケコーンして、自らの意志で村に留まっていたのだった!
……と、ここまで書いてみた
戦争ネタと言う事で
捕虜になった弟を救うために敵地に単身突撃する姉を妄想した
兄が泥棒猫たちに攫われた。兄を取り戻すためにコマンドーキモ姉。
「キモ姉が泥棒猫と接触すると何が起こるんです?」
「第三次世界大戦だ」
「泥棒猫を始末する」「姉を止める」。“両方”やらなくっちゃあならないってのが“キモウト”の辛いところだな。
兄よりも軍事的才能に恵まれた妹が
家臣たちの協力を得て兄を幽閉
兄になり代わって戦国大名となる
だが隙を見て兄が出奔
妹の手が届かない女人禁制の高野山を目指すが
「お兄ちゃんを連れ戻さなきゃオマエら全員切腹」と脅された家臣たちに追いつかれ
必死の泣き落しに負けて妹のもとへと戻る
兄に操を立てた妹は生涯不犯
といいつつも一か月のうち長い期間は城内の御堂に籠もって
監禁した兄を、ぬっぽぬっぽと犯していたりする
そんな上杉謙信女人説
それ読みたいぞ
姉に監禁されたいと思った俺は末期か?
妹しかいないが
お市の方がキモウト
お姉ちゃんが盗んだ下着はやっぱり涎でベトベトなんだろうか
地獄少女で兄を殺すキモウト
…うさぎ
>>226 キモ姉「こいよ弟君! 彼女なんて捨ててかかってこい! 怖いのか?」
弟「彼女にはもう用はねぇ!アハハハハ 倫理観も必要ねぇやぁハハハ
誰が近親相姦なんか!近親相姦なんかこわかネェェェ!
このアマ、犯してやる!」
この後、たっぷり精子抜きされる弟。
「面白い奴だ、気に入った。殺すのは最後にしてやる」
「最後に殺すと言ったな、あれは嘘だ」
「(男君に)良いとこ見せましょ」
「不審者を発見。目標は緑色のシャツを着て
ドブのような濁った眼をしてるキモ姉だ」
改造人間キモウトが最上階の会議室で、キモウトを改造した会社のCEOたる、
最愛のお兄ちゃんを人質に取る役員の泥棒猫と対決!
>>240 「あはははは!!!そんな機械の出来損ないの体で○○ちゃんと愛し合うですって!!」
「何が可笑しいクソ姉!!」
「改造手術で子宮はおろか内臓を総取替えした貴女に。人を愛する事など無理よ!!無理無駄無駄無駄ぁあ!!」
「!!……………」
「あはは、ショックだったのかしら…安心なさいな。○○ちゃんの子供なら、私が何人でも産んで育ててあげる…」
「……」
「子供達でサッカー、いやラグビーの試合ができる位はね。あはっ」
「……ふふっ」
「あらっ頭までいっちゃったのかしら?」
「感謝するわよクソ姉…これで私はお兄ちゃんの前で、ずっと若く美しくいられるのだから!!」
「なっ……!!」
「元々子供嫌いな私にとって、お兄ちゃんの愛を奪う我が子など不要…」
「し、しかし機械の体で発情できるものか!!」
「ならお兄ちゃんを想うだけで、内股を伝うこのねっとりした液体は何かしら……たかが改造手術されたくらいで!!」
「ひっ……」
「私のお兄ちゃんへの愛と肉欲が!!」
「く、来るなぁ!!」
「消しされると思うなよクソ姉がぁ!!!!」
「クソ姉…貴女は地獄で私たちの幸福を羨むがいいわ……私たちはずっと永遠に幸せだし。さて…
おにぃちゅわ〜ん!!」
「……ってお兄ちゃんがいない!!どこなの!?」
「先ずは実の姉を倒した事を誉めておこう。だが君の愛しき兄上は、われら泥棒猫が預かる」
「な、なんですって!!」
「また会おう妹くん。いや改造人間キモウトよ」
「泥棒猫め…あなた達からお兄ちゃんを取り返すまで、私は諦めない!!」
続きません
1回に11つ子を連発すればJリーグまでいけるぞ!キモ姉!
今年最初の投下です。5分割です。
翌日の月曜日、俺は自分の席に着くときに、これまでにないほど緊張した。まともに猿島の方を見ることができなかった。
猿島は既に登校していて、いつものように文庫本を読んでいた。俺に対して、特に注意を払うそぶりもない。
俺はクラスメートに対する朝の挨拶は欠かさない方だ。相手が誰であれ、朝初めて顔を合わせたら「おはよう」と声をかける。
普段どおりにしないといけない。ちょっとでもルーチンを壊したら、全ての歯車が狂ってしまう。
そう思いつつ、俺は席につきながら声を出せずじまいだった。軽く「おはよう」ということができなかった。
ちらちらと猿島の方を見ながら何も言い出せずにいる俺に、猿島の方から声をかけてきた。
「おはよう」
視線は文庫本から外さなかったが、その一言で俺は救われた。
「おはよう」
何とか声を出すことができた。
そのやりとりだけで、朝は全く猿島と会話ができなかった。猿島はひたすら文庫本を読み続けるだけで、こちらから話しかけるのを拒絶する雰囲気を漂わせていたし、俺も何を話題にしてよいのかわからなかった。
だけど、俺は不思議と気分が楽になっていた。他の人がいるところで「けいちゃん」の話題を出してはいけないということはわかっていたし、猿島との間でその他の話題はありえない。
それならいっそのこと、会話がない方がいい。どうせ普段も猿島と挨拶以外で言葉を交わしていなかったのだから。
やがて茂部先生が入ってきて朝のホームルームが始まり、通常どおり授業時間となった。
3時限目は体育で球技の時間だった。今は体育館に集まって、男女混合でバスケットボールのリーグ戦をやっている。
一応男女双方に先生がついていて、準備運動などは別々にやる。2人1組でやる柔軟体操を男女で組んでやるのは色々と問題があるからだ。
まあ、男子の方はウェルカムなので、主に問題があるのは女子の方だが。
女子の担当は草葉梢先生だ。中性的な顔立ちでありながら、ジャージ姿の上からでもわかるすらりとしたモデル体型ということもあり、男女双方から人気がある。
若くて新任であるせいか、生徒から「梢ちゃん」と呼ばれているのは教師としてどうかと思うが、べつに俺が気にすることでもないか。
「梢ちゃん、個人指導してくんないかなー」
「今から水泳の授業が待ち遠しいぜ」
「梢ちゃんハァハァ」
田中山は草場先生に対しても欲情している。あいにく先生は既婚なのだが、こいつらには関係ないらしい。「むしろ人妻萌え〜」とか言っているし、実にフレキシブルな感性の持ち主だ。
もっとも、俺は準備運動のときからずっと、猿島のことが気になってしかたがなかった。
うちの学校の体操服は男女共通でTシャツとハーフパンツだ。そのせいで猿島の太ももは見えない。普段も猿島はスカートを規定どおり膝下10センチで穿いているから、おみ足を目にする機会には恵まれなかった。
日曜日の「けいちゃん」のミニスカートから伸びていた太ももは、俺の脳裏に焼きついたままだ。今の猿島は「けいちゃん」の面影を微塵も感じさせない地味な女子高生なのに、俺は猿島の中に「けいちゃん」の影を追わずにはいられなかった。
試合が始まってからも、俺は隣のコートで動き回る猿島の姿を目で追っていた。バスケットボールは攻守の切り替えが激しい競技だが、猿島は走り回ることはそれほど苦にしていない様に見える。
その一方で、ドリブルミスが多い。手先が器用ではないというより、球技が苦手なのかもしれない。
俺自身プレーに参加しながら、ちらちらと猿島を観察し続けていたが、その努力は突然報われた。
試合中、ゴール前で猿島がパスを受ける場面があった。フリーで、3ポイントシュートが狙える位置だった。「猿島! 撃て!」というチームメイトの叫びに応じて、猿島が一瞬屈んで溜めを作ってから、大きくジャンプしてシュートを放った。
見事な跳躍だった。読書少女のイメージからは想像もつかないほど高いジャンプで、ボールは慌ててカットに入った相手チームのメンバーの手が届かない高さで放物線を描き、ゴールめがけて飛んでいった。やはり足腰は鍛えている。
惜しくもボールはリングに跳ね返されたが、俺にとってはどうでもよかった。
跳躍の瞬間、Tシャツの裾がめくれ上がり、猿島の臍のあたりが見えた。俺の予想通り、猿島のウェストは引き締まっていて、くびれがあった。
ほんのコンマ何秒という短い間のできごとだったが、俺は充分目に焼きつけた。
邪念の代償はすぐに訪れた。
自分が参加している試合のボールから目を離していたために、俺はパスが送られてきたことに気づかず、ボールをまともに鼻で受け止めた。
更に悪いことに、衝撃でよろけた拍子に転倒し、右足を挫いてしまった。ここまで無様な怪我の仕方も珍しいだろう。
「何やってんだ、ボケ!」
チームメイトの罵倒も甘んじて受けるしかない。傍から見ればボケているとしかいいようのない醜態だった。
とはいえ痛いものは痛い。尻餅をついて右足首を押さえている俺のところへ、草場先生が心配そうな顔で駆けつけてきた。
「桃川君、大丈夫?」
「……すいません。ちょっと休ませてください」
「保健室に行きなさい。無理は禁物よ」
草場先生はクラスの保健委員を呼んだ。保健委員は各クラスから男女1名ずつ選ばれているが、男子の委員(確か足利と言った)は陸上部の競技会で公欠を取っていたはずだ。
「私が保健委員です」
名乗り出たのは猿島だった。そうだ、女子の委員はこいつだった。
俺は猿島に付き添われ、右足を引きずりながら保健室へ向かった。
「肩を貸しましょうか?」
猿島はそう申し出てくれたが、猿島に触れるなんて、恥ずかしくてとてもできない。
保健室へ着いてみると、『養護教諭出張中 器具は保健委員が管理すること』という貼り紙が扉にしてある。つまり、猿島が俺の手当をしてくれるというわけだ。
「そこへ座って」
俺は言われたとおりに椅子へ腰かける。猿島は慣れた様子で棚から包帯と湿布を取り出すと、俺の靴下を脱がして右足首の手当を始めた。
「慣れてるんだな」
黙っていられなくて話しかけた。俺としては猿島を見下ろす形になるが、細いうなじが眩しくて、自分のために手当をさせることにくすぐったい気分がしてならない。
「よそ見をしているからよ」
猿島は意味のわからない言葉を返した。
「は?」
聞き返した俺に、顔を上げずに猿島がぶっきらぼうな口調で補足する。
「私の方を見ていたでしょう?」
気づかれていた。俺は頭に血が上る思いだった。
「何のことだ?」
こういうときにすっとぼけようとするのが、平均的男子の見苦しいところなのかもしれない。
「バレていないとでも思っているの?」
猿島が手を止めて、俺を見上げた。眼鏡越しに冷たい眼差しを向けられて、俺としては断罪される罪人のような気分に突き落とされた。
「ごめん」
「素直に認めればいいのよ」
猿島は俺の足に視線を落として、手当を再開する。顔が見られなくなって、ちょっと残念な気もするが、手当をしてもらわないわけにはいかない。
「……昨日のことがずっと頭から離れない」
一旦認めてしまうと、自分の気持ちを吐き出さずにはいられなかった。
「猿島のことばかり考えていた」
「私じゃなくて、私が演じた役のことでしょう?」
猿島の口調に変化はない。相変わらず淡々としている。普段のこいつには感情がないのかと思ってしまうくらいだ。
「それもひっくるめて、猿島のことが気になる」
「私の芝居を気に入ってくれたのは光栄だけど、普段の私には関心を持たないでほしいわ」
「どうして?」
「素の私のイメージが弱いほど、芝居の印象が強くなるからよ」
猿島の頭には芝居のことしかないのだろうか。
「べつに、普段の猿島と親しくなったっていいだろう? おまえだって、普通に友達だっているんじゃないのか?」
「……桃川君は私にとって観客の一人よ」
俺と親しくなる気はないということか。この言葉に俺は打ちのめされた。どうしてかわからないが、ひどくがっくりきた。
「でもさ、あんな凄いの見せられたら、猿島に興味を持たずにはいられないよ」
「……終わったわ」
猿島は立ち上がった。俺の手当が終わったという意味だ。今度は椅子に座っている俺が見下ろされる位置関係になる。
「何にしても、あんな欲望丸出しのケダモノみたいな目で女の子を見るのは感心しないわね」
返す言葉もない。耳まで赤くなっていくのが自分でもわかった。
「ごめん、本当にごめん」
謝るしかなかった。猿島の気分を害してしまって、これから二度とまともに口を利いてもらえなくなるかもしれないということが無性に怖かった。
「男の子だからしょうがないかもしれないけど、やっぱりエチケットは守ってほしいわ」
声も表情も変化はない。俺が思う以上に猿島が精神的に大人なのか、それとも本当に感情の起伏がないのか。
「言い訳かもしれないけど、俺だって誰に対してもじろじろ見つめたりはしないよ。猿島のことが気になってしょうがないんだ」
猿島は左手で眼鏡のつるの位置を直した。
「桃川君、自分が何を言っているか、わかっているの? まるっきり私を口説いているように聴こえるんだけど」
「え!?」
俺はうろたえた。そんなつもりはなかったんだが……、いや、確かにさっきからの自分の発言を振り返ってみると、確かにそう取られかねないことばかり言っていたような気がするが……。
待て待て、それより何より……、猿島は不愉快に思っているのか? それが問題だ。まるで表情が変化しないから、判断がつかない。
とりあえず、俺に邪念はないことをわかってもらわないと……。
「猿島は迷惑か?」
何を言っているんだ、俺は? これじゃあ、まるで……、本当に口説いているみたいじゃないか。
それとも、俺自身が猿島のことを好きになってしまったんだろうか? 猿島みたいな接し方をしてくる女の子は初めてだから、単に舞い上がっているだけかもしれない。
もう、何が何だかわからなくなってきた。一つはっきりしているのは、俺が今顔を真っ赤にしているということだ。
「……悪い気はしないわね」
それって、OKってことか? いやいや、待て待て。いつの間にか、俺が猿島に言い寄る構図になっているじゃないか。
「でも、学校での私にはあまり馴れ馴れしくしないでほしいわ。目立ちたくないの」
「悪かった。もう余計なことはしないから。とにかく戻ろう」
俺は左足だけでバランスをとりながら立ち上がった。一刻も早くこの場から、猿島と二人きりの空間から逃れたかった。頭が熱くなって溶解してしまいそうだ。
だが、猿島は自分から俺の右腕を担ぐようにして、肩を貸してきた。
「無理しないで。右足を安静にしないと、治るものも治らないわよ」
「ああ……」
しかたなく、俺は右半身の体重を猿島に預けるようにして歩き出した。草場先生からは、直接教室へ戻るように指示されている。
保健室を出て廊下を歩いている間、当然のことながら俺は猿島の体に触れていた。上半身だけなら、俺が猿島の方を抱いているようにも見えかねない体勢だ。
猿島の体からはコロンと汗が混じったような酸っぱい匂いがした。心臓の鼓動が倍速になるのを止められない。
教室へたどり着くと、俺は机に手をついて体を支えながら、自分の席に座った。
「もう大丈夫だよ。世話になったな」
時計を見ると、授業はまだ15分ほどある。猿島の性格からして、一応体育館へ戻るんじゃないかと思った。
だが、猿島は俺の隣の席にそのまま座った。
「戻らなくていいのか?」
「戻るわよ。でもその前に、さっきの話の続きをするわ」
何だろう? 何か期待していいのか。
「桃川君の好みのタイプって、どんなの?」
「そんなこと聞いてどうするんだ?」
「役作りの参考にするわ」
また何かデートしながら演じてくれるってわけか。それはそれで楽しみだが、やっぱり素の猿島としては接してくれないのかな。
「あのさ、どうしてそうまでして演じることにこだわるんだ? 普段の自分を見せるのがそんなに嫌か?」
「嫌よ」
猿島は即答した。
「どうして?」
「嫌なものは嫌なの」
要するに、自分で自分が好きになれないんだな。俺も自分の平均値ぶりにうんざりしているから、わからなくもない。
だけど、俺と違って猿島はかなり個性的で、他人より抜きん出た技能を持っているんだから、もっと自信を持っていいと思うんだが。
「私は、自分と違う人間になりたいから、芝居に打ち込んでいるの。桃川君が好みのタイプをリクエストしてくれたら、演じきってみせるわ」
昨日のけいちゃんみたいな女の子らしい女の子でも、もう少し大人っぽいお姉さんキャラでも、あるいはお淑やかなお嬢様でも。
それは何とも魅惑的な申し出だった。猿島一人と付き合うだけで、ちょっとしたハーレム気分が味わえるわけだ。
でも、俺はどうにもすっきりとしないものがあった。それはそれで楽しいだろうが、やっぱりもどかしい。
「あのさ、昨日俺はけいちゃんの脚に見とれていただろ?」
「ええ、そうね」
「あれは猿島の脚じゃないか。今日だってそうだった。猿島は芝居以外でも、自分自身の魅力を持っていると思う」
だから、普段の猿島と仲良くなりたい。そういう意味で言ったんだが、猿島は何を思ったか、立ち上がって右足を椅子の上に乗せた。
「そんなに私の脚が気に入ったの?」
そう言って、ハーフパンツの裾をめくって太ももを露にした。いきなりのことで、俺は息を呑んだ。
「新体操部の子の方がきれいな脚をしていると思うけど」
「猿島の脚はきれいだよ」
「触ってみる?」
返事をする暇もなく、俺は猿島に手を取られて、太ももを撫でさせられた。引き締まっているだけではなく、すべすべしていて、表面は柔らかかった。
「どう?」
こんなことしてもまるで表情に変化がないというのが信じられない。それでも俺の手は勝手に太ももの上を這い回ってしまう。
「俺は触らせてもらって嬉しいけど、いいのか?」
俺の指が内股に触れた瞬間、猿島が体をびくりと震わせた。
「ごめん!」
俺が慌てて手を引っ込めるのと同時に、猿島は椅子から右足を下ろす。裾が落ちて、太ももが見えなくなった。
「……今日はここまでよ」
猿島の息が少し乱れている。目元もほんのりと赤い。
「次もあると期待していいのか?」
我ながら余計な一言だったと、口に出した直後から後悔した。猿島は「どうかしらね」と呟きながら眼鏡を直した。
そのまま何も言わずに教室を出て行った。授業へ戻ったんだろう。
調子に乗ってやり過ぎたか。気分を害してしまったのか。俺は気持ちが沈んだ。
チャイムが鳴ったのは、それから1分とたたないうちだった。
その日はそれからずっと、猿島は俺が声をかけてもそっぽを向くだけで、応対してくれなかった。
俺に顔を向けていなくても、耳が赤くなっているのが見て取れたが、怒っているのか照れているのかまるでわからない。それでますます不安がかきたてられる。
唯一救いになったのは、陸上部員が公休ということで司が昼休みに現れず、久しぶりにゆっくりと昼食を取れたことだ。
249 :
namaco:2009/01/26(月) 00:09:50 ID:adaHZjGU
投下終了です。次回で少し話が動きます。
何故かトリップが外れたので変更します。
>>249 GJ!
押しではなく自発的によってくるように誘い込む・・・!
猿島さんマジパネェッス!
>>249GJ!
弟くんの思春期特有の青臭さと迂闊さに「青春」を感じました。その描写、Yesだねッ!
>>249 gj!
今のところ本気で太郎ちゃんを落とそうとしてるのは猿島だけとお見受けした
猿は前世のこと後悔してんのかね?
とりあえず雉は悪い事をしたぐらいの認識はあるみたいだが
しかし姉のターンが怖い、このまま猿ルートで前世なにそれ美味しいのなハッピーエンド
てな訳にはいかんだろうし
>>249 GJ!!お疲れ様です。前話に引き続き、猿島のターンでしたね。意外と積極的なタイプのようですね。
それにしても、照れて(?)赤くなっている猿島かわいい。
リアルタイムGJ!
それにしても雉が空気すぐる
雉分がたりない・・・
GJ!
だが俺は犬っ娘派
キモ姉「私の戦闘力は53万です」
>>249 GJ!
今後の姉が夜叉猿の首を持って刃牙の前に現れた、
範間勇次郎とだぶってみえる。
おそらく前世で村人に鬼の事をチクったのは猿なんじゃね?
雉は黙認してたから罪の意識はある。犬は全く関与してなかった。
だから猿島は前世みたいにならぬように序盤から本気だとか?
まあ、何が言いたいかと言うと
>>249GJ!
投下します。
「冬馬くんが壊れたって……葉月ちゃん、あなた一体、何を言っているの?」
携帯電話を片手に弥生は困惑していた。
電話越しに泣きじゃくる妹の声はまるで聞き取ることが出来ず、何を言っているのか、どういう事態が起こったのか、サッパリ要領を得ない。
正直な話、弥生は、ここまで取り乱した葉月の声を初めて聞いたと言ってよかった。
兄との“初体験”をしくじったというだけで、ここまで恐慌状態になる葉月ではない。
あの、常に沈着冷静な――というより、およそ物に動じるという神経をどこかに置き忘れて生まれてきたような怜悧な妹が、ここまで平静さを失うなど、よほどの緊急事態が発生したと考えねばならない。
「いいから葉月……葉月ちゃん……分かったから……お ち つ き な さ い!!!」
その声は、いま弥生が立っている女性用トイレに響き渡った。
無論、ただの大声ではない。
聞く者を制するに足る鋭い意思を込められた声だ。
かつての生徒会時代。誰もがより多くの部費を求めて紛糾する予算委員会で、汗臭いラグビー部の男子生徒や、パンクファッション的厚化粧に身を包んだ軽音楽部の女子生徒を、たちまちの内に黙らせたという、鉄鞭のごとき一喝。
さすがの葉月も一瞬パニックを忘れ、息を飲まざるを得ない。
「いまからすぐに帰ります。話の詳細は家で改めて聞くから、とりあえず泣きやむこと。――いい?」
鼻をすすりながら「はい……」と呟く葉月の返事を確認すると、素早く電話を切る。だが携帯を握った手は下ろさない。ボタンを操作して、自室のパソコンと接続し、監視映像を画面に呼び出す。
葉月からのメールで弥生は、彼女が風呂場で冬馬と何をするつもりだったか、一応のことは知っていた。
液晶ディスプレイに展開するバスルームの生映像。そこには今、誰もいない。
ならば回線を切り替えてみる。
リビング……やはりいない。
葉月の部屋……そこも無人だ。
冬馬の部屋……ここも違う。
弥生の部屋……いるわけもない。
そして、両親の寝室で、ダブルベッドに横たわった弟の姿をようやく発見し、弥生は肩の荷を下ろしたようにホッと一息ついた。
なるほど、確かに浴室で冬馬が倒れたのなら、担ぎ込むのに一番近い空間は、リビングの隣にある両親の部屋だ。葉月の体格と体力では、二階に並ぶ三つの子供部屋に高校生男子を運搬することなど出来るはずがない。
電話では狼狽しまくっているように聞こえたが、それでも、やるべき事をキチンと済ませてから連絡を入れた事からしても、葉月は最低限の理性をギリギリ保持していたようだ。
そしていま、リアルタイムの監視映像によると、妹の姿は、穏やかに寝息を立てる冬馬の傍らにある。
携帯の液晶画面では解像度が荒すぎてよく分からないが、葉月の様子からして、確かに今しがたまで泣き喚いていたのは事実のようだった。
とりあえず冬馬が無事なのは分かったが、逆に言えば、分かったのはそれだけだ。
弥生は、ふたたびバスルームの映像を呼び出す。だが今度はリアルタイムではなく録画分だ。その映像を数分前まで巻き戻す。
――そして、弥生は知った。
「…………なに……これ……!?」
何を言っているのか全く解読不可能だった、葉月の『冬馬が壊れた』という言葉が、実に的確かつ正確な状況報告であったことを。
「急用!! 緊急!!」
それだけ言い放ち、トイレから長瀬の待つ個室に戻るや、上着とカバンを引っ掴み、テーブルの上に千円札を二枚叩きつけ、弥生は足早に外に出た。
呆気に取られる長瀬にかける言葉は何もなかった。
申し訳ないと思わぬでもないが、詫びも説明も、すべては後回しだ。弥生にとって、冬馬と葉月以上に優先すべき事など、この地球には存在しないのだから。
そもそも弟が妹と近親相姦未遂の挙げ句、幼児退行を起こしましたなどと、言えるわけもない。
そして、自転車のペダルを満身の力で漕ぎつつ、家路を急ぐ弥生の心に、もはや長瀬のことなどいささかも存在していなかった。弥生はいま、怒りと後悔で一杯だったのだ。
無論、怒りの対象は他の誰でもない。自分自身だ。
(何故この事態を予想しなかったんだろう……私ともあろう者が……!?)
知っていたはずだった。
理解していたはずだった。
冬馬がセックスに対し多大なトラウマを抱えている可能性があることを。
そんな彼に対し、まともに色仕掛けを振ることがいかに危険な行為であるかを。
だが、弥生は安心してしまった。
弟に於けるトラウマの顕現が、勃起不全だと聞いて、油断してしまった。
素直に考えるなら、心的外傷がインポテンツという形をとって表層化している以上、この場合、冬馬のトラウマが肉体に与えた最大の問題は、単なる男根の機能障害ではなく、もっと精神的な――性欲そのものに対する減退と解釈するべきだ。
そして、いかに葉月がクールな相貌をたたえた美少女だとしても、13歳の“おんな”とも呼べぬボディを前にして、冬馬の不能が反応するとは弥生には思えなかった。弥生ならともかく、葉月の肉体ごときに心因性の性欲減退に影響を与えるだけの魅力があるはずがない。
つまり、異性の裸身を前にしても、精神が興奮を感じられないという現実こそが、冬馬が治療すべき真の病根であり、インポテンツなどそれら精神疾患の一症状でしかないのだ。
逆に言えば、冬馬の精神が『女体に反応できない自分自身』に耐えられなくなるほどの性的魅力を所有した女体を前にしなければ、彼の心的外傷が全面的に疼くことはないだろう。
それと、もう一つ。
芹沢事件の顧客どもは、みな普通のプレイに飽きた政財界の男女が主だったと聞く。ならば彼らの平均年齢は、普通に考えても中年・熟年・初老といったところだろう。
つまり、どこからどう見ても第二次性徴前のオンナノコでしかない葉月の肢体が、芹沢家時代の忌まわしい記憶を冬馬に回帰させるキッカケ足り得るかどうかは、疑問だと言わざるを得ない……。
今から考えれば迂闊もいいところだ。
人のトラウマが何に反応するかなど、心理学者でも精神分析医でもカウンセラーでもない弥生に、予測できるはずがない。――というのは言い訳だ。
予想できなかったはずがない。たとえば幼児期に監禁されたトラウマを持つ者が、閉所や暗闇や孤独に恐怖を抱かないはずがないのだ。ならば――、
『セックスに関するトラウマを彼が抱えているらしい』
何も詳細は必要ない。
この一文で、彼に対する許されざる行為全般は、すべて説明がつくではないか。
13歳の未成熟な女体が相手とはいえ、裸形の愛撫がセックスを喚起させないはずがない。
だが弥生は、そうは考えなかった自分自身に殺意に近い怒りを抱く。
不能という彼の現在を小賢しく考察した挙げ句、弟が幼児退行するほどの事態をむざむざ座視してしまうなど、あっていいことではない。
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
そう考える弥生を、身の毛もよだつほどの戦慄が包んだ。
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
「……答えなんか……出るわけないじゃない……!!」
誰に言うでもなく呟いた弥生は、ペダルを漕ぐ足に更に力を込めた。
//////////////////////
「どうしました、ごしゅじんさま? ぼくがごほうしするのはおいやですか?」
にじり寄る兄の手を反射的に振り払った葉月に、彼はあどけない表情で尋ねた。
いや、ただあどけないだけではない。
よく見れば、その目には精一杯の媚態と、それ以上の怯えが入り混じっている。
「もしぼくが、ごしゅじんさまのおきにさわるようなことをしてしまったのなら、えんりょなくばつをおあたえください。いかなるおしおきでもかまいません。――ですから」
「ですから……?」
おそるおそる葉月が冬馬の言葉に合いの手を入れる。
「このおすいぬのそそうを……おとうさまとおかあさまにほうこくなさるのだけは……どうか、ごかんべんください……おねがいします……!!」
そう言って、浴室の床に額をこすりつける冬馬の表情は、葉月には見えない。だが、小刻みに震えるその肩が、言葉以上の雄弁さで、彼の心理を説明していた。
――なるほど……。
葉月は、事態の超展開に愕然としながらも納得せずにはいられない。
顧客を不快にさせた。
そこにいかなる理由があろうとも、この私娼窟を取り仕切る芹沢夫妻が、彼ら“養子”という名の商売道具たちに折檻を与える名分としては、その事実だけで充分なのだろう。
当時の恐怖を、かつて現役の“養子”だった冬馬が忘れるはずがない。おそらく骨の髄にまで、客の機嫌を損ねることへの怖れを刻み込まれているはずだ。
「兄さん、顔を上げてください。お願いですから」
「いいえ、いいえ、ごしゅじんさまがぼくをおゆるしくださるまでは」
「許します! 許しますから! だからもう――」
「ほんとうですかっっ!?」
そう言って顔を上げた冬馬の貌は、まさしく一片の曇りさえない歓喜に満ち溢れたものだった。その、あまりにあけっぴろげな笑顔に、思わず葉月は、圧倒されたように息を飲む。そして、妹が仰け反った分、兄はずいっとにじり寄り、距離を詰めた。
「――では、おゆるしいただいたおれいに、せいいっぱいごほうしさせていただきます」
悲鳴を上げる暇さえなかった。
バスチェアに乗った葉月のほっそりとした腰。そこから伸びる両脚を掴み、広げ、股間に優しいキスをする。その間一呼吸とかかってはいない。そして、クリトリスへのキスの感触が消えぬ内に、葉月の神経を更なる高圧電流が走る。
「――かはっっっっ!!?」
一瞬だった。
まさしく一瞬の内に、すさまじい快感が葉月の局所を中心に全身に発信されたのだ。
葉月はまだ13歳だ。その肉体は前述の通り、お世辞にも豊満とは言いがたい。
しかし、知識はある。
思春期真っ盛りの少女としては恋愛と同様に性愛にも興味を持つのは当然の事だ。そういう意味では、いかに天才を謳われようが、しょせん葉月も年頃のオンナノコとしての範疇をはみ出す存在ではない。
オナニーの経験も少なからずある。
連日連夜というほどの頻度ではないし、感じるエクスタシーもお粗末なものだが、別にその事実に絶望する気は葉月にはない。女体としての自分の完成度を誇るには、まだまだ時期尚早だということを葉月は知っていたからだ。
だが――違う。
この心地良さはまさに、想像を絶するものだった。
冬馬が――かつてセックスのプロとしての生活を余儀なくされてきた彼から与えられる快感は、これまで葉月なりに知っていたつもりの常識をあっさり覆すものだった。
「ッッッッッッッッ!!??」
何も考えられなかった。
肺の中の酸素は残らず消費され、排出されるCO2の量は一瞬にして数倍以上になった。だが息を吸い込もうにも、身体がそれを許可しない。圧倒的過ぎるクンニリングスの快感を前に、彼女の理性は消滅し、呼吸器は排気以外の行動をまるで許さない。
あと数分、この舌技の前に身を晒せば、葉月は間違いなく失神していただろう。未熟な女体に与えられた過度の快感と、その喘ぎと悶えがもたらす呼吸困難によって。
だが、性に不慣れな彼女の肉体は、凄絶なまでの刺激を前に、おとなしくそれを甘受するという選択をさせなかった。この現状に一分の抵抗を示す意思が、まだ彼女には残っていたからだ。
弥生による説得という過程を踏んではいるが、すでに葉月は自分が冬馬に抱く感情が、愛情であったことを歴然と意識している。かつては必死になって否定したものだが、いまでは、以前の自分の愚直さに苦笑することさえ出来るだろう。
眼前の男は、そんな葉月が慕ってやまぬ意中の想い人である。
しかも、そのテクニックはあまりに圧倒的だ。
その彼が、跪くように自らの不浄の器官に奉仕する姿に、喜びを覚えぬわけがない。
――とは、葉月は考えなかった。
いまの冬馬は、葉月が愛した兄ではない。
いまの冬馬の愛撫は、葉月を愛するがためのものではないのだ。
何故なら、ここにいる兄の魂は、柊木家で自分たちと出会う以前の――数年前に彼と千夏がいた頃の芹沢家に回帰してしまっているのだから。
『ごしゅじんさま』と呼ばれ、奉仕を受ける自分は、いまの冬馬にとって金を払って服従を請求するかりそめの主――名もなき顧客の一人に過ぎない。
その事実は、葉月にとっては死に等しいほどの孤独だったのだ。
しかし、嫌悪感と寂寥感に苛まれながらも、葉月の抵抗はまるで儚い。目的のための合理的な動作を意図して足掻くには、冬馬の舌が与える快楽は、あまりにも圧倒的過ぎた。
暴風雨のような快楽の海を漂う一枚の木の葉と化した葉月の全身。
だが、波にもまれ、押し流され、声を上げることはおろか呼吸さえままならない彼女が取れる抵抗は、せめて意図せぬままに四肢を動かし、じたばたと暴れることしかなかった。
そして、肉体が限界を迎えようとしたまさにその瞬間、いまだ動きを止められない右膝が、冬馬の肩を打った。いや、攻撃はそれで終わらない。やもりのようにピタリと張り付いていた葉月の股間から、たまらず離れた冬馬のこめかみを、彼女の左膝が正確に捉えた。
そのまま壁に激突する兄の側頭部が立てた音は、予想以上に大きく浴室に響き渡り、冬馬は苦痛に顔を歪めることさえなく、その場に崩れ落ちた。
葉月が荒れ狂う鼓動と混濁した意識を抑え、何とか我に返ったのは、さらにそれから数分が経過してからだ。
「……あの……にいさん……?」
そして冬馬は、
そのまま眠るように意識を失い、
目を覚まさなかった。
冬馬の寝顔は、いつもと変わらない。
葉月は、布団に覆われた彼の下半身に目をやってみる。
意識を失ってなお硬度を保っているペニスは、ベッドの上に小さなテントを形作っていた。
もし、あのまま冬馬の為すがままに快感に身を任せていたなら、おそらく今頃、自分は処女ではなかっただろう。
だが、それは――それだけはいやだった。
求めてやまぬ兄の愛撫といえど、男娼としての冬馬に、単なる客の一人として身体を触れられることなど、葉月にとって到底ガマンできることではなかった。
『ごしゅじんさま』ではない。
家族として、妹として、そして女として、せめて葉月が何者であるかも認識していない今の冬馬にだけは、抱かれたくなかった。それは葉月の心の奥底にあった、女としての最後のプライドだった。
(恥かしげもなくよく言うわ、まったく……)
ここへ来てなお、矜持を振りかざすワガママっぷりには、我ながら嘲笑するしかない。
冬馬を壊したのは、他ならぬ自分なのだ。
もう涙も出ない。
まったく要領を得ない説明ではあったが、一応、姉に連絡は入れた。
まもなく戻ってきてくれるだろう。
だが、両親が帰ってきたら、なんと報告したらいいのか、もはや葉月には分からない。
いや、――そんなことはもはや、どうでもいい。
(わたしのワガママが……兄さんを壊してしまった……わたしが……兄さんを……)
もしも今、冬馬が意識を回復させ、何事もなかったように笑うためには葉月の命が必要だと言われれば、おそらく彼女は躊躇なく死を選ぶだろう。だが、そんな都合のいい話は存在しない。人間一人の命ごときで、過ぎ去った時間を巻き戻すことは出来ないのだから。
柱に掛かった時計を見る。
まもなく時刻は午後九時を回ろうかというところだ。
葉月は服の袖で涙を拭った。
罪悪感に打ちひしがれるのは簡単だ。今この場に於ける最も手軽な時間潰しだと言える。
だが、そうではない。
兄が愛してくれた柊木葉月は、そんなブザマな暇人ではないはずだ。
冬馬のために、いま一番やらねばならないことは何だ? いまのうちにやっておける事はあるか?
(……ある)
それは考えることだ。
彼の意識が数年前まで退行を起こしたのは何故か? それを考察し、せめて姉が帰宅したときには、全てを説明できるようにしておく必要がある。なにしろ葉月は当事者なのだ。
何が起こったのか、どういう過程で兄が自壊を起こしたのか知っているのは、葉月しかいないのだから。
葉月は、こんこんと眠りつづける兄の額にそっとキスをすると、そのまま立ち上がり、彼の携帯を手にとった。そしてアドレス帳を開き、その名を捜す。
――景浦千夏という名を。
「じゃあ、異変が起こったのは、冬馬くんのお尻に指を突っ込んだ時なのね?」
「はい」
「他には?」
「兄さんに……言葉責め?……をしていました」
「具体的には?」
「気持ちよければ、素直に気持ちいいと言えと強要しました」
「…………」
弥生が帰宅したとき、葉月はすでに冷静だった。
そこに悪意がないのは分かる。
だが、まるで台詞を言うように淡々と状況を語る妹に、さすがの弥生も険しい目をせずにはいられない。
だが、葉月はそんな姉を前にしてもなお、顔色を変えることはなかった。パニックになって電話をしてきたのは、本当に妹だったのだろうかと疑わせるほどに、葉月は平静さを保持している。それはもう、落ち着きなさいと怒鳴りつけたはずの弥生が、気分を害するほどに。
「兄さんが芹沢家で、女性だけではなく男性の相手も勤めていた事実は、姉さんが帰宅する前に、景浦千夏さんに連絡を取って確認を取りました。おそらくは、わたしの行為によって、その瞬間の記憶が回帰し、兄さんの意識を当時に退行させたのでしょう」
その一言に、弥生は思わず息を飲んだ。
「確認って……千夏に話したの……今夜の出来事をッッッ!?」
だが、葉月の表情は変わらない。
「すべてを話したわけではありません。現在の兄さんの症状を告げ、対策を訊いただけです。何といっても、兄さんの過去を実際に御存知なのは、あの方だけですから」
それは分かる。
確かに冬馬の精神が芹沢家時代に退行してしまった以上、その当時を知る人物のサジェスチョンは絶対に不可欠だ。だが弥生としては、この件に自分たち姉妹以外の人間が絡むことは最大限回避したかった。それが姉妹の両親であってもだ。
そして何より、冬馬がこうなった過程をすべて聞いた上で、千夏という少女が黙ってこちらに協力するとは、弥生にはとても思えなかった。
なにしろ現在、戸籍的にも冬馬と葉月は実の兄妹ということになっている。そんな二人が浴室でしようとしていた行為は、世間的には充分にタブーの範囲内だし、感情的にも千夏が、その情報を心穏やかに聞いたとは考えにくい。
かつて千夏からサシで話を聞いた経験を持つ弥生には、それが分かる。
千夏が冬馬の話をするときに浮かべた瞳は、とてもではないが、彼女を弟に近寄らせるのは危険だと弥生が判断せざるを得ない輝きを宿していたのだから。
だが葉月は、そんな弥生の思考を先読みしたかのように話を進めた。
「大丈夫です。すべてを話したわけではないと言ったでしょう? わたしは今朝、兄さんがいきなり幼児退行を起こしたと言っただけです」
(今朝いきなりって……いくら何でも、そんなムチャクチャな話が通じるわけがない)
――とは、弥生は思わなかった。
確かに、冬馬はいつPTSDの症状が発症してもおかしくないほどのトラウマを抱えているからだ。何故そうなったのかのプロセスなど理解できないと言った方が、むしろ話に信憑性が出るかもしれない。
「で、千夏は何て言ったの?」
「千夏さんは、とりあえず兄さんが目覚めてもまだ、精神退行を続けたままだったなら、むしろ自分の出る幕はないと仰っていました。つまり兄さんの記憶と意識の整合性を元に戻したいなら、柊木家に引き取られて以降の兄さんの記憶を喚起させるしかない、と」
「それが道理……よね」
弥生としては頷かざるを得ない。
千夏の記憶さえも冬馬にとって芹沢家を連想させる可能性は充分にある。
ならばここで必要とされるものは、あくまで彼が、芹沢家と縁を切って以降の記憶だ。
しかし、問題はまだ残っている。というか、そもそも、この問題を無視して情況は何も先に進めない。
すなわち――
「冬馬くんは、本当に目覚めるの? いつまでもこの昏睡状態が続くようなら、どうすればいいの?」
だが、その問いかけにも、葉月の視線はまるで揺るがなかった。
「兄さんがこのまま眠り続けるということはない。――そう千夏さんは言ってくれました」
「その根拠は?」
「兄さんは、警察に保護されてからも、食欲減退や悪夢に悩まされたりすることもなかった、極めて強靭な精神の所有者であり、何が原因で退行を起こしたかは分からないが、このまま安眠に逃避することを選ぶような細い神経は持っていないと、彼女は太鼓判を押してくれました」
「それを信じろって言うの?」
あまりに脳天気な言い草に、弥生の拳がさらに固く握り締められる。
そもそも冬馬が本当に悪夢や不眠症、食欲減退といった心因性の諸症状に悩まされていなかったと、なぜ千夏が保証できる? 彼は密かに苦しみ、それでも苦しんでいる自分を見せなかっただけかも知れないではないか。
冬馬が、弱音や弱味を他人に気安く見せない人間であることを、千夏が知らないはずがない。なのに、何故そんな気休めのような言葉を吐くのだ?
「信じるしか……ないじゃないですか……ッッッ」
その瞬間、初めて葉月の顔を覆う、理性の仮面が剥がれ落ちた。
「葉月ちゃん……」
カタカタと振るえる小さな肩を両手で抑え、潤んだ瞳から雫がこぼれ落ちるのを懸命にこらえながら、兄を見つめ続ける13歳の少女は、計り知れぬほどの後悔や罪悪感と戦いながら、なおも気丈に振舞いつづけていたのだ。
弥生はとっさに、そんな葉月を思いっきり抱き締めずにはいられなかった。
そう、信じるしかない。それ以外の選択肢はない。
千夏の言葉も実際のところ、その事実に基づいた気休めだ。
結局、冬馬の精神力にすがりつく以外に、自分たちにできることなどないのだ。
「……ねえ……さん……わたし……」
「黙って」
「……ごめん……なさい……ッッッ!!」
「何も言わなくていいの。何も謝る必要なんてないの。あなたからメールを貰ってすぐに帰らなかった私だって同罪なんだから」
「ごしゅじんさま、どうざいとはなんのことですか?」
そこには、子供のような顔をして、罪のない瞳を二人に向ける冬馬がいた。
「……兄さん……ッッッ」
「冬馬くん……あなた……!?」
姉妹は絶句していた。
このまま起きないのではないかと危惧した冬馬が目覚めた。
――それはいい。
だが、一眠りすれば元に戻る。そんな儚い希望を姉妹が抱かなかったわけではない。
分かっている。現実は、特撮ヒーローものの洗脳とは違うのだ。怪人が死んだからといって、悪の組織に操られていた人々が、そうそう都合よく正気に返ったりはしない。
だが、それでもなお一縷の望みを、二人は抱かずにいられなかったのだ。
そして、その希望はいま、明確な形で姿を消した……。
「ごしゅじんさま、きゅうそくをとらせていただいてありがとうございました。このおれいに、いっそうのごほうしをさせていただきます」
目を輝かせて葉月に向き直る冬馬。
そんな兄から引きつった表情で仰け反る葉月。
だが、弥生は目を逸らさなかった。
「――待ちなさい」
声を掛けられ、ぽかんとした顔を弥生に向けた冬馬だが、ややあって、屈託のない笑顔を彼女にも見せた。
「ああ、こっちにもあたらしいごしゅじんさまがいらっしゃったんですね。では、どちらのごしゅじんさまをさきにおあいていたしましょうか。なんなら、おふたりどうじでも、ぼくはかまいませんよ?」
一瞬、傷ましいものを見る顔になった弥生だが、次の瞬間、彼女は反射的に息を飲んだ。
上体を起こすのと同時に、冬馬の下半身を覆っていた布団がはらりとめくれ上がり、そこにあったもの――石のような硬度と蛇のようなサイズを誇る“それ”を、まじまじと見てしまったからだ。
(こっ、これが……冬馬くんの……っっ!?)
だが、今は完全体となった弟のペニスに眼を奪われている場合ではない。
この、見るも無残な想い人を、ふたたび毅然とした柊木冬馬に戻さねばならないのだ。
「冬馬くん、頭を打った場所は大丈夫? 頭痛がしたり吐き気を感じたりはしない?」
その言葉に、冬馬の瞳がまたも戸惑いの色を浮かべた。
無理もない。彼を有料の性欲処理具として扱っていた者たちは、決してこういう気遣いを冬馬に見せなかったはずだからだ。
だが、ならばなおさら付け入る隙はある。弥生はそう判断せざるを得ない。
「私が――この御主人様がコーヒーを振舞ってあげる。プレイはそれからでも遅くはないでしょう?」
//////////////////////////
ケトルが低い音を立て始めた。
そろそろ湯が沸いた。
弥生は三個並んだマグカップにインスタントコーヒーを入れ、その上からクリープ、そして角砂糖を放り込む。弟のカップには一つ。妹は二つ。そして自分のコーヒーには三つ。その上から熱湯を注ぎ込んだ。
そして、最後に白い錠剤を取り出すと、冬馬のカップにだけ、それを数錠落とした。
――それは、かつて彼女が七万円で購入した洗脳用の導入剤であった。
これは賭けだった。
コーヒーを入れてくると言って、キッチンへ行こうとする弥生を、葉月は、姉が何を言っているのか分からないという顔をして見送っていたが、当事者たる冬馬の意識が目覚めてしまった以上、説明をしている暇もない。
弥生には確信があったのだ。
冬馬の精神状態を、芹沢家から現在に回帰させるためには、もはやこの薬を使用するしかないと。
かつて弥生は、通販でこっそり買ったこの薬物を使って、冬馬に自分への愛情を人為的に植え付けようとしたことがある。
結果から言えば、その目的は失敗した。
薬を一服盛られた翌日からも、冬馬が弥生に対して何ら態度を変えることはなかったからだ。だが、それは、この薬が単なる失敗商品だったことを意味するのかと言えば、それは違う。
その場に於いては、弟は姉のマインドコントロールの通り命令に従い、彼女の股間に舌で奉仕させることに成功していたからだ。
いま考えれば、その時点で弟が精神退行を起こしても仕方ない程の、危険極まりない行為だったと弥生は慄然とするが、しかしその事実は、このドラッグがただのボッタクリでなかった事を歴然と証明している。
千夏も言っていたではないか。冬馬を回復させるためには、むしろ柊木家の記憶を喚起させよと。
――つまり、弥生には成算があった。
「ねえ冬馬くん、コーヒーのお味はどう?」
「……はい……とても……おいしいです……」
冬馬は明らかに眠気をこらえている。
大したものだ。もう効き始めた。
(さすがにマニュアルの倍以上の量を投与したら、こうなるか)
あまりにあからさまな兄の異変に、不審げな表情を見せる葉月を放置して、弥生はほくそ笑んだ。
以前、この薬を使った時は、効果が現れるまで20分近くかかったが、いまはもう、二口三口カップに口をつけただけで、冬馬が舟を漕ぎ始めたのだ。
だが、安心するのはまだ早い。
むしろ本番はこれからなのだから。
「冬馬くん、私の声が聞こえたら、はいと返事してください」
「……はい」
「いま、あなたはどこにいるの?」
「……おうちです……」
「おうち?」
「……ぼくの……せりざわとうまの……うちです」
「そう。で、冬馬くんは今、お幾つになったのかな?」
「……ことしのたんじょうびで……きゅうさいになりました……」
「姉さん、これは?」
さすがに葉月ももう黙ってはいられなくなったのだろう。
だが、それを説明する時間は弥生にはない。
冬馬の意識は、薬の効果のおかげで半ばトランス状態にあるとはいえ、完全な忘我の境地に在るわけではない。余計な会話を挟めば、それは当然彼の耳に入り、冬馬の催眠を妨げる雑音と化してしまう。
弥生は妹に目で合図する。
詳細は後で説明してあげるから、とりあえず今は静かにしなさいと。
「では冬馬くん、私が手を一つ叩けば、あなたは一つ歳を取ります。いいわね?」
ぱん。
ぱん。
ぱん。
「さて冬馬くん、あなたはいま何歳になったの?」
「……12歳……です」
「で、いまどこにいるの?」
「……せいわえんとかいう……孤児院、です……」
(孤児院?)
弥生はその言葉に疑問に持ったが、しかし即座にその問いは氷解した。
今から4年前、当時12歳だった彼らは、芹沢孝之夫妻の逮捕によってようやく解放され、育児施設に保護されていたはずだ。その一年後に柊木家の両親が彼を“発見”するまでは。
納得した弥生はふたたび手を打った。
「また一年経ったわ。ここはどこかしら?」
「……ここは」
「ここは?」
「ここは……柊木という家です……おれの三度目の里親の……」
冬馬の言葉遣いが変わった。
心なしか表情も先程より大人びている気がする。
(うまく行ってる。ここまでは)
弥生は合格発表を見るような心持ちで、いよいよ最後の指示を弟に出した。
「さて冬馬くん、あなたはこれから、あと二年歳を取るわ。そして顔を上げて私を見た瞬間、すべてを思い出すの。いい、わかった?」
ぱん。
ぱん。
弥生は息を飲んだ。
葉月も固唾を飲んだ。
そして、冬馬がゆっくり顔を上げた。その瞳に年齢相応の知性の輝きが戻る。
「……あれ、姉さん?」
その瞬間、弥生と葉月は、弾かれたように冬馬に抱きついていた。
無論、下心の為せる業ではない。
歓喜と安堵が、二人に取らせた行動であった。
柊木冬馬は、こうして帰還した。
今回はここまでです。
otsu
乙!!!!!!
よかったぁぁぁ。
冬馬がもどってきてほんとよかったぁぁぁ つд;
冬馬復活ッッッ!!冬馬復活ッッッ!!
さすがキモ姉&キモウト…格が違った!
GJ!!!
チンコは復活しないけどな!
GJ!
某カルタグラのキモウトよろしく
「じゃあ今度はボクが犬として飼ってあげるよ。
ほら、ワンって鳴いてみなよ。ワンワンワンって、げははははっ!」
みたいにくるかと思ったら意外と常識的だったw
>>270 GJ!
緊急事態なのにちゃっかりいちもつチェックを忘れない弥生姉さんすげえ!
>>270乙&GJ!!
第1話で出た薬が伏線になっているとは思わなかったわ。
そして冬馬還ってこれてマジ良かったわぁ…
280 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/28(水) 15:44:48 ID:bJbM2aEm
◎キモウト&妹嫌いな兄
○キモウト&普通の兄
△キモウト&シスコン兄
×キモウト&キモ兄
要求の仕方が斬新だね
すいません。以前長いものを投下した者ですが、
15レス以上だと避難所か他のスレを探した方がいいでしょうか?
すいません。トリを外し忘れてました。
別に問題はないと思いますが
その酉番・・・
フラクタル・・・がくる・・・?
是非投下を
>>282 残レス数も容量も問題なさげだし、おいでませ。
出来れば最初に「およそ何レス使用」と書いてくださると
ニアミス防止になって良いかと。
答えてくれた方ありがとうございます。
では投下します。おそらく17レス。微エロです。
七月の太陽は、気性の荒い女のようだ。家への帰り道、俊介はそんなことを思っていた。ヒステリーを起こし、誰が悪いのかもわからず、ただ当たり散らす。
実際に目にしたことはないが、見ればきっと、この熱気さながらだと思うに違いない。
背中には家から出てコンビニに行っただけだというのに汗。シャツが肌に張り付く感じが嫌で仕方なかった。
家が見えたとき、丁度、門が開いた。
視線をそのままにしていると、舞が耳の横の髪を正しながら出てきた。
動きやすさを重視したのか男物のワイシャツと下は綿のジャージという室内着。手にはいくつかの雑誌を白いビニールテープで縛って持っていた。
「今日って古紙回収の日だったか」
「ああ、お兄ちゃん。一か月に一回だから、この日にちゃんと出しとかない面倒なのよ」
ふっ、と息をついて雑誌の束を地面に置く舞。
「ちょっと疲れたわ」
家の中も掃除していたのだとすぐにわかった。夏の日差しの下、薄らと汗が滲んでいる。
雑誌の束をその場に置くと、まだあるからと言って家に引っ込むと、もうひと束持ってきた。
それを見て、あっ、と俊介は驚く。
「さて、と」
が、舞はそのことには気づかなかったのか、ゴミ置き場へと向かった。
「俺が持つよ」
そう言う俊介を嫌うように、舞はずんずん歩く。
「すぐそこよ。別にいいわ」
「まあまあ」
そして、半ば強引に舞の手から雑誌を奪った。両手分ということもあり、手には赤く跡ができていた。俊介の手にずしりとした重さが加わった。
舞は俊介の慌てぶりを見て、じろりと睨む。
やがて、よいしょ、という掛け声とともに奪われた雑誌を上から踏みつけた。
「じゃあそれ、お願い。私まだすることがあるから」
そう言うと舞は振り向きざまに俊介をじろりと諫め、家に入っていった。
「……これ、昨日買ったばっかりなんだぞ」
俊介は一人になると、肩を落としながら本の束を見る。
一番上には、お姉さん特集、というタイトルの表紙。
胸元を強調するためか布の面積が極端に小さな水着に身を包んだ女がアップで写り、周りに卑猥な文字が羅列していた。ポルノ雑誌だった。
わざわざ表紙を見せて積まれているせいで、上から見ると本の束まるまるアダルト関係の本だと誤解してしまいそうなのは、もちろん舞の謀略だろう。
「抜き出しても、また見つけられそうだしなぁ」。
口から大きな溜息がでた。
「もう何回目だっけ……天井裏の物まで見つけるなよ……」
もう諦めたのか、俊介は家と束を見比べた後、仕方ないと呟いてごみの収集されるところまで持って行き、家に戻った。
俊介がパタンとベッドに倒れこむ。布団からは温かみが暑さへと変化し、干していたようだ。
思いいたって携帯を開いてメールを送った。
内容もたいしたものではない。今大学ですか? それだけだった。
十数秒でバイブレーターが部屋に響く。
休日なのに大学があるわけないよ。今は家でだらだらテレビを見てる。返事を見て、苦笑する。
返信しようと思った途端、またメールが来た。
差出人は同じ人物だ。
「――――」
それを読む。
俊介は起き上がって、自分の頭ぽかりと殴った。すぐさま机に移動してから小枝子にメールを送った。
しばらくやりとりをこなすと小枝子からメールが来なくなったので、忙しくなったのだろうと思ってそろそろ自分も何かしようと、自室を出る。
気がつくと空は薄い青色の帳が扇の形をして広がってあった。部屋に差し込んでくる太陽の温度は、昼と比べると色の濃度に反比例している。
俊介は考え、今日の夕食は自分が作ることにしようと、舞の部屋に行った。
「ちょっといいか」
扉をノック。中から話声がちくちくとしていた。
誰かが来客した気配は感じなかったので、おそらく携帯で誰かと通話しているのだろう。
「悪い、話し中だったんだな」
案の定、開けられた扉からは舞が携帯を手にしている姿があった。
「何?」
「話し中ならいいんだ。大したことじゃないから」
「いいから。何の用?」
「あー……今日の夕飯、俺が作ろうと思うんだけど」
「……どうして?」
「いや、いつも作ってもらってばっかりで悪いな、と」
俊介がそういうと、舞はわざとらしく目を細めた。
じろりと首まで伸ばして顔を見てくる。
「ふーん」
「たまにはいいじゃないか」
「私はいいけどね。でも、だめだからね」
「何が?」
「ま、いいわ。で? それだけ?」
「あ、ああ」
話が終わると、舞は唇の端を僅かにあげて扉を閉める。中からまた話声が始まった。
俊介はここにいては会話を訊くことになってしまうので、言った手前さっさと食事の用意をしようとキッチンに向かった。
五時。梶原の家では大体七時から八時が夕食なので多少早い時間に準備することになるが、料理をやり慣れていない俊介にはいい余分だ。
凝ったものにして驚かせてやろうと考えながら、場を離れた。
「あれ」
しかしそこで、妙なことに気づいた。
「あいつ、誰と電話してるんだろう」
舞には友達がいない。
言わずとも、俊介が知っている限り、という意味であるので相手が友達だったとしても別段おかしなことではないが。
けれども、舞の性格は排他的であるし、前に友達になった朋美とも、彼女が引っ越してからは連絡が取れないという背景があるので、少し煙たいような印象を抱いた。
「親父……なわけないよな」
言って、払拭するように一度頭を叩いてリビングに行き、窓から入ってくる鈍い光を見た。
わけもなくカーテンを引く。
そして勢いをつけて冷蔵庫の扉を開けた。
俊介は少し時代遅れの歌を口ずさみながら、用意を始めた。
/
「で、出来たのがこれね」
舞は頭を押さえながら呆れ、盛大に息を吐いて言った。
「いや、もっと凝ったものにしようとしたんだけどさ」
「したんだけど?」
「はは……途中から作り方忘れちゃってさ」
「そしてカレーになったと。しかも失敗」
食卓には明らかに水が多く、とろみがないカレーが用意されていた。
視線を滑らせて横を見る。
「サラダ、のつもりなのよね」
レタスで輪を作るように並べ、装飾したかったのだろう。心なしか何か思惑があってこうしたというのはわかる。
しかし、大きさに隔たりがあるので途中の円形が陥没してしまっているせいで、もはやひし形に近い。
何より、雑で急遽作ったものだとよくわかってしまってみすぼらしく、食べ物というよりは餌という方がしっくりくる。
「しかもこの泥水カレー、まずいんだけど」
舞が添えられたスプーンを口に運ぶ。
ぽたぽたとルーが落ちてしまうので素早く口に運ばなければならないのが食べづらく、補助した手には数滴のルーが零れ落ちた。
俊介はその様子を見て、大きく嘆息する。どうして自分は、まじめなくせに不器用なのだろう。妹は家事も勉学もそつなくこなすというのに。
苦手なことがあるということに対して、劣等感を持っているわけではない。それなら、舞とて不得手なことはある。
そうではなく、苦手なことをきちんとこなし、得意でないことがあるということを悟らせない姿に、羨望を描いているのだ。
「ごめん」
「……別に怒ってはないわ。まずいけど、食べないとは言ってないじゃない」
お兄ちゃんも食べるんでしょ? 舞が言う。俊介も慌てて手を動かした。
ちらりと表情を見る。
「……」
近づきがたい。何を考えているのかわからない。他人を見下しているみたいだ。
そんな舞の不評。彼女の交友関係を気にしている俊介にとってよく耳に入ってきたものだが、そう言う人たちにこの姿を見せてあげられればいいのに、と思う。
「何よ、人の顔をじろじろ見て」
「いや、舞は優しいなと思って」
「……」
「うん。いい妹で兄ちゃん嬉しいよ」
「あ、そ」
食事が終わった。食器を持って洗い場に向かう舞に、俊介が声をかけた。
「あー、今日は洗いものも俺がやっておくから」
「そう?」
「ああ。それと、話があるから洗い物が終わるまで待っててくれないか」
そう言うと、素早く洗い物を始めた俊介は、彼に似合わず不真面目に、ほとんど水切りさえしない状態でシンクに食器を置いてリビングに戻ってきた。
「で、何をしてほしいの」
ソファーに座った兄に、舞は先ほどの優しさなど少しも感じさせずに言った。
「バレてたか」
「夕飯を作るって言いだしたときからね」
はは、と笑う俊介を瑣末なものでも見るように促す。
「えっと、ですね? 明日からは自分の部屋は自分で掃除をしようと思うんですよ。いつまでも面倒をかけるわけにはいかないし」
「それで?」
「出来れば部屋に入る時もノックとか、してほしいかなー、と」
「つまり、勝手に部屋に入るな、と?」
「まあ、悪く言えばそうなる」
「よく言っても同じでしょ」
俊介がテレビのリモコンを手に持って、そわそわしているのがいくらか滑稽だった。
兄の手からリモコンをひったくって、雑音に逃げられることがないように予防すると、舞は腕を組んで睥睨する。
「どうかな?」
だが、言いにくいながらもそう俊介が問いかけると、舞は耳にかかった髪を後ろになびかせて立ち上がった。
何をするのかと思えば、そのまま俊介の横まで来てゆっくり顔を近づけてくる。
何をしているんだ、という声には返事をしなかった。
耳と口の距離がなくなる。
「い、や、よ」
はっきりとした声だった。怒声、と言った方がいい。
俊介が蹲って耳を押さえていると、舞は言うや否やこれで終わりとばかりに立ち去ろうとする。
あわてて呼び止めると、細い目で言った。
「大体ね、何が掃除は自分でー、よ。どうせ今日のエッチな本が捨てられたことが嫌だったから思いついただけでしょ! 馬鹿じゃないの?!」
俊介が、ぐっ、と唸る。
追い打ちをかけるように言葉を続けた。
「あんな低俗な……恥を知りなさい!」
「て、低俗って……俺だって一応男なんだから、その、仕方ないというか」
「仕方ない?」
「わかってくれよ。俺だって、その、買わずに済むならそれでいいけど。男って言うのはそう言う生き物なわけで」
妹に性的なことを言うのには抵抗があるのか、俊介の抵抗には勢いがない。
けれども、ここで引き下がると後々困ったことになるということは頭にあったので、まあまあと舞をふたたびソファーに座らせた。
すると、苦々しい俊介に感応したのか、また違ったことを口にした。
「わかったわ」
そう言うと、舞はいきなり上に着用していた部屋着を捲りあげる。
え? という俊介を置きざりにして、さっと上半身だけではあるがブラジャー一枚の姿になった。豊かな乳房が白いブラに押さえつけられてもぶるんと揺れた。
「これから毎晩私がヌいてあげる」
慌てて眼をそらす俊介に、舞は豪胆に言い放った。
すぐに下に穿いていた膝元までのジーパンまで脱ごうとしたので、俊介は横を向いたまま舞の手を止めるという器用なことをする。
「は、はあ?! 何してるんだ!」
「私がお兄ちゃんの性欲がなくなるまで、中のものが空になるまで相手をしてあげるって言ってるの」
「いや、意味がわからない! と、とにかく上を着なさい!」
「自分で言うのもなんだけど私って結構胸あるのよ。サイズ、どれくらいかわかる?」
「わからないし、お前の胸が大きいのは前から知ってる! とにかく服を着ろ」
「あら、お兄ちゃんいつも私の胸とか見てたの? やらしいなあ」
「やらしくない! 妹をそんな目で見るわけないだろ」
「じゃあ、もし妹で射精したらどうする?」
「ば、馬鹿かお前は!」
「冗談よ。そんなにむきになることないじゃない」
「……とにかく服を着てくれ」
シャツを突き付ける兄に舞はしぶしぶ従った。
着たのを確認すると、俊介はすぐに何か言おうとしたが、先を制して舞は不満を口にした。
「だってこうでもしないと、お兄ちゃんはああいう本を買っちゃうんでしょ。だったら仕方ないじゃない。お金の節約にもなるわよ」
「……舞、兄ちゃんはそう言う冗談は怒るぞ。そんな自分を大事にしないような」
「だったら、今まで通りよ。元はと言えば、お兄ちゃんが我慢すればいいだけの話なんだから」
こう言われると、俊介は折れるほかなかった。
多少の禁欲にはもう慣れているし、何より妹にこんなことをさせるなんて兄としては立つ瀬がなかったからだ。
まだ上着から手を離さない舞を見てわかったと言った時には、家族が勝手に自分の部屋に入って所有物を処分する、という理不尽さはもう頭になかった。
/
夏の夕暮れは遅い。
住宅街の向こうにある地平線は、少しずつ大きくオレンジを広げているようだが、空は完全に染まりきっていなくて、白が多かった。
水平線より上にできた、色の境界線。俊介は、まだ小学生だったころ、あの空が少しでも白いままでいてくれるように願ったのを思い出した。
「こうやって帰るの、久しぶりですね」
自分の身長よりも長い影を見ながら小枝子が笑う。
目線を合わせずそうつぶやく姿。他人は少なからず眉を細めるけれど、俊介はそんな彼女特有の動作を可愛いと微笑んだ。
「そうだね。嬉しいよ」
「あ、その……わ、私もです」
相乗するように微笑む。
一本に伸びていく道はまだ二人が別れるまでは充分にある。当たり前のことが、俊介の顔を緩めた。
「本当は、もっと一緒に帰りたいんですけど……」
「俺は言ってくれればいつでもかまわないから、気にしないで」
小枝子と一緒に帰ることはさっき彼女が言ったようにあまりない。それは学校の都合や二人が噂されるのを嫌って別々に帰っている、というわけではなかった。
原因は小枝子の父親にある。
前に一度、俊介は小枝子の家に行ったことがあった。期末試験の前で一緒に勉強しようという話になったから、日曜日に彼女の家に出かけたのだ。
最初は何も問題なかった。小枝子の姉の妙子とも仲良く話すことができたし、母親も俊介という彼氏を歓迎してくれた。
しかし、夕刻を過ぎたとき、父親が大きな音をたてて部屋に入ってきた。
ぜいぜいと肩で息をする父親。顔は赤い。俊介はすぐにその後彼が何を言うのかわかった。
それからは、あまり小枝子の家には近付いていない。
訊けば、父親は警戒しているのかいつも夕食で俊介と今日一緒にいたのかどうか尋ねるという。
「すみません……」
小枝子は邪魔をされるたびに謝った。
でも、俊介は父親の気持ちは何となくなく察せるような気がした。
儚くか弱い彼女。もし自分が小枝子の父親なら、同じようなことしないと言えなかったから。
「じゃあ、また来週」
一本道が終わり、ここを左に曲がれば小枝子の家がある。念のため、門まで見送ることはしなかった。
対面する家から無遠慮にはみ出た木が風に吹かれて揺れているのが見える。
「あ、あの……!」
帰ろうとした俊介を震える声が呼び止めた。
「ん?」
振り返ると、鞄を抱くようにして小枝子が顔を赤くしていた。
「明日、遊園地に行きませんか」
「遊園地?」
「はい。あの、先月できたコスモテンボスってところなんですけど」
「あのテレビでプールとかお化け屋敷の紹介されてたやつ?」
「そうです。どうですか。無理にとは、その、言わないんですけど。できたら」
言っている最中に感極まったのか、語尾がもつれて最後は何を言っているのか聞き取れなかった。夕日が彼女の頬を助ける。
そう言えば。俊介はそんな彼女を見ながら黙した。
彼女と出かけたのはいつが最後だっただろう。舞の薦めで付き合いだしときに出かけたのを除くと、記憶にはない。
「もちろん構わないよ」
その返事に小枝子は嬉しそうにさらに強く鞄を胸で抱いた。
しかし、俊介が一歩彼女の近くに行くと、今度はどうしたのか残念そうに目を伏せる。
「どうしたの?」
訊くと、はっとして顔をあげたが、言いづらそうに目をそらした。
俊介はこういうときは待ってあげるのが一番いいと思って、黙って傍にいることにした。
小枝子が、ゆっくりと紡ぐ。
「妹さんも連れてきてくれませんか? 私も、お姉ちゃんとお姉ちゃんの彼氏さんを連れてきますから」
驚いた。
舞や姉の妙子を誘って、というのではなく、二人きりでないと第三者に冷やかされたりして恥ずかしい思いをするのが嫌だ、
というのを彼女は考慮に入れるだろうと思ったから。妙子の彼氏というのがどんな人物なのかは知らないが、茶化したりする男もいるだろうに。
「舞も?」
「は、はい。やっぱり、その……まだ二人っきりっていうのは、恥ずかしいですから」
「ああ、そういうことか」
「ごめんなさい」
「いや、謝ることないよ。一応舞の予定も聞いてみないとわからないけど、誘ってみるから」
俊介は応えるように片手をあげて言い、家を一度見上げてから帰って行った。
小枝子は俊介が帰ってもその場を動かず、そこにいた。
「また明日」
一人になって、ぼんやりとつぶやく。
気をつけて帰ってくださいね、よかったら家に上がっていきませんか、そういうことが正解だったらよかったのに、と思った。
「私、ほんと……だめなやつだな……」
夏の風が一際激しく吹いて、小枝子を笑った。
/
プールサイドは太陽の匂いがした。消毒された水と、温められた木と、どこからか塗装の匂いもする。
人が多いことが人工の匂いをより強めている。プールの独特の雰囲気。それは服を脱ぐ、という開放感に近い。
俊介は、一際大きく息を吸い込んだ。
遊園地の中に設置されたプールで、ここまで大きく快適なところなら、もっと早く知りたかった。
テレビで見ていたとはいえ、想像していたのは実際にはもっと小さいものを頭で描いていたのだ。端から端を視認するほどの苦労する大きさとは。
舞も驚いているようだ。口を閉じたまま瞳を大きく開いている。
オレンジのビキニにプリントされている鮮やかな花の上でぎゅっと手を握り締めた。
水着は最大限に舞の女性らしいスタイルを引き出している。下に穿かれているショートパンツはお尻の形をはっきり見せているが、健康的な色気で男を魅了している。
小枝子はホルターネックのビキニにスカートで、体系的な幼さを見事に克服していた。
それどころか背中から出た肌は清楚で大胆なイメージを見ている人達に抱かせた。
「妙子、遅いな」
三浦信也が三人に聞こえるように呟いた。
信也は小枝子が言うに妙子の彼氏で、サッカーをしていたらしくがっちりとした体で俊介よりも頭半分身長が高い。
「あ。おーい。妙子。こっちこっち」
妙子は、いつもどおり無表情でやってきた。
横に青と水色と白、そしてピンクのタンキニ水着という格好で、女性の中では一番着替えが早いはずなのに、一番遅く。
「なんか、妙子は色気ねえな」
信也が明るい声で言い、じろじろと三人の女を見比べている。
「わ、私、何か飲み物買ってきますね」
小枝子は言い、自販機のある方へ走って行った。俊介はそれを見て追いかける。しかし舞に、
「妙子さんって、この男と付き合ってるの?」
と声をかけられてやめた。
「そうらしいな。日野さんが言ってたから」
「ふーん。物好きな人」
そう言うと、舞は興味を失ったのかいまだに自身をじろじろ眺める信也が嫌になったのか、プールの方へと歩いて行く。
どこ行くんだ、と俊介が言うと、私がいると人数的に合わないでしょ、と舞が返した。
小枝子が戻ってきたので、買ってきてくれた飲み物を飲んで、四人もプールへと向かった。
着くと、さっそく信也が水の中に、いっちばーん、と大声をあげて飛び込んだ。
バチンという音が聞こえるほどに大の字で飛び込んだので、痛そうだなと俊介は思ったが、本人は露ほどもそんなことを気にしていないようだった。
「あの、他の人に迷惑になるんじゃ」
小枝子が恐る恐る言う。
事実、周囲を見れば傍にいた人に水しぶきが大量にかかって睨んできていた。
「そんなの気にしてたら、遊べないぜ? 早くこっちきなよ」
信也に促され三人は水の中に入る。
俊介と小枝子はひっそりと、妙子はわざわざ飛び込み台までいって垂直に水に突っ込んだ。
「さすが妙子。俺が見込んだだけはあるな」
信也が笑顔で親指を立てて妙子を祝福する。
「ああ……」
「どうしたんですか?」
「いや、やっぱりあの二人似てるのかもしれないなって思って」
俊介はひとり言のように口にする。視線は妙子を捉えていた。
小枝子の姉である妙子は、口数がほとんどない。表情を変えることも稀で、笑って何かを話すところなどを、俊介は想像することができない。
小枝子に妙子と話をすることはあるのかと聞くと、
「もちろんありますけど」
と言っていたが、それすら信じ難かった。
妹である小枝子と似ているところは体つきぐらいだ。
「……梶原君は」
唐突に小枝子が言った。
「え?」
「いえ……なんでもないです」
小枝子は妙子と飛び込み台を見つめた後、薄らと儚い笑みを浮かべて姉たちの近くに行く。
「あれ? そういや君の妹は?」
俊介も続くと、信也がきょろきょろと頭を動かしていた。
「舞ですか? 人数が合わないから、って言って子供のプールの方に歩いて行きましたけど」
「妹さん、泳げないの?」
「いや、気を使ったんでしょう」
「そんなことする必要ねえのに」
「引き留めようとも思いましたけど、必要以上に世話を焼かれるのを嫌う子ですから」
信也が残念そうに舌打ちする。
俊介は、傍にいる妙子に一瞬視線を走らせ表情を窺った。
いつもの虚空を見るような顔だったが、俊介が見たことに気づくとじゃぶじゃぶと派手に近寄ってくる。
「お姉ちゃん、三浦さんの傍にいないと」
しかし小枝子がそう言うと、俊介のことなど興味が初めからなかったように信也の元に向かった。
信也も妙子が傍に来ると、ウォータースライダーを指差して声をかけている。二人で向かって行った。
結局それから一時間ほど、俊介と小枝子は二人だけで遊んだ。
小枝子はふだん学校では考えられないほどに、大声をあげたりはしゃいだりして、俊介とともにいられることを喜んだ。
俊介もそんな彼女に負けないほどに、飛び込み台の上から声をかけ、妙子たちが向かったウォータースライダーにも行き、小枝子を膝の上にのせて滑った。
「怖くない?」
「楽しくてたまらないです!」
テラスに戻った時には、小枝子は肩で息をしていた。俊介がジュースを持ってくると、頭だけ下げてそれを受け取った。
ごくごくと白い喉が鳴る。
俊介はそわそわしながらその姿を見た。初めてそこで、自分たちは付き合っていて、今は二人きりなんだと強く意識する。
不謹慎だと思うほど、その気持ちが強まった。
「お兄ちゃん」
しかし、俊介が小枝子に声をかけようとすると、舞が肩越しに現れた。
水には入っていないようで、水着は少しも濡れていない。俊介は頭を一度掻いて、
「どこに行ってたんだ?」
と言った。
舞はそれには答えず、一度小枝子を細い目で見る。それから他の人たちはどこに行ったの、と口にした。
「もうすぐ戻ってくると思うけど」
「じゃあ、戻ってきたらお化け屋敷に行かない?」
「お化け屋敷?」
「うん。水着のまま入れるらしいよ」
舞が俊介の後方を指差す。振り向けば、プールの入口の傍にそれらしきものがあった。
昼を少し過ぎた程度なので今ならば並ばずにはいることができるかもしれない。
「お、いたいた」
申し合わせたようなタイミングで信也と妙子も戻ってきた。
俊介は、二人に向こうのお化け屋敷に皆で行かないかと誘ってみた。
信也はそれを聞くと、まだ話が終わっていないうちから顔がらんらんと輝き出して、いこういこうと、舞と妙子の背中を押す。
「日野さん」
俊介が小枝子を呼ぶと、彼女は舞の方を刹那だけ見て、俊介の隣に駆け寄ってお化け屋敷の方へと向かった。
俊介は一瞬、手をつないでみようかと思ったが、なんだか今そうしてしまうと、
これからお化け屋敷というところで何か期待しているように思われるかもしれないと考えてやめた。
お化け屋敷は洋館を古風に装飾したものだった。
俊介は以前テレビで見た、怪奇現象で紹介されていたヨーロッパの館を思い出す。
窓があるべきところに扉があるのは、幽霊たちを迷子にするためらしい。レポーターが不思議そうに、二階から外へ続く扉を開け閉めしていた。
お化け屋敷は三階まであるようで、二階のエントランスが入口になっている。見た目だけだとかなりの大きさだ。マンションと言われても頷いてしまいそう。
受付までくると、遊園地の入りが多いせいか、遠くで見たときよりも列が少しできていた。
やはりテレビで紹介されるほどであるから、空きやすい時間帯でも、待たなくてもよいと言うことはなさそうだ。
三十分ほど待たないといけませんがいいですか、と受付にいわれると、信也が真っ先にそれぐらい全然いいって、と言って列に入る。
出口は入口からだと見えなかった。
並んでいると、そういえば、と舞が喋り出した。
「ここって何人かに分かれないといけないんじゃない?」
「え? どういうことだ?」
「二組に分かれて中に入るコースと、三組に分かれて入るコースがあるみたい。トランシーバーで連絡を取り合って出口の扉を開くための番号を探す、ってことらしいわ」
「なんでわかるんだ?」
俊介が訊くと、舞は並んでいる列の前を顎で示した。
受付の上に看板が出ている。
なるほどトランシーバーで連絡を取り合って進んでいく、というのは他のお化け屋敷では見たことがない。連鎖的な恐怖感を狙っているのか。
加えて水着で行ける、となれば同じような施設は少ないだろう。
「でも、二組と三組、どっちでもいいっておかしくないか」
「一つはどっちかと繋がってるか、遅れて出発するんじゃないの」
「ああ、なるほど。俺たちは五人だから……二組に分かれるコースだな」
俊介が入口の様子を窺いながら口にすると、舞は全員に聞こえるように返す。
「そうね……女の子一人になっちゃったり、二人っきりになっていちゃいちゃされると、困るものね」
日野姉妹と話していた信也はそれを訊くと横眼をやり、唇を噛んで黙る。小枝子が、どうしたんですか、と言おうとすると急に俊介へ振り返った。
「二、二、一にしよう」
信也のいやらしい笑みだった。
俊介は僅かに不快になったが、視線を気にして曖昧に笑った。舞と目があったので慌てて体ごと信也の方へ向く。
「絶対そっちの方が楽しいって」
「でも一人になった人がかわいそうじゃないですか」
「トランシーバーがあるんだろ? だったら三組で大丈夫」
まるで見てきたように言う。
いや、もしかしたら本当に来たことがあるのかもしれない、と俊介は思った。
「女の人が一人になっちゃうのは、なしってことで分ければいいんじゃない?」
舞が信也を助ける。
「あ、それ最高。それ決定」
「三浦さん、男が一人になるってことですよ」
「大丈夫だって。俺、運いいから」
もうそこで反対するのがばからしくなって、俊介は半ば投げやりに頷いた。
日野さんは、と思って小枝子を見る。
「あれ、どうしたの」
話しかけると、小枝子はびくっと体を揺らした。
「え?」
「なんか、急に大人しくなってない?」
「そんなこと、ないですよ」
「そう?」
「おい、そこ。八百長すんなよ」
信也に止められ、俊介は話すのをやめた。
お化け屋敷の中は、かなり暗かった。
多少は照明などがあるのかと思っていたが、順路に蝋燭が立てかけられているだけで、天井は見ることもできなかった。
けれどそのためか、どこに行けばいいかは蝋燭の火が道標なっていて迷うことはなさそうだった。
俊介は二階に上がる階段まで来て、ふと足を止める。
「たぶん、いるんだろうな」
階段の後ろが緑色にぼんやりと光っている。死体のようなものが横たわっているが、おそらく階段を上ると動き出すのだろう。
「さすがに、一人だと怖いな」
一気に走って上ろうか、と思っていると、トランシーバーが、ザー、ザーとまるでテレビの見られない番組にチャンネルを合わせたときのように鳴り出した。
「お兄ちゃん、今どこ?」
舞の声がハンディ機から聞こえる。
舞と小枝子、信也と妙子、そして俊介一人という組に分けられたのだ。
信也は愚痴っていたが、受付に着くころには来たときのように妙子にしきりに話しかけていたから、これでよかったのだろう。
それに、よく考えればこれ以外の組み合わせは考えられない。
トランシーバーが渡されるとき、
「あれ? 三組なのに二つだけ?」
「ええ。さすがにそこまで高度なものではないので」
と受付の人に言われた信也は、さすがに舌打ちしたようだったが。
「えっと、今、二階の階段をあがる」
俊介は、話しながら行けば怖気も薄れると、そう言いながら階段を駆け上がった。
「うお」
しかし、上がったところにも死体がいた。起き上がって奇声を上げながら向かってくる。
思わず、近くにあった扉を考えもなく開いて入った。
真っ暗の部屋に、テーブルに置かれた一本の蝋燭。テーブルには紙が貼ってあった。時が過ぎるほどに闇は多くなる、と書かれている。
展開された視界は、殺風景な部屋にもう一つ扉がある以外はがらんとしていて何もなかった。四畳ほどの広さ。
俊介は貼ってあった紙を見て、考える。
「……もしかして」
入ってきた扉を恐る恐る開ける。すると、先ほど襲いかかってきた死体の向こうにまた一つ扉が見えた。
おそらく先に進むのはこの部屋にある扉ではなく、あちらだろう。
加え、さっきよりも状況は変わっていて、死体が二つになっている。
そのままで見ていると、階段からまた死体が登ってきて、その場にがくりと座った。
「なるほど。ここには何にもないけど、その分早く行かないと死体が増える、ってことか」
安心させる場所を作っておいて時間を稼ぎ、恐怖を煽るとは中々いやらしいことを考える。俊介はここも一気に行ってしまおうと息を吸った。
「結構近そうね」
その時、受信のスイッチを押したままにしていたためか、舞が笑うようにハンディ機から声をかけてきた。
怖くないのか、と返そうとしたが、それは自分の今の気持ちを教えるのと同じだと思ってやめた。
「そうなのか?」
だから、なるべくいつもと変わらないように努めながら声を出す。
「女の勘」
「馬鹿言え」
「今、お兄ちゃんはゾンビから逃げるために一つの部屋に入った。そこには蝋燭と紙が一枚。紙には、時が過ぎるほどに闇は多くなる、と書かれていた」
「……すごいな」
「今さっきそこを通ったからね」
ああ、なるほどと俊介は頷く。
しかし、これほどに雰囲気のある場所だ。
さっきの小枝子の一瞬脳裏にちらつき、彼女は、本当は心霊現象などが苦手で皆に無理をして付き合っているのではないだろうかと思ったので、
「日野さんは大丈夫か」
と俊介は口にした。
けれど、舞は何も答えなかった。不審に思ってトランシーバーを見ると、きちんと作動はしている。
おい、どうした。もう一度言おうとした。
そのときだった。
急に目の前が真っ暗になる。
反射的に振り返る。が、何かをかぶせられ、頭がすっぽりと入ってしまった。もともと薄暗い視界は黒の一色に変わる。
「ちょっと、ま、て」
すぐに取ろうと腕を上げる。すると手首から、がちりという音が鳴った。
「なんだ、これ」
感触しかないので何かまではわからない。
しかし、それ、のせいで腕を片方上げると両方が上がってしまった。きっと輪のような形状のもので両手首が繋がれているのだ。
おかしい。
ここで俊介は、初めてこれがお化け屋敷の関係者が興じたものではないと気付いた。幽霊は入場者には触ってはいけない、というのをどこかで聞いたことがある。
それで余計混乱して、トランシーバーを地面に落とした。ドンという音。
そうだ、声を出して助けを求めよう、そう考えた刹那、かぶったものの上から何かを口に詰め込まれた。
温かい何かに足が引っ掛かって転ぶ。
誰かが馬乗りなってきて、俊介の動きを完全に支配した。
「お兄ちゃん? どうしたの」
精一杯暴れて抵抗していた時、雑音混じりの声が反響した。
舞だ。落としたトランシーバーから声が聞こえる。丁度下を向いて受信のスイッチを押しているのだろう。
いやに近い位置から聞こえるので、おそらくすぐそばに落ちているとわかった。
「お兄ちゃん」
不思議と上にいる人物はそれを許容しているようだ。
どうすればと考え、さっきの紙を思い出して、しばらくこの部屋には誰も来ないのでは、と思う。
ならば、自分でどうにかするしかない。ないが、限りなく意味のない抵抗しか、俊介にはできなかった。
水着がずりっと足首まで下げられる。裸になった。
俊介は全く意味が分からず、足をじたばたして抵抗した。そしてそれも、またしても何かで足首が繋がれることで封じられた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
かすれた舞の声。息使いすら聞こえてくる。
俊介は、いくら何かを口に入れられているとはいえ、大声を出してやれば、多少音が漏れて、係員になり不審に思ってくれるかもしれないと鼻から大きく息を吸った。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
だが、その瞬間、まるで銃を突き付けられたかのように止まる。
ぐっ、と陰茎を握られたのだ。
続いて袋の方もやわやわと揉み解すように触ってきた。
「んぐ」
初めてここで、上に乗った人物が俊介の声に反応した。
気持ちいいの、とでも言うように手を上下に優しく動かし始める。袋の方の手は裏側の一本の筋を下から上につー、となぞった。
無条件で反応してしまう肉の棒。暴力的なそれは、本人の混乱は置き去りにして天を突くようにして自らをさらした。
がちり、という音が部屋に響く。反射的に俊介が手で股間を隠そうとしたためだ。
さらにそれを見て気を良くしたのか、上にいる人物は腰の位置をずらす。
何をするのか、俊介が思っていると温かいものに下半身が包まれる。
「ん」
動物の本能的か、それがどういうことか瞬時に頭が理解した。
口で俺のものを加えているのか。
口内に入れられた陰茎は嬉しそうに反応する。あまりの気持ちよさに腰が浮いてしまい、相手の口に押し付けるように尻を前に出してしまった。
ぐちゅ、ぐちゅ、という音が聞こえる。
愛撫に慣れてきたのか相手は陰嚢を触っていた手を、袋を丸ごと包むようにたぷたぷと刺激しだした。
下からの快感。俊介はついに口に詰め込まれたものを吐き出すのではなく噛みしめ始めた。陰茎が外気にさらされる。
「お兄ちゃん」
もう舞に今の状況を知らせる、というわけにはいかなくなっていた。この力強く猛ったものを妹に見せるわけにはいかないだろう。
「お兄ちゃん」
なのに今、俊介は舞に見られたとしたらどうなる、と考え始めていた。快感によって思考が錯乱し、考えたこともないような黒い欲望が湧きあがってきたのだ。
「お兄ちゃん」
いや、むしろこの声のせいでまるで舞と性交しているような錯覚すら覚える。トランシーバーをどうにかしたいが、それすら俊介には許してもらえない。
そして、たぷたぷと金魚すくいでもらった袋のように持ち上げていた誰かの手は、これで最後というように袋の下へと移動した。
次にされることが予想できてしまって暴れるが、肉棒をがっしりと握られることで制された。まるで、舞がいつも俊介を怒鳴るようだと思った。
菊座の中に、指が入る。
人差し指。第一関節。第二関節。じわじわと、俊介がきちんと意識するように。
「んん」
抵抗とは違う反応。背筋が反り返った。ぐにぐにと、指で体内を探られる。犯される。もっとよくなるようにと、相手は陰茎をしごくことも忘れなかった。
二本目の指も、中へ。
奥。もっと奥へと指が蛇のように体内を犯した。
俊介は、あまりの快感に意識が朦朧として浮遊感に包まれ始める。
ここで、気を失ってはだめだ。それだけは絶対に耐えなければならない。妹のことを考えながら射精するなんて。
相手はそんな思いをいとも簡単にあざ笑う。
ついに、円を描くように回されていた手が前立腺を見つけた。
もう、それでだめだと思った。
獲物を狙うように一度引かれた手は、俊介に息を吸う間を与えず、狙いを定める。
「俊介、お兄ちゃん」
一撃で、俊介は気絶した。それほどの快感だった。
その声と共に射精し、妹のことを考えて、果ててしまったのだ。
禁欲による解放。禁忌による欲望。誰かに見つかるかもしれないという倫理による快感。
気絶した俊介にすらかまわず、陰茎は精を吐き出すことをやめなかった。
/
もう一時間もすれば閉館してしまうころになって、ようやく俊介は目を覚ました。
「だ、大丈夫ですか」
小枝子がすぐに気づいて駆け寄ってくる。上着を羽織っているが、まだ彼女も水着姿のままのようだ。
俊介は寝かされていたベッドから起き上がると、辺りをぼんやりと見回す。学校の保健室のような場所だった。小枝子が言うに、ここは遊園地にある医務室らしい。
「あの……梶原君、お化け屋敷の中で倒れてたんです。係りの人が助けてくれたんですよ」
まだ状況がわかってないと思ったのか、小枝子がそう言った。
「ああ、俺……ごめん、心配かけちゃって」
「そんな。全然ですよ」
「皆は?」
「三浦さんはもう帰ってしまいました。お姉ちゃんと舞……ちゃんは、外にいますよ」
語尾を下げる。小枝子は見えないように唇をかんだ。
閉館時間のことを訊いた俊介は、小枝子に一度医務室から出てもらって、急いで水着を脱いだ。
それから、二人が待っている入口に行く。小枝子はその間できるだけ俊介の傍を離れないようにした。
入口に着くころにはもう閉館まで、残りの時間はほとんどなく人も閑散としていた。
「ごめん、二人とも」
舞と妙子は雑木林を背にして、何をするでもなくぼんやりと立っていた。
だが俊介を見つけた妙子は、無表情ながらもどこかほっとした表情で迎えてくれた。
舞よりも先に駆け寄ってきて顔を窺ってくる。おそらく大丈夫かどうか確認しているのだろう。
「もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」
だから、安心させようとそう言うと、妙子は目を細めることで微笑んだ。
舞は、その様子をゆらりゆらりと体を揺らしながら見ていた。
俊介と目が合うと、安否の確認はせず、何を思ったのか、指先をぺろりと舐めた。
「……」
その姿を見た俊介は、ぴくりと反応する。
小枝子がそれに気づいて、どうしたんですか、と訊いてきたから、なるべく舞の姿を見ないようにして大丈夫と返した。
「お兄ちゃん」
けれど、舞はお構いなしで後ろから抱きついてきた。
胸を押し付け、腕を兄の腰に沿え、自分の股間を意識させた舞は、俊介の耳に口を近づけて、ゆっくりと体の奥から息を出すようにして言った。
「おはよう、お兄ちゃん」
そして俊介の大きくなった股間を見て、にたりと笑う。
終了です。
1レス目の二行目が改行されていますが、もし保管庫に入れるのでしたら、そこは削除してくださるとうれしいです。
もしかすると続くかもしれません。
gj!! 舞かわいいよ舞!
むしろ小枝子がイイ
けしからん!まったくもってけしからんッ!
GJ!!
GJ
「これから毎晩私がヌいてあげる」名言だねぇ・・・っと中尾彬も申しておりました。
疲れた・・・妹からにげたい
作品だけでなく作品についたレスが読みたいという症状に見舞われたので、
スレの過去ログが読みたくなったのだがどこかに無いものだろうか
29chだと初代スレがあって次が8スレ目でその間すっぽ抜けとかちょっと辛い
今そのレスをするということは、かなり頭の回転が悪い作者だとわかる
世界の黄昏全裸待機
職人応援
職人ガンガレ
321 :
314:2009/01/30(金) 12:57:45 ID:WtKxeZys
ヤンデレスレの保管庫みたいに、避難所でいいから職人の応援掲示板があったらいいのにな、とか
>>320をみて思った
職人応援
職人カンガル
職人ってニコ厨の好きそうな言葉だな
そうでもない
職人応援
職人先生
最近ここも元気ないな・・・
ノスタル作者も忙しいみたいだしな
待てばいいじゃない
1
2009年×月△日。
柏木 真央(かしわぎ まお)8歳。今日、私に弟ができた。
ずっと弟か妹が欲しかったから嬉しい。
両親から「人に見ててもらわないと興奮しない」と言われ、エッチを見学させられた時は両親の変態っぷりに嫌気が差したけど、無事にヒットしたようだ。
記念して、今日から弟……悠人(ゆうと)日記を付けよう。
ゆーとはオサルさんみたいで、メチャクチャかわゆかった♪
2014年×月△日。
悠人は相変わらず可愛い!
悠人はとってもカッコイイ!
それに甘えんぼうで、いっつもマオ姉マオ姉って後ろに着いて来る。
背がちっちゃくて、目は大きくてクリクリしてるの〜♪
かわゆすぎる〜〜〜ん♪♪♪ すきすきスキぃっ!!
お姉ちゃんね、もうね! もうねっ!
2015年×月△日。
今日は悠人を大きくしてあげた。
一緒にお風呂入ってぇっ、皮に包まれてる恥ずかしがり屋のオチンチンを、でてこいでてこーいって剥いてあげたのん♪
だって小学生になるんだから、一皮剥けなきゃね!
椅子に悠人を座らせて、ガムテープで口を塞いで、タオルで手を縛る。
逃げないように、優しく、優しく。
咥内にたっぷり唾液を溜めて、ピコピコと震えてる無毛の又ぐらに顔を埋める。
にゅぢゅっ、ぢゅぷぢゅぷ、にゅくにゅくにゅく……
トロトロの唇と舌で愛情いっぱいにモグモグして、おっきおっきしたら舌先を皮の中へと挿し込んでゆく。
少しずつ、少しずつ。痛がってる悠人も可愛いなって感じながら、恥ずかしいカスを舐め取り、咽を鳴らし、少しずつ、少しずつ、張り付いてる皮をハガシてあげた。
指でオチンチンを挟み持って、剥け始める皮をゆっくりと下に引っ張る。
ぷはっ、これで大人よ悠人!!
口を離せば顔合わせ。オチンチン? 違うわね……チンチン? チンコ? チンポ? チンポ……チンポね。
赤く腫れて、苦しそうに初勃起させられた、悠人の、チンポ。とってもステキ。
これで小学校に行っても馬鹿にされないわよ! お姉ちゃんに感謝しなさい!!
2
2016年×月△日。
今日はとーっても良い事がありました♪♪♪
あはっ♪ きょうねぇ♪ わたしねぇ♪ ゆーとをねぇ♪ ふふっ……レイプしちゃったのぉっ♪♪♪
ボクまだ子供だよって、まだ小学生だよって、たくさん泣いてたけど……
残念でした〜♪♪ そんなヘリクツ、お姉ちゃんには通用しないので〜〜すっ♪♪♪
授業参観に両親の代わりで行って、家庭科を見学して、エプロン姿で卵焼き作る悠人に、萌えて萌えて堪りません!!
お姉ちゃんの卵もキュンキュンしちゃいます。
明らかに悠人は誘っているのです! 私の子宮を挑発しているのです!!
ボクの精通精子で、孕めるもんなら孕んでみろと、着床できるもんなら着床してみろと、馬鹿にしているのです!!!
上等! 私は逃げないよ悠人!!
こうなったら、授業中だとか関係ナッシング。
手を引いて家庭科室から抜け出し、誰も居ない体育館の用具倉庫に入り、巨大なマットの上に悠人を押し倒しました。
泣いたって、叫んだって、誰も助けに来ないのよ悠人?
2017年○月△日。
アノ日から十月十日経ったけど、私のお腹は大きくならなかった。
生理が普通に来たから、妊娠してないってのは分かってたけど……
それと、最近気になる事が有る。幼馴染みってメスの事だ。
悠人の近くを五月蝿く飛び回り、その匂いを付着させてる。まるで、マーキングでもしているかのように。
3
2018年○月△日。
まだ私が勝ってる。
まだ、悠人の好意を受けてるのは私だ。
だけど、一年後。二年後は自信が無い。
きっと幼馴染みと相思相愛になって、付き合い始める。
普通に結婚して、普通にセックスして、普通に幸せになるだろう。
だからどうしたっ!!! 私はそれ以上の血の絆で結ばれてるんだ!! 後から出て来て、私の悠人を奪うなドロボウ!!
これからも、ずっと、ずっと、ずっと!! 私が悠人の手を引くんだ!!
悠人と手を繋ぎ、どこでも連れて歩く。悠人はずっと一緒に、私の後を着いて来る。
それなのにぃ、あのメスブタァァァァァァッ!!
アソコに腕を突っ込んでブッ壊してやろうかしら?
子宮まで入れて、卵巣を引きずり出して、女の役目を終わらせてやろうか?
2017年○月○日。
今日は悠人と二人切り。結局、幼馴染みには何もしなかった。
だってそんな事したら悠人が悲しむから。
大好きなお姉ちゃんで居たいから。
だってそんな事しなくても、まだ私が悠人の一番だから。
だから、夕食に悠人の好きなハンバーグを作ってあげた。
悠人は笑顔で、お姉ちゃんありがとうって言って、美味しそうに一口食べて、眠る様に崩れ落ちた。
それを抱え、部屋の布団に寝かせて、私も一緒の布団で横になる。
そしてハンバーグに入れた薬と同じモノを飲み、悠人の身体をギュッと抱き締めて、ゆっくりと目を閉じた。
悠人は私が手を繋ぎ、悠人は私が連れてゆく。
ココロも、カラダも、あの女が永遠に届かない二人だけの場所へ。
以上です。
最初に書き忘れましたが、鬱注意。
GJ!
>>334 そういえばアレにはキモウトがいたねw
gj
羊のうた思い出した
>>333 弟クンと合体するまでに刑事事件を起こしたり、
合体するまでの永い年月を狂おしい自慰でしのぐ、
キモ姉たちをよそ目に最速記録(7歳男児)を打ち立てた、
我慢弱いキモ姉とはけしからん!!GJ
GJ!!
スゲーキモいなw
ただ最後の日付けが2017年になってるのは間違いでおk?
キモい…キモすぎるぞGJ!
>>340 336じゃないがあれは名作だよな
今でも時折読み返してる
Googleがおかしい
これがあの2000問題か
誤爆しちゃったお姉ちゃんごめんね、てへ☆
キモイですね(ほめ言葉)
GJ!
八雲立つに出てくるお姉ちゃんもいいよ。
書いてみたら思ったよりキモくなったのでさくっと投下します。
マサル会議は一発ネタのつもりでしたが、思ったより受けが良かったようで嬉しいです。
議長「それでは一人定例会議を……」
強行「簡単です。夜道に後ろから近づいてスタンガンで一撃。それで片羽桜子は心不全を併発して昏倒します」
常識「いきなり何を言っているんですか」
分析「片羽桜子の殺害方法のようですね。確かにそれなら、持病の発作で死亡扱いとなるでしょう」
議長「分析しないで下さい。今殺してどうするんですか」
潔癖「そうです! そんな殺し方では生ぬるい。見知らぬ男達にレイプさせてそのショックで死亡などというのはお似合いではないでしょうか」
性欲「え、それを潔癖が言うんですか?」
打算「我慢の限界というか、我慢する気が無いですね」
潔癖「そうです。兄さんがあんな女のことを好きなんて、うあああああああっ!」
強行「殺しましょう。朝起きて顔を洗うように、夜寝る前目覚まし時計をセットするように、殺してすぐさま忘れましょう」
議長「シャラーップ! もはや事態はそんなところには無いんです。殺すのは何時でもできます」
性欲「ひとまず現状分析しましょう。まず、兄さんは片羽桜子に恋愛感情を抱いています」
分析「それ私の役割……」
打算「もはや役割分担もしっちゃかめっちゃかですね」
性欲「兄さんが片羽桜子を好きになった理由は、私に対する恋愛感情の代償行為、と推測されます」
潔癖「うあああああ殺したいいい!」
強行「何でこんな展開に気付かなかったんですか。分析は何をしてたんです」
分析「強行に理路整然と責められるとは……弁解はしません。予想外でした」
常識「いえ、分析だけの責任ではありません。というか、これは考え方自体が間違っていたんだと思います」
打算「というと?」
常識「そもそも兄さんを陥落させるための方法が、高いステータスを保ってアプローチし続ける、というものでした」
潔癖「そうです。そのために、兄さんの中のイメージを崩さないように日々、自分を鍛え続けてきたのではないですか」
性欲「例えば、デートの時に思い切りめかし込んで見惚れさせたり」
議長「学力を誇示するために成績表やテストの点数も開示してますし」
強行「兄さんとの肉体的スキンシップも兼ねて、時々柔道技術も披露しています」
分析「調理技術も、十分賞賛を与えられる域に達しました。同年代でここまで高いステータスを持つ人間はそうそういないでしょう」
打算「日々の継続的な努力こそが、勝利を決定付ける要因ですしね」
常識「違います。そもそも、その『パワーこそ強さ』的認識が間違っていたんです」
強行「は? どういう意味ですか」
常識「いいですか? 兄さんは『兄』なんです。そして、『兄』にとって『妹』に必要なのは守るべき存在であるということ……つまり、片羽桜子には、守るべき弱さがあったということなんですよ!」
一同「「「「「な、なんですってー!」」」」」
分析「た、確かに私には弱さなどほぼありません。というか、積極的に潰してきました」
強行「ふざけないで下さい。そんな弱い存在が、どうやって勝利し続けろというんですか」
常識「だからその理論がおかしいと言ってるんでしょう。日々努力をすることは必要かもしれませんが、日々努力をすることを信仰してどうするんです」
打算「努力の信仰とはうまい言い回しですね。確かに、強くなれば何とかなる的発想があったのは否めません」
潔癖「ま、待ってください。つまり私は、今まで盛大な墓穴を掘り続けていたということなんですか?」
性欲「兄さんを落とすのに必要なのが強さではなく弱さだというのなら、そういうことになりますね」
議長「いえ、強行の言う通り。そんな弱さでどうやって最終目的を達成するというんですか。最終目的は、兄さんの半永久的拘束ですよ」
常識「ですから手法がまるで正反対だったんですよ。今まで私は、兄さんを支配しようとしてきました。けど、それでは反作用を生むばかりなんです!」
分析「それが、今回のような代償行為、というわけですか。なるほど、納得しないでもないですが」
打算「まるで北風と太陽ですね。では、常識の言う太陽、とはなんです?」
常識「それは――――」
祭囃子が何処かで流れている。
夏休みのある日。日が暮れたあとの時間帯。
俺は神社の石段前で一人そわそわしていた。
今日の石段には提灯が並んでいて、俺みたいに待ち合わせている男女がぽつぽつと照らされている。
もちろん、前を通って石段を登っていったり降りていく人も多い。それらの人は季節に合わせて薄着だけど、浴衣姿の人も結構な割合で混じっていた。
今日は神社で開かれる夏祭りの日だ。
俺は一人、先輩が来るのを待っている。
本来なら、今日は俺優香柳沢先輩の四人で縁日を回る予定だった。
けど優香が直前で夏風邪を引いてダウンしてしまい、それを聞いた柳沢も気を利かせて休んでくれた。
つつつつつまり、二人きりでデート!
お、落ち着け落ち着け。人という字を三回書いて飲み込むんだ。ごくごく。
自分の服装を確認する。何の変哲もないシャツにズボン、あとサンダル。こんなことなら前日からちゃんと準備してくれば良かった!
は。準備と言えばお金は大丈夫だろうか。財布にはあまり入っていなかった気がする。そ、そそそそういえば。柳沢から一つだけ貰ったココココンドームも確か財布の中に……
「こんばんは、榊君。遅くなってすまないね」
「ぎゃー!」
財布の中を覗き込んでいる時に、いきなり声をかけられて絶叫してしまった。しかもその拍子に、緑色のゴム製品がぽろりと地面に落ちた。あわててサンダルで踏みつける。せ、せーふ?
ぎぎぎ、と右足を地面から離さないように振り向くと。そこには不思議そうな顔をした先輩が立っていた。
「どうかしたのかな?」
「なななななな、なんでもありませっ……」
片羽先輩は浴衣姿だった。
白い布地に、鮮やかな紅葉をあしらった浴衣で。スレンダー(痩せているとも言う)な体型によく似合っていた。足下は歩きやすさ重視なのか、普段のスニーカー。
それと何より、髪型がいつもと違っていた。先輩の長く量のある髪は服装に合わせ、頭の後ろで結い上げられている。今まで見たことのなかった、先輩のうなじが白くまぶしい。
か、可愛い……いや、先輩は美人系の顔立ちだけど。なんかすごく可愛い……
「…………」
「榊君?」
「ははははは、はいっ! 先輩、すごく、可愛いです!」
「そ、そうか。まあ僕は美人だからね、ふふん」
腰に手を当てて薄い胸を張る先輩。ああ可愛いなあ。
とりあえず萌えながらも、足裏のゴム製品を茂みに蹴り込んでおく。さらば一夏の思い出。でも大丈夫、俺達にはまだ未来があるさ!
「髪を纏めるのに時間がかかってしまってね。やっぱりこういう格好の時は、髪型も合わせないとね」
「すごく似合ってます。その浴衣も、すごくいいですよっ」
「ああ。母のお古を仕立て直したものなんだがね。胸回りも丈も全部変えなければいけなかったよ。ふふっ……」
「似合ってますから大丈夫ですよ! ほら、浴衣は貧乳の方が似合うって言うし!」
「はっはっは、事実なんだけどね、こいつめ」
べしべし、と先輩から冗談交じりに叩かれる。あはは、痛い痛い、ごふっ。
さておき。
「さて。立ち話も難だ、そろそろ行こうか」
「はいっ」
石段の前まで一緒に歩き、思い切ってそっと、できるだけ自然に先輩の手を取った。
冷たくて細い指。
もちろん思いつきなんかじゃない。石段が結構急だと事前に見てとったときから、考えた作戦だった。後は、ちゃんと言い訳をすれば完璧だ。
「の、登るの大変そうですからっ!」
声が裏返ったあげくに思い切りどもってしまった。死にたい。
片羽先輩は。少しだけ目を丸くして、けれどすぐに笑った。何もかも、見透かしてるみたいに。
「ふふ。それじゃ、頼むよ榊君」
「はいっ」
先輩の細い手と軽い体を引き上げるようにして、灯りに照らされた石段を登っていく。
日が暮れた後のこの時間は、夏とはいえ風が涼しくて過ごしやすい。
ああ、俺は幸せだ。
好きな人と手を繋いで、これから一緒にデートできるんだから。
C
片羽先輩を好きと自覚してから、二ヶ月が経っていた。
まだ、告白はしていない。
六月が過ぎ、七月に入り、今は夏休みの1/3を終えた八月頭。もうすっかり夏だ。
一学期をそれなりの成績で終了した俺は、夏休みを日々悶々として過ごしていた。それは夏の暑さのためだけじゃない。
去年までのように部活はやっていないから、夏休みの宿題をこなしながら。時々柳沢と遊びに行ったり先輩のところに押し掛けたりしている、けれど。
正直、体がむずむずして仕方がない。暇を見つけて走り込んだりしてるけど、毎日くたくたになるまで体を動かして倒れるように眠るあの感覚にはとても足りない。
ダラダラするのだって悪くはないけど、バイトでも探してみようかな。柳沢は遊ぶ金ほしさに毎日働いてるらしいし。
まあ、今日はとにかく、先輩とのデートを楽しもう。
片羽先輩を好きと自覚してから二ヶ月ほど経つけど、まだ告白はしていない。
恋の熱が冷めた訳じゃない。今だって先輩と一緒にいると胸がどきどきして苦しくなる。もっと一緒にいたいって思う。
けど、機会を見つけて告白しようとするたびに、なんとなく場が流れてしまうのだ。
俺はしらふで女性を口説けるほど恋愛に慣れていない。自転車二人乗りでした妹への報告はともあれ、気持ちが盛り上がっていないと告白なんて出来やしない。
だから今日はチャンスなんだ。夏休みに入ってから、一学期に比べて会える頻度もずいぶん減っている。この日を逃したら、また会うのは何時になるのかわからない。
今日こそ告白しよう。
境内は予想よりも人が多かった。広い敷地に四列か五列ぐらい露店が並んでいる。たこ焼きや焼きそばという見慣れた露店もあれば、初めて見るような露店もあった。
人の入りは、屋台の間を歩くときに注意しなければぶつかってしまうぐらい。洋服と浴衣の割合は約四対一。空中に張り巡らされた電線と、それに吊られた提灯が境内を明るく照らしている。
がやがやと行き来する人たち。露店の呼び込み。そしてどこかで祭囃子が流れている。
石段を登りきった先輩が嬉しそうに笑う。手は、まだ握ったままだ。
「ふふん、楽しそうだね。一人でぶらりと来たことは何度かあるけど、誰かと来たのは久しぶりだよ」
「ひ、久しぶりですか? それってその……」
「ん? ああ、両親とね」
「あ……そ、そうなんですか。俺も昔は家族と一緒に来てましたけど、最近は全然ですよ」
「そういえば、優香君は残念だったね。風邪だって?」
「はい。昔はともかく、最近は体調崩すなんてなかったんですけどね」
「そうか、心配だな」
「いやあ、優香はしっかりした奴だから大丈夫ですよ。家を出る時も、ちゃんと話できましたし」
「それはよかった。それにしても優香君はどういうつもりなんだ。ちょっとピンチじゃないか」
「え、そんなに心配なら、今日……はもう無理だし、明日にでも見舞いに来ますか?」
「いや、結構。僕が行くと結果的に病状が悪化しそうだしね」
「そんなことないと思いますけど……」
うーん。先輩と明日も会えるかと思ったけれど、それは無理みたいだ。心の中で、だしに使いそうになった優香に謝る。ごめんな。
最近の妹は、去年の俺のように部活にすごく打ち込んでいる。部活を始めたのは去年からだけど、部の中でもかなり強い方らしい。
部員自体が少ないこともあるだろうけど。才能云々よりも、それは優香が毎日欠かさず努力をしているからだろう。よく一人で筋トレしてるし。
もうすぐ大会があるらしく、こんな時に倒れたのは少し根を詰め過ぎたのかもしれない。
かちかちかちかちかち
「……やはり夏とはいえ、冷水に三時間も浸かっていればこうなりますね……」
かちかちかちかちかち
片羽先輩と、境内を回る。
もう手は放している。繋いでいたいのはやまやまだったけど、そこまで混んでいるわけじゃない。
けどまあ、先輩と連れ添って歩くだけで十分幸せだ。
「おっと榊君。アレ買っていいかな?」
「え、アレって……お面ですか?」
「うん。子供っぽいかもしれないけど、昔は意地を張って買ってもらったものを突き返したからね。せっかくだから被ってみようかと」
「へええー。先輩って、子供のころは意外と意地っ張りだったんですか?」
「ふふん、まあね。よくある話だけど、昔の自分に会ったらぶん殴ってやりたいよ。榊君は昔から変わらなかったんだろうね」
「あはは。まあ、ガキっぽいってよく言われます。あ、どうせなら俺もお面買おうかな」
「榊君もかい? 揃って子供っぽくて仕方ないね。じゃあ、ついでだし僕の分も選んでくれよ」
「いいんですか?」
「ああ、プロに任せよう」
「ええー、プロってなんですか。うーん、じゃあこれとこれください」
選んだのは、何かの戦隊もののお面。俺が知っているのとは違うシリーズだけど、色のパターンは昔と同じのようだ。赤と青を一枚ずつ買った。
お互い、髪に乗せるよう斜めにつける。仮面というより帽子という感じ。
先輩を見ると、大人っぽい顔立ちと安っぽくて派手なお面がものすごいミスマッチで大笑いしてしまった。先輩も笑っていたから、俺も似たようなものなんだろう。
片羽先輩は美人だ。
細い体つき、切れ長の瞳、小さな口、染みのない白い肌、見事に結い上げた髪、それらが見事に噛み合った浴衣。
二人で歩いていて、男女問わず視線がとまるのは絶対に気のせいじゃない。男の方が滞空時間は多い。勿論俺もメロメロだ。
あまりに可愛いので、りんご飴を屋台で買って先輩にあげる。
「おお、ありがとう榊君。ぺろぺろ……甘くて美味しいね」
「おいしいですねえ。はふー」
「なにか嬉しそうだね、僕も代わりに奢るよ。そうだな、あのタコ焼きでどうだい?」
「う……」
即答しかけて、頭の中で二人の俺がぐるぐるする。
悪魔『いやいやいや、今日は全部俺の奢りだってここはビシっと決めようぜ』
天使『何を言ってるんだよ。財布に余裕なんてないんだし、ここは先輩に甘えろよ』
悪魔『今日は告白するんだろ、いいところ見せないでどうするんだよっ』
天使『奢るのがかっこいいなんてナンセンスだろ。先輩は先輩なんだし、好意を無駄にすることないじゃないか』
悪魔『だからこそ、普段甘えっぱなしなんだからここで借りを返すんじゃないか!』
天使『無理無理。だから先立つものがないんだって。途中でごめんお金がないってことになったらどうするんだよ』
悪魔『うっ、それは……』
……結局、タコ焼きは奢ってもらった。ふう。
考えてみれば、俺は先輩と釣り合っているんだろうか。こうして二人で歩いてはいるけれど、俺はどんなふうに見られているんだろう。
顔は十人並み、背だって低め、身につけてるのはジーンズにシャツ。体つきだって去年よりは衰えている。人付き合いはそれなりに上手だとは思うけど、彼女なんてできたことはない。
財布の中身はこんな時に気前よくもなれないぐらいだし、学校では勉強についていくのがやっとだ。しかも、そういうことを全部先輩に知られている!
ふう……釣り合ってないよな。
こんな奴が今先輩に告白なんてしても、普通に考えればOKなんてもらえるとは思えない。
先輩のことだから、厳しいことは言わずにやんわりと断られそうだ。榊君は友達だよ、とか。うう、胸が痛い。
サボらず、自分をちゃんと磨けば良かったと心底思う。今となっては、毎日の勉強だってなんだかんだ言って慣れている。予習復習ぐらいで泣き言を吐いていた自分をぶん殴ってやりたい。
ちゃんと自分を鍛えていれば、こうして片羽先輩と並んで歩いても、気後れしないで済んだかもしれないのに。
こういう時、優香のことが羨ましくなる。
毎日毎日、何時休んでいるのかもわからないぐらい、勉強して部活に励んで、自分を鍛えている俺の妹。
あれだけ努力していれば、少なくとも自信はつく。自分は今まで、何をやってきたのかと後悔はしないで済む。誰に恥じることはないと、胸を張っていられるだろう。
今の俺には、それすらない。後悔してばかりだ。
思う。優香はもしかしたら、好きな奴がいるのかもしれない。
そう考えれば、優香のあの底知れない努力の原動力に説明が付く。人を好きになるというのは、ものすごいエネルギーを生み出す。それは俺自身が実感していることだ。
ただ、今の俺は何もできていない。空回りしているだけだ。
はあー、とため息をついてしまう。
「榊君」
「はあー……あ、はい。なんですか、ひぇんはい」
呼びかけに答える途中で、先輩の細い指が伸びてきて俺の頬をぐにりとつまんだ。
少しぼうっとしていたら、気づけば俺達は屋台の列から少し離れた所に来ていた。屋台の発する光から外れた境内の隅は、驚くほど暗い。
先輩が片手に持っているのはじゃがバターのカップで、もう片方の手が俺の頬に伸びている。ちなみに俺が手にしてるのは焼きそばのパック。
頬を摘まれているけど、軽くなので痛くはない。指はやっぱり冷たい。
困惑する俺に対して、先輩は少し不機嫌そうに口を尖らせた。
「先程からあまり話を聞いていないみたいだけど、僕といるのはつまらないかな?」
「ひょ、ひょんなことはりませんっ!」
先輩と一緒にいるのがつまらないなんて、そんな!
急いで否定した。否定したつもりだったけど、頬を伸ばされて意味が伝わっただろうか。
けれど元々、先輩の怒ったフリは演技だったみたいだ。あはは、と笑って俺の頬を離す。
「少し休もうか。よく見たら座れる場所のようだしね」
「あ……はい」
先輩が裾を払って、その場にちょこんと座りこんだ。よく見ると、地面に丸太が置いてあって簡単なベンチ代りになっている。
俺もその隣に座った。ああ、子供のころを思い出す。あのころと違うのは、脚を折りたたまないとうまく座れないことぐらいだ。
先輩は暗闇の中で、活気と明るさにあふれた屋台の列を、はるか遠いものを見るように眺めている。
なんだかその姿は。お祭りの中で俺なんかと二人で歩くより、よほど合った姿のように感じられてしまって。
「…………」
「…………」
「最近、元気がないようだけど。夏は苦手なのかな。それとも、悩み事でも?」
「あ……」
柔らかく囁いた先輩の目は、気遣うように細められていた。
また、見透かされてたのか。雨の日に二人で桜を眺めた、あの時のように。
情けなくなる。結局俺は、この人にとっては弟のような存在なんだろう。頼られ助けるべき後輩。
本当は、頼りにしてほしいし助けたい。そのためには頼られるほど強くありたい。けれど実際の俺は空回りしてばかりだ。
はあ……
「大したことじゃないんです。ただ、部活やめて暇してるんで、夏休みの間だけバイトでもしようかなあって」
「ふむ。榊君は中学までサッカー部だったかな」
「あ、はい」
「また部活に戻る気はないのかな?」
「それは、ほら。夏休みが終われば毎日勉強もありますし、それに今からサッカー部に入っても付いていけないと思うし」
「そうでもないんじゃないかな」
「え……」
胸の中で何度も繰り返した理由を口にする俺に。
いつものように、いつかのように、先輩は柔らかく微笑んだ。
ついでに、先輩がカップを置いて俺の両頬をむにむにと引っ張った。ふいふい。冷たくて心地よい指。
「榊君の学力は上がったと思うよ。予習復習もちゃんと継続的にできてるしね」
「……ひょう、へふは?」
「ああ。君は優香君のことをよく自慢するけれど、彼女ぐらいにはね」
そこまで言って先輩は、ふふん笑って俺の頬を手放した。カップを手にして、残りのじゃがバターを頬張る。
俺が、優香みたいに……?
妹のことは、近くにいてその休むことのない努力はよく知っているだけに、とても納得は出来なかった。
「僕から見れば、君もよく努力し続けているよ。そもそも、だからこそ時間が余っているだろう? なら、その余暇を部活に当てればいいんじゃないかな」
「けど……それは夏休みだからで。それに、勉強しながらじゃ前みたいに部活には打ち込めないですよ」
「そうかもしれないね」
そうだ。
先輩は中学までの俺を知らない。くたくたになるまで練習に明け暮れていた。あんな風に部活をやっていたら、とてもじゃないけど(慣れたとはいえ)今のペースで予習復習なんてできやしない。
そして俺には才能なんてないから、あんな風に努力しなければレギュラーにはなれない。大体、既に半年も遅れを取ってしまっている時点でも、もう……
「んー、一本気だね榊君は。そういうところが可愛いんだけど」
「か、可愛いとかとかっ。俺も男なんですからやめてくださいよぅ」
「よしよし。さておき、そういう時は逆に考えるんだよ、榊君」
「逆に……ですか?」
「別にレギュラーを取ることだけが部活の意義ではないんじゃないかな。大切なのは楽しむことだし、それなら新しいことを始めたっていいはずだよ」
「あ……そ、それはそうかもしれませんけど……」
「他の部活なり、バイトなり、習い事なり。もちろんサッカーでもいいさ。自由はそこにあるよ、榊君」
胸を張って腰に手を当てて、片羽先輩がふふんと笑った。
『自由はそこにある』
なんとなくだけど……何気なく口にしたその言葉が、先輩の依って立つ信念、の気がした。
先輩の事情は、この数カ月で少しずつだけど聞いている。
両親は既に他界していて一人で暮らしていること。昔から病弱で入退院を繰り返しながら学校に通っていること。外の景色をできるだけ描き貯めて暇を潰していること。
普通の家に生まれて普通の家庭で育った俺にとっては、とても幸せとは思えない境遇だけど。それでも片羽先輩は、自由な心で生きている。
「……先輩は、凄いですね」
「おお? 美人だとは自覚しているけど、ちょっと耳慣れないお世辞だね」
「いえ、先輩は本当に凄いと思います」
「そうかな。ふふ」
だから尊敬するし、だから守りたいと思う。
片羽先輩の持つものは、優香のように実力を積み重ねて手に入れた安定した強さじゃなく、悟り一つに依った危なっかしい生き方なのだ。
お世辞にも満ち足りているとは言えない環境で、けれど周囲を恨まず憎まず、矜持一つで顎を引き胸を張って生きている。
だから尊敬するし、だから守りたいと思う。
敬意と庇護欲の混じり合った感情。それが俺の、好きという形なんだろう。
「…………」
「…………」
二人ともなんとなく無言になり、丸太に座って境内の様子を眺める。
気付けば、あれだけ待ち侘びた、良い雰囲気になっていた。
あたりは暗がり。胸は先輩への気持ちで満ちている。先輩は眩しいものを見るように目を細めている。どこかで祭囃子が流れている。
告白するか、しないか、どうする。
天使『告白だ、告白するんだ!』
悪魔『なんでだよ! 今の俺じゃ先輩にはとても釣り合わないだろ!』
天使『逆に考えるんだって先輩も言ってただろ。告白してから釣り合うように頑張ればいいじゃないか』
悪魔『ふざけんね! 男としてそんなことできるわけないだろ! せめて自分に自信を持ってからでないと失礼じゃないか!』
天使『そんなこと言って怖いだけだろ! 怖がらずに当たって砕けようぜ。数撃ちゃ当たるって言うし、冗談っぽく言えばいいって!』
悪魔『嫌だ! それに意識されてこれから避けられたらどうするんだ!』
天使『そんなこと言っても、半年したら先輩だって卒業しちゃうじゃないか。大切なのは今なんだ!』
悪魔『別に卒業してからでも、先輩は地元なんだから会えるだろ。それっぽい言い方じゃ騙されないぞ!』
うう、どうする……どうする、俺。
と、俺が脳内会議で固まっていると。
「あ、榊先輩と片羽先輩だ。やっほー」
「ぎゃーす!」
「け、健太? なんでいきなり絶叫するの?」
「いやあ、なんとなく察しはつくんだが固まっていてねえ。助かったよ、晶君と見知らぬ誰かさん」
俺達と同じようにお祭りに来ていた義明と晶ちゃんに見つかって、千載一遇のチャンスはあっさり潰えたのだった。しくしく。
「久しぶりだね、健太。元気だった?」
「まあな。そういえば、晶ちゃんに聞いたけど高校行ってもサッカー部に入ったんだって?」
「うん、なんだかんだ言ってサッカーは好きだから。ええっと、そっちの人は……?」
「あ。俺の高校の先輩で片羽先輩って言うんだ」
「片羽桜子、三年生だ。よろしくね」
「あ、はい。僕は雨宮義明です。健太とは中学の同級生で、同じサッカー部のチームメイトでした」
「んでもって、わたしの彼氏でーす!」
「ほほう、道理でね」
二人の服装は俺達とは逆で、義明が浴衣で晶ちゃんが洋服だった。浴衣は水色の地に白いカモメで、ご丁寧に下駄まで履いている。洋服の方は、まあ俺と同レベルの普段着だった。
義明は綿飴を持っているだけだったけど、晶ちゃんは水ヨーヨーに金魚を入れた水袋、赤い風船、髪に差した櫛、射的の景品と思わしきぬいぐるみとフル装備だった。
そして何より、二人で腕を組んで歩いてる。先輩が道理で、と評したのはこのことだった。くそう、羨ましい。俺も先輩と……
「ところで、なんで二人してゴーオンジャーのお面かぶってるんですか? 超イカスんですけど」
「あ、そういうシリーズなんだ? 最近のはよくわかんなかったんだけどさ」
「良いセンスだろう、榊君が選んでくれたんだよ」
「おお、惚気られたっす! 雨宮先輩、わたしたちも対抗しましょうぜ!」
「しなくていいから」
「じゃなくて、さっきから気になってたんすけど、優香ちゃんはどうしたんです?」
「優香だったら風邪ひいて寝込んでるけど」
「あ、そうなんだ。妹さんにはお大事にって伝えておいてね」
「え、なんで?」
「な、なんでって……風邪引いたから、だって」
「まあ、確かになんでなんだろうねえ。僕もそのあたりが疑問でね」
「んー、むむむむむ……」
そのやりとりで、晶ちゃんが首をひねって何か考え始めた。俺も義明もはてな顔で見ているけれど、先輩はじゃがバターをはふはふ平らげ始める。ああ可愛い。
「……連絡はなかった……けど、明らかにおかしい……まあ、協力する義理はないけど……偶にはお節介も……」
「どうしたの? 晶ちゃん」
「んー、いや、突然雨宮先輩への愛が溢れちゃいました、てへ♪ それはそうと榊先輩!」
「な、なに?」
「なに、じゃありませんよ! 優香ちゃんを放っておいて、なんで好きな先輩とデートなんかしてるんすか!」
「す、すすすすすすす、ってなに言ってるんだよ晶ちゃん!?」
「あ、健太、そうだったんだ……?」
「ちがっ、あ、いや、その、っていうか先輩これはっ!」
「はふはふ」
「じゃがバターに夢中!?」
ああ可愛いなあちくしょう。
「そんなコントはどうでもいいんすけど。どうして優香ちゃんを放っておけるんですか」
「え、いや。先輩と約束してたし、風邪といってもそこまでひどくなさそうだったから……」
「だからって家に放っておいてもいいんですか。あ、家族の人は?」
「んー、父さんも母さんも街に出かけてるはずだけど……まあ、優香はしっかりしてるから」
「シャラーップ! よくわかりませんが兄失格っ! 人は病に倒れれば、普段以上に弱気になるものなんですよっ!」
「な、なんだってー!」
「なるほど、確かに一理あるね。病弱ベテランとしては初歩的な見落としだったよ」
「なんですかそのベテラン」
晶ちゃんの言葉がぐるぐると頭の中を回る。兄失格、兄失格、兄失格……
確かに、妹一人家に残して祭りに来ているなんて、兄としてそれはどうなんだ。
せめて今から家に帰って看病をすべきじゃないんだろうか。
けど、今は先輩とデート中だし……
ちらりと振り返ると先輩が、やれやれ困った子だなあ、という感じで苦笑した。
「心配なら帰ってあげればいいんじゃないかな」
「でも先輩、もう遅いですし帰りは送らないと……」
「それならわたし達が引きとりましょーか? 帰りあそこでいいんですか?」
「うん、まあね。しかしデート中のようだけどいいのかい?」
「ああ、気にしないでいいですよ。僕たちもそろそろ帰るつもりでしたから」
「じゃ、じゃあ頼んだぞ、義明、晶ちゃん。先輩、今日はありがとうございました」
「うん、楽しかったよ。優香君にもよろしくね」
「はいっ」
・
・
・
「あー、行った行った。すげー単純、煽り耐性ないんすねえ」
「ふむ。晶君、こういう段取りだったのかい?」
「まっさかー。ただの偶然です。わたしとしては、手頃なところで借りでも返しておこーかなーと」
「なるほど。しかし本当に優香君はどうしたんだろうね。心労かな?」
「元凶が何言ってんすか。まあ優香ちゃんも大概墓穴堀りが好きですけど」
「あの……二人ともなんの話をしてるの?」
「「いやあ、別に」」
・
・
・
「……って、帰ってきたはいいけどさ……」
家に帰り、優香の部屋の前に立つ頃には、すっかり気持ちは冷めていた。
晶ちゃんに乗せられて、急いで帰ってきてみたけれど。よく考えれば、優香が俺の看病を必要としてるわけがない。
そもそも、俺と優香はそこまで仲良くはない。たまには一緒に行動するけど、人並み程度だ。
もしも仲良く見えるとしたら、それは優香が他人に対して排他的だから、相対的にそう見えてるだけだろう。
それに優香自身、とても強い人間だ。日々努力を重ねて自信を付け、自ら律して自立している。
自分に厳しい分他人にも(というか俺に)厳しいのが玉に瑕だけど、それだって怠惰よりはよほど褒められる素質だろう。
そんな妹が、風邪を引いたとはいえ俺の助けを必要とするかといえば、かなり怪しいと考えざるを得なかった。
まあ……家に帰って来た時、明かりは完全に落ちていたから。他に誰もいないのは確かなようだ。
もう帰ってきてしまったわけだし、看病の真似ごとぐらいはしてみようかな、と。
「入るぞ〜」
小さく扉をノックし、小声をかけながら部屋に入る。明かりは落ちていたし、寝ているかもしれないからだ。
案の定、優香はベッドで横になっていた。部屋は暗かったけど、開けた窓から差し込む月明かりで見て取れた。
眠っているようだった。
パジャマを着て、布団をかぶり、暑いのか両手は外に出していた。顔の横には畳んだタオルが落ちている。きっと額に乗せていたのだろう。
ふう、ふう、と荒い呼吸が聞こえる。暗くてよくわからないけれど、その顔は熱で赤くなっている気がした。
手を伸ばして、妹の額に触れる。
ぺたり。
「あつ……いな」
「……ん」
「あ……」
優香が身じろぎとうめき声をあげて、うっすらと瞼を開いた。
俺の手は今まで外にいたから冷えていた。額はただでさえ熱かったから、目覚めるだけの刺激だったんだろう。
若干、焦る。
眠りの邪魔をしてしまったこと、勝手に体に触れてしまったということ。いつものパターンなら、説教を食らってしかるべき失敗だ。
けれど優香は寝ぼけているのか熱のせいか、ぼんやりと俺を見たまま何も言わなかった。
いや、ただ俺のことを呼んだ。
「……にい、さん」
「ああ」
「…………」
「…………」
沈黙。
ふう、ふう、と。妹の普段よりも荒い息だけが部屋に響く。
優香はぼんやりとした目で、ベッドの上から俺を見上げている。
予想された罵倒も説教もない。その沈黙に耐えかねて、俺は早口にまくし立てた。
「あ、起こして悪いな。調子はどうだ? まだ頭痛いか?」
「ん……大分楽になりました」
「そっか。じゃあ、何か食べるか? 俺、コンビニでパックのお粥買ってきたからさ」
「いいです」
「ん、わかった。じゃあ喉乾いてないか? 水でも持ってくるか?」
「いいです」
「じゃあ俺、自分の部屋にいるから。何かあったら声かけるか、携帯で呼んでくれよ」
「いやです」
くい、と。
きびすを返しかけた俺のシャツの裾を、優香の手が掴んだ。
けれどその力は、ひどく弱い。普段から鍛えているとは思えないほど、ひどく弱い。
その弱々しさに、思わず動きを止めた。今動いたら、壊れてしまいそうな危うさを、よりにもよって優香から感じて。
「あたま……気持ちいいですから、手、そのままで……」
「あ、ああ。いいよ」
動揺しながら、優香の額に改めて右手を当てる。そういえば屋台の食べ物とか手にしたままで洗ってないけど、いいんだろうか。
けれど妹は気持ちよさそうに喉を鳴らして目を閉じた。温かくなってきた手の平を返して、手の甲を額に当て直す。
静寂。
暗い部屋の中、月明かりだけがお互いの顔をうっすらと照らしている。
「…………」
「…………」
「お祭り……楽しかったですか?」
「ん? ああ、楽しかったよ」
「そのお面……」
「え? うわあ、付けっぱなしだった!」
「……ふふ」
は、恥ずかしいなあ。境内を回っている時は気にならなかったけど、こんなもの付けたまま帰ってきてたのか、俺は。
頭に被っていたプラスチックのお面を外して、適当に横に置いておく。ついでに何か話を逸らそうとして、先輩からの伝言を思い出した。
「そうそう。先輩が、優香によろしくって言ってたよ」
「そういえば……帰るの早かったですね」
「あ、うん。まあ、優香が心配だったから」
「そう、ですか……」
本当は晶ちゃんに偶然遭遇して急かされたんだけど、それは黙っておこう。
今の優香は彼女の言った通り、病気で弱っている女の子にしか見えなかった。
今まで見たことのなかった、優香の弱い姿に、俺の中の価値観がものすごい違和感を感じている。
俺にとっての優香は、強く賢く真面目で自立した、可愛いけれど超人じみている、そんな存在だった。
けれど今の優香は。変な言い方になるけれど、まるで妹のようだった。
兄として守るべき妹のようだった。
「優香、なんかあったのか? 今までこんなに体調崩すことなかったと思うけど、なにかあったなら俺とか父さん母さんに相談していいんだぞ」
「いえ……大したことじゃないんです。ただ、最近夜更かしが多かっただけですから……」
「夜更かし?」
「少し……勉強で」
「でも、夏休みの宿題ぐらいだったら今までずっと……あ」
「受験生、ですから」
……今まで気付かなかった自分を殴りたい。
そうだ、そうだ。優香は今年から受験生だ。進学のために受験勉強をするのは当たり前じゃないか。去年の俺も通った道だ。
たった一年前、あんなに苦労したのにもう忘れてたのか。喉元過ぎればなんとやら、とはよく言ったものだ。
いや、去年の今頃は、俺は部活に明け暮れていた。受験勉強を始めたのは夏休みが終わってからだ。
けれど優香にはずっと、今から勉強しろと言われていた。そして、優香は他人に言うだけの人間じゃなかった。
当たり前だ。気付かなかった方がどうかしてる。
優香が一体、どれだけ真面目な人間なのか。他人に厳しく、そしてそれ以上に自分に厳しい。そんな人間であることは、俺が一番よく知っているはずだった。
いや、知っていた。それでも優香の不調に気付かなかったのは……優香は強い人間だと、俺が思い込んでいたからだ。
勉強も部活も人並み以上にこなして、そのための努力を重ねることを、涼しい顔をして全て飲み込んでしまえる強い人間だと。
……だけど違ったんだな。
当たり前だけど、優香はそんな、便利な強さを持った人間じゃなかった。
でなければ。こうして倒れて、気弱になって、俺を頼るわけがない。
ただ、強くあるように取り繕ってきただけなのだ。
………
「あの、さ」
「はい」
「よければ俺も、優香の勉強見ようか?」
「兄さんが?」
「ば、馬鹿にすんなよな。俺だって毎日勉強してるし、一年先輩だし、一応進学校に合格したし……」
「いえ、馬鹿にしたわけじゃないけど……兄さんにそんな暇、あるんですか?」
「ん……そういう心配するなよ。俺は兄貴なんだからさ」
頑張ろう。
頑張ればいい。
頑張らないといけない。
優香にだってできたことだ。
俺と同じ親から生まれて、俺と同じ環境で生きてきて、俺と同じ人間である、優香にだってできたことだ。
強くなりたい。
先輩だって、妹だって、守りたいのなら強くならなければいけない。努力しなければいけない。
俺はもしかしたら初めて、この妹を守りたいと思ったし、そう決めた。
「ま、今日はもう寝ろよ」
「はい……あの」
「ああ、大丈夫。寝るまでちゃんとここにいるからさ」
「……ありがとう、兄さん」
常識「どうですか」
分析「確かにここまで効果が出るとは予想外でしたね」
潔癖「兄さんと受験勉強、これから半年……ふふ、うふふふふふ」
打算「つまり、弱い姿を強調することで保護欲に訴え、相手の行動を制御するというわけですか」
強行「しかしあまりに受動的すぎませんか? 兄さんが片羽桜子と行動することを見過ごしたのですよ」
性欲「下手をすればそのままホテルにゴーだった可能性もありますね。いえ、今日だってキスぐらいはしているかもしれません」
潔癖「ぶち殺しますよるあああ!」
議長「しかし片羽桜子は性交によって絶命するので、兄さんとは交際しないと明言していますよ」
強行「そんなもの、信用する方がどうかしています」
分析「一応、病名と診断書とこちらの裏付け調査から判断するに事実と思われますが」
打算「むしろ、意中の人間から兄さんを引き離す相手としては、こちらにとって都合が良い存在ではないでしょうか」
性欲「確かに、そういう考え方もありますね。最後の一線を絶対に越えられないのなら、理想的なアグレッサーです」
潔癖「兄さんが私以外の誰かに好意を抱いているという状況そのものが、一秒ごとに苦痛なのですが」
議長「必要な忍耐です。ではこれからは、弱い部分も定期的に偽装して、兄さんに精神的拘束を施していくという方向で――――」
常識「何を勘違いしているんですが」
分析「は?」
常識「ですから、兄さんを無理に支配しようとする、その考え方が間違っている、そう言ったではないですか」
打算「いえ、ですから搦め手も交えるのでは?」
常識「違います。そもそも、必要なのは兄さんを支配しようとすることではなかったんです。私が、兄さんに跪き許しを請うべきだったんですよ!」
性欲「はあ?」
常識「私の身勝手で兄さんをどうこうするのではなく、兄さんの幸せのためにどうすべきかを考える、それこそが愛ではないですか」
潔癖「で、では私自身の欲求は?」
常識「兄さんに全て告白して、慈悲を請うことです。兄さんが許しをくれるのなら、涙を流して受け入れればいい。消えろと言われれば、兄さんのために消えればいいんです」
強行「な、何を言っているんですか?」
常識「ああ、兄さん、兄さん、兄さん、兄さん。跪きます、懺悔します。私は貴方のために存在します。どうか身の程を知らずに今まで重ねた罪をお許しください、兄さん。ああ、ああ」
分析「……おや!? 常識のようすが……!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、キュピーン!
おめでとう! じょうしきは、しんこうに、しんかした!
常識→信仰「アニ・ヴァディス! 私は貴方の僕です、兄さんが幸せになるために産まれ落ちたのです。全ては兄さんの御心がままに、かくあるべし!」
一同「進化した――――!?」
分析「い、いえ。これは進化というより退化というか悪化というか……?」
強行「こ、こいつおかしいですよ。どこか狂ってるんじゃないでしょうか」
打算「貴女が言うな」
性欲「というより、兄さんの幸せ優先って……現時点で兄さんは片羽桜子に恋愛感情を抱いているんですが、それを応援するんですか?」
信仰「ああ、片羽桜子と一緒になると兄さんは不幸になりますから、あれは排除しましょう」
分析「え、それアリなんですか?」
潔癖「ならば問題ありませんね」
打算「ないんですか……」
信仰「当然です。全ては兄さんの幸せのために。私を導いてください、兄さん」
議長「……あ、あー……とにかく。これから半年は兄さんの心を片羽桜子から取り戻すことを優先目標としましょう。以上で一人定例会議を終了します」
以上です。
追伸:次は6.0で本編が進みます。
GJ!
常識が信仰に・・・強行とか潔癖じゃなくて常識っていうのが
かえって脳内会議のカオスさを表しているw
GJ
なんか兄さんまで脳内会議してるしw
GJ
懐かしいなマサル会議w
GJ
しかしこれで「常識」が別のものになった=消滅してしまった
これからの突拍子の無い行動に歯止めをかけられるのだろうか
GJ!
潔癖ちゃんの言動に笑いが止まりませんw
優香は人間としては退化したけど
キモウトとしては更なる進化を遂げたんですね、分かります
GJ
常識が無くなってしまうとは……これからは議長が頼りだな
つか意外と性欲が常識的だw
369 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 00:19:14 ID:b+jSAtAE
GJ
兄妹そろって脳内会議とは、血は争えんな…w
GJ
新月の影響でCMからMIHに進化したプッチ神父みたいだw
GJ!
今まで強行が一番危ないと思ってたけど、本当に危ないのは潔癖だなw
なるほど、キモウトはジャック・ハンマーだということですか。
脳内会議が楽しすぎるwwwwwwwww
>>359 GJですよ! 兄の方の脳内会議も悪魔の方が悪意のある意見という訳でもないし
妹と同じで脳内会議の役割崩壊してるな。だが兄妹共その役割崩壊ぶりがいいw
5.6と6.0はセットみたいな話があったのでwktk待機中
もうお兄ちゃんを解放してあげなよ……。
すごい数のGJですね^^職人が減るわけだ
意味不
姉が教師かなんかで彼氏にふられた夜に、弟が彼女ができたって報告して逆レイプされる話
ここのスレにあったよね?名前なんだっけ?まとめ探してんだけど見つからない
短編の方にある“千冬と浩司”だな
ちょっと聞くがこのスレ的にキモ姉or妹の加害対象になるのが
姉or妹で姉妹百合というのはアリなのかナシなのか
加害対象なんて回りくどい言い方しないで被害者でよくね?
百合は無し
あくまでも、兄か弟にキモくなるのが原則。
百合なら百合スレへ。
そかそか、d
しかし百合スレないんだよなあ
そこは基本二次創作だからなあ
まあこれ以上はスレチなんでおいとまします
ありがとねねね
ヒロインが姉が妹なら主人公はどっちでも問題ないんじゃない?
そうもいかんだろ今までも百合はナシの方向できてんだし
百合が大嫌いな人も最近よく見るようになったから避けたほうが無難です
百合厨はなんで自重しないの?
普通に百合板に行けばいいし、ないなら立てろや
一応百合キモウトの前例はある。
(保管庫の短編「好き好きお姉ちゃん」を参照されたし)
しかしこれ、百合モウトの可愛さにノックアウトされつつも、ルール上ありなのか?と
住人諸兄を悩ませた記憶が…
荒れる予兆
同性愛はアブノーマルだってことを自覚しろ
>>394 別に悩んじゃいなかったしそこまで触れもしてなかっただろ
今回も意思は伝わったんだからスルーしろよ
>>1 >愛しいお兄ちゃん又は弟くんに欲情してしまったキモ姉又はキモウトによる
らしい
百合だめだけど男兄弟のほうはいいんだろうかキモウトだし
キモオトもダメに決まってんだろw
小ネタ書いただけであんなに荒れたっていうのに
なんでいつまでも引っ張るんだ?やるなら避難所いけよ
節分と言うわけで
姉は外〜妹も外〜
しかし愛の力という名の元に無理矢理侵入してくるキモ姉&キモウト
ひとえに愛だよ☆
鬼役を買って出て力いっぱい豆を投げつけられて
感じるキモ姉を想像した
鬼嫁はいらないけど
鬼姉は欲しいと思った冬
兄ヲタという言葉が頭に浮かんだが、もう使われてるネタかな?
お兄ちゃんのファンアートを描いたり
お兄ちゃん×妹の二次創作SS書いたり
お兄ちゃんのフィギュアを作ったり
初音ミクにお兄ちゃんへの熱い想いを歌わせてニコ動にうp
似たような物ならあるな。
でもやるんなら是非応援させて貰いたい。
……個人的には一番下がちょっといただけない気もするがね。
まあ、私見だ。気にしないでくれ
>>410 そこは、お兄ちゃんのオーディオに勝手に、入れるんですよww
ミクに対する殺意が募るだけで終わると思うがな・・・
自分で作詞作曲そして自ら歌うのが基本であろう
それ以前にニコニコの名は出すだけで荒れる危険性を孕むので(ry
そこでユアファイルホストですよ
>>414 お兄ちゃん×妹のエロアニメをうpするんですね、わかります。
妹がブログやってるとか言うとする。で、兄が自室でブログを読むと、濃厚官能詳説(兄妹もの)があるわけ。
何だこりゃあ!とか言ってると、後ろからカチッ、と妙に軽い音がしてうわなにやめ
保管庫にある古い作品でお前らのお勧め教えてくれ
監禁トイレを勧めずにはいられない
ならば拙者は、キモウトより愛をこめてをお勧めいたす。
虎とあきちゃんを勧めざるを得ない
お前らありがとう
まさかこう早々にレスが付くとは思わなかった
これから仕事だが全部読んでくるよ
『姉が腐女子でキモヲタで』の弟の観察眼と表現力が素晴らしい。
そーいや虎とあきちゃんはもう続きこないのかな
花言葉デンドロビウムがオススメ。
実用的。
スクールズブリドル、続き待ってます。
作者が自分の作品を勧めてるようにしか見えない
ってか、絶対そうだろ。つまんないのばっかじゃねーか
どうせならもっとGJがついてたのを教えてやれよ
「現実」マジオススメ
理系なキモ姉妹を読みたい。
研究に研究を重ねた媚薬を飲ませるとかさ
偏愛マダー
全部としか言いようがない
ハッピーエンドのキモウトものなら『籠の中』かな
ハッピーエンド・・・?
キモ姉妹がハッピーだったらハッピーエンドだろ?
監禁でしかもトイレって・・・
てな感じで敬遠してたが、勇気を出して今読んできた
ステキだった
ヘタレキモウトとかほのぼの系が好きだけど、こういうのもいいね
綾。
もうこれはこのスレの代表作にして最高傑作
綾はGJもすごかったからなあ
それはそうと、こうやって職人がやる気出してくれそうな雰囲気はいいね
個人的には籠の中と…やっぱり綾かな
某も綾に一票。あれは素晴らしかった。監禁トイレは思い出すと股間が痛くなる
しかしこうやって自分のお勧めを書いていくとタイトルを挙げられなかった作者達が……
>>436 ……あ〜、なんだ、その……次!次があるから!次呼ばれるから。なっ!
挙げられるほどの名作を書けばいいだけのこと
挙がってないから駄目とは言わないけどね
綾と同じレベルなのがノスタルジアだと思う
あれは楽しみ
籠の中と綾かな
スレに流れを作った2作だと思う
最近のだと・・・迷うがフラクタルかな
俺は姿見村だよ
ほかのも総じて質は高いし、
稀に見る良スレだよ、間違いなく
フラクタルは・・・人気があるのかないのかよくわからんイメージがあるがどうなんだろ
個人的にはノスタルジアはガチ
永遠のしろの続き・・・
俺は永遠に待ってます・・・
最近のだったら玉恵to秋冬が大好き
この流れはよろしくない
キモウト・キモ姉が嫉妬するぞ
ほら、お前の後ろに…
玉恵to秋冬の続きを全裸待機しながら年を越してしまった…まだか
さっき気づいたんだが
キモ姉はキモアネって読むのか?
ずっとキモネエと読んでたんだが
俺はキモアネと読んでる
もし兄が急に普段おとなしいキモウトの心を読める能力を手に入れたら…
そんな作品を見てみたい
サトラレキモウトとか真っ先に浮かんだ
全力で逃げるだろうな。ヤバイ俺の妹マジヤバイとか思いながら命がけの逃亡生活スタート
心が読める兄ならば、兄だけが妹の恐るべき本心を知っているというサスペンスか。
逆に本心をまき散らす悟られキモウトの場合は、脳内会議が実況中継されてる
ようなものだから周囲が引きまくり…いや、生まれた時から一緒に生活している
兄ならば、歪んだ恋心が形成される過程もはじめから実況されているわけか…。
っ接触テレパス
肩が触れる、手を繋ぐ程度から逆痴漢とか繋がってる最中も毒電波ダダ漏れ
顔を引き攣らせながら妹と会話してるお兄ちゃん可愛いです
唾とか血とか愛液とか食事に混ぜても心を読まれて看破されます。どうしたら
スレの流れ読まないでいうが双璧面白かったな
文章は時々あれってところあったけど
キャラが抜群に立ちまくってるし台詞回しもよかた
同じ作者さんが新作投下してくれないものか
昔はいろんなのが投下されてたからな…職人はまたやる気を出してほしいもんだね
最近で注目してんのは?
そういうのは避難所でやった方がいいんじゃないかい
さすがにこれ以上はスレの流れ上投下しにくくなるしな
ちなみにヘンゼルとグレーテルのあれは笑わせてもらえる名作の一つだと俺は勧めたい
サトラレとかテレパス繋がりでサイコメトラーキモウトとかどうだろうか
兄の持ち物を片っ端からサイコメトリーしまくるキモウト
「ヒィ〜〜〜ッス……ヒィ〜〜〜ッス……」とかキモイ呼吸しだすキモ姉が事件の裏側に……ッ!
そういえばサイコメトラーエイジの妹もキモウトではないが兄大好きだったな
>>459 そして、「直接お兄ちゃんの全てを読み取りたい」という欲望に
耐えられなくなる日が…
俺の話を聞け 2分だけでもいい
お前だけに本当のことを話すから
背中で睨み合う 虎と龍じゃないが
俺の部屋で俺と 姉とが戦う(貞操の危機的な意味で)
どす黒く淀んだ お姉ちゃんの目に
浮かぶ月みたいな 婚姻届よ
キモウトに「兄離れしてくれたら毎晩寝る前にナデナデしてやる」
って言ったらどんな反応するんだろ・・・
ナデナデよりもっと良い事するから離れないに決まっておろう
その発想はなかった
対愛しいお兄ちゃん・弟クン法
第一条 機動キモ姉キモウトは、いかなる場合でも同意なしに
兄弟の個室に入ることができる。
第二条 機動キモ姉キモウトは、相手が泥棒猫と認めた場合、
自らの判断で泥棒猫を処罰することができる。
第二条補足 場合によっては、抹殺することも許される。
第三条 機動キモ姉キモウトは、兄弟との夫婦関係構築を最優先とし、
これを顧みないあらゆる命令を排除することができる。
第六条 私たちの夢を奪い、その心を傷つけた罪は特に重い。
第九条 機動キモ姉キモウトは、兄弟との濃密なスキンシップを奪うモノを、
自らの判断で抹殺することができる。
>>466 む、ということはそのキモ姉妹は泥棒猫によって瀕死の重傷を負うが
全身機械化して蘇るのか?
キモ姉とキモウトと幼馴染みとクラスメイトと女教師は、
主人公を巡り、鏡の中で最後の一人になるまで変身して戦います。
幼馴染み龍騎「男君は私が貰うわっ!!」
キモ姉蛇王「ああぁっ、イライラするのよ……」
しかもさらに一度泥棒猫に倒された後、より強力なパーフェクトキモ姉妹として復活
>>462 さて、それではここであらためて紹介いたしましょう。
東洋一のキモ姉マシーン、おねえちゃんです!
「あ、どーも」
さて昨晩、都合7回は弟くんの精液を搾り取ったわけですが、
今のご感想は如何ですか?
「いやもう、ほんと最高なんで、とくに言うこと無いっていうか」
なるほど。
さて今夜はどの泥棒猫を始末してくるんでしょうか。
「それじゃーあの、そんなことするより、婚姻届出してくる」
ところでコンコンねえちゃんがまた来ないかと密かに待ってはいる
ここまで本作の名が出ないことに多少傷付きつつも、投下します。
キモ分はかなり少なめなので、今のうちに謝っておきます。
「その後……お兄様の様子は……どうなんだい……?」
「ええ、まずまず平穏無事といったところね。事件の記憶もないみたいだし」
「自分が自分でなくなった瞬間を……?」
「ええ、普通に覚えていないみたいよ。……まあ、私はプロのカウンセラーじゃないし、冬馬くんの身に何が起ころうが、慌てるくらいしか出来ないけどね」
「――話の腰を折って申し訳ないんですけど」
その場にいた全員が、今の声の主を振り返っていた。
憮然とした表情で足を組んでソファにふんぞり返る一人の小学生。
「あたし、やっぱり帰っちゃダメなの?」
おゆき――現在の名を渡辺ゆき。
冬馬の最初の養家であった景浦家の妻・美也子の私生児として生まれた少女。
彼女が生まれた時、すでに景浦家の家長たる景浦武彦は死亡していたため、姉たる千夏と同じ景浦姓を名乗れず、結局、美也子の旧姓である渡辺姓を名乗っている。
もっとも美也子は、景浦武彦の妻であったと同時に彼を殺した犯人でもあったから、武彦の親戚一同が、おゆきに景浦姓を許すわけもなかった。ましてやおゆきの父と目される男が、美也子に武彦殺害を直接指示した愛人であるとすれば、なおさらだ。
その美也子も、彼女の心を洗脳して“御主人様”として君臨した愛人――当時景浦家の隣家に住んでいた医大生――も、もはやこの世にはない。
「だいたいさ、お姉ちゃんは何であたしをここに呼んだの? あなたたちが今からしようとしている話はアイツの――冬馬の話なんでしょ? そこにあたしの意見や存在が必要とは到底思えないんだけど?」
そう言いつつ彼女は、ここに居並ぶ全員に、機銃掃射のような鋭い視線を投げかける。
しかし、そう睨まれても、弥生や葉月に返す言葉はない。
おゆきという少女が、冬馬に対して明確なまでのアンチの立場を貫いているのは、もはや柊木家の姉妹にとっても周知の事実だ。だから「何故こいつがここにいる?」という疑問は、当のおゆき以上に濃厚に二人は持っている。
その必然として、彼女たちの視線が向かう先は一つだった。
おゆきをこの場に呼んだ張本人――彼女の姉・景浦千夏。
その千夏は、まるで問題ないと言わんばかりの涼しい表情で、おゆきの硬い視線を迎撃する。
「いい機会だと……思ったからだよ……きみに……お兄様のことを理解してもらうためのね……」
その言葉に、今まで以上にむっとした顔をするおゆき。
「あたしは別に理解なんてしたくはないわ。あんな人殺しの事なんて」
「まあ……そう言うだろうとは……思っていたけどね……でも……席を立つことは許可しないよ……」
これは姉としての命令だ、と最後に付け足すと、おゆきはギギギと奥歯を鳴らしそうな顔をしていたが、しかし、やはり姉には逆らえないのか、一瞬浮かせかけた腰をふたたびソファに下ろした。
そもそも今日の、この会合をセッティングしたのは弥生だった。
冬馬の精神退行事件を題材に、彼と過去を同じくする元妹・千夏から話を聞くというのが目的だ。
一応、冬馬の精神状態が回復したことは伝えてあるが、千夏としても弥生たちに色々と話を聞きたいこともあるだろう。少なくとも、一晩眠って冬馬が目を覚ましたら元の状態に戻っていた、などという弥生の虚偽報告を鵜呑みにしているとは思えない。
いずれ彼女とは、弟を巡って敵対することになるだろう。それは分かっている。
だが、それはまだ早い。
彼女はまだ、利用できる。
今回の事件で、冬馬はその心の裡にまだまだ闇を抱えていることが判明した。
ただの暗黒ではない。
自我がその負荷に耐えられず、精神退行さえ起こしてしまうほどの黒き深淵。
だが、彼にとって芹沢家の時代を思い出すという行為のすべてが、自我破綻のトリガーに直結しているとは、弥生には思えなかった。冬馬という少年の精神力が、そんな脆弱なものだとは、彼女にはどうしても信じられなかったのだ。
やはり、ここは冬馬の過去に関する情報を一度キチンと聞いておく必要がある。
だから、弥生は千夏と会う気になったのだ。
場所と時間を指定し、約束どおりに現れた千夏に、弥生はその美麗な口元を緩ませて笑顔を見せた。
だが、そこに現れたのは千夏一人ではなかった。何故か彼女の妹であるおゆきが、千夏の背後から、苦虫を噛み潰したような顔を出したのだ。
葉月は素直に驚いた表情を浮かべたが、弥生はさすがに動揺を表に出さなかった。
葉月がここにいるのは、冬馬に関する情報を共有する必要があるからだ。だが、このおゆきという小学生は違う。彼女は、それこそ一方的に冬馬の存在を憎悪しているはずなのだ。ここで自分たち姉妹と並んで、彼の情報を耳にする必要はないはずだ。
だが、まあいい。
このおゆきという女の子が、冬馬にフラグを立てそうな兆しはない。
ならば、彼女の存在は弥生にとって完全に無意味だ。ただ外野が一人増えただけに過ぎない。千夏がこの少女を連れてきたのは彼女の事情であろう。自分たちには関係ない。
無論、この子が発する雑音が、自分たちの意見交換の妨げになるなら、その時初めて追い出せばいい。
――弥生は、そう思うことにした。
そして、四人はそのまま、最寄りのカラオケボックスに入った。
勿論、ともに歌って親睦を深めるためではない。
10代の少年少女が、余人の耳目を気にせず声を潜める必要さえなく、密談を交わせる個室と言えば、ラブホテル以外ではカラオケボックスが最も確実な場所だと言えたからだ。
「それで……聞きたいことは……お兄様の過去のトラウマについて……だったね……」
「漠然としたテーマで済みません」
葉月が申し訳なさげに千夏に頭を下げる。
だが千夏は、その美しい瞳を伏せる事無く答える。
「いいさ……でも……どこまで私の話が参考になるかは……あてにしないでくれ……私は……あくまでお兄様の妹であって……景浦冬馬本人ではないのだから……」
カゲウラトウマじゃない、柊木冬馬だ。
そう言おうとして、弥生は咄嗟に口をつぐんだ。
この少女にとっては、どこまでいっても冬馬は景浦姓の人間――あくまで自分の兄なのだろう。
ならば、今はそれでいい。
どうせ現実の冬馬は、すでに景浦家の連中とは縁が切れている。いまや歴然たる“うち”の人間なのだ。
そんな下らぬ差し出口で、千夏の話の腰を折ってはならない。
自分は今、千夏の話を聞くためにここにいるのだから。
「……さて……どこから……話を始めようか……」
/////////////////////
ぶん殴られた。
部屋に帰ろうとリビングで席を立った瞬間、後ろから後頭部を一発。いきなりだ。
頭がくらくらする。
だが、ふらつきながらも相手を確認した瞬間に納得する。
彼が犯人なら仕方がない。ぶん殴られても仕方がない理由が充分すぎるほどあるからだ。
よろけたところに二発目は来た。みぞおちに蹴りだ。
思わず上体が前かがみになる。
だが、横っ面をハタかれるよりはありがたい。なにしろ顔は商売道具だ。
でもまあ、おれはツラで人気取りができるほどイケメンじゃねえけどな、と嘔吐しそうになるのをこらえながら思う。
――と、その瞬間に、胸倉を掴まれ上体を引き起こされた。
(このヘタクソが……)
最初の不意打ちはよかったが、やはりこいつはケンカのやり方を知らない。ここで敢えてケガを負って休暇をもらう手もアリと言えばアリだが、やはり痛いのは嫌いだ。
上体を引っ張られる動きに合わせて逆らわず、そのまま自分の頭部を、そいつの鼻っ柱に叩きつける。
「……かっ……はっ!!」
顔を押さえてうめき声を上げる相手の、無防備の股間を思いっきり蹴り上げた。
それで終わりだ。ここが学校で相手がクラスメイトだったなら、とどめに一発入れてやるところだが、さすがにやめておいた。家族愛でも兄弟愛でもない。ただ、やりすぎてしまえば正当防衛に見えなくなるという小賢しい計算に基づいた判断だ。
芹沢冬馬は、声すら立てられずに土下座の姿勢でうずくまる襲撃者を、そのまま見下ろした。
勝利の余韻などない。
あるのは、空しさだけだ。
――芹沢真司。
歳は冬馬より四つ上の15歳。今年で中学三年生になる。そんな彼が、小学校五年生でしかない冬馬を背後から襲うなど、異常極まりない光景ともいえるが、しかし実際のところ、彼が冬馬を恨むのは当然だった。
真司の上得意だった某女性議員が、それまで馴染みだった真司に目もくれず、先日から三回連続で冬馬に指名を入れているからだ。
そして、その議員は今晩、冬馬に四回目の指名を入れていると、みんなのいるリビングで聞かされたのだ。15歳の少年の自尊心は、さぞかしズタズタになったことだろう。それこそ、背を向けた冬馬に我を忘れて殴りかかってしまうほどに。
そのまま涙ぐみ始めた真司を見て、しかし冬馬は、ざまあみろとは思わない。
彼は15歳という年齢相応の粗暴な性格だったし、何より冬馬よりも美形だった。
一つ屋根の下で生活を共にする年下の――しかも明らかに自分よりイケてないガキに、眼前で堂々と客を奪われたのだ。そして改めてケンカでも負けてしまった今、その屈辱は察するに余りある。
しかもその“弟”は、自分より高い売上を誇り、自分よりいい生活を謳歌している。互いに立場が逆だったら、やはり我慢できずにブチ切れてしまったかも知れない。それこそ、彼が自分に殴りかかったようにだ。
(いや……それはないか)
――おれは多分、そんなことを悔しいとは思えないだろう。
そのまま真司に背を見せて歩き出した瞬間、そう思った。
自分たちの争いの成り行きを呆然と見ていた兄弟姉妹たちが途端に動き出し、まるでモーゼの十戒のように、冬馬の進む先に道が出来る。
「冬馬……ちょっと待ちなさいよ……あんた、真司に何か言うべき言葉があるでしょう?」
“姉”の一人が、硬い声をかけてくるが冬馬は振り向きもせず、そのままリビングを出る。
無論、今夜の客に備えて自室で準備をするためだ。
(くだらねえ……)
無論、冬馬の方から、その例の女性議員に『真司を捨てておれの客になってくれ』などと言ったわけではない。彼は自分のもとを訪れた客を、いつも通り、全身全霊でもてなしただけだ。その結果、女性議員が冬馬を選んだというなら、冬馬が彼にかける言葉などあろう筈がない。
彼が怒る気持ちも当然だと思う反面、こんな先の見えない生き地獄のような売春宿で、客が増えたの減ったのと、まるで死活問題であるかのように騒ぎ立てる真司に、どうしようもないバカバカしさを覚えずにはいられない。
まるで、アリの巣の中で働きアリ同士が争っているようなものだ。
勿論、結果的に“兄”から得意先を奪ってしまった自分が言えた義理ではない。だが、それでもやはり冬馬は、そんな自分たちが、
(みじめ過ぎる)
と、思わずにはいられなかった。
直接手段による闘争こそ禁じられてはいるが、基本的に芹沢家とは“子供”たちの間に家族愛が発生するような環境ではない。
この家では、顧客からの指定・予約の獲得数――要するに売上で、各個人の食事・衣類などに明確な差別待遇が生じるようになっている。売れっ子になれば受け取る小遣いの額も違ってくるし、家具つきの個室だって貰える。
みな“子供”たちの無用の連帯を防ぎ、競争意識を煽るためのシステムだ。
基本的に、この家の兄弟姉妹たちはみな、実質的な商売上の競争相手なのだ。その結果が日々の生活水準に反映される事を思えば、親愛の情など生まれようもない。
たとえば先程の“兄”――真司にしても、売上ランキングでもトップ5に入る芹沢家屈指の美形ではあったが、それでもやはり、小学五年生にして自分を凌ぐ売上を誇る冬馬が、目障りで仕方なかったらしい。
(バカな野郎だ)
冬馬はそう思わざるを得ない。
出る杭は打たれるというが、それでも杭の打ちようというものがあるだろう。
白昼堂々、みんなのいるリビングで殴りかかってくるなんて、バカにも程がある。
この後、真司は間違いなく“両親”から懲罰を受けることになるだろう。
だが、これで明確に真司の中で、冬馬はライバルではなく“敵”として意識されてしまったはずだ。
11歳にして、ランキング三位という高順位を誇る冬馬を煙たがっている“兄”や“姉”は少なくない。可能性は薄いが、そんな彼らが団結して、アンチ冬馬の派閥でも形成するような事態になれば厄介だ。
またこれでやりづらくなったなと思いつつ、彼は溜め息をついた。
ドアにキーを差し込み、ロックを外す。
八畳ほどの広さの部屋には千夏がいた。
彼女がいること自体は、別に怪しむべきことではない。冬馬は千夏にだけは部屋の合鍵を渡してあるからだ。それ以来、千夏は時間が許す限りこの部屋に入り浸っているが、特に彼女は何をするわけでもない。読書をしたり、宿題をしたりしているだけだ。
そして今も、無言のまま文庫本を読んでいる。が、彼を見ると僅かながら表情を変えた。
だが、冬馬は妹の何か言いたげな視線を黙殺し、ふかふかのベッドに腰を落とす。
よくは分からないが、このベッドにしてもかなり値が張るアンティークらしい。自分みたいなガキが、こんないい寝床で安眠を貪っていると思えば、周囲が敵だらけになるのも仕方がない気分になってくる。
「…………」
ふと気がつけば、千夏がベッドの傍らに立ち、自分を見下ろしている。
なんだよ?
と、目だけで訊くと、彼女は怜悧な瞳を瞬かせ、囁くように言った。
「……また……学校で……けんかした……?」
冬馬は無言で首を横に振る。
だが、彼女は主張を引っ込める様子はない。
「……嘘をついても……分かる……」
(相変わらず鋭いな)
クラスメイト相手の喧嘩程度では、冬馬はまず外傷を負って帰ることはない。小学生離れした度胸と運動神経を持つ彼は、11歳という年齢に不相応なほどの喧嘩上手だったからだ。
しかし、この一歳年下の義妹は、何故か冬馬のあらゆる嘘をすぐに見抜いてしまう。
「うそじゃない。少なくとも学校じゃ揉めちゃいないよ」
その言葉に、千夏はまたしても顔色を変えた。今度は、心配より怯えの方が多分に含まれている。それは『揉めたのは学校ではない』という言葉が、本当だと気付いたからこそ発生する恐怖だった。
「じゃあ……ここで……?」
千夏が慄然となるのも当然だ。
学校でこっそり暴れるのと、この芹沢家内で一悶着を起こすのではまったく事情が違う。
この家にいる“子供”たちは、ただの無邪気なガキではない。その肉体を資本とする労働者であり、商品そのものなのだ。それが互いに拳を振り回し、傷を付け合うことなど許されることではない。だから基本的に“家庭内”の諍いはケンカ両成敗が常の掟だった。
両成敗と言えば聞こえはいいが、早い話が、喧嘩に関与した両者平等に罰を与えるという事だ。そして、この芹沢家は尋常の家庭ではない。ゆえに、この家の折檻も、通常の躾の範疇を逸脱したものであることは言うまでもない。
(囚人同士が喧嘩するのを見過ごす看守はいない、か)
そう、ここは牢獄だ。そして自分たちは、檻の中で這いずり回る受刑者だ。
高い塀に囲まれているわけでもなく、鎖に繋がれているわけでもない。
だが、逃げることなど出来ない。それは自分の身を以って知っていた。
かつて冬馬は、この芹沢家に引き取られて以来、千夏を連れて何度となく“脱獄”を図っている。だが、警察以上のコネクションとネットワークを誇る芹沢家の前に、ことごとく失敗し、その度に二人は手酷い折檻を受けていた。
自分一人ならいい。
たとえ、どんな拷問を何回くらおうが、耐える自信はある。
だが、千夏は違う。あの凄絶な折檻を何度もこらえる事は彼女にはできないだろう。
千夏を置いて、自分ひとりで逃げ出すなどという選択肢は、冬馬の中にはない。
つまり、自由になろうとあがくたびに、そのペナルティに千夏を付き合わせることになるという事だ。あの小さくか弱い妹の上げる悲鳴を、耳を押さえることさえ許されず、最後まで聞き届けねばならないという事だ。
結局、彼は理解せざるを得なかった。
もう自分たちは逃げられないのだと。
芹沢に抵抗することなど出来ないのだと。
黒いランドセルを背負って小学校に通いながらも、教師に真実を告げるでもなく、毎日毎日寄り道さえもせずに、真っ直ぐこの獄舎に帰宅してくるのはそのためだ。
どうせ彼ら“子供たち”が通う一貫教育の学校法人も、理事として金を出している芹沢には逆らえないし、厚生労働省の役人どもも同じく抱き込まれている。広域暴力団にさえ顔が利く芹沢に抵抗するには、あまりにも自分たちは無力すぎる。
飢え死にしたくなければ、言われるがままに股を開き、尻を振るしかないのだ。
そのとき、冬馬の携帯が鳴った。
画面を開いて、メール内容を見る。そこには551と書かれていた。
「ひぃっっ!!」
千夏が反射的に息を飲む。
芹沢夫妻からの業務連絡は、大抵数字の形をとる。
551という数字が意味するものは、芹沢家の“父”たる孝之の部屋への呼び出し……。
(まあ、さっきの件で呼ばれただけなら、まだいい)
実は冬馬には、真司との喧嘩などよりも遥かに深刻な意味で、“父”からの召喚を怖れる理由がある。もし、この一件が暴露したなら、規定の折檻どころではない。“父”は決して自分を許さないだろう。
だが、この妹に、そんな事実を話す気はない。無用の心配をかける必要もない。
冬馬が、まがりなりにも、この芹沢家で“人間”であることを維持していられるのは、この美しい妹のおかげなのだ。もしも千夏がいなければ、とっくの昔に男娼である自分を受け入れ、指名や予約の数に一喜一憂するようになっていたかも知れない。
(冗談じゃねえ)
そこまで堕ちるくらいなら死んだほうがマシだった。
彼が売春者としての生を余儀なくされながら、自殺も発狂もせずに生きているのは「自分が一人でも多くの客を捌けば、その分、千夏が身を汚さずに済む」という思考が、彼の心の内にあるからだ。
だから、ランキング三位の高売上も、自分を贔屓にする大勢の上得意も、報酬として得た食事や個室といった高水準の生活も、冬馬からすれば特に意味はない。こんなものは「汚れるのはおれだけでいい」という意識が導いた、単なる結果に過ぎないからだ。
だが、“父”の呼び出しの用件次第では、それらはすべて水泡に帰す。
今更ながらに冬馬は、どこまでいっても籠の鳥な自分たちに絶望するしかない。
できることはただ祈ることくらいだ。
芹沢孝之の用件が、真司との一件だけでありますように、と。
「心配するな、今回のは正当防衛だ。目撃者もいるし、言い逃れくらい幾らでも出来るさ」
「……でも……おにいさま……」
「心配するな」
冬馬は寝転んだまま、そっと千夏の頬に手を伸ばした。
「おれは大丈夫だ」
「真司と揉めたそうだな」
バリトンの利いた声でそう言いながら、彼はパイプの中身を詰め替えると、おもむろに火をつけた。
日本人がパイプを愛用するのは珍しいが、彼はまるでNHKドラマのシャーロック・ホームズのように、それを扱う姿がいかにも堂に入っている。
彫りの深いダンディな容貌。
髪に混じる僅かな白髪さえサマになるロマンスグレー
齢50を迎えながらも、スポーツで鍛え上げた186センチ85キロの逞しい肉体。
明治維新以来の御用商人を家祖に持ち、大手企業間の資産融資を任されるほどの莫大な財力を持ちながら、世界中の難民や被災者たちや、その支援団体にも寄付を惜しまず、そして自らも全国から20人以上の孤児を自宅に引き取り、養育している一代の慈善活動家。
その裏で、政・財・官のあらゆる大物たちを顧客とする高級娼館を経営し、その報酬として得た株価情報や政策上の優遇措置で、さらにその財を増やしつつある政商(フィクサー)。
彼は、強制売春発覚後「平成のジル・ド・レー伯爵」「戦後最大の偽善者」などと呼ばれることになる。
――それがこの男、芹沢孝之だった。
「あれは正当防衛ですよ。殴られたから殴り返しただけです」
それを聞いて、鼻を鳴らして芹沢が苦笑する。
「まったく、大したやんちゃ坊主だな」
そんな芹沢を見て、冬馬は少しホッとした。
どうやら今回の呼び出しは、真司との一件だけが原因らしい。
ならば、こんな場所にもう用はない。
「とりあえず、リビングには咲良(さくら)姉さんや千鶴(ちずる)姉さんたちもいたから、訊けば答えてくれると思います。おれは被害者だってことをね」
それには答えず、無言でパイプから煙を吐き出す芹沢を見て、冬馬は失礼しますと言って背中を向けた。
がんじがらめの規則と懲罰、そして競争原理だけが支配する芹沢家で、誰もが恐れる“父”に、こんな生意気な態度をとるのは冬馬だけだ。それが咎められもしないのは、彼は“営業成績”で充分すぎるほど結果を出しているからだ。
だが、今は違う。
いまの冬馬の心は、なによりも芹沢に対する怖れで埋め尽くされている。しかし、後ろ暗いところがあればこそ、いつも通りの態度を貫かなければ、芹沢はすぐに冬馬を怪しむだろう。態度を改めねばならない何かがあったのかと疑うだろう。
ならば普段以上に“普段”を演じて見せねばならない。
「いや、待ちたまえ冬馬。今日ここにお前を呼んだのは、話がもう一つあるんだ」
恐怖で脚がすくんだ。
ばれたのか、という思いが瞬時に浮かぶ。
だが、すぐにおびえを掻き消し、振り返る。
「なんです?」
「実はな、工藤さんが長期でお前を借り受けたいと言うんだよ」
さすがの冬馬も血の気が引かざるを得ない。
いま話に出た工藤啓太郎とは、前政権の閣僚であり、現在もなお与党幹事長のポストに座り、政界の重鎮として世間に知られている大物政治家だが、かつて芹沢家では、その妻の瑛子と二人、夫婦で顧客リストに名を連ねていたこともあった。
ロリータ・SM・同性愛・乱交からスカトロまで、普通のセックスに飽きた人間が、金にあかせて変態性欲を発散する芹沢家。獣姦ショーのための豚や犬さえ専門的に飼育するこの館に於いても、彼ら夫妻は“子供”たちが最も恐れ忌み嫌う客であった。
――彼ら夫妻は、それこそ人間離れしたサディストであったからだ。
しかし、不審でもある。
彼ら二人は、以前この家の“娘”を一人、再起不能にしてしまったことから、芹沢家には出入り禁止となったはずだ。現にその事件以降、工藤夫妻はこの家に顔を出していない。
だが、それを怪しむ余裕は、冬馬にはなかった。
「長期……ですか……」
「ああ、先方の希望では半年だそうだ」
冗談ではなかった。
冬馬はこれでも芹沢家での暮らしは長い。これまで彼ら二人の相手をしたこともあった。それこそ思い出すだけで鳥肌が立つような目に遭わされたが、それでもあれは一夜のことだ。一晩の相手ならば、たとえ何をされようが幾らでも我慢して見せる。
だが長期となれば話は別だ。
あの人面獣心の変態どもを、たった一人で半年も相手に出来るはずがない。
「もちろん……断ってくださったん……ですよね?」
頬を引きつらせながら冬馬が尋ねる。
だが、芹沢はさほど表情を変えずにパイプから煙を吐き出した。
「いいや。――明日から早速、君には工藤さんの家に行ってもらう」
冬馬は絶句した。
「……なんで……?」
まさしく理由が分からない。
この家にとって“子供”は商品だ。だから芹沢は、少しでも彼らの体調や精神に異変があれば、まず大抵の場合は“仕事”をさせない。商品のケアやメンテナンスは、業者にとっては大切な仕事だ。芹沢は人間がいかに脆く、壊れやすいかを知り尽くしている。
だから、工藤夫妻のような人間に、大事な商品を半年も預ける意味を、芹沢が理解しないわけがなかったし、ましてや冬馬は、この家屈指の売上を誇るドル箱の一人だ。何の理由もなく、彼ほどの売れっ子を潰すような決断を、芹沢がするとは思えなかった。
(理由もなく……?)
――そうか……。
冬馬の顔が戻った。
驚愕と絶望が消え、理解と諦念がその表情に現れた。
これは報復なのだ。芹沢孝之から芹沢冬馬への。
「……知ってるんですね?」
「ああ」
芹沢の目に、初めて激情の色が灯った。
「おまえ、家内とはいつから続いている?」
自ら引き取った養子に肉体を売らせている彼が、意外なほどの愛妻家である事実は、関係者筋には有名な話だ。少なくとも“家族”たちの中では、その事実を知らぬ者はいない。
彼ら夫妻に生殺与奪の全てを握られている“子供”たちが、もし彼の妻と関係したなどという事実があれば、芹沢孝之がそれを許すはずがない。それこそ、可能な限り残酷な方法で殺されてしまうだろう。それこそ、拾った百円を自分の財布に入れる当然さでだ。
そして今回、芹沢が自分を裏切った“息子”に取った処置が『工藤家への追放』というわけだ。
これはある意味、絞首刑や電気椅子よりも遥かに苦痛を伴う処刑と言えるだろう。
ならばもう、冬馬としては開き直るしかない。
「半年ほど前、からです」
「何回寝た?」
「7回、です」
「誘ったのは家内の方なのか?」
それこそ回数を訊く以上に無意味な質問だ。
「おれたちに、“お母様”の言葉を拒絶する権限はありませんよ」
それを聞いて、芹沢の目が怒りのあまり真っ赤に充血する。
だが、たったいま逃れられぬ“死”を宣告された冬馬には、もはや芹沢を恐れる理由は無かった。
「あなたより『いい』って言ってくれましたよ。“お母様”は」
だが、冬馬のやけくそな挑発を聞いても、さすがに芹沢が激昂する事は無かった。
「おまえ……確か、そろそろ誕生日だったか」
一瞬、虚を突かれたような顔になる冬馬だったが、なんとか頷いた。
「……来月の9日で、12歳になります」
「そうか」
そのまま一息、パイプから大きな煙を吐き出すと、芹沢は改めて冬馬を見た。
「冬馬、お前の気持ちは分かる。家内の方から声を掛けたのであれば、それは誘惑ではなく命令だ。お前がさっき言った通り、拒むことなど出来るはずが無い。だから、そんなやけっぱちな口を利きたくなる理由も理解できるつもりだ」
芹沢の口調は重く、その表情は、むしろ沈鬱でさえあった。
「しかし、私は家内を愛している」
「…………」
「だから私は、家内に何度裏切られようが、それを咎めるつもりはない。だが、――おまえは別だ。男として、夫としての感情が、お前を許すことを認めない。だから冬馬、私は工藤さんに言っておいた」
「お前を殺しても構わない――とな」
この芹沢という男が、見かけ通りの温和な紳士などではないことは十分承知している。
だが、それでも冬馬は、この芹沢がここまで怒りをあらわにするのを初めて見た。
彼がいま口にした言葉――それは死の宣告だった。いかに冬馬が気丈な少年とはいえ、彼はまだ小学五年生のガキに過ぎない。恐怖と後悔で、眼前が真っ暗になる。
しかし、同時に怒りも沸いた。
何故、おれが死なねばならないのだ。
この鬼畜外道に、そんな事を言う資格がどこにある。
そう思った瞬間だった。
「確か、お前の――景浦さんは、間男にそそのかされた奥さんに……刺されたんだったな」
冬馬の顔色が変わる。
その言葉を聞いた瞬間に、自暴自棄な表情が凍りついた。
「分かっているだろうが、お前がやったことは、その間男と同じことだ」
手が震えた。
今にも膝が崩れ落ちそうになるのを懸命にこらえる。
頭の中はすでに真っ白だ。
反論の言葉さえ出てこない。
ドブの中を這いずり回るような日常を冬馬と千夏に強制する、夢魔のような男。どういう形にせよ、そんな芹沢に屈辱を与えたというなら、それは全ての抵抗を封じられてきた冬馬にとって、初めてこの男に一矢報いた行為であると言えるかも知れない。
だが、それでもなお、冬馬は呆然とならざるを得ない。
優しかった義母を狂わせ、尊敬する義父を殺させた、あの医大生と同列に並べて語られるなど、冬馬の中ではまさしく、身の破滅以上にあってはならないことだったのだ。
焦点の合わぬ目をする冬馬に、芹沢は言った。
「千夏のことは心配するな、私が最後まで面倒を見る。だからお前は……せいぜい苦しんで死んでくれ」
しかし、結局のところ、冬馬は死ななかった。
彼にとっては幸運なことに、工藤夫妻のもとに身を寄せて一ヶ月ほど過ぎた頃に、冬馬は解放され、自由の身になった。いわゆる芹沢家強制売春事件が世間に発覚し、芋ヅル式に出た逮捕者の中に、当時の与党幹事長・工藤啓太郎の名前があったからだ。
だが、工藤家の私邸から救出された冬馬の肉体は、見るも無残な傷だらけの状態になっていた。――その日はちょうど彼の12歳の誕生日の前日であったという。
だが、生きて帰ってきてくれたという事実こそが重要なのだ。
自分の目の前で、すやすやと寝息を立てる弟を見て、弥生は改めて思う。
腕時計の針は午後十一時。
今日、カラオケボックスで行われた会合から、すでに数時間が経過していた。
「……アイツの不幸自慢をいくら聞いたところで、お母さんが帰ってくるわけじゃないでしょう」
それでも悔しげな顔をしながら、おゆきはそう言い、カラオケボックスから出て行った。
葉月は憤慨していたが、弥生にはおゆきの気持ちも少しは分かる。
獄中の面会室で「釈放されたら一緒に暮らそう」と言った美也子。そんな母を拒絶した冬馬を、おゆきは激しく憎んでいる。冬馬が拒絶したからこそ美也子は自殺したと固く信じている。
そんなおゆきにとって、冬馬を理解するということは、その怨念に縋って生きてきた、これまでの時間をすべて否定することになる。おいそれと納得出来るはずが無い。
千夏が妹を追わなかったのも、そんなおゆきの気持ちが分かるからだろう。
だが、そんな話は弥生にとってはどうでもいい。
知りたい情報を聞くことは出来たのだ。弥生にとって今日の会合は大成功だったと言える。
ちらりと腕時計を見る。
そろそろいい頃合だろう。
彼が床に就く前に飲ませた、熱い煎茶。そこに例の薬を一服盛っておいた。
普段から宵っ張りの冬馬が、日付も変わらないうちから前後不覚に眠りこけているのは、そのためだ。だが、弥生は何も、彼に安眠をプレゼントするために薬を飲ませたわけではない。
「冬馬くん、起きなさい冬馬くん、冬馬くん」
「……んんん〜〜〜〜?」
「起きた?」
「……んだよ……どしたの姉さん……?」
寝入りっぱなを叩き起こされ、不機嫌さを隠さず眠たげに目をこする。
そんな弟に、弥生は亀裂のような酷薄な笑顔を見せる。
「姉さんじゃないわ、忘れたの、ぼうや?」
「……え?」
「私の名は工藤瑛子。芹沢冬馬――あなたにとって私は何?」
寝起きの表情は、一瞬にして消し飛んだ。
「おく……さま……」
冬馬の顔面は蒼白になり、唇は紫色になり、目は大きく見開かれ、口元からは歯の根が合わない音がカチカチと鳴った。すべて恐怖という感情がもたらしたものだ。
――工藤瑛子。
芹沢家における冬馬の最後の客。その夫・工藤啓太郎とともに、胸の『ドレイ』と背中の『犬』の二つの文字をはじめ、いまだに残る凄まじい傷痕を冬馬の肉体に刻み込んだ張本人。冬馬にとっては、芹沢以上に絶対に逆らえない主であり、恐怖と畏怖の具現化。
そう、弥生にとって最も知りたかったのは、彼が絶対に逆らえない人間の名前。その名を聞くだけで足がすくみ、背中が震え、掌を汗で濡らしてしまう、そんな人物。
それには、芹沢孝之こそが最も相応しいかと思われるが、そうではない。芹沢はおそらく、冬馬にとっては憎悪の対象でこそあれ、恐怖の対象ではなかったはずだ。冬馬の性格を推し量れば、弥生にもその見当はつく。
弥生の目的は一つ。
薬を使った後催眠暗示を冬馬にかけ、「私が工藤瑛子だ」という合言葉を聞いた途端、自分を、彼にとって絶対に逆らえないその人物だと思い込むように暗示をかけること。
つまり先日、葉月が偶然呼び出した『不能になる以前の彼の人格』を、いつでも自由に召喚し、絶対の支配下に置けるようにすること。
無論、正気に返す方法はすでに確立されている。
以前取ったやり方と同じだ。彼の精神年齢を現在に回帰させてやればいい。
「僕にとって奥様は……永遠の忠誠を誓った御主人様です……っっっ」
恐怖に引きつった顔で懸命に跪く冬馬に、弥生は艶然と微笑みながら、最初の命令を出した。
「とりあえず、その、だらしないモノを硬くしなさい。一分で勃起できなかったら、おしおきよ」
to be continued.
>>472 今日もイカしてるなブラザー
傷つくことはない、みんなあんたを信頼して待ってるんだ
正装して名前を呼ばなくたって、きっとあんたは投下してくれるってな
だがどうしてもってならしかたがない
俺の正装、全裸+靴下でよければさあ、見ていきな
>>472 GJ!!!
弥生のアプローチがエグ過ぎるて興奮せざるをえない。
次回はエロなのか? そうのか!?
>>472 「古い」作品のオススメは?ってのが流れのきっかけだし、気にしないでくれ
勿論GJだし、キモいし、話も面白いよ
完結目指して頑張ってほしい
GJの後にキモいが続くのを見れるのはこのスレだけ
最近の投下作品でどれって問いなら「傷」は滅茶苦茶好きだけどね
なんでこの主人公はこんな愛されるんだって疑問があると
物語に入りきれない俺としては、文句なくかっこいい冬真は
かなりのキーパーソンだし
何気に主人公の造形ってかなり大事だよな
てか冬真、要領の良さの割に虐待が重すぎると思ってたが
そういう経緯があったのね
GJ
>>468 兄ナドレ「俺は誰の者にもならない!」
キモウトタイガ「偽者の癖に!」
>>449 サトラレてるのを男の反応で察知してエロい事考えて羞恥プレイ
そんな作品をどっかで見た
どうせ悟られてるなら取り繕っても無駄だからと、開けっぴろげにあんなことや
こんなことを迫るのか。
>>481 途中で書くのをやめてしまう職人が多い中、アンタはきちんと投下し続けてるんだからそれだけですごいと思う。GJ
どうせ職人が自演してるレスだってあっただろうし、気にするな。
それに最近の作品って話ならノスタルジアはともかく、フラクタルよりはGJもらってるし・・・自信もて。
ここは色んなキモ姉とキモウトがいるから私の理想郷ですよ
今更ながら籠の中を読んでみた。
その直前に俺はワンピース空島編を読み終えていた。
地獄だった。
>>490 なんでそこでまた他と比較して他を落とすかね
下2行はいらないだろ
無形氏がヤンデレスレに降臨なさったから永遠の城もう直ぐ来るかな?
何も言わず待ちましょう、ね?
外の世界で男くんとの他人同士のノーマルな恋愛をしていた
俺達泥棒猫部隊は、男くんを彼のキモ姉妹に奪われ、彼らは地下にもぐった。
しかし、男くんを地下でキモ姉妹の性奴隷にされているのを
黙ってみているような俺達じゃあない。
監禁されている男くんに想いを馳せながらでなんでもやってのける命知らず、
兄弟姉妹での婚姻届は無効という世間のルールを突きつけ巨大な悪を粉砕する、
俺達、泥棒猫Aチーム!
俺は、女教師。通称メガネ。
職権濫用とショタの名人。
俺のような成熟した女の肉体でなければ男くんの性欲処理は務まらん。
俺はクラスメート。通称フェラまでならやった。
健康的なお色気に、男くんはイチコロさ。
ハッタリかまして、処女膜からアナル処女まで、何でもくれてやるぜ。
よおお待ちどう。俺様こそ幼馴染。
通称男くんのことを想うと毎日猿みたいに・・・。
主人公と結ばれるフラグの立ちっぷりは天下一品!
キモ姉?キモウト?だから何。
男くんの親友。通称おホモだち。
タチの天才だ。だが男くんの前ではネコになってみせらぁ。
女という存在自体、俺と男くん間にはNGな。
愛と死と憎悪が渦巻く人間模様
非情のキモ姉妹に挑む、執念の戦士達
我ら泥棒猫最前線!!
そこら辺にしておけ。
>>472 弥生姉さんが無双状態になったとな
これはGJだぜよ
続きが気になって俺のだらしないモノが制御できません!
>>490がまさにフラクタルの作者である可能性
まあ作者はやっぱり評価が気になるんだろうが
読み手としては投下はなんでも嬉しいのが正直な感想で…
なんでわざわざいらん事書くんだ?
ちょっと後の事考えろ
出来ないならROMってろ
いきなりなんでまたそんな喧嘩腰なんだ…
雑談板の単発クソスレじゃあるまいし
ちょっと落ち着いてくれ、気に触ったなら謝るよ
>>490 がまさに職人が自演してるレスである可能性
>>490は作者認定か・・・
これでフラクタルは投下しにくくなったなw
今日の昼飯は何にするかな・・・
ここまで俺の自演
キモ姉とキモウトに困ってる兄はこう言えばいい
「俺に先に触らなかったほうとセックスしてやる」
おいおいw
もう自演が確定したんだからスルーしなくていいじゃんw自演なんて最低だと思わないか?
すいませんね、うちの荒らしが出張してこっちに来ちゃったようです
皆さんスルーしてくださいね
>>490がフラクタルの作者の書き込みなら自演とは言わないんじゃなかろうか?
そもそも荒らすつもりで書いた書き込みじゃないんだろうしさ
お前らちょっと妹のパンツの匂い嗅いで落ち着け。もちろん気付かれないようにな
自演は最低だろw
>>490は最低。つまり作者は最低ってことだ
>499
君の書き込みでこうなったわけだがどう思う?
自演するやつが悪いんだから仕方ないw
だいたい好きな作品を挙げる、なんてつまらんことするからこういうことになるんだ
空気も悪くなるし、挙げられなかった作者さんは気にするかもしれない
中学生じゃないんだから、自分の言動が周囲に与える影響くらい考えろ。嬉々として参加してた連中
>>490は自演だってわかったんだからどうにかしないとな。作者が自演とか他の人にも悪影響を与えかねん
ID:RG/85rGwをスルーで。わかってるだろうけどよその子です
はいはい、みんな二十歳越えた大人なんだからこの辺で終了な
>>516もそういうことは後になってから言わないでその時に言っておけ
これ以上この話題が続いて荒れて投下がなくなったらみんな困るだろ?
学生のキモ姉キモウトもいいが20歳越えた社会人のキモ姉キモウトも捨てがたい
>>496 キモ姉妹が出るまでもなく仲間割れで自滅しそうな気が……。
泥棒猫を物理的に抹殺するような過激なキモ姉キモウトもいいが
表面はなにごともないように日々がすぎていて、気付いたらアレ?俺姉(妹)と恋人になってるのおかしくね?
みたいな話も読みたい
ここにいるやつらだって自演されたんだから本当はうざいと思ってんだろ?
これはひどいよ
もし自演じゃなかったらどうすんだ?
おまえがうざいって思ってるよ
IDあぼんしとくね
それこそ自虐ネタなんじゃねーの?
ってつもりで書いたわけだが
うんまあいいや…姉ちゃんに首締められてこよう
>>525 言葉足らずだったな。まあみんなわかってたことだから安心しろ
言葉が足りない故の誤解で相手が傷つくなんてよくあることだよ
言葉が足らず、姉を傷つけてしまうとか、誤解で妹を知らず知らずに追いつめていたとかさ
さ、隣の部屋に行っておいで。裸締めをしようと君の姉が全裸で待ってるからさ
>>525 俺も思ってた。
仮に自演だとしても、自分よりは面白いと思われてんだから頑張れって傷の作者励ましたんだろ?
何がいけないんだ?
うん、冬休みなんだよな
ここまで全部俺の自演
俺達はキモウトやキモ姉が好きな同士じゃないか!
仲良く行こうぜ
いや、一年中夏休みだろ
自演はだめだろ
自演は馬鹿のすることだ
おっと・・・
姉が呼んでいるようだ・・・
なんだろうか
なんで自演作者なんか庇う?
一言、自演は醜いって言ってやればいいんだよ
はーい、本当は自演がうざいと思ってる人ー?
べつに
とりあえず一人だけIDが赤くなってる事実を受け入れろ
ウナギイヌが出没してきたな
そいつの専スレ出来てたから隔離に成功してるのかと思ってた
っていうか、このスレはキモ姉&キモウト二人が主人公にラブラブみたいな
内容はNGですか? どうもこのスレの基準ってのがわからんw
どうやら掟らしきものは以下の通りと思われる。間違っていたら訂正して
1 姉妹が兄弟に道ならぬ恋心を抱くのが前提条件。その上で常軌を逸した方法で
その恋の成就を図る。つまり
「近親+ヤンデレ」が基本形
2 獲物となる兄弟が養子などは、禁止ではないが血が繋がってる方が望ましい。
3 「姉妹」が「兄弟」を狙うのが定型であり、同性愛を主軸に据えるのは不可
4 背景世界は特に制限なし。現代、SF,時代劇、ファンタジーなんでも来い。姉妹が
人外なのもOK
こんなとこか?
ありじゃないの
わりと基準ゆるいスレだと思う
実際に投下されてる作品の傾向としては近親+ヤンデレが多いけど
別に最初からそういう縛りで始まったスレじゃないし
545は544あてじゃなくて543あてです
まあ話をそらそうとしてるってことは、ここにいるやつは作者が自演したってわかってるってことだからな
作者は最低ってことは皆しっちゃたわけだw
嫉妬スレへ帰れ
としか言える言葉がございませぬ
>>543 書いている姉妹の愛情表現がキモければいいと思う。
気が引けるなら、妹or姉スレにでも
っていうか
キモ姉妹とのラブラブものが大好物なので期待してる。
2ch歴の浅い俺に教えてくれ
自演、自演って言ってるけど何で自演ってことになってるんだ?
もしこれで自演じゃなかったら赤っ恥だぞ。
妄言だから触るな
>>550 527でも思ったけどもう引っ張るなよ
荒らしに反応する人は荒らし、これ基本ね
でも誰も否定しないもんなw
本当は全員わかってるんだよw
>>543 >>544 ヤンデレなのは確かだがヤンデレでも泥棒猫がいなければ割とほのぼのする
傍からみればラブラブだけど実はキモイとかあり
ヤンデレと遊戯王したい
>>544 掟っていうか傾向だよね
3なんかは注意書きは絶対か他スレでやったほうがいいみたいな感じ
お前ら、最初に自演って言い出したのは俺じゃないんだぞ?
ということはほとんどのやつが自演って気づいてるってことだろ?違うか?
>>555 君はちょっとスレ違いだな。間違って隣の山口さんの家とかに帰ったことがある人間だろう
このスレは有り余る愛情を美しくキモく、時にヤンデレながら兄・弟に迫るキモ姉・キモウトのスレだ
分かったら君の後ろにいるその子と自分の居場所に帰るんだな。君の巻き添えはゴメンだ
弟の下着をクンカクンカする姉はキモ姉、これも基本な
↑をした後にそっと懐に仕舞うの姉を後ろで見ていながら姉の料理に毒を盛って兄の料理にそっと愛液仕込ませるの妹がキモウト、これテストに出るから。
キモウトの前でギャルゲしてみたい
>558
でも、たまには、弟や兄の彼女や幼馴染みなんかに嫉妬しつつも、
倫理観やら、常識やら、嫌われたりキモがられたりすることへの恐怖感とかに苛まれて
結局何も出来ないような、そんな気弱で常識的なキモ姉妹の話も、
俺 は ア リ だと思うんだよ!!
で、あんたはどう思う、姉貴?
>>562 良い店知ってるけどどこに飲みに行く?…って言いたいとこだけどやっぱ止めとくわ
姉弟水入らずを邪魔しちゃいけねぇ。最近は人身事故が多いしな…
>>562 未来のあなたへは最初のうちはそんな感じだったかな
途中でココロをアンロックしてしまったが
今日、弟とケンカした。
ううん、ケンカなんていうものじゃない。原因は一方的に私にあって、彼は鳩につままれたような顔をするばかりだったから。
それはそうだろうと思う。弟は年頃の男子で、女性を求めるのは当たり前のことなのだから。
その相手が、自分ではなかったからと言って、頭に血が上った私が異常なのだ。
弟に掛けたヒドイ言葉を、心の奥で反芻しながら、私はフラフラと弟の部屋へ向かう。
何度も何度もやめなきゃといけないって決心したのに。
東向きの窓から勢いの減じられた陽光が注ぐ、薄暗い弟のベッド。
私は、部屋の灯りも点けないままに、麻薬中毒者のような足取りで、そこへ倒れ伏した。
その途端に私を包む、大好きな匂い。弟の匂い。
でも足りない。もっと、もっと。
枕に強く顔を押し付けて、涙の乾いた跡がムズムズする目尻を、ぐしぐしとこすりつける。
「ひく、ひっくう…ふうっ、う…<きみのなまえをいれよう>」
また溢れ出した涙を委細構わず弟の枕にこぼしながら、私は全身に行き渡るように、弟のにおいを肺一杯に貯め込み、消費する。
この空間、このものに残された、彼の存在の残滓を、それが所詮は偽物に過ぎないと知りながら、吸収する。せずには居られない。
だってそれだけでも私はこんなにも満たされるのだから。彼の存在証明のかけらを体内に取り込むことで、彼と同化したような錯覚を得るこのプロセスがなければ、私は心を落ち着けることなど、到底出来ないのだから。
「<きみのなまえをいれよう>…<きみのなまえをいれよう>…」
ような、どころじゃない。丸っきりの中毒患者だ。彼とケンカして、今彼がそばにいないと言うだけで、私は病態じみた情緒不安定を呈している。
学校帰りのブレザーのままだった私は、彼のにおいがしみこんだ布団に体を抱きつけたまま、スカーフを解いた。
彼に包み込まれることで安定を得た私の心は、今度は炭火のような情欲を浮かび上がらせる。
追われるように、急かされるように、ボタンを外すことももどかしく、手を自分の胸元に差し入れる。それは私の罪。自涜と呼ばれる行為。
けれど、冒涜されるのは、私ではなくて、彼。馬鹿な姉の背徳的な思いを、知らないうちに受けざるを得ない、知らないうちに穢される可愛そうな弟。
でも。
ごめんね、こんなお姉ちゃんでごめんね。止められないの。
荒々しく胸をまさぐるその手は彼の指先。まだ何もしていないのに、期待に尖りだした壊れた器官をつまみ上げてくれるのは、彼の指。
「ーーーッ!」
甘やかな電流が波紋になって、私の中に降りてくる。私の中を脅かすように、溶かすように、広がった波が、ジンジンと疼く熱を指先まで満たして、それから跳ね返って、私の中の一番汚いところ、
禁忌を犯してでも彼の分身を欲して止まない、その部分に重く集まる。重く響く。私を体内から壊すまで終わらないようなハーモニーを奏でてくれる。
ごめんね。<きみのなまえをいれよう>。馬鹿な、汚い、こんな女があなたのお姉ちゃんでごめんなさい。
けれども謝罪はいつしか空疎な音色に変わって、インモラルな愉悦にすり替わっていく。
いきなりフルスロットルで自分を責め立てていた乱雑な愛撫は、知らないうちに慈しむような動きに変化して、胸を覆うようにかぶせた手のひらは優しくそこを撫でさするだけになって。
それでも十分な快感が加速度的に私の頭脳を犯すのは、それが、私が彼に望むことだからに他ならない。
それは期待。それは予測。優しい<きみのなまえをいれよう>なら、きっとこうしてくれるから。
私の手はタダのよりしろ。今ココにある愛撫は、私の愛撫ではなくて、彼の慈愛。だから、こんなにも心が体を燃やすんだ。
ちがう。わかってる。おとうとがこんなこと、してくれるわけがない。
わかってるはずだよ。かんちがいしないで。
頭の片隅にわだかまるちっぽけな理性が、私の夢想を壊そうとする。私はそれに耳を閉ざすように、目をぎゅっと閉じて、『彼』が与えてくれる快感の波に自分を没入させていく。
<きみのなまえをいれよう>、好き。大好き。貴方がどこを見てたって、貴方がココにいなくたって、私は貴方を思っていられる。
貴方が私を好きでなくてもいい。この気持ちが私の独りよがりで構わない。だからどうか、私に触れて。貴方の優しさを私にください。愛じゃなくていいから、愛に似たものでいいから、同情でも、欲望でも、貴方はきっと誰より優しい。
貴方が好き。世界の誰より、貴方が好き。貴方でないと駄目な私を軽蔑して<きみのなまえをいれよう>…!
偶然なんだが割とタイムリーなタイミングだったようだな!
お風呂いったら続き書くかもわがらん
鳩につままれたような顔?
ぜひ、続きを!!
ありがとうございます!
俺のだらしないモノが1分以内にエレクトしました!
グッとくるとでも思
ってるんだろうか
じょうだん抜きでこれは糞作品だ
ョ
ブ
<きみのなまえをいれよう>君が羨ましいな。
>>565 >きみのなまえをいれよう
糞、深夜なのに爆笑してしまったではないか。いい仕事だ。
あと細かいことだが、慣用句
狐につままれたような
あるいは
鳩が豆鉄砲を喰らったような
だな。
>>562 それで実は兄or弟は妹姉に恋慕してるってのが私は一番好きだな
な、なんてねっ。気持ち悪いこといってごめんね弟くん・・・
>>562「おおwきめぇきめぇw」
姉「・・・ 本 気 じ ゃ な い よ ね ・・・
ううん、大丈夫。きっと悪い虫にそそのかされてるだけよ
お姉ちゃんに任せて。きっとよくなるから・・・」
その後の
>>562を見たものはいない
「そ、そんなことねえよ! 姉貴は気持ち悪くなんかない!」
(い、言えねえ……姉貴は気持ち悪いどころか最高に可愛いだなんて口が裂けても……そんなこといって姉貴に嫌われちまったりしたら……)
「ほ、ホントに!? ありがとう弟くん!」
(い、言えない……実は私も弟くんのことが好きだなんて……でもそんなこといって弟くんに嫌われちゃったら……)
みたいな甘酸っぱいキモイのが読みたい
姉スレがそんなんだぜ?
姉(妹)がキモイのを知っていながら知らないふりをし続けるってのもありですな…
弟くん「布団が不自然に温い、毎日だ」
「ゴミ箱が毎日カラになっているのは助かるっていやあ助かるけど、
もっと溜まってからでいいんじゃね?」
>>578 「いやだなぁ。寒い時期だから、布団を温めておいただけだよぉ。あんかや湯たんぽだと、低温火傷しちゃうし」
「ゴミはこまめに捨てるものだよ。ほっておくと虫や細菌の繁殖や汚れが落ちないしね」
姉貴…もっともらしい理屈をつけてるけど、だらしない表情が裏切っているぞ。
姉貴のせいで最近妹まで変な方向に進んでるじゃないか。
「お兄ちゃん、お風呂の時間短いよ!!ちゃんと洗ってる!?…し、仕方ないから…わ、私が一緒に入って!!」
「パジャマがないから、お兄ちゃんのパジャマ貸してよ…べ、別にお兄ちゃんの匂いだと安心してよく寝れるなんて…」
ああ…気のせいだ気のせいだ気のせいだ。
俺の姉妹がヤバい方向に進んでいるなんて、俺は信じないからな…
妹はブラコンからツンキモウトにクラスチェンジした!!
キモさが3あがった!!
道徳心が5さがった!!
みだらさが1あがった!!
独占欲が10あがった!!
妹は『兄でハアハア』、『泥棒猫の始末』をつかえるようになった!!
「おにいちゃん? わたし、昨日お赤飯炊いたばかりだから……安心してビュルビュルしちゃってね♪」
キモウトはレベルが14に上がり、
究極魔法 受精 が可能になった。
受胎のほうが萌える
いやいや、着床の方がより……。
それじゃ二つ合わせて受着でいいんじゃね?
>>583 主題歌 串田アキラ
ナレーション 政宗一成
になっちゃうよ、それじゃあ。
携帯電話かよ!
ってツッコミでいいんだよね、姉さん?
キモウトなんだろ〜♪
グズグズするな〜よ〜♪
ドロボウ猫の家に〜、火を点けろ〜!!
愛着に見えた。
姉弟(兄妹)以上恋人未満・・・
って言葉が浮かんだけどやっぱ姉(妹)大好きスレっぽいな。
妊娠、ある意味究極の監禁だなw
>>589 何を言ってるんだい。
姉弟(兄妹)の時点で既に他人同士に過ぎない恋人関係を超越してるよ。
遠回しな口調で兄に甘えたりエッチな事をするツンキモウトに対してまともな女の子にする為に説教、それで駄目なら「お前キモいんだよ!近寄るな!」って言ってやりたい。
死に急ぐな。
妹しか眼中にないまともな男の子にされちまうぞ
竜ちゃん!
上島竜平さんではありませんか!!
兄「お前キモいんだよ!近寄るな!」バタン
妹「………クフフフ」
弟「死に急ぐな…」
姉「お前もな」
>>595-596 兄×キモウト、弟×キモ姉の恋愛で
兄弟でキモ姉妹対策会議を開くという電波をキャッチした
年齢がどうなってるのか気になるところだが
兄>妹>姉>弟?
兄>姉>弟>妹?
姉>兄>妹>弟じゃないのか
姉>兄>弟>妹?
兄×弟 姉×妹
タメ口きいてるので弟>兄である可能性が
すなわち、姉>弟>兄>妹が正解
>>598 姉=兄、妹=弟として二卵生双生児どうしの話なんてどうだろう?
同級生からの情報も得やすく、登場人物の量も少なくてすむ。
何よりキモ姉とキモウトが血で血を争う場面がないので、ほのぼの系?
>>603 兄弟なんだしタメ口でもおかしくはないと思うけど
俺も兄貴に敬語を使った事なんて無いし
自分も姉貴と妹がいるか使った事も使われたこともないな
兄弟姉妹間で敬語なんて普通はあまり使わんと思う
だがキモウトの敬語はいいものだ
実は4つ子
キモウトに「愛してる」って囁いてみたい
キモウト「そうして、この身体に夢想転生が宿ったわ」
兄「この拳に愛を帯びるなど、最大の恥辱!!」
ドジなキモウト
妹「さて…兄さんの携帯チェックの時間よね…」
…鞄の中捜索開始…
妹「何これ…新しいソフト!借りよ。」
某ゲーム機を使いプレイ開始…四時間経過。
妹「眠っ、さて寝ますか…」
…翌朝
妹「何々…朝練があるので先行ってます。後、早く寝ろよ。大戦略終わったら返してくれ。」
妹「あ!携帯チェック忘れてた!そして一緒に登校し損ねた!」
その頃
兄「最近、よく妹が遅くまで起きて何かを探ろうとしてるみたいだ。」
女(鈍感君は妹さんの気持ちと行動の意味に気づいてないのね…お互い頑張りましょう。)
>>611 キモウトは兄が全てだから、ゲームに夢中になって目的見失うってのは
唯のブラコンじゃない?
だがそれがいい
女の存在を感じ取ってから
段々キモウトになる過程を見れるじゃないか
>>612 兄の趣向を調査するのがキモウトの勤めだろ
>>611の妹がやってたゲームはたぶん『アドバンスド大戦略』MD版かな。
なにっ!?ミサイル防衛版だとっ!
「お兄ちゃんペタモンしよっ♪♪
私がお兄ちゃんにくっつくからね? えいっ! ぎゅぅぅっ♪♪」
俺がガキの頃に流行った、色んなのにくっつくオモチャな。
説明しなくていいからw
>>616 あれはいいゲームだよな
妹がハマるのもわかるわ
>>621 妹「お兄ちゃん、ポーランドの7TPって戦車が地味に堅かったよ。」
ここまでギモウトの自演
妹「今日こそは多点同時突破に無停止進撃でお兄ちゃんを全縦深同時打撃しちゃうから」
兄「半人前の技では俺は倒せんぞ」
次女「激情に身を任せ同化する」
わんこキモウト。ってのを思い付いたんだが
浸透戦術(しんとうせんじゅつ、Infiltration tactics)とは、近親相姦戦術のひとつである。
この戦術は、敵陣の突破を主眼に置き、兄弟に気づかれる事無く、
内部に浸透する事によって兄弟の抵抗を無力化・殲滅することが第一目標である。
露骨な愛情表現を避け、さりげない誘惑で浸透しながら、徐々に異性として
意識させつつ防御戦の奥深くにある、司令部や精子集積所を叩くのだ。
もうひとつの意味として、食物に様々な体液等を混ぜ、
相手の消化器官から体内に浸透していくという戦術を指すこともある。。
キモウトに熟女の素晴らしさを二時間ほど力説したい
それを物陰で聞いていた母が頬を染めるんですねわかります
キモ家族とな。
母は泥棒猫ですね
投下します。
支援
背筋がゾクゾクする。
まるで血液の代わりに微弱な電流が体内を駆け巡っているようだ。
引き締めた口元も、どう努力しても緩んでしまうのを抑えられない。なので弥生は、もはや無理して強面(こわもて)を維持しようとはしていなかった。
以前もこんな興奮に全身を包まれたことがあった。
ネット通販で購入した非合法ドラッグ。服用した人間の精神活動を低下させ、トランス状態に没入させ易くする薬品。素人にも分かるように書かれた洗脳用のマニュアルを含めて七万円の高額報酬を請求する、いかがわしい一品。
それを初めて、この眼前の愛しい弟に飲ませ、自分への愛の言葉を囁かせたとき。そして、自分の股間へ舌と唇での愛撫を強制したとき。弥生は、今と同じく、目も眩むばかりの興奮に脳天までどっぷりと浸かったものだった。
無論、単なる興奮ではすまない。
冬馬がもたらす禁断の快感への、はちきれんばかりの期待がある。
彼のテクニックは文字通り、ずば抜けている。
あの晩、冬馬に自らへの奉仕を命じていながらも、最後の一線へと辿り着けず、彼が不能だった事実をついに弥生が知り得なかったのは、冬馬のクンニリングスがもたらす、あまりのエクスタシーに、彼女が払暁近くまで意識を失ってしまったからに他ならない。
無論、処女の弥生には、冬馬以外の経験が無いので、客観的な意見であるとはとても言えない。だが、その点に関しては葉月の証言も得ている。かつて妹は精神退行を起こした冬馬の愛撫に身を晒した経験があるからだ。
そして何より、冬馬の芹沢家時代の過去を知る、千夏も言っていた。
彼のテクニックは、天才的なものだった、と。
むくり、むくり――、
“それ”が動き始めた。
死んだ蛇のように力なく横たわっていた冬馬のペニスは、生命を注ぎ込まれたかのように、彼のパジャマのズボンを持ち上げる。あたかも大地に芽吹く緑の草花のように。
大きい。
その大きさは衣類越しでも一目瞭然だ。
千夏の話では、芹沢家にいる男娼の大半は、その男性器に薬物注射や外科手術などの人為的な手を加え、成人顔負けのサイズを持たされていたと聞いた。冬馬とて、その例には洩れない。
弥生は、もう、じっとしていられなかった。
「あっ、おくさまッ!!」
膨張した“それ”を、弥生はパジャマごとがっきと掴む。
単に大きくなっただけではない。
それは石のように硬く、できたての肉料理のように温かかった。
それを弥生は、渾身の力で握り締めた。
「ッッッ…………ッッッ!!」
声にならない悲鳴を洩らして、弟が眉をしかめる。
その頬を叩く。思い切り。
「いっ!?」
ブザマな声を出して、冬馬が、ベッドから転げ落ちる。
その一撃はビンタというより掌底に近かったかも知れない。
だが、この程度のショックでは、いま冬馬の精神を封じている呪縛は解けない。
弥生には、その確信があった。
彼の心を侵蝕している恐怖と心的外傷は、そこまで浅いものではない。
その証拠に――見るがいい。
赤く染まった頬に手を当て、床にうずくまったまま潤んだ瞳で弥生を見上げる弟。
だが、その弱々しい視線とは裏腹に、猛々しいまでにいきり立った膨らみが、股間に生え聳える。
そんな弟の姿は、弥生にとてもとても嗜虐的な感情を喚起させる。この愛しい男を、このまま小鳥のように縊り殺してやりたくなるほどに。
「何をぼさっとしているの。立ちなさい」
「――は、はいっ!」
「ズボンと下着を脱いでオナニーをしなさい」
「はいっ、奥様っ!!」
ばたばたと狼狽しながらも、指示された通りに股間を剥き出す冬馬。
彼の瞳に宿るのは、まごうかたなき畏怖の光。
だが、それだけではない。
満面の怯えをあらわにしながらも、外に放り出されたガチガチの陽根は、彼が明白な興奮状態にあることを報じている。その股間を、必死な顔でしごき始める冬馬。
決して他人には見せられない彼の醜態に、弥生はまるで一幅の油絵を見るような感動を抑えきれない。
とりあえず、冬馬の不能があれからも治っていないのは、葉月を介して確認済みだ。
事件のことに関しても覚えていないらしい。
冬馬いわく、葉月と二人で浴室に入ったまでの記憶はあるらしいが、そこから先が急に怪しくなり、気がつけば、何故か両親の寝室で眠っていたのだという。
だから冬馬は、妹が経験した何もかもを弥生が知っているという事実を知らない。
ならば、弥生の口から直接、不能のその後を訊くことは出来ない。弥生が冬馬の勃起障害の話題を持ち出せば、それ即ち、葉月がべらべらと兄の秘密を余人に漏らしたことを意味するからだ。
男であれば、女を抱けない体であることを自慢する者はいない。そんな情報を、たとえ姉とはいえ、簡単に漏洩するような真似を葉月がしたと分かれば、冬馬の中で、葉月に対する評価は暴落してしまうかも知れない。
それは得策ではない。
葉月のためにも。そして弥生のためにも、だ。
彼を篭絡するためにも、やはり姉妹は一蓮托生でなければならないのだ。
だが、そう思うと同時に弥生は、自分のずるさを自覚せずにはいられない。弥生とて、保持している情報の全てを葉月に語っているわけではないからだ。
たとえば葉月は、姉が張り巡らせた冬馬監視システムの存在を知らない。
たとえば葉月は、学校に於ける“共犯者”の役割を、姉が長瀬透子に割り振ったことを知らない。
そして――葉月は今夜、冬馬の部屋で何が行われているのかを、やはり知らない。
今夜の行動を葉月に知らせるつもりは、最初から弥生にはなかった。
知れば、葉月は弥生の行動を決して許さないだろう。
彼の人格を否定する行為だと、彼の存在自体を侮辱する行為だと、そう叫び、大いに怒り狂うはずだ。
弥生にとっても、その意見を否定することは出来ない。確かにこの行動は、過去のトラウマで傷だらけになっている冬馬の精神と肉体を弄ぶことに他ならないからだ。
そして弥生といえど、罪悪感をまったく覚えないわけではない。
だが、やはりその罪の意識を以ってしても、彼女の行動を牽制できなかった。
葉月の倫理観や潔癖さは、確かに尊重すべきものだと理解は出来る。
だが、弥生にとっては、たとえどのような姿であっても、冬馬は冬馬でしかない。正気を失っていようが、子供に退行しようが、自分を買春客扱いしようが関係は無い。それでも彼は、全身の血と引き換えにでも惜しくはない、弥生の想い人以外の何者でもないのだ。
愛しい男を従わせ、思うさまに、その肉体を貪りぬく。
そこには、筆舌に尽くしがたい愉悦がある。
しかも、どれほどの凌辱を彼に施そうとも、正気に返れば忘れろと命令すれば、それで済む話なのだ。冬馬は何も記憶することは出来ない。だとすれば、それは誰一人迷惑をこうむらない、まさにいいことずくめの話ではないか。
「ッッ!?」
その頬に向けて、再度放たれたビンタに、思わず冬馬はよろめいた。
足元に脱ぎ捨てられたズボンとパンツに引っ掛り、ブザマに倒れる彼。そんな弟を睨みつけ、
「立ちなさい」
と命令する。
反射的に俯いて、いそいそと立ち上がる冬馬に、さらに本気の一発。
今度は壁際まで、斜めに吹き飛ぶ冬馬。
「誰がオナニーをやめていいと言ったの?」
「すっ、すいません」
「すいませんじゃないでしょう?」
さらに一発。逃げられないように髪を掴んでのビンタ。
「そうだわ、いいこと思いついた」
弥生は、身体の底から漲るように沸き立つサディスティックな感情に、震えを覚えるほどの悦びを感じていた。少なくとも「工藤瑛子」を演じる上で一番重要なのは、冬馬を骨の髄から戦慄させるサディズムなのだから。
もっとも、薬物の効能とはいえ、弟は『私が工藤瑛子だ』と名乗る者を、無条件で彼女だと思い込むように暗示をかけてあるから、たとえ自分をM奴隷として扱えと命じたところで、彼が疑問を持つ事はない。
(ああ、今日は、そういうプレイなのですね)
と、彼が勝手に解釈するだけだ。
だが、それでは、わざわざ「工藤瑛子」という設定を持ち出した意味が無い。
弥生にしても、自分にマゾヒストの素養があるとも思ってはいなかったが、ここまで自分がSだったなど予想外のことだったのだ。
まるで、呼吸するように自然に、弟を苛めてやりたいという欲望が湧いてくる。
だから手加減はしない。する気は無い。
ただ処女を奪わせるというだけでは、ここまで火照った身体は、とても納得してくれないだろう。
弥生は、魔女のように舌なめずりすると、言った。
「ぼうやはオナニーを続けなさい。その間、私はぼうやの可愛い頬っぺたを、思う存分ビンタしてあげる。嬉しい?」
冬馬の顔が蒼白になった。
だが、嬉しいかと訊かれて、まさか『イイエ』とは言えない。
彼にとって「工藤瑛子を名乗る者」とは、悪霊にも等しい畏怖の対象なのだから。
「安心なさい。貴方がイクまで殴るのをやめないから♥ ぼうやったら、痛いの大好きなんだものね?」
「は…………はい…………」
///////////////////////
眠れない。
葉月は、何度目になるかも知れない寝返りを打った。
時期的にはまだまだ寒い季節だが、普段なら、ここまで眠気を削ぐほどではない。
分かっている。本当は。
――自分が眠れないのは、これまで知らなかった兄の姿を知ってしまったからだ。
それくらい、今日の千夏の話は葉月にとって衝撃的だった。
千夏の話は、冬馬が工藤家に追いやられるまでの顛末だけを語ったわけではない。
彼女自身を含む“子供”たち全員の話も、ちゃんと聞かされた。
葉月も姉も、その話のあまりのムチャクチャさに慄然としていたが、中でもおゆきは、まるで瞬きさえ忘れたように目を見開き、その話を聞き入っていたのを覚えている。
芹沢家の“子供”たちは、あらゆる客のあらゆるニーズに応えるために、過酷なまでの処置を施されていたという。
乳房・性器の肥大化。
精力・持続力の増強。
性感帯の開発。
指・舌・性器・肛門などを使用する、あらゆるセックステクニックの習得。
パイプカット。
美容整形。
たとえば当時5歳の千夏の場合なら、芹沢家に引き取られたその翌晩に、医師の手によって麻酔を打たれ、処女を外科処置的に破られたそうだ。
その後、薬物投与や器具などによる開発を経て、さらに専門のセックストレーナーの手による訓練で、一通りのエクスタシーを膣内や全身で感じられるように調教されて後、新たに処女膜を手術で再生され、そこで初めて顧客の前に顔を出すことを許可されたという。
処女膜再生は、無論、彼女を「初物」として販売するためだ。“処女”にプレミアが発生しないような不細工な子供なら、初めから芹沢が引き取ったりはしない。
まさに人を人とも思わぬ処遇だが、考えようによっては、彼らなりの優しさであるとも解釈できる。全くの子供にただ客を取らせるよりも、客の行為を一応は気持ちいいと感じられる程に開発してから、客に抱かせる方が、まだしもその少女にとっては救いであろう。
当時の芹沢家には、そんな千夏と同じく、“幼児”でありながらも開発された女体を持つ女の子たちが数多くいたという。
無論、あまり露骨に性感を剥き出しにしすぎて、客を白けさせてしまわないように、それなりの演技のノウハウも、ちゃんと彼女たちには仕込まれる。
「一見の客を常連にするためには……単なる顔の造型よりも……なによりもその“愛嬌”が重要だと……芹沢は言っていたよ……そして……愛嬌とは演技力である……ともね……」
そして、冬馬は誰よりもその演技力に長けていた、と千夏は語る。
「……芹沢は……お兄様のことを……天性の娼夫だ……と言っていたよ……」
芹沢家に引き取られた当時小学一年生だった冬馬は、千夏のような絶世の美貌の所有者ではない。だから当然のように、千夏よりもさらにハードなプレイに対応するための調教メニューを課せられていたらしい。
女の良し悪しは外見が8割だが、男は違う。見てくれ以外のもので十分に価値を補える。
ノーマルなセックステクニックから、SM・男色・獣姦からスカトロにまで対応できるようにと施された調教を、彼は持ち前の卓抜した身体能力と意思力によって消化し、学習し、やがて訓練以上のものを、その肉体に体得するに至った。
なにより彼は、注文された以上に、客の潜在的な要望を敏感に察知できる優れた勘を持っていた。
時には、いかにも中性的な線の細さと儚さを。
時には、強姦魔のような強引さと傲慢さを。
時には、生まれながらのニンフォマニアのような貪欲さと無邪気さを。
時には、何も知らない少年のような陽気さと元気さを。
それらの演技の引き出しに卓絶したセックス技術が合わされば、演出のヴァリエーションはほとんど無限だ。それこそ春を売る者としては鬼に金棒と言ってもいい。
それほどの彼が、並み居る“兄”や“姉”たちをしりぞけて、個室さえ許される程の売れっ子になっていったのは、まったく自然な成り行きであったと言えるだろう。
美貌に於いては、同年代を圧倒していたはずの千夏でさえ、単純な人気という点で語るならば、まったく敵わなかったというから驚くばかりだ。
さらに、高級娼館・芹沢家への圧倒的な貢献度を誇りながらも、何度も脱走を繰り返し、その手口は、回数を重ねるごとに巧妙かつ大胆になっていったと言うから、まさに煮ても焼いても食えないガキとしか言いようが無い。
「おそらく……私という足手まといがいなかったら……お兄様はとっくの昔に……脱走を成功させていただろうね……」
寂しそうな笑みを見せて、千夏が呟いた。
千夏の話は、葉月にとってはにわかに信じがたいものだった。
脱走以降の話ではない。
彼が芹沢家でも、最終的にトップ3に入った男娼だったという事実が、である。
だが、よくよく考えてみれば、自分の知る冬馬の器用さや学習能力からして、葉月としても一概に、千夏の話を嘘だと叫べぬものがある。
たとえ当時は幼かったといっても、冬馬は冬馬なのだ。自分が男娼としての人気を得ることで、千夏を指名する客を少しでも減らそうとしていたという話が本当なら、兄はそれこそ、何でもしたはずだ。
ならば、兄の一筋縄ではいかない性格は、芹沢家で過ごした幼児期こそが形成したのかも知れない。
そう思うと、葉月は途端に目頭が熱くなるのを感じた。
なぜ、兄が、こんなひどい目に遭わねばならないのだろう。
なぜ、その同じ時間を、自分たちは何も知らずに過ごすことを許されていたのだろう。
なぜ? 何故?
疑問に対する解答など浮かばない。
葉月はまた、寝返りを打つ。
だが、それと同時に、今度はまったく別の疑問が葉月の脳裡に浮かんだ。
(もし、千夏さんの話が全て真実だったとするなら、あの頃の、わたしが無邪気に懐いた兄さんの姿も、やはり“演技”だったということなのだろうか)
かつて葉月は、兄を名乗って突如現れた冬馬という少年を嫌悪し、無視し、敵意さえ抱いていた。
そんな彼に心を許すキッカケとなったのは、彼の肌を埋め尽くす無数の傷を見たからだ。
自分がそれまで一方的に敵視していた少年が、虐待という過去を引きずる“弱者”だったと知ったとき、葉月の敵意は消え、巨大なまでの罪悪感と羞恥心だけが残った。そして、そんな葉月の謝罪を、冬馬は笑って許し受け入れた。
冬馬という存在が、葉月にとって家族となったのは、それからだ。妹にとって彼は理想的な話し相手であり、理想的な兄貴分であり、理想的な男性像でさえあった。
だが、それらすべてが、冬馬の演技と計算によって意図されたものだとするならば話は変わってくる。
プレイボーイが好みの女の子を口説くように。
ホステスが一見の客を常連客にしようとサービスするように。
自分は、冬馬の手練手管によって、いいように手懐けられただけだというのか。
(……ばかばかしい)
そうだ、バカバカしい。思い煩うことさえ滑稽な話だ。
人が人として生活する以上、その同居人との摩擦を最大限避けようと思うのは必然だ。
ならば冬馬が、当時は彼のアンチだった葉月を懐柔しようとするのは当然ではないか。
懐柔、篭絡、手懐けるなどと言えばイメージは悪いが、要するに、冬馬は葉月と仲良くしようと思っていただけだ。
そして葉月は、冬馬の狙い通りに彼を家族として認め、無用の摩擦は消え失せた。
この事実に誰が困るというのだ。どこに問題などありはしない。
葉月が、男性としての冬馬に魅了されてしまったのは、あくまで結果論に過ぎない。そこに冬馬本人の意図が働いていない事は、誰よりも葉月自身が知っているではないか。
(兄さんが……わたしを“女性”として見てくれたことは、一度も無い……ッッ)
――人が人を好きになるために必要なのは理由ではない。ただのキッカケだ。
この台詞は、たしか夕食時に見た海外ドラマか何かのものだったか。
そして葉月は、冬馬を愛するようになった事を後悔はしていない。だから、そのキッカケを兄から与えられたことを、むしろ感謝しているくらいだ。
(ならば……わたしはこれからどうすればいい?)
気がつけば、葉月は自室の闇の中で、目を閉じることをやめていた。
そう。問うべきはそこだ。
兄を幸せにする。
幸せになる権利を、兄に行使させる。
だが、――それはあくまで、自分たち姉妹の手による幸福でなければならない。
ならば、どうするべきなのか?
(まずは……兄さんの、心の傷を癒すことから始めないと)
その疲弊した精神を回復させない限り、彼の男性機能を正常に戻ることはない。
“男”を回復させることが冬馬の安寧に繋がるのかと問われれば、正直な話、葉月にも自信は無い。認めたくは無いが、不能になったことで兄が救いを覚えている事も確かなのだから。
だが、セックスというトラウマを遠ざけることで彼を救おうとは、葉月はどうしても思いたくは無かった。兄自身も『このままずっとインポでいたいわけじゃない』と言っていたはずだ。
だいたい、冬馬が女性を選ぶ立場に戻らねば、同時に自分たちが選ばれる事もないではないか。
愛情によって癒されない傷など世界には無い――という言葉は、兄の部屋にあった漫画の台詞だったか。だが、そういう形而上的な話をする気はない。葉月が問うのは、常に具体的な方法論だ。
だが、かといって心理療法士でもない中学生には、心因性の勃起障害に対する有効手段など、まるで想像もつかない――わけでもない。
虚空を睨む葉月の瞳が、すっと細くなる。
(そう、兄さんのものを勃たせるだけなら、方法はある)
かつて彼女自身が実践した芹沢冬馬への精神退行……。
「もったいないこと……しちゃったのかも……」
言い終わってから、自分が独り言を発していたことに気付く。
だが、あるいはその言葉通りかも知れない。
もしかしたらあの時、あの風呂場での事件こそが、彼に処女を捧げる最後の機会だったかも知れない。たとえ精神状態がまともではなかったとはいえ、冬馬は葉月の愛する兄ではないか。ならば、あそこまで彼を拒む必要が本当にあったのだろうか。
――そこまで考えて、葉月は愕然とする。
自分は、そんな事を考えるような女ではなかったはずだ。
兄のトラウマに付け入ってセックスを強制し、それで結果オーライと解釈するような、そんな気位の低い女ではなかったはずだ。
(あれは、わたしが好きになった兄さんじゃなかった。……柊木冬馬ではなく芹沢冬馬を相手に処女を捧げる意味など、少なくともわたしにはない)
そう思う。
そう思わねばならないと思う。
だが……胸の内を走る、この苦いものは何だろう。
――今夜はこのまま、眠れそうに無いわね。
葉月は、またしても寝返りを打ちながら、思うともなく思った。
/////////////////////////
どくんっ、どくんっどくんっ、どくんっ、どくんっ、どくんっ。
弥生のピンクのネグリジェを、白く染める液状の弾丸。
(これが……)
しばし、弥生は呆然と見つめていた。
初めて目にした、男の精液。
人間が人間を製造するための原液。
愛してやまない男の子種汁。
そんなものを見て、何も感じない女などこの世にいるはずが無い。
だが、弥生は知っていた。
――この精液に、生殖能力は無い。
芹沢家の男娼たちは、顧客の避妊のために全員パイプカットを義務付けられていた、と千夏に聞いていたからだ。
パイプカット自体は、外科手術で簡単に戻せるらしいと千夏は言っていたから、それほどショックは受けなかった――わけではない。
いま、自分の寝間着を濡らす熱い液体を受け入れても、彼の子供を孕めない。
それは、やはり弥生にとっては、とてもとても哀しいことであった。
「……おくひゃま……ごいいつけどおり……いひました……」
見ると、冬馬が引きつった笑顔を浮かべている。
その舌足らずな口調に、またしても精神退行を起こしたのかと一瞬ぎょっとなったが、単に舌が回らなかっただけのようだ。なにしろ彼の両頬は、弥生の度重なる往復ビンタで、リンゴのように腫れ上がっていたからだ。
ぞくりとした電流が、背筋を走る。
弥生は、しばしささやかな切なさに包まれていた胸のスイッチが、再度切り替わったことを感じた。
(この子……本当に、殴られてイっちゃったんだ……)
そのブザマすぎる表情は、弥生に、かつてこの弟に対して覚えたことの無かった感情を喚起させる。
――すなわち、軽蔑。
サディストにとっては、相手に対する愛情と同様に欠くべからざる感情。
だから弥生にとって、その蔑みは、冬馬に対する愛情と同居させることに何の矛盾も葛藤も無かった。
(ブザマな冬馬くんって……すごく可愛い……ッッ!!)
そう思った瞬間、弥生は渾身の一発を、彼の横っ面に叩き込んでいた。
「ご褒美よッッッ!!」
抗議と恐怖に顔を歪めた冬馬は、そのまま最後のビンタを喰らい、死体のように崩れ落ちた。よく見ると、その瞳には涙すら光っている。
この少年は天性の娼夫だと芹沢は評したらしいが、確かにその通りだ。
彼を見下ろし、荒い息を整えながら、弥生はそう思った。
自覚すらしていなかった弥生のサディズムが、ここまで表層化したのは、何も「工藤瑛子」たらんと意識したからだけではない。この、冬馬という少年がパートナーでなければ、彼女はここまで自分を縛るタガを外せなかったはずだ。
千夏は、当時の芹沢冬馬は誰よりも演技力に長けていたと言っていたが、相手が「工藤瑛子」である以上、恐怖に震える冬馬の態度は演技ではないだろう。
しかし、その一方で彼は、これだけ怯えつつも股間の一物は少しも縮こまってはいない。冬馬が、それこそ命懸けで自分をマゾヒストだと思い込んでいる証拠だ。
しかし、それは無理もない話だろう。工藤夫妻を不快にさせる事は、冬馬にとって文字通り「死」に直結していたのだから。
弥生は、このとき初めて「工藤瑛子」に嫉妬を覚えた。
愛する弟の身体に、無数の傷痕を思う存分刻み付けたサディスト夫妻。
この少年の肉体に、二度と消える事なき自分を焼き付けるという行為が、どれほどの刺激に満ちているか、まさしく想像に難くない。
だが、いま彼女はこうして、冬馬を自由に出来る立場に立っている。もはや誰の邪魔も入らない。その現在に、弥生は震えるような程の悦びを覚えていた。
「早く立ちなさい、ぼうや」
夜はまだまだ長い。
色々とオモチャも持ってきている。
(今日はもう、眠れそうに無いわね……)
溢れるような興奮とともに、弥生は実感する。
奇しくも、同時刻に別室の妹も同じことを考えていたとは、神ならぬ弥生は知らない。
だが、同じ言葉を思っても、その意味は完全に真逆だ。
ベッドで寝返りを打ちながら、冬馬の勃起不全に考えをめぐらすのではない。
すでにして勃起した冬馬の肉体を嬲り続けるのに忙しくて、寝るヒマなんか無いという意味だ。
「立てって言っているのが、わからないの……?」
実際には、聞こえていないわけではないだろう。
冬馬は、おびえた笑顔で懸命に立ち上がろうとしていたからだ。
だが、脳震盪を起こしているらしい彼は、もう足腰が言うことを聞かなくなっているようだ。
「分からないのね」
幼児に目線を合わせる大人のように、立とうともがく弟に向けてしゃがみ込み、弥生は笑いかける。真っ青になって首を振る彼の両肩に、優しく手を置く。
「いいのよ……分からなくても」
「ちっ、ちがッッ!」
「だって、ぼうやはバカだから。だから私が言っていることが理解できないのよね?」
「おっ、おくひゃま……ッッ」
もう我慢できなかった。
まだ何か言い訳しようとしている冬馬の唇を、そのまま奪う。逃がさないように両腕を首の後ろに廻し、全体重をかけてカーペットに押し倒す。勿論その間、貪るように動く唇と舌は一瞬たりとも休まない。
弥生にとってそれはファーストキスだった。
気持ちいい。
冬馬とキスしているという事実がもたらす興奮。
キスという行為自体の絶妙な快感。
それらがさらなる電流を口蓋から量産し、数秒後にその回線は、彼女の子宮に直結した。
「ッッッッッ!!?」
イった。キスだけで。
軽いアクメではあったが、それでも自慰などで感じるエクスタシーごときとは、まるで違う。
冬馬の喉がごくりと動く。どうやら、弥生が流し込んだ唾液を飲み込んだようだ。
直に伝わってくるその振動が、股間から発せられる電圧をさらに上昇させる。
「ッッッッッッッッ!!!」
またイった。今度はさっきより更に深く。
自分の肉体が、トロトロに煮込んだシチューのようになっている。
冬馬の体温。唇・歯・頬の内側の感触。唾液の味。
そして、交尾中の蛇のように絡み合う舌の圧迫感。
ただキスをしているだけなのに、全身がエクスタシーを迎えることを辞めようとしない。
(これで、もし、挿入なんかしたら……どうなっちゃうんだろう……)
死ぬかもしれない。
でも、その死は溢れんばかりのオーガズムによるショック死だ。
それは弥生の望むところであった。
全身が弥生の脳にクレームをつけている。
キスをしながらも、バレンと木版画のように、こすりあわされる二人の肉体。
当然、彼女の股間にあるのは、弟の硬く熱い所有物の感触。
――何をグズグズしているっ!!
――なぜ挿入しないっ!!
彼女の子宮が繰り返す、脳への催促。
もはや躊躇う理由は存在しない。
絡み付いてくる冬馬の舌に、軽く歯を立てる。
舌が自由になった瞬間、名残惜しさを懸命にこらえながら唇を分離させる。弥生の未練を象徴するように唾液が白い糸となって二人の唇を繋ぐが、やがて糸は途切れた。
いきなり舌に歯に痛みを覚え、目を白黒させている冬馬。
(おれのキスに、なにか問題がありましたか?)
そう言いたげな表情。
そんな弟に、弥生はやさしく微笑む。
彼女がキスをやめられなかった理由は、なにも眼下の男が愛しい想い人だからというだけではない。絶妙の舌技を誇る冬馬のキスが上手過ぎるのだ。彼の舌が活動を続行している間は、とてもではないが弥生からは唇を離せない。だから歯を立てて、一瞬、彼の舌を封じたのだ。
――さらなる本能の欲求に従うために。
「さあ、冬馬くん……子作りの時間ですよ……っっ」
弥生は、冬馬の腰に馬乗りになり、そのままネグリジェをめくった。
気付けばショーツは、熱い液体まみれになっている。
(こんなに濡れて……いやらしい子だと思われないかしら)
などと、今更ながらの乙女心の残滓が疼く。しかし、ここにいる女主人「工藤瑛子」は己の淫蕩さに羞恥を覚えるような思考回路など持ち合わせていない。
だから、いくらでも恥を捨てられる。いくらでも大胆に振舞える。いくらでも残忍になれる……。
その思いは、処女としての弥生に残る、最後の鍵を解放した。
サイドの紐を解くと、手早く股間から抜き去り、冬馬の学習デスクに投げ捨てる。
確か、この姿勢は騎乗位だったか。弥生の知識では、女性が最も男性をリードしやすく、最も深く男性を受け入れることの出来る体位だったと記憶している。
いまの自分たちには、これ以上相応しい体位はないだろう。
「いくわよ……!」
ぶちり。
「ッッッッッッッ!!?」
騙された。
反射的に弥生はそう思った。
こんなに痛いなんて、聞いてない。
膣口にペニスをあてがった瞬間は、胸の高鳴りが耳にさえ聞こえてくるようだった。
膣内にペニスを滑り込ませた瞬間は、あまりの感動で失禁しそうになった。
だが、そのまま体重をかけ、自分の内部の何かが破られた瞬間、凄まじい激痛が彼女を襲ったのだ。
――濡れていれば痛くない。
――本当に好きな人となら痛くない。
――上手い人となら痛くない。
弥生は18歳の高校三年生だ。知人友人に“経験者”は決して珍しくない。
その彼女たちの証言が、みな嘘だったというのか。
だが、弥生の女体は床が濡れる程に愛液を排出していたし、相手に対する愛情の深さなら語るまでもない。さらにテクニックの話ならば、かつて男娼であった冬馬に、女性経験が不足しているはずがない。
ここが冬馬の部屋でなく、防音設備のしっかりしたホテルだったなら、彼女は泣き叫んでいただろう。だが、壁と扉と廊下を隔てた数メートル先に葉月が眠っているという事実の前には、弥生はなすすべなく歯を食いしばるしかない。
「あの……奥様……どうかなされましたか……?」
おそるおそる冬馬が声を掛けてくる。
エクスタシーなど1mmたりとも感じていない弥生の様子に、さすがに異変を覚えたのだろう。成り行きによっては、またしても手酷い折檻を喰らうのだから、彼としては不安になるのは当然だ。
だが、弥生には冬馬に言葉を返す余裕さえなかった。
(こんなッ、こんなはずないッ、こんなことはありえないッッ!!)
彼女はいま、まさに混乱の極致にいた。
今回はここまでです。
GJ
弥生が非常にキモいww
>>644 GJ
弥生ねーさんどうなっちゃうのか期待
GJ
やっぱり畳み掛けるような描写が凄まじいですなあ
保守る。
「ねえ、お兄ちゃん?」
「なんだ」
「そろそろバレンタインだね」
「そうだな」
「チョコ、欲しくない?」
「欲しくないこともない」
「えへへへー」
「なんでにやけてるんだ?」
「んー? ないしょ」
「変な奴だな」
「ねえ、お兄ちゃん?」
「今度は何だ」
「髪と爪と眼と指と手と足と筋肉と骨と唾液と汗と尿と血液と愛液、どれが一番好き?」
「全部」
「ホント?」
「マジで」
「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへー」
「わかった! 楽しみにしててね!」
それ以降、妹の姿は見なかった。
あと、二月十四日にやたらでかい生ゴミが送られてきた。
近頃あった変化なんてそれくらいだ。
GJ!!次楽しみにしてます。
・・・ところで、今までの作品の中で皆様がすごいと思った
兄、弟っていますか?
>>644 GJ
つーか、これ腫れ跡のせいで絶対バレるだろww
>>644 弥生姉さんのSっぷりに感動した!
久々の弥生姉さん大フィーバーで感動した!GJ!
>>649 その話題は止めろ
>>644 GJ
まさにセックスが始まったらどうなってしまうんだ?!!状態
そろそろ花粉症のせいでオナティッシュを探すのにモヤモヤするキモウトが見られる季節ですね
> 654
兄の鼻水まで愛でてこそキモウト
鼻水ティッシュで想像妊娠
GJ!
弥生姉さんって策士なようで時々普通に頭悪くて吹く
そこがまた可愛いんだが…
花粉少女でggrといいよ
毎朝キモウトのフェラで起こされる兄が仕返しに寝てるキモウトの乳首を舐めるとどうなりますか?
>>658 やっとその気になったと勘違いしてセクロスしようとしてきます
>>658 兄がキモウトの服に手をかけた瞬間腕をガッと掴まれて
そのまま引き込まれてセクロス開始になります
乳首に薬物が塗ってあって…
kwsk
>>666 最後の思い出ってことは
妹は叶わぬ恋に絶望して自殺(リスカが好ましい)→結局未遂に終わり今は病院で入院中→でお兄ちゃんは病院へ見舞いに
て感じか
泥棒猫即抹殺キモ姉妹も良いが、人並みの良識があるため抹殺なんて考え付かなくて逆に自殺しようとするネガティブキモ姉妹もいじらしくて可愛いなw
結果的に兄弟の気を向けさせることもできるし
このスレって別に、キャラの年齢制限無いよな?
流石に、兄101歳、妹100歳とかじゃないけど、
例えば、兄20歳、妹7歳とかさ、下の方に決まり無いよね?
ほほう、ロリときたか・・・
レズでもゲイでもないんだ。存分にやれ
別に問題ない
例えば、姉10歳 弟20歳といったことも可能
ちなみに、ロリウトは前例もあるんで心配するな。短編見てみ
>姉10歳 弟20歳
・・・・・・・・・・え?
さんくす
>姉10歳 弟20歳
ウラシマ効果とか?
それどこのナルエの世界
「姉」とは精神を指すんだよ。君が精神の結びつきで相手を姉と認めたら
例え10才年下でもそれは「お姉ちゃん」なんだ。
おれも11才のお姉ちゃんがほしい… 「年下の姉」おーっ
by上連雀先生
というわけさ。俺も11歳のキモ姉がほしいよ。
姉の体細胞クローンですね、わかります
兄1X歳、妹2X歳もいいかも…
ニート生活に慣れてきてしまった
これは本格的にまずい
早く抜け出さなくては
それじゃあSSでも書いてみようか
やっぱり監禁されてラブラブに過ごすのが王道だな
「弟君はお姉ちゃんが養ってあげるから、ずーっと働かなくいいよ」
こんなキモ姉に監禁されたいです
>>683 なんかラブを禁止されてるみたいでキモ姉orキモウトが暴動を起こしそうだな
働いてないことをつつかれる
でも家事のせいで働けない…
明日は14日だけど逆にキモ姉妹に大きく義理と彫られたチョコをあげたら引くのだろうか?
反応が気になる…
>>686 その夜義理の部分だけ削り取られたチョコにすり替えられキモ姉妹に手渡されるのだった。
「さーお兄ちゃんベッドに行こうねー♪」
「さーおとうと君ベッドに行こうねー♪」
俺は妹萌えのイケナイ兄貴
やらせてくれるというなら喜んでするのに……
なあ、妹よ
この手枷足枷は何だ?
俺はそっちの趣味はないんだが……
「お兄ちゃんが私以外の女に視線を向けるだけで許せない
私以外の女と同じ空気を吸うことも許せない
お兄ちゃんは私だけのモノ、私だけのお兄ちゃんになってもらうの
この地下室で」
ああ、妹よ
どうしてお前は普通のブラコンでいてくれなかったのか……
>>686 「義理!? 義理!? そうか、私たち血が繋がってないんだね。これで何も障害はないよね!」
スタッフ(キモ姉・キモウト)が美味しくいただいた後、今度は股間にある本命をいただきました
人間チョコバットの作り方
まず媚薬でフル勃起した兄(弟)を縄で縛って動けなくします。その際に全裸に剥いでおきましょう
次に熱々の溶けたチョコ(ギリギリ火傷しない程度)を用意します
後は簡単。兄(弟)のバットにたっぷりたらして塗ってハイ完成!
注意※食事のマナーとして、全裸になってお食べください。
しゃぶりすぎると中にあるホワイトチョコ(本命の本命)が空になってしまいますので気をつけましょう
また、排卵日の調節を事前にしておくことをお勧めします
食べ終わりましたら、他のメスが寄り付かないよう、
大きな断ち切りハサミで、根本から……ジョキン!!
投下します。非エロです。
/
最低だ、と、俊介が自らを省みることになった遊園地での一件が終わると、もう夏休みがすぐそこまで迫ってきていた。
あれ以来、舞が妙に優しい。
早起きが過ぎたり、アダルト雑誌を新しく買っていたのが見つかったりしても、怒鳴ることはなく、
それどころか風呂に背中を流そうと入ってきたり、一緒に寝ないかと尋ねてくるようになったのだ。
俊介はと言えば、そんな舞を逐一意識してしまっている。
気の迷いだ、という気持ちが三割。あれだけのことがあったのだから仕方ないという気持ちが四割。残りの三割は、俊介自身よくわかっていない。
ただ、それがなんだか薄暗いものだということは感じている。黒になりきれていない灰色のような。
だから今日、何年ぶりかに外食をすることにした。
あまり仲のいいクラスメイトではないが、多少無理を言って夕飯を一緒に取ろうと誘ったのだ。
相手は訝しがるそぶりも見せたが、店を目指して歩いている頃にはすっかりそんな様子はなくなって、時折ふざけて肩を組んだりするようになった。
素行の悪い人とは馬が合わない。そう俊介はずっと思っていたが、そういう人たちは案外考え方がシビアで、
学校で接するときと外で話をする時では印象ががらりと変わり、俊介は少なくとも、この人はいい人だと思った。
「なあ、繁華街まで行かないか」
唐突に相手がそう言った。繁華街の方がうまいものがある、せっかく仲良くなれたんだから、と言い出したのだ。
どうしたんだ突然、と聞くと、あー、と言いながら視線をそらして頬を掻きだした。
俊介は一瞬身構えたが、相手は、誰にも言わないでくれよ、と前置きして語り出した。
「俺、家庭があんまり裕福じゃないんだ。このあたりだと俺の家の噂がよく聞こえてくるからさ……お前にまで迷惑掛けるわけにはいかないだろ?」
立ち止まって、相手が自販機を指差す。二人で向かった。
「それに俺、弟達に食わせてやらなきゃならないから、夜のバーで働いてるんだよね。だから、繁華街の方がいろんな店に詳しいんだ」
買ったお茶が妙に体に冷たかった。
それから俊介たちは、言葉を切らすことなく繁華街に向かった。
4円
俊介が一人になったのは、午後九時を回ったころだった。
話がどんどん弾んで、相手がもう仕事の時間だと言い出すまでずっと店に居座っていたのだった。
「帰る、か」
人々の行き交うスクランブルの中ぼそりと呟く。歩く人たち。派手さが増している。
「舞は、一人で済ませたかな」
連絡はした。今日は夕飯はいらない、と淡白なものだったが。当然、なんで、どこで、と返信も来たが、それには繁華街にいるとしか答えていない。
帰りの道は、ひどく憂鬱だった。最近はずっとそうだ。原因は、はっきりしている。自分自身だ。舞には全く問題なんかない。
勝手に自分が錯覚して、勝手に自分が邪な感情を持っているのだ。お化け屋敷で襲ってきた人物は結局わからなかったが、そこはもう原因ではなくなっている。
何もかも、よくわからなかった。自分も、舞も。あれから、時折寂しそうな目を向ける小枝子さえ。ただ無性に歯痒かった。
小枝子は、少し変わった。ほんの少し。
積極的になった、と俊介は思う。
毎日必ず学食に行きましょう、と誘いに来るからだ。行きませんか、ではなく、行きましょう、という言葉は以前からは考えられなかった。
「ねえ、今日家に遊びに来ないかな?」
その小枝子の積極性に便乗して、この舞に対する劣情を解消できたらと思って言ったこともある。俺たちは付き合っているんだから、と思って。
けれど、小枝子はいつも唇を噛んで決まった言葉を言う。すみません、と。
やはり、よくわからなかった。
「おにーさん、高校生?」
声が聞こえ、顔をあげた。
「あんまり、遊んでなさそうな顔だね。私、君みたいな男の人好きだな」
胸元を大きくはだけた女が言う。きらきら光るベルト。茶色に染まった髪。妖艶な女だ。
俊介が知っているクラスメイトの派手な女とは全く違っていた。男をよく知っている女だった。
「ねえ、きて」
慣れてない俊介は手を引かれるままについて言ってしまう。あの、その、とかいう言葉が口から洩れるが、もちろんそんなこと女は聞いていない。
周りを見た。考え事をしていたせいで、いつの間にか繁華街でも特殊なところに来てしまったようだ。女は振り返って、優しく微笑んでくる。
引かれて連れてこられた場所は、とにかく写真が多い店だった。ピンク色の文字で下に文字も書かれている。俊介は、ああ、ここはホステスという人がいる店なんだ、と思った。
「りか、私この子連れてきたから。今度はアンタが出て」
女は、俊介にかけたものとは違った声を出して、店の前にいたもう一人の女に言った。
「あ、はい。わかりました」
答えた女も、派手な服装をしている。会話から察するに、この女の方が後輩なのだろう。
わざわざ頭まで下げていた。化粧のアイシャドウが濃く、頬がうっすらときらきら光っていた。
「この子、高校生だよ」
俊介が、どうしようかと考えている時、手を引いてきたほうが言った。
「へえ。いいんですか」
「うん。結構好みだし。これで百人目達成したからボーナスもらえるよ」
「いいなあ。もっと私も」
そこまで言った後輩の女が、急にぴたりと静止した。俊介を見て、え、と漏らす。
「先輩」
俊介もそう言われて、はっとして後輩の女を見る。
「え? 知り合い?」
「……いえ、知らない人です。じゃあ私、行ってきますね」
振り向いて去ろうとする女に、俊介は唖然として呟いた。
「朋美、ちゃん?」
呼ばれた女は、ぴくりと体を止めた。
「やっぱり、朋美ちゃんだろ。どうしてこんなところに」
「え、やっぱ知りあい」
「いえ違います」
即答するりかと呼ばれた女。向き直っていないのに、いやにはっきりと声が届いた。
「でも、あんたの名前知ってるじゃん」
「私の名前はりかですよ。何言ってるんですか、まゆさん。それじゃあ、私は行きますね」
「ちょっと、まちなって」
まゆと呼ばれた女が朋美の手を掴む。それでも無理やり手をほどこうとしたので、おい、と低い声が出された。
「あたしがもう一回出るから。あんたはここにいな。裏に行ってもいい」
「……店長に怒られちゃいますよ」
「あたしが言っとく」
「この人は悪い人なんです。私を追いかけてきたんですよ」
「この子が? ……下手な嘘はやめな。そういうのなら、私がここに連れてくるわけないだろ。それとも何? 私がそういう男を引っ掛けてくると思ってんの?」
朋美は何か痛いものを見るように、目を細めた。一瞬俊介を見て、それから下を向く。
彼女に何があったのか、俊介は想像できなかった。
引っ越したにもかかわらず、近くで働いていた朋美。化粧がされているが、それを考えても以前とは全く違っている。
外見だけではない。今の朋美には、何か俊介とは違う、いや、同年代の人とは全く異なる雰囲気があった。悟ったような、常に考え込んでいるような。
結局、二人でさっき俊介が夕食を済ませた店に行くことになった。
まゆが、朋美が俊介を客として同伴している、という形にしたのだった。リラックスさせるためや、店に来てもらうためにたまに使われる方法らしい。
店に行く間、朋美はずっと黙っていた。
俊介も何と声をかけたらいいかわからなかったから、ひとまず落ち着こうと店に向かった。
店は、夕食時同様、空いているようだった。
からんからんと鈍い鈴が出迎える。店員が礼儀正しくお辞儀をしてやってきた。
俊介が二人です、というと、先ほどと同じ席になさいますか、と言ってきたので、お願いします、と返した。
窓際には何人か座って食事をしている。夕食のときに聞いた話では、この店は外から見ると混んでいるに見えるので、よく敬遠されているらしい。
そのため、外観も食事も文句ないのにそれほど混雑しないのだ。
内装は落ち着いた印象が強かった。入ってすぐにあるカウンターは奥にある調理場を隠していて、ところどころに植物が飾ってあった。
案内されたテーブルには花のランプが用意されており、造花がきれいにそれに巻きついている。
「えっと、ブラック一つ。朋美ちゃんは、何にする」
「……何もいりません」
席に座っても、朋美は俊介を見なかった。見ない、というより見たくないという感じが強い。下を向いたまま喋るので、染められた髪の後頭部がよく見える。
「じゃあ、俺も何もいらないや。すいません、水だけでいいです」
俊介の言葉に店員は眉をしかめたが、かしこまりました、と言うと厨房の方へ歩いて行った。
何を聞けばいいのだろう。
俊介は、そう考えるのに必死だった。何があった、とか、どうしてあんなところにいたんだ、とかそういうことを自分が聞いていいのかわからない。
心配だという気持ちはある。しかし、夕食前の一件が尾ひれを引いて、言いたくない事情があるかもしれないと考えてしまうのだ。
男を誘うような格好。まゆとの会話。少なくとも、今日はじめて働いた、なんてことはないのに。
「……朋美ちゃん、君自身のことだからあまり口を出したらいけないってわかってるけど、でも、ああいうのは出来るだけ止めた方がいいと思う」
ぴくりと朋美の体が揺れた。
「は?」
「高校生で水商売なんて」
朋美は呆けたように俊介を見た。まるで言葉がよく理解できない子供のように。
「もちろん興味本位じゃないってことはわかってる。朋美ちゃんはふざけてるようで聡明な子だから」
俊介はそうも言った。
聡明だから、なんて言うのは、事情はあるのだろうけれど忠告はさせてくれ、という保険だ。
朋美はまだ、黙っている。
「……」
それは、沈黙、ではなかった。意図的に口を閉じているのではなく、俊介の言葉を反芻しているために喋るのが遅れている、そんな感じだった。
「……何、言ってるんですか? ……何言ってるのよ」
朋美の声は、恐ろしくかたかった。
「ふざけないでよっ!」
え、と返した俊介の言葉など、もう届いてはいない。朋美は自分の言葉で自分に興奮していた。
声とともに叩かれたテーブルが大きな音を立てる。店内にまばらにいた人たちが一斉にこちらを見た。
「あなたの、あなた達のせいじゃない! 私だってこんなことしたくないわよ!」
コップの水が、俊介の制服を濡らす。
「でも、しょうがないじゃない、お金が必要なんだから。私がお金を稼がないと、どうしようもないんだから」
朋美は切羽詰まった声でそう言った。そして何度も繰り返して言う。どうしようもないんだから、と。
「どういうことなんだ」
店内がまたざわつくころ、俊介はやっと訊いた。こぼれた水をウエイトレスが拭きに来たが、自分でやるからと断った。
朋美は、睨みつけるのが終わるとじっと立ったままテーブルを見つめていたが、俊介の言葉を耳にすると、みるみる顔が歪んでいった。
「何、その反応? もしかして、知らない? もしそうなら、ますます許せないな。梶原俊介」
「ちょっと待ってくれ。意味がわからない。どういうことなんだ。説明してくれ」
「……本当に知らないんだ。呆れた。親が親なら子も子ね。残酷。他人をこんな目にあわせておいて、本人は何も知らずにぬくぬくと生活してるんだから」
だんだんと怒りよりも嘲るような声になっている。俊介は動揺しながらも必死で何があったのか訊こうとつとめた。
「だから説明してくれよ。俺が何かしたのなら、すぐにどうにかするから。いや、朋美ちゃんが水商売なんかしないでいいようになるなら、何でもするよ」
「何でも?」
へえ、と嗜虐的な顔をする朋美。
「先輩、でも、ひとつ間違ってることがあるんですよ」
二人の視線が絡まったのを確認して言った。
「あそこね、ソープランドって言うんです」
/
「私、結構人気者なんですよ。高校生だから。中に出させたあげることもあるし。まあ、その場合はお金を上乗せしてもらいますけどね。先輩も抜いてあげましょうか」
自信満々に朋美は言った。さっきの金切り声よりは小さく、でも前に学校で話したときよりも大きな声で。
「俺のせいで、あそこに、いるのか」
言いながら、震えているとわかった。
「……そうですよ。あの店で、女にされたんです」
朋美はそう言うと、やっと席に座りなおした。
「説明、してくれ」
身を乗り出してくる俊介を朋美は一瞬、唇を噛んで見詰めたが、鼻を鳴らすと、
「私は、あなたが知らないことが許せないって言ってるじゃないですか」
と言った。
「頼む!」
今度は俊介の声の大きさに周囲が反応した。けれど、今度は先ほどよりも短い時間で元に戻る。
誰も聞いていないからなのか、それとも聞き耳を立てているからざわついたのか、それはわからなかった。
朋美はただ黙って目を細めた。
「あなたのお父さんは何をしてる人ですか」
間髪入れず、俊介はほとんど反射的に訊いた。
「親父が何かしたのか」
朋美はこたえない。
けれど、それだけで十分だった。
「今すぐ、親父のところに行こう。俺が何とかする」
「もう何をしても無駄ですよ。今の私を知らなかったあなたに、何かができるとは思えません」
「それでも、それでもだ」
「先輩。私はあなたを許しません。絶対に」
そう言われ、俊介は愕然とする。もうそれで、何もかも手遅れなのではないかと思ってしまったから。
朋美は、泣いている。
今、俊介を責める立場にいたはずなのに。ぼろぼろとぬぐうことさえ忘れて泣いていた。はっとして、上を向いて涙を止めようとしたが、すでに遅かった。
何も知らなかった俊介。知らないところで泣いていた朋美。つくづく、人は見かけによらないと思った。
「許してもらわなくても結構よ」
そんな中、愉しそうな声が横からした。
「結局、股を開いたのはあなたでしょう? なにお兄ちゃんのせいにしようとしているの?」
見ると、舞が、ほんとうにおかしそうに笑って、そこにいた。
いつからそこにいたのか、夏なのに薄い長袖のシャツとジーパンをはいている。どうやってここに、と俊介は訊いたが、舞はひたすらくすくすと笑ってやめようとしなかった。
朋美が、急いで自分の顔を拭こうとする。
「あら、お化粧が崩れちゃうわよ」
途中にそう言われたが、ハンカチでごしごしと涙をぬぐった。アイシャドウが崩れ、パンダのような目になってしまったけれど、気にしなかった。
舞はそれをみて、またしてもにんまりと笑う。が、俊介の方を向くと片手を腰に当てて眉を尖らせる。
「お兄ちゃん、何こんな所で遊んでるのよ」
「今、それどころじゃないんだ」
「もうすぐ夏休みだからって怠けてるんじゃないの」
舞は、俊介の腕を掴んで引っ張る。早く帰ろう、と言いながら。
朋美のことを説明すると、舞はさっき笑っていたくせに、あら、なんて声をあげて話しかけた。
「ハロー。久しぶりね。菅野さん」
まるでいじめられっ子を見つけたいじめっ子のような声だと、俊介は思った。
「……この恰好を見ても何も言わないんですね」
「ええ。言わないわ。ああ、似合っているわよ、って誉めた方がいいのかしら」
「舞っ」
すぐに俊介が怒鳴ったが、舞はどこ吹く風と涼しげな顔をしている。
「親父が、親父が何かしたのかもしれないんだ。そのせいで朋美ちゃんがこんなことになってるのかもしれないんだ。そんなこと言うもんじゃない」
俊介がそういさめるのに、舞は、
「朋美ちゃん?」
などと見当違いな所に反応する。
そして、はあ、とため息をついてテーブルの真ん中に言葉を置くように言った。
「仕事なんて、何があるかわかったもんじゃないわ。この女は運がなかったのよ」
「舞!」
俊介は手を振り上げた。引っ叩かなければならないと思った。
しかし、自分がそんなことをしたって朋美は何とも思わないのはわかっていた。見れば、無表情に俊介たちを見つめている。
「謝りなさい。今のは、兄ちゃんも許せない」
大きく息をついたあと、俊介はそれだけ言った。
「……悪かったわ」
と、舞もそれには従った。
「……いいよ。謝らなくて。そんな必要、ない」
朋美は立ち上がって、語気を強める。
そして俊介を見た。俊介だけを。
「先輩、最後に一つ聞かせてください」
「何でも言ってくれ」
「もし、この人が、現われなかったら本当に私を助ける気でいたんですか」
深い、こげ茶色の瞳だった。化粧なんて、服なんて、気にしなかった。俊介は自分も立ち上がって、舌に言葉をしっかりとのせた。
「今でも、助ける気だ。朋美ちゃん、親父が不当なことをして君の家に何かしたのなら、俺が何とかする」
「……何とかできるとは、思えませんけど」
「絶対だ、信じてくれ」
朋美はそのまま頭を下げた俊介の背中に、そっと手を置いた。温かい手のぬくもりが伝わっていく。
「どこにいるのかもわからないのにどうするのよ、お兄ちゃん」
舞が嘲るように言った。
「どうにかする」
大きな声で言い、俊介は自分の財布を出したが、朋美に首を横に振られてやめた。
「先輩……でも、私は、もしあなたが助けてくれたとしても、許すことはできないかもしれません」
「うん。それはもちろんだ。俺は、君が助かればそれでいい」
朋美を見つめ返して、俊介は心から言った。
許されるかどうかなど問題ではなかった。ただ朋美に以前のように明るく楽しい女の子に戻ってほしかった。戻った結果、自分のことを憎んでいたとしてもかまわない。
それどころか、自分が犠牲を払うことで彼女が助かるならば、喜んでそうする。
「後ろを向いて、耳をふさいでください」
唐突に、朋美はそう言った。
首をかしげる俊介に、何でもしてくれるんですよね、とも続ける。
俊介は言われたとおり、後ろを向いて両手で耳を押さえた。
数分して、肩を叩かれたので俊介が振り向くと、朋美が、
「それじゃあ、私は仕事がありますのでもう行きます。もし、話があったら店に来てください。……待ってますから」
と言って、店を出て行った。
俊介は舞とともにぽつんと取り残される。
これから本当に大変になるな、と俊介は目をつぶって噛みしめるように息を吸った。
自分たちも店を出ようと、前にいた舞の傍に行く。
「お前、どうしたんだ」
しかし、舞は頭から水滴をぴちゃりぴちゃりと床にたらしていた。まるで大量の水をかけられたように。
下を見れば銀のポットが、がらんと転がっていた。氷も無数にちらばっており、舞の足元には水たまりさえできている。
左の頬には大きな赤い跡があった。
その場にいた俊介も含めた全員が、目を見開いて舞を見つめている。
「帰ろう、お兄ちゃん」
しかし、それなのに舞は、くすくすと笑って俊介に抱きついた。
何をされても、負け犬なのは明白で、笑いが止まらないのだった。
止めてみろ、という気さえした。
投下終了です。支援ありがとうございました。
>>703 GJ
朋美ちゃんが誰だか最初わからなかった
おお怖い……
ぐっじょ!
水も滴る良いキモウト…GJ!
良かった
それにしても
舞…恐ろしい子!
ペロッ・・・!!これは・・・!!
いいキモウト!!
GJ!!
GJ!!
何か久しぶりに、キモ怖いキモウトを見た気がする・・・
でもこれって、最終的に何やっても妹が兄貴に嫌われるフラグに見えてしまうんだが……
>>703 GJとしか言えない
>>710 それも計算の内。あーこわいこわいくわばらくわばら剣呑剣呑鶴亀鶴亀。
ま、それが素晴らしいのですが。
◆P/77s4v.cI氏には申し訳ないのだが未だに161616169がわからない。
>>703乙&GJです。
キモウト・キモ姉の活躍にばかり目が行っててあんまり考えなかったが、
人のものに手を出したとはいえ泥棒猫の末路はあんまりにも哀れだな。
朋美には何らかの救いがあってほしいよ。
あと俺も
>>712の暗号はさっぱりわからん。
誰か教えてください。
1あ 6か 1さ 6た 1な 6は 1ま 6や 9ら 4わ 6ん
2い 7き 2し 7ち 2に 7ひ 2み 0り
3う 8く 3す 8つ 3ぬ 8ふ 3む 7ゆ 1る
4え 9け 4せ 9て 4ね 9へ 4め 2れ
5お 0こ 5そ 0と 5の 0ほ 5も 8よ 3ろ 5を
九桁使われていた。
次が七桁だった。
↓
法則発見!
一挙にヒートアップしてきたねえ
ここまで猫被らない妹ってのも珍しい気がするw
バッドエンド一直線にwktkがおさまらんGJ
>>714 なるほど、何か文字列になっているかと思ってた。
おっ!姉さんもやっとチョコを作って渡すような人ができたんだな
父さんと母さんにはなんとかうまく言っとくから今日は泊まってきちゃってもいいぜ?
あれ?出掛けなくていいの?
せっかく美味しそうなチョコ作ってたのに
で、なんで俺の目の前で自分で食ってんの?
10分後くらいに投下。
ロリってかペドなんで、
苦手な方は、酉かタイトル『東京みゆみゆ』でNGお願いします。
全裸待機
1
二月の半ば。寒さが振り返した真冬日の午後。
リビングでコタツに温み、座椅子に腰掛けて正面のテレビを見る。
今日は、朝から両親が夫婦水入らずで旅行に出掛け、残ったのは仕事が連休の俺と、十七も歳が離れた今年六歳になる妹。
幼稚園は来月卒業して、四月から小学生になる。そんな妹は、俺の胸に背中を預け、股上に座って、青い園児服のままで同様にテレビを見る。
可愛くて、自慢の妹……だった。
『くらえッ! テキサス・コンドル・キィィィック!!』
『なんだと!?』
『俺に阿修羅バスターを掛けろッ!!』
『喰らえッ! 阿修羅バスタァァァァッ!!』
『そこだッ! 玉砕ドロォォォップ!!』
『ぐああぁぁぁっ!!』
『マッスルタイム!!!』
片腕を頭上に掲げ、勝利を誇示する正義超人。レインボーに輝く肉ボタン。
妹はビンのフルーツ牛乳を飲みながら見入ってるが、アニメに興味が無い俺としては退屈過ぎる。
それに加え、俺を椅子にしてテレビを見るのが好きらしく、ドラマやニュースを見てても寄って来て、ちょこんと前に腰を下ろすのだ。
しかも、つまんないからベツなの〜、と駄々をこねてチャンネルを変えてしまう。
そんなだから両親は、妹の世話を懐いてる俺に全部任せて、いつも旅行して楽しんでる。
そんなだから……だから、だからっ、こんな関係になっちまったのも、アンタらのせいだからなっ!!
『東京みゆみゆ』
2
「おにいちゃん、おわっちゃったね?」
妹は視線だけで見上げて俺の顔を覗き、フルーツ牛乳の余りを一気に飲み干す。
正面ではアニメが終わり、夕方前の有り触れたニュース番組が流れていた。
「んじゃ、みゆの好きなハンバーガーでも食べに……んっ、オイみゆっ!?」
嗚呼、ああやっぱり、やっぱりこうなる。
妹を持ち上げようと腕を回して抱き締めた時、突然に下半身へと心地良い刺激が届く。
「あ、あのね、みゆねっ、おまたがムズムズするのっ……おにいちゃん」
柔らかな肉に包まれて、優しく擦り上げられる感覚。
みゆは俺のペニスに尻を押し付けると、ソレを間に挟んで、一生懸命に腰を前後させていた。
「みぃ、ゆぅ。もうやらないって、お兄ちゃん言ったろ? 大人になってから、好きな人とするんだよって?」
腰まで有る長い髪をサラサラと揺らし、頬を赤くしながら俺の名を呼ぶ表情は、明らかに女の仕草。幼稚園児のして良い顔じゃない。
俺の言葉だって、何度目かさえ分からない。意味なんて無いんだ。結局は……
「どーして? みゆ、おにいちゃんのこと……えへへっ♪ ダイスキだよっ♪♪ おにいちゃんとケッコンするもん!!」
誘惑に負けて愛に応える。
妹はペニスの盛り上がりをズボン越しに感じ取ると、一旦動きを止め、コタツの中に手を差し込んで小さな掛けカバンを引っ張り出す。
そしてカバンからボトルを、暖められたローションを取って両手で持ち、クルリと反転して向き合うと、
「おにいちゃん……しよっ? みゆのおまた、いっぱいズボズボしてくだしゃい!!」
上目で見詰めながら、大きくクリクリとした瞳でローションを差し出した。
俺の部屋に有った物を、いつの間にか持ち出したのだろう。
使い方は知っているのだから、俺とする為に、ここへ持って来たんだ。
3
最初の最初、一番最初。きっかけは両親。悪いのは……両親。
みゆが起きてるのにも気付かないでセックスするから、見せ付けるから、みゆはオカシクなった。
寝床を俺の部屋に移し、休日はずっと側にくっつく。寝るのも、食事も、お風呂も、トイレも。
おにいちゃんスキ、と何度も繰り返しながら、刷り込みながら、俺の身体から離れない。
そんなだから、もちろんオナニーなんてできないし、意識は無くとも朝立ちはする。生理現象だから。生理現象だけど、兄弟の関係を踏み外した。
楽になった射精感に促されて、夢精したと勘違いして、目を覚ましたら、
「おにいひゃん、ぢゅっ、ぢゅちゅっ……ちゅぴゅっ、おはよぉっ♪♪」
みゆが美味しそうにペニスを咥え、零れ落ちる白濁とした精液を啜っていた。
それだけじゃない。口を三日月の形に吊り上げた妹の、みゆの、幼稚園児の次の台詞は、
「ねぇ、おにいちゃん? みゆがパパとママにねっ、おにいちゃんにレープされたっていったら、どうなっちゃうの?」
実の兄を社会的に殺す、最高の脅し文句。
肌にザーメンをこびり着かせて、全裸で兄の性器をしゃぶる。もう、要求を飲むしか無かった。
つまり両親を見て興味を持ったセックスを、子供と、園児と、妹と……
それからはずっと関係が続いてる。
朝早く起きて風呂場へ篭り、俺は妹を相手に腰を振り、妹は声を出さぬように自らの手を重ねて口を塞ぐ。
シャワーの音で誤魔化して、シャワーで全てを洗い流して、毎日、毎日、妹の中へ。
だから今日だって、
「あーあ、みゆがこんなにエッチだなんて知らなかったなぁ……もしかして幼稚園でも、おちんちん誰かに挿れて貰ってるんだろ?」
俺は妹とセックスする。
酷い兄を演じて、貫き通して、早く愛想を尽かされる様に振る舞いながら、差し出されたローションのフタを開けた。
「ちがうもん! おにいちゃんとしかしないもん!! おにいちゃんのおちんちんしか、イラナイんだもんっ!!
みゆ、みゆねっ? おにいちゃんの、オヨメさんになりたい……」
みゆは本気で言ってるって理解してる。目尻に涙を溜めて、泣き出しそうなのも本当だって理解してるよ。
でもね、みゆ? 兄妹は結婚できないんだ。それに、嘘……付いてるから。
俺が妹に付いたウソ。俺がセックスだと教え挿入してる場所は、膣ではなく尻穴。みゆのアナルを使ってセックスしてる。
ココなら、万が一の時に証拠が残らないから。処女は成長してから彼氏に捧げれば良い。
後何年かすれば、嘘もバレるし、きっと俺よりも近い歳の男ができる筈さ。
4
俺は一生分甘やかしたし、妹にも甘えさせた。
だからもう、いつ嫌われたって良い。大切なのは自身の保険。二度と脅しに屈せぬよう証拠を残さない事。
それだけを心の片隅に止めたら、罪悪感なんか消して、精一杯セックスを楽しむ。そうしなきゃ保てない。
「意地悪言ってゴメンね。嫌いになったら、お兄ちゃん出て行くから」
冷たい言葉で更に泣き顔へ変わろうとした妹を抱き寄せ、ぷにぷにとした幼児体型を腕の中に納める。
すると妹は僅かに驚き、頬を耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
「あ、あのねっ、スキだよっ? みゆ……おにいちゃんとケッコンすゆんだもん。みゆを、およめさんにしてくだしゃい!!」
みゆは正面から抱き締められるのが恥ずかしいのだ。だけれども、こうされるのが一番好き。
ドキドキと大きな鼓動が俺にまで伝わって来る。フルーツ牛乳の甘ったるい香りを漂わせて、将来まで誓う甘ったるい告白。
そっか、そんなに俺が好きか? ならっ……
「ひゃうっ!? おにい、ちゃ?」
みゆの背中に回していた左手は園児服をめくり、右手は持ってるボトルを逆さまにして、バックプリントパンツの中に大量のハードローションを流し込む。
どうせ洗濯すると開き直り、パンツがグチョグチョに濡れて、ボトルが空になるまで注ぎ入れた。
「それじゃあ、みゆのココにおちんちん挿れて、みゆがイカなかったら……お嫁さんにしてあげるよ」
空になったボトルを部屋隅に放り、ファスナーを下げて硬く勃起したペニスをズボンの外に晒す。
「おにいちゃん、ダイスキっ、だから……んにゅ、ん、んっ、んんっ!? みゆっ、イカないよ?」
みゆは俺の襟元を掴み、俺はみゆを左腕で抱き締めてる状態。
そしてペニスは尻穴の真下。溢れ垂れるローションで、俺のズボンまで濡れて染みを作る。
「無理だよ。みゆ、すぐイッちゃうだろ?」
右手でパンツごと尻肉を揉みほぐし、穴の周りは指先で円を書く様にシワを伸ばして行く。
普通は不快に感じると言うが、みゆは俺の指にすぐ反応してくれるのだ。
シワは蕩けてジュクジュクと腸液を滲ませ、ヘリはコリコリにシコって熱を帯びる。
「イカないもん! みゆっ、おまたズボズボされても、イカないんだもん!!」
本来なら、こんな前戯さえ必要無いのかも知れない。膣に興味が向かないよう、執拗にここだけを攻め、開発したのだから。
俺の形を覚えた、俺専用の穴蔵。身体を抱き締めれば一瞬にして粘液が湧き上がり、粘着質な糸を引く蜜で満たされる。
こんな歳で、何度もスケベなアナルアクメを経験した結果だ。
「良いかい? 今から挿れるけど、イッたらお嫁さんにしないからね?」
爪先を軽くパンツに引っ掛けて伸ばし、肛門位置に小さな裂け目を作る。
5
潤んだ瞳は俺の顔を捉え、覚悟を決めた表情でコクリと小さく頷く。
「おにいちゃんスキ、しゅき、だいしゅきだよっ? すき、すき、すきいぃっ……みゆを、およめさんにしてよぉっ」
そして俺が抱いていた力を緩めると、幼い愛を囁きながら少しずつ身体を下ろし、天井を向くペニスの先端にシワの中心を押し付ける。
柔らかく熱く、腸液とローションでトロトロにヌメる尻穴。鈴口は難無く呑み込まれ、カリ首の手前まで一気に沈む。
みゆの身体を両手で脇腹から挟む様に抱え直し、挿入を迎える最後の調整。
「イッちゃ駄目だよみゆ? はい息吸ってー、吐いてー、力抜いとけよ?」
お嫁さん。結婚。大好き。毎日プレゼントされる愛の破片。
もう嫁になってるぜ? まっ、アナル嫁だけどな……はははっ、ははっ、はっ、馬鹿かよ俺はっ!? ちっ、くしょぉっ!!
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅん、おにぃ……」
荒い呼吸。いつもより興奮しているのか、みゆの身体から固さが無くなって行かない。
勿論、先端は入ってるんだから、肩を押さえ付ければ簡単だ。
だけど違う。みゆは抱き合いながらのセックスが初めてだから緊張してる。
それなら俺は……
「みゆ、大好きだよ」
一瞬で硬直を解かす、魔法の言葉を。
耳元に口を寄せ、できる限りの優しい声で。
「ふぇ? あっ、ゃ、ゃあぁっ、みゆも、みゆもっ!」
みゆは手で自分の紅潮した顔を隠し、戸惑いながらも一途に返してくれる。
身体もすっかり弛筋し、にゅぷりと最も太いカリ首を呑み込んでしまった。
腸液とローションのミックスジュースで、ペニスはヌルヌルにコーティングされてしまう。
後はただ、
「イクぞみゆ? イクなよ? ふうぅっ!!」
腰を掴んでいた手を下げるだけ。
ぢゅぶぶぅぅぅっ!!
「おにいちゃ……ふあぁぁぁぁぁんっ♪♪」
狭く柔らかく、幾重にも連なった輪の中を突き進む感覚。
みゆの幼い尻穴は、ヘソ付近まで深々とペニスを咥え、きゅきゅぅっとキツく締め付ける。
それだけじゃない。小刻みに蠢く腸壁の振動は、開きっ放しの口と目が、みゆの絶頂から来るモノだと教えていた。
「みゆ? 今イッ……」
「イッてない、イッてらいもん!!」
はっ、嘘ばっかり。兄妹揃って大嘘つきだな。
直腸擦り上げられて、子宮の裏側えぐられて、行き止まりの結直まで小突かれて、みゆがイカない訳無いだろ? お兄ちゃんナメんな!!
何もしなくても気持ちいいけど、このままでもイケそうだけど……頑張っちゃうか?
「ふうっ!?」
再びみゆの身体を持ち上げて、再びカリ首の位置までペニスを引き抜く。
6
「ぁあぁっ♪ イッへぇ、らいもん!!」
また嘘。口横からヨダレ垂れてるし、舌足らずになってるし、目なんか焦点合ってない。
「ほらっ、白目もどせ。話しする時は、ちゃんと相手を見るんだ……ぞっ!!」
ぢゅぶぶぅぅぅっ!! ぢゅぶっ、ぢゅぶっ、ぢゅぶっ、ぢゅぶっ、ぢゅぶっ!!
完全に俺のペニス容れとなった身体を、また根元まで深く咥え込ませる。
「かひゅっ!?」
次からは一度で終わりじゃない。
子供の重量は軽く、オナニーホールの様に上下へみゆを動かす。
「イッてるんだろ? イッたって言えよみゆっ!!」
奥の結腸はペニスを逃がすまいと唇の形で吸い付き、
細かいヒダヒダは一々ヤラしく引っ掛かかり、
腸圧は自在に変化し、突く度に全く違う刺激でペニスを締め上げる。
俺のモノに馴染み、俺のモノを覚えた、妹の幼い尻膣。
「ぅぁあっ♪ あ、あぁっ、ふぁぁうっ♪♪ おにいひゃん、しゅきぃっ……」
既に言葉にすらなってない。ずっとイキまくって止まらないのだ。
されるがままに尻穴をハメ倒され、絶え間無いアクメに身を委ねる。
心から愛おしく想う、俺の大切な妹。俺はそんな妹と……
「ぐっ、はあぁっ! ふぅっ、ふぅっ、ふっ! イクぞみゆ、ナカ出しするからなっ!!」
ぢゅぷっ! ぢゅぷっ! ぢゅぷっ! ぢゅぷっ! ぢゅぶぶっ!!
限界は近い。こんなに情熱的な腸内に射精をねだられては、我慢なんてできる筈ない。
「だひてっ、おにいちゃ! みゆを、およめしゃんに、ひてっくだひゃひ!!」
みゆの一番奥で、結腸の隙間に鈴口をねじ込んで、両手を脇から背中に回し、ギュッと強く抱き締める。
そして息を整え、みゆの息が整うのも待ち、落ち着かせてから、
「みゆっ? お兄ちゃんと……結婚しよっか?」
最高の口説き文句を。
「おにいっ、ぁあ゙あ゙あぁぁぁぁぁぁっ♪♪♪」
次の瞬間にはみゆの絶頂が響き渡り、痛いくらいに腸膣がペニスを締め付けた。
急激に収縮し、尻穴の器官全部で精液を搾り取る動き。
「みっ、ゆっ……ぐおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
びゅるぅぅぅぅぅっ!! びゅぐびゅぐっ!! びゅくんびゅくん、ドクンドクンドクン……
ああ。嗚呼。自宅で、リビングで。家族に、妹に、幼稚園児に、チツナイ……しゃせい。
噴き上がる精液を、一滴残らず腸内で吐き出した。
「おまた、ポカポカするよぉっ……えへっ、ダイスキだよ、おにいちゃん♪♪」
狭い中に溜まる筈も無く、ボトボトと白濁した精液が、とめどなくズボンへと垂れ落ちた。
二人して汗を掻き、愛を囁き合い、粘膜を擦らせ合った、禁断の性交。
俺は明日、今日の事を後悔するだろう。
最中は割り切れて楽しんでも、終われば罪悪感に押し潰される。
だけど今は、気持ち良い脱力の中で、
「オヤスミ、みゆっ」
眠らせてくれ。
7
あまい。
アマイ。
甘いっ! 激甘だっ!! なんで気付かない!? なんで分からなかった!?
俺の考えは、ハチミツたっぷり、クリームたっぷり、アイスたっぷりのハニートーストより全然甘いッ!!
自身の保険? 証拠を残さない? なんてブザマ!! マヌケ過ぎるだろっ!?
だめ、駄目。どうしようもない。
「はやく、おにいちゃんのあかちゃんがうまれないかなー♪♪」
沈む太陽の残光が、赤くリビングを染める夕暮れ。
ふと眩しさで目覚め、視線だけを横に動かせば妹。
起きた俺に気付かず、一心不乱に、オナニーしてた。
正確には違う。床の上に座り、破れたパンツは脱ぎ捨ててる。
肛門から溢れ出した精液を指で掬い、その指を膣内に挿れて、奥まで押し込む。
「おっにぃちゃーん♪ おっにぃちゃーん♪」
深くを掻き回す中指。痛みを感じてる様子は無い。血も流れてない。妹は、とっくに処女じゃない。
妹は全て理解してた。俺が嘘をついてる事も、俺を縛り付けるにはどうすれば良いかも、何もかも。
わからないフリをしてセックスをしてたんだ。
血の気が引く。喉はカラカラ。
妹が中学になる頃には、こんな関係は終わってる……そう思ってた。
でも、来年、再来年。生理が来て、俺が気付かないで、今みたいなオナニーをされたらどうなる?
はっ、終わっ、た……恐らくだいぶ前から、俺のDNAカスは、みゆの膣内に溜まってるだろう。
『ねぇ、おにいちゃん? みゆがパパとママにねっ、おにいちゃんにレープされたっていったら、どうなっちゃうの?』
今度は言い訳できない。証拠が確実に出て来る。
だけどそれは、それはっ!!
「みゆ、ちょっと聞いてくれ」
それだけはイケない!!
みゆも、俺も、それじゃあ幸せになれないんだ。
みゆは、絶対に幸せにする!!
そう決心して、覚悟して、上体を起こして、妹をしっかりと見つめる。
「なぁに、おにいちゃん……」
すると妹は自慰を止め、
口を『あの時』と同じ、三日月の形にして微笑んだ。
「まだ、にげられるとおもってるの?」
短編。以上です。
キモウトとしての自覚の速さは中々に高いな。
GJ!
いいね、ゾクゾクした。
GJ
GJ!何かこのところ長編SSが多かったから、すっごく面白かった!!
すごくいい!
GJ
六歳というところまで読んで
さすがに低めに過ぎると思って
あとは飛ばしたんだが……すごいGJの嵐だ……
Gjすぎて言葉も出ねえ……。
姉ちゃんどこまでバカなんだよ! チョコレートの女体盛りしようとして乳首を火傷するって!
口で治療なんかしてもらえると思うなよ
恋愛において鈍感は罪である――
何処の誰が言ったかは知らないが、それは多くの場合的確とされている。
そしてこの一見平凡な姉弟の間にも適用されてしまったようだ。
「おっ!姉さんもやっとチョコを作って渡すような人ができたんだな。父さんと母さんにはなんとかう
まく言っとくから今日は泊まってきちゃってもいいぜ?」
前日から入念に準備され、完成した手作りチョコレートを見ながら頬を赤く染め、うっとりとしている
姉を見て、弟は言った。
日本国民の年頃の男女なら誰もが浮かれ、騒ぐ行事『バレンタインデー』。
しかし、彼はバレンタインデーに姉がチョコを作っているところを、これまで一度も見たことがなかった。
それが今年はあんなに気合いを入れてチョコを作っている。
つまりはそういうことだろう。
姉さんの恋が実るよう、応援しなければ。
彼はそう判断して姉に声をかけたつもりだった。
ところが姉はただ弟の方を見てニッコリと笑うばかりで、一向に家から出ようとしない。
「あれ?出掛けなくていいの? せっかく美味しそうなチョコ作ってたのに 」
不審に思った彼が姉に尋ねると一瞬姉の動きが止まった。
姉は背を向けて立っているため、弟からはその表情が見えない。
彼女の後ろ姿を見ているとなんだか体の内側にざわめくものを感じた。
彼は無意識のうちにごくりと唾を飲む。
ゆっくりと振り向いた姉の顔は今まで見たこともないほどに美しく、そして“オンナ”の顔をしていた。
そう、彼は分かっていなかった。
姉が何故今年に限ってチョコを作り、そのチョコを嬉しそうに見つめ、家から一歩も出ようとしなかった理由を。
そして常日頃から姉がどんな目で、どんな想いで実の弟に接していたかを――
あっ、そうだ!
弟君、悪いけど念のためにチョコの味見てくれる?
私としては結構上手くできたとは思うんだけどやっぱり不安じゃない?
だからはいっ、よく味わって食べてね。
ふふ、美味しい?そう、よかった……
……あれっ、弟君急に倒れてどうしたの?
えっ?「急に体が痺れて動けない」?
まぁ大変、それなら早くベッドに運ばなきゃ!
大丈夫!今夜は付きっきりでお姉ちゃんがちゃんと世話してあげるからね!
……よいしょっと、弟君もすっかり大きくなっちゃって。
昔はお姉ちゃん、お姉ちゃんって私の後ろにくっついてばかりだったのに。
ん?「俺のことはいいから早く彼氏の所に行ってやれ」?
ふふっ、弟君が心配することなんて何もないのよ?
だって私はもう好きな人の傍にいるんだもの。
えっ?それはどういう意味かって?
クスクス、大丈夫。弟君は何も考えなくていいんだよ……
それよりもなんだか体が熱くなってきたんじゃない?
ほら、ここだってこんなに大きくなってる……
ああ、ここまで来るまで長かったわ……本当に長かった……
お姉ちゃん、嬉し過ぎて今にも気が狂っちゃいそう。
だって今から私は愛する人と初めて結ばれるんだもの。
ううん、今夜だけじゃないわ。
これからもずっとずっと死が二人を分かつまで私たちは一緒。
もしお姉ちゃんと弟君の仲を引き裂こうとする奴がいたら、これまで通り私が始末してあげるから。
今日だって弟君に汚らしいチョコをあげようとする雌猫たちを処分してきたんだよ?
毎年毎年懲りもせずに盛った泥棒猫たちは弟君を襲おうとしてるの。
全く弟君には私って人がいるのに身の程知らずもいいとこだよっ!!!!
殺す!!私から弟君を奪おうとする奴らなんかみんな殺してやるっ!!!
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……
ああっ、ごめんなさい!!お姉ちゃん恐かったよね?!
お姉ちゃん、弟君のことになるとつい興奮しちゃうの。
でもね、それは弟君のことが大好きだからなんだよ?
弟君のことなら何でもお姉ちゃんがしてあげる。
ううん、させてほしいな。だってお姉ちゃん、弟君のこと本当に愛してるから。
だから何の気兼ねも心配もすることはないんだよ?
弟君はお姉ちゃんとキモチイイコトしてくれるだけでいいの。
えへっ、だからお姉ちゃんにご褒美ちょうだい?
お姉ちゃん、さっきチョコあげたからお返しは弟君のホワイトチョコがいいなぁ。
えへへ、まだホワイトデーには早いけど前払いってことでいいよね?
これからお姉ちゃんと弟君はドロドロに溶け合って混じり合って一つになるの。
まるで手作りのチョコみたいじゃない?
とっても熱くて、ドロドロしてて、どこまでも甘いの。
混じり合い、固まったチョコはもう元の二つには戻れない。
二人は分かちがたく結びついたまま砕けるしかないの。
えヘヘ、えへへへへへへ。
素敵だと思わない?
こんなに固く深く結ばれ合う方法なんて誰も考えつかないよね?
だからお姉ちゃんに食べさせて?
『弟君』っていう最高に甘いチョコレートを。
うふふふふふふふふふふ、あひゃっひゃははははははははははは!!!!
あはははははははははははははははははははははははははははははは!!!!
常に被っていた『優しい姉』の仮面を剥ぎ取り、実の弟を求める狂人の本性を露わにした姉。
その目はぎらぎらと獲物を求めて光り、口からは甘い吐息がこぼれて弟の顔に落ちる。
姉の姿をした怪物から逃れようと弟は必死にもがく。
しかしチョコに含まれていた薬品のせいで体の自由はきかず、体中が燃えさかるように熱い。
姉の柔らかな肢体に絡み取られ、組み敷かれる弟。
冷静な思考を行う余裕は彼に残されておらず、ぼんやりと彼は自分の体にのしかかる姉を見上げる。
まるで別人のように淫らに乱れる姉の姿を見て、彼は不覚にも「
ああ、姉さんってよく見ると結構可愛いじゃん……」
と思ってしまった。
いつしか二人の視線は自然と熱く絡まり合い、姉はニッコリと微笑みながらゆっくりと弟に口付けて囁いた。
『ハッピーバレンタインデー、弟君……』
投下終了です
おおおおーーーーー、もう今年はバレンタイネタは無いと思ってたけど、
粘ってたかいあったぜーー
GJ!
らぶらぶやないかーーーーっ!!!!
いや、全然かまわないんですけどね。
GJJJJ!!!
豆知識
手作りバレンタインチョコの成分
カカオ(その他) 1%
愛液(隠し味) 99%
もう変な物が混ざった姉妹のチョコを試食する作業は嫌だお…
>>729 またまた俺のつぼつぼを突いてきちゃうんだから///
GJ!
>>729 俺の体も熱くなってきたぞ!フィーバー!!
そしてGJ!
>>746 おいおい、体が熱くなったり痺れたりする成分を忘れているぞw
>>729 GJ! 六歳でこれとは将来はどうなることやら
>>743 GJ! 自分のレスをヒントにして下さるなんて光栄ッス
>>747 姉「変な物だなんて失礼しちゃうね」
妹「そうだよ、にーちゃんはワガママだ〜!」
747「愛○とか、毛○とか、明らかに食いもんじゃねぇだろうが」
姉妹『だーかーらーっ』
姉「私たちもちゃんと反省して、ちゃんとしたチョコを作ったんだってば」
妹「そうそう、にーちゃんが嫌がるような、変な物なんか混ぜてないよ」
747「本当だろうな…」
姉「ええ。ちゃんと市販のチョコと、ミルクを使った、おいしいチョコレートだよ」
妹「あたしたちが頑張って作ったミルクチョコ、食べてくれないの?」
747「ぐっ……2人して上目遣いなんて卑怯だ……」
747「……はぁ、ホントになんにも変な味がしなかった。むしろ美味かった」
姉「でしょ?だから今度からは私たちの作った料理も全部食べてね」
妹「あたしたちはにーちゃんのために、頑張ってるんだからね?」
747「わかったよ、疑ってごめんなさい、2人とも」
姉「わかればよろしい。ねーちゃんは嬉しいよ」
妹「そういやにーちゃん。喉かわいてない?」
747「へ?ああ、そういや少し」
姉「じゃあ、ちょっと待ってて。チョコに入れたミルクを用意するね」
妹「そうだね、まだちょっと残ってたから、すぐ準備するね〜」
747「ってちょっと待て。なんでそこで服を脱ぎだす?」
姉「へ?だから、ミルクを用意するんだってば」
妹「にーちゃん、せっかくだからカップなしで、直飲みでいいよね?」
747「え?いや、待っ、あの、どういムグ」
姉「だから、私たちのミルクを……んっ……あげるって」
妹「ひゃん……おっぱいから直接のんでね」
747「!?」
姉「私たち2人とも、あなたのために頑張りすぎちゃってね」
妹「おっぱい痛くなってきて、気がついたらミルクが出ちゃってたの」
姉「ほら、今も出てるでしょう?私のおっぱいから」
妹「あたしのおっぱいからもね〜。にーちゃんのおかげだよ〜」
姉「ちなみに、予定日は2人とも来月なんだって」
妹「だから、来月のお返しは、にーちゃん……わかってるよね」
747「う、うそだうそだうそだうs」
姉「ホントだよ、だからあなたは、これからずっと、私たち2人のもの」
妹「こ〜んなにステキな姉妹に愛されてて幸せでしょ?」
姉妹『だから、わたしたちも、幸せにしてね、ア・ナ・タ?』
>>747を殴りたくなりました。
いますぐ俺と変われw
>>753 まてまて。
このスレ住人の
>>747が本気で嫌がってるのだから、我々の想像を絶する物が入っているかも。
というわけで毒見役を務めさせてもらうノシ
投下します。
注意としては厨ニ?
11レス予定。
容量的には大丈夫かと思いますが。
しとしとと雨が降っていた。暗雲立ち込める空からは、無数の水滴が地表に吸い込まれていく。
そこかしこに張った水溜りは、降り止まぬ雨粒に穿たれながら、ただ見ているだけでは気づかぬほどにゆっくりと、
だが確実にその領域を広げている。
それは、まるで日々を生きるヒトの想いのように。
ヒトはなかなか気づかない。今日自分が抱いている感情が、昨日と同じモノなのか。明日の思考は、
今日のそれと変わらないのか。あるいは、変化しているなら、それは如何ほどか。
喜悦。憤怒。悲哀。情愛。憎悪。
水溜りも、ヒトの想いも、ある瞬間をふたつ切り出してみれば、なるほど変わっていると判るかもしれない。
あるときにはなかった水面が、雨が降ったあとには確かに存在している。一年前は存在すら知らなかった人物を、
今日現在は愛していると言い切れる場合もあろう。さらには三年あとにはその愛情は冷めているかもしれない。
だが、その想いはいつからあるのか。今日抱く愛と、明日のそれに差分はあるのか。情が冷める一日前は、
今日と同じだけあると言えるのか。
ヒトの想いは、日々変化しているかもしれないし、単純に増えるだけのものでもなければ、減るだけでもない。
しかし、その男は問われれば、確信をもって断言したであろう。
自分のもつ憎しみは変わらない。ある女に向ける憎悪は一年前も十年前も同じである。もし感情を測る物差しがあるなら、
それは常に一分も違わない値をはじき出すだろう。
雨が止んだら徐々に消えていく水溜りとは異なるはずである。男は冷めた視線で、そのだだ広い空間をねめつける。
男が見つめるは、ヒトの世でいう学舎と呼ばれる施設。社会の縮図を取り込む一種の閉鎖空間だ。
男が傘もささずに佇む場所は、その境界である。無機質な校門という人工設備に区切られた、その狭間。
一歩踏み出せば、否が応でも自らが『敵』と認識する女との対峙は避けられない。否。避けられない、という表現は適切でない。
男は自ら望んで、向かい合うのである。そこに乗り込むのである。
その女は、いまとなってはこの世でただひとり男と血を分けた存在である。
彼が憎んで止まないその相手は、彼と同じ血を継いでいる。
人の世にて悠久ともいえる果てない時を胡乱に生き、関わりあうおよそすべてのヒトに不幸を撒き散らす。
存在するだけで、幾多のヒトを地獄へ落とし込む、ヒトを模した人非人。
男はもう正確にいつからその敵と向かい合ってきたのか、はっきりとは覚えていない。それでも彼の憎悪は揺るがない。
男の名は、東条夕霧(とうじょう ゆうき)。たったひとりの姉である東条葵(とうじょう あおい)を討つためだけに、
生きている。
それこそが、彼の存在意義なのだから――。
* * * * *
そこは片田舎町にある小高い丘を切り開いて建てられた学校。周辺地域含めて高校はそこ一校であったため、
その地元で高校に上がろうと思ったら、毎日の軽い山登りに不平不満を洩らしながらも、そこへ通うことを強いられる。
田舎特有の閉鎖的な空気漂う地域において、その高校の地元出身者の割合は九割を超える。
残りの一割未満は、その町に工場と研究所設備を構える大手製薬会社の関係者がほとんどだ。
だから、そんな環境で転校生が紹介されるのは極稀とまではいかなかったが、やはり外部からの闖入者は、
殊更奇異の目をもって迎えられる。
良く晴れて乾いた涼気の漂う、ある十月の朝。
周囲の牧歌的な環境に対して不釣合いな近代的な校舎を持つ、藤裏葉(ふじうらば)高校一年A組の教室にて。
東条夕霧は、担任である椎本(しいもと)教諭に、一年A組にこれから新たに加わるクラスメイトとして紹介されていた。
椎本教諭は、上下濃い茶褐色のスーツに身を包み、胸元にのぞく淡い黄のシャツとベージュのネクタイが映える秋色めいた装いで、
長身痩躯に縁なしの眼鏡が、初対面の夕霧には少し神経質の印象を与える人物だった。
それはあくまで見た目だけから夕霧が得たイメージであり、実際話してみると、
それとはかけ離れた性格であることが判ったのだが。
「はい。おまえら、静かにしろよー。昨日のホームルームで話をしてた、転入生だ。
野郎ども残念だったな。転校生も野郎だ。さらに倍率ドンで、男前だ。
昨日の段階で判っちゃいたが、おまえらのその落胆する顔が見たくて黙ってたセンセーに
感謝しろよ」
「うわ。さすが、椎もっちゃん。そのおよそセンセーとは思えない底意地の悪さに、
俺らもうメロメロすっよ」
教壇に立つ椎本教諭に向かって、これまたおよそ教師に対する発言とは思えない声を上げる男子生徒。
「黙れよ。坊主。馴れ馴れしいぞ。きちんとセンセーと呼べ。
こんな時期にこんなクソ田舎に飛ばされてきた転校生なんだから、
おまえら、暖かく迎えてやれよ」
「はーい。椎もっちゃん。センセーをまさに反面教師として、暖かく迎えてあげマース!」
先ほどとは別の男子生徒が、そう調子のいい返事を投げると、教室内に笑い声が広がる。
そんなやり取りは彼らの間でいつものありふれたことなのだろう。室内に漂う雰囲気に違和感はない。
「いいから、黙れっつってんだよ。クソジャリ。いいか、俺の給料下がるような真似をしたら、
『追い込む』からな。守るもんのない独身なめんなっつーの!」
「きゃー。椎様。今日も、シビれるー!」
頭髪を茶色に染め、高校生にしては多少目立つほどの化粧をした女生徒が、そう甲高い声をあげると、
再び教室がくすくすと笑いに包まれる。
それは決して嘲笑の意味だけではない。一般の教師と生徒たちの間とは、ある種異なる関係が椎本教諭
とそのクラスの生徒たちの間に築かれているのだろう。
「はいはい。お遊戯の時間はおしまいだ。おい、東条、入ってきていいぞ」
椎本教諭が開け放たれていた教室の入り口に声をかけると、入るタイミングを伺っていた東条夕霧が、
はい、と返事をし、一歩一歩ゆっくりと教室内に足を進め、教壇脇の椎本教諭の隣に立つ。
「さて。じゃあ、東条、自己紹介してくれるか」
そう言うと、身を翻し、東条夕霧の名を黒板に書き始める椎本教諭。
「あ。はい。あの、みなさん。はじめまして。東条夕霧と申します。その、親の都合で、
こんな時期ではありますが、これからお世話になります。よろしくお願いいたします」
夕霧は、あらかじめ用意している理由を付け加えて、頭を垂れて挨拶をする。
それきり夕霧が言葉を続ける気配を感じ取れなかったためか、椎本教諭が彼に問う。
「ん? なんだ。自己紹介それだけか?」
「えっ? ええ……。あの、他になにを言いましょう?」
「いや。別に好きなこと言やぁいいし、言いたくなければ、わざわざ言うことないだろ?
東条の好きにしていいぞ」
「はぁ……」
夕霧は少し困惑した。自由に振舞え、と言われれば、逆になにをしたらいいか困るものだ。
「はいはいっ! あたし、しっつもーん!」
元気良く手を上げ、夕霧から見て教室の窓際奥からアピールするのは、先ほど椎本教諭に向かって黄色い声をあげた女生徒だ。
そんな彼女に対して、自分が許可を出していいものかどうか迷ったが、特に椎本教諭が反応を返さないので、
夕霧はその女生徒を促す。
「あ、じゃあ、はい。どうぞ」
「はーい! 東条夕霧くんは彼女いますかー?」
「え……?」
いきなりのプライベートな質問に対して、夕霧が面を喰らっていると、椎本教諭が発言する。
「はいダメ。却下。つまんねー。ありきたり。なんの捻りも面白みもねーだろ。
ちったぁ、帽子載せる以外のことにその軽い頭使えよ。おまけにセクハラ。
おまえは来世で質問することを許可します」
「うーわ。ひっでー。じゃあ、俺から。椎もっちゃんは、彼女いますかー?」
その男子生徒の質問に、椎本教諭のこめかみが僅かにぴくついた、ように、夕霧には見えた。
「なあ、クソガキよ。おまえ、学校ってなにを学ぶために存在すると思うよ?
おまえらのそのつるつるでちっぽけでスカスカの脳みその中に、
だだ洩れすることが判ってて教科書の中身を流し込むことだと思うか?
そんだったら、おまえら家でひとりでモニタ画面越しにでもしこしこお勉強してればそれでいいわけだ。
それを、なんでこんな場所を用意し、集団を形成して教育していると思う?
いいか、社会がおまえらから少しでも搾取しやすくするよう、おまえらを鍛えるのが学校だ。
社会の縮図なんだよ。立場上目上の人間に嫌われただけで、理不尽な憂き目を見るのが、
おまえらがこれから飛び出す社会だ。そんななかにおまえらが入り込めるよう訓練するのが学校だ。
だから、おまえらの数学の成績が不当に下がってたり、訳もなく内申点が落ちてたりしたら、
それはおまえらの教育の一環だ。よかったな坊主。おまえは今日、またひとつ社会を学んだぞ」
「ちょ、ちょー、まじっすか。センセー。単なる生徒の可愛いお茶目じゃないですか。
大人げないっすよー」
「まじっすよ。クソガキ。単なる教師の可愛い愛のムチじゃないっすか。
おまえみたいに都合のいいときだけコドモになる輩は、十年後に俺に感謝することに
なるだろうから、あえて心を鬼にします」
「うえー。マジ鬼だし」
そう低い声で唸る生徒も、言葉とは裏腹に真剣には受け取っていない表情をしている。
おそらく、判っているのだろう。椎本教諭は言葉遣いは綺麗じゃないし、吐く中身も教師としてそれはどうなの、
という部分もあるが、生徒との間にある種の信頼関係が存在しているようにみえる。
人によって好き嫌いはあると思うが、彼は彼なりの教師としてのスタンスを貫いているのだろう、
やり取りを傍観しながら夕霧にはそう思えた。
「あの……」
会話の合間を見計らって、夕霧が椎本教諭に声をかけようとすると、
彼はそういえば、とばかりに一旦咳払いをして仕切りなおし、
「さて。転校生。自己紹介は以上でいいか? 生意気ながきんちょどもだが、
仲良くしてやってくれ。それと、原則、俺は民事不介入なんで、
厄介事はなるべく自分で対処するように。生徒の自主性を重んじるのが俺のポリシーだ。
なにか質問は?」
夕霧の目を見ながら、その肩を軽く叩く。
「はーい! センセー。モノは言いようって言葉、どう思います?」
先ほどの生徒が、懲りずにまた口を挟む。
「おまえには、難しすぎて使いこなせない言葉だと思うな」
「じゃあ、職務放棄は?」
「おまえがその言葉を漢字で書けたら説明してやろう」
「なら、内部告発は?」
「おまえがそんな語句を知ってることに驚きだ。言っとくが外来語じゃないからな。
それと、そんな単語を記憶しておくのに、おまえの脳のメモリ8バイトも消費して大丈夫か?
ただでさえリソース不足に悩まされてるんだろう」
「あはは。もうやめとけって。椎もっちゃんに、なにを言っても暖簾に腕押しだって。
あっ! やっべー。俺、いま、難しい言葉使っちゃったよ」
別の生徒がその会話を遮ると、朗笑が起きる。
「ああ。そうだな。今日は、おまえのママンに赤飯でも炊いてもらえ。
じゃあ、東条、おまえの席は、あそこ。一番後ろの真中だ。
意外に教師から良く見えるベストポジションを取っといてやったぞ」
椎本教諭は教室の一番奥を指さす。
「あ。はい」
返事をして自らに与えられた席に向かう夕霧。
普通の高校にしては豪華といえる、ポストフォーム加工された事務机に、肘付きのオフィスチェアは、
その近代的な校舎にマッチしていた。
夕霧が席について鞄を机のサイドに置くと、それを待ち構えていたのか、隣の席から小声で挨拶が投げかけられた。
「はじめまして。東条くん。あたし、賢木桐子(さかき きりこ)。よろしくね。
あ、それとね、鞄はそこの机の脇に、かけるところがあるよ。あと、教科書とかは、
その引出しを使えばいいと思うよ。あ、まだ、教科書とかもらってないのかな?」
そう賢木桐子と名乗った女生徒は、肩まで届かないさっぱりとしたショートヘアで、小さな顔に大きな瞳が
くりくりと忙しなく動き、小動物のようなイメージを夕霧に与えた。
初対面でもあまり物怖じしない人なのかな、と考えながら、夕霧は挨拶を返す。
「あ。うん。こちらこそよろしく。賢木さん。教科書は、まだもらってないんだ。
だから、鞄の中身は空っぽ」
「あー、そうなんだ。じゃあ、あたしが見せてあげよっか?」
賢木桐子は提案したが、ひとりひとりに用意されている机が気軽に引きずって動かせる代物ではないし、
机を寄せ合って見せてもらうといった芸当は難しそうだ。
「お! センセー、さっそく賢木のやつが、転校生と乳繰り合ってますよー!」
先ほどから良く発言している男子生徒――二宮朋友(にのみや ほうゆう)――が、
話をしている夕霧と賢木を冷やかすように指す。
「あー、賢木ずるい! あたしが最初に目ぇつけてたのに!」
「ちっ、ちがうよ! そんなんじゃないよ! ただ、お隣さんだし、
転校初日で心細いだろうから……」
先刻夕霧に対して恋人の有無を質問した女生徒――市之瀬紅葉(いちのせ もみじ)――からの文句に、
慌てて賢木桐子が反論する。
そのやりとりに朝の連絡事項をしていた椎本教諭は話を止め、眉をひそめる仕種をし、
「はん。がきんちょ同士の乳繰り合いなんぞどうでもいいだろ。
二宮、そんなにあいつらが羨ましければ、おまえも乳繰り合えばいいだろ?
市之瀬、おまえ相手してやれ」
「は? あたしが? 冗談はやめてくださいよ、椎様」
「二宮、時給五千円払ってやれ」
「おいおい、センセーが、そんなこと言っていいんすか?
ってか、こっちこそ五千円もらってもごめんだわ」
「こっちの台詞なんですけど? 二宮が相手とか、まじ、ありえないんだけど」
「こっちこそ、まじありえねーんですけど?」
「よかったな。お互い合意に至って。だが、その言葉づかいは苛つくからやめろ。
『まじありえねー』とか、それこそ『まじありえねー』だ。
もう少し学生らしく綺麗な言葉を使え。『まじありえねー』って言いたいときは、
『心の底からその可能性に至ることが微塵も信じられません』と言え。いいな?」
「うえー、心の底からその可能性に至ることが微塵も信じられません(まじありえねー)」
椎本教諭のその物言いに、皮肉をこめて棒読みで応える二宮朋友。
「よし。じゃあ、朝のホームルームは終わり。それと東条、おまえの教科書類が今日午前中届くから、
お昼休みか放課後にでも職員室に取りにきなさい。あと、賢木、乳繰り合うも他生の縁だ、
あとで時間見て、この学校を東条に案内しといてやれ。いいな『学級委員』」
それだけ言い残すと、椎本教諭は夕霧や賢木桐子の返事も聞かずに教室を出て行ってしまう。
「あ、あはは……。ごめんね東条くん。こんな賑やか過ぎるクラスで。びっくりした?」
「うん。でも、いままで何度か転校したことあるけど、ここまでのはなかなかなかったね。
特に、先生が個性的だね」
「あ、あれでもね、結構生徒たちには人気あるんだよ。歯に衣着せぬっていうか、
あんまり奇麗事とか建前とか、説教しないからって」
「ふうん。賢木さんは、あの先生苦手なの?」
彼女の椎本教諭に対する評価が伝聞形であることから、夕霧は質問する。
「え? 苦手じゃないけど……うん。強烈だなーとは思うけどね」
頬を掻きながら、若干言いにくそうな、照れくさそうな表情で述べる賢木桐子。
そんなところで、夕霧の前に人影が立つ。
「おーおー。仲良くやっちゃってるねー。賢木ちゃんよー。いいのかな、
愛しのおにーちゃんに言いつけちゃうよ? ブラコン一徹、兄貴一筋の賢木桐子が、
転校生の男前に色目使ってたって」
二宮朋友だ。両手をスラックスのポケットに突っ込みながら、やや首を傾け、
ふたりを見比べながら話し掛けてくる。
「もう。二宮くん。そんなんじゃないって言ってるでしょ。あたしは、学級委員でもあるし、
転校生にできるだけ早くクラスに溶け込んでもらおうと思ってるわけ!」
「どうだか。愛しの賢木先輩が、彼女できそうな気配だから、当てつけにってんじゃないの?」
「な、な、な! なに言ってるの! 大体、おにいちゃんに彼女できそうだとか、
そんな話、あたし知らないもん! そりゃ、おにいちゃんは、女の娘にもてるけど……」
「ほうほう」
顔をにやつかせる二宮朋友。
ふたりの話からどうやら賢木桐子には兄がいて、二宮朋友が『賢木先輩』と呼んでいることから、
同じ学校に通っているのだろう、と考える夕霧。
さらには、程度の度合いは判らないが、賢木桐子は、兄に対して親愛の情を抱いているようだ。
この年頃の女の娘にしては、そこまでストレートに兄妹に対してそのような感情を表すのは珍しい。
二宮朋友は、態々それを持ち出して賢木桐子に構うところを見ると、もしかしたら、
彼女に対して気でもあるのかもしれない。
さきほども、自分と賢木桐子が話しているところで、茶々を入れる形で遮っていた。
そこまで考えて、夕霧は頭を振る。
よくない癖だ。ヒトの想いを推し量って、把握しようとするのは。そう戒めを込めて。
「あの、二宮くん、かな? さっき、挨拶はしたけど、東条夕霧、
これから同じクラスメートとして、よろしくね」
気を取り直した夕霧は、席から立ち上がると、二宮朋友に握手を求めて手を差し出し、挨拶をする。
「あーん?」
差し出された手を、彼はすぐにはとらない。
「おいおい。おめーは来たばっかりだから知らねーかもしんねーが、
おめー、俺に気軽に挨拶できると思ってんの?」
そう言って、自分よりわずかに身長の高い夕霧を下から睨みつけ、低い声で唸る。
その態度を見て、夕霧は、思い直す。
(――おや。把握の仕方を間違えてたかな。ひょっとしたら、
思ったより自尊心が強い性格なのかもしれない)
朝のホームルームでの発言から、彼の性質をある程度推測しようとしていたが、
どうやら外れていたのかもしれない。
しかし、特段これといって夕霧には、驚きではなかった。
むしろ、最初の想定とは違っていたかもしれないが、もっと大局からいえば、ある意味想定内だ。
そう考えて、彼に対する態度を改めようとした瞬間、その差し出した手を彼に引っ張られる。
そのまま、二宮朋友に寄せられる形で、空いたほうの手で肩を抱き込まれる。
「なーんてね。嘘うそ。あれ? びびっちゃった? ちょっとしたお茶目よ?
俺は、二宮朋友な。ふたつのお宮に、つきふたつ友。よろしくな!」
一転破顔すると、さきほどとはうってかわって朗らかな声で、夕霧の肩をバンバンと叩く。
そんな二宮朋友の様子に、少し呆れ気味で溜息をつく賢木桐子。
「はぁ。もう、二宮くん。転校生にそんな意地悪したらダメだよ」
「おいおい、人聞きの悪いやつだな。意地悪じゃねーっつーの。緊張をほぐすには、
一度思いっきりピンと張ってから緩めたほうが、効果があんだよ」
「へえ」
感心する夕霧。
なにもかもが初めてである転校生の緊張をほぐしてあげようと、彼なりに考えての態度だと、
二宮朋友は言っているのだ。
実際のやり方はともかく、その根拠となる論理については、夕霧にとって、大いに賛同するところであった。
あくまでやり方のひとつではあるが、まったく見えない恐怖に対して一歩一歩あゆみを進めさせて
なにもないことを確認させるよりは、目に見える形で判りやすい恐怖を与えて、
それが実は枯れ尾花だと明かすほうが、人の安心の度合いは大きい。
恐怖を一点に集中させ、その集中したものを一度に取り払えるからだ。
そういう意味では、賢木桐子のアプローチはどちらかというと前者のほうであろう。
「賢木のほうこそ、東条に壁作ってんじゃねーの? 転校生、転校生呼んじゃってさ。
こいつには東条ヒデキっつう立派な名前があんだろ?」
「あの? 名前間違ってるよ?」
自分が責められているにも関わらず、賢木桐子は冷静に間違いを指摘する。
「ばっか。おまえ、話逸らしてんじゃねーよ。東条じゃなくて、西条だとか、
そんな細かいことはどーでもいいんだよ」
「え? そっちなの?」
「いいから! いまは、おまえが、西条ヒデキのことを、転校生とか呼んで、
余所余所しいことが問題なんだろ! なあ、どう思うよ? 西条」
「うん。芸能人だと思うよ」
これまた、夕霧も冷静に返事をする。
「あはは。東条くんって、ノリいいんだね。なんか、
見た目からもっとクールな人かと思ってたよ」
「ばっか、俺のおかげだっつーの。俺の先制パンチが、こいつの緊張で凝り固まった筋肉を、
インドメタシンばりにほぐしてやったっつーの! エレキバンもびっくりの驚きの効果だっつーの!
感謝しろよ転校生」
「あれ? 格下げ?」
「あはは」
賢木桐子の陽気な笑い。
一限目までのわずかな時間は、賢木桐子と二宮朋友とのやり取りであっという間に過ぎていった。
* * * * *
その日の昼休み。四限目の終了を知らせるチャイムが鳴り、学級委員である賢木桐子の号令とともに授業が終了すると、
一年A組の生徒たちは思い思いに昼食を買いに席を立ったり、集団で椅子を持ち寄ってひとつの机の上で弁当を広げていたりする。
夕霧が朝に椎本教諭から言われたとおり、配布物を取りにいこうかと思い立った、そのとき。
隣の賢木桐子から声がかかる。
「あ、ねえ。東条くん。お昼、時間あるかな? 朝、椎本先生が言ってたけど、
この学校の売店とか食堂とか、特別教室とかひととおり案内しようと思うんだけど」
「あ、ああ。うん。俺は大丈夫だけど、賢木さんは? お昼とかとらなくていいの?」
教科書類の受取は、別に後でも構わないかと思い直し、夕霧は賢木桐子に質問する。
「東条くんはお弁当?」
「あ、いや。なにか、売店ででも買おうかな、と」
「じゃあ、なおさら、先に売店とか学食を案内してあげたほうがいいよね。
ひとつひとつじっくり回るわけじゃなし、多分そんな時間かからないと思うから」
だから、自分も案内が終わってから昼食をとる、というニュアンスの賢木桐子。
「うん。じゃあ、お願いしようかな」
そう夕霧が頷いたところで、二宮朋友が再び夕霧のところへやってきて、元気良く声をあげる。
「おい。東条、一緒に飯食おうぜ。なに、おまえの歓迎の意味も込めて、
財布の中身全部奢らせたりしねーって。小銭ぐらいは残してやるから行こうぜ!」
「そんなこと言われて、一緒に行く人なんていないよ?」
「あ? また、おまえか、賢木。女、とくに、おにいちゃん好き好き大好きSSDっ娘は、
お呼びじゃないぞ? 男同士でしか、語れないこともあるっつーもんだ。
四六時中おまえが引っ付いていたら、東条も溜まったもんが吐き出せねえだろ?」
「ちょ、ちょっと、いやらしい言い方しないでよ」
「なにがよ?」
「その、お、おにいちゃん好き好き、なんとかって」
「お。なんだ、やっぱりそっちに反応するわけか。まあいい、つーわけで、
おまえは愛しのおにいちゃんのところにでも行って、周りの女どもを牽制してこい。
さあ、東条行こうぜ」
そう言って、東条の手を引き連れ出そうとする。そんな二宮朋友を、賢木桐子が慌てて呼び止める。
「あ、ちょ、ちょっと。じゃあ、二宮くんが代わりに案内してくれるの?」
「ん? なによ、案内って? 一名様五千円ぽっきりでごあんなーいの案内か?」
「訳わかんないよ! ちがくて、売店とか、学校内の案内だよ」
「んなもん、毎日生活してるうちに覚えてくだろ。俺たちだって、入った頃、
一斉にぞろぞろといろいろ案内されたけど、翌日には売店と、女子更衣室と、
保健室のおねーちゃんの黒いストッキングしか覚えてなかったつーの。意味ねーよ。
……いや、まて、意味あるか! よし、東条、俺に任せとけ。
とっておきのスポットに案内してやるから。だいじょぶだいじょぶ。
チャージ料はいっさいかからねーから。お愛想って言ったとたん、
数十万の伝票もって来られたりしないから!」
「ちょ、ちょっと! そんなこと言われたら、なおさら、任せらんないよ!
先生に言われてるんだから!」
「かー! 普段、兄貴と爛れたインモラルな生活を送ってるくせに、お堅いやっちゃな」
「でたらめで、人聞きの悪いこといわないでよ!」
二宮朋友のからかいに、賢木桐子はムキになって反論する。
「まったく、相変わらず、二宮は阿保な会話してんのね。
夕霧くん、あんま、そいつと仲良くしないほうがいいよ」
そうふたりの会話に入って来る影。朝の夕霧の自己紹介のときに、彼に質問をし、
椎本教諭ににべもなく切り捨てられた市之瀬紅葉だ。
赤みがかった茶色に染め、肩までかかるほどに伸ばした髪は毛先が内側に巻かれている。
目元や唇、爪先などを見ても高校生としてはややもすると過剰なほど気を遣っているのが見て取れる。
彼女は、高校生にしては充分すぎるほどいろいろと自分の外見を『飾って』いるが、
果たして、見た目から受ける印象どおりの人物なのか、それとも、もう少し複雑なのかは、
現時点では夕霧には推測がつかなかった。
言動を『飾って』いるのかどうかを判断するには、情報が全然ない状態だ。
彼女は、肩にかかる髪を払う仕種をすると、夕霧に向かって挨拶をする。
「今朝はどーも。あたしは、市之瀬紅葉。よろしくね。あたしのことは紅葉で良いから」
「ああ。うん。よろしく。市之瀬さん」
「…………」
「ははっ、あしらわれてやんの。っつか、おめー、なにしゃしゃり出てきてくれちゃってるわけ?
しかも、シナ作って気持ちわりーっての! いつもみたく『ぬぉれが市之瀬紅葉じゃあぁぁっ!
文句あるやつぁ、歯を食いしばって一歩前へ出やがれぇぇっ!』ぐらい、言ったらどうよ」
足をドンと踏みしめて、教室中に響き渡るぐらいの叫びをあげる二宮朋友をさらっと無視すると、
市之瀬紅葉は夕霧に話し掛ける。
「夕霧くん、こいつとは関わらないほうがいいよ? 夕霧くんは知らないかもしれないけど、
阿保って伝染するから」
賢木桐子はというと、困惑したような視線を、市之瀬紅葉と二宮朋友の間で往復させていた。
「てめー上等じゃん。アバズレはほっといて、さっさと行こうぜ、東条」
「ねえ。夕霧くん。腐った蜜柑の論理によると、箱の中の蜜柑が腐り始めるのは、
腐った蜜柑に接しているそれからみたいよ?」
「じゃあ、なおさら、市之瀬が東条に接しないようにしないとな。てか、おめー、
なに東条のこと馴れ馴れしく呼んでんだよ? 『市之瀬さん』」
「ぐ……。あんたには関係ないでしょ」
「いや、関係あるね。ビッチェストの異名をとるおまえから、大事な友達を守んねーとな」
「は? なによ、ビッチェストって?」
「英語の判んねーおまえには、理解できないだろうが、最上級のビッチって意味だよ。
ビッチの意味は、家に帰ってマミーに教えてもらうんだな。ヤンキーゴーホーム!」
「不思議ね。あんたに言われても全然悔しくなのは、なぜ?」
「は! 惚れんなよ。気持ちわりぃ」
「ああ。判った。サルの雄たけびに、本気で怒る『人間』はいないもんね」
「てめー、サルをなめんなよ。やつら厳しい階級社会を生き抜いてるんだぞ?
『人間様』ごときに、サル社会を生き抜けるわけねー」
「へー。ムキになって怒るかと思ったら、人語を解するとは、驚きじゃん」
「ちょっと、ちょっとふたりとも、そんなことやってたら、お昼終わっちゃうよ?」
実際にふたりが言いあっているのは、数分足らずであるが、このままほっとくと終わる気配の見えないのを感じ取ったのか、
賢木桐子が割って入る。
夕霧としては、とくに市之瀬紅葉は初めてやり取りすることもあり、もう少しふたりの人間観察をしててもよかったかな、
と思ったが、特に反対する理由もないので、賢木桐子に同意し、この場を収束させようとする。
「あのさ、せっかく二宮くんに誘ってもらって悪いんだけど、やっぱり、まずは、
賢木さんに案内してもらって良いかな? そのついでにお昼買ってくるし、
そのあとでよければ、一緒に食べない?」
「なに? やっぱ、女か! 女が良いのか! だが、賢木は難度高いぞ。言うなれば、
スペランカー先生がクッパ大魔王にさらわれたピーチ姫を助けに行くようなもんだぞ?
さらに、クッパとピーチが出来ちゃってる! ゲーム開始前にスペランカー先生は
精神的ショックでお亡くなりになっちゃうんだぞ?」
「あら。女の娘がいいのなら、あたしでいいじゃん。賢木と違ってフリーだし、
ほら、あたし、こう見えて尽くす系だし」
「ああ。確かにおまえは、奪い尽くす系だな。ってか、何々系とか言うな。
まじありえ……心の底からその可能性に至ることが微塵も信じられません」
妙に律儀な二宮朋友。
「は? 意味判んないし? ねえ、どう。夕霧くん」
「うん。ありがとう。だけど、賢木さんさえよければ、当初の予定通り、
賢木さんに案内してもらって良いかな?」
「え……? あ、うん。あたしは良いけど……」
機嫌を伺うような目線を、市之瀬紅葉にむける賢木桐子。
「ふーん。そっか、じゃあ、つぎは、あたしに付き合ってね」
市之瀬紅葉は、賢木桐子の眼を気にするでもなく、にっこりと柔らかい表情を夕霧に見せると、
そうあっさりと引き下がる。
「うん」
頷きながら、夕霧は市之瀬紅葉に関する人物像を更新していた。
二宮朋友の言や、ここまで彼自身が見ている態度から、市之瀬紅葉はある程度男好きのするタイプで、
本人も望んで積極的に異性と交友をとる性格だろうという印象を受けていた。
どんな人間もいろんな側面を持ち、それこそひと言で表せる人間はいないと判ってはいるが、
その人の行動や物言いからある程度の分析は可能だと夕霧は思っている。
臆面もなくホームルームの教室内で転校生に質問することや、本音かどうかは判らないが自分の『気持ち』を外部に発露する言動、
ほぼ初対面の人間に対して堂々と自分を売り込める物言いを見ていると、自身の経験に基づいた自信に溢れるプライドの高い人間を
想定するが、断られるとあっさり引く面ももっている。
それが、計算か、もともと執着しない性質か、あるいはそもそもの態度すら彼女にとっては演技のひとつにすぎず、
行動の結果得られるもの自体は求めていないのか。
はたまたまったく別の根源かどうか、まだまったく測ることはできないが、接するほど、
そして話し合うほどその人物像が、だんだんはっきり見えてくることには違いない。
人によっては真っ直ぐ一本道で、迷うことなく比較的容易に辿り着ける人もいれば、
複雑怪奇な迷路でなかなかゴールにたどり着けないどころか、こちらが進んでるつもりになっても、
実はより遠ざかってしまっていたという場合もあるかもしれない。
それでも――夕霧自身がその性質を好ましいと思っていなくとも――夕霧は、
自然な習癖として接する人たちの心を測ろうとする。
夕霧はそれが自分のもつ『能力』に基づいているないかと考えている。
忌々しい能力ではあるが、『敵』と戦うには必要な能力。毒をもって毒を制す。
万一、誰かが『敵』の毒牙にかかった場合に、少しでも助けられる可能性を広げるため――。
そんな内心を押し隠し、夕霧は賢木と一緒に教室を出る。
「おい、東条、早く戻ってきて、俺と一緒に飯食おうぜ」という二宮朋友に見送られながら。
* * * * *
それは、東条夕霧が、賢木桐子に連れられて、主に文化系の部室が存在する通称クラブ棟を案内されたときだった。
新設校舎に相応しく――だが、この田舎町には不必要と思われる――電子ロックの操作盤が、クラブ棟入り口に設けられており、
賢木桐子が暗証番号を入力して解除すると、開かれた扉の向こうには、清潔感の漂う白い壁と、
窓から取り入れる柔らかい陽光に包まれた廊下が伸びていた。
お昼休みにはこの棟を利用する生徒はほとんどいないのだろうか、土足で入ることを前提としたリノリウムの廊下には
人っ子ひとり見当たらず、静寂で穏やかな、しかし無機質な空間を醸し出している。
「ここはね、主に、文化系の部室があるのと、あとは、生徒会室とか一部の特殊教室も
ここにあるんだよ。各部室ごとにも、指紋認証付きの電子ロックがあって、
部に関係ない部外者は入れないようになってるの。無駄にハイテクでしょ?
こんな田舎町で、大したものがあるわけでもないのにね」
そう笑いながら説明してくれる賢木桐子に、調子を合わせて夕霧が微笑もうとしたときだった。
「――あら。ご無沙汰かしらね。夕霧。ごきげんよう」
背後からそう声をかけられた途端、夕霧の全思考が固まった。
一瞬にして全身が総毛立つ。
振り向く必要などなく、その人物が誰かなど考えるまでもない。
むしろ思考が止まったのは、自分の防衛本能の成した業かと夕霧は思うくらいだ。
彼の唯一の目的にして、敵である、東条葵、だ。
果たして振り向いた彼の目に飛び込んできたのは、学校指定の制服である黒いセーラー服に身を包んだ長身の少女。
その艶やかに黒く長い髪は、腰の辺りまで伸びて切り揃えられ、切れ長の瞳は眼光の鋭さを印象付けるが、
どこか物憂げで怠惰な雰囲気を纏う。
すっと通った鼻筋に、やや細身だが色白で端正な輪郭は、大抵の人間が美人と表する容姿であろう。
彼女の肌の白さが、黒い制服とロングヘアでより一層際立っている。
東条葵は、白く細い指先で、自分の長い髪を梳くと、もう一度夕霧に向かって挨拶をする。
「ごきげんよう。夕霧。久方ぶりね」
「…………」
夕霧はなにも返せない。
鼓動が早鐘をつくのを感じる。手のひらに汗が滲む。
なんてヒトらしい反応だろうなどと自嘲する余裕は、いまの夕霧にはない。
彼のいまの思考は、葵の声が耳に飛び込んできたときから憎悪で埋め尽くされている。
判っていた。判っていたはずである。もともと、この眼前の人間を標的に、ここに乗り込んできたのである。
当然転校初日から顔を合わせる可能性が高いことなど、東条葵という人物像を考えるまでもなく、火を見るより明らかである。
それでも、夕霧は対応ができなかった。
どれほど憎んできたか、どれほどその存在を消したいと思ってきたか。
自らのすべてを賭けてでも、この存在を抹消することこそが、己の使命だと自覚していた。
むしろ強すぎる想いが、夕霧を縛り付けてしまったのかもしれない。執着のしすぎが、彼の弱点かもしれない。
だが、この憎悪は理性で抑えつけられるような代物ではない。
それがなくなれば、彼の存在意義の崩壊なのだから。
なにも返事をしない夕霧を不審に思ったか、フォローをしてあげるつもりなのか、
挨拶を投げかけてきた葵に対して、賢木桐子が応じる。
「こんにちは。東条先輩。東条くんとお知りあいだったんですか……って、あれ、
そういえば、同じ名字ですね? ん? あれ? 別に姉弟とかじゃ、ないですよね?」
「あら? あなたは?」
葵が、賢木桐子に向かって誰何する。
つまり、そういう関係なのだ。いや、そういう位置なのだ、いまここにいる東条葵という人物は。
後輩に名が知れ渡っているほど、この学校では有名な人物なのである。
「あ。はい。あたし、今日転校して来た東条くんと同じクラスの――」
名乗ろうとした賢木桐子に対して、夕霧は立ちふさがると、それを止めるかのごとく言葉を発する。
「久しぶりですね。……姉さん」
そんな夕霧の態度を別段気に留めるでもない葵は、あっさりと賢木桐子に向けていた視線を彼に戻す。
「ふふ。そうね。また会えて嬉しいわ、夕霧」
「えっ? あれ……? えっ!?」
そう言葉を交わすふたりに対して賢木桐子混乱した。
「あら。戸惑うのも無理ないでしょうね。貴方の想像どおり、私たちは姉弟。
血の繋がった姉と弟、よ」
「え? あれ? でも、なんで……?」
片や自分の入学のときからこの学校に存在する葵と、『親の都合』といって今日転校して来た夕霧が、
賢木桐子のなかで整合性がとれないのであろう。
そんな彼女に対して、葵は穏やかに微笑みかける。
それは見る人が見れば、佳麗や妖艶といった印象を受けるのかもしれないが、
夕霧には、獲物を弄ぶ醜悪な笑みにしか見えなかった。
「御免なさいね。親の都合で、ちょっと特殊な事情があるのよ。これ以上は、夕霧が伝えない以上、
私の口からは言えないの。ご容赦いただけるかしら」
「あっ! す、すみません。あたしの方こそ、立ち入ったことを……!」
違う。賢木桐子はなにも聞いていない。葵が、彼女の心内を先回りして、勝手に応えただけだ。
自分の背後で恐縮して頭を下げる賢木桐子に対して、夕霧はさらに葵に対する怒りを募らせる。
(そんな女に謝るな――! そんな女に感情を揺さぶられるな――!)
これ以上、賢木桐子と一緒の場で、葵と対峙するのはまずいと悟った夕霧は、早急に引き上げようとする。
「姉さん、すまないけど、いま、彼女に学校を案内してもらってるんだ。
それにこのあと約束もあるから。だから、これで……」
そう言って、賢木桐子のほうへ踵を返すと、彼女とともにその場を離れようとした。
「え? でも、いいの……?」
「ああ」
気を遣う仕種を見せる賢木桐子に対して、夕霧はそれだけ短く応える。
そして、「失礼します」と葵に断る彼女とともに歩き出す。
夕霧のほうの足取りは、これまでになく重かったが。
それでも、この邂逅を終わらせられることに、内心ほっと息をつこうとした。
だから、背中に投げられたその葵の呟きともとれるひと言で、夕霧の心は再び凍りついた。
「ふふっ、まだ尚早――」
人の心を揺さぶりたいのなら、一旦逆方向へ引いた後、一気に落とす――。
以上投下終了です。
続きを期待しておきます
GJ
またあなたの作品が見れるとは
続きを楽しみにしています
11レスが長いとか…ゆとりすぎだろ
携帯なんだろw
お前等こんなのが面白いの? レベル低いなwww
そんなレベルというわりになげーよとかいっちゃうあほはここですか?
だったら面白いといわれてる小説どころかラノベ1冊すらよめねーだろ・・・・
むしろ5レス以下はよほどの作品じゃないとスルーする
10レス未満は嬉しいなって感じ。以上だと内容にもよるが、さすが職人!って思う
20レス以上だったらどんなに内容悪くても必ず読む。感想も書く
え〜〜っと、一応確認しとくけど、
このID:4r3mZ8hdのバカはシカトした方がいいんですよね?
>>767 GJ!!
これからねーちゃんがどうなるんだい?
きになるぜ!
最近、キモ姉妹は泥棒猫たちに容赦無さすぎると思うんだがどうだろう?
俺的には別に殺さなくてもいい
すげー焼餅焼いてくれればニヤニヤできる
まあ殺しちゃうほど愛されるってのもいいけど
チョコ貰えなかったし屑過ぎるオイラは死んだほうがいい(´;ω;`)
まあ泥棒猫が常識人なら諦めさせればいいだけなんだが、
相手が同種だと容赦するわけにはいかないよね
しかしまあ、いろんな作品の泥棒猫たちの無残なことよ・・・
そういうときは自分に置き換えて考えよう
あんた自分の好きな女が
どこの馬の骨かも分からん奴に口説かれているのを見て
ブチ殺したくならねえか?
多分おれなら容赦するのは難しい
泥棒猫すら愛するほどに器の大きな姉妹がいてもおかしくない。
兄弟は適当に(事故か病気)で殺しとけば、ハッピーエンドになる。
(Part17への脱出準備がもう少しで整いそうだ…)
↑間違えた、Part18だ
>>792 後ろにスタンガンを持った妹が立ってたから仕方なくpart17と書いたんですね
逃げても逃げ切れないんですねわかります
>>783 783兄ちゃん、泣いてる。かわいそう……
やっぱり今年もチョコもらえなかったんだね。それも義理チョコさえも。
でも大丈夫。今年からは私が、義理じゃない本命のチョコをあげるね。
こういうのは最初がカンジンっていうから、頑張ったんだよ。
10キログラムのチョコレートフォンデュ。おこづかい全部使っちゃった。
これを私の頭の上から垂らして、783兄ちゃんに楽しんでもらうの。
題して「いもうとチョコレートファウンテン」!
……このまえテレビでやってたの見てやった、反省はしないもん。
うふふ、全裸になった私の身体を流れるチョコレート。
私の汗とかエキスとかが溶け込んだチョコフォンデュを食べてもらって〜
私も、783兄ちゃんのベロやおちんちんにチョコを絡めて、なめてなめあって〜
最後は、2人でチョコレートのように溶けあい、絡み合うの〜
うふふ、なんてロマンティックなのかしら〜うふふふふふ〜
おちんちんミルクと、チョコレートのブレンド、どんな味がするのかな〜
……いけないいけない、妄想が過ぎた。早くおうちに帰って準備しないと。
父さんと母さんには、泊まりのデートをプレゼントしたから明日までいない。
お姉ちゃんは弟といっしょに昨日から行方不明だから、誰にも邪魔されない。
うふふ、783兄ちゃんを泣かせた周りの屑オンナどもは憎いけど、一応感謝しないと。
おかげで、この日は毎年783兄ちゃんを独り占めできるんだもの。
私も今年で16歳だもん、783兄ちゃんの子供ができたって、かまわないもん。
この年になるまで、我慢しちゃってゴメンね。でも今年からは……うふふふふふ〜
さあ、783兄ちゃん、楽しいバレンタインパーティは、ここにあるよ。
今日この日は、その「悔し涙」が「嬉し涙」に変わる、魔法の記念日になるんだよ。
早く帰って来て、私と……一緒に……うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
遅れるにも程があるがな。
>>783におめでとう。
嫉妬スレから飛び火してんな
つかもう嫉妬キモウトヤンデレは二番三番煎じしか出てこないから終わりでいいんじゃね?
それより内の幼女キモウトを見てくれ。こいつをどう思う?
すごく・・・貧乳です・・・
今の内に
海外に逃げたほうがいいと思います
どうせなら逃げるなら、アナルセックスでもして楽しんでからにしろよ
証拠なんて絶対に残らないからwww
スゲェなぁ、上の兄さん達は幼女でギンギンに立つのか
俺なんてムチムチお姉さんじゃないと立たないぜ!
↑ガチムチお兄さん、のまちがいですねわかります
>>804 , '´  ̄ ̄ ` 、
i r-ー-┬-‐、i
| |,,_ _,{|
N| "゚'` {"゚`lリ や ら な い か
ト.i ,__''_ !
/i/ l\ ー .イ|、
,.、-  ̄/ | l  ̄ / | |` ┬-、
/ ヽ. / ト-` 、ノ- | l l ヽ.
/ ∨ l |! | `> | i
/ |`二^> l. | | <__,| |
_| |.|-< \ i / ,イ____!/ \
.| {.| ` - 、 ,.---ァ^! | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l
__{ ___|└―ー/  ̄´ |ヽ |___ノ____________|
}/ -= ヽ__ - 'ヽ -‐ ,r'゙ l |
__f゙// ̄ ̄ _ -' |_____ ,. -  ̄ \____|
| | -  ̄ / | _ | ̄ ̄ ̄ ̄ / \  ̄|
___`\ __ / _l - ̄ l___ / , / ヽi___.|
 ̄ ̄ ̄ | _ 二 =〒  ̄ } ̄ / l | ! ̄ ̄|
_______l -ヾ ̄ l/ l| |___|
ガチムチヤンデレお兄さん…
男も泥棒猫になりうるのか!?
キモ姉妹にとっては抹殺対象にしか過ぎないが
キモ姉もキモウトも、泥棒猫に様々な嫌がらせとか殺害とかするより、
阿部さんのような思わずホイホイとついていってしまう
魅力を身に付けるべきということですね、わかります。
そういえば、最初から主人公の気がキモ姉かキモウトに向いてるのって珍しいよな
まあキモイから当然なんだろうけど
兄弟の部屋で隠匿されたゲイ雑誌を大量に見つけてしまった、
キモ姉妹の心境はどうか。
私が正しい性に導いてあげなきゃ
813 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 21:27:34 ID:SrD28lbj
姉「あのときの『友達の家に泊まってたんだ』・・・って、しらべてみて男友達だからとおもっていたけどまさか・・・」
「ふふっ、やっぱりボクの事、男だと思ってるみたいだね?」
>>814 キミの名前が「菊池真」みたいなパッと見、男性だから、
欺瞞効果充分だね!!
道下妹「正樹お兄ちゃんが穢された! 殺してやる!」
↓
MUGENに参戦し、阿部と対決。
↓
キモウト補正で超厨キャラぶりを発揮し、圧勝寸前に。
↓
くそみそメモリアルを食らってしまい、
最後のシーンで寝取られたトラウマを抉られ一撃死させられる。
MUGENて何?プロレス団体?
お兄ちゃんにハイフライフロー?
>>817 ググれば幸せになれるよ
とだけいっとく
1
あるところに双子の兄妹がいました。
二人は引かれ合い、愛し合い、毎日のように中出しエッチをして将来を誓い合います。
まだ子供だった二人は、近親相姦がイケないだなんて思いもしません。
しかし不幸な事が起こりました。中学生になろうかと言う時、兄が交通事故で死んでしまったのです。
妹も後を追おうとしたのですが、自殺なんてしたら兄の居る天国に行けなくなると思い、生き続ける事に決めました。
するとどうでしょう。その一ヶ月後に弟ができたのです。母親も自覚すらしていなかった妊娠でした。
妹は、弟に亡き兄の面影を重ねて、兄に与える筈だった愛を弟に注ぎます。両親よりも、誰よりも……弟も両親より妹に懐くのでした。
そして弟が五歳を迎えた頃、反応に変化が起きる。
弟は妹との入浴を拒み、トイレの世話を拒み、一緒の布団に寝る事を拒んだのです。
しかし妹は納得できません。
背中を流しながら日々の成長を喜び、トイレの世話をしながらペニスを刺激し、失った双子の片割れと同じ匂いを、毎日抱き締めて眠りたいからです。
ですから、なぜ? どうして? と弟を問い詰め、半狂乱になって駄々をこねてる内に、とうとう弟が真実を語りました。
なんと最近、兄の記憶を思い出したと言うのです。双子の片割れだった頃の記憶。その絆は死すらも断ち切れず、今度は弟として生まれ変わったのでした。
しかし、過ぎ去った年月は、兄の考えも変えてしまいました。
近親相姦は良くない。双子の兄妹で一緒になんてなれない。それも、今は年上の妹と。
それが精神的な理由。そして肉体的な理由も在ります。
五歳の兄に十七歳の妹。でも、兄のペニスだけは異常な早さで成長し、淫毛は無くてもサイズは大人のモノでした。
身体は五歳でも、ペニスだけは十七歳なのです。
みたいな設定を考えてみたんだ。
職人さん、誰かお願いします!
>>820これだけ色々考える妄想力とそれを発表する度胸があるなら自分で書けると思う。
>>820 セ ン ス
いい妄想力だ
さぁ続きを書く作業に戻るんだ!
>>820 早く汁!
俺はもう我慢できな!うっ!
…ふぅ。
抱きつき癖のある妹ってたまりません
一瞬噛みつき癖に見えて それもアリだなと
効果音は かぷぅっ だな
491kbか・・・
なんで480kb超えても次スレ立てないのかな?
しかも16と17立てたからしばらく俺はスレ立てできないみたい。
>>831次スレ頼む。
>>829 20kbも残して新スレ立てる→みんな新スレ行く→20kb無駄に残してスレ放置→埋めネタないと腐る
焦んなよ、せっかちさんは姉妹に嫌われるぜ?
>>824を見て浮かんだ妄想
姉「…………」(ぎゅ〜〜)
弟「重いんですけど」
姉「………抱きつき癖のある姉はキライ?」
弟「ボクの邪魔をする姉はキライです」
姉「いやだおねがいキライにならないでいやだおねがいキライにならないでいy」
弟「わかりましたわかりました。大好きだから、姉さんのこと」
姉「……えへへ」(ぎゅ〜〜)
弟「はぁ……しょうがないな、姉さんは」(ぎゅ〜〜)
姉「えへへ。妹なんかより、姉さんのほうがいいでしょ〜」(ぎゅ〜〜)
弟「ああ、うっかり
>>824のレスに反応した結果がこれだよ」
姉「……ねえ、もっとぎゅってして?」
弟「はいはい。あ、でも先にちょっとだけ眠らせて…」
姉「……わたしは、『抱き枕』じゃなくて、『抱き姉』です」(ぎゅ〜〜)
弟「ああ、また今日も、徹夜明けの一日がはじまる……」(ぎゅ〜〜)
姉「……朝ごはんも、学校も、お風呂も、寝るときも、ぎゅってして?」
弟「……ああ、また一睡もできない一週間がはじまる……」
あれ?あんまりキモ姉っぽくない不思議。そして長い。
抱きつき癖があるなら、抱きつかれ癖があってもいいよね、と思って書いてたら、失敗した。
それと、
>>820の一行目に「1」ってあるからには、実は続きがあるのではと期待してみる。
てっきり甘スレかと
双子近親で、(姉であり妹でもある)ハタ迷惑な姉から逃げ惑う弟
という設定は世界樹スレでもみかけたな
アレがキモ姉妹かと言うとちょっと違う気もするが
とある姉キャラ思いだした
まあ例によって抱きつき癖があるのだが、 貧 乳 であるために
本来クッションとなるべき緩衝材がないので洗濯板に押し付けられているが如き感触であるとw
だがそれがいい
>>833 そこに妹が現れて姉と妹が抱き枕(弟)を取り合うわけですね。わかります。
>>838 また妹がロリ巨乳なんだわさw ウヘハwwww
キモ姉キモウトに言い寄ろうとすると、お酒の中に怪しげな薬を盛られて
ローマのど真ん中でくだを巻く破目になります。
>>833がすごいツボに入りましたクール甘えん坊キモ姉は至高
gjと言いたい
842 :
796:2009/02/18(水) 00:01:47 ID:ogPxZtJo
埋めネタがわりに
>>797 チョコってとても熱に弱いから、人肌程度の温度でも十分大丈夫なんだよ。
あと、カカオバターとか植物油を程よく混ぜて、薄くすればじゅうぶん。
火傷するような温度にしたら、「いもうとチョコファウンテン」なんて無理だよ。
……でも、昨日の夜、弟と一緒に帰ってきたお姉ちゃんが、ところどころ包帯巻いてたっけ。
チョコで火傷したらしいわ。わが姉ながら、そんなところがドジなんだよね〜
でも、お姉ちゃんに薬を塗ってる弟と、それを見てるお姉ちゃん。幸せそうなんだよね。
あれは絶対、イクところまでいったに違いないわね、うふふふふ〜
―――トントントン
あ、このノックは、兄ちゃんだ。
お姉ちゃんと弟を見て、ドキドキしちゃったのかな〜
うふふ、今行くよ〜兄ちゃん〜愛してる〜
今夜は眠らせないでね〜うふふふ〜うふふふ〜
>>842 >チョコってとても熱に弱いから、人肌程度の温度でも十分大丈夫なんだよ。
とは言ったものの
>>797お兄ちゃんに心配されたのが嬉しかったり
1
遅い初雪の冬。粉雪が舞い落ちる夜。ヒーターを点け、妹はベッドに、ボクは真ん前の座椅子に腰掛け、二人は俺の部屋で向かい合って座る。
「ほらっ、私の初仕事が上手く行く様に協力してくれるんでしょ?」
ほら、と手渡されたのはiPod。コードで延長されたイヤホンの片方は、既に妹が右耳に備えていた。
高三の冬、妹が学業の片手間に始めた仕事は、予想外にも声優。
「うん、聞いてるだけで良いんでしょ?」
三日前、唐突に「声優になった」と告げられ、さっきアダルトだと追い討ちされた。止める間なんて、全くなかった。
常にポーカーフェイスで、思った事をそのまま言い、なのに自分には素直になれない、そんな妹。
艶めいて流れる長い黒髪に、一見冷たそうな切れ長の瞳。更には突き出た胸に括れた腰、スタイル抜群の身体。
黒い制服ブレザーに黒い膝上スカート。そこから出てる、なやめかしい両足。
だけど自分ではムチムチした足が嫌で、細く見せる為にキツめの黒タイツを穿いて、足を締め付けてるってのも知ってる。
妹の事は、何でも知ってる……気になってた。
「そっ。サクラは動かないで、聞いてるだけで良いわ」
なのに今の現状は、さっぱり理解できない。
ボクは、男子校生の里御手サクラ(りおで さくら)は、妹の里御手ミント(りおで みんと)に、手足を縛られていた。
「だったらさ、コレ……外してよ。ミントの演技を聞いてるだけなんでしょ?」
座椅子には腰掛けてる。
けど、手は後ろに回されて、腹部と手首と背もたれが、ガムテープでグルグルに巻かれて固定されていた。
更に足も伸ばされていて、膝下から足首まで何本もガムテープを張られて床に押さえ付けられてる。
征服は着たままだけど、全く身動きが取れない。
「イヤ、よっ。サクラには……ふふっ、生の反応を貰わないと♪」
妹は愉しそうに、口元を吊り上げて笑うだけ。
だいたいオカシイと思ったんだ。妹がボクにコーヒーを容れてくれるなんて。
だって妹は、ボクの事が、『大嫌い』だから。
それなのに一人浮かれて、妹に許されたと勘違いして、喜んで飲んだら……
眠くなって、そしたらこんなオチ。なんだよそれっ!?
縛り上げて、無理矢理に仕事の手伝いをさせようとしてる。
ベッドに腰掛け台本を持ち、赤い瞳でボクを見下しながら。
2
手伝いの内容は、感想を述べれば良いだけ。
イヤホンをしてる左耳からは、アフレコしたキャラの台詞と、BGMや効果音が流れる。
ミントはそれに合わせ、この場でナレーションを入れるそうだ。
つまりボクは、左耳でアフレコされたキャラの台詞を聞き、右耳でナレーションを聞く。
全役を一人で熟すドラマCD。今日はその練習。
「それじゃあ始めるわよ? すうぅぅっ……」
―― スタート ――
「それは、ある暑い夏の日の出来事」
『んー、と。材料もプレゼントも買ったし、これで兄さんの誕生日もバッチリね』
「妹のミントは大好きな兄の誕生日を祝う為、買い物袋を両手に持ち、夕方の薄暗い道を歩いていました」
『ふふっ、兄さん喜んでくれるかしら? 今年こそ兄さんに……』
はっ? 同じ名前なの?
「しかし、人気(ひとけ)の無い公園前に差し掛かった時の事です。ミントの身体は、背後から忍び寄った二人組みの男に羽交い締めにされ、公園に引きずりこまれてしまいました」
『ふぐっ!? なにするのっ、離しなさい!!』
「そしてミントは、草木の生い茂った隅の草むらに押し倒されてしまいました。手足をジタバタと振って抵抗はしたのですが、所詮は女の子。男達は全く怯みませんでした」
『私に触るなっ!! 離せっ、離しなさいよ醜豚がっ!!』
「仰向けに倒され、一人は両手を拘束し、一人は開かせた足の間に入り込んで、下着を無理矢理に剥ぎ取ります」
『いやぁぁぁぁぁぁっ!! にいさっ、助けて兄さん!!』
「何と言う事でしょう。ミントの叫びも虚しく、女の子の大切な部分を強姦魔に見られてしまいました」
『見るなぁぁっ!! ひくっ……うぅっ、お前達なんかぁぁぁぁぁっ!!!』
「しかし、それだけでは有りませんでした。下着を剥いだ強姦魔は、自らのズボンをズリ下ろすと……」
『ひっ!? ダメっ!! お願い、します……それだけは許して。私、初めては兄さんにあげたいの』
「ミントの言葉には耳を貸さず……」
『お願い、お願いっ!! 今なら、警察にも黙ってるからぁっ!!』
「固く隆起した太いペニスを……」
『つっ!? そ、そうだっ。クチでしてあげるわっ! だからそれで……』
「前戯もしていない閉じ切った女性器に押し当て……」