以上です
尊ぶべき愚者氏、お疲れ様でした。
こう執念とか、怨念とか、その描写がお見事です。
滅んだ世界とか、台詞回しがなんか終わりのクロニクルを思い出しましたw
あと、お久しぶりですが、しんじるものはだれですか? の続きを投下させていただきます。
言葉なんて必要あるのだろうか。
心なんて大切なのだろうか。
記憶があればいい。
記録があればいい。
時間が存在すれば満たされる。
今この瞬間を、愛され続ける時間が永遠に続けば心なんて要らない、言葉なんて要らない。
貪られて、口付けて、絡み合って、重ね続けて、痛みを、熱を、感情をともあわない儀式を続けばいい。
嗚呼、其だけが。
後悔しないでいられる唯一の時間なのだから。
しんじるものはだれですか?
なんでそう思ったのか分からない。
鋼鉄のように硬い彼。
冷たくて、温かくて、燃える氷のように矛盾した彼。
黒ずんだ人型、大好きな人、幾つにも傷跡の浮かんだ肉体、まだ二十歳前後の若い彼の背中。
それを見て、はやては静かに呟いた。
「……寂しそうやね」
「え?」
情交の後の気だるい感覚。
下腹部を濡らすのはべた付いた白い液体であり、膣口から呼吸の度に溢れ出るのは性交の証である愛液と精液の混じった体液。
汗でベタついた髪を自分で撫でて、彼女はぼんやりと感覚を確かめる。
彼女は淫らな格好だった。
数時間前には身に付けていた管理局の制服はだらしなく脱ぎ捨てられて、ベットの下に無造作に脱ぎ捨てられて、彼女はその未成熟の肉体を晒していた。
汗と愛液と精液の体液三種に濡れてうすぼんやりとした明かりに反射する肌は白磁のように艶かしく、その乳房は薄っすらとした膨らみだけ。
未だに成長の余地がある幼さ、臀部は丸みを帯びているがどこか幼児体型を思わせる体つき、女性というよりも少女と呼ぶに相応しい造形の彼女。
未だに成長期の終わらず、女としての成熟もまだな幼い肢体。少女から女へと芽吹く少し前の青い果実のような体。
散々注ぎ込まれた精液で、腹がぽっこりと少し膨らみ、それを自分の手で押し込むと、熱い排泄にも似た感覚と共に精液が膣から吐き出されていく。
かつては病魔に侵されて、歩くことも出来なかった体は遅れを取り戻すように成長を遂げているが、まだまだ手足は細く、グングンと伸びる同僚と比べて背の低さが気にかかる少女のような彼女。
いつも抱かれるたびに物足りないかと不安になる足らぬ自分。
どこか空しくて、満たされていたものが抜け落ちて、汗が吹き出し、あえぐ自分。
そんな中だから、はやてはシーツを体に巻きつけながらそんな感想を抱いたのだ。
ただ寂しそうだと思った。
「そうだろうか?」
不思議そうな顔。
どこか子供っぽく戸惑っている顔つき、それが何故か嬉しかった。
彼はいつも悲しい顔だ。
考え込んでいる顔――むずかしく眉間に皺を寄せているから。
厳しい顔――いつも誰かのためを考えているから。
冷たい顔――痛みを受け流す術を知らないから。
ぎこちない笑顔――笑い方を知らないから。
戸惑った顔のほうが自然に浮かぶ、滅多に見れない顔だから、得した気分になる。
「そうやよ」
自分でも確信していないことなのに、彼女は肯定する。
最初は単なる思い付きだったけど、言葉を重ねれば、想いを積み重ねれば本当になるような気がした。
そうだ。嘘なんかじゃない。
彼のことを一番知っているのは自分なのだという思い込みに近い確信。
初めて出会った時の記憶を思い出す。
「いつも寂しそうや」
クロノの頬に触れる。
うっすらと汗の浮かんだ彼の頬は熱くて、吸い付きそうだった。
むにゅーと伸ばす。少しだけ不機嫌そうに眉をゆがめる彼。
「のばさないでくれ、いたい」
「嘘や。いい肌してるでー、お客さん」
むにむにして、でも嫌がるクロノの表情が可愛かった。
あまりにも可愛いから
「んちゅ」
そのまま引き寄せて、頬を唇で吸ってみた。
汗の味がした。
「こら……まだするか?」
「ふふふ、前半後半戦は終わったけどロスタイムや。私のロスタイムは長いで?」
うりゃーといいながらクロノに抱きつく。
昔と比べて伸びた背、がっしりとして重みのある引き締まった身体、抱きしめる指先から否が応でも感じる沢山の傷跡の引き攣れた感触。
そんな彼が大好きだった。
だから、すかさず髪を撫でて、首筋を吸い付いてくる彼の愛撫に軽く息を吐き出し、はやては彼の肉体に溺れていった。
もぐりこんでくる、触れてくる、温かい感触に夢を見た。
少し昔の夢を。
「はぁ」
その日、フェイト・T・ハラオウンは何度目になるか分からないため息を吐き出した。
食堂のテーブルに肘をかけて、遠い目を浮かべている彼女。
「はにゃ? どうかしたの、フェイトちゃん」
その姿に気が付いたなのはが声をかけた。
「あ、なのは」
「どうしたの? もしかして、またクロノ君にディフェンス訓練でもさせられたとか?」
つい三日ほど前にクロノとの模擬戦でバリアブレイクを叩き込まれて、その障壁の構成の荒さに補習訓練を受けさせられたフェイトが酷く落ち込みながら、バルディッシュとプログラムを組んでいたことをなのはは知っていた。
一回組んではブレイズキャノンで吹き飛び、二回組んではまたブレイズキャノンでぶっ飛び、三回組んでは障壁での防護に専念していて持ち味の回避行動を忘れたという理由でクロノから背面ドロップキックで錐揉み飛行をさせられた彼女はそれはもう落ち込んでいた。
「ち、ちがうよ!」
恥ずかしい過去を思い出したのか、顔を真っ赤にしながらもフェイトは慌てて首を横に振った。
ならなんだろうか?
と、なのはが首を傾けて疑問を現すと、フェイトがゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、なのは……最近はやてとクロノ仲良くない?」
「んー? そっかな」
フェイトの言葉になのはは最近の二人の姿を思い浮かべる。
なのはが知っている二人といえば。
――正座してごめんなさいごめんなさいごめんなさいを連呼しているはやてに、数時間近く説教をしているクロノ。
――模擬戦の度にリインフォースUに頼るなー! と、スナイプショットを叩き込み、制御の甘いはやての弾幕を避けまくりながら、はやてを追い掛け回すクロノ。
――施設を破壊して、三人一緒に耐久正座の上に、始末書を山のように書かされた記憶などなど。
他にも他にも他にも他にも……
「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「なのはー! 戻ってきてー!」
ガタガタと震えだしたなのはの肩を掴み、現世に戻すフェイト。
はっ! と、我に帰ったなのははフルフルと頭を振ると、フェイトに言った。
「えっと、どこが仲がいいの?」
なのはの脳裏には一方的にいじめられているはやて+自分たちの構図しかなかった。
「え。いや、私もはっきりとは分からないけど……この間からはやてがクロノに柔らかくなったなぁって」
「え?」
「私たちがいない間に任務があったらしいんだけど。ほら、ちょっとはやてとクロノに壁があったような気がしたんだ。でも、今はそれがないの」
はやては優しい子だ。
交通事故で両親を亡くしてからずっと足も動かずに一人で暮らしてきたけど、心は優しいままの強い子。
彼女を救うために戦った家族であるヴォルケンリッターはもちろん、なのはとフェイトもまた彼女とは親友だと思っている。
だけど、ユーノは、アルフは、そしてクロノとは彼女との接点は少ない、まだ顔見知りレベルだった。
人と人の関係は年月だけではない、きっかけも必要。
分かり難いだろうけど、どこか他人行儀だったはやてがクロノへの態度の壁を無くしていることに気付いたのはフェイトだけだった。
まさか、という気持ちはある。
もしかして、という不安がある。
もしも予測が当たっていたらという黒い予感がして、フェイトは息が詰まりそうだった。
(まさか、だよね)
ただ単に壁がなくなっただけだと思いたかった。
ようやくはやてが、クロノのことを本当に友人だと思えるようになった。
ただそれだけのはずだとフェイトは信じたかった。
彼女は静かに息を吐いて、胸に手を当てた。まるで祈るように。
「フェイトちゃん?」
そんなフェイトの様子になのがは心配そうに声をかけた時だった。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、たすけてーなー!」
「はぅ!?」
「はにゃ!?」
ガバッと背後から圧し掛かってきた一つの人影に、なのはとフェイトは素っ頓狂な声を上げた。
「は、はやて?」
「た、たすけてーなー!」
ガシッとまず一番先に反応してくれたフェイトに抱きつく少女。
それは涙目で瞳をうるうるさせたはやてだった。
「ど、どうしたのはやて?」
「あ、あの悪魔が私を苛めるんやー!」
そういって、指差した方角には。
「苛めるとは失礼な。それと人に指を向けるのはよくないと教わらなかったのか、はやて」
分厚い書類を片手に持ち、はぁっとため息を吐き出したクロノの姿があった。
いつものバリアジャケット姿とは違い、執務官服の質素な格好だった。
フェイトはその姿を見て少しだけ息を飲む。
新ためて意識すると初めて出会った時とは比べ物にならないぐらいにクロノの背は伸びた。
少女たち、つまりフェイトたちが背が伸びていた頃には同じぐらいの背丈だったのに、今はもう頭一つ以上は差のある長身だ。
いつもの分厚い防護服では今一分かり難い端正の取れた姿勢に、長身痩躯の体型。
昔はパッと見ると少し女顔というか童顔だった顔つきも精悍さを増して凛々しい青年の顔になっている。
そして、もっとも変わったのは呼び方だろう。
「お、お兄ちゃんどうかしたの?」
フェイトはまだ少し緊張する義兄であるクロノに呼びかけると、クロノはああ、と頷いて。
「その駄目タヌキが書類整理の勉強中に逃げ出してね」
「た、タヌキいわんといてー! ぽんぽんなんて鳴いた憶えないで!?」
「ハハハ――、今言ったじゃないか」
「はぅ!?」
揚げ足を取られたとばかりに顔をしかめるはやて。
その襟首がにゅっと掴まれる。
「いやー! たすけてー! もう一時間も勉強させられとるー!」
「い……一時間ぐらいなら頑張ろうよ!」
「しかも、ミッド語なんやで!?」
「あーあーあ〜」
なのはが遠い目をした。
ミッドチルダ言語、地球からすれば変則式英語とでもいうべき言語にまだ中学生にもならない少女たちは大苦戦中だった。
唯一出来るフェイトはもともとそっちの出身であり、それと引き換えに地球の国語などは不得意としていたが、なのはとさらに言えばずっと休学状態だったはやてとしてはミッドチルダの言語など大きく苦手な科目の一つだ。
天才でもない限り喋ることは出来ても、言語として自由自在に掛けるまでは普通年単位以上掛かる。
魔法を操るためのプログラムなどはある程度数式などで共通するものがあり、幾つかの単語を知っていれば辞書を片手にすればなんとか理解は可能。
なのはは感覚で魔法を組めるというイレギュラーにも程があるほどの適応性があるし、フェイトは元々プレシアの元で専門教育を受けており、はやては闇の書が蒐集した術式を自動的に記憶領域に焼き付けている。
というわけで、現在の一人を除いた二人は戦闘にしか特化していないダメダメ魔法少女だった。
「君たちのアースラへの研修期間には期限があるんだ。叩き込めるうちに叩き込むぞ」
「ひーん!」
じたばたと逃げようとするも、はやての腕力程度でクロノに抗うのは不可能だった。
ずるずると引きずられていく彼女。
それにフェイトは慌てて立ち上がって。
「く、クロノ! 少し可哀想だよ、ほら勉強なら私たちが見てあげるし!」
「そ、そうかい」
クロノが少しだけ意見を聞き入れようと足を止めた。
チャンスだった。フェイトは即座に顔を横に向けて、口を開く。
「ね、なのは」
「え? う、うん!」
親友を巻き込むように同意を求める発言をすると、なのはも慌てて頷く。
その二人の態度を見て、クロノは少しだけ息を吐き出すと。
「ならしょうがない。はやて、この書類の間違った部分と必要事項に赤ペンで書いておいたから他の二人と一緒に目を通しておくように」
はやての襟首から手を離して、彼女に書類を渡した。
「りょ、了解や!」
恐々とはやては返事を返すと、クロノは他の二人に目を向けて。
「あまり甘やかしたら困るのははやてなんだ。だから、厳しくしておいてくれ」
と告げると、背を向けて食堂からクロノは出ていった。
完全に立ち去ったのを確認すると、はやてはふぅーと安堵の息を吐き出して。
「た、助かったわぁ」
「大丈夫、はやてちゃん?」
「あ、ありがとな。なのはちゃん」
よろよろとした態度ではやてがテーブル席に座ると、あ〜といいながら顔を乗せてもたれかかる。
「す、スパルタにも程があるでぇ〜」
「く、クロノも意地悪でやっているわけじゃないと思うよ? でも、大変だったね、はやて」
よしよしと魂の抜けそうなはやての背をフェイトはさすって上げた。
くすんくすんと少しわざとらしい泣き声がはやてのもたれかかった口から漏れる。
「あークロノくん、ほんま悪魔やわ。鬼畜やわぁ」
ダクダクと漫画チックにはやての目から零れた涙が机の上を濡らした。
「そ、そこまで言わなくても……」
少し否定出来ないことを言われて、じわりと汗を額に浮かべるフェイト。
確かにクロノはプライベートでは優しいことも多いが、仕事がらみになると一切の手加減や容赦がなくなる。
模擬戦では一度も優しくしてもらったことはなく、弱点面を指摘されながら徹底的に倒されることもしばしばだ。
そういう点でいえば悪魔とか鬼畜とかいっても嘘じゃない。
「けど、少しだけ羨ましいかな?」
フェイトは少し両の手の指を絡めると、ぼそりと呟いた。
クロノにそこまで構ってもらえるはやてが少しだけ羨ましかった。
昔と比べてフェイトやなのはの戦闘技術はかなり完成にまで近づいている。
一年前、武装隊第四陸士学校に短期入学し、正式な戦闘訓練を受けたことによって、経験や技術の差はクロノとの差を縮めつつある。
未だ多少ムラはあるが、さほど問題になるレベルではないとお墨付きだ。
そのため、昔ほどなのはやフェイトに積極的な戦闘指導をクロノはしていない。
フェイトがクロノに時間を取ってもらえることとしたら、現在まで二度も落ちている執務官試験での勉強の時ぐらいだった。
だから、少しフェイトは寂しかった。
昔と比べて義兄と過ごす時間が減ってしまったから。
「へ? や、やっぱりフェイトちゃんMやったの? この地獄のようなスパルタが羨ましいなんて!?」
と、思いながら呟いた一言だったのだが。
はやての反応は予想の斜め上だった。
「や、やっぱりって何!?」
驚愕と納得の行く目を浮かべるはやてに、フェイトは慌てて訊ね返すが。
「……あ〜」
「なのはまでなんで遠い目してるの?!」
隣の親友が何故か遠い目をして頷いていたので、フェイトはその肩を掴んで揺さぶった。
「だって」
「ねぇ?」
ねーと、同じように首を傾げあうはやてとなのは。
「ふ、二人共ー!!」
フェイトは拳を握り締めると、それなりに本気で二人をポカポカ叩いた
「ごめん、ごめん、フェイトちゃん!」
「いた! あいた! なんで、フェイトちゃん、私にだけ洒落にならない威力なんや!? 普通に痛いで!」
「あ、ごめん」
なのははともかく、何故かはやてを叩く威力が上がっていたのは多分偶然だ。偶然。
そうフェイトは信じた。
多分嫉妬とかじゃないはず、だって友達だし。
「うぅ、最近のフェイトちゃんはつっこみが辛いわ〜。というわけで、なのはちゃん。胸揉ませて〜」
「え!? な、なんで!」
「フェイトちゃんが、小学生あるまじき成長を見せているのでその嫉妬やわ! むきー!」
と、なのはに背後から覆いかぶさり、はやてがわはーといいながら笑っている。
なのははそれなりに本気で悲鳴を上げていた。
フェイトは止めるべきかどうか少し迷ったけど、多分襲われるので胸を押さえながらそれを見守っている。
そして、
「ごめんなさい、ちょっと調子に乗りました」
レイジングハート起動状態でぽかりと叩かれて、ようやくはやては止まりました。
「まったくもぅ」
真っ赤な顔で荒く息を吐いているなのは。
ごめんね、なのは。でも私巻き込まれたくなかったし。
「まったくもぅ、ほらはやて、そろそろクロノ君の言いつけ通り書類やろうよ」
「え〜」
嫌そうな顔を浮かべるはやて。
まあ気持ちは分からないでもないよ、どう見ても枚数50枚どころじゃないし。
そう思ってフェイトは口を開いた。
「そんなに辛いんだったら、私たちからクロノに言って少し減らしてもらおうか?」
フェイトの目から見ても最近はクロノからのはやてへの指導は少し熱が入りすぎているような気がする。
小学生として学校に通っている身だし、任務の度には同じように学校は休むことや放課後に一緒に向かうことは多いが、はやての場合土日でもアースラに出かけては勉強をしているようだった。
シグナムとかも少し心配をしていた。
それらを含めて、フェイトははやてに言ったのだが。
「……ん〜、それはええわ」
はやては真面目な顔になると、テーブルに座り直す。
「二人のおかげで、少し休憩は出来たしちょっと頑張るで。というわけで、なのはちゃん書類おくれ〜」
「え、いいけど」
なのはが預かっていた書類をはやてに渡す。
それらを捲りながら、はやては紅いペン字だらけの書類に少しだけ閉口して。
「……頑張らないとあかんよね」
「え?」
「私がクロノ君に頼んだんや。私がずっとヴォルケンリッターの、シグナムやヴィータ、ザフィーラにシャマルたちと一緒に仕事が出来るようにする方法を教えてくれって」
良く見ればその書類は始末書だけではなく、各種の申請書だった。
現場に出るときに出すべき捜査許可の申請書類、指揮官として処理しなければいけない書類類、事務業に携わっている人間でもこれほど幅広い種類を使わないんじゃないかと思えるような種類。
「あ、そうか」
なのはが理解したように手の平を打つ。
同時にフェイトも理解していた。
「私やなのはと違って、はやては一人だけじゃないものね」
なのはは教導隊志望、フェイトは執務官補佐として活動を続けているが、はやては特別捜査官としての道を歩み始めている。
そして、はやてには家族であり守護騎士がいて、それと共に歩むためには制約が多いのだ。
立場だけでは終わらない、組織というものが書類で回っている以上、それらに精通しなくては問題が起きる。
「いつまでもアースラでクロノ君や艦長さんたちに甘えているわけにはいかんしね」
はやては苦笑を浮かべる。
そして、ペンを持ちながらぼそっと呟いた。
「それに……私も強くならんといつまでも足手まといや」
「え?」
「クロノ君に言われたんや。大規模広域魔法だけ撃てるだけの魔導師は一人では脆いって。ヴォルケンの皆がいても、それだけに甘えていたら駄目だって」
なのはちゃんやフェイトちゃんぐらいに強かったらよかったんやけどなぁ、とはやてはどこか寂しげに笑った。
彼女なりに悩んでいたことだったのだろうか。
純粋な魔力ランクならばはやては、なのはやフェイト、ヴォルケンの誰よりも断トツで上だった。
けれど、高すぎる大魔力は戦闘技能の成長を制限し、護衛する騎士たちはその必要性を感じさせなかった。
それをクロノは危惧したのだろうか。
一人でも生き抜けるようにとでも言うかのように。
「だから、頑張らへんとな」
ぼやきながらも。
少しサボりたくなっても。
はやては真っ直ぐに目標へと進み続ける。
人らしく、少女らしく。
そんなはやてを見て。
「なのは」
フェイトははやての右側に座ると、書類を一枚手に取った。
「うん」
レイジングハートを待機状態のままアクセスし、空間投影型の辞書を取り出すとなのはははやての左に座る。
「え?」
「ほら、一緒に勉強しようよ。三人一緒なら飽きないよ」
「なのははもっとミッドチルダ言語を勉強しようよ」
「にゃ、にゃははー」
そんな二人の言葉と態度に。
「おおきにな」
はやては嬉しそうに微笑んだ。
……あの頃から強くなれたのだろうか。
夢から覚めると同時に思ったのはそんな言葉だった。
私は少しでも強くなれたのだろうか
はやてには分からない。
分からないけれど。
「ん〜」
まどろみの中で好きな人を抱きしめる。
優しく頭を撫でられて、それがあまりにもくすぐったくて。
「好きやよ」
はやては微笑んだ。
何回言っても、何度叫んでも足りない言葉を。
力を与えてくれた人に。
思いを捧げた人に。
ただ求める人に。
「少し寝るといい。疲れてるようだ」
はやての頬がぐにぐにと摘まれる。
子供のように遊ばれて、けれど深いじゃない。
肺一杯に彼の匂いを吸い込みながら、はやては彼の胸板に頭を押し付けて。
「ん……」
少しだけ目を閉じた。
今度の夢は長くなりそうだった。
投下完了です。
正月だったのに、姫始めネタとか全然考えてなかったよ!
とりあえずゆるゆる路線でクロはや進めます。
終わるまで長そうですが、よろしくお願いします。
474 :
7の1:2009/01/04(日) 17:35:46 ID:2xgOqgNt
注意事項
・微エロ?で一部バトルを含みます
・前作:「再び鎖を手に」の続編です。
・時間軸はJS事件から1年後
・ユーノ×なのはです。
・捏造満載
・キャロ・エリオ・ルーテシアは出ません。(3人のファンの方、すみません)
・この章は、オリキャラ会話編で,副司書長登場編です。
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・主人公 ユーノ
・レス数3です。
・タイトルは 翼を折る日
475 :
7の1:2009/01/04(日) 17:39:05 ID:2xgOqgNt
第2章
2-1
9年前、戦闘機人を擁する時空犯罪組織との戦闘で壊滅した陸士72部隊で重傷を負いながらも、唯一生き残
った俺が、無限書庫の副司書長という文官に転身した理由は、怒りによるものだった。
陸士72部隊からの戦闘機人に関する情報照会に対して、まともな情報を提供しなかった無限書庫に、殴り込
みに行ったのは、管理局の病院を退院した翌日だった。
まだセキュリティチェッカーの無かった無限書庫の扉を開け、俺は無謀にも無限書庫の闇に身を投じた
ほとんど人のいない闇の中を小一時間もさまよった末に、目の下に隈を作った10歳前後の黄砂色の髪をした華
奢な少年が、20冊を超える本を自らの周囲に浮かべ、必死に速読魔法で情報を読み取っている姿を見た瞬間、脳
みそが怒りのあまり沸騰した俺は、思わず怒声を放っていた。
「司書はどこだ! ガキに仕事をさせやがって、司書様は、どっかでお休みか」
「あの〜」
「ガキは黙ってろ。食うためにやってるなら俺の家に来い。ここで奴隷労働するこたぁない」
「ですから、司書は」
「何処にいる。おじさんに教えてくれないかな? 暇な司書さんのいらっしゃる処を」
スキンヘッドにひげ面という管理局の武装局員というより、凶悪な時空犯罪者面で、精一杯の笑顔を浮かべて
尋ねるが、他人が仮にこの光景を見たら、どう見ても暴漢が少年を脅しているとしか見えないだろう。
「司書は、僕ですが・・・後は、搬入される資料を収納する係の人と、病気で長期入院中の司書の人がいるだけ
で・・・」
「おい、おいおいおい、冗談はよせ、冗談は それとも何か・・・司書に脅されてるのか? クレーム付けに来
た局員には、お前が司書ってことにして切り抜けろとでも命令されてるんだろう。そう言わないとクビだとか
言われているなら安心しな。このジョン・フィッシャーマン様が、お前の身柄を引き取ろうじゃないか」
「結構です。僕はユーノ・スクライア 無限書庫の司書です。フィッシャーマンさん、これが僕の身分照会の
IDカードです」
ユーノと名乗る少年のIDカードを確認した俺は、ため息をついた。
「まいったな。ガキが司書じゃ、情報をまともに寄越さなくても、文句がいえねーな」
「どの件です、教えていただけませんか?フィッシャーマンさん」
プライドを傷つけられたのか、頬を紅潮させた少年の声には鋼の響きがあった。
(見かけによらず根性が据わってやがる・・・)
「陸士72部隊からの依頼だよ。書類No KJL033897”戦闘機人に関する基礎情報”だ。まあ陸のことなんぞ、
海の無限書庫には・・・って、おい何やってんだ?」
「1年前、僕がここの司書になってからの記録しかないんですが、戦闘機人に関する照会は申請されていません。
何時、申請されたかわかりますか?」
目の前に魔導モニターを展開して、1年前からの無限書庫への申請記録を確認していた少年の真剣な顔を見れ
ば、嘘を言っているとは思えなかったが、見ますかと手招きされたのを断る理由はなかった。
「今から3ヶ月前だから8月3日ごろのはずだ。7月13日・・・7月22日・・・8月1日・・・8月7日って、おい、こ
の申請の記録は確かなのか!? 陸士72部隊の申請がないぞ。どうなってるんだ」
「僕を信じられないなら、本局の情報部に確認してください。無限書庫への申請は、特別な場合を除いては、情
報部を経由します。確認はすぐできますよ」
「いや、嘘は言ってないが、勘違いはあるかもしれないぜ。まあ、その件は、後で調べりゃわかる。それより聞
きたいんだが、こんな闇の中で一人で仕事してるのか? 食事や寝るところはどうしてるんだ? 親は」
「・・・親はいません」
口ごもりながら答えたユーノは、残りの質問には口早に答えた。
「1年前まで、無限書庫は、単なる資料倉庫でしたから、人がいなかったんですよ。療養中の司書さんも文書保
存係の人が兼任してました。最後の質問の答えですが、食事は本局食堂で取るか出前で間に合わせてます。
寝るところは、僕はスクライア一族の出身だから、何処でも寝れますよ。今は、無限書庫の司書仮眠室が住処
ですが、シャワーもあって快適ですよ」
476 :
7の1:2009/01/04(日) 17:39:37 ID:2xgOqgNt
2-2
なにげに凄いことを言うユーノに俺は、内心舌を巻いていた。
今時の若手武装局員の軟弱ぶりに比べたら、目の前の華奢な少年のタフさは瞠目に値した。暗闇の中で、一人
で作戦行動を1年間続けろと命令されて完遂できる者が何人いるか、壊滅した部隊の若手の顔を思い浮かべた俺
は、思わず眉をしかめた。
(だめだ、だめだ、どいつもこいつも、目の前にいるユーノってガキに敵わねえ)
「まいったな。お前・・・ユーノさんの言うことが正しいなら、俺の勘違いってことになるな。わはっはっ」
いまさら殴り込みにきたとも言えないので、頭を掌で叩きながら豪快に笑った。
「あの〜フィッシャーマンさん。用事が済んだなら、お帰りいただけませんか。仕事に掛かりたいんです。明日
の8時までにレポートを上げないと陸士108部隊が困るんです」
「そいつは悪かった。時間をロスした償いに何かできることはないかね?資料とか持ってくるくらいは手伝える。
それに調べ終わった資料を元の場所に戻すのに転送魔法使うなんて無駄なことしなくてすむぜ」
俺の申し出を受け、一瞬、驚いた表情を浮かべたユーノは、しばらく考え込んでいたが
「今までわかっている範囲の無限書庫の地図です。依頼された案件に必要な資料は、おそらく、この区画にある
はずです。探索魔法は使えますか?」
ユーノから渡されたカード型デバイスの使い方がわからず、自分でも間抜けとしか思えない質問をした。
「探索・・・索敵魔法じゃないのか?」
「原理は同じです。応用の仕方に違いがありすぎますが・・・」
「足りないところは、体力で補うさ。とりあえず調査の終わった資料を元の所にもどすことから始めさせてくれ
ところで・・・・・このデバイスの使い方、教えてくれないか」
カード型デバイスをユーノに差し出しながら、俺は照れ笑いを浮かべた。
ユーノから請け負った陸士108部隊の要求した”違法薬物ランティーノの精製技術”に関する資料を探索す
る仕事は、武装局員として、幾多の修羅場をかいくぐってきた俺が初めて経験した地獄だった。
無限書庫の職員といえば、一般の武装局員から軟弱な文官と見られている。俺もユーノと出会うまでは、いや
出会った後も、あの事件を経験するまでは、根性こそ凄いが体力や魔法に関しては、俺の方が上だと思っていた。
カード型デバイス”MAPPER"の使い方を教えてもらい、早速、ランティーノに関する資料が収蔵されている
可能性のある第74区画へ探索に向かった俺は、”禁断の秘薬ランティーノ伝説”という人の皮で装丁された
本を見つけて有頂天になり、何も考えずに手に取り、そして意識を失った。
次に目覚めた瞬間、何日たっているのかわからない恐怖に駆られた俺は、指一本動かせないだけでなく、魔法
を使えず声を発することもできない状態に陥っていることに気がつきパニックに陥った。
しばらくして、ひどいのどの渇きと空腹が始まった。
(かなりの間、気を失っていたのか。このままじゃ飢え死にする。ユーノ、ユーノ・スクライアァァァ・・・・
ちきしょう。念話も使えねぇぞ)
「おい!ジョン いつまで、此処にいるつもりだ。隊長が待ってるぞ」
戦闘機人との戦闘で、額から上を失ったチャーリー二尉が俺の手を握って叫ぶ。
「フィッシャーマン曹長・・・・お、お願いです。ひ、ひと思い・・・に・・殺してください」
両手両足を失い、瀕死のガトー2等陸士が、足下から俺を見上げている。
(くそ、これは幻覚だ。耳を傾けるか、糞どもが・・・・)
「あたいを先に逝かせて、自分だけ生き残るって卑怯じゃない。ねえジョン、あたいのウェディングドレス姿、
きれいでしょう。今度、聖王協会で彼と衣装合わせするんだ」
質量兵器で穴だらけにされた全身から鮮血をほとばしらせたメアリー曹長が、目の前でくるりと全身を回して
微笑む。あの作戦が終わったら、彼に告白するんだと意気込んでいた彼女の死を茶化す幻覚に切れた俺は吠えた。
(くそったれがぁぁぁ 人をなめんじゃねぇぇぇ)
迫ってくるメアリーの首を締め上げて黙らせようとしたが、意識がかすみ、目の前が真っ暗になってきた。
477 :
7の1:2009/01/04(日) 17:41:55 ID:2xgOqgNt
2-3
「何やってるんです!フィッシャーマンさん、死ぬつもりですか?」
「ぐぁっ、なにしやがるんでぇ」
チェーンバインドで縛り上げられた両腕を無理矢理、十字に拡げさせられた俺は、ユーノの掌から放たれた緑
の波動が、俺の首に注がれているに気がついた。
「いつまでも戻ってこないし、念話にも答えないので来てみたら、必死に自分の首を絞めているんで驚きました
よ。何があったんです?」
この人、頭狂ってるんじゃないかという目で俺を見ているユーノが右手に持っている本を見て、俺の目が見開
かれた。
「馬鹿野郎、その本を捨てろ。俺のようになるぞ!」
「ああ、これですか、大丈夫ですよ。もう封印しましたから」
平然とした口調で答えたユーノが本を開くと内容に目を通し始めた。
「・・・・大丈夫なのか?」
「フィッシャーマンさん、ありがとうございます。この本があれば108部隊へのレポート提出が12時間は、
早くなります。それにしても、禁断の秘薬の精製方法がこんなに簡単なものとは思いもしませんでしたよ」
「な、なにがどうなってんだ。さっきの幻は・・・」
バインドを解かれ、へたりこんだ俺の脇に膝をついたユーノは、バインドで締め上げられた俺の腕を子細に観
察していたが、ほっとため息をつくと
「魔術結合汚染は無いですね。念のためストラグルバインドを用いたんですが杞憂だったみたいです」
「俺の腕が!?」
「あの本に仕掛けられたトラップは、不用意に手に取ったものの精神を汚染して、その人の最も悲しい記憶を呼
び覚まして、精神を錯乱させるんです。悪質なやつだと触った手に残留魔術を仕掛ける場合もあります」
だから、後で汚染された人が自殺したり、人を殺したりするんですよ。
平然としゃべるユーノを見た俺は、こんな魑魅魍魎が跋扈する無限書庫で仕事をする華奢な少年に、尊敬の念
と同時に何か手助けできないものかと考えた。
翌日、武装対に戻った俺は、無限書庫への転属願いを出した。
「というわけで無限書庫の司書に転属したんですよ。マテウスさん」
「そして無限書庫の番人が誕生したってわけか。どうだいもうひとつ」
フィッシャーマンが語るユーノとのファーストコンタクトのエピソードをふむふむと頷きながら聞いていたマ
テウスは、三つ目のダブルチーズハンバーガーを袋から取り出すとフィッシャーマンに勧めた。
「いいんですか?マテウスさんの分が」
「かまわんよ。これはフィッシャーマンくんの分だ。私にはこれがある」
葉巻を取り出すと左の人差し指に灯した炎で火を付けたマテウスは、煙を次元の狭間に吐き出しながら尋ねた。
「ところで、スライの連中はしっかり働いてるかね?ユーノ博士に紹介した手前、気になってね。さっきも荷受
け場から入ったんだが、よくわからんのだ」
「こっちの無理な要求にも愚痴一つ言わずに答えてくれています。レナードが一族の連中をまとめてくれてるん
で、怠けてる連中は一人もいませんよ。まったくたいした連中です」
安月給で働かせるのが心苦しくなりますよと続けたフィッシャーマンは、額をぴしゃりと叩いた。
「まあ、あれだけの人数を採用したんだから仕方あるまい。無限書庫の人員増に関する予算の申請が通っただけ
でも奇跡だったからな」
管理局統括官のリンディ・ハラオウンが、付け足しのように提案した無限書庫の人員増の要求が、呆気なく承
認された時の唖然とした表情を思いだしながら、マテウスはニヤリとした。
「そうは言いますが、族長のレナードの給料が、武装隊二等陸士の初任給の7割ってのは酷すぎますぜ。奴が武
装隊員なら、間違いなく尉官クラスだ。俺が鍛えてる武装司書隊の猛者でも、奴に勝てる奴はいないと踏んで
ますがね。そんな奴が、ひよっこの二等陸士以下の給料とは、ふざけすぎてまさぁ、まったく上層部は」
「馬鹿の集まりだな。それじゃユーノ博士に拝謁を賜ろうか。ジョンまた会おう」
無限書庫を軽視する管理局上層部に対する憤懣をぶちまけた相手が、当の上層部の一員だと気づいたフィッシ
ャーマンが言いよどむのを引き取ったマテウスは、副司書長室のドアを開けると無限書庫の闇に向かって飛んだ。
478 :
7の1:2009/01/04(日) 17:54:49 ID:2xgOqgNt
第2章は、無限書庫のモブである福司書長を登場させました。
司書というと、柔弱な姿を思い浮かべますが、三徹、四徹をできる司書が体育会系なら
面白いと思って、キャラを作りました。
手持ちの司書には、彼の他に
1,元ユーノ暗殺を請け負った仕事人
2,無限書庫の未調査部で発見された戦闘機人ならぬロストロギアの計算機人
3,ジョンの先輩で、元凄腕の武装隊隊長の古本屋
などがいます。
>>詞ツツリ氏
貴重なクロはや分ありがとうございます。
このカップリング、というかこの二人がリリなのキャラ中で一番好きなので、とても嬉しいです。
氏のSSは毎回楽しみにしているので次回投下もお待ちしております。
GJでした。
>>473 GJ!
何気にフェイトが後々絡んできそうで、今後どういった展開になるのか楽しみです。
そしてあと一歩、あと一歩踏みこむんだはやて。
そうすればクロノの歪みに気づくことができるから。
でも、それができなかったからこその四話のあの未来なんでしょうね……
次回の話も楽しみにしてます。
ちょっと遅刻したが六課が新年会ではっちゃけるSSを投下しても構わないですか?
ドゾー
では
タイトル 機動六課の新年会 投下レス予定7
行きます
>>478 無限書庫はネタの宝庫だった、というこに改めて思い知らされる。
GJ!
>>481 イエス、ベリーイエス。
レッツゴー。
「それじゃあ今日は思い切り騒いだってな、かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
はやてが音頭を取ると大部屋のあちこちから乾杯の声とグラスの音が響き渡る。
それを皮切りにある者は浴びるほど酒を呑み、またある者は同僚との会話に花を咲かせていた。その様子にはやては一人満足気に頷いている。
日頃から六課メンバーを集めた宴会を行いたいと考えていたはやてだが任務に忙殺されていたためそれさえ叶わずにいた。
しかし試用期間終了間近のこの時期に至って、新年とJS事件の慰労という最高の大義名分の得てやっと宴会が開催される運びとなった。
「うひゃあああ!!」
皆に酒が行渡って盛り上がった頃、会場の片隅で宴とは不釣合いな嬌声が響いた。
「な、なんや!?」
はやてが慌ててそちらに目をやると、酔ったスバルがティアナの胸を背後から鷲づかみにしていた。
いつもならここでティアナが鉄拳制裁を喰らわせて事態が収まるのだ。はやてもそのパターンを予想して静観を決めこむがそれはあっさり裏切られた。
「ティア〜ティア〜」
「ちょ、あんたやめなさいよ…!」
ティアナは自分に纏わりつくスバルを引き剥がそうとするが、アルコールのせいか思い通りに身体を動かせず、結果スバルにされるがままになっていた。
「へへ〜到着」
そう言うとスバルはティアナの服の中に手を滑り込ませ、今度は胸を直に揉んできた。
「それは洒落になんないって…ああ……!!」
スバルの暴走は留まる所を知らず、力を加えながら掌や指先でティアナの胸を弄る行為は完全に快楽を呼び起こすためのものとなっていた。
「あっ……!!」
ティアナが上気した顔で甘い吐息を吐き出すと、ここが宴会場ということも忘れてスバルに身を委ねた。もはや自身での制御は不可能であった。
「おおっっ…!!」
二人が突如発生させた桃色空間に周囲が俄かにざわめく。そのほとんどが男性局員だったが一部女性局員が混ざっていたのは見間違いだと思いたい。
「なのはちゃん、何とかしたってえな…」
はやてはこれ以上の傍観は危険と判断し、直属の上司であるなのはにため息を吐きながら仲裁を申し出る。しかしそれは叶わぬ願いであった。
「やめてよ、なのは」
「フェイトちゃーん、そんなこといって本当は嬉しいくせに〜」
頼みの綱である教導官様はただの酔っ払いと化してフェイトに迫っていた。
おそらくなのはに剥かれたのだろう、法規の象徴である執務官の制服が半分以上脱がされて下着姿を披露していた。
「ちょ、なのはちゃんまで何やってるん!?」
はやてが慌てて駆け寄り注視すると、なのはの周りには「名酒大魔王」(アルコール度数40%)と銘打たれた日本酒の大瓶が2.3本転がっていた。
「そらないで、なのはちゃん…」
はやては天を仰ぎながらなのはの隣の空席を見つめる。ここには本来ユーノがゲストとして来るはずだったのだ。
しかし例によって緊急の資料請求によって直前にオジャン。なのはとて子どもではないのだから分かりはするが、頭で理解出来ても感情が割り切れないことはある。そのよう
な場合誰かが理不尽な犠牲に遭う。今回がまさにそれである
「へへ〜フェイトちゃんは本当にいい身体をしているの」
だからといって今のセクハラ親父モードもどうかと思うが。かといって自分に処理出来るほど今のなのはは楽ではないしはやても強くはない。
「堪忍な、フェイトちゃん」
はやてはそう呟くとフェイトを人柱として捧げて手近にあった大瓶をラッパ飲みした。
これが新たな惨劇の幕開けになるとも知らずに……
大人たちがとんでもない騒ぎをしている中でのんびりで過ごす二人がいた。
六課の最年少コンビ、エリオとキャロである。
「こっちの料理も凄く美味しいよ、キャロ」
「本当だね、エリオ君」
二人はあくまでマイペースに語らい、料理を食べ、普通にこの場を楽しんでいた。
比較的冷静な側の大人たちも彼らを暖かく見守り、邪魔するような無粋なものはいなかった。
隊長陣やスバルたちとはあまりに対照的な空間が出来上がっていた。
「エリオ君、これ何かな?」
キャロが目の前のひょうたん型の入れ物を指差し聞く。エリオが振ってみると液体の揺れる音がちゃぷちゃぷと聞こえてきた。
「何だろう?」
エリオも思案顔で考えるが答えは出てこない、というよりこんな妙な形状のものを見たことがないのだ。
エリオが答えに窮していると意外なところから助け舟がやって来た。
「これはな甘酒ゆうてな、あたしらの世界の飲み物なんよ。けど安心しい、お酒ゆうたかて子どもでも酔わない安心設計や」
はやてはそう言って二人のコップに入れ物を傾ける。コップが濁った白い液体で満たされていった。
「これ大丈夫なのかな?」
「さあ…?」
見慣れぬ外見にやや引きながらもエリオがぐいっと甘酒を飲み干す。
「あれ、美味しい。キャロも騙されたと思って飲んでみなよ」
名前が冠する通りの甘さと飲みやすさ、そして身体が温まる感じにエリオはすっかり気に入ったようだ。
「本当だ、甘くて美味しい」
キャロもそれに続く。二人の手元には空のコップが仲良く並んでいた。
「そうやろそうやろ?まだまだあるからじゃんじゃんいくで〜」
はやてはいつも以上のハイテンションで子ども二人で飲むには充分すぎる量の甘酒を取り出した。
「「ありがとうございます、はやてさん!!」」
「かまへんかまへん、二人で仲良く楽しみ〜」
はやてはそのまま手をヒラヒラと振って自分の席へ戻っていった。
「エリオ君、もっとどうぞ」
キャロがエリオのコップに甘酒を注ぐ。
「キャロのも空だから今度は僕から」
「ありがとう、エリオ君」
エリオが返杯する。
並んで甘酒を飲む姿は色んな意味で出来上がっており、当てられる者が続出したとかしないとか。
「よいしょっと…」
キャロが突然立ち上がりエリオに向き直るが、目の焦点が定まっておらず何処かいつもとは違う感じがした。
「キャロ、どうしたの…わぷっ」
しかし、最後まで言う前にキャロがエリオにしな垂れかかりそれを邪魔する。
両手を首に回して潤んだ瞳で見つめる。熱くて甘い吐息がぶつかり、瞳と唇がすぐ側まで接近した。
エリオがこれに耐え切れるわけもなく、赤面してキャロを引き離そうとした。
「キャ、キャロ!!」
キャロのエリオに対するスキンシップは以前からあったがここまで積極的なのは初めてである。
いくらお酒とはいえ、甘酒でここまで酔うだろうか?
エリオが怪訝に思いながらテーブルに目をやると、そこには先ほどまでとは違う透明な液体が半分ほど入っていた。
「これって…」
エリオがコップを手に取り匂いを嗅ぐ。鼻を刺すようなきついアルコールの臭いに思わず顔をしかめる。
中に入っていたのは自分達が飲んでいたものとは違うお酒であった。
「エリオくーん…」
キャロのスキンシップは益々過剰になり、エリオはあたふたするばかりだ。
「堪忍な〜。それ、甘酒やのうて甘いお酒やったわ。間違えて入れてもうた、あはは〜」
何が楽しいのか、ただの酔っ払いになったはやてが笑いながら自身の失敗を告白する。
「主、こんなところにいらしたのですか、早く戻りますよ」
「はーい。ほなな、エリオ、キャロ…って聞こえてへんか」
シグナムに連れられてはやてが自分の席へ戻っていった。
だがエリオの脳内はそれどころではなかった。
今現在もキャロが絶賛誘惑中であり、しかもアルコールで上昇した体温と鼓動、その他諸々が全力でエリオの理性を揺さぶっているのだ。
「キャロは妹、キャロは妹、キャロは妹……」
エリオはとにかく必死になって理性を保とうとするがそれも限界だった。
「こら、お前らいい加減にしろ!!」
理性の防波堤が決壊しかけたその時、エリオの前に一人の救世主が舞い降りた。
相変わらずエリオにべったりのキャロの後頭部をピコッと軽い衝撃が襲う。
二人の前にヴィータが仁王立ちで身構える。手に持っているのがグラーフアイゼンではなくピコピコハンマーなのは宴会故か。
「痛いですよ、ヴィータさん…」
キャロが手で叩かれた部分を摩りながら抗議する。目尻には薄っすら涙が浮かんでいた。
「お前が悪酔いするからだろうが」
「良かった…」
ぴしゃりと言い放つヴィータを見てエリオはそっと胸を撫で下ろす。
これでやっと平穏が訪れる…わけにはいかなかった。
「エリオはあたしのだかんな!!」
そう宣言すると今度はヴィータがエリオの膝に座り込む。
「え、え、えーー!!」
エリオが慌てながらヴィータの顔を覗き込む。頬は朱が差しており、目も座っている。紛うことなき酔っ払いだった。
「ヴィータさん、酔ってるんじゃないですか?普段はこんなことしないじゃないですか!!」
「酔ってねえのです、あたしは大人だ。つーかエリオにはいつもこんなことしてるぞ」
「なっ…!!」
突如飛び出した爆弾発言だが、見に覚えのないエリオにはどうすることも出来ない。
「エリオ君!!それってどういうこと!!」
すかさず反応してくるキャロ。両手を握り締めてエリオに接近するその表情は真剣そのものだ。
「いいぞ、もっとやれーー!!」
どこからかヴァイスが無責任な野次を飛ばす。
エリオは野次を無視してこの場を収めてくれそうな人を探す。
スバルはティアナに投げ飛ばされたのか床とキスをして犬神毛のような体勢で眠っていた。フェイトはなのはに陥落されて色々と見せられない状態になっている。
「ほーらグリフィス、こっちのお酒も美味しいよ」
「シャーリーさん、何してるんですか!ていうかグリフィスさんもヘラヘラしないでください!!」
「二人とも落ち着いて…」
そして六課の数少ない男性であるグリフィスはシャーリーとルキノに挟まれて修羅場を形成していた。
はは、馬鹿だなあ…これが現実なわけないじゃないか。夢だよ、夢に決まってる…」
あまりの酷さに自らの処理容量の限界を超えたエリオはこれ以上考えるのを止めて思考を投げ出した。
後にはキャロとヴィータの自分を呼ぶ声だけが頭に響き渡っていた。
「あれ…ここ、僕の部屋だ」
翌朝エリオは自室のベッドで目を覚ました。
昨日意識を失ってからの記憶はないが部屋にいるということは誰かが運んでくれたということだろう。
エリオは親切な誰かへのお礼を考えながら体を起こす。すると毛布の中で何かにぶつかった。
「えっ…?」
エリオが恐る恐る毛布をめくると、中にキャロがあられもない姿でもぐりこんでいた。
上半身は覆うものが何もなく、僅かに下半身に下着を身に着けているだけ。
そのため、成長過程にあるがフラットなキャロの肢体が丸見え状態だった。
「キャ、キャロ、何やってんのーーー!!」
エリオは大声を上げて後さると、またもやゴツンという衝撃を受ける。
エリオが嫌な予感とともに振り返ると、同じくあられもない格好のヴィータが毛布に包まっていた。
しかも解かれた真紅の長髪が汗ばんだ身体に張り付いて年不相応の色気を醸し出していた。
「ん、ん〜?」
ヴィータが目を擦りながら身体を起こす。
エリオは死を覚悟して反応を待つが、ヴィータの反応はまったく想像だにしないものだった。
「エ、エリオ…」
ヴィータが顔を赤くして口を開くとそのまま言葉を続ける。
「お前があんな男らしいやつだなんて思わなかったよ、キャロに負けるつもりはないからよろしくな」
まだ何かを呟いていたがあまりに小さい声だったためエリオには聞き取れなかった。
「それってどういう…?」
エリオが訳もわからず狼狽していると今度はキャロが起きだしてきた。
寝ぼけ眼のまま笑顔を浮かべるとエリオに向き直り挨拶をする。
「今年もよろしくね、エリオ君」
「は、はは……」
エリオは暫く硬直し、事態を把握するだけで手一杯だったと言う。そして自分の置かれた状況を理解した時、少年は本気で頭を抱えたとか。
機動六課の宴会模様+エリキャロのほのぼのを書こうとしたら何故かこんなことに…
個人的には天然ほのぼのカップルなエリキャロと突っ走った三人を書けたので満足です。
なんかなのはさんがかなりたちの悪い酔っ払いになってますが別に嫌いじゃないですよ?
面白かったけど、大魔王は焼酎だな。
>>492 まじですかorz
私の不勉強と詰めの甘さが出てしまいました。
今後は気をつけます。
エリ×ヴィって、かなーーーり久しぶりだよな。
GJ!
>>491 教導官自重w
それにしてもヴィイイイタアアアアアアアア・・・!
そんなガキじゃなくて俺の膝の上に乗れよ
もう次スレの季節ですな
投下乙。
エリヴィ、結構良いカプだ。
んでは自分が新スレ立ててきます。
>>491 GJです。
酒とは魔性の飲み物を表す典型とはまさにこの事。
やりたい放題のスバルと受けるだけのティアナ、ユーノがいなくて酒の勢いと腹いせにフェイトにセクハラしまくるなのは、そして両手に花になってしまったエリオと楽しめました。
エリオだけじゃなく、なのはやスバティアの翌朝も気になったり…
新スレ乙
あの名前欄っていつも同じ人が書いてるの?
>>499 自分が立てる際にはなんか入れるようにしてます。
でも他の方も何かしら入れる場合ありますね。
>>493 GJ!!
いや魔王様が好きな飲み物なんて決まってないのでお気になさらず
そしてヴィータ→エリオ←キャロの微笑ましい(?)様子が凄く良かったです。
これである意味エリオにとって大変な一年の始まりという訳ですね。
>>493 GJ!
ほのぼのとしてて面白かったです。
エリオとヴィータもなんか新鮮だったwただ、シャマルとザッフィーはなにをしてたんだか。
>>491 酒を飲んだこの夜、エリオが欲望に負けてキャロ、ヴィータに手を出したのかが問題だ
むしろ出していた方がGOOD!
キャロもヴィータもかわいすぎです。
GJ!!
∬ ∬
∬
)
,'`》'´⌒`彡
ノ,ィ∝ノノ)))))`.
( ( ゝ(l!_^ -ノ|l.ン|
ノ)  ̄∪ ̄∪彡|
'´} . . ...::::;:;;;;;彡{ みなさん、お茶に入りましたよ・・・。
i . . ...:::;;;;;彡|
} . .....:::;::;:;;;;彡{
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ト , . ....,:;:;:==:彳:::::::::::::::::::::::::::..
ヽ、.. .......::::;;;ジ.::::::::::::::::::::::
【次スレ】
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| | | | | | | | | | |∪
| | | | | | | | |・∀・)*⌒
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| | | | | | |∪
| | | | |・∀・)*⌒ 0時に合わせ鏡をすると…
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|と/|/
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斬るのは得意です
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:/ノ.人l|_゚(フノl!ハヽ曰ヽ↑ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ‘i、 ̄\
: (.( ,' ̄ .〉つ━─━O== >> > | │> )
: / ノ|〉. .|,\↓____________ ゙l /
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