魔法少女、続いてます。
ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレです。
『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
・オリキャラ
・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)
『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。
【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
読み手側には読む自由・読まない自由があります。
読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。
『注意情報・臨時』(暫定)
書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。
リンクは>2
>>1乙なの
2009年も、魔王様は絶好調でSLBぶっ放しまくりなの
>>1さん乙かれ
さて、前スレが埋まりましたが、早速行って大丈夫でしょうか?
結構この辺りの時間って投下多そうだから。
五分待って何もなければ落とします。
8 :
野狗:2009/01/05(月) 22:31:15 ID:sNUonaed
じゃ、行きます。
魔法少女リリカルなのはIrregularS 第十二話です。(全十三話予定)
捏造まみれです。
あぼんはコテで。
レス数19
9 :
野狗:2009/01/05(月) 22:31:53 ID:sNUonaed
1
車椅子に乗せられたセインは呆然と三人を見上げ、そして絶句していた。
セインは、騎士カリムを驚かそうと思ったのだ。そう、単純な、彼女らしい悪戯心で。
だから、わざわざ頼んでまでウーノに車椅子を押してもらっているのだ。
よりによってナンバーズ長姉であるウーノが遊撃隊で出迎えれば、さしものカリムも驚くだろう、そう思ったのだ。
拘置所にいるはずのウーノの身柄についてはエリオが、そして今はティアナが保証してくれる。そもそも、自分が一緒にいるのだから大丈夫だ。
セインは、自分はもうカリムにはそれなりに信用されていると思っている。
「お久しぶりです。シスターシャッハ、騎士カリム」
そう言ってニヤニヤ笑いながら迎えに出た瞬間、セインは絶句した。いや、絶句したのはセインだけではない。ウーノも同じだ。
車椅子はぴたりと止まっている。
絶句した二人に、シャッハは涼しい顔で告げた。
「何を驚いているのですか? 騎士カリムの来訪はあらかじめ伝えてあったはずです。
シスターセイン、貴方は騎士カリムを出迎えに来たのでしょう?」
教会を出てしばらく経つのだが、シャッハやカリムにとっては一度でも教会に所属していたセイン、ディード、
オットーはいつまでもシスターだ、と言うことらしい。
「は、はい」
セインはようやくそれだけを答える。
「それから、はじめまして。ウーノさん。貴方もそうなのでしょう?」
「は、はい」
珍しく言葉が途絶えるウーノ。この状況では、何故自分の名前を知っているのかという疑問は愚かなものだろう。
カリムとシャッハの二人に斜に挟まれるように立っていた男が、そんな二人の反応を見て微笑む。
「ははは。なるほど、わざわざここへやってきた甲斐があったというものだな。まさか、ウーノのそんな顔が見られるなんて」
「な、なんで……」
セインの当惑した口調に、男は首を傾げる。
「娘に会いに来るのに、理由がいるのかい? セイン」
そして男は、セインの車椅子に手を伸ばす。
「さ、ウェンディたちの所に案内してもらえるかな?」
「そんな、車椅子まで!?」
「気にすることはない。私だって、たまには身体を動かしたくなることもある」
「言っておきますが、あまり調子に乗りませんように」
シャッハは、スカリエッティに冷たく釘を刺した。
魔法少女リリカルなのはIrregularS
第十二話
「エースの帰還」
10 :
野狗:2009/01/05(月) 22:32:27 ID:sNUonaed
2
スバルは叫ぶ。
「ごめん! ギン姉! ノーヴェ!」
その瞬間、赤と黒、そして白の閃光が舞い降りる。
「何やってやがる! あきらめてんじゃねぇっ!!」
え? と見上げようとしたスバルの身体を引きずりあげる力。そして、放たれる魔力。
ディバインバスターを真っ向から打ち消し、その余力で地面のコピーを吹き飛ばす砲撃。
「あ……」
目の前に、ギンガとノーヴェが浮いていた。いや、二人の身体は別の二人に抱えられている。
「ヴィータさん……はやてさん……」
そして、スバルは自分の身体を抱える姿を見た。
「遅れてごめん」
「なのはさん!」
「うん。久しぶりだけど、挨拶は後だね。行くよスバル」
「はいっ!」
エースオブエース高町なのは。スバルが最も尊敬し、追い続けている人。そして、未だに管理局最強魔道師の一人と呼ばれる魔道師でもある。
「はやてちゃん、ヴィータちゃん、三人をお願い」
「わかった、任せて。リイン、行くで!」
「ハイです!」
「任せとけ! なのは!」
ユニゾンイン
黒い翼をまとい、はやてはシールドを最大に張り巡らせる。
その後ろで、ヴィータは三人を抱えていた。
「スバル、ありゃいったい何なんだよ」
ヴィータはなのはと合流して各地のフェイクマザーコピーを潰してきた。しかし、ここまでのコピー群を見るのは初めてなのだ。
「なのはさんのコピーです」
「あんなの量産されたら、シャレなんねえぞ」
「そやけどヴィータ、コピーはどこまで行ってもコピーや。本物にはどう足掻いても勝てへん。それをきっちり教えてあげよか」
「へへっ。はやての言うとおりだ」
「でも、数が……」
「ああ? 数で押すだけで勝てるなら、あたしらはいらないだろ?」
「来るで、ヴィータ!」
「おうっ!」
ライナーズとクローラーズの襲撃に、ヴィータはグラーフアイゼンを握り直す。
「とっとと片づけて、シグナムたちと合流だっ!」
11 :
野狗:2009/01/05(月) 22:33:04 ID:sNUonaed
3
ライナーズが、不完全ディープダイバーを解除して一気に数十倍に増える。
一瞬にして空間を覆う敵機。
「剣閃烈火!」
レヴァンティンが燃え上がり、それ自体が巨大の炎の剣と化す。そして、炎の剣がさらにその炎熱を広げながら空間へと叩きつけられた。
火竜一閃
わずか一撃にて大多数を撃墜される一群。残った数機も、ヴィヴィオとフェイトによって個別に撃墜されていく。
「強くなったね、ヴィヴィオ」
「うん。ディエチさんのおかげだよ」
そのディエチは、地上でジュニアに応急処置を受けていた。
ディエチ、ジュニア、シャマル、ヴァイスは、墜落したヘリの残骸を盾とするような形で陣を作っている。
「ディエチさん、これで砲撃戦には参加できますけど、くれぐれも無理はしないでください。接近戦は厳禁ですよ」
「努力する」
「努力じゃなくて、駄目なものは駄目なんです」
「ジュニア……でも、あたし一人が休むわけには」
「僕はもう、誰もいなくなって欲しくないんだ!」
激しい叫びに、ヴァイスの怪我を見ていたシャマルが振り向く。
「ジュニア?」
「僕の力じゃ、ウェンディさんにも、オットーさんにも、トーレさんにも何もできなかった! だからもう……っ! だから、嫌なんだ!」
ディエチは、ジュニアに思い切り引き寄せた。
「……ディエチ……さん?」
「だったら戦ってください。あたしを戦わせてください。あたしはもう、死ぬためには戦わないから。
生きるために、ジュニアを護るために、勝つために戦うから」
ディエチは、引き寄せたジュニアに語りかける。
「そして、諦めないでください。ウェンディたちのこと……」
なすがまま、真っ赤になって抱かれているジュニア。
「あたしは絶対に死なないから。ジュニアが一緒にいてくれる限り、必ず生きるから」
「おい、あれ!」
12 :
野狗:2009/01/05(月) 22:33:39 ID:sNUonaed
4
ヴァイスが示した先、セッテとディードが先を争うようにクローラーズを切り捨てている。そしてその先、こちらに近づいてくる点は……
「ザフィーラ!」
セッテとディードも怪我人を背負ったその姿に気付くと、すぐさま迎えに駆けつける。
とんぼ返りでそのまま陣まで戻った二人の腕の中には、それぞれキャロとチンクが抱かれていた。
「なんて……こった」
二人の惨状に思わず呻くヴァイス。
キャロは苦痛に歪んだ表情のまま意識を失い、両足はあらぬ方向に曲がっている。チンクに至っては、四肢を失っているのだ。
「何をやってる?」
そのチンクを床に安置して静かに尋ねるセッテに、ディエチはようやく自分がジュニアを抱いたままでいることに気付いて慌てて手を離す。
「……ディエチ姉様、この非常時にいったい何をなさっているんですか……」
ディードの冷たい視線に、ディエチは思わず謝った。。
「ご、ごめん……」
ジュニアはチンクの状態を診ると、すぐにディードに向き直った。
「ディードさん、チンクさんの両手足、残った部分を斬ってください」
「なに?」
「中途半端に循環機能が生きていると、不純物が体内に取り込まれる危険があります。キリのいいところで切ってしまった方がいいんです」
「わかりました。場所を指示して」
チンクの制服を脱がせ、足の付け根と両肩に印を付けるジュニア。
「切断口はすぐに処置しますから。我慢してください、チンクさん」
ジュニアは自分のデバイスをセットアップすると、ディードの行動に備える。
一方、シャマルはキャロとルーテシアを手早く診察する。
「どうなんだ? シャマル」
ザフィーラの問いにシャマルは唇を噛みながら首を振った。
13 :
野狗:2009/01/05(月) 22:34:13 ID:sNUonaed
5
「ここでできることは何もないわ。キャロちゃんの足もすぐには無理よ。処置はされているけれど、これはただの痛み止め。
直すための処置じゃないわ。それに飲まされているのはただの薬じゃなくて、魔法効果が込められている。この薬を抜くには専門の施設が必要よ」
「ノーヴェも言っていたが、やはり、こちらの手を煩わすための罠でもあるようだな」
「ザフィーラ!」
「すまん。失言だ」
しかし、ザフィーラの言葉ももっともだった。ヘリという輸送手段を失った今では、怪我人の搬送にあてられた人員の分だけ、
戦闘員が減ることになるのだ。
実際に殺される直前で助けられたチンクを別として、少なくとも、この状況でルーテシアとキャロを生かしておいた意味など敵側にはない。
あるいは、キャロの死によって起きるかも知れないヴォルテールの暴走を恐れたのか。
「どっちにしろ、このまま消耗戦を続ければ不利になるのはこっちよ。なんとかして、大本を叩かないと」
ジュニアが、チンクの処置を終え、ルーテシアとキャロの様子を確認しながら言う。
「クアットロ、ローヴェン、ハーヴェスト。この三人を捕らえれば向こうは指導者を失います。そうなればフェイクマザーの破壊は容易です」
大まかにスバルたちの現況を伝えるザフィーラ。
「……スバルとノーヴェの話では、地下に基地があるらしい。それも、ゆりかごのような内装だという話だ」
ゆりかご。という言葉に一同が反応する。
「まさか、ゆりかごまでコピーが可能だというのですか?」
ディードの問いに、ジュニアが頭を捻る。
「理論的には可能だけど、実際問題としてその価値があるかどうか……。ゆりかごをコピーしたというよりも、
ゆりかごを参考にした新施設だと思った方がいいんじゃないかな」
「新施設? 基地の内装にゆりかごを利用するのか?」
「さあ。しかし、考え込む時間はないようですね」
ディードとセッテは再び空へ向かう構えを取る。ザフィーラも二人に従うように飛ぼうとする。
「ディエチ、ヴァイス、援護射撃を頼むぞ」
「わかってる」
「旦那。精々、お嬢ちゃんたちを助けてやってくれ」
ザフィーラは地を離れる瞬間、ヴァイスにうなずいて見せた。
その表情が微かに変わる。
「シャマル、すぐに地上から離れろ!」
14 :
野狗:2009/01/05(月) 22:34:52 ID:sNUonaed
6
……風?
エリオは、頬を撫でる冷たい風で目を覚ました。
身体を起こして辺りを見回す。
「ここは?」
見覚えのない殺風景な風景。どこまでも続いているような岩肌と、どんよりと曇った、それでいて妙に明るい空。他には何もない。
ローヴェンもいつの間にか消えている。それどころか、ここはさっきまで戦っていた場所ですらない。
何もない世界に、ただ風だけが吹いている。
「ここは、どこなんだ?」
エリオは立ち上がった。その瞬間、目眩のような違和感が全身を覆う。
体が軽い。軽すぎる。
今この瞬間にも、風に吹かれてどこかへ飛ばされそうな感覚だった。
その場で立ちつくし、じっと自分の手を見下ろす。
「なんなんだ、これは……」
またも違和感が。
エリオは自分の身体を見下ろした。
腕。足。腰。胸。
違う。これは違う。自分ではない。
いや、自分だ。しかし……
これはあの頃の……、六課にいた頃の自分ではないか。
「なんで……」
女の子の声が聞こえる。
「フェイトさん!」
忘れるわけがない、これはキャロの声。
15 :
野狗:2009/01/05(月) 22:35:24 ID:sNUonaed
7
「どうしたの、キャロ?」
「これから、どこへ行くんですか?」
いつの間にか、目の前に二人が立っていた。
エリオには気付かないように仲良く話している二人は、紛れもなくキャロとフェイト。しかも、二人ともが六課の頃の姿だ。
「これから行くのは、機動六課。新しいお仕事の場所なんだよ」
「私も行くんですか?」
「うん。新しいお家ではキャロも一緒に暮らすんだよ。私がお仕事に行っている間は、お留守番よろしくね」
しかし、二人の会話は記憶とは違う。そんな事実はなかったはずだ。キャロはたった一人で六課へ来て、そしてエリオと出会ったのだから。
フェイトと暮らしていた過去などない。
「フェイトさんと二人だけのお家なんですね」
「寂しい? でもきっと、なのはやはやてはすぐに仲良くしてくれるよ。寂しいのは最初だけだよ。それに、フリードもいるんだし」
「あの、前にお話を聞いたエリ…」
「やめて」
キャロの言葉をフェイトが押しとどめる。それは、エリオが初めて見る、あまりにも冷酷なフェイトの表情だった。
「その名前は出さないで、キャロ。思い出したくないの。そもそもあの偽者はそんな名前じゃないもの。
可哀想な亡くなった子供の名前を、アイツが盗んでいたのよ」
「え……」
「罪もない子供の命と名前を盗み、私の遺伝子を盗んで生まれた、プロジェクトFの末裔。滅ぼされても仕方のない存在……」
「フェイトさん……まさか……」
立ち止まるフェイト。
その手には、いつの間にかバルディッシュがハーケンフォームで握られている。まさに、死神の鎌が。
「うん。だからね、私が偽者を滅ぼしたんだ」
フェイトの瞳に映る自分の姿をエリオは見た。
「……フェイト……さん」
「まだいたんだ。しつこいね」
振り下ろされるバルディッシュに切り裂かれる己の肉体を、エリオは感じていた。
16 :
野狗:2009/01/05(月) 22:35:59 ID:sNUonaed
8
「騙したんだ!」
キャロが叫んでいた。
いつの間にか大人になったキャロが、切り裂かれたエリオを糾弾するかのように指さし、叫んでいた。
「貴方だけが、本当のフェイトさんの子供だった! 私を騙して、フェイトさんを騙して!」
「キャロ……」
エリオは手を伸ばす。
その手に突き立てられるナイフ。
横に立っていたルーテシアが、二本目のナイフを構えていた。
「私には、お母さんがいる。貴方とは違う。実のお母さんすら騙した貴方とは違う」
「君が、僕を殺したんだ」
エリオがいた。本物のエリオ・モンディアルが、切り裂かれ地に落ちたエリオを見下ろしていた。
「ちが……う……」
騙したかったわけじゃない。
殺したかったわけじゃない。
……違う
フェイトさん。キャロ、ルーテシア、そして……エリオ。
……違う。違うんだ、話を聞いてくれ……
エリオの訴えは言葉にならない。
言葉を届けられることもなく、再びエリオは一人になった。切り裂かれ、身動きすらできない身体は地に放られ、ただ朽ちていく。
……違う。
声にならない。
……違う。
それでもエリオは叫ぼうとする。
「つーかさ、お前さん、何がしたいんだよ」
どこかで聞いたような、しかし聞き覚えのない声が聞こえた。
17 :
野狗:2009/01/05(月) 22:36:35 ID:sNUonaed
9
アクセルシューターの誘導弾が次々とコピーをぶち抜いていく。
続けて、上空からのショートバスターの連発。
「……くっ」
しかしコピーの数は一向に減らないどころか、逆にその数を増している。
「なのはちゃん、このままやったらキリがあらへんよ。消耗戦になったら、お客さんのこっちが不利や」
「うん。だけど……」
はやてとの短い会話の中でも、次々と生まれるコピーたち。砲撃特化のためか、現れるのは全て、なのはのコピーだ。
「はやてちゃん、広域効果魔法で一気に頼める?」
「あたしも時間を稼ぎます」
スバルがはやての横に並ぶために展開させていたウィングロードを伸ばし始める。
「あたしも、もう行けるぞ」
意識を取り戻していたノーヴェが横に並んだ。
「無理したらあかん……て、言える状況や無いな」
「無理は承知です」
スバルとノーヴェは腕を合わせる。
「ノーヴェ、メビウスシュートで地表すれすれに走って、コピー連中を削る。行けるね?」
「おめえにできて、あたしにできないことがあるわけないだろ」
「そうだった」
拳を打ち付け、スバルが走り出す。そしてノーヴェも。
「行くよ、表裏一体!」
「メビウスシュート!」
螺旋の力場が二人を運び、そこへ迫り来るライナーズを撃ち落とすのはシュワルベフリーゲン。
「あたしのことを忘れてんじゃねえぞ!」
叫ぶヴィータのグラーフアイゼンがギガントフォルムに変わる。そしてそのまま地に向けて振り下ろされる鉄の伯爵。
「受けろッ!」
GIGANT HAMMER
18 :
野狗:2009/01/05(月) 22:37:18 ID:sNUonaed
10
ノーヴェとスバルが通り過ぎてから、生まれるコピー群の頭上に叩きつけられる大打撃。地を震わせる打撃に、さすがのコピー速度も鈍った。
その間隙に、はやての呪文の詠唱が終わる。周囲に発生していた四個の立方体が、それぞれの魔力を高め、
「仄白き雪の王、銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ、氷結の息吹」
ATEM DES EISES
着弾とともにたちまち凍り始める地表。凍った地面ではさすがにコピーの動きも止まる。
広がる白銀。
「……やったか?」
「はやてっ!」
悲鳴のようなヴィータの叫びに、はやてとなのははその示す方向を見る。
「な……なんなの……」
「なんやて……」
氷結した地の向こう。いや、氷結よりも速いスピードで広がっていくそれは、紛れもないコピー群。
コピーによって埋められる地は、島全体に広がろうとしていた。
そして、そこに見える大きな輝き。
「はやてちゃん、ヴィータちゃん、避けて!」
見えたもの自体への警戒心よりも、なのはの緊迫した口調に二人は慌てて回避行動を取る。
その空間ごと削ぎ取るように、空気を貫いて通過する一条の魔力。
「今の……」
「スターライト……ブレイカー……」
「なのはさん!」
凍った地表で、スバルとノーヴェが何かを囲んでいる。
当面の攻撃の心配はないため、三人はギンガを連れたまま地表に降りる。
「見てください、コピーたちを」
死んだ、いや、溶けていくコピー群。
「……ジュニアから聞いた。コピーのスターライトブレイカーは、オリジナルのものとは違う。
生きている者からリンカーコア魔力やテンプレート魔力を強引に奪い、命すら奪って魔力を集束するって」
19 :
野狗:2009/01/05(月) 22:37:58 ID:sNUonaed
11
ノーヴェが言うと、スバルは何かに気付いたようにハーヴェストがいた場所を見る。
その身体は、半分溶けていた。
「……ハーヴェストまで?」
ハーヴェストは、自分を見ているスバルに気付くとにたりと笑った。
「は……は……私など、いくらでも……コピーで……きる。私の命……が、クアットロ……様のた……めになるのなら……私は……」
がくりと肩が落ち、ハーヴェストは空を見上げるように崩れ落ちる。
「……クアットロ様のた……め………………………………嫌! 死にた……くない助……けて……スバル、ノー……ヴェ姉様、
誰か……降伏する……死に……たくない」
ノーヴェは拳を固め、虚ろになりつつあるハーヴェストの目前に突きつけていた。
「ふざけるな! お前がオットーを、トーレを殺したんだろうが! チンク姉をあんな風に……」
「助け……て……死……にた……くない……苦し……いの……痛い……」
「ふざけんじゃねえよっ!」
数歩下がり、ガンナックルを構える。
「てめぇは……てめえはっ!!」
動きかけたスバルを止めるなのは。何か言いたげなスバルに首を振るはやてとヴィータ。
「どっちにしろ、あそこまでいったら、もう誰にも助けられへんよ。たとえ、ジュニアでも」
「死……ニた……ク……なイ……いタイ……」
ハーヴェストの目には紛れもない恐怖と苦痛の色。
「おネ……ガ……い、助……ケて……苦シい……ノーヴェ……ねエサマ……痛イよ……」
「う、うぁあああああああっ!!!」
地面にたった一つ残った拳を叩きつけるノーヴェ。
「畜生! 畜生!! ちくしょぉぉおおっ!!!」
やおら立ち上がり、スバルの肩を掴む。
「頼む……スバル。振動破砕で一気に、苦しまないように、やっちまってくれ」
ノーヴェは俯いた顔を上げようともしない。
「あいつも……ナンバーズ……あたしの妹なんだ……せめて、最期くらいは」
スバルはうなずいた。
20 :
野狗:2009/01/05(月) 22:38:32 ID:sNUonaed
12
シャマルは辺りの様子に気付くと咄嗟にジュニアを抱き上げた。
地上には、コピーなのはが次々と生まれてきている。ザフィーラの説明と全く同じ現象だ。ならば、次に来るのはディバインバスターの乱射だ。
「シャマルさん、僕より、チンクさんたちを!」
新たに生まれ、地表に蠢くコピー群。そして同時に、力を失い落下していくコピー戦闘機人。
それが幸か不幸か、その隙にシグナムたちも含めた全員が一旦集まることができた。
しかし、自力で飛ぶことができるのはシグナム、フェイト、ザフィーラ、シャマル、セッテ、ディード、ヴィヴィオの七人。
飛ぶことができないのは怪我人のルーテシア、キャロ、チンク、そしてジュニアとディエチ、ヴァイスの六人である。
地上に残れば助からないだろうというのが全員の一致した見解だ。シールドを最大限にすればしばらくは保つだろうが、
そんなものは時間の問題に過ぎない。
「私とルーテシア、キャロは残していけ」
意識を回復していたチンクが告げる。
「馬鹿なことを言わないで」
フェイトの言葉を無視して、チンクはセッテとディードに告げた。
「ジュニアとディエチ、ヴァイスは戦力になるが、我々は単なる足手まといだ。議論の余地はない。我々を捨てていけ。これは姉からの命令だ」
「ジェイル・スカリエッティ・ジュニアの名において、その命令は却下だ」
ジュニアがチンクの前に立つ。
「そんなことをすれば、僕たちとクアットロやローヴェンに何の違いがあります? 似たもの同士の争いですか、これは?」
「しかしジュニア、考えてください。他に手があるのなら、私だってそれを選びたい」
「駄目です」
「ヴォルケンリッターの将として、ザフィーラとシャマルの分まで言わせてもらうが……」
シグナムがジュニアの肩を叩く。
「我ら全員が飛ぶか、我ら全員が残るか。二つに一つだ」
「言い出したら聞かないんだろうな」
「あまりお前と話したことはないが、よくわかっているようだな」
「ふん、トーレにそっくりだ」
「前に、ディードにも同じ事を言われたな」
「だが、代案がなければ自己満足に過ぎないぞ」
「それはわかっている」
何かをデバイスで計算していたジュニアが、ディエチとシャマルに声をかける。
「こうなったら、切り札を使いましょう。あれならコピーを一掃、おそらくは地下にあるフェイクマザーまでダメージを通せるかも知れません」
全員がジュニアを見た。
21 :
野狗:2009/01/05(月) 22:39:07 ID:sNUonaed
13
「ヴィヴィオにも手伝ってもらえるかな?」
「いいけど……何を?」
「ヴィヴィオは、スターライトブレイカーが撃てるの?」
「え?」
ジュニアは一同を見渡した。
「シャマルさんのレアスキル旅の鏡を利用した広範囲集束による、ディエチさんの戦闘機人式スターライトブレイカー。それが僕たちの切り札です」
「それじゃあ……」
「うん。可能なら、ヴィヴィオには従来の方法でスターライトブレイカーを撃ってもらう。二段構えの砲撃だ」
「でも、砲撃シークエンスが間に合うの?」
「間に合うのか、ではない」
ザフィーラがヴィヴィオの頭を撫でた。六課の頃とは逆に。
「間に合わせるのだ。お前ならできる」
そして、騎士甲冑の籠手の位置を直した。
「ヴィヴィオとシャマルは、ディエチとジュニアを抱えて飛べ。我らは砲撃までの時間を稼ぐ」
コピーの呻きが周囲に満ちあふれる。
フェイトはディフェンサープラスを地上に残る四人の周りに張った。
「長くは保たないかも知れないけれど、チンクとルーテシア、キャロをお願い」
ヴァイスが親指を立てる。
「任せてください」
「……こうとわかっていれば、ユーノを引っ張ってくれば良かったかな」
ユーノは、クロノと一緒に管理局への働きかけを行っているはずだった。無限書庫司書長としてのユーノの政治力は、
今ではクロノ以上のものがあるのだ。
「後悔しても始まらん。持てる力で勝負するしかあるまい。行くぞ、テスタロッサ」
シグナムがレヴァンティンを抜いた。セッテとディードもそれぞれの固有武装を手に取る。
「はい」
「ちょっと待つッスよ!」
いきなりの声に、チンクの目が見開かれる。
ディードが愕然と振り向いた。
「……ウェンディ!?」
22 :
野狗:2009/01/05(月) 22:39:41 ID:sNUonaed
14
ウェンディは大きな欠伸をした。退屈だ。何もすることがない。
いや、それ以前に自分はいったいここで何をしているのか。
いや、ここはどこなのか。
ただ、白い空間がどこまでも広がっている。
「ウェンディ」
呼ばれて振り向くと、驚いたことに次女がいる。
「ドゥーエ姉?」
「あら。会ったこともないのに覚えてくれているの?」
「クア姉のところに写真があったッス。あれ? ドゥーエ姉がいるってことは……」
「私もいるぞ」
「僕もいるよ、ウェンディ」
「トーレ姉に、オットーまで」
ウェンディは複雑な顔で苦笑する。わかってしまった。
突然、記憶が戻ったのだ。ガリューとともに、コピーなのはのSLBを阻止した記憶が。
ということは、向こうの方に微かに見えているのはガリューなのだろうか。こちらが姉妹ばかりだから遠慮しているのだろうか。
「あいつら、そんなに強かったんスね」
しかし他の姉妹の姿はない。完璧な負け戦ではないのだろう。それだけでも、自分がここに来た価値はあった、とウェンディは誇らしく思う。
「お前と一緒にするな。私とオットーはコピーごときには負けん」
「う。ひどいッス、トーレ姉」
「だったら、次は上手くやるんだな」
いいながら、トーレはドゥーエの横に並んだ。
「お前とオットーには次がある。だから、うまくやれといっているんだ」
「トーレ姉は……」
「私は、もういいんだ。伝えるべきことは全てセッテに伝えた」
「でも」
「それに、ドゥーエ一人にクアットロの面倒を押しつけるのも可哀想だしな」
トーレは笑った。
「ああ、一つだけ。ウーノにはゆっくり来いと伝えてくれ。あいつがこっちに来るときは、ドクターと一緒でないと許さんとな」
薄れていく周りの景色。ウェンディはトーレに向かって手を伸ばす。その自分の手も透けていくのが見えた。
「トーレ姉! ドゥーエ姉!」
去り際に二人が振り向いた。
写真でしか見たことのない顔。訓練の厳しい表情しか見ていない顔。
二つの顔が、優しく笑っていた。
23 :
野狗:2009/01/05(月) 22:40:23 ID:sNUonaed
15
「……ウェンディ!?」
ディードたちの視線の先には、意志ある者のように宙に浮かぶ8体のドーターズ。そして、ジュニアが脇に置いたはずのライディングボード。
一体のドーターズには、送受信機とスピーカーが据え付けられている。どうやら、ドーターズだけでこの世界へ飛ばされてきたらしい。
「ただいまッス! まだ身体は不完全ッスけど、ドーターズを操るには問題ないッスよ」
「どうして……」
「キャロとルーテシアとチンク姉はボードに乗せて、後の人はドーターズを使って飛ぶッス」
元々、ドーターズは飛行不可のナンバーズが飛行できるように設計されていたものだ。いわば、これが本来の使い方になる。
「それから、ジュニアに話があるみたいッス」
「話? 誰が?」
「替わるッス
「……ウェンディの身体の再生に時間がかかるのはわかる。しかし、脳に損傷がない者の意識を呼び覚ますこともできずに、
私の後裔を名乗るかね、未熟者。オットーに至っては、フレームが無事じゃないかね。
単なる心停止をこうも容易く死に結びつけるとは、本当に私の知識を受け継いでいるのか疑わしいものだ」
ジュニアとディードはそれぞれ別の意味で絶句した。
スカリエッティの声が、すぐにティアナの声に替わる。
「エリオ、スバル、いる? スカリエッティは騎士カリムとシスターシャッハが身柄を確保しているから安心してね!
好きなことはさせないようにちゃんと見張ってるから!」
「えーと、よろしく頼むね、ティアナ」
「フェイトさん!? いたんですか!」
「ドクター! トーレは!」
セッテが送受信機にぶつかりかねない勢いで話しかける。
「セッテ……すまない」
「いえ」
セッテはうなずいた。
「トーレの意志を私は継ぎます」
セッテの肩に手を置くディード。セッテはその手を振り払うこともなく、顔を上げた。
「心配はいらない」
「セッテ、貴方がナンバーズの実戦リーダーよ。トーレの意志を継ぐのなら、そうなってもらわなければ困るわ」
「そうだな」
チンクが横からうなずく。
「経験不足は周りの者がいくらでも補える。ここの隊長を見ていればわかることだ」
シグナムが笑った。
「なるほど。エリオも反面教師にはなれるか」
24 :
野狗:2009/01/05(月) 22:40:56 ID:sNUonaed
16
「つーかさ、お前さん、何がしたいんだよ」
どこかで聞いたような、しかし聞き覚えのない声が聞こえた。
「……なんだと?」
辛うじて、声が出る。
「半端な男だな」
誰だかわからない。しかし青年らしき口調は確実にエリオの神経を逆撫でしている。
「まったく、情けねえよな。大の男が。初恋の人が母親だったって、それがどうしたっての」
「お前!」
大声が出た。そして、身体が起きあがる。
「んだよ、起きられるじゃねえか」
エリオは自分の身体を見た。いつの間にか現在の自分の姿に戻っている。
「フェイトだっけ? 母親のように思ってたんだろ? それが実際の母親だった。何がまずいんだ?」
「誰だ、お前」
「てめえの半端さ加減にど迷惑してるもんだよ」
「なんだって?」
細身の青年が傷だらけの迫力ある顔でエリオを睨みつけていた。細身と言っても、痩せているというよりも引き締まったという雰囲気だ。
「お前さんがフェイトの遺伝子的な子供だとして、誰がどう困るんだ?」
「それは……」
エリオは言葉を出せなかった。確かに、ショックな出来事だった。それは間違いない。しかし……
「その程度で落ち込んでる場合か? お前の親が誰であろうと、お前に何の関係がある?」
「俺の親は……」
「捨てられた身だろ」
身体が竦む。未だにこの言葉を聞く度に身が竦むのを覚えるのだ。
「お前のやりたいことってのは、親を捜すことなのか?」
「違う」
「フェイトって人に認められたいから、デバイス担いで戦ってるのか?」
「違う! いや、昔はそうだった。六課に入ってすぐの頃はそうだったかも知れない」
25 :
野狗:2009/01/05(月) 22:41:30 ID:sNUonaed
17
だが、違う。いつの間にか、エリオは目的を変えていた。
キャロのため、ルーテシアのため。
そして今は……
キャロのため? 違う。
ルーテシアのため? 違う。
何のため?
「言葉を恐れるな。誤解されてもいいじゃねえか。言いたいやつにいは言わせておけ。お前さん、何のために戦うんだよ」
「……護るため」
「え?」
「護るためだ」
「何を? 管理局を護るのか?」
どうでもいい。場所などどうでもいい。
護るモノがある。いや、護りたいモノがある。
「俺は護りたい。形は変わっても、言葉は替わっても、人を護りたい。護るべきモノがあるなら、それを護りたい!」
「だったら、お前のやることってなんだよ」
ローヴェンを倒す。
いや、違う。
護ること。己の道を。
貫き通すこと、己の意志を。
青年は大袈裟な、わざとらしい溜息をつく。
「気付くの、遅すぎるんじゃねえか? 苦労するぜ、まったく」
そして、エリオも気付いた。
「すまん。遅かった」
「そうだ。遅かった」
「それでも、俺についてきてくれるか?」
「んなこと聞くなよ。当たり前だろ。俺はそのために生まれたんだぜ?」
「ありがとう」
「礼より先に、やることがあるだろ」
エリオは立ち上がる。
何も持たない手を掲げ、そして叫んだ。
「来い! ストラーダ!」
青年は拳をあげて応える。
「Jawohl!」
26 :
野狗:2009/01/05(月) 22:42:11 ID:sNUonaed
18
エリオは目を開いた。
二つのデバイスを構えたローヴェンが肉薄している。
その切っ先が胸元に触れる寸前、エリオは自ら飛んできたストラーダをつかみ取る。
ストラーダがローヴェンのデバイスを弾いた。
「ローヴェン!」
「今更、足掻くなよ。みっともない」
「足掻くさ! 何度でも!」
27 :
野狗:2009/01/05(月) 22:42:48 ID:sNUonaed
19
次回予告
ジュニア「今、一つの戦いが終わろうとしている。たった一つの戦いが。
それがどんな戦いであろうと、それは最後の戦いなんかじゃない。
戦いを永遠に止めることなんて、僕たちにはできないのかも知れない。
だけど、それを止めようとする意志がある限り、僕たちは進み続ける。
次回、魔法少女リリカルなのはIrregularS 第十三話、最終回『世界の中心で』 IRREGULARS ASSEMBLE!」
28 :
野狗:2009/01/05(月) 22:43:22 ID:sNUonaed
以上、お粗末様でした。
次回最終回、できるだけ早くやりたいと思ってます。
投下乙!
前スレ埋めの人も乙でした!
>>28 GJ!これはきれいなドゥーエw
伝法なストラーダかっけえ
>>28 GJ
あー、ストラっちんか
そもそも、Asの時点で「ヴォルケン仲間ww人多ぐるww話作るのに使いこなせねぇww」と思ってた俺にとって、今まででも多彩にキャラを操ってすごいのに、一幕だけであれまだキャラ増えてなおカッコウイイってなんなの? 死ぬの? 次で終わるの? 楽しみにしてる
>>28 ジェイルktkr!!
これでかつる!!技術的にも!!
最終回裸で待ってます!!
>>28 GJ
これだけのキャラを出して、見事に動かすとは
次回最終回、楽しみにしています。
GJ!!
何故かSの心が出て、ノーヴェが姉を殺された恨みを言うのを見て、
あんたの姉は同じことを他人にやったんだぜ?って言いたくなってしまった。
クアットロとローヴェンはどうなるのかも気になります。
TVのシロッコのように相手に爪後を残せるか?w
GJ!!
エリオがかっけえっ!
ウェンディの復活も良かったが、一気に引き込まれた
愛するキャロ・ルーを護るだけでなく、含めて全てを護る漢ならこうこなくては
>>28 GJ
ストラーダがかっこよすぎる件。
前話終了時には心折られそうな上に相手と実力も段違いでエリオどう立ち直るんだろ?
キャロかルーで立ち直るのかな?と予測していただけにこう来るとは。
37 :
タピオカ:2009/01/06(火) 03:17:20 ID:LvtIsmuc
おじゃまします
注意事項
・戦闘ものでドカーン!バキーン!ガシャーン!とやりたいのです
・エロいはずがない
・本編終了して約1年ぐらいたってます
・敵組織オリジナルキャラクターで纏めちゃったので大量に厨二病が香るオリジナルのキャラクターをお届けします
・あまつさえオリジナルのロストロギアまで拵える始末なので、酷い捏造をお約束します
第七話「Red Step」
地下2階。
ギンガ、ティアナ、カウンターが潜り込んだセブン・アークス湾岸研究所の廊下は不気味なほど静かだった。
天井も高くたっぷりと幅もあるが、窓が見当たらない薄暗い廊下はどこまでも続きそうな錯覚を覚えてしまう。
ヴェロッサの言によれば地下3階にジュエルシードがあるらしく、鬱々と先が闇の通路をまだ走らねばならない。
「広い…」
「しかも長くて気が滅入るわね」
いくつかの分岐もあるが、そこは先頭を走る深緑の猟犬のおかげで最短ルートだ。
もっと違う道筋もあるが、無論、遠回りになるだろう。
ひとつ、角を曲がる。
そこで3人と1匹が足を止めた。
14部隊の十名近く倒れている。
ギンガが倒れる人員の状況を確認、ティアナがトゥーハンドを構えて周辺を警戒。
「意識がないわ。これは毒……かしら?」
ギンガが即座に立ちあがるが、一旦その進行を止めた。
猟犬が前方へ牙をむいて威嚇の体制なのだ―――誰か、いる。
こつりと闇の向こうから足音がした。
「時空管理局です、止まりなさい」
「止まらなければ?」
「撃つ」
蜜のようにとろりと甘やかな声色とともに、薄暗い照明に玲瓏たる白い面が覗く。
夢のような美女であった。
長く艶やかな黒髪、切れ長の黒い双眸がその新雪のような肌に実に映える。
ゆったりと長い四肢を纏う典雅な装いで、口元を隠してからクスリと笑った。
「まぁ、恐い」
止まった。
そこでようやく、その女の背後、付き添うようにアギトのレプリカがたたずんでいるのを認める。
「アギトのレプリカ……」
「レプリカ? 確かに、そうですけれど…ゲルヒルデ、と名づけておりますわ」
「それで、そう言うあなたは?」
「カグヤ、と申します」
「それではカグヤさん、すぐに投降して、ロストロギア及び違法物品の場所を教えなさい」
絵に描いたような大和撫子の微笑みで、カグヤがその袖を翻す。
「お断りいたします」
カグヤの片手がゲルヒルデと手をつなぎ、片手がクロスミラージュの銃口へとかざされる―――その手には、鉢。
一拍遅れてティアナがトリガー。
「ゲルヒルデ、体の管理を任せますよ」
アギト・レプリカの姿形がカグヤに溶け消えた……まるで、ユニゾンのようだが特有の外見変化がカグヤに見当たらない。
しかし分かる、威圧感が増した。
オレンジの弾丸が、見すぼらしい鉢の凹に触れ、
「仏の御石の鉢=v
厳かな発光。
瞬間、ティアナの弾丸が180度進路を変えて戻ってくる。
「うわ!?」
実に正確に再度トリガーを引けば、オレンジの弾丸が相殺、カグヤとティアナの中間で爆ぜて消えた。
「竜の首の玉=\――赤竜的呼気!」
優雅な仕草で、カグヤが首にかけた連なる五つの宝珠のひとつを指ではじく。
それが赤く、淡やかに灯れば、
「ふッ」
軽い吐息がカグヤから洩れた。
「!?」
途端、それが灼熱の業火と化して3人へと荒れ狂う。
いや、3人で済む問題ではない。倒れ伏す14部隊の隊員もまきこむ火炎だ!
「ドラゴンブレス!?」
「熱ッ!」
3人がフルパワーで防御魔法陣を重ねてその真っ赤な景色をせき止める。
通路をさんざんに踊って、目に痛む灼熱感がようやくおさまれば熱に揺らめく空気の向こう、カグヤがもうひとつ吐息をもらしていた所だ。
「竜の首の玉=\――青竜的呼気!」
ブリッツキャリバーが猛回転、主の思うさまに駆ける。
ギンガは見たのだ。
カグヤが吐息を洩らし、一寸の間は炎にならないのを。その間は、カグヤを焼かない為の間であり、自分たちが付け入る隙でもある。
「ふッ」
ドラゴンブレスが形になる、その間へとギンガが飛び込んでいく。
「ふふ、元気がよろしいのは結構ですが、毒です…………………………………………わ゛?」
カウンターが、とっさにティアナを吐息の進路からかばったが、ギンガは退かない。
体内に吸収される毒物を、機械の体が処理するのを感じながら不敵に笑った。
「私、そう言うの効かない体質なんです」
「きゃあ」
高速回転するリボルバーナックルが持ち上がれば、初めてカグヤが焦りに柳眉を逆立てる。
素人の身のこなしで後退しながら、眼をつぶって顔を両手で覆う様など、本当に打つ手ないようだ。
「リボルバー…」
「赤い靴=I」
<all right>
カグヤとギンガに割って入る赤い軌跡。
無機質な機械音声と、カートリッジがロードされる音が重なった。
「やああ!!」
逆立ちながら、その片足―――赤い義足のデバイスでギンガのリボルバーナックルを受け止める。
振り抜き切っていなかったギンガの拳に対して、赤い靴≠フ一撃は蹴りとして最高のしなりを得ていた。
勝負は、
「くぅッ!?」
ギンガが競り負ける。
押し負けた勢いを利用してやや後退。
カーレンもそれを追わなかった……いや、追えないのだ。
実はカグヤの散布した毒に、下半身こそ義足だが上半身が生身のカーレンでは飛びこめないのだ。
「カーレン…シュヴェルトラウテ…有難う」
カートリッジが吐き出され、ふくらはぎに相当する部分から魔力の残滓が排気されるのを見てカグヤが心底安堵する。
死んでいない換気の機能が作動する中で、さらに高温分解が可能な毒の一掃を踏まえて、カグヤが今一度吐息を零した。
「竜の首の玉=\――赤竜的呼気!」
業火の出現に、再び三重の防御を張りながら、ティアナが声を荒げた。
「ここ、任せる!」
ごうごうと燃え上がる炎に、カグヤとカーレンにまでその声は届かなかっただろう。
やがて、炎がおさまればティアナが倒れ伏していた。
「わー、なんてことだー! ティアナさんがー! やられてしまったー!」
(……大根)
ギンガがずっこけそうになる横で、カウンターが大仰に嘆いて見せながら、
「よくも!!」
電光纏って加速した。
カーレンの下半身に電撃を浴びせれば一発で沈黙させられる自信がある。
「ISフェイト!!」
「竜の首の玉=\――黄竜的呼気!」
跳躍と共にカウンターがその両手を広げれば、カグヤの首飾りのひとつが黄色に煌めいた。
カッと、雷電が縦横にほとばしれば、電磁ネットが逃げる間もないカグヤとカーレンを飲み込んだ……はずだった。
「あぁ、恐ろしい…」
しかしカウンターが見たのは、綺麗にカグヤとカーレンのみを避けて通路を焦がしただけに終わる自分の電撃。
電気が彼女たちを避けたようにしか見えないが―――実際に、その通りだ。
ほぼ大地と同等の絶縁状態を造り出せるカグヤのブレスは、電撃そのものを完全にカットするカーテンを作る事ができる。
信じられない物を見るように飛び出してくる赤い靴≠凝視するが、それで止まってくれるわけもない。
あっけなく吹っ飛ばされ、転がって咳き込みながら両手両足で踏ん張り、不格好な体勢のまま、
「フォトンランサー!」
ISではなく父から受け継いだ魔法を発動。
「仏の御石の鉢=v
しかし直線的すぎるその軌道をカグヤが正確に読み取り、手の中の鉢の凹に収めれば、自分自身にそっくり返ってくる。
ティアナのように相殺を狙うには速度に特化しすぎたその光子の槍を、カウンターはモロに喰らってまたさらに吹っ飛んだ。
「きゃん!」
「ほーっほっほっほっほっ、未熟ですこと!」
「クッ…分が悪いわ」
カグヤに完全に封殺されるカウンターを横目に、ギンガも苦しげに呻く。
稲妻じみた赤い蹴りが、顔面めがけて迫ってくるのだ。
姿勢を沈めてやり過ごしても、機械の義足は強引にその軌道を修正してかかと落としと化してしまう。
反則としか思えないほどの動き方だ。
このかかと落としを横っ跳びで避けても―――
「うわ!?」
間接に順逆のない赤い靴≠ヘ、気味の悪い方向に膝を折って追撃してくる。
変幻自在のその蹴りを、ギンガがどうにか受け止めた。
しかもあれだけ蹴りの方向を変えたのにもかかわらず、とてつもなく重い。
受け止められ、防壁と拮抗している瞬間にもカートリッジをロードしているのだから、さらに重みが増していく。
「ぐぅ!!」
そしてついに、赤い靴≠フ一撃にギンガの防御が破られる。
後退しつつもブリッツキャリバーの絶妙な補助のもと、どうにか転ばずに構えられた。
その横に、カウンターが並ぶ。
「軸足は刈れないんですか?」
「一回、リボルバーナックルで叩いた。へし折るつもりで……でも、すっごく硬い」
派手に空のカートリッジをまき散らしてから、赤い靴≠フ排気ダクトから圧縮された魔力の残滓が漏れ出していく。
余裕ありげなカグヤと、スタミナに難があるカーレンは呼吸を少し乱しているが、しっかりと敵を見据えたまま。
………彼女たちはまだ、先ほど一緒にいたはずの深緑の猟犬が消えているのに気づいていない。
◇
深緑の猟犬の導きのもと、ティアナが地下3階へと降り立つ。
さらに奥へ奥へと進みながら、上に残してきたフェイクシルエットがどれだけ持つか頭の中でカウント。
もちろん、敵に見破られる事もあり得るが、カグヤは戦闘経験が浅く感じられる。
新たに出てきたカーレンも、ギンガが相手をすれば、おそらく時間ぎりぎりまで騙しおおせるだろう。
「っと、ここね」
320。
地下3階の最奥だ。
すでにヴェロッサによってセキュリティが外されたその扉は、簡単に開くだろうが……ティアナが躊躇する。
深緑の猟犬が、扉の向こう側に唸りを上げてるのだ。
「……」
意を決して、クロスミラージュを掲げて部屋へ足を踏み入れる。
中は、広く、閑散としたもの。
一応、研究スペースとしての体裁は成しており、ちらほらと機材の類が転がっている。
いた。
部屋の片隅、ケースを手にする異国の僧衣を身につけた、坊主頭の浅黒い痩身痩躯。
その名はゴジョー。
「管理局です。そのケースを放して手を挙げなさい」
「おや…カグヤさんとカーレンさんは?」
ケースを実に素直に床に置いてからゴジョーが諸手を上げる。
「上で仲間が足止めしてるわ」
「では、無事ではあるんですね?」
「知らないわよ」
「……カーレンさんの足、大丈夫ですよね…?」
「知らないって言ってるでしょ!」
えらく馴れ馴れしく質問を重ねるゴジョーを、ケースから数歩退くようにジェスチャー。
壁際まで行かせれば、ティアナが部屋の隅々まで警戒しながら歩みよる。
部屋の中はさっぱりしてはいるが、いくつかの死角はあり、例えばアギトのレプリカなど隠れ潜む場所はいくらでもありそうだ。
深緑の猟犬も部屋の内部を巡回しているが、隅々までを把握するのは難しかろう。
狙点はぴくりともゴジョーから離さず、ティアナが片手でケースを開けた。
「ジュエルシード…」
それも3つ、ケースの中に鎮座している。
即座、それを閉めて立ち上がれば―――
深緑の猟犬がティアナを押し倒す。
「きゃ」
それに続いて、ティアナを焦がそうと飛来した炎が通過、何に使うかよく分からない機材にぶつかって弾ける。
しっかりとケースを握り締めながら、床に倒れるティアナは赤い妖精の姿を見た。
「流石ですよ、オルトリンデ」
「アギトのレプリカ!? いったいいくついるのよ!?」
「この研究施設にいる数でしたら、四騎になりますな」
律儀に返事するゴジョーへと、アギトのレプリカ―――オルトリンデが子供大の姿を取れば宝杖を放り投げた。
錫杖の頭に三日月の刃がついたそれが、小環のぶつかる涼やかな音色奏でてゴジョーの手に収まれば、一閃。
鋭い突きが床のティアナへと……いや、ケースへと襲いかかる。
「くっ!!」
転がりながらクロスミラージュの引き金を絞るが、アギト・レプリカの炎に阻まれた。
ケースをざっくりと裂いた宝杖が、一つ回転。
中空にジュエルシード3つをばらまく。
「暴れなさい! ジュエルシード! 疾く! 疾く!! 疾く!!!」
雑に魔力をまき散らし、無理やり起動させればでたらめなコマンドワード。
ジュエルシードに急いだ命令は禁物だ。だがそれが、意図的に暴走させるには最高の方法となる。
びしり、とそれぞれのジュエルシードに一筋ずつ亀裂が入る。
「いけない!」
だだっ広くほの暗い部屋の中。
蒼い宝石が震えながら輝いた。
眩しいその光へ、ティアナが封印を施そうとするが、
「オルトリンデ、体の管理をお願いします」
ゴジョーとオルトリンデが重なり、混ざってはその威圧感を増す。
まるでユニゾン―――のようだが、カグヤと同じくユニゾンのようでユニゾンではないのだろう。その姿形になんら変化はない。
しかし先ほどよりも明らかに精度が上がっている練達の宝杖さばきで、ティアナをジュエルシードに近づけない。
黒い影が、3つのジュエルシードからにじみ出始めていた。
憑依すべき動植物がない場合、ジュエルシードの暴走は単体で思念体≠ニ呼ばれる黒い影と化すが、これはどうした事か。
「な、なにこれ…」
3つのジュエルシードから漂う黒い影は、絡まり合い、混ざり合い、人の形を取っていく。
むくりと、立ち上がって顔面に相当する場所に、それぞれに一筋だけひびが入ったジュエルシード3つがたゆたっていた。
AH――――
澄んだ咆哮だった。
怖気が走る背に、ゴジョーの確保もジュエルシードの封印も忘れてティアナが部屋から飛び出す。
総毛立つ深緑の猟犬もまた、この黒い人影の危険度を察知してか全力で脱出している。
そして、
「な……強力過ぎる」
暴走させたゴジョーさえもおののき、逃げだしている。
AH――――
もう一度、思念体≠ェ声を上げた。
いったいどこから発声、発音を行っているのか。耳に残ってはなれない綺麗な綺麗な、喜びの歌。
瞬間、桁違いの魔力が膨れあがる。
「!?」
部屋が砕けた。
冗談のように溢れだすその波動が、上下左右を問わずに壁の強化合金を蹂躙、砕いてしまう。
「うわ?!」
「きゃあああ!!」
部屋を飛び出したティアナとゴジョーの背中も圧迫するその威力。
「な、なんだこれは!? しまった……待て、イフリート!」
崩れ落ちた部屋の、下層にあった部屋―――すなわち、420にいたシグナムがレヴァンティンで崩れ落ちてくる天井を切り裂く。
その場にいた誰かに静止の声をかけたようだが、逃げられてしまっている。
そして頭を上げて見た…そう、ひびの入ったジュエルシード3つから成る思念体≠。
シグナムの目が氷の鋭さを帯び、心臓がひとつ脈打つより速く臨戦態勢に入る。
刹那の間に、ユニゾンなしに相手出来ないと悟ったのだ。
「アギト!」
「あ…」
「アギト! 今は目の前の事に集中しろ! お前の過去の話は後だ!!」
「あ、あぁ…!」
呆然。愕然。それまで我を失っていたアギトがえらくおどおどとした様子で、シグナムへと飛んだ。
「「ユニゾン・イン!!」」
炎の翼がシグナムの背に花開く。
しかし、当のシグナムは違和感ある表情だ。
「アギト…心を乱すな!」
『わぁってる…! わかってるけど…』
「ティアナ、外まで逃げろ! これが暴れては研究所が潰れかねん!」
「りょ、了解です!」
地下4階から地下2階まで風通しの良くなってしまったその一角。
ティアナがアンカーショット。
地下2階までショートカットである。
「ほら、あんたも来なさい!」
「私ですか? そんな敵同士なんですからおかまいなさらずに…」
「うっさい!! いいから来なさい!!」
ゴジョーの襟首ひっつかめば、魔力糸を巻き戻して地下2階まで一息の昇って見せた。
空を飛べない自分では役に立つまいと歯がゆく思いながら、駆け戻る。
ずしん、と幾度か振動を感じながら少し走ればギンガとカウンター、カグヤとカーレンが対峙する場所まで戻ってきた。
その場全員、研究所の異常を察してはいたが、状況がいまいち掴めずにいている。
「あれ、え…あら?」
駆け戻ってきたカグヤが、フェイクシルエットとティアナを見比べて何か凄いきょどきょどしてる。
他のみんなは―――カーレンもティアナについては薄く感づいていた様子見せており―――現状の説明について、ティアナに無言で催促の目くばせ。
「こいつがジュエルシードを暴走させた。とんでもない化け物が暴れてるから、即・脱出!」
「カグヤさん、カーレンさん、お助けぇ」
ゴジョーがティアナに羽交い絞めにされてはこめかみにクロスミラージュ突きつけられ、情けない声出しているのをふたりは冷やかに眺めている。
「ゴジョーさん、今まで有難う御座いました」
「お達者で」
「助けてええええ!!」
ゴジョーの悲鳴が木霊する……それに呼応したというわけではないだろうが、ひと際大きな振動が起こる。
それと共に、床や壁のそこかしらに亀裂が走った。
ティアナのバランスが崩れたのを察したゴジョーが、
「きゃッ!?」
冷たい光を纏って人の姿をほどく。
瞬時に魚の正体を現してひとつ跳ねれば、カーレンたちの立ち位置へと転がり込んで人型に戻った。
「信じてましたよ、ゴジョーさん」
「ゴジョーさんならできると思ってました」
「絶対嘘ですよね、それ! この人でなし!!」
「使い魔だったのね…」
どちらにせよ、カグヤの毒にあてられた14部隊の隊員を担いでゴジョーも確保するのは無理だ。
今は、救出作業に専念する事にしよう。
「あんたたち! 今日は見逃すけど、次はこうはいかないわよ!!」
ティアナが2人、ギンガが4人、カウンターが3人と手いっぱいに隊員たちを担いで啖呵を切った。
そこに、
「ティアナ!?」
いよいよ轟音立てて、天井が崩れてきた。
4人を担いだギンガが跳躍―――それに合わせて、カーレンも跳んだ。
「「せええいい!!」」
紫の蹴りと赤い蹴りが息ぴったりに、落ちてきた天井を砕く。
落ちてくるほこりに、片目をつむりながらティアナが少し咳。
「あ…ありがと」
「……ティアナさん」
「なによ…」
カーレンから名を呼ばれて意外そうに、そして訝しそうにティアナが返事した。
「ここよりも下に、何人ほど他の隊員さんたちがいらっしゃいますか?」
「答えられるわけないでしょ!」
「いいから!!」
「……………………18人よ」
異様なカーレンの迫力に気圧され、ついティアナが零してしまう。
「地下4階までなら……地下5階から……いや、いける…」
ぶつぶつと、何かしらカーレンが一人で呟き、一人で納得。
そして、意を決して一つ頷いた。
「この場所から、直射砲で一直線に穴を開けます。急いで連絡を」
「はぁ?」
もはや地震ほどに揺れが大きくなる研究所の中。
カーレンに気圧され、それ以上に何か覚悟のようなものを感じてティアナが侵入してまだ残っている各員の状況をつい確認してしまう。
クロスミラージュの表示に、この位置の直線上には誰もいない。
その横。
カーレンが光の卵を取りだした。
「カーレン、まさか…」
「……リンカー・リンク」
「待ちなさい、カーレンさん!」
カグヤとゴジョーが、カーレンに制止の声掛ける間もあれば、光の卵を胸に押し当てた。
ずぶり、と幾何学的な紋様刻む金属質な卵がカーレンの中に沈んでいく。
「え…!?」
すぐそばにいたティアナとギンガが目を見張る。
明らかに、魔力の容量が増えている、魔力の質が高まってる、魔力の出力が上がっている。
―――強くなっている。
「リミットブレイク―――赤い靴<a[ド・レッドステップ」
<stand by ready. set up>
カーレンの義足より熱風が巻き起こった。形態変化こそないが、段違いにデバイスの出力が底上げされているのが分かる。
赤い旋風を顔に叩きつけられながら、しかしティアナは極寒にさらされている気分にしかなれない。
今蹴られて、無事で済むと思えない。
「ディバイン…」
しかし、カーレンの唇から出た言葉は場違いで……あたたかい呪文。
一瞬一瞬に亀裂が大きくなっていく通路の中、カーレンが両手でふたつの赤いスフィアを生み出す。
途方もない魔力の凝縮。ちいさな宝石のような輝き。
しかしそれは、まるで星空のスピカのように鮮明にティアナの目に映る。
カグヤとゴジョーの止める手が、あと半歩でカーレンに届く距離。
カーレンが、スフィアのひとつを蹴り上げた。
「バスターーー!!!」
薄暗い通路を、真紅の光が満たした。
轟音。
眼に痛む光が止んだ時、反射的に顔をかばった腕をおろして、星空を見る―――本当に、一直線に穴を開けた。
「も・う・ひ・と・・・…つ!!」
今度は、スフィアを蹴り下ろす!!
今ひとたび、真紅の閃光が研究施設を貫いた。
血色一色に染まった瞼の裏。
それを開ければ、地下深くまで大穴が開いていた。航空隊であれば、この直線の穴を使えば楽に脱出できるだろう。
「!? ちょっとあんた…!!」
気づけば、カーレンが倒れていた。
すでに義足でありデバイスである赤い靴≠ヘジョイントが外れて転がっており、下半身がない姿だ。
ティアナが手を差し伸べようとすれば、ゴジョーとカグヤがかっさらう。
「…ぅ……寒い…」
「!? いけない…!」
腕の中のカーレンが呻くのに、カグヤが青ざめる。
寒さを訴えるのは、フランケンシュタインの手術被験者が示す典型的な死の兆候だ。
貝型のデバイスをカーレンに握らせて、躊躇なく開いた穴の中に飛び込んで消えていく。
それを止めようとした、飛翔ができるカウンターだがゴジョーの威圧に釘付けにされ結局動けなかった。
「早く脱出を。我々は我々で、逃走経路があります故……今回の逮捕は、どうかお見逃しくだされ」
肺腑絞って出したような、苦しげな言葉と共に、ゴジョーも消えていった。
「く…」
一瞬、追おうかどうかを迷ったが、揺れが大きくなってきた。穴を開けた事で、不安定になり過ぎて一気に崩れ得る。
それならば……
「次こそは……」
カウンターが飛翔、ギンガがブリッツキャリバーを駆使して壁を登り、ティアナがアンカーガンを発射した。
こうして、3人は潰れてしまいそうな研究施設を脱出する。
47 :
タピオカ:2009/01/06(火) 03:27:01 ID:LvtIsmuc
おじゃましました
GJ!!です。
赤い靴凄いなぁw
曲がる方向の制限がないので攻撃が見切りにくいなんてシュトロハイムのようwww
超GJ!
続きが気になるぜ
なぜか足がマシンガンになってるB級映画を思い出した
フェイトちゃん9歳黒Tバック並みのGJ!!!
前スレ
>>491 遅レスですがGJ!!
ヴィータVSキャロの幻の対決
そしてエリオの既成事実を奪おうと毎晩きっと(ry
>>28 GJ!!
レイハさんとなのは並にかっこいい姿と絆を見せて貰いました
エリオも男まえだが、ストラーダも男まえすぎるぜ
次回最終回なのが本当に残念…
52 :
B・A:2009/01/06(火) 22:42:48 ID:UJoji2j1
>>28 GJ。
一瞬、オリジナルのエリオなのかと思ったらストラーダでしたか。
ここに来てまさかのスカリエッティ御大まで登場するとは、独走した娘に対してきつい皮肉でも言うのかな?
そして、これから投下しようと思ったらシチュエーションが被っているんです。
今回の話の中で○○○が○○○○○との対話で戦意を取り戻すというもので。
野狗氏ほど熱くはありませんが。
注意事項
・非エロでバトルです
・時間軸はJS事件から3年後
・JS事件でもしもスカ側が勝利していたら
・捏造満載
・一部のキャラクターは死亡しています
・一部のキャラクターはスカ側に寝返っています(その逆も然り)
・色んなキャラが悲惨な目にあっています、鬱要素あり
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・名前のあるキャラが死にます
・主人公その1:エリオ
その2:スバル
・SSXネタも含まれます
・イクス好きな人には・・・・・辛いです
・タイトルは「UNDERDOGS」 訳:負け犬
ルーテシアにとって、何かを守るための戦いは初めてだった。防衛戦は何度か経験したことはあったが、
それは誰かに命じられたもので、自分の意思によるものではない。そして、自分がしてきたのはいつも何かを得るための戦いであった。
母の温もりを得るための戦い。
居場所を得るための戦い。
心を得るための戦い。
いつだって自分は何かを求め続けてきた。だから、心の底から何かを守りたいと思えたのは、これが初めてだ。
(私には、もう何もない。だから、この子だけは・・・・・・)
今の彼女を突き動かしているのは贖罪の思いであり、繋がりを失うことへの恐怖だった。
自らの手で母を殺め、家族にも等しい召喚蟲達を失ったルーテシアは、例え向けられている感情が憎しみであったとしても、
エリオを失うことを恐怖したのである。
それは皮肉と呼ぶにはあまりに残酷過ぎた。
彼女に心を与えたのは母の愛情ではなく仇敵の憎悪、芽生えた感情は喜びではなく罪の意識であった。
何もかも失ったルーテシアに残ったたった一本の細い繋がり。エリオに憎まれ、彼に償いたいという気持ち。
それだけが今のルーテシアを支えていた。そして、その思いを汲み取ったからこそ、フリードは彼女に力を貸しているのである。
□
正規の主を得て本来の力を発揮できるようになったフリードは、降り注ぐ直射弾の雨を小さな体を捻りながら搔い潜り、偽フェイトへと肉迫する。
接近を許してしまった偽フェイトは即座に得物を鎌へと変形させ、迫り来る白竜を迎え撃つ。
だが、ルーテシアからのブーストを施されたフリードはそれを寸でで回避し、懐に潜り込まんとする。
「フリード、右」
「・・・!」
直後、フリードの背面を雷の直射弾が通り過ぎていく。ルーテシアの指示がなければ、恐らく避けることはできなかっただろう。
その事実に空恐ろしさを覚えながら、偽フェイトの追撃をブラストフレアで牽制しつつ後退する。
チラリと横に目をやれば、新たな主となったルーテシアの周囲を無数のインゼクト達が飛び交っていた。
彼らは自分と偽フェイトの戦いを具に観察し、主にその一部始終を伝えているのである。
そうして集められた情報を吟味しつつ、ルーテシアは並列思考で魔法を行使し、召喚獣への指示も的確に下している。
認めたくないことだが、その鮮やかな戦い方はかつての主キャロ・ル・ルシエよりも上をいくものだった。
相性でいえば生粋の竜召喚師であるキャロには劣るものの、それを補って余りある経験と技量が彼女にはあった。
何より、ルーテシアの強い思いが自分の力を何倍も引き出してくれている。
「アスクレピオス、限定解除。ツインブースト、いくよ」
「・・!」
注がれた魔力に応えるように咆哮し、フリードは飛翔する。
善戦虚しく旗色は悪い。繰り出される必殺を紙一重で避けて命を繋いでいるにも等しい状況に変わりはない。
やがては追いつめられて諸ともに命を刈り取られるだろう。それでもフリードは、ルーテシアの思いを裏切るまいと、
持てる全ての力を駆使して偽フェイトへと立ち向かっていった。
「・・!」
「・・・・・」
交差した2つの視線が火花を散らす。
かたや闘志が燃え滾る紅蓮の瞳。
かたや意思を持たない深紅の瞳。
物言わぬ両者は、己が主の命に従って殺意の牙を敵へと向ける。
直後、錐揉み回転したフリードの背後から紫紺の短剣が飛び、フリードを迎え撃とうとしていた偽フェイトは回避動作に移る。
すかさずフリードは追走し、ルーテシアからの念話に従って偽フェイトの前に回り込む。
そして、相手が反応するよりも早くブラストフレアを吐き、漆黒のバリアジャケットを焼き焦がしていく。
直撃を受けた偽フェイトは炎に施されたバインド効果によって動きを制限され、神がかり的な速さにほんの少しだけではあるが隙が生じる。
その針の穴のような隙を目がけて、ルーテシアは新たに生成した短剣を投擲。偽フェイトは辛うじてデバイスで叩き落とすものの、
それに気を取られたためにブラストフレアへの防御が疎かになってしまう。
「フルブースト・・・・・・・フリード!」
「・・・・!!!」
渾身の魔力を込め、フリードはブラストフレアを放つ。
注ぎ込まれた魔力も施された補助魔法にも一分の隙はない。
ルーテシアが持てる最上の魔力を最高の術式で以て形に成し、眼前の敵を焼き尽くす。
現状ではこれ以上の攻撃は不可能であり、これが通用しなければこちらに勝ち目はない。
こちらが相手を焼き殺すのが先か、炎を突破されて切り伏せられるのが先か。
これは正に賭けであった。
「くっ・・・・・・」
背後のルーテシアが苦しげに呻く。
魔力が底を尽きつつあるのだ。病み上がりな上に相性の悪い召喚獣を使役しての戦闘。
想像以上の負担が彼女に圧し掛かっているはずだ。
それでも彼女は、エリオを守ろうと必死で魔力を自分に注いでいる。
ならば、自分にできることは彼女の思いに応えるだけだ。
かつてガリューがそうしていたように、雄々しく、どこまでも愚直なままに。
ジリジリと詰め寄ろうとする偽フェイトを、己の業火で以てフリードは屠ろうとする。
後少し。
後5秒だけ保てば、バリアを抜いてダメージを与えることができる。
後5秒だけ保てば。
「・・・・ごめんなさい」
注がれていた魔力がぷっつりと途切れ、ブラストフレアの勢いが衰えていく。
同時に、背後のルーテシアが力尽きて倒れ伏し、炎の拘束から解放された偽フェイトが
手にした鎌を一閃して炎を吹き飛ばす。更に霧散していく炎に紛れて発射されたフォトンランサーが
フリードの矮躯を穿ち、吹っ飛ばされたフリードは全身を痺れさせながら動かなくなった。
「・・・・・フリー・・・ド・・・・・・」
か細い声を上げながら、ルーテシアは立ち上がろうとする。
だが、それよりも偽フェイトがデバイスを振り下ろす方が早い。
振り上げられた金色の刃は、大気を引き裂きながら無力な少女の命を奪わんと迫る。
感電して動かぬ身を呪いながら、フリードは慟哭の悲鳴を上げた。
聞き慣れた電子音声が響いたのは、正にその時だった。
□
ルーテシアと偽フェイトの戦いから目を背け、エリオは1人物陰で震えていた。
目の前のできごとがまるで信じられなかった。
母のように慕う女性の写し身と、戦いから解放されたはずの少女がぶつかり合っている。
飛び交う雷の槍と紫紺の短剣。
フリードの炎の余波がチリチリと肌を焦がし、デバイスが空気を切る音と2人が地を蹴る音が
否が応にも聞こえてくる。
その全てから目を反らし、エリオはこんなはずではなかったと嘆き続けていた。
自分の槍は、誰かを傷つけるためのものではなかった。
決して、母の姿をした者を斬るためのものではなかった。
再び戦わせるために、ルーテシアを助け出した訳ではなかった。
正しいと信じて行ってきたことが、正義と信じて行ってきたことが、悉く自分を裏切っていく。
こんなはずではなかった。
憧れたのは彼女の強さで、過去の悲しみを打ち砕く力だった。
あの人のように強く、気高く、胸を張って生きていければ良いと。
あの人が自分を救ってくれたように、今度は自分が誰かの力になれれば良いと。
だから、魔導師ではなく騎士を目指した。
大切な何かを守り、戦うベルカの騎士の生き様を自分も貫きたいと。
なのに気づけば、身勝手なエゴのために多くの人達を傷つけていた。
思い返せばゾッとするような恐怖が込み上げてくる。
名前もわからない者を殺した手で、自分はルーテシアを抱きしめていたのだ。
これではルーテシアと何も変わらない。彼女を責める権利すら、自分にはなかったのだ。
戦うことからも、キャロの仇を憎むことからも、全てから逃げ出したかった。
「僕は・・・・・僕は・・・・・・・・」
《エリオ・・・・・・》
「僕は・・・・・・そんなつもりじゃ・・・・・」
《・・・・・・・良いのか?》
ただ静かに、ストラーダは語りかける。
戦うことを求めるでなく、逃げることを促すでなく、ただ静かに問いかけてくる。
卑怯だと思った。
そんな風に問いかけられたら、拒めなくなる。
《このままで良いのか?》
「・・・・・・・・」
良い訳がない。
このまま何もできずに死んでいくのなんてごめんだ。
けど、今の自分に何ができる? 手の震えは止まらず、戦意は恐怖に抑えつけられてしまっている。
戦いたくない。けれど、逃げる訳にはいかない。
エリオの心は雁字搦めで身動きも取れず、ただ我が身の不幸を嘆くことしかできなかった。
しかし、もっと恐ろしかったのは、このまま何もせずに目を瞑っていれば許しが得られるなどと、
安易な考えを抱きつつある自分がいることだった。
(・・・・・わかっているさ)
チラリと物陰から顔を出すと、険しい表情で戦うルーテシアの姿があった。
本当は彼女も辛いはずだ。自分と同じく多くの者を傷つけた罪の重さに苦しんでいるはずだ。
それでも、必死に前を向こうとしている。こんな罪深い男を守るために、生かすために、償うべき相手を失わないために、
彼女は戦っている。
自分が情けなかった。
迷い続けている自分が。
行動することを躊躇している自分が。
《このままでは、また失うぞ。それで良いのか?》
「・・・・・・・・嫌だ」
《ならどうする?》
「それは・・・・・・・」
わかり切ったことだった。
自分の中では答えが、とっくの昔に出ていることに。
ルーテシアをスカリエッティの呪縛から解放した時に。
いや、2人で暗闇の洞窟内を彷徨った時に。
或いは、3年ぶりに再会した戦場で。
ひょっとしたら、3年前のあの日に、キャロの亡骸を抱えた時かもしれない。
ただ1つハッキリしていることは、既に自分の心はできあがっているということだけだ。
「嫌に、決まっているだろう」
鉛のように重い体を持ち上げ、怯えを必死で堪えながら床の上に転がっているストラーダを手にする。
思考はとっくに終わっていた。
選択肢は既に選んだ後だった。
考える時間など、最初から与えられていなかった。
そんなものなど、必要ないからだ。
自分は、もう他の選択肢など選べないのだから。
「嫌なんだ・・・・・もう、何も守れないのは・・・・・・・・・・」
悲壮な声を漏らしながら、ストラーダの柄を握り直す。
3年前、自分はキャロを守れなかった。フェイトの危機に間に合わなかった。
大切なものを傷つけられ、誇りを失ったエリオに残された唯一の道は、キャロと共に誓ったルーテシアの解放を果たすことだった。
そのために今日までずっと戦い続けてきたのだ。しかし、エリオの胸中には常に抑えようのない憎悪が渦巻いていた。
ルーテシアはキャロの仇だ。彼女を守らなければという思いはあっても、彼女への憎しみが消えた訳ではない。
この先何があったとしても、絶対に許すことはできないはずだ。
相反する2つの感情に苛まれながら、エリオは何度も彼女と戦った。
その果てにエリオは、彼女を失ってはいけないと思っていた。
彼女を失えば、怒りと憎しみをぶつける相手がいなくなってしまう。
そうなれば、きっと自分はその重さに押し潰されてしまう。そして、死んだキャロの思いも踏み躙ることになってしまう。
だから、例え立ち塞がる相手が誰であったとしても、ルーテシアだけは見捨てる訳にはいかなかった。
自覚した瞬間、噛み合わなかったネジがやっと噛み合った。
「もう、守れないのは嫌だぁぁっ!!」
《Sonic Move》
一瞬で最速まで加速したエリオは、ルーテシアに振り下ろされようとしていた金色の刃をストラーダで受け止めた。
新たな敵の登場に、偽フェイトの注意がこちらに向く。
まるでお互いに申し合わせていたかのように両者は加速し、文字通り雷光の速さでぶつかり合った。
倒れているルーテシアにはその姿は見えず、ただ金属がぶつかる音と床や壁を蹴る音が聞こえるだけだ。
そして、再び2人が姿を現した時には、既に決着が付いた後だった。
「・・・ごめんなさい」
偽フェイトの胸にストラーダを突き立てたエリオが、嗚咽を漏らしながら謝罪する。
「あなたはフェイトさんじゃないけど・・・・・・・それでも、斬りたくなかった・・・・・・・
殺したく、なかった・・・・・・・あなただけは・・・・・・・けど・・・・・・・・・」
勝利できたのは奇跡にも等しかった。
偽フェイトは心を持たぬことを除けば、フェイトの戦闘技能を完璧に再現している。対してエリオは身体能力も
技量も魔力も体格も全て劣っており、まともにやりあえば数合を打ち合うだけでも手一杯だったであろう。
だが、3年前に機動六課で繰り返した模擬戦の記憶が体に染みついていたおかげで、
自然と彼女の動きに対応することができた。そして、攻撃の軌道が直線である槍と曲線を描く鎌とでは、
例えその剣速が同じでも標的までの到達時間に僅かな差が生じてしまう。事実、金色の刃の切っ先はエリオの首筋に
刺さっており、そこから赤い血が一筋の雫を垂らしている。一歩間違えば、敗北していたのはエリオだったのだ。
勝因と呼ぶにはあまりに弱いその2点があったからこそ、エリオは偶然の勝利を勝ち取ることができたのだ。
そして、それは同時にエリオが夢見てきた騎士と決別したことも意味していた。
「これが、僕の選んだ道なんです」
柄を握る手に力を込め、ストラーダを彼女の胸に押し込む。
それで全ては終わった。
心臓を破壊された偽フェイトは手足を痙攣させながら動かなくなり、傷口から噴水のように噴き出した血が
エリオの白い肌とコートを赤く染めていく。
彼女は自分の愛するフェイトではなかったが、紛れもなくフェイト・T・ハラオウンだった。
だから、この血はフェイトの血だ。
自分はこの手で、母と慕う女性を殺したのだ。
「エリオ・・・・・・・」
起き上がったルーテシアが、よろよろと近づいてくる。
彼女の眼には、自分はどんな風に映っているのだろうか。
血に塗れ、みっともなく嗚咽している自分は、いったいどんな風に見えているのだろうか。
「ルー、僕は・・・・・僕はフェイトさんを・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ルーテシアは無言でエリオを抱き寄せると、泣きじゃくる彼の背中をそっと擦った。
血で汚れた彼女の胸は温かく、まるでフェイトに抱かれているかのような錯覚をエリオは覚えた。
「ごめんなさい、君を守れなかった」
「・・・・・良いんだ、君は・・・・もう戦わなくて・・・・・・・・」
「ううん、戦わせて。あなたが背負う苦しみも悲しみも、半分は私が背負うから。
あなたと同じ痛みを、私が受けるから・・・・・・・・だから、一緒にいさせて」
「ルーテシア・・・・・・・ううぅ・・・・ああぁぅう・・・あううああぁぁっ・・・・・」
言葉を紡ぐことすらできなかった。
何に対して謝罪していたのかさえもう定かではない。
ただ救いを求めるように、エリオはルーテシアの胸に顔を埋めて泣き続けた。
『ほう・・・・・彼女を倒したのか。こちらの計算では勝率は1割以下だったのだがね。
私としたことが、計算を途中で間違えたのかもしれないな』
虚空のディスプレイの向こうで、スカリエッティは首を捻る。
言葉とは裏腹に、その表情は喜悦で歪んでいた。
まるで、遊ぶのに飽きた子どもが新しい玩具を見つけた時のような、微笑ましくも不気味な笑み。
心底嫌悪しか浮かばない笑みだった。
「スカリエッティ・・・・・・・」
『なるほど、君の悲しみと怒り、それが勝利を呼び寄せたファクターと言うことか。
理論はわかっていても、それを式に当てはめることができないというのは何とも歯がゆいものだ。
やはり、君の頭を割いて調べてみるのが一番かもしれないな』
暗闇から新たな刺客が送り込まれてくる。
その姿を見た瞬間、2人は絶望のあまり言葉を失った。
何故なら、そこに立っていたのは金色の髪を深紅の瞳を携え、漆黒のバリアジャケットを纏った女性だったからだ。
それも1人だけではない。次々と姿を現した彼女達の数は11人。ルーテシアとエリオが死力を尽くして
ようやく倒すことのできた偽フェイトが11人も立っていたのだ。
『言わなかったかい、複製技術が完成したと。再現できない技術など、完成したとは言えない。
同じものを、同じ時間をかけて、同じ材料を使って、同じ方法で大量に造り出せて初めて技術は
完成したと言えるのだ。そう、君達が倒した者も含め、彼女達12人は全員がフェイト・テスタロッサの
コピーであり、その戦闘技術を受け継いでいる。これからは彼女達が私の新たな手足となって
働いてくれるという訳だ。そうだな・・・・・・フェイト・ナンバーズとでも名付けようか』
11人の偽フェイト達がそれぞれの得物を構え、戦闘態勢に移る。
ある者は鎌を構えて前衛に立ち、ある者は雷の槍を生み出して、ある者は砲撃のチャージを開始し、
迸る金色の魔力光が視界を焦がしていく。
「下がるんだ、ルー」
「けど・・・・・」
「フリードはもう戦えない。僕が時間を稼ぐか・・・・くうっ!?」
立ち上がろうとしたエリオは、両足に激痛を覚えて膝を突いた。
痙攣している足は、まるで筋肉が引きちぎれたかのような痛みを訴えている。
ここに来て、蓄積し続けてきた負担が一気に爆発したのだ。
堪えれば立てないこともないが、このまま戦い続ければ両足は確実に駄目になる。
(それでも、やるしか・・・・・・・・・)
11の攻撃を同時に捌くことはできない。ならば、先手を打ってサンダーレイジを叩き込み、
その数を減らすしかない。だが、その一撃でいったい何人の偽フェイトを倒すことができるだろうか。
辿りつく答えを想像しただけで、エリオの背中に寒気が走った。
それでも恐怖を払いのけ、エリオはストラーダをウンヴェッターフォルムへと変形させる。
「走れ、ルーテシア!」
「エリオ!」
ルーテシアの悲鳴を背に受け、エリオは振り上げたストラーダを床の上に突き刺す。
残る魔力を全て注ぎ込み、最大出力で放出されたサンダーレイジは波のようにうねりながら突撃してくる偽フェイト達を焼き尽くしていく。
だが、彼女達の進軍は止まらなかった。彼女達は全員が、オリジナルと同じく魔力変換資質「電気」を有している。
それがあるため、電撃に対してある程度の耐性があるのだ。しかも、攻撃の余波を免れた何人かがサンダーレイジの効果範囲外から飛翔し、
こちらに向かってきている。
ここで詰みだ。
自分には、もう彼女達を止める手立てがない。
諦めかけたその時、背後から飛来した蛇腹剣が壁のように偽フェイト達の進軍を遮った。
「良く持ち堪えたな、エリオ」
「シグナム・・・・副隊長・・・・・」
炎の翼を生やしたシグナムが、エリオの隣に着地する。
ここに来るまでにどれほどの死闘を演じてきたのか、彼女の体にはあちこちに負傷の跡が見られ、
白い素肌は返り血で汚れている。
「ギャレットはこの基地の放棄を決定した。離脱後は一時的に潜伏し、合流の時を待て。
私がこいつらの足止めをする」
「足止めって・・・・・む、無理です。僕も一緒に・・・・・・」
「その体では足手まといだ。お前をむざむざ死なせては、テスタロッサに会わせる顔がないからな」
「け、けど・・・・・・」
「・・・!」
なおも反論しようとするエリオの鳩尾にシグナムは鉄拳を叩き込む。
肺の空気が一瞬でなくなり、呼吸不全を起こしたエリオはその場で膝を突いて咳き込んだ。
当たり所が悪かったのか辛うじて意識は保っていたが、滲み出た涙で視界を塞がれた上に頭にも星が回っている。
「こいつを頼む」
猫のように担がれた体が、誰かへと預けられた。
この感触は、きっとルーテシアだ。彼女はシグナムの意図を読み取ったのか、
バインドで手足を拘束してこちらの身動きを封じると、重い体を引きずりながらこの場を離れようとする。
「だめ・・・・だめだ・・・・・・ルー・・・・戻って、ルーテシア」
「ごめんなさい、それはできない」
「嫌なんだ・・・・・もう、大好きな人がいなくなるのは・・・・・傷つくのは・・・・・・・」
視力が回復し、滲んでいた視界にシグナムの背中が映る。
無茶だ。
いくら彼女が凄腕でも、相手はフェイトと同等の能力を有した11人の魔導師なのだ。
勝てぬとわかっていながら、彼女は自分達を逃がすために戦おうとしている。
その大きな背中を凝視しながら、エリオはただ叫ぶことしかできなかった。
「副隊長!!」
□
11人の偽フェイトを前にして、シグナムは怒りとも悲しみとも取れる複雑な感情を抱いていた。
目の前にいるのは自身の好敵手の写し身。その佇まいから感じ取れる魔力まで全て同じだ。
だが、その内に心と呼べる者は存在しない。それはまるで、八神はやてと出会う前の自分達のようだと、
シグナムは自嘲気味に思っていた。
「因果、と言うべきか」
(シグナム?)
「何でもない。マリアージュとかいう死体兵器どもは?」
(ガジェットや戦闘機人を優先的に攻撃しているって、バッテンが言っていた。
敵対行動さえ取らなければ、襲いかかってくることはほとんどないらしい)
「奴らのおかげで彼我戦力は五分まで持ち直せたのは、皮肉なものだな。
おかげで、撤退までの時間を稼ぐことができた」
偽フェイト達を睨みながら、シグナムは思考する。
リインからの情報では、既にほとんどの人員は撤退を完了しつつあるらしい。
そうなると、後はエリオ達が逃げる時間を稼ぐだけで良い。
もっとも、それが一番困難なことであることに変わりはなかったが。
「アギト、お前も私になど付き合う必要はないのだぞ」
(馬鹿言うなよ。あたし以外に誰があんたの面倒見るって言うんだ? それに、あたしだって嫌だぜ。
もう自分のロードに死なれるのはご免だ)
「すまないな」
レヴァンティンをシュベルトフォルムに戻し、刀身に炎を纏わせる。
主亡き今、肉体の死は完全な消滅を意味する。
後悔がないと言えば嘘になる。無念の内に死んでいった八神はやてとヴィータの仇を討ち、
彼女達が守ろうとしたこの世界の行く末を見届けたかった。
だが、どうやら自分達の死に場所はここのようだ。
不甲斐ない。
アギトのかつてのロード、ゼスト・グランガイツから託された未来も見ることもできなかった。
あの世と言うものがあるのなら、彼はそこで自分を責めるのだろうか。
「それでも、まだ死ねません。あなたのところへ逝くのは、ここにいる人形達を屠った後です」
向かってくる偽フェイトを切り伏せ、シグナムは鮮やかな身のこなしでレヴァンティンを振るっていく。
苦痛も疲労も彼女を止めることはできず、アギトからの支援を受けてシグナムは持てる全ての力を出し尽くして
偽フェイト達と切り結んでいく。
最早、死以外に彼女を止められる者はいなかった。
□
結論から述べると、カルタスは戦いに勝利した。
50を超えるガジェットや戦闘機人は全て破壊し尽くされ、そこに動く者は誰一人としていない。
そう、戦いの勝利者であるカルタス自身ですら。
瓦礫と敵の残骸に埋もれたカルタスは、全身に穴を穿たれて動けなくなっていた。
既に呼吸も停止しており、後はじわじわと死んでいくだけの運命だ。
それがどういう訳か、まだ意識を保っていた。
本人は知らないことだが、彼が呼吸を停止させてまだほんの10秒足らずの時間しか経過していないのである。
だが、時間の感覚が麻痺してしまったカルタスには、その時間がまるで1年にも等しい長さに感じているのだ。
(ここ、までか・・・・・・・・)
光の消えつつある目で天井を睨みながら、カルタスは復讐を果たせなかったことを悔やんだ。
スライドショーのように脳裏を過ぎる楽しかった記憶に涙を流し、カルタスは愛する女性の名前を呼ぼうとした。
だが、力の抜けた機械の体ではそれすらもできなかった。
(ギンガ・・・・・)
あの笑顔が懐かしい。
彼女との出会いは、6年前まで遡る。
捜査官として配属された彼女と最初にコンビを組んだのが自分だったのだ。
『初めまして、ギンガ・ナカジマ二等陸士です。まだまだ若輩者ですが、よろしくお願いします』
『ああ、こちらこそよろしく頼む・・・・・・・えぇっと・・・・・・』
『どうか、されましたか?』
『いや・・・・・・女性とコンビを組むのは、初めてでね』
どちらかというと、後輩である彼女が主導権を握ることが多かった。
彼女は優秀で、冷静な頭脳と大胆な行動力の持ち主であり、何より魔導師としての高い才能を秘めていた。
気紛れで彼女と組み手をした時は、完膚無きまでに打ちのめされたものだ。
『やっぱり、無理なのか』
『カルタス陸曹長?』
『ただの人間でもやれるんだって、そう思いたかったんだ。けど、目が覚めたよ。
やっぱり、魔力資質を持たない人間は足手まといなんだな』
『そんなことありませんよ。陸曹長には陸曹長にしかできないことがあるじゃないですか』
『例えば?』
『トンネルを掘るとか』
『茶化さないでくれ』
『すみません。けど、魔導師だって1人じゃ何もできないんですよ。事件を捜査する人がいて、
集めた証拠を鑑定する人がいて、書類を書く人がいて、戦う時にバックアップしてくれる人がいて、
私達魔導師がいて、みんなそれぞれの仕事を精一杯しているから事件を解決できるんです』
『そういうものかな?』
『はい。だから、陸曹長ももっと自信を持ってください』
『自信か・・・・・・・・・ねえ、ギンガ』
『はい?』
『これからは、ラッドって呼んでもらえないかい?』
何があってもまっすぐに目標を目指す彼女が好きだった。
辛い時は励ましてくれて、彼女がへこんだ時は何とかして笑顔を取り戻そうと苦心した。
いつの間にか、自分は彼女に夢中になっていた。
それは捜査主任に抜擢され、コンビを解消されてからも変わらず、寧ろ思いはどんどん募っていった。
そして、あの運命の公開陳述会の前夜、思い切って思いを打ち明けた。
『えっと、それって・・・・・・・』
『結婚しよう。その、僕の妻になって欲しい・・・・・・・ダメかい?』
『・・・・・お気持ちは嬉しいのですが、その・・・・・・もう少し、待ってもらって良いですか?
六課への出向が終わるまで・・・・・・それまで、考えさせてください』
『そ、そうか・・・・・・ごめん、びっくりさせちゃって』
『いいえ、嬉しかったです。俄然、仕事にやる気が湧いてきました』
『ギンガ?』
『答えを言うために、必ずあなたのところに帰ってきます。待っていて、ラッド』
そして、彼女は二度と帰って来なかった。
痛めつけられた上に体を弄られ、敵となった彼女を止めるために戦ったスバルの攻撃が、
体内に移植されたレリックの爆発を誘発したのだ。
そのことでスバルを恨むつもりはなかった。
ギンガが戦闘機人であったことにも衝撃はなかった。
ただ、愛する妹と戦わされた挙句、五体満足で戻ってこれなかったことが悔しくてしかたがなかった。
やがてスカリエッティが管理局を掌握し、禁忌とされた技術が解放されると、カルタスはギンガの父であるゲンヤと共に
クロノ提督に同調して管理局を離反し、地下活動を行うようになった。だが、強大な力を前にしてゲンヤは戦死し、
自身も生き残るために肉体を機人化することを余儀なくされた。
カルタスに残ったのは、ギンガの無念を晴らしたいという思いだけだった。
(けど、ダメだった・・・・・・)
視界の片隅を見知った顔が通り過ぎていく。
スバルだ。
無事なようだが、両手は赤い血で染まっていた。目も虚ろで、歩き方はまるで幽鬼のようである。
彼女は一瞬だけこちらに目をやったが、死んでいると思ったのかそのまま通路の向こうに去って行った。
(死ぬのか・・・・・嫌だ、まだ・・・・・・まだ死ねない・・・・・まだ、俺は・・・・・・・)
動かぬ体に必死で命じるが、指先1つ動こうとしない。
しかも、段々と意識が遠のきつつあった。どうやら、本当に終わりが来てしまったようだ。
(嫌だ、俺はまだ・・・・・死にたくない・・・・・・・あの娘を守らないと
・・・・・・ギンガの無念を・・・・・・・・・・・・)
瞳孔から光が消え、カルタスの意識は闇に堕ちていく。
気を失う寸前に彼が見たのは、バイザーを装着して不気味に佇んでいる女性の姿だった。
□
ボロボロの体を引きずりながら、スバルはここにいるはずの少女を探していた。
覚束ない足取りで瓦礫を避け、倒れている人物の顔を1つ1つ確認して回る。
そうして歩みを進めた先で、スバルはようやく苦しげに蹲っている少女を発見した。
「イクス・・・・・・」
「スバル・・・・・・良かった・・・・・・」
起き上がろうとした彼女を見て、スバルは絶句した。
イクスの左手の指は全て折れており、両腕には見るに堪えない深紅の傷が無数に走っている。
まだ無事な右手には艶やかだった彼女の髪の毛が無造作に握られていた。
額からも出血しており、流れ出た血で左目が潰れている。
「イクス、そのケガは・・・・・・・」
「自分でやりました・・・・・けど、もうダメみたいです。何をやっても痛みを感じない。
眠りに付く時が、来たようです」
「イクス? イクス、しっかりして!」
抱き止めた彼女の体は軽く、生命の鼓動も感じられない。
温もりの消え去ったその体は、周りに転がる死体と何も変わらなかった。
「ごめんなさい・・・・・・・・マリアージュは、あなたのところにも?」
「うん・・・・・・」
「戦う力を持たない私には、これしか方法はありませんでした。ごめんなさい、私は多くの人々の命より、
あなた1人の命が救いたかった。私は、王様失格です」
「そんなことない、イクスは精一杯やったんでしょう! 悪いのは全部マリアージュだ。
私が全部破壊する。だから、イクスはもう・・・・・・・」
「いいえ、お別れです。黙っていましたが、この度の目覚めは不完全な覚醒だったんです。
だから、長くは起きていられなかった・・・・・・・きっと、もう眠りから覚めることはありません」
「イクス!?」
「あなたに出会えて良かった。短い間でしたが、私は青い空と海を見ることができました。
人々の笑顔に触れて、彼らの営みをこの目で見ることができました。本当に、あなたと過ごした時間は楽しかった。
でも・・・・・・平和で穏やかな世界は、ここにはありませんでした。せめて、それだけは・・・・・・」
「きっと、きっと見れます。まだ見せていない場所がたくさんあるんです。
おいしいアイスクリームだって、まだ食べたことないんでしょう?
この世界には、もっと良いところがたくさんあります。こんな瓦礫だらけの場所じゃなくて、
イクスが見たかった本当に平和で穏やかな場所が」
「うん、見たかった・・・・・・・・あなたと一緒に・・・・・・でも、もう十分です。
あなたがいなければ、私はずっと冥王という呪いに囚われたままだったかもしれません。
あなたが私を助け出して、この広い世界を見せてくれたから、私は私になれたんです。
ありがとう、スバル。私にたくさんの思い出をくれて・・・・・・・」
弱々しく呟き、イクスはスバルの顔を見上げる。
まだ無事な右目には、強い意思の光が宿っていた。
王の眼差しだ。
彼女が何と言おうと、スバルにとってイクスは王だった。
暴君でも冥王でも、彼女は立派な王としての資質を持っている。
誰かのために泣くことができる、優しい心を。
「泣かないで、スバル」
「イクス・・・・・・でも・・・・・・」
「・・・・・えい」
パチリと、イクスはスバルの額を右手の中指で弾く。
痛みと呼ぶにはあまりに弱々しいそれは、彼女がスバルから教わった感情表現の方法の1つだった。
「人の感謝に泣いちゃう娘には、でこピンです」
「イクス・・・・・・もう、そんな変なことばかり、覚えて・・・・・・」
「教えたのはスバルです。ねえ、スバル。私のお願いを聞いてくれますか?」
「・・・・・はい」
「・・・・・・生きてください。生きて、あなたがするべきことを成して・・・・・・・・
あなたの夢、あなたの理想・・・・・・・その手の力は、決して誰かを傷つけるだけのものじゃない。
泣いている人を守り、苦しんでいる人を救い、立ち塞がる壁を壊し、どんな遠くにでも駆けつけることのできる力。
あなたの中の勇気と魔法を、絶対に裏切らないで」
か細くもハッキリとした言葉で、イクスは告げた。
その言葉は確かにスバルの心に刻み込まれ、熱い鼓動と一体となって体内を巡っていく。
「約束、してください。そして忘れないで。あなたが守った1人の王の存在を。あなたに救われた小さな女の子のことを。
私のスバル・・・・・強くて優しい、大好きな・・・・・・とも・・・だ・・・・」
そこから先は、言葉にならなかった。だが、スバルは確かに聞き届けた。
だからスバルは、嗚咽を堪えながら腕の中の小さな王に頭を垂れた。
「はい、約束です。絶対に忘れません・・・・・・・あたしの冥王陛下・・・・・・あたしの、大切な友達・・・・・大好きなイクス・・・・・」
その言葉を聞き、イクスは儚げに微笑んで虚空を見上げた。
きっと、在りし日の出来事に思いを馳せているのだろう。
まだ無事な右目には涙が浮かぶ、雫となって頬を伝う。
色んなことがあった。
短い時間だったが、言葉では語り尽くせないくらい、自分達は一緒にいた。
「おやすみなさい、スバル・・・・・あなたと・・・・・・」
言葉が途切れ、イクスの右手から力が抜けて床の上に落ちる。
『あなたと友達になれて、良かった』
「あたしも・・・・・イクスと友達になれて・・・・・・」
冷たくなっていく体を抱き締め、スバルは慟哭する。
どれほどの時間、そういていただろうか。気がつくと、周りには十数人のマリアージュ達が立ち尽くしていた。
王の眠りを察知し、駆けつけたのだろう。
《冥王は眠りにつかれた》
《案ずるな、我らの進軍は止まらない》
《イクスヴェリアの名を世に知らしめ、我らが王は永遠となる》
《さあ、お前も家臣なら我らを受け入れろ。そして冥王の覇道の礎となれ》
傍らに倒れていた死体が震え、さながら蛹が羽化するかのように新たなマリアージュが生成される。
彼女もまた傍らの死体に歩み寄り、生み出したコアを埋め込んで自分の仲間を増やしていく。
こうしてマリアージュは増えていくのだ。そこに人の生命がある限り、破壊して生み出した死を新たな兵力とする。
イクス自身が忌み嫌い、そして友達を救うために使わざるえなかった力。
彼女達は自らの主の思いすら無視し、イクスが望んでもいない戦いを起こそうとしている。
「止めろ・・・・・・これ以上、イクスの思いを踏み躙るな・・・・・・・」
そっとイクスの亡骸を横たわらせると、低く抑えた声でスバルは告げた。
その瞳は禍々しい金色の光を宿しており、足下には魔法陣ではない水色のテンプレートが輝いていた。
この一瞬だけは、イクスの眠りを喜んで受け入れることができた。
こんな姿を彼女には見せたくない。
こんな、怒りで我を忘れた自分の姿など。
《Gear Second》
マッハキャリバーもまた、相棒の怒りを感じ取って秘められた力を一段階解放する。
両者の思いは同じだった。
ここに、冥王イクスヴェリアの嘆きの全てを置いていく。
燃え落ちていく建物と共に、彼女を縛り付けていた全てを。
覚めることのない眠りについた彼女のためにできることは、もうそれだけだった。
to be continued
66 :
B・A:2009/01/06(火) 22:57:07 ID:UJoji2j1
以上です。
とりあえず、折り返し地点に辿りつきました。。
ハッピーエンド? 何それ食べられるの? な流れにどんどん乗っていっています。
実際、スカ以外は誰もハッピーになれなさそうですが。
保管庫の作品を改訂したいんだが、修正後の作品をどこかのろだに上げればいいんだろうか?
>>66 GJ この作品の趣旨は、それでしょ。
タイトルから見て、六課の落日系統の作品だと思いますので
すかっと悪の大勝利を描いていただけるとうれしいです。
全住民がマリアージュ化するミッドチルダがゆりかごの砲撃で
壊滅し、時空管理局も第56管理世界以外の管理世界との大戦
でアッシリアのような末路を迎え、屍の山の上にスカが神として
君臨するすばらしき新世界が描かれるのでしょうか?
>>68 むしろ「そして誰もいなくなった」のほうがですね
>>69 滅びの物語だな すべては負け犬どもの夢の跡
思いも願いも欲望もすべては塵となりはてん
>>66 壮絶なGJ!!!
辛い、辛すぎます…
もう主人公組も含めて全員ハッピーは決してありえない状態。
それでも主人公達には生きて生き延びて欲しいです。
今回でエリスバの二人とも大切な思いと人を失った。でも生きてさえいれば…
>>69 それよりも「残ったのは主人公だけだった」の方が(当人にとっては)きついと思うぜ
StSでどこまででも残酷なことができるシチュエーションが整ってしまったからなぁ。
そりゃ書き手も歯止めが利かなくなるか。
別に無印でもその辺りは変わらないと思う。
二次書き手の匙加減でしょ。
話は変わるけれど、今現在、それぞれの連載がそれぞれのクライマックスに
向かっているのがすごく楽しみだ
>>66 GJ。
流れ的にシグナムももう
カルタスの前に現れたのも味方とは思えない。
スバルは唯一ともいえる親友を失い、エリオは家族を殺した上に師を救えなかった。
その別れが意味するのは残酷なる強さを得る結果になるのか。もう気になりすぎる。
どうかエリルーとスバルが生き残りますように。。。
76 :
サイヒ:2009/01/07(水) 21:33:01 ID:cZ5r8BLg
新年エロ一番槍いかせてもらいます。
いつもどおりのクロフェでエロ。
エロのメインはクロフェ。あとアルフのオナニー。
当然のように尻はある。
ミッドチルダでは風邪が流行っていた。
国営放送でも報じられるぐらいで、管理局内を歩けば局員の五人に一人はマスクをしており、けほけほ
と苦しそうに咳いたり水っぱなをすすったりしている。
そんな有様を見たクロノは朝礼及び艦内放送で「各員管理局員たる自覚をもって風邪には重々気をつけ
るように」という意味の説教を十分以上に長々と引き伸ばして垂れておいて、翌日当の本人が徹夜続きに
よる体力低下により風邪を引くという、たいそう格好悪いことをやらかした。
風邪の波は機動六課隊舎にも押し寄せていた。
こういう場合、やはり免疫力の低い子供がまず餌食になる。エリオとキャロが真っ先に頬を赤くして鼻
をぐずぐずいわせだした。
それを発見したフェイトは、訓練を休ませるよう教導官にずいぶん強くかけあったり、忙しい仕事の合
間を縫って氷枕を取り替えたり、手ずからオートミールを作ってやったりと過保護っぷりを発揮し「次は
絶対あいつがやられる」というヴィータの予想通り、翌日思いっきり伝染された。
病の執務官とその使い魔
「ほら、フェイトあーんして」
「そんなことしなくても食べられるから……」
「だーめ。病人は看病する者の言うこと聞かなくちゃ。ほらあーん」
観念してフェイトは口を開け、アルフが差し出してくるお粥の匙が口に運ばれてくるのを待った。
昨日エリオやキャロにも同じことをフェイトはやったのだが、いざ自分がやられる番になるとえらく恥
ずかしい。
アルフが作ってくれたお粥は栄養が取れるようにと赤や緑の野菜が豊富に入っており、醤油と鳥の出汁
をたっぷり吸ったお米も美味しい。食欲のあまりないフェイトでも、一皿全部胃に収められた。
「それだけ食べられるなら、明日には良くなっていそうだね。リンゴも剥いてあるけどどうする?」
「これ以上はいいかな」
「そうかい。クロノの様子見たらあたしはちょっと買い物行ってくるけど、何かほしい物ある? 桃缶と
か」
「子供じゃないんだからいいよ……」
「それと、分かってると思うけど」
看病をするためには幼児姿だと少々不便なので、久しぶりに成人姿となっているアルフが、びしっとフェ
イトの鼻先に指を突きつける。
「ちょっと調子が良くなったからって、動くのは絶対に駄目だからね! あたしが帰ってきた時に家事と
かしてたら、バインドでベッドに縛りつけるから」
「や、やだな。なのはじゃなんだからそんな無茶しないよ……」
微妙に視線を逸らすフェイト。実は気分もかなりましになったし、昨晩から看病を頑張ってくれたアル
フへの恩返しとしてステーキでも焼いておいてあげようか、などと企んでいた。
「……なーんか怪しいなあ。フェイトも相当無茶する人だからね。ま、とにかく今日はベッドからなるべ
く出ないように。約束だよ」
「うん。……あ、そうだアルフ」
部屋を出て行こうとする使い魔に、伝え忘れていたことをフェイトは言った。
「クロノの分のお粥はもうちょっとだけ味付け薄くしてあげてくれないかな。クロノ薄味好きだから」
「……はいはい」
表現し難い微妙な表情をして、アルフは出て行った。
※
「ほれクロノ、お粥」
「ああ、悪いな。いただきます」
一匙口に入れてクロノは顔をしかめた。熱くて舌が痛かったのもあるが、原因はほとんど味がしなかっ
たからである。
「……作ってもらっておいてなんなんだが、塩とかちゃんと入れたのか?」
「熱で舌がやられてるんだろ。それにあんた薄味好きらしいからちょうどいいだろ」
「まあ、そうかもしれないけど」
薄味を通り越して米を水で煮ただけの食い物のように思えるのは気のせいか。薬味の葱かきざみ海苔ぐ
らいは入れてほしかった。
しかし元来レーションのような味もくそもない物ばっかり食う人生を送ってきているので、特に苦にも
思わずクロノはもそもそとお粥を完食した。
「ところで、君が大人姿でフェイトは大丈夫なのか?」
お粥だけでなくリンゴも食べながら、クロノは訊ねた。
「フェイトの体力はともかく魔力は落ちてないし、別にこの姿だからって魔力半減するわけでもないから
いいんじゃない? 精神リンク越しに不調も感じられないし」
「ならいいんだ」
「それじゃあ、あたしちょっと出かけてくる。……ベッドの中で仕事しようが管理局に出仕しようがいい
けどさ、フェイト襲うことだけはしないでおくれよ」
「病人相手にするわけないだろう! 僕をなんだと思ってるんだ!?」
「自分の胸に聞いてみなよ」
「うっ……」
冷たい視線を向けられてしまえば、返す言葉も無い。
フェイトと抱き合っている時まれに精神リンクを切り忘れるため、寝所でのクロノの所業はアルフに一
部筒抜けである。「フェイトをいじめすぎだ!!」「この後ろ好き!!」と蹴り飛ばされたこともある。
そこまでされても無体な所業を改めない自分が一番の問題だと分かっちゃいるけどやめられない。
「とにかくおとなしくしておくことだね。じゃ、あたし行くし」
「あ、ちょっと待ってくれアルフ。フェイトはリンゴ食べたのか」
「いや、まだだけど?」
「だったら切るだけじゃなくてすり下ろしにしてやってくれないか。風邪だとそっちの方が食べやすいだ
ろう」
「…………」
なんとも形容できない微妙な表情をして、無言のまま頷いたアルフは出て行った。
※
「…………喉渇いたな」
昼食後の眠りから目覚めたフェイトは、天井を見上げたまま呟いた。
声はややしわがれており、喉に少し痛みもある。寝汗をびっしょりかいたパジャマも着替えたい。
のろのろと起き上がり、熱を持った関節が痛むのに顔をしかめながらフェイトは台所へと赴いた。ミネ
ラルウォーターをコップに注いで一気に飲んだが、渇きは消えない。もう一杯と思ったが、冷たいものを
急に飲んだのが悪かったのか胸につかえを感じて飲み込みにくい。
リビングの椅子に座ってゆっくりと一口ずつ飲んでいくことにした。
アルフはまだ買い物から帰っていないらしく、人気は感じられない。
「…………こんなに、広かったっけ」
誰もいないがらんとしたリビングを見回すフェイト。今までもクロノ達の仕事の関係などで数日間家で
一人っきりだったことはあるが、広いと感じたことはなかった。
広さを埋めてくれる人が欲しいとひどく感じた。
たぶん今、自分は寂しいのだろうと、フェイトは他人事のように熱のあるぼやけた頭で考える。
「あんな夢、見たからかな……」
風邪のせいか、嫌な夢を見た。
自分とクロノが義兄妹のままの関係であり、フェイトがどれだけクロノを愛しているかを訴えてもクロ
ノは笑ってまともに取り合ってくれず、いつも同じ言葉を並べるのだ。
『僕と君は兄妹なんだぞ? 恋人同士になれるわけないじゃないか』
そして、フェイト以外の女性とどこかに消えてしまう。
本当に、嫌な夢だった。
「どうして、あんな夢、見たんだろう」
クロノは、フェイトのことを全身全霊で愛してくれている。他の女性に走ったりすることなど決して無
いだろう。
なのにこんな夢を見るということは、フェイトはまだ心のどこかで思っているのだ。
クロノと過ごしている幸せな時間が、ある日一瞬で崩れ去ってしまうのではないかと。
フェイトの身体は成長したが、心のどこかはまだなのはに助けられた十年前のまま、弱い部分が残って
いるのだ。
「…………クロノの顔、見たいな」
痛切にフェイトは思った。
飲みかけの水を置きっぱなしにして、フェイトは立ち上がる。
クロノの部屋に鍵はかかっていなかった。そっと開けて覗き込めば、クロノはぐっすりと眠っていた。
足音を忍ばせて侵入したフェイトは、ベッドの隣に立ってクロノの様子を窺う。
普段の疲労もまとめて身体の奥から出てきたのか、クロノは完全に熟睡していた。表情はぴくりとも動
かず、まるで死んでいるようだ。小さく上下する胸だけが、クロノの魂が身体にあることを示している。
そんな様子を見ているうちに、フェイトの心の中には最前までとは違った不安が湧き上がってくる。
「クロノ……このまま死んじゃったりしないよ……ね?」
風邪程度で大げさなと思うのだが、胸騒ぎは収まらない。
病気だけではない。クロノが航海任務へと旅立つのを笑顔で見送りながらも、フェイトはいつも義父の
クライドのように殉職してしまったりしていないか、不安を覚えているのだ。
もしクロノに先立たれてしまったら、悲しみのあまり自分がどうなってしまうのかフェイトには全く予
想がつかない。
高まる不安は、いつしかクロノに一秒でも長く触れていたいという強い欲求に変わって身体を突き動か
す。
フェイトの頭は少しずつ下がっていき、やがてクロノの顔との距離がゼロになる。
合わせた唇は、乾きざらついていた。潤いを与えようとフェイトはとにかく舐め回す。
「ん…………んんんぅ!?」
さすがにキスをされればクロノも目覚めた。見開かれた瞳と硬直した身体が、驚愕の大きさを現してい
る。
それでも、フェイトは全く別のことを考えていた。
本当に自分は弱い。
クロノがどれだけ愛してくれているか分かりきっているというのにほんの些細なことで心が不安定になっ
てしまい、強く証を求めてしまうのだから。
思いながらもフェイトの口づけは止まらない。それどころか平均よりだいぶ大きな乳房をクロノの胸に
強く押しつけ、唇も重ねるだけではなくクロノの首筋に吸いついたり耳を噛んだりと、スキンシップ以上
のことをする。
「ちょっと待ったフェイト。まさか……」
「クロノお願い。…………抱いて」
恋人同士でしか出来ない身体と身体の関係が、今すぐほしい。
「風邪引いてるんだぞ」
「私もクロノも風邪引いてるんだから、伝染っても問題ないよ」
「そういう問題じゃ……!?」
もう一度強くキスをし、舌でお願いだからしてほしいと伝えると、観念したようにクロノは頭を振った。
「……仕方ない。一回だけで、あんまり激しくはしないぞ。病気の身なんだから」
「うん、ありがとう」
「それと……」
フェイトをシーツの上に横たえながらクロノは続けた。
「君はまだきつそうだから、僕が主体でやらせてもらう」
パジャマの胸元が広げられ、姿を見せた乳房にクロノの顔が押し当てられる。
朝にアルフが身体を拭いてくれてはいたが、フェイトの身体はまたまたひどい汗をかいていた。
もちろん昨晩は風呂に入っていない。一日越しの酸っぱい匂いをクロノが嗅いでいるのかと思えば羞恥
心がひどく頭に血を上らせた。
「クロノ……あんまり、身体の匂い嗅がないで……汗かいてるから」
「今更だろう、そんなこと。君の汗の匂いなんかずっと前から知ってる」
「それはそうなんだけど……」
意にも介さず乳房の谷間が広げられ、奥深くまでクロノが鼻を埋めてきた。それだけでなく鼻をわざと
らしく鳴らして匂いを嗅がれたり、汗の溜まっていそうな窪みを舐められたりして、元から火照っている
フェイトの頬はいっそう熱くなった。
愛撫はかなり優しいが、態度はいつもどおり意地悪なクロノだった。
あまり触れられたことのない内側に、軽く歯が立てられる。硬く鋭い感触に、胸全体がぴくんと震えた。
「ここも感じるのか。本当に、胸が弱いな」
時に歯を立て、時に唇で吸いつきながら、クロノは胸全体に口を這わせていく。まるで汗を舐め取って
いるようだ。手は、反対側の乳房を大きくゆっくりと揉んでいる。
いつもは丹念というより執拗にフェイトの身体を愛するクロノだが、今日は本当にフェイトの性感帯を
柔らかく丁寧に扱っている。
たっぷりと唾液で濡らされた乳首を指と舌で転がされ、フェイトは熱い息を吐いた。
「あふぅ……そこ、もっと……」
乳房に血流が集まって張りが出てきたのが、自分でも分かった。
風邪で身体の感覚は弱まっているはずなのに、一つ一つの愛撫が恥ずかしいくらい感じてしまう。ひと
りでに腿が擦り合わせる動きをしていた。
クロノもそれに気づいたのか、乳房と戯れていた右手を、フェイトのパジャマのズボンに潜り込ませて
くる。
ショーツの上から長い指が撫で上げると、くちゅりと密やかな音がした。
くすぐったくてどこか寒気にも似ているが、むしろ熱さを覚える感覚が、フェイトの身体の奥に生まれ
る。
感覚をかき立てるようにクロノの指が潤った峡谷を上下して、フェイトを甘美さに蕩けさせた。自分で
もよく分かっていない微妙な場所が、曲げた指で何度も刺激される。完全にクロノに身を委ねていること
もあって、あっという間に果ててしまいそうだ。
「うあ……ふあぁん……」
「……指だけじゃいやか?」
喘ぐフェイトの耳元でクロノが言う。
恥ずかしい言葉を直接言わせようとしているのではなく、言葉どおり指だけで達するだけでは嫌かと訊
いているのだ。
「う、ん……病気で疲れてるの分かってるけど、最後まで、して」
フェイトの願いに頷いて、クロノは再度乳首を強く吸い、指を複雑に動かしてフェイトの身体の内も外
も濡らしていく。
クロノと繋がる準備の階段を一段ずつ上がっていきながら、フェイトは力の入らない腕でクロノの頭を
かき抱き、恋人の体温、舌、指の動きを全身で受け止めた。
※
「だから……やる時は精神リンク切るようにっていつも行ってるだろう……!」
よろめきながら玄関をくぐったアルフは、買い物袋をどさりと床に落とした。
「風邪ひいてる時まで大人しくできないなんて、これじゃどっちが獣だか、わかりゃしないよ……」
買い物の帰り道から、精神リンクを通じて強制的に発情してしまっている。べったりと愛液の垂れた太
ももは体重を支えることもできなくなりつつあった。
とても部屋まで戻れそうにない。アルフは一番手近な便所に転がり込んで、下半身の衣類を引っ張り下
ろした。
便座に座って気が緩んだ途端、一気に精神リンクから流れてくる情報が巨大になった。
今現在の状況だけではない。
クロノの肉棒を胸と舌で愛している記憶。二人座り合った体勢で繋がっている記憶。犬のような姿勢を
強要され尻穴を抉られながらよがり啼いている記憶。クロノの上で淫らに腰を振り精液を搾り取って喜悦
している記憶。全身余すところなく白濁液を注がれながら、なお淫心静まらず夜が明けるまで求め続けた
記憶。
過去にフェイトとクロノが交わった時の光景が怒涛のように流れ込んでくる。記憶に引っ張られて、思
わずアルフの手は秘所に伸びかける。
だがほんの数寸手前で、アルフは必死に指を止めた。
「ほんと……これがきついよ」
普段クロノの馬鹿ップルぶりに文句をつけたり殴ったりしているアルフだが、別にクロノのことが嫌い
なわけではない。
フェイトの妹分としてはフェイトを取られたようで少々面白くない気分はあるが、十年前からの長い家
族生活でクロノがいい奴であることは知悉しているし、なによりクロノと相思相愛となれたことでフェイ
トは幸せを満喫していた。フェイトの幸せは即ちアルフの幸せでもある。
しかし、まかり間違ってもクロノに抱かれるのだけはごめんだった。
アルフを抱いていいのは、八神家の蒼い狼ただ一匹だけである。
この状況下においてアルフが慰めようものなら、まるでクロノを想って自慰しているようなものだ。そ
んなことはザフィーラに申し訳ないし、アルフ自身も絶対に嫌だ。
「あぐぅ…………ザフィーラぁ……!」
終わる気配の見えない淫猥な光景の連続を、爪を指ごと噛みながら恋人の名を呼んでアルフは必死で耐
え続けた。
※
「じゃあ……挿入れるよ」
完全に裸となったフェイトは、同じく全裸のクロノの腰に跨っていた。
長めだった前戯のせいか風邪のせいか、フェイトの身体はいっそう熱を帯びており膝立ちになっている
だけでもきつくてゆらゆら頼りなく揺れてしまう。その度に金色の陰毛を伝い続けるフェイトの蜜が、屹
立したクロノの上に一滴ずつ垂れていた。
「辛いなら僕がしてもいいんだぞ」
「だって準備は全部クロノがしてくれたんだから、本番は私がしてあげる。クロノは無理しなくていいよ」
フェイトの身体をいじくっていただけでも疲労したらしく、クロノは額に数滴汗をかいており顔の赤み
も増していた。自分のわがままでこれ以上無理はさせられない。
「んっ……」
ゆっくりと慎重に腰を落としていくフェイト。
騎乗位は何度もやって慣れている。それなのに、入り口同士がひたりとくっついただけで、腰全体が震
えるぐらい感じた。風邪の菌は、フェイトの全ての感覚を狂わせている。
なんとか膨らんだ雁首まで潜り込ませたところで一度止まり深呼吸した瞬間、支えていた膝が滑った。
「ひああぁぁん!?」
ずるんと、潤滑液に満ちていた膣は一気に奥まで肉棒を咥え込んでしまう。
一瞬で腰が砕けた。フェイトはまともにクロノの上へと倒れこんだ。
「うわっ!?」
「ご、ごめんなさいクロノ! すぐにどくから…………あれ?」
一度立ち上がろうとするのだが、首から下が全く動いてくれない。衝撃に腰どころか身体全体の力が抜
けてしまっていた。
「……なんか、身体が動かない」
「僕もだ」
「…………どうしよう」
繋がりはしたので貫かれる快感はあるが、動きがなければいつまでたっても最期までいけはしない。こ
のまま腰が回復するのを待っていれば、いつになるか分かったものではない。
「しかたないな」
ため息をついて、クロノが背中に置いていた手を下へ向けて滑らせていく。
「力を抜いて……ってもう抜けているか」
クロノの指が止まったのは、尻肉の合間で息づく穴だった。
窄まりの縁が軽く摘まれ、そのまま縁を一周なぞられる。
秘所を愛する時とよく似た動きで、クロノはゆっくりと後ろの穴をほぐしていく。
「入り口だけは、前の方よりも挿入れやすくなったな」
「クロノが……ふんんっ……何度もお尻でするからだよ」
開発されきって感度を高められた菊門は指を拒むどころか、奥へ入りやすいようにと素直に入り口を緩
やかに開けていく。
腸液があふれるぐらい流れてはクロノの指に絡んで、根元までもスムーズに導いていく。あっという間
に指が一本全部挿入ってしまった。
「いつもよりかなり熱い。風邪を引いてたらこうなるんだな」
感慨深そうに呟いて、クロノは本格的に指を動かし出した。
敏感な腸壁を擦り、引っかき、さらにゆっくりと引っこ抜く。
腹の奥から伝えられる快感に腰をびくつかせながら、フェイトは甘い呻き声を漏らした。
「や……ああ……クロノも、気持ちいい?」
「ああ、お尻をいじったら前が動いて、締まって、いい具合だ……!」
言われる通り、クロノの性器の出っ張り一つに至るまで分かるぐらい、フェイトの膣壁はびっちりとま
とわりついては細かく痙攣するように動いていた。下の口でクロノを舐め回し慰めているかのようだった。
尻の指が二本に増えて、さらに複雑かつ激しく動いてフェイトを酔わせる。
気がつけば、身体全体が細かく震えていた。絶頂の前兆である。
「ク、ロノ……お願い」
頬を包み込んで、潤んだ瞳でフェイトは哀願する。
「一緒に、出して」
口づけで承諾の答えをもらえる。
多少動くようになったらしいクロノの腰が下からちょっとずつ突き上げてくる。
子供を産むための穴も、不浄の穴も、両方愛されながら、フェイトは果てた。
全く同時に、白い奔流が胎内を染め上げていく。
「あああぁぁぁぁっ、クロノっ!!」
鋭く叫んで背中を突っ張らせながら、子宮を満たされる女の悦びにフェイトは恍惚とする。
朦朧としたまま意識を失いそうになるが、僅かに戻っていた力を振り絞ってフェイトはクロノの上から
どいた。
栓の役目を果たしていた肉棒が抜けて、こぽりと精液が腿に熱く流れ出てくる。
(……あったかくて、気持ちいい)
身体の交わりよりも、強く抱かれる腕の感触と温かさで、いつのまにかフェイトの心から不安は消え去
り、安らかな眠りへとフェイトはいざなわれていった。
※
精神リンクが切れた。
同時に、延々焦らされ続けたアルフの自制心も切れた。
指を一気に三本、秘裂にねじり込み、とにかく強くかき回す。
「ああああっ!! ザフィーラ!! ザフィーラ!!」
何もしなくとも限界寸前まで焦らされきった身体は一瞬で高まる。
全く我慢もなにもせず、全身を走る雷光をアルフは抗うことなく受け入れた。
「はああん!!」
早急に果てて、アルフはがくりと首を垂らす。
「はあ……はあ……こっちの姿で、よかった」
幼女形態なら、健在な膜が傷ついてえらいことになるところだったと、変なところでアルフは安心した。
一度ぐらいでは収まりのつかない身体をなだめるようにゆっくりと秘所の指を動かし、疼いている胸も
軽くいじった。
二度目はゆっくりやろうと思っていたアルフだが、ふと思いつくことがあった。
「……フェイト、またこっちでしてたよね」
小指で自分のお尻の穴をつついてみるアルフ。
どっちが先に始めたのか知らないが、フェイトとクロノは一般的にはあり得ないぐらい頻繁に尻でも交
わっている。それもクロノが無理やりするのではなく、フェイトが自分からねだっていることも多い。
だからたぶん、とても気持ちいいのだろう。
「そんなにいいのかな?」
後孔に何かを入れたことなど、ずいぶん前に風邪で座薬を初体験して以来である。アルフの穴はひどく
きつくて、フェイトがいつもやられているように指を一本丸ごと差し込もうものなら裂けてしまいそうで
ある。
そーっと小指一本だけを進めてみる。指に肉が絡みつきながら吸い込まれていくのが、ひどく妙な気分
になる。
第一関節まで入った時だった。ぞぞっと背筋を這い上がる感覚があった。
「うひゅぅっ!?」
間抜けな悲鳴がアルフの喉から飛び出た。反射的に前に突っ込みっぱなしだった指が動いて、アルフの
身体が揺れる。
「ひぅっ! こんなのの、どこがいいってんだか……!」
口で呆れつつも、アルフの指は菊座から抜けようとはしない。
奇妙な未知の感覚ではあったが、かすかに膣とは異なる快感があったような気がする。
指をもうちょっと太い薬指に替えてみようと抜くと、今度は別の言い様がない心地よさが湧き出てきた。
時折痛みは走るものの、膣の指を動かせばすぐに痛みは引っ込む。
深さはさすがに浅いものの、いつしか動きの幅は前に劣らぬぐらい激しくなっていた。
「なんか、これ、癖に……なりそう」
まずいことに特殊性癖に目覚めつつあると自覚しつつも、アルフの指は前後両方止まらない。
止まらないまま、終点が向こうから迫ってきた。
「ああっ、ああっ、ああああーーーっ!!」
股間が潮を吹き、一拍遅れて精神が達した。
一度目とは比べ物にならない高さでの絶頂に、ぐったりと弛緩したアルフは背中を貯水タンクへもたれ
させた。
「…………お尻、けっこういいかも。今度、ザフィーラに頼んでみようか。……嫌がるかな」
夜の方でも狼だの幼女姿のアルフでも余裕で勃つだのとあらぬ噂を立てられているザフィーラだが、実
像は相当に物堅い男である。尻でやってくれなどとアルフが言えば、気でも狂ったかと仰天するだろう。
「ああ、でもそういう顔も見てみたいね。…………さて、と」
いつまでも呆けているわけにもいかず、便座に飛び散った愛液までトイレットペーパーできれいに後始
末したアルフは、ぼきぼき手を鳴らしながらトイレを出て、クロノの部屋を轟音立てて蹴り開けた。
中の二人の反応は、音に飛び起きたクロノと安らかに眠っているフェイトという対照的なものだった。
「フェイトを襲うなって言っただろうがこのエロ提督!!」
「ち、違う。これはフェイトが……」
「やかましい! とっとと制裁を受けろ!」
「話せばわかる!」
「問答無用!!」
何か言おうとしているクロノの顔面に、アルフは渾身の力で鉄拳を叩き込んだ。
結局、フェイトは風邪の悪化によりさらに二日、クロノは全身打撲により四日の有休延長を余儀なくさ
れたのだった。
終わり
87 :
サイヒ:2009/01/07(水) 21:43:26 ID:cZ5r8BLg
以上です。
年末年始と風邪にやられて予定してた正月ネタが書けず、悔しかったんで病気をネタにする。
ついでにずっとやりたかった精神リンクネタもやったんですが、ガチで考えるとアルフには色々きっつい設定ですね。
家族の出演してるエロビデオ強制的に見せられてるようなもんか。そりゃエロノ相手に姑化もしようて。
では、みなさんも風邪にはお気をつけて。
ヒャッハー!
久しぶりのエロだーー!!(世紀末風に)
しかも今回はアルフという意外なトッピング効果で良い感じw
>>87 エロォオオオオオオオい!! 新年早々GJでありますサイヒ氏。
とりあえずクロノ、ご愁傷様。まあ、嫁を手に入れた役得と思って殴られとk(ry
確かにアルフは大変ですね。この設定。感覚全部フィードバックされるわけだから。
きっとこの後、アルフは六課の寮にいるであろう蒼い狼を襲撃したんだろうなあ。
今年も貴方のSSを楽しみにしています。
GJ
しかし、
>>当然のように尻はある
これで噴いた。
新年からGJです!
しかしクロノは二穴攻めとか鬼畜すぎるわw
二穴(フェイトとアルフ)攻めw
クロノがケツと尿道攻められるんじゃないのか
こうなるとザフィーラとアルフの初アナルも読みたくなるな。
このスレにおける三大棒
クロノ 7:3ぐらいの割合でまともに扱われる場合が多い、が、このスレではアナル提督という事になっている
ユーノ 8:1:1ぐらいの比率でシリアスに描かれる、残りの2割は淫獣とかお笑いだったりする
エリオ 95%ぐらいの確率でまともな人格を与えてもらえる、が総受けだったり大怪我したり欝だったりと割と大変
>>66 GJ!
イクスの最期は本当にやばかった。
シグナムは死んだと決まった訳じゃないのでまだ希望を持っておく。
しかし今回でエリスバとも闘う心が折れてしまったとも考えられる。大丈夫なんだろうか…
病の執務官を『痔』の執務官と読んでしまって反省した俺がいる…
本文読んでその読みは間違っていなかったと開き直った俺がいるw
うおお……レジなのの人はまだなのか〜〜。
オイラはリリカルふぇいと待ち
じゃあ、俺は「歪んだ素直」待ってますね