☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第92話☆

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1名無しさん@ピンキー
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレです。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

リンクは>2
2名無しさん@ピンキー:2008/12/23(火) 21:31:44 ID:RQyfzbsA
【前スレ】
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第91話☆
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1228969457/l50

【クロスものはこちらに】
 リリカルなのはクロスSS倉庫
 ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
 (ここからクロススレの現行スレッドに飛べます)

【書き手さん向け:マナー】
 読みやすいSSを書くために
 ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5301/1126975768/

【参考資料】
 ・Nanoha Wiki
  ttp://nanoha.julynet.jp/
  (用語集・人物・魔法・時系列考察などさまざまな情報有)
 ・R&R
  ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/data_strikers.html
  ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/date_SSX.html
  (キャラの一人称・他人への呼び方がまとめられてます)

☆魔法少女リリカルなのはエロ小説☆スレの保管庫
 ttp://red.ribbon.to/~lyrical/nanoha/index.html  (旧)
 ttp://wiki.livedoor.jp/raisingheartexcelion/   (wiki)
3名無しさん@ピンキー:2008/12/23(火) 21:38:22 ID:mFqCNHKy
スレ建て乙です。クリスマス投下がありそうで楽しみ。
4名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 00:56:42 ID:yAbF06Dj
>>1おつ


ハラオウン家に遊びに来たアリサ(9歳)がうっかりJS通販の家具を
起動させちゃって悶絶失神とかいう電波を受信した。
受信しただけでプリント機能は無いんだけど
5名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 00:58:05 ID:R2/h53KH
同じくスレ建て乙であります。

>>3
明日、明後日あたりにバキAAが貼られそうな発言をせんといてくれwww
6名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 01:04:41 ID:5tzktGe2
スレ建て乙です!
7名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 02:21:26 ID:Owx45Aj3
>>1
乙ですが名前欄だけ楽しみだったのに…
8名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 02:22:34 ID:dd47gSXS
ユーなのヴィヴィオの親子ネタ落とさせていただきます。
ちなみにエロなし。4レスほど頂きます。
タイトルは、『休日は、ホットケーキ』
9『休日は、ホットケーキ』:2008/12/24(水) 02:24:07 ID:dd47gSXS
ドアの開く気配と、近付いてくる小さな足音。

ユーノが目を開けると、ベッドの端から覗き込む色違いの瞳があった。
こちらの目覚めに気付いた瞬間、あどけない顔が“ニパ〜っ”と笑みに変わり、
「お──」
素早く唇に人差し指を持っていくと、ジェスチャーに気付いて声を飲み込み、小さく囁いてくる。
「おはよー、パパ」
「お早う、ヴィヴィオ」
ヒソヒソ声で挨拶を交わして、それからユーノは隣で眠るなのはを起こさないよう、
そっとベッドから脱け出した。
「せっかくのお休みだから、ママはもう少し寝かせてあげようね」
囁いて、軽く娘の背中を促す。トコトコと跳ねる足取りでついてくるヴィヴィオと一緒に寝室を
出ると、そのままリビングへ向かった。

ヴィヴィオの手によるものか、カーテンはとっくに引いてあって、明るい日差しが部屋を満たしている。
時計に目を遣ると、いつもより随分と遅い時間だ。
察するに、時間通りに目覚めたヴィヴィオは、いつまで経っても起きてこない両親に痺れを切らせて
寝室まで覗きに来たのだろう。

「お腹すいた? ヴィヴィオ」
まだパジャマのまま、眼鏡を掛け直してユーノが愛娘に尋ねた。
「ん〜〜……」
ピンクのセーターにキュロットスカートのヴィヴィオが、困ったような顔で身体をくねらせる。
お腹はすいた。でもママを起こすのはかわいそう。そんなジレンマが見て取れる。
「ははは。じゃあ、朝ごはんにしようか」
「パパがつくるの?」
正直者の娘は、目を大きく見開いて、不思議そうに首を傾げた。
「フフフフフ、パパを見くびるなよ。こんな事もあろうかと隠してある奥の手が」
ユーノはキッチンに足を運び、収納棚から紙箱を引っ張り出した。
この前、なのはの実家に家族で顔を見せに行ったとき、義母に持たされた土産の品。
「わぁ、ホットケーキ!」
ヴィヴィオが目を輝かせて飛び跳ねる。
正しくはホットケーキの素。粉・卵・ミルクの分量をきちんと守って、ダマにならないよう
充分混ぜれば、少々料理の経験が無くたって失敗なんかしない。と思う。多分……。

いつもは妻が身に着けるエプロンを掛け、ユーノがカップで計量しながら慎重に粉をボウルに移す。
ヴィヴィオはすぐ横で、珍しそうに父の料理姿を見上げていた。
「え〜と、卵、卵……あれ? 卵が無い」
「パパ、卵はこっち」
冷蔵庫の上段ドアを漁っていたユーノに、同じく生鮮用ドアを開けたヴィヴィオが卵を差し出す。
「あぁ、ありがとうヴィヴィオ。それとミルク……しまった! 夕べ全部飲んじゃったか!?」
「はい、これ。いつもヴィヴィオが朝に取ってくるの」
ポストに配達されていたミルクパックを、これも娘が持ってくる。
「あ、ありがと……」
先行き不安そうな娘に引き攣った笑顔を返しつつ、ボウルにミルクを注ぎ卵を割り入れる。

ここで取り出したのが、魔力稼動式のハンディミキサー。
「よし、それじゃあこれを混ぜて──ぶぉっほぉ!? ゴホッ!」
いきなりフルパワーでボウルに突っ込み、粉やらミルクやらが舞い上がってユーノがむせた。
「パパ〜。私がやる〜」
いつの間にか自分も子供用エプロンを着けたヴィヴィオが、小さな踏み台を持ってきた。
ユーノの隣に台を置き、その上に登ると調理台が腰の高さだ。
つま先立ちでスタンドまで手を伸ばし、母親愛用の攪拌器を手に取ると、ボウルの中身を
さっくりと混ぜ始めた。
10『休日は、ホットケーキ』:2008/12/24(水) 02:26:02 ID:dd47gSXS
「へぇ……凄いなぁ、ヴィヴィオ。上手だよ」
子供の作業だからそれほど力は入ってないし、手の動きも“ちんまり”としたものだ。
それでも娘の動作には淀みが無く、ボウルの肌から的確に粉を掬い上げてミルク・卵と混ぜ込んでいく。
「えへへ。ママのお手伝いしてるもん」
褒められたのがくすぐったそうに、ちょっとだけモジモジしながらヴィヴィオが笑う。
「そっか。……じゃあパパはホットプレートの準備をしようかな」
父親としての立場に少々の危うさを感じつつ、ユーノはその場を娘に任せることにした。

 * * *

テーブルの中央。黒い鉄板の上に、クリーム色の生地が円く広がっていく。
「よし! ここから! ここからパパの腕の見せ所だから!」
返しゴテを片手に、ユーノが気合を入れ直す。
お好み焼きの返し方なら、はやてから子供の頃に教わった。あの時の経験を生かして──
「私も! 私もやる!」
椅子の上に乗っかって、ヴィヴィオがプレートを覗き込んだ。
「待った待った。まだ新しい生地を流しちゃだめだよヴィヴィオ。まずパパが試しに焼いてから」
娘を制して、いま焼いているケーキを真剣な顔付きで睨み続ける。

「そうそう、ここ! ココがポイント! 生地の縁が乾いてきたからって、急いで
 引っくり返そうとすると失敗するんだよね。ぷつぷつと気泡が上がってくるまでじっくりと……」
「ぱぱー。ヴィヴィオもホットケーキ焼く〜〜」
「あああああ。駄目だよヴィヴィオ、パパが焼いてるんだから」
新しい生地をプレートに流そうとしたヴィヴィオは、父親に手を押し退けられてちょっとむくれた。

「さて、ここからが本番。コテを使って、ぐるっとプレートから剥がすようにして──」
ちょっと深めにコテを差し込むと、深呼吸一つ。精神を集中させ、ユーノはえいや、っとケーキを
引っくり返した。
「やった! 見てごらんヴィヴィオ、このいい色具合!!」
「……ちょっと焦げてるもん」
一人ではしゃぐ父親を、ヴィヴィオがジト目で睨む。

「よし、完成! ハハハ、やれば出来るもんだね」
不機嫌そうな娘にまるで気付かないまま、ユーノはホットケーキをプレートから皿に移した。
明らかに引っくり返してからの焼き時間が短い。
「なんだ、結構カンタンじゃないか。よ〜し、コツは分かった!
 あと二、三枚焼けば僕もホットケーキを焼くのは完全にマスターでき──」
「いやぁ〜〜〜〜っ!! ヴィヴィオも焼ーーくーーのーー!!」

続けて自分が作ろうとするユーノに、とうとうヴィヴィオが半泣きで抗議し始める。
「ご、ゴメンゴメン。じゃあ次はヴィヴィオの番」
ユーノが場所を譲ると、さっきまでの泣き顔が嘘のようにヴィヴィオが目を輝かせた。
ボウルの生地を掬って、父親のより小さな円をプレートに二つ。

「ほらほらほらヴィヴィオ。そろそろ、そろそろいい感じだよ。今! ナウ!」
「もぉ〜〜。パパうるさい〜〜」
生焼けホットケーキにマーガリンを塗りながら騒ぐユーノに文句を言いつつ、それでも父親より
ずっと上手に、ヴィヴィオは二つのケーキを引っくり返した。見た目もこんがり狐色。

──料理スキルは、娘の方が圧倒的に上だった。
11『休日は、ホットケーキ』:2008/12/24(水) 02:27:19 ID:dd47gSXS
 * * *

「おはよぉ〜。ごめんねぇ、ママ寝過ごしちゃった」
髪を下ろしたままの姿で、なのはが目を擦りながらキッチンに入ってきた。
「あ!? ママ!」
「おはよう。よく眠れたかい?」
フォークを片手に口をモグモグさせていたヴィヴィオと、インスタントコーヒーを啜っていたユーノが
同時に顔を向ける。

「ふわぁ? なんだかいい匂いがする〜」
「ママー、はい、朝ごはん! ママの分!」
母親に駆け寄って、ヴィヴィオが手にした皿を差し出す。載っているのは小振りな円いホットケーキ。
「なに? もしかしてヴィヴィオが作ったの?」
なのはが目を丸くして皿を覗き込む。
「うん!」
「しっかりママのお手伝いしてたみたいだね。僕よりずっと上手だよ」
苦笑するユーノに微笑みを返し、それから膝立ちになって娘を抱き締めた。
「ありがとね、ヴィヴィオ……。大事に食べさせてもらうから」
なのはは皿を受け取って立ち上がると、そっとヴィヴィオの頭を撫でた。
「よーし、せっかくだからママも張り切って作っちゃうぞー!」
「わーーい!!」
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
「おいしー! やっぱりママが作ったのが一番美味しい!」

蜂蜜色の一切れを頬張って、ヴィヴィオが満面の笑みを浮かべた。
ジュワッと沁みたメイプルシロップに、ふわふわのホイップクリーム。
カットフルーツとミントの葉まで添えられたホットケーキの皿は、そのまま喫茶店のメニューとして
出してもいい位の完璧な出来栄えだった。
「ヴィヴィオの作ってくれたホットケーキだって美味しいよ」
なのはも娘の作ってくれたケーキを味わって微笑み返す。

(…………あ〜〜〜……)
仲睦まじい母娘のやりとりを、ユーノはカップを片手にぼんやり眺めていた。
なのはが淹れ直してくれたコーヒーは、インスタントなんかよりずっと香りが深い。
(かなわないなぁ、なのはには……)
父親として、自分なりに娘の歓心を買ったと思ったら、最後に奥さんが登場して文字通り
“美味しいところ”を持って行かれてしまった。

「どしたの、パパ?」
どこか遠くを見るようなユーノの表情に気付いて、なのはが問い掛けた。
「いや……父親の威厳って何だろうな〜〜って……はは、気にしないでいいよ」
「ん〜〜……」
12『休日は、ホットケーキ』:2008/12/24(水) 02:28:34 ID:dd47gSXS
少しだけ小首を傾げてユーノの言葉について考えていた風ななのはが、ニッコリ笑って
フォークに刺した自分のホットケーキを差し出してきた。
「ユーノパパ。はい、あ〜〜ん」
「え!? な、何、なのは?」
「ほらほら、あ〜〜ん」
テーブルの向かいから身を乗り出して差し出されるホットケーキ。艶やかな桜色の唇と、その下で
柔らかそうな丸みを描くセーターの膨らみに視線を誘われつつ、ユーノは
「あ……あ〜〜ん」
結局なのはの微笑に押し切られてホットケーキを頬張った。

「あーーっ!? ママだけずるい! パパ、ヴィヴィオのもあーーん」
椅子の上に立ち上がって、ヴィヴィオもフォークを差し出してきた。
「あーーん」
「はい、パパ。こっちもあ〜〜ん」

妻と娘が交互に差し出すホットケーキを口で受け取りながら、
(…………ま、いいか)
とりあえず、いまここにある平穏を噛み締めよう、些細な悩み事を頭の隅に追いやったユーノだった。

(おしまい)
13名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 03:51:04 ID:gOeMqnRr
今回の>>1はセンス無いな…
ああ、求めるのも酷な話か…
14名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 04:01:09 ID:JaHeq4Kd
>>12GJ!
ほのぼのさせてもらいました
何と言う幸せ家族

>>13
半年ROMってろ
15名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 07:08:53 ID:miT7CfQo
>>12
朝っぱらからGJです! 見てるだけじゃ嫌で『私もやる〜〜!!』なヴィヴィオの言動が子供らしく微笑ましいですねぇ。
そして、ユーノうるせぇよっ(笑)しかも「美味しい所を持っていかれた」なんて言っといて、最後の最期に美味しい所を持っていくのは自分かい!羨ましいわ!!
ラストにユーノの心情を察してフォロー(?)をするなのはの良妻ぶりにもニヤニヤしてしまい、最初から最後まで癒し全開な作品、ゴチでした!
16名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 09:30:30 ID:Oo5KD6Uu
>12
GJ! ユーなのはほのぼのしてていいねぇー。
ヴィヴィオのスキルというかムキになってるユーノにニヤニヤしてしまったぜ。

つーか、最後のなのはさんがいい味すぎてメープルシロップ吐いちまったじゃねーかwww
17名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 12:25:29 ID:VCApF+9u
>>12
微妙にヘタレ臭いユーノw
GJです
18名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 13:05:11 ID:IsfAzi72
>>12 GJ
ほのぼの親子ものいいですね。

ユーなのはこれがいい。
ヴィヴィオちゃん可愛い。
19名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:53:59 ID:Ox8T0lCx
>>12
GJGJ
最近癒し系の作品が増えてきて嬉しいわあ
20Foolish Form ◆UEcU7qAhfM :2008/12/24(水) 17:55:39 ID:robk9TaH
よっしゃあできたああああああああああああああああああ

という訳でクリスマスSSです。
ちょっと長いかもです。


・ユーノ×なのは 途中からエロ※
・闇の書事件から*年後(ご自由に想像して下さい)


※本SSは「前編」と「後編」に分かれています。
エロ成分は「後編」の方にのみ含まれていますので、苦手な方はご注意を。
「前編」だけでも物語は完結するように作りましたので、そこはご安心下さい。

それでは、お楽しみあれ。
21White angel(前編) 1/6:2008/12/24(水) 17:56:59 ID:robk9TaH
地球は、第97管理『外』世界の名が表す通りに、ミッドチルダ市民と何の関係もない。
従って、クリスマスもない。

「なのはちゃん、おつかれー」
「おつかれさまですー……」

天皇誕生日の夜、街の片隅で、高町なのはは盛大な溜息を吐く。
「あーあ、ユーノ君、今頃どうしてるんだろう?」
今日もまた仕事だった。明日も、仕事が待っている。
休暇申請が通らなかったせいで、愛しき海鳴に帰れるのは正月が終りかけている時だ。
だが、なのははまだましな方だった。
年末のゴタゴタで、いつ無限書庫に赴いても、ユーノの姿を見かけることはなかった。
それどころか、12月に入ってからずっと。師走とはまさにこのことだ。
「……よし」
こうなれば、やることは一つである。
『フェイトちゃん、今時間ある?』
『え、うん、あるけど。どうしたの突然?』
『ちょっと付き合って欲しい所があって──』
なのははフェイトを誘って、夜の世界に繰り出した。

「なーによぉー、ユーノ君、わたしのことキライになっちゃったのぉー!?」
「なのは、落ち着いてよ……」
「んぐ、んぐ、んぐ……もう一杯! このお店で一番高いの持ってきてー!」
そしてフェイトは自棄酒に巻き込まれたのだった。
「うぐっ、フェイトちゃあん……わたし、嫌われちゃったのかなぁ?」
「そ、そんなことないよ。ユーノだって忙しいだろうし、それに」
「ウソッ!! だってユーノ君、連絡一つ取ってくれないし、それにそれに、クリスマスだって近いのにぃ」
こうなればもはや『管理局の白い○○』という二つ名は全部お釈迦。
精々『白い飲んだくれ』か。
「な、なのは、そんなに飲んだら」
「知るかー! もっと飲ませろー!!」
グラスを高く掲げて、一気飲みを繰り返す。
「ほーら、わたしがこんなにアルコール漬けなのに、ユーノ君ったら助けに来てくれないし」
酔っ払いの戯言に、フェイトは別な意味で頭が痛くなってくる。
大体、明日も仕事のはずであって、遅くまで飲みまくるほどの度胸がない。
ほとんどシラフのフェイトはなのはをなだめすかせようと奮闘したが、効果はなかった。
「っていうかなのは、これ以上はホントに──」
「もうフェイトちゃんに乗り換えよっかなー。ユーノ君なんてだいっきらーい……ん?」
なのはが、フェイトへとしなだれかかってきた。
「ど、どうしたの、なのは?」
「あはは〜……ちょうちょが飛んでる〜。ほら、ユーノ君が迎えに来たよ〜。えへへ、ユーノ君大好きー……」
「なっ、なのは!?」

あわや救急車を呼ぶところだった。
なのはは、バタリと倒れてそのままスースー寝息を立て始めていた。

翌朝、朝食の場にて。
「……うー、頭痛いよぉ。フェイトちゃん、わたし昨日転んだりしたの?」
「ううん、そうじゃないけど」
なのはは、強烈な二日酔いに悩まされていた。
22White angel (前編) 2/6:2008/12/24(水) 17:57:39 ID:robk9TaH
「なんか、仕事が終ってフェイトちゃんと食事に行ったのまでは覚えてるんだけど、そこから先が分からなくて……」
「あー、うん、そうだろうね」
「ただ、ユーノ君が迎えに来てくれた気がするんだ」
「違う! それは違うよなのは!!」
それが閻魔大王からのお迎えだと知ったのは、その日の夕方になってからのこと。

「それじゃ皆、始めるよー」
今頃、海鳴ではクリスマス・イブ。
「まずは……ここにいる皆でスターライトブレイカーを受け止める練習から始めようか」
なのはは、あらゆる意味で最悪だった。
フェイトから貰った酔い覚ましは、未だ効能を発揮する気配がない。
ひょっとすると足りないんじゃないかと、思い始めていた。
『お、おい、教導官に何があったんだ!?』
『わかんねー、わかんねーけど、今日はいつも以上に大人しくしてようぜ』
「そこ」
念話でヒソヒソやっていたはずの二人を、なのははあざとく見つけ出す。
「ちょうどいいや。君たち今度Bランク昇級試験だよね? 大出力砲撃の能動的防御、今から実践してみようか」
「は、はいぃっ!」
何となく、虫の居所が悪かった。
「じゃ、行くよ」
こんなクリスマスイブを、望んでいなかった。
「じゃ、って、ここには皆が──」
「敵は待ってもくれないし場所も選ばないよ」
だから、生贄が欲しかった。
「わたしの言ってること、間違ってるかな?」
「いえっ、決して教導官殿は間違っておりません、しかし」
「問答無用」

『白い悪魔の再来』、そんな記念日が訓練生たちの間でまことしやかに語り継がれた。
乾いた笑いを浮かべている時と、ローテンションの時。
絶対に、高町教導官に逆らうべからず。
合言葉は、「Sir, yes, sir!」

「うぅーっ、午後の訓練も辛かったよ」
昼食時に酔い覚ましをたらふく飲んで、やっと何とか立ち直れた。
「あはは……多分、訓練生の方がずっと辛かっただろうね」
フェイトが、地獄の教練になっていたであろう今日を思い返す。
「それもこれも、ぜーんぶユーノ君が悪いんだよ」
ぷくっと膨れて、なのはは夕食をかっ込む。
「おーおー、今度は自棄食いか」
と、その時ヴィータがやって来た。
「今日は随分荒れてたみたいだな」
「あ、あはは」
「笑い事じゃねーぞ」
同じテーブルに着いて、水を一口。
「あいつらの成績が低下したら、それは誰でもない、お前の責任だ。そこんとこ、自覚しとけよ」
「はい……ごめんなさい」
「それでよし。反省はしとけ、だが後悔はするな。お前のやったことだ、落とし前はお前自身しかつけられない」
23White angel(前編) 3/6:2008/12/24(水) 17:58:28 ID:robk9TaH
ヴィータはフォークをビシッとなのはに突きつけると、黙々と食べ始めた。
「うん。ありがとう、ヴィータちゃん」
「『ちゃん』はよせ、こんなとこで。あ、そうそう、ベルカの格言にこんなのがあってな」
ヴィータは一度話を切ると、ゆっくりと言った。
「『空の玉座はいずれ暖まる』、要するに悪いことはいつまでも続かないってこった」
それを聞いて、なのはは少し気が楽になった。
明日はちょっとだけ優しい訓練にしよう、と決めた。

そしてなのはが部屋に戻ろうとすると、通路に明かりが漏れていた。
「あっ」
起き抜けはまったく前後不覚で、電気を消したかどうかは元より、朝のメニューすらさっぱり覚えていなかった。
だから、何か変なこと──例えばやかんを火にかけっぱなしだとか──を残してはいないかと、部屋に飛び込んだ。

すると、
予想を斜め上遥かに超えた人物が、
目の前に現れた。

「えっ……あ、ユーノ君?」
「おかえり、なのは」
部屋の中にいたのは、ユーノ・スクライアその人だった。
「た、ただいま」
沸いて出たように突然現れたから、取り敢えず挨拶することしかできなかった。
「ところでさ、これ見てよ」
ユーノの右手がヒラヒラさせているもの。
「休暇、願?」
「そう。僕と、なのはの分。もう申請は通ってるから、明日から三日はお休みだよ」
「い、いつの間に? っていうかどうやって……」
謎が謎を呼んで、なのはの頭は混乱する。

どうして今、ユーノがここにいるのか?
どうして、通らなかった申請が今更通っているのか?
どうして、ユーノがなのはの分まで休暇願を貰ってこれたのか?
どうして──

「多分、聞きたいことは山ほどあるだろうね。一つずつ説明するよ」
どっちにせよ、とユーノはその書類をなのはに手渡す。
「紙切れ一枚で申し訳ないけど、これが僕からのクリスマスプレゼント」
「あ……ありがとう、ユーノ君」
なのはは、あまりの感動に涙が堪え切れなかった。
ぽろぽろと頬に熱いものを流して、サインの入った休暇願を受け取る。
「ありがとう、ありがとうユーノ君。紙切れだなんて、わたしが一番欲しかったものだよぉ……」
「く、苦しいよ、なのは。でも、そこまで喜んでもらえるなんて、僕も頑張った甲斐があったな」
なのはの腕を名残惜しそうに解いて、ユーノは言った。
「そんな訳で、僕らは今から自由になった訳だ。取り敢えず、お茶でも飲んでゆっくりしよう」
「待って」
24White angel(前編) 4/6:2008/12/24(水) 17:59:02 ID:robk9TaH
キッチンへ入って行こうとしたユーノを、なのはは押し留める。
「どうしたの?」
「休暇、なんでしょ? だったら戻ろうよ、海鳴に。『わたしたちが出会った世界』に」
誰もがそわそわし、ひょっとすると雪の降る世界に。
デコレーションたっぷりクリスマスケーキと街路樹のイルミネーションが輝く世界に。
「行こう、ユーノ君?」
問いかけると、ユーノはあっさり首を縦に振ってくれた。
「ああ、それがいいね。それじゃ、早速荷物をまとめよう」
「うんっ」
そしてなのはは、ユーノと共に一路高町家へと猛スピードで出発したのだった。

***

久しぶりの我が家。
「あら、こっちには帰ってこないんじゃなかったの?」
という母の言葉に曖昧な笑みを浮かべ、『何とかなったんだよ』と言葉を濁す。
「お仕事ご苦労様。ユーノ君と一緒に今日はゆっくり休みなさい、お店はお母さんたちでちゃんとやってるから」
「ありがとう、お母さん」
そこへ、兄の恭也もやってくる。
「俺たちがやっとくから、お前はゆっくりしてろ──何より、大切な客人を店の都合で待たせる訳にはいかないからな」
含みのある言葉を残して、恭也は母、桃子と共に客で溢れかえる翠屋へと戻っていった。
「お兄ちゃん、お母さん、ありがとう。お父さんとお姉ちゃんにも、『ありがとう』って伝えててね」
「ああ。お前も頑張れよ」
恭也と桃子は立ち去り、後にはなのはたちが残された。
「お茶、わたしが淹れてくるね。そしたら、教えて。休暇が取れた秘密」
なのはは住み慣れた家の階段をトントンと降りていって、一路キッチンへ向かっていった。

温かいミルクティーを飲みながら、秘密を聞く。
「……あー、つまり、クロノ君が全部の黒幕だった、ってこと?」
「そういうこと」
話をまとめると、こういうことだった。
『なのはがクリスマス休暇の申請を蹴られた』、という話を聞いたユーノは、早速方々を回って頭を下げに行った。
休暇の穴を塞ぐ人員の確保、その為の臨時費用、一時的とはいえ仕事の引継ぎなどなど。
人事部、経理部、総務部、あちこち回った。
なのはの故郷ではこの時期誰もが休暇を取るということ、それができずにストレスが大分溜まっていること。
懇切丁寧に説明したが、返答は芳しくなかった。
「もしそうだとしても、どうして君がわざわざ頭を下げに来るのかね?」
恋人だからだ、とよっぽど言ってやりたかったが、そんな私情でどうにかなる訳もない。
そして最後に頼ったのが、クロノだった。
「僕に沢山仕事を押し付けてたからね、まるで親の仇みたいに──ま、今となっては笑い話だけど。
で、そこら辺の事情も汲んでもらって、クロノに代りをお願いしたって訳」
それにしても、あっさりすぎたものだった。
クロノに休暇申請を出したのが、つい朝のこと。
そこからリンディへ連絡が行って、それから半日もせずに許可が下りてしまったというのだから。
「上でどんな密約があったのか、それはちょっと分からないけどね」
25White angel(前編) 5/6:2008/12/24(水) 17:59:35 ID:robk9TaH
ところで、とユーノは続きを言った。
「実は、プレゼントはもう一つあるんだ」
懐から小さな箱を取り出した。
白い包装紙に、ピンク色のリボン。
「何?」
「いいから、開けてみなよ」
キョトンとした顔で、なのはは箱を受け取る。
その大きさどおりに、軽い。
「なんだろ?」

箱の中には、ブローチが入っていた。
真ん中に、まばゆく輝かんばかりのダイヤモンドが一つ、埋め込まれている。

「僕の給料、三か月分だよ」
顔を上げると、視線を微妙にそらしたユーノが、真っ赤な顔で頬をポリポリ掻いていた。
『給料三ヶ月分』。
「……ぷふっ」
なのはは、思わず吹き出してしまった。
「なっ、それは流石に酷いよ、なのは」
「ふふっ、ははっ、だってユーノ君、こっちじゃそれ、時代遅れ過ぎるよ。わたしのお父さんたちの世代だよ。
っていうか、クリスマスプレゼントじゃなくて、しかも、ははははっ、ブローチじゃなくて、指輪だから……ふふっ」
「ええええええっ!?」

地球に幾らか住んでいたといっても、やはりユーノは次元世界を異にする人。
中途半端な知識が、否が応にも笑いを誘う。
「でも、ありがとう。こんなにキレイなブローチ、初めて見た」
身に着けて、鏡の前に映してみる。
「凄く似合ってるよ、なのは」
後ろから、甘く囁かれる。
「ホント?」
「ホントにホント。なのは、誰よりも綺麗だ」
頭がボーっとするほど、ユーノの言葉が心をトロトロに熔かしていく。

「……ねぇ、ユーノ君」
どうしても、今、伝えたい想いができた。
「なに?」
振り向いて、ユーノに尋ねる。
「わたし、もう一つだけプレゼントが欲しいんだけど、いいかな?」
「どうしたのさ、藪から棒に」
身体をしっかりと向き合わせて、なのはは真剣な顔でお願いした。
「あのね、ユーノ君」
「うん」
「えと、あの、その……ね」
しかし、真剣な顔はすぐに崩れてしまい、しどろもどろになる。
「どうしたの、なのは?」
26White angel(前編) 6/6:2008/12/24(水) 18:00:10 ID:robk9TaH
なのはは、息を思い切り吸い込んで、そして一気に言った。
途切れ途切れに、けれど、何よりもはっきりと。

「ユーノ君の、苗字を、下さいっ!!」

「え、苗字? なんでそんなもの……えぇっ!?」
ユーノは、雷に打たれたかのように固まってしまった。
「つまり、その、それって……僕で、いいの?」
さっきのなのはよりも、ずっとしどろもどろになったユーノが、やっとの思いで聞き返してくる。
なのはは、もう一度念を押すように言った。
「ユーノ君しかいないの。わたしの全部を受け止めてくれる人は。
だから、『紙切れ』は、休暇願だけじゃなくて、もう一枚必要なの。婚姻届っていう『紙切れ』が」
もじもじしながら言って、ユーノの言葉を待つ。
「どう、かな?」
「……明日にでも、早速役所に行こう。なのは、これからも──いや、末永くよろしくね」
思いがけずあっという間の了承に、なのははビックリした。
「ホント? ホントに?」
「僕が嘘をついたことなんてあったっけ?」
「ううん、ないない! ユーノ君、大好きっ!!」
なのはは思いっきりユーノの胸に飛び込んだ。
勢い余って押し倒してしまったが、ユーノはしっかりと受け止めてくれた。
嬉し泣きに泣いて、なのははしばらくそのままユーノの胸に抱かれていた。

窓の外では、チラチラと真っ白な雪が舞い始めていた。
さながら、天使が落とした羽のようだった。
27Foolish Form ◆UEcU7qAhfM :2008/12/24(水) 18:01:37 ID:robk9TaH
↑ここまで前編

↓ここから後編、エロ注意
28White angel(後編) 1/5:2008/12/24(水) 18:02:41 ID:robk9TaH
「ところでね」
思い出したように、なのはが言う。
「うん」
「クリスマスにユーノ君と会えるなんて思わなかったから……プレゼント、実はないんだ。
ユーノ君、何か欲しいもの、ある?」
「なんだ、そんなこと」
軽くユーノは笑って、なのはにそっと口づけた。
「僕は、なのはが欲しいな」
「……はい♪」

***

ベッドの上。
出逢った頃はユーノを抱いて寝ていたが、今度はユーノに抱かれている。
「ん、ちゅ、んんっ……」
いつもの、ただ唇を重ねるだけのキスではない。
ユーノの舌が口の中に割り込んできて、くちゅくちゅとかき回される。
「んんっ、んむっ、ちゅっ……」
脇腹から胸のラインをさわさわと撫でられ、時折その膨らみに手を置かれる。
長いキスが終って離れた二人の唇からは、銀色の架け橋が伸びていった。
「ひゃぅっ……」
耳たぶを優しく甘噛みされる。ユーノのキスが、首筋に回る。
「なのは、いい匂い」
「そ、そんなっ、だってわたし、まだお風呂に入ってないのに──」
「なのはの匂いを、シャンプーで消すのはもったいないかな」
「あぅ、恥ずかしいよ、ユーノ君……」
「大丈夫。なのはの身体、とっても綺麗だよ」
シャツのボタンを一つ、また一つとはずされていく。
すっかりはだけてしまった素肌へ、ユーノの手が触れる。
「ひゃんっ」
「ごめん、冷たかった?」
「ううん、違うの。ただ、ちょっと驚いただけ」

ただ一緒にお風呂に入って、背中を流すだけのプラトニックな行為とは全然違う、感触。
ブラジャーの隙間から手を入れられて、ゆっくりと揉みしだかれる。
「なのはの胸、やわらかいね」
「そ、そんなとこ触っちゃ、やだぁ……」
背中に手を回されて、ホックを外される。
二つの膨らみを隠すことができなくなってしまった。
「大きさも、手のひらサイズっていうか、僕の手にしっくりくるっていうか。とにかく、可愛いよ」
何も出ないはずなのに、何かが搾り出されそう。
ユーノの両手は、切ない疼きを身体の芯に湧かせてくる。
「ひぅっ」
胸の先端にある、二つの突起。
既に充血しているそこを、指先で軽く摘まれる。
「なのは、おっぱいとか出ないの?」
「で、出ないよぅ……」
くにくにと乳首を揉まれて、その度に甘い衝動が身体中に広がっていく。
と、不意にユーノの顔が胸の前まで来た。
「出ないなら、出してみる」
「え、ちょっと待って、まさか──ひゃあっ!」
29White angel(後編) 2/5:2008/12/24(水) 18:03:13 ID:robk9TaH
言うが早いか、ユーノが乳首に吸い付いてきた。
ちゅうちゅうと音を立てて、すっかり固くなった突起を舌先で転がされる。
「ダメ……だよっ、おっぱい、出ないんだからぁ」
弱々しく抗議しても、ユーノはさっぱり止めてくれない。
「出てくるよ」
もう片方の乳首も指でこねくり回されながら、ユーノは言う。
「なのはの、えっちな声」
「や、いや、聞かないでよぉ」
ユーノは、全然聞き入れる気はないようだった。
太ももから内股までを流れるように撫でられて、そこにも沢山口づけられる。
ユーノの手は、やがて最後の砦──ショーツにまで伸びてきた。
「あっ、そこはダメッ、ダメなの……」
「どうして?」
イタズラっぽい笑みを浮かべながら、ユーノはショーツに手を掛ける。
「やぁっ、だめぇっ、そこはぁっ」
手にも足にも、まったくく力が入らない。
何もできないまま、なすがままにショーツを剥ぎ取られてしまった。
誰にも見せたことのない場所を、今ユーノにじっくりとみられている。
「濡れてるよ、なのは。ひょっとして、感じちゃってた?」
「そんなそんなそんなっ……わたし、わたし」
ねっとりとした、汗とは思えない液体をユーノは指先にすくい上げて、見せてくる。
「そんな、ウソだよぉ」
「ウソじゃないさ、だってこんなにトロトロなんだから」

ぴたぴたと秘唇を上下になぞられ、時折その頂にある小さな豆粒へと触れられる。
その度にどうしようもない声と吐息が漏れて、腰に来る疼きがどんどん高まっていった。
「じゅる……ぴちゃ……」
「にゃああああっ!」
突然、ユーノの舌が秘唇を這い始めた。
敏感な場所を嘗め回されて、声にならない声を上げる。
「ダメだよ、そんなとこ、きたな……ひゃあっ」
「なのはに汚いところなんてないさ。それに、すっごく可愛いよ」
「あっ、あっ、かわいいって……ひぁっ」
ザラザラした舌が、ピンク色の蕾を捉えた。
全身に電気がビリビリと流れて、頭がスパークする。
「ダメッ、ユーノ、君……わたし、変になる、変になっちゃうからぁっ……!」
「いいよなのは、思いっきりイッても」
秘芯をちゅうちゅうと吸われ、蜜壷を浅くくちゅくちゅとかき回されて、意識が白濁していく。
「あぅっ、ひっ、いやぁっ、ああああああああああっ!」
今までたまっていた疼きが、爆発した。
下腹部から全身へ、津波のような快感が走っていく。
ビクビクと身体がケイレンして、やがて穏やかな心地よさが心まで染み込んでくる。
「あぅ……ユーノ君に、イかされちゃった……」
「とっても可愛かったよ、なのは」
30White angel(後編) 3/5:2008/12/24(水) 18:03:53 ID:robk9TaH
そしてまた、口の中に舌を潜りこまされる。
舌を絡められては、互いの唾液が混ざり合っていく。
「……ぷはぁっ。ね、ねぇ、ユーノ君」
「なんだい?」
「わたしばっかりされるのもアレだから、今度はわたしが、ユーノ君を、ね?」
ユーノを悦ばせてあげたい、その一心で、お願いする。
「ああ、いいよ」
「……あれ?」
腰が持ち上がらない。手先は動くけれど、それ以外が砕けてしまった。
「にゃ、にゃはは、動けないや」
「そう? それなら、こうやって……」
コロン、と横にさせられる。
そこへ、ユーノの身体が覆いかぶさってきた。
「ほら、見てごらん。これが僕のだよ」
こんなにも大きいのかという怒張が、目の前に差し出さされた。
他と比べたことなどないから分からないけれど、少なくともこれが身体に入るとは……想像できない。
手を触れようと腕を動かしてみたが、心に反して動いてくれない。
それを悟ったらしいユーノが、自身のモノへと手を誘う。
「どう、感想は?」
間近で触るそれは、心臓の鼓動にあわせてピクピクと脈打っていた。
「熱い……それと、固い……」
吐息がかかるほどの場所で、ユーノのペニスがある。
頬にヒタヒタと打ち付けてみると、それこそ火傷しそうなくらい熱い。
両手で包み込んで、優しく擦るように上下に動かすと、ユーノの表情が変わった。
「うっ、あぁ、なのは、もっと、もっと頼むよ」
力が入らないせいで手の動きが拙いが、それでもユーノには快感になっているようだった。
「感じてくれてるんだ、わたしの手で──」
もっと、もっと感じて欲しい。
閉じていた口を開いて、肉の槍をぱく、と咥えた。
「あぁっ、なのは、そんなの、一体どこで……」
「わたしだって、もう、こどもじゃないんだから」
先っぽのツルツルした場所を吸ってみたり、そこから下の、エラが張った場所を舐めてみたり。
口いっぱいに頬張って思いきり吸い上げると、ユーノも甘い声を出した。
「あっ、うあっ……」
ストロークの代りに、口に収まりきらない部分を一生懸命擦っていると、ユーノが限界を訴えてきた。
「なのはっ、で、出るっ!」

一瞬にしてペニスが引き抜かれたのも束の間、その鈴口から白いマグマが濁流のように迸ってきた。
とびきり濃い精液が首といわず髪といわずかかり、上気した顔をデコレーションしていく。
その一部は口の中にも入って、苦いような、しょっぱいような、甘いような、表現しがたい味が広がった。
「でも」
唇についた精液を舐め取り、コクリと飲む。
「ユーノ君のだから、おいしいよ」
また、下半身が強烈に疼き始めた。
「お願い、ユーノ君……来て」
ようやく動き始めた腕で、ユーノの身体を抱きしめる。
ユーノは何も言わずにコクリと頷くと、一度精を出してもまだ固いままの怒張を、つぷ、と挿入してきた。
31White angel(後編) 4/5:2008/12/24(水) 18:04:39 ID:robk9TaH
「ひゃぅっ」
痛くはなかった。
むしろ、最後のピースがはまったような心地よさだけが、身体を支配した。
「なのはっ、なのはぁっ……」
「嬉しいよ、ユーノ君、嬉しいよぉ……もっと動いて、もっと、ユーノ君のしたいようにしてっ……
わたしを、めちゃくちゃにしてぇっ!」
引き抜かれては、また奥深くまで挿し込まれる。
中で擦れて、どうしようもなく昂ぶって。
「なのはっ、僕、もう……」
「いいよ、ユーノ君、いいからっ、中で、中で出してっ」
愛する人の想いと、それに乗った精。
そのどちらも、ありのまま全て、受け止めたかった。
「なのはっ、好きだっ、大好きだっ!!」
「わたしも、わたしもだいすきっ……ああっ」
二度目の、スパーク。
「あああああああああああっ!!」
ドクドクと、身体の中に精液が流し込まれている。
ものすごく多そうだ。赤ちゃんが、きっとできる。
「ユーノ君と、いっしょなら……」
例えどんな道でも、歩いていける。道すら、なかったとしても。
一緒なら、子供の一人や二人、何のことはない。
「僕も、なのはと一緒なら」
そこから先は、何も言わなくていい。
ただ、二人で抱き合っていれば、それでよかった。

互いの吐息が、子守唄のように意識を溶かしていく。
全てが満たされた温かい海の中で、静かに眠った。

***

翌日。
「おはよう、なのは」
「おはよう、ユーノ君」
窓の外は、銀色の世界だった。
昨日から降っていた雪が、気持ちいいくらいたっぷりに積もっている。
「ねぇ、ユーノ君」
「ん?」
昨日は、愛し合った末に二人で眠ってしまったから、入れずじまいだった。
だから、
「今からシャワーを浴びて、それから、かまくらを作るってのはどう?」
「あぁ、うん、いいねそれ。よし、早速やろう!」
「アリサちゃんたちも誘って」
「うんうん」
「思いっきり、パーティーを開こう!!」
気分爆発で部屋を飛び出そうとしたなのは。
だが、脱ぎかけのシャツと足首に巻きついたショーツだけの姿だったのに気付いて、
慌ててユーノはその手を掴みに行った。
32White angel(後編) 5/5:2008/12/24(水) 18:05:32 ID:robk9TaH
新年になって、なのはが教導官として気合一新働き始めた頃。
『なんか最近なのはさん、機嫌良いな』
『何でも、婚約したらしいぜ』
『ははぁ、なるほど』
「そこ!」
「は、はいっ!!」
「……私語は謹んでね」

『管理局の白い天使』、或いは『管理局の白い女神』。
笑顔の眩しさで以前にも増して慕われるようになった高町なのはの、そんな二つ名が流布し始めた。

***

話は少し遡って、クリスマス当日。
なのはの親友二人は、それぞれ異なる過ごし方をしていた。

ミッドチルダ某所。
八神はやてはお茶をすすりながら、モニターに見入っていた。
「あーあ、ユーノ君ってば遂になのはちゃんを寝取ってしもたか」
「はわわわわ、はやてちゃん、それはプライバシーの侵害なのですー」
「いやいや、これは役得ってもんやで、リイン。
私が代りにクリスマスを潰すからこそ、なのはちゃんは今幸せでいられるんやから」
「それはまぁ、そうですけど……」
「いやー、他人の愛憎──いや愛々劇は下手な漫才よりよっぽど面白いなー」
「はやてちゃんっ」
いつの間にか、なのはの部屋には隠しカメラが仕掛けてあったのだった。

一方、海鳴市はハラオウン邸。
どういう訳かおこぼれでフェイトも休暇を貰えて家に戻ってきていたが、どうも何か家の様子がおかしい。
「我らは神の代理人、契約の地上代行者。.
我らが使命は、我が神に傅く信者を、その魂の最後の一片までも昇天すること──A†men」
「な、何言ってるの、お兄ちゃん?」
クロノは、ただひたすらエイミィの写真に向かって毒を吐き続けていた。
ドアの向こう側から聞くその声はあまりにも不気味すぎて、フェイトは恐る恐る兄に問いかけたのだった。
「ついでに僕も休暇を取ったら、今度はその瞬間にエイミィの出張が決まったんだ……」
虚ろな目でため息を吐き、またブツブツと妙なことを口走り始めるクロノ。
「其は全ての生命への畏怖。魂の祝福を超え、浄化されし光明。
闇の深淵を覗きし者よ、漆黒の波動に拠り、混濁の贄と化せ──」
「……わ、私、急用思い出しちゃった。ちょ、ちょっと部屋に戻るね」
フェイトは、逃げ出すようにクロノから離れざるを得なかった。
リンディやアルフと一緒にケーキを食べるその瞬間が、何よりも待ち遠しかった。
33Foolish Form ◆UEcU7qAhfM :2008/12/24(水) 18:12:32 ID:robk9TaH
……ふぅ。
「ホワイトクリスマス」を聖的な意味にしようか性的な意味にしようか迷った。
結局後者になってしまったのは多分、ユーなのに対する愛だと思ってる。

「管理局の黒い八神」もといはやてのことは忘れて下さい。

>保管庫の司書さんへ
連続投下という形になりましたが、「前編」と「後編」を分けて下さるようお願いします。
この際は「短編」の方へ。
前編:非エロ
後編:エロ
といった具合に。



さて、さて。いかがだったでしょうか。
二人の結ばれた愛を、どうか皆さんのハートに届けばいいなぁと思います。
それでは、皆さんに多幸あらんことを。

Merry Christmas!!
34名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 19:48:06 ID:JQs3fOHk
>>33 
GJ! 素敵なユーなのでした! 自分からプロポーズするとは流石です、なのはさん!
35名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 20:15:00 ID:bWYQgwfF
>>33
今スレ初めての甘々エロもGJでしたが

>『管理局の白い天使』、或いは『管理局の白い女神』。
これが何故か涙腺にグッと来ました……。

いや〜よかったです!
36アルカディア ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 21:49:33 ID:JQs3fOHk
22時過ぎ頃から、クリスマス投下を行いたいのですが、どうも大容量になってしまったので、ご支援をお願いしても良いでしょうか?
37名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 21:51:42 ID:5z+kW8rB
目に見えるように、このスレで支援書き込んだほうがいいのか?
それとも例の広告鯖でひっそりとやったほうがいい?
38アルカディア ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 21:59:15 ID:JQs3fOHk
>>37
このスレでお願いします。念の為に9レス刻み位でご支援頂ければ幸いです。
39名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 22:01:50 ID:5z+kW8rB
おk

他スレでの情報だが、今のところエロパロ板のボーダーは27-30kbくらいみたいだ。ご参考までに。

>現在の所、ボーダーラインがどこなのかは分かりませんが、12/10の時点では26Kbの連投は可能でした
>恐らく、

>「○時間以内に、同一IPによる30Kb分の書き込み」はバーボン行きとなる条件の“一つ”ではないかと思われます。
40アルカディア ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:12:46 ID:JQs3fOHk
>>○時間以内に、同一IPによる30Kb分の書き込み

引っかかりそうです。途中で串さしてIP変えれば回避できますか?
41名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 22:20:14 ID:bWYQgwfF
>>40
メモ帖にコピペしてみてKB数をチェックしてみるというのはどうでしょうか?
42名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 22:21:36 ID:5z+kW8rB
串があるんならいける鴨
43アルカディア ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:28:52 ID:JQs3fOHk
不勉強でご迷惑をお掛け、申し訳ございません。
ぐぐりながらFirefoxで串をさして投下してみます。

それでは参ります。

【 Purple Purple Holy Night 】

かなり長めの短編となりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
クリスマスらしく、コメディを目指してみました。
NGはトリップでお願い致します。
44Purple Purple Holy Night/1 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:32:07 ID:JQs3fOHk
 ―――ガラスの筒の中には、紫の髪の人魚がいた。
 透き通った氷のように凪いだ水の中、美しい長髪は枝垂れ桜の枝のように広がっている。
 ガラスの筒の下部には、『XI』と刻印されていた。
 黄金比の均整を保った全裸の肉体は仄暗い水底で、白く、白く、燐光を放つかのように輝いていた。
 一糸纏わぬ姿であるにも関わらず、そこに男の情欲を掻き立てるような淫靡さは微塵も無い。
 美術館に飾られたモニュメントのように、ただ、美しかった。
 彼女の瞳は閉じられ、開かれることは無い。
 そのままでいいと男は思った。人の顔で最も饒舌に感情を語るのは瞳だ。
 この美しい芸術品が人のように喋る必要は無い。ただそのまま、美しくあればいい。
 ぼんやりと、そんなことを思った。

 一度無理を始めると、まだ出来る、もう少し出来るとずるずると無理を続けてしまう人種がいる。
 自分もそんな人種の一種だった。体はボロボロだったが、どこも先の事件の処理で人手不足の今、ベッドで丸くなっていることが出来ずこの任務に同行してしまった。
 形式だけの護衛なので危険は無かったが、同行して歩くだけでも一苦労だった。
 だが、この一目でそんな苦労はすべて吹き飛んでしまった。

「ありがとうございます。退がって下さい。あとは私達が処理します」

 静寂を破り、今まで意識の外にあった仲間達がわらわらと現れた。
 特殊救護班という名の彼らは、人魚の飾られたガラスの筒―――生体ポットを取り囲み、無粋にも解体をはじめた。
 勿体無い、と思った。あんな美しい芸術品を無残に破壊してしまうなんて。胡乱な頭でそう思う。
 ガラスの筒が外される。彼岸と此岸を隔てる境界が破れる。彼女を包んでいた液体が流れ出る。
 毛布に包まれた彼女は、陸に上がった人魚のようだ。
 直に目にする紫髪は一層艶やかに輝き、まだ乾ききっていない肌も艶々と輝いている。
 彼女がびくりと痙攣した。静かに口を開き、外気を吸い込む。
 ―――美術品では無い。彼女は、生きている。
 美術品としての彼女は破壊された。だが、人としての彼女は美術品であった時より何倍も美しかった。
 すっ、とその眼が開く。半開きになった瞼の下の深紫色の瞳が、己の瞳と交錯した。
  
 その日、ヴァイス・グランセニックは紫の人魚に恋をした。産まれて初めての一目惚れだった。
  
 

 【 Purple Purple Holy Night 】



 病院通い程退屈なものは無い。行き着けの病院は、先の事件の影響もあってこの日も随分と混み合っていた。
 六課のすぐ近くにあるのが救いだが、堅苦しい場が嫌いなヴァイスはどうも重苦しい病院という施設を好きになれない。
 やれやれ、とロビーの椅子に腰を下ろし、流れていく周囲の人垣をぼんやりと眺める。
 ―――悶々としている。あの日以来、体よりも心の調子が落ち着かない。
 彼女は、一体どこの誰なのだろう。
 八神隊長に問い合わせれば、案外あっさりと解るかもしれないし、機密として教えて貰えないかもしれない。
 何にせよ、あんな場所で虜囚となっていた女性だ。深い事情があるのだろうし、自分が会おうと思って会える人間でも無い筈だ。
 鬱屈していく思考を切り替えようと、周囲の観察をしてみる。
 大病院である。普通の病院としてのみでなく、魔導師のリンカーコアのケアやナカジマ姉妹の定期健診なども行っているらしい。
 先の事件で人手不足で、六課からもシャマルが出向しているとかいないとか。機動六課からの入院患者も大勢いる。
 見知った顔に出会うことも珍しくはない。あまり期待はせずに、視線を宙に彷徨わせる。
 ……どんな偶然だろう。見知ったちびっ子達と一発で目が合った。

「こんにちは、ヴァイスさん。ヴァイスさんもお見舞いですか?」
「よっ! エリオ、キャロ。俺はいつもの検診だ。二人は誰の見舞いに来たんだ?」
「あの、わたし達は今日はこの子の付き添いで来たんです」
45Purple Purple Holy Night/2 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:33:59 ID:JQs3fOHk
 二人の後ろから、見覚えのない無い少女が現れた。
 キャロよりも尚小さな矮躯。ビスクドールのような冷たい無表情。そして、腰までもある美しい紫髪。
 見覚えのない―――? いや、あの時―――。すっ、っとヴァイス顔から血の気が引いた。
 彼女は、あの機動六課攻防戦の際に己を撃破して一週間の昏睡に至らせ、この通院生活の因となった少女ではないか!
 だが、怨みを思うより先にヴァイスは目を奪われていた。
 彼女の美しい紫髪。白磁の人形のようなその表情。それはまるで―――。
 
「ええっと、わたし達の友達のルーテシア・アルピーノちゃんです。
 ほら、最近シグナム副隊長と一緒にいるアギトさんのお友達なんです。
 前の事件では色々ありましたが、今じゃすっかりお友達ですから、ヴァイスさんも仲良くしてあげて下さい」

 無言の彼女をフォローするように、キャロがそう紹介して小さく頭を下げた。
 ルーテシアは茫洋とした視線で少しだけヴァイスの顔を見つめると―――キャロに倣うかのように、小さく頭を下げた。
 彼女は自分の事を覚えているのだろうか? エリオが続ける。

「今、ルーのお母さんがここに入院しているんです。
 長く眠っていたから、中々体調も良くならなくって、ルーもあまり会えないんです。
 あっ! そういえば、ルーのお母さんが助け出された時、ヴァイスさんも護衛で一緒にいたそうですね!」

 中々噛み合わない話題の接点を見つけて、エリオがぱっと顔を輝かせた。
 一方、ヴァイスはエリオの言葉の意味を、未だよく理解できずに居た。
 それは、つまり、この子は―――彼女の、あの美しい人魚の、娘だということなのか!?
 ヴァイスは目を見開いてルーテシアを見据える。白磁の顔立ち。絹のような美しい紫髪。
 間違えようが無い。この子は、あの人魚の血を引く実の娘なのだ!
 ヴァイスは背筋を震えが走り抜けるのを感じながら、唾を飲み込みルーテシアに語りかけた。

「や、やあ。俺はヴァイス・グランセニック。初めまして、ルーテシアちゃん」

 ルーテシアはヴァイスの顔をじっと見つめると、挨拶も抜きにいきなりヴァイスにとっての話題の本丸に斬り込んだ。

「あなたは、母さんに会ったの?」

 ぎくり、とするが平静を装い静かに答える。

「……ああ、救助されるところを少し見ただけだけどね」
「母さんは、どうだった?」
「―――、っ」

 今度こそ、本当に返答に詰まる。『元気そうだったよ』『大丈夫そうだよ』そんな大嘘を並べることは出来る。
 だが、それはルーテシアにとっても、彼女にとっても不誠実な気がする。
 ヴァイスは、偽らないことを選択した。

「俺は専門家じゃないから、君のお母さんの容態は解らない。でも……君のお母さんは、綺麗だったよ」

 綺麗だったなんて、どう考えても場違いな言葉だ。ヴァイスは顔色を伺うようにルーテシアの顔を見つめる。
 ルーテシアは、顔色一つ変えずヴァイスの顔を見つめ。

「……そう」

 とだけ言うと、踵を反した。彼女の居る病棟に向かうのだろう。
 ヴァイスは反射的に声をかけていた。

「俺も行くよ……これも、何かの縁だと思う。俺も、君のお母さんのお見舞いに行くよ―――」

 それは、掴みかけた細い糸を手放したくない一心から出た、必死の言葉だった。
 ルーテシアは一瞬足を止め、ヴァイスを一瞥すると―――無言で再び歩き始めた。

「では、ヴァイスさんも一緒に行きましょう! お見舞いは大勢の方がいいですからね!」

 今の一瞥をどう解釈していいのか解らず足を止めているヴァイスを、キャロがにっこり笑って招いていた。
46Purple Purple Holy Night/3 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:37:06 ID:JQs3fOHk
     ◆

 
 外来受付や入院施設のような喧騒から離れた特別棟。そこは一種要塞じみた威容でヴァイスを待っていた。
 無音の廊下は冷たく、扉は厚く、そこは来る者全てを拒絶するかのような趣を湛えていた。
 どこか、彼女に出会ったあの地下施設の薄暗い雰囲気を想起させる。
 ルーテシアの母、ヴァイスが届かぬ片思いを続ける人魚―――メガーヌ・アルピーノの病室は、その最奥にあった。
 
「―――っ」

 パスワードによる認証が無ければ開かぬ重い扉。その前に、人に似たシルエットの無骨な虫が立っていた。
 ルーテシアの召喚虫、ガリュー。それは、誰もに威圧感しか与えぬ体躯を以って、その扉を守っている。
 その静かな盾としての在り方。ヴァイスは、不意に機動六課の影の守り手の蒼き狼を連想した。
 恐ろしげな威容をしているが、これはきっとあの優しき守護獣と同種の存在だ。直感的にそう確信する。
 ルーテシアは、扉の前に立ち尽くし、一向に中に入る気配は無い。エリオとキャロも同様だ。

「あの……お見舞いに行くんじゃないのか?」
「面会は無理なの。まだ仮死状態から蘇生したばかりで日も浅くて、バイタルも精神状態も安定していないのよ。
 許されるとしても、ルーちゃんだけだわ。―――それにしても珍しいわね。ヴァイス君がこの子達と一緒に来るだなんて」
「―――シャマル先生」

 背後から、見知った顔に声をかけられた。
 全く事情の解らないヴァイスは、この件に明るそうなシャマルに内情を尋ねることにした。
 じっと扉を見つめるルーテシアと、彼女を守るように左右に立つエリオとキャロから少し離れて、小声で彼女を取り巻く事情の諸々を聞いた。
 ゼスト隊全滅の顛末、レリックウエポンとしての使役されながら、母を蘇生されるレリックを探索する日々。
 そして、先の事件での六課との対立、エリオとキャロとの戦いと友情。
 ルーテシアもまた、体内のレリックの摘出などで通院を余儀なくされ、先の事件での罪科によって行動も非常に制限されているという。
 
「色々あって隔離処分はなんとか免れたけど、心身ともに重い後遺症が残ってる。
 あの子、自分をずっと心の無い道具だって思って生きてきたらしいの。お母さんが生き返れば、自分にも心が生まれるって。
 もちろんそんなの大嘘なんだけど、それをずっと信じてきたせいで感情表現が乏しいところがあってね。
 ヴァイス君、よければあの子に話しかけてあげて。あなた、六課の男性隊員の中じゃ一番軽くて話しやすそうなタイプだし」
「なんだかそれって、俺が一番不真面目なようにも聞こえるっすね」

 軽い口調で答えながらも、内心ではアルピーノ親子の境遇に唖然としていた。
 ルーテシア、何だか無表情な子だと思っていたが、あの齢でそれほど過酷な道程を歩んで来たなんて。
 
「その、アルピーノさんはちゃんと目覚めるんですか?」
「意識はもう戻ってるわ。ただ、まだ体力も戻ってないし感染症の惧れもあるわ。 
 なにより、精神的なショックが強いようよ。
 ―――あなた、自分が目覚めたら仲間は全滅して、8年も経っていた時の気持ち、解る?」

 ヴァイスは、ただ圧倒されていた。
 ―――彼女は、ただ美しいだけの芸術品ではなかった。
 
「それでも、彼女、前向きに今の状況に適応しようとしているわ。
 早く体を治して、ルーちゃんと暮らしたいて。そう言ってるの」

 ―――己ならば到底負いきれない程の重みを背負わされ、そんな境遇の中で尚生きようとしている血の通った女性なのだ。
 ヴァイスはメガーヌに、尊敬の念にも似たものを感じていた。
 そして、彼女にこれまで以上に、狂おしいまでに惹かれている自分に気付く。
 これまでの、単純な容姿に惹かれた恋慕ではない。心底、彼女のことをもっと知りたいと思った。
 子持ちだとか、ルーテシア程の年齢の娘がいるならきっと自分より幾分年上だろうだとか、そんな諸々の事情にも彼の恋心は微塵も翳らない。
 そしてふと、彼女にルーテシアという娘がいることから、真っ先に思い当たるべき事情について思考が行き着く。

「……ねえ、シャマル先生、彼女達には家族は……?」

 旦那は、とストレートに聞かなかったのは、シャマルに下心を知られたくなかったからである。
47名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 22:37:56 ID:5z+kW8rB
  
48Purple Purple Holy Night/4 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:39:28 ID:JQs3fOHk
 シャマルは首を横に振った。

「彼女達二人だけだそうよ。別世界の出身らしくて、係累縁者も辿れなかったわ」

 いぃぃぃぃよっしゃあぁぁあ! ヴァイスは胸中で会心のガッツポーズを取る。天に向かって雄叫びを上げたい気分だった。
 メガーヌは現在独身―――それを知ったヴァイスの中で何かのスイッチが入り、巨大な蒸気機関のように力強く鳴動を始めた。
 固く固く拳を握り締め、瞳は精気に満ちて輝き、全身に熱い血脈が巡り、興奮で頬が紅潮していく。
 
「ヴァイス君、貴方、なんだか顔が赤いわよ? 体調は大丈夫なの? 貴方の怪我も軽くは無いんだから―――」
「ご心配なく、シャマル先生。俺は今、絶好調っす!!!」

 体を乗り出して力強く答えたヴァイスに気圧されて、シャマルは、「そ、そう……」とだけ言って後ずさった。
 ヴァイスは改めて己の状況を整理し、己に巡ってきた幸運に身震いする。
 絶対に接点が無かった筈の思い人が自分の通う病院に入院しており、その上娘と知り合いになることが出来たなんて……!
 病院最高! 病院大好き! 通院抜きで毎日足を運ぼう。武装隊の知り合いの見舞いでも何でも、口実はいくらでも作れる。
 ヴァイスの心は逸っていた。
 彼の目は、固く閉ざされた扉をじっと見つめるルーテシアを捉えていた。
 一つの諺を思い出す。
 
『将を射んと欲すれば まず馬を射よ』


     ◆


 次の日から、ヴァイスの凄まじいアタックが始まった。

『やあ、おはようルーテシアちゃん。あ、今日は偶然ポケットに飴玉が沢山あるんだ! 一個食べないかい!』
『やあ、こんにちはルーテシアちゃん。あ、バッグの中に漫画が沢山入ってたよ、一緒に読もうよ!』
『やあ、ルーテシアちゃん。近くに美味しいアイスクリームのお店があるんだ! 俺がご馳走してあげるよ!』

 完全にストーカーか幼女を狙う変質者の類にしか見えないが、現在ルーテシアに監視という名目で付き添っているのはエリオとキャロである。
 純真さの塊のような彼らは、「ルーちゃんに新しい友達が出来てよかった」と、にこにこ笑ってその光景を眺めていた。 
 当のルーテシアは、飴玉も漫画もきちんと受け取るし、アイスの店にも付き合っている。
 しかし、感情を表に出さないのは相変わらずで、言葉少なく会話も続かない。
 エリオとキャロが居ない時は沈黙ばかりが延々と続いてしまい、賑やか好きのヴァイスはどうにも気まずい思いを募らせている。
 何よりも、ルーテシアから一度も話し掛けられた事がないというのが痛い。
 ルーテシアに気に入られ、メガーヌとお近づきになろうというヴァイスの計画は早くも難航中だ。
 ……そんな停滞しかけた状況が打破されたのは、エリオとキャロが席を外し、二人きりになったある昼下がりのことだった。

「……あなたは、私と戦った人でしょう?」

 突然ルーテシアに話しかけられて、ヴァイスはギクリとした。
 普段の会話なら洒脱な返事の一つでも返すところだが、尋ねられた内容が内容なだけに、返答に詰まる。
 ルーテシアは、ヴァイスの態度など構いもせずに問いを続ける。

「覚えてる。私を銃を狙っていたけど、撃たなかった人。
 私はあなたの敵で仇だったはずなのに、どうしてこんなに色々なことをしてくれるの?」

 ぽりぽりと頬を掻いた。―――実は、君のお母さんが目当てなんです。
 などと言える筈も無い。

「なあ、ルーテシアちゃん。君も、エリオとキャロと戦ったそうだね。
 ―――エリオとキャロは、今も君の敵で仇なのかい?」
「ううん。二人は友達。今は、私の大事な友達」

 そう答えたルーテシアの冷たい無表情が、一瞬だけ和らいだ気がした。
 ヴァイスは自分でも気付かないうちに、安堵の息を吐いていた。……初めて、ルーテシアから血の通った言葉を聞けた気がした。
49Purple Purple Holy Night/5 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:42:19 ID:JQs3fOHk
「俺も、それと同じだよ。敵同士として戦ったこともあったけど、それも一つの縁だと思う。
 昔のことなんかより、これからのことを大事にしたい。俺も、エリオやキャロみたいなルーテシアちゃんの友達になりたいんだ」
 
 ルーテシアは、アメジストのような瞳でヴァイスをじっと見つめる。
 沈黙が怖く、ヴァイスは捲くし立てるように続けた。

「ほら、この間読んだ漫画もそうだったよね! 友達や仲間になるのは、大抵一度は戦った相手ばかりさ!」

 ヴァイスの貸した漫画は、漫画やアニメーション文化の発達した第97管理外世界からの輸入品。
 願いの叶う7つの球を巡って冒険しながら、インフレバトルに突入していく世界中で大ベストセラーの逸品だ。

「それにほら、スバルやティアナも戦ったナンバーズの子達と友達になったって聞くし―――。
 ほら、そう、あのなのは隊長とフェイト隊長、八神部隊長もみんな、最初に出会った時は戦ったらしいよ!
 つまり、ほら、俺達魔導師にとっては、戦いなんて仲良くなるためのきっかけの一つに過ぎないのさ!!」

 斯く言うヴァイス自身も苦しすぎる言い訳だと思ったが、こと機動六課に於いてはあながち外れでも無い所が恐ろしい。
 ルーテシアは茫洋とした表情の顔を少しだけ傾げ、何かを考えていたが、ふと顔を上げ、唐突に口を開いた。

「ルー」
「えっ? 何だって?」
「私のことは、ルーって呼んで。私の友達は、みんな私をそう呼ぶの。私も、あなたのことはヴァイス、って呼ぶから」

 ぽかん、と口を開けていたヴァイスの顔に、理解の色が広がっていく。
 大きく頷くと、興奮を隠せない様子で頬を紅潮させて、ルーテシアの小さな掌を機械整備で荒れた大きな両手で包んだ。

「うん、宜しく。ルー! まだこっちの世界で慣れない事も多いだろうから、俺が色々案内してあげるよ!」
「それから、もう一つ」
「何だい? 何でも言ってくれよ!」
「……エリオとキャロが、私と話す時のヴァイスは、凄く喋り方が変になるって言ってた。
 シャマル先生も、脳の言語野に損傷があるのかしら、って言ってた。できるなら、私と話す時も普通に喋って」
「………………」

 ルーに友人と呼んで貰えて舞い上がっていた心が、少しだけ意気消沈したヴァイスだった。
 ……そんな二人を、物陰から見つめる小さな影があった。


     ◆


「おはようさん、ガリューの旦那! 今朝もお勤め、ご苦労様!」

 今日も巌のようにメガーヌの病室の扉を守る守護蟲の肩を、ヴァイスは10年来の友人のように気安く叩く。
 ルーテシアに友人認定を貰ったヴァイスに怖いものは無い。
 ヴァイスは、大きなタッパーをガリューに差し出した。中には、水気を帯びた白いものが詰まっている。

「毎日護衛で大変だろう。俺からの差し入れだ!
 ほら、砂糖水をたっぷり含ませた脱脂綿だ! きっと大好物だろうと思って持って来たんだよ。
 おっと、礼は要らないぜ。俺とあんたの仲じゃないか!
 ―――じゃあな、ガリューの旦那! 頑張ってくれ!」

 爽やかにヴァイスが去った後、ガリューは手の中に残されたタッパーを見て首を傾げた。

「うっす、キャロ。今日は一人か?」
「あ、おはようございます。ヴァイスさん。ヴァイスさん最近毎日ルーちゃんに会いに来ますね」
「友達だからな。この位当たり前だ。お前らだってそうだろ。ところで、ルーとエリオは何処行ったんだ?」
「―――今日は、ルーちゃんとお母さんの面会の日なんです。
 それで、エリオ君はあの扉の向こうの、病室の手前まで付き添いに行ってます。
 付き添いで入れるのは一人だけだったので、わたしはここで二人が戻ってくるのを待ってるんです。
 えへへ、丁度話す人が居なくて退屈してたんで、ヴァイスさんが来てくれて嬉しいです」
50Purple Purple Holy Night/6 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:44:36 ID:JQs3fOHk
 面会―――その言葉は、ヴァイスの胸に突き刺さった。
 逢いたい。逢って、彼女の事が知りたい。自分の事を知ってもらいたい。
 だが、まだ面会できるのはルーテシア一人だけ。自分が逢えるのは、当分先の事になりそうだ。
 ヴァイスの頭の中をぐるぐると色々な思いが巡る。メガーヌの好みの男性はどんなだろうか。
 彼女は、ルーテシアの父親の事を今も愛しているのだろうか。
 8年程前にルーテシアを出産したということは、彼女の年齢は自分より幾分上という事になる。
 彼女にとって、自分など只の青二才にしか見えないかもしれない―――。
 長い眠りに就いていた間、時が止まっていた彼女は精神的にも肉体的にもヴァイスと同い年程度なのだが、彼女の容態に明るくないヴァイスには知りえない事だった。
 見えない不安が、ヴァイスの中でとぐろを巻いて肥大していく。
 恋は、人を盲目にする。ヴァイスは、普段の彼なら絶対尋ねないだろうことをキャロに尋ねた。

「なあ、キャロ。齢が離れている相手に恋するのって、やっぱり変だと思うか……?」

 キャロは目を瞬かせる。これが、彼女が初めて受けた恋愛相談だった。
 ヴァイスは、心配そうにルーテシアが入っていった扉を見つめている。
 彼の最近のルーテシアへの対応は、キャロの目から見ても大げさな程だった。まるで、ルーテシアの気を引こうとでもするかのように―――。
 キャロは、納得した表情で大きく頷き、にぱっ、と微笑んだ。

「全然変じゃありませんよ、ヴァイスさん! 
 フェイトさんも言ってました。人を好きになるのは素敵な事だって。この世には間違った恋なんてないんだって。
 フェイトさん、なのはさんのブロマイドを見てる時によく言うんです。恋には齢も性別も関係ない、って。
 心の底から願えば、きっと恋は叶うんだって!」
「………………」

 なんだかとても突っ込みたい部分があったが、ヴァイスは聞き流して忘れ去る事にした。
 まだまだ命は惜しいのだ。

「わたしはまだ、恋ってよく解らないんですが、フェイトさんの言う通り、人を好きになるのはとても素敵なことだと思います。
 わたし、応援しちゃいますね♪ ヴァイスさんの恋!」

 この汚れなど何一つとして知らぬとでも言うような純真無垢な笑顔で、にっこりとキャロは微笑む。

「あ、あのなキャロ、俺は別に―――」

 その時扉が開いた。中から、面会を終えたルーテシアと付き添いのエリオが現れる。
 聞きたい。メガーヌとどんな話をしたのか、肩を掴んで問い詰めたい。そんな思いをぐっとこらえ、ヴァイスはルーテシアに手を振った。 
 
「よう、ルー、母さんとの面会はどうだった?」

 頬を染めてぎこちなく尋ねるヴァイスを見て、『やっぱり』とばかりにキャロが笑む。
 断言すれば―――キャロに相談したのは人選ミスだった。
 アルト辺りにしておけば、あんな事にはならなかったのにと、ヴァイスは後に深く後悔することになる。
 
 ……そんな彼らを、物陰から見つめる小さな影があった。


     ◆


「おい、最近ルールーの周りをうろちょろしてやがる妙な男ってのはテメエのことか、ヴァイス? ちょっとツラ貸せやコラ」 

 台詞だけ聞けば美人局で稼ぐヤクザ以外の何者でも無いが、その言葉を発したのは可愛らしい小さな赤毛の融合騎である。
 シグナム専属の融合騎としての登録や、その他諸々の煩わしい雑務で数日間ミッドを離れていたのだが、ルーテシアに妙な男が付きまとっているとの噂を聞いて飛んで来たのだ。
 
「よ、よおアギト。10日ぶり、くらいか?」

 ふん、とアギトは鼻を鳴らす。
 そのまま、値踏みするようにじろじろとヴァイスの全身を無遠慮に眺めた。
 敵意の篭った視線にたじろぐように、ヴァイスが一歩下がる。
51名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 22:46:25 ID:5z+kW8rB
 
52名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 22:46:49 ID:zbi9qx8M
相変わらずガリューはクワガタムシ扱いですか>< 支援
53Purple Purple Holy Night/7 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:47:12 ID:JQs3fOHk
「困るんだよな〜。いくらシグナムにも信用されてるお前でも、ルールーに声かけるならまずマネージャーのあたしを通して貰わないと」
「いつからお前がルーのマネージャーになったんだ……」
「てめえがルールーと知り合うず〜〜っと前からだよ。
 で。てめえ、一体何のつもりでルールーの尻を追いかけてやがるんだ? 事と返答次第じゃたたじゃおかねえぜ」

 勿論、本当の事をバラす訳にはいかない。
 この融合騎、性格も口調もルーテシアとは正反対だが、一番古い友人らしい。妙に刺激しない方がいいだろう。
 言葉を選び、オブラートに包んで返答をした。

「ルーのお母さんが救助された時、俺は護衛をやっててな。その後どうなったのか気になってたんだよ。
 ……入院してる病院に俺も通院してるって知った時、これも何かの縁だと思ったんだ。
 ルーの事はエリオとキャロに紹介してもらったんだが、ほら、あの子まだ色々危なっかしい所あるだろ?
 慣れないことも多いだろうし、友人として守ってやることができれば、と思ってんだが―――」

 偽証では無かった。本当の目的は語らなかったが、それはヴァイスの本音であった。
 言葉は攻撃的だったが、アギトのルーテシアを思う気持ちは真摯であり、その場凌ぎの嘘で誤魔化すべきではないと思ったからだ。
 だが、アギトは小馬鹿にしたように、ハッ、とそれを鼻で嗤った。

「友人として守ってやる? ―――へん、てめえのような軟弱野郎にルールーを守れる訳ねえだろう?」
「おいおい、軟弱ってのはちと言い過ぎじゃねえのか?
 これでも、武装隊じゃあ結構鍛えてあるし、腕にもちょっとは自信あるんだけどな」
「その言い方が小物臭せえってんだよ。腕にもちょっとは自信がある? 笑わせんじゃねえ。
 いいか、ルールーを今までずっと守ってきたのは、ゼストの旦那だ。てめえ如きに、旦那の代わりが務まる訳ねえ」

 アギトは、悲しんでいるようで、何かを懐かしんでいるような微妙な表情で遠くを見つめた。
 聞いた覚えがあった。ゼスト・グランガイツ―――先の事件でルーテシアら共に行動していた元管理局のSランク騎士。
 先の事件で死亡し、眼前の融合騎をシグナムに託したと聞く。
 成る程、アギトが彼に拘るのも納得のいく話だとヴァイスは思った。

「ゼストの旦那はてめえなんかより、ずっと強かった。ずっと大きかった。てめえは、何一つゼストの旦那にゃ敵わねえ。
 教えてやるぜ。ルールーのお母さんもな、昔はゼストの旦那の部下だったんだぜ。
 ルールーに聞いた話だけどな、お母さんもゼストの旦那に憬れて部隊に入ったそうだ。
 旦那は、ずっとずっとルールーやお母さんを守ってきたんだ。
 いきなりしゃしゃり出てきたてめえが、軽々しくルールーを守るなんて口にするんじゃねえ」

 ヴァイスは、雷に打たれたように硬直していた。
 姿容以外何一つ知らなかったメガーヌの内面。その一端が今明かされたのだ。
 
“お母さんもゼストの旦那に憬れて部隊に入ったそうだ”

 それはつまり、ゼストのような男に成れれば、メガーヌに気に入ってもらえるという事ではないか―――!
 ヴァイスは、己の内側で炎が燃え上がるのを感じていた。

「でもまあ、てめえは軟弱野郎だが悪い奴じゃねえ。
 ルールーに友達が増えるのは良いことだってのは、あたしも解ってる。
 何より、ルールーもてめえの事を嫌っちゃいないようだからな。悪さをしねえ間は見逃してやらぁ。
 だが覚えときやがれ。思い上がった事を考えやがったら、このあたしが許さねえからな―――」

 アギトは、もう言うべきことは言ったとばかりに、こう言い捨てて飛び去った。
 そんな彼女の言葉は、8割方ヴァイスに届いてはいなかった。
 ヴァイスは今まさに、思い上がった事を考えている真っ盛りだったのだ。
54Purple Purple Holy Night/8 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:49:26 ID:JQs3fOHk
     ◆


「ちっす! ガリューの旦那。今日もお勤めご苦労様!」

 にへらにへらと笑いながら、ヴァイスはぽむぽむとガリューの肩を叩いた。
 今後の方針が決定した今のヴァイスは、正しく絶好調と言ったところだ。

「ほら、今日も差し入れだ。スイカの皮、まだ赤い所が沢山残ってる奴だぜ。
 いや〜、この時期スイカの皮を探すのは苦労したぜ……まあ遠慮無く食べてくれ!」

 スキップしながらヴァイスが去った後、ガリューは手の中に残されたタッパーを見て首を傾げた。

「よっ、ルー。今日の調子はどうだ」
「……普通」

 ハイテンションなヴァイスを一瞥して、ルーテシアは静かにそう答える。
 冷たい返答のようにも見えるが、この数日、ゆっくりだが確実にルーテシアとの会話が成立するようになっていた。
 そして、普段通りの他愛無い会話が始まる。
 殆どはヴァイスが一方的に捲くし立てて、たまにルーテシアが相槌を打つだけの、味気ない―――というより、普通ならヴァイスが避けられていると思われていてもおかしくない会話だ。
 だが、ヴァイスは以前より格段の進歩を感じていた。
 ルーテシアという少女は、表情の変化こそ少ないが、思った以上に感情豊かな少女のようだ。
 瞳の動きや、首の傾げ方で、何を感じているのかが何となく感じ取れる気がするのだ。
 話の折を見て、騎士ゼストの話題を挟んでみることにした。
 ゼストは、ルーテシアにとっても大事な存在だった筈だ。死別して日はまだ浅い。
 あまり軽々しく話題に出すべきではない事柄なので、慎重に、アギトの話題を仲介してそれとなく尋ねてみる。

「アギトに聞いたんだが、ルー達と一緒にいた騎士ゼストって、凄い人だったそうだな。
 俺も武装隊に居たとき風の噂で聞いた事あるぜ。ベルカ式を極めた武人で、万夫不当の豪傑だって。
 ―――どんな人だったんだ?」

 ゼストに負けない男になろうと思い立ったのはいい。
 だが、相手は機動六課の隊長らと同格の実力を持ったSランクの騎士だ。戦闘力では猿真似すら出来ない。
 ならば、その人間性に追いついてみたい。部下によく慕われたという男だ。人間力も凡庸なものではないだろう。
 ゼストがどんな男だったのか。それを知るためには、彼を良く知った人間に話を聞く必要がある。
 ずっとゼストと行動を共にしているルーテシアなら、申し分ない相手だろう。

 ……ルーテシアは、一瞬だけ動きを止め、少しだけ俯いて何かを思案するような顔をしていたが、穏やかな口調で語りはじめた。

「ゼストは―――ゼストは、大きな人だった。
 ずっと一緒に居たけど、話をすることは余り無かった。でも、大きくて優しい人だったのは、話さなくても解った。
 もう会えなくなってから、もっと色々話しておけば良かったってよく思う。でも。一番大事なことは解り合えてたって気もする。
 ゼストのことは、どう話していいのか解らない―――」

 正直に言えば、ルーテシアの話は漠然としすぎていて、ゼストがどんな人物なのかヴァイスには掴めなかった。
 だが、ヴァイスはこれ以上追求するのも野暮だと思い。そっと頷いた。
 ルーテシアが之ほど長く内心をヴァイスに語ったのは初めてだったし、彼女は少し寂しげだが、とても優しげな瞳していた。
 ヴァイスは、無言でルーテシアの頭を撫でた。
 ―――そんなしんみりとした雰囲気は、ルーテシアの一言で台無しになった。

「そういえば、ゼストもヴァイスみたいに私を笑わせようとしてくれた事がある」
「えっ!? どんなどんなっ?」

 途端に食いつくヴァイスに、ルーテシアは宙を見上げ、訥々と語った。
 まだアギトと出会う以前。ゼストとルーテシアが二人で旅をしていた頃の、不器用な二人の物語を。
55Purple Purple Holy Night/9 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:51:35 ID:JQs3fOHk
“―――ルーテシア、お前は笑わないのだな”
 
“―――笑い方って、よくわからない”
 
“―――不憫な……楽しいことや面白い事は無いのか?”

“―――楽しいや面白いって、よくわからない。ゼストは解るの? ゼストが笑ったところも、見たことないよ?”
 
“―――そうか、隣に居るのは俺のような無骨者では、笑い方を覚えることが出来ぬのも道理か。
    済まぬな。俺は不器用故、童が喜ぶような芸の類は何一つ出来ぬ。
    お前の喜ぶものとは思えぬが、せめて、酒宴の席で部下にせがまれるものでも見せてやろう”

「……そう言って、色々なことをして見せてくれた」
「どんなっ? どんな事をしてくれたんだっ!? 俺も、同じことをしてみせてやるよ」

 興奮気味のヴァイスにルーテシアは少し首を傾げ―――ポケットから、小さな金属片を取り出した。
 ほんの小さな扇形のそれは、よく見ると何かが刻印されている。

「500ミッドのコイン……?」

 500ミッド硬貨。ミッドチルダで流通している硬貨の中で、最大最硬を誇るものである。
 ちなみに価値は漫画一冊分、もしくはラーメン一杯分程度だ。

「これを、指で曲げて見せてくれた。こう、ぱたん、ぱたんって4つ折りに」
「…………へ?」

 コイン曲げは、マッチョイズム溢れる武装隊の中でも、難易度が高いとされている芸の一つだ。
 軽く折り曲げるだけでも拍手喝采ものだ。―――だが、500ミッド硬貨を4つ折りにしたという話は前代未聞である。
 腕力には多少自信はあったが、ヴァイスに出来る筈もだが。
 しかし、一度口にした言葉を反故にしては男が廃る。ヴァイスは財布から500ミッド硬貨を取り出し、果敢に挑戦することにした。
 何かの偶然で、もしかしたら曲がっちゃうかもしれないし!

「ん、んぎぎぎぎぎぎぎぎっ…………っ、っ!!!」

 勿論そんな偶然が起こる筈も無い。ミッドチルダの硬貨は品質最高、偽造対策もばっちりなのだ。
 ヴァイスは爪に罅が入って指先が赤くなるまで力を籠めたが、硬貨は歪みさえしなかった。

「はぁ、はぁ……、ほ、他に何かしてくれた事は無いか……出来れば、もっと簡単そうな事で」

 性懲りも無く挑戦しようとするヴァイスに、ルーテシアはポケットからごそごそとまた何かを取り出した。
 少し古びたトランプケース。中には、一部分が指の形に千切り取られたトランプが入っていた。

「これもゼストが、『手品の類は出来ないが……』って言って、ぷちっ、て」

 重ねられたトランプが、カステラのように見事に千切り取られている。
 スゲーよ。手品なんかよりよっぽどスゲーよ。ヴァイスは内心で舌を巻きつつ、無謀にも鞄の中から真新しいトランプを取り出した。
 今のヴァイスの鞄の中には、お菓子や漫画、玩具などのルーテシアの気を惹くための道具でぎっしりだ。

「ふんっ……ぐぬぬぬぬぬぬっ…………っっっっ!!!」

 逞しい前腕に血管が浮かび上がり、憤怒の形相を浮かべてトランプを引っ張ったが、一枚たりとも千切れる気配は無い。
 せいぜい、上の一枚に爪の跡がついた程度である。
 
「はぁ、はぁ、はぁ……他には、何か無いか? 普通の人でも、出来そうなことで何か……」

 肩を落として息を荒げながら、ヴァイスは半ば自棄になりつつ尋ねた。
 ルーテシアは唇に指を当て、う〜ん、と宙を見上げて思案する。

「腕立て伏せも見せてくれた」
56Purple Purple Holy Night/10 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:53:48 ID:JQs3fOHk
 その言葉にヴァイスは飛び上がった。腕立て伏せなら楽勝である。武装隊時代に汗水垂らして数限りなく繰り返したものだ。
 上着を脱ぎ捨て、病院の床に這って蒸気機関のように腕立て伏せを始めた。
 傍から見ればかなり危険な絵であるが、今日も特別棟は人気が無い。

「どうだ、俺の腕立て伏せも中々のもんだろう!」

 頬を上気させて、自慢の腕立て伏せを披露するヴァイスに、ルーテシアは無慈悲に告げた。

「ゼストは、それを逆立ちでしてた」

 きつい。それはかなりきつい。だが、これでも武装隊で鍛えた身、その位ならばギリギリ出来る筈―――。
 気合一発逆立ちし、プルプルと筋肉が痙攣する腕で申し訳程度に腕立てをする。

「ど、どうだ、これなら、俺でも出来るぞ……!」
「……ゼストは、それを親指だけでしてた」

 ヴァイスは首筋に死神の鎌が掛かったのを感じていた。ルーテシアは続ける。

「ゼストはそれが1000回できるようになるまで、片方の眉を剃って山に籠もったんだって」

 ―――人間じゃない。その話を聞いただけで、ヴァイスの睾丸は赤子のように縮み上がった。
 無理だ。それは絶対に無理だ。そんなの人間には無理無理無理。
 怯えるヴァイスの中の何かが囁く。これ以上格好悪いところをルーテシアに見せていいのか? ゼストに何一つ敵わぬままでいいのか?
 飲みの席で部下にせがまれてたって事は、彼女が見たがっていたものかもしれないのに……!!!
 せめて、せめて一回だけでも。ヴァイスは彼女の顔を脳裏に浮かべ、全身全霊の力を振り絞って挑戦することに決めた。

「行くぞ。俺だって一回ぐらいはして見せてやるからな……」

 親指以外の四指を握りこむ。極限状態の集中の成せる技か、奇跡的にもヴァイスは倒れなかった。
 人生初の拇指倒立に成功したヴァイスは、そのままゆっくりと肘を曲げて腕立て伏せをグギリボキッ。
 異音で集中が途切れたヴァイスは己の両の親指を見た。
 それは、手の甲に向けて捩れて折れ曲がっていた。……ヴァイスの視界いっぱいに、病院の床が広がり―――。

「やあ、ルー、ヴァイスさ……」

 タイミング良くやって来たエリオとキャロの眼前で、ヴァイスが倒立状態から崩れ落ちた。

「きゃああああああ!!」
「ヴァイスさん、何をやってるんですか!! ああっ、親指がっ!?
 うわぁぁ、シャマル先生〜〜〜っ! シャマル先生〜〜〜っ!」

 ゼストさん、あんた凄ぇぜ。ヴァイスは遠ざかる意識の中で、そんな至極単純な敗北感を味わっていた。
 

     ◆


 シャマルにはこってりと絞られた。不審な目で見つめられ、何か悩みでもあるのかと、遠まわしにカウンセリングも進められた。
 それでも、ヴァイスは一向にめげなかった。
 まずは、ルーテシアに認めて貰うのだ。ゼストと共に過ごした彼女に認めて貰うことこそ、ゼストのような男となる近道だ。
 性懲りもなく、そんな事を考えていた。

「よっ! ガリューの旦那。今日もお勤め、ご苦労様!」

 親愛を込めて召喚虫の肩をぽむぽむと叩く。……その親指に巻かれた包帯と添木が痛々しい。
 件のごとく、鞄からごそごそ大きなタッパーを取り出してガリューに差し出した。

「今日は、黒ずんだババナだぜ! ガリューの旦那達には、ショウジョウバエが湧きはじめるくらいが丁度いいらしいんだな!
 いい感じに熟々なのを持ってきたぜ! これでも食べて栄養をつけてくれ!」
57名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 22:54:10 ID:5z+kW8rB
 
58Purple Purple Holy Night/11 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 22:56:46 ID:JQs3fOHk
 親指に包帯の巻かれた手を振りながら去っていくヴァイスを見送り、ガリューは手の中に残されたタッパーを見て首を傾げた。

「ルー、今日は昼飯はこっちで食べるんだってな。何食べるか決めてるか?」 

 ルーテシアは無言で首を振る。

「そんな事だろうと思ったぜ。ほら、俺が弁当を作ってきたから、表で食べようぜ!」

 朝4時に起きて、親指の使えない手で慣れない弁当を作ったヴァイスだが、顔には生気が溢れている。
 ルーテシアが見舞いに訪れる時間をキャロから聞き出し、昼のランチタイムにバイクを飛ばして病院に訪れたのは執念としか言い様が無い。
 ストーカーも恋する少女も裸足で逃げ出す領域である。
 それでも、ルーテシアは別段は違和感を抱くことなく、コクリと頷いてヴァイスに従った。
 ちぐはぐな二人組みだが、微妙に行動の歯車が噛み合うのだ。

「ほら、リンゴも食えよ、わざわざウサギの形に切ってきたんだぞ」

 職種柄か、手先は器用なヴァイスだった。
 
「……っと、悪いな、飲み物を持ってくるのを忘れた。買いに行くが、何がいいか?」
「私も行く」

 初めての、ルーテシア同伴の買い物。尤も、病院隣のコンビニまでだが。
 適当に飲み物を見繕い、ついでに駄菓子を一つと今週のジャムプを買った。
 ルーテシアを呼ぼうとして―――彼女が、コンビニの端のある棚をじっと見つめているのに気付いた。
 20歳未満お断りのアルコール類の棚である。

「どうした? まさか、酒が飲みたいなんて言うんじゃないだろうな?」

 ルーテシアはふるふると頭を振り、棚の片隅の透明の瓶を指差した。

「これ、ゼストがいつも飲んでたお酒」
「どれだっ!?」

 彼女が指差したのは、蒸留酒コーナーの一番端の一本だった。ウォッカ、スピリタス。アルコール度数96の逸品である。

「ゼストはよくこれを飲んでた。『気付け薬によし、消毒によし、浴びせてから火を点ければ、効くような相手にはかなり効く』って言ってた」

 ヴァイスはごくりと唾を飲み、無言でそれをレジへと運んだ。

「―――あー、食ったな〜」

 食後。
 ヴァイスは、未開封のままのスピリタスに横目で視線を走らせる。
 最強のアルコール度数としてその名は有名だが、日常的に飲まれることは少ない酒である。
 ヴァイスも、武装隊での度胸試しや火吹き芸に用いるのを見たことがある程度だ。

「騎士ゼストは、これをどんな風に飲んでたんだ?」
「……こう、ぐいっと」

 ルーテシアは、細い指で不器用に杯を傾けて飲み干すような仕草をした。
 ―――やっぱり一気か。それもストレート。強者の中の強者のみが成し遂げられるという、伝説のスピリタス瓶一気!!! 

「よし、俺も挑戦してみるか」

 ヴァイスは震える手で瓶を鷲掴みにし、手荒く栓を開けた。
 酒にはそれなりに近いヴァイスだが、精製アルコールに近いこの酒を一瓶飲み干せば、急性アルコール中毒は間違いない。
 いや、下手すれば―――……『死』……そんな一文字が、ヴァイスの脳裏を過ぎる。
 だが、この程度気合で切り抜けられねば、ゼストのような、メガーヌに気に入られるような男には成れない―――!
 南無三―――。ヴァイスは瓶を口に運び、一気に喉奥に流し込んだ。
59 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:02:23 ID:JQs3fOHk
 
60Purple Purple Holy Night/12 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:05:25 ID:JQs3fOHk
 痛い。酸でも流し込んだような激痛が、口腔から咽頭にかけて走り抜ける。
 人間の正常な反射として、吐き出してのた打ち回りたい衝動に駆られるが、それを不屈の意志で押さえつけた。
 ごくり、ごくり、と嚥下する時間は果てしなく長い。たかが瓶一本の酒の筈なのに、ドラム缶でも飲み干しているように感じる。

「〜〜〜っ、〜〜〜っぅぅぅぅぅっ!!」

 そして遂に。ヴァイスはスピリタス瓶一気という偉業を成し遂げた。
 ここが武装隊の酒宴の席ならば、満場の拍手が彼に降り注いだことだろう。
 達成感は一瞬。血管から脳に駆け上がった摂取過剰のアルコールは、容易にヴァイスの意識を刈り取った。

「やあ、遅れてごめん、ルー。あ、ヴァイスさんも来て―――」

 ヴァイスと同様に昼休みにやってきたエリオとキャロの眼前で、ヴァイスがゆっくりと天を仰いで昏倒した。

「きゃああああああ!!」
「ヴァイスさん、何をやってるんですか!! ああっ、泡を吹いて白目を剥いてるっ!
 うわぁぁ、シャマル先生〜〜〜っ! シャマル先生〜〜〜っ!」
「……凄い、ゼストも瓶ごと一気に飲んだりはしなかった」

 ……―――勝った。
 シャマルが駆けつけた時、ヴァイス意識不明で全身を痙攣させながらも、その顔は満足げに微笑んでいたという。
 

     ◆


 シャマルによって丁寧な治療を施され、なんとかヴァイスは回復した。前回とうって変わって、シャマルは不気味な位優しかった。
 にっこり笑って腫れ物を扱うように、脳検査に誘うシャマルからなんとか逃げおおせ、ヴァイスは二日で退院した。
 実はかなり危険な状態だったのだが、ヴァイスはそれでも懲りずにルーテシアの元に向かう日々が続いている。
 ヴァイスとルーテシアの病院での毎日は続く。
 当初のヴァイスの通院の目的だった先の事件での傷はとうに癒え、親指の包帯も取れた。
 大抵はエリオとキャロの二人も一緒になって4人で。
 ロードたるシグナムを得たアギトは、今まで通りいつも一緒という訳には行かなくなったが、それでも頻繁にルーテシアの元を訪れた。
 そんな賑やかな彼らの様子を、扉の前からガリューがずっと見守っている。
 しかし、彼らがこの病院に集う事になった発端―――メガーヌ・アルピーノの容態は、未だ芳しくは無かった。
 生体ポットの中に閉じ込められていた8年という時間は残酷なほど長く、彼女は未だ室外に出られずにいる。
 それでも、着実に快方へは向かっており、ルーテシアとの面会の時間も回数も着々と増えている。
 この病院での暖かな時間は、確実にルーテシアにも変化を与えていた。
 ビスクドールのようだった冷たい無表情にも、時折柔らかい笑みが浮かぶようになり、会話での口数も確実に増えた。
 尤も、世間ずれしている所は相変わらず、時々ずれた返答をしてヴァイスを苦笑させるのだった。
 
 秋も終わり冬に差し掛かった頃である。
 ルーテシア以外でも、メガーヌとの面会が許可されるようになった。
 そのせいだろうか、ここ数日ヴァイスが牛のようにウロウロと廊下を歩いたり、突然頭を抱えて唸ったりと奇行を繰り返しているのは。
 面会と言っても、勿論一度に大勢が病室に押しかける訳には行かない。ルーテシアに伴って二人程入室出来るのが精々らしい。
 早く、彼女に会いたい。真っ先に病室に踊り込んで自己紹介をしたい。
 だが、一番最初にルーテシアと共に彼女と面会すべきなのは、エリオとキャロだ。
 ルーテシアを闇から救い出した小さな勇者達。彼らこそ、ルーテシアが友人として真っ先に母に紹介すべき相手だろう。
 ヴァイスも心の底からそう思っている。―――だからと言って、逸る心が鎮まる訳ではないのだが。
 そして今、エリオとキャロは面会の真っ最中だ。手持ち無沙汰のヴァイスは椅子の上で貧乏揺すりを繰り返している。
 
「あ〜、落ち着かねえな畜生」

 ルーテシアは、あまり母の事を語らない。深く尋ねてみたいと何度も思ったが、それだけはしてはいけない事だと解っている。
 母を求め続けた8年間。ルーテシアが母にどれ程の想いを抱いているのかなど、ヴァイスには想像も出来ない。
 ヴァイスはメガーヌに恋している。その情熱は、他のどんな男にも負けやしないと叫びたい程だに。
61Purple Purple Holy Night/13 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:07:20 ID:JQs3fOHk
 他のどんな男にも負けやしない―――だが、ルーテシアの想いには、絶対に及ばないだろう。
 ルーテシアは、毎日この扉の前立ち、その向こう側に想いを馳せるように、静かにじっと見据えるのだ。
 その瞳は、彼女と同じ深紫色。
 その澄んだ瞳を見つめると、自分の想いすら浅はかなものに思えて、ヴァイスは扉を見つめるルーテシアを直視できないのだ。
 ―――扉が開いた。

「お待たせしました、ヴァイスさん」

 笑顔を浮かべるエリオとキャロに、ヴァイスは詰め寄るように尋ねた。

「どうだった? ルーのお母さんは、どんな方だった!?」
「素敵なお母さんでしたよ。静かで、優しくて、ああ、本当にルーちゃんのお母さんなんだなぁ、って思いました。
 それらから、とっても綺麗な人でした! ルーちゃんも、大人になったらきっとお母さんみたいな美人さんになりますよ!」

 ……結局、二人からも目新しい情報を得ることは出来なかった。
 だが、メガーヌが二人の讃えるような素晴らしい女性であることは間違い無いだろう。ヴァイスの胸は高鳴った。
 ―――そして、遂にヴァイスのメガーヌとの面会日が訪れた。

「……ぅぅぅっ」

 緊張で全身が震えた。固い城壁のようにも思えた扉が、今眼前で開いていく。
 視線を横にずらすと、ガリューと目があった。
 ルーテシアの守護虫は今日も不動で扉を守っていたが、ほんの小さく、小さくヴァイスに頷いた。
 ヴァイスは、カチコチに固まりながらもゆっくりと歩を進め、メガーヌの病室を隔てる二枚目の扉の前に立つ。
 予想していたよりもあっけなく、扉は開いた。

「いらっしゃい」

 ―――そこには、あの日の紫の人魚が微笑んでいた。
 病院着でベッドに横たわり、体には幾つもの計器やチューブが繋がれている。
 だが、紛れもなくあの日の彼女だった。

「母さん、今日も友達連れてきたよ」

 ルーテシアが柔らかく笑む。それは、ヴァイスが初めて見る、彼女の心の底からの無防備な笑顔だった。
 母に微笑みかけたルーテシアは、そっと振り返ってヴァイスを見上げた。
 瞬間、ヴァイスは己の成すべき事を思い出した。扉が開いてから今まで、呼吸をすることすら忘れていたのだ。
 ヴァイスは反射的に踵を揃え、武装隊式の挨拶を繰り出していた。

「時空管理局古代遺物管理部・機動六課所属、ヴァイス・グランセニック陸曹であります!
 ご息女のルーテシアさんとは、縁あって友人としてお付き合いをさせて頂いております!
 不束者ではありますが、お見知りおき頂ければ幸いであります!」

 メガーヌは目を細め、口元に手を当てくすくすと上品に微笑んだ。

「はい。元時空管理局、首都防衛隊所属のメガーヌ・アルピーノです。
 どうかお楽になさって下さい、ヴァイスさん。
 ルーテシアに聞いた通りの方ですわね。……よくルーテシアが話してくれるんですよ。
 ヴァイスさんは、とっても楽しい方だって。一緒に居ると明るい気持ちになれるんだって。
 ふふ、本当にその通りの方なんですね」

 一瞬で、ヴァイスの思考は完全に停止した。平衡感覚が狂って上下を見失い、視界がぐらりと揺らぐ。
 そのまま倒れこみそうになるのを、済んでの所で踏みとどまった。
 ―――今、ヴァイスの脳内ではチャペルの鐘が鳴り響き、白い鳩が青空に向かって飛び立っていった。
 これまでのヴァイスの努力の全てが、彼女の言葉で完璧に報われたのだ。
 渾身の力でガッツポーズを取り、世界中向けて叫びを上げたい程の衝動。
 全て理性の力で押し留め、ヴァイスは一言「恐縮です」とだけ返す。
62名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 23:07:46 ID:zbi9qx8M
しえん
63Purple Purple Holy Night/14 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:09:53 ID:JQs3fOHk
「ヴァイスさん、貴方は私をあの地の底から救い出してくれた方の一人だそうですね。遅くなりましたが、お礼を申し上げますわ」
「とんでもない……俺はただ護衛に付き添っただけで何にも―――」
「それでも、お礼は申し上げなければなりませんわ。ルーテシアも随分貴方にはお世話になっているそうですし」

 ふんわりと、白百合の花のようにメガーヌは微笑んだ。無機質な病室にあっても、その美しさは微塵も損なわれない。
 ヴァイスはただ赤面し、恐縮して頭を下げる。嬉しかった。ただ嬉しかった。
 あの暗い闇の底で見た、人間味の無い人魚の彫像のような彼女ではない。初めて、人間としてのメガーヌと話をしているのだ。
 メガーヌは、ヴァイスにとって異世界の住人のような存在だった。その彼女の生きた姿を見ることができる。それだけで幸せだった。
 ……それから、メガーヌとルーテシアとヴァイスは、三人で他愛も無い世間話に花を咲かせた。
 ルーテシアの普段の生活や、ヴァイスの身の上話など、本当に他愛も無い話ばかりだったが。
 ―――ヴァイスにとっては、間違いなく至福の時間だった。
 

     ◆


 ルーテシアは、掌の中の未知の食物を不思議そうに見つめていた。
 そこはありふれたファーストフードの店で、ルーテシアの手にあるのもありふれた二段組みのハンバーガーに過ぎない。
 珍しくエリオもキャロもアギトも居ない休日、一人病院の廊下に立つルーテシアをヴァイスが外に連れ出したのだ。
 やっぱり子供は、青空の下で陽の光を浴びた方がいい。余りに世間ずれしたルーテシアには良い社会勉強になると思っての事だ。
 
「ほら、何も難しく考えるこたぁね〜ぞ。そのまま齧り付けばいいんだ」

 手本を見せるように豪快に噛み付くヴァイスを見習って、ルーテシアも小さくはぐはぐとハンバーガーを齧る。
 行為は同じでも、口の大きさが随分と違うので小動物が向日葵の種でも齧っているようだ。
 ルーテシアは一心不乱にハンバーガーを齧り、食べ終えて顔を上げた。

「旨かったか?」

 こくり、と頷く。その口の周りは、零れたソースなどで見事に汚れていた。

「仕方ねぇなあ」
 
 ヴァイスは苦笑した。紙ナプキンを取って、ルーテシアの口の周りを優しく拭う。むずがるように、ルーテシアが目を細める。
 べたついたソースを拭って、確認のために指で頬を優しく撫でる。
 白い肌はきめ細やかで、すべすべとしていた。少しつつくと、ぷにぷにと小さく指が沈んだ。
 まだ子供だ。まだ、こんなに小さな子供なのに、大人でも背負えない程の重みを負わされている。

「うわっ、髪っ!!」

 見ると、美しい紫髪もべったりとソースで汚れていた。

「ここじゃ面倒だ、外出るぞ!」

 ……そうして、ヴァイスとルーテシアは近所の公園のベンチに座っている。
 秋も終わり、空の色は冬の様相を見せている。少し寂しげだが、鮮烈な青空だった。
 ヴァイスは濡らしたハンカチで、ゆっくりとルーテシアの髪を拭う。
 ルーテシアは、ベンチでヴァイスの足の間にちょこんと座っていた。
 さらり、と指を流れる心地よい紫髪の感触。細く真っ直ぐで、最高級の絹のように滑らかだった。
 ふと思う。メガーヌの髪も、こんな感触なのだろうかと。

「ったく。折角の髪なんだから大事にしろよな」

 ルーテシアは小さく首を傾げた。これでは、当分は直る見込みは無いだろうとヴァイスは嘆息する。
 ヴァイスの足の間に座っていたルーテシアが、ヴァイスの胸元にぺたりと背中を預けた。
 彼女の体は羽根のように軽く、圧迫感はまるでない。だが、メガーヌが腕の中にいるようで、ヴァイスはどきりとする。
 
「ほら、終わったぞ。降りろ」
64Purple Purple Holy Night/15 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:11:53 ID:JQs3fOHk
 ルーテシアが振り返った。美しいアメジストの瞳が、触れ合いそうな程近くでヴァイスの瞳を覗き込む。
 再びメガーヌを連想し、ヴァイスはぎくりとする。

「……もう少し、このまま」

 その言葉に、ヴァイスはやれやれと空を仰ぐ。思えば、ルーテシアの体温を直に感じたのはこれが初めてだった。
 冬も大分深まり、今日の気温もやや肌寒い程だ。
 だから―――もう少しこのままでもいいかと、ヴァイスは少しだけ白く曇った息を吐いた。


 その数日後、ヴァイスに思ってもいない連絡が届いた。メガーヌからの連絡である。
 それだけでも叫んで踊り出したい程の吉事であるが、その内容は更にヴァイスの予想の範疇を超えていた。
 
“ご相談頂きたいことがありますので、二人だけでお会いできませんか”

 ヴァイスの心臓は跳ね上がった。想像や妄想がシェイクされて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
 それでも、浮かれるて取り乱すような真似は絶対にならない。
 紳士たれ。そう己を戒め、上等の服を下ろして糊を効かせてアイロンをかけ、ぱりっとした姿でその日に臨んだ。
 ルーテシアの来院時間に先立って、ヴァイスはメガーヌの病室を訪れる。
 あれから幾度か、ルーテシアと共にメガーヌを見舞ったことはあったが、単身で見舞うのは初めてである。
 メガーヌとの面会は、ヴァイスにとって至福の時間だ。それが、今回は二人きり。
 どんな用件だろう。何の話をしよう。脳内を巡る煩悩を振り払い、意を決して扉を開いた。

「今日はご足労頂いて済みません、ヴァイスさん」

 メガーヌは、今日もたおやかに微笑んでいた。
 
「いえ、とんでもありません、アルピーノさん! 俺程度ならいつでも呼びつけて下さい!」
「ありがとうございます。本当に頼りになる方ですのね」

 挨拶もそこそこに、メガーヌは本題を切り出した。端整な顔が、少しだけ曇る。

「ご相談に乗って頂きたいことというのは、ルーテシアの事なんです」
「ルーの?」
「はい」

 ルーテシアの世間ずれした所や、友人が少ない所が心配なのだろうかと、ヴァイスは首を捻る。
 だが、メガーヌの切り出した言葉は余りにヴァイスの予想外だった。

「お恥ずかしい話なのですが―――私、あの子が自分の娘だと思うことが上手くできないんです」

 彼女の言葉を、一瞬ヴァイスは理解できなかった。……彼女は、一体、何と言った?

「あの子が血の繋がった私の娘だということは、頭では理解できるんですが、どうしても実感が湧かないんです。
 私の知っているルーテシアは、まだミルクが手放せない、産着に包まれた小さな赤ちゃんでした。
 だから―――あの子がルーテシアだと言われても、どうしても私の知っているルーテシアと結びつかないんです」
「そんな、あの子は、ルーは貴女のことを……」

 ヴァイスは、メガーヌの言葉に震える程の憤りを感じている自分に気付いた。
 ルーテシアが、どれ程純粋に母を想っているのかを彼女は知っているのだろうか。
 ルーテシアがどんな瞳で、開かない病室の扉を見つめているかを彼女は知っているのだろうか。
 表情を察したのか、メガーヌは悄然と首を振る。

「勿論、あの子が私の為にどれだけの事をしてくれたかも知ってます。
 毎日、私と会えない日もあの扉の向こうにお見舞いに来てくれていることも知っています。
 だから、余計に苦しいんです。あの子が真っ直ぐに私の事を想ってくれるほど、あの子の事を真っ直ぐ想えない自分が苦しくて。
 本当は、容態もかなり回復しているんです。もうすぐ仮退院もできるかもしれないそうです。
 でも、あの子と顔を合わせるのが辛くて、容態が悪いと嘘をついて面会を断ってもらったことも何度もありました。
 最近はあの子に対して罪悪感ばかり感じてしまうんです」
65Purple Purple Holy Night/16 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:13:59 ID:JQs3fOHk
 悲しげにメガーヌは顔を伏せた。彼女も、ルーテシアを娘として心の底から受け入れたいのだろう。
 それができずに、自分に対して憤っているのだ。
 一瞬だけ燃え上がったヴァイスの怒りは、すぐに鎮火した。
 思えば、彼女達母子は仲睦まじく話しているようでも、どこか距離があった気がする。
 会話もどこか隔たりがあったし、なによりルーテシアはメガーヌと寄り添わず、一歩離れた位置でメガーヌに語りかけていた。
 ヴァイスは知りえ無いことだったが、それはルーテシアがメガーヌの生体ポッドを見上げていた位置だ。
 静かに俯くメガーヌの顔は、ルーテシアと瓜二つだ。その紫髪。そのアメジストの瞳。彼女達が親子でなくて何だろう。
 病根深い問題のようにも思えたが、なんだかあっさり解決するようにも思えてきた。
 ヴァイスはぽりぽりと頬を掻きながらメガーヌに告げる。

「余り俺が口出しすべき問題でも無いと思いますが……ルーを、あの子を抱きしめてあげて下さい。
 そうすれば、何かが変わるんじゃないですか? 
 もう少しで、ルーも見舞いに来る筈です。そしたら、思いっきり抱きしめてあげて下さい。アルピーノさん」

 控えめだが、力強いヴァイスの提案に気圧されるようにメガーヌは頷いた。
 ―――程なくして、病室にルーテシアが現れた。

「体調は大丈夫、母さん」
「ええ、今日は随分体調がいいの」

 メガーヌは少しだけ不安そうにヴァイスに目配せをし、ヴァイスは力強く頷いた。
 不器用に、メガーヌは両手を広げ、ルーテシアを呼ぶ。

「……おいで、ルーテシア」
「母さん?」

 ルーテシアは何の事か解らずに、不安げに母を見上げ、ちらりとヴァイスに目配せし、少しずつ母の方へと歩を進める。
 そして、ついにベッドサイドに辿りついた。今まで寝たきりだったメガーヌが、ゆっくりと上体を起こしてルーテシアに向き直る。
 そしてゆっくりと手を伸ばし、おずおずとルーテシアを抱きしめた。

「ルーテシア」

 愛娘の名前を呼ぶ。指先に、柔らかい髪が流れる。その色は自分とおなじ深みを帯びた紫だ。
 顔が触れ合いそうな距離でルーテシアがメガーヌを見つめる。 
 見覚えがあった。その瞳は、腕の中で自分を見上げていたあの小さなルーテシアの純粋な瞳とそっくりそのままではないか!
 どうして、こんなこんな簡単なことが今まで出来なかったのだろう。
 全てが繋がった。もう疑う余地など無かった。この子は―――。

「ルーテシアっ!!」

 メガーヌは強く愛娘を抱きしめる。初めて母に触れられ、びくりと体を硬直させていたルーテシアは、くしゃりと顔を歪ませた。
 いつも子供らしからぬ無表情だったルーテシアが、幼い子供のように母に縋りつき、声を上げて泣いた。

「母さん、母さん、母さん、母さん、母さんっ―――」
「ごめんね、ルーテシア。ずっと待たせてごめんね―――」

 互いに固く抱きしめあい、涙を流し合う。二人の姿は、これまで見たどんな彼女達の姿よりも美しかった。
 この場に自分が居ることが無粋に思えてならず、ヴァイスは静かに病室を出る。
 何より、いい齢した男が人前で涙を見せるのが、恥ずかしくて堪らなかったのだ。
 病室を去る間際に少しだけ振り返ると、メガーヌが小さく頭を下げた気がした。
66名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 23:14:17 ID:5z+kW8rB
 
67Purple Purple Holy Night/17 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:15:38 ID:JQs3fOHk
     ◆

 
 ヴァイスは、機動六課隊舎の中庭のベンチに腰掛けて、一人コーヒーを飲んでいた。
 一日毎に冬も深まり、木枯しが身に染みる季節になっていた。
 それでも、ふと青空が見たくなり昼休みにふらりと中庭を歩いてみた。
 ……アルピーノ母子の長かった冬は、やっと終わったのだ。
 彼女達の味わった冬の寒さを思えば、この程度の北風など、どうという事はない。
 ルーテシアが、一人冷たい廊下で開かない扉を見つめることは、もう無いのだ。
 好きな時に母の元に訪れ、好きなだけ母に甘えることができる。
 ルーテシアは、子供達が生まれながれに与えられる筈だったものを、今までずっと求めていたものを、やっと手に入れたのだ。
 メガーヌの胸元で甘えるルーテシアは、本当にどこにでもいる齢相応の少女で、ヴァイスは安心すると同時に少しだけ寂しさをおぼえた。
 何にせよ。自分はこれでお役御免だとヴァイスは思った。
 毎日のように病院に通っていたヴァイスだが、近頃では数日に一度というところだ。
 だが、それで十分だと思っている。
 今まで自分がルーテシアを守っていた、なんて思い上がったことはこれっぽっちも考えていなかったが、暇つぶしの相手ぐらいにはなっていたとは思っている。
 その必要は、もう無い。ルーテシアはメガーヌの下で健やかに育って、エリオやキャロのような自然な同世代の友人達を増やしていけばいいのだ。
 寧ろ、問題は自分の方である。

「はあぁぁ、どうしたもんかねぇ」

 ヴァイスもルーテシアと共に度々メガーヌの病室を訪れ、その度に至福の時間を味わっている。
 娘の友人から、茶飲み友達程度には格上げしてもらえただろうか、と少しだけ驕ったことも考えている。
 問題なのは、そこから先の進展が全く無いことだった。
 メガーヌと同じ部屋にいるだけで、言葉を交わすだけで、それだけで満足だった。至福と呼べる時間を味わうことが出来る。
 ……それでも、欲が出るのが人間というものだ。
 出来れば、二人きりでもっと話がしたい。出来れば、彼女ともっと親密な関係になりたい。出来れば、彼女に男性として見てもらいたい。
 煩悩はもやもやと広がるばかりだ。
 こればかりは男の性である。もうどうしようもない。
 病院に通う回数こそ減ったが、メガーヌと逢える回数は確実に増えていた。
 知れば知る程、メガーヌ・アルピーノは魅力的な女性だった。
 顔を合わせる度に、ヴァイスは初恋をした中学生のように赤面をしてしまう。もうとっくにそんな齢では無い筈なのに。
 彼女との関係を先に進めたい。『娘の友人』という名目で、金魚のフンのようにルーテシアにくっつき面会する日々はもう嫌だ。
 だが、『俺が貴女に会いたくて、お見舞いに来ているのです』とはっきりと言い切れない小心な所のあるヴァイスでした。
 冷えかけたコーヒーを口に運び、幾度も嘆息を繰り返す。

「ダメですよ、ヴァイスさん。溜め息をつくたびに、幸せが一つ逃げていくんですよ」

 背中で手を組んだキャロが、くすくすと笑いながらヴァイスを叱った。
 
「キャロ、いつから居たんだ?」
「ヴァイスさんが難しい顔して頭を捻ってた時からです。悩んでますね、ヴァイスさん」
「そんなに悩んでるように見えたか、俺?」
「そりゃあもう。頭を抱えたり立ったり座ったりして、どこからどう見ても悩んでるようにしか見えませんよ、ヴァイスさん。
 ―――ズバリ、恋の悩みですね」

 以前も似たような会話をしたことを思い出す。キャロは全てお見通しだろうな、とヴァイスは観念した。

「はぁ、ご明察。これがどうにも上手く行かなくてなー。どうも最近進展が無い気がするんだよな……」
「ヴァイスさん、最近すごく仲良くなってる感じがしますよ。最初の頃より、ずっと打ち解けてます。
 今まで怪我したり倒れたりして頑張ってきたじゃないですか! だから、絶対うまく行きますよ!」

 純真な子供らしい言い分に、ヴァイスは苦笑する。頑張るだけで物事が上手く運ぶなら、この世はもっと幸せで溢れているだろうに。
 
「確かに、前より仲良くなれたとは俺も思ってんだよ。ただ、友達として仲良くなれたのはいいんだが―――。
 そこから先が、今一つ上手く行かなくてな……む、キャロには難しい話だったか?」
「そんなことありませんよ! フェイトさんも、なのはさんの写真を見てる時によく言ってます。
 友達と恋人の間には大きな隔たりがある、そこを越えるためには勇気が必要なんだ、って」
68Purple Purple Holy Night/18 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:17:54 ID:JQs3fOHk
 その通りである。つっこみを入れたい細かい部分を無視すれば、キャロの言葉は正鵠を射ている。

「参ったな……。情けねぇことに、俺にはどうもその勇気が足りねぇんだよな。
 どうも、いざ尋ねていくと緊張しちまって上手く言葉にならねぇ」
「わたしが思うに、ヴァイスさんは結構人見知りが強くて内弁慶な人だと思うんです。
 緊張した時に敬語ばっかりになったり、喋り方が変になっちゃったりすること、ありますよね?」

 確かに。他人と気楽な調子で会話するのは得意なヴァイスだが、緊張したり妙に気負ったりすると喋り方が崩れてしまったりする。
 ルーテシアの時しかり、メガーヌの病室を最初に訪れた時しかりだ。

「―――まあ、な」
「ヴァイスさんは、お出かけしてお外で気負っちゃうからいけないんですよ。逆さまに考えてみましょう!
 ル……相手の人がヴァイスさんの所に来てくれた時なら、いつものヴァイスさんの調子で勇気を出せるんじゃないですか?」
「……いや、そんな機会が無いのがまず問題でなぁ」
「ふふ、そんなヴァイスさんに朗報です。もうじき、機動六課に尋ねてくるそうですよ。社会復帰の一環として、らしいです」
「――――――本当か?」
「はいっ!!」

 ヴァイスは、にぱっと微笑むキャロの手をとり、ぶんぶんと上下に振った。

「ありがとよ、キャロ。やる気出てきたぜ! こうしちゃいられねぇ……!!」

 すっかり冷めたコーヒーを一気飲み干して走り去るヴァイスに、「応援してますよー」と無邪気にキャロは手を振った。


     ◆


 果たして、キャロの言葉は本当だった。
 体調次第なので日取りはまだ判らないが、メガーヌがルーテシアを伴い、仮退院の日に機動六課の隊舎に泊まりに来るらしい。
 六課の隊舎を仮退院の宿泊の場として使用できるのは、ルーテシアの監視施設よりゆっくり出来るだろうというはやての心配りである。
 そして、その日は思ったより早くに訪れた。機動六課の隊舎が年末大掃除の日のことである。
 キャロがそっとヴァイスの袖を引っ張り、小さく耳打ちをした。

「今日、来てますよ。……今、ちょうど一人で居るところです」

 心臓が跳ねた。進むべきか引くべきか。今のヴァイスの辞書には、勇退という文字はない。
 もう、今日しかない。そんな、無根拠な確信にヴァイスは突き動かされていた。
 数日間、悩みに悩んだのだ。前に進まなければ、この胸の靄は取れない。
 ヴァイスは覚悟を決めた漢の瞳で、力強くキャロに頷いた。

「ありがとう。世話になったな。―――場所は?」
「医務室の一番奥です。心配しないで下さい、人が来ないようにちゃんと見張ってますから」

 ヴァイスは駆け出した。背後でキャロが手を振る。―――振り返らなかった。
 ―――そして、ヴァイスは扉を開く。あの特別病棟の重い扉ではない、見慣れた六課の医務室の扉だ。
 音を立てずに静かに入り、ゆっくりと、だが胸を張って進む。ヴァイスの胸は高鳴っていた。
 思えば、長いようで短かったこの数ヶ月。あの闇の底での人魚のような彼女との出会い。
 病院でルーテシアと知り合い、気に入られようと苦心した日々。そして、あの病室での再開―――。
 そして今、ずっと胸の底に秘めていた想いを告げる日が来たのだ。
 ……医務室の一番奥のカーテンは閉じられていた。彼女は、あの向こうに居るのだろう。
 物音一つ無い静かな医務室。しかし、確かに人の息遣いが感じられる。
 微かにカーテンがそよいだ。その向こうに、あの美しい紫髪がちらりと垣間見える。
 すぅ、と静かにヴァイスは息を吸い込んだ。

「カーテン越しに失礼します。ヴァイス・グランセニックです。あの―――そのままで聞いて頂けますか?」
69Purple Purple Holy Night/19 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:19:41 ID:JQs3fOHk
 同刻、機動六課のとある廊下を、シャーリーとルキノが点検機材を抱えて早足で歩いていた。
 
「大掃除、忙しいねー。楽しいねー。通信設備の一斉点検、調べる場所が多くて大変ね〜♪」
「本当にタフですね、シャーリーさん。次は、スクランブル放送が正常に作動するかのチェックでしたっけ」
「そう! 全館同時のスクランブルなんて、使うこと無いのを願ってるけど、前の事件のようなこともあったからね」
「この隊舎、ピカピカになったのはいいですけど、工事が急だったんで通信系の粗が多いんですよー」

 六課の大掃除はどこも大忙しのようである。

「スクランブル放送のチェックをすると、全館に通信ウインドウが開くんでびっくりする人も多いみたいなんです」
「それじゃあ、手早くちゃっちゃと終わらせないとね〜」
「はいっ! じゃあまず医務室から―――あれ? シャーリーさん、チェック対象の部屋って、基本的に無人の筈ですよね?」
「うん、別に普段通りでもいいけど、全館に自分の姿が放送されるのなんて恥ずかしいからって、大抵は無人の筈よ」
「スクランブルのチェック始まってますけど、人、居るみたいです。え、ヴァイス陸曹?」


 ―――カーテンの向こうは無言のままだ。だが、少しだけ気配が変わったようにも思える。
 ヴァイスは、胸の裡から込み上げる勢いに身を委ね、自分の心情を吐露する。

「あの、すみません、俺は不器用な人間です。先にもっと気の利いたことを言えればいいんですが、言えそうになくて。
 それに、色々綺麗な言葉で飾るのも俺らしくないと思うので、単刀直入に言わせてもらいます。
 
 ―――アルピーノさん、俺は貴女の事が、好きです。
 あの日、初めて貴女の姿を見た時からずっと貴女の事が好きでした。
 正直に言えば、最初は貴女の美しい姿に惹かれただけだったのかもしれません。
 でも、貴女と話せるようになって、貴女の色々な面を知って、ますます貴女の事が好きになりました。
 もちろん俺は貴女の全てを知っている訳ではありません。それでも、俺の知っている限りの貴女の全てが好きだと胸を張って言えます。
 貴女の事をもっと知りたいです。そして、貴女の事をもっと好きになりたいです。
 それから……出来ることなら、俺のことをもっと知って欲しいんです。
 今の俺は、貴女にとってちょっとした話友達ぐらいの存在だというのは解ってます。
 俺は貴女と年も離れていますし、貴女が俺を男性と見ることなんて出来ないだろうというのも解っています。
 それでも、俺は貴女を守れる存在になりたいんです。
 付き合ってくれ、なんて大口を叩くことは出来ません。
 ―――ただ、俺の気持ちを知って欲しいんです」

 自分の気持ちを確かめるように、一つ一つ、心を言葉に紡ぐ。
 万分の一でもいい、彼女に己の気持ちが伝わるようにと願いを籠めて。
 ヴァイス、一世一代の告白だった。


 同刻、機動六課の各所では地鳴りのようなざわめきが起きていた。

『……貴女の事をもっと知りたいです。そして、貴女の事をもっと好きになりたいです。
 それから……出来ることなら、俺のことをもっと知って欲しいんです……』

 スクランブル回線に乗って、ヴァイスの告白シーンが六課全館にリアルタイム放映されていた。

「おい、ヴァイスの奴がスクランブルに乗せて愛の告白をしてやがるぜ! それもすっげ〜〜臭い台詞で!」
「なになに? アイツそんな露出趣味あったのか? 馬鹿なのか? それともよっぽどのドMなのか?」
「本人気付いてねーんだよ! 見ろよあのマジな顔!! 発信元は何処だ!? 医務室!?」
「きゃあ! アルピーノさんって誰かしら!?」
「まずいですよシャーリーさん! これではヴァイスさんのプライパシーが!」
「面白いから許可する! 部隊長権限やで〜」
「八神隊長! どうされたんですか!?」
「どうって、見に行くに決まってるやろ! 祭りやで祭りやで〜! こんな面白いことはそうそうないで!」
「ママ〜、何があってるの〜 ヴィヴィオも見に行く〜」
 
 一人、また一人と事の真相を見届けようと医務室へ向かって走り出すものが現れる。
 大掃除の真っ最中だった六課の隊員たちも、次々に手を止めその流れに加わっていく。
 忽ちの内に、医務室を目指す隊員達の大行列が出来上がった。
70Purple Purple Holy Night/20 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:22:28 ID:JQs3fOHk
 部隊長八神はやてをはじめとした錚々たる面々が、ある者は興味深々に、ある者は訝しげに医務室の扉を見つめている。
 医務室の扉を守っていたキャロだったが、彼女一人で到底押し留められる人数では無かった。
 皆、目を爛々と輝かせて事の成り行きを見守っている。

『こんなカーテン越しで済みません。貴女の顔を真正面から見て言う勇気が無かったんです。
 ですが、俺の気持ちは本物です。返事は要りません、ただ貴女に知って欲しかったんで―――』
「馬鹿野郎、そんなに押すんじゃねぇ!!!」

 ガラガラと音を立てて、汗臭い人間の大波が医務室へと流れ込んできた。
 耐圧使用の筈の扉が完全に弾け飛んでしまっている。

「……やぁ、ヴァイス」

 気まずげに、ロングアーチの同僚が片手を上げた。

「お前ら……うわ、シグナム姐さん、八神部隊長まで!?」

 すぅ、とヴァイスの顔から血の気が引いていく。
 告白を台無しにされた怒りより、これだけ大勢の人間に見られていたという羞恥と、理解不能な状況に対する混乱が上回ったのだ。
 もぞり、とヴァイスと告白相手を区切っていたカーテンが動いた。
 好奇の視線が一点に集中する。ヴァイスが熱を上げて告白していた相手、『アルピーノさん』が遂に現れるのだ!
 ……衆人環視のなか、メガーヌ・アルピーノは周囲を見回し、自分がかつて無く大勢の人間の視線を浴びている状況に目をぱちくりさせた。
 あれだけ騒がしかった医務室前の廊下が、しんと静まり返った。
 皆、見てはいけないものを見てしまった気まずさに口を噤んでいる。
 キャロがルーテシアの手を取って、皆に紹介をした。

「ええと、今度お母さんと六課の隊舎にお泊りすることになった、ルーテシア・アルピーノちゃんです。皆さん、宜しくお願いしますね」

 キャロにつられて、ルーテシアもペコリと頭を下げた。
 エリオが尋ねた。

「ルー、ここで何してたの?」
「医務室のベッドの点検。母さんが泊まりに来た時に、もしもの事があったらいけないからチェックしてた」

 そんな彼らの会話をよそに、人垣ではヒソヒソと声を静めた話し声が広がっていた。

「嘘、あれがヴァイスさんの告白相手? もしかしてヴァイスさんって―――」
「やだ〜、私ヴァイスさんの事ちょっと格好いいかな、なんて思ってたのに、ロリコンだったなんて……」
「まさか、ヴァイスの奴がロリコンだったなんてな……人は見かけによらないもんだぜ」
「おい、シグナム、ロリコンって奴はあたしみたいなのも欲望の対象にするのか?」
「ヴィータちゃんならばっちりや! リィンもヴァイス君の近くに行くときは注意せなあかんで〜」
「ええ〜っ、リィン、イタズラされちゃいますか〜」

 ざわめく会話の各々は聞き取れなかったが、頻繁に含まれる単語は抽出することができた。
 キーワードは、『ヴァイス』と『ロリコン』だ。

「ちっ、違う、これは誤解だ、俺は違うんだ〜〜〜っ!」
 
 ヴァイスは告白していた相手がルーテシアであったことに青ざめながらも、周囲の誤解を解こうと声を張り上げる。
 当然、聞くものなど誰一人としていない。

「……まぁヴァイス、恋愛は人それぞれだ、うん」
「……あはは、色々な愛の形があっていいと思うよ、……多分」
「ままー、ろりこん、ってなあに〜?」
「う〜ん、ヴィヴィオも大きくなったら解るんじゃないかな。少しだけ変わった人のことだよ、多分」

 そう言いながらも、ヴィヴィオをヴァイスの視線の届かない背中側にそっと隠したなのはの仕草に、ヴァイスは深く傷ついた。
71Purple Purple Holy Night/21 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:25:11 ID:JQs3fOHk
「ああ、ああああぁぁぁああぁぁ―――……」

 事態が、自分の手の届かない遥か遠くへ逝ってしまった事を悟り、ヴァイスはがっくりと肩を落とす。

「格好良かったですよ♪ ヴァイスさん♪」

 ただキャロだけが、純真無垢な天使の笑顔を浮かべて微笑んでいた。
 しかし、天使がいれば悪魔もいる。ヴァイスの前に現れた小さな融合騎は、小悪魔そのものの姿で憤怒の表情を浮かべていた。
 アギトは額に青筋を立てて、指先に炎を燈す。

「おい、テメェ、思い上がったことを考えたら許さねぇ、って言ってた筈だよな。
 ―――ルールーに二度と不埒な事を考えられねえように、その悪根を焼き絶ってやる」
「え? ちょっ、それはシャレにならねえよ、頼む、誤解だ、やめ、アッーーー!」 

 医務室の混乱とざわめきを見つめるルーテシアの口元は、僅かにほころんでいた。


     ◆


 12月24日。数日前の大掃除の喧騒が嘘のように、機動六課の隊舎は静まり返っていた。
 機動六課の花形である隊長達が、軒並み出身世界に帰省しているのである。
 何やら、『くりすます』という大きな祭りがあるらしいのだが、ミッド人のヴァイスには知るところではない。
 フェイトに伴ってエリオとキャロも外出し、はやてに伴い守護騎士達も不在である。
 六課の業務は、グリフィスを先導に滞りなく行われているし、警護の方もシスターシャハらの凄腕に任せてあるので問題は無いらしいのだが、静か過ぎる夜というのは寂しいものだ。
 そして、この日が本当のメガーヌとルーテシアの六課宿泊日でもあった。
 ヴァイスは詳しく知らないが、『くりすます』というのは『さんたさん』という人物が子供にプレゼントを配る祭りらしい。
 母と過ごせる初めての夜が、ルーテシアへの最高のプレゼントだとエリオ達も笑っていた。
 ―――あれ以来、メガーヌに告白めいた事はしていない。
 全身全霊を振り絞った告白が空振り―――というより最悪のビーンボールに終わったのは今でも頭が痛い。
 だが、ヴァイスはめげずに次こそ立派に告白をしてやると意気込んでいる。
 ……もっとも、六課の各所でロリコンと囁かれるのだけには、流石に閉口するのだが。

「じんぐるべーる、じんぐるべーる、鈴が鳴る〜……っと」

 ここ数日ヴィヴィオの歌っていた歌を口ずさむ。単純だが妙に耳に残る歌だった。
 人気の消えた六課の隊舎を独り歩く。空調は効いているはずなのに、妙に肌寒い。
 ふと思う。今自分がこうして時間を潰している間にも、メガーヌとルーテシアは初めての親子で過ごすを楽しんでいるのだろう。
 病室ではなく、この隊舎でメガーヌと存分に語らいたいと思う我欲も確かにある。
 だが、今この時も彼女達が幸せに過ごしている事を考えると、そんなつまらない思いも消えていった。
 ソファでだらだら時間でも潰すかと、ポケットに手を突っ込んで、ぶらりと隊舎のロビーへと入った。
 ―――そこにヴァイスは、有り得ない筈の少女の姿を見つけた。
 ぼんやりと、一切の感情の抜け落ちた表情で窓の外の闇を見つめる、ルーテシアの姿だった。

「ルー、何してんだ、こんな所で!? 今晩はお母さんと一緒に過ごすんじゃなかったのか!?」
「母さんは、いないの」

 何も映らない窓の外を見つめながら、ルーテシアは抑揚の無い口調で静かに答える。

「夕方、みんなを見送った後に―――急に、体調が悪くなって、病院に戻ったの。
 ……病院の人が、今日はもう遅いからって言って……」

 ヴァイスは絶句した。わざわざ医務室のベッドの確認をしていたルーテシアの心配は、杞憂では無かったのだ。
 前に比べれば良好な容態が続いていたとは言え、未だに彼女の体調は芳しくは無い。こんな事態も、予測しておくべきだったのだ。
 子供にプレゼントをくれる『さんたさん』は、ミッドチルダには居ないのだろうか?
 ルーテシアは、静かな無表情で窓の外を見つめている。
 別段、その表情に悲しみは感じられない。病院の扉を見つめていた時と、同じ無表情だ。
 ヴァイスは違和感を感じた。あんなに楽しみにしていた外泊が潰れて、泣きじゃくってもいい筈なのに―――。
 そこで、ヴァイスは気付いてしまった。
 ―――これが、これまでのルーテシアにとっての普通の状態だったのだ。
72Purple Purple Holy Night/22 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:29:31 ID:JQs3fOHk
 何も与えられず幸福も知らず、ただ無感情に眺めている状態こそ、これまでのルーテシアだったのだ。
 ルーテシアに取って、外泊が潰えたことは悲しむべきことであるがマイナスではない。プラスを失くして通常に戻っただけなのだ。

「……ルー」

 悲しかった。何より、そんな彼女の在り方が悲しかった。
 何か声を掛けようとして、手を伸ばし、……その手を止めた。
 ―――彼女が今欲しているのは母親だ。自分が出来ることなど、何もない。
 そう悲観し、ヴァイスは踵を反す。
 ……だが、頭の奥でこれでいいのかと囁く声がした。以前と同じ轍を踏むのかと、ヴァイスの裡から何かが声を掛けた。
 ―――そうだった。自分は、以前も大事な人を、置き去りにしたのだ。今も目を背けて続けているのだ。
 あんな思いは、もう、沢山だった。

「ルーテシア」

 ヴァイスは、ぼんやりと立ち尽くすルーテシアの隣に、どっかりと腰を下ろした。

「俺じゃあ何も出来ないのは解ってる。だが、今夜はここに居るぜ」

 返事は無い。ヴァイスはそれでもいいと目を瞑る。
 言葉一つ交さなくてもいい、ただ彼女の側に居ようとヴァイスは思った。
 ……沈黙が怖い。彼女の痛ましさを直視できずに、逃げ出したくなる。だが、もう逃げたくは無い。
 ふと思った。騎士ゼストは、このルーテシアの悲しい内面を知っていたのだろうか―――?
 知っていたのだろう。それを知り、自身が母の代わりになれない事も悟り、それでいて側に寄り添っていたのだろう。
 何もせず、ただ寄り添う。ただそれだけが、どうしてこんなにも難しいのだろうか。
 ―――ああ、確かに自分は騎士ゼストとは比べ物にならない小心ものだ。
 自分が傷つけた相手に寄り添うことが出来ず、愛する相手に正面から想いを告げることも出来なかった。
 ならばこそ。ヴァイスは、ただ、ルーテシアの隣に寄り添う。
 ずっと無言で居るだろうと思っていたルーテシアが、不意に口を開いた。

「ヴァイス、大好きな母さんが居なくて寂しい?」

 突然の問いに、ヴァイスは息を呑む。結局、あの告白の件は曖昧になってしまい、ルーテシアに弁解もしないままだったのだ。

「……はは、そりゃばれるよな。ルー。お前は、俺がお母さんの事を『アルピーノさん』って呼んでるのを何度を見てるんだから」

 ルーテシアは、ふるふると首を振った。

「最初から、ずっと知ってた。ヴァイス、母さんの話をすると凄く嬉しそうな顔をするし、母さんに会う前はずっと待ち通しそうにしてたから。
 ……ヴァイスが最初の頃に私に色々くれたりしたのも、母さんのことが知りたかったからなんでしょう」

 ヴァイスは赤面した。完全に見透かされてしまっていたようだ。自分はさぞかし彼女の目には底の浅い人間に見えたことだろう。

「悪いな……お前の言う通り、最初はお前のお母さんと知り合いになりたくて、お前に声を掛けてた。
 ―――軽蔑するか?」
「ううん。母さんの事を好きなって貰えると、私も嬉しいから。
 それに……ヴァイスは優しかったし、ヴァイスと遊ぶと楽しかったから。
 ヴァイスが本当に会いたいのは、私じゃなくて母さんだって事は解ってても、私もヴァイスと会うのは楽しかった」

 ヴァイスはニィ、と白い歯を見せて立ち上がった。くしゃくしゃとルーテシアの髪を掻き混ぜた。

「俺も、最初はお前の母さんに会うのが目当てだったが、お前と遊ぶのも凄く楽しかったぜ、ルーテシア。
 お前は見てて飽きない面白い奴だし、優しくていい奴だ。
 今じゃあ、お前の母さんの事抜きにしても、お前と友達になれて良かったと思ってる」

 仮面のように無表情だったルーテシアの口元が、少しだけほころんだ。
73Purple Purple Holy Night/23 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:31:31 ID:JQs3fOHk
「ガリューも、ヴァイスの事が気に入ってるみたい。
 ……だけど、いつも不思議がってた。どうしていつも、タダであんなに美味しいものをくれるんだろう、って」
「おう、ガリューに言っといてくれ。友情は見返りを求めない、ってな!」
 
 ルーテシアは目を細め、クスリと微笑んだ。
 これでいい、とヴァイスは思う。自分は彼女の母親の代わりには成れないが、この小さな微笑みさえ守ることが出来れば、それでいいと。
 
「よーし、ここに立っていても退屈だろうから、久しぶりに二人でぱ〜〜っと遊ぶか! 『くりすますパーティ』でもやろうぜ!」
「『くりすますパーティ』って、エリオとキャロの言ってた?」
「おうよ! 俺も良く知らないがな、なのは隊長の故郷じゃ有名なお祭りらしいぜ! 『さんたさん』が来るんだそうだ」
「『さんたさん』って、誰?」
「むむむ、良く知らないが、良い子にプレゼントをくれる人らしいぜ。 
 おっ、そう言えばルキノが、シャマル先生がくりすますの道具の一部を忘れて帰った、って言ってたな。借りて来よう」

 ……小さな袋に入ったそれは、本当にクリスマス用品の一部に過ぎなかった。
 サンタクロースの赤い尖り帽子、トナカイの角の付いた帽子と赤い鼻。……たった、それだけだった。
 ルーテシアは、不思議そうに見たことの無い用途不明の品々を見つめている。

「確か……赤い帽子の『さんたさん』が、『となかい』に乗って来るそうだ。多分」
「『となかい』って?」
「赤い鼻の鹿だそうだ。どうする、ルーテシア?」
「私、『さんたさん』になるから、ヴァイスは『となかい』になって」

 そう言って、ルーテシアは少し大きめの赤い尖り帽子をすっぽりと被った。心なしか楽しそうだ。
 ヴァイスも『となかい』の角の付いた帽子をかぶっている。
 スキンヘッドの人間の頭皮に角の付いたようなおかしなデザインで、額の部分には黒いグリグリが付いている。
 これが『となかい』と言うものか、と感心してヴァイスは被った。裏面には「せんとく……」と擦れた文字が書かれている。

「……『となかい』になったはいいが、どうしたもんかね、これは」
「乗せて」

 有無を言わせぬ口調で、ルーテシアはヴァイスを見上げた。
 
「ええと、四つん這いになればいいのか?」
「肩車」

 それはもう鹿じゃないだろう、と思いつつ、ヴァイスはルーテシアに肩車をした。
 短いスカートから覗く少女の細い太腿が両頬に触れて、どことなく背徳的な感じがする。
 勿論、正常な性的嗜好を持つヴァイスはそれで興奮したりはしないのだが。
 人一人乗っている筈なのに、ルーテシアの体は小鳥のように軽かった。
 そのまま、ぐるぐると隊舎のロビーの中を歩き回ってみる。
 刺激も何も無い、幼稚な児戯。だが、ルーテシアはヴァイスの頭に掴まり、満足そうな顔をしていた。
74名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 23:33:25 ID:v37IqnC0
ちょwなげえwwwwwでも支援。
75Purple Purple Holy Night/24 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:34:35 ID:JQs3fOHk
「なあ、ルー」

 ヴァイスは、頭上の少女へと声を掛ける。

「俺には、妹がいるんだ。年が明けたら実家に帰って、久しぶりに妹とゆっくり話でもするつもりだ。
 お前の話も沢山するよ。面白い友達が増えた、ってな。今度連れてくる。ルーにも紹介するよ」
「うん、ヴァイスの妹なら、私も友達になりたい」

 どうということの無い雑談。それだけで、楽しかった。
 ―――何週かロビーをぐるぐる廻り、満足げにルーテシアはヴァイスの肩から降りた。いや、降りようとしたのだが。

「む、むむむむむ?」

 角が邪魔になって、上手くヴァイスの肩から降りれない。
 知恵の輪でも解くように、足を上げたり、首を捻ったりしてみるが上手くいかない。
 スカートが『となかい』の角に引っかかっている。
 ヴァイスは苦心の末、ルーテシアの体を頭上で反転させ、何とか頭を引き抜く方法を発見した。
 角でルーテシアのスカートをぺろりと捲り上げてしまうが、まあ一瞬だから大丈夫だろう。
 這い蹲り、頭を引っこ抜こうとして―――バサリ、と誰かが何かを取り落とした音を聞いた。

「……痴漢」 

 ロビーの入り口で、書類を取り落としたアルトが青ざめた顔でヴァイスを見つめていた。
 彼女の視線の先には、頭に角を付けた奇妙な扮装をし、角で少女のスカートを捲り上げ、股間に顔を埋める変態の姿があった。

「……ヴァイス先輩が、痴漢を」
「ち、違うぞ違うぞアルト、これはちょっと遊んでいただけで……」

 ヴァイスはルーテシアの股の間から顔を出し、必死に弁解する。

「遊びと偽って、こんな卑猥な大変態行為をするなんて……見損ないました、ヴァイス先輩」
「待ってくれ、誤解なんだアルトっ!!!」

 ルーテシアを肩に乗せたまま、ヴァイスはがばりと立ち上がった。赤い鼻の顔を強張らせ、アルトへと手を伸ばす。

「アルトっ!!」
「いやあああぁあああぁああぁぁぁっ!!!」
 
 悲鳴をあげ、一目散にアルトが逃げ去って行く。それをヴァイスは全速力で追いかける。肩のルーテシアの重みなどお構い無しだ。

「誰か、誰か来て下さいっ!! 痴漢です、変態です! ヴァイス先輩が奇妙な扮装で女の子にイタズラをっ!!」
「違うんだ、誤解だぁっ!!」
「来ないで変態! 大変です、ヴァイスが女の子に強制的に猥褻行為をしています〜〜っ!!」
「おいこら話を聞きやがれチビアルト〜〜っ」

 アルトの悲鳴を聞いて、次々に隊舎の扉が開き、隊員達がわらわらと姿を現した。

「何だって!? ロリコンのヴァイスが遂に痴漢に及んだだと!?」
「うわ、サイテーですね」
「YES!ロリコン NO!タッチも知らねぇのか、ヴァイスの野郎は。児童ポルノ法を教育してやらねえとな」
「どこですか痴漢は!? 少女に手出しする不埒者には、隊舎の警備を任されたこのシャッハ・ヌエラが、聖王の名の元に裁きを下しましょう!」

 どんどん混乱していく状況に、ヴァイスは手を振って弁解する。

「違う、本当に違うんだ。ちょっと遊んでいただけなんだ」
76Purple Purple Holy Night/25 ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:36:23 ID:JQs3fOHk
 頭上には、スカートの端を引っ掛けられたルーテシアが。―――現行犯、確定である。
 更には、角のついたヘルメット状の帽子と赤い鼻。クリスマスの概念の無いミッド人には、理解不能の扮装にしか見えない。

「うわぁ、変態だ、本物の変態だぞ!」
「ヴァイスにあんな異常性があったなんて……いや、ロリコンなのは知ってたけどな」
「大変だ、女の子を人質にとっているぞ!」
「何だって、ヴァイスが痴漢を! 握らせて擦らせて舐めさせてたってのは本当か!?」

 伝言ゲームの要領で、どんどん情報は錯綜し六課隊舎の静かな夜は混沌へと堕ちて行く!

「うわぁぁぁぁ、畜生、俺は無実なのにぃぃぃぃぃっ!」

 リンチ確定の状況に、ヴァイスは一目散に逃げ出した。その頭には、『さんたさん』の帽子を被ったルーテシアがちょこんと掴まっている。

「逃げたぞ!」
「待ちなさい! ヴァイス・グランセニック、今投降すれば弁護の機会が与えられ……」
「おい、撃つんじゃない、人質の女の子に当たってしまう!!」

 逃げるヴァイス、追いかける六課の面々。
 ヴァイスは手足をバタつかせるようにして、泡を吹いて逃げ続ける。

「おい、ルー、どうしよう、ルー、ルー?」

 隊舎の外に出る。漆黒の空から、美しい白い結晶が降り注いでいた。
 ヴァイスの白い吐息に触れて、小さな雪の欠片が弾けて消える。
 ルーテシアは操縦桿でも握るように、ヴァイスの『となかい』の角を握り締めた。

「走って、もっと速く!」
「ええええええっ!?」

 走る、走る、ヴァイスが走る。滑稽な程に手足をバタつかせ、必死に走り続ける。
 夜風は冷たい筈なのに、ルーテシアの体は内側に不思議な熱を感じていた。
 風に、美しい紫髪がそよぐ。『さんたさん』の帽子が飛んでしまわないように押さえつける。
 ひぃひぃと息を切らしながらも、体を左右に激しく傾げて走るヴァイスから、振り落とされないようにしがみ付くのが大変だ。

「あは」

 意図せずに、笑みが零れた。

「あははっ、あははははっ」

 ルーテシアは、自分でも気付かない内に声を立てて笑っていた。彼女がこんなに声を上げて笑うのは、きっと初めてのことだ。
 だが、彼女自身も、走るのに必死のヴァイスも、勿論他の誰も気付きやしない。

「ヴァイス、もっと速く、もっと速く走って!!」
「無茶を言うなぁぁぁっ!!」

 12月24日。サンタクロースの居ないミッドチルダの夜を、紫髪の小さな『さんたさん』が駆けていく。
 不恰好な『となかい』に乗って、楽しげに楽しげに駆けていく――――――。



 ―――Merry Christamas for all!
   
 
77アルカディア ◆vyCuygcBYc :2008/12/24(水) 23:44:00 ID:JQs3fOHk
皆様のご支援のお陰で、何とか投下終了することができました。心からお礼申し上げます。
不勉強が祟って、結局串をさすことが出来なかったので後半冷や冷やでした。
色々勉強しておきます。

随分と長くなってしまいましたが、最後までお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございます。
もしお読み頂き、読んだ労力が報われたと思って頂けるなら無上の喜びです。
もっとすっきり話が纏められるよう、精進しておきます。

今年は、このスレで初めてSSに挑戦して、執筆が生活に加わった年でしたので色々感慨深いです。
このスレの皆様には、大変ご迷惑をお掛けいたしました。今後も時々ですがお世話になりたいと思います。
それでは、良いお年を!
78名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 23:46:31 ID:5z+kW8rB
30kbどころの話じゃなかったなw まずは乙
そしてGJ!聖夜前夜祭にいいもん読ませてもらった。感謝
79名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 23:52:44 ID:BSQL9XaG
投下乙
別に容量とか支援の話はどうでもいいけどさ、内容についての注意書きはちゃんとして欲しいな
メインは誰とかカプとかの
読むかどうかを決める大切な指標なので

あと支援してる人、何も書いてない人や「支援」とだけ書く分にはいいけど他のことも書いてる人正直言うと目障り
それじゃ割り込みと変わらない
80名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 23:52:50 ID:uhyuTW5X
>>77
GJ!
微笑ましいと言うべきか、生きろヴァイス、と言うべきか。
ルーテシアもいい子、キャロとアルトはいい仕事してる。メガーヌさんマジ美人。
イブに相応しい話でした

とりあえず、ヴァイス、俺と代われ(台無し)


そして、
>>初めてSSに〜
貴方のSSが一因で投下組になった身としては、いい意味で驚きです。

繰り返しGJ!
81名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 00:04:15 ID:lgkcIy+e
>>77
GJとしか申し上げられない!!
82名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 00:11:49 ID:3BPas954
>>77
GJ!!本当にハートウォーミングな狙撃手×蟲召喚師の少女でした。
兄貴の頑張りとそれを「・・・・・・」と見守る(?)ルーがなんとも
いいコンビです。聖夜前後に氏のSSを読めて本当に良かった!!GJです。

>>79
申し訳ありません。以後気をつけます。
83名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 00:23:23 ID:zXKpyMCy
>>33
GJ!!予告されたとおりのホカホカ&エロエロな2人のお話に大満足です。
しかしエピローグのはやてさん、ソレ犯罪じゃないっすかwしかし「愛々劇は下手な漫才よりよっぽど面白いなー」
については全くもって同感でさぁ。
>>77
GJです!ただ一言で言うと「濃っ!!!」 本当にこれだけ濃厚で、しかも楽しく笑えるどたばたコメディSSを読んだのは久々ですよ。
本当はもっと色んな感想を書きたいのですが「どこを縦読み?」と言われるのがオチなので止めときます
最後に、哀れな赤鼻スナイパーとちびっ子サンタとそのお母様に幸あらん事を!!
84名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 01:07:26 ID:pky+i006
>>77
ゼストお金で遊ぶんじゃねぇGJ!
ヴァイスの恋が報われるとか報われないとかどうでも良くなるような騒ぎ、べらぼうに楽しかったです
恋が下敷きなのにあんまり発展しないまま終わるのも珍しい気がしますが、ルールーかわいいから善し
85名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 08:43:30 ID:dRgGEKe0
GJ 良きクリスマス話をありがとう。
それにしてもヴァイス、あんたラグナにどう言い訳するの?
じと目で兄を睨んでますが・・・無害のはずないだろーが! お・兄・ちゃ・ん byラグナ
86名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 10:58:18 ID:Vvj0q8Fe
>>77
GJですがカプ銘記は最初にして欲しかったです…
87名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 11:07:42 ID:iPnsVZrN
既にもう>>79が注意してるだろ
88名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 14:13:02 ID:TirRzo2e
まぁヴァイスの恋愛メインとは言ってもメガーヌと結ばれたわけではないし、
ルーテシアとただ仲良くなった(兄妹or父娘的な意味で)だけだからカップリングと言ってもなぁ…・・・
89名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 14:42:07 ID:7ddwper7
>>88
注意書きのカプってのは傾向とかそういうのも表記推奨だろうに何を今更。
第一恋愛メインだったら尚更表記しとくべきじゃね。
いや読んでないから内容知らんけど。
90名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 15:36:14 ID:odK3oAlx
>>89
推奨ってわかってんなら黙っとけ。
推奨の意味もわからんなら、すまんかった。
91名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 16:13:34 ID:uY4Po72j
>>90
推奨とは言うものの実質的にはこのスレじゃ注意書きはほぼ必須でしょ
馬鹿かお前は
92B・A:2008/12/25(木) 16:51:06 ID:gpqfGR/5
クリスマスムードぶち壊しなエロSSの投下、良いですか?
93名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 16:52:16 ID:Zj5Cc6Mu
注意書きに関しては、4スレ目の件が頭にあったから、読み手自身の嗜好の問題で
書き手が叩かれてしまうのを防ぐために、テンプレに入れた記憶がある。
カプに関しては、テンプレ改正時の相談の時、入れたほうがいいと押す人がいて
明記されるようになったけど、確かその人も、ネタバレすると面白みがなくなってしまうような
SSもあるのでその辺は、書き手の裁量で…でも出来れば事前に言って欲しい、ということだったような。

カプ注意書きは強制じゃないけど、読み手からこうして文句くる場合があるから、
なるべく入れたほうがいいですよ(推奨)してるってことですな。

クリスマスなのに寒いお……

>>92
家紋
94B・A:2008/12/25(木) 17:00:44 ID:gpqfGR/5
きっと今晩は凄いのさと予想。

いつだったか誰もやっていないと聞いて、頑張ってみた。



注意事項
・ヴェロッサ×カリム
・調教済みのカリムを無限の猟犬で責めちゃいます
・凌辱風味
・タイトルは「金髪聖職者は義理の弟に・・・」
95B・A:2008/12/25(木) 17:01:35 ID:gpqfGR/5
注意事項追加
・エロです
96金髪聖職者は義理の弟に・・・@:2008/12/25(木) 17:02:09 ID:gpqfGR/5
豪奢なベッドに四肢を拘束されたカリムがその豊満な肢体を捩らせていた。
張りのある瑞々しい肌がまるで波紋を立てるように震え、可憐な唇からは声にならない嬌声を漏らす。
日頃、聖王教会の有力者として見せている楚々とした姿はそこにはない。淫らに腰をくねらせるその姿は一匹の牝のようであった。
そして、そんな牝に快楽を与えているのは半透明な緑色の犬達であった。

「あぁっ・・・・・やぁ、やめ・・・・・・あぁん、あぁ・・・・はぁっ? ま、また・・・・」

絶頂に達する寸前で、カリムの肢体を舐め回していた犬達が溶けるように消滅する。
駆け上がっていた階段を踏み外したような絶望感に、カリムは切なげな悲鳴を上げる。

「いや、まって・・・・」

「何をだい、姉さん?」

部屋の隅でジッと義姉の痴態を観察していたヴェロッサは、嗜虐的な笑みを浮かべながら言った。
その一言で義弟の存在を思い出したカリムは、頬を羞恥で赤く染めながら口をつむぐ。
だが、悦楽に火照った体はそれすらも快楽に変え、止まらぬ疼きが愛液となって秘所を滲ませる。

「追加しようか。次は5匹かな」

「ロッサ、まっ・・・・ああ・・・ああん・・・あぁっ・・・・・」

カリムが言葉を紡ぐよりも早く、ヴェロッサは5匹の犬を生み出して義姉の肢体に群がらせる。
身を捩って逃げようとするが、手足の拘束がそれを許さなかった。きつく締めつけられたロープは解ける気配もなく、
寧ろ身を捩る度に空いたスペースに犬達が割り込んで舌を這わせてくる。仰向けでも形の崩れない乳房を掬い上げられ、
腋や足の裏などの敏感な部分にも犬のざらついた舌で舐められる。あまつさえ、秘所の下に位置する不浄の穴にまで舌は伸びてきた。

「ひゃぁ・・・あぁ・・・あん・・・・・ロ、ロッサ・・・・ああぁ・・・・」

敏感な粘膜を擦り上げられ、跳ねるように背を弓なり伸ばしてカリムは喘ぐ。
すぐ隣りで義弟が自分を見ているということすら忘れ、火照りを鎮めんと不自由な体を動かして股間を犬の頭に押し付けようともがく。
その瞬間、再び犬達は消滅し、持ち上げられたカリムの腰は虚しく宙を叩くだけだった。
力の抜けた腰がベッドに落ちると、スプリングの軋みに混じってカリムのすすり泣きが室内に響いた。

「もう、やめて・・・・・ロープを解いて・・・・・」

「嫌がっているようには見えないけどなぁ」

「疼くの・・・・・お願い、意地悪しねいで・・・・・・ね?」

切なげに懇願するカリムの秘所からは、洪水のように愛液が滴っていた。
だが、ヴェロッサはそこに一度として手を付けてこない。全身の至る所を猟犬達に責めさせながらも、
疼きの中心とも言える秘所は意図的に避けているのだ。そして、カリムが絶頂に達する寸前で『無限の猟犬』を消し去り、
焦らしてくるのである。先ほどから、ずっとこの責めが繰り返されていた。

「ほら、今度は10匹にしようか。これなら、姉さんの弱いところを全部苛められるね」

「ま、まっ・・・・ああぁぁぁっ!!」

義姉の願いをどこまでも無視し、ヴェロッサは10匹の猟犬にカリムを責めさせる。
唇、乳房、わき腹、臍、クリトリス、菊門、足の裏。おおよそ、考えつく限りの急所を責められ、
カリムの視界が桃色で染められていく。しかし、それでも絶頂は訪れない。
こちらの意思を無視して突き上げてくる快楽は、彼女が求める高みには昇らせてくれない。
猟犬達は絶頂の寸前で消滅し、僅かなインターバルを挟んでその数を増していくばかりだ。
97金髪聖職者は義理の弟に・・・A:2008/12/25(木) 17:02:48 ID:gpqfGR/5
「ううぅ・・ああ・・・あんん・・・あぁぁう・・・あ・あ・・・・お、お願い・・・・・もう・・・・・」

「うん?」

「お願い・・・・・もう、堪忍して・・・・・・・・」

「どうして欲しいの? ちゃんと言葉にしてみてよ?」

わかっている癖に、ヴェロッサはわざととぼけたように首を傾げて見せる。
意地悪だ。
この男はどこまでも自分を弄び、乱れる様をつぶさに観察する。
耐え難い屈辱は、しかし今の彼女にはこの上ない甘美な美酒となっていた。
快楽に悶える様を見られ、蔑みの視線を注がれることに自分は悦を見出している。
彼に見られていると思うと、女の芯が堪らなく疼き、秘所がジュクジュクと湿ってくるのだ。
火照りはまるで炎のように燃え上がり、柔らかな肉の身を焼き焦がしていく。
カラカラに乾いた喉が水分を求めて口を開かせ、唾液まみれの舌が外気に触れた。
どこかひんやりとした空気に、カリムの瞳に理性の光が一瞬だけ戻ったが、すぐに彼女はその光を手放した。
そして、不格好に腰を持ち上げながら、凌辱者に向かって懇願する。

「お願い・・・・・・・・・あなたの逞しいおチ○ポで、はしたない姉さんにお仕置きして・・・・・・」

彼女の目は既に焦点が合っていなかった。
長時間に及ぶ猟犬達の責めで神経を妬かれ、快楽しか考えられなくなっているのだ。
貞淑を取り繕うのを止めた彼女の本能は、膣を無理やり押し広げられる快楽を待ちわびている。

「ねぇ、ロッサ・・・・・」

「姉さん、いったいどこを苛めて欲しいの?」

ほくそ笑みながら、ヴェロッサはカリムの濡れそぼったスリットを指でなぞる。
この瞬間まで、一度も触れられなかった場所に感じた初めての刺激。
軽く擦られただけだというのに、カリムの背筋を電流にも似た感覚が駆け抜けた。

「あぁぁっ・・・あはぁぁ・・・・・」

「ここ、欲しいんだよね?」

「・・・ほ、欲しい・・・・入れて・・・・・・・」

「それじゃ、ちゃんと言葉にしてみて・・・・・どこに入れて欲しいのか、ちゃんとね」

ヴェロッサはズボンの中から勃起した一物を取り出し、その先端を秘所へと擦りつける。
限界まで焦らされたカリムは粘膜を撫でられる度にビクビクと体を痙攣させ、前にも増して愛液を溢れ出さす。
とめどなく滲み出る愛液はヴェロッサの肉棒に絡みつき、ギラギラと照り返す不気味な黒い槍へとそれを彩っていく。
桃色に染まった思考では、それが与えてくれる快楽を拒むことなどできなかった。

「入れて・・・・ロッサのチ○ポ・・・・・・・・姉さんのマ○コに入れてぇ・・・・・・・・・
淫乱騎士マ○コにお仕置きしてぇ・・・・・・・・」

恥も外聞も捨て去り、カリムは叫ぶ。
求めていた反応を得たヴェロッサは、挿入しやすいようにカリムの拘束を解くと、
擦りつけていた肉棒を彼女の媚肉へとあてがった。
98金髪聖職者は義理の弟に・・・B:2008/12/25(木) 17:03:34 ID:gpqfGR/5
「行くよ、姉さん」

ぬるりと、固い感触が膣を押し広げていく。
その瞬間、カリムは軽い絶頂へと達した。延々と焦らされ続けた体は予想以上に敏感になっていて、
ちょっとした刺激でも達してしまうようになっている。

「イッタね、姉さん」

「・・・え・・・ええ・・・あ・あ・・・・・い、いっ・・あ・・・・」

呂律の回らない舌で、カリムは義弟の言葉に答えようとする。
しかし、ヴェロッサはそれを待たずに腰を前後し始め、完全に熟した膣内をくまなく擦り上げていく。
先ほどの絶頂の余韻すら醒めぬ状態での突き入れは、彼女を更なる高みへと昇らせていった。

「うあぁ・・・あ・あ・・・ま、まっ・・・あぁ・・・ああ・・く、くるぅ・・・・アクメ・・・くっ・・あ・あぁっ!!」

体がまるで言うことを聞いてくれない。
一突きされる度に絶頂が訪れ、悦楽の電流が神経を焼き焦がす。快楽中枢は瞬く間に処理の限界を迎え、
カリムは義弟のもたらす快感に翻弄されながら喘ぐことしかできなくなっていた。

「ううんあ・・あぁぁっ・・・・ま、またぁ・・・・い、イッてる・・・・イキながらイッてる・・・・・・・
あぁぁ・・・・・ううなな・・・・・あぁぁっ・・・と、飛ぶぅ・・・・・飛んでルゥゥッ!!!」

悦楽のエレベーターから降りることも許されぬまま、カリムは快楽を貪る。
いつしか、体位が入れ替わって自分がヴェロッサを押し倒していた。
文字通り義弟の肉棒で絶頂へと突き上げられているカリムは、自分が聖職者であることも忘れて
一心不乱に腰を振っていた。
そこに新たな凌辱者が加わった。
臀部の違和感に振り向くと、ヴェロッサが生み出した猟犬が肉棒を自分の菊門に押し込もうとしているところだった。

「ロ、ロッサ・・・・・・」

「姉さん、こっちでも可愛がってあげるよ」

問答無用で犬の肉棒が腸壁をこじ開け、熱い奔流が腸を妬く。
そして、根元まで突き刺さった後、骨盤をゴツンと叩かれたような衝撃をカリムは覚えた。

「うぐぅっ!!」

胃から逆流しかけた吐しゃ物を何とか堪える。
亀頭球が膨らんだのだ。
犬は先走り液を放出した後、肉棒の根元の亀頭球と呼ばれるものを膨らませて、性交中に肉棒が抜けぬようにしてくるのだ。
俗に交尾結合と呼ばれもので、そうなってしまうともう絶対に肉棒が抜けることはない。
だが、本来ならばその後にお尻を向け合う独特の体位を取るのだが、猟犬はそれをしようとしなかった。
まるで人間のように前足でカリムの背中を押さえつけ、不自由な態勢のままピストン運動を開始してくる。
ヴェロッサが犬の本能を忠実に再現せず、性交用のアレンジを加えたためだ。
99金髪聖職者は義理の弟に・・・C:2008/12/25(木) 17:04:08 ID:gpqfGR/5
「ふあうあ・・あぁぁ・・・・お尻、熱い・・・・・・・」

「おや、姉さんは犬の方がお気に入りなのかな?」

「ち、ちが・・・あうあっ・・・ロッサ、は、激しい・・・・ううぁっ・・・・い、息が・・・うあぁぁぁ・・・あああううあっ!!!」

「ほら、前にも1匹いるよ。姉さんの大好きなチ○ポ、舐めて欲しいってさ」

「ああぁ・・・・チ○ポ・・・・犬のチ○ポぉぉ・・・・・・・・」

ヴェロッサに請われるまま、カリムは差し出された猟犬の肉棒に舌を伸ばす。
義弟と交わり、犬に口と菊門を犯されるという異常な状況に、彼女の思考は完全に麻痺していた。
呼吸すらままならないまま、カリムは義弟が望むままに痴態を演じ、快楽を与えてくれる犬達に奉仕する。
今の彼女は騎士でも聖職者でもない。ただのはしたない、1匹の雌犬だった。

「うあぁ・・・ああんんっ・あ・あ・・・おチ○ポ、おチ○ポ良いのぉ・・・・・お腹、お腹が破れて・・あぁぁっ!! 
あん・・・ああうん・・ああ・・・・破れるぅ・・・・・犬のチ○ポがぁ・・・・・あぁぁぁぁぁっ!!!」

「ううぅっ・・・・姉さん、イク・・・・・・・・」

「あぁぁっ、ロッサ・・・・・あ、熱いの・・・熱いの来てぇ・・・あ・あ、あぁあっぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ヴェロッサが果てると同時に、2匹の猟犬達も射精を開始する。
注ぎ込まれる熱い奔流に呑まれ、カリムは限界と思われた壁を越えて更なる絶頂の頂へと上り詰める。
体の中から精液漬けにされる錯覚すら覚え、カリムはぐったりと義弟の胸板に着地した。
ヴェロッサの集中が途切れたためか、猟犬達もいつのまにか消えている。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・も、もっと・・・・・・・熱いの・・・・ほし・・・・・・」

絶頂の余韻に浸りながら、カリムの意識は遠のいていった。
股間からは溢れ出た精液が美脚を汚し、猟犬に犯された菊門はだらしなく広がったまま閉じることはなかった。


                                                            おわり
100B・A:2008/12/25(木) 17:07:55 ID:gpqfGR/5
書いている内に妄想だけが先走ってなかなか文章化できなかったです。
カリムって背徳的な雰囲気が似合うなぁ・・・・・まるでどこかの黒い表紙の官能小説のような。
機会があればやりたい(犯りたい)放題凌辱してみたいと思った。
101名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 18:06:32 ID:kHeHdI2p
>>100
銃姦キタ!!!
GJ!!!
カリムは虐め陵辱がよく似合う。
102名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 20:10:57 ID:MFvlMteu
>>100
GJ!!
ここって”エロ”パロ板だったんだな、すっかり忘れてた。
まぁ、このスレではよくあることなんだが

>>101
銃・・・・姦だと・・・・!?
つまり、クロスミラージュやストームレイダーの出番というわけか
103名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 20:18:36 ID:Z1dP6tWT
>>100
カリム獣姦ktkr

さあ次に餌食となるのは部隊長か?
104ザ・シガー:2008/12/25(木) 22:04:36 ID:gN8Cs0hN
アルカディア氏
ひゃは……ひゃはは!! (゜∀゜ )

GJだぁ、それしか出ねえぜアンちゃんよぉ。
あなたのSSが面白過ぎて全然執筆できなかったよ、いや冗談ぬきに。
ヴァイスとルーの交流が微笑ましすぎて終始ニマニマが止まらなかった。

>しかしアルカディア氏……早くあなたの書くメガネズが見たいです……
どうかどうか、この卑しい雄にお恵みを……


>B・A氏

ひゃはぁ! カリムさんキタwww
ったく、カリムさんエロ過ぎだぜカリムさん、ここまで被虐の似合う女は他にフェイトくらいっきゃおるめえ。
相変わらず氏の書くエロスは良い味でした。
心行くまで堪能しましたですよ。



そして、ちょっと遅くなったクリスマスSS投下行くぜ!

内容はヴァイス×ティアナ、短編でもちろんエロ。
105聖夜にサンタの服を着て:2008/12/25(木) 22:07:20 ID:gN8Cs0hN
「ああ〜、さみぃ」


 寒風吹きすさぶ中を家に帰り着き、ヴァイスはドアを開けるや否や即座にストーブのスイッチを入れた。
 かじかんだ手を擦り合わせながら点火されたストーブの火に晒して暖を得る。
 最初は弱かった火の勢いも徐々に勢いを増し、すぐに身体の芯まで温まるような熱を生み出す。
 ヴァイスは空気を伝わる心地良い熱にじっと身を晒した。
 そしてちょうどそんな時だった、玄関のチャイムが鳴ったのは。
 高い音域のチャイム音が耳に響き、せっかくの憩いの一時を邪魔する。
 自然とヴァイスの眉間には分かりやすく不快を示すようにしわが寄せられていた。


「ったく……誰だよこんな時間に……」


 やれやれと立ち上がり、ヴァイスはストーブの熱でやっと温まった手をすり合わせながらインターフォンまで歩いていった。
 そして来訪者の面を見る為にインターフォンの通話とカメラのスイッチを入れる。
 現れたのは、随分と可愛らしいサンタさんだった。


『メ、メリークリスマス……です……ヴァイス陸曹』


 羞恥で真っ赤に染まった顔に赤い服を着た赤尽くめの少女、ティアナ・ランスターは実に恥ずかしそうに切れ切れの言葉で挨拶した。


ヴァイス×ティアナ 聖夜にサンタの服を着て


「ったく、お前は……こんな時間に、んな格好でナニしてんだよ?」


 少女を家の中に招き入れると共に、ヴァイスは呆れ半分といった口調でそう漏らした。
 だがそれも無理からぬ事だろう、なにせティアナの纏った服ときたらそれはもう……大層な仕様だったのだから。

 まずは特徴的なトンガリ帽子、いかにも“サンタでござい”と言いたげな帽子をかぶった頭にはツインテールに結ばれた鮮やかなオレンジ色の髪が揺れている。
 そして肝心の服、胸元と肩が露出し嫌が応にも男の目を引きつけ、うんと短いスカートから白く健康的な張りを持つ太股が覗いては扇情的な色香をかもし出す。
 さらには羞恥心で鮮やかに朱に染まった頬がさらなる艶を与え、歳不相応な形容し難い艶めかしさを称えていた。
 ヴァイスの視線は自然とティアナの肢体の隅々にちらちらと泳いでしまう。


「その……すいません、やっぱり迷惑でしたか?」


 少し不安そうに、ティアナは上目遣いに彼を見上げながらそう呟いた。
 突然の来訪で邪険にされてしまうのではないか? そんな杞憂が鎌首をもたげ、少女の胸に湧きあがる。
 だが男は苦笑して彼女の頭を撫でた、まるで妹にでもするように優しく。


「んな訳あるかよ、お前が来てくれただけで嬉しいさ」

「あ、ありがとうございます……」


 ヴァイスの言葉に、少女の頬はさらなる赤みを宿して燃えるように鮮やかに染まった。
106聖夜にサンタの服を着て:2008/12/25(木) 22:09:23 ID:gN8Cs0hN
 彼はそんなティアナの様子に、優しげに微笑みを浮かべる。


「でもその格好どうしたんだ?」

「えっと……今日はクリスマスですから……その、こんな感じで……」

「ああ、そういやそうだったな、すっかり忘れてた」

「えと……どうですか? 似合ってます?」


 不安げな、まるで飼い主に哀願を向ける子猫のような目でティアナはそう尋ねた。
 心なしか二つに結った髪も震えているように見える。
 愛する少女にこんな風に聞かれて、答える返事は古今東西あらゆる世界を鑑みて一つしかないだろう。
 ヴァイスは僅かに震えるティアナの肩をそっと抱き寄せると、耳元に彼女にしか聞こえないくらいの声量で囁いた。


「似合ってるに決まってんだろ? 凄く可愛いぜ」

「あ、あんまりおだてないでください……」


 歯の浮くような言葉に、ティアナは顔をさらに赤くして羞恥に頬を染める。
 そんな彼女をギュッと抱きしめながら、ヴァイスは互いの温度差に驚いた。


「ちょっと、冷たいな……外冷えたろ?」

「ええ、もう雪が降ってましたから」

「そうか、じゃあ……暖めてやらないとな」


 言うが早いか、ヴァイスは彼女の背に廻した手を巧みに操り、しなやかな肢体を即座に抱き上げる。
 それは乙女の憧れ、世に言う“お姫様抱っこ”の形態で。


「ひゃっ!? ヴァ、ヴァイス陸曹?」

 ティアナがそう言った時には、彼はもう歩を進めていた。
 目指すはいつも自身が寝起きしている部屋、寝室に他ならない。
 そして足早に辿り着くや否や、抱えたティアナの身体をそっと寝かせた。


「それじゃあ、俺の身体で芯までしっかり暖めてやるよ」





 音が、部屋の中で音が響いていた。
 粘着質な、湿ったナニかが蠢き這うような音。
 しかし不快感は感じない、むしろもっと聞きたいと思えるような残響が孕んでいる。
107聖夜にサンタの服を着て:2008/12/25(木) 22:10:29 ID:gN8Cs0hN
 しかもそこに切なく甘い少女のくぐもった声も同時演奏されていれば尚更だった。


「んぅぅ……はぁっ! ヴァ、ヴァイス陸曹……この服、着たままするんですか?」


 ベッドの上で横たわり、喘ぐ少女はそう尋ねた。
 男はティアナの股ぐらに舌を這わせ秘唇を舐って蜜の味を堪能するのを一時中断し、そっと顔を離すと健康的な張りを持つ太股の間から彼女の顔を覗き込む。


「そりゃそうだ。せっかくこの日の為の衣装なんだから、有効活用しないともったいないだろ?」


 言うと同時に、彼はもう一度目の前の秘書に口付けると舌をこれでもかと膣に差し入れた。
 既に愛液でしとどに濡れそぼっていたそこに先端を尖らせた舌先を差込、これでもかと抉りぬく。
 その愛撫刺激の前に、ティアナはまるで一個の快楽楽器のように甘く喘いだ。


「ひぅっ!」


 ティアナは先ほどの服装、サンタ服のまま快楽によがる。
 胸元を肌蹴てスカートを捲り上げられ、下着のみ脱がされた状態で情交に及ぶ美少女の姿は実に扇情的で、そして背徳てきだった。
 ヴァイスの責めにも普段以上に力が入るというものだ。
 秘唇をめくり上げ、淫核を突き転がし、膣穴を抉りこむ、口で行えるありとあらゆる愛撫で責めたてる。
 ティアナが絶頂を迎えるまでにそう時間はかからなかった。


「はぁぁあっ!!」


 一瞬ビクンと全身が反ってしなり、そして弛緩する。
 絶頂の反動が少女の四肢を面白いくらい震えさせ、その白い玉の肌に汗で濡らし淫らに飾った。
 彼女の身体は普段の素直になれない様子に反して、快楽と言う名の蜜の前にはどこまでも素直になる。
 そのギャップがもたらし愛くるしさ、そして痴態にヴァイスの我慢もそろそろ限界だった。
 彼はゆっくり立ち上がると、瑞々しい張りを持つ太股を両手でさらに広げさせ、その間に位置する淫穴を露にする。
 既に最初に衣服を全て脱ぎ去ったヴァイスの股間では猛々しい肉銃が雌を撃ち抜こうと硬く屹立をしていた。
 そして彼は迷う事無く、その先端をしとどに濡れた少女の蜜壷へと向けて挿入を開始する。


「……あっ」

「入れるぞ」


 切なげな少女の呟きに答える事無く、そして自分の言葉に答える暇も与えずにヴァイスは次の瞬間には彼女を刺し貫いた。
 硬い、それこそ鉄の如き硬度のそれで柔いティアナの膣穴を力の限り貫く。
 先端が奥底まで瞬く間に突き上げ、膣から子宮そして脊髄まで駆け抜けるような快楽の電撃を生み出す。
108聖夜にサンタの服を着て:2008/12/25(木) 22:11:30 ID:gN8Cs0hN
 脳髄に届いた甘い電気の元、ティアナは先ほど絶頂に達したばかりの身体に再び快楽を刻まれた。


「ひぃふああっっ!!」

「くっ……おいおい凄い締め付けだなぁ、そんなにコイツが欲しかったのか? やらしいなぁオイ」


 自身を貫く肉銃を千切りそうなくらいに締め付ける膣穴に、ヴァイスが少々意地悪な口を開いた。
 だが今のティアナにそれに答える事も反論することも出来るはずが無い。
 彼女はただ、与えられる狂おしい快楽に悶え喘いだ。


「ふぅはぁっ! ……しゅごぉ……ヴァイス、陸曹の……んはぁっ! チンポぉ……すっごく硬いですぅ」


 グチャグチャと淫らな水音を響かせながら、ヴァイスの肉棒が激しく少女を貪り喰らう。
 その度に身体に深く刻まれる肉の悦楽に、ティアナは普段の姿が嘘のようにはしたない声で鳴いた。
 喜悦の涙で潤んだ瞳は既に焦点を失っておりトロンと蕩け、口元は唾液の筋を垂らしてだらしなく濡れている、さらに朱に染まり火照った頬と相まってさながら生来の淫婦の如くに今のティアナは淫らだった。
 サンタ服という可愛らしい衣装に身を包み、堪らなく淫らに狂う少女の姿にヴァイスは口元に僅かに嗜虐の溶けた笑みを浮かべた。


「ったく、乱れすぎだぜティアナ……くっ、こんなに上手そうにチンポ咥え込んで嬉しそうにアクメって……まるで淫乱だなぁ?」

「ち、ちがいましゅ……ふはぁんっ!……わらひぃ、淫乱なんかじゃ……ふひぃっっ!!」


 投げかけられた嗜虐的な言葉に、一瞬理性的な瞳を取り戻したティアナは必至に反論しようとした、だがそれは叶わなかった。
 その前にヴァイスが最高の力を込めて肉棒を突き上げ、膣の奥を深く抉ったのだ。
 瞬間生まれた激しい快楽の電撃の前に、ティアナは甘く喘がされて反論の言葉を封じられる。


「違わねえよ、お前は最高に淫乱だ、そうだろ?」

「いやぁ……んぅぅっ! しょ、しょんなころ……いわないれ、ください」


 加速した責め、肉棒の突き上げに喘ぎながらティアナはろれつの回らぬ口で哀願した。
 はしたない娘と思われて彼に嫌われるのが恐かった、彼に見捨てられると想像しただけで死ぬより辛い。
 だから快楽で蕩けきった思考を必至に立ち直らせてヴァイスに弁明しようとする。
 だが、それは単なる杞憂だった。

 次の瞬間、自分の唇が何かに塞がれたと思った。
 うっすらと開いた泣き濡れた瞳の前に彼の顔があった。そして直ぐに状況を理解する。
109聖夜にサンタの服を着て:2008/12/25(木) 22:12:24 ID:gN8Cs0hN
 “自分が今、彼に口付けられている”、という事に。
 ただ触れるだけの優しいキスは一瞬、だがそれで十分なほどに愛を伝えた後にそっと離れた。


「別に俺は良いと思うぜ、お前が淫乱でも。なにせこんなに可愛いんだからな」

「ほ……ほんろですか」

「ああ、だからさ……」


 言葉が言い終わる前に、ヴァイスは自分の手をティアナの腰に回してそのまま一気に、それこそ彼女の内臓まで貫通しそうなくらいの力で突き上げた。


「ひぎぃふぁああぁっ!!」

「今はたっぷり乱れろ!」


 ほとんど叫ぶようにそう言うと、後はもうただ獣の如くヴァイスは彼女を犯した。
 力を込められた彼の手はまるで万力の如くティアナの細い腰を固定し、逃げ場と言うものを奪い去る。
 そして完全に捕捉した少女の女体に、盛った発情期の獣がするように激しい力任せの交合が行われた。
 濡れた肉と肉がぶつかり合い、いやらしい湿った音を立てて嬌声と交じり合う混合合唱を生み出す。
 力任せの突き上げ、ほとんど暴力と言って良いそれだが少女は堪らなく甘い声で鳴いた。
 もはや彼から与えられる全てが愛おしいのだろう、二人はもう深き快楽と愛欲の海に沈みこみそれに溺れている。
 肉の交わりはどんどん加速度を増して行った。
 ヴァイスの腰の律動がどんどん早くなりティアナの喘ぎ声も甲高く蕩けている。
 もうゴールは目の前だった。


「ぐぅあ……ティアナ、もう出すぞ!」


 ほとんど叫びに近い声でそう言うが早いか、ヴァイスは我慢と言う行為を放棄して己が欲望を吐き出した。
 子種の白いマグマが肉の銃身を駆け上り、少女の体内に放たれる。
 安全日でなければ妊娠必至の凄まじい量の、焼けるように熱い精液がティアナの内部を瞬く間に征服していく。


「ひぅっ! いぃああぁぁっ……ザー、メン……あちゅぅ、い……おにゃか……やけぇ……るぅ」


 凄絶なる量と熱、そのあまりの快感に少女もまた絶頂を迎え、ほとんど声にならない嗚咽を漏らしながら果てた。
110聖夜にサンタの服を着て:2008/12/25(木) 22:14:16 ID:gN8Cs0hN
 脊髄まで爛れて溶けそうな快楽の底で、その深き悦楽にティアナは意識を手放した。





「んぅぅ……あれ? 私……」

「おう、起きたか」


 ティアナが目を覚ますと、彼女はベッドの中でヴァイスに抱かれていた。
 背に逞しい腕を回され、優しく抱き寄せられながら彼の厚い胸板に顔を埋めている。
 状況を理解するが早いか、ティアナは顔を真っ赤に染め上げた。


「あ、あの……恥ずかしいです……ヴァイス陸曹……」


 まるで蚊の鳴くような小さな声の訴え、でもちっとも本気ではない。
 むしろ嬉しくて堪らなかったが、それでも隠し切れぬ羞恥心が言葉を言わせた。
 そんな彼女の内心を全て悟りきったような顔で、ヴァイスは優しく囁く。


「嫌か?」

「いえ、その……嬉しいですけど」

「なら楽しめ、俺からのささやかなプレゼントのお返しだ」

「お返し?」


 彼の言葉が一瞬理解できず、ティアナは首を傾げる。
 そんな彼女の背に手を回し、さらに強く抱き寄せながらヴァイスは彼女の疑問に答えた。


「ああ、今日のプレゼントに可愛いサンタさんを頂いたからな。それに対する恩返しさ」


 キザったい、実に臭い台詞だった。
 でも彼は本気だ、その声の調子でティアナには分かる。
 理解すればするだけ、また頬に射す赤みが増して朱色に染まった。


「その……喜んでいただけて嬉しいです」

「おいおい、ナニ言ってんだ? まだ俺はプレゼントを返し終えちゃいないぜ?」

「え?」


 何度目かのティアナの疑問の声が響く否や、ヴァイスは彼女を抱き寄せながらベッドに転がる。
 そして体位を上手く変えつつ、そっと唇を合わせて口付けた。
11183スレ260:2008/12/25(木) 22:14:22 ID:C3PjmEuh
エリキャロのクリスマスSS投下しても大丈夫ですか?
11283スレ260:2008/12/25(木) 22:15:11 ID:C3PjmEuh
ごめんなさい、間違えました
113聖夜にサンタの服を着て:2008/12/25(木) 22:15:15 ID:gN8Cs0hN
 一瞬だけ優しく口付けると、また最初のようにそっと顔を離し、今度は耳元に口を寄せる。


「朝までキッチリ、利子を払わせてもらうさ」


 たっぷりと、まるで言葉の一語一語に愛が溶け込んでいるかのような残響でそう囁かれ、ティアナはまた顔を赤く染め上げた。
 今度は羞恥ではない。
 彼に愛される悦びと、これから行われるだろう情交への期待でだ。
 そしてそれを噛み締めた少女は、薄暗がりの中で彼の瞳を見つめながらそっと囁き返した。


「はい……今度は優しく……お願いします」

「了解しまいした、可愛いサンタさん」


 その日の二人の情交は朝まで続き、骨の髄まで甘く蕩けるような時間を心行くまで楽しみ尽くした。


終幕。
114ザ・シガー:2008/12/25(木) 22:20:50 ID:gN8Cs0hN
はい、投下終了。
エッチな事ばっかり考えているエロパロのわるぅ〜い子達にもプレゼントを配る、それがザ・シガーのおじちゃんだよぉ♪

基本、あんま他氏が書くようなカプは書かないのが俺の主義なんだが、たまには良いかなと思って書いてみました。
眼鏡もオッパイ姐さんも良いが、やっぱツインテも良いのう、実に良いのう。
115名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 22:28:45 ID:Z1dP6tWT
>>114
ぬのおおおおッッ!!
来た!メインエロ来た!これで勝つる!!
甘々ヴァイスティアナ、ゴッツァンっでしたw
116名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 23:12:52 ID:+YA6e/6L
>>ザ・シガー氏
なんつーGJな事を!!
淫乱ティアナいいよ淫乱ティアナ

>>111
ガンガンいこうぜ!
117名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 23:16:14 ID:atCvX/NS
>>111
どんとこい!
118名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 23:58:41 ID:Tvfbl/Yw
>>111
遠慮はいらない。
いつでも来てくれ!
11983スレ260:2008/12/26(金) 00:06:07 ID:+IuVW37N
許可が下りたので

エリオ×キャロでクリスマスSS
タイトル:君だけに愛を

甘いです
ではいきます
120君だけに愛を:2008/12/26(金) 00:06:43 ID:+IuVW37N
ミッドチルダ首都クラナガン。普段から人で賑わうこの街はクリスマスということも手伝って、特に恋人たちで賑わっていた。
エリオとキャロも例外に漏れずクラナガンの公園を訪れていた。

「見て、エリオ君!!」
エリオがキャロの示す方へ目をやるとミッドの夜空から白い結晶が舞い降りてきた。

「雪だよ、エリオ君」
「うん、きれいだね、キャロ」
冬の冷たい空気と雪がミッドチルダの聖夜を静かに彩っていた。

「はああ……」
隣でキャロが自分の手に息を吐きかける。白さと暖かさがキャロの手を包み込む。
それを見たエリオはキャロの手を取り、そのままコートのポケットに突っ込んだ。

「どう。キャロ?こうすればあったかいよ」
「えへへ、ありがとうエリオ君」
キャロは頬を赤く染めながらも優しく微笑むと二人はそのまま歩き出した。

暫くして二人は俯きながら歩いていく。
勢いで手を繋いでみたが思った以上に身体が密着し、お互いにどうしていいか分からなくなっていた。
しかも幸か不幸か周りはカップルばかりで当然のようにいちゃついているため、目のやり場に困ってしまった。

「エリオ君……」
キャロが困ったような潤んだ目でエリオを見上げてくる。
クリスマスの夜、恋人と二人、周りもカップルだらけ。ここまで明示されて自分のすべきことが分からないほどエリオも鈍くはない。

「キャロ、いいの?」
「…うん、いいよ、エリオ君」
エリオがキャロの頬に手を当てると、さっきまでとは違う暖かさに包まれた。キャロが目を閉じる。あとはエリオが決心するだけでその瞬間を迎える。
エリオも目を閉じる。徐々に二人の顔が接近し、ゆっくりと口付けが交わされた。

触れるだけの幼いが穏やかで優しいキス。エリオはポケットから手を出してキャロの腰を引き寄せる。
それに応えるようにキャロも手を回し、エリオを抱きしめる。

子どものように幼い、しかし穏やかで優しいキスと抱擁は二人の身体だけでなく心も一つにした。
キスが終わると二人はそっと唇を離してまた抱き合った。唯一つさっきと違うのはキャロの身体がエリオのコートにすっぽり収まり文字通り一つになっていることだ。

「もっとこうしていていい、エリオ君?」
「いいよ、寧ろキャロが放してって言っても放さないからね」
顔を上げてお願いするキャロといじわるするエリオ。しかし二人の顔は楽しげだ。それが他愛もない冗談だと分かっているから

「じゃあ私もエリオ君がどいてって言ってもどかないからね」
「のぞむところだよ、キャロ」
そして互いの顔を確認してどちらともなく笑いあう。


「それじゃあどっちが先に根をあげるか競争だね、エリオ君」
「僕だって負けないよ」
エリオはそう言いキャロを抱きしめる力を強くする。
恋人たちの甘い時間はまだまだこれからだ。
121君だけに愛を あとがき:2008/12/26(金) 00:07:13 ID:C3PjmEuh
エリオが完璧にプレイボーイになってるのは何故だろう?
少しでも二人の甘い空気を感じて頂ければ幸いです。

1時間の突貫工事じゃこれが限界かorz
122名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 00:18:11 ID:05UJoo4a
GJ!!
ちょっと短いのが残念でしたが、でも甘エリキャロごちそうさまでした。
エリオ君は元々天然のプレイボーイ資質があるかと思うのですよ。
キスをどのカップルにも負けないほどやった後、帰ったらもちろん…ですね。
123名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 00:29:58 ID:CwlZUrkG
早いかな? もう少し待った方がいいかな?
124名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 00:39:59 ID:RTcnCJXo
>>123
30分経ったし、そろそろ良いんじゃね?
125野狗:2008/12/26(金) 00:48:20 ID:CwlZUrkG
すんません。
クリスマスには間に合いませんでしたが。
はやて×無名・陵辱調教もの

タイトル「はやての夏休み」
レス数6
あぼんワードはコテで。
126野狗:2008/12/26(金) 00:48:53 ID:CwlZUrkG
      1

 両腕をあげた形でY字型に繋がれた小さな身体が汗と体液にまみれている。

「い……いやや……もぉ、許してや……」

 少女の呟くような、消え入りそうな言葉を気に留める者などここにはいない。
 ただ、気の向くままに少女の汗を舐め取り、まだ発達しきってない胸を愛撫するだけ。

「は、はあっああ! また、また……そんなにぃ……」

 わずかにブーツと靴下だけを残して全裸の少女は、愛撫に身を震わせながら哀願を続ける。

「もぉ……あかん……お願い……お願いや……」

 一人が床に座り込むと、足首を棒に固定されているため閉じることのできない少女の股ぐらに顔を埋める。
 ぺちゃり、ぺちゃり、と、わざとらしい音を立てながら少女の秘部を舐め、舌先で小さな突起をくすぐった。
と同時に、別の男が少女の脇に舌を這わす。
 まだ産毛しかない脇を、丹念に穿り返すように動く舌。
 両の脇をそれぞれ別の男が舐めている。そして、股に一人。さらに別の一人が、少女の胸を背後からまさぐり始めた。

「やぁ、……ああ、あかん……そんなん………んっ……」

 股間の舌がそよぐたびに、少女は言葉を切り、息をのむ。
そして、両脇の感覚に甘い吐息を漏らし、胸元から生じる熱い波を全身に感じていた。
 
「あ、あ、あ」

 股間の舌の動きが早まるにあわせ、スタッカートのように喘ぐ少女。

「ひ、ひ…………」
「何度目かな? イヤらしい女の子だねぇ」

 これで何度目か。
 この状態で拘束されてからどれほどの時間が過ぎたのか。
 唇をふさがれ、胸を舐められ、脇を愛撫され、身体中をまさぐられ、最も激しく丹念に愛撫されたのは股間だった。
 絶頂を感じるたびにその数を確認され、否定するとさらに絶頂を与えられ、受け入れても絶頂は与えられる。
 ただ男たちは、少女が望まずして与えられた絶頂の数を楽しんでいるようだった。

「い……」

 これまで数度の絶頂に達したときに無理矢理に言わされていた言葉が、少女の脳裏に確実に刻まれていた。

「イくっ!!」

 はやてが短く叫ぶと年不相応の愛液が多量に流れ、四肢の力が抜けていく。
127野狗:2008/12/26(金) 00:49:28 ID:CwlZUrkG
          2

 リンディ・ハラオウンが八神はやてを呼んだのは、小学校最後の夏休みの始まった日だった。

「潜入捜査、ですか?」
「そう。こっちの世界で言う中学校になるかしら」
「ああ、それやったら、あたしの年がピッタリですね」
「ええ。年齢を誤魔化す魔法もあるにはあるけれど、見た目だけでは潜入は難しいわ。
会話や雰囲気でそれと察するような人もいるし」
「はあ、そういうものですか」

 リンディの言葉に、よくわからないながらもうなずくはやて。

「そやけど、フェイトちゃんやなのはちゃんは?」
「二人には先に別の任務が入ってしまって、ちょうどはやてちゃんが空いていたものだから」
「うーん。せやけど、ウチの子らが誰もおらんし……」

 ヴォルケンリッター一同もそれぞれの任務で家をしばらく空けている。はやての単独任務というのは初めてになる。
 さらに、リインはまだ実際の任務に赴くには力足らずだろう。

「任務と言っても調査だけ。それに、深く探る必要はないの。表面の観察だけでいいのよ。
言ってしまえば、二、三日普通の学校生活を送ってくれればいいだけなの」
「ホンマに、それで任務になるんですか?」
「当面の間はね。深入りするかどうかは、その間に決めてもらってもいいのよ?」
「それやったら……今は夏休み中やし…」
「無理強いはしないけれど、決めたら連絡してね」
「あ、はい」

 はやての決断は早かった。
 その夜には、リンディのもとへ連絡を入れていたのだ。

「それじゃあ、くれぐれも気をつけてね。危険だと思ったらすぐに逃げていいのよ。
管理局の出張所もあるし、私の個人的な知り合いもすぐ近くにいるわ」
「大丈夫です。充分気をつけますから」
「お願いね」
「はい」
         
 バレた原因は皮肉にもはやての責任感だった。リンディにはああ言われたものの、潜入するからには何か具体的なものが欲しい。
 そう考えたはやては深入りしすぎてしまったのだ。
 立入禁止区間で発見されたはやては即座にバリアジャケットを身にまとい、魔法を使って逃走しようとした。
 しかし、追跡者によって魔法は解除されてしまう。
 原理はわからないながらも、男の持った銃のようなものから浴びさせられた光でバリアジャケットは解除されてしまったのだ。
光の当たらなかった足下の部分は辛うじて助かったが、ただそれだけである。ブーツと靴下が残ったところでどうしようもないのだ。
 さらに、強制解除させられた部分には通常の衣服すら戻らなかった。ブーツと靴下を残して全裸にされてしまったのだ。
 思わず悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまうはやてに、男たちは容赦しなかった。
128野狗:2008/12/26(金) 00:50:11 ID:CwlZUrkG
        3

 男たちの汗と熱気が立ちこめる部屋の中央に、力の抜けた四肢がぶら下がっている。
その四肢の持ち主――はやては、満足に喋ることもできずに荒い息をついていた。
 それでも、男たちの愛撫は止まない。それどころか、男たちは明らかに最初の陵辱者たちとは違っている。
 入れ替わり立ち替わりに違う男たちが姿を見せては、はやての身体を好きなように貪り、辱めているのだ。
 
「はぁ……はぁ……、もぉ……許して……」

 何度目の哀願だろうか。聞き入れられないとはとうにわかっている。それでも、哀願しかない。それしか、今のはやてには残されていない。
 無様だと感じた。惨めだと感じた。ただの玩具にされている、とはやては感じていた。
 しかし、それが被虐の喜びだと言うことにはまだ気付いていなかった。ただ、奇妙な疼きだけを感じている。
 それが、アブノーマルなものだと知るには、はやての性的経験はあまりにも乏しすぎた。
はやてには、それが誰にでも訪れるものなのか、それとも自分だけが感じるものなのかが判断できなかった。
 ただ、自分の身体が自分の心を裏切りつつあることは理解していた。

「いや、もぉ……いやや……」

 涙を流すたびに、愛液が同じように流れ出す。それを啜られると、下半身が熱くなる。
 そして、唇に舌を這わされ、自分の股を舐めた舌で口内を蹂躙される。

「これが、はやてちゃんのお○んこの味だよ」
「んんっ!! ん……ゃ…やぁ!」

 知りたくない味が口内に広がっていく。これが……自分の味?
 舌を絡め取られ、強く吸われ、歯茎の裏を舐められ、唾液が流し込まれる。
 生臭さに嫌悪と吐き気を催し、そして……微かに混ざる劣情……
 身体中を男たちの手と舌が這い回っている。時折、手と舌の位置が鋭い感覚をはやてに覚えさせる。
 今の感覚は……? と考えるまもなく新しい刺激が別の場所に生まれ、自分でも知らなかった快楽のツボが次々と男たちに暴き立てられ、
開発され、はやて自身に突きつけられていく。男たちは、コトバではなく刺激ではやてを追いつめていた。

 ……ここが感じるんだろう?
 ……ここが気持ちいいんだろう?
 ……ここに触ると、胸が熱くなる?
 ……ここを舐めると、喘いでしまう?
 ……ここに指を入れると、もっと入れて欲しくなる?
 ……ここを甘噛みすると、どうなるの?
 ……ここを舌で押し込むと、どうなるの?

「き、ぃ……き、気持ち……」

 イヤだ。イヤだ、イヤだイヤだ!!!!
 なのに……なのに……
 はやては唇を噛み止めようとした。それなのに、どうして男の舌を吸ってしまうんだろう?
 胸を触られる。なぜ、ふりほどかずにさらに胸を張って男の手に触れやすくするんだろう?
 指が触れる。なぜ、腰を前に突き出すのだろう?
 甘噛みされるたび、声が出る。
 舌で押し込まれると、もっと欲しくなる。
 どうして? どうして?

「き、……気持ち……良くなるぅ……良うなるんですぅ……」
 
129野狗:2008/12/26(金) 00:50:55 ID:CwlZUrkG
         4

 誰かが、お尻を広げている。
 良のお尻を両手で開いて、恥ずかしい穴を見ている。

「ゃぁあ……そこ……見んといて……」

 振り向こうとすると、別の男がその頭を抑えた。
 鼻先に、男のペニスが突きつけられる。

「ひ……い!」

 固定されている四肢を忘れて思わず後ろに下がろうとすると、身体だけが微かに後ろに動き、広げられて尻がさらに広がってしまう。
 反射的に前へ進むと、今度はペニスが顔に当たる。
 後ろの男の指が、はやてのアナルに触れた。

「嫌やあっ!!」

 前の男が、はやての叫んだ口に指を入れる。そのまま、唇を指で挟んで弄ぶ。

「どっちか選んでね。お尻か口か」
「両方嫌なら、子供が生まれるようなこと、しちゃおうか?」
「はやてちゃんなら、もう生めるよね?」
「はやてちゃん、赤ん坊は好きかな? だったら、作ってもいいよね」
「はやてちゃん一人だけ気持ちよくなるのは、不公平だよね」
「今までさんざん気持ちよがってたんだから、次は俺たちの番だよ」

 質問の度に、指が唇を、乳房を、秘部を、脇を、これまでの愛撫でわかった、あるいは開発された部分を的確につまんだりくすぐったり。
 そのたびにはやては短い嬌声をあげ、体を震わせ、頭を揺らしてはペニスの感触を顔で味わっていた。

「……口……口にしてください……」

 選択の余地など、あるわけがなかった。

「勘違いしないでね。俺たちがするんじゃないよ?」

 男の言葉を、はやてはすぐに理解した。そして、絶望した。

「……口で、させてください」
「何を?」
「……くわえさせてください」
「だから、何を?」

 言いながら、男たちははやての身体を揺らしてはペニスを当てる。そして、広げた尻に指を当ててはその感触を楽しんでいた。

「お……お○ん○んを、くわえせさてください」
「そんなに欲しいの?」
「…………は………はい」

 男のペニスが、はやての唇に触れた。
130野狗:2008/12/26(金) 00:51:45 ID:CwlZUrkG
       5

 くぐもった呻きは、一時間ほど続いていた。
 一人が終われば次の一人、それが終わればまた次の一人。
 一人のものをくわえている間に、他の男たちははやての身体中を好きなように愛撫する。
 呻きには甘い吐息が混ざり、最初の方に混ざっていた苦しさはすでに微塵もなくなっていた。
 Y字型に吊り上げられていた手はいつの間にか下ろされ、両手にはそれぞれ別の男のペニスを握らされている。
 
「ん……ん……ぐっ……ん……」

 三人に奉仕を続けながら、身体中をまさぐられ、股間にはまた別の男が顔を埋めている。
 舐められるたびにのけぞりそうな刺激に抗いながら、はやては奉仕を続けていた。奉仕が止まれば、次は尻に、あるいは膣に。
それだけは、どうしても駄目だと自分に言い聞かせる。
 
 ……こんなの、舐めたいんやない
 ……挿入されたないから、仕方なく……
 ……仕方ないんや……
 ……仕方、ないんや……

 唇をすぼめ、舌を這わせ、ベニスを握った腕を小刻みに動かし、指先で先端に触れ、先走り汁のまとわりついた指先を時折胸元に持っていかれ、
上半身は生臭い液に彩られるようになっている。
 達しそうになった男は、ある者は口内のそのまま出し、ある者ははやての顔面に、別の者ははやての胸元に、あるいは髪に。
 白濁の液にまみれた姿で、はやては奉仕を続けていた。
 それでも蹂躙は一向に止まず、男たちの数を数えることすら、はやてはもうやめていた。
 ただ、目前に置かれたペニスを口に含むこと。両手で奉仕すること。精液を受け止めること。それだけをこなす。


 いつの間にか、無限に続く思えた輪は終わっていた。
 男たちの姿はなく、ただ一人だけがはやての前に立っている。
 その手には、奇妙な細長いものが握られていた。

「これはね、はやてちゃんのお尻を躾るものだよ」

 抵抗する意志は、とうになくなっていた。

「急ぐ必要はない。夏休みは、始まったばかりだから……」

 男はニッコリと笑い、はやては自分が意識を失うのを感じていた。
131野狗:2008/12/26(金) 00:52:18 ID:CwlZUrkG
        6

「はあっ!! あああっ!!! そこ、そこです! もっと、もっとぉ!!」

 男たちの中心で、はやてが狂ったように腰を振っていた。
 捕らえられた日から十数日、はやての身体で男たちの知らない場所はもうなかった。
 口内にも、アナルも、膣も、男たちの精液を受けなかった場所はもうない。
 身体中の穴という穴が男たちの精を受け、はやての快楽を引き出していた。
 今も横たわった男に跨りながら、別の男に背後からアナルを貫かれている。
 不安定な体勢を保持しているのは、二つのベニスを握りしめている両手。そして、数本同時に突きつけられたペニスを交互に舐めている口だ。
  
「あぁ……好き、好きですぅ……もっとぉ、もっとして……お尻もぉ……全部……全部してぇ…」

 男が果てると、また次の男、そしてさらに次の男。男たちははやての小さな身体を押しつぶすようにのしかかり、あるいは持ち上げては達していく。
 それでも、はやては快楽を感じつつけていた。貪欲なほど、底なしに、無限に。
 絶頂に達するたびに背筋をのけぞらせ、叫び、がくがくと震え、弛緩しても、男たちは動きを止めない。
 はやてが動けなくなっても、男たちは快楽を与え続け、はやては受け取り続けていた。

「もお……あかん……あたし……壊れてしまう……壊れるぅ……」

 それでもはやての腰は動いていた、ほんの少しでも快楽を逃がさないとでもいうように。
 壊れてもいい。壊れたい。快楽のまま、絶頂のまま。
 ある意味、すでにはやては壊れていたのかも知れない。
 
「イくっ! イきますっ!!! またっ、またぁっっ!!!」
 
 はやての意識が飛んだ。そして、男たちもゆっくりと行為を中断する。
 壊れた少女が意識を取り戻すまで。それが、男たちの休憩時間なのだ。







 はやての身柄が管理局によって救出されるのは、夏休みももう終わりの頃だった……
 そこで何があったのかは、はやて自身も語ろうとはしない。 
132野狗:2008/12/26(金) 00:53:34 ID:CwlZUrkG
以上、お粗末様でした。

はやてはいいよね。特に二期。
133名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 01:40:24 ID:IdZyY0tT
>>121
GJ!
ラブラブなこの二人は本当に見ていて和むぜ
134名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 03:10:13 ID:dXDrGxrm
野狗氏GJ!

なんというエロチズム、はやてがいやらしく乱開発されてしまったwww
良いエロ短編でしたぁ〜。
135名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 03:40:56 ID:ZOpsYkhP
>>132
GJ!
え、夏? なんで?
と思ったけど、どうでもよくなるぐらいエロかったです
中学生…いい言葉だ
136名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 05:14:53 ID:h+IOEhNw
なのはさんとエリオで何かエロいシチュエーションは思い浮かばんものか……
137名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 07:42:24 ID:IdZyY0tT
>>136
訓練の最中、空を飛んでいるなのはのスカートの中が見えてしまい、思わず勃起してしまうエリオ。
その後、当然のごとく、動きは鈍くなってしまい、収まった後もなのはの事を意識して、エリオらしからぬミスを連発。
その夜なのはの部屋に呼び出されて、理由を問われ最期には正直に話してしまう。
なのははそんなエリオの気持ちを汲み取り夜の訓練を開始する!

というのはどうだい?
138名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 08:04:29 ID:Y3XapP38
>>137
お風呂場の浴槽内でヴィヴィオに気付かれないように合体するなのはさんとエリオ
というのも捨てがたくないかね?
139名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 12:45:46 ID:+IuVW37N
>>136
なのはとフェイトの情事を偶然目撃してしまったエリオがそのまま誘惑
されて…というのはどうかね?
140名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 13:30:12 ID:rhQXb1e4
実は初めからデキてて、なのはが教導で厳しいのの仕返しにエリオに夜はメッチャ責められるとか?
141名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 15:35:23 ID:WW3TOW1m
あの年頃の子供は性行為なんぞ見たら
ショックで吐きそうだがな。まぁ、それはさておき。

シグヴァイが読みたいです。
142名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 15:41:01 ID:dXDrGxrm
>>141
>>シグヴァイ

ちょっと待て、シグナム姐さんが攻めなのか!?
143名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 15:45:23 ID:yPtzGOAA
朝の光景

「どっか変なとこないスかね姐さん?」
「〜おまえは、ヴァイス、結婚してまで姐さんは無いだろう…ぶつぶつ」
「……ん…じゃあ何て呼べばいいんすか?」
「と…とりあえずだな…ほら、いいからしゃきっとしろ!こっちを向け……ネクタイが曲がってるだろ…」
「いや〜なんか新婚って感じっすね」
「ば、ばば馬鹿者!そんなうわついた事で教導官が勤まると思ってるのか!」

こんな感じですか
144名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 15:50:20 ID:WW3TOW1m
シグナムって、慣れたら案外積極的だと思うんだ。
うん。
ヴァイスの方が経験値高いみたいだけど。
145名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 16:02:00 ID:HZ56Qjq0
シ「飲み込んでくれ私のレヴァンティン」
ヴ「お腹の中がストームレイダーだよ姐さん」
ア「もうやだこのマイスター……」
146名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 17:41:52 ID:rhQXb1e4
>>141
エロパロ世界のドナルドマジックが発動したと思えば大丈夫さ。
ところで気になるんだけど、次元世界に割礼とかの風習はあるのかね?
次元世界の包茎率が実は高いとか。
あと、なのはたちのSEX観念とか気になるw
したい時にしたい相手とすればいいって思想なのは誰だろう?
147名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 17:45:53 ID:OUIpA0/o
>>142
あの姐さんが自分から求めて来るとか最高じゃないか
そこに至る過程を想像するだけでご飯三杯はいける
148名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 17:49:04 ID:CwlZUrkG
>>146
マジレスすると、レギュラー陣で文化的に一番異端そうなのはキャロだけどなぁ。
(文化とか以前に異端な、スカたち一党除く)
ミッドと地球はその辺りの概念は似てるっぽいし。
他の連中も普通になじんでるからなぁ。

あ、SSXのルネッサとか、いつ死ぬかわからないからやれるときにやる、かもしれない。
149名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 18:07:16 ID:rhQXb1e4
好きな人とするのが一番満足したりしていいかもしれないが、
その人が見つかる前や、出会う前とかに、他の人としちゃ駄目だって頑なに拒むのもねぇ?って感じな人いるかな?
酒の入った男女混合での話で見てみたいんですよねw思わぬ人が結構凄い観念をもっているとか。
150名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 18:16:22 ID:UuafoI1/
>>149
そんなん公式設定ある訳ないんだから知るかよ……
余所でやれ余所で
151名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 18:20:14 ID:rhQXb1e4
いや、公式に無いからこそ捏造でみてみたいのですよ。
公式にないなんて言い出したら、ここのカップリングとかも否定になるし。
一応、分類だとエロパロ関係かなと思うのだけど。
152名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 18:25:36 ID:UuafoI1/
書いて欲しいなら最初からこんな感じの見たい!みたいな感じで書いてくれ
お前さんのは見てて回りくどいというかなんというか……その、なんだ、不快だ
153名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 18:44:53 ID:rhQXb1e4
なんて言うのかな、こんな感じのが読みたいってのは当然あるんだけど、
これが読みたいって直で書かないのは、あんまり好かれる書き方じゃないからですかね。
あと、話題が膨らまない。何々が読みたい、そうかで終わっちゃうし。
各作者さんや読み手によって持つなのはキャラ像とかがあるから、そこからこの場合は彼らはこう動いたり、
こう思うんじゃないかってのが聞いてみたいってのもあるから周りくどい書き方になるのかも。
154名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 18:52:08 ID:WW3TOW1m
明け透けな男女混合猥談が読みたいわけだな>>149は。
155名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 18:56:22 ID:IBGoqqiE
>>153
君に比べればこれが読みたいって書き方のが遥かに好感持てるよ。回りくどいし長いし、>>146みたいな書き方じゃ不快感持たれても仕方ないように思う。
156名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 18:58:33 ID:IBGoqqiE
ごめん、改行ミスった・・・。
157名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 19:05:49 ID:rhQXb1e4
>>154
ギャグになるかもしれませんが、大人の下世話な話が読みたいってのは当たりですw
>>155
そんなもんですか。
158名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 19:09:01 ID:rhQXb1e4
>>155
申し訳ない。途中で落としてしまった。
回りくどいってのは反省しなきゃいけないとして、>>146は単純な疑問でもあるんですよね。
別に次元世界の包茎率についてSSを書いて欲しいッ!!とは思ってはいないんでw

159名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 19:44:06 ID:RNXf6hxE
猥談と言えば、本編で接点なかったヴィータとキャロが語り合ったら
凄いことになりそうな予感!
知識豊富だけど精神は幼女のヴィータと天然自然児のキャロ。
性を禁忌ととらえないお子様の悪意なき好奇心は恐ろしいぜぇ…
160詞ツツリ ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:32:06 ID:9n8SWkBb
お久しぶりです。
ようやく煙草の付ける先の後編が書きあがったので投下します。
CPはヴァイス×シグナムです。
再確認:Stsの二年後という設定です。
161煙草の付ける先 ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:33:43 ID:9n8SWkBb


 人は誰しも嘘をつく。
 誰かを騙そうとする嘘。
 自分を誤魔化す嘘。
 そして、もっとも分かりにくいのが結果として嘘になる薄っぺらい真実。
 嘘を見抜く手段はただ二つある。
 明確な事実に反するか、それとも罪悪感を洩らすか。
 その二つしか方法は存在せず、そしてそれさえなければ嘘は誰にも見破れない。

 そう本人にさえも。



 ――煙草を付ける先



 女が着飾るように、男も身だしなみを整えることだってある。
 入念に顔を洗い、丁寧に髭を剃り、ヒリヒリと削れた皮膚を保護するように化粧水を肌に塗りこんでおく。
 軽くシャワーを浴びて汚れを落とした体に、パリッとした肌着を身につけ、ジーンズを履いて、最後にお気に入りのジャケットを羽織る。
 荒っぽくタオルで水気を拭い、勢いだけが取り柄の安物のドライヤーで髪を乾かし、薄く伸ばした無香料のワックスでヘアスタイルを整える。
 普段手入れなどしない髪はゴワゴワしているが、ワックスを付ければそれなりに滑らかにはなる。
 鏡で確認しながら、何時もどおりの髪型になっていることを確認して、彼は頷いた。

「ま、こんなもんか」

 静かに呟く。
 誰もいない部屋で呟いたのはただの独り言。
 いや、一人だけ居たか。

「ストームレイダー、決まってるか?」

『Yes』

 クールな電子音声の相棒はいつだってスマートに答えてくれた。
 彼、ヴァイス・グランセニックは待機状態の相棒を拾い上げると、ジャケットのポケットに放り込み、キーホルダーを付けた鍵を指に引っ掛けて、扉を開けた。
 かつんと履き古した靴がいつものように足音を奏でて、機械的に歩くヴァイスの足音が何時もどおりだと教えてくれる。
 ガチャリ。
 施錠音。扉を閉める、鍵をポケットに放り込み、ヴァイスは軽快に廊下を歩き出した。
 時間は約束よりも少し早く辿り付けるように。
162煙草の付ける先 ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:34:23 ID:9n8SWkBb

 一人の女性が佇んでいた。
 その髪は紅く燃え上がるような色でいて、薄くこの世界では存在しない第97管理外世界、それも極東と呼ばれる地でしか生えぬ桜と呼ばれる樹木が咲き誇らせる花びらのような色だった。
 凛とした佇まいは艶やかに風に踊る髪に対していささかも乱れない、まるで大地に突き立てた刀身のような鋭さ。
 その顔に浮かぶのは怜悧な美貌。鋭い目つき、厳しく引き締まった口元、ハリのある肌に血の通う唇は見るものの心に焼き付けて放さぬほどの美麗。
 さらにいえば、その肢体は極上。大きく膨らんだ乳房、美しく引き締まった腰に、なだらかなラインを描く下半身と四肢のバランスは衣服の中に押し込めた肉体が隠す必要も無い女の魅力を内包していると分かるだろう。
 膝下まで伸びた青色のスカートは少しだけ切れ込みがあり、強風に揺れる風が少しだけ彼女の太腿を晒し出し、彼女の四肢が鍛え上げられているものだと分かる。
 上に身に付けているのは質素な白いYシャツ。その上に羽織るのは男ものの革のジャケットというどこか女性、という種別には似合わない格好。
 だが、それが美しい。
 むやみやたらと女らしく着飾っても、その身に内包する美と妖艶は花弁が咲き誇るように解放されて、誰の心をも鋭く切り裂き、魅惑という出血を流すだろう。
 けれど、もっとも彼女が自然体でいられるのは今のような格好がいいのだ。
 己が望んだままに、気楽な格好が一番輝く。

「しかし」

 しかし、少しだけ彼女は身支度をした。
 うっすらと顔にはナチュラルメイクを施している、彼女の家族から半ば強引にやられたようなものだが、よかったと思えた。

「少し早かったか」

 待ち合わせの場所。
 地上本部から少し離れた場所にある自然公園、その入り口の木陰で彼女は佇む。待ち人を待って。
 少しだけ振り返れば、時間は待ち合わせ時刻よりも十五分も早い。

 ――気が早いな、と我ながら苦笑。

 彼女は陽の零れる木陰の光を仰ぎながら、ゆっくりと自重の笑みを浮かべて……待ち人が来たのを知った。

「あれ?」

 低く、けれども耳にしっかりと響く唸り声にも似たエンジン音。
 鋼の咆哮を靡かせてやってきた鋼の車体に跨る彼に彼女は振り返る。

「来たか」

「まだ約束の時間前っすよね? シグナムの姐さん」

 愛用のバイクに乗って、戸惑ったようにヘルメットを外しながら告げるヴァイスに、彼女――シグナムは怜悧とした美貌を緩めて、少しだけ笑った。
 その笑みは思わず見るものの心を縛り付けてしまいそうなほどに綺麗だった。
 だけど、ヴァイスはただ笑って。

「じゃ、姐さん。行きますか、ヘルメットどうぞ」

 自分のヘルメットを被り直し、ラックに引っ掛けていた予備のヘルメットをシグナムに渡した。
 彼女は手櫛で前髪などを後ろに回すと、渡されたヘルメットを被る。
 そして、ヴァイスの背にしがみ付くように、バイクに跨った。
163煙草の付ける先 ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:35:10 ID:9n8SWkBb

「これでいいか?」

「ういっす。しっかり掴まっててくださいね」

 ふっくらとした重み。誰かの体温。柔らかい感触。
 それがヴァイスに圧し掛かるけれど、彼の顔は変わらない。少なくともヘルメットに隠れている分には。
 ゆっくりとアクセルを解放し、上品な貴婦人を乗せるような心遣いで静かに走り出すバイクの駆動にシグナムは笑って。

「しっかり掴まってやる。速度を出していいぞ」

 ヴァイスの腰に腕を回しながら、シグナムはより彼の背中に体重を預けた。
 しっかりと掴まる、逞しい背中だった。
 彼女が思い出すのは十年前のことだ。
 まだ十八の若造だったあの頃のヴァイスの背中はこんなにも逞しかっただろうか?
 生意気な口は聞いたが努力家で、軽口を叩きながらも真剣で、バリアジャケットも着れない、念話も出来ない、ただ射撃魔法に特化しただけの身体で戦場を走り回った。
 彼女が覚えている古代ベルカ。
 もはや朧にしか覚えていないかつての世界。
 そこの戦士は誰もが魔法を使い、或いは科学で作り出した狂気を振るい、自分の信じるものの為に戦っていた。
 守護騎士プログラム、夜天の書、もはや何のために作り出されたのかすらも忘れた虚ろな騎士。
 けれど、戦士の誇りだけは覚えていた。
 弱くても、誰もががむしゃらで、大切なもののために足掻くことだけは変わっていなかった。
 何度も転生するたびに、誰かと戦い続けてきた。
 そして、十二年前、今の主である八神 はやての守護騎士になってから、ようやく他の誰か、ヴォルケンリッターではない誰かとの共闘が出来るようになった。
 排他ではない。
 拒絶ではない。
 誰かと知り合い、信用を向けて、信頼を深め、友情を結び、恋に落ちる。
 まるで人間のようだった。
 人間では無いというのに、ただのプログラムの塊だというのに、嬉しかった。
 きっとこの感情を抱いているのはシグナムだけではないだろう。
 ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも同じような感覚を抱き、喜びながら生きているはずだった。

 ……しかしまあ、我ながら堅物だった私が一番先に誰かに想いを寄せるとは思わなかったがな。

 苦笑した。どこか恥ずかしくて。

「――姐さん?」

「いや、気にするな。ほら、このままだと日が暮れるぞ」

 ヘルメットを被せた額を彼の背に押し付けて、シグナムは楽しげに告げた。
 それと同時にヴァイスがスロットルを開放し、タンデムシートに座る彼女でも唸り出すバイクの鼓動を感じ取る。
 速度が上がる、風を切るような感覚に、ばさばさとジャケットの裾が風を含んだ。

「飛ばしますよ」

「ああ!」

 流れるように切り替わっていく視界。
 速度の上がったバイクの上で切り離された二人だけの空間。
 錯覚、だけどシグナムは少しだけ嬉しそうにヘルメットの中で微笑んで、ヴァイスにしがみ付いた。
164煙草の付ける先 ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:35:51 ID:9n8SWkBb





 二人だけのデートだった。
 二人で映画を見て、カフェに入って茶を啜り、普段は立ち寄る暇も無いデパートで服を揃える。
 似合わないことを承知で幾つかの女物のワンピースを試着して、ヴァイスに見せた。
 そして、褒められた。それが嬉しくて買ってしまった。
 その代わりにヴァイスの服をシグナムは選んだ。
 服装選びのセンスはないことは自覚していたが、それでも一生懸命に選んだ緑色のセーターと黒いズボンのセットに喜んでくれた。
 ヴァイスには派手な衣装は似合わない。
 軽口を叩き、軽快な態度を取るけれど、その本質はとても落ち着いた人物だ。
 長年の武装隊としての経験か、それとも狙撃手しての本質なのか、彼はゆっくりと歩いて、気が付けば傍にいる、そんな人物だった。
 それ故のチョイスだった。
 その後二人でデパートを回り、書店を回り、贅沢な時間の使い方をした。
 一秒一秒を噛み締めるように、一分一時間を味わうように休みを使う。
 かつての彼女は知らなかった時間の使い方。
 ただの休息に当てる時間だとしか思っていなかった昔の自分では思いつきもしない楽しみ方。
 それが嬉しくて、心が躍る。
 道なりを歩いている瞬間、横に並んだ時にでも、隣を歩くヴァイスの手に少しだけ掴みたいという気持ちが湧き上がることがあった。
 指を絡めたい、そんなどうでもいいことに欲望が湧く。
 そんな自分に驚いて、少し戸惑って、隣を歩く彼に気付かれないかどうかシグナムは呼吸を整えるので精一杯だった。
 チャンスは沢山あったのだろう。
 人ごみの中を通り抜けるときも、信号待ちをしているふとした瞬間にでも、彼の手は隣にあった。
 だけど、伸ばせなかった。
 剣だけを握り続けて、荒れ果てた手だった。
 長年握り続けた剣だこで堅くなり、手の平は綺麗とはいえなかった。
 だから、ただ拳を作るだけで、それを隠していた。
 臆病な自分が情けない。
 けれど、共に歩いているだけでも心は満たされた。
 ただ嬉しかった。
 ただ楽しかった。
 ヴァイスは笑っている。嬉しそうに、シグナムを見て。
 それだけで満足できた。
 彼女の剣を捧げる相手は既に決まっている、一生違えることのない騎士の誓いは済ませた。
 でも、共に横を歩いてくれる人がいれば。
 でも、背中を預けられる人がいれば。
 それが好いた男だったら何の不満があるだろうか。
 ない。
 何も無かった。
 シグナムはいつしか笑えるようになっていた。
 いつからか、どんな時からか、覚えていない。
 ただ主が喜んでくれたことに満足した笑みではなく、共に生き残った喜びを分かち合う笑みでもなく、己の役目を果たした満足の笑みでもなく。
 ただ喜んで欲しいと。
 ただ笑みを見て欲しいと。
 こんなにも幸せだと、こんなにも嬉しいのだと、笑みを浮かべる。
 それが恋なのだと、シグナムは知った。
 数十、数百、千にも到るかもしれない闘争の歴史の果てに、彼女が得た笑みはただ美しかった。


 そして、それを見るヴァイスはただ嬉しそうに微笑んでいた。
165煙草の付ける先 ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:36:41 ID:9n8SWkBb

「もう夜か」

「そうっすね」

 楽しい時間は瞬く間に過ぎていく。
 夕暮れを越えて、夜の帳が落ちていた。
 デートの時間は終わりを告げて、近くの駐輪場でバイクを停めたヴァイスとシグナムは連れ立って歩いている。
 既に彼と彼女の仲は公認のようなものだ、見られても比翼の翼無き寂しい男共が嘆きを上げて立ち去るだけだから気にする必要も無い。
 静かな道なりを二人で歩いている、それだけでシグナムは少しだけ心がときめいた。

「綺麗な月だな」

 剣を握ったかのように、けれども確かに違う鼓動を奏でる心臓の音がこの静寂の中に響き渡らないか。
 そんなありえない心配までして、シグナムは空を見上げて声を奏でた。
 綺麗な月だった。
 いつか一緒に酒を飲んだあの日のように綺麗な月だった。
 雲ひとつ無い、吸い込まれていきなそうな漆黒。
 星々が瞬く綺麗な夜空。魔法による環境公害の少ないミッドチルダならではの光景。
 主 八神はやてと共に暮らした地球では見れない星空。

「そうっすね」

 それに見上げるシグナムを見て、ヴァイスはどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。
 どこか乾いた笑い。
 欠損した笑いだということにシグナムは気付いただろうか。

「またいずれ共に休暇を楽しみたいな、ヴァイス」

 シグナムは見上げた首を戻したヴァイスに少しだけ踊るように振り返った。

「……問題はないか?」

「なにいってるんですか、姐さん」

 シグナムが少しだけ不安そうに声を漏らしたのを見て、ヴァイスはシグナムの横に立つととんっと手の甲で彼女の肩を叩いた。
 触れ合う肉の感触。
 それが鼓動のように響く。

「俺はいつでも一緒に行きますよ」

 それは嘘ではなかった。
 真実の言葉だった。
 嗚呼、そうだ。
 ヴァイス・グランセニックという彼は魂の髄まで彼女を愛しているのだから。
 例え――いずれ己が弱さに道の半ばで倒れることになることが分かっていても。
 多分後悔なんてしない。

「そうか」

 その言葉に、シグナムは喜びを感じた。
 嬉しさに心臓が高鳴り、痺れるような興奮が指先にまで満ちる。
 世界は静かだった。
 誰もいなかった。
 二人以外には死に絶えたように。
 だから、シグナムは足を止めて――彼を求めた。
166煙草の付ける先 ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:37:33 ID:9n8SWkBb

「……ヴァイス」

 シグナムはヴァイスの背に手を廻して、抱きついた。
 寒さに堪えるように。

「姐さん?」

 その突然の態度に少しだけヴァイスは驚いて、でもすぐに理解をして。
 シグナムを抱き締めた。

「好きだぞ」

「俺もです」

 そして、唇を交わした。

 二人は好き合っていた。

 二人は愛し合っていた。

 いずれ壊れる関係だったとしても。

 彼女は彼を愛し続けて。

 彼は彼女を愛し続けて。

 人生という道を歩み続ける。


 真っ赤に燃え滾る鉄の靴を履いて、踊るのはどっちだったのだろうか。


 ただ今の幸せと疑うこと無き情愛を抱き続ける騎士なのか。

 ただ彼女の幸せを願って、朽ち果てるだろう己の身を顧みない銃士なのか。


 苦い煙草の香りと共に幸せを噛み締めよう。


 その全てが灰になって風に散るまで。
167詞ツツリ ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:41:18 ID:9n8SWkBb
投下終了。
長らくお待たせしておいてこんなざまですみません ORZ

テーマ的に重いものだったので、前後編で綺麗には片付きませんでした。
けれど、これは決して避けられないテーマだと思っています。
守護騎士は歳を取れるのか。それとも出来ないだけで、はやてと共に朽ちるだけの命なのか。
本編のメインキャラでも年長キャラであり、素養無きヴァイスの戦士としての寿命は決して長くないでしょう。
これはいつか終わるだろう愛の物語でした。
これはいつかどちらかが或いは嘆くだろう愛でした。

けれども、その心だけは嘘じゃない。
思いだけは嘘じゃない。
それだけです。


読んでくださってありがとうございました〜。
168詞ツツリ ◆265XGj4R92 :2008/12/26(金) 21:45:56 ID:9n8SWkBb
ミス
>これはいつかどちらかが或いは嘆くだろう愛でした。
これはいつかどちらかが或い両方が嘆くだろう愛でした。

なんであとがきでミスってんだ ORZ
すみませんでした!
169名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 21:46:46 ID:WW3TOW1m
GJ!
待ってましたよ!
ヴォルケンズは寿命がネックですね
170名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 22:18:34 ID:ZOpsYkhP
GJ!
心情の裏側はおいておいて、キレーに終わりましたな
ヴァイスの本質が落ち着いているというのは、言われればそうかとうなずけます

もうシグナムは、子供孕みまくればいいと思うお
171名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 23:20:49 ID:dXDrGxrm
嗚呼、待ってたぜ、随分長く待っていたんだぜ。

相変わらず氏のSSは詩的でどこか乾いていて、何とも言えない後読感ですねぇ。
前後編と言わず、氏の書くこの二人をもっと読みたいです!
でもディード相手にソープでハッスルするヴァイスも見たかったり。
いや、まあ氏の書くヴァイスならなんでもウェルカムなんですけどね。

ともかく、GJっした! 次回も全裸待機で待っております。
172タピオカ:2008/12/27(土) 00:27:11 ID:hiJFjC/V
お邪魔simasu


注意事項
・戦闘ものでドカーン!バキーン!ガシャーン!とやりたいのです
・エロいはずがない
・本編終了して約1年ぐらいたってます
・敵組織オリジナルキャラクターで纏めちゃったので大量に厨二病が香るオリジナルのキャラクターをお届けします
・あまつさえオリジナルのロストロギアまで拵える始末なので、酷い捏造をお約束します
173Name〜君の名は〜:2008/12/27(土) 00:28:27 ID:hiJFjC/V
第四話「光の卵かけジュエルシードごはん」


「君は魔法を鍛錬して何年かな?」
「もう20年になります」

豪華客船「ティターン」のロイヤルスイートともなると部屋面積も相当なもので、バルコニーを含めれば200平方メートルを超えてしまう。
庶民には手が出せない宿泊料金にも頷けるような絢爛豪華の室内に、しかしクルーズを楽しむ空気はない。

広大な部屋の中、王者じみてゆったりと身の埋まるソファーにくつろぐのはひとり。
ミッドチルダ南方に本社を構えるivory重工社長、サイカイ・ソーツギヨ・リョーコーその人だ。
残りの5人はすべて、部屋の主を守る兵隊である。

そんなミッドチルダでも名の知られている会社のトップの手には、卵が握られている
……いや、見た眼は確かにそうだが、ただの卵ではない。

薄く彫られた紋様。
カルシウムではない金属じみた質感の外殻。
触れていれば分かる、緩やかな鼓動。

ロストロギア―――光の卵だ。

その存在理由をなくした古代遺物をおもちゃのように弄びながら、傍らのボディガードに話を続ける。
6人で「いっせーのーで」で上がる親指の数当てるゲームやっていたのだが、勝ち抜けてヒマしてる二人なのだ。
残り4人は灼熱の思いを抱いて、己の親指を「いっせーのーで」の吠え声と共に上げたり上げなかったりしてる。

「では君はこの卵に、向こうが提示してきた条件ほどの価値があると思うかね?」
「いいえ、明らかにこちらに有利過ぎる条件…本来ならば考えられないほど、吊り合いません」

プロフェッショナルの頼もしさが滲むそのボディガードはきっぱりと断言した。
サイカイも今回の商談≠ノはずっと疑念を抱き続けている。
しかし、1年ほど前から各地の名士に接触し、この商談≠持ちかける人間の噂は耳にしていた。

無論、1年では信頼につながらない。
不良品を掴まされて、その発覚が数年先と分かるのは良くある話だ。
リスクが大きいと感じてはいたが、しかしこの商談≠ノ一貫性は存在する。
目的はどうか知らない。ただ、向こう側は欲しがっているのだ、光の卵というロストロギアを。

サイカイがこれを手に入れたのはただの偶然だ。
レアメタル採掘現場へ視察に赴いた折、部下が発見しその場にいたサイカイの手に渡ったというだけ。
側近の中に魔法に詳しい者がおり、ロストロギアらしいと判断して管理局には連絡を入れず手元に置いていたわけである。

だが調べてみればサイカイにとっては無価値なもので、中にリンカーコアを保有しているが、自社にさして活用できるわけではない。
そうと分かれば何食わぬ顔で管理局へと放り投げようと思ったのだが、その矢先だ。

コンタクトを取ってきた者がいた。
インビジブルマンと名乗る男である。

もともとは、ivory重工に特殊な建造物のパーツサンプルを依頼してきた者だった。
なかなかの金をつぎ込んで、自社で試作したサンプルをああでもないこうでもないと担当と密に相談していたと聞いている。

そのように完成度を求めてこちらの仕事に口出す顧客がいないでもない。
現にそう言った客のニーズに対応して会社を大きくしてきたのだ。

ただ少々おかしいと思ったのは、おそらくサンプルから出来上がる建造物の予想サイズは巨大になりそうな事と、しかも試作につぎ込む金に糸目をつけなかった事だ。
量産や製品化を第一においたサンプルを欲しがっているわけではなく、個人的な研究だか発明だかの部品なのだろうか?
本人が言うに、規模の大きな施設の修復に用いたいらしい。
174Name〜君の名は〜:2008/12/27(土) 00:29:51 ID:hiJFjC/V
そんなインビジブルマンがどこで嗅ぎつけてきたのか、今回の商談≠持ちかけてきたのだ。
要求は採掘現場から掘り当てたリンカーコアを内包する光の卵4つと、金。
十分な大金で、いわゆる「一生を遊んで暮らせる額」なのだが、インビジブルマンの切ってきたカードを考えれば許容できる出費である。

最初の取引場であるミッドチルダ北部には、済んでの所で運輸を取りやめる事が出来た。
そうして、この船を取引の現場にしたのだが、驚いた事に捜査官が乗り合わせているという。

出来過ぎた偶然かもしれないが、問題ない。
捜査官が自分たちの光の卵を見失ってから、この取引場所を特定するのが早すぎるのだ。
この取引を察知して先回りしたわけではないのは間違いないだろう。

「社長、インビジブルマン様です」
「入ってもらいなさい」

ひょっこりと、にっこりが現れた。
入っている「物」にしては大袈裟なケースを手に提げて、最高級の部屋を物珍しげに見まわしている。

「お久しぶりです、社長」
「ええ、もう2か月は経っていますかな…? さて、まずはそちらへお掛け下さい」

対面する形で座れば、完璧な自然さで2人のボディガードがインビジブルマンの退路を断つ場所へと立ち位置を変える。
未だ掌の中にあった光の卵をサイカイが、インビジブルマンとを隔てるテーブルの上に置いた。
ころん、と倒れて揺れる光の卵。

「いやはや、面白い偶然ですな。これを追いかけていた捜査官殿が、この船に乗り合わせるとは」
「計算外すぎる出来事でした…昨日、お話いたしましたが、念を入れて次の機会を待ちたかったのですが…」
「こちらも忙しい身でして。次の2か月は少々厳しい…しかし、慎重を期するのには賛成です。このクルーズ中に、品の真偽を問う事はやめましょう。港に戻り、厳重な魔力封鎖の下で双方の真贋を判定する。よろしいかな?」
「はい、是非もありません」

ロイヤルスイートともなれば部屋に対する魔法耐久性も半端ではない。
これはつまり、何かしら魔法による災害が起きた際の強い防御になるのだが、実は逆に、部屋の中での魔法が外に対して伝わりにくい事でもある。
危険な災害と化しうる魔法の類いならば、流石にスタッフ側に伝わり対処されるかもしれないが、ここで光の卵をいじくりまわして強い魔力が唐突に生まれたとしても外の人間には知覚できないだろう。
凄腕の魔法使い、八神はやてでも察知は無理だ。

だから、この部屋で光の卵が本当にインビジブルマンの望む物であるかの確認をして問題ない―――だろうが、念には念を入れる。
だから、この部屋でインビジブルマンが本当にサイカイの望む物を持ってきたのかを確認して問題ない―――だろうが、念には念を入れる。

「…とは言え、」

背後に石像めいて侍うボディガードのひとりにサイカイが指で合図する。
ボディガードがひとつ頷いて、無駄の欠片もない所作で3つのケースを持ってきては、テーブルへと並べた。

「ひとまずお目にかけておきましょう」

ケースを開けばそれぞれ中に鎮座しているのは卵…光の卵だ。
今しがたまでサイカイが握っていた物を合わせて計4つ。

「これはまた…恐縮です」

インビジブルマンの表情が硬くなる。先んじて支払を開示する理由は、まぁ、当たり前だが「そっちは持って来てるのか?」と言う事だ。
煙のように正体のぼやけた自分である、こうされてはインビジブルマンが手持ちを明かさぬわけにはいかない。
175Name〜君の名は〜:2008/12/27(土) 00:30:54 ID:hiJFjC/V
「それではこちらも、御覧頂きましょう」

足もとのケースを恭しくサイカイへと手渡せば、重工業の社長は丁寧な手つきで封を開ける。
待ちわびたという歓喜の心を、少しもインビジブルマンへ悟らせないほどに落ち着いた様子は流石だ。
しかしそんな経験豊富な社長の瞳に、不覚にも輝きが宿る。
抱えるほどに大きなケースの中、その中心に眠っていたのは、たったひとつの小さな宝石。

「これだ…」

本物であると確信しながらその煌めき―――ジュエルシードを手に取った。



JS事件。
あまたの事件の連なりを総括してこう呼称するのだが、大量のロストロギアが関係した極めて大規模な事件であった。
登場するロストロギアの中にあって、そう目立った動きこそしなかったが特級の危険度を持っていたものがこのジュエルシードである。

PT事件で紛失した9つを除く、12のジュエルシードが管理局の元から離れていたわけだが、実はJS事件で回収できた数は3つ。
エリオが破壊したガジェットV型の回路に組み込まれていた物と、それからたったの2つしか発見されていない。
少ない人員をやりくりして捜査に当たったり、ガジェットの残骸をのきなみ解体したりと苦労してこれだ。

ジェイル・スカリエッティに問い詰めても非協力を貫いて舌の滑りが悪い日ばかり。
ドゥーエの命日を狙ってワインを与えて、なんとか保管してた場所を聞き出せたのだが、局員が赴けばすでに壊滅していた。

「私たちも相当恨みを買ってるからねぇ。研究所のひとつやふたつ、見つけ出されて壊されていても不思議じゃないさ」

とはスカリエッティの弁。
これ以降、ジュエルシードの行方は闇の中となる。

もちろんこのまま放り投げていて良い問題ではない。
JS事件よりも1年近く経つ頃合い、進展のないジュエルシードの捜査の担当を名のある者たちがする事になった。
フェイト・T・ハラオウンとその義兄クロノ・ハラオウンである。
クラウディアを駆った広域の捜査で、現在さらに2つのジュエルシードを回収しているのだ。

そんな、行方を突き止めたジュエルシード2つなのだが、どちらも同じような形で捜査の線にひっかかり管理局に見つかっている。
すなわち、2つとも富豪に売り払われ、その跡を追って管理局が取り押さえたのだ。

2人の富豪と接触した密売人の名は、ゴノーと言った。



「おっと」

ふと、テーブルの上で揺れていた光の卵の一つが転がり落ちる。

「はは、これは失礼。あぁ、構わん、自分で拾う」

柔らかなカーペットに優しく受け止められた光の卵を、ボディガードが拾おうとするがそれをサイカイがやんわり制した。
命令する事に慣れた社長にしてはご機嫌な様子だ。

「しかし分からんですな。そちらの目的は金ではなく、このロストロギアの方なのでしょう? 我々にはどうも価値が見出せない。これをどうするつもりです?」
「…なに、復讐ですよ。許せない存在が、おりましてね」
「ほぉ?」

深海よりも冷たい声。
ごっそりと人間味を失ったインビジブルマンの無表情に、サイカイが気圧される。
176Name〜君の名は〜:2008/12/27(土) 00:32:16 ID:hiJFjC/V
サイカイが調べた限り、この卵は復讐のために生み出されたロストロギアだ。
つまりその製造目的を果たすためにこの男は動いているのだろうか?

穏やかではないですな、と句を継ごうとしながら、サイカイが光の卵を拾い上げる。
ジュエルシードを持つ、その手で。

膨大なエネルギーを備えるロストロギアを手にした酔いの中だったのが、まずかったのだろうか。
もしこれが、ジュエルシードを手にしない、空いた手の側に光の卵が転げたのならば未来は違っていたかもしれない。

こつ

ジュエルシードと、光の卵が触れあった。

「…え?」

光が溢れだす。



「あかん…見つからへん」

管理室へと職権を振りかざしては乱入し、防犯カメラの映像を早送り出見まわすが、見つからない。
苛立ちも隠さぬはやての横、リインも食い入るようにカメラの録画にかじりつくが、見つからない。

インビジブルマンが、レストランを出ていった映像を後に、いなくなってしまっている。
間違いなくはやてたちと別れた映像はある。
なのに、それからの姿が映っておらず、消え去っているのだ―――まるで透明人間のように。

シャマルが問い合わせた乗船記録も偽名。
ザフィーラが無理やり開けた部屋の中も空っぽ。

インビジブルマンを、はやてたちは完全に見失う。

フェイトへの連絡を通して、インビジブルマンの正体について知ってしまったはやては即座に彼の言う「ビジネス」へ割って入る決断をしたのだが、どこにもいないのだ。

「戸籍を消した人間や…まっとうな事してるとは思えへん」

寄港の際新たに乗船した人間の名簿をスタッフが持ってくれば、カメラ映像を諦めてそちらへ目をやりはやてが呻く。
リインは寄港で搬入した荷物を、リストで閲覧できる限りチェックする。

インビジブルマンが「ビジネス」へ赴いたタイミングが寄港から間もない時間。
ならば単純に、そこで船に入った「もの」が「ビジネス」の対象と考えるのが自然だ……が、インビジブルマンの商談≠ェ事実であればの話だ。

「フェイトちゃんの話ふるんじゃなかった」
「でも機動六課の中心人物知ってたなら、はやてちゃんがあのタイミングでその話しなくても逃げられてたです」
「…せやな」

全部でたらめで、犯罪を取り締まる側のはやてから逃げる口実であったならば、もう船にもいまい。
177Name〜君の名は〜:2008/12/27(土) 00:33:19 ID:hiJFjC/V
『はやてちゃん、第3デッキの人払い終わったわ。今から探索魔法を展開します』
「チェック終わらせたらすぐにそっち行くから早速頼むで」
『了解です』

部屋の端にあるモニターにて、新緑の魔法陣を甲板に広げるシャマルの姿が見える。
海と空ぐらいしかない景色だが、ザフィーラの鼻を逃れるインビジブルマンだ。はたしてクラールヴィントに引っ掛かってくれるか……

「あかん、全員怪しい…」

そして、はやてが苦虫噛み潰したような顔で乗船客のリストを放り投げる。
残り1日のクルーズのために乗り合わせた人間たちだが、その数は70名強。
現在2000人もの乗客へとサービスを施す「ティターン」にあって、その数は少ない。
しかし、5人前後でグループになって乗船しており、その中心人物はほとんど企業の偉いさんである。

「…はやてちゃん、やっぱり特に変な積み荷はないです」

リインもリストから目を離す。
黙って考え込んでしまうはやてだが、すぐに顔をあげて頷いた。

「シャマルと合流して探索魔法を密に―――!?」
「!?」

船が揺れた。

それと同時、はやてもリインもざらりと嫌な感触を得る。
魔力だ。
それも、強く濃い。
危険すぎるエネルギーの昂りが発現しているのが痛いほど分かる。
そして、怖気がした理由は、場所が船の上であるという事。

脊髄反射でモニターへ忙しなく視線を巡らすが、映像が変にブレている。
そんな中で、完全に沈黙してしまっているモニターをのきなみ巻き戻せば、豪奢な通路の映像で乗客室の一角が弾け飛ぶのを見た。
ロイヤルスイーツの並ぶ場所。

管理室を飛び出して、スタッフオンリーの人気ない通路を駆け抜ける最中に咆哮が聞こえた。
人のものではない。獣のものでさえない。

デッキに飛びだしたはやては、蒼穹に赤い竜を見た。




178タピオカ:2008/12/27(土) 00:35:58 ID:hiJFjC/V





召喚王レクス「ぐ…ぐぅ…っ」
おっぱい「微温いな。こちらはまだ抜いてもいないぞ」
召喚王レクス「貴様…いったい何者だ……?」
おっぱい「私は貴様の名に興味がない。故に我が名を覚えてもらおうとも思わん。
欲しいのはこの戦いに貴様と賭けたもののみ。さあ……立って戦うか敗北を認めるか。決めてもらおう」
召喚王レクス「おのれ…無頼の分際で…!」
触手「ゴオオオオオオオオ!!」←こいつ


お邪魔しました!
179名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 01:30:24 ID:MAKFTKCn
GJ!!です。
卵が孵るぞぉ!しかも、ヴォルケンのおっぱいに恨みを持っている方か召喚獣だw
それにしてもタイトルが秀逸ですwww
180名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 01:35:34 ID:vw7VusVw
↑自演
181名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 20:53:01 ID:GoZ2gATb
多士済々の作者さんの面白い作品を読ませていただき良い年の暮れです。
182名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 21:13:19 ID:jeazxxOQ
イスラームでは9歳ともセックス可能故、存分にロリペドの
筆を振るわれるがよいぞ
183名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 21:18:53 ID:x+54WXl6
>>7>>13
ハァ?
184名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 21:47:49 ID:RI45AZGd
>>183
それは今更突っ込むようなことなの?
185名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 21:55:04 ID:x+54WXl6
>>184
亀なのはわかってるんだよ!今まで来れなかったんだよ!
普通にスレ立てしただけなのに……orz
186名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 22:00:48 ID:RI45AZGd
>>185
>>7>>13みたいのはスルーしな
いちいち気にする必要は無いよ
187名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 22:12:32 ID:/9Gp5pbu
あのタイトルみたいなのは毎度ついてんの?
188名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 22:15:15 ID:xoYTBdzW
>>185
気にするなって。自分でスレ立てることのできないカスなんだから・・・
189名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 22:38:24 ID:BWHan5O1
( ´∀`)/ 先生ぇ、意味が解りません
190名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 22:48:47 ID:Ne7izvEC
皆がなんで触れてないのか考えてスルーしようよ…
191名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:13:46 ID:N4VL3ZqY
空気変えましょうか。
一番(アソコが)毛深そうなキャラ(男子除く)は誰か。

個人的にカリムは毛深そうで、ヴィヴィオは大きくなってもツルツルのままな気がする。
192名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:20:53 ID:E231cSRc
>>191
フェイトはちゃんと手入れして剃って脱色か色素沈着防止もちゃんとしてるんじゃないかな。見た目が外人さんだから。
なのはははみ出ない程度に手入れしてるだけで毛深そうな。
はやては、毛深いからこそ丁寧に処理してるかもしれないw
193名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:23:05 ID:mVS66sJL
いくらなんでも毛はねえだろ毛はwww

話題変えるにしても、何かもうちょい選べやwww
194名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:23:59 ID:YJpC0F8A
そういう話題は各自好き好きなイメージがあるんだから止めとけと
195名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:29:09 ID:kec1R56+
全員はえてません

ついでにはいてません
196名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:29:37 ID:MAKFTKCn
外国だと、全部剃っちまって脱毛するっていうのもあるみたい。
一部の金持ちがそうしているらしい。
197名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:31:08 ID:L0WOmdkN
>>196
男が先ッポの皮切るようなもんか?
198名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:32:43 ID:RI45AZGd
>>191
お前のせいで余計変な空気になっただろうが
199名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:38:48 ID:BWHan5O1
そういやあんまりそっちの事には言及してないなSSでは
200名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:57:55 ID:MAKFTKCn
>>197
そんな大掛かりなもんじゃなくて、脱毛の範囲内だと思うよ。
毛があるより無い方が清潔らしいし。
前に、ダークエンジェルって海外ドラマで主人公の女性が脛毛を剃っているシーンを見て落ち込んだ(綺麗な人だったから余計に)
事があるんだが、フェイトが剃ってて男性陣の誰か目撃でおかしくない事なのに落ち込むとか読みたいw
アイドルはうん○しないを信じてたんだぜみたいなw
201名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:01:26 ID:RI45AZGd
フェイトは実質ほぼ日本人だろうが……
お前の中ではアメリカ在住のアメリカ人か何かなのかよ……
202名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:03:25 ID:gO0QKBLm
スバルはそっちも無頓着でティアナに注意されるまでぞんざいにしてそう。
キャロは…流石のキャロもこればかりはエリオに振らないだろうな
203名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:05:49 ID:yoPwuum+
ヴォルケンズは処理の必要ないな、プログラムだし余計なもんはついてないだろ
同様に数の子も
204名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:06:04 ID:UVi/FOb6
>>201
フェイトはプロジェクトFの生み出した人外だぞ。
下の毛も脇の毛も生えてません!
プレシア母さんが、アリシアと違う言う天然。
205名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:07:53 ID:mCNGDVWs
>>195
六課に下着ドロ侵入
退院のぱんつ全てが盗まれて何故かミニスカしか残ってない。

そんな電波を受信した
206名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:34:08 ID:gO0QKBLm
>>205
六課に下着ドロが入るSSなら昔あった気が…
207名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:39:12 ID:7TWR7ZxW
耳かきの感覚でエリオに毛を剃って貰おうとする12、3歳くらいのキャロとか最高なんだが
208名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:47:20 ID:HsifXdkE
キャロ「エリオくん、一緒に仏門に帰依しよう!」
209名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:48:06 ID:mCNGDVWs
>>206
分かっとらん!!
隊員がノーパンミニスカで過ごさにゃならんってことになって神風が吹いたり転んだり階段上ったりするんだよ
その羞恥に耐えようとする表情が…





頭冷やしてくる
210名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:49:40 ID:cdCU8Y/E
>>193
>>194
>>198
すみません。
余計に変な空気にしてしまって。

頭冷やしてきます。
物理的に。
211名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:50:30 ID:OFjyfzvq
>>204
つまりナンバーズはつるんつるんなわけですね?


ソープ・ナンバーズが大繁盛する一因が把握できました(^q^)
212名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:50:32 ID:skeo8p7n
>>201
男の尊い(下らんとも言う)幻想をぶち壊すなのはたちが見たいんだよw
酒が入った男女混合猥談とか見たくてしょうがないもんwww
思わぬ性癖や恋愛間など、恋人とヤルより自分でするほうが好きとか、バイセクシャルですとか。
あとミッドがアメリカ的な場合、家の人のリンディとかが普通にやっていたらフェイトもって可能性もある。
213名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 00:56:40 ID:z3paVLUu
>>212
お前一昨日なんか騒いでたのと同じ奴だよな?
くどい、しつこい、そんなんじゃ逆に書く気が無くなる
214名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 01:05:34 ID:UVi/FOb6
>>212
 自分で書けよ。自分の妄想世界は自分で書くしかないぞ。
 俺だって、下手なりに自分の妄想した世界の中で、なのはやフェイトを書いてるんだ。
 エロパロ版で他作品のSSを読んで、それなりに妄想の言語化したのを見れば書けるぞ。
215名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 01:26:24 ID:skeo8p7n
>>213
その通り正解、あの時も騒いでたつもりは無いんだけどね。
投下が来るまでの暇つぶしに書き込んでただけだから。
それにしても、こないだは見たいなら見たい書けと言われたから直接見たいと書いたんだがなぁ。
まぁ、別に書いてくれる人がいたらいいな程度で書いてるから、書けと強制しているわけじゃないし気に入らないなら流してくれ。
216名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 01:31:40 ID:skeo8p7n
>>214
ごもっともです。
ただ、自分で書くより、人のを読んだ方が確実に楽しいから困ってしまう。
217名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 01:32:53 ID:VeHcMEFM
ここはお前の(ry
218名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 02:06:08 ID:q45w1kML
ID:skeo8p7n
君にはこの言葉がぴったりだ


半年ROMれ
219ザ・シガー:2008/12/28(日) 03:06:19 ID:usvamJcS
司書様司書様、このシガー少しばかりお願いがありまして参上致しました。
実は、自分の連載SSである「甘党艦長と俺物語」の第一話修正版を仕上げましたので差し替えお願いします。

差し替え分はこんな感じです。 つhttp://toppg.to/up/img/AMATOU.txt

本筋はまったく変わってはいませんが、各所を少しばかり弄りました、どうかおねがいします。
220タピオカ:2008/12/28(日) 07:47:03 ID:HsifXdkE
お邪魔します
しすぎてごめんなさい


注意事項
・戦闘ものでドカーン!バキーン!ガシャーン!とやりたいのです
・エロいはずがない
・本編終了して約1年ぐらいたってます
・敵組織オリジナルキャラクターで纏めちゃったので大量に厨二病が香るオリジナルのキャラクターをお届けします
・あまつさえオリジナルのロストロギアまで拵える始末なので、酷い捏造をお約束します

221Name〜君の名は〜:2008/12/28(日) 07:49:20 ID:HsifXdkE
第五話「封印」


緑の魔法陣に立ちながら、シャマルは大空に伸びていく赤い竜を見た。
遠くに黒い雲が見える空。しかし、雲行き怪しい天空に長い体をうねらせて飛翔するその様は、自由を得た喜びに満ちている。

「竜…!?」

派手な轟音と震動、おまけに咆哮をまき散らして飛び出した赤竜だ。すでに乗客が騒ぎ始めているのを感じてシャマルが焦る。

竜の飛び出た当のロイヤルスイーツの部屋についてはズタズタだが、周辺の部屋は思ったほど酷くない。
隣合う部屋、上下階、どちらも赤竜が空へ身をよじった時に強烈なダメージを受けているが瓦解や粉砕まではされていないのだ。

まるで、誰かが高出力の防御を施したようにも見える。
重傷者は出ているかもしれないが、死傷者がいないかもしれないと期待してしまうほどだ。
現に、赤竜が飛び出し大穴空いたロイヤルスイーツの部屋から、生きている人間がシャマルの位置からでさえ確認できた。

そして、のびのびと宙空を旋回した赤い竜は、ひとつ吼えてからシャマルを見下ろす。
凶悪な双眸と、目が合った。明確な敵意、害意、殺意。

襲われる―――と思ったシャマルだが、一寸、赤竜の額の煌めきに目を奪われた。

「……ジュエルシード?!」

そう、赤竜の額に埋め込まれるようにロストロギアがあった。

なぜこの場所にあるのかという驚きと、取り憑ける動植物に竜まで含まれる驚きが一緒くたにシャマルを襲う。
しかし、そこいらにいた竜に取り憑いたにしては不自然な登場だ。

何かおかしな出来事がワンクッションあったのは間違いない、と思考したところでシャマルも飛翔した。
決してスピーディな離陸ではなかくとも、これで赤竜が突き立ててきた長く細い触手――その先に備えられた爪をかわして見せる。
外れた爪はやすやすと甲板を貫くが、幸い人払いをしたデッキの上で、しかも下層は船倉になっている。
被害は最小限……と信じたい。

「ゴオオオオオオ――――――――!!!!」

可聴領域を超えた赤竜の咆哮がシャマルの耳をつんざく。
吸気に赤竜が一拍の間を作ってきた。

(まずい!!)

と思うよりも早くシャマルが船から逃れる飛翔を止めてクラールヴィントで魔法陣を描く。
大きい。さっきまで立っていた船の甲板全部をカバーできる巨大な魔法陣―――防御魔法陣。

緑の障壁が完成したかどうかというと刹那。
赤竜の大口より灼熱の猛火がほとばしる。
ドラゴンブレス。
真紅の瀑布を受け止めて、緑の障壁がきしみを上げた。

(!! 強ッ…!!?)

意識の隅に、船内の悲鳴と混乱の気配が強くなるのを捉えながらシャマルが歯を食いしばる。
しかしシャマルを舐め上げようと荒れ狂う炎に、鮮やかな緑の守りが砕け散った。

「ああああ!」
222Name〜君の名は〜:2008/12/28(日) 07:50:48 ID:HsifXdkE
シャマルの防壁に勢いのほとんどは殺された火炎だ。彼女自身はバリアジャケットによってダメージらしいダメージはない。
問題は船に火が燃え移った事である。そしてこれが深刻だ。
即座に、風を手繰って客の方へ火の手が伸びぬように魔力を収束するシャマルだが、

「!!」

その視界に、赤竜自身が飛び込んでくる。
実にシンプル。ただの、突撃。

「ギュウウウオオオオオオ!!!」

耳に痛い竜の咆哮と共に、巨大な顎がシャマルを飲み込まんと開かれた。
乗客、船の火、船倉の可燃物、いくつも頭に浮かぶ不安要素に気を取られていたシャマルに、これを逃れる術はなかった。

だから、飛び出したザフィーラがシャマルをかっさらわなければ、その牙は容易は彼女を噛み砕いていた事だろう。

「無事か?」
「私は大丈夫…けど……!!」

赤竜が、第3デッキに突っ込んだ。
竜の巨体は紙の様に甲板を突き破り、下の船倉までぶち抜いてしまう。
いや、それだけではない。丁寧な事に船倉までぶちぬいて浸水を起こしてくれていた。
ザフィーラとしても、船に損傷を与えたくなかったがあの突撃は止められぬと判断、シャマルのみを確実に助けたのだ。
船倉に人がいない事を祈るばかりである。

衝撃にまた大きく船が揺れた。
大きすぎる衝撃に船がおもちゃのように上下する。これは海に落ちた者がいるかもしれない。

とはいえ、船倉までぶち抜いたのはある意味では幸運だ。
この巨体が船倉に全体重を乗せてしまっていたのなら、おそらく速、沈没。
船底を貫いたからこそ、その運動エネルギー全部を船に譲渡しなくて済み、船が揺れただけで終わったわけだ。

―――そう好意的な解釈をしても、赤竜の墜落に耐えきれず、船の1/5ほどが千切れかけてしまっている。
燃え盛り始める第3デッキ、およびその下層である船倉は船の後部だ。
機関部が近しいここから早く赤竜を引き離さないと、さらに取り返しのつかない事になる。

「乗客が気になるけど…」
「今はあの竜だ」

ザフィーラとシャマルが飛んだ。
船を貫いた穴そのままを通って竜頭を引き戻し、のそりと火の手の向こう側から鎌首をもたげる赤竜が、2人を決して視界から外さないように動く。

「ゴオオオオオ――――!!!」

鞭のようにしなる触手を何本も奮って爪を突き立ててくる。
シャマルを背にかばい、ザフィーラがその半分を叩き落とし、弾き飛ばせば……痺れる腕に絶句した。

強い。
竜とてヴォルケンリッターのレベルに達するには相当な年月経ねばならぬのに、これはどうした事か。

少なくとも竜魂召喚をしたフリードより強い竜であるのは分かる。
しかしこの赤竜、外見から推測するにせいぜいAAランクだ。明らかにそれ以上の暴力を持っている。
無論、この出力の原因は、

「額のあれか…」
「ええ、ジュエルシードよ」
「ゴオオオオオオ――――――!!!」
223Name〜君の名は〜:2008/12/28(日) 07:53:14 ID:HsifXdkE
嫌な咆哮を上げて竜の身がうねる。
船倉に尾や胴がぶつかっては積み荷が海へ転がり落ちていくが、流石に構っている暇はない。
それよりも、もう客室まで辿りついてしまっているであろう火の手が問題だ。

何箇所かは、すでにはやてとリインの凍結魔法に沈黙しているが、思いのほか規模大きく火が巡っている。
人さえいなければフルに凍結魔法が使えるだろうが、パニック状態の乗客が入り乱れているうちは無理だ。
船の半分が火が占領されるのも時間の問題かもしれない。

すでに、救命ボートで船を離れている乗客もいた。
その脱出した客も、船の後方に陣取る赤竜を目の当たりにして青ざめている。

「ギュウウウウウウウウウウウ!!!!」

先ほどよりも明らかに大量の空気を含んで、赤竜が吸気の間を作る。
やはり、焦点―――その害意と敵意と殺意を向ける先はシャマルとザフィーラのみだ。
船については目もくれず、ただ緑と蒼の魔力に牙をむく。

瞬間、視界が赤に染め上げられる。
ザフィーラとシャマルで、魔力障壁を重ねて堅牢に守れども、熱で息苦しくなる威力。

余波でさえ船が悲鳴を上げ、急激に膨張する空気に生まれる突風から乗客を守るため、はやてが懸命にバリアタイプの防御を施す。
放り投げられた乗客に対しては、リインが氷の小船を作り、溺れかもしれない者へ処置して回る。
冷たい海水だが、心臓麻痺さえ有り得る冬を考えれば秋という現在は救いだ。

「ぐ…ぐぅ…!!」

灼熱の最中、防壁の展開に突き出したザフィーラの両手が火ぶくれ、煙が立つ始める。
二重の防壁を超えて前衛を焦がす超常の業火に、シャマルが防壁と回復魔法を並行するためクラールヴィントへダブルスペルのコマンドを与えるが、

「ザフィーラ! 下!」

海から垂直に伸びてきた赤竜の触手を感知し、とっさに叫んだ。
ドラゴンブレスにきしんだ防壁だ。今、竜の爪による攻撃が加われば……

竜の火炎に身をさらす覚悟をした瞬間、シャマルは血色の軌跡を認めた。
海から奇襲を仕掛けてきた竜の触手がブラッディダガーに次々と切り裂かれていく。

「ギャギュウウウオオオオオオオ!!!」

赤竜の悲鳴とともにようやくブレスが途切れれば、赤い色以外が目に眩しい。
船の上を飛翔するはやてがこちらと赤竜の様子をうかがうのも見えたが、すぐに海に落ちて氷の船に乗る者たちが流されぬようバインドする作業に戻る。

焦げ付いた両手をだらりと下げるザフィーラへ、すぐさまシャマルが手をかざす。

「回復は後だ」
「そんな! こんなに酷い火傷なのよ?!」
「あいつが狙っているのは俺たちだけだ。まずは俺たちが逃げ回って囮になるぞ」

言うが速いか、ザフィーラが船から離れるように飛び、シャマルも訝しいがりながらそれに続いた。
するとどうだ、赤竜もその腰を上げて追いかけてくるではないか。

赤竜が飛び立つ際、船がまた盛大に揺れた。
さらに浸水が酷くなった事だろう。現状で未だに沈まないとは、流石に最新鋭の客船だ。

だが、

「沈むのも時間の問題だな…」

しかも、曇り空が顕著になりはじめた頃合い。もし雨が降ればさらに凄惨な状況に陥るだろう。
224Name〜君の名は〜:2008/12/28(日) 07:59:59 ID:HsifXdkE
厚い雲に日の光遮られ、すっかり薄暗くなった空域の鬼ごっこも、スピードではやはり竜の方が上だった。
ぐんぐん距離を詰められれば、触手の先端に光る爪がザフィーラとシャマルを立体的に攻め立てられる。

「く…速っ…!!」

速いことは速いが、爪自体は回避が容易だった。まるで逃げる隙を作っているかのように。
徐々に触手で逃げ道を誘導し、噛み殺すか焼き殺そうとしているのが理解できる。

「いけない…このままじゃ」

焼けた両手のザフィーラを支えながら、危なげに触手をかわして飛ぶシャマルの頬に冷たい汗が流れていく。

「いや…大丈夫だ」
「え…?」

腕が痛むであろうに、冷静でしかも確信に満ちた声音ににシャマルが眉をひそめ―――ザフィーラの視線の先を追う。
自分たちの進行方向。そこに見えた。

道。

青い青い、道が見えたのだ。そして、その道を走る姿も、良く知っている。
清風のような、青い魔力。

「湾岸特別救助隊、スバル・ナカジマ一等陸士! 緊急事態により先行して来ました! 指示をお願いします!!」

船から最初の救助要請のコールを発され、まだ30分も経っていないはずだ。
それを湾岸からこの沖合まで全速で疾ってきたのだろう。
ギア・セカンドの出力で、しかも一直線であれば不可能ではない。

「このまま前進、八神特別捜査官と合流して救助活動を!」
「了 『ちょい待ち!』

割り込んできたのははやてだ。

『まず、その竜を叩いてからみんなで救助や! ザフィーラ、スバル、竜の動きを止めて! シャマルは管制、こっちからでかいの一発狙い撃つから誘導お願い! 余裕があったらスバルもそれに合わせて!』
「「「了解」」」

ウィングロードの勾配が上がる。
上昇するスバルに対して、ザフィーラとシャマルは高度を下げて、スイッチ。ためらいもなく赤竜へ突っ込んだ。
この闖入者に対し、竜はハエでも払う気分だったのだろう。網のように数多の触手がスバルへと叩きつけられる。

「ギア・エクセリオン!」

抜群のタイミングで刺し貫けるはずだった竜の爪が、何もない空気をすり抜ける。爆発的な加速で、「前」に避けたわけだ。
暴虐に色めく赤竜の双眸がカッと見開かれたのは、予想だにしない速度のスバルが、止まる気ないのを察したからだろう。

「うおおおおお!!」

A.C.Sの速度を、全てを脚部に込め―――スバルが赤竜を、蹴撃!
吹っ飛ばす、とはもちろんいかないが竜頭が派手に仰け反った。

「ギュウウウウウウウウウ!!」

ありありと憤怒を込めて赤竜が咆哮。そして、吸気に一拍の間ができる。
頭を振ってドラゴンブレスを辺り一面に振り撒こうとしたのだろう。大口を開けた赤竜は、しかし鋼色の楔を見た。

「ギュギャアオオオオオオオ!!!」
225Name〜君の名は〜:2008/12/28(日) 08:02:40 ID:HsifXdkE
紅蓮の焔がたっぷりと含まれた口腔が、ぞぶりと貫かれる。
喉の奥まで鋼の楔に貫かれた竜は明後日の方へ炎をまき散らして空をのたうちまわった。
その間にも、赤竜自身を縛る楔が幾重も海から昇ってくる。
あるいは竜の鱗に阻まれるが、あるいは間接部位に刺し込まれてその動きを制限し、それにシャマルのバインドが添えられる。

そして、

「今よ! はやてちゃん、スバル! 額を…額のジュエルシードを!!」

赤竜の位置やスバルたちの機動をはやてへ送信していたシャマルがスタートをかける。
引き千切った矢先から随時追加される鋼の楔の嵐に、足を止めてしまったもはや赤竜は的だ。
カッと、雷光が閃いた。

『来よ、白銀の風』
「一撃必倒!」
『天よりそそぐ矢羽となれ』
「ディバイン…」
『フレースヴェルグ!!』
「バスタァアアアーー!!」

ウィングロードに立つスバルが、青いスフィアへ拳を叩きつける。
船の方角……彼方から膨大な魔力が収束した閃光と化して降り注ぐ。

「―――――――――!!!!」
『「ジュエルシード、シリアル]!』」

青と白銀が、赤竜の額、ジュエルシードで交差。刹那、ふたつの砲撃の魔力が、まるで行き場を失ったかのように留まり膨れる。
それはジュエルシードを離すまいとする赤竜と、封じようとするはやてたちの力の均衡。

だが、スバルとはやてが青と白銀をさらに注ぎ込んでバランスを崩しにかかる。
膨れ上がる魔力の渦に、ジュエルシードが少しずつ、少しずつ赤竜の額から剥離していった。
時が止まったかのようにピクリとも動かなくなった赤竜の肉体も、それに呼応するように希薄になっていくではないか。

『「封印!!』」

ひと際大きな光。音と熱のない爆発。
ほどけるように赤竜が虚空に溶けていった。
残ったものは、ジュエルシードと、

「…? 何これ」
「光の卵…!」

自然落下するその2つを受け止めて、スバルがハテナを頭に浮かべる。鼓動の気配が、スバルの掌に伝わってくる。
すぐさまシャマルがスバルの手元を覗きこみに動いた。

「これが赤竜の正体ですって……!」
『おーい、早こっち手伝いに来てぇ!』

戦慄するシャマルへと、テンパった声が降ってくる。

「あ、ごめんなさい、はやてちゃん。すぐに行きます」
「よし、もう一仕事だよ、マッハキャリバー」

雷轟く空。
もう沈没の未来が確定してしまった豪華客船へと、3人が急ぎ戻る。
これから10分後、救助の本隊がやってきては怪我の有無はともかく乗客、乗務員全員が確認されたという。

ただひとりを除いて。
226Name〜君の名は〜:2008/12/28(日) 08:03:37 ID:HsifXdkE


「いたたたた…」

待機室のソファに濡れたまま座りこめば、インビジブルマンが胸を押さえてうずくまる。
タオルをかぶせながら、スーホがその白くなった顔を覗き込んでくる。

「大丈夫ですかい?」
「いやぁ、はは…サイカイ社長は、大丈夫。あの部屋にいた人たち全員助けました」
「あんたの事聞いてるんですよ。しっかりしてくださいや、大将…」
「ごめんね…僕の不注意だった。光の卵は、なんとか3つ確保したけど……お金の方が…」
「…………ま、どうにかなりますさ」

心底しょぼくれているインビジブルマンに、スーホは努めて楽観的に言う。
大丈夫だ、と肩を叩いて激励するが、この生真面目な金髪赤眼にはあまり効果がない。
嘆息がひとつ。

そんな時に、少女と妖精が入室してくる。

「大丈夫ですか、インビジブルマンさん」
「ええ、大丈夫です、サイカイ社長は 「それはもういいっつーの…おい、カーレン、俺は操縦に戻るから大将を頼む」
「分かりました」

ひょろりと背の高い後ろ姿を見送ってから、カーレンはインビジブルマンの隣に腰を下ろす。
妖精は……そう、アギトのレプリカの一体は、そんなカーレンにつき従うように浮いたまま。

「なにか飲み物でもいかがでしょう?」
「すみません、あんまり飲み食いできそうにないです…いたた」
「私やシュヴェルトラウテが回復魔法を使えればよかったのですが……あぁ、カグヤさんがいれば」
「申し訳ありません」

アギトのレプリカ―――その名をシュヴェルトラウテとする妖精が実に無機質に腰を折る。
高性能なストレージデバイスにも劣り得る機械的な受け答えが、このレプリカらしいところだ。
しかし、そんな無味乾燥した所作も慣れたもの。
もはやカーレンとシュヴェルトラウテは相棒どうしなのだから。

「大丈夫ですって、こんなのへっちゃら。それより、赤い靴≠フ調整はどうです?」
「万全です。もう不具合を起こす事もないでしょう。シュヴェルトラウテとの連携も、恥ずかしくないですよ」
「マスターはとても熱心に鍛錬されました」
「もう、カーレンでいいって言ってるのに」

苦笑するカーレンの靴は、言葉の通り赤い…いや、靴ではない。
スカートの下にある両の脚部が全て赤いのだ。
義足にしては、ものものしく排気ダクトが備わっており、角ばった膨らみは見る者が見ればカートリッジマガジンと一目で分かる。
―――両足がデバイスなのだ。
227Name〜君の名は〜:2008/12/28(日) 08:04:53 ID:HsifXdkE
「この光の卵の中に、カーレンさんに適した物があればいいんですが……」
「なくても…きっと戦い抜いて見せます」
「………強いなぁ、みんな…僕以外の、みんな、直接的な理由を持っているんだから、強いや…」

力なく乾いた笑いがインビジブルマンの口から漏れる。
タイルで海水を拭くのも忘れ、ぼんやりと、白い天井を仰いだ。

「強くないですよ、みんながみんな……私だって……」

私だって、なんだったのだろうか?
結局インビジブルマンもシュヴェルトラウテも聞き取れないほどか細く声は消えていく。

一転、カーレンが明るく笑いかけてきた。

「そうだ、インビジブルマンさん、ひとつ問題です」
「なぞなぞですか?」
「そのようなものです。『自分より強い相手に勝つためには自分のほうが相手より強くないといけない』」
「………………へ?」
「問題は、『この言葉の矛盾と意味をよく考えて答えないさい』です」
「………………」

ポカーン、としているインビジブルマンへと悪戯っぽくカーレンが笑えばスピーカーよりスーホの声。

『これより白い馬X=A戦闘深度でこの海域を離脱します』

かくして豪華客船「ティターン」が沈没しかけている海面より深さ1000メートル近くで、人知れず真っ白い小型次元航行船が走り出す。







228タピオカ:2008/12/28(日) 08:07:51 ID:HsifXdkE
終わりです。

やりたいシーンがこの話でいくつかあるんですが、
はやてかスバルにジュエルシード封印させたい→どっちにしようかな→どっちもすればいいんじゃね?
とこんな感じでしたとさ。
229名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 12:53:18 ID:ywqs1o7b
>>228
あやまるこたあないぜGJ

年末だから人がいないのかな……セインさんのエロい話が読みたい、と
どっかの安西先生にお願いしてみる
230名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 16:49:29 ID:ZYsiUq23
ホテルから書き込みできない俺がいる。
231名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 16:55:15 ID:XzI+/Q+Z
>タピオカ氏
乙 そして、GJ
ネタ的には
\(●)/とWBかな?
232名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 20:12:28 ID:HsifXdkE
>>231
\(●)/ はニッポンですかね?
WBはなんでしょう?
233名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 21:33:47 ID:JmR4630K
>>230
次からはノートPCを持ってきて、ネット接続可能な宿を取るんだ。
234230:2008/12/28(日) 22:00:33 ID:ZYsiUq23
>>233
やってる。
でも、ホテルのプロバイダが規制されてるんだ。
見てるだけは歯がゆいぜ。
235名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 22:05:12 ID:SmeSj0IH
そこでイーモバですよ
236名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 22:32:03 ID:8H/YJ5Mz
ttp://www2.uploda.org/uporg1890169.jpg

SS書きの神様。
誰かティアナのピローカバーで一本お願いします・・・
237名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 22:54:43 ID:KQ1VHfQO
>>228
GJ

>>236
志村〜、パロ板は画像NGだぜ
一緒に角煮に逝こうか‥‥
238名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 23:16:59 ID:9xOaqTtB
>228
GJ、だが一つだけ言わせてくれ……

>どっちもすればいいんじゃね?
これは典型的なネタ過積載警報だよwwwwwwwwwwwww
いいぞもっとやれwwwwwwwwwwww

まぁつまりそのなんだ、続編楽しみにしてる。
239名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 00:50:14 ID:Sv4QDpIC
GJ!!です。
義足デバイス使いが出てきているw
どんな戦い方をするのか楽しみです。
240名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 05:39:06 ID:RkfNEYgT
ある槍騎士シリーズの作者様、元気かなぁ……
今も待っておりますよぉ〜。
241名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 13:46:13 ID:7qDOEnou
>>240
(・∀・)人(・∀・)ナカーマ
希望を捨てないで、共に待とう!!
ある槍騎士シリーズ全部マジ最高でしたぞー
242名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 14:41:17 ID:8CuZpMSV
静かなのは規制のせいか正月SS書いているからかのどっちかなんだろうな。
243名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 14:46:00 ID:joy5ar3H
246氏はもう来ないのかな・・・
244名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 15:00:36 ID:YT0AE37V
コミケにいってるだけじゃね?もしくは仕事が追い込みとか
もう、みんな仕事納めしたのかな?俺は学生だからもう、休みだが。
245名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 15:37:22 ID:wi1BVt2c
みんなきっとコミケで忙しいんだよ
俺も明日は始発だ……
246名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 15:41:40 ID:UqB9/VRh
大晦日から元旦にかけては「姫始めネタ」
2日には「初夢ネタ」が投下されると予想
247名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 16:25:57 ID:YT0AE37V
是非、そうしてほしいね!
248名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 16:42:17 ID:BzgvgG7k
姫初めは大事だな。書き手のはしくれである以上仕上げて投下したい。
仕事終わったら詰めて書いてみる
249名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 16:44:50 ID:Sv4QDpIC
着物でヤるのかね?w
250名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 16:58:45 ID:8yzY2osb
>>249
そこは投下までの楽しみにしとこうぜ

俺は年内に前編しか投下できてない話をどうにかしたい……スッキリ年が越せん
251名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:05:17 ID:vLPfOAzU
姫初めは他の作者様に任せた。
こっちは、正月にふさわしくないネタを仕込み中で無理。
皆様の作品を読ませていただきます。
252名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 18:15:49 ID:YT0AE37V
年末年始も仕事で、空間モニター越しに挨拶をするフェイトが思い浮かんだ
253名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 20:43:09 ID:p3juS+Ye
逆に考えるんだ今投下すれば貸切だと
254Foolish Form ◆UEcU7qAhfM :2008/12/29(月) 20:51:39 ID:sDPosXT7
9時くらいに投下しようと思いますが、OKですか?
255名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 20:53:48 ID:Ou7l5Bmt
OKッスよ〜〜〜
256Foolish Form ◆UEcU7qAhfM :2008/12/29(月) 21:05:13 ID:sDPosXT7
そいでは。

クリスマスの影響で延期してた「お休みはノー・プラン」の後編です。
まあバカばっかですが楽しんでやってください。

・闇の書事件から*年後
・ユーノ&なのは? もうみんなごちゃ混ぜ
・気付いたらバカップルはいなくなってた

それでは、それでは。
257お休みはノー・プラン(後編) 1/8:2008/12/29(月) 21:06:25 ID:sDPosXT7
アリサ・バニングスの我慢は限界に来ていた。
「なーんーでーこの二人は!!」

約束は、10時だった。
それよりずっと前からいたと思われる、フェイト。
ピッタリ5分前にやってきたアリサ。
そこからほんの僅かに遅れてすずか。
時間通りに、はやて。

「……で、なんで歩いて10秒のなのはが家から出てこないの?」

問題は、集合場所に肝心の人間がいないことだった。
5分経っても現れる気配すらない。
チャイムを押して出てきた桃子にも、『ちょっと待っててね』と言われるばかり。
その顔がちょっと苦笑いだったのを、アリサは見逃さなかった。
「二人は、何してるんですか?」
「今、お風呂に入ってるみたいなんだけど、ちょっと出てくるのが遅くて」
「……なるほど」
風呂の中でもいちゃいちゃしている訳だ。
「まぁ、なのはたちが出てくるまで待ってますから」
「ごめんなさいねぇ」
「いえ、お構いなく」
これはどうしても、詰問の一つでも浴びせなければならなかった。
キッチリ7歩ずつ歩いては折り返し、なのはたちの出現を待つ。

「ごめ〜ん、遅れちゃって」
そして、件の人物がやってきた。
「何やってんのよ、アンタ普段は遅刻、なんて……」

「しないじゃないのよ……」

それはもう大遅刻をする訳だ、とアリサは思った。
なのはは、両手をユーノの腕に絡み付けて登場した。
まるでユーノに寄生しているようだ。
「バッ、バカじゃないの!? そんなことであたしたちを待たせた訳?」
「そんなことって、アリサちゃんひどいな……確かに、遅れちゃったのはごめんなさい」
ペコリ、と頭を下げてなのはは謝ってくるが、それで腹の虫が収まったら困ることなどない。
反省の色は見えている。申し訳なさそうな顔をしている。
「ごめん、アリサ。他の皆も、待たせちゃって」
ユーノは許してもいい。これだけは譲るのにやぶさかではない。

だが、なのはの顔はそれ以上の何かを話し出しそうな雰囲気だった。
「でもね、アリサちゃん」
おずおずと切り出してくる辺りが、またイライラする。
258お休みはノー・プラン(後編) 2/8:2008/12/29(月) 21:06:56 ID:sDPosXT7
なのははこんなにもじもじした女の子だっただろうか? そんな役割はこの仲良しグループにいない。
「なんていうか、恋の炎が止まらないの……」
チュッ、とユーノの頬にキスして、腕をしっかりと抱き直すなのは。
「お昼はおごるから、許して?」

ダメだこのバカ、周りがまったく見えてない。
「あぁ、もうっ!」
アリサのモヤモヤした怒りは、頂点に達したところで、急速にしぼんでいった。
「行くわよ、すずか、フェイト、はやて!!」
「え、わたしたちは?」
「アンタら二人はどっか他所でいちゃついてなさーい!!」
彼氏の一人もいないアリサ。
世間で何と形容されているかぐらいは知っているが、現実の性格として『それ』が受け入れられないのは知っている。
先を越されたのが悔しい自分が、なのはに対して八つ当たりをしているのは十分分かっていた。
でも、どうすることもできなかった。

***

取り敢えず駅前まで来てみた。
やることは、まったくない。
映画でも観てみるか、それともショッピングでも楽しんでみるか。
「ひょっとして、まさか」
後ろを振り返る。

「ねぇ、ユーノ君。何か食べる?」
「なのはの食べたいものが食べたいな」
「えー、わたしはユーノ君が食べたいものを一緒に食べたいよ」
「困ったな……どうしよっか」
「それじゃ、じゃんけんして決めよ♪」
二人がいちゃついているのは、まあいい。
しかし、問題はそこじゃない。

「えーなぁ、私も素敵な彼が欲しいなあ」
「大丈夫、はやてならきっと良い人が現れるよ」
「そこ、そこなんよフェイトちゃん。何が問題かって、『ええ人』しかおらんのよ。
ユーノ君みたいな同い年の男の子、誰もおらへんもん。管理局には年上過ぎる人ばっかやし。
私らの年齢でもう局に出向してる人、ホントユーノ君とクロノ君しかおらへん……」
「じゃあこの際、うんと年下に目覚めてみるとか?」
「うっはー、大分フェイトちゃんも日本に慣れてきたなぁ」
冷静にバカップルを観察している魔道師二人、こいつらもギルティーだ。
頼れるのは、もはやすずかのみ。
「すずか、アンタがあたしの親友で本当に、本当に感謝してるわ……」
「どうしたの、急に?」
259お休みはノー・プラン(後編) 3/8:2008/12/29(月) 21:07:33 ID:sDPosXT7
すずかが戸惑うのにも構わず、アリサはその両手をしっかと握る。
「あのね、すずか。あたしは、あたしは……もう疲れたわ」
「ふぇ?」
疑問符が浮かぶすずかに、アリサはゆっくりと真情を吐露した。

「せっかく集まって騒ごうと思ったのに、これよ。あたし、求心力なさすぎだわ。
『なのはたちが戻ってくる』っていうから、嬉しさだけ空回りしたみたいで。
ホントはみんな、それぞれに過ごしたかったのかな」
話しながら、どんどん遠い目になっていくアリサ。
すずかは、その手を握り返すことしか出来なかった。
言葉では、言葉だけでは、何も変わらない。
それを、何年も前から、身に染みて分かっている。

だから、すずかは思い切って声を上げた。
「みんな、あそこに行こう!!」

え、とみんながあっけに取られてすずかの指差す方を見る。
そこには、やたらと高いタワーがあった。
「あれ、すずかちゃん、ここにこんなおっきなビルなんてあったっけ?」
「ううん、ついこの前できたの。30階建てで、1階には本屋さんがあって、2階には喫茶店、それから……」
「それから?」
「屋上には、すっごく見晴らしのいいカフェテリアがあるの!」

***

地上30階の威力は、伊達ではなかった。
「はっはっは、人がゴミのようや!」
「言うと思ったよ、絶対言うと思ったよ、はやてちゃん……」
なのはさえ冷静なツッコミを入れられるほど、雲を衝かんばかりの高さにそびえ立っている。
もちろんそれ故に危険なので外には出られなかったが、窓からの景色でも十分下界を堪能できた。
サンドイッチをつまみながら、口々に感想を言い合う。
「ここって、下の20何階かは何に使ってるの?」
「えっとね、普通の会社とか、あと居酒屋とか。イベントホールっていうのもあったかな?」
「へぇ、色々あるんだね」

ユーノは、テーブルに座る時アリサが接収した。
駄々っ子のように騒いでいた約一名も、しばらくしたら大人しくなった。
よほどの禁断症状と見え、妙にそわそわしていて落ち着きがない。
アリサは溜息をついた。
「ところでさ」
260お休みはノー・プラン(後編) 4/8:2008/12/29(月) 21:08:31 ID:sDPosXT7
椅子に深く座り込んで、すずかに問いかける。
「どうしたの?」
「いや、ここにいつまでもいるってのもね。映画でも見に行く?」
「今、何やってたっけ?」
すずかが携帯を取り出して、映画館の情報サイトにアクセスする。
「SF、ファンタジー、ホラー、あとはアニメとかも」
「ホラー!」
アリサは急に勢いづいて立ち上がった。
「それよ、それ! よし、今から見に行くわよ」
「え、ちょ、ちょっとアリサちゃん」
「あの二人が強引なんだから、あたしだって強引になる権利があるわ!」
「アリサちゃん、理論そのものが物凄く強引だよ……」
「いいの、もう!」

会計は全部なのはに任せて、歩き出した。
『待ってよー』と後ろからついてくるすずかの歩調に合わせて。

***

「ね、ねぇ……ひょっとして、アリサ、これ観るの?」
フェイトが怯えた声で聞き返す。
「もちろんよ」
誰の目にも楽しげな顔で、チケットを6枚買うアリサ。
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。わたしがついてるから」
「う、うん。ありがとう、なのは」
ユーノとは神聖結界を張って何人をも入場させないが、フェイトとは普通の親友だった。
「まぁ、普通じゃない関係ってのもアレやけど」
「ん、何か言った、はやてちゃん?」
「え、何も言うとらんよ?」
思わず呟いてしまって、咳払いを一つ。
「にしても、映画なんて久しぶりやなー。『これが観たい』なんて決めとる訳でもないのに適当に観るなんて初めてや」
「そうだねー、っていうかアリサちゃんノリノリすぎだよ……」
ここに来てやたらと元気を取り戻したのが、どことなく不気味ですらある。
しかし、隣で苦笑いしつつも安心そうにユーノと手を握って──

(手や、ない!?)

はやては愕然とした。
よく見れば、二人は指を絡めていた。
それも、小指を。
261お休みはノー・プラン(後編) 5/8:2008/12/29(月) 21:09:03 ID:sDPosXT7
「あちゃー、こりゃアリサちゃんもキレる訳や」
「どうしたの、はやてちゃん?」
「え? ああいや、何でもないんや、何でも……」
いつの間にかはやても、頭痛を感じ始めていた。

「いやー、映画ってこの始まる前のドキドキ感が何とも言えんなー」
はやては頬をぴくぴくさせつつ、椅子に座った。
右には今にも火山が噴火しそうなアリサ、左には世にも幸せそうな顔のなのは。
多分、はやては世界で一番温度差のある境界線に座らされていた。
「ユーノ君、あーん」
「あーん」
そして当の本人たちは、周りを──否、アリサをまったく気にせずにポップコーンを互いの口に放り込んでいる。
「ねぇ、すずか。あたし、今ならジェイソンにでもなれそうな気がするんだけど」
「だ、ダメだよアリサちゃん、殺人鬼になんてなっちゃ……」
きっと、アリサが怒っているのはいちゃいちゃバカップルそのものにではない。
二人の世界を作りすぎて、せっかく久しぶりに会った友達とあまり語らいができていないことの方に怒っている。
そりゃ、誰だって苛立つだろう。
「あ」
部屋が暗転して、いくつかの広告映像が流れる。
次期作の宣伝、新作のお菓子、映画館での注意事項、そして最後に配給会社のロゴ。
すっかり暗くなった室内で、ぺた、ぺた、と水気を含んだ足音が聞こえ始めた。

「キャーッ!!」
映画の街で億単位の金を注ぎ込んだホラー映画。
ひたり、ひたりと人あらざる影が背後に迫る。
「やぁーっ、いやーっ!!」
閉ざされたペンションの中で、一人、また一人といなくなっていく。
「やめてっ、おねがい……助けてぇ!!」
そして最後の一人が暗闇の彼方へ消えていった時、

「……ふみゅー」
フェイトが気絶した。

***

「怖かったなぁ」
「怖かったねぇ」
「わたしは、ユーノ君がいたから怖くなかったよ♪」
「……私は覚えてない」

あれから、医務室のような場所で起こされた。
映画館の人曰く、『怖い映画を見て気絶する人はたまにいる』とのこと。
でも、やっぱりちょっと恥ずかしい。
いつもなら戦えるのに、それすらできずただひたすら恐怖に追い回されるだけ。
そんな経験、生まれて初めてだった。
普通の人、アリサやすずかがいかに無力で、それでいて無力でも安全な世界に住んでいるのだと、改めて実感した。
262お休みはノー・プラン(後編) 6/8:2008/12/29(月) 21:09:35 ID:sDPosXT7
「フェイトちゃん、大丈夫?」
「うん、もう平気。心配かけてゴメンね、なのは」
「そんなことないよ。私がビックリしちゃっただけだから……」
なのはが水を持ってきたので、飲む。
「ふぅ」
一息ついて、立ち上がる。
「もう立ち上がってもいいの、フェイトちゃん?」
「大丈夫。ホント、大したことないから」
色んな人に心配されてしまった。
倒れて、介抱されて、水まで持ってきてもらって。

でも。
「ありがとう」
ここは、感謝の気持ちを表すべき場所だ。
「みんな、助けてくれて」
頭を下げると、皆が次々に肩を叩いてきた。
「いやいや、水臭いやないかフェイトちゃん。困った時はお互い様やで」
「そうよ。こんなことで感謝されても世話ないわ」
「フェイトちゃん、いっぱい心配させてもいいんだからね?」
「いつでも頼ってよ、フェイトちゃん。私たちはいつも一緒だよ」
「フェイト、君は一人じゃないんだからね」

一人ひとり、手を握られていく。
「ありがとう、ありがとうみんな」
知らず、涙がポタリと落ちた。
フェイトは泣きながら、ありがとうを繰り返した。

それから先は、多少バカップルっぷりは改善されたようだった。
「っていうか初めて見たわ、こんなグループの中でいちゃついてたのを見たんは」
「あはは。でも私は、そんな二人を見てるの、大好きだよ」
「フェイトちゃん、随分落ち着いてるね」
すずかにも同じことを言われる。
「私は、なのはとユーノが幸せにしているのを見るのが、幸せなの。
大好きな人が幸せでいてくれることが、私の幸せだから」
だから、同じことを返す。
「フェイト……」
「ははは、フェイトちゃんと友達になれた私らは、一番の幸せものっちゅうこっちゃな!」
皆で笑いあって、そして走り出す。
263お休みはノー・プラン(後編) 7/8:2008/12/29(月) 21:09:57 ID:sDPosXT7
「ご飯、食べに行こう!」
「そうだね。どこがいい?」
「イタリアン!」
「私も! みんな、異論はないん?」

はやてが聞くと、全員が一斉に答えた。
「ないでーす!!」

***

「ヴェネツィア風海鮮ピザ、季節の野菜スパゲティ、チーズのサラダ、それから──」
「アリサちゃん、そんなに食べられるの?」
「食べるの!!」

六人がけのテーブルには到底収まりきらないほどの料理が、次から次へと運ばれてくる。
「なのは、アンタはもうそこいらのバイトより稼いでるんでしょ? ならこれくらい訳ないわよね?」
「う、うん。お金は大丈夫だけど」
「じゃあ問題なし!!」
ぱくぱくと、アリサは明らかに身体の大きさを越える量を腹に詰め込んでいる。
「アンタらの、もぐ、いちゃいちゃっぷりったら、はむ、ないわよ、むぐ……」
自棄食いにもほどがある。
「アリサちゃん、ほどほどにしないと」
「ええい、すずかは黙ってて! どうしても、どうしても食べまくらないと気が済まないのよ!!
あ、店員さん、このピザおかわり!」

結局、1人で残りの5人よりも多く食べて、アリサは店を出た。
「うっ……流石にやりすぎたかしら」
「ちょっ、あ、アリサちゃん!」
よろめくアリサを、すずかは慌てて抱きとめた。
「あぁ、ありがと、すずか。でもこれは流石に……うっぷ」
「アリサちゃん、アリサちゃん!!」
倒れかけるアリサを支えて、楽な姿勢にさせる。
「やっぱり言わんこっちゃないな、すずかちゃんの警告、ちゃんと聞いておけばよかったのに」
後ろからはやての声がする。

……確かに、アリサはすずか以外の人間に止めることはできない。
でも、だからこそ、すずかの前では素直になる。
「あは……落ち着いてきたわ。おなかも、こころも」
「大丈夫、アリサちゃん?」
「ええ、このまましばらく安静にしてれば。すずか、アンタたちは先に行ってなさい。あたしもすぐ行くから」
「ダメ」
今日は、今日こそは。
264お休みはノー・プラン(後編) 8/8:2008/12/29(月) 21:10:23 ID:sDPosXT7
「アリサちゃん、さっき自分で言ったでしょ。私たちは、皆で『私たち』なの。
アリサちゃん一人が欠けても、ダメなんだよ」
すずかは、アリサの手を握りしめる。
「だから、お願い。『先に行って』なんて、言わないで」

すずかは、めいっぱいの勇気を振り絞ったつもりだった。
いつも鶴の一声で全員を纏め上げるアリサに、ついていくだけだったから。
だから、今日は、今日こそは、どうしても言いたかった。
アリサへ、自分の気持ちを。

「ね?」
「分かったわよ。でも、みんなに悪いから少ししたら行くわよ?」
「ダメだってば。ちゃんと身体が落ち着くまで、待ってないと」
「……はぁ。すずかには敵わないわ」

何が敵わないのか、すずかにはいつまでも分からなかった。

***

結局、ユーノとなのはは顔を合わせる度にずっと一緒だった。
けれど、それをもう悔しいとも何とも思わない。
「フェイトのいう通りかも知れないわね」

いちゃいちゃベタベタしている二人だけれど。
腕も指もみんな絡めてるけれど。

「アンタたちの顔、幸せすぎるわ」
265Foolish Form ◆UEcU7qAhfM :2008/12/29(月) 21:12:53 ID:sDPosXT7
明日も明後日も出勤という憂き目にあってしまった。
これから用事もあるので6〜8辺りのやっつけ感が否めない。
もう土下座したいくらいだ。


まぁただ一つ言いたいのはアレですよ。
最後のアリサの台詞。
ここでニヤニヤしてもらえれば作者の勝ちです。

今回はいつにも増して拙いけれど、楽しんで頂ければ幸い。
それではみなさん、よいお年を。
266名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 21:28:46 ID:YT0AE37V
GJ!乙です!
休日出勤お疲れ様です。
267名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 21:36:55 ID:Ou7l5Bmt
GJ! 前回に引き続きアリサさん、お疲れ様ですw
ニヤニヤすれば勝ちぃ?なら、文句なく自分の大敗という事ですな。
268名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 21:42:55 ID:3HjONhwl
>>265
GJ。何という砂糖生成バカップルwwwww
まさにラストのアリサの一言に全てが集約されてますなw
269名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 22:00:29 ID:Kn3XbY34
>>265GJ
『お休みはソープランド』に見えた俺は死んだ方がいいかもしれん
270名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 22:27:01 ID:Q6lhkqPp
>>265
GJやでぇ
俺なら間違いなくしっとの炎をメラメラさせるだけで終わるのにアリサさんたちマジ親友

そして何よりも気絶したフェイトを介抱してぇと思った
271名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 23:24:19 ID:vLPfOAzU
>>265
 GJです。
 早く今の作品書き上げないと、なのは×ユーノのいちゃいちゃが書けないのを実感しました。
272名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 01:38:43 ID:3XuKuuQ4
>>265
甘々でラブラヴSS、とってもGJでしたぁ!

>>296
さあ、死ぬ前にその脳内をテキストにして公開するんだッッ!1!!

ところでそろそろ寿引退しそうなナンバーズがいそうな気がしてならないのは気のせいであろうか?
273名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 07:45:20 ID:vtPaW1Pq
>>272
ばっきゃろう!
世の中には四十歳のなのはさんを書いてる人だっているんだ!
年齢なんて飾りです。
274名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 08:07:39 ID:z/56SzBL

【表現規制】表現の自由は誰のモノ【110】
http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/news2/1229424540/
275名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 17:10:33 ID:IhUYdRVP
>>272
ナンバーズよりも、部隊長が…

元犯罪者って除隊できるのかな?なんか、一生辞められないって気がする。
276名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 17:17:59 ID:wj6E1PXM
>>275
我らが執務官も前科持ちだぜ
277名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 17:27:37 ID:IhUYdRVP
辞めてないじゃんw
278名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 19:21:06 ID:Pj9bTbf+
罪の重さは
数の子≧ヴォルケンズ≧ルー子>執務官>部隊長
だと思うが
ヴォルケンズまでは相当長い間お勤めしないと厳しいかなぁ?
執務官と部隊長は保護監察があければ辞めてもいい気がする
279名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 19:28:24 ID:c8766tPd
>>276
なんだか前科持ちという単語が一人歩きしているみたいだが
フェイトさんは前科ないぞ。

>>272
ここは以外な人物でディエチとみた。
280名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 20:30:42 ID:r3l3TkbU
>>279
裁判の結果無罪、だったよな。
理由はどうあれ実行したのは事実だから、一応前歴として残るのかね?
281名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 20:50:48 ID:IhUYdRVP
過疎ってるな。
みんなコミケいって疲れてるのか?
282名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 21:06:16 ID:47MD4lza
世の男性には賢者タイムというものがあってだな…

まぁ疲れてるっちゃぁ疲れてるのか。
283名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 21:06:50 ID:hKvh/KNu
年末年始なんて、去年もこんなもんじゃなかったか?
284名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 21:19:31 ID:rmHUg7qV
コミケぐらいで疲れてたら都会じゃ生きていけないですよ
285B・A:2008/12/30(火) 21:23:31 ID:hMXU1QO3
プロバイダー規制で涙目になっています。
これは携帯電話から。

前に代理の人に投下してもらっていた職人さんがいましたが、あれってどうすればしてもらえるのか、誰か知っていたら教えてください。
286名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 21:39:10 ID:hKvh/KNu
>前に代理の人に投下してもらっていた職人さん
あれは、知り合いとかに頼んだんじゃまいか?
流石に難民やシベリアで何レスもかかる代行を頼んだりはしてないよな

年明けまで、待つことはできないの?
時事ネタでどーしてもってんだったら、とりあえずどっかのうpロダにあげて、
それをこのスレの誰かが代理投下とか多少面倒だが、方法はありそうだが
287B・A:2008/12/30(火) 21:47:11 ID:hMXU1QO3
>>286
いえ、そういうのではないです。
投下代行してくれるスレあるのかもって勘違いしてました。
書きためながら解除されるのを待つことにします。
ありがとうございました。
288名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 21:57:00 ID:hKvh/KNu
一応、ぴんく難民板に代行スレあるけれど、SS投下はちょっとやってくれるかわからない。
エロパロ板内にも、規制されたとき使っていいよってスレあった気がするがまだあるのかな?

役にたてずスマソ。年明けの投下待ってる
289名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 22:55:25 ID:x7l+LfgD
過去に色々問題があったが解決した某スレだと、
避難所に代行というか代理で投下してくれるように落せる場所作ってたなぁ。
290名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 23:23:25 ID:8L4QYB0P
なんならおいらが代行投下しますぜ
B・AさんのSSはたのしみにさせてもらってるし
よければメールくださいや
[email protected]
291名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 23:29:39 ID:JFf0v5K0
良い人ぶりたいならせめてageるなよ
292名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 23:29:53 ID:+fseJINZ
2chでアドレス晒さない方が……
293名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 23:42:09 ID:hKvh/KNu
むしろ、悪意をもった釣りかとまず疑ってかかってしまう……ageてるし
くぐったら、そのメルアド突発オフで出てくるな
294名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 00:21:23 ID:yKDoKrrz
ageてる全晒しメルアドなんて信用できるのか?
今時疑わない奴が居るとは思えん・・・

B・A氏の規制解除後の投下に期待
295名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 01:49:30 ID:rP/AkLRQ
その善意に信用が置けないって訳でもないけど、行き違いとかでいざこざ起きないって言い切れないからなあ
296名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 09:05:47 ID:G1aNYNaH
規制解除待つのが1番だろうな

さて、今年最後の投下はどなただろうね
297サイヒ:2008/12/31(水) 09:49:19 ID:FPJJ7YiW
アクセス規制に巻き込まれたせいで非常に時期外れとなったクリスマスネタを三時空クロノで。

久しぶりなんで説明しておくと、原作どおりエイミィと結婚したクロノ、フェイトとくっついたクロノ、
カリムと不倫中のクロノという別設定の時空のクロノの話。
ちょっとだけエロイけど十八禁というほどじゃありません。
298三人のクロノ・ハラオウンとクリスマス:2008/12/31(水) 09:50:08 ID:FPJJ7YiW
 清しこの夜クリスマス。
 海鳴市のハラオウン家では、毎年この日は絶対に休暇を取るクロノが中心となりアルフとリンディの三
人でクリスマスツリーの飾りつけの真っ最中だった。

「どうしてその色のガラス玉をそこに付けるんだよ。センスが無いんだから」
「似合ってると思うんだが……。母さんはどう思う?」
「悪いけど私もアルフに賛成ね。モールの色がこれだから合わせるにはこっちのベルにして……」

 こういうことの感性が鈍いクロノがずいぶんと悪戦苦闘しては駄目出しされてているのを、料理係のエ
イミィはローストチキンを焼きながらくすくす笑って見ていた。
 ようやく終わりが見えだしクロノが天辺に星のオブジェをつけようとしていると、カレルとリエラがぱ
たぱたとリビングに駆け込んできた。

「父さん父さん、そろそろサンタさん来るかな!」
「まだだよ。サンタさんはみんなが寝静まった夜遅くにならないと来ないんだから」
「あのね、リエラ今年は絶対にサンタさんがプレゼント持ってきてくれるまで起きてるの」
「明日寝坊だけはしちゃだめだぞ」
「はーい」

 とはいえ子供のことだから、どんなにがんばってもどうせ十時にはぐっすり寝てしまっているだろう。
 それにあんまり遅くまで起きていられると、寝入るまで待たなければならないサンタさんことクロノが
大変だ。

(もう一回サンタの仮装やってくれないかな)

 去年はエイミィとリンディが面白がって無理やりやらせたのだが、白髭をつけたクロノがあまりに爆笑
ものだったのでこっそり写真に収め知り合いに回したら本気で怒られた。たぶん今年は拝み倒してもやっ
てはくれないだろう。
 子供達はそのままサンタさんがどうやって煙突が無い部屋に入ってくるかの推理をアルフに語り出す。
 サンタさんは世界中の扉を開けれるロストロギアを持っている、いいや転送魔法の遣い手なんだ、と興
奮気味に語っている二人を微笑ましく見守りながら、料理を運んだついでにエイミィはクロノに訊ねた。

「それで、今年もサンタさんは子供たちだけじゃなくて私にもプレゼント持ってきてくれるのかな?」
「さて、僕はサンタさんじゃないから知りようがないな」

 すまして言うクロノだが、エイミィは知っている。
 昨夜遅くに帰ってきたクロノの手には大きな紙袋が握られており、中にはきれいに包装された家族の人
数と同じ数だけ箱が入っていたことを。
 さらには、数日前にクロノの机の上に置かれていたブティックのカタログには、折り目のつけたページ
があった。そこに載っていた服は、どれもエイミィの好みの服。妻に関してだけはセンスが良くなったら
しい。
 どれを選んでくれたのか楽しみにしながら、エイミィはまだ今日は言っていなかった一年でこの日にし
か使えない文句をそっと囁いた。

「メリークリスマス、クロノ君」
299三人のクロノ・ハラオウンとクリスマス:2008/12/31(水) 09:50:57 ID:FPJJ7YiW
          ※



「クロノ、次はこれ食べさせて」
「はいはい……」

 どこか諦めたように、クロノはフェイトが指差した料理を一口サイズに切り分けフォークに乗せる。そ
のまま自分の口ではなくフェイトの口元まで運んでくれた。ご満悦で料理を口にするフェイト。
 味見しながら作ったのは自分なのでどんな味なのか分かりきっているのに、こうしてクロノに食べさせ
てもらえると一際美味しい。
 しかも座っているのが椅子ではなく、クロノの膝の上となればなおさらだ。

「今日はまたずいぶんと甘えてくるな」

 今度は自分の分のサラダを食べながらクロノが訊ねる。

「何か特別な日なのか? 料理は豪華だし、ケーキまで出てる」
「クロノ、十二月二十四日が何の日か分かる?」
「…………悪いがちょっと思い出せない」
「地球ではクリスマスの日だよ」
「クリスマス?…………ああ、サンタがプレゼントを持ってくるっていうあれか」

 数秒考え込んでようやく思い当たったのか、得心がいったようにクロノは何度か頷いた。
 フェイトとクロノは恋人関係になるのと同じくして、母の元を離れてミッドチルダに居を構えた。そう
なると元がミッド生まれのミッド育ちであるから、地球の祭事にはすっかり疎くなってしまっている。

「半分正解。それとね、恋人が愛を確かめ合う日でもあるんだよ」
「そういえばやたらとカップルを見かける日だったような覚えが……」
「だから」

 一度立ち上がり、クロノと向き合う形になるよう膝の上にフェイトは座り直す。

「私の恋人であるクロノサンタさんにプレゼント欲しいな」
「そんなこと言われても用意してないぞ。それにサンタは良い子にしかプレゼントを持ってこなかったは
ずなんだが」
「もう私、子供じゃないよ。だから、別のプレゼントをちょうだい。例えば……」

 フェイトは向き合ったクロノの頬に手を伸ばし、産毛を指でさらさらと撫で上げた。

「クロノのと私の赤ちゃんとか」

 子供ではなくなった証である豊かな乳房をクロノの胸板に押し当て存分に感触を伝えさせ、そのままキ
スした。
 なんとなく予測していたのか、クロノはすぐに応えて舌を絡ませてくれる。指もフェイトの背骨沿いに
こそばすように降りてきて、スカートの上からゆったりと尻を撫で回した。
 恋人同士の時間から男女の時間になだれ込んでいく前に、フェイトは優しくそっと囁いた。

「メリークリスマス、クロノ」
300三人のクロノ・ハラオウンとクリスマス:2008/12/31(水) 09:51:41 ID:FPJJ7YiW
          ※



「はあぁぁん……」

 火照った吐息が、闇夜にも白い。
 冬の真っ盛りだが、カリムは部屋のエアコンはつけていなかった。
 その方が、裸で抱き合っている愛人の体温が伝わってくる。
 とはいえ、汗にまみれた背中はどうしても凍てつきそうに冷たくなってしまう。カリムは激しく動いた
二つの身体によってベッドの隅に追いやられたシーツを被り直す。二人分の温もりが、シーツの中にじわ
じわと満ちていく。
 クロノの胸板に耳をつけ鼓動を聞きながら、カリムはぽつぽつと寝物語を始める。

「昼間にはやてが来て言っていたんですけど、今日は九十七管理外世界ではクリスマスという日らしいで
すね」
「そうですね」
「サンタクロースという不思議なおじいさんが子供にプレゼントを配って回る日。夢がありますね」
「半分はおもちゃ会社がでっちあげたようなようなものですよ」

 なんともロマンの無いことを言うクロノ。

「いいんですか。家族と一緒に祝わなくて」

 ちょっと海鳴に残している家族のことを口にしていじめてみた。
 不倫関係になってからそれなりに長いので、これぐらいならクロノが気分を害さないことは分かってい
る。

「……プレゼントは贈ってあるからいいですよ。どうせ聖王教会に来なかったとしても、別の用事で帰れ
そうにありませんでしたから」

 家族の下へ帰らない後ろめたさから出た嘘ではなく、きっと事実だろう。
 しかしカリムは気づいていた。妻との結婚記念日や子供の誕生日には、クロノは必ず日程を空けるよう
にしていることを。
 そしてカリムの誕生日に教会を訪れてくれたことは、一度も無い。

(……いいんです。こうやって、身体だけでも結ばれたのだから。この人と同じベッドにいられる時間が
あるだけで、私にはこの上ないプレゼント)

 半分は強がりだと分かりながら、自分自身を納得させるために胸の中で呟く。
 聖王教の重鎮が異教の祭事を祝うのもおかしなことだが、カリムは顔を上げて耳元でそっと囁いた。

「メリークリスマス、クロノ提督」



          終わり
301サイヒ:2008/12/31(水) 09:52:37 ID:FPJJ7YiW
以上です。
エイミィさんはエロにもっていかない方がよく動く気がする。
そもそもフェイトとカリムがエロスの塊ですから、並べて書くとどうにも分が悪くなるような。
義妹金髪執務官に教会金髪シスター。ほら、名称だけでエロイ。
302名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 11:06:26 ID:rP/AkLRQ
GJ
三番目のクロノは一回スクルージばりに過去現在未来見直すべきだな
改心したりしないとは思うがw
303名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 13:00:14 ID:BrFEDP4+
GJ
クロノエロ過ぎですな。
一方、そのころ海鳴市では・・・・

「よく頑張ってくれたユーノ、おかげでクリスマス商戦を切り抜けられたよ、ありがとう」
「ユーノパパ、がんばっね」
「ヴィヴィオもお手伝い、ご苦労さん。ところで、お義父さん、お話が・・・ きゅうぅぅぅ」
「なのはママ、大変、ユーノパパがぁ!」
「はへ?・・・お父さん、何でユーノ君の首絞めてるのかな?」
「お父さんと呼んでいいとは言ったが、お義父さんと呼んでいいと誰が言ったかな?」
「ユ、ユーノパパ、フェレットさんになっちゃった」
「ヴィヴィオ大丈夫よ、ユーノパパ、気絶してるだけだから・・・ってお父さん、何するの?」
「決まってるだろう。ユーノが化けフェレットとわかったからには、なのはのためにも去勢しないと。獣●は」
「お父さん、少し頭冷やそうか」

その後、クリスマスを祝う高町家の庭に、一つの雪だるま、もとい包帯だるまが転がっていた。

という電波が来てしまった。 年の瀬なのに
304名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 14:48:39 ID:o+R/0Qk9
コミケから帰ってきて、ホテルのプロバイダ規制から脱出。
これで投下できるぜ、と思ったら、肝心のSS書いたテキストデータがどこ行ったかわからない俺ですよ。
しくしく………
305名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 15:42:22 ID:l8hteFFA
サイヒ氏GJ!
年末に良いもの見させていただきました。


>>304
ここは君の日記じゃないんだよ? あんま愚にも付かない話題を振るのはやめようね?
306名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 15:53:06 ID:CQ4RbHJD
>>301GJ!
エイミィさんのだけ読ませてもらいましたが、ほのぼのしてとても良かったです。

>>305
そこは普通に慰めてあげなよ?
というわけで>>304ドンマイ!頭の中のテキストデータが破損仕切らない内にもう一度書き起こして保存するんだ
307名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 16:36:06 ID:WuFwHZZ/
>>305
長い間このスレにいるが、そこは慰めるとこだろ……
空気嫁
308名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 17:56:13 ID:ZHyvAunq
>>301
GJです
エイミィさんはまあ……呼称からしてエイミィ"さん"ですしねー(何が?)

もうすぐ今年も終わりなんで、素敵なSSを投下してくださった全ての職人諸氏にもう一度GJを
あと素敵な妄想を提供してくださる住人の皆にもGJを
309名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 18:18:11 ID:7AlNnDH6
そですな。俺に乙!オマイラに乙!そして、職人諸氏GJ!
ふと気づくと、前は来ていたのに最近、名前を見かけない職人さん多くなってきて寂しいぜ
310名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 18:30:05 ID:+nKzt96U
放送終了してどんだけ(ry
311名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 19:30:40 ID:yUhR7+TM
もしある日突然に非殺傷設定なんてものが出来なくなったらなのはは人が殺せるか
312名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 19:33:27 ID:sMVCiNOS
死なない程度に手加減すればおk
313名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 19:39:36 ID:+Ypvleee
恭也と忍の子供に魔力があったら…という電波を受信
父親から剣術を、母親から身体能力を、叔母から魔力を受け継ぐ
デバイスは刀の形状で時折吸血鬼の血が暴走して

うわぁぁいすっごい中二
314名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 20:34:05 ID:+a5SvX+4
ニコニコですまんが、総統閣下シリーズみてたら
ヒトラーに罵倒されるはやて一行が思い浮かんだ。
315名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 20:34:49 ID:UP2DNT62
魔力を受け継ぐ云々ならユーノとすずかの子供のほうがまだしっくりくるな
316名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 20:43:15 ID:2Gx1GSRe
>>314
みんながみんなニコニコ見てるとでも思ってんの?
消えろニコ厨が
31769スレ264:2008/12/31(水) 21:08:41 ID:s/wxSyqW
業務連絡です。
91スレ保管完了しました。
職人の方々は確認お願いします。

なお91スレの>>403-404の作品は便宜上仮題を付けさせていただきました。
正式名称があるならば教えてください。

>>219
差し替えました。
318名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 21:22:19 ID:7AlNnDH6
>>317
          (⌒,,⌒)〜っ
        (⌒,_, ,⌒て ,,_,)
         ! ノ U。`yヘ_,、_ノ !    乙だぜ!これで一杯やってくれ
        し|~〜〜 。 ヘ⌒iヽフ  
            |! ゚o 。.゚(・ω|・ )  黒ビールドゾー
           |! 。o゚ ⊂ ゚ とノ     
          |i 。゚ ゚ o .゚|.。|. |    
         |i、..゜。。゚ ゚し|'J
.           |,,._二二二_,!
319名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 21:26:29 ID:BrFEDP4+
>>318
 ご苦労様です。
320名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 23:15:58 ID:eAehg6KG
>>316
スルーしようぜ!
321名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 00:26:47 ID:7Mnfa6/x
作者の皆様方、スレの皆さん明けましておめでとうございますです。
322名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 00:38:58 ID:0AGb94Zg
スレの皆様、あけましておめでとうございます。
今年もいい作品に巡り合えるといいですね。

追記
B・A氏含め規制中の方、いつまでかは分かりませんが現在運営恩赦により全規制が解かれている模様
投稿するつもりだったのなら今のうちに投稿したほうがいいのかもしれませんよ
323名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 00:45:52 ID:W++rCT37
賀正

そして>>317に限りない乙を・・・
324B・A:2009/01/01(木) 03:07:27 ID:kEOHu1aY
謹賀新年。

>>317
いつもご苦労様です。

>>322
教えてくださってありがとうございます。
では・・・・・・新年一発目に正月も大晦日も無関係なハード系で良いんだろうかとちと悩みましたが、
また規制食らう前に。


注意事項
・非エロでバトルです
・時間軸はJS事件から3年後
・JS事件でもしもスカ側が勝利していたら
・捏造満載
・一部のキャラクターは死亡しています
・一部のキャラクターはスカ側に寝返っています(その逆も然り)
・色んなキャラが悲惨な目にあっています、鬱要素あり
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・名前のあるキャラが死んでいきます
・主人公その1:エリオ(ヘタリオになる)
     その2:スバル
・SSXネタも含まれます
・タイトルは「UNDERDOGS」  訳:負け犬
325UNDERDOGS 第十三話@:2009/01/01(木) 03:08:10 ID:kEOHu1aY
時間は数分ほど遡る。
地上の基地が襲撃を受けているという知らせに艦内は騒然となっていたが、そんな騒ぎと無縁な場所が艦内に一ヶ所だけ存在した。
セッテが拘束されている整備室だ。倒れたイクスが医務室に運ばれた後、セッテの治療を担当していたマリエルまでもが
部屋を留守にしてしまい、彼女はそのまま放置されていたのだ。当然のことながら、自身の妹達が命の危機に瀕していることなど知る由もなかった。

(このベルトさえ外せれば、外に出られるのだがな)

四肢を拘束するベルトが恨めしかった。何度挑戦しても、接合部が軋むだけで拘束が解ける気配はない。
今の彼女にできることは、ここで静かに孤独と無力感を噛みしめることだけであった。

(そういえば、1人になるのは初めてだな)

思えば、自分の周りにはいつも誰かがいてくれた。ロールアウトした直後はドクターや姉妹達が、作戦行動中はトーレが、
ここで目覚めてからはオットーやディード、イクスがいつも側にいた。僅か数週間足らずの記憶は、
常に誰かと同じ時間を共有しているものばかりだった。だから、初めて味わう孤独感に戸惑っていた。
寂しい訳ではない。そもそも、自分はそんな感情など持ち合わせていない。ただ、酷く落ち着かないのだ。
まるで自分だけがこの世界から浮き出てしまっているかのように。
そんな得体の知れない気持ち悪さに戸惑っていると、長らく閉じられたままだった扉が開いて憔悴しきった表情のイクスが整備室に入ってきた。

「お前、その傷は・・・・・」

イクスの姿を一目見て、セッテは目を丸くした。彼女の両腕に幾本もの傷が走り、滲み出た血が色の白い肌を赤く染めていたからだ。
明らかに自然にできた傷ではなく、意図的にナイフで切られたものだ。誰かに虐待でも受けたのだろうか? 
そんな風に首を傾げていると、イクスは辛そうに表情をしかめたまま近づいてくる。

「す、すみません、驚かせて。こうしないと、意識が保てなくて」

言うなり、イクスは自身の左手の小指を関節とは逆の方向に無造作に折り曲げた。
骨が折れる小気味の良い音と彼女の苦悶の声が何とも言えない不気味なハーモニーを醸し出す。

「ば、馬鹿か、お前は? 自分で自分で傷つける奴があるか?」

「心配、してくれるのですか?」

「違う、一般論だ」

「世の中には、体を痛めつけることに快楽を見いだす者もいるそうですよ」

そう零したイクスの顔は、明らかに無理をしている表情を浮かべていた。額からは玉のような汗が零れ、眉間には苦悶の皺が深く刻まれている。
とても痛みに快楽を見出しているようには見えない。

「あなたに、お願いがあります。私を、スバルのところに連れて行ってください」

「なに?」

「さっき目覚めて知ったばかりなのですが、地上でスバルやあなたの妹達が、敵の襲撃を受けて苦戦してるようです。
ですが、何か理由があるのか、クラウディアは増援は遅れないらしくて・・・・・・・・」

「それで、私にそいつを助けろというのか?」

「いいえ、私を送り届けてくれるだけで構いません。その後は、逃げるなりなんなり好きにしてください」

「・・・?」

意図の読めない言葉に、セッテは首を捻る。話の流れからして、彼女はスバルという人物を助けたいのだろう。
しかし、イクスはとても戦闘要員には見えない。魔力反応は感じられないし、身のこなしも素人同然だ。
そんな者が戦場に赴いたところで、足手まといになるだけなのではないだろうか。
そんな疑問を抱きながらも、セッテの合理的な思考はこれを脱出のチャンスなのではないのかと考えていた。
ここでうまく彼女を懐柔できれば、脱走の手引をしてくれるはずだ。
人質として利用することもできるし、邪魔になれば殺せば良い。
326UNDERDOGS 第十三話A:2009/01/01(木) 03:08:43 ID:kEOHu1aY
「良いだろう、拘束は解けるか?」

「はい、鍵はここに・・・・・・・・・」

足を縺れさせ、イクスの姿がセッテの視界から消える。
小さな呻き声は聞こえてきたが、彼女はなかなか立ち上がろうとしなかった。
いや、ひょっとしたら立ち上がれないのかもしれない。イクスは少し前に倒れたばかりだ。
身体に酷い不調でも抱えているのかもしれない。

「お、おい・・・・・・・」

「だ、大丈夫・・・・大丈夫です。まだ、眠る訳には・・・・・・・・」

ゆるりと起き上がり、イクスは再び指を折る。
今度は薬指だ。
まとまな感性の持ち主ならば、直視することもできない光景だろう。
感情に乏しいセッテにしても、自分の体を傷つけるという行為に意味を見いだせず、どう反応を返して良いのかわからない。
だが、鬼気迫る彼女の眼には有無を言わせぬ迫力があった。
同時に、セッテは彼女が倒れた時と同じ無力感を覚えていた。
自分には何もできないという絶望感。
彼女の痛みや苦しみを理解できず、ただ見ていることしかできない苦痛。
どうしてそんな風に感じているのかはわからない。けれど、この感覚は酷く落ち着かなかった。
そして、気がつくと彼女はイクスに問いかけていた。

「お前は・・・・・何なんだ?」

この少女の存在は、自分を酷く掻き立ててる。
苛立ちや敵意を覚えながらも、傷つき苦しむ姿を見たくないとも思っている。
今まで、誰かに対してそんな風に思ったことなどなかった。
自分は機械であり、兵士だ。誰かに使われるために道具でしかなく、ただ戦って勝利することだけが生きる理由だった。
だから、誰かを気にかけるようなこともなかった。戦闘中に仲間をサポートすることはあっても、
その身を案じることはなく、敵に対しても任務達成のための障害以上の認識は持たなかった。
それで良いと思っていた。そうあることこそが戦闘機人の在り方なのだと思っていた。
しかし、イクスを見てるとその認識が揺らいでくる。
思考にノイズが走り、堪らなく胸が締め付けられる。

「お前は、何なんだ?」

「私は、兵器です。あなたと同じ、造られた身。勝利するために生み出された魔導生命・・・・・それが私、冥王イクスヴェリア」

「だが、お前は・・・・・・」

「ええ、人間です。けれど、兵器であることに変わりはない。
そして、友達を救えるのならこの呪われた力を使うことも、私は厭わない」

前にイクスは言っていた。
何かを成そうとする意思を持つことが、人間である証なのだと。
この少女は強い決意を持って、戦場に立とうとしている。
誰に命じられたわけでもない。自分自身の意思でだ。
自らを兵器と認識しながらも、他者の危険を気にかける優しさを彼女は持っている。
感情を持った兵器。それは、兵器としての効率を上げるために感情を排除した自分と正反対に位置する存在だった。
そして、彼女のような存在を自分は何人も見てきた。
自分と同じ技術で作られながらも、感情を有する姉妹達。
母親を目覚めさせるという確固たる目的を持って生きていたルーテシア。
常に主の身を案じていたアギト。
彼女達は兵器でありながらも心を持ち、それぞれが生きる意味を見出していた。
ならば、自分こそが異端なのではないだろうか。
いつだったかトーレも言っていた。自分はあまりに機械すぎると。
それは酷い矛盾だった。
感情を抑制することで兵器としての効率を上げたはずなのに、教育者はそれを持てと言ったのだ。
327UNDERDOGS 第十三話B:2009/01/01(木) 03:09:38 ID:kEOHu1aY
「あの2人も・・・・・・・・」

「?」

「あの2人も、こんな風に悩んだのか」

オットーとディード。
ナンバーズでありながら、造物主に弓を引くことを選んだ裏切り者。
彼女達も悩んだ末に敵対するという答えを見出したのだろうか。
だが、彼女達には守りたいと思える相手がいた。
あの2人はお互いを補完し合うことで欠けた人間性を手に入れたのだ。
しかし、自分には何かを成したいという思いも、譲ることのできない信念もない。
ただ誰かに命じられるままに戦うだけの機械。だというのに、自分は造物主以外に使われることを拒んでいる。
わからない。
どうすれば良いのか。
誰も答えを言ってくれない。
自分で探すしかない。
けれど、何を基準に判断すれば良い?
自分には何もない。
こんな時、トーレならどうするだろうか?

(いや、違う・・・・・・・・)

それでは、自分が意思を持っている意味がない。
どれだけ感情を否定しても、機械らしく振る舞っても、そうあろうと決めたのは自分自身の意思だ。
ならばその意思のままに戦うしかない。機械であるはずの自分が、どうして意思を持ってしまったのかを知るために。
兵器であるナンバーズが自意識を持って生まれてきたのには、必ず何か意味があるはずだ。
それに、もう無力感に苛まれるのはごめんだ。
道具は使われてこそ道具。何もできないまま埃を被っている訳にはいかない。

「所詮は兵器か・・・・・・・・」

「セッテさん?」

「ベルトを外せ。お前からの“命令”は、ナンバーズの名に賭けて必ず果たそう」

言った途端、弱々しい痛みが額に走る。
イクスがまだ無事な中指で額を弾いたからだ。
訳がわからず困惑していると、イクスは少しだけ呆れたように言った。

「違います。これは、友達としての“お願い”です」





エリオにとって、フェイト・T・ハラオウンは特別な女性だった。
彼女は自分に生きる理由と誰かを信じる心を教えてくれた。
彼女は自分に戦うための力と技を授けてくれた。
彼女は自分に惜しみない愛情を注いでくれた。
エリオ・モンディアルにとって、フェイト・T・ハラオウンは母であり、師であり、守るべき女性であり、
初めて愛おしいと思えた他人だった。
彼女の存在が、孤独だった彼の心を癒してくれたからだ。
研究所での辛い監禁生活で心身ともに壊れてしまったエリオは、管理局に保護されてからずっと両親が迎えに来てくれるのを待っていた。
だが、エリオが両親と再会することは遂になかった。傷が癒え、リハビリが始まり、自由に歩けるようになっても2人は
彼を迎えに来てはくれなかったのだ。
328UNDERDOGS 第十三話C:2009/01/01(木) 03:10:34 ID:kEOHu1aY
エリオは深く絶望した。
自分は捨てられたのだ。
自分達で生み出しておきながら、彼らは自分を実の子とも思っていなかった。
両親にすら裏切られたエリオは、いつしか誰も信用できなくなってしまった。
そんなエリオを優しく抱きしめてくれたのが、フェイトだった。
自分が放った電撃で傷つきながらも、悲しみを分け合いたいと彼女は言ってくれた。
あの一言がなければ、自分はずっと世界を憎んだまま殻の中に閉じこもっていたに違いない。
だから、彼女は間違いなく特別な人だ。

「・・・・・・いやだ」

その特別な人が、敵として自分の前に立ち塞がっている。
頭では偽物であるとわかっていた。あの人は3年前の戦いで治らぬ傷を負い、立つこともできない体になっている。
彼女が生きている以上、目の前に立っているのは偽物だ。だが、わかっていても刃を向けることはできなかった。
長い金色の髪と赤い瞳。
漆黒の衣装に純白のマント。
闇よりもなお黒い斧。
その佇まいは、見れば見るほど彼女と酷似している。
しかし、彼女の表情は一切の感情の色が消えた無表情であった。
まるで機械のように、重く正確な一撃を目にも止まらぬ速さで打ち込んでくる。

《エリオ、反撃しろ!》

「い・・・いやだ!」

放たれたフォトンランサーをギリギリで回避しながら、エリオは偽フェイトから距離を取る。
ストラーダを持つ手がガタガタと震えていた。その体は傷つき、至る所に火傷や切り傷が走っている。
対する偽フェイトは全くの無傷であった。
何度吹き飛ばされ、叩き伏せられたのかもわからない。
その度に立ち上がり、また吹っ飛ばされるからだ。
彼女の振りかざす刃はどこまでもフェイトと同じであった。
構え方、振り方、コンビネーションや魔法の癖まで、何もかも同じだ。
それが一層、エリオを追いこんでいった。
最早、彼の戦意は完全に失われていた。
目の前の敵を打倒しようという意思は彼女と相対した瞬間に砕け散り、胸の内は空っぽだ。
それでもまだ生きているのは、彼の体に染みついた防衛本能が辛うじて攻撃を受け流しているからだった。
だが、それも長くは保ちそうにない。自分はやがて、恩人に似せて造られた人形に殺される。
わかっていても、エリオは反撃することができなかった。

《迎え撃て! このままでは殺されるぞ!》

「嫌だ・・・・・・・できる訳ないよ。僕に・・・・・僕にあの人は切れない・・・・・」

《あいつはフェイト・T・ハラオウンではない。精巧に造られた偽物だ》

「それでも嫌だ! 僕は・・・・・あの人とは戦いたくない!」

唸りを上げて振り上げられた一撃が腹部を襲う。
掬い上げるように天井へと叩きつけられ、衝撃で意識が飛ぶ。
落下の際に何とか受け身を取ることはできたが、視界が明滅していて腕に力も入らなかった。

「止めて・・・・・止めてください・・・・・その姿で、あの人の姿で・・・・・・そんなこと・・・止め・・・・」

嗚咽を交えながら、エリオは懇願する。
その願いを聞き入れてくれたのか、偽フェイトの動きが止まる。
続いて、彼女とエリオの間の空間に仮想ディスプレイが展開し、金色の瞳をギラギラと輝かせたスカリエッティの姿が映し出された。
329UNDERDOGS 第十三話D:2009/01/01(木) 03:11:35 ID:kEOHu1aY
『絶望したかい、エリオ・モンディアル』

「・・・・・・ジェイル・スカリエッティ・・・・・・・お前か、お前がフェイトさんを・・・・・・」

『そう、複製させてもらったよ。私が意味もなくフェイト・テスタロッサの五体を引き裂いたとでも思っていたのかい? 
あれは研究用のサンプルとするために奪ったのさ。そして、彼女の誕生と共に、プロジェクトFは1つの完成へと到達した』

ほくそ笑みながら、スカリエッティは新しい仮想ディスプレイを開いて半透明な偽フェイトの裸体と、
彼女のデータを思われる文章を羅列させる。その大半はエリオには理解できない専門用語ばかりだったが、
幾つか読み取れた単語から、彼女が機人化処置を受けていない純粋な人間であることはわかった。

『プレシア・テスタロッサは記憶転写型クローンの実用化には成功したが、完成させることはできなかった。
生み出された個体はオリジナルと癖や魔力資質、一部の人格に違いが生じることは君も知っているだろう? 
データを別の媒体にコピーする際に劣化が生じてしまうように、彼女が確立した技術では形を似せることはできても
完全な複製を作り出すことは不可能だった。しかし、私はその技術を密かに回収し、独自に研究を続けることで、
肉体のみではあるが完全なクローンを生み出すことに成功した。見たまえ、目の前にいるサンプル001は骨格の造りから
魔力量に至るまで、寸分の狂いもない』

「完全な、クローンだって・・・・・・・・」

霞む視界で見上げた偽フェイトは相変わらずの無表情だ。
瞳からは生気は感じられず、あの優しくも凛々しい眼差しはどこにもない。
自分を孤独な闇から救い出してくれたあの温もりを、彼女からは感じることができなかった。

「違う・・・・・同じじゃない」

『ふむ、それは間違いではない。何しろ、彼女に記憶は与えていないからね。
当たり前かもしれないが、フェイト・テスタロッサの記憶なんて正義感から私を攻撃してくるだろう。
だから、そこにあるのは空っぽの抜け殻だ。しかし、抜けがらでもフェイト・テスタロッサの
戦闘技術を完璧に再現している。彼女は戦闘中、フェイト・テスタロッサと同じように思考し、
同じ行動を取るのはそのためだ。そして、私はいつか完璧な記憶転写技術を完成させる。
最も均整の取れた体と記憶を持つ複製体。これこそが、生命操作の到達点であり、新たなゴールへ向けた通過点だ』

自分の言葉に酔いしれるように、スカリエッティは演説する。
彼の言葉をエリオは半分も聞き取ることはできなかった。
胸の内から込み上げてくるのは恩人を辱められたことへの怒りと憎しみ、そして人形と化した彼女の複製への哀れみだった。
可能ならばその猥褻な口にストラーダを突っ込み、電撃で焼き焦がしながら肉体を真っ二つに引き裂いて黙らせたかった。

「お前は・・・・・・どこまで人の命を侮辱すれば気が済むんだ」

『憎いかい、この私が? その怒り、実に良い。3年間も熟成させた甲斐があるというものだ。
君は正に理想的なサンプルとなってくれた』

「何を言っている?」

『おかしいと思わなかったのかね? 3年前、私は君を殺すことができたのにそうしなかった。
それどころか、挑発とも取れる捨て台詞を残して背を向けたのだよ。普通、そんなことすると思うかい? 
あれはわざとだ。君を怒らせ、戦場に縛りつけ、戦技を磨かせるためのね。さっき言ったように、
私が完成させたクローニング技術はオリジナルの戦闘技術もそっくり模倣する。
だから、素体となるのは相応の実力者でなければならない。3年前の君は資質こそ優れていたが、
まだまだ荒削りだった。そこで私は怒りを利用して君を鍛えることにしたんだ。
あの土壇場で思いついたにしては、中々に上手くいったよ。君は私の目論見通り技術を磨き、
囚われの姫たるルーテシアを救うために奔走した。君の怒りが、憎しみが、正義を志す心が、騎士道を貫く信念が、
君自身を鍛えていった。それは同時に、感情が肉体に及ぼす可能性の検証にもなり、私の仮説を補完する結果にもなった。
ルーテシアを解放するチャンスを与えてあげたのはそのご褒美さ。そして、今こそ捲いた種を狩る時だ』
330UNDERDOGS 第十三話E:2009/01/01(木) 03:12:13 ID:kEOHu1aY
「この襲撃は、僕が狙いだって言うのか?」

『まさか、本命は君達レジスタンスを始末することさ。そのついでに君や君以外のサンプルも回収するつもりでいるがね。
わざわざここを見つけ出すためにクアットロの命を差し出したんだ、彼女の損失に見合った収穫がないと割が合わない』

淡々と語るスカリエッティの言葉に、エリオは怒りを隠せなかった。
彼は自らが生み出した娘ともいえる存在を失うとわかっていて、この作戦を決行したのだ。
この男は自分を捨てた両親と同じだ。身勝手な理屈で命を弄び、使い捨てる悪漢だ。

「お前と言う奴は・・・・・・・ルーテシアの人生を弄び、僕やフェイトさんを生み出すきっかけを作り、
世界を混乱させ支配し、次は神様気取りか。お前は・・・・・お前だけは絶対に・・・・・・」

『絶対に? 絶対になんだというのだい? まさか殺すのかい、この私を? 君のその手で・・・・・・その薄汚れた、
真っ白な手で人を殺せるのかい、偽善者の少年よ』

「偽善者、だって?」

『そうだろう。君は対人戦では常に非殺傷設定での攻撃を心がけている。紳士的で実に心優しいことだ。
だが、戦場で手足を動きの止まった者達はどうなると思う? 武器を失った者は? 魔力を失った者は? 
戦う術を失った者達はどうなると思う? どんな末路を辿ると思う?』

「そ、それは・・・・・・・・」

『答えは死だ。君が殺さずとも、他の誰かが殺すだろう。武器を失い、脅威ではなくなったからと言って敵意が消える訳ではない。
例え標的とならずとも、流れ弾や味方の巻き添えを食らうことだってある。戦場で半端な優しさなどというものは、
ただ死を広げるだけなんだ。それとも、自分さえ人を殺さなければそれで良かったのかい?』

「・・・・・・・・」

『それだけじゃない。君は空戦魔導師や空戦型戦闘機人と戦ったこともあったはずだ。
君に倒された彼らはどうなったと思う? 地面に叩きつけられ、絶命したよ。
例え直接殺さなかったとしても、君は彼らが死ぬ原因を作り出したのだ。
君のやっていることは、ただの偽善だ』

「違う・・・・僕は・・・・・・僕は・・・・・」

それ以上は言葉が出てこなかった。
魔法はクリーンな技術であり、非殺傷設定ならば誰も殺さずに争いを治めることができるとずっと信じていた。
これが命を賭けた戦いであることも、他のみんなが敵対した相手を殺していることも知っていた。
だが、わかった振りをしていただけだったのだ。わかった振りをして、聖人面で人を傷つけ続けてきた。
自分の見えないところで人が死んでいるとも知らずに、自分は誰も殺していないと信じきって。

(僕は・・・・人殺しだ・・・・・・・)

ルーテシアと再会した日、シグナムを救うために薙ぎ払った戦闘機人達はどうなった?
ルーテシアを救いたいという自分のわがままのために、何人の人間が犠牲になった?
暴走した地雷王や白天王に、何人の仲間が殺された?
直接的にも間接的にも、自分は人を殺している。
こんなはずではなかった。
誰かを守れる強さを求めたはずだった。
ただ運命を憎むしかなかった過去の自分と決別できる強さが欲しかっただけだった。
それなのに、自分は全く正反対の力を手にしていた。

『そろそろお喋りはお終いにしよう。君の複製は培養槽の中の彼女の複製の隣にでも置いてあげるよ』

偽フェイトの足下に魔法陣が展開し、金色の光が左手に集束していく。
禍々しいその輝きは、どこまでもフェイトの魔力光と酷似していた。
戦意を喪失し、心まで折れてしまったエリオにその一撃を回避するだけの余裕はない。
結局、自分は何も守れずに死んでいく。ただ世界を混乱させ、多くの人々を殺した偽善者として。
331UNDERDOGS 第十三話F:2009/01/01(木) 03:13:10 ID:kEOHu1aY
「フェイト・・・・さ・・・ん・・・・・・」

か細い呟きは、轟音によってかき消される。
解き放たれたサンダースマッシャーは大気を引き裂きながら空間を埋め尽くし、
動けぬエリオを焼き尽くさんと迫る。
その時、凛とした響きが背後の暗闇より発せられた。

「フリード、ブラストフレア!」

放射された炎が雷の砲撃とぶつかり合い、視界を赤と金色で染め上げる。
それによって僅かに生まれた隙を突き、暗闇から飛び出した少女がエリオを安全圏まで下がらせ、
彼を庇うように偽フェイトの前へと立ち塞がった。

「キャ・・・・・ロ・・・・?」

虚ろとなった目で、自分を助けてくれた少女を見やる。
腰まで届く紫色の髪と、漆黒のグローブ。苦しげな表情を浮かべながら立つその傍らには、
在りし日のキャロと同じく白き飛竜が羽ばたいていた。
まさか、という驚愕がエリオを襲う。
そんなつもりではなかった。ただ無我夢中で、彼女を戦いの呪縛から解放するために戦っていただけだった。
もう二度と、戦場に立たせるつもりなんてなかった。だが、彼女は自分を助けるために再び戦場へと降り立った。
自らの手で殺めた少女の竜を使役して。

「ルー・・・・・・」

「エリオはここにいて。あの人とは、私が戦う」

決意を込めた眼差しを向け、ルーテシアは告げる。
その首には、ガリューが遺した紫紺のマフラーが巻かれていた。

『ほう、久し振りだねルーテシア。しばらく見ない間に、随分と怖い顔になったものだ』

そう言って、画面の向こうのスカリエッティが手にしたボタンに親指を押し込む。
エリオは知らないことだが、あれはルーテシアに施されたコンシデレーション・コンソールを起動するためのスイッチだ。
彼は再びルーテシアを暴走させ、自分に従わせようとしたのである。しかし、レリックと共にコンソールを除去した
ルーテシアには何の効果もなかった。

「もう、私はあなたのお人形じゃない」

『通用すれば御の字だったんのだが、やはりそううまくはいかないか。しかし、今の君で彼女に勝てると思うのかい? 
検出された魔力量を見るに、レリックを失ったのだろう? 今の君は精々がAAランク止まり。
しかも、召喚蟲は偵察用のインゼクトのみだ。そんな状態で、私の最高傑作たる彼女に勝てるとでも?』
332UNDERDOGS 第十三話G:2009/01/01(木) 03:13:53 ID:kEOHu1aY
「それでも、エリオは殺させない。この人は私の罰、償わなければいけない人。
ドクター、あなたを倒して、私は償いを始める」

ルーテシアの体が光に包まれ、どこからか吹いた風がマフラーをなびかせてエリオの視界を塞ぐ。
同時に、彼女が身に纏っていた手術着が弾けて紫紺の防護服へと変化していった。
防護服はルーテシアの精神面の変化とともに、その形を変えていた。全体的な意匠はそのままだが、
ガリューのマフラーはそのまま残っており、頭にはキャロのバリアジャケットと同じデザインの帽子を被っている。
それは彼女の決意の証。
この戦いを終わらせ、罪を償いたいという意思表示であった。
そして、彼女の強い思いを、エリオはただ黙って見ていることしかできなかった。





絶え間なく襲いかかる戦闘機人を何とか凌いだザフィーラは、息を乱しながら片膝を突いた。
手強い相手だった。あれだけの戦力を相手にしたのはいったい何百年振りだろうか? 
ここだけでもあれほどの戦力を投入してきたのだから、他の場所が受けている襲撃の規模を考えると寒気すら起きてくる。

「ザフィーラ、無事か!?」

「ギャレット? ああ、何とかな。だが、これ以上は保ちそうにない。次が来たら終わりだ」

「今、クラウディアから伝令が来た。敵の狙いは恐らく転送装置のゲートらしい。
奪取の危険があるため、向こうから使用不能にされた」

「見捨てられた訳か。いや、指揮官としては当然の判断だ」

「俺達は重要なデータを破棄し、この基地を放棄する。突破口、開けるか?」

「やるしかなかろう。他のみんなには?」

「今、知らせて回っている。歯痒いな、俺達の敗北だ」

「生きていれば、チャンスはまた訪れる。今は生き延びることだけを考えろ」

足並みの揃った軍靴の足音が聞こえ、2人は背中合わせに立つ。
周囲を取り囲むのは無数のガジェットと戦闘機人達。
満身創痍になりながらも、2人はまだ抗うことを止めようとしなかった。





高速で飛翔するトーレの動きを捉えきれず、オットーは繰り出された拳の連打を受けて吹っ飛ばされる。
ライディングボードのおかげでダメージは最小限に抑えることはできたが、蓄積した負担が大きすぎて
あちこちでエラーが起きている。何とか立ち上がることはできたが、動き回るのは難しそうだ。

「オットー!」

「よそ見をしている暇など与えん!」

駆け寄ろうとしたディードの前にトーレは回り込み、腕のインパルスブレードを振るう。
すかさずディードはISを発動し、自身も高速機動へと移った。
常人では視認すらできない神速の斬撃がコマ送りのように引き伸ばされ、僅かに見えた隙間を縫うように潜り抜けてトーレの背後を取る。
だが、トーレはそれを予知していたかのように反転してディードの斬撃を受け止め、死角から撃ち込まれたレイストームを
斬り合いながら回避し、あろうことかディードを圧倒していく。
333UNDERDOGS 第十三話H:2009/01/01(木) 03:14:30 ID:kEOHu1aY
「・・・強い」

「どうした、その程度では死ぬぞ!」

更に加速したトーレはディードを叩き伏せ、オットーをライディングボードごと蹴り飛ばす。
予想していたことだったが、トーレは強かった。彼女のISは高速機動を行うライドインパルス。
速く動く、ただそれだけの能力だ。ディードのように剣を自在に使える訳でも、自分のように砲撃やバリアの構築が
できる訳でもない。だが、彼女は技能の差を膨大な経験値と身体能力で差で埋め合わせ、素早いスピードで連携を崩すことで
こちらを圧倒している。自分達の攻撃は尽く回避され、逆に防御の上から強烈な一撃を叩き込まれている。
まるで悪夢を見ているような光景だった。

「ディード、まだやれる?」

「ええ、目も見えるし手も足も動く」

「ならいくよ、ディード!」

放射されたレイストームが雨のようへと降り注ぐ。だが、トーレのISを以てすればこの程度の弾幕など回避することなど造作もない。
これは見せ札だ。初めから当てようとは思っていない。本命は光の雨に紛れて頭上から襲いかかるディードの双剣と見せかけることで、
トーレの注意を惹きつけることだ。真の狙いは彼女の足下に回り込ませたレイストームの第二射である。

「ISツインブレイズ」

「レイストーム!」

トーレがディードの剣を回避した瞬間を見計らい、忍ばせていたレイストームを噴き上がらせる。
全方位から囲うように伸びた緑色の光を回避することは、さしものトーレでも不可能だ。

「甘いぞ、オットー!」

着地したディードの体がグラリと揺れ、トーレのもとに引き寄せられる。
攻撃を回避したと見せかけて、ディードの首の裾を掴んでいたのだ。そして、彼女を盾に利用しようとしているのだ。
このままでは、ディードにレイストームが直撃してしまう。咄嗟にオットーはISを操作してレイストームの軌道を捻じ曲げたが、
その隙を突かれてトーレは再び加速。高速の勢いに任せて投げつけられたディードの体を受け止めることもできずに転倒する。

「3年前より経験を積んだようだな。動きのパターンが読みにくくなっている。
だが、そこまでだ。お前達2人では私を倒すことはできない」

ISを解除して着地したトーレが、感情のこもらない声で呟く。
最後の抵抗とばかりにレイストームを放つが、首を捻っただけで回避される。
抵抗はここまでだ。死力を尽くせばまだ2分ほど粘れるかもしれないが、
互いの実力差を考えればそれも無意味なことだった。オットーの指揮官としての頭脳が、
自分達の敗北を告げている。

「・・・・・オットー・・・逃げて・・・・・」

「・・ダメだ・・・・君こそ逃げるんだ・・・・・・」

「オットー!」

(ディード、ごめん)

ディードの悲痛な叫びを背に受けながら、軋む体で何とか立ち上がってライディングボードを構える。
ディードを死なせる訳にはいかない。双子とはいえ、番号順で見れば自分は彼女の姉にあたる。
姉は妹を守るものだ、何があろうとも。
334UNDERDOGS 第十三話I:2009/01/01(木) 03:15:56 ID:kEOHu1aY
「悲しむことはない、直にディードもお前のもとに送ってやる」

「いいえ・・・・この体が動く限りは・・・・・」

何が何でもディードを守ると、オットーは姉を睨みつける。
すると、トーレは静かに俯いて呟いた。

「変わったな、お前達」

「変わるんです、人は」

「そうだな。そして・・・・・・・」

そこで言葉を切り、トーレは反転して飛来した物体をインパルスブレードで叩き落とす。
床に突き刺さったそれは三日月状に歪曲した刃だった。それを見て、オットーとディードは驚愕し、
トーレは静かに眉を潜める。

「お前も変わったか、セッテ」

「いえ、ですが・・・・・・・・」

暗闇から更に3本の刃が飛来し、縦横無尽に宙を駆けながらトーレを牽制する。
その隙にオットーはライディングボードの起動し、ディードを引きつれて駆けつけてくれた彼女のもとへと移動する。

「私が変われるか、ただの道具で終わるのか。それを見極めるためにも、この2人を壊させてはいけないと、
私は判断しました。私自身の意思で」

「お前までドクターを裏切るということか。悲しいものだな」

「感情を持てと言ったのはあなただ、トーレ。私はあなたの“命令”を実行するためにここにいる。
それに、敗北した兵器に戻る場所などないのではないですか?」

「そうだな、その通りだ。そして、これは私の不始末ということか・・・・・・・ならば、もう語る舌は持たぬ。
ナンバーズの誇りに賭け、裏切り者のお前達を破壊する」

「命令は果たす、あなたでもその邪魔はさせない!」

トーレが床を蹴るのと、セッテがブーメランブレードを手元に転送するのはほとんど同時であった。
ぶつかり合った2つの刃が火花を散らし、セッテの巨体が僅かに後退する。
だが、セッテはナンバーズの中でもトーレに次ぐ怪力の持ち主であり、ディードやオットーでは触れただけで弾かれていた
彼女の拳を辛うじて受け止めていた。

「セッテ!」

不安からオットーは叫んだが、セッテはそれを無視してISを発動、浮遊させたブーメランブレードを背後から襲わせ、
トーレの防御を崩して彼女の腹部に強力な蹴りを叩き込む。そして、ブーメランブレードでトーレの動きを封じながら、
セッテはオットーとディードの側へと後退する。
335UNDERDOGS 第十三話J:2009/01/01(木) 03:16:38 ID:kEOHu1aY
「何分戦える?」

「え・・・・」

「何分だ?」

「・・・2分・・・・いや、1分半」

「50秒で隙を作る。離脱のチャンスはそこだけだ、援護しろ」

「セッテ、逃げるってどういう・・・・・」

「ここは放棄された。今、伝令が撤退を呼びかけている。お前達を逃がせというのが、
彼女から受けた最後の“お願い”だ」

「セッテ、いったい何を・・・・・・・」

「ディード、今はセッテを信じよう。ツインブレイズ、いけるね?」

「・・・・ええ」

「セッテがフロントアタッカー、ディードがガードウィング、僕がセンターガードだ。
コンビネーションは即興で組み立てる、息を合わせるんだ」

「了解。聞こえた、セッテ?」

「ああ、伊達に遅く生まれていないということを見せてやれ」

ツインブレイズで高速機動へと移ったディードが前衛のセッテに追いつき、ライドインパルスを封じるために
左右から畳みかけていく。その間にオットーはレイストームのチャージを開始し、いつでも離脱できるように
ライディングボードのエンジンを温めておく。

(ウェンディ、力を借りるよ)

今は亡き姉妹に語りかけ、オットーは意識を戦場へと戻す。
残り戦闘可能時間は75秒。それを過ぎれば自分達はトーレに殺される。
不安はあった。セッテという心強い増援を得たとはいえ、それでもトーレは強敵だ。
例え僅かな隙を作るだけとはいえ、3人だけで挑むのは分が悪い。だが、それは絶望的な不安ではなかった。
数値的な意味ではない。もっと直情的で無根拠な信頼がセッテの登場と共に生まれていた。
それはきっと、ディードも同じはずだ。
やると言ったからには、セッテは必ずやってくれる。
そして、セッテの宣言からきっかり49秒が経過した瞬間、飛来したブーメランブレードを弾き返したトーレに
ディードが襲いかかり、それに反応したトーレの背面にほんの僅かな隙が生じた。
時間にしてコンマ5秒。
考えるよりも早く、オットーはレイストームを照射した。同時にディードは最後の力を振り絞ってセッテを回収し、
ライディングボードの背部のでっぱりを掴む。
336UNDERDOGS 第十三話K:2009/01/01(木) 03:17:28 ID:kEOHu1aY
「オットー!」

「わかっている!」

着弾と同時にライディングボードを走らせ、駄目押しとばかりにセッテは黒煙に向けて砲撃を撃ち込んだ。
そのまま3人は疾走するライディングボードに掴まったまま、戦場となった基地から離脱していく。
追撃はなかったが、3人の脳裏には確信めいた予感があった。
彼女とは、また戦うことになるだろうと。





もう敵を何十機破壊したのかもわからなくなった。
拳を震えば何かが壊れ、人だったものが残骸に成り果てていく。
敵も味方も次々に倒れていった。
怒涛の如く押し寄せる敵勢を抑えることはできず、防衛ラインは何度も突破されそうになった。
その度にスバルは我が身に施された悪魔の兵器を起動させ、向かってくる機人を屠り続けた。
そうして気づいた時には、その場に立っているのは自分だけとなっていた。
何てことはない、自分が弱かっただけなのだ。
襲いかかってくる敵は全て破壊した。飛来した弾丸や熱線は全て叩き落とした。
その様は正に一騎当千、エースと呼んでも過言ではなかった。
しかし、それでも守ることはできなかった。
どんなに強くても、1人で抑え込める数には限りがある。
こちらが1回の攻撃を行う間に相手は10以上の攻撃を繰り出してくる。
5つの攻撃を防げても、3つの攻撃が防御を搔い潜って仲間を吹き飛ばす。
周りに積み重ねられていく屍の山に、スバルの心は加速度的に摩耗していった。
倒れている顔はみんな見知った者達のものだった。
守れなかった。
壊すしかない力でも、守れるものはあると信じて振るい続けた結果がこれだ。
かつて、恩師が言っていたらしい。自分は“ストライカー”になれると。
戦場に輝く希望、常勝をもたらす不屈の存在。
自分はそれになれなかった。破壊しか生み出せず、死神の如く死を呼び寄せるだけの存在に成り果てた。
自分は彼女の期待を裏切ったのだ。

「もう・・・・いやだ・・・・戦えない・・・・・・・」

力尽きたスバルは、その場で前のめりに倒れ込んだ。
もう動けない。体よりも先に心が折れた。
戦う意思がもう湧いてこない。

(ごめん、ギン姉・・・・・イクス・・・・・・・)

大挙して押し寄せる敵に抗うだけの力はもう残されていない。
後はこのまま、彼らに屠られるのを待つだけだ。
その時、暗闇より躍り出た1つの影が両腕を一閃させ、群れを成したガジェットを粉々に打ち砕いた。

「・・・・・・・・?」

見覚えのある女性が、敵と対峙していた。
その女は170を超える長身で、髪は草木よりも深い緑色。顔はバイザーで隠されており、
レオタードのような衣装を纏った体は全体的に筋肉質だが女性らしい丸みも帯びている。
異性からすれば非常に魅力的な体型であるが、不気味な佇まいはまるで幽鬼のようであり、
全身からは滲み出た死の匂いが何人も寄せ付けない不吉さを醸し出していた。
337UNDERDOGS 第十三話L:2009/01/01(木) 03:18:02 ID:kEOHu1aY
「マリ・・・アージュ・・・・・・・」

死体より生み出された戦闘兵器。
無限に増殖し、ただ破壊を呼ぶだけの混沌の使者。
冥王イクスヴェリアが従えし屍人形。
かつてイクスを縛り付けていた忌まわしき存在が、再び自分の目の前に立っていた。

「どう・・・して・・・・・・イクス・・・・・」

《・・・・・敵対行動は感知されず・・・・・優先目標の最下位に設定・・・・・・最優先攻撃目標
・・・・第一位、敵機動兵器・・・・第二位、敵機械兵士・・・・・・索敵・・・・・補足完了。
単体での撃破は不可能と判断・・・・・・》

《問題ない、既に軍備は整った》

《敵対勢力を速やかに駆逐し、この場にいる者達のマリアージュ化を行う》

どこからともなく、次々にマリアージュ達は現れて群れを成していく。
生産されているのだ。死んでいった者達の骸を利用して。
彼女達は、死者のなれの果てだ。
そして、仲間がマリアージュと化していくのを、スバルはただ見ていることしかできなかった。





よろめきながらも壁に手をつき、イクスは乱れた呼吸を整える。
マリアージュの生成は完了した。機能不全に陥ったこの体でも、彼女達を生み出すことに支障はない。
ただ、1個の核の生成に酷く消耗させられたことを除いて。
だが、1体でも生むことができれば十分だ。全てのマリアージュには自分と同じ核の生成機能が備わっており、
ここには材料となる死体にも事欠かない。人の尊厳を無視し、無限に増殖する魔の兵器。
それが、イクスヴェリアとマリアージュの本質だ。

「ごめんなさい、スバル。けど、私にはこれした戦う術がない。命令権を失った私では、
攻撃の優先順位を決めて時間を稼ぐのが精一杯・・・・・・・・彼女達の牙があなた達に剥く前に・・・・逃げて・・・・・・・」

静かに左手の人差し指を折り、巻き込んでしまった者達に詫びながら、
イクスは覚束ない足取りで自らが産み落としたマリアージュの後を追う。
今の彼女を突き動かしていたのは、友を救いたいという一心のみであった。


                                             to be continued
338B・A:2009/01/01(木) 03:23:56 ID:kEOHu1aY
以上です。
スカリエッティに某機人大戦の仮面のボスが乗り移りかけた気がした。
「それも私だ」って本気で言わせかけたよ。
実際には本編5話辺りまで存在を知らなかったみたいな感じですが。
もしもクアなら偽フェイトはもっとえげつない手段で使用されていたと思いますが、
何せスカリーはああいう人なのであっさり正体明かすは見せびらかすは自分から作戦ばらすはとなりました。



ところで、マリアージュって某映画のエージェント・○○○みたいだね。
339名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 04:36:31 ID:e/P6Uvz4
>>338
あけましておめでとうございます。

GJ!!
スカリーの外道っぷりとイクスの決意でまた少し鬱になりそうです。
フェイトの手足引きちぎった理由があってよかったような、全く良くなかったような。
正直ルー子もエリオと一緒に逃げてと言いたい。嫌な予感がプンプンします。
せめてこの二人は生存を…
それにしてもエリオとスバルは二人とも今までの生き方で悩んでしまったんですね。
二人とも優しすぎるからここで戸惑ってしまうのが、また魅力的です。
340名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 10:50:22 ID:LlaPHPwQ
謹賀新年
>>338 GJ
まあ、このスカだと良い人過ぎだから、あえて外道作戦を行うつもりはないけれど
私の作品なら、クロノ側の死神博士が、エリオに偽フェイトの首から下だけ確保せよ。
後はオリジナルとつなげるからがんばれと発破を掛ける展開になってしまいそうだ。
341名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 14:05:59 ID:QDC/bPea
あけおめことよろ!

B・A氏GJ!
エリスバ両方とも、精神的にはやっぱりまだまだだったんだな…
今まで多くの他人を自分の信じる正義のために、そして復讐のためにと無理にでも正当化してきたけど、本当は大丈夫じゃなかった
あくまで目を背け続けていただけと、わかってある意味安心した
どうかそんな二人に幸あれ!
3427の1:2009/01/01(木) 16:29:12 ID:LlaPHPwQ
あけましておめでとうございます。
BA氏の後で、気は引けますが、書き込みさせていただきます。

注意事項
・微エロ?で一部バトルを含みます
・前作:「再び鎖を手に」の続編です。
・時間軸はJS事件から1年後
・ユーノ×なのはです。
・捏造満載
・キャロ・エリオ・ルーテシアは出ません。(3人のファンの方、すみません)
・前作からのオリキャラ出ています。
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・主人公 ユーノ
・レス数4の予定です。
・タイトルは 翼を折る日
343名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 16:30:08 ID:LlaPHPwQ
第1章 
1-1
 無限書庫の闇は深い。

 管理世界のあらゆる情報を呑み込み、日々、増殖し続けるこの怪物の食欲が満たされることは永遠にない。
 今日も7つの管理世界の古代遺跡から収集された石版や書籍、再生デバイスが不明なディスクなど大量の資料
が無限書庫に運び込まれてくる。

 これらの文献を無限書庫の主と称されるユーノ館長が定めた基準に従って分類し、あらかじめ割り振られた区
画に運び込むのがレナード・スクライア改めレナード・スライとその一族の請け負った仕事の一部である。
 スライ一族の若者たちの顔は、遺跡盗掘という非合法な仕事から解放され、民間協力者という身分とはいえ、
時空管理局で働ける喜びに満ちていた。
 もう管理局の執務官や武装局員の影に怯えたり、時空犯罪者や同業者の襲撃に脅かされることもないのだ。

「おい、ディスクを入れる空ボックスの規格が合わないぞ。A1じゃなくてF3を5箱持ってこい」
「封印が甘い。この文献は、第176区画の非公開文献所蔵庫に入れるんだぞ。再度、封印処置を行え」

 眼下で文献の仕分け、搬送作業を行う一族の若者たちのやり取りを見ていたレナードの右腕が声を上げた。 

「レナードさん、この石版200枚はどこにしまうんですか?」

 右手の義手にしてデバイスでもあるアーガスを通じて、搬送係の若者が指示を仰いできたのだ。
「361番区画石版所蔵庫B223の第77管理世界遺失文明のところだ」
 アーガスの助けを得て、無限書庫の該当区画を探索したレナードが、一族の若者に指示を出し終えた瞬間2枚
のモニターが目の前に展開した。

「族長、クアンです。第498区画の拡張工事の見積もりが取れました。転送しますのでご確認ください」
 一族屈指の空間把握能力の持ち主クアンが提出した拡張工事の見積書に目を通しOKのサインを出したレナ
ードに、スキンヘッドの壮漢が息せき切って話しかけてきた。

「こちらフィッシャーマン。レナード、第33管理世界のフォルグ文明のデーターのデジタル化の進行状況が、
 予定より28%遅れているぞ。ブラック提督が館長を締め上げる前に済ませてくれ。機器の不調を盾にして
 追求をかわしてるが、それも限界が近いんだ。頼む」

 クロノを隠語のブラック提督で呼ぶ、副司書長のフィッシャーマンの口調から切迫した状況を理解したレナー
ドは、即座に決断した。
344名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 16:30:44 ID:LlaPHPwQ
1-2
「フィッシャーマン。フォルグ文明のデジタル化を優先した場合、第3管理世界の口碑と神歌のデジタル化が
 遅れますが、構いませんか?」

「その点は問題ない。フォルグ文明のデジタル化を優先させたまえ。フィッシャーマンくん、いつもながらユー
 ノ博士への忠誠心、監察官的にも嬉しい限りだよ」

 レナードの背後から唐突に現れたマテウス・バウアーが茶色の紙袋を抱えたまま、モニターのフィッシャーマ
ンに向かって声をかけた。

「バウアー卿、正規の入り口から入ってください」
 運び込まれる資料に紛れて潜入してきたとしか思えない人物の出現にレナードはうんざりした表情で注意した。

「荷受け用入口のセキュリティチェッカーがOKを出したんだが。ところでユーノ博士は、館長室にいらっしゃ
 るかね?」
 相も変わらず、よれよれの薄茶色のレインコートを管理局の制服の上に羽織ったマテウスは、寝不足なのか、
いつにもましてさえない顔でアーガスに話しかけた。

(今の時間は、在室されていますが、昼食が近いので遠慮された方が安全かと)

 マスターである自分の許可も待たずに答えたアーガスを思わず左手で殴りつけたレナードを無視して、マテ
ウスはつぶやいた。

「うむ。高町一尉が手弁当を持って来るのか。フィッシャーマンくん、ブラック提督の件についてハンバーガー
 でも食べて語ろうじゃないか」

 ハンバーガーの袋を持ち上げながら、ユーノ麾下の副司書長四天王のリーダーに話しかけるマテウスの口調は、
さえない表情とは、対照的なほど明るかった

「そりゃどうも、そ、それ、キングダムバーガーじゃないですか!今すぐ、そちらに行きますので」
「その必要はない」

 モニターの向こう側で、あわてて立ち上がろうとしたフィッシャーマンの背後に、レナードの隣にいたはずのマテウスが立っていた。

「というわけだ。レナードくん、ユーノ博士のためにもフォルグ文明のデジタル化を急いでくれたまえ」  

「相変わらずの化け物ぶりだ」

 命の恩人とはいえ、人の背後にいつの間にか現れるマテウスの悪癖に辟易したレナードは、消えたモニターに
向かって毒づくと収集文献の分類作業を中止させ、全員に昼食休憩を命じた。
345名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 16:32:59 ID:LlaPHPwQ
1-3
 無限書庫の闇の一角に設けられた館長室と書かれた扉の内側は、桃色の魔力光が支配する異空間だった。
 久々に午後の休暇が取れた白い魔王が、手作りの弁当を携えて来襲したのだ。
 
館長室のテーブルにランチバスケットを置いたなのはは、何か言いたげにモジモジしていたが意を決したよう
にユーノに声をかけた。

「ユーノくん」
「なに、なのは?」

 なのはの持ってきたランチバスケットからハムサンドを取り出そうとしたユーノは、恋人の頬が赤らんでいることに気づくとなのはの言葉を待った。

「あのね。今度の土曜と日曜日、ヴィヴィオがはやてのところにお泊まりなの、そ、それでね・・ユーノくん」
「たまには二人でドライブでもするかい? 今の季節だとチルダ渓谷の紅葉が見頃・・」
「ち、違うの・・ドライブじゃないの」

「じゃあクラナガン301で、買い物しよう。なのはにお似合いのドレスを雑誌で見つけてね。301のハニー
 ビーで売ってるんだ。ドレスを買ったら、夢見亭で食事を な、なのは・・・」

 いきなり抱きついてきたなのはは、狼狽するユーノをぎゅっと抱きしめたまま、声を殺して嗚咽し始めた。
 防音結界を張っているせいで、館長室の外に音が漏れないのがせめてもの救いだった。

「なのは、落ち着いた?」
「うん・・・・」

ようやく落ち着いたのか、ユーノを抱きしめた手を放したなのはは、ハンカチを取り出すと涙の跡を拭った。

「なのは」
「ユーノくんの子供が欲しいの」
 しぼり出すような声で訴える恋人に絶句したユーノに向かって、なのはは、なおも言い募る。
「ヴィヴィオも妹や弟が欲しいって言うし、わたしもユーノくんとわたしの子供が欲しいの。だから、今度の土
 曜日、うちに来てくれないかな」

(レベル3末期の情動衝動の暴発だ・・・)
 なのはの潤んだ目を見つめるユーノは暗澹たる思いに囚われた。リンカーコアバースト症候群の患者が辿る最
悪の経過を恋人が早足で駆け抜けつつあるのだ。

 マテウスの送ってくれた症例となのはの狂態を比較したユーノは、即座に決断した。
(まず衝動を抑え込むには・・・)

「ユ、ユーノく・・」
「愛してるよなのは」

 返事も待たずに口づけしたユーノは、なのはをしっかり抱きしめるとソファーに押し倒すと教導隊制服のタイ
トスカートの裾に手を差し入れた。

「だ、駄目だよ。ユ、ユーノくん、人が来たら・・」
「来ても構わないよ。もう我慢できないんだ。本当は、桃子さんや史郎さんに挨拶してからと・・っ痛い、痛い
 よ。なのは」

 室内に響き渡る平手打ちの音ともに、ユーノから逃れたなのが、涙を浮かべて罵った。
「ユーノくんの馬鹿、馬鹿、馬鹿!」
「なのは・・・」
「こんなところで嫌だよ。ここってユーノくんの戦場だよ。ユーノくんが、こんなことするなんて信じられな
 いよ。時と場所ってものがあるよね。だから、今度の土曜日、私の家でって言ったのに、私の言ってること、
 そんなに間違ってる?間違ってないよね! 少しあたま冷やそうか」

 涙を浮かべていたなのはが、いきなり白い魔王に豹変するとクロスファイアーシュートをユーノに向けた。

346名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 16:33:43 ID:LlaPHPwQ
「なのはの言うとおりだよ・・・・一族のみんなや桃子さんや史郎さんに挨拶もしないうちに、あんなことして
 なのはの心を傷つけたんだからね。撃ってくれないか」
 自分の胸を指さして、撃つように促すユーノを見た瞬間、なのはは構えを解いた。

「わ、私って本当に駄目だね。ユーノくんの言ううとりだよ。なんでこうなっちゃうのかな?」
「お腹がすいてるからじゃないかな。なのは、サンドイッチ、一緒に食べないかい?」

「じゃあ、玉子サンドちょうだい」
「どうぞ、なのは様」
「にゃはははは、ユーノくん、様付けは反則だよ」

 無邪気に笑うなのはに微笑むユーノの内心は憂いに満ちていた。
(なのはの気持ちを落ち着かせないと、同じ事の繰り返しだ・・・)

 サンドイッチを食べ終わった二人は、館長室のテーブルを挟んで、週末の予定を話し合い始めた。

「子供欲しいのになぁ」
 うるうるした上目遣いで自分を睨むなのはに対して、ユーノは冷静な口調で返した。
「できちゃった婚したら、僕が史郎さんや京也さんに殺されちゃう」

 一瞬の沈黙の後、我に返ったなのはが小声でつぶやいた。
「そ、それは・・・・無いとは言えないわね」

 愛する娘や妹が、あのフェレット野郎に獣○されたうえにできちゃったされた思いこんだ、父や兄がユーノを
どう扱うか想像するだけで、なのはの背に戦慄が走る。

 道場に連れ込まれた上、父と兄の愛の鞭という名の制裁を受けるユーノ、彼の人柄から言って、できちゃった
の全責任を引き受けて一言も言い訳しないだろう。

 全力全開の史郎と京也に叩きのめされ、道場の血の海に沈むユーノ。できちゃったのは自分のせいだと、なの
はがいくら言っても、あの二人は聞き入れないだろう。

「だめ、だめ、だめだよ〜 ユーノくん、できちゃった婚は、絶対駄目なの!」
「わかった、わかったから、なのは首締めないで」
「うん、わかってくれたらいいんだよ」 
 
 ユーノを締め上げていた手をあっさり放し、無邪気に笑うなのはに
「今度の土曜日、海鳴市に行って、桃子さんや史郎さんに正式に挨拶するよ。なのはさんと正式におつきあいさ
 せてくださいって」
「ふぇぇぇユ、ユーノくん。で、でも私たち、もうつきあってるんだよ」
「うん、つきあってるよ。それがどうしたの?」
「ど、どうしたって・・・いまさらおつきあいなの?」

「初めて出会った海鳴市で、正式なおつきあいを始めるのってロマンチックだと思うんだけどなぁ」
「それはそうだけど、なんか恥ずかしいよ」

 空になったカップに、紅茶を注ぎながらユーノは、顔を真っ赤にして困惑するなのはに囁いた。
「恥ずかしいのは、僕も同じだよ。なのは」
3477の1:2009/01/01(木) 16:41:44 ID:LlaPHPwQ
以上342-346まで掲載させていただきました。
最後はスイーツ(笑ぽい感じで終わりましたが、次章以降、展開が変わります。
次章は、副司書長ジョン・フィッシャーマンが登場します。
彼とユーノの出会いは、9年前にさかのぼります。

348名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 17:10:11 ID:3chFrbD7
新年早々乙なのだが、名前欄にタイトル入れてくれんかね
349名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 17:11:47 ID:cECKAeNe
>>348
必要なくね?
スルーしたい場合はIDでNGすればいいんだし
350名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 17:15:14 ID:jntmiNCO
いやいやいやいやw
>>1の書き手マナーん所にしっかり

3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。

って書かれてんだから、それに従った方がいいだろ
351 【大吉】 【899円】 :2009/01/01(木) 17:17:09 ID:L7lLTdlE
大吉ならなのはさんにSLB撃たれる

>>347
乙です。なのはさんが末期とな!?
史郎…京也……変換ミス?

名前欄は今までちゃんとやってたと思うので、単なるうっかりだと思うぜ
3527の1:2009/01/01(木) 17:32:28 ID:LlaPHPwQ
>>348 >>350 すみませんでした。
専用ソフトのコテハン記憶のチェックし忘れをしていました。
申し訳ない。
>>351
ご指摘ありがとうございました。 士郎と恭也ですね。
353名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 19:35:03 ID:cAZCf78T
>>338
GJ!
しかしイクスがなんかヤヴァイことをしでかしてしまいました!
大丈夫なのか?
某生物災害みたいに無限増殖しなければいいんだが


>>347
甘〜〜い!!
でもできちゃった婚というのもありじゃねw?
354名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 20:56:51 ID:yCVEnvHU
サイヒ様のIFもの(皆が生きているやつ)今頃読みましたー
すっごい面白かったっす。
けど気になったのは、作中に登場しなかったナンバーズ達の派遣先。
セインは能力を駆使しての運送屋とか、ノーヴェだったらトーレやセインと同じ力仕事系。
というように想像ができるんですけど、他のメンバーが中々想像できない。
オットーは……制服で人気を呼ぶファミレスとか、か?
もちろん制服は男性用の執事服。女性客にめちゃくちゃ大人気でディードが物凄く機嫌を悪くしてしまう展開、とか。
チンクとかディエチとか、全然想像できない、特にディエチが……
全員登場バージョンが読んでみたいっす。
355名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 21:04:35 ID:LXN7bXtl
>>354
ウェンディで取られたけど、ベビーシッターとか?
あるいは外に出ずに内職というのも。
ミッドは就業年齢低いからチンクも働けるんだよな、何気に。
356名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 21:05:57 ID:yCVEnvHU
それか、外見があまり成長しない種族の出身、と言う風に身分偽造くらいはしてるかも?
357名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 21:48:40 ID:b2/r52nE
隻眼のティアナを心配から、理由ありで妾にしているユーノのSSと、
アルトと何かありそうなユーノのSSの続きが無いのが悲しいな。
作者さんは忙しいのかな?
358名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 00:37:49 ID:8qgyt0Dn
>>338
GJ!
皆が皆死亡フラグ乱立しすぎてる…
ルーもセッテ達もほぼ勝てる見込みのない相手。
一体どうするんだ…
359タピオカ:2009/01/02(金) 01:03:31 ID:1voePh0V
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いしますね!

というわけで六話めです。


注意事項
・戦闘ものでドカーン!バキーン!ガシャーン!とやりたいのです
・エロいはずがない
・本編終了して約1年ぐらいたってます
・敵組織オリジナルキャラクターで纏めちゃったので大量に厨二病が香るオリジナルのキャラクターをお届けします
・あまつさえオリジナルのロストロギアまで拵える始末なので、酷い捏造をお約束します
360Name〜君の名は〜:2009/01/02(金) 01:05:43 ID:1voePh0V
第六話「危うしミッドチルダ首都航空隊第14部隊! 次の任務を生き残れ!!」


「は、はじ、はじ…は、はじめまして…カカカカカカウンター・F・アリシアです…」
「はじめまして、フェイト・T・ハラオウンです」

アリシア・テスタロッサを模して生まれたフェイト。
そのフェイトを模して生まれたカウンター。
ふたりの出会いはXV級大型次元航行船クラウディアでだった。

「なーに緊張してんだよ、お前は」
「いや、だって、ほら、こ、こんなにキレーな人だと思ってなくて…私も大きくなったらこんなに美人になれるかな?」
「……お前、半分男だろ」

そして、それにアギトとシグナムが立ち会う。

「私もびっくりしてる。10年ぐらい前の自分を見てるみたいだ…」
「お前はもう少し静かだったがな」
「カウンターは明るい子なんですか?」
「……まぁ、な」

歯切れ悪く返事するシグナムの視線は、アギトとやいのやいの言い合ったり、シャーリーやティアナとあいさつしながら緊張がほぐれたカウンターへ注がれていた。
その視線にこもっていたのは、憐憫だろうか?

「あ、あの、それ、それで…わ、わた、私が呼ばれた理由と言うのは…」
「うん、君のお父さんについて…」

ふと、カウンターの舞い上がった表情が引き締まる。
かちこちだった様子も一変、鏡のように凪いだ心と化した。

「見つかったんですか、パパが?」
「知り合いがインビジブルマンという人物と接触したんだけど、もう行方は分からなくなってるんだ……ごめんね、会わせてあげられるって話じゃ、ないんだ。それで、より詳しい話を聞かせてもらおうと思って…」
「執務官が追いかけるほどの事を、パパはしたんですね」
「………うん」

すでに一つの可能性として察していたようにカウンターが淋しそうにうつむいた。
フェイトがたたまれなくなってしまう。

「でも、前にシグナムさんとギンガさんに話した以上の事は……行方と言われても」
「あ、違う、違うんだ」
「?」
「えっと…そんな仕事とか「執務官が追いかけるほどの事」とかじゃなくて、本当に、純粋にインビジブルマンさんの…私にとっても父さんでもある人の話を聞かせてもらいたいんだ」
「フェイトさんにとっても……父さん……」
「うん、プレシア母さんを、私はいつまでも母さんだと思ってる。だから……その、インビジブルマンさんは、きっと私の父さん」

照れたように頬をかくフェイトに、しばらくカウンターが呆然として何も言わない。
そんなに恥ずかしい事を言ってしまったのかな、とばかりにフェイトがちょっぴり赤くなった。

「やっぱり変かな? 顔を合わせた事もない人に対して父さんって呼ぶの…?」
「へ、変じゃないです! 全然!」

カウンターまで赤くなって首を振る。
なんともふわふわした空気にシグナムが珍しく、クス、と漏らした。

「ハラオウン執務官殿は事情聴取と銘打って職権を私欲のために行使したいんだ、カウンター」
「ま、またシグナムはそんな風に!」
「ふふ、事実だろう? さて、カウンターはきちんと送り届けたんだ、私たちは艦長の所へ行くぞ」
361Name〜君の名は〜:2009/01/02(金) 01:08:41 ID:1voePh0V


今回、シグナムとアギトがクラウディアへと足を運んだ理由はふたつある。
ひとつは、カウンターとフェイトと引き合わせる案内役。
ジュエルシードを捜査する執務官が、ジュエルシードを密売した人物に縁ある者に情報提供を求める。
という建前のもと、フェイトは自分と同質の存在と直接会ってみたかったのである。

もうひとつは、ミッドチルダ首都航空隊第14部隊の副隊長としてクロノの出動要請に対する内容を直接会って詰める為だ。

2日前に沈没したクルーズ客船「ティターン」で、はやてがジュエルシード絡みの事件に巻き込まれている。
そこではやてが接触したインビジブルマンと、重工業の社長を務めるサイカイ・ソーツギヨ・リョーコー。
この2名について調べると、クラウディアで進めていた捜査といくつか重なる事柄が浮かんできた。

ゴノーという男が2つのジュエルシードを密売していたのは分かっていたのだが、さらに別口からインビジブルマンがサイカイに同じ事をやっていた事実。
そしてインビジブルマンはサイカイの経営するivory社に奇妙なパーツサンプルの作成を依頼しており、さらにivory社だけでなく似たような重工業を行う会社いくつもに同じような注文をしている……という言質をサイカイから取ってある。

多数の会社に少しずつ部品を造らせ、目的とする物を徐々に完成させようとしていたわけだ。

かなり目立たない形でこの活動をしており、ひとつの会社につきひとつの偽名を使い、いくつかの幽霊会社を用意してそこを拠点にパーツサンプル作成を担当する者たちと連絡をしていた事が明らかになっている。

現在、各会社のパーツサンプル作成を担当した者たちから、設計図面のコピーを提出してもらうよう話をつけている最中だ。
すでにいくつかの図面が届いているが、まだ完成形を予想できるほどの数ではない。
なにせインビジブルマンだけでも30を超える会社を使っている。

まだどんな物を造ろうとしているのかは分からないが、おそらくもしかすると兵器ではないか、と思える事が懸念と言えば懸念だ。

そして、問題はこのインビジブルマンが行っている用途不明の建造物の欠片造りを、ゴノーもしている事が分かってきたのである。

つまりは何かしらの建造を明らかに組織だって行っているのだが、なかなかに大きく強い組織力だ。
そんな組織力を賄う豊富すぎる軍資金は、ジュエルシードの密売に依るのだろう。

こうしてハッキリしてきた事実を取り上げていくと、ゴノーとインビジブルマンが表に出てくる際に使っている幽霊会社のいくつかが重なった。
その数4つ。
ゴノーが使っていた幽霊会社、インビジブルマンが使っていた幽霊会社、と分ければ10では利かない数だが、共通しているのはたったの4つだ。
この4つに照準を合わせて捜査の手を入れようとしていた矢先、ギンガから有力な情報が送られてきた。

ヴェロッサと共同捜査をしていた未起動のアギト・レプリカの一体が、とある会社―――正確にはその会社の所有する研究施設に運ばれたのを確認した、という報告だ。
スーホには逃げられたが、依然調査を進めていくうちに網にかかったという。
かなり慎重に網を張ったらしく珍しくロッサが疲れていた。

そしてこの会社というのが、ゴノーとインビジブルマンの関与する幽霊会社4つのうちのひとつである。

すなわち、セブン・アークス湾岸研究所。

ここにミッドチルダ首都航空隊第14部隊を投入して強制捜査をする事が決定した。
まさかアギト・レプリカまで絡んでくる事態とは思わず、クロノたちも急いでギンガとヴェロッサの纏めた資料を頭に叩き込んでいる。
要注意事項には、無論スーホとカボチャを描いた改造ガジェットドローンU型が記載されていた。

このスーホという男の経歴もすでに把握できている。
運び屋として名は通っており、詳細を調べるのが驚くほど簡単だった…が、全て過去のデータだ。

白い馬≠ニ呼称する輸送機を多数所有し、白い馬U≠ェ大型重二輪車、白い馬V≠ェ小型の高速船舶、さらには白い馬W≠ニいう小型の飛行船まで持っているという最速の男。
政府が表だって扱えない危険物を裏から運んだ事がある、という噂が立つほど腕の良い運び屋だったが4年前に白い馬W≠駆使した仕事中に行方不明になっている。
それがひょっこり、1年ほど前から活動を再開していた。

そして、4年前の仕事というのが、レリックの輸送であったという。
362Name〜君の名は〜:2009/01/02(金) 01:10:38 ID:1voePh0V


「実際にお話しして良く分かるんですが…パパとフェイトさん、似てます」
「そんなに?」
「はい、優しそうなところとか、特に」
「空気が一緒って事かしら」
「ね、ね、ミドルネームのFはやっぱりフェイト?」
「feitです」

シャーリーやらティアナやらも疑問質問差し挟んでカウンターがぽつりぽつりと言葉紡ぎ始める横。

「アギト、カウンターの昔話を聞きたいなら残っていいぞ?」
「冗談」

うへぇ、と顔を作ってアギトが泳ぐように宙空を舞ってはシグナムの後につく。
何度か訪れているシグナムは、すでにクラウディアの中も勝手知ったものだった。

数日ほどの付き合いだがアギトは明確にカウンターを嫌っていた。
―――といっても、話すのも触れるも虫唾が走る、というほどではなく心で壁を作っている。

そしてそれはナンバーズたちに対するものと同質だ。
根は良い奴だ。
根は純真だ。

しかし、気にくわない。

もちろんだが、「戦闘機人だから」という理由ではない。
海上隔離施設ではギンガに厳しめに指導されたものだが、先生役だった彼女を慕っている。
スバルに対してもその気風の良さをアギトは好ましく思っている。

だが、ナンバーズたち、そしてカウンターに、アギトは確かな憤りを覚えているのだ。
きっとそれは、価値観の違い。
だけどアギトにとって理解できない事。理解したくない事。理解できてはいけない事。

「アギト?」

気づけば艦長室までついていた。
シグナムの背中に視点をあわせたまま、どこを見てもいなかったアギトがふと顔を上げる。

「悪ぃ、考え事してた」
「……考えすぎんようにな。艦長、シグナムです」

備えつけられた端末で部屋の中に話しかければすぐに扉が開いた。
ベルカの礼でふたりが入室すれば、いたのはクロノと、

『お、シグナムとアギト! おはやうさん』
「…主?」

中空に開いたホログラムモニターにはやてが映し出されていた。リアルタイムの通信である。

「よく来てくれた、シグナム、アギト。ちょうど今はやてと、二人で示し合わせてどう動けば都合よく一緒に事件捜査できるか秘密裏の打ち合わせ……もとい、それぞれの予定をどう作れば集合できるだろうか、という「もしも」の話をしていた所だ」
「主もこちらの手入れに合流を?」
『合流できればええなぁ…って思っててんけど、フェイトちゃんとシグナムがおるし、流石にオーバーS3人目の許可は下りへんかった。
せやから、これから帰る経路にセブン・アークス湾岸研究所付近を設定して、「偶然」クロノ君たちの踏み込み捜査の支援要請を受けられる位置確保しようと思うとる』
「クロノ提督は勘定に入らないのですか?」
「僕はゴノーの逮捕だ。湾岸研究所には行けない」

得心の表情で、ハラオウン兄妹の手の回らなさを痛いほど実感する。
363Name〜君の名は〜:2009/01/02(金) 01:12:17 ID:1voePh0V
「ふたりとも戦力を投入できるだけ投入した方が良いと……それほどゴノーとインビジブルマンの一派が強力だとお考えですか?」
「トライア・N・グールハート……自称インビジブルマンだけでもプレシア・テスタロッサレベルだそうだ」
『ガジェットドローンも改造したU型だけで済む保証はない。スバルはちょぉ連れていけへんけど、一足先にギンガとロッサがそっちに向かってる』
「そう言う訳で、すでにはやてとは話すだけ話してる。シグナム、早速だが14部隊の配置を詰めよう。これがセブン・アークス湾岸研究所の見取り図だ」
「これにギンガも加わるんですか?」

部屋の中央に湾岸研究所の立体映像が浮かび上がる。
縦に長い研究所だが、高いビルというわけではない。
等高線につく数字にマイナスが入っているそれは、つまり地下深くに伸びているのだ。

宙に浮くアギトがぐるりとホログラムを一周、クロノの目の高さまできて丁寧な言葉づかいをひとつ。

「ああ、それとロッサもだ。特にロッサは捜索のために全力を尽くしてもらわないとな。君のレプリカたちも、見つけてくれるはずだ」
『いっつも怠けてるけど、今回はそうはさせへんで』

歯を見せて笑うはやてだが、アギトはレプリカの事を思って穏やかな心地にはなれなかった。



その頃のミッドチルダ首都航空隊第14部隊のみなさん。

「俺、今度の任務が終わったら結婚するんだ」
「俺はこの任務が終わったら小さな喫茶店を開こうと思ってたところさ」
「この任務が終わったら子供に会えるぜ…」
「先に行って待ってるぞ」
「ここは俺にまかせて先に行け」
「殺人犯と一緒にいられるか! 俺は自分の部屋で寝る!」
「お、俺…この事件の犯人分かっちゃったかもしれない……」
「えーっと、この任務の次の勤務先は……イデオンBメカの左シート? なんだこりゃ?」
「いやぁ、やっと退院できたよ。手術は成功。みんな迷惑かけたな。二次感染さえなければもう大丈夫って言われたけど、二次感染なんてめったに起こらないから大丈夫だってよ! さぁ働くぞ!」
「フッ、寡黙な俺だが、今日はやけに身の上話をしたくなっちまったな……」
「やぁ、僕はフリーのカメラマンさ。トミタケフラッシュ!」
「あれ、俺のカップ割れてるじゃないか。こりゃ任務が終わった後買い直さなきゃな」
「ん、何か物音がしたな…なに、ただのネズミだろう。、俺一人で見てくるからみんなはここで待ってな」



大衆食堂店として人気の高い「わんことくらそう」は今日も盛況だった。

店主は昔、腕利きの魔導師として名をはせていたのだがその実力のほどは使い魔の数で頷ける。
なんと、20以上の犬科の動物を使い魔にしているのだ。
そしてその全てを従業員としてこの食堂を切り盛りしている。
曰く、その契約は「うおおおおおお前らだけ先に逝かせん! 絶対に死ぬときはみんな一緒だ! 一緒だぞおおおお!」
という店主に熱い涙だったという。

むろん獣としての身体的特徴は徹底的に管理して衛生面は万全。
犬科の生理が味見をしなければならない関係上、料理には使えない食材がいくつかあるがそれでも提出される味は好評。

そんな広い食堂の一角で、異色と言わざるを得ない組み合わせが飯を食っていた。

「おかわり」

すでに山と積まれた丼。
しかし足りない。
機械の体にこれではまだ不満だ。
そして、人の心も満足するはずがない。

「同じやつね。もうあるだけ持ってきてくれんかね」
「わ、わかりました」
364Name〜君の名は〜:2009/01/02(金) 01:15:43 ID:1voePh0V
犬らしいつぶらな瞳のウェイトレスが頬ひきつらせながら、その巨漢の注文を承諾。
喧騒と賑やかな食事風景の中、小走りに厨房へ声をかけに行く。

怪僧だ。
異国の僧衣を身にまとい、ハゲあがった頭のコメカミの辺りには、冗談のようにボルトが一本ささっている。
50代にしか見えないその強面は、しかし「食べる」という原始的な欲求に従事するにおいて子供のように喜色満面。

その名はゲンジョー。

連れ添いはその大食をため息交じりで見ていた。

「ここの食材全部平らげる気?」
「金払うんだからいいだろう」
「ゴノーとインビジブルマンが必死で集めたお金よ?」
「冥途の土産だ、これぐれぇ食わせろ。それに、当のゴノーを逃がすためのエネルギー補給なんだからバチは当たらんぞう」
「はいはい、だったらとっとと満腹になってくださいな」

グラス傾けてあきれる美女はすでに食べ終わり、その横にいた10歳そこらの容姿の少女……目深にフードかぶったアギトのレプリカも食後のお茶である。

「あ、こぉら、ソースついたままよ」
「失礼しました、マスター」
「そろそろターリア、って呼んでほしいんだけどねぇ…」

苦笑する美女―――ターリアは抑揚を欠いた傍らの娘の口元をナプキンで拭う。
親が子にするように優しい手つきだ。
一児、二児いておかしくない年齢のターリアのそんな様子なのだが、される側であるアギト・レプリカは無表情。

ブリュンヒルデ。

それがこのアギト・レプリカに与えられた名だ。
他のメンバーと一緒に活動するアギト・レプリカとなんら変わりない外見だが、一人一人特徴がある事はすでに分かっている。
ターリアもカーレンも、その個々別々の見分けにくい豊かさを愛していた。

「へへっ、まるで母親だな……」
「………」
「すまん、口が滑った」
「いいよ、別に…」

ターリアについて、タブーじみた言葉に触れて影さしたゲンジョーだが、ウェイトレスがかけ戻ってくるのに瞳を上げる。

「も、申訳ありませんお客様。実は、その、あの、御注文のお料理の食材が底をつきまして……」
「なぁにぃ…?」
「きゃふん…!? そ、そ、そ、そ、その、他にもとっても良く食べられるお客様がいらっしゃって…」

ゲンジョ−の強面が歪んでは、ウェイトレスが犬らしい震え方。とっさに犬耳がぴょこりと垂れ出てしまったのも無理ない鬼面である。

「どこのどいつでぇ、大衆食堂と言うみんなの場所でバカバカ食べて人の迷惑を省みねぇ輩ぁ!?」
「あの、あの、あちらのお客様でして…」

ふるふるとウェイトレスが指さす先には、丼を積んでこちらを見てくるスバルの姿があった。



「遅いですねぇ、はやてさん」
「クロノさんとの打ち合わせにシグナムも入ってきたから、も、ちょっと時間がかかるって言ってたわ」

スバルが運ばれてくる料理をクジラのように食べていく様は圧巻であった。
同席の子供程の大きさをとるリインフォースU、シャマル、人型ザフィーラだが全員が全員「相変わらずだ」と感心だ。
365Name〜君の名は〜:2009/01/02(金) 01:17:29 ID:1voePh0V
ミッドチルダ西部で沈没してしまった「ティターン」の事後処理や、サイカイ・ソーツギヨ・リョーコーへの尋問。
それらに数日を使ったはやてたち一行だが、もう首都の方へと戻る頃合いになってきた。

というのも、はやてはクロノとの密談から帰る時期を見計らっていたようだ。
セブン・アークス湾岸研究所という場所を通る事を告知されているが、帰る前に最後にスバルと食事をしようという流れになる。

そうして密にクロノと連絡を取っているはやてよりも一足先に、大衆食堂「わんことくらそう」に赴いたわけだ。
流石に従業員が従業員だけに、ザフィーラを見つめるウェイトレスの目が潤んでたり蒸気してたりする。
「わぁ、かっこいい」とか「素敵ぃ」とかザフィーラ見かけてきゃっきゃっ言ってる。

『先に食べててなー』

というはやての伝言のもと、すでに食べ始めているのだった。

「すいませーん、おかわりお願いします」

またスバルが元気に手を上げる。
しかしやってきたウェイターの顔は至極申し訳なさそうなものだった。

「申訳ありませんお客様。実は、そちらのお料理の食材が底をつきまして……」
「えぇ!?」
「他にもとっても良く食べられるお客様がいらっしゃって…」
「へー、これと同じのを?」
「はい」

興味深そうにスバルが食道を見渡せば………いた。というか、あった。丼の山が。
自分ほど食べた証―――そして、その席の怪僧がこちらへとのっしのっしと歩み寄ってくるではないか。

「おいてめぇ」
「は、はい」

巨漢のゲンジョーが、スバルに詰め寄ってきた。
座っているスバルを上から圧倒するその画で、大きな体が一層大きく見える。

「食いすぎだ」

指突きつけてくるが、その頭が後ろからド突かれる。

「おぶ!?」

険呑なゲンジョーの様子に、ザフィーラが立ち上がろうとした瞬間である。
ド突いたのは、ターリアだ。
366Name〜君の名は〜:2009/01/02(金) 01:18:52 ID:1voePh0V
「ごめんねぇ、お嬢ちゃん。このおじさん年中、脳内麻薬出っぱなしなのよ」
「俺ぁまだ26だ」
「ね、50歳面のくせにこんなこと言っちゃうぐらいちょっぴり可哀そうな人なのよ。ごめんなさいね」
「は、はぁ…」

どう対応したものか、と視線を泳がせる元機動六課の4人だが、どうしても視線がゲンジョーの頭に突き刺さってるボルトにいってしまう。
特にリインとかガン見。

「あぁん? なんだコラ、そんなにこの頭が珍しいか?」
「あ、い、いえ…痛そうだなぁ…と思っただけです」
「これは自分を滅ぼすほどの力を押さえるリミッターで、外すことによりオーバーSの魔導師を超えるほどの力を 「いいから行くよ、このバカ! ただのアクセサリーだろ! もう恥ずかしいね!」

怯えるリインに自分語りするゲンジョーをもう一回引っ叩いてからターリアが耳引っ張って引きずっていく。
なんとも強い女性だ。
そしてもう一度、振り向きざまに腰を折り、フードの女の子を連れて支払を済ませては店を出ていってしまった。
風のように素早いその動作は、本気で恥ずかしがっていたのだろう。

「あはは…いろんなお客さんがいるね」
「おーい、おまたせ」

そうして、遅れたはやてがやってくる。
「わ、ようさん食べたなー」とスバルへ嬉しそうな驚きを示して座ればすぐさま注文。

「よし、これ食べ終わったら首都圏に戻るけど、帰り道に一仕事あるかもしれへん。しっかり食べとこうな」

そして朗らかに言うのだった。










367タピオカ:2009/01/02(金) 01:34:24 ID:1voePh0V
終わりです。

読んでくださってる奇特な方にはすでにお察しの通り、敵のオリジナルキャラクターはすでに知っているであろう名前を使っています。
オリキャラの名前を覚えるのは億劫であろう事への苦肉の策ですが、何分、昔話で固有名詞が出てこないのはザラでして、知らない名前もあるかも…と不安に思います。
余計な御世話かもしれませんが、読んでくれている方がいらっしゃるのならと思って、補足として少しここに書きだしておきますね。

スーホ:「スーホと白い馬」というモンゴル民謡から
カーレン:「赤い靴」というアンデルセン童話から
ゲンジョー:「西遊記」の玄奘三蔵から
ターリア:「月と太陽のターリア」という「茨姫」の類話から
シュヴェルトラウテ、ブリュンヒルデ:ワルキューレ姉妹より
368名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 02:49:20 ID:D0JZbt8x
>>367

ところで>>363のわかりやすすぎる死亡フラグ一覧で吹いてしまったんだが。
しかも、約2名ほどクロススレ池と言いたくなるものが(ry
369名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 09:55:24 ID:bEKV8c3E
>>338
GJ!
それぞれが皆自分の進んでる道が正しいのかで迷走しているな
覚悟を決めたのはルーとイクスぐらいか
370名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 11:24:50 ID:ukVI1sm0
プレシアが作ってた魔力炉って、もう無くなったのかな?
371名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 12:31:56 ID:HhQ9j+9s
>>367
ここでも、敵になる人と出会っているw
彼らがどんな戦い方をするのかが楽しみです。
372野狗:2009/01/02(金) 14:01:30 ID:BRmUkU2f
みなさん、あけましておめでとうございます。

>>317
いつもありがとうございます。

 魔法少女リリカルなのはIrregularS 第十一話です。(全十三話予定)

捏造まみれです。
あぼんはコテで。
人によっては微グロかも。


レス数17
373野狗:2009/01/02(金) 14:02:06 ID:BRmUkU2f
         1 

 チンクは痛みを堪えて、片目を抑えていた。
 トーレとクアットロを前に、チンクは告げる。

「私に後退など必要ない」
「お前にとって必要か否かを問うているのではない。お前が我らの邪魔になるから退けと言っている」

 トーレの鋭い物言いに、クアットロが首を傾げていた。

「別にいいじゃありませんか、トーレお姉さま。チンクちゃんのことだから、私たちの邪魔なんてせずにおとなしくしてくれますわ。
ねぇ、チンクちゃん」
「……クアットロの言うとおりだ、トーレ。自分が戦闘の邪魔になると判断すれば、すぐさま退く」
「それほど、奴らが気になるのか?」

 チンクはうなずいた。実のところ、自分でもよくわからない感情ではあるのだ。
 片目を奪ったゼスト、その両腕とも言えるメガーヌ、クイント。三人はAMF下にありながら、戦闘機人である自分たちと互角の戦いを繰り広げた。
いや、互角以上だったのかも知れない。少しどこかがずれていれば、ここに倒れているのは自分たち三人だったのかも知れない。
少なくともチンクにはそう思えるのだ。
 辛うじてゼストを倒したのはいいが、その代償に自分は片目を失った。片目を失ったのは、紛れもない自分の慢心だとチンクは悟った。
自分たちが三人に対して絶対に有利だと思っていたのだ。
 人間を越えた存在であるはずの戦闘機人である自分、AMF下で能力を制限された魔道師。勝負の行方は歴然のはずだった。
しかし、ゼストはあと一歩まで自分を追いつめたのだ。
 そして今、ゼストは倒れ、メガーヌとクイントがその身体を両側から支え撤退しようとしている。
それを追撃しているのはクアットロの指揮するガジェットの群れだ。それでも、このままでは敵の撤退は成功してしまうだろう。
それを防ぐのが、自分たちの役目なのだ。

「いいわ。さっさと終わらせちゃいましょう」

 クアットロがガジェットに新たな指示を出す。

「クアットロにお任せしてくださいな♪」
「ああ、任せる」

 トーレはやや嫌そうに答えた。

「トーレ?」
「……何も言うな、チンク。この手の任務ではクアットロの策が有効だ。私には正面切った戦いしかできんし、それを改めるつもりもない」

 チンクは戦いの顛末を見た。
 クアットロはISシルバーカーテンを利用した子供の幻影を使ってクイントを殺害し、メガーヌを捕らえたのだ。
 自分には無理な策だと思った。しかし、どれほど汚いと思える策であっても、それがドクターのためだとクアットロが信じていることも理解していた。
 ……私は、自分の手を汚す勇気も持ち合わせていないのか。
 自らを汚すことも厭わない。それがクアットロの強さだ。とチンクは心から思っていた。
そしてそれは、ドクターのためには確実に必要になるものではないのだろうか、自分などよりも。

「クアットロは強いな」
「あら、チンクちゃん。心にもないことなんて。煽てても何も出ませんよ?」

 何を、と言いかけてチンクはクアットロを見上げる。
 その目に映る自分の姿に、突然チンクは理解した。

 ……ああ、そうなのか

 クアットロも同じ事を思っている。
 自分がクアットロを恐れるように、クアットロは自分を恐れているのだ。
374野狗:2009/01/02(金) 14:02:56 ID:BRmUkU2f
        2


                 魔法少女リリカルなのはIrregularS
                   第十一話
                「チンクの夢 ノーヴェの現実」



 ノーヴェはスバルに抵抗する。

「スバル! 戻れよ! 戻ってくれ!」
「嫌だ!」

 スバルは片腕を失ったノーヴェを、半ば引きずるようにして強引に進んでいた。
「チンク姉が……」
「チンクは大丈夫。ハーヴェストになんて負けない」
「なんで、そんなことがわかるんだよ!」

 チンクが自分を騙した。その事実がノーヴェを混乱させていた。
 本当に勝てるという自信があるのなら、自分たちを先に行かせる必要などないではないか。
自分たちだけにルーテシアとキャロを助けに行かせる理由などないではないか。

「わかるよ」
「なんでだよ!」

 もう同じ事はしたくない。あの時、ギンガを倒したチンクはスバルの振動破砕に敗れ、セインのおかけで辛くも逃げ出すことができたのだ。
破壊されたチンクを見たときの衝撃を、ノーヴェは一生忘れないだろう。
 今更、それをスバルに対して恨むつもりなどない。自分たちだってギンガに対して同じようなことをしているのだ。
 だからと言って、傷ついたチンクなど二度と見たくはない。

「ノーヴェは、信じないの?」
「え?」
「あたしはチンクを信じる。だから、今は二人を助けることに全力を傾ける」

 スバルは振り向きもせず、走り続けている。

「離してくれ」
「ノーヴェ?」
「あたしは、自分で走れるんだ」
「うん。わかってるよ」

 手を離したスバルの速度が上がり、ノーヴェも追走する。

「とっとと助けて、チンク姉の所に戻るぞ!」
「おっけー!」
375野狗:2009/01/02(金) 14:05:43 ID:BRmUkU2f
         3

 ハーヴェストは動かない。ただ、チンクの方を見ているだけ。

「出方を待っているのか、時間を稼いでいるのか。どちらにしろ無駄なことですよ。チンクお姉さま」
「私が教育を担当していれば、その鼻っ柱を真っ先に折っていたところだ。傲慢は何よりも恐ろしい敵になる」
「そうだとしたら、私が最初に殺したナンバーズはトーレお姉さまではなくなっていたでしょうね」
「姉妹を平気で殺すか……。不良品と呼ばれても、仕方あるまい」
「だったら、クアットロ様も不良品ですか?」
「そう認めざるを得ないな」
「やはり、私の思ったとおりでしたね」

 チンクは、ハーヴェストの言葉に耳を疑った。彼女もまた、クアットロの行動に不審を抱いているのだろうか。

「正常なナンバーズはすでに私とクアットロ様しかいない。だから、私たちが護らなければならない。ナンバーズの誇りを」

 あまりの言葉に、チンクの口調には笑いすらにじむ。

「誇り? そんなものが……」
「認められないのは貴方が弱いから。私たちの誇りは強さ。強者の権利を振りかざすこと。誰よりも強くあること。弱者を踏みにじり、君臨すること」
「だとすれば……」

 スティンガーが一本。チンクの右腕に閃いた。

「その誇りは今日ここ限りとしてもらおう」

 飛来するスティンガーをこともなげにレイブレイズで弾くハーヴェスト。

「何人たりとも、いかなる攻撃たりとも、私に近づくことは不可能です」
「私は、セッテとディードからお前との戦闘経験を受け継いだ。それがどういう意味か、お前も戦闘機人の端くれならわかるだろう」

 姉妹間でのデータの蓄積と継承。
 訓練ではほとんど使われていない能力だ。たとえば、ディエチの砲撃特化能力をディードが継承してもほとんど意味はない。
かといって、同じ砲撃担当のウェンデイが継承すれば意味があるのか言うと、そうはならない。二人の砲撃は似て異なるものだ。
 それぞれの武装がそれぞれに特化している限りは、蓄積と継承はそれほど大きなアドバンテージとはなり得ない。
そのことにはスカリエッティがすでに気付いていた。あくまでも、蓄積と継承の重要性は基礎の体術などだけに限定されるのだ。
 しかし、具体的な戦闘経験となれば話は別になる。チンクはセッテとディードのデータから、ハーヴェストのISを研究していた。
 いかに戦うか。そして、いかに破るか。
 一対一でハーヴェストに勝ち目があるのは自分しかいない、とチンクは結論していた。
 多数で囲むなら話は別だが、それができる相手ではないだろう。数を頼めば、向こうもコピー戦闘機人を繰り出してくるだけのことだ。
こちらが一である限り、ハーヴェストも基本的には一で対抗するだろう。それだけの自信はあるだろうし、実力もある。
 接近戦特化はいかなる形でも論外だ。レイブレイズによる回転球をかいくぐることはまず不可能。
おそらくフェイトがブリッツアクションを発動させたとしても無理だろう。
 かといって、ディエチのような砲撃特化でも無理だ。レイブレイズは個体ではない。ディエチの最大の砲撃すら、防御してのけることができるだろう。
 回転球をかわして打撃をくわえることのできる者。
 そこまで考えたとき、チンクはセインが最初に狙われた理由を改めて知ったのだ。
ハーヴェスト相手には、ディープダイバーだけが有効な手となる。しかし、今のセインに戦闘は無理だ。
 それでも、相撃ちを狙えば……
 自分に勝ち目があるのは事実だった。負けるために戦っているのではない。ただ、それがほとんど相撃ちに近いということもチンクは理解していた。
 それは構わない。

「無様に負けた経験など、何の役に立つのですか?」
「それは、これからわかる」

 チンクはスティンガーを構えた。

「行くぞ。ハーヴェスト」
「ええ。姉様」
376野狗:2009/01/02(金) 14:06:17 ID:BRmUkU2f
       4

 コピーフェイトは今のエリオの敵ではない。初見では衝撃の方が大きかっただけのことだ。
 それはライナーズも同じだった。
 これが本物のセッテやフェイトなら、エリオもただでは済まないだろう。しかし、コピー相手では格が違いすぎる。

「疲れさせて隙を狙うのか? せこいじゃないか、俺のくせに。それとも、そのせこさはスカリエッティ譲りか?」
「好きに言え。僕はただ、確実に勝ちたいだけだ」
「そうかい」

 SONIC MOVE
 距離を取ったエリオが、ストラーダを背負うように腕を回す。

「だったら、俺も少しは楽させてもらっていいな」

 竜の咆哮が響く。

「竜魂召喚! 吼えろっ、フリード!」

 BLAST RAY
 吹き上がる炎がコピーの密集群のど真ん中に放たれ、触れた部分が爆発する。
 陣形を乱したそこへ、
 THUNDER BLADE
 突き刺さる剣。

「ブレイク!」

 爆炎に包まれ、次に剣を突き立てられ、さらに剣はエリオの合図で破裂放電する。
 炎と雷の嵐に巻き込まれ、次々と落下していくコピー群。そして、エリオは白銀の竜騎士として再びローヴェンに向き直る。

「……いいなぁ、フリードか……僕も似たような竜が欲しいな。君を殺してキャロを僕のものにすれば、僕に懐いてくれるかな?」
「噛み殺される前にやめておけ」
「そうか。存外につまらないんだな」

 ローヴェンはデバイスを構える。ストラーダに瓜二つのデバイスを。

「いいさ。そいつもコピーしてやる。そうだな、改造して戦闘機竜なんてどうだ?」
「馬鹿の一つ覚えは結構だ」

 ストラーダのモードが替わる。

「コピーはもういい。自分でかかってこい」
「……僕がかかっていかないのは、君への優しさのつもりなんだが」

 SONIC MOVE
 一瞬遅れ、エリオが同じ魔法を発動する。
 次の瞬間、弾き飛ばされたのはエリオ。さらに、飛ばされた先にローヴェンが先行、逆方向へエリオを弾く。
 フリードのブラストフレアの牽制で辛うじて体勢を立て直すエリオ。

 ……圧倒的な速度差?

 エリオの視線がローヴェンのデバイスに向く。

 ……デバイスによる発動と自らの発動で二段階のソニックムーブ?
377野狗:2009/01/02(金) 14:06:50 ID:BRmUkU2f
     5

 エリオ自身にも不可能ではない。しかし、エリオの勘が告げていた。否、と。
 単純に二倍の速度差ではない。あえて言うなら三段階。三段階のソニックムーブとしか思えない差だ。
仮に可能だとしても、三段階まで加速するとエリオの神経では対処できない速度になる。
 だが、スカリエッティの頭脳を持つ者には可能なのだろうか。

「やっぱり邪魔だな。そのチビ竜は」

 デバイスがフリードに向けられる。
 SPEERANGRIFF
 近すぎる。加速が足りなければ避けることは容易い。
 エリオはフリードが自ら避けるに任せて、避けられたローヴェンが通り過ぎた瞬間を狙い、振り向いた。
 目が合う。なぜか、デバイスが進行方向の逆……こちらを向いていた。

「馬鹿だな、君は」

 THUNDER RAGE
 フリードに突きつけられたデバイスの先端が電撃を放ち、肉と空気の灼ける嫌な臭いが辺りに充満する。
 苦痛の叫びをあげるフリード。同時にエリオも電撃を浴びていた。
自らの能力からしてある程度の電撃耐性を持つエリオですら耐えきれるかどうか定かではない、大容量の電撃である。

 ……デバイスが……二本!?

「三段階のソニックムーブで気付かなかったかい?」
「が……っ……二つ……?」

 落ちていくフリード、一拍おいて後を追うようにエリオの身体も落下していく。
 それを追うローヴェン。

「逃げるなよ、偽者」
「舐めるなっ!」

 突き出された槍を受けると、もう一本の槍がエリオの落下を速めるように叩きつけられる。
 さらにもう一度。
 連動した二本の槍を一本の槍でさばけるわけがない。技量はほとんど同じなのだ。
 落下しながら、為す術もなくエリオは撃たれ続けていた。
 地に落ちる寸前、ストラーダを地に叩きつけて一瞬跳ぶ。わずかに反応の遅れたローヴェンの前から身を捻り、
やや離れた位置にエリオはなんとか着地する。
 傷ついたフリードは地に伏せていた。しばらくは戦闘に参加できるような状態ではない。電撃をまともに受けたのだ。
 エリオはストラーダを構える。

 ……フェイトさんのコピー、なのはさんのコピー、はやてさんのコピー。皆、昔のコピーだ。だったら、こいつだって……

 おそらくローヴェンが使えるのは、生まれ持った電撃特性に関する技のみ。エリオが魔力とは関係なく習得した技を使える道理はない。
 エリオはストラーダを握りなおした。
 ローヴェンは、そのエリオを興味深げに眺めていた。
 二体のコピーフェイトがその両脇に立つ。

「そんなに抗わない方がいい。どうせなら僕よりも、美人の母親もどきに殺されたいだろう?」
「……フェイトさんは、僕とキャロの母さんだ」
「それは間違いだ」

 ローヴェンは肩をすくめる。
378野狗:2009/01/02(金) 14:07:23 ID:BRmUkU2f
       6

「確かに君の母さんだけど、キャロの母さんではないよ」
「どういう意味だ!」
「さっきも言っただろう? 魔力変換資質だよ。まさか、偶然だとでも?」
「電気の魔力変換資質がこの世に何人いると思ってる」
「プロジェクトF・A・T・E。完成させたのはプレシア・テスタロッサ。しかし、基礎を作ったのはジェイル・スカリエッティだろう? 
プレシアはその基礎を引き継いだだけ」

 ローヴェンは、左手の槍を立てる。

「さて、ここで疑問が一つ。引き継いだのは本当にプレシア・テスタロッサだけなのか? もし、管理局の一部にその技術が引き継がれていたとすれば?」
「戯言はやめろ!」
「事実だよ。ごくごく単純な。フェイト・テスタロッサはクローンとしては成功だったが、いくつかの弱点もあった。
戦闘用人造魔道師としては致命的なのは、自我が薄弱なところだ……もっとも、今となってはそれもただの発達の遅れだということがわかったがね。
いや、成長した彼女はたいした物だよ」
「黙れ」
「そこで、フェイト・テスタロッサの存在を知った管理局は考えた。彼女と別の誰かを配合すれば、もっといい魔道師ができるかも知れない。
遺伝子が上手く適合し、彼女の小さな欠点のいくつか、不完全な部分を埋めることのできる遺伝子を探せばいい」
「黙れと言っている」
「ちょうどいい人物が見つかってね。そこで誰かがちょっとした悪戯を思いついた。そうだ、アリシア・テスタロッサと同じ道を辿ってもらおう、と」
「黙れと言ってるんだ!」
「死んでもらったんだ。エリオ・モンディアルには」
「やめろ!」
「金持ちは違うね。詳細を隠した怪しげな話にすぐに飛びついて、資金提供までしてくれた。
おかげで、フェイト・テスタロッサとエリオ・モンディアルの遺伝子を配合したクローンをすぐに作り出すことができた。……それが僕。そして……」

 嬉しそうに笑うローヴェン。

「君だ。もっとも、正確には僕は、そのデータを入手したクアットロに作られた完成体だけどね」
「嘘だ」
「喜べよ。君はある意味、フェイトの実子なんだ」

 歯を食いしばり、しかしエリオは言う。

「……嘘だ…」

 嘘だ。と叫びたかった。
 フェイトを実の母のように思っていた。いや、実の母以上だと思っていた。しかし、これは違う。
 何かが、ひどく間違っている。
 実の息子相手のように愛を注いでくれた人。実の母に対するように応えようと思った自分。
 それが、互いの知らない実の親子だった。それも、遺伝子上の。
 違う。
 これでは、ただの道化ではないか。
 その思いを読みとり逆撫でするように、さらにローヴェンは笑った。

「嘘だと信じたいんだろ。生きて帰れたら、遺伝子走査でも何でも好きにすればいいさ」
「やってやるさ! 貴様を倒してから!」

 ストラーダが唸りをあげ、エリオの足が地を蹴った。
379野狗:2009/01/02(金) 14:07:56 ID:BRmUkU2f
       7

 スバルとノーヴェは、キャロとルーテシアのいる一室に辿り着こうとしていた。微かな魔力反応を追って、二人は奥深くへと侵入していたのだ。
 進むに連れて二人の表情は険しくなっていく。しかしノーヴェはスバルを、そしてスバルはノーヴェの表情の変化を訝しげに見ていた。
 そう。二人は別の理由で、それも「相手にはわからないはずの理由」で警戒を続けていたのだ。
 スバルは、周囲の光景に既視感を覚えていた。

 ……似ている

 これはまるで、なのはさんと部隊長を救出するためにティアと一緒に突入した場所ではないか。
 この通路の壁、色、明かり。
 何故、これほど酷似しているのか。
 これではまるで……

 ……ゆりかご内部じゃないか

 そしてノーヴェは、罠どころか迎撃さえないことに危惧を覚えていた。

 ……何もない

 こちらがクアットロの裏をかいたわけではないのだ。チンク姉が一人残ったのは確かに予想外だが、それはあくまでもノーヴェにとっての予想外だ。
クアットロならばその程度は予想の範疇だろう。何らかの対策はあるはずだった。
 それが何もない。
 スバルも自分も、妨害らしい妨害を全く受けずに侵入しているのだ。
 考えられるとすれば二つ。
 一つはこの後、キャロやルーテシアを発見するときが罠であること。
 あるいはもう一つ……ノーヴェにとっては最も嫌な想像だ。
 キャロやルーテシアを救出されることなど、クアットロにとっては痛手でもなんでもないこと。
いや、救出という手間をかけた分だけ、こちらが不利になるように仕向けられているのではないかということ。


 スバルとノーヴェはほとんど同時に立ち止まる。
 二人の目の前の扉の奥から、微弱な魔力反応とデバイスの反応があるのだ。
 一つはケリュケイオン、そしてもう一つはアスクレピオス。

「ここだね」
「ああ。間違いない」

 構えるノーヴェ。スバルがゆっくりとドアに触れる。

「あれ?」
「どうした?」
「開いてる?」

 何の抵抗もなく、触れただけでドアは自動に開く。ルーテシアとキャロが閉じこめられているはずなのに。
 中を覗き込んだスバルが拳を握りしめた。

「ノーヴェ、来る途中にいくつか部屋があったよね」
「ああ」
「着るものか、せめてシーツか何か」

 ノーヴェも部屋を覗き込み、顔をしかめた。
 全裸のルーテシアとキャロが倒れている。二人とも、意識はあるようだが身体が動いていない。
 すぐに駆け出すノーヴェ。スバルはルーテシアを助け起こす。
 と、ルーテシアの足下に無造作に置かれたメモに気付く。
380野狗:2009/01/02(金) 14:08:30 ID:BRmUkU2f
         8

“二人が投与されているのはただの麻痺薬。一日は薬の効果は抜けません。治療魔法も役には立ちません。
だけど、担いでいけば充分に助けられますよ。足手まといを連れて頑張ってくださいね。ファーイトっ♪ by クアットロ”

 思わず、メモごと床を殴りつけるスバル。

「……ルーテシア、キャロ、絶対助けるからね!」
「……命……令……置い……ていきな……」
「聞こえないから関係ないよ」

 すぐに戻ったノーヴェがルーテシアの身体をどこからか調達してきた布でくるみ、スバルの殴ったメモに気付く。

「……スバル。あたしの背中に一人くくりつけてくれ」
「ノーヴェ?」
「あたしはガンナックルがあるから、接近戦しなくても牽制できる。お前は振動拳もディバインバスターもあるだろ。だから、身軽でいなきゃ駄目だ」

 言葉を失うスバルに、ノーヴェは叫ぶ。

「黙ってやれ! あたしは、どうせ腕一本なくなってんだ、ロクに戦えねえよ! その代わり、死んでも二人を運びきるからな!」
「わかった。任せるよ、ノーヴェ」
「ああ、任せとけ」

 小柄なキャロの方を背中におぶるようにくくり、残った片腕でルーテシアを抱えるノーヴェ。

「一つ言っておく。多分、これがクアットロの罠だ」

 皆まで言わずとも、スバルはうなずいた。
 わざと足手まといとなる二人を運ばせて、助けに来た人間の機動力を削ぐ。たしかに、クアットロの考えそうなことだった。

「だけど、この罠を突破する。絶対に」
「勿論」
「だから、あたしは突っ走る」
「わかってる。あたしは邪魔するやつを一人残らず倒す」

 走り出そうとしたスバルを引き留めるノーヴェ。

「もう一つだ」
「なに?」
「二人は必ず助ける。そして、あたしもお前も無事に戻る。それで作戦成功だ。お前も……欠けちゃ駄目なんだ」

 そして、チンク姉を助ける。とノーヴェは宣言した。

「いいな?」
「ん……」

 スバルの微妙な顔に、ノーヴェは顔をしかめる。

「何か言いたいのか?」
「いや、今、なんか……ノーヴェがギン姉に見えた」
「馬鹿」
381野狗:2009/01/02(金) 14:09:04 ID:BRmUkU2f
        9

 十数本目のスティンガーが弾き飛ばされる。
 一本たりとも、ハーヴェストには掠りもしていない。全てがレイブレイズに阻止されているのだ。
 逆に、連続攻撃の合間の反撃をチンクは避け切れなかった。
 致命傷こそ今のところはないが、それも時間の問題だろう。現状では、チンクは弄ばれているといってもいい状態だった。
 チンクの全ての手は封じられ、ハーヴェストの攻撃は避けるのが精一杯。身体中の至る所には避けきれなかった切り傷が見える。
そしてチンクの身体は流血で真っ赤に染まっていた。
 荒くなった息を必死で整えながら、チンクはハーヴェストの動きから目を離さない。一瞬でも目を離せば、レイブレイズが死角から伸びてくるのだ。
 今コピーが戦いに参加すれば、チンクは瞬殺だろう。レイブレイズに切り刻まれるか、レイブレイズを避けてコピーの攻撃に晒されるか、
二つに一つしかないのだ。

「つまらない戦いです。もしかして、ノーヴェ姉様とスバルの帰還を待っておられるのですか? それとも、援軍の到着ですか?」
「言ったはずだ。私がお前を倒すと」
「……もう、結構です。死んでください」

 ハーヴェストの背後に、クローラーズが並ぶ。

 ……ああ、ドゥーエ、トーレ、ウェンディ、オットー、わかってる。そう急がせるな……

 チンクは走った。何も構えず、ただがむしゃらに、ハーヴェストへと。
 一瞬、ハーヴェストが虚をつかれた。しかし、あくまでも一瞬。それでも、ハーヴェストはその場を動かない。
 立ったまま、チンクを待った。クローラーズもそれぞれが下がっていく。

「まさか命を捨てて突撃? しかる後に相撃ちなどと言う虫のいい、安易な結末をお望みですか?」

 だとしたら……
 ISレイブレイズ
 光条の力場が螺旋を描いて、ハーヴェストの姿を包み込むように展開していく。
 あらゆる攻撃を無効化する、力場による障壁。
 計算上は、なのはのディバインバスターすら正面から無効化するほどのものだ。ランブルデトネイターの破壊力ではどうにもならないだろう。

「失望しました。チンク姉様」
「そうだな。安易だな」

 チンクはハーヴェストの目前で飛んだ。
 戦闘データからレイブレイズによる障壁の性質はわかっている。あくまで、帯状の力場の回転による障壁であり、
プリズナーボックスのように実際に壁が形成されるわけではない。
 ならば、その回転につけいる隙がある。
 片手で同時に持てる最大数のスティンガーを出現させ、投げるというよりも手刀をもって突き刺すように持ち替えて、手を伸ばす。
 無理矢理に押し込んでくる。と判断したハーヴェストがあえて前に進んだ。これでレイブレイズの回転の範囲内にチンクの腕が入る。
つまり、切り刻まれる。
 ハーヴェストの嘲笑を、さらなるチンクの笑みが消した。

「スペックは知らず、戦術は私の方が上だな」

 殴りつけるように右拳を振るうチンク。その拳の先にはスティンガーが。
 逆向きに。
 すでにチンクの拳に突き刺さっているスティンガーが。    

「舐めるなっ!」
382野狗:2009/01/02(金) 14:09:37 ID:BRmUkU2f
     10

 ハーヴェストの怒声とともに、二つ目のレイブレイズがチンクを突き飛ばすように胸元へと伸びる。
 一瞬先駆けて、
 ISランブルデトネイター
 ハーヴェストの目前、頭の斜め上でチンクの拳が爆発。たまらず背後へよろめくハーヴェスト。
 チンクは爆風で着地し、さらにその反動で再び前へ、ハーヴェストへと飛ぶ。
 残った左手に今度こそ正向きのスティンガーを、投げずに、その腕でハーヴェストに叩き込む。

「舐めるなと言ったっ!」
「あぁああぁああああっ!!」

 凄まじい叫びが轟いた。
 それは、生きたまま片腕をミキサーにかけられる苦痛の叫び。
 回転球が、チンクの左腕を噛み砕くように飲み込んでいた。

「私のレイブレイズが、一撃ごときで壊れるかっ!」

 進むハーヴェスト。苦し紛れに振るったチンクの、すでに肘までしかない右腕すら飲み込んで回転球が回る。
 あまりの苦痛にあがくチンク。無意識にか、振った両足も巻き込まれていく。
 次に左足を、そして右足を。
 チンクの四肢を噛み砕いて進むハーヴェスト。
 そして、チンクは地面に投げ出される。

「あ……く………」

 苦痛か、それとも敗北の衝撃か、震える声のチンクをハーヴェストは回転を止めて見下ろしていた。
 チンクの砕かれた四肢、その血肉を全身に浴びながら、ハーヴェストは立っていた。チンクを見下ろし、嗜虐の笑みを浮かべて。
 誰もがこのとき、確信しただろう。
 ああ、彼女こそ、真にクアットロの姉妹なのだと。

「……次は、目をえぐりましょうか? チンク姉様。喉は最後まで残しておきましょう。姉様の悲鳴が轟くように。
耳も、最後まで残しておきましょう。他の姉様の悲鳴が聞こえるように」

 チンクを蹴り飛ばす。

「どなたにします? ノーヴェお姉さま? ディエチお姉さま? それともスバル? あるいはルーテシア?」
「……リクエストか? クアットロか、ハーヴェストだ」

 チンクは笑おうとした。しかし、うまくいかない。

「つまらないですわ、お姉さま」
「……もう、勝負はついてるんだぞ。降伏しろ」
「しつこい冗談は嫌いです」
「ランブルデトネイターは任意で、仕掛けた順番とは関係なく爆破できる。そして、爆破できるのはスティンガーだけじゃない。
ある程度の大きさの金属片だ。だから、降伏しろ」

「訳のわからな……」

 言いかけて、ハーヴェストは己の手を見た。
 チンクの血肉にまみれた手。

「……まさか……」
383野狗:2009/01/02(金) 14:10:10 ID:BRmUkU2f
       11

 チンクは笑う。やっぱり、うまくいかない。

「私たちは戦闘機人だ。体内に金属片を仕込むなんて、簡単じゃないか」

 ISランブルデトネイター
 ハーヴェストの身体中に巻き散らかされていたチンクの身体の一部が、次々と爆発を起こす。
 右腕を犠牲にしたランブルデトネイターがすでに見せ技だった。チンクの狙いは、最初から自分の身体を刻ませ、
ハーヴェストの身体のあちこちに金属片を散らすことだったのだ。
 一つ一つの爆発はそれほどではないが、連鎖的に上半身を焼き尽くされたハーヴェストはたまらず倒れる。

「……」

 チンクは、空を見ていた。
 ありがたい、と思う。
 この周辺にはライナーズはいない。空を見るのに邪魔になる敵影はないのだ。
 クローラーズの近づくのが視界の隅に見える。
 ノーヴェのコピーに殴り殺される。それは面白い皮肉だ。クローラーズは、クイントのコピーのコピーだ。
だったら、自分は殺されても文句を言える筋合いではあるまい。

 ……今日は、死ぬにはいい日だ

 チンクは、空を見上げていた。
 どうせもう、ほとんど見えない。
 できれば、最後の瞬間は空が見たかった、とチンクは少し残念に思う。

 ……もう、夢は見なくていいんだな。

 それが、ひどく自由に思えた。
 そのとき何かが、視界に入った。
 クローラーズか。
 精々、あっさり殴り殺してくれればありがたい。そう言いかけて、話すことができないことに気付いた。

「チンク!」
 ……馬鹿馬鹿しい

 チンクは、自分の見えたものに苦笑していた。
 クイントが、こんな所に現れるわけがない。
 それとも、迎えに来たのだろうか?

「馬鹿!」

 自分の身体が浮いたような気がした。
384野狗:2009/01/02(金) 14:11:39 ID:BRmUkU2f
    12

 エリオは、地にしっかりと踏ん張った。

「あああああああああっ!!」

 全ての魔力をストラーダに込める。
 どんな攻撃もいなされるのなら、二倍の手数で反撃されるなら。
 最強の一撃を放つ。 
 シグナムから習い覚えた技。今の自分にとっての最強にして最大の技。

「必殺技ってやつかな?」

 ローヴェンは涼しい顔でデバイスを構えている。

「来いよ。あらゆる面で、君を打ち崩してみせる」

 その言葉に対する憤怒すら、エリオは攻撃力に転換しようとする。

「……行くぞ……」

 ローヴェンは優雅にうなずいた。
 エリオが文字通り地を蹴った。空気の焦げる臭いすら発しながら、電撃がストラーダに集束していく。

「紫電一閃!」

 ローヴェンの左手が無造作にストラーダを弾く。

「……こうか?」

 ストラーダを弾いたデバイス。その逆に持ったデバイスが瞬時に電撃を蓄積する。

「今のなんだっけ? ああ、紫電一閃?」

 動けないエリオの胸元を、圧力と雷の奔流が貫く。苦痛よりも電撃よりも、精神的なショックがエリオの表情を歪めていた。
 あっさりと。あまりにもあっさりと。
 ローヴェンはエリオの紫電一閃を防いだ。
 エリオはローヴェンの紫電一閃を防げなかった。
 あまりにも、わかりやすい力量差だった。

 ……俺……何やってんだ? 

 ストラーダがエリオの手からこぼれる。

 ルーテシアを救う?
 キャロを救う?
 仲間をこれ以上傷つけない?

 ……どうやって?

 こんなに、弱いのに。

「だから君は、不完全なんだよ。未完成なんだよ」
 ……そうか……それなら……

 不思議な開放感が、エリオの身体を包んでいた。

 ……楽になるのか?

 意識が薄れていくのを、エリオは感じていた。
385野狗:2009/01/02(金) 14:12:12 ID:BRmUkU2f
     13

 スバルとノーヴェは元のハッチから出る。
 帰り道でも、罠どころか敵の姿もなかった。
 しかし外に出た瞬間から、当たり前のように敵は多い。

「スバル! あっちだ」

 ノーヴェの示す方向に、無惨な姿で倒れるチンクをスバルも確認する。そして、その姿を取り囲むクローラーズ。

「チンク姉!」

 この距離では、間に合わない。
 しかし、スバルは叫ぶ。
 チンクの向こう、高速で駆け寄る二つの姿に。

「ギン姉! ザフィーラさん!」

 鋼の軛がクローラーズを一気に吹き飛ばし、ギンガがチンクを抱き上げる。

「チンクの馬鹿!」

 ギンガはチンクの軽すぎる体を抱きしめていた。

「……ノーヴェやディエチ、ウェンディを置いていくつもり? 姉として、そんな無責任は絶対許しませんからね!」

 ギンガとザフィーラはそのままスバルたちに合流する。

「シグナムとアギトは、スクライアとともにシャマルたちの支援に向かった。しかし、コピーの数が多すぎて突破できんらしい。
しかし、主ももうすぐ来られるはずだ。形勢は決して悪くない」

 ザフィーラが人型に変わり、ルーテシアをノーヴェから抱き上げる。ルーテシアの格好に目を丸くするギンガ。

「キャロも私が運ぶ。私の方がお前より力は強いからな」
「ザフィーラさん。ルーテシアさん、裸なんですけど」
「緊急事態だ。そんなことは言ってられんだろう」
「……それはそうですけど……」
「どうしたの、ギン姉?」
「なんでもない」

 気絶したチンクは、ノーヴェが断固運ぶと主張した。

「スバル。この中なら指揮権はお前だ。後の指示を頼む」
386野狗:2009/01/02(金) 14:12:46 ID:BRmUkU2f
       14

 ザフィーラの言葉に、スバルは慌てて周囲を見渡す。
 確かに、その通りだった。指揮官は誰もいないのだ。
 少しだけ、スバルは考える。

「あたしとギン姉は隊長に合流します。ザフィーラさんとノーヴェはルーテシアさんたちをジュニアの所に」
「ハーヴェストはどうする?」
「バインドして連れて行くしかないと思います。お願いできますか?」
「了解した」

 どくん

 ザフィーラが辺りを見回す。

「今の音は?」
「音?」
「ああ。今、心臓の鼓動のような音が」

 どくん

「聞こえた……」
「それじゃあ、そろそろ切り札と行きましょうかしら♪」

 突然聞こえるクアットロの声に、一同は構え、辺りを見渡す。

「……実体は無しで声だけを送っているな」
「多分、地下に基地があると思います」

 スバルは自分が地下でゆりかごのようだと感じたことを伝える。

「だけど、切り札って……ハーヴェストのことじゃなかったのか?」
「その声はノーヴェちゃん? 不正解です〜♪」

 地面が震える。
 ギンガが驚きの叫びをあげた。
 地面から持ち上がる、不気味な肉塊。いや、どこか見覚えのある、何かを不気味に戯画化した塊。

「……嘘」

 スバルが自分の見た物を否定するように首を振る。
 肉塊は、地面の至る所を埋め尽くさんばかりに発生していた。いや、すでにそこにあるのは地面ではない。
あえて言うならば、そこにあるのは肉面であった。
 持ち上がり、三つの穴をもったやや大きい球が先端に。そしてその根本には金属製の棒のような物を持った突起物が発生する。
 誰が気付くのだろうか。
 その球が頭であること。
 突起物が一本だけの手であること。
 金属の棒が、簡易デバイスであること。
 そして、その球には微かな特徴があった。
387野狗:2009/01/02(金) 14:13:22 ID:BRmUkU2f
       15

「これか……」

 ザフィーラが呟き、ギンガが息を呑んだ。
 そして、スバルが哀しそうに言う。

「……なのはさんのコピー……」

 コピーたちはけたたましく笑い出した。

 DIDIDIDIDIDIVVVVVVIIIIINNNNNNNEEEE

 金属を削る音と電気ノイズがきしみ混ざったような、不快な不協和音。

 BBBBBBBBUUUUSSSSSTTEEERRRRR

 うつろな瞳が狂った笑いを生み出しながら、デバイスが光り輝く。

「シールドだ!」

 ザフィーラの言葉に、全員がとっさにシールドを張った。
 DIVINE BUSTER
 数十のディバインバスターがスバルたちへと放たれる。

「くっ……何度もは耐えられんぞ!」
「スバル! コピーを破壊するわよ!」

 スバルとギンガは辺りのコピーに殴りかかる。
 防御を全く考えていないコピーたちは瞬時に破壊されるが、破壊されればそこには倍の数がコピーされる。
 倒せば倒すほど、新しいコピーが生まれる。そして、コピーたちは次々とディバインバスターを放つ。
 避け、防御し、それでもコピーを倒し続ける一同。しかし、きりがないのは一目瞭然だった。
 スバルは撤退命令を出そうとしてはたと止まる。
 空を飛べるのは、ザフィーラだけ。
 ギンガも自分もノーヴェも、エアライナーやウィングロードをディバインバスターで撃たれては動けないに等しい。

「ザフィーラさん! ルーテシアさんとキャロ、チンクを連れて逃げて!」

 三人は残るしかない。ここで、できるだけのコピーを叩きつぶす。
 ザフィーラに否はない。というより、この場で他にとれる方策などないのだ。
 おそらくは、シグナムたちも同じ攻撃を受けているだろう。
 できる限りの速度で飛び去っていくザフィーラを背中で見送りながら、スバルはギンガとノーヴェに目をやった。

「……ごめん、ギン姉。ノーヴェ」
「帰ったら、アイス奢りね?」
「あたしは、パフェな」
388野狗:2009/01/02(金) 14:13:55 ID:BRmUkU2f
    16

 まず、片腕を失っていたノーヴェが脱落した。
 そして、ノーヴェを庇ったギンガ。
 二人を背後に置き、スバルはそれでも立ち向かっていた。しかし、二人を庇うため避けることもできずに受け続けるだけでは、消耗していく他はない。
 時間の問題だった。

「……ごめん……ギン姉、ノーヴェ」

 二人からの返事はない。
 シールドを張り損ねた瞬間に、ディバインバスターの衝撃が全身を襲った。
 本物には及ばないとは言っても、単に一撃ではない。一撃受ければ、次々と追撃が来るのだ。
 立ち上がろうとした腹へ。
 避けようとした背中へ。
 地面に倒れ伏せ、スバルはそれでも立ち上がろうともがく。
 立ち上がろうと手をついた場所に、新しいコピーが生まれていた。
 顔の正面をディバインバスターが襲う。


 ……終わった……


 スバルはその瞬間生まれて初めて、生を諦めた。
389野狗:2009/01/02(金) 14:14:37 ID:BRmUkU2f


     17 

 次回予告
???「遅れてごめん、スバル。
   次回、魔法少女リリカルなのはIrregularS 第十二話『エースの帰還』 
   行くよ、全力全開! IRREGULARS ASSEMBLE!」
390野狗:2009/01/02(金) 14:15:16 ID:BRmUkU2f
 以上、お粗末さまでした。

  中書き
 正直、今回の次回予告を書くために、第一話からずっと予告つけてました。
391名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 14:50:07 ID:e4mipoqZ
GJ!
来るか、ついに!
392名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 14:55:12 ID:bf0PLVVC
ああくるぞ! 第12話のお約束、スーパークロ(ry
393名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 15:17:10 ID:bEKV8c3E
GJ!
スバル達はもう問題ないだろう
問題なのはエリオだな…
でも自分とフェイトの関係が今までの根底から覆されて激しい戸惑いを覚えてるだろう
そして相手の基本的な能力はあちらの方が上とかなり厳しいな
394名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 15:50:35 ID:UjGprzwm
毎度恒例、ギリギリ登場最後の大逆転
3957の1:2009/01/02(金) 18:36:04 ID:pn0a94qs
司書様。
SS保管庫に収録する際、>>346の桃子さんや史郎さんを桃子さんや士郎さんに
史郎と京也を士郎と恭也に変えてくださいませんでしょうか?
お願いいたします。
396名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 18:43:34 ID:1voePh0V
>>370
開発途中で暴走してる
小説では管理局が介入する前に、プレシアに罪着せて解決したという形になってるけど、流石に現物は破棄させられてるんじゃないかな
話に使えると思ってたけどヒュードラかヒュウドラか名称のどちか
397名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 19:29:39 ID:ukVI1sm0
>>396
サンクス
CoD4のチェルノブイリみたく裏取引の舞台にしようとおもったんだけど
無理あるかねぇ
398名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 21:10:50 ID:8qgyt0Dn
>>390
GJ!
ローヴェンが意味もなく、エリオの姿をする訳ないと思っていたが、やはり重要な理由があったか
そして今更だが、エリオの一人称が「俺」もかっこいいなあとしみじみ
次回は魔王様の活躍に期待!
399名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 21:48:09 ID:7qxT85dy
>>390
「食らえ、メタ○カ」
あれを思い出しました。

数十の肉塊って画的に怖いですね。
いったいクアットロにはどんな末路が待っているのか。
ひょっとしたら○○○○のコピーまで出てくるのではと想像してます。
GJでした。


>>397
魔力炉内の物質を酸素と結合させてエネルギーを生み出すんだったかな。
暴走事故で漏れた物質が化学反応起こして周辺が高温&無酸素状態になったらしい。
まだそれが続いているかは知らないけれど、因縁の土地ということでずっと更地のままということもあるかも。
400名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 22:26:20 ID:HhQ9j+9s
>>397
いいんじゃないでしょうか?
再開発するメリットが無いから、企業が土地ごと売って今まで買い手無しとか。
そういえば、プレシアには親戚とか親族はいないのだろうか?
401名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 22:41:14 ID:1voePh0V
プレシアが作ってた魔力炉って次元航海船に積んだりするものじゃないの?
機体に搭載するんじゃなくて、施設とかに供給するエネルギー源?
402サイヒ:2009/01/02(金) 22:58:06 ID:JDaUQcSl
>>354

ディエチ「確かにトーレみたいに力があるわけでも、ウェンディみたいに愛想がよくて子供受けするわけでもないけど、
  だからって新型魔法の実験なんて危険な仕事回してこなくても」
??「……どうも。派遣会社の方ですか。依頼人のルーデルといいます。本日はよろしくお願いします」
ディエチ「こちらこそよろしく。……新型魔法ってどんなものなんですか?
  暴発の危険性とかは?」
ルーデル「その点は安心してください。家族ですでに実験して『二度と人前で使わないでくれ』『あの愚弟撃ち殺す!』
  と期待値どおりの評価をもらっているのですが」
ディエチ「ちょっ、ちょっとまっ……」
ルーデル「なにぶん十一歳で嫁を孕ませた父を筆頭に世間の常識とかけ離れた人ばかりだと自覚しているので、
  この辺で一般人の意見も聞いておいた方がいいかと判断しまして」
ディエチ「いやだから人の話を……!」
ルーデル「ではさっそく。……召喚、地雷夜百一匹大行進」


ドゥーエ「……ディエチどうしたの? 部屋の隅っこで膝を抱えてがたがた震えて」
ウーノ「仕事先でゴ○ブリの大群に襲われたらしいわよ」


こんなんしか思い浮かばんかった。
403名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 23:01:05 ID:ukVI1sm0
元ネタあるの?
ルーデルってドイツ空軍しか思いつかないんだけど。
404サイヒ:2009/01/02(金) 23:06:06 ID:JDaUQcSl
>>403
ルーデルはまさにそこが元ネタですね。
あと、地雷王を小型化したらゴキブリみてぇだなぁとずっと思ってただけ。
とても一本仕上げられるようなネタじゃないですね、うん。
405名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 23:08:34 ID:NPO90plo
>>403
ロリコン、撃墜王、A-10が連想できるなあ。
406名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 23:21:10 ID:gZ7gfJCm
>>403
 
 地上の破壊神は、今日も笑顔で出撃。
 おおっと、暴走した古代の兵器からの攻撃を受けてしまった!

ル「右足を吹き飛ばされた!だがそんなことより出撃だ!!」
ディエチ「いや、あの今日はもうやめたほうが……」
ル「さあ出撃だ!」
デ「ちょ、まって〜」

 ディエチの右腕をガッチリ掴んで引きずっていくルー様。
 その日の戦闘日誌

 『見渡したが暴走した古代の機動兵器は一機も残っていなかった。残念だ』
 『疲れが溜まったのだろう。バイトのディエチ君は気を失っている。次は爆撃能力で定評のある五女を連れて行こう。さあ明日も出撃だ』

……こんな感じだろうか?
なんか完全にスレ違いそうなんでこの辺でやめておこう。
407名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 23:32:31 ID:BRmUkU2f
………それ、ルーデルでなくても普通になのはさんでもいけそうだw
408名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 23:40:10 ID:ISI9+uCP
ナチスの不滅の超人ルーデル:なのはさん
ルーデルさんの補助で唯一ついて行けたヒト、ガーデルマン:フェイト
こんな感じかw
409名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 23:40:54 ID:dTmKj9jE
>>406
俺の夜食の天ぷらそばを返せコノヤロウwwww
410名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 00:02:26 ID:zZO5CEPM
ガーデルマンはティアナがむいてないか?w
411Foolish Form ◆UEcU7qAhfM :2009/01/03(土) 00:13:42 ID:CIDFdL/M
ああああああああああああああああああ
遅かったあああああああああああああああああ

……という訳で皆さんに素敵? な初夢を。
何が遅かったのかは最後に。

・ユーノ&なのは 非エロ
・闇の書事件から*年後
・フェイトちゃん( ´・ω・)カワイソス

それでは、それでは。
412三人の姫初め? 1/7:2009/01/03(土) 00:16:05 ID:CIDFdL/M
「あけましておめでとう、ユーノ君」
「おめでとう、なのは」

年の初め。
高町家で迎えた正月。
ユーノ・スクライアはなのはの隣に座って、針が午前零時を指した瞬間を、しっかりと見届けた。
「ことしもよろしく、なのは」
「お願いします、ユーノ君」
ちゅ、と軽く唇にキスをすると、なのはは微笑んだ。
「ん? ユーノ君顔赤くなってるよ?」
「う、うん。だって、なのはが可愛いから」
「またまた、もう」
もう一度、今度はユーノからキス。
「明日も早いから……もう、この辺にしよう?」
「えー」
「えーじゃないの。それじゃ、おやすみ」

なのはの扇情的な誘惑を振り切って、ユーノはベッドに潜った。

朝。初日の出が気持ちよく世界を照らす。
「いただきます」
ユーノは、なのはとおせち料理を食べていた。
「これ、なのはが作ったの?」
「そうだよ」
「これも?」
「うん!」
「ひょっとしてこれもでしょ」
「すごーい! どうして分かったの?」
「だって、なのはの作った料理の味なら、全部わかるよ」
「えへへ、ありがとう」

一つ一つ、味わうようにして食べる。
「凄くおいしいよ、なのは」
「ありがとう。こっちも食べて、あーん」
「あーん」
差し出された昆布巻きを、口で受け取る。
「じゃあこっちも、あーん」
数の子をなのはに食べさせて、お互いに笑う。
「数の子……か」
フッ、と恭也が口の端を上げた。
「ユーノ、知ってるか? 数の子の意味」
「意味、ですか?」
413三人の姫初め? 2/7:2009/01/03(土) 00:17:14 ID:CIDFdL/M
「そう。このおせち料理には一つずつに願いを込められていてな。
例えば今お前が食べた昆布巻きは、『慶ぶ』という意味だ。
そこにある黒豆は『まめに暮らす』という意味で、そっちの田作りは豊作を願ってる。ま、家は農家じゃないが」
「昔は、肥料にイワシを使っていたんですって。だから、豊作を祈願しているの。
伊達巻は知識が増えますように、ブリは成長と共に名前が変わる『出世魚』だから、出世できますように、って」
桃子も、思い出したように口を挟む。
「そして、数の子は……私、この年でおばあちゃんになるのかしら?」
「そうなんだよな。俺もこの年でおじさんか……ユーノ、頑張れよ」
「え、ええっ!?」

突然『頑張れ』と言われ、ユーノは面食らう。
「数の子は、子孫繁栄を願っているんだ」
恭也が重々しく頷いて、桃子もほんのり顔を赤くする。
「とっ、父さんは反対だ、まだなのはには早──」
「お父さん」
なのはがビシッと箸を突きつけた。
「後で、お話があります」
慇懃なまでに硬化した声でそれだけ言うと、またなのははもくもくとお雑煮を食べ始めた。
そこから先、食卓には会話らしい会話がなかった。

「なーのーはーちゃんっ!」
どういう訳か、ユーノにもお年玉が振るわれ、ビックリしていた頃、すずかの声が響いてきた。
「あっ、ユーノ君も! 明けましておめでとうございます」
「おめでとう、すずかちゃん」
「おめでとう、すずか。って、アリサは?」
ユーノは、アリサがすずかより遅く来たことを疑問に思った。
「もうすぐ来ると思うけど……あ、ほら」
外でブレーキを踏む音が聞こえた。ドアが開き、閉まり、そしてアクセルを踏んで走り出した。
「どう、ぴったり5分前でしょ」
「ホントだ」
アリサは、見事なまでの装飾が施された振袖を着てきた。
その目がすずかを捉えるや否や、アリサは冗談交じりに吼えた。
「って、何ですずかがあたしより早く着てるのよ!?」
「ご、ごめんなさい」
皆の間に爆笑の渦が沸き起こる。
ひとしきり笑い終わった後、はやてもやって来た。
「みんな、あけましておめでとさん」
「おめでとう、はやてちゃん」
待ち合わせの時間になり、さあ行こうかという雰囲気になって、アリサがふと気付いた。

「で、フェイトは?」

「大寝坊だ。今日が楽しみでずっと寝られなかったらしい」
ハラオウン家の玄関で、クロノは困ったようにかぶりを振った。
「そんな訳だから、しばらく待っててくれ。直に来るだろう」
女の子の支度がかかること、それは誰ともない共通事項だった。
「フェイトちゃんは大丈夫なの?」
なのはが聞くと、クロノは『大丈夫だ』と念を押した。
「本当に何の問題もない。ただのねぼすけだ」
「ふぅん……クロノ君、フェイトちゃんが寝てる間に変なことしたらアカンよ?」
414三人の姫初め? 3/7:2009/01/03(土) 00:18:11 ID:CIDFdL/M
横からはやてが茶化すと、クロノの顔は真っ赤になった。
「そっ、そんなことするはずないだろう!? さ、さぁ行ってきたまえ!!」
全員を玄関から追い出して、クロノは扉をバタンと閉めてしまった。
「な、なんやけったいなやっちゃなー……」
はやてがドアを軽く叩く。
「にゃはは、きっとユーノ君がいるからだよ」
なのはは、苦笑いしながら推測を述べた。
「え、僕?」
「うん。だってクロノ君、フェイトちゃんの下着姿とか、ユーノ君に見せたくないでしょ?」
「あぁ、なるほど」
このところ、シスコン気味のクロノ。
ユーノは、黙って合掌した。

***

神社への道のりで、はやてが独り言のように言う。
「アレは、ちょっとフェイトちゃんの貞操が危ないかも分からへんね」
「流石にそれはないと思うよ、はやてちゃん……」
当のなのは本人は、ユーノと手を繋いでいる。
いつ、神聖結界が発生してインビジブルになるのか、誰にも予想がつかない。
「あたしは、アンタの貞操の方が心配だわ」
アリサが溜息を吐いて、そしてサァッと顔が青ざめていった。
「ちょっと待った、アンタたち、まさか」
「ん、どうしたのアリサちゃん?」
なのはが、屈託のない笑顔で聞き返してくる。
アリサは、弱冠10歳にして嫌な予感を覚えた。
まさか、同い年だったはずのこの二人は、まさか──
「まさか、もう、その、貞操を……?」
「え?」
なのはは一瞬きょとんとして、
「う、うん……」
顔を赤くしながら首を縦に振った。
そのまさかだった。

「……あぅ」
アリサが倒れた。

寸でのところで反射のいいすずかに支えられ、たっぷり三分も経ってから、アリサはやっと人心地着いた。
出かける前から何という新事実。
バカップルの予想を遥か斜め上に吹っ飛ばし、まさかまさかあらゆる意味で結ばれていようとは。
頭が痛いなんてもんじゃない。頭の頭痛が痛い。
「……で、二人とも姫初めはいつにするんや?」
ここで原爆投下。はやては空気を読んでいるのかいないのか。
「何、ヒメハジメって?」
フェイトも興味津々そうに尋ねている。
「姫初めってのはな、愛し合う二人が新年早々くんずほぐれ……むぐ」
415三人の姫初め? 5/7:2009/01/03(土) 00:19:00 ID:CIDFdL/M
「アハハ、何でもないのよ、何でも。そ、そうよアレよ、おせち料理を食べることを『姫初めをする』って言うのよ?」
話がややこしくなることこの上ない。
取り敢えずフェイトには嘘八百でごまかし、すずかにアイコンタクトを取る。
「ね?」
「う、うん」
すずかが反射的に首肯し、フェイトは首を傾げながらも頷いた。
「さ、早くいきましょ!」
アリサに手を引かれて、もう見え始めた鳥居へ向かってフェイトは走り出した。

***

「ふぇ〜」
もう日はすっかり昇って『午前中』と呼べる時間帯だったが、人、人、人の波だった。
「人の津波やな〜」とはやてが形容したのは、あながち間違いではない。
「はぐれないようにしないとね、ユーノ君」
「そうだね、なのは」
きゅっ、と強く手を握り直し、なのはは歩き出した。
海鳴のみならず、近隣の町からも人がやって来るおかげで、盛況なのはいいことだが如何せん混みすぎていた。
「あっ、アリサちゃん!」
そうこうしているうちに、アリサが人ごみの中に消えていった。
なのはは、アリサを探そうと歩き出したが、流れが激しくて上手く動けない。
「なの……、……は」
「え、何ユーノ君、聞こえないよ!?」
しっかりと握った手はすり抜けることなくガッシリと結びついているが、
ガヤガヤとした雑踏の中で声がよく聞こえない。
振り向くと、そこには焦った顔のユーノがいた。手招きをしている。
「ど、どうしたの?」
その一歩を詰めるのが大変だったが、何とかユーノに顔を近づけていく。
「なのは。今度は僕らが行方不明みたいだ」
「え、ええっ」

確かに、右を見ても左を見ても、見知らぬ顔ばかりだった。
すずか、フェイト、そしてはやて。三人ともどこにもいない。
声を上げて名前を読んだが、何も返ってこなかった。
否、ひょっとしたら誰かが答えていたのかもしれないが、聞こえなかった。
「ど、どうしよう、ユーノ君?」
「取り敢えず、この人ごみから抜けて高い所へ行こう」
今は、いちゃいちゃしている場合ではない。
なのはとユーノは、横様に移動して列から抜け、参道から逸れるように横道へと入っていく。
「確か、こっちの方に小高い丘があったよね」
「うん。でも、アリサちゃんたち、見つけられるかなぁ?」
頼みの綱の携帯は、混雑していて使い物にならなかった。
もっとも、あったところであの場所から抜け出さないとどの道合流などできないが。

やっとの思いで坂を上り着いたその場所は、ベンチがあるだけの簡素な空間だった。
座って一息吐き、携帯を手に取る。
「……やっぱり混雑中、だね」
「あれだけの人数がいれば、どうしようもないか」
416三人の姫初め? 5/7:2009/01/03(土) 00:20:02 ID:CIDFdL/M
思念波を飛ばして、フェイトとはやてだけは呼んだが、アリサとすずかはどうしようもなかった。
アリサの金髪はキラリと光るものがあるが、かといってこの御時世、染めている人間はいくらでもいた。
「うーん……仕方ない、私らだけで行くか」
「ええっ!」
はやての決断に、なのはが早速反論する。
「うん、なのはちゃん、私もその気持ち、よぅ分かるよ。でもな、この状況で人一人見つけるのは、
はっきり言って無謀やで。それに、アリサちゃんやすずかちゃんも二人で合流してるかも知れへんし、
何より二人なら『構わないで皆で行ってきて』くらいのことを言うはずや。違う?」
「それは、そうだけど」
「第一、人が引けるの、下手すると明日とか明後日になってまうで? お腹減って倒れてしまうやん。
アリサちゃんたちも、はぐれただけで元気にしとるやろ。もしかすると、ひょっこり会えるかも知れへん。な?」
はやての言葉には説得力があった。
どうしようもないのは事実だ。
「……それじゃ、いこっか」
「そうだね、境内かどこかで会えるかもしれないし」
四人は立ち上がって、再び人の流れに混ざっていく。
「あ、そうだ、ユーノ君」
「ん?」
なのはが、さもいいことを思いついたような顔でユーノに提案した。
「フェレットモードになって私の服の中に入れば、絶対はぐれないよ!」
「ぶっ!!」
ユーノは思い切り吹いたが、確かにそれも一理だと思ったらしく、素直にフェレットモードになった。
「……なんや、久々に見るなー。どれ、お姉さんにも抱かせてみぃ」
「あ、私も」

そしてユーノは、哀れたった三人にもみくちゃとされたのであった。

「……」
ユーノの顔は、帰り道すっかり真っ赤だった。
「どうしたの、ユーノ?」
「いや、うん。何でもないんだ、何でも」
賽銭を投げ入れて、お守りを買おうと巫女に注文を言ったところで、なのはたちとアリサはばったり顔を合わせた。
しかも、アリサとうまく合流できたらしいすずかもそこにいたおかげで、帰り道は揃って帰れることになった。
「皆して迷子になるんだから……これだからアンタたちは注意力散漫だと……特にフェイトはいつもぽやーっと……」
アリサが愚痴を零していると、
「あはっ、あはははっ」
はやてが唐突に笑い出した。
「あははは、はははっ」
なのはも、フェイトも、すずかも、ユーノも。
「アリサちゃん、流石にそれはないわ、ははっ、ははははっ……」
「え? え!? 笑うな、良くわかんないけど皆笑うなー!!」
アリサの叫びは、空しくどこかへ消えていった。

***

高町家で。
「はぁ、それにしても疲れちゃったね」
「そうだねぇ」
417三人の姫初め? 6/7:2009/01/03(土) 00:21:11 ID:CIDFdL/M
なのはとユーノは、再び部屋でこたつむりを満喫していた。
「なのはたちの世界、楽しいことがあって飽きないね。
僕は放浪の民族だったけど、一箇所にいてもこんなに出来事が溢れてるなんて、知らなかった」
「それもこれも、私がユーノ君と出会えたからだね」
ユーノは、自らの手をなのはの手に重ねて、言った。
「ホント、ありがとう。これからもよろしくね、なのは」
「こちらこそだよ、ユーノ君」
と、ふと動かした足が、こたつの中でなのはのスカートをめくった。
ぷに、と柔らかい太ももの感触がした直後、もっと柔らかい、そう布地の場所に触れる。
「……ねぇ、ユーノ君」
「はっ、はい!?」
怒られると思って、思わず目を瞑ったが、以外にもなのはの声はソフトなものだった。
「一つ、地球での風習、教えてあげる」
「う、うん」
「日本には『姫初め』っていうのがあってね」
そう言うと、なのははベッドを指差した。
「教えてあげるから、おいでよ──」

一方、ハラオウン家。
「高町家の皆さんから、おせち料理の作り方を教わってきたの」
リンディとエイミィがずっと気合いを入れていたらしい。
アルフも交ざってやっと食べきれる程のどでかい重箱があった。
「お正月になってから作るものだと思ってたら、去年のうちに作るものだったのね……」
ちょっと失敗、という顔でリンディが軽く舌を出す。
この仕草、そもそも容姿、まるで年頃の息子がいるとは思えない。
改めて、フェイトはリンディの若々しさに驚き、四半世紀後には自分もそうなっていることを切に望んだのだった。

「お兄ちゃーん」
「んー、なんだー?」
クロノの部屋に入り、フェイトは兄を呼んだ。
「ご飯、できたよ」
「あぁー、すぐ行くー」
「お兄ちゃん!」
机に向かって本を読んでいたクロノから、それをひったくる。
「生返事してないで、早く来て!」
「あ、ああ。すまん」
「今日はおせち料理なんだから」
「ほぉ」
興味を示したクロノに、フェイトは囁いた。
「だから、ほら、早く食べよう。『姫初め』しよ?」

その直後、クロノが血の海に沈んだ。
リンディに真相を教えてもらった後は、今度はフェイトが同じような海を作った。
血相を変えて真実を伝えに行くフェイトを、リンディはゆっくりと見送っていた。
418三人の姫初め? 7/7:2009/01/03(土) 00:22:06 ID:CIDFdL/M
「ってちょっとぉ! 行かせていいんですかリンディさん!?」
エイミィが叫んだが、リンディは涼しい顔だ。
「まぁ、あの子たちも性教育の一つや二つ、そろそろ教えてもいい頃でしょう」
「いやそうじゃなくて! なのはちゃんこっちの人でしょ? もしユーノ君と……」
「……あ」
リンディは、仕事なら絶対やらかさない失敗に顔を覆った。
「ごめんなさいなのはさん、殴るなら、どうぞ私を殴ってちょうだい」
祈りが天に届かないと知るのは、もうすぐのこと。

「た、大変だよなのは!」
慌てて高町家に上がり、ドタバタと階段を昇る。
アリサが勘違いをしていた──と、フェイトは考えていた──から、なのはもきっと勘違いしているだろう。
本当のことを教えておかなければならない。そんな衝動に駆られていた。
バタン、とドアを開け、
「『姫初め』って、おせち料理のことじゃなくて、その」
なのはに向かって叫び、
「えっちなことをする……」
声が尻すぼみになって、

「らしくて……」
フェイトは固まった。

ユーノがなのはをベッドに押し倒している。
そしてなのはは肌着を露出している。ユーノもだ。
なのはが、フェイトが今しがた知った『姫初め』を、ユーノとしていた。
あまりにあり得なかった光景に、全身が凍る。
指一本、動かせない。
「フェイト、ちゃん?」
振り返った顔は驚きの形相を呈していたが、すぐさま怒りへと変わる。
「え? ……あ!」
自分が邪魔であることに気付いたが、時既に遅し。
「ご、ごめん、なのは。それじゃ、また、ごゆっくり……」
閉じたドアの向こうで、殺気を含むオーラが背筋を撫で付けていた。
どうすることもできずに立ち尽くしていると、ギィ……と扉が開いた。
「あぁ、まだフェイトちゃん、いたんだ」
「う、うん……ごめんね」
慌てて謝ると、なのはは首を振った。
「別にいいよ。いいんだよ、もう。ただ……」
「ただ?」

「表に出ようか」

その後、フェイトの形をした『何者か』が公園のベンチに投げ出されているのを、近所の住民が発見した。
『不思議な光を見た』『爆発音がした』などと、海鳴の一角は正月早々妙な噂でもちきりだった。
419超・番外編「はやてちゃん豆知識」:2009/01/03(土) 00:24:40 ID:CIDFdL/M
八百万の神様とは言うけど、これが「たくさん」ちゅう意味になるんは皆も良くご承知の通りやな?
何でも、昔の人は七までしか数えられへんと、八からは「いっぱい」だったそうや。
但し中国では三から先は覚えてへんみたいやから、日本よりも難儀やったみたいや。

姫初めいうんは、元々「姫飯」、つまり今のごはんを一月二日、つまり昨日に食べる風習から来たもんや。
ちなみに、おこわは「強飯(こわいい)」から来とるんやで。
いつの間に「秘め初め」になったんかは知らへんけど、いやーそれにしても日本人はホンマ語呂合わせが得意やなぁ。

礼拝の時には「二礼二拍一礼」のマナーがある。けど、そもそも礼拝をするには拝殿の前まで行かんとアカン。
この時鳥居があるやろけど、これは下を潜り抜ける時、柱にお尻を向けて、端っこの所をそろっと行くんやで。
ど真ん中を神様がずずいっと通るんやから、そこを邪魔したり後ろを向いてたりしたら失礼ってこっちゃな。

最後に賽銭の話やけど、五円が「御縁」に通じとるんは周知の通りや。
せやけど、五円がなかったからって十円でごまかすのはアカンのやで。
十円は「遠縁」(とおえん)に繋がるからや。これから参拝に行く皆は気いつけてな。

それじゃまた、次のSSでお会いしましょー。
作者がリリマジの原稿で修羅場に落ち込むまでは……ってアンタら誰や、ちょ、何しとんのどこへ連れていく気や!?
やめ、この、うわ、うあああああぁー……

(八神はやては北の国に連れて行かれました。助け出すにはここをクリックして下さい)
420Foolish Form ◆UEcU7qAhfM :2009/01/03(土) 00:34:34 ID:CIDFdL/M
……はい、4がないですねorz ごめんなさい。
そして明けましておめでとうございます。無事出勤日は過ぎていきました。

そうそう、「ノー・プラン」の小指ネタって、アレ実話です。
高校時代の日本史教師から聞きました。

>司書の皆様
直上の「超・番外編」は保管庫に収録なさらなくて結構です。
っていうかむしろ入れないで下さいお願いします……



え? 今回? 突っ込みなしで。
取り敢えずはあまりにも可哀想な約一名のために、
某所で拾ったこたつむり画像置いておきますね。
ttp://sukima.vip2ch.com/up/sukima027634.jpg

読んで下さった皆様に至上の感謝を。
それではFoolish先生の次回作にご期待下s(ry
421名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 01:07:07 ID:Smdxm5nX
つ 板のローカルルール
422名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 01:33:20 ID:7ikjVcNm
いや、SSの内容はともかく板のルールくらいは把握したほうが良いですよ?
423名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 01:43:03 ID:24gxWsj0
>>420
つかおめえさんよお、「三人の姫初め」って表題で非エロってどういうこった。
俺は悲しい・・・きっと血の涙を流している・・・TT
424名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 02:58:46 ID:czxCBl54
>>422
板によっちゃ自作挿し絵付きSSとかあるからね
さじ加減どんなもんだろその辺…
425タピオカ:2009/01/03(土) 03:08:26 ID:MyxRDI7j
おじゃまします


注意事項
・戦闘ものでドカーン!バキーン!ガシャーン!とやりたいのです
・エロいはずがない
・本編終了して約1年ぐらいたってます
・敵組織オリジナルキャラクターで纏めちゃったので大量に厨二病が香るオリジナルのキャラクターをお届けします
・あまつさえオリジナルのロストロギアまで拵える始末なので、酷い捏造をお約束します
426Name〜君の名は〜:2009/01/03(土) 03:09:30 ID:MyxRDI7j
第七話「フランケンシュタイン」


「寒い」

と誰もが言う。

治療するのに間に合わなかったのだろうか。
手術を施す俺の腕が悪かったのだろうか。
そうだ、あの悪魔ならばいざ知れず、俺の腕では人を活かす事も出来ないのか。

―――いや、死なせて当然かもしれない。
運ばれてきた時点で、すでに命が尽きかけているような者たちばかりだ。

それでも。
だけど。
しかし。
助けたい。救いたい。生かしたい。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。

時間も設備も足りない。
もっと早くに運び込んでいれば、きっときちんとした病院であれば、完璧に道具と機器がそろっていれば……助けられていただろうに。
死体が増えていく。必死で手を施しても、死神が嘲笑いながら体を壊された者たちをさらっていく。

「寒い」

そして、最期にそう呟いて死んでいく。
いや……最期の言葉は、

「     」

また違った気がする。
しかし、耳に残る言葉は訴えられる冷たさばかりだ。
手を握り締めて、「大丈夫だ」、「もう治った」、「元気になれる」、死にゆく者たちを心からこの世につなぎとめたくて、声を荒げた。
しかし死体は増えていく。千切れた四肢、零れる血、うつろな眼球、破れた内臓。

ある時期を境に、どうにか死なせずに済むようになれた。
皮肉にも助けられなかった者たちの欠片で、運ばれてくる者たちを補う事ができたのだ。
これもあの悪魔の開発した技術の応用だ。

死体が増えていく苦しみと、また違う苦しみが始まった。
死体になりかけていた者たちを、死体を使って幽世から引き戻す。

屍を解体して使えるパーツを取り出す苦痛。
粉砕された体に代わり、死体の一部をつなぐ苦痛。
それでも悪環境。不完全すぎる手術台の上、やはり死んでいく者たちの方が多かった。

感覚の麻痺だけは、しなかった。できなかった。
心を壊して、機械的に技術と経験を被験者に施せば、楽だったかもしれない。
しかし耳に残る。
絶叫も、命ごいも、家族や仲間を思う言葉も。
427Name〜君の名は〜:2009/01/03(土) 03:10:22 ID:MyxRDI7j
誰も死ぬな。

「寒い」

しかし、死んでいく

あぁ、俺が殺してしまったんだ。命が自分の掌から逃れていくのをズタズタの心で感じながら自嘲した。

あれはおとぎ話の誰かだったか。
もう随分と昔、本で読んだ故郷の物語。

ヴィクター・フランケンシュタイン。

そんな名前で、いいだろう。
すでに、この人生に希望は諦めた。

ただひとつ。
ひとつだけ。

助けられなかった者たちの無念を、必ずヤツに伝えよう。
ただそれだけのために、生きようか。

ヤツに、怨嗟と憤怒と呪念を悲哀と―――償いの死を、届けよう。


……
………

「おう、起きたかドクター」

ソファの上で身を起こせば、スーホがその手に持つカップの湯気の向こうから振り向いた。
その傍らには、アギトのレプリカが静かにたたずむ。

「寝起きに一杯、何か飲むかい?」
「いい…」

寝起きは、悪い。
と言うか、良い寝起きというものを、フランケンシュタインは体験した覚えがない。
深く重い罪の意識と、受ければ楽になれるかもしれないという罰への渇望で日々をさまよっている。

おかげで頬はごっそりと削げ落ちて、荒れ果てた肌と白しかない頭髪、神経質すぎる双眸―――まるで亡者だ。
生者と思えぬほどに精気も活力もない、枯れ木のような男。

それでも彼の持つ技術は一級だ。
人生を生命操作や生体改造、精密機械に捧げただけの事はある。
管理局にて、秘密裏に設立された技術部で磨きに磨いたその腕は、広い次元世界の中でもある一人を除いて最高だろう。

と言うのも、その「ある一人」の技術を研究、勉強という形で後追いしているだけなのだから、ある意味で超える事もできない。
428Name〜君の名は〜:2009/01/03(土) 03:11:06 ID:MyxRDI7j
「今、どうなっている…?」
「俺、ドクター、カグヤ、ゴクー、ゴジョー、イフリート、カーレン、大将…あとはレプリカの融合騎が4騎だわな」
「もうそろっていたか」
「とっくにな、さ、て。それじゃあ、そろそろこの研究所とおさらばしようや」

セブン・アークス湾岸研究所に腰を据えてもう随分と経つ。
拠点らしい拠点だったが、すでに用は済んでいる。
これ以上ここにいるのも、危ない―――

「!? ドクター、急いで白い馬X≠ワで行ってくれ」
「…どうした?」

端末をいじっていたスーホが慌てて立ちあがる。
ソファからのろのろと立ち上がって、そのディスプレイに目をやれば、フランケンシュタインも歯を噛んだ。

「管理局……」

セブン・アークス湾岸研究所周囲に展開される航空隊が見える。
そして、漆黒に身を包んだ金色も。

「パーツ全部をきっちり運び込んで、全員無事に逃げられるか?」
「………………一回、あいつらひっかきまわして、時間稼ごう。白い馬X≠フ準備、先にしといてくれ。ヴァルトラウテもその手伝いだ」
「かしこまりました」
「すまん、寝呆けている場合じゃなかった……」
「いや、ゲンジョーからの連絡が必要だったから、どっちにしろこのくらいの時間になったさ」
「……ジュエルシードを使うか」
「あ、暴走させるって事か?」

フランケンシュタインが頷いた。
一瞬だけ、スーホが考える仕草。しかし、その表情がすっきりして、頷き返す。

「分かった、アインヘリアルの残りは1年前のジャンクパーツのサルベージを期待しよう。もうジュエルシード売ってどうこうしようって場合じゃねぇな」

フランケンシュタインの背中を叩いて先行を促せば、スーホがマイクを手に取った。

「おら、野郎ども! 管理局だ! 無理せず足止めしやがれ! それから全員白い馬X≠ノ集合! 直ってるガジェット全部出して迎え撃て!!」



「連れてってください」

セブン・アークス湾岸研究所への踏み込み捜査に、カウンターはそう頭を下げた。
父に会いたい一念なのを、その場にいた全員が理解する。

実力は十分だった。
10年以上昔、なのはがPT事件や闇の諸事件に参加したように、民間協力者として組み込んでいいだけの強さはある。
PT事件の時、自分が時の庭園最奥まで駆け戻った必死さと重ねて、フェイトはこれを受け入れた。

「無茶はしちゃ駄目だよ。それと……持ち場が決まる事になるから、自由に行動はできないし、例え父さんを見つけてもいっぱいお話したいのを我慢して」
429Name〜君の名は〜:2009/01/03(土) 03:11:50 ID:MyxRDI7j
真正面から赤い瞳に見つめられ、深くカウンターは頷く。

セブン・アークス湾岸研究所は地上2階、地下7階という高さと深さを持つ。
その実体は危険なエネルギーを扱う実験施設である一方、そのエネルギーをシャットアウトするシェルターの役割を併せている。
強化合金を重ねた内部を破ろうと思えば、なのはクラスの魔導師を持ってこなければ難しい。
もう20年近く前に建てられ、以前の所有していた会社からインビジブルマンたちが買い取ってい数年が過ぎている。

夕日が海のかなたに沈もうとする頃。
茜色に染められたその2階建ては、禍々しく見る。
地下深くに鋼のはらわたを備えた研究施設は、ひっそりと海に臨む場所に建っていた。

「うわ、六課の隊舎に似てる…」
「立地もそうよね」
「潮の匂いとかで、ちょっと懐かしくなってきちゃった…」

すでにミッドチルダ首都航空隊第14部隊が出入口4つを固め、何チームかは宙空を哨戒して布陣を敷き終えている。
実際に突入するとなると、元六課の人員や全体の1/3ほどの隊員だ。

ティアナとギンガ、そしてカウンターも、内部に突入する任務を受けてチームを組んでいる。
不気味なほど静かな湾岸研究所だが、今、内部にはフェイトやシグナムを含めた少数の先行隊とヴェロッサの無限の猟犬が放されていた。

見取り図は頭に叩き込んである。あとは、無限の猟犬からの情報に頼るのが良い。
事実、閉鎖されている通路や部屋が多々あり、普通に踏み込んでいても時間が無駄になった事だろう。
神経を削って深緑の魔法陣の上に立ち、ヴェロッサが次々と状況を各チームへと送っている。

ギンガたちはロストロギア関連の奪取だ。
例えば光の卵などを、ヴェロッサが探し当てればその誘導に従う事になる。

「む」
「アコーズ査察官?」
「無限の猟犬が凄い勢いでやられてる。とんでもなく強いのが2人……地下5階より下に進ませてくれないね。ハラオウン執務官が一番近い位置にいる、連絡を。それと、シグナム二尉に、アギト・レプリカの部屋を伝えて。地下4階、ナンバーは420―――あ」

横手の14部隊の連絡員に逐一情報を伝えながら、ヴェロッサが声を上げた。
ギンガとティアナ、そしてカウンターへ目で合図。

何かが来る…

3人がそう直感して、

「1階の大型エレベーターからガジェット多数……これはT型だね、通路、エントランス…来た!」

ヴェロッサの報告よりも早く、ティアナとギンガはメインエントランスへと飛び込んでいた。
遅れて、瞳を金色に変じながらカウンターが続く。

広々としたホール状のエントランスの向こう、機材を運ぶために使用されるエレベーターへの通路からカプセル状の機械たち。
勢いよく宙空を滑って外へ出ようとする一体を、ギンガが叩きつぶしながら訝しそうな顔になる。

「まさかスカリエッティも絡んでるのかしら……? でも、おかしいわね、AMFが出てない」
「本当だ」

十全に自分の力を弾丸に込めながら、ティアナがショット。
正確にガジェットT型のセンサーを撃ち抜きながら、もはや相手にならない機械たちを砕いていく。
430Name〜君の名は〜:2009/01/03(土) 03:12:36 ID:MyxRDI7j
「時間稼ぎが見え見えね、カウンター!」
「はい!」
「エレベーター潰してきて、起動停止させたガジェットを下に捨てられるだけ捨ててくれば多分詰まるわ」
「分かりました!」

放電に逆立つ髪で、迫力ある容貌になったカウンターがティアナの言葉に動く。
掻き消えるほどに加速したその姿は、やはり幼い頃のフェイトとダブる。
途中のガジェットを、電撃で即座に沈黙させていき、あっという間に大型エレベーターまでたどり着いた。
ちょうど、その大きな口を開いてガジェットT型が4体出てきたところだ。

「ISフェイト!」

眼もくらむ雷電が、鞭となってその空間をのたうちまわる。
秒と経たずに電子機器の類はすべてクラッシュ。ガジェットT型、エレベーターを有無を言わさずに破壊する。

「……確かに、戦闘機人に対して脅威にしかならないわね」

その電光に目を瞬かせたギンガが漏らす。

「ジュエルシードの場所が分かった。みんな、この子についていってくれ」

その後ろ、ヴェロッサが依然集中した顔つきで一匹の猟犬を生成、先行させる。
ブリッツキャリバーの回転に乗ったギンガがそれに続く。

「行くわよ、ふたりとも」



地下7階を自分たちで手を加え、改造してすでに久しい。
研究所を突き破って海底に出入り口を設けたわけだが、その理由は水空、さらには次元も渡る事の出来る白い馬X≠フためだ。

すでに各社から集めたアインヘリアルのパーツを半分以上積み終えている。
コックピットでスーホが機体のチェックをしている最中、フランケンシュタインは上の階で行われてる小競り合いの把握だった。
廃棄されたガジェットをどうにか動かせる程度に復旧した物では足止めにもならないらしい。
簡単に下層へと管理局は踏み込んで来ている。

査察官のレアスキルも厄介だ。
インビジブルマンとゴクーが三面六臂の活躍をしてくれているが、Sランクを超える局員もいるのだからどれだけ持つか…

そして、モニターしているひと組のチームにフランケンシュタインは目を奪われた。
ギンガたちである。

自分が造り出してしまった、罪の最たるもの。
身勝手な理由づけをして生み出してしまった、懺悔の対象。

タイプゼロ・ファースト。
タイプF・サード。

この子たちになら……
431Name〜君の名は〜:2009/01/03(土) 03:13:24 ID:MyxRDI7j
『捕まってもいいって、思ってるのかい?』
「………いや、八つ裂きにされてもいいと、思っている」

通信で割り込んできたスーホの言葉は、かなり的確にフランケンシュタインの心を射抜いていた。
しかし、表面上は穏やかに努めてフランケンシュタインは首を振る。

「俺は……死ぬべきだ。何人も、死なせた……俺が殺したんだ」
『延々、あの脳みそどもに追われてたんだぞ? その環境で、よくあれだけの手術を施した』
「しかし、殺した……何人も、寒いって、言いながら死んでいくんだ……」
『あんたも、死にたいのか?』
「殺されたいんだ……この子たち2人に」

つと、ホログラムのモニターに映るギンガとカウンターを撫で、泣きだしてしまいそうなほど情けない顔でうつむいた。
青白い顔が、さらに悪くなってしまっている。

「タイプゼロのふたりが真っ直ぐに育ってると聞いて…もうあんな機械の体を産んではいけないと……誓ったのに……」
『オーバーSがやられたんだ。それも、首都防衛隊のストライカー…戦闘機人を倒す何かが必要と思う判断は正しい』
「それで、あんな力と体を…施すなんて結論……良かったはずがないんだ……」
『……自首でもするか?』

スーホの言葉に、薦める色が強くなったのは、フランケンシュタインが今にも崩れそうになったからだ。
しかしフランケンシュタインは耐えるような瞳。

『俺は、あんたに救われた。レリックに持ってかれた体半分も、補ってくれたんだ。俺だけじゃねぇ。ターリアも、ゲンジョーも、カーレンも、全員ドクターに感謝してる。ひとりで一抜けても文句言わえねぇよ。ヤツを殺すのは、俺たちだけでやる…』
「……すまん、弱気になった」

フランケンシュタインの死人じみた顔に生きる色が灯る。

「全部終わるまで、俺はお前たちと一緒だ。造り出してしまった3人に、この命を差しだすのは全部終わってから―――ジェイル・スカリエッティを、殺してからだ」





432タピオカ:2009/01/03(土) 03:14:15 ID:MyxRDI7j
おじゃましました
433名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 06:40:55 ID:xhG3OjNy
こういう最低系SSって流行ってるの?
434名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 09:26:31 ID:CKh08kLZ
タピオカ氏GJ
ファンケンシュタインが出てきたときは、参りました。
一瞬、制作中の作品とテーマが被ったかと思いましたがスカが
最終ターゲットなら、こっちとは被らないのでほっとしました。

こっちの作品では、スカはライダーマンの役割なので安心しました。
435名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 10:18:06 ID:7/Z4v3fL
>>390
GJ!
そりゃ義理の親と思ってた女性が、本当はもっと近い血縁関係だったと知ればショックだろう
そのショックを乗り越えて戦えれば、もう誰にだって負けないはずだ
436名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 10:24:40 ID:WPTYFORx
>>434
SPIRITSのライダーマンかと思って、かっこよさに震えたじゃないか。

アンリ → フェイト
ライダーマン → スカ
437名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 10:48:06 ID:KfXmVIPw
>>433
流行ってる
438名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 11:46:07 ID:Pxpsf8eC
>>390
狂ったなのはのコピー軍団を見れば誰だって心折れそうになりますね。
そしてこの熱き展開。ものすごく大好きです。
GJ!
439名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 17:36:02 ID:zZO5CEPM
>>432
GJ!!です。
アインヘリアルで刑務所ごと吹き飛ばす作戦なのかな?w
440名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 20:45:52 ID:yhBvwquF
姫はじめネタ少ない(´・ω・`)
441名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 20:59:21 ID:5L8/5rid
>>440
よし、まずはメモ帳を開くんだ
442名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 21:15:49 ID:1IAeppbr
>>420
まあ、画像の事はともかく乙

ほのぼのしつつなのはさん怖ええwww
“表に出ようか”がどう考えても死刑宣告です。ありがとうございましたw
443名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 21:21:15 ID:zZO5CEPM
姫はじめの話の前ぐらいだったかな?悌毛の話でもめてた時に悌毛プレイしか思いつかなかったw
着物を着たリリなの女性をバインドで吊って動けなくし辱めながら剃り、最後は合体と。
444名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 21:39:54 ID:EXqXWaeC
>>443
やべぇ、俺の琴線に触れるネタだw
無理やりM字で吊られるんだな。
応援しかできない俺を許してくれ。
445名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 22:30:40 ID:zZO5CEPM
ミッド出身者だと、着物着る時には下着は駄目っていうのを信じてはいてないをして来そうだから、
やりやすそう。お勧めはリンディw未亡人の特殊プレイとか背徳感が凄い。
446名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 22:39:38 ID:WPTYFORx
「……クライドさん、結構あちこちに借金があったそうですよ」
「息子さん……クロノ君でしたっけ? びっくりするでしょうね」
「いや、別に黙っていてもいいんですけどね、私らとしても、ただで肩代わりって訳には……」
447名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 23:14:27 ID:zZO5CEPM
エロいw
借金の肩代わりしている奴に深夜の露出散歩プレイにされたり、某同人誌のように特殊結界魔法で、
一般市民の前で露出プレイとかwあと、彼の知り合いのお偉いさん達のご機嫌取りの為に輪姦されたりとかされそうだw
448名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 00:23:21 ID:jB+FdE78
>>443
バインドか…サイヒ氏に期待だな
449名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 01:44:36 ID:Er/NhYUb
>>447
ショッキングなシーンのあそこかw
450 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:36:53 ID:4C+fN7Uh
これから投下したいと思います
451尊ぶべき愚者  ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:39:43 ID:4C+fN7Uh
・非エロです
・オリキャラ多数(今回は特にオリキャラメイン)
・独自解釈を含みます
・sts開始前の地上本部をメインにした話なので六課の面々については察してください
・NGワードは「尊ぶべき愚者」で
452尊ぶべき愚者 二十一話 1/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:40:44 ID:4C+fN7Uh
 地上本部の正面入り口に赤髪の男が現れた時、待機していた二人の局員は僅かな焦りとともにデバイスを構えた。
 男の正体は執務官だったが、服装は管理局の制服ではなく、23管理外世界の民族衣装だった。

「やあ。任務ご苦労様」

 執務官は片手を上げて労いの言葉を口にするが、目は笑っていない。
 猛禽類のような鋭さで二人の局員が守る入り口を睨みつけている。
 局員はその視線にたじろぎながらも、負けないように胸を張る。

「……お引き下さい、執務官。今なら質の悪い冗談で済まされます。事情を知っているのも一部だけです」
「はは。本当にね。質の悪い冗談なら良かった」

 いっそ清々しいまでの笑みを浮かべ、

「すまない」

 素早い踏み込みで二人の間に割り込み、それぞれの肩に手を置く。
 その直後、局員達は短い呻き声を上げて姿勢を崩す。
 執務官はそんな彼等の様子に一瞥もくれず、視線は変わらず入り口に向ける。

「肩を外させてもらった。すぐに医務室に行った方がいい」
「くっ、この!」

 本部施設に入ろうとする執務官から見て左側に立っていた局員は、激痛に顔を歪ませながらも、無事な右手に握られたデバイスを突きつける。
 執務官は平然としたまま瞬時に正対するように向きを変え、

「……それは技術部だね」

 局員が風を切る音を聞くと同時、デバイスの先端が舞い上がる。
 その原因が一緒に振り上げられていた執務官の右の手刀によるものだと気付くには幾ばくかの時間を必要とした。

「素手でデバイスを……」
「これくらいの芸当、僕の故郷の人間なら誰でも出来る」
「……いやー、流石にそれは嘘でしょ」
「少なくとも兄なら簡単にやるだろう。君達のせいで永遠に確かめられないけど」

 鳩尾に正拳を叩き込まれ、局員は沈黙する。
 阻む者がいなくなったのを確認すると、軽く息を吐き、歩を地上本部の入り口に進める。
 その途中、首にかかった鎖を引き千切り、その先に繋がっていた刃を手の中に納める。

453尊ぶべき愚者 二十一話 2/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:42:26 ID:4C+fN7Uh
 入ってすぐのロビーには本来いる筈の受付嬢がおらず、その代りに一人の局員の姿があった。
 それ以外の気配も執務官は感じたが、視界に映るのは一人だけ。
 その局員はデバイスを持たず、BJも装着していない、完全に無防備な状態だった。
 局員の視線と執務官の視線とがかちあう。
 一瞬、馬鹿にされたかと思った執務官だったが、すぐに意図を察して嘲笑した。
 まったく、甘すぎると。

「中将には話し合いの用意がある。だから交渉の席に付いてほしい」

 予想通りの言葉に執務官は内心で嘲りの感情を強くした。

「管理局の意向は分かった。交渉ならこちらも相応の用意がある」

 局員の心の中に安堵が浮かぶがそれも束の間。
 生暖かい風が頬に触れたと認識した直後、眼前には姿勢を低くした執務官の姿。
 手の中の刃は既に伸長し、長い柄を有する一振りの槍になっている。

「これが回答だ。武力を用いての交渉」

 全身を躍動させ一気に振り抜く。
 しなりを帯びた槍の柄は局員の胴体を正確に打ち払う。
 勢いのある一撃によって局員は吹き飛びそうになるが、執務官は足を踏み付けてその場に固定する。
 衝撃が内部を駆け巡り、くぐもった声を漏らした局員は五体の力を失って崩れ落ちる。

「かつて、お前達、管理局はアルカンシェルという力で我が故郷からシェオルを失わせた。だから今度はこちらが力を行使する」

 発した言葉は昏倒した局員だけに向けたものではない。 
 殆ど間を置かず、上の階層や奥の部屋からデバイスを構えた一団がロビーに雪崩れ込んでくる。
 仲間を助けようと愚直にも突撃するが、執務官はそれより速く行動する。

「動くな。心臓を一突きするぞ?」

 槍の切っ先を床に伏して気絶している局員の胸に突き付けて恫喝する。
 歯噛みと共に彼等は停止し、射殺さんばかりの視線を執務官に向ける。
454尊ぶべき愚者 二十一話 3/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:43:51 ID:4C+fN7Uh
「誠意を持って接すれば敵にも伝わると思っている。それがこの様だ」

 そんな視線を軽く受け流し、刃をゆっくりと動かして喉から顎にかけて赤い線を引く。

「卑劣な!」
「卑劣? 暴走するロストロギアを制御しようとした人間を虐殺するのはいいのか?」
「何を……」
「管理局に世界を守る資格なんてないって話だ。自分達の都合で守るべき世界を滅ぼそうとする組織にはな」

 深い息を吐く。
 言いたい事は言ったのでそろそろ攻撃に移ろうとした所で、槍に妙な力が加わった。

「……」

 そちらに目を向ければ、いつの間に意識を取り戻したのか、伏した局員が両の手で柄を握り締めていた。

「……すぐに離さないと指を落とすぞ」
「へっ。血に濡れれば多少は刃が鈍るな。おい、早く撃てよ!」

 視界の隅では自分に向けられたデバイスの先端に魔力の光が宿るのが見えた。

「ふん」

 腰を沈め、空いていた片手も柄に添える。
 両手に力を込めれば局員の上半身が床から浮き上がる。
 右足を一歩前に踏み込み、局員の体を前方に向けて飛ばす。
 飛ばされた局員は数人を巻き込んで転倒。
 その結果を確認する前に執務官は動く。
 懐に潜り込んでしまえば接近戦を不得手とするミッド式の相手は容易い。
 槍を振り回せば面白いように倒れていく。

 その初撃をかわした幾ばくかの局員はそれぞれの判断で距離を取る。
 が、それなら各個撃破していけばいい。
 動揺を隠し切れていない局員達はただの的だ。
 最初に目に入った局員目掛けて槍を突き出す。
 相手はこちらの動きに反応したので左右のどちらか、槍の軌道を考えれば自分から見て左側に避けるだろう。
 だが、そうなれば薙ぎ払えばいい。
455尊ぶべき愚者 二十一話 4/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:45:25 ID:4C+fN7Uh
 しかし、執務官の思い描いていた戦闘プランは直後に無駄になる。
 放たれた刺突は局員の右わき腹に突き刺さり、勢いを保ったまま背部から突き抜ける。

「! 何故避けない」

 手間が省けたにもかかわらず慌てる執務官を、口の端から血を滴らせた局員は壮絶な笑みで迎え、槍の柄を握り締める。
 執務官は気付かなかったが、彼の視線は執務官の後ろに向けられていた。

 その視線を受け取った男、部隊の中に僅かにいたベルカ式の局員は己の相棒である剣型のアームドデバイスを振り下ろす。
 背後からの攻撃に一抹の罪の意識を感じたが、今はそんな場合ではない。
 取り敢えず一撃を見舞って大人しくさせる。
 蒸気と共にデバイスがカートリッジを吐き出し、斬撃は更に速く、鋭くなる。
 その時になって執務官も奇襲に気付くがもう遅い。
 右手で槍を握っているので自由になるのは左手だけ。
 しかも、槍を掴まれているので迎撃しようにも完全に振り向く事が出来ず、横向きになるだけで精一杯だ。
 そんな状態で防げる訳がない。
 槍を捨てて逃げる可能性もあるが、それはそれで御の字だ。
 などと考えている内にも剣は執務官の肢体を切り裂こうと駆け下りる。
 病室で人をなめくさった事を後悔するがいいさ。






「んだと!」

 局員の驚愕を執務官は冷静に受け止めていた。
 速度、切れ、ともに申し分なかったが、自分にとっては人差し指と中指の二指で十分だ。
 そのまま力を入れると甲高い金属音を上げて掴んだ部分から刃が折れる。
 先端部を掴んで背後に投擲すれば、痛みを訴える声と何かが倒れ伏す音。
 不意に、右手に感じていた圧迫感が消えた。
 原因は槍を体で受け止めていた局員だったが、大方、出血と痛みで気を失ったか。
 今なら楽に刃を引き抜けるだろうが、そうすれば出血が酷くなる。
456尊ぶべき愚者 二十一話 5/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:47:20 ID:4C+fN7Uh
「……」

 選択は瞬時に終了。
 貫通している槍を一息で引き抜く。
 刃を見ると当然と言うべきか、べっとりと血が付いている。
 放っておいても錆びる心配はないが、気分的に宜しくない。
 刃を頭上に掲げ、一気に振り下ろして地面に付くぎりぎりの所で静止させる。
 それだけで刃に付着していた血はすべて床に飛び散り、刃は白銀の輝きを取り戻す。
 その事に満足すると横を向いて残った局員と正対する。
 デバイスを破壊されたからか、その局員の額には一筋の汗が浮かんでいる。

「何なら、逃げてもいいぞ。お前達にはそんな惨めな姿がお似合いだ」
「抜かせ。管理局員が背中を向けられるかよ。同じ惨めでも最後まで刃向うさ」

 デバイスを待機状態にして仕舞い込むと、拳を握り締め、

「おおお……!」

 気合いのこもった咆哮を上げ、執務官に殴りかかる。
 槍を持つ相手に対してあまりに無謀な攻撃。
 本人も馬鹿げていると思うが、現時点で残された手段がこれしかないのだから仕方ない。
 それに、公算がない訳ではない。
 逃げればゼロになる勝率も、立ち向かっていけば万に一つくらいはある。

「覚悟はいい」

 執務官は放たれた拳を簡単に受け止めると、自分の方に引き、それに合わせるように膝蹴りを叩き込む。

「ぐ……」
 
 局員の目の焦点がぶれ、手は力を失ってだらしなく垂れ下がる。
 執務官にもたれていなかったらそのまま倒れていただろう。
 執務官は自分に寄り掛かる重圧を鬱陶しそうに振り払う。




457尊ぶべき愚者 二十一話 6/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:49:01 ID:4C+fN7Uh
 執務官はシェオルがある保管庫に通じる地下通路を疾駆していた。
 前方、突き当たりから顔だけ出して左右を確認すると、目の前を左から右に魔力弾が走り抜ける。
 見れば長椅子や机を利用して作られた簡易バリケードで通路が塞がれ、その奥からデバイスが銃口のように覗いている。

「大人しく通してはくれはないか」

 目的を邪魔されながらも、執務官は人知れず笑みを浮かべていた。
 これでいい。
 弱い敵を倒すだけでは遺恨は晴れない。
 全てはこうやって正面から相対してくれる相手がいればこそだ。
 だからこそ、自分も感情の赴くまま全力で行く。

 曲がり角から腕だけを晒して槍を天井目掛けて投げつける。
 突き刺さった場所から亀裂が縦横無尽に走り、天井板や配線は断ち切られ、その上にあるコンクリートの重圧に耐えきれず破砕する。
 曲がり角に隠れていた執務官の元に届くのは轟音と悲鳴。
 静かになるのを待ってから出て行くと、コンクリートが堆積し、瓦礫の山になっている。
 その下から手首が覗いており、無視して通り過ぎようとすると足首を掴まれた。

「雑魚が」

 しかし、大した力ではなかったので、普通に歩くだけで振りほどく事が出来た。
 瓦礫の山に登り、足下を踏みしめると埋まっていた槍が跳ね上がって手の中に収まる。

「本当に駄目だな。他の世界から盗むだけでなく自分達の同胞の血税も無駄にしているな」

 侮辱を込めて呟くと、それに反応したのか、瓦礫が自然に持ちあがって制服をぼろぼろにした局員が出てくる。
 その局員はすぐさま執務官の顔を狙って魔力弾を放つが速度は大した事はない。
 執務官は余裕を持って顔面を左腕で覆って攻撃を防ぐ。
 着弾直後、衝撃が内部に伝播するが問題ない。
 カウンターで柄を長く持ったまま槍を撥ね上げればそれだけでデバイスを両断出来る。
 そして無造作に石突きを後ろに向けて突き出せば、瓦礫から這い出てきた別の局員が情けない声を上げて吹き飛ぶ。
 槍から伝わる感触で、内臓を打撃した事を確認し、前方にいる局員の胸倉を掴んで壁に押し付ける。
458尊ぶべき愚者 二十一話 7/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:50:09 ID:4C+fN7Uh
「気に入らないな。この期に及んで非殺傷だと?」

 室内で波状攻撃をされれば全てをかわすのは困難であり、ここに来るまでに何度も攻撃を食らった。
 しかし、非殺傷設定だった為にどれも有効打にはなっていない。
 フェイントで通常の攻撃を織り交ぜてくるかとも思ったが、そんな様子は今まで一度もなかった。

「自分を非殺傷設定で倒そうとしたら、それこそ間髪入れず叩きこむ必要があるが、自分もそこまで好き勝手させるつもりはない」

 つまり、勝つ気なら非殺傷設定なんて止めて殺す気でこいという事だ。
 だというのに目の前の奴等は、

「中将が、交渉で解決したいというからな」
「……馬鹿が」

 再度壁に押し付けると胸から手を離し、返す刀で顎を打ち抜く。
 局員は脳震盪を起こして膝も突かずに倒れ込む。

「甘いんだよ。世の中には最初から譲歩する気がない奴が大勢いるんだ。
意見の異なる奴は妥協点を探るより叩きのめした方が早いからな」

 吐き捨てて立ち去る。
 もう少しで保管庫に到着する筈だ。




459尊ぶべき愚者 二十一話 8/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:51:19 ID:4C+fN7Uh
「この先か」

 執務官は行く手を阻む巨大な隔壁に手を押し当てる。
 理屈ではなく魂が感じ取ったのだ。
 シェオルはこの向こう側に存在する。
 槍を床に深々と突き立てると、一度深呼吸し、右の拳を握り、腰を低く沈める。
 素早い足運びで重心移動、拳を扉に叩き込む。
 大音が轟き、通路全体が震える。

「ふふ」

 口から自然と笑みが零れる。
 放った拳は腕まで隔壁にめり込み、指の先は温度の違う空気に触れているのが分かる。
 ならば、と同じように左の拳も叩き込み、その反動で引き抜いた右の拳も打撃に備える。


 さほどの時間を要せず、門番たる鉄扉は侵入者の前に敗北した。



 保管庫内は暗く、埃っぽい。
 滅多に出入りしないのだから換気も不十分だし、電力が勿体ないのだろうなと推察する。

 お目当ての品はすぐに見つかった。
 金属製のケースを開閉し、中から無色の結晶体を取り出す。
 ケースにはロックがかけられていたようだが、自分には関係ない。

 手の中の結晶体はほのかに温かく、自分が触れた瞬間から生き物の鼓動のように微かな震えが伝わる。
 少々呆気ないという思いはあったが、目的は達成した。
 もうここに用はない。
 各地の居留地で各々の戦いを続けている仲間の為にもすぐに持ち帰ろう。
 そう考え、踵を返した執務官の足を止めるものがあった。

 それは眼前に表示された立体モニターだ。
 暗い部屋ではモニターの光がよく映えた。
 モニターに映るレジアスの顔には苦々しい表情が浮かんでいる。

460尊ぶべき愚者 二十一話 9/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:52:30 ID:4C+fN7Uh
『執務官。君は自分の行動の意味を理解しているのか?』
「当然理解してますよ」

 挑発も兼ねて執務官はモニターの前にシェオルをかざす。

『各地でも君の同郷人が行動が起こしているが、あれも……』
「そんなの管理局にシェオルを渡すのが嫌だからに決まってるでしょ。自分の故郷を滅ぼした相手に従う道理はない」

 レジアスの言葉を遮って断言する。

「ああ。もしかしてこういうのって初めてですか? 守るばかりで滅ぼす事は経験無さそうですもんね。
世界規模で被害者の罵声を浴びる事なんてないでしょ」

 合点がいったようにシェオルを持った右手で左の手のひらを叩く。
 レジアスは何か言いたげだったが寸での所で飲み込み、

『こんな事をしても立場が悪くなるだけで得るものは何もない』
「ありますよ? 唯一の交渉材料を渡して相手の温情に期待するというのはリスクが大きい。
下手すれば主権も何もかもを失って支配される可能性もある。なら、シェオルを取り戻して交渉をやり直します。
アルカンシェルの使用も是とされるほど危険視された代物です。自分ならもっと有利な交渉が出来る」
『こんな遣り方は乱暴すぎる。やり直しを望むなら管理局とて』
「信用出来ないですね。そもそも狭い居留地で暮らす破目になったのは誰のせいだと思っているんですか?」
『それは……』

 返答に窮するレジアスに対して執務官は更に言葉を投げかける。

「まさか、アルカンシェルを撃ったのは海だから自分は関係ないとは言わないでしょうね?」
『……』
「管理局を名乗るなら一部の行動でも局員全員が背負わなければならない。
十五年前の事件はあの部隊がやらなくても他の部隊がやった事ですからね」

 外部の人間は航行部隊や陸士部隊、救助隊、自然保護隊、そんなくくりは関係なく、管理局という一つの組織としてしか見ていないのだ。
 画面の向こうのレジアスは一度は萎縮したように顔を伏せたが、再度上げた時には意を決したように鋭い視線をこちらに浴びせかける。
461尊ぶべき愚者 二十一話 10/10 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:53:36 ID:4C+fN7Uh
『……そうだな。今までは何処か本局の不手際の後始末という意識があったかもしれない。
君達にとっては礼節を欠いた無礼な心構えだった。これ以後は管理局と23管理外世界との真剣勝負を始めよう。
そして宣言しよう。逃げず、偽らず、隠さず、媚びず、貶めず、君達の全てと向き合うと』

 執務官は思わず、感謝と共に頭を下げたくなった。
 個人の感情を満たす為の我が儘に付き合ってくれるというのだ。
 ここに同胞達がいないのが残念だ。
 だが、言ったのだ。
 言ってくれたのだ。
 道義を無視し、多くの人間を傷付けた自分と向き合ってくれると。

「ではお礼に有象無象の管理局に一つ。海と陸の仲の悪さは知ってるが外面だけでも協力した方が良い。
近い内に現れる敵はそれだけ強力だからな。一方的な蹂躙は哀れすぎて見てられない」

 お節介だと思いながらも一応忠告しておく。
 もし、管理局が自分達との戦いを皆が満足する結果で終わらせても、その後に控えるヒドゥンとエイドスクリスタルを巡る争いでミッドチルダが滅べば笑い話にもならない。

『その敵とやらの詳しい話は後で君の口から直接聞きたいものだな』
「はは。そうですね。管理局を平伏させた後でなら好きなだけ」

 朗らかな笑み気取られないよう俯いて通信を終了する。



 出口の方から響く靴の音にそちらを振り向くと、何人もの局員が通路を塞ぐように集結していた。
 まるでここから逃がさないように。
 しかし、彼等は援軍ではない。
 無傷な者は一人としておらず、全員がどこかに自分が負わせた傷を持っている。
 そうしている間にも通路の奥からの足音は増える。

「羨ましい限りだ」

 大人しく寝ていれば自分達のように無力さを噛み締めながら悔い続ける事が出来たのに。
 隊列を組んで接近してくる相手を見据え、槍を手の中で数度回転させ、呼吸を落ち着かせる。

「受け止めきれるか、世界の滅びが生んだ負の情念を……!」

 気合いを込めた叫び声を上げて集団の真っ只中に飛び込む。
462 ◆xP9o.b17z6 :2009/01/04(日) 11:54:24 ID:4C+fN7Uh
以上です
463詞ツツリ ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:18:15 ID:qG8MXWAT
尊ぶべき愚者氏、お疲れ様でした。
こう執念とか、怨念とか、その描写がお見事です。
滅んだ世界とか、台詞回しがなんか終わりのクロニクルを思い出しましたw

あと、お久しぶりですが、しんじるものはだれですか? の続きを投下させていただきます。
464しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:20:48 ID:qG8MXWAT


 言葉なんて必要あるのだろうか。
 心なんて大切なのだろうか。
 記憶があればいい。
 記録があればいい。
 時間が存在すれば満たされる。
 今この瞬間を、愛され続ける時間が永遠に続けば心なんて要らない、言葉なんて要らない。
 貪られて、口付けて、絡み合って、重ね続けて、痛みを、熱を、感情をともあわない儀式を続けばいい。
 嗚呼、其だけが。

 後悔しないでいられる唯一の時間なのだから。




 しんじるものはだれですか?



 なんでそう思ったのか分からない。
 鋼鉄のように硬い彼。
 冷たくて、温かくて、燃える氷のように矛盾した彼。
 黒ずんだ人型、大好きな人、幾つにも傷跡の浮かんだ肉体、まだ二十歳前後の若い彼の背中。
 それを見て、はやては静かに呟いた。

「……寂しそうやね」

「え?」

 情交の後の気だるい感覚。
 下腹部を濡らすのはべた付いた白い液体であり、膣口から呼吸の度に溢れ出るのは性交の証である愛液と精液の混じった体液。
 汗でベタついた髪を自分で撫でて、彼女はぼんやりと感覚を確かめる。
 彼女は淫らな格好だった。
 数時間前には身に付けていた管理局の制服はだらしなく脱ぎ捨てられて、ベットの下に無造作に脱ぎ捨てられて、彼女はその未成熟の肉体を晒していた。
 汗と愛液と精液の体液三種に濡れてうすぼんやりとした明かりに反射する肌は白磁のように艶かしく、その乳房は薄っすらとした膨らみだけ。
 未だに成長の余地がある幼さ、臀部は丸みを帯びているがどこか幼児体型を思わせる体つき、女性というよりも少女と呼ぶに相応しい造形の彼女。
 未だに成長期の終わらず、女としての成熟もまだな幼い肢体。少女から女へと芽吹く少し前の青い果実のような体。
 散々注ぎ込まれた精液で、腹がぽっこりと少し膨らみ、それを自分の手で押し込むと、熱い排泄にも似た感覚と共に精液が膣から吐き出されていく。
 かつては病魔に侵されて、歩くことも出来なかった体は遅れを取り戻すように成長を遂げているが、まだまだ手足は細く、グングンと伸びる同僚と比べて背の低さが気にかかる少女のような彼女。
 いつも抱かれるたびに物足りないかと不安になる足らぬ自分。
 どこか空しくて、満たされていたものが抜け落ちて、汗が吹き出し、あえぐ自分。
 そんな中だから、はやてはシーツを体に巻きつけながらそんな感想を抱いたのだ。
 ただ寂しそうだと思った。

「そうだろうか?」

 不思議そうな顔。
 どこか子供っぽく戸惑っている顔つき、それが何故か嬉しかった。
 彼はいつも悲しい顔だ。
 考え込んでいる顔――むずかしく眉間に皺を寄せているから。
 厳しい顔――いつも誰かのためを考えているから。
 冷たい顔――痛みを受け流す術を知らないから。
 ぎこちない笑顔――笑い方を知らないから。
 戸惑った顔のほうが自然に浮かぶ、滅多に見れない顔だから、得した気分になる。
465しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:21:32 ID:qG8MXWAT

「そうやよ」

 自分でも確信していないことなのに、彼女は肯定する。
 最初は単なる思い付きだったけど、言葉を重ねれば、想いを積み重ねれば本当になるような気がした。
 そうだ。嘘なんかじゃない。
 彼のことを一番知っているのは自分なのだという思い込みに近い確信。

 初めて出会った時の記憶を思い出す。

「いつも寂しそうや」

 クロノの頬に触れる。
 うっすらと汗の浮かんだ彼の頬は熱くて、吸い付きそうだった。
 むにゅーと伸ばす。少しだけ不機嫌そうに眉をゆがめる彼。

「のばさないでくれ、いたい」

「嘘や。いい肌してるでー、お客さん」

 むにむにして、でも嫌がるクロノの表情が可愛かった。
 あまりにも可愛いから

「んちゅ」

 そのまま引き寄せて、頬を唇で吸ってみた。
 汗の味がした。

「こら……まだするか?」

「ふふふ、前半後半戦は終わったけどロスタイムや。私のロスタイムは長いで?」

 うりゃーといいながらクロノに抱きつく。
 昔と比べて伸びた背、がっしりとして重みのある引き締まった身体、抱きしめる指先から否が応でも感じる沢山の傷跡の引き攣れた感触。
 そんな彼が大好きだった。
 だから、すかさず髪を撫でて、首筋を吸い付いてくる彼の愛撫に軽く息を吐き出し、はやては彼の肉体に溺れていった。

 もぐりこんでくる、触れてくる、温かい感触に夢を見た。


 少し昔の夢を。






「はぁ」

 その日、フェイト・T・ハラオウンは何度目になるか分からないため息を吐き出した。
 食堂のテーブルに肘をかけて、遠い目を浮かべている彼女。
466しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:23:30 ID:qG8MXWAT

「はにゃ? どうかしたの、フェイトちゃん」

 その姿に気が付いたなのはが声をかけた。

「あ、なのは」

「どうしたの? もしかして、またクロノ君にディフェンス訓練でもさせられたとか?」

 つい三日ほど前にクロノとの模擬戦でバリアブレイクを叩き込まれて、その障壁の構成の荒さに補習訓練を受けさせられたフェイトが酷く落ち込みながら、バルディッシュとプログラムを組んでいたことをなのはは知っていた。
 一回組んではブレイズキャノンで吹き飛び、二回組んではまたブレイズキャノンでぶっ飛び、三回組んでは障壁での防護に専念していて持ち味の回避行動を忘れたという理由でクロノから背面ドロップキックで錐揉み飛行をさせられた彼女はそれはもう落ち込んでいた。

「ち、ちがうよ!」

 恥ずかしい過去を思い出したのか、顔を真っ赤にしながらもフェイトは慌てて首を横に振った。
 ならなんだろうか?
 と、なのはが首を傾けて疑問を現すと、フェイトがゆっくりと口を開いた。

「ねぇ、なのは……最近はやてとクロノ仲良くない?」

「んー? そっかな」

 フェイトの言葉になのはは最近の二人の姿を思い浮かべる。
 なのはが知っている二人といえば。

 ――正座してごめんなさいごめんなさいごめんなさいを連呼しているはやてに、数時間近く説教をしているクロノ。
 ――模擬戦の度にリインフォースUに頼るなー! と、スナイプショットを叩き込み、制御の甘いはやての弾幕を避けまくりながら、はやてを追い掛け回すクロノ。
 ――施設を破壊して、三人一緒に耐久正座の上に、始末書を山のように書かされた記憶などなど。

 他にも他にも他にも他にも……

「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「なのはー! 戻ってきてー!」

 ガタガタと震えだしたなのはの肩を掴み、現世に戻すフェイト。
 はっ! と、我に帰ったなのははフルフルと頭を振ると、フェイトに言った。

「えっと、どこが仲がいいの?」

 なのはの脳裏には一方的にいじめられているはやて+自分たちの構図しかなかった。

「え。いや、私もはっきりとは分からないけど……この間からはやてがクロノに柔らかくなったなぁって」

「え?」

「私たちがいない間に任務があったらしいんだけど。ほら、ちょっとはやてとクロノに壁があったような気がしたんだ。でも、今はそれがないの」

 はやては優しい子だ。
 交通事故で両親を亡くしてからずっと足も動かずに一人で暮らしてきたけど、心は優しいままの強い子。
 彼女を救うために戦った家族であるヴォルケンリッターはもちろん、なのはとフェイトもまた彼女とは親友だと思っている。
 だけど、ユーノは、アルフは、そしてクロノとは彼女との接点は少ない、まだ顔見知りレベルだった。
 人と人の関係は年月だけではない、きっかけも必要。
 分かり難いだろうけど、どこか他人行儀だったはやてがクロノへの態度の壁を無くしていることに気付いたのはフェイトだけだった。
 まさか、という気持ちはある。
 もしかして、という不安がある。
 もしも予測が当たっていたらという黒い予感がして、フェイトは息が詰まりそうだった。
467しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:24:49 ID:qG8MXWAT

(まさか、だよね)

 ただ単に壁がなくなっただけだと思いたかった。
 ようやくはやてが、クロノのことを本当に友人だと思えるようになった。
 ただそれだけのはずだとフェイトは信じたかった。
 彼女は静かに息を吐いて、胸に手を当てた。まるで祈るように。

「フェイトちゃん?」

 そんなフェイトの様子になのがは心配そうに声をかけた時だった。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、たすけてーなー!」

「はぅ!?」

「はにゃ!?」

 ガバッと背後から圧し掛かってきた一つの人影に、なのはとフェイトは素っ頓狂な声を上げた。

「は、はやて?」

「た、たすけてーなー!」

 ガシッとまず一番先に反応してくれたフェイトに抱きつく少女。
 それは涙目で瞳をうるうるさせたはやてだった。

「ど、どうしたのはやて?」

「あ、あの悪魔が私を苛めるんやー!」

 そういって、指差した方角には。

「苛めるとは失礼な。それと人に指を向けるのはよくないと教わらなかったのか、はやて」

 分厚い書類を片手に持ち、はぁっとため息を吐き出したクロノの姿があった。
 いつものバリアジャケット姿とは違い、執務官服の質素な格好だった。
 フェイトはその姿を見て少しだけ息を飲む。
 新ためて意識すると初めて出会った時とは比べ物にならないぐらいにクロノの背は伸びた。
 少女たち、つまりフェイトたちが背が伸びていた頃には同じぐらいの背丈だったのに、今はもう頭一つ以上は差のある長身だ。
 いつもの分厚い防護服では今一分かり難い端正の取れた姿勢に、長身痩躯の体型。
 昔はパッと見ると少し女顔というか童顔だった顔つきも精悍さを増して凛々しい青年の顔になっている。
 そして、もっとも変わったのは呼び方だろう。

「お、お兄ちゃんどうかしたの?」

 フェイトはまだ少し緊張する義兄であるクロノに呼びかけると、クロノはああ、と頷いて。

「その駄目タヌキが書類整理の勉強中に逃げ出してね」

「た、タヌキいわんといてー! ぽんぽんなんて鳴いた憶えないで!?」

「ハハハ――、今言ったじゃないか」

「はぅ!?」

 揚げ足を取られたとばかりに顔をしかめるはやて。
 その襟首がにゅっと掴まれる。
468しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:25:47 ID:qG8MXWAT

「いやー! たすけてー! もう一時間も勉強させられとるー!」

「い……一時間ぐらいなら頑張ろうよ!」

「しかも、ミッド語なんやで!?」

「あーあーあ〜」

 なのはが遠い目をした。
 ミッドチルダ言語、地球からすれば変則式英語とでもいうべき言語にまだ中学生にもならない少女たちは大苦戦中だった。
 唯一出来るフェイトはもともとそっちの出身であり、それと引き換えに地球の国語などは不得意としていたが、なのはとさらに言えばずっと休学状態だったはやてとしてはミッドチルダの言語など大きく苦手な科目の一つだ。
 天才でもない限り喋ることは出来ても、言語として自由自在に掛けるまでは普通年単位以上掛かる。
 魔法を操るためのプログラムなどはある程度数式などで共通するものがあり、幾つかの単語を知っていれば辞書を片手にすればなんとか理解は可能。
 なのはは感覚で魔法を組めるというイレギュラーにも程があるほどの適応性があるし、フェイトは元々プレシアの元で専門教育を受けており、はやては闇の書が蒐集した術式を自動的に記憶領域に焼き付けている。
 というわけで、現在の一人を除いた二人は戦闘にしか特化していないダメダメ魔法少女だった。

「君たちのアースラへの研修期間には期限があるんだ。叩き込めるうちに叩き込むぞ」

「ひーん!」

 じたばたと逃げようとするも、はやての腕力程度でクロノに抗うのは不可能だった。
 ずるずると引きずられていく彼女。
 それにフェイトは慌てて立ち上がって。

「く、クロノ! 少し可哀想だよ、ほら勉強なら私たちが見てあげるし!」

「そ、そうかい」

 クロノが少しだけ意見を聞き入れようと足を止めた。
 チャンスだった。フェイトは即座に顔を横に向けて、口を開く。

「ね、なのは」

「え? う、うん!」

 親友を巻き込むように同意を求める発言をすると、なのはも慌てて頷く。
 その二人の態度を見て、クロノは少しだけ息を吐き出すと。

「ならしょうがない。はやて、この書類の間違った部分と必要事項に赤ペンで書いておいたから他の二人と一緒に目を通しておくように」

 はやての襟首から手を離して、彼女に書類を渡した。

「りょ、了解や!」

 恐々とはやては返事を返すと、クロノは他の二人に目を向けて。

「あまり甘やかしたら困るのははやてなんだ。だから、厳しくしておいてくれ」

 と告げると、背を向けて食堂からクロノは出ていった。
 完全に立ち去ったのを確認すると、はやてはふぅーと安堵の息を吐き出して。

「た、助かったわぁ」

「大丈夫、はやてちゃん?」

「あ、ありがとな。なのはちゃん」

 よろよろとした態度ではやてがテーブル席に座ると、あ〜といいながら顔を乗せてもたれかかる。
469しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:26:54 ID:qG8MXWAT

「す、スパルタにも程があるでぇ〜」

「く、クロノも意地悪でやっているわけじゃないと思うよ? でも、大変だったね、はやて」

 よしよしと魂の抜けそうなはやての背をフェイトはさすって上げた。
 くすんくすんと少しわざとらしい泣き声がはやてのもたれかかった口から漏れる。

「あークロノくん、ほんま悪魔やわ。鬼畜やわぁ」

 ダクダクと漫画チックにはやての目から零れた涙が机の上を濡らした。

「そ、そこまで言わなくても……」

 少し否定出来ないことを言われて、じわりと汗を額に浮かべるフェイト。
 確かにクロノはプライベートでは優しいことも多いが、仕事がらみになると一切の手加減や容赦がなくなる。
 模擬戦では一度も優しくしてもらったことはなく、弱点面を指摘されながら徹底的に倒されることもしばしばだ。
 そういう点でいえば悪魔とか鬼畜とかいっても嘘じゃない。

「けど、少しだけ羨ましいかな?」

 フェイトは少し両の手の指を絡めると、ぼそりと呟いた。
 クロノにそこまで構ってもらえるはやてが少しだけ羨ましかった。
 昔と比べてフェイトやなのはの戦闘技術はかなり完成にまで近づいている。
 一年前、武装隊第四陸士学校に短期入学し、正式な戦闘訓練を受けたことによって、経験や技術の差はクロノとの差を縮めつつある。
 未だ多少ムラはあるが、さほど問題になるレベルではないとお墨付きだ。
 そのため、昔ほどなのはやフェイトに積極的な戦闘指導をクロノはしていない。
 フェイトがクロノに時間を取ってもらえることとしたら、現在まで二度も落ちている執務官試験での勉強の時ぐらいだった。
 だから、少しフェイトは寂しかった。
 昔と比べて義兄と過ごす時間が減ってしまったから。

「へ? や、やっぱりフェイトちゃんMやったの? この地獄のようなスパルタが羨ましいなんて!?」

 と、思いながら呟いた一言だったのだが。
 はやての反応は予想の斜め上だった。

「や、やっぱりって何!?」

 驚愕と納得の行く目を浮かべるはやてに、フェイトは慌てて訊ね返すが。

「……あ〜」

「なのはまでなんで遠い目してるの?!」

 隣の親友が何故か遠い目をして頷いていたので、フェイトはその肩を掴んで揺さぶった。

「だって」

「ねぇ?」

 ねーと、同じように首を傾げあうはやてとなのは。
470しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:28:22 ID:qG8MXWAT

「ふ、二人共ー!!」

 フェイトは拳を握り締めると、それなりに本気で二人をポカポカ叩いた

「ごめん、ごめん、フェイトちゃん!」

「いた! あいた! なんで、フェイトちゃん、私にだけ洒落にならない威力なんや!? 普通に痛いで!」

「あ、ごめん」

 なのははともかく、何故かはやてを叩く威力が上がっていたのは多分偶然だ。偶然。
 そうフェイトは信じた。
 多分嫉妬とかじゃないはず、だって友達だし。

「うぅ、最近のフェイトちゃんはつっこみが辛いわ〜。というわけで、なのはちゃん。胸揉ませて〜」

「え!? な、なんで!」

「フェイトちゃんが、小学生あるまじき成長を見せているのでその嫉妬やわ! むきー!」

 と、なのはに背後から覆いかぶさり、はやてがわはーといいながら笑っている。
 なのははそれなりに本気で悲鳴を上げていた。
 フェイトは止めるべきかどうか少し迷ったけど、多分襲われるので胸を押さえながらそれを見守っている。
 そして、

「ごめんなさい、ちょっと調子に乗りました」

 レイジングハート起動状態でぽかりと叩かれて、ようやくはやては止まりました。

「まったくもぅ」

 真っ赤な顔で荒く息を吐いているなのは。
 ごめんね、なのは。でも私巻き込まれたくなかったし。

「まったくもぅ、ほらはやて、そろそろクロノ君の言いつけ通り書類やろうよ」

「え〜」

 嫌そうな顔を浮かべるはやて。
 まあ気持ちは分からないでもないよ、どう見ても枚数50枚どころじゃないし。
 そう思ってフェイトは口を開いた。

「そんなに辛いんだったら、私たちからクロノに言って少し減らしてもらおうか?」

 フェイトの目から見ても最近はクロノからのはやてへの指導は少し熱が入りすぎているような気がする。
 小学生として学校に通っている身だし、任務の度には同じように学校は休むことや放課後に一緒に向かうことは多いが、はやての場合土日でもアースラに出かけては勉強をしているようだった。
 シグナムとかも少し心配をしていた。
 それらを含めて、フェイトははやてに言ったのだが。

「……ん〜、それはええわ」

 はやては真面目な顔になると、テーブルに座り直す。
471しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:29:12 ID:qG8MXWAT

「二人のおかげで、少し休憩は出来たしちょっと頑張るで。というわけで、なのはちゃん書類おくれ〜」

「え、いいけど」

 なのはが預かっていた書類をはやてに渡す。
 それらを捲りながら、はやては紅いペン字だらけの書類に少しだけ閉口して。

「……頑張らないとあかんよね」

「え?」

「私がクロノ君に頼んだんや。私がずっとヴォルケンリッターの、シグナムやヴィータ、ザフィーラにシャマルたちと一緒に仕事が出来るようにする方法を教えてくれって」

 良く見ればその書類は始末書だけではなく、各種の申請書だった。
 現場に出るときに出すべき捜査許可の申請書類、指揮官として処理しなければいけない書類類、事務業に携わっている人間でもこれほど幅広い種類を使わないんじゃないかと思えるような種類。

「あ、そうか」

 なのはが理解したように手の平を打つ。
 同時にフェイトも理解していた。

「私やなのはと違って、はやては一人だけじゃないものね」

 なのはは教導隊志望、フェイトは執務官補佐として活動を続けているが、はやては特別捜査官としての道を歩み始めている。
 そして、はやてには家族であり守護騎士がいて、それと共に歩むためには制約が多いのだ。
 立場だけでは終わらない、組織というものが書類で回っている以上、それらに精通しなくては問題が起きる。

「いつまでもアースラでクロノ君や艦長さんたちに甘えているわけにはいかんしね」

 はやては苦笑を浮かべる。
 そして、ペンを持ちながらぼそっと呟いた。

「それに……私も強くならんといつまでも足手まといや」

「え?」

「クロノ君に言われたんや。大規模広域魔法だけ撃てるだけの魔導師は一人では脆いって。ヴォルケンの皆がいても、それだけに甘えていたら駄目だって」

 なのはちゃんやフェイトちゃんぐらいに強かったらよかったんやけどなぁ、とはやてはどこか寂しげに笑った。
 彼女なりに悩んでいたことだったのだろうか。
 純粋な魔力ランクならばはやては、なのはやフェイト、ヴォルケンの誰よりも断トツで上だった。
 けれど、高すぎる大魔力は戦闘技能の成長を制限し、護衛する騎士たちはその必要性を感じさせなかった。
 それをクロノは危惧したのだろうか。
 一人でも生き抜けるようにとでも言うかのように。

「だから、頑張らへんとな」

 ぼやきながらも。
 少しサボりたくなっても。
 はやては真っ直ぐに目標へと進み続ける。
 人らしく、少女らしく。
 そんなはやてを見て。
472しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:30:08 ID:qG8MXWAT

「なのは」

 フェイトははやての右側に座ると、書類を一枚手に取った。

「うん」

 レイジングハートを待機状態のままアクセスし、空間投影型の辞書を取り出すとなのはははやての左に座る。

「え?」

「ほら、一緒に勉強しようよ。三人一緒なら飽きないよ」

「なのははもっとミッドチルダ言語を勉強しようよ」

「にゃ、にゃははー」

 そんな二人の言葉と態度に。

「おおきにな」

 はやては嬉しそうに微笑んだ。






 ……あの頃から強くなれたのだろうか。

 夢から覚めると同時に思ったのはそんな言葉だった。
 私は少しでも強くなれたのだろうか
 はやてには分からない。
 分からないけれど。

「ん〜」

 まどろみの中で好きな人を抱きしめる。
 優しく頭を撫でられて、それがあまりにもくすぐったくて。

「好きやよ」

 はやては微笑んだ。
 何回言っても、何度叫んでも足りない言葉を。
 力を与えてくれた人に。
 思いを捧げた人に。
 ただ求める人に。

「少し寝るといい。疲れてるようだ」

 はやての頬がぐにぐにと摘まれる。
 子供のように遊ばれて、けれど深いじゃない。
 肺一杯に彼の匂いを吸い込みながら、はやては彼の胸板に頭を押し付けて。

「ん……」

 少しだけ目を閉じた。
 今度の夢は長くなりそうだった。
473詞ツツリ ◆265XGj4R92 :2009/01/04(日) 14:32:14 ID:qG8MXWAT
投下完了です。
正月だったのに、姫始めネタとか全然考えてなかったよ!
とりあえずゆるゆる路線でクロはや進めます。
終わるまで長そうですが、よろしくお願いします。
4747の1:2009/01/04(日) 17:35:46 ID:2xgOqgNt
注意事項
・微エロ?で一部バトルを含みます
・前作:「再び鎖を手に」の続編です。
・時間軸はJS事件から1年後
・ユーノ×なのはです。
・捏造満載
・キャロ・エリオ・ルーテシアは出ません。(3人のファンの方、すみません)
・この章は、オリキャラ会話編で,副司書長登場編です。
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・主人公 ユーノ
・レス数3です。
・タイトルは 翼を折る日 
4757の1:2009/01/04(日) 17:39:05 ID:2xgOqgNt
第2章 
2-1
 9年前、戦闘機人を擁する時空犯罪組織との戦闘で壊滅した陸士72部隊で重傷を負いながらも、唯一生き残
った俺が、無限書庫の副司書長という文官に転身した理由は、怒りによるものだった。
 陸士72部隊からの戦闘機人に関する情報照会に対して、まともな情報を提供しなかった無限書庫に、殴り込
みに行ったのは、管理局の病院を退院した翌日だった。

 まだセキュリティチェッカーの無かった無限書庫の扉を開け、俺は無謀にも無限書庫の闇に身を投じた
 ほとんど人のいない闇の中を小一時間もさまよった末に、目の下に隈を作った10歳前後の黄砂色の髪をした華
奢な少年が、20冊を超える本を自らの周囲に浮かべ、必死に速読魔法で情報を読み取っている姿を見た瞬間、脳
みそが怒りのあまり沸騰した俺は、思わず怒声を放っていた。

「司書はどこだ! ガキに仕事をさせやがって、司書様は、どっかでお休みか」
「あの〜」
「ガキは黙ってろ。食うためにやってるなら俺の家に来い。ここで奴隷労働するこたぁない」
「ですから、司書は」
「何処にいる。おじさんに教えてくれないかな? 暇な司書さんのいらっしゃる処を」
 スキンヘッドにひげ面という管理局の武装局員というより、凶悪な時空犯罪者面で、精一杯の笑顔を浮かべて
尋ねるが、他人が仮にこの光景を見たら、どう見ても暴漢が少年を脅しているとしか見えないだろう。

「司書は、僕ですが・・・後は、搬入される資料を収納する係の人と、病気で長期入院中の司書の人がいるだけ
 で・・・」
「おい、おいおいおい、冗談はよせ、冗談は それとも何か・・・司書に脅されてるのか? クレーム付けに来
 た局員には、お前が司書ってことにして切り抜けろとでも命令されてるんだろう。そう言わないとクビだとか
 言われているなら安心しな。このジョン・フィッシャーマン様が、お前の身柄を引き取ろうじゃないか」

「結構です。僕はユーノ・スクライア 無限書庫の司書です。フィッシャーマンさん、これが僕の身分照会の
 IDカードです」

 ユーノと名乗る少年のIDカードを確認した俺は、ため息をついた。
「まいったな。ガキが司書じゃ、情報をまともに寄越さなくても、文句がいえねーな」

「どの件です、教えていただけませんか?フィッシャーマンさん」
 プライドを傷つけられたのか、頬を紅潮させた少年の声には鋼の響きがあった。
(見かけによらず根性が据わってやがる・・・)

「陸士72部隊からの依頼だよ。書類No KJL033897”戦闘機人に関する基礎情報”だ。まあ陸のことなんぞ、
 海の無限書庫には・・・って、おい何やってんだ?」

「1年前、僕がここの司書になってからの記録しかないんですが、戦闘機人に関する照会は申請されていません。
 何時、申請されたかわかりますか?」
 目の前に魔導モニターを展開して、1年前からの無限書庫への申請記録を確認していた少年の真剣な顔を見れ
ば、嘘を言っているとは思えなかったが、見ますかと手招きされたのを断る理由はなかった。

「今から3ヶ月前だから8月3日ごろのはずだ。7月13日・・・7月22日・・・8月1日・・・8月7日って、おい、こ
 の申請の記録は確かなのか!? 陸士72部隊の申請がないぞ。どうなってるんだ」

「僕を信じられないなら、本局の情報部に確認してください。無限書庫への申請は、特別な場合を除いては、情
 報部を経由します。確認はすぐできますよ」

「いや、嘘は言ってないが、勘違いはあるかもしれないぜ。まあ、その件は、後で調べりゃわかる。それより聞
 きたいんだが、こんな闇の中で一人で仕事してるのか? 食事や寝るところはどうしてるんだ? 親は」
「・・・親はいません」
 口ごもりながら答えたユーノは、残りの質問には口早に答えた。

「1年前まで、無限書庫は、単なる資料倉庫でしたから、人がいなかったんですよ。療養中の司書さんも文書保
 存係の人が兼任してました。最後の質問の答えですが、食事は本局食堂で取るか出前で間に合わせてます。
 寝るところは、僕はスクライア一族の出身だから、何処でも寝れますよ。今は、無限書庫の司書仮眠室が住処
 ですが、シャワーもあって快適ですよ」
4767の1:2009/01/04(日) 17:39:37 ID:2xgOqgNt
2-2
 なにげに凄いことを言うユーノに俺は、内心舌を巻いていた。

 今時の若手武装局員の軟弱ぶりに比べたら、目の前の華奢な少年のタフさは瞠目に値した。暗闇の中で、一人
で作戦行動を1年間続けろと命令されて完遂できる者が何人いるか、壊滅した部隊の若手の顔を思い浮かべた俺
は、思わず眉をしかめた。
(だめだ、だめだ、どいつもこいつも、目の前にいるユーノってガキに敵わねえ)

「まいったな。お前・・・ユーノさんの言うことが正しいなら、俺の勘違いってことになるな。わはっはっ」
 いまさら殴り込みにきたとも言えないので、頭を掌で叩きながら豪快に笑った。

「あの〜フィッシャーマンさん。用事が済んだなら、お帰りいただけませんか。仕事に掛かりたいんです。明日
 の8時までにレポートを上げないと陸士108部隊が困るんです」

「そいつは悪かった。時間をロスした償いに何かできることはないかね?資料とか持ってくるくらいは手伝える。
 それに調べ終わった資料を元の場所に戻すのに転送魔法使うなんて無駄なことしなくてすむぜ」
 俺の申し出を受け、一瞬、驚いた表情を浮かべたユーノは、しばらく考え込んでいたが

「今までわかっている範囲の無限書庫の地図です。依頼された案件に必要な資料は、おそらく、この区画にある
 はずです。探索魔法は使えますか?」
 ユーノから渡されたカード型デバイスの使い方がわからず、自分でも間抜けとしか思えない質問をした。

「探索・・・索敵魔法じゃないのか?」

「原理は同じです。応用の仕方に違いがありすぎますが・・・」

「足りないところは、体力で補うさ。とりあえず調査の終わった資料を元の所にもどすことから始めさせてくれ
 ところで・・・・・このデバイスの使い方、教えてくれないか」
 カード型デバイスをユーノに差し出しながら、俺は照れ笑いを浮かべた。

 ユーノから請け負った陸士108部隊の要求した”違法薬物ランティーノの精製技術”に関する資料を探索す
る仕事は、武装局員として、幾多の修羅場をかいくぐってきた俺が初めて経験した地獄だった。

 無限書庫の職員といえば、一般の武装局員から軟弱な文官と見られている。俺もユーノと出会うまでは、いや
出会った後も、あの事件を経験するまでは、根性こそ凄いが体力や魔法に関しては、俺の方が上だと思っていた。

 カード型デバイス”MAPPER"の使い方を教えてもらい、早速、ランティーノに関する資料が収蔵されている
可能性のある第74区画へ探索に向かった俺は、”禁断の秘薬ランティーノ伝説”という人の皮で装丁された
本を見つけて有頂天になり、何も考えずに手に取り、そして意識を失った。

 次に目覚めた瞬間、何日たっているのかわからない恐怖に駆られた俺は、指一本動かせないだけでなく、魔法
を使えず声を発することもできない状態に陥っていることに気がつきパニックに陥った。
 しばらくして、ひどいのどの渇きと空腹が始まった。
(かなりの間、気を失っていたのか。このままじゃ飢え死にする。ユーノ、ユーノ・スクライアァァァ・・・・
ちきしょう。念話も使えねぇぞ)

「おい!ジョン いつまで、此処にいるつもりだ。隊長が待ってるぞ」
 戦闘機人との戦闘で、額から上を失ったチャーリー二尉が俺の手を握って叫ぶ。

「フィッシャーマン曹長・・・・お、お願いです。ひ、ひと思い・・・に・・殺してください」
 両手両足を失い、瀕死のガトー2等陸士が、足下から俺を見上げている。
(くそ、これは幻覚だ。耳を傾けるか、糞どもが・・・・)

「あたいを先に逝かせて、自分だけ生き残るって卑怯じゃない。ねえジョン、あたいのウェディングドレス姿、
 きれいでしょう。今度、聖王協会で彼と衣装合わせするんだ」

 質量兵器で穴だらけにされた全身から鮮血をほとばしらせたメアリー曹長が、目の前でくるりと全身を回して
微笑む。あの作戦が終わったら、彼に告白するんだと意気込んでいた彼女の死を茶化す幻覚に切れた俺は吠えた。
(くそったれがぁぁぁ 人をなめんじゃねぇぇぇ)
 迫ってくるメアリーの首を締め上げて黙らせようとしたが、意識がかすみ、目の前が真っ暗になってきた。
4777の1:2009/01/04(日) 17:41:55 ID:2xgOqgNt
2-3
「何やってるんです!フィッシャーマンさん、死ぬつもりですか?」
「ぐぁっ、なにしやがるんでぇ」
 チェーンバインドで縛り上げられた両腕を無理矢理、十字に拡げさせられた俺は、ユーノの掌から放たれた緑
の波動が、俺の首に注がれているに気がついた。

「いつまでも戻ってこないし、念話にも答えないので来てみたら、必死に自分の首を絞めているんで驚きました
 よ。何があったんです?」
 この人、頭狂ってるんじゃないかという目で俺を見ているユーノが右手に持っている本を見て、俺の目が見開
かれた。
「馬鹿野郎、その本を捨てろ。俺のようになるぞ!」
「ああ、これですか、大丈夫ですよ。もう封印しましたから」
 平然とした口調で答えたユーノが本を開くと内容に目を通し始めた。
「・・・・大丈夫なのか?」
「フィッシャーマンさん、ありがとうございます。この本があれば108部隊へのレポート提出が12時間は、
 早くなります。それにしても、禁断の秘薬の精製方法がこんなに簡単なものとは思いもしませんでしたよ」

「な、なにがどうなってんだ。さっきの幻は・・・」
 バインドを解かれ、へたりこんだ俺の脇に膝をついたユーノは、バインドで締め上げられた俺の腕を子細に観
察していたが、ほっとため息をつくと

「魔術結合汚染は無いですね。念のためストラグルバインドを用いたんですが杞憂だったみたいです」
「俺の腕が!?」
「あの本に仕掛けられたトラップは、不用意に手に取ったものの精神を汚染して、その人の最も悲しい記憶を呼
 び覚まして、精神を錯乱させるんです。悪質なやつだと触った手に残留魔術を仕掛ける場合もあります」
 だから、後で汚染された人が自殺したり、人を殺したりするんですよ。

 平然としゃべるユーノを見た俺は、こんな魑魅魍魎が跋扈する無限書庫で仕事をする華奢な少年に、尊敬の念
と同時に何か手助けできないものかと考えた。 
 翌日、武装対に戻った俺は、無限書庫への転属願いを出した。  

「というわけで無限書庫の司書に転属したんですよ。マテウスさん」
「そして無限書庫の番人が誕生したってわけか。どうだいもうひとつ」

 フィッシャーマンが語るユーノとのファーストコンタクトのエピソードをふむふむと頷きながら聞いていたマ
テウスは、三つ目のダブルチーズハンバーガーを袋から取り出すとフィッシャーマンに勧めた。

「いいんですか?マテウスさんの分が」
「かまわんよ。これはフィッシャーマンくんの分だ。私にはこれがある」
 葉巻を取り出すと左の人差し指に灯した炎で火を付けたマテウスは、煙を次元の狭間に吐き出しながら尋ねた。

「ところで、スライの連中はしっかり働いてるかね?ユーノ博士に紹介した手前、気になってね。さっきも荷受
 け場から入ったんだが、よくわからんのだ」

「こっちの無理な要求にも愚痴一つ言わずに答えてくれています。レナードが一族の連中をまとめてくれてるん
 で、怠けてる連中は一人もいませんよ。まったくたいした連中です」
 安月給で働かせるのが心苦しくなりますよと続けたフィッシャーマンは、額をぴしゃりと叩いた。
「まあ、あれだけの人数を採用したんだから仕方あるまい。無限書庫の人員増に関する予算の申請が通っただけ
 でも奇跡だったからな」

 管理局統括官のリンディ・ハラオウンが、付け足しのように提案した無限書庫の人員増の要求が、呆気なく承
認された時の唖然とした表情を思いだしながら、マテウスはニヤリとした。

「そうは言いますが、族長のレナードの給料が、武装隊二等陸士の初任給の7割ってのは酷すぎますぜ。奴が武
 装隊員なら、間違いなく尉官クラスだ。俺が鍛えてる武装司書隊の猛者でも、奴に勝てる奴はいないと踏んで
 ますがね。そんな奴が、ひよっこの二等陸士以下の給料とは、ふざけすぎてまさぁ、まったく上層部は」
「馬鹿の集まりだな。それじゃユーノ博士に拝謁を賜ろうか。ジョンまた会おう」

 無限書庫を軽視する管理局上層部に対する憤懣をぶちまけた相手が、当の上層部の一員だと気づいたフィッシ
ャーマンが言いよどむのを引き取ったマテウスは、副司書長室のドアを開けると無限書庫の闇に向かって飛んだ。
4787の1:2009/01/04(日) 17:54:49 ID:2xgOqgNt
第2章は、無限書庫のモブである福司書長を登場させました。
司書というと、柔弱な姿を思い浮かべますが、三徹、四徹をできる司書が体育会系なら
面白いと思って、キャラを作りました。
手持ちの司書には、彼の他に
1,元ユーノ暗殺を請け負った仕事人
2,無限書庫の未調査部で発見された戦闘機人ならぬロストロギアの計算機人
3,ジョンの先輩で、元凄腕の武装隊隊長の古本屋
などがいます。
479名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 21:53:04 ID:fubxy6sK
>>詞ツツリ氏

貴重なクロはや分ありがとうございます。
このカップリング、というかこの二人がリリなのキャラ中で一番好きなので、とても嬉しいです。
氏のSSは毎回楽しみにしているので次回投下もお待ちしております。

GJでした。
480名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 23:03:24 ID:mrbI6tTh
>>473
GJ!
何気にフェイトが後々絡んできそうで、今後どういった展開になるのか楽しみです。
そしてあと一歩、あと一歩踏みこむんだはやて。
そうすればクロノの歪みに気づくことができるから。
でも、それができなかったからこその四話のあの未来なんでしょうね……

次回の話も楽しみにしてます。
481名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 23:35:04 ID:5rvd2ifV
ちょっと遅刻したが六課が新年会ではっちゃけるSSを投下しても構わないですか?
482名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 23:36:09 ID:pX0ZiWrE
ドゾー
48383スレ260:2009/01/04(日) 23:38:13 ID:5rvd2ifV
では
タイトル 機動六課の新年会 投下レス予定7

行きます
484名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 23:39:17 ID:wyyzqHGc
>>478
無限書庫はネタの宝庫だった、というこに改めて思い知らされる。
GJ!

>>481
イエス、ベリーイエス。
レッツゴー。
485機動六課の新年会1/6:2009/01/04(日) 23:39:20 ID:5rvd2ifV
「それじゃあ今日は思い切り騒いだってな、かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
はやてが音頭を取ると大部屋のあちこちから乾杯の声とグラスの音が響き渡る。
それを皮切りにある者は浴びるほど酒を呑み、またある者は同僚との会話に花を咲かせていた。その様子にはやては一人満足気に頷いている。

日頃から六課メンバーを集めた宴会を行いたいと考えていたはやてだが任務に忙殺されていたためそれさえ叶わずにいた。
しかし試用期間終了間近のこの時期に至って、新年とJS事件の慰労という最高の大義名分の得てやっと宴会が開催される運びとなった。

「うひゃあああ!!」
皆に酒が行渡って盛り上がった頃、会場の片隅で宴とは不釣合いな嬌声が響いた。
「な、なんや!?」
はやてが慌ててそちらに目をやると、酔ったスバルがティアナの胸を背後から鷲づかみにしていた。

いつもならここでティアナが鉄拳制裁を喰らわせて事態が収まるのだ。はやてもそのパターンを予想して静観を決めこむがそれはあっさり裏切られた。
「ティア〜ティア〜」
「ちょ、あんたやめなさいよ…!」
ティアナは自分に纏わりつくスバルを引き剥がそうとするが、アルコールのせいか思い通りに身体を動かせず、結果スバルにされるがままになっていた。

「へへ〜到着」
そう言うとスバルはティアナの服の中に手を滑り込ませ、今度は胸を直に揉んできた。
「それは洒落になんないって…ああ……!!」
スバルの暴走は留まる所を知らず、力を加えながら掌や指先でティアナの胸を弄る行為は完全に快楽を呼び起こすためのものとなっていた。
「あっ……!!」
ティアナが上気した顔で甘い吐息を吐き出すと、ここが宴会場ということも忘れてスバルに身を委ねた。もはや自身での制御は不可能であった。
「おおっっ…!!」
二人が突如発生させた桃色空間に周囲が俄かにざわめく。そのほとんどが男性局員だったが一部女性局員が混ざっていたのは見間違いだと思いたい。
486機動六課の新年会2/6:2009/01/04(日) 23:39:50 ID:5rvd2ifV
「なのはちゃん、何とかしたってえな…」
はやてはこれ以上の傍観は危険と判断し、直属の上司であるなのはにため息を吐きながら仲裁を申し出る。しかしそれは叶わぬ願いであった。
「やめてよ、なのは」
「フェイトちゃーん、そんなこといって本当は嬉しいくせに〜」
頼みの綱である教導官様はただの酔っ払いと化してフェイトに迫っていた。
おそらくなのはに剥かれたのだろう、法規の象徴である執務官の制服が半分以上脱がされて下着姿を披露していた。

「ちょ、なのはちゃんまで何やってるん!?」
はやてが慌てて駆け寄り注視すると、なのはの周りには「名酒大魔王」(アルコール度数40%)と銘打たれた日本酒の大瓶が2.3本転がっていた。

「そらないで、なのはちゃん…」
はやては天を仰ぎながらなのはの隣の空席を見つめる。ここには本来ユーノがゲストとして来るはずだったのだ。
しかし例によって緊急の資料請求によって直前にオジャン。なのはとて子どもではないのだから分かりはするが、頭で理解出来ても感情が割り切れないことはある。そのよう

な場合誰かが理不尽な犠牲に遭う。今回がまさにそれである

「へへ〜フェイトちゃんは本当にいい身体をしているの」
だからといって今のセクハラ親父モードもどうかと思うが。かといって自分に処理出来るほど今のなのはは楽ではないしはやても強くはない。
「堪忍な、フェイトちゃん」
はやてはそう呟くとフェイトを人柱として捧げて手近にあった大瓶をラッパ飲みした。
これが新たな惨劇の幕開けになるとも知らずに……

大人たちがとんでもない騒ぎをしている中でのんびりで過ごす二人がいた。
六課の最年少コンビ、エリオとキャロである。
「こっちの料理も凄く美味しいよ、キャロ」
「本当だね、エリオ君」
二人はあくまでマイペースに語らい、料理を食べ、普通にこの場を楽しんでいた。
比較的冷静な側の大人たちも彼らを暖かく見守り、邪魔するような無粋なものはいなかった。
隊長陣やスバルたちとはあまりに対照的な空間が出来上がっていた。
487機動六課の新年会3/6:2009/01/04(日) 23:40:20 ID:5rvd2ifV
「エリオ君、これ何かな?」
キャロが目の前のひょうたん型の入れ物を指差し聞く。エリオが振ってみると液体の揺れる音がちゃぷちゃぷと聞こえてきた。
「何だろう?」
エリオも思案顔で考えるが答えは出てこない、というよりこんな妙な形状のものを見たことがないのだ。
エリオが答えに窮していると意外なところから助け舟がやって来た。
「これはな甘酒ゆうてな、あたしらの世界の飲み物なんよ。けど安心しい、お酒ゆうたかて子どもでも酔わない安心設計や」
はやてはそう言って二人のコップに入れ物を傾ける。コップが濁った白い液体で満たされていった。
「これ大丈夫なのかな?」
「さあ…?」
見慣れぬ外見にやや引きながらもエリオがぐいっと甘酒を飲み干す。
「あれ、美味しい。キャロも騙されたと思って飲んでみなよ」
名前が冠する通りの甘さと飲みやすさ、そして身体が温まる感じにエリオはすっかり気に入ったようだ。
「本当だ、甘くて美味しい」
キャロもそれに続く。二人の手元には空のコップが仲良く並んでいた。

「そうやろそうやろ?まだまだあるからじゃんじゃんいくで〜」
はやてはいつも以上のハイテンションで子ども二人で飲むには充分すぎる量の甘酒を取り出した。
「「ありがとうございます、はやてさん!!」」
「かまへんかまへん、二人で仲良く楽しみ〜」
はやてはそのまま手をヒラヒラと振って自分の席へ戻っていった。

「エリオ君、もっとどうぞ」
キャロがエリオのコップに甘酒を注ぐ。
「キャロのも空だから今度は僕から」
「ありがとう、エリオ君」
エリオが返杯する。
並んで甘酒を飲む姿は色んな意味で出来上がっており、当てられる者が続出したとかしないとか。

「よいしょっと…」
キャロが突然立ち上がりエリオに向き直るが、目の焦点が定まっておらず何処かいつもとは違う感じがした。
「キャロ、どうしたの…わぷっ」
しかし、最後まで言う前にキャロがエリオにしな垂れかかりそれを邪魔する。
両手を首に回して潤んだ瞳で見つめる。熱くて甘い吐息がぶつかり、瞳と唇がすぐ側まで接近した。
エリオがこれに耐え切れるわけもなく、赤面してキャロを引き離そうとした。
488機動六課の新年会 4/6:2009/01/04(日) 23:40:55 ID:5rvd2ifV
「キャ、キャロ!!」
キャロのエリオに対するスキンシップは以前からあったがここまで積極的なのは初めてである。
いくらお酒とはいえ、甘酒でここまで酔うだろうか?
エリオが怪訝に思いながらテーブルに目をやると、そこには先ほどまでとは違う透明な液体が半分ほど入っていた。

「これって…」
エリオがコップを手に取り匂いを嗅ぐ。鼻を刺すようなきついアルコールの臭いに思わず顔をしかめる。
中に入っていたのは自分達が飲んでいたものとは違うお酒であった。
「エリオくーん…」

キャロのスキンシップは益々過剰になり、エリオはあたふたするばかりだ。
「堪忍な〜。それ、甘酒やのうて甘いお酒やったわ。間違えて入れてもうた、あはは〜」
何が楽しいのか、ただの酔っ払いになったはやてが笑いながら自身の失敗を告白する。
「主、こんなところにいらしたのですか、早く戻りますよ」
「はーい。ほなな、エリオ、キャロ…って聞こえてへんか」
シグナムに連れられてはやてが自分の席へ戻っていった。

だがエリオの脳内はそれどころではなかった。
今現在もキャロが絶賛誘惑中であり、しかもアルコールで上昇した体温と鼓動、その他諸々が全力でエリオの理性を揺さぶっているのだ。
「キャロは妹、キャロは妹、キャロは妹……」
エリオはとにかく必死になって理性を保とうとするがそれも限界だった。

「こら、お前らいい加減にしろ!!」
理性の防波堤が決壊しかけたその時、エリオの前に一人の救世主が舞い降りた。
相変わらずエリオにべったりのキャロの後頭部をピコッと軽い衝撃が襲う。
二人の前にヴィータが仁王立ちで身構える。手に持っているのがグラーフアイゼンではなくピコピコハンマーなのは宴会故か。
「痛いですよ、ヴィータさん…」
キャロが手で叩かれた部分を摩りながら抗議する。目尻には薄っすら涙が浮かんでいた。
「お前が悪酔いするからだろうが」
「良かった…」
ぴしゃりと言い放つヴィータを見てエリオはそっと胸を撫で下ろす。
これでやっと平穏が訪れる…わけにはいかなかった。
489機動六課の新年会 5/6:2009/01/04(日) 23:41:22 ID:5rvd2ifV
「エリオはあたしのだかんな!!」
そう宣言すると今度はヴィータがエリオの膝に座り込む。
「え、え、えーー!!」
エリオが慌てながらヴィータの顔を覗き込む。頬は朱が差しており、目も座っている。紛うことなき酔っ払いだった。
「ヴィータさん、酔ってるんじゃないですか?普段はこんなことしないじゃないですか!!」
「酔ってねえのです、あたしは大人だ。つーかエリオにはいつもこんなことしてるぞ」

「なっ…!!」
突如飛び出した爆弾発言だが、見に覚えのないエリオにはどうすることも出来ない。
「エリオ君!!それってどういうこと!!」
すかさず反応してくるキャロ。両手を握り締めてエリオに接近するその表情は真剣そのものだ。

「いいぞ、もっとやれーー!!」
どこからかヴァイスが無責任な野次を飛ばす。
エリオは野次を無視してこの場を収めてくれそうな人を探す。
スバルはティアナに投げ飛ばされたのか床とキスをして犬神毛のような体勢で眠っていた。フェイトはなのはに陥落されて色々と見せられない状態になっている。
「ほーらグリフィス、こっちのお酒も美味しいよ」
「シャーリーさん、何してるんですか!ていうかグリフィスさんもヘラヘラしないでください!!」
「二人とも落ち着いて…」
そして六課の数少ない男性であるグリフィスはシャーリーとルキノに挟まれて修羅場を形成していた。


はは、馬鹿だなあ…これが現実なわけないじゃないか。夢だよ、夢に決まってる…」
あまりの酷さに自らの処理容量の限界を超えたエリオはこれ以上考えるのを止めて思考を投げ出した。
後にはキャロとヴィータの自分を呼ぶ声だけが頭に響き渡っていた。
490機動六課の新年会 6/6:2009/01/04(日) 23:41:58 ID:5rvd2ifV
「あれ…ここ、僕の部屋だ」
翌朝エリオは自室のベッドで目を覚ました。
昨日意識を失ってからの記憶はないが部屋にいるということは誰かが運んでくれたということだろう。
エリオは親切な誰かへのお礼を考えながら体を起こす。すると毛布の中で何かにぶつかった。
「えっ…?」
エリオが恐る恐る毛布をめくると、中にキャロがあられもない姿でもぐりこんでいた。
上半身は覆うものが何もなく、僅かに下半身に下着を身に着けているだけ。
そのため、成長過程にあるがフラットなキャロの肢体が丸見え状態だった。

「キャ、キャロ、何やってんのーーー!!」
エリオは大声を上げて後さると、またもやゴツンという衝撃を受ける。
エリオが嫌な予感とともに振り返ると、同じくあられもない格好のヴィータが毛布に包まっていた。
しかも解かれた真紅の長髪が汗ばんだ身体に張り付いて年不相応の色気を醸し出していた。

「ん、ん〜?」
ヴィータが目を擦りながら身体を起こす。
エリオは死を覚悟して反応を待つが、ヴィータの反応はまったく想像だにしないものだった。
「エ、エリオ…」
ヴィータが顔を赤くして口を開くとそのまま言葉を続ける。
「お前があんな男らしいやつだなんて思わなかったよ、キャロに負けるつもりはないからよろしくな」
まだ何かを呟いていたがあまりに小さい声だったためエリオには聞き取れなかった。
「それってどういう…?」
エリオが訳もわからず狼狽していると今度はキャロが起きだしてきた。
寝ぼけ眼のまま笑顔を浮かべるとエリオに向き直り挨拶をする。
「今年もよろしくね、エリオ君」

「は、はは……」
エリオは暫く硬直し、事態を把握するだけで手一杯だったと言う。そして自分の置かれた状況を理解した時、少年は本気で頭を抱えたとか。
491機動六課の新年会 あとがき:2009/01/04(日) 23:42:28 ID:5rvd2ifV
機動六課の宴会模様+エリキャロのほのぼのを書こうとしたら何故かこんなことに…
個人的には天然ほのぼのカップルなエリキャロと突っ走った三人を書けたので満足です。
なんかなのはさんがかなりたちの悪い酔っ払いになってますが別に嫌いじゃないですよ?
492名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 23:47:14 ID:7Ckt5ioP
面白かったけど、大魔王は焼酎だな。
49383スレ260:2009/01/05(月) 00:03:56 ID:5rvd2ifV
>>492
まじですかorz
私の不勉強と詰めの甘さが出てしまいました。
今後は気をつけます。
494名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 00:04:44 ID:ag9Kkg2Q
エリ×ヴィって、かなーーーり久しぶりだよな。
GJ!
495名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 00:05:03 ID:TIo3al9X
>>491
教導官自重w
それにしてもヴィイイイタアアアアアアアア・・・!
そんなガキじゃなくて俺の膝の上に乗れよ

もう次スレの季節ですな
496名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 00:07:28 ID:SWsnOyx2
投下乙。
エリヴィ、結構良いカプだ。


んでは自分が新スレ立ててきます。
497名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 00:11:11 ID:T74TFrSI
>>491
GJです。
酒とは魔性の飲み物を表す典型とはまさにこの事。
やりたい放題のスバルと受けるだけのティアナ、ユーノがいなくて酒の勢いと腹いせにフェイトにセクハラしまくるなのは、そして両手に花になってしまったエリオと楽しめました。
エリオだけじゃなく、なのはやスバティアの翌朝も気になったり…
498名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 00:13:16 ID:SWsnOyx2
次スレ立てた。
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1231081810/1-100

1で最初ミスったわ。
499名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 00:20:09 ID:RQVyIqvA
新スレ乙
あの名前欄っていつも同じ人が書いてるの?
500名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 02:05:55 ID:SWsnOyx2
>>499
自分が立てる際にはなんか入れるようにしてます。

でも他の方も何かしら入れる場合ありますね。
501名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 07:26:31 ID:RBbG56hL
>>493
GJ!!
いや魔王様が好きな飲み物なんて決まってないのでお気になさらず
そしてヴィータ→エリオ←キャロの微笑ましい(?)様子が凄く良かったです。
これである意味エリオにとって大変な一年の始まりという訳ですね。
502名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 08:01:51 ID:sWLE0wFx
>>493
GJ!
ほのぼのとしてて面白かったです。
エリオとヴィータもなんか新鮮だったwただ、シャマルとザッフィーはなにをしてたんだか。
503名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 08:59:24 ID:CxN6vUBg
>>493
GJ!
なんというバカ騒ぎw最高ですw

>>498
新スレ乙です
504名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 19:57:19 ID:36UQh+26
>>491
いいなあ、こういう小ネタ的なの好きだ
何だか和んだ
GJです

>>498
乙です
505名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 21:04:15 ID:BCfYtEbw
>>491
酒を飲んだこの夜、エリオが欲望に負けてキャロ、ヴィータに手を出したのかが問題だ
むしろ出していた方がGOOD!
キャロもヴィータもかわいすぎです。
GJ!!
506名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 21:48:03 ID:crJ3H3k9
507名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 22:12:32 ID:EpMTOAGy
  

      ∬     ∬
      ∬       
           )
      ,'`》'´⌒`彡
     ノ,ィ∝ノノ)))))`.
    ( ( ゝ(l!_^ -ノ|l.ン|
    ノ)  ̄∪ ̄∪彡|
   '´}  . . ...::::;:;;;;;彡{  みなさん、お茶に入りましたよ・・・。
    i   . . ...:::;;;;;彡|
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    ト ,  . ....,:;:;:==:彳:::::::::::::::::::::::::::..
     ヽ、.. .......::::;;;ジ.::::::::::::::::::::::




【次スレ】
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508名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 22:13:41 ID:EpMTOAGy
 |  |   |  |   |  |   |  |   |  |   |∪
 |  |   |  |   |  |   |  |   |・∀・)*⌒
 |  |   |  |   |  |   |  |   |と/|/
 |  |   |  |   |  |   |  |   |∪
 |  |   |  |   |  |   |・∀・)*⌒
 |  |   |  |   |  |   |と/|/
 |  |   |  |   |  |   |∪
 |  |   |  |   |・∀・)*⌒      0時に合わせ鏡をすると…
 |  |   |  |   |と/|/
 |  |   |  |   |∪
 |  |   |・∀・)*⌒
 |  |   |と/|/
 |  |   |∪
 |・∀・)*⌒
 |と/|/
 |∪




【次スレ】
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第93話☆
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1231081810/
509名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 22:15:15 ID:EpMTOAGy
 

斬るのは得意です
                     _,,,,,--―--x,               
:   lヽ ,、,、 /l             ,,,,-‐'"゛_,,,,,,,,,、   .゙li、   ,/゙゙゙゙ ̄ ̄ ̄ ゙̄''''―-,,,,、
: < )'〜´ハハヾ>      _,-'"゛,,―''゙二,、、、゙'!   .i_ │               "'-、
:_| イ.ノリノハ))))|__  .,/`,,/,,,,ッメ''>.,,/,-゜ ,,‐` │|                  ゙'i、
:/ノ.人l|_゚(フノl!ハヽ曰ヽ↑ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|                 ‘i、 ̄\
: (.( ,' ̄ .〉つ━─━O== >>            >  |                  │>  )
:   /   ノ|〉.   .|,\↓____________                       ゙l /
:\く _ ノヽ_)/ `≒------‐''"゛         丿  ヽ                  レ
: ̄\ .ω . / ̄ ̄ \               ,,i´    \                  /
:   \../       `ヽ、             ,,/       `-,、            ,/
               `''-、,,,_、  ._,,,,,-‐'^          `'ー、,_         _,,-'"`
                    ゙゙゙̄″                `゙゙'''''''''''''''"^ 



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510名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 22:16:14 ID:EpMTOAGy
  . o   。  .     .  ______o  O   。    。 °
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  ○   。  ○  /○  ○) /|,. o       O  o
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      o    .|/     |_/  ○   。  o  O 。
 o  O     / ̄ ̄ ̄/ ̄   o    。
      。  ノ      /    o         O
 o   o  y y_ノ)  y y__ノ)    。   o      ○
   o  (´∀`ル/´(`ー´)`\つ  o   °      o   。
 。   o ∪-∪'"~ ∪-∪'"~  。  。 o   °o 。
     __  _ 。    __   _  o  o__       _ °
  __ .|ロロ|/  \ ____..|ロロ|/  \ __ |ロロ| __. /  \
_|田|_|ロロ|_| ロロ|_|田|.|ロロ|_| ロロ|_|田|.|ロロ|_|田|._| ロロ|_



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511名無しさん@ピンキー
⌒ヽ          /                    /      . |
 _ノ         ∠________________ /        |
           /\  \                |          |
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   ○      / \ \  \             |         /
    />    /  / \ \  \       , "⌒ヽ        /
   ///   ./  /   .\ \  \      i    .i        ./
  ./\\\  /  /     \\  \    .ヽ、_ノ      /
 /  .\\ ./  /         \ \  \        |     /
 \   \\ ./         ./.\ \  \     |    /     /
   \   \\       /    \ \  \    |   / |    ./
  o .\    \\⌒*(・∀・)*⌒   \ \  \  |  /   |   /
     "⌒ヽ .  \\ U U        \ \  \| /    |   /
    i     i  .  \\ /(・ヮ・*)\○  \ \/|/     |  ./
  ○ ヽ _.ノ .\    \\ つ⊂ ~   _,.- ''",, -       _| /
           \     \\_,. - ''",. - ''     o    ̄  .|/
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      ○      \    \\/ /。       o
    ゜   o   。  . \    \/      ゜





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